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少女漫画キャラバトルロワイアル 第二巻

75束の間の休息 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/16(木) 23:57:37 ID:sqxrrFNA0



「はあっ……はあっ……はあっ……」

 途切れ途切れの上がりきった息と、水が静かに流れる音。
 体力の限界を迎え、あたりに構わず倒れ伏した光を、ハルヒは心配そうに見つめている。
 そんなハルヒに対し、光はにっと笑顔を作る。

「……ありがとう」
「気に、すんなよ」

 途切れ途切れの息では、会話も難しいか。
 こんな他愛もない会話をこなすのが難しいくらいには、疲れているということか。
 それでも、光は会話ができることが嬉しかった。

「おい、泣く奴が、あるかよ」

 ふと、ハルヒの顔を見て気がつく。
 そう、彼女は自分の顔を見つめたまま、ぼろぼろと大粒の涙を流していたのだ。

「だって、だってッ……」

 拭っても拭っても、涙が止まらない理由、それは。

「怖かった、怖かったんだよ!!」

 恐怖。
 殺し合いという異常な事態の中で、少し弱っていた精神には、火事という現象はいつもよりも怖く見えた。
 それは、少女の心を少し壊すには、十分すぎる恐怖だった。

「……俺だって、怖かっ……たさ」

 その言葉を受けて、光は思い出してしまう。
 火事から逃げ出していた先ほどまでの光景、ではなく。
 この殺し合いが始まってから、初めに出会った人間の事。
 錯乱しながら、自分に刺さったナイフを引き抜いて襲ってきた時の、顔。
 あれほど恐ろしいものを、光は今まで知らなかった。
 これから先、またあんな顔の人間に出会ってしまうのだろうか。
 その時、自分は正気を保っていられるのだろうか。
 そんな事を、考えてしまう。
 だから今は、彼女の顔をしっかりと見ておこうと思った。
 今だけだったとしても、この安心感を胸から離したくはなかったから。
 光は、ハルヒの顔を見て、もう一度笑った。

【C-6/橋の近く/昼】
【常陸院光@桜蘭高校ホスト部】
[状態]:少し安心、制服は返り血塗れ、疲労(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考]
基本:とにかく馨に会いたい
1:休息

【藤岡ハルヒ@桜蘭高校ホスト部】
[状態]:疲労(中)
[装備]:防火服
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本:とにかく、人殺しはしない。
1:休息
2:他のホスト部員との合流。
3:森田はひとまず保留

76 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/16(木) 23:58:14 ID:sqxrrFNA0
投下終了

77錯綜する、心 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 01:59:57 ID:5PiEMPPc0
 雨は降っていないのに、ざあざあとノイズが響く。
 時が凍りついたかのように、何も動かない。
 一つの死体を挟んで向かい合う、二人を除いて。

「何やってんねんって、聞いてんねん」

 今の状況を理解するのは簡単だが、理解したくないという感情が勝っている。
 当たり前だ、知っている人間が"殺人"に手を染めているなど、認めたいわけがない。
 だから、風花は両手を赤に染めている直澄に問いかける。
 再び沈黙が続き、空気が次第に重くなっていく。
 少しの間を置いて、直澄はゆっくりと口を開く。

「……突然この人が現れて、それで、死んだ」
「そんなん、信じろって言うんか」

 直澄がようやく振り絞った言葉を、風花は即座に切り捨てる。
 この殺しあい自体が、信じられないような現象であるのは確かだ。
 しかし、だからといってそんなマジックのような話を、おいそれと信じられる訳も無かった。

「そうとしか、僕からは言えないよ」

 だが、直澄からすれば、それが事実なのだ。
 まるでアニメや漫画のような話だと、自分でも思う。
 けれどそれが現実なのだから、そう語るしか無いのだ。

「せやったら、証明してや」
「え……?」

 半ば諦めていた直澄に突き刺さる、風花の言葉。
 どういうことだ、といった表情を浮かべる直澄に、風花は表情を変えずにそのまま続ける。

「あんたが人を殺してへん、殺すつもりもあれへんって事を証明して。
 うちの所に、あんたの袋を投げてよこすくらい、出来るやろ」

 風花の要求は、シンプルだ。
 武器や道具の入った袋を投げて渡す、たったそれだけのこと。
 本当に人殺しではないというのならば、それが出来るはずだと、風花は思っていた。

「……できないよ」

 だが、少しの間を置いて帰ってきたのは、否定の言葉だった。
 眉をひそめ、風花は直澄の顔を睨みつける。

「なんでや」
「だって、ここは殺し合いをする場所だ」

 風花の問いに、直澄は即答する。

「僕だって、死にたくはない……」

 そして、目をそらす。
 そう、ここは人と人が殺し合う、地獄のような場所だ。
 そんな場所で武器を失うということは、どういうことか。
 万が一、誰かに襲われた時に、抵抗する手段が無くなるということだ。
 誰だって、死にたくはない。だから、道具を手放すことが出来なかった。

78錯綜する、心 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 02:00:10 ID:5PiEMPPc0

「はっ、そういう事かいな」

 だがその答えは、この場においては最悪の事態を招く。
 風花からしてみれば、武器を手放すつもりがないということは、人殺しであると認めたことにも等しい。
 だから、風花は蔑むような目で、直澄を見つめる。
 お前は人殺しだ、自分とは違う、と言い聞かせるように。

「ち、違う! 本当に僕じゃない!!」
「近寄んな人殺し!!」

 弁明しようと声を上げる直澄に、風花はついに刀を向ける。
 風花にとっては、今の直澄は人殺しとしてしか映らなくなっていた。
 もし、普段の彼女であれば、もう少しまともな判断が出来たかもしれない。
 だが、直澄は知らない、知る由もない。
 間接的にとは言え、彼女が既に一人の人間を殺していることを。
 その事実が、彼女の精神を摩耗させきっていたことを。

「うちはアンタとは違う! 人殺しなんてまっぴら御免や!!」
「分かってる、僕も同感だ」

 自分は人殺しだと認めたくない、だから人殺しに近寄られたくない。
 認めたくない、認めたくないから、近寄られたくない。
 だから、風花は拒絶するように、刀を振るう。

「来んな!! 来んなって言ってんねん!!」

 型もへったくれもなく、ぶん、ぶんと大振りに振るう。
 女子のそれとはいえ、鋭利な刃物が振るわれているのは怖い。
 だから近寄れず、少し遠くから風花の様子を見ていた。

 もしこの時、直澄が体を張って止めていれば。
 もし少し前、直澄が袋を投げ飛ばしていれば。
 もし初めに、風花が人を殺していなければ。

 そして今、風花は闇雲に刀を振るっている。
 初めて見た死体から、全速力で逃げ出したが故に彼女の体力は落ちている。
 擦り切れた精神では、それを判断できるほどの思考能力は残されている訳もなく。

 もしと、今。
 細かな全てが、積み重なり。
 それは、招かれた。

79錯綜する、心 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 02:00:23 ID:5PiEMPPc0

「え」

 するり、と風花の手から滑って抜けた刀が。

 直澄の胸に、深々と突き刺さっていた。

「あ――――」

 はっきりと映ったその光景は、風花の意志を崩壊させるには十分で。

 声にならない声を絞り出しながら、風花はその場から逃げ出した。

「あ、っちゃ…………」

 ごふり、と血を吐き出しながら、直澄はその場に倒れこむ。
 投げ飛ばされた勢いも相まって、刀は思っていたよりも深く突き刺さっている。
 手当すれば間に合うかもしれないが、そんな人間なんてどこにも居ない。
 そんなことを考えているうちにも、血は流れていくし、感覚はどんどんと失われていく。
 少しずつ、体の自由が奪われていく感覚が、はっきりと分かる。
 演技でもなく、欺瞞でもなく、本当の"死"という感覚。

「……怖い、な……」

 初めて味わうそれを、しっかりと噛み締めながら。
 直澄は、ゆっくりと目を閉じた。

【加村直澄@こどものおもちゃ 死亡】
【残り32人】

※白虎の刀@BASARAが胸部に突き刺さったままです。
※支給品袋は遺体傍に放置されています

【G-2/南西部/昼】
【松井風花@こどものおもちゃ】
[状態]:吐き気、震え、殺人に対する恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、黒板セット@現実
[思考]
基本:――――――

80錯綜する、心 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 02:00:33 ID:5PiEMPPc0
投下終了です

81第一回放送 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 02:29:08 ID:5PiEMPPc0
「儀式に招かれし贄達よ、定刻だ。
 死者と禁止エリアを告げる、一度しか言わぬ故に聞き逃すことのないようにな。
 まず、禁止エリアを告げる。

 14:00 B-3、D-7
 16:00 C-1、E-2
 18:00 F-1、G-2

 以上、六ヶ所だ。
 次に、この六時間の間に捧げられた、贄達の名を告げよう。

 草摩依鈴
 竹本祐太
 小椋迅八
 草摩夾
 日向棗
 笠間春彦
 山田あゆみ
 加村直澄

 以上、八名だ。
 ふむ……首尾は順調のようだな。
 だが、用意された椅子は一つ、夢々忘れることのないようにな」



「慊人様。時間ですので、報告に参りました」

 放送を終え、心宿は個室で休んでいる慊人に同じ内容を報告する。
 禁止エリアには興味を示していなかったが、死者の名前を読み上げている時、慊人は笑っていた。
 八人、全体の五分の一。六時間の間に上がった成果にしては、上々だろう。

「これなら紫呉様も――――」

 そして、続いた心宿の言葉に、慊人はピクリと反応する。

「紫呉? 紫呉が何だって?」
「いえ、何も」

 失言だったか、と心宿は慌てて取り繕う。

「まあいいや、紫呉は僕が殺したんだ、そうさ……フフフ」

 だが、慊人は特に気にする様子もなく、一人で笑い出し始める。
 そう殺した、自分の手で、殺したのだと、笑う。
 そんな姿を見つめながら、心宿は慊人に一礼をし、個室を後にしていった。

「……困るねえ」

 その出先で待ち構えていたのは、他でもない紫呉だ。

「あんまり勝手なこと、言わないでよね」

 意味深な笑みを浮かべたまま、彼はそれだけを心宿に言い残して、立ち去っていく。
 全く、理解できない。
 そう思いながら、紫呉の後ろ姿を少し見つめ、心宿は彼に背を向けて、どこかへと向かって行った。

【残り32人】

82 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 02:29:33 ID:5PiEMPPc0
投下終了です。
禁止エリアは独断で決めました、問題ありそうなら対応します。

83 ◆F9bPzQUFL.:2016/07/15(金) 00:41:03 ID:trjlr7FU0
月報集計お疲れ様です。
少女漫画  43話(+ 4) 32/40 (-1) 80.0 (-2.5)


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