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平成仮面ライダーバトルロワイアルスレ5

164加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:00 ID:6c9iHJDY0

(申し訳ありません照井警視正、自分は貴方と違い、何も守ることが出来ませんでした――!)

家族を殺した仇を討つために照井が得たという、仮面ライダーアクセルの力。
だがそれがどんな理由による始まりだったとしても、照井が自分や京介を守りその思いを託してくれたことは、紛れもない事実だった。
だというのに結局自分は、彼の望み通り戦い続ける事が、出来なかった。

どころか今やこうして庇護されるだけの一般人として、守りたかった笑顔を闇に染めることすら止めてやれない体たらく。
これを照井が見れば何というのかなど、考えたくもなかった。

「薫」

沈黙した一条に向けて、再び士の声が届く。
もう時間がないと、そう告げているのだろう。
ふと見れば、水のエルを相手に戦い続けるクウガは徐々に押され始め、遂にはその身体を地に倒れ込ませていた。

やり切れぬ無念に拳を握りしめ、一条は士に向けて手を伸ばす。
その手を取り、この場から離れて最悪の事態だけは……もう二度と小野寺ユウスケから笑顔を奪うなどという悪夢だけは、避けるために。

――『お前は警察官だろう!ならば、命に代えても一般市民を守るのが使命のはずだ!』

ふと、伸びかけていた手が止まる。
たった今脳裏を過ったその声は、照井の今際の言葉だ。
質問を許さないなどという不可思議なことを述べながら、それでも職務には誰よりも熱く忠実だった、素晴らしい男の声。

記憶中枢に焼き付いたそれは未だその瞬間の光景や匂いすら伴って、まるで一条にその決断をやめろと訴えるように響き続ける。

――『警察官として……仮面ライダーとして、このふざけた戦いにゴールを迎えさせろ!一条薫、行けぇぇぇぇぇぇ!』

自分が最後に耳にした、照井の願い。
そして同時、ふと気づく。
彼は決して仮面ライダーとしての使命だけを自分に託したわけではない。

アクセルという力も託したがそれ以上に、警察官としての矜持さえも、自分に託したのだ。
あの短い時間で、他に選択肢こそない状況だったと言えど、それでも。
彼は警察官としての自分に、残された無念の全てを託したのである。

グググ、と冷え切っていた一条の身体の芯に、炎が再び灯される。
アクセルに変身できないからなんだというのだ。
照井は決して、仮面ライダーでなくなったことに全てを絶望したわけではない。

例え力が奪われようと、敵に敵う道理などなかろうと、それでも残された警察官としての思いで以て、あの恐ろしい未確認を相手に立ち向かって見せたではないか。
なれば、ここで自分が諦めて良いはずがない。
クウガが闇に堕ちるなどとそんな認めたくない未来のビジョンを、何もせず受け止めていいはずがないではないか。

「薫……どうかしたのか?」

自身の手を取らぬ一条に不審を感じた士が、問う。
正直に言って、自身の今からやろうとしていることが正しいかは分からない。
或いは彼に言えば、真っ向から反対されることすら容易に想像できた。

だがそんな時なんと言えばいいのか、その答えすらも、一条は照井から既に学んでいた。

165加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:17 ID:6c9iHJDY0

「今の俺に、質問をするな……!」

「何……?」

思いがけぬ突飛な答えに、士が面食らったしかしその瞬間。
一条は落ちていたエンジンブレードを拾い上げて、その勢いのまま走り抜ける。
誰に止められようと止まらぬほど真っ直ぐに、ただ一直線に戦いを続ける水のエルとクウガに向けて。

「あの馬鹿……ッ!」

背後から、士が息を呑む声が聞こえる。
だがそれももう気にする必要はない。
士が懐から何らのカードを取り出すより早く、一条の振り下ろしたエンジンブレードは水のエルの背中を深く切りつけていたのだから。

「一条さん!?何してるんですか!早く逃げてください!」

「断る!例え変身できなくても、俺は警察官だ!君のことを、一人にするわけにはいかない!」

困惑を漏らしたクウガに対し、一条はしかし動じることなく応える。
だがそれでも、常人が扱うには明らかに不釣り合いな重量を誇るエンジンブレードを振り回しながら、彼はなおも揺らぐことのない闘志で水のエルへ立ち向かい続ける。

「それに、俺は気付いたんだ。仮面ライダーは、決して変身できるから強いわけじゃない。例え自分の身を犠牲にしてでも誰かの為に戦う……その意思があるからこそ、仮面ライダーは世界の希望になり得るんだと!」

「一条さん……」

相手が生身の人間故か、反撃の手を出しかねている水のエルに対して、一条の躊躇ない斬撃が飛ぶ。
あまりに大振りな攻撃は次第に躱され始めるが、それでもなお彼の勢いが衰えることはなかった。

「照井警視正は、俺に警察官としての誇りだけじゃなく、そんな仮面ライダーとしての思いも託してくれた……。だから俺が、ここで退くわけにはいかないんだ!」

いよいよ辛抱の限界が来たのだろうか。
一条の振るったエンジンブレードが、水のエルの剛腕に容易く受け止められる。
今までの重量を嘘のように一条の手から取り上げた得物を軽く投げ飛ばして、水のエルは一条の頬を殴りつける。

超常の存在たるエルロードからすれば、それはまるで蠅を払うにも等しい力のこもらぬただの手の一振り。
だがそれでもただの人間である一条にとっては、その一撃はあまりにも重いことに変わりはない。
80㎏を超えようという一条の身体が数瞬の滞空を経て地に落ち、彼の脳に痛みと苦しさを伝達する。

苦悶に呻き、地を舐める一条。
その瞳になお闘志を滾らせようとも、傍から見れば彼は最早満身創痍に違いなかった。

「もうやめてください一条さん!俺は……俺は大丈夫ですから!」

未だ地を這うクウガの悲痛な訴えが、一条の心に僅かな揺らぎを生む。
これは結局のところ、自分の自己満足に過ぎないのではないか。
あぁそうかもしれない、だが……もし仮に、それが逃れようのない真実なのだとしても。

「それでも……それでも俺は……!」

一条は己の拳に力を込めて、ふらつきながらも立ちあがる。
傷だらけの身体で、傷だらけの拳で、しかしそれでもなお譲れぬ思いだけを、その胸に抱いて。
最期の力を振り絞った一条は、ただ拳を握りしめて大きく叫んだ。







「俺は―――――君の笑顔を守りたいんだ!」

166加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:34 ID:6c9iHJDY0
例え門矢士のようにうまくやる事なんて出来ないとしても、どれだけちっぽけなプライドなのだとしても。
それでも自分も、クウガの隣で戦う者として最後まで共に戦いたい。
それが一条の、例え変身できなくとも譲れない最後の思いだった。

「うおおおぉぉぉぉ!」

咆哮にも等しい唸りを上げて、一条は水のエルへと拳を振り抜く。
五代に背負わせてしまった責任も、ユウスケに感じさせてしまった絶望も受け止めた一条が、その全てを込めて放つ全力の一撃。
今までの無力感も、無念も含めた全ての思いを乗せた、文字通り全力全開。

だが、だがしかし。
悲しいかな……どれだけの思いを乗せようとも、一条薫はただの人間に過ぎない。
故にその拳にどんな思いを乗せようと、その叫びにどんな感情を込めようと、高位の天使たるエルロードには通じるはずもない。

その身体を揺るがす事すら叶わぬまま、強固な肉体に打ち付けられた一条の拳は逆に砕け散り、彼の思いも同様に霧散する。
それは、紛れもない一つの事実で、覆しようもない圧倒的な実力差が生みだす当たり前の光景――であるはずだった。

「……グッ!?」

驚愕の声を漏らしたのは、他ならぬ彼の拳を受け止めた水のエルその人。
ただの人間であるとは思えぬその威力に、思わず数歩の後退を強いられたのだ。
誰もが、一条に驚きの視線を送る――或いは、この状況を生みだした一条でさえも。

「そのベルト、まさか……!」

水のエルの困惑に釣られて、一条は己の腹を見やる。
そこにあったのは、いつの間にか出現していた眩い光を放つ金色のベルト。
見覚えは、ある。脳裏に過る一人の青年の姿は、今も一条に消えぬ後悔を残し続けているのだから。

それが何故己の下に現れたのかは、皆目見当もつかないが、だからどうしたというのだ。
力はある。使い方も分かっている。なれば後は、この心が導くままに、叫ぶしかないではないか。
己に新しい生き方を示してくれたあの青年――津上翔一のように、自分らしく生きるために。

「――変身!」

刹那、光輝く一条の身体。
それが収まったその瞬間に、そこにあったのは最早生身の人間のそれではない。
頭から伸びる二本の角は黄金に輝き、その瞳はまるで彼の心の炎を映すように曇りなき赤に染まる。

腰に輝く霊石オルタリングを携えたその戦士の名は、アギト。
それは、津上翔一の死によってこの世界から滅びたとばかり思われていたとある世界を代表する仮面ライダーが、今こうして顕現した瞬間だった。





「馬鹿な……!」

一条薫によるアギトへの変身という、にわかには信じがたい奇跡にそんな定型句にも等しい驚愕を漏らしたのは、何も水のエルだけではなかった。
その衝撃は、この殺し合いを統括する大ショッカーの首領、すなわち人類の創造主たる彼にとってもまた同様のもので、大ショッカー本部にて彼は傍目すら気にすることなく動揺の声を上げていた。

「アギトは、既に滅んだはず……それなのに、何故……!」

首領の困惑は、実のところこの殺し合いが始まってから最も大きいものと言って過言ではない。
何故なら彼が首領となる前、己の世界で行おうとしていたのは他ならぬアギトの殲滅に他ならなかったのだから。
彼からすれば有象無象の異形とアギトとは、文字通り積み重ねてきた因縁と憎悪の桁が違う。

167加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:30:59 ID:6c9iHJDY0

木野薫、津上翔一、そして葦原涼の死によって遂に絶やされたと思われていたアギトの種がまたこうして予想外の形で発芽したことに、彼はどうしようもない動揺を示したのである。
故に彼の全知全能たる頭脳は、今この状況の解明にのみその全てを費やされていた。

「まさか……あの時、“彼”は既に他の世界の存在をも感知し、アギトの種を撒いていた……?」

果たして首領が導き出したのは、彼が考え得る最悪の可能性。
かつて人類に“火”を齎そうとした自身にも等しいもう一人の存在との、長きに渡る争い。
その結末として敗北した彼が撒いたアギトの種は、或いは一条薫の住む『クウガの世界』を始めとした他の世界にも撒かれていたというのか。

可能性としては、0ではない。
現に自分はこうして9つもの自身が創り出したわけではない世界を見つけ、一つにまとめ殺し合いを開いている。
たまたま自分が最近まで見つけられなかったというだけで“彼”はあの時にもう数多の世界を見つけ、そこに住む人類にも同様にいつかの切り札としてアギトを齎していた。

そう考えれば――無論、心底から悍ましいことに変わりはないが――この事象に一応の説明を齎すことも、出来なくはない。

「……フッ」

だが、そうして思考を巡らせる首領をあざ笑うように、バルバは一つ息を漏らす。
まるで答えを知っているかのようなその思わせぶりな態度に、さしもの首領とて怪訝な表情を浮かべることは免れなかった。

「何を笑うのです、ラ・バルバ・デ」

「……テオス、お前はやはり人間のこともアギトのことも、微塵も理解していないのだな」

「ならばラ・バルバ・デ。あなたは彼らについて何を知っているというのですか」

首領のその声には、僅かばかり苛立ちが含まれている。
だがそれを向けられた当のバルバはそれすらも汲み取ったうえで、なお涼しい顔を崩さない。

「テオス、アギトを新たに生み出せるのはお前と等しい力を持つ存在だけだと、お前はそう言ったな」

「えぇ。そして“彼”が滅んだ今、私以外にそんな存在などいるはずが――」

「――本当に、そう言い切れるか?」

首領の言葉を遮ったバルバの声には、確信が満ちている。
まるで自分の考えが、間違っているはずなどないと言わんばかりに。

「もし仮にアギトが無限に進化を続けるならば、それが最終的に辿り着くのは何か……お前は既に分かっているだろう、テオス」

「――まさか」

バルバの言葉の意味を理解した首領の身体が震えだす。
アギトが進化を続けた先に辿り着く、唯一無二の存在。
その答えは、ずっと恐れ続けていた悪夢そのもの。

自身に似せて創り上げた人間がアギトとなることで、いつしか起こり得る最悪の事象。
すなわちそれは、人間が自身と同じ神に等しいだけの力を持つこと。
それを妨げたい一心で、アギトになり得る可能性のあるとはいえ愛しい我が子らを眷属の手にかけてきたというのに。

それが全てこんな形で覆されるなど、彼からすれば最も受け入れがたい残酷な現実に違いなかった。

「だが、可能性はあるだろう。お前に初めて手を触れた人間であり、一度はお前の肉体をも滅ぼしたあのアギトならば、その死に際に他者の中にアギトの種そのものを与えることも或いは……」

バルバはただ、淡々と言葉を並べ続ける。
それは最早、ただの脚色や考察などと片付けられないほどに整然としたもので。

168加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:31:14 ID:6c9iHJDY0

「まさか、ラ・バルバ・デ。あなたが彼らを戦わせたのは、最初からこうなると知ってのことだったのですか……?」

故に首領から漏れたのは、アギトの力そのものの脅威への感情などではなく。
人間への理解を深めるため、という名目で自身の側近としただけの目の前で立つグロンギへの、底知れなさの再認識だった。

「いや。ただ私はアギトが真に人間の無限の進化の可能性だというのなら、あんな形で潰えるはずはないと、そう思っただけだ」

「無限の進化の、可能性……」

呆気ないバルバの返答に歯ぎしりした首領の顔は、見る見るうちに蒼白となっていく。
その威厳さえ失せさせる本能的なアギトへの恐怖心こそが、彼から人類を理解する機会を奪っているのではないかと思いながら。
観測者であるラ・バルバ・デの視線は、ただ再び発現した人類の進化の可能性を、新たなアギトの姿を見つめていた。





「アギト……!」

水のエルが、ただ譫言のように呟く。
創造主たる彼の主ほどではないにしろ、アギト殲滅の責務を長年務めてきた水のエルにとって、この再会はあまりにも予想外の出来事だった。
自身の身体に何が起こったのか分からない様子で己の身体を眺め見るアギトを前にしながら、水のエルはただ憎しみに表情を歪ませる。

「何故だ……何故人であることを捨てる……!」

彼の憎悪はやがて、アギトそのものからアギトへと変じた愚かな人間にまで及ぶ。
人は人でありさえすれば、それだけであの方の寵愛を受けられるというのに。
如何にそれ以外の生物を迫害しようと、何らあの方から罰せられることなど無いというのに。

何故そうまでして人でなくなろうとするのだ。
何故そうまでしてその身を過ぎた力を得ようとするのだ。
数万年前、大洪水で全ての人間を洗い流した時と同じだけの憤りを、彼は目前のアギトへ向け解き放とうとする。


「人間であることを捨てた……か。アギトは人間じゃないってか?」

だがそれを妨げるようにして悠然と現れた士が、アギトを庇うように立ちはだかる。
自身の怒りを嘲笑するようなその口調に耐え難い憤怒を覚えて、水のエルはすかさず口を開く。

「当然だ、アギトと人が交わることはない。アギトの存在はやがて、人を滅ぼすのだ」

「……違うな」

「何……?」

だがその言葉を、士はすぐさま否定して見せる。
まるで迷う様子すらなく、紛れもない確信を抱いて。

「例え姿がどう変わろうと、誰かの為に戦う限り……人は人でいられる。そしてこいつは、それが出来る男だ。それも……たった一人のちっぽけな笑顔を、守るためにな」

後方のクウガを振り向きながら、士は僅かに口角を上げる。
ちっぽけってなんだよ、とぼやく声は無視して、彼は続けた。

「そして、お前が思ってるほど人はヤワじゃない。アギトだろうが何だろうが真正面からちゃんと向き合って、また前に歩き始める――それが、人間って生き物だからな」

「貴様……一体何者だ」

超常の存在たる自身を侮る士の言葉に、思わず問うた水のエルに、士はニヒルに笑って見せる。
幾度となく答えてきたその名を名乗ることに、最早何の迷いがあるはずもなかった。

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!」

――KAMEN RIDE……DECADE!

カードを読み込んだディケイドライバーが、高らかに彼の名を叫ぶ。
変身を完了した彼の手に握られているのは、仲間と心を通わせたことで力を取り戻した三枚のカード。
ふと横を見れば、そこには今色を宿したカードの絵柄と同じライダー、アギトと彼が身を賭してでも守ろうとした笑顔を持つライダー、クウガが並んでいた。

どうやら流れは、自分たちに向きつつあるらしい。
そんな確信を抱きながら、ディケイドはライドブッカーの刀身を撫で上げて見せた。

169加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:31:30 ID:6c9iHJDY0





カブトへと到達せんとしていた風の矢を、黒い壁が切り伏せる。
ガッ、と鈍い音を立て地に落ちる両断された矢を、誰もが驚愕の目で見やる。
何故なら今カブトの前に立ったその戦士の登場を予想していたものは、この場に誰一人としていなかったのだから。

「始……!?」

未だ膝をついたままのカブトが、思わず彼の名前を呼ぶ。
歓喜ではなく驚愕を含んだその声に、しかし張本人であるカリスが振り返ることはない。
ただ真正面から風のエルに敵意の眼差しを向けながら、しかし彼の心中には先ほどまでとは違う総司への感情が芽生えつつあった。

(ジョーカーの男がああまで庇う理由はある……か)

先ほど剣崎を殺したワームとして総司を殺そうとした自分を必死に止めた、ジョーカーの男こと左翔太郎。
彼もまた仮面ライダーであり、剣崎からその志を受け継いだ一人なのだという彼の言葉を、始は正直信じてなどいなかった。
それでもその言葉を無視しブレイバックルを破壊させるのも寝覚めが悪いと、一度はその矛を収めたのだ。

その言葉の真偽を確かめる機会、それを大ショッカーとの次なる戦い……すなわちこのエルロードとの戦いに求める形で、ではあったが。
では果たしてこの戦いで総司の姿は始の目にどう映ったかと問われれば、その答えはただ一つ。
剣崎を殺し、笑顔で逝ったあの男と同じ姿をした男は、始をしても一点の疑いなく仮面ライダーの一人だった……そう認めざるを得ないものだった。

(この地にはお前と並ぶだけの仮面ライダーが多くいる、か。俺にその名を名乗る資格はないが……この男は、違うのかもしれないな)

そうしなければ生まれ変わることは出来ぬと、笑顔で死んだあの男。
彼が残したその最後の言葉が指す存在の一人に、今自身が背に庇う新たなカブトも含まれているのだろうか。
既に確かめようもないそんな感慨を拭うように、カリスは懐から一枚のカードを取り出す。

ハートスートのK、パラドキサアンデッドを封じたそれを眼前に構えて、彼は勢いよくそれをバックルへと滑らせた。

――EVOLUTION

進化を意味する英単語が、カリスの身体を赤く染めていく。
全てを滅ぼす最悪の死神でありながら人の血を思わせるその体色は、まさしく“相川始”だからこそ辿り着いた一つの最終形。
仮面ライダーワイルドカリスへの変身を果たした彼は刹那、両手に鎌状の双剣を携え風のエル目掛け飛び掛かる。

飛び交う矢など意に介する必要もない。
今までにも増してあっさりと切り伏せながら、カリスはワイルドスラッシャーを振るう。
息つく隙すら見せぬ彼の連撃に、風のエルはあっさりとその身を刻まれ吹き飛んでいく。

「総司、大丈夫か!?」

カリスの圧倒的な強さに息を呑むカブトに対し、ダブルが駆け寄る。
ダメージこそ負ったが、少し休めば戦えるようになるだろう。
自分たちの不手際でカブトが致命傷を負わなかったことを、彼らは心から安堵した。

「僕は大丈夫だよ、それよりも始を手伝って。僕も、すぐ行くから」

「総司……お前」

複雑な感情を抱いて問うた翔太郎の声に、カブトはただ頷く。
仮面に隠れその表情を伺うことは出来ないが、それでも彼が決して渋々始を助けようとしている訳ではないことは明らかだった。
自身を仇として殺意を向けてきた相手すら許容し共に歩もうとするその意志は、翔太郎からしても眩しいほどの仮面ライダーの資質とすら言える。

或いはそれすら彼が剣崎の死に対して抱いている大きすぎる自責の念が生む覚悟なのかもしれないが、それでも。
ダブルはカブトの意を受けて、ゆっくりと立ち上がった。

「行くぜフィリップ、あいつだけに良い格好させらんねぇ」

「あぁ、エクストリームで勝負だ」

風のエルを切りつけるワイルドカリスの姿を目の当たりにしながら、しかしダブルも当然見ているだけで終わるつもりはない。
慣れた手つきでメモリをサイクロンへ換装したその瞬間に、フィリップのデイパックより飛来した鳥を模した自立型メモリが気絶する彼の身体をその身に吸収する。
思いがけぬ光景に困惑するカブトを尻目にそのメモリがドライバーへと装填されたその瞬間、エクストリームは独りでに己が身を開いていた。

170加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:31:57 ID:6c9iHJDY0

――EXTREME

新たなメモリが極限を叫ぶと同時、ダブルの身体から眩い輝きが溢れ出す。
それに呼応するように彼が腕を大きく広げれば、そこにあったのは最早今までのダブルの比ではない。
運命で定められた最高のパートナーだけが辿り着ける最強のダブル、サイクロンジョーカーエクストリームの姿が、そこにあった。

「さぁて、反撃開始と行こうか?」

不敵に告げるダブルの声に、最早一点の不安さえも覗くことはなかった。





「力を手放すが良い。それがお前達の何よりの望みだっただろう」

大ショッカーの刺客たるアンノウンが投げかけたその言葉に、イクサは内心拭いきれない不安を感じていた。
自分がその呼びかけにどう答えるか、という意味ではない。
共に戦う自身の仲間である二人がそれにどう答えるのか、迷いない確信とまで言えるようなものを抱ききれなかったからだ。

(真司君、修二君……)

俯せに地に倒れたままの姿勢で、イクサはチラと後方を見やる。
ナイトに変身した城戸真司と、デルタに変身した三原修二。
彼らに共通するのは、彼らは決して自分と違い悪への義憤によって戦っている訳ではないということだ。

真司が元の世界でライダーとなり戦っていたのは、ライダー同士の殺し合いを止め、ミラーモンスターから人々を守る為。
修二に至ってはこの数時間の別行動の間に少しばかり戦う決意を固めたばかりで、それまでは戦わなければならない状況に不平を訴え続けていた。
共に悪への義憤を人並みに抱く好ましい青年であるとはいえ、言ってしまえば力への執着という点で言えば、彼らの目標はその力を捨てることだとすら思えたのである。

(……)

彼らに対して、憤る気持ちは沸いてこない。
誰かを守る為に戦う事と、悪を打ち倒す為に戦う事は、似ているようで大きく違う。
彼らは心優しい青年だ。その拳を握り誰かを殴りつけることなど、相手が誰であれ望むはずがない。

その末に多くの命を救えるのだと頭で分かっていたとしても、無理に彼らにそれを強いることは、今の名護には出来なかった。

「……出来るかよ」

例え一人だとしても、と決意を固めようとしたイクサの動きを止めたのは、後方から届いた小さな声だった。
思わず振り返れば、名護が今まで見たことがないほどに戦意を滲ませるナイトの姿が、そこにはあった。

「何故だ、お前は戦いを止める為に力を得たはず。何故更なる戦いを求めるのだ」

地のエルが、震えた声で問いを投げかける。
彼からすれば純粋に疑問なのだろう、何故真司が立ち上がろうとしているのか、心の底から理解出来ないに違いなかった。

「俺も正直、この世界に来るまでは、ライダーなんてやめたいって思ったこともあったけどさ……でも、約束したんだ」

漏らすように呟きながら、ナイトはゆっくりと、しかし真っ直ぐに立ち上がる。
絶対に迷うことのない、曇り無き瞳を地のエルへと向けながら。

「『人類の自由と平和の為に戦うヒーロー』って意味の仮面ライダーとして、皆で一緒に戦おう、って」

「そいつはもう、いないけど」と続ける声は、それまでと比べて少し暗い。
だがそれでも言葉を途切れさせることはしない。
抱いた決意を、彼との誓いを決して嘘にはしない為に。

「だから……俺は戦う。最後まで、”仮面ライダー”として」

ナイトが告げたその名前は、最早13人の殺し合いの果て願いを叶える戦士の意ではない。
一緒に笑って、一緒に餃子を食べて、一緒に戦おうとそう屈託無く言い合った彼と、確かめ合ったその名の定義。
世界を滅びから守り、大ショッカーを倒す正義の戦士の意で仮面ライダーを名乗ったナイトの姿には、一点の曇りも見られなかった。

「俺は、知りたいんだ」

ナイトに追随するように、デルタもまた口を開く。
その声はもう、震えていなかった。

「父さんは今までどこにいたのか、俺達にベルトを送ったのはなんでなのか、それから……なんで父さんが大ショッカーにいるのか」

171加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:32:18 ID:6c9iHJDY0

先の放送で大ショッカー幹部としてその姿を見せた自身の父、花形。
ずっと会いたかった彼との予想外の再会は、しかし修二に新たな戦う理由を与えていた。
会って、話をしてみたい。

今までの色んな事や、真理や草加のことも。
もし父が自分の知るような彼とはもう違っているのだとしても、それでも。
子供が父に会いたいと思うことに、理由など必要なかった。

「だから、俺は戦わなきゃいけないんだ。その答えを、知るまでは」

言うが早いか、いつの間にか立ち上がっていたデルタの姿に、イクサは呆気に取られる。
彼は本当に、自分が考えていたよりずっと逞しくなった。
それもきっと良い師匠がついていたからだろうな、と名護は思う。

彼を支えた存在が自分ではなく、あの無邪気な魔人であることに、少しばかり悔しさを覚えながら。
二人に負けているわけにはいかないと、イクサは勢いよく地に二本の足を突き立てた。

「これで分かったか、俺達は決してお前達に屈しはしない。それが、仮面ライダーの答えだ」

「……ぐっ」

呻いた声は、地のエルのもの。
きっとこいつがこの答えを理解することは永遠にないに違いない。
だがそれでいい。

不可解で気紛れで名状しがたい行動を平然と取る、それこそが人間の心なのだから。
これまでにないほど誇り高く、人であることに胸を張りながら、イクサは大きく息を吸い込んだ。

「悪魔の集団大ショッカー!世界を、そしてそこに生きとし生けるもの全てを、貴様らに滅ぼさせはしない。イクサ、爆現……!」

――R・I・S・I・N・G

イクサの純白の鎧が弾け飛び、その姿を青く染める。
それは、22年の月日を経て生まれた人類の英知の結晶、彼が守るべき素晴らしき青空の化身。
ライジングイクサの名を持つ最強形態へと変身を遂げたイクサの姿が、そこにはあった。

――IXA RISER RISE UP

電子音を受けて、チャージを開始するイクサライザー。
さしもの地のエルと言えど、その直撃を真正面から受けるわけには行かぬと察したか。
イクサに向けて手を翳し、塵を放つことでそれを妨げようとする。

「ヌウ……ッ!」

だが刹那彼に突き刺さった白い三角錐状のエネルギーが、その挙動すら押し止める。
ふと見ればそこにあるのは銃口を向けるデルタの姿。
不味い、と打開の策を講じようとした瞬間には既に、デルタは大きく宙に向け飛び上がっていた。

「だああああぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫にも等しい雄叫びと共に、ルシファーズハンマーの一撃が地のエルの身体を貫通する。
だが彼に、今まで味わったことのない猛毒に悶える時間が与えられることはなかった。

「ハァッ!」

掛け声一つ吐いて、イクサがトリガーを引く。
それを受け解き放たれた巨大なエネルギー弾は、為す術無い地のエルを焼き大きく吹き飛ばす。
大きく弧を描いて地に落ちた彼はその身から煙を上げ、まさしく満身創痍の風体。

しかし未だ健在である以上は負けを認めるわけには行かぬと、彼は立ち上がる。
……或いは、立ち上がってしまった、と言うべきかも知れないが。

――FINAL VENT

轟いたエンジン音に思わず振り向いた地のエルの目に映るのは、自身に向けて突撃せんとする一騎の巨大な鉄の馬。
それは、自身と契約モンスターたるダークレイダーが一体となって敵を貫くナイト最強の必殺技、疾風断。
その身をマントに包みなお速度を上げ続けるその膨大な質量の塊を避けるだけの体力は、もう彼には残されていなかった。

「ぐうぅああああぁぁッ!」

都合三発の必殺技の連発は、強化された地のエルと言えど到底耐えきれる威力で収まる物ではない。
絶叫を上げ爆散する敵の肉体を見やりながら、彼らは大きく安堵の息を吐いた。

172加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:32:38 ID:6c9iHJDY0





「ウォラ!」

ダブルの振るうプリズムソードの一刃が、風のエルの身体に消えぬ傷を残す。
明らかに襲い回復に、ダブルの持つ剣そのものが自身の治癒能力を阻害しているに違いないと彼は察するが、しかし反撃の手を講じる暇はない。
横から飛び込んできたカリスの持つ双剣が、構えかけた憐憫のカマサを叩き落とし風のエルの唯一の得物を奪い去った。

「トゥア!」

カリスに切り上げられた風のエルの身体が、容易く宙を舞う。
先ほどまでと打って変わって呆気なく地を転がりながら、彼は冷静に戦況を把握する。
――このままでは彼らには勝てない、と。

どうすればいいのかは分からない。
あの方に頼んだとして、更なる力を自分にくださるという保証もない。
だがそれでも、ここで馬鹿正直に戦ったとして何の意味もないことだけは、確かな事実であった。

「あ、野郎!」

思うが早いか、ダブルが叫ぶ声も無視して風のエルは高くその翼を広げ飛び上がる。
その果てに強さを得られる根拠などなくても、ただ今は彼らにやられたくないという意地にも似た感情だけを抱いて。
だが、高く高く太陽に向けて飛んでいくその翼は刹那、太陽から彼目がけ舞い降りた金色の光に射貫かれた。

「ぐあ……ッ」

呻き、地に落ちる風のエル。
最早逃走すら許されなくなった彼が、それでも何とかその瞳に映したのは。
先ほど自身を貫いた金色の矢……否、剣をその手で受け止めるカブトの姿だった。

「これは……」

困惑を漏らしたカブトが持つその剣の名は、パーフェクトゼクター。
葦原涼の死後、誰の手にも止まることなく自立行動を続けていた孤高の存在だ。
だがそんないきさつなど、当然のことながらカブトが知るよしなどない。

今カブトに変じる総司は本来の所有者の天道とは違い、これがどんな存在なのかすら知らないのだから、それも無理のないことだった。
――刹那、パーフェクトゼクターに色とりどりの機械仕掛けの昆虫たちが集っていく。
そのうち黄色と青のそれに、カブトは見覚えがない。

だが最後に装着された紫のゼクターには、彼にも浅からぬ因縁があった。

(渡君……)

それは、自身の兄弟子であり、一度は道を違え拳を交えたこともある紅渡が使っていたサソードゼクター。
掬いきれなかった後悔の一つでもあるその力を抱いて戦うことは、総司にただの力だけでない強さを与えていた。

「助かったぜ総司、おかげでこいつを逃がさずに済んだ」

「その剣……なるほど、君がそれの本来の持ち主だったというわけだ」

「お喋りは後にしろ、まずはあいつを片付ける」

総司への感謝を漏らした翔太郎やパーフェクトゼクターへの感慨を漏らしたフィリップに対し、カリスはあくまでも冷静に戦況を見つめる。
事実、彼らを前に立ち上がった風のエルは最後の抵抗を試みようと、その敵意を込めた眼差しを真っ直ぐに三人へ向けていた。

173加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:32:53 ID:6c9iHJDY0

「おっといけねぇ。じゃあさっさと片付けるか、お二人さん?」

「うん!」

ダブルの声に従って、彼らは全てを終わらせるため必殺の一撃の準備を開始する。
パーフェクトゼクターを操作するカブトと、13枚のカードを統合するカリス。
二人に負けていられじと、ダブルは懐から4本のメモリを取り出した。

――CYCLONE! HEAT! LUNA! JOKER! MAXIMUM DRIVE!

――MAXIMUM HYPER CYCLONE

――WILD

「ビッカーファイナリュージョン!」

嵐の如くけたたましく鳴り響いた電子音声に負けぬ声量で、ダブルが叫ぶ。
刹那放たれた三つの輝きは、世界を一瞬で白く塗り染めるほどの眩さで以て風のエルの身体を蹂躙する。
少しの後、光が止み景色が元通りの色を取り戻した頃にはもう、彼らの前に敵はなかった。





「ヤァッ!」

ディケイドの掛け声と共に振るわれたライドブッカーが、水のエルの身体を切りつけ火花を散らした。
思わず後退した彼は反撃の手を講じるが、しかしそれを封じるように飛び込んだクウガの拳がその手から長斧を打ち落とす。
息の合ったそのコンビネーションに思わず舌打ちを漏らせば、その隙を逃さずアギトの跳び蹴りが水のエルの身体を大きく吹き飛ばしていた。

「ぐうう……!」

その威力故地面を滑りながらも、しかし水のエルは未だ背を地に着けはしない。
むしろこれから真の戦いだとばかりに、大きく咆哮し三人の頭上へあの紋章を複数発生させる。
空を覆い尽くそうとする圧倒的質量に呻くアギトとクウガ。

だが唯一人この絶望的な状況にもなお希望を絶やさぬ男が一人、彼らの側で切り札を抜いていた。

――FINAL FORM RIDE……A・A・A・AGITO!

「ちょっとくすぐったいぞ」

「え……?」

ディケイドライバーがその名を詠唱するのと同時、狼狽えるアギトを気に留めることもせずディケイドがその背中をなで上げる。
それを受け光を放つアギトの肉体は、刹那最早人型で収まらぬ異次元の変形を遂げていく。
一瞬のうちにアギトトルネイダーへと変身を終えたアギトの姿は、言うなれば宙を浮かぶスライダーの如し。

傍目には異常な光景に水のエルでさえ呆気に取られるその一方で、ディケイドは何の躊躇もなくそのシートの上へ飛び乗っていた。
だが彼はすぐにアギトトルネイダーを発進させることはしない。
察しが悪いなとばかりに溜息一つついて見せて、彼はぶっきらぼうにクウガを振り向いた。

「何突っ立ってる、お前も乗れ」

「……あぁ!」

ディケイドの差し伸べた手を受け取り、アギトトルネイダーへと飛び乗るクウガ。
かつてもディケイドとこうして並んだことはあるが、それでも今見える光景は、あの時と随分違って見えた。

「ハァッ!」

感慨に耽る間もなく、水のエルが次々に紋章を解き放つ。
そのどれもが直撃すれば危ういほどの威力を誇っていたが、逆に言えば当たらなければどうと言うことはない。
スーパーマシンと化した今のアギトを前にしては、その程度の攻撃の嵐を全て潜り抜けることなど、造作も無いことだった。

一瞬で水のエルまで距離を詰めたアギトトルネイダーが反転し、バーニアから放たれた火で敵の身を炙る。
それを受け水の化身たる彼が呻いたその隙に、トルネイダーは空へ向けて一心に加速を開始していた。

――FINAL ATTACK RIDE……A・A・A・AGITO!

ディケイドが装填したカードに秘められた力を、ドライバーが叫ぶ。
それと同時高く太陽を背に飛び上がったディケイドとクウガに並ぶのは、クロスホーンを展開したアギトの姿だった。

「ヤアアアァァァァ!!!」

ディケイドが、クウガが、アギトが雄叫びをあげながらその右足を真っ直ぐに伸ばす。
そして既に万策尽きた水のエルに、この攻撃を前に対処出来るだけの手は存在していなかった。

「ぐわあああああぁぁぁぁぁ!」

三人の仮面ライダーによるトリプルライダーキックの直撃を受けて、水のエルの肉体は無惨にも爆発し消滅する。
地に降り立ち――今度こそ油断なく確実に――敵の消滅を見届け変身を解いた士の視界にふと映ったのは、同じく変身を解除した一条へと駆け寄るユウスケの姿だった。
だが予想に反して、その様相は勝利を分かち合わんとする浮かれたものではない。

まるで悪戯がバレた子供のように、切り出し方を悩んでいるような、そんな所在なさげな仕草だった。
きっとそれは、一条がアギトになったことに責任を感じているからだろう、とディケイドは思う。
彼の先ほどの言葉も、こんな形で消えぬ力を得てしまった事も、全て自分に原因があるのだと彼は感じているのだ。

だがそんな彼の後ろめたさを全て察した上で、士は敢えて何も言わない。
一条とユウスケ、その二人の間にある絆も、きっと自分が思っている以上に強いものに違いないと、そう感じるから。

174加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:33:08 ID:6c9iHJDY0

「一条さん、俺……俺は……」

「――小野寺ユウスケ!」

「え?」

果たして言葉を探し続けるユウスケに対し一条が示したのは、力強く空へ向けて伸びる親指だけを伸ばしたサムズアップだった。
士もかつてどこかで、聞いたことがある。
サムズアップというのは、古代ローマにおいて素晴らしいと認められる働きをした者にだけ与えられる称賛の証だったと。

だけれど一条がユウスケに向けるそれにそんな元来の意味以上のものがあるのは、彼の笑顔が示している。
これからの憂いも、これまでの後悔も、全て感じさせないその顔とそのジェスチャーは、きっと並大抵の言葉で表すことの出来ない感情を秘めている。
だが、いやだからこそ、だろうか。

最初は戸惑いつつあったユウスケも、一条にサムズアップを返す。
きっと由来など何も知らないのだろうが、それでもこの場で最も必要なのはそれを交し合うことなのだと、そう理解したとびきりの笑顔で。
万感の意をその親指に込めた二人の間に、言葉はいらなかった。

――パシャリ。





「……終わったな」

水、風、地。
三つの元素を司る高位のエルロードたちが仮面ライダーを前にその身を散らしたのを見届けて、バルバは小さく呟く。
とはいえその表情には、常と変わらぬ冷ややかな色しか浮かんでいない。

全てが予想通りだとでも言うように、そして全てがまるで空想の中の出来事に過ぎないかのように。
だが、現実味を伴わない無感動な瞳をした彼女とは対照的に、抱えきれぬ憤りをその全身から滲ませる存在もまた、この場に一人。
愛すべき従者を喪っただけでなく、その戦いによって因縁の宿敵の復活を目の当たりにした首領……闇の青年である。

「人よ……やはり貴方たちは、アギトを受け入れると言うのですね」

拳を握りしめ、彼は俯く。
かつての従者が言ったように、人はいずれアギトの存在すらを受け入れるのかも知れない。
だが残念ながら、それを自分が許容することは有り得ない。

皮肉にも、一条薫という”人間”のアギトへの変身によって、それは彼の中で悲しいまでに揺るがない事実として認識されてしまった。
故にそう……アギトを受け入れうるとさえ宣言された人という種そのものへの無償の愛すらも、彼の中で今崩れつつある。
願いの為であれば力を手に嬉々として同族を打つことが出来、姿形が似通った異種族すら正義の名の下に繁栄の礎として踏みつけることが出来る。

偶然にも見つけてしまった異世界で見た人の生き様がどれも、あまりにも醜いものであったから。
それを受け入れたくなくて、どうにか希望を見出そうと全ての美醜を問わず全ての異世界から仮面ライダーと怪人を集めたこの殺し合いを開いた。
例えどれだけ無意味な催しでも、その果てに彼らを愛することが出来るのかどうかを見定めることは出来るだろうと、そう考えて。

「もう間もなく、この殺し合いは終わる。私も答えを……出さなければならないのかもしれません」

誰にともなく、一人呟きだけを残して。
彼の、オーヴァーロード・テオスはゆっくりと歩き出す。
全てを決めるその瞬間に必要な最後の材料を得るために。

仮面ライダーへ自身の言葉を、告げる為に。





時刻は18:00。
都合五度目の定時放送を告げるその時間に、しかし今までと違い飛空挺が現れることはない。
テレビも何の映像を映し出すこともなく、首輪が音声を届けることもない。

静まりかえった空間の無音が、むしろ耳を刺激する。
誰もが何一つとして異変を逃すまいと張り詰めた、痛いほどの緊張感の中。
不意に”それ”は、彼らの中心に現れていた。

「なッ……!?」

一体どうやって、いつの間に。
思わず飛びのき各々の武器を構えた彼らに、しかし突如として存在感を増した”それ”はただゆっくりとその手を制止を呼びかけるように翳した。

「――初めまして。こうして直接お会いするのは、初めてですね」

「お前は……!」

高まった緊迫感が、ひたすらに”それ”に集まっていく。
黒い服を着た、一目見てただならぬ存在感を放つ男。
第四回放送において乃木を呆気なく葬った忘れがたい驚愕の記憶が告げている。

この男と正面からやりあうのは、不味いと。

「皆さんには、まだ私の名を伝えていませんでしたね。私は貴方たちが大ショッカーと呼ぶ組織の首領、名は――テオス」

それは、悠久に渡るこれまでの歴史において、彼が人の身へ初めてその名を告げた瞬間だった。

175加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:33:23 ID:6c9iHJDY0


【二日目 夜】
【D-1 病院前】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意、首輪解除
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式+アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス、ライオトルーパー)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:カードが揃った、か。
2:ユウスケをもう究極の闇にはさせない。
3:ダグバへの強い関心。
4:相川始がバトルファイトの勝者になった時のことはまたその時に考える。
【備考】
※現在、ライダーカードはクウガ〜ディケイドの力全てを使う事が出来ます。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、アマダムに亀裂(更に進行)、首輪解除
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、 ZECT-GUN@仮面ライダーカブト
【道具】なし
【思考・状況】
0:テオスに対処する。
1:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない。
2:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
3:士に胸を張れる自分であれるよう、もう折れたりしない。
【備考】
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。自壊を始めていますが、クウガへの変身に支障はありません。
※ガタックゼクターに認められています。


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ダブルドライバー+ガイアメモリ(ジョーカー+メタル+トリガー)@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:テオスに対処する。
1:仲間と共に戦い、大ショッカーを打倒する。
2:相川始かダグバ、どちらかが生き残れば世界が全て滅びる……?
3:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※キング@仮面ライダー剣から、『この場でジョーカーアンデッドが最後のアンデッドになったときには、全ての世界が滅びる』という情報を得ました。

176加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:33:51 ID:6c9iHJDY0


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ+ファング+エクストリーム)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:仲間と共に大ショッカーを打倒する。
1:テオスに対処する。
2:大ショッカーは許さない。


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除、仮面ライダーアクセルに変身中
【装備】アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、車の鍵@???
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:テオスに対処する。
1:ありがとう、津上君。
2:五代……。
3:鍵に合う車を探す。
4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
5:遊び心とは……なんなんだ……。
【備考】
※体調はほぼ万全にまで回復しました。少なくとも戦闘に支障はありません。
※アクセルドライバーは破壊されました。
※仮面ライダーアギトに変身することが出来るようになりました。このことによる反動などがあるかは不明です。


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、強い決意、首輪解除
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
0:テオスに対処する。
1:自分の願いは、戦いながら探してみる。
2:蓮、霧島、ありがとな。


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】覚悟、ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:テオスに対処する。
1:流星塾生とリュウタロスの思いを継ぎ、逃げずに戦う。
2:リュウタ……お前の事は忘れないよ。
3:父さんが何故大ショッカーに……?

177加速せよ、魂のトルネード ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:34:05 ID:6c9iHJDY0


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ラウズカード(スペードA〜Q、ダイヤA〜K、ハートA〜K、クラブA〜K)@仮面ライダー剣、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣、ブレイバックル@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、大ショッカーを打倒する。
1:テオスに対処する。
2:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
3:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)はいずれ倒す。
4:ジョーカーの男……変わった男だ。
5:もしダグバに勝った後、自分がバトルファイトの勝者になれば、その時は……。
【備考】
※ホッパーゼクター(パンチホッパー)に認められています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター+パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
1:テオスに対処する。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
4:士が世界の破壊者とは思わない。
5:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、決意、首輪解除
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:テオスに対処する。
2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
3:総司君は心強い俺の弟子だ。
【備考】
※紅渡は死亡しましたが、ゼロノスカードで消えた記憶は消えたままです。

178 ◆JOKER/0r3g:2020/09/06(日) 16:38:54 ID:6c9iHJDY0
以上で投下終了です。
色々含めて、ようやくここまで書けたなと中々感慨深い心地です。
次の投下は……うん、年内目安とかでいいんじゃないでしょうか、そんな感じです。

ともかく、ご指摘ご感想ご意見などあればよろしくお願いします。

179名無しさん:2020/09/06(日) 20:25:53 ID:N6wst8xo0
投下乙です!

劇中でも無かったエルロード集結に対し、ライダー陣営も贅沢に最強フォームへ……と思ったら一条さん!?
まるで予想だにしない展開に仰天してしまいました……そういえばこのロワではまだクウガとアギトは共演していませんでしたね

そしていよいよ士のコンプリートも揃いました。ライダー達はテオス相手にどんな言葉を交わすのか、次回も楽しみにしてます!

180名無しさん:2020/09/07(月) 00:24:14 ID:s35NDQ2.0
投下乙です
 このままディケイドがアギトのカードを取り戻さずに全てが終わるのは流石に無い
→誰かがアギトの力に目覚める筈だ(予想の本命は三原)、と思っていたけどそう来たか〜!!と唸らせました
そしてテオス自ら会場に降臨……。幹部達やダグバもまだ生きてる以上決着がここでつくとは思えないですが、ここまで抗ってきたライダー達は何か一矢報いて欲しいですね

181名無しさん:2021/01/11(月) 07:16:46 ID:vYyQVEyY0
今年も加賀美開きの時期になりましたね

182名無しさん:2023/03/12(日) 18:35:10 ID:6WSmRVs20
まだ生きてますか?


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