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投下用SS一時置き場4th

170エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 2:2017/11/27(月) 11:23:11 ID:3Yadmbz20








(此処は………僕は一体………?)
「―――気が付いたか、エミル」

意識を取り戻したエミルの視界に入ったのは、
安堵の表情を浮かべるリヒターと、見知らぬ男女2人。
それでもその表情には同じく安堵の色が窺えた。

「リ、ヒター…さん?僕は………ッ、く、うう…!」
「あ、まだ動かない方が良いよ!」
「私とリヒターの回復術で一命は取り留めたけど、重傷には変わりないわ。今は未だ動かないで」

身体を起こそうとして走った激痛に顔を顰めたエミルに、男女が言葉を掛ける。
回復術――そういえば僕は如何してこんな重傷を負っているのか。

「…デクスの秘奥義の直撃を受け意識を失ったお前達の回復をしていた時に、丁度この2人が来てくれて
回復の手伝いをしてくれたのだ」
「そう、だったんだ………助けてくれて本当にありがとうございます………」
「気にしないで。私達は出来る事をしたまでよ」
「それでも、助力が無ければエミルは助けられなかっただろう…私からもまた礼を言わせて欲しい」

事実、助力が無ければエミルは助からなかったに違いない。
それ程までにデクスの秘奥義は余りに強力過ぎた。無論助かったとはいえ、
重傷であるには変わりない。一先ず血液と共に失った体力回復のためにレモングミを与える。
グミでは傷の処置までは出来ないが、ここまで回復していればこれでかなりの回復は見込める。
事実レモングミによりエミルの顔色はかなり良くなった。

「…そういえば、デクスは?」
「塔の崩落が起きた直後、すぐに塔に向かった。或いは塔にアリスがいると思ったのかもしれない」

そこまで答えて、リヒターはある事に思い当たる。
塔に向かったのであれば、この2人はデクスを見かけて無いのだろうか。

「カイルとティア…だったか。お前達が此処に来るまでの間に、2人の男女と巨大な化物を見ていないか?」
「え?化物?」
「いえ、私達が此処に来るまでの間には誰も見かけていないわ」
「うん…ていうか、化物って一体…」

カイルの疑問に対して、リヒターは簡潔に事情を説明する。自分達の世界の兵装にエクスフィアと呼ばれる
装着者の強さを引き上げるものがあること、その使い方を誤ると、体内の力が暴走して化物と化してしまうこと。
そして殺し合いに乗っていた、デクスという男が正しくそのエクスフィアを暴走させて化物と化し、
自分達の世界を滅びから守る為のイグニスと呼ばれる宝呪を奪い逃走しているということを。

「じゃあ、リヒターさんとエミルはそのデクスを倒して宝呪を取り戻す為に…?」
「そうだ。このまま奴を放置しては取り返しのつかない事態になりかねん…早く奴を追わねば」
「待って、エミルもだけど貴方の傷も手当をしないと…」
「気持ちは有り難いが、最早猶予は無い。あの2人の動向も気になるしな」

立ち上がるリヒターをティアが制しようとするが、
それに構わずリヒターは塔に向かって歩き始める。

「リヒターさん、僕も一緒に…」
「いや、お前はもう暫くここで休んでいろ。ラタトスクの意識も未だ目覚めていないのだろう?」

ある程度回復出来たとはいえ、未だラタトスクが目覚めない時点で
未だエミルの回復は十分とは言えないだろう。無論自分自身の傷もかなり重いのだが、
既に満身創痍のデクスに止めを刺すだけならば十分だろう。

「でも、デクスも放ってはおけないし、それにスタンさん達も―――」
「スタン!?そ、それってもしかして、スタン=エルロンの事ですかッ!?」

突然カイルがエミルに駆け寄って来てその両肩を掴んだ。
言うまでも無くエミルに激痛が走り、カイルは慌てて謝罪するが、
それでも表情からは焦燥が強く滲んだままエミルに問い質す。

「う、うん…実は僕達がデクスと戦っている間にある女性と一緒に塔に向かったんだ。
凄く大怪我をしていたから、万が一デクスがスタンさん達に追いついてしまったら…」

その言葉に、カイルは蒼褪め、立ち上がると塔に視線を向ける。
事情を知るティアはその姿に1人駆け出して行かないか不安が過るが、
そんなカイルの様子にリヒターは何かを悟ったか、静かに問い質す。

「…カイル、スタン=エルロンとお前はどういう関係だ?」
「……………俺の、父さんなんだ」
「―――――――――え?」

その告げられた事実に、エミルは愕然とした。スタンやその仲間達に
ルーティの事を告げ、謝罪するつもりだった。だがまさか、その息子とここで出会うとは
全く予期していなかったのだ。そしてスタンが父と言うのならば、まさか母は………。

「ねえ、カイル…君のお母さんの名前を聞いても良い?」
「おい、エミル―――」

リヒターは咄嗟に止めようとしたが既に遅かった。
カイルは少し俯き、やがてぽつりと言った。

「俺の母さんの名前は―――――ルーティ、ルーティ=カトレット」

171エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 3:2017/11/27(月) 11:26:08 ID:3Yadmbz20







告げられた事実の重さに、エミルは自分の世界が崩れるような感覚を覚えた。
それが意味する事実――それはこのカイルの母を、自分の所為で死なせてしまったという事。
仲間を、友を失うよりも遥かに重く深い心の傷を負わせてしまったという事だ。

「…エミル?如何したの?」

カイルの言葉にもエミルは茫然としたまま座り込んでいる。
リヒターは予期せぬ邂逅と事実に内心舌打ちをしながらも、気になった事を問い質す。

「カイル。お前の両親がスタンとルーティという事だが…それは事実か?」
「うん。と言っても俺は父さん達のいた時代から18年後の世界から来たんだ」

スタンにせよルーティにせよ、20代前半か10代後半だ。このカイルが10代後半位ならば、
年齢の辻褄が合わない。そう思ったのだが、カイルの回答により一瞬で辻褄が合ってしまった。
無論未来からなど突拍子も無い言葉、以前のリヒターならば一蹴していたかもしれないが、
死んで間もない人間のアリス、デクス所か、ミトス=ユグドラシルまで蘇り、
且つ此処に呼ばれている時点で十二分にあり得る事である。だがそれはそれで不味いとも思う。
この状況下で事実を知ったエミルが取る手が容易に想像出来たからだ。

「エミル!?まだ動いちゃ――」
「…行かなくちゃ、いけないんです」

事実、カイルの言葉に首を振り、エミルは痛みを堪えて立ち上がっていた。
ティアもそれを制しようとするが、恐らく今度は止められないだろう。

「――カイル、スタンさん達を助けたら…君とスタンさんに話さなければいけないことがあるんだ」
「話さなきゃ…いけないこと?」
「うん、凄く大事な話。必ず話すから、今は僕達に協力してもらえないかな?」
「…ああ、勿論だよ!」

エミルの言葉に一瞬カイルは戸惑った表情を見せたが、すぐに笑顔を見せ頷く。
それに釣られるようにエミルも軽く笑顔を見せ、黙ってリヒターに視線を移す。
リヒターにしてみればカイル達への恩義があるとはいえ、エミルは正直此処で休ませたいのが本音ではあるが、
恐らく罪の意識から決意は揺ぎ無いであろう。それに今この場で事実を告げて混乱――下手すれば戦闘になられるよりはマシだ。
今はとにかくイグニスの回収を急がねばならないのだから。無論、優先順位を理解してるとはいえ
エミル―――ラタトスクにもしもの事があっては意味が無い。リヒターは軽く溜息を吐くと、1つ頷いた。

172エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 4:2017/11/27(月) 11:26:43 ID:3Yadmbz20

「…状況が状況だ。此方が危険と判断したら力付くでも撤退させる。それだけは覚えておけ」
「…はい!ありがとうございます、リヒターさん!」

後は急ぎデクスを追跡してスタン達を助けるだけ―――。
その時、カイルがふと何かを思い出し、エミル達に訊ねた。

「あ、そうだ。これは出来ればで良いんだけど…グミとか回復薬って余って無いかな?
塔の近くで仲間が弱ってるから、回復させてあげたいんだ」
「うん、勿論だよ」

勿論この状況下だから無理ならそれでも大丈夫と付け加えたカイルに対して、
エミルは快諾する。正直余ってるというには程遠い状況であり、リヒターはきっと
内心温存させておきたいだろうが、命の恩人でもあるし、カイルの仲間というならばきっと信頼出来る筈だ。
そう判断し、パイングミをカイルに手渡す。カイルは礼を言って受け取ると、それをティアに渡した。

「ティア、悪いんだけどこれをヴェイグさんに届けてもらえないかな?」
「…私も行かなくて大丈夫なの?」
「うん、エミルは助けられたし、こうして回復薬も手に入った。ティアが付いて来てくれたお陰だよ」

カイルも2人の止血処置をきちんと行い、応急手当は行ったが、
やはりティアの治癒術の存在が大きかったのは言うまでも無い。
仮に自分1人だけでは、先程のアッシュの二の舞になっていても可笑しく無かったのだから。

「でもこれ以上俺と一緒に来たら、今度こそ戻れないかもしれない。折角ルークさんと再会出来るチャンスを
俺の所為で失わせたくない」

そのデクスがどんな化物かは実物を目にしていない以上分からないが、
この2人をここまで負傷させる程である。ティアの助力があれば本当は心強い所だが、
此処に来るまでに無理を言って付き合わせてしまったのだ。ヴェイグの依頼品を
託す形にはなるが、今度こそティアを危険な目に遭わせる訳にはいかなかった。

「…分かったわ。でも無理はしないで。リアラと再会したいのでしょう?
…その、スタンさん――貴方のお父さんと一緒に必ず帰って来て」
「分かった!必ず皆一緒に帰るから!」

笑顔でそう言うと、カイルはエミルとリヒターと共にデクスが走り去った方角へ駆け出す。
その背中を見つめながら、ティアの胸中に僅かながら不安が過る。確かにルークとの再会の機会を失いたくないが、
同行者が2人増えたとはいえ、そのデクスを相手に無事に済むのだろうか。そしてスタンとリアラに再会出来るのか――。
それでもカイルに託された以上、それを為さねばならない。それにヴェイグには1つ確認をしなければならない事もある。
ティアは不安を打ち払う様に視線を元来た道へと戻し、同じように駆け出す。




再び戦場へ戻り、或いは参戦する参加者達。
その戦況、未だ好転、打開の術は見出せず。
それでも互いの未来を、希望を信じ、戦いに赴く――。

173名無しさん:2017/11/27(月) 11:27:16 ID:3Yadmbz20
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