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人の間の、へんな生き物【個人ssスレ】
1
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/03(木) 22:59:31 ID:jCVODrYo
このスレは僕がふと思いついたssを投下する場にしたいと思います
2
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/03(木) 23:00:13 ID:jCVODrYo
しかし最近はネタ切れのため、更新はしばらくお待ち頂くことになりそうです。ゴメンナサイ。
3
:
バブリシャス
◆Ctawjhw2DI
:2014/07/03(木) 23:28:30 ID:JJtGg3r.
>>2
仕事じゃなし、気侭に楽しんで書いて下さい!
4
:
イエローの人
◆sLaYellOWQ
:2014/07/04(金) 01:44:37 ID:.1bbx8Hk
更新するの楽しみにしてますでー!
5
:
名無しさん
:2014/07/04(金) 12:17:01 ID:jCVODrYo
>>3
、
>>4
ホンマに楽しみまくって書いたったw
めし食ったら投下始めます
6
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 12:35:59 ID:jCVODrYo
「primitive」
俺はボーカルをやめたい。
もともと、自分の声が嫌いだった。
バンドメンバーと録音した演奏を聴くときも、耳を覆いたくなる。
それでもメンバーたちは凄い凄いと僕をほめそやす。
そこで、こんなのもまあいいかな、と思ってしまう俺も悪い。
だが俺はボーカルをやめたい。
俺ができる楽器といえば、タンバリンぐらいのものだ。
お遊戯のように振ったり叩いたりしながら歌う。
ある時ライブで曲と曲の合間に、ふと、もはや歌わなくてもいいんじゃないか、という気がして、次の曲ではタンバリンだけを叩いた。
俺が歌詞を忘れたのかと勘違いして、ギタリストが歌い始めた。
だがそのうち歌わなくなった。
この演奏が、中々好評だった。
そうだ、俺はタンバリンだけを叩くバンドマンになりたい。
7
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 12:37:50 ID:jCVODrYo
俺はメンバーに悩みを打ち明けていない。
彼らにとって俺がボーカルを務めることは当然だろうし、はまり役で俺自身にもその自負があると思っているのだろう。
もちろん、ファンの皆もそうだ。
俺たちはそれなりに成功しているインディーズバンドだ。
俺たちを褒めたたえる声を阻害する気はない。
俺の意思を尊重するなら、このバンドはタンバリンバンドになってしまうだろう。
8
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 12:39:32 ID:jCVODrYo
「一体これは何だと言うのか」ある日俺は借しスタジオでいきなり叫んだ。
「俺は歌う。けれどボーカリストじゃない。おいギター、お前は本当にギタリストなのか?」
ギタリストは言った。
「俺は、俺はギターをこれまで弾いてきた。ギターが弾ける自分を誇りに思った。俺にはギターしかない。けれど、俺はギタリストではないかもしれない!」
ベースとドラムも頷いた。
そこで俺たちは録音機を回した。
9
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 12:41:14 ID:jCVODrYo
はじめは誰も、微動だにしなかった。
みながみな、気づいたのだ。
俺たちはここで、それぞれ担当楽器を演奏してはいけない。
おもむろに、ギタリストがドラムセットの椅子に座った。
どんちゃんどんちゃん叩き始めた。
俺は、俺はどうしよう?
俺はボーカリストだ。
だからタンバリンを演奏してはいけない。
でゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅと、ドラマーがルート弾きを始め、ベーシストは俺の手からタンバリンをぶんどって誇示するようにぱんぱんぱんぱん叩いた。
俺はギターを手に取り、全く鳴らないFのコードだけを8ビートで弾き始めた。
ドラムスは4ビートである。
間違いない。
これはこれでいいのだ。
さあ、誰か歌え。
いや、誰も歌わなくてもいい。
この空間が、この音がいいのだ。
10
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 12:44:00 ID:jCVODrYo
5分ほどそうしていた。
その状態を破ったのはベーシスト、いや、かつてベースを弾いていた、いや、ベースに弾かれていた人間だった。
オーディオインターフェイスに、マイクが繋がっていなかった。
つまり録音はされていない。
「ああ、楽しかった!」俺は言った。
ベーシストは機材をいじり、録音ができるようにセッティングした。
それから俺たちは、もとの担当楽器を弾き始めた。
爽快な気分で俺は歌った。
なんと気分がいいのだろう!
ドラムスはメリハリのある8ビートを奏で、ベースの重低音がスタジオを揺さぶり、歯切れのよいカッティングでギターが応じた。
俺はその上に、ただ赴くままに声を重ね、タンバリンを振った。
タンバリンに、俺の血が通っているかのように感じた。
しかし、それ以上に曲と俺の出す音色が一体化していた。
このとき俺は、確かにボーカリストだった。
11
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 12:45:23 ID:jCVODrYo
そのとき録音したデモを元に、曲をブラッシュアップした。
この曲がきっかけで、俺たちはメジャーデビューすることになる。
名声と金を手に入れた。
でも俺はやっぱり、ボーカルをやめたくなることが時たまある。
そういうときには、また無音の曲を作る。
みんな、俺と考えていることは同じだった。
俺たちはいつだって、担当楽器をやめられる。
幼稚園児のように何もかも忘れて、心の底から楽しむことができる。
おわり
12
:
バブリシャス
◆Ctawjhw2DI
:2014/07/04(金) 14:46:45 ID:YTJU0vFM
おつです! 面白かった!
やっぱ楽しんで書くの大事!
……と此処まで考えて、人間氏の内面投影なのかな、なんて深読みしてしまいました。
シンプルな記述なのに描写の説得力があって良かったす。
次も楽しみにしてま!
13
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 19:17:41 ID:jCVODrYo
>>12
読んでくれてありがとう
内面投影というか、願望ですよね……幼児的な楽しみ方ができる大人って少ないですから
僕も照れ屋なもので、はっちゃけるのは苦手なんです……
14
:
イエローの人
◆sLaYellOWQ
:2014/07/04(金) 19:31:34 ID:.1bbx8Hk
これいいね!!
「担当するものが合ってない」って主人公が思うだけってのはよくあるけど、
全員が全員思って、しかも別担当になって上手くいくってのが楽しかった
この短い中で物語もまとまってて、さすがだね
すまん、一箇所だけわからないところがあったんだけど、
> オーディオインターフェイスに、マイクが繋がっていなかった。
> つまり録音はされていない。
ってなってるけど、でも
> そのとき録音したデモを元に、曲をブラッシュアップした。
録音してたの?
15
:
名無しさん
:2014/07/04(金) 19:47:35 ID:jCVODrYo
>>14
読んでくれてありがとう。
ベーシストは機材をいじり、録音ができるようにセッティングした。
って書いたけど分からんかった? 一度はっちゃけた後もう一度元の楽器に戻って演奏して録音したってことなんだけど
16
:
イエローの人
◆sLaYellOWQ
:2014/07/04(金) 20:03:22 ID:.1bbx8Hk
>>15
ああそっか、読み飛ばしてたみたいだごめんよ
17
:
イエローの人
◆sLaYellOWQ
:2014/07/04(金) 20:19:53 ID:.1bbx8Hk
ちゃんと読み込むクセつけないとなあ(´・ω・`)
ほんと申し訳ない……
18
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/04(金) 20:36:07 ID:jCVODrYo
>>17
誤解を招く書き方、話の運び方をした俺の責任かもしれないぜ
精進するぜ
19
:
ザキアネ
:2014/07/06(日) 01:45:19 ID:XyONjuPk
人間氏!
このss…なかなか面白いでござるな!今後の作品に期待でござる!!
20
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/06(日) 03:34:56 ID:jCVODrYo
>>19
ありがとうございます。
雑談スレの方へは行かれましたでしょうか。我々がただ駄弁っているだけのスレですが、よければそちらも覗かれてみては?
次回作も思いついたら書く、という方針で行きたいと思います。
21
:
白レンの人
◆EvBfxcIQ32
:2014/07/07(月) 19:42:02 ID:0leel9Mk
>俺はボーカリストだ。
>だからタンバリンを演奏してはいけない。
この二文がジワジワくるwwwww というか、このボーカルさんタンバリン好きすぎでしょw 「タンバリンだけを叩くバンドマンになりたい」とか「タンバリンバンドになってしまうだろう」とかw それとも、俺が知らないだけで、今時のインディーズバンドではボーカルがタンバリンを叩くのが主流なのだろうか?w
けど、「任せられた役割から逃げ出す」というテーマは、なかなか考えさせられるものがあったな。褒められて、期待されて、だけどそれは必ずしも望んだものではないという構造的矛盾。
それでも、時には逃げ出していいんだと。一度思い切って投げ出して、幼稚な衝動に身を任せてもいいんだと。そう言われている気がした。
「primitive」のタイトルがとてもピッタリだと思える、そんな作品。
22
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/07(月) 20:11:45 ID:jCVODrYo
>>21
おお、そこまで深く読んで下さるとは……嬉しい限りです
タンバリンの件はまあ置いといてくださいw
とあるバンドのタンバリン兼ボーカリストを見ていると、タンバリンの方が好きな奴もいるんじゃないかと思ってw気付いたらww
23
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:26:13 ID:jCVODrYo
「surface」
風呂の湯が、一日の疲れと上司の愚痴、それから外回り先での心ない一言を洗い流した。
小川哲也(おがわてつや)は風呂上がりに鏡に映る己の美しい体に酔いしれる。
俺だけに限ったことではないが、男は風呂上りが一番凛々しい。
けれど、それを他人に見せる機会がないのは至極残念に思っていた。
そろそろ、彼女が欲しい頃だった。
哲也のスマートフォンには、竹田祐子(たけだゆうこ)さんのメールアドレスが入っている。
祐子さんは我がT生命保険の誇る受付嬢で、その中でも特に容姿にたけた女性だった。
彼女は毎日朝の会議が終わり、外回りに出かけて行く時、こちらに最上級の微笑みを投げかけてくれる。
先日、哲也は祐子のメールアドレスを、当たり障りのない会話の中でさりげなく聞いてくることに成功した。
なんでも相談したいことあったらいつでもかけていいよ、と言って聞き出したのだ。
これも巧みな話術のなせるものだ、と哲也は自負していた。
24
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:29:44 ID:jCVODrYo
風呂上がりにスマートフォンをチェックすると早速、彼女からのメールが届いていた。
『明日、良ければ相談に乗ってくれませんか?』
祐子さんらしいシンプルな文面だ。
僕はその文面を確認すると間髪入れずにメールを返信した。
『僕でよろしければ、よろこんで』
25
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:34:33 ID:jCVODrYo
翌日は休日だった。
哲也は服装に頓着する方では無かった。
大学生の頃からのシャツの裾をまくり、ジーパンをはいて約束の昼食に出かけた。
祐子は待ち合わせ先のイタリアンレストランに、哲也より早く着いていた。
少しぐらい待たせておいた方が、期待させる効果があるだろう、と哲也は開き直って、
「待ちましたか」
と尋ねた。
祐子の髪型はボーイッシュなショートカットで、濃紺のデニムジャケットを羽織り、インナーからこぼれおちそうなほど胸があって目のやり場に困る。
そこで視線を下にずらすと、ピッチリしたパンツが脚線美を際立たせていた。
「いえ、大丈夫です。行きましょうか」
祐子はレストランの中へ入っていった。
哲也も後に続く。
26
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:37:02 ID:jCVODrYo
哲也にとってイタリアンレストランはあまり馴染みがなかった。
祐子は店員を呼び、異国の料理をすらすらとオーダーしていった。
哲也はとりあえず、パスタとサラダを頼んだ。
こういう無難な武骨さは逆に好印象かもしれない。
「相談があると聞きましたけど、何でしょうか」
料理が運ばれるのを待っている間に、話を始めることにした。
「小川さん、西口さんとは仲が良かったですよね」
西口勇人(にしぐちはやと)は僕の同僚で、大学時代法学部だった経験を生かし現在法務部に所属している。
宴会では一緒になってバカみたいに騒げる仲だった。
「はい。休日には二人で電機街に遊びにいったりしてますね」
27
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:39:26 ID:jCVODrYo
「私の気のせいかもしれませんけど、ちょっと最近西口さん、私のこと、その、変な目で見てないかなって思って」
西口は大学以来、女性に目がないようだ。
目につけた女は、そう簡単に手放さない。
少し間が空いたので、哲也は考えた。
そういう相談って、同性にした方がよくないか……?
しかし、祐子さんは僕を頼っているのだ。
僕と西口が気の置けない友人で、なんでも気兼ねなく話せる仲だと言うことを差し引いても、祐子さんが僕に相談を持ちかけてくれたのは素直に嬉しかった。
「分かりました。あいつ、ずっと女ったらしなんですよ。僕からきつく注意しておきますね」
「ありがとうございます。助かります」
28
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:41:50 ID:jCVODrYo
そこで、注文したボンゴレスパゲティと、シーザーサラダが運ばれてきた。
哲也は祐子の頼んだ料理を見る。
スープやら、ソテーやらを4品目注文していた。
その後他愛もない雑談――上司の癖やら、同僚の変なミスやら――で盛り上がった。
祐子が終始口角を上げているのを見て哲也は何とも言えない気持ちになった。
こんなに楽しいおしゃべりをしたのは久しぶりだ。
祐子さんも大層よろこんでくれている。
もしかすると、僕に気があるのかもしれない、なんてな。
食事を終えて、会計の高さに哲也は少し驚いたが、それは瑣末なことだった。
「また一緒にご飯食べに行きましょうね」
帰り際、祐子さんはそう言ってくれた。
それだけで、頑張れる。
29
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:44:50 ID:jCVODrYo
哲也は朝の会議に顔を出していたが、半分聞き流していた。
今月は残り一週間。
哲也は契約ノルマ数をとっくにこなしていたのだ。
会議室を出た。
朝と夕方の会議にさえ出れば、もう後は自由なのが外回りの気楽なところだ。
そして大体の外回り営業マンは、人目に触れず時間をつぶせる場所を持っている。
哲也はそこで一日を過ごすことに決めた。
オフィスを出ようとしたが、ふと思い出した。
祐子さんに言われたことを忘れていた。
危ないところだったと内心冷や汗をかきながら、哲也はまだ始業していない法務部へと足を向けた。
30
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:46:22 ID:jCVODrYo
「西口、お前最近竹田さんのこと狙ってんだろ」
「おう。お前もか?」
「俺のことは関係ないだろ。とにかく竹田さん、気味悪がってたから、あんまりアプローチしすぎんなよ」
「あいあい、分かった分かった。もう始業寸前だからお前も行ってこいや。浮いてるぞ」
分かっていない様子だった。
けれど部外者である哲也を不審な目で見る人間が増えてきたので、今のところは消えるしかない。
今度なにかで制裁を加えてやる必要があるな。
オフィスから出ようとしたところで、哲也はふと振り返る。
祐子さんの笑顔に手を上げ、出て行く。
31
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:50:35 ID:jCVODrYo
哲也はビルを出ると、最寄駅で電車に乗り、ひと駅行ったところで降りた。
大通りを歩き、細い路地へ入っていくと、古びたアパート群が見えてきた。
哲也はその中の一軒の、三階の一室のインターホンを押す。
「いらっしゃい」
伊丹浩太(いたみこうた)はしわがれた声で哲也を迎え入れる。
1DKの六畳間のほとんどは、パソコンとその周辺機器で占められている。
哲也はその残りのスペースに寝転がった。
煙草のヤニで、天井は黄色く染まっている。
伊丹と哲也は同じ大学に通っていた。
伊丹は情報系の学科、哲也は文学部だったが、サークルで知り合ったのだった。
ゲーム・アニメ同好会で。
伊丹は学生時代からプログラミングのプロとして報酬を得ており、大学卒業後数年はIT会社に勤めていたが、やがてフリーとなり、現在こうして家で一人キーボードを叩き続けている。
32
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:52:07 ID:jCVODrYo
哲也はパソコンの向かい側にあるテレビをつけ、録画してあるアニメを見始める。
「お前が今期オススメしてたこのアニメ、惰性で見てるがつまらないんだけど」
「お前には良さが分からなかったか、そうかそうか」
伊丹は煙草に火をつけ、あごの無精ひげをさすりながら言った。
「そもそも、もうアニメを見るような歳じゃないだろ?」
「確かに、最近はちょっと若い感性がつかめなくなってきてるわ」
アラサーの男二人は頷き合った。
やがて伊丹はパソコンと向き合い、ぽつぽつとキーボードを叩き始める。
「でもさ、やっぱり深夜アニメっていうのは挑戦心に溢れてて、勇気をもらえるんだよな」
「同感だ」
33
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:54:43 ID:jCVODrYo
哲也がゲーム・アニメ同好会に入ったのは、ほとんど偶然だった。
新歓の季節、たまたま見かけた同好会の貸し教室で、格闘ゲームをやっているのを、哲也は廊下から覗き見た。
そのゲームは哲也が高校時代、ゲームセンターに通いつめてやっていたものと同じシリーズだった。
お試しプレイという張り紙にも興味を惹かれ、ふらりと教室に入って行った。
そこでゲームの腕を披露したところ、おだてられて、気付いたころには成り行きで入会が決まっていた。
そのときまだアニメについては詳しくなかったが、伊丹にオススメされているうちに、そちらにも興味を持つようになったのだ。
「平日の真昼間から部屋でごろごろして録画したアニメを見られるとは、いい御身分だな」
「企業勤めはそんなに楽じゃないぜ? 上司の顔色うかがいとか、後輩の面倒見だとか」
「でも、美人に会える可能性があるじゃないか」
「なるほど」
34
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 17:58:25 ID:jCVODrYo
「俺なんか引きこもり同然だよ。出会いがない。それでアニメ上の美少女にすがるしかない。お前、自覚ないかもしれないけど、相当幸せ者だぜ。仕事もこなせるし」
「うん。分かってるよ」
哲也は伊丹に言われなくても、自分が幸せであると分かっていた。
普通に働いて、ある程度の収入があるし、綺麗な女の人にも会えているし。
「それに比べ、俺はまあもう、ダメだな」
「なんでだよ。お前プログラミング大好きだろ? 俺も営業の仕事は向いてると思うけど、好きではない。好きなことやって金がもらえるなんて幸せじゃないか」
「……自覚できないものだな、幸せってのは」
35
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:01:29 ID:jCVODrYo
伊丹はなにか含みのある口調でそう言った。
哲也は返答をしなかったので、六畳間に沈黙がおりた。
「紅茶、あるか?」
「いつものトワイニングのアールグレイならある」
哲也はアニメを一時停止して立ち上がった。
客人だから淹れてもらおう、と通い始めのうちは思っていたが、こいつは紅茶もコーヒーも、素晴らしい薄味に仕立て上げてくれる。
哲也は4杯目の紅茶を飲んだところで、暇を告げた。
玄関に張ってある特大の美少女ポスターに見送られた。
溜まっていたアニメはほとんど消化することができた。
それだけで、満足感を得られた。
会社へ戻る電車の中で、哲也は伊丹の言葉を思い返していた。
――自覚できないものだな、幸せってのは。
36
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:02:28 ID:jCVODrYo
哲也はそう思わなかった。
思わないし、自覚できないなら幸せは意味を持たない。
すると伊丹は幸せではないのかもしれない。
だが、伊丹はもっと不幸な人生を送っている人々に失礼だ。
羨み。
羨みが、人の幸不幸を決めるのではないだろうか。
自分と比べて周りの人間が幸せに見え、羨ましいと感じるとともに、不幸だという感覚がやってくるのではないか。
だとすると、幸せとは相対的なもので、社会的な関係以外では成り立たなくなる。
――哲也の頭は混乱してきた。
まあいい。
そう哲也は決断を下した。
そういう考えの人間もいるだろうということにしておこう。
但し、僕はそうは思わない。
幸せは絶対的で、自分の中にしか存在しえないものだ。
そんなことを考えていると、いつの間にかオフィスに着いていた。
37
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:06:07 ID:jCVODrYo
受付の祐子さんが、こちらに微笑みを送ってくる。
「お疲れさまでした」
「あ、ありがとうございます」
哲也も笑顔で返した。
少し、わざとらしかったかもしれない。
歯を見せすぎているかも。
「お煙草、吸われるんですか?」
「どうしたんですか? いいえ、吸いませんが」
「いえ、すみません。小川さんから煙草の匂いがするもので……訪問先が煙草臭かったんですね」
「まあ、そんなところです」
「お疲れさまでした」
祐子さんは再びねぎらいの言葉をかけてくれた。
することがないので時間をつぶしてました、とは言えなかった。
38
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:09:28 ID:jCVODrYo
哲也はよく、牧歌的な人だと言われる。
どことなくのんびりしていて、それでも仕事は実直にこなしていけるから。
哲也はその評価がなかなか気にいっていた。
やることはやる人間。
仕事と趣味をうまく両立している人間。
哲也と祐子との2度目のデートは全くの偶然から行われた。
土曜日の夕方、哲也は電機街をうろうろした後の帰りの電車に乗り込んだところ、祐子と鉢合わせた。
「あ、ど、どうも」
いきなりの出会いに哲也は少しどもった。
「こんにちは、いや、そろそろこんばんはかな?」
祐子は少し驚いた程度で、動揺してはいない。
流石は受付嬢を6年もやっているだけあるな、と哲也は感心した。
営業の仕事も、突然のアポイント変更等不測の事態が起こりやすいが、その対応は哲也は苦手だった。
39
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:13:44 ID:jCVODrYo
「折角ですから」先に声をかけたのは祐子の方だった。
「どこかで一緒に食事でもしましょうか。私もお出かけの帰りだったんです」
祐子はこの前よりもネックの深いTシャツを着ていて、哲也はついつい胸元を見てしまう。
哲也は少し前に軽食を取っていたので、ちょっとしたファミレスに寄ることになった。
注文を取りに来たのは50代ぐらいのおばちゃんだった。
こちらの雰囲気の方が、哲也には安心感があった。
「西口、今日どうでしたか」
「あ、西口さん? ああ、そう言えばお願いしていましたね。釘をさしてもらうようにって。だいぶ、考え直してくれたみたいですよ。小川さん、ありがとうございます」
意外と、上の空な感じだったのに驚いた。
が、その場はそれ以上会話が続かなかった。
注文した安いグリルチキンと、祐子さんのパスタが届いた。
40
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:16:01 ID:jCVODrYo
「今日もなにか相談でもあるんですか?」
図星だったようで、祐子さんは顔を少し赤らめた。
そういうしぐさも可愛いと哲也は思った。
「私、同僚に嫌われてるんじゃないかなって、そう思うんですよ。退社する時も女の子の誰も声をかけてくれないし、受付同士で昼休憩をするとき、私が話をした途端に会話が途切れるんです……私、ハブられてますよね」
「それは、単なる竹田さんの思い込みかもしれない」
僕は優しく言った。
「自分が思っている以上に、周りの人は貴方のことを気にしてはいませんよ。いい意味でも、悪い意味でも」
「そ、それはそうかも……」
「だからさ、自分が幸せになるように考えてみたらどうでしょうか?」
「そうですね……なんていうか、小川さんってとてものんびりした考え方ですよね。牧歌的な人、というか」
祐子さんにも言われてしまった。
今夜は嬉しくて眠れそうにない。
41
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:18:20 ID:jCVODrYo
「あ、あの」
哲也は意を決して立ち上がった。何事か、と流石の祐子さんも目を白黒させる。
「竹田さんのこと、祐子さんと呼んでもいいですか?」
祐子はほっと胸をなでおろす。
「いいですよ。ぜひ呼んでください。その代わり私も、小川さんのこと哲也さんて呼びますからね」
「は、はい、それはもちろん、歓迎っていうか、その」
「てっきり告白でもされるのかと思っちゃいましたよ。そんな、いきなり席を立つだなんて」
哲也は苦笑いする他なかった。
その選択肢も、候補にあったからだった。
42
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:21:10 ID:jCVODrYo
それから月が変わり、7月になった。
その日哲也はいつものように、ルート営業の仕事を幾つかこなした後、伊丹の家で時間をつぶすことにした。
伊丹はひげを月に2回しかそらない。
前よりも伸びたひげをいじくっている伊丹はまるで仙人かなにかのようだった。
哲也はまた、煙草臭い部屋の中へ招き入れられた。
「なるほど、お前はあの竹田っていう子が好きなのか」
「そ、そんなんじゃない。そもそもなんで竹田さんのこと知ってるんだよ」
「直接会ったからな」
「どうやって」
「それはまあ、お前の後をつけて? 古典的方法だな」
哲也は会社への帰り道ずっと考えごとをしていたせいで、確かに注意力が散漫になっていたかもしれない。
しかし、まさか自分が追跡されていたなどとは思わなかった。
43
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:27:11 ID:jCVODrYo
「結構進んでるんだぞ」
「へえ、もうセックスはしたのか」
「二回、食事に行った」
「それはプラトニックでいいですこと」
伊丹はため息をついた。
「そのうち告白もしないとな……どうしたらいいものか」
「その前に画面ごしの恋をやめなきゃならんだろ」
「関係ないさ」
それは本心だった。
趣味と、本気の恋愛は違う。
二次元の嫁を持ちながら、同時に祐子を楽しませることができるという自負が哲也にはあった。
そのとき、電話が鳴った。朝、営業に行った訪問先からだった。
商談を急きょ今日のこれからにしてほしいという電話だった。
時刻は5時ちょうどだった。
これでは夕方の会議には参加できそうもなかった。
「消臭スプレーはないか」
哲也は伊丹に聞いた。
「この部屋は煙草臭いんだよ」
「へえ、そういうこと、気遣うようになったのか」
「ビジネス上の付き合いだからな。身だしなみは整えないと」
44
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:30:33 ID:jCVODrYo
哲也は消臭剤をスーツにスプレーし、商談に出て行った。
珍しく精彩を欠いてしまい、思いのほか話が長引いてしまったが、なんとか契約を取りまとめることができた。
商談を終え、オフィスの最寄り駅まで戻ったのは8時ごろだった。
今日は疲れたな、と哲也はひとりごち、夜の通りをゆっくりと歩いていった。
その途中。
哲也はある二人組に出くわした。
はじめはどうせ彼氏彼女の関係だろうと高をくくっていたが、よく見るとそれは西口と祐子さんなのだった。
向こうはこちらに気づかず通り過ぎて行った。
二人で一緒に駅まで歩いていくつもりなのだろう。
仲直りができたようで良かった。
45
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:34:06 ID:jCVODrYo
「すみません、明日も一緒にお食事に出かけませんか」
日曜日の夜、哲也と祐子は再び食事をした。
そこでそう言われたとき、哲也は確信した。
これはいける。
七夕の夜に、願い事が、叶う。
考え通りの展開がやってきた。
二人は仕事終わりに、フレンチレストランで待ち合わせていた。
祐子は哲也より先にレストランに着いていて、哲也がやって来たときはうつむいていた。
「私、やっぱりどうしても同僚の子と上手くやっていけそうにないんです」
傷心の様子の祐子さんにも、胸がときめく。
もう疑いようもなく、自分は祐子さんのことが好きだ。
哲也はことさらそれを意識させられた。
「どうしても、だめかい、祐子さん」
二人は話しながら店内へと足を運んでいった。
ウェイターに案内された席からは夜景が綺麗に見渡せて、ロマンチックだった。
46
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:35:46 ID:jCVODrYo
「哲也さん、私この会社、やめようかと思ってるんです」
「それはもったいないな」
少し慌てて哲也は返事をした。
もうなにも祐子は言わなかった。
「今日は七夕ですね」
哲也は言った。
「なんでも一つだけ、願いをかなえてあげますよ」
「じゃあ私を幸せにしてください。それだけでいいんです。どうか、お願いします」
すがるような口調で祐子は言った。
「す、すみません、わがままを言っちゃった」
「いいんです。――もしかすると、僕にそれができるかもしれませんし」
「本当ですか。私の願い事をかなえてもらったんなら、私も哲也さんの願い事を一つ聞いてあげなきゃ」
今しかない、と哲也は感じた。
心臓が早鐘を打っている。
てのひらにじっとりと汗がにじむ。
言え。
言うしかないだろ男だろう。
47
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:36:58 ID:jCVODrYo
「好きです。僕と付き合ってください。そうしたらきっと、僕はあなたを幸せにできる」
沈黙が下りた。
祐子はなにも驚くことはなかった。
傍目から見れば、もうとっくにそういう関係だったからだ。
「うーん、それは二つですよ、願い事が」
「え……」
「どっちにします? 私に好きだという感情を伝えるのか、それとも付き合うことにするのか」
哲也は息をのんだ。
――素晴らしい。
この返答が、はたしてどれだけの女性にできることだろう。
そこで、哲也は伊丹の言葉を思い出した。
――自覚できないものだな、幸せってのは。
48
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:41:50 ID:jCVODrYo
違う。
そうじゃない。
確かに他人から見れば、僕が祐子さんと付き合うことになれば幸せな二人組だという風に写るだろう。
だが、それでは駄目だ。
男女交際はすべからく自分が幸せだと感じられるべきだ。
僕は二者択一を迫られている。
祐子さんに好きだと言う思いを伝えるか、それとも外面だけの付き合いをするのか。
そう考えた時点で、もう答えは出ていた。
「好きだ、という思いを伝えさせてください」
「分かりました。哲也さんは私のことが好きなんですね。嬉しいです」
祐子は一切表情を変えずに口だけ動かした。
その後料理を平らげると、祐子さんは僕に微笑みを投げて去って行った。
哲也は想いを伝えられた安堵感と満足感に浸っていた。
ああ、僕は幸せだ。
49
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:44:31 ID:jCVODrYo
次の日、哲也がいつもより早く出勤してくるのを、祐子はぼんやりと眺めていた。
適当にいつもの愛想笑いを浮かべておく。
色々嘘をついたことを、小川さんに謝らなくてはいけないのかもしれない。
まず西口さんが嫌だということ。
私は西口さんにぞっこんだ。
自覚がある。
それを小川さんに偽った。
小川さんと会話しようという少しの期待からそうしたのだ。
試してみよう、ということだ。
その期待は、まず第一印象から裏切られた。
なんだ、あのイケてない大学生みたいな私服は。
どうせ全身ユニクロで揃えたとか、そういうクチなのだろう。
まったくもってあり得ない。
それでも私は偽りの笑顔を振りまいた。
それも嘘をついた、といえばそうだろう。
しかしあの、小川さんの舐めまわすような視線には耐えられなかった。
あの人、私の胸元と脚にしか興味ないのかしら。
そう思いながら、ともかくイタリアンの席についたが、シーザーサラダを頼むのはイタリアンに慣れていない証拠だ。
特にあんな高級な専門店で。
大人になりきれていない大学生。
そうだ、やはり小川さんは大学生みたいだ。
50
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:46:39 ID:jCVODrYo
二回目会ったときは完全に偶然だったが、彼は相変わらず私の胸ばかり見ていた。
そのときは新品の、ランバンのブーツを履いていた。
そっちを見ろっつーの。
私は彼が仕事ができることぐらい知っている。
月末になると暇を持て余して、どこかで時間を潰していることも。
彼はあの薄汚い男の家で過ごしているのだろう。
小川さんの後についてやってきた男の家。
同じ煙草のにおいがしたので間違いない。
あのときの小川さんの黄ばんだ歯は見るに堪えなかった。
どうせ紅茶でも飲みまくっていたのだろう。
歯くらい磨いてこい。
いい大人なんだから身だしなみを整えろ。
彼がキモオタであることも、確信していた。
一度彼の後を付けて、煙草臭い無精ひげを生やした男のアパートまで行ったのだ。
三階の一室に入る小川さんの姿と、その扉の向こうにある萌え系のキャラクターのポスターが目に入った。
証拠はまだある。
彼は初めて食事に行ったとき電機街によく遊びに行くと言った。
どうせ秋葉原をぶらぶらしているのだろう。
51
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:47:43 ID:jCVODrYo
自分に素直なのはいいが、周りの目も気にしろ。
そういった意味で牧歌的だと、これは揶揄したつもりだったが、小川さんはむしろ喜んでいた。
私が彼を喜ばせていること、その気にさせていることは、最大の偽りだ。
申し訳ないと思う。
でもやっぱりいいや。
キモオタだし。
いや、キモオタ自体が悪いのではない。
キモオタであり、二次元に興味を持ちすぎて現実での身なりを気にしないのが悪いのだ。
西口さんも小川さんと一緒に秋葉原へ行っているらしいが、彼は綺麗な印象なので構わない。
ひとつ偽りではないことがある。
私が同僚にハブられていることだ。
それは間違いなく、私が西口さんと仲良くしているからだ。
でも、西口さんといられる間はそんなこと忘れられるからどうでもいい。
52
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:48:25 ID:jCVODrYo
私にとって小川さんは同じ会社で働いている人以上の存在ではない。
今頃小川さんは思いあがっているのだろう。
私に好きと伝える。
絶対にその選択肢をとると確信していたから、昨日はああいうとんち染みたことを言ってみたが、もちろん付き合うと言われても断っていた。
やんわりとね。
しかし、どれだけ女性慣れしてないんだよ。
普通3回もデートしたらホテルに連れ込むだろうが。
まああの風貌だし、女の子と遊ぶ機会はなかったかもね。
会議が終わったようだ。
のん気なものね。
そう思いながら、祐子はオフィスから出て行く哲也の姿を、鬼の形相で睨みつけた。
おわり
53
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/08(火) 18:58:10 ID:jCVODrYo
友人にもらったネタで書いてみました
読んでくださってありがとうございました
54
:
バブリシャス
◆Ctawjhw2DI
:2014/07/09(水) 01:40:05 ID:JJtGg3r.
おつでした! 面白い!
柔らかい文体だけに、
オチの辛辣さが効くなぁー
冒頭、風呂上がりの肉体美のシーンは
オチを予想させちゃう気がする
(小川目線に成り切れない≒竹田目線が入る)
他の小川パートは小川目線になれるけど、
其処だけ少し気になったかなぁ
さらっと哲学的な思考が入るから、
あんま硬い文だと苦しくなるかもです
これ位が俺は好きっす
55
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/09(水) 03:01:49 ID:jCVODrYo
>>54
読んでくれてありがとうございます。
随所にオチの方向性を主張していくスタイルをとりましたが、初めのは裏目ったですかね……確かにおっしゃる通りだと思います
参考になりますです
硬い文章やってみたいなあ……次のssではちょっと硬めをやってみたいところ
拙くなってしまうかも知れませんが
56
:
ザキアネ
:2014/07/09(水) 05:28:04 ID:DpRbJEjU
長文お疲れ様!
随所に伏線が張られてあって、作者のこだわりが伝わってきました。
読み易くて、良かったです。
57
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/09(水) 06:18:22 ID:jCVODrYo
>>56
ありがとうございました。
上手く伏線は張れていたのでしょうか……実は不安でありました。今でも不安です。
58
:
白レンの人
◆EvBfxcIQ32
:2014/07/12(土) 00:34:08 ID:V39IiAJ.
哲也の自惚れきったモノローグから予想出来ていたけどwwwwwやっぱりかよwwwww そして祐子の巨乳(爆乳?w)設定wwwww 大変素晴らしいと思いました(真顔)
繰り返しちゃうけど、読み終わった思ったのは、「やっぱりか」ということ。「伏線を張っていた」という言い方もできるけど、オチが丸分かりなのは問題だと思う。
哲也視線で語られているのに彼に自己投影が出来ず、一歩引いて冷静に観察出来てしまう。もっとじっくりと文章を練って、「哲也は巨乳美女とつき合えるんだヒャッホーイ!」と読者に思わせないと、折角のオチが活きてこない。これは是非頑張って欲しいところ。
最後に、差し出がましいけれども、タイトルは「surface」よりも「mask」の方がいいんじゃないかなぁと思いました、まる。
59
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/12(土) 00:42:09 ID:jCVODrYo
>>58
まずはお読み頂きありがとうございました
そこじゃなかったんです、オチがすべてではないんです
哲也は振られて幸せなんですよ、内面だけに幸せを求める方法も一つの幸せの形なんです
ということを文章中で表現できるように頑張ります
60
:
白レンの人
◆EvBfxcIQ32
:2014/07/12(土) 00:52:42 ID:V39IiAJ.
>>59
あぁあー、そういうことかぁ。それで哲也は、やたらと絶対的で内面的な幸せを欲していたんだなぁ。これは大変失礼致しやした。某もまたまだ修行が足りぬでござるm(_ _)m
となると、「surface」(表面)よりも「inside」(内面)が合っているように思うんだけど、その辺りについてはどのようにお考えで?
61
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/12(土) 00:58:15 ID:jCVODrYo
一応物語のオチとしてsurfaceというのを意識していたので、初めのタイトル案として書きましたが、
確かにinsideの方があっている気がしてきました
62
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/07/12(土) 01:04:47 ID:gakSN7/I
>>59
読みました。
なんというか、幸せってなんでしょうね
とりあえず、こういった女性は自分には書けないので
これも文才なのでしょうね
63
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/12(土) 01:09:03 ID:jCVODrYo
>>62
「こういう女性っているよね」って言うのがコンセプトなので、ちょっとリアル志向入ってるかも知れません
でも、晒す氏の女性キャラは架空の物語の登場人物としては凄く魅力的です
僕には書けません
64
:
白レンの人
◆EvBfxcIQ32
:2014/07/12(土) 01:13:07 ID:V39IiAJ.
>>63
祐子視線での容赦の無い叩きっぷりは見事だったねwww いやホント、女性の内面がズバリ表現出来ていたと思うよ。バッチリです。
65
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/07/12(土) 01:15:07 ID:gakSN7/I
>>64
俺は女性に幻想を抱きたいぜ!
66
:
イエローの人
◆sLaYellOWQ
:2014/07/14(月) 11:34:46 ID:SYG1aez6
名前のせいかもだけど竹田さんが終始、全盛期の竹内結子で再生されたww
これドラマ化したら今なら誰がいいかなあ、北川景子とか?
竹田さんはなんで小川に興味持ったんだろ
西口に近付く為かなと思ったけど、同僚から嫉妬されるレベルには西口ともすでに交流あるみたいだし……
もしかして西口に対するのとは別方向の強い感情を持ってんのかな
「好きと伝えるか付き合うかどっちかにしろ」って言い出した時
この女なに言ってんだwwwと思ったら、ラストのどんでん返しが見事だった
その分、竹田さんが小川に興味持った理由をもう少し強く書いててくれたら嬉しかったかも
てのは、俺が竹田さんなら間違いなく小川を視界に入れな(省略されました。続きを読むにはここをクリックしてください)
67
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/07/14(月) 12:05:30 ID:jCVODrYo
>>66
お読みいただきありがとうございました。
発表後にもう少し煮詰めれば良かったと後悔したのは内緒だよ!
あと、これを作者自身が発言することは作者の負けだと思いますが、このssで果たして幸せなのは誰だったのか、考えてみていただければ幸甚です。
68
:
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69
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70
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/13(水) 00:34:24 ID:jCVODrYo
ではあげていきますね
71
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/13(水) 00:39:14 ID:jCVODrYo
夏休みの、ある日の午後。
あかり「じゃ、じゃあ課外頑張ってきてねー」
ちなつ「うん」
私はあかりちゃんの笑顔に手を振って応え、ごらく部の部室を後にした。
今日は英語の補習授業。
ちょっと赤点取っちゃったからって、なにも貴重な夏休みを削って特別授業なんてしなくてもいいと思う。
宿題の量をちょっと増やすとか、そういう感じで。
それならごらく部のみんなに教えてもらえるから。
ごらく部は今日は休みのはずだったけど、私が補習授業を受けることを聞いて、今日を活動日にしてくれた。
私が帰って来るまで、部室で待っていてくれるのだ。
みんなの優しさに感謝。
私は補習教室に入って教科書とノートを広げた。
真面目に授業を受ける気は、当然なかった。
夏休みの宿題のことを考えていた。
今年は量が特に多いので、考えただけでイライラする。私はなにも手を付けてないし、ごらく部のみんなもペンを走らせている様子はなかった。
みんなで解こう。
特に、結衣先輩に教えてもらいたいな。
先輩の隣で、先輩の香りを楽しんで、いや、そんな、後ろから覆いかぶさるようなポジショニングなんて……頭がフットーしちゃいそう――。
72
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/13(水) 00:41:44 ID:jCVODrYo
先生「はいここ、吉川さん」
当てられたことに気付くまで少し時間がかかって、突然気付いた時の感覚は、目覚まし時計をふと見たら起きる予定の時間をものすごくオーバーしていた時の感覚と似ている。
ちなつ「きゃっ、あ、はい」
きゃっ、とかわいらしい声を出してしまい、クラス中に苦笑の雨が降る。
先生「ボーっとしてちゃいけないでしょ。ほら黒板のここ、和訳してみなさい」
先生が教鞭でさした先には「I fell the blues.」と書かれていた。
ちなつ「あ、ええと、私は青を感じています」
本日二度目の苦笑。
先生「誰か分かる人」
クラスメイトの一人が手を挙げた。私は憂鬱です。
先生「そうね。吉川さん、blueの単語の意味をしっかり復習しておくこと、あと、授業に集中しなさい」
ちなつ「はーい……」
73
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/13(水) 00:45:50 ID:jCVODrYo
先生に注意されるし、そう言えば今朝は寝坊しかけたし、災難続きの日だなあ。
ちくしょーと口の中でぼやきながら、私は英和辞典を開く。
『blue』……えーとなになに、青。これはいいわね――。
あった。憂鬱な、って意味。
ふーんと思って、さっさと私は英和辞典を閉じる。
時計を見ると60分の授業時間の半分を過ぎたところだった。
帰ったら結衣先輩に「お疲れ様」って言葉をかけてもらっちゃったりして。
私にとって特別な存在に想いを馳せていたら、授業中であることを忘れていく。
この教室にいることすら忘れていく。
完全に脳内の世界に入り浸る。
私の、好きな人。
結衣先輩――。
早く、会いたいな。
私は結衣先輩に好きという感情を抱いているから。
時は思ったより早く進んでしまうんだ。
私の脳内で、結衣先輩とラブラブちゅっちゅな展開を思い浮かべていたら、授業時間なんてあっという間。
ほら、今チャイムが鳴った。先生が教卓の荷物をまとめ始める。
出席番号が一番若い子が起立、礼の号令をかけた。
私はさっさと教室を出る。
ごらく部へまっしぐらだ。
74
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/13(水) 00:46:52 ID:jCVODrYo
ハイ、今日はここまで!
すみません
明日中に終わらせたいところです
75
:
バブリシャス
◆Ctawjhw2DI
:2014/08/13(水) 07:24:53 ID:JJtGg3r.
おぉ、良いなぁ
やっぱ女性の主観が上手だね
流石ひとのまたん女の子や!
> クラスメイトの一人が手を挙げた。私は憂鬱です。
ここってタブルミーニングだよね?
こーゆー言葉遊び好きだなぁ
何にせよ後半に期待しているやで〜
76
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/16(土) 16:37:02 ID:jCVODrYo
まだ完結させてはいないのですが、続きを投下したいと思います。
タイトルを書いていませんでしたが、今のところ未定なのでよろしくお願いします。
77
:
名無しさん
:2014/08/17(日) 04:36:04 ID:jCVODrYo
ごらく部へ戻ると、結衣先輩が冷たい麦茶をコップに注いでくれた。
喉が乾いていたので、何杯もおかわりした。
そのうち、ボトルの麦茶がなくなった。
結衣「私の、飲む?」
結衣先輩は自分のコップをこちらへ差し出した。
その中には半分ほど麦茶が残っていて、コップの外側は汗をかいていた。
私は結衣先輩に礼を言い――思いついた。
――これって間接キス――。
ちなつ「ゆ、結衣先輩と間接キスだなんて――」
結衣「あ、あんまり意識しないでほしいな」
キャー! そんなこと言われると、余計に……。
ちなつ「結衣先輩、嬉しすぎて、嬉しすぎて……飲めません!」
結衣「……そう」
京子「ちなちゅはウブだねぇ……」
京子先輩は私をからかってそう言うと、私の手からコップをふんだくった。
78
:
名無しさん
:2014/08/17(日) 04:38:22 ID:jCVODrYo
ちなつ「ちょ、京子先輩!」
京子「ごく、ごく……いやあ、美味いねえ、結衣の唾液の混じった麦茶は」
結衣「そんな風に言うな」
京子先輩は一息でコップを空にしてしまった。
結衣先輩との間接キス、したかったな……。
でも、意識しすぎちゃって、どうしても行動に移せない。
大好きな先輩。
女の子同士だからおかしいとか思われるのかな。
私はおかしいのかな。
でも好きなものは好きなので仕方がない。
私は京子先輩みたいに、結衣先輩との間接キスだということを気にせずに飲んでしまうことはできない。
でもその状況、飲むことを断る瞬間に芽生える、ああ、やっぱり好きなんだ、という感情。
これは何とも言えない。
あかり「ちなつちゃん、おつかれさまー!」
ちなつ「うん、ありがと」
それからあかりちゃんと二人でちょっとしたガールズトークをした。
戸を開け放った茶道部室に青い青い空が溶け込んでくるようだった。
その青さの中で、太陽は一段と遠くにあり、だからこそ映えて見えた。
79
:
名無しさん
:2014/08/17(日) 04:40:21 ID:jCVODrYo
おしゃべりをしている間にどんどんその太陽の高度は落ちてきて、心なしか寂しさを覚える。
なぜだかわからなかった。
涼しくなるのに。
そして十数分もすると、夕方の日の光が部室に差し込んできた。
京子「あれ、もうこんな時間じゃん」
ちなつ「みなさん今日は私のために学校まで来てくれて、ありがとうございました」
私はできるだけしおらしくみえるように頭を下げる。
結衣「そんなに丁寧にお礼言ってもらわなくていいよ。私たちも暇だったし」
あかり「そうだよぉ。私のおうちへ行こっ」
あかりちゃんとおしゃべりをしている時に、夕食をあかりちゃんの家で食べさせてもらうという約束をした。
ごらく部が解散した後、私はあかりちゃんの後をついていった。
80
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:42:45 ID:jCVODrYo
あかりちゃんの家では既にあかねさんが凝った料理を作ってくれていた。
ちなつ「あの、ありがとうございます」
あかね「いえいえ、それよりも、いつもあかりと仲良くしてくれてありがとうね」
ちなつ「そんな」
私たちは料理を食べ始めた。
あかりちゃんが笑顔で、
あかり「ちなつちゃん、結衣ちゃんとはどこまで進んだの?」
と聞いてくるものだから口の中のご飯を噴き出しそうになった。
ちなつ「い、いきなりその話、する? しかもあかねさんの前で……」
あかねさんは微笑を崩さない。
あかね「あら、私は席を外した方がいいかしら」
ちなつ「いえ、そんなこと、していただかなくても……いやでもちょっと……よろしくお願いします!」
あかね「あらあら」
あかねさんは茶碗のお米を素早く平らげると、居間を出ていった。
詮索されずに済んで助かった。
81
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:44:56 ID:jCVODrYo
あかり「で、どこまで進んだの?」
あかりちゃんは目をくりくりさせて問いかけてくる。私はあかりちゃんから目を逸らしたくなった。
ちなつ「……ごめんあかりちゃん! まだ結衣先輩に、好きだってことも伝えられないの……」
私は両手を広げた。
無意識のうちにそうしていた。
ちなつ「私、こんなに、こーんなに結衣先輩のことが好きなのに、たった二文字の言葉を発することができずにいるの。おかしいよね」
沈黙が流れた。
しばらく二人は料理に箸を着けることに夢中になっていた。
あかねさんの作った料理で、それまでは美味しく感じていたはずなのに、今は味を少しも感じない。
あかり「……でも、きっとチャンスは巡って来るよぉ。今はまだその時じゃないのかも知れないよ?」
ちなつ「うん……ありがと」
82
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:46:26 ID:jCVODrYo
自分の問題だ。
あかりちゃんに心配してもらうようなことじゃない。
それを分かっていながら、私は一か月前、あかりちゃんに結衣先輩への想いを打ち明けた。
相談したところで何の解決にもならないし、いらない心配や迷惑をあかりちゃんにかけてしまうのに。
確かに打ち明けた当初は、永い間背負っていた重荷を下ろしたように気分爽快になった。
でも徐々に、埃みたいな小さなもやもやが、心の中に積もって来るのを感じていた。
あかり「私はずっと、ちなつちゃんのことを応援してるからね」
ちなつ「うん……」
あかりちゃんは優しい。
きっと私のことをうっとうしく思ったりなど全然してなくて、心の底から私を気遣い励ましてくれているのだ。
その事実がまた、私の胸をちくりと刺す。
私は弱い人間なんだ。
でも期待されている。
期待には、応えないといけない。
ちなつ「私、決めたよ。明日結衣先輩に告白する」
83
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:48:25 ID:jCVODrYo
あかりちゃんの目がきらりと輝く。
あかり「うん、頑張ってねっ! でも焦っちゃダメだよぉ、無理だと思ったら、やめた方がいいよぉ。別に一回きりしか機会がない訳じゃないんだから」
私は頷きを返すことぐらいしか出来なくて――気付けばテーブルに涙を落していた。
あかり「ど、どうしたのちなつちゃん」
ちなつ「うん。あかりちゃんがそんなに私のこと、応援してくれるなんて――」
その時私のなかに新しく、温かな感情が芽生えた。
あかりちゃんとは仲のいい友達。
もしかすると、私はそれ以上を望んでいるのかもしれない――。
と、その考えはすぐに振り払った。
私は結衣先輩一筋だ。
あかりちゃんにまで恋心を抱いちゃいけない。
時計を見ると八時を回っていた。
思いのほか時間が過ぎていた。
私はそれから黙ってあかねさんの料理を食べ続けた。
食事を平らげ、あかりちゃんの部屋で話をした後、家に帰った。
84
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:50:54 ID:jCVODrYo
家にはあらかじめあかりちゃんの家で晩ご飯を食べてくると連絡を入れてあった。
私が家に入りリビングに行くと、お姉ちゃんはもうお風呂に入っていた。
ともこ「お帰り、ちなつ。遅かったわね」
お姉ちゃんは少し起こった様子で私に声をかけた。
ちなつ「うん、ごめんなさい」
ともこ「いいなあちなつ、赤座さんのところへ簡単に遊びに行けて。しかもあかねちゃんのお料理食べたんでしょ!? 私も食べたことないのにぃ……」
お姉ちゃんの言葉は半ば愚痴だったので聞き流してもよかった。
でも、なぜだか私は聞き返していた。
お姉ちゃんの雰囲気が、なぜか私と同じに感じられたからかもしれない。
ちなつ「お姉ちゃんてもしかしてさ、あかねさんのこと好きなの?」
一瞬沈黙が降りた。
その後、お姉ちゃんの顔は茹でダコみたいな真っ赤になった。
85
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:52:19 ID:jCVODrYo
ともこ「……それは」
ちなつ「友達としての好き、って意味だよ、もしかして、恋愛対象だとでも思ってるの?」
ともこ「……」
ちなつ「女の子同士って、ありだと思う? お姉ちゃん」
お姉ちゃんの顔は茹でダコのまま、ただこくりとうなずいた。
ちなつ「そうだよね。うん、私たちって姉妹だなって思った」
ともこ「もしかして、いつも話してる、先輩のことを?」
ちなつ「……うん」
人に恋心を打ち明けることが、こんなに恥ずかしいと知ったのは、あかりちゃんに私の想いを伝えた時だけれど、そう簡単に慣れるものじゃない。
私は顔が熱くなった。
86
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:53:44 ID:jCVODrYo
ちなつ「お姉ちゃんも、あかねさんのこと……」
お姉ちゃんは観念したような口調で、
ともこ「そうね。私もあかねちゃんのことが好き。恋愛対象として。あかねちゃんのことを考えてたら、時折胸が締め付けられるように痛むの」
ちなつ「私も一緒だ」
ふたりで決まり悪く笑いあった。
これは血筋なのかもしれない。
私たちは、女の子を好きになっちゃうのだ。
それから私は黙った。
胸の内で、これは競争だと意気込んだ。
どちらが早く想いを伝えられるかの勝負だ。
その勝負は私の勝ちも同然だった。
なぜなら明日告白するのだから。
87
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:54:32 ID:jCVODrYo
ともこ「実はね、私明日告白しようと思ってるの」
ちなつ「――そうなんだ」
これは、これは面白くなってきた。
ちなつ「お姉ちゃんに、できるの?」
私の口から思いがけず声が出た。
これは自分自身への問いかけでもある。
私に、できるの?
ともこ「ええ、きっとやって見せるわ」
お姉ちゃんはそれから、冷蔵庫から牛乳を取り出して飲んだ。
飲み終わると二階の自分の部屋へと上がっていった。
私はお風呂に入り、石鹸で丁寧に全身を洗ってから、湯冷めしないうちにベッドに入った。
これは勝負だ。
88
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:57:11 ID:jCVODrYo
目を覚ますと十一時を回っていた。
昨夜はなかなか寝付けずにいて、なんとか眠りに入ったのは五時くらいだと思う。
それも仕方がない。
だって今日は、結衣先輩に想いを伝える日なんだから。
ごらく部は今日は休みだったので、直接結衣先輩の家に押し掛けるしかない。
私は結衣先輩の携帯にメールを送った。
『今日、先輩のおうちへ遊びに行ってもいいですか?』たったそれだけの文面を、打ち始めてから送信するまでに十分かかった。
何度も操作ミスをした。
携帯を持つ手に汗が滲んでいた。
返信はすぐに帰って来た。
『別にいいよ』と。
こういう男らしい飾らなさも、胸をときめかせる。
私は『二時くらいに遊びに行きます』と返信して、携帯電話を閉じる。
そわそわしながら過ごした。
お昼ごはんを少しだけ食べて、私は家を出た。
89
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 04:59:01 ID:jCVODrYo
結衣先輩の家にたどり着いた。
私は緊張しながら、心臓をバクバク言わせながらインターホンを押した。
結衣『入っていいよ』
結衣先輩のクールな声が返ってきた。
玄関のドアの鍵は開いていた。
部屋に入った途端、肺が結衣先輩のにおいで満たされる。
私の大好きなにおい。
結衣「いらっしゃい、ちなつちゃん」
結衣先輩はやっていたゲームをポーズ画面に切り替え、玄関まで来て、私を出迎えてくれた。
ちなつ「あ、こんにちは、結衣先輩」
結衣「あれ」
結衣先輩は首をかしげた。
ちなつ「どうかしたんですか?」
結衣「いつもだったら私の顔を見るなり、腕に抱きついてくるところなのにな……と思ってさ」
90
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:00:19 ID:jCVODrYo
私の脳みそは沸騰しそうだった。
確かにそうかもしれないけれど、今日の状況でそんなことは――できやしない。
私は返す言葉もなく、ただ顔を赤くしてうつむいた。
結衣「……まあ、入ってよ。今日は一人だよね」
ちなつ「あ、はい」
結衣「なにか相談でもあるのかな」
私は部屋の中へと招き入れられる。
普段どこか眠そうな表情でいることの多い結衣先輩だけど、そういうところは鋭い。
ちなつ「あはは、そうなんですけど……話すべき時になったら話しますね」
と、この場は濁すしかなかった。
結衣「なにそれ……まあいいよ、分かった」
なんとか話題を変えることができて、私は胸をなでおろす。
結衣「あ、そうだ」
ちなつ「どうしたんですか?」
結衣「ちなつちゃん、お昼ごはん食べた? 実は私ゲームに夢中になっててまだ食べてないんだ」
91
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:01:23 ID:jCVODrYo
ちなつ「ダメじゃないですか! しっかり規則正しい生活をしないと体調崩しますよ!」
結衣先輩は頭を掻いた。
結衣「うん、そうだよね。ありがとう、心配してくれて」
ちなつ「いえ、そんな……」
私の大切な結衣先輩ですから、とは言えなかった。
結衣「オムライスでも作ろうっと」
そう言うと、ゲームのコントローラーを持ってセーブポイントでセーブをしてから、結衣先輩は台所に立った。
私はしばらく迷った後、
ちなつ「実は、私も食べてないんです」
結衣「もう、人のこと言えないじゃないか」
ちなつ「えへへ……ごめんなさい」
胃袋は満たされていなかった。
むしろ空腹感すら覚えていた。
結衣先輩の手料理が食べられるチャンスなのだ。
ここは嘘をついてでも食べなきゃいけない。
92
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:02:34 ID:jCVODrYo
結衣「私作るから、まあゆっくりしててよ」
ちなつ「私も手伝います!」
結衣「大丈夫大丈夫、一人で作れるよ……あはは」
私は言われたとおりにしていることができなかった。
結衣先輩の力にならなければ。
ちなつ「私、先輩を少しでもお手伝いしたいと思います!」
結衣「うん、じゃあそこで応援しててくれるかな」
ちなつ「わかりました! フレーフレー! 結、衣、先、輩!」
私が応援している間に、チキンライスが出来上がり、後は卵を巻くだけの段階になった。
せめてケチャップ塗りくらいは手伝いたい。
けれどこれも結衣先輩に断られた。
どうしてだろう。
部屋のちゃぶ台にオムライスの乗ったお皿が二つ。
私たちは同時に頂きますと言って、スプーンをオムライスに入れる。
とても美味しかった。
93
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:03:48 ID:jCVODrYo
その後、二人で居間でゆっくりした。
私は漫画を読んで、結衣先輩はゲームの続きをやっていた。
しばらくその時間が続くと、私は時計が気になってきた。
午後四時だった。
さすがに二日連続で外で食事をしてくるのはまずかった。
早いうちに決着をつけなければ。
しかしもうこの部屋にはだらだらムードが漂っていて、話を切り出せるような状況ではなかった。
それでも。
私は言うって決めたんだから。
あかりちゃんも、応援してくれてるし、お姉ちゃんに負けるのは癪だから。
ちなつ「あの、結衣先輩、大切な話が」
緊張で耳のあたりの血管がしんしんとうずくように痛んでくる。
汗が体中から噴き出す。
結衣「なに?」
私の状況など全く知らないであろう結衣先輩は、ゲーム画面を見ながらいつも通り平坦な声を返してくる。
言わなきゃ、言わなきゃだめよ、ちなつ。
勇気を出して――
94
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:04:37 ID:jCVODrYo
ちなつ「あの、結衣先輩は私のこと、どう思ってますか?」
結衣「どうって……とっても仲のいい後輩だと思ってるよ」
結衣先輩はそう言って笑う。
その笑顔じゃ、足りないんだ。
ちなつ「私は……私は……」
喉のところで引っかかる、二文字の言葉。
それを吐き出すようにして私は言った。
ちなつ「好き、なんです」
結衣「え……」
ちなつ「先輩のこと、ずっと前から好きでした。一目ぼれに近かったんです。しかも私に優しく接してくれて、私、堪らない気持ちになるんです……時折結衣先輩と、一線を越えてみたいと思うんです」
一言言った後は、ダムが決壊したみたいに言葉がどんどん出てきた。
ちなつ「だから、私、結衣先輩と付き合いたいんです。仲のいい友達以上の、新しいステップを一緒に踏みたいんです」
結衣先輩はコントローラーを取り落とした。
それから私の方に向き直り、姿勢をただした。
95
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:05:27 ID:jCVODrYo
結衣「今のままじゃ、どうしてもダメなの?」
私にはその言葉の本意が理解できなかった。
私は結衣先輩と恋人同士になって、これまでできなかったいろんなことをしたい。
ちなつ「はい、ダメです」
結衣「……」
二人の間に沈黙が降りる。
結衣先輩はゲームをセーブせずに切った。
結衣「……ごめん!」
ちなつ「……」
結衣「ちなつちゃんが私のこと、そういう風に思ってくれてることは嬉しいんだけど……でも、どうしても私はちなつちゃんを恋人としては見られないや」
ちなつ「そうですか……」
96
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:06:11 ID:jCVODrYo
なぜか、振られたという実感がわかなかった。
振られた事実そのものというより、結衣先輩の口から否定的な言葉が出た、そのことにショックを受けていた。
結衣「でも、ホントに気持ちは嬉しいから。これまで通り、仲良しでいようよ」
ちなつ「……はい」
心がどこか遠くへ放り投げられたような感覚だった。
結衣先輩の気遣いにも上の空の返事を返してしまう。
結衣「お菓子食べる? 昨日クッキー焼いた残りがあるんだけど」
ちなつ「あ、頂きます……」
ジワリジワリと、振られた事実にも苦しめられてくる。
結衣先輩がクッキーを取りに行っている間に、私は足ががくがくと震えるのを必死で抑えた。
97
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:06:55 ID:jCVODrYo
結衣「ちなつちゃん……?」
ちなつ「はい?」
結衣「……ホントに、ごめんね」
結衣先輩はそう言って私の頬に伝う涙を指でぬぐってくれた。
やっと、自分が泣いているのだと気付いた。
意識した途端、私の涙腺はさらに緩くなった。
私は結衣先輩の胸の中で泣いた。
やさしく、ゆったりとしたテンポで、背中を叩いてくれた。
私は少しほっこりとした気分になったがしかし、結衣先輩のその行動は心の底までは暖めてくれなかった。
98
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/08/17(日) 05:07:38 ID:jCVODrYo
終わりです。
嘘です。
次の投下が最後になるかと思います。
99
:
バブリシャス
◆Ctawjhw2DI
:2014/08/17(日) 07:46:55 ID:D2QS5.UA
>>98
マジか終わりか……
と思ったら嘘だった!
wktkしながら待っている!!
100
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/08/17(日) 11:15:48 ID:gakSN7/I
うわあー!
きついなあー! そうだよな、ショックなことが起きたら、
足がガクガク震えるよな!
どうなるんだこれは!?
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