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投下用SS一時置き場4th

160エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-8:2017/11/16(木) 13:52:45 ID:XoqtS/Ro0

そんな仄暗い思考を遮るかのように、ティアの視界に人影が映り込む。周囲への警戒が薄れていた事に我に返り、
一瞬身構えかけたが、その人影がカイルであったことに安堵の溜息を微かに洩らす。一先ずカイルが飛びだして行かなかった事に
ティアは一安心し、次いで余り身勝手な行動は取らないでと窘めかけたその時、カイルの表情の変化に気付いた。

「カイル、如何したの?何か見つけたの?」
「あ、えっと…」
『カイルさんが東の方角の雪原で誰かを発見したみたいなんです』
「東?」
『はい、最初はミトスさんが飛び去った方角を見ていたのですが…』

カイルが質問に答える前に、何時の間にか傍に来ていたプレセアが代わりに答える。
短い時間の中で、とりあえずプレセアの状態は簡単に説明は受けているが…それでもアストラル体というのは
不思議なものである。視認出来る幽霊、と言ってしまえば簡単だが、恐らくそんな単純な話ではあるまい。
もう少し事情を聞いておきたい所だが、先ずは話に集中すべきだとプレセアの言葉に耳を傾ける。
曰く、暫し惨状に茫然としたカイルだったが、すぐ我に返り何が起きたか見渡そうとしたが、少し離れた場所に
瓦礫の山に出来たばかりの巨大な破壊痕を見つけ、ミトスに何か起きた可能性をすぐさま察知したらしい。
必死にその周辺を高所より見渡していたのだが、ミトスやミクトランは勿論、他の参加者も見当たらなかった。
プレセア自身もミトスと交信を試みたのだが、一向に繋がらなかった為、一先ず戻ろうとしたのだが、
その時に偶然東の方角に小さな人影を見かけたとの事らしい。

「うん、多分2人…遠過ぎて男なのか女なのかも分からないけど、1人は間違いなく倒れてるみたいで…」

そこでカイルは言葉を濁したが、その先は容易に想像できる。倒れていると言う事は、間違い無く怪我人か病人――。
最悪の場合は重症、死亡してる恐れもあるということだ。ミトスの安否も、ミクトランの行方も気掛かりだが、
確かにそのような人影を発見してしまえば気になるのも頷ける。先程までのティアの思考通り、
もしその2人の内の1人がリアラであれば…カイルの今の表情にも頷ける話である。だが相手が誰か分からないまま
迂闊に近づき、それが万が一殺し合いに乗った参加者達だった場合を考えると、迂闊に近づく事を勧める事が出来ない。
それに先程の閃光と轟音にミトスが巻き込まれたのでは無く、ミトスがミクトランを仕留めた結果という事もあるのだ。
もし迂闊に動いて行き違いになれば、今度は自分がルークと再会出来る可能性が失われる事にもなりかねない。
尤も、そんな此方の思考などお構いなしに、カイルが一人突っ走る危険性も未だに高いのだが…。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

161エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-9:2017/11/16(木) 13:53:36 ID:XoqtS/Ro0

(俺は…如何したら良いんだろう)

だがティアの不安とは裏腹に、カイルは俯いたまま動く気配が無い。
否、実は動けずにいたのだ。ティアの忠告を無視して安易に塔を突き進んだが故に、
ミクトランの罠にかかりティアを危険な目に遭わせた事、自分が上空から降って来る氷の剣に
気付かなかったばかりに、アッシュが自分を庇い貫かれた事。自分が大怪我を負ったが為に、
エリクシールがアッシュでなく自分に使われた事。思い返せばキリが無い程に“自分”の所為で事態が悪化している。
ミトスに対して思う所が無い訳では無いが、元を質せば自分が原因であり、それを転嫁出来るような性格では無い。
故に今ミトスに何かが起きているなら、それを確かめに行きたい、場合によれば助けに向かうべきかと思っていたのは事実であるし、
東の方角に人影を見つけた時も、その内1人が怪我をしている可能性を考えれば――そう、それがリアラやロニ、
ジューダス、父さん達であったら、是が非でも助けに行きたい。仮に違っていたとしても、怪我人は矢張り放っておけない。
――そう思っても、それがまた事態の悪化を招くのでは?どうしてもその考えに囚われてしまうのである。

(これ以上皆を俺の所為で危険に晒す訳にはいかない…けど…)

時間は刻々と過ぎて行く。こうしている間にも事態は急転しつつある。
早く動かなければ、行動を起こさねば…―――。

(俺は)

それでも動かない。動けない。

(俺は一体)

思考の縛鎖に囚われ、答えが出ない。

(如何したら―――………)






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




『…怖いんですね、皆を傷つけてしまうかもしれない、また守れないかもしれない事に』
(――また傷つくのが恐いのだろう?)





「……………!?」

突然のプレセアの言葉に、カイルは驚き、顔を上げた。
その言葉に、その姿に友の言葉が、姿が鮮明に重なったからだ。

『私も一緒でした。傷付くのを恐れて立ち止まってしまいました』
(…僕も、同じだった 傷つくのを恐れ、立ち止まってしまった)

プレセアにはカイルの気持ちが痛い程に分かる。あの時、私が立ち止まる事無ければ
アリシアを救う事も出来たかもしれない。絶望、恨み、憎しみに囚われロイドや皆に迷惑を掛ける事も無かったかもしれない。
全て過去の話だ。もしもを並べたとしても覆る事は決して無い。未来を歩むにも私の命は既に終わりを迎えているのだ。
最早ロイド達と、新しい未来を歩む事も築く事も二度と無い。それでも――――。

『私にはカイルさんの事をどうこう言える立場ではないですし、止める事も出来ません。
でも、私なりのアドバイスなら出来ます』
(おまえがどんな結果を選ぼうと、僕にはどうこう言える義理はない。だが、忠告ならできる)

今目の前で苦しむ人に、道を、未来を指し示す事なら出来る。
かつてロイドさんが私に指し示してくれたように。その背中を押してくれたように。
そしてそれはきっと、もしアッシュさんが生きてこの場にいれば間違い無くカイルさんに言ったと思うから。
私よりももっともっと、上手く伝えられる人は沢山いるとは思うけど―――。

『恐れないでください、カイルさん!』
(…恐れるな、カイル!)

最早何にも触れる事も出来ない身体だけど、きっと誰にも負けないと胸を張って言える、
今この胸にある想いならその心に、魂に届けられると信じて―――――。





『その先にこそ、貴方の求めるものがあるはずです』
(その先にこそ、おまえの求めるものがある)





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

162エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-10:2017/11/16(木) 14:04:01 ID:XoqtS/Ro0

――嗚呼、そうだった。立ち止まっていては何も届かないんだ。
その手も、声も、何一つ。届かせる為に俺に出来る事は1つしかない。

「――ありがとう、プレセア。俺、雪原にいた人達の所へ行って来る!」
「ちょッ、カイルッ!?一体何を言っているのッ!?ここを動かないようにと―――」
「…分かってる。俺のせいでティアを危険な目に遭わせてしまったし、アッシュさんを死なせてしまった。
これ以上皆を巻き込まない為にも、本当は動くべきじゃない、此処で待つべきなんだと」

163エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-11:2017/11/16(木) 14:07:54 ID:XoqtS/Ro0

ティアの非難に、カイルは静かに言葉を紡ぐ。それらは確かに紛れも無い事実。
でも動かなければ良かったかと言えば誰も分からない。ミクトラン側から仕掛けられ、
今以上の最悪の事態を招いた可能性もあるだろう。勿論それを口にして自分の過ちを正当化するつもりはない。
動いても動かなくても、同じ結末だった可能性もあるのだ。未来なんて神でも無ければ分かりっこない。

「だったら…」
「――でも、それでも…それでも俺は、俺に出来る事をしたい!困ってる人、苦しんでる人達がいるなら助けたいんだ!」

そう、分からないのであれば、自分の意志を、力を信じて行動するしかないのだ。
その先にある希望を信じて、その手を、声を、救いを今度こそ届ける為に―――。

「だからゴメン…ティアは此処で待っててくれて構わない。これは俺が自分で選んだ道だから…」

そう言い、カイルはティアに背を向け東へと足を向ける。
ティアの言葉が背後から聞こえてくるが、もう殆ど耳に入って来ない。
例え如何なる理由があろうと、それはあくまでカイル自身の意志。
このままいればルークさんと再会出来るであろうティアを巻き込むべきではない。
だから何と言われようと、最早退く事は無い。

「―――――行ってくる!!!」
















「待ちなさいカイル!私が行かなかったら一体怪我人を誰が治療する訳?!」

「――――――――――――あ」











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

164エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-12:2017/11/16(木) 14:08:37 ID:XoqtS/Ro0

「…え、えっと……その………」

先程までのカイルの威勢は何処へやら…そんな何とも微妙な空気の中、
ティアは思わず嘆息した。如何やらティアに指摘されるまで本気でその事を失念していたらしい。
ルークも思慮が浅い所があったが、カイルは余裕でそれを超えている気がする。
ティアが知る由も無いが、つい先刻までカイルはシャルティエを使用してヒールを使っていた訳なので
多少は勘違いしても無理からぬ部分はあるのだが、何れにせよ今のカイルに回復手段は無い…というか武器すら持っていない。
これで東にいるのが殺し合いに乗った相手だったら如何するつもりだったのか……頭痛薬が欲しくなる程頭が痛くなる。

一方のカイルは恥ずかしさ故か顔を赤くして視線を逸らして頭を掻いている。
威勢良く飛び出しておいて、指摘されるまで無手無策で飛び出しかけたのだから当然と言えば当然である。
それでもティアの指摘で我に返れただけでも御の字と思った方が良いかもしれないが。
だが一方で困った事になったとも思う。今この場で回復手段があるのはティアだけなのだ。
ティアの立場を考えると付いて来てとも言い難いし、かといって東にいる怪我人――かどうかはまだ不明だが
連れて再び此処に戻って来るという手段で果たして間に合うかどうか…。

「…分かったわ。私も一緒に行くわ」
「え?……………良いの?」
「…このままあなた1人行かせる方が余程心配だから」

この返答が予想外だったのか、驚きの表情を浮かべて此方を見るカイルに
内心ティアは苦笑した。無論つい先程までのティアならば、このような選択はしなかったであろう。
無論これにはティアの計算もある。ミトスの言を信じるならば、東にいるのはルークで無い事になるが、
確証がある訳でもないし、ルークでなくとも大佐がいる可能性もある。この極限の状況下で再会出来れば
これ程心強いものもあるまい。また、先程の轟音がもしミトスがミクトランに敗れたものだとしたら、
この場に留まる事で再びミクトランと再戦する羽目に陥りかねない。そうなれば今度こそ命は無いだろう。
その意味では、一旦この場から離れると言うのは決して愚策ではない。

「…ティア、ありがとう!」

驚きから我に返ったカイルが嬉しそうに笑顔を見せると、
何か思い当たったのか、ヴェイグの元へと急いで駆けて行く。
その後ろ姿を見つめながら、ティアは思う。

(…色々理由は付けたけど、どれも後付けの理由ね)

軍人たるもの、個人的感情で動く事は本来許されないだろう。
だけど抱いていた想いへの既視感、自身の存在の為に戦いを強要させてしまった罪悪感、
――そして失う事の強い恐怖。そう、アッシュの死を目の当たりにした事で、
尚更カイルの事を見捨てたくはなくなっていた。勿論此処で命を落とす訳にはいかない。
それでも出来る限り彼の支えになってあげたい。叶うならば彼を想い人と再会させてあげたい。
そう、軍人としてではなく、『メシュティアリカ=アウラ=フェンデ』としての判断を優先したい。

(ごめんなさい、ルーク…もしかしたら遅れるかもしれないけど、必ず生きて会いに行くから)

だからこそ、私が今出来る事をしよう―――後で胸を張ってルークに再会出来るよう。
それがきっと、カイルを守り命を落としたアッシュへの手向けにもなるだろうから―――。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

165エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-13:2017/11/16(木) 14:09:23 ID:XoqtS/Ro0

「ヴェイグさんが持っている武器、1つ借してもらえませんか?」

ティアの元を離れ、ヴェイグの元へカイルが来たのは、今口にした理由だった。
シャルティエをミトスに渡した(というか奪われたに等しいけど)以上、今のカイルに
武器と呼べるものが無い。勿論ヴェイグにも可能ならば共に来て欲しかったが
誰がどう見ても今のヴェイグには休息が必要だった。それ故に今この場で借りる必要があった。

「…氷の銃以外ならどれを持って行っても構わない…好きに持って行くと良い…」

荒い息をしながらヴェイグはサックをカイルに投げる。
<氷の銃>――アッシュを死に至らしめた武具に、一瞬カイルは顔を歪ませたが
すぐに表情を戻しヴェイグにお礼を言うと、サックの中身を確認し、やがて大きな剣を1つ取り出した。
闇属性の大剣のソウルイーターはカイルには少々大きいが、この状況下では贅沢は言ってられない。

「ありがとうございます。これ、お借りします。向こうにいる人達を助けたら必ず返しにいくから」
「…別に返す必要は無い。ただ、その代わりでは無いが…もし向こうにいる者達が回復薬を持っているなら、
それを持って来てもらえないか…?」

ヴェイグのフォルス能力は、体力と精神力を支柱としている。
それが回復しない限り、感知はおろか戦闘でも多大な支障が生じる。無論この状況下で
回復薬を易々と譲ってくれるとは思えないが、僅かでも可能性があるなら頼んでおくに越した事はない。

「分かった。もし貰えたら必ず届けるよ。プレセアは…どうする?」
『私は…ここに残ります。今ヴェイグさんは動けませんから、私が周囲を見張っています』

カイルの見張りを言い付けられてはいるが、今のこの状況下で最早実行しようとは思っていない。
それならばせめてカイルの傍にいるべきだろうが、そうなると1人残されるヴェイグが気掛かりだ。
それに、ヴェイグにはまだ伝えるべき事が残っている。ならば見張りも兼ねて残るべきだろう。
…ミトスが戻って来たら、さぞ怒るだろうが、その時はその時だろう。

「そっか…分かった。俺達が戻るまでヴェイグさんの事、宜しく頼むよ」
『分かりました。カイルさんもティアさんも、どうかお気を付けて』

プレセアの言葉にカイルは笑顔で頷くと、踵を返しティアの元へ駆ける。
そして合流した2人が東に向けて駆け出して行くのを見送ると、プレセアは再び高く宙に浮かび、
再び周囲を見渡す。その肝心要のミトスであるが、果たして今どういう状況なのだろうか…―――。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

166エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-14:2017/11/16(木) 14:10:08 ID:XoqtS/Ro0

『――しっかりするんだ!ミトス!!!』

…五月蠅い。瓦礫に仰向けに倒れたままミトスは僅かに苛立ちの念を覚える。
確かに物の見事に御大層な一撃を被ってしまったが、あくまで回避が間に合わなかっただけで
防御自体は余裕で間に合っている。シャルティエが危惧する程ダメージはそこまで深刻では無い。

「少し黙ってろ。集中出来ないし、耳障りだ」

ミトスはそう言い放つと、身体を起こし、意識を研ぎ澄ませる。
どうやら今のところ周囲に人の気配は無い。奇襲の後、深追いを避けたか
それとも…―――何れにせよ今のところ危険は無いか。
そう判断すると、ミトスは次に素早く自分の身体を診断する。
とりあえず魔術による火傷裂傷及び吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられた打撲は
それなりではあるが戦闘に支障は無い。問題は銃弾を受けた左肩か。
骨がやられたらしく、上手く動かせそうに無い。

(少しばかり戦闘に支障が出そうだね。まあこの程度のハンデならどうとでもなるか)

そう結論付けると、ミトスはシャルティエにイクティノスの位置を再び探らせた。
無論ミクトランがイクティノスを回収していなければ動きは無いだろうが…。

『…ゆっくりとだけど西に移動してるね。多分―――』
「――ミクトラン、か」

シャルティエの言葉を遮り、ミトスは呟く。勿論ミクトラン以外の誰かの手に
イクティノスが渡った可能性もあるが、さすがにそんな馬鹿な失態は起こすまい。
無論、向こうもあの一撃で死んだとは楽観していないだろうし、イクティノスを手にした事で
再び此方に探知されるのは承知の上だろうが、それでもこうして動きだした事を見ても
ある程度の勝算や目的があると見ていいだろう。

(まあ、どう思うと勝手だけどね。此処で死ぬことには変わりは無いし)

ミトスは軽く身体の埃を払うと、今度こそ止めを刺すべく
ミクトランのいる場所に向けて翼を輝かせて飛翔したが、暫くしてその動きが止まってしまった。

『ミトス?』

シャルティエの言葉に返答せず、ミトスは暫しその場で立ち止まっていたが、
やがて1つ溜息を吐くと、ミクトランのいる場所から北に逸れた方角に飛翔を再開する。
天使聴覚が聞き覚えのある声を捉えたからだ。

(真逆、此処で出会うとはね…これでアイツがアレを持っていれば、
Deus-Ex-Machina<ご都合主義>此処に極まれり…ってとこだけど…多分そうなんだろうね、きっと)

やがてミトスは、その視界に旧知の存在を捉える。
もう片方は見覚えの無い人間ではあるが、その様子と声音から、今のところ敵意は無いものと判断し、
その会話に割って入るように言葉を紡ぐ。

「俺は今からロニを追い掛ける。アイツが向かった先と、チャットとキールが向かった先が一緒だったから、
もしかしたら戦いになってるかもしれない。皆を助けて、クレメンテを取り戻して――――」
「――――お前には他にやるべき事がある」

天使が知る由も無いが、直感は正しかった。
精霊王の加護を受けし炎の魔剣と水の魔剣、それらの真の力を使役するのに必要な鍵―――。
それら全てがついにこの場に揃う事となる。

「――――――ミトス」
「久しぶりだね、ロイド」





運命か必然か――再びこの世に顕現せんとする時空を制す魔剣。
其れが齎すは混沌を払いし希望か、混沌に呑まれし絶望か―――――。

167名無しさん:2017/11/16(木) 14:10:44 ID:XoqtS/Ro0
投下終了します

168名無しさん:2017/11/27(月) 11:21:23 ID:3Yadmbz20
短いですが投下させて頂きます

169エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 1:2017/11/27(月) 11:22:27 ID:3Yadmbz20
晶霊砲による黎明の塔の崩壊。
バトルロワイヤル開幕以降最大の事件により
嘗て無い乱戦、激戦が繰り広げられる中
その激震地から離れるように東に走る男女がいた。
男――少年の名はカイル=デュナミス。女の名はティア=グランツ。
目的は避難で無く、先刻偶然カイルが東の雪原で見かけた2人の救助。
尤も、その2人がカイルとティアの知人なのか、赤の他人かは分からない。
味方かもしれない、敵なのかもしれない。それでもカイルとティアは、
自身の出来る事を信じて東へと走る。

「この丘を登った先ね?」
「ああ、間違い無いよ!」

少し小高い雪丘を2人は登る。そしてついに2人は目的の人物を見つけた。
如何やら2人の知人では無いようだが、1人―カイルと年の近い少年はやはり怪我人。それも意識不明の重体のようだ。
もう1人―此方は青年で、同じく重傷は負っているが、怪我を押して少年を治癒術で回復している。
だが治癒術をかけつつも片手は斧をカイル達に向けて構え、鋭い眼光を向けている。
この状況下で敵に襲われればひとたまりも無いのは一目了然。それ故にその態度は無理も無いと言える。
カイルは手にしていたソウルイーターを近くの雪原に投げると、青年に話しかけた。

「俺達は敵じゃ無いです。塔から貴方達がいるのを見かけて助けに来たんです」
「……………………」

カイルの言葉にも青年は回復の手を緩めず、また返答する事無く鋭い視線を向けたままだ。
それでも構う事無くカイルは青年達の傍に近づく。

ヒュン

次の瞬間、空を裂くようにカイルの首元に斧が突きつけられる。ティアが慌てて身構えそうになるが、それを片手で制する。
少し力を込めれば、その細首など容易く刎ね飛びそうな状況でも、カイルは動じることなく語りかける。

「こんな状況じゃ警戒するのは分かる。でも俺達を信じて欲しい。俺達は、貴方を――この人を助けたいんだ」

揺らぐ事無く、青年を見つめる真っ直ぐな目――その嘘偽りを感じさせない姿に、
青年は漸く信頼出来たのか、斧をカイルの首元から離し、静かに口を開いた。

「すまない―――どうか力を貸してくれるか?」
「勿論!」

その言葉にカイルは笑顔で頷くと、視線をティアに移す。
ティアは頷くと、すぐさま少年の傍に駆け寄り、回復術の詠唱を始めた。

170エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 2:2017/11/27(月) 11:23:11 ID:3Yadmbz20








(此処は………僕は一体………?)
「―――気が付いたか、エミル」

意識を取り戻したエミルの視界に入ったのは、
安堵の表情を浮かべるリヒターと、見知らぬ男女2人。
それでもその表情には同じく安堵の色が窺えた。

「リ、ヒター…さん?僕は………ッ、く、うう…!」
「あ、まだ動かない方が良いよ!」
「私とリヒターの回復術で一命は取り留めたけど、重傷には変わりないわ。今は未だ動かないで」

身体を起こそうとして走った激痛に顔を顰めたエミルに、男女が言葉を掛ける。
回復術――そういえば僕は如何してこんな重傷を負っているのか。

「…デクスの秘奥義の直撃を受け意識を失ったお前達の回復をしていた時に、丁度この2人が来てくれて
回復の手伝いをしてくれたのだ」
「そう、だったんだ………助けてくれて本当にありがとうございます………」
「気にしないで。私達は出来る事をしたまでよ」
「それでも、助力が無ければエミルは助けられなかっただろう…私からもまた礼を言わせて欲しい」

事実、助力が無ければエミルは助からなかったに違いない。
それ程までにデクスの秘奥義は余りに強力過ぎた。無論助かったとはいえ、
重傷であるには変わりない。一先ず血液と共に失った体力回復のためにレモングミを与える。
グミでは傷の処置までは出来ないが、ここまで回復していればこれでかなりの回復は見込める。
事実レモングミによりエミルの顔色はかなり良くなった。

「…そういえば、デクスは?」
「塔の崩落が起きた直後、すぐに塔に向かった。或いは塔にアリスがいると思ったのかもしれない」

そこまで答えて、リヒターはある事に思い当たる。
塔に向かったのであれば、この2人はデクスを見かけて無いのだろうか。

「カイルとティア…だったか。お前達が此処に来るまでの間に、2人の男女と巨大な化物を見ていないか?」
「え?化物?」
「いえ、私達が此処に来るまでの間には誰も見かけていないわ」
「うん…ていうか、化物って一体…」

カイルの疑問に対して、リヒターは簡潔に事情を説明する。自分達の世界の兵装にエクスフィアと呼ばれる
装着者の強さを引き上げるものがあること、その使い方を誤ると、体内の力が暴走して化物と化してしまうこと。
そして殺し合いに乗っていた、デクスという男が正しくそのエクスフィアを暴走させて化物と化し、
自分達の世界を滅びから守る為のイグニスと呼ばれる宝呪を奪い逃走しているということを。

「じゃあ、リヒターさんとエミルはそのデクスを倒して宝呪を取り戻す為に…?」
「そうだ。このまま奴を放置しては取り返しのつかない事態になりかねん…早く奴を追わねば」
「待って、エミルもだけど貴方の傷も手当をしないと…」
「気持ちは有り難いが、最早猶予は無い。あの2人の動向も気になるしな」

立ち上がるリヒターをティアが制しようとするが、
それに構わずリヒターは塔に向かって歩き始める。

「リヒターさん、僕も一緒に…」
「いや、お前はもう暫くここで休んでいろ。ラタトスクの意識も未だ目覚めていないのだろう?」

ある程度回復出来たとはいえ、未だラタトスクが目覚めない時点で
未だエミルの回復は十分とは言えないだろう。無論自分自身の傷もかなり重いのだが、
既に満身創痍のデクスに止めを刺すだけならば十分だろう。

「でも、デクスも放ってはおけないし、それにスタンさん達も―――」
「スタン!?そ、それってもしかして、スタン=エルロンの事ですかッ!?」

突然カイルがエミルに駆け寄って来てその両肩を掴んだ。
言うまでも無くエミルに激痛が走り、カイルは慌てて謝罪するが、
それでも表情からは焦燥が強く滲んだままエミルに問い質す。

「う、うん…実は僕達がデクスと戦っている間にある女性と一緒に塔に向かったんだ。
凄く大怪我をしていたから、万が一デクスがスタンさん達に追いついてしまったら…」

その言葉に、カイルは蒼褪め、立ち上がると塔に視線を向ける。
事情を知るティアはその姿に1人駆け出して行かないか不安が過るが、
そんなカイルの様子にリヒターは何かを悟ったか、静かに問い質す。

「…カイル、スタン=エルロンとお前はどういう関係だ?」
「……………俺の、父さんなんだ」
「―――――――――え?」

その告げられた事実に、エミルは愕然とした。スタンやその仲間達に
ルーティの事を告げ、謝罪するつもりだった。だがまさか、その息子とここで出会うとは
全く予期していなかったのだ。そしてスタンが父と言うのならば、まさか母は………。

「ねえ、カイル…君のお母さんの名前を聞いても良い?」
「おい、エミル―――」

リヒターは咄嗟に止めようとしたが既に遅かった。
カイルは少し俯き、やがてぽつりと言った。

「俺の母さんの名前は―――――ルーティ、ルーティ=カトレット」

171エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 3:2017/11/27(月) 11:26:08 ID:3Yadmbz20







告げられた事実の重さに、エミルは自分の世界が崩れるような感覚を覚えた。
それが意味する事実――それはこのカイルの母を、自分の所為で死なせてしまったという事。
仲間を、友を失うよりも遥かに重く深い心の傷を負わせてしまったという事だ。

「…エミル?如何したの?」

カイルの言葉にもエミルは茫然としたまま座り込んでいる。
リヒターは予期せぬ邂逅と事実に内心舌打ちをしながらも、気になった事を問い質す。

「カイル。お前の両親がスタンとルーティという事だが…それは事実か?」
「うん。と言っても俺は父さん達のいた時代から18年後の世界から来たんだ」

スタンにせよルーティにせよ、20代前半か10代後半だ。このカイルが10代後半位ならば、
年齢の辻褄が合わない。そう思ったのだが、カイルの回答により一瞬で辻褄が合ってしまった。
無論未来からなど突拍子も無い言葉、以前のリヒターならば一蹴していたかもしれないが、
死んで間もない人間のアリス、デクス所か、ミトス=ユグドラシルまで蘇り、
且つ此処に呼ばれている時点で十二分にあり得る事である。だがそれはそれで不味いとも思う。
この状況下で事実を知ったエミルが取る手が容易に想像出来たからだ。

「エミル!?まだ動いちゃ――」
「…行かなくちゃ、いけないんです」

事実、カイルの言葉に首を振り、エミルは痛みを堪えて立ち上がっていた。
ティアもそれを制しようとするが、恐らく今度は止められないだろう。

「――カイル、スタンさん達を助けたら…君とスタンさんに話さなければいけないことがあるんだ」
「話さなきゃ…いけないこと?」
「うん、凄く大事な話。必ず話すから、今は僕達に協力してもらえないかな?」
「…ああ、勿論だよ!」

エミルの言葉に一瞬カイルは戸惑った表情を見せたが、すぐに笑顔を見せ頷く。
それに釣られるようにエミルも軽く笑顔を見せ、黙ってリヒターに視線を移す。
リヒターにしてみればカイル達への恩義があるとはいえ、エミルは正直此処で休ませたいのが本音ではあるが、
恐らく罪の意識から決意は揺ぎ無いであろう。それに今この場で事実を告げて混乱――下手すれば戦闘になられるよりはマシだ。
今はとにかくイグニスの回収を急がねばならないのだから。無論、優先順位を理解してるとはいえ
エミル―――ラタトスクにもしもの事があっては意味が無い。リヒターは軽く溜息を吐くと、1つ頷いた。

172エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 4:2017/11/27(月) 11:26:43 ID:3Yadmbz20

「…状況が状況だ。此方が危険と判断したら力付くでも撤退させる。それだけは覚えておけ」
「…はい!ありがとうございます、リヒターさん!」

後は急ぎデクスを追跡してスタン達を助けるだけ―――。
その時、カイルがふと何かを思い出し、エミル達に訊ねた。

「あ、そうだ。これは出来ればで良いんだけど…グミとか回復薬って余って無いかな?
塔の近くで仲間が弱ってるから、回復させてあげたいんだ」
「うん、勿論だよ」

勿論この状況下だから無理ならそれでも大丈夫と付け加えたカイルに対して、
エミルは快諾する。正直余ってるというには程遠い状況であり、リヒターはきっと
内心温存させておきたいだろうが、命の恩人でもあるし、カイルの仲間というならばきっと信頼出来る筈だ。
そう判断し、パイングミをカイルに手渡す。カイルは礼を言って受け取ると、それをティアに渡した。

「ティア、悪いんだけどこれをヴェイグさんに届けてもらえないかな?」
「…私も行かなくて大丈夫なの?」
「うん、エミルは助けられたし、こうして回復薬も手に入った。ティアが付いて来てくれたお陰だよ」

カイルも2人の止血処置をきちんと行い、応急手当は行ったが、
やはりティアの治癒術の存在が大きかったのは言うまでも無い。
仮に自分1人だけでは、先程のアッシュの二の舞になっていても可笑しく無かったのだから。

「でもこれ以上俺と一緒に来たら、今度こそ戻れないかもしれない。折角ルークさんと再会出来るチャンスを
俺の所為で失わせたくない」

そのデクスがどんな化物かは実物を目にしていない以上分からないが、
この2人をここまで負傷させる程である。ティアの助力があれば本当は心強い所だが、
此処に来るまでに無理を言って付き合わせてしまったのだ。ヴェイグの依頼品を
託す形にはなるが、今度こそティアを危険な目に遭わせる訳にはいかなかった。

「…分かったわ。でも無理はしないで。リアラと再会したいのでしょう?
…その、スタンさん――貴方のお父さんと一緒に必ず帰って来て」
「分かった!必ず皆一緒に帰るから!」

笑顔でそう言うと、カイルはエミルとリヒターと共にデクスが走り去った方角へ駆け出す。
その背中を見つめながら、ティアの胸中に僅かながら不安が過る。確かにルークとの再会の機会を失いたくないが、
同行者が2人増えたとはいえ、そのデクスを相手に無事に済むのだろうか。そしてスタンとリアラに再会出来るのか――。
それでもカイルに託された以上、それを為さねばならない。それにヴェイグには1つ確認をしなければならない事もある。
ティアは不安を打ち払う様に視線を元来た道へと戻し、同じように駆け出す。




再び戦場へ戻り、或いは参戦する参加者達。
その戦況、未だ好転、打開の術は見出せず。
それでも互いの未来を、希望を信じ、戦いに赴く――。

173名無しさん:2017/11/27(月) 11:27:16 ID:3Yadmbz20
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