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少年「そんな『憎悪』が、あってたまるか」
1
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 00:56:27 ID:EmwBDx7U
間違いない。
一瞬だが、フードに隠された顔が見えた。
俺は見逃さなかった。その顔の主が俺の人生を狂わせたアイツであることを見逃さなかった。
間違いない、□□だ。
2
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 00:57:13 ID:EmwBDx7U
数分前。
俺は通っている高校の通学路を、
久しぶりに痛む右膝を引きずるように歩いていた。
考えたら、腹が煮えくり返る。
野球部の監督が言った言葉が腹立たしい。
「お前が一軍に上がることは難しい。何か別の道を探したらどうだ?」
ふざけるな。
この俺がなんで二軍にとどまってなければならないんだ。
この膝の怪我が無ければ俺はとっくにレギュラーとして活躍しているはずだ。
いや、そもそもあんな自称進学校にある弱小の野球部にいることすらなかった。
もっと名門の野球部に入って、あのクソ監督に会うことすらなかったんだ。
それなのに、何で俺がこんな目に遭わなければならない?
俺は考える。誰のせいなのかを考える。
その時、アイツの姿を見た。
厚手のコートを着て、フードで顔を隠されていたが、
街灯のおかげで日が沈みかけているこの時間でもその顔を確認できた。
間違いない……
間違いない!
――□□だ。
3
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 00:58:14 ID:EmwBDx7U
それを確認した瞬間、俺の心にある疑問が解決した。
そうだ、アイツが俺の人生を狂わせた。
そもそも、この右膝の痛みもアイツによるものだ。
……許せない。アイツ如きが俺の人生を狂わせることなど。
そして俺の人生を狂わせておいてのうのうと生きていることなど。
……殺してやる。
俺は□□の後を尾け、奴が人気のない場所にさしかかるのを待った。
チャンスはすぐに訪れた。□□は近くにある林の中に入っていったのだ。
バカが。自分から死にに行きやがった。
待っていろ、今殺してやる。
林の中に入ってしばらくすると、□□は立ち止まっていた。
「隠れていないで、出てきたらどうだ?」
なに!? こいつ、俺の尾行に気づいていたのか!?
腹立たしい。□□如きが俺の行動を見抜いていたなどというのが、腹立たしい。
一気に襲いかかろうと思ったが、まずは自分の行動の愚かさを思い知らせてやらなければ。
4
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 00:59:43 ID:EmwBDx7U
俺は□□の前に姿を現した。
「久しぶりだね、××くん。もう暗くなっているけど、何の用だい?」
とぼけやがって。
いや、こいつの場合、本当に自分の愚かさに気づいていない可能性がある。
ちゃんと思い知らせてやらないと。
「決まっているだろう。お前のせいで俺の人生が狂ったんだ。
だから、今からお前に制裁を加える」
「僕のせいで君の人生が狂った?」
「そうだ! お前が余計なことをしなければ、俺の人生は順調だった!
今頃名門の野球部でレギュラーを勝ち取り、プロからも注目されていたはずだ!
だからお前が憎くて仕方がない! お前を殺せば俺の苛立ちも消えて、俺の人生は前に進むんだ!」
一気に言葉を放つ。こいつ如きが俺の人生に影響を与えることが腹立たしい。
「僕が憎い?」
「当たり前だろう! お前如きが俺の人生の邪魔をすることなんて、許されるわけがない!
この憎しみは正当な憎しみだ! お前が死んだところで誰も悲しまないからな!」
「……正当な憎しみねぇ?」
ため息をついて呟いた□□は、被っていたフードをとった。
「君は僕にこんな仕打ちをしておいて?」
そこには予想通り……
右目に眼帯をして、左頬と首筋には背中まで広がっているであろう火傷の跡がある、
□□の顔があった。
5
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:02:25 ID:EmwBDx7U
中学時代。
俺は□□に日常的に制裁を加えていた。
「やめて、やめてくれよ! 何でこんなことをするんだよ!」
俺の『友人』たちが□□に殴る蹴るの制裁を加えている。
「□□、お前なぁ貧乏人の分際で俺の成績を上回るなんて許されるはずがないだろう?」
そう、□□は身の程知らずにも俺の成績を上回ろうとした。だから制裁を加えることにしたのだ。
もちろん、俺は暴力は嫌いだ。だけど俺の『友人』たちは俺が□□に迷惑していると告げると、
快く『協力』してくれた。
「××くん……ひどいよ……なんでみんな助けてくれないんだよ……」
「俺がひどい? なにを言っているんだ、俺は殴る蹴るなんて止めろって言ったんだがなぁ。
こいつらがどうしてもお前を許せないって言うからさぁ。その意志を尊重したんだよ。なぁ?」
「う、うん……その通りだよ……」
俺は『友人』思いなのだ。こいつらがどうしても□□に殴る蹴るの制裁を加えたいと言ったので、
仕方なく、傍観しているのだ。つまり□□を殴っているのは彼らの意志なのだ。
俺はただ、その場に居合わせただけである。
この場には『友人』が五人もいる。止めるなんて出来ない。
だから傍観するのも仕方がないだろ?
6
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:03:52 ID:EmwBDx7U
「あー、それにしても今日は寒いなぁ。
おっと、こんなところに丁度よくストーブがあるじゃないか」
「は?」
俺の言葉に、『友人』たちが怪訝な顔をする。
どうしたのだろうか、目の前のストーブが見えないのだろうか。
「しかし、石油ストーブのようだから灯油を注がないと使えないな。
ああ、そうか俺は灯油を運んでいる最中だったな」
俺は教師たちからの信頼が厚いので、灯油を運ぶ役目も快く任されていたのだ。
灯油が入ったポリタンクを地面に置き、キャップを開けて、いらないハンカチを灯油に浸す。
「じゃあ、△△。ストーブに火を点けてくれ」
俺は『友人』の一人に、灯油がしみこんだハンカチを渡す。
「え、えっと、××くん?」
「どうしたんだ、△△。そこにストーブがあるだろう?」
俺は『友人』たちに殴る蹴るのイタズラをされている『ストーブ』を指さす。
7
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:07:46 ID:EmwBDx7U
「え!? ま、まってよ、まさか……?」
「おかしいなあ、『ストーブ』が声を発したように聞こえたなあ。疲れているのかなぁ」
「××くん、それはさすがにヤバイって!」
『友人』たちが、何故か焦っている。
「△△、この『ストーブ』は特殊な方法で点けるみたいだ。
この広い面にハンカチを貼り付けてから火を点けてくれ」
「××くん! む、無理! それは無理!」
「どうした△△、『ストーブ』に火を点けるだけだぞ、何を焦っているんだ?」
「だ、誰か! 誰か助けて!」
「あー、まだ幻聴が聞こえるなあ。これは一刻も早く『ストーブ』で暖まらないとな」
「や、止めよう! ××くん! いくらなんでも……」
△△が尚もおかしなことを言うので、確認をすることにした。
「なあ、△△。お前は『友人』だよな? 『ストーブ』じゃないよな?」
俺は確認すると、彼は嬉しさからなのか涙を流しながら言った。
「は、はい。僕は××くんの『友人』です……」
8
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:11:26 ID:EmwBDx7U
ああよかった。彼は俺の『友人』だ。
さて、『ストーブ』に火を点けてもらおう。
△△がハンカチを『ストーブ』の広い面に貼り付ける。
「や、やだよ! △△くん! やめてくれ!」
「……これはストーブ、これはストーブ……」
「みんなぁ、なんか『ストーブ』が暴れているように見えるから押さえておいてくれ」
「た、助けて! 誰かぁ!」
そして△△がマッチで『ストーブ』に火を点けると……
「ああああああああああああああああああ!」
一気に火が燃え広がった。
「熱い! 熱いいいいぃ!」
「おいおい、すごいぞこの『ストーブ』! ごろごろ転がって音までするんだなあ!」
「あぎいいいいいい! ああああああああ!」
「あっはっは! いやあ、『ストーブ』なのに熱いのに弱いのかよ。終わってんな! あっはっは!」
「あ、あははは……」
『友人』たちが笑っている。
さて、そろそろかな。
9
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:15:35 ID:EmwBDx7U
「ん、おい!? どうしたんだ□□! 火だるまじゃないか!」
「え? ××くん?」
「△△、お前そのマッチは? お前が火を点けたのか!?」
「な、何を言って……?」
しらばっくれる△△を殴る。
「ぐうっ!?」
「人に火を点けるなんて最低だな△△! 待ってろ、今先生を呼んでくる!」
こうして、△△は□□に火を点けたことで少年院送りになった。
もちろん、このことに俺は関わっていない。偶然、目撃しただけだ。
□□は俺が関わっていると言っているが、△△が自分の行動を認めているのと、
俺を信頼する教師たちのおかげで、俺の濡れ衣は晴れた。
いやあ、全く△△はひどい奴だなあ、人に火を点けるなんて。
しかしなぁ、□□は結構身の程知らずなところがあったからなあ。
これくらいの痛い目に遭ったほうがちょうどいいよなあ。
10
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:16:41 ID:EmwBDx7U
だが、ある時□□は許されない行動に出る。
俺は校舎裏でタバコを吸っていた。
タバコを吸ったくらいで俺の野球の才能が潰れるはずがないし、
ストレス解消には必要なので、当然の行動だ。
だが、そこに□□がやってきて、
俺の右ひざをナイフで刺したのだ。
痛かった。しかしそれ以上に□□が俺に傷を負わせたというのが許せない。許せるはずがない。
だから思い知らせることにした。
火のついたタバコを□□の右目に押し付けてやった。
□□は目を押さえてもだえ苦しんでいた。
いい気味だ。俺に傷を負わせたのだ、本来なら死んで詫びるべきだ。
この程度で許されて良かったと喜ぶべきだ。
当然、俺がやったなんてことにはならなかった。
一緒にいた、俺の『友人』が□□の目を潰したのだ。俺は悪くない。
『友人』もそうだが、当然□□も俺を刺したので少年院送りになった。
正直、死刑になるべきだと思ったが、まあ未成年だから仕方がない。
それよりも、問題はその後だった。
俺は膝に負った傷のせいで、以前のようなプレーが出来なくなってしまった。
腹立たしい、実に腹立たしい。
こんなことが許されるはずがない。
11
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:18:08 ID:EmwBDx7U
そして現在。
俺は□□と対峙している。
「ふん、お前にはお似合いの姿だな□□。だがな、まだ足りない。
お前みたいなクズのせいで俺の人生が思い通りにいかないのが腹立たしい。
お前が憎くて仕方がない」
□□は俺の言葉を聞いて何か反応をしたが、俺に謝る様子はない。
謝っても許さないが、謝りもしないとは生意気だ。
もうだめだ、こいつは殺すしかない。
俺はバッグに入れていた金属バットを取り出して、□□に襲いかかる。
「死ねえええええええぇぇぇ!」
そして……
辺りに破裂音が響いた。
「ぐあああああああああああああっ!?」
その悲鳴を上げたのは――
俺だった。
俺の脚から血が流れている。
「ぐ、うううう!? な、何が!?」
状況が把握出来ない。俺はあいつを殴っているんじゃなかったのか!?
そして□□を見ると……
その手に拳銃が握られていた。
12
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:18:59 ID:EmwBDx7U
「な、お前……それは」
「改造した電動ガンだよ。金属弾も撃てるようにしたから、威力は十分。
本当は本物が欲しかったけどね」
そう言って、□□は電動ガンを俺とは反対方向に放り投げた。
そして鞄から何かを取り出す。
スタンガンとサバイバルナイフ。
「おまえ……なんでそんなものを……」
言い終わる前に、スタンガンを押し当てられた。
「ぐうっ!」
スタンガンも改造してあるのか、尋常ではない衝撃が襲った。
体がしびれて動かない。
「僕は君のことを片時も忘れたことは無かった。君をどんな目に合わせようかをずっと考えてきたんだ」
□□が右手にナイフを持つ。
まずい! これはまずい!
どうする!?
ふざけるな、俺が□□に殺されるなんてことがあってたまるか!
ここは何としても生き延びるんだ!
「待て、待ってくれ□□! 俺が悪かった! 許してくれ!」
くそ、屈辱だ。この俺が□□に命乞いをするなど……
だがまあいい。□□が油断したした隙に……
13
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:20:37 ID:EmwBDx7U
「……な」
「え?」
「ふざけるな、ふざけるな。そんなものが君の憎しみなのか?」
「な、何を言って……」
「僕を憎んでいるだと!? さっき会うまで存在すら忘れていた人間を憎んでいたというのか!?
僕は君のことを考えたくなくても、四六時中考えさせられたんだぞ!」
お、俺のことを考えていた? まさかこいつ、俺の襲撃を見越していたというのか!?
「さっき、君は言ったね? 僕を殺すことで前に進むと。君の憎しみは僕を殺した程度で消えるものなのか!?」
□□が何を言っているかわからない。憎しみの対象が消えれば、解消されるものではないのか?
「今だってそうだ。君は自分が危なくなると、躊躇なく命乞いをした。まるで僕への憎しみなどなかったかのように。
君は、自分に都合のいい時に湧き上がったり、引っ込んだりするものを『憎悪』と言ったのか!?
こんなことで誰かを憎むことを忘れられるのか!?」
14
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:21:31 ID:EmwBDx7U
□□から言葉が次々と出てくる。
その顔は火傷のせいもあって、とても常人とは思えなかった。
そして□□から発せられる異様な雰囲気。
歓喜にも見えた。憤怒にも見えた。
□□は俺を見て、恋人を見るかのような喜びを出したかと思えば、汚物を見るかのような不快感をも出していた。
矛盾している。□□の感情が理解できない。
この時初めて俺は□□に恐怖を感じた。
そうこうしている内にナイフが振り上げられて、
「そんな『憎悪』が、あってたまるか」
俺の思考は、終わった。
15
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:24:04 ID:EmwBDx7U
=====================
=====================
16
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:24:57 ID:EmwBDx7U
僕は中学時代を思い出していた。
いや、正確には彼のことを思い出していた。
僕を毎日のように苛めていた××くん。
彼による苛めは壮絶かつ巧妙なものだった。
まず、彼は絶対に自分の手を汚さない。
殴る、蹴るなどの暴力をはじめ、やってきた宿題を燃やす、
階段から突き落とすなどの行為は全て彼の『友人』たちによって行われていた。
『友人』といっても、その実体は彼の脅しに屈して命令通りに動く、彼の手下だ。
その命令というのも、彼は直接的なワードを使わず、あくまでそれを連想させるような表現に止め、
自分ではなく『友人』たちが自分の意志で苛めの行為をするように仕向けていた。
彼の父親はこの市を拠点に活動する国会議員で、相当な権力を持っている。
その気になれば、地元の中小企業のひとつやふたつを潰すなどわけないだろう。
当然、その中小企業に勤めている親を持つ生徒たちは彼に逆らえない。
さらに、彼は表向きには優等生であり、勉強もスポーツもトップクラスだった。
そのため、教師たちからの信頼は厚く、彼を疑う先生はいなかった。
僕はせめて勉強だけでも彼を出し抜きたいと考えたのがまずかった。
17
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:26:26 ID:EmwBDx7U
それが彼の逆鱗に触れたらしく、彼からの苛めが始まった。
そしてある日、僕は背中に灯油をかけられて火を点けられた。
信じられないような熱さにのたうち回る僕を、彼は大笑いして見ていた。
さらに、あろうことか火を点けるように強制した△△くんに全ての罪を着せて、
自分は僕を救った勇気ある男として教師たちからは認められてしまう。
当然、僕は××くんこそが主犯だと言おうとしたが、僕はすぐに入院することとなり、
そのことを教師たちに打ち明けたのはずいぶん後になってしまった。
僕の告発は聞き入れてもらえず、教師たちは今更何を言っているんだという態度だった。
僕は背中だけではなく、首筋や左の頬にも火傷の跡が残り、
好奇の視線の的となった。
苦しかった。僕が何故こんな目に遭うのか。
苛めはまだ続いた上に、火傷のせいで周囲には気味悪がられた。
学校に通うのを止めようかとも考えたが、
僕の父親がそれを許さなかった。
父親は精神論を重視する性格で、
「火傷による好奇の視線なんかに屈するな、立ち向かえ!」
と、僕を無理矢理に学校に行かせた。
もちろん、父親にも僕が苛めを受けていることを打ち明けたが、
主犯が××くんだということを信じなかった上に、
「あんな優等生を悪く言うんじゃない! お前はそんなに性格がねじ曲がっているのか!?」
と言われて、殴られた。
家にも学校にも、僕の居場所は無くなっていた。
そして、僕は半ば突発的にクラスメイトの○○くんに相談をもちかけた。
18
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:28:06 ID:EmwBDx7U
「もうだめだよ。まだ火傷が痛むし、誰も僕を助けてくれないし、
皆に気味悪がられている。このまま死んだ方がいいのかもしれない」
僕は涙ながらに自殺の意志を打ち明けると、○○くんは怒ったように言った。
「□□、お前は悔しくないのか? 死ぬくらいならその前に××に一矢報いたらどうなんだ?」
一矢報いる。
そうだ、このままやられっぱなしでいいのか?
やり返さないと、この苛めは止まらない。
そうだ、どうにかして彼に立ち向かうんだ。
次の日、○○くんから××くんが一人になる場所を聞いた僕は、
バットを持って一気に殴りかかった。
「うわああああああ!」
正直言って、初めて人を殴るということに僕は躊躇していた。
だからその動きは遅く、簡単に彼に避けられてしまう。
「おっと」
そして足を引っかけられて、僕は転んでしまった。
そして僕の背中を、××くんの右足が勢いを持って踏みつけた。
「ぐうっ!」
「□□ー、ひどい奴だなお前は。火だるまになったときに助けを呼んだのは俺だろ?
その恩人にバットで殴りかかるなんてな」
襲撃に失敗して落胆する僕に、更に驚くべき光景が飛び込んでくる。
××くんの隣に○○くんがいたのだ。
19
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:30:41 ID:EmwBDx7U
「お前の言った通りだったな○○。やっぱり□□は逆恨みして俺を襲ってきたぞ」
「う、うん……そうだね……」
○○くんは気まずそうな顔で、××くんとも僕とも目を合わせようとしなかった。
全ては罠だったのだ。
××くんは僕が自分を襲うように仕向けたのだ。
おそらく、襲うタイミングも筒抜けだったのだろう。
でも何で? なんの為に?
「あのなぁ□□。お前なんかが俺に適うわけがないだろ?
お前は全ての面で俺に劣っているんだ。そうだろう?
現に見ろ、お前の味方なんてこの世には一人もいない。
まあ、そうだよな。お前みたいなクズに味方するやつなんているはずがない。
○○もこうして、こうして俺の味方なわけだしな」
その言葉で理解した。
彼はわざと僕に希望を抱かせて、その後にそれが幻だと明かすことで、
僕をより深い絶望にたたき落とすつもりだったのだ。
僕は助からないと。僕が彼に勝つことは未来永劫ないと。
「う……ぐぅ……」
それを理解した瞬間、自然と涙が流れた。
どうしてこんなことになったのだろう。なぜこんな目に遭うのだろう。
どうしてここまで、僕の希望を奪うのだろう。
20
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:31:37 ID:EmwBDx7U
「まあそういうことだ□□。お前は何をしても俺には勝てない。
お前の命は、こうして踏みにじられるためにある。
理解したか? ちゃんと自分が底辺だということを自覚しないとダメだぞ?」
何をしても彼には勝てない?
踏まれているせいか火傷が疼き、今も背中が燃えているように感じる。
僕はこの火傷のせいで、彼の行いを忘れることが出来ない。
前に進むことが出来ない。
前に進むためには――
一矢報いるしかない!
「ぐあっ!?」
武器が一つだけだと思ったのが彼の油断だ。
僕は素早くポケットからナイフを取り出すと、
強引に起きあがって彼の右膝を刺した。
あまり大きなナイフではないので、大した傷ではないようだが、
それでも彼に一矢報いた。
「は、はは……」
そうだ、僕は負けっぱなしではない。
僕は……
「□□ーーーーーーーー!!!!」
だが、喜んだのもつかの間、彼にお腹を思い切り殴られた。
21
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:32:26 ID:EmwBDx7U
「ぐふっ!」
思わずふらついてしまう。
だが、××くんに髪を掴まれて強引に体を起こされた。
「お、お前が、お前如きが俺に逆らうのかぁ!?」
血走った目で僕を睨みつけたかと思うと、○○くんに命令を出す。
「○○! このタバコを持っていろ!」
「え!? わ、わかった」
××くんは火のついていたタバコを○○くんに持たせた。
そしてタバコを持ったのを確認したと同時に……
○○くんの腕ごと、火のついたタバコを僕の右目に押しつけた。
「あああああああああああああああああああああああああ!」
何が起こったのかわからなかった。
急に何も見えなくなり、右目を中心に顔全体に激痛が走る。
痛いだけではない。熱い。背中の比ではないくらいに熱い。
わけもわからず転げ回った後、何かに頭をぶつけて僕は意識を失った。
22
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:34:02 ID:EmwBDx7U
その後。
××くんが呼んできた先生たちによって救急車が呼ばれ、僕は再び入院した。
だが、退院した僕を待っていたのは学校ではなく少年院だった。
先生が言うことによると、××くんに逆恨みした僕が彼の右膝を刺し、
それに激怒した○○くんが僕の右目を潰したことになっていた。
確かにタバコを持っていたのは○○くんだったし、先生たちは××くんを信じ切っていた。
さらに、○○くんの父親は市内の町工場の社長であり、家族に迷惑をかけないために、
真実を話さなかった。その結果、彼も少年院送りになったらしい。
結果的に、××くんは完全な被害者として扱われた。
少年院に送られる直前にも、僕は必死に真実を話したが、
当の○○くんが自分の犯行を認めているため、聞き入れてもらえなかった。
退院した後は背中だけでなく、右目にまで燃やされている感覚が広がった。
そして少年院を出る際に、僕は父親の失踪を聞かされる。
片親で、頼れる親戚もいなかった僕は、いよいよ一人になってしまった。
なんとか市の援助を受けて、働きながら定時制高校に通うことは出来た。
しかし――
23
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:35:12 ID:EmwBDx7U
僕は忘れない。忘れることが出来ない。
病院にいたときも、少年院にいたときも、こうして高校に通うようになっても。
僕は彼の行動を忘れることが出来ない。
僕がこんな目にあっているのに、彼は何のおとがめも無しに生きている。
火傷が痛むたびに、苛めの記憶がよみがえる。
さらに、僕は忘れるどころか積極的に彼の行いの記憶を思い返すようになっていた。
そのたびに心が悲鳴を上げる。強い吐き気のような苦しみが襲う。
当然だった。彼のことを思い出すということは、つらい記憶を思い出すということだ。
このことを、カウンセラーに話したことがある。
しかし、カウンセラーは考えないようにすればいいとしか言わなかった。
考えないようにすればいい?
つまりこう言いたいのだろうか。
お前は自分を死ぬほどつらい目に遭わせた相手のことを全て忘れることで、
その相手を完全に許せと言っているのだろうか。
理にはかなっている。
僕が彼のことで苦しむのなら、彼のことを考えなければいい話だ。
だが、彼のことを考えないようにするということは、
彼を許すと言っているようなものだ。
それはどうしても出来ない。
いや、僕がどんなに忘れようと努力したところで出来ない。
24
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:37:27 ID:EmwBDx7U
僕は彼を許せない。
そして、許せないということは彼のことを考えてなくてはならない。
そうなると、僕はつらい記憶をも思いだし、常に苦しむこととなる。
それでも、僕は彼を忘れるということをしなかった。
いや、もうそれは何があっても不可能だった。
気がつけば、彼をどんなひどい目に遭わせようかと考えるようになり、
そんなマイナスの発想をするごとに、僕はさらに苦しんだ。
当然だ。他人をどうやって苦しめようと考えることが、楽しいわけがない。
でも、僕はそれを止められなかった。
もはや彼を許せないという感情は、僕から独立して僕自身を攻撃している。
僕がこの感情を『憎悪』だと自覚するのはその少し後のことだった。
25
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:38:10 ID:EmwBDx7U
少年院を出て半年後。
僕は様々な武器を準備し、さらに××くんの行動パターンを調べ、
わざと彼を林の中に誘導した。
そして現在、彼と対峙している。
「久しぶりだね、××くん。もう暗くなっているけど、何の用だい?」
久しぶりに彼の姿をまともに見た為に、背中と右目が焼かれているように感じたが、
なるべく平静を装う。
「決まっているだろう。お前のせいで俺の人生が狂ったんだ。
だから、今からお前に制裁を加える」
「僕のせいで君の人生が狂った?」
「そうだ! お前が余計なことをしなければ、俺の人生は順調だった!
今頃名門の野球部でレギュラーを勝ち取り、プロからも注目されていたはずだ!
だからお前が憎くて仕方がない! お前を殺せば俺の苛立ちも消えて、俺の人生は前に進むんだ!」
「僕が憎い?」
「当たり前だろう! お前如きが俺の人生の邪魔をすることなんて、許されるわけがない!
この憎しみは正当な憎しみだ! お前が死んだところで誰も悲しまないからな!」
「……正当な憎しみねぇ?」
……正直言って。
何を言っているのだろう、このバカは。
と思った。
26
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:39:18 ID:EmwBDx7U
彼が僕を憎むのはいいだろう。
だが何だ? 僕を殺して前に進む? 正当な憎しみ?
ふざけるな。
正当な憎しみなどあるものか。
こんな持ち主までも攻撃して苦しめるような感情に正当もクソもない。
「君は僕にこんな仕打ちをしておいて?」
一応、彼が少しでも自分の行動を悔い改めているか確かめるために、
僕はフードを取って傷跡を見せた。
「ふん、お前にはお似合いの姿だな□□。だがな、まだ足りない。
お前みたいなクズのせいで俺の人生が思い通りにいかないのが腹立たしい。
お前が憎くて仕方がない」
まあ、予想通り彼は悔い改めてはいなかった。
それどころか、バットを持って僕に襲いかかってきた。
だから、隠し持っていた改造電動ガンで右足を撃った。
「ぐあああああああああああああっ!?」
破裂音の後に、彼の悲鳴が響く。
武器を奪われるようなことを避けるため、電動ガンを遠くに放り投げておいた。
27
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:40:06 ID:EmwBDx7U
彼は僕が持っていた武器に驚いていたようだが、
僕が何の用意もしていないとでも思っていたのだろうか。
そして彼が次に取った行動は、
「待て、待ってくれ□□! 俺が悪かった! 許してくれ!」
命乞いだった。
なんだこれ。
なんだんだこれ。こんなのが僕を苦しめてきたのか?
というか、さっきこいつなんて言った? 僕を憎んでいる?
僕を見つけて、思いつきで襲いかかってきた分際で?
自分に危機が及ぶと、あっさり怒りを引っ込めるような分際で?
自分の都合のいいように憎しみを利用するような分際で?
「……な」
「え?」
「ふざけるな、ふざけるな。そんなものが君の憎しみなのか?」
「な、何を言って……」
「僕を憎んでいるだと!? さっき会うまで存在すら忘れていた人間を憎んでいたというのか!?
僕は君のことを考えたくなくても、四六時中考えさせられたんだぞ!」
28
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:40:43 ID:EmwBDx7U
僕はこいつのことを四六時中考えていた。
どうやってこいつの幸せを潰してやろうか。
どうやってこいつの未来を閉ざしてやろうか。
どうやって自分の行いを後悔させてやろうか。
そんなことをせずに、僕を憎んでいたというのか。
「さっき、君は言ったね? 僕を殺すことで前に進むと。君の憎しみは僕を殺した程度で消えるものなのか!?」
そう、僕の憎しみはこいつを殺した程度では消えない。
こいつを殺したところで、僕の傷は直らないし、父親も戻ってこない、失われた時間も戻ってこない。
そんなことはわかっている。それを十分理解した上で、尚もこいつを殺すのを止められない。
それどころか、僕の憎しみの対象は広がっている。
「今だってそうだ。君は自分が危なくなると、躊躇なく命乞いをした。まるで僕への憎しみなどなかったかのように。
君は、自分に都合のいい時に湧き上がったり、引っ込んだりするものを『憎悪』と言ったのか!?
こんなことで誰かを憎むことを忘れられるのか!?」
29
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:41:26 ID:EmwBDx7U
僕がどのくらい君を憎んでいると思っている。
僕が何回君を忘れようとして、その度君への憎悪に苦しめられたと思っている。
僕が四六時中憎い相手のことを考えなければならない苦しみを知っているのか。
僕が四六時中、他人を傷つけ、すり潰すことしか考えられない苦しみを知っているのか。
僕の『憎悪』が君を殺した程度で終わると思うのか。
僕は今、誰を憎んでいるんだ。
そんな都合よくコントロール出来てしまうようなものが……
そんなものが……
そんな……
「そんな『憎悪』が、あってたまるか」
30
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:42:04 ID:EmwBDx7U
僕は返り血を浴びた状態で、林を出た。
予想通りではあったが、キツい。
予想通り、僕の『憎悪』は彼がいなくなっただけでは消えなかった。
それどころか、彼が消えたことで次の対象を求めるようになっていた。
僕を裏切った○○くん、僕に火をつけた△△くん。
学校に通うように強制した父親。苛めを認めなかった学校。
この世に存在する全ての苛めを行う人間たち。
そして、僕を救わなかったこの世界。
憎い。その全てが憎い。
憎む対象を探すために、彼らが行った悪行を思い出す。
それが、また僕を苦しめる。それでも僕は止められない、止めさせてくれない。
苦しい、苦しい、苦しい。
だが、その時だった。
「そこの君、ちょっといいかな?」
僕を呼び止めたのは、自転車に乗った中年の警察官だった。
31
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:43:26 ID:EmwBDx7U
「この辺りで、破裂音がしたと通報があってね。
……ちょっと、署まで来てもらえるかな?」
ああそうか。僕は血だらけだった。
しかもスタンガンは持ったままだ。言い逃れは出来ない。
僕はおとなしく従うことにした。
僕はその警察官と共に、警察署の取り調べ室に入った。
中では、簡素な机とパイプ椅子。石油ストーブが置かれていた。
警察官はストーブに火を点けてから座る。
僕もそれに従って座った。
「とりあえず、君に何があったのか話してもらえるかな?」
僕は何があったのかを全て話した。
中学での苛めから、今に至るまで。
そして、僕の『憎悪』が拡大していることも話した。
警察官は、それを真剣に聞いていた。
32
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:44:12 ID:EmwBDx7U
「僕は、僕はなにもかもが憎い。……でも、全てを壊しても僕の憎しみは消えないと思います。
僕は……生きてていいのでしょうか?」
正直な気持ちだった。
このまま生きていても苦しみしかない。ならばいっそのこと死んだ方がいいのではないか。
それに対して、警察官は言った。
「生きろ……なんて、軽々しくは言えないな」
意外な言葉だった。
てっきり、生きてさえいればなにかいいことがある、みたいなことを言われると思っていたからだ。
「警察官がこんなこと言ったらまずいのかもしれないがね。
君は今まで苦しみしか経験していなかった。
いや、実際には違うのかもしれないが、君の記憶には苦しみしかなかった。
そんな人間に対して、生きろとは軽々しく言えない」
そして、言った。
「これから先も苦しめとは言えない」
33
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:44:56 ID:EmwBDx7U
そうなのだ。
僕に『憎悪』がある限り、僕の人生には苦しみがつきまとう。
この人はそれを見抜いたのだ。
「ただ……ひとつだけ言わせてもらいたい」
その言葉の後に、警察官は僕の頭を抱きしめて――
「……つらかったな」
そう言った。
「う、わ、わあああああああああああああ!」
その直後に僕は大声を出して泣いた。
その言葉。
僕はつらかった。
苛めを受けたことよりも、火傷を負ったことよりも、味方がいなかったことよりも。
常に何かを憎んでいなければならないのがつらかった。
34
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:45:44 ID:EmwBDx7U
この人がそこまで見抜いて、言葉をかけてくれたのかはわからない。
だけど、その言葉のおかげで僕の願いが一つ叶った。
僕は一瞬でも、何かを憎むことを忘れたかった。
もちろん、これで僕の『憎悪』が消えるわけではない。
これから先も、僕を苦しめるかもしれない。
それでも、今、一瞬でも忘れられた。
ひとしきり泣いた後、僕は警察官にお礼を言って離れた。
その瞬間、少し肌寒さを感じた。
部屋の隅に置かれていたストーブを見ると、灯油が切れかかっているのか火が弱くなっていた。
完
35
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 01:46:35 ID:EmwBDx7U
終わり!
続編創作中
36
:
ペンギン
:2014/12/28(日) 02:01:40 ID:ipjUNniA
乙です
続編あるのか
前のエロものよりはるかに読みやすいや
まあ当然か
でも鬱になりそうだな
37
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/28(日) 13:00:04 ID:EmwBDx7U
>>36
ありがとうございます
こういうのとエロいの両方書きたい
38
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/12/29(月) 01:18:23 ID:KwQN5Uc2
私たちは晒すさんについて知り過ぎているので、これが「何かを憎み続けている晒すさん自身への突っ込み」だと言うことはすぐわかりました。
そういった考えを全て排して感想を書いてみたいと思います。
いじめの描写は凄惨を極めており、そこに流れる純粋な悪さという点が良く描写されていると思います。
純粋な悪さというのは、交じりっ気のない悪という意味です。
ただ、○○くん、××くんというのは、2、3人までなら分かるんですが、それ以上になると判別が難しくなります。
何かしら外見描写等で他の人との差異を作ると、分かりやすくなりそうです。
誰かを憎むこと、それ自体にとらわれて、幸せを見失ってしまう心情は分からないでもない。
そして、そう言った子たちは、周りから指摘してあげないとそれに気付くことはできないんだろうと思いました。
39
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/29(月) 01:50:54 ID:HYtARNpI
>>38
感想ありがとうございます
登場人物に名前をつけないのは自分でも理由がわかりません
もしかしたら、名前をつけたくないのかもしれない
「悔しさ」がバネになっても、「憎悪」はバネにはならない
僕はそんな考えです
40
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:12:50 ID:yqhHm6Xw
はい、じゃあ「憎悪」の続編、「復讐」を晒す
41
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:13:33 ID:yqhHm6Xw
私はこの日を待っていた。それは間違いない。
だが、それはどのような感情からくるものだったのだろうか。
子供の頃に遊園地に行く日を待ちわびたようなものとは違う。
大学受験の合格発表を待ちわびたようなものとも違う。
期待でも、緊張でもない。私にあった感情はなんだったのだろうか。
だが、私にどんな感情があったとしても、現在、待ちわびた日を迎えている。
私は今、ある少年刑務所の前に車を止めている。
今日が彼の出所の日だと聞かされたからだ。
彼が出てくるまでどうやって暇を潰そうかと考えて、
ポケットからタバコを取りだそうとして気がついた。
そうだった、タバコは三年前から止めている。
しかたなしに、カーステレオでラジオでも聞こうとしたときに、刑務所の扉が開いた。
そこから出てきたのは数人の刑務官、そして……
彼だった。
あの顔を忘れることはない。まあ、私じゃなくてもなかなか忘れられないだろう。
何しろ特徴がありすぎる。
首筋から左頬にかけての火傷と、眼帯をした右目。
それは間違いなく、私の息子を殺害した犯人、□□だった。
42
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:15:47 ID:yqhHm6Xw
三年前。
当時、まだ衆議院議員の職についていた私は、事務所で本会議に使用するための資料をまとめていた。
だが、結果的にその資料が使われることはなかった。
「××先生」
私の秘書が、珍しく顔色を変えて部屋に入ってきた。
彼は優秀な男で、常に冷静に私をサポートしてくれる。
そんな彼が動揺しているということは、よほどのことがあったのだろう。
「どうした、何かあったようだな?」
いつもであれば、仕事中に手を止めることはしたくないので、
退室するように言うところだが、私は彼の話を聞くことにした。
「そ、それが……警察の方がお見えになっています」
「なに?」
警察だと?
世間ではよく、政治家の汚職が問題となり検察なりの強制捜査が話題になったりもするが、
警察が事務所に押し掛けるというのは希だ。
正直言って、私自身も法に触れるギリギリの行いはしている自覚はある。
だが、政治家をやっていくには綺麗事だけ追い求めるわけにはいかない。
そして、尻尾を掴まれるようなヘマはしていないはずだった。
なのに、警察が訪ねてきた?
「……わかった。通してくれ」
43
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:24:43 ID:yqhHm6Xw
おそらくは、非常事態だ。下手に突っぱねればなにかまずいことになるかもしれない。
私は応接間に客人を通すように伝え、軽く身なりを整えて応接間に入った。
そこには、数人の刑事と見られる男性がソファーの前に立っていた。
「お忙しい中失礼します。☆☆県警刑事部の◎◎です。
代議士の××先生ですね?」
「はい、ご足労いただいた直後に申し訳ありませんが、ご用件を教えていただけますか?」
ベテランらしき風貌をした刑事が名乗りでる。
どうやら所轄の刑事ではなく、県警本部の人間のようだ。
確かに、国会議員である私への用となると、県警本部が動いたりもするのだろう。
しかし、目的は未だにわからない。
「……落ち着いて聞いてください」
この口振りからして、私への追及ではないようだ。いったい何が……
「今朝、☆☆県内の林で、ご子息の遺体が発見されました」
…………は?
44
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:25:37 ID:yqhHm6Xw
「え? あの……え?」
え? 何を言っている?
目の前にいるこの男は何を言っている?
ちょっと待て、遺体? ご子息?
え? なに? つまり、
……息子が、死んだ?
「むす、こ、が、死んだ?」
政治家としてやっていくうちに、感情をコントロールする術を身につけたはずの私だったが、
言葉がうまく紡げなかった。
「受け入れられないお気持ちはわかります。ですが、これは事実です」
事実? え? 本当に?
「な、なにが……?」
何が起こっている? という言葉を出そうとしたが、
刑事は息子に何があったのかと質問しているように解釈したようだ。
「状況から言って……ご子息は殺人事件に巻き込まれたと見て間違いありません」
殺人……事件?
意味は知っている。だが、その言葉が息子に結びつかない。
「……少しお気持ちが落ち着いたら私にお声かけください。
病院にご案内します」
45
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:26:29 ID:yqhHm6Xw
気持ちを落ち着けるのに一時間掛かった私は、
その後ようやく刑事に連れられて☆☆県内の病院に向かった。
何かの間違いだ。実は息子は生きているんだ。
だが、私のそんな考えは、病室ではなく霊安室に案内されたことで打ち砕かれた。
本当に……息子が殺されたというのか。
霊安室に入ると、白衣を着た医者らしき中年の男と、
ベッドに横たわり、白い布を被せられた『何か』があった。
「この度はご愁傷さまです。私は検屍を担当している……」
白衣の男が名乗ったが、よく聞き取れなかった。
まだ、希望を捨てていなかったからだ。
この白い布を被せられたのは全くの別人に違いない。
何かの間違いで、息子と間違えられたのだ。
そうだ、この下に息子がいるはずがない。
46
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:27:23 ID:yqhHm6Xw
「先に言っておきます……ご子息と対面する前に、相応の覚悟をお持ちください」
「……え?」
「正直言って、遺体は相当ひどい状態です。詳細を先に述べておきます」
白衣の男が、遺体がどのように損傷しているかを説明した。
何だ? 何だ? 何だ!?
何を言っている? それが、本当に息子の身に起こったことなのか?
そんなはずはない。息子がそんな……
「説明したように、遺体はこれほどの……」
「黙れ!」
思わず叫んでしまった。
そうだ、これは何かのイベントだ。私を驚かすためのイベントだ。
息子がそんな状態のはずがない。この下にいるのは……
「あ、お待ちくださ……!」
医者が止めるのを無視して、私は布を取り去った。
47
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:28:36 ID:yqhHm6Xw
――――――――
…………
あ、あ、あ、あ、あ、あ、
あああああああああああああああ!
「う、嘘だ! こんな! これが! ああああああああ!」
白い布の下にあった『もの』。
確かに人間ではあったのだろう。
だが、医者が言った通り、その遺体は、
全身を滅多差しにされ、指と両耳が切り取られ、歯のほとんどを折られ、
鼻をあり得ない方向に曲げられ、両目を潰され、腹を裂かれ、腸をぶつ切りにされ、
髪の一部分が引き抜かれ、口を頬まで裂かれ、のどを裂かれ、頸椎が見えるようにされ、
だが、こめかみに見覚えのある黒子が確かにある、
息子の、遺体だった。
48
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:29:41 ID:yqhHm6Xw
「う、ぐ、ううう……」
「大丈夫ですか!? こちらにどうぞ……」
「ぐ、おぶええええぇぇぇ……」
想像以上の惨状に強烈な吐き気を催し、
医者が持ってきたボウルに嘔吐してしまう。
そんな、息子が、何で、なんで、ナンデ、
息子が何をしたというのだ!!
私は感情を自由にコントロール出来る人間だと思っていた。
だが違った。いや、どんな状況になっても自由に感情をコントロール出来る人間などいない。
息子がこんな目に遭わされて、感情をコントロール出来る父親などいない。
今沸き起こっている感情は何だ? 悲しみ? 怒り?
……憎しみ?
49
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:31:03 ID:TBodiky6
「……××先生。あちらに休憩室を用意しています。まずはそちらに……」
刑事の◎◎が、私を息子の遺体から離そうとする。
だが、どうしても確認したいことがあった。
「……なんでだ、なんで犯人はこんなことをしたぁ!?」
「お、落ち着いてください!」
「こんなことをされて、落ち着いていられるか! 早く犯人を捕まえろ!」
「犯人はすでに自首しています!」
「なら、犯人をここに連れてこい!」
「お気持ちはわかりますが、それは出来ません!」
「ふざけるな! こんなことをした犯人を庇うというのか!? 今すぐ死刑にしろ!」
「犯人を庇うつもりではありません! 然るべき手続きをした後に法の裁きを……」
「そんなのを待っていられるか! 法ではなく、私が裁いてやる!」
「落ち着いてください! おい、もっと人を呼んでこい!」
多数の刑事に連れられて、強引に休憩室に運ばれた。
休憩室に半ば軟禁されるように入れられた私は、
しばらくどう呼んでいいのかわからない感情の波に翻弄されていた。
だが、刑事たちの賢明な説得により、なんとか平静を取り戻す。
それでも、私の頭からは疑問が消えなかった。
なぜ、息子がこんな目に遭ったのか。
なぜ、犯人は息子を狙ったのか。
なぜ、息子は助からなかったのか。
そうだ、その疑問を晴らすまでは帰れない。
50
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:32:09 ID:yqhHm6Xw
私は休憩室に入ってきた◎◎に詰め寄った。
「……犯人に会ってきたんですね? 教えてください!
犯人は、犯人の動機は何なのですか!?」
息子をあんな姿にした動機はなんだ。
どんな理由があろうと許されることではないし、許すつもりはない。
それでも、動機が知りたかった。
「事実かどうかはまだ調査中ですが、犯人の供述はこうです」
一体何だ? 何があってこんな……
「ご子息の過激ないじめによって、彼への『憎悪』が止まらなかった。だから殺した」
51
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:32:58 ID:yqhHm6Xw
……なに?
いじめ? 待て、息子がいじめ?
「そ、そんなことがあるか! 息子はいじめを止めていたんだぞ!」
そうだ、中学時代に息子は同級生が火だるまになっていたのを助けたことがある。
その他にも、『友人』が困っているから私の権力を借りるのを許してくれと頭を下げたことがあった。
だから、私の名刺を何枚か渡しておいたのだ。
いざというときは、それで『友人』を助けると言って。
その後、なぜか息子は逆恨みで右膝を刺されたが、その犯人は少年院に送られたと聞いている。
まさか、その犯人がまた息子を逆恨みして……?
つまり、犯人は息子の同級生!?
「先ほども申し上げた通り、事実関係はまだ調査中です。しかし……」
刑事は、思い出したくないものを思い出すように言った。
「犯人は、顔から背中にかけて大きな火傷があり、右目を失明しています」
52
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:34:32 ID:yqhHm6Xw
その夜。
遺体は司法解剖に回されるとのことで、あれ以上息子の側にいられなかった私は、
呆然とした頭で、久しぶりに自宅へと戻った。
出迎えてくれるものはいない。妻は、息子が小学校に入った直後に他界している。
私はせめて、金銭面では息子を不自由させまいと、
父から受け継いだ人脈を必死に守り、政治家となったのだが……
いつのまにか、息子と顔をあわす回数は減っていった。
それなのに、今は息子との思い出が次々とよみがえってくる。
まだ、父の秘書をしていた私の仕事を見て、尊敬のまなざしを向けてくれた息子。
自分の父親はすごいんだぞ、と自慢げに友達に話す息子。
率先してリーダーの役目を担い、友達を率いていた息子。
小学校に入ってからはうまく話すことが出来なかったが、それでも彼との思い出はたくさんあった。
だが、もうその思い出を増やすことは出来ない。
その未来は全て奪われてしまった。
……犯人によって。
許せない。いじめだと? おそらく犯人は逆恨みで右膝を刺したという少年だろう。
それなら今回も逆恨みに決まっている。そうだ、あれほどの惨劇を起こしたんだ。
犯人はまともではない。生きていても害しか振りまかない。
なんとしても、死刑にしてやる。
53
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:35:29 ID:yqhHm6Xw
二日後。
私はありとあらゆるコネを使って、検察や裁判所を抱き込むために準備をしていた。
順調だ。たとえ犯人が未成年であろうと、死刑になった判例はある。
あとは、うまく抱き込めればいい。
そう考えながら、私は被害者遺族として警察署に向かい、捜査状況を聞くことにした。
担当刑事の◎◎が、資料を持ってくる。
「犯人は容疑を全面的に認めています。凶器にも犯人の指紋が残されていましたし、
犯行当時に着ていた服にも被害者の血痕が付着していました」
なら決まりだ。これで……
「××先生。ここからは受け入れ難い内容となりますが、捜査本部が公式に下した結果ですので、
心してお聞きください」
「? どういうことですか?」
「当時の同級生達への聞き込みの結果……
ご子息によるいじめが実在したのはほぼ間違いないことがわかりました」
「なっ!?」
54
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:36:19 ID:yqhHm6Xw
バカな! 息子がいじめだと!?
そんなことがあるか!
「いじめですって!? バカバカしい! 男同士なら殴り合いの喧嘩くらいするでしょう!
犯人が逆恨みをしたのではないですか!?」
「私たちもその線を考えました。ですが……」
そして、◎◎は持ってきた資料を私に見せてくる。
「正直……ここからは口に出しづらい内容ですので、心してご覧ください」
その資料には息子がやったといういじめの内容がまとめられているようだった。
55
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:37:17 ID:yqhHm6Xw
――――――――
…………
な、なんだ……
「なんだこれはああああ!?」
一通り目を通した私は、資料を机に叩きつけて◎◎に掴みかかった。
「貴様ぁ、どういうつもりだ! こんなデタラメな報告書が信じられるか!」
怒鳴りつける私を、別の刑事が引き離す。
「信じられないお気持ちはわかります。
ですが、数々の証言、そして数々の証拠から下した結果です」
「バカなことを言うな! こんな、こんなことを息子がやったというのか!?」
「元同級生たちの証言、そして教師もご子息に灯油を運んでもらっていたということを認めています」
「そんなバカな! こんな、こんなのはいじめではなく……」
それにふさわしい言葉は、
「拷問じゃないか!」
それ以外になかった。
56
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:38:20 ID:yqhHm6Xw
大人数で殴る蹴る、階段から突き落とす、宿題を燃やす、
椅子の上に立たせて首を縄で吊り、椅子を蹴って恐怖心を煽る、
本当に椅子を取っ払って苦しむ姿を楽しむ、
風呂の底に寝そべらせた状況で縛り、徐々に水を入れる、
手のひらや腕にタバコを押しつける、
『ストーブ』に見立てて灯油をかけて火を点ける、
火のついたタバコを目に押しつける、
そして、それら全てを自分の『友人』に罪を被せ……
逆らうものには、私の名刺を突きつけて黙らせる。
「こ、んな……こんなことが……こんなことをしたら……」
こんなことをしたら、
「 」
私はすんでのところで、その言葉が心の中で形になる前に阻止した。
だが、だが、これが事実だとしたら。
息子は、そして犯人は――
57
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:39:36 ID:yqhHm6Xw
警察署から自宅に戻った私は、あまりのショックで検察に手を回すのを忘れていた。
そうこうしているうちに、事件はニュースで大きく取り上げられることになった。
当然だ、現役の国会議員の息子が殺人事件の被害者。
世間の興味は大きくそそられるだろう。
だが、息子が行ったいじめの内容が明らかになると、世間の興味をそそるだけでは済まなかった。
息子は被害者であったため、事件が起こった直後から実名と顔写真が公表されていた。
だからこそだろうか、息子が行った数々のいじめを告発する電話が新聞社やテレビ局に殺到したそうだ。
もはやいじめではなく拷問といっていい息子の行いは、連日取り上げられた。
殺人事件の被害者であるはずの息子が、まるで殺人犯のように扱われていた。
現役議員の息子の腐りきった裏の顔。
決して自分の手を汚さない卑劣な手段。
犯人の少年に一生消えない傷を負わせた!?
いじめに立ち向かった勇気ある少年が逮捕!?
因果応報、勧善懲悪、自業自得。
58
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:40:15 ID:yqhHm6Xw
ゴシップ誌はもちろん民放のワイドショーでさえ、息子を救いようのない悪人として扱い、
逆に犯人はいじめに屈しなかった英雄かのように扱われていた。
もちろん、世間の追及は父親である私にも向かい、マスコミに追われるばかりか、
自宅には脅迫文が届き、正義の名の下に徹底的に叩こうとする魂胆が透けて見えていた。
所属している政党からも追及を受け、私は議員を辞職せざるを得なくなった。
わからない、わからない、わからない。
息子に抱いていい感情がわからない。
悲しみ? 哀れみ? 怒り?
何が起こっている。私の心に何が起こっている?
わけのわからないまま、犯人の裁判の日を迎えた。
59
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:41:17 ID:yqhHm6Xw
裁判は犯人が未成年であることと、世間の注目を集め過ぎているということで、
関係者だけが傍聴することになった。
☆☆県内では犯人の無罪を求める署名活動まで行われているようだ。
被害者遺族である私は、傍聴席に座って裁判の開廷を待つ。
そして、その時初めて犯人の少年を見た。
…………
なんだあの表情は?
事前に聞かされた通り、少年は首と左頬に火傷を負い、右目に眼帯をしていた。
だが、私が驚いたのは彼の表情だ。
あれが、あんな憔悴した表情が十代の少年のそれなのか?
かつて、戦争から帰ってきた外国の兵士のドキュメンタリー番組を見たことがあるが、
その時に見た、兵士の表情に似ていた。
生きているのではなく、生き残ってしまったかのような表情。
もはや生きる意味などないのに、生き残ってしまっているかのような表情。
彼はどれほどの地獄を経験したのだろうか、どれほどつらい目にあったのだろうか。
彼を見たとき、あの時形になりそこなった言葉が蘇ってしまった。
「こんなことをしたら、殺されて当然だ」
60
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:42:11 ID:yqhHm6Xw
結局、犯人に下された判決は懲役三年というものだった。
犯行に及ぶまでの過程は情状酌量の余地があるものの、
その後の犯行の残虐性が判決の要因だそうだ。
この判決は世間に大きな怒りを抱かせ、
結局は権力者が得をするのか、いじめに立ち向かった結果がこれなのか、
そういった意見が各地で出ていた。
私は考える。
確かに息子は犯人の少年、□□に消えない傷を負わせ、彼の人生を破壊した。
もし息子が生きていれば、立てなくなるまで殴り、私と共に一生をかけてその償いをさせただろう。
いや、息子が死んでも、私だけは彼に償いをすべきだ。
だが、私は惨たらしく殺された息子の姿を忘れられなかった。
どうしても考えてしまうのだ。
果たして、本当に息子はあそこまでの報いを受けなければならなかったのだろうか。
もしかしたら、いじめは関係ないのではないか。
本当は、息子は自分の行いを後悔していたのではないか。
父親として、どうしてもそれを考えてしまった。
息子は□□に許されない行為をした。
だが、□□も息子に許されない行為をした。
□□の人生はまだ続くが、息子の人生はもう戻らないのだ。
やはりどうしても彼を許せない。息子を殺した犯人を許せない。
私は――
61
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:43:10 ID:yqhHm6Xw
そして、三年の時が経ち、現在に至る。
出所した□□の後を尾け、彼が人気のない道路に差し掛かったところで、
一気に車を彼の横につけた。
そして素早く車を降り、彼の前に立ちはだかる。
「□□くんだね? 私が誰かわかるか?」
「……はい」
「なら、用件もわかるね?」
「……」
「車に乗りなさい」
□□は特に抵抗することなく、車に乗った。
私は世間の追及を避けるために元の住居を手放し、安いマンションの一室に引っ越していた。
その自宅に、彼を押し込むように入らせる。
□□を窓際に立たせ、私は入り口を塞ぐように立った。
「……よく抵抗しなかったね。これから自分の身に何が起こるかわかるだろうに」
「……」
「あくまでだんまりか」
そして私は、懐から拳銃を取り出す。
□□が使ったという改造電動ガンではない、本物だ。
議員をやめた後にも残っていたコネをフルに使って手に入れた。
62
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:44:13 ID:yqhHm6Xw
「……確実に君を殺すために準備させてもらった。
この銃で、今から君を殺す」
そうだ、私は今から彼を殺す。
その決意をするために、こうして宣言をしている――
「なぜ、それを僕にわざわざ言ったのですか?」
だが、それが偽りであることを彼に見抜かれた。
「……本当は、まだ迷っているのではないのですか?」
……気づいていたのか。
「君は、不思議な人だな。初めて言葉を交わすのに、心の中を見透かしてくる。
そうだ、私はまだ迷っている」
なぜか、彼には心中を打ち明けなればならない気になった。
「息子が君にした行いは到底許されることではない、わかっている。
私は一生かけて、君に償いをすべきだ、それはわかっている!
だが、だが……」
だが、それでも。
「それでも、あの子は、私のたった一人の息子だったのだ!」
63
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:45:02 ID:yqhHm6Xw
どうしても、その感情が抑えられない。
頭では、自分が被害者ぶる資格などないとわかっている。
それでも、彼を許せないという感情が抑えられない。
彼に贖罪をすべきだという考えと、彼を許せない感情。
その二つが、私を攻撃している。
「僕は、あなたの気持ちがわかります」
その時、彼が私の言葉に応えた。
「……人を憎む気持ちは、自分ではコントロールできません。それどころか、自分さえも攻撃してくる。
その上、あなたは僕に償いをすべきという理性まで持ってしまっている。その苦しみは僕を上回るでしょう」
「君を、上回る?」
「はい、僕も××くんをずっと憎んできました。そして、彼を殺した後もそれは変わらない。
死んだ人間を憎み続けてもどうにもならないのに、その感情は止められない」
当然と言えば当然だが、彼は息子を憎んでいた。
だからかもしれない、あのような憔悴した表情をしていたのは。
「でも、それでも言わせてください」
その後、少年は残った左目から涙を流しながら、
「じゃあ、僕はどうすればよかったんですか?」
そう言った。
64
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:46:01 ID:yqhHm6Xw
「黙っていじめを受けていればよかったんですか?
ですが、あのままいじめを受けていれば死んでしまう可能性もあった。
僕はそれがいやだった、だから反撃した。
そうしたら、右目を潰された上に少年院に送られた。
そして、彼への憎しみが暴走したら、今度は少年刑務所に送られた。
ようやく出所したら、今度はあなたに殺されそうになっている。
あなたが拳銃を持っている以上、僕が助かる可能性は低いでしょう。
でも、ここで死んでしまうのであれば……」
そして、彼は初めて感情を爆発させた。
「僕の人生は何だったんですか!?」
……おそらくこれは命乞いや同情を誘うものではない。
おそらくは、ただの文句。
自分に降りかかった理不尽に対する文句。
せめて文句くらいは言わせてくれという感情。
「僕はあなたの息子を殺しました。その報いを受けるべきかもしれません。
あなたの『復讐』を受け入れるべきかもしれません。
でも、それでも、僕の本音としては……」
聞かされる、彼の本音。
「その『復讐』を、受け入れるわけにはいきません」
65
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:46:44 ID:yqhHm6Xw
……もしかしたら、彼はようやくなのかもしれない。
ようやく、息子への憎しみから解き放たれようとしているのかもしれない。
だが、それが何だ? お前が息子を殺したのには変わりがない。
そうだ、私は彼を憎むべきだ。彼を殺すべきだ。
息子の、ためにも。
拳銃を彼に向け、狙いを定める。
彼は諦めたわけではないだろう。逃げるチャンスを窺っている。
それでも、私は彼の未来を奪うべきだ、私は彼を……
66
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:47:32 ID:yqhHm6Xw
――――――――
…………
出来なかった。
気づけば、私は拳銃を下に降ろしていた。
なぜだろう、気づいてしまったからだろうか。
私が彼を必死に憎もうとしていることに。
彼は言った。憎しみはコントロールできるものではないと。
憎もうとしている時点で、彼への憎しみが減少していたのだ。
いや、そもそもこれは『憎悪』だったのだろうか。
ただ、私が息子の育て方を間違えた故に起こった悲劇を、彼のせいにしたかっただけではないだろうか。
わからない、それでも、その感情は彼も私も攻撃している。
どうあっても、彼を許すことなど出来ないのだ。
彼を殺すことも出来ない、彼を許すことも出来ない。
そうなると、私の『復讐』は決まっていた。
銃口が、私のこめかみに向けられる。
目の前の彼が驚いて私を止めようとするが、
これだけは譲れなかった。
だから、お願いだから、せめて、
「せめて、このくらいの『復讐』はさせてくれ」
67
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:48:52 ID:yqhHm6Xw
========================
聞きたくなかった銃声の後に残ったのは、
頭から血を流す、××くんの父親だったもの。
止められなかった、いや、止めなかった。
僕の『憎悪』の対象には彼も含まれていたから。
でも、それ故に彼の『復讐』の効果は覿面だった。
彼は逃げたのだ。
贖罪と憎しみの板挟みになる苦しみからも、、
これからも世間の追及を受け続けるであろうことからも、
息子の死に向き合うことからも、
そして、僕の『憎悪』の対象になることからも。
これが、これこそが、この人の『復讐』。
「ぐ……うぅ……」
まただ。
また、僕のせいで人が死んでしまった。
もう、彼を憎むこともできない。彼に言葉をぶつけることもできない。
どうしてだろう、どうしてこうなってしまったのだろう。
68
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:49:57 ID:yqhHm6Xw
誰が原因だったのだろう、
わかっている、諸悪の根源などいないことに。
いじめをした××くんが悪いのかもしれない、育て方を間違えた父親が悪いのかもしれない。
××くんを殺してしまった僕が悪いのかもしれない、立ち向かう勇気がなかった『友人』たちが悪いのかもしれない。
どう考えても、この問題に解決など見えてこない。
でも、それでも、僕は思い出す。
「ここで、終わって、たまるか」
そうだ、ここで終わったら僕の人生は何だったんだ。
そして、僕のせいで死んだ、××くんたちは何だったんだ。
なにがあっても、僕は幸せになってやる。
僕自身のためにも。
だからこそ、
「あなたを、許します」
××くんの父親を無視するわけにはいかなかった。
そして、僕は部屋にあった固定電話から警察に通報することにした。
完
69
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:51:03 ID:yqhHm6Xw
終わり
70
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/30(火) 10:51:56 ID:yqhHm6Xw
終わり!
たとえ悪人だったとしても、その死を悲しむ人はいる
71
:
ペンギン
:2014/12/30(火) 13:18:35 ID:cS.JtrN.
書くの早いんだな
うらやましい
やはり暗いかんじなのね
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