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憂「お姉ちゃんの真似をして欲しいって?」
-
梓「うん、実はね」
憂「それは告白シミュレーション的なことがしたくて?」
梓「いや、そういうのじゃなくて」
憂「私からお姉ちゃんを奪い取るための協力をしろって?」
憂「私に?」
梓「そうじゃなくて」
憂「違うの?」
憂「何がどう違うの?」
梓「待って」
梓「ちょっと待って」
憂「私をお姉ちゃんの代わりにしてどうしたいの?」
梓「えっ、なんで怒ってるの?」
憂「ぜんぜん怒ってないよ?」
梓「目が怖い」
憂「こっち見て」
梓「すいませんでした」
憂「なんで謝ったの?」
梓「顔、顔が近い」
"
"
-
梓「違うの」
憂「違うの?」
梓「告白とかそういうのじゃなくて、唯先輩に流されないようにしたくて」
憂「ふーん」
梓「例えば、唯先輩がなんだかんだ理由をつけてダラけたりしてても、
あの顔で見つめられたりくっつかれたりすると結果的に何でも許せちゃうでしょ?
まずはあの天然誘惑に耐性をつけて言いたいことをしっかり言えるようにしたいの!
変に意識しちゃって最近目を見て話せないとかじゃなくてっ!」
憂「ふぅーん」
梓「あの、1時間コースだといくら払えば」
憂「そういうお店じゃないです」
梓「いつもノリノリで変装してたくせに……」
憂「じゃあ準備するから」
梓「うん」
憂「やだな、あんまり見つめないでよ」
梓「いや、双子でもないのにやっぱり似てるなって」
憂「ちょっと後ろ向いてて」
梓「ただ髪型いじってるだけなのに……」
憂「よしっ」
梓「………」 ゴクリ
梓「ゆ、唯先ぱ
憂「あぁぁずにゃあああああぁぁんっっ!!」 ズオッ
梓「ひっ!?」
ヒュッ
ドゴォォォ ガシャン ガシャン ドサドサドサッ
-
憂「やだなあ、なんで避けるの」 シュゥゥゥ
梓「避けるよ!!」
憂「お姉ちゃんに飛びつかれたらいつも女の顔になって受け入れてるくせに」
梓「だっ!だっていま殺す勢いでっ!!」
憂「お姉ちゃんだったら梓にゃんを見つけ次第こうするかなって」
憂「後ろからこう、ぎゅって」 グ゙ッ
梓「目が笑ってない」
憂「よくかわせたね」
梓「あらかじめ可能性のひとつとして覚悟してなきゃ無理な反応だったよ」
憂「梓にゃんは相変わらず恥ずかしがりだね」
梓「思ってた以上に違和感がすごい」
憂「ごめんね、急な話だったからタイツまで用意できなくて……」
梓「そういう次元の話じゃなくて」
-
梓「憂、ちょっと血が」
憂「かすり傷だよ」
梓「おでこが」
憂「なめとけば治るよ、こんなの」
梓「ダメだよ、ちゃんと消毒しないと!」
憂「梓ちゃん」
憂「ネコの舌には自浄作用があるんだよ」
梓「うん」
梓「とりあえず消毒液かなにか探してくるね」
憂「梓ちゃん」
梓「えっ、私に傷をなめろって言ってるの?」
憂「梓ちゃんは自分で自分の額をなめれるの?」
梓「どっかに絆創膏あったかな……」
憂「大げさだなあ」
梓「女の子なんだから顔のケガは気をつけてよ」
憂「でもお姉ちゃんが相手だったらあれでしょ?」
憂「この機を逃すまいと顔中ベロベロなめ回すんでしょ?」
梓「するか!!」
-
憂「思うんだけど」
梓「うん」
憂「私をお姉ちゃんだと思い込めない側にも問題があるんじゃないかなって」
梓「とうとう私のせいになった」
憂「もっと本気で私をお姉ちゃんだと思い込んでくれなきゃ」
梓「だってさっきからテンションがおかしいんだもん」
憂「ほら、唯先輩だよ?」 シュッ シュッ
梓「唯先輩は自分のことを唯先輩だよって言わないし」
梓「唐突にシャドー始めながら煽ってこない」
憂「お姉ちゃんに幻想を抱きすぎだよ」
梓「えっ、唯先輩って家だとそんな感じなの?」
憂「お姉ちゃん、フットワークの強化に余念がないから」
梓「フットワーク?」
憂「前に梓ちゃんの肘鉄で返り討ちにされたのがどうしても許せないんだって」
梓「………」
"
"
-
憂「まあ半分ウソだけどね」
梓「わかってるよ」
梓「えっ、半分は本当なの?」
憂「お姉ちゃんは凄いんだから」
梓「あのさ、前に唯先輩が風邪ひいた時に変装してたみたいにできない?」
憂「あの時は必死だったから」
梓「その後もちょくちょくやってたでしょ」
憂「じゃあ梓ちゃんもお姉ちゃん相手になりきってよ」
憂「もっとこう、やってやるです!とか言いなよ」
梓「たいして言ってないからね、それ」
憂「カムバックわたし!とか」
梓「言ってません」
憂「マ、マツピツ!」
梓「なんで私を真似し始めてんの」
憂「私の目の届く範囲にいてくれなきゃ嫌ですにゃん!」
梓「言ってないってば!!」
梓「なんで知ってんのそれ!?」
憂「お姉ちゃんから聞いたんだけど……」
梓「伝わり方がひどすぎる」
-
憂「じゃあもう本気でお姉ちゃんになりきるからね」
梓「お願いします」
憂「梓ちゃんが言い出したんだからね」
憂「本当にいいんだよね!?」
梓「お、おお」
憂「私に本気を出させたことを後悔したらいいよ」
梓「ラスボスか」
憂「私のお姉ちゃんをとくと見るがいいよ!」 ガラッ
梓「ちょっ、どこ行くの魔王」
憂「本気でお姉ちゃんになってくる」 バタン
梓「そこまで本気にならなくてもいいのに」
梓「真面目だなぁ……」
唯「あれ、あずにゃん?」
梓「ひっ!?」
-
唯「まだ残ってたの?」
梓「えっ、うっ……唯先輩?」
唯「唯先輩です」 シュッ シュッ
梓「……本物ですか?」
唯「私の偽物がいるの?」
梓「いえ、さっきまで憂と話してて」
梓「唯先輩のことでちょっと」
唯「私の偽物について?」
梓「なんだかんだで先輩たちが卒業しちゃうと寂しいよね、みたいな話を」
唯「ふーん、あずにゃんもやっぱり寂しがってくれるんだ」
梓「先輩たちみんなの話ですよ!軽音部のこともあるし……」
唯「そっか……」
梓「いえ、そりゃ、唯先輩がいなくなるのも、ちょっとは寂しいですけど……」
唯「ちょっとか……」
-
梓「寂しいっていうか、心配です」
唯「私も心配かな」
梓「ですよね、大学って今までと全然環境が変わっちゃうし」
唯「そうじゃなくて、あずにゃんのこと」
梓「へ?」
唯「私たち、軽音部にほとんど何も残してあげられなかったからさ」
唯「もっと人数の多い部にできてたらなあって」
梓「いえ……」
唯「あずにゃん、意外と寂しがりだからね」
梓「なっ!」
唯「それに、憂のことも心配なんだ」
梓「憂はしっかりしてるし、大丈夫なんじゃ」
唯「憂だって寂しがり屋さんだからね」
梓「まあ、確かに……」
-
唯「あずにゃんさあ」
唯「憂のことってどう思ってるの?」
梓「へっ?」
唯「憂ってね、家でもあずにゃんのことばっかり話してくるし」
唯「私にもあずにゃんのことばっかり聞いてくるんだよ」
梓「そうなんですか?」
唯「そんなにあずにゃんが気になるなら軽音部に入りなよって誘ってみたんだけど」
唯「私がいるうちはダメなんだって」
梓「………」
唯「もしかしたら、あずにゃんが私と仲良くしてる所を見たくないのかも……」
梓「いや、そんなことないと思いますけど……」
梓「憂はどっちかっていうと、私に唯先輩を取られるんじゃないかって警戒してるものだと」
唯「あずにゃんが?私を?」
梓「そうじゃなくてっ!」
梓「憂にはそういう風に見えてるんじゃないかって意味でっ!」
唯「そ、そっか」
唯「そうだよね……」
-
梓「ですから、憂が言ってるのもそんな深い意味はないと思いますよ」
唯「そうかな……絶対好きになってると思うよ、あずにゃんのこと」
梓「いやいや」
唯「憂って、昔から私が好きになったものを好きになっちゃうみたいなんだよね」
梓「はあ」
梓「…………」
梓「……えっ?」
唯「でね、あずにゃん」
梓(……まって、これ本当に本物の唯先輩なんだよね?)
梓(ガチ変装だとしたら唯先輩すぎるけど)
梓(本人だとしたら、憂がなかなか戻ってこないのもおかしい)
梓(でも憂だとしたら)
梓(今まで何回か騙されてきたけど、そのたびにクオリティ上げてくるし)
梓(じっくり見ても、もはや判別がつかない)
梓(いや、憂だと思い込んでたらやっぱり本物だったっていうパターンも)
梓(でも憂ならここまで本気の完コピやりそうだし)
梓(どうしよう、どっちから告白されかけてるんだろう、これ……)
-
唯「ねえ、あずにゃんってば」
梓「へいっ!?」
唯「どう思う?」
梓「えっと、フェルマータっていうのは適当な長さで音を伸ばす記号で……」
唯「適当な感じのやつはいいから」
梓「フォルティッシモ!」
唯「落ち着いて」
-
唯「じゃあそろそろ行こっか」
梓「あっ、えっ、帰るんですか!?」
唯「帰らないの?」
梓「いや、憂が……」
唯「憂はもう帰ったんじゃないの?」
梓「帰った……のかな?」
梓「ちょっと電話かけてみますね」
唯「待って」
梓「なんでですか」
唯「憂を待つんだったら、私は先に帰るよ」
梓「え……憂となんかあったんですか」
唯「さっき相談したよね」
梓「そうでした」
梓(考えごとしてて聞いていませんでした、なんて言えない……)
-
唯「それで、どうする?」
唯「私と一緒に帰る?憂を待ってる?」
梓「でも憂を放っておくわけにもいきませんし」
唯「私より憂がいいんだ……」
梓「そういうことじゃないです」
唯「最近、あんまり目も合わせてくれないし」
梓「考えすぎですよ」
唯「だってさあ」
梓「……私、やっぱり憂を待っ
唯「今日、本当は帰りたくないんだ」
梓「!?」
唯「さっきもお願いしたんだけど、今日だけ泊めてもらえたらな〜って」
梓「泊まっ……!?」
唯「だめかな……?」
梓「………」
-
梓(どうしようこれ)
梓(本物の唯先輩だったらまたとないチャンスなんだけど)
梓(これが憂だったら罠に違いない)
梓(この唯先輩?をウチに泊めたとして)
梓(憂を放置して帰ったあげく、唯先輩を連れ込んだのがバレたら殺される)
梓(憂の変装だとしたら、本物の唯先輩は憂の帰りを待ってるはずだし)
悪梓(でもこれが本人だったら最初で最後のチャンスかも知れない)
善梓(だけど、私の頼みを聞いて残ってくれてた憂をほったらかして帰るわけにもいかない)
悪梓(帰る途中で適当にごめんね帰ったわ、ってメールでもしとけば?)
善梓(そうかも知れないけど)
悪梓(よくわからないけど、唯先輩と憂がギクシャクしてる機会なんて滅多にないよ)
悪梓(明日は土曜だし、都合よく親もいないし)
悪梓(手順さえ間違わなければ、きっと最後までいけるよ)
梓(たしかに)
善梓(たしかに)
-
唯「あ、あずにゃーん? おーい」
梓(それに唯先輩のことだし)
梓(家に帰るのが気まずくて、そこら辺をほっつき歩いて時間を潰すかもしれない)
梓(理由はよく聞いてなかったけど)
善梓(そこらへんの悪い男にでも引っかかったら大変だよね)
善梓(ちゃんと保護しておいてあげないと)
悪梓(あくまで保護という名目で)
善梓(むしろ憂には感謝してもらわないと)
梓(ただ、憂が唯先輩に擬態しているケースも想定しなくちゃ)
悪梓(いや、憂だったらとっくに自分からバラしてるって)
善梓(逆に突っ込み待ちなのかも)
善梓(突っ込み待ちというのは下ネタ的な意味じゃなくて)
悪梓(どこまで唯先輩の真似をやり通せるのか試してるのかも)
悪梓(唯先輩を家に連れ込んでどうするつもりだったのか探ってるのかも)
善梓(それで事が終わった後にネタバレされるんだよ)
善梓(梓ちゃんってやっぱりそういう女だったんだねって言われるんだよ)
梓(そこまでいったら流石に気づくと思うけど……)
善梓(でも真っ暗な部屋で、今まで触ったことのない箇所をいろいろしてる時、本当に気づける?)
悪梓(そこまでいったらもうどっちでもいいやってなってそう)
梓(わかる)
善梓(一理ある)
-
善梓(もう本人に聞いてみたら?)
悪梓(本当は憂なんでしょって?)
梓(いやいや、本物だったらどうすんの)
梓(自分を疑われてる事に気づかれたら気まずくなって雰囲気悪くなるでしょ)
悪梓(最悪、お泊りの話も流れちゃうかも)
善梓(でもここで偽物だと見破れたらポイント高いよ)
善梓(唯先輩に対する気持ちは本物なんだってアピールできるし)
梓(本物だとしたら本物じゃなくなるんだけど)
悪梓(もうどっちでもいいからウチに泊めちゃえばいいのに)
悪梓(そもそも唯先輩の真似をしてって頼んだのはこっちなんだし)
悪梓(お泊りの先に何かあったとしてもシミュレーションの範疇で押し通せるよ)
善梓(なるほど)
悪梓(憂が変装してるんだったら、本物の唯先輩にもお泊りの話は伝わってるんだろうし)
善梓(よく考えたら、本物の唯先輩に何かあっても近くに和先輩がいるわけだし)
悪梓(手籠めにしちゃえばもうこっちのもんだよ)
善梓(どっちにしても見た目は唯先輩なんだし)
悪梓(楽しんだもの勝ちだよ)
善梓(先輩たちが卒業する前に、夜の卒業をさせてもらおうよ)
梓(………)
-
梓「カムバック私!!」 くわっ
憂「!?」 ビクッ
梓「えっ、憂!?」
梓「唯先輩は!?」
憂「えっ、お姉ちゃん来てたの?」
梓「さっき……あれ?」
憂「また変な白昼夢でも見てたの?」
憂「ほら、夏休みのときみたいな……」
梓「夏休みの話はいいから」
梓「さっきの唯先輩、憂だったの?」
憂「どうだった?」
憂「梓ちゃん、途中から動かなくなっちゃったけど」
梓「ずっと?」
憂「少し話した後、すごい顔して固まってたよ」
憂「呼びかけても反応がなくなっちゃって」
憂「1時間コースだったら延長料金が発生してるところだよ」
梓「ちょっと考えごとしてて……」
憂「トイレ行って戻ってきても固まったままで」
梓「もしかして、その間に本物が……?」
憂「本物?」
梓「いや、もうわかんない……」
憂「?」
梓「私は何処から来て何処に行くんだろう……」
憂「さあ」
-
梓「ごめんね、こんな時間まで付き合ってもらって」
憂「変わった人の扱いは慣れてるから、大丈夫だよ」
梓「やっぱり、憂を唯先輩の代わりにするなんて無理だったんだ」
憂「えっ、今さら?」
梓「だって、憂は憂だもん」
梓「やっぱり私、唯先輩が唯先輩だから好きになったんだってわかったよ」
梓「見た目とか喋り方だけじゃなくて、良いとこもダメなとこも全部」
梓「憂のおかげで、自分の気持ちがわかった気がする」
梓「ありがとう」
憂「今さら、そんなこと言わないでよ」
梓「えっ?」
憂「ううん、なんでもない」
憂「遅くなっちゃったし、そろそろ帰ろっか」
梓(結局、どこからどこまで入れ替わってたんだろう……)
-
梓「っていうことがあったんだけど、どう思う?」
純「ポテト食べる?」
梓「話聞いてた?」
純「途中までは」
梓「会話の途中で興味なくすのやめてよ」
純「だってまたいつもの話でしょ?」
純「唯先輩が好きすぎて暴走して憂にシメられたって話でしょ?」
梓「ちがう!」
梓「だいたい合ってるけど違う!」
純「ポテトは?」
梓「食べる!」
純「あ、ほら、憂も来たよ」
憂「ごめんね、遅くなっちゃって」
純「憂が待ち合わせに遅れるなんて、珍しいね」
憂「寝坊しちゃって……」
梓「唯先輩みたい」
憂「あっ、するどい」
純「えっ?」
唯「実は唯先輩でした!」 バサッ
梓「!?」
純「似すぎです!」
唯「憂ももうすぐ着くと思うよ」
唯「最近、私の中で憂の真似するのが流行っててね」
純「変わった姉妹ですねえ」
梓「………」
純「あれ、おでこどうしたんですか」
唯「この間ちょっと転んでケガしちゃって」 チラッ
純「女の子なんですから、顔のケガは気を付けてくださいね?」
梓「………」
-
ペットに適度なご褒美とストレスを与え、
自分が上だと意識させることで、
飼い主にとって都合のいい主従関係を築けるそうです。
梓の引きつった笑顔を眺めながら、
いつか憂から聞いた話を思い出しました。
あれが本物の憂だったのかどうか、
今となっては知る由もないけれど……
―――― 鈴木純 自伝集 『知らぬが仏』 より抜粋
-
書いてる途中で 「これもう収拾つかねえな」 と思ってたら
案の定よくわからない話になってました
-
久しぶりに覗いたら新作来てた!
今回も面白かったです
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