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中学生バトルロワイアル part6

280波に黄昏、海に夢、泡沫の聲は銀の浜 ◆sRnD4f8YDA:2014/08/17(日) 02:54:29 ID:TZA2pd2M0
鉄扉を開けると、そこは真っ直ぐ伸びる廊下だった。
灯りは殆ど無く、申し分程度にぶら下がる裸のフィラメント電球すら切れかけで、ぱちぱちと橙色の残滓を暗闇に振り撒いていた。
壁には得体の知れないケーブルやパイプが縦横無尽に駆け回り、ずっと向こうまで続いている。
錆びた鉄と、油の臭いがした。思わず眉間にしわが寄る様な臭いだった。
ごうん。右壁面を走る一際太いパイプが唸る。赤い塗装が剥げたバルブの側から、ぷしゅうと白煙が噴き出した。
少年は頭をもたげて天井を見上げる。高い。6メートルはあるだろうか。
スラブから下がったチャンネルが大小のパイプを吊り下げ、剥き出しのスプリンクラーが辺りを埋め尽くしている。
溜息を、一つ。吐く息は白く、少しだけ肌寒い。
こつん、と靴のソールがモルタルを叩く無機質な音。その小さな足音は長い廊下を反響して、闇の向こうに消えていった。
長い廊下を歩ききると、角があった。緩やかな弧を描きながら、道が旋回している。その先には錆びた鉄の引き戸があった。
曲がって、前を見て、そして扉を引く。軋む扉を引ききって、目の前を見上げて―――広がる景色に、息を飲む。




「皮肉だな、ホント」




口角を吊り上げて、恨めしそうに呟く。
戦って、傷付いて、喪って。それでも綺麗だと、思ってしまうのだから。

「本当に、皮肉だ」

それは、一面の水の世界だった。
アクリルに閉ざされたブルースクリーン。淡いコバルトブルーが世界を満たし、まるで深い海の底。
黄昏を浴びて金色に煌めく水面が部屋の中へ沈み込み、ゆらゆらと朧げな光が部屋を埋めるモルタルを泳いだ。
透明な境界の向こう側に、優雅にマンタが泳いでいた。鯵の群れが白銀の竜巻を作っていた。
海藻がゆらゆらと揺れていた。イルカが踊り、鳴いていた。
綺麗だ、と。そう思わざるを得ない光景だった。

「……どうして」

こつん、とアクリルの壁面に額を当て、息を吐いた。白い息は冷たい空気を漂って、やがて虚空に溶けていった。
震える拳が、アクリルの一枚板を叩く。どおん、と鈍い音が部屋に反響した。
アクリル面に映り込むのは、冴えない男が一人。酷くやつれた表情の中で、への字に曲がった口から声が漏れた。

「どうして、俺なんだ」

どうしてなんだ、と。腹の底から捻り出す様に言う。
半ば無意識の言葉は、その九文字は、ここまでの苦悩の全てが詰まっていた。

「いつもそうだ……ああ、確かに俺は生きたい。生きたいよ……」

駄目だ。少年は思った。そうじゃない。違うんだ。

「だけどあいつらだってそうだろ。誰だって、死にたいわけじゃなかった! 生きたかったはずだ!」

待て。それ以上言うな、駄目だ。“崩れる”。
今まで積み上げたものも、捨ててきたものも、無視してきたものも、我慢した想いも、叶えたかった願いも。
全部、崩れちまう。だから、言うな。言うなよ。言うな!

「あいつらが何かしたか? 命を奪われなきゃいけないような事を?
 無様に死ななきゃいけない事を? 何かしたっていうのか!?
 …………冗談じゃない……冗談じゃない!!!」


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