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【攘夷でしょでしょ】私説・日本開国譚【ヤレヤレ開化】その8

1 ◆tsGpSwX8mo:2022/05/22(日) 13:20:33 ID:DkEwLg2g00
【攘夷でしょでしょ】私説・日本開国譚【ヤレヤレ開化】その8



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     i   l l 从lハlハトlハ)   丁:::::::::::::/ニニニニニニ=∧::⌒Y::j
     l   | レ k;;リ   f;;ホi   {::::(_6Уニニニニニニニニ∧6ノ丿
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     ヽ=彡 .ハ u o イ::!      ̄フニニニニニニ/ニニニニハ
      ヽ≦;;;;;∨⌒`ヽソ      /ニニニニニニ/ニニニニニニハ
           ノ /     \   /ニニニニニニ/ニニニニニニニハ
         フ!  ヽ、     \_ノニニニニニУニニニニニニニニニi
        / |   /⌒l   ,rー「ニヽニニ/ニニニニニニニニニノヽ
        /「 ̄Y   ヽ、 f二 |ニニニ>´ \ニニニニニニニニニ/
      / !  乂   } てニ人ニ>'     \ニニニニニニノ─────‐r‐v‐、__
     /    」 /ヘト-′   /      /   ̄¨ ̄¨~            {   「  / >、
 -‐= ´    └/  ハ  ヘ  /       / __,,..  -‐=…────ヘ_j__}_ (       })
         イ  /     Ⅵ       ̄ ̄ =‐-r─、__   ¨' ,       `弋≧_彡′
、___  彳 / /      ∨ゝ... __       / // ̄ヽ    >ー、_
       ⌒V⌒ヽ_ノ⌒ヽトー─‐'^ー─ ニ=‐-{__/ ノ    ト _/  /'ー-、_
                             /rー′ ミ、_ノ   {_j__{ r'⌒  ̄ ̄`ヽ
                               {/     ノ         `┴ _     ノ
                            丶__/            ̄ ̄ ̄




注意点(更新)

その1.鬱ネタです。R18表現は原則として使いませんが題材の関係上、暴力的・性的・差別的な表現が含まれます
     特定の政治・宗教・人種および団体に故意に加担や中傷誹謗の意図はありませんが、それらに関する議論
     を呼びやすいと思います。苦手な方は読まずにそっとスレを閉じてください

その2.過度のネタバレや、ヒートアップした煽りや荒らしはお控えください

その3.遅筆なので毎月上旬、生存報告します(上旬中に投下する月は除く)。新・旧スレ並立時は、新スレ側に報告します

2 ◆tsGpSwX8mo:2022/05/22(日) 13:21:26 ID:DkEwLg2g00

前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15956/1644733951/l50

6スレ目
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15956/1491885149/l50

5スレ目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15956/1451624975/l50

4スレ目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12973/1428252538/l50

3スレ目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12973/1383056844/l50

2スレ目 
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12973/1367717580/l50

1スレ目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12973/1348143321/l50




>1の前作(完結)

アヘン戦争とは何だったのか 1
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/otaku/12973/1288505205/-100

アヘン戦争とは何だったのか 2
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/otaku/12973/1289978794/-100

アヘン戦争とは何だったのか 3
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/otaku/12973/1306059804/-100

3 ◆tsGpSwX8mo:2022/06/01(水) 20:45:30 ID:Qp64IHcw00

【追加】

まとめてくださっているサイト様


前作
泳ぐやる夫シアター様
ttp://oyoguyaruo.blog72.fc2.com/blog-category-263.html



今作
やるとりえ様
ttp://yarutorie.blog.fc2.com/blog-entry-539.html

だっておwwwキャンセル様
ttp://inzainewtown.blog.fc2.com/blog-category-123.html

4 ◆tsGpSwX8mo:2022/06/01(水) 20:46:47 ID:Qp64IHcw00

月例の生存報告です。よって、これにて報告終了(`・ω・´)ゞ 以下はおまけの文献紹介です

◇==================================◇


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『文明の衝突』 (サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社刊。原著は1996年刊)
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────



   (~)   今後「引用するかも知れない」名著なのですが、今回はあえて「今となっては痛い箇所」のさらし…ご紹介―――
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:} 本書ではいま話題のウクライナについても、対露関係に絡めて詳細に論じており「ウクライナ:分裂した国家」
 (´・ω・) と題した地図まで掲載して1994年7月の同国大統領選結果が見事、東西分裂状態だった件を紹介しています

ちなみに本書掲載の地図六枚のうち一国限定の地図は、米国以外では宇国だけ。著者の関心の高さが窺えるものの…


──────────────────────────────────────────────────
以下、「第一部 さまざまな文明からなる世界   第一章 世界政治の新時代」 46〜47pより抜粋

「(前略)政治学者のジョン・マースハイマーは(中略)、こう予測した。『ウクライナとロシアの関係は(中略)安全保障競争
が始まる寸前まで熟している。(前略)長距離にわたり無防備な国境を接している大国同士は、しばしば国の安全にたい
する不安に駆られて張り合う(以下略)』。他方、文明の観点からアプローチを試みた場合、ロシアとウクライナのあいだ
の文化的、個人的、歴史的なつながりが密接なことや両国でロシア人とウクライナ人が混じりあっていることが強調され、
かわりに東方正教会に属するウクライナ人と東方帰一教会に属するウクライナ人を分けている文明の境目に注目するだ
ろう。これは長年にわたる中心的な歴史的事実であるが、マースハイマーは国家が統一されてアイデンティティをもった
独立体だと見なす『リアリスト』的な考えに凝り固まっていて、この事実をまったく無視している。国家パラダイムの見方では
ロシア・ウクライナ戦争の可能性を強調しているのにたいし、文明パラダイムの見方ではその可能性を最小限とし、かわ
ってウクライナの分裂の可能性を強調している(中略)。マースハイマーは国家パラダイムの立場から戦争の可能性と、
ロシアがウクライナを征服する可能性を示唆して、ウクライナの核兵器保有を支持した。文明パラダイムの立場なら、
ロシアとウクライナの協力を奨励し、ウクライナには核兵器を放棄するよううながすだろうし(中略)、起こりうるウクライナ
分裂にそなえた緊急対策の後押しをするだろう」
──────────────────────────────────────────────────


   (~) …上記引用文で、ハンチントンにぼろくそ叩かれたマースハイマーとかいう方の「m9(^Д^)プギャー」が目に浮かびそう
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:} なお著者は幸か不幸か、クリミア併合に先立つ2008年に他界(享年81)しました。ともあれイスラム文明を見ても、
 (´・ω・) 同じ文明に属する国家間の戦争など珍しくもない。上記箇所は著者が、党派的事情で筆を曲げただけな気もします……

       というわけで故ハンチントンは、プーチンの夢枕で停戦陳情して文責を果たすべき         【了】

.

5令和もどこかの名無しさん:2022/06/04(土) 02:27:19 ID:qyFGHFMs00
>前スレ997 それこそキリスト教国家は全て近代化した文明国だけとか盲信するのと同じくらいバカげた、画一的な考え方だと思う
そっくりお返しするよ。
「無毒化」と安易に書いてしまうのがすでにヤバいって気づかないんですか?
散々カトリック、プロテスタント問わず「キリスト教自体がダメ」って書き込まれたの見て?
バカげた画一的な考え方じゃないですかね。まあ明治に手のひら返しされるんだけど。天皇制と」キリスト教は論理上は仲良しこよしするんだけどなあ。

6令和もどこかの名無しさん:2022/06/05(日) 01:43:19 ID:imHYi78I00
前スレ>>992
キリスト教が近代化の土台になったというのは賛同するけどね。

ちゃんとこう書いているけど。
カトリック、プロテスタント問わずにキリスト教自体がダメとかどこに書いてあるのかおしえて欲しいね。

ただ、イギリスやフランスが近代化に進む反面、中世に向かって逆行してたスペイン・バチカンの流れもあったと言ってるだけで。

スペイン・バチカンなんて近代化が遅れていたというのは史書から百科事典にまで書かれている始末だし。

宗教の無毒化とかも、近代化の流れではごく当然でしょ。
令和の時代に一向一揆みたいな武装教団が県庁襲うとかあり得んし、欧州でカトリックとプロテスタントが人口激減するまで殺し合う事もなくなった。

そういうのができてない国々が、バチカンに後押しされたカトリック政権を樹立して異教徒に化学兵器撒いたり、民族主義と癒着した仏教徒が暴徒化するんでしょ。
まるで宗教組織はどこも昔から安全とか思い込んでるなら、お花畑すぎでは。

天皇制とキリスト教も、明治天皇が憲法制定時に、立憲君主制のお勉強を何ヶ月もした結果で信仰の自由を認めた話しなので、別に近代化に向かう自然な流れじゃない。

憲法制定して、法の下で互いに殺し合わないなら個人が信仰するのは自由という話しを理解しただけで。
スペインが異端審問所を植民地に設置してた時代から、安全に共生できる時代がようやく明治期に来た。

昔の栄華が忘れられないローマ教皇は、信仰の自由なんて受け入れるのに冷戦後まで悪あがきして迷惑かけるけど、権力から切り離されてた天皇家は、それこそ無毒化されてたお陰でかなり柔軟に対応できた。

キリスト教国家しか近代化できないとかイワシの頭みたく盲信するよりかは、そういう近代化に向かうキリスト教の論理を受け入れられる下地があったかどうかを考えないとダメじゃない。

イギリスやフランスなどのキリスト教国家は受け入れて近代化に成功したがスペイン・バチカンは受け入れがたく失敗した。

そな成否な差異こそ、非キリスト教国家の日本が、頑迷なキリスト教保守派の国よりかは近代化できた理由じゃない。

7令和もどこかの名無しさん:2022/06/19(日) 19:02:42 ID:SO4mSJvg00
スペインは単純にナポレオン戦争とそれに続く内戦がでかすぎるので

8令和もどこかの名無しさん:2022/06/20(月) 00:28:32 ID:vhVD1CNM00
シドニー大学で6万件以上のスペイン異端審問の記録を調査した結果、それが盛んだった地域は教育や経済の水準が低く、数百年経った現在でも影響は残ってしまっているとか。

財産没収が主目的にすり替わって、知識や経済力のあるユダヤ人、イスラム教徒、富裕層から中産階級を迫害したらそうなるのは、まあ当然か。

大航海時代から王侯貴族の贅沢で経済破綻してたのを、異端審問による財産没収や植民地での強制労働で賄ってたのが、日の沈む事のない帝国の内実だった。

9令和もどこかの名無しさん:2022/06/21(火) 06:52:41 ID:GvKySO9M00
蛮族ねぇ

10 ◆tsGpSwX8mo:2022/07/02(土) 00:59:58 ID:HyY4/d0k00


月例の生存報告です。よって、これにて報告終了(`・ω・´)ゞ 以下はおまけの文献紹介です

◇==================================◇


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『失敗の中国近代史---阿片戦争から南京事件まで』 (別宮暖朗著、並木書房刊。2008年3月)
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────


   (~)     >1のやる夫スレ処女作「アヘン戦争とは何だったのか(1〜2)」(>>2)の、種本です―――
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}   本書に出会う機会がなかったら>1が やる夫スレに手を染めることも、なかったかもしれません・・・?
 (´・ω・)  「アヘン戦争」スレは本書第1章を骨子としましたが本書自体は第8章まであり、後半は日米戦争の元凶
        となった“戦前日本のアジア主義”にたいする峻烈な検証およびその否定が、実質的な主題となっています


特に本書で感心させられたのは、人物評。切り口が鮮やかで、簡潔に本質を突く点です
参考までに中国の革命家・孫文についての本書における評価のいくつかを、以下に抜き出してみました―――

──────────────────────────────────────────────────

第7章「北伐」より(224〜226p)

『国民党創始者であり国父とよばれる孫文は、それまでの中国の指導者とはまったく違った人物であった。』

『四書五経や儒教の類いについてはほとんど知らず、アメリカ下層労働者の視点から中国を眺めた。孫文の不動の
信念は「韃虜駆除」であって、満州族を中国から追い出せば、漢民族固有の文明から、自力で民生向上が果たせると
見た。大アジア主義を唱えたが、内容は漢民族が周辺の日本人、ベトナム人、蒙古人などを従えるもので、中国文明が
説得によって世界を制覇するという考え方であった。
軍事上の欧米諸国優位は認めており、広州を訪ねてきたシャーマン・アメリカ公使に、
「五年間にわたって外国軍隊が駐留すれば、軍閥・土匪を掃討できる。そのあと公正な選挙を実施し、選ばれた指導者
に国家を委ねればいい」
と言って、中国を五年間、アメリカの植民地にして欲しいと懇請した。アメリカ本国では冗談として相手にしなかったが、
孫文は本気であった。」

『(前略)孫文は民主主義に反対であった。そもそも三民主義の一つ、民権主義とは国家の自由・独立を達成すれば
(中略)、人民の生活も向上するという考え方であって、個人の自由・平等とは関係がなかった。
(前略)アメリカ人が喜ぶので選挙を実施すると言い、自分が権力の座にある時は選挙を実施しようとはしなかった』

『孫文の三民主義の残る二つの題目、民族主義は俗悪な人種優越思想であり、民生主義とは生産手段の国有化、
農地国有化の主張であって、きわめて社会主義に類似している。』

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ   孫文について語る上記の引用文だけでも、別宮氏は明快にして思索を刺激する書き手だと、納得頂ける筈
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  ともあれ。引き続き本スレでも要所要所で本書を参照しており、>1にとっては伴侶に等しい座右の書です

【了】

11 ◆tsGpSwX8mo:2022/08/01(月) 14:25:10 ID:UmmhtiAI00

【2022年8月分 月例生存報告&文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『アイデンティティ――尊厳の欲求と憤りの政治』 フランシス・フクヤマ著・山田文訳、朝日新聞出版刊。2019年)
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────


   (~)     ごぞんじ『歴史の終わり』(1992年)で一世を風靡した、ハンチントンの弟子でもある日系政治学者の近著
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}   冒頭の「序言」によれば、『歴史の終わり』への批判に答えるのが本書執筆の目的であり、しかも直接の
 (´・ω・)  執筆動機となったのが2016年当時の、ドナルド・トランプ大統領当選にたいするフクヤマの危機感だった由


今回注目したのは、本書第5章。2011年12月、チュニジアの露天商ブアジジによる当局への抗議自殺に端を発した「アラブの春」
と2014年2月、同じく腐敗した政治家への憤りによって生じたウクライナ「マイダン革命」を比較するくだりを、引用させて頂きます

──────────────────────────────────────────────────

第5章「尊厳の革命」より(72〜74p)

『アラブ世界の何百万もの人にとって、ブアジジの焼身自殺は、それぞれ自国で感じていた不正な政権への不満を
結晶化させる出来事だったのだ。
その後、アラブ世界はカオス状態に陥る。アラブ人自身のあいだで、かつての独裁制のあとでどのような統治体制を
とるべきか、意見が一致しなかったからである。』


『ヤヌコーヴィチがウクライナをふたたびロシアの勢力圏に引き戻そうとしたことで、首都キエフでは一連の抗議運動が勃発し、
(中略)八十万人近くが独立広場(マイダン)に集まってEUとの連携継続を訴えた。(中略)ウクライナは新しい政治に開かれた。』

『実のところ、状況はチュニジアとあまり変わらない。経済と政治は少数の権力者が支配し、(中略)同年にクリミアを奪われ、
(中略)戦争を仕掛けられた。とはいえ、ユーロマイダンと尊厳の革命を引き起こした者たちの動機を理解しておくのは重要である。』

『EUとの連携か、あるいはプーチンのロシアとの協力かという選択は、人々を市民として平等に扱う近代的な政府のもとでの
暮らしを望むのか、あるいは民主主義の見せかけの場で自己利益を追求する泥棒政治家が民主主義を操作する体制の
もとで暮らすのかという選択にほかならなかった。プーチンのロシアは、この種のマフィア国家の典型と見なされていた。(中略)
ロシアと密接に連携することになれば、説明責任を負わないエリートに真の権力が握られる世界へ一歩近づくことになる。
したがって、ユーロマイダンは一般市民の尊厳を守るための反乱だったと考えられる。』

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    折りしも7月27日付の朝日新聞報道によればチュニジアでは、首相を解任し議会の停止宣言をしたサイード大統領
 γ⌒ヽ   の「清貧な独裁」体制がスタート。ロシアへの抗戦を通して国民国家を形成しつつあるウクライナとの差は歴然です
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  フクヤマの卓見おそるべし―――それはそうと予告していたペトロ岐部篇外伝については、今しばらくお待ちください

ttps://www.asahi.com/articles/ASQ7V6S6XQ7VUHBI007.html

【了】

12 ◆tsGpSwX8mo:2022/09/01(木) 22:58:03 ID:o5AqKpUc00
【2022年9月分 月例生存報告&書籍紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『崩れゆく絆』 チヌア・アチェベ著・粟飯原文子(アイハラ アヤコ)訳、光文社古書新訳文庫刊。2013年)
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────


   (~)    「アフリカ文学の父」の二つ名を持つ、ナイジェリア イボ族のノーベル文学賞作家アチェベ(1930-2013)の代表作
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  1958年に出版された原書は全世界に衝撃をもたらし、「アフリカ文学の誕生」と位置づけられるに至ります
 (´・ω・)  実際すごく面白い。個人的には『風と共に去りぬ』やパール・バックの『大地』が好きな読者なら、楽しめると思います

なおアチェベは、植民地支配を非難したジョゼフ・コンラッド著『闇の奥』(1902年)に潜む差別意識を弾劾したことでも有名(1977年)

──────────────────────────────────────────────────

『崩れゆく絆』あらすじ

十九世紀後半。イボ族の村落ウムオフィアで貧農ウノカの息子として生まれたオコンクウォは、肉体も精神も屈強そのもの。陽気
だがぐうたらな父ウノカへの反発もあいまって、貧困から抜け出すため必死で働く。結果、屋敷と三人の妻と八人の子、そして称号
二つを持つ、集落きっての有力者に成り上がる。一方で生来の荒々しい気性と辛かった生い立ちは、彼に狷介な性格をもたらした
妻子は、ささやかな失敗や怠惰にも厳罰で臨む家長オコンクウォを恐れた。特に長男ンウォイェにとって父は、不幸の元凶だった

そんなオコンクウォが、呪術や慣習が支配する世界で彼なりの浮き沈みを経ている間にも、白人宣教師の一団が到来する
「肌の色の白い黒いにかかわらず、我々は同じ神の子。兄弟です」と呼びかける白人宣教師。だが伝統的な大地の女神、空の
神、雷鳴の神を「偽りの神」と否定された人々は反発し、かつ嘲る。オコンクウォも三位一体の説明を聞いて「いかれ野郎」と
断じ背を向けるが、彼の息子ンウォイェはキリスト教に魅了されて改宗、学校に入る。激怒したオコンクウォは息子を勘当する

だが不吉として森に捨てられる双子を救い出したり被差別民を分け隔てなく受け容れる教会は、伝統社会の弱者にとり紛れもなく
救済だった。しかも白人との交易を通じて、ウムオフィア村はかつてなく繁栄。改宗者が増え、彼らが白人の政府建設に手を貸す
ことで権力を獲得。古い慣習に換わる白人の法で、村人を縛り始める。調子に乗った改宗者との衝突が激化すると、白人の地方
長官とその手先となる廷吏どもが現れ、オコンクウォを含む村の有力者たちを捕える。あげく廷吏らは彼らを侮辱し、罰金を課す

築いてきた威信が崩れ去ったオコンクウォ。絶望した彼は「白人様の権威」を盾に自分を卑しめた廷吏への、復讐を誓う―――

──────────────────────────────────────────────────


   (~)   巻末解説によれば、本作はトマス・ハーディー著『カスターブリッジの市長』との類似性が論じられるとのことですが、
 γ⌒ヽ  「一代で成り上がった富農の、失意の末路」というモティーフはGWTWのジェラルド・オハラや『大地』の王龍を思わせる
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 西欧の教育を受けた植民地人作家が、西欧人が親しむ類型に当てはめた人物造形でアフリカ文学の原点&頂点に……

【了】

13 ◆tsGpSwX8mo:2022/10/01(土) 09:15:13 ID:XT6kIbHU00
【2022年10月分 月例生存報告&文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『西洋の自死』 ダグラス・マレー著・中野剛志 解説・町田敦夫 訳、東洋経済新報社刊。2018年)
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────


   (~)    著者マレーは1979年生まれの英国人で、保守派のジャーナリスト。本書は英国で10万部を超えたベストセラーです
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  なお副題は『移民・アイデンティティ・イスラム』。すなわち本書は、欧州に非西欧系の移民が殺到して自前のコミュ
 (´・ω・)  ニティを構築するに至った現状をくわしく紹介し、危機感をこめて「西洋の自死」と定義づけた警世の書といえます

移民受け容れを大正義とする西欧人の「強迫観念」に踏みこむ後半を含めて、忌憚なく事実を直視する本書に、退屈な箇所は無い

──────────────────────────────────────────────────

以下、『西洋の自死』イントロダクションより引用


『欧州的だった場所が次第にそうではない場所になった。パキスタンからの移民が押し寄せた場所は、その地理的な位置以外の
すべての点においてパキスタンに似たものになった。近年の移民とその子どもたちは、彼らの出身地の食べ物を食べ、彼らの
出身地の言語を話し、彼らの出身地の宗教を信じるからだ。』(14〜15p)

『宗教のあった場所には、膨らみ続ける「人権」(それ自体がキリスト教に端を発する言葉だ)という言葉が入り込んだ。』(20p)

『(前略)ところが今日の欧州の倫理と信念(中略)においては、「敬意」と「寛容」と(何よりも自己否定的なことに)「多様性」が
重視されている。(中略)、社会が長く命脈を保つために不可欠な深い忠誠心を呼び起こすことはとても望めないだろう。』(22p)

──────────────────────────────────────────────────


   (~)   さて。今回本書を取り上げる気になったのも、先月8日に崩御した英国女王の報道に接して、思う処があったからです
 γ⌒ヽ  ご存じのように現代のロンドンは、人口の過半数が非白人。ところが国葬中、ロンドンは突如「白人の街」に戻った
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 公園に集いGSTQの歌い修めをするのも、霊柩車に花を投げるのも、安置された棺を弔問するのもほとんど白人……


   (~)  要するに旧植民地を出自とする英国民は、その大半が「自国君主」への哀悼の意を、白人の「国民仲間」と共有しなかった
 γ⌒ヽ 非礼を働く者は(報道を見る限り)、無かったにせよ。故人の生前における「歩みよりの努力」は、徒労だった気がします
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 晩年はアフリカ系の孫嫁との確執や奴隷商人像の撤去騒動など、むしろ歩みよりが争点の顕在化を促していた感もある



「私たちは泣くべきではない」エリザベス女王の死に、アフリカ系イギリス人たちが複雑な感情を抱く理由
ttps://news.yahoo.co.jp/articles/061d4a2c92623bcf01260210435affabddc98216
<9/15(木) 14:21配信:ハフポストUK版の記事を翻訳・編集 Habiba Katsha>


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ただしその一方で、こんな記事も……

香港の人々の「エリザベス女王への哀悼」に、中国政府が「やけに慌てている」理由
ttps://gendai.media/articles/-/99917
<9/18(日) 現代ビジネス  フリーライター・ふるまい よしこ>

【了】

14 ◆tsGpSwX8mo:2022/11/01(火) 23:48:58 ID:a5Y5XwLk00
【2022年11月分 月例生存報告&文献紹介】

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┃ 『ジョン・F・ケネディはなぜ死んだのか』 ジェイムズ・W・ダグラス 著、寺田五一/寺田正子訳、同時代社刊。2014年)
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   (~)    著者ダグラスは1936年生れの米国人。しかもジャーナリストや政治学者でなく、カトリック神学者という異色の書き手
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  副題は『語り得ないものとの闘い』。700頁を超える大部の書ですが、肝となるケネディ暗殺の描写は、陰謀論の域
 (´・ω・)  を出ない。膨大な資料を駆使してはいるが、著者の願望に基いて書かれた政治小説と評するのが妥当

然るに……本書と同じくケネディ暗殺の真犯人を「CIAと軍産複合体だ」と主張する、ご存じの映画監督オリバー・ストーンが原書
を激賞したため、当初はほとんど話題にならなかった同書は大ヒット。原書のAmazonレビューは現時点で707件に達しています

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第三章「JFKとベトナム」より(233p)

『いよいよケネディは、ベトナム撤退という道筋に障害となるものを排除するための態勢に入った。(中略)中立化政策のために
軍人のベトナム訪問を抑制する、このケネディの行動をペンタゴンは快く思わなかった。』


第四章「暗殺の標的に」より(250〜251p)

『ケネディに圧力を加えたのは、選挙民というよりは、冷戦でうるおっている兵器製造企業、そして、戦争に「勝利する」することの
意味が何であれ、それに全力を傾けるペンタゴンとCIAであった。こうした勢力に対抗して大統領執務室で実質的にはたった一人
で闘ったJFKにとって、政治的勇気という問題は、(中略)重大なものになった。』

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   (~)  ケネディを和平派(善玉)・軍を主戦派(悪玉)と明快に分ける筆法から分かる通り……本書は「ケネディなら、ケネディなら
 γ⌒ヽ ベトナム戦争の泥沼から、きっとアメリカを救ってくれていたはず」という神話を徹底して立証せんと試みる、政治小説です
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 大量の史料や取材に裏打ちされているにも関わらずそのバイアスゆえに、ケネディ神話の信者でなければ完読は困難


   (~)   ただし大部だけあってバイアスを飛ばしながら事実を拾えば、ベトナム戦争初期の事象を俯瞰する一助にはなります
 γ⌒ヽ  何より、いかにベトナム戦争が米国人にとり避けたい悪夢だったか、本書の熱烈なケネディ神話肯定から窺えるのです
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) かわぐちかいじの「ジパング」と同種。敗戦のトラウマは国民に「それを回避できた可能性」を、執拗に夢想させるのです

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あるいは本書は、米国版「竜馬がゆく」みたいなものかもしれません。見たい理想像がバズり、見たくない実像は忘れられる……
なお、参考までに政治学者の松岡完氏が「ケネディ神話」を論破している論文を、貼っておきます。>1は普通にこっちを支持

松岡完 『ジョン・F・ケネディとベトナム戦争  ――1963年の「失われた機会」神話をめぐって――』
ttps://core.ac.uk/download/pdf/56640817.pdf

【了】

15令和もどこかの名無しさん:2022/11/02(水) 17:41:26 ID:QZvTEZYM00
与謝野晶子はなぜジョン・F・ケネディを殺したのか
一言で言えば時代がそれを許した

16令和もどこかの名無しさん:2022/11/03(木) 10:34:48 ID:dbotoT9o00
しかし、それを言ったら江戸時代に鎖国してなければ、日本はもっと近代的に発展して
太平洋戦争で、あんあ悲惨な結果にならずに済んだという、本スレそのものでは

都合の良い「それが回避できた可能性」でしかないのは、前にここでも取り上げた
和辻哲郎の「鎖国:日本の悲劇」と同じだし

宣教師を送り出してるスペイン・ポルトガルも、西洋に対して開国・交流があった非西洋国も
布教が成功して、留学生を先進国にどんどん送り込んでた国々も、鎖国してた日本より
近代化してないのだから

17 ◆tsGpSwX8mo:2022/12/01(木) 12:21:29 ID:MWn0iXXU00
【2022年12月分 月例生存報告&映画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『オールド・ボーイ』 原作:土屋ガロン、監督:パク・チャヌク、主演:チェ・ミンシク、2003年の韓国映画
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   (~)     第57回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した、ハードボイルド映画の最高傑作の一つです
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}   版権をめぐって原作サイドの日本と映画サイドの韓国の間で、悶着があったものの。ハリウッドでもスパイク・リー
 (´・ω・)   監督、ジョシュ・ブローリン主演で2013年にリメイクされており、こちらも韓国版をふまえた中々の仕上がりです

なおボリウッド(インド映画)でも、無許可リメイクがあった模様

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『オールド・ボーイ』 あらすじ

堅気の勤め人ではあるものの飲助で粗暴なオ・デスはとある夜、幼い娘の誕生日プレゼントを買って帰途に就くも泥酔して
トラブルを起こしたあげく、謎の男の罠にかかり拉致されてしまう。あげく窓のないビジネスホテルのような個室に監禁される
拉致実行犯たちは顔を見せることなくオ・デスに食事を支給し、たまに睡眠ガスで眠らせてから散髪や爪切りまでしてくれる

室内にはテレビがあった。テレビニュースを通じてオ・デスは自分が監禁されている間に妻が監禁者の一味に殺害され、
あまつさえ失踪状態である自分に濡れ衣をかぶせていることを知る。復讐を誓ったオ・デスは、毎日代わり映えのしない
餃子定食を食いつつシャドウ・ボクシングでの鍛錬に励み、かつ密かな抜け穴づくりをもくろむ

だが監禁十五年目。いつものように睡眠ガスで眠らされた彼は、ついに外の世界に釈放される。目を覚ますとどこかの高層
マンションの屋上に居り、しかもしゃれた服に加え、高額紙幣がつまった財布と携帯電話まで支給される。早速オ・デスは、
自身を監禁した謎の男を探す冒険を始める。相手の動機については何かで恨みを抱いてのことだろうと推察できるオ・デス
だったが、おのれの粗野な半生には思い当たるふしが多すぎて内心、途方に暮れてもいた

それでも相手の復讐がまだ未完成であることを自覚するオ・デスは、自らもまた謎の敵に復讐すべくデス・ゲームに挑む―――

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   (~)
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}   モンテ・クリスト伯のアレンジ版という趣きながら、復讐が双方向である点が大きく異なっています
 (´・ω・)

   (~)    で、まあオ・デスを監禁した男イ・ウジンの動機が、日本の原作と韓国映画の大きな違いなんですがこれは映画の
 γ´⌒`ヽ  方が分かりやすく背徳的な設定になっており、しかもオ・デスに仕掛けられた復讐を劇的に昇華する伏線にもなって
  {i:i:i:i:i:i:i:i:}  います(その背徳性ゆえ、やや人を選ぶ設定ではあるにせよ)
 ( ´・ω・)
         ただ謎の男イ・ウジン役がオ・デス役と比して見た目からして若すぎる(14歳年下)のは、設定的にやや難点かも


ちなみに日本語吹き替え版におけるオ・デス役の声(磯部勉)が、セクシー・ヴォイスで実にいい。自分は専ら吹き替え派です

【了】

18 ◆tsGpSwX8mo:2023/01/01(日) 16:39:56 ID:4b9YEX6A00
【2023年 1月分 月例生存報告&漫画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『ぢるぢる旅行記 インド編』 ねこぢる著、株式会社ぶんか社刊、1998年
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   (~)     いまなお根強いカルト人気がある鬼畜系漫画家の故ねこぢる氏(1998年に自殺。享年31)が、事実上の共同執筆者
 γ⌒ヽ    でもある夫の山野一氏と1995年2〜3月にかけて、インドの聖地バラナシを貧乏旅行した時の体験を綴るルポ漫画です
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)   貧困と混沌、麻薬とスラム、ヒンズーとカーストが混然一体となったディープなインドを味わえる、興味深い旅行記……

なお、妻ねこぢる氏と死別した山野一氏は後日再婚し、双子姉妹をもうけて彼女たちが主役の「そせじ」を出版した由。人に歴史あり

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『ぢるぢる旅行記 インド編』 あらすじ(全19話中、1〜4話)

まずはお約束どおりタージ・マハールで、ガイドの説明の聞き流しから旅をスタートする ねこぢる夫妻。定番の観光ノルマをさしたる
感銘も無くこなしてから、ツンドラ駅発の夜行列車で16時間かけて600キロ彼方の目的地バラナシをめざす。だが夫がニュー・デリー
のインチキくさいバッタ屋から購入した寝台席は、座席指定なにそれ美味しいの状態で ぎっしりスシ詰め。眠れぬ列車旅とあいなる

バラナシでは、ガンジス川沿いのガート(沐浴場)で長期逗留中の自堕落な日本人青年と交流したり、街路の交差点でバラナシ名物
バングラッシーの店に入り、一杯30ルピーのミディアム(ほかライトやヘビーもある)に挑戦したりする
バングラッシーとは、ガンジャ(大麻)をすりつぶした汁をラッシー(ドリンクヨーグルト)で割った建前上はイリーガルな麻薬だが、
宗教的事情で地元警察が黙認している代物である(一方でこれまた宗教上の戒律により、酒は裏メニュー化状態)

果たしてホテルの部屋へ戻るまでにバングが徐々に効き始めた ねこぢる氏、ぐるぐる回って浮かんで飛ぶ気分へトリップしていく

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   (~)    5話で解説されるところによれば、「このバラナシは西海岸のゴア ネパールのカトマンズと並んでジャンキーの
 γ⌒ヽ   三大聖地と言われている ここでブラブラしてるだらしのない外国人はだいたいそーゆー人だ」とのこと
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  じっさい本書には現地で身を持ち崩している若い白人ジャンキーたちの生態も、これでもかとばかり描写があります


   (~)    無論ねこぢる氏もバングをリピートする等、だらしない方向で現地に染まっていく。だがその一方、鋭い観察力で
 γ⌒ヽ   カースト差別のえぐさ・貧困と重労働にあえぐ民衆の日常の悲惨さ・宗教文化の魅惑など、多岐にわたるインドの
  {i:i:i:i:i:i:}   素顔をさりげなく混ぜこみつつ、深い洞察をこめて紹介してくれてもいます。インドを見下すでなく熱愛するでもないその
 (´・ω・)  絶妙な距離感が心地よく、また絵柄自体に深刻なエピソードをマイルドにするイメージ効果がある点も、ポイント高い


まぁ>1的にはインド体験は、読むだけでおなか一杯かな。何はともあれ、あけおめことよろ

【了】

19 ◆tsGpSwX8mo:2023/02/01(水) 00:22:22 ID:bd8vSQVs00
【2023年 2月分 月例生存報告&書籍紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『料理人』 ハリー・クレッシング著、一ノ瀬直二訳、早川書房刊。1972年
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   (~)     本書には同じ訳者による旧訳版と新訳版があり、>1が所蔵しているのは旧訳版のほうになります
 γ⌒ヽ    訳者あとがきによれば原書は1965年、英国のランダム・ハウス社から出版されるも著者クレッシングの詳細は、不明
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)   ブラックユーモアの名作として名高い本書の刊行後、中編集を出すも以後は沈黙。長年にわたり、謎の覆面作家でした

然るに日本語版wikiで「ハリー・クレッシング」の正体が明かされています。1928年生れ1990年没、米国人の弁護士兼経済学者との由

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『料理人』 あらすじ

英国の架空の田舎町コブに、リュックサックを背負い自転車にまたがって、背の高い男がやってくる。彼の名はコンラッド・ヴェン、
コブの町の半分を仕切る地元の素封家ヒル家に雇われた料理人である。その風体は町の者に「飢えた黒い鷲」を連想させた

コンラッドと面接したヒル氏は渡された推薦状を見てまず驚嘆し、次に履歴書を読んで首をひねる。前者によればコンラッドは、
都会の一流レストランのコック長や食通の名士など、富豪とはいえ田舎者であるヒル氏がうらやむ人脈の持ち主だった。いっぽう
後者は対照的なほど貧弱で、コンラッドには職歴が無かった。聞けば、働く必要が無いだけの資産があったものの使い果たしたという
内心で不審を抱くヒル氏だったが推薦状に圧倒されたこともあり、道楽で料理の腕を磨いてきたと称する彼を採用する

果たして魔術的な料理の腕で、ヒル家の信頼を勝ちとるコンラッド。だが彼は屋敷の使用人仲間であれ取引先であれ、邪魔者となる
相手には陰険さを隠そうともせず排除・屈服させていく。一方で与しやすい相手には気前よく便宜を図り、巧みに威服せしめてもいた
しかもそれらの過程でコンラッドが見せる能力は、まさに超人。ただし同時に、しばしば名状し難い超自然的要素をも伴っていた

やがてコンラッドの料理に魅入られたヒル家の人々は彼を家族同然の存在と見なすようになり、ついには娘婿として迎え入れた
あげく彼に弟子入りし、主従逆転の様相を呈していく―――

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ   訳者あとがきから引用すると、「この物語は系列としては『ファウスト』から『レベッカ』にいたる悪魔物のひとつ」です
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  「奇妙な味のブラックコメディ」と評価される一方で、主人公コンラッドのサクセスストーリーとしても面白い点がミソ


   (~)    なろう系好きの読者なら、ダークファンタジー風味のピカレスクロマンという趣きで楽しめると思う
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}   ただし一貫してコンラッドが無双するぶんオチが弱く、結末はいっそ拍子抜け。どんでん返しも種明かしも無いのが
 (´・ω・)  物足りない。それでも独特の不条理設定と筋運びの面白さはやはり格別で、>1が折に触れ読み返す蔵書の一つです

【了】

20 ◆tsGpSwX8mo:2023/03/01(水) 08:37:34 ID:oK4OqHR.00
【2023年 3月分 月例生存報告&文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『大惨事(カタストロフィ)の人類史』 ニーアル・ファーガソン著、柴田 裕之訳、東洋経済新報社刊。2022年
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   (~)     以前ご紹介した、『文明』(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12973/1383056844/l50 の >703〜)の著者
 γ⌒ヽ    ファーガソンの新著です。タイトル通り、疫病パンデミックやあらゆる天災、大規模人災のうんちく集といった趣きの書
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)   膨大な史料を上手く整理できないまま羅列している嫌いもあるが、予測困難な災厄への、著者の畏怖は一貫している

日本関連では東日本大震災の他、日本軍によるシンガポール陥落を大英帝国沈滞の予告にして縮図と位置づけたのが興味深い

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「日本語版刊行に寄せて」(ⅰ〜ⅷ頁 ・ 2022年3月)より

<プーチンはずっと以前から人殺しの戦争屋であり、彼による主権国家の侵略は2012年以来、これで4度目だ。それにもかかわらず、
彼が起こしたこれまでの戦争は今回のものよりも規模が小さかったため、どういうわけか、彼は西側諸国が取引を行うことができる
相手だという妄想がしぶとく生き延びるのを許してしまった。>

<(前略)アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは、ロシアの「完全な」敗北を自信たっぷりに予測して私を驚かせた。「ロシア軍の
戦線崩壊は突然、壊滅的なかたちで起こりうる」とフクヤマは書いている。「軍が敗北を喫したら、プーチンは生き延びられない」。
しかも、「ロシアが敗れれば、『自由の新生』が可能になり、(中略)1989年の精神は生き続けるのだ」。
彼が正しいことを心から願うものの、私はそこまで楽観していない。(以下略)>

<3月16日にロシア国民に向けてプーチンが行った演説を観た人は誰もが気づいて身震いした。私たちが今渡り合っているのは、
(中略)正真正銘のロシアのファシストなのだ。(中略)プーチンはロシア国内で粛清が行われることをはっきりさせた。(以下略)>

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   (~)   原書の脱稿は恐らく2020年後半。露軍のウクライナ侵攻前であり、ゆえに本書索引にはゼレンスキーの名が無い。プーチン
 γ⌒ヽ  への言及も2か所だけで、その祖国観やシリア介入に簡潔に触れるのみ。著者は邦訳刊行にあたり、上記の文を追加した
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) よって本書でウクライナ侵攻への言及は、上記寄稿のみ。しかも戦争の見通しについては、いっそ臆病なほど悲観的です


   (~)    なるほどフクヤマの予測は、偶発的要素に依存している。だが曖昧な名分と威圧的命令で戦地に放りこまれ犠牲と窮乏を
 γ⌒ヽ   強いられ、しかもレンドリースが敵の手駒という条件はWW2と条件が真逆で、露国民の鬱屈が体制を蝕んでいくのは確実
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  然るに著者はプーチンを人殺しと断罪しながら、米大統領が彼を戦争犯罪人と断じたのは「無分別」だと、狼狽を隠さない

著者のプーチン弾劾の仮借なさと戦況分析の気弱さは奇妙なコントラストだが、彼がロシアの核ブラフを深刻に案じている為ではある

【了】

21 ◆tsGpSwX8mo:2023/04/01(土) 12:56:00 ID:7qfmxBec00
【2023年 4月分 月例生存報告&文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『戦争にチャンスを与えよ』 エドワード・ルトワック著、奥山 真司訳、文春新書刊。2017年
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   (~)
 γ⌒ヽ    著者ルトワック氏(1942〜)はルーマニア出身のユダヤ人。CSIS(米戦略国際問題研究所)の上級顧問で、戦略の論客
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)   本書は編訳者の奥山氏が、来日したルトワック氏へのインタビューに彼の既存論文等を追加し、一冊にまとめたもの

表題を兼ねた1999年の論文は、第2章に掲載。いかにも不穏な題だが、「停戦」という弥縫策の実情を究明する下りは一読の価値あり

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< 2 論文「戦争にチャンスを与えよ」 >

<(前略)UNRWAは、第一次中東戦争(一九四八〜四九年)の直後に、以前はパレスチナ領であったイスラエルの地域から逃れた
アラブ系の難民に、食事、住居、教育、そして医療関連サービスを提供するために設立された機関だ。(中略)
ところが、レバノン、シリア、ヨルダン、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区のUNRWAのキャンプは、以前のアラブ現地住民の大部分の
暮らしよりも、比較的高いレベルの生活環境を全体的に提供しており、しかも変化に富んだ食事や制度の整った教育、極めて優れた
医療制度も整備されて、荒野における重労働も見られなくなった。こうしてパレスチナの難民キャンプは、戦後の一時期のヨーロッパ
のような、「すぐに逃げ出したくなる場所」ではなく、「望ましい住処」となってしまったのだ。さらにアラブ諸国の援助もあり、UNRWAは、
逃亡していた民間人を「生涯を通じての難民」に変えてしまったのであり、彼らは、また難民となる子供を産み、その子供たちも、
難民の子供を産むことになったのである。
つまり、UNRWAは、五〇年間にわたる活動を通して、「パレスチナ難民国家」をつくり上げてしまったのだ。(中略)
UNRWAは、その存在そのものが、パレスチナ難民の現地への定住化を思いとどまらせる機能を果たし、移住を抑制してしまった。
さらにいえば、(中略)若い難民を自発的に、あるいは強制的に武装組織へと参加させることになった> (52〜54p)

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ  難民キャンプに関する氏の問題提起は、示唆に富む。「始まった戦争は決着をつけた方が、収まる処に収まる」という彼の
  {i:i:i:i:i:i:} 主張もWW2以前の常識ではある。だがパレスチナ難民に解散と近隣諸国への帰化を促す彼の案は、今や実現困難かも
 (´・ω・)


   (~)  また2016年10月のインタビュー(第9章、183〜202p)で氏は「ウクライナの国土統一は米国の利益に非ず。かの国のトップを
 γ⌒ヽ 親露派に挿げ替え、ロシアを米国の中国包囲に取り込め」と主張。今となっては、プーチンを見誤り策に溺れたという外ない
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) (なおこの『黒歴史』の反動か? 現在のルトワック氏は、一転して対露強硬派→ttps://gendai.media/articles/-/97194 )


とはいえルトワック氏が中国を、世界2位のGDPなのに「アフリカの小さな独裁国家のように不安定」(76p)と評したのは、笑いつつも同意

【了】

22 ◆tsGpSwX8mo:2023/05/01(月) 01:16:01 ID:EJc/Jgyg00
【2023年 5月分 月例生存報告&アニメ紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『未来少年コナン』 原作:アレグザンダー・ケイ、監督:宮崎駿、主演CV:小原乃梨子、1978年のNHKアニメ(全26話)
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   (~)     言わずと知れた宮崎駿SF活劇の、「原点にして頂点」―――
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}   本作に続く「カリオストロの城」「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」等、一連の傑作の魅力も全てコナンに源流がある
 (´・ω・)   主人公が銛一本で小銃や飛行艇に打ち勝つ超展開も、造りこまれた宮崎ワールドにおいては余裕で許容される主人公補正

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『未来少年コナン』 冒頭あらすじ

西暦2008年7月。核兵器をはるかに超える超磁力兵器を用いた最終戦争で、人類の大半と彼らの政体が死滅した―――
地軸はねじ曲がり、五つの大陸が水没。宇宙に逃れようとした旅客ロケットも破損して失速、辛うじて無人の孤島に不時着する
荒地に降り立ったロケット乗員一行は死を覚悟するも、幸い水源を発見。島が好漁場だったことも相俟って、生きる希望を取り戻した

だが20年後。元乗員一行(画面で数えると男性6+女性3の計9人)はほぼ死に絶え、生存者は「おじい」と呼ばれる老人だけになっていた
ただし彼を おじいと呼ぶ、12歳の少年が新たに同居していた。亡き乗員仲間が、島でもうけた遺児コナンである。コナンは度胸もあれば
頭の回転も速く、あらゆるピンチを人外な身体能力によるアドリブで解決してしまうミラクルボーイ。気性は優しく、おじいを慕っている

ある日。コナンは砂浜で気を失っている漂着者を発見する。かれにとっては おじい以外で初めて目にする他人、しかも同年代の異性だ
彼女の名はラナといい、ハイハーバーという島(農村)の住人だという。実は彼女はある事情で、大戦前の技術の残滓を武器とする
軍国主義的な科学都市インダストリアに、追われる身であった。かくしてコナンの、ラナを守る戦いの冒険が幕を開ける―――

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ   有難いことに、現在は ようつべで全話が視聴できます
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  (1話 ttps://www.youtube.com/watch?v=FZIkUeun2tk&list=PLbfBE23aoVrsIUEBWMLTVFjhc21t_vILa&index=1 )


   (~)    ちなみに原作「残された人びと」は、アニメとは似て非なる内容。インダストリアとハイハーバーの対立関係こそ(細部は
 γ⌒ヽ   どうあれ)共通するものの、SF的なメカ要素はほぼ皆無。コナンも大戦時の避難民の生き残りで、戦前を知る世代。避難
  {i:i:i:i:i:i:}  ヘリコプターの墜落で無人島に流れ着き、独りで5年を生き延び17歳に達した身の上。つまり原作に、おじいは出ない
 (´・ω・)
        コナンとラナは生き別れの知己。コナンの冒険にラナは全く絡まず最後の再会シーンも一瞬で、会話すら交わさず終わる


原作はアニメの「大津波」回がラストシーンなので、コナンがラナに避難勧告するだけ。ともあれアニメの方は、コナンとラナを絡ませる形
に変更して成功した。とはいえコナン生誕時点では欠員の無かった元乗員一行が、彼が物心つく前に おじい一人となった点は解せぬ…

【了】

23 ◆tsGpSwX8mo:2023/06/01(木) 00:35:01 ID:rz8oL5Rg00
【2023年 6月分 月例生存報告&映画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』 原作:クッツェー、監督:シーロ・ゲーラ、主演:マーク・ライランス、2019年 米伊合作
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   (~)     2003年のノーベル文学賞受賞作家、J・M・クッツェーの小説「夷狄を待ちながら」を映画化した作品です
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}   最初にお断りしておきますが、観客を選ぶ映画です。舞台装置の凝りようは楽しめるものの中盤の筋運びが、平板で冗長
 (´・ω・)

それでも冷酷な悪役ジョル大佐(ジョニー・デップ)の威圧感は、一見の価値あり。ロイドのグラサンに黒マント、実にラスボスの風格

──────────────────────────────────────────────────

『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』 あらすじ <ネタバレ注意>

果てしない砂漠の中、ポツンと浮かぶ小さな町。そこはとある(架空の)帝国の辺境。「野蛮な」遊牧民の勢力圏と境界を接する、最前線
でもある。そのため不釣合いなほど堅牢な城壁を構えているが駐留兵は少なく、町を統治する初老の民政官も、学者肌の温厚な人物
彼は対立を未然に避ける慎重な方針で、平和を維持していた

だがある日。ジョル大佐なる、こわもての指揮官が直属部隊を率いて町にやって来る。大佐は帝国中枢に流れた「蛮族が攻めて来る」
との風聞を信じこみ、「危機意識に欠けた、ぬるい方針の」民政官を叱責。郊外で放牧を営む、無実の蛮族を弾圧する
見かねた民政官が迫害されていた蛮族の少女を救出、自ら遠出して出身部族に送り届けたものの。ジョル大佐の腹心マンデラが、
これを叛逆と告発。大佐は民政官の地位を剥奪して彼を虐待する。さらに留守をマンデラに任せ、蛮族討伐隊を率いて出発する

だがジョル大佐の遠征は、返り討ちに遭う。蛮族の“警告”でその事実が判明するや、大佐の忠臣づらで弱い者いじめに熱中してきた
マンデラは臆病風に吹かれ、逃避行に要する馬や食糧を町からありったけ略奪。恥も外聞もなく、一目散で逃げ出してしまう
然るに、ジョル大佐は生きていた。僅かな敗残兵と共に町に戻るも、マンデラにあらかた奪われた民から、今や石もて追われる身であった

──────────────────────────────────────────────────


   (~)   設定は中華王朝と北方遊牧民の関係に近似しており、じじつ作中の蛮族はモンゴロイド。成吉思汗時代まんまの姿です
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  帝国側は、町の地元民含めコーカソイド(稀に黒人)。ただし帝国軍の軍服・装備・調度類が19世紀風で近代味があるのに
 (´・ω・)  対し、町の地元民は中央アジア辺りの伝統衣装を思わせる身なりをしている。開化の遅れた僻地っぽく、差別化されています


   (~)
 γ⌒ヽ   とはいえ帝国軍も、服や銃こそ規格統一されているものの(通信手段はじめ)装備は未電化で、熱機関も有していない
  {i:i:i:i:i:i:}   蛮族同様、移動手段は馬一強
 (´・ω・)

この絶妙な匙加減は、帝国の威光をかさに横暴を極めるジョル大佐やマンデラが無様をさらすカタルシスに、説得力を与えています

【了】

24 ◆tsGpSwX8mo:2023/07/01(土) 21:56:24 ID:GmxnL4pI00
【2023年 7月分 月例生存報告&書籍紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『イヴァン雷帝』 アンリ・トロワイヤ著、工藤庸子訳、中央公論社刊、昭和58年
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   (~)    暴君の総合商社国ロシアにおいてさえ、希代の暴君として名高い近世ロシアのツァーリ・イヴァン四世の伝記です
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  著者はロシア系フランス人作家アンリ・トロワイヤ(1911〜2007)。本書以外にもピョートル大帝やエカテリーナ二世の評伝を
 (´・ω・)  著しています。その読みやすさと面白さも相俟って近世ロシア史の入門書をひも解く向きにはぜひ、アンリ本をお勧めしたい

アンリの伝記が素晴らしいのは、ロシアの風俗・慣習の描写が具体的で情景を想起し易いこと。以下に、食べ物関連の描写を引用します

──────────────────────────────────────────────────

『イヴァン雷帝』 第3章「ツァーリ・イヴァン四世」より(35p)

『西欧の旅行者がそろって伝えるところによれば、ロシアの男は腹がつき出しており、一方女は、贅沢な食事と運動不足がたたって、
脂肪で肥満していた。ロシア料理は、非常に変化に富み、にんにく、玉葱、麻の油などを薬味に使うため、どれもきわめてしつっこい。
裕福な家の食卓に並ぶものは、ローストビーフ、若鶏のレモン添え、シチー(ロシアの代表的なキャベツ・スープ)、米や魚入りピローグ
のようなパイ料理、卵のピロシキ、クリーム入りのブリヌィー、カーシャ(蕎麦と粟の粥)、キセーリ(つるこけももの汁を煮つめ、砂糖を
加えて片栗粉でとろみをつけたもの)、しょうがや蜜のアントルメ……。精進日には、ちょうざめ、かます、鮭、その他魚の衣揚げ、
そしてキャヴィアなどが人気を呼んだ。飲み物としては、クワス、ハンガリア産葡萄酒、蜂蜜酒、ウォトカがあった。』


同 第15章「ステファン・バトーリ」より(224p)

『食卓のうえには、しょうが入りの雄鶏、白鳥の丸焼き、香料入りの粥、骨を抜いた若鶏、えぞ雷鳥のクリーム煮、きゅうりと鵞鳥の料理、
かぶと野兎の料理、大羚羊の脳、詰物をした魚、それに様々のパテ、等々が次々に現れる。山のような食料から、にんにく、サフラン、
玉葱、すえた牛乳の臭いが漂う。料理は手づかみで食べ、骨を金の皿に投げる。汁がひげに流れこみ、顔が上気し、声がひときわ高く
なる。(中略)彼らの胃袋では、蜂蜜酒、ラインやフランスやギリシャの葡萄酒、ウォトカ、クワスがカクテルになっている。』

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ   本書でロシア料理に興味を抱いた>1は、わざわざ「ロゴスキー」に行ったりしました。個人的には、普通に好みです
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  因みに本題である暴君描写でも、上記の執拗な文体が実に効果的。正直、西洋人読者向けのバイアスは疑ってますが…


   (~)    ともあれ。宇露戦争の余波で「ロシア料理店に嫌がらせ」という報道に個人的には、胸が痛みます。食い意地的に考えて!
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}    (AERA2023/02/23『ロシア人は出ていけ」と嫌がらせも ロシア料理店シェフ「望まぬ戦争」と知ってほしい』)
 (´・ω・)     ttps://dot.asahi.com/aera/2023022100063.html

【了】

25 ◆tsGpSwX8mo:2023/08/01(火) 09:02:23 ID:hVL1Al1c00
【2023年 8月分 月例生存報告&書籍紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『戦国自衛隊』 半村良著、ハヤカワ文庫刊、昭和50年(wikiによれば誌上掲載は1971年、つまり昭和46年)
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   (~)    ご存じ日本SFのタイムスリップものにおける代名詞。半村良(1933〜2002)の、事実上の代表作になった中編
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  映画に劇画、TVドラマ等々、種々の映像コンテンツにも展開。昨今の自衛隊を主役とする架空戦記の系譜に
 (´・ω・)  おける「原点にして頂点」。いわば記念碑的作品であることは、論を俟たない。とはいえ―――

とはいえ。実を言うと作品の長さといい濃さといい、全盛期の半村が筆のすさびで書いた小品というのが、原作の本質

──────────────────────────────────────────────────

本作「撰銭令」より(152〜154p)

『(前略)義明は天皇親政をひとつの解答として考えていた。職階は機能本位であるべきなのだ(中略)。
天皇を頂点とする有能な官僚機構。それがあってはじめてこの国は正しく機能する。そう考え始めているのに、
肝心の天皇は将軍将軍と口ぐせのように幕府を求め、自らを否定する発想しかしていない。
それほど命が惜しいのか、とも思う。(中略)これではまったく、あなたまかせのもらい乞食ではないか。
いま義明が考えているのは、まず第一に通貨の統一ということである。通貨を統一し、その発行権を最終的に皇室が握れば、
それで一つの政府が形成できる。デモクラシーは遠い先のこととしても、それで幕府が必要なら、その幕府は内閣に相当し、
国家にひとつの芯が通るわけである。内閣が投票で決るか戦闘できまるかは、時代の推移の程度の問題であろう。(中略)
従来の撰銭令が、やみくもに銭えらびを禁じているのは大きな間違いで、悪貨は悪貨として民衆の要求も認めてやらねば
ならないのである。義明は今回の撰銭令では、はっきりと銭えらびをしてはいけない通貨をきめてやるつもりであった。
統一通貨発行の前に、そうやって少しでも悪貨を追放してしまう必要があるのだ。』

──────────────────────────────────────────────────


   (~)   引用箇所でお察しの通り戦国自衛隊の原作は、主人公の伊庭義明 三等陸尉が(信長なき世界の信長として)近代の
 γ⌒ヽ  戦略センス・行政感覚を駆使しつつ戦国日本に可能な範囲での改革を追及する、政治シミュレーション小説なのです
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 映像化作品が戦闘描写主体になったのは必然にせよ。原作での戦闘シーンはあっさり風味。物語の一要素でしかない


   (~)    また上記引用箇所でも分るように、少年時代に敗戦を味わった半村良の作風は多分に反権力的ではあるが、
 γ⌒ヽ  反体制の過激さは無い。皇室を批判する一方で、その断罪・否定を志向する左翼の方向性とは一線を画した
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  とまれ直木賞受賞の流行作家が数ある傑作を差し置き、映像化コンテンツとなった佳作で記憶に残るのは皮肉…

【了】

26 ◆tsGpSwX8mo:2023/09/01(金) 15:27:52 ID:WVmcQQmk00
【2023年 9月分 月例生存報告&文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『法律家の見たイエスの裁判』 W.フリッケ著、西義之訳、株式会社 山本書店、1990年刊
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   (~)    史的イエス(史実上のキリストの実像を追求する、学問上の試み)における、受難(磔刑)に焦点を当てた書
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  著者はドイツの弁護士。はしがき(2〜5p)によれば、戦中に8人のユダヤ人を気ままに射殺して無期禁固の
 (´・ω・)  判決を受けた元警官の弁護に携わった経験が、本書の原点。著者は職務上、反ユダヤ主義と向き合った

その結果、反ユダヤ主義思想の源流は「残念ながら───新約聖書の記者たち」にたどり着くことに、著者は気づくのです

──────────────────────────────────────────────────

<第1部 人物調書 ・ 3章 イエスの歴史的実在性への疑問>108〜112p

<古代世界全体にとって、磔刑は嫌悪すべき刑であった。(中略)そこでパウロは、自分の神学を駆使して、この窮境から美徳を
作り出そうとした。(中略)つまりこうである。イエスは磔刑という「恥ずべき死」によって、自ら全世界の呪いを一手に引きうけ、
それでもって異邦人(異教徒)の救済者にもなられたと。(中略)原始キリスト教会にとっては、十字架を新しい信仰のシンボルと
して受け入れるなど、はじめはまだ考えられぬことだった。(中略)十字架が儀式に入りこんできたのは、(中略)処刑方法としての
磔刑が廃止されてのちになってである。(中略)十字架上で死んでいるイエス像が現れるのは、(中略)やっと八世紀以後(以下略)
歴史的イエスの研究にとって、(中略)十字架は、イエスがユダヤ人によって殺されたのではなく、イエスが愛国者としてローマ式
拷問柱の上で死んだこと、を証明するものである。(以下略)
(前略)イエスをメシアとして紹介する場合、メシアはイスラエルにのみ意味を持ちうる(中略)メシアはユダヤ民族の国民像で
あって、(中略)全人類の解放者として表現しようという努力に対して、埋めることのできぬ矛盾だということである。
(前略)つまりこの世の終わりが到来し、イエスや、弟子たち、イスラエルの全民衆が、神の支配の始まり───キリスト再臨
───を体験するだろうことは、イエスにとっては確固揺ぎない信念であった。しかしこの点において、イエスは明らかに
まちがったわけである。

──────────────────────────────────────────────────


   (~)   本書によれば、キリストは(支配者ローマとの直接対決を避ける)穏健派ではあるが異邦人に冷淡な民族主義者で、
 γ⌒ヽ  ゆえにローマ人の総督ピラトによって十把一絡げに反乱分子の一派と目され、雑な軍事即決裁判で処されたという
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 総督ピラトはユダヤ人に非情なローマ軍人であり、キリストは彼が無造作に処刑した有象無象の一人にすぎない


   (~)   だがパウロに代表されるように「救済者イエス」を非ユダヤ人、とりわけローマ人に布教するにあたり。イエスの磔刑を
 γ⌒ヽ  生の史実で提示すると、「愛国者イエス」が汎世界的帝国ローマに排除されただけという、何やら都合の悪い話になる
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) かくして。キリストの逮捕・磔刑に無関係で、処刑当時は同情的だった形跡すらあるユダヤ律法学者に濡れ衣という顛末

【了】

27 ◆tsGpSwX8mo:2023/10/01(日) 08:24:32 ID:s9r2nujM00
【2023年 10月分 月例生存報告&文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『誰がネロとパトラッシュを殺すのか』 ディーンデレン&ヴォルカールト編著、塩崎香織訳、岩波書店刊、2015年
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   (~)    副題は『日本人が知らないフランダースの犬』。言わずと知れた1975年の日本アニメを、現地人の視点で見直す書
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  編著者アン・ヴァン・ディーンデレンは映画監督。ディディエ・ヴォルカールトはベルギー出身、博士号持ちのアニオタ
 (´・ω・)  ほかに原作者ウィーダの研究家や人類学者、日本と観光の専門家が分担し、それぞれの分野につき論じています

つまり本書では、有名な日本のアニメにとどまらず原作者ウィーダの軌跡や米国で映画化した五作品についても論じられており、
図らずも同一のコンテンツを通じて日米英白(ベルギー)の価値観の相違を、多角的に俯瞰できる資料にもなっているのです

──────────────────────────────────────────────────

『誰がネロとパトラッシュを殺すのか』 第5章「悲しい結末を愛する日本人」より

<ウィーダは作品の中で個人的見解をはっきりと述べる(中略)。フランダース地方で犬荷車が使われていたことは、イギリス人
にとってはおそらく(ウィーダにとっては間違いなく)我慢ならないことだっただろう。ネロが芸術家としての真価を認められずに
味わう苦境も、(イギリス人である)ウィーダには主要なモチーフのひとつだ(中略)。『フランダースの犬』に登場するフランダース
人は、おとなしいだけの田舎者、無教養な人間、しみったれ―――要するに小心の伝統主義者として描かれている。>(177p)

<アメリカ映画の五作品すべてに共通して用いられた翻案のパターンは、家族を大切にするアメリカの価値観を明確に伝える
ものだ(中略)。ハリウッドで映画化された五作品はどれも必ずハッピーエンドで終わる。自分自身への信頼と自国の価値観に
対する信念をアメリカの観客が失わないようにするためだ。>(178p)

<一方で日本の場合、(中略)映像化された>日本の親は、子供たちが他人の悲しみや苦しみに共感する能力を養うことが
重要だと考えるのだ(中略)。『フランダースの犬』と日本の間には明確な「文化適応性」がみられる。>(178〜179p)

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ   総じてフランダース人は「フランダースの犬」というコンテンツに冷淡か、わざとらしい無関心に徹する傾向が強い
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  とはいえ英語圏で書かれた原作が、当のフランダース人に辛辣すぎる筆致だったことがそもそもの原因ではある


   (~)    加えて日本アニメもまた「風車をはじめ、オランダのステレオタイプをちりばめた風景と衣装」(75p)を、多用している
 γ⌒ヽ   これは現地を聖地巡礼する邦人観光客を戸惑わせ、かつフランダース(北部ベルギー)人を素で煽る要素でもある
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  但し本書は「よそ者が創ったイメージに反発するだけでは、非建設的。むしろ踏み台にすべき」と、提言しています

なおスタッフだった宮崎駿が本作を酷評したのは有名だが、じっさい鬱展開で説教臭いこのアニメ、現代なら爆死必至だと思う

【了】

28 ◆tsGpSwX8mo:2023/11/01(水) 11:05:43 ID:koky2Bb600
【2023年 11月分 月例生存報告&アニメ紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『アレクサンダー戦記』 原作:荒俣宏、監督:兼森義則・りんたろう、主演CV:関俊彦、1999年のTVアニメ
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   (~)    タイトルでお察しの通り「歴史」アニメです。紀元前4世紀、マケドニアの征服王アレクサンドロス3世が主人公
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  ただし衣装や建築、武器のたぐいは、史実の再現性など微塵もないファンタジックというも近未来の趣であり、
 (´・ω・)  登場人物もほとんどが実在人物で征服行の大筋も歴史に沿っているにも関わらず、実態は異世界アニメです

その確信犯的な脚色とキャラデザインのくせの強さは、今でもタイトルでぐぐると「気持ち悪い」が上位に出ることでお察し
とはいえ刺さる人には強く刺さる、激臭の発酵食品とか激辛のエスニック料理みたいな作品でもあり、現に>1はハマった

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『アレクサンダー戦記』……第一話あらすじ

マケドニア王フィリポス2世の妃にして巫女のオリュンピアスは、出産のおり「生まれてくる息子が世界を滅ぼす」という神託
を受けて(なぜか)歓喜する。果たして「万物は数で成る」とするピュタゴラス教団がアレクサンダーの生まれ持つ「数」は
危険であると察知し、その暗殺をもくろむ。成長したアレクサンダーを付け狙う教団が放つ刺客たちは、忍術使いのように
空中を自在に移動し、九字印みたいな手指の所作で敵を拘束する結界を張れるチートな怪人集団。だがそんな彼らも、
アレク王子の強靭な意志の前に敗れる。刺客の待ち伏せを排除したアレク王子は、首尾よく「人食い馬」と恐れられていた
野生馬プケファロスを獲得。「速度」にこだわる彼は、きたる初陣で騎兵運用によるバトル・ドクトリンの革命を企図していた

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ   ……とまあ空中機動も自在な呪術パワーを駆使するピュタゴラス教団、近現代設定の異世界アニメ「幼女戦記」
  {i:i:i:i:i:i:}  の魔導師大隊もかくやの化け物ですが、主人公はその異能ぶりには惑わされず? 名馬の確保を優先する
 (´・ω・)


   (~)    なおマケドニア軍にもハンググライダー部隊が、後半で登場します……重装歩兵も、ロボット変形な描写です
 γ⌒ヽ   いっぽう敵方ペルシア帝国も動く歩道やエレベーター、非畜力の車両や火炎放射器を完備するオーパーツ軍団
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  なおアレク大王の主力・騎兵隊(鐙があるのはご愛敬)は見てくれこそケバいとはいえ、見た目通りのローテク

ちなみに>1のお気に入りキャラは、大王側近の一人プトレマイオス(CV:池田秀一)。典型的なコメディリリーフ。小心かつ
姑息なヘタレで、無駄に威圧的な顔面ペイントが可愛く見える憎めないザコ。史実における勝ち組ぶり故の、ギャップ萌え枠

加えてアリストテレスも腹に一物あるダークな人物設定だが、大王の征旅に従軍する彼の親族は、架空の姪カッサンドラ
実在の甥カリステネス(大王に叛意ありとされ処刑)は出ない。陰湿凄惨な内紛粛清で、アレクが手を汚す史実は修正済み

【了】

29 ◆tsGpSwX8mo:2023/12/01(金) 16:41:09 ID:a.7iEh.s00
【2023年 12月分 月例生存報告&書籍紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『わたしは大統領の奴隷だった』 エリカ・A・ダンバー&キャサリン・V・クリーヴ共著、渋谷弘子訳、汐文社、2020年刊
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   (~)    サブタイトルは「ワシントン家から逃げ出した奴隷の物語」。アメリカ初代大統領の家に居た、女奴隷の実話
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  女奴隷の名は、オーナ・マリア・ジャッジ(1773or1774 - 1848/02/25)。ワシントンの妻マーサが所有する奴隷
 (´・ω・)  オーナの母ベティもマーサの黒人奴隷で、母子とも裁縫が主な業務でした。ベティは1795年、56か57歳で逝去

オーナの父アンドリュー・ジャッジは白人で、ワシントン家の年季奉公人だった仕立職人。即ちオーナは白黒ハーフの奴隷
とうぜん両親に婚姻関係はなく具体的関係性も不明だが、父も娘は認知していた。但し年季が明けると、母子を残して去る

──────────────────────────────────────────────────

『わたしは大統領の奴隷だった』梗概

混血奴隷オーナ・マリア・ジャッジは大統領夫人マーサ・ワシントンのお針子として、忠実に働いていた
だが1796年5月21日。主人の孫娘イライザ(マーサの前夫カスティスの系譜)の結婚祝いとして贈られる直前に、脱走する
著者は「オーナもイライザを覚えていたはずだ。三歳年下の、あのわがままな子だ(中略)。オーナにも思うところがある。
イライザ・カスティスは子どものころからずっと意地悪な少女だった」(106p)と、イライザ(本名エリザベス)が原因と推測する

大統領官邸から逃亡して49年。オーナのインタビュー記事が在所の新聞「グラニット・フリーマン」に掲載される(195p)
「(前略)ワシントン夫人の侍女だった彼女は、取り立ててつらい思いをしていたわけではない。なぜ逃亡したのかと問われ、
ふたつ理由をあげている。自由になりたかった。そして、大統領夫妻(中略)の孫である女性の財産になることがわかり、
そうはなりたくいと思った。(以下略)」(ニューハンプシャー州コンコード市、1845年5月22日木曜日付の記事)

──────────────────────────────────────────────────


   (~)  インタビュー当時、オーナはニューハンプシャー州ロッキンガム郡の田舎町在住。郡の援助で余生を送っていた
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:} 彼女は大統領官邸があったフィラデルフィアで逃亡に協力する自由黒人との人脈を作り、デラウェア川から船で
 (´・ω・)北部ニューハンプシャー州ポーツマスに密航。自由黒人ジョン・ジャックの家に匿われ、家事労働で日銭を稼ぐ


   (~)   オーナ逃亡の翌々日(5月23日)、早くもワシントン家は逃亡奴隷オーナの捜索依頼を新聞広告に載せている
 γ⌒ヽ  果たして潜伏先ポーツマスに在住するジョン・ラングドン上院議員がオーナを発見、書簡で大統領に通報する
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) さっそく大統領は人を派遣して、オーナを説得。拒まれると強引に連れ戻そうとするが失敗。ウヤムヤとなる

オーナが逃亡した時、ワシントン大統領は2期目満了(1797年3月)まで残り1年を切っており、奴隷一人に専念する余裕も
無かった。オーナは大統領夫妻に宗教の敬虔さは感じなかったと評しているが、大統領には奴隷制への葛藤が生じていた

ともあれオーナは大統領が辞任するより一足先(1797年1月)に、自由黒人の船員ジャック・ステインズと結婚。翌98年に
長女を出産。興味深いことに、イライザと命名した。さらに一男一女を得るが、夫ジャックは1803年に逝去(死因は不明)
長男ウィリアムは東海岸で船乗りとなり、家を離れた。いっぽうイライザと次女ナンシーは未婚のまま、三十代前半で病没

結局、再婚もせず孤独(ただしジョン・ジャックの娘と同居)となったオーナだけが、84か85歳の長寿を全うして終わっている
なおオーナには異父兄2人・異父姉妹2人が居り、妹フィラデルフィアも後に解放された。未婚母ベティ、なぜか妙に子沢山

【了】

30 ◆tsGpSwX8mo:2024/01/01(月) 10:02:51 ID:sUO9P0lc00
【2024年 1月分 月例生存報告&映画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『快盗ルビイ』 原作:ヘンリー・スレッサ―、監督&脚本:和田誠、主演:小泉今日子&真田広之、1988年
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   (~)    マルチな才能を発揮したイラストレーター和田誠(2019年、83歳にて没)の、「麻雀放浪記」に続く監督作品
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  前作「麻雀放浪記」はモノクロで、GHQ占領統治にあえぐ混沌とした焼け跡社会の世知辛さや遣る瀬無さを、
 (´・ω・)  すでにそれが過去の歴史となっている1984年当時に古典的な演出で表現した、画期的な戦後史映画でした

ところがその4年後に公開した本作「快盗ルビイ」は打って変わって、「優しい世界」現代日本が舞台となる、明るいコメディ
前作で坊や哲を演じた真田広之が、本作では怪盗志願の中二病な美女に振り回される、ちょろい好青年を好演します

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『快盗ルビイ』あらすじ

母親と二人暮らしの気弱なサラリーマン・林徹(真田広之)は、上の階に引っ越してきた加藤留美(小泉今日子)と出会う
美人で愛嬌のある留美ことルビイに一目ぼれした徹は、出来心で彼女の水着写真を盗んでしまうものの、あっさり露見
それがきっかけでルビイに主導権を握られた徹は、彼女の犯罪計画の片棒担ぎにされてしまう
スタイリストを生業とする普通の市民ルビイだが、犯罪マニアが高じて怪盗を志す「中二病」女子だったのである

ところが臆病で要領が悪い徹と、策に溺れてやたら手がこんだ作戦を好むルビイは、犯罪者コンビとしては相性最悪
何をやっても空回り。とはいえいつも奇跡的な偶然で被害者が発生せず、刑事事件への発展だけは回避できていた
かくして、ルビイの意図せぬ方向で結果オーライの迷コンビとなった二人だが、実はルビイには、本命の彼氏がいた

ふとしたことで徹との関係を彼氏に疑われ、喧嘩したルビイ。彼氏との修復を望む彼女を救うべく、徹は危ない橋を渡る

──────────────────────────────────────────────────


   (~)   原作はアメリカの作家ヘンリー・スレッサ―。連作短編「快盗ルビイ・マーチンスン」(村上啓夫訳・早川書房)
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  ただし原作のルビイは23歳の男性であり、(物語の語り手でもある)相棒役は、彼の気弱な従弟という設定
 (´・ω・) 基本の筋運びは同じでも主役コンビを男女カップルにした映画の方が、華のある仕上がりになったという印象


   (~)   36年も前の邦画ですが、今見てもスタイリッシュで可愛い佳作。若き日の小泉今日子を楽しめる点でも貴重
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:} 何より同じ監督の前作「麻雀放浪記」とのギャップの大きさが、>1の印象に深く刺さる映画でもありました
 (´・ω・)

重苦しい世情の下、必死に生きる日本人のなまなましい悲哀や憤怒が描かれた「麻雀放浪記」の泥臭さに比べ、お洒落で
垢抜けた世界観の本作は対照的といっていい。穿った見立てだが、戦後日本の歩みを支持する監督の思想を感じなくもない

ちなみにルビイ役の小泉今日子についていえば、個人的に若手時代の主演映画としては、本作が彼女の最高傑作だと思う
実はアイドル時代から声質・ルックスに「熟女」の貫禄があった人で、女優としては三十路以降からが本領発揮という印象
稚気満々だがコケティッシュな本作ヒロインは、邦画に珍しく湿っぽさの無いキャラで、小泉の知られざる当たり役といえる

【了】

31 ◆tsGpSwX8mo:2024/02/01(木) 00:24:23 ID:jMhWSPvk00
【2024年 2月分 月例生存報告&漫画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『ペルセポリス イランの少女マルジ』Ⅰ〜Ⅱ マルジャン・サトラビ著、園田恵子訳、バジリコ株式会社刊、2005年
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   (~)    著者マルジャンの自伝漫画です。マルジャンはパリ在住のイラン人女性漫画家で、裕福な上流階級の生まれ
 γ⌒ヽ   しかも両親は愛情深く、道徳・知的水準も高い。日本なら親ガチャ大成功、人生勝ち組ほぼ確定の出自です
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  だが「上級国民の日常」を描くだけの自伝なら、12か国語に翻訳されたり国際的賞を複数獲る筈もないわけで

カギは「1969年生まれのテヘラン育ち」という著者のプロフィール。即ち本書は、イラン現代史の「内部告発」に他ならない

──────────────────────────────────────────────────

『ペルセポリス イランの少女マルジ』Ⅰ 前半部あらすじ

パーレビ王朝末期のイラン。富裕層の子女として『とてもモダンでアヴァンギャルド』な西欧風のライフスタイルで育った
少女マルジは、かなりお転婆な一人娘。悪戯好きで時おり母から厳しくしつけられもするが、素朴な信仰心も持っていた

彼女がフランス語学校に通学していた時期に、祖国はイラン革命へと突入する。革命初期はイデオロギーがなんであれ、
反王制でさえあれば容認されるモラトリアムな時期だった。マルジの母校では非宗教的な校風もあいまって共産主義が
英雄視されており、マルジもチェ・ゲバラに扮して自称カストロや自称トロツキーと共に模造銃を担ぎ、デモの真似事をする

街頭でのデモ活動が激化する中、ついにシャー(国王)が国外に亡命する。国中が歓喜の熱狂に包まれる中、投獄されて
いた三千人ほどの政治犯も解放された。その中にはマルジの伯父アヌーシュも含まれていた。共産主義者である彼は、
初めて会う姪マルジに波乱に満ちた己の半生を語る。だがマルジの父は、左翼の共和主義者が主導すべき革命が、
日増しにイスラームの宗教家に乗っ取られていく情勢に憤慨していた。西欧風の暮らしに馴染んでいたマルジの親族や
学友の家族も「誰も本当の危険に気づいていない」という不気味な言葉を残して、ほとんどが国外に去って行くのだった

そんな中。アヌーシュの囚人仲間(同志)で、解放時点では革命の英雄視されていたモフセンが自宅浴室で頭だけ浴槽に
浸かった格好で溺死する。もう一人の仲間シアーマクは、自宅に押しかけた執行人が自分の妹を絞殺したのを受けて、
家族とともに越境。左翼革命家が次々と新体制に殺される中、遂にアヌーシュも逮捕される。彼は処刑前に姪マルジとの
面会を望んだ。マルジへの愛とプロレタリアの勝利を信ずる言葉を残して「ロシアのスパイ」は、刑場の露と消える……

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   (~)    とまあ、小学生時代から中々にハードモードな体験を重ねているマルジですが、実家が太かったお蔭もあり
 γ⌒ヽ   Ⅱ巻以降の青春時代は、オーストリアに留学。ウィーンの豊かさに圧倒される一方カルチャーショックも味わう
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  それでも斜に構える性格ゆえ、校内でもヒッピーや自殺願望の変わり者など癖のある学生たちとつるんでしまう


   (~)    逗留先の修道院には馴染めず転居を繰り返したり、仲間に合わせてパンクなファッションをしたりマリファナ
 γ⌒ヽ   パーティに参加したりもするが、祖国がイラクと戦争中ゆえの後ろめたさもあり、欧州での暮しに溶けこめない
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  オーストリア人青年との恋愛も経験するが、彼の母親に邪魔され体よく利用され挙句二股かけられて、破局


とまれイラン革命時代を具沢山で読める、貴重な証言といえます。ただし絵柄はナニワ金融道系?で、好みは分れるかも
なお本書は同名タイトルでアニメ映画化(2007年・フランス)もしており、著者自身が監督・脚本を担当。各賞を受賞した

【了】

32 ◆tsGpSwX8mo:2024/03/01(金) 20:43:42 ID:3iwQwqFk00
【2024年 3月分 月例生存報告&映画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『スターリンの葬送狂騒曲』 原作:F・ニュリ&T・ロビン、監督:アーマンド・イヌイッチ、主演:スティーヴ・ブシェミ、2017年 英仏合作
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   (~)    タイトルに、奇をてらうヒネリはありません。読んで字のごとく、ソ連の独裁者スターリンの死後に起きた権力
 γ⌒ヽ   闘争劇をカリカチュアしたブラック・コメディ映画です。原作は、(自分は未読ですが)フランスの風刺漫画
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  当然ながら史実そのものではなく、映画的誇張がある。まして英仏映画。軽妙洒脱な演出で笑わせに来る

20世紀最大最悪の圧政社会で起きた「お家騒動」を敢えて乾いた笑劇に換えたのは、深刻な糾弾の裏返しにも見えます

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『スターリンの葬送狂騒曲』 あらすじ

時は1953年、所はソ連のモスクワ。その日もスターリンの裁可を得た粛清リストに従い、ベリヤの指揮するNKVD(秘密
警察)が夜の町のあちこちで、罪なき市民らを逮捕・連行していく。スターリン自身はと言えば自室で寛ぎつつ、ラジオから
流れるコンサートの生放送に興じていた。あげくラジオ局に直接電話し、「放送の録音盤を届けろ」と無造作に命令する

独裁者のオーダーに大混乱した現場では、四苦八苦して演奏を再開。録音盤をスターリンのもとに届けるが、独裁者に
家族を害された恨みを抱く女性ピアニストが、レコードに呪詛のメモを忍ばせていた。メモを読んで嘲笑するスターリン
だったがその刹那、脳出血で昏倒する。独裁者の部屋の前で警護する衛兵二人は、室内の物音に気付いたものの。
へたに中を確認して処分されるのを恐れ、朝の茶を運んできたメイドが来るまでの長い夜、徒に病人を放置してしまう

やがて瀕死のスターリンが倒れている部屋に、ソ連共産党の幹部たちが次々とはせ参じてくる。マレンコフ、フルシチョフ、
ミコヤン、カガノーヴィチ……かれらは粛清によって瓦解していた医師団を強引に再結成して意識を失っているスターリン
を診察させるも、医師は「右半身まひ、回復の見込み無し」と告げる。これにはベリヤをふくむ幹部一同、開放感を味わう

ほどなくスターリンは一瞬だけ意識を回復するも、直後に逝去する。残された幹部たちによる主導権争いの暗躍が、早速
始まった。父スターリンの急逝を聞き急行してきた遺児スヴェトラーナの到着を聞きつけるや誰よりも早く彼女のもとに
馳せ参じて取り入るべく、ソヴィエト共産党の大幹部ともあろう者たちが浅ましくも、リアルで駆けっこをはじめる始末

だがそんな混乱の中でも長年スターリンの処刑執行人として手を汚し、周囲の怨嗟と恐怖の的になっていたベリヤこそが
最優先で排除されるべき危険因子である点は、衆目が一致していた。かくしてフルシチョフの根回しにより、ベリヤの緊急
逮捕が水面下で決定。赤軍の重鎮ジューコフ元帥の支持をも取り付けたフルシチョフは、不意討ちの段取りを進めていく

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   (~)    宮廷クーデターの主役となるフルシチョフは、有能だがフットワークの軽さもあいまってコミカル寄りのキャラ
 γ⌒ヽ   いっぽう政変の後ろ盾となるジューコフは、度胸も威厳もある渋いイケメン。なぜかやたら優遇されるキャラ
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  ベリヤの逮捕劇において、大戦の英雄ジューコフが自ら銃を手に会議室へ殴りこんだ場面は、史実だとか

アイゼンハワー元帥やモントゴメリー元帥が、ホワイトハウスやダウニング街で自らも戦闘に参加する軍曹レベルの歩兵
分隊長として、政権交代の現場を直接担当したと脳内変換すれば事態の異常さが、ひいてはロシア政治の異質さが判る


なおwikiによれば本作は案の定、ロシアでは激しい非難と反発を巻き起こした。一般公開も禁止されたが、上映強行した
映画館も一部に出た。ロシアの作家たちは「第二次世界大戦の戦士たちの記憶を中傷する」と、批判している……

けっきょく戦勝国陣営に入ったことがスターリンのロシア国内における評価を今なお、肯定的にしている。結果としてロシア
は外政スタイルを転換できぬまま、現状に至ったと言えよう。果してスターリンの尻尾は、敗北から逃げ切れるだろうか?

【了】

33 ◆tsGpSwX8mo:2024/04/01(月) 01:43:39 ID:or6sorPg00
【2024年 4月分 月例生存報告& youtube動画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『サイエンスライター北村雄一の地球放送』 投稿者:北村雄一 ttps://www.youtube.com/@user-vu5dp1sl8e/videos
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   (~)    オンライン情報によれば投稿者の北村氏は1969年長野県生まれ、日本大学農獣医学部卒業のサイエンス
 γ⌒ヽ   ライター兼イラストレーター。著書「ダーウィン『種の起源』を読む」は、科学ジャーナリスト賞大賞2009を受賞
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  氏による上記「地球の歴史」シリーズは生物進化の歴史にとどまらず、人類文明の未来予想にも及びます

北村氏が語る人類の未来は「悲観的」かつ、時に突飛にも見えますが学識に基づく分析であり、多くの点で説得力がある

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『脱出せよ! 飢餓のグリーンランド 地球の歴史 その55・・・』(2023/12/25) あらすじ

10世紀末、北欧ヴァイキングがグリーンランドに営んだ入植地は、小氷期の到来により遅くとも15世紀末までに全滅した
セイウチ牙の交易が競合の敗北等で継続できなくなり、外部との連絡が途絶。そこへ冷夏が到来し、本業の牧畜も破綻
鉄器の枯渇で、斧や鋤は鯨骨製。頼みの船も流木を木釘・鯨髭で接合した粗末な造りで、半ば石器時代に戻っていた
しかも牧畜のため、草地がある入江の奥地に定住したのがあだとなり、海の結氷からの脱出も不可能な状態だったのだ
1540年、現地に漂着したアイスランド人が、廃屋と行き倒れた男の遺体を目撃。遺体が所持するナイフは擦り減っていた


『草文明 石油枯渇後の未来 地球の歴史 その58』(2024/01/14) あらすじ

現代の人類文明は太陽エネルギー由来の化石燃料に頼っているが、いまや十万年分を一年で消費しており枯渇は必至
再生可能エネルギーやSDGsはこれを代替しうるものではなく、しょせんお遊びの域を出ない。核融合は技術的に困難だ
ゆえに化石燃料が枯渇したら、そこで現代文明は詰む。緊急避難的に森林への依存が再開するが、これもすぐ枯渇する
したがって最終解は「森林伐採しつくした後のイースター島」が参考になる。文明崩壊のモデルケースとされる同島だが、
実は森林が消え、モアイ建設が途絶した後も(苦境はあったにせよ)島民は草地から充分な食糧を、生産できていたのだ
おなじく人類は、建材や日用品・燃料を草に依存する時代へ移行する。エネルギー消費量は江戸時代水準に抑えられる

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   (~)    北村氏の主張が示唆に富んでいるのは、エネルギー保存則をかれの論理の計算値に導入していることです
 γ⌒ヽ   たしかにバイオ燃料ですら未だコスパで石油の敵ではなく、ガソリンに10%ほど混ぜてお茶を濁すのが現状
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  そして前段の、グリーンランド入植地滅亡の悲劇は、環境変化に適応できなかった文明が滅んだという実例


   (~)    なお、同時代のグリーンランドを生き抜いたイヌイットの漁労スキルを学べば、北欧人も助かったと思われる
 γ⌒ヽ   だがどうやら棲み分けして、おたがい摩擦を避ける道を選んだためにその選択肢は採れずじまいだった模様
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  グリーンランド島の轍を踏む前にイースター島的な、変化に適応する文明の再編成が必要だと北村氏は説く


じっさいシェールオイル開拓などの技術革新で枯渇を先延ばししてきた石油ですが、流石に頭打ちで、あと半世紀が限度
ウランや石炭も1世紀余が限度で、残るは水力だけだという……先進国が、核融合開発に血眼になるのもむべなるかな

だが、北村氏は「草文明」動画のコメ欄で「人為的な核融合の場合、封じ込めの磁場と燃料加熱のビームにエネルギーが
いる」、故に入力に対する出力黒字化は、無理だそうな。否……まだ水素鉱床がある、水素しか勝たん!(なお貯蔵と輸送)

【了】

34 ◆tsGpSwX8mo:2024/05/01(水) 00:43:18 ID:tBf0bBwI00
【2024年 5月分 月例生存報告& アニメ紹介】

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┃ 『ジョゼと虎と魚たち』 原作:田辺聖子、監督:タムラコータロー、主演CV:中川大志&清原果耶、2020年劇場公開
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   (~)    往年の流行作家・田辺聖子(1928-2019)が原作を発表したのは1984年。つまりアニメ公開より36年前のこと
 γ⌒ヽ   で、妻夫木聡&池脇千鶴のW主演で実写映画化(監督・犬童一心)したのが、2003年。アニメの17年前……
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  二度の映像化で巷間に記憶が定着し、故人の代表作感もある。なお>1はアニメ公開当時、鑑賞を敬遠した

実写のファンだったからだが、同類が多かったのかアニメの興行は低迷した。だが今の自分は、劇場で見たかったと思う

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『ジョゼと虎と魚たち』(アニメ版)あらすじ

海洋生物に魅せられている大学生の恒夫は、メキシコ留学をめざして論文を提出したり、留学費稼ぎのバイトを掛け持ち
する努力家。だがとある夜、バイト帰りに坂道を暴走する車椅子に遭遇。車椅子の主である、ジョゼことクミ子を救助する
これをきっかけにジョゼ及び、ジョゼを夜の散歩に連れ出していた彼女の祖母と接点が出来た彼は、祖母の依頼を受け
足の不自由なジョゼの面倒を見るバイトを始める。ジョゼは若い美女だったが気難しく、恒夫に意地悪な用事ばかり課す

最初はジョゼに反発する恒夫だったが、海に憧れる彼女を砂浜に連れて行ったことをきっかけに、虎のように怖いものが
いる外の世界を恐れつつも渇望していた、ジョゼの心を開いていく。またその過程で、ジョゼに絵を描く秘密の趣味がある
ことを知った恒夫は、彼女の画才にも刮目。こうして二人はしだいに、異性としてもお互いを意識し始めるようになっていく

だが、ある日。ジョゼの祖母が死に、ジョゼをケアする恒夫のバイトも打ち切るほかなくなる。折しも恒夫の留学が決定し、
二人の仲は自然解消の流れとなる。葛藤しつつも恒夫に別れを告げるジョゼだったが、すでに恒夫にはジョゼへの未練
が生じていた。ところがその直後、恒夫自身の身に予想外の災厄がふりかかってしまう───

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    アニメと実写と原作にはそれぞれ、設定やキャラ付けに少なからぬ差異がみられます。とりわけ結末は別物
 γ⌒ヽ   アニメで特筆すべきは、明確なハッピーエンドになったこと。総じて明るく優しい、青春恋愛映画になっている
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  特に原作と実写では恒夫とジョゼの情事が描写されるが、アニメは全年齢向け。家族と茶の間で観ても安心


   (~)    とまれアニメから入って原作や実写に接する人は、要注意。どちらも辛気臭くドロドロした、哀感が漂う話です
 γ⌒ヽ   例えばアニメではジョゼと恒夫のキューピッドとなる祖母が、実写では孫娘を「こわれもの」と非情に突き放す
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  原作と実写は、貧困や身体障碍というデリケートなテーマに正面から切りこみ、ジョゼの境遇には妥協しない


なるほどアニメでも、祖母の死後ジョゼが自力で生計を立てていかねばならない現実と向き合わされるなど、切実な問題
を描写してはいるものの……原作と実写は、恒夫に去られる運命を達観する障碍者ジョゼの切ない姿を、主題としている

とはいえ今回の改変には、本作中の描写にもあるバリアフリー普及など障碍者への配慮が進んだ時代の、反映も感じた
ゆえに、改変は改変で成功したと思う。重い話の愚直な踏襲より、ご都合主義でも救われる形にした新鮮さが、心地よい

なお原作は30ページにも満たない小品で、同名タイトルの短編集に収録された一遍。それが往年の芥川賞作家・田辺聖子
を後世に記憶せしめるコンテンツになろうとは、誰が予想しえたであろう。原作者の手を離れて成長した作品の好例である

【了】

35 ◆tsGpSwX8mo:2024/06/01(土) 12:25:28 ID:AGvJ4wP200
【2024年 6月分 月例生存報告& 文献紹介】

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┃ 『毛沢東の私生活』(上・下)  李志綏著、新庄哲夫訳、文春文庫、1996年12月(単行本は1994年11月)
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   (~)    著者の李志綏(リ チスイ 1919or20-1995)は、北京生まれ。若い時分は豪州のシドニーで、船医として勤務
 γ⌒ヽ   中共が国共内戦を制した後、1949年に帰国。1954年以降は毛沢東の主治医となり、その臨終を見届けた
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  1988年夏、アメリカ在住の息子2人を頼って妻と共に渡米。本書を著すもその3か月後、自宅で「変死」する

なお毛沢東の爛れた性生活や飽くことなき権力闘争の赤裸々な実態を描く本書は中国では禁書で、反論の書も出ている

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『毛沢東の私生活』(下)510p〜 [ 解題 毛沢東とは何だったのか (アンドリューネイサン・コロンビア大学教授) ]

<(前略)そればかりではない。二十二年間も主治医として務めた人物によるこの回想録で語られている毛沢東と同じ
くらい、親しく観察された指導者がほかにいただろうか。ストニウスの『十二皇帝列伝』は絶対専制の権力が生む狂気
じみた産物、(中略)飽食、淫乱、貪欲、サディズム、近親相姦、拷問、さらには大量殺人の指令などを語っているが、
しかし著者は登場人物たちと一面識もなかった。プロコピウスの『秘史』もやはりユスティニアヌス皇帝とその妃テオドラを
スキャンダラスに攻撃してはいるものの、憐みの情とか理解とかを欠く。アルベルト・シュペーアはヒトラーをよく知って
いたが、その回想録を見ても、独裁者とその軍需相の共通の関心は公的事業と戦争指導に限定されていた。スターリン
の娘スヴェトラーナも回想記を書いているが、ほとんど父親と顔を合わせてはいない。ナポレオンとヒトラーの主治医が
残した日記も単に臨床的な記録にすぎないのである。
民主主義体制の偉大な指導者の個人的な回想録は、たとえばロード・モーランの『チャーチル』やハーンドンの『リンカーン』
といったように、独裁者たちの伝記にくらべてあまり歴史を語っていない。というのも、民主主義体制下の指導者は
みずからの個性を出来事に押しつける余地があまりないからである。中国の伝統的な表現形式に則していえば、各治世
の「基本的年代記」は儀式、凶事の前兆、同盟関係、記念行事、そして皇帝親政の役割ともいうべき知行下賜などを記録
するが、しかし礼服の下に隠された個性を明らかにすることはめったにない。中国の歴史的な支配者を小説化した『三国
志』のような物語でも、人物の性格よりは類型を扱っているのである。したがって親近感と洞察力との絶妙な組み合わせ
が、本書『毛沢東の私生活』をユニークな回想録にしているのだ。>

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    もとより主席の主治医という特権階級といえども、大躍進・文化大革命を生き延びるのは容易ではなかった
 γ⌒ヽ   警護主任の汪東興が李博士の後ろ盾となるも、それが本書の偏りとなる点は、ネイサン教授も指摘している
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  「著者あとがき」(本書下巻)によると李博士は、毛沢東の主治医になった54年以降、日記をつけ始めた由


   (~)    然るに文革初期の、1966年後半。李博士と同じ集合住宅に住む三人の衛生省次官が、紅衛兵に攻撃され
 γ⌒ヽ   住まいを荒らされているのを見て、毛沢東の活動を記録したメモを残す危険性を思い知り、焼却したという
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  さらに李博士は身の安全のため、文革中はメモ類をとらなかった。この用心深さが、彼を救ったのでしょう


とはいえ1976年に毛沢東が死んで四人組が逮捕されると、妻の勧めもあってメモを再現・完成する作業に着手したという
曰く「毛沢東の言葉遣いは(中略)、私の脳裡に深く刻み込まれていたので、(中略)一語一句まで思い出せるほどだった」

一次史料が無いのは残念。加えて本書、毛沢東の生々しい裏話は興味深いが政治・外交面で、意外性のある知見は乏しい
なお「文庫版・訳者あとがき」によれば本書刊行から三か月後の95年2月14日(wikiでは13日)、著者は自宅浴室で急逝

当時の国際世論は騒然となった。博士自身が刊行後の雑誌インタヴューで「私が殺されるようなことがあっても、この本は
永久に生きつづけるだろう」と、覚悟を表明していたからだ。ただし警察とFBIは、心臓疾患による自然死と結論している

【了】

36令和もどこかの名無しさん:2024/06/02(日) 07:46:22 ID:OZ62mn3wMM
クリントン治世のなせる業か

37 ◆tsGpSwX8mo:2024/07/01(月) 00:42:57 ID:9f4vt/FY00
【2024年 7月分 月例生存報告& 文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『南北戦争を戦った日本人』  菅(七戸)美弥・北村新三 共著、筑摩選書、2023年刊
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────


   (~)    副題は「幕末の環太平洋移民史」。巻末の著者紹介によれば、菅氏は1969年生まれの東京学芸大学教授
 γ⌒ヽ   専門は米国史、移民史。いっぽう北村氏は1940年生まれの神戸大学名誉教授で、専攻はシステム工学
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  主題は表題どおり。米国の史料に「南北戦争に従軍した日本人移民」の記録が在り、その件の深掘りです

結論から言うとこの興味深い日系兵士、個人特定には至らなかった(終章・280p)。日本語姓名が不明で、手がかり無し

──────────────────────────────────────────────────

(序章・10p)
<日系アメリカ人退役軍人協会(中略)のテリー・シマ氏とジェフ・モリタ氏の依頼から、旅は始まった。米国での
「南北戦争に従軍した日本生まれのふたりの兵士サイモン・ダンとジョン・ウィリアムズの本名、出身地などを知りたい」
との問い合わせが届いたのだ(中略)。もし日本人が南北戦争に従軍したことが事実なら、米陸軍における最初の
日系人兵士であり、ぜひとも彼らの日本側の情報を得たいとのことであった。>


(序章・11〜12p)
<南北戦争に従軍したとされる二人の日本人について、米国国立公文書館(中略)に保存された記録をまとめると、
次のようになる。

サイモン・ダン(ディムと書かれることもあり)
 住居 ニューヨーク州、ブルックリン市(以下略)
 一八六三年一二月七日、ブルックリン市で陸軍に入隊、ニューヨーク市第一五八歩兵連隊E中隊
 一八六五年八月二八日除隊(リッチモンド、ヴァージニア州)
 日本生まれ、二一歳。職業、労働者、目の色 黒い、髪の毛の色 黒い、肌の色 浅黒い
 身長 五フィート(一五二センチメートル)

ジョン・ウィリアムズ
 一八六四年八月二五日、ブルックリンで陸軍に入隊、兵卒、三年
 日本生まれ、二二歳、ニューヨーク第一騎兵連隊 I 中隊
 職業 労働者
 ウィリアム・E・ベイリー(Bailey)Jr.の代替、下院選挙第三区
 目の色 黒い、髪の毛の色 黒い、肌の色 浅黒い
 身長 五・一フィート(一五五センチメートル)
 一八六五年一月一六日、ワシントンDCの病院から除隊>


(序章・14p)
<さらに、南北戦争終結後の一八六七年一二月三〇日、ヴァージニア州の「アレクサンドリア・ガゼット(以下略)」紙に、
「ある日本人の死(中略)」と題した記事が掲載された。しかも記事には「この市に合衆国陸軍兵士として戦争中に来て、
それ以来ここに住んでいた日本人で、『ジャップ』として親しまれていた人物が先の土曜日夜に亡くなり、昨日埋葬された」
と書かれていた。日本人への蔑称としての「ジャップ」が流通するのはまだ先のことで(以下略)。
(前略)。前記の日本生まれの二人のどちらかが、南北戦争後アレクサンドリアに居住していたが、ほどなくして
亡くなったのではないか。>

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    上記引用箇所に続く、序章15p〜「移民統計から」の項によると、1850年代の十年間における米国移民の
 γ⌒ヽ   総数は281万人余。アイルランドを筆頭に欧州系が93%強の262万人余を占め、アジア系は36,080人だけ
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  しかもアジア系は、殆どが中国系(35,933人)。現に南北戦争には、中国人やインド人の兵も参加していた


   (~)    なお中国系兵士については、著者の調査によれば145名(第1章・42p)。しかもそのうち3名は南軍の従軍者
 γ⌒ヽ   母数の多さも相俟って、彼らについてはその個性や生涯が追跡できる事例も、残っている(第1章・64p〜)
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  例えば中国系ジョン・トムニーはその忠勇をNYタイムスで激賞され、伍長に昇進。ゲティスバーグで戦死


西部劇に開国直後の日本人を登場させる創作物は昔から一定数リリースされており、仏・伊・西共作の「レッド・サン」や
川崎のぼる・山川惣治両氏の「荒野の少年イサム」が有名。ただし実例が無い分、題材のアピール力不足は否めない

その点、実例がある南北戦争従軍者は、題材として意外な掘出し物かもしれない。因みに本書では、中国系兵士の逸話
にも紙幅を割いている。退役後に白人妻を娶り帰化したある中国人は、妻の死後に市民権を剥奪され法廷闘争している

【了】

38 ◆tsGpSwX8mo:2024/08/01(木) 01:19:04 ID:Tw.j9kL600
【2024年 8月分 月例生存報告&映画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『オルド 黄金の国の魔術師』 監督:アンドレイ・プロシュキン、主演:マクシム・スハーノフ、2012年 ロシア映画
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────


   (~)    中世ロシアの、いわゆる「タタールの軛」を描く歴史映画。>1を含め刺さる人には刺さる、ニッチな映画です
 γ⌒ヽ   主役はロシアではなく、金帳汗国こと“黄金のオルド”。主要キャラも蒙古系で、ロシア人はほぼ脇役
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  なお邦題とDVDパッケージが「魔法と勇者の、架空世界ファンタジー」風で、ミスリードを誘うタイトル詐欺状態

パッケージのセンターを飾るロシア人剣士は、肩透かし。そんなキャラは出ない。映画のロシア人は皆、モンゴルの隷従者
これでは勘違いした視聴者が失望する一方、本来の需要層が敬遠するだけと思われる。なお本邦では、劇場未公開です

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『オルド 黄金の国の魔術師』 前半あらすじ

ときに14世紀(1342年)。中央アジアの草原にそびえるモンゴル遊牧帝国の帝都サライの宮廷で、政変が勃発した
「黄金のオルド」のハン(帝王)・ティニベクが西欧の教皇からの使節を謁見中、実弟ジャニベクの手で暗殺されたのだ

ジャニベクは彼の実母タイデュラを宮廷に呼んで彼女の前にひれ伏し、先代の死に伴う帝位継承の事後承認を懇願する
ティニベクの遺体を検分して事情を察し、激してジャニベクを蹴るタイデュラ。それでも渋々、彼の即位を認めるのだった
だがサライ郊外の天幕に戻った彼女は斧を手に取り、兄の血で汚れた弟を祝福した己の指を一本詰めて、自らを罰する

いっぽうジャニベク・ハンは自分を認めてくれた皇太后タイデュラを丁重に扱い、母子の仲も表面上は、ひとまず修復した
とはいえ。帝都での快適な定住生活に甘んじるジャニベクの姿にタイデュラは、遊牧民の王としての彼の資質を危ぶむ
そんな母をジャニベクは城下の奴隷市場に案内し、遠征で捕えたロシア人の群れを披露。己の武威を、誇示して見せる
だが。虜囚を戯れに斬首して浮かれるモンゴル兵らを眺めていたタイデュラの身に突如、異変が生じ、彼女は失明する

母の身を案ずるジャニベクは八方手を尽くし、評判のいい呪術医を次々と試すが、タイデュラの目が回復する兆しは無い
とうとうジャニベクは「奇跡を起こす魔術師」と噂される、モスクワ大公国の府主教アレクシイに目をつける
「皇太后の目を治さなければ、モスクワを焼く」。モンゴルの使節がもたらしたジャニベクの脅しに、モスクワ大公は戦慄

かくして大公イヴァン2世に拝み倒され、気乗りしないままサライに赴くアレクシイ。だが案の定、治癒は容易ではなく……

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   (~)    ロシア語wikiで聖アレクシイ(生年1292〜1305、没年1378)の生涯を調べたところ、かれがサライに招かれて
 γ⌒ヽ   宗教上の特権を贈与されたのは史実で、「皇太后の眼病を治した見返り」という伝承が、ロシアにはある由
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) なお映画では、タイデュラ完治後のジャニベクの運命も描かれます。実は彼も、己の息子に謀殺されるのです


   (~)    ただしこの件はロシアの文献にしかない話で、ペルシャやタタールの文献によればジャニベクの死因は戦傷
 γ⌒ヽ   に伴う病死。ともあれ映画のジャニベクは息子ベルディベクの罠に気づかず、酒宴の余興で「事故死」します
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  映画は父のひそみに倣って父を排除したベルディベクの帝位承認要請を、祖母タイデュラが拒否して終幕


果たしてベルディベク政権は安定せず、ほどなく彼も横死。黄金のオルドは空中分解し、血で血を洗う内部抗争が始まる
かくしてモンゴル遊牧帝国はロシア諸侯に介入する余裕を失い、タタールの軛を脱したロシアの下克上を、赦すに至る…

つまりこの映画は、ロシアを苦しめたタタール支配の、終わりの始まりをテーマとしている―――
なおテュルク系の俳優を多く起用した本作ですが、皇太后タイデュラはメイクしていてさえ明らかに白人女優。まあご愛敬

【了】

39 ◆tsGpSwX8mo:2024/09/01(日) 00:40:53 ID:13iTjJCA00
【2024年 9月分 月例生存報告&映画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『モレク神』 監督:アレクサンドル・ソクーロフ、主演:エレーナ・ルファーノワ&レオニード・モスゴヴォイ、1998年 ロシア映画
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   (~)    数あるナチス映画の中でも、異色作といっていいでしょう。監督は、終戦前後における昭和天皇の苦悩する
 γ⌒ヽ   姿を題材にした話題作『太陽』(主演:イッセー尾形)のメガホンをとった、アレクサンドル・ソクーロフ……
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  本作を皮切りにソクーロフは『牡牛座レーニンの肖像』『太陽』『ファウスト』の、権力者4部作を上梓する

『人間としての指導者の姿に私は常に関心を抱いていました』、『権力という現象自体が巨大で無限の芸術対象なのです』
以上が、ソクーロフの言葉。帝国の奥の院で繰り広げられる人間模様は、歴史の潮流と連動するがゆえ興味が尽きない

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『モレク神』あらすじ

時に1942年。戦争は激化しているもののナチスドイツ破滅の運命はその予兆すら見せていない、春の某日……

愛人のエヴァ・ブラウンが待つベルヒテスガーデンの山荘に、側近ゲッベルスとその妻マクダ、秘書ボルマンら取り巻き
を率いた総統ヒトラーが、ひとときの憩いを求めて訪れる
エヴァが女主人を務めるその山荘は雲霧が覆う高地に聳える、小城のごとき石造り。ときおり遠雷や鳥の声が響くだけの
人里離れた静寂に在り、地上の喧騒から逃れるにはうってつけの浮世離れした庵である。ただし重厚で、陰鬱だ

総統への配慮として「政治の話題や東部戦線の話はするな」と、ボルマンはエヴァらに釘をさす。果たしてヒトラーは、
山荘の使用人やエヴァやマクダらにも愛想良く、いっそ芝居がかったといえるほど慇懃な態度を示して上機嫌に振る舞う
ただし追従者に囲まれながら、あきらかに滑った冗談にもひたすら媚びへつらわれて喋りつづける光景は、寒々しい
加えて突然、総統が思いつきで「ピクニックに行こう」などと発案すれば、否応なしで全員参加するはめになる

そんな中で少なくとも唯一、独裁者に対してあるていど超然とした態度が許されている人物が居た。総統の愛人エヴァだ
というのもプライベートな室内に移るとヒトラーもすっかりくつろぎ、愛人に対して甘え放題の駄々っ子ぶりを発揮するのだ
そんな生身のヒトラーを知るエヴァにとっては、総統といえども自分を日陰者の立場に追いやりつつ依存するありふれた、
身勝手な男。そして自分は、そういう男にたまたま出会ってしまった女。そういう関係でしか、なかったのである―――

ともあれ細やかな不協和音はあれど概ね無難に山荘の一昼夜を過し、公務に戻るべく車中の人となるヒトラー
だがエヴァは別れ際に「(あなたも)死は克服できない」と告げ、超人をめざすヒトラーの愚かさを嘲笑するのだった……

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   (~)    ヒトラーの人間性を描くことは欧米では「禁じ手」とされており、その点で『モレク神』は攻めた内容といえます
 γ⌒ヽ   だがその一方、展開にこれといった起伏が無い“日常系”でもあり、いずれにせよ観客を選ぶ映画ではある
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  趣向に共鳴しない観客は、眠くなる。それでも異世界の様な幻想的映像美は、見ごたえがあること請け合い


   (~)    ナチスが戦争アクションの安手な(悪役)フリー素材として定着した映画界への、変化球の一石には違いない
 γ⌒ヽ   それにヒトラーの人間性を描いたと言っても、ことさら肯定的に描いたわけでもない点は留意すべきでしょう
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)   敢えて言えば。魔性の豪運で独裁者に成り上がった男の虚飾を剥がし、ただの「痛いオッサン」として描く


ちなみにタイトル『モレク神』は、古代セム族の魔神。赤子を生贄として捧げられたという。作中でその名が出ることは無い
地上に災いをもたらす暴虐神が雲上の休暇を満喫する姿は、それ自体が台風の目の青天が如きコントラストといえる
なお映画の中ではエヴァがふと「アウシュヴィッツ」を口にし、ヒトラーがとぼけるシーンがある。平穏の中にも、ふいに
異様な不穏と緊張が顔を出す。舞台設定自体に恐怖と不安がついて回る。近年の『関心領域』も、着想は同じでしょう

なお本作はツタヤのDVDレンタルが無く、配信も(現時点で)無い。AmazonのDVD時価もお高め。国会図書館で視聴可

【了】

40 ◆tsGpSwX8mo:2024/10/01(火) 10:06:44 ID:tqeEIJss00
【2024年 10月分 月例生存報告&漫画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『セシルの女王』既刊7巻 こざき亜衣著、2022年〜、 小学館刊
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   (~)    最初にお断りしておきますが、現時点では未完(連載中)の作品です。近世の英国を題材にした歴史漫画
 γ⌒ヽ   未完ゆえ風呂敷の畳み映えは保証できないが、ひとまず現時点までの既刊本は、面白いこと請け合いです
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  内容は、女王エリザベス1世の腹心ウィリアム・セシルを主役(善玉)に据えた、一種の洋物 大河ドラマ風味

個人的に歴史漫画は、山場(クライマックス)と着地点(ラスト)を決めた上でのペース配分が、成功の秘訣だと考えます
本作は女王とセシルの名コンビを、女王生誕前から描き起こしている。ただし冒頭は女王戴冠シーンなのが、伏線かも?

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『セシルの女王』あらすじ

1533年、衣装担当宮内官である父に随行し王宮への初出仕がかなった12歳のウィリアム・セシルは、野望を抱いていた
新興勢力ジェントリ(地方の地主)出身の子弟として学業を積み、いずれは王宮の廷臣として出世しようと願っていたのだ

だがテューダー朝2代目の君主ヘンリー8世への初お目見えで彼は、大ポカをしてしまう。折しも王は、世継ぎを産めない
王妃キャサリンを廃して貧乏貴族の娘アン・ブーリンを“嫡男を生む畑”として迎え入れた矢先で、ピリピリしていたのだ
あろうことかセシルは、緊張のあまりアンではなく廃妃キャサリンの名を王の御前で祝福してしまい、父ともども不興を買う

にもかかわらず、のちに偶然出会ったアン・ブーリンの凛とした性格と生きざまに、セシルはむしろ強く惹かれるようになる
ヘンリー8世の嫡男を産むことに、人生の逆転を賭けて臨んだ強い意志の女性アン。だが生まれたのは、女児であった
かくして王を失望させたアンは陰謀渦巻く宮廷の中で追いつめられて失脚、ついには濡れ衣で処刑される憂き目に遭う
しかしそれまでの短い日々にアンはセシルとの交流を重ね、いつしか密かに互いへの思慕を深めていたのだった

アンの死後も暴君ヘンリー8世は、嫡男欲しさの漁色に狂い次々と新たな妃を試用しては、非情に捨てていく
宗教政策から派生する政争も相俟って、陰謀の絶えない英国ではセシルが敬愛する人も含め、次々と要人が刑死する
そんな不穏の中で、セシルは亡き“想い人”アンの遺児エリザベスを扶育し、将来つかえる君主と仰ぐことを心に誓う

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   (~)    セシルとエリザベスの母にプラトニック・ラブ要素を盛りこみ、主人公と女王の関係を特別化した設定は巧い
 γ⌒ヽ   ただし史実のアンは、セシルより19歳も年長です……英訳されたら、本国人のツッコミが入りそうではある
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  なお女王の幼児期は、父王ヘンリーのサイコパスな史実をまんま出すだけで波乱万丈の、ボーナスタイム


   (~)   ともあれ正史でエリザベスとセシルのタッグが本領を発揮するのは、あくまでもエリザベスの女王即位後です
 γ⌒ヽ  本作はアン・ブーリンの悲運からスタートしており、いわば前史にセシルを(強引に)絡ませた「秘史」仕立て
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) そしてセシルとエリザベスの運命が不安定な時代ゆえの緊張感が、作品の面白さの大きな部分を占めている


加えてセシルは女王戴冠時点で38歳、若いイケメンの描写も限界。戴冠して、戦いはこれからエンドが既定路線かも?
もちろん人気次第で、エリザベス治世(セシル没年1598年、女王没年1603年)を描き切る30巻越えサガ路線も、ありうる

それはそうと美女アンの娘エリザベスが(知的だが)不美人なのは、父親の血筋を忘れない女性作者のセンスを感じる
なお史実のセシルとエリザベスに接点が生じたのは1550年からで、17歳のエリザベスの資産管理に携わって信頼を得た

【了】

41 ◆tsGpSwX8mo:2024/11/01(金) 01:26:23 ID:XjSLx87.00
【2024年 11月分 月例生存報告&映画紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『ニュースの天才』 監督&脚本:ビリー・レイ、主演:ヘイデン・クリステンセン、2003年 米国映画
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   (~)    1998年に起きた、雑誌記者スティーブン・グラス(1972- )による記事捏造事件の映画化です
 γ⌒ヽ   主演はご存じSWシリーズで、青年時代のダース・ベイダーことアナキンの役に抜擢されたヘイデン・クリステンセン
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  ただしSW出演のほうは酷評され、2002年と05年のラズベリー賞を受賞してしまう体たらくだった

そのせいか、以後の彼のキャリアはあまりぱっとしない。とはいえSWがコケたのは役者のせいじゃなく、脚本が悪い
現に本題である「ニュースの天才」に関して言えば、実在する虚言癖の野心家の破滅人生を熱演して、好評を博した

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捏造記者「スティーブン・グラス」についての解説(以下、ウィキペディアより抜粋)

『スティーブン・グラスはアメリカの有力誌『en:The New Republic』(ザ・ニュー・レパブリック誌)において1995年から1998年
にかけての3年間、若手のスター記者として働いたが、彼が書きThe New Republic誌や他誌に掲載された記事は、そこに
登場する関係者の発言、情報提供者、あるいは出来事全体を捏造することによって生み出されていたことが明らかに
なった。捏造が明らかになると、同誌から解雇された。

グラスの事件は2003年、Shattered Glass(邦題『ニュースの天才』)として映画化された。
グラス自身、2003年に『The Fabulist』というタイトルの自伝的小説を発表した(主役はStephen Aaron Glass)。』

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   (~)    グラスは捏造記事で花形記者の名声を得つつも如才なくふるまい、社内でスターとして厚遇されるものの。
 γ⌒ヽ   ハッカー少年の暗躍という偽りのスクープ記事を書いたことで、出し抜かれた他誌の記者から疑われる
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  果たしてその記事がまったく根も葉もないデタラメだと指摘されてしまい、グラス記者の凋落が始まる……


   (~)    グラスの同僚たちも最初は人望の厚い彼をかばい、救おうとしていたのですが、状況は悪化する一方
 γ⌒ヽ   途方に暮れた上司はついにグラスの行状に疑念をいだき、彼がこれまで放ってきた特ダネ記事を読み返す
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  展開のテンポの良さといい人間関係の機微の描写といい、「やはり映画は実話ものに限る」と、感じた次第


後知恵ではあるが、SWなんて罰ゲーム化したオワコンに捕まることなく「ニュースの天才」みたいな路線に徹していれば、
クリステンセンは俳優として大成できたんじゃないか? そう思わされた佳品でした

とはいえ。時に財界や学界を巻きこむ一大スキャンダルすら起こる捏造事件の題材としては、本作の犯人は地味だった
かもしれません。自分は未見ですが、セラノス事件をモチーフにした「ドロップアウト」(2022年、米国)は、その点で期待大

【了】

42 ◆tsGpSwX8mo:2024/12/01(日) 00:32:05 ID:ZhvQcvtQ00
【2024年 12月分 月例生存報告& アニメ紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『planetarian 〜星の人〜』 原作:Key、監督:津田尚克、主演CV:すずきけいこ、2016年9月劇場公開
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   (~)    コンピューターゲームから派生したメディアミックス作品の一環に位置する、アニメ映画です
 γ⌒ヽ   なお本作に先立つ2016年7月、Web配信版アニメ『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』がリリースされた
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  また、2021年には本作の前日譚OVA『planetarian 〜雪圏球〜』がリリース。ヒット作ではないが、息は長い

SFの定番である「崩壊した未来世界」を舞台にした物語ですが、マッドマックスや北斗の拳みたいな荒んだ闘争ではなく、
さりとて復興の希望を提示するでもない。静かに、穏やかに滅びの日にむかうノスタルジーとセンチメンタルに浸る映画

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『planetarian 〜星の人〜』(劇場アニメ)あらすじ

終末戦争後の世界。気候変動により分厚い雪雲に覆われた地上は雪氷に覆われ、人々は地下の集落で電光を頼りに
田畑を作り、生きのびていた。だが生産力は乏しく人口は減り続け、子供も数えるほどしかいない。滅びの日は近かった

ある日。子供たちは禁じられていた地上の冒険に出て、行き倒れの老人を救出する。彼は大人からは「星の人」と呼ばれ
敬われている。あちこちの集落を巡りながら、荒廃した地球でもはや観ることの叶わなくなった星空を伝えるのが生業だ
同時に、人類の生存拠点とその現状についての貴重な情報源でもあったが、彼がもたらしたのは滅亡の予兆のみだった

ほどなく星の人と彼を救った集落の子どもたちは親しくなり、星の人は肌身離さず携行していたプラネタリウムの一部を、
子供たちに披露しようと一計を案じる。そしてその部品を入手したいきさつについても、子供たちに語り始める……


若き日の「星の人」は、屑屋だった。廃墟都市に侵入しては、利用可能な遺物を片っ端から回収する業者である
とはいえ。いまだに対人用の自律戦闘機械が稼働している危険な世界において、屑屋はリスクの高い稼業でもあった
それゆえ彼もまた、兵士としての高度な戦闘スキルと強力な火器を身に着けていた

あるとき屑屋は、細菌兵器が使用された廃墟「封印都市」に侵入する。そこでも自律戦闘機械に襲撃され、危機一髪
となるが、屋上ドームがあるデパートのビルを軍用施設と勘違いして逃げこむ。その最上階で、プラネタリウム投影室の
案内役を務める美少女タイプのロボット・ほしのゆめみと出会う。彼女は奇跡的に生き残っていた僅かな電源で充電し、
1年に1週間だけ稼働可能となっていた。屑屋を客と認識した彼女はプラネタリウムを上映しようとするが、故障していた

最初は ゆめみを邪険に扱っていた屑屋だったが、成り行きからプラネタリウム修理を引き受けるハメになってしまう
そして首尾よく上映にこぎつけた彼は、無人の廃墟で“健気に”業務を遂行している ゆめみに、心を開いていくのだった…

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   (~)    はじめから「泣かせに来ている」作品だと分かりつつも、観るとやはり涙腺がじわりとくる。そういうアニメです
 γ⌒ヽ   ロボットの ゆめみは、経年劣化で認知機能にバグを起こしつつも、明らかに一定の自我は有している
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  一方でロボットゆえ破滅を理解できず、平和な時代の再現者に徹してしまう。その辺りの さじ加減が上手い


   (~)    シンプルなストーリーで無駄に奇をてらう演出も無く、総じて地味とはいえ素直に哀感あふれるラストに進む
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}.   悲劇アニメの佳作といっていい―――とはいえ一部の高評価こそあれ、興行面でヒットしたとは言い難い
 (´・ω・)  思うに滅亡の瀬戸際でプラネタリウムという小道具は、感傷的だが悠長……オチも、あとひと捻り欲しい感


ほしのゆめみに人類救済の要素があれば単調なペーソス一辺倒に終わらず、気の滅入る閉塞感を和らげた気もする
ラストで ほしのゆめみの同族らしき修道女ロボットが集落のご神体として登場するが、謎のまま終わるので不完全燃焼

【了】

43 ◆tsGpSwX8mo:2025/01/01(水) 00:54:15 ID:ht5/xgTw00
【2025年 1月分 月例生存報告& 文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『イランの地下世界』  若宮總著、角川新書刊、2024年5月 …… その1
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   (~)    著者の若宮總(さとし)氏は「10代でイランに魅せられ、20代より留学や仕事で長年現地に滞在した」という、
 γ⌒ヽ   生粋のイラン通。ただし大学や政府機関の人間ではなく、あくまでも私人の立場でイランと関わる市井の人
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  そんな彼がイラン社会の生の実相を、自らの経験をまじえて赤裸々に描いてくれる。実に得難い見聞録です

ただし若宮總はペンネームであり「某県出身、1970年代生まれの院卒」という極めて大雑把な経歴以外、全て謎の人物

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『イランの地下世界』第二章より抜粋

<今や法学者による統治が、完全に破綻しているのは誰の目にも明らかだ。なぜなら、その実態は「能力は皆無だが、
権力欲だけは人一倍強い人間による統治」でしかないのだから。
そこではイスラムが、社会正義の実現のために生かされないばかりか、「神の与えたもうた試練」(失笑)、「イスラムの敵
による陰謀」(笑止!)などという言葉によって、もっぱら不都合な現実を正当化し、政治責任を回避する口実として
使われている。>(53〜54p)

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    すなわち政教一致の現体制を否定・嘲笑するイラン人は、それこそ体制の走狗となることで生計を立てている
 γ⌒ヽ   「イスラム・ヤクザ」を含めて普遍的だと、著者は指摘する。例えば彼の知人女性アクラムも、その一人…
  {i:i:i:i:i:i:}   (以下、第一章「ベールというカラクリ」の、42〜46p)
 (´・ω・)  50代前半でハメネイの直属機関「イスラム宣伝局」職員の彼女は、パシージとよばれる民兵の一員でもある


   (~)    諜報や密告、デモ弾圧を生業とするこのパシージ、近年の反体制デモでも参加者の多くを暴行・殺害した
 γ⌒ヽ   まさに泣く子も黙る“お抱えテロリスト集団”。その一員アクラムは、いつも真っ黒なチャドル姿で怖い目つき
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  ところが自宅での彼女たるや、著者のような外人男性の前でもスカーフすら着けず、下品な格好でくつろぐ


   (~)    そして外人(著者)相手の気安さで、余計なことも口走る。曰く―――
 γ⌒ヽ   「あたいンちは電気代なんか払ったことないよ。コネでメーターを止めてもらってるからね。ギャハハハハ」
  {i:i:i:i:i:i:}   「あんた、酒が欲しかったら言いな。ここにはないけど、あたいのコネで一番上等なのを用意してやるよ。
 (´・ω・)  ウォッカがいいか? それともウイスキーか? ガッハッハ」


   (~)    リビングのTVからは、イランでは御法度の衛星放送が流れている。ときどきホメイニやハメネイの顔も映る
 γ⌒ヽ   するとアクラムは黙っていない。すかさずこう叫ぶという
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  「引っ込め、このデクノボー!」


だが、アクラムは「体制に仕え、その恩恵にあずかっている立場の人間だ」と、著者は指摘する。「一般国民と同じように
法の目をかいくぐったり、ましてやそのために自分の立場を利用するならば(中略)、もはや欺瞞以外の何ものでもない」
さらに著者はアクラムの本性を探り、チャドルを脅しの道具と自認する彼女の「イスラム・ヤクザ」ぶりを、見事に暴く……

>1がこの箇所を引用したのは、著者が生理的嫌悪すら抱くほど蔑むイラン人を敢えて紹介するユニークさを評するから

むろん著者のイラン研究の入り口は同国への愛情と知的興味であり、本書には彼が敬愛する魅力的な人格のイラン人
も登場します。だが下世話というも世知辛い、不愉快だろうが陋劣だろうが人間臭さを感じる実話こそが、本書の魅力だ
とも感じている。というわけで、本稿はしばらく続きます(なおアクラムを含め、本書内のすべての人名は仮名とのこと)

【続く】

44 ◆tsGpSwX8mo:2025/02/01(土) 00:07:07 ID:DzBPHdbQ00
【2025年 2月分 月例生存報告& 文献紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『イランの地下世界』  …… その2
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   (~)    前回>>43に続きイラン通邦人の若宮總(さとし)氏が著した、(政教一致の独裁国)イラン暴露本の紹介です
 γ⌒ヽ   今回は第二章<イスラム体制下で進む「イスラム疲れ」>(51〜93p)からの、引用・要約
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  2018年、米国トランプ政権は一方的に核合意から離脱、対イラン経済制裁を復活。イランはインフレ地獄に

政府の歳入は激減し、通貨リヤルは5年で対ドル価値が10分の1に低下。食料・日用品の物価は1年で3倍ペースの上昇

──────────────────────────────────────────────────

『イランの地下世界』第二章より抜粋

<人々が文字どおり明日のパンにもこと欠くなか、法学者たちはといえば、大真面目にこれを「神の与えたもうた試練」
などとのたまい、国民に忍従を強いるばかりで何ら有効な手立てを講じようとしない。
法学者の無能ぶりに耐えかねた国民は、選挙によって自分たちの声を政治に届けようとしてきたが、そこに立ちはだ
かったのが最高指導者ハメネイの独裁である。
この男は八〇歳をとうに過ぎ、そろそろ老境の悟りでも開くころかと思ったら、とんでもない。反対に、一層かくしゃくと
して権力集中に邁進、露骨な選挙干渉によって自らの周囲をすべて身内で固めてしまった。
(中略)反体制デモが起きるたびに、ハメネイはそれを「イスラムの敵による陰謀」と切り捨て、武力で弾圧するばかりで、
対話に応じる姿勢を一切見せていない。>(53p)

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    ところがイラン国民の不満を圧殺し続けた結果、皮肉にも水面下では国民のイスラム離れが進んだという
 γ⌒ヽ   政教一致ゆえに、政治への不満は神への不満。「自分を受け入れてくれない」神に、不信感が募っていく
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  かくして「コーランは神の言葉にあらず」と、もちろん非公然だが主観的には棄教するイラン人も多いとの由


   (~)    例えば、著者の友人タハ君(59〜62p)。大学時代まで礼拝と断食を欠かさず、酒を拒む敬虔な信徒だった
 γ⌒ヽ   ところが大学卒業後、英国留学した彼は「国を正しく導く指針はコーランのみ」という信念を、打ち砕かれる
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  治安も秩序も、イランより英国が上。英国人はムスリムであるイラン人より民度も高く、誠実で信頼できる…


   (~)    「イスラムは、何か間違っているんじゃないか」。思い悩んだタハ君は一時、キリスト教への改宗すら考えた
 γ⌒ヽ   違和感が拭えず断念したが、現在は著者の飲み仲間。恋人と同棲しつつ、彼なりの「男女平等」を実践中
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  他に、レイラさんなる名家の才媛も登場(62〜67p)。彼女はタハ君以上に急進的な、イスラム批判の論客


   (~)    イラン人は、日本人以上に見栄を張る。学歴、収入、家、車、容姿を誇示する。しかもSNS普及で酷くなった
 γ⌒ヽ   だがレイラさんは「どうして私たちの社会は、人間の内面を評価しないのだろう?」と、疑念を抱いていた
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  そして「人間の内面よりも外面に重きを置く」イスラムという宗教の問題点に、気づくに至る……


礼拝せよ断食せよ、ベールをかぶれ喜捨しろメッカ巡礼せよ、酒飲むな豚食うな、博打も不倫も利子もダメ―――
細部にわたり信徒を束縛し、「体裁を整えること」で序列を決める。何度も巡礼する金持ちは、行けない貧者より偉い……
レイラさんは、現世での忍耐を説きつつ天国を「美酒と美しい処女ハーレム」と解釈するイスラムの内面軽視を、断罪する
著者は彼女のイスラム断罪論の偏りを指摘しつつも、信徒として生まれた女性の思索として傾聴に値すると、評価している

ともあれ。親イランの立場で書かれる他の類書と比べて本書は、現状に自問自答する現地の声を聴ける点が斬新である

【次回以降に続く】

45 ◆tsGpSwX8mo:2025/03/01(土) 08:43:31 ID:fkv2r/8c00
【2025年 3月分 月例生存報告&書籍紹介】

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 『菜食主義者』 ハン・ガン著、きむ ふな訳、株式会社くおん、2011年刊
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━────


   (~)    2024年度ノーベル文学賞受賞者・韓国の女流作家ハン・ガン(韓江)の、代表作(連作の中編小説集)です
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  じつは文学賞で注目されるずっと以前、本書を図書館で何気なく手に取った記憶が>1にはあります
 (´・ω・)  当時は読み飛ばしただけだがタイトルは記憶の隅に残っており、受賞を契機にあらためて手に取った次第

表題作はトラウマを抱える人妻ヨンヘが、悪夢を契機に肉食を忌避する話。その過程が夫の語り口で、淡々と綴られる
初読で漫然と日本の純文学に似た作風だと感じたが、受賞後の再読でも(良し悪し抜きで)その印象は変らなかったです

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『菜食主義者』 (邦訳版向けの)著者あとがき(293〜295p)より抜粋。

<今(引用者註:2011年春付)から十四年前の早春、「私の女の実」という短編小説を書きました。一人の女がマンション
のベランダで植物になり、一緒に暮らしていた男が彼女を植木鉢に植えるという話です。そしていつか、この短編小説の
変奏を書きたいと思っていました。十四年前の私が予想していたものとはだいぶ違う作品になりましたが、『菜食主義者』
というこの連作小説の出発はそのときから始まります(以下、中略)。
この小説を書いていたときのことに思いを馳せ、作品のメモ書きをしていたノートを取り出してみました(以下、中略)。

慰めや情け容赦もなく、引き裂かれたまま最後まで、目を見開いて底まで降りていきたかった。
もうここからは、違う方向に進みたい。

すっかり忘れていたのに、読み返すと、力んでこんなことを書いていたのだと思い出します。そのとき心に決めたように、
私はもう違う方向へと進んでいます(以下、中略)。
この小説を書いていたころ、バスを待ちながら、なにげなく街路樹の根もとを触ったことがあります。湿っぽい樹皮の感触
が、冷たい火のように私の手のひらを焼きました。氷のように、胸に数えきれないほどのひび割れができました。生きて
いるものと生きているものが出会ったということを、そして、もう手を離して、さらに歩まねばならぬということを、その瞬間、
私は認めざるをえませんでした(以下略)。>

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   (~)    街路樹の手触りひとつにも心情が揺れ動き、それを敢えて書き残す―――韓江女史の、多感というも繊細な
 γ⌒ヽ  人柄が感じとれる反面、いかにも『菜食主義者』の書き手らしい偏執的なパーソナリティが抉られる一節でした
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) なお本書は表題作ほか「蒙古斑」「木の花火」と、三つの中編から成る。ただし主人公は、ヨンヘで統一される


   (~)   本書収録の「蒙古斑」は、韓国で李箱文学賞を受賞。さらに本書、映画化(邦題は「花を宿す女」)もしている
 γ⌒ヽ  そして2015年には英訳(英題『The Vegetarian』)され、翌16年にブッカー賞を受賞。国際的に認知された
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 2024年、アジア人女性としては初のノーベル文学賞という快挙も、本書の成功という下地ぬきには語れない

訳者あとがき(296〜301p)によれば、本書は「彼女の作品の主なテーマである人間の欲望と心の傷、植物性、死、存在論
の問題を集約した秀作と評価され」ているとの由。とまれ上述した通り、日本の純文学に酷似した世界観を感じている

というのも自分が外国文学を手に取るとき、何はともあれ期待するのが“異国情緒”。文学に通底する人間性描写と別に
外国独特の価値観や風俗、慣習等の要素が楽しみなのだが、その種の違和感はいっそ拍子抜けするほど感じられない

解釈はどうあれ……日本の同化政策を経て現代市民社会を構築した国ならばこその、テイストの共通点を感じましたです

【了】

46 ◆tsGpSwX8mo:2025/04/01(火) 01:41:23 ID:BazJUHck00
【2025年 4月分 月例生存報告&漫画紹介】

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┃ 『推しの子』全16巻  赤坂アカ×横槍メンゴ著、2020〜2024年、集英社刊
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   (~)     今回は、未だホットな話題作を俎上に載せたこともあり。読者の皆様もお題の漫画を履修済みの前提で、
 γ⌒ヽ    作者紹介も概要説明も省略させて頂きます。原作の最終巻が「炎上した」件のみ、考察します
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)   ゆえに、詳細は語らないがネタバレ上等の語り口になる。未読の方は承知で読むか撤収か、選択よろしく

といっても既にネットのブログや動画で、最終回の「グダグダぶり」は散々擦られきた事だけに、今さら感も否めませんが

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『推しの子』 最終巻(第16巻)の講評


炎上で期待のハードルが下がっていたので、読破直後は(アクアの死でケリがついた。恐れてたほど酷くない)と感じた

むろんこれは錯覚。>1は、アクアとルビーの兄妹愛が前世の因縁で異性愛に変わりかけていた点に注目していた
ゴルディアス化していた本作において、アクアの死はその点に限り安牌だった。だがそれ以外は投げっ放しなので、失敗

まず前提。本作は推理サスペンスの要素とオカルトロマンの要素を無理くり合体させており、グレーゾーンの広さが特徴
つまりは、異なる分野が せめぎ合うキメラみたいな作風なのです。無論それが本作独自の魅力でもあるのだが

本作は 【主人公の少年アクア(後に妹ルビーも)が、母アイを殺した真犯人であり実父でもあるカミキヒカルを探り当てて
復讐する】大筋部分が、推理サスペンスに該当する。だから探偵アクアと犯人カミキの対決イベントというクライマックスを
迎え犯人の動機や手口も解明した16巻は、推理要素に絞れば完結パートに外ならず、そこから先は蛇足。幕引きが残当

一方で本作にはオカルト要素という、推理物とは相いれない「ノックスの十戒」違反の要素も混ぜこまれてしまっている
むろんマンネリ臭を嫌い、敢えて破戒する作品は本作含め多々ある。結果、物語が制御不能となった典型が本作である

本作におけるオカルト要素は、双子の兄アクアと妹ルビーが転生者という設定。しかも二人は前世でも、親しい仲だった
ルビーの前世さりなはアイドル星野アイの熱狂ファン。アクアの前世ゴロー医師も さりなの夭折を機に、アイのオタになる
然るに彼も不慮の死で さりな共々、星野アイの実子に転生する。ところがアイは、何者かの差し金で殺されてしまう……

物語初期のアクアは愛する母アイを失った悲運ゆえ“闇落ち”し、転生者ならではのスキルを駆使して真相に迫っていく
その為にアイの過去をリサーチし、遂には犯人を追いつめる目的で事件の再現映画まで作るのだが、ここでのラスボス
はある意味で故人アイとなる。彼女のスター性が周囲を狂わせたがゆえの悲劇であり、アイの魔性が物語の主軸となる

ところが過去捜索のパートでは双子兄妹の前世をも深掘りしていく展開となり、しだいに物語の軸足がブレていく
特にアクアとルビーが互いの前世を認識し「再会」を果たしたのが決定打。というのも、さりなにはアイの後輩アイドルに
なる夢だけでなく、ゴロー医師の妻となる夢もあったのだ。そしてゴローは死期が迫る少女の求婚に、優しく応じていた

その結果ルビーの愛着対象が、亡母アイから蘇った恋人アクアへと遷移。アイを唯一の太陽とし、アクアとルビーをその
惑星とすることで成り立っていた主題が弱化してしまう。ルビーのアクアへの感情に妖しい変化が生じたのは物語の根幹
に関わる要素(第二の太陽)であり、主題の三体問題である。どう畳んでも畳み切れないほど、物語の重心が散らばった

おのずとカミキヒカルを討つアクアの動機も、亡母アイの仇討から「前世の恋人」ルビーの未来を守ることに変化。結果、
アイの物語は尻すぼみの不完全燃焼となり、アクアの自己犠牲も唐突で不自然な暴走となった。ただしアクアとルビーの
「業が深い関係」を清算する方法としては、アクアに腹を切らせるのがもっとも後腐れ無いのも確かだ。じっさいアクアが
前世はゴローだと告白することによって、ルビーの中に眠っていた前世由来の恋慕が覚醒した。いうなればアクアは、
破滅のタイマーを作動させた責任者。死んで償うのが落としどころだ(ツクヨミが告白を『悪手』と評したゆえんでもある)

だからこそ読んだ直後は ありっちゃありというか「始末はついた」とすら、思えたわけだが……もともと前世のゴロー医師
に、享年12だった患者さりなへの恋情は無い。まして今生での彼の本命は、有馬かなだ。所が、アクアがあたかもルビー
の歪んだ愛を受け入れたようにも見えるキスシーンをこなした事で、道ならぬ恋に殉じるべく自死を選んだ、と受け取れる
ムードが生じていた。だがそれも匂わせの域でしかなく、単に作者がインモラルな修羅場を雑に回避しただけにも見える

アクアには、前世で全うできなかった医師人生をやり直す目標があった。自分が死ねば、ルビーが悲しむ事も判っていた
カミキの「共犯者」ニノのルビー殺害未遂事件で、カミキが依然ルビーの脅威であると判断したとはいえ―――今生で
得られた諸々の絆や縁を投げ捨てて、妹ルビーの“未来のため”だけにカミキと差し違えるのは、無理筋にもほどがある

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   (~)   なおアクアの前世ゴロー医師もアイの秘密を知るがゆえカミキに殺されたのですが、転生した自分(アクア)の
 γ⌒ヽ  前に、折にふれ別人格として登場。復讐断念宣言するかと思えばアクアにナイフを預ける等、立ち位置が曖昧
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 明確な怨霊だったら、結局役立たずだったツクヨミを金田一に見立てた芸能界版「八つ墓村」に出来たかも?

あとは3期とそれ以降? のアニオリで、もう少し納得のいく改変があるかどうかが注目点ですかね―――

【了】

47 ◆tsGpSwX8mo:2025/05/01(木) 15:35:10 ID:JmKGIw/Q00
【2025年 5月分 月例生存報告& 文献紹介】

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┃ 『イランの地下世界』  …… その3
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   (~)    >>44に続き若宮總(さとし)著、イラン暴露本の紹介です
 γ⌒ヽ   今回は第四章 <イラン人の目から見る革命、世界、そして日本> (137〜193p)からの、引用・要約
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  近年のイランでは革命前、パフラヴィ―(パーレビ)王政期の暮らしや文化にノスタルジーが生じている由

著者によれば、それは日本の「昭和レトロ」ブームに似ている。ただし他にも、現体制への怒りの反映という要素がある
その結果、現在のイランには王政復古のうねりすら生じているのだという―――

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「第四章 イラン人の目から見る革命、世界、そして日本」より抜粋

<王政復古は、イスラム共和国なき後のシナリオとしても最も可能性の高いものではあるが、もちろん唯一の選択肢では
ない(中略)。
それでも、圧倒的多数のイラン人に共通しているのは、「イスラム共和国は“オワコン”」という認識だ(中略)。
ただ、人は多大な犠牲を払って手に入れたもの(たとえば革命体制)を自ら手放そうとするとき、何らかの口実を必要と
する。
そうでなければ、払った犠牲の重さに耐え切れなくなるからだ(中略)。
いちばん簡単な逃げ道は、自らを「被害者」と考えることだろう。騙されていた、仕組まれた、裏切られた、やむを得なかっ
た―――。理由は何でもいい。とにかく原因を自分の外に求めるのだ。>(155〜156p)

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   (~)    これは戦後日本人が戦前を顧みるときとおなじ心象であると、著者は指摘します。かくして現代イラン人は
 γ⌒ヽ   「われわれは、騙されて革命に参加しただけだ」という風に、未曽有の大衆運動イスラム革命を総括している
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  その結果、昨今のイラン人の間には「ホメイニは、イラン人ではなかった」という珍説が広まっている


   (~)    ちなみにこの説自体は、イスラム革命以前からあった古株の噂。いわく「ホメイニの先祖はインド出身で、
 γ⌒ヽ   ペルシア語も話せず、ムスリムですらなかった」という。イランに移住したのはホメイニの祖父からだという
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  この祖父が中西部の町アラークで英国領事館の使用人となる。孫のホメイニもインド人の自覚があった由


   (~)    で、この偽ルーツが「ホメイニ一族は、祖父の代から英国の内通者だった」というトンデモ説に繋がる。即ち
 γ⌒ヽ   「英国はイラン強国化を推し進める名君を排除すべく、手下のホメイニを使って革命を起こした」と主張する
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  もちろん著者は、このイラン人の珍説を「陰謀論」と一蹴している


   (~)    要は、悪夢のイスラム革命を自ら選択した事実を欺瞞する免罪符に過ぎない
 γ⌒ヽ   なお前回紹介した才媛レイラ嬢曰く「イラン人はね、過ちを過ちとして認めたがらないの」(165p)との由
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  挙句「イスラム体制と欧米諸国は、実は昵懇の仲。茶番を演じてイラン国民を捨て置いている」と考える始末


とはいえ「事実、イラン政府の要人たちの多くが、その子息を欧米に留学させており、彼らが現地政府の庇護のもと、
VIPとして贅沢三昧の暮らしを送る様子は、イラン国内でしばしばスキャンダルとなってきた。」(170p)という下地はある

また、第四章の一節(170〜175p)にはイラン人のロシア人・中国人に対する感情も紹介されている。ロシアは腕っぷしが
強いだけの国。いっぽう中国は、今やイランに最大の影響力がある。日常生活に中国製品があふれ、イラン南部の経済
特区では中国人経営の商店・食堂が目立つ

だが大挙してイランに押しかけつつ、自分たちのコミュニティに閉じこもる中国人へのイラン人の反感は、極めて深刻
一帯一路絡みの協定では、中国によるエネルギー開発やインフラ整備の見返りに原油やLNGを安価提供する約定に
加え、キーシュ島の租借や五千人規模の中国軍イラン常駐等が海外メディアで報じられ、イランに激震が走った

イラン世論は激昂、1828年にロシアに屈して以来の国辱だと糾弾した。だがイラン当局は、協定の詳細を公表せず発効
大規模な反中暴動が無いのが不思議だと、筆者は指摘する。とまれ中国人の無節操が、イラン人の神経を逆なでしている

【次回以降に続く】

48 ◆tsGpSwX8mo:2025/06/01(日) 09:51:26 ID:4sVmiPlY00
【2025年 6月分 月例生存報告&漫画紹介】

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┃ 『ファイアパンチ』全8巻 藤本タツキ著、2016〜2018年、 集英社刊
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   (~)    いま最も勢いのある人気漫画家のひとり・藤本タツキ氏の出世作にして、初連載という点でも記念碑的作品
 γ⌒ヽ   2016年9月、本作は「この漫画がすごい・男編」1位を獲得。以後の藤本氏の活躍も、これが起点といえます
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  なお本作、「氷河期の到来で、文明が崩壊した未来世界」という舞台設定だが、にもかかわらずSFではない

一見ポストアポカリプスものだが、科学的説明をぶん投げたダーク・ファンタジー。エモいが渋滞感のある展開は人を選ぶ
個人的には「面白いと凄いは別」というネット民の評が、至言だと思う

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『ファイアパンチ』 第一話(序章 覆われた男)あらすじ

「氷の魔女」の力で氷河期が到来したポスト・アポカリプスの地球。食糧難に苦しむ僻地の村に、アグニとルナという孤児
の兄妹が住んでいた。二人はこの終末世界で「祝福者」とよばれる特殊能力のもちぬしで、手足を失っても再生ができる
兄のアグニはこの異能を利用して自分の腕を斧でルナに切らせ、飢えをしのぐ食材として村人たちに配布していた
なお妹ルナも再生の祝福者であり、自身の腕の提供を申し出ていたが再生能力が兄より劣るため、禁じられていた

だがある日、「氷の魔女を倒し緑を取り戻す」ことを国是とするベヘムドルグ王国の軍が村を襲撃。隊長ドマに人肉食いを
断罪され、村は住民ごとドマの祝福「消えない炎」で焼き尽くされる。焼かれても再生し続けるアグニは苦痛に耐え切れず
自死を選ぼうとするが、同じく焼かれ、再生能力の弱さゆえ死に行く身だった妹ルナから生きるよう遺言され思いとどまる
8年かけて顔の炎だけ取り除いたあげく、肉体を焼き続ける炎を逆に己の武器として取りこんだ彼は妹の復讐の旅に出る

果たして旅に出て早々、アグニは奴隷狩りの帰途に就くベヘムドルグ王国のトラック隊に遭遇。炎の力で兵士たちを一掃
し、奴隷たちを解放する。その中に、見せしめで銃殺されかけていたところを命拾いした少年サンが混じっていた───

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   (~)   クリエイター、特に売り出し中の新人クリエイターが苦心するのは「王道と詭道」の、バランス取りだと思います
 γ⌒ヽ  王道を忘れた詭道では、四次元殺法コンビの云う通り滑るだけ。だが愚直な王道は先を読まれ、白けるだけ
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 本作も、上記のオーソドックスな復讐譚では終わらない。アグニの対人関係を不安定にして「差別化」している


   (~)   すなわち本作では、ラスボスや黒幕が頻繁に入れ替わる。アグニの敵や、味方づらして体よく利用する者が、
 γ⌒ヽ  アグニを慕い、救う側に変る。かと思えば、最初からアグニを崇拝していた者が狂信の末に暴走し、敵対する
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) ちなみに序盤の宿敵ドマも再会時には丸くなっており、あげく過去の殺戮を悔いて贖罪の善行に励む始末


ドマが孤児たちを扶育し慕われている姿に気勢を削がれ、いちどは復讐の心を捨てて去ろうとするアグニがルナの幻影
に促されて孤児たちもろともドマを焼き殺すパートは、本来クライマックスの筈だが本作ではモヤっとした通過点となる

とはいえ。読者の意表を突く展開の乱用はキャラの一貫性を損ない易く、物語に感情移入しにくくなる諸刃の剣。本作も
例外ではなく、破綻の一歩手前という印象を抱いた。ただし作者は、ストーリー展開の序盤で二本の“主軸”をあらかじめ
確立させており、それが破綻を回避する保険として機能している。つくづく書き始め段階で、ラストを決めておくのは重要

第一の主軸は、序盤で登場したアグニの崇拝者・少年サンを「真打ちの」ラスボスとしたこと。サンのアグニへの関り方が
「片思い」めいていたことから、わりと推察しやすい伏線だったとはいえ。登場時点では柔和な美少年サンが、アグニへの
狂信ゆえ闇落ち教祖化したのはドマの改心と併せ技の、巧いどんでん返しではある。ほんらい善玉(主人公の仲間)側の
キャラだった筈が不幸な生い立ちからくる情緒の不安定さゆえ堕ちる辺り、サンはアナキン・スカイウォーカーに似ている
ちなみに物語後半でサンの側近となるスーリャ(後述)は、スターウォーズの大ファン。どこか不自然というも作為を感じる
キャラである点も相俟って、サンの造形はダース・ベイダーを参考にしたのかも知れない……?

第二の主軸は、主人公アグニの“亡妹ルナへの想い”という属性。即ち本作の主題は、壮大なるシスコン・サーガである

ただし……そのために故人ルナと偶然そっくりさんの祝福者キャラを出した点はご都合主義的で、設定の練り不足感あり
しかも無駄に?二人も出る。その一人ユダは終盤のキーパーソンだが、もう一人スーリャ(氷の魔女)はアグニと会った時
に故意か偶々か、素顔を見せずじまいという「逃げ」の演出となる。正直、ルナ(ユダ)に似せる設定が必要だったか疑問
加えてスーリャ、登場時は黒幕の大物めいていた筈がフリーザ的に小物化し、雑に殺される。作者も持て余していた印象

ちなみに生前のルナは、兄アグニと結ばれることを望むブラコン。そしてアグニはユダを、実妹の代用品に仕立てて結ば
れる。でもそこまで妹キャラに拘るなら、ドマへの復讐時に現れたルナの幻影を深掘りするといった路線をこそ、推したい

【了】

49 ◆tsGpSwX8mo:2025/07/02(水) 15:38:48 ID:YmeIXtoA00
【2025年 7月分 月例生存報告& 文献紹介】

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┃ 『イランの地下世界』  …… その4
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   (~)    >>47に続き若宮總(さとし)著、イラン暴露本の紹介です
 γ⌒ヽ   今回も第四章 <イラン人の目から見る革命、世界、そして日本> (137〜193p)からの、引用・要約
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  しかも今回の引用はずばり、イラン人の対日感情について言及した箇所(181〜193p)です

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「第四章 イラン人の目から見る革命、世界、そして日本」より抜粋

<ここまでお読みになった読者は、きっとこう思うに違いない。
「イラン人は(中略)、いったいどこの国が好きなんだ?」と。
これは本当に、嘘偽りなく、主観を排して、客観的に、そして公平無私な立場で言わせてもらうが、答えはズバリ、
日本である。
何を隠そう、この私も、日本人が大好きなイラン人たちのおかげで、なんとか今日まで生き永らえることができたような
もので(以下略)>(181p)

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   (~)    イラン人の親日感情には歴史的な経緯もふくめて様々な要因がありますが、<何といっても決定的だった
 γ⌒ヽ   のは、一九八〇年代の終わりごろから日本に大挙してやって来たイラン人労働者の存在だろう。人によって
  {i:i:i:i:i:i:}   は一〇年以上日本で働き、われわれの言語や習慣、そして文化を余すところなく吸収した>(182p)
 (´・ω・)  そして彼らは、帰国したときには大の日本びいきになっていた―――と、いうのです


   (~)    帰国したイラン人たちは友人・家族・親戚に「日本人の規律正しさ・礼節を重んじる心」について繰り返し
 γ⌒ヽ   何十年にもわたって述懐した。これがイランにおける親日のすそ野を、大きく広げているという
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  著者がいっそ、気恥ずかしくなるほどにイラン人の間では日本が「過大評価」されているとのこと


   (~)    <たとえばイラン人は、イラン社会に向けて何かを訴えたいときには、「日本人はこうしているが、われわれ
 γ⌒ヽ   はどうか」という論法を使う>(182p)由。
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  いわく、教師の厚遇による教育の質の保全・生きがいを持つ老人たち・側溝の水質の清浄さに至るまで……


   (~)    ただしこれが「米国人は…」「英国人は…」「中国人は…」では、誰も耳を貸さないという。事実はどうあれ
 γ⌒ヽ   何としても「日本人は…」でないといけない点がミソです。あらゆる方面で、日本人が模範とされるのです
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  かてて加えて。とりわけ若者を中心とする日本アニメの需要も大きいが、これは詳述するまでもないでしょう


一方で本書は、<実は多くのイラン人は心のどこかで、イランのほうが東アジア(日本・中国・韓国)よりも、精神的には
優れていると今でも思っている>(191p)と指摘。さらに、物質文化的にも日本をしのぐものが欲しいという願望が強い

<(前略)ある日、国営テレビで、ひとつのトーク番組が放送された。
スタジオには、スカーフをかぶった怪しげな日本人女性。イラン人の司会者に促されるままに(中略)、拙いペルシア語で
風変わりな説を唱え始めた。
「日本の古都として知られる奈良は、イラン人によって造られた都です。イラン人が高度な土木技術を、私たちに教えて
くれたんです。日本の物質文化の多くはイランに起源をもっています。そればかりか、日本の天皇もイラン人(以下略)」
(中略)ところが、この番組の切り抜きはその後もSNSを通じて拡散され続け、イラン人の大喝采を浴びることになった>
(191〜192p)

アサクリの弥助騒動と比べても、イラン国営放送による日本をダシに使った愛国プロパガンダは、罪深い気がします……

【次回以降に続く】

50 ◆tsGpSwX8mo:2025/08/01(金) 00:28:30 ID:hoYELgSg00
【2025年 8月分 月例生存報告&映画紹介】

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┃ 『インターステラー』 監督:クリストファー・ノーラン、主演:マシュー・マコノヒー、2014年 米国映画
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   (~)    言わずと知れた現代英米映画界の巨匠クリストファー・ノーランの代表作にして、名高き傑作SF映画です
 γ⌒ヽ   ただしアカデミー賞は視覚効果賞のみ。興行収益が、健闘したとはいえ大作のわりに微妙だったためらしい
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  ちなみにノーラン監督、本作の制作にあたり常にキューブリックの「2001年宇宙の旅」を意識していたという

然るに岡田斗司夫氏は「インターステラー」の娯楽作品としての質の高さは評価しつつも、ハードSFという縛りで比べると
「インターステラーは2001年…の足元にも及ばない」と、バッサリ斬り捨てています。後述するが、自分もその通りだと思う
(参考: ttps://www.youtube.com/watch?v=fHs_6gdCsOI)

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『インターステラー』あらすじ(以下、ウィキペディアより抜粋)
ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%BC_
(%E6%98%A0%E7%94%BB)

“近未来。巨大な砂嵐が日常的に発生する異常気象と疫病により、地球規模で植物・農作物の大量枯死が発生し、
人類は滅亡の危機に晒されていた。文明は疲弊して食料増産が急務となり、元宇宙船のテストパイロットであるクーパー
も、義父と15歳の息子トム、10歳の娘マーフィー(マーフ)とともにトウモロコシ農場を営んでいる。
マーフは自分の部屋の本棚から本が勝手に落ちる現象を幽霊のせいだと信じていたが、ある日クーパーはそれが何者か
による重力波を使った二進数のメッセージであることに気が付く。クーパーとマーフはメッセージを解読し、それが指し示し
ている座標の秘密施設にたどり着くが、最高機密に触れたとして身柄を拘束される。

そこでクーパーはかつてのNASAでの仕事仲間・ブランド教授と再会し、廃止されたはずのNASAが秘密裏に復活し活動
を続けていることを知らされる。NASAは土星近傍のワームホールを通り抜けて、別の銀河に人類の新天地を求める
プロジェクト「ラザロ計画」を遂行していたのだった。(以下略)”


“地球出発時点のクーパーと同い年に成長したマーフは、ブランド教授とともに重力の研究を行っていた。重力の方程式
に解を見つけられれば、巨大なスペースコロニーを宇宙に打ち上げ、地球に残された人間を宇宙に脱出させられると
期待されている。しかしブランド教授は老齢で死の間際にマーフに自身の罪を告白する。実は何十年も前に重力方程式
を解いており、重力制御は事実上不可能だとの結論を導いていた(以下略)”

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    岡田斗司夫氏の「言っちゃ悪いがインターステラーは、スペースオペラをハードSFの表現でやってるやつ」
 γ⌒ヽ   という“酷評”には、>1も我が意を得たりと思わされましたね。本気で考察したらツッコミ所の宝庫ですから
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  ハードSFという枠組で採点すれば「2001年宇宙の旅>メッセージ>インターステラー」という講評にも、納得


   (~)    ツッコミどころは多々ありますが、例えば登場する宇宙船の性能。核融合エンジンが実現しており、小型の
 γ⌒ヽ   探査艇が、大気圏突入と脱出を難なくこなしている。こんな艇が既存なら「重力制御の解」など無用であろう
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  地球脱出用スペースコロニーを宇宙に打ち上げるのは無理でも、現地建設用の運搬手段が実現している


他にもウラシマ効果が生ずる惑星を、主人公が探査艇で3時間ほど調査するパートでは、母船で留守番していた仲間が
時間の遅れ現象で23年間も待つはめになり、主人公が帰還してみると留守番役のみ老けていた……という描写がある
だが23年分の水や空気や食料の消費量を考えればあり得ない話で、科学の縛りを演出の都合で無視する作風だと判る

あげく主人公がブラックホールに落ちても分解されず、娘の部屋の本棚裏に繋がった場面でハード描写を全放棄した感
一応「超未来の五次元人がサポートしてた」というエクスキューズは、あるものの。ハードSFとして観ていると騙された気分

杜撰な話を「愛の力」という作品テーマの勢いでねじ伏せたのは、皮肉でなく見事。さしずめ西洋版「愛のコスモゾーン」か

【了】

51 ◆tsGpSwX8mo:2025/09/01(月) 01:16:32 ID:Yp8NqMg.00
【2025年 9月分 月例生存報告&書籍紹介】

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┃ 『此の世の果ての殺人』 荒木あかね著、講談社刊、2022年
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   (~)    2022年度の江戸川乱歩賞受賞作です。ちなみに著者は受賞時点で24歳、同賞受賞者では最年少でもある
 γ⌒ヽ
  {i:i:i:i:i:i:}  本作が近年の受賞作における異色作といえるのは、設定にSF的な終末世界を導入したことにあります
 (´・ω・)  すなわち直径7.7キロの小惑星が熊本県に落下する運命の2023年3月7日を、2か月前に控えた九州が舞台

善玉も悪玉も、犯人も探偵も、最終的には一人残らず未曽有の天災で同時に落命する運命があらかじめ決まっている
……このメランコリックな設定自体は選考委員の京極夏彦氏も指摘する通り、国内外でブームになっており先行例も多い

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『此の世の果ての殺人』 あらすじ(講談社HPの紹介文より引用)
ttps://www.kodansha.co.jp/book/products/0000368583

<小惑星「テロス」が日本に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。
そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり太宰府で自動車の教習を受け続けている。小さな夢を叶えるために。
年末、ある教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見する。
教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める――。>

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   (~)    「本作は極限状況を非日常として描かず、あくまで視点人物の日常として淡々と描いている。その姿勢には
 γ⌒ヽ  好感を持った。本作において特殊設定は登場人物達の行動の動機付けと制限のための装置として機能する
  {i:i:i:i:i:i:}  のみである。ミステリーとしての仕掛け自体は凝ったものではないのだが、書き振りがもろもろを韜晦する
 (´・ω・)  ことに成功している。いわゆる“終末もの”ではあるが、読後感も悪くはない」(京極夏彦氏の選評より抜粋)


   (~)   じっさい本作のように、人間ドラマに焦点を当てた終末ものは少なくないが、個人的に本作は、その中でも
 γ⌒ヽ  読みやすさが出色だったと思います。滅亡の日という巨大な運命を間近に控え、それに比べればもはや意義
  {i:i:i:i:i:i:} の有無すら疑問のある「犯人さがし」に専念する主人公……実は主人公に、只者じゃないオーラを帯びさせる
 (´・ω・) 秀逸な設定。ベン・H・ウィンタース「地上最後の刑事」や知念実希人「神のダイスを見上げて」に並ぶ秀作


絶望の未来を故意にやり過ごし、目前の使命を価値あるものと位置づけて日常の正気を維持し続ける主人公の、芯の
通った生きざまには自然と感動・畏敬の念を覚えてしまう。そこに目を付けた著者の才覚には、素直に敬意を表したい

ただし京極氏の指摘どおり、ミステリーとしての工夫はあっさり風味。これは設定が凝っているぶん、濃い味付けが難しい
せいもあろう。また終末ものにおしなべて言えることとして、どう料理してもラストシーンで気が滅入るのは避けられない

設定がそうだから、と言ってしまえばそれまでではあり。余韻を味わうことにこそ、専念すべきかもしれないものの―――
良作を生む宝庫であるにもかかわらず、(本作含めて)商業面では今一つめぼしいヒットが見られない原因かもしれない

【了】

52 ◆tsGpSwX8mo:2025/10/01(水) 00:47:14 ID:xxtSy/2s00
【2025年 10月分 月例生存報告&アニメ紹介】

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┃ 「君の名は。」「天気の子」「すずめの戸締り」 原作・脚本・監督etc:新海誠  2016〜2022年劇場公開
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※なお「君の名は。」単体については以前、同時期公開作「この世界の片隅に」と絡めて考察しております
(参考:ttps://inzainewtown.blog.fc2.com/blog-entry-4552.html)


   (~)    新海誠……2016年、ごぞんじ「君の名は。」の記録的な大ヒットで国民的アニメ監督としての地位を確立し、
 γ⌒ヽ   余勢を駆って2019年に「天気の子」を、2022年には「すずめの戸締り」をリリース。いずれも収益は大成功
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  ただし後続二作は「君の名は。」ヒットの余熱をあてこんだ(新海本人だけに許される)同工異曲の焼き直し

かくして。上記の三作をまとめて「災害三部作」とする俗称が生じるに至っているわけですが、世界線の繋がりでいえば
「天気の子」には「君の名は。」の主人公を含む主要キャラがカメオ出演するのに対し、「すずめ…」は完全に別物

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災害三部作・共通点

1.主題はボーイミーツガール
2.日本国を襲う巨大な災害が、主人公カップルにとっても最大の障壁となる
3.主人公カップルの片方が特殊な異能を持っていて、それが障害を乗り越えるキーとなる
4.異能の要素や災害の要因について、日本神話・神道の世界観を(控えめにだが、明確に)モティーフとしている

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   (~)   さて、本題。第一作がブレイクした理由については上記urlの通り過去に考察しておりますが、要は4.の神道
 γ⌒ヽ  というサブ的因子こそが、日本人観客の宗教的郷愁(ノスタルジア)に、強烈にアピールしたということです
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) キリシタンとガチめの仏教系を除く、宗教的に緩い日本人マジョリティの素朴な神国思想を、上手く捉えていた


   (~)   「八百万の神々をまつろう神国の民にこそ、救いあり」―――この、普段は戦後憲法で「封印」された宗教観
 γ⌒ヽ  を、押しつけがましくない演出・エレガントなストーリー展開・魅力的なキャラで肯定して、新海誠は飛躍した
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) 詰まるところ。大衆娯楽成功の鍵は、マジョリティのライトな宗教心を無理なく、かつ上手く くすぐることに在り


キリシタン史を、敢えて肯定的に再評価する視点での日本近現代史再検証を試した>1には、新海監督の成功は色々と
示唆の多い出来事でした。まあ「手品の種」を評論家視点で観てたせいで個人的には、評価しつつも熱狂はし損なったが
ともあれ「日本人観客は、日本神話に弱い」…この因数を自身の作品に導入すれば勝てる、という攻略手段を発見した
新海監督は災害三部作で成功。マニア向けから、一挙にポスト宮崎駿の筆頭候補? の巨匠に変貌したといえましょう

ただしすぐに限界も来た。上述の通り「天気の子」は監督のサービス精神で、「前作」の主要キャラをモブで再登場させた
わけですが、これは観客の期待に応えての事とはいえ第一作のキャラを矮小化させる、嫌な効果を生じさせてしまった
というのも三部作全てが、現代日本という「同じ時代・同じ場所」で起こるカタストロフの中心に主人公カップルをキーマン
として配する設定なので、「君の名は。」世界の主役たちが「天気の子」世界においては、巻きこまれるモブに弱体化する

しかも拙いことに「天気の子」、新海監督ほんらいの持ち味ではあったようなのですが、バッドエンド寄りの幕引きとなる
即ち主人公カップルは障害を超えて再会するが、東京は災厄を背負うまま終わるのです。ここが前作との、決定的違い
上述urlにおけるレビューでも触れましたが、ボーイミーツガールと神による救済が、無茶ぶりであろうとリンクしておれば
こその「君の名は。」大ヒット。果たして「天気の子」で、熱狂的支持層は激減する。新海監督、やはり? 滑ってしまった

第二作では、“神の役割”が大きく変わる。主人公カップルひいては世界に破局をもたらす障壁であり、主人公に恋人と
世界、何れを救うか二者択一を迫る「非情な存在」。しかも前作主人公が不用意に再登場したため、前作も矮小化する
けっきょく第三作「すずめの戸締り」で「天気の子」の結末は白紙化。完全に別の世界線の日本に換えて、新規まき直し

なお不評に懲りた? のか第三作は「君の名は。」路線に戻した救いのあるエンドとなっており、人気のリカバリーに成功
第一作の好評に支えられた第二作に比べ、第二作の不評を背負いつつ第二作を超える収益を得たのは偉業といえる

とはいえ流石に出がらし感もぬぐえず、今月10日に公開予定の新海監督新作は「秒速5センチメートル」リメイク実写との由
「稼ぎと名声はもう充分。次はプレッシャー抜きで自由に創作させてくれ」という、監督の声が聞こえてきそうではある……

【了】

53 ◆tsGpSwX8mo:2025/11/01(土) 00:38:14 ID:EAW1P87s00
【2025年 11月分 月例生存報告&漫画紹介】

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┃ 『寄生獣リバーシ』全8巻 原作:岩明均 ・ 作画:太田モアレ、2018〜2021年、 講談社刊
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   (~)    言わずと知れたSF漫画の金字塔「寄生獣」の、スピンオフ作品です
 γ⌒ヽ   田村玲子率いる食人パラサイトの群れや、彼らに与した広川市長サイドに視点を移したアナザーストーリー
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  「寄生獣」ファン御用達の外伝であり、「原典」を補強する裏話オムニバスの趣向が強い作品ともいえます

潔く、原典「寄生獣」履修済みの読者のみ対象とする筋立てになっているので、未履修の読者にとっては何の脈絡もなく
未知のキャラが出てきて本筋と関係のない行動をとる道草パートが多い点は、要注意。ただしファンは、ニヤリとできる

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『寄生獣リバーシ』 第一巻 前半あらすじ

男子高校生の広川樹(たつき)は、学校の悪友たちから夜遊びに誘われ待ち合わせ場所に向かうも遅刻してしまい、現地
に到着したのは友人たちがバラバラ斬殺された直後であった。「実行犯」海老沢晃平を目撃した樹だが、警察の聴取では
犯人の顔を「見ていません」と とぼけてしまう。だが事件を担当した東福山署の深見十三は、刑事の勘で樹の嘘を見抜き
彼をマークする。はたして樹は、目撃した海老沢の気配から「おぞましい悪」を感じ取っており、警察の手を借りず自身の
力だけで彼を処断しようと決意していたのだ

しかも樹は、海老沢が「化け物」ことパラサイトを自身の左手に宿しており、その異能を利用して人間技では不可能な猟奇
殺人を遂行しているさまをも、目撃していたのである。おまけに彼には、パラサイトに寄生された人間を見抜く力もあった。
さらに樹は次期市長の呼び声も高い広川剛志市議の、一人息子でもあった。なお母はすでに故人であり、多忙な父とは
やや疎遠である。だが彼は、父がパラサイトたちと何らかの協力関係を築いていることにも漠然とだが、気づいていた

それゆえ樹は、父の書斎に侵入。机上に広げられていた、パラサイトたちの狩り場(いわゆる“食堂”)の地図を発見し、
その情報をもとにタクシーで市内の廃屋に向かい、海老沢の出現を期して張りこもうとする
だが場当たり的な張り込み場所に、海老沢が現れようはずもなく。代りに現れたのは彼の父・剛志と、その「側近」と
おぼしきパラサイトたちだった。そのうえ樹は、深見に尾行されてもいたのである―――

──────────────────────────────────────────────────


   (~)
 γ⌒ヽ  Amazonレビューは、辛口の評価が多めです。後述するがオリジナルキャラ・樹が、難解というも曖昧すぎた
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・) それでも原作の展開を変えず、世界観やキャラも高度に再現した外伝を描き切った熱量は、評価したい


もとより、それゆえの宿命……「原典を超える面白さを許されない」がゆえの、物足りなさは残当
その代り「あのepの裏に、こんな事情があったとは」「あのモブが、実はヤバい奴だったとは」的な愉悦に浸れます
とりわけラスボス後藤の、「頭部と右手」以外の事情や個性を紹介するepは、ファンの需要をよく分かっている

樹の父・広川剛志と田村玲子が邂逅し、意気投合した過程を挿入してくれた点もグッド。原作では構成上、略さざるを
得なかった“ビギニング”パートを描いてくれたことで、原典の補強材という本作の重要な役目を果たした
ただしその上で欲を言えば、原典の主要なパラサイトたち……田村玲子・A・島田秀雄・後藤(後藤頭部)・三木(同右手)
・草野については、「宿主にされた人間側の『生前』も見てみたかった」という物足りなさ、無きにしも非ず……

あと本作の根本的な弱点として、そもそも主人公・広川樹の価値観がまるっきり父親寄りである点が挙げられる
父・剛志と打ち解けない仲ではあるにせよその人格的影響を素直に受け継ぐキャラであり、食人パラサイトについては
「(毒をまく)人間を間引く天敵は、有り」と評して、深見を苛立たせる始末
かくして樹は、父とパラサイトの企てに薄々気づいてはいるのだが恐怖や嫌悪感は抱かずむしろ同調の気配すら見せ、
とはいえ父が何も打ち明けないことから積極的加担もせず、いわば台風の目に安住する曖昧な傍観者に徹している

彼が断罪する標的は、あくまでもパラサイトの力で快楽殺人を重ねる人間・海老沢のみ。パラサイトとの直接対決はし
ない。成り行き上 海老沢の左手に宿るパラサイト“スレドニ・ヴァシュタール”とは交戦するが、海老沢から英国の作家
サキの短編に登場するイタチの名で呼ばれるそのパラサイトは、宿主の手で麻薬中毒にされて自我喪失状態である
とまれパラサイトを察知できる能力も相俟って、広川剛志の息子である樹はパラサイトによる捕食の危機を免除される
特権を享受してもいる。その“ぬるま湯”の中で彼なりの正義を追いかけたところで空回り感はぬぐえず、一般読者の
共感を得にくいのも残念だが当然。原作改変を禁ずる縛りが生んだ、つかみどころの無い苦肉のキャラである

もちろん、原典に基づき考え抜かれた主人公ではある。だがその結果としてパラサイトと敵対しないキャラになった挙句、
彼専用の敵キャラ(海老沢)まで必要となり二重の無駄が生じた感もある。素直に、広川剛志を主人公にすべきだった?

何より樹の価値観には、潜在的課題がつきまとう。父の手引きでパラサイトが暗躍する市内では、樹にとって大事な人が
彼らに捕食される可能性も高まる。そうでなくとも樹の悪友を殺した相手が海老沢でなくパラサイトだったら、彼が父譲り
の達観でそれを容認できたかどうかの疑問が、ついて回る。作中でこの葛藤が顕在化することは、遂に無かったが

なお本作オリジナルキャラで樹とは接触せずじまいだったパラサイトの野田が、個人的に興味深い。種の本能を抑えて
人間社会への適応を志す、理性的な穏健派。田村玲子の男性版という趣だが、殺人鬼の海老沢と奇妙な交流を結ぶ


【了】

54令和もどこかの名無しさん:2025/11/01(土) 01:14:23 ID:YAMt8cj.MM
時事問題に乗じて熊に寄生して熊を捕食するパラサイトだったら、取材は恐ろしく大変
だと思うがかなり売れただろう

55 ◆tsGpSwX8mo:2025/12/01(月) 01:08:20 ID:fD9ApwOA00
【2025年 12月分 月例生存報告& 文献紹介】

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┃ 『イランの地下世界』  …… その5
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   (~)    >>49に続き若宮總(さとし)著、イラン暴露本の紹介です
 γ⌒ヽ   今回は第五章 <イラン人の頭の中> (194〜235p)からの、引用・要約
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  圧政に生きる悲哀を胸の奥に秘めつつ、バイタリティあふれる陽キャとして振る舞うイラン人の実像に迫る

──────────────────────────────────────────────────

「第五章 イラン人の頭の中」より抜粋

<一度でもイラン人と接したことのある日本人は大概、「彼らはなんとよくしゃべる人間なのだろう」と舌を巻く>(197p)

<彼らと同等のエネルギーを会話につぎこむことのできる日本人は、おそらく明石家さんまか上沼恵美子ぐらいだろう>
(198p)

<そればかりではない。イラン人は、親友のために必要とあらば何日も仕事を休んだり、金銭を工面すべく東奔西走
したりすることも惜しまない。親友はイラン人にとって、文字通り家族同然か、それ以上の存在なのである。
具体的に言えないのが残念だが、私自身もこれまでどれほどイランで崖っぷちの局面を親友たちに助けられてきたか
知れない。
彼らの友情には人種も国籍もないのであって、これはイラン人が世界に誇るべき美徳に違いない(以下略)>(211p)

<何を隠そう、私もこれまで親しくなったイラン人からよく「恩知らず」のレッテルを貼られ、少なからぬ友人を失ってきた。
おそらく、イランで暮らす日本人をもっとも悩ますもの、それは皮肉にも、「イラン人の優しすぎるほどの優しさに、どう
応えていくか」ということなのである。
考えてみてほしい。たとえば、私に女の子を紹介してくれたイラン人男性に、日本人の私がイラン人の女の子を紹介
できるだろうか。無理とは言わないが簡単ではない。
「日本人の女の子を紹介しろ」なんて言われた日には、ほぼお手上げだ。日本でモテていなかったからというのもあるが、
それ以上に、そもそも私自身が今日本にいないのだから。>(214〜215p)

<自信をもて―――。それが励ましの言葉になるということは、逆に言えば、それだけ日本人は、自分で自分を高く評価
することの苦手な国民だ、ということだろう。
イラン人はというと、まったくその反対である。(中略)誰もがおめでたいくらいの自信家なのだ。>(216p)

<自信家であふれるイランでは、電気の配線や、ガス・水道の配管などを請け負うエンジニアもまた、素人ぞろいだ。
(中略)自分の家の水回り、電気、ガスの不具合を直して(中略)、納得のいく仕事をして帰るということはまずない。
たいてい、翌日になるとまた不具合を起こすか、一度で直ったとしても、全然関係のない箇所をぶっ壊されたり、本人が
必要な道具や部品を持ち合わせていないために二度も三度も往復して、丸一日時間をとられたりする。
(中略)イランにプロフェッショナルが少ない理由、それはつまるところイラン人が自信過剰だからにほかならない。>
(219〜220p)

──────────────────────────────────────────────────


   (~)    とはいえ。一見 自信家ぞろいのイラン人も実のところ心底からうぬぼれているわけではないと、著者は指摘
 γ⌒ヽ   しています。本音は劣等感が強く、他者の評価を気にしての虚勢。ちなみに、若年層は美容整形が大流行
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  学生のカンニング率も高い。贈与や馳走では、見栄を張る浪費が蔓延している。見栄と嫉妬が渦巻く社会


   (~)    もちろん著者の指摘は、イランに限らず日本を含めた人間社会全般に通底する問題でもあると思うのだが
 γ⌒ヽ   やはり日本社会と比較して、その傾向が段違いで“ひどい”からこその指摘である点に、注意すべきでしょう
  {i:i:i:i:i:i:}
 (´・ω・)  加えて著者の指摘が長短ともに、中韓の国民性を評する日本人ネット民の指摘と被りまくる点は興味深い


近代国家の市民社会ではおのずと普及している「身の丈に合った処世」が、非近代社会では定着しづらいがゆえの特徴
かもと愚考した次第。一方でイラン通の著者にいわせれば、日本人の自称「おもてなし文化」は、自己陶酔の虚像だとか

現に著者は、五章の結びで「他者に干渉しない」日本社会が、イランではあり得ぬほど薄情となる事例を紹介しています
あるとき、自転車で移動中の在日イラン人女性が転倒して怪我を負った。だが日本人の通行人は救助せず、無視した由

当のイラン女性も、これには精神的ショックを受けた。ただし親日家の彼女は、そこにも肯定的要素を見出す。曰く……
「それでも私は日本が好きなんです。この国では、イランのように他人が干渉してこない分、個性や個人の能力を存分に
発揮することができますから」(234p)

だが、イラン人の過干渉に辟易しつつもその親切心に助けられてきた著者は、「このときほど日本人として恥辱を覚えた
ことはない。」と断言する。国民性の長短は、同じコインの裏表とはいえ。著者は、親切と不干渉の両立を提唱しています

外国人の短所を語る一方、自国民にもしっかり耳の痛い指摘をする。この辺りに、著者の知性とバランス感覚を感じます

【次回以降に続く】


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