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カオスロワ避難所スレ2

63受け継がれる「シ」:2013/10/04(金) 14:13:32 ID:5541QGdM0



「「ごちそうさまでした」」

怪物たちは手を合わせて、自分たちの血肉となった者たちに敬意を表した。
アゼルとフォズの死体は骨も残さず食い尽くされ、仮に蘇生呪文が使えても復活は不可能になった。
そして、二人分の人肉を丸々食べてもなお、怪物たちの空腹は満たされなかった。
次に翼はどこかで拾ったビンの中の水を飲む。

「ツバサおねえさん、それなあに?」
「ん、これか? これはアゼルの持っていた聖水だ」

支給品である聖水はアゼルのデイパックに複数個入っていた。
それはともかくとして、聖水と言えば先ほど翼を多いに苦しめたハズだが……?

「そんなののんでたらおなかがとけちゃうよ?」
「溶けない理由がある、とりあえず君も飲んでみてくれ」

翼は手元の聖水をぼのぼのに渡し、飲ませた。
ぼのぼのは意を決して飲んでみたが、腹はもちろん口や喉が焼け爛れたりなどはしなかった。

「あれ? ただのみずみたいにのめるよ?」
「君もフォズの肉は食べただろう? 彼女は大神官だ。
その彼女の肉を食べることで私たちは聖なるモノへの耐性を手に入れた。
もう吸血鬼の弱点である聖水もニンニクも十字架も通用しない」
「ああ、わかった。 ぼくたちはたべればなるほど強くなれるんだね?」

神の大いなる加護を受けているフォズ大神官の肉を取り込むことで、聖の耐性を手に入れる体質改善がされたのだ。
かつて貴音がハバネロを食べて炎の耐性を手に入れたのと同じことである。
これについて翼は考察する。

「四条貴音は何もかもを食したいと思っていながらも、そのマイペースな性格が失敗を生んだ。
手当たり次第になんでも食べようとした結果、肉体の変化による弱点の増加を忘れて相性の悪い敵に挑んだことだ。
肉体の変化で弱点が増えるかもしれないのは私たちにも充分言えることだが、その点は今回のように耐性がつくものを食べることで補えるだろ

う。
水を使ってくる獲物には水耐性がつく肉を、雷を使ってくる獲物には雷耐性がつく肉を……それを続けていく内にいずれは全てを食いつくせる

ハズだ」

ほとんど何も考えずに無軌道な食人を繰り返していた貴音と違い、元々戦士であった翼は戦略的に食べていく算段ができていた。
全ての耐性を手に入れれば弱点もなくなって自分たちを滅ぼせる敵はいなくなり、この世の全てを食いつくせるだろう。
ぼのぼのには翼の説明が難しかったのか首をかしげるが、すぐに自分なりの解釈で飲み込んだ。
おもむろにデイパックから一つのキノコを取り出すぼのぼの。

「つまり、その『たいせー』っていうのをてにいれたら、いつかはあぶない毒きのこもたべられるようになるんだね?」
「その通りだ。 ひょっとしたらその毒キノコは一口で私たちを死に至らしめる代物かもしれないが、耐性を手にすれば苦もなく食えるように

なる。
食べられる獲物を見つけても、その点は注意して行動しよう」

方針が決まり、翼はどこかへと歩みだした。
その背中についていくのは、ぼのぼの。

「どこへいくの?」
「都庁だ。 あそこは怪物の住処になっていり、私たちにとっては獲物の多いホットスポットになりえる。
あわよくば、耐性という耐性を得て、今より格段に強くなれるかもしれんな」
「そうなんだ。 じゃあ、らぁめんやおにくをいっぱいたべようね!」
「ああ、それが私たちの継いだ四条貴音の意思ならばな」

修羅は獲物の巣窟である都庁へと足を運んでいく。
そんな修羅の目にはホロリと一筋の涙が溢れていた。

(立花たちは今の私を見てどう思うだろうか……
落胆、軽蔑、恐怖……間違いなく良い感情は持ってくれないだろう。
だがもう遅い、もう戻れない、私は私自身を止められない。
このまま死ぬまでノイズと大差ない悪食の怪物なのだ。
だからせめて仲間たちには、躊躇なく私を滅ぼしにかかってほしい。
死でしか私を止める手段はないのだから)

まだ微かに残っている人間性からくる悲しみの想いを、翼は歌いながら解消しようとする。



――過去が明日に変わり吸い込まれる未来に心覆う闇は晴れることは無く




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