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変身ロワイアルその6

326崩壊─ゲームオーバー─(6) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:39:26 ID:OT9PV3kg0
 前方で、憎しみの瞳でこちらを睨む少女は誰か──。
 そう、その人はキュアピーチである以前に、桃園ラブという一人の人間である。

 そして、彼女の「愛情」は、プリキュアの力による物でも、キュアピーチだからこそ持っているという物でもない──ラブが、恵まれた日常の経験と痛みの中で培われた感情が生みだした物だ。
 必要なのは、キュアピーチではない。キュアピーチになる運命を背負った、「桃園ラブ」という一人の少女である。
 そんな彼女の人生を、安易に外から植えつけられた何かに捻じ曲げられていいものであろうか。

「──そんなちっぽけな物の魔力で、自分の事を否定しないでください!」

 ブロッサムは、真っ直ぐピーチの瞳に向けてそう言った。
 ピーチは、そんなブロッサムの方を、少し怪訝そうに見つめた。純粋に何を言っているのかわからなかったのかもしれないし、今はただ他人の言葉を拒絶しようとしているのかもしれない。
 ベリーは少し押し黙り、ブロッサムの声がピーチの耳に届くようにした。

「あなたが今向けるべきは、憎悪じゃありません! あなた自身が本当にみんなに向けたい物は、もっと別の物のはずです!」

 ピーチは、ブロッサムの声そのものにどことない不愉快さを感じたのか、顔を一層顰めた。
 力を体の中心に集めるように構え、即座にブロッサムに向けて駆けだすピーチ。
 野獣のように、膝を曲げて駆け出し、爪を立てた右手でブロッサムの口を封じようとする。
 相手の声の端、言葉の端さえ、むず痒い思いへと形を変えるのである。

 それが、反転宝珠の送りこんでくる憎しみの力。それは、その言葉が本来のラブが好ましく思う言葉であればあるほど──今のキュアピーチにとっては強い憎悪となる。

 ブロッサムは、その右手の五指の間に、自分の左の五指を挟み込むように食い止めて、己の口が塞がらないようにした。純粋な力比べであるように見えるが、利き手でない事や、体勢の悪さも含めて、ブロッサムは力押しでは不利だった。
 苦渋に満ちた声を、必死に絞り出す。

「あなたが本当にしたい事は……こんな事じゃ、ないはずです!」
「うるさいッ!!」
「ラブさんが今言いたいのは、そんな事じゃない!!」

 蒼乃美希とは反対に、花咲つぼみは、元の桃園ラブを思い出すほど、何か力が湧きだす性質があった。
 ラブにとって、このままでいる事が何より辛いと思えた。たとえ、体の痛みは、心が痛む気持ちには敵わない。

 ──そう、「花咲つぼみ」だからこそ、「本当の自分」が殺されてしまう痛みはよくわかる。

 自分の思っている事も口に出せず、自分のやりたい事もできなかった経験を。
 自分のしたい事が、“想い”以外の何かに抑圧されるような“思い”。
 花咲つぼみは、そうして自分を殺して生きてきた。笑顔であるように見えて、内心では自然と父親や母親の機嫌を伺い、──そんな中に本来の自分の想いを潜めて、時には心の中で涙を流しながらも、空元気の笑顔で周りを安心させようとする。
 そんな彼女を、引っ込み思案、と人は言う。──まさにその通りだった。彼女自身も否定はしない。
 しかし、そのままであっていいとは思わない。
 だから、彼女は、転校を機会に変わってみせようとしたのだ。

「きっと、私が……一番わかっている事です。自分が本当に言いたい事も言えない時って……、とても苦しかったんです!」
「それなら口を封じてあげる──ッ!」
「今、本当に自分の言葉を告げられずにいるのはあなたの方です! 苦しんでいるのは、……桃園ラブさん、あなたなんです!!」

 そして、強くピーチの右手を掴んだまま、ブロッサムは、ピーチの脇腹を──蹴り上げた。
 思わず……まさに、不意の一撃に、ピーチは、これまで見せた事のないような驚愕の表情を形作った。そして、空にアーチを描きながら、地に落ちていく。

「──ッ!?」

 不意の一撃──いや、それだけが彼女を驚かせたわけではない。
 キュアピーチも、本能的に、「急所を狙う」という戦法に、キュアブロッサムらしさがないと感じたのだ。何度も一緒に戦ってきた相手であるがゆえに、その本能で彼女の攻撃パターンは理解していたのだろう。


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