したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

新西尾維新バトルロワイアルpart6

851Q&A(旧案と宴) ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:49:07 ID:S7QegMTs0

【二日目/早朝/E-6 ランドセルランド】

【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、動揺
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、真庭忍軍の装束@刀語、
   ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス、戯言遣いの持っていた携帯電話@現実、
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……球磨川禊は要警戒。
 1:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……メールを確認すれば分かるかも。
 2:メールを確認して、首輪に関する理解も深める。
 3:いーさんの様子に注意する。次の放送の前後は特に。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。
 ※戯言遣いの持っていた携帯電話を借りています。なのでアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています。

【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ。ただ、ちょーっとビックリしてるかな』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。
    後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本かもあって、あ、あと七実ちゃんのランダム支給品の携帯電話も貰ったぜ!』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はやっぱメンバー集めだよね』
『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『2番は欠陥製品に気を配ることかな? あんまり辛そうなら、勝手になかったことにしちゃおっと!』
『3番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
『4番は、そんなことよりお菓子パーティーだ!』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータを共有されています。

852 ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:50:52 ID:S7QegMTs0
投下終了です。
指摘感想などありましたらよろしくお願いいたします。
また、この話が通るにしろ通らないにしろ、私としては放送にいってもらって大丈夫です。

853 ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:48:27 ID:SGPIG5m20
仮投下していた話について問題無いというご意見をいただけたので本投下します

854安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:52:38 ID:SGPIG5m20

――――ぱちぱちぱちぱち。

「なんのつもりですか」

もちろん褒めているんだよ。
よくぞそこまで辿り着いたね不知火ちゃん。
……なんてお世辞はいらないか。
解いてもらわなきゃ、僕も暗躍した甲斐がないというものだ。

「はい?」

そんなにおかしいことを言ったかい?
出題者としては解答の存在しない問題を出すのはフェアじゃないだろう。
数学とかだと解答なし、という答えもあるけれど、この場合は当てはまらないし。

「そっちじゃないですよ。暗躍だなんて、バレバレすぎてとてもとても」

んー、まあ、否定はしないよ。

「というかむしろあたしに気づかれることを折り込み済みで色々やってませんでした?」

なんだ、わかってるじゃないか。
本当に気づかせたくなかったらそうしていたとも。
逆説的にそういうことになるわけさ。
それじゃあ、解説タイムと洒落込もうか。
ほら、クイズ番組とかでよくあるこれはこれこれこういうことなんだよって説明するやつ。
正解を出したのならいるんじゃないかい?

「どちらかと言えば、ミステリーの犯人の自白の方がまだ近そうですけれどね」

その例えをするならミステリーに必要不可欠な証拠とかが全然無いじゃないか。

「証拠? そんなもの安心院さん相手に意味あります?」

それもそうか。
悪平等の端末という時点で証拠も何もないというならそうだけれど。
確かに犯人は僕だけれども。
ああ、今のは自白になってしまったかな、なんて御託もいらないか。
一応先に言っておくけど、僕はこの実験、壊す気満々だぜ?

855安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:53:50 ID:SGPIG5m20
   ■   ■



まず目をつけたのは容赦姫――いや、とがめちゃんと呼んであげた方がいいかな?
死ぬ直前のところを精神だけ呼び出した。
おっと、この場合は呼び出すってより取り出すの方が正しかったかな。
球磨川くんや善吉くんやめだかちゃんたちとは違って仕込みとかもないから力業になってしまったけれど。
ほら、喜連川博士の研究のことは知ってるだろう。
精神という名の物質をいじくりまわすってやつ。

「……いきなり何とんでもないことをやらかしてくれてるんですか」

おやおや、笑顔が固まってるぜ。
早速嬉しい反応をありがとう、不知火ちゃん。

「確かに、そういう状態で接触されればこちらはわかりようもないですけれど」

だろう?
ミステリーならよくある入れ替わりとか誤認トリックってやつだ。
しかも彼女が死ぬ瞬間は他ならぬ君たちが記録してくれてるから疑われることすらない。
実際、僕が口にする今の今まで思ってもいなかっただろう?

「ええ、思ってもいませんでしたよ。でもトリックにしても反則がすぎるんじゃありません?」

おいおい、先にミステリーに例えたのは不知火ちゃんの方じゃないか。

「例えはしましたけどさすがにそういう意味じゃないですって。
 でも利用価値なんてあります? 端末とはいえ死んだままなんでしょう?」

そうだね。
彼女を端末にしたところで大局に意味はない。
うん、だからこれは純然たる僕の興味本位さ。

「なるほど、興味本位で手を出されるほどの価値はあったと」

もちろん。
ある意味で僕みたいな考えを持てる父親から生まれた球磨川君みたいな娘、なんて存在だぜ?
それでいて大の人間好きな宗像君が錯覚してしまうにもかかわらず、過負荷たりえない本質。
むしろ、『普通』なら避けていくはずの過負荷すら利用できてしまう人間性。

「言い切るんですか。彼女は過負荷と遭遇してないというのに」

そこは断言するとも。
彼女は過負荷と遭うことはなかったけれど、もしそうなっていればそうしていただろう、とね。
そんな存在、唾を付けない方がおかしいだろ。
実のところ、最初は話をしてみるだけのつもりだったんだけどね。
ただ話すだけじゃつまらないから否定姫や飛騨鷹比等の姿をとって揺さぶってみたりはしたけど。
とがめちゃんからすれば突拍子もない走馬灯を見るような感覚さ。
僕の用が済めばとがめちゃんの精神を持っておく必要もないし、死を迎えた肉体に引きずられて本当に終わり、だったんだけど。

「うっひゃぁ、悪趣味」

856安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:55:00 ID:SGPIG5m20

なんとなく思っちゃったんだよね。
端末にするのもおもしろそうだなって。
実質的な死人を端末にするのって初めてだったし、彼女なら君たちに気付かれることもない。
テストケースとしては悪くないだろう?

「いやいや、それ安心院さんにしかメリットないじゃないですか」

それはとがめちゃんにも言われたね。
だからちょっとだけ彼女に不平等で不公平なことをしてあげたとも。

「まさか用が済んだら生き返らせるとでも?」

いやあ、それはちょっとの域じゃないからそこまでは無理だよ。
できるできないの話じゃなくてやるやらないの話さ。
提案したとき、とがめちゃんも真っ先に聞いてきたけれどね。

「じゃあ何をしたんですか?」

結論から言えば、とがめちゃん本人に対しては何もしてないのと同義かな。
とがめちゃん本人には、ね。
不知火ちゃんならもう察したんじゃないかな?

「……ああ、あのときのはそういうことでしたか」

そう、七花くんと双識くん。
あのときのちょっとしたアドバイスはそういうことさ。
無関係の双識くんのとこまで出向いたのは、七花くんだけじゃ不十分だろうっていうちょっとしたサービスさ。

「それ、本当ですかね? 他の人にもちょっかいかけてそうですけれど」

いや、してないぜ?
この際だからはっきりさせておくけど、彼らも、他の端末もそのとき以外は一切僕から干渉はしていないよ。
僕の不平等、不公平は一人につき一度だけ。
その前後のことは全てなるようになっただけのこと。
どんな結末を迎えようとも、ね。

857安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:56:33 ID:SGPIG5m20
   ■   ■



次に端末にしたのは誰か、よりもその前に彼のことは言及しておいた方がいいか。
×××××を端末にしなかった理由は聞きたいんじゃないかい?

「まあ、そう言われると興味は湧きますよ」

彼もとがめちゃんと同様に球磨川君とどこか似てて、でも決定的に違っていた存在だ。
ちょうど寝ていたし、接触するにはいいタイミングだったしね。
からかってみたり、焚きつけてみたり、色々と話してはみたけれど彼を端末にするのはやめることにした。

「そうですか。てっきり『無為式』を警戒したものだと思ったんですが」

端末に狂わされる本体、なんて実現したらそれはそれでおもしろいことになっていただろうけど、そんなんじゃない。
考えなかったわけじゃないけど、単純に目的の達成にはそぐわないと判断しただけさ。
そもそも、端末という形で膨大な個性を保持する僕相手じゃ彼の戯言も相性が悪かっただろうし。
こんな場合じゃなきゃ彼の『無為式』も状況をひっかき回してくれるだろうという目論見はないでもなかったんだけどね。
後の展開を考えれば端末にしないで正解だったと思うよ。
要するに安全、安定、安心を取ったと考えてもらってもいいよ。
安心院さんだけにね。
なんちゃって。
それで、生きていた人たちの中で誰を最初に端末にしたかは見当がついたかい?
それなりにヒントっぽいことは言ってるけど。

「西条玉藻……は多分違うでしょうね、なんとなくですけど。萩原子荻がこちらにいる以上その人選は避けそうです。
 意識がなかったタイミングで考えるなら……玖渚友、辺りでどうですかね?」

残念。
確かに彼女も端末だけど違うんだなそれが。
さすがにいきなり当てるのは無理があったかな?
正解は櫃内様刻くんだよ。
ふむ、予想外ではないけれど納得がいかないって顔だね。

「タイミングが噛み合わないと思うんですが」

ああ、様刻くんが薬局で熟睡していた時間に端末にしたと考えるならそうだろうね。
でもその前に研究所で泣き疲れて寝ていただろう?

「それなら辻褄は合いますが……そんな早くからだったとは。本当に悪平等の前に自由であったと」

うん、そうだね。
とがめちゃんがテストケースなら様刻くんはモデルケースだ。
まあ、後の2人の参考にはならなかったけどね。
それも含めて、様刻くんだけがスタンダードな端末だ。

「それで実質的な最初の端末に彼を選んだ理由は? たまたま寝てたからだと?」

そう捉えてもらって構わないよ。
合理的な様刻くんなら断らないんじゃないかって打算もあったけどね。
実際、様刻くんは実に合理的だったとも。

「あなたに下るのが合理的、ですか」

858安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:57:30 ID:SGPIG5m20

ちゃんと説明はしたって。
断る自由だってあったし。
その場合も端末にならなかった、だから僕も何もしなかった、で終わるつもりだったよ。

「なんですか、つもりだった、って不穏な言い方」

誰も断らなかっただけだよ。
事実、様刻くんも断らなかった。
むしろ、即決に近い早さだった。
とがめちゃんのときと同様、僕のことはめちゃくちゃ疑ったけれどね。

「そりゃそうでしょ。得体の知れない存在が『僕と契約しない?』なんて言ってくる夢に頷く方がおかしいですよ。
 ……まあ、そこで頷けるのが合理的ってことなんでしょうけど」

疑念と決定は両立するとも。
それを選択できるのが様刻くんの長所でもある。

「で? 端末になる代わりに安心院さんは何をしてあげたんです?」

おもしろいことに、そっちについては即断しなかった。
どころか保留できないか聞いてきた。
操想術を解くとか、様刻くんの視点では知り得ない情報を教えるとか、スキルを1つ貸すとか。
その辺りを想定してたから少し驚いたよ。

「……そんなことされたら色々めちゃくちゃになるんですけど」

だからやってないって。
確かに、様刻くんの実力は下から数えた方が早い。
けれど、あの時点でその見解を導きだせたのは運が良い。
いや、やっぱり悪いか。
それだけ、時宮時刻や殺人鬼二人との遭遇が効いたんだろうね。

「一般人として括られる立場から見れば彼らは劇薬でしょうからねえ」

へえ、毒薬とは言わないんだ。

「零崎一賊にも時宮病院にも客の立場の人間だっているでしょう。であれば劇薬ですよ」

それもそうか。
ともあれ、不知火ちゃんが形跡を見つけられないくらいには様刻くんは様刻くんらしく過ごしていただろう?

「それで、わざわざ保留までした彼の不平等はなんだったんですか?」

うーん、それを明かすのは野暮な気もするけどなあ。
それを保留し続けること、かな。
今のところは、だけど。

859安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:58:14 ID:SGPIG5m20
   ■   ■



その次は羽川ちゃんか。
といっても、彼女についてはついでみたいなものだったし、話せることは少ないんだけどね。
それに、厳密に言うと今の羽川ちゃんは端末じゃないんだけど。
今っていうのは、ランドセルランドで元気にマシンガンを撃っていた羽川ちゃんのことだね。

「はあ、つまり裏人格のブラック羽川だけが端末になったと」

その通り。
見ていたのなら知っていると思うけれど、球磨川くんはブラック羽川ちゃんにとって天敵みたいな存在だ。
らしくもなくパニックに陥っていただろう?
球磨川くんが迷惑をかけたね、くらいの軽い気持ちで覗いてみたらいきなり頼みこまれたから面食らったよ。
ご主人――羽川ちゃんを助けてくれってね。
そう焦らなくたって球磨川くんが死をなかったことにするだろうから、って諭したんだけど、それじゃダメだと。
ブラック羽川のまま、また球磨川くんに遭ってしまえばまた殺してしまうから、って。
僕としてもそれは不本意だし、球磨川くんは死をなかったことにはできても彼女の存在まではなかったことにできない。
ブラック羽川ちゃん本人は否定してたけれど、実質過負荷よりの存在だしね。

「その状態の彼女に端末になる判断が下せるとは思えないんですけどねえ」

そうだね。
端末にする必要性はないと言えばなかったんだけど。
でも、管理しておくなら端末の方が都合が良いと言えば良かった。
些細な差だし、どっちでもよかったんだけどね。
魔が差したとか、出来心でとか、ほんの軽い気持ちで、みたいなものだよ。
そういうわけで、羽川ちゃんからブラック羽川ちゃんを切り離した。
エナジードレインとかの正当な手順を使ったわけじゃないから、スキルを使って無理矢理に、と少々荒療治にはなったけれど。

「つまり、羽川翼本人のストレスが解消されたわけではない、と。それはまた面倒な」

それはもちろん。
きっかけさえあればまた出てくる、かもしれないぜ?

「ところで、球磨川先輩に却本作りを返した理由も聞かせてくれたりします?」

え、球磨川くんの話?
状況を見てれば予想できることをやっただけだけど。
それに、それは悪平等とは関係ないだろう。
だからここでは話さないよ。
どうしても聞きたいならまたの機会に、というやつだ。

860安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 20:59:32 ID:SGPIG5m20
   ■   ■



そして最後に端末にしたのが玖渚ちゃんだ。

「最後、ですか」

うん、最後だよ。
45人中4人。
他にはいないしここまで状況が進めば新たに作る必要もない。
玖渚ちゃんは中々の曲者だったねえ。
なにせ、彼女だけは僕のことを待ち構えていたんだから。
僕の存在に気付くまでは材料さえあれば誰でもできるだろう。
けれど、そこから僕が接触しに来ると確信できるのはそういない。
なのでちょっぴり癪だったからファーストコンタクトはとがめちゃんにお願いした。

「そんな理由で何やらせてるんですか」

あの辺りの時間は色々ブッキングして少し忙しかった、っていうのもあったんだよ。
人材の有効活用も兼ねていたとでも思ってくれないかな。
弱い者同士、親睦を深めてくれればいいなーくらいの感覚だったんだけれど。
同族嫌悪って言うのかな、中々に凄絶だったねえ。

「そんな言い方されると途端に気になるじゃないですか。
 何を話してたかは把握してるんでしょ、教えてくださいよ」

まあ、その辺の話は本題と外れるからこれも機会があれば、ということにしておこう。

「……………………」

話を戻そうか。
玖渚ちゃんも端末になることは即答……むしろ、自分からなりに来たようなものだったね。
心底嫌そうだったけれど。
それでも端末になる価値はあると理解した上で僕に交渉を持ちかけた。
『私が幸せになれる未来はある?』と。

「そんなことを聞いたんですか。安心院さん相手に」

861安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 21:00:36 ID:SGPIG5m20

僕相手だからこそ聞いてきた。
確かに、この玖渚ちゃんがどんな末路を迎えるか、だったら僕は教えなかった。
教えられなかった。
僕は自身に未来を見ないというルールを敷いている。
ネタバレを知りたくないというルールを強いている。
である以上、他人の未来であってもそれは同様だ。
でも、彼女が欲しがったのは自分の未来じゃない。
別の世界の玖渚友の未来だ。
ほら、宗像くんが持ってきた詳細名簿があっただろう?
あれで玖渚ちゃんは労せずして全員の詳細を手に入れた。
平行世界で一大スペクタクルを繰り広げてきた阿良々木君のことも、ね。
となれば後はわかるだろう?
芋蔓式にキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという存在を知った。
世界の壁に穴を開けられる存在を知った。
フィクションの存在にすぎなかった平行世界が実在すると知ってしまった。
であれば、絶望的ではあっても絶望ではない極小確率の奇跡が叶う世界があるとわかってしまった。
ならば、こんなことに巻き込まれていなかったら、なんてことを想像するのは当然だ。
別の運命であれば、僕の中のルールには抵触しない。
別世界、別ルートならば未来も過去も関係ないからね。
だから僕は教えてあげたとも。


『おめでとう、元気な女の子だよ』


ってね。
どういう形であれ、生き延びられる未来は想定していたようだけれど、子どもを授かることまでは考えていなかったらしい。
本当に? って聞き返すくらいだったからね。
他の端末と違って直接的な利益は一切なかったけれど、玖渚ちゃんにはそれだけで十分だった。

「その二言を聞くのが彼女がもらった不公平だと?」

それ以上求めはしなかったからね。
事実、必要なかったし。
巻き込まれた以上、奇跡的に生還できたとしてもその先はない、と誰に言われるまでもなく理解していた。
生きたいとは思っても生きられないのは重々承知していた玖渚ちゃんにはね。
だからって自分が死ぬことだって心の底からどうでもいい、ということすら思ってもいないのはどうかと思うけどさ。
そんな理由で、玖渚ちゃんは全力を出し惜しみする必要はなくなった。
持てる力を総動員してただやりたいことだけをやった。

「道理で、あの辺りからやたらアグレッシブになったわけですか」

条件が揃ったからというのもあるだろうけどね。
端末にしてなくたって結局同じことをしてたと思うよ?
首輪の解析、魔法の知識の入手、ついでに所有物を壊された仕返し。
反撃を見越しての陣営の分散と精一杯の抵抗。
それとささやかな置き土産。
言ってしまえば、ちょっぴりわがままをしつつも好きな人のためにただひたすらに尽くした。
ただの恋する少女のように、ね。

862安心院なじみの専断偏頗リクルート ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 21:01:41 ID:SGPIG5m20
   ■   ■



死人、スタンダード、裏人格、天才。
というわけで結果としてみれば三者三様ならぬ四者四様の端末だったわけだけど、どうだったかい?

「ほぼ安心院さんの匙加減じゃないですか。それっぽい共通点を探してたのが馬鹿らしいですよ」

共通点、そういえばそんなものもあったか。
結果的にそう見えただけで、実情としてはタイミングよく寝てたり気絶した人たちに声をかけてたってだけの話だったんだけど。
要するに誰でもよかった、というやつだ。

「そんな通り魔みたいな理由で端末を作られたらたまりませんよ。そもそもなんでこんな真似してるんですか」

目的なら最初の方にちゃんと言ったじゃないか。
この実験を壊すって。

「いやいや、こんな面倒な手段をとらなくとも安心院さんならできるでしょう」

できるよ。
僕がラスボス系スキルの大盤振る舞いでもして直接手を下すなんて朝飯前さ。
でも、それはただの失敗で致命的な失敗にはならない。
だからこんな回りくどい手段を使ったわけだけれど。
あれほどの生徒数をほこる箱庭学園にすら悪平等は赤青黄と啝ノ浦さなぎの2人しかいなかった。
それなのにここには45人中4人。
観測者効果が発揮されるには十分だ。

「だからって、あたしたちが手をこまねいていると思います?
 そもそも安心院さんご自身も回りくどいとおっしゃるやり方で成功するとでも?」

成功する根拠があるわけじゃないよ。
でも、失敗しても次があるのは僕も不知火ちゃんたちも一緒だろう?
僕としては、こんな馬鹿なことはやめろ、だなんてありきたりなセリフ使いたくはないんだけどさ。
それで、実際のところどうなんだい不知火ちゃん。

「いきなりそう言われましてもなんのことだか」

なんだよ、今更しらばっくれるなよ。
君たちだって、解いてもらうためのヒントを散りばめてるじゃないか。
彼らももうじき辿り着く頃合いだぜ?
そろそろ出題者としての義務は果たさなきゃならないんじゃないかな?

863 ◆ARe2lZhvho:2021/12/31(金) 21:08:30 ID:SGPIG5m20
投下終了です
放送の投下直前になってしまい申し訳ありません
避難所でも書きましたがこちらでも機会をくださった◆mtws1YvfHQ氏には改めて感謝を申し上げます
指摘感想など何かありましたらよろしくお願いします

864 ◆mtws1YvfHQ:2021/12/31(金) 23:21:43 ID:8FLP4Wgo0
皆さま投下お疲れ様です。
あまり時間がないのでざっくりと。

>> Q&A
まとめての感想となりますが。
産まれ出ずる様々な疑問、憶測、様々な情念の渦巻く中で自問自答、情報の擦り合わせや溢れてくる疑問疑念。
いよいよ終わりが見えて来たからこそ生じているとも言える余裕。
心情を探る会話。
一体どのような結末を迎えられるのかが愉しみになってきております。

>> 安心院なじみの専断偏頗リクルート
ある種の中心人物と成り得る安心院なじみ。
その観ている視座と言うか観点は外すことのできない事ではあります。
しかし視点を参加者側から異とする二人の対面からその結末は、遂げるか壊れるか。
もう殆んど一本道となって参りました。


それはさておきとしまして。
第五回放送の投下を開始します。

865第五回放送 ◆mtws1YvfHQ:2021/12/31(金) 23:24:49 ID:8FLP4Wgo0
薄暗い場所。
いかにもなマイクだけが置かれたテーブルを前に、老人は座っていた。
前方をモニターに囲まれ、それのみを光源とした光を浴びる老人。
実験名『バトルロワイヤル』。
その元凶とも言えるその老人。
箱庭学園理事長、不知火袴は静かに座っていた。
テーブルに置かれた物は僅か。
名簿と、マイク。
当初はもう少し乱雑だったその机は、終わりを間近に備え、参加者の数に比例するように綺麗な物となっていた。
そんな中、ぽつりと置かれている電源の切り替えが出来るようになっているマイクに時々目を移しながら座っていた。

「――――さて、もう間もなくですか」

不意に袴が呟き、腕の時計を見た。
時刻は五時五十六分。
六時間ごとの放送の準備は既に万全。
そんな事を袴は考えながらマイクを手元に引き寄せかけ、止めた。
そう言えばあの時もこんな風だった。
苦笑を漏らし、何ともなしに背後へと顔を向ける。
丁度良く、袴の後ろの扉が開き、老人が入って来るところ。
あの時のように。
ただ今回は目を血走らせているその老人は、開け放ったまま何の遠慮もなく袴の隣にある椅子の一つに座った。
袴が顔を向けても何も言わず、マイクを己の元へと引き寄せた。

「――死亡者は分かっていますか、博士?」
「黙れ」

軽く苦笑いしながら袴は時計に目を向ける。
五十九分。
こんな所まであの時と同じ。
確認してからモニターを一通り見渡す。
いや。
最早、見る意味のあるモニターなど片手で数えるほどもない。
忍び笑いを漏らしている間にも、タイマーの小さな電子音が鳴る。
六時零分。

866第五回放送 ◆mtws1YvfHQ:2021/12/31(金) 23:26:11 ID:8FLP4Wgo0
「どうぞ」

あの時のように袴が言えば老人は、苛立ちを隠そうともせずマイクの電源を入れた。



放送を始める。
聞き逃すな。
死者の名は。

玖渚友。
零崎人識。
無桐伊織。
水倉りすか。
鑢七花。
真庭蝙蝠。

以上の六人だ。
続いて禁止エリアの発表に移る。

一時間後の七時より、F-6。
三時間後の九時より、G-2。
五時間後の十一時より、C-5。

連絡事項は以上だ。

ふん。
しかし――――玖渚友。
玖渚友。
玖渚友。
玖渚友!
玖渚、友ッ!
玖渚ァ、友ォ!

貴様!
貴様も!
貴様であっても!
こうもアッサリと死ぬか!
今回、死ぬとは思っていたが!
こうも、アッサリと死ぬとはなぁ?
はっ!
ハハハ!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

867第五回放送 ◆mtws1YvfHQ:2021/12/31(金) 23:28:18 ID:8FLP4Wgo0
さあ、殺せ!
殺せ殺せ殺せ!
飽くなく殺せ!
容赦なく殺せ!
意味なく殺せ!
甲斐なく殺せ!
勝ちなく殺せ!
誰も彼も殺せ!
殺せ殺せ殺せ!
殺して殺して殺して殺せ!
殺して殺して殺して殺して殺して殺せ!
ただただ無為に消費するがいい!
私は待っているぞ!
貴様を待っているぞ!

アッハハハハアッハハハハハッハハハハハハハハクハハアハハハハ!



小さく息を吐きながら、何時の間にか入り込んでいた少女がマイクの電源を切る。
しかし老人はそれに気付く様子はない。
高笑いをなおも続け。
そして、既に部屋を出て行く所。
最早モニターの映像に目もくれない。
ただ、考える。
結末までの道筋は粗方、形になっている。
それでも女学生はため息を付く。
既に彼女の予想の中でも限りなく低かった出来事が幾つか起きていた。
起きると考えられていなかったことも幾つかあった。
不確定要素が重なっている。
想定している事態を超えて、此処から逆転の可能性も、ゼロではない。
もっとも。
ゼロではないだけで。

「――――――さて」

闇の中。
様々な姿が、動き始めたモニターの光を受けながら蠢く。
緩やかに微笑む白髭の老人、涼しげな表情をしたセーラー服の女学生、憮然としながらも威圧を放つ青年、真っ黒な笠で目元を隠す和装の男、笑みを絶やした眼鏡のスキンヘッド、悩まし気にか苛立たし気にか棒付き飴を噛み砕く少女。
そして光の届かぬ場所に居る何者か。

868第五回放送 ◆mtws1YvfHQ:2021/12/31(金) 23:30:29 ID:8FLP4Wgo0
「事ここに至ってはサーカスの裏方にも、表舞台に出て頂く必要がありそうですが――」

釘を刺すように、そんな中に声を掛け。
反応を見ることもなくモニターに向き直った老人が、口を開く。



「――皆さん」

「良くも悪くも、今回の催し」

「あと僅かと言った所でしょう」

「皆さんに何か指示を出すつもりはありません」

「ただ、用意をお願いします」

「祝辞か迎撃か」

「そのどちらにされるかは皆さんにお任せします」

「あるいは、最後の一人に成り代わると言うのも否定はしません」

「ただ覚悟は済ませておくように」

「巻き込んでおいて等と言う文句は受け付けません」

「今更、改心――改新できると思っている方も居ないでしょう?」

「私に関しては言うまでもありません」

「結末が死であったとしても」

「少なくともこの私は、私の教育理念を貫くまで」

「――実験名『バトルロワイヤル』」

「今回もいよいよもって――――」



――――おしまいおしまい



「さあ最期まで、張り切って生きましょう――ッ!」

869 ◆mtws1YvfHQ:2021/12/31(金) 23:34:41 ID:8FLP4Wgo0



以上となります。
ご指摘のあった部分に関しては修正させて頂きました。
名前の読み上げ順のことはすっかり忘れていました。

今年の後半から追い上げのような形でしたが、皆さまお疲れ様でした。
また来年にか。
今後もよろしくお願い出来ればと思います。
それでは良いお年を。

870 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:51:50 ID:Scku84iU0
大変遅くなりましたが、
放送お疲れさまでした。おめでとうございます。

>安心院なじみの専断偏頗リクルート
うーん、無法! 安心院さん好き勝手やってやがる。
参加者とも、あるいは主催者とも違う視点で舞台裏を語る一幕は
果たして解決編へと結ばれるのでしょうか。それにしても……なんだこいつ!?
こういう本筋からはちょっと離れた舞台裏はなんだか漫画の巻末コーナーみたいでワクワクします。

>『おめでとう、元気な女の子だよ』
誇らしき盾をよろしくお願いします! これ、マジで言ってるんだけど。

>第五回放送
さてさて、いよいよ第5回放送。
多少なりとも企画に参加させていただいた身としても感慨深いものがあります。
第一回放送のオマージュ。それでいてあの時とはすでに決定的に何かが違った様相で。
積み重なった何かの重みを感じます。
壊れていくのかどちらになるのか、違う道が残されているのか。個人的にも楽しみです。

>――――おしまいおしまい
ここ、めちゃ好きです


投下します。

871 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:55:32 ID:Scku84iU0


 ◆  クビトリサイクル


「因果より外れた《狐》は世界のありように二つの仮説を当てはめた」

 不意に現れた人影は、牢をはさんだ向こう側で話し始める。
かげに隠れて目元はうかがえないが、いかにも高慢な人間だった。
世界が自分中心で回っていることに疑いをもたない、図抜けた信条がただの一言で伝わるようだ。
ねじが外れている。
関わりあうべきではない。
本能は切実に訴えかけるものの、現実は非情である。
囚われの身である現状、如何ともしがたい。

「その二つを《時間収斂(バックノズル)》と《代替可能理論(ジェイルオルタナティブ)》――そう呼んでいるわけだが」

 彼奴は言葉を区切り、睨め付ける。
観察するように、鑑賞するように。
《予備》と呼ばれた人間に対して、語りかける。

「あえて訊ねよう。運命というものを信じるか?」


 ◆Ⅰ  一日目(n)
 

「《天才(アブノーマル)》とは、為るように為る才覚」
「《異常(アブノーマル)》とは、為るべきように成る才能」
「極端な進化にして」
「最短の進化である」

 まだ《実験》が始まって間もない頃。
二人の老爺がモニターを前にして語り合う。
《理事長》不知火袴と、《学者》斜道卿壱郎、ともに窮極を創らんとす学問の徒である。

「進化の極端――ごく一分に限りなく特出する才」
「最短の進化――ごく一瞬で限りなく特化していく才」
「短時間で」
「最小の努力で」
「当然のように」
「自然なように」
「相手を超越する」
「常識を超克する」

 たとえば、高千穂仕種の《反射神経》、人体動作の到達点。
たとえば、宗像形の《殺人衝動》、人類愛の深奥。
たとえば、都城王土の《人心掌握》、人間社会の最高位。
いずれも原理、成している事象自体は相似している。

 人間がいずれ辿るべき、到達するであろう神域に足早と闖入すること。
若き身のまま不可能であることを不可能であるまま達成してしまう。
過程の《省略》。進化の《省略》。
ここに《異常》の《異常》たる所以がある。
 時計台を守護する関門、《拒絶の扉》――あれこそまさに、《異常》を象徴する。
無作為な六桁の数字を打ち込むことで突破することができる関門。
試行回数をどれだけ短縮、すなわち《省略》が出来るかが試される。
《普通(ノーマル)》と《異常》のふるいわけにこれほど適した試練はない。

「しかるに、黒神めだかの《完成(ジ・エンド)》こそ」
「《異常》の根底(ベーシック)にして」
「《異常》の最果て(ハイエンド)」
「そのように考えて差支えないでしょう」

 《完成》。
箱庭学園99代生徒会長、黒神めだかが誇る異常性。
数ある《異常》の中でも稀代の才にして罪。
正も負も無関係に、己が血肉にしていく様は驚嘆するに値する。

「あれに不可能などあるのか?」
「さて、黒神めだかさんが無理だと思わない限り、あの方は成し遂げてしまうでしょう」
「俺の何十年にも渡る研究でさえもか」
「――ええ、実行するかはさておき、可否でいうなら出来ましょうとも」
「それもただ究めるだけでなく」
「極めてしまいましょう」

 《完成》の神髄は無限なる可能性にある。
人間であれば到達できると認知さえしてしまえば、黒神めだかは成し遂げてしまう。
自分――というよりも人間そのものの可能性を信じていなければ到底無理な所業。

「――」

 ぎり、と卿壱郎は奥歯を噛みしめる。
《青色サヴァン》といい、どうにも天才というのは胸糞悪い――気味が悪い。
それでも、黒神めだかが自分よりも勝る《天才》と認められるのは、彼の成長のためか、あるいは。
 卿壱郎の不快を感じ取ったか、袴は茶をすすとあおった後に改める。

「ともあれ、今は見守るほかにありますまい」
「はっ、そうだな。じっくり」

 《天才》に固執する二人の学者が取り仕切る祭典。
実験名――バトル・ロワイアル。採点するところが何であるか。
参加者一同には知る由もない話であり――どうでもよい与太話である。

872 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:57:26 ID:Scku84iU0
 ◆Ⅱ  首獲再繰


「不知火理事長が未だ《実験》を続けるということは、大願成就する見込みがあるということです」

 《策師》は涼やかな顔で言う。
死体を前にするに所作としては場違いなほど冷徹であった。

「望みがないと踏めば、即座に次へ乗り換える性質でしょう、あれは」

 《策師》の観察の通り、不知火袴はそういった性分の人間である。
過去にも黒神めだかの勧誘が破綻を迎えた直後、最悪の《過負荷》を巻き込む計画に切り替えてきた。
結果のためならば経路を問わない目的至上主義。
そんな彼が今なお《実験》を続行させるということは、それだけの価値があるということだ。

「骨子である《完全なる人間》――本来の定義もその実、明かされていますよね」
「都城王土の告解か」
「いわく、誰も悩むこともなく、誰も困ることもない平等で平和な世界を作るための架け橋たりうる人間」
「それが不知火袴の願う《完全》だと」
「少なくとも以前の――黒神舵樹の影武者たる不知火理事長はそうお考えだったのでしょう」
「そんな世界、俺はついぞ《視た》ことがないがな」

 《鍛冶師》は冷たく言葉を返す。
あしらうというよりは、そも関心がないといった様相だ。
ぶっきらぼうな物言いに気をかけることもなく、《策師》はフェミニンな雰囲気で相好を崩し、

「ふふっ、おかしなことをおっしゃいます。
 不可能を可能に代えることこそ――《フラスコ計画》の要だったのでしょう。お分かりの通りですよ」
「はんっ、そりゃあ然り。いずれいずこで可能なことであれば、俺が再現できるからな」

 起こると決まっている事象は、必ず起きる。
いつであるか、どこであるか、だれであるか。些細な違いはあれど、逃れる術はない。
《人類最悪》の持論のひとつ、《時間収斂(バックノズル)》。
《鍛冶師》が誇る十二の傑作、完成形変体刀のノウハウとは突き詰めればこの思考実験の延長線上にある。
何よりも固きモノを創造することがいずれ出来る。ゆえに絶刀・《鉋》は鍛えられた。
何よりも鋭きモノを創造することがいずれ出来る。ゆえに斬刀・《鈍》は鍛えられた。
遥か未来を、果ては《世界》を見通す《刀鍛冶の眼》は、あらゆるパラダイムシフトを可能とする。
ひるがえるに、《刀鍛冶》が不可能だと断ずる事象は、未来永劫に実現叶うはずがない――本来であれば。

873 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:58:00 ID:Scku84iU0

「不知火袴の目指す世界にはとんと興味はわかねえが、
 摂理を超克することを《完全》と称するならば、俺はそれに興味がある」

 愉快そうにほくそ笑む。
運命の省略を《完成》と呼び、宿命の修了を《完了》と呼び――天命の超克を《完全》と呼ぶ。
世界という荒波を前にしてあまりにも傲岸不遜だ。
――いや、その傲慢さは《鍛冶師》に限った話ではないか。
小さく吐息をすれば、気持ちを切り替えて。

「ときに」
「なんだよ」
「あなた、今回のこの《実験》の結末も視たのでしょう」
「むろん」

 確認するための問い。
当然のことを当然のことと再認識するだけの答え。
《策師》は一度、自分の首元をなぞる。
つぅーっと、左から右へ。
繋がっている。
生きていた。
ならば。
問う。

「教えていただいても?」
「明白なことを言わせるな。理事長のやつも口酸っぱく言っているだろう」
「まあ念のため、ですよ」

 たった一人が生き残るまで、《実験》は続く。
この舞台に課された運命。
この物語に付された宿命。
何度も繰り返された呪詛である。
それは規則でもあり、脅迫でもあり、なによりも純然たる事実だ。
《予知》などと大層なものを使うまでもない。
何事もなければ、何事があったとしても、いずれ訪れる未来。
 またたきをするほどの間。思考を一巡させてから、

「――うんっ!」

 少女は爽やかに、笑った。
場に似つかわしくないほどの明るい声音は、涼やかな鈴のようだった。
呆れた顔をする《鍛冶師》をはた目に、慣れた手つきで携帯電話を取り出す。

「じゃあ、私も成すべきことをいたしましょうか」
「熱心だな」
「私の使命ですからね」
「好きにしな。俺も好きにする」
「あら、どちらへ」
「野暮用だよ」
「まったく、しようがない方ね。使えないったらない」
「年配を無碍にするもんじゃないな」
「亡霊を敬う教育は受けておりません」
「似たようなものだろうに」

 適当なことを言いながら、《鍛冶師》は退室する。
仰々しい男だ。その背中を見送った後、すぅーと大きく息を吸い、一度目を伏せる。
先を見据え、後を見通し、偽を見抜き、真を見下す。
彼女の頭で描く盤上は、《予知》にも劣らない精度を誇る。
――否、《策師》は時に、未来を築き上げる。

「よしっ」

 《実験》というには奇抜なこの催し。
不知火袴も言っていたように、まもなく幕は閉じるだろう。
それは果たして、誰の手によってか。

「そう、私の名前は――」

874檻と澱 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:58:41 ID:Scku84iU0

 ◆Ⅲ  するがイエロー


 【シミュレート1】
 ◆もしも殺し合いの場にいたらどうする?◆
 
「あのぼいんちゃんの前では啖呵をきったものの、本当のことを言えば自制できると断言できるはずもない。
 敬愛してやまない先輩方のことを思えば、――否、思ってしまう私の我儘は、躊躇もなく薄汚れたこの手を汚すだろう」
「それについては私も同感ね。一切の容赦もなく切り捨てるわ」

 ◇

 【シミュレート2】
 ◆もしも自分が願いを叶えるとしたら?◆

「悪魔の所業ならぬ神の御業だとして、私が何かを願えるような立場にはないからな。
 仮に神に寝返るとするならば、どうでもいい99個の願いでも叶えてもらうとするよ」
「そう、あなた謙虚なのね。私は穏やかに過ごしてみたいわ。どうしても、叶えてみたかった」

 ◇

 【シミュレート3】
 ◆もしも人生をやり直すことになったら?◆

「それでもきっと」
「私は同じ人生を歩んでしまうと思う」
 
 ◇

 【リプレイ1】

 神原駿河は自省する人間であれ、自制する人間ではなかった。
猿に願い、阿良々木暦を襲って以来、己の性分に対して向き合う機会もそれなりにあった。
畢竟、もとをただせば猿に願ってしまう性分がために起こった事件といっても差し支えはないだろう。
 猿の手。雨降りの悪魔。レイニー・デヴィル。
三つの願いを己と引き換えに叶える、忘れ形見。
一度は、幼きプライドを。
二度は、拙きプロミスを。
そして今。
三度目。
神原駿河は神か悪魔か、あるいは己に誓い、願いの果てに血を吐いた。

「…………せん、ぱ、いっ」

 殺し合いの場において。
救いのないこの場所で、彼女自身が救いにならんと、彼女自身が役に徹した。
心を投げ捨て悪になり、身を差し出し悪魔になった。
誰を助けたかったのか、意識がもうろうとする中ではもはや思い出すこともない。
 そうして願いに殉じた彼女はひとり、静かに息を引き取った。

 ◇

 【リプレイ2】

 新たに『師』と仰ぐ人間に巡り合えた。
記憶に封をし、信号は青になる。
紫木一姫はまっさらな人生を歩き始めた。

 ――ひゅん、ひゅん、ひゅん

 それでも。
彼女は紫木一姫であった。
カーニバルが始まれば野性に目覚めるように。
戦場に立てば、『危険信号(シグナルイエロー)』は煌々と回る。

「あなたの意図は、ここで切れます」


 【観測結果】

 神原駿河――予備候補
 紫木一姫――予備候補

875檻と澱 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:59:15 ID:Scku84iU0

 
 ◆Ⅳ  人生はゲームなんです。 >>>>> リセットしてください
 
 
 
「刻限だ」

 放送明け。ランドセルランドの一角。
櫃内様刻の前に現れた男は、前置きもなく言い放った。
自己紹介すらしない不遜な態度である。
とはいえ不服でもない。実際のところ、男の正体には見当がついている。
勇猛な獅子のたてがみがごとき金髪、有象無象を見下ろす眼光。
威風堂々、傍若無人、さながら《王者》のたたずまい、玖渚友から伝え聞いていた通りの威容はまさに。

「おまえが都城王土か」
「ことここに至って普通なる俺を探る必要はあるまいよ」

 櫃内としても同感だ。
変幻自在のオルタナティブ、真庭蝙蝠が死んだ今、彼を偽物だと疑う余地はない。必要もない。
彼が主催一派のポーンであることもすでに明かされている。
たとえ参加者のひとりであったとしても、関係がない。
 話は簡単だ。櫃内は炎刀《銃》の片割れを構え、都城の心臓を狙い、引き金を引く――、

「そう逸るな」

 ちいさく、いさめるように都城は零す。
忠告を聞く道理もないが、気持ちとは裏腹に櫃内の指は痺れたように固まる。
動かしたいのに、動かない。くだんの《言葉の重み》か。
 《銃》を構えたままに制止する櫃内の様子を認めれば、都城は本題とばかりに話を戻す。

「死にたいのならばあとにしろ。慈悲もなく殺してやる。だが――ひとまず貴様にも聞かねばなるまい」
「…………」
「行橋未造なる人間を見なかったか」
「…………」
「そうか、まあいい。期待はしてなかったよ」

 櫃内の揺らぎもしない瞳の奥が、何よりも雄弁に物語る。
供犠創貴も、真庭蝙蝠も、零崎人識も、戦場ヶ原ひたぎも、同じ瞳をしていた。
ほんの一瞬の瞑想。つとめて心を平静に。
実験が始まり約一日。
たかが一日か、されど一日か。

「この俺が傀儡とは、皮肉というべきか、因果応報、自業自得というべきか」
「懺悔なら保健室にでも行ってくれ」
「すべてが終わればそれもいいだろうが――もっとも、それを望んでいるのは貴様の方だろう」

 視線の交錯。
櫃内の瞳には敵意も不信もあるが、熱意がない。
生きているから生きている、ただそれだけのがらんどう。
誰の声も届かない非通知のむくろ。
呪い名《時宮病院》、操想術に狂わされた末路と思えばよくこの程度に堪えたと称するべきか。
洗脳の類のおぞましさは、他ならぬ都城にはよく理解できる。
で、あればこそ――、

「櫃内様刻。平凡なる《平和主義》。流るるままの青春を謳歌していた者よ。
 世界は不気味か。未来は素朴か。現実は囲われているか。
 失望しろ――俺たちは劇的に生きるしかない」

 都城は、櫃内に向けて発信する。

「貴様に仕事を選ばせてやろう」

876檻と澱 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:59:57 ID:Scku84iU0
 ◆Ⅴ


「他人の願いを叶える余裕があるならば――自分の願いを叶えてみてはいかがですか」

 臨時講師として学校法人私立千載女学園に派遣されていた病院坂迷路がそんな話をしたのは、さていつのことであったか。
人並みに利己的で、月並みに社会的で、軒並み普遍的な感性を抱いていた彼女――もとい彼らしい至極まっとうな指摘だ。
不可能であるという点に目を瞑れば、ぐうの音もでない正論だった。
 不知火袴は寂々たる部屋の一角で追想する。
すでに息を引き取った骸の言葉ではあるものの、あるいはだからこそか、一定の重みがある。
いくら暖簾に腕押しといったところで、彼がそういう異議を唱えたという事実に変わりはない。

「……ほほ」

 傍系の病院坂。
役割も違えば、性別も違う。
おおよそ無価値な代替品。
無意味な任に就いていたとして、彼は間違いなくバックアップでしかないはずなのに、《自分の願い》とは大それたことを言う。
同じ影武者の出自として可笑しくもあり、微笑ましくもある。
 それでもしかし、繰り返すようだが至極まっとうな指摘であるとも、不知火袴は感じていた。
自分の願い。
不知火袴の願い。
影武者ではない、自分自身の願い。
――それは間違いなく、胸の内に秘めている。

「――懐かしい」
 
 願いの原点。克己の核心。
まだ幼い時分、箱庭学園の生徒として通っていたあの頃。
亡くなった生徒がいた。
級友だった。
いまだ鮮明に想起できるような、もはや色褪せてしまったまやかしのような、記憶のかけら。
仮に人生をロードマップ化したならば、契機や転換点と呼べるものはそこであろう。
 あの時。
自分は何を願ったか。
フラスコ計画を立ち上げ、《十三組の十三人》を集結させ、《-十三組》を終結させるまで至らせた願い。
ひいてはこの《バトルロワイアル》を開幕させるほどの――。

「あひゃひゃ、おじいちゃん、急にどうしたのさ」

 物思いに耽る老爺の姿を見かねたのか。幼い声が降りかかる。
後方のソファに鎮座するのは孫娘、不知火半袖。
手持ち無沙汰を誤魔化すようにふらふらと足をぶらつかせる様子はさながら無垢な少女のようだ。
祖父の家に帰省した小学生の図――ともすれば、そんな風にも映るだろう。
しかし当然、これは平和な一コマなどではない。
主催者の居城で交わされる密会だ。

「いえ、いよいよ大詰めといった具合だと、そう思っただけですよ」

 すすす、と。
湯呑みをゆっくりと傾けながら、言葉を落とす。
参加者たちに殺し合いを通達した主催者。
好々爺然としたゆるりとした所作に似合わないほど、
モニターをしかと睨め付ける視線はひどく鋭い。

「影なる我々の手引としては、上々な仕上がりと言えましょう」

 不知火の里――影武者の一族。不知火袴。
天才に踏みにじられるための影(ふみだい)。斜道卿壱郎。
無私を貫き誰がための機能と生きる、日陰の策師。萩原子荻。
表舞台に立ちながら舞台装置に徹する日向の鍛冶師。四季崎記紀。
フラスコチャイルド、次善の王。都城王土。
所詮は何かの《代替品》に過ぎなかった我々にしては――上等だ。
 半袖はわらう。いつもの調子で、気軽に。
世間話でもするような朗らかさで、それよりも、と。

「飽きないね、きみも」

 誰でもない声で、誰かがそんな風に言った。

877檻と澱 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/28(水) 00:00:41 ID:R64NV3OE0
投下終了です。
指摘感想等あればよろしくお願いいたします。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板