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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

132小閑者:2017/08/06(日) 23:58:12
 恭也は見つからない様にと傍観姿勢をとっていた事が仇になった事に気付くと即座に飛針を放った。「俺はお前の敵だ」と言う意思表示として放った飛針は、意図を少々上回る結果を齎した。8割近くの速度エネルギーを相殺され、先端の“点”に集中する圧力を分散された飛針は、殺傷能力を奪われながらもヴィータの額に到達したのだ。ただし、効果音をつけるならザクッ!ではなくスコーンッ!だったが。

「ホゲッ!?」

 間抜けな声を発しながら仰け反るヴィータをクロノが呆然と眺める。牽制で放った2発のブレイズキャノンを無造作に躱され、足止めに放ったスティンガースナイプをあっさりシールドで弾かれていなければ、ヴィータの実力を下方に評価しかねない情景だ。

「このヤロー!」

 驚きはしたがノーダメージのヴィータは、即座にグラーフアイゼンを振りかぶって恭也に殴りかかった。
 怒りに我を忘れた訳では無い。恭也が飛針に込めた意図を正確に読み取り、皆で交わした「蒐集途中に恭也に遭っても他人の振りをする」と言う取り決めを思い出したのだ。
 この攻撃は恭也と面識がある事を誤魔化すための行動であり、一中てしたら即座に離脱する積もりでいた。まともに決まれば恭也の脳天を陥没させる威力を持ったヴィータの縦一閃の一撃は、加減して管理局側に疑われないためであり、シグナムから聞いた恭也の技能を評価した結果であって、恥を掻かされた事についての八つ当たりが混ざっている訳では無い、きっと。
 恭也はヴィータの期待を裏切る事無く右足を引いて体を開いて躱し、しかし、反撃用に構えた右拳を振るう事無く、即座に床を蹴って間合いを開いた。その直後、グラーフアイゼンがその威力を存分に発揮した結果、ヴィータの狙い通り盛大に破壊された床材が散弾のごとく周囲に飛散した。
 建材を破壊した事で周囲を満たした粉塵が風に流されるより前に、自身の一撃のバックファイアを防ぐ為に自動的に展開されるバリア(攻撃魔法と同じ様にグラーフアイゼンに掛ける攻撃補助の魔法に最初から組み込まれている)の中でヴィータが呟く。

「化け物かコイツ…」
「その細腕で鉄筋コンクリートを粉砕する一撃を繰り出す幼女にだけは言われたくない。なんて理不尽な」

 ヴィータとて魔法を使えない者からすれば、自分の攻撃力が反則に見える事くらい承知しているが、魔法による底上げすらせずに飛来する拳大の破片を片っ端から両手で弾いて見せたこの男に言われるのは納得いかない。だが、逃走中のヴィータにとってこの遣り取りは、度し難い隙でしかなかった。

「しまった!」
「捕まえた!っえ、恭也君!?」
「…阿呆が」

 ヴィータの四肢を空間に拘束しているのは、後方から追い掛けて来たなのはのレストリクトロックだ。ヴィータからやや離れた位置に着地したなのはは、自分を挟んでヴィータの対面辺りに立つ予期しない人物に驚いていた。数日間、会いたくても連絡さえ取れなかった相手ともなれば尚更だろう。

「クソッ」

 ヴィータは自身の浅慮が招いたこの状況に歯噛みする。敵に拘束された事そのものより、それにより恭也に友人を裏切らせてしまう事が悔しかった。
 ヴィータは、恭也が管理局員に友人が居る事も、それが自分達の活動とは全く別に恭也が築いた関係である事も知っていた。恐らく、転移してきた事で生じた心身へのストレスの何割かは彼らのお陰で軽減できていただろう。だから、蒐集活動に直接参加しない恭也には、彼らとの友人関係を維持してほしいと思っていた。上辺だけになってしまうとしてもだ。
 恭也がはやての為に、そして恐らくは自分たち4人の為にも、それが必要であると判断した時には自分の持つあらゆるものをあっさりと捨ててしまう事を知っていた守護騎士にとって、ささやかながらも今の自分達が恭也に返せる数少ない物の筈なのだ。それをこんな事で!


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