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仮投下スレ

1 ◆xrS1C1q/DM:2011/02/20(日) 01:48:59
内容に不安があって他の人から助言を貰いたい、規制中で本スレに書き込めない
そんな人のためのスレッドです

2 ◆hqLsjDR84w:2011/02/28(月) 23:35:18 ID:???
さるさんになったので、こちらに。
代理希望です。

3現在位置〜You are here〜 ◆hqLsjDR84w:2011/02/28(月) 23:35:31 ID:???


 ◇ ◇ ◇


 グリーンが背を向けていた土の山のなかに、アンジェリーナはいる。
 気絶させられたのち、グリーンは地面に衝撃波を放って穴を作った。
 そこにアンジェリーナを置いて土を被せてから、首があった場所に空間の断裂を放ったのである。
 他の七十八人には墓など作るつもりはないが、彼女にだけは作らねばならないと考えた。
 そのために、グリーンは見ることができなかったのだ。
 アンジェリーナの身体に亀裂が入っていき、最期にガラスのように砕ける様を。
 彼女が人間ではなく、しろがねであるという証を。
 それを確認せず、まだ石化していない傷口だけを見てしまっため、グリーンはアンジェリーナをただの人間だったと思っている。
 『ただの人間をただの人間として蘇生できる』――そう、思い込んだままだ。



【才賀アンジェリーナ 死亡確認】
【残り78名】


【F−1 山/一日目 黎明】

【キース・グリーン】
[時間軸]:コミックス17巻NO.11『死王〜バロール〜』にて共振を感じ取って以降、コミックス18巻NO.3『聖餐〜サクラメント〜』にてキース・ブラックの前に立つ前。
[状態]:健康
[装備]:いつものスーツ、参加者レーダー@オリジナル
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、カツミの髪@ARMS(スーツの左胸裏ポケット)
[基本方針]:なんとしても最後の一人となる。そのためなら兄さんや姉さんだって殺すし、慢心を捨てて気に入らない能力の使い方だってする。
※空間移動をするとかなり体力を消耗するようです。




【支給品紹介】


【参加者レーダー@オリジナル】
才賀アンジェリーナに支給された。
付近にいる参加者の反応を探知して、ディスプレイに光点を表示する。
広域表示と狭域表示の切り替えが可能だが、極限まで広域表示にしても自分のいるエリア内しか表示されない。
サイズは、縦約25センチ、横約20センチ、厚さ約1.5センチ。ようはiPadみたいなイメージで。
いったい、参加者の何に、どのようにして、反応しているのかは不明。以降に任せます。


【キャンディー@からくりサーカス】
才賀アンジェリーナに支給された。
ギイ・クリストフ・レッシュがある指令を遂行するべく日本を訪れた際に、持ってきたもの。
一つ一つのキャンディーがカラフルな紙でラッピングされて、袋にまとめられている。
袋はパッと見た感じそれほど大きくないが、意外にも中のキャンディーは結構な数である。

4現在位置〜You are here〜 ◆hqLsjDR84w:2011/02/28(月) 23:36:07 ID:???


【死んだはずのネコ@ARMS】
キース・グリーンに支給された。
『生命活動が停止したぬけがら』としてグリーンはメイドに処理させようとしたが、赤木カツミによって庭に埋葬された――――はずだったネコ。


【カツミの髪@ARMS】
キース・グリーンに支給された。
赤木カツミが髪をカットした際に地面に落ちたものを、グリーンが頼んで一房貰ったもの。
君も気になる子がいたら、美容室までついて行ってお願いしてみよう。
意中の子は訝しみながらも「変な人ね……」と笑みを向けてくれることだろう。
※ただしイケメンに限る。




【備考】
※エリアF−1山内に、「会場地図」「コンパス」「筆記用具」「ランタン」「時計」「参加者名簿」「キャンディー@からくりサーカス」が入った「リュックサック」(全て才賀アンジェリーナに支給されたもの)が放置されています。
※才賀アンジェリーナはF−1山内に埋葬されました。
※「死んだはずのネコ@ARMS」が、その辺を走っています。

5 ◆hqLsjDR84w:2011/02/28(月) 23:36:37 ID:???
投下完了です。
誤字、脱字、その他アレ? と思う点ありましたら、指摘してください。

6週刊少年ななしさんデー:2011/03/01(火) 01:50:33 ID:???
さるさんくらいました、代理お願いします><

7 ◆imaTwclStk:2011/03/01(火) 01:51:00 ID:???
先程とは違い。
テッドの力を認め、軽んじる事を止めたボーが
真剣な表情でテッドに提案する。
その言葉をテッドは少し迷った上で
やんわりと断った。

「悪いが、あいつを探すのは俺の目的なんだ。
 生憎とそれ以外の事に構ってる余裕も無いし、
 それに巻き込んじまう訳にもいかねぇしな」

あとはそれ以上はボーの答えも聞かずに
「じゃあな」と一言だけ告げて、
テッドはその場を後にする。

「……では、私ももう行きます。
 今のような手助けは今後はするつもりは無いので、
 慎んでください」

場が収まった事を確認して、
桐雨もボーに警告だけはしっかりとし、
早々とその場を去っていく。

再び取り残された形になったボーは
取り敢えず荷物を確認することから入る事にした。

【D−1 裏山/一日目 黎明】

【ボー・ブランシェ】
[時間軸]:COSMOS戦にて死亡後
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品0〜2、基本支給品一式
[基本方針]:弱者を助けつつ、主催者を倒す

【桐雨刀也(居合番長)】
[時間軸]:日本番長戦決着後
[状態]:健康
[装備]:神慮伸刀@烈火の炎
[道具]:ランダム支給品0〜2、基本支給品一式
[基本方針]:金剛番長の刃として、彼に敵対する者を倒す

【テッド】
[時間軸]:ファウード戦合流前
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:魔本、ランダム支給品0〜2、基本支給品一式
[基本方針]:チェリッシュの捜索

【支給品紹介】


【神慮伸刀@烈火の炎】
桐雨刀也(居合番長)に支給された。
使用者の意志のままに刀身が伸縮する二本で一組の魔導具(トンファー型の刀)。

8 ◆GmTqfb9yfU:2011/03/16(水) 23:52:41 ID:???
白雪宮拳、永井木蓮 仮投下します

9拳の少女・木の男  ◆GmTqfb9yfU:2011/03/16(水) 23:54:06 ID:???
暗い夜の闇の中、一本の木に寄りかかる一人の少女がいた。
まるでかき混ぜたばかりの生クリームのように白く柔らかそうな肌。
顔は幼く小柄で人ごみに揉まれればつい転んでしまいそうな体躯。
男物のようないかついガクランがいっそう幼い顔を引き立てているようにも見える。
そんな彼女のわなわなと振るえている様子を見れば多くの人がこんな異常な場所に連れて来られ、怯えているのだと思っただろう。

しかし、彼女の内心はそれとは違っていた。

「あの男、絶対にゆるせませんわ!!あんなっ……、あんなに軽々しく人の命を奪うなんて!!」

彼女は怒っていた。あの男に、このゲームの理不尽さに。
それに、確か殺されたあの男の人は金剛番長のお友達の悪矢七さんではなかったか。
あの時自分も金剛番長と一緒に飛び出すべきだったのが良かったのかを考えてみても答えは出ない。
ならば、この場でやることは決まっている。
困っている人を助け、こんなくだらない殺し合いにのる悪い人はやっつけ、このゲームをぶち壊す。

ならば今自分がすべきことは…………

「誰かいませんかーっ!!私はこんなくだらない殺し合いをするつもりはありませんわ!!もし私に賛同してくれるなら手をお貸しくださーい!!」

叫んで人を集める。
安易で短絡的な行動に思えるかもしれないが今の彼女には他に思いつかなかった。
もしも彼女の大事な仲間がこの声を聞いて出てきたらそのまま合流すればいい。
もしも彼女が守るべき罪のない人々がこの声を聞いて出てきたらそのまま保護すればいい。
もしも彼女を狙おうするゲームにのった悪漢が出てきたらそのまま退治すれば良いのだ。
だから彼女は叫ぶ。正義という強き信念をもって。

「誰かいませんかー!!いたら返事してくださーい」

その時、弱弱しく助けを求める声が彼女の耳に入った。
彼女は直ちにその声の向こうへと走った。

10拳の少女・木の男  ◆GmTqfb9yfU:2011/03/16(水) 23:55:16 ID:???
「おい嬢ちゃん、ちょっと肩貸してくれ!情けない話だが腰がぬけちまった」
そこには長髪痩身の男がへたりこんでいた。

「助かったぜ嬢ちゃん。あんた若いのに立派だよホント、こっちは怖くて怖くて今にもどうにかなっちまいそうだってのに」
「いえ、困っている人を助けるのは当然ですわ」
「今時そんなセリフ真顔で言えるってだけでも大したもんだよ。俺は小金井薫。植物学者をやってるもんだ」

男はやっと恐怖や不安が薄れ始めたのか自分よりも一回りも二回りも小柄な少女に肩を支えられながら男は身の上話をし始めた。
植物学者を目指したきっかけ。飼っているペットのこと。そして結婚も視野に入れている恋人のこと。

「あいつの為にも、生きて帰らねえとな」

恋人を思う小金井薫の表情を見て彼女は意志をより強く固めた。

「小金井さん、ご安心なさいな。私がきっとあなたを無事に守ってさいあげますわ」
「ありがとな、嬢ちゃん。ああ、そういえば言い忘れてたんだが……」
「何ですの?」
「さっきの話。あれ全部嘘だ」

突如、男の脇腹から巨大な蛸の足のような茶色い物体が服を突き破りながら現れ、少女の腹に突き刺さった。
衝撃で少女が身動きを取れなくなっている間にも男の体中から触手のような茶色い物体が生え、少女に襲いかかる。

「ぎゃははははははははは!!残念だったなメスガキっ」

さっきまでの怯えていた表情も優しそうな表情も最早微塵も残っていない。
彼の名は永井木蓮。
裏の世界で名高い戦闘集団、麗の一員でありその性格は惨忍にして外道、強烈なエゴイストかつサディストという救いようのない性格をもっている。
そして彼は女を殺すことが大好きだった。
あの柔らかい肌にぷっすりと刺し引き裂く感覚。
耳を劈くような甲高い悲鳴。
全てが堪らなく愛おしい。
そして今日もまた一人の少女を引き裂き、彼の邪悪な精神は絶頂を迎えていた。




そのはず、だったのだが。


「何かと思いましたがこれ只の木ですのね。大した怪我はありませんがいきなりでビックリしましたわ」

少女が立っていた。
しかも無傷で。
それもそのはずである。剛力番長こと白雪宮拳は二億人に一人の割合で発症すると言われているヒュペリオン体質なのだ。
ヒュペリオン体質である彼女は凄まじい超人的な身体能力の他に体が異常に頑丈という特徴をもっていた。
その体の頑丈さは鉄塊をも貫くグレギオン合金製の針山に落とされても逆に針の方をへし折ってしまう程であり並大抵の特殊防護服や鎧を遙かに凌駕する。
木の枝や根っこ程度ではかすり傷だって付けるのは難しいだろう。
ましてや、柔らかい肌を突き刺すつもりでいたならなおさらだ。

「何だぁ?土門の鉄丸みたいな魔導具でも持ってたのか?」

木蓮は少女が身体を硬質化させる魔導具をもっていると考えた。
これがまさか彼女の素の力だとは思いもしなかったが、彼女の容姿を鑑みればそれも無理の無いことだろう。
木蓮は木の根を少女の体に巻きつかせた。
突き刺せないのならば身動きを封じ嬲り殺しにしてやろうという魂胆だ。

11拳の少女・木の男  ◆GmTqfb9yfU:2011/03/16(水) 23:56:30 ID:???

「その首捩じ切ってやるぜえ!!」


木蓮は悪鬼のような形相で叫びながら少女の体を木で絡め、少女を睨んだ。



その瞬間、彼の視界は少女とは全く別の方向の景色を眺めていた
そして何があったのかを理解する。

「はああああああっ!!ですわ」
彼女が巻きついた木ごと腕を振って木蓮の体をぶん投げたのだ。
木蓮はいきおいよく地面に激突した。
「参りましたの?だったら観念して大人しくすることですわ。じゃないと私、次は本気でなぐりますわよ」
まさかここまで怪力とは思わなかった木蓮は歯噛みしながら謝った。

「わ、悪かった!!謝るから許してくれ」

あまりの情けない声に彼女は拳をゆるめた。
次の瞬間。木蓮はの周りの小石や落ち葉が吹き飛んだ。
「なっ何ですのっ」
彼女がひるんだすきに木蓮の腕に羽のような物が生え、空へと飛行した。
彼は少女の周りを羽虫のように不規則に飛び回りながら、周りの木々をその翼で引き裂いていく。
大量の木の葉が、枝が、大鋸屑が、幹が、切り裂かれ幾千もの破片となって少女の体に降り注いだ。
勿論、ヒュペリオン体質である彼女にそんな物では大した攻撃にはならないのだが、元々攻撃の為では無い。
単なる目くらましだ。
少女が再び目をあけると既に男の姿は消えていた。
残された彼女はというと。

「小金井薫。絶対に許しませんわ」

彼女は只、怒っていた。

ゲームにのっていた男に対して。
そしてそんな悪をみすみす取り逃がしてしまった自分に対して。

彼女は剛力番長。悪は絶対許さない。



【A−6 林/一日目 深夜】

【白雪宮拳】
[時間軸]:神闘郷にて暗契五連槍を撃破し脱出した後。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(確認しているか不明)
[基本方針]:このゲームを壊す。ゲームにのった悪人を見つけたら倒す。木蓮の名前を小金井薫と勘違い。

12拳の少女・木の男  ◆GmTqfb9yfU:2011/03/16(水) 23:58:19 ID:???





「ったくあの餓鬼、後でぜってえぶっ殺してやる。にしてもあのガキ、ずっと俺のこと小金井薫だと勘違いしてたな。さーて、これがどういう風に転がるのか見ものだぜ」

そう毒づくと民家の前で着陸した。

「それにしてもキースとか言ったっけ。あの野郎なかなか面白いこと考えやがる。おまけにあの憎たらしい火影のガキ共までいやがるじゃねえか」

彼は愉快そうに微笑んだ。
あのガキは失敗だったが肉の柔らかそうな女は他にもいた。
お楽しみはまだまだ沢山あるのだ。
あの紅麗がいるのは驚いたがあの男は花菱烈火との戦いでボロボロになった挙句、体中を穴だらけにされ川に落とされたのだ。
最早生きているだけでもやっとのはず。
それに集められていた連中の中にはかなりの美人揃いだった。
まあ人間とは思えない程しわくちゃの老婆もいたがそれはそれだ。
あのカツミとかいう女もどうせ殺すんなら自分にやらせて欲しかったと木蓮は素直に思った。

「あんな良い体した女共そろえられてぶっ殺さねえのは失礼もんだしなあ!!さっきのガキは堅過ぎだったが、全部が全部ああいう訳じゃねえだろうし、あいつらがどんな悲鳴を上げるのか愉しみだぜ」
木蓮は楽しくて堪らない。

この無理矢理殺し合いをやらされるという異常な事態にもかかわらず。
いや、無理矢理殺し合いをやらされるという異常な事態だからこそだ。
あの花菱烈火は今頃この舞台のどこで何を思っているのだろうか。


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃはひゃやひゃひゃひゃひゃひゃっ!!待ってろ火影!!俺がぶち殺してやるからよお」

深夜の闇夜に狂った笑い声が木霊した。
彼の宴はまだ始まったばかり。

【B−5 民家前/一日目 深夜】


【永井木蓮】
[時間軸]:裏武闘殺陣決勝後の紅麗の暗殺後
[状態]:健康
[装備]:木霊 @烈火の炎  飛斬羽@烈火の炎
[道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、飛斬羽@烈火の炎、支給品1〜3(確認済み)
[基本方針]:このゲームを楽しむ。できるだけ女を殺したい。

13拳の少女・木の男  ◆GmTqfb9yfU:2011/03/17(木) 00:02:59 ID:???
【支給品紹介】


【飛斬羽@烈火の炎】
三羽烏の一人、羽丸の魔導具。
使用すると飛行する事が出来る。腕の下の部分に羽のような
エネルギー体が発生し、それを使用して相手を切り裂く事が出来る。
本来の使い手である羽丸は陽炎曰く、魔導具の力を全く出せていなかったらしい。

14 ◆GmTqfb9yfU:2011/03/17(木) 00:05:46 ID:???
投下終了です
誤字・脱字・その他の問題点があれば御指摘ください

15週刊少年ななしさんデー:2011/03/17(木) 02:22:53 ID:???
投下乙です。
内容に問題はないように思います。
ただ、木蓮は支給品を出しているようなので、状態表の >支給品1〜3 は「0〜1」ですね。
感想は本投下後に。

16週刊少年ななしさんデー:2011/03/17(木) 02:31:39 ID:???
あ、木霊って体内に埋め込まれてたりするんだっけ……?
読んだの結構前で思い出せないんですが、その場合は「0〜2」なのかな
ちょっと記憶が曖昧なので、すんません

17バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:36:43 ID:???
「Dr.鍵宮」
 誰もいない虚空に向かって呼びかける。
 博士に連絡し、今後の行動についての指示を仰ぐために。
 しかし、彼の躯体内に搭載されている通信ユニットには一切の反応はない。
 装置は問題なく動作しているはずなのに。

「Dr.鍵宮。異常ガ発生シマシタ。応答ヲ」
 彼が何度呼びかけても博士は応答しない。
 それどころか、東京都文京区にある鍵宮研究室との交信自体が途絶えてしまっている。
 どうやら、彼が立っているこの場所が専用無線通信の有効範囲外であるか、または何者かによって通信電波が妨害されているらしい。

「…………交信不能。自律モードニ移行スル」
 銀髪にやや面長な、西洋風の綺麗な顔立ち。
 ボタンを全開にした学ラン姿も、ワインレッドの眼鏡も、かなり様になっていた。
 海外の映画俳優かと思わせるほどの美青年である。

 だがその反面、こんな異常事態であるにもかかわらず、彼の発する声は無感情そのものだった。
 眼鏡の奥に潜む双眼にも、一切の輝きは宿ってはいない。
 そう。彼……マシン番長は、その名が示すとおり科学の化身、ロボットであったのだ。

「参加者ノ中ニ数名ノ番長ヲ確認。コノ殺シアイヲ『23区計画』ノ延長ト判断スル」
 彼の言う23区計画とは、元々いた世界で行われていた戦いの事だ。
 様々な力を有した『番長』たちが東京23区それぞれに配属され、彼らは他区の『番長』を倒すことで自分の統括区域を広げていく。
 最終的に全ての区を支配した『番長』が、日本という国家を再生する旗振り役になる権利を得られるのだ。

 そして、マシン番長もその争いに身を投じる番長のひとり。
 23区計画の勝者となるべく、鍵宮という狂科学者に作られた戦闘マシーンだ。
 彼は起動するなり、三人の番長を撃破。
 さらに、金剛番長をはじめ、彼の元に集まった四人の番長たちも簡単に打ち倒してしまった。
 彼に与えられた力は、それほど圧倒的なものであったのだ。
 そのままの勢いで、彼は全ての区を制圧してしまうかに思われた。
 しかし、千代田区の雷鳴高校を支配下に置くべく、研究室から出発しようとしたとき……。
 彼の全機能が急停止した。

 次に目覚めると、そこは薄暗い空間。
 そこで彼は、背中を壁にあずけ座らされていた。
 部屋の中央で声高に話をするのは、キース・ブラックと名乗る男。
 マシン番長にとっては、聞く価値すらない演説だった。
 彼に命令を下せるのはDr.鍵宮と死んでしまったDr.月菜、そしてある少女だけなのだから。
 マシン番長が注目したのは、その場に集められた人間たちの方だ。
 その中には、殺したはずの金剛番長を始め、居合番長たち番長連合、加えて『番長らしき能力を備えた者』が多数いた。
 すぐにでも番長抹殺プログラムを実行したいマシン番長だったが、躯体が全く動かせない。
 電撃やロケットパンチはおろか、指の一本すらもまともに動かす事はできなかった。
 殺し合いの開始前に勝手な戦闘を行わないよう、主催者が彼の体に細工を施したのだろう。
 彼に自由が戻ったのは、カツミという少女の首輪が爆発した後。
 現在立っているこの場所に、謎の力で強制移動させられてからのことだった。
 そして彼は冷静に現状を確認し、今に至る。

「予定ドオリ、番長抹殺プログラムヲ再開スル」
 創造主からの命令を受け取れない以上、ここからは自分の判断で行動するしかない。
 とはいえ、彼のすべきことは今までとは何ら変わりはない。
 他の番長の排除。それだけだ。

 ところが、彼がその指名を全うする過程には、ひとつの大きなハードルが存在する。
 ある少女の存在だ。

「……月美」
 彼の開発に携わった人物である月菜博士によく似た少女。
 マシン番長の中で、彼女は創造主たちと並び立つほど大きな存在だ。

18バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:37:14 ID:???

 だからマシン番長は、その少女の願いに従う。
『戦った相手と仲直りして欲しい』との、健気な願い。
 相手を殺してしまっては、それを実行するのは不可能だ。
 しかし、それと同時に、番長を倒すという指令は守らなくてはならない。
 それができなければ、彼は廃棄され、少女の傍にいられなくなるからだ。
 全力で戦わなくてはいけないが、殺してもいけない。
 数ある番長の中でもトップクラスの戦闘力を持つ彼だからこその難題であった。
 この要求にどう対処するのが最適か、ニューロコンピュータを巡らせ思案していると……。

「あの……すみません……」
 突如背中から話しかけられ、マシン番長は猛スピードで振り返った。
 感情のない彼だが、その振り向きの速さから、驚きのような感情が見て取れる。
 演算途中であったとはいえ、彼の警戒が緩む事はないはずだ。
 けれども、彼はこの女性の接近を察知する事ができなかった。
 声の主である女性を確認すると、ジッと見つめて、その人物データの解析を開始する。

「網膜スキャン……エラー……」
「あの……聞いてますか?」
 巫女装束を身に着けた女性が呼びかけるが、マシン番長は歯牙にもかけない。
 眼鏡のフレームよりも紅い瞳で、女性の情報を読み取っていく。
 彼女の網膜から該当データを検索しようとするが、失敗に終わってしまう。
 こんな事象は、彼にとって始めてのことであった。

「音声分析……確認……。該当データナシ。
 …………番長デアル確率0.02%。
 網膜エラーハ、バグデアルト予想サレル」
 声紋判定に切り替え、やっと彼女のデータ採取に成功。
 インプットされている番長たちのデータと照合し、合致するものが無いことを確認した。
 さらにその戦力を分析すると、彼女は舎弟レベルの戦闘能力すら持ってはいない。

「あのぅ……」
 女性はめげることなく話し掛ける。
 その黒い艶やかな長髪や穏やかな顔つきから、奥ゆかしい大和撫子の雰囲気を漂わせていた。
 一方で、彼女は見た目から感じる印象以上に肝が座っている。
 潜ってきた修羅場の数のおかげか。それとも誰かの影響か。

「関ワッテモ意味ガナイと判断スル」
 番長抹殺プログラムを執行する彼にとっては、一般人との関わりは全く無意味なもの。
 相手が番長関係者ではないと判断すると、彼女を無視して歩き出そうとする。

「あ! の!」
「……?」
 業を煮やした少女が、立ち去ろうとする青年の前に回りこんだ。
 彼女の動きを、またしても察知できなかったマシン番長。
 表情こそ変化してはいないが、彼の脳内は混乱状態にあった。
 再び彼女を見つめ、先ほどより精密なスキャンを開始する。

「心拍数…………エラー…………。体温…………エラー…………。
 ソノ存在ヲ確認デキナイ」
 探知できるのは、彼女の音声だけ。
 彼の視覚素子は少女の姿を確認しているのに、レーダーの方は『そこには誰もいない』と主張する。
 まるで、立体映像を見せられているかのよう。

「……あぁ! そういうことですか」
 両手をポンと打ち合わせる。
 どうやらマシン番長の言いたいことを理解したらしい。

19バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:37:46 ID:???

「ソウイウコト、トハ何ダ」
「実は、私……」
 人差し指を頬にあて、得意そうな顔を見せる少女。
 おしとやかに小さく口を開けてウフフと笑った。

「幽霊なんです」


◆     ◆     ◆


「ツマリ、人ハ死ンダラ幽霊ニナルノカ」
「そういうことです。意外と気楽でいいものですよ」
 地べたに座って話す二人組。
 片や機械、片や幽霊という、とんでもない組み合わせだ。
 幽霊少女キヌが今まで行っていた霊能講義は、たった今、やっとのことで一段落。

 マシン番長も、始めこそはインプットされていない概念に戸惑っていた。
 だが、彼の感覚素子が心霊現象を実際に体験しているのだから納得せざるを得ない。
 カタカタと音を立てながら、頭部に格納されたメモリに『幽霊』の項目を追加した。

「……それでですね、マシン番長さん。
 あなたは、美神という名の女性を……」
 危険人部の可能性もあったマシン番長に、キヌがわざわざ話しかけたのには理由があった。
 事務所の仲間の美神や横島、知り合いのドクターカオスと遭遇してはいないか尋ねるためだ。
 会話をしていく中で、彼は危険人物ではないと判断したキヌ。
 わざとらしく咳払いしてから、本題を切り出そうとしたが……。

「待テ。誰カ来ル」
 彼女の言葉を遮り、マシン番長が立ち上がる。
 つられてキヌも振り返るが、誰もいない。
 巫女少女は首を傾げるが、マシン番長は微動だにしない。

「あの……こんにちは。突然話しかけてすみません」
 彼らが見つめる方向から一人の少年が姿を現したのは、それから数十秒後のことであった。
 身の丈から察するに、小学生であろう。
 それにしては随分礼儀正しく、育ちのよさが伺える。
 つまりは、そんな子供さえも殺し合いを強制されているということ。
 そんな残酷な仕打ちを平気で行うキース・ブラックとかいう男に、キヌは珍しく怒りを覚えた。

「いいのよー。ボク、怖かったでしょ」
「いや、僕は、そんな……」
 キヌがまっ先に少年に近づいて、小さな頭を優しく撫でた。
 あからさまな子供扱いに、少年は戸惑ってしまう。
 キヌの手を振り払いたかったが、彼女の悪意なき表情を前にしては、そんなことできるはずもなかった。

「私はキヌ。おキヌでいいですよ」
「えっと僕は、才賀……危ないッ!」
 自己紹介を突如中断し、少年が大きく飛びのく。
 その直後、彼が今まで立っていた場所を、機械仕掛けの拳が猛スピードで通過。
 そして、少年の傍に屈んでいたキヌの身体を貫いた。
 パンチはそのまま地面を殴りつけ、衝撃で大量の土煙が舞い上がる。

「お……おキヌさぁんッ!!」
 まさかの事態に、少年の顔に絶望が満ちる。
 彼は一人で逃げようとしたわけではなく、キヌを抱えて二人一緒の回避を試みた。
 そのはずだったが、彼の腕は少女を捕まえることはなく、巫女の体をすり抜けて空をきる。
 結果として、彼女はロケットパンチから逃れることができなかった。
 少女を助けられなかった自責の念と下手人への怒りが彼の胸を支配し、小さな身体がワナワナと震える。

20バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:38:12 ID:???

「よくも……よくもおキヌさんを……」
 少年は背中から一本の刀を取り出し、構えた。
 その姿は、ただの小学生のソレではない。
 剣の道に通ずる者の佇まいだった。

「いくよ」
 明鏡止水。
 月明かりに光る刀身に応えるかのように、少年の瞳に鋭い閃光が宿る。
 力強く握り締められた柄に、もう奮えはない。
 大きく息を吸い込み、右足に力を込め、踏み出そうとした。
 そのときだ。

「なぁーーーにするんですか、マシン番長さん!
 私、死んでなかったら、死んでましたよ!」
 少女の怒号。
 一般人なら確実に死に至るレベルの攻撃を食らったはずの少女だ。
 なぜ彼女が生きているのか、勝は知る由もなかったが、それは至極簡単な理由だ。
 幽霊である彼女の身体は、本人が『触れたい』と思ったもの以外は貫通させてしまう。
 少年が彼女を抱えられなかったのも、それが原因だ。
 つまり、パンチのような物理攻撃は彼女には全く通用しないということである。

「俺ガ狙ッタノハ、ソッチノ子供ダ。ソコニイタオマエガ悪イ」
「そういうことじゃないですよ!
 私が言いたいのは、何でいきなりこの子に攻撃したのかってことです!」
 無傷で復活した少女に目を丸くする少年。
 あんぐりと口を開け放つ彼を余所に、二人の口論は続く。
 もう常識も何もあったものじゃないのだが、キヌの方が正しいことを言っている。
 少年に落ち度がないにもかかわらず、マシン番長は彼に不意打ちを見舞ったのだから。

「コノ子供ノ戦力ガ基準値ヲ超エテイル。
 番長デアル確率ハ94.33%ナノダ」
 再び少年に向き直るマシン番長。
 その目からは、殺意と呼ばれる感情を確認することはできない。
 マシン番長のメモリ内には、この少年のデータはインプットされてはいなかった。
 つまり彼は23区の番長ではないということである。
 しかし、それは少年が番長でないということと同義かと問われれば……否。

 日本には、マシン番長のデータの外にいる番長もたくさん存在している。
 なぜならば、番長とは東京23区に限った存在にあらず。
 東京都以外でも同じような争いは行われており、そこでも数多の番長が戦いに明け暮れていた。
 マシン番長にとってみれば、それらの番長もいずれは倒さなくてはならない敵だ。
 彼が作りたいのは、鍵宮と月美のみを絶対とする国なのだから。

 少なくとも、マシン番長に分かることは『この少年は、番長以外は持ち得ない戦闘能力を有している』ということだけ。
 ならば、殺しておいて損はない。
 疑わしきは番長、である。

「何を言っているんですか? こんな子供に……!」
「いいよ、おキヌさん」
 少年が、刀を背中にしまう。
 マシン番長を彼の知っているタイプの自動人形だと誤解したせいだ。
 彼が知っている自動人形には『黄金律』というルールがある。
 それは、『武器を持っていない人間の前では、目で終えない速さで動いてはならない』というもの。
 刀や銃器のようなものを手にしていては、到底人間側に勝ち目はない。
 だから、およそ武器とは思えない懸糸傀儡が、オートマータの数少ない対抗策となるのだ。

21バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:38:41 ID:???

「やつらと会話するだけ、無駄なんだ」
 徒手空拳で構え、立ち向かう。
 少年に残されたのは、『分解』の技術のみ。
 それすらも、ドライバーなどの工具がなければ心もとない。

「確カニ俺ハ、オートマータ・マシン番長ダ。
 オマエヲ俺のメモリニ登録シヨウ」
 データベースにこの少年の網膜や声紋などの情報を追加する。
 さらに、肉体をスキャンして得られる予想戦力や戦法なども保存。

「そんな、ダメです! 武器もなしに勝てるわけが」
「それは違うよ、おキヌさん。……足掻くんだ」
「……え?」
 キヌの心配の眼差しは、僅かばかりだが和らいでいく。
 少年の姿が頼もしく見えたからだ。
 彼の顔つきが、幾つもの戦場を渡り歩いた戦士の表情へと変貌し。
 全身から発する圧も、彼女がよく知るゴーストスイーパーのごとく頼もしいものになった。

「足掻いて足掻いて、ダメだったらそのときは……」

「新規登録ヲ完了スル。命名、『子猿番長』」

 少年の決め台詞は、悲しいかな最後まで紡がれず……。
 マシン番長が彼に名づけた番長名は余りにも酷く……。
 今まで彼が醸し出していたシリアスな雰囲気を台無しにするには、充分すぎるものだった。

「………………」
「………………」
「………………」
 完全に空気の読めないマシン番長の発言のせいで、この場に痛々しい沈黙が流れた。
 この空気を作り出した当の本人は、相変わらずの無表情で少年を見つめている。
 その少年はというと、俯いて小刻みに震えてしまっていた。

「あの…………」
 気まずそうに二人を交互に眺めていたキヌが、見るに見かねて少年に話しかける。
 彼はゆっくりと顔をあげた。

「なんだい、おキヌさぁん」
 もう少年は、にっこり笑うしかない。
 しかれどもそれは、ぐにゃりと歪んだ、『いい笑顔』だった。
 まるで、悪い錬金術師の精神を脳に転送されてしまったかのような。

「あ、あの……怒って、る?」
「怒ってなんかないよぉ」
 言葉では否定するものの、少年の表情からは明らかに怒りのオーラが漏れ出ていた。
 頬がピクピクと痙攣している。
 今にも爆発してしまいそうだ。
 キヌはというと、彼にかける言葉選びに迷ってアタフタする始末。

「番長抹殺プログラムヲ実行スル」
 そんな二人をよそに、マシン番長は既に戦闘体制に移行していた。
 突き出された右腕から、少年に向けて拳が発射される。
 しかし、ロケットパンチは直線攻撃。
 警戒さえしていれば回避は容易いものだ。
 少年は横ステップで楽々と鉄の拳骨をやり過ごすと、マシン番長に向けて突進する。
 そのスピードは、やはりただの小学生のものではなかった。

22バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:40:34 ID:???

「ソリッド・スクリュー」
 初撃を回避されたロボットだが、機械らしく冷静に相手を迎え撃つ。
 右手首から伸びるワイヤーを巻き取り、先ほど飛ばした拳を回収。
 ガシャリと手首に嵌った右手を貫手の形に構え、ドリルのように高速回転させる。
 恐るべき貫通力を有したこの必殺技は、金剛番長を殺害したものだ。
 まっすぐ愚直に走りくる少年に向け、静かにだが素早く突き出した。

「…………はぁッ!」
 少年は背中から刀を取り出し、迫りくる機械的な突きを下から救い上げるように弾く。
 しかし、機械の馬力は強く、繰り出された攻撃の軌道を完全に逸らせるには至らない。
 そこで少年は、躓いたのような動きで機械の足元に転がり、その懐へ潜り込んだ。
 完全に無防備となった胸部に、刀を思いっきり叩き込む。

「無駄ダ」
 無表情でアンドロイドが宣告したとおり、渾身の一振りは皮膚を模した装甲に阻まれて止まってしまう。
 カキンと鉄同士が打ち合わされる音が虚しく響いた。
 刀を振り払うこともせず、少年を組み伏せてマウント状態に持ち込む。
 不可避の攻撃で、少年を確実に死に至らしめるために。

「止めてぇッ!」
「安心シロ。殺害シテモ幽霊ニナルダケ。ナカナオリハ可能ダ」
 おキヌの絹を裂くような叫びが響く。
 しかし、彼女の力では機械の暴挙を止めることはできない。
 マシン番長は気にすることなく拳を振り上げた。

「まだだよ」
 自らの眼前に死が迫ってきていても、少年は笑っていた。
 それは、お手上げだから、足掻いても駄目だったからではない。
 彼がとびっきりの笑顔を見せたのは、勝利を確信したからだ。
 少年は手にした柄を、全力で握り締める。

「のびろ、物干し竿」
「…………?!」
 少年の命令に従って、マシン番長の胸に突き立てられた刀が急速に長くなっていく。
 十メートル、五十メートル、さらに、さらに遠くへ。
 刀はマシン番長の体を吹き飛ばし、空の彼方まで運んでいく。
 数秒後、物干し竿が元の長さに戻ったとき、もうマシン番長の姿はどこにも見えなくなっていた。

「大丈夫……みたいですね」
「はい。あいつが戻ってくるかもしれません。ここを離れましょう」
 決着が着いたのを見届け、キヌが少年に駆け寄る。
 彼女の手を借りて立ち上がる少年。
 その姿を、とても勇ましいと思うキヌであった。

「あ、そうだ」
 フワフワと進んでいたキヌが、思い出したかのように立ち止まる。
 その声に、先を進んでいた少年が何事かと振り返る。

「あなたの名前、聞いてなかったね」
「あぁ、本当だ。僕は、勝。才賀勝です!」
 勝少年は、胸をはって元気に自己紹介をした。
 こういうところは子供らしい。
 先ほど強敵を退けた彼と同一人物だとは、とてもじゃないが思えない。

「おキヌさん?」
 勝が訝しげにキヌの顔を覗き込む。
 彼の名前を聞いたキヌは黙ったまま、小刻みに震えていた。

23バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:41:16 ID:???

「ま……サル……。…………っぷ……」
 我慢しきれなくなって、思わず噴出してしまった。
 慌てて謝罪しようとしたが、時既に遅し。

「……あ、あの…………ごめ…………」
「なぁんだぁい、おキヌさぁん」
 それは、悪意に満ちたとてもいい笑顔だった。



【B-4 一日目深夜】

【才賀勝】
[時間軸]:不明。正二の剣術を習得してから。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:物干し竿@YAIBA、ランダム支給品0〜2(人形はなし)、基本支給品一式
[基本方針]:殺し合いを止める。


【おキヌ】
[時間軸]:本編にて生き返る前(ドクターカオスとは面識有)
[状態]:不健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:勝についていく
※幽霊です。『本人が触れたいと思うもの』以外はすり抜けます。


◆     ◆     ◆


「躯体損傷率3.2%。行動ニ支障ハナイ」
 ムクリと起き上がったのは、子猿番長の殺害に失敗したマシン番長だ。
 立ち上がると、まず全身をスキャンし、ボディの調子を確認する。
 どうやら異常はないようだ。
 小さな傷はあれど、すぐに自動回復するレベルのものであった。

「逃走シタ対象ノ追跡ヲ開始スル」
 自分が飛ばされてきた方向を見つめる。
 もう一度少年と接触して、こんどこそ確実に殺害するためだ。
 マシン番長は、体内に搭載されているレーダーを起動させて相手の位置を探ろうとした。

「レーダーニ異常。索敵範囲ガ限定」
 おそらくは、主催者による細工。
 レーダーの有効範囲が著しく狭められていた。
 これでは、少年を補足するのは不可能である。

「追跡ヲ断念スル」
 機械の決断は早かった。
 特に悔しそうな素振りもみせることはない。
 踵を返し、新たな敵を探して粛々と歩き出す。

24バグ ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:41:45 ID:???

「各番長トノ戦闘プログラムヲ修正。
 殺害シテモ、ナカナオリハ可能デアルト」
 キヌに教わった『幽霊』の概念を、プログラムに反映させた。
 人は死んだら幽霊となり、世界を彷徨う。
 つまりそれは、対象を殺害しても仲直りは出来るということになる。
 殺してから仲直りすればいいのだ。そのほうが遥かに簡単なのだから。
 月美の命令には何ら違反してはいない。

「番長抹殺プログラムヲ、再開スル」
 23区最強の番長が、今、動き出した。


【B-2 一日目深夜】

【マシン番長】
[時間軸]:雷鳴高校襲撃直前
[状態]:異常なし
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:番長を抹殺し、幽霊と仲直りする。邪魔するものも排除。
※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。
※対象の殺害を躊躇しません。
※レーダーは制限されています。範囲は不明。

25 ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 05:43:35 ID:???
以上、投下終了です。
誤字や矛盾点などあれば、遠慮なく。

本スレが規制されておりますので、どなたか申し訳ありませんが代理投下お願いします。

26 ◆d4asqdtPw2:2011/03/22(火) 13:11:05 ID:???
代理投下してくださった方、ありがとうございます。

27魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:38:48 ID:???
すいません、仮投下スレのことを忘れていました
さるさんを喰らってしまったのでこちらに投下します

28魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:39:31 ID:???



勢いよく答えたカオスの言葉に二人は絶句した。
嫌な空気を感じ取ったカオスは、慌てて答えを訂正する。


「いや、6じゃったかな? ……違う7……8? ……ににんが……ににんが………思い出したぞ! ににんが3.8じゃ!!」



どうやらこの老人は本当にボケてしまっているようだ。
知り合いと言っていた美神令子や横島忠夫らは介護人だろうか。


「………もう、いいですわ。とにかくこれからの事についての話しをしましょう。まずお二方の着るものについてですが……」


そう言うと、マリリンは二人をちらりと見た。
二人はまだうつ伏せの状態である。
何かを仕掛けてくることもないだろうが、二人とも全裸だ。
体を起こせば隠しているものが見えてしまう。
なので、二人にはうつ伏せのままで話しをしてもらうことにしてもらったのだ。


「幸いなことに、私が先程プールで手に入れた水着と、フォルゴレさんの支給品にあったものがありますわ。これで体を隠してください」

「プールに水着があったのかい?」

「ええ、一着だけでしたけど見つけました。何かに使えないかと持ってきたのですが、意外と早く使う機会が訪れましたわね」


そう言うと、彼女はフォルゴレのリュックから蔵王を取り出し、中から支給品を取り出した。
蔵王の中から出てきたのは、小面と呼ばれる能面を付けた、人間大の大きさの人形。
魅虚斗(みこと)と呼ばれる人型魔導具だ。

29魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:40:47 ID:???


「説明書によると、この中に入る事ができるそうですわ。フォルゴレさんのリュックに入っていましたし、これはフォルゴレさんが使ってください」


次に、マリリンは自分のリュックに手を入れる。


「女性用ですけれど、この非常時です。我慢していただけますね?」

「……まあ、仕方あるまい」



ドクター・カオスは、女性用でも下を隠せれば良いだろうと渋々承知した。
マリリンはリュックから水着を取り出す。


「多分競泳用のものですわ。よく伸びる素材でできているみたいなので、着る事はできると思います」


出てきた水着を見て、ドクター・カオスの表情が絶望の色に染まる。
マリリンの手にあるものは、確かに競泳用の水着に似ている。
上下一体の、紺色の水着だ。
胸には『3─B』と書かれた布が刺繍されている。
日本人ならば一度は見た事があるだろう。
学校で使用される水着。スクール水着である。

30魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:41:40 ID:???



◆ ◆ ◆





フォルゴレが魅虚斗の中に、ドクター・カオスがスクール水着に着替えると、マリリンはこれからの方針を二人に伝えた。

まず、フォルゴレやドクター・カオスの知り合い、その他の参加者を捜索する。
一般人ならば保護、襲い掛かってくるようならばマリリンの指示通りに動き迎撃。

要注意人物は、キースと名のつく参加者。
名前からしてキース・ブラックの関係者だろう。

次に植木耕助、佐野清一郎、宗屋ヒデヨシ、バロウ・エシャロット、ロベルト・ハイドン、李崩ら中学生バトルの参加者達。
能力者である点は勿論の事、マリリンにとっては敵対していた者達だ。
協力できるかはわからない。

次はゼオン・ベルという魔物の子。
フォルゴレの話しによると、ガッシュ・ベルと似た容姿を持ち、同じく電撃の呪文を遣うらしい。
ロップスという魔物の子を圧倒的な力でもって倒し、残忍な性格をしているという。
姓が同じ事については、フォルゴレは何もしらないそうだ。
容姿が似ているということは、兄弟なのかもしれない。

他に、ルシオラとアシュタロス。
神族と魔族の混成チームでも太刀打ちできないほどの強大な力を持ち、美神令子を狙っているという。
だが、これはドクター・カオスの言ったことである。
信用できない情報ではあるが、警戒するに越したことはない。

そしてもう二人。
金剛晄と高槻涼だ。
彼等は最初の時に目の前で知り合いを殺された。
その殺された人物を蘇らせるために、殺し合いに乗っている可能性がある。

31魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:44:00 ID:???


三人の話し合いの中で、この十一人を特に警戒することを決める。

マリリンが確認した三人の支給品についてだが、食糧や地図といった基本的な物とリュックはそれぞれに返し、残りはマリリンが預かることになった。
当初二人は抗議したが、銃を持っているマリリンに逆らえるはずもなく、従うことになったのだ。

戦闘になった際はマリリンが指示を出し、それぞれの役割に徹して行動することになっている。
ちなみにドクター・カオスは戦力に数えていない。
というか、正直老人は足手まといと言う他ない。
ここは戦場である。
弱い者は置いていくのが鉄則だが、何故かマリリンはこの老人を見捨てることができなかった。


それでは、三人の支給品を確認していこう。
フォルゴレに支給されていたのは三つだ。
光界玉、魅虚斗、自衛ジョーの生き人形部隊。
光界玉はマリリンが持ち、魅虚斗の中にはフォルゴレが入っている。
自衛ジョーの生き人形部隊は、見た目はおもちゃの人形部隊だが、不思議なことにこれらの人形達は自分で動き、考え喋るようなのだ。
おそらく中に高性能な機械が組み込まれているのだろう。
最近のおもちゃは凄い。
ドクター・カオスがこれには魂が入っているとか説明していたがスルーした。

32魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:45:47 ID:???


ドクター・カオスに支給されたのは二つ。
オリンピアとファイティングナイフだ。
オリンピアは巨大な操り人形で、天使のような四枚の翼をもっている。
糸を動かすことで操れるらしいが、三人の誰もまともに動かすことができなかった。
今は蔵王に仕舞い、マリリンが持っている。

ファイティングナイフはオリハルコンという精神感応金属製のものらしい。
説明書にはダイヤモンドの三倍以上の高度を持つと書かれていた。
ナックルガードもついているが、武器を持った状態の能力発動ができないマリリンにはこれが邪魔だった。
ナックルガードに手を入れてしまえば、素早くナイフを捨て能力を遣うといった戦い方ができなくなる。
このナイフはドクター・カオスに自衛用の武器として渡した。


マリリンの支給品は暗視ゴーグル、SIG-P220、石板の三つ。
暗視ゴーグルは、装着すれば闇の中でも昼間のような視界を得る事が出来る。
さらに八倍までのズーム機能付きだ。

SIG-P220は四五口径の自動拳銃。
残弾は七発。
予備弾薬は9mmパラベラム弾が九発。
これらはマリリンが現在も所持している。

最後に石板だが、フォルゴレの話しではこれは呪いで石にされた魔物の子だという。
本当かどうかはわからないが、この石板からは魔力が感じられるとドクター・カオスが言っていた。
月の石の光によって呪いが解けるらしいが、これが本物かはまだわからない。
仮に本物だとしても、この魔物の本の持ち主は千年前に死んでいる。
ゾフィスという千年前の魔物達を支配している魔物のように、心を操る術を持たない以上、この魔物が自分達に協力してくれるかはわからないのだ。

オリンピアのように、使い道のない支給品である。
だが、状況次第では罠や何かに使えるかもしれない
これもマリリンが持つことになった。

33魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:46:56 ID:???



確認することを全て終え、マリリンは二人を見る。

フォルゴレが入っている魅虚斗は、手に巨大な扇を持ち、水平にして頭上に掲げている。
その上には自衛ジョーの生き人形部隊が居り、暗視ゴーグルを複数人で持っていた。
マリリンが自衛ジョーに、暗視ゴーグルを使った周囲の警戒を指示したのだ。

ドクター・カオスは見るからに元気がない。
スクール水着は問題なく着ることができたが、精神的ダメージが大きいらしい。
手にはファイティングナイフが握られている。


「それでは最終確認をいたします。気を付け(アッテンション)────!!!」

「はっ!」


マリリンが叫ぶと、自衛ジョー達が敬礼の姿勢でマリリンに向いた。

「自衛ジョーさん達は周囲を常に警戒。異常を発見したら直ちに報告してください」

「はっ! 了解であります隊長殿!」

「フォルゴレさんは扇の上の自衛ジョーを落とさないように気を付けてください」

「了解しましたマリリン隊長!」

「カオスさんは迷子にならないよう、ちゃんと私達についてきてくださいね」

「人をボケ老人扱いするんじゃないわい!」

「ああっ! 隊長になんてことを言うんだ!」

「おぬしは小僧のような変わり身の早さじゃのう。 ……はぁ、わしはいつもボケ老人扱いか……それにこんな格好で………」


ドクター・カオスは深く項垂れる。
そんなカオスにマリリンは優しく声をかけた。

34魔王と英雄の消失 ◆AJINORI1nM:2011/03/25(金) 01:50:50 ID:???


「……そうですわ! これから町のデパートに向かいましょう。プールに水着があったんです、デパートの売り場にも何か服があるかもしれませんもの。
フォルゴレさんも服を着ていない状態ですし、そこでまともな服を手に入れましょう。それに、途中でお知り合いに会えるかもしれませんわ」

「それは嫌じゃ!」


これからの目標は決まった。
目的地はD─5にあるモチノキデパート。
そこで衣類を調達する。



隊長はマリリン・キャリー。
その後ろからイタリアの能役者パルコ・フォルゴレとヨーロッパのスク水老人ドクター・カオスが続く。
傍から(はたから)見ればサーカスか何かの劇団員に見えてしまう、奇妙な三人組が目的地へ向かって歩き始めた。

35 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 12:52:51 ID:???
植木耕介、ナゾナゾ博士、仮投下します

36ナゾナゾ博士と植木の法則 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 12:55:53 ID:???
蔵王という球体から出てきたのは、掃き溜めからビニール袋で可能な限り掬ったかのようなゴミ袋。
生ゴミも混入しているのか、透明のゴミ袋からは口を締めていてもなお異臭が漂う。
年を食った老人に対して酷い仕打ちではないか。
老人のリュックはゴミ入れではないというのに。

ウェーブがかった白髪にマジシャンかと思わせるようなハット、金色の装飾が煌く黒衣にマントをはためかせ歩み行く。
ピンとしたお髭に独眼鏡もあり、怪しげながらどこか知的な印象を受けるその人はナゾナゾ博士という。
街灯も無く、月の灯りを頼りとするしかない現在地より向かって西、地図の最西端こそが彼の目的地である。
この殺し合いの舞台はお馴染みのモチノキ町。本来ならば他の町へと通ずる道は地図上に記されていない。
落ち着ける場所で腰を下ろしゆっくりしたいという欲も湧いたが、地図の外はどうなっているのかという知識欲には勝てなかった。

だがその右肩には人形と見紛う様な少年はおらず、老人にとっては懐かしい、孤独な歩みであった。
その孤独は夜の闇とともに老人に無力さを投げかける。
元々いた世界では何でも知ってる不思議な博士、しかしこの場にいるのは誰か。
68歳のただの爺だ。
どれほど強がっても体は正直で、己の限界など嫌なほど痛感している。
歩めば若い者よりも早く息も上がり、足は震える。目は霞み、腰は痛む。
ちょっと知識はあっても、この会場のことも、こんな催しを開く者の心理も企みも何もわからない。
そんな爺にできることなど限られている。

この会場にいる人間を蹴落とし最後の一人として生き残ることはまず不可能。
キッドはおらず、おまけに支給品はゴミ一つと来た。
その上、最初の場所には魔物の子に匹敵するか、それ以上の者たちもいた。
誰かを利用して勝ちあがろうにも、やはり慣れないことは続かぬだろう。
つまりどうあがいても絶望的。
だが座して死を待つというのも演出過剰なこの男の柄ではない。

(絶望という闇を希望という光で照らさなければならぬ)

紆余曲折を経て永き時を生き、命を重んじるナゾナゾ博士にとってキース・ブラックは許しては置けぬ悪しき者。
まだまだ前途有望なる少年少女の命を奪い、さらに殺し合いを強要するとは鬼畜の所業。
仲間を集め、対抗せねばならん。決して生かしてはおけぬ。必ずや仕留めなければ。
…とはいったものの流石に老人一人の光では心許ない。
誰かいないものかと思った矢先であった。

37ナゾナゾ博士と植木の法則 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 12:57:12 ID:???

「倒れておる…」

いくらなんでも早すぎる。
ナゾナゾ博士はサッと血の気が引いていくのを感じ取った。
道端には少年が横になっていた。
前後左右を見渡すも周囲に気配はせず、こちらに背を向けるその痛ましい姿は事後かと思わせる。
一方で罠かという疑いを心に秘め慎重に近づく。
手入れをしているようには思えないほどボサボサした緑髪。
ボロボロの白のYシャツに袖を通し、黒の半ズボンに青のスニーカーという出で立ち。
そこからナゾナゾ博士が導き出した彼の正体は日本の学生。

この年頃ならばまだまだやりたいこともいっぱいあっただろうに、志半ばでなんということだ。
どれどれ顔を見せておくれ、おお、綺麗な顔をしておる、死んどるんだぜ、これ、っておや…

「寝とる…」

一人エキサイトしていた老人を尻目にリュックサックを枕代わりに少年は寝ていた。



ナゾナゾ博士が揺すっていると植木は普通に起きた。
だが、ぼんやり目覚めた植木の意識が覚醒するにはしばしの時間を要した。
簡単な自己紹介の後、なぜ寝てたのかという問いに、寝ぼけ眼に鼻ちょうちんを垂らし植木は答えた。

「暗いし明るくなってから行こうと思って」

決して冗談で言ってるのではないだろう。
肝が据わっているのか、抜けているのか。
君を見つけたのがワシだったから良かったものの、殺し合いに乗ったものだったらどうするつもりだったのかと聞けば、

「危なかったなー」

と平気でいう。おそらく両方に違いない。
ナゾナゾ博士は高嶺清麿とは違いすぎる植木耕介という男を計りかねていた。
少なくとも清麿のように知性の片鱗をこの少年から見出すことは無かった。
しかし似たような何かを秘めている…ような気がする。
そんなおぼろげな推察も植木自身がもっと自己主張が強いタイプであれば、また違っていただろう。

38ナゾナゾ博士と植木の法則 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 12:58:34 ID:???

「ところで植木君、君は何を支給されたんだい」

キース・ブラック、そしてブルー、グリーン、シルバー、バイオレットに関する情報を求めた後、
彼が何も知らないことを知るとナゾナゾ博士は話を変え、キッドに対し語りかけるような口調で尋ねる。

「支給品…ああ、そんなのあったっけ。そうだこれこれ」

彼の話によれば名簿を見た後、そのまま眠りについたらしい。
植木がリュックを漁れば出てきたのは3つの蔵王。

「わしは1つだったのに…」

呟かずにはいられなかった。
植木に対する不満、羨望、嫉み、その他あらゆる不の感情が集束された呟きであった。
それに構わず植木は一気に三つの珠から物を取り出した。

「何だ、これ?」

珠より出てきたのは車椅子、防弾チョッキ、いささか大きく灰色で、紋章が印されたカバーの本の3点である。
若人たる植木は試しに防弾チョッキを身につけ、なんだか強くなった気がした。
一方、老人の目にかなった逸品は弱った足腰をカバーするための椅子でもなければ、身を守るためのものでもない。

「植木君、頼みがある」
「なんだ?」
「その本を譲ってもらえないかね」

植木をじっと見つめたままナゾナゾ博士は懇願した。
それはナゾナゾ博士にとって命と同価値かもしれない。

「ワシの大事な宝物なんじゃ…」

キッドの名を名簿で確認できなかったのは不幸中の幸いというべきか。
あれほど傷ついてもなお意志を貫き奮闘した末に、魔界に帰ったキッドがこの地にいるなど想像だにしたくはない。
しかしそれは眼前の魔本が役に立たぬことを意味する。
にもかかわらずそれを抱いていたいのは感傷的だろうか。
そうかもしれない。
この本がある限り、ワシは「何もしてない人」ではなく常に「ナゾナゾ博士」でいられる。
どんな敵と戦おうと必ずや勝利へ導く不思議な博士として生きていけるから。

39ナゾナゾ博士と植木の法則 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 13:00:04 ID:???

「いいぞ」

植木はそんなナゾナゾ博士の気持ちを知ってか知らずか、即答した。

「おお…ありがとう」

本を手にとりナゾナゾ博士の顔が自然と綻ぶ。
その質感、重量感は以前と変わらず、ちょっとした汚れは奮闘してきた日々の名残だ。
開けば文字は光っていなくとも何度も声に出して読んだ記憶が蘇ってきて、思わず懐かしくなり喜びをかみ締めた。
その喜びは目の前の少年への感謝へと変容し、植木をいまいち掴めない人間と分析していたナゾナゾ博士は評価を改めた。

「ん〜君に対してお礼をしたいんだが良いものが無いんだ…」

貰ってばかりでは悪いと思い、顎に指を当て考え込む。
善意に対し応えようとするも、今の自分の所持品では贈るというより押し付ける形になってしまうからだ。

「じいさんの支給品は?」
「ゴミだよ」

ウ・ソといいたいナゾナゾ博士であったが正真正銘のゴミの集まりだから困ったものである。
しかも分別はされていない。

「じゃあくれよ」

気を遣ったのだろうか。
そんなに引き取ってくれというオーラが出てしまっていたか、と思うがどうやら植木には彼なりに意図があるようだとナゾナゾ博士は感じた。

「構わんがそれで何を…」

ナゾナゾ博士はゴミ袋を差し出し、戸惑いの表情を浮かべる。
およそ使い道は無いだろうと思われた袋に植木は右手を突っ込み、無作為に掴み取った。
すると植木耕介は手のひらに収まる限りのゴミを、細くも力強く天に向かって伸びる木の芽に変えたではないか。

40ナゾナゾ博士と植木の法則 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 13:03:03 ID:???

「何と…」

植木を只の中学生と見くびっていたナゾナゾ博士の口は自然に驚きと感嘆を顕していた。
なんということだろう。
あれほど寂しさを誘う草原地帯に、少年の手によって命が還ったではないか。
その様子を見てナゾナゾ博士が想起したのはやはり過去。
ナゾナゾ博士が絶望と倦怠の海に堕ち腐っていたときに、やってきた一人の少年は老人にもったいないと告げた。
その老人の前に現れた植木の力は、使えなさそうなものですら再利用するとてもエコロジカルでやさしい能力であった。
そんな彼にキッドの魔本が支給されているとは、なんたる因果か。





「植木君、お願いがあるんだ」

植木と本格的に情報交換をし、彼の事情を理解し、
ついには神器なるものを少し披露してもらったナゾナゾ博士はあたためていた言葉を口にする。

「私はこのプログラムとやらに付き合う気はない。勿論殺し合いにもだ。
よって私は協力者を探し首輪を外し、ここから脱出したいと思っている。植木君にはその手伝いをしてもらいたい」
「俺、首輪は外せねえぞ」
「構わないよ、私がこの首輪を作ったのだからね。協力者に道具を借して貰ってちょちょいと外すさ」
「本当か!!」

ナゾナゾ博士の何気ない一言。
その一言はさしもの植木も食いつかざるを得なかった。
彼ですら銀色の首輪は煩わしいと思っていたのだ。




「ウ・ソ」




植木がガーンと表情を曇らせる様子を見てナゾナゾ博士はフフンと鼻を鳴らした。
上げて落とす。
こうでなければ調子も出てこないというものである。

「ははは、でも私か、別の協力者を探して外すよ。私が君に頼みたいのは護衛さ。
恐らく多くの者が甘言に惑わされ殺し合いに乗ってしまうだろう。そんな時、私が襲われればひとたまりも無い」

自分は死ぬといった風に中学生を脅すのは気が引けたが、戦闘になれば困るというのは事実でもある。

41ナゾナゾ博士と植木の法則 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 13:07:34 ID:???
その点、植木のゴミを木に変える力に加え10の神器。
そして厳しい戦いを乗り越えてきたという経験値を加味すれば、その戦闘力は折り紙つき。
共に来てくれるならば植木の力はキッド以上に頼もしかろう。

「…君にも友人がいるだろうs「いいぞ」
「…いいのかい?」

ナゾナゾ博士の気遣いを遮って植木は返答した。
それも本を譲ったときと同じように。
彼が即決したのを受け少し追い込みすぎたかと心配するが、それは老人の杞憂に過ぎなかった。

「慌てたってしょうがねえだろ。それに佐野もヒデヨシも簡単にやられるような奴らじゃねえし、ロベルトや李崩は強いんだ」

この少年は仲間を信じているのだろう。
考え無しの判断ではなく、判断の裏には仲間への強い信頼が窺える。
これは自分の清麿やガッシュやフォルゴレに対する信頼となんら変わらないに違いない。

「俺がじいさんに付き合っててもきっとまた会えるさ!」

たくましい少年が見せた力強い笑顔をかつての相棒のそれと重ね、
なんだか微笑ましくなったナゾナゾ博士はつられて笑いを浮かべた。

「じゃあ、よろしく頼むよ。それからワシのことは博士と呼んでくれ、耕介君」

「ああ!わかった、博士!」

そして二人は肩を並べ西へと歩き始めた。



【A-5 西部 一日目黎明】

【植木耕介】
[時間軸]: 十ツ星神器・魔王習得後
[状態]:健康
[装備]:防弾チョッキ@現実
[道具]:基本支給品一式、ブルーの車椅子@ARMS、ビニール一杯のゴミ@現実
[基本方針]:博士についていく


【ナゾナゾ博士】
[時間軸]:少なくともキッドが魔界に帰った後
[状態]:健康
[装備]:キッドの魔本
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:最西端に行く

42 ◆IvAjWlw5Jg:2011/04/08(金) 13:20:13 ID:???
以上、投下終了です。
誤字や矛盾点などあればお願いします。
投下できないのでどなたか申し訳ありませんが代理投下お願いします。

43悪魔〜デモン〜 ◆xrS1C1q/DM:2011/04/09(土) 00:47:49 ID:???

「なんだよ」

苛立ちを隠そうともせずに刃は振り返る。
用件があるなら早く言え。
彼の周りを覆った雰囲気がそう告げていた。

「あなたが行ったとして……勝てると思うの?」

ポツリとチェリッシュが呟く。
掠れた声であったがそれはハッキリと聞き取ることができた。

「分からねぇ、けど行くしかねぇだろ」
「行かせないわ。あなたが行くのなら私は全力で止める」

ためらわずに答えた刃に対し、彼女も即座に返答する。
ただでさえ苛立ちを抑えられない彼にとって、それは起爆剤にしかならない。
ナイフを構え、彼女の前に立つ。

「見殺しにしろってか! そんなん俺は絶対に認めないからな!」
「認めるも認めないの問題じゃないわ。私はあなたを止める。
 あなたが行ってしまったら残った彼の遺志を無駄にしてしまうもの」

涙を流しながらも強い意志を持った瞳が刃を捉えた。
ここに来て始めてチェリッシュの強固な思いを感じ取った刃は怒気を収め、それでも一歩も引く姿勢を見せない。

「すまねぇ、それでも……俺は行きたい」
「それは只の自己満足よ。勝てない相手に向かっても死体が一人から二人に増えるだけだもの」
「それでも、だ。じゃあ行かせてもらうぜ」

そう言って踵を返そうとした彼の脇を石の塊が掠める。
チェリッシュが放ったそれは、刃のわずか先の地面をえぐりとった。
何があったとしても戻らせない。
彼女の意志が変わらないことをさとる。

「アイツには私の呪文は通じなかったわ」
「そうか」
「それでも行くって言うのね?」
「ああ、俺はサムライだからな」


「勝てるわけ……ないじゃない」

44悪魔〜デモン〜 ◆xrS1C1q/DM:2011/04/09(土) 00:48:59 ID:???
チェリッシュの瞳から流れ落ちた涙が頬を伝い、地面にシミを作った。
次から次へと湧きでてくる涙に刃は思わず驚く。
そしてチェリッシュは涙を流しながら刃へと詰め寄った。

「勝てないわ! 勝てるわけ無いのよ。
 あの化物にも、ゼオンにも、そしてキース・ブラックにも!
 私が、あなたが、彼が勝てるわけ無いじゃない!」

唖然とする刃を無視し、なおも彼女は言葉を紡ぐ。

「力の差を見たでしょ!? 私たちの攻撃はまるで通じない、けれどあっちの攻撃は一撃でアウト。
 そして王を決める戦いの優勝候補のゼオン。
 あいつも十分化物よ! あの男とも戦えるかもしれない。それどころか勝ってもおかしくはないわ。
 そんなヤツらをいとも簡単に連れてくるキース・ブラック。私たちにどうしろって言うのよ」

体をかき抱くようにしながら絶望に染まった声を上げる。
 
「あの雷が、あの痛みが今も消えないの!
 無理よ、どうしろって言うの……怖いのよ。
 あの苦しみは二度と味わいたくない。ゼオンに逆らえない!
 勝てないの……私じゃあいつらには勝てないのよ」

話しているうちに錯乱してきたのか、刃には理解出来ない事を喚く。
それでも目の前の少女が苦しんでいることだけはよく分かった。
だが、自分に何が出来るのだろうか。

「お願い……助けてテッド……」

そう言い残し、彼女は急に走り出す。
呆気に取られていた刃が慌ててその後を追うが、彼女の姿は闇夜に紛れていとも容易く消え去った。
辛うじて音で追跡できるが、いつ見失ってもおかしくはない。

「すまねぇ、こっちもほっとけないんだ」

今も戦っているであろう青年へと侘びを入れる。
本当ならばそっちにも行きたい。
だが、今のチェリッシュはそれ以上に放っておくことができない。



後ろ髪を引かれるような思いをしながら若きサムライは走る。



【A-3/一日目 深夜】

【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[基本方針]:???


【鉄刃】
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[基本方針]:チェリッシュを追う。殺し合いには乗らない

45悪魔〜デモン〜 ◆xrS1C1q/DM:2011/04/09(土) 00:49:55 ID:???
以上で投下完了です
支援&代理投下ありがとうございました
誤字脱字、他指摘があればお願いします

46元◇IvAjWlw5Jg ◆I2LrcbxxNg:2011/04/10(日) 04:09:00 ID:???
代理投下してくださった方、感想を書いてくださった方、ありがとうございます。
それと自分の酉でぐぐったら引っかかったので、こっちの酉にします。
#nazoue

47 ◆AJINORI1nM:2011/04/13(水) 23:47:07 ID:???
すいません、大分遅くなりました
十分後くらいから投下します
自分がこんなに遅筆だとは思わなかった……

48守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/13(水) 23:59:23 ID:???
深夜、植物園。
照明は点いておらず、ガラス張りの天井から月明かりが差し込んでいる。

植物達に囲まれた芝生の上。
支給品の確認を終えたレイラがそこに居た。

小学校低学年だろうか。
美しい青紫色の髪を持つ、幼い少女だ。
髪の毛と同じ色の服を着ており、胸には月の模様が描かれている。
奇妙なことに、彼女の頭からは二本の小さな角が生えていた。


(どうして私はまだ人間界に居るのかしら……)


彼女は、千年に一度行われる、魔界の王を決める戦いに参加する魔物の子の一人だ。
と言っても、彼女の戦いは千年前に終わっている。
千年前の戦いで、ゴーゴンという魔物の子に敗北してしまったからだ。
敗北の原因はゴーゴンの放った術、『ディオガ・ゴルゴジオ』。
この術は魔物の子を魔本に閉じ込め、石板に変えてしまう恐ろしい術だったのだ。
ディオガ・ゴルゴジオをその身に受けたレイラの体は、魔本と共に石板に変わる。
魔本が燃えて魔界に帰る事もできず、彼女は冷たい体のまま、永い時を人間界で過ごす事となった。

しかし、彼女の戦いから千年後。
再び行われた魔界の王を決める戦いの参加者、ゾフィスによって、彼女にかけられていた石化の呪いは解かれる事になる。
自由を取り戻した彼女は、人の心を操るゾフィスのやり方が間違っている事に気付いていた。
そのため、心を操られている人間達、そしてゾフィスに脅され、戦わされている千年前の魔物達を解放するためにやって来たガッシュ達に彼女は協力し、
見事ゾフィスの悪行を打ち砕く事に成功したのだった。

その後、今の戦いに千年前の戦いの参加者である自分が関わるべきではない、
パートナーとして力を貸してくれたアルベールを戦いに巻き込みたくないという気持ちから、
清麿に自分の魔本を燃やしてもらい、魔界へと帰ったのだ。

……そのはずだったのだが、何故かまだ自分は人間界に居る。
千年もの時が経っているとはいえ、魔界と人間界を間違えるはずがない。
今自分が居る場所は間違いなく人間界だ。

それに、とレイラは自分の右腕に目を向ける。
手首に付けているブレスレットは月明かりを反射しており、腕の中には一冊の本が抱えられていた。
青紫色をした、燃やされたはずのレイラの魔本だった。
確認してみると、説明書にある通り自分で本が読め、威力は下がっているが呪文も発動した。

49守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:00:40 ID:???

これはどういうことだろうか。
魔界の王を決める戦いに参加する魔物の子は、自分の魔本を人間のパートナーに託し、術を唱えてもらわなければ術が発動しない。
自分で術を唱えたとしても、本来ならば何も起こらないはずなのだ。
そもそも、レイラの魔本は燃えたはずである。
一度燃え始めた魔本の火を消すことはできない。
レイラの魔本は、灰も残さず確かに消滅した。

もしや自由に術を発動できないように、制限として新たに魔本を用意したのだろうか。
だとしたら、敵は相当な力を持っていることになる。
魔物の術を制限する魔本を作るなど、王に仕える高位の魔物が数人集まらなければ不可能な行為だ。
それほどまでに強力な、言わば一種の呪いなのだ。
例え魔界の王であっても、魔本の仕組みを変えることは困難を極める。


(まずいわね……。これほどの力を持つ者が相手となると、この殺し合いに参加しているやつらもかなりの力を持っていると見て間違いないわ。
ガッシュや清麿達が無事でいられるかどうか……)


ガッシュ・ベル。高嶺清麿。パルコ・フォルゴレ。ナゾナゾ博士。
彼女を石化の恐怖から、ゾフィスの呪縛から救い出してくれた恩人達。
共にデモルトと戦った仲間達である。

今度は私が彼等を救う番だ。
この殺し合いは魔界の王を決める戦いとは関係ないものだろう。
現に、魔本を燃やされ敗退した自分が、パートナーもなく人間界に存在しているのだ。
これが王を決める戦いとは無関係となれば、自分が手を貸すことになんの問題もない。
必ず、ガッシュ達をこのふざけた場所から救い出して見せる。

そう固く決意したレイラはリュックを背負い、仲間達を探すために行動しようとした。
その時である。
突然、植物園の照明が一斉に点いたのだ。
いきなりの強い光に、レイラは一瞬目を覆った。
そんなレイラに向かって、入口の方から声がかけられる。

50守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:01:19 ID:???


「近くで魔力を感じたから来てみれば……。あなた、魔族ね?」


レイラは声のした方を見る。
入口に居るのは女性だ。
見た目は人間だが、人間ではないとレイラは判断した。
女性の頭から、昆虫のような触覚が二本伸びているからだ。
人間に触覚は存在しない。


「魔物!?」


レイラはと咄嗟に身構える。
敵か味方かはまだわからない。
もし敵であれば、今ここで倒さなければならない。
ここで逃がせばガッシュ達を危険な目に遭わせることになるからだ。
それだけはさせてはならない。

女性はゆっくりとレイラに近づいてくる。
手には魔本を持っていないため、術を発動させる心配はないだろう。
しかし、魔物はその身体能力の高さも脅威になりえる。
油断はできない。

51守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:02:08 ID:???


「あら、そう身構えなくてもいいじゃない。ちょっと訊きたいことがあるだけよ」

「……訊きたいこと?」

「ええ、アシュタロスって名前のお方をしらないかしら?」

「……知らないわ。ここで誰かと出会ったのはあなたが最初よ」

「そう……」


と、呟くと同時に女性の手がこちらを向く。
その手から腕の太さはある光線が放たれ、レイラに向かって一直線に伸びる。
いきなりの攻撃ではあったが、警戒していたレイラはなんとか避けることができた。
光線はさっきまでレイラが居た場所へ直撃し、地面を大きく吹き飛ばす。
爆発した地面は土の塊を弾丸のような速さで四方八方へ撒き散らし、その一つがレイラの体に激突してしまう。


「ぐっ……!」


土の塊が激突した箇所が痛む。
人間の体ならば内臓破裂か、そうでなくても骨を砕いていたかもしれない。
だが、魔物の体は頑丈だ。
これくらいの衝撃で動けなくなるほど、レイラの体は柔(やわ)ではない。

レイラは体制を建て直しながら、服に描いてある月の模様に手をかざす。
すると、月の模様が立体的に浮き出て小さな杖へと変わり、レイラの手の中に収まった。
杖の先端には、顔の描かれた三日月が付いている。
この、一見するとおもちゃに見えてしまう小さな杖がレイラの武器だ。
この武器はレイラの術を発動させるための起点となり、術を制御するための重要な役割を持っている。
例え壊れたとしても、体の一部のようなものなので、しばらく休めば再生する。

52守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:02:46 ID:???

レイラは眼前の敵を鋭く見据える。
やはり、女性の手に魔本は見当たらない。
魔本の発光現象も確認できなかった。
魔物であるならば、魔本がなければ術を発動させる事はできないはずである。
遠くで呪文を唱えるパートナーの存在も否定できないが、術の狙いと発動のタイミングが絶妙だった。
詠唱の声が聞こえない距離から、ここまで動きを合わせることが可能だろうか。
もしかしたら、とレイラは一つの結論に至る。


「まさか、大人の魔物も居るっていうの!?」

「あら、じゃああなたは子供なのかしら?」


そう言うや否や、女性は再び光線を放ってきた。


「くっ!」


レイラは横に跳んで光線を避ける。
防御の術もあるが、パートナー無しの術では威力が低下する。それは確認済みだ。
さっき見たこの光線はギガノ級の威力を持っていた。
防御力の低下した防御呪文でギガノ級の術を防げるとは思っていない。

レイラは植物の生い茂る中へと突っ込んでいく。
それと同時に、後ろから地面が爆ぜる爆音が聞こえた。

レイラは植物に身を隠して走りながら、相手の姿を確認する。
相手がこちらを見失っている今がチャンスだ。
レイラは植物の合間から、敵を狙って呪文を唱える。
青紫色の魔本が輝きを放った。


「ミグロン!」


レイラの持つ杖の先端から、鞭のような光が伸びる。
レイラの術の中でも最弱の術だが、最速の攻撃呪文でもある。


「えっ?」


女性がレイラの攻撃に気付いた時にはもう遅かった。
最速の攻撃を避けることも防御することも出来ず、まともに食らってしまう。
ミグロンは最弱の術ではあるが、人間を倒すには十分な威力を持っている。
例え相手が魔物であっても、少しは痛手を負わせることができるだろう。
しかし──

53守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:04:06 ID:???


「……何よこれ。弱過ぎて話にならないじゃない」


女性の体には傷一つ付いてはいなかった。
それどころか、痛みすら感じていないらしい。
レイラの攻撃が、まるでそよ風であるかのように通用していない。


「ミグロン!」


植物群の中を移動しながら、レイラは再び呪文を唱える。
光の鞭が再度女性に突撃した。


「こんなものが効くわけないでしょう」


女性は攻撃を避けようともしない。
そもそも、避ける必要がないのだ。
女性の体にミグロンがぶつかるが、女性は痛くも痒くもなかった。

それでもなお、茂みの中を走りながらレイラは術を唱え続ける。


「ミグロン!」

「そこね!」

54守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:04:34 ID:???


女性は声のした方へ向けて光線を放つ。
ミグロンを消し飛ばしながら、光線はレイラへと迫っていった。


(今よ!)


この瞬間をレイラは待っていた。
光線が到達する前に大きく上方へと飛び上がる。
光線は草木を吹き飛ばしながら、レイラがさっきまで居た空間を通り過ぎて行った。
上空から、レイラは敵へと杖の照準を合わせる。

女性は攻撃を放った直後で隙ができている。
今まで放った術には心の力をそれほど込めてはいない。
この最大のチャンスを勝利へと変えるために温存してある。
今出せる最大攻撃呪文にありったけの心の力を込め、レイラは呪文を叫んだ。


「ラージア・ミグセン!!」


レイラの叫びと同時に、レイラの持つ杖の先端の三日月が巨大化する。
巨大化した三日月は杖から離れ、敵へ向かってその巨体を突撃させた。


「なっ!?」


今まで避ける必要のない攻撃ばかりで油断していた。
今から動いたところでもう間に合わない。

55守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:05:06 ID:???


「このっ!!」


女性──ルシオラは、迫りくる三日月に向けて自分の腕を叩き付けてその身を守ろうとする。
上空から放たれたことにより、三日月には重力の加速まで付いている。
質量と速度を持った、これまで受けたものよりも桁違いの攻撃だった。
三日月がルシオラに激突すると、大きな衝突音が園内に響いた。

地面に降り立ったレイラは、三日月が敵に激突したのを見届ける。
魔本もなくあれだけの術を放つ魔物だ。
大人の魔物と見てまず間違いない。
一体どうやって魔界から人間界に魔物を呼び寄せたのか。
この千年でそういうことはなくなったのだろうか。
そう思った矢先の事だ。
ラージア・ミグセンの衝突で立ち込めていた土煙りの中から、一条の光が放たれた。
そういえば、とレイラは敵が呪文の詠唱をせずに術を発動させていた事を思い出す。
例え魔本に縛られなくとも、魔物の術の発動には呪文を叫ぶことが必要不可欠である。
故に、敵の攻撃には呪文を聞いてから反応できると油断してしまっていた。
ギガノ級の威力を持った光線がレイラに直撃し、その小さな体は茂みの奥まで吹き飛ばされてしまった。
ラージア・ミグセンの直撃を受けたにもかかわらず、土煙りの中から出てきたルシオラからはダメージを受けている気配が全くない。


「びっくりしたけど、あんな攻撃で私を倒せると思ったの?」

(そん…な……。ラージア・ミグセンが……効いてないなんて……)

56守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:05:39 ID:???


弱体化しているとはいえ、レイラの持つ術の中でも高威力を誇る攻撃だ。
それなのに傷一つつけられないとは。
レイラはぎり、と歯噛みする。

茂みが自分の姿を隠しているが、この場所に次の攻撃がくるのは時間の問題だ。

今の自分の力ではこの敵の力に遠く及ばない。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
私は仲間達を救うと決めた。
目前の敵は殺し合いに乗っている。
この敵を放っておけば、仲間達に必ず襲いかかるだろう。
それだけはさせてはならない。
自分がここで倒して見せる。
仲間達は、私が守る。

傷ついた体で、レイラは自分の右腕、その手首に目を向けた。
そこにあるのは金属製のブレスレット。
名を、『輪廻』という。

この支給品は、使用者の肉体年齢を操作する効果があると説明書には記されていた。
これを使って成長すれば、自分の術は今より強い威力を発揮できるかもしれない。
だが、この『輪廻』を使うことには多少の躊躇い(ためらい)があった。
使用した際の副作用があるのだ。
輪廻は使用者の実年齢に関する記憶を奪い、操作された年齢を本当の自分の年齢と確信させてしまう。
知識までは奪われないため、ガッシュ達の顔と名前は覚えていられるかもしれない。
しかし、それも教科書に載っている偉人程度の記憶になってしまうだろう。
それは知り合いではなく、ただ知っているというだけのもの。
輪廻を使えば自分の姿は変わってしまう。
その上ガッシュ達との関係性を忘れてしまえば、敵対してしまう可能性が出てくる。

レイラは仲間達を、自分を救ってくれた恩人達を守りたいのだ。
敵になってしまえば本末転倒である。

そんな迷いが生じているレイラの周りを、複数の光線が横切った。
ルシオラの光線の正体は霊力の奔流だ。
自身の膨大な霊力を収束し、目標に向かて放出する。
それは腕からだけでなく、周囲の空間から複数の霊波を放出させることも可能である。
ルシオラは止め(とどめ)とばかりに、レイラの居る一帯に向けて幾条もの光線を放っている。

57週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:07:05 ID:???

レイラに迷っている時間はない。
ここでこの敵を倒さなければ、仲間達に危害が及ぶのだ。
それは絶対に許されない。
許してはならない。

輪廻を使用してしまった場合の保険として、名簿には仲間の事を記述している。
ガッシュ。清麿。フォルゴレ。ナゾナゾ博士。
思い出すのは、短い間ではあったが共に戦った仲間達の姿。
あの仲間達の命を、こんなくだらない場所で失わせるわけにはいかない。
仲間達に危機を齎す(もたらす)敵を、野放しにしてはならない。
大丈夫、あの仲間達と敵対することなど絶対に起こらない。
そう、信じている。

思いを固めたレイラは、輪廻を発動させる。
今よりも強い自分。
眼前の敵を倒せる力を身に付けた自分。

レイラの体が、変化し始めた。

58週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:09:43 ID:???







「……何?」


攻撃を続けていたルシオラは違和感を感じていた。
強力な魔族であるルシオラは、魔力や霊力といったものを感じ取る能力を持っている。
例え相手が茂みに身を隠していようと、その位置を把握することが可能だ。
だが、その探知能力は優れているわけでもない。
感じ取ることができるのは強力な霊能力者や魔族の力のみで、普通の人間程度の霊力や浮遊霊のような魂までは感知できない大雑把なものである。
今の攻撃もレイラ本人を直接狙っているのだが、魔力の気配が消えていない。
攻撃が外れてしまっているのだろう。
まだ生きているのは確実だ。

気配が移動していない事から、動けないのかもしれない。
だとすれば、霊波の無駄撃ちを続けるよりも、近付いて確実に仕留めた方が賢明だ。
そう思った時であった。
魔力の気配が強くなったのだ。
場所からして、その源が少女であることは間違いない。
しかし、疑問が湧き上がる。
突然魔力が上昇したのはどういう訳か。
今まで力を隠していたのだろうか。
それとも、何か支給品を使ったのだろうか。

何をしたのかはわからないが、何かをしたのは確かだ。
面倒なことになる前に息の根を止める。

59守りたいもののために ◆AJINORI1nM:2011/04/14(木) 00:11:08 ID:???

ルシオラはレイラが居るであろう場所に向けて、五条の霊波を放った。
わざわざ何かをしている相手に近づく必要もない。
五条の光が気配のする場所を襲い、地面も草木も全てを吹き飛ばす。
土煙りが濛々と立ち込める中から、何者かが飛び出した。

飛び出してきた人物は、さっきまで戦っていた小柄な少女ではない。
二十歳と思しき(おぼしき)、若い女性だ。

この女性は何者なのか。
突然この場に現れた他の参加者であろうか。
いや、それは違うとルシオラは思う。
この女性には既視感を覚えるからだ。
女性の手には、先程の少女と同じ青紫色の本と小さな杖が握られている。
服装も、少女の服をそのまま大きくしたかのようにそっくりな作りであり、髪型や髪の色までもが少女と同じである。
頭から生えている角は少女の角よりも大きいが、少女が成長すればこれくらいの大きさになっていることだろう。
この女性は、先程の少女とあまりにもそっくりなのだ。

女性が少女と同一人物であるとの判断は一瞬でついた。
現に、女性の顔からは少女の面影が見て取れる。
姿を変える魔族など珍しいものではない。

60週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:14:31 ID:???


「それがあなたの本当の姿ってわけね!」

「あら、じゃあ私は今までどんな姿をしていたのかしら?」


どうやらまとも答える気はないらしい。
だが、相手がどんな姿に変わろうと、ルシオラのやる事は変わらない。


「訊いているのは──」


ルシオラはレイラの動きに合わせて腕を動かす。
腕の先に霊力を収束させた。


「──こっちの方よ!!」


ルシオラの腕から光が放たれる。
しかし、レイラの動きは少女の時とは比べ物にならない程速くなっていた。
近距離での高速移動に加え、先程までの少女の速度を想定していたルシオラは、レイラの動きを完全に捉える事ができなかった。
ルシオラが放った光線はレイラが通り過ぎた空間を空しく(むなしく)通過し、植物園に破壊の爪跡を残すに終わる。
レイラは攻撃直後の隙を衝き、ルシオラの真横を取ると同時に杖を構えた。


「ラージア・ミグセン!」


レイラの持つ杖から、巨大化した三日月が放たれる。
至近距離からの攻撃だ。
霊波で迎撃できる時間はない。


「このっ!」


ルシオラは力任せに片腕を三日月にぶつける。
先程と同じ攻撃と思い直接受けたが、威力も強度も格段に跳ね上がっている。
一度受けた攻撃とは言え迂闊な事をしたか、と一瞬肝を冷やしたが、体へのダメージはさほど感じられない。
このまま押し切っても問題はないと、腕に込めた力を更に強める。

三日月を砕きながらレイラへと強引に狙いを定め、そのまま霊波を放出した。
光の線は狙い通りの場所へ向かって突き進む。だが、そこにレイラの姿は存在しない。
巨大な三日月の陰になって気付かなかったが、レイラはラージア・ミグセンを放った直後に行動を再開していたのだ。
ルシオラから放出された光は木々を吹き飛ばし植物園の壁すら貫くも、目標であったレイラの気配はすでに植物群の中。
レイラのおおよその位置は掴めるものの、所詮はそれまでだ。
ルシオラの探知能力では、絶えず移動している気配を正確に捕捉することはできない。

61週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:16:44 ID:???


「ちょこまかと!」


感じられる気配に向けて再度霊波を放つ。
しかし、無駄撃ちの回数を増やしただけで、目標にはかすりもしない。
ここまできて、ルシオラは苛立ちを覚え始める。

最初は楽な相手と思っていた。
事実、あちらの攻撃はこちらに効かず、逆にこちらの攻撃はあちらに効いている。
間違っても苦戦するような相手ではない。
それなのに、攻撃を直接当てることができたのは一度だけ。
それ以降は無駄な力を浪費してし続けている。
ルシオラは、どうやってこの敵を確実に仕留めるかを考えあぐねていた。




「……攻撃が効いていないわね」


レイラは園内を疾走しながら考える。
敵の様子を見る限り、敵がダメージを負っているようには感じられなかった。
ラージア・ミグセンはレイラの術の中でも高い攻撃力を有している。
だというのに、それが相手を倒す足がかりにすらなっていない。

連続で攻撃できれば勝機も出てくるかもしれないが、レイラの術はどれも杖による三日月の操作の術である。
小さな術ならば連続攻撃も可能だが、大きな術はその要である三日月を飛ばすのだ。
三日月が回復するまでの間、次の攻撃は不可能である。

三日月の回復に要する時間は数秒にも満たない。
だが、その数秒が勝負の行方を左右する事をレイラは理解している。
戦闘における一秒の遅れは、自身が敗北するのに十分な時間となるのだ。

62週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:18:22 ID:???



「せめて、パートナーが居れば……」


パートナー。
無意識に口を吐いた自分の言葉に、レイラは何か懐かしいものを感じた。
パートナーとは魔本を読むことのできる人間のことで、魔界の王を決める戦いにおける重要な存在である。
パートナーが居なければ魔物の子は術が出せず、圧倒的不利な状況に陥ってしまう。
魔界の王を決める戦いは魔物ならば誰でも知ってることであり、この程度の知識は魔界の一般常識だ。
魔物の中には、パートナーを術を唱えるためだけの存在と考える者も居るが、そうではないことをレイラは知っている。
どうしてかはわからない。
しかし、術を唱える役割とは違う、もっと別の、大切な何かを『パートナー』という言葉からレイラは感じ取っていた。
もしかしたら、自分は魔界の王を決める戦いに参加していたのかもしれないとレイラは思う。
かもしれないというのはここに連れてこられる以前の記憶が自分にはないからだ。
思い出そうとしても、霞がかかったようにぼんやりとしてしまっている。
わかることは、自分が何者かということと、殺し合いの場に居るという今の状況。
そして、目の前の敵を倒さなければならないという、湧き上がる思いだけだ。

この気持ちはどこからくるのか。
あの敵は攻撃力、防御力共に高い。
自分の力で太刀打ちできないのは明白だ。
普通ならば、逃げるのが得策だろう。
敵わない(かなわない)敵に向かっていくのは愚行以外の何物でもない。
そこまでわかっているのに、不思議と逃るという考えを自分で否定してしまう。
逃げれば大切なものを失ってしまう。あの敵を倒さなければ必ず後悔する。
その強い思いがレイラをこの場に留めていた。

退く気はない。
が、敵を倒すには力が足りない。
この状況をどうやって打破するか、そう考えていた時だった。
謎の声が、レイラに呼びかけた。

63週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:20:40 ID:???





◆ ◆ ◆





ルシオラはこの状況を打破することを決めた。
敵の気配はわかるが、目視できなければ攻撃を当てることは難しい。
ならば、障害となる植物を先に薙ぎ払ってしまえば良い。
まずは気配の進行方向にある草木を霊波で吹き飛ばす。
ルシオラから放たれた光が通り過ぎた後には、開けた空間が出来上がった。
これならば敵が飛び出した瞬間に狙い撃つ事が可能だ。
次に、気配のやや後方に向けて霊波を放つ。
気配の周りの見通しを良くし、隠れられる場所を徐々に無くしていく。

敵は姿を見せるのを躊躇っているのか、残った茂みの中で動きを止めている。
後は炙り出すだけだ。
目の前の一帯にむけて、全ての草木を一掃しようと霊波を放った。
その時、初めて聞く声がルシオラの耳に届く。
女の声ではない。
若い、少年のような声だ。
その声はレイラの気配のする辺りから聞こえてきた。
だが、感じられる気配は一つだけだ。

また姿を変えたのか、それとも霊力の低い他の参加者が居たのか。
どちらにしろ関係ない。
ルシオラの放つ光が、レイラを隠していた植物達を消し飛ばす。
破壊音の後には、背の高い木や身を隠す茂みがほとんどなくなっていた。
少し木屑が舞っているが、自分から見てやや右寄りの位置に立っている青紫色の服を視認することができる。

あの場所から残っている植物群までには、十分な距離がある。
動きが速くなっているといっても、狙いを付けて攻撃を当てることは可能と判断する。
問題は先程聞こえた声の主だ。
目の前の女性に姿が変わった様子はない。
しかし、レイラの他に人影は見当たらない。

答えはすぐに見えた。
黒い羽の生えた不気味なものが、レイラの近くで宙に浮いていたのだ。

64週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:21:39 ID:???


(あれは通信鬼……!)


通信鬼。
魔界に棲む低級の鬼で、同種間ならば例え異界であろうと音声の伝達ができる存在である。
主に魔族が、その名の通り離れた相手との通信に使用している。

通信鬼自体の霊力は非常に低い。
茂みから一人の気配しか感じられないのも当然のことだった。
その通信鬼から、先程聞こえた声と同じ人物の声が発せられる。


『左手の茂みに向かえ! そこが一番近い!』

「了解よ!」


レイラは通信鬼から発せられた声に応じると、全速力で動き出そうと足を曲げた。

65週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:22:13 ID:???


「仲間が居たのね!」


確かに、レイラの立つ位置からはそちらの茂みが一番近いだろう。
だが、声が丸聴こえである。
これでは『今からそこに移動するから狙い撃ちにしてくれ』と言っているようなものだ。
ルシオラはレイラから見て左手、ルシオラから見て右手へと腕を動かす。
レイラは持てる力の全てを使い、地面を蹴って一気に跳躍する。
ルシオラから見て左。八時の方向へ向けて最大速度で体を飛ばした。


「はっ!? どういうこと!?」


ルシオラは右に動かし始めた腕を急いで左へと戻すが、一度動かした腕はそう簡単にはレイラの速度に追いつけない。
もう片方の腕を使うにしても、一度収束しかけた霊力を移動させるのは、何もしていない状態から霊力を収束させるよりも数瞬遅れるのだ。
その上、レイラは地面を駆ける平面の動きではなく、斜め上方に飛び上がる立体の動きをした。

茂みに向かって地を駆けると予想していたルシオラの攻撃は、レイラに当たることなく植物園を破壊する。


(信用してなかったってこと!? まさか右と左を間違えたってオチじゃないでしょうね!)


ルシオラはレイラが跳んだ先へ急いで振り返る。
まだレイラは空を跳んでいる途中で、着地はしていない。
距離は遠いが、あれならば攻撃を当てることなど簡単だ。
この一撃で確実に仕留める。
そう思いを強めたルシオラは、五条の光をレイラに向けて放出した。
まだ殺し合いの序盤と言う事もあり力を抑えていたが、今回の光の束には今までよりも多く霊力を込めている。
今度こそは外さないと、未だ空中に居るレイラを睨みつける。

66週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:24:22 ID:???

レイラはルシオラの攻撃を予期していたかのように、体制を変えてルシオラの方を向いていた。
術で迎撃するために、迫り来る光に向かって杖を構える。
心の力が注ぎ込まれた魔本が輝きを放ち、呪文が叫ばれた。


「ミシルド!」





◆ ◆ ◆





ルシオラは、視界の端で何かが輝くのを捉えた。
植物園の奥。高さ三メートル程の土手の上だ。
そういえば、とルシオラは思い出す。
この敵は攻撃を放つ時、持っている本が光り輝き、そして攻撃の名前であろう言葉を叫んでいた。
しかし、今のレイラの手元には杖しかなく、あの青紫色をした本がいつのまにか消えているのだ。
その事に気付くと同時に、ルシオラの耳に遠くから叫び声が届いた。
レイラの声ではない。通信鬼から聞こえた少年の声だ。
まさかとレイラに意識を戻すと、レイラの目の前に三日月型の盾が出現し、五条の光線を防いでいた。


「そんな!」


ルシオラは驚愕する。
この攻撃は、これまでの霊力の節約のために抑えて撃っていた霊波とは違う。
確実に相手を消し飛ばすための攻撃だ。
それを、あんな顔の描かれたおかしな盾で防がれるなどありえない。

67週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:27:12 ID:???
ルシオラは攻撃の出力を更に上げる。
流石に耐えきれなくなったのか、三日月の盾に亀裂が走り始める。
だが、ルシオラもこれ以上の連続した霊力の放出は限界だった。
一旦攻撃を終わらせ、再度霊力を収束させる。
その間に、レイラは土手へと着地していた。

ルシオラの居る場所から土手までは距離がある上、植物が邪魔をし見通しが悪い。
今までは、障害物のない空中は格好の的になるため飛ぶ事を控えていたが、相手の居場所がわかる今ならば問題はない。
ルシオラは見通しの良い空中に飛び上がると、土手へと目を向ける。
土手の上は木々の間隔も広く、敵の姿を見失うこともないだろう。

目を凝らして見れば、土手にはレイラの他にもう一人、少年の姿があった。
年の頃は十二歳に見える。
少年の手には、青紫色のレイラの魔本が収まっていた。
自分が少年の存在に気付けなかったということは、ただの人間だろうか。
力を隠している魔族や霊能者の可能性もあるが、関係ない。
アシュタロス様以外の者は全て葬るだけだ。

ルシオラは再び収束した霊力を、土手に向かって放出する。
もう手加減はしない。
本気で放たれた六条の光が、二人目掛けて直進した。

68週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:28:46 ID:???


「ラージア・ミグセン!!」


少年が呪文を唱えると同時に、レイラの杖からラージア・ミグセンが放たれる。
今までのラージア・ミグセンとは違う。
前回のものよりも一周り大きくなった三日月が、光の束へと突き進む。



「こんな……こんな馬鹿な事が……!!」

ルシオラは、目の前で起こっている事が信じられないでいた。
本気で放った霊波の束が、三日月を破壊できないどころかその進撃を止める事すらできていないのだ。
アシュタロス様の眷属である自分の本気が押し負けている。
まさか相手はアシュ様に匹敵する力を持っているとでも言うのか。


「くっ!」


霊力の放出を止め、空中で三日月を避ける。
このままでは拙い(まずい)。
どういう訳かは知らないが、敵の力が格段に上がっている。
それも、アシュ様の脅威に成りえる程の力だ。
今ここで倒さなければ、アシュ様に害を成す危険性がある。
アシュ様の行く手を阻む者は全て排除する。
それが眷属たる自分の役目であり、存在している理由だ。
この命は、アシュ様のためだけに在るのだ。

69週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:30:10 ID:???

一連の行動を見た限りでは、やはりあの二人は仲間であるらしい。
知り合い同士が呼ばれていることは、私とアシュ様、最初の広場の様子で察しはついていた。
敵の攻撃にはあの本と技の叫びが必要ということも、今までの戦いから想像がつく。
おそらく、空中で少年の元へ本を投げ飛ばしたのだろう。

あの青紫の髪の女は、通信鬼で仲間と連絡を取り合った後に不可解な行動をとったが、結果的にに仲間の所へ無事に到達している。
あの通信自体が罠だったと考えるのが妥当だろう。
いつの間に一連の行動を伝え合ったのか疑問に思うところだが、今は保留だ。
敵はもはや雑魚から難敵にまで強くなっている。
しかし、こちらにも奥の手はある。

ルシオラの手には勾玉が握られていた。
一見するとただの装飾具に見えるが、『竜の牙』と呼ばれる変幻自在の神の剣だ。

ルシオラは竜の牙に自身の霊力を込める。
竜の牙はルシオラの霊力によってその形を変え、騎乗槍へと変貌した。
ルシオラはその槍を構えると、少年目掛けて一気に加速する。
攻撃役である女の方は、本が無ければその力を発揮する事ができない。
ならば、先に本を持つ者を狙うのは当然のことだ。

ルシオラが猛スピードで迫っているというのに、少年はその場を動こうとしない。
レイラは少年を守るように移動し、ルシオラへ杖の照準を合わせる。
少年の持つ青紫色の魔本が、術を発動さるために輝き始めた。


(かかったわね!)


ルシオラは、敵が自分の術中に嵌まった事で勝利を確信した。
彼女は蛍の化身である。
その能力は光を操り幻影を作りだすこと、そして獲物に麻酔し昏倒させることだ。

空中を飛ぶルシオラは光が生み出した幻影。
本物はすでに二人の背後に回り込んでいる。

70週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:31:38 ID:???

光を操り姿を消したルシオラを、二人が視認することは不可能だ。
幻影に集中している今が好機。
ルシオラは手に持つ竜の牙を構え、縦に並んでいる二人を貫こうと襲い掛かった。
そして、その動きに呼応するかのように少年が呪文を叫ぶ。


(えっ?)


少年が呪文を叫び始めると同時にレイラの体が振り返る。
レイラの杖は、見えないはずのルシオラを完全に捉えていた。


「ミグロン!」

杖から放たれた光の鞭がアルの頭上を通り過ぎ、ルシオラ目掛けて突進する。
動き始めたばかりのルシオラの体では、今更回避行動をとっても間に合わない。
とっさに竜の牙を盾にしようとするが、最速の術であるミグロンを防ぐにはもう遅かった。

光の鞭は、ルシオラの体へ打撃となって突き刺さる。


「がはっ!」


衝撃で空気が体の外へと押し出された。
この術までもが強化している。
痛みはあるが、内臓へのダメージはない。
ルシオラの幻影はまだ二人に向かって突き進んでいたが、レイラの体を通り抜けるとそのまま霧散した。
まるで最初から幻影であると知っていたかのように、二人はそれに対する反応を示さない。

71週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:33:49 ID:???

計略に気付かれたのか。
一体、どこで気が付いたというのか。
そもそも、どうやって姿を消している自分の居場所を知ることができたのか。
見当も付かないが、それを考えている時間はない。

撤退か、反撃か。
まだ自分の姿は消えている。
退けば、大きな攻撃で狙われる危険がある。
少年の方はおそらく人間だ。
この近距離であの巨大な三日月を出せば、どう考えても少年にまで被害が及ぶ。
まさか自らの危険を省みずに、そんな大技を叫ぶ事はないだろう。

ここは無理矢理にでも接近し、反撃へ転じるべきだ。
先程の光の鞭は耐えられる。
こちらには竜の牙がある。
大丈夫だ、問題ない。

ルシオラは崩れた体制を立て直し、反撃に出ようとした。
だが、ルシオラが体制を立て直す前に少年が指示を出す。


「レイラ! そのままだ!」

「わかったわ!」

「ラージア・ミグセン!」


言いながら、少年は横へと移動する。
呪文が言い終わると同時に、レイラの杖の先端にある三日月が巨大化し、切り離される。
先程まで少年が立っていた空間すら飲み込むまでに巨大化した三日月は、ルシオラ目掛けて突撃を開始した。

72週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:34:59 ID:???


(嘘でしょっ!?)


一体何を考えているのか。
この至近距離でこんな技を遣えばどうなるかなど、子供でも想像できるはずだ。
しかし、攻撃は既に放たれた後だ。
攻撃を防ぐために、ルシオラは迫り来る三日月へ向けて竜の牙を突き立てる。
三日月を迎え撃つは、神の剣たる竜の牙だ。
ルシオラの膨大な霊力で発動している今ならば、いかなる攻撃であろうと防げないものは存在しない。

そう、本来の状態であれば、威力が段違いになっているラージア・ミグセンとはいえ、竜の牙で防ぐことができただろう。
だが、ルシオラは崩れた体制でこれを迎え撃ったのだ。
力を出し切れない状態では、ラージア・ミグセンを完全に無力化することはできなかった。
上手く力を伝えられなかったせいか、竜の牙は三日月の一部を砕いただけに終わり、残りの大半部分に押し切られてしまう。


(そん……な……)


ラージア・ミグセンの勢いは、ルシオラに激突するだけでは止まらない。
ルシオラごと地面にその身を沈みこませ、土手の一部を雪崩のように崩してしまった。
直撃を受けたルシオラの体を痛みが襲う。
今まで経験した事のない激しい痛みだ。
光を操り姿を隠していたが、今の衝撃でそれも解けてしまっている。
敵の姿を確認するが、二人の姿はどこにも見当たらない。
三日月を放った直後、巻き添えを喰らわないように少年──アル・ボーエンを抱えたレイラは大きく後退し、
土手から離れた場所へと降り立っていたのだ。

73週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:36:06 ID:???


(ダメだわ……。私の力じゃ……とても………)


ルシオラはこの二人に勝利するのは無理だと判断した。
突然跳ね上がった力。
幻影を看破する方法。
全てが謎である。
今や自分と相手の力の関係は逆転し、圧倒的に不利な状況に陥っていた。
今はまだ殺し合いが始まったばかりである。
強力な敵にいつまでもこだわっていては非効率だ。
この会場内には、竜の牙のような強力な支給品がまだまだ多くあると思われる。
ここは一度撤退し、他の弱い参加者から支給品を奪い、二人を倒せるだけの力を用意してから再戦した方が得策だろう。

問題はアシュ様がこの二人と戦う事になってしまった場合だが、アシュ様は自分とは比べ物にならないほど強い。
仮に不利な状況に陥ったとしても、撤退し体制を立て直す聡明さを持ち合わせておられる。
どのような人物が相手であろうと、アシュ様が倒される可能性など無に等しい。

まずは参加者を減らしながら、力を集める事が先決だ。
そう考え、撤退しようとしたその時である。

74週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:37:43 ID:???


「レイラ、あいつ逃げようとしているぞ」

「ダメよ。逃がすわけにはいかないわ」

「ああ、僕もあんな危険な奴を野放しにする気はない」

「それじゃあ、お願いできるかしら、アル」

「無論だ。僕を誰だと思っている」


確かに、ルシオラは逃げようとしていた。
しかし、行動どころかその素振り(そぶり)すらまだ見せてはいない。
いや、それ以前にこの位置ならば自分の姿を見ることもできないはずだ。
それなのに、考えが敵の二人に読まれてしまっている。


(……考えが……、読まれている………!?)


ルシオラは気付いた。
何故、この二人は気取られることなく、あれだけの行動を伝え合うことができたのか。
何故、作戦が見破られ、見えないはずの自分の位置までもがばれたのか。
ルシオラは土の中から身を起こすと、少年に向かって怒りを込めて叫ぶ。


「あなた、テレパシストね!!」

「……少し違うな。説明してやっても良いが、生憎とそんな暇は僕にはない」


レイラが、最後の仕上げと杖を構える。
アルの持つ魔本が、今までにない輝きを放ち始めた。


「ちっ!」


心が読まれているならば、一刻も早くここから離れなければならない。
アシュ様に関する、知られてはならない事柄まで知られてしまうではないか。
そんなことになれば大失態では済まされない。
今は逃げる事だけを考え、他の事は一切考えないようにする。
この場から逃げる。
逃げる、逃げる、逃げる!
その、ただ一点のみに集中し、ルシオラは一気に飛び上がった。

75週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:39:47 ID:???



「逃がさないと言ったはずよ!」

「ミベルナ・マ・ミグロン!!」


アルの叫びと同時に、植物園内の中空に数十個の三日月が展開される。
ラージア・ミグセンよりは一回り小さいかもしれないが、その一つ一つは巨大というには十分な大きさだ。


「2(ベー)、5(エー)、19(イス)!!」

「回転(ロール)!!」


二人の掛け声と共に、多数の三日月の内の三つがその巨躯を自ら回転させ、ルシオラの進行を妨害するように動きだす。
ただそこにあるだけでも十分に逃走を阻害している三日月が、更に凶悪な障害物となってルシオラの前に立ちはだかった。


「このっ!」


一つの三日月を避けても次の三日月が進行の邪魔をし、それを避けても次の三日月が、
そして再び舞い戻った最初の三日月がと延々妨害を繰り返し、ルシオラを植物園内に押し留める。


「邪魔なのよ!!」


ルシオラは自分の進路を妨害している三日月の一つに向かって霊波を放つ。
だが、三日月は固い。
霊波では壊せないとわかると、ルシオラは攻撃方法を変更した。
ありったけの霊力を注ぎ込んだ竜の牙を構え、一番近いガラス張りの壁に向かって突撃したのだ。
当然、三つの三日月が進行を妨害するが、目の前の障害全てを打ち砕くつもりの渾身の突撃だ。
一つ目の三日月に竜の牙が突き刺さり、そこから三日月全体に亀裂が広がる。
力が入っている今ならば、竜の牙で壊せないものなど何もない。
そう確信した時だった。

76週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:40:24 ID:???


「2(ベー)、5(エー)、19(イス)!!」

「攻撃(ファイア)!!」


言葉と同時に、ルシオラが竜の牙を突き立てた三日月、そして近くを動いていた二つの三日月が同時に爆発する。
爆風でルシオラの体が、まだ残っている植物群まで吹き飛ばされる。
茂みが地面にぶつかる衝撃を和らげてくれはしたが、ラージア・ミグセンで受けた傷、そして今の爆発の衝撃と熱で体が悲鳴を上げている。
ラージア・ミグセンもそうだが、この攻撃もそう何回と耐えられるものではない。
それどころか、数が多く自在に動き回る分、こちらの方が厄介だ。

……やはり、この二人は危険だ。
この攻撃では、アシュ様でさえ対処仕切れるかわからない。

逃げることだけを考えようとしたルシオラだったが、今はアシュタロスの身を按じている。
この二人を放置しては大変な事になる。アシュ様の身に危険が及んでしまう。
べスパもパピリオもここには居ない。
アシュ様の味方は、この会場内には私一人だ。
……守らなければ。
私がアシュ様を、お守りしなければ。
こんな敵だらけの場所で、私以外の誰がアシュ様の味方をするというのか。
私が。アシュ様の眷族であるこの私が、必ずアシュ様を救い出して見せる!

決意を固くしたルシオラは、事前に考えておいたある一つの作戦の実行を決断する。
この状況を打破するには、もうこれしか残されていない。
ルシオラは自分に支給された残りの二つの品を思い出す。
一つは今は使えないが、もう一つは非常に強力なものだ。
もしもの時のために温存しておきたかったが、そうも言っていられない。

77週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:41:01 ID:???


「まずい! 何か仕掛けてくるぞ! これで終わらせる!!」

「了解よ! 3(セー)、7(ジー)、9(アイ)、17(キュー)、24(エクス)!!」

「回転(ロール)!!」


五つの三日月が回転を始め、ルシオラ目掛けて襲い掛かかる。
しかし、既にルシオラは蔵王を取り出していた。
こんな所で負けるわけにはいかないのだ。
ルシオラは手に持った蔵王を襲い来る三日月達に向け、中から支給品を飛び出させる。
蔵王から飛び出したものは、巨大な卵のような形をしていた。
表面はひび割れ、目玉が一つ付いている。
目玉を正面とするならば、右側面に付いているのは鎌だろうか。
卵の底に当たる部分からは、石でできているかのように固く尖った脚が、十数本生えている。


「間鎚! 私を守る結界を張りなさい!!」


間鎚と呼ばれた妖がその命令を受けると、ルシオラを含めた周囲一帯を電流のようなもので四角に囲んでしまう。

襲い掛かって来た三日月がその電流の上を通過しようとするが、三日月の動きが突然止まり、いきなり崩れ落ちてしまった。
後続の三日月も同様だ。
何か目に見えない壁に遮られているかのように、五つの三日月はその役目を果たせず、間鎚の結界によって全て落とされてしまったのだ。

78週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:42:22 ID:???


「そんな馬鹿な!」

「アル、あれは何なの!? あなた心が読めるんでしょう?」

「結界を自在に張る妖怪……だと? 馬鹿馬鹿しい! それに、……なんだ? あの女の思考が読めなくなっている……くそっ!」


アルがルシオラから読み取れた間鎚の正体は、結界を張る妖怪だということ。

妖怪などこの世に存在しない。
そんなものは空想の産物、人の恐怖心が生んだ虚構にすぎない。

だというのに、ルシオラの思考はそれをすんなりと受け入れており、そんなものが存在するのが当たり前だと言わんばかりの情報まで入っていた。
全ての情報を捌き切れたわけではないし、最初は何かの暗号かとも思った。
しかし、現に目の前に妖怪は存在し、隣では魔物が共に戦っている。
非常識にも程がある。


「その結界を破る方法はないの!?」

「今考えてるところだ! 結界とかいうものを張る前の思考は読めたが、あれを破るのは至難の業だぞ!」


やはり、あの結界を張っているという間鎚本体を直接狙うのが良いのか。
弱点らしきものまでは読み取れなかったが、必ず結界を破る方法があるはずだ。
そう考えたところで、ルシオラの声が聞こえてきた。
自分達に向けた呼びかけではない。
間鎚に向けた新たな命令だ。


「間鎚! あの二人を閉じ込めるように結界の張り直し! そして結界を狭めて押し潰しなさい!!」

「何だとっ!?」

79週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:44:32 ID:???


使用者であるルシオラの命令を聞き、間鎚は結界を一度解除する。
そして、間鎚の居る場から二人の場所までを囲む、新しい結界を張り直したのだった。

間鎚によって新たな結界が作られると、植物園内に浮かんでいた三日月達に変化が起こる。
正確には、結界の外にある三日月達だ。
結界の外に浮かんでいた三日月達は、急にその力を失い地面へと落下した。
結界内に残っていた三日月は健在だったが、結界外の三日月は全滅だ。
いくら動かそうと力を送っても、ぴくりとも動かなかった。

結界が無事に張り直された事を確認したルシオラは、二人を一瞥しただけで、もう興味はないといった風に空中に飛び上がる。
飛び上がったルシオラはそのままガラス張りの天上を突き破り、植物園の外へと逃走した。


「おい! 待て! この結界を何とかしろっ!!」


アルは叫ぶが、後の祭りだ。
結界内の三日月の数はわずかに三個。
この状態から、どうにかして結界の外へ脱出しなければならなくなった。


「……アル」

「ああ、わかってる! 今どうやってこの結界を破るかを考えてるところだ!」


結界自在妖『間鎚』。
この妖怪の張る結界は、一体で二百七十体の妖怪を封じるだけの力を持っている。
つまり、二百七十体の妖怪が何かをしたところでびくともしない力を、この結界は持っているという事だ。
しかも、結界は本体である間鎚の周囲にも張られている。
単純に間鎚本体を叩けば解決するという話でもない。

打開策はないかと考えを続けているアルの耳に、何かが壊れる音がした。
音のした方を見ると、間鎚の張った結界が狭まり(せばまり)、結界に触れた草木が音を立ててて崩壊している。
早く脱出する方法を考えなければ、自分達もああなるのだろう。
アルは思考を続行する。


(くそっ! 僕は人類最高の頭脳にして超天才、アル・ボーエンだぞ! 妖怪だろうが結界だろうが、初めて知ったという理由で屈してなるものか!!)

80週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:46:05 ID:???





◆ ◆ ◆






闇夜を飛行するルシオラは、振り返り後方へと目をやった。
視線の先にあるのは、闇の中で煌々と光りを放つ、ガラス張りの植物園。
戦闘のせいでガラスのいくつかは砕け、外壁にも数箇所穴が空いている。
ガラスや壁の穴から光が漏れ出ており、闇夜を照らすその姿は、少し綺麗だと思った。

中では、間鎚が上手くやっているだろう。
ルシオラは植物園内での戦闘を思い出す。
敵は本当に強かった。
いや、強くなった。

初めは取るに足らない弱い存在だった魔族の少女が、戦闘中にその姿を変え、アシュタロス様の眷族である私を超えるまでに力を強くしたのだ。
支給品のせいか、それともあれが本来の力だったのか。
判断はつかないが、ともかくあれ程の力だ、アシュ様も苦戦してしまうかもしれない。
その上、途中から現れた相手の心を読む少年も厄介な存在だ
正確ではないと言ってはいたが、相手の思考を読み、そして自分の思考を他者に伝える能力を持っていると見て間違いない。

この二人の死亡を確認せず、間鎚に任せたままにしておくのは、正直言って後ろ髪を引かれる思いだった。
上級魔族以上の力を持った者達だ。結界から脱出してしまう可能性もある。
万が一にも二人がアシュ様に傷を負わせるような事になれば、それは自分の責任だ。
戻って死亡を確認したいという気持ちが込み上げたが、ルシオラはそれを抑え込む。
今、自分がするべきことはそれではない。
この会場に潜む危険は二人だけではないのだ。

変幻自在の神の剣『竜の牙』。
結界自在妖『間鎚』。
ルシオラに支給された物だが、このどちらもが破格の品であった。

他の参加者にも同格か、それ以上の物が支給されているのだろう。
そんな強力な支給品を複数集めた者が現れてしまえば、ただの人間であっても十分な障害と成りえてしまう。
それに、自分もそうだが、アシュ様やあの青紫色の髪をした魔物のように強力な者も連れてこられている。
今はまだ殺し合いが始まったばかりなのだ。
こんな序盤からそのような強敵と戦えば、消耗し切ってしまい勝てる相手にも勝てなくなる。
まずは参加者を殺害しながら支給品を集め、力を蓄えてから強敵を消して行くのが効率的だ。


(それに、探す物もできちゃったしね)

81週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:48:29 ID:???


ルシオラに支給された三つ目の支給品。
それは、何も書かれていない木札だった。
一見するとなんの変哲もないただの木札だが、説明書によるととんでもない代物であることがわかる。

『空白の才』。
この木札に欲しい才能を書くと、その才能を手に入れることが可能だというのだ。
これは何でも願いが叶うことと等しい効果である。
だが、肝心の才能を書くための筆が別に存在するらしい。
それを見つけることができれば、勝負をかなり有利に進めることができる。

“勝利の才”や“生存の才”等、使い道は様々だが、自分で使う事はしない。
昔から願いを叶えるという類のものには回数制限が設けられている。
おそらく、一度書いてしまえば取り消しは不可能になるだろう。
ならばこれを使えるのはアシュ様だけだ。
自分やその他の者が使って良い品ではない。

となれば、空白の才を他の参加者に奪われ、ましてや使われる事態だけはなんとしてでも避けなければ。
その事を肝に銘じ、ルシオラは前に向き直ると街中へ向けて飛行を続けた。



私はアシュ様の眷族。
私はアシュ様を守る者。
私は、アシュ様の味方だ。

82週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:49:20 ID:???





◆ ◆ ◆ 





植物園内。
間鎚の張った結界は内と外を完全に遮断しており、結界外の三日月を動かす事は不可能だった。
ルシオラの心が読めなくなったのも結界のせいだろう。

アルとレイラは間鎚のすぐ近くまでやってきていた。
この結界の発生源はこいつである。
これを直接叩けば良いとも思ったが、近くに散乱している木片を投げると、間鎚本体にぶつかる直前に砕けてしまう。
本体の周りにも結界が張られているらしかった。
本体への攻撃が駄目なら、どこかに綻びはないかと周囲を見渡し、アルは気付く。

天井が壊れていない。
もしかしたら、上空から脱出できるかもしれないと、試しに三日月の一つを上空に移動させる。
だが、ある高度に達すると三日月の先端が崩れ始めた。
残り少ない三日月を更に少なくするわけにはいかない。
急いで三日月を降下させる。

結界の境界線は、草木が新たに破壊された跡でわかる。
どうやらこの結界は立方体の形を形成しているようだ。
正に八方塞がりの状態だ。
結界だの妖怪だのといったものは、いつもなら空想の産物と一蹴してやったが今は違う。
どういう原理かは知らないが、内と外を隔てる見えない壁が、そしてその壁を発生させている不気味な生命体が目の前にある。


(良いだろう。今はそのふざけた存在を認めてやる)

83週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:51:23 ID:???


アルは今までにARMSやサイキッカーといった、一般常識とはかけ離れた存在を目の当たりにしてきている。
今更非常識の一つや二つが増えたところでなんだというのか。


(僕は今世紀最大の頭脳にして超天才、アル・ボーエンだ。今から全ての事象を分析し、この状況から脱出してみせる!)


結界の大きさは、二人が囲まれた時から三分の二の大きさにまで小さくなっている。
ゆっくりとではあるが、確実に死の時が迫っている状態だ。
結界が更に狭まり、また少し草木が崩れ去った。


「……アル、気付いたことがあるわ」

「気付いたことだと? 何だ、言ってみろ」


レイラはアルに説明を始める。
この結界の崩壊現象についてだ。
結界が狭まり、結界に触れた物体は崩壊を始める。
だが、それは結界に触れた物全てが、一斉に崩壊を始めているわけではなかった。
一本の木が結界に触れ、その身を崩し始める。
それなのに、隣に生えている木には何も起きてはいない。
最初に崩壊を始めた木がその身を崩し終えた頃に、ようやく隣の木に崩壊が訪れる。
この一連の現象は数瞬の内に終わってしまうが、まるで結界の周囲を一周するかのように規則的に移動している。
人間では気付く事のできない、魔物であるレイラだからこそ視認することができた一瞬の出来事であった。

84週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:52:47 ID:???


「……そうか、わかったぞ! この間鎚は自らエネルギーを放出して結界を張っているんだ
 おそらくは電流と磁場の関係のように、空間にエネルギーを流すことで平面的な力場を発生させているんだろう」

「言ってることは私にはわからないけど、ここから出ることはできるの?」

「できる! エネルギーを流して結界を張っているのなら、そのエネルギーを途中で遮ってしまえば良い!」


アルは即座に作戦を立てた。
まず、崩壊は左周りに移動しているらしい。
エネルギーは間鎚の右側面から出ていると見て間違いない。
間鎚から流れているエネルギー流に直接三日月を挟み込ませ、エネルギーの流れを遮る。
そうしてできた結界の空白地帯を通り抜け、外へと脱出するのだ。


「準備は良いかしら?」

「ああ、いつでも良いぞ」

「それじゃあ、行くわよ! 8(エイチ)、15(オー)、23(ダブ)!!」

「回転(ロール)!!」


三個の三日月が回転を始め、間鎚の放出するエネルギー流へ向けて突き進む。
一つめの三日月がエネルギー流に触れ、その身に亀裂を走らせた。
その三日月が崩壊する前に、エネルギーの通り道に沿うように残りの三日月を配置する。
一つめの三日月がエネルギー流に耐えきれず崩壊するが、二つ目の三日月が結界を形成しようとするエネルギー流を再び遮る。

85週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:53:53 ID:???


「今だ! 頼んだぞ!」

「まかせて!」


アルを抱きかかえたレイラが、結界の外へ向けて横跳びに跳躍する。
間鎚のエネルギー流はすでに二つ目の三日月を破壊し、最後の三日月にも亀裂が走っている。
一瞬でも遅れれば二人の命はない。
体を倒し、全力で跳躍したレイラの体が間鎚の横を通り過ぎる。
それと同時に最後の三日月が崩壊し、間鎚の結界が再び展開された。
レイラは一歩二歩と地面を蹴って速度を落とし、芝生の上で体を停止させる。
二人は、無事に間鎚の結界から脱出する事ができたのだ。


「ふう。ありがとう、アル。あなたのおかげで助かったわ」

「ふん! 超天才であるこの僕が居るんだ。当然の結果だ」


アルの態度は尊大だった。
しかし、その後照れくさそうに言葉を付け加える。


「……だが、まあ、僕一人の力では脱出不可能だったのも事実だ。君のおかげで助かった。礼を言う」

「ふふ、どういたしまして」

「ところでレイラ、提案があるんだが」

「あら、何かしら?」

86週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:55:10 ID:???


アルは未だ結界を展開している間鎚に目を向ける。
閉じ込めておく者はもういなくなっているというのに、考える力のない間鎚は命令を実行し続けている。


「やはりな。支給品になっていたものだ。通信鬼のように道具としての側面が大きいだろうと思っていたが、案の定だ。
 こいつをこのままにしておいて、再び使われるのも面倒だ。ここで破壊するぞ」

「……さっきの敵は追わないの?」

「確かにあいつは危険だ。逃がしてしまったことは痛い。だが、時間が経ち過ぎている。
 すでに心眼の有効範囲外に逃げてしまっているし、今から追っても見つけるのは難しい。
 まずは状況の整理と休息が必要だ。今はこいつを倒すことに協力してくれ」

「……………。わかったわ。それも、そうね」

「よし、じゃあ始めるぞ。さっきの要領だ。今度は結界を消している間に本体を叩く!」


レイラが杖を構え直す。
すると、地に落ちていた三日月達が一斉に浮かび上がった。
まだレイラの術は発動を続けていたのだ。


「1(アー)、4(デー)、10(ジェー)、12(エル)、18(アル)、21(ユー)、22(ブイ)!!」

「回転(ロール)!!」


二人の掛け声と共に、七つの三日月が間鎚から放出されるエネルギー流に迫る。
三日月達がエネルギー流に割り込み、その流れを遮る陣形をとった。
三日月がエネルギーの流れを止めている間に、即座に追撃を開始する。

87週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:56:05 ID:???


「6(エフ)、9(アイ)、11(カー)、13(エム)、14(エヌ)、16(ペー)、20(ティー)、25(イグ)、26(ゼツ)!!」

「回転(ロール)!!」


今度は九つの三日月が、結界に守られていない間鎚の左側面を狙う。
最初の三日月が間鎚に激突する。
間鎚に目立った外傷は見当たらない。
続いて二つ、三つと間髪入れずに攻撃して行き、四つ目の三日月をぶつけたところで、ようやく間鎚の体にひびが入った。
その間に、間鎚のエネルギー流を遮る三日月は残り三つまで減っていだ。
このまま順番にぶつけていたのでは、全ての三日月をぶつけ終える前に結界が復活してしまう。
レイラは残りの三日月を一気に間鎚の元へと収束させる。


「9(アイ)、14(エヌ)、16(ペー)、20(ティー)、26(ゼツ)!!」

「攻撃(ファイア)!!」


エネルギー流を遮る三日月は残り一つ。
間鎚の元へと集まった五つの三日月達が一斉に爆発する。
結界のない剥き出しの場所への、至近距離からの爆発攻撃だ。
間鎚の体に入ったひびが大きくなり、その固い体皮が砕け散る。
爆風を受けた間鎚の体が右方向へと大きく吹っ飛んだ。

88週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:56:27 ID:???

エネルギーの通り道に配置していた三日月は、全て砕けて消え去っている。
間鎚のエネルギー流を遮る物は、もう何もない。
にもかかわらず、間鎚の周囲に結界が復活する気配はなかった。
間鎚の持つ唯一の瞳には光が無く、そこから生気を感じとることはできなくない。
間鎚は、その活動を完全に停止させたのだ。


「やったな、レイラ」

「やったわね、アル」


二人はお互いを讃えあう。
二人が出会ったのは、ほんの数十分前だ。
だが、その短い時間の中で、二人の信頼は確かな物へと変わっていた。

89週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:57:13 ID:???





◆ ◆ ◆




レイラとアル。
二人が出会ったのはつい数十分前。
そのファーストコンタクトは声だけのやり取りであった。
レイラがルシオラと交戦していた最中、茂みの中を疾走していた時の事である。


『おい、聞こえるか?』

(……何?)


レイラに声が届く。
しかしそれは聴覚から入ってくるものではなかった。
頭の中に直接響くような、不思議な感覚だ。


『喋らなくて良い。頭で思うだけで君の思考は僕に届く』

(……何者なの?)


レイラはこの声を怪しんだ。
今戦闘している女性の声ではないが、敵の罠の可能性もある。
一体どういうつもりでこのような事をしているのか。


『僕の名はアル・ボーエン。決して君の敵ではない。今君が戦っている女を倒す手助けをしてやる』


アルと名乗る声は偉そうなもの言いで協力を申し出ている。


(信用できないわね)

『……ふん、これが罠だと? 君の攻撃はあいつにちっとも効いていない。今の状況は君が圧倒的に不利だ。
 そんな君に罠を仕掛ける意味があると思うか? そんなものがなくとも、君の負けは確定している』

90週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:58:34 ID:???


この言葉に、レイラは少しばかりの怒りを覚えた。
だが、この指摘は事実だ。
あの敵を倒す手段は自分には乏しく、相手の攻撃を防ぐ手段も植物に身を隠しながら移動するしかない。
レイラは怒りを抑えると、アルと名乗る声の主へ問いかける。


(あなたの目的は?)

『さっきも言ったが、僕は君の手助けをしたいだけだ。あの女は、この会場内で他の者達を殺し回るつもりだ。
 そんな危険人物を放っておくつもりはない。君は、パートナーが居ないせいで本来の力が出せないんだろう?
 僕がパートナーになってやる。信用して欲しい』

(何故パートナーの事を知ってるの!?)

『……気付いているとは思うが、僕はこの通り他人の考えを読むことができる。悪いが、戦闘中の君の思考を読ませてもらった。
 君が危険人物かどうかを見定める必要があったのでね。……その事は謝罪しよう』


思考を読む。
正直、良い気持ちはしない行為だ。
だが、今は殺し合いという非常事態である。
相手を見極めるには必要な事だろう。

それに、とレイラは思う。
心を伝える副作用か、それともうっかりしていたのか、今の謝罪の言葉からは、言葉と共に本当に悪かったという相手の気持ちも一緒に伝わってきた。
偽装した気持ちをわざと送って来た可能性もあるが、自分だけではこの状況を打破することができないのは事実だ。
ならば、この人物を信用しよう。
今感じ取った気持ちも、きっと本物だろう。
この人物を信用してさらに不利な状況になったとしても、その時はその時である。

91週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 00:59:41 ID:???


(……わかったわ。協力をお願いできるかしら?)

『任せておけ。この今世紀最大の頭脳にして超天才、アル・ボーエンが必ず君に勝利をもたらして見せよう』


この尊大で自信たっぷりなアルの態度に、どことなく子供っぽいところがあるな、とレイラは思った。
その思考を読んだのか、アルが怒声を飛ばしてくる。


『僕が子供っぽいだと!? 僕は事実を述べているだけだ! ふざけたことを思うな!』

(ふふ、むきになる所がますます子供っぽいわね)

『貴様は………ふん! まあいい。すぐにその考えを改めることになるさ。良いか、今から僕の考えた作戦を伝える。決して聴き漏らすなよ!』


アルの伝えてきた作戦は次の通りだ。
アルは支給品である通信鬼という謎の生命体をレイラの所まで飛ばしている。
その生命体は通信機と同じ役割をするので、それを使って、言葉による交信をしていると敵に誤認させる。
そうして嘘の指示を通信鬼から発し、敵がそれに釣られたところでアルの居る土手まで跳躍し、魔本をアルまで投げ飛ばす。
若干の隙は作れるとはいえ、気付いた敵はすぐに攻撃を仕掛けてくるだろう。
だが、フルパワーで術を発動させれば敵の攻撃は防ぎきれるとレイラは確信していた。
説明書の通りならば、アルは魔本を読めるはずである。
魔本を読んでもらえば、本来の力を発揮できる。
一種の賭けではあったが、それしか道はない。

こうして作戦は実行され、敵はアルの思い描いた通りの動きをし、更に思考を読むことで幻影に気付くこともできたのだった。

92週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:00:59 ID:???





◆ ◆ ◆





ミベルナ・マ・ミグロンの三日月はまだ十数個残っている。
だが、敵も居なくなった以上、心の力を出し続けるわけにはいかない。
術を解除すると、三日月達は静かに消えていった。


「アル、これからどうするつもりなの?」

「まずは現状の把握だな。自分達の状態と支給品の確認。そしてこれからの行動をここで決める。君にもいくつか訊きたい事があるしな」

「心を読めばわかることじゃない?」

「馬鹿を言うな。君は敵ではない。他人に心を読まれて良い気はしないだろう。僕はそこまで傲慢じゃない」

「……ふふ。優しいのね、あなた」

「なっ!? くだらない事を言っている暇があったら早く支給品とその説明書を出せ! 時間が惜しい!」

「はいはい」


二人はお互いの支給品を確認し合った。
レイラの支給品は三つ。
一つ目はレイラの魔本だ。
青紫色の装丁で、中の呪文は誰でも読めるようになっている。
自分で読めば威力が落ちるが、他人に読んでもらえば本来の威力での術の行使が可能となる。
レイラが術を発動させるには欠かせない品である。

二つ目の支給品は綺麗な柄の風呂敷だ。
説明書には普通の風呂敷と書かれている。
参加名簿にある桐雨刀也の物らしい。

三つめの支給品は、レイラの右手首にある金属製のブレスレットだ。
名は輪廻。
使用者の肉体年齢を操作する能力を持つ。


「私は、これを使ったのね……」


レイラは戦闘中にルシオラから発せられた言葉を思い出す。
『それがあなたの本当の姿ってわけね!』。
この言葉は、自分が姿を変えた事を言っているのだとわかった。
今一判然としないが、確かに輪廻を使った……ような気がする。
記憶が曖昧になっており、はっきりとしない。

93週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:01:39 ID:???


「ああ、僕が最初に見た時の君は少女の姿をしていた。それを使用した時の思考は読んでいなかったが、おそらくあのままでは勝てないと判断したんだろう」

「そう……」


輪廻発動の副作用は、使用者の記憶を奪う事だ。
ここに来る以前の記憶がなくなっていることからも、自分が輪廻を使用した事は確実だろう。
だが、それでもレイラは今の年齢が本当の自分だと思えてならなかった。
使用時の年齢が本来の年齢であると錯覚させる、輪廻のもう一つの副作用のせいだ。


「どうする? それを破壊すれば元の記憶を取り戻すこともできるが……」

「いいえ、結構よ。幼い私では、アルに本を読んでもらったとしても、さっきの敵には勝てそうにないもの。このままで問題ないわ」

「そうか……。まあ、君の仲間の名前は僕が覚えている。仲間を敵と思い攻撃するような事態にはならないから、その点は安心したまえ」


レイラは自分のリュックから取り出した名簿に目を向ける。
そこには四名の名前に印が付けられていた。
ガッシュ・ベル。
高嶺清麿。
ナゾナゾ博士。
パルコ・フォルゴレ。

この四人は大切な仲間であると、自分の字で名簿に書かれていた。
顔は、よく思い出せない。
どのような人物かは見当もつかない。
だが、懐かしい響きがこれらの名前にはあった。


「この、ゼオン・ベルという名前は、私の仲間ではないのね?」

「ああ、君の思考でも、この人物はガッシュの親類かただの偶然だと判断されていた」


ゼオン・ベル。
ガッシュと同じ性を持つ、参加者の一人である。
レイラの名簿には『ガッシュの兄弟?』、と疑問符が書かれている。

94週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:02:52 ID:???


「さて、次は僕の支給品だな」


そう言うと、アルは自分の支給品を取り出し始めた。
アルに支給された品は三つ。

一つ目の支給品は通信鬼。
二体で一つの支給品らしかった。
黒い小さな羽が生えているが、どういう原理か羽を動かさずに浮いており、命令すれば自力で移動する。
生物のようではあるが、音を送受信する部分は機械的だ。
通信可能な範囲は会場全域とあった。
レイラに差し向けた通信鬼は、レイラが跳んだ時に回収してもらっている。

二つ目の支給品は心眼。
指輪の形をしており、これを嵌めた者にテレパシー能力を授ける道具だ。
声による伝達を伴わずに他者との意思の疎通が可能となるばかりか、相手の意思を無視して思考を読むこともできる。
但し制限がかけられているらしく、一度見た相手でなければ対象を捕捉することはできず、一度に捕捉できる人数も一人までだ。
効果範囲も半径百メートル圏内となっている。

三つ目の支給品はノートパソコン。
一見ただのノートパソコンに見えたが、初め見た時アルは驚いた。
市場に出回っているノートパソコンよりも薄い作りをしていたのだ。
それでいて起動も早く、更に性能まで高かった。
これが実現するには少なくとも数年の時間を要するはずだが、エグリゴリの技術ならばこれを作るのも可能だろう。

だが、アルは別の可能性を考えていた。
もしかしたらこれは本当に数年先のものではないだろうか、と。
まず、最初に集められた時からおかしかったのだ。
アリスが消滅し、ARMSの力を失ったはずの高槻が、何のためらいもなくARMSを使用していた。
キース・ホワイトにその身を奪われたはずのキース・ブラックが復活し、高槻の攻撃により再びキース・ホワイトが目覚めた。
名簿には死亡したはずのシルバーとグリーン、そしてユーゴーの名前が載っている。

初め見た時は何かの冗談か敵の罠かと思ったが、このノートパソコンを見て一つの可能性を思いつく。

95週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:04:22 ID:???


「レイラ、今は何年だかわかるか?」

「ごめんなさい、それは覚えていないわ。……何か重要なこと?」

「いや、ただ確認しただけだ。気にしないでくれ」


魔物や妖怪といったものは、この目で見た以上認める他ない。
いつかはその謎を解き明かして見せよう。
だが、今立てた仮説は推論だ。
確証があるわけではない。
そんな不確かなものを、天才の口から話すわけにはいかないのだ。
『時間を越えてここに連れてこられている』などという考え、馬鹿げているにも程がある。

今は目の前にある明確な事実と向き合うべきだ。
アルが起動させたノートパソコンのデスクトップには、ファイルが一つあるだけだった。
ファイル名は『program battle royale』。
名前からして、この殺し合いの事を指していると見て間違いない。

このファイルの中には何か重要な手掛かりがあるはずだ。
しかし、このファイルにはロックがかけられており、パスワードを入力しなければ開けないようになっている。
このパソコンに入っているものといえば、このファイル一つだけだ。
今のところ、手掛かりと呼べるものはこれしかない。

96週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:09:49 ID:???


「ふん! 僕にこのロックを解いてみせろということか。良いだろう。こんなもの、超天才である僕の前では障害にすらならない事を思い知らせてやる!!」


アルは素早くキーボードを叩き、思い当たる言葉を片っ端から入力していく。


『evolution(進化)』。

ブイーッ!

『human(人間)』。

ブイーッ!

『time(時間)』。

ブイーッ!

『life(生命)』。

ブイーッ!



『egrigori(エグリゴリ)』、『arms(アームズ)』、『alice(アリス)』。

ブイーッ!

『不思議の国のアリスの登場人物の名前』、『キースシリーズの名前』、『(希望)』、『(絶望)』。

ブイイーッ!!

97週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:11:06 ID:???


「………」


悩んでいるアルの横からキーボードに手を伸ばし、レイラは思いついた文字をかたかたと入力した。



『super genius of the century to the brain by al bowen(今世紀最大の頭脳にして超天才、アル・ボーエン)』。

ブイイーッ!! ブイイーッ!! ブイイーッ!!


ノートパソコンからは、パスワードエラーの文字と共にけたたましいブザー音が鳴り響いた。



「ええい! うるさいぞ!! 何をしているんだレイラ!! 僕を馬鹿にしているのか!!!」

「ごめんなさい。つい……」

「何がついだ! まったく! ………それにしてもなんなんだ? まさか適当な文字列でもないだろう。
 おそらくはこのプログラムの核心に触れるキーワードのはずだが……」


考えろ。
このプログラムを計画した奴は、何が目的でこの殺し合いを計画した?
これを計画したのはキース・ブラックか? キース・ホワイトか?
それとも、あの場にあった金属生命体、アザゼルの意思か?


「くそっ! 駄目だ、情報が少なすぎる」

98週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:24:56 ID:???


ある程度の情報を持っていて、話し合いができそうな奴と言えばバイオレットが思い当たるが、素直に質問に応じてくれるかはわからない。
とにかく情報だ。
情報を集めなければ先に進めない。
まずは地図にある施設を回ってみる必要があるだろう。
わざわざ記載されているのだ、手掛かりがある可能性がある。


「よし、まずは施設を回ろう。施設には人が集まる。つまりは情報も集まるということだ。
 僕達の仲間についても、何かしらわかることがあるだろう。レイラ、一緒に来てくれるか?」

「ええ。私達はもうパートナーじゃない。離れる理由がないわ」

「……今更なんだが、僕を疑ったりはしないのか?」

「……あなたは悪い人じゃないわ。それに、自分が危険に晒される可能性があったのに、私を助けてくれたじゃない。あなたのことは信用してるわよ」

「……ふん! あれは勝てる算段があったからだ! 君が勝てないと判断していればさっさと逃げていたさ!」

「あら、そうなの?」


レイラはくすりと笑った。
アルのその言葉が、照れ隠しからくるものなのだとわかったいるからだ。
尊大な態度をとっているが、根は優しい子だ。
私が負けると判断したとしても、きっと、その手を差し伸べてくれていたことだろう。


「何を笑っているんだ! ほら、さっさと行くぞ!」

「ふふ。ええ、行きましょうか」


レイラとアルは、横に並んで歩き始めた。

レイラは覚えていないが、今の二人の姿はレイラが以前に組んでいた『パートナー』の姿と似ているものだった。
大人と子供。『アル』という名前。
見た目は逆になっているが、二人の姿がしっくりくるのは何故だろうか。
二人が出会えた事も、この短時間で信頼を築けた事も、偶然ではないのかもしれない。


二人のパートナーは歩き出す。
大切な仲間達を守るために、歩き出す。

99週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:29:45 ID:???
【D-2 植物園・一日目 深夜】

【レイラ】

[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。?

[状態]:打撲と傷(魔物なのでしばらくすれば治る)。中程度の疲労。心の力(小)。

[装備]:輪廻@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、風呂敷@金剛番長、 通信鬼@GS美神極楽大作戦。

[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻によりこの会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。
※ルシオラとアシュタロスを危険人物として認識しています。

【アル・ボーエン】?

[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。?

[状態]:健康。心の力(少)。

[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎。

[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神極楽大作戦、ノートパソコン@現実。

[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。
※ルシオラとアシュタロスを危険人物と認識しています。




【D-2 空中・一日目 深夜】

【ルシオラ】?

[時間軸]:横島と夕日を見る以前。

[状態]:負傷と疲労(自力で回復中)。

[装備]:竜の牙(勾玉状態)@GS美神極楽大作戦!!

[道具]:基本支給品一式、蔵王(空)@烈火の炎、空白の才の木札@植木の法則

[基本方針]:アシュ様のために行動する。参加者を殺し強力な支給品を奪う。
※街中へ向かって移動中。

100週刊少年ななしさんデー:2011/04/14(木) 01:32:01 ID:???
【D-2 植物園・一日目 深夜】

【レイラ】
[時間軸]:魔本が燃え尽きた直後。
[状態]:打撲と傷(魔物なのでしばらくすれば治る)。中程度の疲労。心の力(小)。
[装備]:輪廻@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、風呂敷@金剛番長、 通信鬼@GS美神極楽大作戦。
[基本方針]:仲間達を守る。殺し合いに乗っている者は倒す。
※輪廻によりこの会場に来る以前の記憶が朧気になっています。
※ガッシュ達が仲間であることは理解しています。
※ルシオラとアシュタロスを危険人物として認識しています。
※アルと情報交換をしました。


【アル・ボーエン】
[時間軸]:第四部「アリス」編終了以降。
[状態]:健康。心の力(少)。
[装備]:レイラの魔本@金色のガッシュ!!、心眼@烈火の炎。
[道具]:基本支給品一式、通信鬼@GS美神極楽大作戦、ノートパソコン@現実。
[基本方針]:施設を巡り情報を集める。殺し合いに乗っている者は倒す。
※ルシオラの思考をある程度まで読んでいます。
※ルシオラとアシュタロスを危険人物と認識しています。
※レイラと情報交換をしました。




【D-2 空中・一日目 深夜】

【ルシオラ】
[時間軸]:横島と夕日を見る以前。
[状態]:負傷と疲労(自力で回復中)。
[装備]:竜の牙(勾玉状態)@GS美神極楽大作戦!!
[道具]:基本支給品一式、蔵王(空)@烈火の炎、空白の才の木札@植木の法則
[基本方針]:アシュ様のために行動する。参加者を殺し強力な支給品を奪う。
※街中へ向かって移動中。


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