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SRPGバトルロワイヤル8
286
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:44:27 ID:???
「この様子じゃあ、準備はいらないかしら…」
私はいつも通りに、寝かせた標的に跨り。
両足を絡めて、彼が動かぬよう押さえ込む。
――再び、彼の貌を覗き込む。
彼は既に私に夢中だ。その視線と手は肢体に向けられ、
もはや何をされても、不審に思う事はない。
――どうやら、これ以上の演技は必要ないらしい。
私は彼と繋がりながら、手にある剣を後ろで引き抜き。
逆手に握りしめた剣を、大きく振り上げる。
「ごめん、ね…」
「えっ?」
夢見心地だった彼が、視界に映る白刃を認めて血の気を失う。
だが、もう遅い。これで……。
――――唐突に私へと叩きつけられた、濃密な殺意。
当然、目の前の彼のものではない。ならば、誰が?
考えるよりも早く、私は地を蹴り彼より離れる。
「……ッ!!」
「私の獲物を横取りされて貰っては、困るな?」
287
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:45:01 ID:???
――鋭い痛み。それを感じる場所は、背中。
どうやら、背後からの斬撃をよけそこなったらしい。
だが、皮一枚だけで済んだのは、僥倖というべきか。
標的のいる傍らには、隻眼の騎士らしき男がいた。
――彼の仲間なのか?
「泥棒猫には、早々に退場してもらおうか?」
ロレイラルの機械兵士を思わせる、抑揚のない声が響き渡る。
「…あ、アルフォンス!!な、なんで…?
まさか、俺を助け……?ぐはあっ!!」
仲間らしきものが来たにも関わらず、困惑の表情を浮かべる標的。
そして、隻眼の騎士は彼の下腹を勢い良く蹴り上げ。
胃に収めてあったものが、地面に撒き散らされる。
「ぐぅ……えっ!っ……ぎ、があ……っ?!」
「目は、覚めたか?いつまで呆けているつもりだ?」
私に剣を向けながら、標的を冷ややかに見下ろす隻眼の騎士。
…実に、余計な事をしてくれる。
吐瀉物にある臭気と腹部への突き刺さるような痛みが、
無理矢理にでも標的の意識を鮮明なものにするだろう。
これでは、もう迂闊に手を出せない。
288
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:45:40 ID:???
標的を遮るようにして、隻眼の騎士が立ち塞がる。
だが、先程の不意討ちの見事な手際から…。
彼が私と近い、闇の存在である事を教えていた。
そしてこの障害は、決して私の手に負えるような存在ではない。
いや、むしろそれから逃げる事すら困難を窮めるだろう。
――格というものが、根本的に違い過ぎるのだ。
(これは…。私では、勝てない…)
これまで私を生かし続けていた暗殺者としての勘が、
その絶望を脳裏に囁いていた。
「その無様なものは早々にしまえ。
さて、貴公は“この私より”強いのであろう?
ならば、立ち上がりそれを示して貰おうか」
だが、青白く光る月明かりを背に、標的に話しかけるその男は。
その貌こそ陰となりよく分からないものの、
その声は歪んだ喜びに弾んだようなものが感じられ。
そして、その研ぎ澄まされた殺意は。
私だけでなく、眼下の青年にも均等に向けられていた…。
◇ ◇ ◇
後一歩という所で、ややこしい事になった。
――だが、明るい材料もある。
289
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:46:13 ID:???
隻眼の騎士の様子から察するに、彼は標的にとっての敵であるらしい。
三つ巴の関係に嵌ったと考えた方が正しいのだろう。
――ならば、隻眼の騎士が彼を殺害するまでを遠巻きに見届け、
その後に逃亡してしまえば?
もはや、自ら手を汚す危険もなくなる。
仕事は無事果たされた事となり、なんら問題はない。
私は後ろ足で隻眼の騎士から更に距離を置こうとした、
その時に――。
「……ッ!!」
斬られた背中が風を受け、その痛みが私の意識を…。
僅かな間、鮮明なものとする。
私は――。
私は――。
そう言えば、一体何をしているのだろう?
彼を殺す仕事についている。それはわかる。
だが、一体誰の命令で?
290
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:46:56 ID:???
【「君の□□の所に行くんだ、そして愛を告げろ。相手が答えたなら、殺せ」】
歪んだ笑みを浮かべる、金髪の青年の顔が脳裏に浮かぶ。
私の乳房を片手で鷲掴みし、その男はさらに囁く。
【「方法は任せる、この身体を使って精一杯誘惑してやる事だな」】
…一体、彼は誰なんだろう?私のいる組織で、顔を見た覚えはない。
そして、その後のほうが酷く大切な事を言っていたような…、
そんな気がする。
【「殺し終えたとき、お前は□□□□□□□□全てを思い出す」】
――いや、それはどうでも良いことだ。
一度“茨の君”として、ヘイゼルとして命令が与えられた以上は、
必ず標的の生命を奪わねばならない。それが、組織の規律なのだから。
そうしなければ、私が生きていけないのだから。
…私の意志など、まるで関係がないのだ。
だが、まだ腑に落ちない点がある。
標的の彼は――。
何故、私の本名を知っていたのだろう?
「パッフェルさん」と。
今や、それを知る者など殆どいないというのに。
いや、それ以前に。
私は今、取り返しが付かない事をしようとしているのではないか?
そんな気がしてならないのだ。
291
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:47:26 ID:???
だが、何故そう感じるのか?
…わからない。
ならば私は、一体どうすれば――。
どうすれば、良いのだろうか?
+ +
――ああ。
探し求めていたぞ、マグナよ。
月下の再会を、心より寿ごう。
だが、私が手に掛けるその前に。
薄汚い暗殺者の色香に惑い、その手に掛かる寸前であったとは。
実に不甲斐ない話しではないか?
それでは詰まらないのだ。
それでは満たされぬのだ。
貴様は必ず殺す。
…この、私がな。
だが、その前に。
我々の逢瀬を邪魔する女狐には、早々に退場してもらおうか?
そう言いたい所だが――。
292
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:47:59 ID:???
何かしら、その女狐の様子がおかしい。
マグナがその女に懸想している。それは見ての通りだ。
だが、それは出会ったばかりの女を見るにしては、酷く生々しい感情をたたえており。
行きずりの女の誘惑に負け、油断しきっていたというよりは、
長い間心より愛した女への、最悪の裏切りに出会ったかのような――。
私がマグナに浮かばせたかった、驚愕と絶望に顔を染めかけていたのだ。
何故だ?
何故、貴様は間女にそのように特別な貌を見せる?
それは、貴様が私に見せるべき貌のはずであろう?
私は形容しがたい嫉妬に駆られ、私はその女を睨み付けるが。
――その女の瞳は、一切の意志を感じさせる事がない程、
焦点というものが合っておらず。
まるで、何らかの暗示にでも掛けられたかのように、
自らの殺意を感じさせることはなかった。
…『暗示』?
そこで私は一つの可能性に思い当たる。
もし、この女が元よりマグナの知り合いであり。
それが催眠術等で操られていた結果なのだとしたら?
この女にマグナが油断し切っていたのも頷ける話しだ。
そして、あの操り人形めいた様子は何よりも。
我々の世界の暗黒系魔法にかかったかのような、酷く知る臭いがした。
――もし、私の推測通りであれば?
293
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:49:45 ID:???
この女には出来るだけ惨たらしく、マグナの目の前で死んで貰う事にしよう。
それこそが、マグナにより深い絶望を思い知らせるという事になるのだから。
ああ、もしこんなことであるならば。
あの小物を、この場にでも連れてくるべきであったな?
そうならばあの女にでもけしかけ、
マグナに愛する者を無残に奪われる悲しみも与えてやれたものを――。
だが、確たる証は何もない。
ならば、一度確かめてはみるべきか?
私は、マグナを、眼前の女狐を手に掛ける前に――。
その関係に探りを入れるべく、次に掛ける言葉を頭で整理し始めた。
+ +
どういうことだよ?
訳わかんねえよ…。
なあ、嘘だよな?
何かの悪い冗談だと言ってくれよ、パッフェルさん。
「彼氏なんて、そもそも私にはいません」なんてさ。
それに、俺に刃を構えたのだって、何か深い事情があって…。
…なあ、答えてくれよ。パッフェルさんっ!!
294
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:50:24 ID:???
俺は視線で訴えるが、彼女は動じない。
むしろ俺もアルフォンスも見えていないかのように、
ただぼんやりと俺達のいる空間を眺めている。
一体、一体どうしちまったんだよ…。
だが、そんな俺の彼女への感傷を。
お腹の痛みと口から臭う酸味が、俺を現実へと引き戻す。
――目の前には、アルフォンスがいる。
俺が履物を直し、立ち上がる所を無表情に眺めてはいたが。
その一つしかない瞳の奥底は、メルギトスのそれよりも濁り切った…。
むしろ不気味な輝きのようなものが確かに見え。
俺は数歩下がり、立ち上がる際に拾い上げた鞭を構える。
酷く心許ない。こういった武器は扱った事はないのだ。
いや、剣でだってあのアルフォンスを止められるかどうか…。
全てを捨てて再び逃げるという手もある。
だが、そんなことは今は絶対に出来ない。
俺が逃げれば、残されたパッフェルさんは一体どうなるんだ?
そんなことをすれば、アルフォンスはルヴァイドに続き――。
彼女をその手にかけようとするだろう。
――アルフォンス自身の生存のために。
そして、俺はまたしてもそれを見届ける事しか出来ず――。
いや、そんなことは絶対に許されない!
295
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:51:26 ID:???
アルフォンスを抑えるのは難しくても。
パッフェルさんを、まずはなんとかしないと。
そして、二人で一緒に逃げて――。
その後、一体どうすればいいのだろう?
それに、パッフェルさんにした所で。
さっきの言葉通り、俺の事なんて本当はどうでもよくて。
むしろアルフォンスみたいに「自分が生きる為に」って理由で。
さっきも邪魔になってしまった俺を、殺そうと考えていたのかもしれない。
…だったら、どうすればいいんだろう?
――もう、訳が分からないよ…。
なあ、どうすればいいんだよ…。
+ +
あーあ、やっちまったな…。
いい加減駆け引きはなしで俺の名前を伝えて、同盟関係でも結ぶつもりだったんだが。
最悪のタイミングであのニンゲンの仲間がやってきて。
全部ご破産になっちまいやがった。
あれが、彼女がかばってた“彼氏の”マグナさんって奴か。
それはよおく分かったよ、パッフェルさん。
296
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:51:57 ID:???
とは言え、これじゃあ弁解も何もあったもんじゃないわな。
少なくとも二人には完全に敵だと見做されちまう。
まあ一旦は逃げ出したものの、様子が気になって遠目で眺めてたんだが――。
なんかあのニンゲンが仲間相手におっぱじめて、その最中にまた別の男が乱入して。
なんだか気が付きゃ三角関係っぽい見事な修羅場が出来上がっちまいやがった。
俺は今の面白そうな状況から、誰に味方して恩を売るかを考えてみる。
誰か一人程度なら、担いでその場から逃げる事も出来そうだが。
そこまでする利益が、果たしてあるかどうか…。
ま、確かにあの源罪のディエルゴを倒した奴等ってのなら、
色々と利用価値や聞くべき情報はあるってもんだろうがね?
…とはいえ、生命の危険が利益を上回るなら話は別だ。
あるいは、身の安全を最優先してこのまま静観を決め込んじまうか?
――さて、どうしたもんだかねえ?
297
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:52:39 ID:???
【D-6/マルスの死体付近・上空/二日目・未明】
【パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:全裸、身体的疲労(中度) 、心神喪失状態(暗示の発動)、背中にかすり傷
[装備]:バルダーソード@TO
[思考]1:……マグナを殺す。
2:近くの黒騎士(タルタロス)を、どうすべきか?
3:命令(暗示)の遂行に当たり、最も的確な行動を模索中。
4:何故、標的(マグナ)を殺さねばならないのだろう?
[備考]:デニムによりかけられた「愛した者を殺す」という呪詛が発動中です。
ただし、背中に与えられた刃傷の痛みにより暗示が緩みつつあります。
大きな心身への衝撃や神聖魔法により、解除される可能性があります。
ネサラは既に去ったものだと思っています。
【マグナ@サモンナイト2】
[状態]:精神的疲労(重度)、現実逃避(重度)、上着を脱いでいる、
右頬に打撲(大きく腫れ上がり)、下腹に激痛(外傷はなし)
[装備]:あやしい触手@魔界戦記ディスガイア
[道具]:支給品一式(食料を2食分消費しています) 浄化の杖@TO
予備のワインボトル一つ・小麦粉の入った袋一つ・ビン数個(中身はジャムや薬)
[思考]1:…パッフェルさん、アルフォンス…。一体、どうして?
2:もう何が何だか分かんないよ…
[備考]:マグナの脱いだ上着と濡れたシーツ、およびマルス王子の履物と靴が
マグナの足元にまとめて落ちています。
ネサラは既に去ったものだと思っています。
298
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:53:12 ID:???
【ランスロット・タルタロス@タクティクスオウガ】
[状態]:疲労(軽度)、軽装、マグナに対する底無しの悪意。
[装備]:ロンバルディア@TO、サモナイト石(ダークレギオン)
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています)
リュナンの首輪、ハミルトンの首輪、ルヴァイドの首輪
[思考]1:生存を最優先
2:ネスティ、またはカーチスとの接触を第一目的とする。
3:抜剣者と接触し、ディエルゴの打倒に使えるか判断する。
抜剣者もまた利用できないと判断した場合は、優勝を目指す。
4:ヴァイスとの合流前に、邪魔者は確実に排除しておきたい。
5:マグナを必ず後悔と絶望の中で殺害する。
[備考]:パッフェルをマグナの生命を狙った暗殺者だと認識しています。
マグナを排除する前に片付けるつもりですが、
何者かの暗黒系魔法により暗示を受けた可能性に思い至ってます。
状況次第によっては、マグナを苦しめるために利用するつもりです。
己の最初に来ていた甲冑は、D-6へ至るまでの道中で脱ぎ捨てました。
なお、上空にいるネサラには未だ気づいていません。
【ネサラ@暁の女神】
[状態]:打撲(顔面に殴打痕)、飛行中
[装備]:ヒスイの腕輪@FFT
[道具]:支給品一式×2 清酒・龍殺し@サモンナイト2、筆記用具一式、
[思考]1:己の生存を最優先。ゲームを脱出する為なら、一切の手段は選ばない。
2:マグナとパッフェルの二人に味方して、恩を売るべきか?
3:脱出が不可能だと判断した場合は、躊躇なく優勝を目指す。
[備考]:先程のやり取りから、パッフェルがかばっていた(目の前にいる)
青年を「彼氏のマグナさん」だと認識しました。
パッフェルへの尋問から、「源罪のディエルゴ」の情報を得ました。
彼女以外にその仲間が、ディエルゴの報復の為呼び出されている
可能性を疑っています。
299
:
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:53:57 ID:???
これにて投下完了です。
ご意見、ご指摘等ありましたら、遠慮なくお願いします。
300
:
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 11:55:02 ID:???
すいません。夜の移動距離考えたらいくらなんでも速すぎるので、
時間帯を未明から黎明へと変更します。
パッフェルさん、風邪ひくなこれは…。
301
:
源罪な名無しさん
:2013/04/06(土) 18:11:40 ID:???
投下乙です。
ネサラは、石橋を叩きすぎて壊しちゃったな。
302
:
源罪な名無しさん
:2013/04/07(日) 14:31:30 ID:???
激しく乙です
303
:
源罪な名無しさん
:2013/04/08(月) 08:44:03 ID:???
問題なさそうなのでWikiに登録しますね。
304
:
◆j893VYBPfU
:2013/04/10(水) 20:40:03 ID:???
句読点などの誤字脱字を若干修正してWikiに収録。
あと、パッフェルの状態表の備考を分かりやすいように加筆。
306
:
源罪な名無しさん
:2015/01/15(木) 03:46:45 ID:???
あああ
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