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平成仮面ライダーバトルロワイアルスレ4

1 : 名無しさん :2018/01/27(土) 23:20:27 fRys9cx60
当スレッドはTV放映された
平成仮面ライダーシリーズを題材とした、バトルロワイヤル企画スレです。
注意点として、バトルロワイアルという性質上
登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写が多数演出されます。
また、原作のネタバレも多く出ます。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。


当ロワの信条は、初心者大歓迎。
執筆の条件は、仮面ライダーへの愛です。
荒らし・煽りは徹底的にスルー。


2 : 名無しさん :2018/01/27(土) 23:21:16 fRys9cx60
【参加者名簿】

【主催者】
大ショッカー@仮面ライダーディケイド

【仮面ライダークウガ】 3/5
○五代雄介/○一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/●ゴ・ガドル・バ/○ン・ダグバ・ゼバ

【仮面ライダーアギト】 2/5
○津上翔一/○葦原涼/●木野薫/●北條 透/●小沢澄子

【仮面ライダー龍騎】 3/6
○城戸真司/○秋山 蓮/●北岡秀一/○浅倉威/●東條 悟/●霧島美穂

【仮面ライダー555】 3/7
○乾巧/●草加雅人/○三原修二/●木場勇治/●園田真理/●海堂直也/○村上峡児

【仮面ライダー剣】 4/6
●剣崎一真/○橘朔也/○相川始/●桐生豪/○金居/○志村純一

【仮面ライダー響鬼】 1/4
○響鬼(日高仁志)/●天美 あきら/●桐矢京介/●斬鬼

【仮面ライダーカブト】 4/6
●天道総司/●加賀美新/○矢車想/○擬態天道/○間宮 麗奈/○乃木怜司

【仮面ライダー電王】 2/5
○野上良太郎/●モモタロス/○リュウタロス/●牙王/●ネガタロス

【仮面ライダーキバ】 2/4
○紅渡/○名護啓介/●紅 音也/●キング

【仮面ライダーディケイド】 3/5
○門矢 士/●光 夏海/○小野寺 ユウスケ/○海東 大樹/●アポロガイスト

【仮面ライダーW】 3/7
○左翔太郎/○フィリップ/●照井竜/○鳴海亜樹子/●園咲 冴子/●園咲 霧彦/●井坂 深紅郎

30/60


3 : 名無しさん :2018/01/27(土) 23:21:48 fRys9cx60
【修正要求について】
・投下されたSSに前作と明らかに矛盾している点がある場合、避難所にある議論用スレにて指摘すること。それ以外はいっさいの不満不平は受け付けない。
・修正要求された場合、該当書き手が3日以内(実生活の都合を考慮)に同じく議論用スレにて返答。必要とあらば修正。問題無しならそのまま通し。
・修正要求者の主観的な意見の場合は一切通用しません。具体的な箇所の指摘のみお願いいたします。

【書き手参加について】
・当ロワは初心者の方でも大歓迎です。
・書き手参加をご希望の方は避難所にある予約スレにて予約をするべし。
・その他、書き手参加で不明な点、質問は本スレ、もしくは避難所の雑談スレにでも質問をお書きください。気づきしだい対応致します。

基本ルール
各ライダー世界から参加者を集め、世界別に分けたチーム戦を行う。
勝利条件は、他の世界の住民を全員殺害する。
参加者を全員殺害する必要はなく、自分の世界の住民が一人でも残っていればいい。
最後まで残った世界だけが残り、参加者は生還することが出来る。
全滅した参加者の世界は、消滅する。


4 : 名無しさん :2018/01/27(土) 23:23:21 fRys9cx60
以上でテンプレ終了です


5 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:29:21 1FDzq.Hk0
皆様お待たせいたしました、ただいまより投下を開始します。


6 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:30:01 1FDzq.Hk0

「――うぉらぁああああああああああああああああああああああああああああ――っ!!」

地を震わすような雄叫びとともに、戦士たちの間を駆け抜けていく赤い瞳の戦士。
それを受けながら、門矢士――否、今の名前はディケイド――は思わず安堵する。
この戦いが始まって未だ数十秒であるというのに激しい消耗を感じざるを得ないこちらの状況で、唯一状況を把握できていなかった乾巧――ファイズの無事と、その萎えることない闘志を確認することが叶ったため。

そして、同時に彼の今の姿にも、ディケイドは信頼を置いていた。
ファイズそのもの……にもそうだが、それ以上に彼が今装着変身しているファイズアクセル。
その力には士自身も何度も変身し助けられた覚えがあったからだ。

通常のファイズの最大の強みともいえる敵の反撃を許さない必殺技、クリムゾンスマッシュ。
それを通常の1000倍という反則じみた速度で何発も叩き込むことのできるアクセルの能力は、状況によってはその制限時間10秒というハンデを補い余りある戦果を齎す。
士自身何度も助けられ、またクロックアップなどの特殊な技能がなければ対応すら許されないその能力は、この場でも問題なく通じると。

倒すことなど叶わずとも、少なくとも動きを数秒とめることは何とか可能だろうと。
そう、“油断”してしまっていた。
眼の前に存在する金色まとう究極の闇が、その特殊な技能の集合体であると、その事実を思い出すまでは。

――ファイズに変身する乾巧にとっても、それは同じことだった。
幾度となく自身の戦いを勝利に導いたこの黒き体は、数時間前、自身がファイズとして戦いこの一年間培ってきた自信を打ち砕いたこの魔人にもある程度通用するのだろうと、そう錯覚していた。
油断など、していないつもりだった、いや、実際にしていなかった。

悔しいが、自身よりも数段強かった天道総司を以てして敵わなかった強敵に、油断する暇などあろうはずはない。
だから、自分のありったけを、最高のタイミングで叩き込んだ、というのに。


――ガシッッッッッッ!!!!!!!


7 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:30:57 1FDzq.Hk0


なぜ、自分の足はいとも容易く掴まれているのだ。
高速で移動し、拘束具たるファイズポインターを都合六つも受けていながら、なぜここまで。
いや、わかっている。答えは考えるまでもなく簡単なことだ。

こいつは、この程度の拘束などあってないようなものに出来るパワーを持ち。
こいつは、常人の1000倍を誇る加速など全く意に介さぬ超感覚を持ち。
こいつは、そしてそれを容易く捉えることが出来るだけのスピードを持っている。

ただ、それだけの。
本当にそれだけの、簡単で、わかりきっていたはずなのに、絶望的な答えだった。

「巧ッ!」

ディケイドが叫ぶ。
一切の事情を知らぬ周りのライダーにとっては判断が追い付かないことでも、経験のある彼になら、今巧の身に起こっている状況が理解出来たのだ。
そして、その先に起こるであろうことも、理解出来てしまっていた。

「―――――ッッッ!!!」

ライジングアルティメットが声にならぬような声を上げたかと思えば次の瞬間にはその手に持つファイズの体は大きく円を描いていた。
自身が設置した深紅の円柱を自分自身の体で打ち壊しながら、悲鳴すら上げることもできずファイズは加速する。
自身の能力によってではなく、彼を振り回す金色まとう究極の闇によって。

「ハァッ!」

短い掛け声とともにナイトサバイブが剣を振るうが、しかしそれも空いた左手に容易く防がれる。
同時にディケイドやディエンドがファイズを解放せんと銃撃を放つも、それらは最早まったく意に介されることすらない。
そしてG4は先ほどのライジングアルティメットによるダメージによって未だに地に伏していた。


8 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:31:33 1FDzq.Hk0

反撃など、意味を持つことはない。
その時、全員が悟らざるを得なかった。
ファイズが解放されるのは、この魔人が彼の命を弄ぶ残酷な遊びに飽きたときだけなのだということを。

――3

ファイズの腕につけられた腕時計型アタッチメントパーツが、加速する世界の終わりが近づいていることを告げる。

――2

その音を聞いた時、感情など見えもしないはずのライジングアルティメットの仮面の、その下から。

――1

邪悪な笑みが零れたような錯覚を受けた。

――TIME OUT

その音が鳴りやむ前に、ファイズは金色の剛腕から解き放たれていた。
急速に変形を始める全身、しかしそれ以上に彼の加速は速く――、速く――。
無論、その場にいる誰も助けられるはずもなく。

「巧ィィィ!!」

ディケイドの叫びも虚しく。
ファイズの体は何本もの大木を貫きながら、闇の彼方まで、吹き飛んで行った。

【乾巧 脱落】
【ライダー大戦残り人数 15人】

「クッ!」

ディケイドの絶叫を背に受けながらもナイトは迷いない動作でカードをデッキから引き抜き、そのまま腕のダークバイザーツヴァイへと装填する。

――BLAST VENT

どこからともなく響いた電子音と共に現れるのはナイトの使役する獣(モンスター)、ダークレイダーだ。
ファイナルベントを使用してからまだその召喚制限を果たし切っていなかったことと警戒のためミラーワールドに返していなかったのが功を奏したようだ。
と、同時にナイトは未だにこの戦いが始まってから一分も経っていないという事実に愕然とする。


9 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:32:11 1FDzq.Hk0

一体こいつに倒されるより早く地の石を破壊できるのか、奴の変身制限が訪れるのか――。
そんな彼らしくもない考えが浮かぶ中、ダークレイダーはそのホイールのような翼でもって突風を発生させる。
無論そんなものはライジングアルティメットの足を止めるには少々役不足。

一瞬怯んだかのような素振りを見せた次の瞬間、ライジングアルティメットはダークレイダーよりも高く跳んだ。
そして、そのままその漆黒の翼ごと風を断たんとする勢いで拳を振りかぶり。

「――させると思ったか?」

そのまま瞬息の拳は、空を切った。
ナイトが自身の契約のカードにダークレイダーを間一髪戻したのだ。
しかし逆を言えばこれで彼らは契約モンスターにかかっている制限に関して把握する機会をみすみす逃したわけだが……。

ともかく、ナイトの狙いは、もちろん最初からライジングアルティメットの足止めなどにはない。
ならば彼の真の目的はどこにあったかというと――。

「大丈夫か、門矢、海東、志村」
「ええ、私は何とか」

仲間たちの集合、体勢の立て直しだ。
全くその為に並のモンスターならば容易く蹴散らすことのできるカードを一枚切ったのかと思うと背筋が凍る思いだが、しかしこれでいい。
出し惜しみをしていれば――あるいは乾のように現状最高の戦力を惜しまなくても――次に肉塊になるのは、自分かもしれないのだから。

「クソッ、ユウスケの奴はここまで圧倒的な能力じゃなかったぜ」
「まぁ彼なりに、洗脳されながらもお仲間である君に手を出すのに抵抗してたってことなんじゃないかな」


10 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:32:37 1FDzq.Hk0

圧倒的な力を誇るライジングアルティメットに対して、ディケイドはあえていつもの調子でディエンドに語り掛ける。
それに対し、クウガとしての力量も大きく差がある訳だしね、と心の中で付け加えながら、ディエンドも自分なりの考察を述べた。

(いや、でもそれにしてもここまでの戦力差……)

しかし心のどこかで引っかかるのもまた事実だった。
小野寺ユウスケの変身したそれは生身の士を何度も殴りつけていたという。
それを前述のクウガとしての力量の差、無意識下での洗脳への抵抗だと説明しても、ならば五代はそんな洗脳にも抗えない存在なのだろうか。

なればほかに考えられる要因としては地の石を持つ者の実力か?
カテゴリーキング最強のアンデッドたる金居という男が確たる意志を持って使用しているからここまでの実力を誇るのであって、大神官ビシュム――士の妹、小夜――という元はただの一般人が、不安定な意思で使用したから脆弱とすら言われそうな実力だったのだろうか。

だがそれならば何故石の力から解き放たれたライジングアルティメットはディケイドと二人がかりでもシャドームーンに敵わなかったのか……?

「おい、来るぞ」

しかしそんな彼の膨れ上がる疑問を遮るように静かにナイトが告げる。
見れば天高くより降り立ったライジングアルティメットがこちらに向き直っていた。
気を引き締めなおさねばと、ディエンドが得意の皮肉気な笑いすらやめてディエンドライバーを構えなおした、その時。

「――!門矢さんッ!危ないッ!!」

そんな絶叫をあげて、G4がディケイドを押し倒した。
と、同時、辺りに響くはG4の背中の丁度すぐ上を通過していった巨大な弾丸がライジングアルティメットの胸元に当たった爆音だ。
何が起こったのか、一切を理解できぬまま思わず後方を振り返った戦士たちが見たものは。

先程までと何ら変わらず仁王立ちするゾルダと。
生身で俯せに横たわる橘朔也の姿だった。


11 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:33:07 1FDzq.Hk0





状況は、ほんの数十秒前に遡る。
この場で知り合った戦友、響鬼がディケイドの能力によって変身した謎の怪鳥(という表現が正しいのかもわからないが)の後を追いながら、戦士ギャレン、橘朔也は思考していた。

(ディケイドが……門矢が存在するだけで世界を滅ぼす悪魔?……本当にそうだとしたら……)

それは、ディケイドという存在への、恐怖。
もしその話が本当なら、バトルファイトにおけるジョーカー以上の脅威と見るほかない。
果たして、そんな存在を今現在味方してくれているからという理由で楽観視していいものか、そんな考えが頭をよぎる。

――別にいい……俺も一真のブレイバックルを奪われたから、お互い様だ――

しかしその瞬間、脳裏を横切るは彼と会って少ししてから士が述べた、自分への謝罪。
剣崎一真という人間の死には自分に責があると……、そう隠さず伝え、彼の遺品を奪われたことを、悔やんでいたあの表情だった。
それを思うと、橘の中の彼を疑わんとする気持ちはどんどん失せていく。

そして。

――それは、今話すようなことかっ!――

――自分の仲間は、金居と門矢、どっちかって考えたら……信じるべきはどっちかなんて、俺は揺らがないよ――

あの瞬間の鬱屈した空気を一瞬でかき消し、戦士たちを鼓舞した葦原の、ヒビキの言葉が蘇る。

(そうだ……例え彼が世界を滅ぼす悪魔だとしても、少なくともヒビキや葦原はそれを信じている。それなら、俺も……信じてみたい。相川始を信じた、剣崎のように!)

橘は、自身の愚かなほどに人を信じてしまう性格を知っている。
それを何人もの大小問わぬ悪に利用され、そのたびに周りに迷惑をかけ、そして時には大きな犠牲を払ってきた。
しかし、そんな彼だからこそ、今は亡き信じられる友のように、危険な可能性を持つかもしれない男を、信じてみたかった。

組織も失い、愛する人も失い、尊敬する先輩も、信頼できる友も失った。
だが、そんな自分にも、まだ残されているものがあるとするならば。
例え世界への危険を孕もうと、それを信じたい。剣崎のように、一心に信じ続けることは、自分には、無理かもしれないけれど。


12 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:33:32 1FDzq.Hk0

(だから見ていてくれ、剣崎。俺はお前に恥じぬよう信じ、そして変えてみせる。破滅の運命など、殺戮の末に得られる勝利など!)

思いを新たに走るギャレンの、遥か前方。
ディケイドの力によりヒビキアカネタカと化した響鬼は、空を自由自在に飛びながら緑の砲撃手、ゾルダの放つ大砲のような銃弾をその口から放つ火炎で打ち消す。
もう何度も繰り広げられたそのやり取りは、既に数え切れぬほどに達し、ゾルダの必死の弾幕に多少手こずりながらも、彼のもとに響鬼が辿り着くのは最早時間の問題だった。

「くっ、ディケイドめ、奇妙な技を……」

そう一人ごちるのは、ゾルダ――その鎧をまとっているキング、紅渡――である。
最早目前にまで迫った不可思議な形状をした怪鳥による接触を防げないのは明白、遅くてもあと数十秒で彼は自分と接触するだろう。
無論、そうなった場合でも負けるつもりはない、エンジンブレードにジャコーダー、加えてゾルダの鎧が破られたとしてもサガにウェザー……、自身の戦力は申し分ない。

しかし、それでは駄目なのだ。
目の前に迫る怪鳥と後方から徐々に距離を狭めつつある赤い戦士を両方相手取ったとしても、自分の望む勝利は得られない。
つまるところ、世界の破壊者、ディケイドの破壊とそれによって得られる世界の崩壊への一時的な安寧は、成し遂げられないのだ。

それにそれではライジングアルティメットと金居を結ぶ能力についても把握することが出来ない。
ゆえに何としてでもその状況は避けなければ……と、思うがしかし対処の方法も浮かばぬままついにヒビキアカネタカが自身の頭上に到達、それと同時に変形を解除して。

「タァーーー!」

掛け声とともにその手に持った音撃棒を振りかざさんと――。

――FLOAT

しかしその気合いがゾルダに降り注ぐ寸前、どこからともなく電子音声が響く。
それと同時に草陰から現れるは黒のボディにハートの意匠を施した戦士、カリス。

「こいつは任せろ、キング」
「うおっ!?なんだ!?」

仲間であるゾルダでさえ予想していなかったその登場に、全員があっけにとられている間に、カリスはそれだけ告げて絶叫をあげる響鬼をものともせずに彼方へと飛び去って行った。
だが、打ち合わせ無しのベストタイミングでの登場に対する渡のそれ以上に。
この場において一番驚きを隠せなかったのは、橘朔也だった。


13 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:34:03 1FDzq.Hk0

(始……、お前やはりこの殺し合いに……)

自身でも予想していた事ではある。
あるはずだが、やはり衝撃は大きかった。
剣崎と友情を育み、人々のため戦う仮面ライダーとして戦ってくれていた、相川始、別名ジョーカー。

存在し続けるだけで全アンデッドから疎まれる彼をしかし、剣崎は友として接し、やがてそんな剣崎に始も心を開いていった、はずなのに。

(剣崎の思いは、全て無駄だったというのか……?)

人間ではなくとも友になれるはずだという、剣崎の主張。
始本人はともかく、剣崎の信じた事を自分も信じてみたいと。
少なくともこの場では彼の死によって強く意識した、そのすぐ先に、まさか彼の思いが裏切られる事態が起こってしまうとは。

(……いや、待て。あの始は本当にアンデッド、ジョーカーとしての意識で殺し合いに乗っているのか?)

しかし瞬間、浮かぶのは疑問。
もしも相川始が剣崎と出会う前、あるいは出会った当初の闘争本能のままアンデッドを倒していたころの存在であるなら、それは迷わず封印するべきだろう。
少なくともこの場で、自身が剣崎のように彼の心を解きほぐし仲間になど到底できない。

しかし、もしも自分の知る人間として生きようとし、善意から人を守ろうとする相川始なら?
もしもそんな彼が剣崎亡き今大ショッカー打倒を諦め『剣の世界』だけでも……、天原親子を始めとする彼の愛した人々だけでも守ろうと殺し合いに乗っているのだとしたら?
自分には、彼を説得し同じ大ショッカー打倒の志を掲げる戦士として戦ってくれるよう説得する義務があるはずだ。

それが自分に遺された、亡き友からの遺志ではないのか。
仮にもしそうでなく、自分の本能のまま人を襲うというのならそれはまた同時に、自分に彼を封印する義務があるはずだ!

(そうだ、俺はまだ諦めないぞ、剣崎。相川は、お前の友は俺が……)

と、そこまで考えて。
彼はこの戦場においてあまりに自分が戦況以外のことに気を削ぎすぎたことに気づく。

「――なっ!?」

――すでに目前にまで迫りつつあった、ゾルダの放った巨大な砲弾によって。
それを撃ち落とさんと、ギャレンは咄嗟に右手に持ったギャレンラウザーを構えんとするが。

(――駄目だッ、間に合わないッ!!)

銃撃手として、ギャレンとしての基礎訓練の日々が、実戦での経験が、叫ぶ。
『もう間に合わない距離だ』と。


14 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:34:35 1FDzq.Hk0

(だが、もしそうでも俺は、まだ何も成し遂げていない!諦めないぞ、俺は、俺は――!)

走馬灯の効果なのか、遅くなり行く自身のその感覚の中で、しかし彼はラウザーのトリガーを引いていた。
刹那弾丸同士の接触により巻き起こるのは生けるすべてを刈り取らんとする爆風。

(俺は、まだ終われないんだ。力を貸してくれ、小夜子、桐生さん、――剣崎)

それに飲み込まれその身を焼かれながら、胸に抱くは自身の失ってしまった恋人の、先輩の、友人の笑顔。
まだ彼らのもとには行けない、行くわけにはいかないと、そう叫びながら。
ギャレンの変身解除とともに、その意識を深い闇に落として。

橘朔也はこの戦いから脱落したのだった。

【橘朔也 脱落】
【ライダー大戦残り人数 14人】






一方その頃。
カリスによって戦況から大きく離された響鬼は、無造作に森に落とされていた。

「イテテ……」

受け身をとったものの慣れぬ飛行と墜落に身体をよじる響鬼を尻目に、カリスは悠々自適に舞い降りた。
そのままカリスラウザーを構え、無言のまま、響鬼に立てと投げかける。
それを受けて、響鬼は立ち上がりつつ、しかしそのまま素直に攻撃態勢には移れなかった。

音撃棒を握りつつしかしあからさまに気の乗らない様子の響鬼に対し、カリスもまた攻撃を行うこともせず。
そんな空気の中、響鬼はふと口を開く。

「……なぁ、お前、相川だろ?橘から聞いたよ、剣崎や橘と協力して、人を襲うアンデッドを封印してるって。
……なぁ、世界が崩壊するかもしれないから殺し合いに乗ったっていうなら、こんな悲しいことやめにしないか?俺たちと協力して、一緒に大ショッカーを――」

そこまで口にして、響鬼はすかさず横に飛び退いた。
カリスが、戸惑うことなく自分に向けてその弓を引いたため。
その決断にやはり響鬼は無念を抱きつつ、しかし先ほどまでとは違う戦士の風格で音撃棒を構え直した。


15 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:35:03 1FDzq.Hk0

「……わかったよ、お前がその気なら、俺もやるしかないよな。俺が真っ向から、そんなこと間違ってるって教えてやる――!」

戦意を取り戻し、油断なく構えた響鬼を目にして、カリスはそれでいいと胸中で漏らす。
自分と仮面ライダーたちの間に、もはや言葉の介入する余地はない。
殺し合い以外に世界の崩壊を止める術があるというならば、戦いでそれを示し、証明してみろ。

「――タァ!」

かけ声と共に突進してくる響鬼をその視界に納めながら、カリスは、目前の仮面ライダーを見極めようとしていた。





「これでまず障害は消えた。次はあなたです、ディケイド」

その手に持つ巨大な大砲、ギガランチャーを構えなおしながら、ゾルダはつぶやく。
自身のこの戦いで絶対果たさなければならない使命は、世界の破壊者ディケイドの殲滅であり、それ以外の参加者の殺害やライジングアルティメットのパワーの解明など、ついででしかない。
そう考え、未だギャレンを葬った弾丸を放った硝煙が残る銃口を、ライジングアルティメットと対峙する戦士たち、その中でもディケイドに向け、発射。

そうしてゾルダは、新たなファンガイアの王として世界の滅亡を防ぐための第一歩を――。

「――!門矢さんッ!危ないッ!!」

ディケイドの横にいた、謎の黒い戦士に防がれる。
と同時に弾丸はライジングアルティメットへと到来、その身を爆風が覆った。
狙いを外しあまつさえ味方に当ててしまった事に思わず舌打ちをするゾルダだが、しかしその黒い煙の中から何らダメージを受けた様子のないライジングアルティメットが現れたことで、ひとまずは安心する。

並の仮面ライダーならば変身を解除しそのまま戦闘不能に持ち込めるゾルダの弾丸を受けまるで無傷の“それ”に僅かに畏怖を覚えつつも、しかし一旦は仲間であるという事実に胸をなでおろす。


16 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:35:36 1FDzq.Hk0

(しかしいつまでも金居の思い通りにさせておくわけにもいかない。この戦いが終わり消耗した彼なら始さんとの二人がかりで何とか……)

と、そんな事を考えつつ、ゾルダは装填の必要ない大砲をディケイドに向かって放ち続ける。
彼もその手に持つ銃を駆使し何とか応戦しているが、やはり我がギガランチャーの火力には遠く及ばないようで、少しずつジリ貧になっていくのが目に見えた。
爆風との距離が詰まっているのである、そうどんどんまるで彼が段々と自分との距離は狭めているかのように――。

(――いや違う!まるでじゃない、本当に奴は僕に迫ってきている!)

そう、錯覚などではない事実ディケイドはその足をこちらに向け全力で走っている。
あくまで自分が狙いなら、それに応えようというのか、ならばむしろ都合がいい、自身の手で直接殺すチャンスなのだ。

(来るなら来い、ディケイド。僕が、キングである僕がお前を破壊してやる)

それは、目の前のディケイドが、真にライダーを破壊する破壊者となった際かつての友に放った言葉に似ていた。
破壊者を殺し、世界を救うという目的を果たすため、自分こそが破壊者の名に相応しく醜く変貌している事に、若き王は気付いているのか、いないのか。





「――!門矢さんッ!危ないッ!!」

怒声とともに既に臨戦態勢にあった所を押し倒されたディケイドは、それに対し一言いう前に、辺りを支配した火薬のにおいに顔をしかめる。
と同時に今自分の状況はかなり危機一髪のところで、目の前のG4がそれを助けてくれたのだ、ということに合点がいくのにそう時間はかからなかった。

「すまない、志村、助かった」
「いえ、とんでもありません!仲間を助けるのは至極当然のことですから!」


17 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:36:04 1FDzq.Hk0

暑苦しい言葉を述べるG4を押しのけながら、ディケイドは周囲の状況を大体把握する。
無傷のライジングアルティメット、未だ健在のゾルダ、倒れている橘、消えた響鬼……。
響鬼はどこへ行ったのか、橘は死んでしまったのか、一抹の希望が見えた瞬間に断ち切られたことに戦慄するディケイドだが、同時にゾルダの放った弾丸を迎撃することで意識を現実に引き戻す。

その速度と威力に思わず息をのむが、休む間もなくゾルダはその銃口を自分に向け続ける。

「狙いは俺ってわけかよ!」

絶叫しながらも横に大きく駆けながらライドブッカーをブラストモードにしてエネルギー弾を放つディケイドだが、敵の殺意もなかなかのものでその銃口は決して他者のもとに向くことはない。

「アポロガイストが君のことを随分吹聴したみたいだからね、おめでとう士。これで君は晴れてこの場でも世界の破壊者として疎まれることになったわけだ」
「あぁ、これでやっと俺らしくなってきやがった」

ライジングアルティメットに弾丸が依然全く効かないことへの八つ当たりなのか、ディエンドはディケイドに皮肉を漏らす。
それに対し同じく皮肉で返しながら、しかし内心ではディケイドはゾルダへの対処を真剣に考察していた。

(奴の狙いが俺である以上、ここは向かうのが最適……、だが残されたこいつらは……)

また一つ弾丸をエネルギー弾で打ち消しながら、ディケイドはチラと未だライジングアルティメットに対しあくせくと対処を試みる三人を見る。
三人ともが戦闘においては文句のないエキスパートであることも手伝って、防戦一方ながら未だディケイド抜きで応戦できていた。
しかし、それも長くは持つまい。誰かの緊張が一瞬でも切れたその瞬間、彼らはファイズを葬ったその剛腕によって闇に落ちるのだ。


18 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:36:28 1FDzq.Hk0

(どうする、ここを任せたばかりにあいつらが死んでしまったら――)

脳裏に蘇るは、この場で死んだ仲間、夏美、一真、北條のこと。
彼らは、自分がしっかりしていれば、助けられた命なのではないのか。悔やんでも仕方がないとそう何度も飲み込んだはずの思いが、また反芻される。
もしここで自分がいなくなったばかりにまた誰かが死んでしまったら――。

「何してる士、早く彼を倒してきてくれたまえ」

とうとう堂々巡りを始めたディケイドの思考に瞬間水を差すかのように割り込んできたのは、自分にとって一番付き合いの長い海東大樹、戦士ディエンドだった。

「そうだ門矢、いつまでもこんな音が響いていたんじゃうるさくて戦いに集中できん」
「行ってください門矢さん!ここは必ず俺たちが持ちこたえて見せます!」

次々にライジングアルティメットとの攻撃をかわしながら戦士たちが声を上げる。
それを受けて、ヒビキや葦原に続き、秋山や志村が――少なくとも今は――自分を仲間として受け入れていることを感じる。
そうだ、それならば、彼らのことも信じてみよう。

そうでなければ仲間など、信頼など生まれないのだから。

「わかった、あいつは俺が破壊してきてやる。――だからお前らも、絶対に死ぬなよ」
「おいおい一体誰に言ってるんだい?僕は君よりずっと前から、通りすがりの仮面ライダーなんだよ?」


19 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:36:51 1FDzq.Hk0

砲撃手ゾルダの方へ蛇行しつつ駆けながら、ディケイドは“仲間”へと言葉を掛ける。
ディエンドはいつもの調子で、ナイトは鼻で短く息を吐くことで、G4は強いうなずきで、それに応える。
それを確認するが早いか、瞬間ディケイドは最早振り返ることもなくそのスピードを上げる。

(全く、仮面ライダーってのも楽じゃないな。これなら破壊者の方がよっぽど簡単だぜ)

心の中で愚痴りながら、しかしディケイドの内心はその実、晴れやかだった。
なぜなら自分は、“仮面ライダー”なのだから。
善を助け悪を挫く、そんな正義のヒーローの名を、胸を張って名乗ることが出来るのだから。

(刻んでやるぜ一真、夏海、俺の物語ってやつを、な)

そしていよいよギガランチャーの弾丸を避けるのが難しくなったその時に。
彼は、一枚のカードを握りしめた。





当たり前のことだが、強化形態、あるいはそれに匹敵する能力を持つライダー二人を含めたとしても、たった三人で強靭無比の能力を誇るライジングアルティメットの相手をするというのは、無謀としか言いようがないことだった。
しかしそれでも何とかなっているのは、G4の持つ特殊銃、GM-01スコーピオンに込められた特殊弾――神経断裂弾――による効果が大きかった。
無論、それはこの場では制限されているのかあるいは元々連射性を優先しているのかライジングアルティメットの強固な体表には大きなダメージを与える前に回復されてしまうのだが。

ベルトを狙えばあるいはその行動を止めることが出来るかもしれないが、しかしそれでは五代雄介を奪還するという当初の目的が潰えてしまうことになる。
全く以て厄介な相手だと舌打ちしながら、明らかにスコーピオンを持つG4に対する攻撃が苛烈化しているのを受けて、ディエンドはカードを自身のドライバーに装填する。
ライジングアルティメットに対抗できる銃が一つしかないのなら、それを増やせばいいのだ、とニヒルに笑って。


20 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:37:16 1FDzq.Hk0

「行ってらっしゃい」

――KAMEN RIDE……
――G3!

ディエンドがトリガーを引くと同時、そこから放たれるは多数の影。
それが一斉にオーバーラップしたかと思えば、中心でそれは重なり戦士を象る。
そして現れたのは、G4を幾分か軽量化したような戦士、G3。

彼の手に握られているのはそう、GM-01スコーピオン。
G4へ剛腕を振るわんとするそれの膝に向けスコーピオンの弾丸をまるでロボットのように的確に打ちこまむと同時、ライジングアルティメットは僅かに体制を崩す。
そしてG4の驚異的な能力と志村純一の類稀な戦闘センスを以てすればその一瞬で十分。

G4はガードを固めた腕を解きつつライジングアルティメットの闇を込めた掌を打ち抜き、暗黒掌波動と呼ばれる彼の必殺技を、見事に封じることに成功する。
そしてその隙を逃がすナイトではない、初めて怯んだそれを目掛けて剣を一閃。
肘で難無く受け止められるも、続く二撃目は厚い体表を掠った。

「ガァァ……」

無敵のライジングアルティメットが、吠えている。
それに対し戦士たちは希望を抱く。
これならば、勝てはしなくとも変身制限まで持ちこたえる位なら、と。

しかしライジングアルティメットも甘くはない、ものの数秒で今までのダメージを完全に治癒、今度はスコーピオンを持つG3へその波動を放たんと手を向ける。

「させるかっ!」


21 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:37:35 1FDzq.Hk0

しかしそうはさせじと叫びつつG4とG3は同時に神経断裂弾を放つ。
狙いは的確、放たれた二発の弾丸はその伸ばされた肘に真っ直ぐに向かって。

「――ッ!」

だが刹那、ライジングアルティメットが体を大きく360度捻ったその瞬間に。
戦況は、全て覆ることとなった。

「……!」
「ぐあっ!」

ディエンドやナイトには、一切知覚すらできないスピードで放たれたそれは、一瞬でG4とG3の元に着弾。
G3は無残にもその身を貫かれたことによってカードに姿を変え、G4はその場に倒れ伏した。

「志村さん!」

思わずG4に駆け寄りそのまま彼を抱え離れていくディエンドを尻目に、ナイトは冷静に状況を把握する。
今二人を貫いたのは、ライジングアルティメットの能力である暗黒掌波動ではない。
なれば一体何を用いたのか、最早答えなど決まっている。

G3とG4が同時に放った神経断裂弾としか、考えられまい。
つまりライジングアルティメットが持つ反則的な超感覚能力と身体能力によって、二発の神経断裂弾を掴み、その勢いを殺さず、どころかその勢いを増して返したのだ。
全くもって常識を超えたという形容詞をいくつ使えばこいつについて表現できるのか、とそう考えて。

(だが、それが出来るなら最初からやっても可笑しくはない、二人が同時に放つのを待っていたのか、それとも……)

残された五代の、必死のSOSであったのか、と思考するが早いか、最早完全に回復したライジングアルティメットが地を震わせながら迫ってくる。
ディエンドもいない今、単身でこの魔人に挑むのはナイトには不可能。
そう、単身では。

――TRICK VENT


22 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:37:56 1FDzq.Hk0

またも電子音声が辺りに鳴り響き、ナイトと全く同様の姿をした影が三つ現れる。
これがナイトの持つ――アドベントが最早使用できないことを踏まえると――最後の、この場での有効な手札。
蓮としては以降必ず敵にまわる戦士たちを前にしてこの札はあまり切りたくなかったのだが……いいや、贅沢など言っている暇はない。

まず大事なのは、この場を生き延びることなのだから。
同時に切りかかったナイトは究極の闇の剛腕に捉えられるその寸前に離脱する。
逃げ遅れた、一人の分身を除いて。

同等程度の力を持つ龍騎サバイブの攻撃を受けてもある程度は耐えることのできた自身と同等の防御力を持つはずのそれが、いとも簡単に戦闘不能となったのを見て改めて規格外のその実力に驚愕する。
だが、しかしそれすら押し殺してナイトは再び剣を振るった。
三つもの強力な剣劇を受けながら、しかしそれがどうしたと言わんばかりにライジングアルティメットはその腕を薙ぎ払う。

次の瞬間、同時に吹き飛ばされた三人のナイトのうち、一人がライジングアルティメットの拳から放たれる闇にのまれ消滅する。

「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

しかしそれを見ても、ナイトの戦意は一切萎えることはない。
何故なら、今もずっと、彼には、自分が戻るべき唯一の理由が見え続けているのだから。

(恵里、俺は必ずお前の元に戻る、そしてもう一度お前の笑顔を見る。その為なら俺は、俺は――)

全ては、無愛想な自分に初めて純粋な愛情をくれた、あの優しい笑顔の為に。
まだ、死ねない。
記憶の中で笑う一番美しい彼女の記憶が、何度もリフレインし、その度に、思いはどんどんと強くなっていく。

一途な愛を胸に、残る二人のナイトが今度はタイミングをずらし波状攻撃を仕掛ける。
一見ライジングアルティメットの攪乱に成功したかに思えたが、しかしそんなナイトの思いを踏みにじるかのように、次の瞬間には一人のナイトが持つ剣は叩き折られ、その仮面を拳が貫いていた。
怒声と共に最後の、本物のナイトが剣を振るうが、しかし最早食らうまでもないとばかりに躱され逆にその首を掴まれる。

「ぐあぁッ!」
「――ッ!」


23 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:38:17 1FDzq.Hk0

うめき声をあげるナイトを気にもせず、ライジングアルティメットはその驚異のパワーで以て易々とナイトを持ち上げる。

(俺は、ここで死ぬのか……)

ギリギリと強まっていくライジングアルティメットの込める力と、それに比例して薄くなっていく思考を感じながら、秋山蓮は自分の死期を悟っていた。
何故、海東が離脱した時に、トリックベントの分身を用いて自分も逃げることをしなかったのか。
そんな事をぼんやりと考えるが、しかしその答えは、彼にとってあまりにも、あまりにも――。

――蓮!

(こんな最後にまで出てくるなよ、城戸……)

脳裏に浮かぶは、自分が死んでも構わないと考えるほど愛した女性の笑顔、ではなく。
忌々しいほどに眩しい、一人の男の笑顔。
嗚呼。認めねばならないだろう、自分がこんな絶望的な状況で、なぜ自分の果たすべき使命すら投げ出して究極の闇と戦ったのか、その理由を。

――秋山さん!

その忌々しい笑顔と、目の前の男の笑顔を、どこか自分の中で重ねてしまっていたという、その事実を。
眼の前のライジングアルティメット――いや、今だけは五代雄介と呼ぼう――のような存在に、あの誰よりも戦いを嫌った男がなってしまったら。
そう考えてしまった時点で、殺し合いなど関係なく、あるいは、この命を捧げる覚悟を決めた愛を、果たせなくなる可能性があったとしても。

彼の中から、逃げるという選択肢など、その笑顔を見捨てるという選択肢など、消え失せてしまったのであった。

(どんなに御託を並べても、結局願いは生きて叶えなければ意味がないのにな……、恨むぞ城戸、俺は自分が思っている以上にお前のことを――)

その時、まるで鏡が割れるかのようにナイトの鎧が消失する。
今まで以上に急速に消えゆく命を確かに感じながら、しかし彼の表情は、どこか晴れやかですらあって。
そうしてその命が尽きる、まさにその瞬間。

彼はついに――誰にも聞かれぬ思いであることを知りつつも――その忌々しい笑顔を、どこか望んでいた自分がいたことを認めた。
そして、その笑顔を浮かべる男と、殺し合いなどという状況で会わなければよかったのにと、真剣に思い悩んだ自分がいたという事実も。
しかしだから、だからこそ、願おう。

殺し合いでしか想いを表現できなかった自分から解き放たれるその瞬間くらいは、自分の正直な思いを伝えても誰も文句は言うまいと、そう信じて。


24 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:38:50 1FDzq.Hk0

(城戸、お前はなるべく……生きろ……)

――グキッ

鈍い音が、彼が首の骨を折られた音が、辺りに響く。
愛に生き、その思いを誰よりも強く抱き続け戦い続けた男がしかし、その最後にようやく自分に芽生えた友情という感覚を認めた、その瞬間に。
彼の命は呆気ないほどあっさりと、まるで虫けらのように、いとも容易く刈り取られたのだった。

【秋山蓮 脱落】
【ライダー大戦残り人数 13人】

ドサッと、その肉体が地面に落とされると同時、五代は、否ライジングアルティメットはその身を生身の人間の物に戻しながらもまるで何事もなかったかのようにその歩みを再開する。
変身制限を迎えてしまった事は、彼にとって懸念すべき事態でもなんでもない。
例えこの身が朽ち果てようと、地の石を持つ主人に自身のすべてを捧げるのに、変わりはないのだから。

と、変わることない機械のような思考ルーチンを終えながら、その虚ろな目で以て新たな戦場をその目に写す。
その眼の先にあるのは、自身の主人、ギラファアンデッドが二人の怪人と戦闘をする姿。
彼の念じた〝近くの参加者をキングやジョーカーと協力して殺せ″という指示に従うなら、それが一旦成された今自分が成すべきことは、主人の元に戻りその脅威を取り除くこと、そして新たな指示を授かることだ。

合理的な判断で以てその既に常人離れした足を主のもとに早めようとした瞬間、一閃。
突然の奇襲を持ち前の超感覚で以て躱しながら、その先にいる人物を視認。

「へぇ、これでも避けられちゃうか、手加減なしのつもりだったんだけどな」

シアンの鎧を身に着けた、戦士ディエンド。
彼の放つ弾丸は自分をこれ以上変身させまいと、これ以上罪を重ねさせまいとするものなのだろう。
――そんなこと、不可能であるというのに。


25 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:39:18 1FDzq.Hk0

容赦なく体の中心部を狙い続けざまに放たれる弾丸は、しかし研ぎ澄まされた感覚と尋常ではない身体能力で以て難無く回避される。
ディエンドの放つ弾丸はより熾烈に、より正確にこちらに当ててこようとその精度を高めていくが、しかし、それならそれでこちらにも手段はある。
無駄のない動きでポケットから自身の切り札を取り出すと同時、そうはさせじとディエンドの弾丸が飛来するが、何のことはない。

目の前に倒れる秋山蓮の死体を盾にすることでそれをやりすごし、彼の肉体をディエンドの弾丸が貫くより早く、自分の変身を完了する。

――NASCA

首筋のコネクタに刺されたそのメモリの名を、ガイアウィスパーが高らかに宣言する。
瞬間のみ青を象ったその肉体は、瞬きの間にその身を赤く染めた。
Rナスカドーパントと化した彼はディエンドとの距離を無にせんと一気に加速。

しかしただでその接近を許すほど、ディエンドも愚かではない。

――ATACK RIDE……
――BARRIER!

瞬間、突如出現したエネルギーの壁が、Rナスカの進行を防ぐ。
それならばといわんばかりにナスカはその掌から光弾を乱射するが、いずれもエネルギーのバリアに阻まれディエンドには届かない。
そしてディエンドは、その一瞬の隙を無為にするほど愚かではなく。

――G4,RYUGA,ORGA,GRAVE,KABUKI,CAUCASUS,ARC,SKULL
――FINAL KAMENRIDE……
――DIEND!

アタックライドバリアの効果が切れるとほぼ同時、ディエンドの切り札も、その準備を完了する。
シアンの鎧をより一層強固にし、その胸には八つの世界の仮面ライダーのライダーカードが、まるで彼の力を証明するかのように飾られていた。
彼こそは、世界を股にかける怪盗ライダーディエンド、その完成形たるコンプリートフォームだった。

「さぁ、第二ラウンドの始まりだ」

ディエンドが、不敵に告げる。
そう、戦いはまだ始まったばかり。
この戦いが始まってからまだ、三分しか経過していなかった。


26 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:39:54 1FDzq.Hk0



秋山という男を犠牲にしながら、なぜディエンドが戦いの場を離れたのか、その理由は数十秒前に巻き戻る。

「志村さんッ!」

眼の前に倒れる黒い鎧を見つけた男に対し、なぜ自分が成さねばならぬはずの戦いを放棄してまで呼びかけているのか、それはディエンドの鎧を纏う海東大樹自身にも全く分からないことだった。
見ればその相当に厚いはずの装甲の左胸部装甲の、丁度左胸あたりに見事な穴が開いているのが確認できた。
銃弾が突き抜けていればまだいい。

もしもその硬い装甲が災いし背中側までを貫ききれていなかったのなら……。
最悪の可能性を思い浮かべながら意を決しその体を裏返そうと伸ばした手を、しかし掴み止めたのは倒れ伏すG4その人だった。

「何やっているんですか、海東さん……。私のことなんていいですから、早く秋山さんの援護を……」

握られている手に感じる力は、彼が手加減しているのを考慮してもあまりにも弱弱しく。
ディエンドが少しでも力を込めれば、簡単に振り払えそうな程度でしかなかった。

「そんな事を言うな志村さん、早く傷を見せてくれ、今ならまだ間に合うかもしれない――ッ」

自分が何をしているのか、ディエンド自身にも最早よくわかっていなかった。
何故、この男にここまで執着しているのか、言動や行動がいくつか怪しいから?
いや、違うだろう。その答えをもう、自分は知っているはずだ。

しかし知っていてもなお……、海東大樹という男にはそんな自分の感情を純粋に受け止められるだけの覚悟が、足りなかった。
必死の剣幕でG4の装備を外さんとするディエンドに対し、しかしG4は弱弱しくその手を払いのける。


27 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:40:16 1FDzq.Hk0

「いえ、もう手遅れです。どうやら、背中側まで貫通せずに、中で跳弾したようです……、私はもう、助からない」
「そんなことを言うな、頼む、僕にあなたを助けさせてくれ、目の前で死なないでくれ!」

最早、いつものように皮肉で状況を茶化す余裕すらなかった。
思ったままのことを、そのまま口にする。
そんないきなり様子が一変したディエンドに対し、G4は呆気に取られたか、口にする言葉を選別しているのか答えはしない。

すると少しの間の後、口中の血を飲み込んだような音と共に、G4はまるで最後の力を振り絞るかのように蠢いた。

「海東さん、頼みます。私の分まで戦って……下さい。仮面ライダーの力で、みんなに、希望を……」

言い切った瞬間、G4の首がガクンと垂れる。
その手に伝わるのは、変わることない鉄の冷たさ。
しかし、一つ明らかなことが、ある。

それは彼が、志村純一が、死んだという、たった一つのシンプルな答えだけだった。

【志村純一 脱落】
【ライダー大戦残り人数 12人】

「志村さん、嘘だろう……?兄さん!」

最早、声に出さずにはいられなかった。
そうだ、戦いの最中目を離せなかったのも、こうして重大極まりない戦いを放置してまで彼のところに来たのも、結局は一つの理由だけ。
彼が兄である、海東純一と同じ顔を、同じ声をしていたから、それだけに他ならない。

戦いの結果として己の判断で第二のフォーティーンになることを宣言し、自分を含むかつての仲間たちと袂を分かった兄、純一。
自身の世界を通りすがる瞬間に、その仲を修復できなかった事が心残りになってしまっていたのか。
そんな甘っちょろい感覚を持つ自分が、確かに存在することを自覚しながら、ディエンドはG4のデイパックからグレイブバックルを拾い上げる。

「・・・・・・すまないね、志村さん。僕は泥棒だからさ、あの世で存分に恨んでくれたまえよ」


28 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:40:38 1FDzq.Hk0

どこか寂しげに告げながら、バックルをデイパックに仕舞い込む。
志村には悪いが、自分にとってこれは兄の物にしか思えない。
逆に言えばこのバックルを持っていれば、自分が兄とともに戦っていると、そう錯覚できるような気がしたのだ。

そんな新たな思いを抱くと同時、振り返ったディエンドの目に飛び込んできたのは、秋山蓮の命の炎が消える、まさにその瞬間。
それに向かって駆けだしながら、同時に彼は懐からタッチパネルのようなアイテムを取り出した。
まさにそれは一か八かのとっておきの切り札。

しかし今のディエンドには、それが失敗に終わるビジョンが、どうしても抱けなかった。
だって今の自分には、兄がついていてくれるような気がしたから。
そんな思いを抱きながら、ディエンドはその手に持つ端末に、一枚のカードを滑り込ませたのだった。





「ハァァァァッッ!」

雄叫びと共に、弾幕の中を潜り抜け駆けるはバーコードの意匠を全身に刻んだマゼンタカラーの戦士、ディケイド。
対するは緑のスーツに重厚な鎧を纏った戦士、ゾルダ。
彼らの距離は最早本来のゾルダの間合いではない、中距離。

そろそろこのギガランチャーの名を持つ大砲をかなぐり捨ててでもジャコーダーやアクセルブレードといった中、近距離用の攻撃手段に切り替えるべきか、と考えるが早いか、ディケイドが蛇行をやめ、その足を自分に向け真っ直ぐに加速する。
仲間を気遣ったあまりの捨て身の戦法か、それとも何か策があるのか、そのどちらにせよ最早武器を取り換えている暇はないと、ギガランチャーのトリガーを引く。

――KAMEN RIDE……
――BLADE!

これで仕留められるなら、とそんな思いを抱く暇もなく、ギガランチャーの弾丸が発生させたその爆炎の中から、青い仮面ライダーに姿を変えたディケイドが飛び出してくる。
全く持って奇妙な技を、と舌打ちしながら、最早自爆の危険性すら生じ利用価値のなくなった巨砲を手放す。
しかしまだ少し距離はある、ブレイドという名前からするなら、剣を使うのだろうその姿に対応すべくデイパックからアクセルブレードを取り出そうとして。

「やらせるかよ」

――ATACK RIDE……
――MACH!

突如その身を加速したディケイドにそれを阻まれる。
何とか一撃を胸のアーマー部分で受けることでダメージを軽減するが、アクセルブレードはもちろんデイパックには最早手を伸ばせないだろうことは明白だった。
素早く腰のギガバイザーをその手に取りながら、ゾルダは心からの憎悪を隠そうともせず目前の悪魔に向ける。


29 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:40:58 1FDzq.Hk0

「ようやく会えましたね、ディケイド」
「その声……、ったく一真がああだったから違うかと思ったが、お前はどうやらあまり変わらないらしい」
「……何の話をしているかさっぱりですが、あなたの使命は、この場で破壊されすべての世界を破滅から救うこと。今からその使命を王である私の手で果たしてあげましょう」
「ふっ、そういうことなら、悪いが間に合ってる」

瞬間、場には張りつめた空気が流れる。
この近距離では、不用意に動いた方が相手から手痛い反撃を受ける。
双方ともに歴戦の勇士である両者はそれを理解しているからこそ無駄に動くことはしない。

その状態がどれほど続いたのか。
――先に動いたのは、ディケイドだった。
ヤァと掛け声を発しながらの斬撃はゾルダを下から切り上げるものだったが、その程度はお見通しといわんばかりに上半身を仰け反ったゾルダに容易くかわされる。

と同時ギガバイザーが火を吹くが、ほぼ反射的な攻撃なうえやはり相対するディケイドに比べ慣れないゾルダの鎧。
予想通りの攻撃だと言わんばかりにライドブッカーのホルダー部分で弾丸を二発受け止め、お返しといわんばかりに、放たれたのは二発の弾丸。
剣戟でしか攻撃できないとばかり考えていたゾルダはまるでハトが鉄砲を食らったように驚き、受け身すらとれぬままその体を吹き飛ばされた。

ディケイドの持つ専用武器、ライドブッカー。
その特徴は剣と銃、そしてカードホルダーの形態を自由に使い分けられることにある。
ディケイドは基本的に他のライダーに変身した際、アタックライドを使用しそのライダーの専用武器を使用しない場合でも、そのライダーの戦闘スタイル――ブレイドならソードモード、といった具合に――に忠実にライドブッカーを使用する。

それがそのライダーに対する敬意からくるものなのかはともかく、あくまでそれが他のライダーに変身しているディケイドである以上、ディケイドの専用武器たるライドブッカーの各形態を自由に使用できない理由はない。
ゆえにこの状況では、ブレイドという、名前からして――というか元の世界では実際そうなのだが――剣しか使わなそうなライダーが銃を使うという奇策で以てゾルダへの攻撃に成功したわけである。


30 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:41:20 1FDzq.Hk0

だが、ゾルダとてただでやられるほど身体も精神も脆くはない。
空いた距離を好機とばかりにすかさずデッキに手を伸ばしカードをドロー、そのまま手に持つギガバイザーに装填する。

――SHOOT VENT

瞬間、ゾルダの肩にはおおよそ不釣り合いなほど巨大な二門の砲台が装着される。
その砲台の名はギガキャノン。
ゾルダの持つ二枚目の必殺の威力を持つカードである。

今度は逆に息をのんだディケイドに対し、ゾルダは砲弾を発射、と同時に彼が仲間たちに流れ弾がいかないように位置どっていることに気づくが、しかしどうでもいい。
先程のようにライジングアルティメットに自身の弾丸が当たりその行動を抑制することがない分自分にもメリットがあると思い直し、その力を思う存分解き放つ。

(チッ、野郎、考えてた以上に俺の知ってる〝奴″に近いぜ。音也や一真がああだったってのに一番厄介な奴が殆ど変らないとはな……)

対するディケイドも、自身の周辺を舞う爆炎を避けながら敵への思いを強くする。
自身へ旅の始まりを告げた、紅渡。
聞いた話では、自分が破壊者として一旦の仕事を終えた際、海東や夏海の前に現れディケイドに物語は無いとのたまったらしい。

使うだけ使っておいて本人には礼も何もなしかと苛立ちが募っていた中で、この場における音也や一真の、自分の知る彼らとの相違に一抹の希望を抱いた途端に、これだ。
破壊者としての自分を知っているだけでなくあのライダー大戦の世界のそのままの声で喋り方で自分に戦いを吹っかけてきた。
本当に自分の知る彼と別人なのかとため息を漏らすが、しかし考えていても何も始まりはしない。


31 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:41:41 1FDzq.Hk0

音也への借りもあるしな、と自分を納得させると同時ホルダーと化したライドブッカーから一枚のカードを取り出し、そのままドライバーに装填した。

――KAMEN RIDE……

「早速力を借りるぜ」

――HIBIKI!

心の中で呟いた名前を復唱するかのようにドライバーが、けたたましく9つの世界の一つに存在する戦士の名を告げる。
それに応えるかのように炎に包まれたディケイドの体は、しかしそれを払いのけた瞬間にその姿を紫に塗り替えて。
刹那そこに現れたのは、マジョーラカラーが鈍く輝く戦士、響鬼だった。

その変身を確認するまでもなく、彼は続いてもう一枚のカードをブッカ―より取り出し、バックルに読み込ませる。

――ATACK RIDE……
――ONGEKIBOU REKKA!

電子音声が告げると同時、彼は背中に取り付けられた専用のホルスターから響鬼の専用武器、音撃棒烈火を取り出す。
その先端に炎が灯っているのを確認するまでもなく、まるで元々自分の技だったかのように扱いながら、掛け声と共にそれをゾルダの弾丸にぶつける。
二門の銃口から発射された巨大な弾丸は、同じく二本の音撃棒から放たれた炎弾により相殺、辺り一帯に爆風と硝煙を撒き散らした。

「くっ、小癪な……」

そして、ディケイドの目的がこの濃い煙幕であるということなど、ゾルダにとっては明白。
煙幕が晴れる前にギガキャノンを乱射する手も思いつくが、しかし爆音で知らぬ間に懐に忍び寄られる可能性を考え、相手の動きを待つことにする。
あるいはこのまま逃げられる可能性も考慮するが、自分に向けられる敵意は変わらず、どうやらあちらも逃げる気がないようであった。


32 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:41:57 1FDzq.Hk0

(それならそれでいい……、どこからでも来いディケイド。どんな卑怯な手を使われても僕は必ずお前を破壊する)

右手にギガバイザー、肩にはギガキャノン、まさに要塞の異名が相応しいほどに武装されたゾルダはゆっくりと、硝煙が晴れるのを待って――。

――……DE・DE・DE・DECADE!

(――来るッ!)

構えるが早いか電子音声を言い終えるが早いか、刹那の後にはゾルダの目前にまで伸び、何重にも重なった巨大なライダーカードを目視する。
既にライジングアルティメットに対して放ったエネルギー弾を見ていたゾルダは、彼にとっては無傷のそれも、今の自分にとっては十分に致命傷たり得ることを十分に把握していた。

(ですが、これで終わりです)

恐らくはエネルギー弾の放たれるより早く、発射準備の完了していたギガキャノンから砲弾を放つ。
逆にカードを突き抜けていったゾルダの一撃は確かな手ごたえを以て爆発を発生させ、今度こそ悪魔への勝利をゾルダは確信する、が。

――FINAL ATACK RIDE……
――DE・DE・DE・DECADE!

「なっ――!」
「ハァァァァァァッッ!!」

先程と同じ電子音声を響かせながらディケイドはその巨大なライダーカードすら煙幕に隠して既に自分の懐に忍び込んでいた。
先程あたったのは一体……?あれは罠だったのか?
多くの疑問を抱えながら本能で急所である胸を庇ったゾルダを気にも留めずに、ディケイドはその剣にマゼンタの光を灯して。

的確にその緑のデッキを、打ち砕いたのだった。


33 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:42:17 1FDzq.Hk0





さて、ディケイドがなぜこの攻撃に成功したのか、お察しの方もいるとは思うが解説しよう。
彼はアタックライド音撃棒烈火の効果を発動すると同時に発生した爆音に紛れ、アタックライドイリュージョンを使用。
制限により一体一体に出来ることが限られていると困ると最低限必要な一体の分身だけを生み出し、ファイナルアタックライドを使用させる。

ゾルダもその存在を知るディメンションブラストを使用することでギガキャノンの砲弾を発射させ、一層煙幕を濃くすることに成功する。
後は自分自身がもう一度ファイナルアタックライドを使用し、ディメンションスラッシュを発動。敵の死角からデッキを破壊することに重点を置いた攻撃を放つ。
それによって確実に敵の戦力を削ぐという一連の流れが彼の作戦であった。

少し前までの心の荒むようなライダー破壊の旅のおかげで身についてしまった小汚い手だが、しかしそれも自分の技なのだと、士は自分を納得させる。
強力なイリュージョンを今の今まで使わなかったのは制限を恐れたのかそれとも破壊者であった自分を一瞬でも早く忘れようとしたのか――。
その答えは、きっと士本人にしかわからないのだろう。





「ぐあッ……!」

ディメンションスラッシュによって生じた爆炎と共に後方の大木に背中を思い切り打ちつけた渡は、そのまま重力に逆らいきれず地に伏した。
全身に残る激痛と同時に今自分が何をされたのか一切わからないことによって、目の前の存在が今まで戦ってきたファンガイアとは格の違う存在であると再認識する。
やはりこいつは優先して破壊しなければとその憎悪を一層強める中で、その悪魔が目前にまで歩み寄ってきているのに気づく。

「大体わかった。・・・・・・どうやら厄介なことに、お前は俺の知る〝紅渡″じゃないらしいな」
「どういう……ことです?」

その気だるげな声に確かな嫌悪感を抱きつつも、紅渡という名を否定することすら忘れて――傷の回復を待つまでの時間稼ぎという建前で――渡は忌むべき破壊者に疑問をぶつける。


34 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:42:33 1FDzq.Hk0

「いや、俺を知ってる〝紅渡″ならこの程度の攻撃、簡単に対策出来るだろうからな」

先程のディケイドの、複数のカードを用いた攻撃。
その答えは彼の能力を知る者には実に簡単、しかし知らぬ者には難解。
この策を使うことで〝この渡″が自分の知る紅渡かどうか確かめる……というところまで士が考えていたかは定かではないが、しかしこの攻撃に全く予想外だったという反応を目の前の〝紅渡″が見せたことで彼は事情を大体察する。

それは、『どうやら目の前の〝紅渡″は自分のあった音也の息子であり、正真正銘自分の知るあのいけ好かない紅渡とは別世界の同一人物どまり』だということだった。
色々面倒なことになったな、とため息をつくディケイドの前で、真剣に困惑した表情を見せるのは渡である。

「あなたの言う〝紅渡″とは一体……誰のことですか」
「さあな。ともかく、お前が殺し合いに乗っている以上音也への貸しの分くらいは〝お説教″してやらないとな」
「父さんに会ったんですか!?」

ディケイドの答えになっていない答えを追及するより早く、渡にとって聞き捨てならない名前が飛び出す。
ああ、と一瞬の間をあけて回答したディケイドに対し、渡は思う。
何故、よりによってこいつが、と。

「あいつには一発殴られたからな、その分お前には俺が――」

――すでに、目の前の男の声など耳に入ってはいなかった。
破壊者であるこの男と、父が会い、恐らくは戦ったのだ。
父が無事破壊から免れたのか、この男に聞いても碌な答えは返って来るまい。

なれば自分の役目は――ああ、もうわかりきっている――ただ一つ。
もう大事な人を殺されないように、今ここでこの男を殺すだけ。

「――世界の破壊者、ディケイド」
「あ?」

既に誰も聞いていない話を阻まれて少し苛立った様子のディケイドだったが、しかし渡の様子が先程までより一層圧迫感の強いものになっているのを見て思わず構えなおす。
目の前の渡は生身だ、変身している士が負ける道理はないが、しかし本能が告げている。
この男は、自分の知る〝渡″と同等、もしかすればあるいはそれよりも、強大な存在であると。

「お前に、王の判決を言い渡す」

背筋が凍える。
らしくはないとわかっていても、認めざるを得ない。
これは、この迫力はまさしく――。

「――死だ」


35 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:43:08 1FDzq.Hk0

――王の資格。
その答えに行きつくが早いか、渡は冷たく言い放った言葉を実践せんとポケットに手を伸ばす。
しかし、さすがにそれをただ見ているわけにはいかない。

ディケイドもライドブッカーをブラストモードに切り替え変身を防ごうとするが。

「サガーク」

小さくつぶやいた渡――否、キング――の声に応じてその僕たる蛇を象ったようなモンスターが彼のデイパックから飛び出し、ディケイドの弾丸を弾き飛ばした。
無論、ディケイドの能力を以てすれば使役される小型モンスター程度難無く突破出来るだろう。
だがそれより早くキングの行動は、すでに完了していた。

――WEATHER!

野太い男の声が、気象の記憶を持つそのメモリの名を叫ぶ。
同時にキングの肉体は突如発生した竜巻によって覆われ――。
次の瞬間にはすべての変異が完了していた。

現れ出でたのは白を基調としつつ腰に金色の龍を模したベルトを巻く、まさに気象の記憶を司るに相応しい迫力を誇る怪人、ウェザードーパント。
しかしディケイドにはそれに見とれる時間すら与えられない。
ウェザーが軽くその指を天に掲げたかと思えば、瞬間ディケイドの頭上には暗雲が立ち込める。

余りに不自然なそれを目の前の怪人が発生させたのは明白――とそこまで考えるより早く、ディケイドは横に飛び退く。
直観での行動だったが一瞬の後にディケイドのいた地点から眩い閃光が発生したことでそれが正しかったことを実感する。
今まで立ち向かった敵の誰も持ちえなかった気象のコントロールという反則じみた能力にディケイドは身震いし、だがとふとあることを思い出す。


36 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:43:30 1FDzq.Hk0

(そういや涼の奴が言ってたっけな、ダグバってのも天候を操れたらしいって……)

と、ふと場違いな考えが湧くも、しかしすぐにそれをかき消す。
どうにもダグバの話を聞いてから事あるごとにそれについての事が頭をよぎる自分がいる。
どちらにせよ後々相手どらねばならない相手だが、今はそれより大事なことが――。

――閃光。
渡の覚悟と怒りによりウェザーとの親和性がより高まっているのか、その雷撃はますます鋭さと威力を増し。
ディケイドは段々とその止むことのない雷撃を躱せなくなってきていた。

いずれ躱しきれなくなるのがわかっているのなら……とディケイドは未だにその手を天に翳し続けるウェザーに向け一か八かの攻撃を仕掛け――。

「――かかりましたね」
「何っ、ぐあッ!?」

不意にその手を下したウェザーの不敵な宣言に驚く暇もなく、ディケイドの視界が揺らぐ。
その原因を探るより早く、自身の背面に強い衝撃を受け、彼は呻き声をあげた。
揺らぐ視界、続く衝撃、そのどれもが殺意のこもった彼の意識を刈り取りかねない強力なものだったが、ディケイドはすんでのところで踏みとどまる。

やっとのことでそれから解放され、激しい頭痛に悩まされながらディケイドがその目にしたのは、ウェザーが金色の鞭のような武器をその腰に取り付けるところ。
まさかジャコーダー以外にウェザーそのものにも鞭状の近距離戦をも可能にするツールがついていたとは。
自分の能力の多彩さを棚に上げてウェザーを批判するディケイドだが、しかしそんな軽口すら叩けないほど自分の身体が悲鳴を上げているのは火を見るより明らかなことであった。


37 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:43:50 1FDzq.Hk0

動かなければ、このままでは、やられる。
最早変身を保てているのが奇跡と言う他ない状況を押して、彼は全身に力を込めるが、ガドルとの戦いの傷が開いたのか、身体は依然いうことを聞かない。

「――終わりです、ディケイド」

――そしてついに、その時は訪れる。
その強靭な脚力で以て否応なしに仰向けにされたディケイドを踏みつけながら、ウェザーはそのデイパックより巨大な大剣を取り出す。
これが振り下ろされれば、間違いなくこの身は尽きるだろう。

(クソッ、俺の旅は、こんなところで終わるっていうのか……?)

最早録にその拘束を振りほどく力すらないディケイドは、ふとそんな事を考える。
目の前の若き王は、その余りある憎しみで以て自分を確実に亡き者にせんとその手に持つ大剣に自身の雷撃の能力を付加している。
この一撃から逃れる手段は……もう、残されていない。

今度こそ、本当にもう駄目かと、そう思いかけた、その瞬間。

「――ラァッ!」
「なっ!?」

その場の誰も予期しなかった騎士(ライダー)が、駆け付けた。
ディケイドを倒す一点のみに集中を振り切ったウェザーはその一撃に巨体を揺るがし。
まるでディケイドを守らんかとするように、騎士はウェザーの前に立ちふさがる。

「悪ィな門矢、遅くなった」

最早、言うまでもあるまい、その騎士とは――。

「……巧」

数分前ライジングアルティメットに吹き飛ばされ戦いをリタイアしたはずのファイズ、その人であった。

【乾巧 復帰】
【ライダー大戦 残り人数13人】


38 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:44:23 1FDzq.Hk0





時は、ライジングアルティメットの剛腕によりファイズがその身を遥か遠くまで吹き飛ばされている最中に巻き戻る。

(嗚呼、俺ここで終わっちまうのかな……、天道、霧彦、真理――)

そんな最中、ファイズはふと思う。
あとどのくらいで、この身を包むファイズの鎧が限界を迎えるのだろうと。
どちらにせよ、もうそれも遠い未来の話ではない、恐らくはあと数秒で何本かの大木をなぎ倒しながら、自分の命は燃え尽きるのだ。

(やっぱ俺なんかじゃ役不足だったのかもな……お前らのでっけぇ夢を叶えるには)

そう考えて目を瞑る。
せめて最期くらいは、いい夢を見ていたい、と。
だが。

――妹がくれたスカーフだ。これを、乾君……君に、洗濯してもらいたいんだ
――お前の街も護ってやる。お前の妹だって死なせやしない。お前の好きな風を、世界中に吹かせてやる

霧彦が託したスカーフを受け取って、そんな大言壮語を吐いたのはどこの誰だった?

――俺の夢は、人間からアメンボまで、世界中の総ての命を守り抜くことだ

そんな自分の数倍は世界の役に立つだろう男の思いを背負って見せると言ったのはどこの誰だった?
脳裏によぎるのは、未だ自分が成し遂げていない友の夢。
彼らがまるで、こんなところで死んだら承知しないぞと言っているかのように、それは巧の脳に響き続ける。

(あぁ、わかってる、そうだよな。お前らの夢を背負っておいて、こんなとこで諦めるわけにはいかねぇよな――!)

グググ、とファイズの中に湧き上がる闘志。
何かをしなければ、この身は尽きる。
いや、この身だけならばまだいい、だが自分には、友から託された夢を叶えなければならない使命があるのだ、こんなところで倒れているわけにはいかない――!

しかしそんな思いも虚しく、彼の身は受け身すらとれぬまま大木に激突、その鎧ごと中の巧を――。

「ぐっ……」

――否、巧は……、どころかファイズの鎧をすら残したままで未だ健在。
一体何が、痛む頭を押さえながら、辺りを見渡した、その時まで。
ファイズは、自分のその現状を作り出した存在に、気づくことすらなかった。

「――バジン?」


39 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:44:42 1FDzq.Hk0

その、衝撃により最早何の役にも立ちそうもない鉄塊と化した相棒を、その目にとどめるまでは。
それを目にした瞬間、ファイズの脳裏にはこの状況に至るまでのすべてが鮮明に映し出された。
ファイズのサポートマシンであるオートバジンは、もとより戦場にファイズを確認した時点で一時的な主たるG4の指示を待つまでもなく戦闘形態に移行。

その高度なAIで以てファイズの吹き飛ばされる方向を計算しファイズを先回りしつつバーニアで徐々に減速。
それでもなお殺しきれないスピードの影響を、一手に引き受け、衝撃の一歩手前でファイズより早く大木に接触し、その結果――。
自身は鉄塊と化したという訳だ。

「バジン!?お前何やって……!」

しかし一瞬のうちの献身など、ファイズにはわかりようもない。
それ故の疑問だったが、オートバジンはただウィウンと何とも形容しがたい機械音で答えるのみ。
しかしそれは巧にとって、まるで別れを告げる悲しげな声にも聞こえて。

「何で……何で俺なんかの為にまた仲間が死ななきゃなんねぇんだよ!」

ファイズは叫びながら大木に寄り添うように項垂れる愛機を揺さぶるが、しかし最早それは機械音すら返してはくれなくなっていた。
オートバジン、心を持たないはずの機械ですら、自分のために死んだ。
真理、木場、霧彦、直也、天道……そしてバジン。

心通わせた仲間たちが、次々と死んでいく。
こんな、化け物で、しかもその寿命すら既に尽きかけようとしている、自分を残して。
真理たちの死ももちろんだが、ようやく再開できた仲間、その存在を易々と奪われた事に対する怒りは、やるせなさは、凄まじく。

――辛くなったら、誰かに荷物を持ってもらえばいい……お前だって、今までみんなが背負うはずだった物をたくさん背負ってきただろ? 今更罰は当たらない

そんな時、脳裏にフラッシュバックするは、あの全てをお見通しとでも言いたげなムカつく、しかし天道たちと同じ瞳をした男の言葉。

(背負ってもらう……?俺の果たせない夢を俺は――)

と、その時だった。
前方の空に急速に集まりゆく暗雲の群れを見たのは。
ただごとではすまないかもしれない、と心では思いつつも、しかしそれに向かう以外の選択肢を持っていない自分を、確かに感じて。


40 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:45:10 1FDzq.Hk0

「やってみるか、俺に何かが、出来るうちくらいは」

呟きつつ目前に眠るバジンに触れる。
きっと今を逃したら、もうこの愛機には二度と言葉をかけることは叶わないだろうと、そう感じて。
しかし自分に臭い言葉は似合わないし、歯が浮くようなセリフは苦手だ。

だから、何も言わない。
それが自分たちらしい別れなのかもな、と思いつつバジンからファイズエッジを抜いて、ファイズは駆けた。
夜を、その身に走る赤き粒子で照らしながら。

その胸に、先程までとは違う新たな思いを抱きながら。





「ディケイドの味方をするとは……、彼は存在するだけで世界を崩壊させる、破壊者なんですよ?」
「だったらどうした」

ウェザーの心底から理解が出来ないといった様子の疑問に対し、ファイズは短く答える。
瞬間手首を大きくスナップし、ファイズエッジで切り掛った。
舌打ちとともにエンジンブレードでその一撃を受け止めるウェザーだが、その一撃で悟る。

この男は、すでに満足に戦うこともままならない満身創痍だ、と。
だが、故に余計に引っかかってしまう。
なぜそうまでして、世界を滅ぼす悪魔のことを守ろうとするのだろうか?

そんな募る苛立ちとともに放たれた斬撃をしかしファイズはいなしつつ、いまだ倒れ伏すディケイドに声をかける。

「おい、門矢ァ!んなとこで呑気に寝てるんじゃねぇ!」

ピクリ、とディケイドがその指に力を籠める。

「お前、俺に言っただろ、俺の背負った夢を、誰かに託してもいいって!」

ディケイドがその両の手を、確かに地につけ力を籠める。

「確かに俺は、もうすぐ死ぬ!けど、けどなぁ!」

ディケイドがよろめきながらも片膝を立てる。

「けどやっぱり、あいつらの夢は、簡単には渡せねぇ、けど、けど……ぐあっ!」


41 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:45:28 1FDzq.Hk0

必死の思いで言葉を紡いでいたファイズだったが、もはや人外故の回復能力をも失いつつある現状、ウェザーとの能力差は明白。
故に軽々とその身を打ち上げられるが――。

――無様に地面を転がる寸前でディケイドがそれを受け止めた。

「ったく、無茶しやがる」
「――門矢」

お互いその体を自分で支えきれないとばかりによろめき、肩で呼吸をする
だがそうなっても未だ、闘志は一切の衰えを見せず。
そしてそれが、ウェザーにはこの上なく苛立たしく感じられて。

「――何が、夢ですか、馬鹿馬鹿しい」

気づけば、そんな構う必要のないはずの言葉に、応じてしまっていた。

「そんなもの、呪いと同じです。そんなものを抱くから、皆、しなくてもいい後悔をする。味わわなくていい挫折を味わう!」

胸中に思い返すは、自分の大人になってからの初めての外界での友達、襟立健吾のこと。
彼は内気な自分にも明るく接し、外の世界の、そして友情の素晴らしさを教えてくれた。
だが、そんな彼はファンガイアとの戦いの最中、その指を負傷し、ギタリストへの夢を困難なものにしてしまった。

あの時の彼の絶望は、きっと自分にとって深央を失ったそれにも匹敵しただろう。
いや、結局のところ彼は戦士としての道を見つけそれに打ち込むことでその絶望を和らげることができたのだから、自分のもののほうがずっと――。
――今はそんなことを言っている場合ではないか。

大事なのは、健吾のその絶望は、彼が夢を抱いたからこそのものだということだ。
彼がギタリストの夢を抱かなければ、彼は深く絶望することもなかったはずだ。
そんな代償を背負う必要のあるものを、誰かに託すなど、そんな無責任なことは、渡には考えられなかった。


42 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:45:45 1FDzq.Hk0

「――なるほどな。確かにお前の言うとおり、夢は呪いに似ている」

しかし目の前の愚者の考えを完全に否定したと、そう思っていた渡に思いがけない言葉をかけたのは、なんと他でもないディケイドだった。
仲間が必死になって伝えようとした言葉を拒絶するかのようなその言葉に、思わずそこにいる誰もが呆気にとられる。

「――きっとこの世の中には、夢に挫折して最初には思っても見なかったような人生を歩む奴の方が多いだろう。それを最期の瞬間まで後悔し続ける奴も、もしかしたら少なくないのかもしれない」

ディケイドは、ポツリポツリと、まるで赤子を諭すかのように言葉を漏らす。
それはウェザーに対して放った言葉のようでもあり、同時に横にいるファイズにも放たれている言葉のように感じられた。

「だが、それでも人がいつの時代も夢を抱くのを諦めないのは、きっとそれを抱くだけで、それを叶えようと行動するだけで、その結果に関係なく自分をより成長させると知っているからだ」

ディケイドのその言葉を受けて、ウェザーはほぼ反射的に思い出す。
自分という存在は、確かに愛する深央という女性を亡くしたことで深い絶望を味わった。
しかし、果たして本当にあの家を、あの部屋を出て自分は失うことしかしなかったのか?

恵さん、嶋さん、名護さん、健吾さん、そして深央さん。
彼ら彼女らと会えたことは、自分が外の世界を知りたいと、自分を変えたいと、自分という存在がどうやって生まれたのか知りたいと、そう〝夢”抱いたからではないのか。
と、そこまで考えて。

脳裏に横切るは、自分の手の中で最愛の人が崩れ落ちるその瞬間。
その命を自分が刈り取ったのだという、確かな、そして深い絶望だった。
――危ないところだった。

こいつは破壊者なのだ、耳を貸しては足を掬われる、そうに決まっている。
――そうに、決まっているのだ。

「そしてその夢がもし道半ばで途絶えるとしても。それを正しいと思う者が一人でもいるなら。その夢を誰かが継いでくれるなら、きっと、夢を抱いた事実は無駄にはならない」

そんな渡の思いも知らずに、ディケイドは言葉を紡ぐ。
――紡ぎ続ける。

「こいつは、それをたくさんやってきた。叶えられない誰かの夢を、代わりに叶えようと、必死に戦ってきた。それは、決して呪いの連鎖なんかじゃない。こいつが繋いできたのは……、〝希望″だ」


43 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:46:11 1FDzq.Hk0

そのディケイドの言葉に、一番驚いているのは、他でもないファイズのように見えた。
それを脇目でチラと見やりながら、ディケイドは不敵に笑う。

「夢という希望は、誰かに受け継がれ、より大きな希望になる。だから、夢を抱くことは、決して無駄なんかじゃない!……知ってるか?夢ってのはな、時々すっごく熱くなって、時々すっごく切なくなるもの、なんだぜ」
「……あなた、一体何者なんですか?」

長々と告げたディケイドに対し、ウェザーは最早そんなありきたりな質問しか思いつかなかった。
この目の前に立つ男は、果たして自分が一人で敵うような相手なのか、そんなことを考えてしまうほど、目前の戦士は大きく見えて。
そしてその言葉を待っていたとばかりに、ディケイドは告げる。

自分という存在が、いくら破壊者と罵られようと持ち続ける、唯一無二のアイデンティティを。

「――通りすがりの仮面ライダーだ。……覚えておけ!」

高らかに宣言したディケイドの手にライドブッカーより飛翔するは、4枚のライダーカード。
それは、ファイズとして世界に認められた巧の信頼を勝ち得たことで、ファイズの能力を取り戻したことを意味する。
ヒビキに続き、巧という男までもが自分を信じてくれた事実を噛みしめつつも、ディケイドとファイズは戦闘態勢に入る。

相対するウェザーは吠える。
まるで、ディケイドの言葉に対し抱いてしまった自分の思いすら、すべて無かったことにするかのように。
ウェザーはそのまま勢いに任せるかのように雷撃を放つがそれをダブルライダーは同時にそれぞれ左右に飛ぶことで回避した。


44 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:46:33 1FDzq.Hk0

それまでいた場所に雷撃が落ちるのを視認すらせず、彼らは同時にウェザーに切り掛った。
息の合った連携攻撃にさすがに一本しかないエンジンブレードでは攻撃を受け止めきれず、ウェザーは後退を余儀なくされてしまう。

――ATACK RIDE……BLAST!
――BARST MODE

その隙を逃す気はないとばかりにディケイドはライドブッカーを、ファイズはファイズフォンをそれぞれ銃の形に変形させ、弾丸を連射する。
これは堪らないといった様子のウェザーだが、しかしただでやられているわけもない。
雄たけびとともに突風を発生させ弾丸を防ぐと同時にダブルライダーの態勢を崩し、そのまま彼らの前方に巨大な竜巻を発生させた。

「おい門矢、なんかいい手はないのかよ?」

弱った体でなくとも致命傷は間違いないだろうウェザーの規格外の攻撃に関して、ファイズはディケイドに一抹の希望を託す。
言外に、「ヒビキにやったような奴はないのか」と尋ねるように。

「いい手ならあるぜ。――とっておきのがな!」

そして、得られた答えは、予想以上。
見せびらかすように彼が掲げたカードの絵柄を確認する前に、ディケイドはそれをドライバーに投げ込む。

――FINALFORM RIDE……
――FA・FA・FA・FAIZ!

「な、おいそれって……」
「あぁ、ちょっとくすぐったいぞ!」

ディケイドライバーから放たれた音声に抗議しようとするファイズを無視し、ディケイドは彼の背中を軽く撫で上げる。
それを受けファイズの体は問答無用でその身を大きく変貌させた。
関節など人体の構造など知ったことかといわんばかりの無茶な変形を終えて、そこにいたのは最早ファイズではなく。


45 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:47:13 1FDzq.Hk0

そこにあったのは巨大な――ゾルダのそれすらはるかに上回る――大砲としか形容しようのない超大型の銃、ファイズブラスターだった。
眼前に迫る全ての生命を刈り取らんとするその暴力的な突風に対し、しかしディケイドは焦ることなくファイズブラスターのトリガーを引く。
それによって放たれたのは、まるでファイズがその必殺技、クリムゾンスマッシュを放つ時に現れるような、円錐状のポインター。

風の塊よりはるかに小さいはずのそれはしかし、迫りくる暴風を確かに受け止めていた。

――FINALATACK RIDE……
――FA・FA・FA・FAIZ!

そしてそれによってウェザーが一瞬でも狼狽したのなら、ディケイドにはそれで充分。
気合いと共にトリガーを引き絞れば、それと同時放たれるのは先ほどのものとは比べものにはならないほど巨大で強力な閃光。
それはまるで先ほどまでの脅威が嘘かのように易々と巨大な竜巻を突破し、その先にいるウェザーにまで、威力の衰えを感じさせない勢いで到達する。

「うわあぁぁぁぁ――!」

次の瞬間、彼の絶叫すら容易く飲み込んで。
ウェザードーパントは、ファンガイアの命運を握る若き王は、予想だにしなかった破壊者とその仲間との信頼の前に、敗れ去ったのだった。





「――ぐっ」

気づけば、地に付していたのは自分だった。
目の前にある最早利用価値のなくなった壊れたウェザーメモリに気をやることすらせず、渡は歯噛みする。
ディケイド、世界の破壊者の異名は伊達ではない。

ゾルダに続き、あの大ショッカー大幹部アポロガイストの真の力を容易に打ち倒したウェザーをも敗れ去るとは!
自身の持つ強力な変身能力を二つも失ったことに苛立ちを隠そうともせず、渡は変形を解き人型に戻ったファイズと共に自身に歩み寄る悪魔をにらみつける。
――まだだ、まだ諦めるわけにはいかない。

ファンガイアの未来を託された自分がこんなところで倒れるわけにはいかないのだ。
どうしようもなく痛む体に鞭打って、渡は立ち上がる。
その背中に、愛する人間の、ファンガイアの未来が掛かっているのだと、そう自分を鼓舞しながら。

「……お前、まだ立てるのか」
「何を言っているんですか、ここまでは小手調べ。本当の闘いはこれからです。――サガーク」


46 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:47:38 1FDzq.Hk0

明らかに強がりだと自分でもわかっている。
それでも、目の前の悪魔だけは、なんとしても破壊しなくては。
熱い使命を胸に、渡は自身の現在一番信頼できる下僕の名前を呼ぶ。

自身が一度王と認めたものならばいつでも無条件に従うそれは、自身を呼ぶ声に即座に答え、ベルト状に変形する。
同時に渡はその手に持つジャコーダーをサガークにセットし冷たく呟いた。

「変身」

――HENSHIN

サガークが渡の言葉を復唱すると同時、その身に透明のステンドグラスのようなものが纏わりついたかと思えば、次の瞬間にはそれは多色に彩られる。
そこにいたのは、ファンガイアの王でなければその身に纏うことすら許されないまさしく王のための鎧、サガ。
今の状況で渡が持ちうる、まさしく最強の切り札だった。

そしてそのまま自身の言葉通り本当の闘いを始めようとして。
――サガは、ディケイド達の後方、自身の視線のその先で起きている事象に、その目を奪われる。
幸い自分が疲労故呻いただけだと思われたのか二人が後方を確認する様子はない、故に離れるなら今しかない。

ディケイドを一時的とはいえ見逃す事実と、視線の先にある〝それ”を、天秤にかけて。
数舜の思考の後、結局は確実に破壊できる確証のないディケイドに固執するよりも〝それ”を手にすることで後々のディケイド討伐や他世界の人間を効率よく狩れる可能性を優先する。
そうと決まってからの、彼の行動は迅速だった。

「その命、一旦預けます。ディケイド」

抑えようのない名残惜しさを感じながら、サガはジャコーダーを振るった。
ディケイドにでもファイズにでもなく、彼らの足元を目がけて。
思わず回避行動を取る彼らを尻目に、その威力故に生じた火花が収まるより早く、サガはその場より姿を消していた。

「・・・・・・逃げ足の速い奴だ」


47 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:47:57 1FDzq.Hk0

その腰にライドブッカーを戻しながら、ディケイドはごちる。
あれだけ自分を破壊すると意気込んでおきながら、まさかサガへの変身そのものが逃走へのブラフだったとは。
次に音也に会った時を思うと気が重いな、などと思いながら仲間への援護のため、その足を先ほどまでのライジングアルティメットが暴れていた場所に向けようとして。

「――ぐッ!」

巧が鋭いうめき声と共に倒れこみ変身を解除したことによって、それを中断する。
――その場に蹲った巧の体から、信じられないほどの量の灰が、吐き出されるその瞬間を、目の当たりにした為。

「巧ッ!」

余裕を装う暇もない。
まさか先ほどの闘いか、それよりも前のライジングアルティメットの攻撃で、すでに限界を迎えていたのだろうか。
そう考えてしかし、巧の体からオルフェノク特有の青い炎が出ていないことに気づく。

それはある意味喜ばしく、そしてまたある意味では、下手をすれば死ぬよりも残酷な……。
数秒の時を経て、巧の身から落ちる灰は止まる。
巧は自分の両手を確認し、それらが問題なく人間の形をしていることに安堵するが、その横でディケイドは絶句せざるを得なかった。

「巧、お前――」
「――わかってる、俺の命はもうヤバいとこまで来てる」

そう告げながら、しかし巧の表情は数時間前見たあの取り乱していた彼と同一人物と思えないほど冷静で。
まるで、今自分が残された少ない時間の中で何を成さねばならぬのか、何をしたいのかわかっているかのように。
それを痛いほど痛感して、士はそれ以上その話題についての追及をやめる。

数瞬流れた沈黙の後、口を開いたのは巧だった。

「さっき、言いかけたよな。あいつらの夢は、って」
「あぁ、それがどうした」
「あいつらの夢は、簡単には渡せねぇ。それはあいつらが信じてた人間に会うまで、絶対譲れねぇ。……けど」
「……けど?」
「――俺の夢なら、俺の判断で誰かに託しても構わない、だろ?」


48 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:48:20 1FDzq.Hk0

そういう巧は、覚悟を決めたような顔をして、しかしどこか物悲しげだった。
まるで彼がそのままどこかに消えてしまいそうに見えて、士は返答を迷い、しかし少し考えて短く肯定を返す。

「だからな、まず手始めに、お前に俺の夢を託す。俺の、世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、みんなを幸せにするって夢を」

言われて士は、自分の言った「誰かの夢を背負う」ことの大変さを思い知る。
しかし、今更弱音を吐くわけにもいかないなと、息を吐いて。

「わかった。お前の夢は、確かに俺が背負う。だが……」
「――わかってる。俺だってただで死ぬつもりはない。ただもう本当にいつ死ぬかわからないからな、誰も俺の夢を聞いてもくれないのは、辛いって思っただけだ」

言いながら、巧は立ち上がる。
その体を僅かに引きずりながら、しかし確かな足踏みで、まだ戦うためにその体を動かしていた。
こいつには、何を言っても止まらないだろうし、止める気もないと考えながら、しかし士は一つだけ浮かんだ疑問を口に出さずにいられなかった。

「なぁ、一つだけいいか?」
「あん?」
「――なんで、この俺に大切な夢を託す?世界の破壊者かもしれない、俺に?」

それは、彼の中でどうしようもない疑問だった。
確かに自分は数々の世界を巡る中でいくつもの世界を代表するライダーと交流し、彼らの多くは自身を破壊者と知りつつ自分を信じてくれた。
しかし巧と会ってからの交流がそれに相応するかと言われると、流石の士でも疑問を抱かざるを得なかったのだ。

「――それは、正直俺にもよくわかんねぇ。けど、もし一つ理由があるとするなら……」
「するなら?」

――お前が何となく俺に似てるからだよ。
と、そんな臭い言葉が喉の先まで出かかって、らしくないと巧はそれを飲み込んだ。

「……やめた。こんなこと言っても何にもなんねぇ、それより早くあいつらの所に――!」

言葉を下手に切り上げながら、巧は眼を見開く。
対する士も有耶無耶にされた会話にイラつきつつその視線の先を見やり――。
――そこにあった惨状に言葉を失うしかなかった。


49 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:48:41 1FDzq.Hk0





時刻は、数分前にさかのぼる。
コンプリートフォームという、文字通りの完成形と化したディエンドに対し、レベル3というこの場で園咲霧彦も乾巧も成し得なかった境地に達したRナスカが超高速で接近する。
一息のうちに目前まで達したナスカに対しディエンドは通常の形態の数倍の威力を誇るようになったディエンドライバーから銃弾を発射する。

しかしナスカはそれを手に持つナスカブレードの名を持つ剣で両断、そのままディエンドの強固な装甲にその刃を突き立てんと――。

「甘いよ、五代雄介」

瞬間、急速に加速したディエンドが後ろに飛びのいたことで空振りに終わる。
ディエンドが用いたのは、海東大樹本人が持つ驚異的な身体能力にディエンドのスペックを兼ね合わせただけの、単純な脚力による行動。
しかし元の形態の時点で、強力なライダーであるリュウガを翻弄できるそれが、コンプリートフォームになったことによってより強化。

故にその鈍重そうな見た目と反した更なる高速移動を可能としたということだ。
常に合理的な判断を下し続けるナスカにもこれは読めなかったのか、それとも何か合理的な判断をしたうえでの空振りなのかはわからないが、どちらにせよ攻撃を外したナスカもまた同様に後ろに飛びのいた。

(全く以て、このコンプリートフォームの力は素晴らしい!……が、このままじゃ埒が明かないのも事実。ここは思い切って……)

一方で激しい一進一退の攻防を繰り広げながら、ディエンドは自身のコンプリートフォームへの満足感と、この状況の打開策のことを考えていた。
目の前のナスカの能力は確かに凄まじい。
各世界を代表するライダー諸君や、先程見たナイトの強化形態程度では、かなりの苦戦を強いられる相手であるのは間違いないだろう。

だが、先程までの理不尽な暴力と比べて、随分とスケールダウンしたのもまた事実。
ライジングアルティメットフォームとの激闘を何とかやりすごしたディエンドにとって、この程度の敵でこのコンプリートフォームをもってすれば、絶望などするはずもなかった。
とそうして自身を鼓舞しながら、彼は1枚のカードをドライバーに装填する。

――ATACK RIDE……

「これは躱し切れるかな?」

――BLAST!


50 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:49:11 1FDzq.Hk0

ハイテンションな電子音声とともに放たれたのは、通常のディエンドのものと比べても一つ一つの威力も、また弾幕の綿密さも増したディエンドブラストだった。
並の怪人、どころかそれぞれの世界に存在する上位怪人ですらダメージを如何に減らすかを最優先で考えるだろうそれを前に、しかしナスカは加速。
追尾し続ける弾丸の雨を前にしても、その足は止まることを知らず。

そしてその正確かつ高速で行われる疾走に、やがて弾丸はそれぞれの身をぶつけ合い、空中に大きな花火を散らし消滅する。
そのままの勢いで、次はお前だと言わんばかりに止まることなくナスカはその足を再びディエンドに向け――。
しかし機械的な判断故のその行動をこそ、ディエンドは見抜いていた。

――KAMEN RIDE……
――PSYGA!

この場に何度も響いた電子音声がもう一度鳴り響くと同時、高速で移動し続けるナスカの前に突如現れ出でたのは白と青のライダー、サイガだった。
クロックアップ対策にカブトの世界でも用いられたそのライダーは、その高度なシステムでもって高速移動をそのまま追うのではなく、補足。
突如意識外から浴びせられたその弾幕に大したダメージを追わないまでも、さしものナスカもその足を止めざるを得なかった。

だが、究極の闇を超える存在と化したナスカはすぐにその脅威を認識。
左の掌を翳し巨大なエネルギーをサイガに向け、発射。
そのエネルギー弾を避けるという思考を持たない愚かな傀儡はその炎に飲み込まれ――ない。

「――ッ!?」

僅かながら驚いたような声を漏らしたナスカは、しかし目の前にいたはずのサイガが金色のカード状に変形したのを確認して、状況を把握。
つまりは、自分の思考ルーチンを読み切ったディエンドの小癪な罠だったのだと、そう理解した。

――FINAL ATACK RIDE……

「ちょっと眠っててもらうよ、五代雄介」

ディエンドは、ライジングアルティメットの思考パターンを、もはや完全と言っていいほど把握していた。
この戦いで最初に召還したコーカサスがクロックアップスイッチを押した瞬間に対処された時は戦慄したが、今思えば逆にあの一瞬を逃せばライジングアルティメットにコーカサスが主の下に行くのを阻止できなかったゆえの行動だったのだろう。
ディケイドがゾルダの下に行くときや、先程自分が志村を抱え離脱したとき阻止しなかったのは、自分たちが離脱したのが主のいる病院と方向が異なっていたからというだけなのだろうと、そう今なら判断できた。


51 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:49:30 1FDzq.Hk0

自分も、そして十中八九間違いなく士もそこまで考えての行動ではないから、全く以て運が良かったということになる。
……また同時に、主である金居の命令なのか、彼は自分にはダメージ足り得ないような攻撃でも受けるのを拒んでいた。
恐らくだが、ナイトサバイブの必殺技、疾風断程度であれば、拘束を一瞬で振りほどき逆にミラーモンスターごとナイトを殺害するのも僅かなダメージと引き換えにすれば容易ですらあったはずだ。

つまり、彼の思考パターンは常人とは全く異なる機械的な思考だからこそ、少し策を用いればこのトリックスターの異名を持つディエンドには簡単に対処できたのだ。
とはいえライジングアルティメットフォームであったならこんな簡単にはいかなかったのだろうが、と思いつつディエンドは自身の強化ディメンションブラストの威力が高まっていくのを感じ。
同時に相対するナスカがその場から動かずその掌にエネルギーを溜めているのを確認する。

なるほど、逃げられないと知ったうえで、この僕に勝負を挑んでくるか。
例えそうであっても負ける気はしないとディエンドは不敵に笑い、ナスカはただその力を高め続け。

――DI・DI・DI・DIEND!

そして両者ともに相手にその力の全てを解き放って。
――恐らくは両者ともに、直撃の寸前生じた紫の閃光に、気付くことなく――。
一瞬でその周囲は圧倒的な力によって、爆風にすべてを包まれたのだった。



「ぐっ……、一体何が……」

予想外のエネルギー量に吹き飛ばされ、無防備な姿を見せたまま、海東大樹はそう一人呟いた。
ディエンドコンプリートフォームと、Rナスカの実力は少なくともあの時点で自分の負けは考えられないほどだったはずだ。
実際、先程のインパクトの際感じたのは力で押し負けたというより何か別の介入が入ったように感じられたのだ。


52 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:49:46 1FDzq.Hk0

と、混乱する頭を整理しながら立ち上がると、自分の身からディエンドの鎧が消失していた。
どうやら、ダメージだとかではなく、予想外のインパクトに自分がディエンドライバーを手放してしまったのが原因のようだ。
お宝であるドライバーを手放すなんて、僕らしくないねと溜息をつきながら、彼は辺りを見回す。

それにはもちろんディエンドライバーの発見という要素も含まれていたが、暗がりである現状、大樹はそれより先に確認すべきことがあるとその足を進めて。
そして、無事発見に成功する。
俯せに倒れたまま動かない、五代雄介を。

「全く、僕が自分のお宝よりも他人を優先するとは。感謝してくれたまえよ、五代雄介」

言いながら、大樹は五代の体を拘束する。
気絶などありえようはずもない彼がこうしておとなしくなったのは、この場での制限によるものなのか、それとも仲間の誰かが地の石の奪還、及び破壊に成功したのだろうか。
ともかく、もう僕の役目は終わりかな、とそう一息ついて、五代がもう誰も傷つけないようにと、その横に座ろうとした、その瞬間。

「――誰だッ!」

感じたのは、闇に紛れこちらを伺う気配。
様々な世界で泥棒を繰り返して身についた、咄嗟の本能による危険察知能力だ。
先程のインパクトはまさかこいつが、と思いつつ油断なくデイパックからグレイブバックルを取り出す。

「隠れていないで出てきたらどうだい、君がそこにいるのはわかっている」

言いながらグレイブバックルにカードを装填し、言外に最終警告だと告げる。
これで出てこなければ、戦闘になるぞ、と。
グレイブへの変身待機音が鳴り響く中、影はゆらりと蠢いて……。

「――俺だよ、大樹」


53 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:50:04 1FDzq.Hk0

その影はささやくように呟く。
それは先ほどまで聞いていたはずの声ではあるが……、しかし彼とは違う存在でなければ、口にできないはずのセリフだった。

「……兄、さん?」

呟くと同時、彼は警戒を解いてしまっていた。
そんなこと、普段の彼ではありえなかっただろう。
例え士やユウスケ、それに死んだはずの夏美が目の前に出てきても、ワームである可能性を考えディエンドライバーで発砲すらしたはずだ。

なれば、何故。
答えは簡単だ、それはつまり、目の前にいる〝彼”と話す時、大樹は幾多の世界で恐れられたトレジャーハンターでも、通りすがりの仮面ライダーでもなく。
ただ一人、どんな世界のどんなところにだっている、一人の〝弟”になってしまう、ただそれだけの理由だった。

しかしそれでも、きっと一瞬思考する時間が与えられたなら、彼はすぐさまトレジャーハンターとしての勘を取り戻せたはずだった。
だが、もう遅い。
自分を呼ぶ懐かしい声に気を取られたその瞬間に、彼の胸は、夜を一瞬で照らすような紫の閃光に貫かれていたのだから。

「……がふっ」

自分のミスを、元の世界に置き去りにし切れなかった甘さを実感しながら、彼は冷たい地面の上に倒れ伏した。
あぁ、もうわかっている。
自分がどこでミスを犯したのかも、誰が、本当の意味で究極の闇だったのかも。

遠のき行く意識を必死に繋ぎ止めながら、大樹は最後の力を振り絞って顔を上げる。
そこにいたのは、フィリップの撮影した情報そのままの、白と赤で染められたジョーカー(鬼札)。
まさかあなただったとは、と声にすらならぬ思いを目だけで必死に訴えるが、そんな自分などお構いなしにジョーカーはその姿を偽りの皮で覆う。

――自身の兄と、同じ笑みを浮かべながら。

「ありがとう、海東。お前のお陰でこいつを易々と手に入れることができた」

――志村純一。
湧き上がる悔しさと、怒りと、そして――。

(別の世界でも〝あなた”はやはりそうなのか……)

そんな複雑に絡み合う様々な感情をごちゃまぜにしたまま。
世界を股にかける怪盗は、遂にその意識を深い闇に沈めていったのだった。


54 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:50:26 1FDzq.Hk0

【海東大樹 脱落】
【志村純一 復帰】
【ライダー大戦 残り13人】





目の前で海東大樹という男が確実に死んだのを確認しながら、その下手人、志村純一はニヤリと笑った。
その肌にはアンデッドの証である緑の血が流れていたが、しかしそんなものを気にする様子もなく、彼は死人と化した大樹からグレイブバックルを剥ぎ取る。
その作業を行いながら、それにしても自分の思う以上に事が進んだな、と志村は思う。

ライジングアルティメットとの戦いにおいてまず志村が抱いたのは、G4は自分の期待以上の素晴らしいものであるという実感だった。
グレイブやオルタナティブゼロ、或いは村上の持つオーガすら圧倒しかねないような鎧、G4。
それを着用しての闘いは、正直なところ自身の元より持つ耐久性と併せてまず間違いなく死はありえないと、志村をもってそう考えさせるに足るものだった。

そのはずだというのに、ライジングアルティメットはそれを容易く超えてきた。
その実力は、この志村純一を以て「真の力を発揮しても勝てない」と考えさせるのに十分なもので。
それを認めるのにはかなりの精神的苦痛が伴ったが、しかし地の石を自分のものとすればいいのだと考え直すことで自分を何とか保った。

だが、そんな化け物と戦う愚策を、志村が取り続けるわけもなく。
適当なところで脱落したように見せかけようと、GM-01スコーピオンの弾丸を徐々に外していき、慣れない射撃を用いる戦闘の最中緊張が切れてしまったのだという風を演出しようとした……、のだが。
そう決めて間もない一撃目で、ライジングアルティメットの力で思いがけない脱落を余儀なくされたというのが実際のところである。

自分が手加減などしていない、的確に狙ったはずの一撃で、だ。
返された弾丸は先ほど言ったように跳弾をするような角度で放たれていたが、刹那の判断で身を少し捩ったことで最低限のダメージに留めることに成功。
一か所貫通したくらいでは、アンデッドの頂点に立つ自分は死なない、が、それでも本当に一時的に行動を阻害される。

この時点で志村としては敗北もいいところなのだが、しかし彼にとって幸運が二つあった。
それは、海東大樹が何故か自分を兄と呼んだこと。
呼んだ理由はわからないが――といっても彼はもう死んだのだから知る必要もないが――それによって集中を乱し、あの邪魔な海東を殺害することに成功する。


55 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:50:46 1FDzq.Hk0

そしてもう一つの幸運は……。

「ありがとうジョーカー、お前のお陰で俺は今も生きられるんだ」

そう、時刻が十時十五分を回ったこと。
その時刻は西側において志村の元いた世界における最強のライダー、仮面ライダーブレイドキングフォームがその姿を現した時間。
それによって倒れ伏すだけだった志村に本能的にジョーカーへの衝動が沸き起こり急速に回復の速度を速めつつ、その身を真の姿へと変化させた。

偽りの姿でも十分高い回復力が真の力を発揮したことでより加速したことで、取りあえず動ける程度には傷を回復する。
また、G4は破壊を免れないかと思いきや、この場での制限なのかきれいにパーツごとに機能を残したまま辺りに散らばってくれた。
装着するタイプの変身と身体変化するタイプの変身は同時並行で使用できないということなのだろうか?

ともかく、そして起き上がった後はその湧き上がる殺人衝動に身を任せつつ、先程得た情報を駆使し海東を殺害。
無防備な五代雄介を手に入れ、奪われたグレイブバックルも回収できた、というわけである。

「だが、このままこいつを見張っていてもライジングアルティメットは俺のものにはならない、か。全くどうするかな」

そう、例えこいつがそのままライジングアルティメットに変身できるからと言って、彼の近くにいればその力が手に入るわけではない。
故に考える。
地の石の下に向かうか、他者に石が渡った時のデメリットを考えてここで始末してしまうか、と。

(まぁ、答えは一つ、だな)

だが、アルビノジョーカーである彼の強欲さは迷わず地の石を手に入れることを決断、近くに落ちていた割れたガラス片――元は病院の窓だろうか――にオルタナティブゼロのデッキを翳し、そのままバックルに叩き込んだ。
幾つかの虚像と志村が重なり、そのまま一つの像を結んだとき、そこにいたのは最早生身の人間ではなく。

黒のボディに金のラインの走った戦士、オルタナティブゼロであった。
そのまま彼は走り出す。
ただ自分の限りない欲望を、果たすためだけに。

邪魔者から解き放たれ究極の力をその手に収められるかもしれないという昂ぶり故に、彼は一つ大事なことを見逃している。
彼の胸ポケットを貫いた神経断裂弾によって、そのまま胸ポケットに収めていたSEAL(封印)のアドベントカードを破壊されているという事実を。
それによってそのカードが鏡の中に封じ込めていた主なきモンスターがその空腹のままに自分を襲うかもしれないという事実を、彼は見逃してしまっていた。


56 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:51:05 1FDzq.Hk0

(待っていろ、愚かな人間ども……。この俺が、すべてを支配する、その時を、な)

そんな事には一切思い至らぬまま、彼は走る。
愚かな人間に格の違いを見せつけ、全てを支配するために。
……さて、ここで少し腑に落ちない読者諸君がいるだろうから、一つ説明せねばなるまい。

――『何故、志村純一はジョーカーの衝動を受けて変身してもその理性を失っていないのか?』という疑問への答えを。
諸君らはきっとここまでの物語を見てきて、こう思ったのだろう、『相川始はキングフォームの影響でジョーカー化すると理性を失うのだから志村もそうであるはずではないのか』と。
そう思っていないのなら読み飛ばしてもらっても何ら問題はないが、この疑問に対する明確な答えは、もちろん用意してある。

だが、少しだけ寄り道をさせてほしい。
それは、まず根本的な質問として、『逆に何故元々ジョーカーである相川始がその姿になると理性を失うのか』という点である。
基本的な話として、ジョーカーは元々原初のバトルファイトにおいては文字通りすべてを破壊するバーサーカーであった。

それは、現代のバトルファイトにおいて『相川始』という人間として生きる彼を見て多くのアンデッドが驚愕している点からも明らかだろう。
また、諸君も知っての通り、彼は現代のバトルファイトにおいて、またこの殺し合いにおいても人間などという脆弱な種を守るため戦っている。
彼自身は自分のことを破壊者として自嘲する節はあるが、その時点で最早古代のバトルファイトにおけるジョーカーとその性質が大きく変わっているのは疑いようもない事実だろう。

さて、ここで問題になってくるのは、彼を変えた要因である。
それはヒューマンアンデッド、彼が現代のバトルファイトにおいてジョーカーに最初に封印されたアンデッドとなり、自ら彼に心を与えたのだ。
それ以降彼は徐々に人の心を学び、自分を〝相川始”としていたいと考えるようになり、次第に自分の本来の姿、ジョーカーを忌み嫌うようになる。

実際彼はこの場に連れてこられるまで、栗原親子と出会ってから一度も自分の意思でジョーカーに変身したことはない。
それほど彼は心を愛し、それを失い暴れるジョーカーという獣を忌み嫌ったというわけだ。
さて、長々と話してきたが、ここで伝えたいのはつまり、彼のジョーカー化による暴走は彼の生み出したイレギュラーすぎる状況にのみ起こるある種の奇跡なのだということだ。

例えば生物には、一切それを発散しなくても生きることのできる欲求が存在する。
人間にとっての性欲などは、まさにそれに値するといって過言でないだろう。
我々は定期的に自身の性欲を発散しなくても死ぬわけではない。

だが、覚えはないだろうか、そう考えあまりに溜め込んでしまったために、精神的な苛立ちが激しくなり、また一度性欲に捕らわれたとき平常よりも歯止めが利かなくなる経験に。
……あまり深く言及するのもよろしくないので、わからない方はそういうものなのかと思っていただければ幸いである。
ともかく、始にとってのジョーカーは果たさなければストレスのたまっていく本能であり、発散すべき原始的な欲望なのだ。


57 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:51:24 1FDzq.Hk0

しかしそれを無理やり抑え込むことによって、外部的要因――キングフォーム――によってそれを無理やり引き出されたときそれまで抑えていた分が吹いて出て、暴走してしまうということである。
それを踏まえたうえで話を元に戻すと、志村はその欲望を溜め込んでいるだろうか?

答えはもちろん、NO、だ。
この場に来てからももちろん、元の世界においてもその姿を晒すことに躊躇いはなく、むしろ誇りすら感じている。
なれば、それが強大な力によって無理やり引き出されても、暴走などするはずもない。

なぜなら彼は、ジョーカー化という原始的な欲求を、我慢することなく〝発散”しているのだから。
それこそが、彼ら二人のジョーカーを分ける唯一の違い。
そしてそれが、彼らをそれぞれアンデッドとして生きるのみか人間として生きることができるかを分ける、最も大きな違いだった。





時間はまたしても遡る。
此度語られるのは病院であったものの残骸の中で繰り広げられるこの戦いの諸悪の根源である金居から地の石を奪う戦いだ。

「ガアァァッ!!」

絶叫と共にギラファアンデッドに組みかかるのは、一見すると怪人に見間違えられそうな仮面ライダー、ギルスだった。
その腕よりはやした生態的な爪、ギルスクロウでギラファを切り崩さんとするが、ギラファの持つ双剣に容易く凌がれる。
お返しと言わんばかりに剣の片割れ、ヘルターで反撃を浴びせんと振りかぶるが。

「――させると思ったか?」

横より瞬時に現れた紫の怪人、カッシスワームグラディウスがその剣を受け止める。
思わず舌打ちを漏らすギラファだが、しかしそのまま攻撃を食らうほど愚かではなく、強引にその身を振るって二人の敵を振り払う。
ギルスはともかくカッシスワームであれば容易く押し返せるはずのそれは、ライジングアルティメットに与えられた規格外のダメージによってその力を阻害され、思うように動けない。

ゴロゴロと地面を転がったギルスに対しギラファはその双剣よりエネルギーを放つが、それは横より飛び出したカッシスの体表に吸収され、ダメージにはつながらない。
この戦いが始まってから幾度となく繰り広げられた光景、それは互いに相手を押し切るだけの力がないという事を表しているのだろうか。
いや、違う、とカッシスワームは頭を振る。


58 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:51:42 1FDzq.Hk0

ギルスはともかく、自分もギラファも万全の状態であるなら相手を倒す能力は十分に備わっているはずである。
だが自分はライジングアルティメットに受けたダメージの大きさ故、残念ながらギラファとの一対一では最早押し切られる可能性のほうが高い。
だがそんな自分に対して、ギラファはこの戦いを耐えていればいずれ最強のしもべが現れ敵を一瞬で薙ぎ倒してくれるというわけだ。

無理をして自分たちを倒す必要がない以上、圧倒的に状況アドバンテージに差があると言う他ない。
流石にもう一度ライジングアルティメットが現れれば、悔しいが自分は呆気なく死ぬとそう判断せざるを得ないだろうと、そう確信できる。
なれば、やはり自分もギルスも一切のリスクなしで勝てるはずもないか、と一つ溜息をついて、カッシスはデイパックより一本の大剣を取り出した。

ギルスの攻撃が一切と言っていいほどギラファに届いていない現状、自分が持つより彼が持つほうが有用だろうと、そう考えて。

「葦原涼!これを使え!」
「これは……!」

そう言いながら投げ渡されたそれを危うく取り漏らしそうになりながら受け取ったギルスは、驚嘆の声をあげながらその黄金に輝く大剣、パーフェクトゼクターを構える。
明らかにギルスの体積に見合っていないそれは彼のパワーを以てしてなお持ち上げるのに苦労しているようだったが、カッシスはそれを見てやはりかと漏らす。
自身を一度殺したこともある強力無比な武器、パーフェクトゼクター。

それをどんなマスクドライダーでも扱えるなら、あの天道がライダーフォームで使用しない手はない。
つまりそれは、各ライダーでいうハイパーフォーム相当の形態でなければ使用に支障をきたすということを意味している。
もちろんギルスはそういった装甲には遠く及んでいないし、どころかライダーフォームよりも防御力が低いように見える上、それもあながち間違いではないだろう。

しかし少しでは済まないような無理をしなければこの目の前の強敵には傷ついた自分とギルス程度では勝ちを望めるわけもない。
そのためとはいえ自身の手に入れた最強の武器を一旦でも手放すのは惜しかったが、しかしそれもすべて勝利のためと、無理やり飲み込む。
改めてパーフェクトゼクターを構えたギルスと並び立ったカッシスに対し、ギラファは二人より幾分か余裕を以てしかし油断なく双剣を構え。

三者は、再び激突した。


59 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:52:04 1FDzq.Hk0





「頼む、矢車想!彼らと共にカテゴリーキングを倒してくれないか!」
「断る……、俺はワームと一緒に戦うつもりはない」
「そうだよフィリップ君!お兄ちゃんの闘いは、お兄ちゃんの意思で決めるの!」
「亜樹子ぉ……」
「お兄ちゃん……!」

目の前で気色の悪い世界を展開するキックホッパーと亜樹子に対して、フィリップはその焦燥の思いをより一層加速させた。
キックホッパー、矢車想にはこの戦いを一瞬で終了させかねない強力な能力、クロックアップが備わっている。
だというのに、彼のやることといえば亜樹子と――ついでに――自分を守るというだけの保守的な役割。

亜樹子は自分が守って見せるからと説得をしても、彼は「俺は亜樹子を守るだけだ」と譲らない。
それに加えて、矢車が一言言うたびにそれに便乗し会話を阻害する亜樹子のこともあり思うように会話が進まないのだ。

(亜樹ちゃん……、照井竜が死んでしまって心の在りどころを彼に求めてしまったのだろうか……)

自分がこの殺し合いに呼ばれる前、照井竜は――彼自身にはきっと一切の下心はないのだろうけれど――亜樹子を花火大会に誘った。
自分は、少し前の禅空時事件の際に彼に指摘されたほど色恋には疎いが……しかしそれでも照井竜という存在に対する亜樹子の思いは――そして同時に竜から亜樹子への思いも――、十分伝わってきた。
そんな彼が死んでしまって、その時すぐそばにいてくれた矢車という男に陶酔してしまったのか、と思うと彼に亜樹子を責める気は毛頭も起きなかったのだ。

「……ともかく、君がそう言うなら僕だけでも彼らの援護をさせてもらう。ガジェットを駆使すればサポートくらいは……」
「やめとけ」

やり場のない思いを抱きつつ、フィリップはしかし自分だけが戦場へ向かいサポートに徹するのなら問題ないのではと提案する。
だが、またしても矢車はそれを否定する。
流石に自分も現在進行形で苦しんでいる五代を放っておいて地獄だなんだの話を聞くつもりはないと声を荒げかけて。

無言で、しかもそれすら気だるげにキックホッパーは虚空を指さす。
戦地とは全く違うそこには何も――。

「なっ……!」

いや、いる。
何匹とも数えきれないようなシカのようなモンスターが、鏡の中で蠢いている。
これが秋山蓮の言っていたミラーモンスターか、なるほどこれなら生身の自分が闇雲に行動するのはまずいというのも頷かざるを得ない。

と、そこまで考えるが早いか、キックホッパーが自分の口をそっと塞いだ。


60 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:52:25 1FDzq.Hk0

「静かにしろ、あいつらが何に反応するのかは知らないが、音に反応するならむやみに騒ぐのはまずい」
「矢車想、君は最初からあれに気づいていたのか?なら何故皆に知らせなかった?」
「あいつらはあいつらの光を求めている。なら俺も、自分のほしい光を掴むための努力をするだけだ」
「お兄ちゃん……、カッコいいよ……!」
「亜樹子ぉ……!」

……二人のよくわからない漫才はおいておくとして、しかしフィリップは驚愕の念を抱かざるを得なかった。
ミラーモンスターがここまで近かったこともそうだが、キックホッパーがあの目まぐるしい状況下でそれにいち早く気づいていたとは。
単なる責任放棄にしか見えなかったそれは、むしろ誰よりも冷静な判断で成されたのだという事実にフィリップは何より驚いていた。

「何故、彼らは襲ってこないのだろう」
「変身している俺がいるからだろうな、或いは、ゼクト製のライダーに何か痛い目でも合わされたのか、或いは全く違う別の何かが……」

気だるげに、しかし的確に根拠の整った自分の考察を述べるキックホッパーを前にして、やはり彼もまた一人の仮面ライダーであったのだとフィリップは彼への評を改める。
だが、どちらにしても今自分には何もできないという事実は変わらない。
この歯がゆい状況を、自分はただ享受するしかないのだ。

(翔太朗……、君がいてくれれば……)

思いは、この場にいない相棒の下へ。
こんな情けないことばかり考えていては相棒に愛想をつかされると思いつつも、フィリップにはそうやって自分の非力を呪うほかなかった。





「シャァッ!」

ガキン、と鋭い音を立てて火花を散らすのはカッシスのレイピア状の武器とギラファの兄弟剣の一つ、スケルターだった。
空いた左側を見逃さんとパーフェクトゼクターを振るうギルスだが、やはり重いのかギラファが剣を少し掠らせた程度でその剣先は全く見当違いの方向へ向いてしまう。
それを横目で見ながらカッシスは剣を振るおうとするが、瞬時にギラファが飛びのいたことでそれを失敗する。

「おいおい、どうした乃木、随分と辛そうだな?」
「黙れェ!」

安い挑発だが、乃木にはもはやいつもの調子で皮肉を返す余裕すらなかった。
ライダー諸君は、自分を叩きのめしたライジングアルティメットを複数でとはいえ足止めするという仕事を果たしているのに、自分は金居に一向に有効打を与えられない。
それが、自分たちは仮面ライダーに及ばないような存在だといわれているように感じて。

ワームという種そのものが人間より上位に位置すると確信している乃木の精神を逆撫でするのである。


61 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:52:46 1FDzq.Hk0

「待て、乃木!中途半端な攻撃じゃさっきまでと同じだ。同時に攻撃するぞ!」

しかしそんな乃木を咎めたのは、共に戦うギルスだった。
一人一人の力では敵わずとも、二人の力を合わせれば或いは、と。
だが、

「お前がもっと強ければもう決着はついているのだがね」
「何ッ!?」

予想だにしていなかった乃木の感情的な言葉に困惑する。
しかしそれを受けて、この場で一人だけ場違いなほどに金居は嗤った。

「フフ、どうやらそいつの化けの皮が剥がれてきたようだぞ?葦原」
「金居ィィ!」

いつもならば問題なく躱せた筈の下らない発言すら、今の乃木には見過ごせず。
思い切り駆け出した彼は、そのままガタックより奪った能力であるライダーキックを発動する。
高まりゆくタキオン粒子をこの苛立ちごとギラファに浴びせんとして。

しかしその足は、難なくギラファに受け止められた。

「なっ!?」
「甘かったな、乃木。これでチェックだ」

ギラファが発生させたバリアで大幅に威力を削られたか、と思うが、もう遅い。
カッシスのその剛脚は、ギラファの腕にがっしりと捕まれ、最早自分の意志では満足に動かすことすら叶わなかったのだから。
そして、ギラファはそのまま――乱打。

カッシスは悲痛なうめき声を漏らすが、むしろその声はギラファを喜ばせるだけだった。

「調子に乗るなよ……ライダースラッ――!」
「調子に乗るなはこっちのセリフだ」

そんなギラファの様子に対しカッシスはその右手を鮮やかな紫に染め上げる。
だがその力を解き放つ前にギラファの拘束が解かれ思い切り押しのけられたことで、その力のやり場を失ったまま病院の床を無様に転がった。


62 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:53:16 1FDzq.Hk0

「乃木!」

そして受けたダメージのあまりの大きさ故立ち上がれない様子のカッシスに対し、駆け寄ろうとするギルスを前に、降ってくる声が一つ。

「待てよ、葦原。そいつに助ける価値はあるのか?」

――敵対するギラファの声である。
まるで言っている意味が分からないとばかりにギラファを睨み付けるギルスだが、しかしそれに対しギラファは大して動じた様子もなく語り始める。

「なぁ、葦原。お前たち仮面ライダーが俺に楯突く理由は痛いほどわかる。
 俺が、地の石で五代雄介という善良な仮面ライダーを操り、自身の欲のためだけに彼に殺害の罪の片棒を担がせているのが気に食わない……だろ?
 それは実に明瞭な理由だ。納得は出来なくとも、理解は出来る。俺の世界に元いた仮面ライダーやお前や乾巧がそういった人種なのは痛いほど理解しているからな」

そこまで一息に言い放って、いきなり語調を低くし、未だ地に伏したままのカッシスを指さしながらギラファは続ける。

「だが、そいつはどうだ?俺の持っている地の石、それをそいつは本当に破壊するつもりなのか?」
「何が言いたい?」

ギルスのその言葉に、ギラファは引っかかった、と笑いつつも、それを悟られないように話を続けた。

「この戦いが終わって俺を無事に倒せたら、その時、こいつは地の石を、ひいては五代を手に入れてお前たちを殺すつもりなんじゃないかってことさ。
 元々そいつは、お前が東京タワーに向かった後、自滅したいなら勝手にさせるだけだ、だの無能な者は仲間に引き入れるつもりはないだの言っていたんだぜ?
 何とそれは殺し合いに乗っている、俺と同じ考えだ。そんな物騒な思想を、そいつは持っているってことさ」

殺し合いに乗っている俺、という言葉を強く強調しながら、ギラファは続ける。
その言葉に、ギルスは一瞬カッシスを訝しむ様な目で見やる。
その時点で、ギラファの作戦は成功したも同然だったが、一つ息をついて、ギラファはなおも続けた。

「なぁ、葦原。俺と組んでそいつを潰せ、とは言わない。ただ、態々そいつを助けてやる義理はないんじゃないか?
 どうだ?ここからはバトルファイト……、いやバトルロワイアルとして全員敵という形式を取るってのは――」


63 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:53:38 1FDzq.Hk0
「――ふざけるなよ」

意気揚々と話を続けるギラファに対し、文字通り水を差すようにそれを妨げたのは、やはりギルスだった。
カッシスへの疑心を持ちつつも即答された言葉に、ギラファは思わず言葉を詰まらせてしまう。

「確かにこいつは、内心じゃ俺たちを利用しようとしているのかもしれない。だが、今は俺たちと共にお前を倒そうとしている。
 そして俺は、お前が気に食わない。それだけで一緒に戦うには十分だ」
「だがそいつは俺から地の石を奪って殺し合いに乗るかもしれないんだぞ?」

「――その時は俺がこいつをぶっ潰す!」

感情的もいい所な反論を受けて、思わずギラファは苦笑する。
こいつは、底知らずの馬鹿だ。
きっと、利用されきってボロ雑巾のように捨て去られるその瞬間まで信じたいと願ったモノを信じ続けるのだろう。それを後悔などする事もなく。

溜息を一つ吐きながら、こんな猛獣を一瞬でも説得できると考えた自分が愚かだったと考え直して、ギラファはギルスを打ち倒す態勢に入る。
元々ライジングアルティメットが十二分にその能力を発揮できるだけの時間を稼ぐために始めた話だ。
決裂に終わろうが何も損はない、とそこまで考えて。

「――同時攻撃、だったな?葦原」
「……乃木」

いつの間にか態勢を立て直したカッシスが、ギルスの横に並び立っていた。
流石に長話が過ぎたか、と考えつつカッシスを確実に葬り去るため一旦ライジングアルティメットを戻そうかと考えて。

(――いやよく見ろ!奴は足を引きずっている!あれではまともな攻撃など出来ようはずもない!今の奴はただの強がりで立っているだけだ!)

自身が先ほど与えたダメージが確かな形として表れているのを視認してそれをやめる。
カッシスの右足、特にその膝の付近は固いはずの甲殻が剥がれかけ止めどなく血があふれだしていた。
これではまともな反撃など望めようはずもない、ライジングアルティメットに頼るまでもないだろう。

そしてそれは横に並び立つギルスにも一瞬で伝わる。
立っているのもやっと、という状態のカッシスに思わず声をかけようとして、あの乃木という男が自分と力を合わせるといった意味を考えてそれを噤んだ。
飲み込んだ多くの言葉の末にやっと吐き出した「わかった」、という短い言葉に、満足げにカッシスは鼻を鳴らして。


64 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:53:56 1FDzq.Hk0

そうして二人は腰低く構え、それを迎え撃たんとギラファもまた軽薄な笑みをやめる。
恐らくは本気で対処せねば自分でも危うい。
ふとイタチの最後っ屁という諺を思い出しつつ、追い詰められたカッシスの行動に一切の油断は許されないとそう判断したのである。

「――!」

最初に動いたのは、カッシスだった。
彼はその右手をそこに触れたもの全てを塗りつぶすような黒に染め上げて。
次の瞬間、高まったエネルギーをそのままギラファに向けた。

それにより放たれるのは、先程の戦いでも使用したライジングアルティメットの必殺技、暗黒掌波動。
無論、並の怪人どころか高い耐久力を誇る上級アンデッドでも戦闘不能は免れない一撃だ、だが。

「甘いぞ乃木ィ!」

ギラファは動じることなくその身の前に自身の固有能力であるバリアを張ることで対応する。
それによって弾かれたエネルギーの塊は病院の床を砕き、辺りに粉塵を舞わせた。

「今だ!行けェ、葦原涼!」
「ウオォォォォ!!」

――KABUTO POWER!
――HYPER BLADE!

電子音声が響くと同時、暗黒よりギルスが黄金の剣を構えて空中へと飛び出すのを視認する。
恐らくはこの状況を利用してギラファに大技を決める算段なのだろう、だが。
その程度の単純な攻撃にやられるようでは、カテゴリーキング最強の名を語ることなどできはしない。

「その程度の攻撃で、この俺を倒せると思うなよ!」

この程度の単純な攻撃で自分を倒そうなど考えが甘すぎると言わんばかりにギラファは空中で身動きの取れないギルスに対して双剣よりエネルギーの刃を放つ。
まともな防御態勢すら取ることができずにそれはギルスに見事命中、彼の悲痛な叫びとともに大きな火花を散らした。
深い闇に阻まれよく見えないが、恐らく吹き飛ばされたギルスはもう戦闘など叶うまい。

なれば、後はこのまま暗黒掌波動を放つカッシスの体力が尽きたとき、自分の勝利は確定するのである。
乃木怜司という強敵にしては呆気ない終わりだな、とギラファが再び笑みを浮かべたその時だった。
――目の前を覆いつくしていた闇が、突如現れた紫の疾風によっていきなり切り開かれたのは。


65 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:54:43 1FDzq.Hk0

「金居ィィィ!!」
「何ィィィ!?」

あれほどの攻撃を足に受けながら何故こいつがここまでのスピードで動けているのか、とギラファにしては珍しく素っ頓狂な感想を抱く。
そして次に目につくのは、その手に持つ黄金の大剣、何故だ、それはさっき葦原と共に落ちたはずでは。
様々な疑問が沸き上がる中、それすらをも切り裂くようにカッシスは眩い光を放つ大剣を大きく振るって。

「ハイパーブレイド!」

そんな掛け声とともに、カッシスはギラファの巨体を持ち上げ、そのまま振り切り――。
諸悪の根源である男は、ついにこの場で初めての敗北を喫したのだった。



そして、その光景を目に焼き付けながら、カッシスは確信する。
自分は勝ったのだ、と。やはりワームは人間やアンデッドなどという存在と一線を画すような高次の存在なのだ、と。
やはり自分の主張は間違っていなかった、いや、間違っているはずなどなかったのだと胸中でつぶやいて、やっと彼らしいいつもの調子を取り戻す。

だが、喜んでいられるのもそこまでであった。
傷ついた右足が限界を迎え、ついに曲がるべきでない方向にその関節を曲げたのだ。
それによって否応なしにその身を大きく崩し最終的には仰向けに横たわりながら、しかしカッシスは考える。

(ただでさえ傷ついた体にクロックアップとパーフェクトゼクターを使用したことによる反動……、こうなって当然、か)

元々ライジングアルティメットとの戦いで大きく傷ついたこの体に、無視できないほどの足への執拗な攻撃。
元来から身についた能力とはいえ、そんな状態で足を酷使するクロックアップを使用した上、反動の大きいパーフェクトゼクターによる必殺技の使用を断行すれば、この惨状も当然か、とカッシスは案外冷静に思考していた。

(まぁ、この俺がここまでやったんだ。後は任せたぞ?仮面ライダー諸君……)

その脳裏に今回の活躍で善良な仮面ライダー諸君からの信頼が得られるだろうというような冷静な思考は存在していたのかどうか。
ともかく、カッシスワーム、乃木怜司という男はこの戦いを巻き起こした諸悪の根源に大打撃を与える大金星を上げて。
そのまま、気を失ったのだった。

【乃木怜司 脱落】
【ライダー大戦 残り人数12人】


66 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:55:07 1FDzq.Hk0





「グッ……!」

静かにその肉体を擬態した乃木怜司のものに変異させながら眠ったカッシスの一方で、ギルスはうめき声を上げながらその重い体を起こした。
一体何が起こったのか、ギルスには皆目見当もつかないが、しかしあの瞬間、自分が空中より叩き落されるあの瞬間にカッシスが何らかのアクションを起こしただろうことだけはわかっていた。

「そうだ……乃木は……」

瞬間、沸き起こるのは、乃木への心配、そして金居との戦いが終息したのかどうかという関心だった。
そして少しあたりを見渡し、濃い緑の血に染まった乃木を発見する。

「――乃木ィ!」

慌てて駆け寄るが、血の池に転がるズタボロの乃木からか弱いながらも呼吸の声が聞こえたことで、とりあえずは胸をなでおろす。
しかし、安堵してばかりもいられない、この戦いの本来の目的である地の石の奪還、及び破壊を成し遂げなければ乃木の献身は一切の無駄と化してしまう。
そんなのは、絶対に嫌だった。

そうして乃木を呼吸しやすいように気道を確保させたうえで、ギルスは辺りを注視し、遂に発見する。
こんな状況を生み出した真の諸悪の根源、地の石を。

(さっきの戦いで乃木が金居のデイパックを破壊してくれていたのか……、抜け目ない奴だ)

と同時に辺りに散らばる雑多な支給品を見て、乃木の抜け目なさを再実感する。
それに恐ろしさではなく頼もしさを感じながら、ギルスはその闇に埋もれてもなおも輝きを放つ青の鉱石に近づいていく。
例え傷ついた体であろうと、変身をしている以上この石を破壊することは造作もないはずだ。


67 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:55:26 1FDzq.Hk0

(これで、全て終わる……。五代の、四号の呪縛も、これで……)

ダメージを負った体を引きずりながら遂に石の前に辿り着いたギルスは大きく腕を振りかぶる。
まるで、今までの五代の恨みをもその一撃に込めるかのように。
そして、次の瞬間ギルスは迷いなくその拳を石へと真っすぐ振り下ろした。

――地の石が辺りを反射する鏡でもあるという事実に、気づかぬまま。

「――GUAAA!!」
「なにッ!」

刹那、その緑の剛腕を受け止めたのは、地の石に反射された世界より吐き出されてきた鹿のようなモンスターだった。
あまりに唐突なその出現に、思わずギルスは素っ頓狂な声をあげ、鏡より出現するモンスターの勢いに大きく弾き飛ばされてしまう。

――ギルスが知る由もないが、彼らは数時間前、自身たちが契約を交わした主がそのデッキ毎契約を破棄してしまったために野良と化した、ゼールの名を持つ群体型のミラーモンスターであった。
その体には東京タワー崩落の際刻まれた無数の痛ましい傷が刻まれ、空腹も相まって一定の戦闘力を有する仮面ライダー相手では通用しそうもない。
それならば、同じく傷ついた仮面ライダーなら?あるいは、変身のできない無力な者なら、元の世界と同じようにこの空腹も満たすことができるのでは?

幸か不幸か、主から餌を与えられるだけだった畜生たちは、この場においてその種族を大きく減少させることにより生き残るための知恵を身に着けたのだ。
そして戦いを最初より観察していたゼールたちは傷ついたギルスと、容易に食すことができそうな生身の人間――乃木――が現れたことでその空腹を満たすために数時間の沈黙を破り行動を開始したということだ。


68 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:55:55 1FDzq.Hk0

そんなこととは露知らず、突如出現した新たな敵に対し、困惑を隠せないながらも傷ついた体を押して、ギルスは意図せず地の石の前に立ちふさがったモンスターに対峙する。
敵は黒と紫の体色をしたモンスターと金色のモンスター、それに銅と緑の体色をもつモンスターが各一体ずつ。
それぞれ名をギガゼール、メガゼール、マガゼールと言った。

相手も傷ついているとはいえ、満身創痍のギルスに比べれば幾分かマシ、故に三対一では押し切られる可能性が高い。
だが、それでも。

「――ウゥ、ウオオォォォッ!!」

ギルスの戦意は、収まるところを知らず。
邪魔をするならお前たちごとぶっ潰すだけだと言わんばかりに。
目の前に存在するモンスターと遜色ないような咆哮をあげて戦闘を再開した。





当たり前のことではあるが、少し前まで病院の一部であった白い壁によりかかりながら戦況を観察していたフィリップたちにも地の石を巡る乃木たちの戦いは視認できていた。
乃木の変異した――というより本来の姿――であるカッシスがギラファアンデッドを打ち倒したときには、フィリップは――それを横で同じく見ている二人が、その状況にいたく渋い顔を浮かべているのすら気にせずに――その溢れる喜びを声に出さずにはいられなかった。

しかし、喜んでいられたのも、ほんの数舜のみ。
今まさに危惧していたモンスターがギルスに襲い掛からんとする状況を見るまでの、短い間だった。


69 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:56:14 1FDzq.Hk0

「クッ!こんなタイミングでモンスターに邪魔されるなんて……!」

三対一という危機的状況を考えずとも、ギルスに変身している葦原涼の体力は既に限界を迎えているはずだった。
突然の奇襲を受けたことも相まってギルスという戦士がそのすぐ後ろに倒れる乃木ごと彼らに捕食されるのは最早時間の問題だった。
ギラファを倒すという大義を成し遂げてくれた二人を見殺しには出来ないと、そう逸る気持ちをフィリップは遂に抑えられなくなって。

「矢車想!頼む、葦原涼の援護に行ってくれないか、ここは僕が何とかしてみせるから」
「葦原のことなら心配いらない。あいつにはまだ〝価値”があるからな」
「――〝価値”だって?」

ただ目の前でモンスターに打ちのめされ続けるギルスを助けたい一心で懇願するフィリップに対し、やはりキックホッパーは冷静に返す。
そして浮かんだフィリップの疑問に対し、溜息を交えながら先ほどと同じ鏡を指さした。
そこには、未だ三体ものモンスターが蠢いているのがはっきりと視認できて。

「――恐らく、俺たちの誰かが葦原たちを助けに行くのを待っているんだろう。俺が行けばお前も亜樹子もあいつらの餌、お前が動けばお前が餌。つまり葦原は俺らのうち誰かを誘き寄せる餌として利用価値があるから遊ばれてるってとこだろうな」
「そんな、そんな事って……」

そういう価値があるうちはあいつらも葦原を食ったりはしないだろ、と冷静に続けるキックホッパーに対し、フィリップは反比例するかのように胸の中が熱くなっていくのを感じる。
ふと、自分も随分あの半人前探偵に影響されたものだと改めて実感しつつ、フィリップはしかし思う。
もしも、葦原涼が自分たちのうち誰かを誘き出すための餌だというのなら、乃木怜司にその価値はあるのだろうか、と。

もちろん、これは彼に対する侮辱ではない。
ただ、同じ役割を持つ人質など二人もいらないのは、こういった状況では当たり前のことである。
むしろ、片方を殺すことでこちらの動きを扇動できるのなら、乃木怜司が持つだろう役割は――。


70 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:56:32 1FDzq.Hk0

「やめろォ!」

そう思い至ると同時、思考の渦に沈んでいたフィリップを呼び戻すかのようなギルスの悲痛な叫びが響く。
一体何事かとそちらを顧みれば、ついにギルスがその膝を地に着き、それによって生まれた隙に緑、そして金の二体のモンスターがギルスを超えて横たわる乃木にゆっくりとその歩を進めていた。

「矢車想!」
「……」

このままでは彼が食べられる、と焦りを隠せないフィリップに対し、キックホッパーはただ無言で返す。
ワームであるあいつを助ける必要などないだろう、だからじっとしておけ。
そう言外に伝えるかのような圧迫感を伴う沈黙を受けながら、やりきれない思いを胸にしかしフィリップは再びギルスを顧みた。

そこには、その身から赤い血を散らしながら、尚も立ち上がりモンスターたちに立ち向かわんとするギルスの姿。
それに、自分を助けるため、何度もエターナルに打ちのめされても立ち上がった自身の相棒の姿が重なって。
彼が目の前で戦っていたら自分はどうするだろうと、そう考えてしまった。

――きっとその時点で、フィリップの心に、冷静な選択肢など残されてはいなかったのだろう。
ついに乃木怜司にモンスターの魔手が伸びんとする寸前、フィリップは、ようやく覚悟を決めるかのように、勢いよく息を吐いた。

「矢車想、亜樹ちゃんのこと、頼んだよ」

そんな、ありきたりな言葉だけを残して。
フィリップは真っすぐ駆け出していた。
ただひたむきに身体一つになっても敵に食らいついて悪を倒さんとする、仮面ライダーの下へ。


71 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:56:52 1FDzq.Hk0

「ちょっと、フィリップ君!」

亜樹子は思わず――その心の中にはここで呼び止めなければ自身の壁が減ってしまうという邪な考えが含まれているが――叫ぶ。
しかし、そんな亜樹子に対し、キックホッパーは静かにその手で彼女を静止させて。
ようやくその重い体を起こしながらどこか落胆したかのように大きく溜息をついた。

「――やはりあいつは、俺達には眩しすぎる。」

――BAT
――SPIDER

後方で行われているやり取りなど露知らず、フィリップはその手に抱いた二つのガジェットに、ギジメモリを挿入する。
すると今まで時計とカメラを模していたそれらがまるでそのまま蝙蝠と蜘蛛のような形態に変形し、今まさに乃木怜司に襲い掛からんとする二体のモンスターに襲い掛かった。
二体のメモリガジェットによる超音波と糸による攻撃でゼールたちは面食らったようだったが、次の瞬間にはまるで彼を嘲るような鳴き声を発した。

――かかった、と言わんばかりに。
刹那、フィリップから見て右側の鏡面より、三体のモンスターが飛び出してくる。
きっと数秒の後に、自分は彼らに食い殺される。

こんな状況で、こんな無鉄砲。
褒められた行動ではないなんて、わかりきっていたはずなのに。
そんな言葉や思いが次々に沸いてくるが、しかしその実、フィリップは自分の行動に後悔はしていなかった。

(だって、半人前でも、僕は仮面ライダーだから……、そうだろう?翔太朗)

きっと放送で自分の死を知ったら、彼はいたく怒り、悲しむだろう。
それを想像するのはもちろん辛いが、こんな状況で助けられる命を見捨てるような行為を取れば、その時点で自分は彼の相棒を名乗れなくなる。
それだけは、決して嫌だった。

(翔太朗、僕の好きだった、街をよろしく頼むよ……)

そうして、覚悟を決めたようにその瞳を閉じて――。

――CLOCK UP!

電子音声とともに発生したインパクトと、来るべき瞬間がいつまでも訪れないことに、思わず目を開いた。
ふと見れば、自身に襲い掛かろうとしていたゼールたちは、壁に衝突したようで煉瓦とガラス片の中でまるで芋虫のようにのた打ち回っている。
状況に理解が追い付かぬまま、フィリップはふと目線を動かし、この状況を作り出しただろう張本人を発見する。

「矢車、想……」

自身のすぐ後ろで驚いたような声をあげたフィリップを振り返ることすらせずに、代わりと言わんばかりに今までで一番大きな溜息をつく。
それを受け、乃木を襲わんとしていたモンスターたちも、今は食欲を満たすより先にこの敵を倒すべきかとキックホッパーを囲った。
五種類五体のモンスターを前にして、しかしキックホッパーは冷静そのもののまま、しかし怒りに震えるかのような声で呟いた。


72 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:57:12 1FDzq.Hk0

「――今、誰か俺を笑ったか?」

こうして、地獄を彷徨い続けるバッタが、ついにその進軍を開始したのであった。

――元々、彼はフィリップも乃木も助ける気など毛頭なかった、それは紛れもない事実である。
だがフィリップが死を目前に迎えているのに浮かべた安らかな表情を見たとき、そしてゼールたちの鳴き声を聞いたとき、彼は自分が無性に馬鹿にされているように感じたのだ。
何故かはわからない。誰にも、きっと彼自身にも。

そして生まれた苛立ちを思い切り誰かにぶつけるため、という理由は、彼には十分戦いに赴く理由たり得た。
苛立ちと共に彼は腰のクロックアップスイッチを押し、通常とは異なる時間軸に突入する。
そして一瞬の間にフィリップに追い付いたキックホッパーはそのまま、鏡より飛び出し彼に襲い掛からんとする白い体色のモンスターを蹴り飛ばしたのだ。

そのモンスター――正式な名称はネガゼールという――が後方より続いた二体のモンスターごと無様に壁に激突すると同時に、世界は通常の速度に戻ったというわけだ。
矢車想という男が動いた理由など、フィリップには理解どころか見当もつかない。
しかし、それでも彼が今モンスターを留めていてくれているというのは、紛れもない事実。

ならばこの状況を善しとしない手はないと、フィリップは一言だけ礼を残して駆けた。
――亜樹子にはもちろん何らかの対処を施しているのだろうと、そう疑いもせず。

「何でいきなり行っちゃうのよ……、私聞いてない……」

そんなやりとりの遙か後方で、亜樹子は一人ぼそりと呟いた。
やはりあの男はただイカレているだけなのだ、頭のおかしい奴なのだと心中で毒づくが、その苛立ちをぶつける相手はどこにもおらず。
そうして、置き去りにされた亜樹子は、結局は所在なさげに壁に凭れ掛かるしかなかった。





「――ウオォォォォッ!!」

雄々しい雄たけびを上げながら、ギルスは自身の下に残った最後の黒と金の体色のモンスター、ギガゼールに対峙する。
フィリップを襲おうとしていた三体のモンスターと、更に乃木に襲い掛かろうとしていた二体のモンスターをもキックホッパーが請け負ってくれたおかげで一対一の状況を作り出すことに成功する。
だが、それでも相手の持つ槍によるリーチの差を埋める手段が――パーフェクトゼクターは乃木が手に持ったまま気を失っているが、その重さ故結局意味はないだろう――ない現状、苦戦していることに変わりはなかった。


73 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:57:39 1FDzq.Hk0

しかしそれでも、諦める理由にはならない。
あの矢車がモンスターを五体も引き受けてくれたのだ、自分がこんなところで手こずる訳にはいかなかった。
一瞬の沈黙の後、モンスターがギルスに向け突貫してくる。

向かってくるというのなら、叩き潰すだけだ、と再度ギルスが吠え――。
――ギルスの背中を超えていった小さな恐竜のようなガジェットが、モンスターに攻撃したことで激突を回避する。

「葦原涼!無事か!?」

聞き覚えのある声に振り返れば、そこにはフィリップがいた。
なるほど彼が言っていた護身用のガジェットを飛ばし自分を支援してくれたというわけか、と納得し礼を言うより先に、ほぼ反射的にギルスは叫んでいた。

「フィリップ、俺のことはいい!それより地の石を、五代のことを頼む!」

それだけを言い残して、ギルスは再びモンスターへと猛進していく。
そしてそれを受けたフィリップも、彼がこの状況で地の石の破壊という大任を自分に任せた意味を理解し、ただ一心に駆け抜けた。
地の石を破壊し、五代の、眩い笑顔を取り戻すために。

――そうして、少し走った後、フィリップは金居のものと思われるデイパックの中身が散乱しているのを発見する。

「草加雅人……」

その中で、目についた唯一見覚えのある支給品であったカイザドライバーに対して、彼はやはり草加雅人という男が金居に殺されてしまったらしいことを認識する。
しかし、彼には悪いが、今はその死について物思っている場合ではない。
そして改めて暗がりを探し、発見する。闇の中でなお妖しく光る、地の石を。

「これを壊せば五代雄介が……」

意を決し、近くに落ちていた手頃な岩を手に取り、力を込めて振り下ろそうとして。
――瞬間、真横から発生したインパクトに大きくその身を弾き飛ばされたことでそれを防がれる。
どうやら突如発生した衝撃波をファングが身を挺して庇ってくれたようだ。


74 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:58:11 1FDzq.Hk0

短い悲鳴と共にファングが病院の壁にぶつかりそのまま動かなくなったのを見てその威力に戦慄を覚えるが、瞬間聞こえてきた声に、その意識を呼び戻す。

「……チッ、余計な邪魔が入ったか」
「カテゴリーキング……」

瓦礫の中から重い体を引きずりだすかのように這い出したその黄金の怪人を見て、フィリップは思わず握り拳を作る。
そこにいたのは、五代雄介を操り、先ほど乃木怜司と葦原涼の必死の攻撃によりその身を沈めたはずのギラファアンデッドその人であったのだから。
アンデッドの耐久性の恐ろしさを改めて実感するフィリップだが、暗がりでもわかるほどその身に数多の生々しい傷が刻まれていることで、彼らの攻撃は決して無意味でなかったのだと悟る。

だが、そうやって正義による成果を実感できたのもそこまでだった。
なぜなら、どれだけ傷だらけだろうとギラファはその身を強靭な甲殻に包んでおり、また自分はファングという唯一の護身さえ失った、生身の人間なのだから。
恐らく彼がどれだけ弱っていようと、力の籠っていない剣の一振りで、自分の命はたやすく刈り取られる。

それは、変えようのない事実であった。

「――どうやら思っていたよりも仮面ライダーというのはタフらしい。君が逃げるというのなら深追いはしないよ?俺としてもこんな戦場とはさっさとおさらばしたいんでね」

どんどんとその身を死の恐怖によって固くしていくフィリップに対し、ギラファはまるで友人に話しかけるように気安く話しかける。
その言葉には、恐らくこれ以上の戦闘になるかどうか、また自分がそういった手段を持っているかどうかを見極めるという目的が含まれているのだろうが、生憎自分には今のギラファにすら対抗する術は何もない。
故に彼の言葉通りその足を仲間たちの下へと向かうため、つまりは逃げるためのものへとしようとして。

「そう、それでいい。その地の石だけ置いて行ってくれれば俺は君の命を取りはしない」


75 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:58:31 1FDzq.Hk0

――その言葉に、足を止める。
自分が、今ここでこの場を離れ彼に地の石を与えるという意味。
それはつまり、今この場で戦ったすべての仮面ライダー、いやすべての殺し合いに反発せんとする者の思いを無碍にすることを意味する。

あぁ、やはりこれもあの半人前の探偵のせいか、と自嘲して、しかし死の恐怖を前に、この場を離れる選択肢が自分の中から失せているのを、フィリップは確かに感じた。
地の石をただで渡すこと、それはつまりあの彼の、海東大樹ですら宝と認めた彼の笑顔を失うことを意味する。
それでは、駄目なのだ。それはきっと、この身が亡びるよりも辛いことなのだ、と彼は思った。

『――フィリップ君』

笑顔と共に自身に向けられた笑顔を思い出して、フィリップは、その足を確かにギラファと地の石との間に置く。

「変身手段すらなく、まともな戦いすら望めない状況で、なおも俺に楯突こうとするとはな、そこまで死にたいのか?」

そのフィリップの覚悟に対し、嘲笑するかのような笑いをあげるのはもちろんギラファである。
よろめきつつもなお確かに双剣を構えたギラファに対し、しかしフィリップはもはや恐怖など抱いていなかった。
むしろ沸き上がってくるのは善良な仮面ライダーを利用し、そして他者の命などどうとも思っていないこの怪人への怒りのみであった。

「――その目、あの男と同じだ」

そんなフィリップに対し、ギラファは興味深そうに呟く。
あの男、というのが誰なのか、フィリップには確信が持てない。
だがそれでも、きっとギラファの言う男もまた一人の仮面ライダーとして悪に立ち向かったのだろうとそう思った。


76 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:58:47 1FDzq.Hk0

「……まぁいい。それなら――死ね」

先ほどまでの柔和な態度から一変、殺意を隠そうともせずにギラファは突撃する。
それに対して咄嗟の判断で懐からバットショットとスパイダーショックを取り出し放つ。
時間稼ぎ程度にはと考えたが、二体のメモリガジェットがそれぞれ放った超音波と糸は、ギラファのバリアで容易に防がれてしまう。

何か手はないかと辺りを見渡すが、見つかるのは足元の一切のツールを持たないカイザギアのみ。
だがもちろんのこと、草加雅人、乾巧の両者がどちらも常人が使用すれば死に至るといっていたベルトを使う気など毛頭起きはしない。
しかし或いは彼にただ殺されるくらいなら相打ち覚悟ででも、などという考えさえ浮かんだ、その時。

「あれは……!?」

不意に暗夜の中で輝く見覚えのある〝それ”が目に入った。
まるで、「俺を使え」とそうフィリップに言っているかのようにさえ感じて、彼は迷わず〝それ”の下に駆け出していた。

「――何?!」

狼狽えた様子のギラファをさえ無視して、フィリップは遂に〝それ”を掴む。
多くの〝仮面ライダー”が使用したそれは、本当に多様な目的で用いられた。

ある者は、愛する街の人間にも、愛する娘にさえ存在を知られぬまま町を泣かせる悪と戦い続けるために。
ある者は、かつて愛した街を壊しそこに住む住民すべてを不死として、その街の新たな希望となるために。
ある者は、奪われた自分の愛する街を、そして信頼できる相棒を取り戻すために、そして相棒を亡くしても尚愛する街を守るために。

――ロストドライバー。
失われた左側のメモリスロットを寂しく思いつつも、しかし今の状況でこれほど心強いものもないと、フィリップはドライバーを腰に装着する。
次いで慣れた手つきで懐から取り出すのは――迷う必要などどこにもない――運命の、自身の最初の(ビギンズ)メモリ。


77 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:59:15 1FDzq.Hk0

――CYCLON!
――MAXIMUM DRIVE!

ダブルと同じく右腰に備え付けられたマキシマムスロットにメモリを装填すると同時、ガイアウィスパーが野太い声で叫ぶ。
瞬間全身に力が満ち、更に溢れ出したエネルギーが周囲に疾風を巻き起こした。
それを右手に収束させると、そのままサイクロンは自然と手刀の形を取った。

あぁ、翔太朗が今これを見ていたら、このマキシマムにどんな名前をつけるのだろうか。
最後の力を振り絞り立ち上がったらしいギラファがそのまま双剣を手に突進してくるのに合わせ駆け出しながら、サイクロンはそんなことを考えていた。
決して余裕なわけではない、どころか、きっと今自分は一人きりでこんな強敵に立ち向かうのが怖くてたまらないから、少しでも相棒のことを考えて気を紛らわしたいのだろう。

ならば、叫ぼう。彼の相棒として、それが少しでも悪を倒すための力となるのなら。
自分が放つのは手刀。彼がつけるだろう技の名前など、とっくのとうにわかっている。
仮面ライダーが放つ手刀、それにつけるべき名前は――。

「――ライダーチョップ!」
「シェアァァァ!!」

――一閃。
夜の闇を照らすように交差した彼らは、そのまま少しの距離を走って静止する。
そのまま、どちらも数舜の間動くことはなかった。

刹那の後、その体を大きく崩したのはやはりギラファアンデッドだった。
それを振り返り見つつ、サイクロンはその身に確かに届かんとしていた刃を思い出していた。

彼が万全であったなら。きっと考えるまでもなく、自分と彼とで立っている勝者は変わっていただろう。
恐るべき敵であり、同時に許されざる悪であったが、しかしサイクロンは今この時ギラファを悪く言うつもりにはなれなかった。
彼が貶される要素など、少なくとも自分と彼の戦いのどこにあるというのだろうか。

彼というアンデッドは自身の種を繁栄させることのできる唯一の王として、最後まで全力で抗いぬいた、誇り高い一人の勇士であったのだから。


78 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:59:32 1FDzq.Hk0





「シッ!シェア!」
「GUAOOO!!」

一方で、鏡より現れ出でた異形の怪人たちと仮面ライダーの戦いも、終わりを迎えようとしていた。
痛まし気な悲鳴を上げたオメガゼールは、戦慄する。
敵の体調が万全であるという事実はもちろん存在するとはいえ、たった一人の仮面ライダーに自身を含め五体もの同族で立ち向かってもまるで歯が立っていない。

どころか、一体でも戦況を抜け生身の餌を喰いに行こうとすれば、それすら防がれむしろ痛手を食らう。
なれば鏡の中に戻れば、と思うかもしれないが、所詮彼らは主を失った家畜。
長時間を鏡の中で過ごした現状で、限界を迎えた空腹は、生存本能を超えて彼らにただ食うためだけに戦えと訴えかけていた。

そしてそんな心を亡くした野獣に、キックホッパーが引け目など取る理由は何一つ存在せず。
いつの間にかモンスターの輪の中に誘き寄せられていたとしても、ただつまらなそうに溜息を漏らすだけであった。

「GUAAAA!!」
「……ライダージャンプ」

――RIDER JUMP!

一斉に組みかかったゼールの間を縫うように、キックホッパーは〝跳ぶ゛。
そしてその体が重力の支配によって再度地に堕ちる前に、彼は自身のバックルに取り付けられたガジェットの足を下した。

「ライダーキック……!」

――RIDER KICK!

主の声をゼクターが復唱すると同時、彼の足に赤きタキオンの光が漲っていく。
そのまま彼は掛け声と共に一体のゼールにその足を振り下ろして。
しかしそれで終わるわけがないとばかりに彼の足のアンカーが作動、まるでそのまま飛蝗の様に、彼は今蹴りを浴びせたモンスターを足場に再度〝跳ぶ”。

そして蹴り、また跳び、また蹴り……。
都合5発のライダーキックを終えて、彼が着地すると同時にその命を無残に散らしたゼールたちに対し、彼はただ、溜息を捧げるだけだった。


79 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 14:59:53 1FDzq.Hk0





「ウオォォォォ!!」

そしてまた、そこから少しの距離を開けて行われていたギルスとギガゼール、最後のゼールの生き残りの戦いもまた、終わりを迎えようとしていた。
猛獣のごとく猛攻を仕掛けるギルスの連撃に、ギガゼールが対応できていたのは一体いつまでの話だったのか、もはやそれは誰もわからないことだった。
その身をボロ雑巾の様に地に滑らせながら、ギガゼールは全ての終わりを察する。

ギルスが雄たけびと共に、その踵を鋭く変貌させたのを、視認したため。
――何故、こんなことになってしまったのか。
同胞たちと共に戦いの混乱を縫って容易に喰えそうな餌を食べて悠々と鏡の中に戻る。

ただそれだけ、ただ自分たちの身の程を知ったうえで出来ることをして食欲を満たしたかっただけなのに。
どうしてこんなに上手くいかないのだろう、どうしてあれほどいた仲間たちが、自分を残してすべてその命を散らしてしまったのだろう。
あぁ、あぁ。俺は、いや、俺たちはただ。

――幸せになりたかっただけなのに。
そんな、多く存在した種がその母数を多く減らしたことによってようやく身に着いた知恵の為に、以前は抱くはずなどなかった思いを胸に抱きながら。
ゼールモンスター最後の生き残りは、その生を儚く散らしたのだった。

【ゼール軍団 全滅】


80 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:00:10 1FDzq.Hk0




「俺の負け……か」

傷だらけの体、はっきりとしない意識、そして自身を見下す緑の仮面ライダー。
そんな状況を省みて生み出された一つの戦いの結果を、ギラファは口に出していた。
あぁ、何故こんなことになってしまったのか、俺は無益な戦いを避け、勝利できると確信できる状況でのみ自身の能力を使うはずだったというのに。

この敗色濃厚な状況で何故新たな戦いに挑もうとしてしまったのか、自分でも実のところ分かっていなかった。
現世で行われた歪なバトルファイトに嫌気がさしたのか、それとも放送でスペードのキングがいた時点で、この殺し合いにも胡散臭さを感じたからか、それとも――。

(あの石に魅入られていたのは、五代ではなく俺の方だったか……)

あまりにも強靭な力を誇るライジングアルティメット、その力が自身の掌中にあるという事実に、彼は自分では慢心していないと思っていた。
しかし、実際にはその力を使うたび、その力を目にするたび、ギラファは例えようもないほどにその力に依存していっていたのかもしれない。
草加雅人はともかく、後に現れた二人の仮面ライダー、そしてまた、この場で初めて自分を凌駕する実力を誇ったカッシスを、まさに赤子のように捻り潰したその力に、いつの間にか、弱い人間のように依存していた自分がいたのかもしれない。

だからといって、その力の為に引き際を見誤り死んでしまっては元も子もないと誰かが言うだろう。
しかし、今のギラファには断言できる。
それは、あの力を手にしたことのないもののいう言葉だ、と。

そんなことを思うギラファの前に、自身を倒した緑の仮面ライダー、サイクロンが佇んでいた。
だが、怒り心頭かと思われた彼には、先ほどまでとは明らかに違う迷いの色が見て取れた。


81 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:00:28 1FDzq.Hk0

「カテゴリーキング、君のしたことは絶対に許されないことだ、だが……自身の種の繁栄を望むのは、どんな生物だって同じだ。その権利を独り占めしようなんて考えなければ、君も……」
「おいおい、やめてくれよ、勝者の特権で敗者を見下すどころか同情しようって?冗談じゃない。森の中で隠れてお仲間たちと樹液を吸い続けるなんて、君たちには羨ましくて想像もできないだろうね?
……結局それを言えるのはお前たち人間が勝者だからだ。俺たち敗者に同情して〝保護してやろう″っていう人間の傲慢な態度から生まれる感情なんだよ」

それを聞いて、やはり分かり合えないのか、とばかりに首を項垂れたサイクロンは、しかし次の瞬間戦士としての覇気を取り戻した。
それでいい、最後の最後に殺される相手がずっと自分に同情してたなんて死んでも死にきれない、いや、俺は死ねなかったな。
ともかく、次のバトルファイトの時に死んでいる奴になんのかんのの感情なんて残したくないからな。

……こいつら仮面ライダー諸君が、俺の世界まで死守してくれればの話だが。
と、そんな皮肉まみれの思考に意識を染め上げながら、ギラファは新たに自身の胸が貫かれ鮮血がほとばしるのを感じる。
今まで以上に急速に薄れゆく景色と自身が敗北したことを示す封印の光をその瞳に宿しながら、この場での戦いの理由の重きを占めた男は、ここでその殺し合いに尽くした生を、一旦終わらせた。

【金居 封印】
【ライダー大戦 残り11人】





その右手を、人ならざる緑の血に新しく染めながら、サイクロンは深く息を吐いた。
アンデッドを封印しなければならない理由も、彼を許すべきでない理由も、いくらでも浮かんでいる。
しかし、それと自分が全くその生を止めてしまうことに戸惑いがないかと言えば、それは全くの別問題であった。


82 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:00:47 1FDzq.Hk0

しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
停止しかけた思考をいったん切り替え、ダイヤのキングのカードをその右手に握りつつ、サイクロンはそのまま地の石を拾い上げた。
こんなちっぽけな石が、ここまでの戦いを生み出してしまったのか。

苦々しい思いと五代がこれで解放される喜びを胸に、その手に力を込めようとした、その瞬間だった。
――黒と赤の一閃が、同時にサイクロンを襲ったのは。

「なッ……!?」

大きく揺らぐ視界、そして一瞬のうちに与えられた許容外のダメージに何も思考の纏まらぬまま。
サイクロンはその身体を生身のものに変えながら、気を失った。

【フィリップ@仮面ライダーW 脱落】
【ライダー大戦 残り人数10人】

どさり、と情けのない音を立てながら地に落ちたフィリップの姿を尻目に、その意識を刈り取った張本人たちもまた、自分以外にこの瞬間を待ち望んでいた存在がいたことに驚きを隠せずにいた。
黒の戦士はオルタナティブ・ゼロ、フィリップがカテゴリーキングに勝利したのを見てアクセルベントを発動、キングのカードと地の石を一気に手にいれるつもりであった。
そして赤の閃光を走らせたのは仮面ライダーサガ、オルタナティブと同じく地の石を漁夫の利を手にいれんとこの瞬間を待ち望んでいたのだ。


83 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:01:04 1FDzq.Hk0

金居とは所詮一時の共闘関係、ディケイドを打倒するのに重要な戦力ではあったが、緑の戦士の油断を招くには、あの瞬間がベストであり、金居を切り捨てるのにさほどの迷いは生じなかった。
が、犠牲を払って得られたものはと言うと――。

「チッ」

オルタナティブが、誰にも聴かれないように小さく舌打ちした。
その手に握られているのはダイヤのキングのカードのみ、高速移動の瞬間に、突然現れたジャコーダーの一閃をかわしつつ必死に掴んだものであった。

「……やってくれましたね」

一方で、サガもまた怒りを隠さず呟いた。
その手には確かに地の石が握られていたが、その表面には小さな亀裂が走っている。
的確に地の石を狙い放たれたジャコーダーは、オルタナティブの介入によって、わずかに狙いをはずれ、それ自体にダメージを与えてしまっていたのだ。

――SWORD VENT

女性の声によるシステム音声が、オルタナティブの腕の機械より放たれる。
音声からしてどうやらゾルダと同世界のものであるようだが、一方でどこか異質でもあった。
ともかく、鏡からはき出されてきた黒の大剣を構えたオルタナティブは、殺意を隠すこともなくサガへと駆けだしてくる。

地の石を自分のものにするためだ、むろんサガもそんなことは重々承知。
そのまま手に持つ地の石に念じる。
「自分を助けろ」、と。

(……当たり前だけど、すぐに来るわけじゃないか)

強大な力を持つとはいえ、ワープを出来るわけでもない。
他の仮面ライダーを圧倒しこちらに来るまで、自力でこの状況をやりすごす必要がありそうだ。
と、デイパックからエンジンブレードを取り出し、そのまま大剣を受け止める。

どちらにせよ、自分は数分持ちこたえれば勝利を約束されたようなものだ、地の石の奪還にのみ気をつけていれば――。


84 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:01:22 1FDzq.Hk0

「ぐわあぁぁぁ!!!」

と、その時、また戦況は大きく揺らぐ。
絶叫と共に病院の残り少ない壁を破壊し転がり込んできた響鬼と。

「グゥ、ウオオォォォォォォォォ!!!!」

獣のような咆哮をあげる、緑と黒の死神によって。





時はしばし遡り。
ライジングアルティメットたちとも乃木たちとも離れた場所で行われていた響鬼とカリスの戦いは、両者ともに攻めあぐね、均衡状態が続いていた。
理由は二つ。

一つは、カリスが自身のAPを回復できるカードを持っていないために、ラウズカードによる攻撃のタイミングを注意深く観察していること。
そしてもう一つは、響鬼の必殺技である音撃の型による数々の技は、素早く、かつ音撃棒よりリーチの勝るカリスラウザーを持つカリスには仕掛けることが厳しいこと。
つまりは、お互いの攻め手が限られているが故、また当然ながら両者の実力が拮抗しているが故の状況であった。

しかし、その状況で、最初にお互いの手札を察したのは、カリスであった。
この場において数多くの仮面ライダーを見てきた始は、自分たちと異なり必殺技を何度も無償で発動できるライダーがいることを知った。
故に自分の手札を先に切ることは悪手であり、最初は相手の手札を読む必要があると判断したのだ。

だが数分間の均衡状態の間、響鬼は別段目立った能力を使わなかった。
もちろんその手に持つ音撃棒から火炎弾を発射したりこちらの弓に対する反撃手段を講じたりはしているのだが、大技という面で言えば、出し惜しみをしているというより、出せないのだと判断できた。

なれば、こちらからカードを切らせてもらうのみ。
思考が終わると同時、都合二回カリスラウザーから空気の矢を放つ。
それを響鬼が回転と同時に避け、そのまま音撃棒より火炎弾を放った。


85 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:01:43 1FDzq.Hk0

――CHOP

先ほどまでは律儀に交わしていたところだが、もはやその必要もない。
ラウズ音声と共に力を得た右の手刀で、それらを容易く切り裂いた。
ギャレンのものでラウズカードへの理解があったらしい響鬼も、今までの流れを一変させるようなカリスの動きに一層警戒を強めたようだった。

そんなことは百も承知と駆け出すカリスに対し響鬼もまた接近を拒まんと火炎弾を連打する。
響鬼自身は接近戦を得意とするが、今まで遠距離攻撃を主としていた相手の急接近を喜んでいるわけにはいかないのだ。
次々と放たれる火炎弾をその手刀で打ち消しながら、カリスはそのまま二枚のカードを立て続けにラウズする。

――DRILL
――TORNADO

――SPINING ATTACK

二枚のカードによるコンボの発生と、それを身に宿し速さを増したカリスの猛進に、響鬼も覚悟を強いられずにはいられなかった。
もう、避けるには距離が近すぎる。
――なればむしろ、受け止めるまで。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

疾走から一転全身を回転させこちらに飛び込んでくるカリスに対して、響鬼は音撃棒を胸の前に重ねて構え、必死にガードの体制を作った。
大地の結晶である屋久杉と猛士による最高峰の技術によって作られた音撃棒が、響鬼ですら聞いたことのないような悲鳴を上げる。
遂に左の音撃棒がダメージに耐えきれずその身を二つに折るが、しかし先ほどよりカリスの勢いは衰えているように見えた。

それを見て、狙い通り、とばかりに響鬼は腰の音撃鼓を取り外し、カリスの足に向けてそれを設置する。
完全には動きが止まらないまでも、それによって明らかにカリスは動揺したようだった。
そして、大型の魔化魍に暴れられつつも音撃打による清めの音を叩き込んできた響鬼には、これで十分。


86 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:02:02 1FDzq.Hk0

「音撃打、一気火勢の型!!」

右手にのみ残った音撃棒で、一心不乱に音撃鼓を叩き、清めの音を発生させる。
魔化魍に対し開発されたそれはしかし、別世界の存在においてもインパクトという意味では効果的なようであった。
しかし、それをただ享受するカリスではない。

「その程度で、俺を止められると思うな――!」

徐々に緩まりつつあった回転を、気合いと共に再開、むしろ高速化させていく。
つられるように響鬼もまたその連打を早めていき――。

「はあぁぁぁぁぁぁ――!!!!」
「――――――――ッ!!!!」

お互いのそれが頂点に達した瞬間、爆発が巻き起こった。
両者共にその身体を大木に叩きつけられるも、すぐに立ち上がる。
しかし、響鬼の様子は、先ほどまでとは大きく異なっていた。

その両手に持つ音撃棒が、どちらも持ち手の部分を除いて破壊されてしまっていたのだ。

「――どうやら、得物がなくなったようだな、仮面ライダー?」
「……らしいね、参ったなこりゃ」

もはや意味を持たなくなった音撃棒の残骸を投げ捨てながら、響鬼は力なく言い放った。
しかし、文字面だけを見れば戦意を喪失したようにも見える彼は、しかしその戦意を萎えさせてはいなかった。
その証拠に、彼は素手のまま、その両の拳を握りしめ、カリスの前に立ちふさがっていた。

「――なぜまだ諦めない、仮面ライダー?」

カリスは、そう問いかける。
答えはその実既に知っている。
仮面ライダーが悪を前に諦めることなどないことも、そうした存在を友に持てたことを誇りに思っていたのは、他でもない自分なのだから。


87 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:02:20 1FDzq.Hk0

しかし、それに対し響鬼はその疑問を不思議に思う様子もなく、口を開いた。

「なんでって、決まってるだろ。戦えない全ての人のために、俺が、俺たちがやれることを全力でやりたいからだよ」

――あぁ、これでいい。
これでこそ、剣崎の遺志を継ぎ、大ショッカーを打倒しうる存在だ。
その手に力がなくとも、誰かのためにとその身を張る、それでこそ仮面ライダーだ。

自身が見定めんとした仮面ライダーのあるべき姿とその強さにある種の安堵を抱きつつ、一つ息を吐くカリスに対し、それと、と響鬼が続けた。

「俺の名前は響鬼、仮面ライダー響鬼。以後、よろしく、シュッ」
「仮面ライダー響鬼、か。覚えておこう」

今更ながらの自己紹介に対して、カリスもまたそう返す。
戦いながら訪れた不思議な空気をどこか自然と受け入れつつも、しかしまだ戦いは終わっていないとカリスはその眼差しを尖らせる。
さて、剣崎の遺志を継ぐに相応しい仮面ライダーがいることはわかった。

だが、実力はどうだ?
カリスとしての自分にすら負けるようでは、大ショッカーなど夢のまた夢。
得物さえないその腕で、成せるものならば成してみろ。

その思いと共にカリスラウザーを改めて構え――、次の瞬間、沸き起こった謎の違和感に思わず胸を押さえた。
――時刻は22:15。
王による暴力が、人々を脅かし始める時間であった。

「なッ……!?」

突然呻きだしたカリスを前に、流石の響鬼も困惑を隠せないようだったが、しかし次の瞬間にはカリスを助けださんと駆けだしていた。
一方でカリスはその衝動を抑えようとする自分を尻目にどんどん膨れあがっていく自分の中の忌むべき存在を自覚せずにはいられなかった。
何故、今。


88 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:02:38 1FDzq.Hk0

(何故だ、剣崎は死んだはず。俺の中の■■■■■が暴走するはずは――)
「おい、相川!大丈夫か!?」

混乱する思考を妨げたのは、響鬼である。
まずい、今の彼では奴を、いや俺を止めることなど――。

「逃げろ、響鬼……。このままでは、全てが――」

カリスが、自分の言葉で何かを話せたのは、もはやそこまでであった。
瞬間、急激にその衝動が、爆発したのである。
――もちろん、彼のすぐそばにいた、もう一人の死神が力を解き放ったため。

思考と視界を一瞬のうちに闇に飲み込まれながら、最後に始は思った。

――むしろ、このまま目が覚めなかったのなら。
――ジョーカーに仮面ライダーが勝てるというのなら、それで全て問題はないではないか。
――仮面ライダーたちの実力の真価を計るには、いい荒治療かもしれない。

――あぁ、そう思っているのは確かだというのに、何故だろうか。
――生まれたままの自分の姿で死ぬというのが、ここまで嫌に感じるのは。

そこまで考えて。
始の思考は、全て破壊で満たされた。





「矢車、亜樹子、無事か?」
「うん、涼君!私たちは無事だよ!――って、うわ!」

一旦の戦いを終えキックホッパーと鳴海亜樹子の下に、ギルスが駆け寄ってくる。
傷だらけになりながらも一応は安全であるらしいその姿を確認し亜樹子は安堵したような声を出すも、次の瞬間その肩に背負われている乃木怜司を見てギョッと目を細めた。

「何でこいつを連れてくる?言っただろ、こいつはワーム。文字通り宇宙から来た、ただの虫けらだ」

亜樹子の心の声を代弁するようにキックホッパーが嫌悪感を隠そうともせずに告げる。
しかし、それに対しギルスは予想通りであるといった様子で大した動揺もしなかった。


89 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:03:07 1FDzq.Hk0

「例え元の世界でどんな奴でも、俺にとってこいつはここで俺と一緒に戦ってくれた仲間だ。助ける理由はそれだけで十分だ」
「……ハァ」

まっすぐに目を見据えて告げられた言葉にキックホッパーは折れた様で、溜息を残してその場に座った。
それを確認して、今度はギルスは亜樹子をまっすぐに見据え。

「亜樹子、こいつを頼んだぞ。俺はフィリップを助けに行ってくる」

その言葉だけを告げて、そそくさとギルスは未だ戦いを繰り広げているオルタナティブとサガの下で生身のまま放置されているフィリップの元へ向かおうとする。
――この展開は、不味い。
亜樹子の直感が、そう告げていた。

このままでは、自身の優秀な“壁”がいなくなってしまう。
キックホッパーは先ほどまで優秀な“壁”であったが、意味のわからない理由で自分を置き去りにした時点で頼りにしすぎるのも危うい。
なれば、ここでギルスを手放すのは惜しい、と亜樹子の冷静な部分が叫んでいた。

「待って、涼君!そんな傷じゃ危ないよ!」
「そんな事言ってられるか!フィリップが危ないんだぞ、俺が行かなきゃ――グッ!」

傷だらけのギルスを気遣うふりをしてどうにか時間を稼ごうと大声をあげる亜樹子に対し、そんな事情など露程も知らずギルスは声を荒げる。
しかしそれが響いたのか、腹を押さえてそのままうずくまってしまった。
それを見て、亜樹子は想像以上だと口角を吊り上げる。

「ほら!やっぱりそんな傷じゃもう戦えないよ!フィリップくんだけじゃなくて涼くんまで死にに行くなんて、私――!」
「亜樹子……」

そこまで言って、思わずといった様子で彼女は顔を押さえた。
まるでフィリップが既に死んでしまったかのような口ぶりだが、ギルスはそれをそこまで不審に思う様子もないようだった。
それでもなおフィリップのことを諦めきれない様子のギルスに対し、あと一歩だと亜樹子はまた口を開こうとして。


90 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:03:31 1FDzq.Hk0

「ぐわあぁぁぁ!!!」
「響鬼ッ!」

後方から絶叫と共に聞こえた爆発音に、それを遮られる。
一体何事か、と亜樹子が振り返るよりも早く、ギルスはその絶叫の元へ駆けだしていた。
先ほどまでの様子と違い弱々しくうめき声を漏らす響鬼に一種の戦慄を抱きつつ、ギルスは響鬼を弾き飛ばした影に視線を向けた。

そこには、夜の闇にも負けないほどの黒と、ギルスのそれを大きく超えるような眩い緑の閃光を放つ謎の怪物がいた。
フィリップが撮影していた園田真理殺害の怪物と似ている、しかし明確に違う。
新たに現れた存在に誰もが息を呑む中、真っ先に行動したのはオルタナティブだった。

――WHEEL VENT

鏡より現れた彼の契約モンスターがバイクのような形に変形すると同時、それに跨がり、何故か地面に転がっているフィリップを抱え上げた。
そして、そのまま見当違いの方向へと駆けだしたのだ。
地の石を欲しがっていた彼の突然の逃亡にサガも驚きを隠せなかったが、しかし、そんなサガを尻目に“それ”は突然に吠えた。

「グゥ、ウオオォォォォォォォォ!!!!」
「――亜樹子、伏せろッ!」
「きゃっ……!?」

らしくなく全力で回避をしたキックホッパーに驚きつつ亜樹子が悲鳴を上げる。
――一瞬の後。
黒と緑の怪物から放たれた衝撃波はそこにいる全てを破壊した。

響鬼を庇うように立っていたギルスを大きく吹き飛ばし、その遙か後方にいたサガにも、その衝撃波は直撃する。
その余波で既に半壊していた病院が轟音と共に砕け散る中、死神はまだ満足できないと言わんばかりに大きく咆哮した。

「……その声、始さんですか?一体何のつもりです?まさか地の石を狙って、僕のことを倒そうと――」
「ウオォアァァァ!!!!」

決して小さくはないダメージを押して疑問を投げかけたサガに対し、ジョーカーの返答は攻撃。
手の鎌より実体化したエネルギーをサガに向けて放ち、その存在をも破壊しようとする。
だが、それを二度も食らうサガではない、手に持ったエンジンブレードで何とかやり過ごし、ジャコーダーで反撃に移った。


91 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:03:47 1FDzq.Hk0

「……利用関係解消ですね、なればあなたの裏切りに、私から下す判決はただ一つ。死、のみです――!」

――WAKE UP

首に巻き付けたジャコーダーにジョーカーが困惑するうちにサガはウェイクアップフエッスルをサガークに認識させる。
頭上に大きな紋章が浮かぶと同時、それに飛び、てこの原理でジョーカーの身体を持ち上げた。
これこそがスネーキングデスブレイク、サガの、唯一にして必殺の技であった。

「ウォォ、ウオォアァァァ!!!!」

しかし、ジョーカーはそれに対しまたも咆哮。
むやみやたらに暴れ、遂にはジャコーダーの鞭を切り裂き、無理矢理にスネーキングデスブレイクより脱出する。
流石のサガも、これには驚きと、そして恐怖を隠しきれず。

そしてその動揺はジョーカーの格好の餌食であった。
一瞬のうちにサガに駆け寄ったジョーカーはその鎌でもって、サガを大きく打ち上げたのだった。

「なに……なんなのよこれ……。私、こんなの聞いてない……」

目の前で行われるあまりにも常識離れした状況に、亜樹子はそんな当たり前の言葉を吐き出していた。
それに対し、全く同意見だと言わんばかりに呆れたようなため息を吐くのはキックホッパー。
彼はそのまま立ち上がり、変身の解けた様子の涼の元へと歩んでいく。

「おい、ここじゃ何時あいつに目をつけられるかわからん。俺たちは逃げるぞ」
「ふざけるな!それじゃ五代は、フィリップはどうなって――グッ!」
「その傷じゃどっちにしろ足手まといだ。亜樹子のこともある、あとのことは他の奴らに任せるべきだ」
「なら、俺だけでも――!」
「――いや、矢車の言うとおり、お前らはここから逃げた方が良い」

あの暴力の化身のような存在の注意が自分たちから離れた隙に、この場を去るべきだと進言するキックホッパーに対し、一歩も引かない涼。
そのまま水平線を辿るかと思われた議論にトドメを指したのは、ギルスが庇ったためにまだ変身状態を維持している響鬼だった。


92 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:04:03 1FDzq.Hk0

「響鬼、お前――!」
「俺のことなら大丈夫、鍛えてますから。シュッ」
「別に心配をするわけじゃないが、本当に逃げなくて良いのか?」

言外に武器もないのに、という意を含んだキックホッパーの言葉に、響鬼は苦笑いしつつ答える。

「大丈夫だよ、さっきまでは隙もなくて使えなかったけど、とっておきがあるから。……絶対に、後で会おう、葦原、矢車、鳴海」
「……絶対だぞ、響鬼」
「――行くぞ」

その言葉と共に、キックホッパーは亜樹子を、涼は傷ついた身体を押して乃木を抱きかかえ病院の跡地から去って行ったのだった。

【矢車想 離脱】
【葦原涼 離脱】
【鳴海亜樹子 離脱】
【乃木怜司 離脱】

【ライダー大戦 残り7人】

四人の去りゆく背中を見守って、その姿が夜の闇に呑まれ一端の彼らの無事を確認した響鬼は、また戦場へと目を向けた。

「――さぁて、俺は俺のお仕事、だな」

かちゃり、と懐から取り出したのは、響鬼の武器、装甲声刃。
先ほどのカリスとの衝撃の瞬間、デイパックから漏れ出していたのを響鬼は見逃さず入手していたのだ。
悲鳴と共にサガが吹き飛ばされ、その変身が解除されると同時、響鬼は装甲声刃に向けて気合いを高める。

「――響鬼、装甲」

唐突に高まる気と共に全身から溢れ出す炎が、ジョーカーの視線をこちらに向けさせた。
その一方でサガに変身していた青年が命からがらといった様子で逃げ出すのを見て、響鬼は安堵する。
これで、始が望まぬ殺しをしなくて済んだ。

きっと彼は、大ショッカーを前にして、仮面ライダーとして戦うべきなのか、まだ悩んでいるのだ。
大事な人を守るために戦おうという思いは、すぐに伝わってきた。
その手段がわからないというのなら、自分が教えてやるべきではないのか、確固たる仮面ライダーの力で以て。


93 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:04:20 1FDzq.Hk0

ハァ、と気合いを吐き出すと同時、響鬼はその身を赤く染め、どこからともなく現れたディスクアニマルたちと、その身を一体化させた。
これこそが、アームド響鬼と言われる、仮面ライダー響鬼最強の形体であった。

「さて、行きますか」
「ウオォアァァァ!!!!」

アームド響鬼とジョーカー。
彼らの戦いの第二幕が今、また切って落とされた。





ところ変わって病院のすぐ外で、乾巧とディケイドは、その惨状に声を漏らさずにはいられなかった。
そこにあったのは先ほどまで共に戦っていた仲間たちの変わり果てた姿。
全身を穴だらけにされた秋山蓮と、胸に大きな風穴を開けた海東大樹の姿であった。

「なんで……なんでこんなことになっちまうんだよ……!?」

その状況に対し、あまりのやりきれなさ故に声を漏らしたのは、巧であった。
ライジングアルティメットの驚愕的な実力は知っていたつもりだった。
しかし、ほんの数分目を離した間に、相当な実力者であるこの二人がやられてしまうとは。

一方で、海東は士にとってはこの殺し合いに参加させられる前からの、元々の仲間だったはずである。
いつも何を考えているのかわからないような顔をしている士だが、今回は更にディケイドの仮面によって物理的にその表情を見ることは叶わない。
しかし海東の死体を見つけてから何も言わないところを見ると、流石に堪えたらしいことは表情を見るまでもないことだった。

「--!待て、志村の死体はねぇ!もしかしたらあいつはまだ――」
「……あぁ、もしかしたらあいつは……いや、まさかな」

僅かな希望を見いだし、そのまま口にした巧に対し、ディケイドは意味深な呟きを返すのみだった。
何を考えているのか巧には正直掴みきれないが、このまま相手をしていても埒があかないと、周囲を見渡す。
するとその耳に微かなうめき声が聞こえてきた。


94 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:04:49 1FDzq.Hk0

「おい、聞こえたか、今の」
「あぁ」

ディケイドと共に警戒を深めつつ歩を進めると、すぐにその声の主を見つけることに成功する。
それはボロボロの服で、どうやら地面に顔をこすりつけ啜り泣いている様子の、青年であった。
この凄惨な状況を見れば泣くのも仕方ないのかもしれないが、そもそもこの戦地で無事を貫いた時点で、単なる一般人とは考えがたいだろう。

「おい。お前、何者だ、名前をいえ」

警戒を緩めぬまま、ディケイドは問いかける
それに対し、男は一瞬泣き止み、どうしたらいいかわからないといった様子のまま、しかし身体を起き上がらせた。
その姿を見て、巧がハッとした表情を浮かべたのを、ディケイドはもちろん見逃さなかったが。

「……俺の名前は雄介。五代……雄介、です……」

その名前を聞いて、二人は表情を強ばらせる。
まさか、この戦いの目的であった五代雄介の奪還を、ここでこうして成せるとは。
必要な犠牲だった、などとは口が裂けても言いたくないが、しかし海東や秋山の犠牲は決して無駄ではなかったのである。


95 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:05:18 1FDzq.Hk0

「その……あなたたちは……?」
「門矢士と、乾巧だ」
「……あなたが士さん、それに巧さん……、俺、俺海東さんと草加さんを……、ごめんなさい……!ごめんなさい……!」
「……落ち着け、五代雄介。お前は、ただ操られてただけだ。あいつらを殺したのは、お前の意志じゃない」

そこまで言うと、五代は荒く呼吸を数回繰り返し、そのまま真っ赤になった瞳をこちらに向けてくる。
襲ってくる気配はないという意味ではひとまずは安心して良さそうだと、二人が胸をなで下ろそうとした瞬間、五代が口を開いた。

「……俺、皆を傷つけました。それどころか、草加さんも、秋山さんも、海東さんも、あのカブトムシのライダーの人も……俺が、俺が……!」
「おい、だからそれはお前の意志じゃ――!」

言葉を紡ぐたび不確かになっていく五代の言葉を受けて、思わずディケイドはそれを止める。
地の石などというアイテムと、こんな殺し合いに乗った屑の手中で彼は踊らされ続けたのだ、これ以上、無駄に苦しむ必要などあるまい。
しかし、そんなディケイドの思いと裏腹に、五代はなおもその口を止めることはない。

「俺、ずっと誰かの笑顔を守るために戦ってきました。戦いなんて大嫌いだけど、でも俺がやらなきゃ、あんな奴らのせいで誰かが悲しむ姿なんて、見たくないって」
「……」

それまでずっと途切れ途切れだった彼の言葉が、急に饒舌になった。
その表情にはなおも辛い様子が見て取れたが、しかし先ほどまでとは違うのがはっきりとわかった。
その様子に安堵の思いを抱きかけたディケイドと巧だったが、でも、と五代が続けたことで眉を潜める。

「でも、あのカブトムシのライダーの人が死ぬとき、笑ってたんです。そうしなきゃ、生まれ変われないって。その戦いの間、ずっと苦しそうだったのに」
「……五代?」

彼の表情には、先ほどまでと変わった様子は見られない。
だが、何故だろう。
とてつもなく不穏な流れが訪れているのを、二人は確かに感じた。

「それに、秋山さんも。最後の最後に笑ったんです。それまでずっと笑顔なんて見せたことなかったのに」

それを話す五代の表情は楽しげで、先ほどよりその笑顔は輝きを増していく。
流石の二人も、フィリップやあの秋山ですら認めた聖人君子のような五代とのイメージと話している内容の剥離に、不気味さを感じずにはいられなかった。
――なおも、五代は言葉を紡ぎ続ける。


96 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:05:35 1FDzq.Hk0

「――もしかして、俺って間違ってたのかもしれません。もしかしたら、人が一番良い笑顔を浮かべるのは――!」

そこまで言って、五代の目はギョロリと巧のものと合った。
怖いもの知らずの巧であったが、その闇そのものとすら言える深い黒の瞳と、それに反するように眩い笑顔のミスマッチに、流石に一歩退いた。

「――なんで、ですか?」
「え?」
「なんで、笑顔にならないんですか――!」

そこまで言うが早いか、それまでの傷が嘘のように飛び起きた五代は、そのまま巧の首に掴みかかった。
傷ついた身体に、全く予想しなかったところからの攻撃で、さしもの巧もそれを避けきれず。
そのまま、易々と彼の身体は宙に持ち上げられてしまった。

「やっぱり、こうしなきゃ駄目なんですかね?死ぬ寸前にならなきゃ、あなたは笑顔になってくれないんですかね?」
「――やめろッ!五代雄介!」

絶叫と共に彼の腕を掴み無理矢理巧から引きはがすのは、もちろんディケイドであった。
必死に気道を確保する巧を尻目にディケイドは今度こそ油断なく五代の前に立ちふさがる。
そして、それを見て五代の顔は笑顔から驚愕の顔へと急変した。

「俺、そんな……ごめんなさい、ごめんなさい……!」

まるで、自分が何をやったのか、信じられないといった様子で顔を覆いもみくちゃに顔を掻きむしる五代は、誰が見ても明らかに正気ではなかった。
ユウスケの時はここまで酷くはなかったぞと困惑するディケイドを気にもせず、五代はそのまま外聞もなく泣き続けた。

――五代がこのような不安定な精神状態になってしまったのには、もちろん地の石の支配のみではない理由がある。
それは、他ならないガイアメモリ、その中でも支配性の強いゴールドメモリを使用したためだった。
いや、もしも五代が自身の強い意志で以て、ナスカのメモリを用いていたなら、あるいは毒素をも打ち消して彼は正義の戦士として立ち上がっていたのかもしれない。


97 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:05:51 1FDzq.Hk0

しかし、地の石による支配で身体の自由を奪われながらも、彼は一部始終をその目に焼き付けていた。
草加を叩きのめし、その後目の前で彼の命が奪われる際も、彼は必死に抗おうと、絶叫したのだが、それは誰にも届くことはなく。
灰となって消えた彼の死に責任を感じていたが、もしもここまでで支配が終わっていたなら、きっと彼は数時間の苦悩の後仮面ライダーとして再起できたはずであった。

だが、そこからが彼にとって本当の地獄の始まりであった
銃声を聞きつけやってきた巧とカブトムシのライダー、天道総司に対し、地の石を持つ金居は全力で応じることを命じる。
五代の抵抗が全くの無意味であったのは既に述べた通りだが、更にここで最悪の出来事が起こる。

巧から奪い取ったナスカのメモリを、あろうことか彼は首輪に直に挿入、結果としてRナスカとして覚醒するが、それにより元々強い毒素が更に上昇。
自身の意志による変身ではないのに加え、草加、天道の命を奪ったという事実に対する虚無感が、彼の毒素に対する抵抗を著しく弱めてしまっていた。
つまり、ほとんど一般人と変わらない精神状態と化し、抵抗もままならぬまま毒に晒された五代の脳裏に、最悪の考えが浮かぶ。

――死の瞬間の笑顔こそが、その人の最高の笑顔なのではないか、と。

もちろん、平素の五代であれば、至るはずのない思考。
しかし、身動きも取れぬまま直に強力な精神毒に晒されそれを外部に逃がすことも叶わない四時間ほどの時間は、彼の思考を醜く変貌させるのに十分であった。
そしてその考えを拭いきれぬまま病院に着いた彼は、半ばそれの真偽を確認するかのように、人々を殺害していった。
秋山蓮は自分と会ってから一度も笑わなかったというのに、最後に何かを悟ったような笑顔を浮かべていた。
それに対し自信が否定しなければいけない仮説が、しかしより信憑性をもって自分を染め上げていくのを、確かに彼は感じたのだった。

そして、海東との戦いの際に二度目のナスカの使用。
これにより先ほどまでの黒い思考は、より五代を毒して――。
今、彼の中に、彼がもっとも否定していたグロンギのような思考が、確かに生まれていたのだ。


98 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:06:13 1FDzq.Hk0

つまり、“死の瞬間にこそその人の最高の笑顔が生まれるなら、自分がそれを殺すべきなのではないか”、と。
しかし、毒に侵され精神に異常を来しつつも、五代は未だに自分をつなぎ止めていた。
地の石による支配によって埋め込まれた数多のトラウマと、未知の精神毒に、なお彼は抗う意思を、確かに持っていたのだ。

――この時までは。

「うぁ……うあぁぁぁぁぁ……!!」

瞬間、彼は胸中にどす黒い感覚が沸き上がっていくのを、確かに感じた。
忘れるはずもない、先ほどまで自分を支配していたあの闇だ。
誰か、新しい主人が自分を呼んでいる、助けに来いと。

しかしその声から先ほどの主に似た殺意と敵意を感じて、五代は必死に抗おうとする。
先ほどよりは抵抗を出来るように感じたが、しかし自分に根付いた毒が、その抵抗を阻もうとする、誰かを殺し、そして笑顔にしろ、と。
断固としてそれは間違っていると主張する自分を、静かに、しかし確実に蝕んでいくその声を聞きながら、五代は自分に対し声をかけ続ける仮面ライダーを一瞥する。

(あぁ、そう言えばずっと考えてたっけ……。俺がもし究極の闇になっちゃったらって……)

それは、本来ならずっと共に戦い自分を信じてくれた一条刑事に言う言葉のはずであった。
彼ならばきっと情よりも自分が本当にしたいことを理解してくれるはずだと、そう信じたから。
しかし、ここに今彼はいない。

なれば、彼に頼むしかあるまい。
元々覚悟は出来ている、誰かの笑顔を奪う悪魔になるくらいならば、自分は――。

「門矢……さん、お願いが、あります」
「……」
「お願いします。もうこれ以上誰かを傷つける前に、俺を……殺して――」

目から涙を流し訴える五代だったが、彼の言葉が紡がれたのはそこまでであった。
瞬間、彼の瞳から光は失せ、先ほどまでのものを大きく凌ぐほど、暗い闇が、その眼孔の奥に広がった。
と、同時、五代、否“ライジングアルティメット”は既にボロボロになった病院へ向かおうと――。


99 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:06:29 1FDzq.Hk0

「待て!」

それを止めようと思わず駆けだしたのは、もちろんディケイドであった。
変身能力も持たぬまま戦場へ駆け出せば、彼の命運はすぐに尽きてしまう。
変身している自分であれば幾らライジングアルティメットといえど変身をしていない以上容易に彼を抑えておけるはずであると、そう考えた上であった。

だが、その考えはまたしても甘かったと、ディケイドは身を以て知らされる。
目前に立ちふさがったディケイドを邪魔者として判断したライジングアルティメットは、そのまま彼に対し猛打をしかける。
幾ら変身しているとはいえ、傷ついた身体に、自分の身体へのダメージを顧みないライジングアルティメットの猛攻に、ディケイドは一瞬体制を崩してしまった。

その瞬間、ライジングアルティメットはディケイドの腰に備え付けられたライドブッカーを奪取し、それをソードモードに移行、見境なくディケイドに斬りかかったのである。

「ぐぁ……!」

元々満身創痍の肉体に自分の武器と、カードすらも奪取されて、ディケイドに為す術はなく。
そのまま、数秒と経たぬ内に彼の身体は地に吐き捨てられた。

「門矢ッ!」

それを見て吠えたのは、流石にもう見ていられないと飛びだした巧であった。
そんな巧を見て、やめろ、とディケイドは小さく呻いたが、その声は届くことなく。
掴みかかった巧が何とかライドブッカーを引きはがしたところまでは良かったが、しかし彼の健闘もそこまでであった。

先ほどまでと同じように、いや、先ほどよりも明らかに力を込めて、ライジングアルティメットは巧を持ち上げた。
うめき声と共に持ち上げられた彼を見て、ディケイドの脳裏に先ほどの“五代”の言葉が蘇る。

『お願いします。もうこれ以上誰かを傷つける前に、俺を……殺して――』

その悲しげな声と、自身の仲間である小野寺ユウスケの笑顔、そしてその笑顔を守ると誓ったときのことを、次々とディケイドは思い出す。
もしも、ユウスケが同じ状況になってしまったら。
俺は、あいつに何をしてやるのが相応しいのだろうか?


100 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:06:46 1FDzq.Hk0

――『士、お前だけを逝かせない……。俺も一緒に逝く……!』

自分が真の世界の破壊者となったとき、ユウスケが言った言葉を思い出す。
その時確かに自分は、彼に対し友情を感じたはずだった。
なれば、そのパラレルとも言える五代の望みを果たすのは、やはり自分であるはずだ、と。

今にもその命の炎を絶やそうとする巧を目にして、ディケイドにもう迷いはなかった。
あたりを見渡すと、ふと手にぶつかるものがあった。
シアンの色をしたそれは、自分も見慣れた仲間のもの。
まるでそれが、素直でなかった彼の、精一杯の協力の申し立てのように感じて。

(――あぁ、そうだな海東。これ以上、あいつに罪を背負わせるわけにはいかない。せめて少しくらい、俺が背負ってやるよ……!)

ダメージのために地に伏せたまま、ディケイドはその手にしっかりとディエンドライバーを構える。
そしてそのまま、彼の背中に向けて、引き金を、引いた。





どさり、と全身から力が抜けていくのと同時、自分の心を占めていた深い闇がくっきりと晴れていくのが、五代雄介にははっきりと理解できた。
しかしそれに対し、もう深く喜びを感じることも出来ない。
なぜなら、その腹には大きな穴が開いていたのだから。

ふと横を見やれば、仰向けに横たわる乾巧の姿が見て取れる。
死んでしまったかと絶望しかけるが、弱々しいながらも呼吸の音を聞いて、どうやら命に別状はないようだと、今度こそ本当に胸をなで下ろした。
そうして空を見上げるうち、その視界の隅には先ほど自分を撃ったディケイドが足を引きずりながらも自分に近づいてくるのが見えた。

「あ……ぃ……が……ぉ……ぅ」
「――それ以上言うな、もう何も考えなくていいんだ」


101 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:07:04 1FDzq.Hk0

ありがとうございました、と礼を述べたかったのだが、どうやら口中に血が絡んでそれどころではないらしい。
精一杯の思いは伝わったようで、ディケイドの表情はわからないが、嗚咽を我慢しているらしいことだけは、何とか理解できた。
あぁ、本当に彼には申し訳のないことをしてしまった、海東さんの命を奪ったも同然の自分を、ここまで思ってくれるのだから、きっといい人に違いなかった。

――と、ふと彼の頬を冷たい夜風が撫でた。
それにつられて視線を空に移すと、自分が暴れたために周囲の木々が崩壊し、一面の星空をそこに映し出していた。
雲一つない、その空に、五代は微笑みを浮かべる。
こんな凄惨な状況でも、太陽は必ず昇るのだ、今は雨や曇りでも、世界のどこかに太陽は昇っている。

だから、心配することなど、何一つも存在しなかった。

(あぁ、きっと明日は青空の下で、皆笑顔になれる日が来る……。大ショッカーも未確認も4号もない、平和な世界で――)

そうして、満足げに彼は瞳を閉じて。
きっと、空を彩る眩しい青の一部となったのであった。

【五代雄介 脱落】
【ライダー大戦 残り人数 6人】

もう二度とライダーを破壊しない、そう誓ったはずなのに、自分は結局五代を殺すことでしかこの悲劇を終わらせられなかった。
これでは結局、金居や渡たちの言う破壊者から、何も変わっていない。
遂にその瞬間、ディケイドは膝を折って。

「--うあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

絶叫と共に、その拳を振り下ろすことしか出来なかった。
失意に沈むディケイドの元に、五代の足下に置かれたライドブッカーより、カードが飛び出してくる。
仮面ライダークウガの力を取り戻したことを意味するそれを、ディケイドは流石にいつもの調子で掴むことは出来ず。


102 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:07:22 1FDzq.Hk0

そのまま力なく落下したカードを一瞥することもなく、ディケイドは五代の先に転がる巧を見る。
――息はある。
なれば自分がここでするべきは、戦場であるこの場で生身の仲間を差し置いて悲しみに暮れ絶望することではないはずだ。

まだ自分を仮面ライダーと信じてくれる仲間のためにも、ここで立ち止まることは最も許されないことであった。

「そうだよな、――雄介」

笑顔のまま逝った彼にもう一度視線を送り、彼は再度歩み出した。
巧を抱きかかえ、ディエンドライバーをデイパックに仕舞い、クウガのカードをしっかりと納めて。
全ての罪が許されなくとも、自分には立ち止まっている暇などないと。

仮面ライダーディケイドは、未だその旅を続けるのだった。

【門矢士 離脱】
【乾巧 離脱】

【ライダー大戦 残り人数4人】





ディケイドが取り戻したクウガの力。
それが死の間際五代雄介に仮面ライダーとして信頼を受けたから取り戻すことが出来たのか、それとも破壊者として仮面ライダークウガを破壊したために得られたものなのか。
もはやそれは士にも、恐らくは誰にもわからないことだった。





「どれだけ念じても来ないと思えば、やはりこういうことだったのですね……」

ディケイドたちが去ってから数分の後。
キング、紅渡はそこに横たわるライジングアルティメットの死体を見て、そう呟いた。
ディケイドたちとの戦いの最中、彼らの背中の先に横たわるギラファアンデッドを見た渡は、そのまま戦いから離脱し、ライジングアルティメットを操る術を見極めようとその姿を影から見ていた。

その結果、緑の戦士二人が次いで破壊しようとし、また金居が発した「地の石さえおいていけば危害は加えない」という言葉から、その石がライジングアルティメットを操るのに必要なものであり、そしてその石を奪えば彼の支配権を得られることを理解したのだった。
そして、緑の戦士と金居の決着を見届けた後、地の石を奪い、そこに現れた黒い仮面ライダーと戦闘に突入。
適当なところで離脱するべきかと判断したところで、豹変した相川始の乱入を許したということである。


103 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:07:39 1FDzq.Hk0

「始さん……いいえ、相川始。貴方もまた僕と利用し合うだけの関係、でしたね」

そう呟く声には怒りも込められていたが、しかし一方で寂しげな表情を浮かべていたことに、彼は気づいたのだろうか。
ともかく、と彼は先ほどの戦利品であるひび割れた地の石を握りしめる。
クウガは死に、この石の意味は最早なくなったも同然、この戦いでスコアもあげられず、得られたものは実質ないように彼には感じられた。

「とはいえ、確実に参加者は減りました。これで、僕の世界の平和も――」

そこまで口にして、名護たちと出会った時、この惨状を引き起こしたのが自分だと知ったら彼らは悲しむだろうなとふと胸をよぎった。
しかし、と彼は大きく頭を横に振って。

「いえ、僕は新しいファンガイアの王。こんなところで立ち止まっているわけにはいきません」

――結局のところ、結論を先延ばしにすることで、その思考を終わらせる。
そのまま、ここにいる意味もないと相川始が乗ってきたハードボイルダーに跨がって。
未だ迷う若き王は、戦場を後にした。

【紅渡 離脱】
【ライダー大戦 残り人数3人】





「ハァァァァァァ!!!!」
「ウオォアァァァ!!!!」

病院に残った参加者のうち、未だに戦い続ける男が二人。
一人はその思考を破壊に染め上げられた死神、ジョーカー。
そしてもう一人はその狂気をその一身に受け止めようとする仮面ライダー、響鬼。


104 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:07:56 1FDzq.Hk0

しかしその戦況は、先ほどまでと変わらず少しばかり響鬼の不利のようであった。
理由は単純。
純粋に、仮面ライダー響鬼の最強形体であるアームド響鬼を以てしてもジョーカーの全力には僅かに及ばないのだ。
むろん元より彼らの間にはダメージの差が存在したが、それを差し引いても戦況は響鬼のジリ貧のように思えた。

しかし、響鬼の目的はジョーカーの封印ではない。
彼の狂気を止め、その身を相川始に返してやること。
故に、彼は自身最強の一撃を出し渋っているのであった。

「グアァ、グアァァァァァ!!!!」
「――相川、苦しいのか?」

しかし、そんな中、ジョーカーが突然頭を抱え暴れ出す。
それがまるで響鬼には、早く止めてくれとそう懇願するように見えて。
このまま彼を暴れさせ続けるよりも、全力の一撃で強制的にその活動を制止させた方がいいのではという考えが、響鬼に浮かんでいた。

「わかったよ、それなら--鬼神覚声!」
「グアァァァァァ!!!!」

響鬼がアームドセイバーに向け気合いを高めるのと同時に、ジョーカーもまたその腕の鎌にこれまでで最高のエネルギーを高めていく。
どちらにせよ、これで終わらせる。
その思いと共にアームドセイバーを構えると、その短剣の先から、響鬼の何倍もあろうかという炎の剣が象られた。
さしものジョーカーも緊張を高める中、両者は一斉にそのエネルギーを相手に向けて――。

「タァーーー!!!!」
「ウオォアァァァ!!!!」

瞬間、あたりは爆発に包まれた。


105 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:08:15 1FDzq.Hk0





「ってて……」

インパクトの数秒後、あたりを包んだ煙が晴れた中で、響鬼――否既に日高仁志の姿を晒している――は一人呟いた。
余りの衝撃であったが、ジョーカー、相川始は死んではいまい。
さて一体どこへ、と全裸のまま歩き出そうとした、その瞬間だった。

「――ご無事でしたか。ヒビキさん」

後ろから、妙にヒヤッとする声をかけられ、ヒビキは思わずといった様子で振り返る。

「……って何だ志村か。驚かすなよ」
「申し訳ございません、そんなつもりはなかったんですが」

そこに立っていたのは仲間である志村純一、故に警戒は必要ないとヒビキはそのまま前を向く。
と、流石に一人ならともかく人前で全裸のままでいるのは小っ恥ずかしいと、ヒビキはデイパックから着替えを取り出し、それに着替えていく。
その間会話がないのも何なので、ヒビキはいつもの調子で後方の志村に語りかける。

「今のところ、他に誰と会った?」
「いえ、自分も先ほどから気を失ってしまっていて、ヒビキさんが見つけた一人目です」
「そうなのか……、実は俺も五代とか金居から離れたところで戦ってたからさ、皆がどうなってるのか心配なんだ。
あ、でも鳴海と矢車、それから葦原と乃木は逃げたのをちゃんと確認したぞ」

それを聞いて、そうですか、と短く済ませる志村。
それに何か違和感を覚えつつも、ヒビキは会話を続ける。

「そう言えばさ、相川ってお前の世界の住人なんだよな?確か、橘のいた時代より三年?だか未来から来たらしいけど、あいつはどうなったんだ?」
「……聞くまでもないでしょう。アンデッドは一旦全てを封印されました。ジョーカーも例外なく。それが解放されたから俺たち所謂新世代ライダーが生まれたんです」
「へぇ……」

……やはりだ。
先ほどから何か、志村から異様な雰囲気を感じる。
まさか、とは思いつつも、ヒビキはその四肢に布を纏い、一つ息をつき、先ほど彼が現れ、その顔を見てからの最大の疑問を投げかけた。


106 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:08:32 1FDzq.Hk0

「ところでさ」
「……はい」
「――何でお前の血緑色なの?」

――それは、彼の鼻や頭から流れ出る血の色が、人間のそれと明らかに違うこと。
それに対し、志村はいつもの笑顔を絶やさぬままゆっくりとヒビキの元へ歩んでくる。

「あぁ、それなら気にする必要はありません」
「そうなのか?でも――」
「――すぐにあなたの血で、赤く塗り直しますから」

その言葉と同時、一瞬で膨れあがった殺意を感じ取ったヒビキは、そのまま大きく後ろに飛び退こうとして――。

――OPEN UP

一瞬で間合いを詰められた。
そのまま自分の身体をグレイブラウザーが貫いていくのを感じて、流石のヒビキもすぐに立っていられなり、力なくグレイブによりかかってしまう。

「最後に一つだけ教えておいてやるよ。天音あきらを殺したのは、俺だよ、ヒビキ。
あいつもお前も最後の最後まで人の悪意を疑うことすらしないなんて、全く最高の世界だな、お前らの世界ってのは」

そこまで言って、一気にグレイブは剣をヒビキの身体から引き抜いた。
そのまま徐々に遠ざかっていく足音を耳にしながら、ヒビキはその震える手で以て最後のメッセージを遺す。
それが出来るのはグレイブの油断ではなく、ヒビキの鍛え抜かれた身体と精神力のためであったが、修行を途中で諦めたあきらのみしかしらないグレイブには、それに気づくことなど出来るはずもなかった。


107 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:08:53 1FDzq.Hk0

(皆、後のことは・・・・・・、頼んだぜ)

『頑張れ、仮面ライダー。 ヒビキ』

地面に刻むその言葉は、志村へのダイイングメッセージ・・・・・・などではなく、仲間たちへの鼓舞。
なぜなら、どんな巨悪であろうと仲間たちは必ずそれを打ち倒してくれると、そう信じているから。
自分が最後に残す言葉は、本当に自分が言いたいことであるべきだと、彼はそう思ったのである。

ありきたりでも、きっと自分の思いは十二分に彼らに伝わるはずだ、とそう信じて。
と、瞬間胸中に去来するは数少ない未練。

(少年、最後まで成長、見届けてやれなくてごめんな……。京介、こんな師匠で本当ごめん、何とか、生き延びてくれ)

元の世界で帰りを待っているであろう弟子と、この場でまだ戦っているはずの弟子を思いながら、目をつむることだ。
――その弟子である京介が、自分より遙か未来、鬼となった時代より来ていて、そして数分前にその命を落としたことなど、もちろん知るよしもないまま。
歴戦の音撃戦士は、他人を疑う、ということと無縁であったために、その命を悪に刈り取られたのだった。

【日高仁志 脱落】
【ライダー大戦 残り人数……1人】





かくして、病院を舞台とした大激戦の結果は、凄惨たる状況と主たる目的であった五代雄介の死、というある種最悪の形で、その幕を下ろした。
しかし、彼らに悲しんでいる時間はない。
限られた時間は動き続けるのだ、そう、今も――。





「ハァッ、ハァッ……、俺は、また……、ジョーカーに――!」

彼、相川始は、F-4エリアにある川のほとりで、先ほどまでのジョーカーの姿を変身制限によるもので強制的に相川始のものに戻しながら、大きく息をした。
あの時、響鬼と自身の攻撃のぶつかり合いによる爆発による衝撃が収まる前に、ジョーカーはなおもその本能のまま破壊を続けんと進軍を再開しようとした。
しかしそれは、すぐに止まる。


108 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:09:11 1FDzq.Hk0

自身の元に近づく、もう一人のジョーカーの存在を、感覚で把握したため。
そのイレギュラーへ本能的に危機感を覚えたジョーカーは、そのまま戦場から駆けだし、そのまま変身制限いっぱいまで、こうして逃げてきたようである。
そんな最中にも、頭の中に、どうしようもない疑問は沸き上がり続ける。

何故、キングフォームに唯一なれるはずの剣崎が死んだのに、自分の中のジョーカーが刺激されたのか。
何故、ジョーカーがもう一人いるのか。
何故、何故、何故――。

「剣崎、俺は――!」

今はもう亡き友に、思わず縋ろうとして。
次の瞬間には、彼の意識は闇に消えていた。
疲労と、何よりジョーカー化の反動によって。

彼が再び目を覚ましたとき、その頭には、一体何があるのか。
それはまだ、誰にもわからないことだった。


【一日目 真夜中】
【F-4 川のほとり】


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(中)←回復中、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、仮面ライダーカリスに1時間55分変身不可、ジョーカーアンデッドに1時間50分変身不可
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1、
【思考・状況】
(気絶中)
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
0:俺は、また暴走してしまった……。
1:この殺し合いに乗るかどうかの見極めは……。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄叫びで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※キバの世界の参加者について詳細な情報を得ました。


109 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:09:30 1FDzq.Hk0





「どうやら、戦いは収まったようですね?野上君」
「そうみたいだね、村上さん。とはいえ、あんな大きい病院を壊せちゃうなんてここには本当に予想のつかないことがいっぱいだよ」

眼鏡を持ち上げながらそう返すのは、野上と呼ばれた青年、より細かく言えばそれに憑依しているウラタロスであった。
30分ほど前に病院が崩壊したのを見て、そちらに向け走っている最中、良太郎に身体を任せていては何度躓けば済むかわからないという意見でウラタロスが主導権を握ったのだ。

(それにしても、本当、信じられないね。東京タワーが倒壊したかと思えば、今度は病院だ)
(けど、ウラタロス、東京タワーの時と違って、爆弾じゃないみたいだったよ)

脳裏で良太郎が不安そうな声を上げるのを聞きながら、ウラタロスは思う。
あの倒壊が、東京タワーのものと同じく爆弾によるものならばまだ良い、だが個別の参加者によるものだったとしたら――。

「もしそんな奴と出会ってたなら、流石の先輩でも厳しいか」
「……何か言いましたか?」
「いえ、何も――って、言ったそばから」

チラとウラタロスと村上が視線を前に送れば、そこにいたのは男を背負った見知らぬ男。
あちらもこちらに気付いたようであるが、手負いの参加者を背負っているために、無防備にこちらに歩み寄ることが出来ないようであった。
であれば、と村上を右手で制して、ウラタロスは一歩前に出た。


110 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:09:47 1FDzq.Hk0

「こんばんは、あなたは病院の方向からやってきたように見えますが、もしかしてあなたは先ほど何故病院が倒壊したか知っているんじゃないですか?」
「……」

返答はない。
らしくなく焦りすぎたか、とウラタロスは自省し、ふっと一つ息をつき、努めて冷静であろうと気持ちを切り替える。

「すみません、自己紹介もまだなのに。……僕の名前は野上良太郎、彼は村上峡児さん。よければあなたたちの名前も――」
「良太郎か、それで合点がいった。お前、ウラタロスだろ?」

――ぴしゃりと、この場では未だ誰にも言っていなかった名前を言い当てられて、さしものウラタロスもその口を止めてしまった。
しかし、一体何故?モモタロスやリュウタロスと交流していればその名を知れる可能性はあるが、それでも表に出ている人格を初対面で当てられるはずもあるまい。
後方で村上が「ウラタロス……?」と怪訝な声を上げ、自身の背中に刺さるプレッシャーが膨れあがるのを感じると同時、すっとぼけても無駄かとウラタロスは思考を入れ替える。

「――確かに、僕はウラタロスだよ。でもそれを知ってるってことはせんぱ……、モモタロスやリュウタロスと会ったってことで良いのかな?」
「いや、あいつらにはここでは会ってない。それより、お前がいるってことはキンタロスも一緒にいるんだろ?もしかしてあの白鳥野郎も一緒か?」

(どういうことやウラの字!あいつ俺らのことどころかジークのことまで完全にしっとるのにモモの字やリュウタには会ってないって言うてるで!)
(――キンちゃん、ごめん、少し静かにしててくれる?僕にもよくわからないんだ、もしかしたら良太郎の言うとおり侑斗が来てるのかもしれないけど――)

驚きの名前を連呼し、しかも自分の仲間たちに――この場では――会っていないと宣う目の前の輩への疑問と注目が否応なしに高まる良太郎の脳内を尻目に、思考停止したように見える良太郎に呆れたのか、村上が前に歩み出る。

「お話の途中で失礼します、彼とお知り合いのようですがお名前は――」
「いや、俺は良太郎とは初対面だ。――いや、このウラタロスたちとも初対面なのか?」
「――お名前は?」

意味のわからない言葉を自分のペースで喋り続ける男に声が思わず怒りの色を帯びるのを隠しもせず、村上は問う。
それに対し、相手はようやく、ああ、と小さく呟いて。

「俺の名前は門矢士、そして背負ってるこいつは乾巧だ。知ってるだろ?村上」


111 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:10:04 1FDzq.Hk0

その名を聞いて、村上もまた、その表情を確かに強ばらせた。

――一方で、会話を意図的に混乱させている士の胸中も、決して穏やかなものではなかった。
野上良太郎に村上峡児。
志村によって殺し合いに乗っていると告げられた二人の男と、傷だらけの身体で巧を庇い戦わなければいけないかもしれないのだ。
余裕など、持っていられるはずもない。

(とはいえ、ウラタロスたちがそうおめおめと殺し合いに乗るとも思えない。もしかすると、俺の考えた通り志村の方が・・・・・・)

と、先ほどの死体の中で志村だけがいなかったことと併せて考えながら、士は今、今一度ディエンドライバーの所在を悟られぬように確かめた。


【一日目 真夜中】
【D-5 高原】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意、仮面ライダーディケイドに1時間30分変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、サイガ、コーカサス)@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:良太郎たちに対処。本当に園崎冴子と天美あきらを殺害していた場合は……。
2:野上良太郎は本当に殺し合いに乗っているのか?
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ガドルから必ずブレイバックルを取り戻す。
6:ダグバへの強い関心。
7:音也への借りがあるので、紅渡や(殺し合いに乗っていたら)鳴海亜樹子を元に戻す。
8:仲間との合流。
9:涼、ヒビキへの感謝。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、ファイズ、ブレイド、響鬼の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※参戦時期のズレに気づきました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は光夏海以外には出来ないようです。
※亜樹子のスタンスについては半信半疑です。


112 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:10:22 1FDzq.Hk0




【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、気絶中、深い悲しみと罪悪感、決意、自身の灰化開始に伴う激しい精神的ショック(少しは和らいでいる)、仮面ライダーファイズに1時間25分変身不可
【装備】ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×3、首輪探知機@オリジナル、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。世界を守る。
0:(気絶中)
1:天道の遺志を継ぎ、今度こそ誰も死なせない……はずだったのに。
2:『仲間』である士達を護る。
3:ディケイドが世界の破壊者であるとしたら自分が倒すが、それまでは信じていたい。
4:園咲夫妻の仇を討つ。
5:全てが終わったら、霧彦のスカーフを洗濯する。
6:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
7:信頼できる相手に、自分の託されたものを託しても良い……?
8:仲間達を失った事による悲しみ、罪悪感。それに負けない決意。
9:乃木怜治を敵視。
【備考】
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界、志村の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※志村の血の匂いに気づいていますが、それはすべて村上たちのせいだと信じています。
※オルフェノクの寿命による灰化現象が始まりました。巧の寿命がどの程度続くのかは後続の書き手さんにお任せします。
※士に胡散臭さを感じていますが、今現在は信頼しています。





【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中)、目の前の青年(士)への困惑
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。
0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。
1:今は村上さんと一緒に、目の前の二人に対処する。
2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
3:リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:電王に変身できなかったのは何故…?
6:橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。
7:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ウラタロスは志村と冴子に警戒を抱いています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。


113 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:10:51 1FDzq.Hk0




【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、バードメモリに溺れ気味
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
0;まずは目の前の二人への対処、最悪殺す。
1:良太郎の同行は許すが、もしもまだ失態を重ねるようであれば容赦しない。
2:志村は敵。次に会った時には確実に仕留めるべき。
3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。
4:冴子とガイアメモリに若干の警戒。
【備考】
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。





「ぐ……、あれ、俺は……」

痛む身体を押し上げるようにして、彼、橘朔也は一人焼け野原と化した木々の中で目を覚ました。
あの時、自分はゾルダの弾丸に飲み込まれ死んだはずでは?
一体何がどうなっているのか、とあたりを見渡す橘の元に一つの足音が近づいてくる。

「――誰かいるのかッ!?いるなら返事をしてくれ!」
「その声……、橘チーフ!?俺です!志村です!」


114 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:12:03 1FDzq.Hk0

元の世界が一緒であり、未来の自分の部下らしい志村が“その顔についた赤の血”を拭うこともなく現れたことで、橘の緊張は一気にほぐれる。
もちろん、こんな戦場で仲間に会えたからと言って笑顔を浮かべるほど、彼は楽天家でもなかったが。

「チーフ、無事だったんですね!」
「あぁ、どうやらそうらしい……。戦いはどうなった?皆は?」
「その、俺も途中で気を失ってしまって、気付いたら全てが終わった後だったようなので、そこまで詳しくは……」
「そうか……」

申し訳ございません、と続ける志村を尻目に、橘は深くため息をつく。
せめてこの場で得た仲間を守ろうと戦いに赴いた途端に、これだ。
激しい戦いではあったようだが、不意打ちで戦況から離脱するなど、仮面ライダーとして失格も良いところだった。

「ですが、周辺を散策する内にフィリップくんは見つけました。傷ついていたようだったので、今は病院の無事なベッドに寝させていますが」
「……そうか!フィリップは無事だったか!」

思わずといった様子で仲間の無事を喜ぶ橘だが、それを告げる志村の顔があまりに暗いために、どうやら今のは俗に言う“良いニュース悪いニュース”の“良いニュース”であったらしいことを理解する。
そして、迷うような表情を浮かべたままの志村に言葉を促すように橘が頷くと、彼は遂に重い口を開いた。

「……周辺を見て、死体を見つけられたのは海東さん、秋山さん、ヒビキさん、そして腰につけていたベルトから推測するに恐らく――五代雄介さんです。他の皆さんのものは支給品まで含めても見つからず――」

――橘が言葉として理解できたのは、そこまでであった。
ヒビキが、秋山が、海東が、そして五代が、死んだ?
では、自分たちが犠牲を払ってまで得ようとした成果は何一つとして得られなかったというのか、全て、この手からすり落ちていったと言うのか。
では、では一体自分たちは何のために――。

――茫然自失とする橘をその目に納めながら、死神は気付かれぬよう口角を吊り上げていた。


115 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:12:24 1FDzq.Hk0





橘朔也、仮面ライダーギャレンがゾルダのシュートベントの一撃を食らってなお命があったのには、もちろん理由がある。
それは、彼が持っていたザビーブレス、それに付随するザビーゼクターによるものであった。
ザビーゼクターがこの場に来てから何度も主を選定しようとし、その度に様々な事情からその機会を奪われてきたのは以前述べられたとおりである。

さて、では今選定を受けている橘朔也という男、彼はどうだろうか?
仲間のためを思い、自分を投げ打つことが出来る覚悟と、他人を率先して行動を起こそうとする行動力、決断力は確かに持ち合わせているらしい。
だが、この男には恐怖が潜んでいる。

以前自分が選定しようとした北條という男を殺したダグバという怪人に対し、またそれを打ち倒そうとその身を闇に染めた小野寺という男に対し、彼は危惧を通り越して単に恐怖を抱いているように感じたのだ。
自身を使い、子分蜂を率いる女王蜂となる資格者には、敵への恐怖など部下の士気を下げるだけなのである。
故にその後彼をデストワイルダーが殺害しようとしても、ザビーゼクターは一切の力を貸さなかった。

ではそのまま彼を見捨てたか、と言われれば、その答えはNo。
病院に着き、未来の部下と出会い、確かに多くの仲間を前にして自分に出来ることを、死んだ部下の分まで成そうとするその意志は、確かに自分を用いるのに相応しい資格者の風格であった。
その後ほどなくして始まった戦いの中、彼はその命を儚く散らそうとする。

――こいつをここで死なせるのは、惜しい。

それが、その時のザビーゼクターの思いであった。
故にそのままギャレンを爆発から僅かに反らし、直撃を躱したためにその命を救うことに成功する。
打ち所が悪かったらしく今の今まで伸びていたが、まぁ今後に大きな障害となるような怪我もないようだし、よしとするべきだろう。

さて、この男は仲間の死を知ってどうするのか?
ただ無力感にうちひしがれるのか、その無念に報いるため戦士として戦うのか。
どちらにせよ、ザビーゼクターの決断は、まもなく下されようとしていた。


116 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:13:26 1FDzq.Hk0


【一日目 真夜中】
【E-4 病院跡地】


【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】精神疲労(大)、全身に中程度の火傷(手当済み)、仲間の死に対しての罪悪感、自分の不甲斐なさへの怒り、クウガとダグバ及びに大ショッカーに対する恐怖 、決意、仮面ライダーギャレンに1時間25分変身不可
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW、、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×4、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードは付いてません)@仮面ライダーカブト、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:まずは今後の方針を考える。
2:首輪の解析は、事態が落ち着いてから取りかかる。
3:志村純一と共にみんなを守る。
4:小野寺が心配。
5:キング(@仮面ライダー剣)、(殺し合いに乗っていたら)相川始は自分が封印する。
6:出来るなら、亜樹子と始を信じたい。
【備考】
※『Wの世界万能説』が誤解であると気づきました。
※現状では、亜樹子の事を信じています。
※参戦時期のズレに気づきました。
※ザビーゼクターに見初められたようです。変身もできるのか、保留扱いで生かされただけなのかは後続の書き手さんにお任せします。





【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身打撲、ダメージ(大)、仮面ライダーG4に――時間変身不可、アルビノジョーカーに1時間25分変身不可、オルタナティブ・ゼロに1時間30分変身不可、仮面ライダーグレイブに1時間35分変身不可
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、ラウズカード(クラブのJ〜K、ダイヤのK)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×4(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 、G3の武器セット(GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GK-06ユニコーン)@仮面ライダーアギト
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
0:後々地の石を奪い逃げた白い仮面ライダー(サガ)を追い、地の石を奪う。
1:バットショットに映ったアルビノジョーカーを見た参加者は皆殺しにする。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。
5:フィリップを懐柔し、自身の首輪を外させたい。
6:首輪を外させたらすぐにフィリップを殺す。正体発覚などで自分の首輪を解除させるのが困難になっても最優先で殺害。
7:乃木を警戒。何とか潰したい。
8:ライジングアルティメットを支配し、首輪を解除したら殺し合いに積極的になるのもいいかもしれない。
【備考】
※555の世界、カブトの世界、キバの世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
 ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
 ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。
※封印(SEAL)のカードは破壊されました。
※オルタナティブ・ゼロのデッキは極力秘匿するつもりです。
※現在、目立つ箇所についた血を拭ってその上からヒビキの血を塗りたくっています。


117 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:13:48 1FDzq.Hk0





彼、フィリップが目を覚ましたとき、目前に広がるのは視界いっぱいに広がる星空であった。
しかし一方で自分の周りには白の掛け布団とベッドが見え、どうやら奇跡的に残った病室の一部であるようだということが理解できた。
一体皆はどうなったのか、と痛む身体を起き上がらせると、瞬間全身に鈍い痛みが走りそのままベッドに逆戻りしてしまう。

どうやら、先ほどの戦いにおけるダメージは、馬鹿にならないようだ。
枕元にダメージを回復したらしいファングを視認して、今は少し休むべきか、と彼が再び目を閉じようとした、その瞬間だった。
その右手に、違和感を覚えたのは。

「――ん?もしかしてこれは……」

触り心地に覚えのある、妙にしっくりくるそれをそのまま持ち上げるように目前に構えると、それは、見覚えのある緑に輝いた。
全てが、彼の持つ運命のメモリ、サイクロンそのものであった。
――そう、ただその端子が青色である以外は。


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、照井、病院組の仲間達の死による悲しみ、仮面ライダーサイクロンに1時間30分変身不可
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+(T2サイクロン+T2エターナル)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル
【思考・状況】
0:亜樹子が殺し合いに乗っているのなら何としてでも止める。
1:志村純一を待つ。皆が心配。
2:大ショッカーは信用しない。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:園田真理を殺したのは白い化け物。
5:首輪の解除は、状況が落ち着いてもっと情報と人数が揃ってから取りかかる。
6:出来るなら亜樹子を信じたいが……。
7:乃木怜治への罪悪感と少しだけの信用。志村純一は信用できる。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※今のところは亜樹子を信じています。
※園咲冴子と天美あきらを殺したのは村上峡児と野上良太郎だと考えています。
※鳴海亜樹子と惹かれ合っているタブーメモリに変身を拒否されました。
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をエクストリームメモリのガイアスペース内に収納しています。


118 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:14:05 1FDzq.Hk0





F-6エリアにある住宅街、その中にある一見すると見逃してしまいそうな小さな廃工場の中で、彼らは休息を取っていた。
中にいるのは乃木、矢車、葦原の三人。
中でも葦原は、一人落ち着きなく建物内を歩き回っていた。

「……いい加減やめたらどうだ?どうせもう病院には禁止エリアの関係で戻れん」
「例えそうでも!俺はヒビキを助けに戻りたいんだ!あいつは俺たちのために――!」
「……はぁ、葦原涼、病院の方面に戻り彼らと合流するかを決めるのは放送を聞いて、俺たちの変身制限が解除されてからだってことで解決したと、何度も説明しただろう」
「それでも俺は――!」

先ほどからずっとこの調子だ。
何度合理的に説明しても、だだをこねる子供のようにフィリップを、ヒビキを助けに行くと聞きはしない。

「……全く以てうるさいやつだ」
「……貴様と意見が合うなんて、最悪だな」

葦原に聞こえぬように漏らした乃木の愚痴をどうやら聞いていたらしい矢車と顔を見合わせ、深くため息をつく。
どうせならこの場から逃げ出したいのだが、生憎右足が真反対にへし折れてしまっているためにそれも叶わない。

(いや、ここまでのダメージならば、いっそ――)

と思考をして、ふと葦原に気を取られ気付かぬ内に消えていた存在を思い出す。

「矢車想、そう言えば鳴海はどこだ?」
「あぁ、お花摘み、ってやつだ」
「小便にしちゃ長すぎないか?」
「……葦原、お前、デリカシーないってよく言われるだろ?」
「言われるが……それがどうかしたか?」

なんてことのないように返す葦原に対し、今度こそ二人は同時に深いため息をついた。


119 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:14:28 1FDzq.Hk0





「あぁ、タブー……!」

廃工場の中で男三人が不思議なコントを繰り広げる一方で、亜樹子はもちろんトイレなどという理由でその場を離れたわけではなかった。
それは、あの病院で手に入れた自分の力、タブーを味わうため。
亜樹子の脳裏にリフレインするのは、幾多というガイアメモリによってその人生を壊されたものたちと、その家族の姿であった。

子供の使用により泣き崩れる母親、妻の使用により崩壊する家族、そして能力の犠牲となった人々の遺族――。
そうしたガイアメモリの悪意をこれでもかと目の当たりにしてきた亜樹子は、本来ならばこんな形でガイアメモリと呼び合うことなどなかったはずであった。
しかし重なる不運にその強い心は折れ、それをまた立て直したときは、誤った方向に向いてしまったのだ。

それを自分でも薄々感じつつ、しかしもう後戻りも出来ないと、彼女は唾を呑んだ。
美穂を見殺しにし、東京タワーに多くの人間を生き埋めにし――。
今更自分が何を許されようというのか。

――TABOO

覚悟と共に、惹かれ合うお互いを求めるように、彼女は“禁忌”を首輪へと挿入する。
一瞬の後、彼女の身体は異形のものへと変貌する。
その胸に、もはや迷いはない。

この強大な力を持ってすれば、倒せない相手など存在しない。
そう、自分は間違っていたのだ、最初から、こうして力で仮面ライダーどもをねじ伏せれば、迷うことなどなかったというのに。
全ての参加者を殺し、この力の前にひれ伏させる。

今の自分ならそれが出来ると、そう確信して。
そのままタブーは廃工場の中へと進軍していった。





「……葦原じゃないが、それにしても流石に遅すぎないか?」
「誰かに襲われたのかもしれない、俺が行って――」

と、駆け出そうとする葦原に対し、矢車はその足を引っかける。
受け身も出来ず倒れた葦原だが、流石にその顔には怒りの表情が見て取れた。

「一体何のつもりだ、矢車!」
「亜樹子の覗きをしようったって、そうは行かない。妹は、俺が守る」
「何を馬鹿なことを言って――!」
「――矢車、葦原!どけ!」

と、その瞬間絶叫をしたのは、意外なことに乃木であった。
片足が利かないままにもう片方の足で葦原たちを蹴り飛ばしたのだ。
一体何のために、と吹き飛ばされながらそちらを見やれば、乃木はその瞬間まさに火の玉に飲まれようという瞬間であった。


120 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:14:46 1FDzq.Hk0

「――乃木!」

思わずといった様子で叫ぶ葦原に対し、乃木はその状況に不釣り合いな笑みを浮かべる。
――これで第二の命ともお別れだ、と。

(まぁ、温存できるならするべきだが、ここまでの傷を負っては一度死んで第三の命を使った方が得策だろうからな)

そう、彼は自分の最後の能力である三つの命を使って、この足の傷を強引に治そうとしていたのだった。

自分に対し事情も知らず絶叫する葦原を見ながら、乃木は思う。
首輪に制限を設けられているというなら、それごと焼き払ってしまえば復活に制限もあるまい。
これこそが、自分の考え出した最高のストーリーなのだ、と。

(仮面ライダー諸君にも十分媚は売れただろうしな、次の命の時は、是非とも利用させてもらうよ――)

その身を巨大な火の玉に焼かれながら、彼は笑う。
次の命の時にこそ、最後に勝者となるのは自分なのだ、と。
そうして、一瞬のうちに、ワームの王はその肉体を一片も残さず世界より消滅した。

「――乃木ィィィィ!!!」
「静かにしろ、お前も殺されたいのか」

何度も絶叫する葦原を戒めつつ、矢車はその手にゼクトマイザーを握りしめる。
だが一方で、なぜ自分たちの居場所がバレたのだ、と思わずにはいられなかった。

(周辺には簡易的だが罠も張っていた……、もちろん少しでもそういった知識を囓ったことがあれば容易に対策も出来るが……)

この襲撃者が自分の設置した『無造作に近づけば中の人物にその接近を知らせる仕掛け』をくぐり抜け、自分たちを攻撃した、だけならばまだいい。
もし、罠の場所も自分たちの居場所も全て知っている参加者があの怪物の正体だったなら?もしそうなら自分は――。

(いや、今はそんなことを考える場合じゃない、今考えるべきは――)

――どうやって“今”を生き残るか、それだけだ。


121 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:15:08 1FDzq.Hk0


【一日目 真夜中】
【F-6 工場地帯】


【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、困惑、仲間を得た喜び、ザンキの死に対する罪悪感、仮面ライダーギルスに1時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:取りあえず、目の前の怪人に対処する。
2:亜樹子は無事なのか……?
2:人を護る。
3:亜樹子を信じる。
4:門矢も信じる。
5:ガドルから絶対にブレイバックルを取り返す
6:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※現状では、亜樹子の事を信じています。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。




【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】全身に傷(手当て済)、闇の中に一人ではなくなったことへの喜び、仮面ライダーキックホッパーに1時間変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:取りあえず目の前の怪人に対処。もしやこの怪人は……。
2:五代雄介に興味。可能なら弟にしたい。
3:士の中の闇を見極めたい。
4:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
5:亜樹子の思惑がどうであれ、妹として接する。またその闇を見極める。
6:音也の言葉が、少しだけ気がかり。
7:自分にだけ掴める光を探してみるか……?
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。
※鳴海亜樹子を妹にしました。
※亜樹子のスタンスについては半信半疑ですが、殺し合いに乗っていても彼女が実行するまでは放置するつもりです。
※目前の怪人(タブー・ドーパント)が亜樹子の変身したものではと疑っています。


122 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:15:25 1FDzq.Hk0




【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(劇場版『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』直後)
【状態】ダメージ(小)、極めて強い覚悟 、ガイアメモリ使用による気分高揚、タブードーパントに変身中
【装備】ガイアメモリ(タブー)@仮面ライダーダブル
【道具】無し
【思考・状況】
基本行動方針:風都を護るため、殺し合いに乗る。
0:例え仲間を犠牲にしてでも優勝し、照井や父を生き返らせて悲しみの無い風都を勝ち取る。
1:最高の気分。この力で目の前の二人をぶっ殺す。
2:他の参加者を利用して潰し合わせ、タブーの力で漁夫の利を得る。
3:できるなら、地の石やエターナルのメモリが欲しい。
4:当面は殺し合いにはもう乗ってないと嘘を吐く。
5:東京タワーのことは全て霧島美穂に脅され、アポロガイストに利用されていたことにする。
6:首輪の解除は大ショッカーの機嫌を損ねるからうまく行って欲しくない。
【備考】
※良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。
※放送で照井竜の死を知ってしまいました。
※タブーメモリの過剰適合者でした。現在声は変声機能を使っているためくぐもっています。





焦土と化したD-2の元市街地から、逃げるように飛行する不思議な物体が一つ。
その名をレンゲルバックルといい、この場では最早珍しくもない意志をもった支給品の一つであった。
こうして彼が逃走している理由はただ一つ、規格外の能力を持つダグバ、そしてクウガから少しでも遠くに離れるためだ。

あんな存在と戦っていては命が幾つあっても――レンゲルバックルを操るスパイダーアンデッドは不死身だったが――足りはしない。
故に誰か自分を拾った参加者にクウガとダグバの危険性を伝え、そのままここから離れるよう進言することこそが、自分が生き残るのに大事なことである、とそこまで考えて。
彼は、真横に白の円盤のような飛行物体がいつの間にか並んでいることを認識する。


123 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:15:40 1FDzq.Hk0

あっ、と思ったときにはもう遅く。
レンゲルバックルの身体は、そのまま地表に向けて真っ逆さまに落下――しない。
その身を、赤い鞭のようなものに絡み取られたため。

「――ありがとう、サガーク」

鞭を操る男は、そのまま先ほどの円盤に向けて礼を述べる。
どうやらこいつが俺の新しい宿主らしい、態度は気に入らないがまぁいいだろう。
俺の見てきた悪夢を、お前にも見せてやる――。

男がレンゲルバックルをその手に直接掴んだ瞬間、一気に映像が流れ出す。
クウガとダグバ、その圧倒的な実力と絶望的な暴力の恐ろしさを。
さぁ恐れおののけ、そのままUターンして向こうの参加者を皆殺しに――。

「……ライジングアルティメット?」

と、小さく男が呟いた言葉にその暗示を遮られる。
そのまま怪訝そうに一瞥をくれたかと思えば、レンゲルバックルは彼のデイパックの奥深くに仕舞い込まれてしまった。
戻れ、戻れと脳内に念を送るが、先ほどの牙王という男と同じく精神干渉に耐性があるのか、それともよっぽどクウガたちに対する特攻策があるのか、その声に従う様子は一切見られなかった。

――仕方ない、プラン変更だ。

ここまでくれば、いっそどうとでもなれ、だ。
ダグバにでも何でもとりついて、最後の最後まで殺し合いを進めてやろうじゃないか。
半ばやけくその覚悟を決めながら、レンゲルバックルと、それに収められているスパイダーアンデッドは、またしても西側へUターンを開始したのだった。


124 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:15:58 1FDzq.Hk0


【一日目 真夜中】
【D-3 橋の中央】

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、地の石を得た充足感、相川始の裏切りへの静かな怒り、仮面ライダーゾルダに55分変身不可、ウェザードーパントに1時間変身不可、仮面ライダーサガに1時間5分変身不可、ハードボイルダーを運転中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王 、ハードボイルダー@仮面ライダーW、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、地の石(ひび割れ)@仮面ライダーディケイド、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:レンゲルバックルから得た情報を元に、もう一人のクウガのところへ行き、ライジングアルティメットにする。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。次こそは逃がさない。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※放送で冴子の名前が呼ばれていない事を失念している為、冴子が死亡していると思っています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※地の石にひびが入っています。支配機能自体は死んでいないようですが、どのような影響があるのかは後続の書き手さんにお任せします。





こうして、長い長い病院での大乱戦は終わりを迎えた。
だが、地の石も、ディケイドも、この戦いの現況であったそれらはまだ存在している。
これが意味することはただ一つ。

――殺し合いはまだ、始まったばかりだと言うことだ。


125 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:16:14 1FDzq.Hk0


【五代雄介@仮面ライダークウガ 死亡確認】
【秋山蓮@仮面ライダー龍騎 死亡確認】
【金居@仮面ライダー剣 封印】
【日高仁志@仮面ライダー響鬼 死亡確認】
【乃木怜司@仮面ライダーカブト 死亡確認】
【海東大樹@仮面ライダーディケイド 死亡確認】

【響鬼の世界 崩壊確定】

【残り24人】


【全体備考】
※E-4大病院が崩壊し廃墟となりました。
※Gトレーラー内にはG4の充電装置があります。
※G4は説明書には連続でおよそ15分使えるとありますが、実際どのくらいの間使えるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※G4を再度使用するのにどれくらい充電すればいいのかは後続の書き手さんにお任せします。
※及びG4システムはデイパック内ではなくGトレーラー内に置かれています。
※F-4エリアにGトレーラー、E-4エリアにトライチェイサー2000Aが停車されています。

※木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実 、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト、ブラッディローズ@仮面ライダーキバ 、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー超電王、カイザポインター@仮面ライダー555、変身音叉・音角+装甲声刃@仮面ライダー響鬼、ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+)@仮面ライダー555、デザートイーグル(2発消費)@現実、変身一発(残り二本)@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、五代の不明支給品×1、草加の不明支給品×1、ガイアドライバー(五代)@仮面ライダーWがE-4病院跡地付近に散乱しています。

※五代雄介に植え付けられていたアマダム@仮面ライダークウガは破壊されました。
※乃木怜司@仮面ライダーカブトが死亡しました。第三の命に掛けられた制限がどのようなものなのか(原点通り二人になって復活するのか、どの程度の時間で復活するのか、そもそも復活できるのか等)は後続の書き手三にお任せします。


126 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:17:49 1FDzq.Hk0
以上で投下を終了します。
色々意見はあると思いますが、書いてて凄く楽しかったです。

ご意見ご指摘ご感想などありましたら是非ともお願いいたします。


127 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 15:24:07 1FDzq.Hk0
忘れてました、タイトルは『Kamen Rider: Battride War』でお願いします。


128 : 名無しさん :2018/01/28(日) 17:39:36 fTieHSGw0
投下乙でした!
ライダー大戦にふさわしい迫力満点の大乱戦は熱く、見どころ満載です!
それぞれが死力を尽くして戦い、勝利と敗北が繰り返されて、そしてまさかの決着に度肝を抜かれました!


129 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/28(日) 18:22:22 1FDzq.Hk0
>>128さん、ご感想ありがとうございます。
見返していたら>>76>>77の間に抜けがあったので訂正します。
以下本文です。

――CYCLONE!
「変身!」
――CYCLONE!

ロストドライバーがそのメモリの名を復唱すると同時、フィリップの姿は一瞬で緑の戦士へと塗り替えられる。
パージした緑の結晶がその身を完全に異形のものへと変貌させ、変身の完了を告げるようにその瞳が赤く輝いた。
フィリップ自身がかつてその名を付けた、大地を、自然を守るため戦う戦士、仮面ライダーサイクロン。

その名を象徴するかのように吹いた一陣の風にマフラーを靡かせて、彼はその右手を真っすぐギラファへと向けた。
そして告げるのは、街を泣かせる悪人たちに、〝仮面ライダー”が投げかけ続けるあの言葉。

「さぁ、お前の罪を数えろ。カテゴリーキング!」
「自身の種の繁栄を望むことの……何が罪だというんだ!」

その言葉を境に、彼らの戦いの火蓋は、幕を開けた。
先ほどまでと同じく手負いと思えないほどのスピードで突貫するギラファに対し、しかしサイクロンは思う。
――遅い。

変身したためか、それともこの姿に対して自分が抱いている安心感のためか、今のフィリップには先ほどまでと違ってギラファの攻撃が手に取るように見えた。
剣筋を縫うように躱す彼は、まるでそのままそよ風のように優雅ですらあって。
思わずといった様子でギラファが呆気に取られた隙に、そのまま渾身の後ろ回し蹴りを背面に浴びせる。

ぐぅという情けない悲鳴と共に床を転がったギラファに対して、サイクロンは必殺の構えをとる。
彼にはこれ以上この男をのさばらせておく理由など何もなかった。


130 : 名無しさん :2018/01/28(日) 19:11:26 t.THHWUQ0
数年越しの復活に相応しい大作、投下お疲れ様です!
16人もの参加者で行われるライダー大戦の中、外しちゃいけない要素を丁寧に拾った傑作でした。
数々の熱いバトルの中でも、特に前年のラスボスであるジョーカーと翌年の最強フォームである装甲響鬼が互いの初変身で対戦カードが大トリで組まれるのは熱いことこの上ない!

夢の守り人であったたっくんを前に、夢が呪いであると吐く渡に対して、彼が繋いできたのは「希望」であると、後年の映画を知ればニヤリとできるような熱くて格好良い説教をするディケイドも最高
惜しくもここでは終始善良な仮面ライダーであってくれた海東が人間臭さを見せながら退場し、もう一人のクウガである五代を彼のために破壊するなど、まるで物語の主人公みたいだ……
また総勢六人もの脱落者の中でも、散り際が特に印象に残ったのはやはりその五代さん。彼を救うための大乱戦だったのに、結果は本当に辛いものになってしまった。
けれど、ひとりきりで戦ってきた彼がある意味で自由になれた瞬間だったのかもしれない。

仮面ライダー以外にも、種族の守護者として勇士と認められた金居、傍目には最後まで有能で良い人のまま亡くなっちゃったなんだか美味しい乃木さんに、大戦の後半を完全に持っていったWジョーカーなど見せ場は充分。
ヒビキさんも最後まで仮面ライダーらしい格好良い姿を見せてくれたけれど、果たして彼らの世界はどうなってしまうのか

改めて、この1レスでは言い切れないぐらい面白くて濃厚な大作でした。本当にお疲れ様です!


131 : 名無しさん :2018/01/28(日) 20:07:32 qS5d91Jc0
投下乙です!
これだけの大乱戦、見事に書ききって、お疲れ様でした!
遂に全滅作品が出たが、響鬼の世界はこのまま破壊されてしまうのだろうか…


132 : 名無しさん :2018/01/28(日) 20:26:12 BRqZ1cdk0
投下おつでした!
これぞまさにバトルロワイヤルと言わんばかりにスピーディーに脱落していく参加者たち!
ライジングアルティメットのあまりの力に、脱落表記なのも気にしないでもうみんな死んでったものだとばかり思ってた!
だからこそのあるものは目を覚まし駆けつけ、またあるものは暗躍しが始まってもすごいわくわくした。
いやまあ志村脱落あたりで察してはいたんだけど。響鬼のことといい暴れまくったなこいつ。
でも最後の最後まで誰が本当に死んで誰が生きてるのかにもドキドキしながら読みました。
五代が危うくダグバみたいな事になったときはうわああって思ったけど、

>きっと、空を彩る眩しい青の一部となったのであった

がほんま美しい文章で泣いた。
海堂や蓮もなあ、ほんまお前ら情がなあ。
ギラファはかなりの諸悪の根源なのにかっこよく倒されやがって……。
意地もあって志村と違い乃木が一見いいやつみたいに死んだけどこいつどうなるんだろ。
復活できませんでしたオチかと思いきやそこも含めてお任せなので楽しみだけどこのまま死んだら死んだで美味しいな。
まさかの生きてた橘さんや終わった後にやってくる人たち、キングフォームジョーカー2体に揺さぶられる始。
完全にタブー踏んじゃった人。
この後も楽しみがいっぱいだ!


133 : ◆.ji0E9MT9g :2018/01/30(火) 02:04:42 jo5OzecY0
皆様、長文でのご感想本当にありがとうございます、励みになります。
必要ないかとは思いましたが、一応本作をwikiに登録させていただいたことをご報告いたします。

一応、今のところ第三回放送くらいまでの内容はぼんやり浮かんでいますので、今後とも投下は続けていけると思います。
リレー企画でこういった発言も本来控えるべきかとは思いますが、投下が続くのか心配なさっている方が多いようだったので、一応ご連絡させていただきました。

それと、ご相談という形になるのですが、放送前に必ず片付けなければいけないパート一つを投下した後、放送を投下しようと思っています。
次回投下パートを投稿した後また第一回放送のときのようなコンペ期間を設けるべきかどうか皆様どう思われますか?
もちろん、このパートを書いておきたい、書かなければいけないだろう、などの理由で放送前に書き手として参加されたい方は大歓迎ですので、遠慮なくコンペ期間の開催や作品投下を申し出てください。

まだ次回作の執筆には時間がかかると思いますので、その投下後長くて二日間ほど何も反応がなければ私がそのまま放送を投下して、話を進めようと思いますので、一応参加を希望される方はお早めに申し出ていただけるとありがたいです。


134 : 名無しさん :2018/02/03(土) 06:45:12 sOjmfQSI0
また予約がキターーーーーー!!


135 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:02:06 tan.18bA0
想定外に時間が出来て早く完成したので、ただいまより投下を開始いたします。


136 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:02:42 tan.18bA0
時刻は23:15、空には星が輝き、この殺し合いの場も静まりを見始めた時刻。
そんな中でしかし彼らは未だに熱い闘争の真っ只中にいた。
宙を浮遊する得体の知れぬ赤い怪人に対し、相対する男二人、葦原涼と矢車想は生身のまま。

この場において設けられた変身制限によって、二人には怪人に対し真正面からの抵抗手段を失ったも同然であった。
しかし、そうした状況でも一切の戦意を喪失しないまま、彼らはその鋭い瞳で先ほど同行者であった乃木を焼き殺したその怪人に睨みを利かせる。
どうやら敵はこの状況に高揚感を抑えられないらしく笑い続けていた。

その反動で乃木を殺した後、廃工場内という狭い範囲にいるにもかかわらず二人を見失ったようであり、これは好機だと二人は思う。
しかし、だからといってこの状況で彼らに逃走の手段はない。
いや、本来なら迷うことなく逃げるのだが、タブーが廃工場内を徘徊しながらしかし唯一の出口には油断なく注意を払っているために逃げるという作戦は実質封じられたも同然であった。

かといってこちらに有効な手段もない、ではこのまま変身制限を迎えるまで逃げ切るか、と涼が考える、が。

「・・・・・・葦原、奴はここで潰すぞ」

その状況でなお、先ほどまで戦意の一切を見せず死んだ目をしていた矢車が、らしくなく戦闘への意欲を見せたのだ。
涼としても自分たちと共に戦ってくれた乃木を焼き殺した目の前の怪人に反撃が出来るのならそれを望んでいた。
矢車が賛成してくれたことにはいささか動揺を隠せなかったが、しかし彼も何らかの考えがあるかもしれず、また彼の考えの大半は葦原には理解も及ばなかったので、そのまま黙っておくことにする。

しかし、戦意があったとして、問題は自分たちの手札が少ないことだ。
涼のデイパックには奴の気を一瞬反らせるだけの手はあるにはあるが・・・・・・。
と、そこまで考えて、矢車が首で何らかを指し示した先を、涼は見て。

「あれは・・・・・・パーフェクトゼクター!?」
「あぁ、どうやらさっきの攻撃の中でも問題なく焼け残ったらしい。・・・・・・あれがあれば奴に有効打を与えられるはずだ」

それは、先ほど乃木が握りしめたまま気絶し、故にそのまま共に持ち運んできたパーフェクトゼクター。
確かにアレならばいかに強力な敵であろうともダメージを与えることが出来るだろう。
目前に迫る赤い怪人は防御力に優れているようにも見えないし、不意さえつければ一撃で勝負をつけることも可能だろう、しかし――。

「アレは変身している俺でも扱うのが難しかったんだ、今の俺たちじゃとても扱えない」

涼はそれを扱うには既に自分のコンディションでは事足りないと確信していた。
実際に扱った涼が言うのだから、それは恐らく間違いではないだろう。
しかし、そんな中で矢車は涼にその手につけていた謎のモジュールを手渡してくる。

「……これを使って俺を援護しろ。俺はアレを使って上から奴に斬りかかる」

と、矢車が指さした方向に目を見やればそこには上階に繋がる階段と恐らくいつもは器具を操作する際上るのであろう場所が見えた。
なるほど自分の役目は矢車を援護しつつあの怪人をその真下まで誘導することか。
なればこの手に渡されたゼクトマイザーで隠れながら攻撃するのが最適だろう。

「すまないな、俺のダメージが大きいばかりにお前に危険な役目を任せてしまって」
「……いや、気にするな。俺には俺の事情がある」
「……?そうか、それなら構わないが」


137 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:03:10 tan.18bA0

自分のダメージのために矢車に危険な役目を任せてしまったことを謝ると、矢車はいつになく真剣な様子でそう返してきた。
先にも述べたとおり涼には矢車の言っていることを理解するのは困難なので、それ以上深く追求することもしなかったが。
――数瞬の後、乃木を殺害した高揚感も覚め自分たちを見失ったことに対する焦りを見せ始めたタブーがパーフェクトゼクターと反対の方向を見た瞬間に、彼らの行動は開始した。

先ほどまでのけだるそうな彼が嘘のように飛び出した矢車は、そのまま苦もなくパーフェクトゼクターの元へ到達、そのままそれを拾い上げる。
しかし、音の反響するこの工場の中で矢車の足音は余りにも大きく。
一気に振り返ったタブーはその手の内に先ほど乃木の命を刈り取ったのと同じ火球を――。

「させるか!」

その瞬間、涼はその手に持つゼクトマイザーから一気にザビーボマーを発射する。
勢いよく吐き出されたそれはそのままタブーに向かっていき、着弾。
その瞬間にボマーはその身体を爆発させ、タブーはたまらず身を捩った。

そしてその隙を見逃す矢車ではない。
パーフェクトゼクターをもったまま階段を駆け上る。
タブーもいつまでもボマーによる攻撃に怯んでいるわけではなく、頭上の足場に向けて火球を放った。

「矢車ッ!」

思わずと言った様子で涼が叫ぶが、火球により生じた爆炎をも自身の推進力に利用して、矢車が飛び出してきたことで、笑みを浮かべる。

「――ハアァァァァァァァァッ!!」

絶叫と共にパーフェクトゼクターの重量をも威力に利用して、そのまま矢車はタブーに対してその刃を振り下ろす。

「きゃあッ!?」

しかし瞬間、くぐもった声で悲鳴を上げたタブーに気を取られたか、当初の想定より大きく威力を殺したために、タブーに大きなダメージを与えられなかったようだった。
それに対しやはり彼らしくないと訝しげな表情を浮かべる涼だが、しかしそんな時間も長く与えられなかった。
気付いたときには矢車はタブーの手によって高く持ち上げられていたのだから。

そのままタブーは、矢車を持ち上げる手とは逆の手に火球を発生させ――。

『くるくるくるくる風車がまーわる!くるくるくるくる君がくるー!』

廃工場内に響いた爆音の聞くのも苦痛な、耳障りを体現したような曲にその動きを止めた。
それは、涼に支給されていた品であり、彼がダムで支給品を確認したとき五秒と持たずに再生を終了し二度と聞くこともあるまいとデイパックの奥深くに仕舞い込んだ逸話を持つ、ジミー中田のCDとラジカセのセットであった。
あまりにも酷い歌だったために一生聞く気も起きなかったが、こういった状況であればむしろ敵の気を反らすのに最適かと思われた。

そして、その目論見通りに気を反らしたタブーの腹を思いきり蹴り上げて、矢車はその拘束から脱出し、闇に姿をくらます。
一瞬でもタブーの気を反らせたのだから、あの酷い歌にも意味はあった。
逆に言えばそれ以上の働きを期待できるはずもない、はずだったのだが。

『しるしるしるしる君を知りたい!しるしるしるしるお味噌汁―!』

「……」

タブーはそのまま、二人を探すことすらやめてその歌に聴き入っているかのように見えた。
誰が聞いても酷いこの歌に一体何か理由があるのか、と困惑する涼だが、気にしていても仕方ないと予め決めていた矢車との合流地点に急ぐ。
その周辺にまでたどり着くと、物陰からいきなりグイと袖を引っ張り込まれた。

反射的に拳を握る涼だが、そこにいたのが矢車であったために、それをやめる。
と、瞬間的に矢車はその口を開いた。

「お前に一つ聞きたいんだが、あの歌の題名は何だ?」
「確か『風都タワー』……だったか、それがどうかしたか?」
「……いや、何でもない」

そこまで聞いて意味深な顔をする矢車を見やりながら、しかしあんな電波曲に構っている暇などないと涼は話題を切り替える。

「……それで、どうする?変身制限まではあと五分以上ある、奴を倒すなら何か考えないと」
「……俺に考えがある。その為に葦原、お前にこれを持っていてもらいたい」
「これはお前のデイパックだろ?お前が持ってるべきだ」
「……いや、この中に今俺が使える支給品はない。余計な荷物は置いておくべきだと思ってな」

俺が使える支給品はない、という言葉にわずかな引っかかりを覚えながら、しかし涼は言うとおりにデイパックを受け取った。
彼は一体、何をしようとしているのか?
元々理解の困難だった矢車が、更につかめない存在になって、涼は困惑した表情を浮かべた。


138 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:03:29 tan.18bA0

「……とりあえず、具体的な作戦を教えてくれ、それに合流場所は――」
「いや、そんなものは必要ない。お前はここで黙って見てろ。一部始終、漏らさず、な」

そう言って、真っ直ぐに涼を見つめる矢車の瞳は、澄んでいた。
それはまるで、先の見えない彼をそのまま体現したような先ほどまでの暗い瞳とは異なる、綺麗な瞳だった。
矢車の言うことを引用するのなら、その瞳には闇の中に確かな光があるように見えて。

それ以上何も言えなくなった涼は、そのまま矢車のやることを見届けるしかなくなってしまった。
その様子に対して、満足げな表情を浮かべた矢車は、ラジカセの曲が鳴り止むと同時、そのまま物陰から飛び出して。
涼のいる物置から少し離れた地点で、わざとその足に散乱するように鉄の棒を引っかけた。

「――みぃつけた」

それを聞いてタブーはくぐもった声であっても一瞬で理解できるほどの愉悦の声を発する。
そのまま手に火球を発生させ、矢車に放つが、しかしその程度でやられるほど彼は甘くない。
右に左にとまるでこの廃工場を自分の庭であるかのように縦横無尽に飛び移る。

変身していなくてもバッタのような男だ、と涼は思う。
だが、しかし生身で無限に発生する火球を変身制限まで続けるのは、流石の矢車も厳しいだろう、とそう思考した瞬間。
彼は思いきりタブーに向かい飛びかかった。

その手にろくな武器もないままに敵の懐に飛び込むとはその場の誰も理解できず、涼も、そしてタブーも驚きの声を漏らした。
なるほど、そうして油断させた末に何らかの切り札で奴に反撃するのか、と涼は感心しかけて。
次の瞬間、矢車が先ほどまでの病院での戦いの時のように急激に戦意をなくしたのを見て、思わず身を乗り出した。

彼が一体何をしているのか、結局自分にはわからないが、しかしこのままでは死は確実、故にゼクトマイザーをその手に装着。
そのままボマーを発射しようとする涼に対しタブーもまたこの機を逃さず彼を殺そうとその手の火球を――。

「……お前、亜樹子だろ?」

矢車のその言葉と共に、両者ともにその動きを止めた。
彼の口から告げられた衝撃の発言に怒る暇もなく涼は呆然とするが、しかし先に動いたのはタブーであった。

「……いつから気付いてたの?」

否定して欲しい。
その涼の願いを容易く打ち砕くタブー――いや、亜樹子――の発言を受けて、矢車はその重い口を開く。

「……まず、最初にお前が現れた時点から怪しかった。俺の仕掛けた罠を見抜き、あの亜樹子を悲鳴の一つもあげさせず殺すような奴は、今更生身の乃木を殺した程度であそこまで興奮しない」

言われてみればその通りだった。
人智を越えた聴覚を持つ自分と乃木を差し置いてあの状況で一切の声を出させず亜樹子を殺すやつは、生身であり足もへし折れた無力な人間にしか見えない乃木を殺した程度であそこまで喜ぶはずもあるまい。
精々が彼の脅威を元々知る人物であった可能性だが、乾の話では間宮麗奈は乃木の仲間であり、天道に擬態したワームは突発的な行動が多く、ステルスキルなど出来ようはずもなかったということだ。

ではこの場で彼の脅威を知ったもの、という括りを適用するなら――もっとも、乃木の言葉を完全に信用する前提だが――病院にいたもの以外にその可能性はない。
であれば、封印された金居を除けば亜樹子と精々ライジングアルティメットとなった五代雄介だけである。
ここまで来れば、絞り込みとしては上々だろう。

しかし状況証拠でここまでの考察をした上で、なお矢車はもちろん別の可能性を模索していた。
しかし、タブーとの戦いの最中、その思いも否定する出来事が起こる。
それは――。


139 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:03:50 tan.18bA0

「……さっきお前はあの電波曲に聴き入ってた。お前のセンスがぶっ飛んでるんじゃなければ、それは曲そのものを前に聞いたことがあったから、だろ?お前の街のシンボルを題名にした『風都タワー』を」

告げる矢車に、タブーはなおも無言。
もちろん、彼の指摘は完全に当たっている。
風都を拠点に活動するスピック(フォークソングにロックンロールとラップの高揚感をブレンドした新ジャンル)シンガー、ジミー中田の歌う、『風都タワー』。

過去に担当した事件の中でそれを聞いた亜樹子は、その酷い曲を二度と聴きたくないとそう思いつつも、しかし確かに忘れられない街での大切な思い出の一つとして記憶していた。
そしてこの場で彼女が戦うのはあくまで自分の世界を、風都を守るため。
故にこの会場にいる全ての参加者の中で恐らくは一番その曲に対して敏感に反応した。

この曲と、そしてそれに付随する自分の思い出が詰まったあの街を消させるわけにはいかないと。
そしてその動揺を首を持ち上げられていたとはいえ至近距離にいた矢車が見逃すはずもなく。
先ほどの条件と合わせて、タブーの正体を確信するに至ったのである。

「ハハッ……ご名答だよ、『お兄ちゃん』」

しかしそんな矢車の言葉を受けて、しかしタブー、否その内の亜樹子は笑う。
いつの間にか変声機能を解除したようで以前の彼女の声が聞こえるために涼は一層その絶望を深めながら、しかし目を離しはしなかった。
矢車に言われたから、ではない。

きっと涼も薄々気付いていたのだ、彼女の中の悪意に。
しかしそれでも彼は信じたかった。
彼女の中の善意と、そして彼女自身の強さを。

しかしその思いはあっさりと裏切られる。
他でもない、亜樹子自身の手によって。

「翔太郎くんも顔負けの推理だったけど、それがわかってどうするっていうの?今更そんな事実をばらされて私が動揺すると思った?」
「……」
「それを知っても無駄よ。ここでお兄ちゃんも涼君も死ぬ……ううん、私が殺すんだから!」

その言葉と共に今までで一番大きな火球を生じさせたタブーは、そのまま頭上にそれを構える。
あの至近距離では矢車に逃げようもない、いや、自分が絶対に逃がすのだ、その思いと共に駆け出そうとして。
他でもない矢車が、自分に背を向けたままその手を大きく広げたために、それを中止する。

それはまるで、タブーの攻撃を受け止めるかのようでもあり、涼の行動を戒めるようでもあった。
死を目前に迎えた矢車の行動に覚悟を決めたタブーですら一瞥を向ける。
だが、それを受けて矢車はしっかりとタブーを見据えて。

「いいぜ、殺せよ」
「……言われなくても――そのつもりよ!」

言葉と共に放たれた火球の轟音にかき消されるのも気にせず、涼は叫んだ。
それが、制止を呼びかける言葉だったのか、回避を呼びかける言葉だったのかは、最早定かなところはないが。
――廃工場内を一瞬にして輝かせた火球に飲み込まれながら、矢車は思う。

これが、本当に自分の掴みたかった光なのだ、と。

――この会場に連れてこられる直前、矢車は弟である影山をその手に掛けた。
それが彼の望むところであったとはいえ、しかし自分と同じ全てから見捨てられた一蓮托生の兄弟を、彼が殺したのは揺るぎない事実であった。
そして、それはこの会場に来てからも彼の心を逃さず。

何故か蘇らせられたかした影山をもう一度殺した大ショッカーに怒りを覚え潰すために動き出したものの、違和感は否定しきれなかった。
――これが、自分の求める、自分だけの光なのか、と。
大ショッカーの打倒は、ほとんどの仮面ライダーや、そしてあまつさえワームである乃木でさえ望むものだ。

そんなものを地獄に堕ちた自分の光として掴もうとするのは、彼にとってどうしても納得がいかず。
その態度が、弟としたいと願った五代を取り戻すための戦いでもある病院戦でも如実に表れていたと言えるだろう。
しかし、ことここに至って、自分はようやく見つけたのだ、自分にしか見つけられない、地獄の闇を見た自分だけの光を。


140 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:04:15 tan.18bA0

(――弟を殺した俺が、妹に殺される。これ以上に幸せなこともない)

そう、それは、彼自身が認めた闇を持つ妹に、その命を絶たれること。
兄弟殺しという禁忌を犯した自分に許される、最後の、そして最高の地獄への招待状だった。
あるいはこの為に、自分はこの場で新しい弟や妹を探していたのかもしれない、とそう思うほどに。

だから、亜樹子が殺し合いに乗っているかもしれないという危惧を抱いたとき、矢車の胸にはその道を正そうとする自分と、相反する自分が生じていた。
それに気付いたときから、きっと彼はこうなることを薄々予想し、そして期待してもいたのだ。
これが、自分の光なのだ、と。

(安心しろよ、お前の仇は、他の奴らが嫌でもとってくれる。なぁ、相棒)

弟を殺した大ショッカーへの恨みは、決して消えたものではない。
しかしそれを成すのは自分ではなく、この場にごまんといる仮面ライダーやその協力者の管轄であった。
彼らには問題なくそれを成せる力があり、そしてそれは自分には掴むのが困難なほど眩しい目標だと、彼は病院での乱戦を経て理解したのだった。

(相棒、今から行く。また一緒に、俺たちだけで掴める光を探そう。――今度は、三人で)

だから、何も気負わず、彼はここで逝ける。
その背中にかつてその闇を見込んだ、しかし自分たちとは明確に違い、光に生きる男の絶叫を聞きながら。
そして彼に、自分のもう一つの光を、確かに託した実感を抱きながら。




「アハハァ、アハーハッハッハッハッ!!殺したぁ、私が、お兄ちゃんを……!」

その手から放った業火によって廃工場がその姿を大きく変容させ、周囲にある残った鉄もその身を液体に変える中、それを巻き起こした女は熱気の中で高く笑った。
自分の生み出したスコアと、そしてまた一歩自分の世界が勝利に向かったことに対して。
しかし、喜んでばかりもいられない、と一瞬で笑いをやめ、彼女は身を翻す。

「涼くぅん?どこぉ?出てきてよ、私が、殺してあげるから!」

そこまで言って、また彼女は笑う。
あからさまに狂気にとりつかれた彼女を尻目に、しかしそれを受けて呼ばれた本人である涼はその場から動けぬままであった。
また騙されたことがわかったから?矢車も乃木も目の前で死んでしまったから?

そのどれもが正解で、そして不正解であった。
亜樹子に騙されていたことは、もちろん悲しい。
しかし、彼女を信じた自分を、彼は決して否定したくはなかった。

そして目の前で仲間たちが死んだことは、確かに彼に怒りを生んだ。
しかしそれ以上に、亜樹子にそれをさせてしまった、そしてそれを止められなかった自分に対する怒りの方が強く。
自分の中に渦巻いた複雑な感情に促されるまま、彼はそのままタブーによって翳される死の瞬間を――。

「……けるな」
「ん?」
「ふざけるな!」

自分の中にわき出た感情を否定するように、彼は思いきり立ち上がる。
やけになったわけではない。
ただ、死を享受するのは、絶対に間違っている。

そして、これ以上彼女の手を血に染める必要もない。
ここで、止める。
他でもない、この自分が。

そこまで考えて涼はタブーがその手に最早見慣れた火球を発生させるのを見る。
しかし、確信があった。
矢車はここまで考えた上で、自分にこのデイパックを託したのだ、と。

――瞬間、タブーに攻撃を加える緑の閃光が一つ。
予想通り、などとは言えようはずもない、しかし涼はその存在が現れるのを知っているかのようであった。
タブーが怯んだのを確認した緑のそれは、そのまま涼の左手に収まった。

そして、涼はデイパックから取り出したバックルに、それを叩き込んで。


141 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:04:37 tan.18bA0

「変身ッ!」

その言葉を思い切り叫んだ。
それと同時に涼をヒヒイロノカネの装甲が包む。
緑のそれが彼の全身を包み、変身を完了した合図として、その複眼が赤く光った。

――CHANGE KICK HOPPER

そのライダーの名は、最早言うべくもあるまい。
矢車の残した、ホッパーゼクターに認められたものだけが纏える、ネイティブへの切り札。
仮面ライダーキックホッパーに、涼は変身していた。

彼が認められた理由など、語るまでもない。
矢車本人が亜樹子を任せられる眩しい仮面ライダーの代表として彼を選定したこと、そして彼自身が抱いた様々な感情からなる絶望ゆえであった。
しかし、それは矢車の抱いていた絶望とは、明確に異なっていた。

確かに裏切りへの悲しみや仲間の死への怒りや不甲斐なさを感じながらも、それをバネにまた強い光をその瞳に宿す男の、その光を色濃くするための、いわば前座としての絶望であった。
だが、そんなこと目の前のタブーには察せられるはずもなく。

ただただこの土壇場での新たな変身能力の開花に、苛立ちの声を上げるだけであった。
そして、キックホッパーに、これ以上の彼女の蛮行を許す理由など存在せず。
彼は、そのバックルに収まるホッパーゼクターに手を伸ばした。

――RIDER JUMP

瞬間その足に集まったタキオン粒子が臨界点を迎えると同時、彼は大きく跳んだ。
そして、予想外の展開に驚くタブーには、まともな抵抗など望めようはずもなく。

――RIDER KICK

彼はその左足を、タブーの胸に確かに叩きつけた。





パキン、と乾いた音が響く。
それは、彼女の用いていたタブーのメモリが破壊された音だと言うことは、彼にも分かっていた。
これでいい、と彼は思う。

急所を外した蹴りだったのだから、いかにキックホッパーのライダーキックが強力であれど、タブーに変身していた以上彼女の命を奪うことはないはずだ。

「おい、亜樹子、大丈夫か!?」

その思いと共に変身を解除しつつ、涼は最早生身を晒している亜樹子の元へ駆け寄る。
声と共に数回揺すると、彼女はゆっくりと目を覚ます。
その目に先ほどまでの狂気を孕んでいないことに安堵しつつ、続けて彼女に声をかけようと――。

「……竜、くん?」

先に、亜樹子が呼んだ名前によってそれを妨げられる。
放送で死を伝えられたはずのその名前に動揺を隠せない涼に対し、亜樹子はしかしその目を輝かせる。

「竜くん!よかった、私今、とっても怖い夢を見てたの、……皆が、殺し合う夢」

息もつかず続ける亜樹子に対し、涼はしかし掛ける言葉を見つけられない。
元より女の扱いは苦手な涼だが、今の彼女に対しては特段掛ける言葉を見つけられなかった。
夢からたたき起こし罪を自覚させるべきなのか、それとも先ほどまでの狂気を夢として許すべきなのか。


142 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:05:03 tan.18bA0

そんな思考に至った涼を尻目に、亜樹子は言葉を紡ぎ続ける。

「その夢の中でね、私とっても酷いことしたの、色んな人を騙したし利用しちゃった。良太郎君に、美穂さん、それに――」
「もういい!全部夢だったんだ、亜樹子!」

いつの間にかその瞳を潤わせる亜樹子に、彼は先ほどまでの思考を放棄してそう声を掛けた。
殺し合いに乗った大きな理由の一つであっただろう、照井竜の死。
そんな彼の幻覚を見ながら、しかしいのいちに自分の非道を反省し涙を流すのだから、彼女が本来はどんな人間かなど、涼にはもう論じるまでもないことだった。

自分の瞳から涙が亜樹子の頬に落ちるのも気にせず絶叫する涼に対し、亜樹子はその目を向ける。
その対の瞳は焦点が合ってはいなかったが、最初に涼が見たそれよりもよっぽど純粋に光り輝いていた。
そしてそのまま、彼女は力なく笑い。

「夢……?なら、私は、……皆を傷つけずに済んだんだ、そうだよね?」
「あぁ、そうだ……!だから安心しろ……!」
「よかった……、ねぇ、竜くん、安心したら……また眠くなっちゃった。……起きるまで側にいてくれる?」
「いつまでだって俺がいる。だから安心して、眠って良いんだ……」
「よかった……。じゃあ、少し、寝るね……」

そう言ってそのままその瞳を閉じようとして。
しかし亜樹子は、どうしても謝っておかなければいけない人が夢の中にいたことを思い出した。
彼には本当に悪いことをしたから、一時の夢であって例え現実ではないとしても、忘れないうちに、どうしても謝っておきたかった。

「ごめんね、涼君……。ありがとう……」

思わず告げられた自分の名に驚きを隠せぬままの涼を置いて、彼女はその瞳を閉じる。
そして、どれだけ名前を呼ばれても、揺さぶられても、もうその目を覚ますことはなかった。





鳴海亜樹子がその命を落としたのは、決してキックホッパーのライダーキックによるものではない。
彼女の使用していたタブーのメモリを直で使用したために生じる強い反動が、彼女の過剰適合体質により加速したために生じた、一種のオーバードーズであった。
つまり、彼女は結局、このメモリを使用した時点でその生命を終わらせることが確定していたのだ。

そして、メモリに犯された彼女の善意を最後に取り戻し、その凶行を押しとどめたのは、紛れもなく涼の尽力によるものであった。
だからきっと彼女は彼を責めはしない。
だって最後に彼は彼女の信じた仮面ライダーとして、悪を倒してくれたのだから。





「あれ……私……ここは?」

深い暗闇の中で、鳴海亜樹子は目を覚ました。
もしかして死に損なったのか、と一瞬身構えるが、しかしどこまでも続くような目前の闇を見て、それは間違いだと理解する。
きっと、これこそが地獄。

矢車という男が言っていたような、無限に続く闇が、これから先ずっと自分に付きまとうのだ。
しかしそれも仕方あるまい。
信じてくれた誰しもを騙し利用し、そして最後には殺人まで犯した自分と、共に歩もうとするものなどいるはずもあるまい。

と、自嘲しながらその歩を進めようとした、その時だった。
後方にも無限に広がる闇の中から、確かに誰かが自分の肩を掴むのを感じたのは。

「――一人で地獄を楽しむなんて、つれないこというなよ、亜樹子」
「……お兄ちゃん」
「お兄ちゃん、だってさ、いいよな兄貴は。妹まで手に入れて、羨ましいよ」
「拗ねるなよ相棒、俺たちの妹だ、そうだろ?」


143 : 悲しみの果てに待つものは何か ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:05:21 tan.18bA0

たった一人進むのみだと思った闇の中に、しかし自分の他にも人はいた。
それは確かに、彼女の心を打つ。
あぁ、そうかやっと彼の言うことが理解できた。

同じ闇を持つとは、兄妹とは、つまりこういうことか。
全てを察した彼女は、彼らと同じ笑みを浮かべる。
闇を帯びた、しかし光を求める者の笑顔を。

「行こうぜ、相棒、亜樹子。俺たちだけの地獄の中の光を探しに」
「いいよ兄貴。兄貴とならどこまでも」
「ちょっと影山お兄ちゃん、私も一緒でしょ!?」

もしかしたらこれは間違った愛の形なのかもしれない。
そう思う自分も確かにいるが、しかし今はこの感情を強く否定する気にもなれなかった。
自分と共に歩んでくれる兄たちを得たことを、彼女は今、確かに喜んでいたのだから。

彼らの歩む先の闇は確かに深く。
しかし、彼らにしか見えない光もまた、その中で鈍く輝きを放っていた。


【一日目 真夜中】
【F-6 工場地帯】


【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、亜樹子の死への悲しみ、仲間を得た喜び、ザンキの死に対する罪悪感、仮面ライダーギルスに45分変身不可、仮面ライダーキックホッパーに2時間変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:亜樹子……
2:人を護る。
4:門矢を信じる。
5:ガドルから絶対にブレイバックルを取り返す
6:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。
※支給品のラジカセ@現実とジミー中田のCD@仮面ライダーWはタブーの攻撃の余波で破壊されました。
※ホッパーゼクター(キックホッパー)に認められました。

【矢車想@仮面ライダーカブト 死亡確認】
【鳴海亜樹子@仮面ライダーW 死亡確認】
【残り人数 22人】


144 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/04(日) 03:06:31 tan.18bA0
以上で投下終了です。
ご指摘、ご感想、ご意見などございましたらいただけますと励みになりますのでよろしくお願いいたします。


145 : 名無しさん :2018/02/04(日) 10:31:42 Ol/hjp3k0
投下乙です!
前回の引きでどうなるかと冷や冷やしましたが、最後に地獄の兄妹が光を掴むことができてホッとしました!
所長も道を間違えてしまったものの、根底にあるのは自分の世界を守りたいという願いだったので、この結末は感動的です!
遺された葦原さんがどんな道を行くのか、そして風都の探偵達が所長の死を知ったら何を想うのか……?


146 : 名無しさん :2018/02/04(日) 14:05:57 tH1BBQHI0
投下お疲れ様です!!
相棒を殺されて一時は自暴自棄になった兄貴と風都を守りたくて狂気に走った所長が救われて本当に良かった……!!!


147 : 名無しさん :2018/02/04(日) 15:29:32 jwvN54Gc0
投下お疲れ様です!
両者変身不能の状況で襲われた葦原さんと矢車さん、やはり無事に勝利するとはいかず……
ただ、「自分だけの光」を見出した矢車の兄貴が一抹の救いを見出したこと、錯乱を重ねていた亜樹子も最期には本来の善性を取り戻せたことが本当によかった
関わった女が次々と死んでいく呪いが健在であるかのような葦原さんはホッパーゼクターに認められるだけの絶望を懐きながら、なお折れぬ強さを持つものの、ここまで重なれば流石に堪えたかもしれない
それでも矢車さんが大ショッカーの打倒を成し遂げてくれると信じたように、照井ばりの不死身っぷりで今後の活躍に期待です 負けるな涼くん


148 : 名無しさん :2018/02/04(日) 16:13:13 SPiCqTyM0
投下おつ!
涼の言うようにあんた複雑すぎるよ矢車さん!
最初っから分かってるんだろなあとは思ってたけどそれでいて尚否定したいと願ってたが故の詰めの甘さ。
そして確定してからのWばりの推理劇と矢車さんの抱いていた想いと本当の光。
三人で、と願ったとおりに、矢車さんの読み通りにもう一つな光な涼が所長を救って。地獄兄弟妹が光を探し続けて。
熱く切ない話でした。
ジミー中田のCDさえこう使うとはなあ。


149 : 名無しさん :2018/02/05(月) 18:20:54 AHMHKgsQ0
>>133
無反応も悪いので。
個人的に、コンペ期間は別に不要で普通に放送投下でいいと思います。
ただし、万が一にでも他に書きたい人がいればまた別かもしれませんが、
このまま無反応が続けば「書きたい人はいない」っていう事で間違いないかと。


150 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/05(月) 18:36:40 l80uRzY.0
皆さんご意見ご感想本当に感謝いたします。
矢車さんの思考は色々大変でしたが、単純明快な涼君が相方で助かりました。
亜樹子は原作の彼女が好きなのでどうにかそれも見せられたなら嬉しいです。

と、それはさておき>>149さん、ご返答ありがとうございます。
最初の宣言通り明日の朝ぐらいまで待って、何もなければ放送パートに入らせていただこうかと思います。
それ以降は放送前パートの執筆予約や放送のコンペは開くつもりもないので、それらを書きたいのであれば出来ればそれまでにご反応いただければと思います。

それでは引き続き拙作などについて何かございましたらお願いいたします。


151 : ◆LuuKRM2PEg :2018/02/05(月) 20:10:38 9Hp5CW7.0
諸々の事情があって、反応ができずに大変失礼致しました。
そして◆.ji0E9MT9g 氏、2度に渡る素晴らしい大作の投下お疲れ様でした。
『Kamen Rider: Battride War』では仮面ライダーと怪人問わず、大戦に参加した全ての人が輝いていて
その後の『悲しみの果てに待つものは何か』で描かれた矢車さんと亜樹子が影山と共に光を掴んだ最期が感動的で、そしてキックホッパーの後継者に選ばれた涼の姿が素晴らしかったです。

放送パートの執筆に関しては、特に異論はありません。このまま投下でも大丈夫と考えております。


152 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/06(火) 10:42:51 mJ0e/tbo0
◆LuuKRM2PEg氏、ご反応ありがとうございます。
トップ投下数の氏にそう言っていただけると本当に励みになります。

では、特に放送を書きたいというような声もなかったので、自分がちゃちゃっと書いちゃいますね。


153 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/06(火) 14:13:50 mJ0e/tbo0
放送書きましたのでしたらばで確認お願いします。
拾って欲しいネタでもこういうのはどうかとかでも構いませんのでよろしくお願いいたします。


154 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/06(火) 19:38:31 lxzuC33U0
>>153
反応が遅れてしまって申し訳ございません。
仮投下スレの放送案、確認させて頂きました。企画を離れて長くなった身のため断言はできないかもしれませんが、目を通させて頂いた限りでは問題ないと思います。

また今更となってしまいましたが、傑作二本の投下、お疲れ様でした。
ライダー大戦は入り乱れたフラグを見事に活用した、ロワならではの凄まじい作品でした。
全く気が抜けないものを分量たっぷりで読んでいても気が抜けない激しいバトルの中、そのキャラらしさやリレーによる味付け、後発のお祭り作品などの小ネタまで活かし、企画の復活の狼煙に相応しい素晴らしい作品でした。
個人的にはやはりファイズの力を取り戻した流れからの、他者から託されたものは無責任に手放せないとしながらも、士に自分の夢は継いで欲しいと漏らす巧の描写がぐっと来ました。他にも見所がありすぎるのが逆に困ってしまいます。

悲しみの果てに待つものは、それぞれの光に辿り着く明るくも切ない名退場SS。
思考が怪人物なのに妙に納得させてくる矢車さんの原作再現度の見事さと、ロワで歪んでしまったことも含めての亜樹子のキャラの決着が素晴らしく、彼らのファンとしてその最期を氏に描いて頂けて本当によかったと思いました。

自分が続きを書くとしたら、と構想していた場合と重なる場面もあれば全く違う展開もあり、一読み手としてと同時、久しく忘れていたリレーならではの感慨の二重の面白さを堪能させて頂きました。

どちらも大変素晴らしいSSで、恥ずかしながらかつてのようには執筆できない身ですが、この企画を応援したい気持ちを再燃させられました。
折角なので、自分も当時構想していた放送案を供養の意味も兼ねて仮投下させて頂きたいと思います。ご確認の上でご意見頂ければ幸いです。


155 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/06(火) 23:36:17 mJ0e/tbo0
◆cJ9Rh6ekv. 氏、長文でのご感想本当にありがとうございます……!
氏の作品はどれも素晴らしいものばかりで、それをリレーしたい、というのもこの病院戦を書いた理由の一つでもあります。
もしも拙作が気に入っていただけたのなら今更と言われようがこの企画を再度立て直そうと書いた甲斐があるというものです。

そして、ここからは放送に関してのことなのですが、内容に関しては全く以て素晴らしいの一言。
拙作では三島と喧嘩し、貴作ではビショップと喧嘩し両方とも死神博士に止められるキングの奔放さには笑いました。
第一回放送の案で◆7pf62HiyTE氏も書いてらっしゃいましたがビショップが原作通りキングに尽くしまくって同じく原作通りそれが報われないのも面白いですね。

さて、結局のところなのですが、氏の作品と私の作品で投票か何かを行い、放送案を決定する、ということでよろしいのでしょうか?
であれば、あまり期間を設けて企画全体のスピードを落とすのも何ですので、2/8の深夜0時まで(つまり2/9になる瞬間まで)の間で投票を行い多い方が本放送となる、という形で如何でしょう。
もし私の解釈違いや期間へのご要望(短すぎる等)などございましたらお手数ですがご反応いただけると幸いです。


156 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/07(水) 00:23:11 ziLR.qwI0
>>155
◆.ji0E9MT9g氏、誠に嬉しいお言葉ありがとうございます!
また、事前の告知に対して遅すぎた反応であるにも関わらずそのように受け入れて頂けたこと、誠にありがとうございます。
氏の述べられたお考えに異存ありませんことをお伝えします。投票に賛成いたします。

なお、恥ずかしながら以後の反応が今回のように遅れてしまう場合もあるかもしれないので、もし投票結果が同数となった場合には議論を挟むことなく拙作の方を取り下げる旨を予め申し出ておきます。
勝手なことばかり述べて大変申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。


157 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 01:29:34 M4JnH8wI0
>>156
◆cJ9Rh6ekv. 氏、投票に賛成してくださいましてありがとうございます。
さて、したらばの方に投票の件について書き込んで参りましたので、ご興味おありの方は是非とも参加をお願いいたします。


158 : ◆LuuKRM2PEg :2018/02/07(水) 05:34:32 4DVj480M0
両氏とも放送案仮投下お疲れ様です!
どちらの放送案でも大ショッカー内部で内輪揉めが起きて、その裏で徐々に明かされていく真実に胸が躍りました。
一方は三島さん、もう一方はバルバが放送を担当して、前回の放送役のキングとは真逆のテンションでいる点でも共通しておりますね。
そして投票についても把握しました。私も異論はありませんので、当日はよろしくお願い致します。


159 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 09:19:36 M4JnH8wI0
>>158
◆LuuKRM2PEg氏、ご感想ありがとうございます。
もしかしたら誤解があるかもしれませんので言っておくと、一応もう投票は開始しています。
期限は2/8深夜0時”から”ではなく”まで”です。よろしくお願いいたします。


160 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 13:52:27 M4JnH8wI0
皆様こんにちは、度々申し訳ございません。
この度はお願いがあって参りました。
放送後パートを書いていましたら、放送前に書かなければならないパートだけで一話書けそうになってしまい、放送後パートと合わせると作品としての空気感といいますか、全体的なテンポが損なわれる可能性が生じてしまいました。

そこで、もしもお許しをいただけるのであれば、放送の本決定までの間で放送前までのその作品を完成させ(というか恐らく今日中)投下してしまいたいのですが、よろしいでしょうか。
もちろん、自分で放送前パートは放送案投下後はなし、と言った後なのでお見苦しいのも百も承知ですし、お許しいただけなければ放送後パートと混ぜてそれで終わりなのですが、出来ればご一考いただけると幸いです。


161 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 13:57:25 M4JnH8wI0
あ、もちろん当然ですが死人は出ません。
放送案には一切変更は必要ありませんのでそれはご安心くださいませ。


162 : ◆LuuKRM2PEg :2018/02/07(水) 19:38:02 4DVj480M0
誤解をしてしまい失礼致しました。
そして放送前パートの執筆も入って大丈夫だと思いますよ。私個人の気持ちとして、◆.ji0E9MT9g 氏の作品をもっと読んでみたいという感情もあるので。


163 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/07(水) 20:06:37 ziLR.qwI0
>>160
お疲れ様です。
またも反応が遅くなってしまい申し訳ございません。
放送前の投下の件ですが、それ自体は全く問題ないかと存じます。

それと反応するついでと言ってはなんですが、放送案について少し見落としがあったことに気づいたのでこちらで要望を一つ。
禁止エリアの案についてそのまま拝借しておりましたが、もし不都合なければ【F-7】以外の場所を禁止エリアにはして頂けないでしょうか?
主要な施設をほぼ禁止エリアとする、という形を変えたくない場合にはせめて時間を1時ではなくもっと後の時間帯の禁止エリアに回すなどして頂けると助かります。
実はまだきちんとした構想が全然できていませんし、放送以後の展開次第では結局形にできるとも限りませんが、そのエリアに立ち入りが可能なら一つ使い道があるかもしれないネタを考えたものでして……

後出しで勝手なことばかり申しているとは思いますが、放送案が本投下されてしまう前に、もし不都合でなければご一考頂ければ幸いです。


164 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 21:15:57 M4JnH8wI0
お二方とも、ご反応ありがとうございます、そしてお優しい言葉にも感謝いたします。
では、今から予約して参ります。
それと放送の件ですが拙作の禁止エリアのF-7をG-7と変更いたします、まだどうなるかわかりませんが氏の作品が形になりまたそれを読めるのを今から楽しみにしております。


165 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:32:26 M4JnH8wI0
ではこれより、滑り込みで放送前最後の本編を投下したいと想います。


166 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:32:56 M4JnH8wI0
「リュウタ、皆さん、本当、ごめんなさい!」
「ううん、麗奈が帰ってきてくれたから全部許す〜」
「……ありがとう」

放送を目前にして、翔一と真司、麗奈は病院に戻ってきていた。
達成感に溢れている翔一たちを見て、病院を守り預かっていた翔太郎と名護、そして総司もまた笑みを浮かべた。
唯一一人、三原だけは、その場にいてもなお、顔を引きつらせたままであったが。

「……あの、三原さん」

言われて三原は、背けていた目をゆっくりと麗奈に向けた。
その瞳には隠しようもない怯えが含まれていたが、しかしそれに対し誰も咎めることなどしない。
人外に友好的な存在がいると知っていることと、自分で制御できない人外の力を持っているものを受け入れられるかは、似たようで全く異なる話だからだ。

もしも、三原がどうしても恐怖でいても立ってもいられなくなってしまうようであれば、麗奈を特別視しすぎず、彼を尊重して麗奈と物理的距離を離さなければならない。
少なくとも、こんな状況に巻き込まれた一般人に今の麗奈を文句もなしに受け入れろ、という方が、よほど悪であり、傲慢な考えであった。
故に待つ。

三原の答えと、そして自分たちが取るべき彼女への接し方を見極めるために。

「俺……やっぱり今の間宮さんは怖いです」

そんな空気を感じ取ったのか、三原は震える身体を押さえながらそう声を絞り出した。
真司や総司は一瞬残念そうな顔を浮かべたが、しかしそれが世間の当然の声なのだ、とやるせない気持ちを飲み込んだ。
では、このまま麗奈と翔一を別室待機にするべきか、と場の空気が固まり始めるが。

「でも……怖がってばかりじゃ、何も始まらないと思うから。だから……俺も麗奈さんと一緒にいます」

その目は潤み、今にも涙が溢れ出しそうだったが、しかし三原はしっかりと麗奈を見据えてそう言った。
それに対し、誰しもが呆気に取られる。
先ほどまで恐怖していただけの一般人が、何をどうしてこんな言葉を言うようになったのか、と。

「修二、すごーい!僕が鍛えただけあるねーやっぱり!」
「……そうでもないよ」

伏し目がちにそう言って、彼は再び所在なげにそこに座り直す。
未だに彼に仮面ライダーとしての覚悟やもちろんそれになりたいというような気は一切見られないし、総司と異なり不満などを戦いにぶつける気もないようである。
しかし、それに対し苛立ちをぶつける者などもう誰もいない。

こういった戦えない人々を守ることこそ、自分たち仮面ライダーの仕事であり、逆に彼が望まない限り戦わなくて住む世界こそが、自分たちの目指す世界なのだから。
――無論、今がそんな甘い状況か、という疑問は拭いきれないのだが。
そうして、今この場で人間に受け入れられた麗奈は、嬉しそうな笑顔を翔一に向けて、翔一もそれに笑顔で返した。

ここまでは、全く以て順調にことが運んでいる、だが次が一番の問題であった。

「総司……さん」
「うん、わかってるよ、間宮さんの中のワームが暴れ出さないように僕は別の部屋にでも――」
「いいえ、総司さんも側にいてください」

言いながら寂しげな表情で立ち上がった総司をそう留めたのは、他でもない麗奈であった。
えっ?と困惑する表情を浮かべる総司に対して、麗奈の後ろで様子を見守っていた真司がゆっくり歩を進めてくる。

「……さっき、戻ってくる間にさ、話してたんだよ。それで、間宮さんが人間としていたいって感じる中で、自分のせいで輪から外れる人がいたら絶対に嫌だって、そう言ったんだよ」

真司の言葉に対し、麗奈はこくりと頷いた。
つまりは自分を人間と同じように扱って環境も前のままがいい、ということであろうか。
しかし、と総司が立場上言葉を出しにくいながら口にしたのを受けて声を出したのは未だにベッドに座ったままの名護であった。


167 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:33:23 M4JnH8wI0

「しかし、それはあまりにも危険じゃないのか?ワームとしての“間宮麗奈”をあなたが制御できない以上、俺としても総司君にリスクを負わせるわけにはいかない」
「……それなら大丈夫です。俺が、麗奈さんも、総司さんも守りますから」

ここに来て初めて甘い考えではないかと咎めるような発言をした名護に対して、そう言い切ったのは翔一であった。
その表情には自信が満ちあふれていて、不可能なことなど何もないと言っているようであった。
だが、とはいえそれはあまりにも温い考えでは、と名護が口を開き掛けたその時。

「……いいじゃねぇか名護さん。間宮さんだって、変わりたいって思ってんだ。ワームだかって怪物に乗っ取られちまうにしても、今の間宮さんは人間で、そのままでいたいって願ってんだからよ」
「だが、翔一君の注意がずっと続くわけでもない、気を抜いた隙に、ワームが現れる可能性も――」
「名護さんらしくないね。僕なら大丈夫、だって貴方の弟子で、一人前の仮面ライダーだから。……でしょ?」

そう言って笑いかけてくる総司を前にして、もう名護には言葉を紡ぐことなど出来なかった。
弟子可愛さに無用なリスクを避けるべきかと気負いすぎたが、自分の考えが間違っていた。
彼はもう天道総司でさえ認める一人前の仮面ライダーであり、自分と対等な存在なのだ。

そして精神的に不安定な状態の間宮麗奈を連れ戻してきた、ヒビキと知り合いのライダー、津上翔一もまた一人前の仮面ライダーだ。
であれば、自分がこれ以上世話を焼くのは、ただのお節介に過ぎない、と彼は首を振る。
総司君のコーチとして頑張るというのと彼のしたいことを余計なお世話で封じ込めることは全く異なるのだ。

(先ほど翔太郎君に首輪解除について聞いた時に、にべもなく否定されたことを、少し引きずってナーバスになっていたのかもしれないな)

橘から聞いた、ガイアメモリのある世界の参加者であれば首輪を解除できるかもしれない、という説。
大ショッカーの天敵であるディケイドもいる手前、そんな存在がいてもおかしくないか、と考えてしまったのもまた事実。
しかし彼の相棒のフィリップであればあるいは、程度の返答であったことに、自分でも気付かないほどダメージを受けていたというのだろうか。

しかし、そんなことを考えていてばかりではいけない。
息を一つ吐いて、彼は気持ちを切り替える。

「……そうだな、俺らしくもない。君たちを信じよう、翔一君、総司君。間宮君がワームとしての心で誰も襲ったりしないように、俺たちでしっかり守ろう」
「……ありがとうございます、皆さん、本当に、ありがとう……!」
「あ〜、麗奈さん泣かない泣かない。ほら、俺の作ったおにぎりありますから、ね?」
「お前一体何時作ってたんだよ……」
「さっき、何かないかな〜って病院の中探してたときに炊飯器見つけちゃって。
もしかして!って思って覗いてみたらおいしそうな炊きたてのごはんがあったんです、だからそこから拝借してきました。あ!いっぱいあるんで、翔太郎さんたちも、どうぞどうぞ」

言いながら先ほどまでの緊張感が嘘のように失せていく空間の中で、その中心に翔一はいた。
それを見ながら、やはりこの男には敵いそうもないと真司は思う。
自分も大概雰囲気を壊すだとか、緊張感がないだとか言われるが、この男は段違いだ。

もし彼が自分の世界のライダーバトルに参加していたら、きっと三日も持たずに皆戦いなど馬鹿馬鹿しくなるだろう。
翔一という男は、城戸真司を以てそう感じさせるような空気を放つ男であった。

「うまっ!何だこれ、ただの具なしおにぎりなのにうめぇぇぇぇッ!?」
「えへへ、一応これでもレストラン持ってますんで、簡単な料理でもこだわりがあるんです」
「確かにうまい、……大ショッカーを倒したら、妻と一緒に君のレストランへ行こう」
「どうぞどうぞ、もっと大人数でも大歓迎ですよ。あっ何だったら皆でいらしてくださいよ」
「そうだな……って名護さん妻帯者なのかよ!?道理で年齢の割に落ち着いてると思ったぜ」
「何を失礼な、俺は新婚だぞ、式の途中でここに連れてこられた……」
「……色々凄い話だなおいッ!」

空腹の中にうまい食事を取ったことで、傷だらけの戦士たちはいつの間にか笑顔で話し出していた。
全員その翔一が握ったおにぎりを笑顔で――。
否、一人すすり泣いているものがいた。

それは――。


168 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:33:46 M4JnH8wI0

「総司君、どうしたの?もしかして、おにぎりは嫌いだった?」

総司だ、笑顔の周囲の中で一人だけその目から涙を流し続けていた。
その様子を受けて先ほどまで笑い合っていた名護たちもそれに注目するが、それを受けて総司は涙を拭いながらえへへと笑った。

「だって、今までこんな楽しい時はなかったから。……皆で一緒にご飯を食べるってだけなのに、こんなに楽しいんだね」

そう言った総司の目はなおも涙を流していたが、しかしそれは決して悪い涙ではなかった。
まるでそれは、世界は自分を拒絶するのみなのだ、と決めつけて全てを壊そうとしていた過去の自分を戒めるような涙であった。
世界にはこんな素晴らしいことがあるのだ、ただ気の置けない友達と食事を囲むだけでこんなに楽しいのだと、彼は今の今まで全く知らなかったのだ。

「あ……ふふっ」
「何だ、何故俺の顔を見て笑う」

と、それまで泣いていた総司が、名護の顔を見て笑った。
それにつられたように周囲の真司も、翔一も自分の顔を見て微笑みを浮かべているのに気がついて、名護は困惑する。
それを受けて、横のベッドに座ったままの翔太郎が、仕方ねぇな、といった表情でキザに指を指して。

「名護さん、気付いてねぇみたいだけど、あんたも今、泣いてるぜ」
「なッ……?」

驚いて自分の頬を触れば、僅かに濡れた感触が伝わった。
どうやら、自分の尽力で幸せを当たり前に享受できるようになった彼の言葉を受けて、思わず目頭を熱くしてしまったようだ。
しかしそれも、仕方あるまい。

数時間前までの彼は、仮面ライダーがなぜ人を守るのかすらわからないただの子供であった。
だというのに、今の表情には世界を、弱い人々を守りたい、という強い信念が込められている。
こんな短時間で目を見張るほどの素晴らしい成長を見せたのだから、コーチ冥利につきるというものだ。

とはいえ、涙を流したままではしんみりした空気に浸ってしまうというものだ、ではむしろ自分の今の役目は――。

「これは涙じゃない、ただ目の洗浄作用が……」
「ふーん、じゃあ僕のことはどうでもいいんだ、僕が泣いてても関係ないんだー?」
「い、いや、そういうわけでは――」

名護がそこまで言うと、総司は思い切り笑った。
今まで見た中で、最高の笑顔だ。
それにつられるように、翔一も、真司も、翔太郎も、あの間宮麗奈と三原でさえ声を上げて笑っていた。

そうだ、これでいい。
皆を笑顔に出来るのなら、皆が持つ、心の中の音楽をよりよいものに出来るなら、この程度のおどけ位進んでやるというものだ。

(見ているか、紅音也。これが俺の遊び心だ。貴方から学んだから、こうして彼を、皆を笑顔に出来た、そのことに本当に感謝する)

昔の自分ではプライドが邪魔をして出来なかっただろう行動。
過去に行き、ちゃらんぽらんに見えて信念を持った紅音也と交流したことで、今の自分があり、今の総司がいる。
それに対する感謝を心の中で呟くのに対し、きっと奴は「男に感謝されてもうれしかねーよ」と悪態づくのだろうとそう思ってまた少し笑う。

あぁ、きっと自分は、この思い出さえあればどこまでだって行ける。
この場にいる誰もがそう思う中、この瞬間を失いたくないと、彼はまた一口おにぎりを口に運んだ。


169 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:34:05 M4JnH8wI0





皆がおにぎりを食べて少し経った後、放送まであと30分を切った時点で、名護たちはついに起き上がっていた。
先ほどまで翔一たちの留守を預かる間起きていたせいで眠気が覚めた、というのも理由の一つだが、何より放送までの短い時間を利用して少しでも情報交換を行うことが必要だ、と考えられたためだ。
そして、まずは最も短い時間で行える変身制限に関する確認が行われた。

名護から告げられたのは十分の変身制限、そして一度利用した力は同一人物は二時間使用不能になるということ。
逆に言えばアイテムには制限はかからないので誰でも使える能力を持っているとチームで効率的だ、ということも付け加えられた。
そして、意外なことに翔一からも進展があった。

それは通常の形態より強化された形態を使用すると変身可能時間が半分になる、ということであった。
これには名護も目を輝かせ、ライジングイクサの使用にも注意すべきか、と一言呟いていた。

そして、それで変身制限に関するものは大体出尽くしたので、次に支給品の整理が行われた。
まず翔太郎の荷物の開示であった。

「あ、そーいやこれ借りっぱなしだったな、ありがとよ名護さん」
「あぁ、君こそ約束を守って無事生きていてくれたことに感謝する」
(……まぁ僕が過去に戻って助けなかったら死んでたんだけど、それは別にいっか)

そう言いながらイクサを手渡す翔太郎に対して、総司は内心複雑な感情を抱いたものの、別に空気を壊してまで言う話ではなかったため、口を噤んでいた。
と、次に彼が取り出したのは子供が描いたような、男の子と女の子が並んでいる絵、使い道はなさそうだが……。

「それ……草加が子供の頃描いた奴だ」
「草加……草加雅人か、確か乾君が仲間だと言っていた」

それは、草加雅人が流星塾にいたころ、描いた絵であった。
男は草加、そして横にいるのは……。

(真理、なんだろうな、やっぱり)

絵を見つめながら、三原は複雑な感情を抱く。
幼年期よりの彼のあこがれの女性、園田真理。
この場で第一回放送を前にして死んだ彼女に対し、彼はどうしたのだろうか。

過去の同級生への懸念を抱く三原を尻目に、翔太郎は次の支給品を取り出す。
そこにあったのは、銀に輝くZECTのマークの入ったバックルであった。

「これは、まぁ十中八九総司の世界のものだよな、ゼクター、だか言うガジェットで変身できる、っていう」
「そうだね、でもそれをさっきの戦いで使ってないってことは……」
「あぁ、お察しの通り、どうやら俺じゃこいつには認められないらしい」

全く困ったぜ、とキザに帽子を触る彼だが、その実表情はそこまで明るくない。
認められさえすれば力になるのは確実なのに、この12時間ほぼ片身離さず持っていたのに認められないところを見ると、もう自分には扱えないと判断するべきだろう。
と、それを欲しい人がいれば譲る、という空気の中で一応全員が手に持ってみてゼクターを呼んでみるが、しかし誰の元にも現れない。

であればこの状況では誰が持っていても変わらないのと同じ、誰か手を挙げればそのまま譲るという状況で、誰も率先してそれを受け取らないか、と思われたその時、おずおずと手を挙げる者が一人。

「……あの、それ、私がもらってもいいですか?」

意外なことに、それは間宮麗奈であった。
本来ワームを倒すために作られたライダーシステムを彼女が受け取ろうとする動きは流石に怪しく、眉を潜めるのを抑えることは出来なかった。
そんな空気を察したのか、麗奈は申し訳なさそうにして、しかしその手を下げることはしなかった。


170 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:34:26 M4JnH8wI0

「あの、私、ずっと守られてるだけは嫌なんです。もう一人の私にも勝てる力を私自身が手にすれば、もしかしたら彼女は出てこないかもしれません。だから誰も欲しくないなら私がって……思った、ん、ですけど……?」

自分なりに理由を述べる彼女に対し、周りの仮面ライダーは目を丸くしていた。
何かまずいことでも言ったか、とそう身体を強ばらせるが。

「やっぱり麗奈つよーい!自分と戦うなんてかっこいいしー!」
「俺も、リュウタの言うことに賛成です。格好良いじゃないですか間宮さん、翔太郎さんさえよければ、そのベルト、渡してあげてください」
「そうだな、逆にいやぁ、ワームになった時の間宮さんにはガジェットも力を貸さねぇかもしれねぇしな」

本来ワームを倒すための装備なのだから、ワームを認めることなどないだろう、とそう翔太郎は判断して彼女を信じてベルトを渡す。
――本当は、特殊な条件下であれば、例え資格者がワームであっても、その本能を取り戻しても、ゼクターは問題なくその力を貸すのだが。
短い時間で、かつそのようなレアケースはこの場で起こりえないだろうと判断した天道によって、そのような事例が起こりうるとはこの場の誰も知ることはなかった。

「さぁて、俺の支給品はこれで終わりだな、次は――」

そうして、その後も順調に支給品の交換は進んでいった。
名護から翔太郎にメタルメモリの譲渡があり、修二、翔一のものは何ら――精々翔一がデイパックにつけていたふうと君キーホルダーに翔太郎が反応した程度で――他の参加者の者ではなかったと言うことだった。
次にデイパックを開けたのは真司だ。
てるてる坊主はなにやら思い出の品らしく大事に仕舞い込んでいたが、続いて自分のカードデッキを取り出し――。

「おい、それ俺前に似たようなのを紅を殺した奴が持ってたのをみたぞ」
「それは本当か、翔太郎君!」
「あぁ、間違いねぇ、ここに入ってるカード全部黒にしたみてぇなのだった」

このドラゴンの黒い版にやられたんだ、と悔しそうに呟く翔太郎に対し、真司は驚きの顔を浮かべる。

「ちょ、ちょっと待て、13人の仮面ライダーは、俺が最初に持ってたアビスで全員じゃなかったのかよ!?」
「……そういうことになるな、俺としては君の言う神崎士郎がルールを破っていた、という方がしっくりくる。いつの時代も、殺し合いなど強要するような輩には嘘がつきものだ」

だから大ショッカーも信用ならない、と呟く名護に対し、真司もまた複雑な表情を浮かべたまま、しかしそれ以上話を続けはしなかった。
続いて開示されたのは麗奈のもの。

厚くてこの場ではとても読む時間のない本の束を翔太郎が愛読書であると欲し、素直に譲渡する。
続くのはファンガイアバスターの名を持つ銀色のボウガンのようなものであったが――。

「それは……ファンガイアバスターか」
「名護さん、知ってるんですか?」
「いや、俺が使ったこともあるが、それより妻がいつも使っていた……」

どこか遠い目でそう呟く名護に対し、麗奈は無言でそれを差し出した。

「……やめなさい、俺は別に感傷に浸りたいわけでは――」
「そんな話じゃないですよ、ただ、好きな人のものくらい、自分で持っていたいじゃないですか」

そう言って、彼女は薄く笑った。
その笑顔は儚かったが、しかし美しく、妻帯者である名護でさえ一瞬目を奪われてしまう。

(いやいや、そんなところまであの男のちゃらんぽらんさを真似る必要はない!俺は妻一筋だ、恵一筋なんだ!)

それをこの場で彼の妻となった恵が聞いていたらやはりいつもの調子で「馬鹿じゃないの」と言って笑っただろうか。
そんなことを考えるが、しかしこれは感傷ではないだろうと彼は思う。
いつか必ず帰る場所、待つ妻の物を持つのは、決して戦士に許されぬ甘えではないはずだ。


171 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:34:51 M4JnH8wI0

と、自分をそう言い聞かせて、彼は一言の礼とともにデイパックにそれを仕舞い込んだ。
それを見て総司と翔太郎は完璧に見える彼の弱点を見つけたような気分で顔を見合わせて笑っていたが。
そして、次にデイパックを開いたのはリュウタであった。

「これとー、あとこれは良太郎のでしょー?だから気になるのは――」
「――それ、風間さんの……!」

リュウタロスがデイパックから取り出した中で、一番小さいただのグリップのようなものに、麗奈は反応した。
マークなどから考えるに、恐らくはこれもカブトの世界のものなのだろうが――。

「ごめん、リュウタ、それ、間宮さんに渡してあげられない?」
「えー、でもこれ元々僕のやつー」

言って足をばたつかせ駄々をこねる紫の怪人に対し、翔一はそんなことなど日常茶飯事、といった様子で近づいて、耳打ちする。
すると、

「麗奈、はいこれ」
「リュウタ、いいの……?」
「うん、もちろん!大事にしてね!」

すぐに彼は麗奈にそれを渡したのだった。
嬉しそうにまた座り直すリュウタロスを見て翔一もまたその頭を撫でる。
そんな様子を見て、真司は翔一に密かに耳打ちした。

「おい、お前なんて言ったんだよ、まさかまた間宮さんは風間さんを好きだってことバラしたんじゃ……」
「やーだなぁ、勘違いしないでくださいよ城戸さん、俺はただ『ここで我が儘言わないで渡したら格好良いぞ』って言っただけですよ」
「な、なんだ、俺はてっきり……」
「本当にもう、デリカシーないんだから城戸さんは」
「誰がだよ、誰が!大体お前はなぁ――」
「……う“っう”ん!」

思わず声が大きくなっていた真司を咎めるように、名護がわざとらしく咳払いをする。
それを受けてすんません……と塩らしく小さくなる真司を見て、翔一はまた一つ笑顔を浮かべるのだった。
といったところで、気持ちを切り替えてリュウタが最後に取り出したのは、SMARTBRAIN社のロゴの入った大きなトランク型ツールであった。

「これは……仮面ライダーファイズ、つまり乾巧君の強化ツールか、ここに彼がいれば……」

それに反応したのは名護である。
純粋に仲間に対する無念を口にしただけだったのだが、それに対して反応したのは翔太郎であった。

「……ちょっと待てよ名護さん。今あんた、ファイズの正体を知ってるって言ったか」
「あぁ、一度俺と行動を共にしてもいたが……」
「人類に味方するオルフェノクを殺すような奴とか!?」

怒声と共に立ち上がった翔太郎を見上げながら、しかし名護は困惑した表情を浮かべるのみであった。

「……一体何を言っているんだ翔太郎君、一から説明してくれないか」
「俺が最初、木場さんって人と一緒にいたのは言ったよな。……その木場さんが言ってたんだ、ファイズは善良なオルフェノクを傷つける悪魔みてぇな存在だってな」
「……それは、多分違うと思う」

いきり立つ翔太郎に背後から声をかけたのは、意外なことに三原であった。
そう言えば彼も木場と同じ世界の住人であったか、と思うと同時、名護も口を開いた。

「……彼の言うとおりだ。乾巧は我々と同じ種族などで他者を判断しない、善良な仮面ライダーだった、この目で見た俺が言うんだから間違いない」
「でも木場さんは――!」
「巧君もオルフェノクだ」

思わず熱くなりかける翔太郎に対し、冷や水を指すように名護は言う。
それに対しえ?と間抜けな声を出したのを聞いて、名護はやはりか、と目を伏せた。


172 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:35:12 M4JnH8wI0

「翔太郎君、この場に参加させられている参加者には、その参戦時期にばらつきがある、というのは言ったな。……巧君は以前は勇治君とお互いの正体を知らぬまま傷つけ合った時期があったと言っていた。
恐らく君が出会った勇治君はそういった時期から連れてこられたんだ」
「じゃあ、ファイズは敵じゃないってのかよ?」
「あぁ、君にとってはもちろん、そして勇治君にとってもな」

言われて、翔太郎は帽子を押さえた。
一体、自分はこの12時間ほどを意味のない恨みと共にいたというのか。
全く以てそれでは彼の無念を晴らしようもないではないか、と彼はため息をついた。

しかし、そんなことに気を取られていては時間がなくなってしまうと、支給品の開示は続けられた。
最後にデイパックを広げたのは総司であった。
自分の使うゼクターやベルトを取り出した後に、彼はもう一本の銀色のベルトを――。

「あー!それ電王のベルトじゃん!なんで総司がそれを持ってるの!?」
「え、これは、その……」

それは、第一回放送前、自分が病院を訪れた際に最初に殺した黒い鬼が持っていた物だった。
それを使うところすら見なかった総司には全く使い方もわからなかったのだが、まさかここでリュウタがそれを知っているとは。
もしかすれば彼の仲間を殺してしまったかもしれない、と口の中の水分が一瞬で蒸発していく総司に対し、しかしその視線の先で名護は自分を見つめていた。

『正直に話せ。例えそれで君が非難されようと、俺は君を支える』

目だけでそう語るかのような強い眼差しに彼は根気負けして。
一度ゆっくりと唾を飲み込んでから、その口を開いた。

「……これは、黒い鬼みたいな怪人から取ったんだ、悪の組織がどう、とか言ってたけど――」
「鬼!?もしかしてそれって、モモタロス!?総司、モモタロスのこと、殺したの!?」

――あぁ、やってしまった。
剣崎一真といい、モモタロスといい、自分が殺したものは皆善良な仮面ライダーとその仲間ばかりではないか。
一斉にリュウタからの敵意が膨れあがるのを感じつつ、彼はただ過ちを謝罪するだけしか――。

「待てよリュウタ、モモタロスって、赤い鬼だったんじゃないのか?それなら、総司さんの見た黒い鬼っていうのは、お前も知らないって言ってたこの名簿のネガタロスって奴かもしれないじゃないか」
「あ!そう言えばいたねそんな奴!僕も全然知らないの」

しかしそんな総司に助け船を出したのは、三原だった。
彼は名簿の中で彼が知らないと言ってすぐ忘れていた参加者のことまで覚えていたのだ。
もしかすれば自分の行為は現在であっても咎められるものではないのでは、と総司は胸をなで下ろした。

が、そんな総司の後ろで、あの、とらしくなく暗い声をあげる者が一人。

「俺、その赤い鬼みたいな奴、……モモタロス、でしたっけ?見たかもしれません」
「え、本当に!どこでどこで!?」

はしゃぐリュウタロスに対して、翔一はここに来て初めて俯いた。
それに対して、先ほどまで同じ表情をしていた総司でさえ不審に感じる。

「ここから南の方の――G-1、でしたっけ、工場があるところです。そこで……多分モモタロスの遺体を俺は見ました」

告げられた言葉は、あまりにも重く。
しかしそれだけでは、正直ここまで翔一が沈む理由が分からない。
もう少し早く着ければ救えた命だったということか?とその場にいる者が納得しかけて。

「それで、モモタロスを倒したのは誰だか知ってるのー?僕そいつやっつけたい〜」
「それ、は……」

そう言って、彼は横にいる真司を見た。
今の今まで理解の追いついていなかったところが、いきなり氷解したようで、真司は翔一がそれ以上言葉を紡ぐのを止めようと――。


173 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:35:50 M4JnH8wI0

「俺、多分モモタロスを殺しただろう人と、ずっと一緒に行動してました」
「――え?」

その言葉に、誰しもが言葉を失った。
明るく、誰にでも心を開かせることの出来る彼が、殺し合いに乗った参加者と共にいたというのか、一体何のために?
膨れあがる緊張感を受けて、翔一は覚悟したように、その口を開いた。

「その、モモタロスもリュウタも、見た目はわかりやすく怪人、って感じじゃないですか。だから俺、それを倒したその人はきっといい人なんだろうって、勘違いしちゃって……」

字面だけ見ればいつもの彼らしい軽い言葉に見えるかもしれない。
しかし、それを告げる翔一の顔はとても暗く。
だが彼と会話している張本人は、そんなことを気にすることすらない。

「ふざっけんなよ!モモタロスがそいつに殺されたのにお前そいつのこと倒してもくれなかったのかよ!」
「……いいえ、俺が倒しました」
「……え?」
「俺が倒しました。あの人は、未確認って言って、人を無茶苦茶な方法で、……ゲーム感覚で殺す、そんな奴らの一人だったんです」

そう言って、今度は翔一がリュウタを見据えた。
きっと、彼はこれで許してもらう気などない、どころか、ここでリュウタが怒りを覚えて自分にぶつけてくるなら、甘んじてそれを受けるつもりでいる。
流石のリュウタも、そんな相手には何も言えなくなって、やりきれない思いを抱いたまま、総司に向かってずんずんと向かっていく。

「……これ」
「え?」
「これ、ちょうだい。これがあれば僕も電王になれるから」
「もちろん、良いけど……」

そう言うが早いか、リュウタは少々乱暴に総司の手からデンオウベルトを取って、そのまま背を向けて椅子に座った。
翔太郎の次はリュウタロスか。
ここに集まった8人にこの12時間だけでどれだけのドラマがあったのか、と思うが、しかし今はそれに気を取られている場合ではないと総司は支給品を取り出す。

「それは……ラウズカード、ダイヤということは、橘のものか」

それに反応したのは、名護であった。
仲間の強化に必要なアイテムがここに集まっているもどかしさを抱きながら、それを回収しようと――。

「……ちょっと待て、それってあの黒と赤のハートの目をした仮面ライダーの使ってたやつと同じじゃねぇか」

そのカードに見覚えがあったのか、翔太郎が口を挟んでくる。

「黒と赤で目がハートの仮面ライダー?それがどうかしたのか?」
「あぁ、木場さんを殺した奴だ、なぁ名護さん、もう俺が木場さんの為にしてやれるのはそのライダーを倒すことだけだ、もしなんか知ってるなら教えてくれ」
「橘から聞いた話で、君の言う特徴と一致するのは仮面ライダーカリス、相川始だろうな」
「なるほど、カリス……って、え?」

そこで、ついに彼の思考は停止した。


174 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:36:14 M4JnH8wI0





「あー、ったくこんなことしてる時間じゃねぇのはわかってるんだけどなぁ」

こういうところがハーフボイルドって言われんだよな、と自嘲しつつ、翔太郎は一人別室で夜風を浴びながら黄昏れていた。
こんなことをしている時間でないのはわかっている。
しかし翔太郎は今の状態でもう一度仲間たちと情報を交換する気にはなれなかった。

自分がガドルから助け、そして少しの間行動を共にした相川始。
名護が話を聞いた橘朔也の話では、彼はその世界にいるアンデッドの頂点、ジョーカーであり、しかし最近では仮面ライダーとしてアンデッドの封印のために戦っている、という話であった。
故にこの場でも仲間として接することが出来ればそれに越したことはない、と橘の話では友好的な人物として捉えられていた。

だが、結果としてはどうだ。
この殺し合いが始まってまだ一時間も経たない内から彼は木場を殺した。
翔一のように勘違いによるものではない。

自分たちはどちらも生身であったところを襲われたのだから。
それに、自分の顔も知っているはずだというのに、その後も自分と何もなかったかのように行動を共にし、謝罪の一つもないなど、悪意を認めざるを得ないだろう。
であれば、始は完全に敵なのか、そう考えて。

『その亜樹子とかいう女は、お前が生きる世界の住民だろう。このままだと、殺されるだろうな』
『お前は運命を変えると言ったな、それは嘘だったのか』
『嘘じゃないなら、早くしろ。お前が本当に世界を守るのか、見届けさせて貰う』

だが、思い浮かぶのは亜樹子による放送の後彼が呟くように言った言葉。
本当にただ殺戮のために殺し合いに乗っているのなら、あんな言葉を自分にかける必要はないはずだ。
そもそも、最初の戦いで自分の方が強いのはわかりきっているのだから、変身制限が解けた時にそのまま自分を襲えば良かったではないか。

であれば、やはり彼は自分の世界の平和のためにこの殺し合いに乗っていることになる。
とはいえ木場を殺したことに対する恨みは、そんな大義名分でなくなるものではなく。

「――俺は一体、どうすりゃいいんだ……、なぁ照井?」

デイパックから取り出したトライアルメモリにそう語りかける。
意味などない、どころかますます虚しくなるような行為だが、しかし彼はふっと笑って。

「あぁ、わかってる。『俺に質問をするな』だろ?」

今この場にいなくても返答が聞こえるような気がして、翔太郎はそう呟いた。
彼であれば、きっと橘からの情報も、自分で見た彼のどちらの姿も飲み込んだ上で、もう一度会ったときに結論を出すのだろう。
それが例え、厳しい決断であっても。

悔しいが自分よりもハードボイルドであったあの男なら、そうするはずだ、とそう考えて。

「けど俺はやっぱ信じてみてぇよ、あの言葉を、さ」

運命を変える。
気安く呟いたその言葉を、今一度自分の胸に刻み込んで。
殺戮で得られる世界の安寧など、絶対に間違っているとそう新たに決意して、彼はまた仲間の待つ部屋へと踵を返していた。


175 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:36:39 M4JnH8wI0





「翔一君、未確認、といったか、その話を詳しく聞かせてもらいたい」
「いいですけど……あんまり楽しい話じゃないですよ」
「構わない」

そういった名護を受けて、翔一はリュウタに麗奈と三原を連れて少し離れたところで彼らを守るように指示をした。
それを受け三人が遠ざかったのを視認して、翔一はやっと重い口を開いた。

「未確認っていうのは、さっきも言いましたけど数年前まで現れてた謎の怪人集団です。ゲームみたいな規則性を持ってターゲットを襲ってたので、今でもアングラなところでは結構人気があったりするみたいですけど、一般の場では名前を出すのも憚られるようなタブーになってますね」
「それで、君が倒した男も、未確認だった、と」
「はい、小沢さんがそう言ってました、それが何か?」

言われて名護は少し考えるようなそぶりをして、それから口を開く。

「ただの思いつきなのだが、もしかしてその男はリントだとかクウガだとか言っていなかったか?」
「……!言ってた言ってた、翔一のことクウガって、なぁ?」
「……確かに、言われましたけど……」
「ということは、彼が名簿のズ・ゴオマ・グと見て間違いないだろうな」

そう言って、彼は名簿に目を落とす。
第一回放送で脱落を放送された、ズ・ゴオマ・グ。
彼が助け、また最終的に倒したのは彼でほぼ間違いないだろう。

「えっと、その悪いんだけど、なんでそうなんの?」
「……僕が倒したガドルって男もそんなことを話してたからだよ」

真司の素朴な疑問に答えたのは総司である。
グロンギ語と言われる特殊な言語を解析することは出来なくても、特徴的なフレーズであれば耳に残っているのではないか、と名護は考えたのだ。
特に、未確認の説明にあったゲーム感覚で他者を殺す、という点が強者のみをターゲットとして狙うガドルに重なって見えたのも、この考察の理由の一つであった。

「……ということは、残るはこのン・ダグバ・ゼバ、か」

そう言ってその名前を見つめる。
実力はわからないが、あるいはガドルよりも強いのだろうか。

「でも、翔一はゴオマって奴を倒したのにまだ全力じゃないらしいし、総司だってこんなボロボロなのにガドルってのを倒したんだろ?なら俺たちが力を合わせればダグバってのも倒せるんじゃないか?」

そう言うのは真司、その表情は決して楽観的なものではなかったが、しかしそこまで悲観しているわけでもないように見えた。
と、そんな中、会話に割って入るものが一人。

「……いや、わからねぇぜ。そいつは多分、紅を殺した奴だ」

先ほどまで一人で考えさせてくれ、と別室に移動していた翔太郎である。

「翔太郎君、大丈夫なのか、君は相川始に勇治君を殺された上……」
「心配は無用だぜ、名護さん。もう吹っ切れたしな、ここでうじうじ考えてても何も始まんねぇ、次会ったときに全部聞くさ」
「――やはり頼もしいな、君は」


176 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:36:57 M4JnH8wI0

言われて翔太郎はキザに帽子を下げる。
どうやら、先ほどまでの彼に戻ったらしい、と名護は一つ息をついた。

「……ところで、その紅さんを殺したらしいっていうのは、一体どういうことなんです?」
「あぁ、放送前からずっと一緒に行動してた紅……、紅音也と街を歩いてたら白い服の奴が来てな、言ったんだよ『リントの戦士』ってな。
そんでさっき話してた城戸のデッキを黒くしたようなのを使って変身したのと戦って、俺はドラゴンに咥えられて気を失って――気がついたら紅が死んでそいつは消えてたってことだ」

リント。
それは、確かに先ほど未確認の言葉として判明したものであった。
であれば、ダグバが紅音也を殺したらしいのはまず間違いない。

憎むべき宿敵の名前が判明したことで一気に闘争心が沸き起こる名護だが、ふと時計を見やるともう放送まで二分を切っているところであった。

「まだ、色々と情報は交換すべきだと思うが、まずは放送を聞く方が先だな」

と、そうぼやいて先ほど遠ざけた三人を呼び寄せ、放送に備える。

(渡君、無事だろうか、そして万が一にも変な気を起こしていなければ良いが――)

名護が、その思いが裏切られ渡がスコアを上げていることを知るまであと二分。

(亜樹子、フィリップ、無事でいろよ――!)

翔太郎が、その思いと裏腹に亜樹子の死を知るまであと一分三十秒。

(草加、変なこと考えてなきゃ良いけど――)

三原が、狂気に染まったために見捨てられた自分の同級生の死を知るまで、あと一分。

(小沢さん、無事でいてください――)

翔一が、この病院に留まった理由の一つでもある小沢澄子の死を知るまであと三十秒。

(黒い龍騎……ミラーワールドの成り立ちから考えると、もしかしてそれって優衣ちゃんが俺を描いた絵が――って今はそれどころじゃないか。――無事でいろよ、蓮)

複雑な思考に至りかけた真司が想った相手が、最後の瞬間自分を想いその命を絶ったのを知るまであともう数秒――。

――深夜0時。
彼らの思いを裏切る放送が、今始まろうとしていた。

【一日目 真夜中】
【D-1 病院】

【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一への信頼、麗奈への心配
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:翔一と共に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢を助け出す。
3:蓮にアビスのことを伝える。
4:ヒビキと合流したいが、今は小沢の救出を優先する 。
5:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
6:黒い龍騎、それってもしかして……。
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※再変身までの時間制限を大まかに二時間程度と把握しました(正確な時間は分かっていません)
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました 。


177 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:37:15 M4JnH8wI0


【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】強い決意、真司への信頼、麗奈への心配、未来への希望
【装備】カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
1:城戸さんと一緒に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢さんを助け出す。
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
4:木野さんと北条さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
5:もう一人の間宮さん(ウカワームの人格)に人を襲わせないようにする。
6:ヒビキと合流したいが、今は小沢の救出を優先する 。
7:南のエリアで起こったらしき戦闘、ダグバへの警戒。
8:名護と他二人の体調が心配 。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※龍騎の世界についての基本的な情報を得ました。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※再変身までの時間制限を大まかに二時間程度と把握しました(正確な時間は分かっていません)
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました
※今持っている医療箱は病院で纏めていた物ではなく、第一回放送前から持っていた物です。


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】 ウカワームに35分変身不可、他人に拒絶されること及びもう一人の自分が人を傷つける可能性への恐怖、翔一達の言葉に希望
【装備】なし
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
1:自分に出来るだけのことをやってみたい。
2:もう一人の自分が誰かを傷つけないように何とかする。
3:……それがうまく行かない時、誰かに自分を止めて貰えるようにする。
4:照井が死んだのは悲しい。一条と京介は無事? どこへ行ったのか知りたい。
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※生前の記憶を取り戻しました。ワームの方の人格はまだ強く表には出て来ませんが、それがいつまで続くのか、またワームの人格が何をどう考えているのか、具体的には後続の書き手さんにお任せします。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ラウズカード(ダイヤの7,8,10,Q)@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:可能な限り休養を摂り、少しでも疲労を軽減する方針
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしていましたが、翔太郎との情報交換でそういうわけではないことを知りました。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。


178 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:37:55 M4JnH8wI0


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
1:名護と総司、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉(名前を知らない)、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
6:ミュージアムの幹部達を警戒。
7:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
8:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
9:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っていました (人類が直接変貌したものだと思っていなかった)が、名護達との情報交換で認識の誤りに気づきました。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※総司(擬態天道)の過去、及びにカブトの世界についての情報を知りました。ただし、総司が剣崎一真を殺してしまったことはまだ知りません。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護に対する自身の執着への疑問。
3:名護や翔太郎達、仲間と共に生き残る。
4:間宮麗奈が心配。
【備考】
※天の道を継ぎ、総てを司る男として生きる為、天道総司の名を借りて戦って行くつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに天道総司を継ぐ所有者として認められました。
※タツロットはザンバットソードを収納しています。


179 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:38:16 M4JnH8wI0


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
1:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強く恐怖を抱く。逃げ出したい。
2:巧、良太郎と合流したい。草加、村上、牙王、浅倉、蓮を警戒。
3:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
4:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。けど……
5:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ、けど……
6:間宮麗奈を信じてみたい。
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクであると知ったもののある程度信用しています。


【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、額と背中に裂傷(手当て済み)、35分イマジンとしての全力発揮制限
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
1:良太郎に会いたい
2:麗奈はぼくが守る!
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスの分まで頑張る。
5:修二が変われるようにぼくが支えないと
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。


【全体備考】
変身制限に関して、完全に把握しました。
キバットⅡ世、タツロット、レイキバットは病院周辺を手分けして参加者を探しています。


180 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/07(水) 22:40:38 M4JnH8wI0
以上で投下を終了します。
タイトルは『最高のS/その誤解解けるとき』でお願いします。
色々ばたついて申し訳ないです、引き続きしたらばの投票の方もお願いいたします。

また、拙作についてご意見ご感想、ご指摘などございましたら是非ともよろしくお願いいたします。


181 : ◆LuuKRM2PEg :2018/02/07(水) 23:06:37 4DVj480M0
投下乙でした!
放送直前となり、緊迫した雰囲気が迫っていましたが、冒頭の帰還から始まる日常パートは穏やかでした!
みんなでおにぎりを作る翔一くんの姿や総司さんの微笑みと涙、そしてワームと知った上で麗奈さんと向き合う皆の姿はとても素敵です!
ゴオマとネガタロスの脅威、そして始の真意をそれぞれは知り、そこからまた前に進もうとする姿もまたカッコよかったですけど、放送を聞いてから一同はどうなるのか……?


182 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/08(木) 00:00:21 92U/Nv/U0
投下お疲れ様です。
また、>>164でこちらのワガママにお応え頂きありがとうございます。すぐにとはいかないとは思いますが、是非ご厚意に応えた作品を用意できればと思います。

さて、『最高のS/その誤解解けるとき』についてですが、これは良い情報交換回。
皆でおにぎりを頬張る際に総司が流す涙にこちらも釣られてしまいそうです。良かったね、本当に……
そんな彼を見る目がおそらく最も読者に近い名護さんも、結婚式の最中に連れて来られたとか面白いネタも振りつつ、音也に感謝したり本当に素敵。
少しずつ男を上げる三原や、各々の罪や誤解と向き合う主役ライダーズ、最早参加者の紅一点と化した麗奈さんと可愛いリュウタ、全員の描写がとても魅力的でした。
……とはいえデルタギア使いまわしたりしない? 大丈夫? と心配になったり、こっち側にはガチの危険人物だらけだけども変身用モンスターたち大丈夫? とか不安要素もあってロワらしさも欠かさない素晴らしい塩梅でした。
第二回放送前の〆に相応しい作品、改めて執筆お疲れ様でした。


183 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/09(金) 00:56:13 4tUbJ/ro0
皆さま、夜分遅くに失礼致します。
現在、第二回放送案について、仮投下を行った修正版の是非を求めております。
皆さまのご意見をお待ちしておりますので、投票スレおよび仮投下スレにお目通しくだされば幸いです。


184 : 名無しさん :2018/02/09(金) 18:33:58 X5vgIs.E0
投下乙です
リンクを貼ってもらえると有難い……


185 : 名無しさん :2018/02/09(金) 18:58:02 8hrDpGG.0
完全にズレた感想で申し訳ないのですが、
名護さんが皆のまとめ役や総司の師匠を
立派にやっている事を嬉しく思う反面、
今の所、かつて父親を自殺に追い込んだ事に
一切触れていないのが少し気になる…。


186 : 名無しさん :2018/02/09(金) 22:24:16 Pp1c5dOQ0
それを書く書かないは書き手の自由なんだから、貴方が一々触れる必要ないですよね?
見方によっては名護さんの父親の件も今後書けと要求しているようにも見えますよ


187 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/09(金) 22:30:11 4tUbJ/ro0
>>184

こんばんは。反応が遅れてしまって申し訳ございません
こちらが仮投下スレになります。

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14262/1289400059/l50


188 : 185 :2018/02/09(金) 23:00:54 8hrDpGG.0
>>186
すみません、ふと気になった事を軽はずみに
書き込んでしまいました。
強要するつもりなどはなかったのですが、
不快にさせて申し訳ございません。


189 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:09:52 NNgpreaA0
これより、第二回放送を投下します


190 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:11:52 NNgpreaA0



 日付が変わる、その寸前。天に生じた灰色のオーロラ――のような光の壁から、何隻もの巨大な飛行船が吐き出された。

 空を駆けるその飛行船に刻まれたコンドルのマーク……それは六時間前、第一回放送が行われた時と同じく、宙を浮くそれらが大ショッカーの所有物であることを示していた。
 やはりそれらの飛行船には、液晶の巨大モニターが幾つも取り付けられていた。六時間前の再現と言わんばかりに、全施設と民家、街中の大画面液晶、店先のテレビ――種類を問わず、ありとあらゆる情報媒体が勝手に起動を始める。

 それに伴い、音声も会場中のあらゆるスピーカー……参加者の首輪に供えられたそれも例外ではなく、放送の態勢に入る。

 参加者が何処に居ようと、意識を保っている限り。大ショッカーからの情報を、本人の意思を無視して届けられる状態が、再び完成したのである。







 そうした影響を一切受けない場所――すなわち、放送を行う大ショッカーの本部にて、背広姿の男が大ショッカーのエンブレムを背に立っていた。

「時間だ。これより第二回放送を開始する」

 手前のテーブルに資料を広げた彼は、眼鏡越しにカメラを――否、その先の会場にいる参加者を見据えると、厳しい表情のまま口を開いた。

「俺は今回の放送を担当する幹部、三島正人だ――まずはこの十二時間を生き延びた参加者諸君には、賞賛の意を述べさせて貰おう。君たちの活躍は、我々にとっても想定外といえるほど目覚ましいものだ」

 告げる男の声は、まるで古い機械音声のように酷く抑揚を欠いていた。
 死んだ魚のように濁った目からは、言葉とは裏腹に生き残っている参加者への興味が一切感じられない。

 何の面白みもない三島の様は、殺し合いという状況を愉しんでいたキングとはまるで正反対――あるいは、対照的な人物が揃って従属する大ショッカーという組織の強大さを示す意図があるのか。
 そんな人事の真相にも興味がなさそうに、三島は仏頂面のまま言葉を続けた。

「早速だが、第一回放送からここまでの脱落者と、禁止エリアについて伝える。

 死亡者は、ゴ・ガドル・バ。五代雄介。小沢澄子。秋山蓮。草加雅人。金居。天美あきら。桐矢京介。日高仁志。乃木怜治。天道総司。矢車想。牙王。紅音也。アポロガイスト。海東大樹。園咲冴子。鳴海亜樹子。

 以上十八名だ。これでこの会場に残る人数は二十二名となった」

 死亡者の名前に何の感慨も込めず、淡々と告げた彼はつまらなさそうに資料をめくる。

「続いて禁止エリアの発表だ。第一回放送と同じく、二時間ごとに二つのエリアを立ち入り禁止とする。

 一時からエリア【G-7】と、エリア【D-8】。
 三時からエリア【H-5】と、エリア【C-2】。
 五時からエリア【E-1】と、エリア【B-6】。

 以上が、次回放送までの禁止エリアだ。
 気付いたと思うが、次回放送までに主要な施設はほぼ禁止エリアとなる。籠城などというくだらない考えはいい加減捨てることだな」

 そうして、一通りの伝達事項を読み終えた三島が、追加された業務を消化しようと次の資料に手を伸ばした、その時だった。

「失礼。まことに急ですが、今回のあなたの出番はここまでです」


191 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:12:12 NNgpreaA0

 三島の隣へと急に降って湧いた金色の粉――それが結実した、僧服に純白のストールを掛けた神父風の男が三島の手を制止したのは。

「……どういうことだ、ビショップ」
「我らが主の意向です。この場はこれより、首領代行が引き継ぎます」

 ビショップという男に告げられたその時。初めて、無感動だった三島の顔に驚愕が浮かんだ。

「まだ納得頂けませんか?」
「いや……了解した」

 そうして頷くや否や、三島はテーブルの上に残してあった持参の資料を掴み取る。

「悪いな、参加者の諸君。担当者が交代することとなった。一旦放送を中断する」

 それだけをマイクに吐き捨てると、机の上を綺麗に空けた三島はそのまま、踵を返してカメラの前から姿を消した。

 ――彼が立ち去ると同時、複数の影が画面の奥から姿を顕した。

「首領代行。資料はこちらに整えてあります」

 接近する影に頭を垂れ、恭しく新たな書類を差し出したビショップもまた、三島と同じく大ショッカーの幹部の一人だ。
 現在の組織において大幹部と呼ぶに相応しい地位にある彼が――仮に表面だけでもここまでの敬意を見せる相手は、最古参の大幹部である死神博士ですらない。

 影より歩み出で、無言で彼の手にした書類を受け取ったのは、三つの異形を侍らせた女だった。
 エキゾチックな黒いドレスの上に、あるいはバラの群れにも見える真紅のファーを纏う長身の美女。その冷徹な美貌の額には、白いバラのタトゥが存在していた。

 先行したビショップの整えた席に、彼女は優雅に腰掛ける。
 異形達の隙間から離れて行ったビショップを一瞥することもなく、バラのタトゥの女は、己の座ったテーブルの前にあるマイクを手に取った。

「――これより、第二回放送を再開する」

 怜悧な印象に反して、その唇から紡がれた日本語は――ほんの少しだけぎこちなかった。
 カメラを向けられて、そこで彼女は初めて表情を動かした。
 先の違和感を忘れさせるほど蟲惑的な、謎めいた微笑を浮かべるために。

「前任どもに倣うとするか。
 私の名はラ・バルバ・デ――大ショッカーの最高幹部、首領代行だ」

 艶然と微笑む美女の背後には、それぞれ鯨、獅子、鷹を想わせる――どこか姿が歪んで見える異物感を漂わせた三体の怪人が、まるで彫像のように直立していた。

 あるいはその声に覚えのある者もいるかもしれない。
 あるいはその玲瓏な姿を知る者もいるかもしれない。
 あるいはその従える異形の姿を忘れられない者もいるかもしれない。

 だがそう言った因縁あるだろう相手へ何ら興味を示さず、大ショッカーの最高幹部を名乗った女は言葉を続けた。

「今回は三島が放送を担当して終わるはずだったが……先に告げた通り、我々の想定以上に今回のゲゲル、バトルロワイアルが進行している。故に生じたおまえたちへの言伝を、首領より預かって来た」


192 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:12:38 NNgpreaA0





「――首領?」

 そう驚いたような声を上げたのは、空白の玉座の前の広間で、大幹部の威厳もなく尻餅を着いていたコーカサスビートルアンデッドが化身した少年――キングだった。

「へぇ、首領なんて本当に居たんだ」
「――あなたは新参ですから、御存じなくとも仕方ないでしょうね」

 そう放送を行うバルバの下から広間へ戻って来た大幹部――ビショップの声はしかし、いくらか嘲りの色が隠し切れていなかった。

「我らが首領は、偉大なる存在。今は我らの前に現界するための御身を喪っておられますが、いつでも我らを見ています――カテゴリーキング、あなたのその軽薄な態度もね」

 眼鏡の奥から、鬼気迫る瞳がぎょろりと自分を睨んだのを見て、しかしキングは挑発を失笑する。

「身体がないのに……へー、凄いね。じゃあ良かったね、君のとこの王様も、さ。そんな偉大な首領様と比べられたんなら、大事な臣下に捨てられても仕方ないよね」

 自分に投げ返された挑発に対し、ビショップの頬に音を立ててステンドグラス状の模様が走った。

「あれ、やる気? 良いよ、遊んであげても……」
「――やめろ!」

 そう笑いながらキングが立ち上がろうとした時、一喝する声が広間に響いた。
 現れたのは白いスーツにマントを付けた白髪の老人――死神博士だった。

「仮にも首領代行が任務に就いている時に、幹部同士でくだらぬ争いなどをしている場合か。――ビショップ、財団Xより使者が見えている。対応は君に任せる」
「――承知致しました」

 醜態を見られたことを恥じ入るように、ビショップはそう殊更丁寧に頭を下げ、僧服の裾を翻して広間を去って行った。

 これといった職責も与えられず面白おかしくしているだけで、このバトルロワイヤルが開始される寸前に大ショッカーに招かれたキング。対して、このようにスポンサーの歓迎、バトルロワイアルを管轄する首領代行の補佐などの激務に追われるビショップは、それだけでもキングに対して恨み言の一つも持っていたのかもしれない。
 だが、彼とキングの決裂が決定的になったのは六時間前の第一回放送が原因だろう。
 自身と同じ名を持ちながら早々に脱落したファンガイアのキングに対する言及が、同じファンガイアのチェックメイト・フォーの一員であったビショップの不興を買う結果になった――もっともキングは、ビショップを怒らせることも遊びの一環として楽しんでいるわけだが。

 無論、同じキングの名を持ちながら情けない結果となったファンガイアの王を嘲笑ったのは、単純にそんな輩と同一視されたくないという気持ち――主催側であるビショップに肩入れされ、最初から適正のある強力な支給品を与えられ、餌となる参加者の近くに配置され、さらにキバの世界において彼と敵対していた闇のキバの鎧をキングから最も遠くのエリアへ送るなどの根回しをされ、なおもあっさり敗退した魔族の王を純粋に見下す心情からだが。

 しかし去って行ったビショップへの興味は既になく、キングは死神博士に尋ねていた。

「ねぇ、死神博士なら首領のこと知ってるんでしょ? どんな奴なのか教えてよ」

 それは本来大幹部であるキングが、組織の長である首領について尋ねるにはあまりにも思慮の足りない口の利き方であったが――そんなキングの態度を今更気にするでもなく、死神博士は鷹揚に頷いて見せた。

「良かろう。思えば貴様はまだ何も知らなかったな」

 死神博士の言うように、キングは殺し合いの真意や参加者に語られた事実の正誤すらも把握していない。混血である紅渡がファンガイアのキングから次代のファンガイアの王として認められたことも業腹な種族主義のビショップに、代理人に過ぎないバルバのような異種族の女を敬わせるほどの存在――キングにも少し興味があった。

 尊き主を讃える信徒のように、陶然とした様子で死神博士は口を開いた。

「偉大なる我らが首領の名は――」


193 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:13:00 NNgpreaA0





 そうして幹部達がやり取りをする少し前――大ショッカーの最高幹部が名乗りを終え、何故このような些事に彼女自らが出向いたのかを説明したその直後。彼女はまず、部下の渡して来た書類に目を通していた。

「首領の伝言の前に、おまえたちに伝えるべき事柄がまだ残っていたな」

 バルバが優雅に手を上げれば、その背後に巨大なモニターが出現する。
 並んでいたのは、『クウガの世界』、『剣の世界』、『キバの世界』……前回の放送で提示されたそれと同じものだ。

「まずは世界別の殺害数の序列だ。上から順に、現在はクウガの世界が十二人で一位、次いで八人の剣の世界、その下が四人のキバの世界とWの世界となっている」

 三島同様、大した感慨も見せずに女は原稿を読み上げる。
 背後のモニターは、女の呼び声に呼応するかのように各々の世界の名を強調していたが……『Wの世界』から下の列の名は、黒く塗り潰されていた。

「……一つ、死神博士から提案があってな。今回開示するランキングはここまでとなる。理由は各々、好きに考えを巡らせると良い」

 資料に目を落とし、淡々と読み上げていたバルバはしかし思い出したかのように、ふと背部モニターの方を振り返った。

「だが……そうだな。一つ、ついでに話しておいてやろう」

 黒塗りにされながらも名を連ねた、合わせて四つの世界の内。その末席に記された文字列へと、女は白魚のような指を這わせた。
 途端、文字列の一つを覆っていた黒がまるで拭い取られ――その下に隠されていた正体を明らかにした。

「ここにある『無所属』の参加者についてだが……説明をまだ行っていなかったな」

 現れたのは、クウガや剣と言った名前を冠さない――世界ですらないグループの名前だった。
 第一回放送時点ではランキングに上っていなかったその名の横には、彼らによる犠牲者数を示す『二人』という文字が輝いていた。

「彼らは世界の代表者ではなく、彼ら自身の生死はこのゲゲルにおける世界の存亡に影響はしない。言うなれば、勝敗の条件から切り離された存在だ。故に、我ら大ショッカーの一員であるアポロガイストも名簿上はそこに属していた」

 自らの仲間だという、先程三島によって読み上げられた死者の名の一つを口にしながらも、バラタトゥの女の表情はまるで感情が籠らず、人形の様であった。
 だがそれが不意に、可笑しそうに口角を歪める。

「――もっとも、勝敗に関わらずとも……世界の存亡に無関係というわけではないがな」

 多分に含みを持たせて言葉を区切った後、バルバは再びカメラに向かって艶然と微笑んだ。

「現に、つい先程参加者の全滅が確認された『響鬼の世界』の参加者の一人は、無所属の者の手で殺された」

 そうして告白されたのは、経緯の明かされぬ罪の在処と――一つの世界の滅亡だった。

『響鬼の世界』が――そこに生きる七十億の人口を抱えて、崩壊する。

 そんな、想像すら困難な規模の破滅の未来とその引き金を伝えながらも。美貌の最高幹部は余韻を挟むことすらなく、次の話を――首領代行としての本題を切り出した。

「放送の本来の役目は終えた。それでは、おまえたちに首領の言葉を伝えるとしよう」

 そうして彼女の口から伝えられる言葉を、カメラの向こうにいる者達はどう受け取るのだろうか。
 ただ、参加者も、大ショッカーの構成員も、その全員が、その言葉には度肝を抜かれることだろう。

「……人が、人を殺してはならない」


194 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:13:29 NNgpreaA0





「――オーヴァーロード・テオス。闇の力。闇のエル。無数の名を持つ……とある世界の創造主、神そのものだ」

 死神博士から厳かに告げられた名とその正体に、キングはへえ、と相槌を打った。

「神様なんだ」
「そうだ……当然彼の世界に比べれば微々たる物だが、それでも異世界に対しても大きな影響力を持ち得る偉大なる神……バルバとも、首領が世界を渡った先で出会ったらしい」

 死神博士曰く、数多の世界を旅する通りすがりの仮面ライダーやその仲間達によって、一度ならず二度までも大ショッカーは壊滅させられたという。
 仮面ライダー達の目を逃れ、時空の狭間を彷徨っていた残党の前に、ラ・バルバ・デは現れた――オーヴァーロード・テオスの代弁者として。

 オーヴァーロード・テオスもまた、ある仮面ライダーの手によって肉体を砕かれていた。だが彼は精神だけの存在となっても滅びず、そしてその神としての奇蹟の力もまた健在。
 そんな彼と、彼と行動を共にするバルバの傘下に収まるよう求められ、逆らうこともできず大ショッカーの残党は従ったと言う。

 そうして彼らに導かれるまま、このバトルロワイヤルを行うための準備を推し進めた。テオスはその力で、従来の大ショッカーでは到底連れ去ることなどできなかったダグバを始めとした参加者を用意し、時空を完全に超越して様々な時代の様々な世界から参加者を集め、アポロガイストのような死者を蘇生し、さらには儀式によって失われたはずのファンガイアのキングの心を呼び戻しさえした。挙句、その能力でバトルファイトの統制者の役割を代行したのか、不死であるアンデッドを殺し合いに参加させると言う、キングすら驚嘆させる冗談のような事態を現実の物としている。

 参加者の力を縛る首輪の効力も、それがあれほどの戦いでまるで傷つかないというのも、大ショッカーの世界を股にかけた技術力だけでなく、会場そのものを創世したテオスの力の影響を受けているからだという。

 実際には大ショッカーの組織力と技術力を重用し、さらに財団Xというスポンサーまで必要としているということから、テオスにとってもここまでの道筋は決して楽なものではなかったのかもしれない。
 だがなるほど、全知全能ではないにしても、キングの知る限り最もそれに近い所業を果たしている存在であることは間違いない。

 ここまで手の込んだ真似をしたとなれば、本当にテオスにその気があるなら、敗退した世界を本当に消し去ることも、優勝者の願いを叶えることも――それこそキングを、この退屈な生から解放することも容易く行える準備は終えているのだろう。
 これでビショップの態度も得心が行った。元のキバの世界で敗れ、蘇生されたという彼は――自らに新たな命を与えたテオスという神の加護を、誇り滅び行く己が種に得ようと必死なのだろう。
 同じような理由で組織へ忠誠を誓っている者も、決して少なくはないはずだ。
 例えば種族に、ではなく、自己に限るとしても――ちょうど、姿を現した同僚のように。

「そして既に死んでいた俺やビショップ、ついでに封印されていたおまえを復活させたように、組織の人員補充を兼ねた聖別も首領御自ら行われたわけだ――何が起きたのかも、我々外様ではわからないほどの御力でな」

 如何にもその力に御執心と言った様子で割って入って来たのは、本来第二回放送を担当していた三島だった。

「あっ、お疲れグリラス。放送役のやる気なさ過ぎたの、お目玉なくてよかったね」
「……くだらないケチは止して貰おうか。俺は自分の仕事を全うしていた」
「わかってないなぁ。遊び心がないとつまらないだろ? 仮にも大幹部様が、さ」
「遊び、か……キング。貴様こそ、幹部としての自覚があるのか?」
「あるよ? 偉大なる首領様に選ばれたおかげで僕はこうして自由なわけだし、ほらバルバだって情報の公開は工夫してるじゃん。それとも首領の人選が信じられないわけ?」

 苛立ったような三島の返しに、キングはへらへら笑いながら挑発を重ねた。
 そうして最高幹部の振る舞いと、何より首領の御名を出されては何も言い返せないのか、苦虫を噛み潰したような顔で沈黙する三島を見たキングはわざとらしく驚いたような表情を作った。

「わ、グリラスが黙った。首領ってやっぱり凄いカリスマだなぁ」

 口先ばかりで自分達の主を讃えながら、けらけらと笑ったキングはついでに、ふと思い至った疑問を零してみた。


195 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:13:55 NNgpreaA0

「……でも、そんな偉大な神様でも世界の崩壊は防げないんだ?」
「貴様……っ!」

 神を試すが如き不敬な発言に、押し黙っていた三島が眼鏡のフレームに手をかけた。
 そのまま怪人としての姿に変身しようとする彼を制するように、白い衣服に包まれた腕が翳される。

「さあ、どうだろうな」

 三島を止めた死神博士が、そのまま余裕ぶってはぐらかすのを見て、キングは一瞬むっとする。だが直ぐに頭上のモニターに映る、その神である首領の言伝を口にするバルバの姿を見て、また口の端を歪めた。

(わかるよ、神様……こんな面白いゲームを考えた理由がさ)

 自分のその考えが間違っている可能性など夢にも思わず、キングは内心呟いた。

(やっぱり退屈だよね、長生きしているとさ)

 自らの同類を得たと思い込み、キングは今までより少しだけ、大ショッカーの主催するこのゲームへの興味が湧いて来た。

「――ねえ、死神博士。僕も今から、このゲームに飛び入り参加しちゃ駄目かな?」







「……これは、あくまで首領の言葉に過ぎん」

 人が人を殺してはならない――殺し合いを強要した組織の長が口にするには、あまりにもふざけているとしか思えない言葉を伝えたバラタトゥの女は、部下の纏めていた書類をテーブルの上に投げ捨てると、再び口を開く。

「だが、おまえたちが気にすることはない。首領は最終勝利者が出ればその者の世界を存続させ、その者どもの望みを叶えるという契約を私と交わしている。首領の思惑などとは無関係に、死神博士が約束した報償は必ずや勝者に与えられる」

 優勝の褒美――それを信じることで心を繋ぎ止めている、それを信じることで殺し合いに乗ろうとする参加者が存在すると見越して、バルバはそう続けた。

「戦いを続けるが良い。そして見せてみろ。おまえたちの可能性が選ぶ、その行く末を――それがどんな答えだろうと、我々はその選択を受け入れよう」

 それをたとえ自身の望まぬ形だろうと、受け入れると首領は認めたのだから。
 それは代弁者である彼女もまた、同じ。

「以上で、第二回放送を終了する」

 そうしてバルバは踵を返し、放送室を後にする。その背には、三体の怪人――水、地、風。三種のエルロードが、静かに続いて行った。

 そうして事後処理を――キングの参戦希望すら、三島と死神博士に一任し、彼女は広間へと歩いて行った。
 人払いは済ませてある、静かな空間で――無人のはずの大首領の玉座に向けて、三体のエルロードが恭しく礼を取る。

「ゲゲルは、おまえの望まぬ方向に進んでいるな」

 バルバもまた、誰もいないはずの玉座に向けてそう告げた。

「だが、放送でも口にした通り――約束は、果たして貰うぞ」

 ――無論です。

 誰もいないはずの玉座から、そう静かな――しかし明瞭な声がバルバの中に響いた。

 ――私は、かつての使徒の言葉を見極めるのみ……

「おまえはリント――いや。人間を創りながら、それを何も知らない……か」

 対話の相手が語った、自らを使徒として選んだ理由を、バルバはもう一度口にする。


196 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:14:16 NNgpreaA0

 ――ええ。私は、自らの使徒にそう断罪されるほど……視野が狭い。だから、あなたが必要なのです。ラ・バルバ・デ。

 超越者からの告白に、だがバルバは泰然とした様子を崩さなかった。

 ――人間がどのような結論を選ぼうとも……私は、それを受け入れて……彼らの選んだ世界を、信じましょう。

 たとえ、互いに滅ぼさねばならぬ運命のままに、最後まで傷つけ合うとしても。
 その運命すら打ち破って――他者を受け入れ、共に生きて行くとしても。

 創造主は、己が子ら自身の選択を尊重し、人間という存在を見極めると、そう宣告した。

 そのための舞台。極限の状況下に在ってこそ現れる、人間の真の姿。そして真の可能性。

 数多の世界の滅亡を前にして、大いなる力を持つ神は――敢えて全てを、人間に委ねた。

 人は彼が愛するに足る存在であり得るのか。彼がその力で救うべき者なのか。
 そしてそもそも――本当に彼の力を、人が必要とするのか。

 ――それを見届けるために……もう少し、私に協力してください。

「言われるまでもない」

 それこそ、彼女もまた望むことなのだから。

 オーヴァーロード・テオスは、人が人を殺してはならないと説いた。
 しかしラ・バルバ・デは、リントが争いを覚えたことを肯定する。

 進化とは、生存競争だ。より進化した者が、劣る者を狩る――グロンギがリントを狩る権利を持ったように。
 進化したリントの戦士達によって、多くのグロンギが討ち果たされたように。

 たった一つだけ世界が残るのなら、闘争の果てに残された世界こそが、無数の世界の中で最も進化した在り方なのだろうと、そう考えていた。

 だが、彼女もまた一つの奇蹟を目にしていた。

 ダグバと等しくなったあのクウガの、慈愛を湛えた赤い双眸を――
 リントが恐れた伝説を塗り替える、その姿を。

 聖なる泉を枯れ果てさせることなく、クウガはダグバを上回った。
 彼より劣るはずのリントを滅ぼす闇となるのではなく、彼らを護るために――助け合い、支え合ったことで。

 そして奇しくも同じ疑問を持ち、世界の融合に気付いたばかりのテオスに見初められ、教えられた……滅びつつある、無数の世界の存在を。そしてそこに存在する、他者を狩るのではなく、護るために無限に進化して行く者達を。

 ――仮面ライダー。

 それが数多の世界に共通する、救世主の御名。


197 : 第二回放送 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:14:38 NNgpreaA0

 果たしてその存在が、結局彼女の信じる進化に劣るのか――それとも、真に勝る可能性であるのか。

 その可能性を見届けたい――その一点で、二人の目的は一致した。
 だが争いを是とし、それこそが本来あるものだと考えるバルバと――それを人に望まぬテオスの価値観は、同じ願いを抱きながらも異なる物だ。

 だからこそ手を取り合う価値があると、テオスはバルバに言う。彼の言う通り、互いの視野を拡げるために。

 また、グロンギにおいてゲゲルの管理者であったバルバは、此度のバトルロワイヤルの管理者としても適任――テオスにとっては、これ以上とないパートナーだったのだろう。

 それはまた、バルバにとってのテオスも同じこと。

 ……そうは言っても結局、テオスには未だ己の思うが通りになって欲しいと自制を欠く面はある。だが想定を遥かに越え、わずか半日足らずで世界の一つが滅びた現状に対し、先の言伝のように彼がぼやき一つで済ましたことは許容範囲だと考えたからこそ、バルバもその依頼に応じた。言うなれば今のバルバの役割は、受肉していないテオスに代わっての実務担当と共に、テオスが行き過ぎないよう見咎めることなのだから。

「――それでは、共に見届けるとするか」

 そう同志に告げて、バルバはまた踵を返し、広場を後にする。
 極限状態の中で戦い続ける、人の見せる可能性を見極めるために。
 三体のエルロードは無言のまま、主より与えられた任を果たすべく、美しき代行者の後に続いた。






【全体備考】
※主催者=大ショッカー首領は、【オーヴァーロード・テオス@仮面ライダーアギト】でした。彼は肉体を失っているため、【ラ・バルバ・デ@仮面ライダークウガ】が最高幹部として首領代行を行っています。
※主催側には、さらに【水のエル@仮面ライダーアギト】、【地のエル@仮面ライダーアギト】、【風のエル@仮面ライダーアギト】、【三島正人(グリラスワーム)@仮面ライダーカブト】、【ビショップ@仮面ライダーキバ】がいます。
 また、【財団X@仮面ライダーW】からの使者が来訪しているそうですが、その正体、および以後も主催陣営に留まるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※参加者に支給されたラウズカード(スペードのK)はリ・イマジネーションの剣の世界出展です。
※キング@仮面ライダー剣がバトルロワイアル会場への飛び入り参加を希望していますが、どのような展開を迎えるかは後続の書き手さんにお任せします。
※世界別殺害数ランキングは、上位三位まで、および『無所属』(=仮面ライダーディケイド出典の参加者)のキルスコアのみが明示され、他の三つの世界の名称および内訳は伏せられています。


198 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 08:20:43 NNgpreaA0
以上で第二回放送の投下を完了します。
放送後の話の予約については既に解禁でも問題ないかと考えておりますが、 ◆.ji0E9MT9g氏のご意見を伺えればと思います。
ただ、午前中に席を外す用事が入ってしまったので、お返事できるのは本日のお昼頃以降になることをご了承頂ければと思います。


199 : ◆LuuKRM2PEg :2018/02/10(土) 09:16:42 BRnC/EBY0
第二回放送投下乙です!
ついにこのライダー大戦の首領の正体が明かされ、そして大ショッカー内部でも様々な思惑が渦巻く中で会場に乱入しようと企むキングとか、見所が満載でした。
ダグバを打ち破った赤い目のクウガを思い出しながら、数多の世界に生きる仮面ライダー達を見届けようとするバルバの姿には、恐ろしくありながらもやはり美しさに溢れていますね……

私も、放送後の予約解禁については行っても大丈夫と意見します。


200 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/10(土) 11:48:00 WwriJcP.0
投下乙です!
感想はひとまず置いておくとして私も放送後パートの予約解禁をもうしてもよいと思っております。
そうですね、区切りがないのも締まりませんので、今日の正午から予約解禁で行きましょう!
……まぁ2月末までにかけて少し忙しいのでご期待いただいているほどの数は投下できないと思いますが、ともかく。
これに関するご意見は不要ですので、よろしくお願いします。


201 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/10(土) 13:12:48 NNgpreaA0
>>199->>200
お二方、ご意見ありがとうございます。それではもう解禁されましたので、早速一組予約させて頂きました


202 : 名無しさん :2018/02/10(土) 14:12:27 jpKUJG0k0
遅れて申し訳ありませんが、投下乙です。
主催陣の内部が明かされたり、見届ける事を決めたバルバ。
長すぎる時を生きたキングのだからこそのゲームへの興味など
見応えのある放送でした。
予約解禁は、私も可で良いと思います。


203 : 名無しさん :2018/02/11(日) 12:37:49 t/S58fQw0
久々来たらロワが再開されてて嬉しい


204 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:13:13 ZMKv5vOk0
ただいまより投下を開始いたします。


205 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:13:51 ZMKv5vOk0
秋山が、海東が、ヒビキが、そして五代雄介が死んだ。
その志村の報告を受けて、橘朔也の胸には後悔と無念が押し寄せていた。
自分が先の戦いで情けない隙を見せたことと、彼らの死。

決して自分が戦いを続けられていれば助けられた命であった、などと驕る気はない。
ジャックフォームにすらなれない今の自分では、彼らと対等にならともかく、彼らを守る戦いなど、出来ようはずもなかった。
元々合理的な思考を広げる橘にはこんなIFを考えても意味がないことなど分かりきっていたが、しかしそれでこの惨状を受け入れられるほど、彼は達観して等いなかったのである。

「チーフ、お気持ちはお察しいたしますが……、もう間もなくこのエリアは禁止エリアになります。……G4とGトレーラーと遺品の回収と、フィリップくんを移動させないと……」

ふと見上げれば、志村が告げるのすら苦しそうにしながら、そう言い切った。
自分がこうして途方に暮れている間、彼はじっと待ち、そして自分を奮起させるために彼の性格からすれば言いにくいであろう遺品の回収、などということまで言ってくれたのだ。
未来の部下であり、自分にとって面識のない男ではあるものの、この場に来てからずっと変わらず自分を上司として尊敬し続けてくれている彼に、これ以上気を遣わせるわけにも行くまい。

ここまで情けない醜態しか見せていない自分をここまで気遣ってくれるのだから、彼はきっと未来でも自分の信頼を一身に受けているに違いない。
そんな真っ直ぐな未来の部下の言葉を受けて、橘はようやく立ち上がった。

「……そうだな、すまない、志村。ただ、時間はあともう15分ほどだけだ、フィリップとGトレーラーに遺品、俺たちで二手に分かれるべきだと思うが……」
「それなら、俺がGトレーラーと遺品を回収します。チーフと違って俺は一度彼らのその、遺体を見てますし場所もわかっています。
ショックもきっと、チーフが今から彼らを探して見つけた時に受けるそれに比べれば……、あってないようなものだと思いますから」
「……本当に済まない、志村、君には辛い仕事を押しつけてばかりだ」
「いえ、俺が未来でチーフに受けた恩に比べればこのくらい当然です、では、時間もないので……」

言って、志村は踵を返して早走りで駆けていった。
その背中を見送りつつ、自分がいつまでもへこたれていては、彼に申し訳が立たないと橘もまた、先ほどまでと大きくその様相を変貌させた病院であった残骸に向けて歩き出した。





「全く、あの男は何時の時代もああなのか?」

一方で、橘から少し離れたところでため息と共にそう吐き出したのは志村であった。
自分たちの時代で自分たち新世代ライダーを率いていた過去の仮面ライダーの一人、橘朔也。
自分をまんまと信用し、利用するのが容易い性格もあいまって志村からすれば一種の“理想の上司”であったのだが、まさかあの状況で茫然自失として座り込むとは思わなかった。

先ほど、病院で二人の参加者を殺し、意気揚々と残った弱り切った参加者を探すため歩いていた矢先にその声を聞いたときは、流石の彼も橘の悪運に初めて羨望のような感情を抱きかけた。
だが、周辺で見つけた死体――うち二人は志村のスコアだが――について報告したところ、いきなりフリーズしてしまった姿を見て、確信した。
――これでこそ我らが“橘チーフ”だ、と。

無論その感情に尊敬など一切存在しない。
先ほど殺さなかったのも、この戦いのルール上、彼を殺しても利には繋がらないためだ。
もちろん、正体を知られた時に彼が立ちはだかる可能性を考慮すれば殺すメリットもなくはないが、しかし志村は確信している。

橘はどこまで言っても、自分の障害にはなりえないということを。
と、そこまで考えて、彼は最初の遺体を発見する。
体中を銃創で穴だらけにされた秋山蓮の死体を。

「……」

本来彼が演じている志村純一という男が本当に存在していたとしたら、きっと秋山の痛ましい遺体に手を合わせ、そして泣きながら彼の近辺に何か元の世界で彼の帰りを待つ人にその死を伝えられる装飾品でも探したのだろう。
しかしここにいる男は、もちろんそんな殊勝な感情など持っているわけがない。
故に、その目には涙の一つすら浮かばせず、いつもの笑顔もなしに、その遺体を蹴り飛ばす。

もう死んだ男の前で演技などする意味もなく、またもうすぐに禁止エリアになるここに他の参加者が来るわけもあるまい。
故に彼は完全に素の状態で、彼の周りに何か役立つものはないかと容赦なくまさぐっていく。
するとすぐに、その遺体の下に固い感触が伝わって、彼は不気味に笑った。


206 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:14:11 ZMKv5vOk0

――そこにあったのは、もちろん彼が死の寸前まで身につけていたナイトのデッキ。
中に問題なくサバイブのカードがあることも確認して、彼はそれを懐に収める。
これはオルタナティブのデッキと同じく、極力秘匿するべき手札で、かつ手持ちの中ではジョーカーに次いで強力なものであると彼は確信していた。

これが一番の収穫だ、と彼は笑ってその場を立ち去ろうとし――。

「あぁ、そう言えば、大事なこれを取っていくのを忘れてたな」

デイパックより取り出したGK-06ユニコーンで彼の首を掻き切った。
窒息死であったために凝固を始めていた彼の筋肉と血液の抵抗をものともせず両断された首と胴体の間、そこにあった銀の首輪を満足げに眺めて。
彼は、Gトレーラーの元へと急いだ。





「橘朔也……、無事だったのか、すまない僕は途中から気を失っていて、どうなったかよくわかっていないんだ。もし知っているなら教えてくれ、五代雄介は、皆はどうなったんだ?」
「……あぁ、もちろん教えるのは構わないが、ここはあと10分ほどで禁止エリアになる。E-5エリアの方に移動するのが先だ」

そう言って瓦礫の山に歩いて行く橘を見て、しかしフィリップは決してこの戦いが自分たちにとって最高の終わり方をしなかった、ということを察してしまっていた。
だが、もしもその結果が最悪なものであったとしても、自分にはそれを聞く義務がある、と思う。
そうして失われた命と向き合いそれを継ぐことこそが、自分たちにできる死者への最高の手向けだと思うから。

そう考えて、彼は重い覚悟を抱きながら橘の後を追った。





「――恐らく、ここまで来れば大丈夫だろう」

歩き出して数分後、自分の前を歩く橘がそう呟いたことで、フィリップは立ち止まる。
それを受けて、橘は数俊の迷いを見せた後、その重い口を開いた。

「今、俺以外に生存が確認できた仲間は志村だけだ。それと、実は俺も志村も戦いの途中で気を失い、最終的な戦いの顛末はわからなかった」
「――それだけじゃ、ないんだろう?」

苦しいながらに絞り出したその言葉を受けて、橘は一瞬目を伏せ、しかししっかりとフィリップを見据えて、言った。

「あぁ、志村によると、周辺に遺体が確認できたのは秋山、海東、ヒビキ、そしてこれはベルトからの推測だが五代雄介の4人、他は持ち物まで含めて誰の痕跡も見つからなかったらしい」

無事に、逃げられていればいいんだがな、と口にすると、フィリップはやるせない表情を浮かべ拳を握りしめていた。
ライジングアルティメットとなった彼しか知らない自分と比べて心優しい、仮面ライダーの鑑ですらあったらしい五代を見ているフィリップからすると、そのショックもより大きいに違いなかった。
顔を伏せ、いくらかの間深く深呼吸をしていたフィリップは、はっとしたように顔を上げ、周りを見渡した。

「橘朔也、志村純一はどこだ?君と合流したんじゃないのか?」
「あいつは、今禁止エリアになる前にE-4エリアでG4とGトレーラー、それに彼らの遺品を回収している。本来はこんな仕事ばかり押しつけたくはないんだが……」
「そうか……彼には、助けられてばかりだな、僕は」
「――チーフ!フィリップ君!」


207 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:14:30 ZMKv5vOk0

寂しげに呟いた二人の声を待っていたように、志村がそこに現れる。

「遅かったな、大丈夫だったか?」
「バイクとGトレーラーを移動していたので……、心配させてすみませんでした。遺品は全てGトレーラーに乗せてあります」

言って彼はいつものように笑う。
その手に持っていたのは――。

「それは……、首輪か」
「えぇ、急いでいたので血塗れで申し訳ありません。お二人の首輪解除のサンプルに必要かと思いまして」

冷静を装ってはいるものの、自分で首を切り落としたことに流石にショックを隠しきれない、と言った様子の志村を受けて、二人は顔を見合わせ、しかし言わなくてはならないだろう、と口を開く。

「志村……、すまないが、首輪の解析は既に終わってるんだよ、お前も知っていると思ったがもし伝わっていなかったなら、辛い思いをさせてすまなかった」
「いえ、それは知っています。でも、その時解析した首輪って確か、ネガタロス……って参加者のでしたよね?」

申し訳なさそうに余分に辛い思いをさせたことを謝罪する橘に、志村はしかし何か確信でも持っているかのようにそう返す。
その自信がどこからわき出るのか分からず、二人は困惑した表情を浮かべた。

「あぁ、確かにそうだが……、それがどうかしたか?」
「野上良太郎が言っていたんです、彼の世界に存在するイマジンは人に憑依し、その人格を奪うことも出来る、と。それで、ネガタロスの首輪にはその制限に使われる技術が余分に使われているかもしれないとそう思ったんですが」
「こういっては何だけど志村純一、君は君を騙し冴子姉さんたちを殺した野上良太郎の言葉を信じられるのかい?」
「ええ、奴の嘘を見抜けなかった俺が言っても説得力がないかもしれませんが、あの言葉には嘘はないと思います」

真っ直ぐにこちらを見つめそう言う志村に、橘は感嘆の声を上げる。
自分がこの惨状へのショックを隠し切れていない中で、彼はこの犠牲をも飲み込んで次に出来る何かを探している。
その為に涙を飲んで遺体から首輪を回収し、騙された相手の言葉さえも信じてでも大ショッカーに抗う仮面ライダー全員の為になることを行おうとしているのだ。

これを頼もしく感じなくて何だというのだろう。
改めて自分の不甲斐なさを確認し、しかしこれ以上志村にばかり気を遣わせることなど出来ないと彼は面持ちを引き締める。

「わかった、そういうことなら……フィリップ、首輪解析機を出してくれ。俺は再度首輪の解析をしてみる。恐らく今からなら放送の直後には解析が終わるはずだ」
「チーフ……、ありがとうございます!」

そう言って勢いよく志村が頭を下げるが、しかし感謝したいのはこちらの方だ、と橘は思う。
未来でも変わらない仮面ライダーの雄志と受け継がれる魂を、彼を通して見たのだから。
なれば、彼がそれを学んだと思っている自分がへこたれていては、彼にも失礼だった。

そのまま、首輪解析機に秋山から採取してきたらしい首輪を入れ、慣れない戦闘でのダメージを引きずるフィリップには休息を、志村には周辺の参加者が近づいてこないかの見回りを命じる。
こうして、解析を待つ橘の目には、もう一度再起の炎が宿ったのであった。





深夜0時。
オーロラのような光から吐き出されてきた無数の飛行船を見て、三人は今一度首輪解析機の置いてあるエントランスへと戻ってきた。
それぞれの表情は決して明るくない。

病院戦での生存者が戻ってくるのではと見回りをしていた志村が一人もそれを見つけられていないことが、自分たちの知らない場所で彼らが全滅したのでは、と危惧させることに繋がっていたのだ。
しかしどちらにせよその答えはこの放送で出る、とメモとペンを構えるのだった。


208 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:14:48 ZMKv5vOk0

『時間だ。これより第二回放送を開始する』

そう言って長身の眼鏡の男――曰く三島正人――は放送を始めた。
感情の起伏が一切見られない三島にフィリップはNEVERを無意識に重ねたが、しかし彼がNEVERかどうか考えても結論は出ないとそれを切り上げる。
そして短い挨拶の後、死者の名前が告げられる。

五代雄介、秋山蓮、草加雅人、天美あきら、日高仁志。
その死を既に知っていたはずの名前が告げられるのが、辛い。
一人告げられるごとにその手を止めてしまいそうになるが、これ以上の迷惑はかけられないと各人は手を動かし続けた。

――乃木怜治。
――矢車想。
――鳴海亜樹子。

「……えっ?」

最後の名前を聞いたとき、フィリップの手が止まるのを、橘は確かに見た。
彼が言うには、病院での戦いの際、上記の三人と葦原を含めた五人で金居と戦い、そしてフィリップは勝利したらしい。
その後すぐに意識を刈り取られたので詳しいことはわからない、とはいいつつも死体も見つからなかったことから彼ら四人の生存はほぼ確実だとそうどこかで甘く見ていたのだ。

――実際、亜樹子が殺し合いに乗っていなければ彼らは無事を貫いていられたのだが。
しかし、そんなことを知るよしもなくショックを受けたフィリップを気にすることもなく、放送は続く。
禁止エリアを述べ、取りあえずはE-5から動かなくていいと安堵したのもつかの間、放送は意外な展開を見せる。

『失礼。まことに急ですが、今回のあなたの出番はここまでです』

突如現れた、三島と同じく不気味な男となにやらボソボソと話をしたかと思えば、三島はここに来て初めて顔色を変えてそそくさと画面外へと消えていった。

「一体、何が始まると言うんだ……」

定時放送という場で起こった主催でさえ把握し切れていない突然のイレギュラーに、橘はそう漏らす。
そして、彼の言葉を受けるかのように先ほどまでとは段違いの迫力でもって――怪人を三人も連れ添って――現れたのは、謎の風格を持つ女であった。
生身であるように見えて、しかし普通の人間ではないことが画面越しの雰囲気からしても伝わる。

その不可思議な女はラ・バルバ・デと名乗った。
そして、それよりも彼らに衝撃を生んだのは――。

「首領代行……だと!?」

大ショッカーの最高幹部、そしてその後に続くその肩書きだ。
首領代行。
もしも言葉通りに信じるのなら、今回の放送には首領が直々に出向きたかったところを彼女が代わりに出てきた、ということである。

つまり、首領が自分たちに何か告げることがある、という暗黙の了解がその場にあった。
彼女は首領からの伝言を預かってきたと言い、その前に、と殺害数ランキングを公開した。
しかしそこにあったのは4つの世界の名前のみ。

クウガ、剣、キバ、W。
奇しくもここにいる三人の世界はそれぞれ含まれている。
フィリップがその数に首を傾げるのと同時、誰にも気付かれないようにしつつ志村は安堵したようにも、嘲笑うようにも見える不思議な表情を浮かべた。

ともかくそれを終え、彼女は首領からの言伝とやらを伝えるために間を置いて――。

『人が、人を殺してはならない』

確かにそう、口にした。


209 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:15:13 ZMKv5vOk0





放送を終え、先ほどまでの張り詰めた空気が一旦解放されると同時、フィリップはその場に膝をついた。

「亜樹ちゃん、照井竜に続いて、君まで……」

この危険な状況でようやく合流できた元の世界の仲間、鳴海亜樹子。
そんな彼女が、一瞬自分が目を離した隙に死んでしまったという事実は、フィリップの胸を打った。
そのフィリップの横で、橘もまたなにやらもの思いに沈んでいるようだったが、それに水を差す男が一人。

「チーフ、フィリップ君、お気持ちはお察ししますが、どうやら首輪の解析が終わったようです」

その言葉には放送によるショックは見受けられない。
しかしきっと彼にも色々と思うところがあるのを押して自分たちのやらなければいけないことを思い出させようとしているのだ、と橘は好意的に解釈する。
思考を一旦中断し、首輪解析機から吐き出された秋山の首輪解析の結果をまじまじと見つめた橘は、しかし次の瞬間に驚嘆の声を上げていた。

「違う……ネガタロスのものとは全くの別物だ……」

そうして吐き出された言葉に、傷心のフィリップもゆっくりと立ち上がり、その目に浮かんだ涙を袖で拭った。
赤くなった瞳で画面を見つめると、そこには確かにネガタロスの首輪を解析した際の結果と大きく異なる図解があった。
そして何より彼らを熱くしたのは――。

「この構造なら……、或いは一度分解して詳しく内部を観察できれば参加者のものも解除できるかもしれない」

未知の技術の集合体であったネガタロスのものとは違い、自分たちでも理解できる部品が多く使われていることだ。
これならば、あるいは幾つかの首輪を犠牲にするかもしれないが、先ほどのネガタロスのものに比べれば解除に希望を持てるというものだ。
武器の解析もこれには必要ないかもしれない、と希望を持つ橘だが、しかし今度は別の問題が頭をもたげてくる、それは――。

「ということは或いは参加者に応じて首輪に種類があるかもしれない、ということか?」

それは、首輪の種類が参加者の種類に合わせ用意されているかもしれないという危惧。
最悪の状況を考えれば、一人一人別の首輪を用意されている可能性も考えられる。
であれば、首輪の解除など夢のまた夢、まさかこの絶望を味わわせるために首輪の解析機を置いたのか、とも思うが。

「……いや、この構造は北岡秀一のものと同じに見える。ネガタロスという参加者のものとは違っても、あるいは生身の人間に用いられている首輪は同種のものかもしれない。何にしても、もっと首輪を集めて解析しないとはっきりしたことは言えないだろうね」

その首輪の数には同じだけの死が伴うという事実を噛みしめながらフィリップは口に出す。
そんな残酷なことをすることに対する忌避感ももちろんあるが、しかし首輪の解除には既に散った参加者たちから更にその尊厳を奪うことをしなくてはいけないのだ。
全く大ショッカーは悪趣味の塊だ、と苦虫を噛み潰したような顔をするが、その後ろで志村も思考に沈んでいるようだった。

それをチラと見やって、フィリップは何か違和感を覚える。
しかしそれをうまく言葉に出来ないまま、志村は持っていたもう一つの首輪を差し出した。

「すみません、時間がなくて他に回収できたのは既に封印され回収が容易だったカテゴリーキングのものだけです、何か役に立てば良いですが……」
「いや、十分だ。データが増えるならそれに越したことはないからな」

言いながら橘は首輪解析機に金居の首輪を入れる。
これで深夜一時過ぎにはこの首輪の解析も出来るだろう。
しかしその間また待つだけというのも、と橘は立ち上がる。

「すまない志村、少しここに残っていてくれ、俺は遺品を整理してくる」
「一人で出歩くのは危険だよ、橘朔也。僕もついて行く」
「わかりました、二人が戻るまで俺がここを守ります」


210 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:15:30 ZMKv5vOk0

そう言って笑いかける志村を背に、二人は廃墟と化した病院から移動する。
全く以て頼もしい男だ、と志村への信頼を一層深める橘に反して、フィリップはどこか物思いにふけっているようだった。

「橘朔也、こんなことを言うのは何だけど、放送前から志村純一の様子がおかしいとは思わないか?」
「……?そうか?俺にはいつも通りのように見えるが」
「そうか、僕の考えすぎかもしれないな……」

そう言ってもう一度深い思考に沈んだ様子の彼をみやりながら、橘は思う。
きっと、彼は元の世界からの仲間が死んでしまったショックで少し疑心暗鬼に陥っているだけだ。
探偵という職業も相まって、疑うことが多かったからこその一種の職業病なのだろうが、きっとすぐに志村を疑うことをやめるだろうと橘はそれについて考えるのを止めた。

(それよりも……放送の女、ラ・バルバ・デと言ったか。やはり門矢の戦ったガドルやあのダグバと仲間なのだろうか……)

思考を切り替えた彼が思うのは、先ほどの放送の女。
ラ・バルバ・デと名乗った女の名前は、名簿にあるガドル、ダグバのそれと非常に似ている。
であれば、恐らくは彼らと同じ世界の存在であろう。

数時間前までの橘なら、恐ろしいダグバの仲間というだけでその存在にも恐怖を抱いていただろう。
しかし。

(先の放送で、ガドルは死んだということは分かった。門矢と葦原でさえ勝てなかった相手を倒せる仮面ライダーもこの場にはいるということだ……)

彼の今の胸には、死んでいった仲間への弔いの気持ちと、何より共に戦える仲間たちの強さを信じられる思いがあった。
であればダグバや、バルバに自分が恐怖し縮こまっている暇などない。
そうしている間にヒビキや矢車と言った仲間がまた失われるのは、もう我慢ならなかった。

それに、彼の胸を熱くするものはそれだけではない。

(人が人を殺してはならない、だと?一体どの口がそれを言うと言うんだ……!)

ダグバの所属する、通称クウガの世界。
そこに存在する参加者がこの12時間で12人もの参加者を殺しているというのに、同郷の彼女は人を殺してはならない、などとほざいた。
それが橘の脳裏に焼け焦げていく東條の、死にゆく北條の姿と重なって、彼の恐怖を打ち消していた。

人をゲーム感覚で殺しながら、他者には偉そうにそれを禁ずるなど、その言葉の意味を理解していないサイコ野郎だと彼は思う。
きっと、自分たち仮面ライダーはそんな理不尽に屈してはいけないのだ、と
そうして着いたGトレーラーでその手にヒビキの音角を拾い上げながら、彼は思う。

もう自分に、立ち止まっている時間などないのだ、と。
自分に出来る全力を、これまで以上に惜しんではならないのだ、と。
そうして一層その覚悟を強めた彼の横で、フィリップはまた思考に沈んでいた。

(志村純一……僕の勘違いならいいんだけど……)

それは、先ほどGトレーラーを持ってきた時からの彼に感じる違和感。
乃木といたときには感じなかった謎の違和を、ここに来て強く意識せざるを得ないのだ。
それが何を指すものなのかは正直まだわからない、しかし首輪の解除の話題に関して、彼は何か焦っているようにすら感じる。

それに何かよくない感情が沸いて、フィリップを困惑させるのだ。

(……亜樹ちゃんが死んでしまって疑い深くなっているのかな、本当は仲間を疑うべきじゃないんだろうけど……)

どうしても拭いきれないそれを抱きながら、フィリップはまたしても志村の待つ首輪解析機の元へと歩いて行った。


211 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:15:50 ZMKv5vOk0





「首輪の種類が異なる……、か」

橘たちがGトレーラーに向かった後で、一人になった彼は小さく呟いた。
当たり前だが、もしも首輪がその参加者の種族ごとに分けられているなら、自分は人間のそれでは解除できないと言うことになる。
解除中にアンデッドだと看破されれば、流石の橘も自分の首輪を解除することをやめるだろう。

何かうまい言い訳を考えなければ、と思考する一方で、同時に懸念も浮かぶ。
もしカテゴリーキングの首輪よりもジョーカーのものの方が首輪の設計が複雑だったなら、と。
であれば、今解析している金居の首輪では自分の首輪の解除には不十分である、必要なのは――。

「相川始のもの、か」

先の放送でも呼ばれなかった自分と対になるその名前を呟く。
最悪の場合、彼の首輪を手に入れなくてはなるまい。
全くそうしても解除できない可能性もあるとなれば、今フィリップを殺すのも一つか、と彼は考えるが。

「いや、結論を急ぐのはまずい、今はこのまま奴らに好きにさせておく方が良いだろうな」

結果を急いで解除できるものを解除できなくしてしまっては意味がない、と彼は思考を切り替える。
そうだ、殺すのは奴らに首輪の解除が出来ない、と判明したときでも遅くはないはず。
どちらにせよ奴らの実力では自分には勝ちようもないのだ、今はまだ泳がせておいて何の問題もあるまい。

と、首輪に関する思考をそこで中断し、彼は先の放送について考える。

「殺害数ランキングの下位が紹介されなかったのは、俺の嘘が一瞬で明るみに出されるから、か?」

それは、殺害数ランキングの下位の不紹介について。
バルバと名乗る女は様々な理由がどうのと言っていたが、恐らくは間違いなく自分がついた嘘である天美あきらと園咲冴子殺害の犯人が野上良太郎と村上峡児のものであるという嘘がバレてしまうのを避けるためだ。
全く世界単位でキルスコアを二人も上げられないとは情けない、と彼は鼻で嗤う。

ともかく、これで奴らが自分に優位に立ち回れる可能性もなくなった。
悪評も随分と広がったし、彼らの名前が次の放送で呼ばれるのも、そう可笑しくないだろう。
首輪の解除が可能な参加者を手中に収め、主催すら仲間につけて最早この殺し合いを制したのも同然だと、彼は不気味に笑って。

次の瞬間、戻ってきた二人の駒を、いつもの好青年の笑顔で出迎えた。


212 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:16:14 ZMKv5vOk0


【二日目 深夜】
【E-5 病院跡地】


【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】精神疲労(大)、全身に中程度の火傷(手当済み)、仲間の死に対しての罪悪感、自分の不甲斐なさへの怒り、クウガとダグバ及びに大ショッカーに対する恐怖(緩和)、仲間である仮面ライダーへの信頼
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW、、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×4、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードは付いてません)@仮面ライダーカブト、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:まずは今後の方針を考える。
2:首輪の種類は一体幾つあるんだ……。
3:志村純一と共にみんなを守る。
4:小野寺が心配。
5:キング(@仮面ライダー剣)、(殺し合いに乗っていたら)相川始は自分が封印する。
6:出来るなら、始を信じたい。
【備考】
※『Wの世界万能説』が誤解であると気づきました。
※参戦時期のズレに気づきました。
※ザビーゼクターに見初められたようです。変身もできるのか、保留扱いで生かされただけなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※首輪には種類が存在することを知りました。


【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身打撲、ダメージ(中)、仮面ライダーG4に――時間変身不可?
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎ラウズカード(クラブのJ〜K、ダイヤのK)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×4(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 、G3の武器セット(GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GK-06ユニコーン)@仮面ライダーアギト
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
0:後々地の石を奪い逃げた白い仮面ライダー(サガ)を追い、地の石を奪う。
1:バットショットに映ったアルビノジョーカーを見た参加者は皆殺しにする。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。
5:フィリップを懐柔し、自身の首輪を外させたい。
6:首輪を外させたらすぐにフィリップを殺す。正体発覚などで自分の首輪を解除させるのが困難になっても最優先で殺害。
7:ライジングアルティメットを支配し、首輪を解除したら殺し合いに積極的になるのもいいかもしれない。
【備考】
※555の世界、カブトの世界、キバの世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
 ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
 ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。
※封印(SEAL)のカードは破壊されました。
※オルタナティブ・ゼロ、ナイトのデッキは極力秘匿するつもりです。


213 : 更ける夜 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:16:40 ZMKv5vOk0


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+(T2サイクロン+T2エターナル)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル
【思考・状況】
0:亜樹子が殺し合いに乗っているのなら何としてでも止める。
1:志村純一……、僕の勘違いならいいけど……。
2:大ショッカーは信用しない。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:園田真理を殺したのは白い化け物。
5:首輪の解除は、状況が落ち着いてもっと情報と人数が揃ってから取りかかる。
6:出来るなら亜樹子を信じたいが……。
7:志村純一は信用できる……?
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※園咲冴子と天美あきらを殺したのは村上峡児と野上良太郎だと考えています。
※鳴海亜樹子と惹かれ合っているタブーメモリに変身を拒否されました。
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をエクストリームメモリのガイアスペース内に収納しています。



【全体備考】
※E-4大病院が崩壊し廃墟となりました。
※Gトレーラー内にはG4の充電装置があります。
※G4は説明書には連続でおよそ15分使えるとありますが、実際どのくらいの間使えるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※G4を再度使用するのにどれくらい充電すればいいのかは後続の書き手さんにお任せします。
※G4システムはデイパック内ではなくGトレーラー内に置かれています。
※E-5エリアにGトレーラー、トライチェイサー2000Aが停車されています。

※ブラッディローズ@仮面ライダーキバ 、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー超電王、カイザポインター@仮面ライダー555、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+)@仮面ライダー555、デザートイーグル(2発消費)@現実、変身一発(残り二本)@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、五代の不明支給品×1、草加の不明支給品×1、ガイアドライバー(五代)@仮面ライダーWがE-5エリアのGトレーラー内に置かれていますが、志村がどこまで回収したかは不明です。
もしかするとE-4エリアに置き去りのものもあるかもしれません。


214 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/13(火) 14:18:02 ZMKv5vOk0
以上で投下終了です。
ご意見ご感想、ご指摘などございましたら是非ともよろしくお願いいたします。


215 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:42:57 .vgtk6FE0
投下お疲れ様です。
原作からしてプロのステルスマーダーである純一ニーサンと、原作からして彼に騙されている橘さん、feat.フィリップのチーム。
おそらくは東の参加者たちの中で最も緊張感の漂っていたパートでしょうが、まだニーサンが利用価値を見出しているので一安心しました。
相変わらず、敵に騙される時にはどこまでも相手を信じてしまう橘さん、会って数時間なのに「いつもと同じに見える」とかあまりにも好意的に解釈し過ぎですが、一方でグロンギに対する恐怖心を乗り越えてくれた点は頼もしい。
確変時の橘さんは誰もが認める強キャラキラー。原作における死亡フラグである橘さんを騙すアンデッドを満たしたニーサンと、平成ライダーロワ屈指の死亡フラグであるニーサンを信頼しきっての同行状態、どちらのフラグが勝利するのか楽しみですね。
フィリップも心に傷を負いながら探偵としての感覚を取り戻しつつあり、さらに首輪解除を現実的なラインに持ち込むなど頭脳派としての魅せ場が多く巡って来そうで楽しみです。
そしてここに来て明かされる衝撃の真実、参加者の種族ごとに首輪が違うとは! 必要とされる機能が別なのだから当たり前ですが、これは主催の難攻不落さを端的に表す素晴らしい演出。一方で、だからジョーカーは二人参加していたのかと膝を打つ思いです。
よくよく振り返るとかつてディケイド関連キャラに限って拙作で触れた要素でしたが、さらに面白い設定に昇華して頂けたと思います。本当にありがとうございます。

自分も続いて、予約分を投下いたします。


216 : 喪失 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:44:43 .vgtk6FE0



 暗い夜闇の中を、ぽつんと行進する影があった。
 ずんぐりとしたシルエットはデイパックと、人間一人を背負ったことで大きく膨れたもの。重い足取りで進むのは、一条薫を背負った小野寺ユウスケだった。

「……すまない、小野寺くん」

 背後の一条から囁かれたのは、何度目かになる謝罪の言葉だ。

 応急手当を済ませてから、ユウスケは一人で彼を背負い、病院を目指し歩いていた。
 直後、意識を取り戻したかと思えば何度か遠のきもしているらしく、繰り返される謝罪は軽く前後不覚の状態故か。

 ……あるいは、一刻も早い治療が必要な身でありながら、冷たい夜風に今も体力を奪われながらも、彼もまた無力感から際限なく自分を責めているのかもしれない。

「構わないですよ。俺が、無駄に元気なだけですから……」

 止血を終えた後から、ユウスケが一人、彼を背負って歩く形になったのは、ひとえに体力差の問題だ。
 良きにせよ悪しきにせよ、今のユウスケは二度に渡って凄まじき戦士に転じた身。
 あれだけ消耗していた肉体も、未だ万全とはいえずとも、一条を背負って長距離移動するのは問題ないほどに回復していた。

 それでも歩みが遅いのは、一条への負担を気遣うばかりではなく――やはり先の戦いが心に残した爪痕が深すぎたせいだ。

 一条やキバットがいくら慰めてくれても、肯定してくれても。事実として自分が、他人を巻き込む虐殺兵器と化しながら、ダグバを討つことをできなかった事実は覆せない。

 ――そして一条もまた、やはり文字通りユウスケに重荷を背負わせた形になった居心地の悪さと、己の不甲斐なさへの憤りとを抱えていた。

「……ちょっと待て、二人とも」

 そんな負の感情に沈んでいた二人を呼び止めたのは、隣を飛行し追随していたキバットバットⅢ世だ。
 彼の様子を見てみると、キバットは片方だけ残った目で夜空を見上げていた。

 その、星空を見るには険しすぎる視線に倣ってみたユウスケは、見た。
 天空に生じたオーロラから吐き出された巨大な飛空船の群れ。そのうち一隻が、自分達の頭上を通り過ぎていく様を。



『時間だ。これより第二回放送を開始する』



 ゾッとするほど静まり返っていた会場に響き渡る、冷徹な男の声により――ユウスケたちは、殺し合いの開始から十二時間の経過を知った。

 そして、取り返しのつかない喪失の数々と――漫然と絶望に浸っていられる時間が終わりを告げたことを。


217 : 喪失 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:46:05 .vgtk6FE0





「何が……何が人が人を殺してはならない、だっ!!」

 第二回放送が終わった後。去っていく巨大な影に向けて、耐えきれなくなったようにキバットが叫んでいた。

「こんなこと仕向けておいて、どの口でそんなこと言ってやがる! バカにしやがってこのヤローッ!!」

 首領代行を通じて伝えられた、大ショッカー首領――すなわちバトルロワイアル主催者の言葉に、キバットは逆上したように悪態を吐く。

 だが、どこまで参加者たちを虚仮にしたようなその言葉に対して、怒りを抱く余裕はユウスケの中にはなかった。

 あまりにも――あまりにも多く、そして受け止めきれないほどの大きな喪失に、打ちのめされてしまっていたから。

「海東……みんな……」

 海東大樹。第一回放送で名前を呼ばれた光夏海と同じ――というには、時に危うすぎるほどに気ままではあったが、ユウスケにとって旅の仲間と呼ぶべき男が死んだ。何度も助けてくれたあの通りすがりの仮面ライダーが。
 日高仁志、すなわちヒビキ。共に殺し合いに立ち向かった頼もしい仲間にして、ユウスケが……殺めてしまった桐矢京介の師匠であった彼も、また。
 それも、彼らの属する『響鬼の世界』ごと――全員、殺されてしまった。

 急激に、口の中が乾いて来た。ともすれば吐きそうになるほどに。

 響鬼の世界の参加者は全滅した。それにより、彼らの世界に残る人々も滅亡を決定づけられた。
 文字通りに、世界中の人々の笑顔が奪われた――その一因に間違いなく自分が居る、という途方もない罪悪感に、膝が折れてしまいそうだった。

 ――だが、今のユウスケにはそうもできない理由があった。

 彼らだけではない。紅音也も、鳴海亜樹子も、もっと大勢が死んだ。
 そんな犠牲者を読み上げる放送の中で、あったのだ。彼の名が。

「五代……」

 背中が震える。ユウスケ自身の意志ではなく、そこに触れている人物の感情で。

 友の――五代雄介の死を知った、一条薫の声には。聞くだけで胸が張り裂けそうになるような、悲嘆がそこに含まれていた。

「一条さん……」

 背負っている、という体勢の都合上。ユウスケは彼の顔を伺うことができない。

 今、彼は――どんな表情を浮かべているのだろう?

「……すまん、小野寺くん。急かすようで申し訳ないが、もう進もう」

 だが――悲痛に沈んでいるかと思われた一条の声には、既に芯が戻っていた。
 もちろん、万全の張りとは言えないが、それでも。

 思わず、ユウスケは問うていた。

「……良いんですか?」
「……良くはない、だろうな――だが、止まっていることはもっとできない」

 絞り出すような返答の裏からは、確かな決意の程が感じ取れた。
 つい先程、ユウスケを優しくも力強く励ましてくれた時のように――彼の信じる正義に殉じようとする、強い意志が。


218 : 喪失 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:47:20 .vgtk6FE0

「奴らは、大ショッカーはこの殺し合いで最後に残る世界を決めると言った……君が言うように、世界の滅びは確かに起こっているのだとしても。これから参加者の全滅した『響鬼の世界』だけを狙って破壊するのは、大ショッカーが実行することのはずだ」

 一条に言われて、ユウスケはハッとした。

 彼の言うことには一理ある。大ショッカーの放送の中では、あくまで参加者の全滅しか告げていない。
 ならば一条の言うとおり、彼らの世界は未だ健在で、この先に大ショッカーが破壊を試みるのだとしてもおかしくはない。
 ……事情も知らずに遺された、京介の家族や学友たちごと。

「そんなことを許すわけにはいかない。だからできるだけ早く、奴らの計画を阻止して、全ての世界を救う方法を見つけなければ……」

 そのためには、バトルロワイアルすら止められていないうちに、足を止めてはならないと――一条は、暗に告げていた。

 あれだけ親愛の情を示していた、五代雄介を亡くしても。

 それこそがきっと、皆の笑顔のために戦った彼の遺志でもあるはずだと信じて――中途半端な真似だけは、しないために。

「……っ」

 そんな気持ちに押されるように、ユウスケは一歩踏み出した。
 移動の再開に気づいたように、キバットとガタックゼクターもまた追いかけてくる――ユウスケに仮面ライダーの力を託してくれた、仲間たちが。

 ……そうだ。
 今は、嘆いてばかりいられる時ではない。

 五代雄介は――もう一人の偉大なクウガは、志半ばにして息絶えた。
 ダグバにも対抗できると目された、大きな希望が。

 だったら……もう、お終いなのか?

 このまま次々と参加者が脱落し、滅亡する世界が続々と増えていき――ダグバや大ショッカーのような暴虐無道だけが生き残る悪夢を受け入れるしかないのか?

 そんなの――――諦めてしまって、良いわけがない。
 そんな中途半端な真似、できるわけが、ないではないか。

「……一条さん」
「どうした?」

 前触れのない呼びかけに、一条は穏やかな調子で応じた。

「……あんなことをしておいて、何を言うんだって思われるかもしれませんけど」

 問いかけに答える声が、震える。
 まだ、罪の意識は拭いようもなくこの身に纏わりついている。完全には迷いを振り切れない。
 それでも、言葉にしなければ、内に抱えたままでは、いつまで経っても変わらないから。

「俺……俺、戦います。五代さんの分も。今度こそ、皆の笑顔を守るために」

 それを叶えられる見込みのある者が最早、自分しかいないのであれば。
 膝を着き、ただ悲嘆と絶望に沈んでいる暇など、この身に許されるはずがない。

 そもそもこれは、誰かに任せて良い話ではない。
 姐さんと約束したのは――他でもない、小野寺ユウスケなのだから。


219 : 喪失 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:48:32 .vgtk6FE0

「変わってみせます。今度こそ……今度こそ、ちゃんと、クウガとして」

 そして会ったこともないあの人の――五代雄介の意志もまた、継いでみせると、密かに決意を固めながら。

「中途半端は、もう、しません。だから……安心して、ください」

 大ショッカーを倒すまでは、もう自分から逃げている場合じゃない――ユウスケはその覚悟を、一条へと言外に伝えた。







 小野寺ユウスケの――もう一人の戦士クウガの背に揺られながら、一条薫は複雑な心境を抱えていた。

 思い煩うことはいくつもある。守れなかった同行者たちの無念も、出会う間もなく死んでしまった鳴海亜樹子への疑惑も、ユウスケに語ってみせた世界崩壊を止めるための手段の模索も。
 大ショッカーの首領代行という立場で現れた、未確認生命体B-1号のことも。

 だがやはり、多くの考えるべきことにもなかなか集中させて貰えないほど、一条の胸の中を占めるのは、二人の戦士クウガに対する感情だった。

(五代……すまん……)

 胸中で詫び続けるのは、あの冒険家のこと。
 旅を愛する彼を、ずっと縛り付けてしまった。誰より暴力を嫌う彼に、ずっと戦いを強いてしまった。
 他に、未確認に対抗できる戦力がなかったから。一条が、警察が無力だったから、彼を危険に晒し続けてしまった。

 そんな寄り道のせいで、こんな恐ろしい戦いに巻き込ませてしまって……とうとう、その命を喪わせてしまった。

 同僚の殉職なら、聞かない話ではない。

 だが五代は、民間人だったのだ。
 本当は、もっと、素晴らしい青空の広がる景色をたくさん見られたはずの彼の生涯を、こんなところで。

 誰より正義感が強く、けれど悪意と対峙することも、義憤に身を燃やすことにも慣れていなかった五代を死に追いやってしまったのは、自分たちの無力――そして己の発した言葉こそが呪縛になっていたのではないかと、一条は悔やまずには居られなかった。

 重傷の身の、どの痛みよりも響く喪失感と罪の意識――そしてそれをさらに膨れ上がらせるのは、その再演に対する恐怖だった。

(俺は……小野寺くんまで)

 第零号との死闘で、精神に深い深い傷を負ったもう一人の――若きクウガ。
 五代と同じように、皆の笑顔を守りたいと戦う青年。辛うじて生き延びてくれた彼にもまた、自分は呪いをかけてしまったのではないか。

 中途半端な真似をするな、と――

 人の身と心で背負いきれるはずもないものを、またも一個人に押し付けようとしているのではないかと――文字通り今、お荷物と化した己を背負う青年に対しても、一条は罪悪感を覚える。

 ただ……ただ。一方で、自らを気遣う彼の声が、先程のように自決へと一縷の望みを託したような末期的な物ではなかったことには、軽率にも安堵してしまっている自分のことも、一条は認識していた。

 彼の精神は、やはり仮面ライダーの――戦士クウガの物だったのだ。
 追い詰められても、だからこそ甘えられなくなる。己の持つ強大な力、その責任から逃れられなくなる。
 それが土壇場で、自らの命を放棄するという選択肢を先延ばしにさせたことを――素直には喜べなくとも、今はただ、先に繋がったことこそを最後の希望として。


220 : 喪失 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:50:08 .vgtk6FE0

 それでも、その正義の魂がユウスケを立ち直らせたのだとしても。その業と責任を、彼一人に背負わせるわけにはいかない。
 守るべき皆の笑顔の中には、彼自身の笑顔だって含まれていることを……確かに彼が守れたものと同じように、忘れないでいて欲しいのだ。

(そうだろう……五代)

 贖罪になるとは思わない。五代雄介と小野寺ユウスケは別人であり、何の因果関係もない。
 それでも、きっと、五代は悪い意味で自分の後を誰かが追うのは嫌うはずだから。

 共に背負えるだけの力がない一条がこんなことを考えるのは、いっそ無責任かもしれないが、せめて――せめて、彼と並んで戦える仲間のところまで、その希望を繋ぐまでは、諦めることはできない。

 ……それが正しいことだとは、頭ではわかっているのに。
 諦めるべきはないというのに、どうしても引っかかってしまうのはやはり、喪ったものが大きすぎるからだろうか。

 結局は五代をそこまで導くことのできなかった自分への、拭い取れない不信のせいか。

 五代雄介も、小野寺ユウスケも、同じく奮起してくれた父の言葉を――何より果たせていないのは自分ではないかという、疑念のせいか。



 ――この闇を抜ける頃には、そんな迷いも晴れるだろうか。

 柄にもなく、そんな感傷を懐きながら。一条はせめてもの回復と、考察すべき事柄への集中に意識の切り替えを務めた。





【一日目 深夜】
【???】



【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(極大)、ダメージ(大)、左脇及びに上半身中央、左肩から脇腹、左腕と下腹部に裂傷跡、アマダムに亀裂、ダグバへの極めて強い怒りと憎しみ、仲間の死への深い悲しみ、究極の闇と化した自分自身への極めて強い絶望
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、ガタックゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】無し
【思考・状況】
1:一条を死なせたくない、何としても助けたい。
2:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない……
3:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
【備考】
※自分の不明支給品は確認しました。
※『Wの世界万能説』をまだ信じているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました。
※クウガ、アギト、龍騎、響鬼、Wの世界について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛けられていることを知りました。
※アマダムが損傷しました。自壊するほどではありませんが、普段より脆くなっています。
※ガタックゼクターがまだユウスケを自身の有資格者と見なしているかどうかは、後続の書き手さんにお任せします。
※キバットバットⅢ世の右目が失われました。またキバット自身ダメージを受けています。キバへの変身は問題なくできるようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。


221 : 喪失 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:50:49 .vgtk6FE0

【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、額に怪我、腹部表面に裂傷、その他全身打撲など怪我多数(応急処置済)、出血による貧血、五代たち犠牲者やユウスケへの罪悪感、強い無力感、ユウスケに背負われて移動中
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
1:第零号は放置できない、ユウスケのためにも対抗できる者を出来る限り多く探す。
2:五代……。
3:例え何の力にもなれなくても、ユウスケを一人には出来ない。
4:鍵に合う車を探す。
5:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
6:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
7:小沢や照井、ユウスケの知り合いと合流したい。
8:未確認への対抗が世界を破壊に導き、五代の死を招いてしまった……?
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると推測しています。
※麗奈の事を未確認、あるいは異世界の怪人だと推測しています。
※アギト、龍騎、響鬼、Wの世界及びディケイド一行について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛かっていることを知りました。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)。
※腹部裂傷は現在深刻ではありませんが過度な運動をすると命に関わる可能性があります。


※以下の支給品は、ガタックゼクターが運んだデイパックの中に入っているはずの物ですが、デイパックが破損しているためいくつかはE-2エリア、E-1エリア、F-1エリア内に落ちているかもしれません。または、やはりいくつかは攻撃に巻き込まれて消滅した可能性もありますが、詳しくは後続の書き手さんにお任せします。

@ガタックゼクターが運んだデイパック内にあるはずの支給品:照井の不明支給品、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ 、ユウスケの不明支給品(確認済み)×2、京介の不明支給品×0〜1、ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品×0〜1
【備考】
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※ただし、上記の支給品の内ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブトは確実にガタックゼクターに確保されています。



【共通備考】
※『響鬼の世界』は参加者が全滅しただけで、世界そのものは大ショッカーがこの後で破壊するのではないか、まだ止められるのではないかと考えています。
※一条の治療のため、病院を目指して移動しています。ただしそれがD-1かE-5か、つまり出発地点のF-1エリアから見て北か東か、および現在地がどこになるのかは後続の書き手さんにお任せします。


222 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/02/13(火) 19:57:06 .vgtk6FE0
以上で拙作の投下を完了します。
先述のとおり、以前ほどのペースでは執筆できないため次回の予約までは間隔が空いてしまうかもしれませんが、問題点や修正箇所のご指摘等にはもちろん出来る限り迅速に対応させて頂きたいと思います。
よろしくお願いいたします。


223 : 名無しさん :2018/02/13(火) 22:16:28 RIC57FVw0
お二人とも投下乙です!
フィリップはニーサンの正体について疑問を抱き始めるけれど、果たして間に合うかどうか……!?
ニーサンは密かに装備を整えつつあるし、また首輪の解析が進むごとにとんでもない思考が芽生えつつある。
確かに首輪の仕組みが違っても、下手に始を殺害したらその時点で自分の世界が不利に繋がってしまうでしょうし……


一方でユウスケと一条さんも五代さんや海東の死を知ったけど、それでも覚悟を決める姿は頼もしくもあり、そして切ないです。
二人にとってクウガである五代さんの遺志を継げると良いですけど、もう一人のクウガであるユウスケは渡に狙われそうになっているのですよね……
でも、キバットがいれば渡のことを説得してくれるはず!


224 : 名無しさん :2018/02/14(水) 02:39:41 9Wer98/.0
投下乙です。

>更ける夜
騙し上手な志村、騙され上手な橘、正しいのか疑心暗鬼なのかもわからなくなっているフィリップ。
三者それぞれ、ステルスに翻弄されるチームとしては凄く面白い描かれ方でした。
確かに志村が狡猾なのもあるんだけど、橘さんが一見優秀で冷静な年長者だからこそ、フィリップは騙されてる橘をある程度信頼して巻き添えのように騙され半分になっているような…。
橘さんがアレなところがある人だと切り捨てられればもう少し冷静に他人を疑えるのかもしれませんが、優秀なところは優秀で一見まともな人だからなぁ…。
それでもフィリップの持つ疑念も決して潰されるようなものでもないので、もしかしたら大きな活路はあるかもしれませんね。
という事で、志村がバレても相変わらず騙されても、今後が楽しみですね。

>喪失
五代の死という結果に、元の世界での行動ごと悔やんでしまう一条さん。
本編最終回も浮かびつつ、それをまたユウスケに対して繰り返さざるを得ない立場の葛藤が絶妙です。
「もう民間人は巻き込まない」と完全に振り切れるなら、あるいは、逆に「民間人を巻き込むのもやむを得ない」と割り切れるなら、彼もすごく楽なんでしょうが状況的にも立場的にもそうも行かず。
過ちや責任を悟りながらも繰り返す形になる、必然的にそれを見送る事になってしまう、悲しい立場です。
もう一人、こちらは他人とはいえ五代の優しさと覚悟に近づいていっているようなユウスケ。
彼は小野寺ユウスケではありますが、五代雄介を知る事も、五代雄介をなぞったような言葉や覚悟を示す事も、またユウスケとしての成長なのかなと思います。
五代と重なる一面が増えたからこそ、これから先、決定的なところでこのロワの五代と違う道のりを歩んで、五代と一条を救ってほしい気持ちです。もちろん、すべては命運次第ですけど…。


225 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/14(水) 18:16:05 GYwRogog0
◆cJ9Rh6ekv.氏、ご感想ありがとうございます。
首輪に関しては氏のディケイドには余分な制限が云々を拡大解釈したものなので、ご本人にそう言っていただけると嬉しいです。
『喪失』ではユウスケと一条さんが五代の死に物思い。
地の石で操られてガイアメモリの毒に嬲られてと詳細を知ったら卒倒しそうですね。
それからユウスケ、E-4方向に向かうと鬱ルートほぼ確定だからやめてよ?本当にやめてよ?


226 : 名無しさん :2018/02/15(木) 22:35:30 dhGhDwwk0
今残ってるマーダーって

・ダグバ(キングフォームへの変身が可能)
・浅倉(王蛇のデッキは失ったもののテラードーパント、ヘラクス、ファム、ランスに変身可能)
・始(手持ちのカードではワイルドカリスにはなれないものの三つの変身手段あり)
・志村(橘達に隠しているものも含めれば四つも変身手段がある)
・渡(二つ変身手段があって尚且つ地の石を所持している)

五人だけなんだな


227 : 名無しさん :2018/02/16(金) 00:27:16 otF2XOF20
そもそも残ってる参加者が22人だけだからね
そこに更にウカワームがマーダー入りしたら4分の一以上マーダーになっちゃうしむしろ多いまであるよ


228 : 名無しさん :2018/02/17(土) 08:01:42 3KLB4YV.0
おおおお! 凄い予約きたね!


229 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:10:51 BdiVsGB60
皆様おはようございます。
ただいまより投下を開始いたします。


230 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:11:22 BdiVsGB60

「小沢さん、ヒビキさん……そんな……」
「蓮……嘘だろ」
「草加、お前……」
「亜樹子……すまねぇおやっさん……!」

死者の名前が呼ばれる度、この場に集まった参加者の顔が陰っていく。
前回の放送から更に18人という驚くべき数を減らした参加者を思いながら、名護は口にはしないものの、少しの安堵も覚えていた。
自分の弟子であり最高の仲間、仮面ライダーキバである紅渡が未だにその名前を呼ばれていないため。

リュウタロスも敵対する牙王の名前だけが知り合いの中で呼ばれたことに多少喜びの声を上げていたが、しかし周りの雰囲気に合わせてそれを大きく口にはしないようだった。
以前までの彼であれば周囲など気にせず大声で喜んでいたであろうことを考えると、大きな成長であったが、しかしそれを確認してくれるものはこの場にはいない。
ともかく、死者の放送が各々に生じさせた衝撃は大きかったものの、比較的この場ではまともに放送を聴ける自分が放送の内容を的確に覚えておくべきだと一層意識を集中させ――。

『――失礼。まことに急ですが、今回のあなたの出番はここまでです』

その言葉と共に現れた男に、この放送が始まってから初めて動揺を見せた。





放送が終わってからも、数分の間そこにいる誰も声を上げなかった。
18人。
6時間で死ぬには、あまりにも多すぎる数字。

あるものは死者との思い出に耽り、あるものは名も知らぬ死者への黙祷を捧げていた。
その中でやはり重い口を最初に開いたのは、この場を仕切る名護であった。

「……皆、辛いのは分かるが、今の放送でわかったことを話し合いたい」

その言葉に翔太郎は沈んだ瞳を向け、先ほどまであれほど明るかった真司たちも見るからに気乗りをしない様子だった。
その気持ちは痛いほど分かる。
翔太郎にとっての鳴海亜樹子の存在が、翔一にとっての小沢が、真司にとっての秋山がどれほど大きい存在か、名護にだって察しはつく。

しかしだからといってここで足を止めては、ヒビキを始めとする死んでいった全ての仮面ライダーに申し訳がたたないではないか。
しかしそうはいってもいきなり意識を切り替えるのは酷か、と名護は自分から切り出す。

「先ほどの放送にいた、放送の中断を宣言した男。俺は奴を知っている。ビショップと言って、既に元の世界で倒したはずだが……ともかく主催に協力しているらしい」

その言葉に反応する者はいない。
最早貴重な主催の戦力の把握であるはずだが、やはり今の放送で失われた命はあまりにも大きかったらしい。
しかしその空気の中で、名護にいち早く気付き対応したのは、彼の弟子である総司であった。

「……それなら僕も。最初に放送してた三島って人、多分普通の人じゃないと思う、何か感じたんだ」
「私もそう思います……、それと、その……なんとなくあの人は総司さんと同じ感じがしました」

自信なさげに呟いた総司に続いたのは意外なことに麗奈であった。
その事に驚きを示したのは、もちろん名護だけでなく。

「え、てことはあの正人って奴もねいてぃぶ?だってことー?」
「そう、いうことになるのかな?」

素朴な疑問を述べたリュウタに総司はそう返す。
彼とて自分がネイティブであることは知っていても、他人がどうかまではわからないのだろう。
そう言う意味で言えば、ここに至って麗奈の感覚は非常に頼りになる。

大ショッカーに普通の人間がいるはずもないか、と一同が納得する中、次に声を上げたのは翔一だった。


231 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:11:44 BdiVsGB60

「……俺、もしかしたら大ショッカー首領っていうのが誰か、知ってるかもしれません」

確信は持てない様子ながらもそう言った翔一に、一同の注目が集まる。

「それは本当か、翔一君!」
「多分、ですけど。あのバルバって女の人の後ろにいた奴らと前戦ったんです。それに、『人は人を殺してはいけない』って言葉にも、何か聞き覚えがあって」

彼の言葉に、名護も、翔太郎も目を見張っていた。
このチームのムードメイカーであるだけかと思われた翔一だが、変身制限の更なる一面や、主催の首領を知っているなど、情報においても大きく貢献している。
決して翔一を軽んじていたわけではないが、ここまで色々と役立ってくれるなどとは思いもよらなかった。

「それで……、翔一君、その首領っていうのは結局誰なんだ?」
「はい、……俺も名前は知らないんですけど、そいつは何か皆が言う分には、人間を作った奴なんじゃないかとか、何とか」
「それって、神様ってこと!?」
「まぁ、そういうことになるんですかね」

思わずといった様子で大声を上げる総司に、翔一は困ったようにそう返す。
彼の様子からして嘘をついているわけでもないのだろうが、あまりにも突飛すぎる発言に一同は言葉を失ってしまう。
そんな空気の中、堪らずといった様子で立ち上がったのは三原だった。

「神様が相手なんて、そんなの……そんなの勝てっこないじゃないか!」

その言葉には動揺も含まれていたが、何より不安が大きいようだった。
世界の滅亡など大ショッカーの妄言だと言う名護たちの言葉を信じて三原なりに頑張っていたというのに、相手が神ではその言葉を信じざるを得ないではないか、と。
しかしそんな三原に対して、やはりこの場に似つかわしくない表情を浮かべるのは翔一だ。

「うーん、勝ち目ってのはどうかわからないですけど。一度そいつが人間を滅ぼそうとした時、俺、そいつを蹴り飛ばしたんです。だから皆さんもそこまで気負う必要ないと思います」
「蹴り飛ばした……って神様をか!?」
「えぇ、まぁ」

真司の衝撃に対し、へへ、と気恥ずかしそうに笑う翔一を見て、今度こそ全員が絶句した。
事もあろうに、彼は神を一度蹴り飛ばしているらしい。
なんと罰当たりな、とも思うが。

「……いや、こんなふざけたゲーム開く奴だぜ、俺たちの信じる神様とは、腐っても別人に決まってる」
「そうだな、俺も、俺や人々が信仰する神がこんな命を弄ぶことを進んでするなど考えたくもない」

ずっと黙っていた翔太郎の言葉に、名護も合わせる。
今までファンガイアの魂を捧げていた神が、こんな殺し合いを開くような親愛に欠けた存在などと、口が裂けても言いたくはなかったし、考えるのもごめんだった。

「――進んでじゃ、なかったら?本当に神様でもどうしようもなく世界が壊れようとしてて、それを防ぐための必死の手段だったら?」

しかしそんな名護の言葉に、水を差したのはまたも三原だった。
もちろんその可能性には名護も思い至っている、しかしそれを今議論するのは、士気の低下に繋がりかねないと、意図的に避けていたのだ。
しかし触れられた以上は反論せねばなるまいと――。

「……そんなわけ、ないよ」

しかしそんな三原に名護より早く反論したのは、総司であった。
俯きながら吐き出された否定に、流石の三原も苛立ちを隠しきれず。

「なんでそんなこと言い切れるんだよ!?神様が関わってるんだぞ!どうしようもない可能性の方が高いじゃないか!」
「そんなわけないよ、だって……」
「だって、何だよ!言ってみろよ!」
「――だって、それなら僕を参加させる理由がないもの」

そう言った総司の瞳には、覚悟が満ちていた。
その目に見つめられて三原は一瞬怯むが、しかし今度は翔太郎が疑問を口にする。


232 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:12:05 BdiVsGB60

「おい、それどういうこったよ総司。お前が参加する理由がないってのは」

言われて、総司は一瞬だけ俯いて、しかし今度は名護を見ることなく、真っ直ぐに前を見据えて。

「だって僕は最初、自分の世界を崩壊させるために殺し合いに乗ってたんだもん」

えっ、と誰かが呟いた。
一歩分、総司から物理的に離す一同を尻目に、総司はしかし堂々と息を吸い込んだ。

「……僕は最初、世界全体から見放されてると思ってた。僕を受け入れてくれた唯一の存在のひよりも僕から離れていって、僕には本当にどこにも居場所がなくなったって思ったんだ」

ぽつりぽつりと吐き出す彼は、しかし以前までと違って憑き物が落ちたような顔をしていた。
そのままぎゅっと拳を握って自分の目の前に掲げ、月明かりに照らす。
その拳に込めた思いがなんなのか、誰にも分からなかったが、しかし総司は満足げに笑って。

「だから、この殺し合いに最初に連れてこられた時、僕はまず全部の世界を壊して、最後に自分も死ぬことを考えた。そうすれば、僕を拒絶した世界も、何もかも否定できると思ったから。……そんな存在、神様からすれば絶対に邪魔でしかないよね?」

そう言って悲しげに笑うが、それに笑みを返せる存在は誰もいない。
だが、とそれに異論を唱えるのは、やはり三原だ。

「……でも、結局総司さんは殺し合いに乗るのをやめたんだろ?それに結局ガドルって奴とかネガタロスって奴とか、悪い奴しか殺してないじゃないか。今ではどうとでも言えるけど、結局前から悪い事なんて出来なかったんだろ!?」

言いながら、三原にも何が正しいのかよくわからなくなっていた。
首領の神様が正しいのか、この場にいる仮面ライダーが正しいのか。
しかしそんな三原に、以前の自分を重ね合わせたか総司はしっかりとした目で名護を一瞥し、それから三原に向き直った。

「ううん、僕はそれ以外にも一人殺してる。――剣崎一真っていう、正義の仮面ライダーを」
「剣崎一真だと!?」

それに驚愕の声を上げたのは、翔太郎だった。
相川始から知り合いとして紹介された仮面ライダーブレイドである、剣崎一真。
彼のことを話す始はどこか穏やかで、きっと友人であるのだろうと翔太郎は思っていた。

その名前が放送で呼ばれた時、始の顔を思い浮かべもしたが――。
きっと、カリスとしての彼が守りたかった世界の一員にも、彼は含まれていたのだろうと、翔太郎はそう感じていた。
始にすらそこまで信用される仮面ライダーを殺したのが、他でもない総司だと――?

「だから、僕は一生をかけてその罪を贖う。そして、剣崎や天道の分まで、仮面ライダーとして生きていかなきゃいけないんだよ」

言い切った後で、生きていきたいんだ、と総司が小さく続けたのを、翔太郎は確かに見た。
先ほど、身体が例えネイティブという怪人になっても、変わりたいと思い続ける限り総司は変われるのだと熱弁したのは、一体どこの誰だったか。
こんな程度で意見を変えるようでは、全く半人前もいいところだ、と彼は大きく息を吐き出して。

「そうだな、お前がどんな罪を犯していようと、それを数えようっていう気持ちが消えない限り、お前は変われるんだ。……首領だってよ、さっきも言ったけど神様はこんなゲーム感覚で人を選別しようなんてしないはずだぜ」

これで納得してもらえねぇか、三原さん、と翔太郎が続けたのを聞いて、三原は思いのやり場を失ってそのまま座り込んだ。
不安が消えたわけではないだろう。
しかしここでそれについて話し続けても、きっと答えはでない。

であれば、詭弁であってもこの殺し合いを止め、直接主催に会いに行くのが最優先だ。
それにしても、と翔太郎は思う。
総司の顔つきが自分と会ったときからも、麗奈が暴走した時からも大きく変わっている。

きっと、これからも彼は変わり続けるだろう。
師匠である名護や、仲間である自分たちの助けは、まだ必要かもしれないけど。
彼は、もう決して自分が総司に不安な思いを抱くことはないだろうと、そう思った。


233 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:12:31 BdiVsGB60





放送から少しして。
名護は、テーブルに大きな白紙を広げ、そこに名前を記入していた。

「――何してんだよ、名護さん」

と、そこに現れたのは放送後から妙に口数の少ない真司だ。
彼なりに考え事をしていたようだが、元来より苦手な考え事を一時切り上げてこちらの動きが気になったらしい。

「……これは、今の時点での参加者の詳細をまとめたものだ。後は、一応主催者の情報も少しはまとめているが、いかんせん翔一君に聞いても名前がはっきりしなくてな」

そう言って見せられた紙には、多くの名前が書かれていた。
しかし参加者の欄にはもう22人しかいないことを痛感して、真司の胸はまた痛んだ。
こんなところで考えごとをしている場合ではない、と真司は切り替えて。

「名護さん、俺にもこの表を完成させるの、手伝わせてくれよ」
「もちろんだ。翔太郎君たちにも、手伝ってもらいたい」
「あぁ、構わないぜ、えぇとまずは――」

そうして、彼らはこの場での情報をその表にまとめていった。





「……こんなものだな」

数十分後、そこには現生存者の立派な詳細名簿が完成していた。
以下は、その表に記されている内容である。


――現生存参加者詳細――
一条薫:対主催。警察。照井竜から仮面ライダーアクセルの力を受け継いでいると思われる。麗奈と面識あり。状況から判断するとワームとしての麗奈を見ている可能性もある。

ン・ダグバ・ゼバ:超危険人物。紅音也を殺害。主催のバルバについて知っている可能性あり。翔太郎と面識あり。

津上翔一:対主催。仮面ライダーアギト。首領についての情報を知っている。

葦原涼:対主催(推測)。仮面ライダーギルス。参加時期によっては翔一を敵と認識している可能性あり。

城戸真司:対主催。仮面ライダー龍騎。

浅倉威:超危険人物。仮面ライダー王蛇。木野薫、霧島美穂を殺害(推測)。翔太郎と面識あり。テラーメモリの能力を取り込んでいる可能性あり。(※テラーメモリの能力については別記)

乾巧:対主催。仮面ライダーファイズ。オルフェノクにも変身が可能。名護と面識あり。

三原修二:対主催。一般人。

村上峡児:危険人物。オルフェノク。ファイズ、カイザ、デルタのベルトを狙っている可能性が高い。

橘朔也:対主催。仮面ライダーギャレン。名護と面識あり。首輪を解除できる可能性あり?

相川始:危険人物。仮面ライダーカリス。木場勇治を殺害。ジョーカーアンデッドにも変身が可能。翔太郎と面識あり。

志村純一:不明。

間宮麗奈:対主催。ワーム。ワームとしての間宮麗奈のスタンスは不明。


234 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:12:59 BdiVsGB60

擬態天道総司(便宜上こう記しますが作中では名簿の名前で記されています):対主催。仮面ライダーカブト。剣崎一真、ネガタロス、ゴ・ガドル・バを殺害。ネイティブワームにも変身可能。

野上良太郎:対主催(推測)。仮面ライダー電王。恐らくウラタロスとキンタロスという二体のイマジンが憑いていると思われる。

リュウタロス:対主催。仮面ライダー電王。

紅渡:スタンス不明。仮面ライダーキバ。前回放送よりスコアをあげているので警戒はするべき。参加時期によっては名護を敵と認識している可能性あり。

名護啓介:対主催。仮面ライダーイクサ。

門矢士:対主催(推測)。仮面ライダーディケイド。大ショッカーのことを知っていると思われる。総司と面識あり(士は総司の顔を見ていない)。総司が一真を殺害した場に居合わせ交戦したため敵と認識されている可能性大。

小野寺ユウスケ:対主催。仮面ライダークウガ。名護と面識あり。

左翔太郎:対主催。仮面ライダーW並びに仮面ライダージョーカー。参加者の一人であるフィリップと合流できれば仮面ライダーWに変身できる。

フィリップ:対主催(推測)。仮面ライダーW。同上。首輪を解除できる可能性がある?


※テラーメモリの能力について。
テラーメモリはそれを使用するだけで周囲に恐怖を強制的に植え付けられる能力を持つガイアメモリ。
朝倉威はこれを食ったらしく、専門家の翔太郎でさえ対処出来ない可能性がある。
実際に対峙した翔太郎曰く能力は発動されているらしいが、ドーパントに変身できるかは不明。
※※ガイアメモリについての詳細は別記『各世界の基本的情報』にて記載。


――主催陣営詳細――
神(?):首領。黒い服を着た青年だと思われる。翔一とは面識があり、以前一度倒したこともあるらしいが、詳細は不明である。

ラ・バルバ・デ:大ショッカー最高幹部。首領代行。第二回放送にて首領の言葉を代弁。恐らくはダグバやガドルの仲間だと思われる。

アンノウン三体:第二回放送時ラ・バルバ・デの後ろについていた怪人たち。翔一と交戦経験あり。以前一度倒したが、それぞれ警戒すべき強敵。

ビショップ:大ショッカー幹部。ファンガイア。

三島正人:大ショッカー幹部。第二回放送担当。麗奈によるとネイティブワームである可能性が高い。

キング:大ショッカー幹部。第一回放送担当。あるいは橘、相川であれば何か知っている可能性あり。

死神博士:大ショッカー大幹部。最初の会場にいた老人。


――これより下には、各世界の基本的な情報などをまとめたページが続いていたが、それはこの場では割愛する。
ともかく、総勢22名の参加者についてと、知りうる可能な限りの主催陣営の情報をまとめ終え、名護は大きく息をついた。
その表にそれぞれが目を通しながら、しかし翔一と真司が注目したのはある名前であった。


235 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:13:18 BdiVsGB60

「この浅倉って人、木野さんを殺したかもしれないってどういうことですか?」
「あぁ、東京タワーで戦ったときに紅がアンなんとかとアギなんとかいうグラサンの男を追って倒したって話をしててな。この霧島って人のファムも、浅倉が変身した仮面ライダーの特徴と一致する。城戸の世界の仮面ライダーは戦うのがルールってことも、確か似たようなこと言ってたしな。多分こいつで間違いないはずだぜ」
「浅倉……元々凶悪犯罪者だったけど、やっぱり倒さなきゃ駄目なのか……」

そう言って、三人は沈んだ表情を見せる。
音也の情報によれば、木野はアギトを殺そうとしていたらしい。
自分の知る最初の仲違いしていた頃の彼だったのだろうが、だからといってこんなところで凶悪犯罪者に殺されてしまうなど、許されるはずもなかった。

一方で、真司の表情もまた暗い。
自分とお好み焼きを一緒に食べていた、霧島美穂。
結婚詐欺をしていたり自分のデッキを盗もうとしたりろくな女ではなかったが、浅倉に恨みを抱いたばかりに返り討ちになったのだろうか。

真司は彼女がライダーバトルに参加する詳しい事情など知らないが、それでも彼女は根は悪い奴ではなかったと思う。
そんな存在を簡単に殺し今もなお闘争を求め続けているだろう浅倉への思いは、真司とて決して穏やかなものではなかった。

「――にしても名護さん、本当にいいの?渡って人のこと、自慢の弟子だって言ってたのに、警戒すべきだ、なんて」

その後方で、そんな疑問の声を上げたのは総司だ。
それを受ける名護の表情も、決して明るくはない。

「……無論、俺だって渡君を信じたい。俺の知る渡君ならこんな殺し合いに乗るはずはないが……、有り体に言えば、彼はかなり危うい時期が多かったからな。前回の放送から彼が誰かを殺めてしまったのはランキングから分かっている。ガドルを倒した君のようなケースであれば良いが、そうだとも言い切れないからな……」

放送で一部発表された殺害数ランキング。
世界毎の発表ではあるが、キングが死に、音也は放送からずっと一緒だった翔太郎の証言で殺害を行っていないとなると、唯一の候補は彼となってしまうのだ。
その数は一つではあるものの、もしそれが殺し合いに反するものの命を奪うものであったなら。

総司のように説得を出来る相手だとも思っているが、彼と接触するのは早いほうがいいだろうと、彼はそう思考していた。

(――照井、お前は託せたんだな、一条って刑事に、お前のアクセルを)

一方で、翔太郎はその手にトライアルメモリを握りしめながら名簿の一条薫の名前を見る。
麗奈がこの場で初めてワームに変じる前、照井からアクセルを譲り受けたらしい、一条薫。
照井と同じように刑事であった彼がアクセルを受け継いだという事実には些か驚きもあるが、しかし彼が認めるような立派な刑事だったらしいことは、麗奈から聞いている。

この殺し合いの進行スピードではトライアルを用いた修行は難しいかもしれないが、しかし照井の遺志を継いだ男に、自分が何もしないというのも、些か寂しいものである。
であれば何を彼に出来るのか、と翔太郎が考え込んだところで。
周囲の探索に回していたタツロットたちの為に開けっぴろげにしていた窓から、一つの影が入り込んでくる。


236 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:13:50 BdiVsGB60

「――キバット君か」

それは、より一層深くなった夜の闇に溶け込んでいる黒のコウモリ。
放送前からずっと周囲の参加者を探していただろう彼が戻ってきたと言うことは、と一同の緊張感も高まる。

「――あぁ、お察しの通りだ。東側から参加者がバイクに乗ってやって来ている。しかも名護、お前も知っている参加者だ」
「……渡君か」

その名護の言葉に、キバットはその大きな瞳を閉じることで応対する。
対する名護は、思考する。
どうすれば、一番安全に、かつ彼を説得できる状況を作り出せるのか、と。

数秒考え、周囲を見渡した後、彼は意を決したようにその口を開いた。

「……俺が、一人で行く。彼がどういったスタンスであったにしろ、同じ世界の俺であれば被害を最低限に抑えられる。……皆、その間ここを頼む」

彼のその言葉には、もちろん元の世界からの知り合いである、という意味も含まれていたが、この殺し合いのルールでは同じ世界の参加者を殺す理由がないという意味も含まれていた。
もしも彼が殺し合いに乗っているにしても、考え得る最悪のケース――彼がファンガイアの心に支配されている場合――でない限り、見境なく利すらなく人を殺すような真似はするまい。
であれば、このまま病院に迎え入れ彼らを危険にさらすより、自分が単身で出向くべきだろうと彼は考えたのだ。

そうして翔一からバイクのキーを受け取り、キバットに道案内を頼んだところで、彼は振り返る。
総司も、翔太郎も、未だボロボロであるのは否定しきれない。
しかし、それから離れることを、彼は不思議と不安には思っていなかった。

翔一と真司がいるから、もそうだが、何より半人前の仮面ライダーを名乗っていた翔太郎と、仮面ライダーがなんたるかすら理解していなかった総司の目が、どちらも一人前のそれに変わっていたからだ。
もし今後何かが彼らの身に起こるとしても、決して諦めはしないだろう、と名護は思う。

であれば、そんな存在にずっとついているのではなく、自分がしたいことをする間、彼らに留守を任せるのも、信頼の形ではないか。
と、そこまで思考して、名護は総司が自分をじっと見つめているのに気付く。
一瞬、不安や、未だに自分が見捨てられるのではと怯える瞳かと心配するが、それは杞憂であったようだ。

その瞳は、強かった。
自分の考えたことをしっかりと理解した上で、絶対に帰ってこいと言っているかのようだった。
であれば、そんな弟子に返せるものは、彼には一つしかあるまい。

――絶対に帰ってくる。その代わり、ここを任せたぞ。

深い頷きと共に、瞳だけでそう訴えることだ。
それを受けて、総司は少し笑って、嬉しそうに頷いた。
短い時間ではあったものの、彼も随分と成長したものだ、と名護は嬉しくなり――。

また目頭が熱くなってきたのを感じて、そそくさと病院を後にした。





レンゲルバックルから得られた情報を頼りに、市街地をバイクで進むのは、紅渡――またの名をキング――である。
橋から渡ってすぐの市街地が一面焦土と化しているのを見て、彼はこの場での戦いをライジングアルティメットによるものだと推測。
激しい戦いの後には休養を取るだろうと先ほどと同じく病院を目指した。

前回と違うのは、今回は彼一人だけ、ということだが。
と、そんな最中、突如頭上にオーロラのような光が見えて、彼は思わずバイクを止めた。
ふと時計を見やれば、時間は深夜0時、定時放送の時間であった。


237 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:14:12 BdiVsGB60

『時間だ。これより第二回放送を開始する』

その言葉と共に三島と名乗る男が、放送を開始する。
――多くの名前が、死者として呼ばれていく。
病院で死んだものは、この中に何人含まれているのだろうか、などと今更抱くべきでない思いを抱いたことを恥じつつ、彼は放送に集中する。

死者の名前などその大半は最早単なる雑音だ。
自分の世界が生き残るために必要な犠牲。
呼ばれる名前が多ければ多いほど、自分の世界は勝ちに繋がる。

そう、大事なのはもうたった二つの名前だけ。
自分の知るその二つの名前さえ呼ばれなければ、この放送に意味など――。

――紅音也。

「えっ」

と、自分でも驚くぐらい間抜けな声が出た。
キングとしての威厳などない、ただの息子として、彼は今、父の死を知った。
元の世界ではもう死んでいるとはいえ、ここでもう一度生を受けたというのに、その命は刈り取られてしまった。

――覚悟はしていたつもりだった。
放送前にディケイドが父に会ったと聞いたとき、自分は自然とその死を推測したはずだ。
しかし、話に聞く彼ならば。

或いは世界の破壊者を前にしても生き残るのではないか、とそうどこかで甘えがあった。
それが間違いであったことを自覚しつつ、彼は一層ディケイドへの恨みを膨らませ――。

――園咲冴子。
――鳴海亜樹子。

告げられた二つの名前によって、現実に引き戻された。
鳴海亜樹子。
東京タワーで仮面ライダーの善意を弄ぶような放送を行い、自分とキバットの怒りを買った馬鹿な女。

その名前を聞くだけで嫌悪感が沸くというのに、自分の前で泣いていた彼女がもう死んでしまったという事実に、何か引っかかるものがあるのも事実だった。
そして、園咲冴子。
第一回放送前に自分を庇い死んだはずの彼女の名前が、何故今呼ばれたのだろうか。

もしかすると、彼女は生きていて、第一回放送を終えた後に本当に死んだのだろうか。
であれば自分は、最後まで彼女に騙されていたのか?
それに対し怒りも沸くが、それ以上に生きていたならそれでよかったのにと思い、同時に彼女が本当に死んだのだと告げられたことに対するやるせなさの方が勝った。

別の世界の参加者に今更そんな思いを抱いたことに今一度気を引き締めつつ、彼はそのまま放送に意識を――。

『――失礼。まことに急ですがあなたの今回の出番はここまでです』

そうして突如現れた男に、渡は見覚えがあった。
以前、自分の中のファンガイアの血を目覚めさせたチェックメイトフォーの一員、ビショップ、と言ったか。
あんな存在まで大ショッカーに協力しているのか、と呑気に考えて、しかし彼であれば太牙の障害でもある自分の存在を消すという願いを、嬉々として受け入れるだろうと渡は思った。


238 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:14:28 BdiVsGB60





放送は終わった。
それから以降、市街地という状況では籠城していたり罠を張っている参加者も多いだろうと彼はバイクから降りていた。
放送前に殺したアポロガイストのように、誰しもがバイクを建物の外に止めるほど愚かでもあるまい、と彼は考え、入念に一つ一つの建物を観察していく。

サガークすらも捜索に回しているのだが見つからないところを見ると、やはり病院まで一気に走った方がいいのかもしれない、と渡がそう考えると同時。
彼は、遠くから、エンジンの音が近づいてくるのを感じる。
周囲の捜索にサガークを割いたためにより広い範囲での索敵を怠ったか、と渡は思うが、しかし焦ることもないと思考を切り替えた。

向こうがどんな参加者であれ、ライジングアルティメットについての情報を聞き出し、利用できそうなら利用を、戦闘になるなら戦闘を、と気付かぬ内に好戦的になった思考で考える。
右手にはジャコーダーを握ったまま、彼はバイクのライトで自分が照らされるのすら気にせず、相手を視認、男はゆっくりとそのヘルメットを外して――

「……名護、さん?」

そこに現れた顔に、渡は、またもキングとしての風格を失った。


【二日目 深夜】
【D-2 市街地】

【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ラウズカード(ダイヤの7,8,10,Q)@仮面ライダー剣、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:渡君と話す。殺し合いに乗っていた場合は……。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしていましたが、翔太郎との情報交換でそういうわけではないことを知りました。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。


239 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:14:57 BdiVsGB60


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、地の石を得た充足感、精神汚染(極小)、相川始の裏切りへの静かな怒り、ハードボイルダーを運転中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王 、ハードボイルダー@仮面ライダーW、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、地の石(ひび割れ)@仮面ライダーディケイド、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
0:名護さん……?
1:レンゲルバックルから得た情報を元に、もう一人のクウガのところへ行き、ライジングアルティメットにする。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。次こそは逃がさない。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※地の石にひびが入っています。支配機能自体は死んでいないようですが、どのような影響があるのかは後続の書き手さんにお任せします。





名護がいなくなって数分後。
総司は外が気になって仕方ないようで、そわそわと窓の外を見ていた。
先ほど見送る瞬間は頼もしく見えたが、しかしまだ俗に言う“お留守番”に慣れていない子供のように焦る彼を見て、翔太郎は小さく笑った。

ふとあたりを見渡すと、翔一が必ずその視界に麗奈を入れているのを見つける。
そう言えば彼女のワームへの変身制限がもう解ける頃だ、いつ総司に牙を剥くのかわからなくなったのだから、彼の不安も相当なものだろう。
俺も人ごとじゃいらんねーよな、と翔太郎も感づかれないように彼女を見るが、麗奈は先ほどまでにはなかった漠然とした違和感に、敏感に反応したようで、所在なさげに何度も座り直していた。

放送前には軽々しく口にしたが、しかし彼女への対応は一体どうしたものか、と翔太郎が思考に落ちかけたその時。
キバットが飛び込んできた窓から、またも飛び込んでくる影が二つ。

「たたた、大変でーす!白い服の人が、こっちに向かってまーす!」
「俺様も見たぜ。見た目で判断するべきじゃないとは思うが、奴は……あからさまにやばい」

大慌てで捲し立てるタツロットと、らしくなく懸念を漏らすレイキバットに、一同は顔を見合わせる。
――ダグバだ。
残っている参加者の情報や、恐らく未だこちらのエリアにいるだろうことから踏まえると、その可能性は高い。

この場で自分たちに選べる選択肢は少ない。
バイクという足もなしに、全員でダグバから全力で逃げるか?
駄目だ、ダグバという凶悪な参加者を、これ以上のさばらせておく理由もない。


240 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:15:12 BdiVsGB60

総司も翔一も真司もその思いは同じようで、暗黙の了解としてダグバをここで倒すべきだと彼らは考えていた。

「……どうする、名護さんを待つか?」

高まる緊張の中で、一番に口を開いたのは翔太郎だ。
ダグバの危険性を交戦し、一番味わっている彼が、この事案については仕切るべきだと判断したのだろう。
しかし、その提案に首を振ったのは総司である。

「……いや、名護さんは渡君のことで忙しいはずだし、僕たちだけで対処しなくちゃ」
「嘘だろ!?ダグバってそんなやばい奴と、俺に戦えって言うのか!?」
「ダグバって奴そんなに強いのー?戦ってみたいー」

不安を口に出す三原と、好奇心を見せるリュウタ。
先ほどから口を開かない麗奈も明らかな嫌悪を見せていることなども含めて、絶対にダグバと会わせるわけにはいかないだろう。
であれば、残された手段はあと一つだけ。

「二手に分かれて片方はダグバへの対処、もう片方は三原さんと間宮さんを逃がすことになるだろうな……」

言いつつ、翔太郎の脳内にてざっとしたチーム分けが行われる。
三原と麗奈、双方が安心感を抱いている、という面で彼らにリュウタは不可欠。
しかしそれだけでは麗奈が暴走した時の戦力が不十分、総司がついていっては逆効果なことを考えると真司か翔一かをそこに当てるべきだと思われるが……。

「城戸さん、間宮さんのこと――」
「――翔一、間宮さんについていってやってくれよ」

その思考の中で、候補に挙がった真司が、翔一にそれを頼んだことでその思考を中断する。
言われた翔一も同じ事を言おうとしていたようで、呆気に取られた表情を浮かべた。
それを見て、ようやく一本もらったなとでも言いたげな表情を浮かべつつ、真司は表情を引き締めて。

「俺、やっぱダグバって奴を許せないしさ、何より俺より翔一の方が、間宮さんを守るのには相応しいと思うんだよ」
「城戸さん……」

そう言って、翔一はまだ何かを言いたげだったが、少し考えてそれを飲み込んだようだった。

「――わかりました、俺ずっと待ってますから。ダグバを倒して、皆で、また絶対会いましょう」
「決まってんだろ、だって俺たちは人類の愛と平和を守る仮面ライダー龍騎と――」
「――仮面ライダーアギト、ですからね」

言って、二人はへへ、と笑い合う。
きっと、この二人にとって今の会話は字面以上の意味を持つのだろう。
それは決して翔太郎には理解が及ばないが、彼らの間に深い絆があるのだけははっきりと理解できた。

「――それじゃあ皆さん、どうかご無事で」
「あぁ、お前もな、翔一」

そうして、数分の後、荷物を纏めた翔一らは、去って行った。
渡たちとも、ダグバとも違う方向に。
その先にまた何か危険が待っているかもしれないが、きっと翔一ならうまくやり過ごすだろう。

「さて、俺たちも行くか」
「うん、行こう翔太郎、真司」
「あぁ」

そして、ここに残った三人もまた、先ほどまでの表情とは打って変わって真剣な眼差しをしていた。
紅音也を殺害し、人の命をゲームの材料程度に考えている最悪の生物、未確認。
ダグバがどれほど強大な力を持っていようと、そんな悪に仮面ライダーが屈してはいけない。

三者ともに強い思いを抱いて、彼らはタツロットたちに先導されるままに闇の中を歩いて行った。


241 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:15:29 BdiVsGB60





「バルバ……、君もこのゲゲルに関わってたんだね」

一方で、放送直前にこの焦土の真ん中で目覚めたダグバは、放送を聞いてそう呟いた。
このゲゲルで散った参加者の数などどうでもいい。
ダグバの感覚からすれば、ここまでは自分にとってのゲリザギバスゲゲルだ。

弱い参加者が淘汰され、あのクウガやガドルを倒した仮面ライダーを始めとした強くて自分に恐怖を与えてくれる存在だけが、ここに残っているはずである。
それなら、これからのゲゲルは一層面白くなるに違いない、と彼は不気味に笑って。

ふと、視界の先にこちらに向かってくる三人の男がいることを確認する。
目をこらせば、その内二人は見たことがあり、また自分をそれなりに楽しませてくれたものであった。
前よりも強くなっていればいいが、と思いつつ、彼もまた彼らに向かい歩を進める。

そして数秒後。
お互いの顔が夜の闇の中でもしっかりと視認できる中で、四人は足を止めた。

「――探したぜ、ダグバ。紅の仇、取らせてもらう」

第一回放送の後、戦った帽子の男がそう言って苦々しげにこちらを見据える。
紅というのは彼と同行していた、死んでもなお自分に一撃を浴びせた男であろうか?
彼は面白かった、と思わず笑みを浮かべるが、しかしそれを気にした様子もなく次に口を開いたのはその横の男。

「未確認ってのがなんなのか、俺には正直よくわかんないけど……人の命をゲーム感覚で奪うなんて、許せない。だから……俺がここで止める」

言葉とは裏腹にその顔は苦しそうでもあったが、しかし覚悟は十分なようだ。
と、最後にダグバが目を移したのは、この中で一番興味がある、以前戦えなかった男。

「ガドルは僕が倒した。お前も倒す。……今、ここで!」
「――へぇ、君がガドルを倒したんだ。じゃあ楽しめそうだね。……君こそ今度は、逃げないでね?」
「……?何の話を――」
「変身」

――TURN UP

思わず疑問を吐き出した総司を尻目に、ダグバはその身に鎧を纏う。

「それは……!」

――そのバックルに、総司は見覚えがあった。
以前、剣崎を殺した時、彼が変身に使用しようとしていたものだ。
であれば、これが仮面ライダーブレイドか。

まさかこんなところで自分に牙を剥くとは、やはり自分は許されないのか、と一瞬考えて。

(ううん、違う。ブレイドは、こんな奴の為にあるんじゃない。きっと、剣崎は僕たちにこれを取り返してくれ、って言いたいんだ……!)

剣崎はその力が、こんな悪魔に使われてまで自分に復讐を望むような男ではないとその思考をやめる。
むしろきっと、ここでダグバがこの鎧を纏うのは、ブレイドを仮面ライダーの元に返して欲しいという、剣崎の想いが繋がったものなのだろう。
であれば、自分に悩んでいる時間など、あるはずもないではないか。

――JOKER

翔太郎の持つジョーカーメモリから、ガイアウィスパーの声が響く。
それと同時に自分も上空より飛来したカブトゼクターを手に取り、真司は病院から持ち出してきた花瓶にデッキを翳す。
それと同時Vバックルが現れたのを受けて、翔太郎もまた、メモリをドライバーに装填した。

「「「変身!!!」」」

――JOKER
――HENSHIN

同時に叫んだ男たちの声に応えるように、その身に鎧が纏われていく。
龍騎、カブトの世界をそれぞれ代表する二人の仮面ライダーと、Wの世界を代表する片割れである、仮面ライダージョーカー。
相対するブレイドもまた世界を代表する仮面ライダーであることを考えれば、この場の光景は壮観であった。

「――っしゃあ!」

気合いを入れるように握り拳を作った龍騎に対し、ブレイドとカブトはその手に得物を構えて。

「――さぁ、お前の罪を数えろ!」

ジョーカーのその言葉が、開戦の合図となった。


242 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:15:46 BdiVsGB60


【二日目 深夜】
【D-1 市街地】

【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一への信頼、麗奈への心配、仮面ライダー龍騎に変身中
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
0:ダグバを倒す。
1:翔一たちが少し心配。
2:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
3:黒い龍騎、それってもしかして……。
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※再変身までの時間制限を大まかに二時間程度と把握しました(正確な時間は分かっていません)
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました 。


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、仮面ライダージョーカーに変身中
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:ダグバを倒す。
1:名護と総司、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:乾巧に木場の死を知らせる。ただし村上は警戒。
7:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
8:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
9:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っていました (人類が直接変貌したものだと思っていなかった)が、名護達との情報交換で認識の誤りに気づきました。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※総司(擬態天道)の過去、及びにカブトの世界についての情報を知りました。ただし、総司が剣崎一真を殺してしまったことはまだ知りません。


243 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:16:02 BdiVsGB60


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、仮面ライダーカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
0:ダグバを倒す。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護や翔太郎達、仲間と共に生き残る。
3:間宮麗奈が心配。
4;放送のあの人(三島)はネイティブ……?
【備考】
※天の道を継ぎ、総てを司る男として生きる為、天道総司の名を借りて戦って行くつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに天道総司を継ぐ所有者として認められました。
※タツロットはザンバットソードを収納しています。


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、もう一人のクウガ、浅倉との戦いに満足、ガドルを殺した強者への期待、仮面ライダーブレイドに変身中
【装備】ブレイバックル@仮面ライダー剣+ラウズカード(スペードA〜13)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】なし
【思考・状況】
0:ゲゲル(殺し合い)を続ける。
1:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
2:もう1人のクウガとの戦いを、また楽しみたい。
3:ガドルを倒したリントの戦士達が恐怖を齎してくれる事を期待。
4:またロイヤルストレートフラッシュの輝きが見たい。
5:バルバもこのゲゲルに関わってるんだ……。
【備考】
※浅倉はテラーを取り込んだのではなく、テラーメモリを持っているのだと思っています。
※ダグバのベルトの破片を取り込んだことで強化しました。外見の変化はあるかやどの程度の強化なのか、また更に進化する可能性はあるのかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※怪人体は強化されましたが、それが生身に影響するのか、また変身時間はどうなっているのかということなども後続の書き手さんに任せます。
※制限によって、超自然発火能力の範囲が狭くなっています。
※変身時間の制限をある程度把握しました。
※超自然発火を受けた時に身に着けていたデイパックを焼かれたので、基本支給品一式は失われました。
※キングフォーム、及び強化された自身の力に大いに満足しました。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身したことで、十三体のアンデッドとの融合が始まっています。完全なジョーカー化はしていませんが、融合はかなり進んでいます。今後どうなるのか具体的には後続の書き手さんにお任せします。
※一条とキバットのことは死んだと思っています。
※擬態天道を天道総司と誤認しています。


244 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:16:26 BdiVsGB60





市街地でダグバと仮面ライダーたちの戦いが始まったのと同じ頃。
安全な場所を求めて移動している翔一の顔は、決して晴れやかではなかった。
自分がここにいなければいけない理由はわかっているつもりだ。

しかし、それと真司たちを超危険人物の下にみすみす向かわせてしまったことに対し想うことがないということは、全くの別問題なのである。
ふと横を見やれば、リュウタが上機嫌で麗奈の横を陣取っている。
最初はダグバへの執着を隠しきれないようだったが、麗奈を守れるのはリュウタだけだ、と説得したところ、すぐにダグバのことを忘れたようだった。

扱いやすいなぁとも思う反面、この無邪気な怪人の好意を受けている麗奈の中のワームをどうにかしなくてはいけないという懸念も捨てきれるものでもない。
翔一自身はどうにかなるだろうとも思うのだが、三原やリュウタを預かる手前、ずっと自分らしく何も考えず、ではいられないのも、また事実であった。
キバットがいてくれたらなぁとぼんやり考える中、ふと寒気が身を撫でる。

夜だし冷え込むのかな、などと思うが、それだけでは説明の聞かない何か嫌な予感が、徐々に近づいてくるのを、確かに自覚せずにはいられなかった。
何か似たようなことを、先ほど聞いたような……と考えて。

「翔一!あれ見て!」

そうして顔を見上げれば、そこにいたのは上裸の男。
その男は何か近寄りがたい笑みを浮かべているのもそうだが、何故だろう、人付き合いには特に不自由したことのない翔一を以てして、関わり合いになりたくない、と感じさせる独特の雰囲気を放っていた。
しかしいつまでも不気味がっていては相手にも失礼か、と翔一は持ち前の怖いもの知らずな性格で一歩足を踏み出し――。

「お前ら、仮面ライダーか?なら俺と戦え」

その言葉に、彼と、そして発せられる嫌な雰囲気の正体を察した。

「お前……まさか浅倉!?」
「ほう、俺の名前を知ってるって事は、城戸か秋山から聞いたか……まぁ、誰でもいい。それより俺と戦え」

言いながら、彼は懐から白いカードデッキを取り出す。
それは、翔太郎も戦ったというファムのもの。
――霧島という女性のことを話す真司は、どこか嬉しそうだった。

例えるならそう、小学校で初めて気になる子が出来たのに、その子が意地悪ばかりしてくる、ということを話す子供のような。
相手を仕方のない奴だ、と言うくせに、どこか頬が緩んでいる、あの感じだ。
それを聞いて翔一も麗奈の時ほど確信を持てないながらに、きっと真司が美穂に言葉ほど敵意を抱いていないことを見抜いていた。


245 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:16:44 BdiVsGB60

いや、あるいは敵意とは真逆の感情すら――。
――これ以上は無粋か。
ともかく、そんな相手を容赦なく殺し、木野を殺し、今やガイアメモリを取り込んだ彼を、翔一は人間とはどうしても思えず。

未確認であったゴオマや、アンノウンに向けるそれを、浅倉に向けていた。

「間宮さん、皆下がってて。俺がこいつを倒す。木野さんの、霧島さんのためにも!」
「木野?……あぁ、あのグラサンの男か。良い殴り心地だったぜ、イライラが少しは晴れた」
「――変身!」

浅倉の挑発を聞くこともなく、翔一は叫ぶ。
瞬間光が辺りを包んだかと思えば、次の瞬間そこにいたのは最早生身の人間ではなく。
人間の無限の可能性を象徴する仮面ライダー、アギトであった。

その姿を見て、浅倉も満足げに笑って――。

「――変身!」

その腰に巻き付けられたVバックルに、白のカードデッキを叩き込んだ。


【二日目 深夜】
【E-2 焦土】

【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】強い決意、真司への信頼、麗奈への心配、未来への希望 、恐怖(小)、仮面ライダーアギトに変身中
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
0:浅倉を倒す。
1:ダグバと戦っている皆や、名護さんが心配。
2:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
3:木野さんと北条さん、小沢さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
4:もう一人の間宮さん(ウカワームの人格)に人を襲わせないようにする。
5:南のエリアで起こったらしき戦闘、ダグバへの警戒。
6:名護と他二人の体調が心配 。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※再変身までの時間制限を大まかに二時間程度と把握しました(正確な時間は分かっていません)
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました
※今持っている医療箱は病院で纏めていた物ではなく、第一回放送前から持っていた物です。


246 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:17:04 BdiVsGB60


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】 他人に拒絶されること及びもう一人の自分が人を傷つける可能性への恐怖、翔一達の言葉に希望、恐怖(中)
【装備】なし
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
0:何か……怖い……。
1:自分に出来るだけのことをやってみたい。
2:もう一人の自分が誰かを傷つけないように何とかする。
3:……それがうまく行かない時、誰かに自分を止めて貰えるようにする。
4:照井が死んだのは悲しい。一条は無事? どこへ行ったのか知りたい。
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※生前の記憶を取り戻しました。ワームの方の人格はまだ強く表には出て来ませんが、それがいつまで続くのか、またワームの人格が何をどう考えているのか、具体的には後続の書き手さんにお任せします。


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:目の前の浅倉への恐怖。
1:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強く恐怖を抱く。逃げ出したい。
2:巧、良太郎と合流したい。村上、浅倉を警戒。
3:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
4:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。けど……
5:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ、けど……
6:間宮麗奈を信じてみたい。
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクであると知ったもののある程度信用しています。


【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、恐怖(小)
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
0;何かこいつ(浅倉)やだ。
1:良太郎に会いたい
2:麗奈はぼくが守る!
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスの分まで頑張る。
5:修二が変われるようにぼくが支えないと
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。


247 : 対峙 ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:17:27 BdiVsGB60


【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、満足感、体の各所に火傷(治癒中)、仮面ライダーファムに変身中。
【装備】ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、
【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実
【思考・状況】
0:取りあえず目の前の仮面ライダー(アギト)でイライラを晴らす。
1:あのガキ(ダグバ)は次会ったら殺す。
2:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
3:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
4:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
【備考】
※超自然発火能力を受けたことにより、デイパックが焼けた可能性があり、そのまま走ったので何かおとした可能性があります。 また、おとした場合には何をどこに落したのかは後続の書き手さんにお任せします。
※カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎が破壊されました。また契約モンスターの3体も破壊されました。
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。またそれによる疲労はありません。
※ヘラクスゼクターに認められました。
※変身制限、及びモンスター召喚制限についてほぼ詳細に気づきました。
※ドーパント化した直後に睡眠したことによってさらにテラーの力を定着させ、強化しました(強化されたのはドーパント状態の能力ではなく、非ドーパント状態で働く周囲へのテラーの影響具合、治癒能力、身体能力です)。今後も強化が続くかどうか、また首輪による制限の具合は後続の書き手さんにお任せします。


【D-1病院組全体備考】
変身制限に関して、完全に把握しました。
第二回放送時点での生存者の詳細について、志村純一のもの以外把握しました。
参加している全ての世界についての大まかな情報を把握しました。


248 : ◆.ji0E9MT9g :2018/02/17(土) 11:20:36 BdiVsGB60
以上で投下終了です。
ご意見ご感想、ご指摘などあれば是非ともよろしくお願いします。
また、3月になるまで投下できないと思いますが、その後はまた投下できると思うのでよろしくお願いします。


249 : 名無しさん :2018/02/17(土) 19:45:11 3KLB4YV.0
投下乙です!
それぞれの因縁となる相手が巡り会い、これから大規模の戦いが起こりそうですね!
翔一くんは浅倉と、総司や翔太郎はダグバとそれぞれ深い因縁がありますし。そして名護さんは渡を説得できるのかどうか?
そしてダグバ戦は何気に主人公ライダーが4人も集まっているという絵が、熱いのですけど凄く複雑な気分になります。変身しているのはダグバなので。


250 : 名無しさん :2018/02/17(土) 22:55:05 gkvi6rzM0
投下乙です。
偶然にもほぼ同時に現れてしまったマーダーを追い、それぞれ分散する対主催チーム。
主人公格も多い中で果たして誰がどう活躍し、そして誰かが脱落してしまうのか。
特に注目なのは同世界同士での話になる渡と名護さん。
考えてみればまだ第二回放送を過ぎたばかりとは思えないくらいクライマックスな展開。
次以降の予約はどれも戦闘話になりそうで楽しみですね。


251 : 名無しさん :2018/02/23(金) 03:53:53 InpOVpx60
投下乙です。
終盤に向けて加速して来ましたね。


252 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/02(金) 23:30:46 vJUEDXCQ0
皆様、お久しぶりです、こんばんは。
さて、今回こうして顔を出したのは、この2週間ほどずっと悩んでいたことを皆様にご相談させていただこうと思ったためです。
それは拙作『対峙』における、真司くんと翔一くんの場所についてでございます。

今後の展開を構想するに至って、今のままでも特に不備はないのですが、個人的に「二人を入れ替えた方が面白いのでは?」という考えが生まれてしまいまして、それを修正していいものか否か皆様にお尋ねしたい次第でございます。
もちろん現在の展開をリレーしようと構想を繰り広げてらっしゃった方がいましたら完全な裏切りになってしまいますし、本来はこういった修正を避けるべきだとは思うのですが、もしお許しいただけるようでしたら修正を受け入れていただけると幸いです。

また、修正案を見てから判断したいという声もあると思いますので、したらばの修正用スレに迅速に修正案を投下しますので、こちらのスレでもあちらのスレでも可否を意見していただけたらなと思います。
展開の強引さ、指摘などはさることながら、純粋に修正前の方が面白かったなどの意見でも参考にしたいと思いますのでお気軽にご意見くださいませ。


253 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/03(土) 00:51:52 UG/8aeEY0
したらばの方に上記の修正案を投下しましたのでご確認、また何かございましたらご意見いただけるとありがたいです。


254 : 名無しさん :2018/03/03(土) 01:18:49 9wTpiw7c0
まずは言うタイミングを逸していたので投下乙と感想を
情報の整理とそれに関連した振り返りが丁寧に描写されていて非常に読みやすかったです
ダグバと浅倉、この二箇所で同時に起こる戦いで今後のパワーバランスも大きく変わりますし、バトロワで言う杉村vs桐山の如き一大決戦となりそうで楽しみです

さて修正についてですが、個人的には修正するなとは思いませんが、その場合は当該話の修正の可否について反対意見があるか確認と合意を得るためある程度の期間を置いたほうがよろしいかと思います
一週間後である9日までに特段の反対意見が無ければ、修正話に差し替えても問題は無いと判断するに足ると考えます


255 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/03(土) 01:24:49 UG/8aeEY0
なるほど、確かにご意見の通りかもしれません。
長い期間該当パートを腐らせておくのもいけないかと思い期間を狭めすぎました。
では別段反対意見がないようであれば9日までの期間で判断させていただこうと思います。


256 : 名無しさん :2018/03/03(土) 01:55:20 nnCjitik0
折角続き書ける状態になったみたいだし、別に一週間もいらないと思う
丁度土日だし、三日間だけ待って6日とか7日あたりまでの返答でいいんじゃない?


257 : 名無しさん :2018/03/03(土) 02:01:18 Hf.IQK120
そこは無名の意見よりも書き手さんの意見を尊重しましょうよ


258 : 名無しさん :2018/03/03(土) 05:17:04 B/Kdgo3M0
個人的に自分も気になっていたし入れ替えた方が双方ともに因縁の対決にもなるから面白くなると思う。


259 : ◆LuuKRM2PEg :2018/03/03(土) 10:27:24 f8rCT9NI0
修正投下乙です。
現時点では特にリレーされた訳ではありませんし、位置を入れ替える形で修正に取りかかっても大丈夫だと考えます。
そしてこちらの修正の形も、ロワ内だけでなく原作での因縁も丁寧に拾っていると感じたのでとても素敵でした。
日程に関してもそこまで必要ないですし、短くて24時間・長くても今週の日曜までが妥当だと思います。


260 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/03(土) 16:48:10 f1jOscYM0
お久しぶりです。
◆.ji0E9MT9g氏、本投下および修正版の執筆、お疲れ様です。
遅れながらの感想になってしまいますが、遂に判明した首領との因縁を昔蹴っ飛ばしたからそんな気負わなくて良い、なんて言っちゃえる翔一くんがとてもらしくて頼もしいですね。
そして遂に訪れた渡と名護さんの遭遇に、それぞれダグバや浅倉と遭遇する仮面ライダー龍騎チームと仮面ライダーアギトチーム。因縁深い強マーダーとの決戦が楽しみです。

さて、修正案ですが、本投下と合わせてどちらもそれぞれの因縁からのやり取りが面白く、どちらかを選ばなければならないとすると惜しい気持ちもありますが、逆にいえばどちらの形でも不備はなく現状予約も入っていないなら、個人的には修正されても問題ないかと存じます。

ただ、本投下版からのリレーを既に執筆中である方がいらっしゃる可能性も考えますと、一週間は言い過ぎでも明日いっぱいまでは様子を見た方が良いかな、と考えております。ご一考頂ければ幸いです。


261 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/03(土) 16:58:58 UG/8aeEY0
◆LuuKRM2PEg氏、◆cJ9Rh6ekv氏、ご返答と拙作への感想ありがとうございます。
お二方がそう仰ってくださるのであれば、>>255での意見を撤回するようで気が引けますが明日いっぱいまで意見を伺う形にしようと思います。
もしまた何かご意見がございましたらお願いいたします。


262 : 名無しさん :2018/03/04(日) 23:23:51 0BZNXmaQ0
合意も取れましたしもはや修正話に差し替えることに問題は無いと考えます
氏のより一層のご活躍を心待ちにしております


263 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/05(月) 00:20:25 wwEgGQUo0
皆様、たくさんのご意見ありがとうございました。
意見を求める期間が終わりましたのでwikiにて拙作『対峙』の修正を行いましたことをご報告いたします。
さて、皆様に煩わしい話を聞かせてしまった代わり……と言っては何ですが予約をしましたので投下まで少々お待ちくださいませ。


264 : 名無しさん :2018/03/05(月) 06:08:27 Fxyk9Hio0
お疲れ様でした。投下をお待ちしております。


265 : 名無しさん :2018/03/05(月) 07:01:00 JtMfvykY0
修正および予約お疲れ様です。そして予約の方も凄いメンバーになっているので、何やら一波乱が起こりそうで胸がドキドキします……


ttp://or2.mobi/data/img/196444.jpg
そして◆.ji0E9MT9g 氏が執筆した『悲しみの果てに待つものは何か』における涼のキックホッパーへの変身シーンをイラストにしてみました。
矢車さんや乃木の死に怒りを燃やしつつ、それでいて所長を止めようとする決意が微塵にも揺れなかった彼の姿が印象深かったので。


266 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:50:31 1mUuHQx20
>>265さん、支援絵ありがとうございます!
自分がこうしたものを形にしていただくのが初めてのことなので、とても嬉しいです。
自分も話を考える中で脳内に思い描いているはずなのですが、改めて絵として表現されると葦原さんはやっぱり格好良いなと思いますね。
この支援絵を糧にしつつ、今後も頑張って行こうと思います、本当にありがとうございました。

さて、それはそれとして今回予約分を投下したいと思います。


267 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:50:56 1mUuHQx20


「君は……一体何者なんだい?」

D―5エリアの平原にて集った四人の男。
幾らか続いた沈黙の後、最初にそれを破ったのは眼鏡をした青年であった。
それを発言したのは野上良太郎、より正確に言えばそれに憑依するウラタロスである。

「……言ったろ、俺の名前は門矢士――」
「――すっとぼけないでよ、そういう事を言ってるんじゃないって、わかるでしょ?」

言った彼の言葉は、少し鋭かった。
未知の存在に何故か一方的に自分を知られている上に話を意図的に混乱させられているのだから、その苛立ちも当然だろう。
それを受けて、士と名乗った男は背に負った男を一瞥してから、何かを観念したかのようにため息を一つついて、それから言葉を吐き出した。

「……俺は、色んな世界を通りすがっててな、お前のことがわかったのは、その中で『電王の世界』にも通りすがったことがあるって、それだけのことだ」
「……納得すると思う?そんな説明で」
「まぁ、そういうだろうな。だが嘘好きなお前なら俺が嘘を言ってるかどうか位わかるだろ?」
「……」

言われて、ウラタロスは思考する。
確かに、嘘はついていない。
志村純一のそれのように、嘘をついている気配すらない。

であれば、やはりこの男のいうことは正しく、様々な世界を渡り歩く中で平行世界の自分、あるいは未来の自分と出会ったことがあるということか。
あり得ない、などと一瞬思うが、自分たちが成してきた時の運行を守る戦いと、常識外れの時をかける列車のことを思い出して、それをやめる。
自分が嘘好きな性格であることまであの二人は言わないだろうし、どうやら彼の言うことは信じても良さそうだ、とそう考えて。

「わかったよ、門矢さん、僕は君のいうことを信じ――」
「言っとくが、俺はお前らをまだ信用してないぞ」

しかし得られた返答は、未だ敵意に満ちたもの。
それに困惑を隠しきれず、ウラタロスは眉を潜める。
自分のことを知っていると言ってきたというのに、信用が出来ない?

「……悪いな、ただこの場で会った男からお前らが殺し合いに乗ってるって聞いたんでな。それを確認するまではお前らを信用するわけにもいかない」
「……なるほどね」

言われて、ウラタロスは全てを把握する。
自分たちが殺し合いに乗っていると悪評をまくことに利益がある存在など、一人しかいない。

「志村純一、ですか」

思わずその憎々しい笑顔を思い浮かべた瞬間、彼の名前を横にいる村上が呟く。
全く厄介なことをしてくれるものだ、という思いももちろんあるが、その名前を口にした村上の殺気のほうが、今の自分にとってはよほど問題であった。
ともかく、村上の言葉に対し深く頷く士はしかし、まだ自分たちを見定めるような表情を浮かべていた。

それを見て、ウラタロスは未だ彼はどちらに対しても確信を持っていないに違いないと思考する。
つまり、自分たちと志村、どちらが殺し合いに乗っているのか、未だ彼も見極めの最中だ、ということ。
なれば、自分がその疑いを晴らすしかないだろう、とそう一歩前に出て。

「大方君は、志村純一から、僕たちが東京タワ―を倒壊させて、天美あきらちゃんと園咲冴子さんを殺した、とでも言われたんでしょ?」
「……あぁ」

だろうな、と苦笑いしつつ、ウラタロスは続ける。


268 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:51:15 1mUuHQx20

「でもそれは僕たちがやったんじゃない、志村純一がやったんだよ」
「……証拠は?志村がやったって証拠を出してもらわなきゃ、信用できないな」
「志村純一がやったって証拠は出せないけど、僕がやってないって証拠なら出せるよ」
「どんな?」
「――僕は女の子を傷つけられない、それこそ、絶対にね」

言って、ウラタロスは眼鏡をくいっとあげる。
不敵に笑った彼を村上は怪訝そうに振り返るが、しかし士はその言葉に何かを思案するように頷いて、しかし視線は鋭いままであった。

「……そんな言い分がここで通用するとでも思うか?」
「例え異世界でも、僕を知ってるならこれで納得してもらえると思ったけど?」

そう言って互いに、不敵に笑う。
ウラタロスにとっては人を殺害することももちろんだが、中でも女性を殺すのなど論外であった。
別の世界であるとはいえ自分と会ったというのなら、女性の一人や二人ナンパするところを見ていてもおかしくはあるまい。

そう考えての発言だったが、士は未だに疑いの目を向けているようだった。
であれば電王としての活躍を述べようかとも思ったが、しかしそれでは志村が表面上の“正義の味方”っぷりを語るのと、全く一緒だ。
あんな胡散臭い詐欺師と一緒にされるわけにはいかない、とウラタロスは半ば意地になっていた。

ともかくこれで疑いは晴れるまでもう一歩か、とウラタロスはもう一度口を開こうとして。
士がその視線を自分から外すのを見て、それをやめた。

「お前の言い分はわかった。だが村上、お前はどうだ?こいつから散々お前の悪行は聞いてるんでな、納得のいく説明をしてもらうぜ」

次いで疑いの目を向けられたのは同行者である村上峡児。
本人も話しておりここに来てからも幾つかいざこざがあったこともあり予想はしていたが、元の世界でも中々の問題児だったようである。
今は気絶している青年――確か乾巧――は村上の話では大ショッカ―打倒の上で貴重な戦力たり得ると聞いていたが、やはり敵対関係にあったとみて間違いないようだ。

「僕はここに来てからほぼずっと彼と一緒にいたよ。前回の放送で彼の世界は殺害数ランキングにも乗ってないわけだし、彼も白ってことじゃ、満足してもらえないかな?」
「無理だな。そもそも俺はまだお前のことも完全に信用したわけじゃない。ましてオルフェノクを使って人々を襲わせてる企業のトップなんて、尚更、な」

その言葉を聞いて、ウラタロスは村上を一瞥する。
とある大企業、スマ―トブレインのトップだとは聞いていたが、まさかそんなことをやらせていたとは。
この男の言葉をどこまで信用するべきかどうか、もう一度考えるべきか、と考えるウラタロスを尻目に、村上は観念したかのように少し笑った。

「なるほど、確かに乾さんのお仲間であれば、私を敵視するのも当然ですね。ですが貴方が野上さんのことも信頼していない今、私は、私を信用してもらうための根拠を何一つ持ち合わせていません」
「つまり……自分の潔白を証明する気はないってことか?」
「そうとっていただいても結構」

にべもなく吐き捨てた村上に、思わずウラタロスは懐疑の目を向ける。
自分たちを陥れ利用した志村の策略をむしろ受け入れるような態度を取っては、この閉鎖空間で死を迎えるのも時間の問題ではないか。
目前の士と名乗った男も同じ思考に至ったようで、困惑した表情を浮かべていた。


269 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:51:31 1mUuHQx20

「――そんな奴と話すことねぇぞ、門矢」

そうして彼がまたその口を開こうとしたそのとき、今までなかった声が一つ割り込んでくる。
一体誰か、と思考するが、瞬間その疑問は氷解する。

「巧、お前、もう大丈夫なのか」
「あぁ、迷惑かけて悪ぃな」

士の背中より礼と共に男――確か乾巧――が降り、一人で立ったため。
彼の眼差しは鋭く、士のそれに輪をかけて自分たちに突き刺さるようであった。

「村上、野上。てめぇらの殺した冴子とあきらの仇、俺が取らせてもらうぜ」

言いながら巧はその肌に異形の影を浮かばせる。
しかし瞬間、彼の激しい呼吸と共にそれは失せた。
先ほど自分にも起こった変身制限の類いか、と思うも、彼の表情に幾らかの疑問を残しつつ、ウラタロスはまた彼らに交渉を投げかけようとして。

「……待ってください。話し合いにしろ、戦いにしろ、今はここから離れるべきでしょう。あとものの数分でこのエリアは禁止エリアになるはずだ」

村上に、それを遮られる。
ふと時計を見やれば、時間は22時50分を回っていた。
今自分たちがいるところをD-5エリアと仮定すれば、なるほどここはそのまま禁止エリアになるだろう。

目前の二人も村上への敵意を隠せないながらも首輪の爆発で死ぬのは不本意なようで、ゆっくりと移動を開始した。
それを横目で見やりつつ村上に合わせウラタロスもまた、彼らと同じ方向に足を進めた。





「さて、いい加減教えていただきましょうか野上さん、いえ、ウラタロスさん」
「……何をかな?村上さん」
「とぼけないでいただきたい。――ウラタロス。キンタロス。ジーク。それらの名前の意味と、野上良太郎さんとの関係を、ですよ」

やはりか、とウラタロスは眉を潜める。
先ほど士との話の中で自分がウラタロスであることを自白したのだから、こうした追求は予想の範囲内だった。
いや、むしろ相手から追求されてようやく明かした真実なのだから、この程度の口調での追求であることを幸いに思うべきか。

今更何かを秘密にしても恐らくは士という男に確認を取れてしまうし、もしそうした嘘が見破られれば、ただでさえ危うい自分の信頼は地に落ち、志村に敗北することになる。
どころか村上と士、巧を相手取って戦う羽目にすらなりかねないのだから、これ以上は幾ら自分でも嘘をついている場合でもないだろうとウラタロスはため息をついて。

「わかったよ、村上さん。今度こそ全部、包み隠さず教えるよ、僕の、僕らの世界の情報と、何より良太郎、そして僕とキンちゃんについて、ね」

そうして、ウラタロスは気合いを入れるかのように眼鏡を掛け直した。


270 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:51:51 1mUuHQx20





「――つまり眼鏡をかけている時がウラタロス、和服を着ている時がキンタロス、そしてタワーの時のあの彼が本来の“野上良太郎”、ということですか」
「そういうこと。あとついでに言っておくとジークは今良太郎の中にはいないよ。もしかしたらこの場には何らかの形でいるかもしれないけどね」

ご丁寧に聞かれてもいないのにジークという存在が自分の中にいないことすら交えて、ウラタロスは村上に全てを告白する。
これ以上彼に自分に対する不信感を抱かれるわけにもいかなかったし、何より志村という男に騙され陥れられそうになっているという現状で、彼と協力する意味は大きい。
何より無益な嘘で善良な仮面ライダーに見える士や巧に敵として認識されては、自分の嘘が良太郎を傷つけることになってしまう。

それでは、自分の嘘で誰も傷つけない、というモットーを持つ自分の流儀に反する。
それだけは、絶対に避けなくてはならないことだった。

「いやはや、それで納得しましたよ。妙に勘の鋭い時があるかと思えば青二才になったりと、掴みようのない性格だとばかり思っていましたが、実際に複数の人格が存在していたとは」

思案に落ちたウラタロスを引き戻すのは、心底納得した、という様子の村上であった。
それに対し訝しげな目を向けるも、しかしそれを気にもせず彼は続ける。

「正直、あなたを信用が値するのかどうかずっと悩んでいたのは、そこでした。――結論としては、私はウラタロスさん、三人の内、貴方だけは信用してもいいと感じている」
「……へぇ」

そりゃどうも、と返しながら、ウラタロスは語調が低くなるのを抑えられなかった。
先ほどまでと変わらず彼をむやみに敵に回すことも出来ないのは事実だが、彼の言っていることは裏を返せば良太郎やキンタロスは彼のお目金に適う人物ではないと言うこと。
更に言えば――巧の言葉を信じるのであれば――悪の企業の社長である彼に、自分は気に入られたと言うことになる。

元々そういった仲間も少なくはなかったし、そうした輩として考えられるのも慣れているが、嫌悪感は否めなかった。
僕もぬるま湯に浸かりすぎたかな、などと内心自嘲するが、自分の横を歩く村上が唐突に足を止めたことでそれを切り上げる。

「――時刻が23時を回りました。我々の首輪が爆発しないところを見ると、どうやら禁止エリアとやらから抜け出せたようですよ。もっとも、大ショッカーの言うことを真実とするのであれば、ですが」

そう続けて村上が後ろを振り返れば、そこにはどちらも無事なままの士と巧の姿があった。
今度は彼らに納得してもらえればいいが、と彼は息を吸い込んで。

「そっちの、門矢さんだっけ?彼にはさっきも言ったけど、僕たちは冴子さんとあきらちゃんを殺してないんだ。本当は彼女たちを殺したのは志村――」
「――ふざけんな、どの口がそれを言いやがる」

しかし最後まで言葉を紡ぐ前に、先ほど目覚めた巧という青年がそれを妨げる。
村上の話では確か、仮面ライダー555として戦っていて、大ショッカー打倒の戦力としては申し分ない、という情報だっただろうか。
元々の世界での関係を“複雑だった”の一言で切り上げられた時から引っかかってはいたが、やはり敵だったということだろう。

これは面倒な存在に志村も嘘を吹き込んだものだ、と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるウラタロスを尻目に、村上は一歩前へ歩み寄る。

「ご挨拶が遅れましたね、お久しぶりです。乾さん」
「俺はてめぇとまた会うとは思ってなかったけどな……!」

物腰低い口調ながら静かな怒りを垣間見せる村上に、巧はよりわかりやすく苛立ちを見せる。
その言葉に村上も小首を傾げたものの、それ以上の追求はしなかった。


271 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:52:16 1mUuHQx20

「さて、どうします?先ほども言いましたがあなた方に対し、私が今示せる客観的証拠はありません、私たちを信用できないというなら、それでも構いませんが」
「冴子とあきらを殺したのはお前らなんだから証拠なんてあるわけねぇだろ、下らねぇ嘘つきやがって」
「私が証拠を示せないといったのは、あくまでも“今だけ”ですよ、乾さん」

先ほど士との会話では出てこなかった意外な言葉に、三人は目を見開く。
それを受けて不敵に笑いながら、村上は時計をもう一度確認した。

「後1時間足らずで第二回放送が行われます。それが始まれば前回放送からこの6時間の間での所謂“殺害数ランキング”が公開される。
その際我々の世界からスコアが二人分出ていなければ私たちではなく志村純一が嘘をついている可能性が高いと判断できる、そうは思いませんか?」
「なんでてめぇの時間稼ぎに付き合う必要が――!」

村上の提案に対しなおも憤る巧を抑えたのは、彼の同行者である士。
彼はなるほどな、と呟きながらこちらを見定めるようにじっと見つめて。

「……確かに、お前のいうことを確かめる価値はあるかもな。だが、殺害数ランキングじゃ誰が誰を殺したかはわからない。お前らの世界から来た別の参加者がスコアを上げていた場合でも、俺たちはお前らがやったと判断していいのか?」
「もちろん、構いませんよ」

村上は、自分のあてが外れることなどあり得ない、とでも言いたげなほど自信満々に言い切る。
それに対しウラタロスは流石に抗議を申し立てたかったようだが、しかしそれを遮り村上は続ける。

「分の悪い賭けであっても、そこに多大なリターンがあるなら状況によってそれに乗ることも必要だ、ということですよ。もしも乾さん、貴方を不用意に相手取らなくて済むというなら、この賭けに乗る意味はある」
「俺がてめぇと組む事なんざ金輪際ないと思うがな」

一貫して敵意を剥き出しにする巧だが、ダメージの回復を優先したいのか村上に襲いかかる様子はなく、立っているのもやっとのようでその場に座り込んだ。
それを苦笑いを浮かべ見やりつつ、村上もまたその場に座りこむ。
そうして、そこから1時間の間、彼らの間には不思議な停戦が行われたのだった。





――24:00。
第二回放送は終わった。
巧と天道、士と涼がそれぞれタッグを組んで戦っても敵わなかったゴ・ガドル・バや、そもそも元の世界ではワームの首領として君臨していた乃木、また時の運行を妨げた牙王の死など、確かに喜ぶべきものも少なくはなかった、が。

五代雄介。秋山蓮。草加雅人。ヒビキ。矢車想。紅音也。海東大樹――。
死んでいった仲間の仮面ライダーは、それ以上に多く。
そして、巧もまた一人物思いに耽る。

巧も状況判断として五代に首を絞められていた自分が生き、五代が死んだという状況に誰がそれを行ったか察しはついているものの、それを口に出すことはなかった。
それをしてしまえば、そして士に自分の考えが認められてしまえば、後先短い自分のために死んだ五代と、そして自分を救ってくれた士に対する自分の感情に、整理がつかなくなりそうだったから。
だから今は、ただ祈る。

音也や草加といった仲間たちが安らかに眠れるように、そして彼らの思いの分まで大ショッカーを倒す、と決意を新たにして。

(音也……お前の息子のことは任せておけ、俺がお前の代わりにちゃんと叱ってやる)

一方で、士もまた死者に思いを向ける。
夏美の死に沈んでいた自分を焚き付け、大ショッカーに対する自分の心火を再び燃え上がらせた、紅音也。
彼が気にかけていた息子である紅渡が殺し合いに乗ってしまった今、それを止めることを戸惑いなどしない。


272 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:52:43 1mUuHQx20

そして、彼の仲間で響鬼の世界を代表する仮面ライダーでもある、ヒビキ。
その死によって彼の世界が滅ぼされると大ショッカーは宣言したが、しかし自分がそれを止めてみせる。
例え世界の崩壊というのが事実だとしても、自分を仲間として受け入れてくれたヒビキへの恩を返すためなら、自分の全力を尽くしてその運命を破壊して見せようではないか。

そうして数え切れないほどの無念と果たしきれなかった思いを抱いて、二人が振り返ると、そこではウラタロスの憑依した良太郎が跪いているのが認識できた。

「亜樹子ちゃん……」

か細く呟いたその声には、やはり悲しみがあふれている。
それだけで彼を信用するわけにもいかない状況であるとはいえ、亜樹子と彼はこの会場に連れてこられて早い段階で出会っていたらしい。
そんな相手が死んでしまって――あるいはウラタロスとしては最早名簿上に女性と判別できる名前が一つしかなくなったこともその悲しみの一因かもしれないが――彼も、相当なショックを受けたようだった。

そんな彼を視界に入れながら、しかし村上は何ら死者の名前に感じたことなどないようだった。
その顔に浮かべている表情は彼らとは幾分か気色の違うものの、無念、と形容するのが相当であろうか。
死者に彼の知り合いがいなかったなら、何が原因で、と考えて、すぐに思い至る。

「――殺害数ランキングは上位しか発表されなかった。お前の無罪を証明することには繋がらなかったな、村上」
「えぇ、大方殺し合いに協力的な彼の嘘を暴かれないため、といったところでしょうが、しかしフェアではありませんね」
「――お前らの嘘、の間違いだろ」

殺害数ランキングの下位が明かされなかった為に自分の無罪を証明できなかった、と述べる村上に、やはり巧はかみついた。
彼の村上に対する敵意はこの1時間を経ても一切萎えることはなく、元の世界での確執の大きさを伺わせる。
しかしここで真実を述べている者を見誤れば、待っているのは、殺し合いに乗った参加者による蹂躙。

志村か良太郎たち、どちらかが嘘をついている現状、そうした感情だけで動いては、足下を掬われかねなかった。
そうして一層思案を深める士に対し、村上はため息と共に立ち上がり、元々病院のあった、E-5エリアの方向へと足を進めていく。
そしてもちろんそれは、彼らにとって見過ごせるものではなく。

「――ここで俺たちに背を向けるってことがどういうことか、わかってるのか、村上?」
「ええ、もちろん。しかし、私としても“やっていない”ことを証明するなどと無益でこの場では無理なことをいつまでも長々とやるつもりもありませんからね。であれば、病院に残っているだろう志村純一を直接殺すのが、一番手っ取り早い」
「行かせるとでも思ったか?」

言いながら村上の進路の先に立つのは、巧だ。
その手にはファイズフォン、そして腰にはドライバーが巻かれており、この場で戦闘になることを覚悟しているようである。
しかしそれを見て、村上はなおも困ったように笑い。

「そんな傷だらけの身体で、私に勝てるとでも思いますか?」
「そんなもん、やってみなけりゃわかんねぇだろ」
「いいえ、戦うまでもない。何故なら私の手には王を守る三本のベルトを大きく超える帝王のベルト、オーガもありますから」

言って、村上はデイパックより黒いドライバーと携帯型端末を取り出す。
元々オルフェノクとしての実力で万全の状態の自分と草加、三原の三人がかりで敵わなかったような男に、ファイズを超えるオーガの力。
お互いの体調差を考慮せずとも、或いはブラスターがあって五分かなお足りないような戦力差を戦わずして確信しているかのように、村上は笑う。


273 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:53:14 1mUuHQx20

しかしこの男を前にして、引き下がる選択肢など残されていない、と巧はファイズフォンにコードを入力しようとして。

「――やめとけ、今のお前の望みは、こんなところで無理な戦いをして死ぬことじゃないだろ」
「門矢、けどよ……くっ!」

士のその言葉に、らしくなく戦意を失った。
その様子に彼をよく知る村上でさえ眉を潜めるが、しかし彼の事情に足を突っ込んでいる時間などない。
一刻も早く愚かな志村純一を殺さなければ、ますますこの場が不愉快な状況になる、と村上は振り返って。

「――ウラタロスさん、急いでください。このまま病院で奴を倒さなくては、或いはますます犠牲者が増えることにもなる」

その言葉に、膝をついていたウラタロスは迷いながらも立ち上がって、士と巧を真っ直ぐに見据えた。
その目にはなんとも形容しがたい感情が含まれているように思われたが、しかしこれ以上この場にいる価値がないことを飲み込んだように、ゆっくりとその足を村上に追随するものに変化させた。
少しずつ闇に消えゆかんとする背中を見ながら、巧はその無力さに拳を握るしか出来なかった。





放送より1時間が経過し、金居の首輪を解析し終えた病院のロビーで、三人の男たちは再度集まっていた。

「フィリップ、これを見てくれ。これには俺の世界のライダーシステムの技術と同じものが使用されている。恐らくはこの場でアンデッドが致命的なダメージを受けた際その場で封印されるための機能だろう」
「あぁ、ということは恐らく相川始のものにも同じ機能が流用されているとみてほぼ間違いないだろうね。この調子で首輪を解析していけば、或いは首輪の解除もそう難しいものではないかもしれない」

新しく吐き出されてきた首輪の解析図を見ながら、恐らくはこの会場で最も首輪の解除に近い二人は、喜色の声を上げていた。
首輪の解析によって、橘もよく知る技術が金居の首輪に流用されていたことが判明したため。
この調子でいけば、或いは内部構造が不明な首輪に関してはその参加者の世界のものを解析、分解すれば、解除にも繋がるかもしれない。

無差別に何が解除にどんな技術が必要なのかすらわからぬまま武器や変身アイテムを解析、分解しようとしていた数時間前を思えば、この状況は大きく歩を進めたと言えるだろう。
と、そんな二人の後ろで、大きくいつものように笑みを浮かべる男が一人。
言うまでもなく、志村純一その人だ。

「橘チーフ、フィリップ君、やりましたね。これで俺たちの首輪の解除にも一歩前進です」
「そうだね、志村純一。だがどうしても否みきれない疑問が、まだ残っている……」
「――首輪の種類が果たして種族により違うものなのか、それとも世界毎に違うものなのか、か?」


274 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:53:32 1mUuHQx20

橘のその問いに、フィリップは頷く。
首輪の種類が何に依存するのか、未だそれを確定するには判断材料が足りない。
今自分たちが把握している首輪は三種類。

一つは、北岡、秋山による『龍騎の世界』の参加者で『特殊な能力を持たない一般人』の首輪。
一つは、ネガタロスによる『電王の世界』の参加者で『イマジン』の首輪。
一つは、金居による『剣の世界』の参加者で『アンデッド』の首輪。

これを世界に依存するか、それとも種族に依存するか、それともまた別の何かで分けられたものなのか……。
判断するには材料が少なすぎ、そして新たな首輪を手に入れるのは非常に困難でまた危険の伴う行為と理解できた。
故にフィリップは考える。

この病院の跡地を抜け誰かの死体を探すような悪趣味な行動を取るべきなのかどうか、と。
しかし、どれだけ自分の心がそれを忌避したとしても、首輪を解除することは大ショッカー、またダグバのような残る参加者との戦いを有利に進めるには、必要不可欠なことだった。
故に、この場を離れることを提案しようとして。

その目を向けた橘が悩み苦しむような表情で拳を握りしめていたためにそれをやめる。

「橘朔也、大丈夫か?顔色が悪いけど……」
「……すまない、フィリップ。考え事だ」

言って、彼はまたも数瞬迷ったような表情を見せた後、小さく「許せ」と呟いた。

「――俺は、このE-5エリアにもう一つ首輪があるのを知っている。それを使えば、或いは俺と志村の首輪を解除するのに大きく踏み出せるかもしれない」
「それは本当ですか!橘チーフ!」

喜びの声を上げる志村に対し、しかし橘は暗く「あぁ」とだけ返した。
その様子にフィリップも幾分か心配を抱くが、橘はそれ以上多くを語らず、元々はロビーであった広場から踵を返す。

「ついてきてくれ」

放送前、金居たちとの戦いで命を落とした仲間たちの名を告げる時のようなその口調に、フィリップは危惧を抱きつつ、意気揚々と彼の後を続く志村に、フィリップも続いた。





歩き続けて数分。
橘は一見何の変哲もないようなところで、突然立ち止まった。
一体何があるのか、とフィリップが覗き込むと、暗がりで少し分かりづらいながら、そこの土が他より少し盛り上がっているのが認識できた。

そこで、一つの可能性にたどり着く。
この病院で死亡した参加者がもう一人いたことを、フィリップも聞いていたからだ。

「……この下に、剣崎一真がいるのかい?」

橘は、フィリップの言葉に応えない。
しかしそれは無視をしたわけではなく、付き合いの長い友を、何より彼自身がその死体をこれ以上傷つけられたくないと埋めた彼を傷つけることになってしまうことが、辛く、そして葛藤していたからだ。
大ショッカーを倒すことと、友の安らかな眠りを守ること。

そのどちらもが自分にとっては最上のもので、どちらも果たさなくてはいけない使命だ。
しかし剣崎がこの場で話を聞いていたら、きっと、自分の首輪が大ショッカーを倒す大きな一歩となるなら、迷うことなくその首を差し出すだろう。
そんな友の姿が容易に想像できるからこそ、彼にこの土を掘り返すことは大きな禁忌を犯すことと同意なのであった。


275 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:54:35 1mUuHQx20

「……チーフ、お気持ちは分かります。しかし、ことは一刻を争う。お話に聞く剣崎さんなら、きっと大ショッカーを倒すためにその首輪を使ってくれというはずです」

橘を故意に焦らせるような志村の言葉を受けて、フィリップが僅かに眉を潜めるのも気付かず、橘は再度その瞳を閉じる。
その瞼の裏にどれだけのドラマが流れているのか、フィリップには分からない。
しかし、数瞬の後その瞳から一筋の涙が伝ったことが、それ以上の言葉を不必要なものにした。

そうして、彼は意を決してその土に手をかけようとして。

「――見つけましたよ、志村純一」

背後から近づく異様な気配とその声の主にそれを妨げられた。

「村上、野上……!」

対する志村は、苦々しげに二人の名を吐く。
それを受けて、橘とフィリップの顔も、先ほどまでの正義の仮面ライダーの死に対する弔いの顔から、戦士のものへと豹変する。

「お前たちが、ヒビキの仲間を……!」
「冴子姉さんを殺したのか……!」

血がにじむ勢いで拳を握りしめた二人が志村に並び立つと、対する二人の男も戦闘態勢に入った。
スーツの男、村上が気合いを入れたかと思えば、その姿は一瞬にして異形のものへと変じる。
薔薇の能力を持ち上の上たる実力を誇る、ローズオルフェノクに、彼は変じていた。

それを受け、横の良太郎も、その腰に巻いたベルトの青いボタンを押す。
軽快な音楽が流れる中、彼は黒いパスケースのようなものをベルトに翳して。

「変身」

――ROD FORM

良太郎の声を受けてベルトが変身する形態の名を告げる。
すると一瞬のうちに彼の身体はオーラアーマーと呼ばれる物体を纏い、その身を青く染め上げた。
それは、『電王の世界』を代表する仮面ライダー、電王の槍捌きを得意とする形態、ロッドフォームへの変身を完了したことを示していた。

「チーフ、フィリップ君」
「あぁ、分かっている」

――CYCLONE

一方で、三人の戦士たちもまた自身の戦闘態勢を整える。
懐から取り出した緑のガイアメモリの名を鳴らしたフィリップに続いて、バックルにそれぞれダイヤのA、ケルベロスのカードを挿入した橘と志村の腰に、カードが展開され、それはそのままベルトとなる。
同じく腰にロストドライバーを巻き付けたフィリップも油断なく敵を見据えて。

「変身!!!」

――TURN UP
――OPEN UP
――CYCLONE

同時に叫んだ彼らは、電子音声と共に走り出す。
現れた二枚のオリハルコンゲートをそれぞれ潜り抜けた橘と志村の身に、赤きギャレンの鎧と、金色のグレイブの鎧が纏われる。
同様に緑の戦士サイクロンもまたその変異を完了させて、その瞳を赤く輝かせた。

「はあぁぁぁぁ!!!」

突撃する彼らを前に、しかし一歩前に立ち塞がるように現れたのはローズオルフェノクだった。
かけ声と共にローズが手を振るえば、周囲には夥しい数の薔薇の花弁が舞い、それは三人の内の一人、グレイブのみを狙い撃つ。

「うわあぁぁぁぁ!」
「志村!」

悲鳴と共にグレイブが彼方へと飛ばされるのを見てギャレンは思わず声を上げるが、しかしそんな暇はないとばかりに電王が彼らの前に立ち塞がる。

「君たちの相手は僕。村上さん、そっちは頼んだよ」
「えぇ、もちろん」

言いながらローズは浮遊して吹き飛んだグレイブの方向へと向かう。
それに対しギャレンラウザーによる射撃を行おうとするも、それは目前の電王が持つ棍棒に阻まれる。

「どけ、お前の相手をしてる暇はない」
「そんな釣れないこと言わないでよ。って言ってもまぁ、僕が君たちを釣るんだけどさ」

そう不適に告げる電王に改めて二人は構えを取り――。
そうして、彼らの戦いが始まりを迎えようとしていた。


276 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:54:53 1mUuHQx20





「ぐぁッ!」

薔薇の大群による少しばかりの移動を終えて久しぶりに地面と対面したグレイブは、思わず呻き声を上げた。
オーガという鎧がありながら何故最初からオルフェノクとしての能力を用いるのか疑問に思ったが、何てことはない、能力を利用して自分とフィリップたちを分断しようと言うことか。
しかし移動させることに重きを置いたためか今の薔薇によるダメージはない、故に存分に戦うことが出来ると言うことだ。

「お久しぶりですね、志村純一」
「村上……!お前は今ここで俺が――」
「そんな見え透いた芝居はやめたらどうです?どうせここには貴方の“仲間”もいない」

仲間という言葉を強調しつつも、その丁寧な口調と裏腹に怒りを隠そうともせず、ローズは告げる。
それを受け、志村もまたこの愚か者に自分の愚かしさをわからせてやるのも悪くはないか、と意地悪く笑った。

「それもそうだな。……今を逃すと何時言えるかわからないから、最初に礼を言っておいてやるよ村上。お前が元の世界で人類と敵対していたおかげで、俺はすんなり仮面ライダー共に受け入れられたんだからな」
「何を勘違いしているかわかりませんが、この状況で貴方に勝ち目はない。そして私にここで貴方を逃がす選択肢も、ありません」

告げるローズに対し、グレイブはクツクツと笑う。
それに対し怒りより先に苛立ちと不愉快さが浮かんで、ローズの影に現れた村上は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「それはこっちの台詞だ、村上。お人好しの野上は無関係の奴らに手加減するだろうが、姉と仲間の知り合いを殺されたと思っているあの二人にそれはない。今にでも奴を殺してここに駆けつけてくるだろうよ」
「思っている、ということはやはり、二人を殺したのは貴方だったのですね」
「ふん、思っていたより察しの悪い奴だ。決まっているだろう、俺が殺したよ、二人ともな」
「下の下ですね……!」

珍しく人の死に憤りを見せるローズは、そのままグレイブに向かって薔薇の花弁を飛ばす。
そこに込められた殺意からそれを無防備に食らうのはまずいと判断したグレイブが横に転がって避けると、先ほどまで後方に立っていたはずの木が消え失せていた。
一体どれだけの威力が、と戦慄しかけるが、しかしライジングアルティメットの脅威を見た後であれば可愛らしいものだ、とグレイブは仕切り直す。

その手に馴染んだグレイブラウザーを構え直すと、そのままローズに斬りかかった。
避けるまでもないとばかりにそれを白羽取りの要領で受け止められるが、構わずローキックを見舞う。
しかしそれすら予想通りと言わんばかりにローズが足を上げたために、結局待ち受けるのはその強固な膝によるカウンター。

それに対し小さく嗚咽が漏れるが、その程度だ。
無理矢理にラウザーを引きはがし、今度は至近距離から切り上げる。
流石にこれは受け止めきれないと判断したか大きく上体を反らしたが、しかし予想通り。


277 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:55:10 1mUuHQx20

返す刀で突きを放てば、剣先はローズの右手に掠った。
本来ならもっと深々と突き刺さるはずだったが、どうやらそれを見越して後ろに飛び退いたようだ。
しかしオーガが非常に優れたライダーギアだっただけで、全力の自分が纏うグレイブで今のこいつの相手は十分か、と志村は仮面の下でまた笑う。

それを仮面越しに読み取ったかローズは不快そうな声を上げて、その掌に青いエネルギー弾を生じさせた。
二撃、三撃、続く青の衝撃をやり過ごしつつグレイブはその手に自身の持つ切り札を握る。
怒り故か、随分と読みやすい軌道で放たれるエネルギー弾を躱し、時にはラウザーでかき消しつつ、彼は切り札をラウズする。

――MIGHTY

瞬間目前に生じた金色の壁をラウザーで突き破れば、彼の剣に宿るは最強のアンデッド、ケルベロスの力の一片。
カード一枚のみのラウズながら3800AP、つまり旧式のライダーにおけるコンボ相当の威力を持った剣を、逆手に構えて。
明らかな必殺の一撃を避けようとローズは光弾を乱射するが、しかしそれさえも切り裂いて彼はローズに肉薄する。

「くッ!」

ローズは短い嗚咽と共に後ろに飛び退くが、それすらも読んでいたとグレイブはその距離分をきっちり詰めるように跳んだ。

「――甘いぞ、村上」
「なッ――!」

嘲るような笑いを浮かべるグレイブに対し、最早ローズは碌な回避手段も取れず……。
そして最高の間合いでその黄金の剣を横凪に振るったのだった。

「ぐぁぁ……!」

マイティ・グラビティの衝撃でその身を木に打ち付けながら、ローズは呻く。
その身を必殺の剣で切り裂かれながら彼はなおも存命であった。
どうやら直撃の寸前で彼が薔薇を生じさせたことで少々狙いがずれたようだが、しかし問題ない。

オーガを装着する隙も与える気など全くないし、今の彼なら容易く殺すことが出来るだろう。
一方で死神による首の両断を待つのみとなったローズは、寄りかかる木の影に生身の村上を映した。

「志村純一、あなたは、この場で一体どれだけの参加者を殺したというのですか」

下らないことを聞く奴だ、とグレイブは思う。
オーガギアを装着する為に自分の注意をそらす時間稼ぎか、或いは純粋にプライドの高さ故に生じる死への拘りか。
そのどちらであってもこいつの話に付き合う理由もないが、しかし自分をいたぶってくれたこの男の死に際を惨めなものに出来るなら、それは面白いかもしれない。

「正直、数えてないな。ただまぁ天美あきらの仲間のヒビキも殺した。2人も俺が殺したんだ、あの世界の滅亡は俺の手柄みたいなもんさ。――あぁ、それから言ってて思い出したがな、お前の世界もこれで二人目だ。園田真理、あのお人好し女にお前の情報を聞いていたおかげで対処が楽になったよ。あっちで礼でも言ってやってくれ」

告げつつ、グレイブは自分の声音が弾んでいるのを自覚する。
その世界の参加者の内半数を殺し一つの世界を滅ぼした後に、またこうして一つの世界が滅亡に向かう。
残る乾巧と三原とかいう男はいつでも殺せるだろうし、既に555の世界も滅亡と同義だ。

世界毎に首輪が別れているなら自分の首輪解除には何ら躊躇はされないだろうし、最早この殺し合いに自分は勝利したも同然だった。

「……っと、いけない、いけない。お前を殺し損ねるわけにはいかないからな」

一瞬意図して作った隙を逃がさず利用するだろうローズを見越して、意地悪く笑う。
しかし自分の意図に反して木に凭れたままのローズを見て、諦めたか、とグレイブは嘲笑した。
まぁ、それならそれでこの男のプライドも砕けたはずだし、“仲間”が来る前にさっさと終わらせるか、とラウザーを構え。


278 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:55:27 1mUuHQx20

「――あなたへの評価を改めましょう、志村純一」

突然のローズの言葉に耳を傾けることもなくそれを振り下ろした。

「やはりあなたは、下の下……以下ですね」

しかし瞬間、その言葉と共にローズがかき消える。
残されたのは、大量の薔薇のみ、一体奴はどこへ……?

「――こちらですよ」

背面から聞こえた言葉に思わず振り返れば、それを迎えくるのは狙い澄ました裏拳。
堪らず後ずさったグレイブに、ローズはその手を翳して。

(ふん、どうせ光弾か薔薇かの単調な攻撃。どちらにせよ回避は容易い)

そう考え、笑みすら浮かべて彼の攻撃を軽く回避――出来ない。

「なッ、何ィィィ!!」

先ほどまでの攻撃とはまるで練度の違うそれに、最早視界すら封じられながら、彼は薔薇の中、火花を散らしながら舞う。
やっとのことで視界が晴れた、と思えば、それはどうやらグレイブの鎧がダメージにより解除されただけのようであった。
呻き声と共に地に伏せながら、彼は思う。

一体、ローズのどこにこれほどの力が。
その答えを掴めぬまま、彼は悠然と自身のデイパックより黒い携帯電話型ツールを取り出す。
ローズの変身も解けていないというのにオーガに変身するというのか。

制限を知らないというなら、それも好都合か、とまた笑みを浮かべて。
そうして、ローズはオーガフォンの名を持つそれを開き、そのまま――自分の耳に持って行った。

「――事情は彼が今、全て述べた通りですよ。ご理解いただけましたか?乾さん」

その言葉に、志村純一は初めて血の気が引くという言葉を、身を以て理解した。





時間は、数十分前に遡る。
放送で亜樹子の名前が告げられた時、良太郎の身体は自然と膝を折った。
その時の身体の主導権は前述したようにウラタロスのものだったが、恐らく誰が主導権を握っていてもそうなっただろう。

自分がこの場で初めて会った参加者、鳴海亜樹子。
自身の憑依体質を芸として紹介したことで、大阪人の彼女はこんな状況ながら気丈に振る舞いツッコんでくれた。
欲を言えば彼女の笑顔を見られればもっとよかったのだが、こんな惨状ではそれも無理な話かとそう納得した。

今思えば、あのファーストコンタクトから。
自分は、この場で信じるべき人を信じられていなかったのではないか、とウラタロスは思う。
IFの話に意味はないが、もし彼女を嘘でごまかさず特異点の話から憑依するイマジンのものまで正直に語っていたなら。

或いは「私聞いてない」と連呼しながらも、最後には飲み込み、彼女が自分の“芸”に怒りチームを離脱するなどという結果を、避けられたのではないか。
彼女を探しに行った葦原を責めることなど出来はしない。
元々彼が彼女を探しに行かなければいけない理由を作ったのも、全て自分たちが、いや、自分が悪いのだから。

(ウラタロス、そんな風に抱え込んじゃ駄目だよ)
(せやで亀の字、お前が悔やんだところで、何にもならんやろ)

消えない後悔を悔やみ続ける自分に声をかけるのは、宿主である野上良太郎と、仲間のキンタロス。
彼らだって辛いはずなのに、必死に戦おうとしている。
それをいつもは心強いとしか思わないはずなのに、何故だか今は少し鬱陶しかった。

そもそも彼らがいなければ。
自分がモモタロスやリュウタロスの代わりに実体化して参加していたなら、自分だって芸などという苦しい言い訳を使わずに済んだはずだ。


279 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:55:48 1mUuHQx20

(おい、亀の字、何か物騒なこと考えてへんやろな。お前が黙ってるときは碌な事がない)
(……やだなぁ、人聞きの悪いこと言わないでよキンちゃん。僕はいつも通りの僕、嘘好きで磯の香りが女性を魅了する、そんないつものウラタロス――)
(無理しないでよ、ウラタロス)

キンタロスの追求にお得意の嘘で乗り切ろうかと思ったが、あの良太郎にさえ見破られてしまう。
良太郎が嘘の見分けがつくようになったのか、自分の嘘が衰えたか。
そのどちらでもないことは、ウラタロスにだってすぐにわかっていた。

「――ウラタロスさん、急いでください。このまま病院で奴を倒さなくては、或いはますます犠牲者が増えることにもなる」

思考に落ちるウラタロスを現実に引き戻したのは、同行者である村上の声だった。
望みの綱である殺害数ランキングさえあの男の味方をした以上、もうこの場で士たちを説得するのは不可能だと判断したのだろう。
そしてそれは、さほど見当違いでもないだろうとウラタロスは思う。

自分にとって読み切れない要素である村上と巧の確執を、より知っているだろう村上が“相容れない”と判断したなら、それに逆らってまでここに残っても彼を一人で行かせるだけ。
ならば、あちらの二人が自分たちに襲いかからない今のうちに、自分も離脱するのが正解ではないか。

そうした思考を終えて、彼は立ち上がる。
ふらふらと、まるで芯のない足取りながら、ゆっくりと志村への怒りのみをその胸に抱いて。

(何考えとるんや亀の字!お前かて士と巧っちゃー二人を置いて志村を倒しに行ったらあいつの思い通りやってわかってるやろ!)
(当然でしょ、キンちゃん。それでも今ここで僕らにやれることはもうない。それなら、あきらちゃんと冴子さんを殺した志村だけでも僕が――)
(……駄目だよ、それじゃ)

半ばやけになった思考でキンタロスと口論を繰り広げるウラタロスの耳に入ってきたのは、自分の宿主である野上良太郎の声。
それは、何度か自分も聞いた、弱々しいながらも、彼が絶対に自分を曲げない時の声。
第一回放送の時も聞きながら、しかしあの時より強い気さえするそれに思わず身構えながら、ウラタロスはあえていつもの調子で軽く返した。

(駄目って、何が駄目なのさ?志村は人殺しで、僕たちを騙したんだよ、それを倒すのが駄目なわけ?)
(違うよ、そうじゃなくて……、でも、駄目なんだ)
(だから何がさ?良太郎の身体を粗末に扱おうとしてるように聞こえたなら謝るけど――)
(それも違うよ、でも駄目なんだ、僕が言いたいのは――)

「このままで終わるのは、駄目えぇぇぇぇ!!!」

瞬間、良太郎の身体から青いオーラのようなものが弾き飛ばされる。
思わぬ大声に村上も巧も士も、その場にいる全員が振り返った。
しかし、その姿に対し既に事情を知っている村上は苦々しい表情を浮かべた。

「野上さん……ですか。早くウラタロスさんを出してください。貴方ではまた志村のような男に足下を掬われるだけだ」
「嫌……です」
「ほう、何故ですか」
「僕は、決めたんです。自分に出来ることは、できる限り自分でやるって……!」

そう言って拳を握りしめる良太郎は、しかし頼りない印象を受けた。
所在なさげに身体は震えているし、その声も震えている。
だが、その瞳だけは唯一、村上を見つめて離さない。

そんな存在に会うことが珍しいのか、村上もまた良太郎から目を反らすことはしなかった。

「貴方の思いは理解しました。しかしそもそも何が気に入らなくて貴方は今出てきたのですか?まさか志村純一を殺すことを今更反対することもないでしょう」
「それは……確かに、志村さんは倒さなきゃいけないと思います」
「なるほど、では何がご不満なのですか?」
「このまま、志村さんの嘘が、皆に信じられ続けることと、それで僕たちがあの人に負けることです」

真っ直ぐに村上を見据えて良太郎が、今度は声を震わせずにそう言い切った。
それにさしもの村上も不機嫌そうな表情を浮かべて、鼻で一つ笑う。


280 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:56:12 1mUuHQx20

「何を言い出すかと思えば、私が志村純一に敗北するとでも?……東京タワーでは確かに逃しましたが、私の実力を以てすればあの程度の男に二度目の敗北はない」
「そういうことじゃないんです。僕が言いたいのは、今志村さんの嘘を信じている人たちの誤解を解かないままであの人を倒しちゃったら、きっと志村さんは志村さんを信じた人たちの中で、正義の仮面ライダーとして“記憶”されたままになる。それは多分、間違ってます。……本当に皆のために戦った人たちと志村さんが同じように扱われるなんて、僕には耐えられない」

そう言って、彼は拳を握りしめる。
彼の脳内によぎるは、あの親友であった赤いイマジンのこと。
あのぶっきらぼうであったが心優しい彼のような存在と志村のような嘘つきがどちらも善良な存在であったと記憶する人は、出来ればいてほしくなかった。

良太郎なりに必死に述べた言葉を聞いて、村上は失笑する。
全く以て、彼の言う言葉に何の意味も見いだせないとでも言いたげに、彼はわざとらしく目線を彼方へと走らせた。

「あなたのご意見はわかりました。しかし、私には彼の他者からの評価など正直、全く以てどうでもいい。企業を背負うならともかく、この場で私にとって最も重要なのは私の判断だ。そして私を利用するという愚を犯した彼には、私自らが死をもたらす……、それで何も問題ないのではありませんか?」
「駄目です。それじゃ結局、志村さんの嘘の通り、僕たちは人殺しになっちゃう。志村さんを倒すなら、まずあの人の嘘を暴かなくちゃ、僕たちはあの人に負けたってことになる」

会話を続ける内徐々に膨れつつある村上の殺気に、外野として見ているだけであった士と巧すら警戒を強いられる中、良太郎はイマジンの力も借りず、その圧に一人堂々と立ち向かっていた。
しかしそんな彼を前にこのやりとりに疲労しか感じないと言いたげに目元を抑えた村上は、その瞳を仲間に向けるものから邪魔な弱者に向けるそれへと、静かに変貌させる。

「――もう結構です。あなたとの会話に恐らく両者が求める終着点は存在しない。早くウラタロスさんを出してください」
(そうだよ良太郎、村上を相手に意地を張っても意味ないって!今は僕に任せて!)
「嫌です。あなたが志村さんの嘘を暴くのに協力するって言うまで、僕はウラタロスには変わらない」

村上と、脳内のウラタロス。
両者に向け明確に否定を宣言した良太郎の目は、しかし未だ真っ直ぐに村上を貫く。
それを聞いて村上は数瞬考えるように顔を伏せたものの、しかしすぐにその顔を上げた。

――その瞳を、興味を一切失った対象に向ける、冷酷な目へと変えて。

「残念ですよ、ウラタロスさんとは良い関係が築けると思ったのですが。……あなたがそうまで言うのなら、私の貴重な時間を奪った罰として、ここで死んでいただきます」

そう言って、村上はその掌に青い光弾を発生させる。
制限により生身の状態では幾分かその威力は抑えられているようだが、しかしそれでも生身の良太郎を殺すのには十二分。

「ではさよならです。野上さん」

放たれた光弾を前に、しかし良太郎はその場から大きく動くことはしない。
脳内でイマジンたちが叫ぶのが聞こえるが、彼らが身体に入ることすら拒否して、彼はその場に堂々と立ち尽くしていた。
そして、その身に光弾は一瞬にして到達――しない。

「――そこまでだ、村上」

言いながらその手に持つシアンの銃で光弾を打ち消しながら良太郎の前に悠然と現れたのは、士であった。
敵であるはずかもしれない良太郎を庇うような行為に、思わずその場の全員が目を見開く。

「……一体、何のつもりです。あなたは先ほど彼を信用していないと言い切ったはず」
「俺が信用してないって言ったのはこいつにじゃない、こいつの中のウラタロスにだ」

悠然と村上に告げる士に対し、しかし村上は呆れたようにため息をつく。

「それは結構。しかし、先ほどの彼の弱々しい、理論の欠片もないような言葉のどこに、貴方が心動かされたのか、是非ともお教え願いたいものですね」
「俺が信じたのはこいつの言葉じゃない。こいつの……目だ」


281 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:56:31 1mUuHQx20

皮肉を述べる村上に何てことのないように返しながら、士は振り返り良太郎の目を見つめた。
困惑の色を隠しきれない良太郎の、しかしその奥に何かを見たかのようで、彼は満足げな表情を浮かべ、続ける。

「俺には正直、ウラタロスとお前、それから志村の誰の言葉のどれが正しいのかわからない。だが、こいつの目は、お前らの語った全ての言葉を大きく上回るほどに俺に訴えかけてきた。それは、こいつが元々持っているものだ。……確かに、こいつはお前たちより口は巧くないかもしれない。それでも、こいつのことを俺は信じる」

それを聞いて、村上はこの場に来て初めて驚愕と興味の入り交じったような、複雑な表情を浮かべた。

「それだけで、貴方が助けなければ死んでいたような愚かな彼を信じると?全く以て理論が破綻しているとしか言い様がない」
「――何か勘違いしてるみたいだな、お前」

すっ、と指を地面と平行に持ち上げて、士は村上を指さす。
村上はそれに特別動揺もしなかったが、しかしその表情にはより強い困惑が浮かんでいた。

「確かにこいつは、俺が助けなければ死んでいたかもしれない。だが、助けを求めればすぐに助けてくれる、そんな仲間が身体の中にいるのに、それをせずお前に立ち向かったのは、こいつの弱さじゃない。こいつの……“強さ”だ」

士の告げる言葉に、村上は何も言わない。
呆れ果てているのか聞き入っているのか、そのどちらなのかは見当もつかないが、しかし何も言わない。
そんな村上を尻目に、士は言葉を紡ぎ続ける。

「こいつが仲間を頼らなかったのは、頼りっきりなままじゃなく、自分の力で出来ることを成し遂げたいとそう考えたからだ。自分より強い奴を前にしてそれが出来るこいつは、強い。……少なくとも、自分の邪魔者は全部消してしまえばいい、なんて考えるお前なんかより、ずっとな」

士の途切れぬ言葉を受けて、村上はその顔を真っ直ぐに向ける。
それは良太郎に向けていた、侮るようなそれを撤回するような真剣な眼差しだった。

「そして俺は、そんなこいつの瞳を信じる。少なくとも、こいつの言う志村の嘘とやらの真偽を確かめてやってもいい、そう考えてる」

そこまで良太郎を振り返りつつ言い切って、今度は村上をしっかりと見据え。

「――お前はどうだ、村上。ここまでこけにされた礼に、俺らと戦うか、それとも、志村の嘘を暴いて、お前の身の潔白を示すか、どちらを選ぶ」

明らかな挑発を、言い放った。
先ほどまでなら戦わなくて済んだ相手とわざわざ戦闘を望むようにも聞こえるそれに後方に控える巧が僅かに抗議の声を上げるが……。
しかしそれを遮って、村上はゆっくりとその顔を持ち上げた。

「――私を相手にここまで言い切るとは。貴方は一体、何者なんですか?」

そうして口から出た疑問は、純粋なものだ。
オルフェノクの総統としての一面も持つ自分を相手にここまで言い切るこの男は、果たしてただ者ではないだろう。
しかし、それを受けて士は幾分覇気なくその手を左右に払って。

「通りすがりの仮面ライダーだ、今は覚えなくて良い」

いつもの決め台詞を言い放った。
しかしそれに対し、村上は噛みしめるようにもう一度小さく復唱して。

「……いえ、通りすがりの仮面ライダー。その名前、覚えておきましょう」

そうして士に一瞥をくれたかと思えば、彼はそのまま彼の後方に待つ良太郎の元へ歩み寄る。
しかし今度は士も止めはしない。
村上の出した結論を、知っているかのように。


282 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:56:47 1mUuHQx20

「――野上さん」
「はい」
「貴方の言う考えは本来甘く無駄なものだ。しかしこの閉鎖空間を考えれば一理あるかもしれません。……私も、貴方の言う、志村の嘘を白日の下に晒す考えに協力しましょう」

その言葉を聞いて、良太郎は静かに微笑む。
村上が意見を変えたのは士の力もあるとはいえ、自分の意見をウラタロスたちに頼らず貫き通せたのだから。

「……おい、門矢、お前まさか本当に志村を疑ってるんじゃねぇだろうな」

一瞬和やかな空気が流れかけた瞬間、それに静かに割り込んできたのは巧だった。
それを士はしっかりと見据えて、しかし動じはしなかった。

「何も、志村が犯人だって決めつけたわけじゃない。俺はどっちが嘘をついてるのかはっきりさせたいだけだ」
「んなの考えるまでもねぇだろ!こいつはオルフェノクを使って人を襲わせてる企業の社長だったんだぞ、こいつが霧彦の嫁とあきらを殺したに決まってんだろうが」

思わず語調が強くなるのを自覚しながら、巧は吠える。
正義の仮面ライダーであり、あきらと冴子を守るため戦ったという志村と、元の世界から並々ならぬ人間への憎悪を剥き出しにしていた村上。
どちらを信じるべきかなど、巧には論ずるまでもないことだった。

しかしそれに反論を述べようとする士を制したのは社長“だった”という言葉を特に気にすることもなく一歩前に歩み出た村上であった。

「……乾さん、確かに我々には大きな確執があります。しかし、この際それは一旦水に流しませんか。この場に巣くう卑怯者を炙り出すまでの間だけ、あなたの力をお借りしたい」
「答えなんざ聞かなくてもわかってんだろ、俺はてめぇとは絶対に組まねぇ」

そうして取り付く島もなくそっぽを向いた巧に、村上は数瞬考えるように視線を走らせて、それから息を大きく吸い込んだ。

「それならそれで結構ですが……、あなたは、私に一つ返していない借りがあるはずだ」
「借り……だと?」

その言葉に心底予想外という風に表情を強ばらせた巧に対し、村上は続ける。

「――園田真理さん。彼女は以前ここに連れてこられるより早くに一度死亡し、そして私どもスマートブレインの技術でそれを蘇らせてさしあげた。それを、忘れたとは言わせませんよ」
「……俺も言ったはずだぜ、お前らを騙したところで全く心が痛まねぇってな」

巧はなおもつっけんどんに返すが、しかしそれを横で聞いている士は何かを疑問に思うように顔を歪めた。
それを横目で見やりつつも村上は続ける。

「ええ、確かにそう仰ったのも覚えています。しかしこう考えたことはありませんか?あなたがスマートブレイン、いえ上の上たるオルフェノクの集まりであるラッキークローバーの一員になりながら、我々の敵で居続けられたのは私のおかげでもある、と」
「はぁ?どういう意味だ」

それを聞いて、村上は余裕を滲ませながら一度唾を飲み込み口調を整える。

「あなたがラッキークローバーに入った時点で、私は人間や、木場勇治の殺害を依頼して園田さんの蘇生を先延ばしにしてもよかったのに、それをしなかった。そう言った行為をした後であったなら、あなたはどう足掻いても人間には受け入れられなかったはずだ」

その言葉に幾分かの後悔を含ませつつ、村上は言う。
それを受けて巧はしかしこの会話が始まってから始めての動揺を見せた。

「……もちろん、それはあなたを信用しすぎた私の瑕疵だ。本来敵同士だと認識しているあなたの行動ももっともではありましたが、しかしそれをした時の私には、あなたへの敵意よりも同族としてあなたの苦しみを早く和らげて差し上げたいという気持ちしか存在していなかった。そうでなければ実利主義の私がそのような行動を取るはずがない」
「……結局、何が言いてぇんだよ」
「――私には私なりの、果たさなくてはならない義務と正義がある、ということですよ。それがあなたたち仮面ライダーと決して交わらないとしても、ね」
「こうして巧を説得するのも、その正義のため、ってことか」


283 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:57:03 1mUuHQx20

村上の長々とした宣言に横から入ったのは、士だった。
彼の言葉からは、確かに村上を敵の一人としてだけではない存在として認めているのが見て取れる。
それに対し裏切られたと感じたか巧は一層声を荒げて。

「門矢、お前本当に志村を疑ってこいつらを信じてんのか?……それともそれは、お前が世界の破壊者とかいう奴らしいことと関係あんのかよ」
「……その話は後だ。さっきも言ったが、俺はまだどっちも信頼しきったわけじゃない。けどこいつらの話を端っから否定する理由もないだろ、今はただ確かめるだけだ、真実をな」

仲間と信じた男の行動に納得がいかないと巧は声を荒げ、思わず世界の破壊者という先ほど金居が発したワードを口にする。
それに村上が一気に興味の瞳を向けてきたのを感じて、士はあからさまにため息をついた。
そしてそんな仲間の様子を見て、流石の巧も今この状況で冷静でないのは自分だけであることを察したのか、少し俯いて。

そんな巧を一瞥して、だめ押しとばかりに村上は大きく息を吸い込む。

「園田さんが元の世界で生き返られた時、以前の彼女と何か代わりはありましたか?それこそ王を守るベルトを使用できるようになった、性格が変わったと言った症状は」
「……ねぇよ。前のあいつのまんまだ、何から何までな」
「何度も言うようですが私にあのタイミングで彼女を蘇生させるメリットはなく、そしてもし私が用心深ければあなたが逆らったとき彼女を遠隔操作で殺せるようにでも出来た。それこそ、今の私たちのようにね」

首にずっとその存在を主張してくる冷たい銀の輪を指しながら、彼は言う。
それを聞く巧は、村上の話術に圧倒されたか、それとも話をするだけ無駄だと断じたか何も言わない。

「園田さんの無償、かつ安全な復活。そしてあなたに人や仲間を殺す罪を犯させなかったこと。そのどれかに少しでも恩義を感じるというのなら、少しの間だけ、私のことを信じていただけませんか、乾さん」

そう言い切って差し伸べられた手を、巧は掴まない。
しかし数瞬目を閉じ、葛藤するかのようにその拳を強く握った後、彼は決意を固めたように目を見開いて、一歩足を進めた。

「……先に言っとくが、お前らのじゃない、志村の身の潔白を明白にするためだ」
「結構ですよ。願わくば、もっと早く貴方と手を取り合いたかった」
「勘違いすんな、俺が信じたのはお前じゃない。野上と門矢だ」

そこまで言って、巧はつまらなそうに顔を背けた。
それをしかし満足げに見やりながら手を戻す村上が考えているのは、果たして言葉通り巧を仲間として受け入れられたためか、駒として利用できるためか。
そのどちらか判別はつかないながらも、士は一歩村上に歩み寄る。

「……うまくいったようだが、もちろんお前らの装備は必要最低限まで没収させてもらうぞ。村上、お前のオーガギアもな」
「……仕方ありませんね」

流石に幾らかの躊躇を含ませながら、村上はオーガドライバーとポケットのメモリを投げる。
同様に良太郎もベルトとパス以外の装備を士たちに渡した。
だが、それを受けてなお士は村上に警戒の目を向ける。

「おい、誤魔化せると思うなよ、オーガフォンもよこせ」
「いえ、これは私が預かっておきます。幾ら私が上の上たるオルフェノクとはいえ、乾さんにオーガを纏われれば危うい。最低限の装備ということなら、これで構わないでしょう」

それに、と村上は続け、画面と液晶を士たちに公開しながら、数桁の番号をオーガフォンに入力する。
最後に通常の携帯電話にも見られる通話ボタンに手をかけると、周辺から軽快な音楽が流れ出す。
何事かと辺りを見渡せば、巧がデイパックから驚いた表情でファイズフォンを取り出していた。

「……おわかりいただけましたか?これこそが志村純一の正体を暴く切り札というわけですよ」

そうして村上は自信に溢れた敏腕社長の笑みで、三人を見渡した。


284 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:57:38 1mUuHQx20





村上の説明した作戦は、解き明かせば簡単なものだった。
村上はタワーで垣間見た本来の志村の性格を、相手を追い詰めた際自分の功績をしゃべり出す、そういった自尊心の塊だと判断し、全ての罪を彼に自白させることを考えた。
もちろんそれを又聞きで巧たちに伝えたのでは意味がなく、またその場に彼らがいては話すはずもない。

故に考えたのだ、“その場にいないままに、彼らが話を聞けたなら、と。
そんな奇跡を可能にする手段は、既に彼らの手の内にあった。
そう、ファイズフォンと、オーガフォン。

ただの変身アイテムでなく通話機能を持っている携帯電話としても使用できることを志村は失念、或いは覚えていても自分と巧が繋がっていると考えもしない以上思考にも浮かばないはずだと、村上は確信していた。
そうして、オーガフォンを持った自分は志村のみを引きつけ、残るフィリップと橘、そして涼を一瞬でも良太郎が引き受け、本格的な戦闘になる前に巧と士が現れて止める。
その場で良太郎が変身を解除しもう変身手段がない状況になった上で志村と村上の会話を聞き、天美あきらと園咲冴子の殺害犯を特定、シロであった参加者の援護と或いは生身の良太郎の殺害という形になることを、全員が同意した。

そして作戦を決めて一時間ほど経ち、病院近辺についた彼らは、病院に残るのが志村、橘、フィリップの三人のみであることをキバーラによる偵察で把握した後、手順通り良太郎と村上のみでその姿を現した、ということである。

「準備はいいですか?ウラタロスさん」
「もちろん、ドッキリは大得意だしね」

小声で確認を取る村上に同じく小声で茶化しつつ、ウラタロスは答える。
今度こそ誰も失わない、その決意だけは嘘ではないとそう決意して。

「――見つけましたよ、志村純一」

一世一代の大化かしが、始まった。
志村も敵ながら見事としか言い様がない演技で自分たちに怒りをぶつけているところを見ると、ここにいる五人の内三人が何かを演じているのは、全く以て皮肉だと思う。
しかしそんな中で誰にも見透かされず自然体を装いつつ、ウラタロスは自身に憤りをぶつけてくる二人の仮面ライダーに視線を送る。

姉である冴子と、友の仲間であるというあきら。
その二人を殺されたと怒る彼らの正義心を弄んだ志村への怒りがぶり返し思わず叫びそうになるが、持ち前のクールを崩さず彼は静かに呟いた。

「変身」
――ROD FORM


285 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:57:55 1mUuHQx20





「どけ、お前の相手をしてる暇はない」
「そんな釣れないこと言わないでよ。って言ってもまぁ、僕が君たちを釣るんだけどさ」

村上が手順通り志村のみを引きつけた後、ギャレンとサイクロン、二人を前に電王は不適に言い放つ。
その言葉に特に何を返すでもなく、ギャレンは油断なくラウザーを構え、そのトリガーに指を――。

「そこまでだ、橘、フィリップ」

かける前に、後ろから現れた巧と士にそれを阻まれた。
そして、手順通りに動いている彼らと違い、橘とフィリップはこれ以上ない困惑を見せる。
何故、冴子とあきらを殺した相手と彼らが一緒にいるのか?

状況に一切理解の追いつかないギャレンを尻目に、電王はその腰からベルトを外し、そのままギャレンたち越しに士にデンオウベルトを投げ渡す。
それを見届けウラタロスが良太郎の身体から弾かれると同時、そこにいるのは先ほどまでの余裕の欠片もないただの青年。

「……これは一体、どういうことだい?ディケイド」
「悪いが、今は説明してる時間がない。取りあえずこれを聞いてくれ。話はその後だ」

ますます困惑を深めるサイクロンの絞り出したような疑問に、しかし士は巧が手に持つファイズフォンを指さす。
何事かと良太郎から視界と銃口を外さぬままギャレンがそれに近づいたその時。

『そんな見え透いた芝居はやめたらどうです?どうせここには貴方の“仲間”もいない』

その電話越しに、しかし鮮明に聞こえる声に、彼らの中で、幾らかの疑問は自然と氷解した。


286 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:58:11 1mUuHQx20





「――事情は彼が今、全て述べた通りですよ。ご理解いただけましたか?乾さん」

電話越しに小さく「あぁ」と震える声が返ってきたことで、村上は勝利を確信する。
自分を疑った者たちの誤解を解いた確信があったのもそうだが、何より目の前の愚か者に対して、完全に勝利した確信があった。
何せ、彼は自分が勝ったと自惚れその罪を自白したのだから、愚か者としか言い様がない。

そうして目の前に這いつくばる志村を物理的にも心理的にも見下しながらローズは彼の命を絶やそうとその手を翳す。
それに志村はまだ何か手でもあるのか、しかし自分への殺意を漲らせた瞳を向けて。

「――待て」

声と共に不意に飛び込んできた新たな戦士に、両者とも目を向けた。

「橘チーフ!」

それを見て先ほどまでの殺意はどこへやら一気に正義の仮面ライダーの皮を被った志村は、そのまま彼に向けて走り出す。
或いは東京タワーで良太郎にしたように彼に自分を任せここから逃げる算段なのだろう。
二度も同じ失敗をするわけにはいかないとローズは先にギャレンに攻撃するべきか思案するが――。

――パンッ

辺りに響いた乾いた銃声に、それを遮られた。
ふと見やれば、それは自分に向けてではなく志村に向けて放たれたものであった。
咄嗟の判断で急所は外したようだったが、しかし彼の狙いはその命ではなかったようで。

「その血……、お前、やはりアンデッドだったのか」

失望とも、怒りとも取れる震えを声に乗せながら、赤い戦士、ギャレンは呟く。
見れば弾丸が掠った箇所から伝った緑の血が、彼の頬を醜く染めているのが見える。
それを手でなぞり一瞥して、しかし志村は吹っ切れたように乾いた笑いを吐いた。

「ふっ、今更気付いたのか……全く以ていつの時代も笑えるほど間抜けだな、お前は」
「志村――!」

いきなり豹変した志村をしかしギャレンは油断なく撃つ。
またもすんでの所でそれを躱し先ほどと同じ展開を辿るかと思えば、しかし今度は志村の手に新しい力が握られていた。
それを周囲のガラス片に晒して、彼は冷たく叫んだ。

「変身」

妨害のためにギャレンが放った弾丸が彼の身を貫くより早く、彼の身は変わっていた。
それは、先ほどまでのライジングアルティメットとの戦いで秋山蓮が纏った鎧、ナイトそのもの。
遺品を探したもののナイトのデッキは見つからなかったとほざいておきながら、それすら自分の手元に置いておく為の嘘だったとは。
最早彼の言った言葉に真実はないとギャレンが断じるか早いか、ナイトはそのデッキからカードを引き抜く。

――SURVIVE

電子音声が新たなナイトの形態の名を告げるのと同時、彼の鎧は風に包まれ蒼く、そしてより強固に、変化した。
仮面ライダーナイトサバイブ。
殺し合いのライダーバトルに願いのため生き残る決意をした男の鎧を、今死神が纏った姿であった。


287 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:58:26 1mUuHQx20

「何故さっき、お前を殺さなかったか、教えてやろうか?橘」

盾と剣が一体化した自身の武器、ダークバイザーツヴァイより剣を引き抜きつつ、ナイトは問う。
それにギャレンは答えないが、しかしナイトは愉悦の笑みを浮かべ。

「同じ世界だからじゃない。――お前なら、何時どんな時でも楽に殺せるからだよ」

そう言って、先ほどまで浮かべていた好青年の笑顔と真逆の不気味な笑い声を発する。
不愉快なその声に思わずローズすら顔をしかめる中、ギャレンはまたラウザーを中段に構え直して。

「本当にその通りかどうか、試してみるか――?」

対するギャレンも、その怒りを静かに燃えたぎらせながらそう告げた。

「……どうやら、私の出る幕は終わりのようですね」

一方で、一瞬で蚊帳の外に押しやられたローズはそう呟いた。
先ほど士たちより情報として変身制限について聞いたことの真偽を確かめる意味合いもあり変身は解いていないが、しかしその覇気は失せている。
無論、志村を逃がす気はないし、橘と呼ばれた男が敗北するなら自分が志村に引導を渡してやることに変わりはない。

しかし、わざわざ勝利の見えた戦いに首を突っ込んで疲労するなどと言う愚を、自分は犯す気もなかった。
故に、ただ見届ける。
自分を騙した罪の重さを噛みしめながら、志村が逃れようのない死から足掻く様を。

橘とかいう男に愚かだと突きつけるお前も、端から見れば同程度だと嘲笑しながら、彼は、ただ戦いを見守っていた。





「そんな……志村純一が姉さんと天美あきらを殺していたなんて……」

ファイズフォンから聞こえてくる音声で志村がその罪を自白したのを聞き終えて、フィリップはその膝をつく。
首輪を解除するという話題に対し焦りを見せていたことに違和感を覚えていたものの、しかしここまでの邪悪だなどと考えもしていなかった。
変身は解かないものの既に戦意を喪失したも同然の彼を尻目に、ギャレンは何も言わずその足を志村の下へ進める。

「橘、大丈夫なのか?お前はさっきまであいつを仲間として……」
「あぁ、確かに信頼を置いていた」

後ろから投げかける士に返しつつ、ギャレンは「だが」と続ける。

「だが、俺にはアンデッドを封印する義務がある。もしあいつが園田真理を殺害したあの白いジョーカーなら、俺がそれを倒す」

そこまで言って、これ以上の話は不要だとばかりにギャレンは駆け出した。
それに自分も追随すべきか、と懐よりカードを取り出すが。
横に座り込み茫然自失とする巧を見やって、それをやめる。

その瞳には騙されたことに対してではなく仲間を殺した相手を信じていた自分に対する不甲斐なさのような感情が見て取れる。
この状態の彼を放置するのは余りにも危険か、と考えるが早いか巧は胸を押さえ蹲った。
事情を知る士以外の二人が驚愕に目を見開くのに対し、巧はしかし悔しそうに嗚咽を漏らし拳を何度も地面に叩きつける。

「クソッ、クッソォォォォ!!!」


288 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:58:42 1mUuHQx20

今まで士が二度見たそれのいずれよりも多く排出される灰に戦慄を覚えつつも、しかし巧は強く、強く吠えて。
流石の士もかける言葉を見つけられぬままに、周囲には巧の嗚咽が響き続けていた。





「はぁッ!」

かけ声と共にその怒りすら弾丸に込めてナイトに放つのは、ダイヤの意匠をその身に刻んだ仮面ライダー、ギャレン。
それを呆気なく切り落としながら、ナイトは飛びかかり、その剣を一閃する。
ギャレンを一撃で戦闘不能に持ち込みかねない威力で放たれたそれを、しかしギャレンはラウザーで強引に受け止め、空いた左腕でアッパーを放ってまたも距離を引き剥がした。

(こいつが、志村が本当にあきらと冴子、そしてヒビキと園田真理を殺害した白いジョーカーだと言うのか……)

そうして攻撃を放ちながら、ギャレンの鎧を纏う橘は思う。
フィリップより見せられた園田真理殺害の犯人は自身の知るジョーカーに非常に酷似した、しかし自身の知るそれと色が異なる怪人であった。
橘自身も、通常目にすることが出来るトランプにジョーカーが二枚存在することも珍しくないことから以前その存在を疑ったことがあった、もう一人のジョーカー。

彼の世界ではついぞ出会うことのなかったその存在が、まさかこの場に呼ばれているとは。
そしてもう一人のジョーカー相川始と同じく仮面ライダーとして、しかし彼と違いその鎧を己が目的のためだけに纏う外道であったとは。

(何が剣崎の遺志も継いで戦う、だ。何が未来でも仮面ライダーの正義は変わらない、だ……!)

今までに彼が吐いた“善良な仮面ライダー”としての言葉の全てが、橘の神経を逆なでする。
それを思い出し、そしてそれにむざむざと騙され信用した自分を思い出す度、彼の胸は今までのどんな時より熱く燃えさかり。
そして、それにつられるように、彼の融合係数は爆発的に上昇していく。

ギャレンの鎧がより強固に、そしてより威力を増していくのを感じつつ、ギャレンはまたその銃口をナイトに向けた。
しかし、それを受けるナイトは「ふん」と鼻を鳴らす。
そのまま、ギャレンの弾丸を盾でやり過ごしデッキよりカードを引き抜いた。

――SHOOT VENT

電子音声を受けダークバイザーツヴァイが弓のような形に変形したかと思えば、彼はそこからエネルギーの矢を放つ。
まさかナイトが遠距離攻撃に移行できるなどと思いもよらなかったのかギャレンはその胸から火花を散らし吹き飛んだ。
しかし無様にその身体を地に伏せることはしない。

先ほどの戦いでずっと伸びていたのだから、もう倒れている暇などないと言わんばかりに、その両足をしっかりと地面に突き立てていた。
しかし確かにその身体がふらついたのを見て、ナイトは矢を連射する。
一撃、また一撃とその身を削る度、中の橘には意識を手放しかねないほどの衝撃が襲う。

ラウザーを握るその手をナイトに向ける暇も与えられぬまま数えきれない矢をその身で凌ぎきったギャレンは、しかし今遂にその膝をついた。
だが、肩を上下に大きく動かしながらギャレンは未だ健在。
なればもう矢を放つより直接その命を刈り取りに向かうべきか、とナイトはその手に剣を取る。

「俺の言ったとおりだったでしょう、橘チーフ」

その口調を正義の仮面ライダーで未来の自分の部下、“志村純一”のものにしながら、ナイトは笑う。
結局は自分に敵うはずなどなかったではないかと言葉とは裏腹に橘を罵り嘲る意図しか持たずに。

「最後に一つだけアドバイスしてあげましょう。あなたは人を不用心に信じすぎなんですよ、ダイヤのカテゴリージャックにトライアルB、天王寺……何度騙されても疑いすらしない。本当に貴方は心優しい愚か者で――最高に扱いやすい、理想の上司だったよ」


289 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:58:57 1mUuHQx20

またも口調を冷酷なアンデッドのものへ戻して、ナイトは剣を振り下ろす。
それは難なくギャレンの身に到達しその身を切り裂か――ない。

「なッ……!?」

ナイトが狼狽えるのも無理はない。
先ほどまであそこまで容易に切り裂くことが出来、またダークアローで傷ついたはずのアーマーが、今一層の堅さでこの剣を拒んでいる。
それに理解が追いつく前に、ギャレンは自身の肩に突きつけられた銀の剣を、しかと握りしめて。

「――確かに俺は、様々な存在に利用されてきた。その度に大小問わず様々なものを失い……中には取り返しのつかないものもあった」

そのまま、ギャレンはその顔を上げ、静かに語り出す。
取り返しのつかない代償、自身の恋人や、志村に殺されたこの場で得た戦友を思い出しながら。
彼の言い分ではBOARDの設立者天王寺も自分を利用することになる、或いはしていたようだが、しかしそれすらも今はどうでもよかった。

彼は剣を握る手が返す刃で鎧を貫きその手をギャレンのそれより鮮やかな赤に染まることすら気にせず、力を込め続ける。

「だが、疑うだけでは、何も始まりはしない。もし何度俺の信頼が裏切られようと、信じ続けてみせる。……ジョーカーを信じた、剣崎のように!」
「くッ、この手を離せ、離せェェェ!!!」

スペックで圧倒的に勝るナイトが全力を込めても、その剣はビクリとも動かない。
それに目の前の橘が持つ融合係数が驚異的な高まりを見せているのを感じて、ナイトは喚き、バイザーでギャレンの身体を乱打する。
しかし、そんな攻撃など意にも介さず、彼はその右手に自身の銃を構えて。

「だから俺は……疑うより、信じてみたい。何より、自分の可能性を!」

瞬間ギャレンがトリガーを引き絞ったかと思えば、放たれるのは凄まじい威力と連射生を持った彼の弾丸であった。
予想だにしなかった威力に思わず剣すらかなぐり捨ててナイトは絶叫と共に後ずさる。
真の姿であったなら或いは封印が可能であったかもしれないダメージを身に刻みながら、しかしナイトは根性とギャレンへの恨みだけでカードを引き抜いていた。

――FINAL VENT

放たれた電子音声は、彼の切り札を意味するもの。
それにギャレンも何とか立ち上がり、自身最大の一撃のためにラウザーより三枚のカードを引き抜く。

――DROP
――FIRE
――JEMINI
――BURNING DIVIDE

ダイヤの5,6,9、それぞれその手に馴染むほど使い込んだアンデッドの力が、今またその身に宿る。
同じく切り札の準備を完了させその身をバイクへと変形させたダークレイダーに跨がったナイトの放った拘束弾をジャンプで躱し、高く高く、跳んだ。
それにナイトも自身の肉体毎ダークレイダーに包み込み、音速の勢いで以て肉薄する。

宙に跳んだギャレンの身が二つに分かたれたかと思えば、次の瞬間彼はその身を翻して。

「ハアァァァァァ!!!」

その爪先と、ナイト自身を弾とした音速の弾丸が接触した瞬間。
辺りは、爆炎に包まれた。


290 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:59:14 1mUuHQx20





「ぐあッ……!」

爆炎のインパクトの後、数秒続いた硝煙の嵐から先に吐き出されてきたのは、ギャレン、否生身を晒した橘朔也であった。
では、志村はどうなったのか、その疑問は、瞬間に霧散する。

「残念だったな、橘……!」

見るからにボロボロな彼を前にして、しかしその身を未だナイトの鎧に包んだナイトが、その姿を現したため。
彼らの勝敗を分けたのはただ一つ、その身に纏う鎧のスペック差があまりに大きすぎたこと。
確かにギャレンの融合係数の跳ね上がり方は元の世界でのいずれをも大きく超えかねない圧倒的なものだったが、しかしそれでもなお通常形態のギャレンでは強化形態のサバイブには及ばなかったのだ。

自身の勝利に酔いしれるナイトを尻目に、やはり自分が決着をつけるべきか、とローズはその重い腰を持ち上げかけて。
しかし傷だらけの橘がなおもその身体を起き上がらせた為に、それを中断する。

「まだだ……、まだ俺は終わってない……!」

限界を超えたダメージを背負い、しかしその瞳に宿る戦意だけは萎えることない橘を視認して、ナイトは大きくため息をつく。
自身の正体がバレた今フィリップの殺害を最優先すべきだと言うのに、その前座である橘にここまで手間取らされるとは。
この身に纏う鎧が決して弱いわけではないことが伝わってくるのも相まって、彼の苛立ちはより一層強まっていく。

「何が、お前をそこまで掻き立てる?」

気付けば、呆れ半分にナイトはそんな言葉を彼に投げかけていた。
自身の見てきた橘のいずれの顔とも違う、目の前にいる彼は、確かに自分が考えていたよりずっとしぶとい存在だったと、認めざるを得ないだろう。
だが、何故。

恋人を失い、仲間を失い、そして何度も騙されあらゆる害を被り犠牲を払ってきたというのに、何がこの男を動かすというのか。
未来で長く見、そして理解しきったと思っていた男の知らない一面に、志村はそんな言葉をかけてしまっていた。
そして、その投げかけに対し橘は思考を巡らせ、しかし最後にその顔に儚げな笑みを浮かべる。

「決まっている……、信じた組織も、愛した人も、尊敬する先輩も、友すら失ったとしても消えない思い……萎えることない思い……、それは、正義だ」

臆面もなく、橘は言い切る。
全てを失い何度裏切られようと自分が信じた正義に殉じて戦う者こそが、自分の信じる仮面ライダーなのだ、と。
しかしそんな橘を見て、ナイトはついに吹き出す。

本当にこの男は、訳の分からない馬鹿だ。
どうしようもなく馬鹿で、そして理解不能な存在だ。
全く以て、こんな男に聞いたところで碌な答えが返ってくるはずもなかったとナイトはそのバイザーを弓へと変形させて。

「なら正義の名の下に死ね。仮面ライダーギャレン」


291 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 17:59:38 1mUuHQx20

躊躇なく、それを放った。
それを受け橘の身体が仰向けに倒れるのも確認せず、ナイトはその身を翻す。
その視線の先にいるのは、先ほど自分を蹂躙した村上、ローズオルフェノク。

彼に先の借りを返すのが先か、フィリップを殺害するのが先か、と自身の標的を見定めようとして。

「――待て」

不意に後方より届いた聞き慣れた声に、思わず振り返る。
そこには、自身の二の足で確かに地面を踏みしめる橘の姿。
何故、まだ立てる。

自分の矢は確かに彼を貫き、その命を刈り取ったはずでは。
そんな疑問が浮かぶ彼に対し、彼はその答えを右手で高く持ち上げた。

「何だ、それは……!」
「――変身ッ!」

ナイトの問いに答えることもなく、橘は叫ぶ。
その手に持つは、蜂型の自立型ガジェット、ザビーゼクター。
彼は今、橘のいかなる状況でも揺るがない正義を目に、自身の力を彼に与えることに決めた。

それは、影山瞬、光夏美、矢車想、北條透……数多の参加者を渡り歩きしかしその身を委ねる運命のパートナーを決めかねていた気まぐれな蜂が、遂にこの場で相棒を定めたのを意味していた。
しかし、そんなことを二人は知らない。
橘は自身の感覚が導くままその力を手にし、そしてナイトは何が起こったのかすら把握できぬままただ狼狽えるだけだった。

――HENSHIN

橘がザビーゼクターを左腕のブレスに装着すると同時、その身は銀と黄に染まっていく。
変身完了を告げるようにその瞳が闇夜に輝くと、ザビーはそのままブレスに収まったゼクターを半回転させて。

「キャストオフ!」
――CAST OFF
――CHANGE WASP

その身から重厚なアーマーが放たれたかと思えば、そこにいるのは全身を黄で染めた仮面ライダーザビー、そのライダーフォームであった。
新しい強さを手に蘇る思いを胸に抱いて、彼は構える。
全ての正義に生きた仮面ライダーの分まで、背負い戦うと決めて。

そんなザビーを前に、ナイトは苛立ちと共にカードを引き抜く。

――TRICK VENT

その音声と共に現れたのは、通算四人のナイト。
単身で、かつ素手のザビーに勝ち目はないように思えるが、しかし彼は諦観の欠片も見せずその手を腰に運んだ。

「クロックアップ!」
――CLOCK UP

電子音声が辺りに響くと同時、彼の時間は周囲から切り離される。
一気に襲いかかったナイトの動きがしかしスローモーションになった間を、ザビーは駆ける。
剣を振り下ろしてきたナイトには拳の乱打を、矢を放ったナイトには同じくザビーゼクターより針を射出。
残る二人のナイトの内、警戒のためか一人を庇い守るように立つそれを思い切り蹴り飛ばし、最後のナイトにその身に宿る切り札を発動する。


292 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:00:25 1mUuHQx20

「ライダー、スティング……!」
――RIDER STING

ゼクターの中心に位置するフルスロットルスイッチを押し込めば、彼の全身に力が沸き起こった。
それが左腕の一点に集中するのを感じながら、橘は思う。

(この一撃で、全てを終わらせる。力を貸してくれ、剣崎、小夜子、桐生さん、そして、ヒビキ――!)

死んでいった仲間の、恋人の、先輩の、友の顔を思い浮かべながら、彼はその力が臨界点に到達したのを感じて。

「ハァッ!」

かけ声一つ、ナイトの鎧を深く突き刺した。





――CLOCK OVER

特殊な時間軸から弾き出されながら、ザビーは大きく肩で呼吸する。
如何にナイトサバイブの鎧が頑強であっても、先ほどの手応えであれば問題なく戦闘不能に持ち込めたはずだ。
そうして志村の下にその足をふらつかせながら向かおうとして。

「なッ……!?」

彼の胸を、紫の光線が打ち据える。
あまりに規格外のダメージを誇るそれに一瞬で変身を解除されながら、橘は大きく転がった。
一体何が、と顔を上げれば、そこにいたのは白の鬼札(ジョーカー)。


293 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:00:41 1mUuHQx20

「殺す……、全員殺す……今、ここで!」
「これが……もう一人のジョーカーの姿か」

フィリップが撮影した悪魔そのものの姿から志村の声が発せられることでその正体を感化しながら、しかし橘の手には対抗する手段がない。
それを見てローズがゆっくりとその足を戦場に向けるも、しかしそれは止まる。
彼の身がその身に宿ったオルフェノクのものから人間のものへ瞬時に変貌したため。

「――これが変身制限、ということですか」

気付けば、もう十分の時間が過ぎていた。
士たちからギアを取り戻さないことには、自分も今の志村に刈られる存在でしかない。
そんな絶体絶命の二人を前に愉悦の声を上げゆっくりとアルビノジョーカーは歩を進め。

「お前らは全員殺す。まずは俺の正体を暴いた村上、それから橘。後の奴らはその後だ」

ククク、と不気味に笑うジョーカーを前に、二人は戦慄する。
しかしその手に漲らせたエネルギーを放つ直前に、そこに近づいてくる足音が一つ。

「――待て」
「乾!」

声に対してそちらを一瞥すれば、そこにいたのは乾巧。
その存在に橘は思わず声を上げるが、しかしすぐにそれは消えた。
何故ならそこにいた彼の身体からは、絶え間なく灰がこぼれ落ちていたため。

「乾さん、まさか貴方は……!」

自身に純粋な驚愕を向ける村上に一瞥だけをくれてやり、巧は白のジョーカーに向き直る。
その腰にはドライバー、その手にはファイズフォン。
それはつまり今から彼が戦おうとしていると言うこと。

満身創痍で自身の前に立つ巧を前に、嘲笑を浮かべるのはやはり志村だ。

「そんな死にかけの身体でまだ俺の前に立とうと言うのは、あまりにも愚かじゃないか?乾」
「さぁな、知ったこっちゃねぇよ」

ぶっきらぼうにそう返しつつ、彼はその手に持つファイズフォンに慣れた手つきで5・5・5・ENTERを入力。
それと共に聞き慣れた待機音声が周囲に響く中、決意と共にその右手を大きく挙げた。

「変身!」
――COMPLETE

次いでドライバーにファイズフォンを叩き込めば、その身はフォトンブラッドの粒子に包まれて。
瞬間そこに現れたのは、ファイズの世界を代表する夢の守人、仮面ライダーファイズ。
その身を暗夜に輝かせながら、彼はその手にファイズエッジを構え、かけ声と共に突貫する。

相対するジョーカーがそれを受け止めたのは、園田真理を殺したデスサイスの名を持つ鎌。
それに対し一層大きくファイズが吠えたことで、戦いの幕が切って落とされたのだった。


294 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:01:03 1mUuHQx20





「クソッ……何でこうなるんだよ……!」

時間は少しの間巻き戻る。
志村の犯行自白を聞き届け橘が戦地に向かうのを見た戦士たちが彼の加勢に向かおうとした瞬間に巧が蹲ってしまったのだ。
良太郎がイマジンと契約したのかと巧を訝しげに見る中で、一人事情を知っている士は静かに口を開いた。

「見ての通りだ、こいつの命はもう、消えかけてる」
「何だって……、それはどういうことだ、ディケイド」

思わず掴みかかりそうになる拳を収めながら、フィリップが問う。
それに対しまたも説明を開始しようとした士を制したのは、巧であった。

「そのままの意味だ。俺はもう寿命で、多分何をしてももう何時間もしないうちに死ぬ。……どこまで持つかも、正直分からねぇ」

そう言って、彼は一旦灰の止まった掌を見る。
しかしもうそれが人の形を留めているのすら奇跡といえる状況で、彼が笑顔を浮かべるはずもなく。
それに対しやるせなさに息を吐き出したのは、フィリップであった。

「そんな身体で、ライジングアルティメットと二回も戦ったりしたら……寿命が縮まって当然だ……!」

言われて、巧は思い出す。
人間に捕まりオルフェノクの細胞を破壊し寿命を縮める薬を投与された後に戦った相手は、どれも強大極まりなかった。
オルフェノクとして生きる決意を固めた木場、オルフェノクの王、そしてここに連れてこられてからもテラーにユートピア、ガドルにライジングアルティメット、そしてウェザー……。

そのどれもが万全の装備を備えても勝利を確信できるような相手ではなく、またその戦闘でファイズを、オルフェノクの力を使う度に、彼の寿命は加速度的に摩耗していった。
元々ファイズの鎧を走るフォトンブラッドはオルフェノクにとって害になるものなのだから、弱り切った身体で纏えばそうした副作用が如実に出ても仕方なかったのだ。
しかし彼は文字通り命を燃やし戦い続けた。

その身が崩れ去るその瞬間まで、何かを守るために戦いたい、とそう願って。
しかし、もうそれも叶うまい。
先ほど村上に遭遇した際オルフェノクの力を使い戦闘に至らなかったのは、禁止エリアなど理由ではなく、オルフェノクとして戦えばあそこで寿命を迎えるだろうことを、理解してしまったからだ。

理屈ではなく直感での理解だったが、恐らく間違ってはいない。
その証拠として、今この瞬間に戦闘を介してもいないのにこれほどの灰がこの身から吐き出されているのだから。

「おい、フィリップ、良太郎。こいつを頼む、俺は橘を助けに行く」


295 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:01:20 1mUuHQx20

ふと気付けば、士がフィリップと良太郎に言伝を残して志村と戦いに行こうとしているらしいことが見て取れた。
今の自分の感覚では橘が去ってから数十秒しか経っていないはずだが、見れば橘は変身を解除されている。
とうとう意識まで自分の思い通りにならなくなったらしいと自分を笑おうとして、乾いた声しか絞り出せなかった。

それに士も思わず振り返る中、彼の背中に隠れて今の今まで見えなかった志村の現在の姿を視認する。
それは、フィリップの撮影した通りの、白い悪魔。
その姿を見たとき、巧は自身の目にもう一度戦意が燃え上がるのを感じて。

「門矢、あいつは俺がやる」
「だが、今のお前があいつと戦えば……」
「やらせてくれ」

いつもよりずっと力の入らない足を手で支えながら、巧は立ち上がる。
その彼の姿を見て、士は諦めたようにため息をついて「わかった」とだけ短く呟いた。
その言葉と何より彼の目に込められた数々の思いをしかと受け取りながら、巧は今また橘の命を奪おうとその足を進める悪魔に向かう。

一歩一歩足を動かす度に身体から力が抜けていくのを感じつつ、しかしその胸に宿る思いは前よりもずっと熱く抱いて。

「――待て」

確かな声で、彼は戦士としてその場に立った。





ファイズが放つ未知の粒子迸る紅の剣を、その手に持つ鎌で受け止めるのは、彼に対峙するジョーカーであった。
しかし、数回の打ち合いしか成していないというのに、もうファイズの肩は上がっている。
既に限界を超えたダメージを蓄積した中で寿命をも迎えかけているのだから、それは最早どうしようもなく当然のことであった。

しかし彼の中の闘志は衰えず、むしろ高まっていく。
だがそんな彼と相対するジョーカーは嘲笑を浮かべ。

「どうしました、もう限界ですか?“乾さん“」
「――ッ!」

明らかな挑発に対しかけ声一つエッジを大きく凪ぐが、しかし難なくそれを躱されむしろその腹に蹴りを食らってしまう。
それに呻き声を上げる暇もなくその身にヘルファイアの炎が容赦なく降り注いだために、ファイズは大きく吹き飛ばされた。
その身を木に強く打ち付けながら、ファイズはそのまま力なく座り込む。

目前に徐々に迫り来る白いジョーカーを見やりながら、ファイズは二人の男を思い出していた。

『――冴子は、僕の妻でね。ここに来る前に少しいざこざはあったけど、賢く美人で、自慢の妻なんだ』

知り合いについて情報を交換している時に、どこか遠くを見ながらしかし嬉しそうにその名を言っていた霧彦のことを。
彼が街と同じほどに愛した生涯ただ一人の伴侶、それをこいつが、殺した。

『あきらは俺の弟子じゃなかったけど、よく知ってるよ。ちょっと融通聞かないこともあったけど、真面目で良い子だった』

イブキにどう言えばいいんだろうなぁとぼやきながらあきらとの思い出を考えるヒビキのことを。
彼が気にかけた友の元弟子で、既に一般人として鬼の道を諦めた、しかし心優しい彼女を、こいつが、殺した。
それを思う度、彼の既に消えかけたはずの腕の感覚が鮮明になっていく。


296 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:01:36 1mUuHQx20

勢いよく顔を持ち上げそのままジョーカーの振り降ろす鎌をその剣で受け止める。
限界を超えたファイズの攻撃に狼狽えるジョーカーを気にもとめず、ファイズは自身のドライバーに手を伸ばした。

――EXCEED CHARGE

瞬間彼の身体を走ったファトンブラッドは、彼の右手に流れ込み、その赤い刀身を一層輝かせた。
それにジョーカーが反応する前に、彼は大きく剣をなぎ払い。
スパークルカットの名を持つ一撃を、デスサイスにぶつける。

それを受け数瞬デスサイスが悲鳴を上げるが、しかしそれすら気にせずファイズはエッジを振り切った。
赤いφの字が宙に浮かぶ中、ジョーカーは苛立ちと共に半分に折れたその得物を投げ捨てる。
それを機とみたかファイズはミッションメモリーをファイズショットに入れ替え、その手につけたファイズアクセルから黒と赤のミッションメモリーを抜き去って。

――COMPLETE

それをファイズフォンに挿入すれば、その身は一瞬で黒の身体に銀のラインの走る戦士、仮面ライダーファイズアクセルのものへと変貌する。

――START UP

防御力と引き替えに驚異のスピードを得た彼は、傷つき既に限界の身体をしかし加速してジョーカーに神速の勢いで肉薄。

「――ラァァァァァァッ!!!!」

咆哮と共に縦横無尽に飛び交いそしてその拳を幾度となくジョーカーに放つ。
全ての彼に騙され殺されたものたちの怒りを、その拳に込めるように。
ヒビキという、誰もを信じ心を開く誰よりも大人だった男の思いも乗せて。

「いい加減に……しろぉ!」

しかしそれを受けるジョーカーも何時までもただでやられているはずはない。
いきなり周囲を紫の閃光が支配したかと思えば、それは辺りを爆炎で包み込む。
まるで自分がその神速の勢いについていけないなら、全てを破壊すればいいと言わんばかりの乱雑な攻撃だった。

しかし、それは少なくとも攻撃のみに神経を振り絞っていたファイズが相手のこの状況では、有効であった。
ただでさえ薄くなったアーマーの、その奥のコアに衝撃が直接到来して、ファイズは形容しがたい悲痛な叫びを以て大きく吹き飛ばされた。
強かにその身を地面に仰向けに横たえながら、その身を通常のファイズのものへと変えて。

まだ倒れるわけにはいかない、まだ諦めるわけにはいかないとそう感じながらも、抗いがたい睡魔に襲われて。
巧は、遂にその瞳を閉じた。





――目を覚ますと、そこは緩やかな斜面をした緑の大地であった。
それは確かに自分がこの場に連れてこられる前、真理と啓太朗と共に寝転がっていた河原の土手。
今までの全てが夢だったのか、と巧が混乱しつつも、ここは本当に気持ちの良い場所だとその心地よさのままにその目を閉じかけるが、しかしそんな彼に対し降ってくる声が一つ。

「――乾君、良い場所を知っているものだね、ここは風都のように良い風が吹く」

ふと声のした左側に視線を移すと、そこには既に死んだはずの霧彦の姿。
どうしてお前が、そんな投げかけを本来ならするべきだろうが、それをする気にはなれなかった。

「あぁ、たまにはこうして地に寝そべり天を見上げるのも悪くない」

右側から聞こえた声に振り向けば、そこには自身や霧彦と同じく仰向けに寛ぐ天道の姿。
既に死んだものたちが何事もないように自分と会話していることをしかし不思議に思うこともなく、彼は導き出した一つの答えを口にする。


297 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:01:51 1mUuHQx20

「死んだのか、俺」

遠い目をしながらそう呟くと、しかし心のどこかがすっと軽くなるのを感じた。
もうこれ以上誰かの為に戦う必要もない、痛い思いも、辛い思いもしなくていいのだと。

「――本当に、それでいいのか?」

天道が、自分の心を見透かしたようにそう問う。
その顔はいつもの彼のように自信満々といった様子ではない。
ただ、本当に問うているのだ、自分の覚悟が、その程度のものだったのか、と。

それに対し、巧は黙って空を見上げる。
多くの人を騙し殺したあの悪魔は、許されざる邪悪だ。
しかしそれに負けて死んでしまった自分が、これ以上何か出来るとでも言うのか。

あれだけ頑張ったのだからもう休んでもいいではないか、と生前には抱くことのなかったような思いを顔に浮かべつつ、しかしそれを口にはしない。
それを口にした瞬間全てが終わってしまう気がしたのはもちろん、それだけでは終わらない自分が確かにいるのを感じたから。

「乾君、君が今死んだら、僕のスカーフはどうなるんだい?一体誰がそれを洗濯するなんて思うんだ?」

黙りこくる巧に、霧彦が起き上がりつつそう問う。
その顔には笑顔が浮かんでいたが、それは本心から彼を嘲るものでなく、彼の出す答えが分かっているための悪戯な笑顔に見えた。
それを横目で見やりつつ、しかし巧は何も言わず寝そべるまま。

「――お婆ちゃんが言っていた」

そんな巧に降ってくるのは――あぁ、見なくてもわかる――その人差し指を天に向け、儚げな表情を浮かべた天道の声。

「人に足が生えているのは、天に少しでも近づこうと努力した結果だ、もし地に伏せ空を見上げるだけでは、天に届くことはない、ってな。――お前も俺の夢を継いだなら、立ち上がれ、乾」

お前が天そのものだって言いてぇのかよ、と相変わらず主語の大きい彼の言葉をしかしどこか微笑ましい気持ちで受け止める巧。
彼は黙ったままだったが、しかしその顔には先ほどのような緩やかな死に対する思いは見られなかった。

「あーあ、ったく少しの間寝させてもくれねぇってのかよ」

がばっとその身を一気に起き上がらせながら、巧はぼやく。
その髪をぼさぼさと掻きむしって、その手に灰がついていることに、最早何も感じぬままに。

「心配するな、これで終わりだ。それが終われば、彼女にも会える」

達観したようにそう呟く天道の声を聞きながら、彼の意識はぼやけていく。
いや、むしろ急速に浮上して言っているという方が、正しいのか。
ともかく、天道の言う彼女、というのが誰なのか、思考の纏まらぬままに彼はその瞳を閉じかけて。

――巧!





もう一度目を覚ましたとき、そこにあったのは先ほどとは違って冷たい大地と戦闘による嗅ぎ慣れた、しかしいつまで経っても嫌な臭いだった。
その身を先ほどより何倍も重く感じながらしかし起き上がると、目前のジョーカーは今度こそ恐怖にも似た声を上げた。
橘朔也に、乾巧、呆気なく刈り取れると思ったはずの命が、何故こうまで自分の邪魔をし続けるのか、何も理解できないと言わんばかりに彼は狼狽する。


298 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:02:09 1mUuHQx20

その姿に仮面ライダーの何たるかを深い部分で理解していなかったと判断できて、巧は思わず彼を笑った。

「何が可笑しい……もう死にかけの分際で、全てを支配し永遠に生き続けるこの俺を……笑うなぁ!」

それに怒りが爆発したのか、ジョーカーは猛進する。
先ほどまでの冷静さを、どこかに置き去りにしたように吠える彼を前に、ファイズは手首をスナップさせるのみ。
思い切り振りかぶったジョーカーの拳を刹那で躱しながら、ファイズはその右手を強かに彼の腹に放った。

呻き声と共に緑の血を吐き出す彼を前に、ファイズはその手にポインターを持ちながら、ふと思い出したことを口にする。

「――そういやお前、真理がお人好しって言ってたっけな」

その言葉は先ほど自分が村上に対して放った言葉だったはずだ、とジョーカーは思い出す。
しかし何の脈略もなく放たれたその言葉に、彼はただ困惑を残して。

「あの女はなぁ、お人好しなんかじゃねぇんだよ。俺が猫舌なのを知ってて夕飯に鍋焼きうどんを出してくるような、意地の悪い女なんだ」
「……何が言いたい?」

どこか遠くを見ながらぽつりぽつりと漏らすファイズに、思わずジョーカーは問う。
しかしそれを気にもせず、彼はドライバーに手を伸ばした。

――EXCEED CHARGE

放たれた電子音声と共に高まりゆくエネルギーを感じながら彼は妨害せんと近づいたジョーカーを殴り飛ばす。
今までを大きく超えるようなその拳のダメージにジョーカーが呻く中、彼は大きくその身を飛び上がらせて。

「――あいつを何もしらねぇくせに、偉そうにあいつを語ってんじゃねぇ!!!」

かけ声一つ、その右足を真っ直ぐにジョーカーに向けた。
瞬間、彼の身体を赤い円錐と共にファイズが貫いて。
その白の身体に大きくφの記号を浮かび上がらせながら、ジョーカーは、その身をゆっくりと倒した。





「……ぐっ」

呻き声と共に仰向けに横たわるのは、この場で志村純一、正義の仮面ライダーを名乗ったアルビノジョーカーであった。
自身の正体が村上にばれた時彼は、この場で殺せるだけの人間を殺してすぐに離脱することを考えた。
その場に現れた橘に負けはないと確信を持って挑んだが、勝負は痛み分け。

どころか手にするナイトの鎧がギャレンのそれを本来大きく凌いでいることを考えれば、負けを認めなくてはならないもので。
それは橘という男を長年見下し続けてきた彼には心底納得のいかないものだった。
故に彼だけでも殺す決意を以て本来の姿に変じたが、そこに乾巧が現れた。

とはいえ既に灰を吐き出し見るからに死に体だったために容易に殺すことが出来るだろう、彼と橘、村上を始末してこの場を去ろうと考え、戦闘を開始したのだが。
その結果が、これだ。
ほぼ万全に近い装備を得ながらの敗北に、彼は全く理解の追いつくことが出来なかった。

と、ふと視線を動かせば、そこには自身をこの状況に追い込んだ村上がいた。

「何の……用だ」

息も絶え絶えにそう彼に問いかけると、村上は自分を興味深げに見つめ。


299 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:02:28 1mUuHQx20

「あなたの敗因はたった一つですよ、志村純一」

そう言い放った。
自分の敗因などという言葉に、志村はただ困惑する。
そんなもの、自分が彼らの実力を見誤ったとも思えないし、彼には一切理解の追いつかない部分であった。

「――あなたは、もっとも怒らせてはいけない男を怒らせてしまった……、ただそれだけです」

それが、自身を打ち倒した乾巧のことなのか、自身のペースを掻き乱しナイトを打ち破る大金星を上げた橘朔也のことなのか、それともそもそも彼らと戦う状況にまで持ち込んだ村上自身のことなのか。
そのいずれかは全く見当のつかないものの、彼はそれ以上村上に問うことも出来なかった。
パキン、と気持ちの良い音が響いた後見覚えのある緑の光に自分が包まれ、その意識を深い闇の中に、彼の身体は封印のカードの中に押し込められたのだから。

それを静かに拾い上げながら、村上はゆっくりとその場から踵を返し静かに離れていくのだった。





志村純一がその身をカードの中に封じ込められたのを見て、フィリップは姉の敵が取られたことを実感する。
出来ればこの手で討ち取りたかったが、士から事情を聞いた巧の戦いを、自分が汚すわけにもいかないとそう思い、その戦いを見守ることにしたのだ。
戦いが終わってもなおただ天を見上げるのみで立ち尽くすファイズに近づきながら、フィリップは慎重に言葉を選ぶために思考を巡らせ続ける。

「乾巧……君は――」
「言うなフィリップ、何も言わなくて良い」

かけるべき適切な言葉が見つからないながらにその口を開いたフィリップを、ファイズは止める。
その少しの動作だけでファイズの鎧でも抑えきれぬほどの灰が全身から吐き出されて、事情を聞いていない橘にも彼に先はないことを察することが出来てしまって。
誰もが黙り続ける沈黙の中で、しかしファイズはゆっくりとその顔を上げた。

「お前らに、夢……ってのはあるか」

唐突ながら聞いたそれは、その実問いではない。
ただ彼らの胸に自分自身が聞けばそれでいい、そんな言葉であった。

「俺は、他人からたくさん夢を託されてきた。例えば、霧彦とかな」

言いながら自身の懐より彼のスカーフを取り出したファイズは、それをフィリップに手渡す。
そのスカーフには幾分か灰がついていたが、しかしフィリップはそれを払うことはしなかった。

「フィリップ、このスカーフを洗濯してやってくれ。そしてお前の街で、一番良い風が吹くところにおいてやってほしい。それが、あいつの夢だった」
「当然だ、任せてくれ」

真っ直ぐな瞳で、しかしその眼を赤く充血させ潤わせながら言う彼を見て、ファイズは少し笑った。
それがなお悟った人間の笑い方のように見えて、フィリップは思わず彼を直視できなくなってしまう。
それを気にする暇もなく、彼は今度は士の方へ振り向いて。

思えば短い間の仲だったが、色々知った口を聞かれ様々なことを思った男だった。
こいつが破壊者だとしても、信じようと決めた自分を泣かせぬ為にも、彼は一歩進む。

「それからこれは、天道総司って男の夢だ。あいつと同じ顔をした、黒いカブトに変身する男に伝えてくれ。アメンボから人間まで、全ての命を平等に守る、それが天道の夢だってな」
「――あぁ、わかった」


300 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:02:52 1mUuHQx20

返答に僅かに時間を要したことを少し気がかりに思いながら、彼は最後にそこにいる全員の顔を見渡す。
フィリップ、士、橘、良太郎、全員、善良な仮面ライダーであるはずだ。
少なくともこの中に志村のような正義を利用する邪悪は存在しないと、彼は信じたかった。

だから、継いでもらおう。
自分の夢も、彼らになら任せられるから。

「それから、これは俺の夢だ、お前らに、後を任せたい。世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、皆が幸せになれるように。……これが俺の夢だ」

そう言って目を閉じかけて、もう一つ夢を思いつく。
どうせ最後なのだから、少しくらい臭い台詞も悪くない、とそう感じて。

「そして、皆の夢が、きっと叶いますように――」

そこまで言うと、彼の身からファイズの鎧は失せていく。
変身制限を迎えたために、その役目を終えたのだ。
しかしそのフォトンブラッドによる輝きが消えた後、そこにいるはずの巧の姿はもう存在しなかった。

灰の山に置き去りになったファイズドライバーと首輪を見て、しかし誰も泣いたりはしなかった。
彼という男が自分たちに残した夢の意味を、これ以上ないほど分かっているつもりだったから。
風にさらわれていく灰はいずれ、彼の友が愛した街や天にも届くと、そう確信できたから。





「なるほど、ここにカイザドライバーがあったのですね」

乾巧の死にただ一人その場で向き合わなかった男、村上は少し離れたGトレーラーで自身もよく知る王を守るためのベルトの一本を見つける。
草加雅人に支給されていただろうそれに全てのツールを取り付けながら、他の支給品に目を移そうかと考えたその時。

「――ここで、何してるんですか」

ふと、後方から訪れた声に振り向いた。
そこには、未だイマジンも取り付いていない生身の野上良太郎の姿。
それを視認しながらも、しかし彼は別段驚いた様子もなかった。

「貴方がここにいると言うことは、乾さんは逝ってしまったんですね」

ゆっくりと空を見上げた彼に、良太郎は警戒の目を向け続ける。
その手には自分のデイパックの他にもう一つを持ち合わせているようで、恐らくは村上のものだろうことが把握できた。
自分に届けに来たのだろうそれを受け取ろうと手を伸ばせば、良太郎は抵抗するようにその手を引っ込める。


301 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:03:07 1mUuHQx20

恐らくはこんなところで単身行動していたことを彼は訝しんでいるのだろう。
それに気付いたのか、村上はいつものようにふっ、と笑ってGトレーラーより舞い降りた。

「心配しなくとも、このドライバーを秘匿するつもりなどありませんよ、私は志村純一とは違い、皆さんを出し抜くつもりなど少しも持ち合わせてはいない」

恐らく問題なく私のものと認められるでしょうしね、と意味深な言葉を続けながら、彼はカイザギアを手に垂らす。
それを見てもなおデイパックを渡そうとしない良太郎に困惑の表情を向けると、彼はその瞳を先ほどと同じく真っ直ぐ向けた。

「何で、乾さんが死ぬとき、そばにいなかったんですか」

その声は、静かな怒りに燃えている。
彼の死に際にこんなところで自分の戦力を確保している動きが単純に気に入らなかったということか、と村上は思い至った。
その程度のことで、とも思うが、しかしここで彼の機嫌を損ねれば今後自分の主催戦での立場も危うい。

それは新たに抱いた自分の方針にも背くことになる、と彼は一つ息を吸い込んで。

「彼が死ぬ間際に私がいる必要はないからですよ、それに――」
「あなたが乾さんと敵だからですか?あんなになってまで戦ったのに、その人が死ぬときまで、あなたは彼を憎んでたんですか?」

記憶。
それは人と人を繋ぐなによりも大事なものだ。
電王として戦い、また記憶を犠牲に戦う侑斗を目にして、その思いは良太郎の仲で非常に大きいものになった。

だから、その人を覚えている人の記憶は、一つでも良いものを持っていて欲しかった。
例えば死に際に残した言葉などは、その人の人となりを表すようなものだ。
だからそれを聞かずもしも村上が巧を恨み続けているというのなら、それは絶対に彼にとって許せないことであった。

しかしそれを聞いた村上は何も思うところはないようにいつものような凜とした顔をしている。
それに思わず良太郎は声を荒げそうになって、しかし村上はそれを制しゆっくりと話し出した。

「――あなたは何か勘違いをしているようだ。確かに彼と私の間には深い確執がありました。しかしそれはお互いの信念に基づくものだ、それが消える死の後にまで、私は彼という有能な同族を憎んだりはしない」
「なら、なんで……」
「私がいては、彼が笑顔で逝くことが出来ないからですよ」

村上は、臆面もなく告げる。
それに呆気に取られた良太郎を気にも留めず、彼は良太郎を真っ直ぐ見据えて。

「人は泣いて産まれてくる。それは仕方のないことですが……しかし死の瞬間の表情を決めるのはその人自身だ。私は、死の瞬間浮かべる表情にこそその人物の全てが現れると思っている」

自身の人生哲学を語る彼に、良太郎は何も言えない。
それを見ながら、しかし村上は続ける。

「私の信頼に応え志村純一を打ち倒した乾さんは、上の上たる存在だ。そんな存在が死に際に私の顔を見てその表情を曇らせるというのなら、私はその死に際から潔く去りましょう」

彼の言い方からすれば死に際の志村の前に現れたのはその逆という意味か、と良太郎は思うが、ともかく。
そこまでを一気に言い切って、村上は息をつき、しかしまた顔を持ち上げた。

「――乾さんは、笑顔で逝きましたか?」
「わかりません、最後まで、変身していたので……」
「そうですか」


302 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:03:21 1mUuHQx20

短く答えた村上は、そのままゆっくりと廃病院の方へ足を進めようとする。
良太郎の手から力なくぶら下がるデイパックを受けとり、その中にカイザギアとオーガフォンを詰め込んで。

「――あの!」

その背中に、思わず良太郎は叫ぶ。
それに思わず振り返りながらも、村上は意外そうな表情を浮かべた。

「何ですか、野上さん」
「何で貴方は人間とオルフェノクの共存を考えたりしないんですか、そんなにオルフェノクに優しいなら、人間と戦わない道を探すことだって――」
「――我々に戦争以外の道はない」

どこまでも甘い良太郎の言葉に対する村上の言葉は、先ほどよりも強かった。
そこに揺るがぬ彼の持つ正義を感じて、思わず良太郎は怯んでしまう。
そんな彼を見て「もう結構ですか?」と踵を返し廃病院に向かう彼を見やりながら、しかし良太郎は彼を悪と断じることは出来ぬままで。

「それでも、僕は信じたい。貴方のことも、オルフェノクと人間が共存できるってことも」

誰からも甘いと断じられそうな危うい思考を抱きながら、しかしその瞳に誰より強い意志を抱いて、彼は村上の後を追うように駆け出した。
もう、誰も死なせたくないと決意を新たに抱いて。
誰よりも弱い彼は、しかしそれでも諦めず何かを救うために今日も走るのであった。


【乾巧@仮面ライダー555 死亡確認】
【志村純一@仮面ライダー剣 封印】
【残り20人】


【二日目 深夜】
【E-5 病院跡地】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、サイガ、コーカサス)@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:巧に託された夢を果たす。
2:友好的な仮面ライダーと協力する。
3:ユウスケを見つけたらとっちめる。
4:ダグバへの強い関心。
5:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
6:仲間との合流。
7:涼、ヒビキへの感謝。
8:黒いカブトに天道の夢を伝えるかどうかは……?
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、ファイズ、ブレイド、響鬼の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※参戦時期のズレに気づきました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は光夏海以外には出来ないようです。
※巧の遺した黒いカブトという存在に剣崎を殺した相手を同一と考えているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


303 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:03:38 1mUuHQx20




【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(中)、仲間の死に対しての罪悪感、自分の不甲斐なさへの怒り、クウガとダグバ及びに大ショッカーに対する恐怖(緩和)、仲間である仮面ライダーへの信頼、仮面ライダーギャレンに1時間45分変身不能、仮面ライダーザビーに1時間50分変身不能
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW、、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×4、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードは付いてません)@仮面ライダーカブト、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:まずは今後の方針を考える。
2:乾に託された夢を果たす。
3:首輪の種類は一体幾つあるんだ……。
4:信頼できる仲間と共にみんなを守る。
5:小野寺が心配。
6:キング(@仮面ライダー剣)、(殺し合いに乗っていたら)相川始は自分が封印する。
7:出来るなら、始を信じたい。
【備考】
※『Wの世界万能説』が誤解であると気づきました。
※参戦時期のズレに気づきました。
※ザビーゼクターに認められました。
※首輪には種類が存在することを知りました。




【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ 、仮面ライダーサイクロンに1時間45分変身不能
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+(T2サイクロン+T2エターナル)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル
【思考・状況】
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除は、状況が落ち着いてもっと情報と人数が揃ってから取りかかる。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※鳴海亜樹子と惹かれ合っているタブーメモリに変身を拒否されました。
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をエクストリームメモリのガイアスペース内に収納しています。


304 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:03:54 1mUuHQx20




【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダー電王に1時間45分変身不能
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。
0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。
1:まずはここで情報を交換したい。
2:巧に託された夢を果たす。
3:リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:相川始を警戒。
6:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※変身制限について把握しました。
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。




【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、バードメモリに溺れ気味、ローズオルフェノクに1時間45分変身不能
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)、ラウズカード(アルビノジョーカー)@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:人は許せない、がここでは……?
2:まずは情報を交換したい。
3:乾さん、あなたの思いは無駄にはしませんよ……。
4:世界の破壊者、という士の肩書きに興味。
【備考】
※変身制限について把握しました。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。
※今後この場で使えない、と判断した人材であっても殺害をするかどうかは不明です。


【全体備考】
E-5エリアに志村純一のデイパックと首輪、乾巧のデイパックと首輪が存在しています。


305 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/08(木) 18:13:26 1mUuHQx20
以上で、投下終了です。
今回のタイトルはネタバレになりかねないので下げますが、

































>>267から>>275までを『time――trick』
>>276から>>285までを『time――liner』
>>286から>>293までを『time――rebirth』
>>294から>>304までを『time――out』
としたいと思います。
……たっくんが寿命で死ぬなら、正直このタイトル以外ないと思っておりました。
では、ご意見ご感想、ご指摘などございましたら是非ともお願いいたします。


306 : 名無しさん :2018/03/08(木) 21:17:21 jjgkPGDE0
投下乙です!
多くの仮面ライダーを騙し、そして暗躍し続けた白の鬼札がついに倒れましたか!
志村の暗躍に気付く為に取った社長の策や、そして志村に対して全力で立ち向かったたっくん達の姿が実に熱いです!
たっくんが霧彦さんや天道、そして真理から励まされるシーンも切なくて、たっくんの儚さが実に感じられました……
橘さんや良太郎もきちんとけじめをつけましたし、そして死にゆくたっくんの願いを汲み取ってくれた社長も印象的です。実際社長は、何度も敵対したからこそたっくんのことを理解できたのでしょうし

そして残された参加者もついに三分の一となりましたか……果たして、この物語はどんな決着を迎えるのか


307 : 名無しさん :2018/03/08(木) 23:46:03 ASbTfLn60

大作の投下、お疲れ様です。
まさに、まさに「罪と罰の中 正義は勝つとまだ言えるの」に叫び返すような傑作でした。仰る通り、たっくんの最期の時間を描くのにこれほど相応しいタイトルはないかと……!

またこのタイトルだからこそ、ここまで出遅れていた感じのあった良太郎も遂に主人公の面目躍如。
志村純一の偽りの正義を、彼の真実だと「記憶」して欲しくないから、邪悪の嘘に勝たなければならない……良太郎だからこそ言える、熱い想いでした。

そんな良太郎と対になるように、乾巧の最期を慮った村上社長の哲学が素敵。ただ種族が違うだけなんですよね……それこそが大きな断絶でもありますけれど。
しかし完全にニーサン相手に優位に立ったのは流石首領格の怪人。あんなに頑張ったのに死亡を喜ばれちゃった乃木さんの後を継ぐ対主催の要枠にもなり得そうな社長の今後に色んな意味で期待ですね。

そして「橘さんを騙したら死ぬ」フラグが遂に回収されてしまった純一ニーサン。ラスボス級の強豪マーダーでしたが、確変橘さんと命、燃やすぜなたっくんとの激戦は流石に越えられなかった……ロワの牽引役としてお疲れ様。
たっくんは最期、背負いすぎたものを皆に託せて良かったね……きっと上の上な終わり。もやしはちゃんと擬態天道に伝えてあげてね(ダグバ戦の様子を見ながら)。

他にも、個人的には音也に「心火」を再燃させられたというネタにクスリとさせられたり、良太郎を後押しする形で説教用BGM timeを確保したり、ちゃんと爆殺しない相手には「覚えなくて良い」な通りすがりの仮面ライダーと、もやしの魅力が素晴らしく発揮されていたのも見所でした。

今回も結構な長文となってしまったのに、まだまだ全然感想が書き足りないぐらいの名作でした。改めて執筆お疲れ様です!


308 : 名無しさん :2018/03/15(木) 02:35:02 oyS8okP.0
投下乙です。
ここで第二回放送後の最初の死亡者が。
初代ライダーロワでトップの登場話数だったたっくんは相変わらずの美味しさ、トップマーダーを一人倒しての退場。
良太郎や橘さんも「あれ?これは今回で死亡……?」と思うくらいに描かれていた後で、まさかのたっくんという流れに驚きでした。
タイトルも伏せていただけあって、まさかのキャラ選。本スレで追わないとわからないドキドキでしたね。

そして意外な一面を見せた村上。原作でそこまで深く描かれず、人類との共存を夢見た事があったという言葉の真偽もわからなかった彼。
そんな村上については独自解釈という形になるのかもしれませんが、過度に感傷的ではなく、チームの仲間を前にした行動としては合理的ながら情もあり、「有能な同族だったから」という至極わかりやすい理由でたっくんを慮る姿は違和感もなくカッコいい。
「原作の延長線上で似たシチュエーションがあったならこう描かれても良かったんじゃないか」と思えるくらいに素晴らしいキャラ付けでした。かっこいい。
ちゃっかり555もカブト同様、「意外な残り方」をしていて面白いです。地味めなキャラが残ってますが、それでも話を面白く展開できそうなフラグが結構残ってますね。

士もちゃっかりここまでで10名のライダーの半分のライダーカードを手に入れてるんですね。
残り人数は20名と1/3で、かなり終盤っぽくもあるんですが、まだまだ色んな展開が期待できそうな場面が多いです。
ここから先も非常に楽しみな状況です。


309 : 名無しさん :2018/03/15(木) 08:24:58 RuJyscmk0
気になるパートがまた予約されてるな


310 : ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 02:57:56 gv8rKMJw0
予約分を投下致します。


311 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 02:59:27 gv8rKMJw0



 ファンガイアの王となった青年――紅渡。
 彼の中の時間は、師、名護啓介と出会った瞬間に停止した。

 一方、渡と会う覚悟と正義を秘めた青年――名護啓介。
 彼の中の時間は、こうして渡と再びまみえた瞬間に再び動き出していた。

 時間の感覚が異なった二人の音は調和しない。

 お互いが出会った時の思惑も違えば、互いの主張も、立場も、ここに来た時間も、戦う手法も違う。
 しかし、渡は名護啓介という男を誰よりも尊敬しているし、名護もまた紅渡という男の優しさに光を見出している。
 ただその一点だけが、いまこの二人が二重奏を美しく奏でられる要素だった。



♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪



 渡にとってみれば、名護啓介の出現はこの場で最も忌むべき事象だった。ここに来て、殺し合いに乗り、キングとなってから……何度音也や名護と出くわす事を想定したかわからない。
 しかし、いざそうなった時にどうするかはまだ答えを出し切れていなかった。
 まるで喧嘩をして家を飛び出した後にもう一度家に帰るような、うしろめたさと気まずさが彼の心の内を取り巻いていた。

 勿論、まったく覚悟していなかったわけではない。会う事があれば前のようにはいかない事もわかっていた。――だが、想定と現実は、往々にして異なるものだった。
 こうして出会ってしまうと、非情に対処したいという想定を、何かが害してくる。
 その躊躇と引っ掛かりが渡の中の時間を止めた。

 最初の一声をかける事が出来たのは、名護の方だった。

「渡君」

 力強い呼びかけだったが、そこには敵意や怒りはなかった。何かの覚悟の込められた、正義感の名護のいつもの声色。
 しかし、その何気ないたった一声が、渡の中の返事を促す。
 渡の中の時間も、遅れて動き出す。

「――名護さん。僕の名はもう紅渡じゃありません。ファンガイアの王……キングです」

 何度となく誰かに向けた、この返事だ。こうして、渡という名前を拒絶し、この新しい名前を告げる事で、己の決意とここから先の生き方を思い返せる。
 名護の前でそれを告げる事には、渡も気持ち悪さを感じた。他人に告げるのと、親しい人に告げるのとでは、胸の内に広がる物が違いすぎる。
 だが、その決意を告げる勇気のない者には進むべき道はない。たとえ敬愛した相手の前であっても、怖じる事は負けを意味するように感じられた。
 ひとたび言葉を発する勇気を超えた後は、もう引けない。
 力強い面持ちで名護を睨みつける。

「これからは貴方も、僕の事はキングと呼んでください」

 続けて、そう告げた。
 渡の中の時間が動き出す。
 今度は名護の中の時間が止まる。

(やはり、……そうか)

 その拒絶の言葉を聞き、その瞳を見た時――名護は、記憶の中である一つの時期の渡を思い浮かべた。
 同じようにして渡が名護の前でキングを名乗ったのは、ほんの少し前、実感として一週間程度前の出来事である。


312 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 02:59:55 gv8rKMJw0

 渡は、ごく最近同じようにキングを襲名し、登太牙からその座を奪還しようとした。尤も、それは太牙を守る為の彼なりの考えであり、その行動もすべて本気とは言い難かったが――今回はどうやら様子が違う。
 まぎれもない本気だ。
 あの時とは、何かまた別の事情が――本気にならざるを得ない理由があるように聞こえた。
 ナイーヴな彼がどこかで傷つき、そこから誤った考えで掬い上げられたのは何となく想像ができる。
 少なくとも、おそらく名護の訪れた時間より少し前の時間軸が彼の元の居場所な事は間違いないと思えた。まあ、理性の失せた形でないのならまだ幸運と云えた。対等以上に話し合う事ができるシチュエーションだ。

 それに、紅渡は――名護が出会ってきた中で、誰より優しい青年だ。
 思い出す。彼と、彼の父親が名護の中の何かを変えていった壮大なストーリーを。
 名護は、負けじと口を開いた。

「……君の名前は紅渡だ。キングという名は九画、字画が悪い。
 神がそんな名前の男の未来に幸を与えるわけがない。
 正式な手続きを踏む前に、紅渡という名前のすばらしさを見つめ直しなさい」
「未来を定めるのは、神じゃない。――王であるこの僕です。
 それに、幸も不幸も関係ない。たとえ不幸を負っても、世界を正すのが王の責務……」

 渡の周囲には、小さな白い円盤が――サガークが飛び回る。それは明確に戦闘の準備だった。名護は、サガークの姿に目を凝らした。太牙の用いるサガの鎧が彼の手元に渡っているのだ。
 いつものキバットバットⅢ世ではなく、無機質なサガークを従えている状況に、名護は少しばかり眉を顰める。キバットバットⅢ世はどうしたのだろう。
 そんな折、もう一体のキバットバットが、名護の耳で囁いた。

「……おい、名護。どうする? 音也の息子はやる気だ。
 この俺が面白くなるほどの悲しみ、闇を感じる。奴は限りなく本当の王の器に近づいている……」

 何かに惹かれつつも今はかろうじて名護に協力するキバットバットⅡ世。そんな彼に促されながらも、名護はイクサナックルに手をかける事はなかった。
 元より、名護もキバットも無駄な争いをしに来たわけではない。
 争いは最後の手段だ。たとえそれが選択肢に含まれているとしても、それを選ぶにはまだ早い。

「――キバット君。少し席を外しなさい。俺から、彼と二人きりで話がしたい」
「話し合いか。フンッ……どうなっても知らんぞ」
「悪い事にはならない。そんな確信がある。
 俺が名護啓介で、彼が紅渡である限り……」

 名護は覚悟の瞳でそう言うと、キバットも少し思案げな表情をした。

「……面白い。そうまで言うなら、俺は口を挟むのをやめよう。
 勿論、彼奴が王を名乗る器かどうかも考えさせてもらうがな」

 それからそう言って、キバットが高く空へ飛び、渡と名護を見下ろせるようなビルの窓枠に留まった。
 キバットバットⅡ世もまた王に仕える身だ。本当に席を外すわけにはいかない。紅渡が王たりえるかを眺め、その在り方次第では名護たちではなく彼に力を貸すというのも躊躇はしまい。
 そんなキバットの姿は下から見上げてもなかなか見えづらいものだったが、渡はいまのキバットの姿に目を奪われていく。

「キバット……? いや――」
「――彼はキバットバットⅡ世。キバットバットⅢ世の父、闇のキバの力を与えし者。
 彼には、少し席を外してもらった。ひとまず、俺が君と話す為に」

 こう言いながらも、やはりダークキバの事を知らない渡である事を再認識する。
 少なくとも渡の方からすればキバットバットⅡ世との面識はないようで、それはつまり名護の想定通り時間軸が少し前であるという事を示していた。
 渡がサガークを掴むか悩む素振りを見せたのを見て、名護は加えて言った。

「……お互い、無駄な力を使いたくはないはずだ。
 同じ世界同士で戦う事はルールの上でも利はなく、情報にも常に飢えている。
 いま、必要なのは……男と男の、語り合いだ」

 次の行動を決めかねている渡に対し、名護は真剣なまなざしで言った。
 渡も自らの周囲を飛行するサガークへと指示を出す。

「――サガーク、僕もこの男と話がしたい。退いてくれ」


313 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:00:16 gv8rKMJw0

 渡の答えはそれだった。
 サガークは彼の指示通り、その場から引く。
 名護の言う通り、今こうして名護が会話を求めるのなら、それは渡にとってはマイナスではない。
 唯一避けたいのは、説得を受ける事で少しでも覚悟が鈍る事だった。
 向けられてくる言葉すべてを拒絶する事で、最初から説得させまいとする事も出来たはずだが……名護は説得の意思を直接は見せなかった。

 何より、ルールの話や情報不足の件を持ち出されると、渡は痛いところを突かれる形でもある。
 同じ世界の存在である名護を一方的に攻撃する事は自らを不利にする事であると同時に、彼らのいる世界を守るという己の信念さえ否定してしまう事にもなる。
 情報不足はまさしく渡の手痛い部分であり、キバットバットⅡ世の存在についてだけでも既に名護には劣っている部分があると言わざるを得ない。この状況ゆえ、お互い情報は惜しい。

 そんな折、名護は切り出した。

「――だが、その前に、まずは飲み物を買って一息つこう。何が良い?」

 悩む渡を前に、名護は本当に男と男、一対一での会話を望んでいた。
 名護の本気の眼差し。
 それは名護らしい、意外と古風でウェットなやり口だった。
 そんな名護の提案を拒絶するでもなく、流されるようにして、渡は名護の後を追った。



♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪



 団地に設置されているような、本当に幼い子供が井戸端会議の横で時間を潰す為のような小さな公園。
 遊具はブランコと滑り台しかない。遊具以外には、砂場と小さなベンチだけがあるだけだ。
 そこで渡と名護は、そのベンチに腰掛けて缶コーヒーを飲んでいた。渡が何も答えなかったが故のチョイスとして、二人分、同じものを自動販売機で買っていた。
 プルトップを開けて、少し落ち着けて温かいコーヒーを流し込んでから、名護は切り出した。
 渡は受け取りこそしたが、開ける様子もない。

「――渡君。いま、日本は少子高齢化という社会問題にぶち当たっている。
 未来を担う若い力が不足し、このままでは国の将来が危ういところまで来ている――」
「……それがどうかしたんですか」
「人の話は最後まで聞きなさい」

 口を挟んだ渡を諫めるように言ってから、ただ彼は、もう少し単刀直入に言い直した。

「この時間の君はまだ知らないだろうが、俺は縁あって……麻生恵と結婚する事になった。
 いずれ、子供も作るだろう。
 この日本の未来を案じれば少なくとも三人は必要だが、養育費やあらゆる負担を考えると悩ましくもある……」

 渡の動きが完全に止まる。
 脳が情報を処理するのに少し時間がかかったようだった。

「待ってくださいっ……恵さんと!?」

 コーヒーを開けて飲んでいたなら吹き出していただろう、というくらいに素で驚く渡だった。そこで、またもやキングの威厳は消え去っていた。
 仕方のない話だろう、渡は普段いがみ合っている二人の姿を知っている。記憶や、名護と恵の印象までは捨てられない。
 あの名護と恵が裏でそこまで発展していたとは、渡は思いもしなかっただろう。

「俺と渡君が連れてこられた時間が異なる。
 近い未来、俺は彼女と結ばれ、共に戦った仲間たちに祝福を受ける事になる筈だった」

 ……ただ、考えてみれば組み合わせとしては納得がいかないわけもなかった。
 恵が理想として口にした男性像は、まるっきり渡の見ていた名護啓介の特徴と合致していた。それがすぐに結婚となると話は別であるし、仮に結婚に行き着くとしてもそこまでには名護も恵ももう少し時間がかかると思えるが。
 尤も、渡も恋愛下手な方だ。他人の色恋は、聞いた限りでも意外な事尽くしである。


314 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:00:38 gv8rKMJw0

「――僕のいる世界に、そんな未来が……」
「ああ。……そして、その祝福の輪の中には、君もいる。キングではなく、紅渡として。
 だから、たとえ道を違えたとしても、俺は式場から君の席を外したくはない。
 俺が結婚したら君の祝福を受け、君が結婚したら君を祝福できる……俺は君と、ずっとそういう関係でありたいと思っている」

 唖然として言葉を返せない渡だった。
 頭の中に様々な想いが湧いてくる。
 この名護という男の気持ちを裏切っている事へのうしろめたさも胸の内から噴き出してきそうになった。
 胸を締め付ける、という表現が全く偽りでない事を証明する、心臓あたりの息苦しさ。何かが抜け出そうとしてくるような痛みでも痒みでもない何か。
 だが、後に退かない覚悟が自分の中にはある。

「どうした、渡君。祝福はしてくれないのか?」
「いえ……おめでとうございます。喜ばしい事実には違いありません――」

 名護の言う通り、渡にとって名護と恵が結ばれる事は祝福すべき事実であり、そんな未来の中で自分が悩まずに祝福出来ているのなら、それほど嬉しい事はなかった。
 それは、キングとしてではなく紅渡として。

「でも」

 しかし、渡は思い出す。
 それはあくまで世界の過程でしかない。

 この先の未来が――彼らの思い描く幸福までが、大ショッカーやディケイドに奪われようとしている。だから、その世界には『強き王』が君臨している事をここで知らしめなければならない。
 幸福のその先に、その陰に、いつも世界の破壊は待っている。名護も、恵も、その先に生まれる子や、あるいは……今の自分にはまったく実感の湧かない「自分の伴侶や子」までもがその先に在るのなら、渡はファンガイアの王である事を辞めない。

 むしろ、だ。
 名護や恵の未来が具体性を帯びた時、彼は尚更――。

「――それなら、尚更、僕たちはその世界を守らなければなりません」
「その方法が、ファンガイアの王となる事だというのか……?」
「……はい」
「その為に君は――ここで誰かを殺めたのか?」
「……既に僕たちには、その手段しかありえません。
 この後も、僕は仮面ライダーではなく……ファンガイアの王として、二つの種と世界を守る。それだけです」
「誰かの世界を犠牲にして――」
「残念ながら、それが唯一の方法です」
「ならば、渡君、それは間違っている……!」

 今度締め付けられるのは、名護の心だった。
 嫌な予感はあった。だが、あの優しい渡がこうして修羅の道を突き進んでいるというのなら、名護にはそれを正す責務があった。
 名護にとって、この会話はかつてのどんな敵との戦いよりも重苦しい。
 素晴らしき青空の会の会長の座を託そうとした自分の気持ちと判断には、間違いはないと今も信じている。――むしろ、これが渡の優しさがゆえの行動であると思うと、自然と納得もできてしまうのだ。
 彼は思いを押し殺して、被る必要もない罪を被ろうとしている。
 だから、名護は彼の性格を知り、彼の優しさを知りながらにして、彼の行動を否定するしかない。
 ――最も否定したくない、仲間の事を。

「考え直しなさい、大ショッカーは我々を騙そうとしている不埒な輩!
 これ以上罪を被っても全て無駄になる! ……今からでも遅くはない! すぐに俺たちと共に大ショッカーを倒し、共にここから抜け出す道を探るべきだ! 渡君!」

 名護は思った。
 渡も気づかない男ではあるまい。
 大ショッカーに正義があるというのなら、悪戯に人の命を奪う正義などありえない。
 世界を守る為の殺し合いだとして、首輪をつけて閉じ込めゲームのように弄ぶ事に何の意味があるのか。
 別の場所で待っている“彼”のように、かつて自分の世界を壊そうとしていた者さえも参加しているくらいである。
 本当に世界の在り方を決める戦いならば、露悪な輩が覗いて楽しめるようなふざけた作りは許されないはずだ。


315 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:01:04 gv8rKMJw0

 ……そして、今は神をも名乗ろうとしている。
 名護が強く影響を受けている世界観の中で、大ショッカーは最も侮辱してはならない存在を、大ショッカーは侮辱しているのだ。
 だが、頭に血が上りすぎて伝わりづらいであろう事を承知して、少し冷静に渡に言い直した。

「――俺は何人かの仲間にも情報を貰い、確信を持っている。
 悪の権化、大ショッカー……神を名乗り、我々を誤った道に扇動しようとしている集団だと」
「――そんな事は、僕も承知しています。大ショッカーの幹部、アポロガイストから情報を得ました。
 大ショッカーの真の目的は世界を征服する事であり、世界を選別する事ではありません」
「ならば何故……!」

 意外だった。
 世界を守るためではないとするのなら、何故。
 決して理性を失ったわけでもなければ、殺し合いをしたいようにも見えない。
 彼なりの正義があるとして――その理由はわからなかった。てっきり、大ショッカーの言葉に何か確信を持つような事があったのではないかと思っていたが、そうでもないらしかった。

 渡は、何か期待を込めたようなまなざしで、名護を見つめ返す。

「いくつもの世界が滅びに向かっている事は、事実です。
 それを阻止する為には、まず世界の破壊者ディケイド――彼を倒す必要があります。
 彼こそが真の世界の歪み……彼を破壊しない事には、世界の滅びは止められません……。
 僕らはもはや、手段を選ぶ事は出来ない。
 このままいけば、すべての世界は融合し、大ショッカーの言う通り破滅する」
「ディケイド……? 門矢士の事か?
 噂には聞いている。だが、彼は悪人なのか……?」
「――悪人かどうかは言い切れません。
 しかし、ディケイドはその存在そのものが世界を脅かす悪魔です」

 渡はもう一度言い換えた。

「おそらくですが、人格を持った災害……破壊という事象を人間化したものと認識してもらえれば良いと思います」

 対象が悪であるか否かは関係ない。
 ただ存在そのものが無数の世界の融合を促し、破壊へと導く混沌の悪魔――それがディケイドだった。

 仮面ライダーたちはすべからく彼を倒さなければならない宿命を負っている。
 彼の仲間になるのではなく、彼と対抗して彼を破壊する事こそが、このライダー大戦の真の意義だ。――大ショッカーと戦うとしても、それはディケイドを倒しライダー大戦で勝利し、キバの世界が狙われた後の事。
 最低限の勝利条件たるディケイドの破壊をクリアーしなければ、もとより世界を守る事など出来ない。

「名護さん、出来るのなら、あなたにも僕の考えに協力してもらいたい。
 このディケイドを倒す事に関してだけは……」
「――他ならぬ君の言葉だ。きっと嘘はない。
 他の世界を犠牲にする君の考えは相いれないが、ディケイドの件については考えておこう」
「ありがとうございます……」

 名護の中に巡る想いは複雑だった。
 渡自身の言葉には嘘はないだろうが、渡がその情報をどこから得たのかにもよる話である。つまりは、彼自身が他者からの情報に踊らされている可能性も否定はできないという事だ。
 純粋ゆえ、騙されやすくもあるのが欠点の人間もいる。

「だが、ディケイドを倒したなら――その後、君はどうする?」
「次の脅威となるのが他のライダーの世界や大ショッカーです。
 ディケイドは仮面ライダーのいるすべての世界を融合させ、そして、破壊します。
 ディケイドを破壊すれば世界は融合から免れるかもしれません――だけど、もう手遅れかもしれません。存続する世界は一つと言っていました……。
 世界が融合し、そこから先に残る世界が僅かの可能性も否定はできない状況です」
「……誰から訊いた?」
「大ショッカーの幹部、アポロガイストです。嘘を言っている様子ではありませんでした」


316 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:01:26 gv8rKMJw0

 名護は、息を飲んだ。
 アポロガイスト――信頼に足るかはわからない。
 しかし、もし本当だとしたら。

「その時になったら――いや、そうなる前に、僕はキバの世界を残す為に戦うだけです。
 大ショッカーと本当に対抗するのはその後。
 まずはディケイドや他の世界を優先的に破壊し、勝ち残った僕たちの前に現れた敵を――破壊します」
「渡君……やはり君の進むべき道は間違って……――」

 名護は、渡のかつてない真剣なまなざしを前に――そして自分の中のジレンマを前に、そこから先を言いきれなかった。
 思い返せば、これまでは「大ショッカー」という明確な悪の存在を軸に団結し、対抗していたともいえる。

 だが、世界滅亡それそのものが正真正銘の真実として、それにあやかる形で大ショッカーという組織が不随してゲームを仕組んだならば、この災害めいた事象をどう乗り越えろというのか。
 正直、代案はわからない。
 そのディケイドという「破壊の人間化」を叩き潰す事を最低条件とすれば良いが、世界が何らかの事象で滅ぶとして――かつて隣にいた我が妻は。
 そして、自分の生きた世界は……どうなる。

(――)

 ――だが、名護は「敵」とされる他ライダーの世界の住人たちの顔を思い出す。
 先ほどまで一緒にいた、ここで出来た仲間の事を。
 彼らを忘れていたわけではない。忘れるわけがない。しかし、同時に駆け巡る自分の中の微かな迷いには答えは出しがたい――史上最悪の、二択。

 さながら思考実験のようなものに陥る。
 勿論、すべてはあくまで仮定だ。嘘だと考えたって良い。
 しかし、真実である前提のもとに考えたなら――?
 世界の滅びが確実だったら、本当にライダーの世界同士で戦う必要があったら、自分は果たして一体どんな答えを出す――?

 ――ふと、自分の言葉が止まっていたのを感じ、図星を突かれるより前に、名護はごまかすようにして続けた。

「――……どちらにせよ、君が他の世界と戦い続ける道を選ぶのなら、俺にとっては同じ事だ。
 ここで出来た多くの仲間の命を奪う事は、許されない」
「そうかもしれません。
 でも――僕にとって一番大切なのは、貴方やかつての仲間です。
 僕には、ここで仲間を作る必要なんてありませんでした。
 ……いや、やっぱり違うかもしれない。僕にもここで仲間のようなものはいました。
 ただし、彼らに騙され裏切られるばかりでした。お互い様でもありますが」
「――だとしても、それは君の運が悪かっただけだ。
 俺の仲間は、決して裏切らない。共に来てくれ、渡君」

 そう言われた瞬間に、渡の中で、そっと何かが動いた。
 名護には、多くの良い仲間がいたのかもしれない。ただまっすぐな人間が寄ってきたのかもしれない。それは悪い事ではないと思う。
 だが、名護の周りには――裏切り者が少なくとも、一人いる。
 それを渡は思い出したのだ。

「僕が……います」

 冷たい言葉を放つ渡。
 彼は名護を責めるような瞳で、自分自身を、責めていた。

 音也と名護。
 渡の中に滾る罪悪感は加速していく。
 想われている。――ような気はする。少なくとも、この名護啓介には。

 確かに、名護は良い人ではあった。
 先生のように面倒見は良く、少し厳しくもありながら面白いところや優しいところがたくさんあった。多少空気は読めないところがあるが、悪気はないし、大概は渡自身もそれを許せた。
 だが、ここまで自分を熱心に説得しようとするほど――名護が自分を仲間として意識してくれていた事など、渡は思ってもいなかった。
 てっきり、否定だけを返すとばかり――思っていた。
 そんな名護を、裏切っている自分がいた。


317 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:01:49 gv8rKMJw0

「かつて仮面ライダーだった僕は……名護さんや父さんの想いを、既に裏切っています」
「馬鹿な事を言うな。君が俺を裏切るわけがない」
「僕は多くの罪を犯した。――それは立派な裏切りです」
「……いや、君は決して、俺たちの想いを裏切ってはいない。
 少なくとも俺は、そう思う」
「どういう事ですか」
「俺の進む道と、君の進んだ道は確かに違う。
 そして、確かに君の考えは間違ってはいる。
 ……だが、君なりに俺たちを想っての事でもあるのも承知している。それだけ世界に対して責任を持ってくれる人間なんて、この世の中そうはいないはずだ。
 その想いを、裏切りとして否定する事は、君をよく知っている俺には出来ない」
「――……名護さん」

 かつてのように人を強く責めたてる事のない、少し変わっていった名護。
 己を強い人間ではなく、弱い人間として向き合った後の男の言葉。

 少しだけ、渡の中の心が動く。
 認めてはくれないと思っていたところを認めてくれた喜びや感動が、渡の目頭を少し熱くした。――でも、だからこそ、余計に傍にはおけなくなった。

 名護は、決して渡と同じ道を行ってはくれない。
 一つの正義として認めつつ、ただそれぞれが別の正義として交われないのが渡と名護それぞれの道だった。

 渡は名護が好きだ。だが、同じ道はいけない。
 同じように名護も渡という男を気に入っている。だが、己の道に引き込もうとはしている。
 そちらに行く事は、出来なかった。

「君はもう、罪を負わなくて良い。これからは、俺と償えばいい」
「名護さんと――」
「ああ、弟子の罪は、師匠の罪。俺と君とは一心同体だ。
 君が間違いを犯したのなら、この俺も同じように懺悔し、同じように背負う義務がある」
「――……でも、僕が罪を犯しているというのなら、その罪をただの人間である貴方に転嫁する事は出来ません」

 渡は思い返す。――自分の罪は重い。ただの罪人ではない。
 再びフラッシュバックする――ライダー大戦の記憶。
 地の石を利用して人を操り、無理矢理戦わせて多くの者が死んでいった諍い。
 人の命だけではなく、想いさえ踏みにじる覚悟があった。

 深央の死、加賀美の死、王という運命……あらゆるものが渡を後には退かせないよう背中を押し続けた。
 名護は――缶コーヒーの残りを一気飲みすると、立ち上がり渡の方を向いた。

「――ただの人間じゃない。その言い方は、水臭くて気に食わないな」
「え?」
「俺は、君の師匠、友人、仲間だ。その絆は恋人などよりも深い。
 俺の事を指すなら、『ただの人間』ではなく、『ただならぬ人間』と呼びなさい」
「――貴方は、まだ僕がどんな罪を犯したかは知らない。
 ……だから、そんな事が言えるんです」

 渡の悩みは、消えた。渡もまた立ち上がった。
 もう一度、紅渡の眼差しを捨て、名護に向けて冷えた口調でそう突き返すだけだった。
 そう、名護は渡の罪を背負おうと告げている。――だからこそ、だ。
 責任感や正義感の強い名護が相手だからこそ、渡は罪を託せない。もっと冷徹になりえる仲間にしか、「罪」は託せないのだ。

 いっそ、裏切り者の方が仲間としては都合が良いとさえ思う。
 初めからお互い様であるのなら、傷つけずに済むのだから。

「――」

 この大戦で、渡のこれまでの経緯を全て思い返すなら、それはそれらの行動に一切関係のない、ただ師匠であるだけの名護に背負わせるにはあまりに重い。
 名護も決して軽い気持ちで言ったわけではないだろうが、名護は渡の歩みを知らない。
 一人、二人を葬ったわけではない。渡の行為によって不幸になった者は、数が知れない程である。あるいは、名護自身にも余波が来ている可能性さえ否定できないほどだった。
 それどころか、これまで名護が憎み戦ったファンガイア以上に、たくさんの人を殺め踏みにじっただろう。
 名護は、少し黙った後で、静かな声色で渡に告げる。


318 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:02:10 gv8rKMJw0

「それなら――渡君。
 罪を犯している自覚があるのなら、この俺の前で……ここですべてを話しなさい。
 そして、残りの時間は、罪を重ねるよりも懺悔する事に回しなさい。
 きっと、手遅れにはならない――俺の仲間たちのように」

 そう、名護は渡の罪を知らない。
 それは、渡が直接話さなかったからに違いなかった。
 名護が知るのは、渡の考え方だけだ。スコアを上げたのも知ってはいるが、それが果たして、悪人を葬ったケースなのか、それとも無差別的なのかは名護もまだ知りえない。
 これまで――どんな物語を積み上げたのかは、渡のみが知る。
 明確な情報すら得ていない名護にとってみれば、むしろどんな形であれそれを知りたい――知る事で背負いたいとさえ思っているのかもしれない。

「……」

 渡は、そう言われて少し考えた。
 渡にとっては、嘘を告げる手段もあった。このまま曖昧にして隠す手段もあった。その方が楽には違いなかった。

 だが、そうやって閉じこもるのは渡の悪い癖でもあった。
 今の渡に必要なのは――覚悟。名護や父と向き合ったうえで、自分のやり方を貫き通さなければ、全ては、嘘になる。
 嘘じゃない――とは言い切れないが、少なくとも、そのまま逃げ続けるのは「王」の行動ではない。
 ため息のような声が思わず漏れてから、渡は語りだした。

「……そうですね。名護さん。貴方には、すべて話すべきでした。
 そうでなければ、すべてが曖昧になってしまう。
 僕は……これ以上逃げるつもりはありません。
 貴方には、まずすべてを話します。――覚悟の証明として」

 そう言ってから、名護を牽制するかのように、渡は語気を強める。

「ただ……僕がそれからどうするかは――僕が決めます」

 これはあくまで、懺悔ではなく、覚悟。
 名護の言う通り、ここから道を変えるのではなく――名護に選択肢を与える為のものだった。
 渡を許すか、やはり許さないか。あるいは、渡と背負うか、それとも渡を捨てるか。
 その選択肢は、「知る」事で初めて本当の意味を与えられる。
 王の威厳ある口調で、渡は語りだした。

「――僕は最初に、ある正義感の仮面ライダーの命を奪いました。これは偶然ですが、僕自身の行動と迷いが原因です。
 僕はそこで、世界を守る道を遂げる運命を背負った。
 やがて、かつてのキングと出会う事になりました。
 僕に襲い掛かってきたキングを倒し、僕は新しいキングとなった。そこで――この世界を守る覚悟は確固たる物となった」
「――……」
「別の世界で、僕と同じように自分の世界を保守する為に戦おうとする参加者たちとも多く出会いました。
 利用し、利用される関係と言えたかもしれませんが――その同盟はほぼ破綻しました。僕がここに一人でいるのも、それが原因です。
 ……ある時は、ある参加者を操る石を得て、多くの参加者を無差別に襲う同盟を組み、中央の病院で多くの命を奪いました。
 ――しかし、本命のディケイドは仕留めそこなった。残念ながら」

 渡はそれから、己の所業を詳しく告げた。
 ある男は、そこで散ったのは、と――あらゆる質問が名護の方から飛び交い、渡はそれに偽りなく答えた。
 まるで取り調べのようだったが、それゆえにか、名護は怒る事も嘆く事もなく、ただ冷静にすべてを聞き取った。
 それが、彼なりの渡への向き合い方だったのだろう。

 名護の内心が焦っていなかったわけではなかった。それは、名護の想像を確かに超えていた。渡が痛みを感じず、この表情でそれをやってのけたのが信じられないほどだった。
 はじめは渡が何かの事情で嘘をついている可能性さえ疑った。かつて王を名乗った時のように、何かを守るための芝居であるのかもしれなかった。
 だが、その意味がなかった。死者の名前を持ち出してまで、彼が再び庇うほどの人間はここにはもういなかったし――何より、話の辻褄は合っていた。
 誰か、もっと中央で戦っていた参加者に聞けばすぐにわかる話でもあった。


319 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:02:38 gv8rKMJw0

 名護は、あらゆる事を思い返しながら、深く考えていった。
 そして、渡が全てを告げた後で、名護はもう一度口を開いた。

「……渡君。確かに、君の罪は重い。だが、やり直せないわけではない」

 名護を突き放そうとした意図もあった渡にとっては、それは意外な返答だった。

 他の参加者と出会った影響もあったのかもしれない。そんな中で、この殺し合いで参加している者たちはすべからく、「被害者」であるという意識も芽生えていたのかもしれない。
 彼が責める事をしないのは、仲間の中に「仮面ライダー」を貫いた者や「罪」を犯した者がいた――その男たちと、誰より深く関わったからだろう。
 嬉々として人を殺める者もいた――しかし、背負い、涙し、償う者もいた。
 彼らはただの加害者だろうか。むしろ、あらゆる思い、あらゆる生き方、そしてあらゆる正義を――この場所で踏みにじられた、被害者なのではないだろうか。

 特に――ここにいる、紅渡は、そうかもしれなかった。
 それに、考えてみれば、もう被害者だとか加害者だとか、そんな事さえ関係ないのかもしれない。
 もっと根源的に、名護の中には渡を見るもう一つの目があった。
 正義、という言葉を使う以前の話として。

「君のした事は、もしかすれば神には許されない事かもしれない……。
 しかし、俺と君とは師弟――そして、それ以上に、かけがえのない友人だ。
 君が罪の重さに耐えきれないのなら、共に背負い、共に歩く。
 君の召された先に、もし地獄があるのなら――俺たちが君の荷を共に背負い、隣を歩けば良い」

 そして、名護の中に、渡が見せた「友を捨てる覚悟」に勝る――友を捨てない覚悟があった。
 名護の想いは歪まない。
 彼と共に進んだ思い出や記憶がある。――ぶつかり合った事も、悩みぬいた事も、信じあった事も、すべてが捨てられない。捨てたくない。
 結局のところ、それが名護の答えだった。

 渡は少し、息を飲んだあと――言葉を返した。

「――ですが、名護さん。貴方は、これまで多くのファンガイアを倒してきました。
 それは、ファンガイアが人を襲い、罪を犯してきたからです。貴方の正義が、彼らの存在を否定した。
 だが、僕はそれ以上の罪を犯している。――だとすれば、貴方は僕の存在を否定しなければならない筈です」

 渡の罪が、今まで名護が「罪悪」の象徴たるファンガイアを憎み倒してきた以上に「罪悪」である事実。それにより名護は渡を憎み倒さなければファンガイアを倒した自分を否定されると渡は言う。

 だが――。



「関係ない。俺は名護啓介、君は紅渡だ。――その事実がある限り」



 罪を犯したか否かではない。
 それより前にある――情。
 正義でも、悪でも、罪でも、社会でも、被害でも、加害でもなく、それが優先されるべき時がある。

 紅渡を見てきたひとりである名護啓介は、たとえ紅渡が悪魔に落ちたとして、彼が弟子であり友である事を否定はできない。
 そんな自分の情動を許せるだけの想いと余裕が、本当の正義の味方には必要なのだ。
 かつて紅音也が教えてくれた遊び心――あらゆる呪縛を捨て去り、本当に心の動く場所へと歩み寄る、勇気と力、あるいは開き直りだった。

「それに、渡君。ファンガイアの事を持ち出せば、俺も同じだ」
「……」
「――俺は少し前、ここで正しい人を殺め、悪の道からはぐれ、そして今罪を償おうとしている青年を見た。
 俺も自分の人生を改めて思い浮かべた。――思っていたより、ずっと恵まれていた。だから正義の味方などと名乗って来られたんだ」


320 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:03:03 gv8rKMJw0
「……」
「だが、俺は、正義の味方ではなかった。……それを教えてくれたのは君だ。
 君は、人間とファンガイアの共存を目指していた。
 考えてみれば、それが戦うよりも素晴らしい、最も理想的な未来に違いない。だが、俺にはその発想がなかった……ただ、俺が正義になるには悪が必要だった。
 だから、ファンガイアを都合の良い悪とみなし、倒してきた。
 ……そう、俺はこれまで、自分の勝手でファンガイアを殺しすぎた。平和に暮らそうとしていた者も、多くいた筈だ。俺の非、俺の弱さ、俺の罪……」
「それは、人とファンガイアの戦争の中の話。……貴方のやった事は、仕方のない事です。
 人を襲うファンガイアも多くいる。残念ながら――」
「それを言い出せば、世界と世界が争い、戦う他に生き残る術のないと言われた今この時も――同じ、仕方のない戦争かもしれない」

 渡は図星を突かれた気がした。
 そんな正当化も、一度はしたかもしれない。
 渡と名護にどんな決定的な差があり、ファンガイアを倒してきた名護と比べて、自分が罪人になれるのか――その抜け道を考えるようにさえなっていた。だが、答えを出すには思考を巡らせる必要があった。
 名護は構わず続けた。

「――だが、たとえファンガイアとの戦いが戦争だったとしても、俺はあの時の自分の行いは……紛れもない、大きな罪だと思っている。
 俺はあの時……間違いなく自分の力に溺れ、正義に酔っていた。
 己の正義の為に――父を死なせた自分の思想を守る為の言葉の為に、自分の中でファンガイアを強力な悪に見立て、戦った。
 だから、君のように共存の道を考えなかった!
 そう、もし共存してしまえば俺は正義ではなくなる……。
 倒すべき悪が消え、正義である事が出来なくなる……。
 それに、世界が変わり、人とファンガイアが交えるのなら、その時に俺がファンガイアを倒してきたそれまでの正義は否定される。
 きっと、それが怖かった。
 だから、共存を望まなかったし、共存という思考さえも封じていた。
 ファンガイアを蔑み、憎み、殺してきた。自分の中にある非や弱さ、自分の為に武装された公式、そして……父を殺した過去の罪にも向き合おうとはしなかった。
 ……そんな姿に、本当の正義はない。ただの快楽の権化、暴力性と罪悪感のジレンマを『正義』で推し隠し、逃れ、ファンガイアたちの命にぶつけた、弱虫だ」
「……」
「――そして、俺はキバである君ともぶつかった……。
 かつて俺が君に向けたのは、まぎれもない本気の殺意だった。今思うと怖くなる。
 もしかすれば、俺は君を殺め、それを誇っていたかもしれない。俺がキバを倒したと、何も知らずただ歓喜に震えたかもしれない。
 あるいは、俺は君に挑み、敗れ、偽りの正義を抱いたままみじめに死んでいたのかもしれないな……」

 そして、そういう風にして決着がついた時、敗れて死ぬのはやはり……おそらく、自分だったのだろうと――名護は思う。
 キバはあまりに強く、敵対していた時期の名護では到底勝てる相手ではなかった。今客観的に見ればそうなる。キバに勝った事を誇ったのは一つの事実だが、あの後でしてやられたくらいだ。
 本気の渡の強さは、並じゃない。
 守るべきものがあるから――そして、キバは、人類の敵ではなく、偉大な男の魂を継ぎ誰かの音楽を守ろうとする仮面ライダーだったから……。

「――」

 今もこうして瞳を閉じると映る――それは、自身の敗北のビジョンだ。
 正義に溺れ、正義を信じ、父を殺した罪に許されようとしながら――しかし本当の償いや痛みから目を背け、キバに葬られる自分の姿。
 人とファンガイアが愛し合う世界を否定し、突き進んだ『正義』に踊らされる哀れな男。
 己が暴いた罪で死んだ父が、自分の前から去っていく幻想。
 何度思い描いたかわからない。そうだったかもしれない。

「だが、俺と君は今、こうして、最高の形でここにいる!!
 ――師匠と弟子として、そして、仲間として!!
 罪を犯したのに……その先の生には価値があった。償う機会と仲間があった。
 だから――神がもたらしてくれたこの奇跡と運命を、今になって否定したくはない」

 ――それが名護の渡への想いだ。
 たとえそれが神に抗う事だとしても、渡や太牙や恵や音也……ファンガイアの戦いで奇跡的にわかりあえた仲間たちとなら、戦える。
 ここでなら、やはりここで出会った仲間と――残っている仲間たちと、それから、ここにいる渡と共に戦えば良い。


321 : 師弟対決♭キミはありのままで(前編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:03:24 gv8rKMJw0

「――だから」

 それが、名護の行きたい道。たとえ罪を負うとしても、それが憎しみを向けられる原因になるとしても、名護は渡を庇う覚悟がある。
 罪や弱さから逃げない事こそが、そして前を向き、本当の守るべき者を守り、戦うべき者と戦うのが――今の名護の正義。

 渡もまた、思い返していた。
 名護がいなければ――支えてくれるひとがいなければ、立ち直る事のできなかった状況があった。それこそ、お互い様だった。
 僕はひとりじゃない。隣にいた仲間がいたから戦えた事。それは戦力としてではなく、心の支えとして……。
 そんな場面が、いくつもある。
 思い出される記憶。――その積み重ねがあったからこそ、こうして、自分がここにいるというのは、間違いないと思えた。
 しかし、退けなかった。

「だから、君には考え直してもらう。
 ――そして、俺にはやはり、君と償う義務がある!」

 名護は思う。――君だけが罪を負う必要はない。
 君は仮面ライダーになって良い、もう一度俺の隣で戦えば良い。
 確かに俺は、君が間違っていると言った。
 だが、もう良い。俺が言いたいのはもはやそんな事じゃない。
 正しいかじゃないのだ、君が君らしく戦える場所にこそ正義はあるのだ……。
 それがきっと、君にとって最も良い生き方なのだから。
 優しい渡君だから。

「――そんなものは、ありません。
 すべての憎しみと罪も、王のもとに捧げられるべきものです」

 渡は思う。――名護が罪など負う必要はない。
 貴方は正義であれば良い、仮面ライダーであれば良い。
 確かに僕は貴方にディケイドを倒す仲間として、戦力として加わればと言った。
 だが、もう良い。それこそが最大の過ちだ。
 貴方は、ただ幸せにあれば良い……。
 それがきっと、一番つらくなくて済むのだから。
 正しい名護さんだから。

「……これだけ話してもわからないか。
 それなら――俺たちはもう一度、かつてのように戦う必要があるのかもしれない!」
「そうかもしれません。――僕も、もう一度貴方と戦いたい!」
「不思議だ。俺も、君と戦わなければならない以上に、君と戦いたい!」

 二人は、おもむろに、同じペースで歩き出した。
 互いを見つめて、拳を握る。
 かつてぶつかり合ったその拳と拳が、震えている。
 ――その拳が震える意味は、彼らの言う通り、戦いたいからなのか、それとも戦いたくないからなのかはわからない。
 話し合いは終わりだ。ここからは本能で戦うしかないと、渡も名護も悟っていた。



♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪


322 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:03:51 gv8rKMJw0



「サガーク――」

 サガークが空を舞う。
 それを見やった後に、名護は顔を顰めた。

「……渡君。一つルールを申し出たい!」
「ルール……? 構いませんが――」
「――そうか。それは、裸でぶつかり合う事だッ!」

 そう言って渡のもとに突進した名護は、そのまま渡の左の頬に体重を乗せたパンチを叩き込んだ。
 突然の一撃に、渡は困惑しながら吹き飛ばされ、倒れ転がる。

「あぐっ……!?」

 それを見つめる名護の右の拳は震えを止めていた。

 頬を抑えながら、意外そうな瞳で名護を見上げる渡の姿。
 険しい瞳で渡を見下ろす名護の姿。
 二人の目線がぶつかっている。

 仲間から向けられるにはあまりに嫌な瞳だったが、今はそれが全く不快にならなかった。
 自分の貫きたいものを貫く為の必要な戦いだと――それぞれの拳/痛みが告げる。

「キバの鎧がないのなら、今の君にイクサで挑む意味はない。
 ……それは俺の望む戦いではない……!」
「構いません……そっちがその気なら――僕にも鎧など必要ない!!」

 渡は力強く立ち上がり、大きく体を振るうようにして名護を殴ろうとした。
 だが、名護はそんな大振りのパンチをすぐに避け後退した。
 再度、名護は渡に接近し、渡へと殴り掛かる。

「くっ……!」
「渡君……これは、この俺だから、わかる……!
 俺はかつて――自分の父を死なせた自分の罪を、『正義』という言葉で逃れようとした!
 君も……ここで人を誤って死なせた罪を、『王』という言葉で逃れようとしているだけだと!」
「――ッ!」
「だが、君は俺とは違う。ただ純粋なだけだ。勿論……俺よりずっと良い意味で。
 今の生き方は、そんな君のしたい事でも……すべき事でもない筈だ……!」

 力強い一撃を放とうとするが、渡は咄嗟に背を向けて走り出した。
 渡の行った先は砂場だ。
 ここでは足を飲まれやすく、そのぶんだけ拳に威力は乗せにくい。踏ん張りが効かないのだ。バランスの悪い地形へと、無意識に誘い込んだのだろう。

「逃げるな渡君……考え直しなさい! 本当の王とは何なのか……!」

 名護は言いながら、渡を追いかけた。
 足は思いのほかふらふらと動き、砂場に入ると尚更バランスが崩れやすくなった。
 これまでの疲労は勿論の事、想いを伝えるというのは想像以上に酸素が要る。
 だが、構わない。そんな事はもはや気にしていなかった。
 名護の拳が渡のもとへと届く。

「正しく、優しく、強い者だけが本当の王を、権力者を名乗り、誰かを導く事が出来る……!」
「いや――強さだけが、王の最低条件……。
 正しさを通すには、世界を守るには非情である事が必須なんです……――!!
 そうでなければ……何も守れない!!」

 威力のない名護の拳を避け、渡は逆に名護の顔面へと拳を叩き込んだ。
 大振りな先ほどの一撃を反省してなのか、その拳は真正面へとまっすぐに突き出される。
 名護の目のあたりにそのままヒットする。体重は乗らないが、命中しやすかった。
 名護の顔に広がる鋭い痛み。思わず右手が片目を抑えそうになる。
 だが、こらえて名護はその腕を掴む。

「……それでは……たとえ世界を守れても、今以上の物に変える事は出来ない……!」

 名護は渡の脇腹を蹴った。
 長い脚を使っての美しい軌道を描いた蹴り。


323 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:04:08 gv8rKMJw0

「ッ!」

 渡の身体はまたも吹き飛び、砂場に倒れる。
 名護は馬乗りになろうとするが、そこで渡の思わぬ力が名護を吹き飛ばす。
 しかし、その痛みも名護は構わない。

「変えるって……なんなんですか……! 僕はただ……!」

 立ち上がろうとする名護に、今度は渡がとびかかった。
 抱き合うようにして掴みかかった二人は、そのまま砂場で転がるようにして相手を振りほどこうとする。
 だが、ただ体が汚れるばかりだった。

「渡君……非情は、あくまで最後の手段だ……! すべてじゃない……!
 非情である事に囚われる王は……本当にあるべき世界を見失う……!
 この世界の歪みを、過ちを……困難を、導く力にはなりえない……!」
「変えたり……導いたりより先に……壊れていく世界はまず守らなきゃいけない……!
 守った後は、貴方が、世界を正せば良い……! きっとそれが……一番……!」
「俺は王なんかの器じゃない……世界を導く王の座があるなら、そこに座るのは、君でも俺でもない……!!」

 名護が叫んで、渡を振りほどいた。
 渡の身体が転がるが、そこから起き上がる。
 一足先に名護も立っていた。
 そんな名護に向けて、渡は肩を抑え、倒れそうな体で前かがみに睨むように訊いた。

「じゃあ誰だと……!?」
「名護啓介の弟子……紅音也の息子……仮面ライダーキバに変身し――紅渡の名を持つ男……かつて俺が見た君……!
 弱さと向きあい……誰かに優しくできる……そんな、かつての君だ……!! 君の中にいる、本当の君だ……」

 自分の中にある自分。――ふと、何かに気づいたように渡の瞳孔が大きくなる。
 名護に、そんな風に評価されていた自分がいた。
 だが、今は違う……。冷徹な王になろうとしている。
 名護は続ける。

「今の王にあるのは……ただのクイーンの血筋……。
 だが、もう一つの血があってこその仮面ライダーキバ……紅渡だ……!
 受け継ぐべきは……キングの名前じゃない……! 優しき君の……紅の名だろう!」
「違う――!! その名前は捨てる……! ファンガイアの王である事こそが僕の力!
 紅渡は……大事な人も守れなかった……そして、紅渡の迷いは、その手で人を殺した!
 それなら、僕はもう迷わない!! 迷いを振り切る事で――すべてを捨て去ってキングになれば、僕は……!」

 渡は駆け出し、名護へと再び大振りなパンチを叩き込んだ。
 同じように疲弊していた名護は咄嗟にそれを避ける事が出来ない。
 何より、左目が先ほど渡に殴られて反応速度が遅れたのだ。

「大切な世界を守れる――!! 失われた世界の人々を、弔う事が出来るんだ!!」

 だが、名護の身体が偶然にもよろけた。
 それは自分でも思いもよらぬほどの疲労が、足の先から彼の身体を倒そうとした為だろう。
 その瞬間に渡が間近に迫り、支えを要した名護の身体は渡の腹のあたりを抱えるようにしてぶつかった。
 渡のパンチは不発し、同時に渡の声が名護の頭上で漏れる。

「守れなかった者たちも……ここで死んだ人たちも……父さんも……前のキングも……他の世界のライダーの名も……ディケイドも……!!
 全部……僕が記憶する……! 全部、弔って、覚えて……背負う……!! 僕の世界の統べる世界の下にあった、犠牲として……!!
 それでいい……犠牲は王だけが……僕が覚えて――背負えば良いッ!!」

 名護は、そのまま体重をかけて二歩、三歩と前に歩く。
 攻撃的な意志があったが、攻撃的な意味のない動作。
 あるのはクリンチのように、相手の攻撃動作を止め回避する意味合いだが、これもまた偶然そうなっただけだった。
 渡も思わず、名護を巻き込んで数歩下がる。


324 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:04:40 gv8rKMJw0

「そんなに張り詰めてどうするんだ、渡君……!
 かつて……ある男が俺に対してこう言った……!
 張り詰めた糸はすぐ切れる……お前には遊び心がない……!
 余裕がないから、たとえ強くても俺に勝てないんだ……と!
 その人の息子である君が……そんな大事な事を忘れてどうするんだ……!」

 紅音也の話だった。
 再び頭に浮かぶ父親の姿に――何かを思う。
 自分の腹を巻くようにして突進し、まだ前に進もうとする名護に向けて、渡は言い放ち――彼の身体を突き放す。

「もう……遊びじゃない……!
 僕は父さんじゃないし……!
 それに、父さんは……もういない……!!」

 名護の身体は、すっかり力を失っていて、僅かの力でもよろよろと後退した。
 バランスを失い、息も絶え絶えながら、名護はまだ渡の瞳を見て構え、言った。

「いや……彼は……君の中にいる……!
 確かに君は、紅音也じゃない……。
 だが、その人を消さずにいられるのは、君だけだ……!」

 同じようにして、ひとつひとつの言葉に動揺する渡もまた、あまり積極的に攻撃を繰り出したくはない様子だった。
 体中が、名護への攻撃を拒絶する。
 歩き出すのが怖い。前に進むのが怖い。彼に何かを言われるのが怖い。それは純粋な恐怖とは、また違う――何かその後に来る心の動きを未然に止めたい、計算の為の恐怖。
 しかし、名護の言葉は途切れない。何を言われても、名護には確固たる想いや確信が、いくらでも湧き上がるのだから。

「君が君らしくいれば……そこに、きっと、彼の姿も現れる……!
 それが……君たち親子を見た俺の――俺の、確信……! そして、この世の理だ……!!」
「世界の宿命を前に――守るべき世界を前には、誰の子でもいられない……僕が僕らしくいる事なんて許されない!! それが王の運命だ!!
 だから――自分の手が穢れるとしても……それが誰かに利用されているとしても、関係はないッ!!」
「自分を……見失うな……渡君!
 誰より……君自身が……そんな事望んでいないだろう!
 君は、やっぱり……君らしく生きればいい――君は……役職や使命なんかの為に……生きているわけじゃない……!!」
「王になる事も……僕自身が決めた運命だ……!!」
「そうじゃない……渡君!
 それは、君が自分を縛る為に定めた鎖……いつでも解き放てる、だから――」

 何かが渡の胸の中で蠢く。
 暴走する本能。怒りでもなく、欲望でもなく、悲しみでもなく、何か……欲望以上の欲するものが渡の中に聞こえた。

 これは鎖だ。
 己の中にある、何かひとつの感情を縛る鎖が、揺れ動いている。
 それがはちきれかけている。


325 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:05:08 gv8rKMJw0










「――――――――運命の鎖を解き放て!! 紅渡!!」











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326 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:05:30 gv8rKMJw0
 名護が叫んだ――渡が呆然とする。

 渡が名護を見た――名護が接近する。

 名護の身体が渡を包んだ――渡の身体が硬直する。

 渡の腕が居場所をなくして空を掴んだ――名護の声が聞こえる。

 名護は、渡をいとしい家族のように抱きしめていた。

「渡君……。俺は……君に、君らしくいてほしい……それだけだ……。
 だから、もう一度だけでいい、もう一度……今度は……俺の隣で戦ってくれ!
 キバとして、紅渡として……!!」
「名護さん……」
「君がそんな運命を辿るとしても、仲間として……師匠として……君と戦った日々には、まだ未練がある……!
 せめてもう一度……君が隣で戦ってくれたのなら――俺にはまだ……そのチャンスが欲しい……!」

 名護は、友として渡を抱きしめるのみだった。
 彼の中の真の想いは、結局のところそれに尽きた。
 誰かの命が渡の手に奪われるだとか、渡の行為が悪だとか、貫く正義があるだとかではなく――ただ、望まない行動を続けている渡の姿が、名護にとっては、見ていられないほど痛々しかった。
 それだけだった。

 名護から見ても――渡は、馬鹿だった。
 だが、どこまでも優しかった。
 そんな渡に対する感情は、どれだけ暴力を乗せてぶつけたとしても、憎しみにはなりきらなかった。

「……」

 そして、渡もまた同じように……名護の愚直なまでの想いや後悔、罪や友情を感じながら、彼を否定しきれなかった。
 いや、どこまでも肯定し続けた。
 そして、渡には、名護に勝つ事は叶わなかった。――この男は、どこまでも、渡の前を往く、自分の師匠だ。





「…………わかりました――名護さん。
 この場は、僕の負けです――僕も、紅渡も……負けを認めるしかありません……」





 力なく、渡がそう言うと――名護は、ほっとしたように力なく崩れ落ちた。
 名護の体重が全て地面に吸われる。

「わかって……くれたか……はは……」

 そう言って笑った後で、名護はそのまま地面に大の字になって寝転んでいた。
 心の底から湧き上がる、不気味なほどの高笑いと、彼の目に見えている夜空の星たち。
 汗まみれで痛む体と、張り詰めていた空気が抜けていく心地よさ。

「――それなら良かった……。
 正直、思ったより体がボロボロだったんだ……。
 君は強い。だから、これ以上、長引かせるわけにはいなかった……」

 そうして一人で公園の地を独り占めにするかの如く寝転び、自嘲気味に笑う名護だった。
 彼の中に到来しているのは、勝利の喜びよりも、その勝利によって渡が初めて「紅渡」である事を認め、名乗った事だった。
 彼はキングではない。――紅渡。ずっと隣で戦ってきた仲間、俺の弟子。

 運命の鎖を、解き放ってくれた。
 そんな渡が、名護を見下ろして、少し吹き出して無邪気に笑った。
 よく見た笑顔、そのままだった。名護もまたつられた。


327 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:05:48 gv8rKMJw0

「……名護さん、目に大きな痣ができてますよ」
「君こそ……頬が少し腫れているじゃないか」
「そりゃ、痛かったですから……。だって、名護さん本気で殴るんですもん」
「君が言える事か。少しは手加減しなさい」
「ごめんなさい。……でも、効きました」
「俺も同じだ。だが、同じ痛みを分かち合うのも、まあ悪くない」

 それから、名護は上体を起こした。
 このままずっと寝転んでいたいほど、体は休息を欲していたが、それよりももっと向き合って、改めて言いたい事がある。

「――もう一度、共に戦おう、渡君」

 名護からは、それだけだ。
 世界の為に戦うな、とは今は言わなかった。

 ただ……隣で戦ってくれていれば……その中できっと、いつか。
 裏切る事のない名護の仲間とともに、変わってくれる。
 親しくなった相手を殺められるほど、渡は冷酷にはなりえない。
 それに――その時の為の言質を取る。

「それでも……もし、考え直すつもりがないのなら、戦うというのなら……その時は、真っ先にこの名護啓介に牙を向けなさい……。
 この俺を倒してから――それができなければ、君に彼らは倒せない。俺も、覚悟は出来ている」

 まずは自分を倒せ、と。
 これから二人で向かう先にいる、他の誰でもなく……。
 それに対して返事をする事もなく、渡は無垢な笑顔を見せて言った。
 キングではない、紅渡としての言葉を。

「……僕は、名護さんと出会えてよかった。
 名護さんは僕にとって、大事な仲間で……大事な師匠で……大事な、友達です。
 ありがとうございました、名護さん」
「……俺も同じ思いだ。……ありがとう、渡君。
 君ならきっと、やり直せる。誰よりも優しく、正しく、強い……本当の王として」
「名護さんは、最高です」
「……君こそ、最高だ」



 しかし――――。



「……」



 ――――そこで、紅渡としての時間は、終わった。



「……でも、ごめんなさい、名護さん――。
 ――これが僕の、裏切りです」



 そんな声と、何か鈍い痛みとともに、名護の意識は途絶された。
 もはや、名護は自分の身に何が起こったのかさえ、記憶していない。
 ただ、それから先――ちょっとした事が起きた。



♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪


328 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:06:11 gv8rKMJw0



 名護は、夢を見た。
 目の前に現れた紅音也が、ふと告げる。

 ――生きて立っている、この男と会うのはいつ以来か。

 彼の遺体は確かに見かけた。それが彼を見た最後だった。
 だが、いつ、彼といつ、どうして会ったのか。
 それが名護の中で思い出せなくなっていた。
 しかし、そんな事は名護にとって些末な話だった。

「……名護」

 音也は、ただ一方的に、どこか切なげな表情を見せて名護に言った。
 声を返せない。名護に声を返す力はない。
 それは、夢だから。
 この夢の中で、名護に声を発する権利は与えられなかった。
 ただ、頭の中で考えたり、疑問に思ったりだけはできた。
 音也が何故、こんな時に自分の前に現れたのか――名護には全くわからない。
 そして、名護は余計に意味のわからない事を音也から告げられる事になった。

「……人の記憶は、脆くて弱い。
 だがな、それでも世の中には『どうやっても忘れられる事のない天才』というのが生まれてしまう。勿論、この俺たちの事だ」

 人の記憶……?
 それがどうした……?
 脆くて弱い、記憶……。

「――忘れんなよ。
 いつか、きっと……お前の中の強さと、あいつの強さがきっと結びついて、もう一度良い音楽を聞かせてくれる。
 こんなに良い音楽が、この世界の歴史から消えて良いわけがない。いや、神が許しても俺は許さない。……俺は信じてる」

 何を忘れるなと言った……?
 あいつとは、あいつとは誰の事だ……?

「じゃあな――後は任せたぞ」

 疑問を訊く事もなく、音也は去っていく。
 それは、あの自由気ままで勝手な男らしい、去り際だった。
 だが、音也の瞳はどこか――懐かしいような純粋さを、常に含んでいた。

 名護の中で――何かが張り裂けそうになる。

 俺は……一体。



♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪



「――――名護っ……! おい名護っ……! いい加減起きろ!」

 名護が目覚めると、キバットバットⅡ世が飛び回っていた。
 何か妙にうるさいものが叫んでいるような気もしていたが、それは彼の声だったのだろうか。
 名護は少々、煩わしく思いながら目覚めた。

「ようやく目覚めたか。
 随分と寝覚めが悪そうだが……まあ別れの言葉も告げずに立ち去るのはこちらの寝覚めが悪いんでな。
 最後にせめて、お前に伝言を授けに来てやったぞ」

 キバットの声を訊きつつも、名護は辺りを見回す。
 一人で何故、こんなところのいたのか――まったく覚えがない。
 その前までは、名護は確か病院で仲間たちと会議をしていた。その後で、何か理由があってここに来たのかもしれない。

 ……しかし、その記憶がない。
 ここに来るだけの必然性もわからないし、その事情を知っているのはキバットだけだろうと思ったが――彼は、「別れ」などと云っている。
 彼は何かを知っているのだろうか。
 いずれにせよ、何故別れなどと云うのだろうか。


329 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:06:35 gv8rKMJw0

「別れる……? 最後……? 何故、俺たちと行けない……キバット君」
「残念だが、名護。俺は新たなる王の覚悟を、見届けた。
 奴の孤独、悲しみ……闇、闇、闇だ。それは確かに、かつての主を上回る。気に入った。
 俺の力を受け継ぐにふさわしいキングだ」

 名護には、彼の告げた言葉の意味がまったくわからなかった。
 ただ、何となく惨めで――何となく、歯がゆい思いがある。
 すっかり置いてきぼりで、それでも、置いていかれるわけにはいかない気分。
 いや――自分も、何か大事な事を忘れているような……。

「……何の事を言っている? それより、俺は何故こんなところで眠っていたんだ……?
 教えてくれ、キバット君。一体、何があった……?」
「フンッ、哀れだな……。とにかく、これは王の命令だ。伝言だけは授けてやろう。
 ディケイド――奴は世界の破壊者。ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命、もし会ったのなら奴だけは真っ先に破壊せよとの事だ。
 ……さて、俺は王のもとへと行く。悪いが、翔一たちにもよろしく頼んだぞ」

 そう言って、キバットは物憂げな顔とともにどこかへ飛び去り、夜の闇に溶けてしまった。
 果たして、彼が何を知っていたのか――それはわからないままだった。

「――待て、キバット君! ……どういう事だ。
 世界の破壊者……それに……新たなる王とは一体……!」

 立ち上がって追いかけようとしたが、体中がズキズキと痛む。
 追いかけるどころか、その行先を見つける事さえ無理だった。
 結局、何故キバットとここにいて、ここで何をしていたのかさえ――名護にはわからない。

「だが、俺は何故――。くっ……」

 頭の中で、キバットの言葉を整理する。

「――俺の……仮面ライダーの使命? ディケイドを倒す事が……?
 いや、俺には何か、もっと大事な別の何かが……」

 違和感。
 目の前に霞み消える何か。
 ここで、さっきまで誰かと話していたかのような錯覚。
 そして、何も話していないのに、何か話し足りないような感覚。

(夢、だったのか……?)

 ……なんだか、それも含めてすべて夢だったような気がした。
 そうだ、さっきまでここで気を失い眠っていたのだ。夢に違いない。
 目覚めるとともに、胸を締め付ける……そんな何か切ない夢を見ていたのだ。
 ただそれだけだ。
 今立ち向かうべきは、現実だった。

「――ッ!」

 ふと、左目に痛みが走った。
 目やにでもついているのかと思って触れると、少し腫れている。
 こんなところをぶつけたり、戦闘で負傷したりした覚えがない……物貰いだろうか。

 そんな事を思っていると、少し、涙が出た。
 それは痛みから出たのか、目のどこかが刺激されたのか、それとも何かの情動が流したものなのかは、誰にもわからなかった。
 それを気にする事もなく、名護はそれを拭った。
 視界の先に、ある物が見えた。

「缶コーヒー……? 何故こんなところに置いてある?
 ……中身が入っているが、まあ良い。ゴミはゴミ箱に捨てなければ」

 ベンチの上に置いてあった缶コーヒーだ。
 名護は不思議に思いながらも、それを近くのゴミ箱に放り捨てた。

 ゴミ箱には、既に同じ空き缶が一つ入っていた。そういえば、自分も先ほどコーヒーを飲んだのか、口の中から微かにコーヒーの香りがした。
 まさか、あそこに置いてあった缶コーヒーでも飲んだのだろうか。
 ……いや、そんなわけはないか。
 そう思いながら、名護は不思議そうにベンチを見つめた。


330 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:06:59 gv8rKMJw0

「――」

 ふと、ベンチに、誰か座っていたような気がした。
 誰かが笑いかけたような気がした。
 しかし、名護はその違和感の正体を、もう気にも留めなくなっていた。
 疲れているのかもしれない、と思いながら。

「――俺は……こんなところにいる場合じゃない。
 戻らなければ……仲間のもとに……」

 名護啓介には――仮面ライダーイクサには、往く場所があった。
 ここで出来た仲間たちのもとだ。まずは、そこに戻らなければならない。

 名護は、それから辺りを見回し、カブトエクステンダーを停めた場所だけ思い出した。
 それでも、やはり何故ここにやって来たのかだけはわからず――ただ、もうそれを考える事もなく、跨り、その場を去った。



♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪ ♯ ♪



「――新たなるキングよ。確かにお前の言う通り、奴からは『紅渡』に関する記憶がすべて消えていた」
「ありがとうございます、見届けてくれて……。
 それより、貴方こそいいんですか? もともと彼らと一緒だったんでしょう?」
「構わん。俺は誰の味方でもない。気の向くままに、在るべきところに戻るだけだ。
 それから、キングよ……貴様がキングを名乗るのなら、俺への敬語もやめろ。俺は王の鎧に過ぎん」

 紅渡――いや、赤い錆色の戦士へと、キバットは告げた。
 渡の今の姿は、人の記憶を代償として変身する忘却の仮面ライダーに変わっていたのだった。
 戦う為ではなく、それは忘れさせる為の変身だった。
 名護を殴打し、気絶させた後――彼は、この姿へと変身したのだ。

「……」

 やがて、戦士の変身を解き、彼は再び紅渡という青年の姿を晒す。その手に持っていたカードは、そのまま砂となり消滅していく。
 渡が名護のもとを去る時に見せた覚悟――それは、“名護啓介の記憶の中から紅渡という青年の存在を消す事”だったのだ。

 もはや、名護は渡の名前を聞いても素知らぬ顔ができるほど、渡の存在を忘れ去っているだろう。
 これでもう二度と、彼の事を紅渡と呼ぶ人間は存在しえない。
 それでいい。
 あれが――名護啓介に抱きしめられてから少しの間だけが、紅渡の最後の時間だった。あそこでもう一度、紅渡の名前を名乗ったのは、最後の決意。
 ほんの少しだけ王の運命から解放され、もう一度、名護に本当の意味で別れを告げる為の行いだった。

(名護さん、僕は――これ以上貴方と同じ道を進む事は出来ません……。
 僕の罪を貴方が背負うというのなら……それだけ多くの人を傷つけ、苦しめる必要があるのなら、最初から僕がいなくなってしまえばいい。
 そうすれば、貴方はもうこれ以上、背負わない。苦しまない。
 そして、貴方は正義の味方――仮面ライダーイクサでいられる)

 師匠である自分が罪を共に背負うと、名護は言った。
 ならば、その事実ごと消してしまえば良いのだ。
 確かに、罪というのは誰もが無自覚に背負う物。知らない事も、忘れる事も、また罪だと云えるかもしれない。
 しかし、それでも罪はただ在るだけでは本人を苦しずには済む。知った時、背負う覚悟を持った時に初めて罪は圧し掛かり、人を苦しめるのだ。
 だから、名護にはすべて、忘れてもらう。

 師匠と弟子であった時間も、キバとイクサであった時間も、友であった時間も、先ほどの戦いも――すべて消えてしまえば、名護はきっと、一つの大きな罪から解放される。
 もし、地獄なんていうものがあるというのなら、そこで渡の隣を歩く必要はない。
 愛する妻と、天にいれば良い。
 ……それで、いいんだ。


331 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:07:20 gv8rKMJw0

(でも、名護さん。
 貴方の言葉は確かに響いた。貴方への最後の言葉も嘘じゃない。
 僕は僕らしく生きたい……ずっとそう願っていた。
 今はそれが出来ない立場だけど……それをわかってくれて、本当に嬉しかった。
 ――貴方はやっぱり最高です、名護さん。
 ありがとう……僕は、忘れない)

 カブトエクステンダーを駆り、どこかへ去っていく名護の背中を、渡は潤んだ瞳で見つめていた。
 既に、彼は切り替えたのだろう。
 それから、決意を秘めてキバットへと言った。

「――行こう、キバットバットⅡ世」
「いいのか……」

 キバットバットⅡ世もまた、珍しく他者を気遣うような素振りを見せた。
 それは、単純にキバット自身もまた、翔一たちと別れた事に少々思わしいところがあったからかもしれなかった。
 しかし、彼は闇のキバの鎧。
 帰るべき場所は悲しみや闇の淵にいる、王の隣だ。
 そういう意味では、キバットにとってはうってつけの場所ともいえるが――しかし、渡はそれをどこにもぶつけなかった。

「――名護さんは……いや、彼は別の道を行くよ。仮面ライダーという道へ」

 どこか爽やかにはにかみながらも、心の奥底には悲しみが溢れていた。
 大事な人から存在が消えるという事は、これほどまでに辛い物なのかと。
 これからたとえ名護に会っても、彼は気づかずにすれ違っていくだろうし、もしかしたら今度会えば止める言葉ひとつもなしに襲い掛かってくるかもしれない。



 そう思うと……。



 ……だが、渡は――キングは去りゆく名護に背を向けながら、次の瞬間にはファンガイアの王としての毅然とした面持ちをしていた。

「……僕は、王の道へ」

 決して、振り向く事なく歩いていく渡。
 運命の鎖は、紅渡と名護啓介を引き裂き――そして、それぞれの道が交わるのを阻もうとしていた。
 ただ、どこかできっと――見えない鎖は、二人を繋げていた。


332 : 師弟対決♭キミはありのままで(後編) ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:08:05 gv8rKMJw0





【二日目 深夜】
【D-2 市街地】

【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、左目に痣
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ラウズカード(ダイヤの7,8,10,Q)@仮面ライダー剣、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:病院の方に戻る。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしていましたが、翔太郎との情報交換でそういうわけではないことを知りました。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。



【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、地の石を得た充足感、精神汚染(極小)、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王 、ハードボイルダー@仮面ライダーW、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K)@仮面ライダー剣、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、地の石(ひび割れ)@仮面ライダーディケイド、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:レンゲルバックルから得た情報を元に、もう一人のクウガのところへ行き、ライジングアルティメットにする。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。次こそは逃がさない。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※地の石にひびが入っています。支配機能自体は死んでいないようですが、どのような影響があるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※赤のゼロノスカードを使った事で、紅渡の記憶が一部の人間から消失しました。少なくとも名護啓介は渡の事を忘却しました。
※キバットバットⅡ世とは、まだ特に詳しい情報交換などはしていません。
※名護との時間軸の違いや、未来で名護と恵が結婚している事などについて聞きました。


333 : ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 03:15:40 gv8rKMJw0
以上で、投下終了です。
修正点、疑問点、矛盾や指摘などがあったらお願いします。

ちなみに、折角のキバVSキバの同作キャラだけの話だったので、今回キバ及び原典でクロスのある電王・ディケイド以外の固有名詞は、極力言及するのを避けて書いてみました。
ちょいちょいあんまり関係ない平成ライダーシリーズみたいなシーンや台詞があるとしても気のせいです。

また、ここまで平成ライダーロワでは書いてきませんでしたが、当時から読み手として読んでおり、他のロワで書いた際に大いに参考にしたロワでもあります。
何年か越しに復活していた件についてもこちらの酉でお祝い致します。嬉しいです。イエイ。
誰にも関係ないですが、仮面ライダーキバの10周年も重ねてお祝い致します。


334 : 名無しさん :2018/03/17(土) 08:39:38 nuLKnJJg0
投下乙です。
キバ10周年に相応しい大作見事でした! 名護さんは渡を最後まで想い、その気持ちは確かに届いたのでしょうけど、だからこそ渡は進むしかないのですね……
渡と名護さんが男同士でぶつかり合い、その果ての忘却してしまうことが何とも切ないです……
そんな渡をⅡ世が認めてくれたのは、果たして救いとなってくれるのかどうか……? 渡はⅡ世の息子と共にいた男でもあるので。


そして指摘なのですが、渡の【状態】でゼロノス変身後の時間制限が抜け落ちているようなので、そちらを加筆した方がよろしいと思います。


335 : 名無しさん :2018/03/17(土) 11:11:01 xjxnjFa.0
投下乙です!
渡と名護さんの殴り合いの末、”紅渡”が戻ってきたかと思えば……それが最後だなんて辛すぎるよ渡
名護さんから渡の記憶が消えてることは病院組の誰かに出会えばすぐわかるだろうけど……それより先に渡が合流してきたらヤベーイ!
渡を”仮面ライダー”に出来る存在が今一人消えて、残る希望はキバット、後は名護さんの後を継いだ総司くらい?
何にせよ先の読めない今後が気になる作品でした、本当にお疲れ様でした。


さて、それはそうとして月報の集計です。
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
118話(+ 9) 20/60 (- 10) 33.3(- 16,7)


336 : 名無しさん :2018/03/17(土) 12:48:42 JJgdDuLU0
>>335
月報は3/15まででの集計だから最新話は含まれないのでは?


337 : 名無しさん :2018/03/17(土) 12:59:21 xjxnjFa.0
>>336
失礼いたしました、それでは集計し直してこちらが正式な結果になります。
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
117話(+ 8) 20/60 (- 10) 33.3(- 16,7)


338 : 名無しさん :2018/03/17(土) 15:46:03 R.OtYQcA0
投下お疲れ様です!
他の方も述べられたとおり、キバ10周年に相応しい傑作でした!
遂に邂逅した名護さんと、キングを継いだ渡。互いの想いが交錯する会話と生身の殴り合いは、井上脚本と小林脚本(こっちはオーズ含む)が融合したような前期平成ライダーらしいテイストの展開でした。
それに見合う感情描写の見事さ、自身の罪を振り返った名護さんの心象世界が小説版キバを思わせる小ネタなど、読み応え充分な描写で見せられる男同士の情。友として師匠として、渡を想う名護さんは最高です!
でも、そんな最高な名護さんを苦しめないために渡が最後に選んだ手段があまりにも、あまりにも切なく悲しい……最高のSSでした

それはそれとして、遂に闇のキバをゲットして、王の鎧への変身をコンプリートすることが可能になった渡までマーダーのまま加わった会場西側、激戦区過ぎる……仮面ライダーたちや彼らの守りたい人々はどれほど生き残れるのか
そして名護さんが忘れてしまったとしても、キバ勢のみんなが奏でた音楽の残響が渡の結末に救いを齎すことはできるのか、先の展開も楽しみです
改めて傑作の執筆と投下、お疲れ様でした!


339 : ◆gry038wOvE :2018/03/17(土) 16:11:47 gv8rKMJw0
>>334
指摘ありがとうございます。
忘れてました(ゼロノスだけに)。2時間変身不能で。

あと>>320の名護のやたら長い台詞ですが、

> 己の正義の為に――父を死なせた自分の思想を守る為の言葉の為に、自分の中でファンガイアを強力な悪に見立て、戦った。

というところがちょっと日本語的にアレだったので、

>己の正義の為に――父を死なせた自分の思想を守る言葉の為に、自分の中でファンガイアを強力な悪に見立て、戦った。

にwikiで修正しますね。


340 : 名無しさん :2018/03/21(水) 22:46:01 IXm6/dRk0
仮投下きてるぜオイ。


341 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:06:27 uCHFX0U.0
これより、本投下を開始します。


342 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:06:58 uCHFX0U.0



 ……放送の役目を終えた飛行船が、夜空に生じたセピア色の極光の中へと帰って行く。

 F-6エリアのとある民家――廃工場から程近いその一軒家で放送を聞いていた葦原涼は、その帰路を為す術なく見送るしかなかった。
 悲しみの果てに、悪夢から解き放たれて最期を迎えた鳴海亜樹子。彼女の遺体を、最後に交わした約束の半分だけでも果たそうと、この家の寝台に安置し終えたところで、第二回放送が始まったのだ。

 最初の放送は、涼自身は意識を喪っていて直接受け取ったわけではない。内容を伝えてくれたのは門矢たちで――そして瞳を閉じていた己の傍に居てくれたのは、亜樹子だった。
 例えその心に秘めたものが、殺意だったとしても――それが彼女の本当の望みでなかったことを、涼はもう知っていた。

「――悪いな。おまえが起きるまで、一緒には居てやれなさそうだ」

 いつまでだって俺がいる。だから安心して、眠って良いんだ――

 そうは言ったが、いつまでだって亜樹子の隣に居てやることは、今はできない。

 殺し合いはまだ終わっていない。その苛烈さが陰りを見せる様子すらないことを、先の放送は告げていた。

 ――――ヒビキが、死んだ。

 あのライダー大戦と呼ぶべき病院での大乱戦の最中、皆を逃がすための殿を務めてくれた涼の仲間が。
 彼らの生きた、その世界ごと。

 恩師にも、恋人にも、次々と見放され、孤独を深めて行った涼の手を取る新たな仲間となってくれたヒビキ。
 誤解からとはいえ、彼の仲間を殺めた涼を赦し、あまつさえ迷った時には鍛えてくれるとまで言ってくれた恩人を喪った――きっと、彼一人に押し付けたせいで。

 さらに言えば、彼らの世界を滅亡に導いた罪の四分の一は、涼自身の犯した物だ。
 世界の破滅、その引き金を引いた一人となってしまった途方もない罪悪感は、本来一人の身で背負いきれるような重さではなかった。

 ――だが、今は違う。

 乃木や矢車を喪っても、亜樹子を護り切れなかったのだとしても。今の涼にはまだ、仲間がいる。
 元の世界で、同じような力を持つ津上翔一。そして門矢士や橘朔也、フィリップや志村純一と言った、この戦いの中で新たに出会った仲間たちが。

 彼らが、同じ方向を見据えて戦ってくれる。そんな確信が、涼の心に折れることのない強さを与えていた。

 過ちなど、既に数え切れぬほど繰り返してきたこの身だ。
 それでも、そこから逃げさえしなければ――そんな過ちすらも含めて、ヒビキたちは涼を受け入れてくれた。

 ならば、今は膝を着いている場合ではない。
 罪に怯える弱い自分自身さえも破壊し、彼らの分もこの、仮面ライダーの力で人を護ることが己の為すべきことだと、涼は既に理解していたからだ。

 立ち止まることは許されない。特に――首領代行を名乗った女の背後に控えた異形のことを知る、この自分は。

「行ってくる――必ず迎えに来るからな、亜樹子」

 一時の別れを告げて、涼は部屋を後にした。
 ……この会場において最も長い時間を共に過ごした女は、涼の出立を無言のまま受け入れた。


343 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:08:33 uCHFX0U.0





「……もう向かっても良い頃だろう」

 亜樹子を残して家を出てすぐ、涼は北西を見据えて呟いた。
 もう、迷っている時間はない――とは思っていても、現実として与えられた情報や湧き出た感情をすぐに整理できる、というわけでもない。
 放送の情報を纏め、再び心に確かな火を灯すまで、暫しの時間が必要だった。

 おかげで、亜樹子に別れを告げて家を出た今は既に、日付が変わってから十分以上が経過していた。
 ギルスの力を取り戻すまで、残り五分程度。移動時間を考えれば、病院の方角へ歩みを進めても良いはずだ。

 この二時間で、大勢が死んだ。だが生き残った者もいる。
 戦える者が多くなれば、助けられる命も増えるはずだ――そんな考えで足を踏み出そうとした、その時に。

「おっ、ちょうど良いタイミングだったみたいだね」

 涼の前に、見知らぬ少年が現れた。

「――何者だ?」

 思わず、涼は問うていた。
 赤いシャツを金髪の少年の出で立ちそのものは、大きく奇特なわけではない。
 またガドルが放っていたような威圧感、金居の齎していた緊張感のようなものも、軽佻浮薄が服を着て歩いているような彼からは特に伺えない。

 だが――彼の姿には、明らかな違和感があった。

「それは最初の放送を聞いてくれてなかった君が悪いけど、特別大サービスで答えてあげるよ。ギルス」

 涼の、変身した後の名を一方的に知っているその少年には、なかったのだ。
 全ての参加者を等しく律する大ショッカーの権威の象徴――すなわち、首輪が。

「僕は第一回放送を担当した大ショッカー幹部のキング。名簿に載ってた奴とは別人だから、そこは誤解しないでよ?」
「――ッ、おまえが……っ!」

 誰何に答えた少年に向かって、思わず涼は吼えた。
 涼の聞き逃した、第一回放送の主。多くの脱落者を愚弄したと聞く邪悪。剣崎が封印したはずの、アンデッド――!

 全く想定していなかった、望外の遭遇。
 その事実に気づいた時、涼は無意識のうちにキングに駆け寄り、衝動のまま殴りかかっていた。

「おっと」
「――ッ!?」

 だが、軽薄な表情に向けて打ち込んだはずの右の拳が覚えたのは、皮越しに肉と骨を叩くそれではなく、硬い金属の手応え。
 ――キングを護るように、頑健な金属製の楯が、何もないはずの宙に出現していたのだ。
 その姿を視認できたのは一瞬。予想外の抵抗に、拳を痛めた勢いすらも即座に跳ね返されて、涼は無様に地を転がった。


344 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:09:12 uCHFX0U.0

「あはは。バッカだなー、僕はキング。一番強いって意味のキング。君じゃ勝てるわけないでしょ?」

 痛みに呻きながら立ち上がろうとする涼を見て、キングはそんな嘲笑を降らして来た。
 ……悔しいが、一方で認めざるを得ない部分もあった。眼の前に大ショッカーの大幹部が現れたからと言って、感情的になり過ぎた。
 ギルスに変身できるようになるまでまだ数分かかる。カテゴリーキングに属するアンデッドだと聞くキングに生身で挑むのは無謀そのものであり、馬鹿と罵られても否定できない。

 そんな当たり前の前提すら忘れさせるほど、涼の中には大ショッカーへの激しい怒りが渦巻いていたのだろう。

「ふふ、いい顔してるね。君を選んでここに来た甲斐があったよ。死神博士たちを警戒させてくれたカッシスのおかげだね」
「……何?」
「細かいことは良いよ。要するに、僕もこの最ッ高に面白いデスゲームに飛び入り参加したってわけ。その最初の遊び相手が君なんだよ、ギルス」

 完全に見下した風に、キングは涼に告げる。

「君、折角僕の盛り上げた放送を聞いてなかっただけじゃなくてさ。ブレイドにも変身したでしょ? このゲームにも真面目に付き合わないまんま――気に食わないんだよね。だから面白くしに来たわけ」
「……やっぱりおまえら、一つだけでも世界を救うなんて殊勝な考えで動いているわけじゃなかったのか……っ!」

 立ち上がった涼に、キングは笑いながら答える。

「さあ? 何せ首領はすごーい神様だからね。バルバ以外、真意はだーれも知らないみたい」
「神様……だと?」
「そう。だけど、わざわざ僕を幹部に選んでるんだから……同じように、全部の世界をメチャクチャにしたいって思ってるのかもね!」

 そこまで吐くと同時、キングは姿を変えた。
 あのゴ・ガドル・バとギラファアンデッドを合わせたような、金色に鋭角的な意匠を凝らした大柄なカブトムシの怪人――コーカサスアンデッドに。
 そして変身と同時。涼の瞳に焼き付いた華奢な少年の姿、その残滓が消えるより早く、コーカサスアンデッドは手にした大剣を一薙ぎした。

 咄嗟に屈んで死の一閃を回避した涼は、しかし遅れて理解した。
 先の刃が狙っていた的が、己の命ではなかったことを。

「――ッ、亜樹子っ!」

 破壊剣の一撃は、ただ刃先の長さに囚われず。伴って放たれた衝撃波が、描かれた弧の延長線上に疾っていった。
 それはつい先程まで、涼が身を置いていた家屋を両断し――支えを喪わせることで、自重によって倒壊させた。
 逃げ場のないその重さによる蹂躙に――きっと亜樹子の亡骸は、耐えきれない。

「あーあ。安心して眠らせてあげるって約束、守れなかったね?」

 まだペキパキと、柱や板や、あるいは――――ともかく、何かの割れるような音が響く中、明確に涼を玩弄するような声で、愉悦を隠しきれないと言った様子のコーカサスアンデッドが告げてきた。

「――ッ!!」

 外道の所業に堪え切れず、涼はもう一度飛びかかっていた。
 それは先程自戒したばかりの、激情に任せた行動。未だ制限に縛られた身では、その失敗から何かを変革する術など持ち合わせるはずもなく。
 構えられた楯を突き出された勢いのまま、涼は顔面を強打して弾き返された。


345 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:10:09 uCHFX0U.0

「ぐ……っ!」

 もんどり打って倒れながらも、鼻から流した血の分だけ冷静になった涼は瓦礫の山と化した一軒家に視線を向ける。

「亜樹子……、くっ!」
「おぉっと!」

 涼が起き上がろうとするのを見逃がさず、コーカサスアンデッドが手元で剣を旋回させれば、撹拌された大気が増大したような力の波が発生する。
 サイコキネシス――涼自身も何度か体験したような超能力の一種が、圧倒的な推進力と化して肉体を後方に運んだ。
 受け身も取れずに硬い路面に叩きつけられ、体の奥に蓄積された鈍い痛みを呼び覚ます衝撃に目眩を覚える。
 それでも意識の手綱を離すわけにはいかないと、涼は何とか立ち上がる。

「ほーら、逃げろ逃げろ!」

 抵抗する術を持たず、後退するしかない涼を東へと進ませるように、コーカサスアンデッドは向かって来る。
 目的は当然、万が一にも門矢たちが救援に駆けつける可能性を潰すためだろう。
 隙を見て、斜めに突破しようとしても、射程の長い念動力が涼を仲間たちとは反対方向へと追い立て続ける。

「あっはっは。ダッサ!」

 何度も飛ばされ、痛みに動きが鈍ったところをコーカサスアンデッドの剣が襲う。あのガドルのそれにも匹敵する迫力の刃はしかし、先のような飛ぶ剣撃を放ちはしない故に、紙一重の回避に成功する。
 嬲られている――それを理解するのに、さしたる時間は要しなかった。

「本当に逃げるしかできないんだ?」
「――黙れ!」

 まだ、数十秒。ギルスへの変身が解禁されるまでは時間を要する。
 コーカサスアンデッドの挑発に、身を翻して走る途中で叫び返した涼だが、音の速さで迫る言葉からは逃れきれない。

「君は僕と違って弱いよね。だからメチャクチャにされちゃうし、メチャクチャにしちゃうんだよ」

 闇の中。表情の動かない異形の貌。それでもなお、ニヤニヤと意地汚く笑っているのが筒抜けな声音で、コーカサスアンデッドは続ける。
 安い挑発から逃れようと走るが、しかしそれが事実として、仲間との合流という目的から遠ざけられていることに思わず涼は歯軋りする。

「ファム、アポロガイスト、タブー……ゲームに反対するって言いながら、乗ってるプレイヤーばっかり助けてさ。なのに自分の世界だってロクに守れてない。単に下手くそなんだよね、君は。見てて気分悪いぐらい」

 大きな反応を見せない涼をさらに突くように、主催者側ならではの情報アドバンテージを以って、コーカサスアンデッドは言葉を並べる。

「ブレイバックルだってグロンギなんかに奪われて、それでダグバ――第零号って言った方がわかり易いかな? あいつにブレイドの力を使わせちゃってやんの」
「……なんだと!?」

 予想だにしなかった展開を告げられて、涼は思わず問い返した。
 最悪の未確認、第零号。人々を守る仮面ライダーの理念と対局に位置するような怪物の手に、剣崎が遺してくれたブレイバックルが……?

 思わず、足を運ぶ速度が緩まった。
 心に加わった衝撃のほどを目敏く見定め、コーカサスアンデッドはさらに残酷な真実を明かして来た。

「――それで一気に、三人も死んだよ。ヒビキの世界からも一人。君のアシストで半分も落ちちゃってるから、君はあの世界から恨まれるだろうなぁ」
「――ッ!」


346 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:10:51 uCHFX0U.0

 思わず、足を運ぶ速度が緩まった。
 心に加わった衝撃のほどを目敏く見定め、コーカサスアンデッドはさらに残酷な真実を明かして来た。

「――それで一気に、三人も死んだよ。ヒビキの世界からも一人。君のアシストで半分も落ちちゃってるから、君はあの世界から恨まれるだろうなぁ」
「――ッ!」

 思わず、膝が折れそうになった。
 痛みきったこの心身を支えてくれる、仮面ライダーという絆。
 その信念に殉じた男の最期に対して、最悪の背信を働いてしまったのではないかという恐怖が、心に通したはずの芯を萎えさせた。
 加えて倍加した、響鬼の世界の滅亡に加担したという罪の重さが、涼の足を止めさせていた。

 その様子に満足したように、悠然と歩んできたコーカサスアンデッドが、さらなる嘲笑を投げかけてくる。

「なのに、自分の世界の小沢澄子だって死なせちゃって、何がしたいんだかわかんないよね。下手くそ」

 ――何がしたいのか?

 ほんのつい最近まで、涼はずっと迷っていた。人の身で抗うにはあまりにも強大過ぎる、運命の奔流に押されるがまま。
 そんな荒海の中で漂流するような人生に与えられた、目指すべき灯。それは……

「俺は……人を守るために……」
「ブレイドの――剣崎一真の真似かな? それが口先だけの、役立たずの正義の味方ってことだよ」

 涼が絞り出した仮面ライダーの正義を一笑に付して、コーカサスアンデッドは手にした大盾で涼を痛烈に殴打した。
 路地裏に叩き込まれた身体が、空の瓶を満載したコンテナケースに受け止められる。
 当然、固定されてもいない、ただ積み上げられただけの空箱は上級アンデッドの膂力で生じた慣性を支えきれず、涼はその山を押し退けて反対の街路にまで転がってしまう。

 内側を切ってしまった口の中に溜まった血。鉄の味を吐き出している間に、その狭い道を器用に渡ったコーカサスアンデッドが、散乱したガラス片を苦もなく踏み潰しながら迫ってきた。

「そろそろ鬼ごっこも終わりかな?」

 周囲の様子を見渡し、勝利を確信しきった様子で、コーカサスアンデッドが問いかけてきた。
 その凶悪な貌を険しく睨み返しながら、涼は初めてその言葉に頷いた。

「……ああ。おまえが調子に乗るのも終わりだっ!」

 気力を振り絞り立ち上がった涼は、胸の前で両腕を交差させた。

「――変身!!」

 ……苦渋の逃走劇を繰り広げていた間に、涼に課された残り数分の制限時間は消化されていた。
 故に、仮面ライダーの一員たる力――緑の異形たるギルスへと、自らの存在を入れ替えるようにして変身を遂げることが可能となっていたのだ。

「ハァァァ……っ!」

 変身してすぐ。気合を入れる声とともに、生々しい音を立ててギルスの両腕から金色の爪が出現する。

「わぁ、痛そう」
「ウォアァッ!」

 おちょくるように呟くコーカサスアンデッドに取り合わず、ギルスはその爪を携えて駆け出した。

 急迫するギルスに対し、コーカサスアンデッドは楯を前面に構える。
 生身の時に何度も跳ね返された強固な楯。今の状態でも、ただ殴って壊すことは容易ではないだろうことはわかっている。
 だが、ギルスとなったことで格段に向上した腕力で、その防御を崩し、こじ開けることは可能なはず――!


347 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:11:28 uCHFX0U.0

 くだらない悪意のままに亜樹子の遺体を辱め、剣崎を愚弄し、彼らの護ろうとした世界をメチャクチャにしたいとほざく怪人をまず一発、ぶん殴る。

 その想いを原動力に、ギルスはさらに力強く加速して――そして、見誤った。

 コーカサスアンデッドが楯を構えたのは防御のためではなく、攻撃のためであったことを。

「何――っ!?」

 ギルスが右の裏拳で払い除けようとした寸前、コーカサスアンデッドはソリッドシールドを自ら後ろに引き下げて――その影に予兆を隠していたオールオーバーの一撃、その全容を明らかとした。

 間合いを見誤ったギルスクロウは、振り下ろされる刃を迎撃する軌道への修正が間に合わず。
 不意を衝く形で叩き落とされた破壊剣は、その剣先をギルスの右上腕に食い込ませ、甲殻ごと鮮やかに両断してみせた。

 接触により、互いに屈折しながらの交錯。その疾走を停滞させる、息の詰まる灼熱。
 ぼたぼたと、己の命の一部が零れ、人造の大地に吸われる湿った音が響く。

 ――そして遂に、ギルス=葦原涼の膝が地に着いた。

「ぐ……っ、ガ、アァアア……ァッ!!」

 右腕を喪った激痛に耐えきれず、その場に倒れ込んだギルスは咆哮した。

「――だから言っただろ、ギルス? 君じゃ僕には勝てないってさ」

 その背中越しに、コーカサスアンデッドの軽薄な声が聞こえてきた。

 幾度となく激しい怒りを想起させて来たその声――だが最初の攻防で、片腕を奪われたとあっては否定できない言葉でもあった。

 こいつは強い。パワーも技術も、涼の変身したギルスを凌いで余りある。単純に見繕って、その実力は金居の変じたギラファアンデッドと同等クラスだ。
 本来は、もっと慎重に戦うべき相手だった。あるいは唯一対抗できるだろうスピードを活かして撹乱すれば、勝機も探ることができたかもしれない。

 だがここまでの言動で、変身できない涼の冷静さを奪わせ、反撃のチャンスを前に隙を生じさせてそれを潰した――あるいは全て、そのための立ち回りだったのか。

 ともかく結果として、ただの一撃で戦力を激減させられてしまった。大量出血として体力まで喪われては、アドバンテージの機動力すら低下を余儀なくされる。
 奴の言う通り――今のギルスでは、コーカサスアンデッドには勝てない。その事実を悟らざるを得なかった。

(……っ、まだだ!)

 だが、諦めるわけにはいかない。
 ここで諦めて死ねば、葦原涼はただ大ショッカーに都合の良いピエロでしかない。

 命ある限り戦う――仮面ライダーとして。
 この邪悪な怪人を討ち、大ショッカーの打倒に貢献してみせる。
 剣崎は、ヒビキは、散っていた仲間たちは、きっとそうしたはずだから。

 気力を振り絞り、ギルスは状況を再認する。
 しかし激痛に負けないよう、いくら心を強く持とうと、彼我の戦力差が覆るわけではない。再度感情に任せて飛びかかれば、今度こそ致命の一撃を受けるだろう。


348 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:12:06 uCHFX0U.0

 一縷の望みは――ヤツの方が先に変身しているということ。
 キングがコーカサスアンデッドの姿に変わってから、既に数分が経っている。残り時間を持ち堪えさえすれば――

 見出した希望に賭けて立ち上がるギルスに対し、コーカサスアンデッドは肩を竦めてみせた。

「逃げたって無駄だよ。僕は君らと違って首輪をしてないだろ? だから力を使うことに制限はないんだ」

 そしてギルスの思考を事前に予測していたかのように、唯一の活路を詰んできた。
 絶望に浸されていく心地で、呆然と振り返るギルスに対し。指先で破壊剣を弄びながら、コーカサスアンデッドは問うてくる。

「これが僕のゲームメイクさ。君と違って良いプレイングでしょ?」

 無力な生身を甚振り、変身すれば冷静さを欠いた隙を見逃さず圧倒的な実力差で叩き伏せ、ダメ押しに変身制限が存在しないことを最後の最後に告げてくる。
 敵対者の心を折るための、見事な展開と言うべき事態の運び方だった。

 仮に純粋な戦闘力で及ばぬ相手がいるとしても、確かにこいつなら、それさえ覆すような戦運びをしてのけるだろう。
 そのために必要な情報も、既に主催陣営として収集し終えているのだから。
 紛れもない強者――だが、あまりにも心が醜悪な。

(こんな……ヤツに……)

 こんなところで負けて、独りで終わってしまうのか。
 受け入れがたい諦観が、それでもするりと心の隙間から忍び込んでくるのをギルスは感じた。
 その揺らぎを狙ったように、未だ止まらない出血がギルスの意識を引っ張って、深い水の底まで沈んでいくような感覚を齎し。
 葦原涼の意識は変身したまま、一瞬、闇の中に飲み込まれ――

「寝るなよ」

 消えかけた意識は、腹腔に響いた重い衝撃に覚醒させられた。
 コーカサスアンデッドから痛烈に蹴り上げられて、軽くなったギルスの身体は持ち堪えることもできず、一軒の住宅の壁に打ちつけられ、砕きながらも落下する。

 ――何という無様。

「クソ……っ、クソォッ!」

 堪らず、ギルスは絶叫した。だが片腕を喪ったことに未だ慣れない身では、ただ立ち上がることにすら手間がかかる。
 上手く動けなかったその時、不意にギルスの視覚は、闇の中に一つの物言わぬ影を見つけ出した。


349 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:12:39 uCHFX0U.0

「……木野?」

 そこに転がっていたのは、あかつき号の一員にして新たなアギトに覚醒した人物――木野薫の撲殺死体だった。
 顔は手酷く殴られて変形し、髪型も乱れているが、あの体格と服装、残された輪郭や顔のパーツから言ってまず間違いない。

 この殺し合いに巻き込まれる以前から、一度はその手で救った涼自身や真島浩二を攻撃してくるという変貌を遂げた知人との想定外の再会に、ギルスは一瞬、時を忘れて硬直した。

「あー、そういえばこの辺がアナザーアギトの死んだところだったっけ」

 相変わらず、ゆったりとした足取りで追跡してくるコーカサスアンデッドが、ギルスの視線の先に気づいたように呟いた。
 涼をギルスと呼んでいたのを見るに、アナザーアギトとは木野のことを言っているようだ。単なるアギトという呼称でないのは、先にアギトに目覚めていた津上との区別を付ける意味があるのだろうか。
 とりとめのない思考の中でそんなことを考えていると、ギルスの聴覚は汚泥の煮立つような笑声を拾った。

「そいつも傑作だったよ。色々勘違いした挙げ句、支給品のメモリにあっさり呑まれちゃってさ。反動で動けないところを親父狩りされて死んでんの」
「――笑うな!」

 思わず、ギルスは声を張り上げ、怪人の言葉を遮っていた。
 残り少ない体力を、必要以上に消費してしまった呼吸を落ち着かせながら、それでもギルスは言葉を続ける。

「……こいつを笑うな。こいつは、木野は……本心はどうあれ、俺の心に最初に火を点けた、恩人だ」

 ――俺の力で、人を守ってみるのも悪くない。

 呪いとしか思えなかったこの異形の力を、涼が明確に前を向いて捉えることができたきっかけは、確かに木野薫との出会いに在った。
 そんな恩人を、幾ら強大な力を誇ろうと、見下げ果てた幼稚な心根の怪物に嗤われるというのは、ギルス――涼にとって耐え難いことであったのだ。

「いや、無理だって。君らの世界、丸ごと空回ってるピエロだし。僕じゃなくても笑っちゃうよ」

 そんなギルスの怒りもどこ吹く風と嘲笑い、コーカサスアンデッドが手の中で得物を弄ぶ。

「その、君の心の火? って奴も、まさに風前の灯火だもんね」
「そうでもない……おまえを倒せば、まだ俺は戦える。木野に貰ったこの火は消えない、消させないっ!」

 折れかけた意志が、見出した使命によって再び熱を持ち、打ち直される。
 声を発することに、もう苦痛を覚えなかった。あれだけ震えていた足がしゃんと路面を噛んで、ギルスの身体を立ち上がらせる。

 そうして隻腕のまま闘志を見せるギルスを、コーカサスアンデッドは鼻で笑った。

「バッカだなぁ、こんなにやられてまだ僕の強さがわからないの?」
「確かに俺はおまえより弱いかもしれない……だが、そんなことで諦める弱い俺を、破壊してくれた奴がいる」

 脳裏に浮かぶのは、不敵に笑う青年の顔。
 この地で新たに得た、仲間の一人。

 そうだ――涼はもう、独りではない。
 なのにあっさりと絶望に屈していては、ホッパーゼクターにも、あの世の矢車にも愛想を尽かされてしまうだろう。
 勝手に諦めて、仲間に迷惑を掛けられない――世界を滅ぼしたという罪を知らされた時にも支えてくれた、その気づきの再認が、死に瀕したはずの肉体にもう一度、力を漲らせようとしていた。

「だから木野や、ヒビキや、剣崎……もう戦えないあいつらの代わりに、俺が戦わなくちゃいけないんだっ!」


350 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:13:14 uCHFX0U.0

「そういうのはもういーから……あーあ、なんか萎えちゃったなぁ。もう終わりにしよっか」
「終わらせるものかッ!」

 不屈の意志を声にして、ギルスは再び駆け出した。
 限りなく勝ち目の薄い戦いに、それでも、生存の可能性を否定する怪物を葬るために。
 これ以上の犠牲者を出さぬよう――仲間たちや、彼らの大切に想う人々の未来を護るために。

 強く、強く拳を握った、その瞬間――




 ――背にしていたはずの木野薫の亡骸から、闇を切り裂く光が齎された。







 ――とある男の話をしよう。

 かつて、その男は、一つの事故で弟を喪うこととなった。
 弟を助けることができなかったという後悔は、他者を救うという行為を代償として求め――やがては、救いを求める人間は全て自らの手で救わねばならないという妄執に取り憑かれるようになった。

 転じて、己以外に他者を救う存在は不要であるという危険思想にまで達してしまった男は、人々を襲う怪物だけでなく、人間を守護する同族にまで牙を剥いた。

 人を救う力を持つ存在――アギトであることに、男は呑み込まれた。

 だが、同じく事故で喪われた男の右腕――それが紡ぐはずだった可能性を再起させた、移植された弟の腕が、いつもその邪魔をした。

 他の善良なアギトへの攻撃を諌め続ける弟の右腕に、彼が戸惑いを覚えていた時――謎めいた人物が、見透かしたように現れて、こう言った。

「おまえは、何故アギトが存在するかを知らない。
 アギトの種は、人間と言う種の中に遥か古代に置いて、すでに蒔かれていたのだ。
 たった一つの目的のために……人間の可能性を否定する者と戦うためにだ!

 ――アギトの力を正当に使った時、初めておまえは、自分を救うことができる。おまえはまだ、アギトの力の使い方を知らない!」

 知った風な口を効くその人物の言葉を、男はすぐには受け入れなかった。

 だが、それは確かに彼の中に引っかかり続け――この世界存亡を懸けた生存戦においても、自らが力に呑まれるのではないか、という不安として、死の寸前まで胸にあり続けた。

 アギトの力を行使する暇すら与えられなかった死の際の、男の心中、その全容は決して知れない。

 ただ、それでも彼は、自身を救うことを――アギトの力を正当に使うことをきっと、求めていたはずであり。

 その意志はきっと、この殺し合いを仕向けた存在と対局に位置した、アギトの力の根源が目指した景色と、合致したものであった。



 だから、遠き神話の時代から、現代にまで続いたように――男の意志を継ぐ者のための奇跡が今、光となって輝いていた。


351 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:14:22 uCHFX0U.0





 キング――コーカサスアンデッドが会場に降りてから、想定を裏切られたのはそれが二度目だった。

 そのうちの一度目は、死亡と同時に首輪が消失したことで、正しく制限が働くか不明である乃木怜治の復活。そのイレギュラーを警戒し、対処も兼ねてキングの参戦を認めた死神博士の読みが外れたこと――強敵であるカッシスワームとの対決も睨んで準備をしてきたというのに、ギルスの制限解除に至ってもその影も形も見えなかったこと。言うなれば杞憂でしかなかったことだ。

 だが、この――時間もわからなくなるほどの眩い白光は、本当の意味で、予想だにしていなかった事態の発生を意味していた。

「これは――っ!?」

 次の瞬間、強すぎる輝きから視界を庇うように構えていた左腕に、強い衝撃が走った。
 正確に言えば、その手に携えていたソリッドシールドに。

 何かが二発、ほぼ同時に着弾した。非常に強い衝撃を与えたそれは、楯に食い込んだまま離れず――あろうことか、コーカサスアンデッドの豪腕さえも捩じ伏せる勢いで、引っ張って来る。

「――ウァオォオオオオッ!!」

 野獣の如き雄叫びが、コーカサスアンデッドの聴覚を震わせた直後。三度目となる強い衝撃、そして何かの砕ける致命的な手応えが、左腕を通して伝わってきた。

「……何が!?」

 砕け散ったもの――それは鉄壁を誇った、コーカサスアンデッドの持つ盾、ソリッドシールドだった。
 それを為した触手、のようなものを伸ばした濃緑の影は、喪われていた右腕――さらにはその肩や肘から禍々しい刃を今まさに生やしながら、紅い双眸でコーカサスアンデッドを睨めつけて来る。

「その姿……まさか、進化したってこと?」

 まさに今、目の前で“変身”した敵手に対して初めて、コーカサスアンデッドは動揺の声を漏らした。

「……らしいな。おまえの笑った、木野が俺にくれた腕……継がせてくれた、人を救うための力だ!」

 答えた異形はギルス――葦原涼の声で、コーカサスアンデッドに力強く言い返した。







 彼の到達したその変身は、アギトの力を受け継いだことでギルスの限界を超えた姿――エクシードギルス。

 かつてあかつき号事件で、死亡した白き青年から沢木哲也にその力が受け継がれたようにして、木野薫の遺体からアギトの力が涼に譲渡された結果起こった奇跡。
 少し未来の時間軸において涼が受け取った真島浩二のそれとは違い、完全覚醒を遂げていたアギトの力は、今まさに必要とされるこの時に、彼の限界を越えさせた。

 それはまさに、彼らの意志を継ぐと誓った涼の背中を、死者たちが押してくれているようでもあり。
 そして新たに得た、まだこの手に残っている絆を護る力を得た事実、そのものが彼の心の火を強く、強く燃やしてくれていた。

 溢れる想いを込め、再生した右の拳を強く握りながら――幾度となく、自身の行手を阻んだ楯を遂に破壊したエクシードギルスは、その勢いのままコーカサスアンデッドへと宣言する。

「行くぞ、アンデッド……俺がおまえを封印する!」

 それが新生した仮面ライダー――儚き人の可能性を護らんとする獣と、永遠に囚われし邪悪が繰り広げる争いの、新たな始まりを告げる狼煙となった。


352 : 可能性の獣 ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:14:54 uCHFX0U.0

【二日目 深夜】
【F-7 市街地】


【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(大)、亜樹子の死への悲しみ、仲間を得た喜び、響鬼の世界への罪悪感、仮面ライダーエクシードギルスに変身中、仮面ライダーキックホッパーに1時間10分変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:キングを倒す。
2:人を護る。
3:門矢を信じる。
4:第零号から絶対にブレイバックルを取り返す。
5:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
6:大ショッカーはやはり信用できない。だが首領は神で、アンノウンとも繋がっている……?
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。
※支給品のラジカセ@現実とジミー中田のCD@仮面ライダーWはタブーの攻撃の余波で破壊されました。
※ホッパーゼクター(キックホッパー)に認められました。
※奪われたブレイバックルがダグバの手にあること、そのせいで何人もの参加者が傷つき、殺められたことを知りました。
※木野薫の遺体からアギトの力を受け継ぎ、エクシードギルスに覚醒しました。



【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】健康、コーカサスアンデッドに変身中
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣
【道具】???
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:進化したギルスに対処する。
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※また、支給品やそれに当たる戦力を持ち込んでいるかも現時点では不明です。詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※ソリッドシールドが破壊されました。再生できるかは後続の書き手さんにお任せします。


353 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/03/23(金) 22:19:29 uCHFX0U.0
以上で予約分の本投下を終了します。
また、先程までにお伝えし忘れていましたが、第二回放送案の際に◆.ji0E9MT9g氏に禁止エリアを変更して頂いたのは今作のアイデアのためでした。
形としてはあまり活かせませんでしたが、あの時に不躾な要望にもお応え頂けたこと、また今回も肯定的なご意見を頂けたこと、深く感謝します。ありがとうございました。
こちらも微力を尽くさせて頂く所存ですので、今後ともよろしくお願いします。


354 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/23(金) 22:37:46 /SLjWmP20
本投下お疲れ様です。
キング@仮面ライダー剣が遂に参戦、今後の活躍と彼のしてきたらしい”準備”とやらにも注目ですね。
一方で葦原さんは主人公ムーブしながら木野さんの本来遂げたかった思いを継いでエクシードギルスへ。
ヒビキさんの死など多くを背負いながら、それでも新しい力を手にする彼の今後も実に気になるところですね。

改めて今後に多くの期待を抱ける名SSでした、これを読む為ならあの程度の修正いくらでもしますので、今後ともよろしくお願いします。


355 : ◆LuuKRM2PEg :2018/03/23(金) 22:50:56 i8Cb4WaU0
本投下乙です!
キングはついにこのライダー大戦に参戦して、葦原さんを徹底的に追い詰めていきますね。確かに剣崎や所長、そして響鬼の世界の件については、彼にとって本当に辛いでしょうし……
だけど葦原さんは決して絶望せず、むしろ木野さんからも力を受け継いだことでエクシードギルスにも覚醒しましたか!
果たして、ギルスはコーカサスを倒せるのかどうか……? 改めて、大作乙でした!


356 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:21:52 5jiSyPos0
お待たせいたしました。ただいまより投下を開始いたします。


357 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:22:13 5jiSyPos0


「総司君!!翔太郎君!!皆、どこにいるんだ!?」

先ほどまでとその一切の雰囲気を異なって静まりかえった病院の中を、一人の男が叫びながら歩いている。
その顔は焦燥に溢れていて、彼がこの場で初めてと言って良いほどの不安に駆られていることが容易に想像できた。
無理もない、守らなければいけない仲間を置いて外に出ていたというのに、彼はその理由の一切を覚えていないのだから。

彼らしくもないそうした記憶の齟齬を引き起こしたのが、他ならぬ彼がこの病院から離脱した理由である男によるものだということは、もちろん知らぬまま。
ともかく、優秀であるはずの自分にあり得ないほどの記憶の不備に焦りやまた謎の空虚感を抱きながら、名護は駆ける。
先ほどまで仲間たちが集っていたはずの場所には、誰もいない。

しかしだからといって戦闘の跡があったわけでもなく、むしろ動かされていた椅子などは丁寧に直されているところを見ると、全員でどこかに一瞬出かけているだけという可能性も考えられた。
とは言えそれなら尚更先ほどまであんなに怯えていた三原も病院の外に出向く選択肢を選ぶだろうか、と疑問に押しつぶされそうになって。
ふとキバットやタツロットたちの為に開けっぴろげにしていた窓から外を見下ろし黄昏れた、その瞬間であった。

――世界を黄金の光が包んだのは。

「なッ……!?」

思わず顔を覆うほどのその閃光は、病院をほんの僅かばかりかすって数瞬の後に消滅する。
病院がその余波で揺れる中、これがリュウタロスたちの言っていた市街地で発生したという黄金の光か、と思うが早いか名護はその足を外に向け駆け出していた。
それに思わず戦慄を抱いた自分がいたことは認めよう。

しかしそこに誰か助けを求める存在がいるというなら、そんな恐怖に負けているより先に、彼の、仮面ライダーの足は動くのだ。
故に、彼はもう戸惑うことなく、もう一度カブトエクステンダーに跨がり先ほどの閃光の発生点に向けエンジンを振り絞った。
その脳裏に、ずっと消えないぽっかりと空いた穴を自覚しながら。





やはり、目の前の男の放つ威圧は今まで戦ってきたいずれの敵よりも凄まじいと、仮面ライダージョーカーに変じた翔太郎は思う。
三対一という状況を理解しているのだろう上でなお微笑と共に余裕の様子で剣をぶらつかせる彼は、有り体に言えばヤバい。
以前戦った時はその雰囲気に飲まれ先走ったが、しかし今度はジョーカーもそんな無様を晒すことはしなかった。

ジョーカーは、そのまま自身に並ぶ二人の仮面ライダーを見る。
まずは金色のライダー、アギト。
翔一が自身を強いと自負するのに以前から疑問は拭えなかったものの今の彼を見ればそれは自分の取り越し苦労だったと断言できる。

今の翔一が発する威圧は戦闘のエキスパートと言って差し支えないほどであり、自身の知る中で言えばどことなく鳴海荘吉のそれに似ていたからだ。
少なくとも先ほどまでの緩い雰囲気が一切感じられないその気合いに驚きを感じざるを得ないが、しかしそれはそのまま心強さに繋がる。
そうして次に目を移すのは自身がその誕生を見届けた仮面ライダー、カブト。

それに変身する総司もガドルと戦い良いようにやられたあの時からは随分と逞しくなったことも相まって今ではもうあの時のように不安を感じることもなかった。
そうして共に戦う仲間に心強さを得て、ジョーカーは再度前に向き直る。
今度こそ戦いを、と構えを一層強めれば、相対するダグバもまたその剣を正眼に構えて。

「それじゃ……行くよ」

一言そんな言葉を残したかと思えば、次の瞬間ダグバ――否、ブレイドはアギトに向けて疾走する。
今まで会ったことのない戦士の実力を見極めるためか、迷いなく彼に向かって振り下ろした剣は、しかし先ほどまで空いていたその拳に新たに握られた剣によって、その身に到達するのを阻まれていた。
何が起こったか、と彼を注視すれば、そこにはその金の身体を瞳と同じ赤に染め上げて、フレイムフォームとなったアギトの姿。


358 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:22:44 5jiSyPos0

特別な能力も使っていないというのに行われたその常軌を逸するスピードによる攻撃と、それを狂いなく受け止めたアギトに戦慄を抱きつつも、しかし怖じ気付いている場合ではないとジョーカーは駆け出す。
迫り合いの形でお互いの刃をぶつけ合いアギトがブレイドを抑えている間に、ジョーカーはその拳をブレイドに向け振りかぶった。
そんな動きは既に知っているとばかりにブレイドが大きく身を捩れば、その拳は空を切り、剰えその反撃の後ろ回し蹴りを背中に食らう。

「ぐあ……ッ!」

小さく呻き声を漏らしたジョーカーにそのまま止めを刺す勢いで、アギトから無理矢理身体を翻したブレイドがブレイラウザーを振り下ろそうとするが、そこに響くは一発の銃声。
危機を脱したジョーカーがブレイドの間合いから一旦離れるのを見つつ、銃声の発生点に目を見やれば、そこには銀の鎧に身を包んだ青の瞳をしたライダー、カブトの姿があった。
なるほど、アギトとジョーカーに前衛を任せ、唯一遠距離攻撃の手段を持つカブトがその援護に回る形ということか。

本来なら自分から逃げたときの赤い細身の姿になってほしいのだが、ともかくそれを望むなら今はこの二人の仮面ライダーを倒さなければいけないか、とブレイドは向きなおる。
黒い仮面ライダーは置いておくとしても、他の二人は相当に楽しめそうだ、とブレイドは思わずその笑みを深くして。
自身の剣に備わったカードを一枚、取り出した。

――SLASH

音声と共に宙に浮かんだ不死の生命体のエネルギーをその剣に宿して、ブレイドは先と同じようにアギトに仕掛ける。
その刃は先ほどと同じくアギトの持つフレイムセイバーに阻まれその身には到達しない――。

「なッ……!?」

否、先ほどよりその切れ味と威力を増したその切っ先が、今度はいとも簡単にアギトの赤い身体を切り裂いていた。
そのダメージに思わず呻き後退する彼に対しなおも追撃を試みるブレイドだが。

「やめろォォォォ!!!」

彼を守るようにジョーカーが立ちはだかり、その拳をブレイドに振りかぶる。
しかしそれすらも読んでいたとばかりに、ブレイドは既に持っていたカードを読み込ませる。

――BEAT

瞬間彼の右拳が光り輝いたかと思えば、それはジョーカーを大きく吹き飛ばした。
いきなりに威力を増したそれを予想することは出来なかったのかその身を無様に這いずらせるジョーカーを見ながら、彼は駆ける。
唯一後方で援護を行っていた、カブトの元へと。

アギトも気になるが、今は何よりガドルを倒したこの男の実力はいかなるものか、気になって仕方がなかった。
そしてそのあふれ出る好奇心に任せ何発かの銃弾を切り落とした後、ブレイドはカブトに肉薄する。
今更そんな子供だましで自分を止められないと気付いたのか、彼はその得物を斧の形に変えてブレイラウザーを迎え撃つ。

「あのガドルを倒した力、こんなものじゃないでしょ?本気を見せてよ」
「……」

しかしその一合で彼が全力を出し切っていないことを見切ったダグバは、そう問いかける。
自身がキングフォームを出さないのは、彼らが簡単に死んでしまったらつまらないからだ。
だから早くガドルを倒したライダーになって、自分を笑顔にしてほしいのだが……対するカブトは、何も言うことはなかった。

ならば力尽くで本気を出させるまでだ、とばかりにブレイドはその剣を振り回す。
一合、また一合と刃がぶつかり合う度に、鈍重なカブトの動きはブレイドに追いつけなくなっていき。
そしていつの間にか防戦一方となったカブトの、その首にブレイドは剣を突き付けた。

「……ホントに、こんなもので終わりなの?早くガドルを倒した力を使ってよ」
「言い忘れてたけど、ガドルを倒したのは僕だけの力じゃないんだ」

その首に剣を突き付けられ自身が少し力を込めればその命が消えるというのに、カブトは不適に告げる。
それに抱いた興味のために、ダグバは思わず一瞬その力を緩めて。


359 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:23:07 5jiSyPos0

「それって、どういう――」
「僕たち皆が協力して、あいつを倒したんだ!――キャストオフ!」

――CAST OFF
――CHANGE BEETLE

ダグバの疑問を無視して、一瞬で到来した無数のヒヒイロノカネの鎧が、ブレイドを無理矢理に引き剥がす。
しかしその程度ではブレイドにとってはただの目眩まし、一瞬の時間稼ぎにしかならないが――。
――その一瞬を、引き延ばす力をカブトは持っていた。

「クロックアップ!」

――CLOCK UP

瞬間、彼の時間は周囲から切り離される。
1,2,3と軽快にそのベルトのボタンを押して、カブトはホーンを大きく倒し叫んだ。

「ライダーキック!」

――RIDER KICK

幾らか自身の身体から弾き飛ばされたパーツを巻き込むのすら気にせず放たれたその回し蹴りを、しかしブレイドは防御しきっていた。
一度カブトと対峙し、キャストオフとクロックアップの能力について知っていたのだから、彼の狙いがそれを利用した奇襲であることなど容易に想像できる。
ネタが分かっていればむしろキャストオフの隙を狙ってくることなど分かりきっているのだから、ダグバのセンスを以てすればその攻撃を凌ぎきることなど容易かった。

本当にこの程度のライダーがガドルを倒したのか、と疑問すら沸く中、しかしダグバの耳に新たな声が到来する。

――JOKER MAXIMUM DRIVE

「ライダーキック!――うおぉぉらぁぁぁ!!!」

ふとそちらを見やれば、そこにはその右足を紫に染めてこちらに突っ込んでくるジョーカーの姿。
流石にカブトのライダーキックを受けきったままの体勢でそれに満足な防御を行使できず、ブレイドの身体を今度こそ宙を舞った。
しかしタイミングこそ素晴らしいものがあるがやはりスペックに劣るジョーカーの一撃。

必殺技をまともに食らったといえ、未だブレイドの鎧が悲鳴を上げる様子もない、とそこまで考えて。
自身の飛んでいく先にいる黄金の影に、遂に驚愕に目を見開いた。

「ハアァァァァァ……!」

そこには、その対の角を六本に増やし気合いを高めるアギトの姿。
そしてことここに至って、ダグバはカブトの狙いを察する。
そもそも自分の蹴りが防御されるのは見切った上で、ジョーカーとアギトに繋ぐためにあえて分かりやすいタイミングでクロックアップを使用したと言うことか。

仲間という存在を知らないグロンギには、特にその頂点に立ち同格が存在し得ないダグバには想像しきれない、カブトの妙案であった。
と、アギトはそのままその身体を大きく捩り跳び上がらせて。
オーバーヘッドキックの形で、ブレイドの胸に渾身の蹴りを叩き込んだ。

今度の一撃にはもう何の防御も成せるはずもなく。
都合三発の“ライダーキック”を受けて、ブレイドはそのまま地面に接すると共に爆炎を巻き起こした。





「やったね、翔一、翔太郎!」
「えぇ、お二人とも、ナイスでした」
「まぁな……でも油断すんな、こっからが多分本番だ」

無邪気に“仲間”との連携にはしゃぐカブトとアギトに、ジョーカーはしかし緊張を緩めず呟く。
ガドルと戦いそのタフさを知ったこともそうだが、未だ消えない嫌な雰囲気が周囲から消えていなかったため。
ダグバにまだ戦意が満ちあふれていることを見抜いたジョーカーの言葉に、二人の仮面ライダーもその爆炎が晴れるのを待って。


360 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:23:29 5jiSyPos0

――ABSORB QUEEN
――EVOLUTION KING

電子音声が二つ続いて鳴り響いたかと思えば、煙をその身から吐き出した黄金のカードで晴らして、ブレイドが立ち上がる。
そこにいたのは最早碧と銀のライダーなどではない。
黄金に輝く剣を持ち、その身に13の不死者を纏った『剣の世界』最強のライダー、仮面ライダーブレイド、キングフォームが、そこに立っていた。

「アハハハハ!楽しいね、仮面ライダー。……もっと僕を笑顔にしてよ」

13枚ものカードがブレイドの身体に収束し煙が晴れると同時、ダグバは笑う。
それは、今目前にいる仮面ライダーをその究極に匹敵する鎧に匹敵する敵として彼が認めたことを意味していた。
その圧倒的な威圧を受けて、カブトもまた変身制限の関係上出し惜しみをしていた自身の切り札に手を伸ばす。

「ハイパーキャストオフ!」

――HYPER CAST OFF
――CHANGE HYPER BEETLE

瞬間カブトの鎧は、より強固なものへと変貌する。
オオヒヒイロノカネの名を持つそれは彼の世界で最強の硬度を誇るもの。
本当はブレイドを打ち破った後に待ち受ける彼の本来の姿に温存しておきたかったのだが、今ダグバが変じたキングフォームの圧倒的な圧力が、それをさせなかった。

そして、この鎧を纏った以上、カブトに長期戦をする理由などなく。
最早迷うことなく、その腰に向けて手を叩きつけた。

「ハイパークロックアップ!」

――HYPER CLOCK UP

その瞬間、カブト以外の世界は、一瞬にしてその動きを途端に遅くした。
クロックアップをも大きく超える加速を可能にするハイパークロックアップ、本来は時間すら超えられるそれを単なる超高速移動のために使ったのだから、それも当然であった。
そしてもうそれに心強さ以外の何を感じるでもなく、カブトはブレイドに肉薄する。

勝負を決めるのだ、このブレイドにどんな能力があるにせよ、この加速とそれから放たれる必殺の一撃を耐えきれるはずもない。
故に、彼は全力でブレイドを打ち倒す為にその拳を今ぶつけ――。

「――間一髪、ってとこだったね」

その右腕の紋章を輝かせながら、ブレイドは制止した時間の中で呟く。
元々高速移動をその特徴とするライダーの強化態なのだから自分の知るよりずっと早いだろうと予想して早めにタイムを発動させておいてよかった。
まだ数瞬猶予があると思っていたのに既に目前にまでその拳が迫っていたところを見ると、どうやらこのハイパークロックアップとやらは自分の進化した究極の力を持ってして見切るのは無理だと考えたほうがよさそうである。

とはいえ、本来の姿であれば蹂躙されていたかもしれないそれも、この黄金の鎧が纏う力、時間の流れを無にする力さえあれば対抗も出来るというものだ。
と、そんな考えをしている内に、既にタイムの制限時間に近づいていた。
取りあえずこんなものでいいかな、とライトニングスラッシュの力をラウズなしで発動させて、ブレイドはその黄金の剣を振り降ろすと同時、時は動き出す。

「――うわあぁぁぁぁぁ!!!???」

時間停止を終えて一秒もしないうちに、自分の剣は確かな手応えと共に振り抜かれた。
それと同時加速を終え弾き飛ばされていくカブトを見て、ブレイドは笑う。
恐らく、自身の目の前に迫った剣に気付かずその勢いのまま自分から突っ込んだのだろう。

究極の力を得たクウガならともかく並の仮面ライダーであれば今の攻撃で戦闘不能に陥っても無理はない、とブレイドは落胆とも自身の鎧に対する信頼とも取れる感情を抱いて。

「わぁ、やっぱり凄いね、ブレイドの力は」
「ブレイド……だと?」

思わず漏らしたそんな感嘆の声に、ジョーカーが反応する。
総司がその命を奪ってしまったという、剣崎一真。
始とまた出会った時その死を伝える役目も抱かなくてはと新たに決意した矢先に、そのライダーが現れた。

最悪なことに、ダグバの纏う最強の鎧として。


361 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:24:00 5jiSyPos0

「それが、ブレイド……総司の殺した剣崎一真って奴が変身する仮面ライダーだっていうのかよ」
「うーん、よく知らないけど。でも面白いおもちゃだよね、もっとこれで遊びたいからさ、頑張ってよ、仮面ライダー」
「――ダグバてめぇぇぇぇ!!」

その言葉を聞いて、ジョーカーは突貫する。
大方仲間をやられて頭に血が上ったとか、ブレイドが自分に使われるのが嫌だとかいうところだろうが、随分と無謀なものだ。
通常のブレイドにすら歯が立っていなかったに等しいというのに、この黄金の姿に挑もうとは。

「――まぁ、君はもういいかな」

その言葉と共に左足と左肩、マッハとビートの紋章を光り輝かせて、ブレイドは目の前の仮面ライダーを“処分”する為にその拳を音速の勢いで叩き込んだ。
ギルドラウズカードとなり通常のそれより遙かに威力を増したその拳を受けて、ジョーカーは断末魔さえ発しないまま吹き飛ぶ。
彼が夜の闇に消え焦土の果てに消えて行くのを最後まで見届けることもなく、ブレイドは最後に残った仮面ライダーに向き直る。

「……さて、最後は君だよ。少しは怒ってくれた?」
「怒る?どういうことだ」
「だって、クウガは……4号は怒ったら強くなるし。君もそうじゃないかと思って」

その視線の先の黄金のライダー、アギトは自分の言葉に応えない。
先ほどまで4号というクウガの別称を知っており、また自分を未確認と呼んだこの男は一体何者か、と考えていたが、彼が変身したライダーの姿を見てその疑問は氷解した。
その姿が、クウガに酷似していた為。

自身が襲いかかった時も赤い瞳に赤い身体の形態に変じていたから、恐らくはクウガの変種ではないかとダグバは見切りをつけ、そして楽しみにしていた。
クウガと似た、しかしあのもう一人のクウガが用いる究極の力以外の形態より強い彼が、仲間の死に怒り彼の究極の闇を見せてくれたなら。
或いはこのキングフォーム、どころかあの究極を超えた力を持つ自分の力にも、匹敵しうる存在になるのではないか、と。

しかしまだ怒り足りないのか、或いは別の要因があるのか、アギトはその身体を大きく変貌させることはなかった。
期待外れだったかな、とため息と共にブレイドはアギトへの興味を失いかけるが。

「――ふざけるな」

今までの言葉のどれよりも深く響くようなその言葉に、思わず顔を上げた。
その顔は異形になり表情も読み取れないが、しかし怒っているのは容易に想像できた。
或いは種類が違うだけでもう一人のクウガのそれにも匹敵するのではないかというほどの怒りを抱きながらなおも究極の闇に染まらない彼に思わず興味を引き戻させられて。

「4号はきっと、怒って強くなるわけじゃない。もしそれが本当でも、それは多分間違った強さの形だ」
「どういうこと?」
「俺たちが、仮面ライダーが戦うのは、悪への怒りの為なんかじゃない。皆を守りたい、その思いが、俺たちを強くするんだ!」

翔一が胸に抱くのは、この場で出会った二人の男。
放送で名前を呼ばれてしまった日高仁志は、この場で最初に出会った仮面ライダーで、自分が誰かを守りたいから仮面ライダーとしてこんな殺し合いを止めなくてはいけないと語っていた。
そしてもう一人、先ほど別れた城戸真司は、自身もよく知る小沢澄子が信用した仮面ライダーで、元の世界でもライダー同士の殺し合いを命じられながら、そんなものは間違っているに決まっていると真っ向からそれを否定し続けた男だった。


362 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:24:17 5jiSyPos0

そんな異世界の仮面ライダーを前に、翔一も一度自分の思う“仮面ライダー”を考え直してみた。
アンノウンが憎いから戦う、これは違う。
別にアンノウンでなくても誰かを傷つける存在なら、翔一は躊躇なくその力を振るうだろうから。

アギトとして誰かを叩きのめしたいから戦う。
――論外だ。
一時期自分が制御できず氷川を戦闘不能にまで追い込んだこともあったが、しかしそれは翔一の本質ではない。

例えアンノウンであっても、人を慈しみその命を奪わないなら、翔一は手を取り合いたいとすら思う。
ああでもないこうでもないと、そうして翔一なりに悩み辿り着いた答えが、しかし結局はいつまで経っても変わらない、人を守りたいという答えだった。
きっとそれは、どの世界でも仮面ライダーとして必要な考えなのだ。

城戸の世界のように鎧を纏うだけで仮面ライダーを名乗れる世界もあるが、しかし本質はその身に纏う力ではなくその心に信じる思いなのだ、と翔一は思った。
だから、クウガは、4号は、決して敵への怒りで強くなるだけの存在ではないとそう信じた。
そうでなければ今目の前で確かに過去最大の威圧感で立ちはだかるこの強敵を倒せるはずなどないだろうから。

新たな覚悟と共にアギトはオルタリングを強く叩く。
翔一の思いに呼応するようにその身に炎が巻き起こり、やがてそれはその黄金の身体を先ほどより濃い深紅に染め上げる。
深い気合いと共に炎が収まれば、そこにいたのはキングフォームや、先ほどのカブトにも匹敵しうるような威圧を誇る戦士。

仮面ライダーアギト、バーニングフォームが、そこに立っていた。
その姿に――究極の闇と比較して幾らかの物足りなさを感じつつも――ダグバは歓喜する。
同時アギトが空中に発言させた物体を手に取れば、それは一瞬にして薙刀へと姿を変え、ブレイドの期待をより煽った。

それを見て、こんな面白い相手にタイムなどの力を使って一瞬で終わらせるのは勿体ないと彼はその黄金の剣のみでアギトに肉薄する。
ラウズカードの力を用いずとも並の怪人程度一撃で粉砕できる威力を誇るそれを、アギトはその手に持つシャイニングカリバーで迎え撃つ。
ガキィン、と甲高い音を響かせぶつかり合った得物は互いに一歩も譲らず、腕力だけであれば今のアギトが究極のそれにも匹敵することをダグバに理解させる。

しかしそれはあくまで腕力だけのこと、故にダグバはその右足を二度輝かせ、コンボの一つであるライトニングブラストを発動させる。
それを感覚で察知し離れようとしたアギトを、左膝のマグネットによる引力で強引に間合いに持ち込んで間合いに引き戻す。
これには流石に対応しきれず無理矢理にシャイニングカリバーで防御を試みたアギトに、ブレイドは強かにその右足を炸裂させて。

瞬間、シャイニングカリバーはその身を本来想定されていない角度で二つに折って、その役目を終えた。
そして、その程度で今のブレイドの蹴りを止められるはずもなく。
膨れあがったアギトの胸板を凹ませながら、その足に電撃が走った。

コンボを用いた攻撃であったというのにしかし膝をつかず後退したのみであったのは、その高い防御力故か、或いはマグネットによる引力で僅かばかりダグバが狙いを狂わせた為か。
ともかく、折れたシャイニングカリバーを投げ捨てて、アギトはその右腕を大きく伸ばした。
その掌に炎が迸ったかと思えば、彼はそれを握りしめ拳に力を込める。
それを受け彼の上半身全体が炎に包まれたかと思えば、炎は再度拳に集って。

スミロドンドーパントに変じたゴオマを打ち破ったその一撃の名は、バーニングライダーパンチ。
アギトの誇る必殺の拳を前に、ダグバはしかし余裕の様子でその右膝を光らせて。

「――ハアッ!」

それにしかし何を出来るわけでもなく自分に出来る全力でアギトはブレイドの鎧へ拳を伸ばす。
流石にまともな防御もなしに受けきれる威力ではなかったのか、彼はその身を大きく引きずり、しかしその膝はつかぬままで。


363 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:24:35 5jiSyPos0

「うん、痛いね。でも――足りないよ」

狂喜と共にその左肩を新たに輝かせるブレイドに、思わずアギトは戦慄する。
この形態で全力を込めたこの拳は、確かに今まで全ての敵を葬ってきたわけではない。
しかし、そのいずれもが回避という形で、その拳に捉えられたものは必ず打ち倒してきた、必殺の拳だったはずだ。

それを真正面から受け止めながら、ここまで余裕とは……。
らしくなくその集中を切らしたアギトだが、もちろんキングフォームと化したブレイドとて、その身に無防備にバーニングライダーパンチの一撃を受ければただではすまなかっただろう。
彼が今もその余裕を誇れるのは、彼の身に備わったトリロバイトメタルの力によって、その鎧がより強固になったためだった。
しかし、そんなことアギトは知るよしもなく。

まともな防御すら出来ぬままに、ブレイドの拳にその身体を捉えられていた。
今度は大きく吹き飛びその背を地に這いずらせたアギトを尻目に、ブレイドは大きくため息をつく。
ガドルを倒したという仮面ライダーとその仲間に期待を抱いてこの究極に匹敵する鎧を纏ったが、結局はどいつもこいつもこの鎧の前に敗れ去った。

もちろんキングフォームの実力は今まで見てきた仮面ライダーの中でも最上級のものであるとは理解しているが、しかしこの鎧を破れぬままに今の自分の真の姿を打ち破ることなど出来まい。
であれば、やはりもう今の自分を楽しませてくれる存在などいるはずもないではないのか、と彼らしくもなく黄昏れた、その時であった。

「ダグバ……ッ!」

ふと、自分の後方より、声がした。
思わずそれに振り返れば、そこにいたのは先ほどまで戦っていた銀と赤の仮面ライダー。
仮面ライダーカブトハイパーフォームが、今また戦うために立ち上がった姿であった。

「君か……意外としぶといんだね」
「当たり前だ……僕は仮面ライダーカブト、天の道を継ぐ男だから……!」
「天の道を、継ぐ……?」

その言葉に一瞬疑問を口にするが、それ以上の会話は不必要とばかりにカブトはその手を宙に伸ばし、叫んだ。

「――タツロットッ!」
「はぁーい総司さん、これを使ってください!」

瞬間彼のデイパックから飛び出た黄金の竜が喋り出したかと思えば、それは身体から明らかにその体躯に収まりきらない大きさの剣を吐き出す。
キングラウザーの輝きに勝るとも劣らない輝きを放つその堂々たる剣は、王のための剣、ザンバットソード。
先ほどのガドルとの戦いでも用いたそれをひゅんと素振りして、ハイパーカブトはゆっくりとブレイドに向けその足を進める。

(なるほどね、派手に動けば反撃を食らうから、歩けば大丈夫、とでも思ってるのかな?)

それを見て、ダグバは一つの結論に思い至る。
ハイパークロックアップという強力無比の能力を打ち破られた今、それを用いぬままに自分に対抗しようとするなら、なるほどこうして自分と間合いを詰めるのは悪くない。
だが、それはこのブレイドが時間停止のみをその特徴として持つライダーであった場合に過ぎない、と彼はその左足を輝かせて。

「びゅびゅーん、させませんよ!」

ザンバットソードを吐き出し役目を終えたはずのタツロットが、カブトを守ろうとその身をブレイドにぶつけようとする。
しかしそんなものは意にも介さぬままに瞬速の速さで周りを飛ぶ彼を弾き落とせば、ピギャッ、と情けない声を上げて彼は地に落ちた。
そんな使い魔に気をやっている暇もないと、ブレイドはそのままマッハの能力を今度こそ発動させる。


364 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:25:20 5jiSyPos0

その重厚な鎧に似つかわしくないスピードで以て、カブトへとその足を進めるブレイドは、余りにも早い。
その能力によってマッハを使用した彼のスピードは、通常のクロックアップとほぼ同等。
どころかその鎧と剣によるごり押しが利く時点で並大抵の高速移動が可能なライダーには優位に立ち回れるはずだった。

――HYPER CLOCK UP

しかし、相手も並の能力者ではない。
ブレイドの加速を大きく上回る加速で以て強引に自分を優位に立たせ、そのままブレイドにしかし焦ることなく近づき、その剣を振るう――。
前に、再度ブレイドの右腕の紋章が再度輝いていた。

一応、マッハの能力も同時に行使していた為先ほどより余裕を持って能力を使用できたが、逆に停止している時間の感覚が狂ってしまった。
コンボを使う暇もないか、としかしその一撃で並のコンボを凌ぐ威力を誇る黄金の大剣を振るい、その身に限界まで肉薄させたところで――時間は、動き出す。

――HYPER CLOCK OVER

その音声と共にブレイドは勝利を確信し、今カブトに止めを刺すために新たにコンボ用のカードを掴むため念じようとして。
そこで、見た。
目の前でカブトがしかしその黄金の大剣をゼロ距離で受け止めている光景を。

「なッ……!?」
「残念だったね、君の能力はもうお見通しだ……!」

思わず驚愕するダグバに、しかしカブトは自慢げに呟く。
先ほど一度目のハイパークロックアップの際、彼は何が起きて自分がその時間軸からはじき出されたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
最速を誇るはずのそれが容易に破られるなど、あり得るはずなどない、と。

しかしその身に纏う鎧が自分のマスクドフォームよりも頑強であったために変身解除を逃れた彼は、次に何故自分がその変身を未だ保てているのか考えた。
そして生み出された答えは、奴はハイパークロックアップを上回るスピードで自分に近づいた後、一撃のみしか攻撃していないからだ、という結論に至ったのだ。
或いは、先ほど自分が一撃を食らったのは自分がむしろその剣に向かっていったからなのではないか……その考えに至ってからの彼の行動は、早かった。

自分自身のダメージの大きさを押して駆けつけてみれば、そこにはアギトが吹き飛ばされている姿。
これ以上誰の犠牲も出さない覚悟で再びダグバの前に立った彼は、キングラウザーと十分やり合える剣、ザンバットソードを持ってその間合いを徐々に詰めていった。
そこで彼が左足を輝かせた時――既にカブトにとって、ブレイドの能力の全容は明かされたも同然であった。


365 : Bを取り戻せ/フィアー・ペイン ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:25:36 5jiSyPos0

つまりは、ブレイドはこの形態である限りアンデッドの能力をほぼノータイムで使用することが可能なのである。
しかしここで大事なのは“ほぼ”ノータイムだということだ。
自身の持つハイパークロックアップは、その一瞬を永遠に引き延ばす能力。

それを用いた上で先ほどの仮説を信じて飛び込めば、目前にまで迫った大剣であったとしても、今のカブトに防げないはずもなかった。
故に今マッハとタイム、その二つの強力な能力を制限によって失った上で動揺を浮かべるブレイドと、ゼロ距離にまでその距離を縮める事が出来たのであった。
しかし、クウガとの戦いで発揮されたその万能感をこうして防がれ少しの驚愕を禁じ得なかったダグバに対し、カブトはあくまで冷静にその腰に手を伸ばす。

――MAXIMUM RIDER POWER

「マキシマムドライブッ!」

それは、ガドルとの戦いでも用いたマキシマムドライブ……新たなる彼の必殺技、ハイパーザンバット斬。
キラキラと虹色に輝いたその刀身で以てキングラウザーに拮抗すれば、ブレイドは僅かばかりその姿勢を歪めて。
究極の力を発揮したクウガにすら起こりえなかったキングラウザーを用いた力負けという状況に、自分の剣を強化するでなく自身の身体を硬化する術を取ったダグバ。
その右膝の紋章により発生したトリロバイトメタルの力によって幾分か動きが阻害されたために、カブトは思い切りその剣を振り切って。

「ああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

ハイパーカブトの10トンを誇るその腕力によって力任せに振るわれたその剣は、しかしブレイドを僅かに揺るがす。
しかし後二秒もすればマッハの能力と、そしてそれに乗じてタイムの力も使用可能になる、故に自分の優位は揺るぎない……そう、ダグバは考えてしまっていた。
カブトの本当の強さはその仲間との絆にある、カブト自身がガドルに勝った理由としてあげたそれを、未だ理解し切れていなかったから。

「ハアァァァァァ……!」

メタルにより動きを阻害された為にその首を動かせぬまま、ブレイドはその背後に誰がいるのかを察する。
先ほども聞いた、アギトの気合いを込める声が、後方から聞こえてきたため。
それはつまり……先ほどと同じく必殺技の連携を炸裂させるためにカブトがこうして自分を引きつけていたと言うこと。

それについて深く理解するより早く、ブレイドの肉体にドンッ、と爆音を響かせてアギトの炎を帯びた拳が到来する。
それだけならば先ほども食らった一撃、痛くないわけではないが耐えられる。
しかしもちろん、彼らはやっと掴んだ一騎当千のチャンスを無為にするような愚か者ではなく。

「ハイパーキック!」

――RIDER KICK

既に眼前にまで迫ったカブトの全力を込めたその右足が、それを証明していた。
瞬間、今一度彼の鎧は輝いて――。
それに臆することなく伸ばされたカブトの右足は、ブレイドの身体を確かに揺らし、爆炎を起こした。


366 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:26:38 5jiSyPos0





「……やった、んでしょうか」
「ううん、多分まだだよ。当たったけど、浅かったから」

アギトとカブト、二人の仮面ライダーは、肩で呼吸をしながら再び合流し未だ緊張を緩めぬままにそう呟く。
先ほどキックの寸前にブレイドの身体から光が放たれたのは、その鎧に備わった能力、マグネットの斥力を使用したためのものだ。
完全に合わせるようにして放たれた一撃も、それにより少しばかり間合いを外し彼を戦闘不能にするには至らなかった。

しかしこれまでに与えたダメージを考えれば或いは、とそんな希望を抱きかけたその瞬間。
彼らの身体に、闇が到来する。

「ぐわああぁぁ!?」

この戦いで受けた全てのダメージを帳消しにするかのようなその衝撃に思わず声を上げながら、二人は吹き飛ぶ。
これはまさか、と起き上がりその視線を闇の先に伸ばしたその時、それはその闇の中でも激しく主張する白をしていることを把握した。

「アハハ、アハハハハハ!!!本当に凄いね、仮面ライダー。キングフォームを倒しちゃうなんてさ。……でもあれはただの遊び。ここからが本当の究極の闇、だよ」

言いながら現れたその影が発する声は、紛れもなく先ほどまでブレイドに変じていたダグバのもの。
先ほどのキングフォームが可愛く思えるような威圧を持って立ち上がったその姿に、彼の言葉が嘘ではないことを身を以て実感しつつ、しかし彼らは立ち上がる。
もう誰もこんな奴に傷つけさせない、ただそれだけの行動理由さえあれば、彼らはいつまでも戦えるのだ。

「ハイパークロックアッ――」
「――させないよ」

強敵の登場に自身もその切り札を再度切ろうと腰に手を伸ばしたカブトに対し、ダグバは何の能力も使用していないというのにクロックアップ並の速度で以て肉薄する。
ダメージを一切感じさせないようなその動きに元々スピードの劣る今のアギトが対応仕切れぬ中、カブトは油断なくその手を腰からザンバットソードに移し替えて。
――瞬間、二人の距離はゼロになる。

しかし、ザンバットソードという間合いの有利があってなお、そんなものは関係ないとばかりにダグバはその刃を左手で掴み取りその右拳をカブトに容赦なく叩きつけた。
オオヒヒイロノカネの硬度が無視されまるでただの鉄のようにひしゃげるのを見やりつつ、カブトはしかしその左ストレートを叩き込む。
それは確かにダグバの身体に着弾したが……しかしその身体はもう揺らぐことすらなかった。

「なッ……!?」
「ふふ、パンチって言うのはね……こうやるんだよ!」

左手に抑えているザンバットの刃をかなぐり捨てながら、ダグバはその拳をカブトに再度叩きつける。
今度は一撃ではない、ハイパーフォームのカブトにすら一切の対処を許さないスピードで、一瞬の間に数十発の拳が一気にその身体を蹂躙していた。

「――やめろッ!」

ことここに至ってようやくその二人の間に割り込む形でその場に現れたのはアギト、パワーに優れるその拳で、しかしダグバの拳を受け止めるのが精一杯という様子ながら、何とかカブトから彼を引き剥がす。
しかしアギトと拳のぶつけ合いになるのは些か分が悪いと判断したのかダグバは一瞬で後方に退き、その代わりとばかりにその掌から闇を照射する。
暗黒掌波動、究極を超えた今のダグバになら問題なく使用できるその力がアギトと、その後方にいるカブトの身体から際限なく火花を散らさせた。

ダグバの響く笑い声をその耳に焼き付けながら、二人の戦士は膝をつく。
この本当の戦いとやらが始まってまだ数秒だというのに、こちらの戦力はもう削られ切っている。
アギトのパワーは奴には通用しないし、頼みの綱のハイパークロックアップも、今の状況では使う前にダグバに押し切られてしまう。


367 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:26:55 5jiSyPos0

――これが、グロンギ最強の力か。
自分たちが想定していたそれより遙かに強いその実力にどうしようもない認識の甘さを痛感しながら、二人はそれでも立ち上がろうとする。
しかし敵も、それをすんなりさせるほど生易しくはない。

「じゃあね、仮面ライダー。楽しめたけど、これで終わりだよ」

弱り切った彼らに止めを刺すために、その掌に闇を集めて。

「――ちょっと待ちな。一人、忘れてるぜ。そいつらの仲間をな」

後方から聞こえてきた、キザな声にその身体を翻す。
聞き覚えのあるその声に誰もが注目する中、この場の緊張を理解した上でなお男はそのお気に入りの帽子をクイッと上げて、キザにはにかんでみせる。
その姿に、同時に誰もが驚愕した。

「翔太郎!?」

それは、この場で初めて戦いから離脱することとなった左翔太郎、その人であったのだから。
しかし総司のあげるその声は、決して仲間の無事を喜ぶだけのものではない。
今の翔太郎は、何一つ変身手段を持っていないはず。

それを踏まえて考えれば、生身で今のダグバの前に立つことは無謀としか言い様がない。
どころか、恐らく彼の変身するジョーカー程度であれば一瞬でその身体を消し炭にすることすら可能だろう……と再び立ち上がった仲間に対し、総司は不謹慎にも思う。

「君……何しに来たの?あんなに弱かったのに、僕の楽しみの邪魔しないでよ」

それをダグバも理解しているのか、クスクスと笑いながら、しかし邪魔者として彼を排除しようとする。
その闇が集う掌を向けられながら、しかし翔太郎はその表情を恐怖に染めることはせず。

「無茶だ翔太郎、早く逃げて!」
「ここは俺たちに任せて、早く!」

カブトとアギトが、叫ぶ。
自分たちの体力回復の為にその身を張っているのだとしたら、それは自分たちの望むことではない。
捨て身の戦法をとった彼に対し絶叫する二人に対し、しかし翔太郎は笑う。

それはいつもの彼の余裕を表したような笑みで……決してハッタリには見えなかった。
しかしその一切を無視して、戦いが出来ないなら意味がないとばかりにダグバはその闇を彼に照射する。
それは神速の勢いで以て翔太郎に肉薄し、彼を一瞬で闇に包み込んだ。

「翔太郎ぉぉぉぉ!!!!」

総司の絶叫が響く中、ダグバは笑う。
これで、一人減った。
もしこれで彼らが怒ってくれるなら、もっと楽しめるかもしれない。

事実先ほどまでずっと膝をついていた二人が再度立ち上がっているのだから、それも間違いではないのだろう。
では、改めて楽しいゲゲルを続けよう、とその足を進めようとして。

「――よぉ、ダグバ」

後方から、聞こえるはずのない声が聞こえてきたために、思わず振り返ろうとして、その頬を大きく殴りつけられる。
自身の身体を吹き飛ばしたその腕が見覚えのある金色をしていることに驚愕の声を漏らしながら、ダグバの身体は遂に地を舐め。

「翔太郎、まさか、それって……!」
「あぁ、そのまさかさ」

全身に刻まれた幾つものタペストリー、金色に輝く鎧、スペードの意匠を刻んだそのマスク。
その手に生じた大剣も、今はこれ以上なく心強く見える。
そう、それは先ほどまで悪魔が纏う最悪の敵として君臨していた仮面ライダーブレイドキングフォーム、その勇士が、今正義の名の下に再び降臨した姿であった。


368 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:27:11 5jiSyPos0





時間は数十秒前に遡る。
ダグバの変じたブレイド、その圧倒的な力に敗れ去ったジョーカー、左翔太郎は、その意識を彼方に飛ばしてしまっていた。
或いはそのままであれば、先ほどの紅音也を失った戦いのときのように戦いが終わってからその意識を取り戻し仲間の死に涙する、という展開もあり得たかもしれない。
しかし、今回はとある事情が異なっていた。

「痛ッ――」

突如、その頭に何か金属の塊が到来した。
強く頭にぶつかったそれは、今翔太郎の意識を彼方より呼び戻し、覚醒させる。

「んだよ、ったく。って、俺は一体何して――」

何事が起きたのか、事情を把握しきれぬままに起き上がり辺りを見渡して、翔太郎はすぐに自分が何故ここにいるのかを思い出す。

「そうだ……、ダグバがブレイドに変身して、それで俺は……」

あの時、総司を叩きのめしブレイドの鎧を玩具と嗤ったダグバに怒りを覚え感情に任せ飛び込んだ後……その圧倒的な実力の差に自分はやられたのだ。
音也のときも同じようなことをやったというのに全く俺は半人前だ、と自己嫌悪に至りかけて、今はそんな状況ではないことを思い出す。

「総司、翔一、無事でいろよ……!」

未だ戦いの音が辺りに響いている。
例え変身できなくても自分に出来る何かをするために、例え何も出来なくても仲間のためにその熾烈を極める戦地に赴こうとその足を動かそうとして。

「――ん?」

瞬間、カツリ、とその爪先にぶつかる“何か”に気を取られる。
そう言えば、自分が目覚めたのも何かが頭にぶつかったからだった、と未だ鈍く痛む頭を抑えながら暗闇の中からそれを拾い上げる。
そしてその瞬間、彼にはそれが何なのか、一瞬で理解できた。

「これは、ブレイドの……!」

そう、それはブレイバックル。
辺りに13枚ものスペードのカードも散らばっていることを思えば、どうやら総司と翔一はあのブレイドを打ち破ったらしい。
その功績に思わず跳ね上がりそうになって、しかし今はそれよりも大事なことがあるとそれらを全て拾い上げた。

「剣崎……お前も、あんな奴に自分の力が使われて辛かったんだよな」

ふと思わず、翔太郎はそれに声をかけていた。
この殺し合いに反逆し、そして最後は殺し合いに乗っていた総司の手によってその生を終わらせた、剣崎一真。
彼には直接出会ったことこそないが、彼を大事に思っていた相川始によって、また彼を殺した総司の苦悩によって、その人となりは痛いほど伝わってきた。

それは、自分も見習わなくてはいけないほどの、正義の仮面ライダー像。
この戦いの最中ダグバにその男の鎧が良いようにされていることに、どれほどの憤りを覚えたか。
それを今論じはしないが、しかし彼がダグバなどという非道の手に渡ってまで総司に復讐を誓うような、そんな男ではないことは、既に知っていた。

いやむしろ、今ここにこうしてその力があるということは、その逆。
俺の身体を使って、正義に生きる覚悟を見せた総司を救って見せろ、という彼の言葉なのだろう。
或いはそれは、剣崎の友である相川始に騙され仲間を殺された自分に彼に対する処遇を委ねる為の意味も含まれているのかもしれないが――。

ともかく、今自分に求められているのは、剣崎が願ったのは、あの悪魔を打ち倒すこと。
それだけは、確かだった。
その思いと共に駆け出せば、案外すぐ近くに彼らはいた。


369 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:27:26 5jiSyPos0

「じゃあね、仮面ライダー。楽しめたけど、これで終わりだよ」

自分も見たことのないほどの威圧を誇る新たな異形が自分のよく知る声を発したことで、翔太郎はそれの正体を察する。
しかし、問題はない。
今の自分の手には“切り札”があるのだ、ダグバを倒す為だけのものではない、この殺し合いの運命を変えるための、切り札が。

「――ちょっと待ちな。一人、忘れてるぜ。そいつらの仲間をな」

そうして、彼は切り出した。
目の前の悪魔に弄ばれた分だけ、その鎧を正義に生かすために使うと、戦えない誰かの為に自分が彼らの盾になるために。
――ダグバの掌から発生した凄まじい闇の塊をバックルから生じた金色のエネルギーの盾で凌ぎながら、翔太郎はそれに向けて歩み出す。

自分こそが今この惨劇の運命を変えられるジョーカー(切り札)なのだ、とそう確信して。





「悪かったな、遅くなっちまって」
「ううん、信じてたから、翔太郎のこと」

キングフォームの鎧を纏ったままカブトに手を差し伸べるブレイドに、総司はその手を取り立ち上がりながらそう返す。
同じくアギトも立ち上がり、今剣崎一真という正義の仮面ライダーの鎧を自分たちの元に取り戻せたことに、三者共に喜びを隠せない様子であった。
しかし、そんな空気に、水を差すものが一人いる。

「それ、僕のだよ。返してよ」
「――お前のだと?」

ダグバだ、子供のような言い草でむすくれているような声を上げた彼に、しかしブレイドは肩を怒らせる。

「――違ぇな。これは剣崎一真って仮面ライダーのもんで……俺たち仮面ライダーに繋がれてきた、剣崎からのバトンなんだよ!てめぇなんかにはもう二度と触らせやしねえよ」
「……ふぅん」

熱く告げたブレイドに対し、ダグバはしかし興味深げに呟く。
それに秘められた感情が何なのか、彼らにはわからなかったが……しかし、分かる必要もないと思った。
今ここで、自分たちがこいつを倒すのだから。

そうして並び立ったカブトとブレイドの前に一歩進み出るは、アギトである。

「――ダグバ、お前は誰かが犠牲になったときに俺たちが強くなる、そう言った。でも、それは違う。俺たちは仲間と一緒に戦って、誰かを守るために強くなるんだ。それを今から俺が証明してみせる!」

言葉と共にアギトはその手を胸の前でクロスさせる。
そのまま再び腰のオルタリングを叩けば、その身体は突如光を放ち出した。
パラパラと今まで彼の身体を強固にしていた体表が剥がれていったかと思えば、その下より白銀の新たな鎧が生み出される。

――仮面ライダーアギト、シャイニングフォーム。
今までは陽の光なくして変身できなかったその形態。
しかしこの場で多くの仮面ライダーと触れ合い、そして今この場でダグバという、今までの敵を大きく超えるような存在と戦い急速にその身体が進化を促したことによって、翔一は今この闇夜の中で一際輝く白銀の鎧を纏うに至ったのだ。

アギト自身が人類の進化の化身である以上、彼が望み、そして環境がそれを促せば翔一の身体がこうして進化するのは、いわば必然でもあった。
それぞれの最強の形態に変じ思いを新たに大きく構えるアギト、ブレイド、カブト。
それに対するは究極を超えた悪魔、ン・ダグバ・ゼバ。

彼らの戦いは、今ようやく佳境にさしかかろうとしていた。


370 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:27:48 5jiSyPos0





「ハアァッ!!」

かけ声と共に先ほどと形状を変え双剣と化したシャイニングカリバーで以てダグバに斬りかかるのは、白銀のアギト。
それをダグバは難なく躱すが、しかしその先に待っているのはザンバットソードを構えたカブト。
今度は躱しきれずその手で受け止め何とかやり過ごそうとするが、それをブレイドのキングラウザーが許さない。

この身を貫きかねないその刃を、身を捩り掠らせる程度で凌いで、ダグバは大きく後方に飛んだ。
――強い。
ダグバが抱いた感情は、最早それに尽きる。

先ほどまで戦い強さを認識していたカブトも、先の形態より一撃一撃は軽いものの先を大きく超えるスピードでそれを補うアギトも、黒い仮面ライダーであった時の弱さが嘘のような動きを見せるブレイドも。
どれもがこの場で遭遇したことのないほど凄まじい実力を誇り、或いは理性を保ちその力を振るっていることを思えばクウガよりずっと戦いにくい相手であった。
しかし今のこの万全とはほど遠い体調で、さっきまでの自分なら敗北しただろうこの三人の仮面ライダーを前にしてもなお、ダグバは笑顔を絶やさない。

何故なら今の彼は既にセッティングアルティメット……究極を超えた究極に相応しい実力を持っているのだから。
そんな中、カブトの手が再度ハイパーゼクターに伸びているのを見て、ダグバは突貫する。
流石に今の自分でもあのスピードは目で追うのが精一杯だろう。

あれを許せば自身の敗色は濃厚になってしまう、とそれを防ぐため駆け出した彼に、アギトが立ちはだかる。
気合いと共に放たれた拳を受け止め片手でいなすが、しかしもうダグバに残された時間はなかった。

――HYPER CLOCK UP

既に、必殺の切り札は切られていたのだから。
――この戦いで既に三度使用した最強の能力によりもたらされる周囲との時間感覚のズレにようやく慣れながら、カブトはその足をダグバへと進める。
今回で、終わらせる。

剣崎の悲劇も、ダグバが翳した悪夢も、これで終わりなのだ。
そうして必殺技の準備を済ませながら走るカブトがふと前を見やると、ダグバが闇を照射してきていた。
つまり、奴はこの速度にある自分を感覚で捉え攻撃してきたのだ。

本当に恐ろしい敵だ、と感じながら、ハイパークロックアップの最中であるというのに容赦なくこの身に降りかかろうとしたそれをしかし危なげなく回避し、カブトは進む。
後数秒、残った時間で問題なくダグバを仕留めることが出来ると思い――。

背筋を、ゾッとするものが這いずっていく感覚を覚えた。
正体は掴めぬまま、何か恐ろしい思考に支配された彼は、振り返る。
そう、振り返り、見て、そして理解してしまった。

自身が回避した闇が、後間もなくで自身の後ろに直線上にいたブレイドに到達するということを。
それを見た途端、カブトはダグバから踵を返しブレイドの下へ……先ほど完全に回避した闇の下へと向かう。
それは彼にとって、しなくてはいけないことだったから。

翔太郎という仲間を守ること、もそうだが、今はそれ以上に。

(もう……僕のせいでブレイドが倒れるのは嫌だ!)

翔太郎が纏っている鎧、仮面ライダーブレイド。
自分が死なせてしまったその装着者、剣崎一真の分まで戦う覚悟を決めたのだ、もう二度と自分の手が届くところでブレイドが倒されるところを見たくなかった。
だから、闇に向けて剣を立て付け、絶叫する。

ブレイドを守るために、自身が死なせてしまった存在を、二度と殺させぬ為に。


371 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:28:08 5jiSyPos0

――HYPER CLOCK OVER

瞬間、世界は通常の時間を流れさせる。
聞こえてくるのは、ダグバの愉悦、仲間たちの驚愕の声。
彼らには悪いことをしたとも思うが、しかしそれ以上に自分が仮面ライダーとしてようやく誰かを守れた自覚があった。

これが僕のなりたかった仮面ライダーだ、と考えるより早く、闇がその鎧に到達して。
それが晴れたとき、総司の身体は生身を晒しその膝を地についたのであった。

「――総司ィィィィ!!!」

翔太郎が、絶叫する。
突然自分の前に闇が迫ったかと思えば、それを総司が受け止めていた。
未だ使い方になれぬこの鎧、ノーラウズでのアンデッド能力の使用についてまだ疎かった為に総司という仲間が自分を守らざるを得なかったとそう考えて、彼は自信の不甲斐なさと、そして何より目の前のダグバに怒りを募らせる。

「ハアァァ……」

そして、それは翔一も同じようで、未だ笑うダグバを蹴り飛ばして、大きく構えを取った。
空中に二つアギトの頭部をそのまま映したような紋章が浮かび上がる中、ブレイドも怒りに身を任せ身体より三枚のカードを生じさせる。
掴み取ったそれらが何を意味するのかさえ感覚的にしか掴めないものの、彼はそれをキングラウザーに読み込ませた。

――SPADE FIVE SIX NINE
――LIGHTNING SONIC

身体中に力が沸き起こる中、ブレイドは駆け出す。
そのスピードは速く、アギトとの空いた距離を一瞬で無に出来るほどのものであった。
紋章へとアギトが跳び上がるのと同時、加速のついたままブレイドは飛ぶ。

強化シャイニングライダーキックと、ライトニングソニック。
二つの必殺技によるダブルライダーキック。
相当の威力を誇るはずのそれが迫る中、しかしダグバは防御の姿勢を固めるのみであった。

たった二発の蹴りが当たっただけとは到底思えないような爆音が周囲を揺らす中、二人の仮面ライダーは着地する。
今のは完璧に入った、と思うがしかし油断なく後方へと後ずさっていったダグバの方へ視線をやり。
再度その身を襲おうとした闇を回避する。

そうして闇が晴れる中現れるのは、まだ戦えるといった様子で笑い続ける悪魔の姿。
タフが取り柄の翔太郎でさえ疲労を隠しきれない中、しかしまだ戦意を途切れさせぬままに二人は立ち上がって。
――瞬間、翔一の身体からアギトの力が消失する。

「え――」

時間制限、それもバーニングからシャイニングを経たために時間減少が重なったため起こった、あまりにも早い変身解除であった。
そして、太陽の光が差さない中でのシャイニングに何らかの異常を来したのか、翔一の身体はそのまま大きく後ろに倒れる。

「翔一ッ!」

思わず声をかけるが……しかし翔一は答えない。
その疲労故か、進化の代償故か、彼は気を失っていたからだ。
総司、翔一、ようやく生まれた勝利の希望が摘み取られていく現状にやるせなさを感じつつも、しかしブレイドは一人、その大剣を確かに構えた。

それを見て、心底不思議で仕方がないという様子でダグバは首を傾げる。

「……ずっと気になってたんだ、何で仮面ライダーはそんなになってまで戦うの?君と一緒にいた彼も、最後の最後まで戦おうとしてた。もう僕に勝てないってわかってるのに」

実際には、それは彼の気まぐれで、本当に気がかりなわけではないだろう。
ただガドルがあそこまでの強さを身につけその敵であることを誇りに思うような相手を、少し彼も知ってみたかったのかもしれない。
しかしそんなダグバの言葉にブレイドはただキザにその指をダグバに伸ばして。


372 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:28:25 5jiSyPos0

「わかってねぇな……仮面ライダーってのはな。人々の希望なんだよ。
その名前を名乗るからには、どんなになってでも、その身体一つグラついてでも悪を倒す、……その心そのものが仮面ライダーなんだ。てめぇが殺した紅も……その一人だったんだ」

――紅音也。
読めない男で、こんな状況でも女をナンパしたいから俺と行動するのはごめんだ、などとふざけたことを言っていた男だったが、あの名護が尊敬していたことや、こうしてダグバの思考にまで留まっているところを見ると、やはりただものではなかったらしい。
そんな男の仇を取ることを再度強く心に刻みつつ、再度両者が構えた、その時であった。

ブレイドの後方より招来した赤い鞭が、ダグバの身体を一閃したのは。

「何……ッ!?」

突如現れた援軍に思わず振り返り、そしてブレイドは見た。
赤い鞭と、自身も見慣れた友の大剣を持つ闇夜に解ける黒い仮面ライダーの姿を。





数分前。
名護の記憶を消し新たに世界のためその歩みを再開した紅渡……キングは、さした苦労もなく次の標的を発見していた。
それは、レンゲルバックルから得た情報にあった、金の鎧を着た仮面ライダーと、三人の仮面ライダーが戦闘する姿。

そう言えばうち一人、銀色のカブトムシのようなライダーは以前ライジングアルティメットと戦っていたライダーと似ている気がする。
或いはそれを受け継いだのだろうか、とも思い、しかしその声まで似ている気がして、彼は首を傾げた。
……まぁ、今は考えても仕方のないことだ。

デイパックの奥深くに押し込んだはずだというのに逃げろ逃げろとうるさいレンゲルバックルを無視しながら、キングはその余りにも常識外れの戦闘をその目で見届けていた。

「――キング、戦いには赴かないのか?」
「うん、王は挑まれた戦いからは逃げないけど……無駄に消耗するのも得策じゃないからね。彼らが制限で生身を晒した時にそれを狩れば良い」
「……尤もだな」

サガークと共に周囲を飛ぶキバットバットⅡ世にそう返すと、その答えにどこか納得しきっていない様子で彼はその足をキングの肩に乗せた。
今までこの場で一緒にいたという甘ちゃん連中、特に津上翔一と城戸真司という存在に、彼の思考も少し影響されているのだろうか。
と、そこまで考えて、彼はもう一つの可能性に気付く。

「……もしかして、あそこにいるのは君と一緒にいた人?」
「――あぁ」

幾分かの思考を交えたようで、歯切れ悪くキバットは返す。
世界のため戦う王に仕える、そう言っておいて他世界の仲間を心配してしまった自分がいることを、彼もどこか自覚しているのだろう。

「キバットバットⅡ世、一応言っておくけど僕は君の仲間だからって彼らを助ける気は――」
「――当然だ。それがこの殺し合いのルール。それに俺は奴らの仲間ではない、ただ一緒に行動していただけだ。それが殺されることに今更どうこう言うつもりもない」

いざ戦闘になった瞬間にその覚悟が消え変身を解除される、という状況に至らないように彼の覚悟を再確認しようとキングは声をかけるが、キバットは即答する。
それはまるで自分に言い聞かせているようでもあったが、しかし取りあえず裏切る様子はないようだとキングは自分を納得させる。
とは言えかつての親友に似たその身体、そしてその声、揺るぎないとは断言できないその覚悟、とキングにとってサガークほど信頼を寄せるべき相手ではないように思えもしたが。

ともかく、そんな思考を終え再び戦場に目を移すと、そこには先ほどまでとは大きく異なる戦況が現れていた。
黄金の仮面ライダー、銀と赤の仮面ライダーに、銀色のカブトムシのような仮面ライダーは先と変わらないが、一人新たに白と金の装飾を身につけた怪人が現れていた。
一目見てわかるその威圧感に胸を苦しめられながら、しかしキングの脳裏にはそれと同等の威圧を誇る存在が浮かんでいた。


373 : Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:28:42 5jiSyPos0

「……まるで、ライジングアルティメットだ」

ぽつり、とそう呟く。
自身が見つけディケイド討伐の為に利用しようとしている存在と同程度の実力を誇ることが伝わってくるそれに視線をやりながら、キングは僅かばかり戦慄した。
ライジングアルティメット一人でもあれほどの災害を起こすというのに、そんな存在がこの場には目の前の怪人を含めまだ一人いると言うのか。

目の前の怪人はともかくもう一人は自信の手中に落とせることに安堵のような感情を抱きながら、その戦闘を見届けようと気付けば思わず前のめりになっていた。
暫くすると、まず銀色のカブトムシのライダーが敗れ、銀と赤の仮面ライダーが倒れ――、自身の変じた黄金のキバ、その真の姿に匹敵するようなライダーが次々と怪人の前に倒れていく。
恐ろしい実力を誇るそれにどうしても抱くことを禁じ得ない戦慄を抱いたまま、残る一人のライダーと怪人を見守って。

『――てめぇが殺した紅も……その一人だったんだ』

黄金のライダーが呟いたその言葉に、思わず意識を集中させられた。
今、なんと言った?
あの男が、父を殺したと言ったのか?

瞬間、キングを取り巻く雰囲気は変わった。
標的を見定め漁夫の利を狙うものから、今まさに狩りに赴かんとする王のものに。

「キバットバットⅡ世」

短く指示を飛ばせば、しかし以前の親友とは違いそれはすぐに噛み付きはしない。
何事か、と彼をみやれば、未だ迷うように空を漂っていて。

「どうしたの、キバットバットⅡ世」
「王よ、一つだけ聞きたい。今お前がこの戦いに赴くのは、王としてか?それとも――」

僅かばかり生じた、王の道具としてではなくキバットバットⅡ世としてのこの心が、キングに問うていた。
今この戦場に赴くのは、如何にキングが偉大で、そしてこの闇のキバの鎧が凄まじい能力を持つとは言え褒められたものではない。
故に、聞いておきたかった。

それを成そうとする気持ちが、世界を憂う王としてのものなのか、それとも父の敵を取ろうとする息子のものなのか。
しかし、対するキングは、既に自分の知る音也の息子としての顔は、していなかった。

「――お前は僕の、王の道具なんだろう?なら、僕に従え」

少し自分でも悩むような顔を浮かべたかと思えば、瞬間それは立ち消え王としての威厳で自分に命令を下してくる。
そう言われてしまえば、もうキバットには何も問うことは出来ない。
ファンガイアの王に仕えるのが自分の仕事。

それに、今自分がこの青年に力を貸すのは彼を王と認めたためだ。
以前三度この鎧の力を授けた男の息子だから……そんな理由など、存在しないのだから。

「お前の言う通りだな、俺は道具に過ぎん。――ガブリッ」

自身に生じた謎の空虚感を打ち消すように、彼は王に自分の魔皇力を注入する。
それと共に彼の全身にステンドグラスのような紋章が浮かび上がり、彼の腰にベルトを生じさせた。
王の手を煩わせることもないとばかりに自分からそのバックル部分にキバットが収まれば、王の身体は一瞬で黒の鎧に包まれた。

装着が完了したことを示すようにその瞳が緑に輝けば、そこにいたのはキバの世界最強の仮面ライダー。
王に仕える従者が、その比類なき力を今新たな若き王に授けた姿。
仮面ライダーダークキバ。

闇のキバの鎧を身につけたキングは、その左手にジャコーダー、その右手にエンジンブレードという、既に使い慣れた両刀を構え、ダグバに攻撃する。
自身の世界を守るため、そして今最後に出来る息子としての父への弔いのために、王はその力を振るうのであった。


374 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:29:28 5jiSyPos0





突如として出現した黒い仮面ライダー。
敵か味方か判断がつかないそれにブレイドの対応が遅れたその瞬間、しかしダグバはその掌を即座に彼に向けていた。
その中で蠢く闇、相当の威力を想像させるそれが放たれるより早く、ダークキバは行動を起こしていた。

「ハアァァ……」

深い闇に飲まれ一瞬見逃しそうになる黒い輝きを放ちながらダークキバの足下に生じたキバの紋章が、凄まじい速度で地を這っていったかと思えば、次の瞬間にはそれはダグバの後方に出現していた。
これは流石のダグバも読み切れなかったか、躱しきれぬままにその紋章に磔の形で拘束される。
しかし、今や究極を超える力を保有するダグバの身体は、元の世界で誰一人、そうこの闇のキバの鎧を本来纏うはずの先代の王でさえ破れなかったこの拘束を破ろうとしていた。

しかしそれは所詮ダグバをそのままそこに拘束しようとした時の話。
もちろんダークキバにそんなことをする必要などない、彼がその手を手招きするように曲げれば、ダグバの身体は真っ直ぐにダークキバに向かっていく。
拘束への抵抗にその意識を振り切っていたダグバは簡単に王の眼前にまでその身体を無防備に晒し、そしてその蹴りを深く腹に受けた。

火花を散らしその身体が再度吹き飛んでいった先は、先ほどの紋章だ。
再度磔にされまたダークキバが手招きをする度にその身体を蹂躙されているダグバの姿は、この場で彼と戦った仮面ライダーたちにとって信じがたい光景だっただろう。

「凄ぇ……」

思わず漏れた感嘆の声と共に、ブレイドはその光景を傍観してしまっていた。
一方で、数回の蹂躙の後その拘束から解き放たれたダグバを追って、王はその手に持った剣と鞭で油断なくその生を止めに行こうとする。
しかしこれで終わる程度であれば、グロンギなどという種族の頂点であるンは務まりなどしない。

「アハハハ!最高だね、君。今までで一番楽しめるかも」

ガバッと起き上がってその身に刻まれた傷を驚異のスピードで治癒しながら、ダグバは笑う。
しかしそれに恐れを抱くことなどなくダークキバはその手に持ったエンジンブレードを振るい、その身を切り崩そうとするが。

「丁度いいや、剣が欲しかったんだよね。これ、ちょうだい」

その刃を――その手から血が流れ出るのも気にせずに――掌で受け止めたダグバは、その言葉と共に強引に刃の側からその剣を奪い取る。
思わず唖然とした一瞬を逃さずダグバがその足を強かに彼の胸にぶつければ、そこからは夥しい量の火花が散りその中のキングも思わず声を漏らした。
どうしようもないダメージに後ずされば、その剣を構え直したダグバの乱舞が待っている。

このダークキバの鎧を以てしてなおダメージになるほどの切れ味を誇るエンジンブレードを、これ以上ないパワーの持ち主が利用しているのだ。
彼に抵抗の機会など、与えられるはずもなかった。
――そう、彼自身には。

「やめろォ!」

幾度となく続いたその乱舞を受け止め自分の前に立ったそれは、仮面ライダーブレイド。
キングラウザーの刃とキングフォームの力でしかし押え付けるのがやっと、という様子の中、ブレイドはその背に庇うダークキバに声をかける。

「おい、お前!誰だか知らねぇが、ダグバを倒すんだろ!?なら力貸してやるよ!」
「……」

暑苦しいブレイドの言葉を聞きながら、ダークキバは思う。
これが、キバットバットⅡ世から聞いた、名護の新しい仲間か。
決して裏切ることのない異世界の仲間……そんな存在であることを裏付けるようにいきなり現れた自分を信頼するようなその言葉に、一つため息をついて。


375 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:29:44 5jiSyPos0

ふと足下の青年が気絶したまま握りしめている、自分の所有物であった大剣、ザンバットソードを手にする。

(違う……これは利用するだけだ、父さんの仇を取るまでの間だけ、この愚か者を利用する……)

誰に聞かれたわけでもないのに心でそう言い訳じみた言葉を吐いて、ダークキバは押し切られそうになっているブレイドを援護するようにダグバに横から切りかかった。
流石にこの二人を相手に力押しは不利だと踏んだか、ダグバが後ずさる中二人は並び立つ。

剣の世界最強のライダー、キングフォームと、キバの世界最強のライダー、ダークキバ。
この会場の中でも指折りの実力を誇るそれらの鎧を身につけて、彼らは今一時の共闘で以て最悪の悪魔に挑もうとしていた。
だが、その佇まいだけで相当の実力を匂わせる二人のライダーを前に、ダグバも今までのように余裕を見せずその手に闇を集わせる。

「させるかッ!」

しかし、それを見て動き出したブレイドの左膝が輝いたかと思えば、彼以外の時間は完全に静止した。
それは、翔太郎とてやろうと思ってやったわけではない。
ただ『ダグバを止めたい』、そう思ったらこの身に纏う力が応えたというだけのことであった。

しかし、タイムの力について深く知らない翔太郎は、取りあえずダグバに追いつけるというだけの事実が分かれば十分だ、と剣を振りおろす、が。

「――なッ!?」

何か不思議な力によってキングラウザーが弾かれる。
それは彼の発動したタイムに課せられた制限のためであったが、翔太郎はそんなことを知るよしもなかった。

「でも、こんなことで……諦めてたまっかよ!」

時間を停止している限り自分の攻撃がダグバに届かないのだとしても、彼はその手を休めることはしない。
紅や、恐らくはそれ以上に多くの人間を、この男は殺している。
そんな存在を相手に、自分の信じる仮面ライダーはどんな理由があっても諦めてはいけないのだ。

――そして、その拳は遂に届く。
ただ単に時間停止の能力が制限時間を迎えただけであったが、その拳が丁度ダグバにぶつかるその直前でそれが訪れたのだ。
それはひとえに彼の持ち前の幸運のためであったが……しかし、その黄金の拳を目前に迎えてなお、ダグバは別段戦慄をしなかった。

自分が先ほどまで用いていた鎧なのだ、既にその力は大体察している。
今の究極を超えた自分にとって、ビートの力さえ用いないその拳は大した痛手にはなるまい。
そう思い、最早避けきれぬその拳を甘んじてその頬に受け――。

(――重いッ……!?)

その想像を遙かに絶する威力に、今度こそ驚愕を見せた。
今のブレイドがダグバをも絶句させる攻撃を放てたのは、ひとえにその特徴である融合係数による能力の上昇が見られたのも一つの理由であるが、しかし、それ以上に大事なことがあった。
それは、左翔太郎という人間と、ン・ダグバ・ゼバというグロンギ、それぞれが持つブレイドのライダーシステムに対する素質の差だ。

この場ではどういった存在であれスペードのカードを全て集めラウズアブゾーバーを用いれば13体のアンデッドと融合したキングフォームに変身できるというのは、以前ダグバとクウガの戦いにおいて述べられた通り。
しかし、その戦いでダグバが急速にその融合係数を高めたとは言え、所詮は正義の心を持たず13体のアンデッドとの強引な融合の促進でその力を高めただけ。
本来の装着者である剣崎一真が変身したキングフォームとの戦いになったのなら、融合係数の上がり方などから見てもダグバの変じたキングフォームは、やはりノーラウズの力を十二分に発揮して五分と言ったところか。


376 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:30:00 5jiSyPos0

元よりブレイドの装着者として見込まれ自分の素質だけで13体のアンデッドと融合して見せた剣崎と、制限によるお情けでその姿と能力だけを取り入れたダグバでは、一見ダグバが勝っているように見えて、その実大きな差が存在する。
そう、剣崎が元の世界でノーラウズの力の力を用いずして数多くのアンデッドを打ち倒してきたのは、決して敵が彼の実力に見合わぬ存在だったからではない。
彼はその力を使わずしてクウガの世界における究極の闇と匹敵する力を持っていたから、それだけの理由に他ならない。

でなければダグバに匹敵しうるジョーカーアンデッド、その存在と互角に渡り合うことなど出来ないのだから。
長々と話したものの、つまり単純に話を纏めれば、ダグバの変身したキングフォームは、剣崎の変じたそれよりも弱い、ということになる。
であれば、次に重要なのは左翔太郎という人間はどういった存在なのかということだ。

彼は剣崎のように正義を信じる仮面ライダーで、例え相棒がいなくても自身の信じる存在の為に戦い続けられる存在だ。
そんな仮面ライダーはこの場にごまんといるが、しかし彼にはもう一つ特殊な事情が存在する。
それは、彼は異世界、それも大きく意味が異なるとは言え、『ジョーカー』に運命の存在として認められた男だと言うこと。

そう、アンデッドとの融合を促進し最終的にその身をアンデッドの頂点、『ジョーカー』としてしまうブレイド、とりわけキングフォームと翔太郎の融和性は異常な数値を示していたのだ。
ここまで言えば分かるだろう……つまり彼はこの場において、剣崎一真と同じく自身の力だけで13体融合のキングフォームに辿り着くことの出来る存在の一人だったということ。
であれば、ダグバが先ほどまで想定していたキングフォームとの実力は天地の差。

故にこうしてその拳は、アンデッドの力による付加価値なしでダグバの意識を一瞬刈り取りかねないほどの究極に匹敵する拳となり得た、ということだ。
だが、今の翔太郎には先ほどのダグバ以上にラウズカードに対する理解が薄く、未だその能力を使い切れていない。
またダグバと違いその融合を受け入れきるような意識も存在しなかったため、ノーラウズによるアンデッド能力の行使を未だ扱い切れてはいなかった。

だがそれを把握し使いこなすのも時間の問題、決して胡座をかいていられる状況でもあるまい、とダグバは大きく後退しその手に再度闇を集める。
しかし先ほどまでのようにそれを止めダグバを殴る、だけでは相手の回復力も相まってただ自分が消耗するだけだ、とブレイドは思う。
強化形態に変身し変身可能時間も短くなっているのだから、早期決戦を望まなければ、と彼はその手に五枚のカードを掴み取る。

翔太郎の知るポーカーの中で、同一スートのみの縛りであれば最強の役であるそれをキングラウザーに次々と滑り込ませれば、その身はたちまち光に満ちあふれて。

――SPADE TEN JACK QUEEN KING ACE
――ROYAL STRAIGHT FLASH

電子音声と共に光り輝いた大剣をブレイドが振るうと同時、ダグバの掌から闇が吐き出されていく。
キングラウザーから生じたエネルギーの波がそれとぶつかると同時、辺りに凄まじい衝撃の余波が生まれる。
並の仮面ライダーであればその足を動かせもしないその中で、しかしダークキバは生まれた隙を逃さず自身の剣に取り付けられたホイッスルを手に取った。

「ウェイクアップッ!」

キバットバットⅡ世がその笛の音を響かせる中、ダークキバはその大剣を研ぐ。
それによって赤い魔皇力がザンバットソードを染めあげると同時、ダークキバはその足をダグバに向け駆け出した。
しかしダグバもそれをただで見ているわけにはいかないと、残る右手から闇を吐き出しダークキバに向ける。

左手でロイヤルストレートフラッシュ、右手でファイナルザンバット斬をそれぞれ押え付けながら、しかしダグバはある一つの結末を悟る。
それは、自分の敗北。
究極を超えた自分に匹敵する存在などいないとばかり思っていたが、なるほどこれがガドルも認めた仮面ライダーか。

そんな事を考えた時、既にロイヤルストレートフラッシュの輝きと、赤い大剣が自身の闇を切り開いて自分に肉薄しているのを見る。
だが、まだやられるわけにはいかない、これよりもっと面白いことをずっと楽しまなくては――!
今まで抱くはずなかった意地でその身を捩り無理矢理にロイヤルストレートフラッシュの軌道から逃れたダグバの身体を、しかしその輝きが掠っていた。


377 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:30:22 5jiSyPos0

思わず怯みもう片方の暗黒掌波動の勢いが弱まった瞬間、その一瞬を見逃さずダークキバはその闇を押し切り手に持つ剣でダグバの身体を深く切りつけた。
ダークキバがその剣をもう一度研ぎ魔皇力を空気中に放散すれば、それが終わりを告げると共にダグバの身体は爆炎に包まれて。
こうしてこの場で初めて、グロンギ最強の怪人は本気の状態でなお完全な敗北を喫したのであった。





自身の放ったロイヤルストレートフラッシュ、その輝きがダグバを掠り病院の方向に放たれて行ってしまったのを見て、翔太郎は勢いを相当殺されていたはずだというのになお衰えを見せなかったその威力に思わず戦慄する。
同時にそれと同程度の攻撃を片手で放てるダグバと、その闇を切り開きその刃を届かせたダークキバ、この場に集った戦士たち全ての実力にも、彼は驚愕を禁じ得なかった。
しかし、ともかく剣崎の遺したこの力がそれを弄んだ悪魔に届いた事実に、翔太郎はカタルシスを覚えていた。

だが、そうして物思いに耽るのもそこまでだった。
幾分かその勢いを先ほどより弱めてはいるものの……既に聞き飽きた笑い声が、闇と煙で遮られた視界の先から轟いたため。
あれほどのダメージを受けなお生きているダグバのその生命力に、最早驚きもせずブレイドとダークキバはその剣を構える。

「アハハ、楽しいよ、本当に楽しいよ!仮面ライダーたち!僕をもっと楽しませて――あれ?」

そうして笑い声と共にその手に闇を集わせた瞬間、彼の身体は生身に変化する。
先ほどのブレイドに変身した時にも発生した、10分と認識している変身制限が5分ほどになってしまっている現象。
それによって否応なしにこの身がリントと同じほどの脆弱なものに変わってしまって、ダグバは隠そうともせず不満な声を漏らした。

それは、セッティングアルティメットと呼ばれる形態に変じたダグバに生じた、新しい制限。
今までの力より大きく進化した対価としてその変身時間を半分に削られてしまったのだった。
戦いが終わりを迎えたことに動揺と物足りなさを抱いたままのダグバをしかし、王は許しはしない。

生身の人間に手を下す抵抗感からかその手を緩めたブレイドと対照的に、ダークキバがその手に持ったジャコーダーをしならせダグバに迫ったからだ。
またも訪れた死の恐怖にその顔を引きつらせて愉悦に浸るダグバの元に、しかし王の一撃は到達しない。
天空より舞い降りた黄金の一筋が、それを弾き飛ばしたため。

「――君は?」

その予想しなかった光景に思わず動揺したダークキバに対し、助けてもらったというのにどこか不満げにダグバは呟く。
それにその物体は応えず、代わりとばかりにダグバの手に銀のブレスレットを落とした。
そう、ダグバを今助けたその物体は、コーカサスゼクターの名を持つ自立型ゼクターの一つ。

ワームであれ人間であれ、強いものに従うそれは、以前の資格者であった牙王を打ち倒したダグバを、次の資格者として認めたのであった。
そしてカブト、ヘラクスの二人のZECT製仮面ライダーを見ていたダグバには、それの扱い方は既に知っているようなもの。
左手にそのブレスを付ければ、彼が掴むまでもなくコーカサスゼクターはその台座に自ら収まった。

「フフッ、――変身」

――CHANGE BEETLE

瞬間そこに現れたのは、ZECTが開発した最強のマスクドライダーシステムのうちの一人。
仮面ライダーコーカサス。
先ほどのダグバの怪人態と比べればどうしても見劣りするもののしかし彼が纏うに相応しい威圧を備えたその姿に思わず二人のライダーもまた構えるが。

「今度会ったときはもっと楽しませてよ、仮面ライダー。――クロックアップ」


378 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:30:37 5jiSyPos0

――CLOCK UP

そして、彼の姿はかき消える。
この場で初めての、ダグバの逃走。
しかしそれをみすみす見逃すわけにもいかない、とブレイドは追いかけようとするが。

「――あっ」

瞬間ブレイドの鎧もまた、制限時間の短縮により消失した。
これではダグバを追うことも出来ないか、としかし帽子を整え、気を取り直して仲間の元に行かなくては、とその踵を返して。
――瞬間襲いかかった今まで感じたことのないような疲労に、その身体を倒した。

それは、人の身でキングフォームを纏った為に生まれた、どうしようもない疲労。
もう少し融合係数があがっていればまだしも、通常のブレイドを介さず変じたキングフォームは、高い融合係数を誇った翔太郎の意識さえ刈り取ったのだった。
そして、それと同時辺りに散らばったカードを見つめるのはダークキバだ。

サガをも超える力を持つこの闇のキバの鎧。
それに満足感を抱いた此度の戦いで、しかしそれに匹敵する力を目の前の男は放っていた。
デイパックの中からなおも力を手に入れろとうるさいレンゲルバックルにしかし今は従って、彼は手始めに自分の足下に落ちていたキングのカードを拾い上げる。

そのまま、他のカードも拾い上げようと、その足を他のカードの元へ向けようとして。

「ああああぁぁぁぁぁ!!!!」

絶叫と共に飛びかかってきた白い仮面ライダーに、それを防がれる。
何事か、とそちらを見やれば、そこにいたのはキバとよく似た、しかし明確に違う戦士。

「翔太郎は、僕が守る!」
「……」

どうやら捨て身の覚悟でこのダークキバの鎧を纏った自分を抑え仲間を逃がすつもりのようだが、しかし無理だとキングは思う。
先ほどのダグバとの戦いで消耗しているだろうこの男に比べ疲労、ダメージの蓄積も少なく鎧の性能も上の自分を、一瞬でも抑えておけるはずなどないし、男たちはどちらも気を失っている。
彼らが起きるまでの間を単身で凌ぎきれるわけがない、と彼はその剣を構えて。

「――総司くーーーん!!!!」

少し前にも聞いたバイクのエンジン音と――もう聞くはずはないと思っていた恩師の声と――共に自身の身に雨のように降りかかった弾丸に、思わずその身を退いた。
自分が退いた分生まれたレイとの間に滑り込みバイクごとそのスペースに参上した男の名は、名護啓介。
纏うその鎧の名は、仮面ライダーライジングイクサ、そう、彼の持てる最大戦力だ。

「――名護さんッ、来てくれたんだね!」
「当たり前だ、弟子の危機に師匠は必ず現れるものだからな」

自分から銃口を外さぬままバイクから降りたイクサに対し、レイは歓喜の声を上げる。
弟子の危機に師匠は必ず現れる……先ほど自分も生身の殴り合いで実感したそれを一身に受けるレイは、そのダメージすら気にならない様子ではしゃぐ。
それに抱くことをやめたはずの嫉妬にも似た感情がわき出てきて、ダークキバの仮面の下で思わずキングは顔をしかめた。

「――キバット君、君がいるということは、その鎧の下にいるのが君の認めた新たな王、ということか?」
「そういうことだ」

今までキバットの力を用い変じたダークキバを見ていなかったことと暗夜に消えるその姿故翔太郎が気付かなかったキバットが、その口を開く。
それに初めて気付いた総司も、今まで仲間だったはずのキバットバットⅡ世がこうして的として現れたことに今更ながら驚愕しているようだった。

「ファンガイアの王として君が認めた、ということはその鎧を纏っているのは俺の世界の参加者ということか?」

その言葉に、総司は目を大きく見開く。
当然に名護の脳裏に渡の姿が浮かんでいると思ったからだが、実際には違う。
実際には、名護はただ自身に大事なことを教えてくれた紅音也と“同じ名字をしているだけ”の紅渡という、自分の世界からの参加者らしい存在が変じたのかと気になっただけだったのだから。


379 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:30:55 5jiSyPos0

「……そうとも限らん。俺はファンガイアの王を見定めるだけ。自分の世界がどうなろうと、俺が認めた王の資格を持つものであればこの力を貸すことに異論はない」
「つまり、装着者を教える気はない、ということか」
「そういうことだ」

実際には名護の推理は当たっているのだが、しかしキバットは予めキングと打ち合わせておいた台詞を吐き煙に巻く。
それを受けどうやら対話の意思はないと判断したか、一瞬の迷いの後イクサはそのカリバーを構えるが、それを前にしてダークキバは戦意なくその手をすっと翳した。

「――やめましょう。今の貴方たちには、僕と戦う以上に大事な役目がある」
「役目……?」

この場に現れてから初めて口を開いたダークキバの意外な言葉に、思わずレイはその構えを緩める。
イクサは既にキバットからの伝言で知ってはいるが、しかしそれを遮ることはしなかった。
それを見やりながら、ダークキバは続ける。

「えぇ、貴方たち仮面ライダーの真の使命。それは世界の破壊者、ディケイドの破壊。それを成さなければ全ての世界は殺し合いの結末に関わらず崩壊する」
「――ディケイドだって!?」

キングにとっては既に何度も口にした言葉を聞いて、しかしレイは驚きの声を上げる。
自分が剣崎一真を殺した現場に居合わせ、その身をブレイドのものへと変え自分を打ち倒した仮面ライダー、ディケイド。
彼がいなければ自分はあの病院を全て打ち壊しかねなかったことを思い、彼とはあるいは戦いになるだろうことも覚悟した上で、自分を止めてくれた感謝と共にそんな存在と仮面ライダーとして剣崎の遺志を継ぎ戦えることを楽しみにしてもいたが。

そんな存在が、この殺し合いの大前提すら揺るがすほどの文字通りの悪魔だというのか。
思わずその戦意を失ったレイを前に、しかしダークキバは言葉を紡ぐ。

「今回は、貴方たちの命は預けておきましょう。しかしまた再び私の前に立ち塞がれば、次はない。ディケイドの破壊より先であったとしても、貴方たちを破壊します」
「待て、最後に一つだけ聞いておきたい」
「……なんですか」

そうして捨台詞と共にその場を去ろうとしたダークキバに、イクサはしかし声をかける。
無視しても良いというのに、彼の記憶を消してしまった罪悪感からか、その身体は動こうとしなかった。

「君が新しいファンガイアの王だというなら、一体何を望む。世界の崩壊を防ぎ他の世界を全て破壊して……一体君は何をしたいというんだ」
「そんなこと、決まっています」

イクサの説得にも似たそんな質問に対し、しかしダークキバの答えは変わらない。
ゆっくりと振り返り、イクサの鎧越しにしっかりとその瞳を見据えて。

「――僕は、僕の守りたいものを全て守るだけです」

――貴方も含めて。
心の中でそう付け足して、ダークキバはもう対話の意思を見せずその歩を進める。
その背中は威厳に溢れていたが……同時に何故かそれに手を伸ばさなくてはいけないように、イクサには感じられて。

「待てッ」
「名護さんッ、今は翔一と翔太郎が先だよ!」

思わず彼に向かおうとしたその身体を、後ろから弟子が、レイが止める。
ゆっくりと消えていくその背中、そしてそれに抱いた不思議な感情をどうにも処理しきれないまま、名護はイクサの鎧を解除する。

「――そうだな、総司君。俺としたことが優先順位を見誤るところだった。今は危険な存在を深追いするより、仲間の保護が大事だ」
「うん、また病院に戻ろう」

総司も相当にダメージを負っているながらも、ネイティブの治癒力で何とか人一人担げるくらいには体力も戻っていた。
既に姿すら見えないというのにその存在に銃を向けたこと、そしてそれから今離れることにどうしようもなく後ろ髪引かれる思いを抱きながら、名護はその場を後にした。


380 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:31:11 5jiSyPos0





津上翔一を襲った、急激な疲労感。
それがシャイニングフォームに夜間に初めて変身したために生じた反動だと簡単に結論づけても良いものなのか、誰にも分からない。
何故なら、アギトは進化の可能性。

この場において新たにその身を変える進化をしたとして、誰もそれを疑問に思うことなど出来はしない。
むしろ、彼の大きすぎる疲労がもしも、初めてバーニングフォームに変じた時にその直前まで彼を襲っていた不調と同様のものだとしたら。
仮面ライダーアギトは、あるいはこの場で新しい姿に変じようとしているのかもしれない。

或いはそれはただ翔一のアギトとしての基礎能力が向上するだけかもしれないが、それを知ることはまだ誰にも出来なかった。
本人にすら分かりきれない未知の可能性を抱いたまま、翔一は眠る。
その身を新たに進化させながら。


【二日目 深夜】
【D-1 市街地】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(極大)、キングフォームに変身した事による疲労、仮面ライダージョーカーに1時間50分変身不可、仮面ライダーブレイドに1時間55分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW 、ブレイバックル@+ラウズカード(スペードA〜12)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:(気絶中)
1:名護と総司、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:乾巧に木場の死を知らせる。ただし村上は警戒。
7:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
8:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
9:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っていました (人類が直接変貌したものだと思っていなかった)が、名護達との情報交換で認識の誤りに気づきました。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※総司(擬態天道)の過去を知りました。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。


381 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:31:25 5jiSyPos0




【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーカブトに1時間50分変身不能、仮面ライダーレイに2時間変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
0:翔一と翔太郎を病院に連れて行かなきゃ。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護や翔太郎達、仲間と共に生き残る。
3:間宮麗奈が心配。
4;放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:ディケイドが世界の破壊者……?
【備考】
※天の道を継ぎ、総てを司る男として生きる為、天道総司の名を借りて戦って行くつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに天道総司を継ぐ所有者として認められました。
※タツロットは気絶しています。
※名護の記憶が消されていることに気付いていません。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、現状では半信半疑です。




【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(極大)、強い決意、真司への信頼、麗奈への心配、未来への希望 、進化への予兆、仮面ライダーアギトに1時間50分変身不能
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
0:(気絶中)
1:逃げた皆や、名護さんが心配。
2:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
3:木野さんと北条さん、小沢さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
4:もう一人の間宮さん(ウカワームの人格)に人を襲わせないようにする。
5:南のエリアで起こったらしき戦闘、ダグバへの警戒。
6:名護と他二人の体調が心配 。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました
※今持っている医療箱は病院で纏めていた物ではなく、第一回放送前から持っていた物です。
※夜間でシャイニングフォームに変身したため、大きく疲労しています。
※ダグバと戦いより強くなりたいと願ったため、身体が新たに進化を始めています。シャイニングフォームを超える力を身につけるのか、今の形態のままで基礎能力が向上するのか、あるいはその両方なのかは後続の書き手さんにお任せします。


382 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:31:41 5jiSyPos0




【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、左目に痣、仮面ライダーイクサに2時間変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ラウズカード(ダイヤの7,8,10,Q)@仮面ライダー剣、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:病院の方に戻る。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしていましたが、翔太郎との情報交換でそういうわけではないことを知りました。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。





――こうなることは分かっていたはずなのに、名護に敵意を向けられ、容赦なくその攻撃を受けたときは、ショックを禁じ得なかった。
自分が覚悟を決める為、また名護に自分にとらわれず仮面ライダーとして戦って欲しいと思ったため、そうして彼の記憶を消したはずだったというのに、どうしようもなく胸が痛む。

「――王よ、どうした。覚悟が薄れたか」
「そんなことない……そんなことはない、けど……」

仮面ライダーと正面切って戦う覚悟。
名護啓介という男として以上に、仮面ライダーイクサとして立ちはだかる彼を、或いは倒す覚悟。
そして、自分のことを誰も覚えている人がいなくなってしまうという、悲しみを隠し続ける覚悟。

それらを抱いていたはずだというのに。
先ほどイクサに守られその登場に喜ぶ白いキバのようなライダーを見たとき。
そこに、過去の自分を幻視してしまった。

そして同時に、キバとイクサに敵意を向けられその二人の前に立つ自分が、今まで倒してきた“そちら側”になってしまったのだと、これ以上なく痛感したのだ。
それがあまりにも予想以上に訴えかけてきて、キングは一瞬“紅渡”になりかけてしまった。
だから、一旦それに背を向けた。

ディケイドの破壊の為に必要な戦力を残しただけだ、自分にさえそう言い訳して。

「なら構わないが……俺も、次はないぞキング。今度名護が敵対した時お前が尻込みするなら、その時は――」
「――わかってる。僕はもう迷わない、今度戦う時は、名護さんも」
「……ならいい」


383 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:31:55 5jiSyPos0

確かに嘘ではなくそう言い放てば、望んだはずの答えを得られたというのにキバットはどこか残念そうにデイパックに戻っていった。
そう、もう迷わない。
彼はもう自分を忘れたのだ、なれば自分も王として、世界など関係なく立ちはだかる障害の一つとして彼を排除するのみ。

先代の王が自分にしたように、それこそが王としてあるべき姿だ、とそう考えて。
最後に一筋だけ――それがヘルメットに隠れ見えないことを知りつつも――彼は、涙を流した。


【二日目 深夜】
【E-1 焦土】


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、地の石を得た充足感、精神汚染(極小)、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、仮面ライダーゼロノスに1時間30分変身不能、仮面ライダーダークキバに1時間45分変身不能
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、ハードボイルダー@仮面ライダーW、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードK)@仮面ライダー剣、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、地の石(ひび割れ)@仮面ライダーディケイド、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:レンゲルバックルから得た情報を元に、もう一人のクウガのところへ行き、ライジングアルティメットにする。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。次こそは逃がさない。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも倒す。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※地の石にひびが入っています。支配機能自体は死んでいないようですが、どのような影響があるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※赤のゼロノスカードを使った事で、紅渡の記憶が一部の人間から消失しました。少なくとも名護啓介は渡の事を忘却しました。
※キバットバットⅡ世とは、まだ特に詳しい情報交換などはしていません。
※名護との時間軸の違いや、未来で名護と恵が結婚している事などについて聞きました。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。


384 : Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣 ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:32:10 5jiSyPos0





「あーあ、本当に楽しかったなぁ」

クロックアップの能力が切れた後も走り続け10分の変身制限を迎えその鎧を消失させ天に消えていくコーカサスゼクターを見やりながら、ダグバは呟く。
クウガとの戦いがこの場でも最上のものだと疑っていなかったが、彼と匹敵するものはこの場に数多くいた。
アギトに、カブトに、あの帽子の男が変じたブレイドやあの黒い蝙蝠のようなライダーも、自分の想定を超える能力を見せてきたのだ。

自分の思ったとおりこの場にはもう面白い参加者しか残っていないに違いない、と悪魔はよりその笑みを深めて。

「――誰かを守ることで強くなれるのが仮面ライダー、かぁ」

アギトの言った言葉を、再度紡ぐ。
ガドルも似たようなことを言っていたが、であれば自分のクウガの育て方は間違っていたのかもしれない。
だがまぁ悔やむこともない。

怒ってクウガが強くなったのも事実、誰かを守ってアギトやブレイド、カブトが強くなったのも事実。
そういう感情で強くなるのが仮面ライダーで、恐らくはそれぞれ強くなれる感情が違うのだろうとダグバはよく分からないながらにそう結論づけた。
今回の戦いではブレイドという玩具も失ったが、まぁいいだろう。

コーカサスという力も手にしたし、また戦う内に何か新しい玩具が手に入るかもしれないのだから。
と、そこまで考えて、ダグバはふと顔を見上げ次の目的地を定める。

「そうだなぁ、こっち側はもう大体遊んだし……」

適当に走り辿り着いた橋の前に立ち、ダグバはその表情を深い笑みに変えて。

「――こっち側に、戻ってみようかな?」

今その足を、もう一度東側に向けようとしていた。


【二日目 深夜】
【D-3 橋】


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、もう一人のクウガ、浅倉、仮面ライダーたちとの戦いに満足、ガドルを殺した強者への期待(満足)、仮面ライダーブレイドに1時間45分変身不能、怪人態に1時間50分変身不能、仮面ライダーコーカサスに2時間変身不能
【装備】ライダーブレス(コーカサス)@仮面ライダーカブト、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】なし
【思考・状況】
0:ゲゲル(殺し合い)を続ける。
1:東側に戻ってみようっと。
1:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
2:もう1人のクウガや強い仮面ライダーとの戦いを、また楽しみたい。
3:バルバもこのゲゲルに関わってるんだ……。
4:仮面ライダーは、守って強くなるんだね……。
【備考】
※浅倉はテラーを取り込んだのではなく、テラーメモリを持っているのだと思っています。
※ダグバのベルトの破片を取り込んだことで強化しました。外見の変化はありませんが、強化形態扱いとして変身時間は半分になるようです。
※制限によって、超自然発火能力の範囲が狭くなっています。
※変身時間の制限をある程度把握しました。
※超自然発火を受けた時に身に着けていたデイパックを焼かれたので、基本支給品一式は失われました。
※キングフォーム、及び強化された自身の力に大いに満足しました。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身したことで、十三体のアンデッドとの融合が始まっています。ジョーカー化をしているのかどうか、今後どうなるのか具体的には後続の書き手さんにお任せします。
※一条とキバットのことは死んだと思っています。
※擬態天道を天道総司と誤認しています。
※コーカサスゼクターに資格者として認められました。


385 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/27(火) 00:33:56 5jiSyPos0
以上で投下終了です。
つよいかめんらいだーがたくさんかけてすごくたのしかったです。

ご意見ご感想、またご指摘などございましたらお気軽にお願いいたします。
感想などは頂けますと励みになりますので、是非ともよろしくお願いします。


386 : 名無しさん :2018/03/27(火) 01:54:09 h55Xm1/w0
投下乙です。

最強フォーム、最強フォーム級ボスキャラの入り乱れる乱戦。
登場ライダー(と一応怪人)は、ジョーカーとライジングイクサとレイがやや劣るかなくらいで、シャイニング、キング、ハイパー、ダキバ、ダグバ、コーカサスと脅威の最強率。三原くんなら傍観しただけで爆発するレベルかもしれません。
数年間ずっとダグバの手にあったブレイバックルも遂に別の人物のもとへと渡り、流石に今回死亡かなと思ったんですが、ぎりちょんセーフで変身手段があっての生存。この辺ほんと先が読めないですね。
でもまあ、コーカサスは、現状ハイパークロックアップできるわけでもないんで総合的には弱体化に成功したかなというところですかね。

戦闘面子は総司→翔一→翔太郎→渡と段階的にスポットが当てられた形でしたが、制限が為に順番にバトルから退場したり脇に行ったり。
110話の大戦や117話のtimeもそうでしたが、時間感覚のある戦闘ドラマが見どころです。
時間制限のある戦闘を流動的に描いて、様々なイベントをこなしつつ、今回なんかは「このキャラの話」って感じではなく全体の話になってるかなと。

今作のブレイドはファイトスタイルとかポーズの取り方とかどんな感じなんだろうとふと。
直情的でウェェェェイと叫びながらボカボカ殴ってたイメージの強い剣崎と比べると、ダグバはもうちょっと冷徹に構えて、翔太郎は案の定気取るのかなというイメージです。
それにしても原作の立ち振る舞いからはあんまり想像できないですね。
そういえば、翔太郎は初期にもジョーカーの名前とかその辺の因果で始に目を付けられてましたが、あの辺も踏まえるとわりと納得。

渡はかなしい。
ここから更にかなしい。


387 : 名無しさん :2018/03/27(火) 06:36:57 C7Cg9Yr60
投下乙です!
ダグバの圧倒的な力を前にしても、一歩も引かずに戦い続ける仮面ライダーたちの姿は本当に素敵でした!
そしてブレイドの力もついにグロンギの手から、翔太郎が取り返してくれたことが嬉しいです……ようやく、ブレイドが正義の仮面ライダーとして戦ってくれますし。
それにしても、ジョーカーである翔太郎がブレイドを手にして戦うのは何の運命でしょう。今後、始と再会するようなことがあればどうなるか。

渡もひたすら修羅の道を歩みますが、音也の仇がダグバであることを知って、結果的に仮面ライダーと肩を並べて戦うことになったのは救いでしょうか。
もう一度だけ名護さんと出会えましたが、やはり忘れられてしまう事実はとても苦しいでしょうね……せめて、彼の行く末に幸があらんことを。


388 : 名無しさん :2018/03/28(水) 03:32:39 mPhyXlvo0
イカレたメンバーを紹介するぜ!

◆.ji0E9MT9g氏
 新規書き手1号
 未完の平成ライダーロワをリブートさせ、デビュー作12分割、登場人物18人のパートを捌いた新規書き手
 詰まってたパートが動いた事で書き手も戻り月報上位へ
 5年以上止まっていた時計の針を進めた本ロワの最大功労者
 全作把握しているようでオールマイティに執筆をこなす有望さ
 本当に新人?どっかで書いてたんじゃない?と思わされる圧倒的新人

◆gry038wOvE氏
 新規書き手2号
 ここでは新規だが変身ロワを109話執筆して完結させたレジェンドエース
 まだ1話しか書いていないが今後はどんな話を書くのか?そもそもこの後も書くのだろうか?
 ここからトップになってもおかしくない速筆多作書き手
 でも変身の方も楽しみよ

◆cJ9Rh6ekv.氏
 出戻りの旧書き手1号
 かつて書いた話の過半数が分割話の大作という驚異の書き手
 復活からは今のところ分割話がないが、かつてと違い放送や繋ぎや少人数が多いので仕方がないか?
 復活後に精力的に書きに来ている旧書き手で今のところ唯一新作がある
 オーズロワの人の別酉ってマジ?色んな人固まりすぎじゃない?

◆MiRaiTlHUI氏
 出戻りの旧書き手2号
 渡の王としての覚醒も、擬態天道のカブトとしての変身も、すべてかつて彼が執筆したお話
 天才書き手Mとしてずっと私に行方を探されていた男
 そしてまさかの予約で平成ライダーロワ民の心をEXCITEさせた張本人
 まさか新作が見れるとは、楽しみ

◆LuuKRM2PEg氏
 出戻り旧書き手ブイスリャー
 かつてのトップ、今も酉付きで感想投下中
 ここ以外でも前作ライダーロワNEXT、パラレルロワ、なのはロワ、変身ロワ、オーズロワで見かける酉なので、どうやらライダー系ロワを渡り歩く古参の方のようだ
 ここで書き手として復活する事はあるのか否か?今のところ予約する素振りはないが果たして?


389 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:52:14 LPbfQTk20
皆様お待たせいたしました。
ただいまより投下を開始いたします。


390 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:53:17 LPbfQTk20


放送を前にして目覚めていたジョーカーアンデッド、相川始は、その足を川から返し先ほどまでいた病院に向けていた。
もちろん戦っていたE-4エリアは禁止エリアの関係で戻れないため、F-5を迂回する形になったが。
とはいえ、彼は戦いを終え病院で休む参加者たちとの合流、また再度の襲撃などを企てていたわけではなかった。

あの戦いでどれほどの参加者が生き残ったのか、そして病院はジョーカーの、自分の暴走によりどう変貌したのか、それを確かめたかったのだ。
そしてF-4を通過し、F-5に差し掛かり、見た。
先ほどまで巨大な白い巨塔が存在していた空間は闇が占め、その大半が大きく損壊しているのを。

「……」

別に、絶望したわけでも、予想外なわけでもなかった。
ジョーカーという姿に二度とならない、その覚悟を容易く覆すほどの衝撃を受け6枚のラウズカードでは到底抑えきれない衝動に、この身は全てを破壊する悪魔と化した。
それは抗いようもない事実であったし、同時にその実力を以てすればこの程度の破壊など容易であることは、我ながら既に知っていたからだ。

そしてその残骸と化した病院を目に焼き付けて、始は再び東へ向かう。
この先には市街地もあるし、誰か参加者がいる可能性も高かった。
そういった存在を殺すかどうか、また利用するかどうかは、会ってから決めればいい、とそう考えて。

二度とジョーカーにならない、その思いを新たに強く胸に抱いて。
彼は、空に出現したオーロラと、そこから吐き出されてきた数多の飛空艇の姿を見た。





「ウオォォォ!!!」
「クッ」

緑に赤の混じった異形と、金色の異形が戦っている。
その腕より生えた赤いかぎ爪を強引に振るい金色の異形にぶつける緑の異形に、金色の異形はその手に持った大剣で対応する。
その戦闘スタイルのみを見ればむしろ金色の異形の方がスマートでこそあるが、しかし今正義のためにその力を振るっているのは、緑の異形の方であった。

その左手に元々存在していた盾が壊されてもなお癖で左腕を使い緑の異形の一撃を受け止めようとして大きくその身を揺るがしたのは金色の異形に、緑の異形は追撃を仕掛ける。

「中々やるね、ギルス。それが噂に聞くエクシードギルスってやつ?それがあればガドルにブレイバックルを取られずに済んだかもね」
「黙れッ!」

挑発とともに軽く笑う金色の異形、コーカサスアンデッドに対し、怒声とともにその腕を振るうのは緑と赤の異形、仮面ライダーエクシードギルスだ。
放送よりまだ20分も経過していないというのに繰り広げられたこの戦いは、今や当初の戦力差を覆しギルスの優位に進んでいる。
元々パワー自慢同士の彼らの戦いで、手数、戦力ともに大きく強化された今のエクシードギルスに、その強力な盾、ソリッドシールドを失ったコーカサスでは分が悪いのだ。

この戦いで新たに目覚めた力に未だ理解を示し切れていないギルスであってもそうした単純な力関係は一目でわかるというのに、コーカサスは未だその余裕を崩しはしない。
それがどうにも気に食わなくて、ギルスはまた力任せにコーカサスの剣を押し切った。
ギルスの怒りの籠った連撃を受け、遂にそのオーバーオールの名を持つ剣を彼方に飛ばしたコーカサス。

夜の闇に軌道を描きアスファルトの地面に突き刺さったそれを横目で見やり、ギルスは再度勝利を確信する。
しかし、コーカサスはそれを見てなお笑い続けるだけで。

「……何がおかしい」

思わず、ギルスはそう問うていた。
この圧倒的不利の状況、コーカサスには既に護身の盾も、攻撃の剣も残されてはいない。
残る武器はその口と念力、あとは精々がアンデッド故の生命力くらいだろうが、残る変身制限時間を考えれば今の自分であれば十分封印可能な状態にまで持ち込めるはずだ。


391 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:53:34 LPbfQTk20

「いやぁ、本当、知らないってのは罪だよなぁ、ってね」

そう考えまたコーカサスに向かいかけたギルスの身体を、コーカサスが漏らした言葉が引き留めた。
ダグバがブレイドになってしまったこと、その為に多くの存在が犠牲になったこと……それ以上に自分が知らない罪が、存在するというのか。

「どういうことだ」
「あー、まぁ、教えてもいいかな別に。……あのね、この場でアンデッドがダメージを受けて封印されるのは、首輪が付けられてるからなんだよ。飛び入り参加の僕には、それはない。
——この意味、流石に君でもわかるよね」

思わず問いを投げたギルスに、コーカサスは自分の首周りを指さしながら説明する。
病院での戦いで金居がフィリップによる攻撃で封印されていたためにダメージを受ければアンデッドはそのままカードになると考えていたが、実はそうではないらしい。
とはいえ、剣崎や橘、彼らが多くのアンデッドを封印しその力を身につけてきたのは事実。

であれば何か彼らに戦闘不能になったアンデッドをカードにする能力があるのか、とそう考えて。

「ブレイドやギャレンでなければ……お前を封印できないというのか」
「そう、ビンゴ!つまりあんだけ啖呵切っといて、君じゃ僕を封印することなんて絶対にできない、ってわけ」

それを聞いて、僅かにギルスは狼狽する。
剣崎や木野を侮辱し、正義の仮面ライダーを否定しようとした、キング。
木野から受け継いだ力で彼を封印し大ショッカーの殺し合いを否定し誰かを守る……その言葉を証明する第一歩を歩みだせると思っていたのに。

今の自分では、そんなことは出来ないというのか、ブレイドを奪われた無力な自分では——。

「あと、もう一つね。多分そろそろかな?3・2・1……タイムアウト、ってね」

コーカサスが指折りしながらカウントダウンを進めるが、嫌な予感を感じギルスはそれを止めようと背中より新たに得た力によって赤い触手を伸ばし防ごうとする。
が、それは叶わない。
彼の身が、まだ3分ほどの時間変身できるはずだというのに、その身をただの人間、芦原涼のものへと戻したため。

「なッ……!?」
「アハハハハ!!最ッ高!その顔が見たかったんだよね、予想通り過ぎてマジで笑えるんだけど!」

ひたすらに今の自分の身を襲った現象に困惑し続ける涼に、コーカサスは耳障りな声で嗤い続ける。
それに困惑を通り越し涼が怒りの表情を浮かべたあたりで、コーカサスもまた笑い疲れたのか腹を抑えながらその顔を上げた。

「……お前が、俺に何かしたのか?」
「僕のせいにすんの?違う違う、君が強くなっちゃったからだよ、ギルス」
「俺が強く……?」

自身の変身を解いたのはコーカサスの仕業ではないかとそう睨んだ涼に、しかしコーカサスは「ホント何もわかってないなぁ」とぼやきながらその口を開く。

「これは知ってると思うけど、その首輪をつけてる限り、君たち参加者には“人間の身を超える力”を使うことに関して制限がかかってる。変な制限のかけ方だと思うけど、主催が神様だから仕方ないかもね」

例えば、アンデッドや、イマジン。
ジョーカーなど本来はヒューマンアンデッドへの変身に制限をかけるべきでその方が面白くなるのではないかとキングは思うのだが、テオスはそれを許さなかった。
イマジンという、完全な異形についてもそう。

その全力を出し切るのは他の参加者でいう真の姿を開放するのと同じく制限の対象とし、通常時は彼らの力を人間と同等のものにまで落とし込む制限をかけたのだ。
それも全て、主催がありのままの人間の姿を愛したため。
この制限がなければ人は彼の愛したありのままの姿でなくなることが多くなり、例え世界の存亡をかけ戦い続ける殺し合いであったとしても、それを彼は良しとはしなかったのだ。

だから、一部の参加者には一見不自然な制限がかけられている。
全ては、主催であるテオスの完全な独断で以て。


392 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:53:53 LPbfQTk20

「で、大事なのはここからね。君たちが本来想定されてるより強い力を使うと、その変身は残りの変身可能時間の半分を対価として可能になる。
最初っから強い力を使えるクウガやアギトたちと、ブレイドや特にディケイドなんかのアイテムを集めなきゃ変身できない奴らの差を縮める為に、ね」

ブレイドは彼のよく知るライダーだからともかく、なぜディケイド、門矢の名前を強調したのか涼にはわからないが、しかしコーカサスがここまで話してきた内容は薄々と理解してきていた。
そして同時に、コーカサスがここまで自分にこうした話をする、その本当の理由も。

「まぁつまり、君は奇跡の変身が出来た、なんてはしゃいでただろうけど、実は全然制限から抜け出せてなんかないってわけ。
その首輪が本来想定された通りに働いて君は今もう生身なんだから、それも証明されたのは一目瞭然だけどね。——さて」

そこまで言って、コーカサスは自身の念力で彼方に飛ばされ地に突き刺さっていた愛剣をその手に手繰り寄せる。

「……まぁ、ここまで言ったのが君への親切ってわけじゃないのは分かってるでしょ?ギルス。君は今ここでゲームオーバー。今説明してあげたのはほんの冥土の土産だよ。次があったら、もうちょっと賢く立ち回れるように、さ」

——まぁ、僕らアンデッドと違って君たち人間に次なんてないけど。
心中でそう付け足して、コーカサスはゆっくりと涼にその足を進める。
しかし、そうして迫る死の瞬間を安らかに享受するほど、芦原涼という人間は出来ていない。

「ああぁぁぁぁ!」

悔しさと怒りを込めた裸の拳でなおコーカサスの鎧のように固い甲殻にぶつかれば、しかし盾も消えたというのにその身はびくとも動かない。

「あー、もうそういうのいいから」

代わりとばかりに剣を持たない左手でコーカサスが腕を振るえば、その体は強くコンクリートの壁にぶつかって、彼の呼吸を不確かなものにした。
——このままでは、死ぬ。
冷静にそう判断している理性と裏腹に、本能が生きろと吠える。

冷静な自分の声と共に生まれた恐怖をどうにかかき消して、涼は何か対抗の手段を模索する。
ホッパーゼクターを使って目くらましをし、その隙に逃げる。
……駄目だ、この身体ではゼクターが稼いでくれる時間程度では逃げ切れないだろう。

では、このまま生身で彼にぶつかり続ける。
……無理だ、今の一回でもうここまで身体が悲鳴を上げているのに、コーカサスへの対抗策を考え付くかキックホッパーへの変身が可能になるまでそれを続けるなど、とてもではないが体力が持たない。
では、諦めるか?

——論外だ。
剣崎を侮辱した相手が、目の前にいる。
ここで自分が死んでしまっては、この男の言う通り正義の仮面ライダーなど世迷い事に過ぎないと証明することになる。

それだけは、絶対に嫌だった。

「アハハ、立つんだ。逃げてみなよ、助けを呼んでみなよ。それに疲れて足を止めたら、君を殺してあげるからさ」

その思いと共に立ち上がった涼を、しかしコーカサスは笑う。
だがそんな安い言葉にのって、彼の言う通り逃げることも彼にとっては我慢ならなかった。

「いや……俺はお前からは絶対に逃げない」
「えー、諦めちゃったの?つまんないなぁ、君が必死こいて逃げる姿大ショッカーの皆に見てもらおうと思ったのに」
「違う、俺は諦めたんじゃない。ただお前には二度と背中を見せない、それだけだ!」

涼は、そこまで言い切ってまたその血まみれの拳を握った。
力を込めギリギリとその拳に力が漲る度溢れ出す鮮血を、そしてそれに付随する痛みを、彼はしかし気にも留めず。
ただ、その獣のような瞳でコーカサスの軽薄な笑顔を貫くように見据えていた。


393 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:54:09 LPbfQTk20

「……何なの?それもブレイドの影響?あのさぁ、このゲームのルールわかってる?生きなきゃ意味ないんだよ。
誰かに殺されるにしても誰かを殺すにしても、生きてなきゃゲームを面白くできないじゃん」
「俺にはこんな殺し合いを面白くするつもりなんて皆目ない、それにさっきも言ったはずだ。俺は別に、生きるのを諦めたわけじゃないってな」
「じゃあ何?逃げるわけでもなく変身して戦えるわけでもなく、この僕を相手に何が出来るっていうのさ」

いい加減にこの問答にも飽きてきた、とキングが思う中、しかしそれを聞いて涼は今まで強く握りしめていた拳を解き放って。

「——誰か、お前を倒せる奴が来るまでの、時間稼ぎだ!」
「何を……」
「——トゥアッ!」

不意に、後方から衝撃を感じて、キングは思わず振り返った。
決して軽くない一撃、そしてこの声、自分には聞き覚えがあった。
そう、今彼を攻撃し偶然にも涼の運命を変えた、その男とは。

「ジョーカー……!」
「久しぶりだな、キング……!」

忌むべき53体目のアンデッド、最強の殺し屋、ジョーカー。
それがハートのカテゴリーエース、カリスへとその姿を変えた存在であった。




時間は十数分前に遡る。
放送を聞き終え、始の胸に浮かんだのは虚無だった。
それは、自分が認めた仮面ライダー、ヒビキが死んだことを知ったから。

本名こそ知らなかったが、しかしそれを確信づけることが、放送で述べられていたからだ。

「響鬼の世界は崩壊を確定した……か」

それは、彼が名乗った名前と同じ世界が崩壊するということを、放送が伝えていたため。
自分の世界が恐らくブレイドの世界という名前であることを考えると、彼がいた世界もまた響鬼の世界であったとみて間違いないだろう。
自分が剣崎のような正義の仮面ライダーとしての資質を見出しその実力を見極めようとした、響鬼。

そんな彼が死んだだけでなく、その生まれ育ち守ろうとした世界まで破壊されてしまうという事実に、胸が痛んだ。

「だが、奴を殺したのはジョーカー、いや俺なんだろうな」

しかし、そんなことを自分に思う資格はないと考え直す。
ジョーカーとして理性を失い暴れたのであれば、あの自分にとってその時目の前にいた響鬼は格好のターゲット。
カリスとなった自分と同等の存在であるとはいえその程度ではあの悪魔を、自分を止めることなど叶わぬ夢でしかない。

だから、自分に彼を弔う資格も、それに物思う資格も時間もない。
せめて世界のために正義に生きた一人の仮面ライダーの名前を、自分だけでも覚えておこう。
それくらいしか、響鬼の死に対して今の自分に許される行為は存在しないのだから。

「……」

そのまま、始は再度病院を超え市街地に入ろうとして、目撃する。
ほんの一瞬、夜の闇に消え見えづらい中で一瞬だけ輝いた、先ほど放送の際現れたのと同じオーロラを。
市街地に意識を向け、また常人を逸する視力と感覚を持ち合わせている始だからこそ認識出来たそれに向け自然と足を速めるうち、感じる。

ジョーカーとしての本能によって察知出来る、アンデッドの気配を。

「何故だ、カテゴリーキング、金居は封印されたはず。それにこの気配、まさか……」


394 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:54:30 LPbfQTk20

幾重にも重なった不安の波に押し流されそうになりながら、しかし彼はそれすらも無視して走り出した。
もしも自分の感覚を信じるなら、この先にいるのは最悪の敵。
しかし同時に、自分にとって最も封印しなくてはならない相手でもあるのだから。

——そうして、数分間走り、どんどんとその気配が近づく中で、ようやく見つける。
その拳を血で染めながらなお戦意を失わない男に対峙する、黄金の異形を。
その姿に、驚きとそして或いは戦うことも叶わないかもしれないと感じていた敵に相まみえた事実への歓喜にも似た感情を抱いて、彼は呟いた。

「変身」

——CHANGE

彼の腰に生じた赤いハート型のバックルにハートのエースを通せば、その身は一瞬で黒く染まる。
アンデッド最強の戦闘力を持つというカテゴリーエース、カリスの姿に、今始は変じていた。

「——トゥア!」

そして、そのまま切りかかる。
心に生まれた苛立ちすら、彼にぶつけるように。
背後からの攻撃に流石に反応しきれなかったか、得意の盾すら生じぬままにその身から火花を散らしふらついた黄金の異形、コーカサスアンデッドに、始は憎しみを隠そうともせず立ちはだかる。

「ジョーカー……!」
「久しぶりだな、キング……!」

憎々しげに忌むべきその名を呼んだキングに、カリスもまた憎しみと共に告げる。
コーカサスが強引に振るった大剣をカリスラウザーでいなし、返す刃でその胸を切り裂いた。
苦痛と共に緑の血をまき散らした彼に油断なく間合いを詰めれば、そのまま手刀で彼の体を切り付ける。

一体なぜここまで自分の優位に進むのか、そう思いよく見れば、その左手に盾はない。
であればもう彼の戦力は他の上級アンデッドと変わらないレベル、カリスの力を以てすればパワー勝負に強引に持ち込まれなければ勝利も夢ではなかった。
しかしそんなカリスを前に、キングは未だヘラヘラと笑いながら口を開く。

「ホント、会いたかったよジョーカー。君には伝えたいことが山ほどあるんだ」
「俺にはそんなことを聞く理由はない」
「そう冷たいこと言わないでよ。例えばそうだなぁ、手始めに僕がこの場にいる理由なんか教えてあげようか?」
「必要ない」

スピード勝負で一進一退、ヒットアンドアウェイを心掛け堅実な攻撃を繰り返すカリスに、コーカサスは近寄らせまいとその大剣を振り回しつつ口を開き続ける。

「あっそ。じゃあ……ブレイドを殺した犯人と、今どこにブレイバックルがあるかでも教えてあげようか」
「……何?」
「アハハ、ようやく耳を貸してくれた。そうだよね、今の君にとってブレイドは大事な大事なお友達の形見だもんね」

ブレイド、という言葉に思わずその手を止めたカリスに、キングは嘲笑を含みつつしかし油断なく構えたまま顔を上げる。

「……ブレイドを殺したのは、天道総司、仮面ライダーカブト——に擬態してるワームくんだよ。本名教えてもいいけどまぁそいつは天道総司って名乗るだろうし、そっちだけで十分でしょ」
「それを俺に教えて、何がしたい」
「別に?分かってるでしょ。僕はゲームが面白くなればそれでいいの。誰が勝とうが負けようが、さ。
あ、あとそれを今持ってるのはダグバっていう怪人ね。そいつがキングフォームになって暴れたせいで二人も死んで、ブレイドは無事人殺しの道具になったってわけ」

これには流石に動揺を隠しきれなかったカリスを見て、コーカサスはなおも笑う。
そして、彼は今度はいやらしく顔だけを振り返りながら、涼をその視界に収める。

「で、何でブレイドがそんな奴の手にあるかっていうと、あそこにいるあいつ、ギルスのせいなわけ。あいつが弱くて負けたから、ブレイドが奪われて、巡り巡ってお前がジョーカーになる理由にもなったってわけさ」
「何故、それを……」
「やだなぁ、わかってるだろジョーカー。僕は大ショッカー幹部。これまでの君たちの戦いをずっと見てきたんだから、君があの姿になってめちゃくちゃにしたのだって見てたに決まってるじゃん」


395 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:54:46 LPbfQTk20

そこまで言って、コーカサスは笑う。
今思い出しても笑えてくるといわんばかりに笑って、それから何かに気づいたように不意にそれを切り上げた。

「あ、そういえばさ、ダブルの片割れ、君が『ジョーカーの男』なんて気取った呼び方してた彼だけど、君の正体知っちゃったよ。ホースを殺して自分を騙してたのが他でもない君だってことにも、ね」
「そうか」
「……それだけ?ショックでしょ?だって何だかんだで彼の横で一緒に仮面ライダーとして戦えたらいいのに、なんて考えてたのに、君」
「お前に俺の何がわかる」
「わかるよ、だって……」

そうして、顔が見えなくてもすぐにわかるほどにその口角を吊り上げて続ける。

「……ちょっとブレイドに似てるもんね、彼」

それを聞いた瞬間、カリスはこれ以上の会話は不要とばかりにコーカサスに襲い掛かった。
先ほどまでの勢いを大きく上回るような速さでもって、コーカサスの口を閉ざすため猛攻撃を仕掛けていく。
明らかに激化し、その大剣だけでは凌ぎ切れていない攻撃の嵐を受けながら、しかしコーカサスは声高らかに笑いを上げて。

「アハハ!そうそうそれそれ!それが見たかったんだよね、ジョーカー。もっと怒って僕を倒して見せてよ!」
「言われるまでもない……!」

これ以上の問答は不要とばかりにコーカサスが振るった大剣をその身をねじらせ躱して、カリスは腰のカードバックルよりカードをつかみ取る。

——TORNADO

瞬間ラウザーに満ちた風のエネルギー。
それを一気にコーカサスに向け放てば、それは同時に彼が放った斬撃のエネルギー波とぶつかり衝撃を生んだ。
互いに半歩ずつ引く中、カリスはその身軽さ故、鈍重なコーカサスよりも早くその足を動かしコーカサスに肉薄する。

「キング、お前を封印し、俺の力となってもらうぞ」
「無理だと思うなぁ、だってさ——!」

半ば勝利を確信しキングに告げたカリスに対し、しかしキングはその刃を甲殻で受け切り火花の代わりにカリスアローをガッチリと握りしめる。
それにカリスが思わず身を引くより早く、彼は右手の大剣を振り下ろしカリスの身を切り下した。
それと同時カリスがうめき声をあげ後退する中、コーカサスはカリスアローを投げ放ちつつつまらなさそうに笑い。

「だって、まだ僕は本気出してないし。それに、こんなところで終わる気もないしね」

思わず膝をついたカリスに最早見向きもせず、彼は変身を解きそのポケットに手を伸ばす。
それを隙と感じたかカリスは素手で飛び掛かるが、しかしそれを再び怪人へと変じた彼の剣が叩き落していた。

「だから、僕には制限とか関係ないから。まぁでも、このまま痛めつけてジョーカーと戦う羽目になるのもあんま面白くないし、今回はこんなもんでいいや」

——ZONE

そう吐き捨て再度人間の身に擬態した彼は、今度こそポケットより持ってきた支給品漏れの一つ、T2ゾーンメモリを起動する。
首輪に備え付けられたコネクタなしでも使用できるT2をその掌に突き刺せば、彼の身は一瞬で質量を無視し不思議な三角錐へと変貌を遂げた。

「バイバイ、ジョーカー、ギルス」


396 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:55:02 LPbfQTk20

ゾーン・ドーパントの名を持つ怪人に変じた彼は、未だ膝をつくカリスと、物陰に隠れる涼にそれぞれ一発ずつ目から光線を放ち一言の別れと共にその姿をかき消した。

アスファルトを焼き舞い上がった煙が立ち消える中、敵を見失いかつ変身制限が迫りつつあるのを察したカリスは、その手にハートの2のカードを掴み、バックルへと通す。

——SPIRIT

音声と共にその身をヒューマンアンデッド、相川始のものへと戻しつつ、始はその足を翻す。
もうここには用はない、そう言いたげな彼であったが、しかしその視線の先に、立つ塞がる男の存在を認めた。

「——待ってくれ」

先ほどまで隠れていた男、キングの言葉を信じれば、ギルスと呼ばれていたか。
あのキングと戦っていたということは恐らく殺し合いには乗っていないのだろう彼を、今の始が別段相手にする必要もない、故にその言葉を無視し通り過ぎようとするが、強引にその腕を引き留められる。

「責めないのか、俺の弱さのせいで、ブレイドを悪に奪われたのに」

その言葉を受け改めて男の顔を見上げれば、その顔は辛そうな表情を浮かべている。
今にも泣きだしそう、とまでいかないが、しかし度重なるショックで相当精神的に参っている様子が見受けられた。
むしろ、自分を責めてほしい、そう言いたげですらあるその顔を見て、しかし始はただその腕を振り払う。

「……今の俺に、お前を責める資格はない」

それだけ言い残し再び足を進める。
そう、友の思いを裏切り、別の世界の人間を犠牲にする覚悟で愛する誰かだけでも守ろうとした今の自分に、結果として悪の手にその力が渡ったとしても友の思いを継ぎ戦った目の前の男を責める資格など、あるわけがなかった。
始の言葉を受け、思わず俯いた男を尻目にそのまま足を進めどこへともなく消えようとするが、再びその足を止めさせたのは、やはりその男であった。

「……なら!それなら、せめて教えてくれないか。お前と、剣崎の関係について」
「何?」

どうしても自分をこのまま行かせたくないらしい男の言葉に、また始も足を止める。
それを受けこれがラストチャンスと捉えたか、男もまた必死の形相で始の前に立ち塞がった。

「橘から聞いた、お前と剣崎は、種族の差など超えた友だったと。だから、俺も知りたいんだ。剣崎が信じた友であるお前のことを、もっと詳しく」
「馬鹿馬鹿しい。それを教えることで、俺に一体何の利点がある」
「それは……」

剣崎と自分の関係について軽々しく知りたいなどと述べた男の言葉に僅かな苛立ちを抱いて拒絶を示した始に、今度こそ男は俯き黙りこくる。
その様子を見て今度こそ話は終わりか、と始は再度足を進めようとして。

「——世界の破壊者、ディケイド」

男が述べたその名前に、驚愕と共に振り返った。
その始の顔を見て思った通りか、とでも言いたげな表情を浮かべた男は、その足を再び始の前に動かして。

「やっぱり、病院にお前がいたのは、偶然じゃなかったんだな。金居と組んでディケイドを、門矢を倒そうとしてたんだろう?なぁ、お前と戦っていた響鬼はどうなったんだ、まさかお前が——!」

そこまで聞いて、男はそうじゃないと首を振る。
とはいえ、それを後々深く尋ねられても始はヒビキがどうなったかなど知りもしないのだが。

「——すまない。ともかく、俺はお前たちが破壊しようとしたディケイド、門矢士という男と一緒に戦ったし、ブレイドも奴からもらい受けたものだ」
「ブレイドを……ディケイドが?」
「あぁ、さっきキングが言っていた天道総司に擬態したワームとの戦いで剣崎が死ぬとき、門矢も一緒に戦ったんだと、そう聞いている」


397 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:55:18 LPbfQTk20

そこまで聞いて、始は少なくともこの男と情報を交換するのは無駄ではないと判断する。
剣崎の死の様子は既に音也から聞いて知っていたが、元々適当な彼の言葉だ、状況は判断できるもののその程度で細かい情報や固有名詞は殆ど存在しない会話だった為、今改めてこの男から詳しくそれを聞くのは、決して無益な時間の使い方ではなかった。
同時に、ディケイドと共に戦いその人となりを少なからず知っているだろうこの男を通じその話を聞けば、あるいはディケイドという存在を破壊するにせよ仮面ライダーとして信じるにせよ重要な参考材料になるはずだ。

そこまで考えて、始は一つ息を吐いた。

「……いいだろう。お前に俺と剣崎について教えてやる。だが、お前からディケイドについて詳しい話を聞いた後だ。その上でどこまで話すかは俺が判断する」
「あぁ、構わない」

始の言葉に、思わず笑みを零し喜ぶ男。
その姿にブレイドの力を用いて伝聞で彼の話を聞いただけであるはずのこの男がどれほど剣崎に尊敬の念を抱いているのかと始は思う。
そしてそんな存在と友でいられた自分と、その思いを裏切り殺し合いに乗ったことを再び胸に戒めて、始はふとあることをまだ聞いていなかったと気付いた。

「そういえば、お前の名前はなんだ?」
「俺は、芦原涼。好きに呼んでくれ。お前のことは——」
「相川始だ」
「——わかった、相川。病院に向かいながらでも……」
「俺は病院には向かえない、当然のことだがな。もしそれでもお前が病院に向かいたいなら……」
「いや、構わない。だが時間が惜しい、そこの家にでも入ろう」

男、芦原の言葉に頷いて、始は足を進める。
その瞳には自身と同じく破壊者として忌み嫌われる存在に人間性を見出せるのではないかと微かな希望が輝いている。
しかし、彼は知らない。

これからあと1時間半の後、異世界の王と自分がジョーカーの男と呼んだ男が、再びキングフォームの鎧にその身を包むことを。
この束の間の休息が、そう長くは続かないということを、彼らはまだ知らなかった。


【二日目 深夜】
【F-7 民家】

【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(中)、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、仮面ライダーカリスに1時間55分変身不可
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1、
【思考・状況】
(気絶中)
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
0:今は芦原とディケイドの情報、自分と剣崎の関係についての情報を交換する。
1:この殺し合いに乗るかどうかの見極めは……。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄叫びで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※キバの世界の参加者について詳細な情報を得ました。
※剣崎と自分の関係についてどれほどのことを話すかは、涼の話を聞いてから判断するつもりです。
※ジョーカーの男、左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。


398 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:55:33 LPbfQTk20




【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(大)、亜樹子の死への悲しみ、仲間を得た喜び、響鬼の世界への罪悪感、仮面ライダーエクシードギルスに1時間45分変身不能、仮面ライダーキックホッパーに50分変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:今は相川と情報を交換する。
2:人を護る。
3:門矢を信じる。
4:第零号から絶対にブレイバックルを取り返す。
5:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
6:大ショッカーはやはり信用できない。だが首領は神で、アンノウンとも繋がっている……?
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。
※支給品のラジカセ@現実とジミー中田のCD@仮面ライダーWはタブーの攻撃の余波で破壊されました。
※ホッパーゼクター(キックホッパー)に認められました。
※奪われたブレイバックルがダグバの手にあること、そのせいで何人もの参加者が傷つき、殺められたことを知りました。
※木野薫の遺体からアギトの力を受け継ぎ、エクシードギルスに覚醒しました。
※始がヒビキを殺したのでは、と疑ってもいますが、今は信じ話を聞くつもりです。





「よっと。うんうん、予想通りの場所に到着ってね」

その身を三角錐の怪人から人のものへと戻しながら、青年、キングは呟く。
しかし、その姿を見たものは誰もいない。
なぜならここに参加者が立ち入ることは、もはや不可能なのだから。

「ホント、今の僕にとっては禁止エリアはただの休憩地だよね。盾も壊れちゃったし、ちょっと休憩タイム、ってことで」

誰も聞いていないというのにそう呟きながら、彼は次に体から排出されてきたT2ゾーンのメモリを見つめる。
幹部特権としてこの会場どこでも思った場所にワープ出来る能力を持ったゾーンメモリ。
その強力な能力と引き換えに、参加者に渡った際の保険としてエターナルのマキシマムなどを含め二時間に一回しか能力を行使できない制限こそかけられているものの、それでも十分強力な装備だった。

「僕がこのゲームで負けることなんてないんだから、そんな心配することないのにさ。……まぁ、いいけど」

メモリを懐に戻しつつ、キングはぼやく。
この程度の縛りであれば、面白いゲームを更に楽しむ為のものだと割り切りもつくというものだ。
そうして治るかはわからないが盾の復活と、一応ゾーンの能力が蘇るまでその場で休もうか、と横になろうとして。

「あっ、忘れるとこだった。首輪なしの支給品に見つかって誰かに僕の存在がバレたら面白くないしね。身を隠しとかなきゃ」

そう言って懐から取り出すのは、参加者に渡らなかった最後のカードデッキ、ベルデのもの。
緑に染められたそのデッキを周りの適当な反射物に移し、現れたVバックルに叩き込む。


399 : 全て、抱えたまま走るだけ ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:55:48 LPbfQTk20

「変身」

瞬間その身にオーバーラップした数多の影が線を結び、やがてそれは実像となりキングの身を覆う鎧となった。
仮面ライダーベルデ、力は本来の姿に遠く及ばないそれをキングが持ち込んだのは、しかし理由があった。

——CLEAR VENT

バイザーにカードを読み込ませると、彼の身体は光を反射し透き通る。
つまり有体に言えば、透明人間になったのだ。
これで確実に誰にもバレることはないだろう、とようやくキングはその身を横にしそのまま目を瞑ろうとして、一つ思い出す。

「あ、カッシスのこと放ってきちゃったな。まぁいいか。どうせ死神博士の取り越し苦労だし、そうじゃなくても僕が相手する必要もないでしょ」

それは、自分がこの場に来た理由の一つ、カッシスワームの復活について。
しかしそれも最早どうでもいいことだ。
あんなものただの口実だったし、もし万が一そうなったとして一応対処出来るだけの準備もしてきたが、だからといって復活するかもわからない奴にずっと張り付いているのも性に合わない。

今はこの最高のデスゲームを楽しんで、後々カッシスが本当に復活して自分と会うことがあれば、相手してやればいい。

「ごめんね、死神博士。でもちゃんと仕事してほしかったなら、僕じゃなくてグリラスに頼めば何日でもそこで突っ立ってただろうに」

これを聞いていたら眼鏡を叩きつけ怒り狂っているだろう三島の姿を思い、キングは再度笑って。
次は誰にちょっかいをだしたら面白いか、ぼんやりと考えていた。


【二日目 深夜】
【???(禁止エリア)】


【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、仮面ライダーベルデに変身中、クリアーベント使用中
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣
【道具】ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、カッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:今は休憩しながら今後ちょっかい出す奴を選ぶ。
1:ゾーンの力が戻るか、近くで何か面白いことがあったらまた遊びに行く。
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※ソリッドシールドが破壊されました。再生できるかは後続の書き手さんにお任せします。
※今は禁止エリアのどこかにいます。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。


400 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/29(木) 12:56:57 LPbfQTk20
以上で投下終了です。
ご意見ご感想ご指摘などありましたら是非お願いいたします。
感想をいただけますと喜びますので出来ましたらお願い申し上げます。


401 : 名無しさん :2018/03/29(木) 20:31:36 H7vIPSdw0
投下乙です!
エクシードギルスはコーカサスを相手に優位で戦っていましたが、やはり制限の壁はどうにもならないことが辛いです……
だけど、始が駆け付けたおかげで助かってくれて安心です! 始が剣崎に似てきているとキングは嘲笑いますが、それが事実だからこそ葦原さんは助かったのですね
始はついに剣崎の仇についても知りましたが、果たして総司と出会ったらどうなるのか……? あと、キングフォームの影響もあるので、また暴走するリスクが近づいているのが怖いです。


402 : 名無しさん :2018/03/30(金) 00:39:51 ZRkhprnM0
投下乙です。

ここで涼が死にかけたものの、情報不足をちゃっかり補う事が出来、グループたちに遅れていた点を少々補完できましたね。
なんというかアポロガイスト同様にべらべら喋ってくれているのを見るに、大ショッカーってそういう奴らの集いでは?
社内機密を平然と外部に漏らしてしまう、自称幹部たちの帰属意識やモラルの低さに絶句です。
しかも仕事を放って自分で勝手に移動する始末。キングくんの社会適性が疑われます。
死神博士の采配も問題だったんでしょうが……。

それから涼と始というクール&ワイルドライダーコンビ、剣崎という繋がりの他、色々と孤独な戦士としてリンクする部分も多いはず。
後に繋ぐ人にとっても非常に書きやすそう(書いて面白そう)なパスでした。


403 : 名無しさん :2018/03/30(金) 01:30:29 ZRkhprnM0
しえん


404 : ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:42:13 9oSr2oo.0
投下乙です!
キングの遊び心がすごい。けどメタ的には今後面白くなりそうな要素を仕込みまくってくれてるのでこれはこれで好きです。
ゾーンメモリってのもゲーム感覚で遊んで回りたいキングにはぴったり。ロワのポジション的には自分自身が忌み嫌うジョーカーになっちゃったていうのは、キングの性格考えるとそれも皮肉が効いてて楽しみそうだなあ。
葦原さんは相変わらずストイックでかっこいい。エクシードギルスとしては決めきれなかったけど、最初だから仕方ない。
葦原さんや翔太郎との関わりで、始さんも変わっていくのか……?続きが楽しみになるよき引きでした。


ところで……
予約はしていませんが、現在空いているようですので、ゲリラ投下を行わせて頂きます。


405 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:44:20 9oSr2oo.0
 赤と白、二人の仮面ライダーが、だだっ広い焦土の真ん中で剣をぶつけ合っている。激しい戦闘の余波によるものか、二人の仮面ライダーを取り巻く環境には、人工物と呼べるものはほとんど存在していない。月と星の灯りと、あちらこちらで僅かに残った瓦礫の隙間から覗く炎が、一帯を淡く照らすのみだった。
 麗奈は耳を聾する剣戟音に表情を顰め、両耳を塞いでしゃがみ込んだ。甲高い金属音が響くたび、己の内から沸き起こる耳障りなノイズが活性化して、音量を上げてゆく。耳の奥から脳を揺さぶるような頭痛に苛まれて、麗奈は小さく、唸るような悲鳴を漏らし、かぶりを振った。

「――麗奈、麗奈! 大丈夫、麗奈……!?」

 肩にリュウタロスの手が乗せられる。麗奈には愛想笑いを浮かべる余裕もなかった。額に纏わり付いた脂汗を拭う余裕もなく、苦痛に眉根を寄せたままリュウタロスに一瞥する。ほんの少しだけ意識が戦いから逸れた。己の内側から響く金属音が、僅かに小さくなった。

「きっと大丈夫だから、心配しないで。麗奈にはボクらがついてるから」

 麗奈は目線だけでなく、顔を緩くあげて、浅倉威が変じたファムと戦う龍騎を見やった。城戸真司もまた、麗奈を守るために戦ってくれている。それを思うと少しだけ勇気が湧いてくる気がしたが、同時に、それを壊してしまいかねない存在が自分の中に潜んでいることに、麗奈は言い知れぬ恐怖を感じた。

「今は信じよう、城戸さんが勝ってくれることを」

 三原は麗奈よりも人ひとり分ほど後方で、龍騎の戦いを見守っていた。腰には既にデルタのベルトが巻かれている。けれども、三原の表情にも、決して小さくはない不安が見て取れた。必要ならば戦うが、できることなら戦いたくはない、というような心持ちであろうことは麗奈にもわかった。
 戦闘自体は、互角の膠着状態が続いている。ファムが力任せに叩き付ける両刃の薙刀による連撃を、龍騎が手にした青龍刀で防ぎ、隙を見て反撃に打って出るが、ファムも上手く回避するので決定打を与えられない。けれども、攻撃の苛烈さという点では、ファムの方が幾らか優勢に見えた。
 激しい攻防の末に、龍騎が青龍刀を取り落とした。龍騎の鎧を蹴り飛ばしたファムが、薙刀を投げ捨て、龍騎の青龍刀を拾い上げる。軽く両手を天を仰ぐように振りかぶり、嘲るようにくるりと一回転したファムは、今度は青龍刀を力いっぱい龍騎に振り下ろした。

「――っ!」

 龍騎の鎧から血飛沫のように火花が舞い散り、その赤い体が地面に叩き伏せられる様を見せつけられて、麗奈は思わず両手で己の口元を覆った。倒れ伏した龍騎が起き上がるよりも早く、ファムがその胴体に蹴りを入れた。

「真司!」

 リュウタロスが叫んだ。もう見てはいられないとばかりに、デイバッグからデンオウベルトを取り出す。その時、辺り一帯に龍の咆哮が響き渡った。リュウタロスは変身の手を止めた。麗奈は、戦場となった荒れ地に放置された過敏から、その質量を大きく上回る赤き龍が飛び出すのを見た。
 ファムに蹴り飛ばされながらも、龍騎は一枚のカードをベントしていたのだ。赤い龍がファムを牽制し、その隙に龍騎が立ち上がる。龍騎の右腕には、龍の頭を模した手甲が装着されていた。さしものファムも一瞬動きを止めた。
 ドラグレッダーが龍騎の周囲を取り巻くと、龍騎は腰を低く落とし、右腕を勢いよく突き出した。ドラグクローから放出された炎弾が、ファム目掛けて奔る。ファムは横っ跳びに転がって回避するや、青龍刀を投げ捨て、一枚のカードをベントした。


406 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:45:43 9oSr2oo.0
 
 ――ADVENT――

 彼方から飛来した白鳥が、月明かりを受けてその身を煌めかせる。ファムの使役するモンスターの出現に呼応するように、龍騎の背後に控えていたドラグレッダーは白鳥へと向かって飛び出していった。

「はははははははッ、まだまだ戦いはこれからだ! もっと楽しませろ!」
「浅倉……、やっぱり、お前だけはッ」

 心の底から現状を楽しんでいるような笑いを響かせるファムに、龍騎は右腕の手甲を装着したまま殴りかかった。上空で、ブランウィングとドラグレッダーが幾度となく交差しては、その翼と、尻尾の刀を打ち合わせて夜空に火花を咲かせている。
 ファムの右手が龍騎の手甲をいなし、逆に左の拳をその顔面に叩き込んだ。よろめく龍騎を挑発するように、ファムは両手を緩く広げて空を仰いだかと思えば、今度は右の拳で殴り付けた。動きの止まった龍騎の胴に膝蹴りを叩き込んだファムは、腹の痛みに堪らず前のめりになった龍騎の背中に拳を打ち下ろした。

「う、この……ッ」

 倒れ込んだ龍騎に追撃を仕掛けようと脚を振り上げたファムに対し、龍騎は横に転がって仰向けの姿勢になった。乱雑に脚を蹴り上げて、ファムの脚を蹴り返す。一瞬よろめいたファムの胴を、今度は龍騎が仰臥した姿勢のまま膝をたわめ、勢い付けて蹴り飛ばした。

「あ、さ、く、らぁぁぁあああ!」

 よろめく体を起こした龍騎は、落ちていた青龍刀を拾い上げ、両腕で構えると腰を落とした姿勢のまま駆け出す。徒手空拳となったファムに斬りかかると、その白の装甲に刀を叩き付ける。一撃目は甘んじて胸部の鎧で受けたファムだったが、二撃目はそうはいかない。真っ直ぐ剣を叩き付けるだけの龍騎の剣筋を読むことは容易かったのだろう、裏拳で剣の軌道を反らせたファムは、逆に前蹴りで龍騎を蹴り飛ばして距離を取った。
 ちょうどその時、上空で激しく争っていた白鳥が、その胸部に炎弾を受け止めながら急降下してきた。龍騎とファム、両者の間にブランウィングが割って入った形だ。上空での戦いは、ドラグレッダーが優勢だった。龍騎はベルトから一枚のカードを引き抜いた。

 ――FINAL VENT――

「はぁぁぁぁぁああああああああ……!」

 腰を低く落とし、構えを取った龍騎の周囲をドラグレッダーが取り巻いて、咆哮を響かせる。夜空へ向かって飛翔する相棒と共に、地を蹴り高く高く跳び上がった龍騎は、上空でくるりと身を翻すと、右足を下方へ向けて突き出した。数多のモンスターを確実に葬り続けてきた、現状の龍騎が持てる最高の手札を、ここで切ったのだ。

「だぁぁあああああああああああッ!!」

 ドラグレッダーの吐き出す超高熱の火炎をその身に纏い、己自身を燃え盛る砲弾とした龍騎は、裂帛の叫びとともに急降下した。
 一瞬と待たず、龍騎の蹴りがブランウィングの胴に突き刺さった。今や触れるものすべてを打ち砕く炎弾となった龍騎は、標的となった白鳥の巨躯を地面に叩き付け、その全身に亀裂を生じさせた。けれども、必殺のドラゴンライダーキックの勢いはその程度では済まない。ブランウィングの巨躯をアスファルトへと沈み込ませて、そのまま蹴りの威力だけで数十メートル後方まで吹き飛ばす。崩れゆく白の体から爆炎を吹き上げて、断末魔を漏らす間もなく、かつての美穂の相棒は粉々に爆散した。


407 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:47:13 9oSr2oo.0
 
「っしゃ!」

 勝利を確信した龍騎は、着地すると同時に後方へと振り返る。これでもう、美穂の形見となったファムを浅倉が人殺しに使うことはないだろう。間接的にではあるが、美穂の無念を晴らした心地だった。
 鎧から色を失ったファムは、己のベルトからデッキを引き抜き、興味を失ったように放り投げた。ライダーの鎧が霧散してなお、浅倉は口角を釣り上げていた。予想していた通りとはいえ、その、人としてのあらゆる良識が破綻したような笑みは、真司にしてみれば不快でしかない。

「くく……はははははっ、やっぱりお前は面白い。イライラが少しはマシになる」
「ふざけるなッ、俺も、ここにいるみんなも、お前の遊び相手なんかじゃない! みんな生きるために必死に戦ってんだぞ!」
「だったら問題はないだろ? 俺とも戦え……必死にな」
「お前……っ」

 真司は、いつか蓮が言った、浅倉威はモンスターだという言葉を思い出した。たとえ体が人間でも、浅倉威の心は、既に人間のそれではない。この男に、まともな会話など成立しうるわけがないことを、真司は改めて痛感した。
 低く響く笑声を含んだ吐息を吐き出しながら、浅倉は右腕に装着されたブレスレットを軽く掲げた。彼方から銀色の影が飛来する。浅倉の意思に応えるように、自らブレスレットの台座へと収まったそれは、真司には銀色のカブトムシのように見えた。

「お前、それ」
「続けようぜ? 戦いを」

 ――HEN-SHIN――

 右腕のカブトムシから銀色の六角形が精製、展開され、それは瞬く間に浅倉の体を包み込んだ。月明かりを淡く反射する銀の装甲が上体を完全に覆った時、真紅の複眼が煌々と煌めいた。

 ――CHANGE BEETLE――

 鳴り響く電子音すらも煩わしそうに、銀の装甲に身を包んだ浅倉が肺に溜まった空気を吐き出し、首を捻る。どこからか取り出した斧を緩く掲げたヘラクスは、仮面の下から笑い声を零すと、やにわに駆け出した。
 龍騎もまた青龍刀を構え直し、迎撃の姿勢を取る。けれども、ヘラクスが龍騎に到達するよりも先に、銀の胸部装甲が爆ぜた。

「ぐ……、おおっ」

 一発、二発、三発。連続で撃ち込まれる銃弾が、ヘラクスの動きを止める。一撃一撃の威力が大きいらしく、弾丸を撃ち込まれるたび、ヘラクスの脚は一歩後退した。

「お前、倒すけどいいよね」

 リュウタロスの声が、闇夜に響き渡る。振り返った龍騎が見たのは、紫の龍の仮面を身に付けた仮面ライダー。軽快な足取りでステップを踏んだそのライダーは、右腕に持った銃を突き出した。
 ヘラクスは乾いた笑いを漏らし、項垂れていた首をぐりんと回して、電王となったリュウタロスに赤く煌めく複眼を向ける。

「はぁああ、お前も祭りの参加者か」
「答えは聞いてない」

 返す言葉は、最前までの子供らしくはしゃぐリュウタロスを思えば、ひどく冷淡な回答であるように思われた。声から抱く印象を裏切らぬように、電王は無遠慮にトリガーを引いた。今度はヘラクスの斧が銃弾を受け止め、弾き返す。駆け出したヘラクスに応えるように、電王は音楽にでも乗るように再度ステップを踏み始めた。
 電王の攻撃パターンが読めず、青龍刀を構えたまま戦闘に介入する隙を伺っていた龍騎も、電王がヘラクスへ向かって動き出したところで動き出した。


408 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:48:16 9oSr2oo.0
 
「よし、俺も……!」
「真司は休んでていーよ。もうすぐ制限時間でしょ」
「えっ」

 はじめ、電王の言う言葉の意味がわからず龍騎は足を止めた。一瞬遅れて、変身してから十分が経過しようとしていることに気付く。最初の剣の打ち合いに存外時間を取られていたらしい。
 電王は既に龍騎に背を向け、右に左にとステップを踏みながらヘラクスへと接近していた。ヘラクスも真っ直ぐに電王に向かってくるため、両者が肉薄するに時間は掛からなかった。ヘラクスが横薙ぎに振り払った斧を、大股開きで姿勢を落とした電王が回避するのを見届けるや、龍騎の鎧は消え去った。

 ヘラクスの間合いで大股開きを晒した電王は、上体を大きく仰け反らせて、至近距離で銃弾を放った。遠距離からの射撃ならばまだしも、至近距離からの、それも無理な姿勢からの銃撃に、ヘラクスは面食らった。胸部装甲が爆ぜ、数歩後退る。
 銃撃が止むや、ヘラクスはすぐに追撃のため前進するが、電王はそのまま後方へと倒れ込んだ。戦場で仰向けに倒れ込む奴がいるかと、浅倉は仮面の下で追撃の好機を予感する。けれども、その予感は一瞬で崩れ去った。倒れ込んだ電王が、脚を振り上げた。蹴りではない。振り上げたまま、地面に接地した上体を軸に体を回転させている。

「ぐっ」

 電王の蹴りが右、左と連続でヘラクスの上体を蹴り飛ばした。三回目の蹴りには斧でのカウンターを仕掛けるつもりだったが、待ち望んだ三撃目の瞬間は訪れず。電王は、跳んだ。地面に接地していた軸の腕で体を跳ね上げ、瞬く間に体勢を立て直し、二本の脚で着地したのだ。
 
「ッ、らぁア!」

 迫るデンガッシャーの銃撃を、今度は斧で叩き落としながら、ヘラクスは再度電王へと肉薄した。斧を振り下ろすが、その一撃はやはり、命中しない。電王は片足を軸に半回転を加えながら、逆にヘラクスの間合いへと飛び込んできたのだ。
 ダンスさながらのステップでヘラクスとすれ違った電王は、裏拳をヘラクスの頭部に叩き込んだ。

「ぐ……ッ!」

 ダグバとの連戦で既に体力を消耗している今、明らかに己の動きが鈍っていることを浅倉は実感した。されどそこは腐っても浅倉威、地べたを這いつくばって生き抜いてきた浅倉にとって、この程度の疲労はどうということはない。不覚を取るのはほんの一瞬、すぐに姿勢を立て直す。体は既に限界を越えようとしていた。

「お前、なんか気持ち悪いから、そろそろ終わらせるよ。いい?」

 ヘラクスが見たのは、大股開きで片手に持った銃を構える電王の姿だった。上体は銃を構える腕以外は完全に脱力しきっており、紫の龍頭を模した仮面は僅かに傾いている。ダンスの決めポーズのつもりなのだろう。銃撃が響くと同時に、ヘラクスはベルトのバックルを擦った。

 ――CLOCK UP――

 刹那、電王の放った弾丸が急速に速度を落とした。ヘラクスを取り巻く他のすべての時間を置き去りにして、ヘラクスはひとり超加速空間へと突入した。
 停止したも同然の弾丸を斧でたたき落としたヘラクスは、電王の胴体に膝蹴りを叩き込んだ。なんの反応も示すことなく、電王の体が宙に浮かび、体が折れ曲がる。


409 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:49:43 9oSr2oo.0
 
「ははぁっ」

 ここへきて久々に、ヘラクスの仮面の下で、浅倉はにやりと笑った。
 浅倉威は、戦いそのものを愛する武人では決してない。浅倉が求めるものは、果てのない暴力だ。暴力を振るえる環境に身を置きたいがため、結果的に戦いに身を投じることになっているだけで、暴力を振るえるのであればそれが戦いである必要はどこにもない。一方的な暴力を振るうことに対し、痛みを感じる心など持ち合わせてはいなかった。
 宙に浮かんだ電王の体に、横合いから斧による一撃を叩き込む。手応えのない腕や脚から狙う趣味はない。胴体に直接斧を叩きこまれた電王の装甲が爆ぜて、火花が生じる。電王の装甲から吹き出た火花が咲くまでの間に、ヘラクスは次の一撃を叩き込んだ。
 少しずつ、からだの調子がよくなってきた。限界が近いと思われていた体から、痛みと疲労の感覚が消え去っていく。麻痺していると言ってもいい。まだまだ楽しめると、浅倉は無意識的な確信を抱いた。



 その場の全員が、なにが起こっているのか理解できず、瞠目するしかできなかった。
 ヘラクスの姿が掻き消えたかと思えば、電王の体がなにかに弾き飛ばされたように宙に浮かび、あとは銀色の風と化したヘラクスから執拗な打撃を受ける、その繰り返しだ。ひとつの打撃によって生じた火花が開花するよりも先に、次の、そのまた次の打撃を叩きこまれているので、電王には休む間もない。

「な、なんだよアレっ……あんなの、どうやって戦えっていうんだよ」

 三原の声は、平時よりも増して上擦っていた。それ程気温が低い訳でもないのに、足元は震えている。最前までいざとなれば戦う覚悟を固めたつもりでいた三原も、クロックアップの驚異的な速度を目の当たりにして、戦えば殺されるかもしれないという恐怖に竦んでいるのだ。
 麗奈の内側で騒ぎ立てていた金属音が、一際強く音をかき鳴らした。己の内で、彼女が暴れ回っているのがわかる。麗奈には、何故もう一人の自分がこうも主張するのかが、なんとなく、わかる気がした。

「わ……わたし、なら」

 周囲のあらゆる音をかき消さんとがなる金属音の中、麗奈の口をついて言葉が飛び出した。無意識に近い。そもそも自分がなにを言ったのかすら、金属音にかき消されて、麗奈にはよくわからなかった。
 麗奈を気にかけた真司が、肩に手を掛ける。なにか言っているようだが、麗奈にはもう、真司の声も聞こえなかった。なにも聞こえず、なにも見えなくなった。麗奈を取り巻く世界が暗転した。辺りはしんとした静謐に包まれた。

「弱いな、お前は」

 低く、玲瓏な声が耳元で響いた。戦いの音も金属音もなにもない無音の世界にあって、その声だけが麗奈の中で凛とこだましている。それが誰の声なのか、麗奈にはすぐにわかった。
 首だけを回して振り返ると、薄暗がりの世界にひとり、喪服を着た女がぽつんと佇んでいた。よく知る顔だった。

「みんなの助けになりたい。そう思いながら、お前は怯えるばかりで、見ているだけしかできない……弱い人間」

 間宮麗奈の人間としての生を奪った張本人。自分であって、自分でないもう一人のマミヤレナ。嘲るような口調でありながら、しかし、きっと釣り上がったその眼は、麗奈を強く批判しているように感じられた。


410 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:51:28 9oSr2oo.0
 
「お前はもう眠れ。お前では、なにも守ることはできない」
「まも、る……?」

 麗奈は訝しげに眉根を寄せた。マミヤレナが、一瞬顔を顰めた。
 らしくない言葉を選んでしまったと、レナがそう考えていることが、自分自身の内面ゆえか、なんとなく麗奈には分かった。

「私は……私は、ただみんなに守られるだけで、ずっと申し訳ないと思ってた。私なんかいなければ、みんなも無駄に傷つくこともないのに。結局、私は、守られるだけで」
「だから消えろと言っている。そもそもお前はもう死んだ人間だ。私が殺した。お前がここにいること自体が不自然なのだ」
「だとしたら……それは、あなたもでしょう。あなたも、一度死んだ。あの人の腕に抱かれて」

 返答はなかった。けれども、麗奈が大切なひとを心に思い描いたその時、冬の湖面のように冷たかったレナの瞳に、微かな熱が宿ったように感じられた。鉄仮面で覆い隠されたレナの心の一端が垣間見えた気がした。
 俯いていた麗奈は顔を上げ、レナに向き直った。

「あなた、ほんとうは――」
「黙れ」
「っ」

 レナの体が、白い外骨格に覆われた。彼女の表情は白い仮面に隠されて、今はもう窺い知れない。一瞬気を緩めたことで、押さえ込んでいたワームの力が彼女のもとに戻りつつある。油断した、と思った時にはもう遅い。
 今度こそ麗奈の意識は深い闇の底に沈んでいった。



 宙に浮かんだままの電王の体に振り下ろされようとしていた銀の斧を、ウカワームの巨大な右腕が弾き飛ばした。時の切り取られた世界に入門してくる者などいないと思っていたのだろう、ウカワームの不意打ちに対処をすることもなく、ヘラクスは斧を取り落とした。
 時の加速した二人だけの空間で、ウカワームとヘラクスは互いに動きを止め、押し黙る。互いが互いを、目下排除するべき敵であると認識した瞬間だった。

 ――CLOCK OVER――

「うわぁぁああああああああッ!!」
 電王の体から一斉に火花が吹き出した。悲鳴とともに地面へと落下し、体をしたたかに打ち付けたリュウタロスの体から、電王のオーラアーマーが消失する。既に戦力外となったリュウタロスを、ウカワームは表情を移さぬ白き仮面でちらりと一瞥した。

「この男は私が始末する。お前は下がれ、足手まといだ」
「……、れ、麗奈……?」

 震える声で、リュウタロスは顔を上げた。ウカワームは返事をくれてやることもせず、ヘラクスへと向き直った。

「ほお。お前、さっきの女か」
「私の名前はマミヤレナ。お前に私の鎮魂曲を聴かせてやる」
「くはっ、……はははははははっ、お前もそれなりに楽しめそうだ」

 ヘラクスは脱力しきった様子で両腕を広げると、ウカワームの頭から爪先までを舐め回すように眺めた。そして、緩慢な動きから一点、獲物に飛びかかる蛇のような素早さで、ウカワームへと跳びかかった。ウカワームはヘラクスの拳を右の巨大なハサミでいなし、左腕の拳で殴り返す。ウカワームの拳に対して回避行動は取らず、ヘラクスは顔面から当たりにきた。ぶんと唸って振るわれたヘラクスの拳が、クロスカウンターとなる形で、ウカワームの顔面を捉えた。


411 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:52:57 9oSr2oo.0
 
「ッ」
「ははぁあッ!」

 一瞬動じたウカワーム目掛けて、ヘラクスは獣さながらの獰猛さで飛び掛かると、鎧に覆われていないウカワームの首元に掴み掛かって、勢いそのまま押し倒した。倒れながら、ウカワームはヘラクスの胸部目掛けて袈裟懸けにハサミを叩き付ける。盛大に火花を散らしながら仰け反るヘラクスだったが、しかし、それでもヘラクスは笑っていた。

「はははははっ!」
「ッ、この男……!」
「はあぁぁああ、最高だなぁ、戦いってのはァ!」

 ウカワームの背を地べたに叩き付けたヘラクスが、その首元に手をかけたまま、深く吐息を吐き出し、狂気に満ちた、感に堪えぬ笑みを漏らした。マウントポジションを取られている。
 今度はヘラクスの赤い複眼目掛けて容赦なくハサミを叩き付けた。

「そこをどけ」
「ッ、はははははぁ!」
「ぐっ……」

 ヘラクスは打ち据えられた顔面をがくんと揺らしながらも、ウカワームの顔面を鷲掴みにし、地面に叩き付けてきた。ヘラクスに掴まれた指圧から、白の外骨格を通じて、体内の細胞ひとつひとつへ屈辱が染み渡っていく。けれども、湧き上がる感情は、怒りとは異なるものだった。
 ウカワームは後頭部を幾度も地面へ叩き付けられながら、ハサミで二度三度とヘラクスの仮面を殴打した。四度目の打擲で、ついにヘラクスのマスクが割れた。仮面の中に垣間見える浅倉威の瞳は、人間のものではない輝きを放っていた。狂ったように笑う浅倉の顔を見て、ウカワームはひとつの確信を抱いた。

「この男……もはや、人間ではない」
「ははぁ、それがどうした。もう終わりか?」

 見開かれた浅倉威の瞳を見る内に、強烈な嫌悪感がウカワームの心のうちに芽生えた。殺されるかどうかとか、そういう類の恐怖ではない。生物であれば通常恐れるはずの痛みをものともせず、獣のように邁進するその異常な姿に対して抱く、生理的な感情だ。恐怖心と言い換えてもいい。それを自覚すると同時、沸き起こる恐怖と屈辱に体が震えた。

「麗奈から……、離れろーっ!」

 ヘラクスの胸部装甲が爆ぜて、その体が後方へと吹っ飛んだ。後方からの援護射撃だ。振り返ると、最前ヘラクスに手酷くやられたリュウタロスが、震える体でリュウボルバーを構えていた。

「麗奈、麗奈っ、大丈夫!?」

 ウカワームはリュウタロスから視線を逸らした。返答をくれてやる気にはならなかった。
 右腕のハサミを地面に突き立てて立ち上がったウカワームは、己の体もまた震えていることに気付いた。痛みや疲労による震えではない。リュウタロスの震えが、先の打擲によるものではないことを悟った。
 この敵と長期戦でやりあうのは、まずい。戦闘力云々ではなく、戦いが長引けば長引くほど、此方が精神に異常をきたしてゆく。


412 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:53:54 9oSr2oo.0
 
「麗奈!」
「ッ」

 駆け寄るリュウタロス目掛けて、ウカワームは、勢い良くハサミを横薙ぎに振るった。リュウタロスは一瞬驚いたようにウカワームを凝視するが、その一瞬は、すぐに一瞬ではなくなった。
 瞠目したリュウタロスの時間が、そこで止まっているに等しい時間にまで引き伸ばされていた。ハサミを振るうと同時にクロックアップを発動したウカワームの動きを、通常空間にいる今のリュウタロスは既に追い切れていない。

「貴様の存在は厄介だ。ここで消えてもらう」
「できるか? お前に……くははっ、やってみろよ」

 果たして、ウカワームのハサミが捉えたのは、同じく超加速空間に突入したヘラクスが振るった銀の斧だった。常人には認識できない速度でリュウタロスに振り下ろされる筈だった斧を、ウカワームのハサミが受け止めたのだ。もしもリュウタロスの隣にいるのが時間流の変化を察知できる自分でなければ、などと考えかけて、ウカワームはそのとりとめのない思考を振り払った。

「はああッ」

 冷淡に鼻を鳴らしたウカワームは、ヘラクスの斧と己のハサミを打ち合わせたまま、結果的に自分が救った形となったリュウタロスからヘラクスを遠ざけるように地を蹴り、ヘラクスを押し出した。体を熱くする屈辱でしゃにむに恐怖心を掻き消して、ウカワームは進む。
 二十歩分ほど離れたところで斧を弾き上げたウカワームが追撃に出た。ヘラクスの胸部にハサミの一撃が直撃し、ヒヒイロカネで出来た装甲に僅かな亀裂が走る。けれども、怯まない。向かってくるヘラクスに、再度ハサミを叩き付けんと振るうが、しかし、大振りなその一撃を、ヘラクスはこの僅かな数回で見切ったのだろう。身を屈めることでその一撃を回避したヘラクスが、右腕のブレスを叩いた。

 ――RIDER BEAT――

 タキオン粒子の稲妻が、ヘラクスの右腕を伝って、ゼクトクナイガンへと充填された。ウカワームの間合いに飛び込むと同時に発動されたライダービート。
 不覚を取ったことを、ウカワームは悟った。咄嗟の対応に打って出ようにも、体が動かない。やられる、と瞬間的に思ってしまったその刹那、浅倉威に対して抱いた恐怖心が、ウカワームの中で異常なまでに膨れ上がったのだ。

「馬鹿な……ッ、この、私が――ッ」

 ヘラクスの強烈な一撃が、ウカワームの胴体を直撃した。甲高い破裂音が鳴り響いた。瞬時に時間流が元に戻る。瞠目したままで止まっていたリュウタロスの視界の先で、ウカワームはその腹部に眩く迸るタキオン粒子の稲妻を纏いながら後方へと吹っ飛んだ。

「えっ!? ……っ、麗奈!?」

 通常の時間流に強制的に引き戻されたウカワームが聞いたのは、リュウタロスの狼狽する声だった。
 空宙で人間としての姿に戻った間宮麗奈は、地べたをごろごろと転がって、力なく項垂れた。霞みゆく視界が捉えたのは、ぼろぼろの体で麗奈へと駆け寄るリュウタロスと、その背後で両腕を広げ月光を一身に受け止めて笑うヘラクスの姿だった。

「よくも……よくも麗奈を!」
「はははははっ、次はお前かァ!」

 最早獣同然となったヘラクスが、リュウタロスへと飛び掛かった。


413 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:55:01 9oSr2oo.0
 


 戦場の傍らに身を横たえたマミヤレナは、一見致命的な一撃を直撃で受けたようで、実際にはそこまで深刻なダメージを受けたわけではなかった。強固な外骨格が、タキオン粒子の流動をある程度は防いだのだろう。
 ヘラクスは今やレナを排除対象外と認識したのか、リュウタロスを嬲ることに意識を集中させている。レナにトドメを刺しに来る気配は一向になかった。最早その必要すらないと判断されたのかと思うと、腹の底から湧き上がった屈辱が、うめき声となって漏れた。

「間宮さん、生きてるよな!? 無事だよな!?」

 確認のていをとってはいるものの、真司の言葉は、半ば願望と言って差支えはなかった。地べたに仰向けに寝そべったまま、眼球だけを動かして、レナは走り寄る真司を視界に捉える。その少し後ろで、レナから距離を取っているのは、三原だろう。気配で分かったので、わざわざその存在を確認する気にもならなかった。

「私は、こんなところで、いったいなにをしているのだろうな」

 口をついて出た弱音に、レナは一瞬遅れて、らしくもないと自嘲する。

「なあ、アンタ……間宮さん、なのか。それとも、まさか」
「そのまさかだろうな」
「なら、間宮さんの意識は」
「さて。今はもう、私にもわからん」

 人間としての心を封じ込んだ、と言い切ることは出来なかった。麗奈を心配する真司の顔を見ていると、それを口にすることが憚られた。
 こんなはずではなかった。真司やリュウタロス、三原の存在が、レナを弱くする。
 不意に、リュウタロスの悲鳴がレナの耳朶を打った。どういうわけか、胸中を掻きむしられるような心地になった。そう感じること自体が、レナにとっては異常だった。恐怖心と、屈辱感と、未だ感じたことのない得体のしれない感情が、レナの心に巣食っている。

「……アンタ、さっきリュウタロスのこと庇ったんだよな」
「違う。私はただ、ヤツの攻撃に対応しようとしただけ。偶然だ」
「偶然でもなんでも、アンタがリュウタロスを救ったんだ」
「そうか……ならば、そうなのかもしれないな」
「なあ、……なあアンタ、ほんとうは」
「仲間を助けにいかなくていいのか」

 冷徹に、そして淡々とレナは真司の言葉を遮った。

「俺が、……俺が行くよ」

 かつてアスファルトだった砂利道を踏み締めて、三原が横たわるレナの隣に歩を進めた。脂汗を額に浮かべて、恐怖に脚を震わせて、それでも三原は、戦場に向き合っている。掌には、デルタフォンが握られていた。

「ヤツが恐ろしいか」

 レナの冷徹な瞳が、三原を見据えた。

「ああ、怖い……怖いさ。けど、俺が戦わなかったせいで、あいつに弱虫って思われたまま死なれるのは、……それを二度と挽回できないのは、もっと怖い。今やらなきゃいけないことだけは、俺にだってわかるから……!」

 前かがみになって己の感情を吐き出した三原は、そのまま戦場へと駆けていった。変身、の一声と電子音に次いで、三原の体は白色光に包まれる。デルタとなった三原が、ヘラクスが暴れる戦場へと乱入したことを、レナは気配だけで悟った。

「間宮さん」

 真司に呼ばれても、レナは言葉を返す気にはなれなかった。指一本動かす気にはなれなかった。


414 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:56:02 9oSr2oo.0
 
 レナは、ぼんやりとした思考を宙に漂わせていた。
 そもそも自分はいったい、なにをしたいのだったか。元の世界に戻ったとて、既にワームを束ねるマミヤレナは、身内であるワームから処刑宣告を受けている。人間でもなく、ワームからも追放された今のレナに、帰るべき場所はない。かといってもう一度人間を殺してまわり、ワームとしての居場所を再確立するのは、なにか違うように思われた。
 それがわかっているから、レナは風間大介に戦いを挑んだ。変身を拒み戦う決断を下せずにいる大介を殺すことは容易かったはずなのに、それでもレナは、仮面ライダードレイクとの一騎打ちを選んだ。それ以外に、辿れる道はないと思っていた。
 或いは、そこで終わっていたならば、幸福だったのかもしれない。
 こんな場所で蘇生されても、レナにはもう帰る場所などなく、戦う理由もない。それでも戦って、あんな得体のしれない男に負けて、恐怖心と敗北感に打ちひしがれて、はらわたが煮えくり返るような屈辱を味わわされて、その果てに、いったいなにを得られるというのだろう。

(わたしは、いったい、なにがしたいんだ)

 自分自身の心の内側から、孤独な歌声が響いていることに、レナは気付いた。
 ここへきて初めて、レナはとうの昔に押し殺したと思っていたその音楽に耳を傾けた。



 冷たくなり始めた秋の風に晒されて、体温が徐々に低下していく。全身から力が抜け落ちていく中、それでも伸ばした指先が、男の頬に触れた。とうに痺れて感覚を失いつつあった指先は、男の肌のぬくもりを確かに感じ取った。霞みゆく視界の中で、男は笑った。今にも泣き出しそうな、不器用な笑み。けれども、優しい微笑みだった。風が吹く。花から花へと吹き抜けていく優しい風が、肌を撫でていった。穏やかな風の触り心地と、男の力強い包容から伝わるあたたかさを、確かにレナは感じ取った。
 ワームとしての身で感じられるはずのないぬくもりを、やさしさを、レナは感じ取った。



 なぜこんなことを思い出すのだろう。
 あの時、風間大介の腕の中で、レナは、苦しいことも、つらいことも、すべて忘れられた。心のうちは、穏やかな歌声の中で満たされていた。
 その歌声は、今も聴こえる。自分が殺した間宮麗奈が、今も歌い続けている。人の悦ぶ顔が見たいがために歌い続けてきた麗奈が、今はレナひとりのためだけに、歌っている。

 舞台の上で歌い続ける麗奈の歌を、ホールの最前席に着席した麗奈は、自分でも驚くほどに穏やかな心地で聴いていた。大介から伝えられた、自分の中の音楽に耳を傾けて欲しい、という言葉をぼんやりと思い出す。思えば、レナは己の内側に巣食うもう一人の人格を押し込めようとしたことはあっても、その存在を認めて歌に耳を傾けたことはなかった。

(私は、私がなぜ歌うのかを、知っている)

 麗奈とてはじめから誰かの歌うことを意識していたわけではない。麗奈はかつて、ただ人よりも少しばかり歌が好きなだけの、普通の女の子だった。はじめて他人に歌を聴いて貰った時、その人が上手いと言ってくれた。それが嬉しかった。
 今度は、もっと大勢の人が聴いてくれる舞台に立とうと思った。麗奈の歌を聴いた観客は、みな悦んだ。仕事で疲れきった人も、荒んだ心に癒やしを求めてきた人も、みな穏やかな笑顔を浮かべて帰っていった。誰かのために歌えることを、麗奈は幸福であると感じていた。
 その麗奈を殺め、ささやかな夢や幸福すらも奪い、踏み躙ったのは、他でもない、ワームであるマミヤレナだ。


415 : 夢よ踊れ(前編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:56:50 9oSr2oo.0
 
「なぜ、お前は」

 恨まれるならわかる。今まで通り、眼を背け、逃げるならばわかる。けれども、間宮麗奈に、こうして歌を歌って貰える資格は、自分にはないと思っていた。
 舞台の中心に立ち、ひとりスポットライトを浴びる麗奈が、穏やかな表情でレナに向き直った。

「あなたは、私だから」
「違う。お前を殺めたのは、私だ」

 麗奈は緩く首を振った。

「私は、今もあなたの中で生きているわ」
「私は、お前の心を消そうとしたのだぞ」
「私も、あなたが二度と出てこないようにと願った」
「なら」
「でも、あなたはあの子を庇ってくれた」

 あの瞬間、なぜかリュウタロスを庇ってしまったことは、レナも既に自覚している。否定したいところではあったが、否定しきれる程の強い理由を持たないので、自覚せざるを得なかった。

「それで、確信したの」
「なにを」
「あなたは、戦えない私の代わりに、戦うことができる」
「ワームである私に、人間の代わりに戦えというのか」

 人間として生きていく。大介が示してくれた可能性を、レナは思い浮かべた。それがひどく困難な道のりであることは、他でもない自分自身が一番よくわかっている。なにより、既に間宮麗奈という人間をその手で殺めている自分に、そのような資格があるとは思えない。

「……無理だ。そんなこと、できるはずがない」
「できるわ。だって、あなたはもう、人の心を知っているから。リュウタロスのことも、城戸さんのことも、三原さんのことも、失いたくないと思ってる……大介さんの言葉を、忘れたくないと思ってる」
「そう考えているのはお前だろう、私は違う」
「私はもう自分の心から、あなたから目を背けない。だからあなたも、もっと素直な気持ちで、自分の心の歌に耳を傾けて」

 胸が内側からぎゅうと締め付けられるような心地を覚えた。そんな感情を抱くこと自体が、ワームとしてはあり得ないことだというのに。
 自分自身が、今まで通りのワームとして存在し続けることが困難であることを、レナは既に悟っている。少しずつ、少しずつ、ふたりの心の境界が曖昧になっていく心地だった。

「リュウタロスを、私を守ってくれて、ありがとう」

 麗奈の心が、内側へと流れ込んでくる。
 数時間前、麗奈の身が危険に晒された時、表に出て戦ったことに対してすら、麗奈は感謝の念を抱いている。もう、否定する気も起きなかった。
 レナは緩やかに立ち上がると、胸を逸らして、斜め前の天井を見つめるように目を細めた。すう、と息を吸い込む。

「……きえる、こころ、もつならば」

 レナの喉から、澄んだ歌声が奏でられた。
 難しい理屈を考えるよりも、今はそうしたいと思った。

「いのる、こころ、あたえよう」

 つられて麗奈が、歌い出した。
 ひとりひとりが奏でる音楽は孤独だけれども、磨き上げられたふたつの音楽が重なり、混じり合えば、それはたちまち美しいメロディとなる。不思議なことに、レナはいつまでもこうして歌っていたいとすら思った。けれども、これは、所詮は夢だ。夢はいつか覚めなければならない。
 ふたりで奏でる夢の様なひとときが終わった時、長い夢を見ていたような心地の中、レナは舞台へと視線を送る。
 演奏を終え、深く下げていた頭を上げた麗奈が、レナを送り出すように穏やかに微笑んだ。

「あとは、お願い」

 レナは観念したようにふ、と微笑み、ゆっくりと頷いた。
 もう言葉は必要ないと思った。結局自分には、もう、こうすることしかできはしない。
 舞台にはもう、間宮麗奈の姿はなかった。舞台の出入口の扉が開かれた。外から、日の光が差し込んでくる。あの扉の向こうには、きっと多くの困難が待ち受けているのだろう。けれども、レナはもう、振り返ることはしなかった。確かな足取りで、レナは外の世界へと歩き出した。


416 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 01:58:01 9oSr2oo.0
 デルタが放った銃撃を、ヘラクスはリュウタロスの襟を掴み上げて、その体を盾にすることで受け止めた。短い悲鳴ののち、リュウタロスを投げ捨てたヘラクスは、斧を振り上げてデルタへと駆け寄る。慌てて銃撃するデルタだったが、狼狽しながら不確かな狙いで放たれた銃撃では、ヘラクスを止めることはできない。

「はははははははははははァッ!」

 ヘラクスの嬌笑が響く。萎縮したデルタが、思わず数歩後退る。

「どうした逃げるのかァッ!」

 瞬く間に肉薄したヘラクスが、手にした斧を振り下ろす。デルタは両手でデルタムーバーを支え、斧の一撃を受け止めるが、同時に腕が痺れて身動きが封じられる。すかさず跳ね上がったヘラクスの蹴りが、デルタの胴を抉った。

「ぐえっ」

 胴体が折れ曲がり、宙へ浮いたデルタの体へと、横薙ぎに振るわれたクナイガンが迫る。けれども、その刃がデルタに到達するよりも先に、彼方から飛来した青い影が、その刃に激突し、デルタへの追撃を阻んだ。
 リュウタロスの放った銃弾がヘラクスの背中で爆ぜて、よろめいた。地べたに片足つきながら、デルタもまたヘラクスへと銃撃を浴びせる。機械仕掛けの青い影が、ヘラクスをデルタから引き離すように体当たりを繰り返し、空宙でとんぼ返りをして、持ち主の元へと舞い戻る。
 ドレイクゼクターが舞い戻った先にいたのは、間宮麗奈だった。麗奈が、その瞳をきっと尖らせて、ヘラクスを睨み据えている。その手には、ドレイクグリップが握り締められていた。

「あァ……? まだいたのか……お前」
「私の名前は間宮麗奈。お前に聴かせてやる鎮魂曲は……ない」
「あん?」
「私は、これからも誰かのために歌うだろう。だが、それは、お前のためではない」

 晴れやかな心持ちで、麗奈は緩くかぶりを振って、そう宣言した。
 麗奈の麗奈の周囲を跳び回るドレイクゼクターが、その宣言を祝福するように、麗奈の周囲を旋回し飛び回る。
 もう麗奈は、誰にも心を縛られはしない。どちらかがどちらの心を否定し押し込めることもなく、ただ己の心に流れる音楽に従って、吹き抜ける風のように「自由」に振る舞うのみ。あらゆる枷を取り払った麗奈の心は、羽根のように軽かった。
 グリップを突き出すと、ドレイクゼクターがそこに収まった。青色のオーラとともに波状的に広がったヒヒイロカネが、麗奈の体を覆い尽くす。かつて麗奈が心を許した男の影をその身に重ね、麗奈ははじめて、仮面ライダーへの変身を遂げた。

 ――HEN-SHIN――
 ――CAST OFF――
 ――CHANGE DRAGONFLY――

「麗奈……! その姿!」
「私はもう自分自身に怯えることはしない」

 仮面ライダードレイクとなった麗奈が、両手でドレイクグリップを構え、ヘラクスへと狙いを定める。


417 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:00:59 9oSr2oo.0
 
「私は己の意思で戦う。手を貸せ、ふたりとも!」

 ドレイクの叫びに応えるように、デルタとリュウタロスが強く頷いた。それぞれの銃器を構え、ヘラクスへ向けて、三方向から銃口が向けられる。ほぼ同時に、三人が引鉄を引いた。
 異なるシステムにより開発された銃弾が、一斉にヘラクスを狙い打つ。はじめ、銃撃に晒されたヘラクスはどちらへ脚を進めることも出来ず、標的となるだけだった。けれども、それはほんの数秒だ。

 ――CLOCK UP――
 ――CLOCK UP――

 ヘラクスよりもほんの一瞬遅れて、ドレイクがベルトのスイッチを擦った。
 デルタとリュウタロスが放った銃弾の雨が空宙で静止する。固定された弾丸を掻い潜って、ドレイクを敵と狙い定めたヘラクスが斧を振り上げて迫る。露出した浅倉の片目に射竦めるられて、ドレイクは一瞬動じた。けれども、ヘラクスが間合いの内側へと飛び込むと同時、ドレイクは手にした銃を脇腹の辺りで構え、引鉄を引いた。
 連続で放たれた弾丸がヘラクスを至近距離から銃撃する。その圧力に押され、徐々に後退してゆくヘラクスの体に、ドレイクが後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

「うおっ」
「言ったはずだ、お前にはここで消えてもらう」

 後方へと蹴り飛ばされたドレイクが着地するよりも先に、ドレイクは銃弾を撃って、撃って、撃ちまくった。空宙でヘラクスの動きが静止した。ダメージ超過によるクロックオーバーだ。

 ――CLOCK OVER――

 ドレイクの加速時間にも終わりが訪れる。斧を取り落としたヘラクスが地面に落下し、その衝撃によって嗚咽を漏らした。ヘラクスはすぐさま取り落とした斧を拾おうと手を伸ばすがそれをデルタの銃撃が阻んだ。弾丸に弾かれた斧が、ヘラクスから離れ、リュウタロスの方向へと飛ばされる。

「やーい、これはもう返さないもんね〜!」

 さっきまで震えていたリュウタロスだったが、飛ばされてきたゼクトクナイガンを取り上げると、はしゃぎ声を上げて飛び跳ねた。

「ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 ヘラクスの咆哮が、怒りによるものなのか、理性を失った獣の叫びなのかは、誰にもわからなかった。けれども、わかる必要のないことだと、麗奈はとりとめのない思考をすぐに切り捨てる。
 デルタとリュウタロスが作ってくれた千載一遇の好機を逃す手はない。己が欲望のため多くの命を奪い、その果てに罪と向き合う機会も与えられぬまま獣と成り果てた外道に、引導を渡す時がきた。ドレイクは手にした銃の撃鉄、スロットルを力強く引いた。

 ――RIDER SHOOTING――

「ライダーシューティング……!」
 風間大介が変じたドレイクを心に思い浮かべて、麗奈が変じたドレイクもまた両手でドレイクグリップを握り締める。銃口で青い輝きが膨れ上がり、ばちばちと放電音を迸らせる。かつて身をもってこの一撃を味わった麗奈だからこそ、ライダーシューティングの威力は痛いほど理解している。


418 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:01:57 9oSr2oo.0
 この男が振りまく悲劇は確実に終わらせる。その覚悟は、この場の全員が同じ。リュウタロスとデルタの銃撃がヘラクスに浴びせられ、退路は絶たれた。ヘラクスには最早ライダーシューティングを真っ向から迎え打つ以外に道は残されていない。

 ――RIDER BEAT――

「オオオオォォォォォォァァァァァァァッ!!」

 右手のゼクター叩き、その腕にタキオン粒子の輝きを纏わせたヘラクスが、咆哮と共に飛び込んできた。同時、ドレイクが引鉄を引いた。
 放たれた青のタキオン粒子の塊に、ヘラクスは己の右の拳を叩き込んだ。瞬間、タキオンのエネルギーが互いに干渉し合って、辺りへ激しく稲妻を撒き散らす。
 拮抗したのはほんの一瞬だった。すぐにヘラクスの右腕の装甲が消滅を開始した。ライダーシステムなくして、タキオン粒子の塊を受け止めることなどできるわけがない。青の光球は瞬く間に浅倉の右腕を飲み込んだ。装着されたゼクターが火花を散らし、爆散する。

「うぉぉおぉおおぁあああああああッ!!」

 ライダーシューティングの一撃は、浅倉の右の肘から先を消滅させ、そのまま肩口を滑って彼方へと飛んでいった。幸いにもヘラクスの装甲が完全に消失しきる前に光球が通過したため、浅倉は右腕を失うだけに済んだが、それでも生半可なダメージではない。もんどり打って倒れ込んだ浅倉の右肩は、痛々しく抉られ、赤黒く焼け爛れていた。
 そこで一同は、異変に気付いた。浅倉の肌は、既に大部分が肌色ではなくなっていた。黒と紫が入り混じったような色に泡立って、全身から同色の陽炎を揺らめかせている。これが浅倉との最後の戦いになると、その場の全員が判断した。

「まだだッ、まだ足りねェ! もっとだ、もォォっと寄越せェェッ!」

 浅倉の体が変質してゆく。仮面ライダーのものではなく、倒されるべき怪人のものへと、成り果ててゆく。見るもおぞましい異形へと成り果てた浅倉威を直視したその瞬間、今まで感じていた恐怖心とは比較にもならないほどの寒気が全身を駆け巡った。
 恐怖という二文字をそのまま化け物へと作り替えたような存在。恐怖の象徴、テラーへと変質を遂げた浅倉威が、左腕で握り拳を作り、夜空を見上げ野獣の咆哮を上げた。足元から広がった黒とも青ともつかない泥が、薄く発光しながら周囲へと広がっていく。

「あ……ぁ、なん、だ……これ、は」

 心臓を鷲掴みにされたような心地のなか、ドレイクは広がる泥の中で、数歩後退った。テラーの放つ威圧感だけで、戦意などとうに喪失している。ドレイクの体から、ヒヒイロカネが剥がれ落ちた。激しい動悸の中、しかし身動きをとることも出来ず、麗奈は無様にも尻もちをついて、テラーを見上げるしかできなかった。

「な、なに、こいつ……こんなの、勝てるわけない……」

 リュウタロスが震える声で弱音を零した。リュウボルバーを取り落としたリュウタロスは、俯いて吐息を吐き出すのみで、最早己の武器に手を伸ばすことはなかった。全力発揮状態にあったリュウタロスが、強制的に能力発揮を終了させられる。誰もが皆、終わりを予感した。


419 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:03:46 9oSr2oo.0
 
 浅倉威と一体化したテラーは、この数時間の間に完全に浅倉威と同調し、本来のスペックとは異なる能力を発揮しつつあった。潜在的な恐怖を煽る本来のテラーの能力に付け加えて、暴力なしには生きてはいけぬ浅倉威の野獣のような精神性が作用し、今のテラーは暴力と恐怖の象徴たる存在と成り果てていた。
 失った右腕の断面から泥をぼとぼとと落としながら、テラーとなった浅倉はその瞳を獰猛な獣よろしくギラギラと輝かせて、次の獲物を見定める。
 ひとりだけ、変身解除に追い込まれていない仮面ライダーがいた。

「ど、どうしたんだ、みんな!?」

 仮面ライダーデルタだ。足元は相変わらず震えているものの、しかし、デルタだけはテラーフィールドの効果を受けているようには見られなかった。浅倉が変じたテラーの口元が、にやりと釣り上がった。次の標的は、こいつだ。
 テラーは狂気の雄叫びを上げて、デルタへと飛びかかった。全身から泥を吐き出しながら、化け物と化した肉体にフォトンの弾丸が撃ち込まれる。その痛みすら、今のテラーには起爆剤だった。撃たれた箇所から血液の代わりにドス黒い泥を吐き出して、瞬く間にゼロ距離に達したテラーが、デルタの首根っこを掴み、つり上げた。
 デルタがじたばたと脚をばたつかせてテラーを蹴る。

「う、この……っ」
「ははァっ、ぁああはははははははァァ!!」

 ろくな反撃もままならぬまま、デルタの体はぶんと振り回され、投げ飛ばされた。全身を泥にまみれた地面に打ち付けながら、デルタは顔を上げる。リュウタロスの顔が目に入った。

「ひっ……ひぃぃぁぁぁあああああっ!?」

 リュウタロスが情けない声を上げて、尻もちをついたままデルタから距離をとった。ここへきてデルタに変じる三原は、はじめてことの異常さを認識した。
 片膝ついて起き上がり、麗奈へと視線を向ける。麗奈も同様に尻もちをついたまま、目を見開いてデルタを凝視していた。仰け反らせた胸元を大きく上下させて、激しく呼吸を繰り返している。
 今まともに戦えるのは、自分をおいて他にはないことを悟らざるを得なかった。

「やるしか、ないのか……俺が、こいつを」
「はははははははッ、お前も俺と戦えェェエエ!!」

 デルタは、決然と銃を構えた。引鉄を引いて、光弾を放つ。化け物と化した浅倉威の体からまたも泥が噴き出す。銃撃の余波で皮膚が裂けて、ところどころから骨が飛び出ている。銃撃が喉元を撃ち抜いた時、そこからやはり、泥が溢れ出た。泥はすぐに硬化して、傷口を塞いでゆく。生物として、明らかに異常な再生速度だった。

「こいつッ、ほんとうにもう、人間じゃなくなったのか」

 相手が人間ではないのなら、戦える、かもしれない。
 他の二人が戦意を喪失しているのに対して、デルタは己の心の内に、はじめて闘志を宿らせた。どちらにせよ、ここで唯一戦える自分が戦わなければ、ここまで自分を支えてくれたリュウタロスも、麗奈も、殺されて終わる。自分が殺されることも恐ろしいが、自分のせいで仲間が死ぬのは、もっと嫌だった。
 体が熱を持って火照ってゆくように感じた。それは決して、デルタのシステムによる精神干渉ではない。大切なひとを守りたい、ちっぽけな自分でも守れるかもしれない、そういう類の感情から沸き上がる強い意思だ。いざ殺されるかもしれないというその瞬間に、はじめて三原修二は、その才能を開花させた。


420 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:05:37 9oSr2oo.0
 
 三原修二に対して、デルタのシステムによる精神干渉は意味をなさない。
 それは、精神干渉を加えたところで、元の三原の心が弱すぎるからだとか、そういう理由では断じてない。三原の心は、元より精神干渉に対する耐性を備えている。だから、デルタのシステム如きで、三原の心をねじ曲げることはできなかった。
 確かに三原は臆病者の弱虫だけれども、それでも三原は、本質的には誰よりも強く、そして優しい心を持ち合わせている。守りたいもののために守ると決めた三原には、浅倉のテラーフィールドなどは無意味だった。

 デルタは懊悩を振り払い、流星塾の仲間たちの中で、臆さずに運命と戦い続けていた友を心に思い描く。もうこの世にはいないが、彼はきっと最後の瞬間まで立ち向かっていった筈だ。手段はどうあれ、どうあっても弱音を吐いたり、挫けたりすることのなかった仲間を胸に、デルタはベルトのメモリーをデルタムーバーにセットした。

「草加……、俺の中で生きてくれ。君の強さを、俺にくれ……!」

 かつていじめられっ子だった草加だって、変わることができたのだ。自分だって。
 狂った笑みを零しながら走り寄る化け物に、デルタは銃口を向ける。

「シィィィァァアアッ!!」
「チェック!」

 ――EXCEED CHARGE――

「うわぁぁぁあああああああああああああああああッ!!」

 あの化け物よりも強く、三原は腹の底から雄叫びを上げた。
 デルタの銃口から放たれた三角錐が、ドス黒い化け物の胸元に突き刺さり、ドリルのように激しく回転する。身動きを封じられた化け物が、胸元を仰け反らせる。デルタは短い助走の末、地を蹴り、高く跳び上がった。乾巧や草加雅人がそうして敵を倒してきたように、三原もまた、デルタとして三角錐の中に飛び込んだ。蹴り足が化け物の体に突き刺さり、超高熱のフォトンブラッドそのものへと変質したデルタが、瞬間的に化け物の体内を駆け巡ると、その背中へと排出された。この間、僅か数秒の出来事である。

「ぁあァア、はは……ははは」

 残った左手をぶらりと下げて、化け物は空を見上げる。体から、赤く彩られた炎が噴き出る。青白く輝く「Δ」の文字が、闇夜にはっきりと描かれた。
 震える脚で、それでも地面を踏み締めて、デルタは背後を振り返った。
 炎の中、上裸の男は笑っていた。


421 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:09:26 9oSr2oo.0
 


 まだだ。まだ足りない。もっと、もっと、もっともっともっと、果てのない戦いが欲しい。度重なるダメージを受けて、浅倉威の体は崩壊を始めていた。けれども、最早痛みすら感じはしない。
 黒とも紫ともつかない色に変色し、ぐずぐずに崩れ始めた体で、それでも浅倉は、ランスバックルを取り出した。驚愕したデルタが、一歩身を引いた。

「ははっ、ァァぁアあはははははははぁッ! もっとだァ、もっとッ、俺と戦えェェエエエエッッ!!」

 浅倉威の裂帛の絶叫を最後に、全身の血管が体内で滅茶苦茶に暴れ回り、ドス黒く変色した肌が、本当の黒に染まった。体を泥のような黒に覆い尽くされた浅倉の体は、泥が消えると同時に、完全なる消滅を遂げた。
 かツん、と音を立てて、持ち主のいなくなったアスファルトに、ランスバックルが落下した。

 

【浅倉威@仮面ライダー龍騎 消滅確認】

 
 
 元よりガイアメモリは毒素の塊だ。通常使用ですら毒素に侵されるものを、浅倉威は自ら体内に取り込んだ。一見副作用のないように感じられたが、それは通常の使用方法を逸していたために、通常使用において見られる副作用がなかっただけだ。フグ毒を摂取して、その場で抗体を作れる人間などいるはずがないように、毒を食べた人間は体を侵され死に至る。代償のない即席の進化など、あり得るはずがない。
 取り込んだ毒素は、長い時間をかけて浅倉威の体を作り替えていった。更なる暴力を、闘争を、そういう願いに呼応して、テラーの毒素は浅倉の体を過剰に作り替えていった。
 いかに精神面が化け物であったとはいえ、ただの人間である浅倉威の体は、メモリの毒素による過剰変質には耐えられなかったのだ。その果てに、過剰なまでのダメージを受け続けたことで、ついに浅倉威の体は限界を越え、メモリのオーバードーズによって消え去った。

「勝った、のか……俺、たち」

 忽然と消えた敵を探して、デルタは周囲を見渡す。けれども、浅倉威からの襲撃は、二度となかった。
 恐怖心の根源たる浅倉威がこの世から消えてなくなったことで、この場に蔓延していた恐怖心もまた、消え去ってゆく。リュウタロスが、麗奈が、各々立ち上がった。

「なんだったの、アイツ。すっっっごい嫌な感じだった」
「それがヤツの能力だろうな。それが解けたということは……死んだと考えていいだろう」

 最前までの怯えが嘘のように、麗奈は淡々と状況を纏めた。デルタはようやく、デルタムーバーを腰に装着し、デルタフォンを引き抜いた。青白い光が霧散して、デルタの装甲から、三原が解き放たれた。即座に膝をついて、三原は深く息を吐き出す。リュウタロスが三原の元へと駆け寄った。

「それより、やったじゃん修二ーっ! まさか修二がアイツをやっつけちゃうなんてさあ!」
「あ、ああ……あの時は、俺がやらなくちゃって、無我夢中だったから」

 はじめて褒められたことがくすぐったくて、三原はバツが悪そうに目線を伏せた。勝利したとはいえ、心地のよいカタルシスといったものはない。人があんな化け物に成り果てて、あんな風に消えてなくなることに、三原は少なからず衝撃を受けていた。理性のあるオルフェノクを倒し、その体が灰となって消えるよりも、ずっと後味が悪かった。
 草加のように強くなれたら、こんな気持ちは抱かずに済むのだろうか。

「浅倉……お前、こんな最期で満足なのかよ」

 浅倉が消滅した辺りに立って、真司は苦しそうに俯いた。浅倉からの返答は、もう二度と返ってはこない。

「あの男は、最期まで望み通り戦って果てたのだ。ある意味では幸福だったのかもな」

 その場の全員の視線が、声の主である麗奈へと向けられた。
 一同が知っている、気弱な麗奈の影は、そこにはない。玲瓏な瞳で現実を淡々と見据える鉄の女が、そこにはいた。
 麗奈は、来し方を眺めている。その向こうにある病院に視線を向けているようだった。

「ねえ、麗奈……麗奈、どうしちゃったの? 大丈夫なの!?」
「なあ……アンタ、アンタ間宮さんじゃないのか」

 リュウタロスと真司が続けて問うた。
 結んでいた髪の毛をほどいた麗奈が、黒く艶やかな髪を靡かせ、振り向いた。その表情に恐れや怯えは見られない。けれども、少なくとも総司を襲った時のような敵意の類は、今の麗奈からはもう感じられなかった。


422 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:11:03 9oSr2oo.0
 
 
【二日目 深夜】
【E-2 焦土】

【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】意識統合、疲労(大)、ダメージ(小)、ウカワームに1時間45分変身不可、仮面ライダードレイクに1時間50分変身不可
【装備】ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、
【思考・状況】
基本行動方針:自分の中に流れる心の音楽に耳を傾ける。
1:病院が気になる。もう逃げる理由はない。
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※人間としての人格とワームとしての人格が統合されました。表面的な性格はワーム時が濃厚ですが、内面には人間時の麗奈の一面もちゃんと存在しています。
※意識の統合によって、ワームとしての記憶と人間としての記憶、その両方をすべて保有しています。
※現状、人間時の私服+ワーム時のストレートヘアです。


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一への信頼、疲労(中)、仮面ライダー龍騎に1時間30分変身不可
【装備】カードデッキ(龍騎)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(ファム・ブランク)@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:間宮さん……? アンタいったい……。
2:翔一たちが心配。
3:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
4:黒い龍騎、それってもしかして……。
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※再変身までの時間制限を大まかに二時間程度と把握しました(正確な時間は分かっていません)
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました。
※美穂の形見として、ファムのブランクデッキを手に入れました。中に烈火のサバイブが入っていますが、真司はまだ気付いていません。


423 : 夢よ踊れ(後編) ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:12:07 9oSr2oo.0
 

【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心、疲労(小)、仮面ライダーデルタに1時間50分変身不可
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:俺でも、戦っていけるのかもしれない……。
1:できることをやる。草加の分まで生きたい。
2:間宮さん……、敵では、ないのか?
3:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強い恐怖。逃げ出したい。
4:巧、良太郎と合流したい。村上を警戒。
5:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
6:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。
7:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ。
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクであると知ったもののある程度信用しています。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。今抱いている恐怖心はテラーなど関係なく、ただの「普通の恐怖心」です。


【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、仮面ライダー電王に1時間40分変身不可、イマジンとしての全力発揮1時間50分不可
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
0:修二、強くなったじゃん! 嬉しい!
1:麗奈……? どうなっちゃったの?
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスの分まで頑張る。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。
 

【全体備考】
※浅倉威の体は、過剰な進化と過剰なダメージによって消滅しました。
※ヘラクスのライダーブレスはゼクターごと破壊、消滅しました。
※E-2 焦土に浅倉が所持していた支給品×3、鉄パイプ@現実、大ショッカー製の拡声器@現実 が放置されています。


424 : ◆MiRaiTlHUI :2018/03/30(金) 02:13:14 9oSr2oo.0
投下終了です。
なにかありましたらよろしくお願い致します。


425 : 名無しさん :2018/03/30(金) 02:32:35 ZRkhprnM0
投下乙です。

麗奈のウカワーム化やドレイク変身など、麗奈にスポットが当たったかと思いきやの、まさかの三原くん特異体質説でささやかに浅倉を撃退。
かなり本気で前に出てきたというよりは、普通のライダーのように戦ったら漁夫の利の如くボスキャラを倒せちゃったというような感じでもあるんですが、ここまでまったく働かなかった彼とデルタが大金星ですね。
三原くんが頑張りすぎるとそれはそれでいきなり凄いなーともなるので、まだヘタレっぽさも多分彼の中にはありつつ、「なんか勝てちゃった」みたいな具合で勝つところが三原らしいというか。
彼は普通の人であるという個性もあって、こういう立ち位置が一番安定感あっていいなーと個人的に思います。
そして、ここまで全くの無傷かつ健康体で過ごしてきたのもあって、実はコンディション的にも彼は現在最強なのも「漁夫の利ライダー」に納得いく理由でしょうね(現段階でちょっと疲れてる程度で、これといって攻撃も食らってないからダメージすらないってすげえ)。
エグゼイドでトドメだけ差しに来てたニコちゃんの男版だと思うとすごく可愛いかもしれません。

麗奈の方は、これまでと打って変わって「ワームの方の人格が強まりつつも自由に、危険性はなく」といった形で、乃木さん同様にワーム勢では活躍が高まりそう?
これまでの護られキャラから、ここで一気に戦力としての活躍も見込めるようになり、発言力も強まりますしね。
これまでの麗奈と別人が成り代わったというのもあって、ちょっとひと悶着はありそうですし、仲間だった彼らには受け入れづらいかなというエンディング。
本当にこれですんなりと話が進むのか。麗奈が影を潜めてしまった事に、彼らはどう反応するのか。
次のドラマも広がりそうですね。

真司は真司で、浅倉の死にも納得いかず。苦しそうな声で浅倉の最期を見届けるのもまた真司らしい。以前の修正で真司がこちら側に来たのも話として効いてきた感じです。
更にいえば、ファムを撃退して美穂の無念を晴らすというところで軽く勝利も。早めに消えたので地味ですが、わりと勝負は見せましたね。
リュウタロスはうれしそう。

マーダー浅倉が落ちて尚、制限なしのずるしてるキングくん、チート鎧持ちの渡くん、チートのダグバといった競合揃い。
始さんはここからマーダーとしていけるの?って感じですが、この三人がいる以上、浅倉は勝ち残りの目がなさそうだったのかなぁ……。
って、龍騎の世界も真司だけじゃん……やべえよやべえよ……。
ライダーロワや多ロワやロワロワといった完結ロワは勿論、原作ですら生き残れなかった「死が似合いすぎる」真司くん。ここからいける?大丈夫?


426 : 名無しさん :2018/03/30(金) 07:23:37 tEcxtY5I0
投下乙です!
三原がまさか特異体質の持ち主だったとは! 確かにデルタギアの毒に負けなかったですし、何よりも彼自身の人格と体質が合わさったからこそ今回の勝利があったのですよね!
レナさんも覚醒して、もうこのロワのヒロインと呼ぶにふさわしい人ですね! 真司も美穂の仇を取れましたし、リュウタロスもこれから三原ともっと絆を深め合って欲しいですね。
そして浅倉もついに最期を迎えましたか……彼らしい壮絶な死に様で、だけど当人は微塵も後悔していないのですよね。麗奈が言うように、これもまた幸福な最期だったのでしょうか。

龍騎も真司が最後の砦となり、もう彼に世界の命運が託されたのですよね……
どうにか、西のエリアでの戦いは収まりましたけど、それぞれ傷を負っているので油断はできない。


427 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/30(金) 09:23:30 c.G6iZq20
投下乙です。
三原、リュウタ、麗奈の三人による対浅倉戦。
人を守りたい気持ちをしっかりと認め心の中の音楽に耳を傾けた麗奈、図らずも原作と同じ結論に辿り着きある三原、可愛いリュウタ、三人の思いがどれも魅力的でした。
浅倉は王蛇が壊れちゃった時点でまぁこうなるのは仕方ない。
残るマーダーも残り少ない中、麗奈が対主催として戦ってくれる覚悟を決めたのは実に喜ばしいですね。

そして、全世界残り二人(キング@ブレイドを除いて)な状況から最初に出た死亡者、浅倉威。
龍騎の世界の命運は真司に託され、他の世界も全く気が抜けないこの状況、次はどの世界が崩壊するのか、そもそも崩壊するのか、一読み手としても楽しみです。

また、拙作に対するご感想、支援皆様本当にありがとうございます。
一つ一つじっくり読ませてもらって励みにさせていただいております。
今後とも是非ともよろしくお願いいたします。


428 : ◆.ji0E9MT9g :2018/03/30(金) 09:29:25 c.G6iZq20
あ、すみません。
真司君も勿論魅力的でした!
美穂の形見のデッキを浅倉に使われるのを何とかやめさせ、その残骸を回収、これで美穂も報われるでしょう
ブランクファムのデッキを手に入れ中にサバイブがあることに気付ければ翔一と張り合ってた格好いいフォームになれるけど……どうなるか


429 : ◆MiRaiTlHUI :2018/04/01(日) 02:33:16 YozZkbTE0
たくさんの感想ありがとうございます!書いた甲斐があります。とても嬉しい。
ところで今回の話なのですが、収録するにあたって、細部を修正させて頂きました。

具体的には、
・細かな文章の修正、会話の追加、戦闘中の描写や動作の追加
・前編後半の麗奈の描写と会話の追加
・浅倉死亡時の描写の追加、その後の死亡理由の考察見直し
・真司が美穂のカードデッキを回収するシーンの追加
あたりになります。
ちょっとこの分量を二度読むのはしんどいと思うので、修正したわかりやすいところだけここで報告させていただきます。


430 : 名無しさん :2018/04/05(木) 21:43:45 9u/QSp/Q0
年度末年度始で感想を後回しにしていた間に、一気に三作も溜まってしまった恐怖。
何事も後回しにしちゃいけないってことですね……とはいえ、めちゃくちゃ面白い話が連続で読めて大満足。これが嬉しい悲鳴ってか!

>>Bを取り戻せ
注目のVSダグバパート。シャイニング、キング、ハイパーと最強フォーム目白押しの超決戦!
特にジョーカーの男、左翔太郎がどう見てもヤムチャ的戦力だったジョーカーから、剣崎の意志を奪還したかのようなキングフォーム披露は燃えますねぇ!
伝聞とはいえ四号を知るアギト=翔一の仮面ライダーらしい啖呵、もう自分の前でブレイドに死んで欲しくないと身を投げ出す擬態天道も魅力充分。満を持して降臨しダグバさえハメる渡ダークキバも格好良いぜ。
そんな総力戦の末、遂にセッティングアルティメットごと最強マーダーのダグバ撃退! ……とはいえ肉体的にはまだまだ無事、勝利の最大の立役者が同じくマーダーのキング渡なので対主催楽勝ムードには遠く。
そのキング渡はおのれディケイドな悪評を吹聴しまくるものの、未だ前話の余韻が抜けない名護さんとの対峙がなんとも切ない。
彼にとって懐かしい居場所に座った擬態天道、果たして兄弟子の言葉をそうとは知らず真に受けて再びディケイドと対決してしまうのか? 先が気になりますぜ。


>>全て、抱えたまま走るだけ
こちらは勢力疲弊の目立ってきたマーダーのニューカマー、アンデッドの方のキング(紛らわしい)。
強豪怪人ながら、エクシードに目覚めたギルスの敵じゃないぜ! と言いたいところながら、主催側の特権をフルに活かしたかのような変身制限なし&自動封印なしの不死身っぷりはダグバとは別ベクトルで極悪過ぎる。
熱い逆転演出も話が変われば切れてしまったかのように涼を追い詰め、カリスに襲いかかられてもゾーンやベルデというまさにズルい支給品を活用して涼しい顔。地味に変身制限がなければミラーワールドに入らなきゃベルデも変身時間の制限がないということで透明化してやりたい放題。腹立つわぁ。
そんなキングを一旦とはいえ退けた始さんと葦原さん。剣崎の友と、彼の遺志を継ごうとする男の邂逅。
ディケイドに対するスタンスも元Dを狩る者たちの中では比較的温和なムッコロさんと、なんかすっかりもやしに攻略された感のある涼の会話で、東と違って西は世界の破壊者への悪感情は解消されるかな? でもキングフォームの影響あるからなぁ……そして対主催の要・乃木さんの復活や如何に。これまた続きの気になるパートでした。
それにしても今回の登場人物(嫌よ嫌よも好きのうちなキング含め)みんな、剣崎のこと好き過ぎるでしょ。Bを取り戻せでのブレイバックル奪還含め、自分も剣崎大好きだからほっこりしちゃう。


>>夢よ踊れ
「おかえり、(天才書き手◆)M(iRaiTlHUI氏)」
数年ぶりに◆MiRaiTlHUI氏のSSがまた読めて、とても嬉しいです。
元の世界からの、それ以上に深まった因縁で始まる城戸真司と浅倉威の激突。美穂の形見を浅倉の手から解き放つ、という決着は、これが仮面ライダー龍騎の物語であったなら真司の勝利でした。
しかし、この物語は平成ライダーロワ。ライダーデッキ以外にも絶大な暴力を複数持つ浅倉はマーダーとしてまだまだ負けていません。
そこから主役交代とばかりに真司とバトンタッチしたのはリュウタロス、が守りたいと思っていた麗奈。
人とワームの人格を統合してもなお、明らかにリュウタたちに情を抱き、ドレイクゼクターにも認められる彼女は会場内の紅一点に相応しいこの話の主役……の、はずだったのに、ラストを持っていくのはまさかまさかの三原ァ!?
デルタギアで凶暴化しないのはヘタレ過ぎたからではなく、特異体質の影響だったなんて……確かに前話の状態表でもテラーの影響が書かれてなかったけどもw!
しかもテラーの天敵は三原でも、三原の天敵が浅倉のはずなのに、真司たちが連戦で削ってくれたから戦ったらなんか勝てちゃったみたいな雰囲気なのが彼らしいけども、けども!
空気すぎる故に平和の担い手と呼ばれた三原、まさかまさかの大活躍……はっ、そういえば三原もまたM……!?
浅倉もちゃんと怖かったし何なら悲しかったのに、二人のMの放つ圧倒的な魅力に全てを鷲掴みにされてしまったようなお話でした。凄いぜ。


改めて、お二方とも投下お疲れ様でした!


431 : ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:03:47 QHlsF8kk0
>>430
ご感想ありがとうございます!毎度励みにさせていただいております。
話の流れ上仕方ない面もあるとは言え、今回も剣崎大好き面子によるお話でございます。ご了承くださいませ。

さて、それではただいまより投下を開始します。


432 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:04:21 QHlsF8kk0

乾巧が灰と化し、志村純一が封印されてから、既に30分ほどが経過していた。
巧の遺体がそのまま灰となり後に首輪だけが残された為それを首輪解析機にかけている間、時間を持て余すのも惜しいと残された彼らはGトレーラー内で多くの支給品を囲んでいた。
もちろんそれをそれぞれに分配するため、そしてそれによって戦力を可能な限り平等にするためだ。

「まずは志村と巧の支給品から分けるぞ。特別必要ないものはこのデイパックに分ける」

士が、他の4人に向けそう言いながらその手に荷物の入ったデイパック2つともう一つ何も入っていないデイパックをぶら下げた。
まずは志村のデイパックが開示され、それによってフィリップを襲いダイヤのカテゴリーキングのカードを奪ったのも志村純一であったことが判明したが、姉の敵であったことがわかった後にその程度のことがわかったところでフィリップには今更それに対してどうこう言うほどの怒りも沸いてこなかった。
そして変身道具が分配され、グレイブがフィリップ、オルタナティブ・ゼロが良太郎、ナイトが橘に渡る。

 同時にラウズカードは村上の持つ志村自身が封印されたアルビノジョーカーのカードを含め橘に渡り、それ以外の志村の持っていた武器は生身で持つには危険物にしかならずまた護身用として持っていてもこれから先生き残っている参加者相手には有効打たり得ないと判断された為に不要な支給品用デイパックに纏められた。
 次に巧のデイパックが開示され、それにより首輪探知機という強力無比な支給品が明らかになったが、これはこの場でなし崩し的にリーダーを務めている士の所有物となった。
 しかし残されたもう一つの支給品に、即座に手を伸ばすものが一人。

 「……何のつもりだ、村上」

 村上峡児、彼が一切の疑問を持たぬままその手を真っ直ぐにそのベルトへ伸ばしたその手から、士はファイズドライバーを離す。
 その彼の様子に一切の理解が出来ないといった様子で笑うのは、もちろん村上だ。

 「何のつもりとは心外ですね。……ファイズのベルトは元々我が社の所有物だ。それにこの場で私以外が扱えないその鎧、持て余すにはあまりにも過ぎた力だ」
 「それは分かってる。俺が言ってるのはそこだ村上。お前は、お前にしか使えない力を余りに多く持ちすぎてるんじゃないか?」

 カイザと同じく全く問題なく自分のものになると疑わなかったそのベルトを渡すのを渋ることに村上が冷静に抗議すれば、それを待っていたとばかりに士は口を開く。
 それを言われ、村上は思わず苦笑する。
 つまりは、彼は自分が裏切り殺し合いに乗るなどしたとき、自分が持っている変身能力があまりに多いとそれがそのまま自分を抑える際の障害になるということを危惧しているのだ。

 確かに、それは必ず危惧しなければならない問題だ。
 今の自分がファイズを手に入れれば、自分とは切り離せないオルフェノクの力を含め5つもの変身能力を所有することになる。
 この首輪がなければ一切考慮の必要のなかった要素であっただけに、村上もそれについて考慮するのが遅れてしまった。

 しかし、それもここまで。
 変身能力を多く持っていることが問題だというのなら、それを減らすことで彼の懸念の一つは軽減できるだろう、と彼は懐のバードメモリを取り出す。
 そしてそのままそのメモリを全員が見ている中で士の持つ不要な支給品を纏めるデイパックに落とした。

 「……何の真似だ、村上」
 「見ての通りですよ。貴方が私の変身能力の多さを懸念するというのなら、その内の一つ、特に冴子さんとフィリップくんの両者が副作用の危険性を説いていたガイアメモリを手放すことは厭わないということです」

 実際には、冴子はガイアメモリの毒性を秘匿していた。
 が、それについて深く言及するのも仮にも彼の弟であるフィリップの気を損ねるだけだったし、同時にそれがそのままチーム内不和にしかならないことも知っていた村上は、いっそ冴子も毒性について語っていたことにしてしまおうと考えたのだった。
 と、再度士の顔を見つめれば、しかし予想通り未だ自分にベルトを渡すのに踏み切れないようだった。

 ファイズの力がバードよりも遙かに強いから?それもあるかもしれないが、本当の理由は別にあると、村上は既に見抜いていた。


433 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:04:44 QHlsF8kk0

「――乾さんの遺品が、私に使われるということにそこまで抵抗がありますか?門矢さん」
「……」

 全てを見透かしたような顔でそう言いながら一つ息を吐く村上を、士は睨み返す。
 彼と巧の付き合いは決して長くなかったはずだが、しかし同時に決して軽んじられるような軽薄なものではなかったはずだ。
 そんな仲間が敵対視していた男にその力を渡すことに、流石の士も抵抗があったということなのだろう。

 周りを見渡せば、強く主張はしないもののフィリップや橘といった巧をよく知る参加者も同じ心境であるらしく、やるせない表情を浮かべていた。
 それに対し全く甘ちゃんで不愉快な方々だ、と心中で皮肉を吐きながら、しかし一応はチームである現状それを悪くする必要もないと村上は気持ちを切り替える。

 「……門矢さん、お気持ちはお察しいたします。しかし、乾さんとファイズは本来同一視されるべきものではない。ベルトは所詮力。乾さんの信念によって彼の正義を果たす時もあれば、同時に私の信念によって用いられる時もある。
そこに違いは存在しません。ただ一つ間違った扱い方が存在するというのなら、それはその力を恐れ持て余すことだ、と私は思います」

 理路整然とした村上の言葉に、士は数瞬考えるような素振りを見せた後、ゆっくりとそのベルトを村上が手を伸ばせば取れる位置に置いた。
 
 「お前の言うことにも一理ある。これは、今お前に渡す以外じゃ無駄にしかならない。この力を持て余すことなんて、大ショッカーを倒す上で誰も望まないことだ」

その言葉に対しフィリップたちが些か驚愕に満ちた声をあげるも、しかしそれに取り合うこともなく士は再度伸びかけた村上の手を遮る。
 これには流石の村上も付き合いきれないとばかりに溜息を漏らしかけるが、しかしその目をしかと見つめながら士は口を開いた。

「――だが、条件がある」
 「条件……?」

 村上の言葉に、士は頷く。
 力を放棄し、その上でこの力を使うことに賛同しながら、一体何を?
 口約束だけの条件など意味がないことを、皮肉にも村上が殺し合いに乗っていないという言葉で痛感しているはずだというのに。

 「今ここでお前にファイズ、そしてカイザを渡す代わりに、巧の首輪が解析出来てからもお前の首輪はまだ解除しない。それが条件だ」
 「何を言い出すかと思えば……!」

 士のその言葉に、村上は思わずといった様子で立ち上がる。
 種族毎に首輪が異なり、恐らくは巧と村上のものは完全な同一規格のはずであった。
 故にその首輪が解析され内部構造を理解できれば、間違いなく自分の首輪は解除されるだろう、と村上は睨んでいたのだが。

 それを、本来自社の所有物であるベルトを引き渡す代わりに先延ばしにしろと?
 全く以てお笑いとしか言いようがなかった。

 「お前の怒りは理解出来る。だが、お前が最初に首輪を解除し変身制限を無視できるようになったときを考えると、悪いが他に最低後一人は首輪を解除してる奴が欲しい。……理由は、言わなくても分かるな?」
 「……えぇ、もちろん」

 言いながら、村上は自身から発せられる威圧が膨れあがっていくのを抑えることは出来なかった。
 つまりはこういった面が彼に単身での首輪解除を拒ませる理由の一つなのだろうが、しかし自分にとってそれを隠すような演技をする理由もない。
 まぁそもそも巧から自分の悪評を散々聞かされた後だろう彼らを前に、今更元の世界で人間に見せていた敏腕若手社長としての表情で機嫌を取ろうとしたところで逆効果にしかならなかっただろうが。

 故にこれは自分がどう立ち回っていたとして訪れた問題なのだ。
 自分が抱くオルフェノクを至上とする正義が彼ら別世界の仮面ライダーにも理解されなかっただけのこと。
 そう考えればむしろ下手に演技を駆使して彼らを懐柔しようとしていない分だけ、志村純一に騙された彼らに対しては「いずれこいつの首輪も解除しなければいけない」という立場に立てているだけ喜ぶべきなのかもしれない。


434 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:05:06 QHlsF8kk0

 であれば、今自分がすべきはこの士の提案に対し怒りを露わにし周囲から警戒されることではない。
 取りあえずは彼の提案を快く受け入れつつ念願のファイズのベルトを手にしてこれ以上の参加者が増えたところで自分の首輪解除の順番を確保することのはずだ。
 むしろ士がこうして首輪解除を他に何人か出来た後であれば自分の首輪を解除することに異論はないというような言質を取れたと、好意的に捉えるべきではないのか。

 ここまでを少し顔を俯かせた数秒の沈黙の間に思考し終えた村上は、再度士に振り返りいつもの笑顔を浮かべた。

 「……分かりました、門矢さん。私の首輪解除は後に回していただいて構いません、が私は時間の浪費が嫌いでしてね。
もしもあなた方が故意に私の首輪を解除することを先延ばしにするようであればその時は――」
「――分かってる、心配するな。俺は約束は守る。勘違いされたくないから先に言っておいたってだけだ」

 一応釘を刺しつつ、村上は士が手を退けたファイズドライバーを自身のデイパックに収める。
 カイザに続き、これで二本目。
 最早自分の持つオーガのみで十分な気もするが、しかし王を守る三本のベルトを揃えておくことはいずれ来たる王の復活と、そしてオルフェノクの未来を盤石なものにするために無駄なことではないはずだ。

 (であれば、残りはデルタ……ですか)

 最期に残ったベルトの一つの名を思い浮かべながら、村上はそれを持っているであろうこの場で最期の流星塾生の生き残りのことを考えていた。

 「すまないな、門矢。首輪の解除を村上から行う訳にはいかないとは言え奴にファイズを渡すような役回りをさせてしまって」
 「いや、気にしなくていい。村上も言ってたが、結局ベルトはベルト。力は力だ。誰が使うか次第でその性質は大きく変わる。
例えそれでファイズが巧の望まない形になるとしても、俺たちが止めれば良い。力があるのに持て余すほうがよっぽど罪深いさ」
「……なるほど」

 一方、村上との静かな戦いを終えた士は橘に受けた労いの言葉にやはり何てことのないように返す。
 それを受け少しの間の後に彼方を見やった橘は、同様に自分と同じくその視線をここではないどこかへ走らせている良太郎とフィリップを認める。
 恐らく、自分を含め三人とも今の言葉を受け、考えたことは同じだろう。

 つまりは、力は力。それを扱うもの次第で、その性質は大きく変わると言うこと。
 今橘たちの手にあるのは、先ほどまで多くの参加者を騙し続けその命を吸い続けた死神が駆使していた力だ。
 その力を纏わなければいけないかもしれない状況に、忌避感が全くないと言えば、勿論嘘になる。

 秋山という別の参加者が立派に仮面ライダーとして用いていたナイトのデッキを持つ橘でさえそう思うのだ、志村しか扱っていたのを知らないグレイブとオルタナティブを持つ彼らにはより一層そうした感情が巻き起こっているかもしれなかった。
 しかしそうして行き場のない感情を抱いていた彼らに直接言うわけでもなく、士は言った、力は扱う人によってどうにでも変えられると。
 未来の橘が作り上げたライダーシステム、とある天才がミラーワールドを閉じるため開発した疑似ライダー、そして愛する女性のため戦った一人の騎士の鎧。

 それらが本来持っていたはずの理想や或いは目指そうとして挫折した希望。
 もしも志村によってそれらがねじ曲げられたというのなら、自分たちの手でそれを成すべきではないか。
 先ほどまで鬱屈とした感情を抱いていたのが嘘のように、彼らの表情は明るいものに変わっていた。

 村上を説き伏せつつ、三人がそれぞれ抱いていたやるせない思いも同時に解消したのは、果たして狙い通りであったのか、或いは偶然か。
 門矢士という存在にこの場の空気が動かされているのを感じつつ、橘はふとトレーラー内に散乱する志村の持ってきた荷物に目をやった。

 「これは……確か、始のいる店の親子か」

 そこにあったのは、始がその正体を知らせぬまま居候している白井虎太郎の姪と姉、栗原親子と恐らくは彼女らの父であり夫の移っている写真であった。


435 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:05:24 QHlsF8kk0

 「それは、草加雅人に支給されていたものだね。知り合いかい?」

 何気なく目についただけの写真であったが、それを以前にも目にしていたフィリップが口を挟んでくる。

 「あぁ、まぁな……」

 その問いに僅かに返答を戸惑いつつも、橘はこれを今の状態の始に見せたときどういった反応を見せるのかで彼の状況に判断がつくのではないかとも考えていた。
 つまり自分の考えていたようなジョーカーとしての本能に支配された時期なら一切反応しないだろうし、自分のよく知る最近の彼であればこの写真を傷つけることなど考えもしないはずだ。
 であれば、或いはこの支給品は有用なものかもしれない、と彼はそのまま懐にその写真を忍ばせた。

 その最中も、手を止めている時間はないとその周辺に散らばる恐らくはヒビキの世界のものだったであろう剣やバイオリン、ショットガンを士の言う不用意なものを集めるデイパックに集めていき、ディエンド用ケータッチの名がついたそれは士の手に渡った。
 と、そんな中フィリップが二つの支給品をその手に持ったまま止まっているのを見て、橘もまたその動きを止めた。

 「どうした、フィリップ?」
 「……すまない、何でもない。この二つは五代雄介に支給されていたものだったから、少しその時の会話を思い出して」

 言いながら、フィリップは少し儚げに笑う。
 園咲邸での支給品開示の際、五代がそのデイパックより取り出した二本の飲料水のものらしい瓶と禍々しい雰囲気を持った包丁。
 普通に考えれば外れも良いところのその支給品をしかし、五代は一切気にせずどころかクウガの力があるから大丈夫だと戯けていた。

 しかしその言葉に不安を抱く前に何故か安心してしまった自分を思い出して、同時に五代の笑顔も思い浮かべてしまったらしい。
 少ししてそれが悲しく思えて、フィリップは手に持った支給品たちをそのまま不要な支給品入れに纏めた。

 「さて、これでGトレーラーの中のものは整理し終えたな。なら次は俺たちに支給されてるものを整理するか。もしかすれば、お互いの戦力になるものがあるかもしれないしな」

 少し湿ってしまった空気を払拭するように、あえていつもの調子で士が仕切り出す。
 それを受けその提案に不満はないと彼らもまたデイパックを広げた。
 とは言っても、フィリップと橘のそれは殆ど整理が完了しており、今更着る理由もないゼクトルーパースーツをかさばるという理由で、またライアーのメモリも毒性の関係と解析はフィリップがいる以上必要ないと不要な支給品に分配された以外は既に他者が入り込む隙はないように感じられたが。

 そんな中で、次に開示されたのは士のものだった。
 ディケイドやディエンドのカードやドライバーは問題なく彼のものとして認められたが、続いて出てきた二つの支給品は、その場を沸かすものであった。

 「それ、桜井さんの……!」
 「これは……、僕たち家族全員の名前が彫ってある……」

 この場に来てすぐに確認し自分には縁のないものだと放置していた二つの支給品が、それぞれ仲間の思い出の品であったらしいことを認めながら、士はそれを取り出す。
 その支給品は、それぞれ彼らの大事な存在を想起させるものであった。
 良太郎が昔姉と交際していた桜井という男からもらった懐中時計と、フィリップがもう忘れてしまった過去、家族全員の名前を書いた悪魔のしっぽ、イービルテイル。

 それらを多くの思い出と共に感謝を述べそれぞれ懐に収めた彼らを前に、村上もまた士に対しデイパックより二枚のカードを取り出し、それを差し出した。

 「これらのカードが一体何に使用するものなのか一切理解出来ていませんでしたが……どうやらあなたのカードと同規格のもののようだ。これは貴方にお譲りしますよ」

 言葉と共に差し伸べられたのは王蛇、歌舞鬼のディエンド用ライダーカードセット。
 それに一言礼を述べつつ彼もまた新たなカードを懐に収めた。
 これにより士の戦力もまた増強し、この場のメンバーの戦力は申し分ないものになったと言って差し支えないだろう。

 「橘朔也、ディケイド、そろそろ乾巧の首輪が解析出来た頃だ。一旦病院に戻ろう」
 「あぁ、わかった」

 と、時計を見やったフィリップの提案によって、この場のメンバーは全員病院に向け再度歩き出した。


436 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:05:47 QHlsF8kk0


 ◆


 「やはり秋山蓮と北岡秀一のもの、それにイマジンやアンデッドのものとは構造が大きく違う。これで参加者の種族が後天的か先天的かの差異ではないことが証明されたね」
 「あぁ、だがやはり問題は先ほどまでと全く変わっていない。同じ世界間でなおかつ種族の異なる参加者の首輪を解析しなければ俺たちの首輪解除には繋がらない」

 新たに得られた首輪の解析結果を二人で食い入るように見入りながらそう話す橘とフィリップ。
 士もまた首輪解除に有力な情報や技術を提供できるかもしれないと一応同席してはいるが、こういった理論詰めの話は正直聞いていて眠くなる。
 そもそもにして自分の才能の多くは“やっていた記憶もなにもないが何故かやろうと思えば出来る”といった類いのものだ。

 そんな自分が一歩間違えれば参加者の命を奪うことにもなってしまいかねない首輪解除のための要因として数えられているというのは士自身少々不安に感じてしまう。

 「――どうする?百聞は一見にしかず、百見は一触にしかずだ。二つある龍騎の世界の首輪を試しに分解してみれば、少なくとも城戸の首輪解除に役立つし、上手くいけば特殊な種族ではない参加者の首輪を解除出来る可能性もある」
 「確かに、こうしてここでずっと仮説を話していても意味はない。君の言うとおり一度首輪を分解してみるべきだろうね」

 そんな事を士が思う中、首輪解除要因としての責任感が人一倍強い二人は同種の首輪が二種類存在する北岡と蓮、二人の首輪を分解することを決める。
 それによって少なくとも一人、友好的な参加者の首輪を解除出来る可能性が出来るのだから、時間を無駄にしないためにも早くに着手するべきだった。
 と、一応の方針を打ち立て立ち上がった彼らに士も追随しようとして、後方から聞こえてきた良太郎の「アレ?」という声に振り返った。

 「どうした?良太郎」
 「――村上さんが、いない」

 サーッ、と青ざめた顔でそう言う良太郎を受けて、彼らも同様に周囲を見渡す。
 村上峡児、正直なところ、単独行動を許すのはあまりに危険すぎる彼から目を離してしまった事実に歯がみしつつ、しかし士はすぐに異変に気付いた。
 先ほどまで、接近者に誰かが気づけるようにとすぐそこのテーブルに置いてあったはずの首輪探知機が、消えている。

 「やられたな……」

 それを見て、橘は悔しそうな表情を浮かべる。
 村上が首輪探知機という有用な支給品を持ってチームから脱退したと思っているのだろう。
 士も一瞬そう考えかけて、しかし違うと頭を振る。

 こんなに早くチームから抜けてしまうなら、Gトレーラー内で自分に戦力をみすみす渡す必要はない。
 それに後回しにされるとは言え首輪を解除する約束まで取り付けたのだから、彼の言葉を信じ大ショッカーに反逆を企てているのならあまりにも無意味な行動である。
 と、そこまで考えて、士は先ほどの村上との会話を思い出し、思い至る。

 村上のやろうとしていることと、首輪探知機をこうして持ち出した理由を。

 「あいつ……!」

 そこまで考えてからは、早かった。
 仲間の制止する声をも無視して、士は村上が向かったであろう場所まで向かう。
 首輪探知機などなくても、暗闇の中でも、一直線に彼はその足を速めていった。

 そして、間もなく見つける。
 自分が思ったとおりの場所で、首輪探知機を持ち、立ち尽くしている村上の姿を。

 「――村上!」

 走ってきたために乱れた呼吸を整えながら士が叫ぶと、村上はいつものように余裕を持って振り返る。

 「門矢さんですか。心配させてしまったなら申し訳ありません。首輪を入手して、またすぐに戻ろうと思っていたのですが」


437 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:06:05 QHlsF8kk0

 その村上の言葉を聞いて、やはり自分の考えは間違っていなかったらしいと士は思う。
先ほどの首輪解除を後回しにするという会話の中で、自分は確かに聞いた。
『もしもあなた方が故意に私の首輪を解除することを先延ばしにするようであればその時は』という、村上の言葉を。

 あの時はそれを余りにも軽く考えていたが、村上という男の価値観から言えば、橘とフィリップの首輪の種類に関する疑問を最も早く解決し最終的に自分の首輪解除を早める為に必要なことは首輪のサンプルを増やすことだという事ぐらいすぐに理解するはず。
 そして、恐らく彼は首輪探知機を見た瞬間、それに反応する動かない点、つまり死体が側にあることなどすぐに見抜いたのだろう。
 故にこうして反対意見を述べるだろう自分たちには内緒で首輪を入手し、事後報告で済ませる気だったのだろう。

 他でもない、もう誰にも傷つけられたくないとそこに埋めた、剣崎一真の首輪を入手したことを。

 「門矢ッ、無事か!」

 ようやく士の息も整ってきた頃、後方より追いかけてきた橘たちの声が聞こえる。
 ここに来る途中で彼らも村上のしようとしていたことが薄々と理解出来たらしく、その目には焦りが見られた。

 「やれやれ、どうやら私に信頼は一切ないようですね。皆さん」

 残念です、と続けた村上に対し、しかし士はなお肩を怒らせ彼を威嚇する。

 「……村上、ここで何をしようとしていた?」
 「そんなこと言わなくても分かるでしょう。彼の首輪を頂戴しようと思いましてね。出来れば、首輪のサンプルは多い方がいいでしょう?」
 「……剣崎の首を、切り落としてか?」

 橘の静かな問いに、フィリップと良太郎も何も言わないながら無言の抗議を申し立てる。
 剣崎一真という人間の話は伝聞でしかしらないが、しかし立派な仮面ライダーだったらしい彼の安らかな死を妨げ、掘り起こした上でその首を切り落とす。
 それは余りにも残酷で彼の尊厳を無視する行為のように感じられたからだ。

 しかしそんな4人を前に、村上はしかし一切余裕を崩すことはない。
 どころか間違っているのはお前たちの方だと言わんばかりに鼻で笑い一歩足を進める。

 「――では、首を自分で切り落とさなければ首輪を手に入れることに罪悪感はないのですか?」
 「何?」

 村上から吐き出されたのは、意外な問いだった。
 それに思わず困惑した士を尻目に、村上はなおも続ける。

 「凶悪犯罪者のものであれば、首を躊躇なく切り落とせるのですか?生前の行いをその死体にまでぶつけ“彼は首を切り落としてもいい者だ、彼女は首を切り落としてはいけない人物だ”と分別をすると?私には、その方が余程汚く思える」

 知らず知らずの内思わず語調が強くなっているのに気付いたのか、村上は一度咳をし、いつもの余裕を取り繕う。

 「……つまり、私が言いたいのはあなたたちが手にし、そして希望を抱いているその首輪には、それぞれその首輪が繋いでいた首があり、その重みに差はないはずだ、ということですよ。もちろんこれは、あなた方の命に対する倫理観が一般に考えられているそれと剥離していなければの話ですが」

 息もつかせぬ勢いで、しかしよく通る声で話す村上に、4人は圧倒される。
 これが村上という男の話術なのか、と息を呑む中、村上は再び4人を見渡し、そして口を開く。

 「――あなたたちが灰の中から拾い上げた首輪と、今ここに眠る彼の首輪。そこに違いを見いだし私を批判するというなら、所詮それはあなた方自身によって形成されたエゴによるものでしかない。都合良く首輪を手に入れてくれる誰かを批判するだけで自分の手を汚していない気になるのは、あまりに都合の良い考えだ」

 そこまで聞いて、士は村上の本当に言いたかっただろうことを察する。
 つまりは、村上もまたオルフェノクの死によって生まれた灰の山、そこに自分たちと同じく感傷を抱いたのかもしれなかった。
 確かに死の際に灰化した参加者の首輪を用いるのに抵抗がないのに、誰かの首を切り落とすのには抵抗を示すというのは、自分たちが人間だからこそのエゴなのだろう。


438 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:06:29 QHlsF8kk0

 思わず沸いた指摘とそれによって自分の中に存在した自覚のない差別を感じて、士は押し黙ってしまう。
 しかしそんな彼の一歩前に歩み出たのは、橘だった。

 「――確かに、お前の言うとおりだ。俺たちは首輪を解除すると言っておきながらその手を汚していない気でいたかもしれない。こうして俺たちの手に首輪がある時点でその一つ一つに命があったはずなのにな」

 その手に先ほどまで解析していた巧のものを含め計6つの首輪を携えながら、橘は言う。
 少しの戸惑いの後、彼は意を決したようにその足を剣崎が埋まっている場所の真ん前にまで進めた。

 「剣崎は、誰かが傷つくくらいなら自分が盾になろうとする男だった。自分の首輪で大きく事態が好転するのに俺たちが放っておいたなら、きっと安らかに眠り続けることなんて出来ないだろう」

 そこまで言って、彼はその土をゆっくりと掘り起こしだした。
 万国共通の禁忌、死者の眠りを妨げること。
 これからそれをしなければいけない事実と、しかし一方で剣崎はこうすることでようやく安らかに眠れるのだろうことを橘は思った。

「……本当に、いいのか?橘」
「あぁ、恐らく剣崎なら……誰か別の参加者の首を落とすくらいなら自分の首輪を使えと、そう言うだろうからな」

そうして少しの時間の後、彼らの目の前には、掘り起こされた大量の土と、剣崎の遺体があった。
死後6時間以上を経過したことによりすっかりその肌からは生気が失せ、生前に比べればその顔はいささか膨れている。
しかし一方でその首に輝く銀の輪だけが変わることのない激しい主張を彼らに示していた。

今、彼らは選んだのだ。
剣崎の首を切り落とすこと、それが最も自分たちにとって苦しい選択肢だと知りながら、いやだからこそこの殺し合いを乗り越える為に自分たちがどれほどの命の上立っているのかを忘れないために。
この場にいる参加者にとって決して少なくはない大事なことを教えてくれた剣崎一真、その首を刎ね、その首輪を首輪解除への大きな一歩にすることを。

目の前に晒された遺体を見て、橘も、士も、フィリップも良太郎も、村上でさえ多くを語ることはしなかった。
橘は、ただじっとその閉じられた瞳を見つめる。
戦いの中誰かを守り死んでいったという剣崎の死に様を仲間として、いやそれ以上に友として誇りに思いこれ以上誰にも傷つけられることを拒んだために、彼をここに埋めた。

それを裏切ってしまうことは辛く避けたかったが、それ以上に剣崎は自分の首輪を無視して他の誰かの首を刎ねることの方が絶対に嫌がり否定するだろう事も、長い付き合いでわかってしまっていた。
だから、今は友でもなく、仲間でもなく、その遺志を継いだ戦士として、剣崎の首を刎ねる決意をしたのだ。
その瞳に、最早迷いはない、剣崎をよく知る存在として、これが彼の望んだことだと、確信があったから。

「……」

橘の手には、サソードヤイバーが握られている。
それは或いは死神の鎌のようにも見えただろうが、しかし少なくともそこにいる彼らには、そんな禍々しいものには見えなかった。
その首にゆっくりと刃を近づける橘を見やりながら、士は自分と剣崎の付き合いも、存外長いものになってしまったと思う。

ライダー大戦の世界で初めて出会った時はその圧倒的な実力に敗れただの強敵として認識していただけだったが、後に聞いてみればユウスケに接触しその覚悟を問うていたらしい。
橘から聞いた相川始との関係も相まって、或いは剣崎はユウスケにも破壊者である自分を仲間として認め運命に抗う意思があるのかどうかを知りたかったのではないだろうか、と思えたのである。
或いは、あの剣崎は今目の前で眠る一真とは、やはり別人なのかもしれない。


439 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:06:51 QHlsF8kk0

それでも彼もまた剣崎一真である以上、完全な外道ではなかったのだろうと思える分だけ、彼との交流は今の士には良いことに思えた。
そこまで士が考えると同時、橘はその剣を勢いよく振り切る。
その刃を幾分か凝固した血液と筋肉が止めようと抵抗するが、しかしサソードヤイバーの切れ味の前には溶けたバターも同然であった。

それによってゴロンと音を立て剣崎の頭が転がったのを見て、思わず良太郎とフィリップは目を背け、しかし橘と士はその行く末すら見届けようとするようにその目をしかと見開いていた。
まるで、この殺し合いのふざけたルールに翻弄され死んだ剣崎の全てをその目に焼き付けるかのように。
数秒の後、士は未だ目を背け青い顔をしているフィリップにその首輪を手渡し、しかし自分は再びその足を剣崎の埋まっていた穴へと移した。

「――フィリップ、先にこれを解析していてくれ。俺たちは一真を埋めてから行く」
「……分かった」

士の絞り出すような言葉にそこに込められた言葉の意味を察しつつ、フィリップは良太郎を連れ病院へと向かう。
その背中に、一瞬だけ土を埋めなおす音が聞こえなかった瞬間僅かに濡れた音が響いたことは、誰にも告げないことを胸に誓いながら。


【二日目 黎明】
【E-5 病院跡地】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、決意
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:巧に託された夢を果たす。
2:友好的な仮面ライダーと協力する。
3:ユウスケを見つけたらとっちめる。
4:ダグバへの強い関心。
5:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
6:仲間との合流。
7:涼、ヒビキへの感謝。
8:黒いカブトに天道の夢を伝えるかどうかは……?
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、ファイズ、ブレイド、響鬼の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※参戦時期のズレに気づきました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は光夏海以外には出来ないようです。
※巧の遺した黒いカブトという存在に剣崎を殺した相手を同一と考えているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。




【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、精神疲労(中)、仲間の死に対しての罪悪感、自分の不甲斐なさへの怒り、クウガとダグバ及びに大ショッカーに対する恐怖(緩和)、仲間である仮面ライダーへの信頼
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J、K、クラブJ〜K、アルビノジョーカー)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ザビーブレス@仮面ライダーカブト、ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式×4、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼、栗原家族の写真@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:まずは今後の方針を考える。
2:乾に託された夢を果たす。
3:首輪の種類は一体幾つあるんだ……。
4:信頼できる仲間と共にみんなを守る。
5:小野寺が心配。
6:キング(@仮面ライダー剣)、(殺し合いに乗っていたら)相川始は自分が封印する。
7:出来るなら、始を信じたい。
8:剣崎……許してくれ……。
【備考】
※『Wの世界万能説』が誤解であると気づきました。
※参戦時期のズレに気づきました。
※ザビーゼクターに認められました。
※首輪には種類が存在することを知りました。


440 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:07:10 QHlsF8kk0




【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+(T2サイクロン+T2エターナル)@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:剣崎一真の首輪を解析する。
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除は、状況が落ち着いてもっと情報と人数が揃ってから取りかかる。
5:首輪をそろそろ分解してみるか。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※鳴海亜樹子と惹かれ合っているタブーメモリに変身を拒否されました。
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をエクストリームメモリのガイアスペース内に収納しています。




【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】強い決意
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、桜井の懐中時計@仮面ライダー電王
【思考・状況】
基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。
0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。
1:巧に託された夢を果たす。
2:リュウタロスを捜す。
3:殺し合いに乗っている人物に警戒
4:相川始を警戒……?
5:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※変身制限について把握しました。
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されていましたが、フィリップからの情報で誤解に気付きました。


441 : 決める覚悟 ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:07:27 QHlsF8kk0




【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】健康
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:人は許せない、がここでは……?
2:乾さん、あなたの思いは無駄にはしませんよ……。
3:世界の破壊者、という士の肩書きに興味。
4:首輪の解除に関してフィリップたちが明らかな遅延行為を見せた場合は容赦しない。
【備考】
※変身制限について把握しました。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されていましたが、フィリップからの情報で誤解に気付きました。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。
※今後この場で使えない、と判断した人材であっても殺害をするかどうかは不明です。




【全体備考】
※首輪は現在、北岡、秋山、巧、剣崎、金居、志村、ネガタロスの7つがあり、うち北岡、秋山、巧、金居、ネガタロスのものが解析済みです。現在は剣崎の首輪を解析しています。
※支給品一式×7、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 、G3の武器セット(GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GK-06ユニコーン)@仮面ライダーアギト、ブラッディローズ@仮面ライダーキバ 、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、デザートイーグル(2発消費)@現実、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードは付いていません)@仮面ライダーカブト、変身一発(残り二本)@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、ガイアドライバー(五代)@仮面ライダーW、黒包丁@仮面ライダーカブト、バードメモリ@仮面ライダーW、ライアーメモリ@仮面ライダーWがGトレーラー内の不要な支給品用デイパックに纏められています。
※E-5エリアにGトレーラー、トライチェイサー2000Aが停車されています。


【支給品紹介コーナー】
【栗原親子の写真@仮面ライダー剣】
草加雅人に支給。栗原親子が三人揃って写っている写真。相川始はこれを頼りにハカランダに辿り着き居候することになる。

【黒包丁@仮面ライダーカブト】
 五代雄介に支給。料理人の間で伝わる伝説の包丁。これで料理をすると人の気持ちを自在に操れると言われ、劇中では蕎麦屋の老舗を継ぐ田所弟や、天道が師と仰ぐじいやを料理勝負で完膚なきまでに叩きのめした。

【桜井の懐中時計@仮面ライダー電王】
 門矢士に支給。現代の桜井侑斗が常に持ち歩いている懐中時計。“過去が希望をくれる”の文章が刻まれており、良太郎や侑斗(過去)がこれに勇気づけられた。

【ライダーカードセットB(王蛇、歌舞鬼)】
 村上峡児に支給。ディエンド専用のライダーカード。それぞれ龍騎の世界に存在する仮面ライダー、王蛇と響鬼の世界に存在する仮面ライダー、歌舞鬼の力が込められている。

【イービルテイル@仮面ライダーW】
 門矢士に支給。園咲一家がまだただの家族だったころ、家族全員の名前を記した刷毛。これに家族の名前を書き願いを忘れなければ家族はずっと一緒らしい。


442 : ◆.ji0E9MT9g :2018/04/11(水) 23:08:25 QHlsF8kk0
以上で投下終了です。
今回は繋ぎ的な面が大きくて申し訳ありません。
ご意見ご指摘ご感想などございましたらお手数ですがよろしくお願いします。


443 : 名無しさん :2018/04/11(水) 23:21:02 u4WQvRys0
投下乙です!
村上社長の言葉はとことんまで筋が通っていて、そして冷徹ながらも実に頼りになる方だと実感します……!
ファイズギアは確かに社長が持っているからこそ力を発揮しますし、たっくんの遺志を汲み取るならこれ以外の選択肢は存在しないのですよね。
また、剣崎の首輪を手に入れようとする論理もどこまでも正しく、誰にも否定はできない。サソードヤイバーを手に取った橘さんの姿がとても悲しく見えました……


444 : 名無しさん :2018/04/16(月) 20:10:09 j9Owk7qw0
投下乙です!
自分の首輪を解除するために皆を出し抜いて死者の眠りを妨げ、剣崎の首輪を手に入れようとするとは薄汚いオルフェノクめ……! と感じてすぐ、お、俺はオルフェノクを差別していた~!!と深く反省させられる村上社長の弁舌。
灰になったオルフェノクのたっくんから首輪を貰うのも、土葬された人間の剣崎から首輪を手に入れるのも同じ……受け入れ難いことですが、オルフェノクである村上社長が言うと無視できない事実ですね。……ただ、欲張って三原からデルタを奪おうなんて考え出したのは彼の聖域っぷりを見ると一種の危険信号のような悪寒も; どうなるやら
その社長の首輪解除後に対する抑止力として首輪解除が見えてきた橘さん、栗原母娘の写真を懐に入れるなどフラグも集まってきた感じですが、剣崎の首を落とすという行為がどれだけのショックになったのか。
士の涙含めて、繋ぎ回と思わせて実に読むのが辛い前進回でした。執筆、お疲れ様でした。


445 : 名無しさん :2018/05/08(火) 21:33:18 lc4SEO8A0
予約来ないかな


446 : ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:01:11 iTar0HZ60
長いことお待たせいたしました。
ただいまより投下を開始いたします。


447 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:01:41 iTar0HZ60

空は高く、星が輝く夜。
 人工的な灯りが一切存在しない焦土は、今の彼らにとってはどこまでも続く闇のように思えた。
 この足が果たして目的地である白の巨塔へ真っ直ぐ向かっているのかと生まれた戸惑いを、額の汗と共に拭って彼、小野寺ユウスケは歩き続けている。

 「……多分、そろそろ病院に着きますよ。一条さん」
「あぁ、本当にすまないな、小野寺君……」
「謝るのは俺の方です。五代さんならそもそもこんな風に一条さんに苦しい思いさせたりしないでしょうから……」
「小野寺君……」

 月明かりのみを頼りにただ黙々と歩き続けるのに嫌気がさしたのか、ユウスケはその背に負っている一条刑事に声をかけた。
 それにもう幾度となく聞いた謝罪を再度述べた一条の声に対し、苛立ちではなく安堵を抱いて、再びユウスケは足を進めていく。
 放送を聞き歩き出してから、既に二時間ほどが経過している。

普通に考えれば既に二エリアほどは歩いていてもおかしくないだろうが、ユウスケの今の体調で成人男性を背負ったまま歩くことは負担が大きかった。
それに、少しでも歩くペースをあげれば背負っている一条が苦しそうに呻くために、彼も意識して速度を緩めているのだ。
彼らが向かっているのはD-1エリアの病院。

ダグバに再度対峙した際に今の自分ではどうしようもないだろうことや、何故か先ほど戦っていたE-2エリアに戻りたくないと感じてしまうことを考慮しても、なおE-5エリアの病院は遠すぎた。
恐らくはF-1周辺だっただろうこの歩みを開始した地点からこれほどの時間を費やしてなおD-1にすら着けていないのだから、E-5の病院を目指していたらそれこそ時間がいくらあっても足りなかっただろう。
そうして自分を納得させこそすれど、しかしユウスケの足は一条を背負っていることを抜きに考えてもあまりにも遅かった。

もしも向かった先の病院に、京介や小沢のことを知っている人物がいたら。
自分は彼らに対し、何を話せばいいのだろう。
自分が無力でどうしようもないから、彼らが目の前で死ぬことになってしまったと?

どころか京介は、暴走していたとは言え自分の手によって殺してしまったのだと?
そしてそこまでの犠牲を払っておきながら、肝心のダグバを倒すことは出来ず逃げてきてしまったと?
そんなことが頭をよぎる度、ユウスケの表情は曇りその足は止まりそうになってしまう。

「——ぐっ……」

再び、背中の一条が呻いた。
恐らくは無意識に漏れてしまっただけのものだろうが、それを聞いて最早何度目になるかわからないほどにユウスケは再び認識する。
『俺が助けなければ、この人は死んでしまう』と。

そう、今はこんな事をメソメソと考えて足を止めていていい時間ではない。
残された戦士クウガとして、一条を守りダグバを倒す使命が、自分には課されているのだ。
その使命に対して、もう自分に中途半端は許されない。

今度出会った時には絶対に他の参加者をダグバから遠ざけ、誰も犠牲にしない状況を作り出してあの究極の姿に——。

「——おい、ユウスケ。お前またロクでもないこと考えてるだろ」

思案に沈んでいたユウスケの意識を浮上させたのは、自身の横を飛び続けている金色の蝙蝠、キバットバットⅢ世であった。
先の戦いで払うことになった——自分の未熟に対する大きな代償の一つ——その二度と開かない右目を一瞥した後、ユウスケはキバットを見上げる。
そして、迷いを見透かされてしまった自分の未熟さを再度自戒しつつ、彼は思い切り柔和な笑顔を浮かべた。

「心配しなくても大丈夫だって。ダグバのことなら、心配しなくても俺は——」
「——そうじゃねえよ。俺が心配してんのはお前だ、ユウスケ。ダグバを倒せるのは確かに俺の知る限りお前だけかもしれねぇ。
けどよ、皆で力を合わせることが絶対に出来ないわけじゃないだろ?お前一人が全部抱え込む必要はねぇよ」


448 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:01:59 iTar0HZ60

キバットに残った左目で真っ直ぐに見据えられながらそう言われてしまうと、もう彼に偽りの笑顔でこの場を取り繕うことなど出来るはずもなかった。
気まずそうに顔を伏せ足だけを動かし続けるユウスケに、これ以上何を言っても空気を悪くするだけだと思ったのか、キバットもまたデイパックに収まろうとする。

「……あっ、おいユウスケ!」

しかし瞬間、何かに気づいたかのようにその体を翻し声をあげたかと思えば、キバットは以前までに比べ幾分か不格好ながら飛び、ユウスケの視線を誘導する。
ようやく前を向いたユウスケの視線の先、その暗い闇の中で禍々しく光るバイクと二つのデイパックを見て、彼は思わずそれに駆け寄った。
自分の知る怪人の中ではどことなくグロンギを連想させるそれに、あの白い悪魔を重ねてしまったことに対してユウスケは自己嫌悪を抱く。

それを振り払い再びその周囲に目を移すと、バイクの近くに二つのデイパックが放置されているのが視認出来た。
まさか誰かが近くで自分たちを監視しているのかと考え耳を澄ますも、周囲からは物音一つ聞こえず、どころか気配すら一切感じることは出来なかった。
自慢ではないが今の自分の感覚を騙せるような参加者はそういまいと考えて、ユウスケは警戒を解き、一条に一言かけて彼を一旦背から降ろしそのままデイパックを拾い上げる。

誰が放置したにせよ、こうして置き去りにされてしまった以上、焼けて穴の空いた自分のデイパックの代わりとして使用させてもらうことに問題はないだろう。
そうして持ち上げたデイパックから中身を取り出しつつ、ユウスケはガタックゼクターの持つ支給品をそこに移していく。
拾い上げたデイパック、ユウスケは知るよしもないが紅音也という男のものだったそれの中には、響鬼の世界に存在するディスクアニマルの一つ、リョクオオザルと、バグンダダと言われるグロンギがスコアを記録する為のアイテムの二つが見つかった。

もう一つのデイパックからは鯛焼き名人アルティメットフォーム、というスーツが見つかったが、その大層な名前に反して装甲も薄くまた鯛焼きを焼く為の鉄板もない為に本来の用途ですらまともに利用できそうもなかった。
正直なところディスクアニマル以外は不要なものだったのでそこに置いていくことにし、ついでに自身が確認した限りの支給品が、全てデイパックの中にあるかを確認していく。

「よかった。これは落ちてなかったんだな」

そうして安堵の表情と共に破れたデイパックから彼が持ち上げたのは、自分に支給されていた友の愛用品、マゼンタカラーのカメラと、一条の同行者、照井竜に支給されていた光栄次郎の纏めた士の撮った写真を集めたアルバムだった。
士に会ったら渡そうと思ってずっと持っていたこれが、もし燃えたり紛失してしまっていたりしたら。
自分たちの旅の思い出の象徴でもあるアルバムとそれを写してきたカメラには、ユウスケとて並々ならない思い入れがある。

それが残っていた事実に隠そうともしない喜びの表情を浮かべ、彼は他にガタックのベルトと青いメモリ、ガルルセイバーといった重要な品が全てデイパックの中にあることを確認する。
そこまでを見て、恐らく消失したかもしれない物の中には取り留めて意識に残っている品はないように思われた為、彼は一つ息をついた。

「すみません。お待たせしました、一条さん」
「いや、この位構わないさ。それより君も歩き続けて疲れているんじゃないか?負担をかけている私が言うのも何だが、少しくらい休んでも……」
「いえ、大丈夫です。こうしている間にも誰かが傷ついているかもしれない。なら俺にこれ以上立ち止まっている時間はありませんし、五代さんの分まで頑張らないといけないですからね……俺に、休んでる時間なんてないですよ」
「――」

支給品の整理を終えガタックゼクターに再度デイパックを預けたユウスケは、楽な姿勢で座り込んでいた一条に声をかける。
一条は自分に休むべきだと言いたいのかもしれないが、そんなことをしている場合ではない。
もし休むとしても、一刻も早く一条を信頼できる参加者の元へ送り届けてからでなくては。

そうして話を終え再度一条を背に負ぶさろうと身をかがめた瞬間、ユウスケの耳に接近してくるけたたましい駆動音が届く。
徐々にこちらに向かってくるそれに思わず彼は身構え、一条と顔を見合わせる。
恐らくは一条も考えていることは同じだろう。


449 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:02:16 iTar0HZ60
つまりは、今向かってきているこの参加者が、殺し合いに乗っているのか否かということ。
もし相手が殺し合いに乗っていたとしたら、今の自分に一条を守りつつ戦うという器用な真似など出来るだろうか。
かといって今の一条に戦いを強いるなど論外であったし、一人で離脱をさせるというのもまたアクセルの変身が解除された後の安全は保証できず危険な賭けには変わりない。

ではやはり自分も彼と共にバイクから逃れるか?
無理だ、ドラゴンフォームであれば逃げ切れる可能性もあるが、今の牛歩の如きスピードであれほど苦しそうな一条が、ドラゴンフォームのスピードに無事でいられる保証がない。
それに下手を打って逃げ切れなかった場合、クウガという自分の切り札を制限された状況で戦わなければならない可能性も生まれる。

身を隠せる遮蔽物の一切が存在しない焦土においては、最早彼らに残された手札は既に一つしかないようなものだった。
それは、ただ向かってきている相手が友好的な参加者であることを願い祈ること。
つまりは、この状況をあまんじて受け入れただ変身の準備だけは済ませてその場で立ち尽くすだけだった。

……無限にすら思える数秒の後、彼らの顔を久々に目にした人工的な光が照らす。
それに思わず目を顰めれば、同時エンジン音は止み距離にして20mほどの余裕をもって現れた参加者はバイクから降りたった。
ヘルメットを脱いだその顔に、暗中ながら友好的な気色が見て取れないことに対し必然的に覚悟を強いられた二人。

しかしそんな彼らを尻目に、男は悠然たる態度で歩みを進める。
何かを懐から取り出した男に対し、高まった緊張故か、変身して彼を抑えようかとユウスケにも半ば覚悟が生まれた、その瞬間。
掠れた声で二人の間に入る、小さな影が一つ。

「——渡」
「渡!?ってことはこの人がキバットの相棒の……」

キバットの漏らした名前に、ユウスケは思わず反応する。
キバットの相棒、紅渡。
重なり続けた不幸により殺し合いに乗ってしまい、そしてキバットとも絶交を宣言したという、かつての相棒。

それを助けてくれというキバットの願いを聞き届けてから、ずっと思考の片隅に存在した彼が今こうして現れたことに、しかしユウスケは喜ぶことは出来なかった。
キバットの情報ではただの気の迷いで殺し合いに乗ったとされていた渡の雰囲気は、最早そんな情報がキバットのただの贔屓目でしかなかったと判断してしまうほどに牙王やダグバのそれに似た殺気だったものになってしまっていたのだから。
話し合いでどうにか出来ればそれが一番ではあるものの、渡をよく知るはずのキバットすら困惑している様子を見れば、どうやらそれも難しいように感じられてしまうのは自分が警戒しすぎているわけではないらしい。

そうして渡に対しどうしようもない警戒を強いられてしまったユウスケたちに対し、突如現れたその影、キバットバットⅢ世に、一番の驚愕を示したのは他でもない渡本人であった。
手に持った何らかのアイテムを思わずその身の後ろに隠した彼は、しかし一瞬の躊躇の後ゆっくりと口を開いた。

「キバット、僕はもう渡じゃない。ファンガイアの王、キングだ」

キング。
それは、ユウスケも知るキバの世界において、自身の友ワタルに覚悟を決めさせるため敢えて悪を演じた、彼の父の名前でもある。
同時にこの場での第一回放送を担当した大ショッカー幹部の名前であり、そこで死亡が告げられた参加者の名前でもある。

あまりにも思い当たる節が多く、そしてそのどれに対してもそこまで良い印象を持てていなかったユウスケは、彼はただその名を継いだだけと知りつつ顔を顰めた。

「違ぇだろ渡、お前の名前はそんなんじゃねぇ。紅渡だ、親父さんから貰ったその苗字を捨てて良い訳ねぇだろ……」

叱責するようにも聞こえるキバットの言葉は、しかしその実ただの悲しみ遣り切れなさをぶつけるだけのもののように思えた。
しかしそれを聞く渡は、一切表情を動かすことはない。
まるで既にそうしたやり取りを一度終えているとでも言うかのように、彼の顔に張り付いた覚悟が霞むことはなかった。


450 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:02:37 iTar0HZ60

しかしそれに怯むことなく、再度キバットはその口を開く。

「なぁ渡、世界を守りたいって願いがお前の優しさから来るものだって俺は知ってる。
けどよ、他の世界に住む人の、心の中にある音楽を無視できるほど、お前は器用じゃねえはずだろ?
今からでも遅くねぇ、俺たちと一緒に大ショッカーを倒して全部の世界を――」
「駄目だよ、僕はもう自分の世界だけを守るために他を犠牲にする覚悟が出来ているし……、何より例え大ショッカーを倒すとしても、それより先にやらなきゃいけないことがあるんだ」
「先にやらなきゃいけないこと……?」

疑問の声を上げたキバットに対し、渡は最早言い慣れたその名前を再び紡ぐ。

「世界の破壊者、ディケイド。彼がいるだけで世界は破壊に向かう。それを協力して倒すことこそが、仮面ライダーの真の使命なんだ」
「ディケイド……士を知ってるのか!?」

刹那、渡とキバットの会話にいきなり飛び込んできたのは、渡の様子を観察し続けていたユウスケであった。
思わずといった様子で驚愕した声を出した彼に対し、彼が今漏らした情報は聞き逃して良いものではないと渡は向き直る。

「貴方は一体何者です?ディケイドを知っているのですか?」
「あぁ、俺は小野寺ユウスケ。ディケイド……士は俺の仲間だ」
「俺がユウスケと一緒にいるのはこの加々美の兄ちゃんが持ってたクワガタが認めた、お前を助けてくれるかもしれねぇ仮面ライダーだからなんだ。
そのユウスケの仲間なんだから、きっとディケイドってのもそう悪い奴じゃねぇはずだぜ」
「善悪は関係ないよ。ディケイドはただ存在するだけで世界を滅ぼす事象に過ぎないから」

そこまで言い切って、対する渡も考える。
ことここに至って、初めて素面で出会った、ディケイドのことを元の世界より知っている仮面ライダー。
彼にはもっとたくさんの情報を聞かなければなるまい。

一方で、キバットの言葉にも渡は僅かな苛立ちを覚える。
ずっと相棒だったはずの自分の言葉よりも、少しの間行動を共にしていただけのその横の男が言うことの方を信用するというのか。
今更生じてしまった嫉妬のような感情が、渡を一層苛立たせる。

「……この情報は大ショッカー幹部のアポロガイストから直接聞いたものだし、あの状況で彼が嘘を言うとも思えない。
貴方はディケイドが世界の破壊者ではないと胸を張って言えるのですか?」
「それは……」

何の気紛れかそんな問いを投げた渡に対し、ユウスケは言葉を詰まらせる。
実際のところ、ユウスケにも士が本当に破壊者なのかどうか、世界の崩壊は彼によって引き起こされたものではないのか、などの疑問に対し、確信を持てないことは余りにも多い。
彼と共に旅をしている理由も正直士を信じたいと思った自分の気持ちに正直になっただけで、それを他人に説明するのは些か難しいものがある。

しかしそうして返答に困ったユウスケを頼りにはするわけにはいかないと判断したのか、キバットはその場を繋ぐように再び両者の間に入った。

「――ディケイドのことはひとまず後回しだ。
なぁ渡、お前の心の音楽は何て言ってんだよ、皆を守りたいって、誰も犠牲にならない道を探したいって言ってんじゃねぇのかよ?」
「全部を守るなんて出来ないよ、世界が一つになるまで僕たちは殺し合うしかない。もしもキバットがそれでも僕の前に立ち塞がるなら――」

言って、渡はデイパックから浮遊してきたサガークをその腰に迎え入れる。
それはつまり、戦闘の意思。
向けられた敵意に対し、キバットもまた動揺を隠しきれないながらも渡をその目で睨み付ける。

「馬鹿渡が……どこまで分からず屋なんだよ……!」


451 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:02:52 iTar0HZ60

キバットは毒づくが、同時に今のユウスケと一条では渡と十分やり合うのは不可能だと知っていた。
いや、あるいはあの黒いクウガになれば渡に勝つことこそ出来るが……だからこそそれを恐れユウスケは本気で渡と戦う事は出来ないだろう。
かと言って、自分が力を貸すことはユウスケの負担にもなりかねない、とキバットは苦悩するしかなかった。

無言を貫く渡に、ついにキバットもかけるべき言葉を見失ったか、そのまま黙り込んでしまう。
きっと恐らくは、キバットが当初抱いていた渡との再合流はもっと、言ってしまえば明るい雰囲気の中で行われるはずべきものだったのだろう。
自分一人では説得など出来ないからそれが出来る参加者を探しユウスケを見つけたというのに、その本人が他人など気にしていられるような精神状態に陥ってしまったのだから、色々と間が悪いと感じてしまうのも無理もないことだった。

しかしその沈黙を自分への説得の終了として認識したのか、渡はゆっくりとユウスケに向け足を進める。

「——あなた、仮面ライダークウガ、ですね?」
「なんで、それを……?」

短い問いではあったが、それはユウスケにとって聞き逃してはならないものだった。
仮面ライダークウガ。
その名前を知る理由としては、幾つか思い当たる節がある。

しかし士や橘といった自分を知る参加者であれば仮面ライダーとしての名より先に小野寺ユウスケとして紹介されるだろうし、生身の自分を見てクウガの名前に辿り着く理由はいまいち思い当たらなかった。

「もしかして君……五代を知っているのか!?」

そうしてこの状況になって何度目かの当惑を示したユウスケの後方、庇われるように座り込んだままだった一条が、脇腹を押さえながらそれでもどうしても問わなければいけない問いを投げるかのように声を荒げていた。

「五代……えぇ、そうですね。もう一人の仮面ライダークウガのことであれば、知っています」

突然腹から声を出した為に傷が少し開いたか再度呻いた彼を気遣う様子もないまま、渡は続ける。
それに思わず傷を庇うことすら忘れ身を乗り出した一条の表情はしかし、目の前の青年が殺し合いに乗っていることを思い出しハッとする。
既に死亡した五代、それを知っている渡。

もしかすれば彼が……とどうしてもネガティブな方へと進みかけた思考の答えを、しかし一条は渡に問うことはしなかった。
それを問い、そして彼がもしも五代を手にかけてしまっていたら、それこそキバットの信じた彼との和解に、どうしようもない終止符を打ってしまうことになる。
少なくともダグバや牙王との戦いで力を貸してくれたこの気さくな蝙蝠の願いを、そんな形で終わらせることは、願わくばしたくはなかった。

しかし。
そうして再度黙り込んだ一条の代わりに、というつもりではないのだろうが、静かな怒りを乗せキバットが渡の目を見据えた。

「……なぁ渡。お前なんで五代って兄ちゃんのこと知ってんだ?
まさか、もう一人のクウガを……その兄ちゃんを殺したんじゃねぇよな……?」
「答える必要はないよ、キバット」
「ふざけんな!ちゃんと俺の目を見て言ってみやがれ!」

思わず俯き気味に答えた渡に、初めて動揺の表情が浮かぶ。
そう、この暗闇の中にあっても、はっきりとわかる。
渡はこの状況でキバットと会話を始めてから、一度も彼の目を直視できていない。

きっと、それがキバットがまだ渡を信じ続けられる理由。
自分がキバットと絶交してしまったばかりに彼がその片目を失ってしまったのだという自責の念が、どれだけひた隠しにしてもこうして浮かんでいること。
それこそが、彼の信じる渡の良心であり、彼の『心の音楽』というものなのだろう。

「いいや、僕は、もう一人のクウガ……その五代って人を殺したわけじゃない。ただ少しの間一緒に行動してただけだよ」


452 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:03:08 iTar0HZ60

そして、そのキバットの圧に押されたか、渡は未だキバットを直視してこそいないものの五代との関係について口を開いた。
そして彼の言葉に再度身を乗り出し声を上げるのは一条である。

「五代と一緒に……?それは本当か!?それなら、教えてくれ、あいつはこの場でどういう考えを抱いて行動していたのか……」
「調子に乗らないでください。僕は決して貴方に情報を渡すつもりはありません」

しかし元の世界からの友人の情報に対し珍しく口数を多くした一条の言葉を、渡は“キング”としての口調で遮る。
それによって再び沈黙が支配した状況の中、またもキバットが渡に向き直っていた。

「なぁ、渡……五代の兄ちゃんの話は聞いてる。絶対に殺し合いに乗らない奴だってことも確信してる。
そんな兄ちゃんとどんな理由であれ一緒にいたならよ、お前だってまだ迷ってるってことじゃねぇのか……?それなら俺たちとまた一緒に戦おうぜ、その最中でお前だってきっと自分には他の世界の人間を切り捨てるなんてできっこねぇことに気付くはずだぜ……」

一方で、キバットから差し伸べられた和解の申し出――に見える羽をじっと見つめたまま、渡は思考を停止したかのように俯き続ける。
しかしもしも彼にキバットが信じた優しさが残っているというならこの手を取るだろうと疑いもせず、彼らは渡の答えを待った。
そしてたっぷりと数秒の沈黙が流れた後、渡は覚悟を決めたように再びその顔を上げた。

「——キバットは、本当に優しいね。
僕は君にあんなことをして、結局そんな傷まで負わせてしまったのに」
「馬鹿言うなよ、渡。俺とお前の仲だろうが。
また一緒にお前と戦えるってんなら、それだけでこんな傷あってねぇようなもんになるぜ」
「ありがとう、キバット。
君は本当に優しいし頼りになる、僕の最高の友達だったよ」

渡のその言葉に、嘘は一切含まれていないように思えた。
少なくとも今こうしてキバットの受けた傷による後悔と、その言葉によって取りあえずこの場は無事にやり過ごせるに違いない。
……少なくとも、彼らはそう思っていた。

しかしそんな彼らを前に、渡は再び『紅渡』から『キング』のものへと語調を変える。

「——だから、僕はやっぱり、君とは行けないよ。これで本当に、さよならだ。キバット」

その言葉と共に、渡は懐から取り出した罅の入った黒い石をユウスケに向けた。
それと同時その禍々しいオーラを放つそれが、この焦土を包むそれより深い闇を照射したことで、ユウスケの身は一瞬世界より消え失せた。
一切予想し得なかったその渡が放った闇にユウスケが反応することすら出来ず呑まれたのを見て、一瞬の驚愕の後キバットの怒号が飛んだ。

「——渡!てめぇぇぇぇぇぇ!!!!」

見ず知らずのはずの渡を信じ、救ってくれると言ったユウスケ。
その彼の好意に対し、かつての相棒がこうして攻撃で返したことに対し、遂にキバットの怒りも爆発する。
幸い、今の攻撃は致命傷を与える類いのものではないらしく、未だ闇に呑まれたままのユウスケは苦悶の声を上げ続けている。

であれば、まだ彼を助けられるかもしれないと、闇が放たれている渡の持つ石へ向けキバットは体当たりをしかけようとする。
それは後方で待機していたガタックゼクターも同様だったようで、デイパックをそのまま地に落とし主を守らんと渡へ向け神速の勢いで加速した。

「——サガーク、キバットバットⅡ世」

しかし彼らの攻撃は、一瞬で撃ち落とされる。
度重なるダメージ故呻いたキバットはしかし、次の瞬間自分たちを撃墜した存在について認識する。
ガタックゼクターを撃ち落としたのは自分も知っている、太牙が纏う鎧サガを管轄するモンスター、サガーク。

そして、自分を叩き落したのは——。

「と、父ちゃん……!」
「王の邪魔をするな、息子よ」


453 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:03:30 iTar0HZ60

他でもない自分の父、キバットバットⅡ世であった。
小沢から彼がこの会場にいることこそ聞いていたものの、実際にこうして出会い、そしてその現在の所有者が渡であるという状況は、些か皮肉に感じた。
しかし、そんなことを考えていられる暇もない、今重要なのは、自分とガタックゼクターでは、ユウスケに何らかの危害を加えている渡を止められないということ。

では、自分たちにはもう残された手はないのか?
否、まだ一人、彼を助けられる存在が、いるではないか。

――ACCEL

「変……身ッ!」

照井の真似をしたのか、或いは単純に体調の関係でその程度の単語さえ流暢に言えないのか、どちらにせよ残る一人、一条が戦闘の意思を示したのだ。
一瞬でその身を赤い仮面ライダーのものへと変貌させた彼は、変身により強化された肉体を酷使して立ち上がり渡のもとへと歩みを進めていく。
彼がサガに変身すればガタックゼクターが石を破壊できるだろうという算段だったのだろう。

石さえ破壊できれば後の渡の相手は不本意ながらユウスケに任せれば、と。
確かにそれであれば今の一条でも仮面ライダーに変身した以上可能な行動であったはずだった。
そう、地の石が彼らの考えた通りユウスケを痛めつけ拘束するだけのものだったなら、それで万事解決に至るはずだったのだ。

「――ぐあッ!?」

周囲に、渡へ向け駆け出そうとしたアクセルの悲鳴が響く。
渡のデイパックなどからは一切増援など出現していないというのに起きたその声に、新手の出現を疑い振り返ったキバット。
瞬間その瞳に映ったのは、生身のままアクセルを押し倒し無表情で立ち尽くすユウスケの姿だった。

「ユウスケ……!?」

思わず絶句したキバットを見向きもせず、ユウスケはアクセルを渡から遠ざける様に立ちはだかる。
一体何事が、と困惑する中、唯一一人事情を把握している渡は、彼に向けその手に持つ石を翳し叫んだ。

「ライジングアルティメット!その男を排除しろ!」

渡の声に呼応するように、ユウスケの腰にアクセルにとっては見慣れた霊石、アマダムが浮かび上がる。

「これは……まさか君が五代を知っていた理由は……!」
「そう、その通りです。僕がもう一人のライジングアルティメット、いいえクウガを知っていたのは、この石によって操られているところを目撃したから。
それだけの理由です」
「そんな……五代が……!?」

渡の口よりもたらされたこの場での五代の動向にアクセルが驚愕を示し対処が遅れたその瞬間、彼の身は生身とは思えないほど鋭いユウスケの蹴りによって大きく吹き飛ばされていた。
元々限界を超えた疲労を溜めたアクセルはしかしその変身を根性で保たせ再度立ち上がるが、ユウスケにまともに反撃を出来ようはずもない。

「どういうこったよ……どうしてユウスケが一条を……?」
「この、地の石の力だよ、キバット」
「地の石……?」

一瞬にして訪れたその想像を絶する光景にただ戦慄を抱いたキバットに対し、渡はその手にもつ禍々しい石をひけらかすように見せつけた。
先ほどまで純粋にユウスケを攻撃する意図で用いられただけだと思い込んでいたその石に対し再度注目したキバットに対し、渡は再度それを掲げる。

「これは、ただ持っているだけで仮面ライダークウガの意思を奪いその姿をライジングアルティメットと呼ばれる形態に変化させるものなんだ」
「なんだと……?」
「これがあれば、僕は、いや僕たちはディケイドに勝てる。
病院での戦いでは見逃すことになったけど……この石とライジングアルティメットがこの手にあれば、今度こそ逃がさない。次は絶対にディケイドを……」
「……かよ」
「え?」
「――そんな、そんなことの為に、ユウスケの心の音楽を止めたって言うのかよ……!」


454 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:03:46 iTar0HZ60

どこか恍惚とした表情で石について解説する渡に対し、キバットは怒りを込めた左目を向ける。
たった半日。
たったそれだけの短い時間で、あの優しい青年がここまで修羅に堕ちてしまうというのか。

それを思う度キバットは見えない何かがその身体にのしかかってくる様な錯覚を覚える。
しかし、それでも。
渡がもう自分の言葉を受け入れようとしないのだとしても、キバットに諦めるつもりはなかった。

物心ついた時からずっと一緒にいた親友、紅渡。
彼を見捨てる決断をそう易々と下せるほど、キバットという存在は上手く出来てはいない。
しかしそんなキバットを前にして、渡もまたようやく感情を露わに声を荒げた。

「知った様なこと言わないで!ディケイドは全ての世界にとって敵、いや悪魔なんだ!
それを倒す為には、ライジングアルティメットの力が必要なんだよ!」
「あぁ知らねぇな!お前がディケイドに対してどんなことを思ってるのかなんて!
どうしても俺を納得させてぇって言うなら、話して見やがれ!お前が俺と別れてから何をしたのか、どうしてそんなにディケイドを倒してぇのか!」

――必死だった。
渡の、こうと決めたら譲らない頑固な性格は、キバットもよく知るところである。
自分の力を頼らずに戦うと決めたら生身で一人でも戦いに向かおうとするし、深央のことだって加々美のことだって、自分に責があると思い込んだら後の考えを受け入れるつもりは一切見せない。

だから、そんな不器用な彼をよく知っているからこそ、キバットは少しでも彼の感情を揺さぶり彼に話し合いが出来るだけの“隙”を作り出させなければいけないと感じていた。
まずはそんな細々とした繊細な部分から突き動かさなければ、紅渡という男との喧嘩は成り立ちすらしない。
それを長い付き合いで知っているからこそ、キバットは渡に、彼自身の意思でこれまでの経緯を話させる道を選んだ。

そこに、一抹の希望を見いだせる可能性を信じて。

「……わかった。そこまで言うなら、君に教えるよ。僕が、君とあの東京タワーで別れてから出会った人のこと、そして得た情報の全てを」

そうして、渡は語り始めた。
少し前名護に語ったのと同じように、自分がこの場で裏切られた男のことと、そして何より彼の知る“紅渡”よりも今の自分が覚悟を決めなければいけなくなった理由を。





D-1エリアの病院。
その中の一室、明かりさえ灯されていないその中で、並んだ三つのベッドに三人の男がそれぞれ横になっている。
左翔太郎、津上翔一両名はここに連れてくるまでも、そしてここに連れてきてからも一切目を覚ます気配はない。

彼らに一応の応急処置を済ませて、残る一人、総司からダグバとの戦闘について聞きながら、名護啓介は総司に簡単な処置を施す。
彼の話によって伝えられたその戦いの様相は名護では恐らくライジングを用いて付いていくのがやっと、いや、恐らくそれすら難しいだろうものだった」

「……話を聞くだけでも凄まじい戦いだったんだな、本当に三人とも生きて帰ってきてくれて感謝する」
「そんな、僕は名護さんに教えてもらったことしかしてないもの」

壮絶な戦いの中から三人共に無事に帰ってきたことに、名護は純粋な喜びと、そして弟子がそれを成し遂げた誇らしさを抱く。
自分の頑張りを、恐らくは初めてそうして褒められた総司は、本当に嬉しそうに笑った。
それを見やりながら、きっと自分に息子が出来たらこんな感じなのだろうと名護は思う。


455 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:04:02 iTar0HZ60

愛する妻、恵との下に未来授かるだろう最愛の子供たち、その存在を彼は幻視して――。

――ディケイドはその存在そのものが世界を脅かす悪魔です。

ふと、脳裏に過ぎったその声に、自身が築くべき幸せな家庭のイメージが、焼却される。
門矢士、彼が世界を存在するだけで世界を滅ぼす悪魔だという情報。
出所も分からないはずなのに、何故かそれに信憑性を感じ疑おうともしていない自分を自覚してしまって、名護は自分自身に対しどうしようもない困惑を抱く。

「名護さん……どうしたの?」

と、考え込む名護に対し声をかけたのは弟子である総司だ。
ハッとしてみれば、どうやら自分は治療の手さえ休めて思考に没頭していたらしい。
つくづく先ほどから思うようにいかないなと自嘲して、名護は眉間を抑えた。

「……あぁ、どうやら俺は自分で思っている以上に疲れているらしい。心配をかけてすまないな総司君」
「そんな水臭いこと言わないでよ。名護さんだってガドルと戦った疲れが抜けてないだけだって。
それに、渡君のこともあるし……」
「渡……?」

そう言って思慮深げに俯いた総司を見て、名護は困惑する。
渡?自分のある意味で言えば師匠である紅音也と同じ名字なだけの存在にどうして俺が疲労をためる必要がある?
自分の言っていることに一切理解が及ばない名護を見て、いよいよ持って渡を最高の弟子と言っていた先ほどまでの名護との相違に気付いたか、総司は本腰を入れて彼に疑問をぶつけようとする。

「――カブトゼクター?」

しかし総司が声を発するより早く、瞬間名護の意識を引いたのは総司のデイパックより這い出て窓の外を見つめ続けているカブトゼクターの存在であった。
まるで誰か外の存在をこちらに知らせるかのようなその行動に、名護は総司との会話を一旦後回しにして窓を開きその先に身を乗り出した。
名護の脇の下を潜り外へと這い出ていったカブトゼクターは、そのまま空に上り同規格らしい青いクワガタのようなゼクターと合流した。

「あれは……天道君から話しに聞いたガタックゼクターか……?」

その存在に目を潜めた名護は、翻り戻ってきたカブトゼクターの誘うような行為に目を見やる。

「まさか……ついてこい、と言いたいのか?」

赤のカブトと青のクワガタはそれぞれ名護をどこかへ誘導するかのようにゆっくりと飛んでいる。
或いはその先に誰か他の参加者がいるのではないかと、名護は考えたのである。

「詳しく状況は分からないが……どうやらあまり穏やかな状況ではないらしい。
俺が行って様子を見てこよう」

そう言って、名護は立ち上がる。
今のコンディションを見ても総司を同行させるわけにはいかなかったし、何より天道の友である加々美新の死を超えた頼みかもしれないのだ。
無下にするわけには行かなかった。

故に彼はそのまま二機のゼクターに案内を頼みそのまま病室を出ようとして。

「名護さん……」

ふと自分を呼び止める、不安げな総司の声に振り返った。

「どうした、総司君。俺のことなら心配いらない。すぐに外の様子を確認してまた戻ってくる」
「そうじゃなくて……」
「総司君、今は話より先に行動しなければいけない時なんだ。話なら後でじっくり聞こう。君はここで休んでいたまえ」


456 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:04:20 iTar0HZ60

そんな言葉だけを残して、名護はそのままゼクターたちに伴われ外へと向かっていった。
その足音が遠ざかっていくのを耳にしながら、総司はそのままベッドに大きく横たわり、真っ白な掛け布団を肩まで掛けた。
名護の様子が――主に渡に関して――おかしく感じるのは、自分が疲れているからか、或いは彼がやはりおかしいのか。

誰よりも正しいはずの師匠の異変に困惑を隠せないままに、しかし疲労故ついに思考も纏まらなくなって。
総司の意識は、そのまま微睡みの中に溶けていった。


【二日目 黎明】
【D-1 病院】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、キングフォームに変身した事による疲労、仮面ライダージョーカーに1時間変身不可、仮面ライダーブレイドに1時間5分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW 、ブレイバックル@+ラウズカード(スペードA〜12)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:(気絶中)
1:名護と総司、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:乾巧に木場の死を知らせる。ただし村上は警戒。
6:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
7:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
8:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っていました (人類が直接変貌したものだと思っていなかった)が、名護達との情報交換で認識の誤りに気づきました。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※総司(擬態天道)の過去を知りました。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。




【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーカブトに1時間変身不能、仮面ライダーレイに1時間10分変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
0:(睡眠中)
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護や翔太郎達、仲間と共に生き残る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:ディケイドが世界の破壊者……?
6:名護さん、どこか様子がおかしいような……?
【備考】
※天の道を継ぎ、総てを司る男として生きる為、天道総司の名を借りて戦って行くつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに天道総司を継ぐ所有者として認められました。
※タツロットは気絶しています。
※名護の記憶が消されていることに対し確信は持てないながらも疑惑は抱いています。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、現状では半信半疑です。


457 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:04:36 iTar0HZ60




【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、強い決意、真司への信頼、麗奈への心配、未来への希望 、進化への予兆、仮面ライダーアギトに1時間変身不能
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
0:(気絶中)
1:逃げた皆や、名護さんが心配。
2:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
3:木野さんと北条さん、小沢さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
4:もう一人の間宮さん(ウカワームの人格)に人を襲わせないようにする。
5:南のエリアで起こったらしき戦闘、ダグバへの警戒。
6:名護と他二人の体調が心配 。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました
※今持っている医療箱は病院で纏めていた物ではなく、第一回放送前から持っていた物です。
※夜間でシャイニングフォームに変身したため、大きく疲労しています。
※ダグバと戦いより強くなりたいと願ったため、身体が新たに進化を始めています。シャイニングフォームを超える力を身につけるのか、今の形態のままで基礎能力が向上するのか、あるいはその両方なのかは後続の書き手さんにお任せします。





「ぐあぁ……」

短く、小さい嗚咽が、自分の喉から思わず漏れる。
たった一秒にも満たないそれが自分という存在を不可逆的に削っていくような錯覚を覚えて、一条は荒く呼吸を繰り返した。
目前に迫ってくるユウスケ、今の彼から放たれている威圧は第零号……ダグバや牙王といった、凄まじい実力を持つ参加者の放つそれすらをも超えかねない圧倒的なものだ。

今自分が纏うアクセルの力が如何に頑丈で一条にとって未知の技術の集合体であれど、それは最早満身創痍の自分を未だこうして立ち上がらせる補助器具の意味合いしか持たない。
照井から受け継いだはずの力を満足に扱うことの出来ない自分への苛立ちよりも先に、今の一条に渦巻くのはこうしてユウスケをみすみす目の前で究極の闇に堕としてしまった自分の無力さへの自己嫌悪だった。

(俺が……俺が弱いから、君をまたこうして望まない戦いに駆り出してしまった……、許してくれ、小野寺君……!)

もしも自分がもっとしっかりと彼と共に戦えるほど強かったなら、もしかすれば渡に罪を重ねさせることも、こうしてユウスケが望まない争いを生むこともなかったはずに違いないと、一条の思考にどうしようもない後悔が浮かぶ。

――一条さん!

ふと、泥沼に陥りかけた思考に、もう聞くはずのない声が響く。
それと同時サムズアップをして笑顔を浮かべる青年の姿すら詳細に浮かび上がってきて、アクセルの仮面の下、一条は思わず笑みをこぼした。
そうだ、自分はあの放送で五代の死を聞いて、誓ったではないか。このもう一人の悩める異世界のクウガを、出来ることなら自分が支え救いたいと。

五代の死を聞いて、どれだけ苦しくてもクウガとして皆の笑顔の為戦うとそういってくれた彼を、自分が見捨てるわけにはいかないと、そう考えたのではなかったのか。
それを思えば、或いは今ユウスケが生身であるうちであれば可能性はゼロではなかった逃走という手段に対する一条の中での関心は薄れていく。
そして彼の中に残ったのは、目の前の青年を闇の中から救い出したいというその願いのみ。


458 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:04:51 iTar0HZ60

愚かな選択であるのは分かっている。
自分が彼に述べた、『守りたい笑顔の中に自分を含めろ』という言葉に反しかねない行為だという事も、重々承知の上だ。
しかしそれでも、どんな理由をつけても今のユウスケを置いて自分だけ逃げ出すことは、一条には耐えがたい“中途半端”であった。

中途半端はするな――父から継いだその言葉について、一条は五代に出会ってから、そしてこの場に来てから何度考えたことだろうか。
元は一般人である彼らに戦いを頼らなければいけない状況に対して、自分にとってそれでもなお譲れない、中途半端の出来ない一線。
それがきっと今自分の目の前にいる悩める青年を一人にしてはいけないということなのだろうと一条は思った。

刻一刻と全身から血が抜けていくのに反する様に、彼の身体は熱く火照っていく。
その熱に任せる様に、彼はその足をユウスケに向け進める。
もしもユウスケが完全に石に支配されてしまったのであれば、まだどうにか出来ることはあるはずだ、と。

そうして新たに決意を固めたアクセルに対し、一方のユウスケはその身を包む闇の中でなおも抵抗を試みているかのように身体を捩っていた。

「一条、 さん……」
「小野寺君ッ、安心しろ、俺が今君を――」
「駄目です、逃げて……下さい……!」

苦しげに呻いたユウスケを安心させようと一条は声をかけるが、しかし得られた返答は自分からの逃避を促すものであったことに、一条は困惑する。

「何を言うんだ、小野寺君。俺が君をおいて逃げられる訳が――」
「それでも……逃げてくださいッ!このままじゃ俺は、きっとまた究極の闇になってしまう……。そうなったら、一条さんのことを、俺が殺してしまう……ッ!」

ユウスケの声は、悲痛としか形容しがたいものであった。
瞬間、一条の脳裏に、先の戦いで死なせてしまった小沢と京介の姿が浮かぶ。
あの時だってユウスケは最初に自分たちに逃げるように促していた。

それを無視して無理矢理戦場に身を置いた為に、生まれてしまった犠牲、ユウスケに背負わせてしまった責任。
それを思えば確かにこの場で逃げずにいることそれ自体が、小沢や京介の死を無駄にしかねない無謀でしかないと言えるだろう。

「いや、……俺は逃げない」
「一条さんッ!?」

だが、一条の答えは変わらなかった。
今のユウスケを置き去りにして自分だけ助かろうと逃げること、それこそが最も許されぬ“中途半端”ではないのかと、一条は思ったのである。

「無理だッ、そんなこと……!今の貴方じゃ、俺を止められっこない……。きっと一瞬で、俺は貴方を殺してしまう……」
「いや、俺は死なないッ!何故なら君はそんな闇にもう支配されないからだ、小野寺君ッ!」
「俺が……?」

しかしそんな一条に対し、ユウスケはなおも逃避を促そうと言葉を絞り出す。
だが、そんなユウスケの悲痛極まりない言葉を、らしくない根性論めいた言葉で、一条は一切聞く耳を持たず却下する。

「――確かに先ほどのように第零号のような実力を持つ参加者との戦いに、俺はいるべきではなかったかもしれない!
だが小野寺君、今の君はまだその闇を払いのけようと必死に頑張っているじゃないか、それなら、きっとそんな闇に支配されることはないはずだッ!」
「無理ですよ、そんなの……俺は、俺はもう……ッ!」

言った瞬間、ユウスケは大きく悶えその場に膝をついた。
その向こうでなおも闇を放ち続けている渡もまた、キバットが気を引いていてくれているおかげでこちらに対する注意を散漫にしているようだった。
それをチラと見やり好機と捉えつつ、アクセルは再度その口を開く。


459 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:05:08 iTar0HZ60

「無理じゃないッ、君はクウガだろう!五代が死んだ今、自分がクウガとして戦うと彼が成し遂げられなかった使命を果たすと、君はそう言ったじゃないか!」
「でも……無理ですッ、五代さんだってこの闇から逃げられなかった……それじゃ、俺なんかが敵うわけ……ッ」
「五代に捕らわれるなッ!」

瞬間、その場を沈黙が支配した。
ユウスケが、言葉を失いアクセルを見た。
その視線を一身に受けながら、アクセルは口を開く。

「五代はッ!あいつは、確かに凄い男だった。俺が君に言った、どんな時でも笑顔を絶やさず苦しい顔や悲しい顔は誰にだって見せなかったというのは、本当のことだ。
それは誰にだって出来ることじゃない、……いや、どころかきっと、あいつにしか出来ないといっても、決して間違いじゃないだろう」

五代の笑顔を思い浮かべつつ、一条は続ける。
彼の笑顔はいつだって誰かを笑顔にし、そして悩める誰かを救い続けてきた、それは、絶対に確かなことで、恐らくはクウガの力よりずっと素晴らしい、彼の最高の特技だったはずだ。
だが、そうして五代雄介という男を心底尊敬しているからこそ、一条はまた彼にとって一種の弱さにも、気付いていた。

「だがな、小野寺君、その分あいつは……きっと、誰にも見られない場所で、誰より悲しんでいたんだ。
クウガの仮面の下で、きっといつだって五代は人知れず泣いていたんだ……」
「クウガの仮面の下……?」

人は誰も、喜怒哀楽を抱いて生きている生き物だ。
或いはそれが欠落した様な人間も中にはいるのかもしれないが、誰よりも優しく人の悲しみや怒りといった負の感情に敏感な彼にそれが備わっていないはずがなかった。
だというのにグロンギとの戦いの中で必然生まれるその負の感情を、4号としての戦いを最初から支えてきた自分にさえ、五代は吐露することはなかった。

それはきっと五代の強さの証拠で……だからこそ何よりきっと、小野寺ユウスケと違い五代が持つことの出来なかった存在なのだろうと一条は思った。

「あいつには、あいつの笑顔を守る為に隣で戦ってくれる仲間はいなかったんだ……!本当は、俺がそうなるべきだった!でも俺は結局、あいつにとっては自分と対等な存在じゃなかったんだ。
だからきっとあいつは一人で泣き続けなきゃいけなかった。皆が大好きなあいつの笑顔を浮かべ続ける為に、どうしようもない不安を隠し続けなくちゃいけなかったんだ……!」
「一条さん……」

気付けば、いつの間にか、自分の声には嗚咽が混じり瞳からは涙が溢れ出ていた。
きっと今の自分は、このアクセルの仮面に隠れているとは言え、相当に情けない顔をしているだろう。
しかし、それでも構わなかった。

この仮面で遮られているからこそ、ユウスケが身体の主導権を取り戻し切れていない今だからこそこうしてずっと抱き続けた五代への思いを吐露出来るのだとしたら、今の一条にとって、それはそこまで悪いことではないように思えた。

「でも、君には、それがいるだろう。君が皆の笑顔を守る時、君の笑顔を守る為に戦うと言ってくれた仲間が!
――君はきっと、五代にはなれない。だが、それでいいんだ。五代になる必要なんてない。君は君、小野寺ユウスケだ。
五代雄介には、仲間はいても、門矢士はいなかったんだ!君と対等に語り合い、君がどうしても自分の力だけでは立ち直れず曇り顔をしてしまった時、皆の望む笑顔に出来る存在は、いなかったんだ!」
「俺は……俺……」
「そうだッ、君は君でいい。五代は決して超えなくてはいけない目標なんかじゃない、クウガとしての理想なんかじゃない!
彼もまた君と同じように悩んだただの一人の青年で……そして君が当たり前に持っていたものを持っていなかった、そんな存在なんだッ」
「五代さんも……俺と同じ……、五代さんにないものを、俺はもう……?」
「そうだ、だから五代に捕らわれるな、小野寺君ッ!五代に出来なかったことでも、君に出来ない訳じゃない!
だからその闇を振り払えッ、小野寺ユウスケ、いや……仮面ライダークウガ!」


460 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:05:22 iTar0HZ60

その呼びかけを受けて、ユウスケは大きく呻きながら、しかし先ほどまでと違い自身を取り囲む闇に対し強く抵抗を開始した。
その度に激痛が襲うのか彼の身体を電流のようなものが襲い、それはまるで闇が彼を逃がすまいとするかのようであった。

「――あああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

しかしその中で、ユウスケは一際大きく叫んだ。
まるで彼にずっと纏わり付いていた、ダグバや牙王といった参加者から受けた狂気すら、同時に払いのけ元の自分を取り戻そうとするかのように。
そして次に一際大きく闇が膨れあがったその時、遂に彼の身体はその果てない闇の中から吐き出された。

「――小野寺君ッ!」

アクセルが、思わず駆け寄る。
それによって何とか地に背中をつく前にその身を支えられたユウスケは、虚ろな目をして、しかし確かに笑った。

「一条さん……俺、やりましたよ。五代さんにも出来なかったことを、俺……」
「あぁ、よくやった……。それじゃ、キバットを連れて逃げよう。俺も、変身しているとは言え少し無理をしすぎたらしい……」

言いながら、アクセルはその腹を抑える。
ユウスケが闇から解放された安心感故か何度も大声を出した反動がどうやら今来たらしい。
このままでは変身が解けるまで後数分、それまでにこの状況を離脱しなければと提案する一条に対し、ユウスケは沈んだ表情を浮かべた。

「一条さん、すぐに病院に向かいましょう。この傷のまま放置していたら、一条さんは――」

必死の様子で捲し立てるユウスケを見て、しかし一条は察していた。
彼が今、それ以上に本当にやりたいことは何なのかということを。

「無理をするな。渡君を……救いたいんだろう?」
「……はい」

その一条の問いに、ユウスケは小さく頷く。
幸い、ユウスケと二人で移動してきたこちらはD-1エリア方面だったらしく、視認できる位置に病院が存在した。
この距離であれば、残された変身時間でもバイクモードに変形すれば今の一条であっても辿り着くことは可能なはずだった。

だがそれを踏まえた上でも、ユウスケにとって今の一条を一人放置するのは余りにも中途半端に思えたのだ。

「君が言いたいことは分かっている。キバットとの約束を、守りたいんだろう」
「……はい」

短い答えであったが、一条にはそれで十分だった。
彼という人間のことも、この短い時間の中で少しは分かってきたつもりだ。
だから、ここで彼がこうして渡を見逃すことが出来ないだろうことだって、分かりきっていたことであった。

本音を言えば、彼には自分の看病より、キバットとの約束を守り渡の元へ向かって欲しい。
しかし同時に、今の自分をそう簡単に一人にはしてくれないだろうことも、既に分かっていた。
思わず悩むように首を傾げた一条は、瞬間空より降ってきた赤と青の流星を見た。

「ガタックゼクター、それに……カブトゼクター!?」

ユウスケが、思わずと言った様子でそれに驚く。
どうやら地の石に自分が支配されていた間、ガタックゼクターは単身で自分を救うことの出来る参加者を探しに行ってくれていたようだった。
そして同時、カブトゼクターがここに来たということは……。

ユウスケの予想を裏付けるように、バイクの駆動音が響いた。
先ほどと違い、警戒をする暇も必要もなかった。
そのバイクに乗っていた参加者は、ユウスケもよく知る男であったからだ。


461 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:05:38 iTar0HZ60

「――名護さんッ!」
「ユウスケ君、久しぶりだな」

自身がこの場で出会った仮面ライダーの一人にして、渡の師匠、名護啓介。
その彼が、今こうして目の前に現れたのだった。
しかし、そうした運命の再開に、今の彼らは喜んでいる時間などない。
それを名護もアクセルの様子を見て察したようで、ユウスケに短く目配せをした。

「名護さん、この人を病院までお願いできますか?」
「当然だ、君も一緒に来るんだろう?」
「いいえ、俺にはまだやらなきゃいけないことがあるんです。
だから先に一条さんだけをお願いします」

ユウスケは、渡を救うという目的を口にはしなかった。
それに一瞬一条は疑問を抱いたものの、既に限界を迎えた身体と朦朧とする意識ではそれについて言及することさえままならなかった。

「分かった……それなら、彼を連れて病院に向かおう。
だが忘れるなユウスケ君、俺はあくまで先に行くだけだ、後から君もちゃんと病院に来るんだぞ」
「はい、分かってます」

そんな一条を置いて、二人の話はもう終わりを迎えようとしていた。
しかしそんな状況で、しかしまだ一条にはユウスケに対し言わなくてはいけないことが残っているように感じられた。

「小野寺君、何度も言うようだが――」
「――はい、俺、中途半端はしません、絶対に!」

言いたかったことを先に言われてしまって、一条は罰が悪くなり少し俯いた。
それを見て再度ユウスケは笑みを浮かべ……しかし瞬間、すくと立ち上がり渡たちがいるだろう方向へその足を既に向ける。

「もう、大丈夫なのか?」
「はい、だって俺、クウガですから!」
「――そうか」

言って、一条もまた名護に先導されバイクに跨がった。
小野寺ユウスケという青年がクウガであって本当によかったと、そう思いながら。

「どうかご無事で。一条さん、名護さん」
「君こそ無事でいろよ、ユウスケ君。絶対に後でまた会おう」

その名護の言葉を最後に、二人は一斉に駆けだした。
それぞれ逆の方向を向いてこそいたが……しかしいずれまた出会えることを確信しているかのようにユウスケと一条の心にはもう、未練はなかった。


【二日目 黎明】
【D-1 市街地】


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、額に怪我、腹部表面に裂傷、その他全身打撲など怪我多数(応急処置済)、全身に擦り傷、出血による貧血、五代たち犠牲者やユウスケへの罪悪感、強い無力感、仮面ライダーアクセルに二時間変身不可、カブトエクステンダーに乗車中
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
0:小野寺君……無事でいてくれ……。
1:第零号は放置できない、ユウスケのためにも対抗できる者を出来る限り多く探す。
2:五代……。
3:鍵に合う車を探す。
4:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
5:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
6:小沢や照井、ユウスケの知り合いと合流したい。
7:未確認への対抗が世界を破壊に導き、五代の死を招いてしまった……?
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると推測しています。
※麗奈の事を未確認、あるいは異世界の怪人だと推測しています。
※アギト、龍騎、響鬼、Wの世界及びディケイド一行について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛かっていることを知りました。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)。
※腹部裂傷は現在開いてしまっています。すぐに治療をしなければ命に関わる重傷です。


462 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:06:02 iTar0HZ60




【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、左目に痣、仮面ライダーイクサに1時間変身不能。
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ラウズカード(ダイヤの7,8,10,Q)@仮面ライダー剣、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト、カブトゼクター@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:今は病院に戻りこの男性(一条)の手当をしなくては。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしていましたが、翔太郎との情報交換でそういうわけではないことを知りました。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。





「君と東京タワーで別れた後、僕は相川始という参加者と一緒に行動していたんだ。そして、そのすぐ後に大ショッカー幹部のアポロガイストともう一度出会った……」

渡の話をつらつらと聞きながら、キバットはその内容に口を挟むことさえ出来なかった。
彼が殺していた参加者がアポロガイストであったのはまだいい。
しかし、もう一人のクウガを操っていた男とも手を組み、病院を襲い、恐らくは先の放送で名前を呼ばれた参加者の死に対し幾つかの責任があるだろうと迷いなく彼が言い放った時には、何か耐えがたい吐き気をも催した。

そこでの戦いの詳細や、地の石を戦利品として手に入れたことなどは聞こえこそしていたが、正直全てを暗記できている自信はない。
友である彼が何をしていたとしても支えると大言壮語を宣ったというのに、早くもその覚悟が砕かれるような思いであった。
だがその後もう一人のライジングアルティメット……クウガを探しに西側に来たという渡の話は、キバットすら予想出来なかった方向へと転がり始める。

「――僕は、そこで名護さんと出会ったんだ」
「名護とッ!?」

渡を止められるはずだと信じた最早数少ない存在の一人、名護啓介。
そんな彼と出会い、しかし渡は未だにキングを自称している。
それから導き出される可能性を幾つか模索してみたものの、そのどれもがキバットにとって、また渡にとって望ましいものではなかった。

「名護さんは僕に言ったよ。僕の罪を一緒に背負ってくれるって。
弟子の罪は師匠の罪、どんなに重い罪でも一緒に償うって。
本当に名護さんは最高の人だと思ったよ……」

しかしキバットの予想に反して、渡の表情は安らかであった。
てっきり名護と決裂し戦闘にでもなったのかと心配していたが、そうではなかったらしい。
と、そこまで考えて、しかし渡の口調はキングのそれへと再び変わった。


463 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:06:25 iTar0HZ60

「――でも、いやだからこそ。僕は名護さんとは一緒に行けなかった。でも名護さんは僕についてずっと責任を負ってしまう。だから決めたんだ。
名護さんから僕の記憶を消してしまえば、名護さんは僕の師匠なんかじゃない。ただ一人の仮面ライダーとして、戦う事が出来るって」
「なッ、記憶って……渡、まさかお前――」
「そう、そのまさかだよ。僕はこのベルトの力で名護さんの記憶を消した」

そういって渡はキバットにも見覚えのある、緑のベルトを掲げた。
先代のキングを打倒した後東京タワーに向かう間デイパックに押し込められていたキバットにも、そのベルトの特性は理解出来ていた。
つまりは、変身の度記憶を代償として消費する恐ろしいアイテムだと……同時に、幾ら渡が切羽詰まっているとは言え記憶を消してまで戦う事はないだろうとそう楽観視していた、いやせざるを得なかったのだ。

そんなアイテムごときで自分と渡の関係を断ち切れるはずなどないと、そう信じる他キバットに残された道はなかったのである。
だが、実際はどうだ。
渡は戦闘の副作用としてではなく、記憶を消す目的のみでそのベルトを使ったのだ。

名護との一年にもなる付き合いと、彼から学んだ多くのことを、同時に彼が渡から学んだ全てのことを、無に帰すことを知った上で。

「何てこと、しやがる……!」
「名護さんは、僕が僕でいて良いって言ってくれた……。それは嬉しかったけど……でも、今の僕にそれは許されない。
他の世界を全て破壊して僕の存在自体をなくしてもらうまで、僕に僕として生きていい時間なんて存在しないんだ……!」

その言葉を告げる渡は、とても辛そうに見えた。
だからといって彼がしたことは許されることではない、それは分かっているが……、キバットには、もう自分が言うべきことが分からなかった。
何を言えば彼が少しでも考えを変えようとしてくれるのか、それとも最早彼の考えの変化を認めない自分こそが間違っているのだろうか。

彼らしくもない後ろ向きな思考が生まれた瞬間に、渡の視線はもうキバットから外れていた。
もう、キバットには彼を呼び止めるだけの事も出来ない。
手を伸ばせばすぐに届くはずのその距離が、渡が一歩足を進める度に、彼がもう戻ってこれない場所まで向かうかのように感じる。

呼び止めなければと心は叫んでいるのに、もうキバットにその口を開くことすら――。

「――なッ……!?」

瞬間、渡が驚愕の声を上げた。
キバットからは彼の背中に隠れ見えないその視線の先、渡が見つめたその視線を追随した彼は、見た。

「ユウスケ……ッ!?」

闇に捕らわれ自我を石に支配されていたはずの小野寺ユウスケ、彼が自分の意思で今渡の前に立ちはだかっている姿を。

「渡……俺は、お前を止めなきゃいけない。お前が記憶を消した、名護さんの分まで!」
「何故、貴方がそれを……!?」

困惑した様子で渡はユウスケに問う。
もしかすればキバットとの会話を聞かれていたのかもしれないが、彼の表情からは立ち聞きをしていた情報を話しているような雰囲気は一切感じられなかった。

「その石を通じて全部聞こえたよ。それに、お前が感じた感情だって、全部伝わった。
アポロガイストを殺した時、名護さんの記憶を消した時、……お前はこれっぽっちも嬉しいなんて思っちゃいないってことも!」

――古来より伝わる偉人の言葉に、こんなものがある。
『深淵を覗くとき、深淵もまたお前のことを見ているのだ』
――ユウスケが渡の声を聞くことが出来たのは、ひとえに地の石にひびが入りその支配能力に僅かながら影響が出ていた為であった。

そもそも地の石は、仮面ライダークウガを自身の傀儡としその思い通りに操る為のもの。
それに罅が入ったことによる影響、それが、地の石の所有者が抱いた感情、そして見た光景をもクウガに流してしまうというものであった。


464 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:06:44 iTar0HZ60
つまりは本来一方的であったはずの地の石による精神的干渉が、五代雄介には存在しなかった罅と、もう一つのイレギュラーによって渡にさえ作用しユウスケにも彼の体験を全て追体験することになったということだ。

無論、そんなものは渡には知るよしもない。
故にただキバットに対し、彼は今までの行動の全てを吐露するだけだった。
それによってキバット以外の誰かに、キバットに語った以上の情報が渡るなど思いもせずに。

「何を知ったような口を……!」

言いながら渡は最早手を煩わせるのみとばかりにその手に持っていた地の石を地面に叩きつけた。

「サガーク」

それによって大きく音を立て地の石が粉砕されるのに見向きもせず、彼はその腰に自身の臣下を呼び寄せた。
戦闘の意思を露わにした渡に対し、キバットはそのままユウスケの元に飛びよる。

「ユウスケッ!お前、色々大丈夫なのか?操られてたんじゃねぇのかよ!?」
「その話は後だキバット、今は渡と戦わなくちゃいけない時なんだ」
「それは……」

ユウスケの帰還、そして渡との避けられない戦い、そのどちらをもキバットに逃げ道がないことを示しているのは分かっている。
だがそれでも。
それでも今のユウスケが渡と戦うということは……。

「――キバット、もし勘違いしてるなら、だけど、俺には渡を殺す気はないよ」
「えっ、でもお前さっきまで渡に……」
「あぁ、確かに操られてたし、それは確かに思うところもあるけど……。
でもそれ以上に、俺は今、渡を救いたい!」
「ユウスケ、お前って奴は本当に――!」

思わず、キバットは涙ぐむ。
ユウスケを信じた自分は、決して間違いではなかったのだ。
それが分かっただけでも、本当にこうして彼に出会えたことは、無駄ではなかったのだろう。

「変身」

冷たく渡が呟くと、それを受け彼の身体にステンドグラスのような鎧が発生する。
運命の鎧、サガ。
最早この場でキバの鎧よりも纏った、新たな王を象徴する鎧であった。

一方で、ユウスケもまたその腰に手を翳した。
それによってアマダムが彼の身体の表面に浮き上がり、ユウスケはいつもの構えを取る。
――クウガの力を行使することに、もう恐れがないと言えば、それは嘘になる。

それでももう自分しか戦士クウガがいないのであれば。
そして何より自分を信じ相棒を救うよう頼み込んできたこの蝙蝠を思えば。
最早、ユウスケにその力を出し惜しみする理由などなかった。

「――変身ッ!」

高まる力を感じながら、ユウスケは叫ぶ。
それに呼応するように、アマダムがユウスケの身体を作り替えていく。
赤い瞳、赤い躰、そして二本の角……。

凄まじき戦士ではない、ただの戦士、人の心を持った仮面ライダー。
クウガが、今ここに誰かを救うため再び立ち上がったのだった。
――止める為に戦うユウスケと、止まらない為に戦う渡。

相容れないはずの思いを、しかしそれでも届ける為に、ユウスケは駆ける。
それが、今の自分にやらなければいけないことだと、そう思うから。


465 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:07:01 iTar0HZ60





地の石による支配を、小野寺ユウスケがこうして無理矢理にでも抜け出せたのには、もちろん根性論以外の理由がある。
そもそもにして地の石とは、仮面ライダークウガをライジングアルティメットとしその所有者の意のままに操る能力を持つ。
その特異性は往々にして語られてきたとおり、クウガでない存在にその石は無力である。
また、この場においてクウガである五代雄介も、アマダムを砕かれクウガでなくなった為にその支配から解放されたことは周知の通りである。

では、ユウスケのアマダムは、果たして完全であっただろうか?
言い方を変えれば、『彼は未だ完全な仮面ライダークウガなのか』という問いである。
答えは否、彼のアマダムはダグバとの究極の域に達した凄まじい戦いの最中罅割れていた。

これによってクウガである証に文字通り傷が付いたユウスケは、地の石の支配下にあってなお抵抗を試みることが出来、また同時に自分の意思で言葉を発することが出来たのだ。
そして同時に地の石が可能にするライジングアルティメットという形態への変化。
元々アマダム単体で至れる限界地点であるアルティメットフォーム、それに地の石による魔力を上乗せした形態がライジングアルティメットフォームであることは、既に承知の上のはず。

或いは何らかの要因さえあれば自力でライジングアルティメットフォームに至ることも不可能とは言い切れないものの、しかし本来は極めて歪な力であると言えるだろう。
つまり本来は想定されていない形態への進化をするには、今のユウスケの身体は余りに不安定であったのだ。
元々ユウスケの身体は無理矢理にアルティメットフォームに至り急速な進化を促された形であり、それに加えて地の石による強制的な進化はアマダムの酷使に繋がってしまったのだ。

しかし地の石はそんなことを気にも留めずアマダムに新たな進化を促した。
無理な進化の強制、その先に待つのは……、アマダム自身の崩壊であった。
そして刻一刻と迫る支配にユウスケが拒絶を見せアマダムもまた崩壊を始めたなら、最終的な結論は一つ。

彼は、そしてアマダムは、その身を削り“クウガであること”、地の石による支配の条件それ自体を否定したのだ。
つまりはアマダムが地の石の強すぎる力に耐えきれず自壊を始め、それによりユウスケの身体はどんどんとクウガではなくなっていく。
アマダムとの肉体の結びつきこそがクウガである証明であるなら、それが壊れゆく度地の石の支配が加速度的にユウスケに及ばなくなったとして、何ら不思議ではないのだ。

故に、ユウスケは地の石の支配より解放された。
そのアマダムに刻んだ罅を、より一層広げる代償と引き替えに。
果たして、それは自然に自壊するものなのか、或いは外部的干渉がない限り何ら問題はないのか、誰にもわかりはしない。

しかし、そんなことをユウスケは気に留めすらしない。
今戦える力があり、自分が仮面ライダーであること。
ただそれだけで、自分の存在意義があり、そして目の前の青年を救うこと、それが、今の彼にとって成さねばならない使命なのだから。


466 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:07:49 iTar0HZ60


【二日目 黎明】
【E-1 焦土】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(極大)、ダメージ(大)、左脇及びに上半身中央、左肩から脇腹、左腕と下腹部に裂傷跡、アマダムに亀裂(進行)、ダグバへの極めて強い怒りと憎しみ、仲間の死への深い悲しみ、究極の闇と化した自分自身への極めて強い絶望、仮面ライダークウガに変身中
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト
【道具】アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ 、ディスクアニマル(リョクオオザル)@仮面ライダー響鬼、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド、ユウスケの不明支給品(確認済み)×1、京介の不明支給品×0〜1、ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品×0〜1、照井の不明支給品×0〜1
【思考・状況】
0:渡を救う。
1:一条さん、どうかご無事で――。
2:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない……
3:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
【備考】
※自分の不明支給品は確認しました。
※『Wの世界万能説』をまだ信じているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました。
※クウガ、アギト、龍騎、響鬼、Wの世界について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛けられていることを知りました。
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。
自壊を始めるのか否か、クウガとしての変身機能に影響があるかなどは後続の書き手さんにお任せします。
※ガタックゼクターがまだユウスケを自身の有資格者と見なしているかどうかは、後続の書き手さんにお任せします。
※キバットバットⅢ世の右目が失われました。またキバット自身ダメージを受けています。キバへの変身は問題なくできるようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※地の石の損壊により、渡の感情がユウスケに流れ込みました。
キバットに語った彼と別れてからの出来事はほぼ全て感情を含め追体験しています。
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※デイパックは音也のものに移し替えました。その際支給品の紛失についても確認しましたが、彼が覚えている限りの支給品はそのまま残っていました。


467 : 紅涙 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:08:05 iTar0HZ60




【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、地の石を得た充足感、精神汚染(極小)、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、仮面ライダーゼロノスに1時間変身不能、仮面ライダーダークキバに1時間15分変身不能、仮面ライダーサガに変身中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、ハードボイルダー@仮面ライダーW、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードK)@仮面ライダー剣、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:仮面ライダークウガを倒す。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。次こそは逃がさない。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも倒す。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※赤のゼロノスカードを使った事で、紅渡の記憶が一部の人間から消失しました。少なくとも名護啓介は渡の事を忘却しました。
※キバットバットⅡ世とは、まだ特に詳しい情報交換などはしていません。
※名護との時間軸の違いや、未来で名護と恵が結婚している事などについて聞きました。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。


【全体備考】
E-1エリア焦土に、バグンダタ@仮面ライダークウガと鯛焼き名人アルティメットフォームスーツ@仮面ライダー剣、バギブソン@仮面ライダークウガが放置されています。
地の石@仮面ライダーディケイドは破壊されました。

【支給品紹介】
【バグンダタ@仮面ライダークウガ】
紅音也に支給。
グロンギの中でも特殊な役職についているラ・ドルド・グがゲゲルのスコアを記録する為用いるもの。

【鯛焼き名人アルティメットフォームスーツ】
東條悟に支給。
鯛焼き名人アルティメットフォームと呼ばれるスーツ。今回は鯛焼き板が付属しなかった為、ただ重いだけの薄い装甲の意味合いしか持たなかったようだ。

【ディスクアニマル(リョクオオザル)@仮面ライダー響鬼】
紅音也に支給。
ディスクアニマルの一種。猿のような形状に変化する。

【士のカメラ@仮面ライダーディケイド】
小野寺ユウスケに支給。
士が愛用するカメラ。士が撮った写真は全て歪な形になるが、光夏美が試しに撮った際は鮮やかな写真を写した為、問題は彼にあるようだ。

【士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド】
照井竜に支給。
光夏美の祖父、光栄二郎が趣味でアルバムにしている士の写真を纏めたもの。
旅の思い出そのものとも言える代物な為、いつしか士たちにとっても大事な思い出の品となった。


468 : ◆.ji0E9MT9g :2018/05/11(金) 16:09:09 iTar0HZ60
以上で投下終了です。
毎度のお願いではありますが、ご指摘ご感想、ご意見等ございましたら是非ともよろしくお願いします。


469 : 名無しさん :2018/05/11(金) 20:12:23 HNJ8HKLc0
投下乙です!
ユウスケは地の石に支配されると思いきや、まさかこのような形でその闇を振り切るとは!
総司も記憶を失った名護さんに違和感を抱きつつあるので、その謎に辿りつくのも近いかもしれませんね。そして名護さんもようやくユウスケと再会し、一条さんを助けてくれたのは本当によかった……!
ユウスケと渡の戦いが始まりましたが、どちらもボロボロなのでどうなるのかが本当に不安です……


470 : 名無しさん :2018/05/12(土) 19:05:03 zTwL3cfs0
投下お疲れ様です。
今回の感想には多分に自分語りが入りますが実は私、平成ライダーシリーズでも門矢士と小野寺ユウスケのコンビが一番に好きでして。
というのもディケイド三話を初めて視聴した時の、「こいつが皆の笑顔を守るなら! こいつの笑顔は俺が守る!」という士の説教が、本当の本当に心に響いたからなんです。
それがなぜかという理由が、このSSでは完璧に描かれていました――「五代雄介には、仲間はいても、門矢士はいなかったんだ!」という、一条さんの血を吐くような叫びとして。

確かに五代さんは偉大な戦士クウガであり、ただ一人で皆の笑顔のために戦い抜いた立派な人で、支えてくれる仲間も優れた人格・能力の善き人々で……
けれど、彼と等しい責任で、時に彼の代わりに戦ったり、彼と本音でぶつかり合える対等な戦友には終ぞ恵まれず、ダグバとの決戦まで、全ての罪と責を引き受けるしかなかった悲劇が描かれたのが原典のクウガでした。

だからそれがリ・マジネーションされ、偉大過ぎる五代に比べ未熟に見えるユウスケというキャラクターが描かれた上でのディケイドにおける究極の闇との戦いで、上記の台詞が飛び出した時、本当に心を打たれたんです。
原典の偉大さを認めて安易にそれを越える能力や人格を設定するのではなく、しかし五代にもできなかった、クウガ自身の笑顔も守るために戦う。五代雄介という偉大な伝説を、門矢士と二人でなら、小野寺ユウスケは塗り替えられる――そんな原作への敬意を忘れず、受け取ったバトンと目の前で生きているキャラクターたちへの想いと相乗するようなカタルシスを一番くれたのは、彼らでしたから。

その後の、ディケイドという作品は脚本家の変更などもあって勝手に抱いた期待とは違う方向に進んでいきましたが、その無念を払拭するようなユウスケの活躍を描き、この界隈に私を引き込んでくれたのがこの平成ライダーロワという企画でした。
この企画もまた長期に渡って停滞してしまいましたが、◆.ji0E9MT9g 氏の手によって奇跡的な再開を果たした後、遂にこの時が訪れました。

原作でも五代に全てを背負わせてしまったことを悔やみ続けた一条さんが、五代を喪った後に、ユウスケを五代の代替えにしてしまうことなく、熱い内容ながら彼が口にするにはあまりに切ない言葉を吐いて。そしてディケイド作中でのリマジキバとの因縁を活かし、原作では彼の不遇の象徴だった地の石さえも乗り越えて、もう引き返せないはずの渡の心の音楽を唯一聞くことができた男として、渡や、キバットたち渡を知る皆の笑顔を取り戻すために、因縁深き"キング"に挑む――あまりにも熱くてちょっぴり切なくて何より格好良くて、2009年2月8日の感動が時を越え見事に蘇らされた、最高のSSでした。

この度は本当に良いものを読ませて頂きました。◆.ji0E9MT9g 氏、ありがとうございました。


471 : ◆.ji0E9MT9g :2018/05/15(火) 00:07:57 aqkIdo5M0
皆様、ご感想ありがとうございます。毎度毎度励みにさせていただいております。

さて、それはそれとして月報です。
話数(前期比)/生存者(前期比)/生存率(前期比)
124話(+7)/19/60(-1)/31.6(-1.7)

今期は私以外の所謂レジェンド書き手様の方々も書いてくださりとても嬉しかったです。
次回月報は少し投下数が落ち込むかもしれませんが、温かく見守っていただけるとありがたいです。


472 : 名無しさん :2018/05/15(火) 03:04:03 Hgl0KOyU0
投下乙です。
自分でいる事を否定した渡に挑むのは、自分である事を力にしたユウスケ。
クウガ、キバ、ディケイドといったそれぞれについて、あらゆる意味で因縁の深い二人なだけに、初対面なのが意外に感じてしまいました。
渡も思った以上に敵だらけな状況が加速し、ただでさえ色々重い現状ががんじがらめに。かつての相棒にその後の経緯を告げて徐々に決別していく姿も物悲しい限り……。


473 : ◆.ji0E9MT9g :2018/05/25(金) 12:27:17 S3tnsPEI0
仮投下スレにて今回予約分を投下しましたのでご確認、ご意見のほどよろしくお願いします。
ちなみに、こちらが仮投下スレになります。

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14262/1289400059/l50


474 : ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:14:51 boF54apg0
お待たせいたしました。
上記仮投下の修正、加筆、及び清書が終了いたしましたので投下いたします。


475 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:15:52 boF54apg0

F-7エリアに存在する数多の民家。
そのうちの一つ、先のキングとの戦いでの被害のないうちの一つに、二人の男がいた。
家の内装などに別段興味も持たず一直線に、しかし警戒を怠らずリビングのテーブルまで足を進めるその様は、この家にとっては侵入者に過ぎないというのに、あまりに堂々としていた。

それもそうだろう、男の内の片割れ、葦原涼は自宅の内装にすら関心を持たない様々な意味で“飾らない”男だったし、もう一人の相川始にとっても、この殺し合いの場に設けられた生活を経ない民家など、気に留める必要もなかったのだから。
やがて難なくリビングに辿り着いた彼らは、そのまま4人掛けのテーブルに重く腰掛けた。
座ってみて初めて、両者ともに病院での戦いを終えてから殆ど休息を取れていなかったことに気付く。

故に始はここが再現されただけの仮初めの住居とはいえ、民家である以上最低限の応急処置は可能だろうと目線を走らせる。

「――門矢の話……だったか」

しかし瞬間、今までこうして家に着くまで一切の声を発していなかった涼が、唐突に始を呼び止めていた。
その声に思わず視線を戻した彼は、改めて椅子に腰掛ける。

「傷の治療はいいのか、それなりに怪我をしてるようだが」
「俺のことはいい。門矢のことを話さないと剣崎のことについても話す気はないんだろ?
なら話すのは早いほうがいいかと思ってな」
「そうか……」

何気ない会話ではあったが、たったそれだけのやりとりで、始は口数の少ないこの目の前の男が、自身の友である剣崎に抱いている仮面ライダーとしての信頼を感じた。
自信の仲間であるディケイドを売るということが出来るだけの器用な男にも見えないし、彼なりに自分にディケイドの情報を渡すということはそこまで問題ではないのだろう。
そしてその情報を渡す一方で得られると信じている剣崎と自分の関係に対し、この男が並々ならぬ期待を持っていることも、今の始には理解出来た。

(お前はやはり、凄い男だな、剣崎……)

心中で、何度目になるか分からない亡き友への言葉をかける。
死してなお他の仮面ライダーに多大な影響を残し、今こうして目の前に現れたこの男に至っては、剣崎とは直接の面識はないらしいというのにここまで彼に信用を寄せているというのが、始には何となくくすぐったかった。
そうして今はもう相容れない存在となったとはいえ、かつて自身が友と認めた男が集めた人望を再び理解した始は、一つ息を吐いた。

「――あぁ、そうだな。この場では時間も惜しい。
話してもらおうか、ディケイドについて」
「あぁ、門矢と俺が出会ったのはーー」

それから、涼は話し始めた。
第一回放送の後、助けたはずの女に殺されかけ、何もかもを投げ捨て逃げ出した自分を追いかけてきた男、それがディケイド……門矢士だったということ。
そしてそこで本来の変身能力に制限がかかっていた自分に渡された力、それがブレイドだったということ。

士は変身し戦いを仕掛けてきたが、それは言葉とは裏腹に自分を立ち直らせる荒治療にすぎなかったことを理解したこと。
そしてーー。

「『愚かでもおまえは人間だ。自分で自分の道を決める人間だ。愚かだから、転んで怪我をしてみないとわからないこともある。時には道に迷い、間違えたとしても……それでも、自分が選んだ道を歩むことができる、人間だ』。
……門矢は、俺にそう言った」

その戦いの中で士が自身に投げかけた言葉を、一語一句違わず口にした。
決して短くはない言葉をそっくりそのままこうして口に出せたのは、彼の中で今の言葉は何度も反芻されたものだからなのだろう。
一言一言噛みしめるように口にした彼はそのまま自身の掌を見て続けた。

「――この力を手にしてから、俺は化け物としか呼ばれなかった。
あの姿を見て俺を人間だなんて呼ぶ奴は……いなかった。
俺だって、あんな風に自分の身体が変わってからの自分が前までの自分と同じなんて、これっぽっちも信じていなかった。
……でもあいつは、そんなことで悩む俺のことを簡単に破壊していったんだ。
自分に出来るのは、見つけているはずの道を歩めないと悩む、そんなちっぽけな俺を破壊することだけだってな」


476 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:16:13 boF54apg0

そこまで言い切って再度真っ直ぐに始の目を見据えた涼の瞳は、澄んでいた。
嘘を一度もついたことがないと言われても納得してしまいそうなほど愚直ですらあるその目を見て、始は理解する。
やはりこの男は、ディケイドの情報を売ろうなどとは少しも思っていない。

或いは病院を襲った自分たちにもディケイドの本当の姿を知らせることで考えを改めさせようとしているかのようですらあった。
始としても、アポロガイストの話自体半信半疑であった上、バトルファイトにおけるジョーカー……自分の役割にも似たそれを任せられているというディケイドを完全な敵として切り捨てるのに些か抵抗感があったのは事実。
その為どこかでディケイドに人間性や彼を信じる仲間の存在を認められることを望んでいたのかもしれなかった。

(とは言え、これだけでディケイドを完全に信用するわけにはいかないがな……)

しかし、今涼から得られた情報だけでは、ディケイドが存在するだけで世界を滅亡に導く悪魔であるという情報に対する反証にはなり得ない。
故にまだディケイドに対する警戒を解くべきではーー。

『――始!』

不意に、友の声が聞こえた。
それは、世界を滅亡させるかもしれない自分を信じ友として受け入れてくれた剣崎に対して自分が抱いている後ろめたさの感情なのだろうか。
詳細こそ違うとは言え自分と似た存在であるディケイドを、お前が破壊するのは間違っているのではないかという、自分自身への拭いきれない疑問なのか。

(例えそうだとしても……俺はもう、お前と同じ道を歩むことは出来ない)

剣崎が今も生きていたとしたら迷うことなくディケイドを信じ友として守ろうとするだろうことは、涼から聞いた彼の最期から容易に想像出来る。
そして彼が死んだ今、もし自分に望むことがあるとするなら、それは彼の遺志を継いでディケイドを信じ戦うことなのだろうということも、もう分かっているつもりだ。
だが、それは出来ない。

今の自分にとって最も重要なことは、栗原親子の住むあの世界を守ること。
それが、大ショッカー打倒もディケイドと共に戦うことも……、剣崎が望むだろう全てを犠牲にしてでも、最優先でなさなければならない自分の使命だった。

「――大丈夫か?」

そんな時、ふと涼が心配したような表情でこちらの顔を覗き込んでいた。
他人を気遣うのがそう上手くないだろうはずのこの男にさえ心配されてしまうほど、今の自分は上の空だったというのか。
殺し合いという殺伐とした状況で見せてしまった思わぬ隙を自覚して、始は思わず歯がみした。

「あぁ、問題ない」
「そうか、俺が知っている門矢についての話はこれ位だ」
「……一つ、聞きたいことがある。
――お前は何故、ディケイドが自分の世界を滅亡に導くかもしれないと分かった上で、奴を信じることが出来る?
自分の生まれた世界に執着がないのか?」

それは始にとって、この場で聞かなくてはならない質問だった。
勿論、ディケイドに少なからず恩を感じているというのも理由の一つではあるだろう。
だがそれだけで、果たして生来の世界に対する執着よりも彼を信じるに足る理由としては不十分だと、始は感じたのだ。

「勿論俺だって、自分が生まれた世界が滅んでいいなんて思ってるわけじゃない。
元の世界に戻って、やらなきゃいけないこともあるしな」

言って涼はその右手をーー始は知らない事情だが、その腕を授けてくれた恩人をその腕に重ねてーー見つめる。
だがすぐにそれをやめ、もう一度始を見やった。

「だがそれ以上に……俺は門矢を信じたい。もしもあいつが本当に悪魔だとしても……俺は、それがどうしようもない事実だと分かるまで、あいつと共に戦いたい。
仲間を信じるか信じないか、考えるまでもないそんな小さいことで悩む俺を破壊してくれたのは、他でもないあいつだからな」


477 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:16:31 boF54apg0

涼の言葉は、どこまでも真っ直ぐだった。
つまりは、ディケイドが世界の破壊者かどうかなど、この男にとってはどうでもいいのだ。
どこか覚悟を決めたように見えるその言葉に反して、彼の表情からはディケイド……門矢士が破壊者であったとして彼を見捨てようとする思いは微塵も見て取れなかったのだから。

(この男がブレイドに変身した……か。なるほどディケイド、どうやら適当な相手にブレイドを渡したわけじゃないらしいな)

そして同時、始はこの男にブレイドを託そうとしたディケイドに一種の信頼を抱く。
少なくとも剣崎は自身の死後涼がブレイドを使うことに、何の異議も申し立てることはなかっただろう。

「そうか」

そこまで考えて、始は会話に不自然な間が生まれないようにと短く返答を述べた。
ディケイド……いや、門矢士に対する情報はある程度把握出来た。
そして同時、この男に対し、どこか親近感にも似た感情を抱いている自分がいることも、始は理解していた。

「……なら次は、俺の番か。剣崎と俺の関係……だったな」
「あぁ、頼む」

だから、だろうか。
自分にとって有益な情報を得られた時点で反故にしてもよかったはずの約束を、律儀に守ろうとしている自分がいた。
何故かは自分にも分からない。ただの気の迷いかもしれないが、それももう自分にとってはどうでもよいことに思えた。

「俺と剣崎の出会いは……正直、あまりいいものではなかった。あいつはーー」

それから、始は語り始めた。
自身と剣崎の交流を。
だが、その実内容としてはそこまで掘り下げたものは大して語ってはいない。

元々始は口数多くベラベラと自分の経験について語るような男ではなかったし、或いは同時に安い言葉だけで語り尽くせるほど、自分と剣崎の関係は単純なものではないと思っていたのかもしれない。

だから語った内容は、とても表面的なものだった。
しかしそれを聞く涼の顔は、極めて満足げなもので、それが始にはとても不思議に思えた。

「……何故そんな表情をしている、俺はそこまで大した話をしたつもりはないが」
「分かったからだ、お前が剣崎を本当に友として信頼していたってことがな」

それについて思わず問えば、返ってきた答えはまたしても真っ直ぐなものだった。
言われて初めて始は涼に対し剣崎についてあまりに正直に話しすぎていた自分を自覚する。
――このままここにいては、俺の中で何かが変わってしまう。

ぼんやりとした感覚ではあるものの、どこか確信じみてそう感じた始は涼に一瞥もくれずに立ち上がった。

「聞きたいことは聞いただろう。……話はこれで終わりだ」

それだけを言い残してそそくさと民家を後にしようとする始の肩をしかし、涼は思い切り掴んでいた。

「終わりじゃない。分かってるんだろう?お前だって。
剣崎がこんな殺し合いに乗ることをよしとしないのも、今のお前が本当に望まれていることが何なのかも!」

――あぁ、やはり長々と話をするんじゃなかった。
始は俯き、自分の不手際を呪った。
殺し合いの場で今は亡き友とどこか似た存在を見つけ、それに不用意にこうして自分のことを話したツケが、これだ。

知ったような口ぶりで自分と剣崎のことに言及し、あまつさえ彼の思いを代弁しているかのような口調でこうして自分を説得しようとするとは。
どこか失望したような思いを抱いたまま、始は足を翻し彼から離れようとする。
当然、涼はそれを逃すまいと手を伸ばすが。


478 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:16:48 boF54apg0

「――俺に触れるな」

それに対し、始は極めて冷たく返す。
振り払われた腕を一瞥し、涼はしかし声を荒げることをやめなかった。

「お前だって、気付いているはずだ!
大ショッカーが本当に世界の選別をするためなんて理由で俺たちに殺し合いを強要しているわけじゃないことを!」

涼の言葉の意味するところは、既に始とて理解している。
そもそもにしてあのキングが飛び入り参加などしている時点でこの殺し合いに特別な意味を見いだすことなど出来はしない。
崩壊の確定した響鬼の世界から参加者を輩出するならまだ百歩譲って分からなくはないが、未だ橘や志村という参加者が残っている自分の世界に更に有利な状況を作る必要がない。

或いは彼は剣の世界の参加者ではない第三者としての介入なのかもしれないが、どちらにせよ世界対抗戦という名目で開かれているこの殺し合いに極めて不自然な存在であることは否定しきれないだろう。
実際ジョーカーである自分を前に敵わないと逃げたのはともかくとして、変身が出来ない状態の涼を延々追いかけていたことや彼の生来の性格から考えても殺し合いに反対する参加者を減らすという務めすら素直に果たす想像すら出来ないのだから、どちらにせよ大ショッカーに信頼などおけるはずがなかった。
そこまでを分かりきった上で、しかし始は重い口を開いた。

「……あぁ、分かっている。それは大ショッカー幹部を名乗る男から直接聞いた。
この殺し合いに乗じて全ての世界を侵略するつもりだ、とな」
「ならどうしてお前はーー」
「――お前に教える義理はない」

始は努めて、会話を切り上げようと冷静に振る舞う。
そして、同時に思ってしまう。
この男のこういう部分は本当に剣崎に似ていると。

「……怖いんだろう」

ふと生まれた思考の淵に入り込むように、涼が呟く。
その言葉に思わず振り返れば、しかし涼は確信を持ったように始に歩み寄っていた。

「キングは、お前がとある参加者を殺し、その同行者と行動を共にしていたと言った。
だから、引き下がれないんだろう?自分が大ショッカーと戦う“仮面ライダー”になったら、仲間を殺されたその男に、いや世界の為に殺してしまったその男が恨むべき相手を失ってしまうと!
だからお前は大ショッカーに従った自分をどうにか正当化しようとしているんだ。
そいつらが、ずっとお前をただの殺し合いに乗った悪人だと、迷いなくお前を倒せるように」

言われて、始は思わず目を伏せた。
勿論、意図してそんなことをしていたつもりはない。
だが、木場と呼ばれていたあの男を殺し後戻りが出来なくなった後、ジョーカーの男、左翔太郎と共に行動していた時、何故自分は正体を明かさなかったのだろうか。

無論、いつでも倒せる男を野放しにしていても何ら問題がないからという理由は挙げられるだろう。
しかしそれ以上に、始は翔太郎に何かを期待していた。
それが彼の宣った『運命を変える』という言葉を信じたかったということなのか、それとも或いは涼の言うようにーー。

「――愚かでもおまえは人間だ」

思考に沈んだ始に、涼は言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
その言葉は、先ほども聞いた、彼が迷いを捨てる決意を固めた時、ディケイドが投げかけたというもの。
思わず涼の目を見た始は息を一つ吐いた。

「……俺が人間だと?笑わせるな。俺はーー」
「いや、人間だ。元はどんな存在でも……剣崎と出会い、栗原という親子と出会い、お前はもう人の心を知ったはずだ。
そうじゃなきゃ、別の世界の住人で情報も吐き終えた俺はもう死んでるはずだからな」
「――ッ」

思わず、始は押し黙る。
橘から情報を聞いた上で自分と話したいというのに何か違和感を覚えていたが、なるほどどうやら自分が殺し合いに乗っているのは予想した上で説得できるのか倒すべきなのか判断する材料が欲しかったらしい。
厄介な相手がいたものだと思う一方で、どこか懐かしい感情が沸きあがっているのを、始は否定しきれずにいた。


479 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:17:03 boF54apg0

そして同時に、先ほど涼が引用した言葉の、その先に続く言葉を始は反射的に思い出す。

(自分が歩みたいと、見つけている道を邪魔する俺自身を、自分が破壊する。
こいつが言いたいのは、そういうことだろうな)

ディケイドが述べたという言葉。
それに力を貰った涼自身が、今度は始が歩みたい道を歩める為の手伝いをすると、そういいたいのだろう。

(こいつらは、あのライジングアルティメットすら倒し、ジョーカーさえも凌いで見せた。
俺も、大ショッカーを倒せるだけの力があると認めるべきなのか……?)

故に、考える。
彼らが本当に、大ショッカーを倒せるのか否か。
自分の知る中で最強の実力を誇りジョーカーをも超えるライジングアルティメット……五代雄介は、死んだ。

キング、紅渡はまだ死んではいないようだが、金居もまた倒れた。
ジョーカーとなった自分に逃走を選択させるだけの実力を彼らが持つというのなら、大ショッカーに従い殺し合いを促進させても意味のない現状、これ以上参加者を殺すことに意味はーー。

「――ぐッ!?」

瞬間、始はその場に蹲った。
理由は、胸の奥から何物かが込み上げてくるのを、抑えきれなかったため。

(また、なのか?)

それは、病院でも生じたジョーカーへの衝動。
何故今になって何度もそれが起こるのか、始には一切見当もつかなかった。

「相川ッ!大丈夫か!?」
「逃げろ……、このままでは、お前もーー」

それ以上はもう、彼に言葉を紡ぐことは出来なかった。
雄々しい雄叫びと共に緑の閃光が辺りを包み込んだかと思えば、瞬間そこにいたのは緑と黒の異形。
最強のアンデッド、ジョーカーがそこにいた。

「相川、お前――」
「ウゥ、ウオオオォォォォッ!!!」

雄叫びと共に襲いかかるジョーカーに、物陰から飛び出した緑と茶のバッタが突撃した。
さしものジョーカーが思わずと言った様子で数歩下がったその隙に、涼はそれを手に取り腰のバックルに収める。

「変身ッ!」

――CHANGE KICK HOPPER

彼の声に呼応するかのように纏われたタキオン粒子が緑のバッタ型のスーツを形成する。
変身の完了と共に光り輝いたその双眼が闇夜を照らす中で、涼は構えを取った。
――どうやら今の始は正気ではないらしい、というのは涼にもすぐに分かった。

一瞬自身の挑発に応じ始本人の意思で襲いかかってきたのかと思ったが、正気を失ったようなその咆哮を聞けば、今の彼がただ本能のまま突き動かされているのが理解出来たのである。
であれば今自分が成すべきは、変身制限を迎えるまで今の始を相手に耐えることだけ。
彼から放たれる威圧が如何に凄まじく過去体験したことのないもので“耐える”、それだけのことがどれだけ難しくても。

最早自分に迷っている時間はないのだとそう自分を鼓舞して、キックホッパーはジョーカーの懐へと駆け込んでいった。


480 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:17:21 boF54apg0





グググ、と音を立てて最早跡形もなくなった廃工場の中、起き上がる影が二つ。
何もなかったはずの空間から生じたそれらの影は、ありとあらゆる法則を無視してその場に顕現する。
起き上がり、顔を見合わせたそれらは、何が起こっているのか、こうしていることが当然かのように、その場を後にした。





「ウオォアァァァ!!!!」
「ウオオォォォォォ!!!!」

獣のような二つの咆哮が、誰もいない市街地に響く。
全てを破壊するケダモノ、ジョーカーと、それを止めんとするキックホッパーのものだ。
しかし戦況は……否、そんな言葉さえ必要ないほどにキックホッパーの防戦一方であった。

そもそもにして病院での戦いからの連戦であることは否定しきれないし、戦っていなかった時間も放送を聞き亜樹子を弔いまともに休めてなどいない。
そんな身体を押しているだけでも驚異だというのに、加えてジョーカーは進化したギルスでさえなお足りないような実力を誇る強者である。
必殺のはずのクロックアップさえジョーカーからもたらされる終わりない連撃からの離脱にのみ使ってようやくここまでの戦線を保っているという惨状だ。

思い切り肩で呼吸すること数度、一際大きい咆哮と共に衝撃波を周囲に発生させたジョーカーを相手に、キックホッパーは何度目になるか分からない回避の為のクロックアップを使用する。
周囲を飛び散る瓦礫、ジョーカー本体の動きさえ緩慢に見える空間の中で、しかし凄まじいスピードで迫り来る衝撃波を何とか上体を反らし躱しきる。
後方へ吹き飛んでいった衝撃波に見向きもせずジョーカーに向け突進したキックホッパーは、僅かなダメージなど蓄積すらされないことを知りつつも攻撃を仕掛けようとする。

しかし瞬間、流れすら違う時の中、ジョーカーは突き立てた爪で足下のアスファルトを破壊した。

「何ッーー!」

それによってアスファルトの破片がキックホッパーに向け勢いよく発射され、彼は真っ直ぐにジョーカーに向かうことを阻まれる。

「――いや、まだ手はある……!」

――RIDER JUMP

だが、言葉と共にゼクターに手をかけキックホッパーはそのまま高く跳んだ。
あくまで直線上での接近が阻まれたのは地上での話。
こうして空から攻撃すれば、奴に反撃の手はないはず。

――RIDER KICK

左足に高まったタキオンが集まると同時、彼はそれを思い切りジョーカーに伸ばした。
これで終わらせる。
疲労しきった今の自分でも、ジョーカーの動きを止めるくらいは可能なはずだ。

――CLOCK OVER

思考の終了とほぼ同時、加速した時間は終わりを告げる。
瞬間周囲の民家であったものが轟音を立てただの瓦礫へと成り下がっていく中、それすら気に留めぬままキックホッパーはただジョーカーだけを見据えてーー。
――瞬間、後方から襲いかかった“何か”にその体勢を大きく崩した。

「なーーッ!?」

一体何事かと振り向けば、それは自身の後方に立っていたはずの民家を構成していた瓦礫の一部であった。
つまり、先の衝撃波は自分を狙ったものでなく、この民家を倒壊させるのが目的だったということか。
その上で地上での接近を拒めば自分が跳ぶに違いないとそう判断した上での、ジョーカーの作戦だったというのか。

理性など持たないはずのケダモノがしかしそのセンスのみでクロックアップを攻略した様を目に焼き付けながら、涼はその生身を晒し地面に叩きつけられた。


481 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:17:38 boF54apg0

「ぐあぁ……!」

全身の激しい痛みに悶え身体を捩る涼を前に、死神はただゆっくりとその足を進めてくる。
それをしかと見やりながら、涼はただ『申し訳ない』と思った。
自分を信じてくれるといった仲間にも、逃げろと警告してくれた始にも、そしてこうして力を託してくれた、死んでしまった仲間にも。

その死に様を自分しか知らない彼らのことを誰にも告げぬまま自分が死んでしまったら。
彼ら彼女らの生き様は、一体誰が語り継いでくれるのか。
後悔は尽きないが……しかし、終わりだった。

もう死神は、その鎌を自分に向け構えているのだから。

「矢車……亜樹子……乃木……皆、すまない……」

そうして、覚悟を決めたように彼はその瞳を閉じーー。

「――おいおい、相変わらずボロボロじゃあないか?葦原涼」

響いた剣戟音と、聞き覚えのあるその声に、思わず目を見開いた。
そう、最早これ以上言葉も必要あるまい、そこにいたのはーー。

「乃木ッ!?」

既に死んだはずの乃木怜治、その人であったのだから。

――何故乃木がこうして生きているのか、という疑問の答えは至ってシンプルだ。
乃木怜治……カッシスワームの能力として未だ残された命があったから。
それだけの理由に他ならない。

彼の読み通り、そして同時死神博士の読み通り、カッシスワームは今こうして蘇ったのである。
首輪を焼き払われたためにこうして変身制限からも解き放たれた、文字通り完全な復活を、彼はこうして遂げたのであった。

「乃木、何故お前が……お前は放送で呼ばれたはずじゃーー」
「その話は後……、いや、“もう一人”に聞いてもらえるかな?俺はこいつの相手をしなくちゃあならないんでね」

そこまで言って、カッシスは思い切りジョーカーに対しその腕の剣を振り下ろした。
元々攻撃に重点を置いているジョーカーの戦闘スタイルでは無理な体勢からの防御は難しかったのか、難なく地面を転がっていく。
その光景を見守りながら、しかし涼は湧き出てくる疑問を抑えることは出来なかった。

「……どういうことだ?何故乃木が……まさか、死んだ他の参加者も蘇ってーー?」
「――想像力豊かで結構なことだが、残念ながらそうじゃない。
蘇ったのは俺だけだ。……いや、俺たち、と言い直すべきかな?」

意識外からの声に思わず振り返れば、そこには先ほどまで話していた男と同じ声を顔をした乃木怜治その人が立っていた。
これには流石の涼も理解が追いつかなかったか、目は丸くし開いた口はふさがらなかった。
しかしそんな涼を見て、何のこともないように乃木は続ける。

「驚くようなことじゃない、俺は不死身……ただそれだけのことだからな」
「不死身って……それに何故二人に増えてるんだ……?」
「さぁな、俺にもよくわからん。その命での能力は蘇ってからでないと分からなくてね。
だがまぁ二人に増えるとは、俺にも予想外だったがな」

のらりくらりと言いのける乃木を見て、涼は思う。
これは幻覚でもなりすましでもなく、乃木怜治本人なのだ、と。
目の前で取りこぼしたと思っていた命にどういった理由であれこうして再び相見えたことに、涼は自然と頬を綻ばせていた。

「乃木……本当に、お前なんだな」
「フッ、何を当然のことを。
俺が死んでから何があったかは知らないが、こうして蘇り忌々しい首輪からも解き放たれた今、大ショッカー諸君の命運は尽きたも同然ということだ」

吐いた言葉の大きさに恥ずかしさを微塵も感じさせず、乃木は言う。
それに対し嫌みでなく心強さを抱いた涼は、そのまま乃木と更に情報を交換しようとする。


482 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:18:03 boF54apg0

「乃木、実はーー」
「――おっと、待ってくれ。どうやら“俺”一人ではあの化け物くんの相手は厳しいらしい」

ふと涼が戦場に目を移すと、そこにはジョーカーに言いように弄ばれ足蹴にされるカッシスの姿があった。
それに思わずライジングアルティメットにやられていた病院でのことを思い出すが、しかし此度はそれとは状況が違う。
もう一人、カッシスがここにいるのだから。

「――奴を片付けてから、君の話を聞くとしよう」

言って乃木は紫の異形へと姿を変える。
カッシスワーム・クリペウス。
それが今の乃木の力であった。

涼に一瞥もくれぬまま駆けだしたカッシスは、そのままジョーカーに斬りかかる。
現れた二体目のカッシスに対し思わず退いたジョーカーの足下で、先ほどまで戦っていたカッシスが立ち上がる。

「随分とお話が長かったじゃないか?」
「“俺”一人で十分だと思っていたものでね、まさかこんな理性のないケダモノに言いようにやられるとは」

自分自身にさえ皮肉を吐いて、しかし二人は息の合った動きでジョーカーの攻撃を同時に受け止め反撃を食らわせていた。

「俺もそう思っていたが、どうやらこの身体は以前より微妙に能力が落ちているらしい。
制限ではないと思いたいがな」
「……まぁどちらにせよ、二人であれば前の形態のいずれよりも強いのは保証されている。
この程度の敵、どうということもあるまい」
「あぁ、そういうことだ」

そこまでを話し終えたカッシスたちの間に割り込むようにジョーカーが攻撃を仕掛ける。
分断すれば或いは連携を崩せるかもしれないとでも思ったのかもしれないが、しかし今の彼らにそんな単純な動きは通用しない。
一斉にジョーカーを躱したかと思えば、逆に挟み撃ちの形で一斉に斬りかかった。

それを何とかジョーカーが受け止めるも、それすら読んでいたとばかりにカッシスはその腕に紫のタキオンを纏わせる。

「「ライダースラッシュ!!」」

同時に発した言葉と技にジョーカーが反応するより早く、二つの斬撃のエネルギーはカッシスの手を離れジョーカーを焼き尽くそうとする勢いで肉薄する。

「オオオアァァァァァ!!!!」

大きく咆哮しそれらを弾き飛ばしたジョーカーに対し、しかしカッシスは同時に加速した時間軸へと突入する。
これにより、ライダースラッシュをやりすごすことに全神経を巡らせた隙だらけのその身体を、彼らは一方的に蹂躙できるだけの時間を得たのである。
そして、得た時間を無為にする必要もないと、後から参入したカッシス……角のある方の個体が無防備なその肉体に手を伸ばそうとするが、それをもう一体の個体が止める。

「――待て、こいつは俺の獲物だ。俺がやる権利があるだろう」
「ふん……、好きにすると良い」

さっき痛めつけられていたのを気にしているなど“我”ながら随分とみっともないものだと思いながら、角のあるカッシスは背を向ける。
それを受けもう一体の個体はその表情を愉悦に染め上げた。

「さっきは散々痛めつけてくれたからな……これはほんのお礼だ」

先ほど痛めつけられていた恨み、怒り、そして何よりそんな相手を蹂躙できる喜び。
全てを乗せゲス染みた笑いをあげながら振るわれたカッシスの剣が、何度ジョーカーを切りつけたのか。
彼の銀の剣先が緑色に染まるより早く、彼らにはそんなもの既に数える気もなくなっていた。


483 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:18:19 boF54apg0

「――失せろッ!」

やがて満足したのか、飽きたのか、カッシスは最後にその腕に闇を集わせる。
それにより生じた最強の必殺、暗黒掌波動がジョーカーの身体を襲いその身を生身に戻すころには、彼らのクロックアップも終わりを迎えていた。

「楽しむのは勝手だが、早いところ殺すんだな、そいつは大ショッカー打倒において不穏分子だ」
「――分かっている。上から目線で命令するな」

些か無様な姿を見せた為に上下関係を築こうとしている片割れに気付いたのか、角のないカッシスは不機嫌そうに呟いた。
とはいえもうろくに動くことも出来ないだろう生身の男を殺す程度、一瞬で終わること、故にカッシスはそのまま剣を振り下ろそうとする。

「待ってくれッ!」

が、己の傷さえ押して間に割り込んだ涼に、それを妨げられた。
極めて納得のいかない様子で彼の顔を一瞥した二人のカッシスは、その身を乃木のものへと変える。
どうせ変身制限もないのだから、表情で威圧できる分こちらの方が効果的だろうとそう考えて。

「――どうしたんだ?葦原涼。
俺はただ大ショッカーに従い殺し合いに乗った不穏分子を排除しようとしているだけなのだがね」
「違うんだ、こいつはさっきは自分の意思でなく暴れていただけで、殺し合いに乗りたくて乗ったわけじゃない。
ただこいつにも守りたいものがある……それだけの話なんだ」
「……彼の事情など聞いていないよ、葦原涼。
殺し合いに乗ったかどうかはこの際別としても、こうして自我を失い暴れることそれ自体が我々の大ショッカー打倒への障害になると言っているんだよ」
「ならッ、今度こいつが暴れた時は俺が止める!だからーー」
「話にならないね。俺たちが助けなければ死んでいたのは君だと言うのに。
君だけの問題ならともかく、参加者も大きく減った今、大ショッカー打倒に有望な参加者を殺されてからでは遅いのだよ」
「いや、今度こそ俺が止めてみせる!信じてくれッ、俺を仲間だと思ってくれているのなら!」

ああ言えばこういう、こう言えばああいう。
まるで一歩も妥協するという様子を見せない涼を相手に、乃木は頭を悩ませる。
そうして数秒悩んだあげく、二人の乃木は同時に目を見合わせ、同時に頷いた。

「そこまで言うなら、仕方ないな。本当はこんなことをしたくはないんだが」
「すまない乃木、感謝すーー」
「――ここで、君も殺すしかないようだ」

言葉と共に、乃木の身体は一瞬でワームのものへと変化する。
予想だにしなかったその返答に思わず反応が遅れた涼は、しかし容赦なく振り下ろされたカッシスの剣を躱し……同時に、彼の言葉が本気だということを理解した。
そしてその裏切りに、涼は大きく吠える。

「どういうつもりだッ!乃木ッ!」
「どういうつもりも何もないだろう。君が彼を殺させないというなら、君を殺してでも彼を殺すまでのこと。
大ショッカーに挑む貴重な戦力が一つ減るのは惜しいが……まぁお前如き恐らくは少し頑丈な壁にしかなるまい。
ならどのみちここで殺しても問題はないということだよ」

二人称が、君からお前へと変わるのと同時、乃木の口調からは僅かに滲ませていた仲間としての感情が失せていた。
無論、乃木が把握している涼の実力と今の彼のギルスとしての実力は大きく異なる。
単身でジョーカーを倒せるかは別としても、恐らく金居戦でエクシードギルスに変じることが出来ていれば、単純な戦力差での勝利は容易かったはずだ。

もちろん、そこまで実力に自信がある参加者との戦いであったなら金居もライジングアルティメットを迷いなく呼び戻しただろうし、最終的な被害状況は大差なかったかもしれないが。
少なくとも今の涼は彼の思うような肉壁にしか成り得ない戦力外では決してなかったのだが、ともかく。
そんな事実を知るよしもない乃木は、始を野放しにする危険と涼の生存を天秤にかけ始をこの場で確実に仕留めることを選んだのであった。


484 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:18:37 boF54apg0

――まだ、ギルスへの変身には制限がかかっている。
どうしようもない、このままでは死ぬという絶望が、涼を飲み込もうと口を開けていた。

「――おや?どうした?死ぬのが怖くなったか?
……今そこをどけば、生かしておいてやるよ。大ショッカーを共に倒そうじゃないか?」
「黙れ、俺は絶対にここをどかない、こいつは殺させない!」
「……何がお前をそこまでさせる?橘朔也と志村純一の話じゃあ、そいつが生き残れば世界は滅びるんだそうじゃないか。
その上暴走するとまで来てる、そいつの味方をしても敵を増やすだけだと思うがね」

乃木の言葉は、的を射ている。
善良な参加者を殺したことさえ割れており、直接手にかけてはいないとしても病院戦にも責任がある。
そんな存在と共に行動していたところで、涼の行く先が茨の道になるだけである。

乃木としては涼を案じる思いなどなく自身の手を煩わせず済むならその方がいいというだけの声かけだったのだが、しかしやはりというべきか涼はさして考える様子もなく答える。

「……俺が、信じたいからだ!世界の崩壊や人類の滅亡、そういったことが門矢やこいつによって引き起こされるとしても、本人が望む限りそんな運命は覆せると!」
「――聞いた俺が馬鹿だったよ。まぁそれならそれでさよならだな、葦原涼」

つまらなさそうに吐き捨てたカッシスがその腕を翳すと同時、しかしそれが涼の身体を引き裂くより早く、彼の後方より生じた光の矢がその紫の甲殻に火花を生じさせた。

「相川ッ!?」

思わず驚きと共に振り返れば、そこにいたのはどこかブレイドにも似た黒と赤の仮面ライダー。
その手に持ったボウガンで油断なくカッシスを狙い撃つが、意識外の攻撃でないそれらは容易く弾き飛ばされた。

「全く、手間取らせてくれるな」

苛立ちを隠せない様子で傍観していたもう一人の乃木がその身を異形のものへと変貌されれば負けだと判断したか、ラルクは素早くカードをラウザーに走らせる。

――MIGHTY

瞬間満ちたエネルギーの矢で既に変化しているカッシスを狙い放てば、何故かろくな防御態勢もとらなかった彼は驚きの声と共に彼方へと吹き飛ばされていく。
その攻撃と同時生じた煙幕が晴れる頃には二人の姿はなく、残されたのは二人の乃木だけであった。

「チッ……」

舌打ちを漏らしたのは、勿論変身すらしていなかった乃木怜治である。
全く同じ能力、性格をしているはずだというのに、あたかも自分であればこんな惨状は生み出さなかったとでも言いたげなその様子に、もう片方の乃木は顔をしかめた。
同じ顔同士がお互いに嫌悪感にも似た表情を浮かべているのは傍から見れば相当シュールな構図であったが、当人たちにそれを気にする様子はない。

「……必殺技を吸収出来なかった。先の形態でフリーズを使えなかったことといい、どうやら前の形態時の能力は消えてしまうらしいな」
「ふん、まぁ問題ないだろう。どうやら吸収済みの技は問題なく使えるようだ。
あの戦いでライジングアルティメットと戦っておいたのがこうして役に立つとは思わなかったがね」

どこかふてくされた様子で、しかし冷静に今の自分について語る乃木。
その思考には既に今逃げた二人など存在していない。

「……葦原涼は遅かれ早かれ誰かに殺されるだろう。
相川始も次会ったときに確実に殺せばいい。それより、今の問題は……」
「俺たちの復活が大ショッカーにとって想定の範囲内か範囲外か、だな」

先ほどまでの空気はどこへやら、乃木たちは息のあった会話で考察を始めていた。
カッシスワームに復活能力があること自体は流石に把握されているだろう。
だがそれすら首輪で制限するつもりだった場合、今それをすり抜け復活した自分たちの存在は大ショッカーに対し優位に立てている唯一の存在と言って差し支えないものになる。


485 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:18:53 boF54apg0

「変身制限はなくなり、戦力は大凡二倍になった。
話に聞く限りでは俺たち以外に復活することが能力として認められている参加者もいないようだが……」
「問題はこれが“想定の範囲外ではあったが野放しにしても問題ない”と捉えられている場合だ。
俺たちの復活というイレギュラーを含めてもなおこの殺し合いの進行、及び対主催勢力と大ショッカーとの力関係に変わりはないと考えられているなら……」
「まぁそれに関しては、直接大ショッカー幹部にでも聞かないことには分からないことだらけだな。
せめて俺たちの復活を警戒して会場に送り込まれたイレギュラーでもいてくれれば、些か気が楽になるのだが」

――本来は、この近辺に彼らを警戒し送り込まれた一人の大ショッカー幹部がいるはずだった。
無論それすらキングを乗せるための言い訳で、彼もまた都合良く送り込まれた殺し合いの促進剤である可能性は否定しきれなかったが。

「――今それを話していても埒があかないな。それより俺たち自身の行動方針だ。
大ショッカーを倒すのは当たり前として、そろそろ反撃に移らせて貰いたいものだがね」
「病院に向かう……悪くはないが首輪解除の為に媚を売らなくてよくなったんだ。
あの生意気な魔少年からは距離を置きたいのが正直なところだね」
「まぁ、俺たちは首輪も外れている。禁止エリアを気にしなくていいという点で言えば、どこへ行っても損はないということになるか」
「――それだ」

何気なく口にした言葉に食いついたもう片割れを見て、すぐさまその言の意を捉えたか、二人は同時ににやりと笑った。

「もしこの会場内に大ショッカーの本丸へ繋がる場所があるというならーー」
「――奴らが率先して禁止エリアにした場所……そこに何かを隠している可能性は決して低くはないな」

それは、いわば彼らしくはない地道な方針であった。
とは言えフィリップによる他参加者の首輪解除を待つまでもなく大ショッカーに打撃を与えられるかもしれないのだから、その可能性を追求するのは決して無駄ではないはずだ。
或いはそれが全くの間違いであったとしても、雲を掴むような大ショッカー打倒に必要な行動を一つずつ試してみるのは、決して無駄ではなかった。

「そうと決まれば……足が欲しいところだな」
「おい、見てみろ」

言って指さした先にあったのは、その身を包む黒故に夜に溶け込んでいるバイク。
思わず近寄り見てみれば、キーも刺さっており、つまりはオートバジンに続く現地調達の支給品であった。
その名を、ブラックファング。

剣の世界に存在するライダーマシンのいずれよりも高い性能を誇る最強のマシンであった。

「あのジョーカー君が派手に暴れてくれたおかげでこいつがすっかり分かりやすいところに出てきたらしいぞ」
「彼に感謝すべき、だな」

軽口を叩きながら共に乗車した彼らは、その服までを含め夜へとその姿を隠しながら、思いきりエンジンを振り絞った。
それを受けファングは轟音を上げ西へと向かっていく。
彼らが去った後、そこに残されていたのは、最早ただの廃墟のみであった。


486 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:19:10 boF54apg0


【二日目 黎明】
【F-6エリア 廃墟】

【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】ブラックファング@仮面ライダー剣
【道具】なし
【思考・状況】
0:取りあえず最初に指定された禁止エリア(G-1、A-4)を目指す。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
5:鳴海亜樹子がまた裏切るのなら、容赦はしない。
6:乾と秋山は使い捨ての駒。海東は面倒だが、今後も使えるか?
【備考】
※カッシスワーム・クリペウス(角あり)になりました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。 なお新しくはもう覚えられないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※クロックアップに制限が架せられていること、フリーズ、必殺技吸収能力が使用できないことを把握しました。
※ブラックファング@仮面ライダー剣を運転中です。
※第二回放送を聞いていませんが、問題ないと考えています。




【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:取りあえず最初に指定された禁止エリア(G-1、A-4)を目指す。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
5:鳴海亜樹子がまた裏切るのなら、容赦はしない。
6:乾と秋山は使い捨ての駒。海東は面倒だが、今後も使えるか?
7:こいつ(もう一人の乃木)にこれ以上無様な真似を見せないようにしなくては。
【備考】
※カッシスワーム・クリペウス(角なし)になりました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。 なお新しくはもう覚えられないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※クロックアップに制限が架せられていること、フリーズ、必殺技吸収能力が使用できないことを把握しました。
※ブラックファング@仮面ライダー剣に搭乗中です。
※第二回放送を聞いていませんが、問題ないと考えています。


487 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:19:32 boF54apg0





「ここまで来れば……大丈夫だろう」

ラルクの変身が解けるその時まで走り続けた彼らの足は、F-7エリア最南東にまで及んでいた。
本来病院へ向かおうとしていた涼にとってこの移動はあまり好ましいものではなかったが、贅沢は言っていられない。
乃木たちに変身制限はないのだから、逃げる時は全力を尽くさなくては安全を確保したなどと言えないのだ。

疲労故思わず座り込んだ始の横で、同じく座り込んでいる涼の表情は極めて険しいものだった。

「まさか乃木が、襲いかかってくるなんてな……」

それは、自分たちに牙を剥いた仲間と信じた裏切りについて。
結局は彼も、金居が言っていたようなーー本当は地の石を奪い自分たちを出し抜くつもりのーー存在でしかなかったということなのだろうか。

『――ゲームに反対するって言いながら、乗ってるプレイヤーばっかり助けてさ』

キングの言葉が、思い起こされる。
もしかすればあの病院での金居の言葉が正しく、乃木もまた他の仮面ライダーに敵対する悪でしかなかったというのだろうか。
であれば、今自分の横に座っている相川始を守ろうとしていることも、いつか後悔する時が来るのだろうか。

「――」

ふと、こちらを観察するような始の視線に気付く。
不安、などではない。興味もさほど持ってはいないだろう。
ただ純粋に、自分を見定めるような目であった。

「あの男と、知り合いだったのか」
「……あぁ。病院で一緒に戦った」
「物好きな奴だな。俺を助けたことも、同じようにいずれ後悔するかもしれないぞ」

その言葉を聞いて、涼は思う。
始は今、問うているのだ。
ありとあらゆる存在に裏切られ続けてなお、また新しい厄介を抱え込むつもりがあるのか、と。

しかし涼の答えは、考えるまでもないことだった。

「……俺は、俺が信じたいものを信じる。例え何度裏切られても俺はーー」
「――やはり、甘いな」

しかし涼の変わらぬその決意を聞いて、始は吐き捨てるように言う。
そのまま立ち上がった彼が、どこかへ行ってしまうのかと涼は思わず見上げるが。

「……だがそれを言わせる覚悟は、甘くないらしい」

始は、そこで立ち止まった。

「いいだろう。お前が本当に世界が滅ぶ運命を変えられるかどうか……見定めてやる」
「なっ……じゃあお前も大ショッカーをーー」
「勘違いするな、当面の方針だ。
もしも大ショッカーの言葉が本当で世界が一つしか存続出来ないというなら、俺はお前たちを容赦なく裏切る」
「……あぁ、それでもいい。一緒に大ショッカーを倒そう、相川」


488 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:19:48 boF54apg0

言外に“あまり俺を信頼するな”と匂わせたつもりだったが、涼はそんなことを気にする様子もなかった。
始としては、別に栗原親子を見捨てたつもりではない。
彼女たちの住む世界を守る為の行動としてただ妄信的に大ショッカーに従うというのが効果的ではないと判断したのである。

渡、金居、ライジングアルティメット、自分という敵が徒党を組んでなお及ばなかった対主催に、一抹の希望を見いだしたのだ。
だから、取りあえずは大ショッカーを打倒する為に動く。
無論結果としてこの殺し合いに意味があると分かったときは、容赦なく正義の仮面ライダーたちを裏切ることも躊躇はしない。

ただそれだけの打算的な答えを出したつもりだというのに、始の心はどこか晴れやかですらあった。

(勿論、お前とは戦わねばならないがな……ジョーカーの男)

しかし一方で、木場を殺した自分がのうのうと改心して全てが丸く収まる、などという単純な話ではないことも、始は理解していた。
いやむしろ、ただで許されてはならない。
剣崎を殺した天道総司に擬態しているというワームを始が許すつもりなどないように。

翔太郎もまた、木場の為に自分と戦って貰わねば始の気が済まないのだ。
と、そんな思考を繰り広げる中で。
彼は唯一つ先ほどの戦いで気になっていたことがあったのを思い出した。

(乃木という男は俺がジョーカーだと知っていた……。
葦原は奴が現れてから俺の名を呼んでいなかったというのに……何故だ?)

それは、乃木の情報について。
ジョーカーアンデッド、バトルファイトにおいてその存在が生き残れば世界が滅びる。
その情報自体は恐らく橘が自分を紹介する際に出会った信頼できる存在全てに語っていてもおかしくないことだ。

しかし問題はその先。
カリスとしてハートのラウズカードを使用するところを見たわけでもなく、涼が自分の名前を呼んだわけでもなく、乃木は自分がジョーカーアンデッドだと言い当てて見せた。
黒と緑の怪人、そんなものはこの場では山ほどいるだろうに、何故か“自分の顔を見ただけで自分が相川始である”ということを、ピタリと当てて見せたのだ。

無論、恐らくあの状況では涼は勿論乃木本人さえもその違和感に気付いてすらいないだろう。
人一倍ジョーカーと相川始を同一視されることに敏感な始本人でなければ、自然に耳から抜けてしまっても何ら疑問など持たない点であった。
だからこそ……始にはそれがひどく不気味に思えた。

(どちらにせよ、警戒はしておくべきだな。乃木という男が信用ならないというのはほぼ確実だ)

……彼の覚えた違和感は、ただの杞憂などではない。
乃木怜治に元々支給されていた詳細名簿つきルールブック、その存在による彼の飛び抜けた情報アドバンテージについて、ようやく彼が初めて口を滑らせ、それに敏感に反応する男がようやく現れた、ただそれだけのことである。
つまりは乃木は病院に集まった参加者の情報により純粋に所有する情報量が高まっており、それに付け加え詳細名簿での外見把握でそれらの情報を外見だけで瞬時に判断することが可能になったのだ。

例えば、詳細名簿のみであれば外見と仮面ライダーカリスに変身出来ることしか知り得ない始に関して、ジョーカーの情報を付け加えることが出来るようになった、というように。
それだけであれば、単に情報アドバンテージが大きいというだけの話で済むかもしれない。
だが、先ほど襲いかかられたという事実以上に、他者を疑うことを知らない涼にさえそうした情報を持っていると明かさなかったこと。

それが始にとっては彼を疑うに足る理由だったし、同時に彼と共に大ショッカーを打倒する気にはなれない理由だった。
と、そこまで考えて、思考の一旦を終えた始は、今後の方針を改めて定める為、再度涼へと向き直った。


489 : 魔・王・再・臨 ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:20:03 boF54apg0


【二日目 黎明】
【F-7 市街地(最南東)】


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、仮面ライダーカリスに25分変身不可、ジョーカーアンデッドに1時間55分変身不可、仮面ライダーラルクに2時間変身不可
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1、
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため行動する。必要であれば他者を殺すのに戸惑いはない。
0:大ショッカーを打倒する。が必要なら殺し合いに再度乗るのは躊躇しない。
1:取りあえずは葦原と行動を共にしてみる。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
6:乃木は警戒するべき。
7:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)は倒す。
8:ジョーカーの男(左翔太郎)とも、戦わねばならない……か。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄叫びで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※キバの世界の参加者について詳細な情報を得ました。
※ジョーカーの男、左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。
※取りあえずは仮面ライダーが大ショッカーを打倒できる可能性に賭けてみるつもりです。が自分の世界の保守が最優先事項なのは変わりません。
※乃木が自分を迷いなくジョーカーであると見抜いたことに対し疑問を持っています。




【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、亜樹子の死への悲しみ、仲間を得た喜び、響鬼の世界への罪悪感、仮面ライダーギルスに15分変身不能、仮面ライダーキックホッパーに1時間55分変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:今は相川と行動を共にする。
2:人を護る。
3:門矢、相川を信じる。
4:第零号から絶対にブレイバックルを取り返す。
5:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
6:大ショッカーはやはり信用できない。だが首領は神で、アンノウンとも繋がっている……?
7:少し傷を癒やしたら病院に向かいたい。
8:乃木……。
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。
※支給品のラジカセ@現実とジミー中田のCD@仮面ライダーWはタブーの攻撃の余波で破壊されました。
※ホッパーゼクター(キックホッパー)に認められました。
※奪われたブレイバックルがダグバの手にあったこと、そのせいで何人もの参加者が傷つき、殺められたことを知りました。
※木野薫の遺体からアギトの力を受け継ぎ、エクシードギルスに覚醒しました。
※始がヒビキを殺したのでは、と疑ってもいますが、ジョーカーアンデッドによる殺害だと信じています。


490 : ◆.ji0E9MT9g :2018/05/27(日) 02:23:43 boF54apg0
以上で投下終了です。
ちなみに、今回SSに登場する葦原さんが乗っているバイク、ギルスレイダー……と同じ車種のバイクが登場する仮面ライダーアマゾンズの劇場版が公開中です(ダイレクトマーケティング)。
個人的にはとても楽しく見させていただきましたので、気になっている方がいらっしゃいましたら、是非どうぞ。

それでは改めてご意見ご感想、また仮投下時に気付かなかった指摘点などもございましたらお願いいたします。


491 : 名無しさん :2018/05/27(日) 03:47:55 gnQQrsHc0
お疲れ様でした。
乃木の裏切り・・・始の同行とターニングポイントとなるような話でしたね。

まさかこのタイミングで詳細名簿について触れられるとは。戦闘能力だけでなく情報面での優位も徐々に失われていく乃木のこれからには目が離せません。


492 : 名無しさん :2018/05/27(日) 12:55:21 JvaJqAL.0
首輪なしの上に二人に増えてるし、ひょっとしたら単独で制限アリのダグバ以上に強力かもしれない


493 : 名無しさん :2018/05/27(日) 21:45:35 x7nBltXE0
投下乙です!
乃木はついに復活した……と思ったら、ここで葦原さんに見切りをつけるとは。確かに乃木の言い分の方が理に適っていますし、ジョーカーである始を放置したら大ショッカー打倒に大きな障害となりますからね。
それでも、剣崎の遺志を受け継いだ葦原さんは一歩も譲らず、そのおかげで始と心を通わせることができましたね。今後、この二人はどんな道を歩いていくのか……
そしてクリペウスとなった乃木達はどう動くのか。キングは彼らにも対抗策を用意したけど、それが通じる相手かどうか?


494 : 名無しさん :2018/05/28(月) 20:52:27 sJ1MV82k0
投下疲れ様です!
対主催の要・乃木怜治、完全復活!! 手始めに暴走したジョーカーから涼くんを救う大金星!
……までは良かったのに、トドメを邪魔されたことで涼くんまで殺害対象に認定する外道ムーヴ。正直このスタンスの方が彼らしい危険対主催ぶりが全開で、涼くん大ピンチ。もう要じゃねーな。
思えば首輪解除のためにフィリップに取り入ろうとしたのが乃木さんが他の面子と揃って「何だ、ワームって良い奴らじゃん!」扱いを受けた理由だから、今となってはこのぐらい容赦ないのも当然ですね。
とはいえ、頭脳派な強みは健在。考察を巡らせ、自分たちが手に入れた新たな可能性として禁止エリアに向かうことを決めるカッシスブラザーズダブル乃木の行方が気になります。
ただ、思えばこれって天道が登場二話目にして既に近い考察を巡らせていたんですよね。乃木さんがそこから登場話数を四倍重ねて、二人に増えてやっと追いつける男・天道総司。凄まじすぎる・・・

そんな乃木さんの介入前後、剣崎や士の影響を受けた男が二人。
ギルスになってしまった自分を「人間」と呼んでくれる者が現れた、その喜びから、ジョーカーからカリス、そして「相川始」になろうとする彼を、同じく人間であると訴えたがる涼くんがグッと来ます。主催の正体を思えばなおのことですね。
乃木さんにまで敵視されてしまう彼がすっかり入れ込んでしまった始さんもまた、スタンスを改めたとはいえ完全にシロとは言い難い存在。改めて擬態天道との因縁も強調され、西と東の対主催の対立フラグもじわじわ育っていっている印象ですが……不幸伝説が更新されてしまうのか否か、どうなる涼くん。
そして遂に対主催にデレ……光明を見出し、仮面ライダーの輪に加わって戦う道を考え出した始さん。翔太郎と擬態天道と言った雌雄を決するべき相手がまだまだいるものの、乃木さんの偽計に勘付きそうな隙を見せない彼の加入は頼もしい。暴走フラグも、一旦キングフォームが封じられているしこのまま涼くんを笑顔にしてあげて欲しい……! どうなる次話!?


495 : 名無しさん :2018/05/29(火) 00:35:01 ejP1YGE.0
投下お疲れ様です!

始を救いたくてかつて自分を救った士の言葉を投げかける涼にグッときました。
乃木はいつか復活して戻ってくるだろうとは思っていましたがまさか決別することになるとは。
二人いる彼のやり取りが非常に面白いですし、これからどのようにして主催サイドに乗り込む糸口を見つけ出していくのか見物ですね。
始と涼のコンビの今後も含め非常に続きが気になります。


496 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/04(月) 21:39:31 f73nP1sQ0
皆様、毎度ご感想ありがとうございます!これを励みに今後とも頑張っていこうと思いますので、よろしくお願いいたします!
さて、この度こうして顔を出したのは、◆cJ9Rh6ekv.氏による平ライロワ103話『闇をもたらす王の剣』の予告風MADを制作しましたことをご報告させていただくためです。
URLが張れませんので直リンは張れませんが、YOUTUBEにて『平成ライダーロワ』と検索をしていただけましたらすぐ出ると思います(出ない場合は削除されてる感じだと思います、ごめんなさい)

それでは今後とも当企画を盛り上げていきたい所存ですので、どうかよろしくお願いします。


497 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:18:20 /RehMn.A0
皆様お待たせいたしました。
これより投下を開始いたします。


498 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:19:18 /RehMn.A0

剣崎一真の首を切り落とし、彼の首輪を解析し始めて、既に1時間ほどが経過していた。
あれからすぐに橘と士の二人は病院のロビーであった場所に戻ってきてはいたものの、別段自分から不必要な会話をしようとはしなかった。
それは彼らが疲労しているのではなく、それだけ二人にとっての剣崎一真という男の存在が大きかったということに違いない。

しかしそんな状況とは言え、ただ解析を待ち続けるだけの選択肢は彼らに残されてはいない。
ただでさえ死者が刻一刻と増えていくこの戦場において、彼らにはもう仲間の首を切り落としたことにショックを受け続ける時間など、あるはずもなかった。
そして彼らが取りかかったのは、秋山蓮のものであった首輪の解体作業だった。

元々その技術力を見込まれてBOARDに加入した橘と地球に選ばれた天才であるフィリップ、そして多世界の知識を持っている士が、一堂に会し一つの首輪を食い入るように見つめている。
そうして意見を出し合った結果から言えば、フィリップの推測通り解体作業そのものは彼らが既に持ち合わせていた工具のみで可能なのものに過ぎないということだ。
ケースが外れ内部構造が露わになったその瞬間には、あまりの順調さに思わず拍子抜けしてしまった程度には、彼らは肩すかしを食らった気分だった。

だが、問題はここから。
流石と言うべきか、首輪の内部には彼らであっても理解が難しいほどの複雑な構造が繰り広げられていた。
首輪解析で表面上は分かったつもりになっていたはずの構造だというのに、それでもなおその想定を大きく超える技術力を実感してしまうのは、やはり大ショッカーの科学力の高さ故だろうか。

「見てくれ、二人とも。恐らくはこれが首輪の起爆装置だ。見たところこの爆弾自体単純な構造ではないようだけど……。
それに、この程度の爆薬では首元で爆発したところで仮面ライダーを殺すことなど出来はしないはず……一体どういうことだ?」

「……?待ってくれ、この横の装置と繋がっているようだが、これは何だ?」

「分からない、少なくとも、僕の世界にはないものだ。
……門矢士、何か心当たりはあるかい?」

フィリップの発したSOSに対し、士は数秒の間それらの機械に顔を近づけ神妙な顔をしていたが、しかしすぐにそれは確信めいたものへと変化した。

「――大体わかった。
この爆薬は魔石ゲブロン、それから補助装置のこれはライフエナジーに関係するもんだな」

「ライフエナジーと言えば、名護が言っていた、ファンガイアのエネルギー源か……。
魔石ゲブロンとは何だ?」

あたかも元から知っていたような様子で未知の技術について語り始める士に対し、橘はもうさして驚く様子もなく聞き返す。
士が、自分の知らない数多の世界についての情報を持っていることに対して、もういちいち驚きもしなくなっていた。

「魔石ゲブロン。グロンギのベルトに含まれている技術だ。
グロンギとしての力が強ければ強いほどゲブロンの持つエネルギーも強くなる。
つまり、強いグロンギを倒せばそれだけ大きな被害が生まれることになるって訳だ。
……首領代行をやってるらしいグロンギ、バルバの階級はラ。
グロンギの中でもゲゲルを取り仕切るゲームマスターの役割だからな、色々と都合良くてこの殺し合いにも利用された、そんなとこだろ」

言われて橘は、小野寺ユウスケに渡した第4号のスナップ写真集に載っていた見出しについて思い出す。
未確認生命体第41号との戦いにおいて、周囲3kmが爆発したという記事。
ユウスケに覚えがなかったところから考えて恐らくは未来のユウスケか、或いは五代雄介の戦いについて書かれたものなのだろう。

ともかく、そのどちらにせよ第41号が大爆発を起こしたのは4号の責任ではなく魔石ゲブロンとやらの作用によるものだったのだろうと、橘は結論づけた。

「……なるほど、それが含まれていれば確かに怪人と人間の首輪間に発生するだろう爆弾による致死性については説明出来る。
だが、変身者が本来想定されていない強化を遂げている場合もあるんじゃないのかい?
少なくとも秋山連のこの爆弾には、サバイブに変身したナイトを殺せるだけの威力があるようには見えない」

「そこでこの装置がライフエナジーを吸い取るって訳だ」


499 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:19:36 /RehMn.A0

言って士は魔石ゲブロンに接続されている装置を指さした。
見ればそれはこの首輪の中では大きいと判別出来る内容で、ステンドグラスの一部のような装飾さえ施されている。
解析機による情報では得られなかったその存在に、フィリップが首を傾げる中、橘は閃きを得たようにその顔を勢いよく上げた。

「……そうか、ゲブロンの威力は強いグロンギであればあるほど高まる。
この装置で変身中に高まった俺たちのライフエナジーを吸い取ることで、如何に強い仮面ライダーであっても確実に殺せるようにしているのか!」

「まぁ、そういうことだ。もしかしたら変身中に意識しなきゃ気付かない位に首元に違和感があったのかもしれないけどな。
どっちにしろいつもはない首輪なんだ。違和感なんて覚えて当たり前って流してもおかしくない。
……現に今に至るまで俺たちは気付かなかったんだしな」

言い終えて、士は仰々しく椅子に腰掛けた。
足を組み背もたれさえ使わないその様子は極めて偉そうなものだったが、しかし今の会話における彼の貢献度を見れば文句を言う者もいなかった。

「――随分と、首輪の内部構造にお詳しいんですね?
まるで、その首輪を以前に見たことがあるかのようだ」

……否、一人だけ異を唱えるものがいた。
村上峡児、首輪に関する技術的な意見は何も言えない為にこうしてずっと黙りこくっていた彼が、士という個人そのものに意見を申し立てたのだ。

「ふざけたこと言うな。俺は見たものを見たまま言っただけだ」

それに対し少しばかりむすくれた表情で返す士。
忌むべき大ショッカーの内通者を疑うようなその言葉には、流石の彼であっても黙っているわけにはいかなかったというところだろう。
だが謝罪を申し立てる訳でもなくただ自分を睨む村上に対し、彼もまた一歩も退くことはなかった。

このままではどうしようもなくなると、フィリップが仲介を務めようとするが、それよりも早く声を上げる男が一人。

「……その位にしておきなよ、二人とも。
今ここでいざこざがあったって、誰も得しないでしょ?」

野上良太郎……いや、それに取り憑いているウラタロスである。
この場において村上とずっと行動を共にしていたということもあり、なるほど確かに村上の気を鎮めるなら彼が適任だろう。
だがそうして胸をなで下ろそうとしたフィリップをよそに、彼は一人不敵な笑みを浮かべ続ける。

「でも……僕もちょっと違和感あるってのが正直なとこかな。
君が色んな世界を旅してきたのは事実にしても、初見のはずの首輪の内部構造についてそこまで確信めいた物言いは普通出来ないと思うけど?」

その言葉に、村上すらも思わず振り返った。
この場を収めるだろうと予想されていたウラタロスの、裏切りにさえ思える言葉。
人を疑わない橘はともかく、フィリップもまた海東大樹が語る膨大な他世界の情報に触れた今、彼らならこの程度の情報は持っていてもおかしくはないとどこか感覚が麻痺していたらしい。

一転して士が弁明せざるを得ない状況が作り出されたことに、フィリップも驚愕する。
同時に、最早下手な擁護は一層空気を悪くするだけと察し、彼には黙って士の言葉を待つしか出来なかった。

「……知っていた理由は、分からない」

だが、沈黙の末吐き出された士の言葉は、嘘とするならあまりにも下手なものであった。
そして、やはりというべきか、それを受け鼻で笑うのは村上である。

「分からない、ですか。
あれほど雄弁に首輪の内部構造を占める特殊な技術について語っておいて、何故知っているかは自分でも分からないと?」

「門矢、一体どういうことなんだ?」


500 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:19:55 /RehMn.A0

誰が聞いても怪しい士の様子に対し、橘でさえ弁明を求めていた。
先ほどまでの好調ぶりはどこへやら、少しずつこの場の雲行きが怪しくなっているのを、嫌でも感じざるを得ない。

「……俺には、夏美と出会う前の記憶がない。
なのに、俺が渡った世界に存在する、見たこともないはずの怪人や仮面ライダーの情報は知っている。
グロンギの言葉も、聞いたこともないのに話すことが出来た」

話し続ける士は、どこか不安そうに見えた。
あの傲慢な態度は自分自身への不信感を隠すための彼なりの手段だったのか。
初めて触れた士のナイーブな部分に、フィリップと橘は動揺を隠しきれない。

「だが……」

しかしそこで、士の悩むような表情は消え失せた。
後に残りこちらを見るその瞳は、いつもの彼のもの。
傲慢で……しかし強く正義を宿した、仮面ライダーのものであった。

「だが、俺が大ショッカーを潰すって思いは、嘘じゃない。
例え俺の過去がどんなものでも、俺は奴らをぶっ潰す!」

そして、士は再び自身の覚悟を表明する。
だが先ほどの疑念は未だ晴れてはいない、故に村上はなおも動じず口を開こうとするが。

「――嘘は言ってない、か」

おもむろに小さく呟いたウラタロスの言葉に、それを遮られた。
何を考えているか未だ掴みかねる彼の言動に皆の注目が否応なしに集まる中、U良太路は勢いよく立ち上がる。

「いやぁ、ごめんね、門矢さん。試すようなこと聞いたのは謝るよ。
ほら、僕って気になったこと聞かないと納得できない性質(タチ)でさ。
取りあえず嘘も言ってないみたいだし、これ以上聞いても空気が悪くなるだけだしね」

大きく手を広げ、わざとらしく自分の行動を詫び出すU良太郎。
その様子はここに来る前に彼に出会っていた士や、この場で長い時を共に過ごした村上から見ても理解しがたいものであった。
明らかに会話を切り上げようとする意図が透けている彼の行動に対し、村上は苛立った表情を隠しもせずに立ち上がる。

「待って下さい。まだ話は終わっていませんよ。
彼の知識量は大ショッカーに敵対するものとしては不自然なほどに多すぎる事くらい、あなたにも理解出来るでしょう?」

「……そうだとして、今ここで門矢さんを言い詰めてもそう簡単にボロは出さないと思うけど。
それに、村上さんだって首輪解除までの時間が悪戯に長くなるのはごめんでしょ?」

眼鏡をニヒルに掛け直しながら、U良太郎は笑顔を浮かべる。
その言葉を聞いて村上は、彼が先ほど述べた言葉は自分への同意などではなく、所詮彼が聞きたかった内容に会話の流れを上手く誘導出来るからそれを利用しただけに過ぎないということを理解する。
それに少しばかりの怒りも沸くが、今はそれ以上にこの村上峡児を前にここまでその狙いを気付かせなかった彼の手腕を褒めるべきなのだろう。

自分を容易く手玉に取れる相手だと思われるのは勿論癪だが、今はそれ以上に時間が惜しい。
首輪解除には技術以上にフィリップたちの信頼が第一必要条件となる現状、ここでいざこざを起こし彼らの自分への心象を悪くするのもただの無駄に過ぎない。
故に今村上に出来るのは、ただ士への疑念を残したままその場に改めて腰掛けることだけだった。

「――確かに。今は貴方の口車に乗っておきましょう、ウラタロス君。
しかしいつまでも私のことを都合良く利用出来るだけの存在などとは決して思わないことだ」

「当たり前でしょ、村上さん。
僕は今の今まで貴方を利用なんてしたつもりないしね」


501 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:20:11 /RehMn.A0

どこまでも軽薄に聞こえるU良太郎との会話にいちいち付き合っているのに嫌気がさしたのか、村上は溜息だけを残して彼から視線を外していた。
それを見て「嫌われちゃったかな?」などと軽口を叩くU良太郎に対し、士は目を細める。

「……お前、何がしたいんだ」

「さぁね?僕の言葉の本当の意味は僕にしか分からないさ。
言葉の裏にはハリセンボン、千の偽り万の嘘。それが僕のモットーだから」

「はぁ、聞いた俺が馬鹿だった」

これ以上無駄話に付き合っていたら頭が痛くなるばかりだ。
そう思考を纏め士は勢いよく立ち上がろうとするが。

「――志村純一」

不意に声の調子を落とし真面目な口調で発せられたその名前に、思わず再度振り返った。

「君が、彼みたいな善人ぶった嘘つきじゃないかどうか、探りを入れて見ただけさ。
もう二度と、あきらちゃん達みたいな犠牲は出したくないしね」

どこか遠くを見つめ呟く彼の表情は、士からはよく読み取れない。
それでも仲間をーー或いは女性をーーみすみす自分が防げたはずの状況で二人も殺されてしまった東京タワーでの出来事は、未だに彼の心に残っているということなのだろう。

「お前……」

「勘違いしないでよ?僕はただ僕のやりたいようにやってるだけ。
どの言葉が本当でどれが嘘なのか、自分でちゃんと判断しなきゃ、後で痛い目を見ても知らないよ?」

「……いや、一応、礼を言っとく」

士がそう言うと、U良太郎はつまらなさそうに「どういたしまして」とだけ返し身体を翻した。
彼もまた彼で、軽薄な言葉の裏に幾らかの不安を抱えている存在らしい。
『電王の世界』を巡ってもなお知り得なかったその情報に、士もまた困惑を隠すことは出来なかった。

「——橘朔也、門矢士。剣崎一真の首輪の解析結果が出たよ」

そんな中、いつの間に移動していたのか、別室から一枚の紙を持ってフィリップが二人に声をかける。
それに対しお互いの顔を一瞥し、その後に一つ息を吐いてこれ以上物思いに耽って居られる時間もあるまいと二人は立ち上がりフィリップのもとに駆け寄った。

「これは、秋山や北岡のものと同じ……か?」

「らしいな。これで証明できた。首輪の種類は世界によって異なるわけじゃない。
種族によってその種類が異なるってことがな」

橘の言葉に、士も続く。
そう、剣崎の首輪を解析し得られた結果は、北岡や秋山の首輪のものと同じ。
つまり、人間の首輪に用いられている技術はどの世界の参加者のものであっても同じだということになる。

そして、キングフォームという形態に変身し徐々に人外になりかけていた剣崎の首輪が人間のものであったということは、少なくとも首輪の種類はそこまで細分化されていないだろうという推測にも繋がった。
とはいえこれはもう少し多くの種類の首輪を解析しないことには謎の多い事象であるし、今結論を出すのはあまりにも時期尚早であったが。

「——少なくとも、これで君の首輪も彼らのものと同じことはほぼ立証されたね、橘朔也」

「あぁ、キングフォームに変身できる剣崎の首輪がこれなら、俺のものもまず間違いなくこれと同種のものと見て間違いないはずだ」

「だが問題はフィリップだな、お前、確か地球の本棚とかいうものが頭の中にあってそこから自由に情報を読めるんだったな?」

「あぁ、この場ではいつも使ってる本がないから試せてないけどね。
残念ながら僕の首輪に余分な制限がかけられている可能性は大きいと思うよ」

淡々と、三人は考察を深めていく。
橘の首輪の解除に必要な材料はどんどんと集まっていること、そしてフィリップの首輪は特殊なものである可能性があり、そのまま解除出来るという訳ではないだろうことなど。
同様に士、そして多くのイマジンを憑依させ特異点として通常の人間と異なる特性を持つ良太郎も首輪が別の種類である可能性を述べたため、この場で首輪を解除するべき参加者として橘と村上のみが残ることとなった。


502 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:20:28 /RehMn.A0

「さて、さっきも言ったが、これ以上ごちゃごちゃと話してても何も始まらない。
どうする?橘の首輪を解除してみるか?」

「あぁ、僕もちょうどそう思っていたところだ。
だが流石に秋山蓮のものを解体しただけでは首輪解除に確実性があるとは言えない。
少なくとも北岡秀一のものを解除してからでないとーー」

「――失礼、その前に一つ質問なのですが」

首輪解除班が見出した希望に沸く中で、村上はしかしその余裕を崩すことなく静かに手をあげていた。
首輪解除が遅延することは彼とて望ましくないはず。
その上でなおもこうして口を挟むということは、余程のことなのだろうか。

「どうしたんだい、村上峡児」
 
「いえ、少し気になったことがあったんですよ。
もし私の考えている通りなら、首輪というのは解除すれば全てが丸く収まるものではないように思えたものでしてね」

「どういうことだ?」

全く言葉の意味が分からないといった様子で返した橘に一瞥をくれてから、村上はわざとらしく立ち上がる。
その様子には既にU良太郎に翻弄されていた彼の姿は見られなかった。

「あなた方が立てた、首輪の装着者がより大きな力を持つ形態に変身した時、その力を逆に利用し首輪爆発の威力を高めるという仮説ですが……一つ疑問を抱きましてね」

「……勿体ぶるな、早く言え」

自信に満ちあふれた様子で話を続ける村上に痺れを切らしたか、士は少し苛立ったのを隠そうともしなかった。
それに対しまたしても不敵な笑みを浮かべながら、村上は振り返る。

「五代雄介、乾さんの変身したファイズを始めとして、数多の仮面ライダーをものともせず蹴散らしたという彼の首輪、それがすぐそこの禁止エリアに存在するというのに、その爆発の被害を我々は被っていない。
それどころか、その爆発について一切認知すらしていないというのは、些か先ほどの話と矛盾するのではないかと考えたものでしてね」

村上のその言葉に対する、五代を知る面々の表情の変化はそれぞれ違っていた。
橘はただ首輪の考察について気付かなかった点を指摘されたことに対する驚きを。
フィリップはあの心優しい五代雄介が操られしまいにはこんな殺し合いの犠牲になってしまった無念を。

そして士は……彼が最期に浮かべた笑顔を。
それぞれに抱いた種類は違えどどこか居心地の悪い心象を抱いた彼らに対し、しかし村上の言葉は止まらない。

「勿論、門矢さんの考察が間違っていると指摘したいわけではありません。
むしろこうは考えられませんか?
首輪の種類が分かれゲームが後半になるほど一定の参加者は首輪解除が困難になる。
それを避ける為の首輪に備え付けられた機能の結果ではないか、と」

「つまり……何が言いたいんだい?」

「つまりーー」

「――つまり、こういうことだよね」

村上が結論を述べようとしたその瞬間、思わぬところから予想だにしなかった声が降ってくる。
それに思わず5人が一斉に振り返る中、その視線を浴びながら発言した男はその両の手で血塗れた銀の首輪をぶらつかせながらニヤリと笑った。
この距離にまでその男が近づいていたことを誰一人として認識できなかったのは、単純なことだ。

その男が、『もう参加者が立ち入ることの出来なくなったはずの場所から現れ』、そして『参加者の証である首輪をしていなかった為に首輪探知機を潜り抜けた』為。
つまりはそう、彼はこの会場において最初の段階から参加者として数えられていなかったイレギュラー、大ショッカーの幹部として放送で名乗りを上げた男だったのだから。


503 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:20:44 /RehMn.A0

「スペードのカテゴリーキング……!?」

「やだなぁギャレン、そんな長ったらしい呼び方やめてよ。
僕の名前はキング、一番強いって意味のキング。放送でもそう言っただろ?」

忌まわしき大ショッカーによる第一回目の定時放送において、幹部として殺し合いに参加していることを述べていたキング。
剣崎を馬鹿にし、数多の参加者の怒りを買った男が今、目の前に何の不思議もないかのような表情で突っ立っていた。

「……やはり、そういうことでしたか」

一方で、起きたイレギュラーに対し極めて冷静に村上は呟く。
まるでキングの存在すら予想出来ていたと言わんばかりのそれに同行者も面食らう中、フィリップは一人その意に気付いたようでハッとした。

「そうか、首輪にはライフエナジーを原動力とする構造がなされているんだ。
だから装着者が死亡すれば、その後はどれだけゲブロンがエネルギーを溜め込んでいても爆発は起きない。
禁止エリアで死亡した実力者の首輪が爆発して、生存者に被害が及ばないように……」

「そう正解!流石は探偵って感じかな。
褒めてあげるよ、ダブルの右側……それともサイクロンて呼んだ方が良いのかな?」

相変わらずニヤニヤとした薄気味悪い笑顔を絶やさず、キングは笑う。
だが彼の表情に反して、首輪についての考察を重ねていた面々の緊張感は高まっていく。

「……お前がこうしてここに来たのは、俺たちが首輪を解除しようとしていることに対して警告でもしに来たのか?」

そう、それは首輪を解除する上で考慮しなければならない出来事の一つであった。
つまりは、首輪を解除するというあからさまな大ショッカーへの反逆行為に対しての、制裁。
いきなり首輪を爆発するという可能性もゼロではなかったが、解析機などもある以上それはないだろうと彼らは高をくくっていた。

だがそれを踏まえた上でもなお、こうして考察が進んだ際に大ショッカー幹部が直々に現れたということは、今の彼らにとって決して楽観視して良い状況ではなかった。

「は?あー、違う違う、そんな面倒くさい役回り僕が進んでやるわけないじゃん。
僕はただ死神博士に頼んでこの最高に面白い殺し合いゲームに飛び入り参加させてもらったってだけ。
それに実際外しても何もないと思うよ。
首輪外すのくらい別に大ショッカーの皆もなんとも思ってないし」

そう、キングがここにいるのは、本当に単純な理由だ。
第二回放送直後に葦原涼、相川始の両名と交戦した後ゾーンメモリで彼が向かった先がE-4エリア、元々病院があった場所であったというだけのこと。
少々の間身体を休めた彼はクリアーベントを使用したまま士たちの首輪に関する考察を聞き、最も面白くなりそうなタイミングで変身を解きこうして姿を現した。

ただそれだけのことであった。
だがそれを分かった上でなお、キングについての幾つかの疑問は拭えない。
何故飛び入り参加出来たのか、この殺し合いの名目として世界対抗戦という形式のはずだったというのに、まだ滅びを確定していない世界からこうして新たに参加者を輩出してしまっていいのか……。

膨れあがる疑問を纏め切れていない士たちに反して、キングと同じく軽薄な笑みを浮かべてーーしかし彼と違いその瞳には怒りを秘めてーー声を上げる者が一人。

「まぁ、君がどうしてここにいるかとかは置いておいて……その首輪、何なの?」

U良太郎が、いつもの調子で、しかし隠しきれない嫌悪感と共にそう問うた。
彼の言う首輪とは、キングの両手に煌々と輝いている二つの血濡れたもののことだ。
それを聞いて、キングは待ってましたとばかりにその笑みを深める。


504 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:21:00 /RehMn.A0

「あ、これ?これはね、ディエンドとクウガ……勿論ライジングアルティメットの方のだけど、その二人のだよ」

「誰のか、何て聞いてないよ。
僕が聞いたのは何でそれを持ってるのかってことさ」

何てことはないようにU良太郎は返しているが、先ほどの問いは明らかに今の答えを誘発する為のものでもあったということは、分かりきっていることだった。
だが、ただでさえ情報アドバンテージに優れるキングに、この会話の主導権まで握られてしまえば彼の掌の上で踊るほかなくなってしまう。
故にU良太郎はこうして彼の返答自体が過ちであったように錯覚させ無理矢理にでも会話の手綱を握る必要があったのだ。

「あぁ、そういうことね。
簡単なことだよ、ちょっとゲームでもしようと思ってさ」

「ゲーム……?」

「そ、ゲーム。
このままじゃギャレンの首輪が外れるのも時間の問題だろうし、その後にこうして芋づる式にディケイドの首輪まで解除されたら面白くないじゃん?
だから僕を倒さなきゃディケイドは自分の首輪もお仲間のもう一人のクウガの首輪も外せないってルールさ」

何てことのないように話すキングを見て、こうした輩には慣れているはずのU良太郎でさえ汚物を見るような表情で彼を見る以外になかった。
この男は、正真正銘の邪悪だ。
大ショッカーに少しでも世界選別という高尚な意図があるなら絶対にこんな男を仲間に迎え入れないだろうと思えるだけ、こうして彼と対峙した事に意味があると思うほかなかった。

「――したのか?」

「は?」

「そんなことの為に……海東と五代の首を切り落としたのか?」

そしてそんな邪悪に最も早く怒りを隠しきれなくなったのは、橘だった。
二人の首を切り落としたことさえゲームの為に必要な工程として終えた彼に対し、元々こうした状況で突っ走りがちな彼がこれ以上黙っていられるはずもなかったのだ。

「キング、お前は俺が封印する——!」

言うが早いか、彼は懐より取り出したギャレンバックルを腰に装着しキングに向け賭けだそうとする。
だがそうして怒りに任せた彼の肩は、士の手によって軽く止められていた。

「門矢ッ!?一体何を——?」

「落ち着け橘。あいつが今いる場所、多分禁止エリアだ。
そうじゃなきゃ生身で悠長に俺らをわざわざ怒らせるような真似はしない。
大方こういう風に俺らを煽って誰かが死んだ後に自分の放送を聞いてないのが悪いだの何だのと講釈たれるつもりだったんだろ」

「大ッ正解!流石ディケイド。
一人くらいは引っかかるかと思ってたけど、まぁそんなことで誰か死んでも面白くないもんね」

そう言って、再びキングは笑う。
まるでこの殺し合いに参加していること自体が楽しくて仕方ないというようなその様子は、ある意味でダグバの浮かべているそれよりも邪悪なように橘には感じられた。
キングに対し抱いた嫌悪感を隠そうともしない面々の中で、しかし士は努めて冷静を装い彼に再度向き直る。

「それより、お前のやりたいことも終わったんだ、さっさとそこから出てこい。
お望み通りお前をぶっ倒して、二人の首輪を渡して貰おうか」

士の言葉に呼応するように、そこにいる誰もが変身アイテムを懐から取り出し始めた。
それに一瞬キングは怪訝そうな顔を浮かべ……瞬間、ふと何かに気付いたようにまたニヤリと笑う。


505 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:21:16 /RehMn.A0

「んー、それじゃあんまり面白くないからさぁ、ちょっと話でもしない?」

「なんだ、五人相手じゃキツいってか?」

「勘違いしないでよ。僕は一番強いんだから、お前らの相手くらい余裕だって。
だからこれはただの遊びだよ。少しの間話したら、すぐそっち行ってお前らと戦ってあげるからさ」

「……それもお前のゲームってわけか」

「さぁ、どうかな?」

減らず口をたたき続けるキングに対し、士は溜息をつく。
こうして無駄話を続けさせることでこれ以上首輪の解除を遅れさせる作戦かもしれないが、どちらにせよ彼の手に自分と同型の首輪があり彼が禁止エリアから出てこないことには何も始まらない。
もしも彼の言葉が嘘で話を延々と続けるようであれば適当なところで切り上げればいいと、士は一旦彼の提案を受け入れることにした。

「まぁどっちにしてもお前がそこから動かない限り俺たちも下手に動けない。
お前の話に付き合ってやるが……10分だけだ。
それを超えたらお前の話はもう聞かない。いいな?」

「10分ね、丁度いい制限じゃん。乗ったよディケイド。
10分超えても話が終わらなかったら僕の負け、んでそっちに出て行くよ」

士の提案に対しはしゃぐキングを見て、橘は改めて士を心強い存在だと思った。
合理的な考えを求める村上にファイズドライバーと引き替えに交渉を成功させ、その場その場の楽しみを優先するキングに対しても、こうして上手く条件をとりつけた。
彼がゲームという形態を愛する以上、ここで約束を交わした今10分以上話を続けるのはキングにとって何よりの屈辱であるはずだ。

どんな話を持ちかけられるにせよ、キングの話に終着点を設定したということは、つかみ所のないキングとの対話において極めて重要なことであった。

「さて、それじゃ話をしようか――世界の破壊者、悪魔、仮面ライダーディケイド……つまり、君の話をさ」

しかしそんな士を優位に進めていたと思われた会話の空気は、キングの一言によって淡くも崩れ去る。
士を指し述べられた幾つもの異名は、それぞれ門矢士を指すものと見て間違いない。
聞き逃すにはあまりに衝撃的なそれらを受け自身の背中に降り注いだ好奇の目に対し、幾ら経ってもどうしようもない嫌悪感を抱きつつ、士は再度キングを強く睨みつけた。

キングがディケイドに対し知っている情報は、士本人でも未知数である。
世界の破壊者として全てのライダーを破壊し回っていた事実だけを拡大されれば確かに自分への不信感は煽れるだろう。
だが、相手は第一回放送であそこまで剣崎を愚弄したアンデッド。

例えどれだけ話に真実が含まれていようと、面白おかしくこの場を掻き乱すためそれを利用することは容易に想像出来た。
その程度のことに気付かない仲間達ではあるまい。
もしも話の途中で明らかな嘘が含まれていればそれを指摘しても士ではなくキングへの疑心が膨れるだけ、つまりは彼に嘘をつく利点もなかった。

だが、だからこそ、士にはキングの勝利を見通したような笑顔が疑問に思えた。
それでも今はただ聞くしかない。
全ての判断を仲間達に任せただ聞くだけしか、彼に出来ることは残されていなかった。

……そして、士が時計を一目見るのと同時。
それを10分のタイムリミットの開始とみたか、キングはその口を開いていた。

「さてそれじゃ……まずはなんでディケイドが世界の破壊者なんて名前で呼ばれてるのかって話ね。
理由は単純。ディケイドの使命は全ての仮面ライダーを破壊することで全ての世界を救う旅をすること、だから。
そりゃ自分を殺しに来る存在なんて悪魔だし破壊者に決まってるよね」

彼が言う言葉は、規模の大きさに比べ明らかに軽い話し口だった。
だが、いやだからだろうか。
世界の崩壊などという気の遠くなるような話であっても、どこかすんなりと耳に入ってきているのを、彼らは自覚していた。


506 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:21:31 /RehMn.A0

「でも、当のディケイド本人は旅の途中でそれぞれの世界の仮面ライダーを破壊せず、仲間になってその世界に訪れた当面の危機を回避しただけで世界を救った気になってたわけ。
……最初はね」

「最初は?一体どういうことだ」

「焦らないでよ。まだ話の途中なんだから」

悪戯っぽく笑ったキングに対し、周囲の注目は否応なしに高まっていく。
そしてそれを逃さぬように、彼は続けて口を開いた。

「で、そんな中途半端をしてたツケが回ってディケイドの仲間たちは消えちゃった。
別の世界のキバとかブレイドとか、響鬼とかね。
そこでディケイドは自分の使命に従って全ての仮面ライダーを破壊することにした。
全てを破壊することで、全てを新しく創造し直すために、ね」

言われて士は、思わず苦虫をかみつぶしたような心地を味わう。
出来れば思い出したくもないライダー破壊の旅。
勿論その過去から逃れられるとも思っていないが、それをこうして我が物顔で解説されるのは、流石に嫌悪感がある。

「ま、待ってくれ。それじゃ、別の世界の、ライダー大戦の世界にいた仮面ライダーたちが消えたのは、紛れもなく門矢が原因だと言うのか?」

「まぁアポロガイストが世界の崩壊を早めてたりはしてたみたいだけどね。
でも根っこのところではディケイドが原因ってのは確かだと思うよ」

そこまでを聞いて、思わず橘は目を伏せる。
仲間として信じたいと願った相手が、下手をすれば相川始よりも余程早急に対処しなければいけない存在だったとすれば、彼の心境も複雑だろう。
キングの会話を遮ってでも、この場で士を排除すべきかという迷いが一瞬でも生まれてしまったことに、橘は自分でも驚愕を隠せなかった。

「――でも、ディケイドはその後、ライダー破壊の旅という使命を終えて、一度死んだ。
本来時の経過と共に消えていく存在に過ぎなかったライダーと戦って、その存在を再び人々の記憶に留まらせる。
その為だけに存在する舞台装置は、出番が終わればお役御免さ」

記憶。
その言葉を聞いて最も反応したのは、勿論その為に戦い続けてきた良太郎であった。
時の運行を守り人々の記憶を繋ぐ電王の戦い……、ディケイドが行ったのも、或いはそれを世界に広げた派生だと言うのだろうか。

そして同時に思い出す。
ディケイドが世界の異常を直すための舞台装置に過ぎないというなら、時の運行を守る為に戦う仲間のイマジンの存在が、イマジンがいる未来と繋がらなくなった時点で終わってしまうのではないかというオーナーの危惧を。
刹那芽生えた、仲間と共に戦い続けることへの不安を抱いた良太郎に反し、キングはいきなり語調を明るくして面持ちを上げる。

「けど、こっからが泣けるお涙頂戴タイムさ。
役割を終えて忘れられていくだけのはずだったディケイドは、彼が旅の途中で出会った仲間たちが彼を“記憶”していたおかげでその存在を確かなものにした。
つまりは彼もまた破壊を経て創造し直されたってこと。
……こんなもんであってるよね?ディケイド」

明るく問うたキングに対し、士の表情は極めて険しいものだった。
その理由は一つ。キングがこの話をする利点が分からないからだ。
何故ならーー。

「――まさかこの程度の話を大ショッカー幹部であるあなたからされた程度で、我々の門矢さんに対する疑心を煽れるとでも?
もしそうであるなら、随分と甘く見られたものですね」

「――俺も、村上の意見に同意だ。
全てのライダーを破壊する旅の途中からならともかく、世界が崩壊する現象についての謎も解消された今、お前の口車に乗るはずがない」

何故なら、彼らは敵であるキングによってもたらされた不確定な情報のみで今まで仲間としていた存在を排除しようとするほど愚かではなかったからだ。
だが、それ故にだろうか。
キングが未だに浮かべている余裕の表情について、引っかかりは拭えない。


507 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:21:53 /RehMn.A0

U良太郎もまたその疑問に行き着いているのか、発言はせずただ悩ましげにキングについて観察をし続けるのみだった。

(……ま、そりゃそうなるよね)

一方で、この状況に一切の動揺を見せずにキングは思う。
長々と話を続けてきたというのに、彼らが自分に抱いている敵意は一切陰りを見せない。
だが自分で課したタイムリミットが迫る中で彼が焦りを感じているかと言われれば、それは全くの間違いであった。

――何故なら、ここまでの反応を含め、全てはキングの思い通りに進んでいるのだから。

「……おい、話は終わりか?ならさっさとそこから出てこい」

「まぁまぁ焦らないでよディケイド。話の面白いところはここからなんだから」

あまりにも愉快な状況を噛みしめる為に一瞬口を閉ざしたのを会話の終了と見たか、士が時計を見やりつつ苛立ちと共に放つ。
それにより一旦の愉悦を中断し、再度キングは口を開いた。
今度は、士ではなく橘をその視界の中心において。

「ねぇ、ギャレン?君がディケイドを信じる理由ってさ、彼が全てのライダーにとっての破壊者だっていうのがもう終わった過去だから、だよね?」

「……?あぁそうだが……」

「――じゃあこの場で、彼がまた誰かを破壊していたとしたら?」

その言葉に、今度こそ全員がどよめいた。
正義を信じて戦っているはずの彼の口から、誰かを殺したなどという話を聞いた覚えはない。
もしも悪の怪人、殺し合いに乗った参加者を倒した結果として殺してしまったというなら、それを自分たちに隠す必要はないはずだ。

だから同時に、彼らの脳裏に思い出したくもない一つの顔が連想されてしまう。
彼らがこうして仲間となった理由の一つ。ここにいる場の全員が許されざる敵として認識した悪魔。
つまりは士が、志村純一と同じく仲間を出し抜き参加者を殺す者であったのではないかという疑念が、彼らに芽生えていた。

「いや待て!俺は第一回放送の後からほぼずっと門矢と行動を共にしていた。
こいつが誰かを殺すことの出来たタイミングなどーー!」

「――嘘はやめてよ、ギャレン。ディケイドが彼を殺した時、君は寝てただろ?」

言われて橘は狼狽した。
自分が気を失っていた時間、つまりは先の病院戦。
確かに戦況が目まぐるしく変わっていたというあの戦いでは、誰かを隠れて殺すのも容易かったはずだ。

「あなた方の言い争いは結構。
それより重要なことは、門矢さんが殺したという人物が誰か、ということだ」

その問いを受け、キングは勝利を確信した笑みを浮かべる。
あぁこの瞬間の為だけに、こうして病院に来てよかったとすら感じながら。

「ーーライジングアルティメット、五代雄介。
ディケイドが殺したのは、君たちが血眼になって救おうとした彼だよ」

その名前を聞いた瞬間、フィリップの中で思考の一切は停止した。
あれだけ地の石の危険性と五代を救いたいと願っていた彼が、他でもない門矢士が、あの五代の命を奪った張本人だと言うのか。
志村に引き続き、信じた仲間が人目に隠れ誰かを殺める悪魔なのではないかという、どうしようもない疑惑が彼を飲み込もうとする。

「ま、待ってくれ。五代雄介は地の石に操られていた。
ディケイドが彼を殺してしまったのもきっとそれに起因するやむを得ない状況でーー」

「――うーんまぁ、それは否定しきれないかな。
僕には首輪を通じた音声と映像しか届いてないから、ディケイドが何を考えてたのかなんてわかりっこないし。
でもね……」

震えた声で苦しいながらも士を擁護したフィリップに対し、少しの同意を見せつつ、キングはなおも余裕を崩さぬままに笑った。
それを受け、これ以上に彼に好き勝手に話させていては全てが終わってしまうと直感したか、U良太郎が食い気味に彼に切り込んでいた。


508 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:22:09 /RehMn.A0

「いい加減要点を話しなよ。君の話は長くて眠っちゃいそうだ」

「えー何だよ電王、いきなり本筋だけ話しても面白くないだろ?10分の期限は守ってるんだし、とやかく言われる筋合いもないよ」

実際それは、U良太郎にとって突かれると痛い点であった。
話を10分だけに止めるための条件であったはずが、逆に彼の話に口を挟む自分たちがゲームに水を差す無粋な輩であるように錯覚されてしまう。
まさか士や自分がタイムリミットを課してくることまで読んだ上でこの場に現れたのだとすれば、なるほど見習わねばならない話術かもしれない。

「まぁいいや、じゃあこれが最後ね。
ディケイドの能力は9つの世界を代表する仮面ライダーの力を自分のものにすること。
それでクウガはその内の一人。
そして失われたその力を取り戻すための条件はその相手と心を通わせるか、或いはーー」

――ピピピピッ。
キングの話を遮るように、この場に似つかわしくない軽快な音が響く。
士の時計から放たれたその音は、この場で設けられた10分のタイムリミットが過ぎてしまったことを意味する。

つまりは……キングの負けだ。

「あーあ、時間切れかぁ。
まぁしょうがないね、決めたルールだし、これで話は終わーー」

「――いえ、まだ終わっていませんよ。
10分の期限はあくまで彼が話をするための時間。我々が彼の話を遮った分だけ、彼にはまだ時間が残されているはずだ」

気怠げに立ち上がったキングに対し、村上がその歩みを目力と、一見合理的に見える口調で止めていた。
だがそれを受け、吠えたのは、元の世界での因縁を含め、キングを敵として認識し続けている橘だった。

「村上!?お前まさかこいつの話を鵜呑みにする気か!?」

「勘違いしないでいただきたい。私は全ての事情を鑑みた上で自分で結論を出すだけ。
門矢さんを信じるか否かの判断は彼の話を最後まで聞いてからでも遅くはない、そうでしょう?」

――この流れは、まずい。
U良太郎が幾度となく潜り抜けてきた舌戦での経験が叫んでいる。
つまり最初に自分自身が課した条件を無視してそれ以上を望んでしまう。

ギャンブルや或いはウラタロスにとって最も身近なのは背徳感を伴う男女の関係においての駆け引きだが……ともかく、それらにおいて最もドツボにはまるタイプだ。
――自分だけは大丈夫、最初は我慢出来たのだから次に満足したら終われる。
そう自分に言い聞かせて、ずるずると気付かぬままに深みにはまっていくのを、ウラタロスは(主に騙す側にとってのカモとして)見てきた。

そうだからつまりは……このキングという青年に、自分たちはまんまとしてやられたということだ。

「そう?ま、そう言ってくれるならもうちょっとだけだし最後まで話しちゃおうかな」

ウラタロスの思った通りに、キングはこの流れを読んでいたようにあっさりと引き下がりもう一度その腰を下ろした。
彼の顔に浮かんでいる笑顔が、先ほどよりも自分たちを嘲るようなものであることに気付いているのは、恐らく自分だけだろうと思いながら。

「じゃあ話の続きね。ディケイドが自分の力を取り戻す条件。
それは、仮面ライダーの信頼を得るか或いは……該当するライダーを破壊することさ。
……ここまで言えば、後はもう説明しなくても分かるよね?」

そこまで言って、キングはもう口を開こうとはしなかった。
これ以上自分が彼らを煽っても、意味はないと判断したのだろう。
そして彼が入念に蒔いた疑念の種は……沈黙の中で発芽する。


509 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:22:28 /RehMn.A0

「……まさか門矢が、自分の力を取り戻す為だけに五代を手にかけたというのか?」

最初に沈黙を破ったのは、橘だった。
言った瞬間U良太郎はこの場で築かれていた“和”の崩壊を感じ何か策を講じようとしたが……もう、全ては遅かった。

「待ってくれ橘朔也!ディケイドがただ五代雄介を手にかけるはずがない!
きっと彼は仲間の誰かを庇う為にやむを得ずーー」

「その根拠がないだろう!今門矢にクウガの力があるというなら、誰か他の奴に殺されその力を取り戻す機会を失うくらいならと考えても不思議はーー」

「橘朔也!」

フィリップの一層声を荒げた怒声に、ようやく橘は自分が敵の手中でまんまと踊らされてしまったことに気付く。
慌てて目を伏せ誰へともなく小さく謝罪を述べたが、もうそれで事がすまないことは、誰より彼が理解していた。

「――彼が言ったことに、間違いはありませんか?門矢さん」

再び生まれた数瞬の沈黙。
それを此度破ったのは、村上だった。
極めて抑揚のない、故に人間味を感じない彼の言葉に対し場の空気が今までにないほどの戦慄を見せていく中、士はゆっくりと振り返った。

「……あぁ」

彼にしては、酷く掠れた声だった。
それはウラタロスから見れば後ろめたいことを暴かれたことに対する恐怖ではなく自分自身のトラウマから来る心因的なものに思えたが、それに村上が気付くはずもない。

「そう、ですか。残念ですよ
――あなたは大ショッカー打倒において貴重な戦力だと思っていたのですが。
まさか、志村純一と同じ私を愚弄する卑劣な輩だったとは」

故に、事態は最悪を迎えようとしていた。
デイパックよりおもむろにオーガドライバーを取り出しその腰に装着した村上の動きに、迷いは見られない。
つまり彼は士を見限ったのだ。

事情はどうあれ自分に対し隠し事をしていた士を、狩る決意をしたのである。

「変身」

冷たく、村上が呟く。
それによりドライバーより発生した金色のフォトンストリームが彼を覆い、次の瞬間には彼の肉体は黒の鎧に包まれていた。
仮面ライダーオーガ。

東京タワーで志村に対し変身した時と同じように、彼が士に対し明確な殺意を持っていることを証明する鎧だった。
ヌン、という重いかけ声と共に振るわれたオーガの腕が、士に接触すると同時、彼はまともな抵抗すらままならずに彼方へと弾き飛ばされていった。

「ディケイド!」
「門矢!」

フィリップと橘が叫ぶ。
先ほどキングの弁舌に乗せられてしまった自分が言うのも何ではあるが、キングの狙いがこうした仲間割れにあったのは明らかな事実。
今優先すべきは士に対する処遇を急ぐことではなく、村上を止めることのはずだ。

「――危ないッ!」

だが、彼らがそれぞれの変身体勢を整えると同時、横から飛び出してきたU良太郎が思いきり彼らを押し倒していた。
それにより大きく姿勢を崩しながら、二人は見た。
今まで自分たちがいた場所を通過した斬撃の余波が、良太郎の右腕を、僅かに掠めたその瞬間を。


510 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:22:44 /RehMn.A0

「野上!」

ほんの少し掠っただけだというのにその威力故かウラタロスさえ身体から弾き飛ばされ元の人格が表に出てきたのを見て、橘は改めて戦慄する。
これでは、まず戦闘は無理だろう、彼はこのたった一撃でこの戦いにおいて戦力外になってしまったのだ。
そして同時、ダイヤスートのカテゴリーキングも放っていたそれを今放てる存在など、この場に一人しかいないことも、理解していた。

「ちょっとちょっと!言ったでしょ?
話が終わったら僕がそっち行くってさ。君らの遊び相手は僕だって」

「キング……!」

相も変わらず不快な笑いを上げながら、キングがその姿を異形へと変え歩み寄ってくる。
先ほどまでは待ち望んだ瞬間だったはずだというのに、状況が一変した今となっては忌々しい以外に言葉の浮かばない最悪の状況だった。
とはいえここでキングはまだしも傷ついた良太郎をも無視して村上の下に行けるわけがないのは事実。

故に彼らはその手に再度力を手にした。
仲間への疑心を拭う為に、許されざる悪を倒す為に。

「変身!!」

――TURN UP
――OPEN UP

瞬間、二人の姿は変化する。
橘は最も使い慣れたギャレンに、そしてフィリップは先ほど志村のデイパックより回収したグレイブに。
フィリップがグレイブを選択したのは首輪のないキングを封印するためにラウズカードが必要なこと、そして変身できる他の形態に比べグレイラウザーという得物がある方が今のキング相手には有効だろうと考えた為だ。

「キング、お前はここで封印する……!」

「やってみなよ、出来る訳ないけどね!」

そのキングの憎まれ口が、彼らの戦いの合図だった。





舞い散る煉瓦の残骸の中で、オーガは闇の中その瞳を赤く輝かせてゆっくりと歩いている。
先ほどの不意打ちで相手が死んだとは微塵も思っていない。
攻撃が触れる直前、彼の腕が半自動的にマゼンタの光に包まれたのを見ていたからだ。

「――くッ!」

そして案の定、というべきか、舞った粉塵の中からマゼンタカラーの仮面ライダーが現れる。
なるほどこれがディケイドか。
そんな思考を抱くより早く、彼は自分に対し向かってくる声が複数重なっていることに気付いた。

「何――?」

それに対し驚く間も与えられず、オーガを取り囲む4人のディケイド。
それぞれ別個の動きをしている点から見ても、どうやら単純な操り人形というわけではないらしい。
厄介な能力を持っている相手だと思考するより早く、彼らは一斉にオーガに向けて斬りかかっていた。


511 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:22:59 /RehMn.A0

しかしオーガは、さして狼狽する様子もなく向かって正面と右側に位置していた二人のディケイドの攻撃を同時にオーガストランザーで受け止める。
それにより半ば強制的に生まれた死角から二人のディケイドがそれぞれ飛びかかるが、その刃が届くより早く後ろ回し蹴りを繰り出しうち一人をもう一人に蹴り飛ばすことでやり過ごす。
一瞬とは言え片足のみで二人のディケイドを押え付けるのは難しかったか体勢は崩れ二つの刃がこの身に突き立てられるが、問題ない。

オーガの鎧の中でも特に強固な肩のアーマーでそれぞれ左右からの攻撃をやり過ごし、お返しとばかりに自身の持つ大剣を大きくなぎ払い無理矢理距離を突き放した。
その身から火花を散らし吹き飛んだ一人以外の分身が全て消滅したのを見やりながら、オーガは再び悠然と足を進めていく。
だがディケイドもただでやられるつもりはない、剣として使用していたライドブッカーを腰に戻しそこから一枚のカードを取り出した。

――KAMEN RIDE……FAIZ!

ベルトから発せられたけたたましい音声と共に、ディケイドの姿が自身にもなじみ深いものへと変化する。
一瞬思わずデイパックの中のファイズドライバーを奪われたのかと疑ったが、違う。
これがキングの言っていた、ディケイドの能力である9つの世界を代表するライダーへの変身能力なのだろう。

「ほう、なるほど。実に興味深い能力だ」

「ハアァァ!」

思わず感嘆の意を抱いたオーガに対し、ディケイドファイズは躊躇なくその剣を振るっていた。
それを先ほどまでと同じく易々と受け止めながら、しかしオーガは目の前の敵の驚異を今一度認識する。
勿論本来であればオーガに大きく劣るファイズのベルト、それだけであればこの姿は驚異たり得ない。

だが他にも様々な戦法がある中で選べる技の一つとしては、フォトンブラッドを用いるファイズは自分にとって非常に厄介な存在である。
他の世界の怪人もそれぞれの世界のライダーを苦手とするのであれば、なるほどそれらを限定的とは言え全て用いることの出来るディケイドは悪魔という他ないだろう。
とはいえ結局はフォトンブラッドをこちらに注入できる必殺技を使うだけの暇を与えなければいいだけのこと、故に冷静に対処すれば問題はない。

特にファイズはそれぞれのツールにミッションメモリーを挿入し規定の位置に収めエクシードチャージを完了しなくては効果的な一撃は放てないことを踏まえれば、一対一のこの戦いでそれほどの隙を見いだせるはずもあるまい。
そう、村上はどこか高をくくってしまっていた。
――或いは、こうして戦っている相手の姿がファイズであるということに最も踊らされてしまったのが他ならぬ自分かもしれないということにも、気付かぬままに。

「ヤアァ!」

威勢の良い掛け声と共に振るわれたディケイドの剣は、オーガストランザーに打ち上げられる形で防がれる。
得物が高々と空へ吹き飛んでいく様を見て焦りを感じたか追うように跳び上がったディケイドファイズを見て、オーガは勝利を確信する。
碌な防御態勢も取れない空中に無防備で飛び出したのだ、必殺の一撃を躱すことなど出来ようはずもない。

だがそうしてベルトへ向かうその指を止めたのは、ディケイドが見ているのが宙を舞うライドブッカーではなく、自分だったことに気付いたからだった。

――FINAL ATACK RIDE……FA・FA・FA・FAIZ!

高らかに放たれたその音声と共に、オーガの身に赤い円錐状のポインターが迫る。
刹那の判断でストランザーを構え直撃は避けたが、それでもなお本来のファイズの一撃に遜色ない一撃だった。

(まさか……カードさえあればメモリーもポインターさえ必要ないというのか!?)

この戦いが始まって何度目かの狼狽を示したオーガ。
その原因は、ファイズとディケイドファイズを同一視してしまった為のものだ。
油断ならないと感じておきながら自身のよく知るそれに対し生じた一種の慢心を、彼はすかさず突いてきたのだ。

これが偶然であるならともかく、わざとこちらに勝利を確信させる場面作りから考えても、なるほどこれは確かに大ショッカーも天敵として認識する他ないだろう。


512 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:23:14 /RehMn.A0

(ですが……惜しかったですね)

そう、ここまで心中で彼を褒めておいて何ではあるが、結局のところ彼の奇策はこのオーガに届いてはいない。
如何にオーガを纏った自分であれど、オルフェノクに対し特効要素のあるクリムゾンスマッシュが直撃すれば敗北もあり得たが、しかしそこまでだ。
そして単純なフォトンブラッドの強さで大差の存在する通常のファイズとオーガが力比べをすれば、その結果は論ずるまでもないことだった。

「オアアアァァァァ!!!」

一瞬の拮抗の後、雄々しく吠えたオーガがその剣を振るった瞬間、ディケイドはポインター毎その身を吹き飛ばされていた。
それによりその身を通常のディケイドのものへ戻した彼は肩を大きく上下させる。
とっておきの奇策さえ難なく破られたことは、極めて彼にとって心労の溜まる展開だろう。

だが、だからといってオーガは攻撃の手を休めはしない。
剣を杖代わりに何とか立ち上がったディケイドに対し、ストランザーを振り下ろす。

――FORM RIDE……KUUGA!TITAN!

が、またしてもその姿を変えたディケイドが纏う銀の鎧に、難なく受け止められた。
そしてそのままライドブッカーをタイタンソードへと変化させた彼はオーガにその剣を突き付けようとーー。

「なるほど、これがクウガ。
五代さんを殺して得た力、ですか」

――その村上の言葉に、思わずその腕を止めた。
そして、そんな明らかな隙を見逃す彼ではない。
その身に迫った剣先をはね飛ばし、防御の態勢すら取らないディケイドクウガの身に幾度となくその剣を叩きつけた。

幾らタイタンの鎧が強固であっても、パワーに優れるオーガの攻撃をそう長く耐えられるはずもない。
数秒の後、ディケイドの身体が地を滑りその身を通常のものへと戻すころには、もう彼から抵抗できるだけの体力は残されていなかった。

「オーガを纏った私を相手にここまで戦ったこと……、素直に賞賛しましょう。
しかし終わりです。さようなら、門矢さん」

字面とは裏腹に情を一切感じさせない村上の言葉。
それにもう皮肉を述べる暇もないまま、ディケイドに向けてその鉄槌は振り下ろされていた。





「ハアァァ!!」

最早建物としての原型を留めていない廃病院の中に、二つの剣が触れ合った甲高い金属音が響く。
まともな競り合いさえ許されぬまま弾き飛ばされたグレイブに対し反撃を試みたコーカサスはしかし、左側から発生した銃声に反応しそのまま切り落として見せた。
銃声を認識してからそれに対処する規格外の実力にギャレンが戦慄を隠しきれない中、彼の横に何とか距離を取ったグレイブが並んでいた。

「大丈夫かい?橘朔也」

「それはこっちの台詞だフィリップ。
奴は強い、一人で突っ走るな」

言ってから、思わず強くなってしまった語勢を橘は悔いる。
この戦いが始まって既に5分ほど経過しているというのに、未だに自分たちはキングに有効打を一切放てていない。
無論カテゴリーキングを相手にするには今の手持ちのカードでは足りないというのはあるだろう。


513 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:23:31 /RehMn.A0

だが、だがそれ以上に。
今の自分たちがキングに敵わない理由が一つ、橘の脳裏には浮かんでいた。
だがそれを言えば事態が好調するわけではない、どころか想像すら出来ないほどの惨事を招く可能性さえある現状、下手に口にするわけにもいかなかった。

「橘朔也!来るぞ!」

瞬間沈んだ思考に水を差すように叫んだフィリップの一声で、彼はその手のラウザーを構え直していた。
近接戦闘ではギャレンの本領は発揮出来ないとコーカサスの接近を阻む為に弾丸を乱射するが、それらは一切キングの体表に届かず彼の剣で遮られてしまう。
いよいよ持ってコーカサスとの距離が中距離を保てなくなったその瞬間、雄叫びと共にグレイブがラウザーを構えキングに立ち向かっていた。

「そう言えば今気付いたけどグレイブ死んじゃったんだね。
放送でちゃんと有利になるようにランキング隠蔽してあげたのに、間抜けな奴」

「君が指示したのか?同じ世界の参加者を庇う為に……!」

「まぁ殺害数ランキングは僕の考案したものだしね。
でも勘違いしないでよ?別にグレイブじゃなくても6人も殺してたらそりゃちょっとくらい贔屓するって。
――それに、放送だけで嘘がバレちゃうってのも、面白くないでしょ?」

「ふざけるな……!」

攻撃に全力を尽くしたグレイブに対し、彼など最初から眼中にないという風に言いながら、コーカサスは難なくその手を振るいグレイブを弾き飛ばす。
先ほどまではそれで彼は退いていたが……今回は違っていた。

――MIGHTY

剣を弾かれた彼はギャレンによる援護射撃を待つことなくグレイブの持つ唯一のカードを切る。
高まったエネルギーを剣先に宿した彼はそのままコーカサスの剣を逆に弾き、今度は彼の体表にその剣を突き立てていた。

「――プッ!」

だが、手応えが薄い。薄すぎると言っても良いほどだ。
だからだろうか、それを剣でも盾でもなく持ち前の甲殻だけで完全に受けきったコーカサスからは、失笑が漏れていた。
それに対し差し迫る危機を直感したグレイブは何らの対応を試みようとするが、ろくに回避することさえままならないままコーカサスの持つ大剣オールオーバーが、その身を切りつけていた。

「フィリップッ!」

想像を絶する痛みに思わずそのまま両膝を地に着いたグレイブに対し、四の五の言っていられる状況ではないとギャレンが飛び出す。
だがそれすらも……コーカサスの予想の範疇。
いやどころかグレイブから一転してギャレンにのみ神経を振り切ったようなその構えを見れば、これすらも奴の思い通りだったのだろうと、そう思うほかなかった。

「フンッ!」

勢いよく振り上げられた大剣にそのまま身体ごと持ち上げられたギャレンは、変身すら解除して勢いよく転がった。
一瞬の後自分の横にゴミのように投げ捨てられたのがグレイブの変身を解除されたフィリップだと気付くのに一瞬の猶予を要する程度には、彼は満身創痍だったといって間違いない。

「フィリップ!大丈夫か!?」

「すまない……橘朔也……」

謝罪を述べたフィリップの頭は、そのまま垂れ下がる。
もしや致命傷を負ったのかと一瞬心配するが、どうやら慣れない単身での戦いでダメージを負いすぎた為に気を失っただけのようだった。

「ハハハハッ!ダッサ!二人がかりでボロ負けしてやんの!」

「くっ……」

耳障りなキングの笑い声が鼓膜を刺激する中で、橘はただ悔し紛れに呻く。


514 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:23:47 /RehMn.A0

(だが……何故だ?フィリップが元々戦いに慣れてないとは言え、二人がかりでここまで言いようにやられるなど……)

「あ、もしかして負けた理由とか考えてる?
なら簡単なことだよ、勿論僕が強いのは当たり前だけどそれ以上に……君たちが、こうして僕と戦ってディケイドを助けるっていうのが間違ってるかもしれないってそう思ってるから、だから弱いんだよ」

自分の心を見透かしたようなキングの言葉に怒りを露わにするより早く述べられた、時部達が実力を発揮しきれなかった理由に、橘は押し黙ってしまう。
自分たちが……士を助けることに疑問を抱いている?

「……その顔、よく分かってないって感じだね。
君も知ってるだろ?BOARDのライダーシステムは感情の昂ぶりで強くも弱くもなるんだ。
だから戦う理由に確信を持てないようじゃ、僕に敵うわけないって訳」

ま、もしそうなっても僕は負けないけどね、と付け足しながら、キングは笑う。
もしキングの言葉が正しければ、自分たちは士が五代を殺したのは力を取り戻す為に過ぎないという考えについて否定し切れていないというのか。
目の前の憎むべき敵が吐いた情報に、村上と同じく踊らされていると言うのか。

生じてしまった疑念は、士へのものではない。
仲間として例え薄暗い過去があったとして信じてみせるといったはずなのに仲間を信じ切ることが出来ない自分自身への憤りだ。

「クソッ、こうなったら……」

だがそうして打ちひしがれていても、何も事態は好転しない。
いよいよ後のなくなった橘は、その懐に手を伸ばす。
現在持ちうる最強戦力であるそれを使えば、迷いなど関係なくキングを倒せるに違いないとそう信じて。

だが、それは叶わない。
懐に確かに忍ばせていたはずの切り札、それがあるべき場所から跡形もなく消えていたからだ。
焦る橘を前に、コーカサスは最早興味を失ったようでその身を青年のそれへと変える。

「――君はもう少し遊べそうだし、今は助けてあげるよ、ギャレン。
その代わり、これは戦利品ってことで」

「なッーー!」

橘が驚いたのも無理はない。
今キングの手に握られているアイテムは二つ。
今フィリップから無理矢理奪い取ったグレイブと……自身が持っていたはずの、ナイトのデッキだったのだから。

「さっき吹っ飛んだとき落としてたから拾わせて貰ったよ。
これで君は万事休すかな?」

「いや、まだだ……まだ俺は戦える!」

叫んで、橘は天に手を伸ばす
それによって虚空から現れた黄色のゼクターを掴み、その腕のブレスに装着しようとして、見た。
キングが自分から興味を失い、彼方へと視線を向けているのを。

追随するように反射的にそちらを見た橘の視界には闇が広がるのみ。
或いはアンデッドの視力だから視認できたのだろうか。
と、そこまで考えて、今はそんなことをしている場合ではないと思いきり振り返るが。

「何……?」

そこにはもう、誰もいなかった。


515 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:24:03 /RehMn.A0





「痛……!」

既に廃墟と化した病院の床に横たわり苦悶に顔を歪める青年の名は、野上良太郎。
先ほどキングより受けた腕の傷によって、行動を阻害され戦闘は愚か後方支援さえままならない状態であった。

(大丈夫?良太郎)

(全く亀の字、無茶しすぎや。幾ら橘たちを助ける為とは言え……)

(僕は大丈夫だよ、ウラタロス、キンタロス。
それに橘さん達を助けられたんだから、この位なんてことないよ)

脳内で二人と会話を繰り広げながら、良太郎はその右腕を押さえる。
正直、痛い。
修行を始め、一人でイマジンと戦うことさえ増えてきた最近を踏まえても、痛いものは痛かった。

だが、泣き言を言っていられる時間はない。
士も橘たちも戦っている今、例え並んで戦うことは出来なくても、自分に出来ることはきっとあるはずだから。
そう考え、視線の先にいる村上と士の戦いを収めようと彼は立ち上がる。

(良太郎……ディケイドのこと、信じてるわけ?)

(何や亀の字、お前はディケイドが嘘をついとると思っとるんか?)

(うーん、僕もキングって奴の口車に乗るのは癪なんだけどさ。
でも正直完全に無視して良い意見とも思えないんだよねぇ。
それこそほら、僕らもディケイドが求める力の一つのはずだし、下手打つと僕らも危ないかもしれないしさ)

しかしそんな彼の足を止めたのは、再び脳内に響いた友の声だった。
驚愕を隠せない様子のキンタロスに対し、あくまで理路整然と返しながら悩ましげに首を傾げる。
それに思わず面食らって……しかし、答えには一切迷わず良太郎は返答した。

「うん、信じてるよ。士は、そんな人じゃないって。
五代さんって人を殺しちゃったのが本当でも、自分の力の為に誰かを殺せるような人じゃないって、僕は信じたいんだ」

言って良太郎は、走り出す。
腕を庇うことさえ忘れた彼の目は、真っ直ぐだった。
そしてもう長い付き合いになったイマジンズにとって……それはもう一切の議論の終了を意味していることくらい理解出来ていた。

(――お前の負けやな、亀の字)

(いちいち言わないでよキンちゃん。
……まぁでも、こうなった時の良太郎は何言っても聞かないしね)

どこか呆れたような言い草ながら、同時に彼らは今の良太郎をこれ以上なく心強く感じていた。
彼が自分の直感を信じ行動した時、その多くは誰もが予想しなかった最高の結果を導く。
だから、彼らも信じたいのだろう。

仲間割れさえ起きている今の状況を、良太郎なら何とか出来るのではないかと。

「オーガを纏った私を相手にここまで戦ったこと……、素直に賞賛しましょう。
しかし終わりです。さようなら、門矢さん」

「――待ってッ!」

ーーそして彼は、間に合った。
まさしく絶体絶命、村上がもう後戻り出来なくなるその瞬間、振り下ろされた大剣から、ディケイドを庇うようにして村上の前に再び立ちはだかったのだ。


516 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:24:22 /RehMn.A0

「良太郎……お前、なんで……」

ディケイドが、息も絶え絶えに名前を呼ぶ。
しかしそれに満足に反応することも出来ない。
今少しでも動けば、オーガの持つ大剣に触れ切り裂かれるのは自分だ。

だが……そんな状況の中でもなお、良太郎の目は数時間前と変わらず真っ直ぐに村上を見据えていた。

「……また、貴方ですか、野上さん。
全く、何度私の邪魔をすれば気が済むのですか?」

「貴方が……人を襲わなくなるまでです。
それまでずっと、僕は何度だって貴方を止める」

「フッ……全くご立派な考えだ。
まさか力を得るために他者を手にかけた男さえ庇おうとするとは。
背中から刺されるまでそうやって誰もを信じる御つもりですか?」

「士は……自分の力の為に誰かを殺すような人じゃない
だってもしそんな人なら、乾さんを助けたりしないし、剣崎さんの遺体の首を切る時にだって泣いたりなんて、絶対しないと思うから」

村上の皮肉にも、良太郎は一切退かない。
どころか士の内面に気付かない村上の方が愚かだとすら言うように、言葉を続けていく。

「それに、士が貴方の言うような人なら、僕はこうして立ってられないと思います。
僕だって士が欲しいはずの力を持ってる。
僕を殺せば電王の力が手に入るはずなのに、それをしようとしない。
……これでも、士を信じる理由にはなりませんか?」

「なるほど……面白いご意見だ……」

言って、オーガは少し考え込むように沈黙し、しかしその殺意が弱まることは、なかった。

「つまり逆に言えば貴方を殺せば、ディケイドは全ての力を手に入れることが出来なくなる、と?」

「そういうことになります。
でもそんな理由で僕を殺すつもりなら、その代わりに、士のことは信じてください。
それなら僕はーー」

いつもの口数少なく朗らかな雰囲気はどこへやら、良太郎は生身で、手負いですらあるのに雄弁にオーガに立ち向かう。
その右腕から流れ続ける赤い血が袖を濡らし地に落ちていくのを見て、士はもう耐えられなくなっていた。

「良太郎!もういい!俺のことは放っといてお前は逃げろ!」

「――逃げないよ」

しかしようやく整った息を全て吐き出し懇願したディケイドに対し、良太郎は静かに返す。
それに面くらい一瞬場の空気は止まるが、それを一切気にせず良太郎は再び口を開いた。

「僕は弱いから、こんなことでしか役に立てないけど……でも、目の前で絶対に間違ってることが起きてるなら、止めたいから。
だから士も……僕を信じて?」

「良太郎……」

そう言った良太郎の瞳は、決して諦観したそれではなかった。
どころか絶対にこの物事が良い方向に向かうと確信しているようなその眼は、強かった。
数時間前に村上に立ち向かったあの時と同じかそれ以上に強いそれを見て、もう士に二の句を繋ぐ事は出来なかった。

「……全く貴方は、本当に不愉快な方ですね。
貴方といると、私はどうにかなってしまいそうになる。
ですがーー」

言いながら、オーガはその手に持った大剣をゆっくりと降ろす。
それにディケイドすら戦慄する中で、彼はもう一度小さく溜息をついた。


517 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:24:39 /RehMn.A0

「――今回は、この程度で見逃すことにしましょう。
しかし門矢さん、どんな理由であれ次に貴方が人を殺めた時は、私が貴方を裁きます」

「……あぁ、分かった」

ディケイドの了承と共に、オーガは今度こそ足を翻し二人に対する殺意の発露をやめる。
それにようやく張り詰めていた緊張の糸が緩んだのを見て、瞬間良太郎は身を翻しディケイドに手を差し伸べていた。

「……大丈夫?士」

「お前……なんで俺の為にここまで出来る?
もしかしたら殺されてたかもしれないんだぞ」

士が問う声には、心配とそして僅かな怒りが込められていた。
幾ら自分を守る為とは言え生身でこうして身を挺すのは一歩間違えれば死んでもおかしくなかったのだから、その怒りも当然だろう。
だが良太郎は、それに対し再び所在なげに笑うだけだった。

「だって、士には、前に助けられたし。
それに、僕にはどうしても君が自分から進んで誰かを殺せるような人には見えないから」

「……それだけか?たったそれだけの理由で、あそこまで……」

「言ったでしょ?僕は弱いかもしれないけど、間違ってることが目の前にあるなら、絶対に見逃せないから」

――やはりこの男は強い。
どれだけ論理を重ねたところで、彼は自分が信じるものの為に命を賭けて戦う事ができる。
変身さえしていなくても、傷を負っていても最善の結果のために自分の身体を放り出せる存在だ。

恐らく、彼の身体に憑依しているイマジンたちがここに至っても一切その姿を見せないのは、良太郎が彼らを拒んでいるのではなく、本当に良太郎を信じているのだろうと士は思った。

「ん?」

瞬間、ライドブッカーより複数のカードが飛び出してくる。
電王の力を宿したそれは、良太郎と交友を深め彼と信じ合えたことを意味する。
それを再度ブッカーに戻しつつ、ディケイドは目の前の男の強さを再度心に刻みつけた。

一方で、良太郎が自分の傷を押してディケイドを気遣う声を聞きながら、オーガの鎧の下、村上は一つ溜息をついた。

(本当は、野上さんごと門矢さんを殺しても構わないのですがね……)

それは、良太郎へ無言で向けるヘイトを込めたものだということに、恐らく本人は気付くまい。
だが、士だけならともかく、良太郎まで殺したとなれば首輪解除において自分がより一層警戒される形になるのはほぼ確実。
ここまで好調に物事を進めてきたというのに、その立場を捨てるにはあまりにも惜しいという、ただそれだけの自益を考慮した考えが村上にこの場での殺害を控えさせていた。

(まぁ、幸い門矢さんは現状全力を出したところで私には遠く及ばないようだ。
或いは大ショッカーに挑む戦力が幾らか減るかもしれませんが、どちらにせよ貴方のような不確定要素はなるべく排除しておきたい。
身の潔白を証明するつもりがないなら、むしろ誰か適当な輩を手にかけて欲しいとすら思いますよ)

表には一切出さないものの、極めて冷酷に村上は士を評価する。
次に誰かを手にかけたときは一切の容赦なく、今のように邪魔者が介入しても自分を愚弄した愚か者は殺すことを決意しながら。

「よし!そうと決まれば次はあのキングって男や!
あいつを倒して大ショッカーについての情報を……って痛たた……」

「お前は下がっとけ。良太郎の傷がこれ以上広がったら困るからな」

「アホ抜かせ、こんくらいの傷なんてことない。
俺が速攻で終わらせたーーる?」


518 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:24:58 /RehMn.A0

和服姿になった良太郎、K良太郎の言葉は、不意に途切れる。
それに不審を抱き皆が彼を見た。
ディケイドが、オーガが、そしてK良太郎本人も。

だが、何が起きたのか、誰にも気付くことは出来なかった。
――K良太郎の黄色を基調とした服が、腹を中心に下半身を急速に赤に染め彼が身体を仰向けに倒すその瞬間まで……誰も、何が起きたか理解できたものはいなかった。

「良太郎ーー?」

ダメージ故かキンタロスが弾き出され良太郎へと身体の主導権が渡ると同時、ディケイドはほぼ反射的に彼の元に歩み寄っていた。
周囲を見渡すも、襲撃者の姿は見られない、そう“見られなかった”。

「はぁ。マジでさぁ、そういうのウザいって言ったよね僕。
放送でちゃんと『口先だけの正義の味方とか無駄なだけ』って」

「キング……!」

だが虚空より響いたその声に、彼らは襲撃者の正体を把握する。
そして名を呼ばれたからか、或いは勝利宣言の為か、突如現れた緑の仮面ライダー、ベルデを、ディケイドは強く睨み付けた。





数分前。
ギャレンたちとの戦いを無事勝利で収めたキングは、その視線の先にオーガとディケイドの間に取り入る良太郎の姿を見た。
キングは、良太郎が嫌いだった。

正義の味方というだけで彼はすべからく嫌いではあったが、特に彼は戦いをしようとせず面白そうな状況をつまらない言葉で白けさせる。
東京タワー崩壊の時もそうだし、キングが第二回放送後この会場に送り込まれるその時まで、放送を受けて正義の味方を名乗る連中が無力に打ちひしがれる姿を目に焼き付けていたときもそう。
折角病院で志村純一と村上の本気のバトルが見られると思ったのに、それを弱いだけの彼が妨げてしまった。

ルールを理解せず戦っている口先だけの正義の味方はブレイド、剣崎一真を始めとして早期に退場する違いないと確信していたのに、彼は運がいいだけでここまで生きている。
だからそんな良太郎の存在は極めて腹立たしいものでしかなかった。
だが彼の幸運もここまで。

ディケイドにちょっかいを出すために選んだ病院だったが、予想通り良太郎もここにいた。
一番の目的はディケイドへの不信を煽った為に起こる仲間割れだったが、こうして良太郎も殺害出来るならそれに越したことはない。
ただそれだけの好みの問題で、キングは一切の躊躇なく良太郎の腹を貫いたのだった。

「――さっさとかかってこい。お望み通りお前をこの場で破壊してやる」

怒りに打ち震えた声で、ディケイドがベルデに向け宣戦布告する。
だが対するベルデは一向にそのヘラヘラとした笑いを繰り返すのみで、真面目に取り合おうとはしなかった。

「うーん、でも僕大概満足しちゃったしなぁ。
それにこんだけ玩具をいっぱい手に入れたのにここで雑に使っちゃうのも面白くないじゃん?」

「まさか逃げられるとでもお思いですか?
先ほどは不意を突かれましたがこの状況でそう易々と見逃すとでも?」

「いやぁそうなると思うよ?だってさ……やれ!」

そうしてベルデが合図をすると同時。
周囲に散乱したガラス片から、二つの影が飛び出してくる。
一つはベルデの契約モンスター、バイオグリーザ、そしてもう一体は……東京タワーでの戦いの結果、野良モンスターとなり今の今までその姿を見せなかった金色のミラーモンスター、ボルキャンサーだった。


519 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:25:16 /RehMn.A0

「何ッ!?」

「こいつ、近くを彷徨いてる癖に全然出てこないから、僕の契約モンスターにミラーワールドでちょっかい出させて無理矢理引っ張り出してきたんだ。
お腹すいてて後がない分凶暴になってるから、気をつけてね?」

「チッ、厄介な奴出してきやがって。
村上!こいつは俺が相手する、お前はキングをーー!」

そこまで言って、ディケイドは絶句する。
それも当然。
既に周囲に迫りつつある、数多のミサイルやビームの群れを視認したからだ。

ベルデは素早くその射程範囲内から飛び退くのに成功するが、強固な鎧を持つオーガはともかく、今なお倒れ伏す良太郎を前にして、ディケイドに撤退の手段は残されていなかった。

――KAMEN RIDE……BLADE!

何とか掴み取った一枚のカードを装填すると同時発生したオリハルコンエレメントが、彼らに対する攻撃を幾分か防ぐ。
だが、あくまで幾分だ。
その壁の真後ろにいるディケイドと良太郎はともかく、更に後方でまともな防御態勢を取ることも出来なかったオーガの鎧はその爆発の嵐に蹂躙され、遂に村上の姿を晒した。

そして数瞬の後、視覚外から放たれた弾丸の雨が止む頃に、本来の変身機能を果たす事なく跡形もなく霧散していたオリハルコンエレメントを見て、ディケイドは何度目かの戦慄を覚える。
しかしそんな時間も長くは与えられない。
瞬間、最早聞き慣れた笑い声がゆっくりと近づいてくるのを、二人は耳にした為。

「ハハハッ、僕が引っ張り出したのがボルキャンサーだけな訳ないでしょ。
あいつ……マグナギガはデッキを壊した君を目の敵にしてるんだ、放置してたら大変なことになっちゃうよ?」

「クソッ……!」

見れば、先の攻撃を幾らか食らったというのに、ボルキャンサーは既に瓦礫の中から這い出ていた。
同時、彼が向かった先に生身のフィリップを庇い橘が立ちはだかったのを見て、ディケイドは彼らを放置しキングを叩くのが不可能であると再確認する。
であれば自分はどちらへ向かうべきか、と思考を巡らせるより早く、村上はデイパックから次のベルトを取り出していた。

「変身ッ!」

勢いよく叫んだ村上の身体が今度は黄色のフォトンストリームに包まれていく。
夜の闇に紫の双眼を輝かせた仮面ライダー、カイザは変身の完了に何ら感慨を持つこともなく、すぐさまボルキャンサーへと向かっていく。
大方首輪解除について有力な二人を見殺しには出来ないし今ここで借りを作っておけば後々に優位に立てるといったところだろうが、今はそれでもいい。

先の攻撃は何とか凌ぎ切れたが、次があれば良太郎の身体が危うい。
そうなるより早くマグナギガを叩くために、彼はライドブッカーより新しい力を取り出していた。

――FORM RIDE……DEN-O!GUN!

けたたましい変身音と共に形成されたオーラアーマーが、ディケイドの身体を包み込む。
変形の完了を示すように放射された熱気を受けてライドブッカーをガンモードに変形させたディケイドは、そのまま一直線に敵に向かっていった。

「フッ……、まぁ精々頑張ってよ?ディケイド。僕は待ってるからさ。
――取ってこい」

突然に声音を低くし自身の横に控える契約モンスターに指示を飛ばしたキング。
多くを語らない主にしかし忠実に、バイオグリーザは倒れ伏す良太郎のデイパックをその長い舌で絡め取り主へと投げ渡した。
それをぞんざいに受け取りながら、キングは使用制限を終えたゾーンメモリを起動し、その場を後にした。


520 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:25:35 /RehMn.A0





「ハアァァァァ!!!」

まさしく固定砲台、いや全身兵器の名が相応しい怪人マグナギガが放つミサイルやビームを避け、或いは撃墜しながら、ディケイドは駆ける。
マグナギガは、その攻撃力のみを見れば最強のミラーモンスターと言って過言ではない。
だがもしも弱点があるとすれば、それは単身では移動もままならず同時大技を使用するには長いクールタイムを必要とするところだろうか。

もしまた先ほどの攻撃が病院へ向かえば、今度こそ生身の橘やフィリップ、そして今なお苦しんでいるだろう良太郎は跡形もなく消し飛んでしまう。
それだけは、絶対に避けなければいけないことだった。

「GUOOOOOO……!」

そんな中、急速に距離を狭めつつあるディケイドに脅威を感じたか、マグナギガはその身からチャージを終えたミサイルを発射する。
先ほどの全力に比べれば明らかに規模は小さいものの、それでも直撃すればディケイドと言えど敗北は免れないだろう。

「待ってたぜ……そいつをな!」

だが対するディケイド電王はそれに対し不敵な笑みを浮かべブッカーより一枚のカードを取り出した。

――FINAL ATACK RIDE……DE・DE・DE・DEN-O!

その身に刻一刻と迫るミサイル群に対し、今度は一切臆さずディケイド電王はガンモードのブッカーを構える。
その銃口に高まっていく紫のオーラエナジーが臨界点を迎えるのと同時、彼はトリガーを引き絞った。
それにより放たれた紫のエネルギーの塊が実体を持ったミサイル群と接触し周囲に爆炎と轟音を振りまく中、ディケイドはその姿をソードフォームへと戻しながらもう一度カードをドライバーに装填した。

ーーFINAL ATACK RIDE……DE・DE・DE・DEN-O

再度鳴り響いた電子音声が止むより早く、今度はソードモードに変形したブッカーの刃先のみが硝煙を超えマグナギガへと向かっていった。
右から左へ、左から右へ。
確かな手応えと共に剣を振り抜いたディケイド電王は、止めと言わんばかりに思い切りその腕を大きく上に上げた。

「ヤアァァァァ!!!」

そしてそれを振り下ろしきった時、一瞬の沈黙の後、マグナギガは巨大な爆発と共に消滅する。
主を失った哀れな獣の最後を見届けて、ディケイドはーー変身制限故その鎧を霧散させながらーー病院へと踵を返していた。





――お腹と腕が、痛い。
それが、良太郎が今の状況について最もはっきり認識していることだった。
何故自分がこうして地に伏しているのかも、今の自分が熱いと感じているのか寒いと感じているのかも、全て曖昧に感じられたからだ。

ただもう一つだけ何か良太郎に分かっていることがあるとするならば。
それは、今話さなくてはもう彼らと話す機会は失われてしまうだろうということだけだった。

(……ごめんね、ウラタロス、キンタロス。
僕のせいで、こんなことになっちゃって……君たちまで)

(まぁ、まだやりたいこと全部なくなったわけじゃないけどさ。
良太郎の運からすれば、そこらへんの石に躓いて死んじゃう、なんて死に方じゃない分、マシだと思っておくか)

(ウラタロス……)

(お前が謝ることあらへんで、良太郎。
俺の命はお前に拾われたあん時、ほんまは終わってたもんや。
お前と一緒に戦えたその時間の分だけ、俺にとっちゃ出来すぎた幸運だったんや、未練なんて何もないで)

(キンタロス……。
二人とも、ありがとう)


521 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:25:51 /RehMn.A0

脳内で二人のイマジンへ謝罪を述べるが、それを受けた彼らは恨み節の一つもなく自分と運命を共にする覚悟を決めていた。
だから、良太郎はもう謝らない。
そんな時間の分だけ今まで一緒に戦い笑い合ってきた時間を感謝する方が、今の自分には大事だったから。

「――りしろ!おい、良太郎、しっかりしろ!」

不意に、自分に向かって大声で叫ぶ男を視認して、良太郎は脳内での会話から浮上した。
微妙に焦点の合わない虚ろな目で何とか見上げれば、そこにいたのは自身を守り先ほどは自分が守った士だった。
彼に対しても、色々と言いたいことがある。

勿論恨み節などではない。
感謝と、そしてこれからの彼に対する激励の言葉だ。
だが、それを満足に伝えるだけの力は、既に彼には残されていなかった。

だからせめて……自分に限りない力をくれたこれを、彼に託そう。
それを彼がどう判断するかは、自分には分からないけれど。

「士……これ……」

「お前、これは……」

「君に、持ってて欲しいんだ。
僕の大事な思い出……だから」

良太郎が未だに怪我のない左腕で震えながら懐から取り出したのは、先ほど士が彼に譲渡した懐中時計であった。
キングはバイオグリーザを用いて彼のデイパックを奪いこそしたが、彼がこうして片身離さず持っていたそれについては、別段奪うこともしなかったのだ。
良太郎の腕から両手でしっかりとそれを受け取った士は、その裏に書かれている文字盤を見る。

『過去が希望をくれる』

先ほどまでは単純な格言として受け流せていたはずのそれを見て、何か込み上げてくる思いが溢れるのは、何故だろう。
思わず言葉につまる士に対し、良太郎はゆっくりと口を開いた。

「忘れないで、士。例えどんな過去でも、必要だったって分かる日が来るはずだから……。
だから……だから……」

「……良太郎?」

士の呼びかけに、良太郎は答えない。
いやそれどころかもう二度と、彼が目を開くことはなかった。

「なんでだ……どうしてこうなるーー!」

悲痛な士の叫びは、しかし誰にも届きはしない。
思い切り拳を叩きつけ全てを破壊し尽くしたい衝動がこの胸を襲うが、しかしその振り上げた拳はすぐに止まった。
その手に握られた懐中時計を、彼に壊すことは出来なかったから。

やり場のない怒りをただ悶々と抱えた彼にはしかし、もう選択肢は残されていなかった。


522 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:26:10 /RehMn.A0





――EXCEED CHARGE

ファイズに比べ幾分かくぐもった電子音声と共に、先ほどまで自分たちを捕食しようとしていたカニのような怪人に三角錐のポインターが放たれる。
それに向け突如現れた村上の変身したカイザが足を揃え飛び込めば、理性を失った獣は一瞬にしてその形を保つことが出来なくなり崩壊した。

「すまない、村上……助かった」

「いえ、別に構いませんよ、私にはまだファイズのベルトを含め二つ力がある」

言葉とは裏腹に、カイザの変身を解いた村上の顔は穏やかなものではなかった。
全くこんな雑魚を相手に貴重な変身アイテムを一つ無駄に使わされたのかと思うと溜息は止まらない。
だが今は首輪解除班の二人に貸しを作れただけでよしとするべきだと、村上はそれを無理矢理に押さえ込んだ。

「キングは逃げた……か」

「えぇ、全く。
まさかここまで戦力を彼に明け渡す形になるとまでは予想していませんでしたがね……」

村上は、橘を見下しつつあからさまな皮肉を吐く。
グレイブ、ナイト、オルタナティブ・ゼロ……志村を倒し手に入れた全ての戦利品に加えて、良太郎の持っていたデイパック、そして彼の命までも奪われた。
サソードはそのままキングを資格者に選ぶか不明ではあるものの、ありとあらゆる世界、参加者の事情に精通している上に口のうまい彼をこうして無傷で放流してしまったのは、あまりにも危険だった。

それを分かった上で……今この場でなさなければいけない会話は他に山ほどあると分かった上で、橘はもう自身の抱いたやりきれなさを抑えきることが出来なかった。

「まるで、自分には非がないような言い方だな、村上。
元はといえばお前が門矢をあんな状況で攻撃しなければこんな事には……!」

「……本当にそうですか?」

だが、そんな橘の怒りに対しても、村上は極めて冷静に返す。
それに対し思わず掴みかかろうとしかけた橘をしかし、村上はゆっくりと上げた手で制止を呼びかけ窘める。

「門矢さんが決して盤石の信頼をおけるような存在でないことは、キングと名乗った青年の話を聞いて貴方も懸念していたはず。
それにあなた方がキチンとキングに対処出来ていれば、野上さんも含めた三人で彼に対処出来たはず。
その責任までも私に押しつけようというのは、あまり賢い行動とは言えませんね」

「それはーーッ!」

一切の動揺を見せず放たれたその言葉に、橘は二の句を継げない。
あの時、冷静に士については保留し、良太郎も含め三人でキングと戦っていれば、もしかしたら別の結果もあり得たかもしれない。
そんなことを思うが、全てはもう、終わったことだった。

「――む?」

「どうした、何かーー」

ふと、村上が呟く。
それに対し疑問を投げかけるより早く走り出した彼に一瞬の躊躇の後橘も追随する。
彼が向かった先は病院の外、先ほど支給品を集めたGトレーラーとそして……。

「トライチェイサーが……ない」

横に並んで止めておいたはずのトライチェイサー2000が、消えていた。
一瞬、キングの犯行かと疑った橘に対し、村上はすぐそこに落ちていた紙を拾い上げる。

「見てください。
『首輪を取り返すためにキングを追う。バイクは借りておく』……だそうですよ。
門矢さんも、随分と勝手な真似をしてくれる」


523 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:26:29 /RehMn.A0

苛立ちと共にそう吐き捨てた村上の顔は、怒りに燃えている。
だがそれに対し言い返し士を擁護するだけの精神的余裕は、既に橘からも消えてしまっていた。


【二日目 黎明】
【E-5 病院跡地】

【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、仮面ライダーギャレンに1時間50分変身不可、仲間の死に対しての罪悪感、自分の不甲斐なさへの怒り、クウガとダグバ及びに大ショッカーに対する恐怖(緩和)、仲間である仮面ライダーへの信頼、士への拭いきれない不信感
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J、K、クラブJ〜K、アルビノジョーカー)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×4、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼、栗原家族の写真@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:門矢……お前はどうして……。
2:乾に託された夢を果たす。
3:首輪の種類は一体幾つあるんだ……。
4:信頼できる仲間と共にみんなを守る。
5:小野寺が心配。
6:キング(@仮面ライダー剣)、(殺し合いに乗っていたら)相川始は自分が封印する。
7:出来るなら、始を信じたい。
8:剣崎……許してくれ……。
9:首輪の解体も進めていきたい。
【備考】
※『Wの世界万能説』が誤解であると気づきました。
※参戦時期のズレに気づきました。
※ザビーゼクターに認められました。
※首輪には種類が存在することを知りました。




【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、仮面ライダーグレイブに1時間50分変身不可、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+(T2サイクロン+T2エターナル)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:(気絶中)
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除は、状況が落ち着いてもっと情報と人数が揃ってから取りかかる。
5:首輪をそろそろ分解してみるか。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※鳴海亜樹子と惹かれ合っているタブーメモリに変身を拒否されました。
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をエクストリームメモリのガイアスペース内に収納しています。


524 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:26:53 /RehMn.A0




【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、仮面ライダーオーガに1時間50分変身不可、仮面ライダーカイザに1時間55分変身不可
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:門矢さん……貴方は……。
2:乾さん、あなたの思いは無駄にはしませんよ……。
3:首輪の解除に関してフィリップたちが明らかな遅延行為を見せた場合は容赦しない。
4:デルタギアを手に入れ王を守る三本のベルトを揃えてみるのも悪くない。
5:次にキング@仮面ライダー剣と出会った時は倒す。
【備考】
※変身制限について把握しました。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されていましたが、フィリップからの情報で誤解に気付きました。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。
※今後この場で使えない、と判断した人材であっても殺害をするかどうかは不明です。





友が愛用するバイク……と同型のそれを駆りながら、士はただひたすらに西を目指しアクセルを振り絞っていた。
こんな殺し合いの為だけに作られた中身のない世界でもこうしてバイクに乗って風を肩で切る感覚だけは普段と変わらないのは、何という皮肉だろう。
だがそんな些細なことにさえ苛つき火照ってしまう今の身体を冷ますには、この深夜のドライブは相応しいようにも、士には感じられた。

「むむぅ〜、プハッ、やっと出られたわ〜」

「……キバーラか」

取り留めもない思考を続けながら無心でバイクを駆っていた士の耳に、突如として甲高い女の声が響く。
だがそれが自身のデイパックから出てきた蝙蝠もどきの声であることは、最早確認しなくても分かることだった。

「士、あんた分かってるんでしょうね?
幾らキングを倒す為なんて言っても、あんな置き手紙だけでバイクまで取っていったら彼らの心象がよくないって事くらい」

「……あぁ」

キバーラの言葉を聞いて、士は思わず溜息をついた。
こいつは、昔からこんな説教臭い言い回しをする奴だっただろうか。
どことなく、彼女を使い変身していた自分の旅の仲間による影響を感じて、士は人知れず歯がみした。


525 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:27:09 /RehMn.A0

「それに、キングが行った先にあてはあるわけ?
当てずっぽうに走るだけじゃ、時間を無駄にするだけよ?」

「あぁ、あるさ。あいつは見ての通り他人を扇動してそいつらが争う様を見るのが大好きなクソ野郎だ。
なら人が多く集まってる場所に優先的に行くはず。西側の病院に向かう可能性は、決して低くない」

士の考えは、単純だった。
キングの狙いが誰かへの不信を煽りそれで同士討ちをさせるものだというなら、人は多い方がいい。
今回も跡地とは言え病院に来たのだから、次もまたそちらに向かう可能性は低くなかった。

とは言え彼には首輪は関係ない。
禁止エリアであるE-4を通り抜けD-3,D-4にかかる橋を抜けられる分だけ、G-2,G-3にかかる橋を抜けなければならない自分とで優位の差はあるが。
……本当は橋を渡る必要すらなく主催陣営の特権として持ち込んだアイテムによって瞬時に移動することが出来るのだが、それはともかく。

少なくとも急がなければまたキングの魔の手にかかる参加者が増えてしまうと、士は考えていた。

「……ねぇ、士。あなたがなんで、仲間に何も言わずこうして飛び出してきたのか、当ててあげましょうか」

だがキバーラは、努めて穏やかに、士を責める気など一切持っていないという様子で話しかける。
正直なところ煩わしいとすら感じるが、今そんなことを言っても彼女は引き下がらないだろうことも、士には分かっていた。

「勿論、キングを追うのに一刻の猶予もないから、なんて理由じゃない。
それにあなたが仲間だと思った皆が破壊者としての貴方に牙を剥くことでもない。
だって、その位もう貴方は慣れちゃったものね」

「……お前の話はいつも回り道が多すぎる。
さっさと結論を言え」

士の苛立ったような口調に、キバーラは一瞬言葉を詰まらせ……しかし、再び口を開いた。

「――自分がいるせいで、周りの誰かが不幸になる気がするから……、でしょう?」

「……」

士は、何も言わなかった。
間違いだとも、合っているとも、怒りをぶつけることも、開き直ることも。
しかしそれさえ予想通りだと言わんばかりに、キバーラはそのまま言葉を紡ぐ。

「先の病院での戦いも、キングの来訪も、自分が呼んだものだった、自分がいなければあそこまでややこしいことにはならなかった。
だから、貴方は怖いんでしょう。これ以上自分が誰かと一緒にいることで、その人が巻き添えになるのが」

「……」


526 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:27:25 /RehMn.A0

士は相も変わらず運転に集中しキバーラに口を利くことはなかったが……それなりに長い間共に旅をしてきたキバーラには、分かる。
これは士が、本当に痛いところを突かれた時特有の沈黙なのだと。

「それに一真、ヒビキ、雄介、巧、そして良太郎……貴方に9つの仮面ライダーの力を託した男達が、その後すぐに、まるでそれで全ての使命を終えたかのように死んでいく。
だから貴方は村上の言葉に本気で言い返せなかった。
……自分が力を取り戻す代わりに五代雄介が死んだっていうのは、ある意味正しいと思ってーー」

「……話は終わりか?ならさっさとまたデイパックに戻ってろ。
これ以上話すならデコピンするぞ」

ヘルメット越しでも分かる、あからさまに嫌な表情で、士は言う。
それに従いデイパックへと渋々戻りながら、しかし最後に彼女は一つだけ言わなくてはいけないことを思い出した。

「ねぇ、士?確かにこの場での9つの世界を代表する仮面ライダーが貴方と出会ってから死んだ数が多いのは否定できないかもしれないわ。
でもね、天道総司……仮面ライダーカブトは貴方と会う前に死んでるの。だから貴方が責任を感じる必要はーー」

「……よっぽど俺のデコピンが食らいたいらしいな」

そう言って片手だけ離しグググと力を込めた士の指を見て、ヒッ、と演技めいた声をあげてキバーラはすぐさまデイパックへと舞い戻った。
それを受け再度両手でハンドルを握りながら……しかし士は今のキバーラの言葉を再度反芻していた。

(天道総司、仮面ライダーカブトは死んだ、か。
だが、果たして本当にそうか……?)

巧の遺言を、思い出す。
黒いカブトに変身する男に、天道の夢を伝えてくれという彼の言葉。
もしそれが一真を喪ったあの時に戦った彼なのだとすれば、一体どういう風の吹き回しなのだろう。

巧が騙されていた、という可能性も拭いきれないが……見た目が同じで事情をよく把握しているはずの天道本人と出会ってもなお彼に騙されているというのは些か考えにくい。
であれば、或いは天道、そして巧が信じるに値すると感じるほどに、あの黒いカブトは改心していてーー。

(――やめた。直接会って確かめないことには、どれだけ考えても仕方ない)

そこで、答えの出ない問いについて考えるのをやめた。
今自分にとって大事なのは、その天道に擬態したワームとやらが改心しているのかどうか、カブトを継いでいるのかどうかなどということではない。
彼が自分の預かった天道、そして巧からの夢を託すに相応しい存在なのか、どうかというだけなのだから。

剣崎を殺した落とし前についてはその確認が済んでからでいいと、士はそこで思考をやめた。

(――それにしてもホント、あんたは分かりにくいようで分かりやすいわよね、士)

デイパックの中、元々夜型故一切眠気を感じぬままにぼんやりと思考を繰り広げるのはキバーラだ。
狭くて暗いこのデイパックの中は、この長い夜を過ごすには少々退屈である。
だから彼女にはただひたすらに、取り留めのない考えを浮かべ続ける以外に、することがなかった。

(仲間が自分のせいで死ぬかもしれないから仲間から離れて自分だけで物事完結しようとするなんて、ホント不器用なんだから)

そして思考にずっと浮かび続けるのは、このバイクの運転手、門矢士のことだ。
彼は元々傲慢なようでその実ナイーブな一面があるのを、キバーラは知っている。
夏美が死んだと聞いたときも、海東の変わり果てた死体を見たときも、そして五代をその手にかけた時も。

全ての時に彼が自棄になりかけ、そしてその度何とかして立ち上がってきたのを、彼女は誰よりも近くで見ていたのだ。
自分を破壊者だと自嘲するくせに、そうなりたくないという気持ちが人一倍強い彼を、どこか危なっかしく、そして支えられたらと思う自分を、自覚しながら。


527 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:27:57 /RehMn.A0

(ホント、あんたも男の趣味が悪いわね夏美。
まぁ、私も……あんまり人のこと言えないかもしれないけどね)

そこまで思考を繰り広げて、彼女はもうそれ以上思考を続けているのも気怠くなって目を閉じた。
新しくデイパックに加わった、懐中時計の刻む確かな時を感じながら。


【二日目 黎明】
【F-4 道路】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意、仮面ライダーディケイドに1時間45分変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:キングを探すため、西側の病院を目指す。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ダグバへの強い関心。
6:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
7:仲間との合流。
8:涼、ヒビキへの感謝。
9:黒いカブトに天道の夢を伝えるかどうかは……?
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、ファイズ、ブレイド、響鬼、電王の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※参戦時期のズレに気づきました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は光夏海以外には出来ないようです。
※巧の遺した黒いカブトという存在に剣崎を殺した相手を同一と考えているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


528 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:28:38 /RehMn.A0





「あーあ、今回は本当に楽しかったなぁ。
電王……口先だけの正義の味方だって殺せたし」

ゾーンの力によるワープを終えて、その姿を人の身に戻しながらキングは笑う。
自分の口で誰かを焚き付けその隙をついて弱いのに粋がっている正義の味方気取りを殺す。
自分がこの殺し合いでやりたかったプレイングそのもの通りに事を運べたといっても、過言ではないだろう。

「それに、こんなに玩具がたくさん手に入ったしね」

言って、彼はその手に持ったデイパックを一瞥する。
ゼクターが現れないところを見るとどうやらサソードの資格は認められなかったらしいが、まぁ別にいいだろう。
ナイトやオルタナティブのデッキだけでも、十二分に面白いことは出来るはずだ。

唯一難点を上げるとすれば、放送から大分経ってしまった今、もう自分が把握している場所にずっといる参加者は少なくなってしまったことくらいだろうか。
しかしまぁ、問題はない。
彼の脳裏にはまだたくさん、遊びたい相手とそのプランが明確に思い浮かんでいるのだから。

「それじゃあ……さぁて、これからどうしようかな?」

そしてキングは、視界の先に映る白亜の建物を見て、一際邪悪な笑みを浮かべた。

【二日目 黎明】
【D-1 市街地】

【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、ゾーンメモリの能力1時間50分使用不可
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎、グレイブバックル@仮面ライダー剣、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブトカッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明、五代、海東の首輪
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:さて……次は誰と遊ぼうかな……?
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※ソリッドシールドが破壊されました。再生できるかは後続の書き手さんにお任せします。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。
※名護、一条ペアが彼のいる場所を“これから通る”のか“もう通った”のかは後続の書き手さんにお任せします。

【野上良太郎@仮面ライダー電王 死亡確認】
【残り18人】

【全体備考】
首輪についての内部構造について理解を深めました。
以下はその内容の羅列です。

・爆薬は魔石ゲブロン@仮面ライダークウガを用いている。
・それにより爆発が対処しきれない分はライフエナジー@仮面ライダーキバで補っている。
・なお、ライフエナジーを原動力に利用している関係上、首輪装着者が死亡した後は首輪は爆発しない。


529 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/08(金) 20:29:36 /RehMn.A0
以上で投下終了です。
毎度のことではありますがご意見ご感想、或いはご指摘等ございましたらお気軽にお願いいたします。


530 : 名無しさん :2018/06/08(金) 21:31:02 hA74FngQ0
投下乙です。
改めて認識させられた村上という危険分子、仲間のことになるとメンタル破壊されちゃう士……そして何よりキングがうぜぇーーっ!!

良太郎……村上を止めて死亡フラグ回避したかと思ったのに、駄目だったか……。でも彼の芯の強さを通した結果なのだから仕方ないのか。
残されたリュウタロスの気持ちになると辛いですが、彼には頑張って欲しいところです。


531 : 名無しさん :2018/06/08(金) 21:49:55 vlpKQZW20
投下乙です。

最後まで強かった良太郎、脱落……。
かつては自分勝手な奴らばっかりだったイマジン仲間たちも、良太郎と共に逝く事を受け入れる。それが彼らたちの物語を端的に表してると言えます。
電王ってやっぱりそういう話だったんだなぁと。あまり多くを語らず、それでいて良太郎たちと共に散る二人がとても彼ららしくてエレガント。
基本的にウラタロスが平成ライダーロワだと目立ってた印象があるのですが、キンタロスも最後は男らしくてカッコ良い。
もっと言うと、彼らの死によってリュウタロスはラスト一名に。
本編終了後参戦でも決して彼らの死に嘆かないリュウタロスではないでしょうから、これからリュウタロスが、そして三原くんを始めとする彼の周囲がどうこの事実や反響を受け止めるんでしょうか。
仲は険悪で不協和音だらけですが、なんだかんだで残った橘・フィリップ・村上はそこまでボロボロのトリオとも言い難い?ちゃっかり、お互いを助けはしますよね。

士はここに来て、ダークな側面を強調して、THE 仮面ライダーという感じのキャラクターに。
ひとりで去り行く姿はまさしく仮面ライダー。ときめきよ超えて行け。誰だって殺してる何かを殺してる。……でもまだ最終回じゃない。物語の引きです。次はどうなるんでしょうね。葦原さんみたいに孤独仲間とつるむんでしょうか。
士くんの場合は、彼の謎が仲間たちの前で明かされてしまい、更には良太郎までも示し合わせたかのように彼の前で散ってしまうという宿命。
五人もの仮面ライダーが彼の前で死んだのですから、それは因果を感じるのも無理はないでしょう。

そして、擬態天道との合流フラグも……???
翔一や真司はともかく、何より曲者はディケイドと相反する紅渡。
これから合流する相手がほとんど決まっているというのに、出会ったらどうなるのか非常に気になりどころなキャラクターばかり。
どうなる、127話以降!?(ビルド)


532 : ◆cJ9Rh6ekv. :2018/06/08(金) 22:23:28 MCR1hql60
投下お疲れ様です。
首輪解除が近づいた対主催チームに忍び寄る主催側からの追加マーダー……当然といえば当然の展開のはずなのに、ここまでしてやられてしまうとは、となった第126話!(ビルド風)
どうしようもない性格の悪さと、それをフルに活かせる話術や策略を併せ持つキング。しかもゾーンメモリでワープまでしちゃう性質の悪さは堪りません。
そして剣崎への逆恨みからか、彼のような正義の味方への悪意は留まることを知らず、まんまと策に乗せられてしまった橘さんたちの敗北や、何より良太郎の死が悲しい。

ディケイドの破壊と創造の物語。人々の記憶に密接に関わったその話を聞いた良太郎にとっては士はイマジンたちと重なって、放っておけない仲間だったんだなぁという気持ちになりますね。
そんな彼だからこそ、共に逝くことを何も躊躇わないイマジンたちの姿にも納得できる。設定的な整合性以上に小林靖子女史が重視するという、心理的な整合性の取れた切なくも素晴らしい展開でした。

個人的には、士VS村上社長とのバトルの組み立ても注目。病院大戦の時もでしたが、激情態で繰り広げた死闘の経験値を抱えたMOVIE大戦終了後という感じのするディケイドの描写に興奮しちゃいます。
しかし結果は、信頼関係を壊され武器を取られ、何より良太郎の命を喪い、とキングに対して惨敗と言えるもの。心を通わせた相手が次々と死んで行く悲しみを背負い、実は繊細な心根からの恐怖で孤独を選び、されど正義は捨てず最後まで戦い抜こうとする士はグッと来ます。
キングへのリベンジのみならず、思いを巡らす擬態天道や宿敵の一人となりつつある渡もそうですが、何よりユウスケとの再会も待ち遠しい彼の旅路の続きが気になるラストでした。

そして、>>496でご紹介頂いた動画、拝見させて頂きました。身に余る光栄で恐縮ですが、本当にありがとうございます。初めて視た時は思わず涙ぐんでしまいました。
すぐに、とは約束できない不甲斐なさですが、是非また、氏のご好意に応えられるように頑張りたい所存です。よろしくお願いします。


533 : 名無しさん :2018/06/08(金) 23:08:25 Gao4SgzU0
投下乙です!
キングはここに来て本領を発揮して、このような惨劇を引き起こすとは! ディケイドへの悪評を対主催チームに流して内輪揉めのきっかけを作り、その果てに良太郎の命すらも奪うなんて……
良太郎もその強さでオーガから士を救うことができましたが、その矢先に命を奪われたことが本当に切ないです。電王の世界も後はリュウタロスだけになるなんて、マジでヤベーイ!
逃げたキングを追いかけるために士はトライチェイサーに乗ることになりましたが、クウガの世界のバイクを彼が乗っていることに運命を感じます。このまま、彼はユウスケと再会できるのかどうか?
そして、ようやく再登場を果たしたけど、命を散らせたボルキャンサーとマグナギガは南無。残されたデストワイルダーはどうなるか?

あと指摘なのですが、士の状態表にトライチェイサーを追加した方がよろしいかと思います。


534 : ステージ・オブ・キング ◆.ji0E9MT9g :2018/06/09(土) 01:28:58 3FqRWuwY0

だが、だがそれ以上に。
今の自分たちがキングに敵わない理由が一つ、橘の脳裏には浮かんでいた。
だがそれを言えば事態が好調するわけではない、どころか想像すら出来ないほどの惨事を招く可能性さえある現状、下手に口にするわけにもいかなかった。

「橘朔也!来るぞ!」

瞬間沈んだ思考に水を差すように叫んだフィリップの一声で、彼はその手のラウザーを構え直していた。
近接戦闘ではギャレンの本領は発揮出来ないとコーカサスの接近を阻む為に弾丸を乱射するが、それらは一切キングの体表に届かず彼の剣で遮られてしまう。
いよいよ持ってコーカサスとの距離が中距離を保てなくなったその瞬間、雄叫びと共にグレイブがラウザーを構えキングに立ち向かっていた。

「そう言えば今気付いたけどグレイブ死んじゃったんだね。
放送でちゃんと有利になるようにランキング隠蔽してあげたのに、間抜けな奴」

「君が指示したのか?同じ世界の参加者を庇う為に……!」

「まぁ殺害数ランキングは僕の考案したものだしね。
でも勘違いしないでよ?別にグレイブじゃなくても6人も殺してたらそりゃちょっとくらい贔屓するって。
――それに、放送だけで嘘がバレちゃうってのも、面白くないでしょ?」

「ふざけるな……!」

攻撃に全力を尽くしたグレイブに対し、彼など最初から眼中にないという風に言いながら、コーカサスは難なくその手を振るいグレイブを弾き飛ばす。
先ほどまではそれで彼は退いていたが……今回は違っていた。

――MIGHTY

剣を弾かれた彼はギャレンによる援護射撃を待つことなくグレイブの持つ唯一のカードを切る。
高まったエネルギーを剣先に宿した彼はそのままコーカサスの剣を逆に弾き、今度は彼の体表にその剣を突き立てていた。

「――プッ!」

だが、手応えが薄い。薄すぎると言っても良いほどだ。
だからだろうか、それを剣でも盾でもなく持ち前の甲殻だけで完全に受けきったコーカサスからは、失笑が漏れていた。
それに対し差し迫る危機を直感したグレイブは何らの対応を試みようとするが、ろくに回避することさえままならないままコーカサスの持つ大剣オールオーバーが、その身を切りつけていた。

「フィリップッ!」

想像を絶する痛みに思わずそのまま両膝を地に着いたグレイブに対し、四の五の言っていられる状況ではないとギャレンが飛び出す。
だがそれすらも……コーカサスの予想の範疇。
いやどころかグレイブから一転してギャレンにのみ神経を振り切ったようなその構えを見れば、これすらも奴の思い通りだったのだろうと、そう思うほかなかった。

「フンッ!」

勢いよく振り上げられた大剣にそのまま身体ごと持ち上げられたギャレンは、変身すら解除して勢いよく転がった。
一瞬の後自分の横にゴミのように投げ捨てられたのがグレイブの変身を解除されたフィリップだと気付くのに一瞬の猶予を要する程度には、彼は満身創痍だったといって間違いない。

「フィリップ!大丈夫か!?」

「すまない……橘朔也……」

謝罪を述べたフィリップの頭は、そのまま垂れ下がる。
もしや致命傷を負ったのかと一瞬心配するが、どうやら慣れない単身での戦いでダメージを負いすぎた為に気を失っただけのようだった。

「ハハハハッ!ダッサ!二人がかりでボロ負けしてやんの!」

「くっ……」

耳障りなキングの笑い声が鼓膜を刺激する中で、橘はただ悔し紛れに呻く。


535 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/09(土) 01:30:56 3FqRWuwY0
……なんかミスって投稿しちゃいました、ごめんなさい、本編に何も関係ないのでご安心くださいませ。
そして皆様ご感想ありがとうございます。また>>533氏、ご指摘ありがとうございます、収録時には訂正させていただきます。
それでは引き続き何かご指摘ご感想等ありましたらお願いいたします。


536 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/10(日) 00:45:23 rr8kXVUg0
さて、昨日の今日ですが、早速今回のSSをwikiに収録させていただきましたのでご報告いたします。
また同時にお知らせです。
平成ライダーロワの予告MAD、>>496での『闇をもたらす王の剣』に引き続きまして、今回は豪華二本立て。
◆MiRaiTlHUI氏のSSである『魔皇新生』、そして拙作『time』の予告風MADを作成いたしました。
前回のものに比べ台詞等入れて普通の予告に近いように作ってありますので、もしよければyoutubeで「平成ライダーロワ」で検索、ないしは前回動画からユーザーの投稿動画をチェックしていただくなどしますとスムーズだと思います。

まだまだ未熟な点が多くお見苦しい、お聞き苦しいところがあるとは思いますが、もしよろしければ今後とも当企画をよろしくお願いいたします。


537 : 名無しさん :2018/06/10(日) 18:43:25 hG3mBK/g0
投下お疲れ様です!

丁寧な首輪の内部構造解説から始まりキングの来訪によって生じしていく展開に完全に飲まれた!
他人を扇動してそれを面白がるキングはある意味では戦闘狂のダグバや浅倉よりも怖い存在ですね。
また、彼とギャレン&グレイブの戦闘パートも融合係数の設定を取り入れていて敵わないのにも説得力がありました。

良太郎はその芯の強さで士を救った末に死んでしまうわけですが、彼が士に遺した言葉に涙腺が崩壊してしまいました。
後になってこの言葉が尚更きいてきそうな感じがします。
単独行動に走った士がこれからどうなっていくのか気になって仕方がありません。


538 : 名無しさん :2018/06/11(月) 23:24:40 IQ3e4IGs0
投下乙です
たった一話で大惨事…本編だとそこまで出番なかったけど、この場だと口が回るし性格悪い上に強いキングの悪辣さがこれでもとばかりにピックアップされてる。
もう橘さんのメンタルはボロボロだ!


539 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/15(金) 10:59:28 WBHg0hcQ0
皆様、温かい感想の数々、ありがとうございます!近頃は感想も増えてきて、こちらとしてもますますやる気に満ちあふれております。

さて、それはそれとして報告です。
今回予約分をしたらばに仮投下いたしましたので、ご確認のほどお願いいたします。
如何せん原作での出番が少ないキャラクターが多いSSですので、キャラクター解釈に違和感がある、などのご意見もお気軽にお願いいたします。


540 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:30:38 aNGiQRwQ0
皆様お待たせいたしました。
これより投下を開始いたします。


541 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:31:46 aNGiQRwQ0

 「――ねぇ、どうして黙ったままなの?やっぱりお前、麗奈じゃないの?」

 E-2エリアの、辺り一面何一つない焦土の中で、紫色をした龍の怪人が一人の女性に対して明らかな敵意を向けている。
 しかし、それも無理はあるまい。
 先ほどまで彼女を一番慕っていたのも彼、リュウタロスであり、そしてそれに対し答えていた女性、間宮麗奈と、今彼らの前にいる“間宮麗奈”は別人にしか思えなかったのだから。

そして、リュウタロスほどでないにしろ困惑を向けてくる男二人、城戸真司と三原修二を合わせた計三人を前にして、間宮麗奈――正確にはそれに擬態したウカワーム――はゆっくりと言葉を選びながら口を開いた。

「確かに、私はお前たちの知る間宮麗奈ではない。
そして恐らく、お前たちのよく知る間宮麗奈が再び現れることは……もう二度とない」

 「な……ッ?」

 思いがけないその言葉に、思わず三原は言葉を失う。
 こうして襲いかかってこないことなどを踏まえ考えれば或いは彼女に敵意はなくなったのかもしれない。
だが、彼女と対峙している怪人に、そんなことを考える理由と意味は、存在しない。

「は?じゃあお前を倒せば麗奈は戻ってくるの?ならお前倒すけどいいよね?答えは――」

「リュウタ、待てって!」

先ほどまで人間の“間宮麗奈”が向けられていたそれとは明白に違う、その殺意を込めた言葉と共に彼は懐から銃を取り出そうとする。
それを見て、真司が慌てて彼の前に割って入るのを見て、思わず麗奈は眉を潜めた。
覚悟はしていたつもりだが、やはり反発は大きい。

 一応、記憶は全て存在するのだ、人間の間宮麗奈を装いこの場をやり過ごすことなどは難しくない。
どころかワームとしては朝飯前に可能なことだが……今はそうして彼らを欺く気にはなれなかったし、それをするのは嫌だと心が訴えかけていた。

 「人間の間宮麗奈、いや、“私”そのものはもう返ってこないが……彼女は、“この私”に全てを託したのだ。
私は、その想いも抱いて、私のしたいように生きたい。
守りたいとそう心が命ずるものを、私は守りたい。
私の、彼女に貰ったこの心の中の音楽に……従って」

「てことはアンタ……敵じゃないって考えて、いいんだよな?
もう総司のことも襲わないってことなんだよな?」

「あぁ、ネイティブとは言え、話を聞く限り奴は私たちが嫌悪するネイティブという群には属していない。
それなら、私が手を出す理由もない」

 全て正直に、麗奈は答えていく。
 もちろん総司に関することも、あの時は総司に関する事情の一切を知らなかったのだから、その感情に嘘偽りはなかった。
 どころか、世界から拒まれたと思い孤立していた彼は、今となってはワームという群に属しながらもそれに背こうとしている自分と似たもの同士なようにも思えた。

「何だ、間宮さん、別にワームに乗っ取られたわけじゃないんだな」

「何……?」

そんな彼女の様子を見て、心底安心したという様子で頭を掻くのは真司だ。
 彼の言葉に対し、他の二人だけではなく麗奈本人でさえ怪訝な目を向ける。
 こうして長々と話をしていても、自分でさえ『ウカワームが人間である間宮麗奈を乗っ取った』という図式に反論することは難しいと感じていたからだ。

 その視線に気付いても、真司はなお尻込みせずに続ける。

 「だって、間宮さんは自分の中のワームが人を襲わないように戦おうとしてたんだろ?
で、こうしてワームの間宮さんが人を襲おうとしてないなら、それは人間の間宮さんが頑張ったからじゃないか」


542 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:32:17 aNGiQRwQ0

 三原とリュウタ、そして麗奈を見回しながら述べたその言葉は、あまりにも楽観的にも感じられる。
 それこそ、もしも麗奈が制限を気にして戦うのを避け、自分たちを騙そうとしていたらどうするというのか。
 しかし、そうした一瞬の心配も、今の麗奈にとっては真司という人物を蔑むのではなく守りたいと感じる、所謂“愛すべき点”として捉えられてしまうのだから、彼の言うことも間違いではないのだろうと麗奈は思った。

「……でも、僕はあの麗奈がいい〜」

「リュウタ、そうは言ってもこの間宮さんを殺しちゃったらさっきまでの間宮さんの思いを踏みにじることになるんだぞ?
ちゃんと間宮さんがワームの間宮さんに勝った結果なんだから、仲良くしなきゃ怒られちゃうぞ?」

「う〜……」

 先ほど浅倉との戦いでリュウタに褒められ気が大きくなっているのか、彼を窘める三原の言葉に、リュウタは小さくなる。
 その姿に、人間の麗奈が抱いていたようなリュウタへの親愛にも似た感情を今またその身を以て再実感して、麗奈は小さく笑った。

 「……わかった、僕、今の麗奈とも仲良くする。そうしたらきっとお姉ちゃんも良太郎も褒めてくれるもん」
 
「ありがとう、リュウタロス。それに、城戸真司と三原修二も」

 「そんなお礼言われるようなことは何もしてないって」

 言いながら明らかに照れた様子で後ろ頭を掻く真司を見て、麗奈は自分が自然に笑顔を浮かべているのを感じる。
それはきっとワームとしての自分が人間の自分と真の意味で一つになったからこそ可能になったことなのだろうと思って、今の麗奈にはそれが嬉しくてたまらなかった。

「……で、これからどうするんだ?
間宮さんの事を報告したりする必要もあるだろうし一旦戻るべきかな?」

「いや、このまま東側の病院に向かうべきだろう」

浅倉との戦いを終えた今疲労が溜まっているのも事実だし、仲間の元へ戻るべきではと主張する三原に対し、麗奈は冷静に反対する。
しかし、それだけを聞いて「はいそうですか」と納得できるほど、三原はまだ出来た人間ではなかった。

「なんでだよ!?別にD-1の病院に戻ったっていいじゃないか!
わざわざ危ない長距離移動なんてする必要ないだろ!?」

「あぁ、かもな……。だが、向こう側の参加者も同じことを考えていたらどうする?」

「え……?」

自分の身の可愛さ故――とは言えそれを完全に否定する訳にもいかないが――安全だろう自分たちのテリトリーへ戻ることを提言する三原。
しかし麗奈はあくまで言い宥めるように言葉を続ける。

「『この病院を出たら敵がいるかもしれない』、『もしかしたら近辺の友好的な参加者が傷を治す為にここに来るかもしれない』。
そんな受け身な姿勢を続けていては、大ショッカーに従い殺し合いに乗った参加者達に良いようにやられるだけだ。
このまままたD-1の病院に戻れば当面の安全は確保されるかもしれないが、刻一刻と進んでいる殺し合いに反逆する為には、我々が東と西の病院を繋ぐ架け橋になることが必要だろう」

「ま、待ってくれよ!
浅倉みたいな奴がまだいるかもしれないんだし、津上さんだって今の間宮さんの事聞いたら安心するに決まってる!
それに今は制限かかってるんだし、さっきみたいに襲われたら元も子も――」

「――かもしれん。だが、少なくとも浅倉威……最も警戒すべき危険人物として認識されていた男はもういない。
それに今私たちは幸運なことに、使い回せる戦力も十分持っている。
城戸真司の持つ龍騎のデッキ、浅倉威から奪取したランスバックル、そしてリュウタロスが誰かに憑依すれば変身できる電王。
先ほどまでの“私”であれば確かに無謀な試みだったかもしれないが、他に危険だと考えられているダグバ、紅渡を仲間達が引きつけてくれている今、これだけの戦力を持っている我々が安心のためだけに手ぶらで帰るのは長期的に見ればあまりにも無駄だろう」


543 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:32:37 aNGiQRwQ0

麗奈の言葉は、極めて論理的だった。
確かに東側のE-4病院はヒビキと翔一の集合場所として設定されていたものだ。
E-4自体は既に禁止エリアになったとは言え、隣接するE-5にも同じ病院は存在する。

それを踏まえればヒビキの遺志を継いだ仲間達が未だにE-5エリアで翔一や真司を待っている可能性は低くはなかったし、同時そこから動けない理由も納得できる。
そして最も懸念すべき危険人物の話だが、ダグバ、渡、そして一切の詳細が不明な志村純一を除けば、後は相川始と村上峡児程度。
始は又聞きではあるものの殺し合いに乗るかどうかすら五分のようだし、村上も下手を打たない限り無益な戦いを好むタイプではないらしい。

つまりは結局のところ――動くなら、今を置いて他にはないということだ。

「えぇっと……、つまり東側の病院にいる殺し合いに反対してる人たちを探しに行くってことでいいんだよな?」

「じゃあ俺は、皆にこれを伝える為に病院に戻ろうかな……」

「修二、格好悪い〜〜……」

浅倉を倒した時の頼もしさはどこへやら、明らかに落ち着かない様子で目を泳がせ続ける三原を見て、リュウタは落胆したように肩を落とす。
正直麗奈も同じように溜息をつきたかったが、それを堪えて代わりに小さく息を吸い込んだ。

「残念だが、駄目だ。お前がいなくては制限が解けるまでリュウタロスが変身できない。
それに一人で病院に戻るという方が、今の状況ではよっぽど危険だと思うぞ?」

「そ、それは……」

「あーもう!ほら修二、言い訳しないで早く行くよ!」

麗奈の言葉を聞いて、三原は一層慌ただしく目を泳がせた。
大方何か危険から逃げられる理由でも考えているのだろうが、上手い言葉も浮かばないようで、沈黙が流れるだけだった。
その後、痺れを切らしたらしいリュウタが無理矢理に彼の背中を押していき、三原は碌な抵抗も出来ないままD-1とは逆の方向へその足を進めていった。





――こうしてバイクを駆って、一体どれだけの時間が過ぎただろう。
そんなことを考えてしまうのは、疲労故ではない。
こうして人の皮を被ってこそいるが、生身であれど怪人の範疇である彼、乃木怜治にとって、この程度の距離を連続で走行するのは一切苦でも何でもなかった。

そんなことを思ってしまうのは、ただ……そう、こうしてバイクという移動手段を持っているというのに長い時間誰とも出会わないという状況を彼はこの場で既に経験していたからだろう。
オートバジンを駆り東京タワーで目星をつけた参加者、霧島美穂と鳴海亜樹子――状況証拠からして先の自分の命を奪ったのは鳴海亜樹子だろうが、別にどうでもいい――と出会うまでの孤独と、今が重なる気がした。
ただその時と異なる差異は一つ。

もちろん、乗っているバイクも違うがそれ以上に……。

「どうした」

「いや、何取り留めもない考えでも巡らせていれば時間潰しにはなると思っていただけさ」

そう、今は“俺”が二人いる。
思考経路も何も一緒なので雑談のようでも独り言と変わらないし、実に下らないお飯事染みた会話だが、まぁないよりはマシだ。
そんなことを考えた瞬間に、彼らのバイクであるブラックファングはG-2、G-3に掛かる橋を通過する。

「おい、止めろ」

その橋を渡りきり、このまま直進すれば目的のG-1エリアに難なく着くというその瞬間、しかしアクセルを握る乃木に対し、後部座席の片割れは突然に低く声をかけた。


544 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:32:56 aNGiQRwQ0

「……どうした、禁止エリアはこの先だろう」

「そうなのだが……別に、我々が二人で一つのエリアを同時に探索する必要もない。
そうは思わないかね?」

二人乗りの姿勢で後部座席に乗っていた乃木の述べる疑問に対し、グリップを握っていた乃木は目を細める。
つまりは、ここで二手に別れたいということだ。
そしてその主張の先にある本当の主張も、彼には瞬時に理解出来ていた。

「……バイクが欲しいのか」

「自分自身に隠し事は出来ない、か。
そうだ、長時間の運転に疲れただろう?
俺がA-4に向かうからお前はG-1を探索してきてくれたまえ」

自分自身に対しても傲慢な態度を崩さないもう一人の自分に対し、これまでバイクを駆っていた乃木は溜息を漏らす。
あぁ本当に、全く以てこいつは自分だ。
どんな状況であっても、少しでも自分の利になる可能性を探している。

勿論反論も思いつかないわけではないが、ここで反論して無駄に水掛け論を繰り返すような無駄を“乃木怜治”が好まないことは、分かりきっているはずだ。
或いはこうして自分が呆れ半分に会話を中断することすら把握した上で彼はこの提案をしたのだろうと、乃木は思った。

「……分かった。取りあえず君にバイクは渡そう。
これでA-4エリアを見てきてくれたまえ」

「集合は……そうだな、第四回放送の時にD-1でどうだ?
金居の時と同じく君と戦うことにならなければいいが」

「それはこっちの台詞だ。
それに、出し抜こうなどとしても意味がないことはお互い理解しているだろう」

互いに皮肉を吐きながら、その会話を最後に彼らは別れる。
後部座席に座っていた乃木がブラックファングを受け取りA-4へと向かい、遠ざかっていくエンジン音を耳にしながら、もう一人の乃木はいよいよ目前にまで迫ったG-1エリア……つまり禁止エリアへと、足を踏み入れようとしていた。





「……何やかんや、結局二時間誰とも会わなかったなー」

時計を見ながらぼやく真司。
これで浅倉との戦いで制限のかかっていた龍騎も使用出来るようになっているし、三原に憑依する予定だったリュウタも自力で変身出来るようになっている。
これなら三原、リュウタの二人が後方支援を務め、自分と麗奈が相手に処理すれば、危険人物に出会った場合でも、少なくとも犠牲を出さずに撤退をすることは十分可能だろう。

とは言えそれに喜んでばかりもいられない。
これだけの距離を移動しても誰にも出会わなかったというのは、運という以上に既にこの会場の面積に対して生存している参加者の数がそれだけ減ってしまったということになる。
せめてダグバとの戦いに向かった三人と、彼の弟子とは言え殺し合いに乗った可能性もある渡と一対一で話し合いをしに行った名護は無事でいてほしいものである。

「とは言え油断は禁物だ。常に最悪の状況を考えておくべき――ん?」

「間宮さん、どうかしたのか?」

「しっ、静かに。こちらに向けてバイクが向かってくる。
スピードからして別段急いでいる訳でもないようだが……」

会話を中断し耳を澄ませた麗奈が口にしたのは、接近してくる新たな存在のことだった。
それに対し今までの緩い空気はどこへやら、彼らの緊張感は一気に高まる。
同時、彼らがそれぞれ自身の変身道具を取り出しているのを見て、麗奈もまたどこからの奇襲でも対応出来るように自身の真の姿をいつでも解放できるように構えた。


545 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:33:15 aNGiQRwQ0

村上峡児か、相川始か、或いは別の第三者か。
そのどれであっても対応は変わらないだろうと、そう麗奈は考えていた。
だから、だろうか。

数瞬の緊張の後その場に現れた黒いバイクを駆る黒衣を纏った男の姿に、らしくなく狼狽してしまったのは。

「お前、乃木怜治……なのか?」

「……久しぶりだな。間宮麗奈」

互いに偽りの名を呼び合って、放送でその名を呼ばれ既に死んだはずの、麗奈が最も会いたくなかった男は余裕を崩さずニヤリと笑った。





もう一人の自分からバイクを奪いA-4エリアを目指して走り出してから早30分ほど。
先ほどまでの退屈な時間はどこへやら、乃木は既に目新しい参加者たちと合流していた。
目新しいと言っても、彼にとってのそれは動いている実物を見るのは初めてだという程度の意味でしかないのだが。

(城戸真司、三原修二、リュウタロスか。
秋山蓮や乾巧、そして海東大樹の話から判断すれば殺し合いに乗っている可能性は限りなく低いだろうな)

出会い頭、彼は品定めするように相手チームの面子を自身の持っていた詳細名簿の情報、そして病院で得た実地的な情報と照らし合わせる。
最終的に自分が話して判断することに変わりはないが、取りあえず今のところは戦いもなく話し合いで場を収められるだろう。
――最もそれは、このメンバーに彼女がいなければ、の話だったが。

「お前、乃木怜治……なのか?」

冷静を装っているとは言え、どこか驚きを隠せない様子で麗奈が問う。
それに含まれた感情は掴めない。
死んだはずの存在が現れたことに対する困惑なのか、或いは考えている通りに自分に特別出会いたくない理由でもあったのか……。

まぁそれは、話ながら判断していけば良いことだ。
今必要なのは何より信頼の為の会話だろうと、乃木は思考を中断し声をあげた。

「……久しぶりだな。間宮麗奈」

乃木怜治、間宮麗奈、共に偽りの名だ。
だが今更それ以外の名前で呼ぶ必要もない。
生まれてからずっとその名前で呼ばれてきた人間の記憶を持っているのだから、その名前を自分の名前として認識することに、何の疑問も抱かなかった。

「お前は、死んだとばかり思っていたがな。
大ショッカーが放送で誤りを放送するとは、あまりに杜撰な主催だと呆れたくなる」

「いいや、そうでもないさ。事実俺は既にこの場で死んでいる。
お前も知っているだろう?俺の命は複数存在すると言うことを。
そしてその証拠に……」

どことなく苛立ちと共に吐き捨てた麗奈に対し、乃木は笑みを絶やすことなく答える。
同時彼が見えやすいように傾げ指さしたその首元には、あるはずの首輪が存在していなかった。

「……なるほどな。自分の命さえ一勘定に入れて消費することも厭わんとは、流石、我ら全体を取り仕切るだけのことはある」

「な、なぁ、間宮さん、悪いんだけどあの人一体誰なんだよ?」

冷たげな口調を隠さず話した麗奈に対し、ずっと話に置いてかれている自覚があったのか、後ろに立っていた真司が問う。
それに対しどう答えるべきか数瞬迷いが生じたか彼女の目が泳いだのを、乃木は見逃さなかったが。


546 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:33:32 aNGiQRwQ0

「……あの男は、乃木怜治。
私の元の世界で、私と同じワームの幹部だった男だ」

「え、じゃあこの人がワームの首領で警戒すべきだって天道さんが言ってたっていう……」

改めて成された乃木の紹介に、真司やリュウタロスよりも一歩退いた位置で隠れるように立っている三原が狼狽えた。
……別に必要ないというのが正直なところだが、詳細名簿について変に探られても困る。
ここいらで彼らの名前を聞いておいた方が、話の流れとしては自然だろうか。

「すまない、勝手に知っている者同士で話を始めて君たちを置き去りにしてしまった俺が言うのは何だが、まだ名前を聞いてなかったな。
よければそれぞれ名前を教えてくれないか?」

「あぁ、そうだよな。俺の名前は――」

「彼らの名前はこちら側からリュウタロス、三原修二、そして……津上翔一だ」

「え、ちょっ!?」

率先して自己紹介を始めようとした真司に対し、麗奈はそれを遮り名前を紹介する。
――真司本人の様子から見れば誰でも分かるような、偽名を用いて。
詳細名簿について気付いたわけではあるまい。

だが何かこちらの情報アドバンテージに勘づいた可能性がある。
試すような真似をされるのは少々癪だが、まぁいいだろう。
そういう態度を取るというなら、ここは敢えて彼女の策に乗り話してやろうではないか、こちらの豊かな情報網を。

「三原修二くん、君の話は乾巧から聞いているよ。
デルタギアを用いて戦う流星塾の一員だそうだね。幼馴染みの園田真理に関しては残念だった。言葉だけでは薄っぺらいかもしれないが、同情するよ」

「え……乾さんと会ったのか!?」

そして乃木は語り出す。
書面上だけの情報だけでなく、乾巧から聞いた血の通った情報を。
これらの情報に関しては本人に話して不利になるようなことは一切ない。

詳細名簿を持っていようがいまいが名前を聞いた時点でこの程度の話を矛盾なく出来るだけの情報は、仲間から得ているということだ。

「そして津上翔一くん。君の話は日高仁志からよく聞いているよ。
記憶がなく、本当の名前は沢木哲也というそうじゃないか。
E-4エリアの合流が大ショッカーに潰されてしまったのは苦しいところだが、こうして会えたのだから協力し合おうじゃないか――?」

「――もういい」

海東大樹、門矢士からの一方的なリュウタロスへの面識についてはただ事態が紛らわしくなるだけと省きつつ、これでもかと言うほど長々と話していた乃木に対し、麗奈は小さく呟くように制止を呼びかけた。
それに対し知らず笑みを深めながら、乃木はわざとらしく首を傾げた。

「もういい、とはどういうことだい間宮麗奈。
俺は新しく出会えた仲間たちに対して、俺の知りうる情報を述べているだけなのだが」

「……貴様を相手にこの程度の浅はかな手を使ってしまったことを恥じるべき、だろうな。
とはいえ謝罪をするつもりはない。
別世界の参加者による集団で行動している我々と違い、単独で行動しているお前が殺し合いに乗っている可能性について、警戒をするのは当然だ」

「ふっ、まぁ警戒は尤もだ。
こちらとしてもそうして警戒してくれた方が、素性も知れない相手のことまで信じてしまうような輩より余程付き合いやすい」

麗奈の変わらぬ冷たい口調に同じように返す乃木。
どうやら自分の知っている彼女のようだと一旦麗奈から目を離し、そのまま彼は彼らの舌戦に翻弄されているのか、ずっと困惑している真司に目をやった。


547 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:34:00 aNGiQRwQ0

「さて、それはそれとして……君の本当の名前はなんだい?“津上翔一くん”。
彼女の咄嗟の判断に振り回されて災難だったろうが、偽名を使ったのがバレバレの良い反応だったぞ」

「……城戸真司だ」

「城戸真司か、秋山蓮から話を聞いている。
なんでも13人のライダーの戦いに巻き込まれたというのにそれを止めようと奮闘しているそうじゃないか。
ご立派なことだ、この場でも共に殺し合いを止め、大ショッカーを倒そう」

止めとばかりに真司の情報を吐きながら、乃木はしかし今度は真司ではなく麗奈を睨み付ける。
よくも俺を試すような真似をしてくれたな、と言わんばかりのその瞳は声音とは逆にとても冷たいものだったが、麗奈は特別それに動じることもなかった。
まぁとは言えそれはそれ。

先ほども言ったように少し位誰しもに疑心を持っている位でなくては使い物にならない。
間宮麗奈という存在の有能さとそれを幹部の座においた自分の手腕を改めて実感しながら、乃木は再び口を開いた。

「さて、誤解は解けたようだし大ショッカー打倒を掲げるもの同士が出会ったんだ。
彼らを倒す為情報の交換と行こうじゃないか?」

「……いつ私がお前を信用すると言ったんだ、乃木怜治?」

しかし努めて友好的に紡がれたはずの自身の言葉を、麗奈は相も変わらず冷たい口調で返す。
流石に比較的ビジネスライクなドライなものとはいえ、元の世界で交友があった存在に対する接し方にしては警戒しすぎではないかと乃木は眉を潜める。
だがそれに対し反論を申し立てたのは、乃木ではなく彼女の仲間である真司だった。

「ちょっと間宮さん!あの乃木って人と会ってからちょっと様子おかしいぞ!
ヒビキさんや蓮と話したって言ってたし、別にそこまで警戒してなくても……」

「いや、これは必要なプロセスだ。
もしかするとこの男は、大ショッカーからの刺客である可能性がある」

「……へ?」

その麗奈の言葉に対し、今度こそ乃木は疑問を抱く。
この俺が大ショッカーの刺客だと?一体どういうつもりなのだこの女は。

「考えても見ろ。この男が今直面している状況は、明らかに出来すぎている。
まず第一に首輪がないことだ。
命がもう一つあった?

そんなバランスブレイカー染みた能力を、変身にあそこまで精巧に制限をかける大ショッカーが見逃すと?
それに参加者の情報を実際に他の参加者から聞いたという保証がない。
この首輪にでも設置された盗聴器で得た情報を、あたかも自分が経験したかのように話している可能性も否みきれないだろう。

放送の件もそうだ。
もしかすればこの場には存在しない参加者であったのに、我々に取り入る為に放送で名前を呼んだ可能性だってある。
……純粋に浮かぶだけでこれだけの疑問があるというのにただ信じて我々の情報を与え仲間として迎え入れることは、私には出来ない」

それを聞いて、乃木は思う。
どうやら彼女には、最初から自分を仲間として迎え入れるつもりなどなかったのだろうと。
思い返せば、城戸真司を津上翔一として紹介した時に気付くべきだったかもしれない。

あの時は殺し合いに乗っておらず友好的な参加者から得られた血の通った情報を語ることで彼女の疑心を解けるだろうとだけ思っていたが、見当違いだった。
こうして自分の知りうる情報を全駆動して殺し合いに乗っていることを否定した場合は主催との関与の可能性を指摘する。
逆に、もし城戸真司を津上翔一という見知らぬ参加者として扱い話をしていれば、偽名に気付かなかったことから繋げ情報の少なさから自分が殺し合いに乗っている可能性を指摘するつもりだったのだろう。


548 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:34:17 aNGiQRwQ0

そうつまりは……彼女は元々自分を欠片も信用してはいなかったということだ。
だが同時に引っかかる。
ここまで警戒心の強い彼女が共に行動している男共は、麗奈の気迫に押され自分が大ショッカーに関係しているのではないかと容易く考えを変えるような輩だということが。

故に彼は疑うべき一つの事象について考えを巡らせ……しかし今それを口にしても埒が明かないだろうと密かに胸に秘めた。

「そう、か……残念だ。確かに言われてみれば君の言うことにも理があるな。
そこまで言うのなら仕方ない、同行は諦めよう。
だが、俺は生憎少し前まで死んでいたために放送を聞いていなくてね。
行動は共に出来ずとも、せめてその内容だけは聞いておきたいのだが」

「……いいだろう」

それすらも渋々といった様子で、しかしそれで済むなら安いものだと考えたのか、麗奈は第二回放送の内容を彼に伝える。
自分たちが先ほど倒した浅倉を含めた死者の情報に、彼には必要ないかもしれないが禁止エリアの情報、そして主催陣営に存在する三島正人とラ・バルバ・デ、そして三体のアンノウンのことも。
それらを伝える極めて事務的な会話の後、乃木はそれらの情報を紙に纏めながら頷いた。

「……なるほど。思っていたよりも死者が多いな。
まさか五代雄介や日高仁志まで死んでしまったとは」

「御託はいい。情報は与えた。ここで貴様とはお別れだ」

想定外の死者数に思わずぼやいた乃木に対し、極めて冷酷に麗奈は返す。
まぁ確かにこれで最低限の情報は得たと言えるしこのまま別れても損はないのだが……。
しかしその実、乃木は彼女をこのまま無条件で逃がすつもりはなかった。

「それにしても全く、安心したよ。君がワームの心を失っていなかったようで」

互いに踵を返しあと数秒でもう声さえ届かなくなるというその状況で、乃木は極めて別れ際の捨台詞に過ぎないという風を装って4人に声をかける。
そして同時、それに麗奈の足がびくりと反応し止まったのを、勿論乃木が見逃すはずもなかった。

「……何の話だ、乃木怜治」

「いや、何、ただ安心したというだけだよ。
部下から聞いていたのでね。君が人間の記憶を思い出し、ワームとしての自分を忘れ我々の掟に背く存在になったと。
もしそうであればと懸念していたが、君とこうして会話だけで事を済ませられてよかったという話さ」

彼方へと去りゆこうとした麗奈はしかし、乃木の言葉を無視することは出来ない。
同時事なきを得たと思われていた状況が再び緊張感を帯びてきたことを、彼らは察していた。

「ワームの掟を忘れたわけじゃないだろう?間宮麗奈。
我々の本来の目的を忘れ人間の記憶に溺れた愚かな同胞。
そんな恥知らずは処刑あるのみだという鉄の掟をな」

「……当然だ。私は私の心で動いている。
人間の心など……既に持ち合わせてはいない」

どことなく震えた麗奈の声を聞いて、真司はようやく彼女の様子がおかしかった理由を理解する。
つまり、人の心を得て“間宮麗奈”として生きる決意をした彼女は、ワームにとって排除すべき存在なのだ。
それを察せられないために、こうして徹底的なまでの拒絶を彼に見せ同行を拒否したということか。

頭の悪さを自覚している真司でさえ気付いたのだ。
当然三原にもそれは理解出来ている。
だが……ある意味で言えば真司以上に考えを巡らせることの出来ない“彼”にとっては、その麗奈の発言は許容出来るものではなかった。

「――嘘、ついたの?
人間じゃないってことは、やっぱりお前、麗奈じゃないってこと?」

今の今までずっと話が難しくついてこられなかったリュウタロスだ。
誰よりも人間の麗奈に懐いていた彼は、同時にこういった建前と本音の使い分けを理解するには、あまりにも幼かった。
そして何より厄介なのは……彼はその精神的な幼さと反比例するかのような、高い実力を持っているということだ。


549 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:34:36 aNGiQRwQ0

瞬間、彼は懐から取り出したリュウリボルバーを片手で気怠げに構え、しかしその銃口だけはしっかりと麗奈に向けたまま続けた。

「なら悪いワームは倒すけどいいよね?答えは――」

「ちょ、ちょっと待てリュウタ!
言っただろ、今の間宮さんは倒さなきゃいけないような奴じゃないんだ!
一旦落ち着いてくれ!」

「えー、でもこいつ自分で人間じゃないって感じのこと言ってたよ?
それともそっちが嘘でさっき言ってたことがホントなの?
よくわかんない〜」

「えぇっとだから、それはそういうことじゃなくて……あぁもうっ!」

いまいち察しの悪いリュウタに頭を掻いて悶絶する三原。
だが状況は、そんな彼らを待ってはくれない。

「君……確かリュウタロス、だったか。
その話、詳しく聞かせてくれるかな?
今の彼女が間宮麗奈ではないとは、一体どういうことだ?」

「えー、何か麗奈の中には二人の麗奈がいるとかどうとからしいけど、僕にもよくわかんない。
でも今の麗奈より前の麗奈の方がいい〜」

「ほう……」

何の悪気もなくリュウタは致命的な情報を吐く。
彼にとっては、麗奈がワームとしての記憶を取り戻しながら人間の心を得たことを言ってはいけない、などと一度も言われた覚えもない。
総司の名前のように約束したことなら彼は守ることも出来るが、状況で判断して自分の知っていることを言わないなどという複雑なことは、彼には出来なかった。

俯き続ける麗奈の額から、大粒の汗が落ちる。
もちろん彼女とて元の世界でこうした展開になることは予想していたが……しかし、まさかこの場で死亡したはずの乃木が現れることは予想していなかった。
故に真司たちにワームの掟について話すことがなく、結果としてこうして面倒に巻き込んでしまったということだ。

そして一方で、乃木もまた先ほどよりも一層冷酷な瞳を麗奈に向ける。
大方予想していた通りだったが……なんとここまで人間の心に飲みこれているとは。
ワームの人格を忘れただけならともかく、人間の心に統合され小賢しい嘘までつくなど極めて優秀で、そして腹立たしい進化を遂げたものである。

「全くこの俺をここまで騙すとは、君はやはり優秀だな、間宮麗奈?」

だからこれは、彼女に向けた最後の言葉だ。
我が種族の繁栄を支えた素晴らしい幹部に対する自分からの労いとそして――。

「だが……、仲間選びを間違ったな」

――死刑宣告。

刹那、両者の姿は一瞬にして変貌する。
乃木の身体は紫の異形、カブトガニのような怪人、カッシスワームクリペウスに。
そして麗奈の身体は、白の異形であるシオマネキのような怪人、ウカワームへと。

同時にクロックアップを発動した彼らは、瞬きの間に距離を詰める。
カッシスの振るう大剣と化した左腕を、ウカはその右腕の鋏で防ぐ。
だがそんなものはとうに予想済み、カッシスが間合いから無理矢理凪いだ右腕の盾に吹き飛ばされ、ウカはそのまま間合いから引き剥がされた。

だがそんなもので怯む彼女ではない。
すぐさまもう一度距離を詰めその右腕を勢いに任せ思い切り振り下ろせば、盾で凌いだというのに空気を振るわせカッシスの動きを硬直させた。
それによりビリビリと腕に痺れが伝わり、カッシスは力勝負では分が悪いことを悟る。


550 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:35:03 aNGiQRwQ0

生まれたこの一瞬の隙を好機とみたか、反撃の時間さえ与えずそのままウカはカッシスを打ち据えようとする。
今のウカワームの攻撃がただの一度でも直撃すれば、パワーで劣る現状そのまま押し切られてもおかしくあるまい。

「――うおおぉぉッ!ライダースラッシュ!」

だがしかし、カッシスもただでやられるわけにはいかない。
一撃必殺のつもりで攻撃を放とうとしたウカに対し、逆に勢いよく叫び振り上げたタキオン粒子漲る左腕の大剣で彼女を切り崩そうとする。
さしものウカもその直撃を食らえば再起不能になってしまうと考えたか、攻撃を中断しその左腕を盾に変化させ何とか凌ぎきった。

「……ぐっ」

「間宮さんッ!?」

防いだはずの攻撃の、しかしその高い威力故、立ったまま地を滑ったウカの喉から、掠れた呻き声が漏れる。
それを見て、流石の堅さだとカッシスは彼女を再評価する。
マスクドライダーシステムによる必殺技の直撃を受けて行動にさほど支障がない程度には、やはり彼女も自分が認めた実力者だということだろう。

かつての同胞に対し再評価を下すと同時、何が起こったのかをさっぱり理解していない様子で彼女の仲間が叫んだ声を聞いて、カッシスはクロックアップの終了を悟った。
だがまぁ、特別心配することもあるまい。
ウカワーム自体の実力は、どうやら金居と同等程度らしい。

今の実力が分散した自分では、先の戦いでのダメージも含めて考えれば、病院での戦いと同じように圧倒するという展開にはなりえないだろう。
だが、それを踏まえた上でなお、手数はこちらの方が多いのだ。
気を抜かなければあの間宮麗奈相手とは言え敗北はあり得ないだろう。

故に今の自分が警戒すべきは、その手数の優位を覆されること。
つまり……彼女の仲間が戦力になることだ。

「変し……うわッ!?」

その瞬間、間宮麗奈を敵として認識した自分に対し、戦いの必要があると感じたかデッキやベルト、各々の変身アイテムを構えた面々の間を、紫の風が通り過ぎる。
そう、カッシスが再びクロックアップを使用したのだ。
首輪もなくなり制限も存在しなくなった今、体力が許す限り彼は好きなタイミングでクロックアップを行使できる。

勿論そこまで多様が出来る能力でもないが……まぁこの程度の短時間なら問題ない。
何故なら、このクロックアップでの狙いは彼らの殺害、つまりその命ではない。
目的はただ変身アイテムとデイパックを没収すること、それだけなのだから。

「……悪いが君たちが間に入って話がややこしくなるのはごめんなのでね。
そこで黙って見ていてくれると助かるのだが」

言いながら、カッシスは手にぶら下げた三つのデイパックをこれ見よがしに左右に揺らす。
もし気になったものでもあれば別だが、基本的には麗奈を殺した後に彼らにそのまま返すつもりだし、特に問題もないだろう。
流石の勇ましい仮面ライダー諸君と言えど、変身が出来なければ抵抗も出来ないのか、ただその拳を握るだけだった。

「さて……それでは、間宮麗奈。
始めようか、掟に背いた愚か者の処刑を、ね」

再び告げられた処刑宣告に対して、ウカワームはもう一度、自身に向けて大きく構えて見せた。


【二日目 早朝】
【F-2 平原】


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】意識統合、疲労(大)、ダメージ(中)、ウカワームに変身中
【装備】ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、
【思考・状況】
基本行動方針:自分の中に流れる心の音楽に耳を傾ける。
1:まずは乃木に対処する。
2:皆は、私が守る。
3:この戦いが終わったら東側の病院へ向かいたい。
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※人間としての人格とワームとしての人格が統合されました。表面的な性格はワーム時が濃厚ですが、内面には人間時の麗奈の一面もちゃんと存在しています。
※意識の統合によって、ワームとしての記憶と人間としての記憶、その両方をすべて保有しています。
※現状、人間時の私服+ワーム時のストレートヘアです。


551 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:35:21 aNGiQRwQ0




【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一への信頼、疲労(中)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:間宮さん、大丈夫かよ……。
2:翔一たちが心配。
3:東側の病院へ向かい友好的な参加者と合流したい。
4:間宮さんはちゃんとワームの自分と和解出来たんだな……。
5:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
6:黒い龍騎、それってもしかして……。
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※再変身までの時間制限を二時間と把握しました。
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました。
※美穂の形見として、ファムのブランクデッキを手に入れました。中に烈火のサバイブが入っていますが、真司はまだ気付いていません。




【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心、疲労(中)
【装備】なし
【道具】なし
0:俺でも、戦っていけるのかもしれない……。
1:できることをやる。草加の分まで生きたい。
2:間宮さん……、大丈夫か?
3:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強い恐怖。逃げ出したい。
4:巧、良太郎と合流したい。村上を警戒。
5:東側の病院へ向かい友好的な参加者と合流したい。
6:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
7:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。
8:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ。
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクであると知ったもののある程度信用しています。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。今抱いている恐怖心はテラーなど関係なく、ただの「普通の恐怖心」です。




【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)
【装備】なし
【道具】なし
0:修二、強くなった……のかな?よくわかんない。
1:今の麗奈は人間なの?ワームなの?どっちでもないの?
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスの分まで頑張る。
5:東側の病院へ向かい友好的な参加者と合流したい。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。
※麗奈が乃木との会話の中でついた嘘について理解出来ていません。
そのため、今の麗奈がどういった存在なのか一層混乱しています。


552 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:35:47 aNGiQRwQ0




【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、カッシスワームクリペウス(角なし)に変身中
【装備】カードデッキ(龍騎)@仮面ライダー龍騎、デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】ブラックファング@仮面ライダー剣、支給品一式×2(真司、リュウタロス)、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(ファム・ブランク)@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
【思考・状況】
0:取りあえず最初に指定された禁止エリア(A-4)を目指す。
1:人間の心に溺れた愚かなワーム(間宮麗奈)を処刑する。
2:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
3:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
4:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
5:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
6:乾は使い捨ての駒。
7:もう一人の乃木にこれ以上無様な真似を見せないようにしなくては。
【備考】
※カッシスワーム・クリペウス(角なし)になりました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。 なお新しくはもう覚えられないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※クロックアップに制限が架せられていること、フリーズ、必殺技吸収能力が使用できないことを把握しました。 なお、現在クロックアップに関しては連続使用に制限はないようです。
※ブラックファング@仮面ライダー剣は近くに放置されています。
※第二回放送を聞いていませんでしたが、間宮麗奈より情報を得たので内容について知りました。
今のところは内容について別に気にしていません。
※現在、城戸真司、三原修二、リュウタロスそれぞれのデイパックを全て持っています。





がさり、と音を立てて乃木怜治――もちろん間宮麗奈たちと戦っていた彼ではなくもう一人の方――はG-1エリアに存在する廃工場へと足を踏み入れていた。
どことなく自分が先ほど一つの命を落としたあの工場を連想してしまうが、あちらよりも余程大きく、住宅地の中にあったあちらに比べこちらは周囲に建物も存在しない為、余程大規模な生産ラインが敷かれていたのだろうと乃木は思考していた。
とはいえまぁ、所詮は大ショッカーが作り出した形だけの存在。

ここで何を生産していたとして、それに対して特別感慨を抱くこともないのだが。

「……ん?」

そんな取り留めのない思考をやめ、何か大ショッカーにまつわるものでも存在しないかと改めて周囲を見渡した乃木は、見た。
その視線の先、夜の闇の中でも十分にその存在感を誇示する、廃工場の中心に立つ背広の男を。

「やはりお前が最初にここに来ることになったか。
……思った通り、あのガキは仕事をしなかったようだな」

忌々しげに吐き捨てながら、男は眼鏡越しに乃木を睨み付けた。
しかし一切その場を動こうとしない彼に対し、乃木もまた少しずつ歩を進めながら口を開く。

「悪いが、名前を聞いてもいいかな?
俺の持っていた名簿には、君の顔はなかったはずだが」

詳細名簿のことさえ口に出しながら、乃木は問う。
とは言え、それも問題あるまい。
禁止エリアであるこの場所に何の問題もなく存在し、詳細名簿にも載っていない者の正体など、大体見当がつくというものだ。

「言い忘れていたな。私は三島正人。
お前は知らないだろうが、大ショッカーの幹部だ」

「ほう。その名前は聞いたことがあるな。
ZECTの幹部だと聞いていたが、いつ鞍替えしたんだ?」

「……お前が知る必要はない」

案の定、というべきか、目の前の男は大ショッカーの手の者であった。
そして同時乃木の頬は自然と吊り上がる。
大ショッカーの幹部が直々に守っている場所だ、ここに何か重要な秘密があるとみて、ほぼ間違いない。


553 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:36:18 aNGiQRwQ0

「まぁいい。
それで、その大ショッカー幹部殿が一体何故ここにいる?」

「お前の思っている通りのことだ。
今、このエリアにはそう易々と立ち入られたくない理由がある。
私はその為だけにこの会場に派遣されこのエリアの安全を任されたということだ。
……お前のようなゴキブリに隅から隅まで這いずり回られては堪ったものじゃない」

「貴様も似たようなものだろう、このダニが。
元々は人間でありながらネイティブに魂を明け渡し、挙げ句の果てに大ショッカーにすら忠誠を誓うその浅ましい根性、全く以て救いがたい」

その乃木の言葉に、今度こそ三島の顔は醜く歪んだ。
今の彼がネイティブであることなど、臭いで分かる。
ワームである自分を嫌悪しているその感情自体はZECT時代より存在するのだろうが、それはどうでもいい。

ZECT、ネイティブ、そのどちらであれ乃木にとって忌むべき相手であることは変わらないのだから。
それに、自分の種族にさえ一貫性を持てないような男とまともな交渉をするつもりもなかった。

「……最終通告だ。
このまま踵を翻しこのエリアから出て二度と近づかないと誓え。
そうすれば再び首輪をつけ、偉大なる大ショッカーの管理下においてやろう」

「減らず口はそれくらいか?
貴様もこの俺の答えくらい分かっているだろうに」

ニヒルに笑った乃木に対し、三島はかけていた眼鏡をゆっくりと外し着用しているスーツの胸ポケットへと収めた。

「……ならば仕方ない。
ワーム最強のお前と、ネイティブ最強の私。
どちらが上か、今ここで思い知らせてやる」

「ネイティブの歴史には疎いようだな?
我々に敗北し星を追われた哀れな種が、思い上がりも甚だしいぞ」

お互いに挑発を交わし、その距離は次第に縮まっていく。
そして既に、両者の距離は20mを切った。

「お前こそ思い上がるなよ。
数で押すことしか知らん虫けらに、私が戦い方を教えてやる」

「それは光栄だね。
……やれるものなら、やってみるがいい!」

彼らの距離はは既に両者の間合い。
これ以上は掛け合いなど不要と言わんばかりに向き合った両者の間に、一瞬の沈黙が流れ……。
次の瞬間、廃工場の中を緑と紫の光が照らし……、そして交差した。


554 : What a wonderful worms ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:36:35 aNGiQRwQ0


【二日目 早朝】
【G-1 廃工場】


【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康、カッシスワームクリペウス(角あり)に変身中
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:取りあえず目の前の男(三島)を倒しこのエリアを探索する。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
5:鳴海亜樹子がまた裏切るのなら、容赦はしない。
6:乾と秋山は使い捨ての駒。海東は面倒だが、今後も使えるか?
【備考】
※カッシスワーム・クリペウス(角あり)になりました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。 なお新しくはもう覚えられないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※クロックアップに制限が架せられていること、フリーズ、必殺技吸収能力が使用できないことを把握しました。
※第二回放送を聞いていませんが、問題ないと考えています。




【三島正人@仮面ライダーカブト】
【時間軸】死亡後
【状態】健康、グリラスワームに変身中
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:このG-1エリアをなんとしても死守する。
1:目の前の男(乃木)に対処する。
【備考】
※大ショッカーより送り込まれた刺客の一人です。
キング@仮面ライダー剣とは違い明確にこの場所を守る為だけに派遣されました。余程のことがない限りこの場所を動くつもりはありません。

【全体備考】
※G-1エリアで三島が守っているという秘密が何なのかは不明です。
もしかすると、G-1に秘密があるというそれ自体が三島の嘘である可能性もあります。


555 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/16(土) 23:38:45 aNGiQRwQ0
以上で投下終了です。
仮投下時に比べウカワームとカッシスワームの戦闘描写、乃木と三島の会話に加筆を行っております。
毎度のことではございますが、ご意見ご感想、または仮投下時には気付かなかったご指摘点などございましたら是非お願いいたします。


556 : 名無しさん :2018/06/17(日) 06:47:16 9Q6rv/kk0
投下乙です!
カブト原作で見られなかった夢の対戦カードがここで実現することにめっちゃワクワクすると同時に、まさかリュウタの何気ない一言がとんでもない爆弾になったとは……
麗奈さんも乃木を上手くごまかそうとしたけれど、それが逆効果になってしまい……こんな結果に繋がるなんて。
一方でもう一人の乃木は三島と遭遇したけれど、これは禁止エリアに何かがあると予感させてしまいますね。乃木と三島は挑発し合いますけど、果たして最後に笑うのはどちらになるのか?
それにしても、この二時間までに危険人物と全く遭遇しなかった真司達は本当に恵まれていますね。これも三原のおかげでしょうか。


557 : 名無しさん :2018/06/17(日) 10:46:24 P2ZglFpM0
投稿お疲れ様です
三島正人も参戦し彼との対決もあり、また乃木対間宮の対決もあり、クリペウスは原作の方では神代剣にあっさりと操られてあっさりやられてと扱いが悪かったのでクリペウスの扱いが良い方へ行きそうな展開で嬉しいです。
ワームの王対ネイティブの王
どちらが勝つのかも気になる展開ですね


558 : ◆LuuKRM2PEg :2018/06/18(月) 20:13:51 CNIzfX6Q0
◆.ji0E9MT9g氏、平成ライダーロワ本編及び支援MADの作成お疲れ様でした。
私も支援の一環として、前回の>>265の『悲しみの果てに待つものは何か』に続いて再び支援イラストを投下させて頂きます。
ttp://or2.mobi/data/img/204938.jpg

◆.ji0E9MT9g氏が執筆した第117話の『time――out』における仮面ライダーファイズ最後のクリムゾンスマッシュをイメージしてイラストを描かせて頂きました。
最後のクリムゾンスマッシュと、乾巧の全力の叫び。命が崩れ落ちていくにも関わらず、霧彦や天道からの願いを受け取り、真理への想いを胸にアルビノジョーカーと戦った彼の姿が熱く、そしてとても切なかったです。
ここ最近は本編の執筆に取り組めていませんが、宜しくお願い致します。


559 : ◆.ji0E9MT9g :2018/06/18(月) 21:09:08 L1.9FWLQ0
◆LuuKRM2PEg氏、前回に引き続き格好良いイラストありがとうございます!
timeは自分の中でも結構気に入っているSSの一つなので、こうして愛していただいて本当に感無量です。
引き続き、皆様に愛される作品を提供していけたらと思っておりますので、もしよければ今後ともよろしくお願いいたします。


560 : 名無しさん :2018/06/24(日) 16:04:34 s7zyNz1M0
◆LuuKRM2PEg氏、支援絵お疲れ様です。格好良い!

そして遅くなってしまいましたが、 ◆.ji0E9MT9g氏、投下乙です。
ウカワームVSカッシスワーム、そしてグリラスワームVSカッシスワームの、カブト原作で見られなかったドリームマッチ二連発。

浅倉を退け、渡やキングの口車も受けておらず、言ってはなんですが擬態天道も居ない……と、状況的に東西対主催の架け橋になり得る希望だったはずの三原チームですが、リュウタの性格上仕方ないとは言え軽率な一言でVS乃木さんへ。
幸いダメージもあって麗奈単独でも対抗できそうですが、しかし制限の差もある以上はなかなかハードモードですね。武器を奪われたとはいえ、助太刀できそうなのはそれこそリュウタぐらいですが、さて……

そしてキングに続いて会場入りし、禁止エリアの守護者と化した三島。最高幹部バルバ、おじいちゃんの死神博士、デスクワークで既に死にそうなビショップと比べて現場入りするのも納得の人選ですが、果たしてどんな秘密を守っているのか。
忠実な大ショッカーの幹部と化した彼に対する、「自分の種族にさえ一貫性を持てない男」という評価はなんだか真っ当に格好良いプライドに見えちゃう乃木さん(角ありの方)。
ワームとネイティブの歴史についての煽りも格好良いですが、おそらく基礎スペックはカッシスを上回るグリラス相手に、特殊能力面が残念なクリペウスで勝ち目はあるのか?
あっさり負けちゃうとライダー諸君もまぁ困る辺り対主催の要っぽさがありますが、仮に勝っても大ショッカーとなり変わるだけだろうし、ある意味VSウカワーム以上に顛末が気になる最強VS最強ですね。期待。


561 : ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:31:39 8TZGAhKw0
お待たせいたしました。
これより投下を開始いたします。


562 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:32:52 8TZGAhKw0

 ——目を覚ますと、そこにあったのは見覚えのある白い天井だった。
 最早安心感さえ覚えるそれを見て、左翔太郎はゆっくりと身体を起き上がらせた。
 気怠げな身体、微睡む意識、それらを何とか制して彼は頭を振って状況を整理しようとする。

 「そうだ……俺は、ダグバと戦って……」

 そしてそれからすぐ、彼の眠気は吹き飛ぶ。
 この会場で行われている凄惨な殺し合い。
 気を失う前、自分はそれを楽しむイカレた男、ダグバと戦っていたはずだ。

 奴の変身した金色のブレイドに自身も同じく変身し、突如現れた黒い仮面ライダーと協力して奴を打倒した、はずだった。

 「思い出した……。その後あいつを追おうとしたところで変身が解けて、急に疲れが……」

 ダグバは何のことなく使っていたが、自分にとってあの金色のブレイドはあまりにも強大な力だったらしい。
 今でも重くのしかかる疲労は、体力が自慢の翔太郎を以てして無視出来るものではなかったが、しかしだからといって二度寝をしている時間もない。
 自分の身体にいつの間にやら施されていた処置の数々に仲間への感謝を抱きつつ、痛む身体を押しベッドから舞い降りて、身嗜みを整える。

ご丁寧にベッドの横に揃えられていた靴を履き、鏡の前に立つ。
処置のしやすいように、またそれを着たままで寝て皴にならないようにと脱がされ、ご丁寧にハンガーにかけられていた自身の一張羅を手に取り、土埃を軽く落とす。
風都に存在する有名ブランド、ウィンドスケール製のそれを見て、しばし恍惚としたような表情を浮かべ……その後に包帯の上からスーツに袖を通し、申し訳程度ではあるが手串で髪を整え帽子を被る。

 と、その前に、帽子の中に息を吹きかけて溜まった埃を飛ばし、軽く形を整えるのも忘れない。
 帽子をかぶる男の中の男たるもの、こうして手入れの手間を怠ることはしない。
例え特上の帽子であれど、この手間を面倒に思い手を抜いた時点で、その帽子が放つ輝きは失われる。

 帽子は、そしてそれに似合う男であることは翔太郎が信じる男の中の男の条件の一つだ。
こんな状況とは言え、決して蔑ろにしていいようなものではない。
そうして最後に鏡を頼りにネクタイもきっちりと決めて、これでようやく“ハードボイルド探偵”の出来上がりだ。

 (こんな状況とは言え、決められる時に決めなきゃハードボイルドの名が泣くぜ)

 そうして鏡に向けてキザっぽくポーズを取る。
 これが、彼なりのルーチンだった。
 仮面ライダーであることは勿論だが、それ以前に彼は自身が愛する街の顔役、鳴海探偵事務所の若き敏腕探偵、左翔太郎だ。

 そうして長年街の為に二つの顔で戦ってきた彼にとって、こうして外面を整えるのもまた重要なファクターの一つであった。
 そう、何も心配はいらない。
 今、鏡に映っているのは、誰が見ても完璧なハードボイルドの化身、街の顔役に相応しい探偵事務所の若きエースの姿なのだから。

 「フッ、やっぱりハードボイルドはこうでなくっちゃな。
後は起きがけのコーヒーでもあれば完ぺ――」

 「あ、翔太郎、もう済んだ?
 なら翔一が『お茶を淹れてるんで、冷めないうちに飲んで下さい』って」

 「そうそう、温かいお茶は冷めないうちに飲まなきゃな――っておぉい!」

「うわっ!……いきなり大声出さないでよー」

 翔太郎の勢いの良いノリツッコミに、総司はビクリと反応する。
とはいえその顔に浮かんでいるのは恐怖や困惑ではなくただの呆れたような困り顔だったが。

 「あぁ、すまねぇ……じゃなくて!総司、いたんなら声かけろよ!
 一人だと思って思い切り格好つけちまってたじゃねぇか!」


563 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:33:19 8TZGAhKw0

 「それはいつものことだと思うけど……」

 「違ぇよ、断じて違ぇ!いいか、ハードボイルドってのは帽子の下に感情を隠す、男の中の男の生き方なんだ。
 そんなそこかしこで格好つけてたらまるで俺がハードボイルドじゃねぇみたいじゃねぇか!」

 「うん。……違うの?」

 「違ぇぇぇぇよ!!!まさかお前まで俺が……」

そこまで大声で抗っている時点で明らかに彼はハードボイルド探偵などではなかったが、ともかく。
 瞬間、翔太郎は何かをふと思い出したように顔を伏せ言葉を途切れさせる。
 全くの悪意なく素で彼を煽っていた総司も、その様子に一転心配そうに顔を覗き込んだ。

 「……どうしたの?翔太郎、もしかして、傷が開いた?」

 「いや、そうじゃねぇ。ただ、思い出しちまってな。
 ハードボイルドを目指す半人前の俺に、亜樹子がつけてくれたあだ名を、よ」

 それを聞いて、総司はハッと思い出す。
 亜樹子、鳴海亜樹子。
 その名前は先の放送で呼ばれた、翔太郎の仲間のもののはず。

 こうして何気ないやりとりの中に、どうしても彼女を思い出してしまうのは、鳴海探偵事務所で彼が過ごした時間を思えば、仕方のないことなのだろうと総司は思った。

 「ハーフボイルド、半熟野郎ってさ。
 変だよな、ちょっと前までは拭いたくてどうしようもなかったはずなのに、今は何となくそれをする気にもなれねぇ」

 総司には、彼にかける上手い言葉が見つからない。
 きっと彼にとっての鳴海亜樹子は自分にとってのひよりにも匹敵する大事な存在で……いや、その話は無意味だろう。
 ひよりはひより、亜樹子は亜樹子だ。

彼の今の気持ちをひよりと自分に例えてなまじ理解しようとすることこそが、彼に対する最大の侮辱にあたるのではないかと、総司は思った。
 そうして流れた沈黙の後、翔太郎はただもの悲しげな表情で立ち尽くす総司に気付いたのか、わざとらしく笑顔を作って仕切り直す。

 「悪ぃ、らしくねぇよな、こんなの。
 あいつについて悲しむのも、こんな風に色々考えんのも大ショッカーを倒してからだ。
 じゃなきゃあいつの言う半人前にもなれやしねぇ」

 行こうぜ、と小さく続けて彼は病室を出て行く。
 その表情は帽子に隠れ総司からはよく見えなかったが……だからこそ、だろうか。
 今初めて、総司にも翔太郎の憧れる“ハードボイルド”が、少し分かったような気がした。


 ◆


 「――名護さんが記憶喪失かもしれない?」

 「うん、まだ本当にそうかは分からないんだけど」

 病院に備え付けられていたパックで翔一が淹れた渋いお茶を飲みながら、翔太郎は総司の言った言葉をそのまま聞き返す。
 総司からもたらされた情報は、決して聞き逃していいものではない。
 渡との対話に向かったはずの名護にそれについて聞いたところ、まるで渡という人間そのものを知らないかのような表情で困惑を見せたというのである。

 「渡が何かしたのか?それとも名護さんが何かのショックで自分の記憶に蓋しちまったのか……?
 なぁ翔一、何か分かることねぇか?」

 「うーん、分かりません。
 俺の場合は気付いたら記憶がなくなってて、気付いたら記憶が戻ったんで」

 「まぁ、そりゃそうだよなぁ……」


564 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:33:35 8TZGAhKw0

 駄目元で以前記憶喪失だったらしい翔一にヒントを求めるが、やはりというべきか、彼も記憶喪失のエキスパートというわけではなく、事態の収拾には繋がりそうもなかった。
 名護の一番弟子、紅渡。渡を疑うということは、彼を信じた名護を疑うことにも繋がる。
 ゆえにあまり考えたくない事象ではあるが……やはり無視はできない。

 つまり、渡がこの殺し合いに乗ってしまったという危惧を。

 「とはいえ実際に名護さんと話すまでそれは判断できねぇし、今は帰りを待つくらいしか出来ることも——」

 「——おーい!翔一君、総司君、翔太郎君!誰かいたら手伝ってくれ!
 怪我人を連れているんだ、手を貸してもらいたい!」

 と、瞬間、待ち望んだ男が、病院の入り口で大声で叫ぶ声を、彼らは聞いた。
 幾ら客観的に見て危険人物が減った状況とはいえ、それでも仲間が無事に戻ってきたという事実に彼らは胸をなでおろす。
しかしその内容を聞く限り、決して油断の許される状況ではない。

 互いに目を見合わせた彼らは、飲みかけのお茶を残したまま、それぞれの傷をも感じさせないスピードで一斉に飛び出していった。
 ——決して長くはない時間の後、難なく病院の入り口に辿り着いた彼らの顔に浮かんだ表情は、名護と再会できた喜びではなく、彼が連れてきた男への戦慄だった。
 決して明るくはない外の景色を踏まえて考えても、青白い顔。

元々はそれなりに値の張るものだったろうに、ボロボロになり見る影もなくなった身に纏うコート。
 相当な激戦を乗り越えてきたのだろうことを察知させるそれらに加え、弱く苦し気に続ける呼吸を聞いては、彼の命の猶予はあまり長くないと判断せざるを得なかった。

 「名護さん……この人は……」

 「ここに来る途中までは意識があったんだがな……今は見ての通り疲労からか気を失ってしまっている。
 腹部出血による失血症状も認められる……、このままでは彼の命が危うい。
 すぐに彼を手術室に運ぼう。俺が処置をする」

「手術室……って名護さんそんなことまで出来るの!?」

 「俺を誰だと思っている。青空の会の戦士、名護啓介だぞ。
 ……戦士としての心得として、簡単な縫合や救命行為については一通り熟知している。
 安心しなさい。彼は俺が必ず助ける」

 名護の心強い言葉に総司は安堵と興奮の入り混じったような表情を浮かべたが、翔太郎にはわかる。
 名護もまた、自分自身が出来るのだ、強いのだと鼓舞することで平静を保とうとしている。
 それは、あの名護を以てして、それだけのことをしなくては落ち着いてことにあたれないほど目の前の男の症状が深刻だということにも繋がるわけだが……ともかく。

 翔一の持ってきた担架に男を乗せ、なるべく揺れないようになんとか手術室まで運ぶ。
 処置のしやすいように上着を脱がし、申し訳程度ではあるが体を消毒していると、まもなくゴム手袋にマスクに緑の服……すなわち術衣を着込んだ名護が現れた。

 「みんなありがとう。ここからは俺一人でいい。
 少しの間外で待っていてくれ。終わったら声をかける」

 いつになく張り詰めた表情の名護を前に、男たちは揃って退室していく。
 三人が揃って手術室の外に出た瞬間、手術中の赤いランプが灯る……わけもない。
 病院には自分たちしかおらず、わざわざ手術の開始と終了を知らせる意味も薄いからだ。

 「うまくいくといいですね」

 翔一が、不安そうにそう呟く。
 幾ら名護が優れた人物だからと言って、本職ではないのだ。
 様々な不安は、到底拭えるようなものではなかった。

 「……うまくいくさ。名護さんなら」

 だがそれでも、翔太郎が返すのは信頼と希望を込めた言葉だ。
 それを聞き、無言で頷いた総司を一瞥しながら、翔太郎はただ待つのも忍びないと男が持っていたデイパックを開く。
 “男”と呼称し続けるのも探偵という仕事上いささか違和感のあることである。知れるものなら何か素性を少しでも知っておきたいというのが実情だった。


565 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:33:55 8TZGAhKw0

 そして、中身を見てすぐに、翔太郎の瞳は見開かれる。
 デイパックの最も上、手に取りやすい部分に丁寧に収められた、見覚えのあるドライバーを視認したために。





 ——数十分の後。
 処置を終え、手袋とマスクを外しながら手術室より出た名護を待っていたのは、張り詰めた表情を浮かべた三人の仲間であった。
 
 「お疲れ様です、名護さん。あの人は……」

 我先にと駆け寄り水を渡しながら問うたのは、翔一だった。
 総司も翔太郎もその答えを待っているようで、思わずといった様子で立ち上がっている。
 彼らに返事をするより早く、礼と共に、まず生命の実感そのものとすら言えるほどうまい水を飲み干して、名護は強くうなずき、笑顔を浮かべた。

 それを受け三人もまた安堵の表情を浮かべ、一斉に名護に駆け寄る。

 「凄いよ名護さん!本当に何でも出来るんだね!」

 「ありがとう総司くん。勿論完璧ではないが、今できる最善は尽くせたはずだ」

 「状態としては、どうなんですか?」

 「傷は塞いだが、ここに来るまでの出血が激しくてな。
これから適当な病室にでも運んで輸液……つまり点滴を打ち血圧の低下や栄養失調などを防ぐつもりだが、今のところは本人の頑張り次第としか言いようがない」

 極めて冷静に、名護は言葉を重ねていく。
 人の命が次々と失われていくこの状況で、自分の手によって誰かの命を救えた。
 ただそれだけで舞い上がりそうになる気持ちを必死に抑えながら、まだ彼を完全に生かしきれたわけではないのだと自制する。

 例え外傷による失血死を輸液による血圧の維持でいったん防げたとしても、これからの処置に不備があれば彼はすぐに死んでしまう。
 ゆえにまだ、名護に歓喜の雄たけびをあげる時間は与えられていなかった。

 「名護さん、ちょっと質問してもいいか?」

 「なんだ、翔太郎君」

 一瞬物思いに沈んだ名護の意識を呼び覚ましたのは、翔太郎の問いかけであった。

 「あの男の人の名前、もしかして……」

 「そうか、君には先に言っておくべきだったな。
 そうだ、彼は一条薫。君の仲間、照井竜刑事から仮面ライダーの力を受け継いだという男だ」

 「やっぱりな……」

 言いながら翔太郎は、その手に持ったデイパックを一瞥する。
 どうやら自分が一条に処置を施している間に、その中身を覗き、恐らくはアクセルドライバーを確認して自分が連れてきた男を一条だと推理したのだろう。
 本来なら他人の所有物を勝手に覗くのはあまり褒められた行為でもないが、彼の職業と今の状況を考えれば、咎められるはずもなかった。

 「すまない、翔太郎君。君と照井くん、そして彼と一条の関係を考えれば、君には先に教えておくべきだった」

 「いや、構わねぇよ。名護さんだって一条って人を助けるので精一杯だったんだろ?
 それにあんたのおかげで命が助かったんだ、あとは俺が直接話すさ」

 その言葉を聞いて、名護はやはり目の前の男は決して半人前などという言葉で割り切れる存在ではないと判断する。
 少なくとも、今こうして彼と仲間でいられるということは、名護にとっても非常に心強いことだった。


566 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:34:13 8TZGAhKw0

 「そうだな、俺も、必死だったのかもしれない。
 さっきの自分のミスを、なくそうとして……」

 「ミス?」

 思わず吐露した自分の感情に対し反応したのは、総司である。
 それにどこか悔いるように歯噛みしながら、しかし名護は続けた。

 「あぁ、放送が終わり、参加者の情報を纏めた後……気づいたら俺は突然公園にいたんだ。
 この状況に対するストレスが原因かもしれないが、理由もなく君たちを置いてこの場を後にするなど、戦士として許されないことだ。
 君たちが無事でいてくれたからよかったものの、一歩間違えば取り返しのつかないことになっていても仕方なかった、本当にすまない」

 その言葉を聞いて、名護以外の三人は一斉に顔を見合わせる。
 つまりは名護の中で、放送後に一人でこの場を後にしたのは『理由のないこと』として記憶されているのだ。
 この時点でもう結論を下してもよかったが……しかし翔太郎は再度口を開く。

 「……いや、いいさ。あんたの言う通りこうして俺たちはみんな生きてるわけだしな。
 それより、総司から聞いたぜ。ダグバと戦った時に加勢してくれたあの黒い仮面ライダー、キバットの力で変身した奴らしいな」

 「あぁその通りだ。元の世界ではファンガイアのキングである登太牙くんが管理する鎧……世界を滅ぼす力を持つとすら言われるその力を、彼が適当な人物に渡すとも思えないが」

 「その鎧を扱える資格を持ってるやつに、心当たりはないってことでいいんだよな、名護さん」

 「あぁ、残念ながらそうだ。なにせもう、俺の世界からの参加者で少なくとも“俺が知っている人物はいない“からな」

 名護からすれば、ただ確認すべき事実を呟いただけにすぎないのだろう、さりげなさすぎるその発言に、彼らは息をのんだ。
 だが、黙って居られる状態ではない。
 例え彼がどれだけこの事実にショックを受けようと……もう、黙って居られる理由は存在しないのだ。

だからそれを言うために……翔太郎は、大きく息を吸い込んだ。

 「名護さん、落ち着いて聞いてくれ。
 どうやらあんたは、記憶を消されたみてぇだぜ。
 ——最高の弟子についての記憶を、他でもない弟子本人にな」

 その言葉と共に、名護の中で、時間が止まったような気がした。


 ◆


 翔太郎が名護に衝撃の事実を伝えてから、早くも数十分が経過していた。
 先ほどまで三人で囲んでいたテーブルに残された、すっかり冷め切ったお茶を啜りながら、翔太郎と総司は沈んだような表情を浮かべる。
 先ほど、名護に記憶の欠落について指摘した際の、彼の取り乱しようを思い出していたからだ。

 名護の先ほどの様相は、彼らにとって初めて見る、極めて衝撃的なものだった。
 最初は、まるでつまらない冗談を聞いたような冷めた反応だった。
 『俺の最高の弟子ならここにいるだろう。総司くんだ』

 そう名護に言われた時の総司の喜びと困惑の混じりあった表情は、いたたまれなかった。
 確かに名護にとって総司は良き弟子であることに違いはないだろうが……しかし、彼は知っていた。
今の自分と名護よりも遥かに強い絆の強さで結ばれた兄弟子がいるということを。

 そしてそんな総司の表情を見て、ようやく名護も事の重大さに気づき……それから先は、ただひたすらに沈んだように口数を減らした。
 幾つか与えられた質問に肯定か否定かのみを返し、そうして翔太郎たちが名護の記憶の欠落についての大体を把握した後、名護は風を浴びてくるとだけ言い残してその場を後にしたのだった。
 だが、今の彼を一人にするわけにもいかない。

彼を追いかけるべきか、それとも余計な言葉をかけてしまうくらいなら放っておくべきか、と悩み立ち往生した翔太郎と総司を置いて、翔一が一人「任せておいてください」とだけ言い残して追っていった。


567 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:34:29 8TZGAhKw0

 「名護さん、大丈夫かな……」

 「心配すんな、翔一がついてんだ。名護さんには心配いらねぇよ」

 「そうだね……」

 翔太郎の言葉は、決して気休めではない。
 ワームである自分の体と、人間である自分の精神のギャップに苦しんでいた間宮麗奈。
 彼女の心さえ溶かし再び仲間として迎え入れることの出来た彼を、翔太郎は一人間として尊敬していた。

 人は悩んでいるとき、理詰めで言葉を重ねるより翔一のように素直な感情で話の出来る存在を望む。
下手を打てば相手を逆上させる可能性さえ孕んでいたが……、しかし翔一と名護の二人ならば大丈夫だろうと彼は判断したのである。

 「にしても、記憶を消しちまうなんてな……。
もし渡が自分で消したんだとしたら、残酷すぎるぜ」

 「そんなに、記憶って大事なもの?」

 「当たり前だろ。記憶ってのは今までの自分の積み重ねだ。
 良い思い出も嫌な思い出も、全部ひっくるめて自分なんだ。
自分の記憶はもちろん、他人から見た自分の記憶も……どれだってなくしちゃならねぇ、大切な生きた証さ」

 言いながら翔太郎は、ある一人の女性を思いだす。
 須藤雪絵。かつてガイアメモリ犯罪に関与した、園咲……いや須藤霧彦の妹である。
 彼女は兄である霧彦を殺したミュージアムを、特に彼の妻でありながら彼に対し直接手を下した園咲冴子を憎悪し、忌むべきメモリに手を染めてまで復讐を図った。

 だが、彼女の末路は悲惨なものだった。
 復讐は失敗し、その報いとして永遠に昨日を繰り返させるイエスタデイのメモリを暴走させられ自我を失った彼女は、メモリブレイクを経てもなお記憶を失い廃人と化してしまった。
 皮肉にも、『昨日』の記憶を抱いてそれを取り戻すため戦った彼女はメモリブレイクによって、全ての『昨日』を失ったのである。

 罪を償うこともできず、自由になることもできず、彼女は今も狭くて暗い牢屋の中で虚空を見つめ続けていることだろう。
 だから翔太郎には、自分から誰かの記憶を消すという行為が、極めて残酷なものに感じられたのであった。

 「記憶は生きた証……か」

 一方で、翔太郎の言葉をよく咀嚼するようにもう一度呟いて、総司は物思いに耽るように目を伏せた。
 それを見て、翔太郎は察する。
 ——あぁ、どうやら、俺は地雷を踏んじまったらしい。

 翔太郎と総司のこの場での付き合いは、既にそれなりに長い。
大体の事情と彼の言葉の裏に秘められた感情を察し、また自分の発言を僅かばかり後悔しながらも、翔太郎は申し訳なさそうに口を開いた。

 「……悪い、総司。俺の言葉選びが悪かった、すまねぇ」

 「なんで謝るの?」

 「いや、お前が“今のお前”になる前の記憶は……その……」

 それを聞いて、総司は再び顔を曇らせる。
 自分の名前が“総司”ではないことを、嫌でも思い出してしまったからだ。
 名簿に載っている、自分の本当の名前。

 自分が“こう”なる前の記憶は、いつか思い出すことが出来るのだろうかと、総司は思ってしまったのである。
 だが、そうして物思ったことについて翔太郎にあまり負の感情が沸かないというのは、本心からの正直な気持ちだ。
 そもそも存在すら忘れてしまった大事な人々について怒るだけの感情が沸かないという方が、より正確だろうか。


568 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:34:45 8TZGAhKw0

 「別にいいよ、翔太郎が悪いわけじゃないし」

 「……悪い」

 翔太郎の謝罪を最後に訪れた、気まずい空気。
 だがそれを気にすることもなく、どこかマイペースに総司は天井を見上げた。

「でも、そっかぁ。
 僕にもお母さんやお父さんがいるんだよね……」

 自分にとっては最早思い出せない、ネイティブになる前の自分の姿や記憶。
だがこうして名簿に載っている、自分にとっては身に覚えのない自分の名前を、必死で考えて、そして愛し育ててくれた人が、自分にもいる。
 当たり前のはずではあるが今の今まで決して当然ではなかったその存在が自分にもいることを自覚して、総司は初めて記憶を失う前の自分について知りたいと思った。

 「ねぇ、翔太郎のお父さんとお母さんはどんな人なの?」

 「俺の親か……まぁ、普通の親さ。
 最も、俺は小さい頃から風都の至るところに入り浸ってた悪ガキだったし、おやっさんと出会ってからは殆どおやっさんが親父代わりみたいなもんだったから、あっちからは親不孝息子って思われてるかもしれねぇけどな……」

 「そうなんだ……。僕も、お父さんやお母さんに親不孝だと思われてるのかな……。
 それに、こんなに見た目が変わっちゃったら、お父さんたちも、僕が誰だか分からないかも……」

 どことなく察していたものではあるが、不定期な仕事の入る探偵の仕事に幼少より憧れていた翔太郎の親との関係は、完全な良好とは言い難いもののようだった。
 だから、よぎってしまう。
 自分がネイティブになったのは、もしかしたら父や母に疎まれて売られた結果なのではないかと。

 だがそうして否定的な思考に陥りかけた総司の肩を叩いたのは、やはり翔太郎だった。

 「なぁ、お前の親がどんな人かなんて、俺にはわからねぇ。
 でもな総司、お前の見た目がどんなに変わっても、お前の親がどんな人でも、お前はお前なんだ。
 そんで、今のお前を仲間として認めてる俺らがいる。
お前の抱いた疑問にどんな答えが待ってるにしても、それだけは絶対忘れんなよ」

 「翔太郎……ありがとう。
 でもやっぱり……僕は知りたいよ。記憶をなくす前の僕のことも含めて、今の僕だから。
例え僕の両親がどんな人でも、二人がいたおかげで今の僕がいるんだから……」

 総司のその言葉に、翔太郎はどこか驚いたように目を見開き、そして少しの後嬉しそうに「そうか」とだけ漏らした。
 やはり、総司は強くなった。
 天道を継ぐ思いを固めたからだとか、ガドルを倒したからだとか、そういう単純な話ではない。

 罪を贖う覚悟を決め、仲間という存在を知り、ともに笑いあえる尊さを知り、完璧だとすら思える師もまた一人の人に過ぎないことを知り……少しずつ彼は確かに成長を遂げている。
 それを感じ、まだまだ強くなるだろう彼の未来に思いを馳せ彼の顔を一瞥すると、総司は何かに気づいたように「あっ」と声を出した。

 「そうだ、翔太郎。まだ言ってなかったよね。
 ブレイドのこと、取り戻してくれて、ありがとう」

 「いや、俺はこいつを拾っただけさ。
 こいつをダグバから取り戻したのは、他でもねぇ。
 お前と翔一……剣崎が信じ、そしてお前が受け継いだ、俺たち仮面ライダーの正義さ」

 「仮面ライダーの、正義……」

 翔太郎のクサいセリフに、しかし総司は照れたような笑いを返すだけだった。
 しかし、翔太郎は決して嘘や誤魔化しを言ったつもりなどない。
 本心からそう思い本心からこういったクサいセリフを吐けるから、翔太郎は人を惹きつける魅力を持つのである。


569 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:35:03 8TZGAhKw0

 「ねぇ、翔太郎。一つだけ、お願いがあるんだけど」

 「あん?」

 「ブレイバックルを、少しの間だけ貸してくれないかな?」

 どこか申し訳なさそうに、しかし我慢するつもりなど感じさせないような勢いで総司は言う。
 それを借りて彼が何をやりたいのかは大体察することが出来たが、翔太郎には反対するような理由も存在しなかった。

 「構わねぇさ。さっきも言ったが、俺はこいつを拾っただけだからな。
 俺に独占するような資格なんて元からありゃしねぇ」

 言いながら渡されたブレイバックルとラウズカードを受け取って、総司は頬を綻ばせる。
 ありがとう、とだけ残して廊下を走っていった彼の背中を見やりながら、翔太郎も立ち上がり、仕切りなおすように帽子をかぶりなおす。
 さて、そんじゃ、俺は俺でやりたいことをやらせてもらうか。

 決意を新たに、翔太郎もまた一人総司が向かったのとは逆の廊下に向けて歩き出した。


 ◆


 ガチャリ、とドアが開く音と共に、総司は一人適当な部屋に入った。
 必要もないとは思うが一応気配と鏡を確認し、不意打ちの心配を拭ってから部屋に置かれた机にブレイバックルを静かに置く。
そうして少し机から離れて……ゆっくりと息を吸い込んで総司は手を合わせた。

 合掌。
 意味はもちろん、このバックルの元の持ち主の冥福を祈るためだ。
 自分がこれをする資格はないのかもしれない、遺体ではなく遺物にする時点で、ただの自己満足にすぎないのかもしれない。

 それでも、今の総司にとってこれはやらなければならない、必要なことであった。

 「剣崎、きっと君を殺した僕の罪は、消えない。
 君は僕を許してくれないかもしれないし、それだけのことを僕はした。
 でも……もしそれでも、仮面ライダーが受け継いでいく正義を、僕も信じていいのなら。
 見守っていてほしい。君の分まで、皆を守るために戦ってみせるから……」

 それは、誓いだった。
 剣崎の力を悪用したダグバを打倒した今、改めて自分の罪に向き合うための、誓い。
 決して逃れられないその罪に、向き合い、贖おうとする決意の表明。

 誰に聞かれていなくても構わない。
 ただこうして言葉にするだけで、彼にとってはそれだけ意味があることだった。


 ◆


 屋上。
 通常の病院であれば自殺の防止策として容易には立ち入れないようになっているはずのそこが、こんな状況ではさも当然のように鍵すらかけられておらず踏み入ることが可能になっていた。
 だが、それに対し彼、名護啓介が深い思考を巡らせることもない。

 今の彼にとっては、それよりもよほど思案しなくてはならない事情が存在したため。

 (俺が、記憶を失っている……か)

 それは、先ほど総司や翔太郎から指摘された、自身の記憶の欠落について。
 最初はただ笑えない冗談だろうと決めつけようとしたが、翔太郎の問いに改めて元の世界での自分の記憶について思い返した時、あまりにも辻褄の合わない事態が多すぎた。
 闇のキバの鎧、世界を滅ぼしかねないそれについて不安ではなく『頼もしい』と感じているのに、自身の思考が変化した理由が思い出せない。


570 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:35:28 8TZGAhKw0

 闇のキバの鎧を装着する登太牙についてもそうだ、彼の人格や信用できるという情報は浮かんでくるのに、何故知り合ったのか、何故彼と自分に繋がりがあるのかがわからない。
 それを理解し、同時に拭いきれない頭の霞みがかった思考について納得がいってしまったその瞬間に、名護は自分に対しての信頼がおけなくなってしまった。
 紅音也との出会いで自分が決して完璧ではなく間違うこともあるということを知ったことと、あまりにも作為的な記憶の消失に対する甘受が出来るかということは、全くの別問題だったのである。

 「名護さん」

 どうしようもない苛立ちを抱えただ夜風に身を晒し続けていた名護に向けて、後方より声が響く。
 どことなく間の抜けたそれに振り返れば、柔和な笑顔を浮かべ両手にそれぞれ何らかの液体が入った紙コップを携えた翔一の姿があった。

 「……翔一君か、体調は大丈夫なのか?
突然倒れたと聞いたが」

 「はい、全然大丈夫です、見ての通りピンピンしてます。
 あ、それより、よければこれ、飲みませんか?考え事をするときは、温かいお茶が一番です」

 「ありがとう」

 短く返し、一応彼から紙コップを受け取りこそしたものの、名護はそれに口をつけることはしない。
今となっては、全ての飲食物が味のしない無味無臭なものにすら思えたから。

 とは言えそれも翔一にとっては想定の範囲内だったのか、特に気にする様子もなく名護の横に立ち、続けた。

 「……記憶がないって、苦しいですよね。
 俺と名護さんじゃ症状は色々違うみたいですけど、俺も一応、結構長いこと記憶喪失だったんで、よくわかります」

 「そういえば、津上翔一という名前は記憶喪失中に名乗っていた別人の名前、だったか」

 「えぇ、まぁ。でももうどっちでもいいんです。
 正直、俺も津上、とか翔一くんって呼ばれるの、慣れちゃいましたし」

 名護の言葉に相変わらず笑顔をたたえ返して、しかしすぐ、翔一の表情はまじめなそれへと変わった。

 「でも俺、記憶をなくしてすぐの頃は、俺、引き取ってくれた先生に翔一くんって呼ばれても、全然自分が呼ばれてるって実感わかなくて、反応できなかったりして、その度に俺ってなんなんだろうってまた凹んだりして。
 だから俺、今の名護さんみたいな顔してずっとうじうじ悩んでました。」

 「翔一君が!?」

 名護は、思わずといった様子で驚きの声をあげる。
 天真爛漫という言葉をそのまま体現したような彼に、そんな沈み続けた時期があった。
 彼だって人である以上そうして悩んで当然であるというのに、これ以上ないほど、今の彼とそのイメージが繋がらなかった。

 そうして大声をあげた名護に対し、翔一は特に取り繕うわけでもなく、俯いたままに続ける。

 「はい。だって、嫌じゃないですか。
 皆に見つけてもらう前の俺がどんな人で、どんな人生を送ってて、どんな性格で、どんなものが好きなのか、何一つわからないんです。
 ……それこそもしかしたら、記憶を失う前の俺は死神って呼ばれるような怖ーい殺し屋だったかもしれないし、もしかしたら悪魔の科学者って呼ばれるような悪―い人だったかもしれないし、もしそんなだったら嫌だなーって」

 「想像力豊かだな、君は……」

 突然切り替えたようにおどけた様子で語り笑う翔一を前に、名護もまた薄く笑う。
 それを見て心底安堵したように翔一もまた笑って、しかしまたすぐにまじめな顔を見せた。

 「でもある日、ふとした拍子に思い立って海岸に行ってみたんです。
 そしたら、そこに凄い綺麗な青空と、太陽があって。
 それ見た時に、『あ、こんなふうに悩んでるの馬鹿馬鹿しいな』って思ったんです。
 だから、俺はそのことについて悩むのもやめました」


571 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:35:46 8TZGAhKw0

 「……それだけの理由で?」

 「はい。本当に、これだけです」

 へへへ、と髪を掻きながら照れたように笑う翔一を見て、名護はいきなり話に置いて行かれたような感覚を受けた。
 先ほどまでの話の重さと、彼が抱いていた不安に同意が出来た分だけ、そこからの立ち直り方の唐突にすら感じる語り口に驚いたのである。
 結局は、大事なのは時間の経過を待つことだけだということか、とどことなく失望した気持ちで再び目を伏せた名護に対し、しかし翔一は再度口を開いた。

 「……けどその時、思ったんです。
 この青い空や太陽を見て『生きてるっていいな』って思える俺は、きっと記憶を失う前も同じものを見たら同じことを思ってたはずだって。
 きっと前の俺も、あの時の俺が思ったような悪い人じゃなかったんじゃないかって。
 だから、俺は悩むのをやめられたんです。……自分を信じられたんです。
 まぁ実際、こんな性格だったわけなんですけど」

 へへへと笑いながら放たれた翔一のその言葉を聞いて、名護は頭を強く殴りつけられたような錯覚を受けた。
 今の自分も、記憶を失う前の自分も、自分は自分。
 目の前の細々とした障害に阻まれて見えなくなりかけていた、自分が見失ってはいけない本質。

 それを今、改めて目の前に突き出された心地だった。
 目が覚めたような表情で再度思考を巡らせ始めた名護を前に、これ以上の言葉は不必要だと感じたか、翔一はただ一言「ここ寒いですね」とわざとらしく両腕を摩りながらその場を後にしようとする。

 「待ってくれ翔一君」

 「……はい?」

 「心遣い、感謝する。
 このお茶も。実に美味しい」

 「そうですか、そういってもらえて、嬉しいです」

 どこか取ってつけたような名護の誉め言葉に、しかし翔一は心底嬉しそうに再度笑った。
 それに対し再度心中で礼を述べながら、名護は目を閉じた。
 彼の心の中で、先ほどまでは集中も出来ず雑音に負けていた音楽が今、確かに響いている。

 紅音也が奏でるバイオリンの音にも似ている、しかしそれよりも優しい音色。
 美しいと率直に感じるそれを、しかし長く聞こうと耳を澄ませるたびに、それがどこか遠くへと消えて行ってしまう感覚を覚える。
まるで、向こうが自分から距離を離そうとしているかのように。

そうして近づこうとするほど離れていくそれをもどかしく感じるのは、もしかすればこの音楽こそが自分の探しているものの答えだからなのだろうか。
 消えそうになるそれを手繰り寄せようとし、その度に少しずつ離れていき……結局はすぐに聞こえなくなってしまった。
しかし、今聞こえた音楽を、名護はもう忘れることはないだろうと思う。

 (もしこの音楽が、俺の忘れた存在が奏でていた心の音楽だというのなら……取り戻して見せる。
 例え記憶がなくても、この音楽をこのまま世界から消すわけには、いかないからな)

 彼が再び目を開いたとき、既に名護の瞳に迷いや不安は存在しなかった。
 この自分の心の中に響いた音楽を、素晴らしいと思える今の自分を、信じる。
 音楽は聞こえた、支えてくれる仲間はいる、失われた記憶だって……きっといつか取り戻せる。

 ならばもう、彼という戦士に迷っていられる時間など、ない。
 翔一より受け取ったお茶の残りを一気に飲み干し、彼は再度歩みだす。
 今度こそ取りこぼさないという覚悟と共に、もう一度仮面ライダーとして戦う思いを新たにして。


572 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:36:05 8TZGAhKw0


 ◆


 ——目を覚ますと、そこにあったのは見覚えのない白い天井だった。
 最初は行きつけの関東医大病院の病室かと思い再び目を瞑ろうかと思ったが、しかしすぐに頭を振ってそれを否定する。
 瞬間、彼の脳裏に今までの全てがフラッシュバックするかのように襲い掛かったため。

 突如宣言された殺し合い、殉職してしまった別世界の同業、もう一人のクウガ、凄まじき戦士、そして、炎。

 「ハァッ、ハァッ!」

 パニックを起こしたように荒く呼吸を繰り返し、痛む体を押して何とか上体を起き上がらせようとする。
 が、それは叶わない。
 点滴で腕の自由が利かなかったから、も理由の一つだが、それ以上に急激な心拍の上昇に体が追い付かず、強い頭痛を引き起こしたのだ。

 「——やめといた方がいいぜ。
 折角助かった命なんだ、無理すんな、一条さんよ」

 しかし、そうして再び無様にベッドに寝そべるはめになった彼……、一条の下に、新しい声が降ってくる。
 チラと病室の入り口を見れば、今入ってきたらしい帽子を被った怪しげな男が立っていた。
 悪い人間には見えないが、仲間と判断していいのだろうか?

 瞬間生まれた疑問のために一条が声をかけるタイミングを失ってしまったことに気付いたのか、帽子の男は自分から一歩、一条の下へと歩み寄る。

 「……あぁ、警戒させちまって悪いな。
 ここはD-1エリアの病院だ。
ここにいるのは俺と、あんたをここに連れてきた名護さん‥…名護啓介、それから津上翔一。
それと、あー、まぁ事情と本名は後で話すが天道総司、その四人だ」

 「津上、翔一……」

 何やら込み入った事情の存在するらしい“天道総司”という男の名前に反応するより早く、一条は彼の仲間の一人に反応する。
 津上翔一と言えば、小沢澄子が探していた信頼のおける仮面ライダーの一人のはず。
 そんな存在と出会えるのが、彼女をみすみす死なせてしまった無力な自分だけというのは、何たる皮肉だろうか。

 とはいえ、今はそんなことを考えただ打ちひしがれている場合ではない。
 無理やり思考を切り替えて、またしても一条は帽子の青年に向き直った。

 「すみません、その貴方のお名前は……」

 「あぁ、悪い、自己紹介が遅れちまったな。
 俺は左翔太郎。風都の探偵の片割れ、って言えば、あんたには伝わるか?」

 「貴方が左さん!?」

 その名前を聞いて、一条はむしろなぜ今まで気づかなかったのだと自責の念を抱く。
 常に帽子を欠かさない古風な探偵スタイルの男……照井から、最も信頼できる参加者の一人として紹介されていたその青年の特徴を持つ男を前に、その可能性すら過らないとは。
 痛む体と、翔太郎の静止すら振り切って思い切り起き上がった一条は、襲い掛かる全身の痛みにも屈せずに思い切り頭を下げた。

 「本当に、申し訳ありません!照井警視長の殉職については、全て自分の無力さに責任があります!
 なんと謝罪すればよいか……」

 「頭上げてくれよ、一条さん。
 あいつが自分を犠牲にしなけりゃ切り抜けられねぇって判断したような状況だ、きっと俺があんたでも、結果は変わんなかったさ」

 翔太郎のその言葉は、決して気休めに吐いた適当な言葉ではない。
 照井ほどの男が、自身の命を捨てなければ全滅するのみだと判断したような戦況である。
 一人二人戦える人員が増えたからと言って、好転するような甘い戦いではなかったに違いない。


573 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:36:22 8TZGAhKw0

 その翔太郎の言葉を聞いて気まずいような救われたような複雑な表情を浮かべたまま、一条は再度ベッドに横たわり、暗い表情を崩すことなく再度俯いた。

 「ありがとうございます。
 ……しかし、私はやはり無力です。
 照井警視長、京介君に小沢さん……私がもっと強ければ、彼らのことも、救えていたかもしれないんです……!」

 声を震わせ涙すら目に浮かべて自分の及ばなさを後悔する一条。
 その姿に何か思うところでもあるのか、数秒の思考の後、翔太郎は再び切り出した。

 「……強くなりたいか?」

 「——はい」

 思わず問われた言葉の意味を理解できず一瞬思考を停止させた一条はしかし、次の瞬間には考えるまでもなくその問いに即答していた。
 横になったままでも十分に伝わるような意志の強さを訴えるその瞳を見て、翔太郎もまた懐よりメーターとUSBメモリが一体化したような不可思議なアイテムを取り出す。
 それに思わず目を奪われた一条の前に、それは差し出されていた。

 「やるよ。俺よりもあんたが持つ方を、照井だって望むはずさ」

 「これは……?」

 「これはトライアルのメモリだ。
 それがあればアクセルはもっと強くなる」

 「本当ですか!?」

 一条にとって、それは思いがけない展開であった。
 照井が残したアクセルを活かしきれない自分でも、これさえあれば誰かを守れるかもしれない。
それは一般人を守る警察官としてのプライドを粉々に砕かれた一条にとって、一抹の希望の光が差したような感覚であった。

 しかし手に取ったそれをまじまじと見つめる一条に対し、翔太郎はなおも厳しい表情で「けどな」と続ける。

 「けど、そいつを使うには条件があるんだ」

 「条件……?」

 「あぁ、そいつを使いこなすには特訓が必要なんだ。
 照井の野郎もだいぶ苦労したらしくてな、今のあんたじゃ下手すりゃ死ぬかもしれねぇ」

 そこまで言い切って、翔太郎は再び一条の瞳をのぞき込む。
 使いこなす過程で、死ぬかもしれない。
 力の代償として命を懸けるだけの覚悟があるのかと、眼力だけで訴えかけるような瞳だった。

 しかし、一条の答えは揺るがない。
 この力を照井から受け継いだ時点で……、いや、旭日章を背負って市民を守る使命を負ったあの日から、覚悟が揺らいだ日はないのだ。

 「やらせてください」

 返答までにかかった時間は決してゼロではない。
 しかしだからこそ、一条の中で思考を経ていないわけではないと実感できるような力強い答えだった。
 それを受け、翔太郎もまたその姿を誰かに重ねたようにハッとしたような表情を浮かべ、しかしすぐに薄く笑った。

 「……あんたの覚悟はよくわかった。
 けどな、どっちにしろその傷を治してもらわねぇことには出来やしねぇ。
 ——とりあえず、その点滴が終わるくらいまではじっとしとくんだな」

 「……わかりました」

 「ちょっと待っとけ、今、水と仲間を連れてくる。
 ここに来るまでの詳しい話はそこで聞かせてくれ」


574 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:36:40 8TZGAhKw0

 そう言い残して、翔太郎は病室より出て行った。
 一人残された一条は、再びその手に託されたトライアルというメモリを握りしめる。

 (もしかしたら、これがあっても俺は小野寺君にとって足手まといにすぎないかもしれない。
 それでも、ただずっと自分の非力さを嘆き続けるよりはずっと——)

 このメモリを使いこなすのに必要だという特訓。
 どれだけ厳しいものなのか、あの照井でさえ苦しんだというのなら、自分にも相当の覚悟が必要なのは間違いない。

 (それでも俺は、諦めないぞ……。
何度未確認に敗れても、その度に自分を見つめなおしそれを乗り越えてきた五代のように……!)

 そして一条は思い出す。
 紫のクウガを使いこなすための剣道の特訓、未確認生命体22号を倒すために赤のクウガのキックを高めた特訓、そして未確認生命体41号を倒すためにビートチェイサーを乗りこなした五代の姿を。
 全ての時に五代は強くなって見せた。

 きっと不安で仕方がなかっただろうに、何のこともないように笑顔を絶やさぬまま。
 自分はきっと、あれほどうまくは出来ないだろう。
 それでも、成し遂げて見せる。

 自分をこうして翔太郎と出会わせてくれた運命を信じ、少しでもユウスケの力になれるように。
 戦士クウガの横で、ともに戦える自分に近づけるように。

 (だから、力を貸してくれ、五代……。
 お前のように器用でなくて構わない、ただお前のように、試練を乗り越えられる強さを……)

 チラと窓越しに空を見上げる。
 先ほどまで一切の光の届かぬ闇に閉ざされていた世界は、いつの間にか少し白んできていた。


 ◆


 (一条薫……か。
 お前がアクセルを託した理由、わかる気がするぜ)

 一方、病室より出た翔太郎は一人で思案する。
 照井が自身の家族の復讐を誓い手に入れ、そして最後には彼が街を守るための力となった、アクセルドライバー。
 それをこんな殺し合いで出会っただけの存在が手に入れたと聞いたときはどんな男がと随分と警戒したものだが、しかし実際に出会ってみればなるほど彼が認めるのも納得できるような芯の通った刑事だったという訳だ。

 (にしても照井といい刃さんといい一条といい、近頃の警察ってのはこんだけタフじゃねえとなれねえのか……?
マッキーは……まぁ論外か)

 一方で、翔太郎は目の前の男のタフさにも感嘆していた。
これだけの短時間で目を覚まし意味の通った会話を成すこともそうだが、いきなり起き上がり頭を下げるような突然の運動さえ可能であるというのは、先ほどの青白い死にかけの男と同一人物とは到底思えない。
 それに、一条にトライアルの特訓のことを話してみて、その反応で彼の器を確かめてみようとでも思っていたのだが、結果としてわかったのは自分が確かめるまでもなくアクセルに相応しい男だったということだった

 死の危険さえあるという状況でも強くなれるというなら迷わず突き進むその姿はハードボイルドでありながらどこまでも熱かったあの男を連想させた。
 ゆえに、もうそれ以上、翔太郎に彼を止める資格はなかった。
 照井が認め力を託したのだろう男だ、これ以上自分が彼の行きたい道をああだこうだという資格もあるまい。

 (俺は、俺に出来る限りのサポートをしてやるさ。
 それでいいんだろ?照井)

 ——俺に質問するな。
 脳内で問うたその言葉に対し、もう聞こえないはずの戦友の声がどこからか聞こえた気がして、翔太郎はまた少し笑った。


575 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:37:00 8TZGAhKw0


【二日目 黎明】
【D-1 病院】

【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、額に怪我、腹部表面に裂傷、その他全身打撲など怪我多数(処置済)、全身に擦り傷、出血による貧血、輸液中、五代たち犠牲者やユウスケへの罪悪感、強い無力感、仮面ライダーアクセルに45分変身不可
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
0:小野寺君……無事でいてくれ……。
1:第零号は放置できない、ユウスケのためにも対抗できる者を出来る限り多く探す。
2:五代……。
3:鍵に合う車を探す。
4:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
5:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
6:小沢や照井、ユウスケの知り合いと合流したい。
7:未確認への対抗が世界を破壊に導き、五代の死を招いてしまった……?
8:もう悲劇を繰り返さないためにも、体調が治り次第トライアルの特訓を行い、強くなりたい。
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると推測しています。
※麗奈の事を未確認、あるいは異世界の怪人だと推測しています。
※アギト、龍騎、響鬼、Wの世界及びディケイド一行について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛かっていることを知りました。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)。



【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、左目に痣、決意
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ラウズカード(ダイヤの7,8,10,Q)@仮面ライダー剣、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:紅渡……か。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしていましたが、翔太郎との情報交換でそういうわけではないことを知りました。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。


576 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:38:12 8TZGAhKw0



【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、キングフォームに変身した事による疲労
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
1:名護と総司、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:乾巧に木場の死を知らせる。ただし村上は警戒。
6:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
7:もし一条が回復したら特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
8:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っていました (人類が直接変貌したものだと思っていなかった)が、名護達との情報交換で認識の誤りに気づきました。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※総司(擬態天道)の過去を知りました。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。
※トライアルメモリの特訓についてはA-1エリアをはじめとするサーキット場を利用するものと思われますが詳細は不明です。



【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ、ブレイバックル@+ラウズカード(スペードA〜12)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護や翔太郎達、仲間と共に生き残る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:ディケイドが世界の破壊者……?
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、ごめんなさい。……ありがとう。
【備考】
※天の道を継ぎ、総てを司る男として生きる為、天道総司の名を借りて戦って行くつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに天道総司を継ぐ所有者として認められました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、現状では半信半疑です。


577 : 忘られぬmelody! ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:38:27 8TZGAhKw0



【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、強い決意、真司への信頼、麗奈への心配、未来への希望 、進化への予兆
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
1:逃げた皆が心配。
2:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
3:木野さんと北条さん、小沢さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
4:もう一人の間宮さん(ウカワームの人格)に人を襲わせないようにする。
5:南のエリアで起こったらしき戦闘、ダグバへの警戒。
6:一条さんの体調が心配。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました
※今持っている医療箱は病院で纏めていた物ではなく、第一回放送前から持っていた物です。
※夜間でシャイニングフォームに変身したため、大きく疲労しています。
※ダグバと戦いより強くなりたいと願ったため、身体が新たに進化を始めています。シャイニングフォームを超える力を身につけるのか、今の形態のままで基礎能力が向上するのか、あるいはその両方なのかは後続の書き手さんにお任せします。


578 : ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:42:07 8TZGAhKw0
以上で投下終了です。
今回のSSは仮投下こそ通してはいませんが、
原作において今のところ一切触れられていない翔太郎の両親について少し触れていたりしますので、やめておいた方がいいなどの意見があれば対応いたします。

また、執筆中に自分のうろ覚えが露になったパートもありましたので、他にも原作から誤って記憶している箇所などがあるかもしれません。
そういったご指摘や、純粋に内容への指摘、また毎度のことではありますが、ご感想などもございましたら是非お願いいたします。


579 : ◆.ji0E9MT9g :2018/07/11(水) 20:50:53 8TZGAhKw0
あ、それと今回のSSで登場しキザなセリフを吐いていた左翔太郎が活躍する『風都探偵』最新刊である3巻、
元記憶喪失ならではの活躍を果たした翔一くんと新しいフラグの立った一条さんの物語が交差する(!?)『漫画版仮面ライダークウガ』最新刊である9巻、
そして今回SSの舞台となった病院で働くドクターライダーたちが活躍する『小説版仮面ライダーエグゼイド』がそれぞれ先月より好評発売中です。

このところ辛い暑さが続きますが、公式出版の書物と同じくらいのペースで当ロワも更新を頑張っていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。


580 : 名無しさん :2018/07/11(水) 21:22:09 6XKlNkOM0
投下乙です!
一条さんを助けてくれた名護さんはやっぱり最高です!
そんな名護さんの記憶の欠落を指摘してくれたのは、一度は自らの記憶を失った翔一君であり、また雪絵さんの一件があるからこそ記憶の大切さを語れる翔太郎からはハードボイルドさを感じてしまいます……
そしてアクセルを受け継いだ一条さんはトライアルメモリも受け継いで、総司も自分自身の罪と向き合いながらブレイバックルを手に取る光景が、熱くて感動的でした。
だけど、そんな彼らの元には…………


581 : 名無しさん :2018/07/11(水) 21:45:50 JX/zRCI60
投下乙です!
まず最初に飛び込んでくるエグゼイドサブタイにニヤリ。翔一君の小ネタも中々。
渡の記憶の一端を掴んだ名護さん、トライアル入手の一条さんと状況が少し好転しましたね。擬態天道の成長はもう本当に頼もしさしか感じません。

戦力的にも精神的にも恐らく一番安定したこのグループの行き先は今後も気になるところです!


582 : 名無しさん :2018/07/16(月) 16:44:27 CPXDVCWo0
投下乙です。
繋ぎ兼人間ドラマ回。
ほよよ?忘られぬmelodyって何だっけ?と思ってたらEの暗号の歌詞かぁ……。
753に纏わる「記憶」を通して引用されていく、各人の「記憶」のエピソード。翔一くんや擬天はともかく、そーいえば翔太郎にもそんな事あったなぁと。
擬天の両親の話は原作では明かされてないものの、この会話自体がちょっと思わせぶりで、ここからオリジナルな話に持っていくのもアリかなと感じつつあったり。
翔太郎も元々、家族関連では何某かの事情はありそうな空気こそあった感じはしたものの、まあ明かされてないし……。
そういえば、直近で永夢の両親が明かされただけに、翔太郎って現時点で全媒体で家族について一切不明(健在かさえ謎)な超稀少な主役ライダーにあたるのかな?
そして、ロワの話に戻ると、こいつら全員、建物ごとキングにマークされてる真っ最中。みんながんばれ。フレッフレッ753。


583 : 名無しさん :2018/07/18(水) 01:29:11 STfE6udQ0
投下乙です
渡の記憶を失った名護さんに対して発破をかけたのは、同じく本編中で記憶を失っていた翔一くん!
「悪魔の科学者」なんてどっかで聞いたようなワードにニヤっとしつつ、二人のやりとりに楽しませて頂きました
他にも翔太郎と一条さんのやり取りや擬態天道の新たな覚悟など、ロワ中に関わりのあった人物のアイテムを通しての会話も大変秀逸だったと思います
でも不穏な影が迫ってきてるんだよなぁ…果たして大丈夫なのか病院組!!


584 : 名無しさん :2018/08/14(火) 22:22:59 elAc.nCc0
ユウスケと渡の対決が始まる中、あのキングが乱入する予約!?


585 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:39:56 mdfqo6.Y0
長らくお待たせいたしました。
これより予約分の投下を行います。


586 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:41:00 mdfqo6.Y0

 辺り一面闇が支配する焦土の中で、二人の男が戦っている。
 赤い筋骨隆々の戦士は仮面ライダークウガ、そしてもう一人、ステンドグラスの意匠を全身から感じさせる戦士は仮面ライダーサガ。
 両者共にこれまでの戦いで大きく疲弊し、傷ついているというのに、それを微塵にも感じさせない勢いで、彼らは互いの拳をぶつけ合っていた。

 「ヤアァァァ!」

 一歩間合いに踏み込んだクウガが、右の拳でアッパーを放つ。
 その威力は確かなものだったが、しかしサガもまた上体を反らすことでそれを躱し、その勢いをも利用してクウガに向けミドルキックを見舞う。
 それは不完全な体勢からとは言え両者の体力について考えればそのまま勝敗が決してもおかしくはない威力を誇っていたが、しかしサガの目論見と現実は大きく異なっていた。

 ドスッと鈍い音と共にクウガへと到達したサガの右足は、彼にダメージを与えることさえ叶わない。
 先ほどまで深紅の筋肉に包まれていたクウガの体表が、刹那の間に白銀の鎧に紫のラインが走る重厚な姿へと変身していたからだ。
 どころか足先に伝わる痺れ故にサガの動きが阻害されたその一瞬に、クウガは彼の首元を掴み一瞬でたぐり寄せていた。

 「なんで殺し合いに乗った!?加々美って人のことを殺してしまったからか?
 だから後戻り出来ないと思ってお前はーー!」

 しかし次の瞬間クウガから放たれたのは、反撃を許さぬ猛攻ではなく、叱咤にも似た疑問の言葉だった。
 そう言えばこの男の目的は自分を説得することだったか。
 全く無駄なことを、と心中では思いつつ、サガは体力回復の意も含めてクウガとの問答に暫し付き合うことにした。

 「違います、僕が殺し合いに乗ったのは僕の大事な人たちを守る為。
 そして何より、僕に王の座を譲り死んだ先代の王の言葉に従ってファンガイアの未来を守るためです」

 「ファンガイアの未来?それならお前の世界以外に住んでる人間はどうでもいいのか?
 お前はファンガイアと人間の共存を望んでたんじゃないのか!?」

 「知ったような口を利かないでください。それに、そんなもの僕には関係ありません。
 幾つも存在する世界の中で、僕にとって大事なのは僕の世界に生きている一握りの存在だけ。
 彼らが平和に過ごせるためなら、僕は他の世界を滅ぼしても構わない」

 渡はサガの鎧越しに、真っ直ぐにクウガを見据え言い放つ。
 その言葉が決して嘘ではないということは伝わったのか、クウガは一瞬目を泳がせるが、しかしすぐに頭を振った。

 「ふざけるな!その人たちは、お前がそうまでして世界を守ったと知ったところで、喜ぶような人じゃないだろ!」

 「関係ありません、全ての世界を滅ぼして、キバの世界が破滅から逃れた後に僕が願うのは僕という存在自体の消滅。
 僕なんかが生まれたことさえなかったことにすれば、皆は僕が消えたことに対して悲しむことさえなくなります」

 「自分が何を言ってるのか分かってるのか?
 お前がその人たちを大事に思うのと同じくらいに、その人たちだってお前のことを大事に思ってる!覚えていたいと思ってるに決まってるだろ!」

 瞬間、ユウスケの脳裏に過るは牙王に連れられダグバとの戦いに単身向かおうとしたあの時に一条に言われた言葉。
 『皆の笑顔の中に自分の笑顔も加えろ』。
 今自然に自分の口から出たその言葉に、かつての自分の行動がいかに愚かだったかを痛感しつつ、同時に浮かぶは自分にそれを指摘し間違いを気づかせてくれた一条たちへの感謝であった。

 彼らが自分に与えてくれた思いの分まで今目の前で悩める彼を助けなければ。
 使命感にも似た感情を抱いて、ユウスケは今一度サガを逃がさんとするその右手に強く力を込めた。
 同時、そのユウスケの言葉を聞いて、サガが見せたのは僅かばかりの動揺だった。


587 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:41:49 mdfqo6.Y0

 恵さん、静香ちゃん、健吾さん、嶋さん、マスター……彼らの顔と、そして育んできた記憶と友情と笑顔が、不意に脳裏を過ぎったのである。
 しかし、すぐに迷いは絶ち消える。
 既に自分が記憶を消した名護を、そして自分が存在するせいで死んでしまった深央を思えば、彼らの記憶にだって自分なんか最初からいなかった方が良いのは当然のことだった。

 「――黙って!僕はもう決めたんだ、人間とファンガイアが共存できる世界を作った後、それまでの罪を全部背負って、消えようって、だから――」

 「何言ってるんだ!人間とファンガイアのハーフ、二つの種族にとっての架け橋、共存の証明……そんなお前自身が消えたら、人間とファンガイアは永遠に分かり合えなくなる!」

 「そんなのでたらめだ!それに僕がいなくなったとしても、きっと太牙兄さんが上手くやって――!」

 「自分の責任から逃げようとするな!」

 思わずクウガから目を離し叫んだサガに対し、一方のクウガは一切彼から目を離さず真っ直ぐに言い放った。
 思いがけないその言葉に、意図せず息を呑んだサガに対し、しかしクウガは怒鳴ってしまった自分自身を宥めるように一つ息を吐いて、続けた。

 「……俺の知り合いにも一人、人間とファンガイアの二つの血を持った王がいる。
 『ファンガイアは人間を襲ってはならない』。その掟が存在する世界で、それでもそいつはただ一人自分が王には相応しくないと悩み続けてた。
 ……自分自身が、掟に背き人を襲いそうで怖かったからだ」

 言いながらユウスケは思い出す。
 自分がキバの世界で出会った仮面ライダー、ワタルのことを。
 彼は若いながらもその血故に王としての多大な期待を一身に受け、その責任の重さに潰されそうになっていた。

 だから自分は、親衛隊として彼の手伝いをする決意を決めた。
 人は誰だって一人ではやっていけない。自分自身が士との出会いで実感したことを、彼にも教えてあげたかったから。

 「途中でそいつは、王になることから逃げようとした。でもそれは出来なかった。
 何より信じていたからだ、掟を。いや、掟なんかなかったとしても、人間とファンガイアが共存できる世界を」

 何が起ころうと、ユウスケはワタルを支え続ける覚悟は出来ていた。
 王だから仕えるのではない、彼だからこそ、自分は仕えることにしたのだと、掟を信じ戦える彼だからこそ、王に相応しいと思ったから。
 キバの世界で起こった長いようで短いワタルとの交流を思い出しながら、ユウスケはその瞳にもう一人の“渡”を映す。

 「お前はどうだ渡。結局、全部中途半端にして逃げようとしてるだけじゃないのか?
 加々美さんを殺してしまったことを正当化するために他の世界の人間を切り捨てるなんて言って、その為にファンガイアのキングって立場を利用して」

 「……て」

 「向き合い続けていたらキングとしての自分でいられなくなると思ってキバットからも逃げて、最後には名護さんの記憶まで消してあの人と戦うことからも逃げて」

 「……めて」

 「結局お前はそれらしいことを言って全部から逃げてるだけだろ!
 紅渡としての人生からも、キングとしての責任からも、人間とファンガイアが共存できるっていう夢からも!」

 「やめて!」

 怒号と共に振り抜かれたサガの拳は、タイタンフォームの堅固な鎧さえ揺るがし、両者の距離を僅かに離した。
 その体躯故、クウガが二の手を次ぐのに遅れた瞬間、既にサガは得物であるジャコーダーを懐から取り出しクウガへと振るっていた。
 怒濤の勢いで……というより狙いを定める様子もなくただがむしゃらに振るわれるその攻撃に、まともな反撃さえ許されないクウガ。

 しかしタイタンフォームの防御力があれば少しの間、サガによる攻撃の勢いが収まるまではやりすごせるのでは。
 そんな甘い考えを抱いたしかし次の瞬間、彼の身体は大きく宙を舞っていた。
 サガがジャコーダーによる鞭打が有効的ではないと判断し、その鞭をクウガの足に巻き付けたのである。


588 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:42:06 mdfqo6.Y0

 ただでさえマイティフォームより幾分も重くバランスに劣るタイタンフォームだ、少し足下を引っ張ってしまえば、容易に体勢を崩す。
 そして後はクウガ自身の重さによって地上に頭から落ちるだけでも戦闘不能レベルのダメージを与えることが出来るということだ。

 「――くッ!超変身!」

 しかし、瞬間アークルは空中で光を放ち、クウガの身体を青く細身の姿へと作り替える。
 ドラゴンフォームとなり身軽になった影響で、先ほどまで不自由だった両手も自由になり、間一髪頭から落ちるところだった身体を逆立ちの姿勢で支える。

 「なッ……」

 「ハァッ!」

 変幻自在のクウガの技に驚愕を隠せなかったサガに対し、彼はそのまま勢いを利用してバク転の要領で思い切り立ち上がり、それと同時に足に絡みついたジャコーダーを思い切り引き寄せた。
 これには思わずといった様子で体勢を崩したサガは、しかしすぐに体勢を立て直し、今度は逆に力に劣るドラゴンフォームを振り回そうとジャコーダーを頭上へと手繰り寄せる。

 だが、ここでクウガはまたしてもサガの予想を上回った。
 自分を引き寄せるため手繰り寄せた鞭に対し、敢えてそれと同じタイミングで飛び込み自分の勢いに利用したのである。
 これはまずいとサガは対抗策を探るが、しかし全ては遅かった。

 「うおおりゃああああぁぁぁ!!!」

 空中で再度マイティフォームに変身したクウガの右足が燃え上がり、ジャコーダーを握った右手にその必殺の一撃を食らわせたからだ。
 放たれたマイティキックの勢いはジャコーダーをはたき落とすだけでは収まらず、そのままサガの胸にまで到達した。
 大きく吹き飛び変身を解除された渡は、そのまま地面を大きく転がっていく。

 ダメージの為にろくな受け身さえ許されず地に這いつくばる渡は、そのままクウガによる追撃を覚悟する。
 だが、彼の予想を裏切って、クウガもまた未だ制限を迎えていないだろうというのに自分からその生身を晒した。

 「なんで……変身を……」

 「言ったろ?俺はお前を倒す為にここにいるんじゃない。
 お前を救うためだって」

 思わず狼狽した渡に対し、生身となったユウスケはそのまま渡の横に座り込んだ。
 なんと愚かな男だろう。
 自分の決意は先ほどの問答を終えても何一つ変わってはいない。

 あぁ、先ほど取りこぼしてさえいなければジャコーダーで止めを刺す絶好のチャンスだというのに、と歯噛みした渡はしかし、視線の先でジャコーダーを回収しているサガークの姿を見つける。
 となれば先ほどのように体力回復の意も含めて彼に話を合わせ時間を稼ぐのも一つの手か。
 そう考えて、あくまで望むべき結果の為に取る無駄な行為という考えを崩さぬまま、渡は何とか起き上がりユウスケの横に並ぶ形で座り込んだ。
 
 それを見て、横に座った渡に何を感じたか、ユウスケはしかし薄く笑った。

 「さっき、お前のことを全部のことから逃げてるだけだって言ったよな。
 ……なぁ実は、士のことに関してもそうなんじゃないか?」

 だが、開口一番放たれたユウスケの意外な言葉に、渡は思わず目を見開く。
 世界の破壊者ディケイド、その存在に何故、自分が逃げているなどと言われねばならないのだ――!
 しかし渡の抱いた怒りを気に留めることもなく、ユウスケはそのまま続ける。

 「アポロガイストから世界の破壊者ディケイドの話を聞いたとき、お前は少し嬉しかったはずだ。
 キングとしても紅渡としても倒さなきゃいけない敵を見つけられたと思って。
 ……もしかしたらそんな奴を倒す為ならお前の親父さんや名護さんともまた一緒に戦えるかもしれない、そう思ったから。……そうだろ?」


589 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:42:57 mdfqo6.Y0

 ユウスケの言葉を即座に否定することは、渡には出来なかった。
 事実自分は名護と再会した時にディケイドとの戦いに関してだけは彼に賛同してくれるよう願った。
 その裏に戦力としてだけではなくもうわかり合えないはずの名護との共闘を望んでいた自分はいなかったとは、彼にも断言出来なかったのである。

 「だから、実際に士に出会って、あいつの言葉に触れたとき、お前は困惑したんだ。
 少なくとも紅渡としてのお前は、あいつの言葉を信じたいと思ったから」

 しかし続いた言葉は、先ほどのものより更に信じがたいものだった。
 自分が、あのディケイドの言葉を、夢について語ったあの言葉を、信じたいと思った、だと?
 そんなわけない、と即座に拒絶してもいいというのにこの身体が動かないのは、まさか自分の中に未だ残る甘い自分、“紅渡”がそれを拒絶するからだろうか。

 「それでも自分はキングだって自分自身に言い聞かせて。ディケイドを倒さなきゃ世界は滅びるなんて話を頭ごなしに信用して。
 そうでもしなきゃ、キングとしての自分を保てなくなりそうだったから」

 「そんなこと……それに、一刻も早くディケイドを倒さなければ、全ての世界が……」

 「渡」

 どこまでも渡が気付いていなかった”自分自身”に触れるようなユウスケの言葉にやっとの思いで反論を試みる渡。
 しかしその勢いは先ほどまでのディケイドに向ける憎悪を思えば実に可愛らしいものだった。
 そしてその渡の言葉を遮り名前を呼んだユウスケの瞳は、どこまでも真っ直ぐで、彼は再度言葉を失ってしまう。

 「もう気付いてるんだろ?アポロガイストのその言葉が、真実とは限らないって。
 それに、そうじゃないって信じたい自分にも」

 「僕は……」

 ――渡には、もう自分の感情がよくわからなかった。
 地の石を通じ自分の感情を垣間見たという彼の言葉は、決して出まかせではないだろう。
 事実、そうであれば確固たる自信でもって拒否できるはずだというのに、それが出来ない。

 だからこそユウスケの言葉が実際に自分が思っていることなのではないかと、そう思ってしまう。

 「渡……」

 そうして言葉を詰まらせ視線を泳がせた渡を前に、戦いに巻き込まれないよう逃げていたキバットが一人呟いていた。
 あそこまで頑なだった渡が、ユウスケの言葉を聞いて揺らいでいる。
 それは自分が見込んだ以上の偶然が起因するものとはいえ、あの渡にようやく言葉を届かせることができたのは、やはり自分の見込んだ通りユウスケの力であった。

 「ありがとよ……加賀美の兄ちゃん……」

 思わずといった様子で、キバットはこの殺し合いの場で初めて出会った他世界の男に感謝を述べていた。
 実際にはユウスケのもとに自分を導いたのは彼の持っていたガタックゼクターであったが、キバットにはそれに宿った加賀美という青年の思いをどうしても感じずにはいられなかったのである。

 「ん?」

 一人物思いに耽り渡を下手に刺激しないようにと後方より座り込む二人を見ていたキバットは、しかし瞬間誰にも気づかれぬまま暗闇の中から這いよる一つの影に気付いた。
 それは渡の忠実なしもべであるサガークが、ジャコーダーを今まさに渡の手に落とすその瞬間であった。

 「なッ、ユウス――ッ!」

 かつての相棒ではなく彼を救おうとしてくれた心優しい青年に声をかけようとしたキバットの言葉は、しかしそこで止まる。
 ジャコーダーを手にし本来ならそのままユウスケを貫くことができるはずの渡の手はしかし、未だ力なく垂れさがるだけだったからだ。


590 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:43:13 mdfqo6.Y0

 「渡……お前……」

 驚愕を隠し切れぬ様子で一人また小さくぼやいたキバットは、しかしそれで再度確信する。
 今目の前にいるのは許されざる悪ではなく、自分の唯一無二の相棒なのだと。
 ただそれだけの実感が抱けたというだけで、もう彼には十分であった。

 「――もし、本当に士が破壊者だったなら、その時は俺があいつを破壊する」

 何度目かわからない沈黙の後、ユウスケが切り出したのはしかし意外な言葉だった。

 「え?でもディケイドは貴方の仲間じゃ……」

 当然ともいえる渡の疑問に、ユウスケはいつものように朗らかな笑顔で煙に巻くこともせず、真剣な目で渡を見据えて答える。
 その脳裏に、いくつもの世界を共に歩んできた最高の仲間の顔を思い出しながら。

 「そうだ、士は俺に大事なことをたくさん教えてくれた仲間だ。
 でも、だからこそあいつが本当に世界を破壊する存在だったなら、俺にはあいつを倒す義務がある」

 「義務……?」

 ユウスケの言葉に、再度渡は疑問符を浮かべる。
 しかしユウスケはそれさえも受け止めて、ゆっくりと頷き、続けた。

 「あぁ。あいつは俺が全ての笑顔を守るなら、俺の笑顔を守ってくれると言った。
 だから俺は、あいつが全てを破壊する悪魔になった時は、あいつを破壊してやらなくちゃならない。あいつが、俺を笑顔にしてくれた分まで」

 それは、決して咄嗟に吐いた出任せの言葉ではなかった。
 以前からそういった思考が存在していたと言われても納得せざるを得ないような、確たる言葉であった。
 自分自身にも言い聞かせるように一言一言噛み締めるように呟いたユウスケは、今度こそ笑顔を浮かべ渡に向き直る。

 「だから渡は、自分が本当に信じたいものを信じろ。
 お前が信じたものが間違っていたときは、俺が責任を取ってやる。
 ……信じたいものを根拠なんてなくても信じ続けることが出来る、それが王の資格、らしいからな」

 士の言葉を引用するユウスケの顔はしかし、先ほどまでの殺伐とした言葉から考えれば和やかですらあった。
 それを見ればユウスケが士に何らの憎しみや嫉妬などを抱いていないのは明白で、それによって渡は一層混乱してしまう。
 話せば話すほど、門矢士という存在に対する彼の感情が見えなくなってくる。

 信頼はもちろん存在するだろう。
 だが同時に彼が多くの存在の笑顔を曇らせるなら自分が倒さなければならないという思いもまた確かなものだ。
 それはどこか、士自身も自分がそうなってしまったとき、彼に倒されるのを望んでいるだろうことさえ知っているような、そんな口調ですらあった。

 「何故そこまで僕の為に……?」

 「信じたいからさ。何より俺が、お前のことを」

 そして極めつけに、ユウスケはこれまでで一番の笑顔を浮かべた。
 それを見て、いよいよ渡には何もわからなくなってしまった。
 ディケイドへの憎しみ、他世界すべての参加者を犠牲にする覚悟、そして仲間たちから自分の記憶を消すことについても。

 何が自分にとって譲れないもので、何が自分にすら吐き続けている嘘なのか。

 「僕は……」

 ユウスケを受け入れるのか、それとも拒絶し今までと同じくディケイドを倒すために一人孤独に戦い続けるのか。
 そんな迷いに駆られ、どれだけの時間が沈黙と共に経過しただろうか。
 それに関する正確な感覚さえ失った渡がしかし、何か答えを紡ごうと口を開いたその瞬間、彼らは、火花に包まれた。


591 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:43:40 mdfqo6.Y0

 「――うわッ!?」

 その瞬間、ユウスケは素っ頓狂な叫びをあげ爆風の勢いのままにその身体を吹き飛ばされた。
 もう少しで渡の言葉が聞けそうだったというのに、このタイミングで横やりとは狙ったとしか思えなかった。

 「渡、大丈夫か!?」

 「えぇ、僕はなんとか……」

 同時に、横に座り込んでいたはずの渡の安否を確かめると、彼もまた苛立ちを隠せない様子で恐らくは攻撃を放ったのだろう第三者へと鋭く瞳を向けた。
 何らかの衝撃波と地面が接触し発生したのであろう煙が彼らの視界から消えると同時、そこに現れた男の顔に、二人は見覚えがあった。

 「やぁ、クウガ、それにキバ……いや、今はサガって呼ぶべきかな?
 それともこう呼んでほしい?“弱いほうのキング”って」

 「お前、大ショッカー幹部の――!」

 「そ、ご名答。僕の名前はキング。
 第一回放送前に死んじゃった名前だけ同じ雑魚や、そこにいるサガとは比べ物にならないくらい断トツで一番強いから、キング。
 あー、あと何でここにいるのかとかそういうつまんない質問は無しね、このエリアにいられる時間ももう残り少ないんだし、お互いそれよりもっとやりたいことあるでしょ?」

 自己紹介をしているだけのように見せかけながら、キングと名乗った青年は常に視界の端に渡を捕らえニヤニヤとした笑みを浮かべ続けていた。
 恐らくは渡がキングの名を受け継いだ先代について第一回放送に引き続き侮辱することで彼の平常心を奪い自分のペースに乗せようとしているのだろう。
 ただそれだけの下劣な手段だとわかっていてもなお、渡が見過ごせないように言葉を選びわざわざ気に障るような言い方をしているのだから、なるほど確かにこの男は相当に弁舌に長けるらしい。

 「先代の王への侮辱は許しません。
 あなたへの判決は、僕自身の手で下します」

 そして案の定というべきか、キングの挑発に従うように彼へ宣戦布告をし渡はデイパックへ手を伸ばす。
 だが鬼気迫るその表情は、一瞬の後に驚愕に変わっていた。

 「プッ、プッハハハハハハハ!!!」

 そしてそれを受けて、キングは待ってましたと言わんばかりに大声で彼を嘲る。
 あまりにも不快なその声に、その表情に、嫌悪感を隠そうともせず顔を歪めた渡に対し、キングはその反応さえ予想通りだと示すように自信げに自身の懐に手を伸ばしていた。

 「君が探してるのはこれだろ?サガ。
 悪いね、これは僕がもらったよ」

 「なッ――!」

 驚愕の声を上げたのは、渡ではなく、キバットとユウスケだった。
 そう、キングの手に収められていたそのバックルこそ、自分たちがこの殺し合いで今いる西側エリアに来て以来ずっと苦しめられ続けているといっても過言ではないアイテム、レンゲルバックルそのものだったのだから。


 ◆


 時は、少し前に遡る。
 ゾーンメモリの効果でE-4エリアからD-1エリアに移動してきたキングは、新たにD-1エリアの病院を標的として定め作戦を練っていた。
 まずは先ほど内紛を引き起こすのに成功したディケイドのように、面白い存在がそこにいるかであったが、これは十分すぎる存在がいる。

 あのブレイドを殺した、カブトに擬態したワームがなぁなぁで正義の味方ヅラしていることを指摘するのも面白そうだし、ジョーカーなんて大層な名前の仮面ライダーに変身するダブルの左側を殺して自分の知るジョーカー、相川始やダブルの右側の反応を見るのも面白そうだ。


592 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:43:55 mdfqo6.Y0
 他にも間宮麗奈の中に眠るウカワームもうまく利用できれば面白くなりそうだし……と続々と浮かぶアイデアに自分の手持ちのアイテムを重ね合わせどれが現実的に再現可能かを考えていく。
 とはいえどれも先ほどのディケイドとオーガの戦いに比べればあと一手物足りない、と珍しく熟考を重ねたキングは、しかし次の瞬間自身に接近してくる何らかの存在に気が付いた。

 参加者にしては小さすぎるそれに大方の目星をつけつつ振り返れば、なるほど思った通りというべきか、自身にも覚えがあるクローバーの意匠が刻まれた小さな箱が浮遊しているではないか。
 すかさず念力で捕らえてみると、元からそれが狙いだったかのようにその箱、レンゲルバックルはすんなりとキングの手に収まった。

 「やぁレンゲル。こんなところで出会うなんて奇遇だね。
 あれ、でも確か君は……」

 めぼしい参加者であればともかく、よほどの参加者の手に渡らない以上自分にとって害になりえないレンゲルバックルの動向について記憶が定かでなかったキングが思いを巡らせるのと同時、レンゲルバックルからキングに向けて秘められた記憶が流れ込んでくる。
 それは実際のところレンゲルバックルに封印されているスパイダーアンデッドの悪しき意思が見せるものだった。
 紅渡に拾われ、完全には意識を奪い取れないながらも彼の闘争意識を強くすることで名護からの和解の提案を決裂させる一因となる、かつての相棒であるキバットとの再会においても地の石というアイテムに強く意識を集中させることで、トラウマとすら言えるクウガを無力化し手元に置くと同時に表面上はごく自然に彼が後戻り出来ないような土台作りを演出していったのだ。

 だが、スパイダーアンデッドの目論見がうまくいったといえるのもここまでだった。
 地の石はそれより前に受けた傷により動作不良を起こしクウガを洗脳しきれず、結果としてそのまま戦闘に持ち込まれてしまう。
 この時点でスパイダーアンデッドにはあの黒いクウガの影がチラつき、破壊されるくらいならばと逃走を図ろうとした。

 つまり闘争本能を刺激され戦いを求めた渡がしかしサガを用いてもなおクウガに敗れ去った時、既に彼は新しい主を求め渡を見捨てていたのである。
 そして、レンゲルバックルが探した理想の相手、それがブレイドの世界崩壊に関して利害の一致により協力できるはずと考えた自分の世界のアンデッドだというのはもう述べられた通り。
 出来れば橘朔也ではなく相川始を、とあてもなく彷徨ってすぐのところで、存在を認識していなかったキング、つまりはスペードスートのカテゴリーキングを見つけそれに脅威を伝えるため接触したということである。

 これが、渡が名護やキバットとの会話でひたすらに頑なであったというのにユウスケとの会話では少々聞く耳をもった理由であり、同時にレンゲルバックルがここにいる理由であった。

 「ふぅん……、ま、どうでもいいや」

 レンゲルバックルの記憶や意思を一通り聞き終えて、しかしキングは一切の興味を示した様子すらなくそう吐き捨てた。
 スパイダーアンデッドにとって想定外だったのは、こうして新しく自分の主となったキングという男は、恐らくアンデッドの中で唯一と言っていいほど自分の種の存続というバトルファイトの報酬について無関心な男であったこと。
 そしてもう一つ、彼はどうあがいてもブレイドの世界存続に貢献できない主催者側の存在であったということだ。

 だが悔やんだところでもう彼にキングの手から逃れることは出来なかった。
 使用者として選ぶ存在がことごとく自分に不都合に動くという、もう何度目になるか分からない展開を覚悟した彼の不安は、的中していた。
 先ほどの渡と同じように、このキングもまたレンゲルバックルから得られた『クウガと戦うべきではない』という警告をただの情報と受け取ってそちらに自分から向かうような男だったのだから

 「まぁ取りあえず病院は後回しでこっちに行ってみようかな。
 誰がいるのかも分かってるし、調子に乗ってる身の程知らずな“キング”君に本物のキングが誰なのか教えてあげるいい機会だしね」

 そうレンゲルバックルに囁くように告げて、キングは一人病院に背を向けて荒廃したかつて市街地だった闇の中へ足を進めていく。
 もちろん後回しにしただけで、こっちにも戻って来るけどさ、と誰に告げるわけでもなく笑いながら。


593 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:44:10 mdfqo6.Y0


 ◆


 「どう?驚いた?自分の変身アイテム、まさか僕にとられるとは思ってなかったでしょ」

 レンゲルバックルを再度懐に戻しつつ、相変わらず人を馬鹿にするような笑いを浮かべながらゆっくりと歩み寄ってくるキングを前に、唯一存在していたはずの抵抗手段さえ奪われ思わず後ずさりする渡。
 それでも許される限りの抵抗を、とその手に握りしめたジャコーダーを振りかぶろうとしたその瞬間、二人の間に滑り込む影が一つ。

 「――待て」

 小野寺ユウスケ、その人である。
 強い意志でもって渡を庇う様に立った彼に対して、しかしキングは小ばかにするように鼻息を一つ鳴らすだけだった。

 「クウガ。なんでサガを庇おうとするの?そいつは君を操って人殺しの道具にしようとしたんだろ?」

 「そんなの関係ない。俺は俺の信じたいものを……俺が感じた渡の優しさを信じる」

 「笑える。そうやって信じた結果が、アビスや強鬼をその手で焼きつくすことなわけ?
 肝心なダグバはもっと強くなってピンピンしてるのにさ」

 ダグバがより強くなった、という言葉に少しばかりの引っ掛かりを覚えつつも、ユウスケはしかしそれでももう迷う素振りを見せず真っ直ぐにキングを見据えた。

 「確かに、それは俺が一生をかけて償わなきゃいけない罪だ。でも、それに囚われてうじうじしてるだけじゃ、結局誰も救えない。
 少なくとも今俺が手を伸ばせば死なずに済む人がいるなら、俺はそれを見捨てることなんて出来ない。例え不格好でも、うまくやりきれなくても、これが俺だ、俺のやりたいことだ!」

 そこまで言い切って、ユウスケは天に向け大きく右手を掲げる。
 瞬間空より降った青の一閃は、渡にも見覚えのあるものだ。
 やがて点と化したその高速の星をしっかりとその手で受け止めて、ユウスケは顔だけ渡に振り返った。

 「渡、よく見ておけ。これが加賀美さんが俺に繋いでくれた力。人を、お前を助けるために俺に託してくれた力だ!
 ――変身ッ!」

 ――HENSHIN

 掛け声とともに銀のベルトに叩き込まれたガタックゼクターから、ユウスケの全身を覆い隠すように青のヒヒイロノカネが形成される。
 重厚な鎧に二門のバルカン砲を肩に構えた移動要塞、仮面ライダーガタック、そのマスクドフォームと呼ばれる形態が、再び渡の前に姿を現した瞬間であった。
 変身の完了を示すように赤く闇夜に輝いたその瞳に全身を照らされながら、しかしキングは余裕の表情を崩さない。

 「へぇ、ガタックか。それじゃ僕はこれにしようかな。
 変身、っと」

 あたかも適当に選んだ、というような言い草でキングは懐から黒地に金のエンブレムが入ったデッキを取り出す。
 ガタックの鎧に反射したその姿に反応し現れたバックルにそれを装填すれば、キングの体はたちまち異形のものへと変貌した。
 オルタナティブ・ゼロ、先の戦いで野上良太郎から奪い取ったその戦利品を、今またしても悪のために戦うアンデッドが纏った姿だった。

 「さてそれじゃ、始めようか?」

 「うおおぉぉぉ!!!」

 オルタナティブのあくまで軽い言葉に、ガタックのどこまでも響くような咆哮。
 それを合図にして、今新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。


594 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:44:37 mdfqo6.Y0

 
 ◆


 戦いを始めたガタックとオルタナティブを前にして、紅渡は一人戦場から踵を返していた。
 戦えるだけの力がないためだ、制限のかかっていない力として見込んでいたレンゲルが敵の手に渡った以上、もう自分の手のうちに今使えるアイテムは存在しない。
 時計を見れば時間もすでに4時を回っている。

 もう少しで禁止エリアになるだろうここに執着するよりも、制限解除までをどこか別のところで休息するのが正しい選択ではないかと渡は感じたのだ。

 「――どこ行くつもりだよ、渡」

 乗ってきたバイクに向かってふらふらと歩いていた渡に、上方から降ってくる声が一つ。
 聞き覚えのあるその声を無視するべきか数舜考えてしまったその時点で、既に渡は彼から逃げるタイミングを失ってしまった。

 「キバット」

 仕方なく見上げれば、そこにはどこか怒りを込めたように目を細めるかつての相棒の姿があった。
 その失われた片目を見るたびに、渡はどうしようもなく胸を締め付けられる。
 自分があそこで彼をこんな戦場に一人投げ出してしまったから、こんな傷を負うはめになってしまった。

 自分と一緒にいても彼を利用してしまうだけだと決別したというのに、その結果として突き付けられたその痛ましい傷跡は、渡は嫌でもユウスケに言われた『逃げ』という言葉を痛感させる。
 もしかしたら自分がキバットから逃げなければ、こんな傷を彼が負うこともなかったのでは。
 そんな意味のない思考が、渡を捕らえて離さないのである。

 「……なぁ、渡」

 「キバット、僕のことは放っておいて。もう君と僕には、何の関係もない」

 どこまでも変わらないキバットの問いかけに、渡はあくまでも拒絶で答える。
 或いはそれが先ほどまでと同様キバットをしっかりと見据えたものであったなら彼もここでおとなしく引き下がったのかもしれないが、此度は違った。
 本来は無関係であるはずだというのに持ち前の優しさであそこまで渡を説得してくれたユウスケの思いを、渡の相棒であるはずの自分が受け継げなくてどうする。

 ここで彼をこのまま見送ることは、きっと誰も望んでいないことなのだ。
 そう自分に言い聞かせるようにして、キバットは一つ自分の中の躊躇を飲み込んだ。

 「――また逃げんのか?」

 ピタリ、と渡の足が止まる。
 彼が今の道を行ってしまったのはユウスケの指摘した彼の逃げについて、誰よりも近くで見ていながらそれを止めることをしなかった自分の責任でもあると、誰より強く自覚しながら。

 「違う、僕は逃げるんじゃない、王は敵を前にして無様に逃げたりしない!」

 「あぁそうだろうよ、お前が逃げんのはあのキングってヤローからじゃねぇ、ユウスケからだ!
 あいつと一緒にいると自分の中の何かが変わっちまいそうで怖いから、だから逃げるんだろ?名護の時と同じように!」

 キバットの必死の剣幕を前に、渡は少したじろいだ。
 長年彼と共に生きてきて、幾度となくケンカしたこともあった。
 だがその大半が下らない理由によるもので、しかも最後には大抵キバットが折れて終わっていた。

 だからこそ、だろうか。
 ここまで折れずに自分に反論するキバットを見て、今回はいつものように彼が折れて終わることはないのだろうと気付いた。
 少なくとも渡にそう思わせる程度にはキバットが必死の思いで止めなければならないことを、自分はやっているのだと、そう思った。


595 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:44:54 mdfqo6.Y0

 「そんなこと言ったって、結局今の僕には変身もできない。
 だから今の僕には退く以外に何も……」

 「……出来るじゃねぇか、変身なら」

 言って自分の胸(正確には口の下)を叩くキバット。
 しかしそれを見て、渡はどうしようもないほどの怒りが沸き上がるのを感じていた。

 「ふざけないで!言ったでしょ、僕は君をもう二度と利用したくないんだ。
 自分の都合で君を利用するなんて、もう二度と――」

 「勘違いすんじゃねぇ!」

 だが返ってきたのは、渡が今まで聞いたキバットの声の中で、最も大きな怒号だった。
 思いがけないその声量と、そこに込められているだろう感情に渡は思わず気圧されるのを感じていた。

 「いいか、渡。
 今はな、お前が俺を利用するんじゃねぇ、俺がお前を利用するんだ。
 ……ユウスケを助けるためにな」

 「キバットが、僕を利用する?」

 「そうだ、俺はこの通りボロボロだし、俺だけじゃ俺の我儘を聞いてくれた男一人助けてやることが出来ねぇ。
 でもお前がいれば、それが出来る。ついでに、あのムカつくヤローをぶっ潰すチャンスだってな」

 キバットの言葉は、渡にとって意外としか言いようがないものだった。
 キングの打倒、劣勢であるユウスケへの助力、そして渡との間に生まれた確執。
 それら全てを解決するために、キバットはきっと必死に考えたのだろう。

 自分なら、その提案を蹴れるはずがないとそう思って。

 「……だからよ、半分だけ力貸せよ、渡」

 そう言ってキバットはニヒルに笑った。
 きっとまだ自分を許し切ったわけではあるまい。
 だがそれでもこの瞬間、利害の一致したこの瞬間だけでも、自分を仮面ライダーとして戦わせたいのだろう。

 それに思い切り反抗することも出来なくはなかったが……今の渡には、それも意味のないことに思えた。
 そして何より、視界の先で青い仮面ライダーを蹂躙し嗤う黒い戦士を見たとき、それ以上の思考は渡にとって不要なものと化したのだ。
 黙って頷いた渡に、キバットもまた頷き返す。

 それだけで、二人にとってお互いの意思を確認しあうには十分だった。

 「っしゃあ、それじゃ久々に……キバって、行くぜええぇぇぇ!!!」

 ビュンビュンと渡に周囲を飛び回ったキバットが、渡の掲げた右手に収まる。
 そのまま慣れた手つきで渡の手にキバットが噛みつけば、溢れ出す魔皇力が彼の体を迸り、渡の全身にステンドグラスのような紋様を浮かび上がる。
 それと同時腰に巻き付いた真紅のベルトの中心にキバットを収めると、渡の全身は新たに生成された鎧に包まれた。

 仮面ライダーキバ。
 キバの世界を代表する仮面ライダーが、今本来の装着者を伴って再びこの場に姿を現したのである。
 その身に抱いた思いは違えども、為すべきことはただ一つ。

 低く構えたキバは、視線の先で火花を散らす両雄に向かい飛び込んでいった。


 ◆


 分かっていた話ではあるが、キングは強かった。
 マスクドフォームの防御力に頼っていても、疲労した現状ただ相手のいいように時間を浪費するだけだと早々にライダーフォームへと変じていたガタックは、しかし未だに苦戦を強いられていた。
 こうなった原因は、ライダーシステムそれぞれの優劣によるものではない。


596 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:45:33 mdfqo6.Y0

 ただ純粋に、ガタックに変身する自分の体力が今対峙しているキングに比べ思い切り劣る結果なのだと、ユウスケは分析していた。
 牙王との戦いの時にも似た状況、しかしあの時と違い一人でただ一条を背負い歩き続けたこの数時間が、あの時よりもユウスケから体力を奪っていたのだ。

 (今の体力的に、クロックアップできるのは精々あと1回か2回。
 今のままじゃ決めきれない、何か……何か奴の気が逸れるようなことがあれば……!)

 クロックアップは、ZECT製ライダーであれば標準装備されているというその手頃さ故勘違いされがちだが、実際のところ高速移動中に体にかかる負担は多大なものである。
 未だ能力の全貌を露わにしないオルタナティブを前に自身の切り札を切るには、何か彼を動揺させるだけの何かが足りないと、ガタックは勝負を決めきれずにいた。

 「……ん?」

 そんな時、両者の耳に飛び込んできたのは、勇ましい戦士の足音。
 断続的に聞こえてくる、鎖が金属に触れ合うような音はユウスケにも非常に聞き覚えのあるものだった。

 「渡、キバット!」

 「ハアァァァァ!!!」

 ガタックの喜色を帯びた呼び声に反応することなく、キバはその勢いのままに飛び上がりオルタナティブに拳を振りぬく。
 確かな威力を誇ったはずのそれを難なくその手に持った大剣の腹の部分で受け止めながら、オルタナティブは再び嘲るように鼻で笑いながら口を開いた。

 「やぁキバ。お友達の蝙蝠君と喧嘩してるっていうから楽しみにしてたのに、もう仲直りしちゃったの?つまんないなぁ」

 「勘違いすんじゃねぇ!俺たちは今てめぇをぶっ倒すためだけに協力してるだけだ。
 俺はまだ渡をキチンと許したわけじゃねぇ、ユウスケにやったこと謝るまで、俺はこいつを相棒とは認めねぇ!」

 「あっそ、てか最初から君には聞いてないし」

 ただ吐息だけでオルタナティブへの敵意をむき出しにする渡に、彼の代わりに応対するキバット。
 なるほどこれは最高の相棒だと、キングは心中で静かに嗤った。
 それと同時キバが繰り出したハイキックを今度は切り落とさんとするが、しかし右足を封印するカテナによって阻まれ甲高い金属音を生じさせるのみだった。

 「やる気になってくれたとこ悪いんだけど、君たちの相手は後ね。
 まずはクウガと遊びたいから――」

 ――ADVENT

 そしてそれにより数歩後退ったキバが再び自分に向けて殴りかかってくる寸前に、オルタナティブは自身のデッキよりカードをバイザーに読み込ませていた。
 ガタックの持つカリバーから質量を無視して飛び出したオルタナティブの契約モンスター、サイコローグは主の命じるままにキバに襲い掛からんと大きく両手を広げる。

 「させるかッ!」

 ――CLOCK UP

 しかしそこで、ガタックの切り札が発動する。
 契約モンスターを倒せば弱体化するという『龍騎の世界』の仮面ライダーの性質上、ここでキバと分断させられ変身時間を浪費するよりは、ここでクロックアップを使用し一気に勝負を決めようと考えたのである。
 そしてそのままガタックは両手に持ったカリバーを合わせ必殺の一撃を――。

 「そんなことくらい、僕が読んでないと思った?」

 後方より突如現れたオルタナティブの攻撃で阻止された。
 ダブルカリバーをカッティングモードから双剣の状態へと戻し、何とか二撃目以降を凌いだガタックは、ことここに至って自分の甘さを呪った。
 大ショッカー幹部が、自分の変身したガタックを見てわざわざ手持ちの中から選んだ姿だ、高速移動に準ずる能力やそれに抵抗できる手段くらい、持っていて当然だと警戒して然るべきだったはずだ。


597 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:45:48 mdfqo6.Y0

 自分の愚策を悔いる中、防戦一方のまま貴重なクロックアップの時間が終了する。
 同時にオルタナティブの契約モンスターがキバを闇の彼方へと強引に移動させ、残されたのはまたしても自分たち二人のみとなってしまった。
 もう助けも望めないだろうだだっ広いこの荒野、先ほどよりも消耗した体力が、頼みの綱である高速移動能力を拒絶する。

 どうしようもない危機的状況でしかし、ガタックはまだ何も諦めてはいなかった。
 大ショッカーの幹部を倒し、これ以上犠牲になる人を増やさないためにも、大ショッカーに反抗すると誓った自分の思いが嘘ではなかったと証明するためにも。
 ここで立ち止まることなど許されないと、ガタックは決意を新たにカリバーを大きく振りかぶった。


 ◆


 オルタナティブとガタックの戦いから少し離れたところで、今また新しい戦いが始まろうとしていた。
 キバとサイコローグ、向き合った両者。
 意思の存在しないモンスターを前に、しかしキバは一切の油断をすることはなかった。

 先代の王や自分自身も使用したゾルダという仮面ライダーの力、そのシステムの大体を理解した渡にとって、この契約モンスターという存在の有用性は痛いほどに分かっている。
 そして同時に、自分たち参加者が契約モンスターを現界させたときに発生する消滅までのタイムリミット。
 あのキングという幹部に首輪は存在しておらず、ゆえに変身制限が存在しないだろうことを思えば、もしかすればこうして現れた契約モンスターも制限なく彼が望む限り現実世界に存在できるのかもしれなかった。

 そして自分たちが倒すべきは目の前のモンスターではなくそれを操るキングであるという事情を鑑みれば、むしろ10分という明確な変身制限が存在する自分のほうがより不利だと言えるだろう。

 「ハァッ!」

 まどろっこしい思考のすべてを一旦無に帰すかのように、キバは勢いよくサイコローグに向け右拳を振るった。
 その拳は敵の防御に呆気なく受け止められるが、それで怯むキバではない。
 続けざまに左右の拳を連続で繰り出し、敵の防御を崩さんと神速の勢いで攻撃を重ねていく。

 そしていつしか生まれた一瞬の隙、右ストレートによって数歩後ずさったサイコローグに、続けざまに放たれたキバの鋭い蹴りが突き刺さっていた。
 無防備に吹き飛んだ敵に、続けて追い打ちを仕掛けるため駆け寄るキバ。
 しかしそれを前にして、サイコローグの身体は一瞬で人型からバイクへと変貌していた。

 「な、何ィ!?」

 思いがけない展開にキバットが驚愕の声を上げると同時、瞬きの間に最高時速まで加速したサイコローグがキバを目掛けて突貫してきていた。
 間一髪横に転がり攻撃をやり過ごすが、急旋回し猛スピードで繰り出された二度目の突進は躱し切れずキバは大きく吹き飛ばされた。
 地を転がり肩で呼吸するキバのもとに、間髪入れずにサイコローグが突撃してくる。

 「クソッ、ちょこまか動き回りやがって……。
 そっちがその気ならこっちだって――バッシャーマグナムッ!」

 キバットに導かれるようにホイッスルを彼に噛ませたキバのデイパックから、緑の彫像が飛び出してくる。
 何の変哲もないそれは魔皇力を受け一瞬で銃のような形状へと変形し、右手でそれを握りしめたキバの身体もまた深緑に染まった。
 仮面ライダーキバ、バッシャーフォーム。

 高い機動力と遠距離からの自在な攻撃を可能とする、キバとその従者が融合した姿だった。

 「さっさと決めるぜぇ、バッシャーバイトッ!」

 バッシャーフォームへと変身したキバがマグナムをキバットに噛ませると、彼の足元を起点としてアクアフィールドと呼ばれる亜空間を発生した。
 向かってくるサイコローグを水面を滑るように移動して難なく回避し、キバはそのまま銃口を彼へと向ける。
 しかし対峙する敵もまたそうした攻撃は読んでいたのか、キバを中心にするように円を描きながら徐々に距離を詰め、攪乱と攻撃を両立させる。


598 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:46:04 mdfqo6.Y0

 このままではまともに照準を定めることは出来ず、キバに待つのはただ行き止まり(DEAD END)のみである。
 そう、彼が持っているのがただのマグナムだったなら、それは避けられなかっただろう。

 「ハアァァァァ……」

 緩くゆっくりと息を吐きだしながら、キバはサイコローグが奏でる喧騒に気を取られることなく銃口を引き絞った。
 瞬間放たれた水の弾丸は、当然のように敵を直撃することなく彼方へと消えて……はいかない。
 一度行き過ぎたかに思えたそれは、次の瞬間凄まじいスピードで標的へ追跡を開始する。

 どんどん、どんどんとサイコローグが円の中心であるキバへ距離を縮めるたびに、キバの放った弾丸もまた彼へ肉薄していく。
 そしてまさにサイコローグがキバへと襲い掛からんとするのと同時、水の弾丸は彼へと着弾し、激しい爆発がキバを包み込んだ。


 ◆


 「ほらほらどうしたの?そんなもんじゃないでしょ?さぁ戦ってよ仮面ライダー」

 薄れかけた意識が、癇に障る高い男の声で覚醒する。
 こいつにだけは屈してはならない、何度目になるかわからないその覚悟で崩れかけた構えを何とか保つ。
 この戦いが始まってはや数分、未だにガタックはオルタナティブに対して有効な攻撃を浴びせることが出来ていなかった。

 もういつ変身制限が訪れてもおかしくはないと逸る気持ちが、より一層ガタックの消耗を加速させ彼から冷静さを奪っていく。
 その一部始終をすべて分かったうえで観察するのが面白くて堪らないとばかりに笑い続けるキングの声が、ひたすらに腹立たしかった。

 「お前は放送で、誰かを守るために戦った仮面ライダーの死を侮辱した。
 だから俺が、ここでお前を倒す。お前が馬鹿にした、その誰かを守るための力で!」

 「へぇ、誰かを守るために戦う仮面ライダーって、例えばもう一人のクウガ、とか?」

 「あぁそうだ!五代さんもあの石で操られていたとしても、本当は正義のために戦いたかったはずなんだ、それを――!」

 思わず語勢の強くなったガタックの耳に、ケタケタと笑い声が響く。
 あぁ全く、こいつの話にまじめに取り合うだけ時間の無駄だったかと肩を怒らせる彼に対し、しかしオルタナティブは軽薄に嗤うのをやめない。

 「いやごめん、ちょっとおかしくってさ。
 だって君が影響受けまくってるもう一人のクウガ、それを殺したのはほかでもない君の大事な仲間のディケイドなんだから」

 「……は?」

 キングのその言葉について、脳が理解を拒んでいるのが分かった。
 士が、五代さんを……一条さんにとって最高の友人で最も信頼のおける存在だと言っていたもう一人の仮面ライダークウガを、殺したと?
 地の石による誤解が生んだ結果かもしれない、そもそもキングの吐いた嘘、出まかせかもしれない。

 そんな甘い考えが脳を過るのと同じくらいに、もしかしたら士が破壊者として彼を破壊したのではという懸念が思考を占領していく。
 世界がどうとか関係なく、五代さんを破壊した破壊者として士と戦わなければいけないかもしれないという不安は、どうしようもないほどに強かった。
 どうしようもなく拭いきれないジレンマに陥りかけたガタックを、オルタナティブの放った横薙ぎの一撃が襲う。

 間一髪直撃は避けることに成功するが、ほんの数cm胸元を掠めたその衝撃だけで、ガタックの身体からは火花が散り、遂に彼は膝をついた。
 立ち上がろうとした瞬間自身の喉元に突き付けられたオルタナティブの大剣によって、ガタックはこの戦いの勝敗を察する。
 どうしようもない、一切の異論も認められないほどに、ユウスケの完敗、キングの完勝であった。


599 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:46:22 mdfqo6.Y0

 「ね?だから言ったでしょ?口先だけの正義の味方とか弱いだけだって。
 ルールも分かってないのに運だけで勝ち残っちゃった雑魚はさっさと退場してくれなきゃ」

 「運……だけ?」

 「そうだよ。僕の言ってること違うだのなんだのってうるさいくせに、誰一人僕より強い仮面ライダーなんていないんだ。
 つまり結局僕が言ってることが正しいってわけ。君たち仮面ライダーはみんな、間違ってるから弱いんだよ」

 ビュンと風を切り振り上げられた大剣がそのまま重力に従ってガタックの首に振り下ろされる。
 そのまま一切の抵抗さえ感じさせず地面に叩きつけられると思われたその剣はしかし、ガタックの頭上、彼が掲げた一対の双剣に阻まれていた。

 「なッ……!?」

 「間違ってるのは、お前だ。キング……!
 お前が今まで負けなかったとしたらそれはお前が、自分が有利になれる状況でしか戦おうとしない卑怯者だからだ!」

 ぴしゃりと言い切ったガタックに、オルタナティブは初めて僅かばかりの苛立ちを見せた。
 だがそれだけでガタックの言葉は止まりはしない。
 今まで良いように言われた分を取り返すかのように、彼はまた口を開いていた。

 「一瞬でもお前の言葉に揺らいだ自分が恥ずかしいよ……!
 けどもう俺は迷わない。人を守ることも、士のことも、俺は全部諦めない。
 もう二度と、悩んで立ち止まったりしない!」

 ――RIDER CUTTING

 新たな決意を叫んだガタックに呼応するかのように、ガタックの持つ二本のカリバーにタキオン粒子が流れ込んだ。
 ちょうどクワガタの鋏のような形でオルタナティブの大剣を挟み込んだダブルカリバーは、そのままじりじりと二人の間の力関係を逆転させていく。
 今まで膝をついていたガタックが徐々に立ち上がり、逆に今まで常に余裕を崩さなかったオルタナティブは徐々に呻き声をあげガタックの想定外の粘りに驚きを隠せないようだった。

 高まり切ったエネルギー、完全に形成を逆転させた両者の間僅かの間競り合っていた均衡は一瞬で砕け散った。
 オルタナティブの持つ大剣が、ガタックのライダーカッティングに耐え切れずその刀身を真ん中から二つに別ったのである。
 それにより大きく体勢を崩したオルタナティブは、しかしすぐに立て直そうと一歩後ろに飛びのこうとする。

 「ああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 だが、それを許さなかったのはガタックのタキオン粒子を帯びた右足だった。
 オルタナティブが仰け反ることさえ見越した間合いで放たれたその蹴りは見事に敵の胴体を捕らえ、彼方へと吹き飛ばす。
 それにより生じた爆発の中、制限により変身を解除され地に膝をつき肩で大きく呼吸をしながらも、ユウスケは大きく腕を空へと突き上げた。

 「――で、まさか今のが僕の本気、とか思ってないよね?勘違いしないでよ、これからが本番だから」

 だが次の瞬間、僅かな苛立ちを含ませながらも、未だ健在のキングが煙の中から現れる。
 先ほどまでと一つ違うことがあるとすれば、彼の姿がオルタナティブではなく軽薄な青年のものに戻っていることだ。
 今し方変身を強制的に解除されたというのに浮かべている軽薄な笑みを見れば、なるほどこれからが本番というのはあながち嘘ではないらしい。

 しかしそんなキングに対し、こちらにはもう変身手段どころかまともな抵抗を出来るだけの体力さえ残されてはいない。
 今度こそ万事休すか、そう思われたユウスケの瞳はキングの後方よりゆっくりと歩み寄ってくる、牙王やダグバにも遜色ないほどの威圧を誇る戦士を捕らえた。
 それは、今キバの持てる中で最高の形態、渡とキバット、そして彼に仕える三体の従者が一体化した姿。


600 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:46:37 mdfqo6.Y0

 仮面ライダーキバドガバキフォームがゆっくりと、しかし確実にキングに向け歩を進める姿だった。

 「今度は君が相手?キバ。なら僕だって……変身」

 しかしキバの威圧に一切怖じけぬまま懐から新しいデッキを取り出したキングは、東病院から持ち出してきた鏡の破片にそれを翳す。
 それによって装着されたVバックルにデッキを勢いよく叩き込んで、彼の姿は刹那のに青藍の騎士に変じた。

 「蝙蝠には蝙蝠……って奴?」

 仮面ライダーナイトサバイブと化したキングは、不敵な笑みを浮かべたまま剣を構えキバに突撃する。
 ガキン、と甲高い音を響かせてキバはダークバイザーツヴァイをユウスケのデイパックから呼び出したガルルセイバーの刃で、まんじりともせず受け止めていた。
 次の瞬間、生まれた拮抗に甘んじず、キバの引き絞ったバッシャーマグナムの引き金がナイトに向かって火を噴いた。

 弾丸の直撃を受け大きく吹き飛ばされたナイトは、しかし予想通りと言わんばかりにバイザーを弓状に変形させ無数の矢をキバに向けて放った。
 すんでのところでガルルセイバーを振るい、空気の矢を全て切り落とすが、しかし先の対処速度を見れば、単に情報量に頼り切っているだけではなくこのキングという男が――一番かはともかく――強いというのは満更嘘でもないようだった。

 「そういえばさ、キングっていう名前は、一番強いただ一人だけが名乗っていい名前なんだよね。
 君はあの“王様”より強いけど、僕より弱いんだからその名前使われるとムカつくんだよね」

 「ならやはりキングは僕だ。僕も……それにあの人も、お前より強い」

 「言ってくれるじゃん……!ならやってみなよ、無理だと思うけど!」

 その言葉を合図にするように、両者は互いに一斉の距離を詰めた。
 再度剣を構えキバを切りつけんとするナイトに、キバは出し惜しみは不可能だと悟ったか、ザンバットソードの名を持つ大剣とドッガハンマーの名を持つ槌を構える。
 ダークバイザーの刀身をザンバットで受け止めそのまま大きく振りかぶったドッガハンマーを思い切りスイングすれば、しかしそれはナイトの左腕に装着された盾状のバイザーに阻まれ本体には届かない。

 しかしその一撃のあまりの重さにナイトの動きが一瞬でも硬直すれば、それでキバには十分だった。
 片手のみで無理矢理に扱っていたドッガハンマーを乱暴に投げ捨てて、キバは両手でザンバットを振り下ろす。
 何とか己の得物でそれを凌ごうとナイトは藻掻くが、しかし先の一撃で生まれた身体の痺れによってまともな防御も叶わぬまま全身から火花を撒き散らした。

 呻きと共に後ずさり思いがけないキバの底力に意図せず圧されたナイトが顔を見上げた時には、既にそこに敵の姿はなかった。
 まさか。敵の狙いに気付きハッと空を見上げたときには、もうそれは完了していた。

 「――ウェイク、アアァァップッ!」

 勝利宣言にも聞こえるキバットの叫びが聞こえるのと同時、キバの身体は月まで飛び上がった。
 解放された右足のヘルゲートはそこにのみキバ本来の力が取り戻された証拠。
 ダークネスムーンブレイクの名を持つその最強の一撃を、歯噛みし見上げながら、ナイトは必死の思いで何とか盾を構える。

 必死に歯を食いしばり相手の一撃をただ享受せざるを得ないその姿には、最早先ほどまでの余裕は微塵も感じられなかった。

 「――キバれぇぇぇぇぇ!!!」

 キバットの絶叫に合わせて、キバの身体が急降下する。
 右足をナイトに向け真っ直ぐに伸ばし迫るその姿は、まさしく死神のようだった。
 ドン、と激しい音を響かせてキバの足とナイトの盾が接触し、その勢いのあまりそのままの体勢で彼の身体は大きく引きずられていく。

 しかしその拮抗も長くは続かない。
 キバの蹴りはナイトの盾をも超えてその一撃を敵へと届かせたからだ。
 盾により幾分か威力は死んだものの、しかしなおも並の怪人であれば容易に撃破できるだけのキバの蹴りを胸に受けて、ナイトの身体は大きく爆発を起こしたのだった。


601 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:46:52 mdfqo6.Y0


 ◆


 敵が包まれた爆炎の熱を鎧越しに感じながら、キバは無感動にゆっくりと得物を構え直した。
 先代の王、つまりはもう一人の“キング”との戦いにおいても、似たような状況が訪れ、そして彼が戦う気力を十分に残していたことを鮮明に覚えていたからだ。
 正直認めたくはないがあの時の王と同等程度の力を誇る、今自分と対峙するキングも、この程度の攻撃では敗北を認めないだろうとそう高をくくっていたのである。

 「ハハハ……、アハハハハハ……」

 そしてキバの読みは、的中する。
 キングが恐らくは真の姿であろう、金色の甲殻に身を包んだ怪人に変じながら、嗤いを絶やさず煙の中から現れたのである。
 その笑いは弱々しいが、しかし先ほど闇のキバの鎧を纏い戦ったダグバという狂人とはまたベクトルの違う狂気を孕んだものだった。

 ひたすらに戦うのが楽しくて堪らないといった様子だったあちらに比べれば、キングのそれは例えるなら悪戯を楽しむ悪ガキのようなものというべきだろうか。
 信念や決意など微塵も感じられない、ただ今を楽しめればそれでいいという思いが見え隠れするそれに葛藤の中で生きるキバは苛立ちを感じたが、しかしそれで取り乱すことはしなかった。
 だがそんなキングに対して感情を抑えきれなかったのは、少しばかりの間蚊帳の外に押しやられていたユウスケだった。

 「お前、何がそんなにおかしいんだよ……自分が死ぬかもしれないんだぞ……?」

 「だっておかしくってさ……、僕はまだ本気も出してないのに、そっちの王様気取りは全力なんだもん」

 その言葉に、鎧越しにも伝わるほどに膨れあがったキバの怒気。
 だがそれを受けても、なおキングは何がおかしいのかヘラヘラと呑気に構えるだけだった。

 「あれが僕の全力だったかどうか……試してみるか?」

 「いや、いいよ。だって――」

 言ってキングは突如その手に握ったオールオーバーから殺意を乗せた真空波を放った。
 しかし所詮は見え透いた攻撃、その程度今のキバであれば容易に対処出来る。
 ……はずだった。

 「――僕の勝ちだもん」

 「えっ?」

 思わず漏れた間抜けな声を、しかし渡は抑えることなど出来なかった。
 まだ数分残っていたはずのキバの変身制限が突然限界を迎え、その生身を晒したのだから。
 王の威厳を以て悠然と攻撃に対処するはずだった渡に、最早何の回避行動を取る時間さえありはしない。

 呆然と立ち尽くす渡、ユウスケの絶叫、キングの嘲笑。
 全てが重なった、永遠にも感じられるその一瞬が過ぎた後。
 紅渡は、天を仰ぎながら大きく横たわった。


 ◆


 「渡ッ!」

 思いがけない展開に、駆け寄りながら叫ぶのはユウスケだ。
 助けたかったはずの命がまた、自分の目の前で奪われてしまった。
 それを思うだけで彼の心に確かに存在していたはずの聖なる泉は二度と恵みをもたらさぬほどに枯れ果ててしまいそうになる。


602 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:47:11 mdfqo6.Y0

 困惑と敵への怒りと何より自分への不甲斐なさに、しかしもう溢れる涙さえ残されていなかったユウスケは、そのままキングに立ちはだかる。
 今しがた志し半ばに倒れてしまった渡と、そして――。

 「――キバット?」

 心中で呼んだその名前を、しかし実際に声に出したのは、ユウスケではなかった。
 それは自身が背に庇うように位置していた、致命傷を受けたはずの渡の、今すぐにでも消えてしまいそうなか細い絶望を秘めた声だった。
 その悲痛な声に、何が起きたかとキングのことさえ無視して勢いよく振り返ったユウスケの瞳に映ったのは、自分や仲間たちに分け隔てなく接し力を貸してくれた気の良い蝙蝠の身体が、左の羽の根元から消滅している痛ましい姿だった。


 ◆


 その時、渡には自分に何が起こったのか、皆目見当も付かなかった。
 何故正確に把握しているはずの変身制限が早く解除されるに至ったのか、何故攻撃を受けたはずの自分が生きているのか、そして何より、何故自分の親友であるキバットから片翼が失われているのか。
 何一つ理解の追いつかない状況の中で、ひたすらに積み重なっていく困惑がしかし自分に訴えかけてくるのは、『キバットの命が危ない』というただ一つの焦燥感だけだった。

 「――キバット?」

 思わず呼びかけた渡の声に、しかしキバットはただ漏れるような弱々しい呼吸を返すだけ。
 一体どうすればと頭が混乱した渡の耳に届いたのは、しかしこんな状況でも確かな存在感を有したキングの強い溜息だった。

 「ハァ、……驚いたよ。まさかそいつが君を庇っちゃうなんてさ、盛り下がるったらありゃしない」

 「何……?」

 緊張感の欠片も感じられないキングの声に思わず怒気を含み返した渡に対し、キングは変わらぬ調子で続けた。

 「気付かなかったの?君の変身が解けちゃった後、その蝙蝠くんは君を押し倒して自分だけで攻撃を受け止めたって訳。
 幾ら頑丈に出来てるって言っても、ダグバとの戦いで傷ついた今の身体に僕の攻撃を受けたら一溜まりもないことくらい分かるだろうに、馬鹿な奴」

 「馬鹿な奴……だと?」

 瞬間、渡より先にキングの声に怒りを露わにしたのは、ユウスケだった。
 渡の友として戦った彼のことも、別世界のワタルに仕える彼のことも、どのキバットも自分にとって友人であり、仲間だったのだ。
 そんな存在を侮辱されて黙っていることは、ユウスケには到底出来なかった。

 「あいつは、何をされたって親友を……渡を信じてたんだ!
 本当は他の世界を滅ぼすなんて望んでないって、渡は今も心優しい昔の渡のままなんだって……!ひたすらに信じてた!
 そんな風に信じられる相棒もいないお前が、あいつを馬鹿にするな!」

 「暑苦しいなぁ……、そういうのウザいって。それに、結局蝙蝠くんが馬鹿ってのは変わらないじゃん。
 キバが殺し合いに乗りたがってないなんて見当違いもいいところだし、信じる相手を間違った馬鹿だってのは、結局同じ事でしょ?」

 「――キングゥゥゥッ!!!」

 高まった怒りのままに、ユウスケはキングに向けて駆け寄り拳を振り抜いた。
 もしも今クウガへの変身に制限がかかっていなかったらアルティメットフォームになっていただろう。
 そう自分でも認めざるを得ないほどに怒りの衝動を込めて放たれたその一撃は、しかしソリッドシールドすらないというのにコーカサスの堅固な甲殻に傷一つつけることは叶わない。


603 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:47:28 mdfqo6.Y0

 一打、また一打と甲殻を強く叩きつける度血が滲んでいく拳は、今にも壊れてしまいそうだと悲鳴をあげているかのようだった。
 しかしそれでも、ユウスケは手を休めることはしない。
 ただそれが自分に出来る最大の仕事だとばかりに、ひたすらに拳を振るい続けていた。

 「……ウザい」

 だがユウスケの必死の連打も、付き合うのに飽きたキングの気怠げな一言と共に力なく振るわれた豪腕によって呆気なく終わりを告げる。
 彼からすれば別段殺傷を目的にしていないはずの何気ないただの一撃で、ユウスケの身体は容易く吹き飛ばされてしまった。
 一方、“キング“という称号によほど執心なのか、先に渡を殺そうと彼にゆっくり歩み寄っていくコーカサスアンデッド。

 呆然と座り尽くし両手に握ったキバット以外の全てが意識に入っていないだろう渡を見て、ユウスケの身体は再び自然と動き出していた。

 「ああああぁぁぁぁ!!!」

 「邪魔……!」

 絶叫と共に後ろからコーカサスの腰に抱きつくようにタックルをかましたユウスケは、桁外れのパワーに何度も引き剥がされそうになりながらも、懸命に言葉を紡ぐ。

 「渡!逃げろッ!」

 その言葉に、ゆっくりと顔をあげる渡。
 未だ目の焦点は合っていないような気はするが、しかし今はそれでもよかった。

 「キバットを連れて、ここから逃げるんだ!キバットがくれたものを、無駄にしないためにも!
 行け渡!行けええええぇぇぇ!!!」

 ユウスケが今、無力であってもキングの前に立ったのは、渡にキバットとの最後を少しでも長く静かに過ごして貰いたいという思い。
 自分と姐さんに許されなかったその時間を、彼には与えてやりたいという、強い信念によるものだった。
 しかしそんな思いも虚しく、絶叫を最後に遂にコーカサスに捉えられ彼は今度こそ真正面から一撃を食らってしまう。

 彼方へと飛ばされていくユウスケを眺めながら、しかし渡はことここに至ってようやく思考力を取り戻した。
 今の今まで上の空であったとしても、しかしそれも、当然だったかもしれない。
 先ほどまでの渡の胸を占めるのは、キバットに傷を負わせたキングの怒りなどという下らない感情よりも、幼少の頃より悠久にも思える時を二人で共に過ごした唯一無二の相棒の命が消え行こうとする現状への対処だったのだから。

 ……この手の中で、消え行くような呼吸を繰り返す相棒を、こんな喧噪の中で死なせたくない。
 どこか歪ながらも芽生えたその思いが、渡の瞳に消えかけた芯を取り戻させていた。

 ――STAND BY

 そんな渡の心境に呼応するように、機械仕掛けの紫色をしたサソリが突如どこからか現れた。
 初めて出会ったはずだというのにどこか知っているような気がするそのサソリは、そのままキングのデイパックへ飛び込みその中身を散乱させる。

 「こいつッ……!」

 珍しく苛立った様子のキングが自身のデイパックの中身を抑えるより早く、紫色のサソリ――サソードゼクター――は幾つかの彼の所有物と共に目当てのものをそこから掘り出し既にそこから脱出していた。
 丁度その手に収まるようにゼクターから渡に向けて投げ渡されたのは、自身を扱える資格者の証明とも言えるサソードヤイバーであった。
 片手のひらに未だキバットを抱えている関係か、それとも単に資格者の手を煩わさせないためか、サソードゼクターが自力でヤイバ-に収まれば、渡の姿は三度異形へと変わっていた。


604 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:47:44 mdfqo6.Y0

 ――CHANGE SCORPION

 闇に怪しく輝いた緑の複眼が表すのは、この会場で渡こそがサソードの資格者に相応しいと認められた証。
 彼が本来の世界の資格者である神代剣と同じく自分の死を以て完遂される望み故か、或いは死した最愛の女性の為に戦い続ける無私の愛故か。
 ともあれ重要なのは、彼はこの土壇場で新たな力を手に入れたというその事実だけだった。

 ――CLOCK UP

 そして次にサソードが選択したのは、キングとの更なる戦闘ではなく、友の安全を確保するための離脱であった。
 クロックアップを使用したそれに元から追いつくつもりもないのか、つまらなさそうに溜息を吐いたキングは残ったユウスケをいたぶってストレス解消でもしようかと彼に振り返る。
 しかしその瞳に映ったのは、自身のデイパックからこぼれ落ちた黒いデッキを拾い上げ鋭くこちらを睨む彼の姿だった。

 「変、身……!」

 息も絶え絶えに何とかデッキをVバックルに叩き込んだユウスケの姿は、先ほどキングも変じた仮面ライダーの姿へと変身する。
 とはいえ今の彼ではサバイブになったところで自分の相手ではあるまい。
 そう高をくくって破壊剣オールオーバーを構えたキングに、ナイトは勢いよくカードを引き抜いた。

 ――GUARD VENT

 しかし彼の用いた手札は、サバイブではなかった。
 先ほどドガバキフォームに変身したキバが強化変身による制限時間の短縮で予想外の展開を見せたことから、切り札を温存しようとしているのだろうか。
 どちらにしても結果は同じ、自分の勝ち以外にはあり得ないと威勢良くナイトが上段から振り下ろしたダークバイザーを、切り上げる。

 瞬間、ナイトが装着するマント、ウィングウォールに阻まれ一瞬視界を失ったキングが次に見たのは、空高く飛び自身に背を向けて彼方へと滑空していくナイトの姿だった。
 最初から渡を逃がして自分も逃げる算段だったのかと呆れながらも、手持ちの戦利品を一気に二つ失ったのもどうでもいいかのようにキングは笑った。
 どちらにせよ自分の本来の姿があれば十分にこの場を勝ち抜けるのだ、それ以外の変身アイテムなど能力で遊ぶためだけのもの。なくなろうが増えようが、正直どうでもよかった。

 「まぁでも、次はきっと面白くなるよ。……ねぇ、レンゲル?」

 故に、彼の関心は既にサソードヤイバーやナイトのデッキにはない。
 自分から飛び込んできた新しい遊具(おもちゃ)、レンゲルバックルを掲げて、キングは一人ニヤリと笑った。


【二日目 早朝】
【E-1 焦土】

【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、ゾーンメモリの能力1時間使用不可
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードK)@仮面ライダー剣、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、カッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明、首輪(五代、海東)
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:さて……次は誰と遊ぼうかな……?
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
3:僕はまだ本気出してないから負けてないし!
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※ソリッドシールドが破壊されました。再生できるかは後続の書き手さんにお任せします。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。


605 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:48:26 mdfqo6.Y0


 ◆


 F-1エリア、先ほど一条が自分を叱咤し病院に向けて出発した所謂スタート地点に辿り着いて、ユウスケはようやくその身体を地面に横たえた。
 本来であれば今すぐにでも一条が逃げた病院方向に向かいたかったが、キングのことを考えずとも、もう身体は体力の限界を訴えていて、かつもう中間地点であるE-1エリアは禁止エリアになってしまう時間だった。
 少なくとも放送までには到底合流が叶わない一条のことや、先ほどの死んだ目をした渡のこと、そして見るも無惨に打ちのめされたキバットのことなどが、次々に頭の中を過ぎっては消えていく。

 「結局俺は……全部中途半端だ……!」

 その末に導かれた自分の不甲斐なさを呪う声は、震えていた。
 一条のことを病院にまで送り届けるという使命も、渡を救うというキバットからの頼みも、キングを倒すという決意も、全てが満足に出来ていない。
 こんな中途半端で弱い自分をそれでも頼ってくれた人たちの思いに、何一つ自分は応えられていない。

 『君は君で良い』

 自己嫌悪に至りかけたユウスケの頭に刹那思い出されたのは、先ほどの一条の言葉。
 五代が持っていなかったという、自分と対等に語り合え悩みを打ち明け合える、門矢士という友の存在。
 それが自分と五代雄介とを分ける一つの違いなのだとすれば、彼がその五代を殺したかもしれないという懸念を、自分はどう一条に伝えればいいのだろうか。

 士が善意から五代を倒したのだとすれば、一条は彼を許すだろうか。
 もし悪意で以て士が五代を破壊していたとして、そもそも今の自分に彼を倒せるだけの力など残されているのだろうか。

 「姐さん、俺、どうすれば……」

 積み重なる不安に思わず助けを求めるかのように空に伸ばしたその腕は、しかし容赦なく迫り来る睡魔に負け、力なく大地に落ちた。


【二日目 早朝】
【F-1 平原】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、左脇及びに上半身中央、左肩から脇腹、左腕と下腹部に裂傷跡、アマダムに亀裂(進行)、ダグバ、キング@仮面ライダー剣への極めて強い怒りと憎しみ、仲間の死への深い悲しみ、究極の闇と化した自分自身への極めて強い絶望、仮面ライダークウガに1時間30分変身不能、仮面ライダーガタックに1時間40分変身不能、仮面ライダーナイトに1時間55分変身不能
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ディスクアニマル(リョクオオザル)@仮面ライダー響鬼、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド、ユウスケの不明支給品(確認済み)×1、京介の不明支給品×0〜1、ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品×0〜1、照井の不明支給品×0〜1
【思考・状況】
0:(気絶中)
1:一条さん、どうかご無事で――。
2:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない……
3:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
4:渡……キバット……。
5:もし本当に士が五代さんを殺していたら、俺は……。
【備考】
※自分の不明支給品は確認しました。
※『Wの世界万能説』をまだ信じているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました。
※クウガ、アギト、龍騎、響鬼、Wの世界について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛けられていることを知りました。
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。
自壊を始めるのか否か、クウガとしての変身機能に影響があるかなどは後続の書き手さんにお任せします。
※ガタックゼクターに認められています。
※地の石の損壊により、渡の感情がユウスケに流れ込みました。
キバットに語った彼と別れてからの出来事はほぼ全て感情を含め追体験しています。
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※ギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※デイパックは音也のものに移し替えました。その際支給品の紛失についても確認しましたが、彼が覚えている限りの支給品はそのまま残っていました。


606 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:48:52 mdfqo6.Y0


 ◆


 D-2エリアに在する小さな民家の一つの中で、紅渡はただ友を救う手立てはないかと一人奮闘していた。
 自分だけではどうにも出来ないと自分より余程キバット族について詳しいだろうキバットバットⅡ世を頼ってみても、その答えは「助かる見込みはない」というだけだった。
 ただ冷静に事実と推測される結果だけを述べ後は黙って息子の最後を見届けようとする彼の暗い瞳には、既に諦めしか映っていない。

 それでも一握りの奇跡を求めて物言わぬサガークや胸像と化したガルルたちにさえ解決手段を聞いていくその渡の姿は、あまりにも痛々しかった。

 「キングよ、何を期待しても無駄だ。俺の息子は、もう――」

 「その名前で僕を呼ばないで!」

 見ていられないとばかりに思わず再び渡へ忠告を行ったキバットバットⅡ世は、しかしその渡の言葉に耳を疑った。
 まさか今この男は……キングと言う名前を否定したというのか?

 自分の口をついて出た咄嗟の言葉に驚愕を隠しきれなかったのは、渡も同じだった。
 紅渡であることを捨てキングとして世界を救う決意を固めたというのに、その名前で呼ばれることが、キバットをこんな目に合わせた男と同じ名前で呼ばれることが、どうしても我慢ならなかったのだ。

 「へっ……、ようやく、自分の名前が何なのか思い出したのかよ……。
 ったく遅いぜ……渡……」

 自分自身の感情にどうしようもなく困惑する渡に対し、突如降り注いだのは自分がどうしても聞きたかった友の声。
 キバットバットⅡ世ともよく似ている、しかし暖かみを感じる聞き慣れた声だった。
 だが友の意識が戻ったことを喜ぶより早く湧き出たのは、彼の言葉を否定しなければならないという強迫観念にも似た感情だった。

 「違うよキバット……僕はもう紅渡じゃない……。その名前を名乗る資格なんてもう僕には……!」

 「馬鹿言ってんじゃねぇよ、親がつけてくれた自分の名前名乗るのに資格なんてあるわけねぇ。
 キングなんていう何人もいるありきたりなしょうもねぇ名前じゃなく、親父さんから受け継いだ“紅”て名字に、お袋さんがつけてくれた“渡”って名前。
 それがお前の名前だろうが。この先一生、何があったって背負っていかなきゃならねぇ、お前の……」

 「キバット……」

 ハァハァと浅く乱雑に呼吸を繰り返すキバットの姿を見て、もう渡は彼から目を離すことはしなかった。
 一瞬でも瞳を閉じれば、それが永劫の別れになってしまう気がして、ただひたすらどんな些細な点さえもその姿を目に焼き付けようと必死だった。

 「なぁ渡……最後に一つだけ、お前に言いたいことがあるんだ、聞いてくれるか?」

 「……」

 渡は、キバットの問いかけに何も返さなかった。
 返事をすれば、そしてキバットがその言いたいこととやらを言い切ってしまったらもうそれで全てが終わる気がして、どうしようもなくそれを先延ばしにしてやりたかった。
 だがそんな渡の些細な運命への抵抗に気付いた上でか否か、キバットは独り言のように続けた。


607 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:49:07 mdfqo6.Y0

 「俺はな渡、お前の頑固なところが好きだったんだ。自分で決めたら真っ直ぐに突き進むことしか知らねぇお前のことを、俺が支えてやらなきゃって、そう思ってた。
 お前がキングになろうが何だろうが、お前が自分の気持ちに本当に素直に生きられるなら、俺はそれだって構いやしなかったんだ」

 遠い目をしてどこか記憶をたぐるように語りながら虚空を見つめていたキバットは、しかしそこで今にも閉じてしまいそうな右目を何とか渡に向けた。

 「……けどよ、今のお前は、ただ自分の気持ちに嘘ついてるだけじゃねぇか。
 キングだの世界を守るだのって理由ばっかこじつけて自分の本当にやりたいことから逃げてばっかのお前なんて、もう見てられねぇんだよ」

 「何それ……、そんなのずるいよ。僕が本当にやりたいことってなんなの?教えてよキバット……!」

 「俺に聞くまでもねぇよ、すぐに見つけられるさ、お前なら……」

 そう言われても、渡には自分の心が何を望んでいるのか訴える声は、一切聞こえなかった。
 その声をどうにか引き寄せようと藻掻く度、先ほどまでは鮮明だったはずのキングとしての使命も、どんどん霞んでいく。
 そんな靄の掛かった思考の中で、今鮮明に聞こえるのは、相棒が紡ごうとする最後の言葉だけだった。

 「だからよ渡、俺の言いてぇことってのは結局ただの一つだけだ」

 言って、キバットは大きく息を吸い込む。
 まさにそれに全ての魂をかけるかのように。

 「――俺は、今までお前と一緒にいられて、楽しかったぜ。わた……る……」

 それを満足げに言い切って、キバットの重い瞼は閉じた。
 深央に続いて、またも手の中で消えた掛け替えのない存在の命。
 自分が守りたい、生きていてほしいと願った者たちが、次々と死んでいく。

 キバットも深央も、自分が望みを叶え世界から存在を消せば幸せになれるのだろうかと夢想する一方で、それは先ほどユウスケに指摘された“逃げ”ではないかと心が叫ぶ。
 自分と一緒にいられて楽しかったという言葉を最後に残したキバットの思いを尊重するなら、彼の生きた世界から自分を消すということを、果たして彼は望むだろうか。
 だが今更彼の分まで生き続けるというには、既に自分に関する記憶を消してしまった名護を始めとして、“紅渡”に戻るには後戻りの出来ないことが多すぎるのではないか。

 誰にも邪魔されない、ただ一人の暗い部屋の中でキバットの遺体を抱き虚空を見つめ続ける渡の瞳が次に映すのは、全てをなかったことにするために犠牲を生み出す覚悟か、それとも世界を救わんとする優しさか。
 その選択を下すには、彼にはまだ時間が足りなかった。


608 : レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕 ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:49:21 mdfqo6.Y0


【二日目 黎明】
【D-2 民家】

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、精神疲労(大)、地の石を得た充足感、キバットの死への動揺、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、仮面ライダーダークキバに15分変身不能、仮面ライダーサガに1時間変身不能、仮面ライダーキバに1時間10分変身不能、仮面ライダーサソードに1時間20分変身不能
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:キバット……。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。次こそは逃がさない。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る……?
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも倒す……?
7:キング@仮面ライダー剣は次に会ったら倒す。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キング@キバを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※赤のゼロノスカードを使った事で、紅渡の記憶が一部の人間から消失しました。少なくとも名護啓介は渡の事を忘却しました。
※キバットバットⅡ世とは、まだ特に詳しい情報交換などはしていません。
※名護との時間軸の違いや、未来で名護と恵が結婚している事などについて聞きました。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。
※サソードゼクターに認められました。

【キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ 死亡】


609 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/16(木) 21:50:15 mdfqo6.Y0
以上で投下終了です。
毎度のお願いではありますが、ご意見ご感想ご指摘等ございましたらよろしくお願いいたします。


610 : 名無しさん :2018/08/16(木) 22:55:09 bAxG/snU0
投下乙です!

ガタックを継いで、ワタルとの関わりがあるユウスケの言葉はこれまでにない重みを感じました。
そのおかげでようやく渡が戻ってこれそう……と思った矢先にキングゥゥゥ!!!
強力な変身手段を削ることはできたものの、その代償が余りにも大き過ぎる……果たして渡はこれからどうなるのか。

クウガ、ナイト、オルタナティブゼロなど多彩な能力の他、存在を忘れかけていたドガバキの登場などバトルも見所満載の力作をありがとうございました!


611 : 名無しさん :2018/08/16(木) 23:19:29 2mz3T36c0
投下お疲れ様です!

キバットの願いを聞き入れ尚且つリマジ世界のキバと繫がりを持つユウスケが
渡にかけた言葉はとても熱いものがありクロスオーバーの醍醐味も感じられるものでした。

このままいけば渡も…ってところでキングが介入した事により悲劇が引き起こされるわけですが、
病院組にちょっかいをかけに行くとばかり思っていたので今回の展開は意表を突かれました。

VSユウスケパートだけでなくキングとの戦いの中でも盛り上がる要素はあって
キバへの再変身は渡とキバットのやり取りが相俟って最高でしたし、
登場の可能性を失念していたドガバキフォームには「おお!」となりました。
それだけに彼の死が胸にクるものがあります。

良太郎に続き二人目の犠牲なわけだけどキングの手によってあと何人増えていくんだろうか…


612 : 名無しさん :2018/08/16(木) 23:22:26 2mz3T36c0
投下お疲れ様です!

キバットの願いを聞き入れ尚且つリマジ世界のキバと繫がりを持つユウスケが
渡にかけた言葉はとても熱いものがありクロスオーバーの醍醐味も感じられるものでした。

このままいけば渡も…ってところでキングが介入した事により悲劇が引き起こされるわけですが、
病院組にちょっかいをかけに行くとばかり思っていたので今回の展開は意表を突かれました。

VSユウスケパートだけでなくキングとの戦いの中でも盛り上がる要素はあって
キバへの再変身は渡とキバットのやり取りが相俟って最高でしたし、
登場の可能性を失念していたドガバキフォームには「おお!」となりました。
それだけにキバットの死が胸にクるものがあります。

良太郎に続き二人目の犠牲なわけだけどキングの手によってあと何人増えていくんだろうか…


613 : 名無しさん :2018/08/17(金) 05:53:12 HGMY4KHw0
投下乙です!

キバットォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!
ユウスケと渡の気持ちがぶつかり合って、渡とキバットがようやく共に手を取り合おうとした中で……まさかこんなことになるとは。
ドガバキフォームでキングを圧倒したり、ユウスケと渡が(結果的とはいえ)力を合わせたのはとても熱かっただけに、この結末は本当にショックです……
そしてユウスケと渡はまた一人だけになりましたが……彼らの行く先に光がありますように。


614 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 12:58:50 c35IbBSY0
皆様数多くのご感想ありがとうございます。本当に励みになります。
そしてお待たせいたしました。ただいまより投下を開始いたします。


615 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 12:59:33 c35IbBSY0

 視線の先で縦横無尽に交差する紫と白の異形。
 超高速の勢いでぶつかり合うそれらを見て、城戸真司はただ一つ息を呑んだ。
 ただの人間には到底追いつけないような領域で激しく火花を散らし合う彼らにしかし彼が感じたのは、感嘆ではなくただそれを傍観することしか出来ない自分の不甲斐なさだった。

 思えば先の浅倉との戦いにおいても、自分は大したことを出来たわけではない。
 本当は自分が、共に同行している仲間たちを守らなければならなかった。
 だが実際はどうだ、早々に変身能力を失い先ほども今も同じようにただ戦いを傍観するだけ。

 麗奈が幸運にも人間を守りたいという感情に目覚め浅倉と戦ってくれたからいいものの、それがなければ最悪全滅もあり得ただろう。
 人を守りたい。その純粋な思いの為に仮面ライダーになったというのに、自分はずっと彼女に……麗奈に守られっぱなしではないか。
 自分たちをもっと頼って欲しいと大口を叩いたというのに、何も彼女の為にしてやれない今の自分が、歯がゆくて仕方なかった。

 「――麗奈!」

 しかし、そんな真司の耳に、リュウタロスの切羽詰まったような声が響く。
 反射的に意識を浮上させ戦場に目を戻せば、そこにあったのは既にクロックアップが終了し、膝を着き肩を大きく上下させるウカワームの姿だった。
 逆に敵であるカッシスは満身創痍の彼女と対照的に、その姿を未だ健在のままに彼女を見下ろし彼女を嘲るかのように大きく鼻を鳴らす。

 彼らの戦いがここまで一方的な試合運びとなってしまったのは、皮肉にも麗奈が先刻手に入れた人間の心に起因するものだった。
 いやより正確に言えば、そうして抱いた人間の心に、先ほどの戦いで強制的に植え付けられた一つの感情の為というべきだろうか。
 生まれてこの方複雑な感情の起伏など存在しないワームとして生きていた彼女にとって、浅倉が変じたテラーによりもたらされた恐怖心はまさしく劇薬だったのである。

 表面上はほぼ問題ないほどに払拭されたその感情によって勝敗が決してしまうほどに両者の実力が拮抗していたとみるべきか、或いは浅倉という狂人が死に際に彼女に遺していった呪いだったのか。
 ともかく、この戦いは麗奈の敗北という形で終わりを迎えようとしていたのだった。

 「……悲しいね、間宮麗奈。君ほどの逸材が人間に染まった途端こうまで脆くなってしまうとは」

 「黙れ……、貴様には分からないだろうな。人の持つ感情の素晴らしさが、自由の素晴らしさが!」

 「あぁ分からないね。そして――分かりたくもない」

 瞬間、それ以上かける言葉もないとばかりにタキオン粒子迸る左手の剣をカッシスが振り抜けば、いとも容易くウカワームの身体は宙に弾き飛ばされていた。
 重い音を立て地面に直撃した彼女は数回そのまま地に全身を転がし、人間としての姿を晒す。
 満身創痍という言葉そのものの様子で立ち上がることもままならず呻く麗奈に対し、彼女の名前を叫びながら駆け寄ったのは真司だった。

 自分を庇うように立つ彼に対し、麗奈は地に這いずりながらも何とか声をあげる。

 「やめろ、城戸真司……。奴の狙いは私だ。お前まで、私の道連れになる必要はない、早く逃げろ……!」

 「嫌だ、前に言ったろ。『俺たちは皆が助かる為の迷惑ならどんどんかけて欲しいんだ』って。
 だから俺はここをどかない。目の前で誰かを見捨てるなんてこと、俺には出来ない!」

 「城戸、真司……」

 だが、部外者が乱入してきたところで対峙するカッシスの勢いは変わらない。一切の躊躇を感じさせず、一直線に麗奈に向けて進軍する。
 それはまるで、「その女を守るようなら君を一緒に殺しても構わないんだぞ」とその立ち居振る舞いだけで周囲に示すような堂々たる行進だった。
 だがそれを受けてもなお、真司は麗奈から離れようとはしない。どころか真司は、明確にカッシスに向けて彼女を庇うように構えをとっていた。


616 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 12:59:54 c35IbBSY0

 そう言えばこの男は大がつくほどの馬鹿だったか、どことなく肩の力が抜けた麗奈の身体はしかし、思うように動いてはくれない。
 いや、というより……その意思に身体がついていくだけの時間を、カッシスは決して与えてくれはしない。

 「残念だよ、城戸真司くん。秋山蓮は君のことを気にかけていたようだったからね。こんな形でお別れとなってしまうとは」

 思いもしていないことをベラベラと軽薄に並べながら、カッシスは哀れみの籠もった瞳で彼女らを見下す。
 だがその左手の剣を彼女たちに向けて振り下ろそうとしたその瞬間響いたのは、二人分の首が地に落ちる鈍い音ではなく、カッシスが咄嗟に構えた右腕の盾に何かが接触した甲高い金属音であった。
 何事か。自分の悦楽の時間を邪魔されたことへの嫌悪感を露わにしたカッシスは、しかし攻撃を加えた対象を認識するより早く死角から飛んだハイキックに、大きく後退を余儀なくされた。

 苛立ちを隠そうともせず麗奈たちの前に立ちはだかった新たな自分の敵を見据えれば、果たしてそこにいたのは、自身と同じ紫の異形の姿であった。

 「リュウタ!」

 その怪人に向け声をあげたのは、真司や麗奈より遙か後方で一人所在なげに不安そうに立つ一人の青年であった。
 おおよそ変身手段が奪われた事で、どこから襲われるともしれないこの殺し合いに対する恐怖心をより強く感じているのだろう。
 だが、しかし今のところ自身による間宮麗奈殺害を邪魔しないのなら別段気にかける必要もないと、カッシスはすぐに男のことを思考から取り除いた。

 そう今重要なのは、自身に攻撃まで仕掛けてきたこのリュウタロスという怪人への対処。
 懐柔の可能な相手かどうか、海東大樹から得られた情報を元になるべくリスクの少ない解決方法を模索していたカッシスを前に、リュウタはしかし不敵にその指を真っ直ぐ彼に向けていた。

 「今の麗奈は前の麗奈より嫌いだけど、でもお前の方がもっと気にいらない!
 だから倒すけどいいよね?答えは聞かないけど!」

 そこまで言い切って、リュウタはダンスのステップを応用したような独特な足運びでカッシスの懐へと潜り込む。

 「ふざけるな!」

 その動きが遊んでいるようにしか見えなかったのか、苛立ちと共にカッシスが剣を振るうも、しかし単調なその一閃は彼には到底馴染みのない軽やかなステップで回避される。
 それに驚愕を隠しきれなかったカッシスが敵を認識するために振り返れば、瞬間その顔にリュウタの裏拳が炸裂していた。

 「ふざけてないよ、だって僕強いし!」

 「言うじゃないか、このガキが。……望み通り君から先に地獄へ送ってあげよう」

 改めて人差し指で真っ直ぐに自身を指さし宣戦布告するリュウタに、憤りを滲ませるカッシス。
 冷たく吐き捨てられた死刑宣告と共に、彼らの戦いは開始された。


 ◆


 視線の先、その体色故宵闇に消え入りそうになりながらも混じり合う二つの異形。
 彼らを必死に視線で追いながら、三原修二は荒く呼吸を繰り返した。
 ……怖い。彼の中を占める感情は、それに尽きる。

 リュウタを失ってしまうかもしれないことに対してか、それとも乃木怜治と呼ばれたあの男の強さにか。
 そのどちらにも多少は恐怖があるかもしれないが、しかし本質はそうではないことを、既に三原は自覚していた。
 彼の心を掴んで離さない恐怖の一番の理由、それは今の自分には変身手段がないということ。つまりは誰かがその気になれば自分なんて簡単に殺せてしまうということだった。

 壁に囲まれた病院と違いこんな開けっぴろげな草原の中心で、しかも自分は防護服にも成り得るデルタさえない。
 乃木でなくても、誰かが通りがかりに自分の命を奪おうとしたら、何の抵抗も出来ず守ってくれる仲間もいないまま、自分は死んでしまうではないか。
 先ほどの浅倉との戦いだって、熱に浮かされている内に戦いが終わったからいいものの、もしあの一撃で浅倉を倒しきれず冷静になっていたら、自分がどんな行動を取ったかなんてわかりはしない。


617 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:00:12 c35IbBSY0

 戦う覚悟を決めたのではないのか、そう罵られようと、怖いものは怖い。
 むしろデルタという戦闘能力の有用性を実感した後にそれを奪われるという経験は、彼の恐怖心を強く刺激した。
 自分は結局オルフェノクなんかとは違う無力な人間に過ぎないのだ、こんな超常現象染みた戦いになんているべき存在ではないのだ。

 そんな感情が、三原を今再び戦いに恐怖する一人のどこにでもいる青年に戻してしまっていた。

 (死にたくない……俺は家に帰りたいだけなのに、どうしてこんな――)

 リュウタに見損なわれたまま終わりたくはない?それは事実だ。
 戦わなければ生き残れない?そんなことはもう分かっている。
 でも、戦ったからって生き残れるわけじゃない。事実頼れる仮面ライダーとして紹介された人物も含めてもう30人以上がこの場で死んでいるではないか。

 そんな中で自分がこうして生き残っているという自体が場違いで、奇跡的だと感じ……そして同時、これから先出会う参加者は運良くずっと建物に引き籠もっていられた自分とは違い修羅場を潜り抜けてきた猛者ばかりなのだと思うと、どうしても気が重くなる。
 ろくな戦闘経験もない自分がこんな状況をどうにか出来るはずなどないではないか。
 そうして自棄になりかけて、ただ安堵出来る家を求めて三原は再度どうしようもないこの現状に嗚咽を漏らした。

 「帰りたいよ俺……、家に帰りたい……」

 どうしようもなく漏れたその声は、誰に届くこともなく。
 ただ無力感に浸る青年は、その場に膝から崩れ落ちた。


 ◆


 カッシスとリュウタロス、二人の戦いは、実に当然の結果としてカッシスの優勢という形になっていた。
 両者を隔てる実力の差もかなりのものだが、それ以上に理由があるとすれば最早戦いにおいてカッシスに変身制限について急がねばらならいという意味での緊張感が存在しないことだ。
 10分という決して長くない時間のうちで何らかの効果的な行動をし次に繋がなければならないリュウタに対し、カッシスは消耗を避ける意味でも彼の殺害を急ぎ無駄なリスクを負う理由もない。

 そんな心的余裕を持っているカッシスを相手に銃さえ持たないリュウタが有効打を打てるはずもなく、戦いは硬直状態へと持ち込まれ、徐々に迫り来るタイムリミットにリュウタの焦りは表面化してきていた。

 「おいおいどうしたんだ?ご自慢のステップが今にも狂いそうだぞ?」

 「うるさい!」

 嘲るような声で指摘するカッシスに怒号で返しながら、しかしリュウタもまた早急に勝負を決める必要があることを理解していた。
 幾ら自分が強いと言っても、未だ全く底の見えないカッシスを相手に変身もせず単身で勝利するのは不可能だ。
 となれば今成すべきことは勝利ではなくそれに繋げる為の手段の奪還。

 つまりは奪われた自分たちのデイパックの回収である。

 (その為にはあいつの気を一瞬反らさなきゃなんだけど、どうすれば……)

 そこまで考えて、リュウタは頭を大きく振った。
 どちらにせよ考えるのは苦手だし、そんな急ごしらえでどうにかなるような相手とも思えない。
 それならいっそ、自分らしいやり方でやるべきだろう。つまり……。

 「戦いはノリと勢い、ってね!」

 「何?」

 勢いよく叫んだリュウタの言動にカッシスが戸惑ったその一瞬に、リュウタはステップをやめ思い切りカッシスに向けて駆け出していた。
 これには流石のカッシスも虚を突かれた思いだったが、しかしむしろ好機とみて剣を横凪に振り払う。
 リュウタロスが得意とするステップでは咄嗟に回避できるのは横方向だけだろうと読んだ上での行動だったが、しかしリュウタはその軌跡を“潜った”。


618 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:00:41 c35IbBSY0

 つまりはスライディングの形で勢いよくカッシスの足の間を潜り抜け一瞬でカッシスの背後を取ったのである。
 そして背後を取ったと言うことは、彼が背中に負ぶっていたデイパックが今リュウタの目前に差し出された形となったということだ。
 となれば後は無防備なデイパックを思い切り弾き飛ばしてしまえば勝負は仕切り直しだ。

 麗奈に引き続き自分とも持久戦を行ったのだから、これで十分に勝機も見えたはず。
 戦いの結末に見えた一筋の希望、緊張からの解放、楽観的な戦況への理解。
 自分とカッシス、どちらがよりこの持久戦で消耗していたのかを彼が悟ったのは、それらに緩んだ自分の腕が掴んだのが確かにそこにあったはずのデイパックではなく虚空であったのを理解したその瞬間だった。

 「え?」

 間の抜けた声と、勝利の余韻に弛緩した全身が一瞬で強ばっていく。
 何が起きたのかと視線を落とした彼を出迎えたのは、先ほどまでと何ら変わらぬ嘲笑を浮かべこちら側に前身を向けているカッシスの姿だった。
 そこで、リュウタは気付く。今に至るまでの自分の行動全てが、彼の想定の範囲内だったということに。

 カッシスはステップを利用し変幻自在に回避を行う彼に対し、真面目に取り合うだけ体力の無駄だと早々に理解していた。
 そこで彼が思いついたのがリュウタロスがデイパックを狙ってくることを予期した上でそれを受け入れむしろ懐まで呼び込むことで確実に一撃で仕留める作戦だったのである。
 流石に他者の協力も得ずに単身で自分の背後を取ったのには驚愕しクロックアップまで使わされたのは少々想定外だったが、しかしそれまでだ。

 所詮は小手先三寸のお遊びに過ぎない。使用するだけで消耗は免れないクロックアップを乱用はしたくなかったというだけで、結局最初からリュウタロスに勝ちの目はなかったのであった。

 「どうした小僧。足が――止まっているぞ?」

 カッシスが述べる勝利宣言めいたそれを聞き終わるより早く、慌てて足を先ほどのように弾ませようとするリュウタ。
 だが恐怖故か焦り故か、その足はもう規則正しいリズムに乗ることはなかった。

 「消し飛べ」

 短く言い切ったカッシスの右手のひらより、一瞬で凝縮された多量の闇がリュウタロスを目がけて放たれた。
 
 「うわああぁぁぁぁ!!!」

 「リュウタ!」

 夜の闇より暗いそれに呑まれ火花を散らしつつ一瞬でカッシスから引き離されどんどんと自分たちの前にまで吹き飛ばされたリュウタを前に思わず叫ぶ面々。
 砂を撒き散らしながら俯せに倒れ伏したリュウタロスにはしかしもう目もくれず、闇を照射し終えたカッシスは仰々しくゆっくりと自身の本来の標的へと向き直った。

 「さて、次は君の番だ、間宮麗奈」

 見れば、そこにあったのは自身を庇うように立っていた真司を押しのけ一人で立ち上がろうと藻掻く麗奈の姿だった。
 未だ体力的には厳しいものがあるのか真司には懸命にそれを止められながらもどうにかして戦おうとする彼女の顔に浮かんでいるのは、自分の知る中では義憤と呼ばれるもののように見える。
 この場合に当てはめるなら、彼女の怒りの対象は自分を守ろうと戦ったリュウタロスを倒した自分に対するものだと見るべきなのだろうか。

 それなりに長い付き合いであったというのに初めて見る彼女の顔、彼女の感情に少しも興味が沸かないといえば嘘になるが、それよりも有能な同胞が落ちぶれてしまった事に対する失望の念が勝るというのが正直なところだ。
 となればやはり往生際の悪い彼女に下すべきは早急な死以外にない。
 極めて自分勝手な思考を纏めたカッシスは今度こそ彼女に引導を渡すべく歩を進めていく。


619 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:01:01 c35IbBSY0

 ――カッシスに立ち向かうこの場の誰もが、ここにいない誰かに救いを求めていた。
 誰でも良い、せめて倒れた仲間を助け共に逃げるだけの時間稼ぎだけでもしてくれる誰か。
 そんな都合の良い存在の登場を縋り求める程度には、彼らに残された道は少なかった。

 だがしかし、気付いている。そんな救世主など到底現れるものではないと。
 このまま、芽生えた尊い感情の為に麗奈は悪に殺されてしまう。
 許しがたいそんな結末をしかし享受しなければならないのかと、誰しもが諦め始めた瞬間だった。

 彼らが抱いた絶望と等しく暗い夜の闇に、一筋の光が差した。
 どこまでも続く平原に突如差したその一条の光と、それに連なるように響くけたたましいエンジン音は徐々に大きくなっていく。
 まるでそのまま、麗奈たちが抱いた希望をそのまま象徴したかのように。

 「ちッ!」

 カッシスと麗奈たちとの間を縫うように、バイクが勢いよく通過していく。
 それにより否応なく後方への回避を余儀なくされたカッシスが舌打ちを鳴らす中、バイクに乗り現れた男は、ヘルメットを脱ぎ乗ってきたバイクのフロントをその長い足で跨いで地上に降り立った。
 どことなく尊大な雰囲気の漂う、勿体ぶったようなその男の動作は緩慢にも思えたが、しかし誰も彼を見くびることなど出来はしない。

 それが決して彼の虚勢ではなく、歴戦の経験から自然と滲み出る余裕が成させるものなのだとすぐに理解出来たのだから。

 「よぉ、久しぶりじゃないか、門矢士」

 そんな中、いの一番に彼に声をかけたのはカッシスだった。
 彼の警戒を解く狙いがあるのか、その姿を人間のものへ擬態させながらあたかも親しい間柄であるかのように軽妙な呼びかけをするその姿は、どことなく先ほどまでのギャップからか不気味に思えた。
 しかし、乃木の言葉の裏を察しているのか、それとも純粋にこの状況に対する警戒故か、話しかけられた男――門矢士というらしい――は表情を一切変えることはなかった。

 「あぁ、そうだな」

 「……妙な反応だね。自分で言うのも何だが、俺は放送で名前を呼ばれたんだろう?
 死人がそっくりそのまま目の前に現れたんだ。もう少し気の利いた返しをしてもよさそうなものだが」

 「悪いな、俺としてはもう死んだはずの怪人が蘇るなんて慣れっこなもんでな。
 普通に考えれば殺し合いで死者が蘇るなんてルール違反だが、まぁ大ショッカーならそのくらいしてもおかしくない」

 どうやら自分が蘇ったのは大ショッカーの手によるものだと勘違いしているらしい士に異議を申し立てるべきか悩んだその間に、士はそれよりも、と既に話題を切り替えていた。

 「乃木、お前は殺し合いに反対してたんじゃないのか。なんでこいつらと戦ってる」

 「門矢士、君には俺のこの殺し合いでのスタンスについて少し誤解があるようだ。俺は大ショッカーの諸君は許せないが、それは不殺の誓いじゃない。
 俺の流儀に反する者を殺すことを、俺は戸惑うつもりはないということだよ」

 「お前の流儀ってのは何だ」

 ――弱い者は俺の餌になる。
 そう真実を教えてやりたい気持ちもあったが、ここで大ショッカー打倒に有用だろう門矢士と完全に決裂するのは何とか避けたいのも事実。
 どうにか彼を納得させられるだけの言い分はないものかと逡巡してから、彼は再び口を開いた。

 「俺の流儀、それは擬態した人間の記憶と、自分自身の記憶を混同させてしまった哀れなワームをこの手で手厚く葬ってやることさ」

 「何?」

 乃木のその言葉に、士は怪訝そうな表情を浮かべる。
 それでいい、と心中で笑みを浮かべながら、乃木は続けた。


620 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:01:21 c35IbBSY0

 「つまりこの場合は、あそこに倒れてる女が自分という存在の罪深さを絶望する前に終わらせてやるということさ。
 他の彼らについては命を奪うつもりなどさらさらない」

 傷だらけのまま倒れ伏すリュウタロスに目配せをし、『邪魔をすれば例外だが』とその場の全員に暗に示しながら、乃木は笑った。
 それを受けて、不遜な態度は崩さぬまま士は再度問いを投げる。

 「なんでお前はそんなにあの女を殺そうとする。ワームが人間の心を持って何がいけない」

 しかしその問いに対し、乃木はまるで士の問いが地雷を踏んだとでも言いたげにわざとらしく目を伏せ溜息を吐いた。
 全く以て、こうした素晴らしく人間くさい動作の一つ一つがワームによる人間の記憶に基づく模倣だと思うと吐き気がする限りである。

 「門矢士。結論から言えば、彼女のような人間の心を得てしまったワームにはもう、元の世界での居場所がどこにもないのだよ」

 「どういうことだ?」

 「様々な世界の情報に精通している君のことだ。ワームが擬態している人間、端的に言えばそのオリジナルがどうなるか、知らないわけではないだろう?」

 「……あぁ」

 暗い口調で肯定する士に、畳みかけるように乃木はなおも口を開いた。

 「そう、今何気ないように君たちが見ているその女の美しい顔。それは元々彼女がただ単に地球の侵略に効果的だと考えてオリジナルである間宮麗奈から奪ったものだ。
 そして同じ顔、同じ記憶を持つ存在は世界に二人も必要ない、ワームは擬態の後オリジナルを殺害する。“間宮麗奈”も例外でなく、彼女に殺害された。……そうだろう?」

 その問いかけに対し、未だ膝をつき疲労を回復することに集中していた麗奈が、乃木たちを見上げながら苦悶の表情を浮かべ俯いた。
 だがそれを気にする様子もなく、乃木の言葉は続く。

 「それに彼女は俺と同じく数多のワームを従える幹部の立場だった。
 彼女の指示で何人の善良な地球人が容姿と記憶を奪われ死を迎えたのか……俺でさえ数えるのが億劫に感じてしまうよ」

 ニヤリと口角を上げながら、乃木は笑う。
 その言葉に僅かばかり彼女を庇っていた真司も俯き悩んだような表情を浮かべたのを視認して、乃木の笑みはより深くなっていった。

 「……そんな殺戮の権化を人類が受け入れられるはずがない。
 オリジナルである間宮麗奈の未来を奪った張本人が彼女の振りをして毎日を悠々と過ごすなど、到底許されるはずがないだろう?」

 「……」

 乃木の問いかけに対し、士はしかし黙ったまま何を言うこともなかった。
 それが彼の言葉に聞き入っている証拠なのか、それともただ結論を聞き終えるまで口を挟む気がないという考えの表れなのか、それとも元より耳を貸す気もないのか。
 そのどれにせよ、ともかく口を回し続けることに意味があると、乃木は今一度乾いた口内を唾液で潤した。

 「何より肌の色、性別、美醜、そういった表面的な情報で他者を判断する君たちが、それらを変幻自在に擬態できるワームという存在を受け入れられるはずがない。
 そして、ワームの中にももう彼女の場所はない。侵略対象たる人間に心解きほぐされた彼女を受け入れないというのも確かだが……それ以上に彼女自身が、もう地球を侵略しようとする我々と決別する道を選ぶだろう」

 そこまで一息に言い切って、乃木は語調を整えるようにさて、と仕切り直す。

 「わかったか?つまりこの殺し合いを運良く生き残り元の世界に生還できたとして、彼女にはもうワームにも人間にも受け入れられることはない。人からはワームと罵られ、ワームからは人と罵られる!
 ……世界のどこにも居場所が存在しない絶望を抱いたまま、ただ一人孤独に誰にも気付かれぬよう生きていくか、或いは自害するしか道が残されていないのだよ」


621 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:02:10 c35IbBSY0

 「――だから俺は彼女を今殺してやるのさ。人類の守護者として戦う彼女に、人類に敵対する侵略者として名誉の戦死を手向ける。それこそがかつての同胞として、俺から彼女にしてやれる最後の贈り物だからね」

 ご理解いただけたかな、と締めくくりながら、乃木はもう士の反論を待つこともなくその足を翻していた。
 この弁論で、士を言い負かすことが出来ただろうとそう確信したため。
 所謂正義の味方である仮面ライダー諸君は、こうした自分が理解出来ない種族による差異が生み出す価値観の違いに困惑を浮かべる。

 その生易しい慈悲の心が、むしろ人間の心を得てしまった異形を生かし続けるのが正しいのか否かという葛藤を生んでしまうのだ。
 乃木からすればちゃんちゃらおかしい限りだが、逆に言えば分かりやすくて実に助かる。
 ともあれ今の間宮麗奈が生きていても人類からもワームからも阻害されるのは目に見えているし、ここでそれを終わらせることについても正当性を完全には否定できないはずだ。

 正直に言えば麗奈の殺害に関して乃木の中にあるのは彼女に関する慈悲や手向けなどではなく脆弱な人間の心に飲まれた愚か者の粛正というだけなのだが、まぁそうした見方も出来るという提示だけで仮面ライダー諸君には何が正しいのか分からなくなってしまうことだろう。
 志村純一に海東大樹、そして今度は門矢士。それぞれ中々に口が回るらしい彼らをしかし自分は直接拳を交えることなく無力化し続けているという事実に、乃木が誰にも見られずほくそ笑んだ、その時だった。

 乃木と麗奈の間を隔てるように、士が立ちはだかったのは。

 「……話は終わりか?乃木」

 士が、静かな怒りを滾らせながら問う。
 そこに確かな敵意が含まれており彼が今の自分の話に少しも心揺らいでいないのが察せる時点で乃木は今にでも対話をやめ彼をズタズタに引き裂いてやりたかったが、何とかそれを抑え平静を取り繕いながら言葉を吐き出した。

 「そこを退いてくれないか、門矢。今しがた話したとおり、人の心を手にしてしまった時点で彼女に生きられる居場所などどこにもない。
 ここで一思いに殺しやることこそが、彼女に対する最大級の思いやりだと思うのだがね」

 「――違うな」

 「何?」

 思わず語気が荒くなるのを自覚しながらも、しかし乃木は抱いた苛立ちを抑えることが出来なかった。
 咄嗟に生み出した論説ではあったが、少なくともワームではない彼が即否定できるだけの矛盾はなかったはずだ。
 想像し得なかった速さで迷いなく吐き出された否定に怯んだ乃木に対し、士は言葉を紡ぐ。

 「確かにお前の言うとおり、この女にはもう、元の世界に居場所がないのかもしれない。人もワームもこいつを拒み迫害するというお前の推測を、俺に否定することは出来ない」

 「そうだろう、それなら――」

 「だが、そんな推測なんかよりよっぽど確かなことが、ここにある」

 言いながら、士は顔だけ後ろを振り返った。
 そこにあるのは、傷ついた女と、それ以上に身を削り気を失った紫の異形。
 彼女らに向け短く頷いた彼は、もう一度乃木に向き直る。

 「この女は、例え自分が傷ついても、仲間の為に戦える。そして傷ついたこいつの為に、自分の身を犠牲にしてでも戦った男がいる。……それなら少なくとも、ここはこいつの居場所だ。
 世界の誰もが自分を否定しようとも、仮面の下に表情を隠そうとも、互いを理解し、背中を預け合って共に戦える仲間がいる。それさえあれば、そこは誰にも否定できない、そいつの居場所だ。
 自分が何者でも関係ない。こいつにしかない居場所、こいつだから得られた仲間。人間だのワームだの、主語を大きくしてそれぞれ違うものを一括りにして考えるお前に、それを否定する資格はない!」

 語気は強く芯を持ち、それでいてその瞳は乃木を射貫かんとするほどに真っ直ぐに。
 言い放たれた士の言葉に、乃木はもう取り繕うこともせず不気味に笑い声を上げ……、しかしそれもすぐにやめゆっくりと彼を睨み付ける。
 敵対者として、邪魔者を排除する思考にのみ集中を重ねながら。


622 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:02:26 c35IbBSY0

 「貴様……一体何者だ」

 「通りすがりの仮面ライダーだ。……覚えておけ!――変身!」

 ――KAMENRIDE……DECADE!

 戦いの意思を叫んだ士がドライバーにカードを叩き込めば、彼の身体の周囲に生じた無数の虚像が彼と一体化し実像を結ぶ。
 それと同時バックルから生み出された数枚のカードが彼の顔に突き刺さるようにして収まると、力を手にしたディケイドの身体はマゼンタに光り輝き変身の完了を知らしめた。
 それはまさしく、誰かの居場所を自分勝手な理屈で頭ごなしに否定する悪を倒さんと通りすがりの救世主が立ち上がった瞬間だった。

 「ん?」

 変身を完了し、戦いの準備の為にライドブッカーへ手を伸ばしたディケイドの手に、三枚のカードが飛来する。
 一体何事かとそれらを一度に手に取れば、9つの世界の一つに属する龍騎のカードが、力を取り戻した証拠として鮮やかに彩られる姿だった。
 何がどうなっているのだ、と思わず困惑するディケイドだが、しかし瞬間後方より肩に向けて響いた小さな衝撃に振り返る。

 「アンタ、良いこと言うな!士って言うんだっけ?よろしくな!」

 見れば、そこにはディケイドの肩を緩く揺さぶりながら場違いなほどに眩しい笑顔を浮かべ話しかけてきている青年がいた。
 あまりにも馴れ馴れしい彼の態度、そして今手にしているカード、状況判断的に揃った証拠から導き出される推測を、ディケイドはまさかとは思いつつも問うてみることにした。

 「……お前、まさか城戸真司か?」

 「え、なんで俺のこと知ってんの?」

 ――そのまさかだった。
 自分の知る龍騎であるシンジは過去の同僚であるレンに対しても随分と懐疑的な性格であったことから、龍騎の力がこんなにすんなり取り戻せるとは士も思ってもみなかったのである。
 自分は蓮から予め彼について聞いていたからともかく、先ほどの話だけで自分を信用するとは。それも、自分に向けられたわけでもない、麗奈の居場所についての話で。

 なるほどこれはあの秋山蓮も苦労するほどのお人好しだとどこか気が抜けたディケイドは、一つだけ溜息をついてカードを戻しライドブッカーをソードモードに構え直した。

 「その話は後だ、真司。今はあいつらを頼む」 

 「お、おう!任せろ!」

 真司に指示を飛ばし視線を乃木に戻せば、彼は先ほど変身を解除したばかりだというのに再びカッシスワームへと変身を遂げていた。
 なるほどどうやら一度死んで首輪が外れたらしい。ともあれ、厄介な敵であることには変わりはない。
 理性を感じさせないような、怒りのみを込めた雄叫びに空気が震えるのを感じながら、ディケイドはカッシスへと向かっていった。

 
 ◆


 「間宮さん、大丈夫か!?」 

 「あぁ、私はもう大丈夫だ、それよりもリュウタは?」

 「気は失ってるけど、多分、大丈夫だと思う」

 「そうか……」

 短い仲間たちの安否確認を終えて、麗奈は一つ大きな溜息をついた。
 変身時間に関する余裕の有無などで戦いに対する隙が自然多くなってしまっていたと自己擁護をすることは出来る。
 だが結局、結果だけを見れば自分はあの士という男が来なければ仲間もろとも危険に晒し死なせてしまうところだったではないか。


623 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:02:43 c35IbBSY0

 初めて得た、心から尊いと感じることの出来る存在を、守ることも出来ぬままこの世を去るところだったのだ。
 自分の不甲斐なさに、そして今までは感じる事のなかった死に対する膨大な感覚に、麗奈は思わず押しつぶされそうになる。

 「間宮さん、大丈夫?顔色が悪いみたいだけど……」

 「あぁ、大丈夫だ、心配をかけてすまない」

 言いながら真司に、心配ならどんどんかけてくれよ!などと返されるかと予想していたが、しかし彼は今度は何も言わなかった。
 人間である間宮麗奈が彼に心配をかけたくないと言った時と違い、仲間に対する感謝を込めた言葉だということを、彼も理解してくれたのだろうか。
 そんな細やかな気遣いをも感じられるようになった自分に驚きながら、麗奈は、再度戦場へと目を戻す。

 「背中を預け合い共に戦う事が出来る仲間がいること、それこそが自分の居場所になる、か」

 麗奈は、先ほどの士の言葉を再度噛みしめるように呟く。
 もし彼の言うとおりなら、今までのワームだった自分に、背中を預けられるような存在はいなかった。
 全て合理性で判断して動き、必要ともあらば同族を見捨てることも厭わない、それこそがワームとして高みに立つために必要なことだったからだ。

 きっとそうして見捨ててきたワームたちは、決して自分を許しはしない。
 数多の同族を殺してきたこの自分の手は、今更何をしたところで穢れを捨て去ることなど出来はしないだろう。
 だが、それでいい。もしも生涯許されぬ命だったとしても、それでも今は、自分の心が命ずるままに、自分の心が望むことを。

 (私にも生きていていい理由があるとするのなら、許されぬ生涯に、それでも意味があるのなら、私は――)

 そうして彼女は、その命の意味を証明するために、もう一度立ち上がったのだった。


 ◆


 剣と剣がぶつかり合う度に、火花が散っていく。
 間宮麗奈からリュウタロス、そしてディケイドと三連戦の形となったカッシスの動きは、しかしそれでもなおやはり達人の域であった。
 されどディケイドも怯みはしない。9つのカードのうち6つを取り戻したことで、ディケイド自体の能力も向上している。

 例え他世界のライダーへ変身をしなくとも、今のカッシスであれば十分に単身で渡り合うことが出来るようになっていた。

 「門矢士、病院で金居から君を助けてやったというのに、これが命の恩人に対する態度かね?」

 「悪い、そんな前のことは忘れた」

 「貴様……ッ!」

 憤りに任せ大きく振るった大剣でディケイドを無理矢理に引き剥がしたカッシスは、瞬間クロックアップを行使する。
 常人には認識さえ出来ない領域へと高速化したカッシスはそのまま、すれ違いざまに何度もディケイドを切りつけ彼の身体から火花を飛び散らせた。
 一瞬で与えられた多大なダメージによって思わず地に這い滑ったディケイドに止めを刺さんと、カッシスは再度のクロックアップで勝負をつけようとする。

 「――ッ!?」

 だがそれを阻んだのは、突如として舞い降りた一匹の機械仕掛けのトンボによるカッシスへの体当たりだった。
 忌まわしいZECTのマークが示されたそれに思い切り嫌悪感を露わにしながらも何とかそれを引き剥がそうと藻掻くカッシスをよそに、取りあえずの目的は果たしたと見たかそれは真っ直ぐに主の元へと返っていく。
 ディケイドとカッシス、その両者が注目する中、そのトンボ……ドレイクゼクターが移動をやめ滞空した先にあったのは、主の証拠足るドレイクグリップを持ち仁王立ちする間宮麗奈の姿だった。


624 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:03:03 c35IbBSY0

 「貴様!ZECTのライダーシステムにその身を託すなど……ワームとしての誇りを失ったか!」

 「ワームとしての誇りなど、そんなものはもう必要ない。
 ……私は私の心が信じるものの為に戦う。戦って、生きる!――変身!」

 ――HENSHIN

 彼女の言葉に呼応するようにグリップに収まったドレイクゼクターが、タキオン粒子を放出し麗奈の身体を一瞬で屈強な戦士の鎧に包み込む。
 仮面ライダードレイク、それは風のように自由を愛するものとして、麗奈がワームへの決別と共に手に入れた力だった。
 変身と同時にドレイクゼクターから吐き出された複数の銃弾がカッシスを怯ませ後退させた隙を狙って、ドレイクは膝をつくディケイドの横に並び立つ。

 「まだ立てるか」

 「当たり前だ。それよりお前こそ――」

 「――お前ではない。私の名前は、“間宮麗奈”だ」

 言ったドレイクの声音は、どこか嬉しそうでもあった。
 ディケイドは生憎あまり女心に鋭い方ではなかったが、しかしそれでも、彼女の中にもうその名前を名乗ることに戸惑いがないのはすぐ理解出来た。

 「そうか。なら麗奈、行くぞ」

 「あぁ」

 覚悟を固めたドレイクに合わせるように、ディケイドはライドブッカーから一枚のカードを抜き出した。
 それをディケイドライバーに装填すると同時、ドレイクもまたドレイクゼクターのスロットルを引いた。

 ――KAMENRIDE……RYUUKI!
 ――CAST OFF
 ――CHANGE DRAGONFLY

 電子音声と共に弾け飛ぶドレイクの装甲。ディケイドにオーバラップする影。
 それぞれの変身を終えた時、そこにいたのは二人の竜。
 仮面ライダードレイク(DRAGONFLY)と仮面ライダーディケイド龍騎(DRAGON KNIGHT)の姿だった。

 低くブッカーを構えるディケイド龍騎と、銃口を真っ直ぐにカッシスに向けるドレイク。
 一切戦意の衰えを見せないその瞳が、仮面越しにでも自分を射貫くような感覚をカッシスは覚えていた。

 「グオアアァァァァ!!!」

 雄叫びと共にドレイクに向けカッシスが振るった左手そのものである大剣を、ディケイド龍騎が受け止める。
 ならばとばかりに自由な右手で彼に打撃を見舞おうとするが、しかしそれはドレイクが放った正確な射撃により見当違いな方向へと向けられてしまう。
 思い通りにいかないもどかしさに思わずドレイクに気を取られたその瞬間、ディケイド龍騎は深くカッシスの腹を切りつけていた。

 呻きながら後退したカッシスに、再び斬りかかろうとするディケイド龍騎。
 しかしそれ以上の前身を黙って見ているほど、カッシスも甘くはなかった。

 「舐めるなっ!」

 怒号と共に右手に生じた闇を、苛立ちのままに二人に放つ。
 凄まじい威力が約束されている暗黒掌波動を前に、しかしライダーたちは冷静にそれぞれお左右に回避し次の手札を切っていた。

 ――ATTACK RIDE……STRIKE VENT!
 ――RIDER SHOOTING


625 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:03:21 c35IbBSY0

 カッシスが闇を照射し終わる前に、鳴り響いた二つの電子音声。
 それによってダブルライダーから同時に放射されたのはそれぞれ赤と青のエネルギーを伴う光弾だった。
 このままではカッシスと言えど回避も防御もままならず消滅してしまう。

 「くっ……クロックアップッ!」

 だがそれは、何もしなかったときの話だ。
 勢いよく叫んだカッシスは、目の前にまで迫りつつあったディケイド達の攻撃が一気に速度を落としたのを見て安堵する。
 ワームとしての能力で、超高速空間に逃げ込んだのである。

 門矢士というイレギュラーが現れてしまった現状、このまま戦い続けるのは如何せん分が悪い。
 間宮麗奈を見逃すのに後ろ髪引かれる思いを感じながら、しかしそれでも大局のためその身体を翻しこの場を後にしようとする。

 「――逃がさん」

 だがそんな彼の瞳に映ったのは、怒りを滲ませながら佇むドレイクの姿だった。
 どうやら自分が逃げることまで読んだ上で、攻撃と同時クロックアップを発動していたらしい。
 なるほど自分を処刑する執行人気取りか。どういった心境かは知る由もないが堂々と立つドレイクに対し、しかしカッシスは高らかに笑い声を上げた。

 「詰め(チェック)をかけるつもりで墓穴を掘ったな、間宮麗奈。俺を追い詰めたつもりか?逆だよ。この空間では君のお仲間たちからの助けは期待出来ない。
 一対一では俺に敵わないことなど、先ほどの戦いで分かりきっているだろう?」

 「……それはどうかな」

 短く戦いの意思を告げたドレイクは、そのまま引き金を振り絞り弾丸を放つ。
 それを難なく右手の盾で受け止めつつ、カッシスは彼女を切り捨てんとする勢いで左手を大きく振るった。
 ドレイクは紙一重でそれを避けるが、しかしカッシスの猛攻は止まることを知らない。

 繰り返されていく剣の舞に、やがて彼女は吹き飛ばされてしまう。

 「終わりだ間宮麗奈。……その首、貰い受ける!」

 そして、勝利を確信したカッシスがそのまま彼女を見逃すはずもない。
 一瞬で距離を詰め、身動きの出来なくなった彼女の首を切り飛ばす勢いで横凪ぎに剣を振るった。
 だが、ドレイクの首と身体を分かつはずだったその一撃は、虚しく空を切る。

 いや、まだそれはいい。また彼女が回避できなくなるまで攻撃を続ければいいだけだ。
 それよりも、今最も大きな問題は――。

 「何、一体どこへ……!?」

 ドレイクの姿が、忽然と消え失せてしまったことだ。
 まさかドレイクの姿のままハイパークロックアップなどの特殊な能力を行使したとでもいうのか。
 有り得ない、と困惑するカッシスの元に、降り注ぐ声が一つ。

 「後ろだ」

 背筋が凍るような冷たい女の声が自身の後方より響いて、カッシスは思わず硬直する。
 だが、流石はワームの王。背中に突き付けられている銃口に臆することなく瞬間でも彼女の気を反らすため、彼は口を開いた。

 「貴様、一体どうやって俺の後ろに……?」

 「忘れたのか。私は真似をしただけだ。私の仲間がお前の背後を取った時の、な」

 ニヤリと笑いながら、ドレイクは告げる。
 そう、彼女はカッシスが剣を横に振り払い足下への視界が悪くなるその瞬間、リュウタロスが行ったのと同じように足の間を滑り抜けこうして後方を取ったのである。
 ウカワームの剛直な身体でも、クロックアップを持たないリュウタロスでも完遂出来なかったカッシスの攻略法。

 それが今、ドレイクを纏った麗奈の手によって、ようやく果たされたのであった。


626 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:03:40 c35IbBSY0

 「グゥ、ウオオォォォ!!!」

 しかし当のカッシスは、この敗北を認めることなど出来はしない。
 獣のような雄叫びを上げて、銃口をも気にせず思い切りドレイクに向け振り返ろうとする。
 だがそれこそが、彼女の狙い。振り返りざまの彼に向け全力で引き金を引けば、そこは先ほどディケイドが切りつけた部分に丁度一致し、さしものカッシスも呻き声を上げた。

 そしてそれで済ませるドレイクではない。
 数歩後退したカッシスに渾身の後ろ回し蹴りを食らわせ仲間のデイパックを全て回収しつつ、ゼクターのグリップを引く。

 「ライダーシューティング!」

 ――RIDER SHOOTING

 ドレイクの絶叫と共に銃口に迸るタキオン粒子は、まさしく必殺の一撃。
 一瞬の緊張の後放たれたその高エネルギーの弾丸を、しかしカッシスは自身の盾で防いでいた。
 そしてその威力故に後方へと足を引きずられながらも、彼は高らかに笑う。

 「ハハハハッ、最後の最後、見誤ったな間宮麗奈!貴様は忘れているだろうが、俺はもうクロックアップの再使用に制限などない!
 この一撃を耐えきり貴様のクロックアップが制限にかかった瞬間こそが、貴様の最後だ!」

 「忘れてなどいないさ、乃木怜治。それから最後に貴様に、一つだけ忠告しておいてやろう。――後ろに気をつけろ」

 ――CLOCK OVER

 瞬間、ドレイクの高速移動能力の終わりを告げる電子音声が響く。
 これで自分の勝利は揺るぎない。この程度の一撃など、耐えてみせる。
 そう思い右手に一層意識を集中させようとして、気付く。この場所に見覚えがあることに。

 「後ろに気をつけろ、だと?――まさか!」

 ハッと一つの可能性に辿り着いたカッシスが振り向けば、既にそこには弾速を戻した二つの弾丸が、先ほどドレイクとディケイドが通常時間軸で放った一撃が迫っているのを視認する。
 つまりは、挟み撃ちだ。まさか、奴はここまで読んで先ほどの攻撃などで自分の位置を調整していたというのか。
 咄嗟に回避を試みるが、しかし敵わない。右手の盾で既に抑えている弾丸が、彼を拘束して離さないのだ。

 「グ、オォォォ!!!間宮、麗奈アァァァ!!!」

 断末魔の様に叫ぶと同時、カッシスの左手そのものである剣にタキオン粒子が禍々しく輝いて。
 辺りは、光と爆音で満たされた。


 ◆


 「……逃げた、か」

 凄まじい閃光と爆音が晴れた後、周囲に敵意が感じられず、また乃木が乗ってきていたらしいバイクが消えているのを見て、麗奈は変身を解除しながら呟いた。
 勝った。ワームの王とでも言える実力の持ち主に自分は、いや自分たちは勝ったのである。
 先ほどの浅倉との戦いよりも実感として自分が今のまま生きていていいのだという権利をも勝ち取ったような気持ちになって、麗奈は大きく深呼吸した。

 「大丈夫か、麗奈」

 「あぁ」

 ふと見れば、同じように変身を解除した士が、自分に向けて声をかけてきていた。
 彼がいなければどうなっていたことか。浮かんでしまった最悪の可能性は、しかしこの男がいなければ確実に訪れていたものだ。
 取りあえずは彼に感謝の言葉を。そう思い口を開こうと彼女は一歩足を進める。


627 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:04:03 c35IbBSY0

 「ありが――」

 「――おいアンタ!なんでデッキもないのに龍騎に変身できんだよ!一体何がどうなってんだ!?」

 だがその一言は、間の抜けたような驚愕を含んだ真司の声によって、遮られてしまう。
 本来ならば怒っても良いはずだというのに、無性に微笑ましいのは、人間である彼女の元来より持つ朗らかな性格故だろうか。
 ともかく、何とも気が抜ける奴だ、と溜息一つだけを残して、士は一瞬麗奈と視線を交わしてから真司に振り返った。

 「悪いが詳しい話をしてやれる時間はない。だが、そうだな。お前らには幾つか伝えなきゃいけないことがある」

 そうして彼は語り出した。未だ知らぬ彼らの仲間の死とその詳細を。
 そして今の自分が、一体どこへ何故向かおうとしているのかを。

 
 ◆


 広い草原を、足を引きずりバイクに寄りかかりながら何とか歩いている男の影。
 その姿を先刻までの彼自身が見れば、嘲り馬鹿にしていただろう情けのない姿。
 しかしそれでも、彼は歩みをやめずただ一心に復讐のみを誓いながらその足を進めていた。

 「間宮麗奈……次に会ったときは、必ず、その命を……!」

 あの時、三つの弾丸に挟まれ絶体絶命となったカッシスは、ライダースラッシュによる斬撃で攻撃の威力を殺し、何とか九死に一生を得たのである。
 だが、乃木は、命が助かったと言うだけのことに喜ぶような小さな男ではなかった。
 目の前に愚かな裏切り者がいるというのにそれを見過ごさなければならないという屈辱。それを味合わせた間宮麗奈と門矢士への絶えない憎悪が、彼を支配していたのである。

 「だが……今の身体では奴らの相手どころかA-4エリアに向かうのも難しい……。
 ここは一旦もう一人の俺と合流し、体勢を立て直さなくては……」

 息も絶え絶えに今後の方針を固め、乃木は歩く。
 その先にも、もう一つの苛烈を極める戦いがあることなど、露程も知らずに。


【二日目 早朝】
【G-2 平原】

【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、屈辱、間宮麗奈、門矢士への憎しみ
【装備】なし
【道具】ブラックファング@仮面ライダー剣、
【思考・状況】
0:取りあえずG-1エリアに向かいもう一人の自分と合流する。
1:間宮麗奈は次に会ったときは絶対に殺す。
2:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
3:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
4:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
5:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
6:もう一人の乃木にこれ以上無様な真似を見せないようにしなくては。だが、背に腹は代えられないか。
【備考】
※カッシスワーム・クリペウス(角なし)になりました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。 なお新しくはもう覚えられないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※クロックアップに制限が架せられていること、フリーズ、必殺技吸収能力が使用できないことを把握しました。 なお、現在クロックアップに関しては連続使用に制限はないようです。
※第二回放送を聞いていませんでしたが、間宮麗奈より情報を得たので内容について知りました。
今のところは内容について別に気にしていません。


628 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:04:20 c35IbBSY0


 ◆


 「――もう行くのか」

 「あぁ、悪いが通りすがりなんでな。そうゆっくりもしてられない」

 「キングって奴のこと、頼むな!あと翔一たちのこともよろしく」

 「分かってる」

 バイクに跨がりヘルメットとゴーグルをつける士に、麗奈と真司はそれぞれ言葉をかける。
 士からもたらされた情報は、非常に有益なものばかりだった。
 大ショッカーを一度潰したというディケイドの力、そして士自身について。

 何より西病院を襲うかもしれないキングという大ショッカー幹部の男については、少々議論が発生した。
 結局は、仲間達の危機なのだから自分もついていくとせがむ真司を、傷だらけの麗奈やリュウタ、そして戦闘要員として過度の期待は出来ない三原を守れるのはお前しかいないと説得しことは終わったのだが、それでもなお彼は不安が拭えないようだった。
 そしてそれは、士も同じだった。

 「真司、無茶だけはするなよ」

 「何だよいきなり。お前こそ気をつけろよな」
 
 「……そうだな」

 言ってから、真司にとっては唐突すぎたかと少し自省する。
 幾ら自分が力を取り戻したライダーがすぐに死んでしまうというのが統計的に立証されつつあるとはいえ、それは所詮仮説にすぎないのだ。
 どうにか彼には無事でいて欲しい。その為にこの場を離れるという理由も、なくはないのだから。

 「門矢士、私からも一つだけ聞いておきたいことがある」

 「何だ」

 と、そこで会話に加わったのは麗奈だった。
 傷ついた身体に処置を施し、一応移動にも支障はないらしい彼女は、どこか少し悪戯っぽい表情で士のすぐ近くにまで歩み寄った。
 
 「さっきお前が言った、仲間がいる場所が自分の居場所なのだという話。あれは、私にだけ向けた言葉ではないな?」

 麗奈のその言葉に、士はここに来て初めて言葉に詰まってしまう。
 そう、自分の世界がないということ、そして居場所がどこにもないということ、誰もが自分を拒絶し迫害するということ……。
 全て、士も経験したことだった。だから、同じ境遇になりつつある麗奈に対する乃木の言葉に、一切の葛藤もなしに反論することが出来たのだ。

 「あれは、もしやお前自身の――」

 「――さぁな」

 微笑を浮かべた麗奈に対し。見透かされたようでばつが悪かった士は下手な返しだけを残してエンジンをかけた。
 思い切りアクセルが振り絞られると同時、トライチェイサーは唸りを上げて北へと向かっていく。
 それを見送りながらどこかまた自然と笑みが浮かんでいる自分の顔を自覚して、麗奈は一人自由という状況を謳歌していた。


 ◆


 麗奈と真司から少し離れたところで、三原は一人リュウタの側で彼を見守りながら物思いに沈んでいた。
 乾巧と、野上良太郎が死んだ。
 士が話したその情報が、三原をより一層不安にさせる。


629 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:04:45 c35IbBSY0

 流星塾の生き残りと協力し悪いオルフェノクを倒していたという乾巧。
 正直な話、信頼できるとは言えそれも伝聞で聞き及んだ話だし、面識もない相手が死んでしまったと言っても、三原の中に特別な感情は特に浮かばなかった。
 そう、だからそれ以上に――。

 「良太郎さんが死んだなんて、俺お前に何て言えばいいんだよリュウタ……」

 目の前で疲れ果て眠る紫の怪人が、最も信頼を寄せ強さを認めていた青年の死。
 それを自分は、なんと言えばいいのだろうか。
 いやどうせ、何を言ったところで「良太郎を倒した奴は僕が倒すから!」などと言って聞かないのだろうことは予想がつく。

 だがその下手人であるキングは、大ショッカーの幹部だし、あの士という男さえ一度は逃がしたという。
 そんな相手を前に、自分やリュウタが敵うわけないではないか。デルタが戻ってきたところで、自分は結局自分の身を守ることくらいしか出来ないのだ。
 逃げている最中に巻き込まれた戦闘ならまだしも、自分から戦闘が予想される場所に赴くなど、絶対にごめんだった。

 『世界の誰もが自分を否定しようとも、仮面の下に表情を隠そうとも、互いを理解し、背中を預け合って共に戦える仲間がいる。それさえあれば、そこは誰にも否定できない、そいつの居場所だ』

 そこまで考えて、三原の脳裏にふととある言葉が過ぎる。
 先ほどディケイドが、麗奈に向け放った言葉は、少し離れたところで一部始終を見届けていた三原の耳にも届いていたのだ。

 「背中を任せて戦えるとか……何なんだよ……!戦うのなんて怖いに決まってるだろ……!戦いたくない……俺は……!」

 共に戦える仲間がいることが一つの居場所の証明だとするのなら、自分の帰る場所はやはり元の世界に存在する自分の家以外にない。
 あの何の変哲もない日常に帰りたい。そう思う自分を、親切にしてくれた異世界の人々をこのまま見捨てて帰るわけにはいかないという自分が叱咤する。
 どうしようもない二律背反に三原はいつしかストレス性の胃痛を覚え……、やがてその苦しさから免れるためにこの何度目ともしれぬ思考を再び停止した。

【二日目 早朝】
【F-2 平原】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに1時間45分変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:キングを探すため、西側の病院を目指す。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ダグバへの強い関心。
6:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
7:仲間との合流。
8:涼、ヒビキへの感謝。
9:黒いカブトに天道の夢を伝えるかどうかは……?
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、電王の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※参戦時期のズレに気づきました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は光夏海以外には出来ないようです。
※巧の遺した黒いカブトという存在に剣崎を殺した相手を同一と考えているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


630 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:05:02 c35IbBSY0



【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】意識統合、疲労(大)、ダメージ(大)、ウカワームに1時間30分変身不能、仮面ライダードレイクに1時間45分変身不能
【装備】ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、
【思考・状況】
基本行動方針:自分の中に流れる心の音楽に耳を傾ける。
1:東の病院へ向かい士の仲間たちと合流する。(村上峡児への対処は保留)
2:皆は、私が守る。
3:仲間といられる場所こそが、私の居場所、か。
【備考】
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※人間としての人格とワームとしての人格が統合されました。表面的な性格はワーム時が濃厚ですが、内面には人間時の麗奈の一面もちゃんと存在しています。
※意識の統合によって、ワームとしての記憶と人間としての記憶、その両方をすべて保有しています。
※現状、人間時の私服+ワーム時のストレートヘアです。




【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一、士への信頼、疲労(中)
【【装備】カードデッキ(龍騎)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(ファム・ブランク)@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:東の病院へ向かい士の仲間たちと合流する。(村上峡児への対処は保留)
2:翔一たちが心配。
3:間宮さんはちゃんとワームの自分と和解出来たんだな……。
4:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
5:黒い龍騎、それってもしかして……。
6:士の奴、何で俺の心配してたんだ……?
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※再変身までの時間制限を二時間と把握しました。
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました。
※美穂の形見として、ファムのブランクデッキを手に入れました。中に烈火のサバイブが入っていますが、真司はまだ気付いていません。


631 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:05:21 c35IbBSY0




【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心、疲労(中)
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:俺は……。
1:できることをやる。草加の分まで生きたいが……。
2:居場所とか仲間とか、何なんだよ……。
3:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強い恐怖。逃げ出したい。
4:東病院へ向かうが、村上はどうすれば……。
5:リュウタに良太郎って人のこと何て言えば良いんだよ……。
6:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
7:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。
8:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ。
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。今抱いている恐怖心はテラーなど関係なく、ただの「普通の恐怖心」です。
※デルタギアを取り上げられたことで一層死の恐怖を感じたため、再度ヘタレています。



【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
(気絶中)
0:修二、強くなった……のかな?よくわかんない。
1:今の麗奈は人間なの?ワームなの?どっちでもないの?
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスの分まで頑張る。
5:東側の病院へ向かい友好的な参加者と合流したい。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。
※麗奈が乃木との会話の中でついた嘘について理解出来ていません。そのため、今の麗奈がどういった存在なのか一層混乱していますが、それでも一応守りたいとは思っています。


632 : ◆.ji0E9MT9g :2018/08/30(木) 13:08:21 c35IbBSY0
以上で投下終了です。
今回のタイトルに関しては『居場所-プレイス-』でお願いします。
それでは毎度の事ながらご意見ご感想ご指摘などございましたら是非お願いいたします。


633 : 名無しさん :2018/08/30(木) 13:57:28 KIrDddro0
投下乙です!
文字通り通りすがりの仮面ライダーな士、相変わらず彼の説教は心を動かすものがあります。
カッシスのクロックアップにもアクセルにフォームライドかな?と思いきや、ありきたりの対策ではなくて仲間との連携で魅せる戦闘シーンも見事でした。

ここでリタイアしない乃木さんも弱体化したとはいえ、中々にしぶとい……彼の巻き起こす波乱に今後も注目ですね


634 : 名無しさん :2018/08/30(木) 18:10:26 HYvwC/vQ0
投下乙です!
カッシスの圧倒的な戦闘力を前に麗奈さんたちは絶体絶命のピンチに追い込まれましたが……士が通りすがってくれたおかげで、危機を乗り越えましたか!
士の説教が出てきた瞬間、例のBGMが脳裏で再生されましたし、真司と心を通わせたことも熱かったです!
見事にカッシスを打ち倒しましたが、流石にカッシスもしぶとい……でも、これから彼が向かおうとしている先では……


635 : ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:00:19 g6Yi9xWY0
皆様お待たせいたしました。これより投下を開始いたします。


636 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:03:17 g6Yi9xWY0

 大ショッカー幹部であるスペードスートのアンデッド、キングが来訪してから、30分ほど経った頃。
 既に存在していた質量の半分以上を失った白亜の建物のすぐ側で、残された三人の男達は先の戦いで犠牲となった男、野上良太郎の墓の前でそれぞれ異なる表情を浮かべていた。
 悪意の塊とも言える怪物、キング。
 彼の口車にまんまと乗せられ、良太郎を変身すらさせぬままに戦場へと送り出してしまった為に、彼は死んだ。

 それを思えば思うほどに、彼らの表情には深く感情が表立っていく。
 簡易的極まりない、ただ埋めただけのその墓に、険しい表情を浮かべながら手を合わせる男の名は、橘朔也。
 良太郎の犠牲は、自分がもっとしっかりとしていればなくせたかもしれない。
 彼はそんなやるせなさと、何より許しがたい悪への憤りを滲ませていた。

 その後ろで同じように手を合わせながら下を向く男の名は、フィリップ。
 彼が良太郎の墓に向けるその視線には、何より後悔と懺悔の念が浮かんでいる。
 それも当然だ。フィリップにとって野上良太郎とは、交流を通して得た信頼よりも姉の敵として誤解していた際に抱いた怒りや憎しみが勝ったままの存在であった。
 姉を殺し自分を騙し、そして無実の良太郎にその罪を着せた志村純一が死んだ後も、首輪の解析などが立て込み彼に対し面と向かって親交を深める時間もなかったのである。

 ちゃんとした謝罪を後回しにしてしまった結果、彼は死んでしまった。
 もう、彼にそれを謝ることも、彼という青年を深く理解することも出来ない。
 それが死。生物であれば誰しもが避けることの出来ない恐ろしい概念なのだと、フィリップは検索を必要とすることもなくこれ以上ないほどに理解していた。
 そしてそれと同時に、良太郎だけではない、死亡者の多くは大ショッカーの手によってこの場に連れてこられなければもっと長く生きられただろうことを思いだし、彼は苦悶と後悔の表情を浮かべた。

 (全く、いつまでこうしているつもりなのですかね……)

 そうしてただ物思いにふける二人の後方で一人、仁王立ちのまま彼らを見つめる男がいた。村上峡児である。
 彼は、今この場でただ一人だけ良太郎の墓に向けて手を合わせることもせず、ただ時が経つのを待っていた。
 良太郎とこの場で最も長く行動を共にしていたはずの村上がしかしその瞳に浮かべていたのは、ただ普遍的に存在する死という現象への慣れ。
 優秀な同胞であるのならともかく、人類とオルフェノクに共存の道があるのでは、などと見当違いの意見を述べた野上良太郎の死に、村上が惜しさを感じることはない。

 どころか下手に(この場で発生する可能性は皆無なのだろうが)使徒再生を果たし同胞になってしまわなかった分だけ無駄なライダーズギアの争奪戦が起こらなくてよかったとすら、村上は思っていた。
 つまりは纏めてしまえば……村上が今の状況に感じていることはただ一つ。
 目の前で死人に心奪われ続ける二人に早く首輪の解析と解除について行動し大ショッカー打倒のために働いて欲しいという、ただそれだけの血の通わない要求だった。

 (全く、首輪さえなければこの二人をここまで頼りにする必要もないのですがね……)

 二人に悟られないように今また一つ大きく溜息をつきながら、村上は現状を嘆く。
 本来であればこんな墓参りなどはただの時間の無駄である。
 元の世界と違い社長としての職務もないが、それでも村上は時間の浪費が嫌いだった。
 だというのにこうして甘んじて立ち尽くすしかない理由は、この目の前の不快な男達が自分を縛り付ける首輪を解除するのに恐らくはこの会場内で最も有益な働きを期待できる存在だからだ。

 この首輪を解除し、憎き大ショッカーを倒す。その目的のために、彼は貴重な変身手段さえ浪費して彼らに媚を売ったのだから、ここで下手に扱って自分の立場を悪くするつもりもなかった。
 とは言え、物事には限度というものがある。
 後々の首輪解除を思えばあまり二人からの心象を悪くはしたくないがやむを得ないか、と村上が口を開こうとしたその瞬間。
 フィリップは、何かを振り切るかのように思い切り立ち上がった。

 「――野上良太郎、君の死は、決して無駄にはしない。
 大ショッカーを倒すのは勿論だが、それ以上に君の世界だって絶対に滅ぼさせたりしない。今ここに、それを誓おう」

 拳を握りしめ、どこかポエムチックに今は亡き仲間へと宣誓するフィリップ。
 それに触発されたか、橘もまた伏せていた目を真っ直ぐに向けて、フィリップと同様に立ち上がった。


637 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:07:56 g6Yi9xWY0

「……あぁ、そうだなフィリップ。野上の死を無駄にしないためにも、今俺たちは俺たちに出来ることをやるしかない。
首輪を解除し、大ショッカーを倒すのに必要な情報を少しでも多く集めなければ、俺たちに勝ち目はない」

どこか切なげにそう呟く橘の瞳には、しかし諦めは浮かんでいない。
決して易しい道ではないがそれでもなお歩まなければならない道であることを覚悟しているような、そんな瞳だった。

(やれやれ、ようやくですか)

どうやら決意を固めたらしい男達の言葉を聞きながら、村上は改めて溜息を吐いた。
何にせよ、これで彼らも自分の使命を思い出したはずである。
ようやく一安心、後は彼らと共に破壊された病院内に戻り首輪解除に付き添えばいい。
そうして良太郎の墓に背を向けて、しかし村上の足は一瞬止まった。

――『何で貴方は人間とオルフェノクの共存を考えたりしないんですか、そんなにオルフェノクに優しいなら、人間と戦わない道を探すことだって――』
――『貴方が……人を襲わなくなるまでです。 それまでずっと、僕は何度だって貴方を止める』

何故か頭の中に響いた言葉。
それは良太郎が、生前に自分に向けて真っ直ぐに訴えかけた言葉であるということを、村上は理解していた。
どこまでも甘く、自分のこのオルフェノクという種への愛が人類にも向けられるとそう信じた愚かな男。
すぐに脳内から消してもいいはずのそれを未だにこうして引きずってしまうのは、彼という男の持つ言葉への説得力故なのだろうか。

(……馬鹿馬鹿しい。私の意思は最早そんな言葉などで揺らぎはしない)

頭を振り、先ほどの思考を疲労の為だと自分自身に言い訳をして、村上は再度歩む。
オルフェノクの繁栄の為、まずは大ショッカーを倒し人類を滅ぼすために。
それこそがこの村上峡児の野望の全て。故に――。

「――我々に、戦争以外の道はない」

良太郎に告げたその言葉を、再度一人確かめるように復唱して。
村上は、もう振り返らなかった。





「――これから首輪の解除をするにあたって、首輪の内部構造について幾つか確認しておきたい」

先の戦いで崩壊した病院の中、未だに僅かながら残る無傷で残っていた病室の一つの中で、フィリップは橘と村上に向けてそう言った。
その言葉は僅かに震えていて、額に浮かぶ汗と合わせて彼がらしくないほどに緊張しているのが見て取れた。
だが、それも当然だろう。
今から自分は生きている人間の首輪を解除しようとしている。

つまり、誰かの命を文字通り自分の手で預かることになるのだから。

「まず、分かりきっていることからだ。首輪には複数の種類があり、その種類はその参加者の種族によって異なるということ。それから――」

言いながら、フィリップは素早く用紙にペンを走らせていく。
彼の口調は恐ろしく早く、他者に説明している意図は余り感じられなかったが、聞いている橘も村上も聡明な人物である。
それに彼の背負っている緊張感を思えば、その程度は指摘することもないだろうと二人はそのまま黙って彼の書き上げた資料を覗き込んだ。

――以下は、その資料の内容である。


638 : 名無しさん :2018/10/04(木) 00:10:39 G9VqBAvs0
支援の叫びを聞け


639 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:10:55 g6Yi9xWY0



 ・首輪について分かっていること

 1.首輪には複数の種類が存在する。(現在確認出来ているものは人間、オルフェノク、アンデッド、イマジンの5つ)

 首輪の種類が分かれていることでそれぞれ特殊な怪人が持っている能力(アンデッドの不死性など)を抑制する狙いと、首輪解除を円滑に進めさせない狙いがあると考察できる。
 しかし、一見する限りそれぞれの首輪の構造の大本は人間につけられている首輪が元のようで、まずは人間の首輪を解除することで今後の大きな参考になるのは間違いない。

 また、大ショッカー幹部であるキングの言葉を信じるのであればクウガ(五代雄介、小野寺ユウスケ)、ディケイドとディエンド(門矢士と海東大樹)のものも人間の首輪とは異なる。
 クウガのものがグロンギと同種の首輪なのか、またアギト、ワーム、ファンガイア、そして地球の本棚を持つ僕(フィリップ)の首輪がそれぞれ異なるのかは未だ不明。

 2.首輪を爆破させる為の爆薬として魔石ゲブロンが用いられている

 門矢士によれば、ゲブロンはガドルやダグバを始めとするグロンギ族がベルトに使用するアイテムらしく、ゲゲルに失敗したグロンギを確実に殺す為のものらしい。
 強力なグロンギにはそれだけ強力な威力を秘めたゲブロンが使用されるため、それを応用した今回のバトルロワイアルでも強力な参加者の首輪の爆発には広範囲の被害が想定される。(事実、未確認生命体41号の爆発では半径3kmが吹き飛んだようであり、警戒は必要だろう)

 3.首輪の動力にはライフエナジーが用いられている

 ライフエナジーとは『キバの世界』において生物が生きていくのに不可欠な栄養である。
 また首輪の中に存在するのはファンガイア族がライフエナジーを吸収する際に用いる吸血牙であり、これは上記ゲブロンによる爆発で参加者が死亡しない(仮面ライダーに変身している状態の人間など)という状況に関する予防策とみられる。
 これによって首輪が制御されている為に首輪の爆発は致死性を保つと同時に、参加者が死亡したエリアが禁止エリアに指定されたことで首輪が爆発し禁止エリア外にまで被害を及ぼすという事態を防いでいる模様である。

 4.参加者につけられている変身制限は首輪で管理されている

 この会場においては仮面ライダーや怪人等に変身出来るのは一度に10分まで、更に変身が解除された後は2時間の間同じ姿には変身できないという制限が設けられている。
 しかし、大ショッカー幹部であるキングを見る限り、その制限は首輪を解除すれば無視できるらしく、これによって首輪を解除すれば大きなアドバンテージを得られることは明白である。


 「――こんなものか」

 汗を手で拭いながら、フィリップは息をつく。
 纏めてしまえば中々に複雑なようでシンプルである。
 少なくともそう自分を納得させなければ、緊張と責任感でフィリップはどうにかなってしまいそうだった。

 「では、情報も纏まったところで実際に首輪の解除を始めていただきましょうか。橘さん、よろしいですね?」

 「何?」

 チラと目配せをしながら述べられた事実上のモルモットになれという言葉に、僅かながら橘は動揺を隠せない。
 内部の情報は集まり理論上は首輪の解除も可能かもしれないが、今の状況ではその成功確率は保証されていない。
 無論未知の分野に100パーセントの成功など存在しないことを橘はライダーシステムの立ち上げと桐生の尊い犠牲により痛いほど知っている。
 だが……、いやだからこそ、この状況での首輪の早急な解除は、自分はもちろんフィリップにとっても危険すぎると判断したのであった。

 しかし橘の怪訝な目を受けて、しかし村上はいつもの余裕を崩さぬままにコツリ、と革靴の小気味いい音を響かせた。

 「……では、いつになったら参加者についている首輪の解除を行うおつもりです?
 この場では100パーセントの保証など存在しないことは、貴方も重々ご承知のはず。
 それに貴方は先ほど誓ったのではありませんでしたか?野上さんの犠牲を無駄にしないためにも、この殺し合いを打倒してみせると」

 「……あぁ」

 「であれば首輪についての情報も揃い技術者もいるこの状況、逃すわけにはいかないと、私は思いますがね」

 「それは……確かにそうだが」


640 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:14:08 g6Yi9xWY0

 村上の人を舐めたような表情から吐き出されたその言葉に、思わず橘は勢いを失う。
 もしかしたら村上は自分を良いように言いくるめようとしているのではとも思うが、しかしそれでも構わなかった。
 どうせ騙され利用され続けてきた人生なのだ。
 最後の最後、本当に信用出来る仲間に命を預けられるだけ、幸せなのではないだろうか。

 それに、病院に来てからのこの6時間ほどを共に行動し、フィリップの能力にも自分は信頼を置いている。
 恐らくはこの男は安全に対処出来る算段もないままに他者の命を預かることをするような狂った倫理観を持ち得てはいないだろう。
 であれば彼の中では首輪の解除はまだ実際に行えていないというだけで、脳内では既に何回と繰り返されたことに違いない。
 そう思う程度には、既に橘はフィリップを信用していた。

 「フィリップ、頼めるか」

 「……橘朔也、本当に大丈夫なのか。僕が失敗したら、君は――」

 「構わない。お前は、いや俺たちの理論は失敗しないはずだ。心配する必要はない」

 「……わかった」

 未だ緊張が拭いきれない様子のフィリップに対し、橘はあくまで確固たる口調で返す。
 その強さに思わず気圧されたか、フィリップもまた諦めたように一つ息を吐いて覚悟を固めたようだった。
 そうして頷きあった二人が適当な個室へと移動しようとした、その瞬間。

 「――待ってください」

 村上が、らしくなく少し焦った様子で二人を呼び止める。
 何事かと振り返った両者が見たのは、あの村上が余裕ぶった表情の一切を捨て去った姿であった。

 「村上、何が――」

 「静かに。何者かがここに来たようです。それも、とてつもなく強大な何かが、ね」

 村上の言葉は、決して嘘や出まかせではなかったらしい。
 彼が聞いたのであろうそれが自分たちの耳に届いたとき、橘たちはそれを深く理解した。
 ――小さい、しかし何故か嫌に耳に響くような足跡が遠くから近づいてくる。
 一歩、また一歩と“それ”が近づいてくるたびに、嫌な汗が全身から噴き出していく。

 (だがこの感覚、覚えがある……。まさか……)

 一方で、橘はこの感覚に対してどこか既知感があった。
 だがそれはあってはならない。なぜなら今の自分たちでは“奴”には……。
 思考を重ねる橘に対し、姿さえ見えないというのに強烈なインパクトを浴びせたそれが、彼ら三人の前に姿を現したのは、それからすぐのことだった。

 「――やぁ、リントの戦士たち。それともこう呼ぶべきかな?仮面ライダーって」

 「ダグバ……!」

 「ダグバだって!?」

 遂に現れた、闇夜になおも輝くような白い上下の服を纏った青年に対し、橘は嫌な予感が的中したことに苛立ちを隠しもせずに呟いた。
 そしてその名前に対し驚愕を示したのは、フィリップである。
 乾巧、橘朔也、日高仁志、そして葦原涼……彼を知る全ての参加者がいずれもこの会場の最大の脅威として認識していた男が、今目の前に現れたのだ。
 よりにもよって、ライジングアルティメットとの戦いのために集まった仲間たちがもうほとんど残っておらず、かつここまで戦力が削られた、今。

 (やれるのか……今の僕たちに)

 ゆえに、どうしても不安は大きい。
 橘はともかくとして、ダブルに変身できない自分は決して戦闘要員ではない。
 奇襲も含めた数字とはいえ小野寺ユウスケや橘朔也ら5人を一斉に相手どって勝利をつかみ取ったというダグバを相手にするには、今の自分たちの戦力はあまりにも心もとなかった。


641 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:16:37 g6Yi9xWY0

 (全く、このタイミングで最も警戒していた危険人物が現れるとは……!)

 そしてフィリップと同様に、ダグバという名前に対し言葉には出さないながらも村上もまた一層の警戒を強める。
 あの乾巧を以てして捨て身の攻撃でようやくダメージらしいダメージを与えられたという化け物、未確認生命体第0号、ン・ダグバ・ゼバ。
 ラッキークローバー最強の北崎、或いは前社長である花形にも匹敵する可能性のある彼を前に、村上に戦力を惜しむ考えなど既に消え失せていた。
 一瞬で敵意を全開にした三人に対し、しかしダグバはどこかマイペースに抜けた天井から天を仰ぎ、少ししてから「あっ」と声を上げた。

 「君、誰かと思ったらあのクウガと一緒にいた仮面ライダーかぁ、生きてたんだね。
 もう一度クウガと戦った時にはいなかったから死んじゃったのかと思ったよ」

 「何?まさかお前、あの戦いの後にもう一度小野寺と戦ったのか!?」

 「うん、戦ったよ。楽しかったなぁ」

 怒りを込めて問い詰める橘に対し、思い出話でもするかのようにダグバはゆっくりと噛み締めるように語る。
 恍惚とさえ表現できるその表情に橘が怯んだその隙に、ダグバは何かに気付いたかのように「そういえば」と続けた。

 「ねぇ、もしかしてだけど、君って仮面ライダーギャレン?」

 「何故それを知っている?」

 「やっぱり!じゃあさ、君はキングフォームになれないの?」

 「何……?」

 橘の問いさえ無視して、興奮した様子でダグバは問い詰める。
 しかしそうして吐かれた問いは、極めて理解不能なものだった。
 なぜ自分がギャレンであることを知っているのか、そしてなぜキングフォームを知っているのか、そしてなぜそれになれるかどうかを気にするのか……。
 疑問が次々と沸き起こる中で、思わず黙りこくった橘にしかし、沈黙を伴う思考の時間は与えられない。

 「ねぇ、どうなの?キングフォームにはなれるの?なれないの?」

 「……!」

 再び問うたダグバの声は、先ほどよりも僅かに苛立っている。
 このまま黙っていても彼が会話をやめ情報を得ることも出来ないままに戦闘が始まるだけだと理解した橘は、自分の中の戸惑いを全て飲み込んで、答えた。

 「……俺は、キングフォームには、なれない」

 それは、真実だった。
 ラウズアブゾーバーとカテゴリーキングのカードこそあるが、そもそも自分の手元にカテゴリークイーン、つまりラウズアブゾーバーの起動スイッチとなるカードがない。
 それに、そもそもギャレンへの変身が制限されている現状、例え素材が揃っていても同じ返答をする以外に彼に道は残されていなかっただろうが。
 そしてその言葉を聞いて、やはりというべきかダグバは著しく気分を害したように大きく溜息をついた。

 「なんだ、つまんないの。まぁいいや、それじゃ――」

 「――待ってくれ、一つ教えてほしい。なぜお前がキングフォームにそこまで固執する?
 お前がキングフォームの……いやブレイドの一体何を知っているんだ」

 失望のままに会話を切り上げ恐らくは戦闘の準備を始めようとしたダグバに対し、しかし橘は素早く新たな問いを投げた。
 キングフォーム、ひいては既に死亡し自分も死体を確認した友、剣崎一真、仮面ライダーブレイド。
 13体のアンデッドと融合したブレイドであれば或いはダグバにも匹敵しうるかもと考察を述べたこともある橘にとっては、張本人がその名前を述べたことを無視するわけにはいかなかったのだ。
 その質問が無視されるかどうかは正直五分だと踏んでいたが、しかし気が向いたのかダグバは動かしかけた左手を再びダランと下ろして視線を再度彼に向けた。


642 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:20:17 g6Yi9xWY0

 「僕が変身できなくて戦えなかった時に、ガドルが僕にブレイドをくれたんだ。
 それでその後、クウガと会ったから僕の本当の力が戻るまでそれで遊ぼうと思ったんだけど、運よくスペードのカードが全部揃ったから、なってみたんだよ。――キングフォームに」

 「なるほどな……」

 ブレイドをダグバが纏った、という事実に沸いた怒りを隠しつつ、合点がいった、という様子で橘は頷く。
 門矢と葦原がブレイドをガドルというグロンギに奪われたのは知っていたが、奴はそれをダグバに渡していたらしい。
 なるほど辻褄はあっているが、とはいえそこで再び新たな疑問が浮かぶ。
 なぜこいつは“クイーンとキングの2体と融合しただけのキングフォーム”にそこまで固執しているのか、という疑問が。

 13体のアンデッドと融合したブレイドの存在をどこかで知ったのかと思ったが、ダグバが変身したというならそれは不完全な形態(というよりそれが本来のキングフォームなのだが)で然るべきである。
 ではそんなただの形態のどこに、あれほどの力を持つ彼が心惹かれたというのだろうか。
 そんな疑問を抱いた橘を無視して、再びダグバは恍惚の表情を浮かべて天を仰いだ。

 「キングフォームは凄いね……、それまではいちいちスラッシュしないと使えなかった力が、念じるだけで使えちゃうんだもん」

 「なんだと?念じるだけで……?」

 どういうことだ、と橘は困惑する。
 念じるだけでアンデッドの能力を使える力、それは剣崎の変身する“あの”キングフォームにしか携わっていない能力のはずである。
 だがその能力をダグバが変身したキングフォームで用いることなど出来るはずがない。
 そうして思考の渦にハマりかけた橘に対し、後方より助け船のように響く声が一つ。

 「――なるほど、これも首輪の制限、ということですか」

 村上の、よく通る声で囁かれたその言葉に、思わず橘は振り返る。
 一体どういう意味だと眉を潜めた橘に対し、一方でずっと目を伏せ思考を重ねていたらしいフィリップがハッとした様子で顔をあげた。

 「そうか……、この首輪の“変身を制限する”力には決してマイナスな面だけではなく、殺し合いを円滑にするための平等性を保つ機能があったのか……!」

 「どういうことだ?」

 何かに思い至ったらしいフィリップに思わず困惑を浮かべた橘に対し、彼は矢継ぎ早に口を開いた。

 「橘朔也、そもそも君の世界の仮面ライダーに変身するのには、本来相当な適合率が必要なんだろう?」

 「あぁ」

 「だがこの場では、誰も変身を失敗したものなどいない。
 葦原涼や日高仁志、そしてダグバに至るまで、誰も君の先輩であった桐生豪のように腕が飛んだりはしていない」

 フィリップのその言葉に、橘は思わず目を伏せる。
 この会場に呼ばれた参加者を説明するときにその名前と関係を説明した、桐生。
 まさかその存在がこうして彼の推論に名前を覗かせるなどとは思ってもみなかったのである。
 だが、推理に夢中なのか、それとも橘はこうした動揺の中にあっても重要な情報を聞き逃すような無能ではないと信じているのか、フィリップは気にせず続ける。

 「僕たちはこれをただ単に幸運だとばかり思っていたが、実際は違ったんだ。
 さっき村上峡児が言ったように、これは君たちライダーシステムの適合者と他の参加者の間にある多大な不平等を取り除くための制限だったんだよ」

 「なんだと……それじゃまさかダグバが言うキングフォームは……!」

 「あぁ、そのまさかだろうね。
 剣崎一真と他の参加者との間にある最も大きな不平等、13体のアンデッドとの融合をも、この首輪は制限している。そう考えるべきだろう」


643 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:24:34 g6Yi9xWY0

 フィリップの推理に、橘は絶句した。
 全ての参加者が問題なく自分たちのライダーシステムを使えることはともかくとして、まさかその制限がキングフォームにまで適用されるとは。
 であれば首輪を解除するということは、決していいことばかりではないのか、と冷静な自分が囁く声は、しかしすぐに掻き消えた。
 それ以上に橘にとって今大事なのは……目の前のあの悪魔が、あのキングフォームで以て再び小野寺の前に立ちはだかったという事実だけだった。

 「話は終わった?もうそろそろ戦おうよ。話には飽きてきちゃった」

 「ダグバ、最後に一つだけ聞いておきたい。ブレイドはまだお前が持っているのか?」

 駄々をこねる子供のように騒ぐダグバに対し、橘は臆せずに問う。
 それに対しまた質問攻めかと肩を落としつつ、しかしダグバは嘘を吐く様子もなく答えた。

 「ううん、まだ遊びたかったんだけどさ。もう僕は持ってないよ。帽子を被ったリントに取られちゃった」

 「帽子……?」

 ダグバの言葉に反応したのは、今度はフィリップだった。
 帽子を被った男、という特徴を聞いただけで、彼の脳内にはどうしてもいの一番にあのハーフボイルドが思い当たってしまったからだ。

 「そう、帽子のリントだよ。『ブレイドは俺たち仮面ライダーに繋がれてきたバトン』とかなんとか言ってたけど」

 「その口調……翔太郎だ……!」

 ダグバが述べたそのクサイ台詞に、しかしフィリップはどこか確信めいて相棒の姿を連想する。
 きっと翔太郎は、この悪魔に一杯食わせてブレイドを仮面ライダーの手に引き戻したのだ。
 未だ情報を聞けていなかった相棒をこうして間接的とはいえ感じて、フィリップはどことなく嬉しくなった。
 だがそんな彼に対し、此度質問を投げたのは、ダグバのほうであった。

 「――ねぇ、『仮面ライダー』ってなんなの?繋がれてきたバトンとか、リントを守る誇りとか、そんなもので強くなれるの?
 ……リントの希望になれば、強くなれるの?」

 ダグバにしては珍しく、どうにも本気でその概念が理解できていないようだった。
 誰かを失った怒りではなく、守るために強くなる戦士。
 そんな存在を、この場に来るまでダグバは考えたことさえなかった。
 あのガドルでさえ心奪われ自分もまた敗北を喫した今となっては、その存在を深く理解してみるというのも、或いは面白いと気まぐれに思ったのかもしれなかった。

 そんなダグバの率直な疑問に答えたのは、覚悟が決まった様子で真っ直ぐダグバを睨み据える橘だった。

 「仮面ライダーの定義が何なのか……正直、俺にもよくわからない」

 だが述べられた答えは、ダグバが求めていた定義とはかけ離れたもの。
 しかしそれも、仕方のないことだ。
 橘に最も親近感のある概念としては“アンデッドの力を用いてアンデッドを封印する戦士”というところだが、この場にはその概念に当てはまらない『仮面ライダー』がごまんと存在するのだから。
 魔化魍を清める鬼、鏡の世界の中で互いに殺し合い続ける存在、時の運行を適切に守るため過去と未来を自由自在に走る抜ける戦士……。

 そんな多くの存在を前に、未だ橘も仮面ライダーの広義が何なのかなど考えても分かろうはずもなかった。
 その橘の答えにダグバは失望しかけるが、しかし彼はそのまま続ける。

 「だが一つだけ、確かなことがある。
 ――俺の信じる“仮面ライダー”は、決してお前を許しはしないということだ!」

 高らかに叫んだ橘の声に呼応するように、既に崩壊した天井から黄色の一閃が降ってくる。
 一直線に橘に向かっていったそれは、彼の右手の周りを数度周回した後、その中に収まった。
 今天より舞い降りた彼の力の名は、ザビーゼクター。
 橘は今、連綿と受け継がれてきた戦うための力を、その手に握りしめていた。

 そしてそんな彼を見て、溜息を一つつきながら歩を進める男が一人。


644 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:26:45 g6Yi9xWY0

 「やれやれ、あまり無益な戦いは好まないのですが。
 ……とはいえ貴方のような危険人物をこれ以上野放しにしておくのも不愉快だ。
 今ここで、私が消してあげましょう」

 ――5・5・5・ENTER
 ――STANDING BY

 戦闘態勢を整えた二人に合わせる様に、村上もまたデイパックから新たなライダーズギアを身に着けていた。
 鳴り響いたけたたましいサイレンのような音は、しかしその実彼らの闘争本能を掻き立てるかのようで。
 それにつられるように、フィリップもまたその腰にドライバーをつけながら懐より小さな白い箱を取り出していた。

 (エターナル……)

 それは、自分が使い慣れたサイクロンではなく、かつて風都を支配し死者で満たそうとしたテロリスト、大道克己の用いた永遠の記憶が込められたガイアメモリ。
 極めて強力な能力を持つことを身を以て知っているはずのそれを、フィリップが今の今まで使わなかったのは、ひとえにこのメモリに対する並々ならぬトラウマじみた思い出によるものだ。
 風都の人々を恐怖に陥れたことも勿論そうだが、それ以上に自分の母親への強い思いを計画に利用するような悪魔の力を、この身に纏うのは彼の言う「兄弟」という言葉を肯定するようで嫌悪感があったのだった。

 (けど……さっき分かった。やっぱり僕は君とは違うよ、大道克己。
 僕には相棒がいて、仲間がいて、そして君やダグバを許せないと思える心がある。
 だから僕は、仮面ライダーだ。それならきっと、エターナルを正しく扱える。
 人々を恐怖に陥れる悪魔なんかじゃない、本当の意味で街の希望としての、エターナルを!)

 しかしそんなマイナスイメージを払拭したのは、やはり先ほどの橘と翔太郎の言葉であった。
 今自分が使うのは、大道克己からではない、秋山蓮から継がれたバトン。
 そしてそれを用いるのは大道克己のような悪魔ではない、人の心を持った風都の探偵、フィリップなのだ。
 であればそれはもう、かつてのエターナルとは違う。

 ならばこの力を振るうことに、もうフィリップが恐れを感じることはなかった。

 ――ETERNAL

 ガイアウィスパーが、野太い声で内包された記憶を告げる。
 それぞれに力を得るためのアイテムをしかと構えて、フィリップは、村上は、橘は、叫んだ。

 「「「変身!!!」」」

 ――HEN-SHIN
 ――COMPLETE
 ――ETERNAL

 そこに並び立ったのは、それぞれ異なる世界の仮面ライダー。
 ファイズ、ザビー、エターナル。赤と黄色と白、それぞれ鮮やかなオーラを生じさせ戦闘の準備を完了させた彼らは、そのまま並び立ちダグバを睨みつけた。
 否、ただ一人以外は。

 「……あれ?」

 エターナルが、一人自分の腕を見て困惑の声を漏らしていた。
 まるで“本来想定していた姿と違う”ようなその声に、ダグバから視線を外さないままザビーは尋ねる。
 
 「どうしたフィリップ、大丈夫か」

 「あ、あぁ、問題ない」

 どうにも歯切れの悪い返答だが、しかし今は強敵を前にしているのだ。
 これ以上仲間に気を割いていられる時間もなかった。
 一方、そんな彼らを前にして、ダグバは未だ意味深な笑みを浮かべるのみ。


645 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:29:19 g6Yi9xWY0

 「キャストオフ!」

 ――CAST OFF
 ――CHANGE WASP

 ならばとばかりにザビーは、そんなダグバを気にせずザビーゼクターを回転させその身に纏っていた銀の鎧を弾き飛ばす。
 ライダーフォームへの変身を完了し戦闘態勢を彼が整えると同時、未だ生身のダグバにアーマーの残骸が肉薄し――。

 「――変身」

 小さく囁いたダグバの声に従うようにして、カブティックゼクターが一瞬で虚空から現れ自ら右手に嵌めたブレスの台座に収まった。

 ――HEN-SHIN
 ――CHANGE BEETLE

 それを受け彼の肉体を一瞬で金色のヒヒイロノカネが覆っていく。
 先ほどまでの人間としての姿であったならその骨や肉を跡形もなく吹き飛ばしていたであろうザビーのアーマーは、しかしコーカサスと化した彼の身には一切届かない。
 コーカサスが軽く振るったその腕に、アーマー群は全て発泡スチロールも同然のように弾き飛ばされてしまったのだから。

 「……じゃあ、始めようか。仮面ライダー。僕をいっぱい怖がらせて、僕を笑顔にしてよ?」

 クスクスと笑いながら、しかし油断なく構えたコーカサスを前に三人の仮面ライダーもそれぞれ構え――。

 「――ヌゥゥン!」

 ――戦いの火蓋を切ったのは、ファイズだった。
 その右手にはファイズショットを嵌め、肉弾戦特化であろうコーカサスに少しでも対等に立ち合おうとする気概が感じられる。
 掛け声と共に思い切り跳び、急降下の勢いも含めてたったの一撃でコーカサスを戦闘不能にしかねないほどの威力の拳を放った。
 さしものコーカサスも気合を込めたその一撃をタダで食らうわけにはいかなかったのか、大きく後方へと回避することでそれをやりすごす。

 先ほどまで自分がいた場所が大きく抉れるのを見て、多少の愉悦とファイズへの興味を覚えたコーカサスはしかし、次の瞬間意識外から迫る銀の矢に気付いた。
 何とか体制を立て直し、攻撃を受けた方向に視線を向ければ、そこにあったのはゼクターのついた左腕を真っ直ぐに伸ばしながらこちらに向け駆けるザビーの姿。
 ザビーが射出し続けるニードルに視界を阻害されつつも、間近にまで迫った彼のハイキックは左腕で受け止める。

 「クッ」

 ザビーが漏らした短い声は、戦闘が始まってすぐの奇策を無駄にされたことに対してか、それともカウンターとして決まったコーカサスの拳の威力に対してか。
 ともかく表立って怯んだ様子も見せず軽やかなステップで後方へと下がったザビーの代わりに、再度ファイズがその拳で殴り掛かってくる。
 この会場にきてすぐに見た仮面ライダーではあるが、なるほど変身者も違えばここまで技巧派に様変わりするものかと感心しつつ、コーカサスは意趣返しの意も込めて拳には拳で返した。
 ファイズショットを装着したファイズの拳と比べてもなお劣らぬ威力を持つその金色が接触した瞬間、周囲に爆音と衝撃が到来する。

 「グッ……!?」

 その衝撃に吹き飛ばされる愚は犯さないながらも、思わず呻くファイズ。
 噂にこそ聞いていたとはいえ、自分と互角にやりあう初めての存在に動揺を隠し切れない様子であった。
 そしてそれは、コーカサスも同じ。どうやら彼は楽しませてくれそうだと狙いを定めたその瞬間、しかしそのひと時を阻害するように彼方より到来した銀の針が、再び二人の戦士を引き離していた。

 それを見て、コーカサスはようやくザビーの役割を理解する。
 なるほど本来の変身能力であるギャレンと同じく、ザビーの力もまた狙撃手兼前衛として使うということか。


646 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:32:06 g6Yi9xWY0

 しかしファイズに気を取られていたからこそ面食らったものの、今の程度の攻撃では別段効果的などとは思えない。
 であればやはりまずはザビーから片付けて残るファイズと存分に戦うか、とコーカサスが考えた、その時だった。

 ――CYCLONE! MAXIMUM DRIVE!

 いつしか聞いたような電子音声が響いたかと思えば、コーカサスの身体は突如発生した暴風に大きく引きずられザビーから引き離されていく。

 「――ッ!」

 声にはならない気合でそれを吹き飛ばしつつ風の発生地点を睨みつければ、そこにあったのは白いボディに赤いラインの入ったライダーの姿。
 その腕に纏う風の流れを彼が生じさせたのだとすれば、なるほど後方支援としては十分に期待できるだろう。
 緊張を絶やすことなくこちらを囲む三人の仮面ライダーを前に、コーカサスは一つ息を吐き背負っていたデイパックを地に落とした。

 「よかった、君たちなら楽しめそうだし。
 ――これ、使うね?」

 言いながら封を開けそこから彼がおもむろに取り出したのは、赤い大剣。
 コーカサスの屈強な鎧になお見劣りしないような圧迫感を思わせるそれを前に、一人戦慄以上の反応を返したのはエターナルだった。

 「それは……照井竜の……!」

 そう、それは先の戦いにおける戦利品、エンジンブレード。
 切れ味はもちろんその重量も相当のもので、入手してから極めて短い時間ながらダグバのお気に入りの一つになっていたのである。

 ――ENGINE

 エンジンブレードのスロットルを開放しつつギジメモリを起動するコーカサス。
 それをただ見ているわけにはいかないと直感で察したか、ザビーはゼクターからニードルを射出する。
 だがその程度は最初から予想済み。素早くスロットルを閉じ通常のブレード形態で一振りすれば、それらはコーカサスに触れることさえ叶わずその質量を消失させた。

 「まずい……ッ!」

 ミッションメモリーをファイズエッジに差し替えながら、ファイズは駆ける。
 素手のコーカサスにさえ三人がかりでかかってもなおギリギリの状況なのだ。
 これにリーチまで加われば、自分たちの勝機が薄くなるのは明白、何としてでもあのメモリの挿入だけは避けなければ。

 その願いと共に振り下ろされた剣は、しかしコーカサスには届かない。
 ファイズが飛び出るまでに生じた一瞬の隙の間に、コーカサスは既にメモリの挿入を終えエンジンブレードの刀身で以てその一撃を受け止めていたのだから。

 ――ELECTRICK

 互いの得物同士による競り合いの形になるかと思われたその瞬間、コーカサスはトリガーを引きメモリに秘められた能力の一つを発揮させる。
 それにより生じた電撃は、エッジを伝いファイズへと感電し……その身から火花を飛ばした。

 「なッ……!」

 「じゃあね」

 思いがけないダメージに咄嗟にエッジから手を離したことをファイズは悔いるが、しかしもう遅い。
 彼が意識を取り戻した次の瞬間には、コーカサスの横薙ぎに振るった一撃がそのまま彼の鎧を深く切りつけ彼方へと吹き飛ばしていたのだから。

 「村上!」

 呻き声を発することさえ許されず弾き飛ばされていったファイズに驚愕を隠し切れぬまま、しかし立ち尽くしているわけにはいかないとザビーは再度ニードルを飛ばす。


647 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:34:41 g6Yi9xWY0

 ――JET

 だが、それは最早エンジンブレードの刀身にさえ届くことはなかった。
 電子音声と共にブレードの剣先から放たれた赤いエネルギーが、全てのニードルを真正面から貫通していたのだから。
 そして、彼の攻撃が防御のみで終わるはずもない。ニードルが放たれたのはザビーの腕先、なればコーカサスの放ったジェットの一撃がザビーを捕らえるのはごく自然なことだった。

 「ぐはッ!」

 その身から火花を散らし吹き飛んでいくザビーを気にもせず、コーカサスはエンジンブレードを構え歩みだす。
 残る一人、エターナルのもとへと。

 「その力、よくわからないけど面白そうだね?僕に頂戴」

 「……なんだって?」

 どこか弾んだ声で、コーカサスは言う。
 その声に含まれている関心の理由はわからないが、ともかくエターナルにとって、この状況は当初想像していたもののいずれよりも遥かに悪いものだった。
 村上と橘、二人の仮面ライダーがダグバに敵わないのはまだ想定の範囲内として、なぜか自分が変じているエターナルの力が自分の知るものと大きく異なるのである。

 大道克己のエターナルに存在していた、ありとあらゆる攻撃を弾き飛ばすエターナルローブや、通算26にもなる膨大な数のマキシマムスロットなど、その強みであった要素が一切今の自分には見られない。
 自身が把握するエターナルに大道克己が変身してなお五分か分が悪いというところなのに、言ってしまえば不完全体に過ぎない今のエターナルを纏った自分では、ダグバなどという常識外れの化け物を相手どれるはずもない。

 「させるかぁ!」

 いよいよもって覚悟を強いられたエターナルの前にしかし、再びコーカサスに立ち向かわんとザビーが飛び掛かった。
 その手は既に腰に回っていて、クロックアップによってコーカサスの動きを強制的に自分に向けさせようとする狙いが感じられる。
 だが一方で突如背後から襲われ不意をつかれたはずのコーカサスは、特段驚きを示す様子もなく再びエンジンブレードのトリガーは引き絞っていた。

 「クロックアップ!」

 ――STEAM
 ――CLOCK UP

 大きく叫び腰のスイッチをスライドしたその瞬間に高速空間へと移行したザビーは、しかし突然に発生した蒸気による目くらましに思わず二の足を踏んだ。
 一体何事かと状況を判断してみれば、どうやら自身がクロックアップを発動するのと同時にコーカサスがエンジンブレードの剣先から地面に向けて高密度の蒸気を放ったらしい。
 本来であればほんの数秒姿を眩ますだけであっただろうそれは、しかし今ザビーが自ら発生させた高速空間によって今や無限に続く暗雲のようにも感じられた。

 「――ッ!」
 
 しかし、それでもなおザビーは怯まない。
 雄叫び一つ響かせて、高密度の蒸気へとダメージさえも厭わずに飛び込んだ。
 ザビーの鎧を纏ってもなお素肌に焼き付くその熱量に一瞬で体力を奪われながら、それでもなおその白の先にいるはずのコーカサスへ向け鋭く左腕を貫いて。

 「何!?」

 その腕が、何の手ごたえも得ることなく遂にその全身が蒸気を通過したことに、思わず驚愕した。
 だが、そこで気付く。背後から迫る、青い双眸に。


648 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:37:30 g6Yi9xWY0

 「しまッ――!」

 振り返ろうとしたときには、既に遅かった。
 ザビーがスチームへの対処に奮闘しているその間に、コーカサスもまたクロックアップを使用し自身の背後に回り込んでいたのだ。
 発生した蒸気を乱すこともなく、足音一つたてぬその立ち回りにザビーはまんまとコーカサスの掌の上で転がされていたのである。

 都合二度。コーカサスが振るったエンジンブレードの前に、ザビーがクロックアップを維持できたのは、そこまでだった。

 ――CLOCK OVER

 しかしそれで攻撃が収まるはずなどなく三度(みたび)コーカサスは剣を振るう。
 今までと違い緩やかに空中を浮遊するザビーの身体に直撃したその一撃は、その鎧を引き剥がし橘朔也の生身を彼の眼前に晒した。
 であれば、次は四度目。コーカサスの腕は、しかし今までのザビーに向けるそれと変わらない勢いで橘に肉薄する。

 クロックアップによって齎された、この高速空間。
 ザビーさえ排除した今、ダグバが振るうその蹂躙すべき暴力を観測できる存在などおらず、その剣は何の問題もなく橘を両断するはずだった。
 だが、それは成されない。コーカサスが振るったその剣を受け止める、新たな黒と銀の戦士がそこに現れたからだ。

 「どうやら、間に合ったようですね……」

 焦燥感を含んだその言葉とは裏腹にどこか余裕をにじませる態度を崩すことなく言うその戦士の姿に、コーカサスの心は躍った。
 コーカサスの切っ先を輝き放つ赤色の剣で受け止めるのは仮面ライダーファイズ、その加速形態であるアクセルフォーム。
 つまりは、ダグバにとって現状この場で最も実力を見込める存在であったのだから。

 「君も、早く動けるんだね」

 「えぇ、短い時間ですが……あなたを倒すのには十分だ」

 声を低め、威圧を込めて放たれたファイズのその言葉にざわつく自分を感じつつ、コーカサスはその剣先をファイズに向けた。
 そこから先交わされた剣の舞は、もはや筆舌に尽くしがたい。
 一振り一振りが必殺の威力を込めるお互いの剣を、それぞれがあるときは受け止め、あるときは受け流し、あるときは躱しながら縦横無尽に飛び交い続ける。

 ――3

 コーカサスにとっても決して退屈のない至高であったはずのそれは、しかし永遠には続かない。
 ファイズの腕のアタッチメントから放たれた電子音声が来る終焉への秒読みを開始したのである。
 どことなく萎えるのを自覚しつつ、しかしコーカサスは最後の瞬間まで楽しむためにもう一度ブレードのトリガーを絞った。

 ――ENGINE! MAXIMUM DRIVE!

 高らかに宣言された電子音声に呼応するように、エンジンブレードは最高潮までそのエネルギーを高めていく。

 ――2

 腕に嵌めた腕時計型アタッチメントがまた一つ数を数えるのに合わせて、ファイズもまたエッジを構えコーカサスに向けて突撃する。
 真っ赤に怒張しその存在感を示すエンジンブレードと、輝きを放つファイズエッジ。
 相応の実力者にそれぞれ応えうるだけの強度を誇る二つの剣が、その実力を証明せんと一際強く輝きを放って。

 ――1

 また一つカウントを数える声にしかしもう気を向けることもなく、両者は一斉に駆けだした。
 高速を誇るその足が互いを間合いに捕らえるまで、瞬き一つの時間も要することはない。
 そうなればもう、両者の間に迷うことなど何もなかった。

 「はあああぁぁぁ!!!」

 「ハハッ、ハハハハハッ!!」


649 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:40:37 g6Yi9xWY0

 ファイズは雄叫びを、コーカサスはただ笑い声を上げて、その剣を相手に向けて振り下ろす。
 瞬間生じたあまりのエネルギーに互いの得物は悲鳴をあげるが、しかし気にしない。
 これで終わりにするという思いで以て、躊躇なく全力を振りぬいた。
 果たして、その結果は――。

 ――TIME OUT
 ――CLOCK OVER

 勝負が決したその直後に、それぞれの高速化を可能にしていたツールがその終了を告げる。
 それにより急速にその鎧を収束させていくファイズと背中合わせに立ちながら、コーカサスは此度の打ち合いにおける勝者がどちらなのかを察していた。
 高速の世界で行われた、頂上の対決。
 果たしてその勝負の行方は、自身の胸でその存在を誇張するφの赤文字が示していた。

 (けど、まだ終わりじゃないんだよね)

 だがここで止まるほど、コーカサスは……否ダグバは甘くない。
 こちらの一撃に勢いを削がれたか、敵の剣もまたこの鎧を自分から剥ぐには足りなかった。
 であれば、止まる必要もない。この仮初の勝利に自惚れるような輩なら、ここで自分が下せばいいのである。

 ――RIDER BEAT

 カブティックゼクターが、タキオン粒子の高まりを告げる。
 一瞬で全身を伝いそして再び右腕に収束したエネルギーの塊を、後方で勝利に酔いしれている男に見舞うため思い切り振り返った、彼が見たのは。

 ――EXCEED CHARGE

 その拳につけたパンチングアタッチメントにエネルギーを充填させ自分と寸分違わぬ勢いで思い切り振り返るファイズの姿だった。
 そしてその姿にダグバが抱くのは、承認と、そして何よりの愉悦。
 そうだ、それでいい。いや、そうでなくては面白くない――!

 思いがけず現れた好敵手に、高らかに笑いを上げながら拳を振るう。
 気合、緊張、愉悦、嫌悪、興奮――。
 相容れない思いを持つそれぞれの拳が交わりあったその瞬間。
 あたりは、爆発に包まれた。


 ◆


 「凄まじい戦いだ……」

 眼前で繰り広げられるダグバと村上の戦いに対して、ようやくエターナルと橘との間に言葉が介在したのはそれが初めてだった。
 というより、あまりにも鬼気迫る両者の姿に、歴戦の仮面ライダーであるはずの彼らが揃って気圧されていた、というのが正直なところであろうか。
 ダグバの実力も、村上の実力もそのどちらをも認識していたはずだというのに、そのどちらをも見誤っていたのだと突き付けられてしまえば、なるほど中々堪えるというものである。

 「ぐあぁ!」

 そんな戦慄に飲まれる二人の前に、勢いよく爆発によるインパクトから弾き出されてくる影が一つ。
 それは、らしくなく歯を噛み締め痛みに顔を曇らせる村上の姿。
 橘を救い逞しく戦った彼の無事に安堵することが出来ないのは、彼への信用性によるものではなく、まさしくその村上の双眸が、未だ敵意を伴って爆発の中心を睨みつけていたからだ。

 「フフフ……アハハハハ……!」

 そして、彼らの悪い予感は、的中する。周囲に響く、本能的な忌避感を伴う笑い声が敵対者の存在を知らしめしたのだ。
 だがその姿に眉を顰める橘は、同時に気付く。
 揺らぐ陽炎の中でしかし時折覗く白が、彼が既にコーカサスの鎧を纏っていないことの証明でもあるということを。

 「――フィリップッ!今の奴は無力だ、今なら奴を倒せる!」

 「ッ!」


650 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:43:46 g6Yi9xWY0

 叫んだ橘の声に従って、エターナルは未だ変わらず調子で笑い続ける青年に向け疾走する。
 グロンギとしての姿になれるのかどうかなど関係ない。この一瞬を逃さず手にすれば、勝利は自分たちのものになるのだ。
 ――或いは。
 今までの殺し合いの中で無力感に苛まされていたとはいえ本来理詰めで動くはずのフィリップが、その程度の理由でダグバに向けて駆けだした時点で、“運命”は決していたのかもしれない。

 しかしその時は、誰も――そう恐らくはダグバ自身も――それに気づくことさえなく、ダグバの緩く伸びた腕が、まるでそこにあるべきだとばかりにエターナルのドライバーに向かうのを、ただ眺めていた。


 故に瞬間、閃光が全てを支配して。



 それが晴れたときには、状況は一変していた。


 ◆


 「ぐ、僕は……」

 気怠い体をゆっくりと起こしながら、フィリップは呻く。
 ダグバに肉薄した次の瞬間、超常の力を用いて彼のこれ以上の凶行を止めようとその力を振るったその瞬間に、彼の意識はブラックアウトした。

 「……目が覚めたか」

 事態の把握のため、どうにか身を起そうとしたフィリップのもとに、降る声が一つ。
 確認せずともわかる橘の声に感じられる感情は、果たして安堵ではないらしい。

 「橘朔也、何がどうなったんだ、ダグバは――」

 「あれを見ろ」

 何故だか、その姿を見るまでもなく橘の視線の先にある最悪の答えを知っているような気がした。
 だが、見なければならない。それは自分の、不注意が引き起こした悪夢なのだから。
 そして、見た。その視線の先にいた、見覚えのある悪魔の姿を。

 全身の白に走る炎の青、風になびくローブ、これでもかと誇張するように上半身に巻き付いた夥しい数のスロット、そして何より無限を意匠に刻んだその黄色い双眼。
 そう、そこにあったのは、仮面ライダーエターナルブルーフレア。
 かつて風都タワーを襲撃し市民の平和を脅かした悪魔、その真なる姿。
 それを纏い我が物顔で笑い続けるダグバの姿だった。


 ◆


 時間は少し遡り、あたりを光が包んだその瞬間。
 それが微かな希望と分かりつつも、橘はフィリップの、仮面ライダーの勝利を信じていた。
 だがその望みは、一瞬で覆される。光の中から、気を失ったか脱力したフィリップが、勢いよく吐き出されてきたため。

 「フィリップッ!」

 叫び駆け寄りながら、橘は戦慄する。
 変身していたはずのフィリップがこうして生身になっているということは、ダグバが何らかのアクションを起こしたのは明白である。
 であればそれは或いは、あの凄まじき戦士としか呼びようのない彼の真なる姿、グロンギとしての姿に変じたということかもしれなかった。


651 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:46:10 g6Yi9xWY0

 「ハハ、アハハハハ」

 嫌悪感さえ伴う張り付いた笑いが、周囲を支配する。
 ようやく晴れた視界の中で、しかしもう恐れずにその声の出どころである彼を睨みつければ、そこにあったのはしかし生身。
 どういうことかと眉を顰めれば、ダグバはその疑問の答えを示すようにその手に持ったドライバーを緩く持ち上げた。

 「あれは――ッ!?」

 驚愕と同時、気付く。その赤いドライバーは、フィリップが先ほどまで腰につけていたものと同型のもの。
 否それどころか今フィリップの腰にそれが存在しないことを思えば、恐らくは彼から奪ったものなのだろう。
 先ほどの一瞬で奪ったのか、と早合点しかけて、しかし仮面ライダーの命ともいえるドライバーにその程度の安全措置がなされていないはずがないと否定する。
 迷宮入りしかけたその思考に、降り注いだのはしかし忌まわしい悪魔の声だった。

 「……ようやくわかったよ。僕は君に惹かれてたんだね」

 ダグバが放ったその言葉は、しかしこの場の誰にも注がれてはいない。
 果たして彼の視線の先にあったのはその手の中のロストドライバー、更にその中の白亜のメモリ。
 永遠を意味するそれを恍惚とした表情でしばしの間眺めてから、ダグバはそれを己の腰に迎えた。

 「変身」

 ――ETERNAL

 ダグバの声に応じるようにひとりでに展開したドライバーが、メモリに内包された永遠の記憶を開放する。
 それに伴い彼の身体が白の粒子に包まれたかと思えば、次の瞬間には変身の完了を告げる双眸が輝き、先のエターナルには存在しなかった漆黒のローブが風にたなびいた。

 ――ダグバが手にした新しい力にしかしただ困惑を示すほかない橘たちが知る由はないが、今ここで起きた事例には先例がある。
 それは、かつて仮面ライダーエターナルとして残虐の限りを尽くし街に深い傷を残した大道克己とエターナルメモリのファーストコンタクトの瞬間だ。
 NEVERとして自分の価値を証明するため世界各国で傭兵として戦っていた克己やその仲間たちはあるとき、ビレッジと呼ばれる超能力者集団の箱庭に訪れた。
 その際、多大な資金を投入したビレッジを破壊させないために財団から遣わされたのがエターナルに変身したエージェントだったのである。

 克己もかつてガイアメモリに研究対象として敗れた身、憎しみを持ってエターナルと対峙したが、しかしその身は思考さえ必要としないままに彼のドライバーに伸びていた。
 そうして生じた現象は、エージェントの変身したエターナルの変身解除、そして機能の停止。
 しかしそれはドライバーやメモリの不良から来るものではなく、克己が後に使ったその時、エターナルは王として真なる姿を克己に纏わせたのである。

 つまりは、此度起きたのも同じこと。
 克己を以てして兄弟と言わせしめたフィリップよりも、ダグバの方がよりエターナルの定める運命の相手として相応しかったというその事実であった。

 「そんな……」

 敵を打倒するどころかますます戦力を増強したダグバに対し、橘はただ漫然と絶望を受け入れそうになる。
 少なくとももう自分にはこれ以上の抵抗を可能にするだけの力がない。
 ダグバという最悪を前に、これだけの人数で挑んだそれこそが無謀にすぎなかったのかと、全てを諦めかけた、その時だった。

 「……」

 何も言わず、ただ真っ直ぐにエターナルと自分の間に立ち上がる男が一人。
 ボロボロなその身体で、しかし一切衰えない戦意を伴って、村上峡児が、今そこに立っていた。

 「村上……」

 「橘さん、私が時間を稼ぎます。あなたはその間にGトレーラーを」


652 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:49:04 g6Yi9xWY0

 そこまで言って、村上の身体は一瞬で灰色の異形へと変じる。
 薔薇を連想させるその姿は、まさしくオルフェノクの総統たるローズオルフェノクのもの。
 そしてエターナルもいつまでもその変身に狂乱しているわけではない。
 こちらに現れたそれなりの実力を誇る好敵手を前に、ひときわ高く笑ってローズへと切りかかった。

 先とは違い徒手空拳のみを武器にしたローズはしかし、そのハンディを感じさせない動きでその切っ先を巧みに躱しながら彼方へと走り去っていく。
 それをただ見送りながら、橘は項垂れるように再度溜息をついた。

 (結局俺は、いつまで経ってもお荷物、だな)

 ゆらりと空を仰ぎながら、橘は思い返す。
 東條との戦いを早期に決着させられなかったために、ダグバとの戦いで小野寺が凄まじき戦士になるのをみすみす許してしまった。
 ライジングアルティメットとの戦いでは、一瞬の気の緩みによって脱落し多数の死亡者を招いた。
 志村純一に関してだって、自分がもっと注意深く彼を観察していたなら、先の病院大戦での犠牲者を未然に防げたのかもしれない。

 その挙句に、こうしてダグバとの戦力差を見誤り大局的な敗北を迎えようとしているではないか。
 そんな状況ではないのは分かっているつもりでも、物思いに耽るのをやめられなかった。

 「ぐ、僕は……」

 「……目が覚めたか」

 そんな中、抱きかかえていたフィリップが目を覚ましたらしく呻く声が聞こえる。
 ダグバが新しい力を手に入れたのは決して彼の責任でないのは分かったうえで、しかしそれでも僅かばかりやりきれない思いを否定することは出来なかった。

 「橘朔也、何がどうなったんだ、ダグバは――」

 「あれを見ろ」

 フィリップの切羽詰まった問いに対し、橘はただ指差しで敵の所在と現在の姿を示す。
 真剣勝負の最中だというのにローブをはためかせながら剣を振るうその姿は、視線を奪われるほどに力強い。
 一瞬で自分と同じ感想を抱いたらしいフィリップを前に、しかし橘はこれ以上もう絶望に浸っていられるだけの時間が残されていないのを、理解していた。

 「フィリップ、村上が時間を稼いでくれている間に、俺たちはGトレーラーを動かす。その後村上を連れて撤退するぞ」

 橘が述べたのは、要するに小野寺とダグバとの戦いでも行った行為である。
 車の機動力で以て、ダグバを振り切ろうというのだ。
 一度は成功したのだから、安直だと言われようとそれ以上の作戦は今思いつけなかった。

 (いや、結局のところ先の戦いから何一つ逃げ以外の有効打を思いついていない、の間違いだな)

 自嘲気味に笑いながら、橘は自分の思考を否定する。
 ダグバと黒いクウガ、二人の凄まじい力を前に自分の知る何であれば並び立ちうるかを考察したあの時から、一つも変わってはいない。
 巧による文字通り命がけの一撃でジョーカーを封印できたことに、知らず増長していた自分がいたのだろうか。

 (志村、お前がいれば或いは――)

 その手に白と赤で彩られたジョーカーのカードを握りつつ抱いてしまった刹那の気の迷いを、橘は無理矢理に思考から追い払う。
 奴は確かに強かったかもしれないが、利己的極まりないその性格を思えば、彼がまだその命を繋いでいたところで犠牲者が増えていただけだっただろう。
 もうこれ以上今の状況で出来ることはない、これ以上の思考は無意味かと、カードを懐に収めかけた、その瞬間だった。


653 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:51:50 g6Yi9xWY0

 ――『君は、キングフォームにはなれないの?』

 脳裏に響く、ダグバの問い。
 なれるわけがない、先ほど下したのと同じ結論でその思考を振り払おうとして、しかしそうする前にもう一つ声が響いた。

 ――『ジョーカーがどんなカードの代わりにでもなるように、どんなアンデッドの姿にでもなれるアンデッドがいます』

 それは、睦月がカテゴリーAの邪悪な意思に支配されたとき、述べた言葉。
 彼がそれを述べたのは、ジョーカーアンデッド、つまり相川始の特異な習性を分かりやすく説明するためだけに過ぎない。
 だがもしも自分が考えている通りであるのなら、或いは――。

 「橘朔也、どうしたんだい?」

 急速に加速しだした橘のニューロンが、その声で覚醒する。
 フィリップ。自分と同じか、それ以上に首輪の内部構造に詳しい魔少年。
 そうだ、彼という人材、そして手元に揃いつつある情報。

 弾き出された突拍子もない仮説が、全ての事象に裏打ちされた説得力を伴っていく。
 数秒間の沈黙の後、顔を思い切り上げた橘の瞳には、もう漫然とした絶望感は漂っていなかった。

 「倒せる……かもしれない」

 「え?」

 「ダグバを、倒せるかもしれない」

 放たれたその可能性は、やがて二人を瞬く間に希望に染め上げていった。

  
 ◆


 「えいっ」

 短い気合と共に、エターナルはその赤と銀の大剣、エンジンブレードを振るう。
 グロンギでもズのもの程度であれば回避の余地さえなくその身を両断されうるだろうその一撃を、しかし対峙する灰色の怪人はいとも容易く回避し捌き回避する。
 これは面白いと距離を離しエンジンブレードからジェットの能力で牽制するが、それも敵の放つ青い弾丸に打ち消され効果は生み出さない。

 仮面ライダーエターナルとローズオルフェノクの戦いが始まってから数分。
 両者の戦いは、コーカサスとファイズにそれぞれ変身していた時に比べればなるほど激しい動きにかけるもの。
 だがその実それはローズが本来得意とするカウンターを主体とするファイトスタイルに由来するもので、エターナルがローズのペースに飲まれかけている、というのが実情であった。

 「ふふっ……!」

 グロンギ最強である自分がそんな状況に追い込まれつつある、という現状の把握にただ喜びのみを残して、エターナルは再びエンジンブレードを振りかぶってローズに切りかかる。
 それをまたも最低限の動作でいなそうとして、しかしローズは気付く。
 その剣が、先に自分と競り合った時と同じように雷を帯びていることに。

 「ちっ」

 短く舌打ちを残して、ローズは大きくその剣筋からの回避を試みた。
 だが、それも叶わない。そう動くと踏んでいたエターナルが、いきなりにその剣を真っ直ぐに貫いたのである。
 さしものローズも、これには完全な回避は不可能、ゆえにダメージは免れない。

 そう考え剣を振りぬいたエターナルを次の瞬間迎えたのは、人の身を貫く確かな手ごたえでも、滴る血の生温さでもなく、冷たい薔薇の花弁の群れだった。
 何が起きたのか、さしものエターナルも困惑を示したしかしその次の瞬間、彼の後頭部に鋭い拳が刺さっていた。
 響く痛みにそれでも何とか意識を取り止め振り返りつつエンジンブレードを振りぬいてみれば、またしも彼を迎えたのはただ風に漂う薔薇の花弁のみ。
 この不条理にらしくなく息を荒げたエターナルに対し、またしても死角から現れたローズが放ったのは、しかし攻撃ではなかった。


654 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:54:25 g6Yi9xWY0

 「……下手な芝居はこれくらいで十分ではないですか?」

 隙だらけ構えのようで一切の油断を見せぬローズとの戦いに昂るエターナルに対して、ローズは短く、しかし苛立ちを含んだ声を漏らした。
 その口調には辛うじて敬語が見られ彼の丁寧な姿勢は崩れていなかったが、しかしその実エターナルへの見下した姿勢が見受けられる。
 まるで、なぜそんなことをするのか理解できないとばかりに溜息をつく彼に対して、エターナルもまたローズが言外に忍ばせた言葉を察していた。

 「……確かに、うん、そうだね」

 何度か頷き、ローズをチラと見やったエターナルが次に行ったのは、エンジンブレードの放棄。
 投げるでも突き刺すでもなくただエターナルの手から地球の引力に従い地にその身を横たえたその剣は、しかしその重量故に地面を深く沈ませた。

 「君みたいな楽しめそうな相手がいるのに、遊んでたら失礼だもんね」

 それは、この場でローズ以外の第三者が聞いていたら戦慄をしていたのは間違いないだろう一言だった。
 つまりは、先ほどまでのエンジンブレードを用いた戦闘の一切が今のダグバにとっては小手調べ程度のお遊びに過ぎなかったということ。
 とはいえ、それも致し方あるまい。

 元の世界にいたころであればともかく、今のダグバはこの殺し合いでガドルが仮面ライダーとの戦いでより一層その強さを高みに押し上げたのを見て、自分にも或いは、とまだ見ぬ好敵手を貪欲に求めている状態。
 累計4人がかりであったとはいえ自分の強化された真の力を破った仮面ライダーたちとの邂逅は、ダグバにそれ以上を期待させるに足るものだったのだ。
 であれば今のダグバに初手から全力を用いて可能性を摘むなどという行為は自身の将来の楽しみを打ち消す無粋にすぎぬ。

 それが、グロンギ態への変身解除を理解してもなおコーカサスでこの集団に挑んだ理由であり、またローズほどの実力者を前にしてその手に馴染まぬ得物を用い続けた理由であった。
 だが、そんな数々の小細工が、自身の好敵手になり得る存在から自分への興味を奪ってしまうというのであれば、それは論外。
 少なくともこの仮面ライダーの姿での全力程度は出すだけの価値はあると、エターナルはことここに至ってようやく思い至ったのであった。

 地に横たえたエンジンブレードには目もくれず、エターナルが此度構えたのは一振りのコンバットナイフ。
 先ほどまでの剛直という言葉を想起させるエンジンブレードと見比べればどうにも見劣りするそれを、しかしエターナルは油断なく低く構えた。

 「……じゃあ、行くよ?」

 何度目かになる短い声の後、エターナルは先ほどまでの戦闘スタイルとはまるで別人のようなスピードでローズの懐に入り込んだ。
 先ほどまでの戦闘では一切余裕を崩さなかったローズでさえ目を見開くほどの速度で間合いに飛び込んだエターナルは、そのまま思い切りナイフを切り上げる。
 喉元を狙ったそれはまさしく死神の鎌のようにも思えたが、しかしローズもまた上の上たるオルフェノク。
 大きく姿勢は崩さぬままに繰り出された膝蹴りがエターナルの胸を打ち据え、大きくその距離を引き剥がす。

 吹き飛んだ先で瓦礫に埋もれその粉塵が舞う中でしかし一切のダメージを見せず再度飛び出したエターナルに、今度はローズがその手を翳した。
 それによって彼の手から生じたのは先ほど回避の際にも発生した赤い薔薇の花弁だ。
 回避の際のそれとは違い、触れるだけでダメージを与え場合によってはそれだけで王を守る3本のベルトによる仮面ライダーを変身解除させられるだけの威力を秘めたそれは、しかしエターナルが自身の前に構えたローブに触れた途端、力なく地に落ちた。

 「何ッ!?」

 それはローズにとって、今までの人生の中でも紛れもなく最上級の動揺であった。
 ただの布切れにしか見えないエターナルのそれに阻まれた薔薇の花弁は、今度は逆に自分の視界を阻害するだけの意味しか持ちえないただの障害物へと成り果てたのである。
 それ故に、だろうか。夜の闇と、月明りを阻む程度には機能したこの病院の屋根の下、生まれた暗闇にローブを用いて溶け込んだエターナルを、ローズが見失うまでにさほどの時間は必要とされなかった。


655 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 00:56:59 g6Yi9xWY0

 珍しくあたふたと忙しなく周囲に視線を巡らせるローズは、しかし次の瞬間その視界の端、こちらに向けて真っ直ぐに突き進んでくるエターナルの黒いローブを見た。
 このローブにどういった効果があるのかはともかくとして、それを直接に剥いでしまうことになんら耐性はないだろう。
 そう見越して真正面からそれを受け止めれば、あまりに容易くローブはその両手で捉えられ宙をふわりと舞って。

 そのローブの下に存在するはずのエターナルが存在しないことに気付いた次の瞬間には、その腹にエターナルエッジの切っ先が肉薄していた。

 「――うおおおおおぉぉぉぉ!!?」

 気合を込めた雄叫びと共に、しかし驚愕を極力に隠しそのナイフを間一髪受け止めたローズにはしかし、安堵の時間など与えられることはなかった。

 ――ETERNAL MAXIMUM DRIVE

 今まさしく自分が押したスイッチに連動して、死神が必殺の一撃を放つための死刑宣告を意味する電子音声が、高らかに鳴り響く。
 何から何まで、全くの理解が追い付かぬままにただ自分を覆う影が黒くなったことに釣られて振り返り上空を見上げたローズがその目に収めたものは。
 ローブを脱ぎ去り、右足をこちらに向け錐揉み回転するエターナルの放つ青い炎だった。


 ◆


 エターナルがローズにこうして特大の一撃を食らわせるだけのことが出来たのは、何よりもその能力の特異性によるものだ。
 最初にローズの放った薔薇の花弁を防いだのは、全ての攻撃を無力化するという規格外の能力を持つエターナルローブの効果によるものだった。
 どことなくそれを感覚で理解していたダグバは、ローブの能力を信じ、ただローズの攻撃を凌ぎ闇に身を隠した。

 ローズがこちらを見失ったのを確認した彼は、いましがたその強大無比な能力を実感したばかりのローブを脱ぎ去り、エッジにエターナルのメモリを装填した。
 つまりはそれからのことの一切はこうだ。
 エターナルは、エターナルエッジをローブに忍ばせ飛ばすことでローズの注意を引く。
 そこでローブごとエッジを受け止めたローズによって半ば強制的にマキシマムドライブが発動、彼の死角から迫りつつ最大威力の一撃を放ったということである。

 エターナルという仮面ライダーの特性を熟知していなければ出来ないはずの芸当を、この短い戦闘で彼が可能にしたのは、ダグバの類い稀なる戦闘センスによるものか、或いはメモリが彼に暗に示したのか。
 ともかく此度の白と灰との戦いは、エターナルの奇策による勝利となったのであった。


 ◆


 「ぐ……あ……」

 エターナルの必殺技、エターナルブレイクの直撃を受けて、ローズオルフェノクはその姿を維持することさえ出来なくなり村上峡児としての無力な人間の姿を晒した。
 乾巧や橘朔也を手玉にとったという話から警戒は怠っていなかったはずだが、どうやらこの相手は自分の想定をさらに上回る相手だったと認めざるを得ないらしい。
 これでなおもグロンギという真の姿をまだ持っているというのだから、なるほどそうなればオーガに変身した自分でも絶対の勝利はないと判断できる。

 よもやここまでの実力者と巡り合うことになるとは思っていなかった村上は、ここにきて初めて自分のこの殺し合いに対する認識の甘さを知ったのであった。
 とはいえその反省も、未だ健在のこの死神が気紛れにこの首を掻ききるまでの数秒の間しか活かされることはないかもしれないが。
 らしくなく諦観を抱きかけた村上はしかし、なおも敵に媚びることなく真っ直ぐにエターナルを睨み付けた。
 
 「……君も、そういう目をするんだね」

 対するエターナルは、この場に来て数度目にしたそれに対して、同じく何度目ともしれない興味を示した。
 全てが全てそうという訳ではないが、不思議と自分を楽しませたリントは全てこういう諦めの悪い目をしている気がする。
 だがその理由を問う度に、ダグバにとっては納得のいかない理由で煙に巻かれ、イマイチ仮面ライダーという存在への理解が深まることがないのである。


656 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:01:29 g6Yi9xWY0

 「――なんで、諦めないの?」

 だから、また聞いてみようと思った。
 もしかしたら今度こそは彼らの言い分を理解して仮面ライダーの強さの理由やそれに心酔したガドルの心境を知ることが出来るかもしれないと、そう思ったから。
 だがしかし、やはりというべきか、その問いを受けた村上は、言われて始めて自分の意思を悟ったような不思議な顔をして、それからすぐにニヤリと口角を上げた。

 「この状況を諦めていない、わけではないでしょうね。ただ一つ私が言えるのは――」

 「――言えるのは?」

 「私の人生は、笑みで締めくくられなければならない。
 であればこの瞬間は私に与えられた最期の時ではない、ということでしょうか」

 どことなく確信を持って、村上は言い放つ。
 しかし対するダグバにとっては、彼の言い分は全く理解出来ないものであった。
 人の死、というものは何時の時代も願ったものとは異なるものだ。

 少なくとも今までダグバが殺してきた有象無象のリントたちの中に、死に際に笑みを残したものなどいなかった。
 笑いは強者にこそ存在するもので、弱者は恐怖に顔を引きつらせるだけ。
 ダグバの中にどこか当然に存在していた価値観を否定するような彼の言葉は、どこか尾を引くもので。

 「なら、僕には今君を殺せないって事?」

 「気になるのならば試してみれば良い。貴方と私、どちらが正しいのか証明するためにも、ね」

 「そこまで言うなら……いいよ」

 エターナルは、数度手の中でエッジを回し弄んだ後に、彼の誘いに乗ってみることにした。
 もしかすれば彼にも何か策があって自分の接近を望んでいるのかもしれないが、それならそれで面白いかもしれない。
 一瞬で終わらせてはつまらない、とその足を一歩一歩と詰めて村上が何らかの行動を示すのを待ったエターナルを前に、しかし村上はただ余裕の表情を浮かべるだけでその身体を動かすことさえしなかった。
 そんな彼を怪訝に思いながらも歩を進めたエターナルは、数秒の後、あっという間に彼の姿を眼下にまで捕らえていた。

 「――どうやら、勝負は決まったみたいだね?」

 どこかがっかりとした声で、ダグバが問う。
 だが対する村上は一仕事終えたかのような安堵さえ滲ませながら、一つの溜息で答えた。

 「えぇ、勝負は決まりのようです。
 ――ここまで下らない時間稼ぎに付き合っていただいた貴方のお陰でね」

 「なにを――」

 そこから先の言葉は、紡がれなかった。
 というより、そんな小さな声を簡単に遮り押しつぶすほどの轟音が、周囲に響いたという方がより正確か。
 だがエターナルがその音の出所に顔を向ける前に、その身体は彼の数倍の質量を有する鉄の塊に吹き飛ばされていた。
 残り少ないとはいえある程度残っていた瓦礫を気にしないほどの馬力で病院に乗り上げ村上の前に停車したそれの名は、Gトレーラー。

 まさしく村上が望んでいた時間稼ぎによる仲間の到着という勝利の形であった。

 「村上峡児、無事か!?」

 「えぇ、危機一髪、というところでしたが」

 忙しなく助手席の方向より降りてきたフィリップの姿を視認し、その肩を借りて立ち上がりながら村上はあまりにも情けない自分の姿を自嘲する。
 とはいえどうやらこれで一安心だ、と肩の荷を下ろしかけて、しかしまだ戦いは終わっていないことを言外に告げるように、エターナルが瓦礫を弾き飛ばしながらその身を再び現した。


657 : 名無しさん :2018/10/04(木) 01:01:35 Ow4dDGfE0
支援


658 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:04:10 g6Yi9xWY0

 「……また逃げる気?」

 エターナルが吐いたその苛立ちを秘めた言葉の先は、しかしフィリップや村上に向けたものではない。
 まさしく今Gトレーラーの運転席から地面に降り立ちその精悍な瞳をエターナルに向ける橘に対するもの。
 恐らくは第一回放送前の小野寺ユウスケや日高仁志を含めた戦いの時を差しているのだろう。

 彼のような戦闘狂への勝利宣言として皮肉の一つでも吐いてやろうかと口を開きかけて、しかしそれを遮るように橘が声を上げていた。

 「いや、ダグバ……、俺が、今ここでお前を倒す」

 揺るぎなく、しかしそれでいて落ち着き払った様子で、懐より最も使い慣れた自分の力を……ギャレンバックルを取り出す橘を見て、村上は驚愕を隠せない。
 何故なら先のキングとの戦いで用いられた力であるはずのそれにかけられた変身制限が解けるまで、まだ最低でも数十分ほどの時間を要するはずだからだ。
 一体どういうことだと彼が疑問を発する前に、橘が慣れた手つきでカードをスライドしバックルを腰に押し当てれば、カード状のベルトが彼の腰に巻き付き、高らかに変身への待機音を響かせた。

 「変身!」

 ――TURN UP

 橘が拳を握り、叫ぶ。
 それと同時彼がバックルのトリガーを引けば、瞬間生じるのはアンデッドの力を具現した壁、オリハルコンエレメント。
 制限に掛かっているときはそもそも発生さえしなかったそれの無事な出現にしかし戸惑うことなく、橘は駆け抜ける。

 次に彼の身体がその壁を越えた瞬間、そこにいたのは既に生身の人間ではなかった。
 仮面ライダーギャレンへの変身を完了した彼は表情こそわからないながらもフィリップを振り返り、フィリップもまた彼に対し笑みを携えた頷きで答えた。

 「馬鹿な……」

 しかしそんな二人を置いて、一切の理解が出来ないといった様子で村上は狼狽する。
 首輪にかけられている変身への制限が真実であることは自分も把握している。
 だが現に橘はそんなものが存在しないとでもいう様にギャレンへの変身を果たして見せた。

 自分の中にあった確固たる情報アドバンテージが音を立てて崩れていく錯覚さえ覚えて、村上は頭を押さえた。

 「村上峡児、説明は後だ、僕らは行こう。橘朔也、分かってるとは思うが……」

 「あぁ、大丈夫だ、約束は守る」

 最早フィリップたちを振り返ることさえなく、ギャレンはその腰のホルスターからギャレンラウザーを抜く。
 その背中に、やはりどこか危うさを覚えながら、フィリップは――同時に地面に落ちていたエンジンブレードを回収することも忘れず――村上を支えGトレーラーへと乗り込みエンジンをかける。
 その車体を検索によって手に入れた運転テクニックで華麗に操り病院から離しながら、フィリップは常にその背に刺さるような村上の視線を感じていた。

 「……まさか、この状況について私に説明もなく済む、とは思っていないでしょうね」

 ダグバとの戦いでその高いプライドを傷つけられただろうにそれを気にさせないほど高圧的な態度を変えずに、村上は問う。
 それにフィリップは背筋が凍える思いを覚えつつも、しかし臆することなくブレーキをかけてから振り返った。

 「勿論さ村上峡児。橘朔也が仮面ライダーギャレンに変身できた理由、それは――彼の首輪を、僕がもう解除したからさ」

 告げながら提示された半分に別たれた首輪を見て、今度こそ村上の余裕は崩れ去った。


659 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:06:58 g6Yi9xWY0


 ◆


 「君の言っている作戦は、確かに有益なものだ」

 数分前。
 橘が述べたダグバをここで倒す方法についての一切を聞き熟考を重ねた後、フィリップはそう結論付けた。
 橘の作戦は、多くの危険要素を踏まえたうえでもなお魅力的かつ確実な死を彼に迎えさせられる、非常に有益なものだということは否定しようがない。

 信頼のおける知性を持つフィリップのその言葉に頬を綻ばせた橘に対し、「だが」と釘を刺すようにフィリップは続ける。

 「だが、あまりにも検証の足りていない事象が必要条件として多すぎる。
 そんな危険を君にみすみすさせるわけにはいかない、やはり今は逃げに徹するべきじゃないか?」

 首を振りながら、フィリップは言う。
 無論橘とて、自身の立案した作戦に問題点が多いのは理解している。
 だがそれで「はいそうですか」と引き下がっていられるような時間はもう、残されていないと思った。

 「フィリップ、ならば逆に問おう。
 ダグバを……あの規格外の化け物を相手に、何があれば万全の勝利を確信できる?」

 「えっ?」

 橘が投げたその問いに、フィリップは答えることが出来なかった。
 というより、ただ困惑を返すしかできなかったというべきか。
 思いがけないその問いに黙りこくった彼に対し、橘は続ける。

 「左翔太郎との合流か?それとも門矢か?或いは小野寺か?俺は、それは違うと思う。
 少なくとももう一度小野寺とダグバが戦えば、奴の実力を引き出すためにダグバは周囲にいる人間を殺しつくそうとするだろう。そんな犠牲を、俺はもう見たくない」

 逃げることなく、橘は言い放つ。とはいえそれは、決して詭弁ではなかった。
 ダグバと戦うには先のライジングアルティメットとの戦いのように徒党を組む必要があるが、そうして集まった人数が多ければ多いだけ犠牲もまた必然的に増えてしまうだろう。
 それは――その中には志村純一の犯行や彼自身の死も含まれているとはいえ――敵味方合わせて総勢13名もの徒党を組んで敵に挑んだというのに既にその中で4名しか生き残っていない現状からも推測できる事態ではあった。

 死んでいった多くの仲間たちを思い、そして橘が見たというダグバによって“小野寺ユウスケを強くするためだけ”に死んだという二人の男のことを思い、それからフィリップは、意を決したように息を吐いた。

 「――君の言い分はわかった。だが僕も、これ以上の犠牲を見たくないのは同じだ。だから条件が一つある」

 「……なんだ」

 「君も、無事に帰ってくるんだ。ダグバに勝って帰ってくる、それが僕の協力への条件だ」

 どこか彼らしくもある少し臭い提案。或いはここに村上や乃木のような人外がいれば、鼻で笑っていたかもしれない。
 だが、ここにそれを茶化すような人物はいない。

 「当然だ、俺にもまだ……やらなきゃいけないことはあるからな」

 橘はその提案に、気恥ずかしささえ感じさせることなく強く頷く。
 そしてそれを受け頷き返しながら、フィリップは久しぶりの探求心の高ぶりにニヤリと笑って。

 「それじゃ、始めようか。――君の首輪の解除を」

 まさしく一世一代の賭けに乗ることを、宣言したのだった。
 それから先、Gトレーラーに向かい橘を手頃な椅子に座らせた後、実際に彼が行動に移ってからは、早かった。
 今までに行ったのは一度、しかも人間の首についていない首輪の解体作業でしかなかったとは思えないほどに軽やかな手つきで、フィリップは橘の首輪を分解していく。


660 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:08:59 g6Yi9xWY0

 一体、どれだけの時間が経っただろう。
 もうこれ以上の悪あがきは無意味かと、精神を集中した橘が次に感じたのは、この17時間ほど彼の首を圧迫し続けられ蒸れた首元が一気に解放されるその瞬間だった。

 「解除……出来た」

 大粒の汗を額に浮かべながら、フィリップが言う。
 周囲には彼が使ったのだろう数多くの工具と首輪の解析結果の表、そしてその手の中には分解され二つに別たれた銀の輪があった。
 だがそれに対し喜びを表現する前に、緊張からの緩和故かフィリップは大きく体制を崩してしまう。

 「フィリップ!大丈夫か!」

 「あぁ、大丈夫、少し集中しすぎたようだ」

 言いながらふらふらと立ち上がった彼に対し、橘は様々な感情の入り乱れるのを自覚しながらとにかく彼の肩を叩いた。

 「ともかくまずは……記念すべき大ショッカー打倒への第一歩、生存者の首輪解除おめでとう、というべきだな」

 「それを言うなら、こちらこそさ。君がいなければ、僕は首輪の解除に踏み切れなかっただろう」

 互いを称えながら、両者は笑いあう。
 その状況に紛れもない友情を両者は感じながら、しかし次の瞬間、そんな談合の時間は無理矢理に中断させられる。
 彼らを守るように見回りをしていたファングメモリとエターナルメモリ、フィリップの持つ二つの自立型メモリがまるでショートしたように電撃を放ちそれからすぐに動かなくなったため。

 「なッ……」

 「これは、エターナルのマキシマム……?ということは……」

 動かなくなったそれらをデイパックに収めながら、フィリップは瓦礫と化した病院の残骸の山へと目を向ける。
 どうやらこれ以上の予断は許されないらしい。
 正直他にも不安要素は多いがしかし、いやおうなしに橘の作戦に賭けるしかなくなってしまったようだ。

 (これで、首輪の解除という第一条件は果たされた、けど……)

 不安に飲まれかけた思考を、頭を振って否定する。きっと、うまくいく。
 運転席へと素早く移動しエンジンをかけた橘の横、助手席へと乗り込みながら、フィリップはそう何度も自分に言い聞かせた


 ◆


 フィリップと村上が撤退を果たしたのち、首輪が解除され変身制限がなくなった仮面ライダーギャレンはエターナルを前にたたずんでいた。
 新しく現れ仲間を逃がし自分を一手に引き受けた挑戦者、これ以上なく心躍るだろうその肩書を持つ彼を前に、しかしエターナルの心は萎えるばかりだった。
 だが、それも当然だろう。彼という仮面ライダーの実力は、夕方の戦いで把握している。

 グロンギとしての姿に変身できる時間が短くなったというのを踏まえたとしても恐らくは一瞬で屠ることが可能だろう程度の実力しか持ちえない相手を前にしても、エターナルがその興味をそそられなくても当然であった。
 だがこうして自分の目の前に再び戦士として立ったのだから、逃がす道理もない。
 せめて後々“あのクウガ”のような戦士と戦う時にその怒りを煽り強さを引き出すための材料の一つにでもなれば十分か。

 そう考えエッジを手の中で弄んだエターナルに対し、ギャレンはそれを戦闘の開始と捉えたかその引き金を引き絞る。
 だがその程度の攻撃で怯むエターナルではない。
 響く銃声と共に放たれた弾丸のいずれをもエッジで切り落としながら一瞬のうちにギャレンに肉薄し、彼が苦し紛れに放った左ストレートをお見通しとばかりに右肘で迎え撃った。


661 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:12:45 g6Yi9xWY0

 グッ、と呻き数歩退いたギャレンに対し、今度は彼の腹にエターナルの真っ直ぐに伸びた右足が深く刺さっていた。
 マキシマムを用いずともその足に纏われた青い炎がその威力を倍増させ、ギャレンは容易く吹き飛びその全身を地に滑らせる。
 まったく以て呆気ない。どうしようもなく予想通りの結果を迎えたこの戦いに、思わずエターナルは天を仰ぎ溜息をついた。

 (――やはりこのままの姿では無理、か)

 そんなエターナルを前にして、その身体を地に伏せダメージに肩を上下させながらも、ギャレンはどこか冷静に自分とダグバとの間の実力差を客観視していた。
 夕方での戦いで抱いてしまったダグバへの恐怖を彼への怒りが上回った今であれば或いは上昇した融合係数によるもしもがあるのではという考えはただ甘いだけであった。
 変身制限がなくなり耐えることが目的とはいえこのままではそれも無理、となればやはり”切り札”を切るしかないかと、ギャレンはゆっくりと立ち上がった。

 「……まだ立つんだ」

 エターナルが、呆れた様子で呟く。
 先ほどまでの戦力差を思えば、それも仕方ないかもしれない。
 だが此度立ち上がったギャレンは、先ほどまでとは違っていた。

 「言っただろう。ここで、俺がお前を倒すと」

 「そんなの、無理に決まって――!?」

 エターナルの言葉は、そこで止まった。
 ギャレンの手が、その左腕に備えられたラウズアブゾーバーに――そう、ダグバにとっての最高の玩具であるそれに――向かっていくのを見たのだから。
 キングフォームになれないという言葉を否定するようなその動作に思わずその目を奪われたエターナルに観察されながら、ギャレンはラウザーから一枚のカードを取り出す。

 自分が握ったそのカードを、しかしギャレンは憎々しげに睨みつける。
 それは、この会場で殺戮の限りを尽くし、キングに曰くその殺害数はダグバとも並んだというまさしく死の権化。
 その最期に至るまで誰かを騙し続け利用し続けた悪魔が封印された、まさしく呪いのカード。

 ――JOKER

 二度と見たくもないほどに嫌悪した邪悪のカードをこうしてギャレンが掴んだのには、もちろん理由がある。
 それはかつて、彼が上条睦月との対話の中で聞いた話に由来する。

 ――『ジョーカーがどんなカードの代わりにでもなるように、どんなアンデッドの姿にでもなれるアンデッドがいます』

 相川始がジョーカーアンデッドであること、そして彼が多くのアンデッドを封印すればそれだけ強大な敵となることを伝えた彼の言葉。
 七並べを利用して伝えられたその言葉は、しかし橘の中に確かなしこりを残していた。
 つまりは、アンデッドであるジョーカーにも、七並べでのそれと同じように他のカードの代替と成れる力はあるのだろうか、と。

 無論その推測は元の世界で確認されていた唯一のジョーカーアンデッドである相川始の封印が先延ばしにされたために検証さえ許されることはなかったが、こうしてこの会場で二枚目のジョーカーがこの手に渡った今となっては、無視できない可能性であった。
 何故ならそれが可能なのであれば……今のこの手持ちのカードだけでも、つまりはジョーカーをカテゴリークイーンの代替として使用することにより自分はラウズアブゾーバーを使ってキングフォームへの変身が可能になるからである。

 ――ABSORB QUEEN

 意を決してジョーカーをアブゾーバーに挿入すれば、響き渡るのは正常に動作したのを示す電子音。
 橘でさえ初めて見るプロテクターにカードが包まれる中、取りあえずの安堵さえ許されることなく次に手に取ったのは、ダイヤのカテゴリーK。
 これもまた、この会場で様々な参加者をその手にかけただけでなく地の石を操り五代雄介の笑顔を闇に葬った策士、金居の封印されたもの。


662 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:16:02 g6Yi9xWY0

 彼の翳したその悪夢は、本当に多くの戦士に深い傷を負わせた。
 秋山蓮を、海東大樹を、そして自身の友であった日高仁志を死なせたあの戦闘を生み出した諸悪の根源の力を借りなければいけないというその現実が、彼の指を止まらせる。

 ――『どうしました橘チーフ?俺たちと力を合わせて戦いましょう!』

 ――『さぁ早くしたらどうだ?最もその後で、俺に乗っ取られても知らんがな』

 幻聴か、それとも封印されてもなお強力な念を持つアンデッドのカードを二枚も持っているが故に実際に聞こえたのか、橘の耳に二人の邪悪な声が飛来する。
 そしてその声に釣られるように、橘の脳裏に一つ、先ほどから燻り続けている懸念が過った。

 (……本当に、果たして大丈夫なのか。
 一時的とはいえジョーカーと融合するということ、それが意味することは――)

 ラウズアブゾーバーによる上位アンデッドとの融合。
 ジャックフォームや本来のキングフォームであればライダーシステム適合者の健康を著しく阻害する可能性は低いそれらではあるが、しかし剣崎はその高すぎる融合係数により13体のアンデッドとの融合が可能となり、その身をアンデッドのものとしてしまう可能性を背負っていた。

 彼のキングフォームでなければ打倒できないトライアルとの戦いや、彼の強い希望により橘も剣崎のキングフォームへの変身に対し、何か異変が起きるまでは容認という形をとってこそいたが、しかし本音であればそんな危険な変身はやめてほしい、というのが正直なところだった。
 人間のまま死んだ剣崎を思い、或いはアンデッドへと完全に変貌していればと不謹慎な思いを抱いたことをも思い出しながら橘は自問する。
 『お前に、剣崎のようにその身を犠牲にしてでも戦い続ける覚悟はあるのか』と。

 「……どうしたの?キングフォームに変身しないの?」

 物思いに沈んでいたギャレンの意識を急激に浮上させたのは、エターナルが退屈を持て余したかこちらを不思議そうに観察しながら投げた問いであった。
 ダグバ。数多くの参加者を虐殺し、仮面ライダーブレイド、どころかあまつさえキングフォームにさえなって小野寺を苦しめたというまさしく最悪。
 どうやらブレイドはもう仮面ライダーに取り返されたらしいが、それでも彼がただ自分の愉悦の為だけにその力を纏ったというのは、橘にとっては非常に不快なものだった。

 (剣崎、もしも今の俺がお前だったら、どうするんだろうな……)

 誰よりも正義感が強く、そのため誰よりも強い仮面ライダーだった友を思いながら、橘は自虐気味に笑った。
 答えなど、すぐにわかる。剣崎がダグバを前にしたならば、例えどんな状況でも決して諦めたりしないはずだ。
 例えその戦いの果てに二度と人間には戻れなくなったとしても、きっと誰かの笑顔を守るためにその身体を投げ出すはずだと、そう考えて。

 (あぁ、そうだな。お前なら、きっと辛くても戦う道を選ぶ。それなら――)

 ――EVOLUTION KING

 ギャレンが、遂にカードをアブゾーバーに滑らせた。
 カテゴリークイーンではなくジョーカーが用いられたために生じたバグ故か、彼の身体を数度電流のような痛みが走るが、しかし今更それで怯むはずもない。

 「ああああぁぁぁぁ!!!」

 強く吠えたギャレンに呼応するように、ギラファノコギリクワガタのエンブレムが彼の身体に刻まれる。 
 それと同時生じた数多のパーツが彼の身体を包み込み、次の瞬間そこにいたのは最早ただのギャレンではなかった。
 仮面ライダーギャレンキングフォーム。元の世界ではついぞ橘が変じることのなかったギャレン最強の形態が、様々なイレギュラーを率いて顕現した姿だった。

 「――俺は、お前の代わりに戦う道を選ぶ。お前の……仲間として!」

 死した最高の仲間への高らかな宣言と共に、金色の大筒へと変貌したその醒銃をしかと握った彼はエターナルを鋭く睨みつけた。


663 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:20:06 g6Yi9xWY0


 ◆


 F-6エリア。
 暴走したジョーカー、そしてカッシスワームとの戦いを終えてから既に二時間ほどが経過し、葦原涼と相川始の二人は病院を目指し歩みを進めていた。
 二人の間に、会話はない。元々両者寡黙であるのも理由の一つではあるが、それ以上にどちらも連戦に次ぐ連戦での疲労感を隠しきれていないのである。
 だがそれでも、足を止めることはしない。

 二人ともがただの人間ではなくまたこうした荒事になれているのも当然だが、大ショッカーを打倒する意思を表明した今、これ以上少数で行動するのも無駄と始は考えていたのである。

 (大ショッカーがきな臭いのは元より分かっていたつもりだが、大幹部を会場に送り込み参加者の復活能力を見逃すとは、一体どういうことだ?)

 そして口には出さないながらも、始は再度大ショッカーの真の目的について思考する。
 世界の存続などという崇高な目的の為ではないのは明白だが、この会場の中の仮面ライダーを全て殺すというだけなら、首輪の爆発で事足りるはず。
 あくまでゲームとして仮面ライダーが苦しむ姿を楽しみたいというのなら、大幹部であるアポロガイストや同じく幹部らしいキングを会場に送り込む姿勢にはやはり疑問が残る。
 その上、自分から立候補したらしいキングは首輪もつけていないのに、アポロガイストは結局首輪による制限のせいで自分たちに容易く刈り取られたことを思えば、やはり不自然な点は多いと言わざるを得ない。

 (とするとやはり、大ショッカーもまた何らかの存在の傀儡に過ぎない、と見るべきか……)

 そこで始は、思考を切り替える。
 大ショッカーが諸悪の根源とばかり信じてきたが、事実その背後にはより大きな存在が潜んでいるのではないか、と。
 そう考えると、先のアポロガイストに対する疑問も解消できる。
 この殺し合いを主催した大ショッカーの幹部、という響きに惑わされ続けていたが、実のところアポロガイストはキングとも違い参加者個人の情報にも疎かった。

 そうした面から考えれば、恐らくは彼はこの殺し合いの進行においてさした期待をされていたわけではあるまい。
 となれば全てに納得がいく。アポロガイストにも首輪がされていたことも、キングなどのイレギュラーの存在も。
 つまりはディケイドが世界の破壊者などの情報は全て大ショッカーが組織を通じてアポロガイストに広めさせ参加者対ディケイドの構図を作らせようとした陰謀の片鱗などではなく、彼の個人的主張だったのだ。

 例えば、アンデッドである金居が自分に恨みを持っていてあわよくば周囲を利用し自分を倒そうとするというのと同じレベルの、彼とディケイドの極めて個人的な因縁。
 或いは彼が世界を滅ぼすというのも嘘ではないのかもしれないが、それは自分がバトルファイトの勝者となった時のような、限定的な条件のもとに生じる事象なのではないのだろうか。

 (……流石にそれは希望的観測がすぎる、か)

 しかしそこで、緩くかぶりを振る。
 自分と幾つか重なる点があるとはいえ、それに飲まれ大義を見失うわけにはいかない。
 今は仮面ライダーに協力し大ショッカーを看板として掲げている敵対組織の実態を探りこそするが、その結果としてアポロガイストや死神博士が述べていた話が事実だと証明されたなら、自分は他の全ての世界とディケイドを切り捨てなければならないのだ。
 こんな甘い考えに支配されて、いずれ戦わなければならない存在に気を許すような愚を犯すわけにはいかなかった。

 「……………ッ!?」

 と、その時、始の脳内に一筋の電流が走るような、そんな感覚が生じた。
 先の暴走の時も見た始の異変に涼は戦慄するが、しかし始はそれを制するように手を伸ばした。

 「相川、お前、まさかまた……?」
 
 「いや、どうやら少し違うらしい。あの姿になるような衝動は、もう感じない」

 「どういうことだ……?」

 「さぁな、俺にも分からん。だが一つ分かるのは……先ほどより近いらしい」

 「何?それじゃ――!」


664 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:23:50 g6Yi9xWY0

 困惑を露わにしながら、しかし真っ直ぐに視線を病院へと向ける始。
 それを受けて葦原は、焦燥を含んだ瞳で夜になおその存在を示す白に向けて視線を飛ばした。

 「あそこに……ダグバが?」

 ――葦原の予想は、当たってはいるが根拠は外れている。
 彼は、『ダグバがブレイドを用いて多くの参加者を殺害した』という情報をキングから、始のジョーカー化に関する情報としてのキングフォームについての説明を橘から受けていた。
 ゆえに、始の暴走はダグバの変身したキングフォームによるものだと考えたのである。
 無論、その論説自体は先の二回の暴走においては正しい。だが此度は事情が異なっている。

 とはいえ『ギャレンがカテゴリークイーンの代替としてジョーカーのカードを用いてキングフォームに変身したために、ジョーカー化への衝動を覚えたがその融合係数の差故に暴走までは至らなかった』という理由になど思い至れるはずもなく、葦原たちはその鋭い瞳で視線の先にいるはずの宿敵を強く睨みつけた。

 「――あそこにダグバがいるかどうかはまだ分からないが……急ぐ必要がありそうだな」

 密かな怒りを秘めた始の言葉に、葦原が頷く。
 その瞬間、両者は体の傷や疲労感をものともせずに走り出した。


 ◆


 キングフォームへと変身を果たしたギャレンを前に、ダグバはエターナルの鎧の下で極めて嬉しそうにその頬を綻ばせた。
 随分と長いこと踏ん切りがつかなかったようだが、どうやらようやく楽しめるらしい。
 先ほどとは比べ物にならないような威圧を誇るそれに対し、またも数度エッジを手の中で弄び、エターナルは駆けだした。

 対するギャレンもまた先ほどと同じようにラウザーを構え引き金を絞り、そこから放たれる弾丸もまた同じようにエッジで切り落と――せない。
 真正面からかち合ったただ一発の弾丸と抜群の切れ味を誇るはずのエッジの勝負の行方は、互角であった。
 先ほどまではただの一振りで自身が駆ける勢いさえ落とさずに数発の弾丸を同時に撃ち落とせたはずのそれが、しかし今のギャレンとでは弾丸の一発で互角ということである。

 思いがけないギャレンの強化に昂ったエターナルは、突撃を止め、あるものの元へと駆け出す。
 とはいえギャレンもそれをただ見ているわけにはいかない。
 強化されたキングラウザーによる銃撃で以て追撃を放ちながら、ラウザーに一枚のカードを読み込ませる。

 ――DIA TWO

 通常のギャレンラウザーとは異なる電子音声と共に読み込まれたアンデッドの力をキングラウザーが詠唱する。
 それによって連射性を多く増したキングラウザーから、その高い攻撃力を変えることなく瞬きの間に雨のように弾丸が吐き出された。
 それは先ほどまでのエターナルであれば甘んじて受け入れるしかないほどの威力と質量を誇っていたが、しかしその弾丸の雨が到達するより早く、彼は目当てのものに辿り着いていた。

 黒いローブを地面から拾い上げ自分の前に掲げたエターナルに対し、ギャレンが放った弾丸の全てはしかしその先のエターナルに到達することなく力なく地に落ちる。
 ラウズカードさえ使用した一撃を思いがけない手段で凌がれたことに驚きつつも、油断なくギャレンは一枚のカードをラウザーに挿入した。

 ――DIA NINE

 電子音声を耳で聞きながら、エターナルは再びローズにやったのと同じくローブにエッジを忍ばせて飛ばす戦法を考える。
 その身に迫るナイフを敵が受け止めた瞬間にその両手を塞ぐことと自身の必殺技の準備を同時に行えるこの戦法を、果たして今対峙する仮面ライダーは破ることが出来るのか。
 多大なる期待を込めて放たれたナイフの切っ先が真っ直ぐにギャレンに向かっていくのを見やりながら彼から死角になる位置に移動しようとしていたエターナルは、見た。

 ――DIA THREE SIX


665 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:29:23 g6Yi9xWY0

 目の前で新たに二枚カードを読み込ませその拳に力を籠める目の前のギャレンと、自身が放ったエッジを受け止めることさえせず消滅するもう一人のギャレン、つまりは二人になったギャレンの姿を。
 どういうことだ、と一瞬考えようとして、しかしラウズカードの効果のそれぞれなど考えるだけ時間の無駄だと切り捨ててエターナルは拳に力を込めた。
 それに伴い青色の炎が腕を包むのと同時、ギャレンが待ち受けるのさえ構わずにエターナルは高く笑い声をあげて拳を振りぬいて。

 「ハハハハハハハ!!!」

 「――ハァッ!!!」

 ギャレンの放ったアッパーカットに、一瞬の拮抗さえ許されることなく胸を強く打ち据えられ吹き飛ばされた。
 高く打ち上げられたその身体が数秒の空中散歩の後地面に叩きつけられるころには、もう彼の変身は解除されていた。


 ◆


 エターナルを破ったことに深い喜びを表すこともなく、ギャレンはその拳に纏わりつく赤色の炎を払う。
 あの村上の怪人態たるローズオルフェノクをも下したエターナルを倒したとはいえ、油断は一切できない。
 どころか今の数発と夕方での戦いで自分の持つ手札を全てダグバに晒したも同然なのだから、ここからが正念場といって間違いなかった。

 そして、ギャレンのその考えを肯定するように、ダグバは先ほどのダメージなど一切ないかのようにゆらりと立ち上がる。
 白衣を纏った青年がニヤリと笑ったかと思えば、一瞬の後その身体は彼の真の姿とでもいうべきグロンギのものへと変化していく。
 夕方にも見たその禍々しい姿に再度身構えたギャレンを次の瞬間迎えたのは、ダグバが開いた掌から吐き出された夥しい量の“闇”であった。

 「うわあああぁぁぁぁ!!?」

 一瞬でこの身を包んだそれが生み出した威力は、その凄まじい速度と勢い故に歴戦の橘でもギャレンの鎧ごとこの身が闇に溶けて消えてしまったのではないかと錯覚するほどの威力だった。
 それが過ぎ去りその錯覚が杞憂であり、この身が未だ健在であることが分かったその瞬間、しかし安堵に息を吐くよりも早くダグバの拳がギャレンの顔面を打ち据える。
 ただの一撃で一気に肺から酸素の全てを吐き出し、痛みに思い切り仰け反った彼の元に到来するのは、息さえつかせぬ拳の連打であった。

 一撃一撃が意識を刈り取りかねない威力を誇るそれらを何とか凌ぎ、キングラウザーを振るうことで無理矢理にダグバから距離を離したギャレンは、やっとの思いで5枚のカードをラウザーに走らせる。

 ――DIA TWO THREE FOUR FIVE SIX
 ――STRAIGHT FLASH

 それは、トランプの中でも単一スートの縛りの中であればロイヤルストレートフラッシュに次ぐ強さを誇る役、ストレートフラッシュであった。
 今のギャレンが出しうる中で最強コンボの成立を前に、しかしダグバはただ甘んじて佇むのみで。

 「ハァッ!」

 それならそれで、この一撃で終わりにするだけだと気合いを込めてギャレンはキングラウザーからその巨大な弾丸を放った。
 しかし対するダグバはギャレンの切り札にも何ら動じることなく、どころかまるでもう手加減は飽きたとばかりに腕を一凪ぎ振るっただけでその弾丸を弾き飛ばした。

 「何ッ!?」

 ギャレンの驚愕を無視して、彼が持ちうる現状最大のコンボ、ストレートフラッシュがダグバの後方で爆発し意図せずしてダグバの影を濃くする。
 そうして増した彼の威圧に一瞬出遅れたと実感する頃には、再びギャレンの身体をダグバが神速の速さで繰り出す拳が捕らえていた。


666 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:33:12 g6Yi9xWY0

 (やはり……無理だったのか……。俺に、剣崎の代わりにこんな奴と戦うなんて)

 今度は心さえ折れたのか、まともな防御態勢さえ取ることさえ出来ぬまま拳の雨に身を晒したギャレンは、ふと思いを馳せる。
 それは、この戦いが始まる前、キングフォームに変身する覚悟を決めたときのこと。
 今は既に死んでしまった剣崎の分まで戦うという覚悟を決めたということは、彼が戦っただろう敵からも、そしてアンデッドになるかもしれないという運命からさえも逃げないことだろうと橘は思った。

 少なくともそう考えれば、剣崎の代わりに自分が戦っているのだと思えば、この身を最悪のアンデッドにしてしまうかもしれない選択も、難しい理屈をこねるより先に取れる気がしたから。
 そう言った意味で言えば正解ではあったが……同時に思う。
 やはり自分なんかでは剣崎一真という男の代わりを務められるだけの力などなかったのではないか、と。

 ジョーカーとの融合さえ視野に入れたギャレンキングフォームへの変身。
 首輪の解除により変身制限のなくなった自分がその最強形体でダグバが変身制限を迎えるまで耐え、その後に無力になった彼を撃破する。
 そんな博打の連続のような作戦の、その最後の部分、最も堅実に終われるはずの時間稼ぎを果たせなかったという無念は、何より自分の無力さを痛感するもので。

 ――無論、今のダグバはそれまでを大きく凌ぐセッティングアルティメットと呼ばれる形態となっており、或いは彼の知るダグバであったなら10分の時間稼ぎは十分可能だったかもしれないということも、ここに付記しておく。
 だがそんな都合のいいもしもに意味はなく、ギャレンがダグバに敗れたというその事実だけが今の橘を、ただ打ちのめしていた。

 (だが、例え俺にその力がなかったとしても……俺は、俺は――!)

 「ッ……」

 声にならない声を上げてふらついたギャレンに振り注いでいた拳の雨が、止んだ。
 一体何事かと視線を前に向けてみれば、揺らいだ視界の中に写るダグバの右半身が、やけにクリアに見えた。
 どういうことだと自問するが、しかしすぐに答えに辿り着く。

 そう、ギャレンの仮面の丁度左半分が、既にダメージの許容量を超えて砕け散ったのだ。
 つまりはもうこの仮面さえも、自分を守る使命を果たすことはないのである。
 しかしもうそれに深い感慨を抱くこともない。仮面が割れるにせよ割れないにせよ、そのどちらにせよ後数発で意識と共にこの命も尽きていたのは変わりないのだ。

 だが予想していたダグバの攻撃は、いつまで経ってもこの身に届きはしない。
 疑問にその目を開いた橘を、しかし同様に不思議そうにダグバは首を傾げて観察するように覗き込む。

 「……やっぱり」

 「何がだ」

 こんな問答など無意味だと分かっていながら、橘は問う。
 人々を笑いながら殺してきた殺戮の権化が、今更死に目に向かう男を前に何を疑問に思うと言うのだろうか。

 「……やっぱり君も、その目をしてるんだね」

 「目?」

 「うん、その目だよ。自分が負ける、自分が死ぬって分かってるのに、そんなのを知らないっていう風にこっちを睨み付ける目
 ……ねぇもしかして、やっぱりそれが仮面ライダーの証なの?」

 言われて、橘はどこかおかしく感じて笑ってしまった。
 あれだけの残虐を果たした彼が、しかし初めて仮面ライダーという異世界の戦士に興味を持ち定義付けようとしている。
 それが少しおかしくて、そしてそれ以上に不快に感じた。

 例え仮面ライダーでなくても、人がそれぞれ死に際に浮かべる表情はそれぞれ異なっているはずだから。
 結局はダグバがそれを知ろうと思ったのも自分の楽しみのために過ぎないのだとそう感じながら、橘は込み上げた血を飲み込んで言葉を紡いだ。


667 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:36:30 g6Yi9xWY0

 「……違うな」

 故に、橘から放たれたのは、ダグバへの否定だった。
 意外にさえ思えるその言葉に、ダグバも思わず眉を潜める。

 「さっきは答えられなかったが、ようやく俺にも分かった。
 ……仮面ライダーは、戦えない誰かの為に戦う戦士なんだ。だから俺たちは、自分が負ける時にも諦めないんじゃない。
 例え自分が死んだとしても、自分の意思を継いで誰かが必ず悪を倒してくれる、そう信じているから諦めたりしないんだ……!」

 「戦えない誰かの為に戦う?リントのこと?でももうここにそんな弱いリントはいないでしょ?」

 「いいや、大勢いるさ。お前のような悪に敗れ、正義を信じたまま死んでいった仮面ライダー達が。
 そいつらの分まで俺は、いや俺たちは……戦って見せる」

 橘は、胸に手を当てて思い出す。
 剣崎を、北條を、秋山を、矢車を、この殺し合いを打倒せんと立ち向かい志し半ばに散っていった仲間達を。
 仮面ライダーが戦えない誰かの為に戦うというのなら、自分は散っていった彼らの分まで戦う義務があるのだ。

 その思いが、橘の足を強く踏み止まらせる。
 しかしそんな橘を前にして、ダグバは極めて理解不能だと言わんばかりに首を横に振った。

 「……本当に信じてるの?自分が死んだ後も、誰かが自分の分まで戦ってくれるなんて」

 「あぁ、当然だ。現に俺は、こうしてお前の前に立っている」

 言って、橘はダグバを睨み付ける。
 そうだ、もう迷うことはない、自分は決してダグバを前に一人で立ち向かったわけではないのだ。
 ただその事実だけで、橘はずっと戦い続けられるような気がした。

 だが相対するダグバは、ますます理解が出来ないとでも言いたげに溜息を吐いて。
 ただ黙って再び拳を握った。
 つまりは、これ以上の対話を無意味なものとして切り捨てたのだ。

 それを見て橘もラウザーを構えようとして、しかし出来なかった。
 ダグバがグロンギの姿に変じてからの僅か数十秒ほどで刻まれたダメージが、もう彼から戦えるだけの体力を奪いきってしまったのだ。
 万事休すか、そうして生まれた何とも言いがたい苦悶に視線を泳がせて、そこで気付く。

 この場所に見覚えがあると言うことに。

 (まさか……ここは……)

 勿論、橘がこの病院を拠点にしてから既に8時間ほどが経っている。
 幾らその姿を大きく変貌させていようと大体の場所は把握していたが、しかしこの場所に関してだけは事情が違っていた。
 何故なら彼が今立っている場所に残された、酸化した血。そして視線の先にある瓦礫を積み上げて作られた即席の椅子に、橘は忘れてはならない思い出があったのだから。

 ――『はぁ。マジでさぁ、そういうのウザいって言ったよね僕。放送でちゃんと『口先だけの正義の味方とか無駄なだけ』って』

 良太郎を後ろから刺し殺したのを一切悪びれずに、あの男が言った言葉を思い出す。
 思い出すだけでも虫酸が走るようなその言葉は、先ほどこの病院に来訪した大ショッカー幹部、スペードのカテゴリーキングのもの。
 そう、この場所に見覚えがあったのは、ここがこの広い病院の中で唯一自分とキングとが戦い、そして言い訳のしようさえないほどの完全敗北を喫した場所だったからだ。

 地面に落ちる血は、なるほどまさしくキングが良太郎の腕を切り裂いたときに流れたものだろう。
 とはいえそれだけでは所詮橘の苦々しい思い出が刺激されたというだけの話、ここで論じるまでもない。
 だがこの場所は、それ以上の可能性を彼に思い起こさせた。


668 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:40:20 g6Yi9xWY0

 ――『落ち着け橘。あいつが今いる場所、多分禁止エリアだ』

 士の言葉を思い出しながら、橘はあの時キングが立っていた場所を睨み付ける。
 禁止エリア、どんな存在でも消し去れる首輪の爆発、野放しには出来ないダグバ、そしてどちらにせよすぐに動かなくなるだろうこの身体。
 橘の脳内で散らばっていたピースが、一つに纏まっていく。最早それしか答えはないと、そう言うように。

 「……じゃあね」

 立ち尽くしたままの橘に向けて、ダグバがその掌を翳した。
 だがそこから再び闇が照射されるより早く、橘は残された全ての力を振り絞ってキングラウザーを持ち上げ弾丸を発射していた。
 丁度掌の真ん中に着弾したそれは、僅かにダグバの攻撃にその傷の治癒までの時間というラグを与える。

 そうして生まれた僅かな隙に、橘はそのまま全力でダグバの右側に回り込み、かつてキングが現れたあの忌々しき場所とダグバとを一直線上に置いた。 
 不思議そうにダグバはその動きを見守っていたが、しかし幸運にもこちらの狙いには気付かなかったようで、移動しようとはしなかった。
 だから橘は、駆けた。キングラウザーさえ投げ捨てて、ただただダグバに向かってタックルをかましたのだ。

 「……は?」

 これにはダグバも面食らう。
 それもそうだ、そんな捨て身の攻撃が通用するほど自分とギャレンとの戦力は小さくないことは承知のはずだと、そう思っていたから。
 故に出遅れる。ギャレンが文字通り命を賭けた、渾身の低いタックルへの対処が。

 ドン、と鈍い音を立ててギャレンに残された一本の角が、ダグバの腹へ直撃した。
 流石のセッティングアルティメットと言えど、油断していた形態の攻撃であることに加え相手もまた腐ってもキングフォーム、とあるライダーの最強形態であることに違いはなく、その体勢を崩し後方へと大きく吹き飛んだ。
 結果としてダグバは数秒、天を仰ぐ形で無防備な姿勢を晒すことになったが……しかし、それだけだった。

 素早く起き上がったダグバは、迷わずにギャレンに視線を送る。
 気でも狂ったか、自分に突然タックルを放った仮面ライダーは、しかしもうその変身さえ保っている事が出来ず生身で地面に伏し血を吐いていた。
 まさか最後の最後に自分にダウンを取らせたかったとでもいうのか、とそこまで考えて。

 ――ビイイイィィィィィ!!!!

 突如、周囲に大音量で流れた電子音に、思考を強制的に中断させられた。
 警告音染みたそれに馴染みがないのかただ困惑を浮かべ周囲を見回すダグバを前にしながら、橘朔也はただ一人自分の、否、仮面ライダーの勝利を確信していた。

 (とはいえ、約束は破ることになってしまったがな……)

 橘が思い返すのは、自分の首輪を解除する際その帰還を条件として提示していたフィリップのこと。
 ダグバの実力を見誤った自分の責任も多分にあるとはいえ、彼には酷いことをしてしまった。
 出来ることなら、彼にもう一度会いキチンと互いの首輪解除への貢献を称え合いたかったが、しかしそれももう叶わない。
 なればもう、橘に出来るのはこれから数十年後、フィリップが大ショッカーを打倒し天寿を全うするまでの彼の無事を願うことだけだった。

 (剣崎、ヒビキ、皆、今から行く。小夜子、お前にも、もうすぐ会えるな……)

 そして次に思考を巡らせるのは、自分がこれから向かうだろう冥界のことだ。
 理系肌である橘にとってその存在を証明できない天国などというのは眉唾ものの幻想だったが、しかしどうせ最後なのだ。少し位楽しいことを、信じてみたかった。
 仲間や、友や、そして愛した人。戦いの中で失ってきた多くの人を思い出し、そして最後に、どうしても橘は一つだけ、思い残した問いを思い出した。

 「桐生さん、俺も、少しは馬鹿になれたかな……?」

 誰に届くでもない小さなその声は、ダグバの首輪から放たれる大音量の警告音に無慈悲にも掻き消される。
 だが、それでよかった。戦いに生きた人生の締めくくりなど、きっとこんなものだから。
 あぁ、だからそう、願うならば、今度は愛すべき人と、普通の日常を。


669 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:43:48 g6Yi9xWY0

 或いは有り得たのかもしれない平和な日々と、そしてその人生を賭した戦いの日々の中で得た掛け替えのない友のことを夢想しながら。
 瞬間、警告音を流し終えたダグバの首輪が放った規格外の炎に巻き込まれるその寸前まで。
 橘朔也は、笑みをたたえてその人生を終えた。

 ――ボン

 
 ◆


 時刻を同じくして。
 安全のためE-5エリアからGトレーラーを駆りF-5エリアにまで移動したフィリップは、ただひたすらに時計を睨み付けながら橘の無事を祈っていた。
 橘の作戦が上手くいけば、長く見積もってもあと6分ほどでダグバの変身制限が訪れ、奴は死ぬ。

 確かにそれはダグバという規格外を相手にする上でこれ以上なく堅実な作戦のようにも思えたが、ダグバという存在がどれだけ常識外れの存在かは短い時間とは言え直接戦って存分に思い知った。
 翔太郎や士といった信頼の置ける実力者が何人いても万全の状況は有り得ないという彼の論調に賛同してしまった自分が強く非難できるはずもないが、それでもなお不安を拭い去ることは出来ず。
 そんな不安に駆られながら、次の瞬間、カチリと分針がまた一つ時を刻み、それに伴いまた病院の方向へと視線を戻したフィリップは、見た。

 ――天を貫かんと伸びる巨大な火柱が今までそこに存在していた病院を包み込みいよいよ以てその全てを飲み込んでいく地獄のような光景を。

 「……え?」

 思わず、間抜けな声が漏れた。
 まさかあれがダグバを倒したという証なのか、と呑気に思う一方で、それ以上に最悪の可能性が頭を擡げて彼を支配しようとしていた。
 どうにか否定材料をと視線を凝らして火柱を注視していた彼は、それが徐々に横に広がりつつあるのを見る。
 つまりはその火柱が天に伸びたのはただの爆発の中心点に過ぎず、今からその暴力的な破壊力を病院だけではなく周囲に振りまこうとしているということだ。

 ただの爆風であればともかく、周囲の瓦礫や倒木さえも吹き飛ばし明らかな殺傷能力を含んだそれに対して、フィリップは懐からT2サイクロンメモリを取り出し、起動する。

 ――CYCLONE

 フィリップが真っ直ぐにそれを投げ放てば、今度はその端子を彼の掌に向ける形でその緑のメモリは彼の掌に突き刺さった。
 一瞬のうちにその身を疾風の記憶を含有する異形、サイクロンドーパントへと変貌したフィリップは、そのまま大きく両手を広げ能力を全開にする。
 次の瞬間、発生した風のバリア、それがGトレーラーを包み込んだその瞬間に、暴力的なまでの爆風が、彼らを襲った。

 「ぐっ……!」

 サイクロンが思わず呻く。
 彼が風による防壁を発生させたGトレーラー以外の場所が、熱と風に蹂躙され焼け野原へと変わっていく。
 彼らのすぐ後ろに佇み暴風の影響を存分に受けた高級マンションは、その風の威力故に高層階の窓ガラスの何割かを消失させ先ほどまでの優雅な佇まいを無残なものに変貌させていた。

 そうして周囲がまさしく緑の一つさえ見えない焦土と化して数秒の後、爆発とそれに付随する暴風は終わりを迎えた。
 あまりにも恐ろしいそれを見届けて、フィリップは変身を解き思い切り地面に膝をついた。
 T2故に依存性を始めとする副作用がないことを確認していた為に躊躇なく使用することは出来たが、この一瞬で使用した力があまりにも大きかったためかとてつもない疲労感が彼を襲ったのだ。

 「フィリップさん、何事で――ッ!?」


670 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:46:06 g6Yi9xWY0

 そしてそんなフィリップの前に、トレーラーの扉を開けて飛び出してきた村上は、変わり果てた周囲の光景に言葉を失った。
 彼からすれば爆音が聞こえたのにいつまでも車体が一切揺れないような心地だっただろうから、さぞかし不思議だったに違いない。

 「フィリップさん、どういうことです、ご説明を」

 「あぁ、だが――」

 「――村上ィ!」

 村上の焦燥感を含ませた問いに、疲労にうなされつつ何とかフィリップが答えようとしたその瞬間、ふと意識外から飛び込んでくる男の声が一つ。
 聞き覚えのあるそれにフィリップが振り返るより早く、声の主は彼を超えて村上に殴りかかっていた。

 「村上、お前が、お前があきらを!」

 「葦原涼!?」
  
 それは、先の病院での戦いからその行方が知れていなかった葦原涼その人。
 だが、あまりに突然に飛び込んできた偶然の再会に喜ぶより早く、フィリップは彼が一体何を言っているのか、一瞬疑問に思って、しかしすぐにその疑問は氷解する。
 彼はまだ、知らないのだ、野上良太郎と村上峡児が天美あきらと園咲冴子を殺した犯人だという情報が、志村のついた嘘だということを。

 そしてそれにフィリップが思い至った瞬間には、既に葦原は再度大きく拳を振り上げていて。

 「待ってくれ葦原涼、それは誤解だ!」

 このままではまずい、とフィリップが咄嗟に静止を呼びかけたのを受けて、葦原の振り上げた拳が止まる。
 そのままギョロリと視線だけをフィリップの元にくれる彼の顔は、彼がただ不器用なだけで紛れもなく正義を信じる仮面ライダーの一人であることを知らなければ誤解さえ生みそうなほどに人相が悪いものだった。
 そして、その片腕を未だ振り上げたまま、もう片方の腕で村上のスーツの襟を握りしめたままで、葦原はぶっきらぼうに問うた。

 「誤解だと?どういうことだ、まさか、志村が言っていたのは……」

 「そのまさかさ。天美あきらと冴子姉さんの殺人に村上峡児は関与していない。
 僕たちは彼の嘘にまんまと乗せられてしまったんだよ」

 「なんだと……」

 また騙されていたという不甲斐なさに思わずその腕を垂らした葦原の腕に伴うように、村上の身体は力なく座り込んだ。
 何よりも早く葦原が義憤のままに振るった拳は、村上の顔の中心を打ち据え彼から意識を奪っていたのである。
 平素の村上であれば躱せただろう一撃にその意識さえ飛ばしてしまうほどに彼が満身創痍だったのだと葦原が理解する頃には、彼の村上への敵意はすっかり消え失せてしまっていた。

 「だが、どういうことだ。志村は、未来で橘の部下だったんじゃないのか?まさかそれも嘘だったのか?」

 「いや、それは嘘じゃないようだ、最初に僕がバットショットに保存していた画像は見せただろう?
 あの白と赤の怪人、もう一人のジョーカーアンデッドこそが彼の真の姿だったということさ。つまり――」

 「――もう一人のジョーカー、だと?」

 志村純一と橘朔也の関係についての自分の推論を述べようとしたフィリップの耳に、葦原のものとは違う、男の低い声が響く。
 碌な気配さえ感じさせずに現れたそれに振り返ったフィリップは反射的に構えを取るが、しかしそれは必要ないとばかりに葦原が彼を制していた。


671 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:52:05 g6Yi9xWY0

 「すまないフィリップ、紹介が遅れたな。こいつは相川始だ」

 「相川始……?待ってくれ葦原涼、彼はさっきの病院での戦いでダイヤスートのカテゴリーキングと一緒に五代雄介を操り僕たちを襲った奴だぞ、分かってるのか!?」

 「あぁ、分かっている。だがこいつも今は大ショッカーを倒そうとしている。俺はそれを信じたいんだ」

 フィリップの当然とでも言うべき怒りに、葦原はしかし真摯に返す。
 まるで心の底から彼を信用しているとでも言いたげなその言葉に、フィリップはやりきれない思いを抱えつつも取りあえずは葦原を信じてみることにした。
 そして同時、始の言葉が真であるか偽であるかについてのこれ以上の立ち話は水平線上を辿るだけかと思考を切り替えた。

 「……お互いに積もる話はありそうだが、今はそれより、橘朔也の安全を確認したい。
 彼は今病院で一人ダグバと戦っているんだ。さっきの爆発も、それに関係したものとみてまず間違いない」

 「やはりダグバが病院に……ということはやはりさっきの相川の衝動はブレイドのキングフォームとやらにあいつが変身したからのものか」

 「……どうやら本当に色々話すことがありそうだね。だが取りあえずこのトレーラーに乗ってくれ、話はそこで――」

 「――いや、どうやらその必要はないらしい」

 様々な情報の交換は移動中にすればいいだろうと結論づけてGトレーラーに乗り込もうとしたフィリップを止めたのは、始の静かな制止の言葉だった。
 どういうことだと怒りさえ滲ませながら彼の見ている先、空へと視線を追随させたフィリップは見た。
 橘が片身離さず持ち歩いていたはずのギャレンバックルを抱え飛行する、ザビーゼクターの姿を。

 何故、ザビーゼクターだけが主の最も大切なものを抱えて自分たちの前に姿を現したのか、その答えは実に容易に予想出来るもので、同時に絶対に認めたくないものだった。

 「まさか……橘朔也……そんな……」

 思わず膝から崩れ落ちたフィリップの元に、ザビーゼクターは抱えていたギャレンバックルを投げ渡すように投下する。
 あまりに機械的なその動作は、否応なしに彼に現実を突き付けるもの。
 つまりは橘朔也が、ダグバの首輪を爆発させるという一世一代の大博打を挑み、その結果として命を落としたという、非情な現実だった。

 (橘……)

 ギャレンバックルを抱え一人打ちひしがれるフィリップの後方で、始もまた橘の死という現実に思いがけずショックを受けている自分を自覚していた。
 剣崎の仲間であり、別段倒しても心痛まないとさえ思っていた彼が死んだというだけの事実が、しかし妙に心苦しい。
 友などと言えるほど親密な関係ではなかったし、世界の存亡を賭けた戦いにも大ショッカーの打倒にも強い存在感を放っていたわけではないというのに、彼がもういないと思うと、どこか寂しいような、心に穴が空いたような心地がして居心地が悪かった。

 だがそれが、人の情。
 決して好きなわけでも嫌いなわけでもない空気のような存在であっても、日常を構成するそれが突然なくなってしまったら誰だって悲しい。
 そんな、当たり前の、しかし人間誰しもに備わった弱い感情が自然に沸き起こるほどには彼は人間に近づいていて、しかしそれを自分の感情として言語化することは出来ないほどには、彼は未だ人外であった。

 そして、残されたあと一人、葦原涼もまた、仲間の死にその拳を握りしめていた。
 最悪の敵であるダグバを倒したと言えど、その道連れに仲間が死んだと言われれば、喜びよりも悲しみや怒り、やるせなさが勝る。
 それが葦原涼という人間だった。

 行き場を失った怒りをGトレーラーのトレーラー部分に八つ当たり気味にぶつけながら悔しさに歯を食いしばった葦原の元に、ザビーゼクターが飛来する。
 ホッパーゼクターに続き自分を資格者に認めたのかと一瞬困惑するも、しかし彼は数度デイパックの周囲を飛び回った挙げ句天へと昇っていった。
 その一連の動作そのものが自分の持っているパーフェクトゼクターにザビーゼクターが引き寄せられた結果なのだと彼が気付くことはなかったが、ともかく。

 様々な情報が入り乱れ、それぞれの状況について話し合わなくてはいけない状況を深く理解しながらも、ただ今はそれぞれに抱いた仲間の死に対する複雑な感情に向き合おうと。
 そうする内、無言で焦土に立つ彼らを、太陽が照らした。
 それはまるで、未だ進む道に迷える彼らの行く末を示すようでもあり、また同時に、究極の闇とさえ呼ばれた男の死を、彼らに明示するかのようでもあった。


672 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:53:13 g6Yi9xWY0


【二日目 早朝】
【F-6 焦土】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、仮面ライダーグレイブに10分変身不能、仮面ライダーエターナルに1時間40分変身不能、サイクロンドーパントに1時間55分変身不能、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ギャレンバックル+ラウズアブゾーバー+ラウズカード(ダイヤA~6、9、J、K クラブJ~K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、栗原家族の写真@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:西へ向かい、仲間達と合流する。
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除には成功できた、けど……。
5:橘朔也……。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※鳴海亜樹子と惹かれ合っているタブーメモリに変身を拒否されました。
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をGトレーラーのトレーラー部分に載せています。



【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、仮面ライダーオーガに10分変身不能、仮面ライダーカイザに15分変身不能、仮面ライダーファイズに1時間40分分変身不能、ローズオルフェノクに1時間45分変身不能
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
0:(気絶中)
1:ダグバ、次に会えば必ず……。
2:乾さん、あなたの思いは無駄にはしませんよ……。
3:首輪の解除に関してフィリップたちが明らかな遅延行為を見せた場合は容赦しない。
4:デルタギアを手に入れ王を守る三本のベルトを揃えてみるのも悪くない。
5:次にキング@仮面ライダー剣と出会った時は倒す。
【備考】
※変身制限について把握しました。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されていましたが、フィリップからの情報で誤解に気付きました。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。
※今後この場で使えない、と判断した人材であっても殺害をするかどうかは不明です。


673 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:53:52 g6Yi9xWY0



【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、橘への複雑な感情
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1、
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため行動する。必要であれば他者を殺すのに戸惑いはない。
0:大ショッカーを打倒する。が必要なら殺し合いに再度乗るのは躊躇しない。
1:取りあえずはこの面子と行動を共にしてみる。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
6:乃木は警戒するべき。
7:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)は倒す。
8:ジョーカーの男(左翔太郎)とも、戦わねばならない……か。
9:橘……。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄叫びで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※キバの世界の参加者について詳細な情報を得ました。
※ジョーカーの男、左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。
※取りあえずは仮面ライダーが大ショッカーを打倒できる可能性に賭けてみるつもりです。が自分の世界の保守が最優先事項なのは変わりません。
※乃木が自分を迷いなくジョーカーであると見抜いたことに対し疑問を持っています。



【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、亜樹子の死への悲しみ、仲間を得た喜び、響鬼の世界への罪悪感
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
1:今はこの面子と行動を共にする。
2:人を護る。
3:門矢、相川を信じる。
4:第零号から絶対にブレイバックルを取り返す。
5:良太郎達と再会したら、本当に殺し合いに乗っているのか問う。
6:大ショッカーはやはり信用できない。だが首領は神で、アンノウンとも繋がっている……?
7:乃木……。
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。
※支給品のラジカセ@現実とジミー中田のCD@仮面ライダーWはタブーの攻撃の余波で破壊されました。
※ホッパーゼクター(キックホッパー)に認められました。
※奪われたブレイバックルがダグバの手にあったこと、そのせいで何人もの参加者が傷つき、殺められたことを知りました。
※木野薫の遺体からアギトの力を受け継ぎ、エクシードギルスに覚醒しました。
※始がヒビキを殺したのでは、と疑ってもいますが、ジョーカーアンデッドによる殺害だと信じています。
※ザビーゼクターは、パーフェクトゼクターの所有者に関係なく力を貸すつもりのようです。


674 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 01:57:39 g6Yi9xWY0


 ◆


 ――読者諸君は、不思議に思わなかっただろうか。
 なぜ大道克己その人に兄弟とさえ称されたフィリップはエターナルの力を出し切れなかったというのに、ダグバはその力を存分に振るえたのだろう、と。
 勿論ただの紛れ、克己の意見など関係なくエターナルにより適合したのがダグバであった、という見方も出来なくはない。

 だが、こうは考えられないだろうか?
 大道克己との間に『科学によって生まれた怪物』という共通点を持つフィリップよりも、ダグバと克己との間の方がより深い共通点が存在していた、と。
 それがなんなのか、という結論の前に、一つヒントを提示しておこう。

 それは、ダグバが何故あれほどまでにギャレンのキングフォームに固執したのかという問いだ。
 勿論、その答えは既に明示されている。
 ダグバが以前仮面ライダーブレイドキングフォームに変身した際、凄まじき戦士にまで至ったクウガを前に一歩も退かず、どころか変身制限さえなければ或いは勝利も有り得たかもしれないというその実力に大いに満足したからである。

 そしてここで重要なのは、何故ダグバが変身したブレイドがクウガアルティメットフォームを前に互角に戦えたのか、という点である。
 無論、その理由も既に明確にされている。ブレイドキングフォームが持つアンデッドの能力をノーラウズで使用出来るという反則染みた能力が両者の間に存在する格差を無に帰したのだ。
 そして、続く二度目のブレイドキングフォームへの変身でもダグバは幾度となくノーラウズの力を使用、その能力でガドルを打ち破ったというカブトハイパーフォームを難なく下し、その力を最上級に楽しめるものとして理解していった。

 これが、ブレイドとギャレンのキングフォームの差異を理解することなく彼がギャレンのキングフォームに多大な期待を寄せていた理由である。
 ……何?話が見えない?では話の核心に迫る問いを投げることにしよう。

 ――13体のアンデッドと融合を果たしたキングフォームに何度も変身を果たした剣崎一真は、最終的にどうなった?

 ここまで言えば、諸君には何がダグバの身に起こったのか、もう分かるだろう。
 つまり、『ダグバもまた、グロンギの身でありながら永遠を生きる不死者、アンデッドへとその身を変貌させていた』のだ。
 そう、大道克己とン・ダグバ・ゼバとは、どちらも永遠にその生を終わらせることのない“生ける死者”同士であったのである。
 最も、ダグバのそれはエターナルをその身に纏ったときには決定的ではなかったのだが。

 どういうことだ、と疑問に思う者もいるだろう。
 先に述べた二度のキングフォームへの変身によるアンデッドとの融合は確かに急速なものではあったが、その時はまだ彼はアンデッドではなかったではないか、と。
 確かに、その指摘は正しい。
 ン・ダグバ・ゼバが幾ら剣崎一真のそれを大きく上回るスピードでジョーカーへの変貌を受け入れていたとは言え、先の戦いの最中、どころか病院での一戦が終わるその瞬間まで、彼の身体はただのグロンギに過ぎなかった。


675 : 飛び込んでく嵐の中 ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 02:01:57 g6Yi9xWY0

 もしもその身体が真にアンデッドに変貌した理由をより述べるとするなら、ギャレンがカテゴリークイーンの代替として用いたアルビノジョーカーのカードによる影響が一つ、そして生まれながらのジョーカーである相川始の接近が一つ。
 しかしそれらも、ダグバの身を変貌させるだけの王手にはなり得なかった。
 そう、彼がジョーカーへと変貌した理由、その最後の一手とは、ザビーゼクターがフィリップの元へ運んだラウズカードの中で唯一、この場を離れなかったまさにその一枚。
 志村純一の封印されたジョーカーによる働きかけによるものだった。

 元々、上条睦月がスパイダーアンデッドに魅入られたときのように、アンデッドの中には封印されてもなお強い意志を持ちカードの外に影響を及ぼすタイプのものが存在する。
 特に上級アンデッドである嶋登や城光などはカードに封印されてもなお睦月に声を届かせることが可能だったのだから、それ以上に強力なアンデッドであるジョーカーが封印されてもなお強い悪意を持ち続けたならば、それが及ぼす影響は計り知れないとしても、何の疑問もないだろう。
 橘に一旦は力を貸したジョーカーは、しかしダグバの首輪が爆発するその直前彼の元へと飛来しその身に燻るアンデッド化に王手をかけた。

 無論首輪の爆発はフィリップや橘が予想したとおりセッティングアルティメットといえどダグバを確実に葬るほどの威力を誇るものだったが、しかし彼の首輪にはアンデッドを強制的に封印する機能は含まれていなかった。
 であれば、不死者となったダグバが未だその身を消滅させていなかったとして、何の問題もない、ということになるわけだ。
 長々と話してきたが、言いたいことはつまり二つ。

 エターナルメモリとダグバが惹かれ合ったのは死者になりつつある彼に永遠を感じたこと、そして……未だ、ン・ダグバ・ゼバが翳す究極の闇は終わったわけではないと言うことだ。

 とはいえ、流石の不死者と言えど、アンデッドもまた無敵ではない。
 ダグバの治癒能力を以てして、その身体が封印可能状態を脱し自律的に行動を始められるようになるまで、多大な時間がかかることだろう。
 故に今は、享受しよう。この凄惨極まりない地獄に降り注いだ、闇を照らす太陽の光を。

【二日目 早朝】
【E-5 焦土】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】ジョーカーアンデッド化、封印可能状態、昏睡中
【装備】なし
【道具】ラウズカード(アルビノジョーカー)@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:(昏睡中)
【備考】
※アンデッド(ジョーカー)化しました。
※首輪の爆発により通常のダグバであれば死亡しているほどのダメージを負っていますがアンデッド化によって死を免れている状況です。なお現在は封印可能なようですが長時間放置すれば回復します。




 ダグバが生きている。
 そう書けば、或いは諸君は此度の戦いを無意味なものと捕らえてしまうかもしれない。
 だが、この激闘の果てのこの結末を、敢えて、敢えてここにこう記そう。
 最も明白な判断基準である首輪の消失によるダグバという最強の生存確認の終了と、”グロンギの王”であった彼に対する、『仮面ライダー』の一旦の勝利を称えて。

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ 死亡】
【橘朔也@仮面ライダー剣 死亡】
【残り人数 16人】



【全体備考】
ザビーブレス@仮面ライダーカブト、支給品一式×4、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼は破壊されました。
ライダーブレス(コーカサス)+コーカサスゼクター@仮面ライダーカブトとロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーWがどうなったかは後続の書き手さんにお任せします。


676 : ◆.ji0E9MT9g :2018/10/04(木) 02:06:32 g6Yi9xWY0
以上で投下終了です。
計2時間もの長時間での投下となりましたが、もしお付き合いしていただいた皆様がいましたらこの場にてお礼を申し上げさせていただきます。
夜分遅くまでありがとうございました。

今回の内容は、半ばオリジナル形態であったりフラグこそあれど突然の変化であったり、指摘点も多いかと思います。
また、書いて直してを繰り返す中で自分の中でも必要な情報の何を書いていて何を書いていないのか分からなくなってしまったので、「どうしてこれがこうなるのか分からない」ということがありましたらお気軽にご質問くださいませ。
wiki収録の際には加筆、ないしは分かりやすくなるように修正しようと思いますので、是非ともご協力お願いいたします。


677 : ◆JOKER/0r3g :2018/10/04(木) 02:09:27 g6Yi9xWY0
あ、それと、今回のSSの内容に合わせるわけではないですがここいらで心機一転トリップを変えてみようと思います。
名前は変われど、これからも変わらぬ熱意を持ってロワに挑んでいきたいと思う次第です。
では、毎度のお願いではありますがご指摘ご感想などありましたら励みになりますので是非ともよろしくお願いします。


678 : 名無しさん :2018/10/04(木) 02:13:49 SWpfOBso0
投下乙でした!
リアタイで投下を追う緊張感が最高潮で今もドキドキが止まりません……
勿論作品そのもののクオリティも素晴らしい!
ついにキングフォームに至った橘さんの死闘の熱さ、そしてマスク割れの嫌なフラグ……その果ての結末は案の定生きていたダグバという。
なんなの?エボルトなのお前? と思わず口に出してしまいました。
完全な打倒こそ成し得なかったものの、長時間封じることなら成功した橘さん、ありがとう!

さりげなく逝った仮面ライダーザビーにも合掌


679 : 名無しさん :2018/10/04(木) 06:31:25 0R/1EvNs0
投下乙でした!
橘さんは再びダグバとの戦いに赴くことになり、村上社長やフィリップと力を合わせて死力を尽くして戦って、いよいよキングフォームになったと思ったら……まさかのダグバジョーカー化!
橘さんは最後まで格好良くて、キングフォームとなってダグバと見事に戦い抜いた時はいよいよ勝利が訪れて、ダグバも倒された。でも、ジョーカーが橘さんだけじゃなく、ダグバにまで力を貸してしまった結果が切ないです。
彼の死によって剣の世界はいよいよ始だけになり、龍騎と電王に続いてリーチが増えてくる! 葦原さんと始がチームに加わってくれたとはいえ、まだまだ一悶着起こりそうで不安ですね……

改めて、橘さんよ永遠に……


680 : 名無しさん :2018/10/06(土) 22:16:18 tbDz2l220
ダディャーナザァーンガシヌナンテ……、ウゾダドンドコドーン!!
まあオンドゥル語はここまでにして、投下乙です!
今回いくつかの戦いが書かれましたが、とうとうキングフォームになって死闘を演じた橘さんVSダグバ、特に読み応えがありました!
これまで大暴れしていたダグバを、ほぼ死亡確定まで持って行けた橘さんは流石と言わざるを得ません。
しかしそれでもジョーカーになってまでも生き延びてしまうダグバには恐ろしさを感じます。
ダグバのジョーカー化もとんでもない事態ですが、首輪を解除出来た事と葦原に一方的に殴られた事で村上社長が目覚めれば確実に一悶着あるのが目に見えてますが…、フィリップは強く生きろ。
改めて、4部に渡る力作、投下お疲れ様でした!


681 : ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 02:59:54 FfnvP3j.0
皆様、熱意の籠もったご感想ありがとうございます。
本当に毎度読ませていただく度に一人喜んでおります。

さて、今回はしたらば避難所の方に、今回の予約分の仮投下を行いましたことをご報告しに来ました。
多くの不安な点がありますので、よろしければそちらの方にご意見などございましたらお願いいたします。


682 : ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:19:12 FfnvP3j.0
仮投下の内容を、これより本投下いたします。


683 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:20:00 FfnvP3j.0

 G-1エリア、廃工場内。
 始まってから既に18時間ほどが経過しようというこの殺し合いの中で、最も早く立ち入りを禁止されたはずの場所。
 参加者の誰も存在しないその場所で、今二人の異形がぶつかり合っていた。

 いや、彼らはどちらも、この殺し合いにおける参加者の定義には当てはまらなかったか。
 彼らのうち片方、甲蟹の意匠を身に刻んだ紫の異形は既に参加者としては死亡し、もう片方、蟋蟀を思わせる造形をした緑の異形はもとより主催の手のものなのだから。
 では、世界の存亡をかけたはずの殺し合いに、決して縛られることはないはずの彼らが、なぜ戦っているのか。

 その答えは至極単純。
 それは、そんな大義名分など関係ないほどに彼らは生まれながらの敵対者同士であり、また例えどんな状況であってもその顔を突き合わせたからには戦わずにはいられない、細胞レベルで認識された宿敵同士だったからだ。

 「ガアッ!」

 理性を一切感じさせない獣の様な雄叫びを上げて、甲蟹の怪人、カッシスワームが剣そのものである左腕を敵に向けて振り下ろす。

 「フン」

 だが、紛れもなく達人の業で放たれたその一撃を、緑の異形、グリラスワームはその鋼鉄よりも固い甲殻で受け止めた。
 彼らの戦いが始まってから、もうどれだけの時間が経っただろう。
 互いに首輪による制限さえ存在しない今となっては、ただ二人しか存在しないこの廃工場内に流れる時間の速さなど両者にはもう関係のないものだ。

 そして、彼らの時間感覚を狂わせる理由は、もう一つ存在する。
 それは――。

 「クロックアップッ!」

 カッシスの剣を受け止めそのまま反撃を企てたグリラスの拳が放たれるより早く、カッシスは一瞬で間合いを離し回避する。
 それに舌打ちを鳴らしながらほんの一瞬遅れて、対峙するグリラスもクロックアップを行使して、カッシスを視界に収め、しかしそこでそれ以上の戦闘を行うこともなく両者共に通常の時間軸へと舞い戻った。
 そうこれこそが、彼らが実時間でどれだけの戦闘を経ているのかが分からなくなった最大の理由。

 この長い戦いの中で、どちらかが相手への有効打を放ちそうになると、攻撃を受けそうになった側は一瞬だけクロックアップを利用しそれを回避する。
 無論相手もクロックアップを制限なしに使用できるのだからそのまま反撃に転じることは出来ないが、しかし相手が高速空間に移行するまでのその一瞬だけで彼らには十分。
 相手の反撃を潰し間合いから逃れ、必要以上のクロックアップ使用による体力消耗を防ぐためにそこで能力の行使を終了する。

 それがこの戦いで幾度となく繰り広げられた鬼気迫る一瞬の命のやり取りの明示化であり、またそれだけの時間を費やしてもなお互いに決め手を放てない理由であった。

 (なるほどな。ネイティブ最強の力というのもあながち驕りではない、か)

 そしてそんな現状を認知しながら、しかし焦りを見せることはなくカッシスは思考する。
 対峙するグリラスの実力は、なるほど確かに今までに自分が見てきたネイティブワームの中でも最上位のもの。
 というより、ワームに比べどちらかといえば武力よりも技術力に優れる印象であったネイティブの中で考えれば、なるほどライダーシステムさえ必要とせずこの強さとは頭一つ抜けていると見てまず間違いない。

 少なくとも現状、自分とグリラスとは互角なようで、その実敵の元来よりの強固さに自分が攻めあぐねているという事実を、カッシスは認めざるを得なかった。

 (せめてフリーズがあれば……な)

 故に、求めてしまう。
 戦況をいやおうなしに自分優位に進められる、あの最強の能力を。
 とはいえフリーズもまた考えなしに使って問答無用に勝利を掴めるような都合のいい能力ではないことも、乃木は理解している。

 例えグリラスを相手にそれが使用できたとしても、あの硬い甲殻を時間内に削り切れなければ自分が刈り取られるだろうとも思えた分だけ、彼は重なる敗北に学ぶことが出来ていたのかもしれない。


684 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:20:24 FfnvP3j.0
 
 (いや、ないものねだりはするだけ無駄、か)

 故に、そこで思考を切り替える。
 どうせ今の自分にはフリーズなど使えないのだ。
 であればこんな思考は、この強敵を前には隙になるだけ。

 無理矢理に脳から無駄な思考を切り離し、カッシスは構える。
 ワーム最高峰の脳で理屈を考える首領のものから、ただ敵を打ち倒すことだけを考える獣のものへ思考を切り替えたのを示すように、彼は低く唸り喉を鳴らして。
 次の瞬間にはもう、彼はグリラスに向け飛び掛かっていた。

 「ジェアァッ!」

 低い姿勢で飛び込んだカッシスは、そのままグリラスに向け腕ごと剣を振るった。
 だが最早自明の理として、その剣は敵の強固な甲殻に弾かれ火花を散らしただけで、さしたダメージには繋がらない。
 とはいえそれは既に把握済み。大した困惑を示すこともなく、彼は再度その腕を振り下ろした。

 「ライダースラッシュ!」

 先ほどの再現かのように思われたその剣は、しかし此度はその刀身を紫に染め上げていた。
 タキオン粒子迸るその一撃は、仮面ライダーサソードの必殺技であるライダースラッシュと同等の威力を誇るもの。
 自身の剣を前にここまでの防御力を示す敵にはこの一撃も決定打にはなりえないだろうが、しかしグリラスの顔に張り付いた仏頂面を引き剥がすには十分なはずだった。

 「グ……ッ!」

 果たしてカッシスのライダースラッシュは、問題なくグリラスの身を切り裂いた。
 両断することは叶わないながらも、その分厚い甲殻に剣先が減り込んで、人間の証拠である赤から緑に変貌した醜い血を伝わせたのだ。
 これには歴戦のカッシスも確かな手応えを覚え……、しかし瞬間その顔から笑みは消え失せた。

 グリラスの甲殻に減り込んだ自身の腕が、抜けない。
 まるでその身体全体でがっちりと剣そのものを押さえつけているようなこの状況に、さしもの彼と言えど困惑を示さずにはいられなかった。

 「……ようやく、捕まえたぞ」

 その場から逃れようと四苦八苦するカッシスを前に、グリラスは珍しく喜色を露わにして気味の悪い笑みを浮かべた。
 まるでこの瞬間を待ち望んでいたとさえ言いたげなそれに、カッシスは本能的な逃走への欲求を感じ……しかし終ぞ彼の左腕がグリラスの元を離れることはなかった。

 「フン!」

 グリラスが気合を込めた声で、一つ叫んだ。
 何が起こるにせよそれにどうにか対応しようとカッシスは身悶えするが、しかしもう遅い。
 彼が何らかの対処行動を起こすより早く、グリラスの肩に生えた二本の鉤状の触手が、その腹に深く突き刺さっていたからだ。

 「グオアアアァァァ!!!!」

 唐突に訪れた最上級のダメージに、カッシスが叫ぶ。
 腕とは異なる、中距離への攻撃に特化したグリラスの持つ触手が自身の腹部内を蹂躙し掻きまわした痛みは、ワームの王を以てしてなお絶叫を禁じ得ないほどの痛みを齎したのである。
 だが、そのまま勝負を決めようとグリラスが振り上げた拳をただ甘受するほど、カッシスは痛みに我を忘れてはいなかった。

 「……喰らえッ!」

 言葉と同時彼が翳した右の掌から吐き出されるは、暴力的なまでの威力を秘めた闇の塊。
 かの昇り行く究極より直接吸収した今のカッシスが持ちうる最強の必殺技は、この至近距離での照射であることも含めてグリラスに初めてダメージらしいダメージを齎した。
 予想だにしなかったその威力に動きを止めたグリラスは、しかしカッシスの腹から触手を引き抜く愚は犯さない。

 そして両者共に、そこで理解する。
 腹に触手が深々と刺さったままのカッシスが折れるのが先か、高密度の闇を全身に浴び続けるグリラスが折れるのが先か。
 これは言わば互いのプライドをかけた一種のチキンレースなのだと。


685 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:20:40 FfnvP3j.0
 
 「ガアッ!」

 微塵も知性を感じさせない雄叫びと共に、グリラスがその身をよじる。
 カッシスは一瞬敵がついにダメージに耐えられなくなったのかと疑うが、違う。
 身体の角度を操ることでその肩についている触手をより鋭角に、より深く自分に突き刺そうとしているのだ。

 「グオォ……!」

 相当な強度を誇るはずの甲殻でも貫通するほどに鋭いそれを、より柔らかい体内が受け止められるはずもない。
 ズブズブと体の奥深くに沈んでいく触手に強烈な異物感と吐き気を催すほどの熱気を覚えつつ、しかしカッシスはその手から放つ暗黒掌波動をやめはしない。
 ここで自分が折れることは、この場での自分の敗北を意味するだけではなく、ネイティブなどという圧倒的弱者に誇り高きワームが敗北することまで意味するのだ。

 腹部からの失血故か遠のきゆく意識を何とか繋ぎ止めて、全てのワームの意地をも乗せてカッシスは大きく叫んだ。

 「――ライダー……キック!」

 その右手から暗黒掌波動を放ちながら、カッシスは右足にタキオン粒子を集わせる。
 右足に集積したエネルギーが臨界点を迎えると同時、気合いと共に彼は思い切り回し蹴りを放った。
 次の瞬間、ドン、という生体同士がぶつかり合う音とは到底思えないような重低音を響かせて、彼の足はグリラスの身体を揺らす。

 「グアァ……!」

 だが瞬間、その身体を迸った痛みに対し苦悶の声を漏らしたのは、カッシスだった。
 どういうことだと困惑を露わにしたカッシスを前に、必殺技の直撃をものともせずグリラスは未だ健在。
 どころか、ようやく事が終わったかとばかりに得意げに鼻を鳴らして。

 「フン、戦い方を知らない虫けらはこれだから困るな……」

 捨て台詞のように吐き捨てたグリラスに対し皮肉を返すより早く、一刻も早い状況判断のために自身の右足を見やったカッシス。
 らしくない焦燥を含んだ彼の瞳が、次の瞬間映したものは。
 グリラスの左手に、植え付けられたかのように不自然な形状で存在する鋭利な鉤爪が、ライダーキックの勢いをも利用して自身の足を貫通している光景だった。

 「何が起きたのか分からない……という顔をしているな?
 愚か者が。私が予め構えていたこの腕に、最高の角度で蹴り込んできたのはお前の方だろう?最も、お前からは自分の発生させた闇で見えなかっただろうがな」

 グリラスが薄気味の悪い笑みを携えながら皮肉を吐く。
 奴の言うことを噛み砕くと、つまりはこういうことになる。
 『グリラスはこの硬直状態に陥った際に自分がライダーキックを放つことを予期していて、それに対するカウンターとして腕をそこに置いただけ』なのだ。

 そうとも知らず突っ込んでしまったのは、彼の言うとおり自身が発生させた闇に視界を阻害された為か、それとも腹部からの出血故に勝負を急いでしまったか。
 ともかく、カッシスの勿体ぶったような長々とした勝利宣言などは、既にカッシスの耳には入っていなかった。
 相手の口にするしょうもない言葉にいちいち反論をしていられるほど、今の自分に余裕がないことを、分かっていたから。

 だがそうして必死に捻出した思考の時間をも、グリラスは長く与えない。

 「フン、もう耳障りな言葉を発する余裕もないようだな。それなら――私の勝ちだぁぁぁぁ!!!」

 激情を露わに叫んだグリラスは、カッシスの右足から鉤爪を、腹から触手をそれぞれ勢いよく引き抜く。
 それに一層出血を深めながらクロックアップを駆使して敵の射程範囲内から離れようとして、しかしカッシスは動けない。
 未だ自身の剣が、左腕ごとグリラスの甲殻にめり込んで未だ離れないのである。
 
 「オアァァッ!!!」

 だが互いを不本意ながら繋いでいたその半強制的な拘束は、次の瞬間に終わりを告げた。
 相当な硬度を誇るはずのカッシスの左腕は、グリラスが叫びと共に振り下ろした鉤爪に切り裂かれ遂にその身体から別たれてしまったのだから。


686 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:21:01 FfnvP3j.0

 「グォ、オオオオオォォォォ!!!」

 「ハハハ、ハハハハハハ!いい気味だ、このゴミ虫が!ハハハハハハ――!!!」

 絶叫と共に、肘から先を失った左腕を押さえながら、カッシスは呻く。
 そんな無様な彼の姿を前に、自分がワームを直接に追い詰めている、という状況に愉悦を抑えきれない様子で笑うグリラスは、今一度ネイティブとなった自分の身体をこれ以上ない誇りに思った。
 人間であった頃は下らない武器に頼らなければ抵抗もままならなかったワーム、その中でも最高峰の実力者を前に、自分は圧倒的優位に立っている。

 だが、それも当然と言えば当然か。
 マスクドライダーシステムの鎧に用いられるヒヒイロノカネをさえ容易に打ち砕けるオオヒヒイロノガネ。
 それをふんだんに用いた自身の鉤爪を前に、戦い方も知らないような薄汚い虫けらが単独で敵うわけもない。

 元々誰よりも力への固執が強かった彼にとって、何らの道具さえ用いない、己が身体が敵を追い詰めているという実感は、これ以上なく幸福感を刺激されるものだった。
 だが瞬間、その笑い声は止む。
 これ以上化け物が苦しむだけの光景を見ていても目に毒なだけだとでも言うように溜息一つ吐き出して、グリラスはそのままいつもの、鉄仮面のように代わり映えしない無表情をその顔に張り付けた。

 「ガ、ア……」

 対するカッシスは、徐々にその距離を狭めるグリラスを前に、ただ弱弱しく嗚咽を漏らすのみ。
 得意の頭脳さえ右足と腹、そして失われた左腕の肘から激流のように押し寄せる痛みの前にろくに働きはしない。
 今度こそ、本当に万事休すなのか。ワームは、単身ではネイティブに劣る有象無象だということを、認めなければならないというのか。

 それを認めるあまりの悔しさとしかし一人では到底覆しえない結論にカッシスはただ獣のように咆哮したい衝動を覚え――。
 しかし瞬間目の前に迫っていたグリラスが突然に闇に飲み込まれたことで、それをやめた。

 「なッ――?」

 思わず、驚愕が漏れる。
 何が起きたのか理解できないままにただ茫然とその闇の出所を振り返れば、その先にあったのは――あぁ認めたくはないが待ち望んでいた――最高の救援であった。

 「おいおいどうした?随分と良いようにやられたようだな?」

 皮肉を吐いたその紫の影は、その頭部から生える角の有無を除けばまさしく自分自身。
 そう、この第三の命によって与えられた、もう一人の自分その人であった。

 「こんなものが……効くか……!」

 だがそんな援軍を素直に喜ぶよりも早く、彼はもう一人の自分が放った暗黒掌波動の中で少しずつ、しかし着実に自分に向けて突き進んでいるグリラスの声を聴いた。
 こうして見る分にはなるほどこの男もまたライジングアルティメットにも相応しかねない防御力を誇っているのかもしれないが、しかしそれを自慢できるのもこれまでだ。

 「フン!」

 残された力を振り絞って、目前にまで迫ったグリラスに向けて自身も暗黒掌波動を放射する。

 「――グアアァァァッ!」

 さしものグリラスといえどこの会場内有数の威力を誇る必殺技を二発も受けてしまえばただではすまない。
 暗黒掌波動によるインパクトを前にその巨体は火花を散らしながら宙を舞い、見事な放物線を描いて廃工場内に積み上げられた木箱の上に落下した。
 だがそれでそのまま敗北に至るほど三島は軟ではない。

 自身の身体の上に撒き散らされた木片を勢いよく弾き飛ばしながら、一瞬で飛び上がる。

 「ガアァッ!」

 だが、すぐさまに立ち上がり戦いを続けようとした彼を待っていたのは、ただ廃工場内に木霊する自身の咆哮のみだった。
 そして、察する。つまり奴は、自分を前に逃げたのだと。


687 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:21:17 FfnvP3j.0

 「……所詮は、数で押すしか知らない虫けら、か」

 状況を理解し、突然冷めたように落ち着きを取り戻した彼は、そのままネイティブとしての身体から三島正人の姿へと擬態する。
 そうしてゆっくりと自身の胸ポケットに収めた眼鏡をかけなおす頃には、もう彼から先ほどまでの闘争本能に支配されたような獣染みた雰囲気は消え失せていた。
 どころかまるでもう、乃木との戦いになど興味はないとばかりに踵を返して、そこでふと思う。

 まさかとは思うが、あの乃木が、この先に待つこのエリアの秘密を手に入れようと未だ近くにいる可能性があるのではないか、と。

 「……一応、確認しておくか」

 まずそんなことはあり得ないと思うが、万が一ということもあり得る。
 ゆっくりと、しかし警戒は怠らず奇襲にたけるワームであれど逃げきれないほどの注意を払いながらそのまま少しの間歩き続けて、彼は目当てのものの前へと辿り着いた。
 果たして自分がこのエリアを任された最大の理由である“それ”は、全くの無事であった。

 乃木ももうこのエリアにいないのだろうことは確認したし、もう問題はないはずだ。
 そうしてようやく人並みの安堵を抱いた彼の、目の先にあるそれ。
 大ショッカーが直々に幹部を設置してまで隠そうとしたその“鍵のかかった車”は、この18時間未だ誰に触れられることもなくそこに在り続けていた。


【二日目 早朝】
【G-1 廃工場】

【三島正人@仮面ライダーカブト】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:このG-1エリアをなんとしても死守する。
【備考】
※大ショッカーより送り込まれた刺客の一人です。
キング@仮面ライダー剣とは違い明確にこの場所を守る為だけに派遣されました。余程のことがない限りこの場所を動くつもりはありません。

【備考】
※G-1エリアにある三島の守っている秘密とは「車@???」の存在でした。ちなみにこの車には鍵が掛かっており、運転席は勿論荷台にも同様の鍵で開くと見られます。
※なぜこの車を大ショッカーが秘匿したがったのかは秘密です。秘匿したかったのは車そのものなのか、それとも荷台の中の荷物なのか、或いは車そのものや中身には大した理由はなく参加者ではない乃木が第一発見者となることを避けたかったのかもしれませんが現状は不明です。
※荷台に何が入っているのか等は後続の書き手さんにお任せします。



 ◆


 「……どうやら、廃工場の外にまでは追ってこないようだな」

 言外にこれ以上俺の肩を煩わせるなと示したもう一人の自分の声に従って、左腕を失った乃木はその場に力なく座り込んだ。
 怪我人相手に随分なことをしてくれるものだと人間諸君なら思うかもしれないが、ワームである乃木にとってはこのくらいのドライな関係のほうがやりやすい。
 ましてや自分自身が相手なのだから、気遣いや無駄なやり取りも不要なのはこの傷ついた体には随分とありがたいことであった。

 そして勿論、ここまでの重傷を負い止血処理を残った右腕で懸命に行っているからと言って時間を浪費するほど、“俺”が愚かでないことも、理解している。


688 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:21:36 FfnvP3j.0

 「あの男、報告に聞いた三島正人と見たが、なぜ奴がネイティブになっている?一体何があった」

 ほら来たぞ、と内心で思う。
 幾ら姿形記憶能力全て同じ“自分”が傷ついたからといって、我々ワームに慈悲の心はない。
 貪欲に情報を欲する相方の問いに対し、しかし乃木は冷静に返す。

 「さぁな。だが奴はどうやら大ショッカーの幹部になったらしい。
 我々の考えた大ショッカーが隠したい秘密、とやらはあそこにあるとみてほぼ間違いないようだ」

 「そうか」

 短い返答。
 だがその表情からは、僅かに困惑したようなものが見て取れる。
 とはいえ、自分をこうして容易く拉致してきた相手の秘密が存外簡単に見つかったとなれば警戒しても当然か。

 それにA-4エリアに向かうという当初の目的も意味のないものになったのだから、これから先の身の振り方を考えてしかるべきだった。
 と、そこまで考えて、左腕を口と右腕を器用に使って一際強く縛り付けた後、乃木はようやく笑みを浮かべた。

 「さて、俺は聞かれたことに答えたぞ。次はお前の番だ」

 「……何のことだ」

 「すっとぼけなくていい。“俺”が聞きたいことは分かっているだろう?」

 その言葉を受けて、もう一人の乃木は極めて罰が悪そうに眼を背けた。
 改めて彼をよく見れば、その身に刻まれた傷は――自分に比べれば天地の差だが――それなりに深い。
 バイクさえ自分から奪い取ったというのにおめおめと自分の元へトンボ返りしたというこの状況は、幾ら危機一髪の局面を救った救世主面していたところで無視できないところである。

 そしてそれを一番に理解しているのはもう一人の乃木も同じ。
 少しばかりの逡巡を経た後に、その重い口を開いた。

 「……間宮麗奈と会ってな。信じがたいことにワームとしての記憶を保持したままに人間の心を持ち俺を出し抜こうとしてきた」

 「あの間宮麗奈がな……珍しいこともあったものだ」

 どことなくただの世間話のように流しながら、しかし乃木は催促するように目でもう一人の自分に合図する。
 間宮麗奈如きにいいように自分がやられるとは思っていないのだろう。
 まぁ、まさしくそれは正解なのだから、この状況で隠し事を出来るはずもないのだが。

 「……彼女を処刑すべく戦いを進めていたが、あと一歩というところで門矢士に出くわした」

 その名前を聞いて、乃木はオーバーリアクション気味に右腕で眉間を押さえ首を振る。
 まさに「あーあーやっちまった」とでも言いたげに見えるその動作を前にもう一人の乃木は僅かにイラついた様子を見せ……、しかしすぐに目を逸らして続けた。

 「うまく彼を丸め込もうとしたが失敗してね。残念ながらこうして傷を負い体制を立て直すためにここに来たというわけだ」

 「なるほどな、そういうわけだったのか」

 そうして何事もないように返すが、しかし乃木も、またもう一人の乃木もとある事情に気付いている。
 それを認めるのは彼の著しく強大な尊厳を傷つけるもので……しかし今後生き残り目的を達成するためには必要なことだった。
 
 「どうやら、俺たちは最早変身制限がないことを踏まえたうえでもこの会場を単身で闊歩できるほどの実力を有していないらしいな」

 「……あぁ、そうだな」


689 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:21:55 FfnvP3j.0

 自身の発言に対する相方の一瞬の間。
 それを恐らくはそのプライドの高さ故、自分の実力がこの会場内でのランキングでは低い方から数えたほうが早いという事実を認めたくないという、そんな葛藤の表れなのだと勝手に納得して、乃木は続ける。

 「……とはいえまぁ俺のこの傷を考慮したうえでも、なお俺達二人がこうして合流できた今、大抵の敵には負けることもあるまい。
 取りあえずは少しの間傷を癒しながら間宮麗奈、門矢士らのような明確に俺たちに敵意を持っているだろう相手を避け、殺し合いに反対的な参加者との合流を目指すべきだな」

 そうして対主催集団の中でそれなりの立場を築けた後であれば、門矢士らもそう易々と自分たちと戦うわけにはいくまいと、言外にそう示して。
 今後の行動方針を纏めた乃木は、まずは打倒三島の決意と情報を持ってどうにか他参加者と合流する道を示し、もう一人の乃木に向けて自身に残された右手を伸ばす。
 肩を貸してくれという合図。自分がいなければ生きられないということさえ再認識させた今、それは当然に受理されるはずの要求だろうと。

 そう、“自分”を軽んじていた。
 思えばそれが、彼の最大の過ちだったのかもしれない。
 彼がそれに気付いたのは、自身の手を言葉もなくはねのけたもう一人の自分のあまりに冷たい表情を見たためだった。

 「――なんのつもりだ?」

 怒気を込めて、乃木は問う。
 まさか腕を失い一人で立つこともままならない自分を嘲るという、そんな下らない目的の為だけにこんな無駄な動作をすることもあるまい。
 こんな時間は無駄なだけではないかと言外に批難する乃木を前にしかし、もう一人の乃木は冷ややかに笑った。

 「いや、何、この第三の命で生まれかえった瞬間から一つ、試してみたいことがあってね」

 「なんだと?」

 今の自分と紛れもなく同じ顔をしているはずだというのに、もう一人の自分が浮かべている表情の下には底知らない悪意とそして何よりの好奇心を感じる。
 我ながら不気味だとゾッとした心地を覚えた乃木は、僅かに身動ぎをして自分の腹を庇う様に後退った。

 「疑問に思ったことはなかったか?なぜそもそも自分の能力であるはずのフリーズや特定のエネルギーを用いた必殺技の吸収を、俺たちは新しい命の度に使えなくなるのか」

 もう一人の乃木は、勿体ぶったように語りだす。
 だがその顔に張り付いた邪悪な興味は常に自分を視線から外すことはなく、目だけで逃がす気はないと示すかのようだった。
 そんな彼を僅かに恐れ再び後退った乃木を気にすることもなく、話は続く。

 「勿論、俺たちにもそれぞれの能力の原理はよく分からん。
 そんな能力を使えこなせなくなっても、無理はないのかもしれん」

 だがな、と言いながら、見せつけるように両手を大きく広げ。

 「だが、考察を重ねることは出来る。最初は以前に殺害された時の理由を潰すように進化した結果なのではないかと思った。
 時間停止を見越した時間差の必殺技に敗北したからそれを受け止められるように必殺技の吸収能力を。
 必殺技さえ用いない、しかし並のライダーのそれよりも遥かに強い打撃を放てる存在を……ライジングアルティメットを知った為に、そんな規格外に対処できるように複製を」

 ここで話している彼らが知る所以はないが、この理論には、より強くそれを裏付けられる根拠が存在する。
 それは元の世界で彼らがカッシスワーム・グラディウスとして敗北した際の事象。
 その命における直接の死因はカブトが放ったマキシマムハイパーサイクロンによる粒子分解であるものの、それをただ享受せざるを得ないようなダメージを受けたのは、三人の仮面ライダーによる同時攻撃をその身が吸収しきれなかったためだ。


690 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:22:11 FfnvP3j.0

 この世界でも元の世界でも、「必殺技の単一的な吸収では事足りない」と判断した為にその身体を二つに別ったのではないかという推論は十分に説得力を持つものだろう。
 
 「……そんなことを話して何になる?
 まさかそんな下らない、答えの出ないご高説を披露するのが目的か?」

 思わず声を怒りに震わせながら、乃木は問う。
 失血死こそないだろうとはいえ、ダメージの大きい自分にとって、こんな下らない話に付き合っている時間はない。
 だがそうして結論を急ぐ乃木の姿さえ愉快だとばかりに鼻を鳴らして、もう一人の自分はなおも話を続ける。

 「まぁまぁ、そう言うな。……とはいえそうだな、俺が考えていたのはずばりそこなんだ。
 この話は、考えても答えが出ない。そうして切り捨ててしまうのはあまりに勿体ない気がしてね」

 「はぁ?」

 今度こそ困惑を込めて、乃木はただ疑問符を浮かべた。
 まるで言っている意味が分からない。
 或いは――そう思い込みたかったのかもしれない。

 その先に待つ答えが、あまりに恐ろしいものだから。

 「間宮麗奈がワームでありながら人間として生きたいと言い切ったのを見て、俺も少しばかり答えの出ない問いに興じてみてもいいかもと思ったのさ。
 そうして考えるうち、もう一つ疑問が浮かんできた」

 「新しい疑問だと?」

 最早もう一人の自分の話す推論に付き合う以外ないらしいと観念したか、乃木はテンポよく問いを投げる。
 それに気をよくしたか、もう一人の乃木はその笑みを深め続けた。

 「あぁ、その疑問というのは……俺たちのこの形態は、この乃木怜治の最後の命を費やしたにしてはあまりに弱すぎるのではないかとね」 

 「それは……」

 もう一人の乃木が提示した疑問に、思わず言葉を詰まらせる。
 正直、思ってしまう。そんなこと言っても仕方ないではないかと。
 勿論、今までの能力そのままに二人に増えたなら、この第三の命はこれ以上なく強力なはずだった。

 しかし現実はそうではない。
 フリーズも必殺技吸収能力も失い、その果てに残されたのは先の命で吸収できた僅かな必殺技のみ。
 身体能力さえ一体一体は著しく低下し、ネイティブ最強のグリラスはともかく、あの間宮麗奈と互角などと第一の命の時では思いもよらなかったほどのパワーダウンを果たしている。

 とはいえ、それは先ほども言ったように話しても仕方のないことである。
 熱血教師染みた根性論を語りたいわけではないが、今は配られたカードで戦うしかないではないか。
 言葉を詰まらせた乃木に対し、もう一人の乃木は極めて流暢にその舌を回す。

 「だから考えてみた。
 考えても答えの出ない問いだとしても、もしもこうして二人に増えたことに意味があるとするなら、それはなんだろう、とね」

 「その様子からすると、答えは出たらしいな」

 「あぁ、勿論。とはいえ未だ確実な答えは出ていないがな」

 言ってもう一人の乃木はニヤリと不敵に笑って――しかし次の瞬間、その顔から表情は一辺に消え失せた。

 「なぁ……もしかしたら、こうして二人に増えたことは、一種の選別だと捉えることは出来ないか?」
 
 「選別だと?」


691 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:22:44 FfnvP3j.0

 思わずオウム返しに乃木は返す。
 だが何故だろう。ゆっくりとその足を自分に向けて進めだしたもう一人の自分の存在が、先ほどまでと違い威圧的に感じるのは。
 
 「そうさ。つまりはこの命の真価は、こんな出来損ないのコピーを増やすことにあるんじゃない。
 よく似た、本当に自分そっくりの存在を生み出した後で、どちらか優れている方を自然に選別することにある、そうは考えられないか?」

 「……そんなことをして、一体何の意味がある?」

 冷静にもう一人の自分と話を合わせながら、ゆっくり、ゆっくりと乃木は立ち上がることさえ出来ないままに徐々に後ろに退いていく。
 しかし、もう一人の乃木は常に自分を視界の隅に置き、自分と同じペースでこちらに向かって歩を進め続け、両者の間の距離は一向に広がらない。
 明らかに意図的なはずのこの静かな攻防を、しかし全く気づいてさえいないように振舞いながら、もう一人の乃木は一つ鼻を鳴らした。

 「さぁな。だが人間が研究した生物学によれば、傍目には全く同じように見える一卵性の双子を同じように育てたとしても、それぞれ得意不得意が異なるということもあるらしい。
 或いはその中には、双子のうち片方の不憫な奴が不得意とすること全てを得意とする、そんな器用な奴もいるかもしれない。……そうは思わないか?」

 「……だが、その器用な奴が不得意とすることを、お前の言う不憫な奴が得意としている可能性だってあるかもしれないぞ?」

 「あぁ、そうだな。もしそうなれば、そいつらは自分の生まれながらの相棒に対してこう思うに違いない。
 『こいつさえいなければ、もしかしたら自分は全部を持って生まれてきたのかもしれない。自分の才能はこいつに吸われたに違いない』ってな」

 ゴト、と音を立てて、乃木の背中に冷たい鉄の感触が伝わった。
 ――壁だ。先ほど必死こいて逃げてきた廃工場の壁。
 最早、退けるところはない。

 思わず走った戦慄を察したか、もう一人の乃木は自分に向けてもう一歩距離を狭める。

 「――まぁ、だからそう、つまり俺の試してみたいことというのはそれなんだ。
 もしも二人に増えた俺たちが再び一つになれたなら、或いはその時こそ俺たちの最後の命、それに相応しいだけの力を得られるのではないか、とね」

 冷たくそこまで言い放って、彼の身体は一瞬でおぞましい音を立て紫の異形へと変化する。
 その姿を前に自分も同じように変態しようとして、しかし出来ない。
 まるでこの身体が、自分の役目を終えたのを察しているかのように。

 「最後になるが……じゃあな“俺”。文句は言うまい?
 『弱い奴は餌になる』それが俺たちの掟だと、貴様も知っての通りだろうからな」

 「待ッ――!」

 乃木が放った必死の抗議は、しかしもう聞き届けられることもなかった。
 彼がそれを言い終えるより早く、その身体はカッシスワームの腕に抱かれ――かつてガタックに苦戦したワームを、自らの糧にした時のように――粒子化し吸収されてしまったのだから。

 「オオオ……グオォォォォォォッッッ!!!」

 そしてもう一人の自分を吸収し、唯一無二の存在となったカッシスは、吠える。
 まるで、自分の中に沸き起こる力の奔流に突き動かされるように。
 同時、彼の身体はメキメキと音を立て変貌していく。

 その何も生えていなかった頭部からは、立派な一本角が天を衝かんと高く伸び、その甲殻もまた全体的に厚みを増し肩からはそれぞれ長い突起が生じる。
 そして同時に、今まで剣と盾とが生えていた両手もまた、止めどなく変化していく。
 レイピアに、剣に盾に、或いは人間の様な五本指に。

 ――数舜の後、今自分に起こった変貌を全て理解したカッシスは、理解する。
 今の自分には、これまでの形態の能力全てが備わっている。
 時間停止も、必殺技の吸収も。

 そして同時、この形態そのものが持つ戦闘力も、これまでの比ではない。
 恐らくは今この姿であれば、ライジングアルティメットとて単身で相手どれるに違いない。
 故に彼は、確信する。


692 : Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:24:36 FfnvP3j.0

 この姿こそが、自身最後の命に相応しい究極の姿だと。

 そう今こうして誕生したこの新たな姿は当然、ディミディウス(半分)でも、グラディウス(剣)でも、クリペウス(盾)でもない。
 今までのカッシスワーム全ての能力を踏まえ、そして誕生した最強の戦士。
 なればこの形態を、敢えて今こう名付けよう。

 ――カッシスワーム・ディアボリウス(魔王)、と。

 そしてこの新たなカッシスワームの誕生に、誰よりも強く深く乃木怜治は歓喜する。

 「ククク、この力さえあれば、もう間宮麗奈も門矢士も相手ではない……!」

 そして彼が口にしたのは、先ほど自分に苦汁を飲ませた二人の忌々しい参加者の顔。
 今すぐにでも彼らを引き裂くために行動するべきか考えて、同時、脳裏に過ぎるは三島正人……グリラスワームとの生々しい戦いの記憶。

 その見たことのないはずのビジョンに、しかし乃木が動じることはない。
 何ということはない。ただもう一人の自分が吸収前に感じた全てが自分の中に還元されただけのこと。
 それこそ、ワームが人間に擬態したときに、その人間が持つ記憶や知識を全て手に入れられるのと同じだ。

 そんな当然の摂理がこうしたイレギュラーな事態でも発生したとして、今更乃木が動じるわけもない。
 そんな些細な事象の是非よりも今考えなくてはいけないのは、自分がこのエリアの外と廃工場内、どちらに向かうべきかということだ。
 間宮麗奈や門矢士を始めとして多くの参加者がはびこる会場に足を伸ばすか、それともこの新たな力を試すついでに三島正人との真に優れた種はどちらなのか雌雄を決するか。

 自分は一体どうするべきかと逡巡思考して、そこで彼は第三回放送までもう残り10分ほどしかないことに気付く。
 ……まぁいい。どちらにせよこの身体の傷も、もう一人の自分を吸収し治癒力をも上げたとはいえ完全に無視できるものではないのだ。

 傷を癒やしながら放送を聞き、そこでもたらされた情報を整理した後にこの決断を下せば良い。
 そう、焦りは禁物だ。今はただこの新たな力がこの身体に馴染むまで、少しばかり休息を取るべきだろう。
 しかし、だからといってその瞳から戦意が陰ることはなく――どころかそこに写る復讐の炎は、より勢いを増して。

 「待っていろ、愚かな仮面ライダーとその協力者共、そして大ショッカーよ。
 貴様らの命が尽きるのも、もう時間の問題だ――!」

 力強く宣戦布告を果たして、乃木怜治は……ワームを統べる魔王は一人、廃工場を背に歩き出した。
 

【二日目 早朝】
【G-1 平原】


【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)
【装備】なし
【道具】ブラックファング@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:取りあえず放送までこの近辺で傷を癒やす。
1:放送を聞いた後、間宮麗奈を探しに会場に出るか、三島正人にリベンジを挑むか決める。
2:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
3:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
4:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
5:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
6:乾は使い捨ての駒。
【備考】
※もう一人の自分を吸収したため、カッシスワーム・ディアボリウスになりました。
※これにより戦闘能力が向上しただけでなくフリーズ、必殺技の吸収能力を取り戻し、両手を今までの形態のどれでも好きなものに自由に変化させられる能力を得ました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。


693 : ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:26:33 FfnvP3j.0
以上で投下終了です。
毎度の事ながら、今回も仮投下を経ているとはいえ内容に指摘点などあって当然の内容だと思いますので、気になった点がありましたらお気軽にどうぞ。
それでは毎度のお願いではありますが、ご意見ご感想、ご指摘等ございましたら是非ともお願いいたします。


694 : ◆JOKER/0r3g :2018/10/10(水) 00:25:57 8pWbg73E0
申し訳ございません、一つ大事なことを言い忘れておりました。
大体お察しの方もいらっしゃったかとは思いますが、次回の投下内容を持って第三回放送に移らせていただきたく存じます。
前回と全く同じく、ということになりますが、次回内容を投下した後、放送前パートを予約できる日程を数日程度(大体長くて丸三日だと思って頂ければ)設けた後、放送投下、という形にしたいと思います。
また今回も、放送案を投下したい、という方は次回投下までの間に是非ともご声明と意思の表示をお願いいたします。

一応自分も次回内容の予約時か何かに再度ご連絡しようとは思いますが、出来ればスムーズに進行したいので、積極的なご協力をお願いしたい次第です。
それでは、連絡は以上です。
引き続き、感想や意見等ございましたらお願いします。


695 : ◆LuuKRM2PEg :2018/10/10(水) 07:11:18 75tSHQgE0
投下お疲れ様です!
三島は最強のネイティブとして乃木を圧倒し、あと一歩の所まで押しましたけど……そこをもう一人の乃木が駆け付けてくれましたか!
乃木は自分自身すらも取り込んでしまい、また新しく圧倒的な力を誇る魔王へと変貌しましたが、これは波乱の予感。
そして三島が守ろうとした車の謎も果たして……?

放送案の投下についても◆JOKER/0r3g 氏が提示する通りで問題ないです。


696 : ◆JOKER/0r3g :2018/10/22(月) 19:18:23 V.V9tP3g0
こんにちは、>>694での宣言通り、今回パートを予約したので再三ではありますが放送希望などについてのご連絡です。
詳しい内容は大体上記の通りですが、ご不明点等ございましたらお気軽にどうぞ。


697 : 名無しさん :2018/11/05(月) 21:49:15 REQoRpfo0
病院戦まではただの頼れる対主催だった乃木もなかなか厄介な存在になってきましたね…


698 : 名無しさん :2018/11/06(火) 18:17:36 WCa0Qixs0
流石にディアボリアスの状態で倒されればもう復活はしないだろう...
しないよね?


699 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:00:32 tJIwqj620
感想、雑談ありがとうございます。
短くてもなんでも、そうして作品について語ってもらえるということそれ自体がとても力になります。

さて、それでは皆様お待たせいたしました。
これより投下を開始いたします。


700 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:03:22 tJIwqj620

 病室に備え付けられた壁時計の長針がまた一つ進み、その先端が数字の6を示す。
 自分以外は誰もいない、暗いその部屋の中で彼、一条薫は一人ぼんやりと天井を眺めていた。
 彼の中には、もう眠気はない……訳ではないが、それ以上にこんなところで呑気に寝ている場合ではないという焦燥感が、彼が眠りに落ちるのを妨げていた。

 現在時刻は5:30。
 第三回の定期放送まで残り30分を切った西病院の中では、恐らくは放送に対する準備が順調に進められていることだろう。
 明かされるかもしれない仲間達の死への心構えや、禁止エリアの情報、或いは放送担当として現れるだろう幹部についての心当たりの整理。

 本当のところを言えば一条も、名護や翔太郎らと共にそうした放送内容に備える作業をして、気を紛らわせたい。
 だが、輸液を終えたとは言えようやく貧血症状が一端の収まりを見せた程度にしか体調が回復していない一条には、ベッドに横になり安静にしている他なかった。
 無理を言って色々な情報を整理するところに混じる、ということも勿論出来なくはないのだが、今の自分の体調を一番に理解しているのは他ならぬ自分自身である。

 正直に言って、立てこそすれど満足に走れはしないだろうような今の体調の自分が、一刻を争う彼らの放送に対する準備に加わったところで、恐らくは足手纏いなだけ。
 そんなことは百も承知である上で、しかし一条はどうしても居心地の悪さを覚えずにはいられなかった。
 元々敏腕刑事として活躍していた一条にとって、こうした一刻を争う状況で一人休養に努めるという経験は、新人の時でさえ味わったことのないものだったのである。

 いやそもそも、こんなことを考えていること自体が今の自分にはストレスになり、より一層回復が遅れ大ショッカー打倒に対して生存者全員に迷惑をかけてしまうことになるのではないか。
 そう無理矢理自分を納得させ、思考の堂々巡りから逃れようと寝返りを打った一条の背後から、優しく二度ノックの音が響いた。

 「……どうぞ」

 「失礼します、体調、どうですか?」

 「津上さん……、えぇ、おかげさまで随分と楽になりました」

 「そうですか、それはよかったです。
 いやー皆さん忙しそうでなんだかこっちまでソワソワしちゃって、逃げてくるついでに一条さんの様子を見に来たんです。
 ……あ、これ良ければ一条さんもこれどうぞ。レンジでチンの簡単なものですけど」

 果たしてそこに現れたのは、この病院集団に属する青年の一人、津上翔一であった。
 差し伸べられた右手にはミルクの入った白いマグカップを持ち、そこから立ち上る湯気がその温かさを感じさせる。
 それを一言の礼と共に受け取りながら、一条は彼と初めて顔を合わせた際、小沢の最期を伝えた時のことをほぼ反射的に思い出していた。

 ――小沢の知り合いであるという彼に、彼女の末路を伝えるのは、とても心苦しかった。
 聞けば、彼は小沢があのレンゲルという仮面ライダーの力に囚われてしまったのは自分の責任だと感じ、その為に昨夜の22時に東病院に集合する約束さえ破ってこちら側のエリアに残っていたのだという。
 そんな彼に、小沢の辿った勇敢な……しかし惨たらしい最期を伝えるべきか、一条でさえ幾らかの逡巡が必要だった。

 そうして幾らか悩んだ結果として、彼には小沢という存在の生き様を伝えるべきだと判断し、てキバットに聞いた通り彼女の最期を伝えたのである。
 非難され感情的に罵られることさえ覚悟した一条に対し、しかし翔一は苦しい顔をしてなお第一声に『ありがとうございます』と述べた。
 これには思わず一条も呆気に取られたが、彼曰く『クモのモンスターに操られたまま死んじゃってたとしたらそれはとても悲しかったですけど、小沢さんが自分の意思でそこに残りたいって思ったなら、きっとそれがあの人にとって一番だったんだと思います』とのことであった。

 責められるどころか小沢さんを助けてくれてありがとうございます、とまで礼を言われれば、一条はもう彼という青年に対してあの小沢澄子も一目置くはずだと、そう納得をするほかなく、その礼に対し素直に返すほかなかった。
 ……第一印象からしてそんな不思議な印象であった翔一が、今再び自分の前に現れた。
 ただそれだけだというのに、一条は場の雰囲気が一瞬にして変わったような気がしていた。

 「あれ?どうしました?なんか俺の顔に変なものでもついてますかね?」

 「……いえ、そんなことは。それより、お気遣いありがとうございます。いただきます」


701 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:06:09 tJIwqj620

 生まれてしまった沈黙に、翔一は困惑を示しながら自分の顔をペタペタと触る。
 どことなくコミカルな動きをする人だな、と思いつつ一条は未だ完治とはいいがたい右腕でそのカップを掴み、ホットミルクを口に運んだ。
 だがその場を持たせる以上の意味を持たなかったはずの行為の末、口内を満たしたその温かいミルクは、一条の顔を驚愕に染めることになる。

 何故なら、簡単なもの、レンジで温めただけと言っていたはずのそのミルクが、一条の想像できる範疇を大きく超えるような味わい深さを誇っていたからだ。
 思わずカップの中に残ったミルクを二度見する一条を前にして、翔一は一つ笑った。

 「フフフ、驚きました?一条さんにはまだ言ってなかったですけど、俺はこれでもレストランでシェフをやってるんです。
 だから、どれだけ簡単なものでも人の口に入るものにはちょっとした拘りがあるんですよ」

 「そうなんですか……、いやしかしおいしい……」

 「えへへ」

 照れるなぁ、と頭を掻いた翔一の姿は、一条にどことなく五代を連想させた。
 おいしい料理や、手品や即興のドラム演奏や……ともかく人を喜ばせることに長けた技を数えきれないほど持っていた彼は、きっと目の前の青年とも気があったことだろう。
 そうして同時、もうそんな彼の笑顔が、そして彼がこれから先ずっと齎し続けただろう温かい笑顔が永遠に失われたことを思い出して、一条の表情は思わず曇った。

 「どうしました?一条さん」

 「……いえ、なんでもありません。
 それより、先ほど『逃げる』と仰っていましたが、津上さんは名護さんたちと一緒に放送への準備などしなくてもいいんですか?」

 翔一の当然の疑問に、しかし一条は無理矢理に話題を切り替える。
 明らかに不自然な間が存在していたが、翔一も無遠慮ではあっても配慮が出来ないわけではない。
 特に気にすることはなく、続けた。

 「はい、俺は全然手伝いません。
 正直、俺は頭を使う感じの仕事は向いてないですし、そういう仕事は名護さんとか左さんとか、向いてる人がやればいいじゃないですか」

 「……そうですか」

 翔一のその、恥じることのない堂々としたサボり発言に一条は思わず面食らう。
 当然と言えば当然だが、彼と五代とではやはり似ているようでいてその実全くタイプが違うらしい。
 五代であれば、恐らくはあの持ち前の手際の良さで思考面では強く貢献できないながらも何かしら役に立てるよう振る舞ったはずだ。

 こんなにすぐに相違が見つかるというのに、これ以上今は亡き友と翔一を重ねるのも失礼かと、一条は思考を切り替える。

 「――でもその分、もしも戦いになったら俺が皆を守ります。勿論、一条さんのことも」

 そうして頭を振った一条を前に、突然に翔一が続けた言葉は、やはり真っ直ぐなものだった。
 あの小沢がこの場で最も信用に足る実力を持つ、と評した翔一の実力を、疑うわけではない。
 疑うわけではないが……そんな彼の進言に対し「はい、お願いします」と素直に引き下がれるほど、一条もまた素直ではなく。

 「待ってください、幾ら特別な力があるとはいえ、貴方は一般市民です。
 そんな貴方に、刑事である私が一方的に庇護を受けるわけには――」

 それは、一条のちっぽけなプライドだった。
 自分が如何にこの場で矮小な存在であると分かっていても、それでもなおどこかで自分は刑事で周りは守るべき市民なのだという思考が払いきれない。
 一条や小沢や、また彼女の知り合いだった北條という男も含め、旭日章に命を捧げる覚悟を誓った者は、皆誰かを守る為その命を散らしたのだ。

 無闇に命を捨てる気はないが、一般人を盾にして生き残るなど自分に許されるわけがないと、一条はどうしても思ってしまう。


702 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:09:39 tJIwqj620

 「――でも俺は、少なくとも今の一条さんより絶対に強いです」

 この10数時間もの間持ち続けた悩みを吐露すれば、しかし翔一ははっきりとした口調でそれを遮る。
 堂々としたその言葉に、再び呆気に取られれば、先ほどまでと違い彼は真面目な顔で自分をしっかりと見据え、続けた。

 「……人はそれぞれ、自分が得意なものがあると思います。でもそれと同じで、誰でも不得意なものはあるんです。
 だったら、俺たちはそういう不得意なことを自分で無理せず、それが得意な他の人に任せちゃえばいいんです。
 だから俺は、考えることを他の人にお任せする分、戦うときは頑張ろうと思うんです」

 飄々とした風に、しかし確かな考えを持って翔一は語る。
 何だか仙人のように悟った男だな、という印象を抱いた一条に対し、翔一はどこか確信めいたような物言いで続けた。

 「だから一条さんも、刑事だからとか気にせずに、普通に守られていいんです。
 ここにいる俺たちは皆仮面ライダーで、とってもとっても強いんですから」

 今まで何度も氷川さんを助けてきましたし、慣れっこですと続けながら、翔一はまた笑う。
 その様を見て、一条は意図せず自分の口が力なくポカリと開いているのを自覚した。
 なるほどこれは確かに、あの小沢澄子が一目置くわけである。

 クウガである五代との触れ合いを通じてもなおずっと感じていた、一般市民を前線で戦わせることに対する申し訳なさのような感情。
 そんな今までの“当たり前”を真っ向から打ち砕くような翔一の言葉に、一条は反論さえ出来ず打ちのめされるような心地であった。
 ――刑事という立場など関係なく、強いのだから弱い者を守る。

 なるほどそれはこんなデスゲームの中では至極当然の考えで……しかし今の今まで一条の中でどことなく踏ん切りのつかなかった一線であった。
 だが、どこかで彼の意見に納得している冷静な自分がいる一方で、やはり頑固な自分が再び顔を覗かせるのを、一条は感じていた。
 どうにも言葉を上手く吐き出せず口ごもった一条を前に、翔一は柔和な笑顔を浮かべ、続ける。

 「確かに今は、得意なことも出来なくて辛いかもしれません。
 でも多分それはきっと、一条さんが休むことに何か意味があるんです。
 それで、今たっぷり休んだ分、その代わりとして多分、今後何か一条さんにしか出来ないことをやる時が来るんだと思います」

 「俺にしか、出来ないこと……」

 ぼんやりと翔一の言葉を復唱して、一条は少しの間思考する。
 その答えとして思い浮かぶのは、幾つかある。
 だがその中で最も気がかりで、そして自分にとって大事なことは、若き戦士クウガ、小野寺ユウスケを導きたいという思いだった。

 迷い、挫け、しかしそんな中から立ち直った彼を、もう二度と憎しみに晒したくない。
 こんな自分に人一人を導ことが出来るなど、自惚れかもしれない。
 その役目を果たすとしても、最早五代雄介を知ると言うだけの自分よりも、彼をここに来る前から知っている旅の仲間である門矢士の方が、やはり適任なのかもしれない。

 だがそれでも、今の自分が成し遂げたいこととして思いつくのは、それが一番だった。
 しかしそんな自分の願いを再認識した後に、一条はどうしようもないと分かりつつもただやるせない思いを誰かにぶつけたい一心で再び口を開いた。

 「しかし結局私は……何に関しても中途半端です。
 小野寺君のことを放って、一人だけこんな風に休んで……彼は今この時間も、苦しんでいるかもしれないのに」

 僅かばかり白んできたとはいえ未だ黒の範疇である空を病室の窓越しに眺めながら、一条はぼやく。
 この暗い空の下で、彼は未だ無事なのだろうか。漠然とした、どうしようもない不安が頭をもたげる。
 だがそんな一条に対し、翔一は心底理解が及ばないと言った様子で腕を組んで唸った。

 「う〜ん、でもそれって、当たり前じゃないですか?」

 「――なんですって?」


703 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:13:07 tJIwqj620

 言いながら、僅かばかり語調が強くなっているのを、一条は自覚する。
 亡き父の口癖であった言葉、「中途半端はするな」。
 勉強も習い事も、或いは刑事としての姿勢さえもその言葉を糧にして生きてきた一条にとって、翔一の「中途半端で当たり前」などという言葉を、安易に一意見として飲み込むことは、すぐには出来なかったのである。

 しかし思わず凄んだ一条を前にしてもなお、翔一はどこかもの悲しげな表情で続けた。

 「だって、俺たちは皆、いつかは絶対死んじゃうんです。それがいつかも分からないのに、全部を完璧に終わらせられるわけないじゃないですか」

 「それは……確かにそうですが」

 「それに、中途半端をしちゃ駄目だって思ってたら、まだ自分が試してない、見つけてない楽しいことも、探せなくなっちゃいます。
 そんなの、俺は悲しいです。色んな事をやってみて、その中で自分が好きだなと思ったことをたくさんやりたいじゃないですか。俺たちの人生は、限られてるんですし」

 「……」

 翔一のその言葉に、一条は応えない。
 というより、虚を突かれた思いだ、というのがより正確なのだろうか。
 正直に言えば、一条とてその程度の疑問を考えなかったわけではない。

 思ったことがある。
 父、一条祐にとって、息子の10歳の誕生日に迎えた死は、耐えがたい中途半端だったに違いないと。
 勿論、刑事として父のことは尊敬している。

 川に落ちた作業員8名を救出する為に自らの身を犠牲にしたその精神は、“刑事”としてこれ以上ない死だったとそう言い切れる。
 だが“夫”として、また“父”としては。
 愛する妻に無念の涙を流させ、息子と共に家族三人で野球観戦に行ってやることも出来なかったのは、これ以上ないほどの中途半端だったことは、疑いようがないだろう。

 だが、そんな風に思う一方で、薫は父としての祐のことも、中途半端だと思ったことはない。
 いつも家族に真摯に向き合い、そしていつまでも妻や息子の心に大きく存在感を残す彼を、家族を守る大黒柱としてもこれ以上なく尊敬していた。
 しかし、いや、だからこそなのだろうか。

 薫は、女性と深く関わりを持たない。
 “刑事”としての中途半端を行わないことは、“夫”として、また“父”としての中途半端を行うことになり、そしてまたその逆も同様な気がするから。
 少なくとも自身の父祐のように、両方を完璧にするような器用は、自分には出来ない。

 そう感じるからこそ、彼は周囲に何を言われようと一家の長ではなく刑事として全力を尽くすことに決めたのだ。
 だがそうして中途半端をしないよう心がけるその生き方が、果たして父の言葉の意味するところなのか、ふと悩む瞬間もある。
 少なくとも、五代が、そしてユウスケが自身の父の言葉を受けて覚悟したそのあまりにも険しい選択を、父はその言葉の語意に含めていたのだろうか、と。

 「一条さん」

 傷からか、或いは募る自分への不信感からか、らしくなく俯いた一条に対し、翔一はもう一度優しく名前を呼び、続けた。

 「今、一条さんはこうして生きてます。小野寺さんだって、きっと大丈夫なはずです。
 だったら、次に会ったとき上手くいくよう頑張れば良いじゃないですか。そうしたら、中途半端じゃありません」

 「津上さん……」

 思わず名前を呼んでしまったのは、先ほどまで真っ直ぐにこちらを向いていた翔一の顔が僅かばかり天井の、恐らくはその先を見つめるようなものだったからだろう。
 その視線の先にあるのは考えるまでもない。彼が恐らくは後悔してもしきれない無念、小沢澄子を死なせてしまったという事実に対するものなのだろう。
 だがそれでも、彼の表情からは立ち止まろうという意思など一切見えない。

 やはり彼も中途半端に関わるつもりだと言うわけではないのだとそう再認識した一条は、最早ユウスケが死んでしまっているかも、などという懸念を吐くことはしなかった。
 そんなことを言ってみたところで、恐らくは彼は動じることもなく「そうかもしれませんけど、そんなのはわかりっこありません」とのらりくらりと躱すだろうから。


704 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:19:20 tJIwqj620

 「……さっきはあんなこと言いましたけど、俺たちの人生はこれから先長いんです。
 すぐに結果を求めて落ち込むより、気長に行きましょうよ」

 まぁ、こんな状況なんですけどね。とばつが悪そうに頭を掻きながら、翔一は締めくくる。
 自分たちの命には限りがあると言ったり、これから先も長いと言ったり。
 どことなくふわふわとした論調だが、同時に一条は彼のことを嫌いにはなれなかった。

 彼を見ていると、一条は何だかどこか気の抜けたような心地になってしまう。
 自分やユウスケが常に眉間に皺を寄せていたのと同じだけの時間をこの凄惨極まりない会場で過ごして、なおこのマイペース。
 これで実力が伴っていないというなら自分にも何かしら言えることはあったのかもしれないが、聞けば彼はあのB2号を倒し、第零号を前にしても犠牲を払うことなく帰還したという。

 状況は幾らか違うだろうとはいえ、自分たちが多大な犠牲を払いユウスケを凄まじき戦士にしなければ凌げなかった、あの第零号が変じたブレイドという仮面ライダー。
 それに加え奴の未確認としての姿さえを打ち倒し、あまつさえ奴に“逃げ”を選択させたというのであれば、彼の言葉に説得力も伴おうというものであった。

 故に一条は、そのまま前のめりになっていた姿勢を崩し深くベッドにもたれかかった。
 五代が笑顔と共に力強く伸ばすサムズアップを見た時と同じか、それ以上の脱力感。
 敗北感などではない。何だか心地よささえ感じるそれは、堅物とさえ言われた一条をもこの短時間で揉み解すようなものであった。

 「あれ、どうしました?一条さん」

 「いえ……なんだか気が抜けてしまって。
 あなたと話していると、殉職した小沢警視正があなたを気に入っていた理由がよく分かります」

 「えへへ、ありがとうございます。あ、それと気が抜けたついでに、その口調もやめてもいいですよ」

 「え?」

 翔一のその言葉に、一条は再度呆気にとられる。
 その口調、とは一体何のことだろうか。自分は何か間違った言葉遣いをしていただろうか……?
 そうして疑問符を浮かべた彼に、翔一はどこかハッとしたように続けた。

 「あ、気付いてませんでした?一条さんは敬語使ってるとき、ちょっと緊張してるのかなって思って」

 言われて初めて、一条は理解する。
 敬語。そうして言及されれば確かに、自分が敬語を用いるときの口調は翔一のような親しみを匂わせるそれではなく、刑事として一般人と距離を置くためのものだ。
 自分は刑事であるという自負を持っているときに用いるそれは、確かに近寄りがたさを感じさせるだろう。

 また同時、五代や椿など気の置けない人物を相手にするときは敬語が出ないのだから、自分はプライベートでは俗にいうタメ口を使う人間なのだということは疑いようもない。
 であれば敬語を使っているときは他者と距離を保ちたがっている、いわば自然体の自分ではないと言われても、なるほど納得するような心地であった。
 そしてまた、そんな翔一の指摘に対して刑事としての職務がどうのだのを熱弁して彼を説得し、敬語を使い続けられるほどの体力は彼にはもう、残されていなかった。

 「……確かにそうだな。ならこれからよろしく頼む。津上君」

 「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。一条さん」

 そうして、ようやく刑事という職務を背負うのをこの一瞬だけでもやめ、真に自然体でリラックスした姿を晒した一条。
 そんな姿を見られて心底よかったというように笑った翔一を前に、一条は目の前が眩む感覚を覚えた。
 薬やら毒やら、そんな大層なものではない。

 張り詰めていた緊張の糸がほぐれ、今まで溜まっていた疲れが再びぶり返したのである。


705 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:22:18 tJIwqj620

 「一条さん、寝ててください。俺、ここにいますから」

 「しかし、放送を聞き逃すわけには……」

 「いえ、大丈夫です、こういうときくらい、仲間をしっかり頼ってください」

 最早会話に対する思考さえろくに纏まらない中、一条はほぼ反射的に、五代が初めて赤のクウガになった後、気絶していた自分が目覚めてすぐに彼とした会話を思い出す。

 『おはよう、一条さん』

 『なんで、お前の肩に……』

 『まぁまぁ、いいじゃないですか』

 クウガになって戦った男が、生きている。
 あの赤い姿になれたのは何故だ、とか、未確認はどうなったのか、とか。
 彼に対して、幾らでも聞かなければいけない質問があったはずなのに、一条はその五代の言葉に対してただ一言、『一生の不覚だ』とだけ吐いて再び泥のように眠った。

 今でも思う。あそこでもしも、五代を敵の一種かもしれないとして拘束を試みたり、或いは未確認について深く問い詰めていたら、彼との友情はあったのだろうかと。
 恐らくはそれでも五代は気にはしまい。だが自分は……。
 だから一条は、今この場でも意地を張るのはやめた。

 少なくともこの翔一という青年には、五代が目指していたような気ままな日々を過ごして欲しいと、そう思うから。

 「なら、すまないが頼む。次に起きたときは、きっと――」

 「はい、おやすみなさい、一条さん」

 そうしてベッドに横になり目を閉じると、次の瞬間にはもう一条は深い眠りに落ちていた。
 それを見やり、何だか可愛い寝顔だなぁなどとぼんやり感じながら、翔一もまた一つあくびを吐いた。


 ◆


 「ふぅ、大体こんなものか」

 一方で、病院のロビーのような場所で、テーブルの上にこれまでの情報を纏めた名護は一つ溜息をついていた。
 正直なところ、大ショッカーという組織について未だ分からないことは余りに多い。
 それでもこうして目に見える形で情報を共有することは、決して無駄ではないと思えた。

 一息つき、先ほど翔一が淹れてくれたコーヒーをすすりながら、名護は少しだけ微笑む。
 流石にコーヒーについては、自分の行きつけの店であるカフェマルダムールのマスターの方が上手らしい。
 とはいえここはコーヒーショップではないし、豆もなく粉状のインスタントが元であろうことを思えば、このコーヒーも十分においしいものであったが。

 そうして一人コーヒーブレイクを楽しむ名護を遠目に見ながら、談笑する男が二人。
 翔太郎と総司、何となしにこの集団の中でペアのような扱いになりつつある二人である。
 彼らもまた先ほどまでは名護の手伝いをしていたのだが、他ならぬ名護本人がこれ以上は自分だけで十分だと言ったので休憩していたのだ。

 「ねぇ、翔太郎」

 「あん?」

 「……もしかして翔一の淹れる飲み物って、おいしいって思わせるような何かが入ってたりしないかな?」

 悪戯っぽく笑いながら、総司は言う。
 決して彼を疑っているわけではない。ただ仏頂面のイメージがどうしても強い名護がああまで気を休めて飲み物を口に含んでいるのを見ると、少しだけそんな可能性を感じてしまったというだけのことだ。
 それを翔太郎も理解しているのか、少しだけ笑って、しかしすぐに帽子の縁をなぞりながら返す。


706 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:26:04 tJIwqj620

 「かもな……けど、だとしたらあんなにおいしくなりゃしねぇよ。
 もしもなんかあれにあるとするなら、それは『温かくておいしいものを飲むと幸せになる』なんていう、そんな当たり前のことはこの辛い状況でも当たり前なんだって、それを皆に思い出させるだけで十分だってことさ」

 クイと顔を上げながら、翔太郎は気障に笑う。
 もう幾度となく見た光景ではあるが、どことなくこれを見ると安心する自分がいることを、総司は自覚していた。
 気の置けない友、そして名護という師匠に、翔一や、今この場にはいないが真司を始めとする仲間達。

 そんな様々な人を思い出して、総司は何だか無性に嬉しくなる心地だった。

 「ねぇ、翔太郎。やっぱり――」

 ――仲間っていうのはいいね。
 そう続けようとして、何だか気恥ずかしくて、喉元まで出かけたそれを急いで飲み込む。
 だがそんな一瞬の葛藤を、翔太郎は……名探偵は見逃さない。

 「あん?……今なんて言おうとしたんだ総司?
 やっぱり……?やっぱりなんだ総司?言ってみろよ」

 字面とは裏腹に、悪戯っぽい笑みを携えて、手をワキワキとさせながら問う翔太郎。
 まるでお前の言いたかったことは分かっているぞとでも言いたげなそれに、総司も釣られて笑ってしまって。

 「やめて翔太郎―!やめてくれー!」

 「いいや止めねぇ!お前が何を言いたかったのかちゃんと言うまでは絶対に許さねぇぞ!」

 どちらからともなく追いかけっこの始めた彼らを見て、名護はただその喧噪さえ愛おしそうに、それを止める気さえないように朗らかに笑った。
 あぁ出来れば、この瞬間が永遠であればいいのに。
 大ショッカーを倒し殺し合いが終わった後も、彼らとこうしてずっと過ごせたならいいのに。

 元の世界になんて、帰ったところでこれほどの友と呼べる存在が果たして出来るのか。
 いっそのこと、大ショッカーを倒さずにこのまま――。
 一瞬芽生えたそんな思いを、しかし大きく首を振り否定して、総司は笑う。

 この戯れが、辛い現状を忘れるための一時だけの現実逃避なのだとしても、或いは元の世界で誰も自分の帰りを待っていないとしても。
 こうして別の世界の住人に、仲間が出来た。それだけで十分ではないかと、総司は思った。
 大ショッカーによる殺し合いが終わった後どうなるにせよ、今この瞬間を焼き付ければいいではないか、と。

 しかしそんな時間は、すぐに終わりを告げる。
 窓ガラスが突然に割れて飛び散る騒音と、そして――。

 「――随分楽しそうじゃん、僕も混ぜてよ」

 その窓ガラスの先、原理は不明ながら揺らぎさえせず浮遊する青年が、現れたことによって。
 唐突極まりない、かつ善良な参加者とは到底思えない派手な登場に、場の空気は一瞬で豹変していく。
 そしてまた、ここにいる彼らは決して、平和ボケした一般人ではなかった。

 一瞬で戦士としての風格を取り戻し、現れた敵を強く睨み付ける。
 そして同時、彼らはその青年に見覚えがあることを、思い出していた。

 「てめぇ……まさか大ショッカーの……!」

 「おー、覚えててくれた?そ、僕は大ショッカー幹部のキング。よろしくね、仮面ライダー」

 真っ先にその存在に言葉を発したのは、翔太郎だった。
 第一回放送で仮面ライダーの正義を口先だけなどと嘲笑したこの男を、彼が忘れるはずもない。
 大ショッカーの幹部である彼を前に情けも無用かと、彼は懐からドライバーを取り出そうとする。

 「どきなさい!翔太郎君!」

 だが翔太郎が行動を起こすより早く、自身の後方から怒号のような指示が飛んでいた。
 それに思わず身を躱せば、後方からキングと名乗った青年に向けて高密度の衝撃波が放たれる。
 不意を突いたはずの一撃は、しかしキングに到達するより早く、彼の目の前に生じた盾に防がれ意味を成すことはなかった。

 「危ないなぁ、もし当たってたらどうするのさ。仮面ライダーなんだから生身の人間を殺したりしたらまずいでしょ?」

 「黙れ。大ショッカーの手先に、かける情けなどない……!」


707 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:29:56 tJIwqj620

 あと一歩だったのに、と歯噛みする翔太郎を前に、ヘラヘラと馬鹿にした笑いを浮かべながら煽るキング。
 しかしそんな敵を前にしても、イクサナックルを手に構えたままの名護もまた、一切動じることはない。
 未だ揺らぐことなく、その切っ先をキングに向け続けていた。

 だが、これ以上ないほどの敵意を向け続ける名護の一方で、相対するキングの興味は既に名護にはない。
 視線をチラと動かし目当ての人物を補足して、そのままゆらりと病院のロビー内に着地する。
 どうにも手を出し切れずじりじりと距離を取る面々に対し、彼は残る一人の青年に足を向けた。

 「やぁダークカブト。それともこう呼ぶべきなのかな?天道総司君、って」

 「……」

 キングのあからさまな挑発に、総司は答えない。
 自分の経歴を知る大ショッカーが相手となれば、こうして自分の特殊な状態を知り尽くされているのも予想の範疇であった。
 だがそれはそれとして、やはり自分にとってのデリケートな部分にこうしてずかずかと土足で踏み入られるのは決して愉快なことではない。

 「いやぁ、君には一つお礼を言いたくてさ。
 実を言うとさ、第一回放送で言ってた僕の知り合いのお人好しの仮面ライダー……あれは君が殺したブレイド……剣崎一真のことなんだよね。
 皆に代わって礼を言うよ。君があの口先だけの正義の味方を殺してくれたおかげで、この殺し合いでルールを分かってない奴がどれだけ役立たずなのか、あいつみたいな甘ちゃんもよくわかったと思うし」

 「野郎……!」

 キングの、軽薄ながら的確に総司の地雷を踏みぬくようなその発言に、翔太郎は肩を怒らせる。
 奴は間違いなく、総司の今までの動向を知り尽くしている。
 下手をすれば総司がトラウマを刺激され動けなくなってもおかしくない、と懸念を抱きかけて、しかしそれは杞憂に過ぎないと彼は気付く。

 他ならぬ総司本人が、キングを前に一切の揺らぎを見せずその足を進めたからだ。

 「……キング。確かにそれは僕の罪だ。けど……だからこそ僕が、お前を倒す。
 剣崎の遺志を継いで、いやお前が馬鹿にした全ての人の分まで、僕が“お人好しの仮面ライダー”の強さを見せてやる……!」

 「……本気で言ってるの?自分で殺しておいて、一丁前にその遺志を継ぐとか寒すぎ。
 それに、偉そうに言ってるけど、今ブレイドが誰の手にあってどう使われてるかも知らないんでしょ?教えてあげるよ、実は――」

 どこまでも続くキングの煽りに最早一切動じることなく、総司はそのまま懐に手を伸ばす。
 これ以上ないと言い切れるほどの強い意思に反して、どうしようもなく自分の手が震えているのを、自覚しながら。

 「――え?」

 果たして、総司が取り出した銀のバックルを前に、キングはこの会場に来てから恐らくは一番の驚愕を示した。
 何故ならそこにあったのは、キングの想定においては未だダグバという暴力の化身が遊戯の為に用いているはずの道具。
 口先だけの仮面ライダーが、この場でどれだけ無力なのかを証明する為の生き証人となるはずだった、忌々しきブレイドの力そのものだったのだから。

 「なんで、それをお前が……」

 「決まってんだろ、俺たちがダグバに勝ったからだ。
 ……その様子を見ると、ダグバに勝てないようなお前達は結局口先だけ、なんて煽るつもりだったみてぇだな?」

 「は?そんなわけないじゃん。ダグバなんて僕に比べたらつまんない戦い方しか出来ない奴だし」

 そう言いながら、しかし明らかにキングは先ほどまで浮かべていた余裕を崩していた。
 この会場有数……否、恐らくはこと戦闘のみにおいては右に並ぶもののいない怪物、ン・ダグバ・ゼバ。
 セッティングアルティメットにさえ変貌した彼を、自身が否定した仮面ライダー達が打ち倒したという事実に僅かながら動揺を隠しきれなかったのである。

 それを見抜いているのかは先ほどまでとは違い精神的余裕を手に入れた翔太郎が気障に笑うのも無視して、キングは再び総司に向き直る。


708 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:33:34 tJIwqj620

 「君、本当に仮面ライダーの遺志なんて継ぐつもりなの?やめておきなって。
 正義の味方の真似事なんてつまらないことするよりさ、僕と一緒にここにいる全員殺してさ、世界を無茶苦茶にしようよ」

 「――いやだ。僕はお前とは違う。僕は……仮面ライダーだ!」

 キングの嘲りにしか聞こえないような言葉の一切を切り捨てるように、総司はそのバックルにスペードのAを滑り込ませる。
 そのまま彼が腰にバックルを迎えれば、闘争心を掻き立てるような待機音が、エンドレスに響き渡った。

 (剣崎……、僕なんかじゃ、とても君の跡は継げないと思うけど――)

 その場の誰もが見守る中、見様見真似で剣崎と同じ構えを取りながら、総司は心中で呟く。
 その瞳に後悔と、罪の意識と、そしてそれ以上の希望を宿しながら。
 キングの言葉にも全く揺るがぬ強い意志を伴って、彼はバックルのトリガーを引いた。

 「変身!」

 ――TURN UP

 鳴り響いた電子音声と同時生じたエネルギーの障壁が、総司の目前に停滞する。
 その光景を前に彼は一瞬躊躇したように俯いたが、しかし瞬間彼はその中を思い切り潜り抜けた。
 刹那、オリハルコンエレメントを抜けた彼の身は最早、アンデッドに対する最強の鎧を纏っているも同じ。

 スペードの意匠を刻んだその鎧を纏って、総司は少しばかりの高揚に駆られながら、しかし油断なく腰のホルスターから醒剣を取り出した。

 (――でも僕も、君の跡を継ぐ者の一人としての責任を、負わせて欲しいから。
 だから今だけは、一緒に戦って……!)

 自身が手にかけた男の鎧を身に纏って、しかし罪悪感に押しつぶされることなく、総司は胸中で強く宣言する。
 許されざる悪を前にするその時だけでも、自分に力を貸してくれ、と。
 そうして”仮面ライダー”への変身を完了した総司を前に、翔太郎は一つ笑みを浮かべる。

 「へっ、随分と似合ってるじゃねえか総司」

 「翔太郎……ありがとう」

 先ほどまでブレイドを立派に纏っていた翔太郎の言葉に照れくさくなった総司……ブレイドの横に、二人の戦士も並ぶ。
 名護啓介と左翔太郎。相応の実力を誇る彼らが今、総司と共に戦う為の力をそれぞれ手にしていた。
 だが戦闘準備を整えた彼らを前に、キングは一つ小馬鹿にしたような笑いを上げる。

 「ちょっとちょっと、三対一なんて卑怯じゃん、そんなの正義の味方がやっていいの?」

 「……貴様は全ての仮面ライダーに喧嘩を売った。こうなるのも予想のうちだろう?」

 「確かにね。それなら――」

 言ってキングは、指を弾き小気味良い音を鳴らす。
 瞬間、建物が揺れ、何かが押し寄せるような轟音が彼らの耳に到来する。
 一体彼は、何をしたというのか。そう問いただそうとして、彼らのその疑問はすぐに晴らされた。

 「ギシャァ!」

 気色の悪い呻きを上げながら、窓を、壁を破壊し夥しい量の影がロビーにどんどんとなだれ込んでくる。
 その数は、ざっと視認できるだけで10体以上……残存参加者数を考えても到底人が変身しているとは思えないそれらが、一瞬で三人を取り囲む。

 「――これでも、文句は言わないよね」

 現れた無数のモンスターを前に、キングは満足げに手を広げ笑った。


709 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:38:01 tJIwqj620


 ◆


 「ふんふーん、ふふふーん……」

 病院に、彼が現れる数分前。
 どこかで聞いたのか、それとも即興で作り出したものなのか。
 そんな事さえ分からないほどに適当なメロディを鼻歌で奏でながら、キングは上機嫌にその足を北方向に進めていた。

 彼の視線がその先に捉えるものは、今やただ一つ。
 それは、D-1エリアに存在する病院。東側のそれに比べ小さいながらも、一方で東側のそれに比べて随分と病院と判断できるだけの質量を保有したまま佇む白亜の建造物であった。
 そしてやがて、彼の足は止まる。

 病院を目と鼻の先と形容できるほどに接近したことと、そしてなによりこれから行うことの仕込みを行う為だ。

 「さぁて、それじゃ早速……」

 言いながら彼がウキウキとした表情で掲げたのは、レンゲルバックル。
 それをそのまま腰に迎え入れるのかと思いきや、彼の目論見は違っていた。
 彼が見つめていたのはバックルではない。その中に収められた、都合18枚のラウズカードだったのである。

 ――どういうことだ?

 キングの脳内に、スパイダーアンデッドの困惑したような声が響く。
 『剣の世界』の存続のために、レンゲルに変身して他世界の参加者を減らすのではなかったのか。
 少なくとも先のキングの言葉をそう捉えていたスパイダーアンデッドは、カードの中で著しい混乱を示した。

 だが、そんな彼の困惑を前に、キングはただ笑う。
 その動揺さえ、自分の計画のうちの一つであったと、そう言うかのように。

 「いや、別にそんな混乱することじゃないよ、カテゴリーA。
 これからやることに君が役立ってもらうってのは変わらないんだしさ」

 キングの考えを読めずひたすら疑問符を浮かべるスパイダーアンデッドに対し、キングはもう取り合うこともせずにデイパックから一つのバックルを取り出す。
 レンゲルバックルによく似た、しかし明確に違う意匠が施された黄色のバックルを。

 ――なんだ、それは……?

 「ん?あーこれね。君は知らないだろうけど、僕たちの世界で未来に作られるかもしれない新しい仮面ライダーさ」

 結構よく出来てるんだよねこれ、と他人事のように呟きながら、キングはそのバックルに一枚のカードを装填しそのまま腰に迎え入れ、ベルトを発生させる。

 「変身」

 ――OPEN UP

 瞬間生じたオリハルコンエレメントが、キングの身体を異なる形態へと変化させる。
 仮面ライダーグレイブ……彼らが知るはずのない未来、或いは存在しえた一つの可能性の象徴。
 しかし、その変身を見届けてなお、スパイダーアンデッドは困惑しか示せない。

 自分を使用するレンゲルでなく、人造アンデッドを動力源に有するそれをわざわざ使う理由が、全く思い当たらなかったからだ。
 だがそんな自分を無視するように、グレイブはレンゲルバックルから全てのラウズカードを引き抜く。
 全てのカード……そう、スパイダーアンデッドの封印されたクラブのカテゴリーAをも含めた、全てのカードを。

 ――なんのつもりだ、それは俺の力だぞ!

 キングの意図が読めないままに、スパイダーアンデッドは彼の行為に対する異議を吐く。
 力への妄執に取りつかれたスパイダーアンデッドにとって、キングのこの行為は同じ世界の存在とはいえ決して看過できないもの。
 だがそんな彼の怒りさえも、グレイブにとってはただの嘲笑の対象でしかなかった。

 「君の力?嫌だなぁ思い上がらないでよカテゴリーA。ラウズカードに封印されたアンデッドは力なんかじゃなくて、言わば僕らの仲間だろ?
 じゃあこんな狭い世界の中でずっと閉じ込められてるのは可哀想だと思わない?」

 ――まさか……貴様……!

 ニタニタと笑いながら、思ってもいないようなことを吐くキング。
 彼の言葉は未だに要領を得なかったが、しかしスパイダーアンデッドは一つの可能性に思い至る。
 だがそれは、まさしく今まで自分がバックルの中で行ってきた暗躍を全て無に帰すような、自分に対する冒涜そのもので――。


710 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:41:09 tJIwqj620

 「ってことで、まぁ頑張ってきてねカテゴリーA。君もアンデッドなら、正々堂々バトルファイトに臨まなきゃ」

 ――やめろぉぉぉぉ!!

 次の瞬間、スパイダーアンデッドが思念で思い切り叫ぶのさえ無視して、グレイブはその手に持ったカードを思い切り振り撒いた。
 その手を離れ、重力と風に捲られて不規則に落ちていく、7枚のハート、9枚のクラブ、1枚のスペード……計17枚のラウズカード。
 仲間とさえ言ったはずのそれらにはしかし最早目をくれることもなく、グレイブは最後に手に残ったカードを勢いよくグレイブラウザーに滑らせた。

 ――REMOTE

 電子音声が響くと同時、カードそれぞれに向けてラウザーから光の線が伸びる。
 グレイブでさえ目を眩ますような圧倒的な光量が収まれば、そこにいたのはもうただのカードの山ではなかった。
 蜘蛛や蔓や海月や蛾……それらを含めた都合17体の恐ろしい異形の怪物たちが、狭いカードの中に封印されていた鬱憤さえ晴らそうとするかのように蠢いていた。

 「アハハ!思ってた通りやっぱ最高!」

 そしてそんな光景を前に、グレイブは一人場違いなまでに笑う。
 彼が今歓喜の声を上げているのは、仲間を開放できたことに対する達成感からなどではない。
 アンデッドという種族そのものが自分にとってはバトルファイトの敵に過ぎないのだから情などわくはずもなかった。

 それに何より、ジョーカーや仮面ライダー如きに負け封印されたアンデッド共に、この殺し合いで今更キングが大きな期待を抱くはずもないとしても、当然のことだった。
 なれば彼がここまでの興奮に包まれているのかと問われれば、答えは一つ。
 彼らがいることでこの病院に齎されるだろう、最悪の混沌を想像したためだ。

 こんなところでいつまでも引きこもっている臆病者を彼らが無残に引き裂くのを見て、仮面ライダーが絶望する未来を。

 「少しの間ここで待っててよ、すぐに合図するからさ」

 そうした混沌への期待に抱いた愉悦も冷めやまぬ中、キングはそのまま変身を解きアンデッドの集団に命令する。
 かつてスペードスートのカテゴリー10である、スカラベアンデッドを思いのままに操った能力の応用。
 生まれながら強力な洗脳能力を持つキングの力を以てすれば、解放されてすぐの理性を失ったアンデッドなど、上級であっても一括りに操ることなど容易い。

 故に、アンデッドたちは忌々しいだろうカテゴリーKに反抗することさえ許されず、そのまま次なる彼の指示を待つこととなった。

 「……ん?」

 と、そんな折、キングは自分の言うことに従うことなく自身に鋭い視線を向け続ける一つの影を視認する。
 だがその姿を視界に収めるまでもなく、キングはなぜそれに対して自分の能力が効かなかったのか、理解していた。

 「あー……お前のこと忘れるところだったよ」

 どことなくうんざりした口調で、キングはそのアンデッドに向き直る。
 恐らくはこの場で唯一、ジョーカーでさえ言いなりに出来るだろう自分の洗脳に一切影響されないだろう存在、別世界に存在するもう一人の自分自身。
 つまりはそう、スペードスートのカテゴリーK、コーカサスビートルアンデッドに。

 「グオォ!」

 封印からの解放を経た影響か、それともキングとは明確に別次元の存在である為か。
 そのどちらかは不明ながら、コーカサスは言葉さえなくキングに向けて破壊剣オールオーバーを思い切り振り下ろした。
 自分自身が翳す自分への暴力。ソリッドシールドさえない今、最早その直撃はキングでも耐えられるはずがない。

 しかしキングは身動ぎ一つすることはなく、故にコーカサスの剣はそのまま彼の身体を真っ二つに切り落と――せない。
 あと一ミリ、ほんの少し腕を動かせればキングを下すことが出来ただろうその寸前で、しかしコーカサスはもうまんじりとも剣を動かすことは出来なくなっていた。


711 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:44:54 tJIwqj620

 「なに驚いてるんだよ。当たり前だろ?お前は僕なんだから」

 キングが軽薄な笑みを浮かべそう吐き捨てるのに対し、コーカサスはなおも困惑しか返せない。
 どうにかキングを下そうと衝撃波を放とうと一歩退いたかと思えば、しかしそれを為すことも出来ないまま、コーカサスは苦し気な声をあげてその身を粒子状に分解させていく。

 「グアァ……!?」

 自分自身がどうなっているのか、一切の理解が追い付かない様子でコーカサスが呻く。
 だがもう一人の自分が上げる無声の抗議を前に、キングはただ愉悦の表情を漏らすだけ。
 瞬間、彼がひとたび腕を大きく広げると、次の瞬間にはもうコーカサスの身体はキングに吸収され、まさしく”2人は1人になっていた”。

 ――キングの身に何が起こったのか、一切の理解が追い付かないものもいるだろう。
 だがこれは、決してこの場で初めて起こった事象ではない。
 これと同様の事例が起こったのは、かつてディケイドが訪れた『龍騎の世界』におけることだった。

 ライダー裁判の発端となるATASHIジャーナルの編集長、桃井玲子の殺害をはじめとして、龍騎の世界で暗躍していた、鎌田という男。
 ライダーバトルの結果で裁判の判決が決まるその世界において、光夏美に自身の殺害に関する罪を擦り付けようとした、許されざる悪である。
 結局は彼の犯行はタイムベントで過去に戻った士により阻止され、夏美に関するライダー裁判が起こることもなくなったものの、大事なのはそこではない。

 今ここで重要なのは、彼が過去に戻った際に起こった事象、そして彼の本当の正体である。
 果たして鎌田の真の姿とは、『剣の世界』に存在するハートスートのカテゴリーK、パラドキサアンデッドであった。
 ディケイドの影響か、或いは鳴滝の手引きで世界を渡った彼は、桃井にある時その人ならざる正体を桃井に知られた為に、口封じの意を含め彼女を殺害したのである。

 そして士たちのタイムベントに紛れ同じく過去に戻った鎌田ともう一人の(本来その時間にいたはずの)鎌田との間に起こった事象とは、二人の鎌田が……過去と未来の鎌田が一つになるという奇想天外なものだった。
 どういうことだと頭を抱えたくなる気持ちも分かるが、しかしここまでは前提、本題はここからだ。
 その本題とはつまり、なぜ鎌田は一切の理由なく過去の自分と融合したのか、という問いである。

 タイムパラドックスの解消?なるほど一理あるかもしれない。
 鎌田の語られざる能力?確かに彼の能力には不明瞭な点も多く、否定しきることは出来ないだろう。
 だが、ここでは敢えてこれらの理屈を否定しよう。

 ではなぜ、二人の鎌田は融合したのか?
 その答えはずばり、“鎌田がアンデッドであったから”だ。
 どういうことか、それを説明するには、アンデッドというものがどういった存在なのかを今一度理解する必要がある。

 『剣の世界』に存在する怪人アンデッドとは、つまりそれぞれのアンデッドがそれぞれの生物の始祖であり、またそれぞれの種にとっての英雄と言っていい。
 彼らはそれぞれバトルファイトにおいて勝ち残ることで得られる報酬、自身の種の繁栄を望み、その座を巡って戦いあう、言わばそれぞれの種が選んだ精鋭たちの集まりなのだ。
 と、ここまでを踏まえたうえで問おう。

 “もしもどれか一つの種が、バトルファイトに参戦できるアンデッドを二人輩出したとしたらどうなる?”

 答えは明確単純、明らかな不平等が生じ、バトルファイトそのものの均衡が崩れることになる。
 なれば公正な戦いを望む統制者が、そもそもどういった条件であれ(勝利すれば全てを滅ぼすことになる破壊者ジョーカーを除いて)同一のアンデッドが同時に存在できないようにしていたとして、さして不思議ではないだろう。
 ……説明は長くなったがつまりは、鎌田が一つになったのも、今キングが一つになったのも、統制者が仕組んだ調整機構の表れだったということだ。

 さて、細かい理由はともかくとして、結論として今ここで起こったことは二つ。
 参加者に支給されていたスペードスートのカテゴリーKがキングと一体化したこと、そして――。

 「うん、やっぱり思った通り、だね」

 自分自身もコーカサスアンデッドへとその身を変えたキングは、呟く。
 先ほどまでは見る影もなく破壊されていたソリッドシールド。
 もう一人の自分を吸収することで完全に復活したそれを、満足げに見つめながら。


712 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:48:09 tJIwqj620

 別にエクシードギルスにこの盾を壊されてからもその不在を強く意識することはなかったが、ソリッドシールドは元来からこの身に備わった能力である。
 それに、このバトルロワイアルに途中参加したことによるアドバンテージの一つ、参加者の正確な場所の把握が既に意味のないものになってしまった今となっては、一つでも戦力を増やしておくことは決して無駄ではなかった。
 レンゲルバックルと合流できればこうなったかもしれないと思ってこそいたが、こうまで上手くいくとキングとしても今後が怖くなってしまうような心地である。

 「ま、僕ならこんなの使わなくても面白い遊びは山ほど出来るけどね」

 その身を再び人間のものに戻したキングは、最早不要な入れ物と化したレンゲルバックルを投げ捨てる。
 スパイダーアンデッドがまた封印されれば使えるようにこそなるが、自分の楽しい時間を終わらせかねないアイテムなど一つでも少ない方が良い。
 バイバイレンゲル、と一言だけ呟いた彼は瞬間、病院から響く喧噪の声を聞いた。

 まさか先客がいたかと思ったが、何のことはない。恐らくこれは戦いの音ではなく、ただ暇を持て余してはしゃいでいるだけのようだ。
 であればこれから、自分がそんな退屈な時間をぶちこわしてやろうではないか。
 自身がこれから崩壊させる集団の、その最期の安息の声をただ煩わしく感じながら、キングはその場に似合わぬほどに気怠げな表情で病院へと足を進めた。


 ◆


 キングの合図を受けて現れたモンスターの数は、すぐわかるだけで10数体といったところか。
 先ほどまで三人しかいなかったはずのこのロビーは、今や魑魅魍魎跋扈する地獄変と化していた。
 流石の仮面ライダーも緊張を高める中、キングは一人場違いな余裕を浮かばせる。

 「どう?驚いた?僕が無策でこんなところに来るわけないじゃん」

 「……このモンスターたちは、一体なんだ。大ショッカーの手先か?」

 「いや、違うよ。こいつらは僕が操ってるだけ。このカードを使ってね」

 名護の問いに対し、案外素直にキングは懐から一枚のカードを取り出す。
 その絵柄や細かい情報は未だ得られなかったが、しかし名護にはそうしてキングが表にその札を露出しただけで十分だった。

 「総司君!これを使え!」

 まるでその瞬間を待っていたでもいうのか、懐から素早く一枚のカードを取り出した名護は、ブレイドにそれを投げつける。
 真っ直ぐに飛んできたカードを危なげなく受け取って、ブレイドはそのままそれをラウザーに滑らせた。

 ――THEEF

 それは、名護が持っていたラウズカードの中の一枚、カメレオンシーフのカード。
 敵の持つカードを奪う効果を持つそれを受けて、キングの手に握られていたカードは呆気なくブレイドの手に渡る。

 「うわー、正義の味方が泥棒なんて、とんだスキャンダルじゃん。恥ずかしくないの?」

 「あぁ、恥ずかしくはないな。それに、これでお前はモンスターを使役出来ない」

 「……もしかして、こいつらをミラーモンスターみたいなもんだと思ってる?
 違うよ、こいつらを操ってるのは僕自身の能力。そのカードはあくまで最初にこいつらを解放するためだけのものさ」

 「解放……?」

 キングの言葉につられてその手の中のカードを見たブレイドは、見覚えのある形式で書かれたクラブの10の文字を読み取った。
 更にその下には、REMOTE、英語で解放を意味する文字が見て取れる。
 そして同時、先ほど一条から聞いた話の中でこのカードを始めとしてクラブのカードを使うライダーが西側にいたことを、彼らは思い出していた。

 「まさか……今はお前がレンゲルを!?」

 「う〜ん、まぁ正解かな。本当はもうちょっと複雑だけど、おまけで当たりってことにしてやるよ。
 あ、あとついでに教えておくけど、召喚制限の1分を待っても無駄だよ?首輪をしてない僕が召喚したこいつらは、そんな制限無視できるんだ」

 まさにゲームを楽しむような口調で、キングは長々と話し続ける。
 心底腹が立つ外道だが、今は彼に圧倒的情報アドバンテージがあるのは疑いようがない。
 ここは苛立ちを押さえて話を聞くべきかと、翔太郎は何とか自分の先走りそうになる思いを押さえつけた。


713 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:51:46 tJIwqj620

 「おい、解放だけがそのカードの力で、こいつらを操ってるのはお前の能力ってことは、お前を先に倒したらこいつらが野放しになるってことか?」

 「お、いいとこ目付けるね、その通りだよ。僕を先に倒したら、こいつらは全員自由になって会場を徘徊して、手あたり次第参加者を襲うだろうね」

 キングの答えを受けて、翔太郎は歯噛みする。
 雑魚は無視して全員でキングを叩く、という戦法が通用しないようにあらかじめ手を打ってあるということだ。
 恐らく、ここにいるアンデッドの一体一体は、ここまで生き残った仮面ライダーであれば問題なく対処できる強さであろう。

 だが、参加者には変身制限が存在する以上、この数が鎖もなく解き放たれるのは避けなければならない。
 恐らくはそこまで読んでこいつらを解放したのだと思うと、なるほどこれは世界を無茶苦茶にするという狂った目的のためには素晴らしいプレイングだと認めざるを得ないだろう。
 何度目ともしれない嫌悪感を敵に抱いた翔太郎を相手に、キングはなんともわざとらしく何かに気付いたように声を上げた。

 「あっ、そういえば言い忘れてたけど、解放したのはこいつらだけじゃないから。
 他の連中は僕が操ってるわけじゃないから、もうこの近くの誰かを襲ってるかもね?」

 「なッ……!」

 三人の動揺を前に、キングは不気味に頬を吊り上げる。
 元々混沌を望むキングにとって、それはある種当然の行動だ。
 彼の行動原理からすれば当然の行為ではあるが……しかしそれでも怒りを抑えることは出来なかった。

 ただ理不尽な暴力が、誰かに向いているという事実だけが、仮面ライダー達を焦燥に誘う。
 そして同時、そんな最悪の作戦を今このタイミングで自らキングがわざわざ明かした。
 それが意味するところは、つまり必要な時間稼ぎは大体出来ただろうという一つの確信から来るものだと、そう理解するほかなかった。

 「放たれたアンデッドはそれぞれクラブのA、9、ハートの7、8の四体!
 さぁお前らは止められるかな?」

 「……無駄話は終わったかよ?それじゃそろそろ行かせてもらうぜ」

 「それはこっちの台詞だし。――行け!」

 彼らが悠長に会話を出来ていたのも、最早それまでだった。
 キングの指示が飛ぶと同時、三人に向けてアンデッドの波が襲いかかったのである。
 だがその波が彼らに到達するより早く、翔太郎はその懐より“切り札”を取り出した。

 ――JOKER!

 ガイアウィスパーが、高らかにその名前を宣言する。
 その声を受け、アンデッドの視線が一斉に翔太郎に集まっていく。
 まるで、それと同じ名前の忌むべき死神を想起しているかのように。

 多くの憎しみを込めた視線を感じながら、しかしそれさえも振り切って彼は思い切りドライバーにメモリを差した。

 「変身!」

 ――JOKER!

 ロストドライバーに収められたメモリが翔太郎の戦意に応えるかのように再びその名を叫ぶ。
 それと同時生じた紫の粒子が彼を包めば、そこにいたのは最早ただの人間ではない。
 仮面ライダージョーカーの名を持つ、愛する街を、人々を守るため戦う孤高の戦士がそこに現れていた。

 「さぁて……っておわっ!?」

 戦闘準備を整え、敵に対峙しようと気障なポーズを構えたジョーカーは、しかし次の瞬間壁さえも打ち砕くスピードで吹き飛ばされていた。
 見れば、解放されたアンデッドのうち、特に活きのいいサイのアンデッドが、鬼気迫る勢いで彼に突っ込んでいたのである。

 「翔太郎ッ!」

 ブレイドの焦燥を含んだ声が、響く。
 常人であれば致命傷は避けられない攻撃を不意打ち気味に食らったジョーカーを心配してのことだったが、彼はそこまで軟ではない。


714 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:53:49 tJIwqj620

 「ってぇな!いきなり何しやがん――」

 「ガアァッ!!!」

 突然の攻撃に怯みつつもすぐさま立ち上がり、そのまま軽口の一つでも叩こうとして、それよりも早く到来したアンデッドの群れを前に、その余裕さえ消え失せた。
 変身さえしていない名護もいるというのに、何故自分に対してだけここまで攻撃が集中するのだと不条理に怒るジョーカー。
 だがそんな呑気な思考を続けることさえ出来なくなるほどに、敵の攻撃は苛烈を極めていく。

 幾ら歴戦の彼と言えど、流石に攻撃を捌けなくなるという、まさにその瞬間。
 ジョーカーの視界を覆っていた魔物の群れが、突然に晴らされた。

 「大丈夫か、翔太郎君」

 「なんだか災難だったね」

 「名護さん、総司、サンキュー。助かったぜ」

 ブレイドと、イクサへの変身を終えた名護が、自身の救援に現れたのである。
 新たに現れた戦士を前に、流石にジョーカーのみを妄信的に襲うことは出来なくなったと判断したのか、アンデッドたちもまたそれぞれに狙いを定めなおす。
 未だ高みの見物を決め込むキングを、チラと横目で見やりながら、彼らは戦いの渦に飲み込まれていった。


 ◆


 数分前、最初にキングの接近に気がついたのは、実は一条と共にロビーから離れた病室にいた翔一であった。
 彼は瞬間、それまで浮かべていた柔和な表情から一変、突如虚空を睨み付け、何かを察したかのように険しい表情を浮かべたのである。
 まるで、彼が元の世界でアンノウンの出現を察知したときのような。

 この能力の原理は、翔一にも分からない。
 アギトの力がそうさせるのか、或いは翔一の誰かを守りたいという思いがそれを可能にするのか。
 だがそんな些末な事象の究明よりも大事なのは、それを感じるのは決まって人ならざる者が誰かを傷つけようとする時なのだということを、翔一は知っていた。

 「……」

 目の前で眠る一条を見る。
 この場に彼を一人置き去りにはしていくことに抵抗はあるが、それ以上に仲間の身には一刻を争う危険が迫っているかもしれない。
 どうするべきかと頭を悩ませていた翔一の元に、何か感情を込めた喧騒の声が届く。

 これはいよいよ行動しなければいけない時かと一層緊張を高め踵を返した翔一はしかし、後方から響いた小さな声に呼び止められる。

 「津上君……今の音は一体……」

 「あっ、一条さん。起きちゃいましたか」

 「いや、10分そこらであっても、寝られただけありがたい。
 それよりも今の音はまさか……」

 「……はい、そのまさか、だと思います」

 眠りを極めて短く切り上げられた一条はさぞ不機嫌だろうとばかり思っていたのだが、彼の言葉は嘘ではないらしく、顔色や表情は先ほどとは見違えるほどに血色もよくすっきりとしたものであった。
 刑事さんって大変だなぁ、などと場違いな言葉は口に出さず、代わりに翔一はただ彼の懸念に答える。
 そして同時、先ほどとは違う翔一の声音から察せられる状況に、一条の顔も刑事のそれに戻っていた。

 「でも、安心しててください。さっき言ったとおり、頭を使わなかった分だけ頑張ってきます」

 「……あぁ、わかった」

 なんとかその言葉を絞り出したが、実際のところ悔しくないと言えば嘘になる。
 それでも今の自分が戦闘など望めようはずもないのだから、これ以上彼を引き留めても無駄な時間を過ごさせるだけだった。
 そう脳内で理解は出来るものの、こうして事が起こって改めてその事実を突きつけられると些かプライドが傷つくというものである。


715 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:57:23 tJIwqj620

 「大丈夫ですよ、きっとすぐに帰ってきますし、それにここは安全――」

 一条の内心を見抜いているのか、どこか拗ねた子供に言い聞かせるような口調で語りながら、ふと窓に目を見やった翔一の瞳は、瞬間見開かれる。
 一応は警戒のために他の部屋と同じくカーテンを開いていたこの部屋の窓の外。
 そこに、壁に張り付きこちらの様子を覗き見る、緑と紫色をした蜘蛛の様なモンスターを視認したからだ。

 「――一条さん、危ない!」

 だが、その見覚えのある存在について因縁を燃やすより早く、翔一はベッドに横たわる一条を引き寄せそこから引きずり降ろしていた。
 蜘蛛のモンスターが病院内に侵入するために、窓を叩き割ろうと大きく拳を振り上げているのが見えたからだ。
 瞬間、翔一が一条をベッドの影で抱きかかえるが早いか、今まで一条が寝ていたベッドに、勢いよくガラスの破片が突き刺さる。

 「大丈夫ですか!?一条さん」

 「いや、問題ない。すまない、津上君」

 流石に今の行動は怪我人相手に乱暴だったかとも思うが、一条は文句の一つもなく礼を言う。
 彼が無理やりにでもこうして守らなければ、自分の身体はガラスの破片でズタズタになっていただろうことを嫌でも理解しているのだ。

 「しかし、一体何なんだ……他の参加者なのか……?」

 「いえ、違います。あいつ、多分小沢さんを操っていたモンスターです」

 「なんだって?ということは、あれもアンデッドという怪人なのか……?」

 小沢がレンゲルという仮面ライダーに変身した時に、一瞬だけ現れた蜘蛛のモンスター。
 その姿と、今襲撃してきたモンスターは、間違いなく同一のものだったのである。
 とはいえ、それが分かったところで、どうして実体化したのかだとか、誰が解放したのかだとか、様々な疑問は残ってしまう。

 だが、関係ない。
 少なくとも自分は頭を使ってどうこうするのは向いていないのは分かり切っているのだ。
 であれば今、無力な人に躊躇なく暴力を振るう怪人に、翔一が示せる行動はただ一つだった。

 ベッドの影から勢いよく立ち上がった翔一は、そのまま今しがた襲撃してきた蜘蛛のモンスター……スパイダーアンデッドに向き直る。
 不意打ちを仕掛けるようなモンスターを相手に、つべこべと会話を交わしている暇もない。
 居合のようなキレで、彼はいつもの構えを取った。

 瞬間、その腰にオルタリングが浮かび上がって、彼の戦意はどんどんと高まっていく。

 「ギシャア!」

 「――変身!」

 待ちきれないとばかりに、狭い病室を気にすることなく敵に目掛け跳びあがったスパイダーは、しかし瞬間翔一の腰から放たれた眩い光に怯み思わず目を覆う。
 その光が晴れたとき、再度拳を振るおうとしたそれは、しかし逆に自身に放たれた黄金の拳のカウンターを受けていた。
 自身が登ってきた窓ごと壁を破壊して、病院の外に吹き飛ばされていくスパイダー。

 小沢が命を落とす遠因と言っても過言ではないそれにこうして一発叩き込めたことに僅かばかり満足感を得て、窓の外に顔を乗り出したアギトは、驚愕する。
 今しがた落ちていったスパイダーが何事もなかったかのようにもう一度登り始めていることは勿論、イカ、植物、蛾をそれぞれ思わせるアンデッドも同様にこちらに向かってきているのだ。

 ……そう、キングが放ち、近辺の参加者を襲う様に指示していたアンデッドたちは、今こうして最も近い場所にいた一条と翔一に狙いを定めたのである。
 元々知性に疎い下級アンデッドばかりがその指示を受けたのもあり、翔太郎たちの懸念に及ばないような距離しか移動をしていなかったのだ。
 だが、恐らくはキングがこれを知ったところで、大した失望は感じないだろう。

 一瞬だけでも仮面ライダーたちの怒りを煽り自分のペースに巻き込めた時点で、彼にはそれで十分なのだ。
 その結果そのものよりも、偽善者の仮面が剥がれるその瞬間こそが彼の望みなのだから。
 ともかく、そんな敵の狙いに気付くはずもないまま、アギトは窓際から離れ一条のもとに駆け寄った。


716 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:01:46 tJIwqj620

 「一条さん、ここもちょっと危ないみたいです、だから……一条さん?」

 「……え、あぁすまない」

 アギトの焦燥を含んだ声にようやく応じながら、しかし一条の目は未だ翔一が変じた戦士に釘付けになっていた。
 これが、アギト。一瞬クウガと見間違ってしまうような外見をした、しかし異世界に存在する、出自も何も異なる戦士。
 小沢から話を聞き存在については知っていたはずなのに、こうして直接目の当たりにすると自身の最も知る戦士によく似たその姿にはやはり呆気に取られてしまう心地だった。

 らしくなく数舜呆けた表情を晒した一条に対し、アギトは何を言うでもなく自身に背を向けて屈みこんだ。

 「乗ってください、一条さん」

 「え……?」

 「俺が絶対に守りますから」

 聞きたかったのはそういう言葉ではないのだが、と思いながら、一条はようやく彼の提案を理解する。
 この部屋に一人で残っていても危険だから、戦える自分と一緒に行動していた方がまだマシだ、と言いたいのだろう。
 馬鹿にするな、俺も立つことくらいはできる、と粋がってみたがったが、正直それだけだ。変身を介さなければ、満足に走ることも出来まい。

 であればここで意地を張るだけやはり無駄なだけと、一条は特に反論を講じるでもなく彼の背に飛び乗った。
 自身の体重を苦にもせず立ち上がったアギトの前に、新しく現れたイカのアンデッドがその触手を用いて病室に乗り込んでくる。
 どころかその横から計4体のアンデッドもまた乗り込んできているのだから、それ以上彼が余裕を持てるはずもなかった。

 こんな狭いところでは戦いにもなり得ないと、病室から飛び出たアギトの背を追って、アンデッドの群れが病院の廊下に雪崩れ込んだ。
 それを見ながら、どうやらこれは、いよいよ仲間たちの心配ばかりしていられる状況ではないらしいとアギトもまた気を引き締める。
 仲間の無事を祈りながら、今の自分の使命はこの背に負ぶさる男を守ることだと強く再認識して、アギトは踵を翻し気合と共にモンスターの群れに背を向けて走り出した。


 ◆


 ――LIGHTNING SLASH

 ――JOKER!MAXIMUM DRIVE!

 ――I・X・A-C・A・L・I・B・E・R-R・I・S・E-U・P

 「ヤアァ!」

 「ライダーパンチ!」

 「ハァッ!」

 三人の仮面ライダーが、同時に必殺技を放つ。
 それを受けたアンデッドがそれぞれ爆発を起こしたのを見届けて、ブレイドはカードを投げつけた。
 それが全て的確にアンデッドの身体に突き刺されば、次の瞬間にはもう彼らは粒子となってカードへ吸い込まれブレイドの元へ舞い戻る。

 この戦いが始まって早数分。
 歴戦の仮面ライダーたちの前に未だ立っているアンデッドは、早くも三体のみになっていた。
 それぞれ、ウルフ、オーキッド、パラドキサの名を持つ彼らの風格は、その実力が今までのアンデッドとは段違いであることを佇まいだけで示している。

 「はっ、ようやく一対一になったな」

 そんな一目で分かる強敵を前に、しかしジョーカーは怯むことなく笑った。
 だがその口先に比べ、肩で呼吸をしているその様子はまさしく満身創痍。
 戦闘経験であればともかく、スペックもリーチも他に比べ大きく劣るジョーカーにとっては、この乱戦は持ち前の体力を加味してもなお厳しいものだったのである。

 それでも、なお許せない悪を打ち倒すため、揺ぎ無く構えを取り敵に応対した仮面ライダー達。
 だが彼らがアンデッドに向け走り出す直前に、新たな影が一つ、飛び出した。


717 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:06:12 tJIwqj620

 「――いや、3vs4、だね」

 突如後方から聞こえた忌々しい声に対し、ブレイドは振り向きながら思い切りラウザーで切りつけようとする。
 だが、果たしてその剣先にあったのは、先ほどまでの軽薄なイメージを抱かせるような青年ではない。
 コーカサスオオカブトを思わせるような、重厚な甲殻に身を包んだ黄金の怪人。それが、自身の渾身の一撃をその剣で易々と受け止めている姿だった。

 「キング……!」

 「……フン」

 憎しみさえ込めた総司の声に、しかしキングは鼻息を返すだけ。
 先ほどまでの饒舌極まりない彼の様子からすれば一層威圧感を感じるその佇まいを前に、しかしブレイドは一切引くことなく競り合いを繰り広げていた。

 「総司君――!」

 「ギシャアア!!」

 大ショッカー幹部という未曽有の相手を、未熟な総司が単身で相手どるという状況に、イクサは危機感を抱き増援に向かおうとする。
 だが、その歩みはブレイドがコーカサスに応対した為にフリーになったウルフアンデッドに阻まれてしまう。
 パラドキサとウルフ、上級アンデッドに相応しいだけの実力を誇る怪人たちを前にしては、幾らイクサと言えど強行突破は不可能であった。

 「名護さん!」

 「俺のことは気にするな!君はキングを倒し、仮面ライダーの正義を示しなさい!」

 「行ってこい総司!お前ならそんな奴楽勝だ!」

 「二人とも……」

 友と師が、自身に声援を送る。
 ガドルとの戦いを想起させるようなその光景を前に、ブレイドはコーカサスに向き直り得物に力を籠める。

 「はいはい、ご馳走様。んじゃ、さっさと場所移そうか?」

 心底うんざりした声音で吐き捨てたキングは、そのままオールオーバーを振るいブレイドの身体を無理矢理に吹き飛ばしていく。
 何とか直撃こそ避けているが、しかしそのあまりの威力に抵抗さえままならず身体が引き摺られていくのだ。
 それでも、なんとしてもこいつの好きにさせるわけには行かないと、ブレイドも幾度となくその剣をぶつけ合って。

 ……果たして何度そんなやり取りを終えたのか、イクサとジョーカーを視認できないところにまで移動を果たした二人は、そのまま剣を構える。
 ――先に動いたのは、ブレイドだった。
 突如コーカサスの横に回り未だこちらに身体が向ききっていない彼に向けて思い切りブレイラウザーを振るったのだ。
 
 その一撃は難なくソリッドシールドの自動防御に凌がれ、お返しとばかりにコーカサスがオールオーバーでブレイドを切り崩さんとするが、その直前にブレイドは大きく後ろに飛び退いた。
 なるほど、この男はパワーではキングに到底かなわないことを理解したのか、素早いヒットアンドアウェイでコーカサスを翻弄しようとしているのだ。

 だが、コーカサスもまた歴戦の戦士、その程度の攻撃で下せるほど軟ではない。
 忙しなく、しかし隙もなく攻撃を断続的に行うブレイドを前に、彼は思う。
 存在しないのなら、作ればいいのだ、隙を。

 「ねぇ、ダークカブト。君さ、本当に仮面ライダーになれるなんて思ってるの?
 ブレイド……剣崎一真やイクサ、ダブルの左側と違って、君は化け物なんだよ?そんなのに助けてもらいたい人なんていると思う?」

 「黙れ……!」

 先ほどより一際強い勢いで以て、ブレイドがコーカサスに切りかかる。
 ソリッドシールドが再びその一撃を防ぐのを見やりながら、彼はなおも続ける。

 「いやごめん。化け物、なんていうのはよくないよね。君は元人間なのに、他でもない人間たちに化け物にされた中途半端だもんね?」

 「……黙れッ!」


718 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:09:04 tJIwqj620

 ヘラヘラと笑いながら、コーカサスは人のトラウマを平気で踏みにじっていく。
 総司にとってそれは、仲間を得たとはいえ消し切れない過去のトラウマ、忘れられない悪夢。
 あまりの辛さにそれより前の記憶を忘却するほどに刻み込まれた痛みを、苦しみを、未だ身体が覚えている。

 それを思えば思うほど、未だ燻り続ける自分の中の憎しみが頭をもたげてきて、消し切れたとばかり思っていた感情の奔流に正義が押し流されそうになる。
 今は亡き剣崎に、海堂に、そして天道に……数多の存在に誓ったはずの思いが、この程度の敵の言葉に揺らぎを見せている。
 それが他ならぬキングの言葉の証明にさえ思えてきて、ブレイドの憤りはなお高まっていく。

 全てはこの男が悪いのだ、この男を倒せばまた自分はさっきまでのように仲間たちに囲まれ笑顔を浮かべることが出来るのだと、ブレイドは無理矢理に自分を納得させ、剣を振るった。
 その焦り、故にだろう。一撃ごとに退く、という基本さえ忘れたブレイドの攻撃は、怒号と共に熾烈さを増していく。
 しかし彼の怒涛の連打を前にしてもなお、キングはソリッドシールドのみを頼りにそれを防ぎ続け、その舌を止めることはしない。

 「でもさ、仕方ないのかもね。君は言ったら親を失った子供みたいなものだし、口先だけの正義の味方を格好いい無敵のヒーローだと思っちゃったりしてもさ。
 もう少ししたら君も気付くと思うよ?格好だけ取り繕った正義の味方の本性が、どれだけ薄汚いのかを知ったら、ね」

 「お前は、それを知ったから世界を滅ぼそうとしてるっていうのか……?」

 「さぁね?でも少なくとも、誰かを守る正義のヒーローなんて夢見事よりは、その方がよっぽど楽しいと思うよ」

 「それは違う!」

 キングの軽い口調を、ブレイドは再び遮る。
 すべての世界を滅ぼして自分も死のうとしていた過去の自分は、ここまで下らないことを述べていたのか。
 数多の世界にそれぞれ存在する尊い無数の命、その一つ一つが放つ輝きから目を背けて全てを壊そうとする目の前の敵の、なんと許しがたいことか!

 だから、同時に思う。
 全ての世界を滅ぼしたいという欲を抱いているこの敵を許せないと感じる限り、自分は仮面ライダーなのだと。
 今の自分が過去の自分とは違うのだという実感をも抱いて、ブレイドは続けた。

 「……お前はただ、逃げてるだけだ。正義のヒーローになって誰かを守るなんて難しいから、何かを壊すっていう簡単な方に。
 一度壊したものは……殺した命はもう戻ってこない。その一度きりしかない命の大事さに気付かないから、そんなことが言えるんだ!」

 「へぇ、なるほどね。じゃあ君が殺した剣崎一真も、君が暴走したから死んだ海堂直也も、君が命の大事さを知るためだけに死んだんだね?
 君がいたせいで、その一度しかない命って奴を終えちゃったんだもん。……そう思わなくちゃ、やってられないもんね!」

 「――キングゥゥゥゥゥ!!!」

 高々と宣言したブレイドを前に、キングはなおも煽る姿勢を崩さない。
 彼の口車に乗ってはいけない。そう思いながらも、しかしどうしても昂っていく感情のままに剣を振るい続けるブレイドの攻撃を前に、ようやくコーカサスはオールオーバーで応じる。
 だが、先ほどまでは一方的に押せていたはずのコーカサスのパワーに、最早ブレイドは互角にまで追い付いていた。

 怒りや憎しみによるアンデッドと総司の融合係数の上昇に比例する、ブレイドが持つ戦闘能力の飛躍的な向上。
 かつて剣崎一真が自分を打ち倒したのにも似たこの状況を前に、しかしコーカサスは嘲るような笑い声をあげるだけだった。


719 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:12:36 tJIwqj620

 「にしてもカブト……本物の天道総司も可哀想だよねぇ、君みたいな見た目を真似た化け物に、名前も力も奪われちゃうんだもん。
 結局君は、自分と天道総司の立場を入れ替えただけなんだよ。
 別の世界に飛ばされて皆から忘れ去られるだけの存在を、自分から彼に移し替えただけってこと」

 「違う!僕はあいつの分まで戦おうって、だから――!」

 「へぇ、別の人間なのに同じ名前を名乗ってるんだ?
 そんなに言うなら、自分の名前を名乗れば?それとも僕が呼んであげようか?君の名前はえーと確か――」

 「やめろおおおおぉぉぉ!!!」

 最早理性さえ感じさせない雄叫びと共に、ブレイドは突撃する。
 相対するコーカサスは再びそれをオールオーバーで受け止めようとして、しかし出来ない。
 融合係数が著しい高まりを見せたブレイドの一撃が、いよいよコーカサスのパワーを上回り彼の腕から剣を弾き飛ばしたのだ。

 弧を描いて吹き飛んでいく自身の得物を引き寄せる余裕さえなく、ブレイドの攻撃の雨に晒されたコーカサス。
 ソリッドシールドはそれを防ぎ続けるが、いよいよその盾も悲鳴と共に罅割れ始め、その身を二つに別つのも最早時間の問題であった。

 「これで、終わりだあああぁぁぁ!!!」

 力強い咆哮と共に、ブレイドはこの一撃でシールドごとコーカサスを倒そうと一歩下がり力を籠める。
 恐らくはかつてキングを封印した剣崎のそれにも匹敵しうるようなその勢いを前に、なおもコーカサスは余裕を崩すことはなく、故にブレイドは煮えたぎる義憤をその一撃に乗せて――。

 「――今だ、やれ」

 対するキングが、小さくそれだけ呟いた。
 とはいえブレイドに最早止まることは出来ない。
 いや或いは、そもそも怒りのあまりその声すら聞こえていなかったのかもしれない。

 そのどちらにせよ、ブレイドの目には今やキングしか映っておらず――。
 故に――キングがこの瞬間まで温存していた最後の切り札が、自身に迫っているのに気付かなかった。

 「ヴッ……!?」

 突如、全身に駆け巡った鋭い痛みが、体の自由を奪っていく。
 目の前に憎き敵がいるというのに、この剣を振るうことさえ出来ない。
 一体何をされたのか、その正体さえつかめないまま、総司は意識を手放した。


 ◆


 病院の廊下を、慌ただしく駆け抜ける6つの影。
 先頭を走るアギトは既に、走力向上のためにその身を風纏う青の姿に変えている。
 常人では追いつくことなど到底不可能な速さで駆ける彼の背には、必死にしがみつく一人の男の姿が見て取れた。

 一条薫、刑事として人並み外れた体力を持つ彼であっても吹き飛ばされないようにするのがやっとというアギトの後ろには、しかしつかず離れず4体の異形が迫っていた。
 スパイダー、プラント、モス、スキッド。仲間との合流を目指すアギトの後方に迫る4つもの異形は、自分たちとアギトとの距離が離れそうになる度、何らかの攻撃手段を用いて生身の一条を後ろから狙い撃つ。
 その度にアギトは振り向いて一条への攻撃に対処しなければならず、それ故にどうしてもスピードが下がってしまうのだ。
 そして生まれた一瞬の隙の間にアンデッドたちは距離を詰め、未だつかず離れずの逃走劇を繰り広げる羽目になったということであった。


720 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:16:31 tJIwqj620

 「クッ、このままじゃ皆と合流できない……!」

 そんな何度目かのやりあいの後、アギトは思わず今のままならぬ状況に愚痴る。
 敵の攻撃をうまく阻むためとはいえ、いくつもの曲がり角を経てしまった今、仲間たちとの合流は半ば不可能に近いものになってしまった。
 理想を言えば、終わりの知れないこの追いかけっこを終え敵を打ち倒したいところだが、負ぶさっている一条を考えればそれもまた難しい。

 とはいえ変身制限が存在する自分にとっては、これ以上の不毛な時間の消費もまた厳しい。
 一体どうしたものかとアギトが数度目の攻撃をやり過ごすと同時、不意に背中から声が降る。

 「津上君、このままでは君が変身制限を迎えてしまうだけだ。
 あの角を曲がったところで俺を下ろしてくれ、そこで奴らを迎え撃とう」

 「え、でも一条さん……」

 「心配するな、自分の身は自分で守って見せる。
 それに君なら、奴らを一斉に相手にしても不覚は取らないだろう?
 戦いは自分の得意分野だとそう言っていたのを、俺は忘れてないからな」

 「……これは一本取られちゃいましたかね」

 アギトの姿のままで、翔一はへへへと笑う。
 生身の人間が、こうして力を持つ相手に対し指示を飛ばすという状況への理解や経験において、恐らくこの会場で一条薫に並ぶ存在はいまい。
 うまく丸め込まれた翔一は、しかし特に言い返すつもりもないようで一条の指示通り曲がり角で彼を背からおろし、一人だけでモンスターの前に立ちはだかった。

 いきなり戦意を増したアギトを前に緊張感を高めた5体のアンデッドに対し、彼はそのまま自身のベルト、オルタリングの右側のスイッチを押す。
 赤い光がベルトから放たれると同時、アギトの身体は今までその身を包んでいた風の力だけでなく炎の力に染め上げられ、その全身を再び大きく変貌させる。
 右手は赤く燃え盛る火に満ちて、左手は青く吹きすさぶ風に満ち、胴体は雄々しく佇む大地の力に満ち満ちた。

 まさしく三位一体を顕現したその姿は、仮面ライダーアギトトリニティフォーム。
 アギトの新たな姿にアンデッドたちが怯む中、彼はオルタリングから質量を無視して現れた醒剣と棍棒を掴んだ。
 それぞれフレイムセイバー、ストームハルバードの名を持つそれらを両手で軽く弄んだ後、アギトは油断なくアンデッドに向け歩を進めていく。

 達人の風格さえ滲むそれに最初に攻撃を仕掛けたのは、プラントアンデッドとスキッドアンデッドであった。
 プラントは種のような弾丸を、スキッドは圧縮された墨を、それぞれアギトに向けて一斉に放つ。
 相当量の威力を誇るのだろうその弾幕を、アギトは両手の得物を振るうことで撃ち落とし難なくやり過ごす。

 だがそれでもアギトの歩を止めるには十分だと判断したか、或いは理性さえないけだものの最後の抵抗か、二体のアンデッドはその弾幕を薄めない。
 これにはさしものアギトも防戦一方か、と後方で見守っていた一条が息をのむが、しかしアギトは既に対抗策を編み出していた。

 「ハッ!」

 アギトが気合を高めると同時、彼の持つ得物がそれぞれ真の力を開放する。
 だが、あくまでそれは虚勢に違いないと、攻撃を放ち続けるアンデッドたち。
 止むことのない弾丸の雨を右手に持つフレイムセイバーでやり過ごしながら、アギトは左手でストームハルバードを回転させていく。

 ――追い風が、アギトの後方より吹き寄せる。
 窓などどこも開いていないというのに発生したそれは、最初は静かなそよ風のような、ふとすれば消えてしまいそうな弱いものだった。
 だがそれは、少しずつ、少しずつ、しかし確実に勢いを増し、ほんの少しの時間で暴風とさえ形容しうる勢力を持って、アンデッドたちに向かい風として襲い掛かる。

 それでもなお攻撃の手を緩めずその口から墨を放ったスキッドだが、しかし瞬間自身の放った墨が暴風に流され彼自身の視界を黒く染めたことで、ようやく攻撃の手を緩めた。
 無論、高密度に凝縮されたそれは他ならぬスキッド本人にもダメージを与え、その身を大きく屈させり。
 また同時、自身の種子を弾丸として放っていたプラントも、放った勢いそのままに跳ね返ってきた無数の種に怯み体制を崩させた。

 果たして、自身が不得意とする遠距離攻撃を行う敵が怯んだその瞬間を、アギトは見逃さない。
 あまりの強風に足を動かすことさえままならない二体のアンデッドに、アギトはそれぞれフレイムセイバーとストームハルバードで斬り立てた。
 フレイムフォーム、そしてストームフォームの必殺技相当のそれをその身に刻まれて、プラントとスキッドは抵抗さえ出来ずに爆炎に包まれる。


721 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:22:02 tJIwqj620

 「ギェェ!」

 怯えたような情けない声を上げて、アギトに背を向け飛び去ろうとするモスアンデッド。
 彼はアギトとの圧倒的な戦力差故に、この場を後にしようと本能的に逃げを選択したのである。
 だが、この状況でモンスターを外に放置することを許すほど、アギトは甘くない。

 彼が再びその左手に持つ薙刀を振り回せば、今度は先ほどとは逆の方向に風が吹く。
 つまりは逃げようとするモスアンデッドに、向かい風となるように。
 やがてその風は勢いを増し、モスの羽ばたきが生じさせる推進力を上回った。

 そうなればもう、皮肉にも彼の持つ自慢の羽は、最早アギトの生じさせた風を一身に受ける帆の役割を果たすのみ。
 勢いよく吹き飛ばされたモスアンデッドの身体は、そのままアギトの頭上をも超えていこうとする。

 「ハァッ!」

 しかしモスがアギトの頭上を越えるその瞬間、彼はその両手に持つ得物を勢いよく掲げた。
 ファイヤーストームアタックの名を持つその連撃を受けて、下級アンデッドごときが無傷でいられるはずもない。
 悲鳴と共に爆発をしたモスアンデッドごと武器を投げ捨てながら、アギトは残る最後の一体、スパイダーアンデッドに向き直る。

 間接的とはいえ、小沢澄子を死に追いやった悪魔の様なモンスター。
 らしくなく拳を握りしめたアギトは、そのまま両手を開き、気合と共にその頭のクロスホーンを6つに展開させる。
 それを受け、彼の足元に生じたアギトの紋様から彼の両足にエネルギーが流れ込んだ。

 構えを取ったアギトに対し、最早後がないと悟ったか、或いは僅かばかりの理性さえ消え失せたのか、スパイダーアンデッドは敵に向けて駆け出す。
 だが一方で、スパイダーが向かってくるのを一切気にすることさえなく、アギトは勢いよく跳び上がりその両足を揃え放った。
 ライダーシュートの名を持つ、通常のアギトが放つライダーキックを大きく上回るその必殺技の直撃を胸に受けて、スパイダーはその身から火花を散らし、爆炎と共に大きく横たわる。

 そして、僅かばかりの奮闘も虚しく、此度は確実にそのバックルを開きもうピクリとも動かなくなった。
 それは、桐生豪、ズ・ゴオマ・グ、小沢澄子、牙王、紅渡……多くの参加者に大小問わず害を及ぼした人ならざる者の悪意を、まさしく仮面ライダーが打ち晴らした瞬間であった。

 「やりましたよ……小沢さん」

 強化形態を用いたために変身制限を通常より早く迎えその身を生身に変えながら、翔一は一人既に亡きあの強気な婦警にこの勝利を捧げるように呟いた。
 あのクモのモンスターをこうして倒すことが出来たとはいえ、それで彼の気持ちが晴れるわけではない。
 どころか、こんな風に戦いで無念を晴らすなどという概念自体が、翔一にとってはとても虚しいものに思えた。

 どれだけ仇を取ろうと、どれだけ敵を倒そうと、彼女の居場所はずっとぽっかりと開いたままなのだ。
 彼女が受け持っていたという大学の生徒たちは、いつまでも帰ってこない講師の姿を待ち続けるのだ。
 そう考えると、こうして戦い続けること自体が、どうしようもなく辛いことなのだと、翔一は再実感してしまう。

 だがそれでも、止まるわけにはいかない。
 かつて誓ったように、誰かの居場所を奪う悪から、皆の居場所を守りたい。
 その為にも今は、自分にできることを精一杯する他ないのだ、とそう自分を言い聞かせるほかなかった。

 「津上君!」

 物思いに沈んだ意識を浮上させるように、一条の声が響く。
 壁に身をもたれさせながらとは言え立ち上がった彼に対し、翔一は笑顔で応える。
 少なくとも今は、彼をモンスターから守れたというだけで十分ではないか。

 そう考え彼に向けて歩を進めかけた翔一は、しかし瞬間後方からカードが風を切るような音が響いてきたためにその足を止めた。
 ふと見れば、赤いカードが突き刺さった四体のアンデッドは、それぞれ緑の粒子に包まれてカードの中に吸収され、その全てが一斉にある方向に飛んでいく。
 或いはこの混沌を生み出した張本人が現れたのかと緊張感を伴ってその行方を見た翔一の瞳に移ったのは――。


722 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:25:03 tJIwqj620

 「――なぁんだ、総司君か」

 そう、そこにいたのは、先の戦いでも見た紺のスーツに銀の鎧を纏った仮面ライダー。
 ブレイドの名を持つそれは、翔太郎から様々な理由故に総司に渡っているはずのものであった。
 恐らくはアンデッドを封印できる能力を持つブレイドの姿で以て、この状況を収めようとしているのだろう。

 「……翔一」

 「どうしたの、なんか俺の顔についてる?」

 いつもの彼と変わらぬ声で、総司が翔一の名前を呼ぶ。
 その呼びかけに翔一はいつもの調子で返すが、総司はそれに何を返すこともない。
 ただその足をゆっくりと彼に向けて進めるだけだった。

 「翔、一……」

 「……総司君?」

 いよいよ両者の距離がゼロになろうかというところで、再び総司が彼の名を呼んだ。
 ……妙だ、何かがおかしい。声音から何から、いつもの彼のようでいて、どこかそうではないような、不思議な感覚が彼を襲う。

 「総司!翔一!一条!」

 と、そんなとき、ブレイドの更に後方から、ボロボロになった翔太郎と名護がその姿を現した。
 その様相を見れば、彼らもまた相当の戦いを経てきたということは容易に想像が出来た。
 ともかく無事に仲間と合流できたという安堵と、何となく圧迫感を感じる今の総司から逃れられるという緊張の緩和。

 その二つに押し流されるままに、翔一はその足を動かそうとして――。
 ――次の瞬間その腹に、深々と刃を突き立てられていた。


 ◆


 「――え?」

 最初に総司の口から漏れたのは、あまりにも間の抜けた困惑の声だった。
 今、自分は何をした?
 キングを相手に、ブレイドの力を身に纏い戦ったのは覚えている。

 そうして奴の言葉に踊らされ、予想外の攻撃に一瞬意識を手放したのも、それからすぐにまた飛び起きてキングを探したのも。
 全て覚えている。
 だからこそ、理解が出来ない。

 ――なぜ、自分のすぐ目の前で仲間である翔一が血まみれになって倒れているのか。

 思わず彼の傷の深さを確認しようと駆け寄ろうとするが、それよりも早く自身の手に握られている醒剣が目に入る。
 その剣先を、血の赤色に染めたブレイラウザーが。

 「え……?」

 何度目とも知れぬ困惑が、彼を支配する。
 まさか、“そう”だというのか。
 目の前に倒れる心優しい青年を刺したのは、紛れもない自分だと――。

 「あーあ、やっちゃった」

 「キング……!」

 どうしようもない疑心暗鬼に駆られる総司のもとに、ある種の助けが現れる。
 今起きたすべてをこいつのせいにできるという意味で言えば、最高の存在、忌むべき悪が。

 「お前が……やったのか、キング。翔一のことを……お前が!」

 「嫌だなぁ、僕は何もやってないよ。僕は何も、ね」

 「総司!そいつの言うことに耳貸すな!今からそっちに――」

 「うるさいなぁ……おい!」


723 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:27:22 tJIwqj620

 明らかに不安定な精神状態になっている今の総司に対し、キングがこれ以上会話を続けるのはまずいと判断したのか、翔太郎と名護は生身ながら駆けだそうとする。
 だが、それを察知したかキングが何かに呼びかければ、彼らの前に新手のアンデッドが現れる。
 まだ伏兵を隠し持っていたのかと彼らが驚愕する一方で、しかし生身である現状、やられはしないまでも翔太郎と名護は敵の対処に応じざるを得なくなった。

 残るもう一人、一条もまた怒りと共にドライバーを取り出すが、彼はキングの放った衝撃波で容易く体制を崩され、反撃にはなり得ない。
 これで、倒れている翔一を除きすべての戦士は変身さえ出来ず事態を見守るしかなくなった。
 つまりはもうこれ以上、総司をキングの魔の手から助けられる存在もいなくなったということだ。

 「翔太郎、名護さん!」

 だが、生身で怪人を相手にする仲間たちを前に立ち止まっていられないのは、総司も同じだった。
 その手にレイキバットを携えて、変身を行おうとした彼の前に、再びキングが立ち塞がる。

 「やめておきなよ、また我を忘れて、君の仲間を殺しちゃうかもしれないよ?」

 「黙れ!お前がやったんだ、僕はそんなこと――」

 「――現実逃避も大概にしろよ」

 翔一のことはキングがやったのだと断じ吠える総司に対して、キングは声音を低くして答える。
 思いがけないその威圧感を伴う言葉に言葉を失った総司を無視して、キングは一歩総司へ距離を詰めた。

 「お前が、やったんだよ、アギトを。自分の手に握ってるその剣が何よりの証拠だろ?」

 「違う……僕がそんなことするはずない。だって僕は――」

 「確かに、君はそうかもしれないね。でも、“君の中の君”は、そうじゃないんじゃない?」

 「僕の中の、僕……?」

 何を言っているのか分からないといった様子で見上げる総司に対し、キングはあくまで諭すように続ける。
 まるで、それがさも当然であるかのように。

 「そうさ、忘れたわけじゃないだろ?君はネイティブ……化け物になった元人間なんだよ。
 確かに人間になった君は仮面ライダーになったかもしれないけど、ネイティブの君は誰かを殺したくて仕方なかった、そういうことだよ」

 「嘘だ……そんなのでっち上げだ。僕は……!」

 「でっち上げなもんか。ここに来てから暫くの間、君は全ての世界を壊そうとしてただろ?
 それに、今だってアギトを殺したじゃないか。てことはそれが、君の本性なんだよ。
 どれだけ取り繕ったところで、君は結局、何かを壊したくて仕方ないんだ」

 「嘘だ……嘘だ……!」

 キングの言葉に、総司はただひたすら困惑を漏らし続ける。
 彼の中に今膨れ上がっている疑心は、キングに対するもの以上に、自分自身に対するもの。
 戦いの最中に記憶を失ってしまった自分に対し、万全の信頼を置けなくなった時点で、総司は最早キングに良いように弄ばれるだけの存在に成り下がっていた。

 「嘘じゃないさ、君は何かを壊したくて仕方ない化け物だってことも――それから、誰かを守る仮面ライダーになんかなれっこないってことも」

 キングの言葉に促されるように、総司の変身は解除される。
 ただ制限時間を迎えただけのそれが、今の総司にとっては“仮面ライダー”からの拒絶のようにも感じられて。
 カチャリ、と音を立てて地に落ちたブレイバックルを拾い上げることも出来ぬまま、総司は震える視線で何とか仲間たちをその瞳に捕らえようとする。

 こんな状態でも、きっと名護さんや翔太郎は、自分を支えるための言葉を言ってくれるに違いない。
 そんなどうしようもなく甘い考えに、それでも藁にも縋る思いで視線を走らせた総司の、その瞳が最初に映したものは。
 床に横たわりその腹を中心に服を際限なく赤く染めていく翔一と、彼に呼びかけ続ける一条の姿だった。


724 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:29:59 tJIwqj620

 「――あ」

 ガラガラと、何かが崩れ去っていくような錯覚を覚える。
 苦し気な翔一の瞳が、自分を見つめている。
 一体、何を言いたいのだろうか。いや、そんなこと考えるまでもない。

 ――なんで、こんなひどいことを。

 ――痛い、痛いよ、総司君。

 「あ、あああぁぁぁ……!」

 何を言うわけでもない翔一の瞳が、それでもなお自身にその痛みを訴えかけてくるかのようだった。
 やがてそうして届いた声は、今の彼の荒れ果てた精神状態においては、強い被害妄想と共に幻聴を発生させていく。

 ――やっぱり、化け物は化け物か。

 ――こんな化け物、殺した方がいいんじゃないか?

 ――もうお前は仲間じゃない、仲間を殺したお前なんか。

 「やめて……やめて……!」

 幻聴は、翔一だけでなく名護の、翔太郎の……或いは既に死んでいった仲間たちの声さえ伴って自身を責め立てる。
 お前なんか、仮面ライダーになれるわけないじゃないかと。

 「あああ……うわあああぁぁぁぁ!!!!」

 やがて、その声から逃れるために、総司は思い切り駆け出した。
 ただひたすら我武者羅に、それこそ海堂のもとから彼が逃げ出した時のように、何の思考も介することなく。
 その出所が自分の脳内であったとしても、それでも少しでも、その声を遠ざけるために。

 「総司君、待つんだ!おい!」

 そしてその背中をアンデッド越しに見やりながら絶叫するのは、名護である。
 だがその声は、決して届かない。最早何も耳に届かないといった様子で走る総司を前に、自分はあまりにも無力であった。

 「あーあ、行っちゃった。このバックルまで置いていっちゃって」

 「貴様……!」

 だがそんな名護の頭上を浮遊しながら、キングは一人呑気にブレイバックルをその手で弄ぶ。
 総司を言葉巧みに狂わせ翔一に致命傷を与えただけでなく、仮面ライダーに継がれてきたバトンであるブレイドをもまた悪事に使おうというのか。
 これ以上なく正義を愚弄する許されざる悪を前に、名護の握る拳はどんどんと力を増していく。

 だがそんな彼を前に、キングはカードを抜き去ることさえせずバックルを地面に落とした。

 「あげるよ。またリモートでアンデッドを開放するってのも、芸がないしね。
 それに、ブレイドを正義の味方じゃない奴が使うのもダグバの二番煎じで、なんか気に食わないし」

 「何だと……そんなゲームのような考えで、貴様はこんなに色んなものを滅茶苦茶にしたっていうのか……!」

 「そうだよ、だって僕はこのゲームを面白くするためにここにいるんだから」
 
 「キング、降りてこい。今からこの俺が、お前の命を天に帰してやる……!」

 「いやーそれは無理だと思うよ?それに、こんな長々と話してていいの?ダブルの左側、だいぶ苦戦してるみたいだけど」

 怒りに任せ宣戦布告をすれば、キングはあくまで軽薄な印象を崩さないまま顎で視線を誘導する。
 思わず後ろを振り向けば、そこにあったのは連戦から来る疲れ故か、翔太郎が今にもアンデッドに屈するのではないかというその瞬間だった。


725 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:33:07 tJIwqj620

 「――まさか」

 だが瞬間、ある可能性に気付き名護が再び振り返れば、果たして彼の予想通り、既にそこには誰もいなかった。
 この場から消えるための一瞬の注意を引くのが目的だったのか。
 行動の一挙手一投足全てが無性に小賢しい敵の幹部をこれ以上なく腹立たしく思いながら、名護はブレイバックルをその腰に巻く。

 先ほどまでの悪夢を、自身の手で晴らすためにも。

 「変身」

 ――TURN UP

 弟子に引き続き、仮面ライダーブレイドに変身を果たした名護は、今まさしく翔太郎に襲い掛かる怪人に向けて、思い切り剣を振り下ろした。


 ◆


 誰もいない荒野を、バイクで爆走する男が一人。
 法定速度を大きく上回る速度で焦土を駆け抜ける彼の名は、門矢士。
 G-2エリアでの乃木との戦いの後、ひたすらに北上を続けた彼は、何とか放送を前に病院に着くという目標まであと一歩、というところまで迫っていたのだった。

 この異常なまでの速度での移動を可能にしたのは、他でもないビートチェイサー2000の高いスペックと、そしてそれを完全に活用できるだけの運転技術を誇る士本人の手によるものだった。
 或いはオフロードバイクとしての性能が高いビートチェイサーでなければ、瓦礫の多い焦土をスムーズに抜けることは出来なかったかもしれないと思う一方で、士の脳裏に一つの懸念が過る。

 (……乃木に時間を取られたとはいえ、キングより早く着けてるかは正直五分ってところか)

 そして、これほどまでのスピードで走り抜けてきたとはいえ、自分が追ってきた忌むべき邪悪より早く着けているという確信はなかった。
 どころか、ここに来るまでに彼の姿が見えなかったことからも、既に奴が病院で参加者同士の関係をかき乱している可能性は、これ以上なく高いとさえいえるものだった。
 故に、士の面持ちは暗い。これ以上ない犠牲を奴の様な胸糞野郎に許すというのは、もう耐えられなかった。

 「……そろそろ、曲がってもいいころか」

 既に禁止エリアになったE-1エリアを避けるためにE-2エリアを通ってきた士は、病院に向かうため無駄な回り道を余儀なくされていた。
 しかし、病院の横腹が自身に向けて垂直にその姿を現したことで、彼はもう自分がD-2エリアへと訪れているのだと判断する。
 それを受け西方向へとバイクを向けながら、彼は既に放送まで数分というところまで迫っているのに気付いた。

 「出来れば、放送は病院で聞きたいところだけどな」

 決して穏やかな内容ではないことは知っているが、それでも路上で聞くよりは腰を据えて聞きたいものだと。
 ぼんやりとそんな思考を巡らせた彼が再び視線を前に戻した時、そこにあったのは。

 「ああああああああ!」

 雄叫びと共に、自身に向け走ってくる緑色の異形の姿だった。


 ◆


 「僕は……やっぱり化け物だったんだ……。
 仮面ライダーになんかなれっこない、醜い化け物……」

 病院を背に向けて、足を引きずりながら途方に暮れる青年。
 総司と呼ばれていた彼の精神は、しかしもう限界を迎えようとしていた。
 剣崎を殺した罪を贖い、海堂や天道の分まで仮面ライダーとして戦おうと決心したというのに、自分は仲間を殺したのだ。

 他でもない、剣崎の力であるブレイドの姿で以て。
 これ以上ない、仮面ライダーの姿を纏っていたというのに。


726 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:36:12 tJIwqj620

 「ごめんなさい、剣崎……。ごめんなさい、翔一……。僕は……!」

 自身が殺した相手の名を呼びながら、どこに向かうでもなくただ歩き続ける総司。
 彼の脳内には自身に向けた疑心が確かに根付き、それ以外の可能性をひたすら排除してしまっていた。
 その疑心とはつまり、自分の中に確かに存在するネイティブとしての悪意が、破壊を求め殺戮を繰り返させるのではないかという、最悪の可能性。

 その可能性に思い至ってからは、今までの全てがその答えへの根拠に繋がるような気がした。
 ウカワームが自分を嫌悪したのも、或いはネイティブの本性を知ったうえでのことだったのではないかと。
 ひよりに裏切られた後、彼女を背後から躊躇なく傷つけたのも、愛していたはずの彼女さえ破壊の対象になった結果なのではないかと。

 何もかもが彼の今まで築き上げてきた仮面ライダーとしての確固たる思いを打ち砕く棘になるように感じて、総司はそれ以上過去について思いを馳せるのをやめた。
 もう、これ以上自分自身を疑い苦しむのはごめんだ。
 だがそれでも、人間としての自分はもう何も破壊したくないとそう強く訴えかけてくる。

 「誰か……誰でもいいから……、僕を殺して……」

 葛藤の果てに思わず漏れた悲痛な叫びは、誰に届くわけでもない。
 だがそれでも誰かに願い請わずにはいられない自身の破滅。
 それを遂げられる存在を、彼はただ焦点さえ合わない視点で探し歩き続けて。

 「……あ」

 その末に、見つける。
 自身を“破壊”するのに最適な、男の存在を。
 バイクに乗った男の顔を、総司は以前に見たことがあった。

 それは、忘れるはずもない、東病院で剣崎一真を殺した時のこと。

 ――『壊してやる……全部……』

 剣崎を破壊し、これを手始めに全てを破壊するのだと、そんな破滅願望に取りつかれた自分に対し、彼は言った。

 ――『残念ながら、そいつは俺の役目だ』

 あぁ、それならば、彼に任せようではないか。
 もう自身の行動に明確な自信さえ持てなくなった自分でさえ、彼が破壊してくれるというのなら。
 真に剣崎の遺志を継いだ彼が、どこまでもまがい物に過ぎない自分を、仮面ライダーとして倒してくれることを、願うしかあるまい。

 そこまで考えて、不意に肩の荷が軽くなったような錯覚を覚えた総司は、走り出す。
 せめて彼が、煩わしい思いに支配されることなく自分を殺せるようにと、総司は忌むべきネイティブとしての姿に変貌しながら。
 最早天道総司としての姿さえ捨てて、総司は……否ネイティブワームはただ悪として倒されるためだけに、絶叫と共に世界の破壊者へと飛び掛かっていった。

 「ああああああああ!」


【二日目 早朝】
【D-2 市街地】


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、絶望、仮面ライダーブレイドに1時間50分変身不能、サナギ態に変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きたかった……。
0:僕はやっぱり生きてちゃいけない存在なんだ……。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きたかったけど、僕は……。
2:翔一、ごめんなさい……。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:ディケイドが世界の破壊者……?
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、ごめんなさい。
【備考】
※翔一を殺したのは自分の本性によるものだと思い込み自暴自棄に陥っています。。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに未だ資格者として認められているかは不明です。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、現状では半信半疑です。


727 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:38:02 tJIwqj620



【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに20分変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:取りあえずは目の前の怪人(擬態天道のサナギ態)に対処する。
2:キングを探すため、西側の病院を目指す。
3:巧に託された夢を果たす。
4:友好的な仮面ライダーと協力する。
5:ユウスケを見つけたらとっちめる。
6:ダグバへの強い関心。
7:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
8:仲間との合流。
9:涼、ヒビキへの感謝。
10:黒いカブトに天道の夢を伝えるかどうかは……?
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、電王の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※巧の遺した黒いカブトという存在に剣崎を殺した相手を同一と考えているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


 ◆


 「あいつ、どこまで行ったのかなー」

 わざとらしくその視線を右に左にと動かしながら、此度の混沌を生みだした男、キングは一人先ほど病院から逃げ出した総司を探していた。
 本来ならばゾーンメモリで逃げてもいいはずの現状で彼がそれを行わないのは、ひとえに未だ総司を落とし切れていない実感があるからだ。
 正義の仮面ライダーとしての自信を打ち砕くだけでは足りない。

 彼を再びこの殺し合いが始まった当初のような全てを破壊することだけ考える殺戮者に戻してようやくキングの望む結末を迎えるのだ。
 何故、そこまで彼が総司に固執するのかと問われれば、それは何より彼という存在こそがキングにとってこの場で最も気に入らない存在の一人だったからといって相違ない。
 良太郎や剣崎のような口先だけの正義の味方たち。

 そんなしょうもない有象無象に感化されて、彼は全ての世界を壊すという最高の遊びから、正義の味方として誰かを守るなんてつまらない存在に身を落とした。
 それが、キングには気に入らない。世界なんてつまらないし壊しても構わないものだという考えは実に正しいものだというのに、それを否定し何かを守ろうとするなんて、キングにとっては理解が出来なかった。
 だから、壊す。彼という存在が信じる仮面ライダーの正義も、そして彼自身も壊して、元の全てを破壊しようとする悪に彼を戻す。

 それが、今のキングの目的だった。


728 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:38:49 tJIwqj620

 「にしても、あいつも馬鹿だよね。
 ネイティブになったばっかりの人間が我を忘れることがあるのは事実だけど、あんだけ長い時間ネイティブだったあいつにはもう関係ないのに」

 誰に告げるでもなく、キングは告げる。
 確かに彼が先ほど総司に述べたネイティブが破壊を求める本性を持つという話は、そこまで突飛なものではない。
 グリラスワームに変貌した三島はそれまでの彼からは想像できないほどに凶暴になり、またZECTの隊員たちもまた人間としての記憶を忘れ攻撃本能のみで動く怪物に成り果てていた。

 そうした事例から考えれば総司への言葉もまた説得力を持ちうるものだったが、しかし総司においてもそうしたネイティブの攻撃性が我を忘れさせる可能性が未だあるのかと言われれば、それは甚だ怪しいものだった。
 或いは万に一つほどの可能性でそうしたこともあり得るのかもしれないが、少なくとも総司が今回暴走したのはネイティブであることが理由ではない。
 今回彼を暴走させたのは、『剣の世界』に存在する唯一無二、最悪の毒。

 ――アンデッドポイズン。

 そう、キングが先のブレイドの攻撃を前に放った切り札というのは、総司のブレイドへの変身後一人だけ忍ばせていたアンデッド、スコーピオンアンデッドだったのである。
 スコーピオンはブレイドに対し、アンデッドの自我を強く暴走させライダーシステムを纏う人間にまでその強い攻撃性を植え付けるアンデッドポイズンを注入。
 その毒はそれまでのキングとの問答で大きくアンデッドとの融合係数を上げていた総司の全身を駆け巡り、抗う時間さえ与えずに彼を攻撃本能だけで動く殺戮マシーンへと変貌させたのであった。

 その後のブレイドがどう動くかは正直キングにとっても賭けだったが、ちょうどうまい具合に彼は仲間を殺し、その安っぽい正義を自らへし折ったのだから、キングにとっては大成功もいいところであった。

 「まぁ、嘘はついてないよね。“僕”はアギトを殺してないし、ダークカブトに殺しをさせたわけじゃないもの」

 ただ本能に屈したあいつが悪いんだからさ、とこれ以上なく楽しげに笑って、キングはなおも総司の最期の一線を断ち切るためにその足を進めていった。


【二日目 早朝】
【D-1 市街地】


【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、愉悦
【装備】破壊剣オールオーバー+ソリッドシールド@仮面ライダー剣、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、カッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明、首輪(五代、海東)
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:さて、これからが仕上げの時間かな?
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
3:僕はまだ本気出してないから負けてないし!
4:ダークカブト(擬態天道)は徹底的に堕とす。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※他世界のコーカサスビートルアンデッドと一体化したためソリッドシールドが復活しました。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。


729 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:41:23 tJIwqj620


 ◆


 「――ハァッ!」

 ブレイドが勢いよく振り下ろしたブレイラウザーの一撃を受けて、彼らを足止めしていた最後のアンデッド……スコーピオンアンデッドはその身を大きく横たわらせる。
 そのバックルが封印可能を示すように開いたのを見てブレイドがブランクカードを投げつけると、そのカードには新しく力が宿り、再び彼の手の中に戻っていく。
 そうして握りしめたカードに刻まれた『POISON』の字に一つの可能性に至りながら、しかしそれ以上思考を重ねるより早く名護はブレイドの変身を解いた。

 「津上君、しっかりするんだ!津上君!」

 そのまま視線を走らせれば、血だまりの中でひたすらに呼びかけ続ける男の姿が、その瞳に映った。
 手やコートが返り血で赤く染まろうと一切諦める様子さえ見せず熱く声掛けを続けるのは、一条薫。
 そして、その血だまりをどんどんと赤く広げながら一条の手に抱かれている青年は津上翔一。

 その瞳の焦点は既に合っておらず……先ほど一条の延命処置を行って見せた名護の目から見ても、彼は明らかな手遅れだった。
 だがそれでも、一条を止める気にはならない。
 どうしようもなく悲痛な行為だとしても、それでも他者の命を願ってしまうのは、いつの世も残された者にとって当然の行いだった。

 「一条……さん」

 そんな中、ようやく一条の声が届いたのか、翔一は小さく呟く。
 彼が必死に絞り出したのだろう思いを前に、一条もこれ以上話すな、と止めることさえ出来ず、ただ彼の言葉を待つのみになってしまった。

 「総司君は……きっとあんなことをしたかったんじゃないんです。
 ただ少しだけ……混乱しちゃっただけで、本当はもっと別のことを……」

 「津上君……」

 息も絶え絶えに言葉を継いだ翔一の脳裏に過るのは、自身の姉であった沢木雪菜のこと。
 彼女はアギトとして覚醒するも暴走し、三杉家で翔一と同じく居候している風谷真魚の父、伸幸を殺害した後、自身の命も断ってしまった。
 彼女にだって、アギトになったとしても変わらない居場所はきっとあったのに。

 アギトになった自分には居場所がないのだと、そう断じた彼女のことを思えば……いや何よりも、今までに見た総司本人の強く優しい人間性を思えば。
 翔一は自身を殺めた彼のことを責める気など一切沸いてこなかった。
 だから、今何よりも心残りなのは、自身を殺したことに深い罪悪感を抱くだろう総司本人のことだ。

 彼はとても優しいから、きっと自分を殺したことをずっと悩み続けるに違いない。
 そんな心配はいらないんだよとそう声かけることさえもう叶わないという事実が、何より心苦しかった。

 「だから一条さんも……総司君を許してあげてください。これはきっと、誰も悪くないんです……」

 「当たり前だ。君がそう言うなら、俺は彼を許す。だから……だから生きろ!津上君!」

 どこまでも熱い一条の言葉に、少しだけ翔一は笑う。
 彼のその実直な姿に、自身のよく知るあの不器用な刑事を重ねたのかもしれない。
 そのどちらにせよ、翔一は最後の力を振り絞るように自身を抱きかかえる一条を見上げた。

 「なら最後に……もう一つだけお願い、聞いてもらえますか、一条さん」

 「あぁ……!」

 一条の短い応答を受けて、翔一は大きく息を吸い込む。
 自分の願いを、彼に託すために。


730 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:42:35 tJIwqj620

「俺の分まで、生きてください。中途半端でもなんでも、生きて……」

そこまで言い切って、これ以上その瞳を開けているのも、億劫に感じられたのか、翔一は瞳を閉じる。
しかしこんな最期を、一条が黙って見届けるわけはなく。

「――目を開けろ津上君!まだ君にはやりたいことがあるんじゃないのか!
この殺し合いが終わったら、絶対に君のレストランに食べに行く!だから死ぬな、津上翔一!」

一条は、その瞳に涙さえ携えて叫ぶ。
五代に引き続き、ただ自由を愛する一般人が、死んでしまう。
刑事である自分をも気遣い平等に守ってくれた心優しい青年が。

それだけはどうにか避けなければならないと、一条はその喉を嗄らすほどの勢いで叫び続けていた。
だがそうして翔一に呼びかけ続ける一条の肩を、ポンと叩く者が一人。
振り返ったその先にあったのは、彼もまた涙を堪えながら緩く首を振る翔太郎の姿。

それを受けて、ようやく一条も悟る。
津上翔一が、この世を去ってしまったのだという、どうしようもない現実を。
受け入れがたいこの結末を前に、一条薫は一人、悲痛な雄叫びを上げるほかなかった。


【二日目 早朝】
【D-1 病院】


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、五代たち犠牲者やユウスケへの罪悪感、強い無力感
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:今度こそ誰も取りこぼさない為に、強くなりたい。
1:小野寺君……無事でいてくれ……。
2:第零号は放置できない、ユウスケのためにも対抗できる者を出来る限り多く探す。
3:五代……津上君……。
4:鍵に合う車を探す。
5:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
6:小沢や照井、ユウスケの知り合いと合流したい。
7:未確認への対抗が世界を破壊に導き、五代の死を招いてしまった……?
8:もう悲劇を繰り返さないためにも、体調が治り次第トライアルの特訓を行う。



【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに1時間50分変身不能、仮面ライダーブレイドに1時間55分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ、ブレイバックル+ラウズカード(スペードA〜Q、ダイヤ7,8,10,Q、ハート7〜K、クラブA〜10)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:総司君……。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:紅渡……か。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。


731 : 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:45:09 tJIwqj620



【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、キングフォームに変身した事による疲労、仮面ライダージョーカーに1時間50分変身不能
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
1:名護や一条、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く……はずだったのにな。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:乾巧に木場の死を知らせる。ただし村上は警戒。
6:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
7:もし一条が回復したら特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
8:ジョーカーアンデッド、か……。
9:総司……。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。
※トライアルメモリの特訓についてはA-1エリアをはじめとするサーキット場を利用するものと思われますが詳細は不明です。


【全体備考】
※支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実はD-1病院内、レンゲルバックル@仮面ライダー剣はD-1病院前に放置されています。
※スパイダーアンデッドが完全封印されました。少なくとももうカードのみの状態で外部に影響を及ぼすことはありません。


【津上翔一@仮面ライダーアギト 死亡確認】
【残り人数 15人】


732 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:46:20 tJIwqj620
長時間お付き合いいただきありがとうございました。
以上で投下を終了いたします。

ご意見ご感想、ないしはご指摘などございましたらよろしくお願いします。


733 : 名無しさん :2018/11/09(金) 02:23:59 qIeXStqc0
投下お疲れ様です。
ブレイドを翔太郎に返さないのか…と最初は思ってたんですが、なるほどアンデッドポイズンとは…。
会場に残るマーダーの中では間違いなく最弱でありながら、豊富な情報と装備を活かしてあの手この手で攻めてくるキングはやはり厄介な存在だと再認識しました。
初代に引き続きまたしても不意打ちで倒れてしまった翔一君ですが、最後に意志を遺せた分本望なのかもしれませんね。個人的にはディケイドアギトのカードがこの先どうなるのかも気になります。


734 : 名無しさん :2018/11/09(金) 21:06:14 6SVwhtYY0
投下お疲れ様です!
アギトの世界もこれでリーチですか…巧、良太郎、翔一と主人公がどんどん脱落していく…


735 : 名無しさん :2018/11/09(金) 23:19:50 G8rEObY20
投下乙です

これまで幾度も場を和ませてくれた翔一くんが…もう真司とのやり取りも見れないと思うと悲しい…
キングは相変わらずの悪辣さ。こいつほんとハイパームテキでボコってやりたい(全ギレ)
そんなキングのせいで錯乱してしまった総司を何とか士が救ってくれることを願う

改めて投下お疲れ様でした!


736 : 名無しさん :2018/11/10(土) 06:10:14 47.hvsxI0
投下乙です!
キングはまたやらかしてくれたなぁおい! キング怖いよ……
総司は剣崎の遺志を受け継いで、そして津上さんは小沢さんを始めとしたたくさんの人達の仇を取ってくれたから、燃えてきたー! けど……まさか、こんな結末になるなんて。
士と総司は再会したけど、このまま総司は救われるのか……?


737 : 名無しさん :2018/11/10(土) 11:54:13 jb74tRpI0
キングがエボルトみたいに見えてきたな
実際にあったら外道同士で仲良くなるんだろうか


738 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/14(水) 01:38:50 BhXtFuOk0
皆さんこんにちは。
たくさんのご感想ありがとうございます。一つ一つ、しっかりと目を通しこちらとしても楽しませていただいています。
これからも何卒よろしくお願いします。

さて、今回は以前から予告していたとおり次回投下となる第三回放送についてです。
といいましても今回は私しか放送案を投下する書き手がいない上本投下までに生じるラグや手間など問題がありますので、仮投下は経由せずこちらに直接投下したいと思います。
もちろん、内容に著しい違和感がある、ないしは問題なのではないか、などのご意見がございましたら仰って頂いても構いませんし、その時は迅速に修正いたしますのでよろしくお願いします。


739 : ◆LuuKRM2PEg :2018/11/14(水) 19:40:52 B7wFkSKY0
第三回放送の投下は本スレの直接投下で問題はないと思いますよ。
他の書き手氏の中で、放送案を投下したいという意見もないので。


740 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/15(木) 22:35:30 x0zHVe060
皆さんこんにちは、9/16〜11/15期間の月報集計です。

話数(前期比)/生存者(前期比)/生存率(前期比)
133話(+3)/16/60(-2)/26.6(-3.4)

前回月報に比べ投下数1増やせました。次回月報は3〜4本投下するのを目標に頑張ろうと思います。


741 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:00:13 rh/2hsCU0
お待たせいたしました。
これより投下を開始いたします。


742 : 第三回放送 ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:05:04 rh/2hsCU0

 会場を包む広い大空を、朝焼けが照らす。  
 輝かしいその朝日に対し、しかしこの場にいる誰も爽やかな心象は抱かなかった。
 何故なら今は、世界の存亡をかけた殺し合いの真っ只中。

 だがそれでも、恐らくこの会場で生きている参加者の全ては、今この瞬間だけは揃って空を見上げていることだろう。
 無論、陽の光を浴びるためなどではない。
 突如空を覆う様に現れた灰色のオーロラと、それから吐き出されていく無数の飛空艇を、その目に収めるため。

 そして同時そのモニターが告げる、この6時間の死者の情報と、これから先生き延びるために必要不可欠な情報を得るために。
 そう、現在時刻は6:00。大ショッカーが執り行うこの殺し合いにおいて、三回目の定時放送が行われる時間を迎えたのであった。


 ◆

 
 突然に、何らかの楽器の音が会場を支配した。
 今までの放送担当者のいずれとも違う、暗く閑散とした部屋の中で、男はただ一心不乱にパイプオルガンを演奏し続ける。
 その音に秘められているのは、並々ならぬ怒り。

 この殺し合いの参加者に向けられたものなのか、或いはもっと別の、概念的な何かに向けられたものなのか、誰にもわからない。
 長い髪で表情を隠し一心不乱にオルガンを弾き続ける男の演奏は、やがて終わる。
 感情を多分に込め、恐らくは誰が聞いても素晴らしいと評価するだろうそれを終えた男は、しかし一切の拍手を受けることもなく立ち上がり、ゆっくりとカメラの前に歩みを進めた。

 やはり長い髪が彼の顔を影で覆い、その表情は読み取れなかったが……その中で唯一、しっかりと露出した鋭い片眼がカメラの先を見据えていた。

 「――時間だ。これより、第三回の定時放送を開始する」

 男は、過分に口を開くことはなく、しかしどこまでも透き通るような不思議な声で、放送の開始を宣言する。
 つまりは彼が、大ショッカーが行う殺し合いにおいて、三回目の放送を担当する者だということだ。
 今までキング、三島正人、ラ・バルバ・デといった軒並みならぬ面子が担当したこの放送。

 だがそうした中でも、男はまるでこういった殺し合いの経過を告げるのに一番慣れているといった様子で再び口を開く。

 「――俺の名前は神崎士郎。これから、この6時間で死亡した参加者と禁止エリアについて発表する」

 その証拠に、というべきだろうか。
 今までに放送を行ったいずれとも違い、神崎と名乗った男は前置きすら話すことはなく情報を提示しようとする。
 或いは彼なりには先ほどのオルガン演奏がそうした前置きにあたるものだったのかもしれないが、ともかく。

 手元の資料をめくるどころか視線さえ一切動かさぬまま、神崎は続ける。

 「――この6時間で死亡が確認された参加者は、ン・ダグバ・ゼバ、津上翔一、浅倉威、乾巧、橘朔也、志村純一、野上良太郎……以上7名。
 これにより、多くの世界が残り参加者一人にまで追いやられた。
 ――この戦いも、終わりが近づいている」

 死亡が確認された参加者。
 これまでの放送担当者のいずれもが使わなかった表現を用いて死者の発表を行ったことに、誰か気付いたのか。
 ともかく、さした間を空ける事もなく、神崎は続けた。

 「――次に、禁止エリアの発表だ。だが、今回は別段メモを取る必要もない。
 今回の禁止エリアは、A-4からH-8エリアまでの40エリア……つまり会場内にかかる橋から以東のエリア全てだ。
 時間についてはこれから二時間後……午前8時を以て、これらのエリアを全て禁止エリアに制定する」


743 : 第三回放送 ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:07:59 rh/2hsCU0

 神崎士郎が述べた言葉は、あまりに衝撃的なものだった。
 つまりは、実質的にこの殺し合いの会場が半分以下になるということ。
 それは、残り少ない参加者人数をより効率的に巡りあわせ、殺し合いをより円滑に行うために大ショッカーが編み出した、あまりにも強行的な殺し合いの促進手段であった。

 恐らくは会場内でも喧騒が予想されるその発言から少し間をおいて、神崎は改めてその眼差しで鋭くカメラを……或いはその先の参加者たちをその視線で貫いた。

 「――そして、会場に現在生存する全ての参加者がその存在を知った今、ここで改めて会場に参加者ではない存在が存在していることを公表する。
 彼らは当然参加者ではない。この殺し合いの結果には一切関係しない、イレギュラーだということを示しておく」

 彼が述べたのは、大ショッカー幹部である特権を万全に使い多くの参加者を陥れたキングのことだけではない。
 “彼ら”という言葉からも分かる通り、復活したカッシスの存在をも、我々は把握しているぞと。
 そう誰にともなく示すためのものだった。

 「――同様の理由で、今回は世界別殺害数ランキングの発表は行わない。
 イレギュラーである存在がキルスコアを稼いだ以上、最早あのランキングになんらの意味は存在しないからだ」

 そしてそこまでを一息に言い放って、神崎はこれからが本題だと言うように一つ息を吸い込んだ。

 「――また、今回の放送を以て殺し合いに積極的な行動を起こしていた参加者が著しく減少したことを受け、殺し合いの更なる促進のため、これより会場に参加者外の存在が新たに参入する」

 それは、まさしく大ショッカーからの仮面ライダーへの宣戦布告と言っていいものだった。
 キングの厄介さを知ったうえで、お前たちはまたああした災厄を相手に戦い抜けるのか、と。

 「――どういった存在がいつどこに現れるか、どれだけ現れるのかはここでは明かさない。
 そして、繰り返すことになるが彼らはこの殺し合いの結末にいかなる影響も及ぼさない。
 同じ世界の出身だからと言って協力できるなどとは考えないことだ」

 警告のようで、実質ただの脅しに過ぎないその言葉を吐いて、神崎は事務的な内容を全て言い終えたのか、大きく息を吸い込んだ。

 「――戦え」

 その末に吐き出された言葉は、極めて短いもの。
 何度も何度も殺し合いを繰り返し、その度にライダーたちに吐き捨ててきた言葉。

 「――戦え。世界が最後の一つになるまで」

 その瞳は、何を映すこともない。
 ただ虚空だけをその鋭い瞳に映して、神崎士郎はまるでゼンマイ仕掛けのカラクリのように、幾度となくその言葉を繰り返した。

 「――戦え。自分の願いを叶えるために」

 最早それは呪詛となって、参加者に降りかかる。
 ……いや或いは、神崎士郎本人にさえも。

 「――戦いを続けろ。仮面ライダー」

 “仮面ライダー”という言葉を発するその一瞬だけ、目線をわずかに揺るがせて。
 次の瞬間にはもう、放送は終了していた。


 ◆


 カツカツ、と忙しなく音を立てて、鷲のエンブレムが飾られた廊下を早足で歩く男の姿。
 見るからに肩を怒らせ苛立ちと共に進む彼の名前は、ビショップ。
 小さく何かに止めどなく文句を漏らしながらも足を止めることはない彼の姿は、その張り付いたような表情も含めて著しく不気味なものだった。

 だがその歩みは、突然に止まる。
 視線の先に、自身の上司にあたる存在を視認したためだ。


744 : 第三回放送 ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:13:35 rh/2hsCU0

 「……死神博士、お探ししておりました」

 「ビショップか、放送が終わったばかりだというのに、忙しない奴よ」

 「……申し訳ございません」

 暗い通路の果て、突然に現れた死神博士の言葉に、ビショップは平謝りと言った様子で頭を下げる。
 しかし、その表情には少しばかりの苛立ちが隠しきれていない。
 それを死神博士も分かっているのか、一つ溜息をついた後にビショップへと一歩足を勧める。

 「お前の気持ちはわかる。だが、かのファンガイアの王と今会場にいるキングとの間には、首輪の有無や参加者への情報量について無視出来ない差があるのだ。
 奴がこの6時間を生き抜けたからと言って、それがそのまま絶対的な差となるわけでは……」

 「死神博士、お言葉ですがそれ以上は口をお慎みください。奴のような無礼者と、我らがファンガイアの運命を背負う王を同列に並べること自体が我らへの侮辱に他なりません」

 「……そうか、すまない」

 僅かばかりビショップの心象を思い気遣うような発言を行った死神博士に対し、ビショップは変わらず無表情のまま返す。
 これ以上そのデリケートな問題について語り合っても互いに気を損ねるだけだと悟ったか、暫しの沈黙が場を支配するが、それを掻き消すようにビショップは一つ息を吐いた。

 「――それよりも。財団Xからの使者と交渉が終わりました。
 我々の要求通り、彼らはこの殺し合いの経過記録と引き替えにその技術力を提供してくれるそうです」

 「そうか。それは何よりだ。我らが首領は偉大な力を持ちこそするが、故にその手をこれ以上他で代替可能な事象に煩わせるのも憚られる。
 これで心置きなくあの御方はご自身の身体の修復に専念できることだろう」

 どこか満足げに、死神博士は笑う。
 その姿に姿さえ見えない首領へのこれ以上ない忠誠と献身の思いを感じて、ビショップでさえ僅かばかりその忠臣ぶりに舌を巻いた。
 だがそんな中でもビショップは自身の仕事を忘れはしない。

 咳を一つだけ吐いて、こうして放送終了後すぐに死神博士を捜し歩き続けていた最大の理由を語り出した。

 「……財団Xの使者が、今後協力を行うことへの頭金として、“彼”の完全な復活を行いました。今すぐにでも、殺し合いの会場に送り込めるかと」 

 財団Xという得体のしれない存在に対しビショップからすれば相当の功績である。
 同時死神博士もまた、かねてよりの目標でありながらも首領の手を煩わせるまでもないと後回しになっていたそれの蘇生が叶ったことに、喜びを隠しきれない様子であった。
 少しばかり興奮に息を弾ませて、その後にいつもの冷静さを取り戻した死神博士は、調子を戻すように一つ咳を吐き、続けた。

 「本当か。では早速頼むぞ。具体的な時と場所については、お前に任せる」

 「かしこまりました」

 それだけを言い残し踵を返した死神博士に対し、ビショップは深々と頭を下げる。
 やがて死神博士の姿が闇に消え、足音さえ聞こえなくなったのを確認してから、彼はゆっくりとその面を上げた。

 「……」

 ビショップはそのまま、鉄仮面のように変わらない表情を顔に張り付けてゆっくりと歩きだす。
 その心にあるのは、ひとえに首領たるテオスの偉大なる力が我が誇り高きファンガイアに注がれるまで、あとどれだけ耐え忍べばいいのだという沸き上がる不満だ。
 アンデッドのキングは、比べるまでもなく及ばないことさえ知らず我が魔王を愚弄し、そして会場で好き勝手に暴れまわっている。

 彼の自信過剰な愚かぶりについては、いずれ滅びゆく愚者に思考を巡らせるだけ無駄と断じ無視することにしたものの、同じ大ショッカー幹部として、彼と自分との待遇にさほどの差が生じていないことは如何ともしがたい不満である。
 財団Xの使者との交渉に始まり、逐一の殺し合いの経過観察なども自分の仕事なのだ。
 自分自身だけが最上の存在であるキングと種族を背負っている自分との差を考えても、よりよい待遇を望むのは当然のことだった。


745 : 第三回放送 ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:17:30 rh/2hsCU0

 「……」

 だが、ビショップはそれを上司である死神博士や、身の回りの世話役として関わりのある首領代行であるバルバに訴えはしない。
 無能なキングである登太牙に文句さえ言わず仕え続けてきた実績があるのだ、この程度の苦心など、彼にとってはないも同然だった。

 (とはいえ私も、いつまでもただで使われているだけではない……)

 今こうして黙って仕え続けているのは、やがて訪れる我が種族の再興のために過ぎないのだと、何度目とも知れず自分を言い聞かせて。
 やがてその足は、一つの水槽の前に辿り着く。
 財団Xとの交渉の末、完全なる再復活を再度果たした異世界の王。

 滅びゆくその種族に、永遠の命を与える能力を持つ、ある種テオスが最も忌む存在の一つだろうそれを前にして、彼は不気味に口角を吊り上げる。
 自分の一存でこれを会場に送り込めるという、ようやく得た一つのチャンスを手にして、ビショップは一人その灰色の異形を見つめ続けていた。


 ◆
 

 大ショッカーの本部、どこまでも鷲のエンブレムがライトアップされた薄暗い廊下を、女が歩いている。
 異形が蠢くこの施設において生身である彼女は幾分か浮いた存在であったが、しかし彼女をその瞳に映した怪人たちは皆その膝を折り揺ぎ無い忠誠を示した。
 彼女の名前は、ラ・バルバ・デ。この殺し合いを主催する大ショッカーの首領代行を務める最高幹部である。

 そして彼女は、重く閉ざされた一つの扉の前で、その足を止める。
 テオスより遣わされた三人の天使らがそれをこじあける様子に一切の労いを吐くこともなく、彼女はそのままその扉の先に足を進めた。
 そしてすぐに、辿り着く。一筋の光さえ差さない、暗い独房の一つ。

 彼女が今唯一労うべき、その表情を長い髪で隠した男の部屋に。

 「第三回放送の担当、ご苦労だったな。神崎」

 バルバは、前置きもなく見下すような視線のまま男に向けて吐き捨てる。
 彼女ほどの存在がこうした雑事を伝えるというそれ自体が彼女をよく知るグロンギからすれば驚愕の事実であったが、ともかく。
 だがそんなバルバを前に、神崎はなんの感慨を滲ませることもなく少しだけ面を上げた。

 「――俺は、いつになればここから出られる。いつになれば、優衣に再び会えるんだ」

 それは、神崎という男からすれば相当に悲痛な叫びだった。
 無理もない。彼はこの場に連れてこられる前、妹の命を救うための幾度となく繰り返した殺し合いをついには諦め妹と自分の死を享受することにしたのだ。
 それこそが、妹の願いなのだと、そう悟って。

 だがそうしてミラーワールドごと自身の存在全てを消滅させたはずの神崎は、ありとあらゆる異能を超える全知全能の神、テオスによって呼び戻されてしまった。
 13のライダーデッキの提供と、そして何よりライダーバトルを幾度となく繰り返した者として、この殺し合いをより効率的に進めるノウハウを得るために。
 しかし、ここで新たな疑問が生まれる。

 何故ただの協力者にすぎないはずの彼が、こんな独房で軟禁状態に落とし込まれているのか。
 だがその答えは、単純明快なものだった。

 「分かっているだろう、神崎。この境遇からも分かるだろうが首領は、人と人とが殺し合うお前の世界の存在を……そして人がアギトにも並ぶ力を容易に得られる鎧を作り出したお前を嫌悪している。
 お前がここを出られるのは、この殺し合いが終わった時だ」

 前と全く変わらないその決まり文句を前に、神崎は大きく項垂れた。
 他の大ショッカー幹部と違い、神崎はこうして一人独房に閉じ込められている。
 首領であるテオスが掲げる『人は人を殺してはならない』という鉄則を、過去のライダーバトルにおいて自分は幾度となく破ったのだから、それも納得であった。

 もちろん、世界の存亡をかけたこの殺し合いにおいて特殊な移動手段を持つ神崎を監視し続けるのは骨が折れるという事情もあるのだろう。
 だが何時終わるともしれないこの状況は、悠久の時を妹の延命の為の戦いに捧げてきた神崎にとっては、いかんともしがたい苦痛にしか感じられなかった。
 故に黙り込んだ神崎に対し、バルバはなおも冷たく続ける。


746 : 第三回放送 ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:20:07 rh/2hsCU0

 「だが、安心しろ。首領は確かにお前を嫌悪してはいるが……殺し合いが終われば、その結果がどうであれ協力の見返りとしてお前の妹を蘇生させると、首領は確かにお前と約した」

 「――あぁ」

 バルバの言葉に、神崎は短く返す。
 先に述べたとおり、テオスは神崎士郎が作り上げたライダーを、そしてライダーバトルの仕組みを嫌悪していた。
 だがそれを認めた上でなお、こうして世界選別を行う上でミラーワールドと誰にでも変身が可能なライダーシステムは魅力的だと、そう強く推薦したバルバの手によって、神崎はこうしてここにいるのだ。

 彼女からすれば、リントがグロンギと等しくなるという自身の考えに最も等しいのは神崎のいる龍騎の世界であり、幾度となく繰り返される戦いのどれもが、非常に興味深いものであったらしい。
 そしてテオスのことをも強く説得し、彼女の狙い通りに――或いはテオスの懸念通りに、龍騎の世界より来た参加者とカードデッキは、それぞれ甚大なる被害をこの殺し合いに巻き起こしたのであった。

 「……言いたいことは終わったか?ならばまた後に来る」

 しばし黙り込んだ神崎を前に、それだけ冷たく吐き捨てて、バルバはそのまま踵を返し神崎を一人残し歩き去って行く。

 やがて数秒の後、重く閉ざされた鉄の門が僅かに差し込んでいた光さえ重い扉に阻まれ消えたのを確認して、神崎は大きく息を吐き出した。
 これでいい。ライダーバトルを繰り返しても優衣がその命を受け取らないのなら、今の自分以上の、それこそ神に匹敵する存在に頼り彼女の生を揺るぎないものにすればいい。
 或いは自分はミラーワールドの存在が消滅することで今度こそこの存在を無に帰すのかもしれないが、それでも。

 優衣だけでも、勝ち残った世界で、ただどこにでもいる少女として生きることが出来るというのなら、俺はそれでいい。
 それならば、優衣も自身の命を投げ出したりなどしないはずだと、そう考えて。

 ――『ねぇお兄ちゃん。もしもう一度絵を描けたら……モンスターなんかがいる世界じゃなくて……二人だけの世界じゃなくて……皆が幸せに笑ってる絵を……!
 お兄ちゃんと、一緒に……!』

 優衣があの時、消滅する寸前に自分に向けた言葉を、そしてその手を思い出す。
 自分は優衣の差し出した手を、受け止めることが出来なかった。
 だから今度こそはと、そう思う自分がいる一方で、どこか前までの妄執にも似た優衣の生への思いがすっかり萎えている自分を自覚する。

 優衣の存在をどうでもよく思うわけではない。
 だがテオスによる力だろうがなんだろうが、彼女は自分がいない世界を望むのだろうかと。
 二人しかいないあの部屋の中で、それでも皆が笑っている幸せな世界を描けたならと望むようなあの心優しい妹が、世界の滅亡の果てに得られた偽りの安寧を、享受するのだろうか。

 「――」

 神崎士郎には、分からない。
 他者に犠牲を強い続け、代わり映えのない殺し合いの日々を……そしてその末の失敗を拒み続け人の心さえ摩耗した今の神崎には、その答えは分かるはずもなかった。
 だから、ただ待ち続ける。

 この殺し合いが終わるその時を、そして――。

 「――城戸、真司……」

 ミラーワールドを作り出した元凶であるが故に、なのか、幾度となく繰り返すループの中で絶対にライダーバトルに参戦する、龍騎の世界最後の生き残りが、いかなる結末を迎えるのかを。
 今の神崎には、待ち続けるしか出来なかった。


 ◆

 
 大ショッカーの本拠地と呼べるこの施設の中。
 一層広い広間には、しかし他とは違い一切の物音が存在していなかった。
 だがそれも当然のこと。

 ここに在する玉座こそ、大ショッカー首領がいずれ座する唯一の場。
 並の怪人は勿論幹部でさえそう易々と立ち入ることは出来ない、首領との謁見の場なのだから。

 「……ゲゲルはなおも、お前の言葉を無視して順調に進んでいるな」

 ――えぇ。


747 : 第三回放送 ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:26:44 rh/2hsCU0

 無人の玉座に向け告げたバルバの声に、どこからともなく透き通るような返答が響く。
 あまりにも短いその返答は、或いはただ自身の愛した人という種が未だ殺し合いを享受していることに対する憂いに感じられるかもしれない。
 だが瞬間、表情さえ読み取れないはずの彼の、その声音の本当に僅かな差異だけで、バルバは声の主が……大ショッカー首領たるテオスが抱える繊細な感情を見抜いていた。

 「何がお前をそこまで沈ませる?
 お前の世界の参加者が滅亡まで残り一人にまで減ったことか?それとも、ダグバの――」

 ――それ以上“アレ”について話すのはやめてください。ラ・バルバ・デ。

 彼がそうまで憂う事象について思い当たる節を幾つか述べれば、帰ってきたのは先ほどのものに比べ幾らか威圧感を増した忠告であった。
 バルバ達グロンギにとっての王とでもいうべき存在、ン・ダグバ・ゼバ。
 この殺し合いにおいて強い制限を設けられてなお未だ殺害数ランキングトップを独走する彼の存在を、今バルバと話す声の主は快く思ってはいない。

 首輪による制限を以てして頭を抱えるほどの災厄をもたらしたダグバは、しかし先ほど様々な事象が噛み合ったために未だその生を止めてはいないのである。
 どころかむしろ首輪による制限からさえ逃れ不死の存在となったのだから、彼が好き勝手に歩き回ればこれまでを上回るほどの惨劇が繰り広げられてもおかしくはなかった。
 他世界の者であっても人という種そのものを溺愛する声の主にとって、今のダグバはまさしく天敵で……本来ならどんな大義名分があったところでその視界に入れたくない存在のはず。

 故にバルバはテオスを彼女なりに気遣ったのだが、しかしその名前を耳に入れるのさえ煩わしいとでも言いたげに彼はそれを否定した。
 であれば一体何が気がかりなのだ、と空席の玉座に対して眉を顰めたバルバはしかし、すぐに一つの可能性に思い至る。

 「アギト……か」

 バルバが述べた小さな単語に、声の主は押し黙る。
 聞こえなかったわけではあるまい。ただその名前について、声の主は並々ならぬ因縁があるというだけのことだ。
 それをバルバも理解しているから、彼の返事を待つこともせず、続けた。

 「確かお前は、かつて人の側からアギトを滅ぼすための使徒として蘇らせた男に言われたのだったな。
 人はアギトを、人間の無限の可能性として受け入れるだろう、と」

 ――えぇ、その通りです。しかし……アギトは結局、滅びを迎えました。

 声の主は、どこか寂しげに呟く。
 結局の所、人間とアギトはやはり、交わう事のない異なる種だということ。
 かつての使徒がその二度目の生を絶やす瞬間まで信じた人間とアギトの共存という可能性が、こうも容易く消え去ったというその事実は、彼の心に僅かばかりのしこりを残したのである。


748 : 第三回放送 ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:27:11 rh/2hsCU0

 ――人が私の愛に足る存在なのか、見極めるのはともかく……少なくともアギトは、人と共に生きていけない。それはこの殺し合いで、明らかになりました。

 「……さぁ、それはどうだろうな」

 だが悟った風な言葉を吐いたきり黙り込んだ声の主を前に、バルバは一人視線を会場のモニターに映しながら独りごちた。
 彼はアギトが滅びたというが、果たしてそうだろうか?
 アギトが本当に人間の可能性の顕現だというのなら、こんな苛烈な環境の道半ばでこうも簡単に消え失せるものだろうか。

 むしろこの殺し合いこそが、人を極限まで成長させる可能性の大輪を咲かせるに足る舞台だとするのなら……。
 或いは木野薫、津上翔一の死もまた、その先にあるアギトの存在が滅んだという結論には、辿り着かないのではないのかと。
 ただの推論に過ぎない故に、玉座から降る声には告げぬままに。

 ラ・バルバ・デは、モニターに映る一人の男を注視していた。



【全体備考】
※禁止エリアはA-4エリアからH-8エリア、俗に言う東側エリア全域です。
※今後、殺し合いに主催者戦力が加入することが明かされました。どこにどの程度投入されるかは後続の書き手さんにお任せいたします。
※主催側には、今までに明らかになった存在以外に【神崎士郎@仮面ライダー龍騎】がいます。参戦時期は原作終了後、殺し合い終了後の神崎優衣の復活を条件にミラーワールド、仮面ライダーについての研究成果を渡したようです。現在は独房に軟禁されています。
※【財団X@仮面ライダーW】は大ショッカーのスポンサーとして殺し合いの経過観察の報告を条件に以後も殺し合いに協力するようです。
また、協力の頭金として【オルフェノクの王@仮面ライダー555】を五体満足の状態で復活させました。その扱いについては【ビショップ@仮面ライダーキバ】に一任されています。※世界別殺害数ランキングは、【キング@仮面ライダー剣】がキルスコアを稼いだために公表されなくなりました。恐らくこれ以降も同様だと考えられます。


749 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/18(日) 00:29:07 rh/2hsCU0
以上で投下終了です。
第三回放送以後の本編SSについては、この投下終了宣言を以て解禁にしようと思います。
ご指摘やご意見等ございましたらお願いいたします。
特に今回は仮投下を経由していない分色々自由にやっちゃった側面もありますので、何か気になった点があったらお気軽にどうぞ。


750 : 名無しさん :2018/11/18(日) 01:39:43 AoxKERM20
投下乙です。ただでさえ厄介なマーダーがまだいるというのに、ここにきてさらなる強敵に加えて半分が禁止エリアになるとは…ライダー達の苦難はここからが本番なのでしょうか。
しかし絶望的な状況でも真司、そしてモニターに映る男から微かな希望も残っていますし、ここからの展開に期待です


751 : 名無しさん :2018/11/18(日) 06:26:38 oc2sY01Y0
第三回放送投下乙です!
今回の放送案担当が彼になるとは、どこか初代ライダーロワを思い出させてしまいますね……でも、心が荒みきっている姿は悲しくもあります。
そして会場の禁止エリアも一気に増えて、今後は追加戦力が徐々に投入されるとなると、ますますヤバいことになりそう。


752 : 名無しさん :2018/11/21(水) 03:02:33 sEOjbJec0
大ショッカーのメンバーが新たに追加されたな。
これで残すは電王と響の世界だけだな。


753 : ◆LuuKRM2PEg :2018/11/23(金) 21:39:39 zLh1vBWA0
◆JOKER/0r3g氏、第三回放送の投下お疲れ様です。
既に残り参加者数が16人となったことで会場の大半が禁止エリアとなってしまい、新たに追加戦力が投入されることが彼の口から語られてしまえば、更なる波乱を呼び込みそうですね。
大ショッカー側でもビショップも新たに戦力を手に入れて、果たして何をしでかすか……? 


ttp://or2.mobi/data/img/216129.jpg
そして>>265,>>558に続いて支援イラストを投下させていただきます。
◆MiRaiTlHUI氏による第122話『夢よ踊れ』にて、三原が変身したデルタがルシファーズハンマーを浅倉に放つシーンをイラストにさせて頂きました。
仲間達との絆を胸に、みんなを守るためにたった一人で浅倉を相手に立ち向かい、打ち勝った場面が非常に印象深かったので。
巧や良太郎の死など、立て続けに起きる悲劇で心は不安定ですが、みんなを思いやる優しさを持ち続けている三原を応援していきたいです。


754 : ◆JOKER/0r3g :2018/11/24(土) 13:23:38 UkL6HfXM0
◆LuuKRM2PEg氏(記念すべき753レス目ですね)支援絵ありがとうございます!
涼やたっくんに引き続いて支援絵をもらえるのが三原だなどと、恐らく誰も思わなかったことでしょう
当ロワのアイドル三原、その伝説はどこまで続くのか、今後とも見守っていきたいですね


755 : ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:16:29 ZlcWppgI0
これより、投下を開始いたします。


756 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:20:28 ZlcWppgI0

 月明りだけが差し込む暗い廊下の中、嫌悪感を伴うツンとした鉄のにおいが鼻腔を刺激する。
 そのにおいの発生源たる男、津上翔一は、既に事切れ物言わぬ死体となっている。
 専門家が見るまでもない。端正な顔が青白く変貌し、体の末端に至るまでも徐々に熱を失っていく様を見れば、それは誰の目にも明らかなことであった。

 だがそれでも、その血だらけの死体を強く抱きかかえ、自分自身も返り血に赤く染まりながら咽ぶ男が一人。
 男、一条薫にとって、津上翔一は取りこぼしてはならない希望であった。
 無論、彼にとってはどんな人間であっても守るべき存在であることは疑いようもない。

 だがそのうえで、今は亡き友である五代雄介を思わせる自由な翔一の命が、今度は自分の手の中で失われてしまったという事実。
 それは、冷静さが売りである一条を心の命ずるまま慟哭させるに足るものだったのである。
 そして同時、絶望に沈む一条を前に、左翔太郎はあまりの居た堪れなさに帽子を伏せた。

 「クソ……どうしてこうなんだよ……」

 どうしようもなく漏れたその言葉は、実際のところ自分の不甲斐なさを呪うものでしかない。
 木場に音也、そして今度は翔一だ。
 半人前だとしても自分は仮面ライダーなのだと、すぐ目の前の仲間を守れるだけの力はあるはずだとそう考えて戦ってきたというのに、実際はどうだ。

 相川始に、ダグバに、そしてキングを名乗ったあの胸糞悪い大ショッカー幹部に。
 自分は毎度良いようにやられているだけではないか。
 問うまでもなく平和を願い戦った戦士たちが、自分の手の届くはずの距離で消えていく。

 それがどうしようもなく悔しくて、そしてどうしようもなく苦しかった。

 「総司君……」

 名護が、ポツリと消え入りそうな声で呟いた。
 自身の弟子としてその罪さえ受け入れた男が、その意に反してまたも殺人の罪を犯してしまったという事実は、この名護啓介という人間を以てしてもどうしようもなく辛い。
 翔一が死んでしまった事実も、当然辛いことではあるし、下手人が違えば名護は正義の名のもとに断罪を下したとしてもおかしくはなかったはずだ。

 だが総司は、翔一の死を望むような男ではない。
 少なくとも……今はもう、違うはずだ。
 彼は前までの自分から変わることを望み、そして運命もそれを受け入れ彼を仮面ライダーに”変身”させたのだから。

 もちろんかつての名護であれば、罪を犯した人間はすべからく裁かれるべきという思考で以て、今まで弟子だと考えていた存在にさえ迷いなく剣を振り上げたかもしれない。
 だが今の名護は、もう昔の様な視野の狭い愚か者ではない。
 罪を犯した存在の心に、再び罪を犯そうとする意志がないのなら、そしてまた罪を犯したとしても悔い改めやり直したいと心底から願う限り、神はそれを受け入れるのだと、そう思っている。

 だからこそ、そうして罪を悔い、全てがいい方向に回りかけていた総司の運命の歯車が音を立て崩壊する様を目の当たりにするのは、やはりやりきれなかった。


 男たちの間に、緩やかに絶望が流れる。


 防げなかった仲間の死に、不甲斐ない自分自身への積もり積もった自責の念に、そして一人絶望に駆られ外に消えた弟子の本心を思って。
 義憤に転換させることさえ叶わないその絶望を、男たちはただ漫然とした時間の流れと共に消化しようとする。
 だがここは世界の存亡をかけた殺し合いの場。そんな甘えは……許されない。


 ――パイプオルガンの音が、彼らの思考をかき乱す。


 近くから聞こえる、とも言い難い音量で流れ出すそれを前に、男たちは目を見合わせる。
 最早この会場に訪れて18時間、これから何が起きるかは知っていた。
 その視線に未だ芯が戻っていないとしても、それでも今から始まるそれを聞き逃すわけにはいかないと。


757 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:22:15 ZlcWppgI0

 歪ながら我に返った男たちは、そのまま病室の窓から空を見上げる。
 果たして彼らの予想の通り、陽が顔を覗かせ灰色に染まり始めた空を、無数の飛空艇が所狭しと埋め尽くしていた。
 恐怖さえ覚えそうな、今にも落ちてきそうな空そのものにしかし、もう怒りしか覚えないままに。

 放送が、始まった。


 ◆


 「橘……」

 放送を終え、オーロラに消えた飛空艇を見届けて、名護は俯き呻く。
 名護が最初にこの会場で出会った異世界の戦士、橘朔也。
 可能性を十分に検証せず先走ったり、考えがすぐに口に出てしまったり、危なっかしい部分もあったが、しかし彼は決して悪意からそれを行っていたわけではない。

 だからこそ自分やヒビキは彼の仮説を信じたし、同時に彼を信じて分かれることが出来たのだ。
 首輪についても、他人についても、真っ直ぐすぎるほどに真っ直ぐだった彼の死を告げられた事実が、名護の心をまたしても後ろ暗い悲しみに包んでいた。

 「乾さん……死んじまったのか……」

 一方で、放送で告げられた死者の名前に対し反応を示したのは、翔太郎も同じだった。
 だが名護のそれとは違い、翔太郎にとっての乾巧は、自分が死を看取った木場が知り合いとして述べていた存在の一人という程度の繋がりでしかない。
 巧がファイズであることさえ知らなかった木場の死を告げられたとしても、巧にどれだけの意味があったのかさえ、今となっては分からなくなってしまった。

 だがそれでも、翔太郎は巧と話してみたかった。
 木場が信じた巧の善性と、木場が憎んだファイズの悪性の境目が、一体どこに存在するのか、自分の目で確かめてみたかった。
 だがそれは、もう叶わない。

 名護や三原が伝える伝聞での「乾巧」でしか、自分はもう彼を理解できないのである。
 それを思えば、第二回放送を前にようやく解けたファイズへの怒りや憎しみさえもが、今となっては名残惜しくさえ思えた。

 既にいない存在に思いを馳せ黄昏れた翔太郎は、その視界の端に思案に沈む一条を捉える。
 ふとすれば、彼もまた死者に対し悲しみを抱いているのかと見過ごしてしまいそうになるその一瞬。
 しかし一条の表情に潜む感情が、ただ仲間の死を憂うだけのそれではないことを、名探偵は見抜いていた。

 「……どうした、一条」
 
 「いえ……第零号が、死んだと」

 「あぁ……」

 言われて初めて、翔太郎はその事実に気付いたような心地だった。
 今の放送で告げられたのは、決して辛い死別だけではない。
 ン・ダグバ・ゼバや浅倉威、この殺し合いに乗り多くの参加者を殺めた邪悪たちが、死を迎えたのである。

 この会場に来る前の浅倉であれば司法の手に判決を委ねるのが筋というものであったが、彼は最早法の手に負える存在ではなかった。
 メモリの専門家である自分でさえお目にかかったことのない『メモリを喰らい力を取り込んだ史上初めての存在』になってしまったのだから、いわば国家ではなく自分たちが裁かなければならない領域に踏み込んでしまったのである。
 ある意味で言えばそれは浅倉の最大の進化で……そして同時、彼と戦うもの全てが抱いていた彼への人間としての手加減を取り払う、最大の愚策だったのかもしれないと、翔太郎は思った。

 だから、翔太郎は、浅倉の死にもう一切の同情を抱くことなく、グロンギのように身勝手な殺戮を繰り広げる“怪物”が死んだものとしか、その死を捕らえることが出来なかったのである。
 ともあれ、この会場に残っていたはずの最悪の化身が二人とも滅んだという事実は、あまりに深い喪失感を差し引いてもなお、喜ぶべき事象であるはずだった。
 だからこそ……翔太郎には一条の表情が不可解でしかない。


758 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:23:09 ZlcWppgI0

 その表情が、喜色よりは不安を多大に含んだ物憂げな表情であったのだから。

 「なんか、気になることがあんのか?」

 「えぇ、自分でも理由は分からないのですが、その……第零号は、本当に死んだのかと……」
 
 「何?」

 割り込んで返答を吐いたのは、名護であった。
 その声に僅かばかり怒気が含まれていたのは、勘違いではあるまい。
 とはいえ、それを責めることは出来ないだろう。

 彼にとっての恩人である紅音也を殺めた最悪のグロンギの死という、今の放送で唯一実感を伴って喜ぶべき事象が、否定されようとしているのだから。
 だが、ここで整理のつかないまま感情を乱雑にぶつけるほど、名護は取り乱してはいない。
 自制の意を含めた息を一つ吐いて、努めて冷静に言葉を紡いだ。

 「……一条、気持ちはわかる。
 俺や翔太郎君とも違い、君は目の前で二人もの仲間をダグバの手にかけられ亡くし、小野寺君を暴走させてしまったのだろう。
 ダグバに対して並々ならないトラウマを抱いていたとしても、それは恥ずべきことではない」

 「それは……」

 名護は、あくまで一条の心因的外傷が生みだした一種の強迫観念としてその可能性を排除しようとする。
 そして一条もまた、それに強く反論することはしない。
 自分の中にダグバの生存を決定づけるだけの根拠が“直感”という自分らしくもないあやふやなものだけであるのにも加え、気付いているのだ。

 名護がそうまでしてダグバの死を願うのは、一種彼が翳す究極の闇を恐れているのだと。
 ユウスケからの伝聞で、あの橘もヒビキも全く手も足も出ずダグバに敗北したことを、伝え聞いているから。
 何よりそんな存在がついには大ショッカーの目さえ欺きこの会場を我が物顔で歩き回っているなどと、考えたくもなかった。

 そしてそれは、翔太郎にとっても同じこと。
 二度に渡ってぶつかったあの巨悪は、翔一を亡くし総司が一人飛び出した今の自分たちでは手に余る。
 いや、そんな表現も手緩いか。

 短くなった自分の変身制限さえ正確に把握し、仮面ライダーという存在がどれだけ遊べば壊れてしまうのか、それを理解したダグバを前に、もう一度同じ勝利の結果を導ける自信はない。
 つまりは一条が吐き出した不安を、あくまで恐怖やトラウマからくる妄想なのだと断じ切り捨てるしか、ここに残った者たちに残された道はないのである。
 こうして頭ごなしすぎるほどに否定されてようやく冴えてきたのか、その思いを受け止めた一条は、そのまま頭を下げ謝罪の言葉を述べた。

 「申し訳ありません、根拠のない憶測を述べて、悪戯に不安を煽ってしまいました。
 これはきっと、私の考えすぎだと思います」

 「いや、それならいいんだ……」

 一転して罰が悪そうに視線を逸らした名護。
 再び沈黙が支配したその状況の中で、本領発揮とはいかない様子の名護に代わり、翔太郎は気を引き締める意味も込めて帽子を深く被りなおす。

 「放送については一旦置いておくとして……今大事なのは、俺たちがこれからどうするかってことだ」

 これからどうするか。
 その言葉に内在される、ある人物について、名護からは話題に出しにくいだろうと、翔太郎は堰を切る。

 「取りあえず当面の目標は、総司ともう一回合流して説得するってとこだろうが……」


759 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:25:50 ZlcWppgI0

 その名前を聞いて、やはりというべきか名護は目を伏せる。
 信頼できる弟子、総司。
 紅渡の記憶さえ忘却した今、名護にとっての最高の弟子となった未熟な彼を――状況が切羽詰まっていたとはいえ――キングなどという彼よりも一枚も二枚も上手の相手と単身で戦わせてしまったために、先の悲劇は起こったのである。

 解放したアンデッドと自分たちを戦わせること自体キングの策略通りだとしても、名護の心に総司とキングの戦いを後押ししてしまった悔いは残り続けるだろう。
 だが、その後悔に沈み続けるほど、彼は愚かではない。
 迷い嘆くだろう弟子の為にも、自分の行いを悔いるのは後回しにしなくてはならないと、名護は気合を入れなおす。

 「そうだな……彼を追う、というのは現実的ではないだろう。
 どうやらバイクこそ置いていったようではあるが、この広い市街地で彼がどう動くかは予想もつかない」

 チラと時計を見やってみれば、放送が終わってもう10分ほどが経とうとしている。
 総司が出ていった時間から考えればもう20分近くたっているのだから、彼が一心不乱に走り続ければどこまで行けるのか、考えも及ばなかった。
 そんな彼を追いかけてむやみやたらに会場を走り回るのは、あまり賢い選択とは言えない。

 となれば、残された合流のための手段は、自ずと限られてくる。

 「ここで、待つしかないっていうのかよ……。戻ってくる確証もないってのに……!」

 翔太郎の悲痛な声が、響く。
 無力感に苛まされ続けた挙句、総司が自分からこの病院に戻ってくるのを待つのが、賢い選択とでも?
 自分が弟分のように扱ってきたあの無垢な青年を、自分はただ信じ待ち続けることしかできないというのか。

 「いや、心配することはない。彼はきっと、ここに戻ってくる」

 そうして漫然とした絶望感に目を伏せた翔太郎を、しかし名護はいつものように確たる口調で遮る。
 名護が一番総司を心配でたまらないだろうとばかり思っていた翔太郎は、自分の口があんぐりと間の抜けたように開くのを自覚した。
 しかしそんな彼の動揺さえ気に留めることもなく、名護は毅然とした態度で続ける。

 「総司君は、他ならぬ俺の弟子だ。正義を信じ、悪を倒す強さを持った、自慢の弟子だ。
 例え今は道に悩み自分を見失ったとしても、必ず正義の炎を灯し、ここに戻ってくる。
 俺はそう信じている」

 「名護さん……けどよ……」

 名護の言葉を受けた翔太郎の顔からは、しかし釈然としない思いが透けて見える。
 だがそれも当然か、と名護は思う。
 自分には最早記憶もないが、紅渡という男について、自分は今と同じように弟子を信じ裏切られたことを、翔太郎ははっきりと覚えているのだ。

 恐らくは、紅渡を説得するというときも今と同じような大言壮語を宣っていたのだろうことを思えば翔太郎の表情にも頷けたが、それでも名護は考えを曲げる気はなかった。

 「翔太郎君、確かに俺は、かつて弟子と認めた男の善性を見誤り、説得に失敗したかもしれない。
 だがそれでも俺は、信じることをやめたくない。それに、彼が自身の罪を背負い、戦士として目覚ましい成長を果たしたことは、君もよく知っているだろう」

 「それは……」

 その話題を出されると、翔太郎も辛いところだった。
 総司の初印象を、今でも鮮明に覚えている。
 情けない、情緒不安定な青年。なんだこいつというのが、正直な感想だった。

 だが総司は、そんな印象をぬぐい去って強く成長した。
 他者を打ち倒すための力だけではなく、他者と共に歩むことのできる心さえも。
 半人前から一人前に向けて、自分さえも抜き去る勢いで突き進んでいく彼を、羨ましくさえ思うほどに。


760 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:26:56 ZlcWppgI0

 だが、それでも。
 目覚ましい成長を果たしたとしても、彼は半人前なのだ。
 もし今の不安定な彼がキングを始めとする悪意に誑かされ本当にまた世界をすべて破壊する破滅論者に戻ってしまったら。

 この身を内側から食い破らんとする焦燥に、居ても立っても居られなくなり翔太郎は立ち上がる。
 
 「どこに行く気だ、翔太郎君」

 「決まってんだろ名護さん、あいつはまだ半人前なんだ。放ってなんておけるかよ」

 逸る気持ちを抑えられず今にも走り出しそうな翔太郎の一方で、名護はあくまで冷静な顔を崩さない。
 それにさえ苛立ちを露わにし、翔太郎はいよいよもって一人でも駆けだそうと名護に背を向けるが、その足が次の一歩を踏み出すより早く、彼は名護に呼び止められていた。

 「待ちなさい、翔太郎君」

 「離してくれよ名護さん、俺は一人でも総司のことを――」

 「君が初めて俺たちと出会ったとき、自分をなんと呼んだか、覚えているか?」

 その問いを聞いて、翔太郎は罰が悪そうに帽子を被りなおす。
 背中越しにでも貫かれるような名護の真っ直ぐな視線を感じたのだ。
 委縮したのか、途端に勢いをなくした翔太郎はそのまま、溜息一つ吐いて名護に向き直った。

 「半人前。多くの仲間を目の前で亡くした君は、確かに自分をそう呼んだはずだ」
 
 「……あぁ」

 10時間ほど前。
 名護と総司の前に翔太郎が現れたとき、彼は紅音也を殺したダグバへの憎しみと自責の念故、それまで嫌悪していた半人前を自称した。
 それから紆余曲折を経て翔太郎は一人前の仮面ライダーとして自分を認められるようにもなったが……しかしふとすればこうしてすぐ熱くなってしまう欠点はすぐ直るものではないらしい。

 その時に反省した、自分の一人で突っ走りがちな点がまたも表出してしまったことを理解して、翔太郎は冷静さを取り戻したのである。
 結局は自分もまた、総司と同じく未だ半人前の範疇だということだ。
 こんな風に周りを見ずに突っ走っているようではその誹りを受けても当然か、と萎えた様子の彼を前に、しかし名護はあくまで諭すように続ける。

 「だが翔太郎君、君はこうも言ったはずだ、『半人前でも俺は仮面ライダーだ』と。
 総司君もそうだ。確かに未だ完成こそされていないし、危ういところもあるかもしれない。
 だがそれでも俺は、彼の心に確かに灯った正義の炎は、決して消えず燃え続けると、そう思っている」

 どこまで行っても、名護はまっすぐな男だった。
 総司のことを軽んじているわけではない、むしろ最大級に尊重しているからこそ、彼は総司を追わないのである。
 全く総司は良い師匠を持ったものだと、しみじみそう思った翔太郎のもとに、届く声が一つ。

 「半人前……か」

 名護のものではないその声に振り向けば、そこには思わず思考が口に出た、といった様子で佇む一条がいた。
 翔太郎と名護、二人から向けられた視線に気づいたのか、一条は我に返ったように小さく頭を下げる。

 「――話を遮ってしまい申し訳ありません。ただ少し、父の言葉を思い出したもので……」

 「父?」

 「えぇ、『中途半端はするな』。……それが、私の父が生前よく言っていた言葉でした」

 「どういう意味だ?」

 「一度やると決めたなら、最後まで絶対にやり遂げろ。
 ……そういう意味だと、私は思っていました」


761 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:27:55 ZlcWppgI0

 一条はそう言って、視線を彼方へ走らせる。
 父の言葉を絶対の信条として信じていた自分にとっては、半人前であるということを自称するなど、許されがたい中途半端であるように感じられたことだろう。
 だが目の前で死なせてしまった小沢を、京介を、そしてまたしても一人にしてしまったユウスケを思えば、今の自分を一人前だと名乗ることの方が、一条には耐えがたかった。

 「思っていましたって……本当は違ったってのか?」

 「いえ……まだ自分でも分かりません。ただ、津上君が言っていたんです。
 『人は誰でも生きている限り中途半端で当たり前だ』と。
 それを聞いて、自分は父の言葉を都合よく解釈していただけなのかもしれないと……」

 翔太郎の問いに対し、伏し目がちに一条は続ける。
 自分は、父が幼子への教育の一環として放っただけの言葉を、父の死によって生涯背負わなければいけないものとして都合よく捻じ曲げ自分に課していただけなのではないかと。
 刑事という仕事を中途半端にはしない、と言えば聞こえがいいものの、突き詰めてしまえば自分は、他の大事にしなければいけないことを蔑ろにして仕事に逃げていただけではないのか、そんな不安が一条の中をよぎるのである。

 今までは疑いさえしなかった自身の信条がこうまで揺らいだのは、もう一人のクウガとの出会いや自分が仮面ライダーとして戦える力が自分を変えた為なのだろうか。
 ともかく、その答えを共に導ける仲間となるはずだった翔一の死が、自分にとってこれ以上ないほどの悲劇だったことは、疑いようもないことだった。
 だがそんな一条を前に一歩進み出たのは、やはり名護だった。

 「一条、一つ聞きたい。もし君のお父さんの言葉の真意が君の意図するところと違っていたとして、何がそこまで問題だというんだ?」

 それは、翔太郎が見てきた名護の中でも特に真剣な瞳だった。
 今の一条の話のどこにそこまで彼の中で見逃せない部分があったのか、翔太郎にさえ分からない。
 だが、この話をこのまま終わらせることは名護にとっても許せないことに違いないと彼は思った。

 「私は……父のその言葉を常に胸に抱いて生きてきました。
 刑事としての姿勢も、同じく刑事だった父の中途半端にしない姿勢を見習っていると言って過言ではありません」

 今度は、一条が胸の内を晒す番だった。
 自分の中で当然だと思っていた部分に疑問を持つ経験が、一条の端正な顔を不安に歪ませる。
 だが言葉は澱むことはなく、彼は言葉を詰まらせることはない。

 「しかし私は、その言葉をあいつにも……五代にも背負わせてしまった。
 そのせいでただの冒険が好きな一般人に過ぎなかった五代は、一人戦いに明け暮れ……挙げ句こんな戦いに巻き込まれて命を落としました。
 本当はあいつには、ずっと気ままに冒険を続けていて欲しかった。その為にも俺が、あいつの責任を一緒に背負ってやらなくちゃいけなかったというのに……」

 いつの間にか一条の一人称が、“俺”になっていた。
 胸の内を吐露する内、言葉遣いに気を払う余裕もなくなったのだろう。
 だが名護も翔太郎も、それを気にすることはない。

 どころか、こうして一人で背負い込もうとし続ける彼が仲間として自分たちを信頼してくれている証だと受け取って、ただ黙って一条の言葉を待っていた。

 「だから、考えてしまうんです、父は、今の俺をどう思うのかと……。
 一番中途半端に過ぎない俺が、自分の言葉を勝手に解釈し人を結果的に死に至らしめたと知ったら、彼は……」

 言って一条は、自身の手を強く握りしめる。
 自分の無力さを、強く噛みしめるように。
 だがそうして俯いた一条に対し、名護は動ずることなく彼の肩を叩き再びその面を上げさせる。

 「一条、君の気持ちはよくわかる。俺も父の言葉を勝手に解釈し、今となっては愚かとしか言いようのない罪を犯したことがある」
 
 「罪!?名護さんが!?」

 「あぁ……」


762 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:28:51 ZlcWppgI0

 翔太郎の驚愕に静かに答えながら、名護啓介は思い出す。
 代議士であった父、啓一は、社会的正義に燃える、幼い時の自分にとって心底尊敬できる人物であった。
 間違ったことは許さない、啓介の中に根付いたその正義感も、元を正せば父への憧れに由来するものだ。

 だが……いやだからこそ、啓介は父が過ちを犯したのが許せなかった。
 例えそれが書類上の小さなミスであっても、それは父である啓一の罪であり、許しがたい悪だと……そう感じたのだ。
 故に啓介は父を汚職で糾弾し、自殺にまで追い込んだ。

 だから啓介は、それ以来正義の名のもとに多くの殺戮を繰り広げた。
 彼にはもうその記憶がないが……渡に公園で告白したように、ファンガイアが悪でないのなら自分は正義の人ではなくなってしまうという、強迫観念に駆られて。
 そんな風に父親の言葉や姿勢を曲解し、尊敬していたはずの父でさえ死に追いやった自分でも、目の前で悩める男に何か力を与えられるならと、名護は続ける。

 「一条、君のお父さんがどんな人物だったのか、俺にはわからない。
 だが君の様な正義の為、市民の為に自分を犠牲にできるような男を育てた人だ。
 そんな人の言葉は、少なくとも今までの君にとって間違いなくプラスのものだったに違いない」

 「はい……」

 「だが、もし君がその言葉のせいで思い悩んでいるというのなら、それは君のお父さんも望むところではないだろう」

 名護のその言葉に、一条はハッと息を呑む。
 何より家族を大切に思っていた彼が、自分の言葉で苦しむ息子を見れば、それは何より心苦しいことに違いない。
 そんな一条を見やり、悩んでいた時期の愛弟子を重ねたか、名護は微笑を携えながら言葉を紡ぐ。

 「その考えを悪戯に捨てろとは言わないが……俺が君に言えることがあるとすれば、君はあまりに真面目すぎる。
 遊び心が足りない、と言い換えても良いかもしれないな」

 「遊び心……ですか」

 言いながら一条はしかし、今までと打って変わって腑に落ちないという表情でムッとしたようであった。
 だが、それも当たり前だろう。
 言ってみれば彼を始めとした警察が、そして五代雄介が繰り広げてきた未確認生命体との戦いは、決して遊びではないのだ。

 そんなところに遊びを持ち込むような心構えでは、市民の前に胸を張って立つことなど出来ないと彼が考えても、それは仕方のないことだった。
 だがそんな一条の対応を見据えてか、名護はどこか懐かしげにフッと笑う。

 「そうだ、余裕のない心は張り詰めた糸と同じ。いずれ、ふとした拍子で容易く切れる。
 丁度、今の君が使命と無念の板挟みになり自分自身を縛り苦しめているように」

 それは、かつて22年前の過去に飛んだ際、先代のイクサである紅音也から名護が学んだことだった。
 あの時は、命を賭け戦う戦士を前にこのちゃらんぽらんは何を言うのだ、と軽蔑さえしたものだが……恋を知り、そして愛を知った今となれば、分かる。
 戦士と言えど、帰る場所、心の安らぎは不可欠なのだ。

 見たところ、目の前の男もあの時の自分と同じく恋を知らないと見える。
 果たしてこの場所で恋を知れる可能性は限りなく低いが……ともかくそうした精神的余裕は決して自分を腐らせないと言うことを、彼に伝えなくては。

 「かつて俺に、遊び心を持つ大切さを教えた男は言った。
 心に余裕を持てば、人の気持ちが分かるようになる。そうすればもっと強くなれる、と。
 君が誰かを守る為、より強くなりたいと望むなら……まず、遊び心を学びなさい」

 「しかし……一体どうすればそんなものを学べると?」

 未だ眉間にしわを寄せたまま、難しい表情で一条は問う。
 遊び心を学べなどと、なにせ難しい相談である、困惑するのも仕方のないことだ。
 だが対する名護は、動じることなく自信げに息を吐き出して。


763 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:29:55 ZlcWppgI0

 「そのことなら安心しなさい。俺が知る中でも有数の、素晴らしい遊び心を持つ男が、ここにいる」

 唐突に、話の蚊帳の外に追いやられていた翔太郎の肩を、強く叩いた。

 「って俺かよ!」

 「君からは、どんなときでも何か欠けている自然な抜け目を感じる。
 俺でさえ見習うほどに君の心は隙だらけだ、胸を張りなさい」

 「全然褒められてる感じがしねぇ……」

 どこか決まらず帽子を被り直しながら、しかし翔太郎にとっても名護の言葉を強く否定することは出来なかった。
 探偵としての仕事を中途半端に行ったことこそないが、翔太郎は時たま依頼を私情で受けることがある。
 例えば、風都警察署の真倉刑事が照井の鼻を明かすため、そして超常犯罪捜査課に異動してきた九条刑事の気を引くためだけに依頼を持ち込んできたときも、彼の不純な動機に心から同意し、ノリノリで依頼を引き受けたこともあった。

 そもそも自分のあだ名になってしまったハーフボイルドだって、ハードボイルドを目指しながら非情になりきれない自分に対する愛称の一種だ。
 それが決して揶揄として自分を貶す意味で放たれていないことは、亜樹子やフィリップの目を見れば分かる。
 なれば名護の言う遊び心が生来から備わっている自分のそれは、確かに仕事に対して一種の余裕を生み、人を引き寄せ探偵としての仕事にプラスに働いていると言われても、なるほど納得する心地であった。

 「だが、目標もなくただ修行しろと言われても難しいものがあるのも事実だ、一体どうすれば……」

 「それなら、これがあります」

 名護の言葉を待っていたとばかりに、一条は懐から通常のガイアメモリより一際巨大なメモリを取り出す。
 青くTの字が刻まれたそれはまさしく、翔太郎が先ほど彼に渡したトライアルのメモリであった。

 「それは……?」

 「これはトライアルメモリです。特別な特訓をしなければ扱えないと、左さんは言っていました」

 「そうか、なら丁度いい。それを扱えるよう修行をする中で、翔太郎君から遊び心も自然と身につくことだろう」

 名護は腕を組み首を縦に振りながら満足げに呟く。
 自身がライジングイクサの完全な習得によって実感として遊び心の重要さを学んだように、一条もトライアルを使いこなせるようになればその重要さが分かることだろう。
 だがそうして完結しそうになった話を、しかし翔太郎が黙って見過ごすはずがなかった。

 「ちょっと待てよ一条、それに名護さんも!
 トライアルの特訓はな、照井でさえ死にかけたんだ。今のお前じゃやりきれるわけ……」

 「いえ、俺ならもう大丈夫です。十分、休みましたから」

 「んなわけねぇだろ!」

 翔太郎の絶叫が、場を静まり返させる。
 思わずと言った様子で胸ぐらを掴んだ翔太郎の威圧に圧されたか言葉を飲んだ一条に対し、翔太郎は熱くなったままの頭で言葉を紡ぐ。

 「……そんなボロボロの身体で何が出来るってんだ?
 周りを見て見ろ、お前が死んだら悲しむ奴が大勢いるだろうが!
 突っ走んのも大概に――」

 「――そんなことはもう分かってる!」

 翔太郎の説得に対し、今度は一条が、大声を出し沈黙を作り出す番だった。
 かつて一人で井坂という強敵に挑もうとした照井を諫めた時の言葉を容易く覆されて、翔太郎も思わず二の句を紡げない。


764 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:30:39 ZlcWppgI0

 「皆の笑顔を守る……そう言って自分の笑顔を守ることを後回しにし続けた男を、俺は一番よく知っている!
 彼が死んでしまったことを、最も深く悲しんだのは俺だ。
 だからこそ俺は彼を……小野寺君を、五代の二の舞にさせるわけにはいかない。そう決めたんだ!だから――!」

 そこまで言い切って、一条は先ほどまでとは違い自分が翔太郎の襟首を掴んでいることに気付いた。
 一般人がどうだとか、刑事がどうだとか、この場では既に形骸化した観念が今更蘇ってきて、彼は罰が悪そうにその手を離す。

 「すみません。つい熱くなってしまって……」

 「いや……俺こそ、軽はずみな発言だった。許してくれ」

 互いに自分の発言を悔い、そして相手の発言の正当性を認めているからか、二人の間には再びただ沈黙が流れた。
 だが、決して無駄な時間ではない。
 それは男と男が、どこまで意地を張り合えるのか、或いは互いにぶつかることを拒み逃げるのか、試すような重い沈黙であった。

 だが、仮にもしこれを勝負の一環だとするのなら……勝者は既に決していた。

 「……俺の負けだ、一条」

 「え……?」

 ぽつりと、昔を懐かしむような声音さえ込めて、翔太郎が呟いた。
 今の口論をそんな堅苦しい勝負だなどと意識さえしていなかった一条は一瞬反応が遅れたが、しかし翔太郎はそんな彼の様子を気に留めることもなく続ける。

 「ったく、お前と話してると、あいつを思い出してつい熱くなっちまう。
 さっきも、お前がやりたいことをサポートするのが俺の仕事だって、そう思ったばっかだってのにな」

 「ということは、まさか……」

 「あぁ、お前がトライアルを使いこなせるよう、俺が鍛えてやるよ」

 言って翔太郎は、気障に指を伸ばす。
 一条がアクセルを受け継いだことはもう偶然で片付けられないことだと、そう理解したのだ。
 誰よりも強い熱情を胸に秘めながらクールに振る舞うその姿に、かつての友との数え切れないぶつかり合いを思い出したと言ってもいい。

 そうなれば後はもう、自分に残された仕事はアクセルを継いだ男を強くするため、彼を支えることだけ。
 それが正しいのかどうか、照井が望むかどうかなど、正直なところわかりはしない。
 だがどうせあの世で彼に聞いても素っ気なく返されるだけなのだ、ならば自分もやりたいことをやるだけのこと。

 どうせ自分は半熟野郎と呼ばれる運命なのだ、かつての友と目の前の男を重ねてしまったから、などという動機で動いたところで、誰も文句は言うまい。
 そう考えた翔太郎の表情はしかし晴れやかで……誰にとっても眩しい確かな“余裕”を兼ね備えていた。
 そして同時、翔太郎の言葉を受けた一条もまた、珍しく頬を綻ばせる。

 照井が死んでから、幾度となく纏ったアクセルの鎧。
 戦いの道具以上の感情を秘めたその鎧はしかし、戦場において自分を勝利にまで導いてはくれなかった。
 だが、それもこれまでのこと。

 自分が及ばなかったために不甲斐ない結果に終わり続けたというのなら、それを強くなって覆すだけのこと。
 遊び心というものを学べるかは分からないが、ともかくそれも特訓の中で身につくのであればと。
 一条薫はここに来て初めて、自分のことを認められうる可能性を見出していた。

 そしてまた、目の前で繰り広げられた短いやりとりを見ただけで、今後起こりうる二人の化学反応の結果を知り尽くしているかのように、名護は一人満足げに頷いていた。
 見込んだとおり、この二人は今よりずっと強くなる。
 自身の弟子に迎える、などと口が裂けても言えないような強さを確かに持った二人の成長の芽を目の当たりにして、自分もうかうかしていられないと名護は虚空に思いを馳せるのだった。


765 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:31:00 ZlcWppgI0


 ◆


 「……本当に、一人で大丈夫なのかよ、名護さん」

 「あぁ、当然だ。俺には総司君をこの病院で待たなくてはならない使命がある。
 君も、くれぐれも気をつけなさい。この会場には未だ、大ショッカーの手先が忍び込んでいる。油断は禁物だ」

 翔一の遺体を簡単に埋葬し一息ついてしばらくしてから、ついに翔太郎たちは出発の準備を完了していた。
 少しでも早く移動するためにと、カブトエクステンダーのキーを名護から受け取り彼の身を案じた翔太郎に対し、名護はしかし強く返す。
 その表情に浮かぶ揺るぎない自信を見て、翔太郎もこれ以上の言葉は無粋かと口を噤んだ。

 ふと後方を見れば、トライアルの特訓という言葉に気合いを引き締め直したか、一条はすっかり自立してしっかりとした足取りで外に向かっている。
 どうやらこれは特訓にも精が出そうだと自分も彼に続こうとして、しかしその肩を、名護に引き留められた。

 「なんだよ名護さん、まだ何かあんのか?」

 「あぁ。君に、渡しておかなければならないものがある」

 言いながら、名護は懐より一つ、銀色の箱と無数のカードを取り出した。

 「……ブレイバックルか」

 それはまさしく、先ほど自分がダグバから取り戻した正義の仮面ライダー、ブレイドの力。
 スペードのカードだけではなくダイヤにクラブ、ハートのカードまで合わせたラウズカードの束は、文字通り片手で受け取るには手に余るほどだ。
 だがこの強力な力をこうも容易く受け取ることに、翔太郎はある種の忌避感を覚えていた。

 「けどよ、名護さん、いいのかよ?これは総司が……」

 「いいや、総司君から聞いた。君は彼に言ったそうだな。『自分はこれを拾っただけで独占する権利はない』と。
 俺もそうだ。俺はこれを拾っただけで占有する資格などない。
 それに俺には今、ブレイドへの変身に制限がかかっている。俺が持っていても意味がない、君がこれを持っていくべきだ」

 名護はやはり、どこまでも貫くような真っ直ぐな瞳をしていた。
 しかし、忌むべき記憶も存在するとはいえ、これは総司が持っていたもの。
 自分がただの力として預かるよりは名護が持っていた方がいいのではと、翔太郎は二の足を踏んでしまう。

 だがそんな翔太郎に対し、名護は一層に真面目な顔をして顔を寄せ、小さな声で囁いた。

 「……それに、ハートのラウズカードをどうするのか……、その決断を下すのは俺でなく、君であるべきだ」

 「名護さん……」

 後方の一条には聞こえないほどに小さな声で述べられたその言葉に、しかし翔太郎は息を呑む。
 ハートのラウズカード、それから類推される自分の因縁を、いやでも思い出したからだ。
 この会場に連れてこられて最初に出会った、心優しいオルフェノクを無残に殺害したあの男の処分を決めるのは、お前だと。

 つまりは名護が言っているのは、そういうことなのだ。
 あくまで彼をジョーカーアンデッドとして断じこの場で倒す道を選ぶのか、それとも今は涙を飲み説得の道を選ぶのか。
 或いはその先に和解の道があったとして……彼に多大なる力を与えるだろうこのカード群を、果たして彼に渡すのか、それとも絶対に彼の手に渡らないよう投棄するのか。

 全ての選択肢を、同行者を目の前で始に殺された自分に委ねたいと、そう言っているのである。
 その決断の難しさを、そして目の前で死んだ木場の無念を考えしばし目を瞑って、やがて翔太郎は目を開いた。


766 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:31:22 ZlcWppgI0

 「……分かった。あとは任せてくれ、名護さん」

 「あぁ、頼んだぞ、翔太郎君」

 ブレイバックルを確かに受け取りながら、翔太郎はこの小さな箱に込められた“重さ”を確かに実感する。
 そこに込められた力も、受け継がれてきたバトンも、そして誤ったことに使われてきたブレイドという力自体の悲しみも。
 それに加え、殺害という許しがたい罪を犯したとはいえ、世界を、大事なものを守るため全力を尽くしただけの男の処断をも、そこに合わさっているのだ。

 なれば、その全てを一身に背負ったこのバックルが、軽いはずがなかった。
 その重みをしかし逃げずに受け止めて、翔太郎は帽子をクイと下げてその場を後にしようとする。
 だが瞬間、翔太郎は最後に一つだけ、名護に言っておかなければならないことがあったのを、思い出した。

 「またな名護さん、それから――無茶だけはすんなよ」

 「……あぁ、分かっている」

 返答までにかかった時間は、ごく僅か。
 だがそれでも確かに開いた一瞬の隙は、名護の動揺を確かに表していた。
 しかし、それを見抜いたからと言って、翔太郎にはもう予定を変える気はなかった。

 名護は自他ともに認める一人前の仮面ライダーなのだ。
 例え自身の行動で何が起こったとしても、自分の決断に自分で責任を取れる大人なのである。
 であればこれ以上自分がお小言を残していったとしても、無粋なだけ。

 故に翔太郎は、黙って去るのみだ。
 自分たちを見送るため、後ろで佇む名護の視線を感じながら、翔太郎は先にバイクの前で待っていた一条に声をかける。
 そのまま二人乗りの姿勢でカブトエクステンダーに跨がりキーを差し込んでエンジンを唸らせれば、心地よい駆動がこの体を躍動させた。

 サイドバッシャーに跨っていた時以来の感覚に心さえ躍る思いを抱きながら、翔太郎は後ろに跨る一条を振り返る。

 「行くぜ、準備は良いか?」

 「勿論です」

 一条の短い返答の中には、しかし確かに燃える挑戦の意思を感じ取れる。
 どうやら長々しい啖呵を切るよりも、よっぽど気合十分らしいと。
 友の遺志を継いだ男の、確かな強さを再度認めて翔太郎は、北へ向け一思いにアクセルを振り絞った。


【二日目 朝】
【C-1 平原】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、キングフォームに変身した事による疲労、仮面ライダージョーカーに1時間20分変身不能、カブトエクステンダーを運転中
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、ブレイバックル+ラウズカード(スペードA〜Q、ダイヤ7,8,10,Q、ハート7〜K、クラブA〜10)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:一条がトライアルメモリを使えるよう、サーキット場で特訓する。
1:名護や一条、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く……はずだったのにな。
2:出来れば相川始と協力したいが……。
3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
4:村上峡児を警戒する。
5:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
6:ジョーカーアンデッド、か……。
7:総司……。
8:相川始にハートを始めとするラウズカードを渡すかどうかは会ってから決める。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。
※トライアルメモリの特訓についてはA-1エリアをはじめとするサーキット場を利用する模様です。


767 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:31:45 ZlcWppgI0



【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、五代たち犠牲者やユウスケへの罪悪感、強い無力感、カブトエクステンダーの後部席に搭乗中
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:今度こそ誰も取りこぼさない為に、強くなりたい。
1:サーキット場に向かいトライアルの特訓を行う。
2:小野寺君……無事でいてくれ……。
3:第零号は、本当に死んだのだろうか……。
4:五代……津上君……。
5:鍵に合う車を探す。
6:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
7:小沢や照井、ユウスケの知り合いと合流したい。
8:未確認への対抗が世界を破壊に導き、五代の死を招いてしまった……?
9:遊び心とは……なんなんだ……。
【備考】
※現在体調は快調に向かいつつあります。少なくともある程度の走行程度なら補助なしで可能です。


 ◆


 (見透かされていた、か……)

 翔太郎と一条の姿が見えなくなった後。
 名護は残された病院の中で、ただ一人自省していた。
 翔太郎のあの瞳、そして「無茶だけはするな」という言葉。

 そのすべてが、自分の考えていることを見抜かれているように思えて、名護は自身の未熟さを自覚する。

 (だがやはり今の総司君を、一人にするわけにはいかない……)

 しかし。
 そうして仲間に内心を見透かされていたとしても、もしもそれが誰から見ても無茶を行おうとするただの蛮勇に過ぎないとしても。
 今の総司を一人放置することは、名護には耐えられない。

 (今の彼は、人間とネイティブとの狭間で揺れ動いている。
 このままでは彼は心を二つに引き裂かれ、自滅の道を辿ることになる……。
 そうなる前に、俺が彼を救ってやらなくては……!)

 それは師匠としての名護に与えられた義務であるのと同時、仲間として彼を救いたいという純粋な思いから来るものだった。
 かつてファンガイアと人間との狭間で揺れ動いた渡を救うため尽力したのと同じように、弟子の危機において、名護啓介にじっとしている選択肢はない。
 渡との思い出が残っており彼が一人でその運命を覆したことを覚えていればまた別の結果もあったのかもしれないが、ともかく。

 反省を終えた名護は、懐から一本の小さなUSBメモリの様なものを取り出す。
 Sの字が刻まれたそれはスイーツのメモリ。
 出来れば使いたくこそないが……イクサが制限にかかった今、危険があれば使用も止むを得ない。

 翔太郎から言わせればお粗末な品らしいが、それでも時間稼ぎの捨て石にはなるだろうと、名護は高を括っていた。


768 : restart your engine ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:32:04 ZlcWppgI0

 (待っていてくれ、総司君。君を一人にはさせない。
 俺が必ず、師匠として迷える君を救って見せる。……必ず!)

 瞬間名護は、もう立ち止まっている時間もないとばかりに駆け出した。
 広い市街地に向けて、ただ一人この空の下で彷徨っているだろう弟子を探すため。
 その手に握るは洋菓子の記憶。あまりに心もとない装備を手に、しかし心だけは菓子さえ溶かすほどに熱く煮えたぎらせて。

 誰よりも強く弟子を思う男はただ一人、街へ勢いよく飛び出した。


【二日目 朝】
【D-1 病院前】

【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに1時間20分変身不能、仮面ライダーブレイドに1時間25分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:総司君を探す。絶対に一人にはしない。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:紅渡……か。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
5:どんな罪を犯したとしても、総司君は俺の弟子だ。
6:一条が遊び心を身に着けるのが楽しみ。
7:最悪の場合スイーツメモリを使うことも考慮しなくては。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。


769 : ◆JOKER/0r3g :2018/12/15(土) 16:37:22 ZlcWppgI0
以上で投下終了です。
毎度のお願いではありますが、ご指摘ご感想、ご意見等ございましたら是非ともお願いいたします。
後ちなみにですが、今日はパロロワ毒吐き別館、パロロワ企画交流雑談所スレにて平成ライダーロワ語りを行っております。
もしよければスレに行ってかつてのこのロワの思い出でも、最近の展開についてでも、或いは今後の展開についてでも、好きに語って盛り上げてくれると嬉しいです。


770 : 名無しさん :2018/12/15(土) 17:03:06 AvOO96fs0
投下乙です!
キングの悪行によって総司は心を壊されて、そして翔一すらも失って残された3人はどうなるか不安でしたけど……やっぱり名護さんは最高でしたね!
名護さんは自分の過ちを振り返りながらも、一条さんと翔太郎の支えになって、そして二人に道を示してくれましたし。


771 : 名無しさん :2018/12/15(土) 18:29:45 gNLfkRhc0
投下乙です。
マーダーはほぼいないとはいえ、スイーツ一本で単独行動に出た名護さんの死亡フラグが心配で心配で……。
使いこなすのが容易ではないトライアルの特訓、再び翔太郎に戻ったブレイバックルと今後の布石が盛りだくさんな話でした。


772 : ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:00:29 zqe4Ovek0
皆様ご感想ありがとうございました。
これより予約分の投下を開始いたします。


773 : リブートpf答え、見つからず ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:01:18 zqe4Ovek0

 D-2エリアに存在する民家のうちの一つ。
 灯りさえつけない、薄暗いその部屋の中で、一人の青年が膝を抱え虚空を見つめている。
 いや、その言い方さえ今の彼には相応しくないか。

 彼の瞳は、今や何も宿してはいない。
 光も闇も、そして生きる気力さえも。
 かれこれ1時間ほどの間、ずっとこうして無気力に塞ぎこみ続ける彼にいい加減嫌気が差したのか、天井にずっと釣り下がっていたキバットバットⅡ世は、その足を離しゆっくりと彼の前の前に降下し滞空する。

 「……いつまでこうしているつもりだ、キング」

 「その名前で、僕を呼ばないで……」

 消え入りそうな小さな声で、青年は膝に顔をうずめながら蚊の鳴くような声で囁いた。
 正直なところ、それだけで怒りを露わにこの場を後にしてもいいような陰気臭い言葉だったが、しかしキバットはまだ彼を見捨てるには早いと感じていた。

 「……ならば、何と呼べばいい?お前は名前を捨てたのではないのか?」

 「そうだよ、だから僕は何者でもない……紅渡でも、キングでも……」

 予想していた返答ではあるものの、キバットは思わず溜息を漏らす。
 こうまで彼が塞ぎこんでしまった最大の理由は、自身の息子でもあるキバットバットⅢ世の死に所以するものだ。
 生まれてからずっと一緒に暮らし、時には共に戦ってきた相棒の死が、世界の為戦うと冷たい決断を固めていた王の決意を揺るがしてしまったのである。

 或いはその下手人が適当な他世界の参加者で、かつ自分の至り知らぬところでの出来事であったなら、彼もキングとして非情に徹し続けることが出来たのかもしれない。
 だが、彼を殺害したのが他ならぬ『キング』を名乗る大ショッカー幹部であったことに加え、相棒は自分の手の中で、その命の火を絶やしたのである。
 更にはその死に際に「今のお前は自分の心に逆らっているだけだ」などと言われてしまっては、固く冷たい王の決意が溶けてしまったとしても、仕方のないことと言えるかもしれなかった。

 とはいえそんな仕方のないこと、で済ませられるほど事態は甘くないのだ。
 溜息一つ吐き出して、キバットは彼を叱咤するために適当な台座に着地する。

 「ならば……お前。このままここでじっとしているだけでは、世界は滅びに向かう一方だぞ、それでいいのか?」

 「それは、駄目だけど……」

 小さく答えた彼の目に、僅かばかり気力が灯る。
 自分が悲壮な覚悟を決めて殺し合いを完遂する決意を固めた時のことを、思い出したのだろうか。
 ともかくこの調子でうじうじした彼の根性だけでも叩き直さなくてはならないと、キバットは気合を入れなおす。

 「それに名護も。お前がこうして座り込んでいる間に、奴もまた誰かに殺されているかもしれないが、それでいいのか?」

 「それも駄目、だけど……」

 ああ言えどこう言えど、でもでもだっての連呼ばかり。
 なるほどこれは息子も付き合うのに難儀するわけだと呆れた様子のキバットを前に、彼は未だ目を泳がせる。

 「でも……僕にはわからないんだ、今の僕にとって、何が一番大事なのか……」

 ぼそりと、消え入るように声を漏らした。  
 或いは自身の息子であれば根気強くこの男の悩みに付き合ったのかもしれないが、しかし自分は生憎と彼の相棒でも友達でもない。
 極めて冷たい瞳で以て、キバットは彼と視線を交わす。

 「自分が自分でいられる状況じゃない、そういったのはお前のはずだぞ。
 俺たちの世界を存続するために、必要な罪は全て自分だけで被る。
 そのために名護の記憶も消したんじゃないのか?」

 「そうなんだけど……」


774 : リブートpf答え、見つからず ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:01:48 zqe4Ovek0

 言外に、これ以上手間を取らせるなら俺も勝手にさせてもらうぞ、という圧を込めたつもりだったのだが、彼は未だ踏ん切りがつかないようで駄々をこねている。
 まったく以て面倒なこと極まりないが、同時にキバットは思う。
 まだこいつを見限るには、早いのではないかと。

 断じて情ではない。情ではないが……息子の死を受けてここまで沈みこんだ男が、再びキングとして戦う決意を決めたなら、それはまさしく歴代最強の王に違いない。
 その可能性を未だ捨てきれないがゆえにこの男をさっさと見限れないあたり、やはり俺も甘さが移ったのかもしれないなと、キバットはすっかり丸くなった自分に嘆きつつ溜息を吐いた。
 果たして一体、どうすればこの男はこの場から動く気になるのだろうか。

 らしくなく熟考を重ねようとしたキバットの思考はしかし、瞬間終わりを告げる。
 部屋に備え付けられたテレビ……電源さえ入っているのか怪しいそれに、唐突に光が灯り、けたたましい音楽が彼らの耳を刺激したのである。
 或いは大ショッカーが籠城を良しとせず警告しに来たのかと警戒するが、しかし違う。

 時計を見れば、時刻は既に6時を指している。
 そう、つまりは三回目となる定時放送の始まりであった。


 ◆


 「戦え……か」

 放送が終わり、神崎士郎と名乗った男が画面から消えてしばらくの後、彼は一言そう呟いた。
 胸に響いたわけではあるまい。
 ただ実感として、今が戦わなければ何も得られない状況であるということを再び理解したのである。

 戦わなければ、何も得られない。
 自分の中で呟いただけのその言葉を、彼はもう一度反芻する。
 望み。……思い返してみれば、自分は果たして一体何が望みだったのだろう。

 最初は、自身の手で殺してしまった深央を生き返らせるため、そして皆に幸せになってもらうため、自分が生まれたことさえ消し去るつもりだった。
 だがこの世界存亡を懸けた殺し合いに呼ばれ、そんな心構えではいけないと、自分が守りたい人々をなんとしても守らなくてはならないとそう考えて、自分の死を後回しにした。
 ファンガイアの王を倒しその跡を継いだ後は、ファンガイアの未来を守るという目標を持って非情に徹する王になりきるため自分を捨てさえした。

 紅渡の名さえ捨て、キングと他者に呼ばせることでそんな“役割”を完遂しようとして……その為に、師と呼んだ男の記憶まで消して。
 世界を破壊する悪魔も、他世界の善良な命の数々も、全てを殺し自分だけがそれらを記憶して、逆に自分に関する仲間達の記憶は全て消し去る。
 そうすることで自分は、一人修羅の道を往こうとした。

 それが、自身の最大にして唯一の望みだと、そう信じていた……はずなのに。

 『結局お前はそれらしいことを言って全部から逃げてるだけだろ!
 紅渡としての人生からも、キングとしての責任からも、人間とファンガイアが共存できるっていう夢からも!』

 先ほど世界の破壊者、ディケイドの仲間を名乗った男が、真っ直ぐに自分を見据え放った言葉を思い出す。
 あの男の言葉を頭ごなしに否定できなかった事実が、今の彼にとって最大の懸念だと言っても良い。
 何故、自分はあそこまであの男の言葉を聞いてしまったのだろう。

 名護の言葉は全て聞き入れた上でキングの道を進む覚悟を崩さずいられたというのに、何故見ず知らずのあの男の言葉に、ああまで心乱されたのか。
 そう考えて彼は、しかしすぐに思い当たる節を見つける。

 『その石を通じて全部聞こえたよ。それに、お前が感じた感情だって、全部伝わった』

 それもまた、あの男が言った言葉だった。
 自身の使った地の石に操られかけた男が、もしも彼の言うとおり自分の心さえ見通していたというなら。
 あの問答は、あの男と自分のものではなく自分が心の奥底に押し込めた『紅渡』との対話だったのかも知れない。


775 : リブートpf答え、見つからず ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:02:06 zqe4Ovek0

 もしそうだと仮定するのなら……あの時、“あのキング”が乱入してこなかったなら、自分はどんな道を選んでいたのだろうか。
 目の前に座する『紅渡』を刺し殺し、絶望しか待っていない王の道を往く。
 今となればそれが自分のキングとしての覚悟を裏付ける、最高の選択肢だったと思う。

 だが、実際には、自分はそれを選べなかった。
 目の前の無防備な男に対し、自分は手に持ったジャコーダーでいつでも殺意を行動に起こせたはずなのに。
 何故か彼の言葉に聞き入り、そして真剣に迷ってしまった。

 『紅渡』として、未だ自分は生きていて良いのだろうか、と。
 それこそが、自分の心が命ずる思いから逃げず立ち向かう手段なのかも知れないと、そう思ってしまった。
 もう後戻りは出来ない、積み重ねたはずのその決意さえ、一瞬消え去ってしまうほどに。

 (逃げ……か)

 自分の中に生まれた言葉を、もう一度考え直してみる。
 一体ここから何をすれば、逃げずに自分の心に従うことになるのだろうか。
 自身の世界と大切な人たちを守りたい、それを確定事項として、なればそのやり方は何を選べば良いのだろう。

 すぐに思いつく選択肢は、主に二つだ。
 一つは、ファンガイアのキングとして、使命を果たすため心を殺し、立ち塞がる敵を全て殺すこと。
 情が移る可能性を考慮して利用出来る関係さえも持たず、ただ一人かつての師さえ敵と見なしてこの会場の全てを敵に回すのだ。

 名護の記憶を消したとき、確かに決意の一つに存在した選択肢で……今までの自分が成してきたことを思えば、この道を取るのが今の自分には相応しいのだろうと思う。
 だが同時に……この選択肢を取ったとして、結局それは今までと変わらない。
 名護やあのもう一人のクウガを前にしたとき、殺害を戸惑ってしまった弱い自分自身さえも消し去らなければ、それは相棒にも指摘された『逃げ』でしかないのである。

 そして残されたもう一つの選択肢は……『紅渡』として、自分の心が命ずるままに自分のしたいことを……他の世界の住人のものさえも、誰かの心の中に流れる音楽を守ること。
 相棒の死を無駄にしないためにも、これまでの全ての過ちを悔いながら大ショッカーを倒す為、もう一度仮面ライダーとして戦う道である。
 相棒がああまで望んだ道、きっとその道を選ぶことを彼も望むだろうとぼんやり考えて、しかしその後すぐ彼は自嘲気味に虚しく笑った。

 (そんなの……許されるわけないじゃないか。今の僕に……)

 思わず、自身の両手を握りしめる。
 加々美という男の音楽を閉ざし、病院にいたはずの数多の命を散らせる手伝いをし、そんな自分でさえもかけがえのない友と呼んでくれた師の記憶さえ消して……挙げ句の果てに、相棒の命さえ、失ってしまった。
 これほどまでに後戻り出来ない過ちを繰り返した自分が、今更目的を完遂するのに恐怖を感じたから受け入れてくれと?

 そんな都合のいい話、あるはずがない。
 何より……そんな甘え、自分に許されて良いはずがないではないか。

 『新たな王は、貴様だ……紅、渡――!』

 先代のキングの、最期の言葉が蘇る。
 彼は息子である太牙を差し置いて、王としての格をこれ以上なく見せつけた自分を王と認め、キングとしての誇りやファンガイアの繁栄を託し死んでいったのだ。
 他世界に生きる者の心に流れる音楽すら守ると言うことは、彼の思いを踏みにじるかもしれないという、そんな葛藤を生むものだ。

 愛した人の死に塞ぎ込んでいた自分を、紆余曲折あったとはいえ立ち直らせ王としての使命さえ譲ってくれた彼に、それではあまりにも申し訳が立たないのではないか。
 そうして、自分にはやはり王として生きる以外の道はないと、またしても自分を奮い立たせようと考えて……彼の脳裏に、一つの言葉が過ぎる。

 『――俺は、今までお前と一緒にいられて、楽しかったぜ。わた……る……』

 それは、かつての相棒が、死の間際自分に残した言葉。
 説得でも、説教でも、或いは泣き言でもなく、彼は今まで自分と一緒にいられたことそれ自体を感謝して逝った。
 そんな相棒の、どこまでも変わらない彼としての生き様を見せつけられて、自分の中にこうして迷いが生じたのだ。


776 : リブートpf答え、見つからず ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:02:35 zqe4Ovek0

 もしかすれば、自分がファンガイアの王など自称せず彼と共に行動し続けていれば、最高の親友はあんな傷を負うこともなく死ぬこともなかったのではないかと。
 つまりは、自分の心に反し色んなものから逃げ続けた自分にとっての罰こそが、相棒の死だったのではないだろうかと……そう考えてしまうのだ。
 大切な人たちを守りたい。『キング』としても『紅渡』としても最優先されるべき願いを、覆すことで。

 であればこのまま修羅の道を往ったとして、よしんば世界を救い自身の愛した仲間たち全ての自分に関する記憶を全て消し去れたとして、自身の望む結果など待っていないとしたら。
 果たして自分のこの冷たい覚悟に、どれだけの価値があるというのだろう?
 そうして悩めば悩むほど、彼の身体は酷く重みを増していく。

 この場でずっと、こうして悩み続けていたい。
 願わくば、ここでこうして座っている間に、全ての出来事が平和に終わっていて欲しい。
 そんな、どうしようもなく甘い考えを、吐き出しそうになる。

 だが――。

 『ディケイドとは悪魔、世界の破壊者だ! 奴が居る限り、世界の融合は止まらないのだ!』

 瞬間、世界を破壊する悪魔への憎しみが、自身が屠った大ショッカー幹部を名乗る男の言葉と共に呼び覚まされる。
 ディケイド……存在するだけで全ての世界を存亡の危機に陥れる最悪の悪魔。
 それを破壊することこそが、この会場に集った全ての仮面ライダーが望むことに違いない、そう信じて戦ってきた……はずだったのに。

 『夢という希望は、誰かに受け継がれ、より大きな希望になる。
 だから、夢を抱くことは、決して無駄なんかじゃない!』

 思い起こされる、その悪魔と対峙した時の記憶。
 単純な力では自分に敵わない程度の、弱い仮面ライダーだったはずの彼。
 だがそんな自分の勝利は、土壇場で駆けつけた仲間と共に彼が立ち上がったその瞬間に、覆された。

 夢は呪いに過ぎないと罵った自分に対して、あまりに真っ直ぐに述べられた、夢は希望であるという言葉。
 あの時はそれを戯れ言として切り捨てた。
 少なくとも自分は、そう思っていた。いや……思い込もうとしていた。

 そんな自分の思い込みは結局ただの逃げに過ぎないのだと、ディケイドの仲間を名乗ったもう一人のクウガに看過されるまでは。

 『だから、実際に士に出会って、あいつの言葉に触れたとき、お前は困惑したんだ。
 少なくとも紅渡としてのお前は、あいつの言葉を信じたいと思ったから』

 彼が、疑う余地さえなく、それが真実だとばかりに放った言葉を思い出す。
 ディケイドをただの敵と見なしその破壊を目指す『キング』とは裏腹に存在する、ディケイドを信じたいと願う『紅渡』。
 自分の中にそれぞれ生まれた相反する”自分自身”を、意識してしまったその時点で、彼は立ち止まってしまった。
 
 そんなことは許されないと、百も承知であるというのに。

 『――もし、本当に士が破壊者だったなら、その時は俺があいつを破壊する』

 『だから渡は、自分が本当に信じたいものを信じろ。
 お前が信じたものが間違っていたときは、俺が責任を取ってやる。
 ……信じたいものを根拠なんてなくても信じ続けることが出来る、それが王の資格、らしいからな』

 先ほど聞いた、仲間が悪魔だったなら打ち倒すという覚悟を秘めた男の言葉。
 もしも彼の言葉を信じるなら、こうして『紅渡』の甘えと『キング』の強さとの間で揺れ動き、信じるべきものさえ分からなくなっている今の自分には、王の資格がないのだろうか。
 なれば、『紅渡』の心が命ずるままに、ディケイドを信じ、全ての責任をあのクウガに委ねるのが、最も自分にとって正しい道なのだろうか。


777 : リブートpf答え、見つからず ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:03:08 zqe4Ovek0

 (……いや、そんなこと、駄目に決まってる……!)

 しかしそこで、失せかけたキングとしての誇りが、彼の頭に蘇る。
 誰かに辛い選択を託し、自分はのうのうとしているだけなどと、それこそ本当の『逃げ』ではないか。
 ディケイドは善悪など関係ないただの事象に過ぎない、破壊する以外に道はないと宣ってきたのは、一体誰だったのか。

 (辛い思いをするのは、僕だけでいい……。
 仲間を殺す辛さなんて、味合わない方がいいに決まってる……)

 いつしか自分の思考が、知れずあの見知らぬもう一人のクウガを気遣うようなものに変わっていることに、彼は気付いているのかいないのか。
 そこまで思考を終えて、ようやく彼は暗い部屋の中、一人ゆっくりと立ち上がった。

 「……答えは決まったのか?」

 「ディケイドを……探す」

 暗い瞳を向けたキバットに対し、彼は未だ目を迷わせながらそう放つ。
 だが、かつて王と認めた男が行動を起こそうというその瞬間に、しかしキバットは未だ懐疑的な目を向けていた。

 「……探して、どうする?破壊する、と考えていいんだろうな?」

 「……」

 彼は、それ以上何も答えなかった。
 他世界の参加者をどうするだとか、或いはディケイドを破壊するのか大ショッカー打倒のため協力するのかだとか……つまりは、自分の名前は“どちらなのか”の答えを。
 だが、それが今の彼に出来る精一杯の決断だった。

 自分がどう生きるのか、何を信じ、誰の言葉を受け取り何を蔑ろにするのか。
 その取捨選択という、この場で出すには難しすぎる問いを一旦投げ捨てて、取りあえずは会場に潜むあの悪魔を見つけなくては。
 『紅渡』としても『キング』としても、着実に進んでいく殺し合いをこんな部屋の中で漫然と過ごすのは間違っている、そう思うから。

 故に――。

 「……じゃあね、キバット。僕も、君と会えてよかったよ。本当に……今まで、ありがとう」

 彼は、丁重に毛布に包んで葬られた最早物言わぬかつての相棒に、一言だけを残す。
 どんなに道を違えても、なおも自分を信じ運命を変えられると願い続けた真っ直ぐな親友。
 少なくとも彼の言うとおり、自分の心に嘘をつかないことだけは、絶対に貫き通そう……そう決意して。

 どこかふらついた足取りで部屋を後にした彼の背後に、続く臣下たち。
 先ほど手に入れた紫のサソリはともかく、キバットの目には主の行く末を危ぶむ懐疑心が、サガークには確かな躊躇が含まれていたのを、彼は気付かない。
 王の資格さえ危ぶまれながら、しかし確かな答えを探し……故に悩み続ける彼の名は、未だ定まらなかった。


778 : リブートpf答え、見つからず ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:03:25 zqe4Ovek0


【二日目 朝】
【D-2 市街地】

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、迷い、キバットの死への動揺、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、今後への困惑と混乱
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:……自らの世界を救う為に戦う。
1:キバット……。
2:大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件……?次会ったときは……。
4:始の裏切りに関しては……。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:僕は『紅渡』でも『キング』でもない……。
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも……?
7:キング@仮面ライダー剣は次に会ったら倒す。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キング@キバを知りません。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しましたが、ユウスケの言葉でその討伐を迷い始めています。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※赤のゼロノスカードを使った事で、紅渡の記憶が一部の人間から消失しました。少なくとも名護啓介は渡の事を忘却しました。
※名護との時間軸の違いや、未来で名護と恵が結婚している事などについて聞きました。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。
※サソードゼクターに認められました。
※未だキバットバットⅡ世とサガークにキングとして認められているかは不明です。


779 : ◆JOKER/0r3g :2018/12/22(土) 00:03:55 zqe4Ovek0
以上で投下終了です。
ちなみに、本日12/22は『仮面ライダー平成ジェネレーションズforever』の公開日です!
これまでの平成ライダー20作、主人公ライダーが全員登場とのことで平成ライダーロワの1書き手としても1ライダーオタクとしても非常に楽しみです。

また、恐らくはこれが2018年最後の投下となると思いますが、今年は平ライロワ復活に始まり色んなレジェンド書き手さんに書いていただけたりで書き手としては勿論読み手としても当企画を楽しまさせていただきました。
2019年もしっかりと完結に向けて書いていく所存ですので、皆様今後とも平成ライダーロワをよろしくお願いいたします。

それでは、毎度のことではありますが内容に関してのご意見ご感想等ありましたら是非ともお願いいたします。


780 : 名無しさん :2018/12/22(土) 08:37:15 j58aDKMI0
平成ジェネレーションズ公開日と同時の投下乙です!
渡が実に儚くて、そして今後が気がかりになってしまいますね……多くの人を失い、そして気持ちを背負い続けたからこそ、ここまで追い詰められてしまいましたし。
士を探すとなると、進行方向的に名護さんともまた巡り会いそうな予感がしますが、果たして彼らは一体どうなってしまうやら……?


781 : 名無しさん :2019/01/13(日) 21:09:12 /WAU6Hk60
少し遅いですが、今って加賀美開きの時期なんですよね


782 : ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:07:23 .uktKgcA0
予約とほぼ同時になりますが、これより投下をさせて頂きます。


783 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:08:16 .uktKgcA0
「ああああああああ!」

 雄叫びが聞こえた途端、門矢士は反射的にバイクを止めてしまう。
 視界の先からは、体躯を緑色に染めた異形の怪人……カブトの世界で人類に牙を剥いたワームが迫っていた。頭部より角が盛り上がっている差違はあるが、骸骨を彷彿とさせる顔面はサナギワームに違いない。
 ワームは鋭い爪を掲げて、勢いよく振り下ろしてくる。しかし士がただで喰らう訳がなく、跳躍することで回避した。

「ワームだと!? こんな時に……!」

 現れたワームに対して士は悪態をつく。
 逃亡したキングを追いかけるため、病院に向かうはずだった士にとって致命的なロスタイムになる。まさか、キングの悪事を後押しするため、大ショッカーはワームを新たな刺客として差し向けたのか。
 だが、思案に耽る時間などなかった。ワームの猛攻は止まることがなく、我武者羅に振るわれる爪を避け続けるしかない。ライダーに変身すれば脅威にならないが、生身で受けては致命傷になる。
 バックステップでワームの攻撃を回避し、距離を取る。すぐさまデイバッグに手をかけて、今は亡き海東大樹の愛銃であるディエンドライバーを構えた。

(海東、今はこいつを使わせてもらうぞ)

 病院での戦いにて散った彼に向けて、士は心の中で呟く。
 暴れまわるワームに銃口を向けて、トリガーを引き、無数の弾丸を放った。ワームの体躯より火花が飛び散り、その巨体が微かに揺らぐ。
 もちろん、これだけで負けるわけがなく、ワームは健在だ。ディエンドに変身すれば容易に倒せるだろうが、ここで変身手段を浪費するのは得策ではない。カッシスワームとの戦いによる消耗が残した上で、ディケイドとディエンドの両方に制限がかけられては、肝心のキング撃破は叶わなかった。
 故に、ディエンドライバーのみでワームと戦う必要がある。だが、ワームの方が優位だった。

「があああああああっ!」

 弾丸のダメージなど存在しないかのように、ワームは咆哮を続けている。その分厚い巨体を貫くには相応の攻撃が必要だが、今の士に余裕はない。ワームは爪を掲げながら再び走り出したからだ。
 士は回避行動に移るが、ワームのリーチの長さによって衣服が微かに切られてしまう。もしも、ほんの少しでも遅れていたら両断されていた。
 迫りくる爪の一振りを回避するが、反撃には踏み込めない。ここでもし、ワームが脱皮をして成虫となれば、クロックアップによって士は一瞬で殺害されるだろう。

「うがあっ!」

 絶対的な優位を示すかのように、ワームは攻撃を続ける。
 士には回避以外の行動はできなかった。ディエンドに変身する余裕はなく、かといって生身での攻撃は牽制にもならないだろう。しかし、ここでいたずらに時間だけを経過されるのも得策ではない。

(こいつ……一体なんなんだ?)

 そして、もう1つだけ気がかりなことがある。
 目の前のワームが、まるで獣のように攻撃を仕掛けていることだ。乃木や麗奈を始めとしたワームは人間の姿と記憶をコピーして、擬態元の人間のように振る舞っている。だが、このワームはただ一方的に暴れているだけで、誰に擬態しているのかが推測できない。
 しかし、ミラーモンスターのように本能で暴れている訳でもなく、まるで自暴自棄になっているようにも見えた。


 だが、このワームをここで放置しては、いずれ真司たちにも遭遇する可能性がある。
 まずはこのワームを止めることが最優先だ。己を奮い立たせる士は、ディエンドライバーをワームに向けて引き金に指をかけようとしたが……


784 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:09:29 .uktKgcA0

「グアアアアアアアッ!」

 新たなる叫び声が響き渡り、士は振り向く。
 すると、白虎を彷彿とさせる巨大な怪物・デストワイルダーが窓ガラスの中より飛び出してくるのが見えた。
 士は反射的に横に飛んで、岩をも凌駕する巨体を紙一重の差で回避する。次の瞬間、デストワイルダーが降り立った地面は轟音と共に沈んでしまった。
 そして、現れた獣は獰猛な視線を士に向ける。

「ワームの次は、ミラーモンスターかよ!? 最悪だ……!」

 鏡から来る怪人はミラーモンスター以外にあり得ない。士の不運を嘲笑うかのように、デストワイルダーの爪が迫り来る。
 襲撃に対応しきれず、ディエンドライバーを弾かれてしまった。肉体に深刻なダメージは負ってないが、これで完全な丸腰になる。

「ギャオッ!」

 そして、デストワイルダーの爪が縦に振るわれる。士は横に跳躍することで回避したが、ディエンドライバーからますます離れてしまった。
 士自身も、既に壁際まで追い込まれてしまい、絶体絶命の状況に陥ってしまった。

「グルルルルルル……」
「てめえ……俺をなぶり殺しにするつもりか!」

 せめてもの抵抗として士はデストワイルダーを睨むが、デストワイルダーは唸り声と共にじりじりと迫る。



 デストワイルダーは空腹に苦しんでいた。
 このライダー大戦が始まって以来、東條悟が契約するミラーモンスターとして戦っていたが、獲物を食らうことができないまま12時間以上が経過している。
 浅倉威が取り込んだテラーメモリの恐怖も加わり、自分から獲物を狙う戦意すらも失い、多大な精神的な疲労だけが蓄積された。浅倉の死によって恐怖からは解放されたが、ストレスによって正常な判断力を失ってしまい、ただ獲物のみを求めてさ迷っていた。
 そして、ようやく士とネイティブワームを発見して、デストワイルダーは生身の士を喰らおうと襲いかかったのだ。


 今の士にはこの場を切り抜ける切り札を持っていなかった。
 ディケイドの変身制限は解除されておらず、ディエンドライバーはデストワイルダーの後ろだ。士がキバーラに変身できるとは限らず、何よりもそんな隙をデストワイルダーが与えるとは思えない。
 だが、こんな所で、理性を持たない凶暴な怪人に殺されるつもりはなかった。

(……仕方がない。こうなったら、なんとしてでもディエンドに変身するしかなさそうだな!)

 デストワイルダーが攻撃を仕掛けるのと同時に、奴の死角に回り込んで、ディエンドに変身する。変身制限については棚にあげて、今はこの場を切り抜けることが最優先だ。出し惜しみが原因で殺されては、元も子もない。
 デストワイルダーが構えるのを見て、士もまた覚悟を決める。だが。

「うわああああああああああっ!」

 叫び声が発せられた瞬間、デストワイルダーの巨体が横凪ぎに吹き飛ばされる。唐突な出来事に、両者は反応できない。
 だが、士は見た。先程、士を襲っていたはずのワームが、その鋭利な爪でデストワイルダーに攻撃を仕掛けたことを。そして、士に背を向けながら、ワームはデストワイルダーと睨み合っていた。
 まるで、士を守ろうとしているかのように。


785 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:11:34 .uktKgcA0
「お前……!?」
「あああああああっ!」

 困惑する士には目もくれず、ワームはデストワイルダーに走り出した。
 そのままデストワイルダーの巨体に爪を振るい、突き刺し、再び後退させる。デストワイルダーの巨体を打ち砕こうと、一心不乱に攻撃を続けていた。しかし、それだけでミラーモンスターが倒れることはなく、ワームに反撃の一閃を繰り出す。
 悲鳴と共にワームは地面に転がるが、次の瞬間には再び立ち上がり、戦いを仕掛けていた。そうしてワームはデストワイルダーの巨体を掴み、勢いよく放り投げる。放射線を描きながらデストワイルダーは地面に叩きつけられたので、確かなダメージを与えたはずだ。



 ◆



(僕が……彼を……ディケイドを、守らないと!)

 本当なら、仮面ライダーであるディケイドに殺されるつもりだった。
 剣崎だけでなく、翔一までをも殺してしまった化け物である自分を破壊してくれるのは、破壊者を自称したディケイドだけだ。だから、天道総司の名前と姿を捨てて、ただのワームとして命を捨てようとした。
 だけど、こんな時に鏡より現れた怪物がディケイドに襲い始めた。生身を晒している今の彼では、怪物に殺されてしまう……そんなことを認められるわけがない。この場で戦えるのは、ワームである自分だけだった。
 だから、ワームの力の矛先を怪物に向ける。そうすれば、彼は仮面ライダーに再び変身することができるし、この怪物もろとも自分を殺してくれるはず。ディケイドのためにも、少しでも時間稼ぎをする必要があった。

(剣崎は、もっと痛かったはずだった……だけど、剣崎は苦しさなんかに負けないで……僕からみんなを守ろうと頑張ってた!)

 不意に、剣崎を殺してしまった時のことを思い出す。
 仮面ライダーに変身できず、どれだけ深い傷を負わされようとも、最期までダークカブトに抗っていた。そんな剣崎に報いるのであれば、この命はディケイドに捧げることが義務だ。
 ディケイドから受けた弾丸による傷が痛むけど、関係ない。怪物の鋭い爪が突き刺さり、体を抉られるけど、耐えるべきだ。剣崎や翔一はもっと痛がっていたし、何よりも楽に死ぬことなど許されるはずがない。

(ごめん、剣崎……
 ごめん、海堂……
 ごめん、翔一……
 ごめん、名護さんに翔太郎……みんな……
 僕は取り返しのつかないことばかりしたし、僕はまた化け物になって、誰かを傷付けるかもしれない。でも、今だけは……今だけは……)

 自分を支えてくれた仮面ライダー達の優しさと、自分の手にかかって命を散らせた仮面ライダー達の勇姿を、ネイティブワームは思い出す。
 虫のいい話であることはわかっている。こんなことを頼める資格がないことは理解している。心の奥底にいる自分は、今だって誰かを殺そうとしている可能性だって、充分にある。
 それでも、今だけは……

(今だけは、僕に力を……ディケイドを守るための、力と勇気を貸して!)

 今だけは、ディケイドを守ることだけを、考えていた。この苦しみや痛みを無視してでも、力を振るわなければいけなかった。
 剣崎のブレイラウザーや天道のクナイガンと比較したら、ワームの爪は劣るかもしれない。ブレイドやカブト、そしてアギトたち仮面ライダーのような優れた能力を持たないまま、怪人に立ち向かっても勝てる保証などない。

「ガオッ!」

 事実、次第に劣勢となっていた。
 デストワイルダーの攻撃はネイティブワームの骨格だろうと無視できず、ましてや病院を襲撃したキングやアンデッドの大群による心身のダメージが癒えてない状態だ。加えて、あえてディエンドライバーの弾丸を受け続けた彼が、力を発揮しきれるはずがない。
 まるで、弾痕を狙うかのように、デストワイルダーの爪が振るわれ続けていた。死に最後の希望を賭けた総司の絶望を尊重し、それでいてディケイドを守りたいという総司の願いを踏み躙るかのように。


786 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:13:12 .uktKgcA0

「うわっ!」

 やがて、何度目になるのかわからない一振りの後、ネイティブワームの巨体は壁に叩きつけられてしまう。ガドルやダグバのような強敵に比べれば弱々しい一撃だが、今の彼には確かなダメージになっていた。
 今度はネイティブワームを標的にしたのか、デストワイルダーが距離を詰めてくる。食事を邪魔された怒りからか、デストワイルダーから放たれる殺意は更に強くなるが、これで良かった。

 鼓膜を大きく振るわせるほどの銃声が聞こえた瞬間、デストワイルダーの体表より火花が飛び散る。視界の外より暴風雨の如く放たれた光弾によって、デストワイルダーは大きく吹き飛ばされた。
 ネイティブワームが振り向くと、ディケイドがディエンドライバーを構えている姿が見える。

「よそ見をするな! 戦いはまだ終わってない!」

 ディケイドの叱咤によって、ネイティブワームの中で困惑が生まれた。
 何故、こんな自分を狙わずに虎の怪物だけに攻撃を集中したのか? 変身して、自分もろとも怪人を倒してくれるのではなかったのか?

「行け!」

 しかし、奮起させるような叫びによって、ネイティブワームの闘志が蘇る。
 そうだ、誓ったはずだ。ディケイドを守るために、この怪人を倒すと。今の彼が戦えないなら、代わりに僕が戦わなければいけない。何よりも、ディケイドが僕に力を貸してくれたのだから、その想いに応えるべきだ。
 ネイティブワームはデストワイルダーに鋭い視線を向ける。この眼光にたじろいだのか、デストワイルダーはほんの少しだけ後ずさるものの、逃がすつもりはない。

「うわあああああああああああああああっ!」

 ネイティブワームは全力の叫び声をあげながら走り出し、鋭く伸びた爪を掲げた。
 当然ながらデストワイルダーは吼える。だが、その進行はディケイドが弾丸を放つことで阻害され、ネイティブワームの突撃を許してしまう。
 例え傷付いていようとも、今のネイティブワームを止めることなど誰にもできなかった。彼の胸に宿る輝く勇気を証明するかのように放たれた一撃は、デストワイルダーの巨体を確かに貫いた。

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 断末魔の叫びに手ごたえを感じて、ネイティブワームは勢いよく爪を引き抜く。
 血しぶきの代わりに、大量の火花が傷口より飛び散っていき、デストワイルダーはよろよろと後ずさった。もう、デストワイルダーに戦う力は残っておらず、後はただ最期の時を待つだけ。
 そのまま爆発するかと思われたが、しかし突如としてデストワイルダーは消滅してしまう。デストワイルダーが致命傷を負うと同時に、ミラーモンスターに課せられた1分の時間制限が訪れたのだが、ネイティブワームがそれを知ることはない。

(ディケイド……怪我はなさそうだ。よかった……)

 ただ、ネイティブワームは一人の男の身を案じていた。
 ネイティブワームがデストワイルダーの相手をしたおかげで、ディケイドは傷を負うことのないまま、銃を取り戻している。後は、邪悪な怪物であるネイティブワームを葬ってくれれば、それで全てが終わりだ。
 誰も、自分が殺されたことに気付くことなどない。ディケイドだって、凶悪な怪人たちを倒したと思い込んでくれる。この胸の中に宿る怪人の悪意に、誰かが苦しむことだってなかった。

(あとは頼んだよ、ディケイド……剣崎や翔一たち、仮面ライダーのためにも……戦って。
 君なら、僕たちの世界を……みんなが生きる世界を、救えるはずだから)

 誰の耳にも届かない願いと共に、すべての咎めから解放される瞬間を待つ。
 彼が仮面ライダーに変身して、自分たちを倒してくれれば万々歳だ。そう考えた瞬間、一気に眠気が襲いかかる。ディケイドの無事を確認して気が緩んだのか、体に力が入らず、もうこれ以上は意識を保つことが難しそうだった。

(だ、ダメだ……僕にはまだ、やるべきことが……)

 せめて、少しでも凶悪な怪人らしく振る舞おうとしたが、倦怠感によって阻害されてしまい、まともに体が動かせない。
 一歩前に踏み出した瞬間、ネイティブワームは崩れ落ちるように倒れてしまい、意識が闇に飲み込まれた。


【デストワイルダー@仮面ライダー龍騎 消滅】


787 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:14:45 .uktKgcA0


「おい、しっかりしろ!」

 市街地の静寂を破壊するように士は叫ぶ。
 デストワイルダーは既にいない。ディエンドライバーの弾丸とワームの爪でデストワイルダーにダメージを与えたが、その直後にミラーワールドに引きずり込まれていた。そのままデストワイルダーは爆発したが、このワームは気付いていないだろう。
 そして、ワームも倒れてしまうが、恐らく気を失っただけ。だが、このまま放置することもできなかった。
 例え怪人でも、士のことを命がけで守ろうとしたから、一方的に殺すことなどできるわけがない。だが、ワームがミラーモンスターと戦った理由について見当がつかなかった。
 どうしたものかと、思案した瞬間……

「…………待て待て待てええええええぇぇっ!」

 どこからともなく、野太い叫び声が聞こえてくる。
 顔を上げた瞬間、遠くより白いコウモリが猛スピードで迫っていた。赤い双眸を輝かせながら、士の目前で止まる。少し遅れて、カブトムシを連想させる小型のメカも現れた。
 そのカブトムシには見覚えがあった。太陽の如く輝きを放ち、そして世界のすべてを手にするほどの圧倒的な風格を醸しながら、大切な人を守るために戦った男の相棒だ。
 士は彼の名前を知っている。カブトの世界にとって象徴とも呼べる太陽の神・カブトゼクターだ。

「お前は……」
「おおっと! それ以上は何も言うなよ? こいつは絶対に、この俺……レイキバット様が殺させねえ!」
「何?」
「お前は勘違いをしているかもしれねえが、この男は……総司は俺たちが相棒と認めた男だ! だから、手出しはさせん!」

 白いコウモリ・レイキバットの叫びに士は瞠目した。
 彼は今、何といったか。このワームは、俺たちの相棒であると……そして……

「ソウジ、だと? まさかこいつは……天道総司、仮面ライダーカブトなのか!?」

 士の問いかけを肯定するように、カブトゼクターはボディを上下させる。
 すると、ワームの巨体は発光し、瞬く間に人間の男へと姿を変えた。先程の戦いの影響で気を失ったままだ。変身制限か、あるいは多大なダメージによってワームの姿を維持できなくなったのか。
 だが、その腰にはカブトに変身するためのベルトは存在しない。何故、カブトである彼がワームとなって一方的に襲いかかったのか。何故、カブトゼクターたちを放置して、凶行に走ったのか。
 何よりも、天道総司の名前は2度目の放送で呼ばれている。だが、カブトゼクターはこの男を天道総司と認めた。まさか、巧が最期に話した黒いカブトとはこの男なのか?
 次々と疑問が湧き上がるが、士だけでは答えを得ることはできない。

『――時間だ。これより、第三回の定時放送を開始する』

 そして、士の困惑を破壊するように、けたたましいパイプオルガンの演奏と共に第3回放送が始まった。
 

 ◆


 何もない暗闇の中に落ちていくのを感じる。
 誰の手も届かず、そして声が聞こえることもない、ひとりぼっちの世界だ。一筋の光すらも差し込まず、コンクリート特有の無機質な香りすらも漂ってこない。かつて、自分の姿すらも弄られた挙句、地下深くの牢獄に閉じ込められたかのように、不安で胸が押しつぶされそうだ。
 だけど、今の自分にとってはふさわしい世界だ。八つ当たりのように他者の命を奪い続け、信念を踏み躙り、大切な人を裏切った。こんな自分が、陽の光を浴びる資格などあるわけがない。

 だから自分から化け物になり、正義の仮面ライダーに倒されることを選んだ。
 自分が望んだはずだった。また誰かを傷つける前に、正しい力によって罰を受ける以外に方法はない。そう決めたのに、この心は全く満たされない。そんな資格などないのに、未練を抱いていた。

 けれど、今更どうすることもできない。
 剣崎や翔一の死を嘆いても、彼らが戻ってくるわけがない。あがいたところで、居場所などあるはずがない。名護さんや翔太郎たちの元に戻っても、いつ彼らに対して殺人衝動がわき上がるのかわからない。
 だから、自分から闇の中に落ちていくこと以外に道はなかった。


 ――大丈夫。僕がそばにいる。

 だけど、どこからともなく少女の優しい声が聞こえる。
 この声を僕は知っている。懐かしく、心が暖かくなるのを感じた瞬間、この手が掴まれていく。


788 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:17:32 .uktKgcA0

 ――大丈夫だ。俺がそばにいる。

 続くように、力強くて輝きに満ちた男の声が聞こえる。
 この声も僕は知っている。彼の声に、心が強くなっていくのを感じた瞬間、もう片方の手が握りしめられていく。

 ――もう大丈夫だ。俺たちがそばにいる!

 そして、迷える誰かを救ってくれそうな男の声が、胸に響いた。
 この声だって僕は知っている。重く閉ざされていた瞼を開けた瞬間、太陽のように眩い光が世界を照らし、誰かが微笑んでいる光景が見えた。
 そのまま、僕の体は引き上げられていく。僕はそれに抵抗するけど、この手を掴んでくれるみんなを振り解くこともしたくない。怖いけど、また誰かを裏切ることになるのはもっと嫌だ。
 そんな躊躇の間に、この体はどんどん光に照らされていく。まるで僕のすべてを受け入れて、そして罪を許してくれるかのように。だけど僕は許されていい訳がないし、みんなの所に戻る資格だってなかった。
 やめて、と拒絶する暇もなく、眩さに思わず目を細めてしまい、意識すらも飲み込まれた……



 気が付くと、白い天井が視界に飛び込んできた。
 体を起こした途端、全身を駆け巡る疲労と激痛によって表情を顰めてしまう。同時に、自分に何が起こったのかという疑問もわき上がり、そして見知らぬ部屋で寝かされていたことに気付く。

「ようやく起きたみたいだな」

 聞き覚えのある男の声に、意識が急激に覚醒した。
 振り向くと、堂々と腕を組みながら椅子に座る男の姿が見えて、目を見開く。剣崎からディケイドと呼ばれたあの男が、すぐ目の前にいた。彼の両隣には、カブトゼクターとレイキバットも佇んでいる。

「君は……どうして、ここに……? それに、どうして僕が……!?」
「それはこっちの台詞……と、言いたいところだが、事情は大体わかった。お前の身に起きたことも」
「ッ!? じゃあ、まさか……」
「ああ、こいつらから大体聞いた」
「それじゃあ、僕のことも……知っているの?」
「当たり前だ。お前はかつて一真を殺した黒いカブトだった……
 しかし、天道総司の遺志を継ぎ、ガドルやダグバたちと戦って、剣崎のブレイバックルを取り返している。今のお前が、仮面ライダーとして戦おうとしたことも、俺は聞いた。
 そして、病院のことについても……全てだ」

 ディケイドの真摯な声色は、心に深く突き刺さった。
 同時に、翔一たちの怨恨が脳裏に過ぎってしまい、体が大きく震えてしまう。もう、ディケイドの前にもいられない。彼にすら最期の願いを託せなくなった今、後は人殺しの化け物になるしか残されていなかった。
 いてもたってもいられなくなり、この場から逃げ出そうとしたけれど。

「だが、お前がお前の意志で翔一を殺したのは、キングのデタラメだ」

 そんな衝動を抑えようとしたかのように、ディケイドは言葉を紡いでくれた。

「あいつはお前を罠にはめて、妙な毒を体に流し込んだらしい。そしてお前は正常な判断力を奪われてしまい、津上翔一を傷付けた……そうだろ? レイキバット」
「ああ!
 総司は気付いてないだろうが、総司がキングってヤローと戦っていた時、サソリのようなアンデッドが隠れているのが見えた。
 俺は総司にそれを伝えようとしたんだが、アンデッドの方が早く……すぐに、お前はアンデッドにやられちまった。恐らく、その時に意識を奪われたんだろう。
 ……すまねえ、総司。このレイキバット様、一生の不覚だ!」
「そういうことだ。お前の中に、人殺しを楽しむ別の人格がいるのは、キングの作り話だろう。
 大ショッカーの怪人にでもさせるために、お前を罠にはめて絶望させた……あの野郎が考えそうな悪趣味な話だ」

 ディケイドとレイキバットの表情は徐々に暗くなっていく。
 二人から伝えられた真実に、愕然とした。翔一を殺してしまい、絶望のまま病院から逃げ出した……その全てがキングによって仕組まれた罠であり、ディケイドまでもが巻き込まれてしまったのか?
 そして、キングの罠のことを知ったとしても、こんな自分がやり直せるわけがなかった。


789 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:19:06 .uktKgcA0

「……関係ないよ」

 自分でも信じられないほど、声が冷めているのを感じる。

「今更、どうだろうと関係ない……僕が、翔一を殺したことには変わらないよ」
「おいおい、だからそいつはキングのヤローが……」
「僕がキングの言葉に惑わされていなければ、翔一を殺されることはなかったし、剣崎の遺志だって踏み躙ることはなかった!
 結局僕みたいな化け物に、剣崎の遺志を継ぐなんてできっこなかったんだよ!」

 レイキバットの言葉を遮るように激高した。
 真実なんて問題ではない。剣崎にとって、誰かを守るための力としていたブレイドを纏って、翔一を殺した事実が変わるわけがなかった。
 プライドにしがみついてキングの挑発に乗らなければ、翔一が殺されることもなかったし、剣崎がディケイドに託したであろう最期の願いだって踏み躙られることもない。

「元を辿れば、すべては僕が原因なんだ! 剣崎が死んだのも、海堂が死んだのも、翔一が死んだのも……全部僕のせいだ!
 たった一つしかない命を奪い続けて、仮面ライダーになるという言い訳を並べながら自分の罪を棚に上げて天道の居場所すらも奪って、挙句の果てには僕を信じてくれた翔一の命を奪った!
 ……人殺しを望む化け物、それが本当の僕だ!」

 キングの侮蔑を認めたくなかったけど、それだけの罪を重ねてきた。
 強く叫び声をあげているけど、本当は今だって怖い。こうして苦しんでいる今でも、心のどこかには破壊を楽しむ自分がいて、ディケイドたちに牙を剥こうとしていると考えると、不安に押し潰されそうだ。ディケイドの後は真司や麗奈たちをも傷付けて、最後には大ショッカーの怪人にされるだろう。
 恐怖のあまりに、カブトゼクターとレイキバットからの視線が重く感じて、思わず目を逸らしそうになるけど。

「人殺しを望む化け物……お前、そう言ったな」

 そう、ディケイドは口にしてきた。
 わかりきったことを蒸し返してくる彼の態度に、苛立ちが湧き上がってくる。

「……そうだよ。君も聞いただろう? 僕はたくさんの人を殺してきたことを。
 そんな僕が、今更仮面ライダーになんてなれる訳がないじゃないか!」
「なら、俺はとっくに仮面ライダーの資格を失っているな。俺も、誰かのために戦う仮面ライダーの命を奪ったからな」

 憤怒の叫びに対するディケイドの答えは、あまりにも予想外だった。
 彼の言葉は到底信じられる訳がなく、一瞬だけ呼吸が止まってしまい、幻聴ではないかと疑ってしまう。
 今、彼は何と言ったのか? 仮面ライダーの命を奪った……そう、口にしたのか?

「……君が、仮面ライダーを殺した? 何を、言っているの? ディケイドが、そんなことをするはずが……」
「いいや、嘘じゃない。2度目の放送では、五代雄介という男の名前が呼ばれた。その理由は……俺が、雄介の命を奪ったからだ。
 雄介だけじゃない。お前が気絶している間に、野上良太郎という仮面ライダーの名前も呼ばれている。良太郎も、お前が憧れるような仮面ライダーの一人だったが……俺のせいで、死んでしまった」
「君の、せいで? そ、それは……違う……」
「何も違わないさ、俺は世界の破壊者。
 この際だから、言っておこう。俺はかつて、多くの仮面ライダーを破壊してきた……俺の手にかかり、犠牲になった仮面ライダーの数はもう覚えていない。
 確か、破壊した仮面ライダーの中には、カブトとブレイドだって含まれていたかな」

 微塵のためらいも見せないまま、ディケイドは堂々と宣言する。
 声色には得体の知れない迫力が込められていて、言葉を失ってしまう。だけど、それ以上にあのディケイドが仮面ライダーを犠牲にしたということが、受け入られなかった。
 でも、彼が嘘を言っているようには見えない。だから、カブトとブレイドを犠牲にしたことも、本当かもしれなかった。

「お前の言い分なら、俺も仮面ライダーの資格がないようだな。そして、俺の心の中には破壊を楽しんでいるもう一人の俺が、どこかに隠れている……
 このままだと、いつかもう一人の俺が誰かを……」
「違うっ!」

 淡々としたディケイドの言葉を、心からの叫びで遮った。
 意識した訳ではない。何か特別な理由があるのでもなく、反射的な行動だった。自分でも信じられなかったが、彼の言葉を続けさせてはいけない気がした。


790 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:20:51 .uktKgcA0
「違うよ……君は、そんな奴じゃない!」
「何が違うんだ? 俺が仮面ライダーを破壊し、命を奪ったのは事実だ。そんな俺が、仮面ライダーとして戦う資格などないだろう?」
「例え、そうだったとしても……君が誰かの死を望むような奴じゃないことは、僕はよく知っている!
 だって君は剣崎と一緒に戦ってくれたし……僕の命だって、救おうとしてくれたじゃないか! そんな君が破壊者だなんて、ありえないよ!」

 必死の叫びが狭い空間で響き渡る。
 今でも鮮明に思い出せるのは、病院で繰り広げたディケイドとの戦いだ。彼は瀕死の剣崎と力を合わせて、ダークカブトだった自分に立ち向かっている。あの時のディケイドは破壊を望んでいるようには見えなかったし、何よりも剣崎の勇姿を心から認めていた。
 先の戦いだってそうだ。ワームとなって一方的に襲いかかった自分を助けるため、怪人に攻撃を加えている。破壊ではなく、誰かを守ろうという勇気がそこにあった。
 だから、殺戮を望む化け物がディケイドの中にいるわけがなく、何か止むを得ない理由があるはずだ。

「そうか……だが、俺が一真を助けて、そしてお前の命が救われたとしても、死んだ奴らはもう帰ってこない。やり直すことだって、できないんだぞ?」
「そ、それでも……それでも、君には仲間になってくれる人がいる!
 名護さんや翔太郎に一条さん、真司や麗奈、修二にリュウタ……みんな、話せばわかってくれるよ!
 今だって、君の隣にはレイキバットやカブトゼクターがいるじゃないか!」
「それは、お前だってそうじゃないのか?」
「えっ?」
「お前のそばには、お前を認めてくれた奴らがたくさんいる。このレイキバットとカブトゼクターだって、お前のことを必死に探して、そしてお前を守った。
 何よりも、お前は俺を助けようと戦った……違うか?」

 そう、ディケイドはしたり顔で口にした。
 彼と入れ替わるように、今度はレイキバットが前に出る。

「総司。お前はカブトゼクターに言ったよなぁ? 死んでいった仮面ライダーたちの遺志は、この僕が継ぐ! と……あの時の言葉は、嘘だったのか?」
「う、嘘じゃないよ! 天道やダークカブトゼクターのために、そしてみんなを守るために戦いたいって、思ってた!
 でも、怖い……また、誰かを喪うことが……自分に負けて、仮面ライダーの力で誰かを傷付けてしまうことが、怖いんだよ!」

 言葉を紡ぐたびに胸の奥が締め付けられていき、気が付くと大粒の涙が溢れ出ていた。
 ダークカブトゼクターはこんな自分を守るため、ガドルを相手に意地を見せた。名護さんとの絆を信じてくれた天道だって、こんな自分にカブトゼクターを託してくれた。彼らのためを想うのならば、立ち上がるべきであることはわかっている。
 だけど、この体は動かない。今の自分に、カブトにふさわしい勇気を背負えるとは思えなかった。

「……俺は、お前が一真を殺したことを許すつもりはない」

 恐怖に震える心を咎めるように、ディケイドは呟く。
 顔をあげて、ディケイドと目を合わせる。拒絶するような言葉だったが、その瞳からは……どこか温かさが見えた。

「お前がどう変わろうとも、お前が一真を殺したという事実は変わらない。お前が誰かを殺そうとするなら、俺はお前を破壊するつもりだ」
「……そうだよね。やっぱり、君も僕のことを……」
「だが、一真は言っていた」

 失意に沈みそうになった途端、ディケイドは窓から差し込んでくる太陽の光を目がけて、己の指をかざす。その姿は、まるで本物の天道総司のように、天の道を歩むに相応しい強さと勇気で溢れていた。

「ブレイドの、仮面ライダーの力で……みんなを守ってくれ、と。あいつは、最期までお前のことを憎もうとせず、俺にすべての願いを託していた」
「仮面ライダーの力で、みんなを護って……? 剣崎は、本当にそう言ってたの?」
「ああ。そして、お前が出会った仮面ライダーファイズ……乾巧という男は、天道からのメッセージを託されている。
 アメンボから人間まで、全ての命を平等に守る……そんな天道の夢を、天道と同じ顔をした黒いカブトに変身する男に伝えてくれと、巧は言っていた。
 そして、巧も死んだ……けれど、巧はきっと笑っていたはずだ」
「天道たちが、僕に……!?」

 驚愕と同時に、この部屋に太陽の光が更に注がれていき、思わず目を細めてしまう。
 天道と巧は自分に夢を託していた。二人の遺志を継いで、全ての命を守ってくれると信じていた。カブトゼクターだけでなく、彼らの夢だって背負っていたのだ。

 その途端、涙で濡れた頬を触れられるのを感じる。
 いつの間にか、カブトゼクターが目前にまで迫り、その角で涙を拭ってくれていた。力強さをそのままにしながら、この顔を傷つけないようにゆっくりと。


791 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:22:15 .uktKgcA0

「カブトゼクター……君は、まだ僕と一緒にいてくれるの?」

 問いかけると、カブトゼクターは頷いてくれた。ガドルとの決着をつけるため、初めてカブトゼクターを手に取った時のように。

「おっと、俺様を忘れるなよ! 総司、お前はまだまだ見込みがある男だ! この俺様が認めたのだから、もっと堂々としてもいいんだぜ?
 それに、例えお前の中にもう一人のお前ってヤツがいて、誰かを殺そうとしたのなら……この俺様が総司を救ってやろう!
 大丈夫だ! 俺様もそばにいる! そして上を見ろ!」

 今度はレイキバットが反対側の頬に翼を添えて、涙を拭いてくれる。
 そんなレイキバットに促されて、首を上げた瞬間、見覚えのある優しい光が発せられ、ハイパーゼクターが現れた。
 ハイパーゼクターはその小さな体で、いつの間にか手放してしまったデイバッグを運んでいる。ぶん、と音を鳴らしながらデイバッグを振るうと、銀色のベルトが目の前に落ちてきた。
 今はもういない、心から信頼した相棒と繋がるためのベルト。そして今は、天道たちから託された遺志を成し遂げるため、正義の仮面ライダーに変身するためのベルトだった。

「これは、僕のベルト……! まさか、ハイパーゼクターは僕のために運んでくれたの!?」

 時空の扉から放たれる輝きが収まった頃、ハイパーゼクターもまた頷く。その後ろで開かれた扉からは、多くの仮面ライダーの力強い笑顔が見えた気がした。
 剣崎も、海堂も、天道も、翔一も……みんな、暖かい瞳で僕を見守ってくれている。そこに失望や憎悪など、一かけらも感じない。
 なんてことだ。みんなはずっと僕に手を差し伸べてくれていた。キングの嘘に惑わされて、全てから逃げ出そうとしたにも関わらず、僕のことをこんなにも想ってくれていた。

「最後にもう一つだけ、伝えておこう」

 やがて、ディケイドは椅子から立ち上がりながら、宣言する。

「生きている限り、大切な誰かと離れ離れになる時は必ず訪れる。しかし、互いを信頼しあえば、どれだけ遠くに離れていても……心はいつだってそばにいて、もう一度だけ巡り会わせてくれる。
 そして、また新しい出会いが訪れて、人はもっと大きくなれる……生きて、道を歩く度に、絆はもっと大きくなっていく」
「それは、誰の言葉なの?」
「俺の言葉だ」

 そして自分を指さす彼の姿は、どこまでも大きな自信に満ち溢れていた。きっと、天道に勝るとも劣らないだろう。
 そんな彼には、どうしても聞きたいことがあった。

「君は、いったい何者なの?」
「言ったはずだ。俺は、通りすがりの仮面ライダーだと」
「そうじゃないよ。僕は君の名前が知りたいんだ……君の本当の名前を」
「……門矢士だ、覚えておかなくていい」

 かつてと違い、否定のニュアンスが含まれた言葉だ。
 けれど、その名を胸に刻みたかった。剣崎たち仮面ライダーのために戦い、僕を救ってくれた男の本当の名前を。
 ディケイド……門矢士を前にして、僕はようやく立ち上がった。

「いいや、僕は君の名前を忘れないよ。士のことを、ずっと覚えているから。
 本当にありがとう……カブトゼクター、レイキバット、ハイパーゼクター、そして士! 僕の名前は、天道総司……またの名を、仮面ライダーカブト!」

 そして、士たちへのお礼も込めて、僕もまた名乗りを上げる。
 まだ、恐怖は拭い去れていない。キングと戦えるかどうかはわからないし、僕が見捨ててしまった名護さんや翔太郎たちの所に戻るのは、はっきり言って不安だった。
 天道のような天の道を歩めるとは限らないし、剣崎のような輝く勇気だって持っている自信がない。だけど、きっと大丈夫だった。僕のことを信じて、そして守ってくれたみんながここにいるのだから。
 だから、僕は天道総司の名前を背負って生きていきたい。僕を信じてくれた人たちや、戦う力を持たない誰かを救うためにも。

「天道総司……その名前、覚えておこう」

 士の声は、やっぱり頼もしく聞こえた。


792 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:24:51 .uktKgcA0


 ◆



 総司は立ち上がってくれたが、自分たちに猶予は残されていない。
 東エリアの大半が禁止エリアとなり、そして大ショッカーからの刺客が新たに現れることが放送で告げられた。大ショッカーは殺し合いを確実に煽り、参加者を強引に減らしにかかっている。
 東エリアに残してきたフィリップや涼たちが心配だし、また橘も散ってしまった。あのン・ダグバ・ゼバの名前が呼ばれたことが不幸中の幸いだが、微塵も喜べるわけがない。仮にダグバが死んだとしても、この殺し合いが終わることはないし、またダグバが簡単に死ぬような奴なのか? 乃木が復活したように、ダグバも何らかの手段で復活する可能性も0とは言い切れない。
 だが、仲間を失った悲しみに沈み、そしてダグバの蘇生を警戒してもどうにもならなかった。東エリアの仲間たちも、無事に脱出してくれることを祈るしかない。

「士、ごめん……僕のせいで危ない目に遭って……」
「総司。それは、ここで話すようなことじゃない」

 泣きそうな子どものように落ち込む総司を、士はぶっきらぼうに励ます。
 今は一刻も早く病院に向かい、総司の仲間たちと合流することが最優先だ。戦闘と総司の回復で時間を取られたが、トライチェイサーを走らせればいいだけ。

 名もなき民家から出て、病院を目指す。
 だが、二人の足はすぐに止まった。

「まさか、お前の方から来てくれるとはな」

 士が呟いた途端、新たなる足音が割り込んでくる。
 振り向いた先には、この殺し合いで多くの悲劇を生み出した仇敵の姿があった。

「……あーあ。その様子だと、ディケイドが余計なことをしてくれたみたいだね」

 若干の落胆が混ざっているが、その声を忘れるわけがない。

「「キング……!」」

 士と総司が叫んだ瞬間、現れた男……キングは薄気味悪い笑みを浮かべ始めた。


【二日目 朝】
【D-2 市街地】


793 : 天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:25:39 .uktKgcA0
【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、不安と安堵、仮面ライダーブレイドに1時間40分変身不能、サナギ態に2時間変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
0:目の前のキングに対処する。
1:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
2:翔一、ごめんなさい……。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:士が世界の破壊者とは思わない。
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、ごめんなさい。
【備考】
※自分が翔一を殺したのはキングの罠であることに気付きました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、現状では半信半疑です。



【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに10分変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:目の前のキングに対処する。
2:総司のため、西側の病院を目指す。
3:巧に託された夢を果たす。
4:友好的な仮面ライダーと協力する。
5:ユウスケを見つけたらとっちめる。
6:ダグバへの強い関心。
7:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
8:仲間との合流。
9:涼、ヒビキへの感謝。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、電王の力を使う事が出来ます。カブトの力については不明です。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ダグバが死んだことに対しては半信半疑です。



【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、愉悦
【装備】破壊剣オールオーバー+ソリッドシールド@仮面ライダー剣、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、カッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明、首輪(五代、海東)
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:目の前のディケイド達に対処する。
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
3:僕はまだ本気出してないから負けてないし!
4:ダークカブト(擬態天道)は徹底的に堕とす。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※他世界のコーカサスビートルアンデッドと一体化したためソリッドシールドが復活しました。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。


794 : ◆LuuKRM2PEg :2019/04/15(月) 21:26:05 .uktKgcA0
以上で投下終了です。
ご意見などがありましたら、よろしくお願いします。


795 : 名無しさん :2019/04/15(月) 23:52:06 FZCaG5M60
久しぶりの投下だああああああ!!!!
投下乙です!
キングに心をへし折られた擬態は今一度再起して、今度は士と共に宿敵に立ち向かうか……
名護さんや渡も町に駆り出してきてる今、この戦いもただじゃ終わらなさそうだけど、果たして一体どうなることやら
そして地味に死んでいったデストワイルダーくんにも合掌、最後の最後までいいとこなくお腹も満たされなかったね……

それと、一つ指摘というか気になった点なのですが、戦闘終わって放送あって総司目覚めるまで待って会話して、まで含めて数分も経ってないのはどうなのかなーとは思いました
とはいえディケイドに変身出来ない士がキングとどう戦うかとかは気になるのが正直なところなので、書き手さんがこれで行きたいとのことであればその意見を尊重して指摘は取り下げようと思います


796 : 名無しさん :2019/04/16(火) 02:23:11 i7NEhj6.0
投下乙です!
まず最初にデストワイルダー……正直忘れてたよ。

キングの凶悪な罠は厄介でしたが、何度心折られても立ち上がる総司くんはやっぱり仮面ライダーなのですね。これまで多くのライダーと言葉を交わしてきた士に導かれるという会話も見事でした。

そしてキングか……戦力的にはライダー優勢ですが、それは病院戦でも同じこと。またしてもキングが戦力差を覆すか、それともついに封印されるのか?今後に注目です


797 : 名無しさん :2019/04/16(火) 05:03:49 i.mMQCVg0
投下乙です
ここまで紆余曲折ありすぎた総司…でもここで安易な脱落は「皆」が許してくれません!
士の方もいつもの説教かましつつも、幾分か本音を吐いたところで現状の大敵現る…
いい加減落ちてくれるのか、それともまだ生き延びて暗躍するのか、楽しみにしています


798 : ◆LuuKRM2PEg :2019/04/16(火) 06:51:01 GUWS3q9E0
感想及びご意見ありがとうございます。
そして、収録の際に士はディケイドの変身を可能にし、また総司はブレイドに1時間30分・サナギ態に1時間50分変身不可という形で修正をさせて頂きます。


799 : ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:03:46 Xj0mfVFo0
お久しぶりです。
ただいまより投下を開始いたします。


800 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:04:33 Xj0mfVFo0

「ちょっと、待てよリュウタ!」

「嫌だ!だって修二嘘つきだもん!」

「嘘なんてついてないって!」

広い平原を、紫の異形と一人の青年が駆けている。
しかしこの文章から通常読み取れるものとは違い、逃げる異形を青年が必死に追いかけている形だが。
ともかく、聞く耳持たずといった様子で必死に走り抜ける異形……リュウタロスの肩をやっとといった様子で青年、三原は掴んだ。

「だから待てって、リュウタ……。
良太郎さんのこと、いきなりで悪かったけど……あれは嘘じゃなくて本当の――」

「――嘘だ!良太郎が死ぬわけないもん!修二も真司も、麗奈もみんな嘘つきだ!」

自身の腕を強引に振り払いながら涙を携えて放たれたリュウタロスの叫びに、三原は思わず言葉を詰まらせる。
先ほど気絶から目覚めたリュウタロスに対し、彼は大した前置きもなく良太郎が死んだらしいと述べた。
それが彼にどれだけの影響を及ぼす言葉なのか深く考えるよりも早く、自分がこの辛い事実を伝えなくてはならないというジレンマから、解放されたい一心で。

そしてそれを聞いた途端、寝ぼけ眼であったはずの彼は一瞬で跳ね起き真司と麗奈、それぞれに確認を取った。
しかし心優しい存在であると認識していた彼ら彼女らがそれぞれ良太郎の死について否定せず苦い顔を浮かべたことで、リュウタロスはその場から逃げるように走り出したのである。
良太郎の死を受け止めるよりも、眠っている間に彼らが全員口裏を合わせて嘘をついたのだと、そう思い込むことで。

「でも、それは――」

「……いつまでやっているんだ、お前たち」

それでもなお何とかリュウタロスを落ち着けようと言葉を紡ごうとした三原の後方から、響く女の声が一つ。
それは、自分とリュウタロスがそれなりに全速力で走ってきたはずだというのに、息一つ切らさず平然とそこに立つ間宮麗奈のもの。
幾分かの呆れを含んだ麗奈の声に委縮し、すっかり勢いを無くした二人の前に、ぜぇぜぇと息を切らした男が一人追い付いた。

「はぁ……はぁ……いきなり走り出すなよな、リュウタも三原さんも……」

「……ごめん、真司」

三原だけならばともかく、他の仲間二人まで悪戯に走らせてしまったことへの申し訳なさを、今更ながらリュウタロスも感じたらしい。
しかし彼もまた良太郎の死などという情報をすんなりと飲み込むほど物分かりがいいわけではなく、もう一度口を開こうとして――。

――パイプオルガンの音色が、彼らの鼓膜を刺激した。





「翔一……嘘だろ……」

放送が終わり、灰色のヴェールに消えていく飛空艇を見送りながら真司は一人その拳を握りしめた。
津上翔一。この世界に来てから数時間行動を共にした、心優しい異世界の仮面ライダー。
数時間前に互いの無事を願って別れたばかりだというのに、彼はその命を落としてしまったのだという。

ダグバにやられたのか、或いはまた別の誰かに――それこそ士の言っていたキングという大ショッカー幹部にでも、やられてしまったのか。
考えても仕方のないことではあるが、それでもやはり、思い出してしまう。
元の世界に返って、餃子を食べさせてやるとそう約束したあの夕方を。


801 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:04:57 Xj0mfVFo0
そしてそこで誓い合った、自分の認識を変えてくれた彼の言葉を。

『かっこいいじゃないですか、人を守るために戦う仮面ライダーって』

元の世界では誰一人として言ってくれなかった、人を守り戦うことを肯定するような翔一の言葉。
きっと彼だって仲間が死んで小沢が行方不明になり、心細くて仕方なかっただろうに、それでもなお弱音を吐くことなく自分を励ましてくれた。
そんな彼への感謝と……そして彼との子供じみた数多のやり取りを思い出して、真司は思わずナイーブな気分に沈んでしまいそうになる。

「あれがお前の言っていた神崎士郎……か」

だがそうして沈み込みそうになった真司の意識を浮上させたのは、冷静そのものといった様子でこちらに声を投げる麗奈の声だった。
ゆっくり首だけ振り返って、それからもう一人、今の放送で忘れてはならない人物が現れたことを彼は思い出す。

「神崎……か」

しかし、その名を呼ぶ声は低い。
麗奈からすれば一年間止めようとした戦いを執り行う憎い存在として真司の中に刻まれているとばかり思っていたために、この反応は些か意外であった。

「どうした、城戸真司」

「いや……もしかして、神崎も俺が原因でライダー同士の戦いなんて始めたんじゃないかって、そう思って……」

「何?」

麗奈の驚愕を込めた声に、真司は答えない。
今彼の中では、ライダー同士を戦わせ続けた神崎が大ショッカーにも協力していたことへの怒りよりも、複雑な思いが渦巻いていた。
神崎士郎。自分たちにカードデッキを渡し、13人のライダーのうち最後の一人となったものは願いを叶えられるという甘言で自分たちを戦いに巻き込んだ男。

この一年間、彼がライダー同士の戦いなんて言い出さなければ誰も犠牲になることはなかったのにと、何度思ったことか。
ミラーワールドのモンスターを倒すためにとだけ言ってデッキを渡していたなら、自分があそこまで奔走する必要もなかったというのに、と。
だが、今となっては――ミラーワールドが開かれモンスターが生まれた事実の元凶が、自分が幼き日に破ってしまった約束の為だと知った今となっては――真司の彼への感情も今までと同じ単純なものではいられなかったのである。

もし自分が、あの雨の日にしっかり優衣ちゃんとの約束を守り遊びに行っていたなら。
そしてそれによってミラーワールドもモンスターも生まれることを防げていたら。
或いはその兄である神崎も、血を血で洗うライダーバトルなど思いつかなかったのかもしれないと、そう思ってしまった。

もしもミラーワールドが生まれたことで神崎自身にも何らかの事情が生まれ、戦いを始めなければならなくなったのだとしたら……その責任は、自分にもある。
いやどころか、神崎が始めた戦いで生まれた数多の犠牲だって、自分の責任だと言うことさえ出来る。
霧島や蓮のような大切な人を蘇らせるため、やむを得ず戦いに参加せざるを得なかったライダー達のことを、真司は思い出す。

誰かを殺めてまで自分の願いを叶えようとするなど絶対に間違っていると、真司は思う。
だが一方で、彼らの願いは果てしなく尊いもので、真偽さえ不明なライダーバトルの報酬を唯一の望みとするほかないことも、真司には理解できていた。
だからこそ……そんな彼ら彼女らが一抹の希望を見出した戦いを生んだ責任を、真司は無視することが出来なかった。

「もし神崎にも何か願いがあって、その為にライダーバトルをさせる必要があったんだとしたら、俺が蓮たちを戦わせたも同然じゃないかって、そう思って……」

「願い……か」

感情のままに言葉を吐き出し続ける真司に対し、どこか虚空を見つめながら儚げに麗奈は言う。
あまりに静かなその様子に真司が一瞬面食らったその隙に、麗奈は真司に視線を移し続けた。


802 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:05:18 Xj0mfVFo0

「……城戸真司、一つだけ聞きたい。
お前には、戦いの果てに叶えたい願いはあったのか?」

「えっ?俺の……願い?」

「そうだ。ライダー同士の戦いで最後の一人になれば、願いが叶う……。
もし自分が最後の一人になった時、叶えたい願いはなかったのか?」

「いやそれは……」

先ほどまでとは一転して、真司はいきなり言葉に詰まる。
神崎について悩んでいる自分に投げるには、あまりに唐突な質問ではないかと、そう言いたい気持ちもある。
だがそれでも、ここでこの問いに嘘を返す必要もないと、真司は一つ息を呑み続けた。

「……俺には最初から、最後の一人になった時に願う望みなんてないんだよ。
ライダー同士の戦いなんて止めて、みんなで人を襲うモンスターと戦えればそれでいいって、それしか考えてなくて……」

この一年間蓮をはじめとしたライダーたちに何度も問われ、その度答えてきたこの言葉。
だがそれを聞く麗奈の顔は、驚きと納得が同時に生じたかのような、真司も初めて見るものであった。

「……なるほどな、お前が戦いを一向に止められなかった理由が、それでよくわかった」

「え?それってどういう……」

暫くの沈黙の後麗奈から齎されたのは、真司が長い間悩んできた問いの答え。
思わず前のめりに問うた彼に対し、麗奈はやはり極めて冷静に返す。

「――簡単なことだ。ライダーの戦いを止められなかったのは、お前自身に明確な願いがないからだ。
願いを叶えるため戦いを選ぶしかなかった他のライダーに比べて、お前は戦いをやめたところで何も損することはない、違うか?」

「いやまぁ、そりゃ……そうかもしれないけど……」

齎された麗奈の言葉は、至極当然なものであった。
ライダー同士の戦いをやめたとき、他のライダーと真司との間に生じる最大の違い。
それは、願いを叶えられなくなるか否かということだ。

恋人や姉の命を諦めたり、或いは自分の命を諦めたり。
不特定多数の人々を救うためという漠然とした正義感で諦めるには、あまりに重い望みを抱えたライダー達。
そんな彼らに戦いをやめさせ願いを捨てさせるには、願いを持たない真司では役不足だと、麗奈はそう言いたいのである。

「そして同時に……やはり神崎の行いは、奴自身の責任だ。
お前が気に病むことは、何もない」

だが瞬間、続く麗奈の言葉に、真司は思わず目を見開いた。

「でもミラーワールドが出来たのは俺が……」

「そうだとしても、だ。お前はライダー同士の戦いに参加しながら、願いを持たずただその戦いを止めることだけを望んでいる。
もしお前がミラーワールドの始まりに責任があるのだしても、それを止めようと一心に戦った時点でそれを続けようとしているのは神崎という男のエゴに過ぎん」

真っ直ぐに言い放った麗奈を前に、しかし真司はそれで納得する様子はなかった。
麗奈の言っていることの意味は分かる。彼女の言う理屈も分かるつもりだ。
だがそれでも、この一年関わってきたライダーバトルの元凶が自分であるという事実を簡単に受け流せるほど、城戸真司という人間はうまく出来ていなかった。

「そうだとしても……」

思わず漏れたその呟きは、今にも消え入りそうな、しかし消してはならない決意を秘めたものだった。
眉をひそめた麗奈に対し、意を決したように、或いは今までの我慢が解かれたように、真司は矢継ぎ早に口を開いた。


803 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:05:36 Xj0mfVFo0
「――そうだとしても、蓮や北岡さんや、それに浅倉だって、ライダー同士の戦いがなければ戦うことなんてなかったし、それで死ぬことなんてなかったんだ!
それに神崎だって俺がちゃんとしてれば仮面ライダーなんて作らなかったかもしれないし、そしたら俺たちの世界が崩壊の危機に巻き込まれることだって――!」

それは、真司の悲痛な叫びだった。
自分がミラーモンスターを作り殺し合いを巻き起こした元凶だと知ってから、ずっと心の奥底に隠してきた不安。
ライダー達の死が、そして神崎の登場が、真司の中でせき止められていた思考の奔流を解き放ってしまったのである。

戦いを止めたかった自分の思いそれこそが、ただ自分の尻拭いに過ぎないのだとしたら。
それさえ正しいと言い切れないのだとしたら、自分が戦ってきたことに一体どれだけの意味があるのだろうか。
そうして心の内を曝け出した真司を前に、麗奈は一人どこか合点がいったように小さく頷いた。

「……それで、十分じゃないか?」

「え?」

放たれた麗奈の言葉は、字面だけ見れば突き放すようなものにも見える。
だがその実その表情には“以前までの麗奈”のような、慈愛に満ちた優しい瞳が宿っていて。
先ほどまでの勢いが嘘のように言葉を失った真司に対し、麗奈はなおも続ける。

「お前はお前なりに必死に考え、他者の願いの為にも必死に悩むことが出来る男だ。
ライダー同士の戦いの元凶だろうが、お前の世界が崩壊に巻き込まれた元凶だろうが、お前はずっと、誰かの願いを受け止めようと頑張ってきたんだろう。
それを経てきたのなら、私はお前がその為に誰かに迷惑をかけようと構わないとさえ思う。
何故ならお前がやってきたそれは、『誰も傷つかなくていいための迷惑』だからな。……そうだろう?」

悪戯っぽく笑った麗奈に対し、真司は居心地が悪いように感じて少し目を逸らした。
誰も傷つかなくていいための迷惑……それは翔一と共に麗奈を説得した際、自分が吐いた言葉だったのを、思い出したのである。
先ほど乃木の前に立ちはだかって繰り返したはずだというのに、こうして麗奈に改めて言われるまですっかり忘れていたような心地だった。

いやきっと、本当の意味で真司はその言葉を忘れていたわけではあるまい。
麗奈や総司や、或いはまた別の悩める仲間がいたのなら、きっと真司は迷うことなくその言葉をかけただろうから。
だから、結局は単純なことだ。

あーだこーだとごちゃごちゃ理屈をこねたって、結局真司は、自分の言ったことを自身に当てはめることなんて出来ないのだ。
それは蓮や美穂や、果ては神崎の事情だってひっくるめて迷うというのに、結局は自分自身には譲れない願いがないという事実と重なって、真司に深く突き刺さる。
真司は決して頭のいい方ではない……いや、その悪さについては、他者が指摘するよりもずっと自覚していると言っても、過言ではないだろう。

だがそれでも、頭が悪いからと言って、何も考えなくていいわけではないと真司は思う。
そして、答えが出なくても必死に誰かの為に悩めるのなら、それで誰かに迷惑をかけたとしても構わないのではないかと麗奈は言う。
言われて初めて、自分が麗奈に放ったその言葉を実践するのがどれだけ難しいのか気付いた。

だがその麗奈本人は、こうしてワームの自分にさえ打ち勝ち人間性を勝ち取ったのだから、自分が今更弱音を吐くわけにもいかず。
瞬間、すぅと冷え始めた真司の脳が、神崎のことやライダーバトルに参加したライダーたちのこと、そういった外部要因を全て取り除いていく。
そうして残った何かが、きっと自分の願う思いに最も近いものなのかもしれないなと、真司はぼんやり考えて。

最後に残ったどうしても守りたい思いは、既に一つに決まっていた。

「俺は……やっぱり、ライダー同士の戦いなんて止めたい。世界の崩壊とか、正直よくわかんないし、それが正しいかなんてわからないけど……。
それでも、俺は戦いを止めたい。その途中でたくさん迷惑をかけたり、かけられたりするかもしれないけど……それでも俺は、皆が傷つかず幸せになれる世界を、信じたい。
もし俺に、ライダーとしての願いがあるとするなら、それが俺の願い……なのかも」


804 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:05:53 Xj0mfVFo0

真司のたどたどしく要領を得ない、しかし真っ直ぐな思いを秘めた言葉を受けて、麗奈は満足したように息を一つ吐いてしっかりと頷いた。
そんな彼女を見て、前に翔一と一緒に説得した時と立場が逆になったような今の状況に、真司はどことなく照れ臭い思いを抱く。
この空気に堪えきれなくなった彼は、麗奈から目を離すため思い切り空を見上げ、あの時麗奈を説得できた最大の理由である友を、その朝日に重ねた。

寒いギャグを飛ばして常に真司に謎の疲労感を抱かせたり、どこまでも能天気でキバットにさえ呆れられたり。
しかしある時は溜まり切った疲れさえ一気に吹き飛ばすような笑顔を浮かべるあの男に、太陽はよく似ていた。

(翔一……ごめんな、こんな風に悩んで立ち止まってたら、お前に顔向けできないよな。
……俺、頑張るからさ。お前ほどうまくは出来ないかもしんないけど、それでも――!)

拳を一つ握りしめて、痛む掌にさえ固い決意を乗せて、真司は太陽をただ見つめる。
もう迷わないという思いと共にまた一つ友の死を乗り越えた真司のその横で、麗奈はもう一度だけ頷いた。





真司と麗奈が繰り広げる会話を横耳で聞きながら、男――三原修二はただぼーっと立ち尽くしていた。
彼の双眸が移す景色は目の前の世界のようでいて、その実違う。
視界の端に突然座り込んだリュウタロスを捉えているのも、意図的であると断言出来ないような、そんな様子だった。

平均的な一般人男性程度の体力を有する彼がここまで疲労したのは、長距離の移動によって足に蓄積された乳酸がもたらすものか、それとも殺し合いという場への緊張感からか。
否そのどちらでもないことは、彼の瞳を見れば分かることであった。

(帰りたいな……家に)

三原の視線が、ぼんやりと飛行艇が消えていった空をなぞる。
先ほど消えた無数の飛行艇のように、自分もあの灰色のオーロラのようなヴェールに呑まれてこんな狂った会場とおさらばしたい。
そんな下らないことを考えて、ふと自分のどうしようもなさを自嘲しながら、彼は自身が途方に暮れた原因の一つである、先の放送担当者が放ったとある言葉を思い出していた。

(戦わなければ願いは叶わない、か。……勝手なこと言うなよな)

神崎士郎と名乗る男は、願いを叶えたければ戦えと宣った。
三原にとって最上の願いとは、『戦う事なく、元の世界に帰還すること』。
その願いを果たすために戦えば、それは最早自身の願いとは矛盾してしまう。

無論、三原だってそれがこの場で何の努力もせずに手に入れられるような、安い報酬であるとは考えていない。
子供のようなリュウタロスや(ワームとしての人格に目覚める前の)麗奈といった自分より弱い女子供のような存在は守らなくてはいけないとは感じる。
彼らを守る為ならば、戦わなければどうしようもない状況なら、自分が戦うべきだとも思う。

だが、それでも。
城戸真司や名護啓介、それに門矢士といった強くて優しい仮面ライダーがこの場にはそれこそ山ほどいて。
残る敵が先ほど自分が戦った浅倉さえ霞むほどに強い参加者や、大ショッカーの幹部のように得体の知れない存在しかいないというのなら。
やはり自分は戦わず守られる存在でいればいいんじゃないかと、そう思ってしまう。

というよりは、守られるとも守るとも違う、物事を俯瞰で見続けられる傍観者でいられたらいいのにと、そう考えてしまうのである。
思い出してみれば自分は小さいころ、流星塾にいた時からずっとこうやって生きてきたように思う。
他の塾生達が喧嘩したり、誰かがいじめっ子たちに泣かされたりしても、自分はただそれを見ているだけだった。

強い奴に荷担するでもなく、逆に弱い奴を庇うわけでもない。
強い奴と一緒に誰かをいじめれば後で先生に怒られるのは分かっていたし、逆にいじめられている奴を助ければ今度は自分がいじめの対象になるかもしれない、そう思ったからだ。
それに何より自分はあることを知っていた。


805 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:06:12 Xj0mfVFo0

ただじっとそこで待っていれば、誰よりも強くて正義感の強い女の子、園田真理が現れて、弱い奴を助けていじめっ子達を倒してくれると。
だから自分はいつも、ただ待っているだけでよかった。
自分が面倒事から逃げている間に、それを解決してくれるお人好しが現れるその瞬間を。

だからどうしても――考えてしまう。
今までと同じように、世界の崩壊だとか殺し合いの行方だとか、そんな面倒な全てを全て誰か――それこそあの幼き日々における園田真理のような――お人好しが解決して、自分はただそれを見守っていられたらと。
リュウタロスが自分のことをやれば出来る男なのだと認識している今の状態のまま、あわよくばこの殺し合いを生き抜ければと、そんな甘い“逃げ”が、三原の脳を支配するのである。

(……いつもこんなんだな、俺って)

乾いた笑いが、喉から漏れた。
思い返せば、自分の人生はずっとこんな感じだったような気がする。
いつだって責任からは全力で逃げ、日々を何事もなく生きるためのスキルだけ磨き続けて、そうやって生きてきた自分の今までを振り返っても、何となく虚しいだけだ。

ある意味で言えば、自分がリュウタロスにここまで気を引かれるのも、そこが原因なのかもしれないな、とふと思う。
力では自分よりずっと強いことは百も承知の今になってなお、彼と一緒に行動している理由も、彼を守らなければ、だとか彼に見損なわれない自分になる、だなんて強い使命感から来るものではない。

――『友達少ないんだね』

あのサーキット場で、お互いの知り合いを述べ合ったときに彼がポツリと放った何気ない言葉。
連れてこられている参加者の世界間格差を別にすれば知り合いの人数自体は同じようなものであるというのにも関わらず、三原はその言葉に、どうしようもなく囚われていたのかもしれない。
何故なら……その指摘は別に、この会場の中だけに止まるようなものではないからだ。

いつだって物事から一歩引いた姿勢で、誰かと深くかかわる事さえよしとしない三原の性格は、流星塾内では勿論、そこを卒業した後も誰かから積極的に受け入れられるようなものでは到底なく。
それでも当事者になることへの恐れから、そうした独り身の現状こそが最高の状況なのだと自分に言い聞かせ生きてきた三原にとって、無垢な異形の述べた言葉は彼が意図していなかった部分とは言え痛烈に胸に突き刺さったのである。
その言葉を撤回させようだなどとは思っていない、どころか自分自身それを否定するではなく半ば肯定するような返答をしてしまったことから、きっともうそれを自分自身特別なこととも思っていないのだろう。

だが、それでも。
初対面から数時間で自分の殻に引きこもっていた自分を引きずり出し友人が少ないことさえ即座に看破したこの魔人とならば。
何か、流星塾でさえ満足に得られなかった“何か”が得られるのかもしれないと、そんな風に思うのだった。

「――おーい、三原さん、ちょっとこっち来てくれ」

思考に沈んでいた三原の意識を浮上させたのは、どことなく間の抜けた真司の声だった。
視界の隅に未だ体育座りでしゃがみこむリュウタロスを収めながら、三原は思考を切り上げて自身を呼んだ二人の元へと駆け出して行った。





「病院に戻るぞ」

「……へ?」

真司が思いを新たにして少しの後。
物思いから浮上した真司に対して、麗奈は一言そう述べた。
だがその言葉は、真司からすればすぐには飲み込めないもので。

「なんで戻るんですか?わざわざ橋の目の前にまで来たってのに……」

「……先ほどの放送、お前は途中までしか聞こえていなかったらしいな?」


806 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:06:29 Xj0mfVFo0

今度ばかりは僅かに言葉に棘をにじませた麗奈に対し、真司は申し訳なさそうに縮こまり頭を下げた。
少しの沈黙の後、それも仕方ないかと小さく呟いた麗奈は、改めて真司に向き直った。

「先ほどの放送で、この会場の東側全域が8時に禁止エリアになることが発表された。だから――」

「――なんだって!?」

麗奈の言葉を受けた真司は、そこから先の言葉を聞くこともなくすぐさま身体を翻して橋に向かって駆けだそうとする。
だがそれを読んでいたとばかりに後ろから彼の襟を引っ張った麗奈の怪力によって、その身体は少しばかり浮いただけで一切走り出すことはなかったが。
藻がいたところで無駄だろう力量差を理解したのか、走るのをやめた真司は、しかしその顔に確かな怒りと焦りを滲ませて勢いよく振り返った。

「何するんだよ!」

「何するも何もないだろう、話は最後まで聞け」

「聞いてる時間なんてないって!俺たちがこうしてる間にも、向こうに取り残された人が禁止エリアに巻き込まれちゃうかもしれないんだぞ!」

焦り故か、或いはある程度ワーム人格を取り込んだ麗奈にも思いやりがあることを理解したのか、敬語さえ取り払って真司は必死の抗議を試みる。
その形相から彼の正義や思いは確かに伝わるのだが、それはともかくとしてこのまま彼を東側に行かせるわけにはいかないと、麗奈は口を開いた。

「……心配する必要はない。恐らくこの禁止エリア化で犠牲になる参加者は一人もいないはずだ」

「はぁ?なんでそんなこと言えるんだよ」

「大ショッカーは、禁止エリアによる首輪の爆破などという形で参加者を減らすことをよしとはしないだろうからだ」

言った麗奈の表情は、確信に満ちている。
まるで、それが正解であると既に知っているかのような自信に溢れるその顔に、真司は思わず怯んでしまう。

「……なんでそんなこと言いきれるんだよ」

「簡単なことだ、奴らは今まで禁止エリアは多くても2時間に二つだけ設定していた。
しかも最初の放送に現れたキングという男の言葉を信じるなら、それすら当初の予定よりハイペースだったというのだから、今回は相当な特例であることが伺える」

「……まぁ、かもしんないけど、でも残り人数を考えたらそういうことだって……」

「そう、まさにそれだ」

残り人数がもう15人を切ってしまっているという事実を思い出し俯いた真司に対し、麗奈はその言葉を受けなおも続ける。

「我々参加者の残り人数はもう少ない。
大ショッカーからすれば東側という広いフィールドを禁止することで会場を実質半分以下にし、殺し合いを促進させる狙いがあるのだろう」

「いやだから、それのついでで東側に残っている人が死んじゃうかもしれないだろ!」

「その可能性もないとは言い切れない。
だが、それを行うくらいならば奴らは放送の瞬間に禁止エリアを設定すればよかった。そうは思わないか?」

「あ……確かに」

麗奈のどこまでも冷静な言葉に、真司はついに納得を示す。
元々自分の頭が悪いことは自覚しているのだ、理にかなった反論をされれば、真司にごちゃごちゃと議論を続けるつもりもなかった。

「とはいえ、安心は一切できないがな……」


807 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:06:45 Xj0mfVFo0

うんうんと頷き続ける真司から目を離し、麗奈はひとり言のようにぼやく。
会場がほぼ半分に減少した今、数こそ減ったとはいえ殺し合いに乗った人物と遭遇する可能性は極めて高まったといえる。
翔一の死から察するに病院でも何か起きたようだが――それこそ門屋士の警告していたキングという男だろうか――それでもなお今のメンバーでもう一度危険人物を相手取れるとは到底思えなかった。

そのリスクを冒しても合流を目指していた東側参加者の存在さえ絶望的になったのだから、麗奈が早急に病院への帰還を求めるのは当然のことであった。

「よーし、そうと決まれば――おーい、三原さん、ちょっとこっち来てくれ」

思考を巡らせた麗奈を尻目に真司が離れた場所でリュウタロスを見ていた三原を呼びつける。
それを受け、心ここにあらずといった様子で放心していた三原が声に反応しこちらに合流するまで、それほどの時間は要さなかった。





暫くの後。
彼ら四人は、先ほどまで南下してきた道をそのまま北上していた。
だが四人の中に、大した会話はない。

いや、周囲の警戒に気を払っている麗奈や真司が大した会話をしていないのは、先ほどまでも同じことだ。
故にそう、先ほどまでと様子が変わったといえるのはただ一人。
放送以前まで存在していた、無邪気な子供のような言動を控えただひたすらに歩き続けるリュウタロスのみであった。

「……なぁリュウタ、その――」

「キングって奴は僕が倒すけど、いいよね?」

「え?」

久方ぶりに聞いたようなリュウタロスの声は、震えていた。
悲しみに、ではない。
怒りだ。

自身の宿主であり、それ以上に最高の仲間であった良太郎を無惨に殺したキングという男への怒りが、今のリュウタロスを奮い立たせていた。
それは彼の無垢とも言えるような純真さから見れば些か歪な立ち直り方とも言えたが……それを諭せるほどには、三原には経験が不足していた。

「――答えは聞いてない」

次の言葉を探し俯いた三原が何か言うより早く、リュウタロスはいつもの決め台詞で会話を一方的に終わらせる。
それきり言葉を紡ぐことなくただ前を見て歩き始める彼を横目に見ながら、三原はただ彼を言動のみで庇護対象だと決めつけていた自分を恥じる。
彼は自分が思うよりずっと強い存在なのだと改めて感じ……そして同時に虚しさを覚えた。

子供のような言動の裏にしかし、リュウタロスは確かに戦士として戦う意思を秘めていた。
彼は決して自分が守らなければいけない庇護対象ではないのだと理解した瞬間に、三原は自分が一人置いてけぼりにされたような感情を抱いたのである。
女性である麗奈も、子供だと思っていたリュウタロスも。

自分が男として守らなければと思っていた存在が、実は自分よりずっと強かったのだと知る度に、自分の存在意義が分からなくなる。
一体自分は何のためにここに呼ばれたのかと、何度目ともしれない自己嫌悪を抱いた、その瞬間。
不意に前を歩いていた麗奈と真司の足が、止まった。

「え、いきなりどうしたん――」

「構えろ、三原修二。来るぞ」

困惑のまま問おうとした三原に対し、麗奈はただ短くそう返す。
何事かと前を見やれば、そこにあったのは先の放送の際にも見たあの灰色のオーロラ。
つまりは大ショッカーが会場に何かを送り込む際に使用するのであろう、移送装置の一種であった。


808 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:07:02 Xj0mfVFo0

そんなのありかよ、と三原が悲鳴にも似た泣き言を吐くより早く、オーロラが一つの影を映し出す。
その影が濃くなると同時、加速度的に高まっていく殺気を前にして、戦士達は悠長に敵が現れるのを待ったりはしなかった。

「――変身!」

真司が、麗奈が、リュウタロスが叫ぶ。
敵の姿を視認するより明らかなのは、そこから現れるのが一切の対話の余地がないモンスターであるということ。
そして恐らくは、今まで戦ってきたいずれの存在よりも強大な敵だと言うことであった。

果たしてそれぞれの変身を終えた戦士達の前に、影はいよいよ実像を結ぶ。
この広い草原の中で際立つような深い灰色をしたその怪人に、三原は確かに自身の知る存在との共通項を見出した。

「オルフェノク……!」

その単語が、何故自分から出たのか、自分自身も分からなかった。
それが自身と同じ世界の存在であるからか、それとも未来の自分が戦っていたという推測を今一度身を以て感じたからか。
ただ細かい理由はどうであれ、その異形を前にした三原の中に、もう戸惑いは存在していなかった。

デルタギアを腰に巻き付け、汗ばむ手でデルタフォンを掲げる。
恐怖や不安はあるがそれでも……今の三原にとって取るべき選択肢は一つしか残されていなかった。

「――変身!」

未だ震える声で叫んだまさにその瞬間に。
――戦いのゴングが、鳴り響いた。


【二日目 朝】
【G-3 橋】


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】意識統合、疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダードレイクに変身中
【装備】ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、
【思考・状況】
基本行動方針:自分の中に流れる心の音楽に耳を傾ける。
1:目の前の怪人(アークオルフェノク)に対処する。
2:西病院に戻り仲間と合流する。
2:皆は、私が守る。
3:仲間といられる場所こそが、私の居場所、か。
【備考】
※人間としての人格とワームとしての人格が統合されました。表面的な性格はワーム時が濃厚ですが、内面には人間時の麗奈の一面もちゃんと存在しています。
※意識の統合によって、ワームとしての記憶と人間としての記憶、その両方をすべて保有しています。
※現状、人間時の私服+ワーム時のストレートヘアです。



【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一、士への信頼、疲労(小)、仮面ライダー龍騎に変身中
【【装備】カードデッキ(龍騎)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(ファム・ブランク)@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:目の前の怪人(アークオルフェノク)に対処する。
2:西病院に戻り仲間と合流する。
3:間宮さんはちゃんとワームの自分と和解出来たんだな……。
4:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
5:黒い龍騎、それってもしかして……。
6:士の奴、何で俺の心配してたんだ……?
7:俺の願い……そんなの……。
【備考】
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。
※美穂の形見として、ファムのブランクデッキを手に入れました。中に烈火のサバイブが入っていますが、真司はまだ気付いていません。


809 : そしてゴングが鳴り響く ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:07:17 Xj0mfVFo0



【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心、疲労(小)、仮面ライダーデルタに変身中
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:……目の前のオルフェノクに対処する。
1:できることをやる。草加の分まで生きたいが……。
2:居場所とか仲間とか、何なんだよ……。
3:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強い恐怖。逃げ出したい。
4:リュウタ……お前、やっぱり強いな……。
5:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
6:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。
7:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ。
【備考】
※後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。今抱いている恐怖心はテラーなど関係なく、ただの「普通の恐怖心」です。
※デルタギアを取り上げられたことで一層死の恐怖を感じたため、再度ヘタレています。



【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、決意、仮面ライダー電王(ガンフォーム)に変身中
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
0:修二、強くなった……のかな?よくわかんない。
1:今の麗奈は人間なの?ワームなの?どっちでもないの?
2:良太郎の分まで生き残って、お姉ちゃんを守る。
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスや良太郎の分まで頑張る。
5:キング(剣)って奴は僕が倒すけどいいよね?答えは聞いてない。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。
※麗奈が乃木との会話の中でついた嘘について理解出来ていません。そのため、今の麗奈がどういった存在なのか一層混乱していますが、それでも一応守りたいとは思っています。



【アークオルフェノク@仮面ライダー555】
【時間軸】死亡後
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
1:参加者は見つけ次第殺していく。
2:同族に出会った時は……。


810 : ◆JOKER/0r3g :2019/04/30(火) 15:12:15 Xj0mfVFo0
以上で投下終了です。
今日で平成も終わりですが、令和になっても『平成ライダーロワ』をよろしくお願いします
それでは何かご意見などございましたら気軽にお願いします


811 : 名無しさん :2019/04/30(火) 18:33:37 lFCWnbLo0
投下乙です!
良太郎や翔一の死を知って真司やリュウタロスはどうなるかと思いきや、麗奈は上手くみんなのまとめ役になってくれましたか。原作でもワームを率いた彼女だからでしょうね!
三原も葛藤をしながらも、決して逃げだしたりはせず、自分のやるべきことを探そうとする姿は応援したくなります。
しかし、そんな一同の前にまさかのアークオルフェノクが出現!? とんでもない強敵を前に、どう戦うのでしょうか……


812 : 名無しさん :2019/05/01(水) 01:52:38 0I0.JjSo0
投下乙です。

よりによってアークか……かなり不安な面子で迎え撃つことになってしまいましたが、個人的には村上社長が王の出現にどのようなリアクションを取るのか大変興味深いですね。


813 : 名無しさん :2019/05/15(水) 19:39:31 tSAjaMUA0
月報の時期なので集計を
138話(+ 2) 16/60 (- 0) 26.7


814 : ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:13:47 BIslr8wQ0
おまたせいたしました。
これより投下を開始いたします。


815 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:14:57 BIslr8wQ0

「やあ、ディケイドにダークカブト。さっきぶりだね」

士と総司の憎しみを込めた視線を前に、キングは一切動じることなく挨拶を飛ばす。
その声音にはまるで旧友に出会ったかのような気安さが滲み出ていて、彼の今までに行ってきた所行とのアンバランスさが妙に心地悪かった。
だが、直視にすら耐えうるような醜悪な感性を持つ男を前に、門矢士は引くことなくその足を踏み出す。

「あぁ、久しぶりだな、キング。お前の悪趣味も相変わらずみたいで安心したぜ」

「ん?ダークカブトのこと?やだなぁ、あれは僕のせいじゃないって――って言っても、無駄っぽいかな」

見え透いたような演技をやめて、キングは溜息をつく。
とはいえその顔に浮かんでいるのは、落胆と言うより遊ぼうとしていた玩具が売り切れていた子供のような退屈を噛み砕くようなものであったが。

「はぁ、ホントに台無しにしてくれるよね。折角僕が色々準備してダークカブトを“前みたい”にしようとしてたのにさ」

「そんなことをして、一体何の意味がある?」

「……意味?そんなの決まってるでしょ、その方が楽しいからだよ」

ヘラヘラと。ニヤニヤと。
薄気味悪い笑みを浮かべながら、キングは変わることなく悪意を吐き続ける。
色褪せることのない邪悪を相手にして拳を握りしめた士を横目に、総司は一歩前に足を踏み出した。

「……なんで、そんな簡単に誰かを傷つけられるの?本当にそれが楽しいって、心から思ってるの……?」

総司の声に宿っているのは、憎しみというより深い困惑と焦燥だった。
人と人との関わりを得て仮面ライダーとして戦う決意をし、そして今また士と言葉を交わし道を踏み外さずに済んだ総司だからこその疑問。
キングは以前、正義の味方としての生き方など愚かで下らないと宣った。

その裏にある、薄汚い人間の本性を知れば必ず失望するとも。
無論キングの口八丁である可能性も捨てきれない。
だがそれでも、聞いてみたかった。

過去の自分のように世界を全て滅ぼそうとする男が、なぜこうまで人を憎み誰かを嘲る存在に成り果てたのか、その理由を。
そして同時にこの問いを投げることは、総司が最早自分勝手に世界を憎み誰かの救いを待つだけの子羊ではなくなったことを意味していた。
もしも分かり合える可能性があるのなら……もしもただ道がわからず喚いているだけなのだとしたら、諸悪の根源たるキングとて見捨てるわけにはいかない。

それは師匠譲りの暑苦しく泥臭い、しかし確かな正義の意思が見せた総司の善意であった。

「……うーん、そうだね。やっぱり君にはちゃんと話しておくべきだったよね。僕がなんでこんな世界滅んだ方がいいと思ったのかって、その理由を」

果たして真摯な総司の瞳に対し、暫しの思考の後キングは口を開いた。
意外にも総司の疑問を嘲るものではなく、その問いを受け止め応えるために。
自身に怪訝な表情を向ける士を気にすることもせず、キングは総司に向けて一歩進む。

「実は僕が世界を滅ぼそうとしたのはね――人間の本性を知ったからなんだよ」

「人間の本性……?」

先の戦いでもキングが述べていた不穏なワードを、総司は繰り返す。

「そうさ、僕は封印から解放された後、ヒューマンの作った世界がどんなものか、学ぼうとしたんだ。
――彼らの作った、インターネットっていう便利なものを使ってね」

言いながら彼は、懐から既に使い古された感触のある二つ折りの携帯電話を取り出した。
恐らくはこの場では電波が通っていないために大した使用方法もないだろうそれをしかし愛おしげに手で弄んでから、彼はそれを大切そうにしまい込む。


816 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:15:18 BIslr8wQ0

「これは本当に色んな事を教えてくれたよ。人間の犯した罪や、いつまでも続く戦いの歴史、それから他の種族を滅ぼそうとする傲慢さも」

「……だからお前はそんな世界は間違ってるって言いたいのか?」

「違うよ、そんな大層な話じゃない。僕が本当に人間の本性を知ったのは……掲示板でだった」

「掲示板……?」

疑問符を浮かべた士に対し、キングは自身の携帯電話を慣れた手つきで操作して、小さな画面にとあるサイトを表示する。
字は細かく大した内容は読み取れなかったが、キングは満足げな表情で再び携帯を操作する。

「ここには、誰の名前も顔も存在しない。みんな同じ『どこかの誰か』になって、自分の本心をぶちまけるんだ。
あいつに死んでほしい、あいつより俺の方が出来る、それから――『こんな世界なんて滅んじゃえ』、とかね」

ニヤリ、とキングの笑顔が不気味に歪む。
目にする誰もを不快にさせるような邪悪な笑みを浮かべながら、しかしキングの言葉は止まることを知らない。

「お前らは結局、人の上っ面しか見てないんだよ。ネットを見れば、どこにでも悪意は転がってる。
誰にでも、なんにでもなれるネットの中でそんな言葉を吐くのが人間だっていうなら、それが人間の本性ってことでしょ?」

「――」

「僕はただ、人間の真似をしてるだけだよ。醜い醜い、君たちの中にある本性の真似をさ。
だから僕を倒そうとするなら、君たちは人間の本性を否定することになるんだよ。
人間を守ろうとして人間の本性を否定するなんて、これ以上に面白いことなんてないと思わない?
……ねぇこれでも、正義の味方って本当に正しいなんて本当に言えるの?世界は守るべきなんて、本当に言えるの?」

ケラケラと。クスクスと。
引きつったような笑みを浮かべながら、キングは問う。
総司に対して、彼がどう在るべきなのかと。

「――君は分かってるはずだよ、ダークカブト。
自分の顔も名前も知らない君は、なりふり構わず世界を滅ぼそうとしたじゃないか。
君は人間の本性の体現、だから僕は君を堕としたいんだよ」

俯いた総司を前にして、最後の駄目押しとでも言うようにキングは吐き捨てる。
これで総司が、正義の味方などという幻想を捨ててまた世界を滅ぼすために戦うというならこれ以上に面白いことはないと、そう期待を込めて。
だが、彼の期待は容易く打ち砕かれることとなる。

長い沈黙を破りその口を開いた、もう一人の男の為に。

「――やっぱりお前は、何も分かってないらしいな」

「士……」

それは、呆れの様な感情を多分に含んだ、門矢士の声だった。
一切の迷いもなく、揺ぎ無い意志で以てキングを否定したその言葉に、総司も思わず目を奪われてしまう。

「……確かにお前の言う通り、人は自分勝手に、見知らぬ誰かを傷つけることもある」

「じゃあやっぱり――」

「――だがそれと同じくらいに、俺たちは見知らぬ誰かを気遣い、守ることだってできる」

嘲笑するかのようなキングの言葉を、士は断ち切るように言い切る。

「こいつは、他人の優しさを知り、変わった。ボロボロになってでも、誰かを守るため戦おうとした。
……お前がこいつを人間の本質を体現した存在だというのなら、それも紛れもなく、人の本質だ。
それを無視して誰かを傷つける事しか考えないお前に、人を語る資格はない!」


817 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:15:35 BIslr8wQ0

「士……」

強く、真っ直ぐにキングに対し今の総司が変わったと宣言する士。
その雄姿を前に、キングはただ苛立たし気に眉を吊り上げる。

「お前……いったい何者だ」

キングの問いに、士は僅かに口角を上げる。
告げるべき言葉は、ただ一つ。
力なきものを苦しめる悪に、破壊者たる自分が宣言する変わらぬ名前――。

「――通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

真っ直ぐに伸ばされた士の人差し指を真っ向から受け、キングは大きな溜息と共にその身を怪人のそれへと変化させる。

「はぁ、ほんっとウザイなぁ。もういいや、お前らどっちも……ここで死んでいいよ」

コーカサスアンデッドの姿となり殺気を漲らせるキングに対し、士と総司は並び立つ。
その手に己の力を持って、これ以上この男に傷つけられる誰かを生まないために。

「変身!」

叫んだ男たちの身体は、一瞬で鎧に包まれていく。
士の身体は、全てのライダーを模倣する力を持つ世界の破壊者、ディケイドのものに。
総司の身体は、今は亡き男から継いだ、太陽の神、カブトのものに。

それはまさしく、以前は敵同士として敵対した二人が、今度は共に戦う仲間として並び立った瞬間であった。
そしてその瞬間を待ち望んだように、ライドブッカーよりディケイドの手に飛び出す三枚のカード。
色を取り戻したそれは、士が総司と心を通わせたことでカブトの力を取り戻したことを意味する。

この場で七つ目に取り戻したその力を再びブッカーに戻しながら、ディケイドは目の前の敵に対し構えなおす。
横で同じく構えたカブトと同時に、彼は勢いよく剣へと変形させたブッカーをコーカサスに対して振り下ろした。
だが、挟み撃ちの形で左右から放たれた二人の攻撃は、それぞれ彼の持つ剣と盾に阻まれその身には届かない。

片手でそれぞれの仮面ライダーを良いように押さえつけるコーカサスの怪力に驚愕しつつも、しかし攻めの手を緩めはしない。
こちらを弾くように敵が力を込めたその瞬間、二人はその勢いさえ利用して思い切り後ろへと跳んだ。
コーカサスから距離を取った場所で着地した彼らはそのまま、それぞれの得物を銃へと変形させて高エネルギーの弾丸を敵へ一斉に放つ。

それぞれ凄まじい連射性を誇るゼクトクナイガンとライドブッカーの弾丸の雨を受けて、さしものコーカサスも蜂の巣に……ならない。
明らかに彼の持つ盾のみでは庇いきれないはずの範囲に放たれた弾丸をも、なぜかコーカサスの前で弾かれ彼の身体に到達しないのである。

「なに……ッ!?」

「無理無理、そんなんじゃ無駄だって――フン!」

その違和感に思わず攻撃をやめたディケイドに対し、コーカサスは嘲笑するように手をぶらつかせた。
真面目に戦う気さえないようなそのふざけた態度にディケイドが一瞬気を取られたその瞬間に、唐突に彼はその手に持つ剣を振るい衝撃波を放っていた。

「――危ない!」

だがその一撃もまた、ディケイドのもとに届くことはなかった。
横から勢いよく彼の前に飛び出したカブトが、衝撃をその身を盾にして受け切っていたからだ。

「総司!」


818 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:15:51 BIslr8wQ0

ディケイドが叫ぶが、カブトは返事をすることも出来ぬままその巨体を大きく吹き飛ばされていく。
瞬間強く地面に激突したカブトは、未だ変身を保ってこそいるもののすぐに立ちあがることは出来ないようであった。
無理もない。先の病院でもキングと戦い、その後に間髪入れず自分やデストワイルダーとの戦闘をこなした直後だ。

カブトの装甲に守られているからといっても、体の疲労は隠しきれるはずもなかった。
だが、そんな泣き言を言ってもキングが止まるはずもない。
一人きりになったからと言って、ディケイドにこの場から逃げることなど許されるはずがなかった。

「固い盾……それならこいつだ」

――KAMENRIDE……HIBIKI!

ブッカーからカードを取り出したディケイドはそのままドライバーへとカードを投げ入れて装填する。
ドライバーがカードを認識すれば、瞬間彼の身体は紫の炎に包まれその身を変える。
炎を振り払い現れるは、音撃を武器に戦う戦士、仮面ライダー響鬼そのもの。

原型さえ留めないフォームチェンジに、コーカサスはしかし一切関心を見せることもなく悠然と向かっていく。
だが、相当の圧迫感を伴うその歩みに対してディケイド響鬼は迷うことなく一枚のカードをブッカーから取り出しそのままドライバーへと投げ入れた。

――FINAL ATTACK RIDE……HI・HI・HI・HIBIKI!

ドライバーが高らかに必殺の一撃を宣告すれば、どこからともなくコーカサスに対し音撃鼓が向かっていく。
振り払うこともしないままコーカサスがそれを受け容れれば、音撃鼓は彼の目前でソリッドシールドへと装着された。

「何のつもり?ディケイド。こんなの意味がないことくらい、分かってるでしょ?」

「さぁ、そいつはどうかな!」

威勢よく挑発に返しながら、ディケイド響鬼はその手に音撃棒を構える。
だが鬼気迫る勢いで駆け寄ってくるディケイドを前にしてもなお、相対するコーカサスの目は著しく冷めたものであった。
何故ならその程度の攻撃であれば、自分の盾を壊すことなど到底かなわないと知っていたからだ。

それに響鬼の必殺技はどれも長い時間のかかる隙の多い技である。
盾の防御力に身を任せ目の前で隙を晒すディケイドを攻撃すれば自分の勝利は決まったも同然ではないか。
世界の破壊者を名乗る歴戦のディケイドがこのような安易な策に出たことに些か失望しながらも彼はディケイドの接近を待って。

「ヤァ!」

掛け声と共に振り下ろされた音撃棒が伝えた衝撃に、思わずその身を硬直させた。

(なッ……!?)

ビリビリと、空気が震える。
ソリッドシールドで純粋な音撃打の威力は死んでいるはずだというのに、なお伝わるこの衝撃。
一体どういうことだと思案に沈んだ次の瞬間には、コーカサスの身体はその怪力を以てしても指一本たりとして動かせなくなっていた。

(フッ、思った通り引っ掛かりやがった)

困惑を露わにするコーカサスの一方で、ディケイドは内心で自身の策の成功を実感していた。
ディケイドがこの状況で響鬼のカードを切ったのは、この瞬間の為であった。
つまりはこの音撃打が今のコーカサスに対して最も効果的にダメージを与えられる一撃であると判断したのである。

響鬼の必殺技である音撃打の特徴は、その特異性にある。
その特異性とは――カブトの回復までの時間を稼げるだけの拘束時間を持つというのもそうだが――音撃打は他の必殺技と違い単純な破壊力だけではない攻撃が出来るということだ。
その攻撃とは、音撃鼓を叩いた時に発生する空気の振動、聴覚さえなくとも伝わるほどの音の波。


819 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:16:07 BIslr8wQ0

音撃打で発生する衝撃が全て盾に阻まれるとしても、そこから生じる音は盾越しにコーカサスへと伝わる。
コーカサスの盾などよりよほど強固な甲殻を持つ魔化魍でさえ怯むような爆音だ、聴覚を麻痺させて動きを封じることなど、容易いことだ。
清めの音としては十分に伝わらなくとも、単純な空気振動のみでコーカサスの動きを封じることが可能だと、ディケイドは考えたのである。

そしてその目論見は成功する。
まともな回避行動もとらず、恐らくは自分が自ら死にに来たのだと勘違いして攻撃を受け容れたコーカサスの身体は、今まんじりと動くことさえ出来ず音撃に晒されている。
恐らくは想像を絶するような爆音に身を包まれているのだろう彼を前に、しかしディケイドはいい気味だと感じていた。

今までキングが行ってきた数々の悪行を考えればまだ足りないとさえ思うが、しかしこれ以上冗長に音撃打を続けても“型”が崩れ散漫な攻撃になってしまうだけ。
故にディケイド響鬼は今一度音撃棒を大きく空に向け掲げて――。

「ヤァァァァァ!!!」

――一層大きな掛け声と共に、音撃鼓を強かに叩きつけた。
攻撃を行っていたディケイドにさえ跳ね返るような振動を受けてもなお、コーカサスの盾には罅一つさえ入らない。
とはいえその盾に守られていたコーカサスは凄まじい音圧に晒された為に前後不覚を起こしたか、ディケイドに反撃することも出来ず呻き苦しみに身を捩っていた。

だが、傍から見れば無防備とはいえ、今のコーカサスはなおも自動防御の盾に身を守られている状態。
故にその盾を破壊できる確証も持たないディケイドはその身を響鬼から通常のものへと戻しながら未だ地に這いずるカブトのもとへ足を進める。

「立てるか、総司」

「士……ごめん、足引っ張っちゃって」

ディケイドが差し伸べる手を、カブトは強く握りしめ立ち上がる。
戦いの場では長すぎるほどの回復時間を与えられたとはいえ、そもそも今の総司は満身創痍だ。
ハイパーカブトへの変身も、正直に言えばクロックアップさえも満足に出来るか怪しい。

先ほどまで天道を継ぐと大言壮語を吐いておきながら、そんな有り体の自分を恥じ、謝罪するカブト。
だが対するディケイドは、茶化す様子もなく真っ直ぐに彼を見据える。

「いや、奴を倒すにはお前の力が必要だ、総司。……やれるか?」

それは、どこか不思議な声音だった。
期待を込めているようでもあり、同時に自分を試すようでもあり、そしてまた自分がどう答えるか確信をもって知っているかのような声音であった。
そしてそんな“仲間”の問いかけに対して、総司が答えるべき言葉はただ一つだった。

「――あぁ、やれるよ」

「そうか」

短い返答に、ディケイドは満足したように再びコーカサスへと向き直る。
再起不能になってもおかしくない爆音を受けてもなお、やはり人外の範疇であるコーカサスはこの短時間で回復し殺意を込めた視線をこちらに向けていた。
恐らくはもう余裕も見せずに自分たちを殺しに来るのだろうが、奴の不快な無駄口が減ったと考えればこれで随分とやりやすくなったともいえる。

「グオオオオオオオ!!!」

理性さえかなぐり捨てた咆哮を吐いて突進するコーカサス。
だが既にディケイドの……いやディケイドとカブト、二人の切り札は、発動していた。

――FINAL FORM RIDE……KA・KA・KA・KABUTO!


820 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:16:23 BIslr8wQ0

「なら……ちょっとくすぐったいぞ!」

「え、ちょ……!?」

カブトが電子音声の内容に意識を向けるより早く、ディケイドは彼の背中を緩く撫で上げる。
そその瞬間、カブトの身体は眩い光を放ち変わっていく。
刹那の後、物理法則など無視するような無茶な変形を終えたカブトの身体は、既に人型のそれではなく。

まさしく総司を仮面ライダーカブトとして認めた新たな相棒を模した新形態、ゼクターカブトのものへと、彼の身体は変わっていたのであった。

「これは、カブトゼクター……?」

「ガアアアア!」

「――!」

自分の姿に一瞬困惑するカブトだが、迫りくるコーカサスを前に自分のやるべきことを理解する。
言葉さえ失った黄金のコーカサスに対し、迎え撃つは赤い一本角。
バーニアを吹かし思い切り突撃すれば、ソリッドシールドに阻まれつつも彼の進行を阻むことに成功する。

――FINAL ATTCK RIDE……KA・KA・KA・KABUTO

一瞬の均衡の後、ディケイドが新たに装填したカードによって漲ったエネルギーで、ゼクターカブトはコーカサスを高く空に放り上げる。
そして彼が放り投げられた先にあるのは、合わせたようにそこに出現した、バーコードを意匠に刻んだディケイドの足裏であった。

「ハアァァァァ!」

「グッ、ガッ……!」

鋭くタイミングのぴったりと合ったそのキックは、しかしまだコーカサスには届かない。
ソリッドシールドの中心に大きく罅を刻み込みながら、しかしまだ一歩コーカサスを倒すには足りなかったのである。
これで自分の勝ちはやはり揺るがない、とコーカサスは勝利を確信しようとして。

――ONE・TWO・THREE
――RIDER KICK

自身の背後、ディケイドのキックが導く先で待ち受ける無慈悲な電子音声を、聞いた。
どういうことだと首だけで振り返れば、そこにはファイナルフォームライドを解除し自身のゼクターを操作するカブトの姿。
迷いや躊躇など一切見られない、悪を砕いて誰かを守る為力を行使する正義の味方の姿が、そこにはあった。

そして瞬間、カブトは思い切り振り返り渾身の回し蹴りを放った。
ライダーキック。あらゆる世界の仮面ライダーが連綿と受け継いできたその名前にこれまでにないほどの重みを、総司は感じる。
だがその重みに耐えられるだけの強さを、総司は既に持っていた。

天道だけではない、あらゆるライダーを継ぐ決意を固めた彼のその蹴りは、確かに許されざる悪を守る盾を打ち砕く。
そして同時、ディケイドの足もコーカサスの身体に深く突き刺さって――。
――瞬間生じた爆発と共に、彼らはようやくこの悪意の化身に一矢報いたのであった。





「逃げられた……か」

爆風が止んだ時、ディケイドは悔しさを滲ませながらそう呟いた。
自慢の盾が破壊されたと見るやすぐさま逃走に思考を切り替えられるというのは、ある意味で言えば逞しいことだ。
吐き気しか感じないような邪悪を逃してしまったことには勿論口惜しさを感じるが、今は取りあえず奴にリベンジを果たしたという事実を喜ぶべきなのだろう。

散らばった盾のパーツにはもう目もくれず変身を解除した士は、そのまま同じく変身を解除した総司のもとへと駆け寄る。


821 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:16:38 BIslr8wQ0

「やったな、総司」

「……うん!」

言いながら、総司はようやく士に対し憑き物が取れたような笑みを浮かべた。
自分が成してしまったことに対する罪悪感や後悔は消え切ってはいないのだろうが、それでも。
強敵を仲間と共に乗り越えたという実感が齎したのだろうその満足感に満ちた表情に、士は思わず手癖で胸元に手を伸ばしかける。

(……っと、まだカメラは手元にないんだったな。ったく、大ショッカーの野郎め)

どんなぶれ方をしていても、きっと素晴らしい写真が撮れただろうにと口惜しさを覚えながら、しかし士はただ総司の笑みをその瞳に焼き付けていた。

「――総司君!どこだ、返事をしてくれ!総司君!」

そんな折、どこか遠くから男の声が聞こえてきて、二人は思わずそちらを振り返った。
その声自体に士は聞き覚えがないが、呼ばれているのは十中八九間違いなく目の前にいる総司その人だ。

「総司、この声が誰か分かるか?」

「うん、この声、名護さんだよ……僕の師匠なんだ」

「師匠……?」

総司が弟子入りしたのか、それとも名護という男が自分を師とするように言ったのか。
どちらにせよこの殺し合いの場では中々珍しい関係の形成に困惑を示した士を尻目に、総司はしかし彼を呼ぶその声に答えようとしなかった。
出会いたがっていた仲間との遭遇に何を戸惑うことがあるのだという士の怪訝な表情を受けて、総司は気まずさからかその視線を下ろした。

「総司、どうしたんだ?翔一を殺したことに後ろめたさを感じてるなら――」

「ううん、違うんだ士。僕は正直、分からないんだ。名護さんの……仲間のもとに戻るべきなのかどうか」

「なに?」

総司の言葉に、士は思わず聞き返す。
後ろめたさからでなく、仲間との合流を望まない理由とは一体何だというのか。
士から先ほどとは違う困惑を受け、些かばつの悪さを感じたか、ゆっくりと、言葉を選ぶように総司は口を開く。

「……ごめん、変だよね。自分でも分かってるんだ。
でも何となく、このまま名護さんのもとに戻るだけじゃ、駄目なんじゃないかって……」

自分自身の感情が分からないという様に、視線を迷わせる総司。
だがそれを見て、むしろ士は納得したように溜息をついた。

「いや……大体わかった。お前もまた、旅の途中だってことか」

「旅……?」

「そうだ、お前は今、ただ誰かに頼るだけの自分から成長しようとしている。
人は誰も旅をする……お前のそれも、その一つだってことだ」

したり顔で述べた士に対して、総司は未だ彼が言いたいことを理解できていなかった。
だが、先ほどとは反対に自身に満ち溢れた士は、彼の疑問の声を待つことなく言葉を紡ぐ。

「まぁ、そういうことなら仕方ない。名護って奴には俺から言っておく。
どっちみち、音也の件も話しておかなきゃいけなかったしな」

「ちょ、ちょっと待ってよ士!旅がどうとか、どういうことなの?僕は、一体どうすればいいの……?」

自分だけが全てを理解したような顔をしながら、踵を返し総司を呼び続ける声のもとに向かおうとする士。
だがそれを引き留めるのは、やはり総司のすがるような声だった。
自分から名護との合流を渋ったというのに都合のいいことだと思うが、しかし総司はやはり自分の感情と理性との折り合いが取れていないままだった。


822 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:16:54 BIslr8wQ0

「何をするべきか……それは、お前が決めろ。それが、旅ってもんだ」

「自分で……」

士の言葉を復唱しながら、総司は士の言う“旅”というものをひどく恐ろしいもののように感じた。
何が正しいかもわからない道筋を自分で探し、自分自身で切り開き、突き進む行為。
今までのように導いてくれる師もいないそんな行為を、果たして今の自分が一人で行っていいものなのだろうか。

先のように悪意を持つものに利用され、誤った道に進んでしまうのではないか。
そんな不安が、急激に押し寄せてくる。
だが、総司のそんな不安そうな表情を察したか、士は振り返り宥めるように口を開いた。

「大丈夫だ。お前は、自分が帰るべき場所ってのを持っている。
這ってでも帰りたいと思える、誰かが自分を待っている場所……それさえあれば、人は道を間違えたりしない。
お前の旅は確かに苦しいものになるかもしれない。だが――お前の帰る場所は、俺が守っておいてやる」

「士……」

「まぁそれでももし、お前がまた道を誤ったら……その時は今度こそ俺がお前を破壊してやるさ」

ニヒルに笑いながら、士は締めくくる。
字面だけ見れば、決して優しくはない言葉。
だがそれでも、その士の言葉は今の総司にとって染み入る様にすら感じられた。

自分の我儘を聞いてくれる仲間は、今までだってたくさんいた。
自分がやりたいといったら、仲間たちはいつだってそれを尊重し支えてくれた。
だが士のように、別々の道を進むために協力をしてくれる仲間は、初めてだったのだ。

だからだろうか。自分を破壊するなどと宣った目の前の男を、これ以上なく信頼している自分がいることを、総司は感じていた。
彼になら師を、そして友を任せられる。
彼がいてくれるなら、何があってももう自分を見失わないだけの何かを、何の憂いもなく探しに行くことが出来る。

だから総司の出すべき答えはもう、決まっていた。

「――ありがとう士。名護さんたちのこと、頼んだよ」

「あぁ」

先ほどとは違う、満足げな笑みを浮かべる士。
それを見やり自分も釣られて口角が上がるのを感じながら、総司は思う。
――こんな笑顔を、自分が守っていきたいと。

そのために必要なものが何なのか、未だ総司にはわからない。
強さなのか、優しさなのか、或いは信念なのか、或いはそのどれでもないのか。
見つけられるかもわからないそれを探すには今与えられた時間だけでは足りないかもしれないが、少なくともそれを探した後に帰る場所の心配をする必要はなくなった。

他でもない世界の破壊者が、胸を張って守ると言ってくれたのだから。
何の悔いもなく彼を呼ぶ声に背を向けた彼にはもう、迷いはなかった。


【二日目 朝】
【D-2 市街地】


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、不安と安堵、仮面ライダーブレイドに1時間10分変身不能、サナギ態に1時間30分変身不能、仮面ライダーカブトに1時間50分変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
0:もう迷わない強さを見つけるために、“旅”をしてみる。
1:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
2:間宮麗奈が心配。
3:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
4:士が世界の破壊者とは思わない。
5:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
6:剣崎、翔一、ごめんなさい。
【備考】
※自分が翔一を殺したのはキングの罠であることに気付きました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、信じていません。


823 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:17:10 BIslr8wQ0





「総司君!どこだ、返事をしてくれ!」

男が無人の市街地全体に響き渡るような声を響かせて、自身の弟子を探している。
身体中は汗だくのまま、喉が枯れることなど厭わないようなその様相は、必死そのもの。
今のこの場の状況を考えれば危険人物がその声を頼りにやってくる可能性もあったが、しかし彼はそれでも構わないとさえ感じていた。

愛する弟子を守るためならば、今の自分が代わりに盾となって悪と戦おう。
例え信頼するイクサの力が使えなくても、それでも今の総司と悪が接触する危険性を考えれば自分が戦う方がましだと感じていた。
彼がそうまで総司の為に戦おうとする理由が、最早記憶さえないかつての一番弟子が非道の道に堕ちたという経験から来るものなのかどうかは、定かではなかったが。

ともかくそうして走り続け叫び続けた故に、戦士として洗練された名護の肉体も悲鳴を上げ始め、いよいよもってその足と声は止まってしまう。
だが、足を止めている時間などないと、軋む体に鞭打って今一度走り出そうとしたその瞬間、彼の耳にずんと響くような重低音が届く。
だんだんと近づいてくるそれは、まず間違いなく総司のそれではないだろう。

彼はバイクを持たずに走り去っていったのだし、この街の中でバイクを偶然見つける可能性など、決して高くはない。
懐からスイーツのガイアメモリを取り出して、すぐさま反撃が出来るよう準備を整える。
来るなら来いと言わんばかりに、往来の中心で迫りくるエンジン音を迎え入れる名護の前に、間もなく一台のバイクが停車する。

見覚えのない男、見覚えのないバイク。
自身の知る危険人物の特徴とは一致しないようだが、警戒は解くべきではない。
だが一方で、名護の貫くような視線を受けてもなお動じることなく男はカウルを跨ぎバイクを降り地に降り立って。

「――お前が、名護啓介だな」

「何故俺の名を知っている……、お前は何者だ」

ただ自分の名を呼びヘルメットを脱ぎ捨てる男。
名護の疑問に対して、しかし彼はただニヤリと笑って。

「俺か?俺は……通りすがりの仮面ライダーだ」

ただ、それだけ短く吐き捨てた。


【二日目 朝】
【D-1 市街地】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに1時間50分変身不能
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:名護と話す。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ダグバへの強い関心。
6:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
7:仲間との合流。
8:涼、ヒビキへの感謝。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎〜電王の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ダグバが死んだことに対しては半信半疑です。


824 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:17:26 BIslr8wQ0



【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに1時間変身不能、仮面ライダーブレイドに1時間5分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:なんだ、この男は……?
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:紅渡……か。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
5:どんな罪を犯したとしても、総司君は俺の弟子だ。
6:一条が遊び心を身に着けるのが楽しみ。
7:最悪の場合スイーツメモリを使うことも考慮しなくては。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。





「はぁ……はぁ……ッ!」

その身体から緑の血を流しながら、キングは草原を歩いている。
最も、腹を押さえ、片足を引きずるようにして何とか身体を動かしているその状態を、“歩く”と形容できるのであれば、だが。

「あいつら……絶対に許さない」

折角取り戻したソリッドシールドを破壊されたことは別にいい。
だが自分の楽しみをぶち壊した挙句、こんな風にダメージを負わせたことは、これ以上なく気に食わない。
自分は常に最強なのだ、正義の味方がどれだけ自分を間違っていると吠えても、奴らは負け続ける。

そうして最終的には全てを滅茶苦茶にして、奴らが間違っていることを思い知らせなければならないのだ。
だが自分は……負けた。
ダークカブトを堕とすことも出来ず、誰かを死なせることも叶わなかった。

これでは、何も面白く出来ていない。
この殺し合いをより刺激的にかき回す自分の役割を、何も果たせていないではないか。

「クソッ、ほんとむかつく……!あいつら次に会ったときは――」

苛立ちの言葉を吐いた直後、しかしキングの表情は唐突に歪んでいく。
苦痛にではない。いつも彼が浮かべる不気味な、そして嫌悪感さえ覚えさせるような、愉悦の表情に。

「そうだ、ならあいつを使おうかな。カッシスの為に取っておこうかと思ったけど……」

おもむろにデイパックに手を突っ込んだキングは、そのまま小さな箱のようなものを取り出す。
それはまさしく、彼が大ショッカーより持ってきたカッシスワームと直接の戦いになっても揺ぎ無い勝利をもたらすと確信できるほどの代物。
それを解き放った時に起こり得る惨状を想像して一層不気味に笑みを深めながら、キングはその箱から蓋を取り払った。

「ん……なに?アンデッド君、もしかして僕の力が借りたいの?」

「あぁそうだよ。お前の力で、この場を滅茶苦茶にしてくれよ。――ネオ生命体」

果たしてその箱の中に“いた”のは、緑の液体の中で蠢く赤目の少年だった。
ネオ生命体と呼ばれたそれは、まさしく大ショッカーの後進であるスーパーショッカーの切り札。
かつてディケイドがその死力を尽くして破壊した最強の存在であった。

子供のような言動をしながら破壊に満ちた思考を持つその怪物は、キングの呼びかけにしかし渋るように顔を背けた。

「頼むよ、さっきご飯もあげたろ?たらふくさ」

言いながら、キングの表情はその時のことを思い出し再び口角を上げた。
ギルス、カリスと戦った後、自分はゾーンメモリの力でE-4エリアに潜伏した。
勿論その狙いは休息が必要だと判断したからであったし、また同時病院で籠城する仮面ライダーたちを襲撃できると考えたからだったが、実は狙いはそれだけではなかった。


825 : The sun rises again ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:17:48 BIslr8wQ0

彼がE-4エリアに向かった、明かされていなかった最後の理由。
それは、そこには先の戦いで散った仮面ライダーたちの死体が山ほど存在していたからだ。
物言わぬ死体の山と、エネルギーを貪欲に求めるネオ生命体、ここまで言えば、彼の狙いはもうわかるだろう。

つまり彼は、大ショッカーより連れ出してきたネオ生命の腹を満たすために、東病院で散った者たちの死体を利用したのである。
彼が今持つ海東大樹、五代雄介の首輪も、その“食事”で生まれた副産物だ。
それを使えばより面白く奴らを刺激できると考えて取っておいただけの、記念品。

彼らは自分が首輪の為に死体を弄んだと考えていたようだが、それはただの食べ残しに過ぎなかったのである。
何も知らない彼らの間抜けな顔を思い出して、キングはようやくいつものような邪悪な笑みを取り戻したのだった。

「でも、皆死んでたし。正直全然満足できてないんだけど」

「そう言うなって。今のお前でも、あいつらをぶっ殺すのに十分なくらいの力はあるだろ?」

ニヤニヤと笑いながら、キングはネオ生命体に問いかける。
それはどちらかと言えば頼み事というより挑発のようにも感じられたが、一方のネオ生命体もまた、それに特段気を悪くした様子はなかった。

「……まぁ、いいよ。そろそろ遊びに行きたいなって思ってたし」

「そうこなくっちゃ」

瞬間、キングが持つ箱から、質量を無視して突如として巨体が吐き出されてくる。
鈍くぬらぬらと光と照り返すそれを、生物と呼ぶべきか機械と呼ぶべきか。
ともかくネオ生命体が生み出したその新たな命の名は、ドラスと言った。

かつて12人ものライダーを前にして一歩も退かなかったそれに比べれば、姿こそ同じなれど力は相当に落ちている。
だが、それでもキングにとっては構わなかった。
どっちみち、この会場にいる全員をドラスが嬲り殺すなどというワンサイドゲームは望んでいない。

場をかき回すというキングの目的からすれば、寧ろ相応しい強さを持っているのだから、文句など言うはずもなかった。

「じゃあ、適当に遊んで来なよ。僕はこっちに行くつもりだから、お前は――」

「……」

先ほどまでと打って変わって、無口になったネオ生命体改めドラスは、キングの言葉に振り向くこともなくゆっくりと進行を開始する。
つまんない奴だな、などと内心で思いながら、しかしキングは特段気にする様子もなく自身もまた新たな遊び場を探して歩き出すのだった。


【二日目 朝】
【C-2 平原】

【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、苛立ち、ドラスへの期待
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、首輪(五代、海東)
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒。
3:ディケイドとダークカブトは次あったら絶対に殺す。
4:ドラスの引き起こす惨状に期待。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え持ってきた物は『ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編』でした。
※ソリッドシールドは再度破壊されました。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。



【ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編】
【時間軸】不明
【状態】健康、遊びたい、ドラスにコアを移している。
【装備】なし
【道具】なし
1:外に出て仮面ライダー達と遊ぶ。
2:アンデッド君(キング)はちょっと面白いかも?
【備考】
※キングが主催より持ち込んだ対カッシスワーム用支給品でした。
※E-4エリアで参加者の死体を食ったのでドラスとして実体化しましたが、死体しか食ってないので能力は完結編時に比べ相当落ちているようです。
※あくまでディケイド出典なので、ドラスになっても無口です。


826 : ◆JOKER/0r3g :2019/06/01(土) 18:19:34 BIslr8wQ0
以上で投下終了です。
キングの持ち込み支給品に関しては正直ありなし分かれる部分だと思うので、気になったら言ってください。
それではご意見ご感想などありましたらお願いいたします。


827 : 名無しさん :2019/06/01(土) 19:40:06 CnCcrfOs0
投下乙です!
士と総司はキングの悪意を真っ向から否定し、そして見事なコンビネーションで立ち向かってくれましたか!
すべての迷いを断ち切ったからこそ、取り戻したカブトの力でキングを打ち倒す場面はめっちゃ熱かったです!
総司は迷いながらも旅をすることを決めて、士は名護さんと出会って何が起こるのか楽しみになったと思いきや……まさか、キングの持ち込んだ支給品があいつだったとは!
キングはまだまだ何かをしでかしそうですが、果たして……?


828 : 名無しさん :2019/06/01(土) 19:44:15 TsFmKfxI0
投下乙です。
総司の特異性と現代のネットに精通したキングの絡ませ方、ディケイド響鬼の活用方法など唸らされる展開が多い……
順調に力を取り戻し、残るはあと二つ。キングを退けたはいいものの、相手もまだまだしぶといですね。ドラス持ち込みは初代ロワを思い出す展開で懐かしくもありました。


829 : ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:04:21 j4oSyUAM0
お待たせいたしました。
これより予約分の投下をいたします。


830 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:05:15 j4oSyUAM0

「だあああああぁぁぁ!!!」

龍の尾を模した柳葉刀を高く掲げて、龍騎は雄叫びと共に戦場を駆ける。
息をもつかせぬ勢いで振り下ろされたその一撃は、しかしその先にある灰色の巨躯には届かない。
白刃取りなどという大層なものでさえない、片手のひらを閉じただけのそんな軟な防御方法で、龍騎の全力は呆気なく受け止められていた。

「このッ……!」

押し切ることも、退くことも出来ない桁外れの怪力。
物言わぬ表情を前に、得物を捨ててでも引くべきかどうか、龍騎が一瞬の迷いを見せたその瞬間、唐突に灰色の巨躯の背後から火花が吐き出される。

「真司を離せ!灰色お化け!」

その声の向こうにいたのは、龍騎と同じく龍を模した仮面ライダー、電王へと変身したリュウタロスの姿。
デンガッシャーによる射撃は相当な威力を誇るはずだが、しかしこの敵はまんじりとも怯みはしない。
どころかまるで何事もなかったかのように、ゆっくりとした動作で以てもう一方の掌から電王に対し青色の光弾を放った。

「やばッ――」

――CLOCK OVER

想像していなかった遠距離への攻撃手段に電王が覚悟を強いられた次の瞬間、しかし鳴り響いた電子音が彼の無事を知らせた。
光弾が着弾した場所には既に電王の姿はなく、その先、新たに現れたトンボの意匠を身に刻んだ水色の戦士が、彼を抱きかかえその救出に成功していた。

「麗奈!ありがと!」
「気を抜くなリュウタロス。奴は強い」

麗奈と呼ばれた水色の戦士ドレイクは、今の一撃を以て何とかドラグセイバーを捨てることなく怪人から離れた龍騎を見てホッと胸をなでおろす。
だが、それだけで一切の安心はおけない。
自分でも言った通り、この敵は恐らく今まで出会った中で敵味方問わず最強の敵である。

今の自分たちが持つ戦力で倒し切れるだけの力があるのかどうか、正直なところ微妙なところ。
勿論、この中で一番戦いなれている龍騎があそこまで敵わないとするのであれば、勝ち目などないとするのが普通であろう。
だが一つだけ自分たちがこの敵に勝ちうる可能性がある、それは――。

(――いや、この男にそれを期待するのは酷だろうか……)

自身の横で震えながら銃を構えるデルタのことだ。
今自分たちが戦っている敵は、十中八九三原修二の世界に存在する敵、オルフェノクと見て間違いない。
名護啓介や他の仲間たちの情報によって、ファイズやデルタなどのベルトであればオルフェノクに対する有効打を所有していることは分かっている。

目の前の敵がどの程度の実力かは分からないが、その種族がオルフェノクであるならば、デルタを持つ自分たちにも十分勝てるだけの可能性はある。

(……と、理屈ではその通りなのだが)

だが問題は、その変身者だ。
先の浅倉戦では彼がいなければ負けていたという局面があったとはいえ、それは言ってしまえば彼の運が良かった以上の意味を持たない。
自分たちに効いた浅倉の精神攻撃が効かない体質だったという幸運がなければ、あそこで全滅ということも十分にあり得ただろう。

正直に言ってこと戦闘において麗奈は三原を全くと言っていいほど信用していないし、信用するべきではないとも思う。
それは彼が弱いからとか情けないからとかいう理由以上に、戦いたくないと思っている男を戦いに駆り出すこと自体が間違っていると思うからだ。
とはいえ少なくとも今回に関しては彼の変身するデルタが勝利の鍵なのだから、どうにも頼るほかなかった。


831 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:05:33 j4oSyUAM0

(となれば後は三原修二が必殺技を出せるだけの隙を作らなくてはならないが……)

「間宮さん、大丈夫か!?」

思案に沈む麗奈の前に、何とか敵から距離を取った龍騎が帰還する。
或いは四人が無傷の今逃げるべきかとも思うが、先ほどのヴェールで瞬間移動され追跡をされれば、それこそいいようにやられるだけ。
どちらにせよ相手どらなければいけないとするのであれば、デルタという有効打を持つ自分たちが今戦った方が得策であると、麗奈は結論付けた。

「城戸真司、私とお前で奴に隙を作るぞ。リュウタロスと三原修二は援護を頼む」
「お、おう!」
「任せて!」

リュウタの返事と共に、二人は一斉に駆けだした。
龍騎は先ほどと同じく柳葉刀を構えて、ドレイクは引き金にその指をかけながら。
威嚇射撃としての意味も薄い弾丸を、しかしそれでも一抹の希望を込めて放つドレイク。

対する巨躯が光弾を放とうと開いた掌は、後方で援護する電王とデルタが打ち抜く。
相変わらず攻撃は効かないながらも僅かに照準はずれ、ドレイクは容易に光弾を回避し、再び弾丸を敵の顔目掛けて乱射する。
同時、そうして目くらましと行動の遅延を重ねた末の本丸は、既に敵の頭上に構えていた。

「はああぁぁぁぁ!」

柳葉刀を構えた龍騎が、大きく跳び上がり自由落下の勢いさえ利用してその刃を敵に突き立てんと叫んでいた。
龍舞斬の名を持つその一撃は、確かにかつてあるミラーモンスターを武器ごと破壊し撃破した強力な一撃。
故にその刃が敵を傷つけられない唯一の理由は、今相対する敵がこれまでにないほどの堅固さと戦闘センスを誇っているという、極めてシンプルな理由によるものだった。

跳び上がった勢いなど無視するように、先ほどまでと同じようにすんなりと刃をその手で受け止めた灰色の巨躯。
だが先ほどと違うのは、その剣の柄の先に得物に固執する龍騎の姿が存在しないということだった。

「ばーか!引っかかったな!」

――STRIKE VENT

巨躯が足元に目をやれば、そこにあったのは電子音声と共にその腕に龍の頭を模したガントレットを装備した龍騎の姿であった。
その手に持ったドラグセイバーを捨て対処に回るより早く、巨躯はその身に突き立てられたドラグクローに一歩後退を強いられた。
しかしその程度大したダメージに繋がるわけもない。

揺ぎ無くその足を進め龍騎を亡き者にするべく手を伸ばそうとして。

――EXCEED CHARGE

背に突き立てられた忌むべき毒素を含んだ白い三角錐に、その動きを止められた。

――FULL CHARGE
――RIDER SHOOTING

背後を確認することも出来ぬまま、左右からそれぞれ紫と水色の巨大な光弾が巨躯の身を押し潰さんと迫る。
いよいよ以て身動きが叶わなくなった巨躯は、そのまま成すすべもなく視界の先を見据え。

「はああああぁぁぁぁ……だぁ!!!」

その先で、巨大な赤き龍が主の動きに合わせこちらを焼き尽くす炎を吐き出すのを見た。
四方から放たれたそれぞれに相当の威力を誇る必殺の一撃を前に、立ち尽くす巨躯。
なればとばかりにその背後から、デルタは止めを刺さんと大きく跳び上がった。

「たあああああぁぁぁ!」

瞬間、オルフェノクを貫く刃、悪魔の鉄槌ルシファーズハンマーが、巨躯に深く突き刺さる。
まともな防御さえ出来ないこの状況であれば、恐らくは上の上たるオルフェノクといえど直撃を免れないと断言できる絶対的なこの状況。
だから彼らにとって不運であったのは、今対峙している相手が格付けなど出来ないほど、まさしく“別格”の存在であったことだろう。


832 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:05:53 j4oSyUAM0

「――ヌン!」

この戦いで初めて、巨躯が一つ声を上げた。
それと共に……僅かばかり、ほんの僅かばかり彼が身じろぎをした。
ただそれだけで、龍騎の、電王の、ドレイクの、そしてデルタの必殺技たる光弾は、巨躯に何らの効果も果たさぬまま跡形もなく霧散した。

数多の怪人を葬り去ってきた一撃を、都合四発も受けてこの余裕の態度。
それぞれの攻撃を生身で受けておきながら、なお無傷を誇る頑強な身体。
あぁ今こそ、この灰色の巨躯を確かな名前でこう呼ぼう。

アークオルフェノク、或いは――王と。

「な……」

弾け飛ぶ自分たちの攻撃と、情けなくも吹き飛ばされていくデルタを見やりながら、ドレイクは絶句する。
敵に対する攻撃は、確かに自分たちが持ちうる最大火力の合算ではなかったかもしれない。
だがデルタの攻撃を重用したこの一連の攻撃に、油断があったとは到底思わない。

見当違いがあったのだとすれば、それはデルタの力量を見誤ったことではなく間違いなく敵の力量を甘く見積もったことだ。
これまでにないほどの強敵、などというレベルではない。
これ以降もないほどの最大の強敵であるという想定でなければ、仕損じるような規格外の存在だったのだ。

「ぐ……」

どうすれば勝てるかではなくどうすれば逃げられるかに思考を切り替え始めた麗奈の視界の端に、衝撃故変身が解除された三原が呻いているのが映った。
まずい、と考えるより早く、彼女の手は腰のクロックアップスイッチをスライドする。

――CLOCK UP

電子音と共に高速移動空間へと移行したドレイクは、そのまま三原を戦闘の危害が及ばない場所にまで移動させようとする。

「ッ!?」

だが、それより早く目の前で発生した地面と光弾が接触したことによる爆発に、その行く手を阻まれた。

(まさか……もうそこまで見抜いているのか!)

次いでドレイクが見据えたのは、やはりというべきかこちらに向け掌を翳すアークオルフェノクの姿だった。
先ほどリュウタロスを救出したあの一回のクロックアップで、奴はこちらの起動スイッチを理解し対処してきたのだ。
言葉を発さないという点に甘んじていたが、奴の知能は決して低くはない。

どころかこと戦闘においては機械のような処理速度で以て合理的な判断を下す、まさしく戦闘マシーンとでも呼ぶべき敵なのだと、麗奈はようやく悟った。

――CLOCK OVER

同時、高速移動空間から弾き出されてドレイクは、生身を晒しながら目の前の爆発に飲まれ吹き飛ばされる。
あくまで余波だけであるというのに十全な威力を持ってその身から火花を飛び散らせ変身さえ解除させるそれを見て、電王は思わず飛び出していた。

「麗奈のこと、いじめるなー!」

デンガッシャーより銃弾を乱射して、アークの動きを僅かに鈍らせる。
直撃すれば鉄筋コンクリートの建物でさえ容易に消し飛ばす彼の弾丸は、しかしアークを前にしては有効打足りえない。
攻撃など意に介さずゆっくりと自身の方を向いたアークを前に、電王は思わず攻撃の手を緩めてしまう。

そして瞬間、やはりというべきか電王へ向けてアークは掌を向けていた。


833 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:06:09 j4oSyUAM0

「させるかぁぁぁ!」

だが、その掌から放たれる光弾を受け止めるのは、電王ではなかった。
ガードベントを使用しその身に盾を構えた龍騎が、彼を庇う様に立ちはだかったのである。
瞬間、真司でさえ聞いたことのないような金属音と衝撃を伴いその身体ごと大きく後退させられつつも、ドラグシールドは光弾を弾ききった。

だが、それで攻撃の雨が止むはずもない。
龍騎の盾を突き崩さんとするように、アークは二発三発と攻撃を重ねていく。
その度にガリガリと足を引きずり後退を強いられつつも、しかし龍騎は電王を守るように立ち続ける。

「――リュウタ!皆を連れて逃げろ!」
「え、でも真司は……」
「いいから!」

放たれたのは、息もつくのもやっとという中でしかし色褪せない真司の魂を込めた叫びであった。
この敵には、自分たちだけでは勝てない。
なれば名護や翔太郎、或いは士など、頼れる仮面ライダーと力を合わせなければならない。

そうして皆が逃げることにどうしても犠牲が必要だというのであれば、今の自分がそうなることに迷いはなかった。

(折角、俺の願いみたいなの、見つかったと思ったんだけど……)

麗奈との問答の末に見つけた『どうしても戦いを止めたい』という願いを無為にするのは、言いようもなく辛い。
だがそれでも、きっとその願いはそれを聞いた麗奈が、そして仲間たちが叶えてくれるはずだと、真司は信じることにした。
そうだ、仮面ライダーは自分の思った通り、傷つけあう敵同士なんかじゃなかった、助け合える仲間だったのだ。

それを知れただけで、今の真司は気持ちが楽になったようにさえ感じていた。
だから、ライダー同士の戦いを止めるという願いさえも委ねて、仲間の為に盾になることが出来たのだ。
だから――。

「真司!」
「リュウタ!早くしろ、もう抑えきれ――」

思考を中断させるリュウタロスの声に、思わず首だけでも振り返ったその瞬間。
真司の言葉は、それ以上紡がれることはなくなった。
光弾の乱射が意味を為さなかったに業を煮やしたアークが、その指先を伸ばし一筋の突きを放ったのである。

元の世界で、かつてカイザのベルトを突き破りその変身者にさえ致命傷を与えたそれは、此度も先ほどまでの応酬を無にするように呆気なく龍騎の盾を突き破り。
ドラグシールドほどではないにしろかなりの硬度を誇るはずの龍騎の胸を容易く貫いて、その下にある生身にまで到達していた。

「が……ッ」

それにより生じた暴力的なまでのダメージを前に全身を脱力させて、真司は強制的にその生身を晒し俯せに横たわる。
そのまま彼は、最早ぴくりとも動かなくなってしまう。
刹那そこにあったのは、あまりにも圧倒的な力に蹂躙された、願い届かず倒れ伏した守護者の姿であった。

「真司ぃぃぃぃぃぃ!!!」

電王が、仲間を失った慟哭を叫ぶ。
復帰してきた麗奈の腕が、力なく垂れさがる。
変身さえ解除された三原の足が、これ以上なくガクガクと震える。

この敵を前には、勝つどころか満足に逃げることさえ許されないのか。
やるせなさに拳を握りしめた麗奈は、しかし次に盾になるべきは自分だとワーム態への変身を躊躇なく実行しようとして。

「――おいおい、騒がしいから来てみれば……随分な状況だな?間宮麗奈」
「乃木、怜治……」

――彼女にとって最も望んでいなかった救世主が現れたことで、それを遮られた。


834 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:06:48 j4oSyUAM0





時は、数分前に遡る。
放送を聞き終えた乃木は、これから先の行先について迷っていた。
間宮麗奈や門矢士を探すか、或いは工場にUターンして三島という男と戦うか。

どこにいるともしれない前者を探すのは骨が折れるというのが正直なところだが、一方で三島を殺したところで大ショッカーがG-1エリアをそう易々と探索させてくれるという保証もない。
第二第三の刺客が現れて邪魔立てをするというのであれば、それこそイタチごっこだ。
骨が折れるどころの話ではない。

とはいえ西半分だけになったとはいえそれでも広いこの会場を無策にただ動き回るというのも品がない、と思考を重ねた瞬間に、彼の視界に映る灰色のヴェールが一つ。

「あれは……まさか大ショッカーの連中の差し金か?」

それは、先ほどの放送でも見た、大ショッカーの飛空艇が出現するときに生じるものと同じだった。
であれば少なくともあそこには、大ショッカーに迫れるだけの何らの手掛かりがあるとみるべきだ。
もし単純に刺客を送り込み人数を減らす算段なのだとしても、大ショッカー打倒を掲げる乃木にとっては遅かれ早かれ戦う敵には違いない。

「まぁ、当座の目的地としては最適か」

どちらにしろ向かうことに不利はないと考えて、乃木はそのままブラックファングのエンジンを吹かす。
その胸に、先に待ち受ける存在が今の自分の力を試せるだけの相手であればいいがという期待を込めながら。





「乃木、怜治……」
「なんだその顔は?あんなに派手にやっておいて誰も来ないと思ったか?」

相も変わらず敵意を向けてくる麗奈に対し、乃木は皮肉気に笑う。
どちらかといえば途中で戦闘になっていることは分かっていたが、まさかその中に目当ての一人がいるとは幸運だった。
さっさと彼女を狩るべきか悩み周囲を見渡した彼の視界に映ったのは、既に事切れた様子の城戸真司という男と首輪のない灰色の怪人の姿であった。

「ほう、貴様が大ショッカーの手先か?」
「……」
「無口なことだな。話す理性も持ち合わせないとは、哀れなものだよ」

伝わるかもわからない嘲笑をアークに向けた後、乃木は麗奈に向き直る。
彼女の表情は未だ警戒の色が深かったが、しかしどこか喜色も滲んでいた。
考えるまでもなくそれは自分が助けに来たからなどではなく、邪魔者同士が戦うことで生まれる間接的なメリットに対するものだったが。

「……そこで待っていろ、間宮麗奈。貴様は俺が殺す」
「無駄だ、お前はそいつには勝てない」
「どうかな」

短く切り捨てた麗奈の言葉に、しかし乃木は一切怯まない。
元より目の前の怪人が先ほどまでの自分であれば二人がかりでも足蹴にされるほどの規格外であることなど分かっている。
だがそれでも悠々とこの場に姿を現したのは――今の自分もまた、彼と並ぶだけの規格外であるという確信があったからだ。

「そーだそーだ!お前なんてその灰色お化けにやられちゃえばいいんだ!」

飛んできた野次に視線をやれば、その声は先ほど戦った紫のイマジン……確かリュウタロスとかいう奴のものだった。
先ほどは少しばかり痛い目を見せたから、少なからず恨みがあるということだろう。
あぁそれなら、自分の力を思い知らせるには丁度いいと、乃木は彼に対して一歩前に踏み出した。


835 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:07:07 j4oSyUAM0

「おや、誰かと思えば……リュウタロスだったかな?君は俺がこいつにやられると思うのかい?」
「当たり前じゃん、だって――」





「――答えは聞いてない」

刹那。
麗奈の視界の中、確かにずっと存在していたはずの乃木怜治は、はるか後方へと消えていた。
クロックアップを使用したならすぐさま対処できるはずの準備を整えていたというのに、変身することさえ、叶わなかった。

油断していた?いや違う、そんなものではない。
あれは、あれはまさか――。

「リュウタ!」

最悪の可能性に脂汗を流す麗奈を尻目に、自身のすぐ横で三原が悲痛な叫び声をあげていた。
瞬間、とある可能性に至った彼女もまたその視線を追随する。
あの乃木が、何事もなく“あの能力”を使うはずもない。

だがそれでも。
彼女は瞬間、思い至りたくなかった可能性が現実となるのを、その瞳に焼き付けた。
すなわち――その身に纏ったオーラアーマーを喪失させながら、人間でいう頸椎から多量の砂を吐き出すリュウタロスの姿を。

――フリーズ。
カッシスワームが元来持っていた、文字通り時を止める最強の能力。
かつて、度重なる復活によって失われていたその能力を、乃木は今使ったのだ。

煩い小蝿を潰すのに、飛び回る隙さえ与えぬように。
自身の邪魔をする厄介な女の介入を、阻むために。
そして何より、自分の実力を甘んじた者にその過ちを償わせるために。

この会場でここまでの時間を生き抜いてきた歴戦の戦士を一瞬にして葬り去る、まさしく反則級の能力を、彼が発動させた瞬間だった。

「あぁぁ……ああああああああ!」

乃木が今発動させた能力を理解した麗奈の、彼女らしくもない感情的な慟哭が、その場に響いた。
自分の判断ミスで撤退の判断が遅れたために、仲間が既に二人も殺されてしまった。
自分が人として生きることを許してくれた、かけがえのない仲間。

それを失った不条理に対するその絶叫は、誰よりも深く辛いもので。
思いを同じくする三原でさえ言葉を失うほどに、鬼気迫るものであった。

「フン」

そんな麗奈の慟哭を気にすることなく、乃木は一つ気合を入れ、その姿を異形のそれへと変貌させていく。
カブトガニを連想させるその甲殻は、先ほどよりも一層重厚に。
以前までも生えていた角は、両の肩よりも天を貫かんと高く伸びて。

カッシスワームディアボリウス。
今までのカッシスワームの能力全てを取り込んだ最強の形態が、今ようやく他者に向け姿を晒した瞬間であった。

「グオオッ!」

咆哮をあげたカッシスは、そのまま一瞬にしてアークへ肉薄する。
クロックアップを使ったわけではない。
ただの跳躍力を用いたステップで、互いに存在していた距離を無にしたのである。


836 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:07:23 j4oSyUAM0

「フンッ!」

そのまま掛け声一つ、剣と化した右腕を振るって、アークを切り落とさんとする。
だが、対するアークもまさしく王。
その剛腕も紛れない生身であるはずだというのに、恐れなくカッシスの剣を受け止める。

形状変化をしているとはいえ、生身同士のぶつかり合いとは到底思えないような衝撃音を響かせて、両者は拮抗する。
どうやら、両者の実力は互角程度。
であれば勝敗を喫するのは、僅かな気の持ちようと大技を放てるだけの隙を突けるかどうかだとカッシスは思案する。

そして同時に、その時間を作るのは自分にとって極めて簡単であると、カッシスは知っている。
クロックアップを使い無理矢理にその時間を稼ぐなど、自分には他愛もないこと。
であれば後は簡単だと勢いよく後ろに跳んだカッシスは、そのまま高速移動を開始しようとして。

「――!」

対峙するアークオルフェノクの全身からまるで曼陀羅に描かれた千手観音のように無数に生じた触手を前に、思わず二の足を踏んだ。
これではそもそも、接近のしようがない。
高速移動できたとして、あそこまで広範囲の攻撃を絶え間なく発生させられていては、速度など早くても変わらない。

或いは蘇ったフリーズの能力で無理矢理に勝利を手繰り寄せる手もあるが、先ほども使ったばかりだ、芸がないと思われるのも本意ではない。

(それにこいつなら、新しい俺の実力も測れそうだしな。容易に刈り取ってはむしろ勿体ない……)

そんな、極めて自分勝手な思考を繰り広げて。
目の前の敵を障害ではなくただ自分の実力を測るための実験台として考えながら、カッシスはその右腕に、禍々しい光を纏わせた。





「なんだよ、これ……」

掠れ、震えた声で、三原は目の前で繰り広げられる闘争に対してただ戦慄を口にした。
あのオルフェノクが現れて精々未だ5分ほど。
たったそれだけの時間で、既に仲間は二人もやられてしまった。

頼りのはずのデルタの鎧も、真司も、守りたかったはずのリュウタロスさえも。
あまりにも呆気なく、信じられないほどにあっという間に、失ってしまった。
挙句の果てに目の前で行われている紫と灰の怪人による戦いは、まさしく別次元の代物。

例え少し未来のデルタの資格者として戦う自分がここにいたとしても何も変わらなかっただろう惨状を前に、三原はただ絶望に立ち尽くしていた。

「三原、修二……」

茫然とする三原の意識を呼び覚ましたのは、いつの間にか立ち上がっていた麗奈の、しかし彼女にしては弱弱しい呼び声だった。
果たしてそこにあったのは、いつもの気丈な彼女からは想像もつかない、目を真っ赤に充血させその頬を濡らした麗奈の姿だった。
だが彼の目を最も引いたのはその涙以上に、他ならぬ彼女の表情。

それは、仲間を失った怒りに流す涙を流し終え、今や憤怒に燃える今までに三原が見たことのないものであった。

「三原修二、お前は逃げろ」
「え?」
「私は……奴とのケリをつけねばならない。お前は病院に向かい名護たちとの合流を目指せ」

その目を赤く染めながらも、見るだけで敵を射殺すような瞳をぶつかり合う二つの異形から外すことなく、麗奈は告げる。
三原には目もくれず放たれたその言葉に、しかし三原は何か反論するべきかと言葉を探す。
だが脳裏に浮かぶのは、どうせ戦ったって勝てっこないだとか、今のうちに逃げた方が得策ではないかだとか、そんな今の麗奈に言えば殴られそうなものばかりだった。


837 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:07:39 j4oSyUAM0

そんな言葉しか浮かばない自分に対する自己嫌悪に陥りながら、しかしそれでも一人で逃げるという行為へはそれ以上の忌避感を覚えた。
それは、仲間を見殺しにするような行為に対してか、一度は守りたいと感じた女性に殿を任せることに対してか、それとも或いは……一人で逃げたところで危険が付きまとうからか。
しかし、本人でさえ明らかでないそれらの葛藤に対しどうにも言葉を失った三原を置いて、麗奈は一歩敵へ向けその足を進めていた。

呼び止めるなら今しかない。
そんな風に感じる自分は確かにいるのに、どうしても声が出てこない。
仲間が殺されて悔しいのに、辛いのに、何も出来ぬまま頼りにもされず逃げ出すことは格好悪くて嫌なのに。

それでも三原の足は確かに一歩、また一歩と戦場から、そして麗奈から離れるように動き出していた。
足取りは重く、どうしようもなく後ろ髪を引かれるような心地をずっと感じ続けている。
だがそれでも……どうしようもなくひとまずの我が身の安全に安堵している自分が、確かに存在していることを、彼は感じてしまって。

(ごめんな、リュウタ……)

心中で述べた謝罪は、どうしようもなく短いものだった。





「……行ったか」

遠ざかっていく三原の足音を背中で感じながら、麗奈は一人呟く。
これでどうにか、ひとまず一人は逃がすことが出来た。
と言ってもデルタを狙う村上を始めとして、危険人物のたむろするこの会場においては、彼単身での病院までの道のりは決して安全なものとは言えないだろうが。

結局はこれ以上目の前で誰かを失いたくない自分の我儘にすぎないのかもな、と自嘲しながら、麗奈はとある男の前でその片膝をついた。
それは、先ほどの戦いでその命を刈り取られた城戸真司その人のもの。
俯せに倒れ伏すその身体に、目立つ外傷は見られない。

だが恐らくはその身体の中心には先ほどその身を貫いた触手による穴が確かに開いていて、この体の下には夥しい量の血だまりが出来ているのだろう。
彼のことを思えばその身をこれ以上動かすことは死者への冒涜にあたるのだろうが、だがそれでも麗奈にとってそれは必要な行動であった。
それは彼を弔うためではなく、彼の持つ龍騎のデッキを自身が貰い受ける為。

情けない話ではあるものの、先ほどのカッシスにさえ敗れた自身のワーム態如きでは、今のカッシスには手も足も出ないのが関の山だ。
だが、その切り札たるファイナルベントを未だ切っていない龍騎であるならば。
或いはその最大火力の一撃だけでも、奴の身に有効打を届けることが叶うのではないかと、麗奈は考えたのである。

我ながら、酷く身勝手な作戦だと思う。
身を賭して自分たちを守ろうとしてくれた戦士の遺物を勝手に使い、ほんの一瞬の自己満足のためにこの命さえ燃やそうとするとは。
きっと心優しい彼は、今の自分の行いを知れば反対するだろう。

だがそれを知ってなお後に引けぬだけの復讐の炎が、今もなお麗奈の身を焼き焦がそうとして燃え盛っているのである。

「すまない城戸真司……どうか最後に一度だけ、私に力を貸してくれ……」

身勝手な願いと知りつつも、意を決した麗奈がその腕を横たわる真司の身体にかけようとした、まさにその瞬間。
ガシリと音を立てるように、彼女の腕は掴み取られた。
さしもの麗奈も、驚愕に目を見開き事態の理解に意識を集中させるが、しかしうまくいかない。

だが、それも仕方のないことだろう、何故なら――。

「あれ、間宮さん――?」

まさしく彼女の腕を掴んだのは、死んだと思われていた城戸真司その人のものであったのだから。


838 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:07:55 j4oSyUAM0





――深く暗い闇の中で、城戸真司は目を覚ました。
どちらが上で、どちらが前かもわからない、ただただ闇が広がる空間。
どこまでも続くような広い闇の中で、自分だけがぽっかりとそこに浮かんでいた。

「あれ、俺……」

キョロキョロと周囲を見渡して、彼はなぜ自分がこんなところにいるのか思い返そうとする。
どこかに閉じ込められた?編集長と飲みすぎた?それともまさか……ミラーモンスターに何かされたか?
うんうんと唸りながらここに至るまでの記憶を辿っていた真司は、瞬間ハッと気づいたようにその顔をあげた。

「そうだ……俺、大ショッカーに殺し合いを……!」

言いながら真司の脳裏に、駆け抜けるように自分が今ここに来る直前までの記憶がフラッシュバックする。
世界の存亡をかけた戦いを命じられ、元居た世界と同じように殺し合いを止めるために戦った。
そんな中で得た、志を同じくする仲間たちを守るため、自分はこの身を盾にしてあの灰色の怪人に立ち向かって——。

「真司」
「っておわっ!?」

先ほどまで誰もいなかったはずの虚空より発せられた、自分を呼ぶ声に思考を中断された。
気配を感じなかったのが不思議なほどに至近距離からの声に、思わず素っ頓狂な声をあげながら、真司は振り向く。
だが瞬間、振り向いた先にあったのは、最早見ることの叶わないと思われていた一人の女性の顔だった。

「お前……霧島……?」
「何寝ぼけたこと言ってんの、私に決まってるでしょ」
「え、でもお前、確か……」

真司の驚愕も、無理はない。
そこにいたのは、自分と同じく大ショッカーによる殺し合いに参加させられ、既にその死を告げられた霧島美穂その人だったのだから。
浅倉本人から殺したとさえ言われた彼女の突然の登場に、真司は困惑を露にする。

だがそんな彼を見て、まるで予想通りだとでも言うように美穂はため息を一つ吐いた。

「うん、まぁそう。だからここはそういうとこで、あんたはそういうことなわけ」
「マジかよ、そんなのって……」
「うん、マジ」

未だ状況を飲み込めずしどろもどろに言葉を詰まらせる真司に対し、美穂は極めて端的に返す。
彼には少々可哀そうでもあるが、ここで変に希望を持たせる方が、よほど残酷だ。
どうにもならない現実があるのなら、さっさと知らせる方が情だろうと、美穂はリアリストなりにそう思った。

「じゃあ、そういうことなんだな?ってことはお前——





——大ショッカーまで騙してたのか!やっぱりとんだ悪女だな!」
「いや、なんでそうなんのよ!」

今までの会話を何も理解していなかったらしい真司の的外れな言葉に、美穂は思わずずっこけそうになってしまう。
これがボケなら救いもあったが、どうやら彼の顔を見る限りその線も薄そうなのだから悲しくもなるというものだ。


839 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:08:11 j4oSyUAM0

「へ?いやだってお前放送で名前呼ばれただろ?実は死んでなかったのに大ショッカーを騙してたってことなんじゃないのか?」
「違うっての!あんたってホント馬鹿ね!」
「馬鹿ってなんだよ馬鹿って!大体お前はなぁ――」
「――いつまでやってる」

いつぞやと同じように子供の様な口論を始めそうになった二人のもとに、ぴしゃりと冷たい声が響く。
呆れ果てたようなその声に、しかし真司は聞き覚えがあった。

「蓮……」
「最初に言っておくが、俺たちは生きてなんかいない。余計な誤解はするなよ」

自身の死でさえ極めてドライに事実だけを吐き捨てるその姿勢は、まさしく真司の知る秋山蓮を思わせるもので。
だからこそ、そんないつも通りの蓮の言葉に、真司はようやく、自分が今置かれている状況を理解してしまった。

「じゃあ俺、ほんとに……死んだのか」
「うん、だから私たちが迎えに来たってわけ。ほら、迷っちゃうといけないし」

言いながらいつものように笑う美穂の笑顔は、しかしどこか引き攣っていた。
同情なのか、悲しみなのか、或いは自分たちの世界が滅んでしまうことへの未練なのか。
どうあれそれでも優しい言葉を吐く美穂を前に、真司はここではないどこかを夢想しながら虚空を眺めた。

「結局俺の願い、叶えられないままだったな……」

ポツリと、真司は呟く。
13人のライダー同士の戦いに参加したものとして、願いの一つでも見つけてみろと麗奈に言われ、ようやく探そうと思えた自分自身の願い。
そうして辿り着いたのが、誰に何と言われようと、どう思われようとライダー同士の戦いを止め世界を救いたいという願いだった。

ミラーワールドに生きる仮面ライダーとして、そして様々な世界に生きる自由と平和のために戦う仮面ライダーの一人として、戦いたいという自分の、素直な願い。
この一年戦い続けて思い至った小さな望みは、しかしこんなところで容易く終わりを告げてしまった。
それがどうにも悔しくて、真司は美穂や蓮を見やることもなくどこにあるとも知れない生者の世界に思いを馳せていた。

「ねぇ、真司」
「ん?」
「あんたも、願いを見つけられたんだね」
「あぁ、お前らに言ったら、反対されそうだけど……」
「アハハ、まぁ想像はつくけどさ」

少し笑った後、美穂は蓮と顔を見合わせた。
どこか訳知り顔な二人の様子に真司は訝し気な表情を浮かべるが、それを問うより早く、蓮は唐突に距離を詰め真司の襟首をつかんでいた。

「ちょちょ、なんだよいきなり!」
「城戸」
「なんだよ!」
「これは、貸しにしておく。いつか……返しに来い」

言いたいことだけ吐き出したというように蓮は踵を返し、どこか遠くへ歩いていく。
距離にしてみれば近いはずの蓮は、しかし一歩一歩ごとに手の届かない距離にまで行ってしまうように、真司には感じられた。

「ちょ、蓮!どこ行くんだよ」
「……」

真司の呼びかけを無視して、そのまま蓮の姿は闇に溶ける。
まるで最初からそこにいなかったかのように消えた彼の姿を探し真司は周囲を見渡すが、しかしその姿はどこにも見当たらなかった。

「おい蓮!おい!」
「真司」
「なんだよ!」


840 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:08:26 j4oSyUAM0

意味深な言葉を残し消えた蓮に対し苛立ちを隠せない真司の耳に、美穂が自分を呼ぶ声が届く。
だが、今はそれどころではないとばかりに振り返った彼の瞳に映ったのは、蓮と同じようにその身体をゆっくり闇に溶かしていく美穂の姿だった。

「ごめん。なんか……もう時間っぽい」
「時間って……なんだよそれ!お前、俺を迎えに来たんじゃないのかよ!」
「あー、ごめん。あれ嘘。本当はさ……ちょっと、あんたと話したかっただけ」
「話したかったって……」

真司の脳内は、もう混乱でぐちゃぐちゃだった。
いきなり真っ暗い空間に飛ばされたと思ったら、死んだと思っていた美穂や蓮がいて。
自分も死んだのだと言われたのに、今度はいきなり時間が来たとか言われ、二人も消えてしまうのか。

言語化できないほどに複雑な感情に困惑する真司に対し、美穂はただ優し気な笑みを浮かべながら真司に向け歩を進める。
やがて彼女の顔は、真司のそれとよもや接触するという距離にまで、近づいていた。

「真司」
「なんだよ」
「ふふ……呼んでみただけ」

なんなんだよ……とぼやきながら、真司は僅かにその足を美穂から一歩分離す。
やはりというべきか、なんというべきか、彼女といると妙に調子が狂う気がする。
自分はいつも通り振る舞っているつもりなのに、いつの間にか彼女のペースに呑まれてしまう。

彼女の仕事柄、口が上手いからだろうか。
いや、しかし弁護士である北岡にはこんな風に悩むことがないことを思えば、それもまた違う問題なのかもしれない。
……或いは北岡には、美穂以上に相手にされていないというだけの話かもしれないが。

(ていうか、さっきから何なんだよ霧島の奴……。話してみたかっただの呼んでみただけだの、何が目的なんだよ……)

死んでしまった存在と話せる空間でさえ現れない北岡の存在に少しだけもの悲しくなった真司は、それを誤魔化すように目の前の美穂に意識を向ける。
一方で、訝しむような真司の表情を察したか、美穂は再びその口を開いていた。

「真司、ちょっと目、瞑ってくれる?」
「え、なんで……」
「いいから」

美穂の強引に押し切るような言葉に、真司は渋々目を瞑る。
本当に何から何まで、さっきから何を要求しているのか分からない女だ。
とはいえこうして何やかんや言いつつその要求を受け入れてしまう自分も、少しは悪いのだろうが。

(……でも霧島の奴、本当に目なんか瞑らせて何やらせる気なんだ?)

腕を組み目を瞑ったまま、真司は美穂がやろうとしていることを推理してみようとする。
目の前で何かをしている様子もなく、ただそこに気配だけがある、なんとも言いがたい状況だ。
こんな状況で、わざわざ目を瞑らせる理由を少しばかり考えて、それから真司は、ハッとしたようにとある思考に辿り着いた。

(まさか霧島の奴、また何か盗んでるじゃないだろうな……!?)

それは、初めて彼女と出会った後、美穂と遊園地に行ったときのこと。
少しの間だけ凭れさせてほしい、などと良い雰囲気を演出しておいて、彼女は自分の懐から龍騎のデッキを奪おうとしていた。
結局寸前でそれは阻止できたものの、彼女の仕事である詐欺師を思えば、今もまた同じように真司から何かを盗もうとしている可能性は、決してないわけではなかった。

であればやはりこのままこの目を開けるべきか、とそう考えるが。

(いや、もし本当に何かしてくれようとしてたらどうするんだよ。
別にもう戦う理由だってないわけだし、今更わざわざ何か盗む必要もないんじゃ……)

その一方で交流を深めた彼女を信じるべきではないかと言う自分が、それを妨げる。
どちらにせよ、もうライダー同士の戦いなんていうのも無関係なのだ。
欺したり盗んだりする必要など、欠片も存在しない今、彼女が純粋な善意で何かをしようとしている可能性も、否定しきれない。


841 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:08:42 j4oSyUAM0

(いやいや、こいつは詐欺師だぞ?今も何か企んでるかもしれないだろ!?)
(いやいや、でも一緒にお好み焼き食べてる時は、全然良い奴だったし、こいつも根は悪い奴じゃないと思うんだよな……)
(いやいや、でも――)



――ピシッ

深入りしていく思考を中断させたのは、美穂のデコピンによって生じたおでこに響く鈍痛であった。

「痛っ」
「なーに期待してんの。変態」
「変態ってなんだよ変態って!お前が目瞑れって言ったんだろ!」

ホントとんだ悪女だな、とむすくれながら、真司は彼女を良い奴と思いかけていた自分を後悔した。
何かを盗んだわけではないにしろ、彼女はやはり詐欺師である。
死んでもろくな女じゃないなと、文句の一つでも口にしようとした、その瞬間。

突如美穂の身体が、小さく、しかし強く光る粒子になって辺りに散らばっていく。
突然の出来事に困惑する真司だが、それ以上にその光の眩しさに目を覆わざるを得ない。
だがそれでも、何とか彼女を消してなるものかと、真司は必死にその手を美穂に伸ばす。

だが美穂は、その手を取ることはしない。
ただ微笑みだけを向ける美穂に対しそれでも懸命に手を差し伸べ続ける真司だが、やがてその身体は美穂から離れ宙へ浮かんでいく。
闇から離れ、急速に光の中に浮上する彼に対して、彼女は今度こそ嘘ではない素直な笑みを浮かべ――。

「真司。今度からは靴紐……ちゃんと結べよな」
「霧島ぁぁぁぁぁぁ!!!」

その声を最後に、真司の腕の先にあったはずの美穂の身体は、遠く遠く離れていく。
手を伸ばそうとすればするほどに遠くなる彼女の姿を、しかしなんとかして掴もうと、真司はその手を伸ばし続け――。

「あれ、間宮さん――?」

次の瞬間には、自身が掴みたかったそれとは違う女性の腕を、確かに掴んでいた。

「俺……一体……」

痛む身体を押して、ぼんやりと周囲を見渡せば、そこにあったのは確かに気を失う前自分がいた世界であった。
先ほどまで見ていたのは、一体何だったのだろうか。
夢だった……と断じるには、些か乱暴なようにも、真司は感じていた。

「城戸真司……生きていたんだな」
「生きてた……って」

麗奈の安堵を込めた声に、ふと何かに気付いたように真司はその懐に手を伸ばした。
先ほどあのオルフェノクに貫かれたはずの個所は、僅かな鈍痛の残るのみとなっている。
ほぼ反射的にその原因を探った真司は、瞬間何が自分の命を繋いだのか知ることとなった。

「これ……霧島のデッキ……」

いつの間に懐に収めていたのか、そこにあったのは衝撃に砕けバラバラになったファムのブランクデッキであった。
先ほどドラグシールドと龍騎の胸部装甲を砕いたアークオルフェノクの魔手は、しかし懐に秘めたこのデッキによって、真司の身に届く寸前で間一髪押し止められたのである。
だが、そんな奇跡的な偶然になど、真司は興味ない。

それよりも、先ほどの夢で美穂の言った「もう時間だ」という言葉と、砕けたデッキとの間に感じる奇妙な関係性の方が、よほど彼にとっては大事であった。

「大丈夫か?」
「え、あぁ大丈夫だけど……」


842 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:09:23 j4oSyUAM0

砕けたデッキの破片を手に物思いに沈む真司に対し、麗奈は心配そうに声をかけてくる。
彼女の遥か後方では、あのオルフェノクと先ほど戦った乃木という男が戦っているのが目に入った。
つまり、戦いはまだ続いているのだ。

であればともかく今は考えている暇もないかと一転して気を引き締め立ち上がった真司に対し、麗奈はその肩を引き留める。

「待て城戸真司、お前は病院に迎え。先に三原修二も行っている……お前なら奴にはすぐ追い付けるだろう」
「お前は、って間宮さんはどうするんだよ?」
「私は、奴を……乃木怜治を倒す」

変身制限のかかった真司を逃げるよう促しながら、麗奈は今一度カッシスをその瞳に映した。
だがその提案を受け入れるわけにはいかないとばかりに、真司は彼女の前に立ち塞がっていた。

「ちょ、ちょっと待てよ間宮さん!倒すって、さっきあいつに負けてただろ!それに、あのオルフェノクも相手じゃ、なおさら――」
「――だとしてもだ。私は、私らしく生きると決めた。そのために、奴から逃げるわけにはいかない」

凛とした表情で、麗奈は真っ直ぐに言い放つ。
思わず、どういうことだと困惑した真司に対し、彼女は臆することなくその足を踏み出した。

「……私は、ワームでありながら人の心で、自由に生きると決めた。
それを恥じる気も、後悔する気もない。だが、それを妨げようとする奴から逃げてしまえば私は、自分の選んだ生き方を自分で間違いだと認めてしまうことになる」

麗奈の瞳には、迷いは見られなかった。
つまりは彼女が言いたいのは、ワームの掟を守りそれを破った自身を殺そうとする乃木から逃げるのは、結局のところ掟に屈したことになるということ。
どこまでも自由に、空に浮かぶ雲のように生きたいと思った自分に嘘をつかないためには、追っ手に怯えるのではなく、それを正面から叩き潰さねばならない。

それが、彼女の思う自分らしく生きるために選んだ茨の道であると思ったし、同時にこれはその為の試練なのだと、彼女は考えたのである。

「そんなこと……」
「あぁ、考えすぎかもな。だが、怯えながら逃げ命を繋ぐことを、私は『生きる』こととは思わない。例えそれをお前が否定しようともな」
「間宮さん……」

強い意志を持って放たれた麗奈の言葉に、真司は言葉を詰まらせる。
浅倉との戦いで、そしてその後にあった門矢士の言葉で、麗奈は人間として生きてくれるのだと思った。
だがその裏には、自身の種族が持つ掟をこうまで重く捉えた彼女の姿があったのだ。

人間の間宮麗奈がワームの自分と和解したのだ、などと能天気に考えていた自分を恥じつつ、真司はしかし彼女が行おうとしていることを、認めることは出来なかった。

「間宮さん……ごめん、俺ちょっとあんたのこと勘違いしてた。そりゃそーだよな……人間として生きるって言葉、本当はあんたは、凄い悩んで言ったんだよな」
「……」
「でも、それでもやっぱり俺は、今の間宮さんを一人で戦いになんて向かわせられない」

今度は真司が、真っ直ぐに麗奈を見据える番だった。
一年間のライダー同士の戦いの果て、ようやく見出した自分の願いらしきもの。
それに嘘をつかないためにも、真司はここで彼女を戦場に行かせるわけにはいかなかった。

「俺、皆傷つかず幸せになれる世界を信じたいって言ったよな。凄い迷惑をかけるかもしれないけどって。
だから間宮さんが負けるかもしれないのに戦いに行くのなんて、俺は認めない。
あんたは納得いかないのかもしれないけど、いつか絶対に俺たちであいつを倒すから、だから今は――」
「駄目だ」

真司の必死に考えながら絞り出した言葉に対して、麗奈の返答は短く冷ややかなものだった。
そう言うと思っていたとばかりにあっさりと切り捨てられた真司は些か眉を顰めるが、しかし麗奈もまた、一歩も引く様子を見せない。


843 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:09:39 j4oSyUAM0

「ここで逃げた時点で、私はもうありたいと思った自分として生きていることが出来なくなる。
お前の願いに反するとしても、それが私の願いだ。例えその先で、死ぬことになったとしても」
「なんでそんなこと言うんだよ……どんな理由があったって、死んでいいわけないだろ!
そうしなきゃ生きられないなんて、そんなの間違ってる!」

自身の命を投げ捨ててでも戦い、自身の存在を証明しようとする麗奈。
例え相手にどんな理由があったとしても、自身の生を証明するために死ぬことさえ厭わず戦おうとすることを否定する真司。
彼らの価値観は、そして彼らの願いはそれぞれ互いに決して交わらず、故に議論は平行線を辿っていた。

数秒の沈黙が流れた後、視線を逸らし溜息をついたのは、麗奈の方だった。

「――仕方ない。お前がここまで根気強いとは思わなかった」
「仕方ないって……じゃあ間宮さん――!」
「あぁ。あまりやりたくはなかったが――お前にはことが終わるまで、気を失っていてもらう」

ワームの幹部たる威圧を誇るその言葉は、本気だった。
彼女は今にでもウカワームへ変身を果たし、その言葉を実現するつもりだろう。
自分を殺すつもりはないのだろうが、同時にここで自分の意見にこれ以上耳を貸す気もないはずだ。

だが、だからといってダメージを避けるために今の彼女を置いて逃げるという選択肢も、真司の中にはすでになく。
両者の間に走る緊張が、これ以上ない高まりを見せたその瞬間――。

「――おい、アンタたち!大丈夫か!?」

突如として現れた青い戦士の声によって、それ以上を遮られた。
突然の出来事に思考を停止した真司の一方で、ワームへの変身を選択肢として残しながらも、恐らくこの男は殺し合いに乗っていないのだろうと麗奈は推測する。
何故ならそこにいる仮面ライダーは、自身もよく知る戦いの神ガタック。

元の資格者である加賀美新は既に死んでいるが、あのゼクターが新たな主に選んだのもきっと彼と同じタイプの男なのだろうと、麗奈は考えたのである。
加えて、生身の参加者二人を前にクロックアップシステムを持つガタックで奇襲を仕掛けていないのだから、十中八九殺し合いに乗っていないのは間違いなかった。
そうした根拠から彼に対する過度な警戒は無意味かと、彼女は結論づけていた。

「あぁ、私たちは大丈夫だ。貴様こそ、随分と急いできたようだな」
「よかった……俺は小野寺ユウスケ。三原って人にこっちで大変なことになってるって聞いて、飛び出してきたんです」
「三原さんと会ったのか……って、そういえば三原さんとリュウタは……?」

ユウスケと名乗った男から出た意外な名前に、真司は辺りを見渡す。
彼からすれば気絶する前にいたはずの仲間がいきなりいなくなったのだから、不安になるのも仕方のないことであった。
だがあげられた名前に対し僅かに目を反らし下を向いたガタックを見て、真司はその瞳を大きく見開いた。





時は、少し遡る。
渡との戦いを終えた後、F-1エリアで気を失っていたユウスケは、放送の少し前にその意識を取り戻していた。
流石に連戦に次ぐ連戦で消耗した身体は少し休んだ程度では未だ悲鳴を上げ続けていたが、それでもユウスケは脚を止めることはしなかった。

放送で死を告げられた、多くの仮面ライダー。
その中には、この会場で共に行動した橘朔也や、異世界のアギトや555である翔一や巧といった名前も含まれている。
一方でダグバの名前も呼ばれていたが、それで殺し合いが終わるわけではない。

力不足の自分の代わりに、誰か別の参加者が仮面ライダーとして正義を為してくれただけのこと。
自分でなければダグバを倒せないなどということ自体が思い上がりだったのだと、ユウスケはそう結論付けようとする。
そう結論付けて、納得しようとしているのだが。


844 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:10:04 j4oSyUAM0

(なんで、ずっとあいつと戦ってるときみたいな嫌な感じが消えないんだ……)

この体にじっとりと纏わり付く、奴の放つプレッシャー。
二度戦った時にこれ以上なく感じたその感覚が、なぜか消えないような錯覚を、ユウスケは覚えていた。
気のせいだと振り払おうとする自分の一方で、もしかすればダグバは未だ生きているのではと囁く自分を、ユウスケは自覚する。

もし本当に究極の闇を乗りこなした自分にしかダグバは倒せず、大ショッカーでさえその身を滅ぼすことが出来ないのだとしたら――。

「――ん?」

最悪の可能性に思考を巡らせるユウスケの視線の先に、全力で何かから逃げるように走ってくる青年の姿が映る。
少なくとも自分が今まで出会ったことのある参加者ではないようだが、取りあえず話を聞かなくては。

(そうだ、ダグバがどうであれ、俺がやるべきことは変わらない。死んだ五代さんの分まで、戦士クウガとして俺が皆の笑顔を守るために戦わなくっちゃ)

忘れかけていた初心を、ふとしたことで思い出す。
ダグバを倒すことは、決して自分の全てではない。
不確定なそれに思考を巡らせるよりもまず、目の前の誰かの笑顔を守らなくては。

駆けだしたユウスケの表情からは、少しだけ眉間の皺が減っていた。





「――君、大丈夫?」

やがて、大した時間も要することなく青年の元へ駆けつけたユウスケは、彼に気遣うような声をかけた。
ユウスケが追い付いた青年は今、情けなくも地面に大きく俯せになっている。
一先ほど、息切れし屈み込んで荒く呼吸を繰り返していた青年は、ユウスケの登場で一層のパニックを起こしたらしく、G-1エリアへと駆け出そうとしたのだ。

そちらが禁止エリアであることさえ忘れた突発的な行動にユウスケもまた咄嗟に彼の足を引っかけ、その歩みを止め、今に至るということである。
最終的な身の安全を考慮した結果とはいえ、少々乱暴な手段を使ってしまったことに申し訳なさを感じ先ほどのような言葉をかけたのだが、青年は未だ呼吸に精一杯で返事をしてくれる様子はなかった。
であればやはり警戒を解くためにも自分から名乗るべきかと、ユウスケは青年の前にしゃがみ込む。

「驚かせてごめん、俺は小野寺ユウスケって言うんだ。よければ君の名前も――」
「小野寺ユウスケ?……って、あの門矢って人の仲間の……?」
「士を知ってるのか!?」

思いがけず耳にした仲間の名前に、ユウスケは青年の名を聞くことさえ忘れて彼の肩を揺する。
それを受け、未だ酸欠状態であった青年は、これ以上脳が揺れるのを避けたいという思考だけで、自身の知っている情報を反射的に絞り出していた。

「あぁ、なんかキングって奴を追うとか言って、病院に向かった……。
もう放送からだいぶ前の話だしバイクにも乗ってたから、多分もう着いてると思うけど……」
「キング……?あいつ、士にも……」

息も絶え絶えの青年から放たれた予想していなかった名前に、ユウスケはその瞳を北方へ向ける。
一条が向かい、士が向かったという病院。
やはり自分が向かうべきはそこ以外にないだろうと、ユウスケがそう考えた、その瞬間だった。

先ほどとは一転して、自分が言うべきだったことを思い出した様子の青年が、ユウスケの肩を強く揺さぶったのは。

「それより聞いてくれ!あっちでリュウタが……俺の仲間が!」
「リュウタロス?リュウタロスがどうしたんだ?」

再び耳にした聞き覚えのある名前に、ユウスケはまた青年に向き直っていた。


845 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:10:20 j4oSyUAM0





「そうか、それじゃあ君の名前は三原修二。向こうでワームとオルフェノクに仲間が二人殺されたから、それでこっちに逃げてきた。こういうことか?」
「あぁ……」

半ばパニックのままの三原の言葉を何とか解読し、纏めるユウスケ。
それを青年、三原が肯定したことを受けて、彼は思考を巡らせる。
三原という青年が嘘を言っていないのは、ほぼ間違いない。

元はと言えば海堂が仲間と言っていた人物なのもそうだし、この怯えようが演技であるとも思えない。
であれば次に考えるべきは、自分がそちらに向かうべきかどうかだ。
話を聞く限り、その二体のワームとオルフェノクはユウスケが知る中でも上位の実力を持つものだ。

4人のライダーの必殺技を物ともしなかったというオルフェノクは、情報だけ聞けばガドルは勿論、もしかすればそれはダグバ以上の怪物かもしれなかった。
そしてまたそれと渡り合えるだけのワームもクロックアップさえ超える加速能力を持つらしいのだから、自身もまた究極の闇にならなければ、戦いにすらならないだろう。

『――なぁ、ユウスケ。おまえはそんなにその黒いクウガってのになりてぇのか?』

かつてダグバとの戦いの直前に、キバットが自分にかけた言葉を思い出す。
ダグバを倒すには自分が究極の闇にならなければどうしようもないのだから、皆は逃げてくれと言った自分の言葉に対する、あまりに素朴な疑問。
その答えは、勿論NOだ。ユウスケとて、戦う為だけの生物兵器としての姿に望んで成り下がりたいなどと、口が裂けても言いたくはない。

(それに、また俺のせいで誰かを殺してしまったら……)

思い出されるは、自身の発生させた炎に呑まれ燃えていく青年と女性の姿。
理性を失ったはずの凄まじき戦士が、しかしその脳裏に焼き付けていた、最も悔いるべき守りたかった仲間を自身の手にかけるその瞬間であった。

もう、あんな思いは二度としたくはない。
それに、暴走しなければまともに戦えないような戦力の自分がそこに行っても、戦況を混乱させるかもしれない。
それなら寧ろ、そちらに向かわずこの三原という男を病院にまで送り届けるのが自分の責務ではないかと、そこまで考えて――。

――彼は自身の頬を強くはたいた。

「何考えてるんだ俺は……!それじゃ本末転倒だろ……!」

揺らぎかけていた自分の信念を、もう一度思い返す。
自分は、誰かの笑顔を守る為に戦うと決めたのではなかったのか。
究極の闇にならなければ勝てないような相手であれば、戦いそのものを避けるような在り方が、本当に自分のなりたい自分だったのか。

「違う……俺が戦うのは、誰かを倒す為じゃない……!」

言いながら、ユウスケは頭を振る。
亡き八代に誓ったではないか、世界中全ての人の笑顔の為に、戦うと。
未だ戦場に残ったという三原の仲間である間宮麗奈という女性を蔑ろにして、その約束が果たせるはずがないだろう。

気を引き締め直したユウスケは、その腰にZECT製のライダーベルトを巻き付ける。
例え究極の闇にならなくても、きっと何か出来ることはあるはずだと、そう信じて。

「来いッ!ガタックゼクター!」

叫んだ主の声に従うように、空より舞い降りるは青い彗星。
その双眸を赤く輝かせてユウスケの手に収まったそれを、彼は想いきりベルトに叩き込む。


846 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:10:36 j4oSyUAM0

「変身!」

――HENSHIN

「キャストオフ!」

――CAST OFF
――CHANGE STAG BEATLE

その身から余分な鎧を吹き飛ばし、ユウスケは仮面ライダーガタックへと変身を遂げる。
三原から話を聞くのに少々時間を食ったが、ガタックであれば大事になる前に駆けつけることも十分可能なはずだ。

「ごめん、三原さん。病院にはやっぱり一人で行ってくれ。俺も絶対、間宮さんって人を連れて後で追いつくから」
「えっ、ちょっと、本当に俺の話聞いてたのか!?あっちは本当に危ないんだって――」
「あぁ、分かってる。それでも俺は、人の笑顔を守りたいから。――クロックアップ!」

――CLOCK UP

三原の困惑をおいて、ガタックはそのまま超高速空間へと移行する。
彼には少々酷かとも思うが、しかし今は何より時間が惜しい。
彼には伝わることのない謝罪を心中で吐いて、ユウスケはそのまま三原が指した方向へと全力で駆け出していった。

「なんなんだよ、もう……」

クロックアップを使用して目にも止まらぬスピードで消えたガタックに対し、三原から漏れたのはそんな疲れ切った声だった。
有り得ないような強敵と戦わされて呆気なく負けたと思えば、今度は逃げろと言われ。
それに従って一目散に逃げた先で出会った青年にはほぼ一方的に情報を吐かされて、また一人で置いてけぼりだ。

だがこれでようやく、一人で落ち着いて病院に向かうことが出来る。
道中は確かに恐ろしいが、しかしそれでもその先には心強い仮面ライダー達がごまんといて、自分を守ってくれるはずだ。
そうして三原は、再びその足を病院に向けようとして。

――どうしようもなく、それ以上進むことが、出来なかった。

「なんだよ……なんなんだよ……!」

泣き出しそうな声音で、三原は喚く。
危害を加えられたわけではない、疲労が頂点を迎えたわけでもない。
ただ、先ほどの青年が自分の情報を聞いてもなおあの戦地に走ったという事実が、どうしようもなく旨を掻き乱す。

4人がかりでも一切手も足も出なかったと言ったのに、時を止めたと言って遜色ない所行を、目の前で繰り広げたと言ったのに。
そんな事など知るものかとでも言うように、彼は臆することなく戦地へと向かっていった。
ただ、そこにいる一人の女性を、守る為に。

「なんだよ……誰かの笑顔を守るとか……そんなの、そんなの……!」

下らないことだとか、死にに行ったような物じゃないかとか。
そんな彼を貶すような言葉が浮かぶも、しかし口に出すことは出来なかった。
あんな風に真っ直ぐに誰かの為に自分を犠牲にして戦える人を馬鹿にすることは、三原にはどうしても出来なかった。

「――クソッ!」

どうにも整理のつかない自分の感情に、悲鳴にも近い声をあげて、三原は迷いを振り切るように走り出した。
――今まで走ってきた方向……つまりは、ユウスケの後を追うように、あの戦場へ向けて。

(何してるんだ俺、あそこに行っても、出来る事なんて何もないだろ――)

そんな風に叫ぶ冷静な自分は、確かに存在していたが。
しかし自身の足取りが、先ほどそこから離れてきたときに比べて格段に軽いように、三原には感じられた。
ただ今は、そこから逃げることだけはしたくない。

そこに今更行ったところで自分が何を出来るかなんて、分からないけれど。
それでも今は、自分の中から湧き出るこの衝動に任せてみてもいいかと、三原は思った。


847 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:10:52 j4oSyUAM0





「じゃあ、リュウタはもう……」
「あぁ、乃木怜治にやられた。……まさしく一瞬の間にな。私の目でも、何をしたのかすら分からなかった」
「クソッ、なんでこんなことに……!」

気を失っていた間のことを麗奈から詳しく聞き、真司は拳を強く握りしめる。
リュウタや三原、麗奈たちを守る為にその身を挺したというのに、結局リュウタは……あの優しい魔人は殺されてしまったというのか。
麗奈が言った乃木はここで倒すという言葉のもう一つの意味を痛感しながら失意に沈む真司に対して、ガタックはその足を一歩進めていた。

「なぁアンタ、真司って名前って事は、『龍騎の世界』の人間なんだよな?」
「え?いや、多分そうだと思うけど……」
「なら、これの使い方も分かるよな?」

聞き慣れない『龍騎の世界』なる言葉に困惑しながらも肯定した真司に対し、ガタックはデイパックから一つの箱を取り出した。
蝙蝠のエンブレムが刻まれたそれは、まさしく自身のよく知る男が持っていたカードデッキ。
幾度となく刃を交え、そしてそれ以上に幾度となく肩を並べ戦った男の、その願いを叶えるための力であった。

思わずガタックの手からそれを自身の手に手繰り寄せた真司は、そのまま先ほどの夢に、彼も出てきたことを思い出す。

『これは、貸しにしておく。いつか……返しに来い』

既にその命尽きたはずの男が、貸せるはずのない、貸し。
どんな内容であれ貸し借りに何よりうるさかった男が最後に残したその言葉とこの状況を、真司はどうしてもただの偶然の一致とは思えなかった。

「なんで……これを俺に?」
「実は俺、『龍騎の世界』のライダーだけ、ちょっと情報が疎くって。きっとアンタの方が、上手く扱えると思ったからさ」

どこかばつの悪そうに頭を掻きながら、ガタックは言う。
実のところ、ユウスケにとって『龍騎の世界』は士から聞いた概要以上の何も知らない、ほぼ未知の世界であった。
というのも、士が事件の解決のため使用したタイムベントのカードによって、ユウスケにとっての『龍騎の世界』での冒険は、到着したのとほぼ同時に終わりを迎えてしまったのである。

先ほどは数多くのライダーを知っているが故の機転で何とかキングから逃げる程度の活用は出来た物の、能力を利用した戦闘というものは些かまだ難しく。
であればその世界から呼ばれてきた男に有効活用してもらう方がいいのではないかと、ユウスケは考えたのである。

「……そっか、ありがとな」

そんな内情は露知らず、友の遺品とでも言うべき品が自身の手に来たことに、真司は素直に礼を言う。
そんな彼に頷きを返したガタックは、しかし瞬間背後から聞こえてきた耳障りな戦闘音に振り返った。
視線の先には、未だ戦いを続けるワームとオルフェノクの姿。

特にリュウタロスを殺したというワームのことは、ガタックとて許しておくわけにはいかない。
皆の笑顔をこれ以上消させないためにも、自分がここで彼らと戦わなくては。
もう一度顔だけを振り返り真司と麗奈に頷きだけを残した後、ガタックは揺るぎない意思で以て戦場へと駆け抜けていった。

力強い雄叫びと共に強敵へと立ち向かっていくガタックの背中を見やりながら、麗奈もまたそれに続こうとその足を進める。
だがそれ以上の彼女の進行を止めたのは、他でもない真司が伸ばした右腕であった。


848 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:11:08 j4oSyUAM0

「どけ、城戸真司。これ以上お前と話している時間はない」
「分かってる。だから、これを」

一刻の猶予もない状況での終わりないやり取りの予感に僅かばかり苛立ちを見せた麗奈に対し、真司は揺らぐことなく彼女にデッキを差し出した。
たった今ユウスケから渡されたそれではなく……自身の持つ、龍騎のデッキを。
一方で、デッキを確かに真司の手から受け取りつつも、麗奈は未だ疑問の表情を拭えぬままだった。

「なぜ、これを私に……?」
「俺、正直今の間宮さんに本当はどうするべきなのか、分からない。
間宮さんの願いを叶えるのにあいつを倒す必要があるってのも分かるけど、それで死んだりするのは、絶対に違うと思う。
でも、間宮さんの思いを無視してここから逃げるっていうのも違うと思うから……だから――!」

麗奈の疑問に対し言葉に詰まった真司は、代わりとばかりに一枚のカードを懐から取り出した。
先ほど自身の命を救った美穂のデッキに収められていた、炎の中に金色の片翼が描かれたカード。
だが、力強いその絵柄以上にそこに刻まれた一つの単語が、麗奈にとっては何よりの真司からのメッセージのように感じられた。

――SURVIVE(生き残れ)

どれだけ長々しい言葉よりも痛烈に訴えかけてくるその一言を、しかし麗奈は確かに胸に刻み込む。
生半可な覚悟ではない、自身の願いの為、必ずや戦い抜くという思いを抱いて真司の手からそのカードを受け取れば、彼は今一度強く頷いた。

「――だから俺も、一緒に戦う。何が正しいのか……ちゃんと見つけるために」

言いながら真司は、ユウスケの手より受け取った新しい力を……ナイトのデッキを構える。
同時龍騎のデッキを構えた麗奈の表情にもまた、最早迷いは存在していない。
彼らの戦う意思に呼応するように、二人に装着されるは、Vバックル。

(蓮……お前も、きっと悩んでたんだよな。戦いながら、これが本当に正しいのかって)

今は亡き友のように、右手を握りしめ左半身に振りかぶりながら、真司は思う。
きっとあの秋山蓮という男は、真司が思う以上に繊細で、ずっと自身の願いの為誰かを犠牲にすることを悩み続けてきたはずだ。
そうでなければ彼はずっと前に後戻りの出来ない一線を越えていたはずだし、戦いを止めようとする自分と共に戦う事も、なかっただろうから。

(なら俺も、戦いながら見つけてみるよ。自分にとって何が正しいのか、願いを叶えるために戦う……ライダーの一人として)

だから、そんな心の奥底で葛藤し続けていた男が死んだ後ようやく吐いた『貸し』という言葉を、真司は信じてみることにした。
戦いを止め、世界を救おうとする真司の願い。
それを叶えるために、彼がこんな形とは言え、その力を貸してくれるのなら。

真司は、戦い続ける事ができる。
自身の願いの為に他の誰かを犠牲にしていくなんて、そんなことは真司には出来ないけれど、それでも。
ライダーの一人として、自分の叶えたい願いの為に戦う事くらいは、出来ると思うから。

「変身!」

二人の声が、重なる。
同時に叩き込まれたカードデッキが、二人の身体を一瞬で騎士の鎧に包み込んだ。
鏡に映っているのは龍騎とナイトが並び立つ姿。
真司からすれば幾度となく見た光景であるが、しかし此度異なるのは、自身が纏うのが龍騎ではなくナイトの鎧であること。

どことなく違和感を覚えもするが、しかしそれ以上に抱くのは心強さの方が上だった。
何故ならいつだって、この二人で戦えば負けないと、そう思えたから。
自分の纏う鎧の差など些細な問題にすら思えるほどに焼き付いた光景を今一度その瞳に映しながら、ナイトはそのデッキからカードを一枚引き抜く。
青い疾風の中に金色の片翼が描かれたそれを胸の前に掲げれば、瞬間吹きすさぶは周囲を取り巻く突風だ。


849 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:11:24 j4oSyUAM0

ガタックが、カッシスが、そしてアークでさえ思わず注意を引きつけられる中、龍騎もまた同じように一枚のカードを胸の前に翳す。
先ほど真司より受け取ったそれは、麗奈の『生』への願いを込めた烈火となり、いつしか龍騎だけでなくカッシス達でさえ巻き込むように燃え上がる。
風は炎をより高く、熱く燃え上がらせ、炎は風をより強く、速く吹けと焚き付ける。

互いに互いを高め合ったそれらはいつしか、自身の主をも飲み込んで――。

――SURVIVE

二重に放たれた電子音声と共に、二人の身体は自らの炎と風から解き放たれる。
二人の剣の一振りで、風は止み、炎は鎮火する。
瞬間そこに立っていたのは、最早それまでの彼らに非ず。

龍騎の身体は、その身を包む炎にさえ負けないほど赤く染め上げられ。
ナイトの身体は、真司の純粋な願いを読み取ったように青く……しかし誰よりも強く。
仮面ライダー龍騎サバイブと、仮面ライダーナイトサバイブ。

それは、願いの為に戦い続ける覚悟を決めた戦士の為の新たな力。
ただ漫然と生き長らえるのではなく、自分らしく『生きる』為に戦う彼らの為の力。
そして、自分自身を勝ち得る為に茨の道を進まんとする、彼らの為の力だった。

「――しゃあ!」

ナイトの掛け声と共に、それぞれの得物を構えた二人は、今まさしくそれぞれの果てなき希望の為に、戦いの中に飛び込んでいった。


【二日目 朝】
【G-3 橋】


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】意識統合、疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダー龍騎サバイブに変身中、仮面ライダードレイクに1時間55分変身不能
【装備】ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、龍騎のデッキ+サバイブ(烈火)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、
【思考・状況】
基本行動方針:自分の中に流れる心の音楽に耳を傾ける。
1:乃木を倒し、リュウタの仇を取る。
2:西病院に戻り仲間と合流する。
2:皆は、私が守る。
3:仲間といられる場所こそが、私の居場所、か。
【備考】
※人間としての人格とワームとしての人格が統合されました。表面的な性格はワーム時が濃厚ですが、内面には人間時の麗奈の一面もちゃんと存在しています。
※意識の統合によって、ワームとしての記憶と人間としての記憶、その両方をすべて保有しています。
※現状、人間時の私服+ワーム時のストレートヘアです。



【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一、士への信頼、ダメージ(小)、疲労(中)、美穂と蓮への感謝、仮面ライダーナイトサバイブに変身中、仮面ライダー龍騎に1時間55分変身不能
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:目の前の怪人(アークオルフェノク、カッシスワーム)と戦う。
2:西病院に戻り仲間と合流する。
3:間宮さんはちゃんとワームの自分と和解出来たんだな……。
4:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
5:黒い龍騎、それってもしかして……。
6:士の奴、何で俺の心配してたんだ……?
7:自分の願いは、戦いながら探してみる。
8:蓮、霧島、ありがとな。
【備考】
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。


850 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:11:42 j4oSyUAM0



【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(中)、アマダムに亀裂(進行)、ダグバ、キング@仮面ライダー剣への極めて強い怒りと憎しみ、仲間の死への深い悲しみ、究極の闇と化した自分自身への極めて強い絶望、仮面ライダーガタックに変身中
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、
【道具】アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ディスクアニマル(リョクオオザル)@仮面ライダー響鬼、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド、ユウスケの不明支給品(確認済み)×1、京介の不明支給品×0〜1、ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品×0〜1、照井の不明支給品×0〜1
【思考・状況】
0:目の前の怪人たちに対処する。
1:一条さん、どうかご無事で。
2:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない……
3:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
4:渡……キバット……。
5:もし本当に士が五代さんを殺していたら、俺は……。
【備考】
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。
自壊を始めるのか否か、クウガとしての変身機能に影響があるかなどは後続の書き手さんにお任せします。
※ガタックゼクターに認められています。
※地の石の損壊により、渡の感情がユウスケに流れ込みました。
キバットに語った彼と別れてからの出来事はほぼ全て感情を含め追体験しています。
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※ギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。



【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【装備】なし
【道具】ブラックファング@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:自身の力を示し、間宮麗奈を殺す。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
【備考】
※もう一人の自分を吸収したため、カッシスワーム・ディアボリウスになりました。
※これにより戦闘能力が向上しただけでなくフリーズ、必殺技の吸収能力を取り戻し、両手を今までの形態のどれでも好きなものに自由に変化させられる能力を得ました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。



【アークオルフェノク@仮面ライダー555】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(中)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
1:参加者は見つけ次第殺していく。
2:同族に出会った時は……。


851 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:11:59 j4oSyUAM0





「はぁ……はぁ……はぁ……!」

時をほぼ同じくして、三原修二は先ほど自分たちがいた橋のすぐ近くにまで、既に戻ってきていた。
理由は、自分にも分からない。
ただ自分だけ何も出来ないまま蚊帳の外で、ただ自分だけ何も関わることもなく誰かの命が終わっていくのが、無性に嫌だった。

「って言っても……何が出来るんだよ……」

ずっと関わりたくないと思っていたはずなのに相反する行動を取っている自分に驚きを感じつつも、三原は誰にともなく愚痴を吐いていた。
何もせずに終わるのが嫌だと言っても、今更何か自分に出来ることがあるのだろうか。
向かってくる最中も幾度となく考えながらも未だ答えの出ないそれに対し、視線の先にある想像を絶した戦闘がその疑問を決定的なものにする。

戦っている仮面ライダーらしき戦士は三人。
中には龍騎のようなライダーもいるが、しかしその実力は自分の知るものより遙かに上だ。
デルタさえない今の自分が、助けになれる物だろうかと、そう二の足を踏みかけて――。

――その背中に、強い衝撃を感じた。
瞬間力なく項垂れた三原のズボンの裾から、大量の砂が吐き出されてくる。
オルフェノクによる灰化現象……ではない。

「――あー、危なかったー、死んじゃうかと思った」

唐突に前に向き直った三原が、彼の口で彼以外の言葉を紡ぐ。
彼の髪には紫のメッシュが走り、帽子や服装はいつの間にかストリート系のそれに変化している。
勿論これは、三原の特技などではない、そうこれは――。

(リュウタ!?お前、生きてたのか!?)
「うんまぁ、生きてたっていうのか、ちょっとわかんないけど。
……ねぇ、そんなことより修二、この身体、ちょっと借りるけどいいよね?」
(え、借りるって……)
「答えは聞いてない!」

無理矢理に問答を断ち切った三原……改めR三原の瞳は、やはりというべきか戦場を移していて。
これから先起こるだろう波乱を予想して、三原は心中で絶望の声をあげた。


852 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:12:13 j4oSyUAM0


【二日目 朝】
【G-3 橋】

【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心、ダメージ(小)、疲労(中)、仮面ライダーデルタに1時間55分変身不能、リュウタロスに憑依されている
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:リュウタ、何やる気なんだよ……。
1:できることをやる。草加の分まで生きたいが……。
2:居場所とか仲間とか、何なんだよ……。
3:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強い恐怖。逃げ出したい。
4:リュウタ……お前、やっぱり強いな……。
5:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
6:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。
7:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ。
【備考】
※後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。今抱いている恐怖心はテラーなど関係なく、ただの「普通の恐怖心」です。
※デルタギアを取り上げられたことで一層死の恐怖を感じたため、再度ヘタレています。



【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、頸椎から多量の出血(砂?)、決意、仮面ライダー電王(ガンフォーム)に1時間55分変身不能、三原に憑依中
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
0:この身体、ちょっと借りるけどいいよね?答えは聞かないけど!
1:今の麗奈は人間なの?ワームなの?どっちでもないの?
2:良太郎の分まで生き残って、お姉ちゃんを守る。
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスや良太郎の分まで頑張る。
5:キング(剣)って奴は僕が倒すけどいいよね?答えは聞いてない。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。
※麗奈が乃木との会話の中でついた嘘について理解出来ていません。そのため、今の麗奈がどういった存在なのか一層混乱していますが、それでも一応守りたいとは思っています。
※上記の装備や道具などは憑依前にいた場所にデイパックごと置き去りになっていますが、表記の都合上このように記します。


853 : ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 01:13:56 j4oSyUAM0
以上で投下終了です。
今気付いたんですが、乃木の状態表から「カッシスワームディアボリウスに変身中」の一文が抜けてますね。
収録時には修正しておこうと思います。

その他で何か指摘やご感想などありましたらよろしくお願いします。


854 : 名無しさん :2019/06/17(月) 01:55:47 E9PA1bEE0
投下乙です。

乃木といい、アークといい敵が強過ぎてどうすればいいんだこれ……と泣きたくなるような絶望感の中、奇跡的に脱落者0とは。本当に良かったよぉ……

サブタイからして真司に嫌な予感はしていたのですが、そんな予想に反してダブルサバイブとはまた熱い展開。しかしパワーアップした乃木と尺不足から解放されたアークはまだまだ油断ならない相手なので、どうなるか予想もつきません。

あと、ファムのブランクデッキが最後に真司の命を救う展開が美穂が少しでも報われたようでとても良かったです。次回も楽しみにしてます


855 : 名無しさん :2019/06/17(月) 05:22:47 QyBOMIIE0
投下乙です!
圧倒的な強敵たちを前に、ライダー達が絶体絶命のピンチに陥るかと思いきや……ユウスケが駆けつけて、そして龍騎とナイトのサバイブが実現しましたか!
リュウタロスもどうなるかと思いきや、まさかその手があったとは! ただ、乃木やアークもかなりの強敵なので、まだまだ油断はできませんね……


856 : 夢に踊れ ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 22:39:36 j4oSyUAM0

(なんで、ずっとあいつと戦ってるときみたいな嫌な感じが消えないんだ……)

この体にじっとりと纏わり付く、奴の放つプレッシャー。
二度戦った時にこれ以上なく感じたその感覚が、なぜか消えないような錯覚を、ユウスケは覚えていた。
気のせいだと振り払おうとする自分の一方で、もしかすればダグバは未だ生きているのではと囁く自分を、ユウスケは自覚する。

もし本当に究極の闇を乗りこなした自分にしかダグバは倒せず、大ショッカーでさえその身を滅ぼすことが出来ないのだとしたら――。

「――ん?」

最悪の可能性に思考を巡らせるユウスケの視線の先に、全力で何かから逃げるように走ってくる青年の姿が映る。
少なくとも自分が今まで出会ったことのある参加者ではないようだが、取りあえず話を聞かなくては。

(そうだ、ダグバがどうであれ、俺がやるべきことは変わらない。死んだ五代さんの分まで、戦士クウガとして俺が皆の笑顔を守るために戦わなくっちゃ)

忘れかけていた初心を、ふとしたことで思い出す。
ダグバを倒すことは、決して自分の全てではない。
不確定なそれに思考を巡らせるよりもまず、目の前の誰かの笑顔を守らなくては。

駆けだしたユウスケの表情からは、少しだけ眉間の皺が減っていた。





「――君、大丈夫?」

やがて、大した時間も要することなく青年の元へ駆けつけたユウスケは、彼に気遣うような声をかけた。
ユウスケが追い付いた青年は今、情けなくも地面に大きく俯せになっている。
一先ほど、息切れし屈み込んで荒く呼吸を繰り返していた青年は、ユウスケの登場で一層のパニックを起こしたらしく、G-1エリアへと駆け出そうとしたのだ。

そちらが禁止エリアであることさえ忘れた突発的な行動にユウスケもまた咄嗟に彼の足を引っかけ、その歩みを止め、今に至るということである。
最終的な身の安全を考慮した結果とはいえ、少々乱暴な手段を使ってしまったことに申し訳なさを感じ先ほどのような言葉をかけたのだが、青年は未だ呼吸に精一杯で返事をしてくれる様子はなかった。
であればやはり警戒を解くためにも自分から名乗るべきかと、ユウスケは青年の前にしゃがみ込む。

「驚かせてごめん、俺は小野寺ユウスケって言うんだ。よければ君の名前も――」
「小野寺ユウスケ?……って、あの門矢って人の仲間の……?」
「士を知ってるのか!?」

思いがけず耳にした仲間の名前に、ユウスケは青年の名を聞くことさえ忘れて彼の肩を揺する。
それを受け、未だ酸欠状態であった青年は、これ以上脳が揺れるのを避けたいという思考だけで、自身の知っている情報を反射的に絞り出していた。

「あぁ、なんかキングって奴を追うとか言って、病院に向かった……。
もう放送からだいぶ前の話だしバイクにも乗ってたから、多分もう着いてると思うけど……」
「キング……?あいつ、士にも……」

息も絶え絶えの青年から放たれた予想していなかった名前に、ユウスケはその瞳を北方へ向ける。
一条が向かい、士が向かったという病院。
やはり自分が向かうべきはそこ以外にないだろうと、ユウスケがそう考えた、その瞬間だった。

先ほどとは一転して、自分が言うべきだったことを思い出した様子の青年が、ユウスケの肩を強く揺さぶったのは。

「それより聞いてくれ!あっちでリュウタが……俺の仲間が!」
「リュウタロス?リュウタロスがどうしたんだ?」

再び耳にした聞き覚えのある名前に、ユウスケはまた青年に向き直っていた。


857 : ◆JOKER/0r3g :2019/06/17(月) 22:40:41 j4oSyUAM0
すみません、何かリロードされて変なことになってしまいました。
特に修正点があるわけではないので、スルーしてください。


858 : ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:41:34 EEMCRkWQ0
これより投下を開始いたします。


859 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:43:10 EEMCRkWQ0

【E-4 病院跡地 06:05 a.m.】

辺りに生命の気配が一切感じられないような爆心地の中心で、ン・ダグバ・ゼバは一人、仰向けに空を眺めていた。
彼がその瞳に映すのは、視線の先にある雲の流れではなくこれから自分はどうするべきかという漠然とした今後の展望だった。
無論、今までと変わらず会場を気ままに歩き回り参加者を殺して回るという選択肢も、なくはない。

だがそれを彼が安易に選択しないのは、グロンギの王たる自分にとって、今の状況を無為にするのは少々惜しい気もしたからだ。
ダグバは先の戦いによって首輪が爆破されたために、既に大ショッカーによる放送でその名が呼ばれている。
殺し合いにおいて死亡者として扱われること、それは言ってしまえば本来グロンギ族が行うゲゲルにおいて、失敗者がゲドルードを爆破されたようなもの。

グロンギのゲゲルであればンの階級はルールを無視出来る特権を持つが、今の彼はただの一参加者に過ぎない。
つまり今のダグバはこの殺し合いにおいては擁護しようのない敗北者であり、ゲゲルを進める権利を失ったただの弱者なのだ。
数多のグロンギがその命で償ってきたゲゲルの失敗を、あろうことか王たる実力を持つ自分が犯してしまったのである。

何らかの要因によってこの身体に流れる血の色の変化と共に死なぬ身体を手に入れたからと言って、その事実を無視出来るはずもなかった。

(君もこんな気持ちだったのかな?ゴオマ)

そんな中ふとダグバは、自分の力を拝借しなければろくな力もなくこき使われるだけだったグロンギ族の面汚し、ズ・ゴオマ・グのことを思い出す。
ゲゲルのルールを無視したことでその後一切の温情を与えられず、最後は過ぎた力でその身を滅ぼした愚か者。
ルールを重んじるグロンギ族にとって当然であったその扱いはしかし、王たるこの自分にも変わらず与えられるのだろうか。

――ぞくり。

自身がゴオマのように足蹴にされる想像が頭に過ぎって、不意にダグバは背筋に走る悪寒を感じた。
自分よりもずっと弱く、ゲリザギバスゲゲルにさえ辿り着けない連中に蔑ろにされるのは、どれだけ惨めだろうか。
ラ族の管理すら受けずに自由に誰かを殺していいはずの自分が、誰も殺してはいけないという枷をはめられるのは、どれだけ屈辱的だろうか。

自身を恐れ怯えていたはずの存在が、一転して自分をただの死に損ないとして扱うというあり得ない未来が、しかしいよいよ現実味を帯びてくる。
だが、王から一転して一族の面汚しに落ちる未来の幻視に対しダグバが浮かべたのは、全てを失った絶望の表情ではなかった。

(怖い……とっても怖いよ……!)

彼は、笑っていた。
これまでの中で最も上質で、現実味のある恐怖の予感に対して、ダグバはただ愉悦を覚えていたのである。
クツクツと自分の喉から沸き立つそれは、恐らくは恐怖を知る前とは全く違う性質を帯びていることを自覚しながらも、彼はその笑みを止めることはしない。

(でも、もっと怖くなるには、どうすればいいのかな?)

だが王の欲望は、尽きることを知らない。
今のままでは足りないと、より深く、より上質な恐怖を探求しようと思考を巡らせて、彼の思考はとある事象に辿り着く。

(世界が滅びる瞬間っていうのは、怖いものだったりするのかな)

この殺し合いが開かれた理由であるという、世界の崩壊。
参加者の全滅によって世界がまるごと崩れ落ちるその瞬間に居合わせるのは、きっと怖いに違いない。

「―――――ん?」


860 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:45:02 EEMCRkWQ0
そこまで考えてふと、彼は漠然とした違和感を覚えた。
大ショッカーが述べていた、世界の崩壊とそして許されるただ一つの世界の存続。
敗北など露ほども考えておらず、そもそも世界の存亡などどうでもいいダグバにとってはどちらにせよ興味のない部分であったために気にしていなかったが、それを翳す存在はいったい誰なのだろうか。

もしもダグバでさえ成したことのない世界の崩壊を――それも10つも同時に――行えるだけの超常の力を持つ存在が、この殺し合いを取り仕切っているのだとしたら。
自分に知覚さえ許さず、あんな首輪まで嵌めただの駒として扱うような存在が、大ショッカーの頂点に座しているのであれば。
その存在の予感こそが、ダグバの恐怖への探求をより深めさせる。

(強いのかな……会ってみたいな)

未だ見ぬ大ショッカー首領への期待が、彼の中で渦巻いていく。
今の自分でさえ敵わないかも知れない規格外の存在との可能性に、ダグバは心躍る思いを抱く。
好奇心に沸き疲労など感じさせない挙動で立ち上がったダグバはそのまま、この会場を抜け出し大ショッカー首領のもとへ移動しようと強く念じて――しかし何も起こらなかった。

「―――――あれ?」

茫然と立ち尽くしたまま、彼は間抜けな声をあげた。
自身にかけられた制限はもう、首輪の爆発と共に消滅したはずなのに。
どこにでも瞬時に移動できるという自身の能力はしかし、なぜか発動しなかった。

「―――――もしかしてこれも、君の力なのかな?」

しかしそんな自身の不調に対しても、なおダグバは笑みを溢したまま、届くかもわからない声と共に天を仰ぐ。
先ほどよりはマシなものの、未だこの体を縛るような何かが存在している。
そんな実感が、今確かに彼の中に存在していた。

「―――――なるほどね、まだ君に会うには早いって……そういうこと?」

誰もいない虚空に対し、ダグバはそこに何者かの存在を感じながら問う。
つまりは元の世界における自身のように、彼と戦うにはこの会場で優勝しなければならないのだとすれば。
この会場で全ての仮面ライダーを倒すというゲリザギバスゲゲルを勝ち抜かない限り、首領とのザギバスゲゲルに挑めないのだとすれば。

挑まれるのみだった自分が、挑む側になるのだとすれば。
それはダグバにとって、今までにないほどに意欲的に戦う理由に繋がる。
これまでにないほどの楽しみを前にして、彼は再び天を見上げた。

「―――――じゃあ、僕がこのゲゲルを終わらせれば、君も会ってくれるよね?」

瞬間浮かべるは、これ以上ない笑顔。
世界の存亡などという下らないルールのゲゲルは、早いところ終わらせてしまおう。
どこの世界が残ろうが、どこの世界も残らなかろうが、ダグバには関係ない。

その先にある大ショッカー首領とのザギバスゲゲルにだけ思いを馳せて、彼は西方へとその目を向けた。
彼の瞳に映るのは、最早大ショッカー首領のみ。
初めて知った単身で自分を大きく超える存在との戦いに昂る心を胸に、彼は仮面ライダーなどさっさと“整理”してしまおうと、ほぼ反射的に全てを焼き尽くそうとする。

――ドクン。

だが彼がその手を翳すより早く自身の胸の中、不死者の証明である緑の血を送り出す心臓が、一層高く鼓動した
強敵の存在に昂るそれとはまた違う、どこか焦燥感を伴うような苛立たしい鼓動。
何事かとダグバが理性で考えるより早く、これを生みだす存在をすぐにでも殺せ、戦えと何者かが脳内で語り掛けてくる。

それが誰かはダグバには分からない。
ただその声に従い戦えばいい、それだけを本能が訴えかけてくる。
そして同時、戦わなければいけない相手もその理由も知らないというのに、その声に抗うことは最早彼にはできなくなっていた。

別段、抗う理由もない。どうせ全員殺すのだから、まずはこの苛立たしい感情を消すのが優先だろう。
そんな僅かな理性の囁きと、それさえ押し潰すほどに強い本能に従ってその衝動が指し示す先を静かに見据えたダグバの姿は、次の瞬間にはそこから消え去っていた。


861 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:46:58 EEMCRkWQ0





【F-5 Gトレーラー 05:54 a.m.】

「それじゃあ君たちは、本当に乃木怜治に襲われたのか……?」

「あぁ。二人になって蘇った奴に、な……」

「まさか彼がそんなことをするなんて……信じられない」

橘朔也を犠牲にしながらもダグバに勝利を収めたフィリップ達は、放送を前に先ほど合流した葦原涼との情報交換を行っていた。
そうした中やはりフィリップにとって最も衝撃的であったのは、仲間と信じた乃木の裏切りについて。
いや、裏切りというのも些か語弊があるだろうか。

というのも涼の話からすれば、乃木は「大ショッカーを倒す」という意見を覆らせた様子はない。
寧ろ志村純一のように、自身の信じた彼の言葉が全て嘘だったなら、まだ納得が出来るというのに。
自身の前で吐いた言葉にも涼に死を宣告した瞬間にも、彼には一貫して大ショッカー打倒の意思が存在している。

だからこそ余計に自分は乃木のほんの一面しか見れていなかったと言われているようで、それがフィリップには心苦しかった。
だがそんな彼の傷心には目もくれず、村上はその鼻を嘲笑で鳴らす。

「大方、首輪を解除するまでの間、その可能性があるあなたに対して媚を売っていた、ということなのでしょうね。化けの皮を一枚剥いだ途端表われる本性がそれとは、醜い事この上ない」

所詮は俗物だったということですよ、と容易く結論づけようとする村上。
そんな彼の冷静な態度が気に食わないとばかりに、涼は勢いよく立ち上がり村上の肩を掴んでいた。

「言いすぎだぞ、村上。あいつは確かに俺を殺そうとした。……だが、亜樹子に殺されそうになった俺を助けてもくれた、命の恩人だ」

「……正気ですか?」

乃木を悪と断じるのは許せないとばかりに、彼を庇うような言葉を吐いた涼。
対する村上の口から洩れたのは、呆れを多分に含んだ疑問の声だった。

「乃木という男は、あなたを守ろうとしたわけではない。口ぶりからするに彼は自身が復活することを分かっていて、死ぬのに都合のいい状況を見つけた、というだけのことでしょう」

「――そうだとしても!奴が俺を救ったのは事実だ。理由なんて、どうでもいい」

常に冷静さを保ち相手を客観的に読み取れる事実から説き伏せようとする村上に対し、涼はしかし取り合う様子も見せない。
これ以上やり取りをしていてもきっと彼は意見を変えないだろうと溜息をついた村上は、彼を相手にしても無駄かと椅子に深く腰掛けながら、その視線を涼の後ろにいる男に向ける。

「では後ろの……相川さんでしたか、彼を信じているのもそれと同じ理由、ということですか?」

大して上等な椅子でもないのに我が物顔で踏ん反り返るその姿勢は、まさしく大企業を背負う社長たる威圧を誇っていた。
だが、そんな緊張感を誇る村上の警戒を含んだ瞳を、今名を挙げられた男、相川始は視線を逸らすことなく鋭く睨み返す。
この程度の修羅場など何度も潜り抜けてきたことが伝わるその双眸は、村上のそれと空中で火花を散らす。

「待て、こいつは乃木とは違う。確かに殺し合いに乗ってこそいたが……それは自分の世界を守ろうとしただけで、悪い奴じゃない」


862 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:49:04 EEMCRkWQ0
数舜の間、言葉もなく視線を交わしていた二人の沈黙を、涼が打ち破る。
一方で睨み合いをやめ再び視線を涼へと移した村上の表情は、未だ険しいままだった。

「分からない人ですね。大ショッカーのような得体のしれない集団が吐く言葉を簡単に信じ、誰かを手にかけようとするその精神こそが信用ならないのでは、と言っているのですよ」

「それは――」

村上の理路整然とした指摘に、涼は思わず口を噤んだ。
それでも始を信じた自分に嘘をつかないよう、なんとか二の句を継ごうとする。

「――葦原涼、正直僕も村上峡児と同じ意見だ」

だがそれより早くその場に響いたのは、意外にもフィリップの放った冷たい声であった。
彼は先ほど乃木の裏切りに悲しんでいたものとは真逆の、倒すべき敵に向けられる視線を始に向けている。

「彼はカテゴリーキングと共に病院を襲った張本人だ。五代雄介が操られているのを知ったうえで地の石を破壊することもせず、多くの犠牲者を出した。……それを、僕はなかったことにはできない」

秋山蓮を、ヒビキを、海東大樹を、そして五代雄介のことを、フィリップは思い出す。
大ショッカーを倒すため、本来互いに戦わなければならない運命さえ覆して手を取り合った異世界の仮面ライダーたち。
そんな彼らの望みと命を多く断ち切ったあの戦いに関与していたこの始という男を、フィリップはそう易々と許すことが出来なかった。

「――俺はそれでも構わない」

だがそんな高ぶりゆく場の熱気を、始の低く落ち着いた声が一瞬で鎮めた。
フィリップの怒りを収めようとしていた涼でさえ言葉を失うその中で、彼は動じず三者の中心に歩を進める。

「お前らが俺をどう思おうと関係ない。俺はただ自分の世界を守るのに最適な手段を取るだけだ。勿論、大ショッカーの言うことが本当だったとわかれば、俺は容赦なく貴様らを殺す」

「相川!」

始の確固たる意志表明に対して、涼は咎めるような怒声を飛ばす。
だがそれで止まるほど、始も生半可な覚悟ではない。

「お前には最初から言っていたはずだぞ、葦原。俺はただお前が世界の滅びる運命を変えられるかどうか見極めるだけだと。別に俺はお前たちの仲間になったつもりも、協力すると言ったつもりもない」

「私を前にそこまで言い切るとは、随分実力に自信がおありになるようだ」

始の扇動にすら取られかねない発言を見逃すことが出来ず応じたのは、やはり村上だった。
彼の眉間には皺が寄っており、口調とは裏腹にかなりの激情を秘めているのが伺える。

「言っておくが、もし今ここで戦うことになったとしても、俺は負けるつもりはない」

「……ほう」

言外に「下手なことをすれば殺す」と含まれた村上の威圧さえも、始は予想通りだと言うようにさらりと流す。
あくまで涼しげな態度を崩さない始に対し、村上もまた殺気を緩めることなく鋭い視線を向け続ける。
両者互いに、一瞬でも気を抜けば戦いが始まってもおかしくはない……そんな緊張感の中、突如として一つの人影が二人の間に飛び出していた。

「――待て!今は俺達が争っている場合じゃないだろう!」

両手を大きく広げ、涼は無理矢理に臨戦態勢にあった二人を引き剥がす。
それぞれの顔を交互に見やりながら「こんなことは時間の無駄だ」と伝えてくる彼を見て、村上は再び嘲りと呆れを込めた小さな笑いを漏らした。

「……葦原さん、あなたは本当に信じているのですか?この男が裏切ることはないと」

「あぁ、こいつは俺が世界の滅びる運命を変えられるのか見定めると言った。なら、俺はそれを示すだけだ。そうすればこいつはもう、誰かを殺す必要もなくなる」


863 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:50:51 EEMCRkWQ0

彼の言葉に多分に含まれている自身への侮蔑、嘲笑の感情は、涼にもはっきりと感じ取れている。
だがそれをさして気にする様子も見せず涼は始の盾になるように村上の前に立ちはだかった。
チラと始を垣間見た後再び村上を捉えた彼の瞳は、やはり揺らぐことを知らない。

「それに、何度裏切られ、傷ついたとしても、その度に立ちあがれば運命なんて簡単に変えられる――それが仮面ライダーだと、俺はあいつらに教えてもらった。だから今度は俺が、運命を変える番だ」

かつて自分に大切なことを教えてくれた仮面ライダーたちを、彼は胸に思い描く。
運命を変える。陳腐で抽象的な言葉だが、彼らと共にならそんな大言壮語も果たせるような気がした。

「では、あなたの願いが届くことなく、彼が誰かを手にかけてしまったら?その時はどう責任を取るおつもりです?」

だが対する村上は、悲しいことに涼の夢を信じはしない。
どこまでも現実主義者として、在り得る可能性を検討しようとする。

「俺がそうはさせない。だが、もしもそうなったならその時は……俺がこいつを倒す」

しかしそんな辛い現実に目を向けることにも、涼は躊躇しない。
仲間を信じたい、運命を覆したい……それらの希望が裏切られることなど、既に何度も経験済みだ。
だから、それがあり得ないなんて夢見心地の反論はしない。

だがそんな辛い可能性を確かに有り得る未来の一つとして理解しつつも、未だ涼の瞳は曇ることを知らない。
一方でこの場に来てからの短い時間でもう幾度となく見た“彼ら”に共通するその目を前に、村上の身体からは既に戦いへの気迫は失せてしまっていた。

「……その言葉は、以前私にも言ったはずですが。貴方は随分と厄介ごとを抱え込むのがお好きなようだ」

「あぁ、おかげで裏切られるのにも、もう慣れたさ」

寂しげな涼の言葉には、しかしどこか吹っ切れたような爽やかさが介在していた。
霧島、金居、亜樹子、志村、乃木……考えてみれば自分でも呆れてしまうほどに自分は騙され続けている。
殺されそうにもなった、心が折れそうにもなった、こんな自分なんてどうしようもないのだと、全てを投げ出してしまいたくなった。

だがそんな自分を繋ぎ止めてくれたのは、あの曇ることを知らない太陽のように輝きを放つ瞳を持つ男達の言葉だった。

『――間違えたのならもう同じ間違いをしないように学べば良い』

『――一人じゃ上手く行かなかったってんなら、これからは俺達が支えるよ』

胸中に思い出されるは、自身が度重なる裏切りと自分自身の犯した過ちに心折れそうになった時、仲間たちがかけてくれた言葉。
仲間を殺されたヒビキも、自分を幾度となく叱咤してくれた士も。
仮面ライダーとして誰かを守るために戦うなんて自分には無理だったのだと諦め自棄になりかけた自分を、彼らはあっさりと破壊したのだ。

裏切りの痛みを知った分だけ誰かを裏切らないようにすればいい、傷ついた分だけ強くなればいい、そうして信じた道を行けと。
一人きりじゃどうにもならない逆境であっても、支え合える仲間がいれば結果は変わるはずだと。
どうにもならない現状と、誰も助けてくれないという絶望感に一人藻掻き苦しむだけだった自分を、仮面ライダーはいとも簡単に救って見せた。

人を護ってみるのも悪くはない。そんな譲歩を含んだ感情が人を護りたい、誰かの力になりたいとそう変化したあの瞬間を、涼は忘れはしない。
自分の抱いていた「どうせ自分なんか」という諦観を、まるで何てことのないように覆した彼らの行いこそが一つの運命をひっくり返して見せた証拠だというのなら。
自分もそれを、成し遂げてみたかった。彼らの意思を継ぐ者の一人として。

「……そうですか、ではお好きにどうぞ」


864 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:53:20 EEMCRkWQ0
まんじりともせず意見を変える様子もない涼を前に、村上は最早興味を失ったようにそっぽを向きトレーラー内に設置された椅子に座り込んだ。
一方の始もまた戦意を失ったようにトレーラーの床にぶっきらぼうに座り込み、戦いの意思がないことを示す。
その両者の瞳がそれぞれ互いを警戒するように光り続けていることは重々承知だが、ともかく一応は無事やり過ごすことが出来たと涼が胸をなで下ろした、その瞬間。

絢爛なパイプオルガンの音色と共に、大ショッカーが告げる三度目の定時放送が、開始された。





【F-4 Gトレーラー 06:02 a.m.】

一台の巨大なトレーラーが広い道路の中心を我が物顔で突き進んでいく。
昇り始めた陽の光をその横原に照り返しながら揺れる車体の中で、フィリップは一人机に向かっていた。
その机上には今までの首輪解析の情報が纏められているが、彼の思考は今首輪に向けられてはいない。

(東側の全域が禁止エリアなんて、この戦いも終わりが近いと思いたいけど……)

彼が今考えているのは、先ほどの定時放送で告げられた実質的な会場の半分以下への縮小について。
60人もいた参加者が4分の1にまで減った為に予想される停滞を防ぐ狙いがあるというのは、容易に想像出来る。
だがその一方で涼や始を襲った乃木怜治やキングについて容認するような姿勢を見せ、どころか更なる刺客を送り込むという文脈を含んだ先の放送に、フィリップは不安を隠しきれなかった。

(キングの乱入はともかく、乃木怜治の復活まで大ショッカーの目論見通りだったなら、やっぱり首輪の解除も……)

彼が懸念しているのは、自身が手がけてきた首輪の解除という目標が、果たして本当に大ショッカー打倒に意味のあることなのかということ。
自分が地球の本棚で調べた内容であるならともかく、首輪の解析機は所詮大ショッカーがこの会場に予め用意したもの。
首輪の解析、そして解除さえ大ショッカーがゲームの一環として仕組んだものであることは、元より明らかなことだ。

それでも首輪による生殺与奪権を大ショッカーに握らせたままではいられないと首輪の解析を進めてきたが、果たしてこれは自分が考えるほどに意味のあることだったのだろうか。

(――ッ、何を考えてるんだ、僕は!)

ぶんぶんと頭を振り、浮かんできたマイナス思考を頭から追い払う。
今まで『首輪を解除しうる人材』として受けていた恩恵を甘受しておいて、この期に及んでその責任から逃れようというのか。
そんなことが、自分に許されるはずないではないか。

(そうだ、どっちにしろ今は出来ることを一つ一つやっていくしかない。例え今は掌の上でも、絶対に――)

どこで聞いたのか、駄目で元々という言葉をフィリップは思い出す。
無駄かどうかはやってみて結果が出ない限り分からない。駄目そうに思えても、やってみれば意外な結果が伴うこともある。
そんな泥臭い考え方が、彼はさほど嫌いではなかった。

自分に出来ることは全てやろうと改めて首輪解除の決意を固めたフィリップは、そのまま視線をトレーラーの隅へと移す。
悟られぬよう視線だけで捉えたそこには、未だ微動だにせず相川始が座り込んでいた。

(相川始……)

再びその名を脳裏で繰り返す。
五代雄介を利用して病院を襲い、多くの仲間の死に関わった男。
それだけでなく橘朔也の情報によれば、彼……ジョーカーが最後に生き残るアンデッドになったとき、世界が滅ぶとすら言われているらしい。

真偽はどうであれ、生きているだけで世界の存亡に関わると忌み嫌われるその様はまさしく――。


865 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:54:44 EEMCRkWQ0

「――悪魔、か」

思わず脳裏に浮かんだ言葉を、噛み締めるようにフィリップは吐き出す。
悪魔。それはかつて、自分が組織に囚われていた時呼ばれた呼び名であった。
今は相棒となった左翔太郎が、メモリを作りその性能を知ろうとする自分に対し吐いた、心からの侮蔑の言葉。

今となればその感情も言葉も、仕方のない表現だと納得出来る。
数多の犠牲者を出し、人々の心と美しい街を腐らせていくガイアメモリを、ただ何の感情もなく生みだしていく。
まさしくそれは悪魔のような所業であるし、幾ら数えても終わりのない罪なのだと、フィリップはその身を以て痛感している。

だから仮に罪を犯したとしても、一生をかけてそれを贖おうとする意識さえあればその罪を赦すべきなのではないか、そう思ってもいる。
だが始にはそれが見られない。自分の罪を認め背負って生きていこうとするような意思を、少なくとも表だって見せようとはしていない。
だから少なくとも今の始を赦すべきではない。そう思う自分は、確かに存在するのだが。

(君は彼の何をそこまで信用できるんだ、葦原涼……)

だからこそ、涼があそこまで一心に始を信用できるということにどうにも理解を示せない。
無論、彼が度重なる裏切りの果てに自棄になっており無意識に死に場所を探している、という見方も出来なくはないだろう。
だがそんなやけっぱちの末だと切り捨てるのは些か乱暴ではないかとフィリップに感じさせるくらいには、彼の瞳は力強いものだった。

(全く、不思議なものだね。理論の欠片もない感情論に、ここまで心を揺さぶられる日が来るとは)

先ほどまでの涼の必死の剣幕を思い出し、フィリップは思わずその姿にとある半人前を重ねていた自分を自覚する。
信じる。そんな非論理的な感情で何度も死にかけた彼が、しかしそれ以上に何度も誰かを救ってきたのを、誰よりも近いところで自分は見ていた。
そんな彼と一蓮托生の運命を共にする内、いつの間にかそうした感情で道理をひっくり返そうとする存在を、フィリップもまた信じるようになっていた。

だから今回も、信じてみても悪くないかもしれないと思う。
仮面ライダーが覆す運命というものを、自分も信じてみたい……そんな小さな我儘も、人間の一部だと思うから。
キィと音を立てて椅子から立ちあがったフィリップは、そのまま始の目の前にまで歩を進める。

怪訝な瞳で見上げる始に対して自分の中に沸き上がる嫌悪感を確かに自覚しながらも、フィリップは彼から視線を逸らすことはしなかった。

「相川始。やっぱり僕は君のことを簡単に許すことは出来ない。それはきっと、君が自分の罪を数えるまで、変わらないと思う」

「……そうか」

短い始の返答は、そんな分かり切ったことを言いに来たのかとでも言いたげな気怠げなものだった。
だが一方のフィリップもまた、そんな分かり切った下らない問答をするために先ほどまでの思考を巡らせていたわけではなく。

「だけど……君を信じたいという葦原涼のことは、僕も信じてみたい。だから君に、これを渡そう」

「何を――」

言いながらフィリップが懐から取り出したのは、彼の戦力になり得るラウズカード群……ではなく。
たった一枚、幸せそうな三人の家族が映っている一枚の写真だった。
だがそれを目にした始の手は、ろくな言葉さえ紡ぐことなく、一瞬のうちにそれをフィリップの手から掠め取る。

「……貴様、なぜこれを」

思わず身体が動いたというような様子で写真を――自身が“相川始”になったきっかけともいえる、栗原晋から受け継いだ彼ら家族の写真を――その手の内に収めた始は、しかし油断なくフィリップに鋭い視線を向けていた。
そんな恩知らずともいえるような始の行為を、予想の範囲内だとフィリップはさして不快にも思わなかった。


866 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:56:16 EEMCRkWQ0

「それは元々、橘朔也が君に渡そうとしていたものだ。君がジョーカーであるのか相川始であるのか、それを見分けるために使えるかもしれないと」

「橘か……」

その名前を呟いて、始の心は僅かにざわついた。
幾度となく攻撃され、封印されかけたこともある、どちらかといえば敵だった男。
この思い出の写真までを自分が敵か協力できるか利用できる材料の一つだと考えていたと言われ不快には思うが、しかし死んでよかったとまでは言い切ることは始には出来なかった。

だがそこまで考えて、始は今の会話にふと小さな違和感を覚える。

「待て、橘が俺の“時期”を知りたがったのは分かるが、お前の理由はなんだ。なぜ今更これを俺に渡した」

始の鋭い追求にはやはり、微塵も隙が見られなかった。
橘が栗原親子の写真を使って自分を『ただのジョーカーアンデッド』であるのか『人間として生きようとする相川始』であるのか判別しようとしたのは、理解が及ぶ。
剣崎を通した関係であったとはいえ何度も共闘した間柄でもある自分を、ただ封印するだけでは剣崎に忍びないとでも思ったのだろう。

だが、フィリップが今この写真を渡したところで、その狙いは果たせていない。
元より『人間として生きようとする相川始』が自分の意思で殺し合いに乗ろうとしているという状況なのだ、写真を見せたところで判別できる内容など最早ないと言っても過言ではない。
それを交渉の材料に使うでもなくただ渡すだけであるというのは橘の狙いからはやはりずれていると、始は疑問に思わずにはいられなかった。

「……僕が君にそれを渡したのは、大した理由じゃない。家族の写真くらいは自分で持っていたいだろうと、そう思っただけさ」

だが、情に足下を掬われまいとする始の抱いた懐疑心は、フィリップにとっては見当違いも良いところであった。
呆気にとられた始を置いて先ほどまで座っていた机に座りなおした彼は、懐から一本の刷毛を取り出す。
琉兵衛、文音、冴子、若菜、そして来人。

自信の本名と共に姉と両親の名前が刻まれたその刷毛……イービルテイルのことを、フィリップは覚えていない。
消えた記憶の中に存在するのだろう家族の思い出を、一切思い出すことが出来ないのである。
勿論、そうした記憶処理を施したのが他ならぬ自身の家族であることも、フィリップは既に知っている。

だがしかし、そんな薄暗い過去を踏まえてもなお、家族というものに対する彼の感情は人並み外れて強いものだった。
だから殺し合いに乗って誰かを殺め憎むべき敵なのだとしても、せめて守りたかった家族の写真くらいは渡しておきたかった。
それが決して本当の家族ではなく、偽りのもとに成り立つものなのだとしても、その尊さは変わらないはずだと思うから。

「フィリップ……と言ったか。俺もお前に、伝えておきたいことがある」

物思いに耽りながら刷毛をしまい、再び首輪の解析図に向き合おうとしたフィリップのもとに届いたのは、意外なことに始の声だった。
礼さえ期待していなかった彼の意外な申し出に、フィリップは僅かばかり怪訝な表情を向ける。

「お前の相棒……左翔太郎は殺し合いには乗っていない」

「翔太郎に会ったのか!?」

「あぁ、運命を変えて見せると……そう言っていた」

それまでの静けさはどこへやら、唐突に飛び出した相棒の名に驚きを隠せないフィリップ。
こと今に至るまでそのスタンスから行動までの一切を知ることのできなかった唯一無二の存在は、やはり殺し合いに乗っていなかった。
当然そうに違いないという確信こそあったものの、亜樹子さえ殺し合いに乗った現状において、あの左翔太郎と言えど万が一が存在するのではと不安に感じる自分がいたのも確かなこと。

だがそんな中でも信じ続けたその思いがようやく裏付けられたという事実は、しかし彼が思っていた以上の心強さを与えていた。


867 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 13:59:22 EEMCRkWQ0

「フィリップ、お前は本当に信じているのか?奴が運命を変えられると」

「勿論さ。どんな逆境でも諦めず立ち上がる……それが左翔太郎という男だからね」

始の問いに迷う様子も見せず、フィリップは即答する。
彼もまた仮面ライダーが運命を覆す事を信じ疑っていない。
そんな純真な瞳を前にして、始はまた自分の胸の内が痛むのを感じた。

(とはいえ次に会ったときは、戦わなければならないがな……)

翔太郎へのフィリップの信頼を目の当たりにした始にはしかし、やはりというべきか決して彼に関して自分が知る全てを教える気はなかった。
彼が共に行動していた木場勇治を殺したのは自分だということ、それを隠し無力な人間として彼と行動を共にしていたこと、結果的にそうならなかっただけで彼を利用することも考えていたこと。
そして最後に……それらの真実を知ったらしい今の彼と自分は、次に会えば戦わなければならないということ。

(ジョーカーは同じ世界に二人もいらない、戦うしかない……か。皮肉なものだな、こんなところまでバトルファイトと同じか)

名前が同じだけのはずだった異世界の“ジョーカー”が、いつしか自分たちの世界でのそれと同じような役割になりつつあることを、始は自嘲気味に笑う。
バトルファイトにおけるジョーカーは、勝ち残れば世界を終わらせるまさしくワイルドカード。
そんな札はバトルファイトに二枚も必要ない。もしそれが存在するのなら、どちらか一枚だけが残るまで戦うしかない。

自分の行いが招いた結末とはいえ、世界が滅ぼうという瞬間にまでその名に縛られるというのは、皮肉としか言いようがなかった。

(もし仮にこの場でもどちらかしかジョーカーが生き残れないというのなら、俺は――)

死神として持ち主を死に至らしめる最悪のカードたるジョーカー、相川始。
そして運命を覆し持ち主を勝利に導く最強のワイルドカードたるジョーカー、左翔太郎。
ジョーカーというカードが持つ二面性をそれぞれが担っているというなら、その戦いの結末にこそ自分が望む運命の行く末があるのではないかと、始は思う。

無論ただで負ける気こそないが、もし負けるのだとすれば、その時は――。
だが瞬間、その思考を断ち切るように不意に始の全身に電撃が走るような錯覚が生じた。
全身の毛がぞわりと逆立つような、生温くもあり背筋が凍るようでもある不思議な感覚。

どうしようもない不快感と共に伝わるのは、これを生みだす相手を殺さなければならないという半ば使命感にも似た衝動だった。

「相川始!?どうしたんだ!」

瞳孔を開き勢いよく立ち上がった始に対し、フィリップの困惑を秘めた怒声が飛ぶ。
しかしそちらに意識を向けずただひたすらに殺意を漲らせ続ける始は、やがてトレーラーの進行方向とは真逆の方向を睨みつける。
“何か”が、その方向にいる。何かは分からないが、逃がしてはおけない“何か”がその方向にいることだけは、確信を持つことが出来た。

――CHANGE

直線距離など意味がないとさえ思えるほどに刺さるような殺意を受けながら、始はバックルにハートのAのカードを通す。
泡立つようなエネルギーと共にカリスへと変身した彼は、そのまま本能に身を任せトレーラーを飛び出そうとする
ただひたすらに、その視線の先に待っているだろうこの“敵”を倒さなければならないと走り出そうとして。

「―――――僕なら、ここにいるよ」

唐突に巨大な気配が背後に移動すると同時、耳元に響いた聞き覚えのない声にそれ以上の行動を止められた
突然出現した暴力的なまでの存在感に対し、カリスはカリスアローを出現させ振り向きざま切りかかる。
最強のアンデッドとさえ呼ばれたカリスの怪力で以て放たれたその一撃は、しかし生身のままの背後の存在の、ただその腕一本で受け止められていた。


868 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:01:27 EEMCRkWQ0

「―――――あはは、気が早いなぁ」

焦った様子もなく、力を込めた様子もなく。
ただ何事もなくそこに立っているだけの白服の青年は、笑っていた。
張り付いた能面の様な気味の悪い笑顔。何者なのだと疑問を抱くより早く、ようやく状況に理解の追いついたフィリップの困惑と驚愕を含んだ声が飛んでいた。

「ダグバ!?」

「ダグバ……こいつが?」

フィリップの叫んだその名前に、始は聞き覚えがあった。
剣崎のブレイバックルを使い、その力を人殺しにだけ利用したという邪悪。
橘がその身を犠牲に倒したとされていたその存在が、なぜ生きて今ここにいるのかという素朴な疑問は、それを押し流すように脳内に迸る闘争本能に打ち消された。

一瞬にして後方へ跳びダグバとの距離を引き剥がしたカリスは、そのままバックルをカリスアローへ装填し、流れるような動きでカードをラウズする。

――TORNADO

響く電子音声と共にカリスアローへと風が集っていく。
弦を引くような動作と共に高まり切ったエネルギーを、カリスは男に向けて射る。
だが、相当量の威力を込められた風の一矢に対し、ダグバはただその掌を伸ばすのみだった。

「何……!?」

カリスでさえ驚愕を禁じ得ない悠長な動作。
だが既に放たれた矢はカリスの動揺など知ることもなく、ダグバに一直線に向かっていき何ら特別の抵抗もなくその身を一直線に貫いた。
ダグバの掌の中心とその先にある彼の右肩、そしてその背後にあったトレーラーの強化壁までも、的確に貫通したのである。

開け放たれた穴より飛び込む暴力的なまでの外気の中、見た目にはあまりに痛々しい裂傷から鮮血が弾け飛ぶ。
しかしその中でダグバが口にしたのは、決して痛みに悶える悲鳴ではなかった。

「―――――ふふふ。やっぱり、痛いね」

先ほどまでと何も変わらない、張り付いたような気味の悪い笑顔だった。
あまりに人間離れした反応に、カリスでさえ戦慄を覚える。
だがそれ以上に彼の目を引いたのは、ダグバの纏う白衣を着々と染めていくその血の色にあった。

そう、ダグバの身体からたった今流れゆくそれは、人の身を流れる赤い血ではなく不死者たるアンデッドの証明、始と同じ緑の血。

「その血……まさか貴様……!」

「―――――うん、そういうことみたいだね」

カリスの仮面の下で目を見開いた始に対し、ダグバはただ何も変わらず笑うのみ。
既に塞がりつつある自身の掌の穴をちらりと見やったその目には、やはり絶望は浮かんでいない。
ただ愉悦だけを求める深淵の様な深い黒が、どこまでも広がっていた。

全身を脂汗がじっとりと滴るような嫌な感覚に支配されたカリスは、それを打ち払うようにカリスアローを構え直し再びダグバに切りかかる。
だが瞬間、それよりも早く身体を襲った凄まじい横殴りのGに、思わずその膝をついた。

「フィリップ!何があった!敵か!?」

運転席より飛んだのは、動揺と憂慮を含んだ涼の怒声だ。
先ほどGトレーラーの壁部分をホークトルネードが破壊したことで異変に気付き、敵襲を感知して急ブレーキを踏んだのだ。
助手席に座っていた村上も無言ではあるものの何らのベルトを装着している様子であり、このままでは乱闘になることは最早自明の理だった。

「―――――ちょっと、場所を移そうか」

だが涼や村上が後部トレーラーの状況を詳しく把握するより早く、カリスの胸倉をつかんだダグバは一瞬にしてトレーラーの上部を破壊し道路へと飛び出していた。
あまりの早業にカリスでさえ僅かな抵抗さえ出来ず成すがまま吹き飛ばされる中、ダグバは再び何事もなかったかのようにただそこに着地し直立する。


869 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:02:42 EEMCRkWQ0

「―――――じゃあ、そろそろ始めるよ」

前座はこのくらいで十分だろうとでも言う様に短く告げたダグバは、その身を一瞬にして変化させる。
細身の優男風だった先ほどまでの風貌を一切匂わせないその姿は最早、彼本来のグロンギ態とも大きく異なっていた。

透き通るような白の身体は以前よりも増してより強固に、より美しく。
グロンギの王たるその地位を示すのみだった金色の装飾は、今やその全身の殆どを覆い尽くし。
そして究極の闇の名に相応しい黒に染まり切っていたその瞳は、彼の身体を流れる血と同じく人ならざる異形の緑を宿していた。

本来得るはずのなかった自身のベルトの欠片の余剰分に加え、ジョーカーの不死性さえ得た今の彼は、最早究極を超えている。
本来の歴史に存在しなかった“沈みゆく究極(セッティングアルティメット)”さえ超えたその姿に、最早正式な名称など存在しない。
だからこそ、安直と言われようとこう呼ぶしかあるまい。

“沈みゆく究極さえ超えた究極の領域(スーパーセッティングアルティメット)”と。
自身の新たな姿に愉悦を覚える様子もなくカリスを見つめるダグバの緑の瞳には、ただ戦いへの喜びだけが映っていた。





【F-4 Gトレーラー 06:07 a.m.】

「フィリップ!何があった!?相川はどこだ!」

時を同じくして。
壁と天井、二か所に大きく穴の開いたトレーラーの中で、涼の怒声が飛んでいた。
冷静に周囲を見渡しその惨状に目を細める村上の一方で、フィリップは目の前で起きた信じられない出来事を、しかし何とか語らねばと自身を無理矢理落ち着かせる。

「ダグバだ」

「何?」

「ダグバが……生きていた」

自身で声を発しているのに口にした内容を現実とは思えないとばかりに顔を青くしたフィリップに、涼と村上は絶句する。
ン・ダグバ・ゼバ。涼の世界で過去、一夜にして三万人もの人間を殺した最強の未確認。
この場でも数多の命を奪い、この殺し合いを加速させた張本人。

橘の捨て身の行動でその首輪の爆発と共に命を散らしたはずの彼が、生きていたと。
信じたくもないその言葉を否定し議論するだけの気力さえ、その名を聞いただけで刈り取られたような錯覚を覚えてしまう。
何故よりによってあいつが。そんな文句さえ吐く余裕をなくすほどの絶望が、巨大な穴により明け透けになった車内に漫然と漂っていた。

「しかし、ダグバは先の放送で名前を呼ばれたはず。一体何故それが今も?」

「分からない。首輪を外して生きているなど、大ショッカーにさえ予想外だったのかもしれないが……」

「……今はそんな話をしている場合じゃないだろう」

村上の疑問を涼は遮る。
大ショッカーが間抜けだったにせよ何らの意図があるにせよ、大事なのは今のことだ。
ダグバが生きている、その事実が最も重要なことなのである。

数舜の沈黙の後、覚悟を決めたように目を見開いた涼は、そのまま勢いよくGトレーラーから飛び降りる。
アスファルトの上に着地し視線を真っ直ぐに向けた彼は、飛び去った始とダグバがさほど遠く離れていないことを察知した後、振り返った。

「俺が、相川を助ける。お前たちはすぐに車を出せるようにしておいてくれ」

「馬鹿な。死にに行くおつもりですか?あなた如きがダグバに敵うはずもない」

「……あぁ、だろうな。だが俺はあいつを、こんなところで死なせるわけにはいかない」


870 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:03:48 EEMCRkWQ0

村上の驚愕に、涼は動じることなく返す。
であればお好きにどうぞと村上が呆れの溜息を吐き出すと同時、涼の隣に降り立つ影が一つ。
Gトレーラーからふわりと地上に舞い降りたそれはまさしく、魔少年フィリップのものだった。

「僕も行こう、葦原涼」

それと、とフィリップは言葉を紡ぐ。

「相川始を信じたいという君の気持ち……少しだけ僕も分かった気がするよ」

自身の目を見ることはなく放たれた確かな心境の変化に、涼は思わず胸が熱くなるのを感じた。
愚直なまでに信じることしかできない自分でも、何かを変えることは出来たのかもしれないと、少しだけそう思えたから。
何よりの心強さを覚えた涼はフィリップに向け今一度力強く頷き、その瞳を再び真っ直ぐに道路の先へと向けた。

この身が人ならざる物へと変わって以来強化された五感が、その先にある戦闘の気配を告げている。
一撃ごとにどんどんとその生命の躍動を小さくしていく片方の存在感に、涼は最早一刻の猶予もないことを悟った。
なれば、もう語っている時間もない。一歩前へ踏み出して、彼はその両手を胸の前で大きくクロスした。

「変身!」

叫び声と共に走り出した涼の身体の横に、やがて緑の異形が――ギルスが並走する。
今はもうそれに目もくれないが、得体のしれない存在と自分が一体化するこの瞬間が、涼は嫌いだった。
自分が自分でなくなるような、制御できない衝動にこの身を支配されるような感覚がいつだって付き纏ってくるからだ。

だがそんな存在を、もう涼は恐れなどしない。
どんな姿であっても、自分は自分。この身を突き動かす衝動は、誰かを踏みにじろうとする悪にぶつければいい。
そしてこの異形の力は、自分が守りたいと考えた誰かを救うために使えばいい、そう思えるようになったから。

だから――。

「ハァッ!」

一層眩い光が彼とギルスを包み込んだ瞬間、涼は大きく吠える。
二つの影は、最早一つになっていた。
葦原涼の心と、ギルスの力。二つを合わせた彼の名は、仮面ライダーギルス。

何度裏切られようと折れぬ信念を抱いて駆けるその姿は、まさしく彼の信じた仮面ライダーの名に相応しかった。





【F-4 道路 06:08 a.m.】

手刀、回し蹴り、ストレートパンチ、フック。

「―――――フフフフ」

後ろ回し蹴り、裏拳、アッパー、ナックル。

「―――――アハハハハ」

膝蹴り、肘鉄、切り裂き、衝撃波。

「―――――フフフフ、アハハハハ」

掌底、蹴り上げ、頭突き、光弾、タックル、跳び蹴り、鉄槌撃ち、ラリアット、目潰し、挟み込み、アイアンクロー、引っ掻き、スクリューパンチ――。

「―――――どうしたの?もっと頑張ってよ」


871 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:05:12 EEMCRkWQ0

今までに放った技を刹那に思い出しながら、ジョーカーアンデッドは今ダグバに足蹴にされ仰向けに倒れ伏していた。
何故こんなことになっているのか、その答えたる今まで行われてきた戦いはまさしく、ジョーカーが体験したことのないほどに一方的なものだった。
まずダグバが放った最初の一撃を防御さえ叶わぬままその胸で受け止めた時点で、彼はカリスの姿では10秒と持たず戦闘が不可能になると本能的に判断し、その忌むべき姿を惜しまず解放した。

だがしかしそれも結局は何も意味を為さず。
ありとあらゆるアンデッドが恐れる死神の放った攻撃の全ては、ダグバには全て届くことなく何事もなくいなされ、防がれ、そして返された。
それでもその脅威の回復力で以て幾度も立ちあがりその力を余すことなく振るったが……結論から言えばジョーカーと今のダグバとの次元は、あまりに違いすぎた。

本来のダグバであれば持久戦により勝利も十分考えられたジョーカーアンデッドの存在はしかし、度重なるダグバの進化には到底追い付くことが出来なかったのだ。
或いはそれもまた、進化とは無縁の原初の存在であるジョーカーにとっての皮肉だったのかもしれないが、ともかく。
今確かなのは新たなダグバの力の前にジョーカーは為す術もなく倒れ伏したというその結末だけだった。

持ち前の回復力を以てしても追い付かないダメージに呻くジョーカーを、ダグバは飽きたとばかりにその右足で蹴り飛ばす。
その威力故に甲殻が弾け制限によりジョーカーから相川始の姿へと変身が解除される一方で、ダグバはその手にブランクのラウズカードを一枚構えた。
何も不思議なことはない。ジョーカーはモノリスに頼らずとも他のアンデッドの封印が可能なのだ、ジョーカーへと変貌したダグバにもまた、当然にそれは可能である。

未だバックルこそ開いていないものの、しかし封印が可能になるのも時間の問題だと、ダグバは呻き這いつくばるしかない始へとその足を進める。

「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」

だが瞬間ダグバの鼓膜を打ったのは、加速度的に近づいてくる獣の様な雄叫びだった。
喧しいな、と感慨もなくそちらを見やれば、そこにいたのは緑の肉体の至る所から赤い棘が飛び出しているまさしく異形の姿だった。
あれも仮面ライダーなのかな、と何となく彼が注意を向けたのと同時、異形は勢いよく空へ向け跳び上がる。

「はああああぁぁぁッ!!!!」

気合と共にダグバへ向けて振り下ろされたのは、鋭利な棘のついた彼の踵だった。
ダグバは知る由もないその必殺の一撃の名は、エクシードヒールクロウ。
仮面ライダーギルスの強化形態であるエクシードギルスの持つ、最強の攻撃だった。

「―――――へぇ」

面白いね、と小さな声で呟く。
それは決して、自身と互角に戦えるかもしれないという期待や、その姿や強さに対する賞賛ではない。
ただ今の一目見るだけで尋常ではない存在感を放つ自分を前に、こうまで真っ直ぐに向かってくる存在がまだいるのかと、そんな関心だった。

「ハァッ!」

そんなダグバの考えはつゆ知らず、一気に振り抜かれたギルスの右足。
だが、その鋭利な棘は決してダグバの身体に刺さることなく、そう思い切り“振り抜かれて”いた。

「何――ッ!」

驚き困惑を露わにしたギルスの身体は、そのままバランスを取れず右へと倒れていく。
それも当然だ、彼の右足……厳密にはその膝から先は、ダグバの放った目にも止まらぬ速さの手刀によって切り飛ばされ、一瞬にしてその身体から喪失していたのだから。

「グガアアアアァァァ!!!」

ようやく脳へと伝達された痛覚という電気信号が、ギルスに悲痛な叫びを上げさせる。
その姿を前にギルスに対する興味を失い背を向けようとしたダグバは、しかしそこにあった光景に驚愕を禁じ得なかった。

「グ……ウオオオオォォォッ!!!」

痛みに悶え苦しむギルスの声音が、気合いと共に攻撃の意思を込めたそれへと変わる。
メキリ、と痛ましい音を立てて一瞬にして再生された右足の膝先を地面に突き立てて、ギルスはその拳を思い切りダグバへ向けて振りかぶっていた。
ゴ階級のグロンギ以上と言って差し支えないその異常な回復力に思わず呆気に取られたダグバの頬に、より鋭利になったギルスクローが迫る。


872 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:07:04 EEMCRkWQ0

「オオオオオ、ウオオオオオオオ!!!!」

気合いと共に一気に振り抜かれたギルスクローは、再びダグバが振るった手刀により肘から先ごと腕から切り離された。
だが、弾け飛んだ自身の肉片と全身を突き抜ける激痛には最早目もくれず、ギルスは一瞬で生え替わった新たな右腕でそのままダグバの顔を殴りつけていた。
進化し、より鋭利となったギルスクローはダグバの顔を思い切り切りつけ、そのまま拳ごと振り抜かれて辺りに緑の鮮血を撒き散らす。

自身の身体をその体表とは異なる緑に染めながら、無茶な連続再生で大きく体力を消耗したギルスはその肩を大きく上下させながらも、しかし満足げな吐息を漏らした。
かつて未確認生命体第4号……五代雄介を苦しめ、三万人もの人間を殺した天災とさえ呼べる最悪の存在、未確認生命体第0号。
正直に言って、異形の力を得たとして自分が戦ったところで勝てるのだろうか、というトラウマと結びついたどうしようもない恐怖心が、涼の中には潜んでいた。

だが、この場でダグバと交戦したという仲間達から彼は自分が笑顔になりたいが為だけに戦いを求めていたと聞いて、涼の怒りはそれまでの恐怖を大きく上回ったのである。
そんなふざけた自己満足のために、三万人もの意味もなく人を殺したのか。
そんなどうしようもない存在の為に、4号は歴史から姿を消したのか。

かつてダグバに殺された、名前も知らぬ3万人もの人々と、今までダグバが意味もなく殺してきた数え切れないほどの罪なき命。
彼らの抱いた無念の想いがこの拳をダグバに届かせたのだと、涼は拳を握りしめていた。

「葦原涼!相川始は無事だ、早くこっちへ!」

そんな中後方から、聞き覚えのある声が届く。
チラとそちらを見やれば、疾風を思わせる風貌の怪人、サイクロンドーパントに変身したフィリップが、倒れ伏した始を抱き起こしていた。
その光景を前に、ギルスは事前に決めておいた手はず通り逃走のためフィリップの元まで後退――しない。

「フィリップ!俺のことは良い、行け!相川を連れて、なるべく遠くへ逃げろ!」

「な、何を言って……」

「こいつはいきなりGトレーラーに現れた。誰かが囮にならないと、結局誰も逃げられない」

最早サイクロンを見やることもせず、ギルスは目の前のダグバを睨み付ける。
先ほどつけた傷は一体どこへ行ったのか。そんなものは幻覚だったと言われても納得してしまうほどに、ダグバの顔にはかすり傷も見られぬほど完全に再生している。
なるほどこれはあの4号もあれほどの被害を許すわけだと妙な納得を覚えながら、涼は油断なく戦闘の構えを取った。

「ウオオオオオオオ!!!」

疲労を感じさせない衰えない雄叫びと共に、彼は再びその拳をダグバに向けて振り抜いた。
『アギトの世界』でも指折りの速さを誇るその真っ直ぐに伸びた腕は、しかし此度は切り飛ばされることなくダグバの掌に受け止められていた。
先ほどまでのやり取りは遊びに過ぎなかったのだと本能でギルスが察する中、次の瞬間にはギルスの胸にダグバの膝蹴りが突き刺さっていた。

「ゲブ……!」

身体の中で、何らかの臓器が破裂したような嫌に籠もった音が響く。
ほぼ反射的に腹から沸き上がった生暖かい液体を吐き出しながら、ギルスは弓なりに跳ね跳ぶ。
受け身も取れずに地面を転がった彼にはもう目もくれず、ダグバはサイクロンが抱えている始の方へと振り返った。

「させ、るかああぁぁぁぁぁぁ!!!」

しかしそのダグバの歩みを止めたのは、ボロボロになりながらも立ち上がったギルスがその背部から伸ばしたギルススティンガーと呼ばれる触手だった。
瞬きの間にロープのように撓み、自身の身体に何重にも巻き付いたそれにダグバが嫌悪感を示す中、駄目押しのようにギルスはダグバの胴にしがみついていた。


873 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:08:00 EEMCRkWQ0

「逃げろフィリップ!そいつを、こんなところで死なせるな!」

「だが君は――!」

「―――――邪魔」

サイクロンの抗議を遮ったのは、ダグバの発した背筋の凍るような感情のない声だった。
パワーに優れるエクシードギルスが拘束のみに全力を尽くしたはずのそれを、いとも容易く引きちぎり、力任せにギルスを引き剥がす。

「グ、アァ……!」

短い嗚咽を漏らしたギルスの身は、エクシードギルスから元のものへと変化する。
度重なる極大のダメージによって、強化形態を形成し続けられるだけのエネルギーを失ったのだ。
だがそれでも、ギルスの闘志は衰えない。

口中に満ちる鮮血を無理矢理喉に流し込んで、彼はダグバに向け、再び拳を振りかぶる。
それがこの戦いが始まってから幾度となく繰り返されたのは、涼はそれしか自身の正義を為す術を知らなかったからだ。
だがしかし、いやだからこそ何時もどこまでも、愚直なまでに真っ直ぐに、ギルスはその力を振るえた。

躱されても受け止められても、折られても切られても、いつだってやることは変わらなかった。
故に残る全力を込めたその一撃は、再びダグバに向かい真っ直ぐに放――。

「―――――君、しつこいよ」

だが、その拳が届くことはなかった。
ギルスのそれよりも早く放たれたダグバのストレートパンチが、彼の胸の中心に大きな風穴を開けていたのだから。

「葦原涼ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

サイクロンの絶叫が、周囲に響き渡る。
先ほどまでの雄々しい咆哮はどこへやら、最早ギルスの口から漏れるのは止めどない吐血だけ。
だが一方で、自身の手を濡らす温かいギルスの血にさえもダグバは何の関心も持たない。

寧ろ再生能力があるとはいえ自分を前にしてよく頑張った方だと、そうして腕を緩く引き抜くため力を込めて。
その腕に、まるで肉壁その物が自身の動作を阻もうとしているような、妙な抵抗を感じた。

「……ま、だだ」

思わず驚愕と共に声の元を辿れば、そこにあったのは絶えず吐血しながらも自身の胸に突き刺さった腕を両の腕で握りしめるギルスの姿だった。
だがその程度の力では先ほどの違和感には繋がらない、とそこまで考えて、ダグバは思い至る。
自身を引き止めているのは、自身が貫いたギルスの傷そのものでもある、ということに。

よくよく見れば、自身の腕の中程を包むギルスの胸の穴が、急速にそれを埋めようと回復し自身の腕を放すまいと密着している。
まるで涼の生命力をそのまま表したようなその捨て身の行動を、ダグバが片手間の力で抜け出せないのは当然であった。

「葦原涼、すまないッ……!」

まさしく死力を尽くしダグバを止めようとするギルスの意思を汲み取り、サイクロンはもうそれ以上の問答をすることなく始ごとその身体を疾風に包み込んだ。
風と共に舞い上がり飛び去っていくサイクロンの後ろ姿を見やりながら、ギルスはようやく一つ息を吐く。
これでどうにか、仲間達だけは逃がすことが出来た。

だが、決して自分の仕事が終わったわけではない。
まだやらなければいけないことが、返さなければならない借りが、こいつには山ほど残っているのだ。

「オオオ、オ……!」

弱々しい声と共にその拳を握る。
最早意識は半ば消えかけ、今にも倒れ伏しそうなほど身体は悲鳴を上げている。
だがそれでも、膝を折ることだけはしない。


874 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:09:26 EEMCRkWQ0

許されざる邪悪を前にして、仮面ライダーがただで倒れることなど許されるはずがなかった。
ようやくと言った調子で右腕を振りかぶったギルスに対し、小さく溜息を吐いてダグバは彼に向き直る。
そしてこれ以上彼に付き合う必要もないとばかりに、勢いよくギルスの身体から自身の腕を引き抜いた。

今更この身体のどこにこれだけの血が残っていたんだと言わんばかりの返り血が、ダグバの身体を新たに赤く染めていく。
皮肉にもその身体を立たせる支えになっていたダグバの腕の喪失に、グラつき蹌踉けるギルスの身体。
だがそれでも、後ろに倒れることだけはしない。どれだけの傷を負ってもなお、彼はその拳を握りファイティングポーズを崩さない。

死力を振り絞った雄叫びと共に、ダグバへ向けその足を進めようとするギルス。
だが彼が次にその全身を打ち付けたのは、自身の血が染み込んだ冷たい地面の感触だった。
ダグバの拳を受けたわけではない。ただ彼が人間である以上必ず存在する、いずれ来たるべき限界が今来てしまった、それだけのことだった。

(く、そぉ……)

ギルスの変身さえ解け、生身を晒す涼。
まだ自分は何も満足に護れていないのに、もう息さえ満足にすることが出来ない。
そんな自分の不甲斐なさを、誰よりも憎み誰よりも悔しく思いながら、彼はその瞳を閉じた。





――最初から俺には、あいつがどんな人間なのか分かっていたのかも知れない。
相川始に対して涼がそんな風に思ったのは、キングの吐いた言葉に対する彼の反応がきっかけだった。

『……ちょっとブレイドに似てるもんね、彼』

剣崎一真に似ている。その言葉が指し示していた“ジョーカーの男”なる存在を涼は知らなかったが、そう言われたときの彼の激情はよく覚えている。
言葉も発さず、その表情は仮面の下に隠しているというのに、なお溢れ出るような怒りを込めた乱舞。
それを見て、きっとこの男が剣崎に対し抱く感情は並大抵の物ではないのだろうと、そう察した。

同時に、そんな感情を押し殺してでもなお殺し合いに乗らなければならない事情も、きっと並大抵ではないのだろうと。
だからこそ、話を聞いてみたかった。剣崎とどんな関係だったのか、なぜ殺し合いに乗る決意を固めたのか、その思いを。
そして剣崎との思い出を語る彼を前にして、涼の思いは確信へと変わった。

かつての思い出を一つ一つ噛みしめるように語る彼の表情が、とても進んで人を殺す男のそれとは思えないほどに安らかな物だったから。
彼は本当に剣崎を友として認めていたのだと、そしてそんな男と共に歩んできたからこそ、自分の世界を護りたいと殺し合いにさえ乗る決意を固めたのだと、そう思えた。
であればもう、涼に始を敵として見なすことなど出来るはずもなかった。

――あの時、ザンキという男の死に、自分が少なからず関わっていたと知ったあの時。
確かに自分の脳裏には、自分が誰かを救う事なんて出来ない、この力を正しく使う事なんて出来ないと、そんな諦めが存在していた。
もしもあの時ヒビキや士、仲間たちが側にいてくれなかったら。

自分を――本心はどうであれ――救ってくれた亜樹子の言葉がなかったら。
或いは自分もまた今の始のように、誰かから下される裁きを求めて殺し合いに乗るような言動をしていたかもしれない、そんなIFを思い描いてしまったから。
涼にとっての始の存在は、有り得たかもしれない自分自身のようにすら感じられてしまった。

だから――。

『――お前らが俺をどう思おうと関係ない』

『――別に俺はお前たちの仲間になったつもりも、協力すると言ったつもりもない』


875 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:11:44 EEMCRkWQ0

そんな始の自分を敵対視させようとする言葉一つ一つの裏に潜む彼自身の不器用な思いやりを、涼は誰よりも鋭く感じ取っていた。
病院に来る前一緒にいた涼を自分の巻き添えで敵として見なされないように突き放し、いつでも寝首を掻く準備は出来ているとわざわざ言葉でアピールする。
そうした言動の全ては、かつて身勝手に奪ってしまった善良な命に対する罰を仮面ライダーが躊躇なく下せるように考えた末のものなのだろう。

であれば尚更、涼はそんな悲しい運命を受け入れるわけにはいかなかった。
きっと彼が殺したというその男だって“ジョーカーの男”だって、始にそんな形で罪を償って欲しいわけではないはずだ。
犯した罪を背負い、奪ってしまった命の分まで生きて欲しい、きっとそう願うに違いない。

身勝手かも知れない、全くの見当違いなのかも知れない。それでも涼は信じてみたかった。
彼の犯した罪を償う方法が死だけでない可能性も、ジョーカーがもたらす破滅の運命を覆し始が自分らしく生き続けられる未来も。
例え間違っていようと自分の信じた道を一心に進み続けられる。それこそが自分の強さだと、涼はもう知っているから。

――大学のプールの中、どれだけ藻掻こうと誰も助けてくれず、少しずつ水底へ沈んでいくいつものヴィジョン。
だがその中で涼はもう、孤独感と絶望感に打ちひしがれることはない。
彼が見上げる水上には一陣の光が差し、自分の往くべき道をはっきりと指し示してくれている。

そして同時、自分一人では沈むだけだったこの身体を、水底から伸びる無数の腕が押し上げてくれる。
ザンキ、ヒビキ、木野、津上、矢車、剣崎……仲間である仮面ライダー達が、自分を溺れぬよう支えてくれる。
だからもう、息苦しさなど覚えるはずもない。涼の瞳はもう、いつものように真っ直ぐにただ光だけを見据えていた。

『――頑張って、涼君』

浮上の寸前聞こえたその女の声に、涼はただ小さく首肯を返した。





【F-4 道路 06:10 a.m.】

「―――――あーあ、行っちゃった」

ギルスの死体を背に向けて、ダグバは呑気とさえ表せるような気軽さでサイクロンの飛んでいった先の虚空を見つめる。
とはいえそれも当然のこと、最早ダグバにとってこの会場ごとき端から端でも一瞬で移動出来る小さな箱庭なのだから。
首輪の制限から解き放たれこの会場内限定とは言え本来の瞬間移動能力を取り戻した今のダグバにとって、圧倒的な存在感を放つジョーカーはどこへ逃げようと格好の目印だ。

であればどこへ隠れようとどれだけの距離を逃げたつもりでも、封印までの秒読みが数秒延びただけのこと。
だから今のダグバにとってこの戦いとも言えない戦い自体がどんな結末であれ、全ては無意味なものに過ぎないのである。
そうして彼は再び始のもとへと瞬間移動しようと意識を走らせて、すぐそれをやめた

自身の背後、もう動かないと思っていた肉塊が二の足で立ち上がった事を、察知したために。

「―――――凄いね」

立ち上がった気配に対し振り返ったダグバの口から漏れたのは、僅かな感動を含んだ純粋な賞賛だった。
理由は単純、今目の前に立っている男の傷は、最早人間であれば即死していてもおかしくないほどの重傷だったからだ。
胸の中心には拳ほどの大穴が空き、その腕や足も無理な再生速度が祟ったのか、そこかしこで肉が裂け骨が露出している。

以前ブレイドの力を使ってもう一人のクウガと戦った際、自分たちはこれほどの傷を受けてもまだ生きていられるのかと感動を覚えたが、この男のしぶとさはそれ以上かも知れない。
ただ自分やもう一人のクウガと違うところを上げるとするなら、この男はもう立っているのもやっとで、恐らく自分が何をすることもなく間もなく死ぬだろうということだったが。
とはいえどうせ立ち上がったのだから無為にするのも勿体ないか、とダグバはその笑みを一層深める。


876 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:13:00 EEMCRkWQ0

「―――――ねぇ、なんで勝てないって分かってるのにまだ立とうとするの?やっぱりそれが仮面ライダーの資格ってことなの?」

投げる疑問は、以前橘に投げたものと変わらぬ。
仮面ライダーとは何か、何故そこまでボロボロになってでも立ち上がろうとするのか、そんな素朴な疑問の答えを探そうとする物だった。

「仮面ライダーの資格……か。そんなものある、なら……俺が、知りたいくらい……だ」

そんなダグバの問いに、涼は自嘲気味に答える。仮面ライダーの資格など、考えたこともなかった。
もしそんなものが簡単に知れるなら自分だってこんなに苦労はしなかっただろうと、そう言ってやりたい気持ちだった。
それでもその瞳だけは決して腐らずに、どこまでも真っ直ぐに悪を射貫く。

「だが……それでも俺に、言えることがあるとするなら……」

口中に溜まった血を無理矢理飲み込み、その腰にはゼクトバックルを装着する。
満身創痍は百も承知で、しかしそれでもなすべき事の為に、涼はその手にホッパーゼクターを掴んだ。

「俺はただ……信じたいものを……信じる、だけだ……!」

――HENSHIN
――CHANGE KICK HOPPER

タキオン粒子に包まれて、涼の身体は再び変身を遂げる。
悪への憎しみ、戦いの悲しみを蝗虫の仮面の下に隠し、その双眸を正義の為に赤く輝かせる孤高の戦士、仮面ライダーへと。
一歩、また一歩とゆっくりと、しかし着実に足を進ませる彼の身体を、突然炎が包み込む。

ダグバが翳した力によって、その装甲がプラズマ化し発火したのである。
だが全身を焼き焦がす炎に身を包まれながらも、キックホッパーはその歩みを止めない。
一歩、また一歩、先ほどまでと変わらぬ足取りで、悪へ向けひたすらに足を動かし続ける。

――RIDER JUMP

やがてダグバを射程距離にまで収めたキックホッパーは、大きく空に向け跳び上がった。
朝日を背に受けながらどこまでも、誰よりも高く跳んだその雄姿を前に、ダグバは本能的に理解する。
きっとこれこそが、ガドルの認めた仮面ライダーなのだろうと。

――RIDER KICK

迸るタキオン粒子が、キックホッパーの左足へと集っていく。
その身を焼かれようと身体の節々から火花を散らそうと、彼は一切意に介さない。
その肺に炎が侵入することさえ厭わずに叫び、残る全てをその一撃に込める。

彼の姿勢は最早、そこから先を考えてはいない。
ただ今を全力で生きようとする彼の生き様を象徴するように、その足は愚直なまでに真っ直ぐにダグバに向けて伸びていた。
ライダーキック。何時の時代も変わらず悪を打ち砕いてきた伝家の宝刀。

例え何があろうと止まらない。そんな執念を込めて放たれたその一撃は、今まさしくダグバを捉えようと迫っていた。





【G-4 Gトレーラー 06:21 a.m.】

「……では貴方は、葦原さんの事を見捨ててこの男だけを連れ帰ってきた。そういうことですね?」

「……あぁ」

「正気ですか?」

始を連れて命からがらダグバから逃げ、スパイダーショックでトレーラーの損害部分を修復したフィリップに待ち受けていたのは、村上の心ない罵倒だった。
涼を見殺しにして逃げ帰ってきたという後ろめたさから言い返せず目を伏せたフィリップへ、村上の言葉は止まることを知らない。


877 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:13:43 EEMCRkWQ0

「理由は不明ですが、ダグバはこの男を標的にここに現れた……それは事実です。彼を連れていること自体我々にとって大きなリスクである、それは貴方もお分かりでしょう」

「……あぁ、ダグバが相川始を追って来る可能性も、十分承知している」

フィリップは振り返り、トレーラーに急造したベッドの上で泥のように眠る始を見る。
応急処置は済ませたが、痛みに呻くその姿を見ればもう一度ダグバが現れたとしても先ほど以上に簡単に蹂躙されるのは目に見えていた。

「であれば何故、そんな男の為に大ショッカー打倒に協力的だった葦原さんを犠牲にしたのですか?ダグバはすぐにでも追ってくる……彼は無駄死にですよ」

「無駄じゃない」

村上の哀れみと同情さえ感じる一言を、フィリップは見過ごすことが出来なかった。
相川始を信じその命をかけてでもダグバに立ち向かい護ろうとした葦原涼。
彼のあまりにも真っ直ぐなその生き様が間違っているとは、口が裂けても言いたくなかった。

「――無駄にさせない」

決意を込めたフィリップは、再度後方の始を見やる。
運命を変えるのが仮面ライダーだ。涼が残したその言葉を嘘にしないためにも、フィリップは思いを新たにGトレーラーのアクセルを踏み込んだ。


【二日目 早朝】
【G-4 道路】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、サイクロンドーパントに1時間50分変身不能、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ、Gトレーラーを運転中
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ギャレンバックル+ラウズアブゾーバー+ラウズカード(ダイヤA~6、9、J、K、クラブJ~K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:西へ向かい、仲間達と合流する。
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除には成功できた、けど……。
5:葦原涼の死は、決して無駄にしない。
【備考】
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をGトレーラーのトレーラー部分に載せています。



【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、Gトレーラーの助手席に搭乗中
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:ダグバ、次に会えば必ず……。
2:乾さん、あなたの思いは無駄にはしませんよ……。
3:首輪の解除に関してフィリップたちが明らかな遅延行為を見せた場合は容赦しない。
4:デルタギアを手に入れ王を守る三本のベルトを揃えてみるのも悪くない。
5:次にキング@仮面ライダー剣と出会った時は倒す。
6:葦原さんは無駄死にですよ。
【備考】
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。
※今後この場で使えない、と判断した人材であっても殺害をするかどうかは不明です。


878 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:14:52 EEMCRkWQ0



【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、ジョーカーアンデッドに1時間50分変身不能、仮面ライダーカリスに1時間50分変身不能、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、橘と葦原への複雑な感情
【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1、栗原家族の写真@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため行動する。必要であれば他者を殺すのに戸惑いはない。
0:大ショッカーを打倒する。が必要なら殺し合いに再度乗るのは躊躇しない。
1:取りあえずはこの面子と行動を共にしてみる。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
6:乃木は警戒するべき。
7:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)は倒す。
8:ジョーカーの男(左翔太郎)とも、戦わねばならない……か。
9:葦原……。
【備考】
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。
※取りあえずは仮面ライダーが大ショッカーを打倒できる可能性に賭けてみるつもりです。が自分の世界の保守が最優先事項なのは変わりません。
※乃木が自分を迷いなくジョーカーであると見抜いたことに対し疑問を持っています。



【備考】
※Gトレーラーの後部に穴が二カ所(天井と壁)空いています。スパイダーショックを使い現在は塞がれていますが、多少の隙間風はありそうです。





【F-4 道路 06:17 a.m.】

広い道路の中心に、燃え尽き炭化した肉塊が転がっている。
その腰と思しき部分に巻き付いた銀のバックルと緑のガジェットは焦げ付いて、既にその機能を果たしていない。
だがその肉塊が人の形を保っていた最期の瞬間、命の炎を絶やそうとするまさにその寸前の一撃は、確かにダグバの胸に届いていた。

赤子の手を捻るより簡単に躱すことの出来るそれを何故甘んじて受けたのか、その理由は正直ダグバ自身にも分からない。
ガドルの味わったという仮面ライダーとの死闘の末の敗北を、もしかしたら味わえるのではないか、そう感じたからか。
そんな事をしても得るものはないと、火を見るより明らかだったはずなのに。

何か残っている物はないかと探すように、ダグバは自身の胸を掻く。
だが実際にはそこにはもう何もない。焼けるように熱いその一撃がもたらした火傷も、打撲も、何もかも。

「―――――やっぱり僕には君の気持ちは分かりそうもないよ、ガドル」

自身の翳した炎に包まれながらも揺らぐことなくキックを放ったあの男は、紛れもない“仮面ライダー”だったのだろうとダグバは思う。
だがそんな男の死力を込めた一撃にも、もうこの身体は傷つかない。
きっと仮面ライダーという存在それ自体が、どこまで行ったとしてもう今の自分と死闘を繰り広げられる宿敵たりえないのだろう。


879 : 愚直 ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:15:18 EEMCRkWQ0

そんな虚しい結論に何度目と知れず辿り着いて、ダグバは改めてガドルのことを羨ましいと思った。
去来した漫然とした絶望感を無理矢理打ち払って、ダグバは再び西へと目を向ける。
仮面ライダーとは満足に戦いあえなくとも、今の自分の能力さえ押え付けられる大ショッカー首領その人であれば。

或いは自分の永遠に続くこの退屈にも終止符を打ってくれるかも知れないと、この殺し合いを終わらせるため力を込めて。
その力を放つより早く背後に出現した身に覚えのある気配に、緩く振り返った。

「―――――バルバ」

「久しぶりだな、ダグバ」

自身を呼ぶその声は、まさしくゲゲルの調停者として自分とも対等たりえる権力を持つ唯一の存在、ラ・バルバ・デのもの。
次いで視界に入った彼女の後ろに停滞するグレーのヴェールが、思わずダグバの目を引いた。
第二回放送において首領代行を名乗った彼女が、今こうして自分の前に現れた理由が、もしかすれば自分の望む首領にあるのではないか。

そんな期待を胸に、彼はまるで幼子のように続くバルバの言葉を待つ。

「……貴様に、首領から与えられた新たなゲゲルの条件を告げに来た」

沈黙の後告げられた彼女の目的に、ダグバはその目を見開いた。


【二日目 早朝】
【F-4 道路】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)ジョーカーアンデッド化、首輪解除
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:まずはバルバと話をする。
1:ジョーカーである相川始に多少の興味。
【備考】
※アンデッド(ジョーカー)化しました。 また、その影響によりグロンギ態がより強化され“沈み行く究極を超えた究極の領域(スーパーセッティングアルティメット)“へと変身出来るようになりました。
※制限が解けたので瞬間移動が出来る模様です。ただ会場の外に出ることは出来ません。



【ラ・バルバ・デ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】死亡後
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:ダグバに新たなゲゲルについて告げる。
【備考】
※ダグバと話をした後会場に残るつもりがあるのかは後続の書き手さんにお任せいたします。


【葦原涼 死亡確認】
【アギトの世界 滅び確定】
【残り15人】

【全体備考】
※F-4エリアに炭化した葦原涼の死体があります。
※ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、涼の支給品一式は破壊されました。
※パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブトがどうなったかは後続の書き手さんにお任せします。(焼けたのか、そのままなのか、資格者を求めて飛んでいったのかなど)。


880 : ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 14:17:20 EEMCRkWQ0
以上で投下終了です。
ご指摘があっても仕方のない描写が多々あることは承知の上なので、気になったら遠慮せずお願いいたします。
それでは毎度のことながらその他ご意見ご感想等ございましたらよろしくお願いいたします。


881 : 名無しさん :2019/07/13(土) 14:33:22 cHpCkCt.0
投下乙です。
ダグバはまあ、そりゃ特別制限かけられるよなあと納得する強さになっちゃいましたね。
今回でリタイアとなってしまった葦原さんですが、ギルス特有の変身、プールの描写がとても良かったです


882 : 名無しさん :2019/07/13(土) 18:03:32 vOTbrDC60
投下乙です!
葦原さん……さらに強化したダグバを前に最期まで戦い抜いた姿は切なかったですが、彼らしい力強さも感じました!
響鬼に続いてアギト世界までもが滅亡確定するとは。既に参加者数も4分の1を切ってしまっている中、バルバがダグバに接触したので、これから何が起こるのかハラハラします……


883 : ◆JOKER/0r3g :2019/07/13(土) 23:17:16 EEMCRkWQ0
申し訳ございません、確認ミスで登場人物の時間軸が早朝(4~6時)になっておりました。
勿論放送後のお話ですので朝(6~8時)に修正いたします。


884 : 名無しさん :2019/07/15(月) 02:40:36 V9vL1RCY0
投下乙です。
葦原は最期まで、葦原であることをやめなかったなあ…合掌。

そしてダグバ。
まさか「ジョーカー態とグロンギ態」ではなく、それらを相乗させてくるとは…。
カリス/ジョーカーでも、エクシードギルスでも手も足も出ず。
近年の平成ライダーのラスボスと見比べてもここまで凶悪なのはそう居ない分、
いったいこの無理ゲー、どこへ行き着くのかも気になります。
助けてハイパームテキ。


885 : ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:01:45 77AZES9o0
お初にお目にかかります。
投下を開始します。


886 : 心の中の薔薇 ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:03:28 77AZES9o0


 美しい朝焼けをバックに大型車が西へ向けて進んで行く。

 G-4エリアの道路を走行するGトレーラーはこの短い時間の中で酷く損壊しながら、それでも搭乗者達を運ぶ役割を立派に果たしていた。
 ダグバという規格外に過ぎる怪物と三度も接敵していながら、そのいずれの場面においても活躍した頑丈な装甲に救われた者は多く、搭乗者に安心感すら与えていた。
 それは運転席に座るフィリップと、助手席に座る村上峡児にとっても例外ではない────数分前の出来事が無ければ。

 死んだと思われていたダグバのあまりに突然な襲撃と、葦原涼の献身による死。何の前触れもなくワープしてきた、などという馬鹿げた能力まで発揮してきたダグバにはこのGトレーラーですら安全地帯とは呼べなくなっていた。
 またいつ襲撃されてもおかしくはない────そんな緊張感からか、フィリップと村上の間には無言の重苦しい空気が漂っていた。特にハンドルを握るフィリップはかつてないほど険しい。

(橘朔也、葦原涼……彼らの犠牲を無駄にしないためにも、僕には為すべき責任がある)

 一刻も早く西側の参加者と合流し、ダグバの危険性を伝えなければならない。他にもできる限りの首輪の解除にダグバ対策の考案など、フィリップがやらなければいけないことは多い。

(翔太郎はダグバからブレイドを取り戻した。あんな恐ろしい怪物から……なら、彼の相棒である僕が立ち止まっているわけには行かないんだ……!)

 今は亡き仲間達、この会場のどこかで今も戦っている相棒に誓った決意がより強くハンドルを握らせる。
 速く、より速く、他の参加者との合流を目指して、フィリップはさらにスピードを上げた。脳裏にチラつく仲間達の喪ってしまった笑顔を思えば思うほど、速くなる。

「────フィリップくん? フィリップくん!」

(やらなきゃならないことに対して時間が無さ過ぎる。もっと速く────)

「フィリップくん!」

 耳を突き抜けたその声に、フィリップはハッとなった。
 思考の海に溺れかけ、注意力が散漫になっていたフィリップを村上の鋭い声が現実へと引き戻したのだ。
 明らかに出し過ぎていたスピードを緩め、自身の迂闊さを嘆く。
 ここでは法定速度など存在しないが、だからといって危険な運転をしていい道理はないのだ。村上がフィリップを呼び戻さなければ今頃大事故に繋がっていたとしてもおかしくはなかった。

「すまない、村上峡児。少し考え事をしていたみたいだ……」

「構いませんよ。それより、少し停車しましょう。休息が必要なようだ」

「なんだって……!?」

 今は一刻を争う事態だと村上も理解しているはず。それなのに何故。
 思わず感情的になって身を乗り出しかけたフィリップを制するように村上が手を突き出した。
 それは胸に軽く触れる程度のもので、行為の意図を図りかねたフィリップが疑問を口にしようとした時であった。


887 : 心の中の薔薇 ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:06:16 77AZES9o0
「えっ……?」

 フィリップの意思に反して、彼の身体は力が抜けたように運転席に倒れ込んだ。
 立ち上がろうとしても腕に中々力が入らず、そんな様をまるで滑稽だと言わんばかりに村上は溜息を吐いた。

「ご自分の不調を理解なさっていないようですね。そんな状態では首輪の解除にも不手際があるかもしれない」

「……問題ない。この程度の疲労は今までも数えきれないほど経験してきたんだ。今よりもっと酷いダメージを負ったこともあったけど、乗り越えてきたんだ」

 確かにフィリップは技術職寄りで体力もさほど無いが、元の世界からファングジョーカーとなって自分の肉体で戦うことも多々あった。この程度でへこたれるほど柔ではないと自負している。
 しかし、村上が再度吐き出した溜息には先ほどよりも多大な呆れが含まれていた。

「私が言っているのは肉体的な意味のことではありませんよ。貴方の精神的な疲労を少しでも解消しておくべきだと言っているのです。橘さんの首輪解除だけでも、貴方は極度のストレスを感じた筈だ。そして突然降りかかった仲間の死……別に負い目を感じる必要はありません。むしろこうして言い争っている方が時間の無駄になる」

「……駄目だ。休んでいる時間なんて僕達にはない。それに、ここで停まっていたらまたダグバに襲われる可能性だってあるんだ。もしそうなったら僕は葦原涼に顔向けできない」

「貴方は先ほど、ダグバが瞬間移動するようにしてGトレーラー内部に現れたと言っていましたね? どれだけの距離を移動できるかは不明ですが、ここに停まっていようが走っていようが、恐らく奴には関係なしに襲撃できる。奴がまだ我々を襲う気なら既にこの命は刈り取られている方が自然でしょう」

「それは……」

 村上の言っていることにはフィリップも一理あった。
 認めたくはないが、あのダグバを相手にして涼がまだ足止めをできている可能性は無いに等しい。涼を殺した後に相川始を追って即座にGトレーラーに追いつき、自分達を皆殺しにするなど奴には造作もないだろう。

 自分達がまだ生きていることはすなわちダグバが見逃した、もしくは何らかの事情で追跡を諦めたかのどちらか。

「だが待ってくれ。ダグバ以外にも危険人物はいるんだ、こうして停まっている間に襲撃を受ける可能性はまだある」

「フィリップくん、この休息はあくまで貴方に向けたものです。その間は私が見張りに立ちましょう。少なくともオーガギアと貴方のファングメモリがあれば、離脱は可能でしょう。……それとも、ここで無理をして葦原さん達の犠牲を無駄にするおつもりですか?」

「……わかった。少しだけ、ほんの少しだけの休憩だ」

 結局折れたのは、フィリップの方だった。
 仮にもダグバに単身で挑み、時間稼ぎをやってのけた男が言うのだから見張りの心配はしなくてもいいのかもしれない。
 それに彼の言う通り、ここでこうして議論することこそ時間の無駄遣いなのは間違いない。

「十分だけでいい。その後に出発しよう」

「いいでしょう」

 そんな短時間の休息が果たして身体にどれほどの回復を与えてくれるのか。
 フィリップはそんな愚痴を内心で零しつつ、しかし身体の方は正直に沈んでいく。村上の見立ては正しかったのだとフィリップの全身が認めていた。
 自身の非力さを仲間達に詫びながら、フィリップの意識は瞼と共に落ちていく。
 そうして重くなった瞼を閉じる直前、最後に見えたのは主人の意を汲んで眼を光らせるファングと、オーガギアを腰に巻いてトレーラーの後部に向かう村上の後ろ姿であった。


888 : 心の中の薔薇 ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:07:16 77AZES9o0
 *


(残りは十数人……随分と減ったものだ)

 若干の隙間風が侵入するトレーラーの後部に足を踏み入れた村上は、ふと先の放送内容を思い返した。
 村上にとって味方と言える人物はとてつもなく少なく、また死んでも構わない人物ばかりであったが、交流のあった人物達が軒並み死んでいくことには思うこともある。
 それは死者を偲んで感傷に浸るというよりも、「次に死ぬのは自分かもしれない」というこの先に待つ未来への危惧と言う方が正しかった。

「さて、時間もあまり無いことですし、さっさと済ませましょうか」

 村上が言い放ったその言葉に、まともな返事を返せる者は今はいない。用途不明のコンソールが並んでいるこのスペースにおいて、村上の他にいるのは未だに泥のように眠っている相川始のみ。
 村上は始が起きないことを確認してから、ベッドの側に置かれている彼のバッグに手を伸ばした。

 フィリップにああは言ったものの、村上はGトレーラーの外で見張りをするつもりなど最初からなかった。
 唯一無二の首輪の解除要員であるフィリップを休ませる目的は嘘ではないが、村上の狙いは他にもあった。

(相川始……やはり貴方は信用に足る人物ではない。できるなら今すぐにでも放り出したいところですが、そうした場合私の首輪が解除されるまでの時間が無駄に長引くでしょうね)

 かつては殺し合いに乗ってフィリップ達を襲撃したというだけでも信用できないというのに、こちら側に鞍替えした今でもダグバを誘き寄せる最悪の人物。
 それが村上の相川始に対する評価であった。
 このまま息を引き取ってくれれば助かるとさえ思うこの男をここで寝かせておくには不安要素が大き過ぎる。
 橘朔也や志村純一から聞いているアンデッドの特性を考えれば、早々に回復して走行中に背後から撃たれる可能性すらあるのだ。せめて彼の支給品くらいは確認し、危険な物は押収しておきたい。

 そう考えて始のバッグを物色し始めた村上はすぐに拍子抜けする羽目になる。

「中身がこれだけとは……同じジョーカーアンデッドでも装備は豊潤ではないと見える」

 思わずそう嘲笑してしまうほどに始の持ち物は少ない。
 彼の身体検査も込みで出てきた支給品は共通の一式を除いて、たった四種類しか無かったのだ。
 それは同じジョーカーアンデッドであり、マーダーというスタンスまで共通していた志村純一と無意識のうちに比較していたせいでもあった。しかし、彼自身に備わった変身能力が二つあることを考慮すればこれだけでも十分と言えるかもしれない。

 気をとりなおし、まず手に取ったのは彼らが戦闘に使うラウズカード。
 グレイブやギャレンが使用している瞬間を目にしてきたが、どのカードも有用な効果を発揮する優れた道具であった。
 だが、これだけを押収したところで村上の戦力になるわけでもなく、仮にこれらのカードを奪えば今後の戦闘で始が戦力外になるのは確実。メリットとデメリットは慎重に選ばなければならない。


889 : 心の中の薔薇 ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:10:04 77AZES9o0

 次に手に持ったのはラルクバックル。見た目からしてグレイブバックルと同型のものだろう。
 病院でのダグバとの会話からこのベルトが誰にでも使える仕様なのはほぼ間違いなく、それと同時に現時点で始に残された最後の変身手段でもある。
 これを押収した場合、あと約一時間半は始を無力化した上でフィリップか自身の変身手段を一つ増やすことができる。だがそれはつまり、仮にダグバが出た場合にも抵抗できなくなることも意味していた。時間稼ぎにもならなくなるのは悩みどころだ。

(この写真は無事持ち主の手に戻ったと。こんなになっても肌身離さず持つほどなら、精々大事にするといい)

 村上から見て三つ目の支給品、始のポケットから出てきた写真は特に問題ないだろうと判断して戻しておいた。家族写真など鼻で笑う価値もない。

 そして最後に残った支給品……それは村上にとって最も意外な物であった。

「まさかこんなものまで支給されているとは……相変わらず大ショッカーの考えていることは想像もつかない」

 村上が眺めているそれは、見方によっては武器と言えるかもしれない。
 しかし支給されたと思われる始に限らず、大部分の参加者はそうは思えないだろう。

 この支給品────なんの変哲も無い、ただの詩集を前にしては。

 村上も認める上の上たるオルフェノクの集団、ラッキークローバー。
 その一員である琢磨逸郎が愛読していた物と同じ本が支給され、こうして自身の手元に来たことに村上は奇妙な縁を感じずにはいられなかった。
 しかし、残念ながらここが殺し合いの会場だという現実を度外視しても、村上に詩を堪能する趣味は持ち合わせていない。精々教養に学ぶ程度か。

 さて、これで一通りの確認は済んだ。
 全ての支給品を並び終えたところで、村上は早々に判断を下す。

「……仕方ない、か」

 結論から言えば、村上はどの支給品も没収することなくバッグに戻していた。
 ラウズカードや詩集などやはり村上にはわざわざ押さえるまでもない。
 ラルクバックルくらいは押さえておいても良かったとは思うが、ダグバに対する肉人形にするつもりなら変身手段は残しておいた方がいいだろう。仮にラルクに変身して襲いかかってきたとしても、村上の脅威たり得るとは思えない。

 こうして結局この作業は無駄骨に終わってしまったが、確認することそのものに意義があった。リスクは可能な限り減らしておくのが村上の主義である。

「……ん?」

 フィリップが起きる前にさっさと戻そうと、最後に残った詩集を手に取った時、村上は奇妙な違和感を覚えた。
 観察してみると、ハードカバーの表面に何やら黒い汚れらしき痕があった。
 先ほど見た時には無かったそれの正体は考えるよりも先に村上の感覚が察してしまう羽目となる。


890 : 心の中の薔薇 ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:11:43 77AZES9o0


 その汚れはちょうど自身が手に持った箇所と同じところについており、また自身の掌から零れ落ちる極少量の灰。
 灰はオルフェノクの死の象徴。
 脳裏に蘇るは、灰の山となった乾巧の最後。


 嗚呼──村上は天を仰ぎ見た。

「────このタイミングで」

 バードメモリの毒素、オーガギアが身体に与えた負担、エターナルブレイクの直撃など、それらの積み重ねも原因の一つではある。
 しかし、根本はもっとシンプルだ。

 村上にオルフェノクとしての寿命が近付いている。

 オルフェノクの寿命は短い。その末路は乾巧が身を以て証明してくれている。
 手から零れ落ちた灰も単なる汚れではなく、彼の身体を構成している物質が役目を終えるかのように灰となって崩れていったのだ。

 まず感じたのは、途方も無い虚脱感。
 死を覚悟していなかったと言えば嘘になるが、まさかこんなところで限界が来るとは思いもよらなかった。
 灰となって崩れ去る自身の姿を幻視し、村上に感じたこともない怖気が走る。

(私が恐れている……? 馬鹿な、そんなはずはない!)

 流石に数日中に死ぬとまではいかないだろうが、それでも自分の生が残りわずかなのは疑いようもない事実。
 この会場を脱出したとして、元の世界に戻った途端に死ぬなど全く洒落にならない。

(オーガギアの使用はなるべく控えるべきか……戦闘も被弾は避けて────)

 焦りは不安となり、村上の思考を蝕む。自然と臆病な考えに向かっていく。
 内に広がる動揺が村上を支配しかけた時、彼の手から詩集がするりと落ちていった。

「ッ!?」

 ガァン! と音が鳴り、我に返る村上。
 落下の衝撃で詩集は開いた状態になっている。
 考えに夢中になって物を落とすなんて、らしくないミスを犯した自分に驚きながら詩集を拾おうとして、そこに書かれたとある詩が目に入った。

 世界は忌々しい。そう嘆き、作り変えようとした女性の詩。

 頭の中でその内容を訳して浮かべる。
 その気がなくとも瞬時に読み解き、訳してしまうのも社長たる所以か。
 前述した通り村上には詩に対する興味などないが、それでも詠んでしまった詩は在りし日の自分を思い起こさせた。

(世界は忌々しい……種族は違えど、思うことは同じか)

 村上にもオルフェノクと人間は共存できると信じていた頃があった。だがスマートブレインという組織で上り詰めていくにつれて、人間とは差別と迫害に満ちた醜い下等生物なのだと強く実感していった。
 人間に歩み寄ったオルフェノクは漏れなく忌み嫌われ、場合によっては悲惨な死を遂げることも珍しくなかった。
 だからこそ、そんな世界を変えるため、オルフェノクの世界を作り上げると決意したのだ。

(私としたことが少々怖気付いて琢磨さんの二の舞になるところでした。自分の使命を忘れて、みっともなく生にしがみつくなど下の下……いや、それ以下か)

 もう村上は死を恐れてはいない。恐れているのは、オルフェノクの未来に貢献できない自分自身。
 王を復活させ、オルフェノクという種族に繁栄を齎すことこそ村上に課せられた使命。この殺し合いもその通過点でしかないのだ。
 そもそも出し惜しみして生き残れるような生易しい戦いではない上、ここで足掻いても寿命の問題は解決しない。

 村上は自嘲の笑みを浮かべて、詩集を始のバッグに戻しかけ、しかしそこではたと思い直し、自身のバッグに入れ直した。無断で持ち出すことには若干抵抗は感じこそすれ、こんな詩集ごときは始が気に留めるとは思えない。
 役に立つとも思えないが、自戒の意味も込めて持っておこうと思っただけだ。それ以上の他意はない。

(そろそろ十分経った頃か……ふん、ダグバに襲撃されなかっただけでも幸運と思うことにしよう)

 大して収穫の無かった休息もそろそろ終わろうとしている。
 村上は眠りこけている始を気楽なものだと一笑を付けて一瞥した後、トレーラーの前部に足を向けた。


891 : 心の中の薔薇 ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:14:59 77AZES9o0
 *


「どうです、少しは楽になりましたか」

「ああ、もう大丈夫だ」

 トレーラーを運転するフィリップはその言葉とは裏腹に未だ疲れが残っているようだ。
 運転を代わってやってもいいのだが、この様子だと助手席でうたた寝されるかもしれない。いざという時に村上一人しか起きていないのはかなり危険になる、と考えてあえてそのままにしている。

 前方に見えてきた橋からG-3エリア、つまりはこれから自分達は禁止エリア予定領域を脱する。

「願わくば友好的な参加者と出会いたいものです」

「同意見だ」

 橋で起こっている戦闘に村上はまだ気付いていない。
 無論、そこには彼が追い求めた存在──アークオルフェノクがいるなど夢にも思っていない。

 そして……アークオルフェノクの祝福を受ければ寿命問題は解決することも。

 村上自身とオルフェノクという種族の未来を左右する選択はすぐそこまで迫っている。

 その時、彼が下す決断は────


【二日目 朝】
【G-4 道路】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、サイクロンドーパントに1時間30分変身不能、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ、Gトレーラーを運転中
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ギャレンバックル+ラウズアブゾーバー+ラウズカード(ダイヤA~6、9、J、K、クラブJ~K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:西へ向かい、仲間達と合流する。
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除には成功できた、けど……。
5:葦原涼の死は、決して無駄にしない。
【備考】
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をGトレーラーのトレーラー部分に載せています。



【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、自身の灰化現象による不安、Gトレーラーの助手席に搭乗中
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555、カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式 、詩集@仮面ライダー555
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:死は恐れない。だが……。
2:ダグバ、次に会えば必ず……。
3:乾さん、あなたの思いは無駄にはしませんよ……。
4:首輪の解除に関してフィリップたちが明らかな遅延行為を見せた場合は容赦しない。
5:デルタギアを手に入れ王を守る三本のベルトを揃えてみるのも悪くない。
6:次にキング@仮面ライダー剣と出会った時は倒す。
7:葦原さんは無駄死にですよ。
【備考】
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。
※今後この場で使えない、と判断した人材であっても殺害をするかどうかは不明です。
※オルフェノクの寿命による灰化現象が始まりました。現状のままでも寿命を迎えるのはまだまだ先ですが、戦闘に何らかの影響を及ぼすかもしれません。


892 : 心の中の薔薇 ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:15:29 77AZES9o0

【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、気絶中、ジョーカーアンデッドに1時間30分変身不能、仮面ライダーカリスに1時間30分変身不能、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、橘と葦原への複雑な感情
【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため行動する。必要であれば他者を殺すのに戸惑いはない。
(気絶中)
0:大ショッカーを打倒する。が必要なら殺し合いに再度乗るのは躊躇しない。
1:取りあえずはこの面子と行動を共にしてみる。
2:再度のジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
4:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
5:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
6:乃木は警戒するべき。
7:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)は倒す。
8:ジョーカーの男(左翔太郎)とも、戦わねばならない……か。
9:葦原……。
【備考】
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。
※取りあえずは仮面ライダーが大ショッカーを打倒できる可能性に賭けてみるつもりです。が自分の世界の保守が最優先事項なのは変わりません。
※乃木が自分を迷いなくジョーカーであると見抜いたことに対し疑問を持っています。

【備考】
※Gトレーラーの後部に穴が二カ所(天井と壁)空いています。スパイダーショックを使い現在は塞がれていますが、多少の隙間風はありそうです。


【詩集@仮面ライダー555】
相川始に支給。ラッキークローバーの一員、琢磨逸郎が持ち歩いていた詩集。
スネークオルフェノクのパンチを防げる程度には頑丈で、上級オルフェノクならば攻撃にも使える……かもしれない。


893 : ◆sWWWFIAw32 :2019/07/15(月) 21:16:46 77AZES9o0
かなり短くなってしまいましたが、これで投下を終わります。
批判等あればよろしくお願いいたします。


894 : 名無しさん :2019/07/15(月) 21:26:06 Hq02R8zM0
初投下乙です!
村上社長は同行者を気遣ってくれるかと思いきや……真意は他にあったとは。
そしてまさかの琢磨くんの詩集が出た瞬間、村上社長にもついに「その時」が訪れようとしているなんて。確かに、彼の戦いを考えると無理はないのかもしれませんが。
このまま進めば王とも巡り会うでしょうし、その時になったら彼はどんな選択をしてくれるのか?


そして月報の時期なので集計をします。
142話(+ 4) 15/60 (- 1) 25.0 (- 1.7)


895 : ◆JOKER/0r3g :2019/07/15(月) 21:58:29 v2g7qw020
投下乙です!
自作から僅か3日足らずでリレーをしていただけるとは、リレー企画の肝である臨場感と興奮を久しぶりに感じました。

さて肝心の内容に関してですが、フィリップの休息を取らせつつ始の戦力を奪おうと画策する村上社長は策士の一言。
近づく寿命を自覚しつつ、それでも使命の為に戦い続ける決意を固める彼の姿はやはりオルフェノクからすれば英雄なのだなと感じました。
一方でフィリップも多くの仲間の死を受けてちょっと焦り気味。……メタ的な視点で言うとここから先助手席の彼も盤石の信頼がおけるわけではなさそうですが、さてどうなることやら。
ともかく私の話で書いていなかった部分の補完のようでありその実前回まで書いてきた彼らとはまた別の一面が垣間見える面白いSSでした。

あと、一つ指摘なのですが、村上社長からのフィリップへの呼び名は「さん」付けですので、一応そこの修正だけお願いしたいと思います。


896 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:53:02 /PLf8jsQ0
ただいまより投下を開始いたします。


897 : nameless ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:53:30 /PLf8jsQ0

――思えば、彼らが出会うのは必然だったのかもしれない。
この場で得た仲間との絆を信じ、かつて拒絶された世界をも愛し全てを救うため天の道を往く天道総司――に擬態した、名もなき男。
元の世界の仲間を破滅から守る為、全ての世界を滅ぼす冷酷無比な魔王の道を往くキング――紅渡。

同じ男を師に持ち、生涯の友を喪い、そして生来からの名を捨て死者の名を騙る二人の男たち。
あまりに多い共通点を持ち、それぞれ想像を絶する苦難を乗り越えてきた彼らの見る方向は、しかし真逆を向いていた。
師を慕いその正義を信じる者と、師の差し伸べた手を振り払った者。

世界の破壊者をも肯定する者と、その一切を否定する者。
失われた過去の記憶や繋がりをも手繰り寄せようとする者と、過去と未来全ての記憶から自身を消し去ろうとする者。
そして或いは――元の世界に愛すべき女性を残して来た者と、自身の手でその命を奪った者。

彼らはその共通点をも無視して、決して分かり合えない。共通点の多さを覆すほどに大きな互いの譲れぬものの為に。
なれば果たして彼らが出会う時、一体何が起こるのか。
その答えを示す瞬間は、もうすぐそこにまで迫っていた。





「ん〜!」

ようやく長く暗い夜の沈黙を抜けその全容を露わにした太陽の光が、市街地の街並みを美しく彩っていく。
それを傍目で見やりながら、総司は真正面から太陽を見据え思い切り伸びをした。
溜まった疲労からか節々から鳴る間接の音と共に、彼は身体の奥底から湧き出すような活力を感じていた。

だがそれは別に、太陽光には人を前向きに活動させる成分を分泌する効果があるから、などと堅苦しい理由からではない。
ただそこにあるだけで世界の全てを照らし輝かせる圧倒的な存在、太陽。
かつては逃げ道を奪われるようでそれを目にするのも憎々しかったというのに、今はその日の下にこそ自分の生きるべき世界があるのだとそう思えるから。

そんな風に考えられるようになった他ならぬ自分自身の心境の変化が、総司にとっては何よりの生きる力となっていた。

「……ふぅ」

朝日から得られるエネルギーを補充し終えたように伸びを終えた総司は、どこへ行くともしれぬ自分の旅について思いを馳せる。
自分がもう自分として迷わない為に必要な“何か”を得るために名護からも離れてわざわざ街までこうして一人出向いてきたというのに、この2時間ほど誰とも出会えていない。
全ての変身制限が解除されたと言えば聞こえはいいが、果たしてこんな調子で胸を張って仲間の元へ帰れる時は来るのだろうかと、少し不安になってしまう。

迷いや疲れから来る先行き不透明な未来に対し溜息をついた総司は、ふとその視界の端に映る色濃い影に気付いた。
背の高い建造物に阻まれ陽の光が届かぬそこは、太陽に拒まれた者たちが息を潜め夜が来るのを待つ為の深い闇。
太陽が全てを照らそうとすればするほどその闇を深めていく、どこまでも消えない絶対の領域である。

かつて総司自身も住みかとしていたその静かな暗闇は、時として明るすぎる日の光よりも人に居心地のいい安らぎを与える。
特にこれから誰かの命を奪う非道を為そうとする悪にとっては、特に。

「……」

ふと自身の中に過った可能性が気にかかり、総司はその闇へと近づいていく。
せめて少し、その中に誰もいないことだけでも把握できればとそう考えて。
だが闇から離れた僅かな時間で、彼は忘れていた。

光が闇を覗く時、闇もまた光を覗いているということを。
深淵を覗こうとする者は、決して自分一人ではないということを。


898 : nameless ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:53:55 /PLf8jsQ0

「な……」

故に、絶句する。
今まさしく影の中からその身を現したその青年の存在を、一切予想していなかったから。
光と闇、その境界線を前にしてそれぞれの側に立つ彼らの出会いは、やはり運命的と呼ぶべきものだった。

「……君の名前は?」

突然の出来事に流れた沈黙を打ち破るように問うてから、総司は影の中に立つ青年の姿を今一度よく観察する。
着ている衣服は全体的に本来の色から更に赤く染まっていて、恐らくはこの殺し合いの中で少なからず人の生き死にに関わってきた事が窺える。
それだけで殺し合いに積極的か否かを判断できる材料になるとは到底思えないが、総司にとっては何より青年の冷たく光る瞳が、何より印象的だった。

「僕の名前は……」

青年はそこまで言って、不自然に言葉を詰まらせた。
焦り故に舌を噛んでしまった、という様子ではないことは、彼の苦虫を噛み潰したような表情が示している。
何らかの事情があって名乗る事が出来ないのだろうか、とすぐに勘づいたのは、皮肉にも総司自身以前まで同じような葛藤を抱えていたからだ。

何か特別な理由があるのだろうと推測して、総司は申し訳ない気持ちを吐き出すように一つ咳払いした。

「……ごめん、名乗るならまずは自分からだよね。僕は天道総司、よろしくね」

「天道総司……?その人は確かもう……」

敵意はないと伝える為に努めたものの、自身の名乗った名前そのものに青年は不信感を抱いたようだった。
とはいえそれも当然の事。“天道総司”という名は、既にこの会場においては6時間以上前に死を告げられた男のものなのだから。
これまで仲間や事情を把握している相手の前でだけ名乗っていた為に理解し切れていなかった、死者の名を騙る、という行為が他者からどう見られるかを初めて実感して、総司は一つ唾を飲み込んだ。

(どうしよう、本当は“僕の名前”を名乗るべきなんだろうけど、でも――)

今度は総司が、言葉を詰まらせる番だった。
今の状況で最も避けなくてはならないのは、青年に自分が『偽名で他者を欺こうとする信用ならない人物』として警戒されてしまうことだ。
そうなれば円滑な情報交換が妨げられるだけではなく、最悪敵として見られる可能性もある。

だが一方で、名護や翔太郎、士と言った仲間たちやカブトゼクターまでもが認めてくれた“天道総司”としての自分を否定するのも違う、と心が訴える。
誰からどんな目で見られようとあの天道総司の代わりに彼がやり残したことをやると決めたのだから、この程度のことで安易にやめるわけにもいかなかった。
だがそれでも、まだやはり自分の本名を名乗るのには躊躇いがある……と思考の泥沼に陥りかけた総司はそれでも、何とか言葉を紡ごうと口を開く。

「ごめん、実は僕の本当の名前は――」

「――総司か、久しぶりだな」

「え、キバット!?」

ふと舞い降りた聞き覚えのある声の方向へ目をやれば、そこで浮遊するのは先ほどまで自分たちと行動を共にしていたキバットバットⅡ世その人。
意表を突くその登場に総司が驚きを示す一方で、青年は一層低く冷たい声を彼に向けていた。

「……キバットバットⅡ世、何故今出てきたんですか?貴方には何も指示を出していないはずですが」

「指示を出されていないからだ。王の命令があればともかく、ないのであれば俺は俺で好きに動かせてもらう」


899 : nameless ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:54:20 /PLf8jsQ0

互いに相手を牽制するような口調を続ける青年とキバットの間に、特別な信頼関係のようなものは見て取れない。
だが二人が共にいたということは、とそこまで考えて総司は以前キバットが口にしていた言葉を思い出す。

「待ってキバット、君はさっき会ったとき言ったよね?君の鎧を纏う人は、自分が認めた王だけだって。もしかして、この人がそうなの?」

それは翔太郎や翔一と共にダグバと戦っている最中、乱入してきた黒い仮面ライダーに関して名護が問うた時のこと。
ベルト部分にぶら下がるように鎮座していたキバットは、鎧の下にいる人物を自分たちの世界を破滅から守りうる王だとしてその存在を隠していた。
或いは彼があの時の仮面ライダーなのではないか……そんな疑問を総司が抱くのは、至極当然のことであった。

「そうだ、この男こそが俺たちの世界を守りファンガイアの未来を繋ぐ新生の王、俺様の管理する闇のキバの鎧を纏うに相応しい力を持つ者だ」

「俺たちの世界を守りって……それじゃあもしかして君が紅渡くん……?」

「その話を知っていると言う事は……まさか貴方、あの時の白いキバですか?」

「そうだよ。それで君はあの時の黒い仮面ライダー、なんだよね?」

「……ええ。ということはつまり、貴方が名護さんの新しい弟子……ですか」

総司の問いに頷いた渡の脳裏に、弟子の危機に師匠が現れるのは当然――そんな言葉と共に自分に攻撃をしてきた名護の姿が呼び覚まされる。
白いキバの鎧を身に纏い名護と共に自分の前に立ちはだかった彼と、此度は素面で対峙していることを自覚して、渡は自分の中に言い知れぬ感情が沸き起こりつつあるのを自覚する。

それが嫉妬であるのか、苛立ちであるのかはまだ説明出来ないけれど。
少なくとも良い感情ではないということは、痛いほど分かっているつもりだった。
そして、一方の総司の中にも、様々な感情が迸っていた。

名護の弟子と出会えた喜びも、切望した彼と以前既に敵として対峙していた悲しみも、ある意味では想像通りのスタンスらしいと納得する自分自身へのやるせなさも。
ありとあらゆる感情の奔流の中、総司が最後に抱いたのは、戸惑いだった。
目の前の彼と名護の言っていた心優しい渡のイメージが、どうしても結びつかなかったから。

本当に彼が名護の大事な一番弟子、紅渡その人なのか、未だどうしても確信を持つ事が出来なかった。
互いに互いを無意識のうちに探していた両者の視線は、先ほどまでにも増して緊張感を孕んでいる。
だがその空気の中でどう話を切り出すべきかという躊躇を先に飲み込んだのは、総司だった。

「……そうだよ、僕は名護さんの弟子。渡くん、君と同じように」

「いいえ、それは違います。僕はもう紅渡でも、名護さんの弟子でもない」

「弟子じゃない?名護さんがそう言ったの?」

「違います。僕が名護さんから、大事なものを奪ったからです」

「それは……君についての名護さんの記憶?」

伏し目がちに放たれた総司の言葉に、渡は思わず目を見張る。
かつてゼロノスのベルトの力を使い、名護の記憶から自分を消したという、最早自分以外知り得ぬ罪。
総司を突き放す為に使うはずだったそれを、まさか向こうが把握しているとは思っていなかったから。

「やっぱり……そうなんだね?」

渡の沈黙を肯定と受け取った総司は、どことなく寂しげな声音を吐いた。
ブラフだったか、と舌打ちをしそうになるが、先ほどの言葉にさほどの迷いが見られなかったことを考えれば、恐らくは裏付けが出来なかっただけでほぼほぼ確信していたのだろう。
顔を顰める渡の一方で、総司はその拳を強く握り締めていた。


900 : nameless ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:54:41 /PLf8jsQ0

「なんで……名護さんから自分の記憶を消すなんてしたの?大切な思い出を忘れちゃうことがどれだけ苦しいのか、分かってるの……?」

総司の言葉はいつしか震え、その瞳には涙が浮かんでいた。
ネイティブに改造される前の人間だったころの記憶を持たない今の自分にとって、記憶の空白に覚える虚しさは誰よりも理解できる。
例えどんな理由があったとしてそれを名護に味合わせた今の渡に対して総司が複雑な感情を抱くのは、至極当然の事であった。

「思い出を忘れる苦しみ……?過去を覚えている苦しみに比べたら、そんなもの……!」

だが、総司の悲しみを真正面から受けてなお怯むことなく対峙する渡は、その顔を怒りに染めていた。
渡が名護の記憶を消したのは、渡にとって決してその場凌ぎの逃げではない。
名護の弟子である“紅渡”と残忍な“キング”の間に存在する溝を、名護が一緒に纏めて抱え込む必要などないと思ったから。

大ショッカーの言葉に従い他者を殺し裏切り続ける今の自分と彼のよく知る紅渡との間のギャップに、彼が苦しむ必要などないのだから。
かつての弟子と仲間を天秤にかけそのどちらかを手にかけねばいられないような矛盾など、彼が抱える必要はないのだ。
自分はただ、誰からも同情されることさえなく、数多の憎しみを一身に背負って最後に死ねばいい。

それで自分の世界は救われ、全てはハッピーエンドで終わる。それが一番誰にとっても素晴らしいことに違いない。
そうして渡なりに必死に考えて出した結論はしかし、そんな理想は間違いだという様に現れたこの男によって否定されようとしている。
自分が名護の記憶を消したという情報さえ持って、その罪さえも“紅渡”が犯した過ちとして一緒に束ねようとしてくる。

そんな総司の存在そのものが、どこまで堕ちても差し伸べられる名護の手そのもののようにすら感じて、渡は最早意固地になってそれを振り払おうとしていた。

「名護さんは僕のことなんて忘れるべきなんです、正義の味方としてあの人が生きるためには、僕は邪魔以外の何者でもないんだから」

「違うよ、思い出のせいでどれだけ苦しんだとしても……嫌な思い出だけ都合よく忘れて幸せになんて、そんなの間違ってる!それに、名護さんは渡くんの事とても大切に思っていたんだよ?邪魔だなんてそんなこと、思っているはずがないよ!」

「えぇ、だから紅渡がいた場所に、僕はもう戻れない。キングの称号を受け継いだ、今の僕では」

キング。ファンガイアの未来の為、身を粉にして戦った偉大なる先代の王が最期に自分に託した一族最高位の称号。
紅渡という個人を捨てそれを自分の名として名乗れば、自分は彼の誇りを借りてどんな冷酷な判断でも下せるような気がしていた。
だからこそ渡は一人でも戦うことが出来たというのに、それを今また名乗った渡の表情に、もう以前のような気高き王の威厳は見られない。

キングという名を“一番強いから”などという不遜な理由で名乗り、生涯の親友を殺したあの邪悪の顔が、どうしてもチラついてしまうから。
だというのに今またキングを名乗ったのは、総司の追及を逃れるための逃げでしかない。
どう取り繕ったってわかり切っている自分の弱さが、何より心苦しかった。

「名護さんが“紅渡”をどれだけ大切に思っていたとしても、キングである僕の存在は彼にとって後悔や汚点にしかなりません。それで名護さんが傷つくくらいなら僕は、あの人の記憶から消えたって構わない」

「そんなの……結局名護さんと向き合うのが怖くて逃げただけじゃないか!」

「逃げ……?僕はただ名護さんが僕を敵として戦う時も苦しまなくて済むようにって思って、だから――」

「――じゃあ何で、あの時名護さんや僕の前から逃げたの?」

痛いところを突かれた、と渡は思わず歯噛みする。
ダグバを倒した後、残る参加者を手にかけようとした自分の前に記憶を失った名護が再び現れた、あの瞬間。
名護が躊躇なく自分を攻撃してきたという事実がどうしようもなく胸に響いて、自分はそこから眼を背けてしまった。

本当は名護が自分を敵とみなしたことさえ好都合と考えて、仮面ライダーの倒すべき悪として戦わなければならなかったのに。
少なくともあの時逃げた理由は疲労や連戦への不安よりも心的要因にあるということは、逃れようのない事実だった。
黙りこくった渡に向けて、総司は歩幅一つ分距離を進める。


901 : nameless ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:54:58 /PLf8jsQ0

「……ねぇ、渡くん、君が名護さんを守りたいって思ってるのは分かってる。でも……わざわざこんな風に皆が悲しくなるような守り方をしなくてもいいじゃないか」

「皆が悲しくなる……?」

「そうだよ、記憶をなくして大事な弟子との思い出を失った名護さんも、それを見る僕らも、そして大切な人と無理矢理戦おうとしてる渡くんだって……こんなの皆辛いだけだよ」

言いながら総司はまた一歩、ゆっくりと渡との距離を詰める。

「もうやめよう、渡くん。僕らが戦う必要なんてない。君が全部抱え込もうとする必要なんてないんだ」

「いいや、貴方にはなくても、僕にはある。キングの称号を受け継いだ者として、王の道を往く必要が」

「違うよ、君はキングなんかじゃない、紅渡でしょ!?」

「なら貴方も……天道総司なんかじゃない」

思わず、総司の足が止まる。
元の名を捨て天の道を継いだ自分と、紅渡の名を捨て王の道を往こうとする今の彼との間に、何の違いがあるというのだろう。
渡にだって自分と同じくらい相当の覚悟があって、それを表明するためにキングを名乗る事情があるのだろうと思うと、どうしても総司はそれを否定する事は出来なかった。

「僕はもう、名護さんの隣を歩けるような人間じゃない……これだけの罪を重ねた僕なんか、あの人と一緒にいて良いわけがない」

「いて良いに決まってる!名護さんは全部の世界を滅ぼそうとして自分勝手に仮面ライダーを殺した僕のことだって支えてくれた……君のことだって、許してくれるはずだよ!」

「確かにそうかもしれません。名護さんは、こんな僕でもきっと許してくれる。だけど……そんな僕のことを、僕自身が絶対に許せない」

渡はそのまま、強くその拳を握りしめる。
総司の言うとおり、名護は自分の記憶を消したことさえ引っくるめてその罪を許してくれるかもしれない。
だがそんな彼の優しさに付け込んでしまうのは、絶対にしてはいけないことだと彼は思っていた。

一度差し伸べられた名護の手を逃げるように拒絶しておいて、今更『キングを名乗るのが辛くなったからやめます』だなんて、そんな都合の良い事が許されて良いはずがない。
例え親友を殺した男と同じ名を名乗る辛さを抱えたとしても、自分にはやはり紅渡としての道はもう残されていないのだ。
であればやはりもう……幾ら逃げと罵られようと、自分は王として戦い続けるしかないではないか。

「じゃあ君は、許せない自分に罰を与えるためだけに戦うつもりなの?そんなやり方で世界を守ったって、意味なんかないじゃないか……!」

「意味なんて必要ありません、僕は僕の大切な人たちを守って、世界を救って……それから全部の罪を背負って死ぬ。皆の記憶からも、綺麗に消え去って」

「だからなんで……なんでそんな……!」

悲しい結末を望むのと続けようとしたのに、込み上げてくる感情が言葉を飲み込む。
代わりに溢れ出そうとした涙を必死に押し止めながら総司は、こんな悲しい物語があっていいはずがないと思った。
渡の理屈は、一見すれば通っているようにも思える。

紅渡ではなくキングとして生きる事でその手を血に汚してでも世界を守り、その後に変わり果てた自分に悲しむ人間がいなくなるように記憶を消す。
そうして紅渡という人間そのものを消し去ってしまうのだから、今はどれだけ苦しくても止まるわけにはいかないのだ、ここで止まれば今までの全てが無駄になってしまうのだと。
それは確かに名護から聞いた渡の人物像から想像出来る通りあまりに優しすぎる物語で……そしてそれ以上に、あまりに悲しすぎる。

名護を始めとする渡の世界の人々が、彼がそうまでして世界を守ることを望むはずがないのに。
それを自分の責任だと抱え込んでしまうこと自体が、彼らにとって何より悲しい事のはずなのに。
渡はそれから目を背けて、自分だけが苦しみを背負い込めるつもりでいる。

だが、それは不可能だ。自己犠牲で得られるハッピーエンドなんて存在しない事を、総司は既に知っている。
海堂や天道、それに名護や士が教えてくれたのだ。どれだけ辛くても、罪を背負って生きていかなければならないのだと。
なればこそ総司は今の渡の事を、このまま見過ごすわけにはいかなかった。


902 : nameless ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:55:26 /PLf8jsQ0

「理解されようとも思いません。ただこれが僕の進むべき道……貴方たちとは決して交わらない、王としての道です」

「渡くん……」

「――僕の名前は紅渡じゃない、キングだ!」

決別の意を込めて再び名乗った渡の瞳からは、既に迷いが失せていた。
理由は単純。自分が紅渡を名乗り戻るべき場所に、既に今の自分より相応しい人間がそこにいることを、理解してしまったから。
天道総司を名乗るこの青年との会話の中で、渡は彼に過去の自分を見てしまった。

名護を敬愛し、彼の弟子としてやれることは何でもやろうという意思に溢れていた、あの頃の自分。
ファンガイアと人の架け橋になろうと無力ながらに努力していた自分と、名護と自分の架け橋になろうとする目の前の青年が、どうしても重なって見えた。
しかし……いやだからこそ。名護の側に自分がいるべき場所はもう残されていないのだろうと、そう思った。

自分勝手なのは分かっている。記憶を消したのは自分なのだし、元々こうなることこそが望みだったのだから。
だけれども自分が“紅渡”としているべき場所でやるべきことをやってくれる存在がいるのであれば……やはり今の自分は、王の道を進むべきではないのか。
他の世界をどれだけ犠牲にしても勝ち残り護りたい者を護る……その使命を成し遂げられるのは、やはり今の自分を置いて他にいないのだから。

先ほどまでとは鋭さの違う渡の真っ直ぐな瞳を受けて、総司は一瞬俯く。
きっと渡は、かつての自分よりもずっと強い意志で“仮面ライダーの敵”でいようとしている。
そんな彼の決意は悲しすぎるが、同時に救う道もまだ残されているのではないかと、彼は想った。

心優しい彼がキングで居続けられるのは、その冷酷な意志と同じくらいに名護を始めとする仮面ライダーが自分のような悪を裁いてくれるという信頼の現れでもあるのではないかと。
つまりは渡が仮面ライダーの正義を深く理解し、そして信じているからこその選択ではないかと、総司は感じていた。
なれば自分の成すべきは一つだと、総司は渡のそれに負けないほどの強い意志で以て彼の双眸を睨み返す。

彼が内心信じているだろう仮面ライダーの正義、それを示す事こそが自分の使命だと、そう信じて。

「……わかったよ、君がどうしても王としての道を往くつもりなら、僕は――天の道を往く」

心中に抱いた決意と共に、総司は人差し指を天に向け高く掲げる。
眩い太陽と重なったそれに呼応するように、赤い軌跡を描いてカブトゼクターがその姿を現した。
自身の主を示すように総司の周囲を二度回ったゼクターは、そのまま彼の右手の平へと収まる。

「ある人が言ってた……『仮面ライダーは皆を護って世界だって救ってしまう正義の味方だ』って。だから僕も、君を救ってみせる。仮面ライダーの端くれとして!」

「僕には救われる必要なんてない……貴方を殺して、今度こそ僕は、僕の進むべき道を往く!」

手にサソードヤイバーを構えながら、渡は総司を睨み付ける。
考えてみれば今まで自分は、名護やユウスケなど、自分に対して手を差し伸べてくる相手から逃げてばかりだったのかも知れない。
記憶を消すだけであったり、戦況の変化を理由にして殺すのを戸惑ったり、言葉に反してその命を奪うことが出来なかったが故に、どこまでもこうしてその手が伸びてくるのかも知れなかった。

どこかに未だ存在する“自分は故意に仮面ライダーを直接殺してはいない”という甘えが自分の中に“紅渡”として生きられるかもしれないという迷いを生んでいるのだとすれば。
そしてそのツケが回った結果としてキバットが犠牲になってしまったのだとすれば。
例え名護やキバットがどれだけ悲しむ事になろうと、自分はその逃げ道を塞ぐほかあるまい。

名護が弟子として愛し、そしてかつての甘い理想を掲げる紅渡そのままのような総司をこの手で直接殺して初めて、自分の道は引き返せないところまで行くのだ。
それが自分の往くべき、自分の選ぶべき王の道なのだと自身に言い聞かせるようにして、彼は地中より飛び出したサソードゼクターをその手に掴む。

――STAND BY

「変身」

――HENSHIN

向かい合った両者はほぼ同時に変身を完了する。
総司はカブトへ、渡はサソードへ。
ゼクター自身が己の力を操るに相応しい資格を持つと認めた彼らが抱く思いは、それぞれ真逆だ。

総司は自分を救ってくれた仮面ライダーのように、渡を救い共に歩む為に。
渡は総司を殺して自分の中に残る過去の“紅渡”を消し去り、後戻り出来ない王の道を進む為に。
同じ師を持つよく似た二人は、自身の継いだ道こそが正しいと証明する為に、今思い切り大地を蹴った。


903 : nameless ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:55:44 /PLf8jsQ0


【二日目 午前】
【D-2 市街地】


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、不安と安堵、仮面ライダーカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
0:もう迷わない強さを見つけるために、“旅”をしてみる。
1:渡くんに勝って彼を救ってみせる。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:士が世界の破壊者とは思わない。
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、翔一、ごめんなさい。
【備考】
※自分が翔一を殺したのはキングの罠であることに気付きました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、信じていません。



【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、迷い、キバットの死への動揺、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、今後への困惑と混乱、仮面ライダーサソードに変身中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:……自らの世界を救う為に戦う。
1:総司君を殺して、後戻り出来ない王の道を往く。
2:大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件……?次会ったときは……。
4:始の裏切りに関しては……。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:僕は『紅渡』でも『キング』でもない。だけど紅渡には絶対に戻れない。
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも……?
7:キング@仮面ライダー剣は次に会ったら倒す。
8:もう逃げない。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キング@キバを知りません。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しましたが、ユウスケの言葉でその討伐を迷い始めています。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。
※サソードゼクターに認められました。
※未だキバットバットⅡ世とサガークにキングとして認められているかは不明です。


904 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/09(金) 11:56:22 /PLf8jsQ0
以上で投下終了です。
ご意見ご感想ご指摘等ございましたらよろしくお願いします。


905 : 名無しさん :2019/08/09(金) 12:20:44 V72AGn7k0
投下乙です!

今回の二人の共通点とも言える「ロワ内で得た別の名前」。互いにその名を名乗ることを認められていながらもその心中は真逆な二人の対話が戦闘にもつれ込むのは必然でしたね……。
キングルートにまた舵を切り始めた渡の今後が心配でなりません……


906 : 名無しさん :2019/08/09(金) 12:36:20 6NQS7K.w0
投下乙です!
罪を背負い、名護さんたちの弟子になった男たちによる死闘が始まるとは! 渡はまたキングの道に歩みましたが、そんな彼を総司はどう導いてくれるのでしょうか?


907 : 名無しさん :2019/09/15(日) 16:26:24 5.MLdLuE0
月報なので集計します。
143話(+ 1) 15/60 (- 0) 25.0


908 : ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:26:32 qCm.BjPQ0
これより投下を始めます。


909 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:28:32 qCm.BjPQ0

「通りすがりの、仮面ライダー……だと?」

 怪訝な表情を浮かべる名護啓介を前に、門矢士は不敵な笑みで応える。
 総司を必死に探したその姿を見て、やはりこの男も信頼できる仮面ライダーの一人だとすぐに気付いた。もっとも、今は亡きヒビキや橘朔也も名護のことを仲間と認めていたから、疑う余地など微塵もないが。

「……まさか、門矢士……そしてディケイドとは君のことなのか!? 世界を破壊する悪魔と、恐れられた男が……」
「なるほど。俺のことをよく知っているみたいだな。
 その通りだ。俺は世界の破壊者……絶望と悲劇を齎す悪魔と恐れられたこともあったな」

 胸を張りながら宣言した瞬間、名護の表情は驚愕に染まった。
 やはり、この男も何かを吹き込まれたのだろう。アポロガイストがディケイドの脅威を紅渡に遺したように、何者かが名護に自分の悪評を伝えたらしい。もちろん、ディケイドが世界を破壊する悪魔であることに変わりはないため、否定するつもりは微塵もないが。
 だが、ここで名護と戦うわけにはいかない。この男を破壊することはヒビキと橘はもちろん、総司に対する裏切りにも繋がるからだ。

「……いいや、嘘をつくのはやめなさい」

 しかし、名護からの返答はあまりにも予想外だった。

「俺はこれまで、数多くの犯罪者と……そして平和を脅かす悪と戦い続けてきた。
 その多くの者たちには、共通点があった……怒りと憎しみ、そして他者を踏み躙ろうという悪意が表情に満ちている。だが、君にはそれがない」
「ほう……お前の目には、俺が清く正しい清廉潔白な人間に見えるのか?」
「君の過去に何があったのか、俺は詳しく知らない。しかし、君を信頼する人間はいる……小野寺ユウスケ君のように。だから、自分を卑下するのはやめるんだ」

 名護の口から出てきた名前に、ほんの僅かだが感情が動かされる。
 小野寺ユウスケ。いくつもの世界を巡った士にとって、始めて出会った旅の仲間にして、共に困難を乗り越えた相棒だ。そんな彼の笑顔と、この手で命を奪った五代雄介の最期が同時に浮かび上がり、思わず俯きそうになる。
 恐らく、ユウスケの影響で名護は門矢士という人間を信用しているはずだ。しかし、一方で世界の破壊者としてのディケイドに対する警戒心も抱いているだろう。

「……どうやら、お前も相当のお人好しみたいだな。ヒビキや橘も、お前のことを信頼していたしな」
「ヒビキと橘も?」

 その名前が発せられた途端、今度は名護が表情を曇らせてしまう。
 理由を聞く必要などない。志を同じくした仲間が、既にこの世にいない事実を再び突きつけてしまったのだから。


910 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:31:02 qCm.BjPQ0

「ヒビキと橘は……この戦いに乗った連中や、そして大ショッカーから誰かを守るために戦っていた。
 俺はあいつらの最期を見届けてやれなかったが、自分の信念を貫こうとしたはずだ。あの二人がいたから、俺もこうして生きている」

 だから、二人のことを忘れないためにも、名護に伝えた。
 ヒビキと心を通わせて、仮面ライダー響鬼の力を取り戻せたからこそコーカサスビートルアンデッドを倒すまでの活路を見出だすことができた。橘がいたからこそ、本性を現したアルビノジョーカーの打倒するきっかけを巧は掴めたし、自分もこうして名護の前に立てている。
 彼らの勇姿を振り返ると同時に、名護の表情に覇気が戻っていくのが見えた。

「俺はあいつらのことを忘れるつもりはない。そして、あいつらと共にいた啓介の名前も、胸に刻むつもりだ」
「……彼らのことを伝えてくれて、感謝する。やはり、二人は最後まで熱い正義を抱きながら戦っていたのか」
「ああ。響鬼とギャレンがいたからこそ、守られた命もあるはずだ」

 ヒビキと橘の記憶と、名護啓介という男の名前を胸に残す。名護に対する詫びは、それ以外に思いつかなかった。
 忘れてはいけない男はまだいる。

「啓介に伝えることは他にもある。あの男……天道総司のことだ」
「総司くんの!? 君は、彼に会ったのか!?」

 案の定、名護は狼狽するが、構うことなく続けた。

「俺は総司やレイキバットから全てを聞いた。病院のことや、そしてキングのことも……だが、それでも総司は俺を守るために戦った。
 仮面ライダーカブトとして、俺に力を貸してくれたからこそ、キングに勝つことだってできたさ」
「君を守るために戦い、キングに勝った……? まさか、総司君はあのキングを倒したのか!?」
「残念だが、キングには逃げられた。だけど、あいつに愚弄された奴らの無念は晴らされたはずだ」

 少なくとも、嘘を言ったつもりはない。
 総司に命を守られたことは事実だし、仮面ライダーカブトに変身した総司と力を合わせた記憶も胸に残り続けている。キングの脅威は終わった訳ではないが、愛弟子が忌仇を打ち破ったことだけは伝えてやるべきだろう。
 もちろん、デストワイルダーが現れる直前の暴走については、わざわざ蒸し返す必要などないが。

「今の総司は変わり続けている。啓介が総司を導き、そして救ったように……総司もまた、誰かを導くために旅立ったのさ。俺はお前にそれを伝えるために現れた」
「総司君が旅立った……つまり、俺の助けはもう必要ないということか?」
「いいや、お前の助けはまだまだ必要だ。総司にとって、啓介は故郷でもある……あいつが帰る場所には、お前もいないと駄目なんだ。
 そして総司も誰かにとっての故郷になれるよう、自分の道で歩いている途中だ。だから、今は見守ってやれ……あいつはいつだって、お前のそばにいるからな」

 かつて、ダークカブトとして全てを破壊しようと企んだ総司が、全てを守るために仮面ライダーカブトとして戦えるようになったのは、名護啓介のおかげだ。総司は名護に幾度となく支えられたことで答えを見つけたが、今度は自分自身で歩き出そうと決意している。
 困難は多いだろうが、今の総司なら大丈夫だった。


911 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:32:37 qCm.BjPQ0

「……しかし、総司君は悲しんでいるはずだ。翔一君を自らの手で殺めてしまった以上、まだどこかに隠れているキングに狙われる恐れもある」
「確かに、キングはまた総司を狙うかもしれないな。だが、総司はキングの言葉に惑わされず、そして自分の意志で打ち倒した……その時の姿は、まさに『正義の仮面ライダー』だったぞ?」
「正義の仮面ライダー……」
「総司は啓介たちのことも信じていたからこそ、キングを倒し、そして今も悩み続ける誰かを助けにいきたいと思えるようになった。だから、総司はもう1人で飛べる。
 お前がやるべきことは、仮面ライダーとして戦い……そして総司の帰りを待つことだ」

 それこそが、今の総司の願いだった。
 総司がこれからどこに向かい、何をしようとするのかはわからない。けれど、もう迷うことはないし、どんな悪意にも負けないことが確信できる。
 このまま名護や仲間たちの元に戻るだけでは駄目だと、総司は言っていた。だから、総司の意志を尊重するためにも、今は名護に会わせられない。

「そうか……俺がいない間、君が総司君を支えてくれたんだな。総司君を助けてくれて、ありがとう」
「俺はあいつの願いを叶えてやっただけだ。あいつは、仮面ライダーとして誰かを守りたかったみたいだからな。
 そして、最後にもう一つだけお前に伝えるべきことがある。紅音也のことだ」
「紅音也……君は彼にも会えたのか!?」
「ああ、あいつからはちょっと根性注入をされた。そのお返しとして、名護に音也と渡のことを伝えないといけないからな」

 紅渡とは違い、名護啓介は殺し合いに乗っていない。だから、”お説教”をする必要まではないが、音也からの恩義だけは伝えるべきだ。
 一方で、名護の表情は再び曇ってしまう。苛立ちなどではなく、まるで大事な何かを失ったような悲しみを抱いているように見えた。

「……一つ聞きたい。君が見た”紅渡”とは、どんな男なんだ?」
「はぁ? お前は何を言ってるんだ? あいつは、お前の……」
「総司君からも聞いた。紅渡とは、俺の一番弟子であった男だと……だが、俺は彼の記憶を、彼自身によって消されているらしいんだ」
「……なるほどな」

 名護の口から出てきた言葉に驚愕するも、すぐに受け入れる。
 紅渡に関係する記憶が名護の中より消されていた。どんな原理かはわからないが、かつて出会った紅渡なら成し遂げてもおかしくない。あの男の胸中は最後まで読めなかった為、仮面ライダーキバ以外の力を持っていても、充分にあり得た。
 厳密に言えば、旅のはじまりで出会った紅渡とこの世界にいる紅渡は別人だ。しかし、紅渡の全貌がわからない以上、名護の記憶が消す手段を持つ可能性は否定できない。

「聞いた話だと、彼もこの殺し合いに乗っているようだが……」
「俺もあいつのことはよくわからない。あいつは、俺たちのことを一方的に襲いかかって、あまつさえ命を奪おうとした」
「そうか。ならば、俺は彼とも……」
「だが、渡が真に悪人であるかどうかは知らない。あいつは、何か意地があるように見えた。譲れない何かや、果たすべき使命があるからこそ、あえて自分一人で全てを抱えようとしているはずだ」
「譲れない何かや、果たすべき使命……」

 そして、沈黙が広がる。
 渡からは命を奪われかけたが、音也や名護の義理がある以上は悪評を広める訳にはいかない。キングのような卑怯な真似をするつもりはないし、また渡に対する”お説教”だってまだ途中だからだ。


912 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:36:24 qCm.BjPQ0

「啓介。お前は渡をどうするつもりだ?」
「……紅渡と出会った時、何をするべきかはまだ決まっていない。居場所や、顔もわからない男を探すことは困難だろう。だが、彼が涙を流しているのであれば……俺は彼の手を取るつもりだ。
 総司君は言っていた。俺は紅渡を最高の弟子と認めていたと……だから俺は弟子である彼を救いたい」
「ならば、こいつを使え」

 絶対の決意を固める名護に対して、ディエンドライバーとディエンド用のケータッチを差し出した。
 当然ながら名護は目を見開くが、構わずに続ける。

「このディエンドライバーさえあれば、仮面ライダーディエンドとして戦うことができる。そしてケータッチはディエンドをパワーアップさせるためのアイテムだ。今のお前には必要だからな」
「何故、俺に渡そうとする? それは君にとっても、大事な武器じゃないのか?」
「お前や総司は病院でキングたちと戦ったばかりだろ? なら、時間制限も解除されていない。総司からお前のことを頼まれた以上、くだらない罠で死なせる訳にはいかないからな」

 正確な残り時間はわからないが、今の名護は制限で仮面ライダーとして戦えないはずだ。加えて、大ショッカーが追加戦力を会場に投入することを知らせた以上、名護が不意討ちを受ける危険すらある。
 名護を守るのであれば、確かな戦力を与えるべきだった。

「確かに、今の俺はイクサの制限を受けている。装備が多ければ、それに越したことは無いが……制限は君も同じなはずだ」
「お前みたいな奴は、例え自分が不利な状況になろうとも誰かのために戦おうとする。周りの制止を振り払ってでもな。
 啓介のことだ。総司のことを守るためなら、自分を盾にするつもりだったはずだ……あいつを守るなら結構だが、まずは装備でも整えておけ」

 すると、名護は黙り混んでしまう。
 図星だろう。一真や巧だって、自らの傷を省みずに戦い抜いたのだから、名護も自己犠牲で悪に立ち向かおうとしてもおかしくない。

「それに、俺も総司と共に戦ったばかりで、どうせ制限を受けている。時間制限が解除されることをただ待つよりも、お前に持たせた方がマシだ」
「そうか。君は、総司君と共にキングを倒したばかりだったな。
 そういうことなら、君の好意に甘えさせてもらおう」

 頷く名護にディエンドライバーとケータッチを渡して、大まかな使い方をレクチャーする。
 真実を混ぜた嘘はやはり効果が高かった。キングと戦ったばかりで変身制限を受けていることは確かだが、それはディケイドの話。ディエンドに制限がかかっているとは、一言も口にしていない。
 だが、名護がどんな無茶を働くのか分からない以上、建前に嘘を仕組んででも生存率は上げるべきだった。

「門矢士……いいや、士君。君には大きな借りができてしまったな」
「言ったはずだ、総司から啓介のことを頼まれたと。それに、総司だけじゃなくユウスケのことだってある。
 それだけだ」
「……士君、君は本当に世界を破壊する悪魔なのか? やはり、君が誰かを傷付けるような男には到底思えないが……」
「言ったはずだ。俺は世界の破壊者。
 かつて俺は、数え切れないほどの仮面ライダーを破壊した。そして俺の存在こそが、世界を破滅に導いている。
 もしかしたら、今こうしている間にも……俺のせいで破壊されている世界があるかもしれないぞ?
 例えば、啓介や渡が生きるキバの世界とかな」

 名護の希望を踏みにじるように、真っ向から否定した。
 例え何があろうとも、ディケイドが世界の破壊者であることは変わらないし、破壊者としての使命に目覚めてからは数え切れないほどのライダーを破壊した。だから、ディケイドである門矢士がいる限り、どこかの世界が破壊される運命にあると言われようとも否定しない。
 それこそ、ディケイドの影響で『キバの世界』の崩壊が確定することも、充分にあり得た。


913 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:37:50 qCm.BjPQ0

「いいや、俺は君が破壊者と決めるつもりはない。例え、君の存在が世界の崩壊に何らかの関係があったとしても……俺は君の命を一方的に奪ったりなどしない。
 もちろん、俺とて愛する者が生きる世界が破壊されることを黙って見ているつもりはないし、また士君の影響で世界が消滅するのであれば……対策を考えるつもりだ」
「どうやって、俺から世界の崩壊を防ぐつもりだ? 俺が存在する限り、お前の世界が消える可能性を考えないのか?」
「一つの可能性に囚われすぎては、また別の可能性を見つけることはできない。
 俺達人間は、他者を慈しみ、そして未知に対する探究心を持ち合わせている。困難に陥ろうとも、その度に誰かと力を合わせて乗り越え続けた。
 だから、本当に君が世界滅亡の原因であろうとも、変える方法を見つけられるはずだ。士君が総司君を救ってくれたように、俺も世界と士君……そして紅渡君が救われる可能性を見つけたい」

 いわゆる、青臭い理想論だった。
 根拠はなく、また今も存亡の危機に陥っている世界の住民が聞けば、反発することに間違いはない。自らの世界を守るため、殺し合いに乗った者からすれば腸が煮えくり返るだろう。
 だけど、否定する気にはなれなかった。名護啓介はどこまでも真っ直ぐで、正義感に溢れていたからこそ、総司も信頼したのだから。

「なるほどな。やっぱり、お前は総司の師匠だな」
「総司君が自分の道を歩こうとしていることはわかった。ならば、そんな総司君が胸を張っていられるように、俺は俺として……この胸に宿る正義の炎に従い、最後まで戦うつもりだ」
「なら、俺は何も言わない。総司が自分の道を進んだように、啓介も啓介自身の道を歩けばいいだけだ」

 こうして、名護啓介もまた旅をし続けるのだろう。
 彼の助けを必要としている人間はまだいる。一人でも多くを守り、救うまでに歩みを止めるつもりがないことが、名護啓介という男だ。出会ってから間もないが、言霊と眼力から熱い心が感じられる。

「それで、士君はこれからどうするつもりだ。俺は、紅渡君はもちろんのこと、他の仲間たちを探したいと思っている」
「城戸真司達のことか? あいつらなら、ここよりも南のエリアにいたぞ」
「真司くん達にも会ったのか!?」
「ああ、放送で呼ばれた乃木という男と戦っていた。
 乃木は大ショッカーを潰そうとしていたが、邪魔と思った相手は容赦なく殺しにかかる奴だから気を付けろ。しかも、一度倒しても蘇るほどにしぶとい奴だ……きっと、今もどこかで俺たちのことを狙っているはずだ」
「乃木か……わかった。その男についても注意しよう。
 だけど、真司君たちも強いから簡単に負けることはないと、俺は信じている。修二君やリュウタロス君も、今はまだ未熟かもしれないが……いつか総司君と肩を並べられるほどに、成長してくれるはずだ」

 名護の言う通り、城戸真司と間宮麗奈は強い意志を見せていた。リュウタロスも乃木に抗っていたようだし、三原修二も決して逃げ出さずにみんなと共にいた。
 だから、彼ら4人が弱いだなんてありえないし、リュウタロスと三原の二人も総司のように成長するだろう。

「俺が伝えるべきことはもう伝えた。もう行くぞ」
「士君、もしもまだ仲間を探すのであれば……一条薫や左翔太郎君がいるサーキット場に向かいなさい。彼らは今、そこで特訓をしているはずだ」
「サーキット場か……」

 その途端、自分でも声のトーンが下がっていくのを感じた。
 北のサーキット場には、かつてスーパーショッカーとの戦いで共闘した左翔太郎がいる。再会は喜ばしいが、自らの存在が彼に危害を及ぼす可能性も生まれてしまう。
 ディケイドの影響で他のライダーが命を落とす……やはり、ただの戯言と切り捨てることはできなかった。

「……なら、次の目的地はそこになるな」

 しかし、自分一人のワガママを押し通して、総司や名護の仲間を無視することなどできない。キングや乃木はもちろんのこと、フィリップについても翔太郎達に伝える必要があった。


914 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:39:25 qCm.BjPQ0

「啓介。お前は絶対に死ぬなよ」
「当たり前だ。士君こそ、絶対に生きるんだ。総司君だけじゃなく、ユウスケ君のためにも」

 そう言い残して、名護は去っていった。その後ろ姿からは、先程までの焦燥感は見られず、ただ威風堂々とした雰囲気を放っている。
 名護を見送った後、再びトライチェイサーに跨りながらハンドルを回す。しかし、サーキット場に向かう前に、寄り道をしておきたかった。

 ――やってくれたね、士。あろうことか、僕のディエンドを勝手に渡すとは。

 ふと、海東大樹の嫌味が聞こえた気がした。
 しかし、いつもの得意げな笑みを浮かべているようにも感じる。素直じゃなかったが、やはり彼も仮面ライダーとしての心意気を持っていたのだろう。
 もっとも、普段の海東の素行は到底褒められなかったが。

(生憎だが、俺はディエンドに変身して戦うつもりは最初からなかった……それだけだ)
 ――どうだかね。でも、確かに破壊者の士なんかよりも、彼の方が大事に使ってくれそうだから、むしろありがたい話さ。

 精々頑張りたまえ。その言葉を最後に、海東の皮肉は聞こえなくなった。


 ◆


(門矢士か……感じのいい青年だったな。やはり、ユウスケ君の言う通りだった)

 通りすがりの仮面ライダーこと門矢士の笑みを胸に刻んだ名護啓介は、ただ前を進んでいる。
 士からは色々と世話になった。総司や真司、そして紅渡のことを伝えて貰っただけではなく、ディエンドライバーも託されている。イクサのように力を発揮できる自信はないが、左翔太郎が警戒したガイアメモリよりは信頼できた。
 士曰く、龍騎やブレイドのようにカードを使うタイプの仮面ライダーらしい。ディエンドのカードとディエンドライバーで変身して、それ以外のライダーカードではしもべを召喚できるようだ。そして残るケータッチは、イクサライザーのようなパワーアップツールだろう。
 ここまでサポートをして貰ったからには、士を裏切らないように戦うべきだった。キングの他にも、乃木怜治という危険人物を知ったからには、余計にこの命を粗末にできない。

(総司君、君の進むべき道は分かった……君が自分一人で旅立とうというなら、俺は信じて待とう。
 男の旅立ちを邪魔するなんて無粋な真似はしない)

 一抹の寂しさを抱くが、それ以上に総司の決断を祝福していた。
 総司は多くの人間の守りがあって仮面ライダーカブトになったように、今度は誰かを守る盾として歩けるようになった。


915 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:41:08 qCm.BjPQ0

 事実、総司は自分の助けがなくとも、士と共にキングに勝っている。ならば、士が言うように今は彼を待ち続けて、再び巡り会える時が来たら祝福しよう。
 その時が来たら、より大きく成長した総司の姿が見られるはずだ。

(士君だけじゃない。今の俺は、ヒビキや橘……そして音也など、たくさんの仮面ライダー達から想いを継承された。ならば今の俺がやるべきことは、これまでと同じだ)

 今の自分がやるべきことは、数多くの仮面ライダー達と同じように正義を成し遂げること。弟子の総司が広い世界に向かって羽ばたいたのに、師匠が総司だけにこだわってどうするのか。
 悪魔の集団大ショッカーを正義のためにも倒して、そして士や総司を始めとした仮面ライダーたちを生存させた上で、世界滅亡を止める方法も見つけたかった。例え、ディケイドの存在が世界が破壊される要因であろうとも、最後まで諦めてはいけない。
 何かを破壊するための力は、同時に何かを生み出すことにも繋がる。士は総司の絶望を破壊して、新たなる道を歩むきっかけを作ったように。
 翔太郎や一条、そして士からは無茶をするなと咎められたが、やはり自分一人だけが安全地帯で待っている訳にはいかない。
 総司と胸を張って再会できるよう、一人でも多くを救うために進みたかった。

――僕は、僕の守りたいものを全て守るだけです

 不意に、闇のキバに変身した青年の声が脳裏に蘇る。

――はい、俺、中途半端はしません、絶対に!

 そして、ほんの僅かな再会を果たした小野寺ユウスケの力強い声も、頭の中でリプートされた。
 彼らのことを全て知る訳ではない。しかし、二人は純粋な想いを胸に抱いたのは確かだ。どんな理由があろうとも、彼らに殺し合いを強制させた大ショッカーに正当性など認めてはいけなかった。
 二人のように、すべてのものを守るためにも、中途半端なことをしない。もちろん、津上翔一が最期に言い残したように、中途半端でも生き続けることを忘れるつもりはない。
 そうでなければ、元の世界で帰りを待っている最愛の妻にも顔向けができなかった。


【二日目 朝】
【D-1 市街地】

【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(中)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに50分変身不能、仮面ライダーブレイドに55分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:今は自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:紅渡……か。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
5:どんな罪を犯したとしても、総司君は俺の弟子だ。
6:一条が遊び心を身に着けるのが楽しみ。
7:最悪の場合スイーツメモリを使うことも考慮しなくては。
8:キングや乃木怜治のような輩がいる以上、無謀な行動はできない。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。
※士に対する信頼感が芽生えたため、ディケイドが世界破壊の要因である可能性を疑いつつあります。


916 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:42:31 qCm.BjPQ0


 ◆


 名護啓介と別れてからしばらくして、門矢士はD-1エリアの病院に辿り着いていた。
 キングの罠によって命を奪われた津上翔一が眠っている。正確な居場所まではわからないが、名護から聞き出すこともできない。苦い記憶をほじくり返して、空気を悪くするなど御免だった。
 もちろん、大きな病院の中でわざわざ翔一を探す時間はない。彼のためにできることは、総司のことを伝えるだけ。

「津上翔一。お前がどこにいるのかは俺は知らない……だが、総司のことなら心配するな。あいつはもう、一人で飛ぶことができている」

 津上翔一がどんな男であるか、士には全くわからない。
 かつて、『アギトの世界』にて芦河ショウイチは葦原涼のように荒んでいたが、他者を思いやり続ける熱い心を持ち続けていた。大切な人間を守るために戦っていたショウイチや涼の姿を忘れられる訳がない。
 だから、ショウイチのパラレルにして涼の仲間である翔一も、強さと優しい心を持ち合わせた男のはずだった。

「お前が最期に何を想ったのか、俺は知らない。だけど、お前のことだから総司たちの無事を願っていたはずだ。
 翔一も知ってるように、あいつらはみんな強いぞ? 真司、麗奈、修二、リュウタロス、そして総司と啓介……転んで怪我をしても、最後には立ち上がっている。だから、翔一は何も心配しなくていいんだ」

 総司は翔一の命を奪ったことで絶望していたが、それでも士の命を守ろうとしてくれた。彼の心の強さは、翔一の影響もあったはずだ。
 真司と麗奈だって充分な強さを持っているし、二人のように三原修二とリュウタロスが成長する可能性もある。だから、翔一が心配する必要はないことを伝えたかった。

「翔一はゆっくり休んでいろ。そして、みんなのことを見守っていればいい……翔一の分まで、俺達が戦ってやるから。俺は門矢士、通りすがりの仮面ライダーだからな……覚えておかなくてもいいが」

 そう言い残して、士は病院から背を向ける。
 伝えるべきことは山ほどあるが、今は翔一のことばかりを考えていられない。残るは翔太郎と一条、それに紅渡など探すべき相手はいる。彼らが乃木やキングの襲撃に遭う可能性を考えたら、いつまでも病院に留まれなかった。
 そして、士は一歩前に進もうとしたが。

 ――士。

 どこからともなく、声が聞こえたような気がした。
 反射的に振り向くが、誰かの気配は感じられない。幻聴か、あるいはキバーラかと思ったが……すぐに疑問を振り払う。

 ――ありがとう。

 しかし、またしても男の声が聞こえてきた。
 穏やかなその声は聞き覚えがある。大ショッカーとの戦いで共闘した仮面ライダーアギトに変身した男の声とよく似ていた。

「今の声は……?」

 まるで誰かから呼ばれているように思えて、士は歩く。
 すると、すぐ近くの平原にて不自然に盛り上がっている土の山が見えた。あれは何か……そんな疑問と同時に、太陽をも凌駕するような眩い輝きが発せられて、反射的に目を閉じてしまった。


917 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:44:15 qCm.BjPQ0



 ――士、俺の前に来てくれたんだね。

 優しい言葉が士の脳裏に響く。
 振り向くと、誰かが微笑んでいるのが見えた。光に覆われたせいで、その姿をはっきりと見ることはできないが、優しい笑みを向けていることだけは確かだ。

「なんだ、お前は?」
 ――君と同じ、アギトの力を持つ男さ。もっと言うなら、既に仮面ライダーである男……かな?
「既に仮面ライダーである男?」

 男の言葉に怪訝な表情を浮かべてしまう。
 そして気付く。先程まで病院の前にいたはずの自分が見知らぬ場所に立っていることを。目の前の男によって、いつの間にか連れて来られてしまったのだろう。

 ――そんな顔しないでよ、俺は君にお礼を言いに来たんだ。おれーい(お礼)を言えるのは、俺だけだからね! 俺からのお礼さ!
「……………………」

 フフッと男が笑うが、士は閉口した。
 いわゆる、親父ギャグだろう。言った当人は満足しても、周囲がイラつくタイプの笑いだ。堅物な男を思わず笑わせる効果はあるかもしれないが、残念ながら士のツボには1ミリもハマらない。
 むしろ逆に怒りすらも覚えたが、こんな所で無駄な体力を使うつもりはない。溜息と共に訪ねてみる。

「……それで、俺に何の用だ? わざわざこんなことをしたのなら、何か用があるはずだ」
 ――だから言ったじゃないか。士に俺からのお礼をしたいと。
「お前……俺はくだらないギャグを聞いてるほど暇じゃないんだ!」
 ――いいや、士に感謝していることは本当だ。だって君は、総司君を助けてくれたからね。

 男の口から出てきた名前により、目を見開く。
 その名を口にするのは総司の仲間たちだけ。つまり、この男は総司の仲間であり……その正体に心当たりがあった。

「お前はまさか……津上翔一、仮面ライダーアギトなのか!?」
 ――やっぱり、気付いちゃったか! でも、君も俺のことを知っててくれて嬉しいよ。忘れることもだけど、忘れられてしまうことも辛いからね。
 ――総司君の願いを思い出させてくれて、ありがとう……

 その男……津上翔一の表情はようやくはっきりと見える。相変わらず笑顔を浮かべていたが、どこか寂しげな雰囲気も醸し出していた。


918 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:47:09 qCm.BjPQ0

 ――総司君は俺に手をかけて悲しんでいた。だから、総司君はあんなこと望んでいなかったはずだ。
「ああ……総司はお前の命を奪ったことを泣いていた。翔一や一真を裏切ってしまったことに、涙を流していた」
 ――けれど、士はそんな総司君の涙を止めてくれたことを知っている。そして、総司君のことだって守ってくれた……だから俺は士のことを信じているよ!

 翔一は、世界の破壊者である士のことを微塵も疑っていない。それどころか、絶対の信頼を寄せているようだった。
 しかし、翔一の笑顔を前にして、心が大きく揺れてしまう。

「……違う、俺はそんな人間じゃない。俺は世界の破壊者であり、俺がいたから翔一は命を奪われてしまった……だから、俺は……!」

 士のせいで、いったい何人の仮面ライダーが犠牲になったのかわからない。だから、本当なら誰かの隣に長くいるべきではなく、翔一の前にもいる資格はなかった。
 士は反論を続けようとしたが、相変わらず翔一は微笑んだまま。先程、名もなき民家で総司に向けた笑顔と、何一つ変わらない。

 ――士は言ったね。君は、みんなのことを助けてくれるって……だから、俺も総司君たちを見守ることにするよ。

 すると、翔一の姿がどんどん遠ざかり、世界を覆う光はより激しくなっていった。
 別れの時が訪れたと、反射的に察してしまう。だが、士にはまだ伝えるべきことは山ほどあった。

「ま、待て……翔一! まだ、俺の話は……!」

 ――いいや、俺はもう大丈夫だ。

 ――それに、君のことを待っている人はたくさんいる。だから、俺のことはもう気にしないでいいよ。士は俺の願いを叶えてくれたから。

 ――大丈夫だよ。士や名護さんが総司君のそばにいてくれたように、俺も士のそばにいるから!

 五代雄介や小野寺ユウスケを彷彿とさせるほどに、津上翔一の笑顔は輝いていた。
 その笑顔を遠ざけないためにあがくが、どうにもならない。ただ、翔一からひたすら離されていった。

 ――士、君の本当の旅はこれからも続く。俺は君の旅も見守っていくから。

 ――その魂を、目覚めさせるよ!

 そんなメッセージと共に、士の意識は光に飲み込まれてしまった。

「翔一…………っ!」


 アギトの力は幾度となく奇跡を起こしている。
 人間の未来を守り抜いた仮面ライダーアギトが幾度も進化したように。津上翔一は数多の困難にぶつかり、そして挫けそうになろうとも、最後まで人間の未来を守るために戦い続けた。
 そんな津上翔一の中には未だにアギトの力が宿っており、最期まで総司達を救いたいという願いを抱いていた。翔一の願いに士の声が届き、新たなる奇跡が起きようとしている。
 それは…………


919 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:51:06 qCm.BjPQ0

「……これは、アギトのカード?」

 気が付いたら、士の手には三枚のライダーカードが握られていた。仮面ライダーアギトが描かれたカードであり、アギトの力を取り戻したことを意味する。
 だが、何故アギトの力を取り戻したのか? 仮面ライダーアギトである津上翔一は、もうこの世にいないはずなのに。

「まさか……翔一、お前なのか? お前が俺を呼んで、そしてアギトを託してくれたのか!?」

 士は叫ぶが、答えは返ってこない。
 謎の光は既に収まっており、翔一の声も聞こえなかった。


 これこそが、津上翔一の中に宿るアギトの力が成し遂げた奇跡だ。
 翔一が変身するアギトの力が、士の持つライダーカードに受け継がれて……ディケイドはアギトの力を取り戻した。
 進化の象徴であるアギトが、肉体が滅んだ程度で消滅することはあり得ない。その魂は津上翔一の意志と共に、誰かの未来をより良くすることを待ち続けていた。最期の願いを叶えてくれた士だからこそ、アギトの力を託すにふさわしいと翔一から認められた。
 ディケイドライバーには秘石・トリックスターと神秘の印・シックスエレメントが内蔵されており、ディケイドが他世界のライダーに変身するために必要な力の代替となっている。当然、ディケイドの中にはアギトの力も含まれていた。
 既にアギトの力による奇跡には前例があった。この殺し合いでも、木野薫の中に遺されたアナザーアギトの力が、葦原涼をエクシードギルスに進化させている。
 より遡るなら、かつて門矢士が芦河ショウイチのアギトを進化させたように、津上翔一がディケイドの中で眠っていたアギトの覚醒を果たした。



 しかし、士がその事実に気付くことはなく、ただアギトのカードを見つめているだけ。
 確かなことは、翔一のおかげでアギトの力を取り戻したことだ。そんなアギトはカードになっても、輝いているように見えた。まるで、士との絆を証明するように。

「それが翔一の答えなら……俺は旅を続けよう! 翔一が俺の旅を見守るなら、俺は前を進み続けるだけだ。これが、翔一に対する俺からのお礼だからな!」

 だからこそ、翔一に対する感謝を込めながら宣言する。津上翔一の名前と朗らかな笑顔を胸に刻みながら。
 彼は信じてくれたのだから、その気持ちには応えたい。翔一のためにも、今は一人でも多くの仮面ライダーに会うべきだろう。
 死ぬなよ、お前ら。これまでに出会い、そしてこの先で待ち構えているであろう仮面ライダー達の無事を祈りながら、門矢士は前に突き進んでいた。


【二日目 朝】
【C-1 平原】


920 : フォルテ♪覚醒せよ、その魂 ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:52:16 qCm.BjPQ0

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに1時間40分変身不能
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:サーキット場に向かい、翔太郎と一条薫を探す。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ダグバへの強い関心。
6:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
7:仲間との合流。
8:涼、ヒビキへの感謝。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ〜電王の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ダグバが死んだことに対しては半信半疑です。
※翔一に宿るアギトの力はライダーカードに受け継がれたため、アギトのカードは力を取り戻しました。


921 : ◆LuuKRM2PEg :2019/11/06(水) 20:53:05 qCm.BjPQ0
以上で投下終了です。
疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。


922 : ◆JOKER/0r3g :2019/11/07(木) 16:56:00 ytDL68ds0
投下乙です。感想の前に、連絡が絶えていてご迷惑をおかけしたかもしれません、その節に関しましては大変申し訳ございませんでした。
理由といたしましては私事ではありますがスランプに陥ってしまい、結果としてコミュニティそのものから距離を置くべきと判断した為にTwitterを実質やめた為です。
今後呟くかは今のところ未定ですが、書き手としてはまだやめたつもりはないとだけ勝手ながらこの場でお伝えしておこうと思います。


さて、長々と失礼いたしました。本題として今回のSSの感想ですが、士と名護さんがそれぞれ交流のあった死者を通じてお互いを信頼する流れが実にスムーズですね。
一方で士はサーキット場に向かう途中でアギトの力も棚ぼたgetして残るはキバだけですが、はてさて今回の二人との因縁も強い総司と戦っている状況、どうなることやら。

そして、これは指摘になるのですが、幾ら総司に頼まれたからと言って名護さんにディエンド関連アイテムを渡す士は正直想像しにくいのかなと。
元より(一応)仲間の遺品ですし、士と海東間の様々な感情への解釈は人それぞれにしても、変身したくないと手放したいが直結するほど海東に関して悪感情ばかり抱いているわけではないと思いました。
また1時間半以上変身出来ない士がわざわざ手元の戦力を手放してなおも移動し続けようとしているのも些か違和感があり、こういった展開なら士は病院で休む、ないし名護にディエンドを渡さず二人で病院に帰る、等の展開が自然かなと。

それからこれは単純に好みの問題かも知れませんが、アギトの力そのものと翔一君があまりに紐付きすぎているのに違和感があります。
少なくとも今回の”津上翔一”はディケイドのことを詳しく知らないわけですし、それであれば超常の存在足るアギトの光が勝手に力を授ける方がそれっぽいです。
また翔一君の魂を出すとしてもちょっと喋りすぎかと。翔一君の遺体を埋めた場所からアギトの光が浮かんできてアギトの力を取り戻すだとか、もう少しアギトの文脈に寄った展開も考えられるかなと思います。


お久しぶりな上、恐らくは事前にTwitterで相談してくださったのにそれを無視してこうした長文で投下後にお返事することになってしまい大変申し訳ございません。
とはいえ一応多々気になる点がありましたので、遅ればせながらこの場で指摘させていただきました。
それでは、改めまして投下お疲れ様でした。氏が繋いでくれたリレーをまた自分で繋げるよう頑張ろうと思いますので、その時はまたよろしくお願いいたします。


923 : ◆LuuKRM2PEg :2019/11/08(金) 06:54:30 WynaSTDE0
感想及びご指摘をして頂き、ありがとうございます。
それでは、必要な箇所の修正が終わり次第、修正スレに投下をさせて頂きますのでよろしくお願いします。


924 : ◆LuuKRM2PEg :2019/11/09(土) 09:54:47 i3ASK2N20
先日の修正版を修正スレに投下させて頂きましたので、確認及びご意見をお願いいたします。


925 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:28:56 8/0puBfM0
おまたせいたしました。
これより予約分の投下を開始いたします。


926 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:29:58 8/0puBfM0

「ジェアア!」

威勢のいい掛け声と共に、カッシスの腕から生える鋭利な刃が弧を描いてアークへ迫る。
瞬間莫大な量の火花と共にあたりに響いたのは、両者の腕と腕が接触したことによる爆発音にも似た衝撃だ。
自身の研ぎ澄まされた刃がアークの皮膚に文字通り歯が立たないことにはもう驚く様子もなく、カッシスはその腕越しに物言わぬ敵対者を睨みつける。

だがそれも、そう長くは続かない。
両者の均衡を保つように二人の丁度真ん中で停滞していた互いの腕が、グググと音を立てカッシスに向けて傾きはじめる。
屈辱と驚愕に顔を顰めるカッシスに対し、対峙するアークの瞳は自身の優位に喜ぶこともなくただ無感情に光を照り返していた。

やがて、押し切られ自身の刃に身を切り裂かれる屈辱を抱いたカッシスの顔面に、強かなアークの拳が飛ぶ。
残る片腕で防御することも叶わず吹き飛び、緑の血を吐いて思い切り地面を転がるが、しかしその瞳からは未だ戦いに対する余裕は消えてはいなかった。
都合数度目にもなる攻防が、相手の実力をより正確に推し量れるだけの情報をカッシスに与えていたのである。

(パワーとスタミナは奴の方がやはり少しばかり上か。だが戦術の妙と速さに関しては比べるまでもない)

口中に塗れた血を無理矢理飲み込み、敵が一部自分より優れていることを認めながらも、カッシスはやはり大局的な自身の優位を信じて疑わない。
笑みを零しその腕を刃から人型の五本指へと変形させた彼は、その両手に闇を集わせる。
無論アークへと暗黒掌波動を放つためだが、それより早くアークの掌から青い光弾が飛んでいた。

見た目にはさほどの迫力を感じえないそれではあるものの、アークの桁外れの実力からすればその余波だけで仮面ライダーを変身解除に追い込むだけの威力を持つ。
直撃を受ければ今のカッシスと言えど大ダメージは免れないが、彼もただそれを享受するだけの愚か者ではない。
暗黒掌波動の準備を行っていない左腕を盾状のものへと変化し、攻撃を真正面から防ぎきっていた。

光弾が続くこと二発三発。まるで目の前で花火が上がっているような爆発音に苛まされながらも、カッシスは反撃の準備を完了する。
瞬間、今までただ凌ぐだけの盾に過ぎなかった左腕を剣へと変化させ光弾を両断したカッシスは、そのまま右腕に集わせた闇をアークへ向け一気に放った。
唸る闇の奔流が灰色の巨躯を黒に覆い尽くし、勝利を確信したカッシスの笑い声が響き渡る。

だがそれを一瞬で打ち砕いたのは、光輝く触手を無数に伸ばし闇の中からその姿を現したアークの神々しいまでの存在感であった。
触手を含めおおよそ2m強はあろうかという体躯のアークを見上げ思わず呆気にとられたカッシスのもとに、再び光弾の雨が降り注ぐ。
しまったとばかりに両手を盾に変化させ直撃は防ぐも、周囲への爆撃は凌ぎきれない。

インパクトと共に隆起する地面と舞い上がる砂ぼこりに巻き込まれて、カッシスはその場から身動きを封じられてしまう。
ダメージ自体は大きくないものの、クロックアップをしても逃げ切れる可能性の薄い弾幕の中で、さてどうしたものかとカッシスが逡巡した、その瞬間だった。

「うおりゃあああああああ!!!」

雄叫びと共に、見覚えのある青い双角の戦士が勢いよく飛び出してくる。
忌むべきマスクドライダーシステムの一種、ガタック。戦いの神との異名を持つそれの参戦を、しかしカッシスは冷ややかな瞳で見やる。
乃木にとっては生身でも御しうるだけの取るに足らない実力しか持たない存在だ、大きな期待が出来ようはずもない。

だがアークへ向け一直線に駆け抜けるガタックには、そんな失望など関係ない。
両肩に備え付けられた双剣を無数の触手へとそれを同時に投げつけ、アークに僅かばかりダメージを与えた。
恐らくガタックからすればそれ以上アークの攻撃が激化すれば仲間に被害が向かいかねないという危惧から来る妨害行為に過ぎなかったのだろうが、アークは自身に触れた新たな外敵へと意識を向ける。


927 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:30:34 8/0puBfM0

それはほんの一瞬、しかもガタックがアークの放った光弾に蹂躙され吹き飛び、切り裂かれた触手が回復するまでの僅かな時間だけだったが、それでもその一瞬でカッシスには十分だった。
自身に向けた攻撃が止んだその一瞬で、カッシスは既に自分だけの高速移動空間へと退避する。
クロックアップを発動し体制を立て直しながら、勿論この絶好の機会を防御だけに使い切る愚を犯しはしない。

その両手を剣へと変化、そのまま飛び道具としてライダースラッシュを連続で発動し、アークを支える触手を完膚なきまでに両断する。
出来れば最後はそのまま暗黒掌波動で勝負を決めたいところであったが、時間切れだ。
通常の時間軸へと強制的に弾かれる感覚を味わいながら、カッシスは目の前でバランスを崩し崩落する灰色の巨躯を嘲笑と共に眺める。

残念ながらどこまでも感情が存在しないアークは自身の優位を崩されてなお何も言わず立ち尽くしており張り合いがなかったが、まぁそれも仕方あるまい。
楽しむには楽しめたのだし、そろそろ自分の実力も分かってきたところだからこの遊びも終わりにするかと再びカッシスが歩き出そうとしたその瞬間だった。
意識の外、まるで期待していなかった方角から、吹きすさぶ疾風と燃え盛る烈火が押し寄せてきたのは。





「じゃあお前は今俺に憑いてるから辛うじて生きてる……ってことか?」

一人野原に立ち、どこへともなく声を発する一人の青年、三原修二。
傍から見れば明らかに異常な彼の振る舞いに、応える存在は周囲に誰もいない。
しかし彼は決してただの狂人ではない。何故ならその声に呼応するもう一つの声は、確かに彼の中に存在しているのだから。

『まぁ、そんな感じ』

自身の中に響いた声が、しかし明らかに今の事態を把握できていない声音をしていることに気付いて、修二は深く溜息を吐いた。
この声の主は、リュウタロスという怪人だ。修二と長い時間を共に過ごした、異形ではあるが心優しい少年である。
そんな彼が何故修二の中にいるのかと問われれば、それは彼の生来の性質によるものであった。

リュウタロスに曰く、先の乃木による攻撃によって致命傷を受けた彼は、このままでは実体を保っていられなくなると判断し憑依体へと変化。
以前同じように消滅の危機に瀕したキンタロスが、良太郎に憑いたことで絶体絶命の危機を回避したという経験を思い出し、そのまま身近な生身の人間である修二に憑依したとのことであった。
当然修二は身体の支配を奪われることを嫌がり彼を追い出そうとしたのだが、それはまずいと一足早く身体の主導権のみ彼に明け渡したリュウタロスの機転によって間一髪消滅を免れ、こうして説明の時間を得たのである。

『ねー修二―、僕の事情はもう分かったでしょ?早くあっち行って戦おうよー。修二は身体貸してくれるだけでいいから!』

「お前そんな簡単に言うなよ。身体を貸すとかなんか怖いし、それに――」

言葉に詰まった修二は、そのまま激しくぶつかり合う四人の戦士へと視線を移す。
乃木というワームに、自分たちを呆気なく下したオルフェノク、そしてそれらと戦う赤と青の仮面ライダー。
怪人らは勿論のことながらそれに一歩も引くことなく戦い続けている仮面ライダー達の威圧も、修二にとっては初めて目にするような凄まじいものだ。

果たして自分がリュウタロスに身体を任せて戦いに行ったとして、碌な戦果を挙げられるものだろうか。
或いは中途半端な味方がいたところで、逆に足手纏いとして迷惑になってしまうだけではないのか。

『ちょっと修二!聞こえてるんだけど?中途半端ってどういうこと!』

「ちょ、悪かったよリュウタ!だからちょっとやめてくれって!」

自身の身体の中で喚き暴れるリュウタロス。
理屈は分からないながらも実際に叩かれたような錯覚を覚えた修二はその場で一人身を捩り抗議するが、周囲に誰もいない状況でのそれは非常に奇妙な様子であった。
ともかく、自身の中の葛藤がノータイムでリュウタロスへと伝わってしまう状況に些かの疲労感を覚え始めた修二は瞬間、戦場から少し離れた場所に倒れる一つの影を見つけた。


928 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:30:56 8/0puBfM0

「え、あれって――」

思考がきちんと纏まる前に、修二は思い切りその影に向け勢いよく駆け出す。
俯せに倒れ呻き続ける二角の青い戦士の下へすぐさま追い付いた彼は、脇目も降らずその身体を抱き起こしていた。

「小野寺さん!大丈夫ですか、小野寺さん!」

「え、その声……三原、さん?」

果たしてそこに倒れていたのは、先ほど麗奈を助けると戦場へ向かっていたはずの小野寺ユウスケ――彼が変身したガタックの、見るも無残な満身創痍の姿であった。
美しい青の鎧に走る裂傷はこの短い時間で彼が受けた戦いのダメージを端的に表し、仮面から漏れる荒い息遣いは激しい消耗を如実に示している。
誰が見ても戦慄を禁じ得ないようなその惨状に息を呑んだ修二の一方で、ユウスケは修二の肩に手を回し、何とかといった様子ながらその足を真っ直ぐ地に突き立てていた。

「……行かなきゃ」

ぜぇぜぇと息を吐きながら、彼はそれでもその足を戦場へと向け一歩また一歩と進めていく。
明らかに戦える状況ではないその幽鬼のような足取りを見て、思わず修二は彼の肩を引き留めていた。

「待って小野寺さん!そんな傷じゃ――」

「このくらい、何てことないさ。もっとキツイ時も……たくさんあったし」

「――なんで」

まるでこのダメージさえ日常の一部であるかのように、ユウスケは儚げな笑みを浮かべる。
その笑い声があまりに優しくて、彼の身に刻まれた傷との剥離に修二は言葉を詰まらせる。
“何故その傷で動けるのか”ではなく、“何故その傷で動こうとするのか”、そんな思いが込められた修二の困惑に対し、彼はただゆっくりと振り返った。

「もし自分がやれることをやらなくて誰かが傷ついたら、きっと俺は後悔する。それが嫌だから、俺は戦うんだ」

先ほどまでの諦観を含んだような儚い声とは違う、はっきりした口調。
それで以て述べられた、彼なりの戦いにかける思いを耳にして、修二は息を呑む。
自分が傷ついたりするのが楽しいわけではなく、それよりも嫌なことがあってそれを避けたいから、戦うというのか。

戦いたいがために戦うのだとばかり認識していた仮面ライダーの異なる一面を前に、修二は自分の中にある価値観が変化しつつあるのを感じていた。

「ぐあぁ!」

ふと、遥か彼方戦闘を繰り広げる龍騎とナイトが、苦痛に歪んだ声を上げた。
目を見やれば、二人の戦士がそれぞれ強敵たる怪人たちの猛攻を前に地に転がっており、まさしく絶体絶命と言って過言ではない状況であった。

「……行かなくちゃ」

ユウスケが、小さく呟く。
これ以上話している時間はないとばかりにその両手に得物を構えた彼は、修二に背を向けて走り出す。
先ほどまでの満身創痍ぶりはどこへやら、堂々とした様子で戦場へ駆け抜けていくユウスケの背中を見やりながら、修二はその拳を握りしめていた。

『修二!僕らも行くよ!』

瞬間、脳内にリュウタロスの声が響く。
それに伴う様にランスバックルを取り出し構えながら、修二は先ほどのユウスケの言葉を思い出していた。
もし自分にやれることをやらなくて誰かが傷ついたら。

浅倉を前に戦ったとき確かに自分の思考に存在していたもので、今だってユウスケが一人戦いに向かおうとしているのをじっと見ていられないという思いはある。
もしも……もしもこんなちっぽけな感情が自分には敵わないと思っていた仮面ライダー達が持つ普遍的なものなのだとしたら。
もしも未来の自分がデルタとして戦うのに得た感情なのだとしたら。

自分と未来の自分の間の壁は、案外小さなものなのかもしれないと、修二は思った。


929 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:33:42 8/0puBfM0

「あぁ、行こう。リュウタ」

それに今は、自分の中に心強い仲間だっていてくれる。
まだ自分には仮面ライダーとして戦う為の心構えは、少ししか分かっていないけれど。
それでもそんな自分の心の弱さを彼が補ってくれるなら、自分は戦える。

ワイルドのカードを挿入したランスバックルが、彼の腰に巻き付いていく。
再び瞳を紫に染めたR修二がそれを開き発生したオリハルコンエレメントへ飛び込めば、そこにいたのは名の通り槍を持つ一人の戦士であった。
戦える心を持たない修二と、戦える身体を失ったリュウタロス、二人の声が重なり生まれた一人の仮面ライダーが、今確かな戦意を持って戦場へ向けその双眸を輝かせていた。





「だあッ!」

ナイトサバイブの振るう剣が、アークオルフェノクの二の腕に受け止められる。
まるでダメージに繋がった様子のない目の前の巨躯に思わず戦慄を覚えた彼の顔に目掛け、アークの裏拳が飛ぶ。
すんでのところでバイザーを盾のように用いてダメージを軽減するも、しかしそれで衝撃を殺し切ることは出来ず、ナイトの身体は易々と吹き飛ばされてしまう。

無様に地を転がった彼が起き上がりその瞳に映したのは、同じように片膝をつき肩を上下させた龍騎の姿であった。
思いがけない背中合わせの状況に、互いの視線の先にはどちらもかつてないほどの強敵。
思わず脳裏に絶体絶命の言葉が浮かぶような絶望的な状況を前に、しかし運命は彼らをまだ見捨てることはしなかった。

――MIGHTY

――RIDER KICK

絶望立ち込める戦場の中へ、二つの異なる電子音声が鳴り響く。
何事か、状況を把握するため振り返ろうとしたカッシスとアークへと、怒声と共に放たれた鋭い一撃がそれぞれ突き刺さった。

「グォ……!」

呻きよろめいた両者の前に降り立つのは、それぞれ緑と青を朝日に照り返す戦士の姿。
小野寺ユウスケの変じるガタックと三原修二が持っているはずのランス、勇ましい両雄が立ち並ぶ姿だった。

「麗奈、大丈夫!?」

何故逃がしたはずの修二がここに、という困惑を声に出すより早く、龍騎のもとへ駆け寄るランス。
だがその声は修二のものに非ず、されど彼女にとっては聞き覚えのある、少年のような高い声だった。

「その声、リュウタロス……?お前、生きていたのか」

「えへへー、イェイ!」

何故三原修二もここにいるのかだとか、何故憑依しているのかだとか、そんな疑問を吐く気すら失せるほど無邪気な彼のVサインを見て、龍騎は脱力したようにかぶりを振った。
どちらにせよ今はそんな些末な事象を問いただしている状態ではない。
不意の必殺技によって敵の体制を崩せこそしたが、結局のところあの強敵たちにおいてはそれすらもさほどのダメージに伝わったとは考え難い。

そんな麗奈の危惧を証明するように、4人の戦士の前でアークとカッシスがゆっくりと立ち上がる。
警戒の色を深める彼らに対し、あろうことかカッシスは高く笑い声を響かせた。

「ククク、全く面白いねライダー諸君。幾ら数を束ねて向かおうと、君たちは所詮強者たる俺の餌に過ぎないのだよ」

瞬間、気合と共にカッシスが力を籠めると、先ほどランスに突かれた箇所に留まっていたエネルギーが彼のレイピア状に変形した右腕へと集っていく。
何事か、驚きに身を硬直させた仲間たちの中で、一人敵の手の内を把握する龍騎は素早く手札を切っていた。


930 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:34:16 8/0puBfM0

――GUARD VENT

響く電子音声に呼び起こされドラグランザーがその巨体で以て4人を覆い庇うのと、カッシスがその腕を振るうのはほぼ同時だった。
放たれた禍々しい衝撃を、全て龍騎の従者たるドラグランザーが受け止める。
瞬間、最上級のミラーモンスターの献身あってなお殺し切れなかった一撃の凄まじい余波が彼らを蹂躙する。

訪れた数舜の沈黙の中、ドラグランザー越しに宿敵を睨みつける龍騎とカッシス。
互いが互いを逃れられぬ障害と捉えている今、最早それ以上の言葉は不要だった。

「――ハァッ!」

暴風が止まると同時、龍騎は従者の背から敵へ向け飛び出す。
ドラグセイバーツバイとなったバイザーを勢いよく振り下ろせば、その一撃は軽々しくカッシスのレイピアに受け止められていた。

「乃木、怜治ィィィィィ!!!」

「来い、間宮麗奈ァァァァァ!!!」

怒号と共に互いの名を叫び剣を交わす両者の間に他者が入り込む余地はなし。
それを誰ともいわずに理解したナイトら三人の仮面ライダーたちは、残る一人の強敵へと新たに目を向けた。

「……」

向けられた敵意に気付いたか、灰色の巨躯はゆっくりと三者へとその身体を向き直す。
無言であるはずなのにこれ以上ないほどの威圧感を誇るアークを前にして、彼らは誰も愚鈍であるなどと誤った認識を抱くことはない。
その動きの緩慢さが反射神経の不足からではなく余裕から来るものだと正しく理解して、目の前の強敵へ再び彼らは息を呑んだ。





一台のトレーラーが、朝日を背に道路に停車する。
傷つき疲弊した三人の男を乗せた鉄の箱が、まさしく東西を隔てる橋へと間もなくその四脚を及ばせようという距離において止まったのは他でもない。
これから及ばんとしたその橋の上において、何らかの集団が恐らくは戦いを繰り広げているものと推察できたからだ。

「何か見えるかい、村上峡児」

一応エンジンを止めることなく運転手席においていつでも発進できるように準備を整えたフィリップが、助手席でカイザポインタへ目を通す村上へと声をかける。
すぐさま加勢してもいいのにわざわざこうして視察を行う理由は、一つに戦況の正確な把握のためだ。
誰が敵で、誰が味方なのか、そうした理解が曖昧なままで戦況をかき乱しても、却って仲間の気苦労を増やすだけ。

それに時間こそ経ったとはいえあのダグバと戦った疲労もいまだ完治とは言い難く、下手に手を出せばこちらがやられてしまう可能性も高かった。
かといって敵が誰であれフィリップに彼らを見殺しにする選択肢はないのだが、直接自分たちが戦いに赴くべきかトレーラーを用いた怪我人らの救助役に徹するべきかという身の振り方を判断するのは、決して悪手ではないと思えた。

「……まさか」

「どうした村上峡児?何があったんだ」

されど、その判断を委ねた当の本人は、ポインタを目から離し僅かに放心したように目を伏せた。
常に冷静沈着を絵に描いたような村上の珍しい動揺にフィリップは些か違和感を抱いたが、しかしこちらの懸念に気付いたか村上はいつもの表情を取り戻して向き直る。

「……いいえ、何でもありません。それよりも、あちらにいるのは貴方に聞いた左翔太郎さんの特徴によく合致すると思うのですが、確認いただいても?」

「な、翔太郎が!?本当か――――ッ!?」

思いがけぬ名前に平静を取り乱し、村上の手からカイザポインタを半ば奪い取るように受け取ろうとしたフィリップは、不意に腹部に強い衝撃を感じた。
仲間との、しかも狭い運転席の中でのやり取り故どうしても生じた隙が生みだしたその衝撃の正体が、他ならぬ村上が放った握りこぶしだったのだと気付くのと同時、フィリップは腹部に走る痛みによって強制的にその意識を刈り取られていた。


931 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:34:44 8/0puBfM0

「……ふん」

力なく自身に傾れかかったフィリップを退けながら、村上はネクタイを締めなおしGトレーラーの助手席を後にする。
先ほどカイザポインターを通し見たあのオルフェノクは、恐らく単に同種というだけではないという確かな存在感を村上に訴えかけていた。
本能からか直感からか、“彼”が今までの自分が探し求めていたオルフェノクの繁栄に不可欠な我らが王なのだと、村上は半ば確信していた。

なれば、それまで築いていたコミュニティを裏切り王に尽くす選択肢を取ることは、村上にとって全く難しい選択ではない。
これまでにないほどの清々しい心地を抱いて、村上は戦地へと歩んでいく。
仮初の仲間と共に、最後に一滴残った彼自身の人間性をも置き去りにしながら。





「ハァァ!」

ダークバイザーツバイが、空を切りアークへと迫る。
幾度となく受け止められたそれがまたも何の効果も見せぬままその灰の肉に飲み込まれるも、その一瞬がナイトへの反撃に繋がる前にガタックとランスの一撃が飛ぶ。
ナイトのそれと同様にどちらの攻撃も意味を持たずに火花だけをその場に残すが、しかしそれで攻撃を諦めるわけではない。

少なからずアークがその状況を疎ましく思い振り払おうとする勢いに任せて後退した彼らは、アークが続けざま光弾を放とうとするその瞬間に勝利の隙を感じていた。

「ユウスケ!今だ!」

「クロックアップ!」

――CLOCK UP

ナイトの合図に伴って、ガタックは自身の腰のクロックアップスイッチを強く叩きつける。
一人だけ高速の瞬間に飛び込んだ彼は、アークが自身に対する対抗策を講じるより早く、彼の懐に駆け寄りその両の手に携えた得物を重ね合わせていた。

「ライダーカッティング!」

――RIDER CUTTING

凄まじいタキオンの収束と共に、彼の持つガタックダブルカリバーが電子音声を放つ。
ダブルカリバーの間に生まれたエネルギーの奔流は、僅かな猶予さえ与えずアークの身体へと到達する。
一般の怪人であれば文字通り一刀両断に伏すことが出来るだけのそれは、しかし王たる彼の身体を前には些か役不足だったが、それでも必殺の一撃には違いなくアークの動きを阻害する役割は十分に果たせていた。

――CLOCK OVER

高速空間を自分から終了させ、通常の時間軸へと帰還したガタックは、そのまま死力を尽くしてダブルカリバーを頭上へと掲げる。
それに伴いガタックの頭上を超えて持ち上げられたアークが、拘束を脱する為その力を行使するより早く、彼らの次なる手札は既に切られていた。

――MIGHTY

「やあああぁぁぁぁ!!!」

幼い声の気合と共に、緑の軌跡が宙へ舞いあがる。
ランスが構えたインパクトスタップの一槍は、無防備に構えたアークの胸元へ直撃し衝撃と共に大きくその身体を吹き飛ばした。

――FINAL VENT


932 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:35:08 8/0puBfM0

そして勿論、この一世一代のチャンスをここで逃すはずもなく、ナイトが切り札を切ったことを示す電子音があたりへ響いた。
怒涛の連撃が効いたか、些か動きの鈍ったアークへとダークレイダーが放つ拘束弾が到達する。
それによって一切の抵抗を不能にされた王へ向け、一直線に突き抜けるは二輪駆動へと変形を果たした従者に跨るナイトの姿だ。

瞬間、その背に纏うマントが靡いたかと思えば一瞬のうちにそれは彼の全身を包み込み、まさしく疾風の名に恥じぬ勢いで以て加速を開始する。
無論ナイトの視界も閉ざされるが、それを意に介す必要もなくこの一撃で勝負は決まるだろう。
――ナイトの必殺技が直撃するその寸前、唐突にその場に生じた青い光弾が彼らの想定を全て覆すまでは、それは誰の目にも明らかな事象のはずだった。

「ぐああっ!?」

苦痛の悲鳴と共に、爆風によって持ち上げられた身体を地に打ち付ける三人の仮面ライダー達。
一発逆転を賭けた会心の戦略は無に帰し、ナイトのファイナルベントも消滅した為に二度同じ手を打つことは出来ない。
敗北の絶望が再び大きく目前に迫ってきたのを感じながらも、それでも諦める事はせず戦況の把握のため立ち上がった彼らが見たのは、あろうことかこちらに向けその手を翳す生身の人間であった。

彼は誰なのか、何故彼がアークではなく自分たちを攻撃したのか、そして何故生身のままこれほどの攻撃を行うことが出来るのか。
一切の理解が追い付かず困惑した彼らを置いて、突如現れたスーツの男はそのまま無防備にアークへとその足を進めていく。

「おいアンタ、何やって……」

素性の怪しい相手でも構わず呼び止めようとするナイトの声を無視して、男――村上はアークの前に迷いなく辿り着く。
彼はそれから立ち尽くすアークを恍惚の表情で数瞬見上げた後、忠誠を誓う様にその片膝をついた。

「あぁ、我らが王よ――会いたかったぞ。オルフェノクに永遠を齎し滅びから救うというその力、今この私に見せてみろ――!」

跪き見上げるだけの立場のはずながらも興奮と畏敬の入り混じった複雑な感情を吐き出す村上。
その口調は些か高圧的なものであったが、しかし王はそれを意に介する様子もなく、その巨大な掌で村上の頭を鷲掴みにした。

「ガアアァァァ!」

アークの掌から何らかのエネルギーが生じると同時、村上は悲痛な絶叫を上げる。
傍から見れば拷問のようにしか思えないそれを前にナイト達は立ち上がろうとするが、しかし身体は動かず。
どうしようもなく見届ける他なくなった彼らを前にして、いつしか迸るような強い光は村上の身体からも放たれ始めていた。

「おぉ……そうか。これが……これがオルフェノクの……ハハハ、ハハハハハハハ!!!」

昂る感情と共に叫んだ村上から発せられる光が一層の輝きを見せ、それを最後に収束していく。
瞬間、強い光に眩んだ瞳をゆっくりと開いたライダー達がその双眸に映したものは――まさしく人としての姿を捨て、完全なるオルフェノクへと覚醒したローズオルフェノクの姿だった。

「素晴らしい……いい気分だ。これで私は、本当に人間を捨て去ることが出来た」

恍惚とした口調で、されどどこか感情を欠いたように呟くローズ。
先ほどまでの興奮ぶりからすれば不気味そのものであるそれを前に戦慄を感じている暇は、しかし仮面ライダーには残されていなかった。

「ハァッ!」

思い出したかのようにこちらへと意識を向けたローズがその手を翳し、青い光弾を発射する。
先ほどは生身であったためか、或いは覚醒の余韻か。どちらにせよ先の一撃を大きく上回る威力を伴って爆発したそれは、呆気なく三人を蹂躙し大きく吹き飛ばす。
その強大な威力を前に強化形態であるナイトはともかく、ランス、ガタックの鎧は限界を迎えてその変身機能を解除され変身者の生身を晒してしまう。


933 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:36:23 8/0puBfM0

目の前に広がる有り余る戦果によって、新たな自分への一層の満足を抱いたローズは、ふと足元に転がる見覚えのあるベルトを目に留める。

「む、これは……」

それは、自社の所有物であり王を守る三本のベルト、その最後の一本たるデルタギアに相違ない。
どうやら今の攻撃で誰かしらのデイパックから漏れ出たらしい。
吹き飛ばしたうちの誰かが持っていたのだろうかとどうでもいい思考を重ねつつ、ともかく手に入ったのであれば僥倖とローズはそれを自身のデイパックに収めた。

これで、三本。王を守るために存在しながら心無い者によって数多の同族を葬ってきた力が、ようやく全て我が手中に揃った。
まさしく今王が眼前に立つこの光景と相まって、最強の忠臣たる自分の手にベルトが揃ったのは半ば必然であるかのようにすら、彼には思えた。

「……待てよ」

僅かながらダメージの残る王を連れどこかへ逃げるべきか、そんな思考を繰り広げていたローズの背に向けて、荒い息の男の声が届いた。
ゆっくりと振り返り見れば、そこにあったのはあの志村純一も纏っていた、青い蝙蝠を模した騎士の如きライダーの姿だった。
鎧のところどころに罅が入り、鎧の下の本人も恐らくは満身創痍なのだろう立ち姿勢には失笑を禁じ得なかったが、とはいえ捨て置くのは些か不安が残る。

「村上峡児ィ!」

なんにせよ自分が相手をすればすぐに済むか、とナイトへ向け歩を進めようとしたローズの元へ、降り注ぐ怒号が一つ。
声の主は確認するまでもない。先ほどまで自分が共に行動していたフィリップがもう目覚めたのである。
出来れば誰かしらの人質を取り首輪の解除を成し遂げさせようと命を取っていなかったのが裏目に出たか、と自身の甘さを呪いながら、ローズはゆっくりと振り返った。

視線の先にはフィリップの他にあの相川始も立ち並んでいるのが見える。
これでナイトを加えて計三人。自分ひとりで相手どっても難しい相手ではないだろうが、些か骨が折れるのは事実か。
どうしたものかと思案して、すぐにローズはより効果的かつ素晴らしい戦略を描き出していた。

「王よ、これを。このベルトは、貴方にこそ相応しい」

今一度跪き、自身のデイパックより一本の黒と金のベルトを仰々しく王へと献上する。
帝王のベルトとも称されるその鎧は自身にもよく馴染むが、それが真に相応しいのはまこと王である彼に違いないという思いが、迷わずそれを彼の手から手放させていた。
同時、一方のアークもまた既にその使い方を知っているかのようにベルトを自身の腰へと迎え入れ、その手で以てデバイスへと正規のコードを打ち込んだ。

――0・0・0・ENTER
――
――STANDING BY

「ヘン、シン」

――COMPLETE

黄金のフォトンブラッドが、アークの巨躯を包み込む。
それに伴い生成された漆黒の鎧が彼の身体をより重厚にし、輝く赤の瞳が鋭く標的を射貫く。
仮面ライダーオーガ。帝王のベルトたるそれをオルフェノクの王が纏ったそれは、まさしく考え得る限りの最強のオルフェノクの姿であった。

「……」

他者とは比べものにならない威圧を誇るオーガがナイトに向けその足を進めていく。
その堂々たる雄姿を見やりながら、ローズも先ほど拾ったばかりのベルトをその腰へ巻き付ける。
そのまま滑らかな手つきで自身の耳元に専用デバイスを持ち上げて、彼はコードの代わりとなる自身の肉声をデバイスへと入力した。

「変身」

――STANDING BY


934 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:36:48 8/0puBfM0

冷たく呟いた声がデルタギアへと承認され、変身シークエンスが開始される。
彼が手に持ったデルタフォンをデルタムーバーと呼ばれる受け皿へ収めると、次の瞬間には彼の身体は白いフォトンブラッドに満たされていた。

――COMPLETE

仮面ライダーデルタへ変身したローズは、その着心地を試すように手を揉みゆっくりとGトレーラーへと歩き出す。
その足取りに一切の迷いは存在しない。
ただ自身の前に立ちはだかる障害を退ける為のみの、かつて命を救われた相手すら一切の感情の揺らぎなく消し去るための、冷たい足取りだった。

「……来るぞ、準備はいいか」

一方で、躊躇なく向かい来るデルタの姿を視認した相川始は、フィリップへ向け最後の確認を取る。
突然叩き起こされ村上が裏切ったと言われたときは碌に会話をする暇もなかったが、いざという時に仲間への情やらが残っていて判断が鈍られても困る。
以前渡にも行ったそれではあるが、こうした確認を行っておくのは連携の上でも決して無駄ではないと、そう考えたのである。

「……あぁ」

問いに対する答えは、渡のそれとは違い迷いのない即答ではない。
だがその躊躇の瞬間から感じられるかつての仲間への躊躇さえも、仮面ライダーをよく知った今の時分にとっては、然程苛立たしいものではなく。
自分が求めていた答えの面倒さに我ながら呆れつつ、始は気持ちを切り替えるようにその手にラルクバックルを構えていた。

「変身」

――OPEN UP

――TURN UP

オリハルコンエレメントを潜りラルクへと変身した始の横で、同じくフィリップもギャレンへと変身する。
橘から受け継いだその鎧を纏うことに些かの抵抗は残るのかもしれないが、ともかく切り替えてもらわねば勝利の糸も掴めない強敵が相手であることは、この時点ではっきりしていることだった。
刹那、覚悟を決めたように正面を向いたギャレンがホルダーから銃を取り出すのと同時、ラルクもまた自身の得物たるボウガンから光の矢を放っていた。





「おーい皆集まれー!写真撮るぞー」

自分たちの恩師である増田の声が、暗い校庭に響いた。
料理をつまみ、近況を語り合い、各々がそれぞれ思い思いの同窓会を送っていた塾生たちは、しかしその声を受けて一斉に集まりだす。
会の終わりを察し先生の服を涙で濡らす他の塾生の背中を見やりながら、修二は「変わらないな」と思った。

増田先生も、他の塾生たちも、それにこの流星塾も、何もかもが昔過ごしていたあの頃のままだった。
神道が酔うと昔と同じように「流星塾の絆は永遠だ」なんて騒いで、里奈や真理達しっかり者な女子が、それを戒める。
それを何となく後ろで笑ってる西田や太田がいて、結局新井や徳本らが神道に乗っかって収集つかなくなって、先生に叱られて、皆で形だけの反省をする。

そんな変わらない光景に、ともかく昔と何も変わらない、とても楽しい会だったなと感傷に浸りつつ、修二は締めの挨拶を待っていた。

「――ちょっと待って!写真より先にー、先生に渡すものがありまーす!」

唐突に、晴子が大きな声を出して注目を集めた。
個人的な贈り物かな、とすっとぼけたことを思ったのは一瞬だけで、周囲の異様な喧騒でそうではないことは、すぐに理解出来た。

「ようやくかよ、マジでいつ渡すのかと思ったわ」

「晴子―、早く早く!先生待ち侘びちゃってるよ」


935 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:37:18 8/0puBfM0

何となく抱いた嫌な予感が見事的中するように、女子数人が先生へと何か厚紙のようなものを手渡す。
びっしりと書き込まれた寄せ書きらしいそれが間の抜けた感謝の言葉と共に、和やかな雰囲気で譲渡される瞬間に寒気を覚えているのは、恐らくその場で自分だけだったに違いない。
何故か。自分はそんな寄せ書きを書いた覚えなんて、一ミリもなかったからだ。

こうして同窓会に来ているのに、皆とも話して増田先生に感謝の言葉を伝えたかったのは、俺も同じなのに。
思わず抱いてしまった疑問に由来する底冷えするような震えが、夜風と共に身体を抜けていく。
飲み物の殆ど入っていないコップが軋み、酔いによるものではない前後不覚が自分を襲う。

まさか。抱いた疑惑が、どうしても大きくなっていく。
もしかして誰も……俺が書いていないってことに気付かなかったのか?
本当に誰も、俺の存在を……気付いてもいなかったって言うのか?

焦りと困惑に喉の水分が蒸発したように枯渇していくのを感じながら、修二はただ事の顛末を見守るように恩師を見つめる。
最後の希望を託すようなその瞳はしかし、当の増田本人に気付かれることはない。
まるでテレビの向こうの出来事を見つめるようにただ見ているだけしか出来なくなった修二は、一心に待ち続けていた。

「おいお前ら、修二の名前がないじゃないか」、「ごめんね三原君、タイミング合わなかっただけでさ」――そんな風に、自分を認めてくれる声を。
されど、待てども待てども恩師はこちらに気付く様子を少しも見せることもなく、ただ寄せ書きの内容にその瞳を潤わせていた。

「皆、本当に……本当にありがとう!」

全体にざっと目を通したのだろう、すっかり目を赤くした増田は誤魔化すように周囲に向け笑顔と大きな声で応えた。
それに対する反応は様々だ、釣られて泣く者、増田の涙を笑う者、そして――自分の名前に遂に恩師さえ気付かなかったという絶望に、ただ一人打ちひしがれる者。

「俺たち流星塾生の絆は永遠だぁぁぁぁぁ!!」

いつにも増してあまりに虚しく聞こえる気がする神道の調子のいい言葉が、やけに頭に残っている。
だけれども、それ以外の記憶は如何せん覚束ないままで、そこから後どうやって自宅へ帰ったのかの記憶は、あまりよく覚えていない。





流星塾の同窓会を終えてからの修二の生活は、前にも増して虚しいものだった。
絆だ友達だとそんなのは幻影に過ぎないんだと、ただひたすら手元に残る確かな保障としての日銭を稼ぐ為、ひたすらバイトに打ち込んだ。
手に出来るのは本当に些細なものだ。やりがいもないし、バイト先での新しい友人関係なんてものも築く気すらなかった。

だがそれでも、かつて同じ父を持ったというだけの小さな繋がりが齎す絆に縋って一生を過ごしていくよりはずっとマシなように思えたし、少なくともそうして貯金残高が徐々に増えていくのは嬉しかった。
継続の甲斐あって辛うじて興味のあったバイクも買えたし、今の生活に何の不自由もない。
ただそうやって金を貯める為に働き続けるような、灰色の日々を漫然と過ごしていたある日のこと。

かつての流星塾生の一員である高宮から急に、自分に向けて連絡があった。

「三原か!?悪い、伝言聞いたらすぐ折り返してくれ。父さんが俺たちに助けを求めてる。詳しい事情は電話で直接話す」

矢継ぎ早なその伝言を聞いて、どうしようもなく迷った自分がいた。
流星塾の面々にはもう未練も貸しも何もないが、父さんは別だ。
自分を救ってくれたあの優しい父さんが、自分たちに助けを求めているのだというなら、相当の事情に違いない。

親孝行を望んでも、ただ優しく「お前たちは生きていてくれればそれでいい」と笑うだけだった父さんに、何かをしてやれるなら。
そうして受話器を持ち上げて、しかしすぐにそれを置いた。
――別に俺がやる必要もないじゃないか。きっと誰か別の奴がやるさ。


936 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:37:41 8/0puBfM0

抱いた思いは、昔と変わらぬ事なかれ主義故のものだった。
そうだ、助けるなんて言ったって、俺は結局何もできないじゃないか。
知識だって全然ないし、ただ慌ててしまうだけなら、誰かもっとマシな奴が俺の代わりに頑張ればいいじゃないか。それに、バイトだってあるし。

そんな、言ってしまえば逃げの為の思考故に、高宮と話せる機会は、それきり一生なくなってしまった。
それを知ったのは、それから少しした後に伝言に残されていた、神道の言葉からだった。

「三原、いきなり悪い。実は……高宮が死んだ」

無視の出来ないそんな言葉から始まった神道の伝言は、次々に驚きの展開を迎えていった。
高宮が告げていた父さんの助けが必要な出来事とは、巷に現れ始めたオルフェノクと呼ばれる怪物に関してだったこと。
一方で父さんはカイザと呼ばれるベルトも彼に渡しており、真意は不明だが恐らくはそれによってオルフェノクを倒すよう願っていただろうこと。

だがそう信じてカイザに変身した高宮の命は、その解除と共に失われたこと。
しかしそれでもカイザがなければオルフェノクに対抗できない為、対策を立てる為にかつての流星塾生に連絡して合流を呼びかけていること。
短い時間ですらすらとそれを告げる神道の声はあまりに慣れており、恐らくそれを告げるのは自分で数人目なのだろうと思った。

「なぁ頼む三原。流星塾生の絆で、化け物を倒そう。父さんの為にも」

その言葉を最後に、伝言は終わった。
聞き終えてから数分の間、自分の身体は動かなかった。
人間に紛れ込んでる化け物がいて、それを倒せるのは自分たち流星塾生だけだって?

冗談じゃない、というのが正直な感想だった。
それに変身するだけで死んでしまうベルトで戦えだなんて、死んでくれっていうようなものじゃないか。
今度は、受話器を持ち上げすらしなかった。

流星塾の絆なんてものが薄ら寒く思えるようになったというのも勿論、唯一信じていた父さんすらも、自分たちに死ぬかもしれない戦いを望むような人だったのだと思ってしまったから。
それに自分の命をわざわざ捨てるような事をしなくても、いつも通りの日常を送っていればきっとこの事態もいつの間にか終わるはずだと、そう思ったから。
だから自分はまた伝言を無視して、そして神道の声を聴くのも、それが最後になった。

それから先は、何かあれば里奈が伝言を残してくれた。
一度も返事を返さなかったというのに、里奈は協力してくれとも言わず、まるで日記をつけるように事ある毎に連絡を寄越した。
西田や犬飼、晴子ら流星塾生だけでなく、増田先生までオルフェノクとの戦いの中で死んでしまったこと。

真理のもとにもう一本のカイザギア改めファイズギアが送られており、それを無事に扱える乾巧という青年とも協力が出来たこと。
そして忌むべきカイザギアも、同窓会に来なかった塾生である草加雅人が使いこなせた為に彼の持ち物となり、オルフェノクとの戦いの展望はかなり希望を持てるものになったこと。
残る最後のベルト、デルタが沙耶に送られており、それが及ぼす精神の変調により塾生の数人がおかしくなってしまったこと。

幾度も残された伝言によってどうしようもなく事態を把握してしまっていた修二は、しかしそれでも連絡を返すことはしなかった。
どうせ自分が何かを言ったところで、きっと無意味だろうと思ったから。
現に自分が何もしなくてもベルトを使いこなして化け物を倒す強いヒーローは乾という青年と草加がいるらしいし、今更のこのこ出ていったところであっさり死ぬだけだろう。

そんな無駄死にはごめんだと、碌に伝言を聞くつもりもないはずなのにしかし、何故か毎回伝言を欠かさず聞いている自分がいた。
きっとそれは自分が関わらなくても事態が好転していくに違いないという自分の仮説を確かめる為なのだと、そう自分自身さえ納得させながら。
だがそうしてどこか他人事のつもりで耳にしていた伝言はあの日、突然自分に向け確かな圧を含んで降り注いできた。


937 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:38:08 8/0puBfM0

「三原君、あのね、落ち着いて聞いて。真理が……真理が意識不明の重体で――」

それは、園田真理が戦いの中でオルフェノクの攻撃を受け意識不明になったという突然の連絡。
西田や高宮や増田先生……今までもその死を知っていた知り合いは山ほどいたはずなのに、修二にとって彼女が負傷したというその報は、今までのどれに比べてもずっと重くそして信じがたいものだった。
だって園田真理は自分にとって、いつだって目の前で起きている問題を解決してくれた正義のヒーローその人だったのだから。

父さんがベルトを送ったというのに何の疑問も抱かないほど、当然のようにいつだって主役の座にいた彼女は、きっと何があっても無事に生き続けるのだろうと、そう修二は漠然と思っていた。
そして、気付く。今までの自分は、結局の所テレビの中で繰り広げられるヒーローショーを見ていたのと何も変わらない気持ちで里奈の伝言を聞いていたのだという、その事実に。
それに気付いた途端に、修二はどうしようもない吐き気と動悸が身体の奥底から湧き出てきたのを自覚する。

今まで聞いてきた人の死は、決して他人事のそれではないのだ。
電話口に告げられた死者の名は、決してただの記号でなく自身が長年接してきた彼ら一人一人だったのだと。
そして同時に、園田真理のようなヒーローに頼り切っていても解決出来ないほど、事態は考えているよりずっと残酷で、現実に起きていることなのだと。

瞬間、今まで無視を続けてきた事が信じられないとすら思える速さで、修二は里奈に電話をかけていた。
もしかしたらこれは自分に対する手の込んだ悪戯だったのではないかと、真理の無事を確認したい一心で。
そして彼は間もなく――全てが真実だったことを知る。

オルフェノクも、ベルトも、戦うライダー達も、そして――それからすぐに、突然殺し合いへ連れてこられたということも。





「……うじ、修二、起きて」

「う……あ……」

身体を揺すられるような感覚と共に、修二は微睡みからその思考を起こした。
徐々に明るさを増しつつある空の青をその目に映しながら酷く気怠く呼吸して、全身に残る鈍痛に気付く。
呻くように息を吐いてゆっくり寝ていられる状況ではなかったと理解すると同時、彼は声の主へ呼びかけようと自身の胸に手を当てた。

「そっちじゃ……ないよ、修二……」

心の中に憑依しているはずの魔人へ声を伝えようと念じるが、しかし返ってきたのは先ほどまでの脳に直接響くようなそれではなく、自身の鼓膜を叩く空気の振動だった。

「……リュウタ?」

まさか、と思いつつ、声の聞こえた方へ振り向く。
何故自分に憑依していたはずのリュウタロスの声が、耳に直接響くのか。
答えはあまりに当然で、そして今の修二にとってはあまりに残酷なものだった。

「よかった……気付いた……」

ようやく見つけた声の主は、確かに自身もよく知るリュウタロスに違いない。
だがその身体はいつもの鮮やかな紫を失い、ただどこにでも存在する白い砂が身体中の至る部位から漏れ出ていた。

「リュウタ!」

思わず駆け寄り、横たわる彼の身体を抱き起こそうとする。
だがそれは叶わない。背中を支えようとした修二の手はリュウタロスの身体をすり抜け、自身の手は砂と共に虚空を掴んだ。
そして同時、どうしようもなく気付く。これが、恐らくは彼と話せる最後の瞬間なのだということに。


938 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:39:16 8/0puBfM0

「なん、で……なんでこんな……」

半ばパニックに陥り取り乱しながら、しかし修二にはこの状況が何故生み出されたのか嫌でも理解出来ていた。
元を正せば、そもそも乃木に首を掻き切られたあの瞬間に、リュウタロスの命は既に風前の灯火だったのである。
それをイマジン固有の能力たる憑依によって無理矢理修二に取り憑き一旦の安寧を得ただけで、結局は首輪の制限も絶体絶命の状況も何も打開出来てはいなかったのだ。

修二は知るよしもないが、この場における首輪の固有能力を制限する能力を思えば、恐らく彼がイマジンとしての憑依能力で以て誰かに取り付けるのも10分が精一杯だっただろう。
そしてそんな短すぎるタイムリミットが、村上の攻撃によるダメージで変身解除と同じく強制的に縮められてしまった。
纏めてしまえばそんな何てことのない、しかし何より残酷な答えが、今こうしてリュウタロスがその命を絶やそうとしている事の理由であった。

「修二、麗奈のこと……よろしくね」

「何死ぬみたいなこと言ってるんだよ、やめろって!」

死に際に未練を託すようならしくないリュウタロスの言葉に、修二の絶叫が響く。
その顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに濡らし、彼の身体から溢れ続ける砂を止める為に身体を押さえるが、しかし流れ落ちる砂は収まることを知らない。
自身の抵抗がどうしようもなく無意味だと悟り残酷な現実に再び大きく吠えて、それから修二は涙で赤く染まった瞳で死にゆく魔人を見た。

「リュウタ……待ってくれよ……、お前が死んだら俺は一体、どうすればいいんだよ……」

それは最早、懇願とも言うべき情けない呼びかけだった。
この会場に来てからずっと、彼と共に行動をしてきたというのに。
彼に見限られないように頑張ってきたし、彼に恥じない自分でありたいと自分を無理矢理奮い立たせてきたというのに。

そんな彼が死んでしまったら、これから自分は何を支えにこの残酷な世界を生きていけばいいというのか。
されどそんな泣き言を述べた修二に向けて、リュウタロスは失望するでもなくただいつものように無邪気に笑った。

「ううん、僕がいなくても……修二はもう、大丈夫だよ。だってあの時……あんなに格好良かったじゃん」

「リュウタ……」

思いがけない言葉に、修二は思わず息を呑む。
リュウタロスの口から、自分を格好良いだなどと評する言葉が出てくるとは思っていなかったのである。
認められた。自身より精神的に幼く不安定だったはずの彼に自分がそんな風に思われていたという事実に、修二はしかし今までの何時よりも承認欲求が満たされたような心地を覚えた。

リュウタロスはどこまでも純粋な存在だと言うことを、修二は既に知っている。
故に、自身に向けたその言葉が単なる場を収めるための気休めではないことも、一番よく分かっているつもりだ。
弱い自分に呆れ、特訓と称し無理矢理なトレーニングを課した彼が、今の自分を格好良いと言ってくれた。

ただそれだけの些細なことが、それでも修二にとっては掛け値なしに嬉しかったのである。
だが、悲しみと喜びという自身の相反する感情を整理しきれず言葉を失った修二に対し、リュウタロスはまるで何事もないように悪戯っぽく微笑みかけた。

「ねぇ修二、僕らってさ、結構楽しかったよね。答えは聞いて――」

――それが、最後の言葉になった。
別れの言葉を言い切らぬうちに、言葉を紡ぐ為の口も、ピースサインを作っていた手も、全て砂へと溶けて消えたのだ。
温い風が、背中を撫でかつてリュウタロスだった砂をどこかへと運んでいく。

それをどうしようもなく見つめながら、修二は何かを手繰り寄せるようにその山へと腕を潜らせる。
されど、その手は何も掴むことは出来ず。
ただ砂に塗れ白く染まった手だけが、涙に滲んだ視界に映っていた。


【リュウタロス@仮面ライダー電王 死亡確認】

【電王の世界 崩壊確定】

【残り14人】


939 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:39:40 8/0puBfM0





「ハァッ!」

気合いと共に、トリガーを引き絞る。
それによって火花と共に放たれた弾丸が、デルタの横面を掠め虚空へと消えていく。
同時、自分のそれと合わせるように穿たれたラルクの矢もまた直撃には至らず、彼らはただ一人しかいないはずの敵の接近を再び許すこととなった。

「フン!」

低い声と共に、デルタが自身の得物であるデルタフォンのグリップをラルクへ強かに打ち付ける。
短く苦痛の嗚咽を漏らし数歩下がった彼に向けて、間髪入れずに狙い澄ましたデルタの銃口が火を噴いた。
身体から火花を散らしまた数歩後退したラルク。

彼を庇うようにギャレンがデルタへと弾丸を放つが、しかしそれすら見抜いていたとばかりに彼は一瞬で身体を翻し弾丸を躱す。
超至近距離で行われた神業にギャレンが動揺する一方でデルタが放った光弾は、全てギャレンの身へと着弾した。
結果、今までの攻防の全てにおいてこちらの攻撃は一切の戦果をもたらさず、敵の攻撃だけが全てこちらのダメージとして与えられたという状況になったことを、ギャレンの鎧を纏うフィリップは冷静に、しかし戦慄と共に分析していた。

これまでの状況から一転、自分たちを裏切り敵となった村上の力は、端的に言って自身の想定を遙かに超えている。
というよりダグバとの戦いのそれなどと比べても明らかに強すぎる今のデルタの実力は、単に出し惜しみをしていたとして説明出来る領域ではない。
むしろ、先ほどあのオルフェノクにもたらされた謎の力によって自身の知るそれとは別次元に強化されたのだという方が、よりしっくり来る。

とそこまで考察を深めて、しかし今は理屈よりも戦闘自体に集中すべきかとギャレンは再びラウザーを握る手に力を込めた。
とはいえ、先ほども述べたとおりこちらの戦力に対して敵の強さが飛び抜けているのは最早自明の理だ。
或いは一発逆転を狙えうるだけの力を持つキングフォームも、橘の語ったジョーカーのカードが紛失した為に不可能であり、ラルクも先のダグバとの戦いによるダメージが尾を引いているようで、如何せん動きにキレがない。

正直かなり分の悪い戦いであると思うが、それで諦めていい戦いではないことも、ギャレンには分かっている。
そして同時、碌な連携も見込めず個々の戦力も及ばないこの不利な戦況を覆すには、一発逆転に賭けるしかないという事実も、強く理解していた。
ようやく考えの纏まった彼は、チラと後方のラルクを見やる。

歴戦の彼とて正攻法で勝ち目はないという考えは同じだったらしく、ギャレンの思考を読み取ったようにただ黙って小さく頷きを返した。
対するデルタも二人の不自然なアイコンタクトを確認したが、しかし自信の表れからか挑発するようにただその手を拱いた。
そして同時、皮肉にもそれを合図として、ギャレンとラルクが同時にデルタへ向け弾丸と矢を放つ。

案の定それらは全て敵への有効打にはなり得ないが、それで怯むはずもない。
デルタが反撃へと移るより早く、ギャレンは懐から取り出した一枚のカードをラウザーへと走らせていた。

――RAPID

ダイヤのスート4、ラピッドのカードを読み込んだギャレンラウザーが、一気呵成に弾丸を吐き出す。
それまでの射撃能力を大きく上回る連射性能で掃射されたその弾丸の雨は、幾ら身体能力の向上したデルタとて到底躱し切れるものではない。
例え狙いの正確でない乱射と呼ぶべきギャレンの攻撃であっても、デルタは反撃どころか身動きすら封じられその場でよろめいた。

「今だ、相川始!」

――SPINNING DANCE

ギャレンの合図を待つより早く、既に三枚のコンボをラウズし切っていたラルクが宙へと舞い上がる。
一方のデルタも刹那遅れて自身に必殺を為さんとするラルクに気付くが、しかしもう回避が叶う間合いではない。
身体全体で超高速の螺旋を描いて、ラルクがデルタへと迫っていく。

皮肉にもかつてデルタと同じオルフェノクをこの場で葬ったその一撃は、立ち尽くすデルタへと容赦なく突き刺さり、瞬間突き抜けた。
だがラルクに手応えの感触はない。それも当然のことだ、彼が貫いたのはデルタではなく、彼が生じさせた薔薇の山だったのだから。

「何……ッ」

思わず目を見開き風に舞う赤い薔薇を振り向いたラルク。
そんな彼を迎えたのは、予想だにしなかったデルタの鋭い拳だった。


940 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:40:08 8/0puBfM0

「相川始!」

絶叫を放ったギャレンに対して、デルタは容赦なく光弾を放つ。
それによって火花を散らしたギャレンの鎧がいよいよ限界を迎え、地に倒れるフィリップ。
一方で、思わず怯んだラルクもまた、デルタのストレートキックを胸に受けその姿を相川始のものへと戻していた。

「フフフ……」

余裕を含んだ笑みでデルタが二人を見下す。
直撃の瞬間にローズオルフェノクの固有の能力によって回避し反撃を行った。
そう言えば極めて単純なことだが、それが可能になったのはオルフェノクとして完全覚醒した故に能力を行使するのがより容易になった為だった。

改めて完全覚醒した自分に、もといオルフェノクという種に敵はないと確信したデルタが、そのまま目前に倒れ伏す二人を手にかけようと手を伸ばした、その瞬間。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

あまりに暑苦しい絶叫が、こちらへと向かってくるのをその耳で捉えた。
また邪魔が入るのか、と僅かな苛立ちと共に振り返れば、そこにいたのは一人の青年がその腰に銀のベルトを浮かび上がらせる光景。
青年はベルトをなぞるように左拳を握り、右腕は空を切るように真っ直ぐ伸ばす。

戦意を高揚させるような待機音と共にベルトを起動させた青年は、大きく跳び上がりそして叫んだ。

「変身ッ!」

瞬間、青年の身体は赤く染め上げられ、着地と同時放たれた拳がデルタを大きく後退させた。
戦いに敗れた二人を庇う様に立つ、この混戦に突如現れた赤い戦士。
初めて出会ったはずの彼の姿にしかし、倒れ伏す二人はそれぞれ見覚えがあった。

「クウガ!?」

「何?じゃあこれが本当の……」

今現れた仮面ライダーの姿に、思わずフィリップが叫ぶ。
その戦士は二人にとっては割り切れない忌むべき過去の、その悲劇の主人公とでも言うべき五代雄介と同じ姿をしていたからだ。
かつての温かい人の心を持ち、笑顔の為戦った五代を知るフィリップが門矢士や海東大樹から聞いたもう一人のクウガを連想する一方で、究極の闇に沈んだ傀儡である五代しか知らぬ始は、初めて見る本来の戦士クウガの姿に驚嘆の意を覚えていた。

だが当のクウガ本人には二人の事情など知るよしもない。
何故自分の名を知っているのか、と疑問を抱き振り返りかけるが、相対するデルタが自身を敵と認め、構え直したのを受けて戦場へと向き直る。

「はああぁぁぁぁ!」

話は後だ、と背中で語るように駆け出したクウガは、再びその拳を振り抜きデルタを捉えようとする。
見え透いた動きは無駄だとばかりにその拳はデルタに軽く流されるも、反撃に飛んできた蹴りは自身の左腕で受け止める。
相応の実力を認めたか、デルタが称賛の意を含んだ声を漏らすのも気にせず放たれたクウガの肘鉄は遂にその身体を捉えるが、されどその後退際にデルタは自身の得物へと手を伸ばしていた。

「ファイア」

――BURST MODE

装着者の指示を受け連射機能を発動したデルタムーバーが、次の瞬間クウガへ向けて光弾を連射する。
とはいえクウガもまた、その反撃は予想の範囲内。ベルトを青く輝かせ、俊敏性に優れたドラゴンフォームへと変身して素早く跳び上がることで、蜂の巣になることを回避した。
そのまま空中でマイティフォームへと戻ったクウガは無事に着地するが、次なる攻撃の手は未だ浮かばない。

デルタの実力はただでさえかなりのものであるのに加え、射撃能力さえ有している。
どうにかしてペガサスボウガンへ変形させられる何かを手に入れられればいいが、そう甘いことも言っていられないだろう。
であれば不利であるのを承知な上でタイタンフォームで突っ切るべきか、と決死の覚悟を決めようとしたその瞬間、思いがけぬ幸運が彼へ舞い降りた。


941 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:40:28 8/0puBfM0

「小野寺ユウスケ!これを使え!」

見知らぬ青年の声が、自分の名前を呼ぶ。
一目見て自分をクウガと呼んだ声だ、と気付くのと同時、彼が放り投げた銀の何かが目についた。
その形状、そしてそれを自分へ投げ渡した青年の意図を察したその瞬間に、クウガは自身の霊石の色を赤から緑へと変化させていた。

「超変身!」

掛け声と共にペガサスフォームへと変じたクウガが、青年から投げ渡された銀の何か――ZECT-GUN――をその手に掴む。
瞬間、モーフィングパワーの発動によりZECT-GUNは質量保存の法則さえ無視して巨大なボウガンへと変形する。
同時、一瞬にして敵に遠距離用の武器が出来てしまったことに舌打ちを漏らしたデルタが光弾を発射するが、その全てはクウガの研ぎ澄まされた五感によって正確に見切られ糸を縫うような最小限の動きのみで躱されてしまう。

「なっ……」

思わず驚きにデルタが手を止めクウガを仰ぎ見たその瞬間を、彼は逃さない。
刹那の隙を突き弦を引き絞ったクウガは、そのままデルタへ向けブラストペガサスの名を持つ空気弾を放った。
対するデルタもそれに気付くが、彼が有効な回避策を講じるより早く、空気弾はデルタの腕を正確に打ち据えていた。

「――ッ!」

射られた腕に走る痛みが、デルタの腕から得物たる銃をはたき落とす。
何故自身の身体そのものを狙わず武器を狙ったのか、そんな疑問が浮かぶが、答えはすぐに示された。

「はああぁぁぁぁぁ――!」

気合いの声と共に、赤に戻ったその右足を燃え上がらせ、デルタへ向けて一直線に駆け抜けるクウガ。
反撃をせねば、と反射的に腰に手を伸ばしてすぐ、既にデルタフォンが手元にないことに気付いたデルタには、もう反撃の手段は残されていなかった。

「――うおりゃあああああぁぁぁぁぁ!!!」

飛び上がったクウガはそのまま、滾る正義を乗せて右足を伸ばす。
マイティキックの名を持つその必殺の一撃は、まるで吸い込まれるようにデルタの胸へと着弾し、その身体を大きく吹き飛ばした。

「ぐあぁ!」

その身からデルタの鎧を消失させ、地を転がるローズ。
変身が解除されたというのにオルフェノクの姿のまま現れた目の前の敵にクウガは困惑に目を見開く。
だが、当のローズ本人はそれがさも当然とでも言う様に堂々と立ちあがっていた。

王に認められ真にオルフェノクとして覚醒したものは、今まで捨てきれなかった人間としての姿を捨て去る。
その素晴らしき恩恵は大ショッカーの首輪によって齎された、人としての姿を強いる制限にも打ち勝ち、村上にとっての所謂通常の姿をオルフェノクのものとしたのであった。
いつまでも変わらぬ自身の灰の肌を見て高揚した感情を抱いたローズは、そのままデルタギアをデイパックに収め新たなドライバーを腰に迎え入れる。

見覚えのあるそのベルトにクウガが警戒を深める一方で、ローズは手に取った端末にシークエンス起動の為のコードを打ち込んだ。

――5・5・5・ENTER

――STANDING BY

軽快な待機音声が周囲に鳴り響く中、ローズはファイズフォンをベルトに装填する。
それによって赤いフォトンブラッドがその身を包み、彼の身体は黒と銀の鎧に赤いラインを走らせたライダーズギアの一種、ファイズのものへとその姿を変えていた。
再び纏った鎧を馴染ませるように手もみした後、ファイズは腕に取り付けられたアタッチメントから黒と赤のメモリーを抜き出しベルトのものと入れ替える。


942 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:40:47 8/0puBfM0

――COMPLETE

電子音声と共に、ファイズの身体が光り輝き変化する。
一方で、敵が何をしようとしているか理解したその瞬間に、クウガは自身のベルトへとその手を伸ばしていた。

「超変身――!」

――START UP

アマダムがクウガの意思に応えその身に紫の鎧を纏わせるのとほぼ同時、アクセルフォームへの変身を完了したファイズもまた、能力による超加速を開始する。
瞬間クウガの身に襲い掛かるのは、おおよそ常人の1000倍と言われるスピードで行動することが可能になったファイズの息もつかせぬ連撃だった。
タイタンフォームに変じ機動力の衰えたクウガにとって、黒と赤、残像でしか捉えられないファイズの軌跡を相手にしては、まともな防御もままならない。

――TIME OUT

僅か10秒のタイムリミットが終わりを告げファイズの身が通常のそれへと戻るその瞬間、クウガは遂に膝を折った。
防御力の優れるタイタンフォームと言えど、一方的に嬲られるだけのその10秒間は、最早永遠にも近い苦痛を齎したのである。
連戦に次ぐ連戦による疲労とダメージが限界を迎え、その身を不完全を表す白へと変え血に横たえたクウガを鼻で笑いつつ、ファイズはその目の端に未だナイトと交戦するオーガの姿を映した。

王たる彼がオーガの鎧を纏ってもなお倒せぬだけの実力を持つほどあのナイトが強いのかと一瞬戦慄するが、されど数秒見ていただけでそれが勘違いなのだと気付く。
というのもオーガと戦うナイトは幾度となくその膝を折り、その構えすらも覚束ないほどに既に満身創痍だったからだ。
つまりはただただひたすらに彼がタフなだけだと断じて、その根性を断ち切るためファイズはオーガの援護をしようとその歩をゆっくりと進めていった。

「――小野寺ユウスケ!無事か!?」

ファイズが自分たちへの興味を失い立ち去っていくのを受けて、フィリップはグローイングフォームとなり倒れ伏すクウガへと駆け寄った。
苦痛と共に呻き荒く呼吸するその姿はあまりに痛ましかったが、その変身を解かないのは恐らくまだ戦う意思は持っているということなのだろう。
その覚悟は見ていて辛いものがあったが、同時に変身を解いて楽になってくれと言えるだけの力を持たない自分の無力が、それ以上に苦しかった。

ともかく自分に出来る事だけはしてやろうと、肩を貸しクウガを立ち上がらせたフィリップは、彼を治療するためにGトレーラーへその足を向けた。

「ありがとう……えっと、君は……?」

「僕はフィリップ。君のことは門矢士と海東大樹から聞いて知っている。五代雄介とは違う、もう一人のクウガだと」

「えっ、五代さん……?」

士や海東はともかく、五代の名を知っているという事実にクウガは些か前のめりに問いを投げようとするが、彼の口が再び開かれるより早く、突如目の前に現れた男の声が、二人の会話を遮っていた。

「お前が、もう一人のクウガか」

二人の行先を塞ぐように立った男に、見覚えはない。
もう一人の、という口調からして彼も五代を知るものなのだろうと察することは出来るが、彼の自分を見る目は、一条は勿論このフィリップという少年のものとも何処か違う気がした。

「相川始、今は彼の治療が先だ。そこをどいてくれ」

「一つ聞かせろ、お前は何のために戦っている」

「相川始!」

フィリップの非難を込めた声を無視して、始と呼ばれた青年は自分に誤魔化しの許されない鋭い瞳を向ける。
投げられた問いの唐突さに面食らったのも勿論だが、それ以上にフィリップの怒声を受けても一切揺らがないところを見ると、理由は分からないながらも彼は自分の答えを聞かない限り動かないつもりでいることは明快だった。
何のために戦うのか。何度も問われ、そして自問自答したその問いの答えをしかし、既に揺らがぬものとして自分が持っていることを、クウガは理解していた。


943 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:41:36 8/0puBfM0

「俺は……決めたんだ。皆の笑顔を守る為に戦うって。もう……一人しかいない、戦士クウガ……いや、仮面ライダークウガとして」

「……そうか」

五代の遺志さえ継いで戦う。かつて一条にも誓ったその言葉を再び確かめるように口にすれば、それを聞いた始は思案に沈むような顔をしたまま道を譲るようにその身を翻す。
訝しむように彼を見つつ、されど今はそれ以上にやるべきことがあると先を急ぐフィリップに引っ張られながら、クウガは不思議な気持ちで始の背中を見つめていた。

(皆の笑顔を守る……か)

一方で、ただ一人その場に残された始は、もう一人のクウガ――小野寺ユウスケに述べられた、彼が戦う理由を反芻するように繰り返し考えていた。
笑顔を守る。まるで抽象的で、それでいて夢見心地で要領を得ず笑ってしまうような絵空事。
だがそれを言うクウガの声音は、決して付け焼刃のそれではなく、そして同時にどこまでも真剣なものだった。

きっと、自分が今しがた抱いたような批判や嘲笑など、幾らでも受けてきたに違いない。
だがそれでも、彼はその夢を一心に信じ続け戦い続けてきたのだろう。
クウガとして、いや或いはただ一人の人間小野寺ユウスケとして、それが自分の叶えるべき夢だと、胸を張って言い続けてきたに違いない。

(きっとお前もそうだったんだろうな。五代雄介……)

次いで思いを馳せたのは、無表情のそれしか知らぬクウガ、五代雄介のこと。
金居の持つ何らかのアイテムや力によって操られた為に、ただの傀儡として戦いに明け暮れ、そして死んでいった一人の青年。
自分にとっては無表情で不気味だという印象しか残っていない彼もまたクウガだというのなら、きっともう一人のクウガたる小野寺ユウスケと同じように、誰かの笑顔を守ろうと戦っていたのかもしれない。

世界が滅ぶという大ショッカーの脅迫と、それに伴うただ一つ勝ち残った世界だけが得られる安寧の甘い蜜。
それらに踊らされ、そして同時避けられない状況だったとはいえ、一人の仮面ライダーをただの強大な力として利用し死に追いやってしまった事実に、始は今更ながら苦虫を噛むような心地を覚えた。
後悔ではない、考え足らずの苦悩でもない。だが仮面ライダーとその敵という形で彼の力を確かめられなかったことは、今なお始の心に杭のように突き刺さっていた。

(だが俺に、何をしてやれる。所詮俺は死神だ。世界を守るため、仮面ライダーと並び戦うなど、俺には……)

緑の血に濡れた己の手を仰ぎ見て、始は何ともしがたい不快感にその拳を握る。
自身の中に流れる血は、温かい人間の赤ではない。
人を襲いその力を示そうとしか思わない化け物のそれだ。

こんな自分が仮面ライダーたちのように誰かをまともに守れるなどと、やはり幻想ではないのか。
誰も答えられないその疑問と苛立ちに、始が再び陥りそうになった、しかしその時。
虚空から自身の足元に向けて、何か固い金属が投げつけられた音を耳にした。

「……これは」

危険はないらしいことを把握し、足元に転がる銀色のそれを拾い上げる。
彼が目を見開いたのは、ZECTの文字が中心に刻まれたその銀色のベルトが彼にとっても見覚えのあるものだったからだ。

――『これは、木場さんの形見なんだ』

以前ジョーカーの男――左翔太郎が自身に対しデイパックの中身を説明する中で現れた一つのベルト。
自身が殺した木場勇治という男が持っていたというそのベルトを、無念の感情と共にその下手人たる自分に故意なく見せたあの時の光景。
その抱くべきでない居心地の悪さ故、妙に記憶にこびりついたその瞬間が、今何故かフラッシュバックしてしまっていた。


944 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:42:03 8/0puBfM0

「まさか……」

妙な直感と共にふと目を配らせれば、視線の先に茶と緑の二色を持つバッタ型ガジェットが、自身の答えを待つようにこちらを見つめていた。
始は知らないが彼の名はホッパーゼクター、近くに自身の資格者たり得る存在がいることを察知し、間宮麗奈のデイパックから抜け出して始の元へ来たのである。
彼が始を自身に相応しいと感じたのは彼のジレンマに苦悩する性格故か、それとも彼の命を救った葦原涼がもう一基のホッパーゼクターに選ばれた存在であったためか、或いは――。

そのどれであるかは不明であるものの、とにかく確かなことは、始がホッパーゼクターに見初められたという、その事実が存在することだった。

「戦えというのか、お前の力で……」

ゼクターの意図を察した始は、再び自身の手に握られたベルトを見る。
これを使えば、また自分は戦えるだろう……恐らくはそう、仮面ライダーとして。
果たしてこのベルトを自分が使っていいものだろうか、思案した彼の耳に、遠くから一人の男が痛みに苦悶する声が届く。

振り返れば、そこにはオーガとファイズに良いように甚振られるナイトの姿があった。
持ち前のタフさすらもう限界に近いらしく、既にその身体は今にも倒れそうなほど傷だらけだ。
同時、その光景を前に思わず自身の手に力が籠るのを実感して、始は自身の感情に驚愕した。

そして気付く。自分は許せないのだ、善良なはずの誰かが悪に蹂躙されるその光景に、義憤とでも言うべき感情を抱いているのだと。
何故だとか、いつからだとか、そんな理屈の一切を無視するほどどうしようもなく、そんな不条理を黙ってみていられない自分がいることを、始は自覚していた。
キュイン、と先ほどよりずっと自身に近寄ったゼクターが、催促するように鳴く。

自分は既に準備が出来ている、お前はどうだ。
そんな声すら聞こえてきそうなゼクターの姿と、またその身から大きく火花を散らし地を転がるナイトの声を耳に、始は全ての躊躇いをかなぐり捨てるように勢いよく立ち上がった。
その腰にバックルを装着し、跳び上がったホッパーゼクターをその右手に受け止める。

これから先は、言い訳など通用しないただの自己満足だ。
自分が気に食わないというだけの理由で合理にかけ離れた選択をし、好んで自分の世界の勝利を遠ざける行いをする。
だがそれでいい。もしこうして戦えるのが今だけなのだとしても、それでも始はこの場に来て初めて、心から胸を張って戦える気がした。

「変身」

小さく呟き、右手に握ったホッパーゼクターをバックルへ装着する。
それによって発動する変身機能は、彼の身体を変えていく。
自身の信じる正義を為すための鎧、その力を彼に齎すために。

――CHANGE PUNCH HOPPER

電子音と共に灰色に輝く双眸。
仮面ライダーパンチホッパーへと変身を完了した始は、その背中に風を感じた。
まるでその誕生を祝福するような追い風に自然と駆け出す足を乗せて、彼は悪へ向け一直線に走り出す。

――『世界を救うために……行けよ、人類の味方……仮面ライダー』

どこからか聞こえた気がしたそんな声は、すぐに風に呑まれて消えた。





「ぐあぁっ!」

その身を甚振る何度目かの斬撃に、ナイトは耐え切れずその背から地に落ちた。
敵はあの自身の命を奪いかけたオルフェノクが変身した黒い仮面ライダーに、後から合流した銀の仮面ライダーだ。
ベルトから見ても同じ世界に出自を持つのだろう彼らは、ナイトの悪い予感通り仲間であり、ただでさえ不利な状況は一層自身の敗北の色を濃くした。


945 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:42:32 8/0puBfM0

黒いライダー……オーガだけでもナイトには防戦一方が関の山だというのにそこに加勢とあれば、この一方的な戦況も容易に理解できる。
それでもナイトが未だその鎧を纏い続けるのは、ひとえにこの姿で負けるわけにはいかないという、亡き友への意地によるものだ。
恋人の為、命を懸けた戦いに身を投じた友の思いを、今更自分が踏みにじるわけにはいかない。

そんなちっぽけなプライドだけが、今なおナイトの身体を立ち上がらせていた。

「……中々しぶといですね。しかし、そろそろ終わりにしましょう」

自分が加わってなおここまで手こずるとは思っていなかったのか、呆れと共に賞賛の情さえ込めた声を投げたファイズは、自身の時計型アタッチメントへと手を伸ばす。
実力に劣るファイズすら碌に打倒できない有体のナイトを終わらせるには、やはり知覚すらできないアクセルフォームによる高速の連撃が有効だろう。
だがその腕が赤いミッションメモリーをファイズフォンに装填するその寸前、彼の身体は唐突に現れた茶色の腕によって大きく吹き飛ばされていた。

「――えっ?」

驚きに目を見開き声を漏らしたナイトの目に映るのは、飛蝗のような風体をしたライダーの姿だった。
彼にもう少し注意力があれば、そのライダーのベルトが病院で翔太郎から麗奈へ譲渡されたものだと気付くことが出来たかもしれないが、ともかく。
人柄故か、突然現れた新手にしかし、ナイトは警戒より先に安堵を覚えていた。

「……やってくれましたね」

殴り飛ばされたファイズが、憤りと共に立ち上がる。
それと同時飛蝗の仮面ライダーも彼に向き直り、立ち向かうべく再び駆け出していく。
果たして任せても大丈夫だろうか、とそんな不安を抱く暇もなかったのは、ナイトの敵も未だ目の前に確かな存在感を伴って存在していたからだ。

「これで一対一、だな……」

状況を整理するように、ナイトが呟く。
一方のオーガは家臣が消えたことすら意に介さない様子で、再びその手に持ったオーガストランザーを大きく振り下ろす。
咄嗟の瞬発力で盾状になったダークバイザーツバイを構えて何とかそれを受け止めるが、しかし殺しきれなかった衝撃だけでも今までに感じたことのないようなダメージが、ナイトの全身に迸った。

これまでの疲労も相まって今すぐにでも身体が引きちぎれそうな錯覚を覚えるが、しかしそれでも腕を下ろすことはしない。
気合いと根性だけで勢いを殺し切り、右手に握るバイザーから抜き取った剣でオーガの横腹を切りつける。

「――ッ」

小さな呻きと共に、鎧から火花を散らし後退するオーガ。
されど、浅い。すぐにでも気付いてしまったのは、最早自分に碌な力が残されていないことを知ってしまっているからだ。
ぶらりと垂れた自身の左腕は、もう限界を超えている。

恐らくは後数度今のように無理な攻防を繰り返せば、一生使い物にならなくなったとしても不思議はない。
限界を超えたダメージと疲労を感じながら、ナイトはオーガを睨みつける。
自分に残された手札で、敵に有効だと思えるようなものはもうないと言って過言ではない。

ブラストベントやシュートベントは打点が足りず、トリックベントはもう時間稼ぎになるかも怪しいところだ。
というよりもし仮にファイナルベントが残っていたとして、それでオーガを倒し切れたという自負があるかと問われればそれも疑わしいのだから、この状況は全く絶望的という他無かった。

(蓮……ごめんな)

「……」

無言で、しかし確かな殺意を持ってオーガが再びその剣を持ち上げる。
事前動作を目で終えるようなその動きがただ敵の緩慢さを表すような隙ではないことは、ナイトは既に知っている。


946 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:42:51 8/0puBfM0

(俺、折角お前に貸し、作ってもらったけどさ)

文字通り空気を切り、今まさにこの身を真っ二つに切り離さんとする剣が振り下ろされる。
それをどこか他人事のように見上げながら、ナイトは自身の得物を握る手に力を込めた。

(悪いんだけど、これで終わりになるかもしんない――!)

瞬間、オーガの剣は碌な防御姿勢さえ取れないままのナイトを切り崩さんとその身体を捉え―――――。




















「――捕まえた、ぜ」

そして次の瞬間、その刀身を肩に背負うようにして受け切ったナイトが、勝ち誇ったような声を上げた。
その異様な自信にさしものオーガも危機感を覚え、オーガストランザーを持ち上げようとするが、しかし叶わない。
この千載一遇のチャンスを無為にはしまいと肩と左腕で抑え込むように、ナイトがオーガストランザーをその腕と肩で挟み込んだからだ。

なれば自由な足を使いすぐにでも距離を取らねば、とオーガが判断するが、しかし一手遅かった。
オーガがほぼ反射的に自身の得物を手離せなかったその瞬間に、ナイトの最期の攻撃は既に放たれていたのだから。

「だあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫と共に放たれたナイトのダークバイザーツバイの刃が、オーガの腰に鎮座するベルト、更にその中心の生命線たるオーガフォンへ、真っ直ぐに伸びる。
瞬間、敵の狙いを理解し、それは不味いと本能で察知したオーガは、神速の勢いで以てナイトの顔へ膝蹴りを放った。
それを受け、如何とも形容しがたい悲鳴と共に弾き飛ばされたナイトの鎧は、遂に限界を迎えた。

どさり、と音を立てて真司の身体が仰向けに倒れ伏す。
鼻を始めとして至るところから血が流れ、意識も朦朧として今にも気を失いそうなほど頭痛がする。
だがそれでも最後の最後まで意識を保ち続けようと意地を張り続けた、その理由は。

「――おぉぉ、おおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」

先ほどまでただ余裕と共に自身を追い詰め続けた宿敵が、そのベルトから火花を散らし苦悶するその姿を目に焼き付け、自身の勝利を確信するその為だった。
オーガのベルトに突き刺さったダークバイザーツバイが、からりと音を立てて地に落ちる。
それに伴いその身に走らせた罅を一気に広げたオーガフォンがエラーを起こし、そのベルトにセーブされていた高出力のフォトンブラッドを装着者に毒として放出する。

元々フォトンブラッドはオルフェノクにとって最大の毒なのだから、それを制御する機能が失われた今、オーガの鎧を身に着けることは最早拷問に他ならない。
或いは齎された傷が変身機能まで停止させればこの拷問も終わりを告げるのだが、果たしてそれまでの数秒だけでも、王にとっては十分致命傷と呼べるだけのものだった。
その瞬間を待ち望み、ただバチバチと全身から電流を流して苦悶に喘ぐオーガ。

その姿に自身の勝利を今度こそ悟ったか、真司は遂にその意識を闇に手放したのだった。


947 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:43:16 8/0puBfM0

「……王!?」

そしてその予想だにしていなかったオーガの敗北は、ファイズの元にも届いていた。
王の目金にすら敵うオーガの圧倒的な力が、今は逆に身体を蝕む毒として王を苦しめている。
今すぐにでもそれを止めなければと、すぐさまアクセルフォームへと変身して、王の身体からオーガドライバーを引き剥がす為に走り出そうとする。

「俺を忘れるな」

だが瞬間、同じくクロックアップで高速空間へと突入したパンチホッパーが行く手を阻む。
言葉を返すより早くファイズは拳を振るうが、パンチホッパーには届かない。
躱し、或いは受け止め、その全てを時間の浪費という形で徒労に終わらせてくる。

「クッ、この死に損ないが――!」

「死に損ないはどっちだ」

らしくなく激情に身を任せ乱打を続けるファイズの面へ、パンチホッパーのストレートパンチが突き刺さる。
呻き後退したファイズを見やりながら、この因縁を終わらせるためにパンチホッパーは自身のベルトへと手を伸ばした。

――RIDER JUMP

電子音声と共に跳び上がった敵を睨みつけ、憤りを込めてファイズはファイズショットを握りしめる。
この一撃で示すのだ。オルフェノクの築く未来は揺るがないのだと、オルフェノクこそがこの世を支配するに相応しいと信じた自分は、間違っていなかったのだと。
ただならぬ思いを込め、アクセルグランインパクトを放つファイズ。

――RIDER PUNCH

それを迎え撃つは、宙より降り立つパンチホッパーの、ただ正義の勝利を信じる鋭い拳。
ぶつかり合った二つの意思と拳は、高速の世界でなお変わらぬ速度を誇る光に包まれて、大きな衝撃と共に両者を吹き飛ばした。

「ぐあぁっ!」

絶叫と共に、ローズの身体が地を滑る。
衝撃に耐えきれなかったファイズギアがセーフ機能を発動し、彼の変身を解除したのである。
またも戦いに敗れた無念に、今度こそは余裕を取り繕うことすら出来ずローズは地に拳を打ち付けるが、とはいえ無力に打ちひしがれている時間はない。

グググと軋む体を鞭打つように立ち上がり、使い物にならなくなったオーガギアの前で茫然と膝をつくアークごと、その身を薔薇に包み姿を消した。

「――ッ」

目の前で逃げられてしまったことに、パンチホッパーは思わず舌打ちを漏らす。
ある程度戦力を削れたとはいえ、村上もあのオルフェノクも、相当の実力を持つことに変わりはない。
与えたダメージが回復され再び襲ってくればどうなるか、正直なところ全く分からなかった。

「……うっ」

ふと、目の前に倒れる男が呻くのが聞こえる。
まさか生きているとは思わず驚いた、というのが正直なところだが、とはいえ始にとっても生きていて悪い気はしない。
取りあえずはこの男をフィリップのところに連れていき、治療を受けさせるのが先かと男を背に担いだパンチホッパーは、人知れず笑みを浮かべる自分を、確かに自覚していた。





「シェアア!」

カッシスの鋭い刃が、龍騎の頬を掠める。
ただの一撃すら躱し切れなかった事実に自分の疲労を実感しながら、されど龍騎は油断なくドラグセイバーツバイを振るうが、その剣は敵のもう片手に生えたレイピア状の腕に阻まれる。
なれば、とばかりにその脚でカッシスを蹴りつけ距離を取った龍騎は、自身のデッキへと迷いなく手を伸ばしていた。


948 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:43:36 8/0puBfM0

――SHOOT VENT

ドラグバイザーツバイの放つ電子音に伴って、従者たるドラグランザーが龍騎の背後に追従するように出現する。
刃を収め銃のような形態に変化したドラグバイザーツバイをカッシスに向け構えれば、それを受けたドラグランザーもまたその口中に巨大な火炎弾を発生させる。
そしてそのまま、カッシスが龍騎の狙いに気付き感嘆の声を上げるのも気にせず、トリガーを引いた。

龍騎の挙動に伴い青いレーザーが照射されるのと同時、ドラグランザーの吐き出した火炎弾が容赦なくカッシスへ降り注ぐ。
一方で、それまで龍騎の攻撃を見定めるように立ち尽くしていたカッシスも、メテオバレットの名を持つそれが発動すると同時、何かを察するように横に跳んだ。
だが、それで簡単に逃がすような龍騎ではない。自身のレーザーとドラグランザーの火炎弾で以て、カッシスの身体を捉えようとする。

「――ガァッ!」

果たして龍騎の努力は身を結び、カッシスの身はドラグランザーの火球によって焼かれた。
同時、苦悶の声を漏らす彼の身は、どれだけ待とうと炎を吸収することはない。
そしてその光景を前に、龍騎はあることを確信していた。

カッシスワームの第二形態であるグラディウスの特殊能力たる、必殺技の吸収能力。
原理こそ不明だが仮面ライダーの必殺技を吸収し自分のものと出来るその力を取り戻したらしい今のカッシスに、何故メテオバレットが有効なのか。
その答えは、単純にドラグランザーの放つ炎は特殊なエネルギーを伴うものでなく単に超高温度の炎であり、つまりカッシスの吸収できる範疇のそれではない為だ。

確かにメテオバレットは仮面ライダーの必殺技であり、ライダーキックと同様並の怪人であれば容易に打倒できるだけの威力を持つ必殺技である。
だがそれを形成する力がタキオン粒子でもオーラエネルギーでも、ましてモーフィングパワーでもなくただの自然にも存在する炎である以上、カッシスには吸収出来ないのであった。

「……やるな、間宮麗奈」

炎に巻かれたその身体を、クロックアップを用いて何とか鎮火させたカッシスが、苛立ちを含んだ声で賞賛を述べた。
龍騎はそれに何を返すでもなかったが、今の一撃が有効だったことに対しては、確かな勝ちへの道筋を見出していた。
ドラグランザーの炎が通じるのであれば、自分にはまだ幾らか打てる手がある。

或いはデッキにある“あのカード”をうまく扱えればより効果的に勝利を手に入れられるかもしれないが、果たして手数の一つとして数えていいものかはまだ判断しかねる。
ともかくどちらにせよ今の攻防を経たカッシスもそう容易く反撃を許しはしないだろうし、最悪その素振りを見せた途端にクロックアップないしフリーズで動きを封じてくる可能性もある。
果たして、カードを引き抜き決めきれるだけの隙を作ってくれるものだろうか、と思案したその瞬間に、思いがけぬ幸運が龍騎に舞い降りた。

――CLOCK UP

聞き覚えのある電子音が、唐突にその場に鳴り響く。
何事か、両者共に新手に警戒を抱き振り返ったその瞬間には、カッシスの身体もまた敵を迎え撃たんと超高速の世界へ入門していた。
振り返り見れば、そこにいたのは茶の体表に灰色の瞳を持つZECTのマスクドライダーシステムの一種。

元の世界で影山瞬が変身しており、第一形態の時点で軽くあしらった彼如きが自分と間宮麗奈との決闘を邪魔したことに、カッシスは苛立ちを隠せない。
だが一方のパンチホッパーはそんな事情も露知らず、ましてカッシスの能力さえ知る由もなくその拳を振るっていた。

――RIDER JUMP

ゼクターを操作したパンチホッパーが、宙へ跳び上がる。
通常の攻撃ではこちらに届かないと悟って一発逆転の一撃に希望をかけたのだろう。
だがそんな迎撃も回避も容易なそれを、カッシスは甘んじてその身に受け入れようとその手を開いた。

――RIDER PUNCH

電子音声と共に、タキオン粒子迸るパンチホッパーの拳がカッシスへと突き刺さる。
その威力にカッシスも僅かながら後退するが、しかしそれだけ。
ライダーパンチの威力の大半を形成するワームに有効なはずのタキオン粒子は、当のカッシスワーム本人に余すところなく吸収されてしまったのだから。


949 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:44:12 8/0puBfM0

「何……?」

困惑を表したパンチホッパーへ、新たな力に狂乱し腹から笑い飛ばすような豪快な笑い声と共にカッシスが迫る。
必殺の一撃が効かなかったどころか止めどない嫌な予感すら抱かせるカッシスの進軍に、パンチホッパーが戦慄を抱いたその瞬間、カッシスの腕は真っ直ぐに放たれていた。

「ライダーパンチ!」

禍々しいエネルギーの奔流が、カッシスの腕を伝いパンチホッパーの身を打ち据える。
その一撃の凄まじい威力に、まともな防御すら出来ぬまま彼は変身を解除され宙を吹き飛んだ。
一方で、無様に地に落ちたその変身者が以前自身が殺そうとした相川始その人であることを認めて、カッシスは下種な笑みを零す。

さて、どうやって殺してやるべきか。全く以て悩ましいとばかりに、愉悦と共にその足を進めたカッシスの足が突如として動かなくなったのは、それからすぐの事だった。

――FREEZE VENT

遅れて聞こえた電子音が、その現象を起こした張本人を主張する。
やられた、と思うが早いかクロックアップし拘束から抜け出そうとするが、しかしそれを可能にする足は既に凍り付いてしまっていた。
瞬間、自身に纏わり付く氷を叩き割る為の腕すら凍り付き、いよいよ反撃の一切が不可能になったカッシスの下へ、宿敵の声が降り注いだ。

「皮肉なものだな、乃木怜治。まさかお前を攻略するのが他でもない“フリーズ”とは」

「間宮、麗奈ぁぁぁぁぁ!!!」

既に勝利を確信したような龍騎の声に、抑えきれない怒りの感情をそのまま吐き出す。
だが一方の龍騎は、カッシスの絶叫にすら特別心動かす様子もなく、ただこの状況を生み出した一枚のカードを思い出していた。
先ほどパンチホッパーが敗北したその瞬間、彼女が切ったのは使いどころに悩み今の今まで自身のデッキに残っていたストレンジベントのカード。

その状況に最も相応しいカードへ変化するとされる、まさしく変幻自在のそれの効果を麗奈は正直眉唾物だと思っていたのだが、しかし或いはと一抹の希望を託したのである。
結果、発動したそれはカッシスへの意趣返しか、その能力と同じ名を持つフリーズベントへと姿を変え、彼がどれだけ早く動けようと関係のない拘束を彼に施した。
顔まで凍らなかったせいでこの忌々しい喚き声が続くのは少々いただけないが、それも最後だと思えば我慢は出来ると、龍騎は残る最後のカードをデッキから抜き取った。

――FINAL VENT

切り札の発動を意味するそれを受けて、ドラグランザーの背へ飛び乗った龍騎は、そのままバイクへと変形した彼に跨がり神速の勢いでカッシスへ迫る。
ドラゴンファイヤーストームと呼ばれるそれは、龍騎の世界の必殺技の中でも有数の破壊力を誇る最強の一角だ。
これを受ければ、幾ら今のカッシスと言えどその死はほぼ決定的なものと言って間違いない。

高まりきった加速の勢いのまま、ドラグランザーが前輪を持ち上げ高らかに咆哮を上げる。
その衝動のまま吐き出された火球がカッシスを直撃し、その身体と彼の周囲を燃やし尽くす。
火の海と化したその道を一直線にカッシスを打ち砕かんと駆ける龍騎はそのまま、ドラグランザーによる轢殺で以てこれまでの因縁全てに決着を付けようと力を込めて――。



















「――またしても最後の最後、見誤ったな。間宮麗奈」


950 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:44:31 8/0puBfM0

先ほどまでの勢いはどこへやら、目の前で物言わぬドラグランザーを前に、カッシスはただ一人の世界で誰に届くこともない勝利宣言を呟いた。
彼以外の世界は全て制止し、自分だけがこの止まった時の中を動ける、フリーズの能力が遂に発動したのである。
だが、無論知っての通り、フリーズを発動するには高く掲げたその腕を胸の高さにまで勢いよく引き戻す動作が必要になる。

足どころか肩まで凍り付いていたはずのカッシスには発動は勿論予備動作すら不可能だったはずのそれをこうして発動できたのは、皮肉なことに奇跡の産物であった。

「皮肉なものだよ。まさか君自身の炎が、俺の氷を溶かしてしまうとは」

嘲笑と共に足下の、瞬間的に気化し質量の大半を失った氷塊を見やる。
先ほど龍騎の必殺技が発動したときは半ば諦めたものだが、まさか最後の最後、ドラグランザーの放つ炎が、自身を縛る氷を溶かしてしまうとは夢にも思わなかった。
とはいえこの戦法もここまで自分を追い詰めダメージを与えたことを思うと、これは龍騎の詰めの甘さというよりも、彼女と自分の間に存在する如何ともしがたい実力の差によるものなのだろうと、カッシスは自画自賛気味に笑った。

「後一瞬、俺が早く諦めていれば勝利は君のものだったろうに。……残念で仕方ないよ」

クツクツと、思ってもいない言葉を吐き、カッシスは強度を落とした氷を自力で叩き割って龍騎の前へ歩み出でる。
これが正真正銘最後の決着だと、名残惜しい思いすら抱いて、彼はその掌へ闇を集わせた。

「じゃあな、間宮麗奈。――消えろ」

止まったときの中で、ドラグランザーごと龍騎の身体をカッシスの掌から放たれた闇が包み込む。
絶叫すら許されないその世界で、それでも凄まじい衝撃故に姿勢を崩したその身体を、最後にライダースラッシュで横凪に切り倒す。
そしてそれによって全てが終わったことを確信したように、カッシスはそれきり彼女に背を向けてその腕を振るった。

追撃の為ではない。
ただ、自分の勝利を示し、そして彼女の断末魔を聞き届ける為。
止まっていた時を、元の流れに戻す為に。

そして同時、眠っていた世界は、突然に息を吹き返す。
制止する炎は思い出したように揺らぎ、それまで黙っていた音が空気の振動を伴って爆音を掻き鳴らす。
そして――。

「――ぐあぁぁぁぁぁぁ!?」

自身の待ち望んだ女の絶望に沈んだ敗北の声が、カッシスの鼓膜に愉悦をもたらした。
悲鳴と共に麗奈の身体が地に落ち、土がその白い洋服を汚す。
ベルトに装着されていたデッキが音を立てて割れ、従者たるドラグランザーは断末魔すら許されず消滅した。

敗北。それ以外に言葉が見つからない状況を味わっていると痛感しながら、麗奈はふと、自身の敗北の理由を悟っていた。

『あんたは納得いかないのかもしれないけど、いつか絶対に俺たちであいつを倒すから、だから今は――』

乃木との戦いに向かう前、自分を止めようとした真司の言葉。
麗奈は聞き流していたが、彼が言ったその言葉にこそ、自身が聞き逃してはならない敗因があったことを、今更に麗奈は感じていた。

(俺たち、か。結局私は、仲間を信じ切れなかったんだな……)

それは、真司は決してカッシスへ単身で挑むことを考えていなかったこと。
実力差を理解している、という以上に、きっと彼は知っていたのだ。
それが最も、確実な勝利を得るために必要な手段なのだと。

強い単身の力同士でぶつかって勝っても、結局は相手と同じ土俵に立ってしまった時点で、自分は昔と何も変わらないと認めたようなものだ。
もし仮にフリーズベントで動きを止めた際、乃木が吸収を出来ないだけの量の必殺技を同時に放てる仲間が、側にいてくれたなら。
乃木は自分の得物だと、周囲を遠ざけ一対一に拘ったが故の結末がこの無様な敗北なのだと、何故だか今は素直にそう認めることが出来た。

死が近づいた為の諦観からか、ただひたすらに自身の失策を悔いる麗奈の前に、未だ五体満足のカッシスが立ちはだかる。
いよいよ以て万策が尽きた心地で彼を見つめる麗奈は、最早抵抗する気力すらなく彼に翳される死の瞬間をただ待つことしか出来なかった。


951 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:44:49 8/0puBfM0

「待、て……!」

瞬間、三度その場に第三者の声が飛び込む。
煩わしそうにカッシスが振り返れば、そこにいたのはどことなく見覚えのある、しかし脆弱を絵に描いたような白い仮面ライダーの姿。
遅れてきたヒーローの登場、とは到底思えない、歩くこともままならず構えすら不格好な彼の惨状を前に、思わずカッシスは鼻で嘲笑を漏らした。

「小野寺ユウスケ!無理だ、やめろ!」

後ろから小野寺と呼ばれた青年を追いかけてきたのは、フィリップである。
小野寺ユウスケ、という名は確か、詳細名簿によれば五代雄介と同じくクウガに変身出来るとされていたか。
よもや目の前のボロクズがあのライジングアルティメットと同じ仮面ライダーだとは思いもよらず、カッシスは自身の不注意を呪った。

とはいえ、どちらにせよ地の石がまだ生きている可能性を考えるのであれば、この存在は早めに刈り取っておくべきだろうか。
或いは、後々自身の手中に地の石を収めることを踏まえれば、生かさず殺さず手元に置いておくことも一つの手なのだろうか。
そうして自身を死闘極める敵としてではなく、戦利品ないし傀儡になり得る材料として見定め始めたカッシスの思いも知らず、クウガはその足を一歩前に進めた。

「無理じゃない!だって俺は決めたんだ。中途半端はしないって、五代さんの代わりに戦うって。だから……!」

戦闘を維持できるだけの力が足りない、と警告するグローイングフォームの白に染まった身体を見やりつつ、しかしクウガは萎えぬ戦意で以てカッシスを、そしてその奥で倒れ伏す麗奈をその瞳に映す。
自分のせいで誰かを傷つけてしまうくらいなら、暴走はしたくない。
その思いは決して変わっていないが、だがそうして自分が躊躇ったせいで誰かの命が奪われるのをただ見届けるのは、それ以上に嫌だった。

ダグバに燃やし尽くされたあの警官を、青年を、京介を、小沢を、自分が救えなかった数多くの人々を思い出す。
もうあんな思いはごめんだ。自分がどうなるとしても、もうあんな犠牲は、二度と生み出したくなかった。

「これ以上誰かが目の前で傷つくのを、ただ見てるくらいなら……!俺は……究極の闇にだってなってやる……!」

並々ならぬ決意と共に、クウガはベルトへ手を伸ばす。
アマダムが再三の警告を脳へと直接伝達するが、しかしそんなものは無視だ。
自分がどうなろうと、それで誰かの笑顔を守ることが出来るなら。

それで自分は十分だ。究極の闇だろうと何だろうと、この身を堕としてやろうではないか。
悲壮なまでの自己犠牲と尊いまでの理想を抱いて、クウガの身は再び禁断の変身を遂げる。
体表を覆う装甲は不完全を表す白から、究極を表す黒へ。

その瞳は心の温かさを連想させる橙色から、深淵を覗くような透き通るような黒へ。
角は凄まじき戦士を意味する4本になり、その肩からは天を突かんとする鋭利な触覚さえ伸びる。
クウガの全てが戦いに特化したものへ染まり、その心さえ枯れ果て闇に葬られる中、対するカッシスは思わぬ得物に舌なめずりした。

よもや以前敗北を喫したクウガと、こんな形で再び相見えるとは。
正直に述べてあの時戦ったライジングアルティメットに比べれば誇る迫力は可愛いものだが、それでも退屈はしないだろう。

(リベンジマッチと言うべきか、或いは単に憂さ晴らし、と言うべきか。どちらでもいいが、楽しませてくれよ?もう一人のクウガ君)

自分勝手な思考を繰り広げたカッシスが、挑発の意を込めてクウガへ向けその腕を大きく開いたまさにその瞬間。
自我を失った究極の闇が、ただ目の前の標的を打ち砕かんとその足音を轟かせた。


952 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:45:14 8/0puBfM0


【二日目 朝】
【G-3 橋】


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】暴走中、疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(中)、アマダムに亀裂(進行)、ダグバ、キング@仮面ライダー剣への極めて強い怒りと憎しみ、仲間の死への深い悲しみ、究極の闇と化した自分自身への極めて強い絶望、仮面ライダークウガに変身中、仮面ライダーガタックに1時間55分変身不能
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、 ZECT-GUN@仮面ライダーカブト
【道具】アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ディスクアニマル(リョクオオザル)@仮面ライダー響鬼、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド、ユウスケの不明支給品(確認済み)×1、京介の不明支給品×0〜1、ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品×0〜1、照井の不明支給品×0〜1
【思考・状況】
0:(暴走中)
1:一条さん、どうかご無事で。
2:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない。
3:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
4:渡……キバット……。
5:もし本当に士が五代さんを殺していたら、俺は……。
【備考】
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。
自壊を始めるのか否か、クウガとしての変身機能に影響があるかなどは後続の書き手さんにお任せします。
※ガタックゼクターに認められています。
※地の石の損壊により、渡の感情がユウスケに流れ込みました。
キバットに語った彼と別れてからの出来事はほぼ全て感情を含め追体験しています。
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※ギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。



【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、カッシスワームディアボリウスに変身中
【装備】なし
【道具】ブラックファング@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:もう一人のクウガをどう料理するか。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
【備考】
※もう一人の自分を吸収したため、カッシスワーム・ディアボリウスになりました。
※これにより戦闘能力が向上しただけでなくフリーズ、必殺技の吸収能力を取り戻し、両手を今までの形態のどれでも好きなものに自由に変化させられる能力を得ました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動、インパクトスタップ、ライダーパンチ(パンチホッパー)の五つです。



【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】意識統合、疲労(極大)、ダメージ(極大)、仮面ライダー龍騎に2時間変身不能、仮面ライダードレイクに1時間50分変身不能
【装備】ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:自分の中に流れる心の音楽に耳を傾ける。
0:なんだ、この戦士は……。
1:乃木を倒すのは私の役目だ。
2:西病院に戻り仲間と合流する。
3:皆は、私が守る。
4:仲間といられる場所こそが、私の居場所、か。
【備考】
※人間としての人格とワームとしての人格が統合されました。表面的な性格はワーム時が濃厚ですが、内面には人間時の麗奈の一面もちゃんと存在しています。
※意識の統合によって、ワームとしての記憶と人間としての記憶、その両方をすべて保有しています。
※現状、人間時の私服+ワーム時のストレートヘアです。


953 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:46:01 8/0puBfM0



【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一、士への信頼、ダメージ(極大)、疲労(極大)、美穂と蓮への感謝、仮面ライダーナイトに2時間変身不能、仮面ライダー龍騎に1時間50分変身不能
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
0:(気絶中)
1:戦いの後、西病院に戻り仲間と合流する。
2:間宮さんはちゃんとワームの自分と和解出来たんだな……。
3:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
4:黒い龍騎、それってもしかして……。
5:士の奴、何で俺の心配してたんだ……?
6:自分の願いは、戦いながら探してみる。
7:蓮、霧島、ありがとな。
【備考】
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。



【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、仮面ライダーギャレンに1時間55分変身不能、サイクロンドーパントに1時間20分変身不能、照井、亜樹子、病院組の仲間達の死による悲しみ
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファングメモリ@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ギャレンバックル+ラウズアブゾーバー+ラウズカード(ダイヤA~6、9、J、K、クラブJ~K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ)@仮面ライダーW、メモリガジェットセット(バットショット+バットメモリ、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW)、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、首輪解析機@オリジナル 、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:乃木怜治に対処、だがこのクウガは……?
1:大ショッカーは信用しない。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
4:首輪の解除には成功できた、けど……。
5:葦原涼の死は、決して無駄にしない。
【備考】
※T2サイクロンと惹かれあっています。ドーパントに変身しても毒素の影響はありません。
※病院にあった首輪解析機をGトレーラーのトレーラー部分に載せています。


954 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:46:43 8/0puBfM0



【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、仮面ライダーパンチホッパーに1時間55分変身不能時間変身不能、仮面ライダーラルクに1時間50分変身不能、ジョーカーアンデッドに1時間20分変身不能、仮面ライダーカリスに1時間20分変身不能、罪悪感、若干の迷いと悲しみ、橘と葦原への複雑な感情
【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣、ラルクバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため行動する。必要であれば他者を殺すのに戸惑いはない。
0:大ショッカーを打倒する。が必要なら殺し合いに再度乗るのは躊躇しない。
1:クウガに一体何が起きているんだ?
2:取りあえずはこの面子と行動を共にしてみる。
3:再度のジョーカー化を抑える為、他のラウズカードを集める。
4:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
5:キング@仮面ライダー剣は次会えば必ず封印する。
6:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
7:乃木は警戒するべき。
8:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)は倒す。
9:ジョーカーの男(左翔太郎)とも、戦わねばならない……か。
10:葦原……。
【備考】
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。
※左翔太郎が自分の正体、そして自分が木場勇治を殺したことを知った、という情報を得ました。それについての動揺はさほどありません。
※取りあえずは仮面ライダーが大ショッカーを打倒できる可能性に賭けてみるつもりです。が自分の世界の保守が最優先事項なのは変わりません。
※乃木が自分を迷いなくジョーカーであると見抜いたことに対し疑問を持っています。






「リュウタ……俺、どうしたらいいんだよ……」

リュウタロスの成れの果てである砂の山へもう一度その手を潜らせながら、修二はどうにもならないこの理不尽な現実に絶望していた。
サラサラと掌からこぼれ落ちる砂が、山へと再び戻り流れていく。
どうしようもなく無情なその一連を眺めるのと同時に、リュウタロスとの思い出を振り返った修二は、彼が常に誰かの為に頑張ろうとしていた事を思い出す。

自分を強くするために鍛えようとしたり、麗奈を守ろうとその身を挺したり、変身が出来ない仲間達の代わりに、自分だって怖いはずなのに戦おうとしたり。
幾らか空回ることもあったけれど、それでも彼はずっと正直に、自分がやりたいと思ったことをやり続け、言いたいと思ったことを言い続けていた。

『ううん、僕がいなくても……修二はもう、大丈夫だよ。だってあの時……あんなに格好良かったじゃん』

リュウタロスが死の間際に自分に放った言葉が、ふと脳裏を過ぎる。
格好良い。彼の言葉が全て心のままに正直だというのなら、あれだけ自分に失望し呆れていた彼が自分をそう評したこともまた、紛れもない事実のはずだ。
だがリュウタロスがどういった所で、自分は何も変わっていない。戦いだって怖いままだし、誰かを殺すことだって嫌なままだ。

浅倉との戦いであんな風に戦えたのだって無我夢中だったからで、本当は怖くて怖くて仕方なかったのである。
ただあの時はリュウタロスや麗奈、仲間達を守らなくてはと思ったら身体が勝手に動いただけで、もう一度同じ事をやってくれと言われても、同じように出来る自信は全くなかった。
あの瞬間を思い出すだけで身体が震え、動悸がする。

こんなに情けない自分には、やはり戦う事なんて無理なのだと、そうやって諦めようとした、その瞬間だった。
ガチャリ、と自身の後方に何かが音を立てて落ちた。
驚きほぼ反射的に振り返れば、そこにあったのは自分もよく知る一本のベルトのものだった。


955 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:47:26 8/0puBfM0

「これ……ファイズのベルトか?なんでここに……」

拾い上げてみれば、それは父さんから真理へ送られてきたという三本のベルトの一つ、ファイズのベルトだった。
何故これがここにあるのか、見当も付かないそれに思いを馳せる。
だがそれでも今の彼にとってそれは、気付くべき何かを示唆するように感じられた。

「父さん……父さんは、俺達に何をして欲しかったんだよ……」

ファイズのベルトへ向け、返ってくるはずもない問いを投げる。
ファイズ、カイザ、デルタ。三本のベルトを自分たちに託して、父さんは一体何をして欲しかったのだろうか。
オルフェノクとの全面戦争の為の兵士?それとも誰かにベルトを送り届ける配達人?

冗談じゃない、と憤りにも似た感情を抱く。
大義のために戦って死んでくれだなんて、そんなのは絶対にごめんだ。
けれどもそれを結論として父を罵るような真似は、修二にはやはり出来なかった。

自分たちの父が誰より優しい心の持ち主だと言うことを、修二は知っている。
だから、そんな彼が死ぬかも知れない戦いへ自分たちを巻き込まなければいけないのだとしたら、別の意図があるように感じられたのだ。
そう、父さんは常に子供である流星塾生の皆に優しかった。だから或いはそれは自分たちを思ってのことで、或いは――。

「――これを使って、身を守って欲しかった……?」

ふと口から出た何気ない言葉が、修二の内側へ染み渡るように広がっていく。
もし父が自分の知る優しい彼のままなら、自分たち流星塾の子供のことを一番に守ろうと考えるはずだ。
だからもし仮に、父はただベルトを自己防衛の手段として送り、オルフェノクという驚異から自分たちを守ろうとしたのだというなら。

自身の父は決して自分たちを戦争へ駆り出そうとした薄情者ではないのだと、少なくとも修二はそう信じることが出来る。
そして同時に、それでも尚ベルトという力だけを託し自分は一切姿を見せなかったのは、その力で他の誰かをも守りたいというその思いまで否定しない為の父の優しさではないかと、今の修二にはそう思えた。
そこまで考えて彼は今一度、ファイズのベルトに目を見やる。

「真理……お前だったらきっと、黙ってなんていられないもんな」

死した同胞の友へ声をかけるが、当然のことながらベルトは何も答えを返してはくれない。
自分の考えが合っているとも外れているとも、或いは今までの歴史さえも。
それでも……いやだからこそ、修二は信じることにした。

自分の信じたい父の姿を、そして幼少の自分が憧れたヒーローである園田真理の、その思いを継げるというそんな自分勝手な妄想を。

「リュウタ……行ってくるよ」

最後に友に向け一言だけを残して、修二は走り出す。
その視線の先、恐らくはファイズギアが吹き飛んできたのだろう方向で、この場から逃げようとする二人組の灰色の怪人へとその瞳を向ける。
自分が、真理のような格好良い正義のヒーローになれるかなんて、そんなことは今はまだ全く分からないけれど。

少なくとももうこれまでのように逃げる気だけは、修二の中には存在しなかった。





「王よ、貴方はこんなところで死ぬべき存在ではない。今は力を蓄えるのです」

自身の力で瞬間移動し不利な戦況から抜け出したローズオルフェノクは、未だなおオーガギアから放たれたフォトンブラッドの毒素に苦しむアークへと声を掛ける。
ローズからすれば自身を糧にしてでも王にはその力を完全なものにして欲しいのだが、完全に復活した王に同胞を糧として体力を回復する機能はないらしく、その気配は見られない。
ともかく王の尋常ならざる能力であればこの弱体化すら少しの時間で克服するだろうし、自分たちの先行きは決して暗いものではない。


956 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:47:48 8/0puBfM0

次に相見えたときには必ずや人間達を下し、王を何としてでも元の世界に連れ帰る為の手がかりを掴んでみせる。
その為であれば少々癪だが大ショッカーの仕掛けた殺し合いに乗り、他の参加者を皆殺しにすることすら吝かではない。
どうあったとしてもオルフェノクこそが人類をも越える支配者であることを証明し、その未来を輝かしいものにしてみせる。

ローズがそんな野望と共に自身の使命を再確認した、その時。
彼らの後ろに荒い息と共に忙しない足音が近づいてきた。

「ん……?」

フィリップや相川始は巻いたはずだが、一体誰が。
そんな疑問と共に振り返ったローズの瞳は、驚きに見開かれることとなる。
何故ならそこにいたのは、先ほど一撃で伸したはずの青年が、ファイズギアを携えて立ちはだかる姿だったのだから。

そして同時、先ほどは完全覚醒の高揚感故気付かなかったが、その青年に妙に見覚えがあることを、今更ながらローズは思い出していた。

「なるほど、どこかで見た顔だと思えば、貴方は流星塾の……」

注視すれば、どうやら彼は園田真理や草加雅人と同じ流星塾の生き残りの一人であるのに気付く。
名簿にある名前と示し合わせれば、恐らく三原修二というのが彼の名だろうか。
細かい事情はともあれ、この場で同じ世界の出身と意味もなく争う必要もない。

ローズは既に失われた、人としての姿で浮かべていたのと同じ笑みを顔に貼り付けて、修二に一歩歩み寄った。。

「どうも、お初にお目にかかります。早速ですが、よければそのベルト……お返しいただけませんか。それは我が社の所有物で――」

「――違う!」

今の今まで黙っていた修二が、ローズの声を遮るほどの怒声を上げた。
何が気に障ったのか、低すぎるほど低い物腰で話しかけていたローズは、思わず呆気に取られる心地を抱きその眉を顰めた。
一方の修二は、まるで肉親に向けるような熱い視線をその手に持つベルトに向ける。

「これは……父さんから俺たちへの、流星塾生への贈り物だ……!」

「えぇ、ですから貴方のお父様、花形は我が社の前社長で――」

「いいや、父さんは俺達の父さんだ。スマートブレインとかオルフェノクとか、そんなの関係ない!」

理屈と共にベルトの返還を求めれば、返ってきたのは取り付く島もない一方的な反発だった。
全く以て乾巧といい草加雅人といい、ベルトを持つ者たちは揃って自分を不愉快にしてくれる。
語っている理屈も全く理解が及ばない狂言の類いであるし、どうやらこれ以上言葉を語る必要もないと、ローズは溜息を吐いて自身のデイパックからカイザのベルトを取り出した。

「同じ世界の縁で見逃すつもりでしたが……私の時間を無駄にした罪は重い。貴方にはここで……死んでいただきます」

ベルトを装着し、カイザフォンを操作するローズ。
一方で、避けられぬ戦いがすぐそこまで迫っていることを察した修二は、自身もまたベルトを装着し携帯型デバイスを開く。
恐怖をもう感じないかと言われれば、それは否だ。

されどそれ以上に、今の自分にはここから逃げる気がないのも、確かな事実だった。

(真理……俺と一緒に戦ってくれ。君みたいに誰かの為に戦える強さを、俺にくれ……!)


957 : 異形の花々 ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:48:07 8/0puBfM0

――5・5・5・ENTER

――9・1・3・ENTER

――STANDING BY

重なる待機音声が、その場に奇妙な二重奏を奏でる。
ファイズフォンを折りたたみその腕を真っ直ぐ天に向けて突き伸ばした修二の目に、もう迷いはなかった。
怖がって逃げているだけでは、本当に自分が守りたいものすら取りこぼしてしまうことを、彼はもう知っているから。

「行くぞ、リュウタ……!」

今は亡き異形の友へ捧げるように、修二は小さく呟く。
真の悪は姿や力ではなく心に宿ることを、修二は彼から教わった。
故に彼が戦うのは、決して異形を打ち倒す為ではない。

邪悪に踏みにじられる善良な誰か、例えどんな存在であってもそんな心優しい誰かを守る為に、彼は力を振るうのだ。
少なくとも、その誓いを抱いて戦う内だけは、彼に胸を張れるほど格好良くて強いヒーローでいられるような、そんな気がしたから。

「変身!」

――COMPLETE

決意と共に高らかに宣言し、彼らは“変身”する。
一人は、亡き友の思いすら継いで、姿ではなくその心を見て守るべき存在を判断する心優しい戦士、ファイズへ。
一人は、人としての姿を捨ててそのベルトの使命のままにオルフェノクの王を守り、自分の抱く野望を成就させるため戦う戦士、カイザへ。

奇しくも同じ目的の為作られたはずの二本のベルトが今、相容れぬ二人の手によって敵対する。
まさしくベルトに心はなく、故にその顛末は装着者の心に委ねられた。
勝利するのは人類かオルフェノクか、真に滅ぶべきはオルフェノクであるのか人類であるのか、或いは三本のベルトは王を倒すのか守るのか。

奇妙な因縁により対峙した二人の戦士は、互いに譲れぬ思いを抱いて。
今同時に、敵へ向け勢いよく駆け出した。


【二日目 朝】
【G-3 橋】


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】覚悟、ダメージ(中)、疲労(中)、仮面ライダーファイズに変身中、仮面ライダーランスに1時間55分変身不能、仮面ライダーデルタに1時間50分変身不能
【装備】ファイズギア(ドライバー+ポインター+ショット+エッジ+アクセル)@仮面ライダー555、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:流星塾生とリュウタの思いを継ぎ、逃げずに戦う。
1:リュウタ……お前の事は忘れないよ。
2:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるはずだ。
【備考】
※後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。



【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、オルフェノクとして完全に覚醒、仮面ライダーカイザに変身中、仮面ライダーファイズに1時間55分変身不能、仮面ライダーデルタに1時間50分変身不能
【装備】カイザギア(ドライバー+ブレイガン+ショット+ポインター)@仮面ライダー555、デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式 、詩集@仮面ライダー555
【思考・状況】
基本行動方針:王を元の世界に帰還させるためなら、殺し合いの優勝も厭わない。
1:王に刃向かう者は全て殺す。
2:ダグバ、次に会えば必ず……。
3:次にキング@仮面ライダー剣と出会った時は倒す。
【備考】
※王の力によってオルフェノクとして完全に覚醒しました。もう人間としての姿には戻れません。



【アークオルフェノク@仮面ライダー555】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、オーガドライバーのフォトンブラッドを浴びたための一時的な衰弱
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
0:今は臣下(村上)に任せ身を休める。
1:参加者は見つけ次第殺していく。
2:同族に出会った時は……。



【全体備考】
※G-3 橋の上にデンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王、支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王(リュウタロスの支給品類)が放置されています。
※オーガギア@仮面ライダー555、龍騎のデッキ+サバイブ(烈火)@仮面ライダー龍騎は破壊されました。


958 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 19:51:29 8/0puBfM0
以上で投下終了です。
今回のとあるキャラクターの描写は出来るだけ本編に寄り添って考えたつもりですが、結局の所捏造ですので、明らかな矛盾がない限り温かい目で見ていただけると幸いです。(明らかな矛盾があれば勿論ご指摘くださいませ)
それでは毎度のことではありますがご指摘ご感想などありましたらよろしくお願いいたします。


959 : 名無しさん :2019/12/09(月) 21:00:43 CeYSzAn60
投下乙です!
タイトルを裏切らない三原回でしたね。
元の世界から幾度となく所有者を変えてきた3本のベルト。その果てが本編と同じ人類のファイズvsオルフェノクのカイザになったのは感慨深いです。

そして個人的にはようやく吹っ切れた始も見どころでした。そんな彼の背中を後押ししたのもファイズの木場さんなのですから、やはり今回は三原回で間違いなし。
超強敵達に立ち向かうライダー達との激戦に心踊るSSでした!


960 : 名無しさん :2019/12/09(月) 21:02:27 O1myqDOU0
投下乙です!
迫力満点の死闘が繰り広げられて、最後まで誰が生き残るのかわからない状況で緊迫感に溢れ……そして新しい戦いの幕開けになりましたか!
それぞれが死力を尽くし、村上社長たちが乱入したことで更に一波乱となってついにリュウタロスも倒れるとは。これまで三原と一緒にいたからこそ、喪失感も大きすぎる。
だけど、三原はリュウタロスの意志を受け継いで、村上社長との戦いに赴くのが非常に熱かったです!
一方でユウスケと乃木の戦いも始まりましたが、こちらもどうなる!?


961 : 名無しさん :2019/12/09(月) 21:23:08 CeYSzAn60
一つ、ちょっとした指摘をさせていただきます。
今回のSS内にてアクセルフォームを二度使用しておりますが、設定や描写的にも一度の変身では一度しかなれないフォームではないでしょうか?
何のデメリットも無しにできてしまうのは少し違和感があるかな、と自分は感じました。お手数ですがご確認お願い致します。


962 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/09(月) 22:22:01 8/0puBfM0
皆様、ご感想ありがとうございます。そして>>961氏、ご指摘ありがとうございます。
仰るとおり、裏設定などを踏まえずともファイズアクセルは1度の変身で2度使ったことはなく、抱かれたのだろう違和感も真っ当なモノかと思います。
引いては2度目のアクセルをカットしてパンチホッパーと普通にバトルする形に修正しようかと思います。

書き終わり次第修正スレに投下いたしますので、お手数ですがご確認いただけますと幸いです。


963 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:07:23 ejqwr02U0
これより予約分の投下を開始します。


964 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:08:24 ejqwr02U0

「はああああぁぁぁぁぁ!!!」

雄叫びと共に、カブトとサソードが互いに向けて自身の得物を振るう。
瞬間、サソードの持つサソードヤイバーが、カブトのゼクトクナイガンに受け止められいなされるが、しかし彼は怯まず連撃を仕掛けた。
薙ぎ払い、切り上げ、振り下ろし、様々な角度から切りつけたその斬撃の全ては、しかしどれもカブトの身に届くことはない。

無論、互いの武器のリーチの差を考えれば、カブトからの反撃がサソードの身を傷つけることもない攻勢一方の有利な状況ではある。
だがそれでも、どうにも攻めきれない現状に、サソードは少しずつ苛立ちを覚え始めていた。
そして瞬間、振るわれ続けるその太刀筋から僅かばかり集中が失われたのを、カブトは確かに見抜いていた。

「プットオン!」

――PUT ON

カブトゼクターを操作したカブトの身が、一瞬にして重厚な殻に包まれる。
同時サソードの一撃はカブトへ到達するが、しかしまるでダメージには繋がらない。
マスクドフォームとなった今の彼にとって、狙いも定まらない乱雑な一刀程度、弾き返すには容易いものだ。

「――ッ!」

しまった、とサソードが身を引くより早く、カブトがアックスモードへ持ち替えたクナイガンの一撃がその身を切り裂く。
カブトと違い、ライダーフォームのままそれを受けたサソードの身からは膨大な量の火花が飛び散り、その変身を解除させる。
甘かった、とここにきて初めて渡は自身の失策を呪った。

敵はこのライダーシステムを自分とは比べ物にならないほど熟知している。
同じZECTのマスクドライダーシステムを用いた戦闘においては、一から十まで敵の方が上手なのだということを、もっと強く自覚しておくべきだったのだ。
地に膝をつき敗北を痛感する渡の首元に、カブトはゼクトクナイガンの刃を突き立てる。

殺意はない。だがこれ以上の戦いは無意味だと暗に示すような仕草だった。

「――終わりだよ、渡君。僕の勝ちだ」

「……僕は紅渡じゃありません」

カブトの勝利宣言に、しかし渡は未だ負けを認めぬ頑固さで意地を張り続ける。
一方で、この瞬間において間違いない優位に立ちながら、カブトはこの状況をどうするべきか悩んでいた。
渡の覚悟は、やはり生半可なものではない。

同様のライダーシステムを用いた戦いで勝利してもなお折れないところを見ると、或いは自分では役者不足なのだろうかという危惧も沸く。
彼の意思を変えさせるには、やはり自分と彼の共通の師匠である名護の説得と許しが必要不可欠なのだろうか。
そんな思考が思わず浮かぶ中、彼は突如として背後に尋常ならざる何者かの気配が現れたのを、感じ取っていた。

「――渡君!」

咄嗟の判断で、渡の前に身を乗り出すカブト。
覆いかぶさるようにして渡の盾となった彼の背に、刹那凄まじい熱を伴う光弾が到達していた。

「ぐあぁっ!」

防御力に優れるマスクドフォームであったために変身こそ解除されないが、それでも不意の一撃によるダメージは相当なものだ。
庇った渡が無傷であっただけ幸いか、と切り替えて立ちあがったカブトの視界に映ったのは、その掌から高熱故の煙を燻らせ立つ無言の怪人の姿だった。

「あれは……!?」

見覚えのないその姿に驚きを隠せないカブトだが、怪人は一切の言葉も感情も返すことはない。
二人は知り得ないことだが、彼の名はドラス。
殺し合い加速の為キングによってこの地に放たれた、殺人兵器(キリングマシーン)である。

だが敵の細かい経緯や事情などカブトには知る由もない。
首輪のないその首元を根拠に、ただ大ショッカーの手先なのだろうとだけ認識し、戦う以外に道はないとすぐさま立ち上がった。
背後の渡は、生身となったことも相まって近くの建物の陰に隠れたらしい。

或いは自分とドラスの潰し合いの果てで、勝ち残った方を労せず倒し漁夫の利を狙うつもりかもしれない。
だが、だからと言って彼の為に残しておく余力を考えて勝てるほど、敵も容易くはないだろうとカブトは理解していた。


965 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:08:51 ejqwr02U0

「ハイパーキャストオフ!」

――HYPER CAST OFF

ライダーフォームへ戻ったカブトは、そのまま自身の最強形態たるハイパーフォームへの変身を敢行する。
その身を重厚なオオヒヒイロノガネによって銀色に塗り替えたカブトは、そのままゆっくりとその足をドラスへ向け進めていく。
そして一方のドラスも、カブトの実力を認めたか、無しか感じないはずのその表情に、笑みにも似た愉悦を滲ませた。





目の前で始まったカブトとドラスの戦いを見やりながら、渡は一人その身体を休めていた。
二人の戦いは、渡にとって決して別次元のそれではない。
それこそ手元にある闇のキバないしは運命のサガの鎧を纏えば、今の渡の体調を鑑みても戦い抜けるだけのものだ。

だがそれでも彼がこうしてその顛末を見守っているのは、一つは漁夫の利を狙うべきとする冷静な判断と、そしてもう一つ。

(また、負けてしまった……)

先ほどの敗北を、自分自身の中で整理するためだ。
偉大なファンガイアの王の名を名乗っておきながら、また自分は負けてしまった。
単純に考えれば連戦に次ぐ連戦、単身で戦い続ける疲労感によって、自分の実力が出し切れなくなっていると言うことも出来る。

だがそれで本当に正しいのかと滅入ってしまう自分がどうしても存在するのは、これまで再三突き付けられたキングとしての自分は逃げに過ぎないという指摘の為だ。
名護にもう一人のクウガ、そして天道総司を名乗る青年。
もう逃げないと決めたはずなのに、紅渡の名を捨ててキングとして殺し合いに乗ること自体逃げなのだと、そう証明するため自分と戦うといった彼ら全員に、自分は負けている。

だが自分はそれを認めたくなくて、その度に自分は正しいのだと相手の記憶を消し、或いはその場から去り、結論を先延ばしにした。
だがそれもいよいよ厳しくなってしまったことを、渡はこの三度目の敗北でひしひしと感じていた。
自分を心から案じ、そして拳で語ろうとしてくれた彼らの思いは、決して生中な嘘ではない。

それを渡自身感じてしまっているからこそ、こうして負けるのは自分の思いこそがただの意地でしかなく、彼らが言う自分の行いは逃げに過ぎないという指摘が、徐々に説得力を帯びてくるのを無視できないのである。

「……どうした、戦いに行かないのか」

迷う渡の元へ、空から声をかける者が一匹。
朝日に馴染まぬその姿は、自身のかつての相棒によく似た姿を持つ彼の父、キバットバットⅡ世のものだ。
自身が前に願った通り、“渡”とも“キング”とも呼ばないその忠臣ぶりには頭が下がるが、しかし今はただ一人にしてほしいというのが正直なところだった。

「キバットバットⅡ世、僕は……間違ってたのかな」

「何をだ」

「王として自分の世界を守ろうと思うこと。もしかして本当に、それ自体が逃げでしかなかったのかなって……」

遠い目をして問いかける渡の表情には、不安が随所に滲んでいる。
らしくもなく漏れた弱音は、或いは生涯の友を思わせるキバット族にだからこそ吐露出来るものなのかもしれなかった。
だが今彼の前にいるのは、いつだって心優しい言葉をかけてくれた、渡のよく知るキバットではない。

知らん、とぶっきらぼうにそれだけ言って、Ⅱ世はつまらなさそうに目を細めた。
当然か、と渡は自嘲する。Ⅱ世は自身の知るキバットと違って、自分の友達ではない。
ただ王としての資格を見初めて、自分と行動を共にしているだけだ。

その責務に不必要な問答や悩み、迷いなど、対話し解決する義務は持ち合わせていないのである。
或いはそもそも、そんな迷いを抱かないことこそ真の王たる資格なのだろうか、と思考するが、その仮定は渡から一層王としての覚悟を失わせるだけ。
悩みに暮れ、沈黙に沈んだ渡に対し、見ていられないとばかりに溜息をついたのは、やはりⅡ世だった。


966 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:09:10 ejqwr02U0

「……だが俺に言えることがあるとすれば、お前の父親ならばそんな些細なことで悩みはしなかっただろうという事だな」

「――父さんを知ってるの!?」

「あぁ」

焚き付けるためか、或いはふと思い出したのか、Ⅱ世の口からぽつりと漏れたその名は、渡の想像していなかったものだった。
今の今まで一切口にしていなかった、彼が自身の父、紅音也を知っているという情報。
どういうことだ、と問い詰めるような表情をした渡に対し、Ⅱ世はいつものように平静を崩すことはしない。

「そんな顔をするな、聞かれなかったから答えなかっただけだ」

「じゃあ……答えて。父さんと貴方は、どんな関係なの?」

渡の問いに、Ⅱ世は再び目を細め――そして少しした後、観念したように少しずつ話し始めた。
彼と真夜、つまりは渡の両親の出会いとその交流、そしてかつて仕えたキングと音也との戦い。
その果てに真夜を傷つけた王を裏切り、音也と共に彼を討ったこと。

……恋人を殺してしまった失意と共に未来から来た渡のことは――面倒になるので――省き、話し終えたⅡ世の言葉を受けて、渡は他の何よりも困惑が沸き上がるのを感じていた。

「……キバットバットⅡ世、母さんを守ろうとしてくれたことは……感謝するよ。でも、あの人を裏切ったことは……」

「王の従者である自覚が足りないと?フン、どうとでも言うがいい。
俺にとっては真夜を傷つけるあの男がどうしても気に食わなかっただけだ。音也を使ったのも、都合がよかっただけに過ぎん」

「……本当に?」

問う渡の瞳は、あまりに純粋なものだ。
中途半端な嘘は通じないか、とⅡ世は諦観を抱いて、一つ溜息と共にその羽をはばたかせる。

「……奴の奏でる音楽に、不思議と心動かされた。俺も、真夜もな。力を貸したのは、そんな面白い人間を見殺しにするのは惜しいと、そう思っただけだ」

「父さんの奏でる、音楽……」

思案に沈んだ渡の表情には、亡き父への並々ならぬ思いが滲んでいる。
自身の知る過去に来た渡が、音也へ何度もその助けを求めていたことを思い出し、目の前にいる渡はその教えを永遠に得られないだろうことを、Ⅱ世は少しばかり哀れに思った。
抱くべきではなかった自身の思いを胸に秘めつつ、渡の行く末をただ見定めていたⅡ世は瞬間、彼の眼の色が戦士のそれへと変わるのを、確かに見届ける。

渡の澄んだ眼光が、戦場を見据えた。
ドラスと戦うカブトは、武器がないこともあって些か不利なようである。
恐らくはこのまま少しすればカブトは敗れ、ドラスは彼の命を容易く摘み取るのだろう。

だが、それでは駄目だと渡は自身に戒める。
他者の手によって彼の命が奪われては、仮面ライダーが差し伸べる手を自分は拒絶出来なくなってしまう。
生まれ始めた未練を断ち切るためにあの青年と戦う事を選んだのだから、その決着だけは自分自身で付けなければならなかった。

「そう……僕がこんな所で止まったら、父さんが守りたかったものも全部消えちゃうんだ……!」

自分が一番守りたいもの。それを再確認するために、最も敬愛する父の存在を胸に抱き自身の闘志を沸き上がらせようとする渡。
そんな彼にⅡ世は僅かばかり眉を顰めたが、しかし当の渡本人はそれに気付くこともなく。
次の瞬間には右手を高く掲げ、その手中に忠実なる臣下を収めていた。

そのままⅡ世に左手を噛ませれば、魔皇力と共に闘争を求める本能が身体に迸る。
腰に巻きついた黒いベルトは相棒のもたらすそれとは違うが、しかし構わない。
今の自分にはこれでいい。いや、これがいい。

そんな思いと共に、どこか懐かしいその感覚に身を任せて、渡は低く呟いた。

「変身」


967 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:09:50 ejqwr02U0




カブトの放ったストレートパンチが、ドラスの胸に深く突き刺さる。
クリーンヒットと言って間違いない衝撃を伴うそれは、しかし当のドラス本人のダメージには繋がらない。
辟易とした感情すら覚える敵の頑強な肉体にカブトが再び当惑を示したその瞬間に、ドラスの反撃が彼を強く捕らえていた。

苦悶の声を上げ、カブトは数歩後ずさる。
その脳裏に浮かぶのは、どうすれば攻めあぐねる現状を打破出来るか、その答えの模索だ。
突如現れたこの怪人は、首輪をしていないことから見ても大ショッカーの手の者とみて間違いないだろう。

憎きキングのようにベラベラと無駄口を叩く訳ではないのはありがたいが、しかしその実力はやはり幹部のそれらしく、控えめに言っても相当のもの。
自分の疲労も影響しているだろうが、あのガドルを単身打ち倒したこのハイパーカブトの力が及ばないとは、流石の彼も予想外であった。
或いは渡が逃げ切っているだろうことを信じ、自分もここは一旦退くべきだろうか……とカブトが考え始めた、その時だった。

「ウェイクアップ1!」

「ハァッ!」

威勢の良い掛け声と共に、背後から自身を飛び越えドラスへ拳を放つ一つの影。
凄まじい勢いでドラスへ迫るダークネスヘルクラッシュの一撃は、強かにその胸を捉え大きく吹き飛ばす。
そしてそのまま、何事もなく着地した、どことなく仮面ライダーレイを思わせるその鎧の装着者を、カブトは既に知っていた。

「渡君!?」

思わず叫んだカブトの声に、しかしダークキバは何も返さない。
とはいえ、意識外からの攻撃が自身ではなくドラスへ向かったことから、今は共にドラスを倒すべきと判断したのだろうことは、理解出来る。
或いはドラスを倒した後に自身と戦う為、この場から逃げるのを防いだと取れるのかも知れないが、しかし。

少なくとも今は彼と肩を並べて戦える事を、カブトは素直に嬉しいと思った。

「ウゥ……」

呻き声を上げ、ドラスがその体勢を立て直す。
ダークキバの必殺の一撃もまた、奴に対してはさしたダメージにはならなかったらしい。
されど、その程度でいちいち浮き沈みをするほど、こちらも伊達に修羅場を潜ってきてはいない。

大した動揺もなくザンバットソードを構えたダークキバは、そのまま一瞬で間合いを詰め、その刃をドラスへと突き立てる。
瞬間、触れ合った刃に触れたその肉体から飛び散る火花の多さで、魔剣の切れ味と一撃の威力は推して知るべし。
振るわれた剣の勢い故にさしものドラスと言えど怯み体勢を崩すが、しかしそれだけだった。

そのまま剣を引き追撃をしようとしたダークキバの表情が、困惑に染まる。
ドラスがザンバットソードを握りしめたその片手の力だけで、自分が両手でどれだけ力を込めようとも剣は微動だにしなくなってしまったのだ。
かつて同じようにしてダグバにエンジンブレードを奪取された時を思い出し、戦慄するダークキバ。

されど、抱いた最悪の未来予想図が懸念に終わったのは、此度はあの時と違いそれを妨害する仲間が居たためだ。

「はあぁぁぁ!」

カブトの拳が、ドラスを揺るがす。
思わず刃を手放したドラスを見やり、自身の手にしっかりとザンバットソードを握りしめたダークキバは、ちらとカブトを一瞥する。
感謝を述べる訳ではない。だがそれでも、二人の視線が交差したその瞬間は、彼らに何かを通じ合わせるに十分だった。

「……!」

立ち並ぶ二人の仮面ライダーを改めて驚異と認識したか、ドラスがその手から光弾を放つ。
凄まじい威力と勢いを誇るそれだが、しかし二人にとって躱すことなど容易い。
それぞれ左右へ飛んでやり過ごし、後方に起こる爆発を気にすることもなくダークキバは懐のフエッスルを手に取った。

「ドッガ、力を貸せ」

Ⅱ世の奏でる不思議な音色を受けて、彼のデイパックから紫の胸像が飛び出してくる。
本来であれば封印の能力を発揮するはずのそれをこうして武器への変形能力として扱えるのは、Ⅱ世もまた息子と同じキバット族である故か、或いはその鎧を纏うのが渡である為か。
理由はどうであれドッガハンマーを構えたダークキバは、そのままドラスへその槌を振りかぶった。

「ヌゥン!」

低く気合いを込めて振り下ろされたドッガハンマーが、ドラスの肉体を削り落とす。
先ほどと変わらず受け止めようとするが、しかしその槌の重量を前には悪あがきもいいところだ。
さしものドラスも直立不動で受けきることは叶わず、彼はその身体から大きく火花を撒き散らした。


968 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:10:20 ejqwr02U0

「ハァッ!」

そしてその好機を、カブトが見逃すはずもない。
攻撃の反動で未だ動けずにいるダークキバを庇うように飛び上がり、ドラスの前へ飛び出したかと思えば、ダークキバが手放したザンバットソードで以て思い切り切りつける。
切り上げ、切り下ろし、薙ぎ払う。その一撃一撃毎に剣に取り付けられたザンバットバットで刃を研磨すれば、魔剣の刀身はたちまち虹色に輝いた。

ハイパーカブトの持つ高密度のタキオン粒子がザンバットソードに宿ったそれは、かつて戦った強敵にも通じた仲間との絆の結晶だ。
ハイパーザンバット斬とも呼ばれるそれを完成させたカブトはしかし、それをそのままドラスへ切りつけることはしない。

「渡君!」

掛け声と共にザンバットソードを投げつければ、それを危なげなくキャッチしたダークキバも、彼の意図を察したようだった。

「ウェイクアップ!」

ザンバットバットに取り付けられたウェイクアップフエッスルを、Ⅱ世が奏でる。
それに伴いダークキバが今一度刀身を研磨すれば、それは瞬く間に赤い魔皇力に充ち満ちる。
ファイナルザンバット斬とも呼ばれる必殺技を発動したザンバットソードは、されどダークキバの知る常のものともまた異なっていた。

赤い魔皇力迸る刀身に、煌めく虹色のタキオン粒子。
それは、ハイパーカブトとダークキバの両名が持つ異世界のエネルギーが、今まさしく最強の魔剣に集った瞬間であった。

「ハァッ!」

そして、その一撃の完成に感動し動きを止めるほど、ダークキバは愚かではない。
かつてないほどのエネルギーを充填したザンバットソードを勢いよく振るえば、その刀身から余剰した衝撃が、容赦なくドラスへと到達する。

「グオォ……!」

そして同時、さしものドラスと言えど二人の仮面ライダーが力を合わせた一撃を前には、無傷で受け止めることなど出来るはずもない。
爆発音と共に吹き飛んだドラスの身体は、そのまま一軒の民家へ激突し、轟音と共にその家を崩壊させる。
積み重なる瓦礫の山と、徐々に周囲に広がっていく砂埃と収まり行く喧噪。

辺りを沈黙が支配し始める中で、彼らは自分たちの勝利を確信しかけるが。

「――ぐわあああぁぁぁぁ!?」

突如として二人の肉体を、激痛と共に電流が駆け抜けた。
想定外のそれを放った存在は他でもない、ダークキバとカブトの攻撃を受けてなお立ち上がったドラスである。
その身体の至る箇所から火花と硝煙を生じさせながらも、しかしその闘志は萎える様子もなく、彼が迸らせた電撃は容赦なく二人へ降りかかった。

凄まじい威力を伴うそれを受け、遂に二人は膝をつく。
変身さえ解除され生身を晒した二人に、そのまま止めを刺そうと再び掌を翳そうとするドラスを前に、しかし総司は自身を奮い立たせる雄叫びと共に駆け出していた。

「ウオオオォォォ――変身!」

「フン……行こうか。華麗に、激しく!」

満身創痍のその肉体に、雪男を想起させる鎧が纏われる。
仮面ライダーレイの名を持つその姿に思わず渡が息を呑む一方で、レイはドラスへと一目散に駆け抜ける。
その雄姿は称賛にすら値するものだが、しかしレイの鎧は所詮人工で作られたキバの紛い物だ。

ファンガイア一族の最高傑作たるダークキバですら敵わなかったドラスを相手にしては、打倒など夢のまた夢である。
だがそれでも彼が諦めないのは、レイの鎧に授けられた唯一つ闇のキバにすら打ち勝ちうる能力の為。
その僅かな道しるべだけが、彼らの抱く勝利への希望だった。

「ウェイクアップ!」

ウェイクアップフエッスルの音色を受けて、レイの腕に魔皇力が漲る。
それによってレイの腕に巻かれた鎖が解き放たれ、ギガンティッククローと呼ばれる巨大な爪が装着される。
同時、両の手に現れたそれで以てレイはドラスの攻撃を防ぎ、一瞬でその懐まで潜り込んだ。


969 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:10:45 ejqwr02U0

「はああぁぁぁぁぁ!」

気合いと共に、レイはギガンティッククローをドラスへと突き立てる。
しかし、その圧倒的な質量で押し潰そうと振るわれたその腕は、ドラスの胴には届かない。
彼が防御策として突き立てた両の腕が、凄まじい力でレイの腕がそれ以上侵攻することを阻んだのである

グググ、と音を立てて両者の力が拮抗する。
押し切るか、守り切るか。その意地の張り合いの結果をしかし、その実レイは察していた。
レイのギガンティッククローを用いたこの攻撃力は、魔皇力によって底上げされたものだ。

ウェイクアップフエッスルが漲らせたこの力は、時間と共に霧散しつつある。
今でこそまだドラスと互角と言って差し支えないが、それが続くのも時間の問題だ。
この身に滾る魔皇力が失われドラスのパワーに対抗出来なくなったその瞬間が、自分の最期となるだろう。

しかしそんな未来を容易に想像出来るからと言って、レイは全てを諦めた訳ではない。
咄嗟に背後を振り返って、彼は未だダメージでしゃがみ込む渡をその視界に収めた。

「渡君、逃げて!こいつは僕が何とかするから、君だけでも逃げるんだ!」

「な……!」

刻一刻と迫る限界へのカウントダウンに喘ぐレイが渡へ叫んだのは、救援ではなく逃走の指示。
確かに、ダークキバさえ敗れた今、自分がまたサガやゼロノスになって総司と共に戦ったところでドラスに勝てる保証もない。
だが、とはいえそれを改めて総司を犠牲にしての逃走という形で突き付けられてしまうと、渡は思わず二の足を踏んでしまう。

総司は自分が倒すべき存在だから?ドラスを倒すのは弱っているだろう今が最適だから?
否、これはそんな冷静な思考が介在している訳ではないと、渡は理解してしまっていた。

「何で……何で!なんで僕を助けようとするの……、君の命を奪おうとした僕を……!」

故に、その足を逃げるためのものにするより早く、問うてしまう。
小野寺ユウスケといい、彼といい、何故その命を奪おうと牙を剥いた自分を、こうまで逃がそうとするのだろう。
その問いの答えは渡には全く分からない。

或いはずっとその答えから目を背け続けてきた為に、いつの間にか見えなくなってしまっただけかもしれないが……ともかく。
必死に問う渡に対し、レイはただ何も不思議なことはないように――それでいて何かを思い出すように――クスリと笑った。

「何でも何も、それが当たり前だからだよ。僕は……仮面ライダーだから」

胸を張り、誇りと共にその名を名乗ったレイの背に、後ろめたさのようなものは一切感じられない。
仮面ライダー。渡自身、幾度となくその名で呼ばれ、そしてその度に否定してきた正義の味方を指す称号。
渡自身がどうしても避けてきたその名とその生き様を、まるでこれ以上ない名誉であるように振る舞うレイの姿は、今の渡には余りにも眩しすぎた。

これが、名護の言うかつて取り返しの付かない罪を犯し、それを償おうと戦う青年の姿なのだろうか。
今の今までどうしようもなく昔の自分と重なっていたはずの彼の姿が、何時しか輝きと共にぼやけていく。
きっと彼は、かつての自分ともまた違う存在なのだ。

それこそ或いは、彼がいるのはかつて自身が居座っていた場所などではなく。
彼にしか存在しない、彼自身の場所なのではないかと。
なれば、自身の居場所とでも呼ぶべきそれは、果たして本当になくなったわけではないかもしれない、と。

そんな風に自身に都合の良い思考が、されど総司を一人の独立した存在として認識する過程で、渡の中にどうしても生まれていた。

「ぐ、ああああぁぁぁぁ……!」

思考に沈んだ渡を尻目に、レイが呻き声を上げる。
いよいよ以てその身に漲っていた魔皇力が宙へ霧散し、その力が発揮出来なくなりつつあるのだ。
恐らく後そう長くない時間で、彼は限界を迎えドラスに敗れ去るだろう。


970 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:11:13 ejqwr02U0

そうなる前に逃げなければと冷静な思考が訴えかける一方で、しかし渡は動かない。
というより、どこか信じている自分がいた。
真に彼が仮面ライダーであるならば、この状況をすら覆すことが出来るのではないか。

誰しもを護り世界だって救ってしまう。
総司自身が述べた正義の体現こそが仮面ライダーであるならば、こんな不利だって覆せるはずだ。
そんな楽観的な思考を乗せ戦況を見守る渡の瞳は、既に王の冷酷なそれではなく。

かつて名護に弟子入りしその正義に父を重ねたあの頃の紅渡が、そこにはいた。

「グ……総司……、ちょいとキツいが……耐えろよ!」

今まさにドラスとの力比べが、敗北という形で終わろうというその瞬間。
突如掻き鳴らされたフエッスルの音色が、レイの全身に再び魔皇力を滾らせる。
先ほどのそれと同等、否それ以上に漲る力が今度はドラスを追い詰め、形勢を逆転させる。

だが、それだけの魔皇力を発生させるのは、勿論容易なことではない。
その副作用は、慣れぬ魔皇力に蝕まれる総司の身体に迸る激痛……だけでなく。

「レイキバット!?」

レイの困惑した声が、周囲に響く。だが、それも無理のないことだ。
彼の全身に走る激痛を忘れさせうるだけの光景が――即ち、その身体から火花を散らしオーバーヒートを訴えるレイキバットの姿が、そこにはあったのだから。
不思議なことは何もない。限度を超えた魔皇力の行使によって、それを司るレイキバット本体にそのツケが回ったのである。

だがしかし、変身者であるレイにとって、彼は単なる道具に非ず。
仲間である彼の危機を不安そうに彼を見やるレイに対し、しかしレイキバットは力を振り絞って怒声を浴びせた。

「馬鹿野郎ォ、総司ィ!余所見してんじゃねぇ!」

「でもレイキバット、このままじゃ君が――!」

「じゃかあしい!俺のことは気にせずさっさとこいつを仕留めやがれィ!」

叫ぶレイキバットの姿は、彼が常に口にする華麗とはかけ離れた激情に身を任せたものだ。
されど、その姿は間違いなく激しく、彼の生き様としてこれ以上なく美しいものだった。

(……ケッ、俺の年貢もここらが納め時か。まぁ俺にしちゃ出来すぎた一生だったな)

そして、その身の節々が限界を迎え、焼き切れ行く電子回路の熱を直に感じながら、レイキバットは自身のこれまでの人生に思いを馳せていた。
自分の存在など、生まれから育ちまで、本当に下らないものだった。
ファンガイアだけが扱えるキバの鎧を模倣して、人類でも使えるようにとその模造品として自分は生まれた

だが結局人間では自身を扱えず、自分は失敗作の烙印を押され見捨てられた。
自分は何も悪くないはずだと、何故か与えられた思考回路で自身が生まれた意味と存在意義を考え続けた。
だが、その答えは何も見つからなかった。

やがて、人類がイクサという鎧を完成させたという噂を聞き、いよいよ自分の存在意義を疑い始めたその時に、奴らは現れた。
レジェンドルガと呼ばれる彼らは、自身を扱うには人間では足らず、レジェンドルガに身も心も捧げる必要があると言った。
皮肉なものだ。ファンガイアを倒す人類の戦力であったはずの自分が、結局レジェンドルガなる存在に頼らなければ纏うことすら出来ぬ等。

だが、人間はそれを受け入れた。悪魔に魂を売り、レイの鎧を纏ってファンガイアと戦った。
正直、その時ばかりは自分が生まれた意味を感じたが……しかしそれも僅かな間だった。
そう……自分を纏う白峰が、イクサを纏う男に敗れるまでの、ほんの僅かな間だけ。

今度ばかりは、自身の運命を呪った。
レジェンドルガに魂を売らねば纏うことすら叶わぬ鎧であるというのに、単なる人間を相手に敗れ去るほどの力しか持たないとは。
望まれた命でもなければ、望まれた力すらもたらせない。

いよいよ以て自身が生きている意味が分からなくなって、自身はその生命活動を一度停止し――そして、気付けばこの殺し合いに呼ばれていた。
世界崩壊の事情を理解し、されど世界存続を目的に戦うだけの気力は、もう自分の中には沸いてこなかった。
頼んでもいないのに自分を生み、そして使い捨てにした世界になど、未練もない。

むしろその滅びをすら望んだ自分の前に、彼は……総司は突如として現れた。
彼は言った。自分勝手な目的の為だけに自分を生んだ世界を憎んでいると、だから全てを壊し尽くしてみせるのだと。
それを聞いて、総司と自分は同じなのだと、すぐに分かった。

誰かのコピーとして生まれ、しかしその役目すら満足に果たせず捨てられた廃棄物。
本物が居る限り誰も見向きしない自分を認めさせるために、自分を無視し続けた世界を滅ぼすのだと宣う彼に、すぐに自分は惹かれた。
この男の生き様に、この下らない自分が必要とされるのであれば、何も惜しくはない、そう心から思った。


971 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:11:32 ejqwr02U0

そして世界を滅ぼす為共に戦う決意を固めて、しかし彼は変わっていった。
海堂に、名護に、そしてダークカブトゼクターに正義の味方たる生き方を教えられ、世界を憎む思考は徐々に消えていった。
そんな総司を前にして、自身の映し鏡のような出で立ちを持つ総司が、そうやって変われるというのなら、自分もまたそれが出来ない道理はないと、そう思った。

かつて与えられた本来の使命のままに、誰かの代理品ではなく総司と共に全ての世界を救う為戦うのも悪くはない。
それが、ようやくレイキバットが自分自身の命に価値を認めることが出来た、つい先ほどの話だ。
だがその命も、今終わりを迎えようとしている。他ならぬ総司の命を、守る為に。

(ヘッ、全く運命ってのは数奇なもんだ。レジェンドルガの手先として人間と戦った俺が、最後の最後は正義のヒーローだとよ)

また一つ回路がショートするのを感じながら、レイキバットは自嘲する。
総司と共に戦う内、彼と共に自分自身もまた大きく変わっていたらしい。
ただ自身の存在を何かに刻み込む為足掻いていたというのに、こんな風に誰かの為に殉ずるその一生の終わり方も悪くはないと、今はそう思える。

全く以て厄介な野郎と組んじまったもんだぜ、と溜息を吐くが、されどその表情に一切の陰りはなく。
寧ろこの一生の中で今この瞬間こそが最も誇らしく生まれてきた価値があると断言出来るだけの熱さを、彼は確信していた。

(頑張れよ総司……俺がいなくても、お前はもう一人前だ)

雄叫びを上げるレイを見上げながら、レイキバットはその鎧の下の男を想う。
総司はずっと強くなった。様々な別れと出会いが、彼をこうまで成長させたのだ。
もう彼は最初に出会った頃の境遇に嘆く無力な若者ではない。

自分さえも認めざるを得ない強さを持った、一人前の仮面ライダーなのだ。
だから、彼を遺して死ぬことに、もう何の憂いもなかった。

「だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫を上げたレイが、遂にドラスの防御を突破する。
挟み込むようにドラスの身体を押し潰したかと想えば、レイはその両腕を何度も何度もドラスへ一心不乱に殴りつけた。
ブリザードクロー・エクスキュージョン。それは、仮面ライダーレイの持つ、唯一にして最強の必殺技だった。

(……俺も、そろそろ限界か。じゃあな総司、達者でやれよ)

人知れず別れの言葉を吐いて、レイキバットはその目を閉じる。
幾度となく振るわれるレイの爪がドラスの肉体を切り裂き、その肉体を復元不可能なレベルで爆発四散させるその轟音を、耳にしながら。

「それじゃ逝こうか……華麗に……激しく……」

最後に呟いた決め台詞は、されど誰の耳に届くこともなく。
その許容限界を大きく超えた力を発揮した一機の機械仕掛けの蝙蝠は、そこで活動を停止した。





収まった爆炎と轟音の後。
ドラスは死に、度を超えた魔皇力の行使によって限界を迎えた総司が仰向けに気絶するその戦場で、紅渡はただ一人立ち尽くしていた。
絶対の勝者だという訳ではない。だがそれでも、最後に立って周囲の生殺与奪の権利を得たのは、確かに自分だった。

その手にジャコーダーを握りしめ、ゆっくりと総司の元へ足を進める。
彼を殺せば、自分は本当に取り返しの付かない場所に堕ちるだろう。
今度こそ名護やユウスケも説得など無意味だと気付き、問答無用で自身を倒しに来るはずだ。

そんな、キングを名乗ると決めた時から知るあるべき自分の姿を夢想して、渡は身震いする。
何故かは分からない。だがきっと武者震いだろうと、自分を納得させる。
自然とジャコーダーを握る手に力が籠もるのを自覚しつつ、彼はその足をまた一歩無防備な総司へ向け進めようとする。

刹那、カツン、と小さな部品がぶつかったような不快な音が爪先から響いた。
一体何だと見やれば、そこにあったのは先ほどまで総司が変身に使用していた白い蝙蝠の姿。
白かったはずのその体色は焼けて黒く焦げ、ブスブスと燻る煙は内部が修復不可能な事を示している。


972 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:11:51 ejqwr02U0

そして同時、かつての相棒を想起させるその死骸に、渡は思わずその足を止めてしまう。
或いはこの蝙蝠もキバットと同じように、総司を守る為その命を進んで投げ打ったのだろうか。
自身と違い別れの挨拶さえ出来なかったこの蝙蝠の願いを無為にし、総司を手に掛けるのは、果たして自分に許される所行なのだろうか。

様々な思いが過ぎり、その度ジャコーダーを握る手が緩む自身を自覚して、渡は思い切り頭を振る。
このまま逃げるだけでは結局何も変わらないではないかと、そう自分を鼓舞するように。

「そうだ……僕がやらなきゃ……あの人や父さんが守ろうとした世界を、守る為にも……」

後戻りなど叶わないのだと、奮い立たせるように父の名を呟く。
そうして浮かんだ迷いを断ち切り、いよいよ以てその手が総司へと振り下ろされようという、その瞬間。
突如として彼の腕に、小さな衝撃が走った。

「痛ッ」

小さく呻き、渡は思わずジャコーダーを取りこぼす。
一体誰が自信を攻撃したのか。その答えは分かりきっていて、しかし意外なものだった。

「キバットバットⅡ世……何のつもり……?」

そう、渡を攻撃し総司の殺害を中断させたのは、自身に仕えていたはずのキバットバットⅡ世、その人であった。
この突然の裏切りには渡も動揺を隠せず、ただ困惑した瞳で彼を見やる。
だが一方のⅡ世はさもその行いは当然であるかのように、平時の冷静さを絶やさない。

「フン……言ったはずだぞ、俺は誰の味方でもないと。今の貴様からは王たる資格を感じられん。それだけだ」

「そんな……」

先ほどまでであれば従者として渡に仕えていたはずのⅡ世の瞳は、既に失望に染まっている。
話すだけ無駄だと暗に示すようなⅡ世の口から放たれた離別の言葉を受けて、渡は思わず困惑してしまう。

「それに、音也は人間とは言え真夜と俺が認めた男だ。その名をただ後ろめたい行いを正当化する為だけに利用するような愚か者になど、俺は力を貸す気はない」

「僕が父さんを利用してる……?」

Ⅱ世の言葉に、渡は驚愕する。
自分が誰かの為にと世界を守ろうと戦ってきたのは、果たしてただの自己満足に過ぎなかったのか。
自分は、知らず知らずのうちに父音也の存在を都合の良い言い訳として使ってしまっていたというのか。

当惑し、自分自身にさえ信用がおけなくなった渡は、しかし次の瞬間とあることに気付いた。
王に仕えるキバットバットⅡ世に見捨てられるということ、それは即ち――。

「待って!紅渡であることを捨てたのに……キングですらなくなったら、僕はどうなるの!?」

自身の言いたいことだけ告げ去って行こうとするⅡ世に対し、渡は必死の思いで呼び止める。
名護を裏切り紅渡である自分と決別し、差し伸べられてきた手を振りほどいてきたというのに、そうまでして守ろうとしたキングの座すら奪われてしまったら。
自分は果たして、何者だというのだろうか。

「知らん。だが紅渡にせよキングにせよ……貴様は本当の自分を見つけられるはずだ。貴様が、あの紅音也の息子であるのなら」

その名を呟いたⅡ世の顔は、どこか寂しげでもあった。
音也を想ってか、真夜を案じてか、或いは道に迷う渡の顔に、亡くした息子を重ねたか。
ともかくその瞳はかつて先代の王を裏切った時のそれとはまた違う色を秘めていたことを、渡は気付くはずもなく。

ただ飛び去っていくⅡ世を前に、王でなくなった自分自身を自覚して、渡は長い慟哭を漏らした。


973 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:12:10 ejqwr02U0

【二日目 午前】
【D-2 市街地】


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、迷い、キバットの死への動揺、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、今後への困惑と混乱、仮面ライダーダークキバに1時間55分変身不能、仮面ライダーサソードに1時間50分変身不能
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:……自らの世界を救う為に戦う。
1:僕は……。
2:大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件……?次会ったときは……。
4:始の裏切りに関しては……。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:僕は『紅渡』でも『キング』でもない……。
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも……?
7:キング@仮面ライダー剣は次に会ったら倒す。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キング@キバを知りません。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しましたが、ユウスケの言葉でその討伐を迷い始めています。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。
※サソードゼクターに認められました。
※未だサガークにキングとして認められているかは不明です。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(極大)、ダメージ(大)、不安と安堵、仮面ライダーレイに2時間変身不能、仮面ライダーカブトに1時間55分変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
0:(気絶中)
1:渡くんに勝って彼を救ってみせる。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:士が世界の破壊者とは思わない。
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、翔一、ごめんなさい。
【備考】
※自分が翔一を殺したのはキングの罠であることに気付きました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、信じていません。

【備考】
※キバットバットⅡ世はどこかへと飛び去りました。彼がこの後どこへ向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。
※レイキバット@仮面ライダーキバは破壊されました。


974 : 名もなき者に捧ぐ歌 ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:12:27 ejqwr02U0





「あーあ、やっぱりやられちゃった。あんなご飯じゃ力出ないよ」

愚痴を吐きながら、緑色の飛行物体――ネオ生命体は、ただ何処かを求め浮遊していた。
ドラスの身体が敗北したその瞬間、コアである本体だけが抜けだし、こうして二人の仮面ライダーから逃げおおせたのである。
しかし、正直なところ今はただ逃げるのが精一杯。

誰か労せず腹を満たせるだけの力を持った誰かに出会えればいいが、しかしその目処も立たず、彼は空腹に喘いでいた。

「うーん、どうしよ。あのアンデッド君のところに戻ろうかな?そうすればまたご飯をくれるかもしれないし」

無邪気な少年のような声で、ネオ生命体は自身を育ててくれる誰かを求め飛んでいく。
ご飯……即ちその生き血を自身に捧げてくれる都合の良い存在を得る、ただその為だけに。
その先に、美味しいご飯があることだけを、確信しながら。


【二日目 午前】
【D-2 市街地】


【ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編】
【時間軸】不明
【状態】ダメージ(中)、コア丸出しで移動中
【装備】なし
【道具】なし
1:アンデッド君(キング)のところに戻ろうかな?
【備考】
※キングが主催より持ち込んだ対カッシスワーム用支給品でした。


975 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/18(水) 19:12:57 ejqwr02U0
以上で投下終了です。
毎度のことではありますが、ご指摘ご感想などあればよろしくお願いします。


976 : 名無しさん :2019/12/18(水) 19:36:53 mDcf2rUE0
投下乙です!
レイキバットオオオオォォォォォッ! 総司を見守り続け、そして変わってきた彼もまた素敵な相棒だったので、喪失感が半端ないです……!
渡も頑張り続けているものの、やはり迷いは捨てきれないまま、Ⅱ世が去っていくことも悲しすぎる。
ドラスの行く末も気になりますが、それ以上に総司と渡の二人がこれからどうなってしまうのか!?


977 : 名無しさん :2019/12/18(水) 19:47:46 UUL9l2vM0
うわあああーッッ!!
レイキバットォォォ!!!!
うわあああーッ!!
……投下乙です。
ここで総司の脱落か、と思いきや自身の身を散らしてまで強敵を打ち破ったレイキバットは漢でした。

……うわあああああ!


978 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:00:18 w4SkB9us0
これより投下を開始いたします。


979 : Tを越えろ/苦悩 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:02:04 w4SkB9us0

彼らがこのサーキット場に辿り着いたのは、おおよそ半刻ほど前のこと。
到着してすぐ、彼らは数エリアに跨がる広いサーキット場の全体をざっと見渡し、参加者が他にいないことを確認した。
理由は勿論、友好的な参加者を探しその協力を仰ぐことが最たるものだが、それだけではない。

彼らがこれからしようとしていることは、この殺し合いの場においては余りにも悠長かつ、
無防備な姿を長時間晒すことになるものだ。
その隙をつき襲撃してくる参加者の懸念を拭い、また万が一奇襲された際にも焦らず行動出来るよう、この施設について多くを知っておくことが必要不可欠だと考えられたのである。
果たしてその目論見が上手くいったかと問われれば、正直なところ、その成果はあまり芳しいものではない。

まず第一に確認したのは、友好な参加者、敵対する参加者どちらもいなかったこと。
心強い協力者を得られなかった代わりに、すぐさま戦闘という形にならなかったのは、この状況では素直に幸いだったと喜ぶべき事だろう。
だが一方で、監視カメラや安全な脱出ルートなど、外敵に速やかに対処出来る設備が一切存在しなかったのは、彼らにとって誤算だった。

より正確に言えば、或いは本来であればそういったものを管理するのだろう部屋こそあったが、どれも反応せず使い物にならなかった、ということだ。
正直なところこれにはかなりガックリと来たが、しかしそんな彼らの空気を一変させるだけの代物も、また、このサーキット場には用意されていた。
それは、何の変哲もない一台のバイクと、その傍らに用意されたモトクロス用のレーシングコース。

即ち彼らの求めていた、トライアルの特訓をする為に必要十分な条件を満たす、二つの要素だった。
元はと言えば、彼らがこのサーキット場へわざわざ赴いたのは、一条の持つアクセルの更なる力、トライアルを使いこなすのに必要な特訓を行う為だ。
特殊なコースを、トライアルメモリのマキシマムドライブと同じだけの負荷をかけた状態で、10秒以内に走りきるという、トライアルの特訓内容。

それをこなすため、それなりに病院から近く、かつ存分に走れるだけの場所、としてサーキット場を選んだだけのつもりだったが、まさか特訓にお誂え向きの設備が用意されているとまでは思わなかった。
風都を模したこの会場において、本来であれば東側に広がる森の中に存在するはずのこのサーキット場がわざわざここに存在するのは、偶然か必然か。
或いは本来の変身者である照井もそれが使いこなせない時期からこの殺し合いへ連れてこられていた為に、こうして設備を万全のものとして用意したのかも知れないが、ともかく。

考えれば考えるほど翔太郎たちからすれば出来すぎた話で、わざわざそれを用意する大ショッカーには虫酸が走る思いを抱く。
だが、様々な大ショッカーの癪に障るお膳立てに、それでも苛立ちだけでなく僥倖を感じたのも、また事実。
故に彼らにとって今重要なのは、トライアルの特訓を求める者がこのサーキット場にいて、その願いを叶えられるだけの設備がここに揃っている、ということだった。

そして今――キーを回し、起動する一台のバイク。
その手応えを確かめるように、一条は勢いよくハンドルを回した。
それによって急激に暖まったエンジンが、マフラーを通じて心地よい低音を響かせる。

鼓膜を揺さぶるその音は、かつて一条も認めた名機、トライチェイサー2000に比べれば流石に些か見劣りするもの。
だがそれでも、彼はその性能に満足したように数度頷いた。

「どうだ、一条。やれそうか?」

「左さん――えぇ、問題はなさそうです」

ふと意識外から降った声に、一条は面食らう。
どうやら自分は、自分で思う以上にこういった機械弄りに没頭してしまう節があるらしい。
意外な自分の一面を自覚しつつ、声の主――左翔太郎へ向き直った一条は、誤魔化すように小さく会釈して自身を取り繕った。

それは柄にもなくはしゃいでしまった自分への気恥ずかしさから生まれた、ほぼ反射的な行動だったが、そんな自分の隙を彼はさほど気にする様子もない。
これが名護の言う翔太郎の持つ“遊び心”というものなのだろうか、と思う一方で、そんな風に他者の行動をいちいち気にしている自分はやはり硬すぎるのかもしれないと、一条は自戒した。
ともかく、気を取り直すように、彼はバイクに跨がり、備え付けられたヘルメットを被る。

その視界の先に広がるは、オフロード仕様で作られたモトクロスのレーシングコースだ。
これを今から自分は、マキシマムドライブの凄まじい負荷に耐えながら10秒で走り抜けなければならない。
最初に翔太郎からその特訓内容の詳細を聞いたときは流石に驚いたものだが、しかし五代が度々行っていた特訓に比べれば、随分と道理の通ったものだ。


980 : Tを越えろ/苦悩 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:02:28 w4SkB9us0

なれば、最早一条に退路など残されているはずもない。
どんな苦難だろうと、困難な道だろうと、乗り越えてみせる。
殉職した同職の遺志を継ぎ、彼に恥じない仮面ライダーとして戦い抜く為に。

自分の使命を再度確かめた一条の前に、翔太郎が手を伸ばす。
その手に握られたトライアルメモリがバイクの窪みへしっかりと装着されるのを見届け、一条はヘルメットのシールドを下ろす。
否応なしに抱いた興奮と緊張で、思わず高ぶる自分を自覚しながら、ライダースーツに身を包んだ一条は、今一度気を引き締め直した。

これでようやく、準備万端だ。
自分はいつでも始められると神経を集中させようとして、ふと傍らに立っていた翔太郎が一歩その足を一条へ進めるのを、彼はその視界の端に捉えていた。

「……最後に確認だが、これからやる特訓は照井でも死にかけたもんだ。今のお前じゃ、本当に死ぬかも知れねぇ。……それでもやるんだな?一条」

「えぇ、覚悟は出来てます。どれだけ苦しい特訓でも……やり遂げて見せます」

一条の瞳にはもう、一切の迷いはなかった。
死の危険を前にしても一歩も退かない覚悟を決めた男に対して、それ以上の言葉は無粋だ。
翔太郎の目指すハードボイルドな男なら、或いはアクセルを託した照井竜本人であれば余計な言葉は飲み込むだろうと、翔太郎は理解しているつもりだった。

「……そうか、なら俺はもう何も言わねぇ」

それだけ言い残して、彼はコースの外へ歩み出す。
その背中を見やりながら、一条もまたバイクに備え付けられたトライアルメモリを操作し、メモリを起動させた。

――パッ

トライアルメモリと一体化したマキシマムカウンターが、まるでレースのスタートを告げるシグナルのように、赤く点灯する。
思わず逸る気持ちを抑える為瞳を閉じた一条は、その手触りを確かめるように指先で押さえているクラッチを少しずつ緩めていく。

――パッ

シグナルが、黄色く染まる。
コースの外からただ見守るしか出来ない翔太郎は、押し潰されそうなほど高まる緊張感にただその拳を握りしめることしか出来ない。

――パッ

シグナルが、青に変わる。
一条はその手を完全にクラッチから離し、緊張に強ばった瞳を一気に見開いた。

――パァァァァァァァン

シグナルが全て点灯し、トライアルメモリがカウントを開始する。
それと同時一条もアクセルを振り絞り、急回転したバイクの後輪が土を巻き上げた。
加速するバイクに跨がる一条の身体を、今まで感じたことのないような凄まじい圧が襲う。

トライアルのマキシマムドライブ時に生ずる想像を絶したGが、このマシンに乗っている間、恒常的にこの身体に降りかかるのである。
故にそのスピードもまた、通常考え得るだけのバイクによる加速度の比ではなく。
されど、それで今更弱音を吐けるはずもないと、一条は歯を食いしばりまた一つ土で出来た山を飛び越えた。

そして数秒の後、目まぐるしい速さでコースを一周した一条は、バイクを止め翔太郎を見やる。
タイムなど、運転している自分では測れるはずもない。
果たして特訓は成功したのか、と期待と不安を込めて、一条はストップウォッチを持つ翔太郎の言葉を待った。

「……14.67。駄目だ」

沈みながら告げられた、目標に対し遅すぎるタイムに一条が項垂れるのと同時、その身体をまるで電流が走るような激痛が襲う。
トライアルのマキシマムを時間内に終えられなかった為に、過剰なエネルギーが一条にまで降りかかってしまったのである。

「一条!」

「まだやれます!私は、大丈夫です……」

苦悶に喘ぎ身を捩るが、しかしこれで弱音を吐く訳にはいかない。
思わずコース内に立ち入り一条をマシンから引き剥がそうとする翔太郎を制して、一条は再びスタート位置へと自力で戻った。
この程度で、諦められるはずがないではないか。


981 : Tを越えろ/苦悩 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:02:50 w4SkB9us0

照井の遺志を継いだ自分が、こんな中途半端で終わって良いはずがない。
その思いで、彼は再びスタートを切っていた。
だが――――――。

「……13.69。」

――何度。

「……14.42。」

――何度繰り返しても。

「……12.73。」

――一条が望む結果は、一向に与えられることはない。
そして――。

「……13.36」

「ぐあああ!」

今また再び、一条の身体に激痛が走る。
度重なる失敗故に、既に何回目の挑戦なのか、一条自身数えてはいない。
だがそれでも、毎回この身に襲いかかる痛みだけは着実に蓄積され、自身を蝕んでいることだけは、確かなことだった。

「……一条、そろそろ休んだらどうだ。根詰めすぎてもいいことねえぞ」

「いいえ……まだやれます。私は、まだ――!」

そこまで言って再びスタート地点へ戻ろうとして、一条はプツリ、と自分の中で何かが切れたような感覚を覚えた。
意識が一瞬だけ飛び、世界がぐにゃりと音を立てて歪むような錯覚と共に、目の前がブラックアウトしたのだ。
不味い、と直感で察知して、すぐさま倒れかけた身体を右足で支え、意識を無理矢理引き戻す。

危なかった。あと一瞬対処が遅れていたら、自分の足はバイクの下敷きになるところだった。
意地を張りすぎる余り、あと一歩で自分が再起不能になり、特訓の全てが無駄になるところだったのである。
自身の想像を超えるほどに溜まっていた疲労と、傍らで見守る翔太郎の苦い顔が物語る感情を理解して、今度こそ一条は素直にバイクを降りた。





モトクロスのコースから少しだけ離れた場所に設置されたベンチの上で、一条はただその両手を握りしめ、無力感に暮れていた。
この特訓が始まってから、早くも一時間ほどが経過している。
それだけ長い時間をずっと特訓に費やしてきたはずなのに、未だ特訓が成功するビジョンを描けない。

幾度となく失敗し、マキシマムの負荷にこそ身体が慣れてきたが、それでも越えるべき10秒という壁は、どこまでも高い。
何度挑戦を繰り返しても、その壁を越えられる自分のイメージが、どうしても描けなかった。
このままでは果たして自分がこの特訓を終えることなど、夢のまた夢ではないのか。

そんな風にどうしようもなく弱音を吐きそうになる自分自身が何より嫌で、一条は再びその拳を強く握った。

「……待たせたな。ほら、お前の分だ」

「……ありがとうございます」

声に顔を見上げると、翔太郎がすぐそこの自販機で買ってきたのだろう二本の缶コーヒーのうち、一つを手渡してくる。
それを受け取りつつほぼ反射的に口から出た感謝の言葉は、しかしどこか上の空で、感情の伴わない空虚なものだった。
プルタブを開けることもしないまま、再び物思いに沈んだ一条を横目に見やりつつ、翔太郎は自身の分として買ってきたコーヒーを一口飲み込む。

温かい飲み物にかじかんだ身体が暖まり、文字通り一息つく。
久しぶりの心安まる一時に生まれた安堵感は、無用な言葉をも飲み込んでいく。
されど、そうして生まれた束の間の沈黙は、長くは続かない。


982 : Tを越えろ/苦悩 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:03:15 w4SkB9us0

「……すみません」

「……何がだ?」

「こんなに長い時間……私の特訓に付き合わせてしまって」

一条から漏れたのは、謝罪の言葉。
だがそれに対し翔太郎は、怪訝な顔をするでもなくただ再びコーヒーを口に運んで、それから応えた。

「気にすんな。それに俺からすりゃあ、こんな特訓を弱音も吐かねぇでやってるだけで、十分だと思うけどな」

「――十分な訳ないでしょう……!」

極めて本心から一条のタフさを称える思いで述べた言葉は、しかし彼にとっては気休めにしか思えなかったらしい。
手に握る未開封の缶が潰れるのではないかというほどに力を込めて、彼は堰を切ったようにその心中を吐き出しだした。

「照井警視正は私の命を救ってくれただけでなく、このアクセルの力をも託してくれたんです。なのに私は彼と違って誰も守れていない、何も成し遂げられていない……!」

溜息と共に脳裏に思い出すのは、自分が取りこぼしてしまった数多の守るべき人たち。
京介に小沢、そして津上翔一……本当であれば自分が命に代えても守らなければならなかった、善良な一般人たちだ。
その命を犠牲にしてでも職務を全うした照井や父の思いを継いだはずなのに、自分は何も出来ていない。

それが何より、歯がゆかった。

「……照井警視正は本当に、素晴らしい警察官であり仮面ライダーでした。なのに、その力を受け継いだ私は、こんな特訓さえ満足に越えることも出来ない。それが一番悔しいんです」

鋭い瞳で睨み付けるのは、その手に握るトライアルのメモリ。
この特訓さえ終えれば自分は強くなり、クウガの横に立ち並んで共に戦えるようになる。
そんな風に軽く考えていたさっきまでの自分が、酷く滑稽に思えた。

この力を手にすれば、もう誰かを取りこぼすようなことはしないと?
どんな特訓だろうと、自分であれば間違いなく成功させることが出来ると?
心の片隅にそんな自惚れがあったのだろうことを自覚して、一条は我ながらその見通しの甘さに苛立ちを隠せない。

「甘かった自分を……殴りつけてやりたい気分です。私なんかに、照井警視正のような仮面ライダーとしての資格があるはずもなかったのに、勝手に舞い上がって、私は……!」

心中の吐露と共に、言葉を詰まらせ、一条は無力感に俯く。
その瞳にはどうしようもない迷いと自己嫌悪が浮かび、彼の心理的な疲労感は嫌でも理解出来た。
だが、そんな悩める男を目の当たりにして翔太郎は、一つ笑みを浮かべる。

それは決して、苦心する一条に対する嘲笑でも、苦笑でもない。
まるで何かを懐古するような、それでいてどこか嬉しそうな、そんな笑みだった。
されど、その真意など一条には知るよしもない。

どういうつもりだ、と怪訝な顔で見上げる彼の瞳に対し、翔太郎は一つ謝罪を述べた。
それから口調を整えるようにまた一口コーヒーを飲み込んで、少しの後に一条へと向き直った。

「悪ぃ、お前に一つ、言い忘れてた。……照井は、この特訓を成功させてねぇ」

「えっ……?」

言い放たれた情報は、一条にとって余りに衝撃的かつ意外なものだった。
彼は今、一体何と言ったのだ。
トライアルの特訓を、照井が終えていないだと……?

「どういうことですか?しかし貴方は、照井警視正はこのメモリを使いこなしたと」

「あぁ、使いこなしたさ。ぶっつけ本番、やらなきゃやられる……そんな絶体絶命の状況で、ある少女を守る為にな」

翔太郎の語る照井の記憶に、一条はしかし複雑な感情を抱いた。
とある少女のために、土壇場でトライアルを使いこなした照井は、やはり素晴らしい仮面ライダーなのだという羨望と敬意も、勿論沸く。
だが正直に言えば、あの照井であってもこの特訓を終えられなかったという事実への驚愕の方が、より大きかった。


983 : Tを越えろ/苦悩 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:03:39 w4SkB9us0

「意外か?照井にも、出来ないことがあったって」

「……えぇ」

「俺からすりゃあ、照井がそんな風に思われてることの方が意外だぜ。あいつだって失敗もすれば欠点もある、俺らと同じ……一人の人間さ」

呟いて翔太郎は、どこかここではない遠くを見つめた。
照井と共に解決してきた様々な事件と、それと共に知っていった彼の詳しい人となりを思い出したのである。
幾度となくぶつかり合い、そしてその度に完璧人間だと思われていた彼の思わぬ弱点や、欠点を数え切れないほど翔太郎達は知った。

復讐に焦る余り無関係な人間を手に掛けそうになり、それを防ごうとする翔太郎達と直接戦ったこともある。
敵ドーパントの罠にはまり、まんまとその術中に嵌まってしまったことも、決して少なくない。
それに亜樹子に演技でキスシーンを求められ、困惑して逃げ出すなどという恋愛に疎い面もまた、照井の大きな欠点の一つとして、翔太郎の脳裏に鮮明に焼き付いている。

だが、目の前のアクセルを継いだ悩める男は、そんな照井を最高の理想だと勘違いしている。
そして、その理想にほど遠く及ばない自分は仮面ライダーとしての資格などないのだと。
だがその考えは全くの筋違いだと言うことを、翔太郎は既に知っている。

なればこそ、彼に教えねばなるまい。
自分の師が残し、かつて同じように仮面ライダーとして挫折しかけた自分のことも再起させてくれた、あの言葉を。

「一条、俺の師匠の言葉に、こんなのがある。“Nobody’s perfect”……誰も完全じゃない、ってな」

「“Nobody’s perfect“……」

繰り返した一条に、翔太郎は強く頷き返す。
それは自身の師、鳴海荘吉が残した言葉の一つ。
ダブルへの変身が出来なくなり、心折れたその時に自分を立ち直らせてくれた事もある、まさしく彼がくれた最高の贈り物の一つだった。

「お前が照井から受け継いだのはアクセルの力だけじゃなく、あいつの意思もだろ。ならそれが……一番の仮面ライダーとしての資格って奴なんじゃねぇのか?」

「しかし、自分は……」

あまりに無力だ、と続けようとして、思わず一条は言葉を詰まらせる。
照井が自分に託してくれた意思――それこそが、自分が仮面ライダーアクセルである理由であり資格だと。
思いがけない言葉に脳の整理が追いつかず、二の句を告げない一条に対し、翔太郎は再び気障に笑った。

「街を守る仮面ライダーは、強いだけじゃ務まらねぇ。それを知ってるはずのあいつが、お前に全てを託したんだ。――例えその結果が弱さだとしても……あいつはきっと、受け入れるさ」

それだけ言って翔太郎は、帽子を押さえ天を仰いだ。
視線の遙か先にいるだろう今は亡き友に真意を確認する為か、或いはかつて同じようにして自分を立ち上がらせてくれた相棒に、思いを馳せているのか。
そのどちらかは分からなかったが、それを受けて一条もまた、同じように空を見上げた。

太陽が真上に昇りつつある空は、見渡す限りの晴天だ。
1日ぶりのはずなのに、何故か随分と久しぶりに見たような気がするその空の青さに、一条もまた今は亡き友を連想する。
それは、どこまでも続く青空のように清々しい笑顔を浮かべる、一人の冒険野郎の笑顔。

彼がこの場にいたら、またいつものように楽観的な言葉で、上手くいくと励ましてくれただろうか。
それとも或いは、多彩な技の中から何か即興で皆を笑顔にするような芸を、披露してくれただろうか。
そのどちらもをもう二度と見られないと思うとやはりどうしても寂しかったが、それでも一条はようやく、その頬を綻ばせた。

彼がくれたたくさんの笑顔や彼が守った数え切れない笑顔は、今も一条の中でずっと光り輝いている。
それを思い出すだけで彼との出会いが決して無駄ではなかったと断言出来るし、何より思い出したのだ。
自分が以前、もう一人のクウガである小野寺ユウスケに対し、らしくもなく大声で叫んだ言葉を。

――『そうだッ、君は君でいい。五代は決して超えなくてはいけない目標なんかじゃない、クウガとしての理想なんかじゃない!』

(君は君でいい、か。どの口がそんな言葉を偉そうに……)

フッと、自嘲気味に笑う。
されどそれは、必要以上に自分を苦しめる自嘲ではなかった。
自分は既に分かっていたのだ。人は皆それぞれ長所と短所があるということなど。


984 : Tを越えろ/苦悩 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:04:05 w4SkB9us0

他人に対してはあれだけ雄弁に語れたはずのそんな言葉も、自分のことになると何故かつい見失ってしまう。
五代に捕らわれ自分を卑下していた彼と同じように、自分もまた照井と自身を、必要以上に比べすぎていた。
彼だって五代に出来なかったことをやってのけたのだ。照井が出来なかったからといって自分も同じように出来ぬ道理など、ないではないか。

――『大丈夫ですって。だって俺、クウガだから』

かつてない強敵と相見え、今のままでは勝てないと厳しい現実が突き付けられる度、五代が笑顔を浮かべ口にしていた言葉を思い出す。
本当は怖かったのかも知れない、本当は不安だったのかも知れない。
それでも彼は何の根拠もないそんな気休めを、いつも真実にしてみせた。

クウガだから。そんな責任感を、自分自身の強さに変えて。
なれば自分も、同じようにやってみようではないか。
だって今の自分は彼と同じ――。

(――仮面ライダーだから、な)

その名を思い浮かべるのと同時、すっと一条は立ち上がった。
手にはトライアルのメモリを携え、その顔には先ほどまでよりも穏やかな表情が浮かんでいる。
何故だかとても、晴れやかな気分だった。今の自分に出来ないことはないと、そう思えるほどに。

「……行くのか、一条」

「えぇ、次こそ成功させて見せます」

告げた一条の瞳には、もう迷いはない。
コクリ、と翔太郎に一礼だけ残して、彼は確かな足取りでレーシングコースへと歩んでいく。
それは、根拠はないが次で確実に成功する……そう思えるような、強い歩みだった。

きっともう彼に心配はいらないだろう。
総司のように独り立ちして、仮面ライダーとして立派に戦えるはずだ。
彼にアクセルを託した男にそれを報告するように再び天を仰いで、それから翔太郎も一条の後を追おうと立ち上がった、その瞬間。










――突如として彼らが目指していたバイクが、衝撃波に刻まれ爆発した。










「なっ……」

轟音と共に、四散した金属の破片が燃え上がり彼らの足下に吹き飛んでくる。
いきなり訪れた急展開に驚き困惑を露わにしながらも、しかし二人は油断なく周囲を見渡す。
刹那、バイクを襲った襲撃者は、呆気なく見つかった。

爆風に揺れる赤い服、軽薄そうに見える茶髪にヘラヘラと張り付いた笑み。
見覚えのあるその青年は、彼らをして許されざる邪悪と断ずることの容易い存在だった。

「キング……!」

呼んだ翔太郎の声に、青年――キングはふと気付いたように向き返る。
わざとらしいその余裕ぶった動作が、今は異様に気に障った。

「やぁ、ダブルの左側、それにアクセル。駄目じゃんこんなことしてちゃ。殺し合いはまだ続いてるんだよ、特訓なんてしてる暇ないでしょ」

「てめぇ……」

あたかも自分が正しいと言いたげにニヤつくキングに、翔太郎は激情を隠せない。
照井が託し、一条が受け継いだ仮面ライダーの力を十全に扱う為の特訓を、こんなこと呼ばわりだ。
怒りを胸に、射貫くような瞳でキングを睨み付けるが、彼は依然としてその笑みを崩さない。


985 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:04:31 w4SkB9us0

「何?怒り心頭って感じ?ウザいんだけど」

「こっちの台詞だ。……今度こそ決着付けさせて貰うぜ」

「それこそこっちの台詞だって」

キングの減らず口は、止まることを知らない。
こいつを黙らせるにはやはり封印するのが一番らしいと、翔太郎はその懐からドライバーとメモリを取り出した。

「左さん、私も――」

「いや、お前は休んでろ。こいつだけは、俺がやらなきゃ気が済まねぇ」

自身もアクセルドライバーを取り出した一条に、翔太郎は揺るがぬ気迫でそう返す。
こいつは剣崎一真を侮辱し、総司を操り、そして翔一を殺した。
この邪悪だけは、自分で始末を付けなければ気が済まなかった。

翔太郎のただならぬ雰囲気を前に、一条も言葉を呑み素直に引き下がる。
それを受けロストドライバーを腰に巻いた翔太郎に対し、キングもまた懐からカードデッキを取り出していた。

――JOKER!

「行くぜ……変身!」

「……変身」

――JOKER!

ドライバーに装填されたジョーカーメモリが、翔太郎の身体を紫の粒子で包み込む。
彼そのものが“切り札”の記憶を纏い変身したその姿は、仮面ライダージョーカー。
それと同時に、キングもまた変身シークエンスを完了し、仮面ライダーベルデへと変身を遂げた。

緑と黒、相対した二人はそれぞれ、自身の敵である仮面ライダーへと、その瞳を輝かせた。

「さぁ、お前の罪を数えろ!」

同時、いつもの言葉と共に走り出したジョーカーの跳び蹴りが、ベルデへ向かう。
だが怒りで見え透いたその狙いは容易に読まれ、直撃には至らず。
横に回避され難なく躱されるが、しかしそれではジョーカーの勢いは収まらない。

着地と同時に後ろ回し蹴りを放ち、ベルデの頭部をその右足が捉える。
呻きと共に後ずさった彼に、得意げな笑みで自身の優位をアピールすることも忘れない。
ダメージはともかく、ベルデにとってはその余裕ぶった態度が一番気に障ったのだろう。

苛ついたような舌打ちと共に、彼はデッキから一枚のカードを抜き取った。

――HOLD VENT

発動した電子音声を受けて、ベルデの手に彼の専用武器であるバイオワインダーが装着される。
ヨーヨーを模したそれに大した感慨を抱くこともなくベルデが腕を振るえば、バイオワインダーは一瞬にしてジョーカーの身体を切りつけた。
火花をあげ地を転がるが、すぐ立ち上がりまたベルデへ立ち向かおうとする。

得物がヨーヨーであるなら、超至近距離まで近づけば無意味になると考えたのだろう。
だが、そんな戦法が通じるほど、ベルデは甘くはない。
手元に戻ってきたバイオワインダーを、横凪に振るう。

それによって先ほどより短いリーチで放たれたその軌道は、丁度走り込んできたジョーカーの胴を一閃し、再びその身体から火花を上げさせた。
また同じように地を転がるが、それでもジョーカーは諦めない。
すぐさま立ち上がり、同じようにベルデへ一直線に向かっていく。


986 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:04:52 w4SkB9us0

「いい加減諦めたら?そういうの、いい加減ウザいんだって」

正義のヒーロー気取りで立ち向かい続ける彼への嫌悪感を隠しもせず、ベルデは再びバイオワインダーを振るう。
先ほどまでと同じだ。ベルデの腕から伸びる軌道は凄まじい勢いでジョーカーへと向かい、そして瞬きの間にまた彼の身体を蹂躙するだろう。
繰り返されるその代わり映えしない光景に呆れ、欠伸さえベルデが吐き出そうとした、しかしその瞬間。

彼の目を見開かせる光景が、そこにはあった。

「――オラァ!」

雄叫びと共に、ジョーカーがその足を高く蹴り上げる。
当然ベルデに届くはずもないそれはただ空虚に宙を切るだけかと思いきや、結果は予想外のものだった。
突如としてベルデの腕に強い衝撃が走り、そしてジョーカーに迫っていたはずのバイオワインダーは、敵に届くこともなく視界から消えたのである。

「まさか……!」

思わず空を見上げたベルデの目に映るのは、見当違いの方向へ伸びゆく自身の得物だ。
つまりはジョーカーはあの数度のやり合いでヨーヨーの軌道を完全に見切り、そしてあの一瞬で正確に自身に迫りくるそれを蹴り上げたのである。
有り得ない、と言葉を失うベルデだが、同時にその隙はジョーカーにとっては最高の好機に違いなかった。

「うおおぉぉぉぉ!!!」

一瞬で駆け抜けベルデの懐へ潜り込んだジョーカーの、鋭いストレートキックがその胸に突き刺さる。
まともな防御策も取れず吹き飛んだベルデの無様な転がりようを鼻で笑いながら、ジョーカーは気障にその手首をスナップさせた。
それはまさしく勝利宣言。まだまだやれるぜ、と言葉もなく挑発するようなその動作に、ベルデは苛立ちと共に新たなカードを抜き出していた。

――CLEAR VENT

読み取られた電子音声によって、ベルデの身体は完全に景色と一体化する。
分が悪いと踏んで逃げ出したかと一瞬考えるが、しかしこの身体に突き刺さる殺意は未だ健在だ。
油断なく周囲を見渡し、その殺意を見抜こうとするが。

「ぐぁっ!」

振り向いたその背に、衝撃が走る。
そこか、と痛みを耐えて攻撃を振るうが、しかしこちらの攻撃は宙を空振るだけ。
思わず歯噛みする思いを抱いたその瞬間に、再びその背を衝撃が襲っていた。

予測できない攻撃の嵐を前にジョーカーは呻き、地に膝を突く。
通常のダブルであれば透明化した敵の場所を暴く手もあるのだが、徒手空拳しかない今のジョーカーでは相手をするのは些か分が悪いのだ。
思わず無い物ねだりをしてしまった自分を恥じつつ痛みに耐えるジョーカーの目の前に、ベルデはいよいよその姿を露わにした。

「形成逆転、って感じだね?仮面ライダー」

「てめぇ……!」

仮面の下で相変わらずヘラヘラとした笑みを浮かべているのだろうベルデを前にして、ジョーカーは怒りと共に立ち上がろうとする。
例え今の一方的な蹂躙で受けたダメージが大きくても、姿さえ見えていればこちらが有利であることに変わりはないはずだ。

「おっと、待った。そこまでだよ」

自身を奮い立たせ再び悪へ立ち向かおうとしたジョーカーへ、しかしベルデは待ったを掛けていた。
命乞いをする為ではないのは、彼の崩れぬニヤついた笑みが示している。
なれば一体何のため、と思案しかけたジョーカーにベルデが指し示したのは、驚くべき光景だった。


987 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:05:12 w4SkB9us0

「一条!」

そこにあったのは、生身のまま戦いを見守っていた一条薫が、ベルデの契約モンスターに足蹴にされる姿。
甘かった。キングの今までの戦法を思えば、伏兵は警戒して然るべきだったのだ。
悔しさと怒りに拳を握りしめたジョーカーの一方で、自身の勝利を確信したベルデは依然として嘲笑を上げるだけだった。

「わざわざ言わなくても分かるよね?反撃なんかしたら、アクセルがどうなっちゃうかって」

「左さん!私に構わず、キングを……!」

「――うるさいな」

ベルデの契約モンスター、バイオグリーザに足蹴にされながらも気丈にキングの打倒を望む一条の声に、ベルデは指で自身の契約モンスターへ何らかの合図をした。
それを受け、忠実なる彼の僕は一条を踏みつぶさんとする勢いでその足に込める力を強める。
凄まじい圧力に一条が悲痛な呻き声を上げるのを耳にして、ジョーカーは思わず怒号を上げていた。

「てめえ、汚ぇぞ!」

「汚いとかどうとか僕には関係ないし。君もそれが嫌なら、正義のヒーローなんかやめちゃえば?」

嘲るように鼻で笑ったベルデに対し、ジョーカーは再びその拳を強く握りしめ――。
――刹那、視線の先で喘ぐ一条の姿に、力なくその腕を項垂れさせた。

「ハッ、そうこなくっちゃ」

抵抗の意思を見せなくなったジョーカーの姿を受けて、ベルデはバイオグリーザに一度拷問をやめさせる。
何時でも料理出来る生身の一条は後回しにして、今はジョーカーを痛めつける方を選んだのである。
果たしてどこまで無抵抗でいられるかな、と嘲る姿勢を崩すことはせず、ベルデはジョーカーの身体を思い切り蹴りつけた。

「左、さん……」

そして、一方的に蹂躙されるジョーカーの姿を見ながら、一条は一人無力感に歯噛みしていた。
牙王やレンゲルという仮面ライダーとの戦いで、能力の一つとして怪人を使役出来る存在がいることは、把握していたはずだったのに。
ジョーカーが単純な戦闘力でベルデに勝りそうだという目先の事実に、思わず警戒が薄れていた。

それだけでなく、この絶体絶命の状況自体、自分が生んだものに違いないというそんな思いが、一条を苦しめる。

(俺は結局、何も変わらない……いつもいつも俺は、守られてばかりだ……!)

身動きすら満足に出来ず地に伏す中で、彼は強く拳を握りしめる。
元の世界に居たときも、この殺し合いに来てからも。
自分はずっと、仮面ライダーに守られてばかりではないか。

照井も、ユウスケも、翔一も、そして五代も……自分を守ってくれた仮面ライダーは、その身を犠牲にしてでも自分を守ってくれた
なのに自分は、それが出来ない。
本来ならばこの命を捧げてでも警察官として市民を守ると誓った自分が、彼らを守らなくてはならなかったのに。

中途半端極まりないそんな自分は、また再び目の前で新たな犠牲を生み出そうとしている。
自身を鍛え、信じてくれた心優しい青年が、今自分のせいで抵抗すら出来ず弄ばれているのだ。
きっとベルデは彼を殺した後自分のことも容赦なく殺すのだろう。

そんなことは彼も分かっているはずなのに、それでもジョーカーはその身に降りかかる攻撃の嵐に抵抗しようともしない。
そんな仮面ライダーとして求められる当然の正義はあまりに優しくて、そして同時に、この状況において一条にはあまりに残酷に感じられた。

「おい、そいつはもういいよ。お前もこっちに来い」

ベルデの指示を受け、一条の身体にかかっていた圧が消える。
彼の契約モンスターであるバイオグリーザが、ベルデと共にジョーカーを蹂躙しに向かったのだ。
それは即ち一条の人質としての仕事が終わったことを意味していたが、しかしそれでも、ジョーカーはもうまともに反撃することも出来なくなっていた。


988 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:05:30 w4SkB9us0

単純に敵が増え二対一となった為に反撃の隙が少なくなったのもそうだが、それまでの一方的なベルデの攻撃であまりに体力を消耗しすぎたのだ。
なれば自分が向かい数の不利をなくさなければと、一条は半ば意地のようにして、痛む身体を押して二の足を地に突き立てる。
そして懐からメモリを取り出して、そのスイッチを押した。

――ACCEL

起動するガイアウィスパーによって、加速の記憶が呼び起こされる。
そしてそのまま彼は、メモリをドライバーへと差し込んだ。

「変……身!」

――ACCEL

瞬間その身に纏われた鎧は、彼が照井から受け継ぎ、幾度となく変身した仮面ライダーアクセルのもの。
そのまま駆け出しジョーカーを救わんとするアクセルだが、瞬間その脳裏に、とある絶望のビジョンが幻視される。



――自身のマークが刻まれたカードを、バイザーへと読み込ませるベルデ。
――それに伴い発動した彼の必殺技によって、脳天から地面と直撃するジョーカー。
――変身が解け息絶えた翔太郎を腕に抱き、慟哭するアクセル。



一瞬にして脳内を駆け抜けたその光景は、あまりに鮮明で、アクセルには妄想と割り切れないほどだった。
これは有り得る絶望の未来の形なのか、或いは避けられぬ運命なのか。
思わず尻込みその走力を落とした彼は刹那、視線の先の戦況が変わるのを目の当たりにしていた。

「さぁてそろそろ飽きてきたし、終わりにしてあげようかな」

自身のデッキから、一枚のカードを抜き取るベルデ。
そのカードには、先ほど幻視した彼のマークが、寸分違わず描き出されていた。

「そんな……」

驚愕に、思わずその足を止める。
このままでは、ジョーカーが死んでしまう。
理由こそ分からないが、先ほどの幻視はやはり現実となってしまうのだろうかと、そうして俯き諦めかけるが。

――『警察官として……仮面ライダーとして、このふざけた戦いにゴールを迎えさせろ! 一条薫、行けぇぇぇぇぇぇ!』

自身にアクセルを託した照井の、最期の言葉が頭を過ぎる。
そうだ、照井は言ってくれたではないか、警察官として、仮面ライダーとして戦い抜けと。
なればその思いを継いだ自分が、こんなところで有り得るかも知れない未来の可能性如きに立ち止まっていて良いはずがないではないか。

意を決したアクセルは、その手にトライアルメモリを握る。
例え万全に使いこなせないとしても、幻視した未来を打ち砕き、その絶望を振り切れるだけの力は、これしか思い浮かばなかった。

――FINAL VENT

ベルデが、必殺技を発動させる。
それを受けバイオグリーザが彼の足にその舌を絡ませる光景を見やりながら、アクセルは自身のベルトに新たな力を装着していた。


989 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:05:49 w4SkB9us0

――TRIAL!

メモリに備わった挑戦の記憶を呼び覚ますために、彼はアクセルドライバーのハンドルを数度捻る。
それによって起動したメモリは、アクセルの姿を変えていく。
シグナルの点滅と共に、赤から黄へ、そして黄から青へ。

特訓の際幾度となく耳にしたそれが、スタートを呼びかけるように高らかに鳴り響くと同時、トライアルへの変身を完了したアクセルの身体は一気に加速する。
そして彼が走り出すのとほぼ同時、必殺技であるデスバニッシュを発動したベルデの魔手は、今まさしくジョーカーへと向かっていた。

(――間に合え)

超高速の世界の中、アクセルは必死に手を伸ばす。
もう、ただ目の前の犠牲を見ているだけだなんて御免だ。
今度こそ消えかけている命を、自分の力で救って見せるのだ。

父や照井がそうしたように、それこそが自分の仕事なのだから。

(――間に合え)

ベルデがジョーカーを間合いに捉え、その腕を大きく広げる。
まさしくあと一瞬で、先ほどの幻視は現実となり、翔太郎は死を迎えるだろう。
だがそれでもアクセルは諦めない。

今までのいつよりも速く、疾く、その足は一心に走り抜けていた。

(――間に合えぇぇぇぇぇ!!!)

心中で高く、強く叫ぶ。
例え役者不足でも、今の自分は仮面ライダーなのだから、人を守れないなどあっていいはずがないと。
照井やユウスケによって正しく仮面ライダーを理解しその名を受け入れた一条にはもう、一切の迷いは存在しなかった。

そして遂に、その足はジョーカーに後一歩で及ぶというところまで至る。
あと一歩、あと一歩だ。限界をも超えた彼は、ただ無心でその足を動かして――。










(――行け、一条薫)

背を押してくれたそんな声と共に、彼は全てを振り切った。





「……なに?」

自身の切り札であるデスバニッシュを終了しながら、ベルデは苛立ちにぼやく。
理由は単純だ、その手で命を刈り取るはずだった仮面ライダージョーカー、左翔太郎が、この手からすり抜けたのだから。
対象が居ないために不発に終わったデスバニッシュに名残惜しさを抱きながら振り返ったベルデは、その目に信じがたい光景を映した。

何故ならそこにあったのは、自身の知らぬ青い姿になったアクセルが、ジョーカーを抱きかかえ立つその姿だったのだから。

「間に合った……」

「……ったく、信じてたぜ、一条」

状況を飲み込みきれないベルデを置いて、ジョーカーはアクセルの胸を叩く。
ようやくこの手で誰かを救えたという達成感に思わず上の空になっていたアクセルは、それを受けてようやくジョーカーを下ろし、二人でベルデへ向き直った。
ジョーカーと並ぶアクセルの姿は、既に常の赤いそれではない。

トライアルメモリによって進化を遂げた彼の新しい姿。
その名は、仮面ライダーアクセルトライアル。
重く分厚い鎧を脱ぎ去り、果てしなく軽量化して手に入れた超高速能力によって、ジョーカーの危機を救ったのである。


990 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:06:11 w4SkB9us0

この土壇場での逆転に苛立ちバイオグリーザを従えるベルデを前に、アクセルはメモリをトライアルから戻そうとする。
特訓を終えていない今、戦うのだとしても通常のアクセルである方が効果的だとそう考えたのだろう。
だがそうしてベルトへ向きかけた彼の腕を止めたのは、他ならぬジョーカーだった。

思わず困惑と共に自身を見やったアクセルに対し、しかしジョーカーはただその首を横に振る。

「やれるさ、一条。今のお前なら」

「左さん……」

黙って頷いたジョーカーに、アクセルも同じように頷き返す。
アクセルメモリを仕舞い、ベルデとバイオグリーザへ向き直った両雄は、そのままそれぞれの敵へ向け一目散に駆け抜けた。

「――ハァッ!」

その超高速のスピードで誰より速く自身の標的であるバイオグリーザへ到達したアクセルは、その拳で敵を弾き飛ばす。
それを追いかけ、まさしく風のように消え去ったアクセル達の行く末をしかしもう目で追うこともせず、ジョーカーは残るベルデと対峙する。

「さぁて……始めようか?」

気合いを入れるように手首をスナップしたジョーカーの仕草を合図として、彼らは同時に駆け出していた。





「タァッ!」

バイオグリーザへ幾度となく拳を放ちながら、アクセルは自身のパワーダウンを如実に感じていた。
いや、それは決して正確な評価ではあるまい。
青の姿に変わったクウガが赤に比べ力を犠牲に俊敏性を得たのと、このアクセルに起きた変化はまるきり同じなのだ。

なれば青のクウガが棍棒でその非力を補ったのと同じように、このアクセルにもこの姿に適した戦い方があるはず。
それこそこれまでと違い、この速度を活かして一秒の内に数回、いや数百回数千回の攻撃を当てなければ、このトライアルを使いこなすことは出来ないのだ。
だが、その思いを抱き、決意と共に駆け出したアクセルに身の危険を覚えたか、バイオグリーザは先ほどのベルデと同じように景色にその姿を溶かす。

空振りに終わった拳と、未だ自身を狙うその気配を受けて、アクセルは油断なく構え直す。
完全に透明な敵とまともに戦う事の愚かさは、かつてクウガが苦戦した未確認生命体第31号との戦いで一条もよく知るところである。
とはいえアクセルには緑のクウガのように気配で敵を知覚するような能力はない。

なればどうするべきか。導き出された答えは、極単純なものだった。

「はあああぁぁぁぁ―――――!」

アクセルは周囲に円を描くようにして、超高速で走り出す。
透明なバイオグリーザを探し当てるため、当てずっぽうにタックルを仕掛けようとしているのか?
答えは否だ。そんな回りくどいことをしていれば、敵を見つけるより早く自分の体力が尽きてしまう。

なれば彼の狙いとは何か。それは、こうして走り抜けることで周囲に舞い散るこの砂埃にこそあった。
モトクロスのコースから弾き飛ばされたのだろう細かな土は、今アクセルの足に踏み荒らされ否応なしに宙に舞っている。
普通であれば少し埃っぽいと感じる程度で無視することも容易だろうそれは、実際当のアクセル本人には大した意味を成さない。

だが、視界を僅かに土色に染めるその小さな砂煙は、やがて一つの影を浮かび上がらせる。


991 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:06:30 w4SkB9us0

「――そこだッ!」

突如として、アクセルが虚空の一点を見つめ、そこに向け正確無比な拳を叩きこんだ。
確かな確信と共に放たれたそれは、世界から消えていたはずのモンスターを正確に捉えた。
呻き弾き飛ばされたバイオグリーザは、高度な思考力こそないながらに困惑を示す。

何故透明だったはずの彼を、アクセルが捉えられたのか。
その答えは、バイオグリーザの身体に降り積もる無数の小さな塵にあった。
アクセルが巻き起こした土埃は、景色に溶け込んだバイオグリーザの輪郭を浮かび上がらせるのには十分な役割を果たしたのである。

されど、そんな事情など一モンスター風情が知るよしもない。
ただひたすら困惑したバイオグリーザを前にして、アクセルは躊躇なくそのベルトからトライアルメモリを抜き出していた。

(五代、津上君、そして照井警視正……俺に、力を……!)

今から自分がしようとしていることが、成功するかは分からない。
どころか、普通に考えれば分が悪い賭けも良いところだ。
だけれども、アクセルにはこの挑戦が失敗するビジョンが、どうしても描けなかった。

メモリをマキシマムモードへと変形させ、宙へメモリを放り投げる。
始まるカウントは、先ほどまでの特訓と同じものだ。
凄まじい負荷がこの身体にのしかかり、限界まで加速したこの身を今にも押し潰そうとする。

だが、それでもアクセルは足を止めない。
度重なる特訓が、彼に間違いなくこのマキシマムへの耐性を与えていた。
バイオグリーザが、抵抗のつもりでその長い舌を伸ばす。

だがそれを躱すのは、今のアクセルにとってはあまりにも容易い。
右へ左へと縦横無尽に駆け回り、バイオグリーザの攻撃を的確にいなした。
そしてそのまま、バイオグリーザが都合三度目の攻撃を放とうとしたしかしその瞬間に、アクセルは彼の懐へと一瞬で忍び込む。

突如目の前に現れたアクセルへ驚愕するバイオグリーザ。
されど彼が反撃を放つより早く、アクセルは息もつかせぬ勢いで怒濤の連撃を開始していた。
まるでアルファベットのTを描くように幾度となく放たれたコンビネーションキックは、何時しか肉眼では捉えられないスピードへと到達する。

その一撃一撃は、きっとバイオグリーザにとっては大したダメージにもなり得ない矮小なものだ。
だがそんな矮小な一撃も、こうも重なればそれはまさしく無視出来ないほどに凄まじい圧力を伴って、彼の身体を焼き付くさんとする威力を持つ。
反撃は愚か、身動きも出来ぬままキックの雨に晒されたバイオグリーザの身体が解放されたのは、それから大凡10秒足らずの後だった。

――TRIAL MAXIMUM DRIVE!

その手に落ちてきたトライアルメモリを握りしめ、アクセルはマキシマムカウンターをストップする。
電子音声と共にカウンターが指し示す9.8の数字は、それによってトライアルのマキシマムが正常に発動及び終了したことを示すものだ。
だが一条は、決して照井竜と同じように敵へその絶望までのタイムを告げたりはしない。

ただ立ち尽くし、マシンガンスパイクの名を持つ必殺技を成功させたことへの喜びを、噛みしめるだけだ。
だが決め台詞がなかったとしても、マキシマムドライブの効果は何も変わることはない。
照井竜のそれと全く変わらぬ威力を伴って、バイオグリーザの身体を凄まじいエネルギーの奔流が駆け巡る。

「G……GYAAAAA!」

断末魔を上げ、その身に蓄積されたエネルギーに耐えきれず爆発するバイオグリーザ。
その爆炎を背に受けながら、アクセルは心中でこの力を託してくれた命の恩人へ、何度目かの感謝を述べた。


992 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:06:53 w4SkB9us0




アクセルとバイオグリーザの戦いから少し離れた場所で、未だジョーカーとベルデの戦いは続いていた。
戦況は、意外にも互角。先ほどまでのダメージを隠しきれないジョーカーが、しかしそれでもなお倒れる気配を見せないのである。
意地だけで戦っていると断言出来るようなその風体に苛立ちつつ、ベルデは今度こそ敵の息の根を止めようと、バイオワインダーを振るおうとする。

「グ……う……!?」

だが瞬間、その手元からバイオワインダーが突如として消滅する。
それだけではない。鮮やかな緑に染まっていたその鎧から、突如として色が褪せ消え失せたのである。
残されたセピア色の鎧と、急激に減退した力に呻くベルデに対し、しかしジョーカーはこの展開を読んでいたとばかりに得意げに笑った。

「どうやら……一条がやってくれたらしいな。じゃあそろそろ、俺らも終わりにしようか?キング」

「舐め……んな……!」

挑発に耐えきれず立ち上がったベルデの突進を前に、しかしジョーカーは焦ることなく自身のベルトからメモリをマキシマムスロットへ移し替えていた。

――JOKER MAXIMUM DRIVE!

響くガイアウィスパーが、この身体にエネルギーを漲らせる。
右腕へと集中したそれを力強く握りしめて、ジョーカーは腰を低く屈めた。

「ライダーパンチ……!」

呟いた必殺技の名前と共に、ジョーカーの拳がベルデへ伸びる。
半ばカウンターパンチのように炸裂したそれは、拮抗すら許さずベルデの身体を打ち破り、その身体を大きく弾き飛ばした。

「があぁっ!」

耐えきれず生身を晒したキングの目の前に、割れたブランクデッキが砕け散る。
これで恐らく、キングは詰みだ。
少なくとももう、先ほどのようなヘラヘラとした軽薄な笑みは、浮かべていなかった。
勝利を確信し変身を解いた翔太郎は、ブレイドのデッキから一枚のブランクカードを抜き取り、倒れ伏すキングへ近づいていく。

これでもう、こいつとの忌々しい因縁も終わりだ。
じゃあなと一言だけ告げて、彼はそのカードをキングへ投げようとする。

「――いいの?僕を封印したら、残るアンデッドはジョーカーだけだよ?」

だがそれを阻んだのは、未だ倒れ伏すキングの言葉だった。
いつも通りの口八丁だろうと無視しても良かったのだが、しかしその口から放たれた単語に、思わず翔太郎は動きを止めてしまう。

「……残るアンデッドがジョーカーだけ?それがどうした」

「あー、そっか君は知らないんだ。バトルファイトの勝者がジョーカーになったら、世界がどうなるかって」

「世界が?」

思わず聞き返した翔太郎に、キングは地に這いずったままニヤリと口角を吊り上げる。
まるで自分の切り札はまだなくなった訳ではないとでも言いたげなその表情に、しかし翔太郎は飲み込まれつつあった。

「教えてあげるよ、ジョーカーがバトルファイトの勝者になったら、世界は滅びるんだ。ここでそれが起こったら……そうだな、ここだけじゃなく十個の世界も、全部滅びるんじゃない?」

「なんだと……!?」

告げられた衝撃の真実に、翔太郎は思わず言葉を呑む。
相川始がカリスとしてアンデッドを封印しているという話は聞いていたが、まさか彼が最後の一体になったとき、そんな事が起きるとは、思ってもみなかったのだ。
そしてキングからもたらされた情報は、それだけではない。

ここでジョーカーアンデッドが勝者になれば、この世界だけでなく、全ての世界が滅びる。
初耳もいいところの新事実に驚きを露わにしつつも、しかし翔太郎も一人の探偵だ。
敵の真意も定かでない言葉を鵜呑みにするような、愚行は犯さない。


993 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:07:14 w4SkB9us0

「ふざけんな、何を根拠にそんなこと……!」

「ふざけてないって。この殺し合いを開いた神様は、この世界を作るのに苦労したらしくてさ。色んな世界の要素を継ぎ接ぎにして、無理矢理一つに纏めたんだって」

キングの言葉に、ほぼ反射的に翔太郎は思い出す。
SMART BRAINのロゴが書かれたマンション、風都タワーがあるべき場所に建つ東京タワー、そしてサーキット場の横に移されたモトクロスのレーシングコース。
そのどれもがあまりに不自然で、他にもそういった継ぎ接ぎが至る箇所にあるのが、キングの言う首領の手腕によるものだと仮定すれば。

彼の言うことにも、少なからず信憑性が生まれてしまう。

「で、そんな風に纏められた世界の断片が集まったここは、やっぱり少しずつ元の世界にも繋がってるんだって。だからここが滅びたら、元の世界もやばいんじゃない?ってこと」

いつの間にかニヤついた笑みを取り戻したキングは、翔太郎を見上げる。
まるで翔太郎の選択を既に知っているかのようなその顔を前に、彼は想わずブランクカードを握る手を下ろしてしまう。
危機一髪の状況を打破するためのブラフ。勿論、その可能性も捨てきれない。

だがもし仮にこいつの言っていることが正しくて、ここでキングを封印したばかりに全ての世界が滅んでしまったとしたら。
自分は死んでいった仲間達に、顔向けなど出来なくなってしまう。
許されざる邪悪を打倒したというのに、何故か追い詰められた心地を抱いた翔太郎が、果たして何が正解なのかと迷い俯いたその瞬間。

この時を待っていたとばかりに、十分に回復したキングが、勢いよく立ち上がり懐から小さな箱を取り出していた。

――ZONE

不味い、と翔太郎が咄嗟に理解するのと同時、キングは自分の身体にメモリを突き刺す。
それによって一瞬で人型を失ったキングの身体は、三角錐のような不気味な形状をした怪人へと変貌していた。

「しまっ――」

「じゃあね、ダブルの左側!」

捨台詞と共に、ゾーンドーパントとなったキングはその目玉より光弾を発射する。
それは真っ直ぐに翔太郎へ向かっていき――しかし、刹那駆けつけた青い疾風に、難なく打ち落とされた。
翔太郎の盾として立ちはだかったのは、他ならぬアクセルのもの。

翔太郎を殺せなかったことに舌打ちを漏らしたゾーンを、しかしアクセルは見逃すつもりもない。
瞬きの間に彼を捉えようと駆け出したアクセルを尻目に、ゾーンは迷わず逃走を選択する。
その類い希なるメモリの能力で以て、どこかここではない別のエリアに、自分の身体を移動させたのである。

逃げられた。アクセルの拳が虚空を切るのと、その事実を彼らが察するのは、ほぼ同時だった。

「ご無事ですか、左さん」

「あぁ、何度もすまねぇ……」

アクセルの変身を解除した一条が、心配の声を掛けてくる。
本来ならば、トライアルを使いこなした彼に、労いの一言でもかけてやるべきなのだろう。
だがどうしても自分の口をつく声は、感情の伴わないどこか空虚なものにしかならない。

不安そうな声を掛けてくる一条の声が耳を抜けていくのを申し訳なく思いながら、しかし翔太郎は先ほどキングに述べられた衝撃の言葉に、未だ心を捕らわれていた。

(ジョーカーが最後の一体になったとき、全ての世界が滅びる……それなら相川さん、アンタは……)

信じたいと願った男の、予想だにしない凄まじい境遇を、思わず案じながら。
帽子を押さえ空を見上げた翔太郎の顔は、どこまでも険しいものだった。


994 : Tを越えろ/疾走 ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:07:36 w4SkB9us0

【二日目 午前】
【B-1 サーキット場】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、仮面ライダージョーカーに2時間変身不能
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、ブレイバックル+ラウズカード(スペードA〜Q、ダイヤ7,8,10,Q、ハート7〜K、クラブA〜10)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:少し休んだ後、一条と共に病院に戻る。
1:名護や一条、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く……はずだったのにな。
2:相川始が生き残れば、世界が全て滅びる……?
3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
4:村上峡児を警戒する。
5:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
6:ジョーカーアンデッド、か……。
7:総司……。
8:相川始にハートを始めとするラウズカードを渡すかどうかは会ってから決める。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。
※キング@仮面ライダー剣から、『この場でジョーカーアンデッドが最後のアンデッドになったときには、全ての世界が滅びる』という情報を得ました。



【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、五代たち犠牲者やユウスケへの罪悪感、仮面ライダーアクセルに2時間変身不能
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:少しこの近くで休んだ後、病院に戻る。
1:俺にも、トライアルが使えた……。
2:小野寺君……無事でいてくれ……。
3:第零号は、本当に死んだのだろうか……。
4:五代……津上君……。
5:鍵に合う車を探す。
6:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
7:小沢や照井、ユウスケの知り合いと合流したい。
8:未確認への対抗が世界を破壊に導き、五代の死を招いてしまった……?
9:遊び心とは……なんなんだ……。
【備考】
※現在体調は快調に向かいつつあります。少なくともある程度の走行程度なら補助なしで可能です。



【二日目 午前】
【?-? ???】

【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、苛立ち、ドラスへの期待
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、首輪(五代、海東)
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:???
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒。
3:ディケイドとダークカブトは次あったら絶対に殺す。
4:ドラスの引き起こす惨状に期待。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え持ってきた物は『ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編』でした。
※ソリッドシールドは再度破壊されました。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。
※彼の言う『この場でジョーカーアンデッドが最後のアンデッドになったときには、全ての世界が滅びる』は真実なのか、或いは嘘なのかは後続の書き手さんにお任せします。
※どこにワープしたのか、何をしようとしているのかは後続の書き手さんにお任せします。


995 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/28(土) 15:09:01 w4SkB9us0
以上で投下終了です。
毎度のことではありますが、ご感想、ご指摘等ございましたらよろしくお願いします。
ちなみにですが、このスレはもうそろそろ埋まりますので、感想等で埋めていただけると嬉しいです。


996 : 名無しさん :2019/12/28(土) 19:21:08 31gDrIbY0
投下乙です!
特訓に苦労する一条さんと翔太郎の前に、あのキングがまたしてもちょっかいを出してきましたが……やはり、二人が負けることはありませんでしたね!
キングも後がなさそうに見えて、まだ切り札を抱えているからとんでもないことをやらかしそう。


997 : 名無しさん :2019/12/29(日) 01:30:54 aQuKTLm60
投下乙です。
ついに一条さんがトライアルに……! その変化にドラゴンフォームを重ね合わせたりなどニヤリとするネタも挟みつつ、最後にはしっかり決めてくれましたね。
キングの戦力も順調に削れてきて、いよいよ後がなくなってきましたが、次は誰にちょっかいを出すのでしょうか?


998 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/29(日) 22:21:03 3eySZm9s0
新スレ立てました。

ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1577625360/


999 : 名無しさん :2019/12/29(日) 22:39:01 hhpKd1iU0
スレ立て&予約乙です!
今度はあの二人!?


1000 : ◆JOKER/0r3g :2019/12/30(月) 14:33:24 utmwU0oE0
埋め


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