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放送案投下スレ

1管理人 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/13(火) 20:54:52
第一回放送の案を投下する場所です。
本来は本スレに投下してもいいんですが、こちらにやる事にします。
作品が完成し次第、投下してもらって構いません。

放送案を決定して、没策をwikiに収録し次第このスレは削除します。

2 ◆xR8DbSLW.w:2011/09/14(水) 00:03:51
……はい。
では、放送案Ⅰを投下します。

3 ◆xR8DbSLW.w:2011/09/14(水) 00:04:13


 『 第一回放送 〜死を賭す(私落とす)〜 』


この日は、月が綺麗な夜だった。
幾多の星々は空を飾り、そんな光景が月をより一層引き立たせる。
鈍く黄金色に染まる暗き夜空は、人々を癒しの方向へと連れ出して行った。



死者の魂と共に。


そんな夜は明け、月光はひとまず身を隠す。
今現在、箱庭(エリア)には月光に代わり、朝日が照らされていた。
竹取山には竹から木漏れ日。
海は光が反射して。
砂漠は熱を持ち始め。
踊山は通常運行。
そして、町中に活気は溢れ出ない。
燦々というには程遠く、深々というにも程遠い、どっちつかずの朝がやってきた。


それと共に、広大な箱庭の中に、一寸狂わず定刻通り、ある異変が訪れる。


不協和音(ノイズ)。
空に不協和音は響く。

時刻は、6:00。


―――――第一回目の放送が、始まった。


意識のある参加者の行動は一時止まり、耳を傾ける。
そして、願う、希う、望む、希望を持って、祈る。
肉親、友人、恋人、仲間、知らない他人でも。
ある者は、誰も、呼ばれるようなことがないように、と。
ある者は、一人でも多く消えていてほしい、と。

数分後。
<物語>は再び始まる。


善き方向へ、悪き方向へ。


それはまだ分からないけど。



 @ @ @


島中の至る所に設置させられた監視カメラ、そしてスピーカー。
監視カメラの方は、先ほどからその仕事を真っ当として、
主催者に、ある参加者に、情報を譲り渡していた。
一方のスピーカーは今まで仕事なんぞ果たしてはいなかったのだが、
そんなスピーカーにもようやく役目を果たすこととなる。


スピーカーから、鈍く、不気味に、不協和音が走ったかと思うと、老人では無い、しかし成人した男の声が流れ出た。


「おはよう、そして初めまして。俺の名前は供犠創嗣だ。以後も何もねぇと思うが宜しく頼むぜ。
まぁあの不知火袴のじじぃはご老体にはきついだのなんだのぬかしてやがるから、俺が代わりに放送する」


供犠創嗣。
参加者の一人、供犠創貴の父親にして、佐賀県警の刑事。
その職業とは反して彼は人々の命を削りあう《バトルロワイアル》の司会をしている。


「落ち着けガキども。3秒以内で黙れ。3………2………1………。よし、では放送を始める。
まずは禁止エリアの発表からだ。――――説明は聞いているな?念のために確認しておくぞ。
その名の通り、立ち入ってはならないエリアの事を指す。案じずともちゃんと時間は設ける。

4 ◆xR8DbSLW.w:2011/09/14(水) 00:04:30
ただし、時間が過ぎてもまだエリア内に立ち入っている場合は」


「容赦なく、首輪を爆発させる」


「――――はっ。だけどルールを守ってらぁそんなことは起きねぇんだ。しっかりしろよ。
では改めて禁止エリアを発表だ。一回しか言わないからな。ちゃんと聞いておけよ。

七時零零分より 【B‐3】
八時三十分より 【D‐5】
十時零零分より 【H‐8】

の3つだ。宜しく頼むぜ。こちらとしても首輪爆発なんてものは期待していないからな」

「さて、ここで名簿を解禁する。30秒ほど時間をやろう。一回、目を通してみな。

……………。

………………。

…………………。

……………………。

………………………。

さて、見終わったか。知り合いの名前、恋人の名前、仲間の名前、宿敵の名前。色々いたとは思うが――――――――」


「―――さて、ではお楽しみかどうかはしらねぇが死者の発表だ。こちらが確認した限りの死んだ順から言うからな。

一人目、阿良々木暦
二人目、真庭喰鮫
三人目、浮雲待秋
四人目、零崎曲識
五人目、真庭狂犬
六人目、阿久根高貴
七人目、病院坂迷路
八人目、病院坂黒猫
九人目、とがめ
十人目、匂宮出夢

もう一回言っておくぞ。

一人目、阿良々木暦
二人目、真庭喰鮫
三人目、浮雲待秋
四人目、零崎曲識
五人目、真庭狂犬
六人目、阿久根高貴
七人目、病院坂迷路
八人目、病院坂黒猫
九人目、とがめ
十人目、匂宮出夢

以上十名だ。残りは三十五名。順調か?
残念ながら、ここ二時間ほど人が死んでいないぞ。
この放送を機に変わってもらえることを願っている」

「さて、これから行うのは、不知火袴からの伝言だ。――――とはいっても俺が勝手にまとめた物を言うだけだが。
これを聞く聞かないは別に問わない。勝手にしろ。――――――では言うぞ。

《今、この殺し合いには一つのイレギュラーが参加していることを確認した。
そのイレギュラーの名は、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
………と、この名前に聞き覚えのある人物などここには2、3人しかいないであろうから、
もう少し馴染みのある名前で今後は言わせてもらおうか。そいつの名前は、忍野忍だ。
生死は自身の目で確認して欲しいが、例え首輪もしてなく、うろついている奴が存在したなら、

5 ◆xR8DbSLW.w:2011/09/14(水) 00:04:54
それはキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード、忍野忍である可能性が高い》

―――――だそうだ。それと追記してお知らせしておこう。こいつ、忍野忍の生死は放送では流さない。参加者じゃないからな」

「では、これで放送は終了する。あぁ、一つ言って置くぞ。
いまだに人を殺さないのはいいが、殺し合いを受けいてることができない奴に忠告だ。


これぐらいのイベント、さっさと受け入れろ。


少なくとも警察なんて当てにしてんなよ。―――――俺が警察だからな」


「では、正午の鐘が鳴る頃に、再び俺とは限らんが放送をやるはずだ。
精々足掻け。足掻けるだけ足掻いていろ。そして、俺の様になれよ」



《完全なる人間》にな。



そう残して、放送は切れた。
後味の悪い空気が、会場を漂う。


 @ @ @


とある部屋に、二人の人間がいた。

「…………」
「…………」

静寂が続くこと、五秒。
先に口を開いたのは、創嗣だった。

「なぁ、これは一体どういうつもりだ」
「ほぅ、その心は何ですかな?」

一方は堂々と。
一方は飄々と。

「何も糞もねぇだろ。いきなり国際指名手配―――宗像形っといったか。
そいつの指名手配取り消せだの、いきなりフラスコ計画の第A案を潰しやがる」


「挙句の果てには、第B案まで、潰しやがって。最終的には《バトル・ロワイアル》だ。こんなくだらねぇ計画ぐらいさっさと終わらせろよ」


創嗣が参加したのは、何も自主的かと言われたら、答えはNOになる。
ならば、彼がこうして主催という形で参加しているのは、彼が警察であるからだ。

結局は金や権力に、警察は屈する。

そう言うことなのだ。
罰が金で払拭されるように、こんな計画だって、金さえあれば綺麗さっぱり問題は消える。


だから創嗣はここにいた。


そうして、この無様な結果を聞いて、ただ一人憤慨していた。
どうしてこんな無能の許に、俺はいるんだ、と。

「ほっほっほっ。いえいえ、これは手厳しいですな、創嗣さん。ですが私としても計算外といえば計算外ですかね。
まさか、球磨川くん初め、『過負荷(マイナス)』を使う計画も失敗の一路を辿ってしまいましたからねぇ」

そんな創嗣の苛立ちを察しないかのように、

6 ◆xR8DbSLW.w:2011/09/14(水) 00:05:12
笑いを交えながら、ただ反省点だけを述べる。しかも述べただけで終わったが。

「っは。だからてめぇらはダメなんだよ。俺んとこのガキより使えねぇんじゃねぇのか」

供犠創貴。
供犠創嗣の息子にして、この計画の参加者の一人だ。

彼は今、この放送を聞いてどのような気持ちに陥っているのだろうか。
それは、まだ分からないが。

「創貴くんと言いましたね。――――なるほど、ご多忙のあなたがわざわざここに見えたのは」
「変な勘違いしてんなよ。別にあいつが死のうが関係ない。それまでのガキだったってことだよ」
「警察の言うことですか」
「警察だから言うんだよ」

それきり、会話は止まり。睨みあい。


会合は終了をしたようだ。


「じゃあな、あんま警察を使うなよ。理事長さんよ」

創嗣は、豪華絢爛という言葉の似合いそうな椅子から立ち上がり、そう言った。
ご自慢の、真っ白なコートは塵一つ付いていなかった。

「ほっほっほっ。それは場合によりますぞ。―――――それでは、さようなら」

袴は、すこし華美な椅子に腰を掛けたままそう言った。
その垂れ下がった皮を不規則に歪めながら―――――。


創嗣はこの部屋を静かに出ていく。
袴の瞳には、真っ白なスーツが、最後に映った。


 @ @ @


「―――――ふぅ。一区切りですね」

理事長室に備え付けの茶を啜り、モニターから数刻だけ目を離す。
今現在、部屋には一人。


「では、仕事に戻りましょうか」


モニターに目を返す。
そこには、参加者が映る。

「ふっふっふっ。しかし阿良々木くんが黒神さんの力となったのは良い兆しです。
哀川さんはまだ、完成しきれていない。七実さんはまだ解放していないですね―――」


そして、男は犯しそうに笑う。


【一日目/朝/?-? 理事長室】
【不知火袴@めだかボックス】
[状態]健康
[装備]
[道具]
[思考]
基本:実験の成功の為に動く
1:傍観する

[備考]
※生徒会選挙編終了後です

【一日目/朝/?-? ?】
【供犠創嗣@りすかシリーズ】
[状態]健康
[装備]
[道具]
[思考]
基本:傍観

[備考]
※少なくとも、創貴に旅行代を渡してからです

7 ◆xR8DbSLW.w:2011/09/14(水) 00:09:32
以上です。

どうにも他ロワとかの放送を読んでみても勝手がわからなかったので、
好き勝手やってくれちゃったな、みたいな感じですが、ご了承を。

本当は、警察ということで、阿良々木夫妻もここに加えたかったのですが、彼らは
名前がないですし、台詞だって一言二言ですから、書きづらいかなぁと思い、その案はとりあえず撤去しました。

感想も何もないかもしれませんが、何か一言くれると幸いです。
もっというと投票で清き一票(?)もくれると嬉しいです。

8 ◆xzYb/YHTdI:2011/09/14(水) 00:11:30
…………勢いで、この、上のようなトリップを使ってしまいましたが、
すいません。トリップを変えたんでした。
ということで、これからは上のようなトリップで執筆活動を続けていこうかな、
と思っております。
これからもよろしくお願いします。

9 ◆mtws1YvfHQ:2011/09/19(月) 22:05:55
放送案Ⅱを投下します

10 ◆mtws1YvfHQ:2011/09/19(月) 22:06:34
 何処とも知れない目に悪そうな薄暗い場所。
 様々な物が置かれたテーブルを前に、老人は座っていた。
 周囲をモニターに囲まれ、それのみを光源とした光を浴びる老人。
 実験名『バトルロワイヤル』。
 その元凶とも言えるその老人。
 箱庭学園理事長、不知火袴は静かに座っていた。
 テーブルの上に置かれた様々な物。
 まだ淹れたばかりなのか湯気の出続けている湯呑茶碗。
 実に事細かに書き込まれた書類と思しき紙。
 ついでのように置かれた食べかけのういろうなどなど。
 置かれた物は実に様々。
 そんな中、ぽつりと置かれている電源の切り替えが出来るようになっているマイクに時々目を移しながら座っていた。

「――――さて、もう間もなくですか」

 不意に袴が呟き、時計を見た。
 時刻は五時五十六分。
 六時間ごとに放送すると言った手前、それを過ぎる訳にはいかない。
 そんな事を袴は考えながらマイクを手元に引き寄せる。
 電源はまだ付いていない。
 そんな中、袴の後ろの扉が開き、一人の、老人が入って来たのだ。
 老人。
 白衣を身に付け、総白の髪と鋭い眼差しをした老人は、後ろ手に扉を閉めると何の遠慮もなく袴の隣にある椅子の一つに座った。
 袴が顔を向けても何も言わず、引き寄せていたマイクをその老人は自分の方に寄せた。

「――死亡者等は分かっていますか、博士?」
「舐めるな」

 それを軽く笑いながら袴は時計に目を向ける。
 五十九分。
 確認してからモニターを一通り見渡す。
 誰もが、と言う訳ではないものの大半は放送を聞く気はあるようだ。
 口元を歪めながら、時計を注視する。
 六時零分。

「どうぞ」

 袴が言うと、老人はマイクの電源を入れ口元を近付けた。



 実験の最中だが、放送を始める。
 不知火袴じゃないのかと思う者も多いだろうが、協力者の一人程度に考えてくれて構わん。
 さて、まずは死亡者の発表――の前に、荷物を確認してみろ。
 その中に白紙だった紙があるだろう?
 今は参加者一覧――つまり名簿に変わっている筈だから確認しておけ。
 見付からないと言う者が居ても、ない筈はないから良く探せ。
 それでもなかったら落としたのだと諦めろ。
 ………………………………
 さて、時間もある程度は取った事だから名簿の中から死亡者を言うぞ?
 これは一度しか言わないから良く聞け。

 匂宮出夢。
 零崎曲識。
 病院坂迷路。
 病院坂黒猫。
 とがめ。
 真庭喰鮫。
 真庭狂犬。
 浮義待秋。
 阿良々木暦。
 阿久根高貴。

11 ◆mtws1YvfHQ:2011/09/19(月) 22:07:47
 以上の十名だ。
 一応言っておくが、死んだ順番で言っている訳じゃない。
 ああ、もう一つ言って置くが見せしめに死んで貰ったのは皿場工舎だ。
 つまり十一名だが、大した違いではないな。
 生き残りはあと三十五名。
 最初からこの調子では後が……いや、先が思いやられるが……なかなか影響のある奴が殺されたから問題はないだろう。
 では続いて禁止エリアの発表だ。
 こちらも一度しか言わないから、死亡者の中に知り合いが居て呆然としていた云々の言い訳は聞かない。
 言うぞ?

 今から一時間後の七時より、D-4。
 今から三時間後の九時より、B-6。
 最後に五時間後の十一時より、F-1。

 以上の三ヶ所が禁止エリアになる。
 今言った時間以後に入ると警告を挟んでから首輪が爆発するから気を付けておけ。
 場所を聞き逃した?
 前もって聞き逃すなと言って置いたのだから居ても知らん。
 精々別の所に行く時は警告に注意しておけ。
 さて、言う事もこれ以上ない。
 が、念のためにもう一度だけ不知火袴の言っていた事を聞きたいと言う者も居るかも知れない。
 疑っている者も居るだろうから、もう一度言って貰おう。

「え?」

 どうぞ――

「は、はあ――――それなら最初から…………えー、不知火袴です。
 最初に言って置きましたがもう一度だけ。
 最後まで生き残った『優勝者』にはひとつだけ、どんな願いでも叶えてあげます。
 一国の王になりたい?
 良いですとも。
 絶世の美女を嫁にしたい?
 構いませんよ。
 もちろん――死人を蘇らせる――何て事も、ね。
 それでは、以上です。
 皆さん、『優勝者』目指してどうぞ殺し合って下さい。
 ――これで良いですか?」

 ああ。
 余計な事を考えられて滞ると困るからな。
 精々殺し合って願いを手に入れるために生き残ってくれ。
 俺からも以上だ。



 老人が電源を切るのと、マイクから口元を遠ざけるのは殆ど同時だった。
 それからモニターに目を移す。
 皆が皆、と言う訳ではないながらうろたえている者もいる。
 恐らくこんな非道な実験に協力者が居るのかなどと喚いているのだろう。

「流石に少し緊張しますね――こんな事は初めてなだけに」

 冷静にそんな事を言っている不知火袴を一瞥だけして、老人は再びモニターに目を戻した。
 幾つものモニターに流し見て行く中で二度、老人の視線は不自然に止まっていた。
 蒼い髪の少女と平凡な風貌の少年。
 そんな二人の所で止まっていた。
 モニターを広く流れ見て行く中で、思い出したように何度かその二人を見、また流れを戻している。
 そこだけまるでつかえでもあるように、何度も、何度も。

12 ◆mtws1YvfHQ:2011/09/19(月) 22:08:49
「やはり、気になりますか?」

 何度目かの時に、さり気なく、ういろうを口に運びながら袴が言った。
 瞬間、老人は鋭い目を袴に向け直し、冷静な、それでいて僅かな怒気の籠った声を掛ける。

「――俺の研究を潰してくれたんだからな。気にならないと思うか?」
「まあ、そうでしょうね」
「今回の実験まで壊されやしないかとな」
「大丈夫ですよ。私が、あなたに、声を掛けたんですから勿論分かっています」

 袴のその言葉に、苦そうに老人は顔を背けた。
 場に沈黙が満たす。
 モニターからの光が二人を照らす。
 袴が茶を飲む音だけがやけに、そして静かに響く。

「はぁ」

 溜息のような息を吐き、袴は茶碗を机の上に置いた。
 老人は相変わらず苦そうな表情でモニターを見詰め、何も答えない。

「……持ちつ持たれつで行きましょう――私は天才を安価に量産したい。貴方は天才を創造し製造したい」
「……ふん、そうだな――理事長殿」
「ええ、博士――いえ」

 首を振って、袴は老人に顔を向ける。
 老人。
 過去、唯一の目的と無二の希望をなくした男。
 今、唯一の目的を見付け直し、無二だった希望を掴み直した男。
 全てを滅茶苦茶に壊された男。
 かつての、四十代を思わせる敏腕政治家と言った風の男。
 かつての、押せば崩れ、突けば壊れそうだった小柄な男。
 しかし、天才から下って益々、過去より墜ちてから益々、絶望を経てから益々、その老人は、

「《堕落三昧》斜道卿壱郎さん――目的は合致しているのなら、過程が違うだけならば、手を組まない手はないでしょう?」

 《堕落三昧》に相応しい。
 そう思える。
 そう納得させられる。
 そんな雰囲気を漂わせていた。

「ああ、その通りだ」

 袴の同意を求める言葉に、斜道卿壱郎は、最もだとでも言うように笑った。
 大きく頷いて笑った。
 あたかも当然の事だと言うように笑った。
 そして謳う。

13 ◆mtws1YvfHQ:2011/09/19(月) 22:10:03
「俺は天才を元に天才を研究し」
「私は天才を元に天才を研究し」
「創造し」
「解析し」
「製造する」
「量産する」
「その過程には」
「犠牲は付き物」
「仕方がない」
「仕方がない」
「多少の犠牲は」
「必要な物です」

 そう謳う。
 まるであらかじめ口を合わせていたような滑らかさで謳い切った。
 しかし息の合っていた割には、終わっても顔を合わせるような事も無く、二人はモニターを注視し続ける。
 天才の製造と天才の量産。
 似通っているようで似通っていないそれを、無理矢理繋ぎ合わせているからか。
 互いの理論に納得しない部分はもちろんあるだろう。
 しかしそれがあってもなお、頷くだけの価値があると二人とも思っているのだから。
 片や、既に終わってしまった製造計画「特異性人間構造研究」。
 片や、数十の財団と国家軍部にまで出資者の居るフラスコ計画。
 それだけの差異がありながら、頷く価値があると思ったのだ。
 天才。
 それだけのために。
 否。
 それだけではないかも知れない。
 何かあるのかも知れない。
 しかしそれでも。

「……ふふふ」
「……ははは」

 モニターから目を逸らさず、二人は笑った。
 実験の成功を祈るように。
 しかしそれでいて、成功を疑っていないように。

14 ◆mtws1YvfHQ:2011/09/19(月) 22:15:07



以上です。
放送案を選んで貰う都合上、作者が他の人の作品の感想書くのはどうなんだろうといまいちよく分からない事を悩んだ結果書かない事にしました。
申し訳ない。
他には特に書く事もないので失礼します。

15 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/20(火) 22:57:30
放送案Ⅲ 投下します。

16 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/20(火) 22:57:52
どんな時でも夜が明けないことはない。
それはこの場でも同じである。
空は黒から青になる。
心は白から黒になる。
時刻は伍時伍拾伍分である。

「……もうそろそろ時間、ですかな」

一人呟いた老人…不知火袴はその重い腰を上げた。
外と仕切られた窓を開ける。
外から入ってくる空気はひんやりとしていた。
風が入り込んで、入れたばかりのような湯呑茶碗の茶の湯気が揺らぐ。
少し風を浴びて窓を閉めて時計を見る。
時間を見た不知火袴は複雑そうな機械の前に移動する。
そして、スイッチを1つ押す。
少しの雑音《ノイズ》が入る。
そして、マイクを通し声が流れる状態となった。
老人はゆっくりと、ゆっくりと、マイクに顔を近付けた。





どうも皆さん…6時間ぶり、ですかな?
こちらは、不知火袴でございます。
まずは生き残っている皆さん…おめでとうござます、とでも言っておきましょうか。
本当なら何か話すべきなんでしょうが…私は話すのが得意ではないので…本題に入りましょうか。
貴方達の支給品の中に白紙の紙がありましたね?
それを見ていただきたい。
もし無い…と言う方は、良く探すかあきらめるか他人から盗るか…ご自由にしてください。
では、1分ほど時間を取ります…よくご覧になってください。

17 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/20(火) 22:58:09


…  …  …  …  …


ご覧になりましたか?
友人、恋人と言った人から許せない者の名前まで…。
そう言った感じでしょうね?
では、もう一度参加者名簿を見てください。
今度は、死亡者の発表をします。
一度しか言わないので、もし知り合いの名前があってショックで聞き逃した…と言っても駄目ですよ。
それは自己責任…と言う事でお願いします。
では、読みますよ。

阿久根高貴。
阿良々木暦。
浮義待秋。
零崎曲識。
とがめ。
匂宮出夢。
病院坂黒猫。
病院坂迷路。
真庭喰鮫。
真庭狂犬。

聞けましたかな?
以上の十名です。
……他にもう一人死んだ方がいますが、それはいいでしょう。
世の中には知らなくていい事もある、と言う事ですね…。
では、続いて禁止エリアの発表です。
もし、聞き逃したりしたら大変ですので…絶対に聞き逃さないでください。

18 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/20(火) 22:58:24

七時参拾分より【D-4】
九時零零分より【E-8】
十時参拾分より【F-4】

以上の三カ所です。
もし言った時間以降に禁止エリアに入ったら…。

首輪が爆発します。
不死身を名乗っていようが、確実に死にます。

それだけはご注意を。
では最後に締めの一言を…。
優勝者には一つだけ願いが叶えられる権利が与えられます。
それには例外はありません。
友達が欲しい
巨万の富が欲しい
憎むべき敵の存在を消す
そして、死者を生き返らせる
友達だろうが、恋人だろうが…誰だろうが生き返らせれますよ。
……では、これにて放送を終了いたします。
言っておきますが、脱出しようなんて考えている方はいませんよね?
残念ながらそれは不可能です。
我が不知火財閥の力をつぎ込んだこの施設と設備は完璧です。
貴方達がどうこうできるものではないですので…。
それだけは…覚えておいてください。
では、また六時間後…この声を聞ける事を願ってますよ。

19 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/20(火) 22:58:37





放送を終えた不知火袴は、少なくなった湯呑茶碗にチャを継ぎ足す。
そして、独り言をつぶやく。

「……しかし、あの人は遅いですね………
 老人をどれだけ待たせれば気が済むのでしょうか…」

不敵な笑みを浮かべながら言う。
何を考えているのか分からない。
それほど怖い物は無い。
それが今の不知火袴である。
彼はしばらくの間、その不敵な笑みをやめなかった。


【残り 三十五人】

20 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/20(火) 23:02:30
投下終了です。
とりあえず、放送もこれ以上集まりそうもないので…とりあえず考えてみました。

9月22日(木)00:00:00〜9月24日(土)23:59:59

の間に投票をしたいと思います。
もしまだ書く意志のある方はスレを上げて申告をお願いします。
とりあえず誰もいないようであれば上に書いた期間で投票を行いたいと思います。
ちなみに上の通りに行った場合次の予約解禁は

9月26日(月)00:00:00〜

としたいと思います。
以上連絡は終了です。
異論、意見、質問などがございましたらお願いします。

21 ◆xzYb/YHTdI:2011/09/20(火) 23:26:02
異論はありません。
ですがちょっと質問。
この投票って、書き手の参加もありなんでしょうか?
opの様子をみていると、トリップ付きでの投票もあったようですが。
気になったので一応


>>14 いえいえ、仕方のないことですよ
こちらこそ、よけいな一言付け足して申し訳ないです

22 ◆VxAX.uhVsM:2011/09/21(水) 20:18:54
>>21
参加は可能です。
しかし二つルールを決めておきます。
1.自分自身の作品に投票してはいけない。
2.トリは付けても付けなくても可。
と言う事でお願いします。

23 ◆0UUfE9LPAQ:2013/01/26(土) 02:10:19
放送案投下します

24 ◆0UUfE9LPAQ:2013/01/26(土) 02:14:52
コンコン。

「おう、入れよ」

ガチャ。

「ん、お前だったのか」
「あら、不知火理事長はいらっしゃらないんですか?」

バタン。

「あいつなら、『今回の放送はあなたがた二人にお任せします』とか言って出て行っちまったよ」
「そうでしたか。私には伝えず……いや、出て行ったということはただの順番の差ですね。しかし、どうしましょう……」
「何がだ?」
「どちらが放送を読み上げるかですよ、正直二人いる意味がわかりませんし」
「そんなことで悩んでたのか。ならお前が読み上げればいいだろ」
「いいのですか?そんな簡単に決めてしまって」
「俺は酔狂で来ただけだからな。本来はお前の仕事のはずだ」
「では、お言葉に甘えて。ちょうど時間になりましたし」

カチッ。

「時間になりましたので二回目の放送を始めます。
 何人か疑っている方がいるようなので先に言っておきますが、内容に嘘はありませんよ。
 虚偽があるようでは実験にならないではないですか。
 それでは、死亡者の発表です。
 一度しか言いませんから聞き逃しのないように。

 時宮時刻。
 零崎軋識。
 否定姫。
 阿良々木火憐。
 人吉善吉。
 黒神真黒。
 日之影空洞。

 以上、七名です。
 残り二十八名、まあまあ悪くないペースですね。
 この後もこのペースを維持……更に加速してくれることをお願いします。
 続いて、禁止エリアの発表です。

 一時間後の十三時から、A-4。
 三時間後の十五時から、D-7。
 五時間後の十七時から、H-5。

 以上、三ヶ所です。
 一応殺し合いなのですから禁止エリアに誤って入ってしまわないように。
 設定するなという意見は聞きませんよ。
 一ヶ所に閉じ籠もられては実験が進みませんから。
 それでは六時間後、私か、私ではない誰かの声を聞けるといいですね。」

25 ◆0UUfE9LPAQ:2013/01/26(土) 02:16:06
カチッ。

「上出来じゃねーか」
「決まっているものを読み上げるだけで出来を問われたくはないものです」
「そう言うなって。ところで警備は万全だろうな?」
「当然ですよ。私を誰だと思っているのです?」
「わかってるさ。策士――萩原子荻ちゃん」
「私を『生き返らせて』くれた対価としては安いくらいですよ。ねえ、伝説の刀鍛冶――四季崎記紀さん?」
「なーに、俺は技術を提供しただけだ。実際どうなんだい?死ぬ感触ってのは」
「思い出したくないとだけは言えるでしょうね。ただし、その記憶が本当に私のものだとしたら――ですが」
「くく、そんなこと言ってたらそもそも記憶だと思っているものが正しいなんて保証はどこにもないぜ?」
「然り、ですね。せっかくですからお聞きしますがうちの玉藻は私とは違って死んではいないんですよね?」
「おかしなことを聞くもんだな。全員の情報は確認してるはずだろ」     .......
「わかっているからこそ聞いているのですよ。あのとき、私が策として使った玉藻の首は本物だったのか――って」
「そんなものどっちがどっちだったところで何か変わるわけでもないだろうに」
「まあ、それもそうですね。今の質問は忘れてください」
「気にするなって。しかし、この俺に『完全』を作る協力をさせた上に変体刀をよこせってんだから何をしでかすのかくらいは聞きたくなるさ」
「選ぶことができるというのはいいものですね。私も、あの子も選択肢は用意されていませんでしたもの」
「選択肢なら用意されてるだろ、『選ばない』っつー選択肢がな」
「屁理屈ですね」
「だが理屈だ。それじゃあ俺は失礼するぜ」
「ではまた後で」
「おう」

ガチャ。
バタン。

「……しかし不知火理事長も人が悪い。あんな言い方をされては誤解してしまうではありませんか」
「四季崎さんがいらっしゃった結果と考えれば仕方のないことではありますが」
「それでも与えられた任務は遂行しなければなりませんし」
「例え相手が誰であろうとも、私の名前は萩原子荻。私の前では悪魔だって全席指定、正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってご覧に入れましょう」
「モニターを眺めながら言っても何の意味もありませんね…………………あは」

26 ◆0UUfE9LPAQ:2013/01/26(土) 02:19:17
投下終了です
傍点の位置がずれてしまってますが、玉藻の首は本物、の部分にかかるようにしたつもりです

28 ◆wUZst.K6uE:2013/11/13(水) 21:41:24
放送案投下します

29 ◆wUZst.K6uE:2013/11/13(水) 21:41:48
 「どうも皆さん。時間になりましたので、三回目の放送を始めさせていただきます。
 今回の放送を担当するのは、私不知火袴です。またこうして皆さんに声をお届けすることができるというのは、私に限らず主催一同、大変に喜ばしいことであると思っております。
 しかしながら。
 前回の放送から6時間、すでに私達の声を聞くことができない状態になってしまっている方、つまりは脱落者の数も、また新たに増えているご様子です。
 これは我々にとっては実験が滞りなく進行している証拠、すなわち喜ぶべき事実ではあるのですが、皆さんの中にはこれを悲しむべき事実、悼むべき現状として捉えられる方もいるかもしれません。
 ですが皆さん。改めて言いますが、この実験の内実は「殺し合い」であり、「最後の一人になるまで」続けられます。
 それ以外の終わりはありません。
 それ以外に終わらせる方法はありません。
 ゆえに皆さんがいくら悲哀に暮れようと、現状を嘆こうと、その事実を変えることはできません。皆さんのうち誰が、次の脱落者として名前を挙げられることになろうと何ら不思議なことではないのです。
 どんな気概を掲げようとも、どれほどの絶望を抱えようとも、最終的には殺す立場か殺される立場、どちらかに立つしか選択の余地は残されていないのです。
 それを自覚なさってください。
 前置きが過ぎましたかな? それでは本題、死者の発表に移りたいと思います。
 今回脱落したのは11名です。

 西東天。
 哀川潤。
 想影真心。
 西条玉藻。
 零崎双識。
 串中弔士。
 ツナギ。
 左右田右衛門左衛門。
 宇練銀閣。
 貝木泥舟。
 江迎怒江。

 以上です。
 11名、11名。この局面にしては悪くない数字ですね。皆さんの努力の賜物と言えましょう。
 続いて禁止エリアの発表です。毎度のことですが、くれぐれも聞き逃しのないように。
 よろしいですかな?

 一時間後の19時から、F-8。
 三時間後の21時から、E-3。
 五時間後の23時から、H-6。

 以上の三ヶ所です。
 本来ならば連絡事項はこれで終了なのですが、今回は少しばかり、会場内で通常ならぬ事態が発生しているため、加えて報告しておこうと思います。
 まずひとつ。
 すでにお気付きの方もいるかとは思いますが、会場北部、竹取山にて大規模な火災が発生しております。不用意に近づきさえしなければ危険はないかと思いますが、付近にいる方は念のため注意しておいてください。
 それからもうひとつ。
 会場西部、地図上におけるB-3を中心とし、禁止エリアとは別に、とある危険区域がその範囲を拡大させながら発生しております。
 誤解のないよう言っておきますが、これは我々の用意した舞台装置ではありません。
 どういった理由で危険であるかは言及を控えますが、ある意味では火災以上、禁止エリア以上の危険区域と捉えておいたほうが身のためです。生半可な気持ちでは近づかないことをお勧めします。
 実験にトラブルは付き物です。そのトラブルをいかに乗り越えるかというのも、皆さんの手腕が試されるところと言えましょう。
 もう一度言いますが、あなたがたが生き残れるか否かは、あなたがたの成す行動と決断に掛かっています。
 努々それをお忘れにならないよう。
 それではまた、次の放送でお会いしましょう。
 皆さんのご健闘を、心よりお祈りしています――」

30 ◆wUZst.K6uE:2013/11/13(水) 21:42:22
 


 ――かちり。

 マイクの電源を切ると、それに向けて喋り続けていた和服の老人――不知火袴は大きく息をつき、椅子に深く背をもたれる。

 「今回は随分と煽ってみせたな、不知火理事長」

 その隣に座る白衣の老人――斜道卿壱郎は、モニターに映る参加者たちの様子を眺めながら不知火に話しかける。誰の映像に目を向けているのかはわからないが。
 薄暗い部屋に、周囲を囲むモニター、隣り合って座る二人の老人。
 一回目の放送とほぼ同じ光景が、その部屋にはあった。

 「ええまあ、そろそろ状況も行き詰ってくるころかと思いましてね。報酬を目の前にぶら下げるだけでなく、後ろから尻を叩いてやるのも必要ですからな」
 「飴と鞭か。教育者のお前らしいやり方だな」
 「私なりの優しさというものですよ。一刻も早く、皆さんが良い結果を出されるように」

 湯飲みを口元で傾けながら、不知火は周囲のモニターをちらりと見やる。

 「……しかし、江迎さんの件はさすがに予想外でしたね」

 会場内の動向をリアルタイムで監視し、記録するためのモニター。
 それらは会場の風景や参加者の行動を、それぞれ映像として流し続けている。しかしいくつかの画面はなぜか映像を映さず、スノーノイズの状態となってしまっていた。
 しかもそれらの画面は復旧するどころか、ひとつ、またひとつと、時間が経過するごとに同じような画面が、次々に増えていくのがわかる。
 まるで何かが『感染』するかのように。

 「暴走を抑えるために制限をかけたというのに、その制限すら飛び越えて、元々以上の能力を開花させてしまうとはね……その上、死した後にも能力だけを遺して逝かれるとは。手に負えないとはまさにこのことですな」
 「げに恐ろしきは天才よりも過負荷、といったところか。予想外といえば予想外だが、しかし問題はあるまい。首輪が腐敗を免れている以上、この施設に施されている防護を越えるということもないのだからな」
 「まあ我々は大丈夫でしょうが……しかしこのまま放置すれば最悪、参加者全員が腐敗に飲み込まれてしまいかねませんぞ。こんな形で実験が破綻してしまうというのは、あなたとしても不本意なのでは?」
 「またやり直せば良いだけの話だ。望む結果が出るまで何度もな。何しろ連中は全員――」
 「おっと、皆まで言うのは無粋というものですぞ、博士」

 そう言って、二人の老人は互いに顔を見合わせることもなく、不敵な笑みをただ浮かべる。
 何かを再確認するかのような、それは笑みだった。

 「俺達の本分はあくまで研究者だ。些細なトラブルの処理など、参加者自身にどうにかさせるか、あの小娘にでも任せておけばいい。違うか?」
 「まあ、あなたが良いと言うのであればこれ以上は何も言いませんがね……そういえば、その萩原さんはどちらへ行かれたのですかな? 先程から姿が見えないようですが」
 「所用で外すと言っていた。後輩がどうとか吐かしておったから、おおかた『選外』の連中の様子でも見に行っているのだろう」


   ◇      ◇


 不知火袴が放送を終えたころ、萩原子荻は檻の前にいた。
 数時間前、具体的には二回目の放送後、兎吊木垓輔と面会したときと同じように、彼女はどことも知れぬ幽閉施設を訪れ、固く閉ざされた鉄格子の前に立っていた。
 ただし、その格子の向こうにいるのは兎吊木垓輔ではない――そもそも檻の雰囲気からして、兎吊木の幽閉されていたそれとは違う。幾重にも念入りに鍵が取り付けられているということもないし、広さもこちらのほうが一目でわかるほどに広い。
 内装もまた、あからさまなほどに異なっている。床にはカーペットが敷かれ、天井にはきちんとした照明、さらに書籍類やテレビ、コーヒーメーカーなどの設備も整えられていて、見たところ普通の居住空間のようである。
 鉄格子で区切られているという点を除けば。
 中にいる人間が、自分の意思では外に出られないという点を除けば。
 それでも置かれているのが情報処理のための機器のみという兎吊木の檻と比べれば、格段に人間らしい空間と言えるだろうけれど。

 「ご機嫌よう、お二人とも」

 檻の中へと、子荻は声をかける。
 言葉通り、中には二人の人物がいた。
 ひとりは高校の制服を着た、ボーイッシュな短髪の少女。カーペット敷きの床にもかかわらずスニーカー履き、左腕は怪我でもしているように、肘の辺りまで包帯でぐるぐるに覆われている。
 もうひとりは、こちらも高校の制服――ただし短髪の少女と比べてスタンダードと言える、ごく普通のセーラー服を着た小柄な少女。髪を束ねている大きな黄色のリボンが、トレードマークのようによく目立っている。

31 ◆wUZst.K6uE:2013/11/13(水) 21:42:52
 
 「……ご機嫌は別によろしくないがな、むしろはっきり悪い」

 二人のうち、子荻に近い位置に座っている短髪の少女が不快そうに返事をする。
 一見溌剌とした外見の少女ではあるが、その表情からは得も言えぬ疲労感が見て取れた。ストレスを和らげるために用意されたであろう設備が、まるで役に立っていないと主張するように。

 「何かご不満な点がございましたか? 神原駿河さん――相部屋がお気に召さないのでしたら、別途に部屋をご用意いたしますが」
 「いきなりどこかもわからないところに誘拐されて、檻の中に監禁されて、それで気分のいいはずがないだろう。それと別室など不要だ。むしろ可愛い女の子との相部屋でなかったら、問答無用で暴れているところだ」

 隠し切れないほどの疲労感を滲ませながらも、神原と呼ばれた少女は毅然とした態度で受け答える。
 子荻に対し、虚勢を張る。

 「待遇の悪さについては、やむを得ないこととはいえ非常に申し訳ないと思っております。私としては、できる限り要望にはお応えしたいと思っているのですけれど」
 「要望というなら、今すぐここから出して家に帰してもらいたいところだが」
 「残念ながらそれはできません」

 間髪入れず、子荻は言う。
 交渉の余地がないことを示す。

 「場合によってはそのままお帰りいただくことになるかもしれませんが、今はまだ実験の真っ最中ですから。それが終わるまでは、ご協力いただかなくてはなりません」
 「実験? ただの殺し合いだろう」
 「そうですね、そこについても否定はできません。あなたの先輩方も参加なさっている、殺し合いの実験です」
 「…………阿良々木先輩や、戦場ヶ原先輩は、無事なのだろうな」
 「それも残念ですが、実験の進捗状況を詳しくお教えするわけにはいきません。大事な先輩の生死に関わる情報とはいえ、極秘の実験ですから」

 ぎり、と、歯を食いしばる音が檻の中に小さく響く。

 「やはり、気が気ではありませんよね。親愛なる先輩たちが殺し合いの場に放り込まれ、命の危険に晒され、もしかしたら互いに殺しあう立場にいるかもしれないというのですから」
 「冗談は胸だけにしておけ。阿良々木先輩たちが、そんな愚かしい実験にそう諾々と乗せられるはずがない。おおかた今ごろ、皆で協力して誰も殺さずに終わらせる方法を画策しているに決まっている」
 「あらあら、信頼の厚い後輩をお持ちなのですね、その阿良々木というお方は」

 羨ましいです、と言って含み笑いをする子荻。
 その態度に気分を害したのか、神原はさらに表情を険しくする。

 「私もその実験――殺し合いに参加させるつもりなのか」
 「ええ、当初はその予定でした」
 「当初は?」
 「そもそもあなたには、あなたの言う先輩たちとともにこの実験に参加していただく予定だったんですよ。暫定というよりは、ほとんど決定済みのメンバーとしてね。
 しかしその後の調査において、あなたには『資格』がないことが判明しました。この実験に参加する上で最も重要な資格がね。そういった理由で、あなたたちには参加者の枠から外れていただくしかなかったのですよ。とても残念なことに」
 「『資格』……? いったい何の話だ」

 本当に残念です、と神原の問いを無視し、子荻はひとりごとのように呟く。

 「あなたたちほどの影響力を持つ者が『選外』というのは、非常に口惜しい事実です――しかしご安心ください。資格を持たないあなたたちも、別の形でこの実験に携わる機会を得られるよう、私が取り計らいました」
 「頼んだ覚えは一ミリもないが」
 「私はこの実験の結末を、大まかに分けて三つ、想定しています」

 もはや脈絡すら関係がない。
 演説でもするように、子荻は檻の前をゆっくりと歩き回りながら語り続ける。

32 ◆wUZst.K6uE:2013/11/13(水) 21:43:40
 
 「一つ目は、参加者が一人残らず全滅してしまうというケース。
  二つ目は、順当に一人だけが生き残り、優勝を手にするケース。
  三つ目、実験そのものが続行不可能な状況に陥り、強制終了を余儀なくされてしまうというケース。
 イレギュラーの可能性まで含めれば他にも無数に想定できますけど、オッカムの剃刀に従ってこの三つだけを考えるとするなら、私たちが最も警戒すべきなのは言うまでもなく三つ目のケースです。
 実験が何によって続行不可能となるかはこれまた色々と想定が可能ですけど、特に警戒しておくべきは参加者の反抗という可能性でしょう。
 参加者の誰かが何らかの方法で主催者の掛けた束縛を解除し、この施設に革命軍よろしく突入してくる、という私たちにとっては最悪のケース。逆に参加者の皆さんにとっては起死回生のクーデター、一発逆転の打開策といったところですか。
 もっとも参加者の反抗に関しては十重二十重に対策を講じていますから、このケースが実際に起こる可能性はまずないでしょうけどね。というか私もただでは済まないでしょうから、起こってもらっちゃ困るんですけど」
 「はん、私はむしろそのケースしか想定してはいないがな。阿良々木先輩ならそのくらいのことはやってのける」
 「ええ、私も実のところはそう思っています」

 急に同意を示され、怪訝な顔をする神原。

 「この実験の参加者たちについて、私は軽く見ているつもりはありません。最も困難な可能性こそを可能にする、百万分の一の確率を最初に引き当てる、そんな空前絶後の才能の持ち主を相手に、十や二十の対策で安心するほど私は楽観主義者ではありません」

 そこであなたたちです――と、子荻は歩みを止めて神原に向き直る。

 「あなたたちにはぜひ、衛兵としての役割を担っていただきたいのです」
 「え――衛兵?」
 「衛兵というよりはボディーガードと言ったほうが据わりは良いでしょうか? ともかく何者かがこの施設に侵入してきた場合、それを排撃するための護衛役になってほしいと、つまりはそういうお願いを、私はここにしにきたのですけれど」
 「ば、馬鹿を言うな。そんなもの、協力するはずがないだろう」

 もはや理解が追いつかないという風だった。
 気丈な振る舞いも忘れ、ただ困惑だけを顔に浮かべている。

 「か、仮に私がその役割を承諾したとして、実際に阿良々木先輩がここに攻め込んできたらどうする。どう考えたって、その場で阿良々木先輩に味方するに決まってるだろう」
 「いえ、むしろ『顔見知り』が相手のときこそ、あなたたちの出番だと私は考えています。『身内』にこそ弱点を晒してしまうような、そんな仲間思いの方たちが揃っていますからね。『知り合い』であることこそが、ここでは重要なのですよ」
 「だから、協力などしないと――」
 「自発的に協力の意を示してもらう必要はありません。こちらには洗脳のスペシャリストがいますから」

 対して子荻は、まるで姿勢を崩さない。
 表情も、口調も、まるで一切ぶれる様子を見せない。

 「黒神めだかの『調整』には少々手間取ったようですけど、あなたたち程度であればそう時間は必要としないでしょう。念のため、都城さんには早めに準備してもらうようお願いしておきますが」
 「ふざけるな、洗脳だかなんだか知らないが、私はお前らの味方なんてしないぞ、絶対に」
 「ご安心ください。先ほども言いましたが、場合によってはそのままお帰りいただくこともあります。
 例えばあなたの場合、阿良々木暦を中心とする数名のメンバーに対するカウンターとして使用するつもりでいますので、あなたの言う『先輩たち』が全員脱落――まあつまりは死亡した場合ですが、その時点であなたはほぼお役御免ということに――」
 「いい加減にしろ!!」

 がしゃん、と鋭い金属音が室内にこだまする。
 両手で鉄格子を握り締め、しかし言うべき言葉が見つからないのか、激しい表情で子荻をただ睨みつける。
 子荻はその視線を、冷め切った表情で受け流す。まるで興味のないものを見るような目で。

33 ◆wUZst.K6uE:2013/11/13(水) 21:44:06
 
 「……萩原さん、あなたはいったい、何を考えているんですか」

 そのとき、部屋の奥で二人のやりとりを黙って見ていた黄色いリボンの少女が恐る恐るといった感じに口を開く。
 スカートの端を握り締めるその両手は、目に見えて震えていた。

 「西条ちゃんはともかく、師匠や、あまつさえ潤さんまで巻き込むなんて――こんなのもう、どう転んだって普通じゃ済みませんよ。いくらあなたのやることでも、常軌を逸しすぎてます。
 あなたはいったい、何をやろうとしてるんですか。何のために、何の目的で、誰に何の得があって、こんなことをしているんですか」

 沈黙。
 神原は子荻を睨み続け、子荻は小柄な少女と視線を交錯させ続ける。
 檻の内と外で、三人の少女は沈黙のままに、ちぐはぐに向かい合っていた。

 「――この実験の真の目的は、私の知るところにはありません」

 ややあって、子荻が笑みを消した表情で誰ともなく言う。

 「私自身に目的があるとすれば、私が私であることを証明することでしょうね……今の私が、正真正銘の『萩原子荻』であること。それを証明するのは、おそらく不可能に近いのでしょうけど――」
 「……何の、話ですか」
 「他人に訊いてばかりいるというのは愚か者の証拠です。少しは自分の頭で考えなさい、紫木」

 そう言って、子荻は二人の少女に背を向ける。
 そのまま立ち去るかに見えたが、「ああ」と思い出したかのように足を止め、

 「先ほどの件ですが、護衛役といってもそう気負うものではありません。別に最後の砦というわけでもないですし、侵入者があった場合に限り、ほんの少しバリケードとして機能してくれればよいというだけの話です」

 それ以上の働きは期待していませんから。
 最後にそう言い捨てて、『策師』の少女は一度も振り返ることなくその場を後にする。
 がん、と鉄格子を殴りつける音だけが、檻の中に空しく響いた。


   ◇      ◇


 とぅるるるるるるる……

 ピッ。

 「もしもし、都城さん。偵察ご苦労様です。
 ――ええ、その『腐敗』を止めることは現時点では不可能ですから、巻き込まれないうちに一度こちらへ戻ってきていただけますか。こちらでひとつ、やっていただきたい仕事ができましたので。
 そうですね、例の『選外』の方たちについての――いえ、緊急にいうわけでもないのですが、その『腐敗』も含めて諸所で不穏な気配が見られるようなので、早めに準備していただこうかと。
 なにしろ、首輪の解除を補助しかねないような情報が一部とはいえ会場内に漏れ出てしまっているというのですからね……余裕を見せていられる状況ではありません。
 ――え? さあ、いったいどこから漏出したのでしょうね。私には皆目。
 都城さんも、道中は十分にお気をつけください。私の『策』の実行に、あなたはなくてはならない存在なのですから。
 ――あら失礼。それではまた、こちらでお会いしましょう」

 プツッ――ツーツーツー……

 「……この分だと、腐敗の波がこの施設を飲み込んでしまうのも時間の問題ですね。あの二人の言うとおり、ここの防護を越えることはまずないでしょうけど――」

 やれやれ、と通話を終えた子荻は困ったように首を振る。

 「いくら参加者の自主性を重んじるためとはいえ、あれほどの異常事態が発生しているのに放置したままでよいとは、あの二人は鷹揚と言うより、危機感が欠けているように見えますね……この施設内も、必ずしも安全という保証はないというのに」

 まあ一応、対策は考えていますけどね――言いながら、携帯電話を操作する子荻。
 画面に表示されているのは、電話帳に登録されている携帯電話の番号と、その持ち主の名前。
 『都城王土』をはじめとするいくつもの名前のうち、子荻はある人物の名前を確認する。
 一人の少女の名前を。
 主催者の一人である老人と同じ姓を持つ、その少女の名前を。

 「過負荷には過負荷――もしものときは、彼女に『喰い改めて』いただくのが得策ですか」

34 ◆wUZst.K6uE:2013/11/13(水) 21:45:46
投下終了です。
誤字脱字、問題点などあればご指摘お願いします。

35 ◆ARe2lZhvho:2013/11/14(木) 10:30:14
放送案投下乙です
なるほどこう来たかー!
今すぐにでも詳しく感想書きたいところですがそれは本投下されるまで待つとしまして
これといった問題点はなかったように思います

36 ◆VxAX.uhVsM:2013/11/18(月) 23:42:27
投下乙です。
気になる点などは見当たらないので、本投下をしてもいいと思います。

37 ◆ARe2lZhvho:2015/08/10(月) 09:48:28
遅くなり申し訳ありませんでした
放送案投下します

38 ◆ARe2lZhvho:2015/08/10(月) 09:49:06
「時間だ、放送を始める。
 見知っている者もいるだろうが名乗っておこう、俺は都城王土という。
 もっとも、覚えてもらう必要はない。
 ただの協力者の一人と思ってもらって結構だ。
 さて、理事長と違って俺は長話をする気はないのでな、死者の発表に移らせてもらう。

 供犠創貴。
 真庭鳳凰。
 戦場ヶ原ひたぎ。
 黒神めだか。
 宗像形。

 以上、五名だ。
 これまでの傾向からすると少ないのだろうな。
 前回頑張りすぎたか?
 俺には与り知らぬことだが。
 そして禁止エリアは以下の三ヶ所だ。

 一時間後の1時から、E-5。
 三時間後の3時から、F-7。
 五時間後の5時から、G-4。

 そして引き続き報告事項がある。
 まず、竹取山の火災だが、こちらについては収束しつつある。
 しかし、人が立ち入れる領域ではないのは変わりはない。
 熱気で踊山の雪が溶け、雪崩が発生する可能性もある。
 ここまで生き長らえたたのだ、くだらない死因で死にたくないのなら麓ですら近づかない方がいいだろう。
 そのような死に方をされるのはこちらとしても不本意なのでな。
 そして西部に発生した危険区域だが、こちらは被害拡大を食い止めただけに過ぎん。
 ただし、火災と同様に近づかなければお前たちには無関係のものだ。
 全員の現在位置を鑑みれば不必要なものかもしれんが、一応警告しておこう。

 今回の放送はこれで終了だ。
 失礼する」





「ご苦労様でした」

スイッチを切ると同時、ねぎらう声がかかる。

「こんなものに苦労も何もあるまい」
「あら、私と同じ反応をなさるんですね」

くすくすと笑うのは『策士』――萩原子荻。
その反応を見た都城王土はストレートに反応を返す。

「含みを持った言い方だな」
「他意はありません。それにしても、随分とあっさりした放送でしたね」
「問うに落ちず語るに落ちる、だ。無駄なことを漏らしてしまうのは貴様にとっても不利益だと考慮したのだが」
「ええ、聡明な判断です。とはいってもあなたが放送をしたという事実だけで、参加者には考察の材料をいくらか渡してしまったことにはなるのですが」
「その俺が放送をやることになった理由は? 俺の認識では『仕事』はまだ全て終わっていないはずなのだが」
「私ではなく理事長ですよ」

ちら、と子荻が目線を動かした先にいるのは一人の老人だ。
二人のやり取りを黙って見ていた不知火袴は、話題の主導権を自分に移されたことを察すると咳払いを一つし、口を開いた。

「お二人の意見を伺いたい用件ができてしまったものですので」

39 ◆ARe2lZhvho:2015/08/10(月) 09:49:34
「大方予想はついているが、生憎過負荷については門外漢だ」
「都城さんに同じく。ですが、私は輪をかけて専門外ですよ」

片や元十三組の十三人、片や元澄百合学園の策士。
屈指の頭脳を持つ者たちだ、一文を聞いただけで二人は意図を察する。
鑢七実の過負荷習得、重し蟹の出現などもあったがこれらは想定外とまで言えるものではない。
十中八九、球磨川禊の『却本作り』についてだろう。

「もちろん承知の上です。ですがそういった方たちの視点が突破口になるというのはままあることですのでね」
「今回はそういう『調整』だったのでしょう? 失敗していなかったとするなら、外部の干渉でしょうか」

まず答えたのは子荻だ。
しかし、スキルなど存在しない世界出身である彼女に話せる事柄はない。
自然と、当たり障りのないものになる。

「やはりそうお考えになりますか。ですが会場のセキュリティーに異常はありませんし……都城君は?」
「俺には皆目見当もつかんな。それでも意見を述べるなら、『あの人外』が関わっているとしか」

続いて王土も意見を求められるが、『異常』しか持たぬ王土に『過負荷』について子荻同様深くは話せない。
結局、一つの可能性を述べるに留まる。
その可能性もかなり突飛なものだが。

「そうだとすると、まだ失敗していてくれた方が状況はよいのですがね……」

ずず、と不知火袴は湯飲みの茶を啜る。
今回の実験はイレギュラーが多い。
当然、実験にイレギュラーは付き物で、イレギュラーから思わぬ成功を生み出すことがあるというのもわかってはいるが。

「用件はこれだけか? 俺はそろそろ戻りたいのだが」
「おっと、つい考えに没頭してしまいました。もう大丈夫ですよ、お呼び立てしてすみませんでした」
「では失礼するとしよう。ときに萩原」
「はい、なんでしょうか」
「『仕事』が終わった後の予定を聞いておきたいのだが」
「早急なものは特になかったはずですが」
「そうか」

部屋を後にしようと王土が扉を開くと、少女がいた。
ちょうどノックをするところだったのだろう、握られた左手は胸の前で止まっている。
一方、右手には会場の参加者が持つものと同じデイパックが複数、ぶら下がっていた。

「ありゃ、都城先輩じゃないですか。放送お疲れ様でした」
「不知火か。理事長と萩原なら中にいるぞ」
「それはどうも」

不知火半袖は出口を譲るように一歩ずれると、他愛のない会話を交わす。
振り返ることなく王土はそのまま立ち去っていった。

「ただいまー、おじいちゃん」
「おお、袖ちゃん。おかえりなさい」

入れ替わるように部屋に入った不知火半袖は、不知火袴が座るソファーの対面、萩原子荻の隣にどっかりと腰を下ろした。
そのままテーブルの上にあった羊羹を断り無くもぐもぐと食べ始める。
羊羹を取られ、お茶請けにするつもりだった不知火袴は少し残念そうにしていたが気を取り直して団子をつまんだ。

「それで、どうでした?」

食べ終わる頃合いを見計らい、子荻が訊く。

「あたしが連絡入れるって聞きましたけど。まだいってませんでした?」
「いえ、報告は聞いていますよ、だからこそあの放送です。その上で訊ねているのです」

40 ◆ARe2lZhvho:2015/08/10(月) 09:50:00
「別に違いなんてありませんけどねえ。江迎怒江本人が死亡している以上、『正喰者』でも消すのが精一杯でした。
 ですので終わってしまった結果の方、要するに腐敗した地面や空気はどうしようもありません。
 大元を消したので感染拡大するということはないと思いますがね。腐らせるスキルを浄化させるスキルにできれば言うこと無しだったんですけれど。
 で、あたしがこうして五体満足なことからおわかりでしょうけれど、『制限』そのものは有効でした、ってところですかね」

不知火半袖からの報告を聞いて「ふむ」と軽くうつむくと、

「それならばなんとかなりそうです。では私は都城さんがおっしゃっていた『あの人外』さんがいた場合の『策』を練っておきましょうか」

そう言って子荻も部屋を後にした。
残った二人はしばらく無言でお茶を飲んだり茶菓子を貪っていたが、ふと不知火袴が口を開いた。

「……袖ちゃんは本当に安心院さんがいると思うんですか?」
「あたしよりもおじいちゃんの方が詳しいでしょ」
「付き合いこそ確かに袖ちゃんよりは長いですが、深さにおいて勝るとまでは自負していませんよ」
「そんなの、あたしも似たようなものだって。それに、球磨川先輩の方が圧倒的なのは変わらないだろうし。まあいるかいないかで考えるならいるだろうね、多分」
「袖ちゃんもそう思いますか」
「案外あたしがもう見つけてるかもしれないけどね。でもいたとしてもそこまで介入はしてないんじゃない?」
「安心院さんがその気になれば、一瞬で片が付きますからな……それは望まないところです」
「実験を壊すなら参加者が、そう言ってたもんね」
「むしろそうでなければ困ります。この実験の成功は我々の悲願でもありますからな」
「あたしたち不知火一族の、ひいては世界のためにも、でしょ?」
「ええ、ですから成功した暁にはたった一つの願いなどいくらでも叶えて差し上げましょう。それくらいはお安いものです」

ことり、と空になった湯呑みを置いて不知火袴は笑みを浮かべた。
それは邪悪とも軽薄とも愉悦ともつかない笑いだった。

「そうそう、おじいちゃん。ここまで言うタイミングがなかったんだけど」

そこに水を差すように不知火半袖から声がかかる。

「何ですかな?」
「腐敗を止めるついでに回収してきたのがあるんだけど、一つはまだ中身入りだったんだよね。特に感染血統奇野師団の病毒なんかは使い道まだありそうだし」

右腕を持ち上げてデイパックを見せるように揺らして言う。

「これ、どうしよっか?」


 ▼


同時刻。
とある簡素な一室。
部屋のあるじとなった安心院なじみの元に来客が訪れる。
正体を認めると少しだけ意外そうに眉根を寄せた。
だが、それも一瞬のことで直後にはいつものように柔和な笑みに戻る。

「へえ、このタイミングで来るのか。噓八百のスタイルでも習得したのかい?」
「あひゃひゃ、冗談は結構ですって。……それにしても、スタイルのこともしっかりご存知のようで」
「その言い方だと、こっちの僕はスタイルのことをそこまで知らずに死んだみたいだねえ」
「間違いではありませんよ」
「どこまで知っていたかは、不知火ちゃんでもわからないか」
「さすがにそんなとこまで把握できませんって。それにしても、宗像形も、黒神めだかも死んだというのにその反応ですか」
「おかしなことを言うじゃないか。それこそそのままそっくり君に返してあげたいねえ」
「まあ今更ですね。だったら最初からどうにかしておけって話ですし」

探りを入れるような会話の応酬の末、来訪者の不知火半袖は先程と同じように対面のソファーに腰掛ける。

「で、何の用なんだい? まさかこの時間に来て話すだけだったとしても、付き合うのは吝かじゃないけど」

41 ◆ARe2lZhvho:2015/08/10(月) 09:50:15
「もちろんそんなわけないじゃないですか。一つ確認……確定させたいことがありましたので」
「その認識で間違ってないと思うけどねえ」
「ですから確定させたいんですよ……とはいっても、さっきあたしの方が質問しすぎちゃいましたからねえ。公平さは期したいので安心院さん、お二つどうぞ」
「不知火ちゃんがこれから聞くということを考慮すると三つじゃないのかなあ。とはいっても僕も聞きたいことがあるわけじゃないしねえ……うん。
 そうだね、さっきの僕の『想定』のことと、スタイルのことで二つとしておこう」
「それはどうも。お礼ついでにその問いにきっちり答えておくとしますと、あたしはスタイルは使ってませんよ」
「『使ってません』ねえ……まあいいか。じゃあ純粋な興味から聞いておくとしよう、あのデイパックの仕組みとか」
「ただのスキルの複合ですよ。大きな物でも入り口を通り抜けられるようにするスキルと中の空間を歪曲するスキル、容量を増やすスキル辺りがメインですね」
「僕のスキルで例えるなら『血管戸当て(ブラッドバスストップ)』に『掌握する巨悪(グラップエンプティ)』と『懐が深海(ディープポケット)』か。
 てっきり『次元喉果(ハスキーボイスディメンション)』と『いつまでも史話合わせに暮らしました(エターナルエターナルライフ)』辺りだと思ったんだけど」
「それ、どんなスキルなんですかねえ……」
「ただの次元を超えるスキルと永久世界のスキルだけど」
「たかがデイパックにそこまでやれませんって」
「そんなものなのかい」
「そんなものなんですよ」

やれやれ、と同時に肩をすくめる。
お互い本題ではなかったからか、剣呑な空気はそこにはない。

「僕のターンはこれで終わりかな。さあ、不知火ちゃんの番だよ」
「ええ、そうさせてもらいます」

だがそれもここまでだ。
その場に傍観者がいたならば、部屋の温度が下がったのではと錯覚するくらい、空気が変わった。


「干渉した――あなた風に言うとちょっかいをかけた、ですか。あたしの見立てですと×××××と零崎双識、それに鑢七花もですかね?
 前後で大きく変化が見られたのが彼ら三人でしたからね。あ、球磨川禊は例外ですよ? 例え『却本作り』を渡したのだとしてもそれはこの質問には関係ありませんし。
 そして疑問に思うわけです。なぜこの三人なのか? この三人だけなのか? それともこの三人だけしかできなかった? はたまたこの三人しかする必要がなかった?
 共通点を洗い出すとすると、全員男性、いわゆる『主人公』である、そしてあなたが干渉したと思われるとき一人でいた――違いますか?
 この前提が成り立つとして、阿良々木暦は不可能だったとしても、供犠創貴と櫃内様刻は? まあ、供犠創貴はほぼ真庭蝙蝠や水倉りすかと行動してましたけれども。
 ですが、櫃内様刻は思いっきりあなたがちょっかいかけそうなシチュエーションに複数回いたにも関わらず、それらしき形跡は無し。
 でもそもそも、あなたにとって相手が『主人公』である必要も、一人でいる必要もどこにもありませんよね。それができないあなたではないんですから。
 女性には誰一人何もしてないというのも含めて、どう考えてもおかしいですよねえ……? ですので視点を換えてみました。
 あなたがちょっかいをかけた三人はやむを得ずそうしたのでは?と。女性は全部とは言わず一部でも、してないのではなくし終わっているのでは?と。
 それに伴ってとある仮説を立ててみたらぴったりはまるものがありまして。最終的に確信したのは『猫の世話』をしていることを否定しなかったときです。
 ここまでごちゃごちゃ並べ立てましたけと、結局聞きたいことは一つですよ」



不知火半袖は問いかける。



「あなた、一体何人を悪平等(ぼく)にしたんですか?」



対する安心院なじみは――

42 ◆ARe2lZhvho:2015/08/10(月) 09:52:12
投下終了です
誤字脱字等問題点があれば言ってください

何か言われてもしょうがないと思ってるので本当に問題点があったら言ってください

43 ◆wUZst.K6uE:2015/08/11(火) 09:43:10
放送案投下乙です。ここへ来てようやく「真相」が具体的な形で示されましたね…
問題点等は特に見当たらないので、このまま本投下しても大丈夫かと思います
代理投下が必要な場合は請け負うのでご一報ください


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