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臨時なのはクロススレ15

1名無しの魔導師:2010/05/27(木) 22:39:07 ID:Z0jDheY60
ここは種死&リリカルなのはクロスオーバー作品を取り扱う所です

シンが八神家やフェイトに餌付けされたり
レイがリリカルな魔法少年になったり
なのはさんが種死世界に行き、世直しをしたり
デバイス達がMS化したりその逆もあったり
キラがフルバーストでガジェットを一掃したり
アスランは相変わらず凸ていたり
他様々なIFが用意されています

・職人様はコテとトリ必須。
・職人様は荒れているときこそ投下強行。全裸wktkに勝る流れ変えなし。
・次スレ立ては950を踏んだ人が立てる事
・1000に達する前に容量オーバーになりそうな時は気づいた人が立ててください
・各作品の考察は該当スレにて宜しく頼みます
・煽り、荒らしは無視しましょう、反応した貴方も荒らしだ。

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫
http://arte.wikiwiki.jp/

607名無しだった魔導師:2012/05/26(土) 22:05:00 ID:Pgls1r/gO
以上です。

まぁ私は年中5月病なんですけどね!

608名無しの魔導師:2012/05/26(土) 23:57:40 ID:UTQAvUGI0
作者様gjです

ただちょっとだけ作品内で地の文とセリフの間がなくて読みにくいです
いつも楽しみに読ましていただいているのでそれだけ指摘させていただきたいです
続きお待ちしています

609とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:52:40 ID:xik2zMnM0
借ります

610とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:53:14 ID:xik2zMnM0

 コツコツと黒板と白いチョークの擦れる音が室内に響き渡る。

 ごく一般的に見られる学校の授業時における有り触れた光景である。教師が黒板に教科書の内容を黒板に書き記したり、口頭で説明を加えたりすることもある。授業の受け手である生徒は、その授業内容を自身が所持しているノート等に書き写す事で自身の脳内に授業内容をインプット≪in put≫し、来たるべき試験に向けてアウトプット≪out put≫出来る様に備えているのだ。

 私立聖祥大学附属小学校3年1組においても、授業時間である現在は当然、その授業の光景に包まれているものである。しかし、数人を除いて、授業内容と余り関係の無い事に悩まされている、という事は付け加えておく。
 
 ――レイジングハート、聞こえる?――

 ――Yes, I can hear you.(聞こえていますよ)――

 授業中であることを考慮して、なのはは思念通話によって首からぶら下げている紅玉のデバイス―レイジングハートに向けて会話を試みている。何故このような事を態々授業中に行うのかと言うと、なのはには如何しても疑問に思うことがあり、それに対してレイジングハートに質問を敢行して疑問を解消したいと考えているからなのだ。


 ここでなのはは昨夜の事の顛末を思い起こした…





       魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE03」





 昨夜、【ロストロギア】の異相体との戦闘における事の顛末は、なのはが放った直射型砲撃魔法によって事無きを得た。結論から論じてしまうと、たった数十文字で終わってしまうのだが、重要なのはここからなのである。


 異相体に直撃した砲撃魔法の斜線上に存在していたのは、三つの綺麗な青い宝石だったのである。


 なのはとシンは飛行魔法によって、異相体を射抜いた地点まで辿り着くと何とも言えない表情になったのだ。何しろ空中に浮かぶ不思議な宝石なのだ。レイジングハートと同じ様なデバイスなのかと勘繰ったりしたものだが、そこでなのはやシンを思念通話で呼び出した張本人―フェレットが二人に追い付いた。

 「凄いですね…まさか、魔法に触れて数十分も経たないうちに異相体を自力で封印するなんて」

 フェレットから賞賛の言葉が漏れるが、今はその様な事を聞いている場合ではないと考えたシンが口を挟んだ。

 「なぁ…そんな事より、この青い宝石は何なんだ?デバイスなのか?」

 「あ、すみません、えっとですね。それはジュエルシードと言います。先程の黒い怪物の元になった代物です」
 
 シンからの質問に謝罪いれつつ、返答をするフェレット。この綺麗な宝石が、先程まで暴れ回った化け物の根源だと知ると、信じられないと言った表情をシンは浮かべるのだった。更にフェレットはなのはに対して「レイジングハートで宝石に触れる」ように進言する。その言葉どおりになのはは左手で持ったレイジングハートで、青い宝石の一つにコツンと触れた。

 すると、三つの青い宝石とレイジングハートがそれぞれ輝き出し、青い宝石が、レイジングハートの紅い宝石の部分に吸収されて行ったのである。

 『――Internalize No.18,20,21.――』

 レイジングハートが自身の内部に収納された青い宝石のシリアルナンバーを告げる。

 『――物理破壊型相当の魔力値沈静を感知、防護服を解除します――』
 
 デスティニ―からの発言を皮切りにシンの防護服が光に包まれ、なのはの防護服も続いて発光し始めた。少しだけ宙に浮いた二人の防護服が上半身部分から光の帯が発生し、元の服装に戻っていく。其処から段々と光の帯が下降していき、上半身と同じ様に元の服装に変化する。一通りの変化が終わると、杖の状態であったレイジングハートは元の紅玉の宝石に、デスティニ―は先程の真紅色の機械の翼を模したアクセサリーに戻ったのだった。

 その後、フェレット自身が張り出した【封時結界】という魔法を解除すると、ジュエルシードを取り込んだ異相体との戦闘によって発生した惨状が、まるで時を巻き戻したかのように修復されていったのだ。その光景になのはもシンも驚かされた。しかし、ジュエルシードの異相体が始めに襲撃した槙村動物病院の惨状は修復する事が出来なかった。何故なら、異相体が襲撃して来た時点では封時結界が間に合わなかったため修復の対象に出来なかったのだと、フェレットからの説明をなのは達は受けた。

 そんな槙村動物病院で発生した惨状を誰かが目撃したからだろうか、遠くからサイレンが鳴り響いた。このままこの場所に留まっていても、仕方無いので一度フェレットと共に高町家に帰宅しようとシンは提案し、なのはとフェレットはその事を承諾した。

611とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:53:55 ID:xik2zMnM0
この昨夜発生した魔法戦闘の顛末を一通り思い返した後、なのははレイジングハートに対して質問を掛けた。

 ――昨日のあれこれは、やっぱりレイジングハートのおかげ?――

 ――Yes,mostly.(そうですね、大半は)――

 自身が疑問に思っていた事に対し、一切合切飾らずに返答してくれたレイジングハート。昨日、自身の身の内に起こった服装の変化、空を飛ぶ、魔法を行使する事や災厄の根源を抑止出来たこと、この出来事の大半がレイジングハートがあったからこそ成し得た事だと再認識して、なのはは感心で一杯になった。

 ――やっぱり高性能なんだ――

 なのははレイジングハートに対して、純粋且つ率直に考えた事をこの様に評した。しかし、その評に対してレイジングハートは異を唱えた。曰く、自分自身は【乗り物】だと言っている。自動車・自転車など例を挙げるときりが無いが、単体そのものでは効力を発揮する事が出来ず、人間が持つ思考能力を駆使してようやくその性能を発揮出来る物だとレイジングハートは表現をしているのだ。

 そもそも、レイジングハートを始めとした【デバイス】が担う主な役割としては、【魔法術式】を詰め込んでおく記憶媒体としての役割が一般的である。術者が戦況に応じて、使用する魔法を逐一決定してデバイスに魔力を注ぎ込み、魔法を行使するのである。そして【デバイス】そのものにも複数の種類が存在するのだが、ここではレイジングハートやデスティニーの分類となる【インテリジェントデバイス】について言及する。

 【インテリジェントデバイス】とは、ミッドチルダ式魔導師の一部が扱う【意志】を持ったデバイスのことだ。魔法術式を詰め込む記憶媒体としての役割の他に、魔法の発動の手助けとなる処理装置や状況判断を行える人工知能≪ Artificial Intelligence ≫も保有している。意志を持つ為、その場の状況判断をして魔法を自動起動させたり、使用者の魔法性質を把握して自身の機能を調整することも可能だ。

 高度な人工知能を有している所以もあって、インテリジェントデバイスは会話・質疑応答もこなせる。この点が最大の特徴となるだろう。デバイスとの意思疎通を図る事によって、魔法の威力・無詠唱による魔法の発動・使用魔導師との同時魔法行使など、実用性を凌駕する高いパフォーマンスが期待できるというものなのである。例えるなら1+1=2という固定観念な図式に当て嵌まらず、=5ともなったり=10にもなったりするポテンシャルを【インテリジェントデバイス】は秘めているのである。

612とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:54:32 ID:xik2zMnM0
 しかし、その一方【インテリジェントデバイス】の扱いは基本的に難易度の高いのも特徴だ。使用者の魔力総量が弱かったり、デバイスを扱う能力自体が無ければ、デバイスに一方的に振り回されて闇雲に魔力を浪費するだけの情けない魔導師となってしまうのである。

 故にレイジングハートは自身がインテリジェントデバイスという性質そのものを危惧していたため、誰にも使用者登録を受け付けなかったのである。所有者であったフェレットでさえ【外部使用者;guest】扱いであり、一部機能(探索魔法・封印魔法)以外休眠状態での使用を許可された程度であったのだ。

 そんな折に昨日のジュエルシード異相体との戦闘によって、レイジングハートは【高町なのは】という少女と出会う。その少女が保有する魔力総量・魔法戦闘のセンスを感知し、自身を扱い切れる可能性を見出したのだ。そしてレイジングハートは今まで誰にも、許可を与えなかった使用者登録を受け付け、高町なのは専用のデバイスとなったのだ。

 だが、その様な事をなのは本人に告げる訳にもいかない。如何に自分が登録者として高町なのはを受け入れたとしても、結局の所レイジングハートを扱いたいというなのは自身の判断が無ければ、レイジングハートからの一方的な押し付けとなってしまう。だからこそ、レイジングハートは自身の事を簡潔に【乗り物】と安易ではあるが、分かり易い表現で自身の事を評したのだ。高町なのはに必要以上に警戒されない為に。

 ――私はレイジングハートの乗り手になれる可能性、ある?――

 この高町なのはのこの質問に、レイジングハートは『あなた自身の努力次第』と簡単に返答した。しかしその胸中には一先ずの安心感が漂っていた、ということにはレイジングハート自身は気付いていない。いや、気付かない振りをしているのだろう。拒絶されないで済んだのだから安心感があっても、誰にも攻められる訳ではないのだが、意外と奥手なこのデバイスは自分を誤魔化すということに関してはは器用に立ち振る舞っていた。

613とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:55:21 ID:xik2zMnM0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 昨夜ジュエルシード異相体との戦闘の後、高町家に戻ったのだが夜遅くに外出していた事が完全にばれていた為、玄関に待機していた兄―恭也や姉―美由紀にこっ酷く叱られたのは言うまでも無いだろう。そして夕食時に話題に上げていたフェレットを病院から持ち帰ってきた旨を家族に報告したのだ。夜遅くに抜け出した理由を正直に言う訳にもいかない為、咄嗟に「病院に預けたフェレットが心配になって様子を見に行っていた」となのはとシンは言い訳をしたのである。

 実家が喫茶店を経営している為、ペットの飼育は極力控えたいところではあるのだが、今後もジュエルシードの異相体が出現しても可笑しくは無い。町の住人が被害に会うのを防ぐ為にもフェレットの協力は必須だとなのはもシンも考えていたのだ。

 夕食時に一度はやんわりと断りを入れた父―士郎と母―桃子は、なのはとシンの眼差しに決意の表れを感じ取り、またフェレットの賢く、知能の高い様子を見て翠屋の中―特に厨房内には立ち入らせないことや、フェレットの世話を学校以外ではしっかりと見る事を条件にフェレットの飼育を許可されたのであった。

 そんな昨日から明けて、今日の授業時間中に高町なのはとレイジングハートが念話によって会話している頃、高町シンはデバイス・デスティニ―と昨日から飼う事を許可されたフェレット基いユーノと、これまた念話によって情報の整理を行っていた。

 昨夜回収した青い宝石、【ジュエルシード】は管理世界ではロストロギアと総称されている。因みに【ロストロギア;Lost logia】とは過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法のことを総称している。そのロストロギアの大半は危険な効果を及ぼす物も存在し、これらの物体・技術を管理・保管しているのが【時空管理局】なのである。

614とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:56:08 ID:xik2zMnM0
 ここで話に上がった【時空管理局;Adoministrative bureau】を簡潔に説明すると、次元世界における司法機関のことである。第1世界ミッドチルダを始めとする複数の次元世界が連盟して運営をしている。司法機関と言えども、各世界の文化管理や災害救助を積極的に行う部署も存在するとのこと。次元世界の崩壊を起こしかねないロストロギアについては、最優先で対処を行う部署も存在する。

 このユーノの弁に対して、デスティニーは昨日のジュエルシードが人を襲う怪物に変異させてしまう様な能力を備わっているのに危険ではないのか?何故、時空管理局は回収に人員を出さないのかと質問した。その質問に対してユーノは【時空管理局】の管理の及ばない世界【管理外世界】においてロストロギア絡みで捜索任務を行うには、その【ロストロギア】がその管理外世界に存在すると言う確実な証拠が無いか、もしくはロストロギアの危険性が証明されなければ管理局からの人員は基本的に割けないものだ、と返されたのであった。
 
そもそも異相体という怪物の魔力源となっていた【ジュエルシード】とは古代の文献等によると「願いを叶える」宝石と記されていただけであり、攻撃性の高い異相体に変異させてしまう等という事は発掘した段階では判らなかったと、ユーノは弁解している。全部で21個存在するこのジュエルシードは遺跡探索を生業とする【スクライア一族】によって発掘されたものであり、この発掘作業の総指揮を行っていたのが昨日救い出したフェレットこと【スクライア一族のユーノ】であった。件の代物は発掘後の輸送時に原因不明の事故によって「第97管理外世界・地球」の海鳴市近辺に散らばってしまった、と事故が発生した直後では推測の域でしかなかったのだ。

 輸送時の管理にはユーノ自身が直接関わっている訳ではなかった。だが、ユーノは自身がジュエルシードの発掘を指揮した事で責任を感じてしまったのだ。その為、独力でジュエルシードを回収しようと海鳴市に渡航し、探索を開始した。そして、一昨日に異相体と化したジュエルシードの捕獲に掛かるが、思いの他苦戦を強いられた。更に都合が悪い事にユーノは地球に存在する【魔力素】と魔力素を溜め込む器官【リンカーコア】が適合不良を引き起こし、行動不能状態になってしまったのだ。

615とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:57:54 ID:xik2zMnM0
 そんな状態に陥ってしまったユーノを救出したのが高町なのはと高町シンであった、しかもこの二人には管理外世界では珍しく【魔力資質】を持つ者と判明したのだ。行動不能に陥ったユーノ自身は再度ジュエルシードの異相体と戦闘になった場合、成す術が無いため藁にも縋る思いで【広域念話】を活用し、なのはやシンもしくはこの二人の他に管理外世界に存在するかもしれない魔力資質を保有する人に救援を要請した、とのことである。


 ユーノから簡潔に説明を受けたシンやデスティニ―の反応は寸分違わぬものだった。無理が過ぎる、と。


 フェレットとしての見た目からは判別し辛いが、年齢の程はなのは達と同年代との事である。同い年であるにも関わらず、一族で生計を立てている第一線の発掘作業で指揮を任されるというのは、ユーノ自身がそのスクライア一族の中でも非常に優秀なのでは無いかと思えても来るし、実際にそうなのだろう。だが【若さ】というものはそれだけ経験がありとあらゆる場面で欠如して来るものでもある。今回の輸送事故から端を発するトラブルについては、少々の冷静さがユーノに足りなかっただろう。

 何故なら、不慮の事故によって散らばってしまったジュエルシードを回収するという責任は無いはずである。如何に発掘に携わった者と言えども、発掘し終わってもしも報酬を受け取っていたら、その時点でスクライア一族としての仕事は完了しているだろうし、責任の追及や事故の検証も運搬にあたった者達にされるべき事でもある。

 仮にユーノに責任が及んだとしても、たった一人で未知の世界に足を運ぶのは避けるべきだったはずだ。赴くとしても不測の事態が発生する事を予測し、出来る限り頼れる大人に救援を要請したり、探索にあたる人数を増やしてから臨んだ方が最良だっただろう。現に【リンカーコア】の器官が適合不良を起こし、自分自身で対処する事が出来なくなり、挙句の果てには現地人であるなのは達に頼らざるを得なくなる状況に陥っているのだから。

 この事をデスティニーから指摘された事によって、思念通話によって会話していたユーノの声は段々と小さくなってしまったのである。落ち込んでしまった様子のユーノにシンは謝罪をいれつつ、またこのまま揚げ足を取っていても埒が開かない為、シンは早々に話題を切り替える事にして、自分が今最も気に掛けているデスティニーへの質問を行った。


 ――デスティニー一つ聞きたいんだが、俺は管理世界の出身なのか?――


 シンがこの様に質問をするのも当然と言えるだろう。デスティニーやユーノには昨日の段階で、シン自身が2年前に発見された段階で記憶喪失という状態であり、1年前からは高町家で養子縁組としてここ海鳴市で生活している、という事情は説明している。また、昨日の戦闘によってシンが2年前から所持していた奇妙なアクセサリーがデバイスの中でも扱いが難しい【インテリジェントデバイス】で在る事がユーノの説明で判明したのである。

616とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:58:27 ID:xik2zMnM0
 通常、管理外世界では魔導端末をお目に掛かる事など在り得ない。開発するにおいても、管理世界の魔導技術や専用の設備も無ければ作成する事など在り得る訳が無いのである。ならば導き出される答えは只一つ、高町シン基いシンが実は管理世界出身の人間であり、何らかの外的要因によって管理外世界に転移してしまい、尚且つ転移のショック等で記憶に障害が齎されてしまったのでは無いかという事である。因みにこの内容についてはユーノの推測によるものである。


 ――マスター申し訳ありません、私にも判りません――


 デスティニーの返答は何とも期待外れなものであった。曰く、デスティニーが自身の魔導端末としての機能が覚醒し、シン専用の【インテリジェントデバイス】として認識したのも、昨夜のジュエルシード異相体による物理破壊型の魔力に反応したからであり、言い得て妙だが今のデスティニーは生まれたての赤ん坊と余り変わらないのである。デスティニーのその告白にシンもユーノも黙る他無くなってしまい、会話が途切れてしまったのだった。

 何らかの情報が得られるかも知れないと、意を決して質問をしたが徒労に終わってしまった為、シンは内心溜息吐いた。シンの落ち込む様子にデスティニーが謝罪をするが、気にするなとシンはフォローを入れた。というのも、元々自分が記憶喪失なのも自分に落ち度が会ったからかも知れないし、易々と手掛かりが見付かると考えた事が浅はかでもあったとシンは反省したのだ。

 それに全くの手掛かりが無い訳では無い。管理世界にしか存在し得ない魔導端末を自身が所有しているということは、即ち自分の存在を知り得る手掛かりが管理世界の何処かに在るかもしれないという希望が見付かったのだ。確証は無いため、希望的観測と言ってしまえばそれまでなのだが、何も進展の無かったこの2年間よりは、この2日間は自分にとって大きな飛躍となるだろう。

 ここでユーノも、もし管理局の巡航艦がジュエルシードの危険性を察知し、自分に接触を図ってきたらそれと無く管理局の人達にシンの出身世界の捜索を掛け合ってみると言ってくれたためシンは是非、とお願いしたのであった。

 
 ――シン君、ちょっと良い?――

 
 ユーノやデスティニ―との情報の整理が一段落した頃になのはからの念話が入った。その内容については今後のジュエルシードの回収についてどう行動するか、というものだった。正直な所、放課後以外に探索の余裕は無いと結論は出ているのであるが、なのはにもシンにもそれぞれ都合というものが在った。なのはには放課後は塾の時間に取られる事があり、シンも喫茶「翠屋」の手伝いもあるのだ。だが、町に危険が及ぶのに暢気にしている訳にも行かないだろう。翠屋の手伝いについては、シンが進んで手伝っている事もあって幸い都合が着くから大半はシンがユーノと一緒に探索に赴く事になるのだろう。


 その事をなのはと確認し合っていると、終業のチャイムが聖祥学園に鳴り響き、授業が終了したのであった。


 今後の事については一先ずの所後回しにし、今日の放課後はなのはもシンも予定は入れていないので、ジュエルシードの探索を二人にユーノを加えて行う結論に達したのであった。

617とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:59:24 ID:xik2zMnM0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 


 「それにしても本当に驚いたわ」

 放課後のHR直後、なのはとシンは毎日の如くアリサ・バニングス、月村すずかと他愛も無い話しでお茶を濁していたが、唐突にアリサが呟いた。その【驚いた】事の対象としては今朝のニュースであり、昨夜のジュエルシード異相体との戦闘において被害に合った槙村動物病院の件だろう。

 昨夜、ジュエルシード異相体との戦闘を終えた直後、なのは達はサイレンの音を聞き出して早々に帰宅したから判らなかったのだが、現場には目撃者らしい目撃者も居らず、犯人らしい痕跡も全く見当たらなかったため警察は事故として処理する事となり、報道においても地域局の報道ニュースでその様に放送されたのである。そのニュースを見た為か、今朝登校して来たアリサとすずかは槙村動物病院での事故の件をなのは達に朝一で伝えてきたのだ。

 病院に預けたフェレット―ユーノ―を心配しての事だろう。気遣わしげな目をしていたが、フェレットを高町家で保護している事を素直にシンとなのはは話した。その事でアリサから説明を要求された。それもそうだろう、昨日の段階で父や母からペットの飼育をやんわりと断られた事はメールでアリサ達には伝えていたのだから。
 
 フェレットの様子が心配になって、夜の内にこっそりと槙村動物病院に向かったのだが事故によってビックリして病院から逃げてきたフェレットを二人が偶然保護した、と家族に対して行った言い訳をリピートするようにシンとなのはは説明した。何とか魔法の事を話さずに済むように説明をするにはこの様にするしか無いとシンはなのはと念話で伝え確認し合った。

 その説明をした時のアリサやすずかの様子と言ったら、本当に驚き、また心配もしていた為か心底安心をした様だった。だからこそ、放課後の今となってもこの様に会話の種として話題に出すのであろう。フェレットを病院に送ったのは自分達であるため、心配をするのは当然の反応と言える。

 「…でも、その事についてはちゃんと槙村先生に伝えないといけないね。心配してるだろうし」

 すずかは当の被害者でもある槙村動物病院の院長、槙村先生の事について事情を説明する事を提案した。いくらフェレットが無事だからと言って呑気に喜んでいる訳にもいかない。預けたのは自分達なのだから、ちゃんと説明をしなければとおっとりとした口調ながらも言い放った。

 「…それもそうね、ちょうど今日は私とすずかはバイオリンの稽古で病院の近くに寄るから、事情を説明して来るわよ」

 アリサはすずかの意見に頷き、説明役の任を請負う。今日はジュエルシードの探索のついでに槙村動物病院に立ち寄ろうとしていたなのはとシンは同席しようとするが「フェレットを預かっているなのは達はきちんと面倒を見なさい」と返された為、アリサの気遣いに礼を言いつつ、念話で海鳴市を巡回する箇所をシンはなのはと相談し合った。会話も一段落したところ、アリサやすずかがバイオリン教室に向かう岐路に差し掛かったため、なのはとシンはアリサとすずかに別れの挨拶を返し合い、高町家に帰る方角を迂回する様にジュエルシード探索に赴こうとした。

618とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:59:59 ID:xik2zMnM0


 ――――その瞬間、なのはとシンに戦慄が走った。



 ――――ゾクッという悪寒を感じ取り【ナニカ】が共鳴するかの様な魔力の高まりを二人は感じた。この魔力が高まる感じを二人は知っている。



 ――――そう、昨夜ジュエルシード異相体との戦闘になった際に感じた魔力の波長めいたモノそのものに感じ取れたのだ。



 ――――二人がその事を思い出す寸前に、二人に対して遠方からの思念通話が届いた。



 ――なのは!シン!大変だ!!ジュエルシードが発動した!!――



 ユーノからの念話によって予感は確信に変わった。なのはは急いでその発動した場所に向かおうとした所でシンに止められた。何故止めるのかと言おうとしたなのはに対して、シンは「場所が判らないのに闇雲に探そうとするな」と言い伝えた。確かにその通りだ、ジュエルシードが発動した大まかな方角位は判るのだが、明確な位置はなのはは判らない。恐らくはシンも同じなのだろう。無闇に動き回って異相体との戦闘の前に疲労してしまっては本末転倒だ。

 しかし、それでもなのはの気持ちは焦りで一杯であった。昨日の様な怪物が人を襲いうかもしれない。幸い自分達には魔法の力で脅威を払う事が出来たが、そうそう都合良く未知の脅威を撃退出来る能力を普通の営みを送っている人々は兼ね備えている訳では無いのだ。だからこそ、自分やシンでこの脅威に対抗しなければならない、となのはは幼いながらも魔法という力を持ったことに対して自分なりの責任感や覚悟を持とうとしているのだ。

 二人の会話を念話越しで聞いていたユーノは不調の身で在りながらも探査魔法の術式を展開した。翡翠色の魔力が周囲に展開し、海鳴市の高町家を中心とした地図がユーノ自身の魔力光によって作り上げられ、空中に浮かび上がる。なのは達の魔力反応を魔力光で形成した地図で確認し、それからジュエルシードの発動した際の魔力変動の高まりを確認して、二人に念話で知らせた。


 ――二人とも、今探査魔法を使ってジュエルシードの場所を特定したよ!場所は桜台登山道・林道中腹だ!!急激な魔力変動が発生したから、恐らくジュエルシードが物体か生命体を取り込んで異相体に変異しているから戦闘になるよ、注意して!!――

 
 ユーノから続けて念話が入り二人は驚愕した。何故なら、その内容は二人にとっては今最も欲していた情報だった。どうやって調べ上げたのかとシンは目的地に駆けながらユーノに訊ねた。ユーノは地球に赴いた際に、なのは達と出会う以前に海鳴市近辺の地形を調べ上げ、何時でも自動的に、現在地と魔力の高まりを観測出来る様な術式を構築し、それを地図の様な形で探査魔法に組み込んでいたのだ。

 この術式を作り上げた目的としてはジュエルシードの発動を感知したら直ぐ現場に迎える様にする為である。調べ上げた手段をユーノから聞いた事で【魔法】という力の利便性と、それを匠に使いこなすユーノの技量にシンは感心するばかりだった。ユーノ自身も現場に向かう旨をなのは達に念話で言い伝えると、探査魔法を解除して高町家の住人に気付かれない様にこっそりと抜け出した。




 ――しかし、もしこの時ユーノが探査魔法を解除するのが数秒でも遅れていたら【ある異変】にユーノは気付いた事だろう。




 ――ジュエルシードの魔力変動を観測した地点に向けて【なのは達以外】の魔力反応が二つ、その現場に近づいている事を。

619とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:00:50 ID:NgBM/41o0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 ――桜台登山道・林道中腹――

 この場所を遊び場所として数匹の子猫がじゃれ合っていた、大変微笑ましい光景である。もしもこの子猫たちが野良猫であれば、家で保護したいと申し出る少女が居ても可笑しくは無いだろう。それほどまでに、其処に在る光景は日常的でありながらも、心穏やかになる様な光景だったのだ。


 ――しかし、その穏やかな光景は一つの事象によって呆気なく終わりを迎えるのであった。


 一匹の黒い子猫があるものに目が付きその場所まで近づく、まだ幼いから好奇心が旺盛なのだろう。其処には菱形の青い綺麗な宝石があったのだ。子猫は「これは一体何だろう」といった面持ちでソレを小突こうと、宝石に触れた。すると、その宝石は周囲を光で満たす様に輝きを放った。そして、その光の中に黒い子猫を取り込んでしまったのだ。周囲の子猫がその様相に気付いたのか、光眩い輝きに目を眩ませながらも見つめた。

 やがて、その光が収まると其処には異形の生き物が存在していた。

 全長3M程の巨大で頑強な黒い体躯、所々に彫り込まれた白い刺青、巨大で在りながらもその俊敏性を誇る様な逞しい四肢、その四肢に備え付けられた鋭利な爪、骨を繋ぎ合わせた様な巨大な白い尾、外見的な特徴を上げればこの様になるだろう。どの動物の種族にも該当しない様な化け物は悠然と佇んでおり、咆哮を上げた。そう、この化け物もジュエルシードが内包する強力な魔力によって、愛くるしい子猫が変貌した異相体なのであった。

 周囲の子猫は、凶暴な外見の異相体にその細身の身体を震え上がらせた。あの怪物の見た目のおぞましさ、正気を失ったかのような紅い両の瞳、その全てが生存本能に警鐘を響かせているのだろう。そんな異常な光景に包まれた桜台登山道の様子を二つの影が見つめていた。

 「ジュエルシードが発動していたか…一歩間に合わなかったみたいだな」

 金色の髪を肩口まで生やした少年―レイ―が呟く。その様子には焦りというものが全く表われず、何処か余裕があるようにも見える。その少年の胸元には灰色の奇妙な形をしたアクセサリーが光沢を放っていた。

 「二人掛りは可哀想だから、私があの子を抑えるね。レイは其処で見ていて」

 金髪の少年から一歩手前に金髪の少女―フェイト―が前に立つ。何故か異相体を気遣うかの様な口調で話しており、その様子には脅えが全く見られない。しかし、その様子には緊迫感が変わりとなって表われていた。

 「判った、だが油断はするな。足元を掬われるぞ?」

 様子見に徹するのだろうか、木の幹に身体を預けたレイはフェイトに万が一の事を考えて念を押す。その言葉に対して、フェイトは振り向きざまに微笑みながら頷く。すると、二人の獲物の匂いに反応したのか子猫を取り込んだジュエルシード異相体は少年少女に気付いており、様子を窺っていた。更にタイミング良く、フェイトがレイに向かって振り返っているその様子を見て好機と判断したのか、咆哮を上げながら飛び掛ったのであった。

620とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:01:47 ID:NgBM/41o0
 その異相体の体躯が繰り出した速度は尋常では考えられない速度だった。まるで拳銃に込められた弾丸が発射されるかのような速度を繰り出したのだ、その速度は正に瞬きの間にフェイトの命を呆気なく葬り去る事が出来るだろう。



 ――もし、フェイトが何の力も持たない無力な少女であったなら、という仮定が前提ではあるが…



 獲物に飛び掛った異相体とフェイトの間に、金色の術式方陣―魔法陣―が展開された。その時の異相体の表情としては、獲物まで後数cmといった所で防御魔法で邪魔をされたという苛立ちよりも、何が起こったのか判らないといった唖然とした様子をしているのだろう。

 この防御魔法は【ディフェンサー;Defensor】と呼ばれるDランク相当の防御魔法。薄い防御膜を発生させ、魔法効率が高く高速発動が可能なのが特徴である。

 その魔法の特徴によって、異相体の攻撃を防ぐ事はフェイトの考えでは予定調和であった。だからこそ余裕を持ってレイの方へと振り返っていたのだ、もし、他の魔導師が居れば、この場面を見ただけでもこのフェイトの魔法技術の卓越さを推し量る事は容易だろう。そしてフェイトは防御だけには留まらず、続け様に右手に魔法陣を出現させて魔力を放出し、その形状を刃の様に変化させた。手足もしくは何らかの武器に魔力を付与して攻撃を行うミッドチルダ式近接攻撃魔法をフェイトは展開しているのだ。

 フェイトは展開した魔力刃を防御魔法の内側から、異相体に斬り付けた。斬撃による衝撃と共に斬り付けられた箇所から、電気ショックを与えられたかの様な【痺れ】の感覚を異相体は感じた。この現象はフェイトの持つ【魔力変換資質】によって、魔力刃に雷撃の属性を付与していた為、斬り付ける衝撃と電撃の双方のダメージを異相体に与えたからこそ発生した痛覚である。フェイトから与えられた損傷によって異相体は苦悶し、フェイトから距離を置いた。

 「バルディッシュ!!」

 異相体が距離を開けると同時に、フェイトは自身が所有するデバイス・バルディッシュに防護服着用の指示を出した。

 『――Get set. Barrier Jacket, set up.――』


 バルディッシュの発声と同時にフェイトの周囲は黄金の魔力陣が展開し、輝きを開放した。その輝きは、夕焼けの黄昏時の色に見間違う程の輝きを放っていた。その光に包まれたフェイトの衣服に変化が起こった。着用しているキャミソールが消滅し、防護服を形成し出した。

 始めに、少女の身体のラインに合わせた黒いレオタードが出現した。所々には赤と黄のアクセントを施している。もし、その様相だけを見てしまえばフェイトに露出癖があるのかと勘違いしてしまいそうだが、これはフェイト自身の戦闘スタイルに合わせて防護服の設定しているからこそのものである。

 脚部には動きを阻害しない様に、身軽な黒いニーソックスとブーツが同時に出現。腰部には焦げ茶色の頑強なベルトに、薄桜色のスカートが形成される。そして全身を覆う様な黒い外套を最後にフェイトの防護服の形成は終了した。

 金色の魔導端末―バルディッシュにも変化が起こる。正三角形のアクセサリーはその形状を変化させ、何処からとも無く漆黒の金属を出現させ、柄や斧の形状を形作っていく。斧部分の中央には【バルディッシュ】の本体部分と見受けられる金色の宝玉が埋め込まれている、更にその全長はフェイトの身長以上の長さを誇る。正に【戦斧】と言い切っても過言ではない程の存在感を生み出す武器へと【バルディッシュ】は変化を終えた。

621とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:02:18 ID:NgBM/41o0
 
 防護服・武装の形成を終えて、飛行魔法を使用してフェイトは空を舞う。レイはその光景を眺めながら周囲に人が紛れていないか確認する為に、【エリアサーチ;Area Search】中距離探索魔法に使用する情報端末を複数展開した。【サーチャー;Searcher】と呼ばれるこの情報端末は、術者が放ったこの端末の届いた範囲全ての視覚情報を術者に視認探索を可能とするものである。複数端末を展開する事によって広範囲とはいかないものの周囲の状況を隈なく探索する事が出来るのだ。

 サーチャーを周囲に飛ばし、周囲の視覚情報を魔力で生成したモニターで確認しているとその直後に二人の少年少女が映った。その二人は空を見上げて驚いている様子だ。異相体と交戦する為に空に飛翔したフェイトを目撃したのだろう。

 拙い事になった、とレイは思案した。レイ自身ある程度の補助魔法を使役出来るとは言っても、高度な結界魔法は未だ習得出来て居らず、結界魔法を使っていなかったのだ。更に言えば、人影も見当たらない山中であり、日も暮れてきたので誰かしらに出くわす事も無いと安易に考えていたのが裏目に出てしまったのだ。

 レイが己の失態を悔やんでいると、そのモニターの情報はレイにとって別の意味合いを持つものとなったのだ。

 
 「――レイジングハート、これから努力して経験積んでいくよ!だから教えて、どうすればいいか!――」

 『――I will do everything in my power.(全力で承ります)――』

 
 ―魔導師と魔導端末―という言葉がレイの脳裏に過ぎった。そして、その光景は昨夜自分の言葉を確信させるものだったのだ。しかし、他のジュエルシードの探索者が、自分やフェイトと同世代とは思いも寄らなかった。更に腑に落ちない点が存在する、どう見てもモニター内の少年少女達はこの管理外世界の住人の服装を着こなしており、その服装には違和感が一切無い様子が見て取れる。

 管理世界の住人が、如何に外見を管理外世界の住人に似せていても違和感が存在するのは当然なのだ、住んでいる環境基い世界が違うのだから。判り易く言い換えるならば、日本に在住する外国人が和服を着用しているといった感じの違和感なのである。しかし、モニター内の少年少女には、その類の違和感が見て取れない。どう見てもこの世界に長く在住している住人だとレイは考えた。

 ならばサーチャーのモニター内に移るこの二人の少年少女に在り得る可能性としては、管理外世界の住人が何かしらの事態によって魔導端末を入手し、ジュエルシードを回収している。もしくは、管理世界の住人が諸事情によって管理外世界で生活しており、偶然ロストロギアの危険性に勘付いて対処に当たっている、とレイは予想した。可能性としては前者が最も高いとレイは考えていた。

 レイがそのように結論付けた理由としては、対応が早過ぎるという一点に尽きる。この付近に居を構えてでも居なければ、魔導師と言えどこんな迅速な対応等出来る訳が無い。更に言えば、管理世界に縁のある人間が理由あって管理外世界に在住していても、その生活している場所近くに運良く(悪くと言ってもいい)ロストロギアが迷い込むとは考え難い。だからこそ、前者―管理外世界の住人が魔導端末を入手してジュエルシードの対応にあたっているという可能性が一番高いのである。

 モニター内の少女が我先にと、防護服の展開を終えて空を駆ける。傍らに居た黒髪の少年は先に空へと舞い上がった少女に静止の言葉を掛けるが、時既に遅し、と言った状況だった。愚痴を言いつつ数拍遅れて少年が魔導端末を起動するため、起動パスワードを言葉にした。


 「―――Gunnery United Non known energy―Device charged energy Advanced Maneuver System―――」


 その言葉をモニター越しで耳にした瞬間、冷静な面持ちを崩さないレイの表情は驚愕に染まり、その心境は計り知れない思考に苛まれただろう。それほどまでに今この黒髪の少年が言葉にした起動パスワードは意味が在るものなのだ。何故なら、自分の所有している魔導端末も少年が言葉にしたのと同じ起動パスワードを言葉にする事で、その機能を行使出来るからだ。モニター内の少年が防護服の形成を終了し、少女の跡を追って空を飛翔する。遠目から見た事とモニターを使用した映像から、一つの確信を持ってレイは自身の愛機である魔導端末に告げる。
 
 「…レジェンド、行くぞ」

 『――Yes. My master.――』

 自身の魔導端末の灰色のアクセサリーを握り締め、レイは身体を預けていた木の幹から身体を離し、フェイトと少年少女が邂逅するであろう場所まで脚を運んだ。

622とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:03:19 ID:NgBM/41o0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


 手加減無しの全速力の飛行魔法、そしてその勢いの侭に高町なのははジュエルシード異相体に衝突した。その結果、轟音を鳴り響かせながら地面に激突した。なのはと虎に似た異相体の周囲には土煙が朦々と立ち上がった。なのははうつ伏せで倒れ付している異相体に跨る様に乗っかっていた。件の異相体はと言うと、なのはの全速力の衝突の被害に合った為、その全身は満身創痍であった。

 何故なら、上半身は無事なのだが下半身等骨だけの状態となっており、見る者を不快な気分にしてしまうほどグロテスクな様相となっているのだ。この異相体の満身創痍な状態をなのはは好機と見たのか、昨日の封印直射砲の要領でジュエルシード異相体に封印魔法を施そうと試みる。なのはがレイジングハートを突き付けた瞬間、異相体は雄叫びを上げ、封印されまいと自身の身体に乗り上げているなのはから逃げ出そうとした。

 まさか抵抗されるとは思いもしなかったなのはは、その異相体の抵抗に成す術も無く、乗り上がっていた異相体の身体から振り落とされてしまった。年齢相応の体重しかないなのはでは、自分の倍以上の体重を有しているであろう異相体に体積という面で敵わないのは致し方ない事だろう。


 なのはから這い出した異相体は体勢を立て直そうと、逃走を図ろうとしたが、それは無意味に終わるのであった。

 
 空へと逃げ出したジュエルシード異相体の目の前には何時の間にか、目と鼻の先まで接近してきた黒衣の少女が居た。その少女は自身のデバイスを黒い大きな鎌に変化させ、それを大上段に振り被り、異相体に向けて振り下ろした。この異相体にとってはその黒衣の少女が武器を振り下ろすその姿は、自身の命を、まるで花を摘むかの様にいともた易く刈り取る【死神】に見えた事だろう。

 「ジュエルシード、封印!!」

 デバイスから斬撃魔法を展開した大鎌を真直ぐに振り下ろし、異相体を真っ二つに切り裂いた。その直後に、切り裂いた地点から小規模の爆発が発生した。ほんの数秒だけ発生した黒煙が、周囲に吹き込む風によって胡散する。すると、その場所には高町なのはが昨夜封印したのと同じカタチの青い菱形の宝石―ジュエルシード―が浮かんでいた。名も知らない黒衣の少女の洗練された魔法戦闘になのはは目を奪われていた。自分の様な、行き当たりばったりな闘いとは別次元なモノだと思い知らされたからだ。

 なのはの事など眼中に無いのか、黒衣の少女は封印処理を終えた背後のジュエルシードへと振り返り、自身が持っているデバイスで触れようとしている。


 「ま、待っ「待て!!」」


 慣れない飛行魔法でようやく目標地点へと辿り着いたシンの静止の言葉がなのはの言葉をかき消した。自分が言おうとした言葉を先に言われ、憮然とした表情になったなのはは飛行魔法を使ってシンの近くまで飛翔した。なのは達に顔を向ける気は黒衣の少女には更々無いのだろうと判断したシンは金髪の少女に続けて言葉を投げ掛ける。

623とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:03:56 ID:NgBM/41o0

 「それを、ジュエルシードを如何するつもりだ!?」

 投げ掛けたシンの言葉に何も返さず、此れが返事だと言わんばかりに黒衣の少女は自身の回りに魔力弾を形成した。つまり、話をする気など毛頭無い上、自分の邪魔をするなら二人を攻撃する事も厭わないといった所か。この少女の行動を見てシンは、溜息を吐きたくなった。それもそうだろう、怒鳴りながら問い質した此方に不手際があるとしても、攻撃の下準備をする様な面倒臭い少女が相手なのだから。恐らくこの様子では話し合い等徒労に終わるだろう。

 シンが黒衣の少女の態度に辟易し押し黙っている所を見たなのはは、それを好機とばかりに、少女との距離を縮めようと近づきながらなのはは言葉を搾り出す。

 「あの、あなたもそれ……ジュエルシードを探してるの?」

 なのははシンの飛翔している地点よりも数cm、身を乗り出して黒衣の少女に自分が感じた素朴な疑問を投げ掛けた。しかし、なのはの純粋な疑問に対しての少女の返答は身体全体をジュエルシード側に向けたままこれ以上近づくなという、氷の様に冷たい拒絶の言葉が紡がれるだけであった。黒衣の少女の冷たい返答に負けじと、なのはは此方に交戦の意志が無く話をしたいだけという意図を少女に伝え様とするが、聞く意志が少女に無い為なのはの口に出す言葉は虚しくも大気中に消えていくばかりだった。

 ――少し、話をしたいが良いか?――

 一向に状況が変化しないだろうと、予測していたシンに念話が届いた。そしてその念話は何もシンだけでは無く、黒衣の少女やなのはにも届いていたようだ。念話の送信者に向けて黒衣の少女が、同じく念話によって会話をしている。念話の送信者と会話が終わったのか、黒衣の少女はなのは達の方へ振り返り、二人―特にシンの方に―に目を向けた。すると、黒衣の少女の表情は先程までの冷静な態度とは異なり、驚きに包まれたのだ。

 「…っ!本当だ…レイの防護服とそっくりだ」

 黒衣の少女はゆっくりとなのは達の方へ振り返り、シンの防護服を見て驚きながら小声で言葉を発した。少女が呟いた言葉が聞き取れなかった為、シンは思い返そうとしたが、再び発せられた念話によってその思考は遮られた。
 
 ―― 一つ聞きたい事がある。そこの黒い髪、その魔導端末を何処で手に入れた?――

 黒い髪と言われると、該当するのはシン以外にはこの場には存在しない。だが、幾ら此方が初対面であり、更に名乗りを上げていないとは言っても、余りにも失礼な物言いに先ほどの黒衣の少女の態度に苛立っていたシンは内心腸が煮えくり返っていた。念話を発した張本人を何としても見つけようとシンは周囲を探したが、直ぐに見付かった。シンとなのは、そして黒衣の少女が飛んでいる地点から見て下方に位置する場所に、念話の張本人であると推測出来る人物が居た。

624とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:04:27 ID:NgBM/41o0
 その人物は自分達や黒衣の少女と同年代程だと見て取れた。その外見は黒衣の少女と同じ様に金髪なのが目を引いた、黒衣の少女と家族なのかとシンは予想をしたが、それを一時中断して金髪の少年の質問に対して返答を行った。

 「手に入れたも何もこの端末は始めから持っていたんだ!!俺が何で持っているか何てこっちが知りたい位だ!!」

 念話では無く、言葉を発してシンは少年の質問に応えた。その言葉に先程発生した怒りを追い出す為に大声を挙げて回答した、その御蔭で少しは怒りが晴れすっきりとする様な気分に包まれた。突然の大声に隣のなのはは驚いた様子を見せるが、此ればかりは簡便して貰いたいと心の中でシンは謝罪した。こうでもしないと突発的に湧き上がった怒りを静めて、自分の心の切り替えなどシンには出来なかったのだから。

 自身が発した言葉を聞いて期待した返答では無い為か、その金髪の少年は少しだけ落胆した表情を見せたが、直ぐに冷静な面持ちに戻した。何故、唐突に自分に質問したのかとシンは考えたが一つの【可能性】が浮かび上がった。今度は此方から逆に金髪の少年に質問しようとした所で、なのはの問答によって遮られてしまった。

 「あ、あのお話聞かせてください!あなた達も魔法使いなの?とか、何でジュエルシードを持って行こうとするの?とか」
 
 自身が今現在感じている疑問を言葉に紡ぎ出し、なのはは黒衣の少女と金髪の少年を交互に見つめる。少女は応える気は無いのか、一切油断の無い状態を保ったまま、周囲に魔力弾の形成を維持している。自分が始めに会話を提案したからか、金髪の少年は律儀に返答の為に念話を行使した。

 ――魔法使い?魔導師の事か?その様に質問されても、魔導師として教育や訓練をして来たから魔法に精通しているのは当然だ、としか答え様が無いな。ああ、それと二つ目の質問についてだが悪いが黙秘させて貰う――
 
 納得の行く答えが、得られなかったなのはは金髪の少年の方へと身を乗り出そうとした所でシンに遮られた。何故遮るのかとなのはは念話によってシンに抗議した。なのはの抗議に対してシンは、目線を黒衣の少女に向ける事で応えた。此方が妙な動きをすればあの少女は何の躊躇いも無く魔力弾を撃ち出すだろうとシンは小声で応えた。

 ――もう話は終わりにしよう、これ以上は時間の無駄だ。そのジュエルシードは俺たちが貰い受けるぞ――

 このまま睨み合いの状態が続くことを良しとしないのか、金髪の少年は自分達に念話で宣言した。これで話しは御終いという意味で言い放ったのだろう。それを体現する様に金髪の少年は右手に握り締めていた灰色のアクセサリーを構えた。あのアクセサリーが少年の魔導端末―デバイスなのだろうと確信に近い予測をシンは立てた。あの少年も黒衣の少女に加勢して、邪魔者である自分達という障害を排除しようという魂胆なのだろう。

625とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:04:58 ID:NgBM/41o0


 「―――Starting Password.――Gunnery United Non known energy―Device charged energy Advanced Maneuver System.―――」

 『―――起動パスワード承認――マスターユーザー声紋認証確認――ユーザー名【レイ・ザ・バレル】と90.0%の確立で認定―』 


 金髪の少年が発した【起動パスワード】にシンは自分の耳が幻聴を聞いたのでは無いかと疑い、少年の方を凝視した。しかし、続け様に少年が紡ぐ言葉に紛れも無い真実だと認識を改めさせられた。そして、あの少年が自分と同じ魔導端末を所有している事で、シンは先程自らの脳裏に浮かんだ【可能性】を確認したいという欲求が強くなった。


 「――Arms Limited Open.(武装、限定展開)――」

 『―――武装使用の制限を確認…認証します。―――』


 だが、自分のその欲求を果たせる時期はとうに既に過ぎてしまった。更に思い返せば、金髪の少年は自分が所持している魔導端末の入手経路を聞いて来ただけなので、自分の思い浮かんだ【可能性】に必ずしも合致するとは限らない。ならば、今自分達が最もしなければならない事は、魔法の技量や魔力量において、恐らく自分達二人を遥かに凌駕しているであろう二人の少年少女から五体満足で居られる様に必死に抵抗する事だけだろう。


 「――≪ZGMF-X666S LEGEND≫ 起動――」

 『――Yes. My master. Barrier Jacket Equip.(了解です、マスター。防護服を装着します。)――』


 金髪の少年の周囲に魔力陣と黄金の魔力光が発生した。数秒間の展開で魔力光は終息し、その後に悠然と佇んでいるその少年の防護服姿は、自身の防護服姿と異なる箇所は幾つかあるけれど、根本的な部分でそっくりだとシンは思考した。特に少年の左右の手甲部分、あれはどう考えてもシンの着用する防護服に備え付けられている【ソリドゥス・フルゴール】というシールドタイプの防御魔法を展開する発生装置だ。

 金髪の少年の防護服が形成したのを確認すると、黒衣の少女は自身の周囲に待機させていた魔力弾をなのは達に撃ち出した。なのはは上空に飛翔、シンは真横に避ける回避行動を取った。なのはは自分達に向けられた魔力弾を避け終えた後、黒衣の少女が居た地点に目を向けた。しかし既にその地点に少女は居らず、シンは上空に回避したなのはに目を向けた。

 「…っ!なのはっ!!後ろだ!!」
 
 何時の間にかなのはの背後に回りこんでいた黒衣の少女は両手で振り上げた大鎌をなのはへと振り下ろそうとしていた。シンの助言が早かったのか、なのは自身の勘が鋭かったのか、そのどちらかは判別が付き辛いがなのはは現在地から更に上空に飛び上がる事でギリギリで難を逃れた。だが、避けられる事を見越していたのか、黒衣の少女は下方から一気になのはとの距離を詰めた。


 ――速過ぎる、となのはとシンは同時に思い至った。


 黒衣の少女の振り下ろす大鎌に今度は避けられないと感じたなのはは咄嗟にレイジングハートを盾にして少女の大鎌を喰い止めた。なのはと少女の魔力光が鬩ぎ合っているのか、両者のデバイスが克ちあっている部分では火花が散っている様にシンは見えた。このままでは拙い、とシンは考えなのはに加勢しようと試みたが…

 「――他人の心配をしている暇は無いぞ?黒髪」

 此方の方に急速に接近して来た金髪の少年がシンの瞳に映った。シンは防御魔法を展開しようとするが、一歩遅かったのか自身が行動するよりも早く、金髪の少年の繰り出す蹴撃がシンの腹部を襲い、上空から木々が覆い茂る下方まで軽々と吹き飛ばされてしまった。腹部を蹴られたと同時に迫り来る尋常ならざる痛みに、シンは意識を手放しそうになったが、歯をぎりぎりと食い縛って持ち応えた。

 しかし、体勢を立て直す事は間に合わずシンは地面に激突した。魔導端末のセイフティ機能が働いたので、何とかシン自身の身体は無事で済んだのだが、金髪の少年の不意を突いた一撃が身体に響いたのか、シンは立ち上がろうとするも思い通りに身体が動かせなかった。恐らく金髪の少年はデスティニーの機能を考慮し計算に入れつつも、シンが戦線に復帰不可能なほどの一撃を入れて来たのだろう。

626とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:06:41 ID:NgBM/41o0

 「シン君!!…っあ!ま、待って!!私達は戦うつもりなんてないっ!!」

 なのはは自分達の考えを言葉にしようと試みるが、目の前の魔力が鬩ぎ合う圧力の前に上手く言葉が紡げないで居た。黒衣の少女と近くで見詰め合う状態になったなのはは相手の顔を見た。




 ――ほぼ黒一色に統一された身体に張り付く様な防護服と表面が黒・身体側の裏面が赤の外套。



 
 ――魔力の余波を受けて綺麗に靡く長い金髪。




 ――整った、可愛い顔。そして透き通った、何処か吸い込まれてしまいそうな紅い瞳。




 ――そして、その奥にあるもの――それは…




 「だったら、私やレイとジュエルシードには関わらないで」

 黒衣の少女から発せられた声になのはは目前の事象に意識を戻す。その内容に異を唱えなければならない、何故ならこのジュエルシードはユーノが責任を持って回収しに、一人でこの地に赴いたのだから。

 「だから、そのジュエルシードはユーノ君が……」

 反論しようと紡ぎ出された言葉が意味不明なものとなってしまった、それは仕方の無い事なのだ。黒衣の少女からの魔力に抵抗しながら会話をする事等、魔法に触れて二日目のなのはには些か無謀な試みなのであろう。それでも、言葉を発しようとするが最早、この黒衣の少女からの魔力に耐えるだけで精一杯になってしまっている事にはなのはは気付いていない。

 「くっ!!」

 なのは自身の頑強さに押し切れず、黒衣の少女となのははほぼ同時に弾き飛ばされてしまった。だが、なのはは必死に抵抗して後退を食い止めた。今シンが再起不能の状態な為、この場で自分が抵抗を見せないとこの二人はジュエルシードを封印し持ち去ってしまうだろう。なのはの抵抗の様子を見学していた金髪の少年は対して純粋に感心している。

 「苦戦している様だな、手伝うか?」

 金髪の少年が黒衣の少女へ援護行動の要不要の確認を取った。その言葉を聞いて、なのはは青褪めた。唯でさえ自分よりも技量の高い少女と対峙しており、それに対処するだけでも精一杯なのが現状である。それに加えて、シンを一撃で再起不能にした金髪の少年が加わってしまっては抵抗のしようが無いからだ。

 「大丈夫、次で終わらせる」

 金髪の少年の申し出に黒衣の少女は拒否の言動を呟いた。その内容としては、黒衣の少女が自身の勝利を信じて疑わないものだった。黒衣の少女の言葉を聞いてなのはは【負けられない】と決意し、自身の魔力を行使して防御魔法【Protection:プロテクション】を構築する。この【プロテクション】という防御魔法はバリアタイプのに分類される魔法だ、防御力そのものはシールドタイプの防御魔法に劣るものの、触れたものに反応して対象を弾き飛ばす効力を持つ、物理攻撃に対する耐性も高い。

 この魔法の特性をレイジングハートから説明を受けていたなのはは、黒衣の少女への対抗策として真っ先にこの防御魔法を構築したのだ。この防御魔法ならば、例え、黒衣の少女が斬り掛かって来てもバリアの性質で弾き飛ばす事が可能になる。先程の魔力弾を使った一撃も魔力をありったけ注ぎ込めば、ある程度の射撃魔法なら耐えられるとなのはは思いついたのだ。

 『――Arc Saber.――』

 妙齢の男性を模した機械音声がなのはの耳に届いた、そして黒衣の少女は機械音声を発したと見受けられる漆黒のデバイスを水平に振り切った。その行動と同時に刃の形となった魔力がなのはに向かって飛来して来たのだ。黒衣の少女が魔力弾もしくは直接攻撃を仕掛けてくるものと考えていたなのはは面を喰らったが、直ぐに落ち着き、防御魔法に魔力を込める。

 突き出したレイジングハートの先から出現する桜色の防御魔法と金色の刃が激突した。先程の接近時の鬩ぎ合いと同様に、二つの魔力は拮抗し始めた。なのはは金色の刃に押し負けないように魔力を込めようとした。

627とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:12:47 ID:NgBM/41o0


 ―――しかし、次の瞬間…



 『――Saber Explode.――』

 防御魔法を展開していたなのはの目の前で金色の刃が爆ぜた。そして、金色の刃に込められていた魔力の全てが周囲に拡散し、衝撃となってなのはを襲う。爆発と魔力衝撃の余波によってなのはは吹き飛ばされ、防御魔法も消滅してしまった。その様子をシンは地上から見上げるしか無かった、魔力量が膨大ななのはでさえも魔法技術に習熟している黒衣の少女には太刀打ち出来なかったのだと理解させられたのだ。そこで、ふとなのはを打ち負かした少女の方へとシンは視線を移した。
 
 シンは目を見開いた、瞳孔さえも開いているのではないかと感じてしまうほどに、黒衣の少女を凝視したのだ。あの少女は、爆発と魔力衝撃によって意識を失いかけているなのはに対して、追撃を行うために魔力弾を形成しているのだ。シンはその光景を見てしまったのだ。「止めろ」と声に出そうとするも腹部に走る激痛の為、上手く話せない。

 (…ヤ、ヤ…メ…ロ…)

 シンは有りっ丈の魔力を込めて飛行魔法を形成し、なのはの元へ飛翔する。しかし、身体のダメージが抜けていない為か常日頃の健康な状態での歩行よりも遅い。デスティニ―が念話でこれ以上速度を上げるのは危険だと警告を掛けるが、無視を決め込みシンは飛翔し続ける。シンは満身創痍で少女を確認した、魔力弾を形成し終えたのか、少女は手を振りかざしている。恐らくその行為が終わる事で魔力弾がなのはを襲うのであろう。



 (もう充分な筈だ!なのははもう闘えない。なのに追い討ちを掛けるな!!)



 ――シンの背後に展開される桜色の羽根が輝きを増し、速度を引き上げる。 



 (遅い!これじゃ遅い!!こんな【速度】じゃなのはを庇ってやれない!!)



 ――シンの腰部・脚部に存在するスラスターの出力が上昇し、速度が倍増する。だが、その増加と同時に黒衣の少女は金色の魔力弾を射出してしまった。



 (速く!もっと、もっと速く!!間に合わない!!)



 ――このままでは追いつけない、なのはに迫る二つの魔力弾の方が早く着弾してしまう。
 
  

 
 (…間に合え間に合え間に合え………間に合えええええええ!!!!!)


 

 「――――――――――ッ!!!」




 声に成らない叫び、辺りに響かない声を発しながらシン自身の身体全体に桜色の魔力が伝達、魔力の奔流が勢いを増した。その直後からシンが弾き出した速度は、それまでシンが無意識で作り上げた速度強化の魔法とは比べ物にならないものとなった。桜色の弾丸となったシンは、その速度でなのはへと急速に接近し、金色の魔力弾が着弾する寸前になのはを全身で抱き締めた。それと同時に桜色の羽根が消滅し、シンを覆った桜色の魔力も掻き消えた。そして、なのはを庇ったシンの背中には黒衣の少女が放った金色の魔力弾が二つ着弾し、シンの背中部分にあたる防護服に穴を空けたのだった。

628とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:13:42 ID:NgBM/41o0

 「…嘘……」

 シンがなのはを庇う行為を黒衣の少女は呆ける様にシンを見ていた、予想外の出来事だったので仕方無いだろう。だが、その一瞬に出来た隙を使って、なのはを抱きかかえたシンは最後の抵抗とばかりに自身の右手に簡易射撃魔法を形成し、黒衣の少女に放った。

 特に魔力が籠められている射撃魔法では無いのだが、唯でさえダメージを患った身体で自身の限界以上の強化魔法を行使した上での反撃で在ったため、シンの意識は意識喪失【Black Out;ブラックアウト】を引き起こした。

 シンの意識を手放してまでの反撃に黒衣の少女は対応が遅れた。自身の意識が、シンの予想外の行動のによって、フリーズしてしまった為だ。そして、シンの反撃に対応したのは黒衣の少女の様子を見守っていた金髪の少年だった。シンの簡易射撃魔法を右手、防御魔法など必要も無いかと云う様に素手(防護服に包まれてはいるが)で受け止める。数秒も持たずに、シンの最後の反撃は金髪の右手によって握り潰された。

 「最後の最後まで油断はするな、あの黒髪の足掻きに足元を掬われるところだったぞ」

 少年の手厳しい発言に黒衣の少女は気落ちした。しかし、少年の忠告を素直に受け止め、黒衣の少女は次の行動に移った。自身の漆黒のデバイスを菱形の宝石―ジュエルシード―に向けた、すると漆黒のデバイスが宝石を吸収した。昨夜レイジングハートがジュエルシードを吸収したのと同じ様に、漆黒のデバイスに格納されたのだ。それをデバイスのセイフティ機能によってゆっくり下降し、意識を失っても尚、自身を抱えるシンに支えられながら、なのはは黒衣の少女の一挙手一投足を見つめていた。

 なのはに見られている事に気付いた黒衣の少女は下降していくなのは達を見下ろしながら、警告の言葉を投げ掛けた。

 「今度は手加減出来ないかもしれない、ジュエルシードは諦めて…」

 その呟きを最後に黒衣の少女と金髪に少年は夕闇の彼方へと飛翔し消えていった。なのはは彼方へと消えて行くまで二人、特に黒衣の少女の方に視線を向け続けた。





 ――こうして、少年少女達の初めての邂逅は終了した。だが、この物語はまだ始まりであり、序章でしかない。――





 ――同じ空に、同じ目的を望むのであればぶつかり合うのは必然【キッカケ】はジュエルシードなのだ。――





 ――そう、子供達の【闘いと相互理解の物語】はまだ始まったばかりだ。――

629とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:24:57 ID:NgBM/41o0
鮮烈さん、お疲れ様です。

そして皆さんこんばんは、唐突に第三話投下しました。そろそろストックがヤバイ。
限りなく適当かつ雑すぎる誰得戦闘シーンを入れ込んでいるわけですが、反省しますので許してください。

今回絵二つしかないのも許してください。猫獣書けばよかった…。

http://download2.getuploader.com/g/seednanoha/71/PHASE03-1.jpg
http://download2.getuploader.com/g/seednanoha/72/PHASE03-2.jpg

レイとフェイトの二人とフェイトお着替えシーンです。
使いまわしでホントすいません。

それでは本日はこれにて。

630名無しの魔導師:2012/05/28(月) 00:59:29 ID:J3C.immYO
ならばっ!GJという言葉を贈らせて貰う!!

ショタVerレイキタ───(゚∀゚)───!!
これでかつる!!!

>>608
なるです。では次回からソコらへん意識してやってみます。
期待に応えられるよう頑張ります。

631名無しの魔導師:2012/05/28(月) 23:37:09 ID:G/Efk70w0
投下乙です
幼少期レイってCV桑島さんってのも相まって女の子にも見えましたなぁ

632KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:15:48 ID:kIP1vZVs0
投下予約 1時半

633KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:31:01 ID:kIP1vZVs0
「前回から2年も空いちゃったのでざっくりとしたあらすじを」
「アスラン達がStSの世界にやってきたお話です」
「訓練校(漫画参照)でティアナ達とPHASE12までドタバタして、今はstsの話に追いついて進行中」
「今のところ本編で名前が上がってるSEEDの主要キャラといえば、アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコル。ほかにも出る人はいますけど」
「以上。では、投下いきます」

634KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:31:42 ID:kIP1vZVs0
 初めてみんながチームとしての臨んだ実戦は、ピンチの連続だったと思う。
 それでも、どんなピンチが訪れても、仲間を/愛機を信じて前へと駆け抜ける。そんな風に思えてしまった実践だった。
 どんな迷いも胸の奥にしまってみせて、みんなは戦っていく。
 一人が後ろを振り向いても、きっと誰かが前を向かせてくれる。みんななら。
 それぞれの場所で。
 それぞれの戦いが。
 ようやく始まった。

grow&glow PHASE 19 「進展」始まります

 
 
 初任務成功から一夜が明けて。
 ストライカー達は、成功の喜びを胸に秘めたが故に/自分たちの戦うべき相手を知ったが故に、より明確な強くなる――という意思を持って訓練に望んでいた。
 スバル、イザーク/前衛として、生存能力向上のために防御力(打たれ強さ)を。
 エリオ、キャロ/基礎を固める延長として、回避能力向上を。
 ティアナ、ディアッカ/射撃型として、あらゆる相手に正確な弾丸の選択/命中させる判断速度と命中精度を。
 
 まずは、己のポジション/役割としての力をつける。
 それが、現段階でなのはが考えた訓練の方向性だった。
 
 演習場/森の中に伝播するホイッスル=午前の訓練の終了合図。
「はい、お疲れ。個別スキルに入るとちょっときついでしょ」
 いたわるように/ねぎらいの言葉をかける高町なのは/優しい笑顔。
「ちょっとというか」
「かなりと……いいますか」
 俯き、息を荒げ、地面に座り込んだ教え子6人。
 
 個別スキル/新しい訓練の始まりは、自分たちがその訓練に見合う練度=成長しているということだが、6人の表情に笑みはない。
 なのはを見上げるために首をあげることも。
 姿勢を正し、終わりの挨拶を教受けることも。
 なのはの言葉に明確な返答を返すことも。
 体力の尽きた6人には、ただのひとつも割くことのできる体力が存在していなかった。
「ディアッカとイザークはみんなより少しデバイスの負荷をあげてるけど大丈夫だよね?」
「少しじゃねーだろ、これは」
 先日の任務達成後に、技術部に拉致されたディアッカとイザークのデバイス。
 一日で戻ってきたと安堵するも、使ってみればBランク試験を受けた時よりも、体感で2倍は消費しているのではないかと思うほど負荷は高い。
「けど、ディアッカは特にAMFの影響を受けるからやっぱり必要だと思うな」
「わーってるけど……」
「大丈夫。なれたらちゃんと砲撃も撃てるようになるから」
 ちょっと借りるよ――と、ディアッカのデバイスを手に取ると、なのははバスターを起動させる。
「少しだけキミを借りてもいいかな」『あんな奴より何倍もいいわ』「ありがとう」
 承認を済ませ、なのはは告げる。膨大な魔力を空へと解き放つ言霊を。
「ディバイーーーーーンバスターーーーーーーー」
 桜色の奔流が蒼穹に向かって駆け抜ける。
 カートリッジを消費することも、特段にいつもより魔力を込めた素振りも見せずにぶっぱなす。
「ディアッカくんも魔力量を含めて鍛えればどんどん伸びるから頑張ろうね」ディアッカに微笑みとともに、なのはは宣告。これから死ぬほど訓練しちゃうぞ(ハート)と、教えて(命令して)あげる。
「フェイトは忙しいけど、あたしも当分お前たちに付き合ってやれるからな」白い歯を見せながら、にやりと笑うヴィータ。
「あ、ありがとうございます」引き攣るスバル。主に頬が。他の5人もまた同様に。そして、冷や汗も。
 鬼教官からの訓練の日々が始まることを教えられ、変えることのできない現実に、6人は自然と空を見上げてしまう。
 涼しい風が流れゆく空を。
 涼しげな青に染まる空を。
 重力に気兼ねしない空を。
「じゃあ、お昼にしようか……それから、また午後から頑張ろうね」
 それでも、どんなに力が入らなくとも、なのはの言葉は耳に届くのだった。

635KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:32:32 ID:kIP1vZVs0
 
 
 ゆったりとできる昼食から、再びの地獄へと6人が演習場に向けて旅立った頃。
 陸士108部隊を訪れる機動六課の者達がいた。
 
 そのうちの一人。同行者として訪れたアスランは、感慨深げに懐かしの隊舎内を散策中。
 と、廊下を歩くアスランの背後に一つの影が迫っていた。
「お久しぶりですね、アスラン」桔梗色のなめらかな長髪を揺らし、駆け寄っていくのは陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマだ。彼女は走り寄った勢いのままアスランの肩を軽く叩こうとして、「ギンガも相変わらずだな」――しかし、彼女の左手は空を斬る。
 勢いを殺しきれずにアスランを数歩追い抜いて停止。
 
 ギンガにとっては、実に面白くない結果だった。
 
 不満げに口を尖らせ、文句のひとつも言ってやろうとして――再び停止する。
「……大丈夫ですか? そんなにボロボロになって」
 本来ならば、アイロンが効いてピシッと決まっていたはずの制服。しかし、襟も裾も制服全体にシワが溢れていた、
 
 瞬間、思考。
 
「もしかして、機動六課でもアスランは散々いいように使われてしまっているんですね。なんて不憫な。いつも真面目で通してきたアスランが制服にアイロンを掛けられないくらい仕事まみれにされているなんて……このままだとアスランのお凸がもっと酷いことになるというのに……いいでしょう。私から父さんに頼んでみる。アスランをこっちに引きずり込もうって」
 私はひどく悲しい――と全身で訴えるかのように顔を多い、ギンガはその場にしゃがみ込み、
「……本当に変わらないな、君は」表情を変えることなく、真顔でギンガを見下ろしながらアスランは二言目を告げていた。
 
「酷いですねアスランは。たったそれだけの言葉で済ませるなんて」頬を膨らませながら、ギンガは立ち上がる。無論、両手で覆っていた瞳に濡れた痕跡はゼロ。
「……相変わらずと答えるべきだったか?」
「それも却下です」
「……わかった。そもそも、俺がこうなったのも」「こんなにボロボロになったのは此処のみんなおかげ。そりゃあ、服もお凸もあれだけ挨拶で叩かれたらそうなります。それと、アスランが今封筒を持っているのは、ギンガにでも会ったら渡してくれと無理やり頼まれたから。あと、ここ最近は酷くなってない。あ、アスランに頼りすぎていた自覚はもちろんありますよ。だからアスランの残業で残っていた時は、お菓子の差し入れをしていたじゃないですか」
 拳を握り締め、プルプルと震えるアスランをギンガは楽しそうに見つめるのだった。
「ギンガ……」
「はい?」
「たしかに差し入れをしてもらった日は、ギンガも俺の仕事を手伝ってもくれた。感謝もしている」
「そりゃあ、アスランはあの時は後輩でしたから先輩として当然です」ギンガは得意げに胸を張り、
「夕飯を食べに行ったよな。時間が遅くなるから。後輩の俺のおごりで」そして、目を逸らす。
「語弊です。アスランは男として私の御飯をおごって、私は先輩としてアスランの御飯をおごる問題ありません」
 左右の人差し指の先をつつきあわせるギンガに向けてアスランは息をつく。
「わかった。ギンガの食事の量についてとやかく言う気はないさ」
「言う気がなくても、それだけ口に出していたら同じですよ」

636KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:35:02 ID:kIP1vZVs0
「で、これからギンガはどこに行くんだ?」
 アスランにとっては、かつての仕事場。
 だからこそわかる、給湯室へと向かうギンガに付いて行きながらアスランは問いかける。
「せっかく八神二佐もいらっしゃったから、お茶でも入れようと思っただけですよ」
「そういえば、はやては、昔この部隊にいた事もあったと言っていたな」
 ポットから急須に湯を注ぐギンガを見つめながら、ふと、今日ここへと共に訪れた彼女のことを思い出す。
 密輸物のルート捜査依頼が今日ここにやってきた大きな理由だ。
 密輸物/ロストロギアの捜索。
 他の機動部隊にも依頼を出してはいるが、そこだけに頼るということは疎い。どの機動部隊とも、名のある人間の後ろ盾があるものの、逆にそれだけ動きの制限が大きくなるということだ。その点、政治的にも影響力の弱い・及びにくい地上部隊の方が自由度も高く動かしやすい。あくまでも、目的はロストロギアの捜索。ガジェットという危険因子はあるものの、捜索を行うだけならば、部隊の練度は関係しない。
 地上のことは地上部隊がよくわかってる、て言うたらナカジマ三佐も納得してくれるよ――と、はやてはVサインをアスランに向け、陸士108部隊の部隊長に会いに行った。それが、20分ほど前のことだ。
 
「アスランは一緒に父さんと話をしなくていいんですか」
 湯呑を盆に載せながら、ギンガは問うた。
「はやてから暇をもらったからな」
「つまり、こっちに戻ってくるんですね」
「暇といっても、はやてがゲンヤさんと話している間だ。古巣のみんなに挨拶してきたらってことだろうな」
 盆を持ってあげようとし、怒られ、アスランはギンガに続いて部隊長室への廊下を歩く。
「いい隊長さんじゃないですか」
「そうだな。また、気を使ってもらったよ」
「だったら、何かドドーンと八神二佐に返してあげたらいいんですよ。あ、何かはちゃんと自分で考えてくださいね」
 額を指で小突かれ/己の言わんとすることを先に言われ、苦笑するしかないアスランだった。
 そして、
 
 ……シュイーン
「失礼します」
「ギンガ!」
「八神二佐、お久しぶりです」
 ……シュイーン
 
 気付けば、ギンガの姿はいつの間にか到着していた部隊長室の中に消え、一人廊下に取り残されたアスランだった。 

 
 捜査部――ギンガのデスクに集う二人。
「その……さっきはごめんね」
「あそこで入りそこねたのは、俺がボーっとしていたからだ。」
 額に影を落とすアスランと謝るギンガ。
 自分のすぐ後ろにいたはずのアスランが消え/しかし、ドアの前まで一緒に来たアスランが入ってこなかった理由を咄嗟に言えることもできず、ギンガはひとりで来たように振舞ったのだった。
 表情には笑顔を/背中に汗を浮かべながら、過ぎること数分。
 そして、部隊長室からギンガのデスクまで数十秒。
 それが、「今」を作り出したのだった。
「そうだ。仕事の話をしてくれませんか? 私たちに依頼するっていう仕事の」
 「今」を切り替えるために。
 ギンガは仕事の話をアスランに持ちかける、
 瞬時。
「そうだな。捜査主任はカルタスで副官としてギンガというのは聞いているよな」アスランの表情は切り替わる。
「六課は、テスタロッサ・ハラオウン執務官が捜査主任になるからギンガもやりやすいと思う」
「そうですか。フェイトさんが主任なんですね。ということは」ギンガ――見上げる視線/アスランの瞳に向けて。
「二人で一緒に捜査にあたることもあるだろうな」アスラン――表情を優しく崩しながら首肯/即座の肯定。左手で小さくガッツポーズを作ったギンガを見つめながら、もう一つギンガの喜びそうな/少し遠慮してしまいそうな六課からの提案を投げかける。
「それと、捜査協力にあたって六課からギンガにデバイスをプレゼントすることが決まったんだ」
「ちょっと、いいんですかアスラン? 凄く嬉しいのは嬉しいけど……」
 アスランが展開したモニターから見せられたモノに、思わずギンガは聞き返す。
 給料何ヶ月分だろうかと思わざるをえない代物だ。二つ返事に貰っていいモノだろうが、悲しいかな、安月給の陸士として働いてきたギンガの心の一部が、プレゼントの受け取りに抵抗を考える。
「閃光の執務官と一緒に走り回るなら必要だろ」
「だったら……受け取ります」
 だが、結局のところ理由ができればそれでいい。
 こんなに良いモノを貰っていいものか――フェイトさんと「一緒に」捜査を行うためには必要だという大きな理由が、だ。

637KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:36:28 ID:kIP1vZVs0
 
 両手でガッツポーズを作って喜ぶギンガに釣られ、アスランの顔にも笑みが浮かんだちょうどその時、
 コール音。
 数瞬後、「ギンガ、今から時間はあるか?」陸士側の捜査主任となったラッド・カルタスの顔がモニターに展開されていた。
「もしかして今回の依頼された外部協力任務の打ち合わせ?」
「ああ。第3会議室に今から10分後に来てくれないか」
「はーい」
「と、そこにアスランもいるよな?」
「はい。どうかしましたか」アスランにとっては元上司。懐かしさを胸にアスランはモニターへと顔を近づける。
「相変わらずのデ」「回線、切りますよ」「冗談だ」
 変わらぬ元部下に/変わらぬ反応に満足できたのか、
「俺にも説明を頼む。データもお前が持ってきたようだしな」次いで、遠慮なく頼る。
「なぜですか?」
「おいおい、二尉の俺が佐官……しかも隊長よりもえらい二佐に聞けないだろ。というより、お前の説明はわかりやすい。褒め言葉だ。だから説明しろ」
 頼みごとというより、むしろ命令。他部隊の人間に。
 だが、
「たしかに、はやて……うちの部隊長がするべき仕事じゃありませんね」
 理由としては間違ってはいないのだ。己の階級を鑑みれば予想できること。
 と、モニター/カルタスの頬がクイと持ち上がる。
「部隊長を名前呼びか……どこまで手を出した」
「どうして手を出すんですか。そもそも、これって仕事用の回線ですよ」
「ついだよ、つい。機動六課といったら悪魔から天使。ツルペタからビッグバンまで選り取りみどり。俺たちの隊の乱暴連中と違って、いい女のパラダイスじゃねーかよ」


 瞬間。
「……ギンガも可愛いだろ」背中が寒くなる。寒くなりすぎて熱い。痛いぐらいの殺気。故に、アスランの本能が自然と言葉を告げていた。
 酒が入ったり、訓練に付き合わされたり、仕事を押し付けられたりと酷い目に合うことはあるが、それがギンガのすべてというわけでもない。
「あんな大食らいで、しかもグーで殴ってくる奴なんか女じゃない。女がグーだぞ。この部隊で最強のグーで」それでも全否定。ありえないとカルタスは首を振る。
「ヤサシイトキモアルシ、イイスギダロ。」
 視線でアスランはカルタスに訴える。カルタスの話相手/己の隣に誰がいるのかを。
「……あ」
「どうしたんですか? カルタス二尉」
 笑顔で/百獣の王すら逃げ出しそうな微笑みで/ギンガは問いかける。
「後、30秒ほどで第三会議室に着きますよ」
 
 アスランは気づく。視界の端、世界が前へと消え去っていくことを。
 アスランは気づく。己の襟首を掴まれ、ギンガに引きずられていることを。
 
 
「アスランは少し待っていてください」
 会議室前。アスランはギンガに告げられる。
 拒否権は――ない。
 だが、
「ああ、凶暴なとこをアスランに見せたく無いってのは、女の子らしいじゃねーか」ターゲット――カルタスは笑ったままだ。これより降りかかる拳に臆することのないのか、余裕を持ってモニター先から語りかけている。
「黙ってくれませんか」狩人――ギンガの目は座り、ドアをぶち破ろうと左拳をきつく握り、「え?」目を見開いた。
 頭に血が上っていたからこそ見落としていた、ドアに光る「open」の言葉。
 一歩。ギンガはドアへと歩み寄る。
 開くドア。
 その先。会議室の中には誰もいない。
 メキッ――破壊音。ギンガの右足の床がわずかに沈んでいた。

638KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:37:04 ID:kIP1vZVs0
 同時、笑い声が木霊する。
「居場所バレてちゃやらないだろ」さも当然と言い放つカルタス。
「打ち合わせをするんじゃないですか?」背後でアスランが数歩後ずさったことも気にせず問いかけるギンガ。
「モニター越しでもわかるって。データもアスランがプログラムとかセキュリティ組んでるからいけるな。まず漏れない。というわけで」「ナカジマ陸曹、いつものところです。時々私たちが使う穴場のお店」モニターに一人の女性が入り込む。
「ちょ、お前!」
「仲間はずれはかわいそうだろー」「二尉は調子に乗りすぎですよ」「諦めろ」
 さらに、数人の声がギンガたちに届くのだった。
「カルタス二尉」にこやかに。
「はい」殊勝に。上官でありながら直立/敬礼の姿勢。
「今日は、仕事の話もありますし、もういいです」穏やかに。
「はい」真面目に。姿勢を崩さず、直立/敬礼の姿勢。
「実は、ちょっと嬉しいことがあったんですよ。私、六課から新しいデバイスを頂いたんです。新しいローラーに変わるんですよ。フェイトさんと一緒に走り回れる足に」
 目で告げる。これ以上話す必要があるのかと。
 笑いかける。わかっていますよね、と。
「今日の飯は俺持ちだ」
「今日だけですか?」
「明日もおごらさせていただきます」
「よろしい」
 満足気に頷き、アスランへとギンガは向き直る。
「それじゃあ、行きますよ」
 
 
 隊長室。そこから覗ける隊舎の玄関先。
 意気揚々と隊舎から歩いていくギンガと引っ張られていくアスランを見送りながら、
「すいません。気を使ってもらって」はやては苦笑する。
ギンガに引っ張られながらも、最後は車の運転を勝手出るアスランに、だ。
「気にするな。それに、カルタスも分かってやったことだろう」ゲンヤ/顎に手を当て、しみじみと。
「何がですか?」はやて/唐突に陸士側の捜査主任の名前を出され、聞き返す。
「俺たちが空とは違って動きやすいからといって、上とは関係ないということはない。出向してくる奴もいれば、家族、親類が上にいる奴もいる。ここは、機動課よりも都合がいいだろうが、あくまでも程度が違うだけだ。完全に自由ともいかねえさ」
「お見通しですか」
「今回の依頼は建前上問題はないからいいんだよ。上のやつは下を上手く使わんとな」ゲンヤははやての頭を軽く叩き、「今回捜査に当たらせるメンバーは俺が隊の中でも特に信頼しているやつらだ。だから、心配するな」告げる。
「まあ、この隊だからああ言ったのかもしれんが、俺が部隊長をしている間だけだぞ」
「肝に命じときます。師匠」返すは敬礼。
「ほんとにタヌキみたいになりやがって」
 再び、はやての頭に拳がゆっくり落とされた。
「さて、仕事の話もここまでとして俺たちも飯でも食うか。ここまで出てきたんだ。お前さんも久々に行きたい店くらいあるだろう?」
「はい。ご一緒します」
「こ洒落たレストランとはいかんが、そこは大目に見てくれや」
「そのほうが気楽に食べられるから大歓迎です」

639KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:37:41 ID:kIP1vZVs0
 男が歩いていた。惜しげもなく浮かぶ笑顔をそのままに。一人の青年を引き連れ、男は歩む。
 その男の名は、ジェイル・スカリエッティ。 ロストロギア事件を始めとして、数え切れないほどの罪状で超高域指名手配をされている一級捜索指定の次元犯罪者。
 男は笑みを浮ばせながら。
 理由――そろそろ己の存在が気づかれるということを予測し、これから起きるであろう未来を想像し、興奮。
 前回レールウェイ内部にて撃破されたガジェットから発見されるであろう、己の名前。見落とすほど相手もまた甘くはあるまい。
 
 それは、挑発だった。
 高町なのはに。
 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンに。
 最強ともいえる機動六課に向けてのいわば挑戦状。
 生命操作・生体改造に関して異常な情熱と技術を持っている己がガジェットを大量に作ってまでレリックを探し求めているのだ。
 六課もまた、全力で対抗してくるであろう。
 だからこそ、彼は楽しい。
 己がどれだけの作品を/娘たちを生み出せたのかを正確に測ることができるのだから。
 
「ゼストとルーテシア。活動を再開しました」伝わる言葉。長姉、ウーノより。
「ふむ。クライアントからの指示は?」確認せねばならないこと。スポンサーの要望だ。
「彼らに無断での支援や協力はなるべく控えるようにとメッセージが届いています」
 くだらない伝言にスカリエッティは鼻で笑う。
 自立行動を開始させたガジェットドローンがレリックの下に集まることは自明の理。わざわざ、メッセージとして伝えるべき内容ではない。
 多めに見てもらえるというあてが外れ、スカリエッティは大きく息を吐きだした。
 と、ようやくスカリエッティの背後についていた青年が口を開く。
「ドクター。ガジェットのプログラムなら、半日あれば改造できます」
 提案。だが、首を振る。
「君にそんな無駄な時間を使わせるわけにはいかないよ。それに見つかったところで彼らは強い。第一、彼らもまた、大切なレリックウエポンの実験体なのだからね。データを集める上でも構わないさ」
「わかりました」
 肩を落とし、気落ちする青年。そんな彼を眺め、ちょうど今、思いついたかのようにスカリエッティは告げた。
「心配というなら……近いうちにホテルで行われるオークションに参加してみるかい? 彼らが今動いたということは……わかるだろう?」青年の顔を覗き込み、男は瞳を怪しく光らせながら答えを促した。
「はい」是――スカリエッティの望むべき言葉が返される。
「護衛として、当然機動六課も動いているだろうが、君の頑張りで彼も彼女も無事にレリックを集めることができるんだ。運がよければ、彼女の目標も達成される。君にはしばらく休みを上げよう。ここ最近の君の頑張りで私にも余裕がある」
 
 ホテル・アグスタ。
 再びの激突へのカウントダウンが始まった。

640KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:38:59 ID:kIP1vZVs0
ご静読ありがとうございました。
お久しぶりです。二年ぶりですね(殴
覚えてくれている方は……いるのだろうか(汗

前回ふと思い出したはやての誕生日。覗いた雑談・・・当日はスルーに全俺が泣いた。
というわけで、はやてだってかわいいだろーーーがーーーーーーと思い、頑張れはやてと思い、気がついたら書いていた。

しかし、昔の自分の書き方を見るといろいろと修正したくなる不思議。
あの時はあれで良かったけど今読むとorz
もしかしたら、一気に修正するかもしれません。
あ、この続きは、また書きたいなーとは、思ってます。不定期は変わらずですが、期待せずにお待ちください ノシ

641名無しの魔導師:2012/06/09(土) 09:28:25 ID:hgtooIE6O
おかえりなさいっス!
kikiさんが帰ってきて嬉しいですよ。文体の違和感というのは……まぁ時の流れが解決してくれるかと

642名無しの魔導師:2012/06/09(土) 12:49:41 ID:pU1w5yvgO
うわーすげー久々w
乙です!

643名無しの魔導師:2012/06/13(水) 12:36:08 ID:TBh.t6v.0
久しぶり見たら懐かしい方の復活!

644KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:18:46 ID:CBPuUKZA0
どもです。2時半に投下予定 ノシ

645KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:30:17 ID:CBPuUKZA0
 繰り返すのは自責。今ある己に自信を持てなくて。
 湧き上がるのは疑念。日々の成果を実感できなくて。
 胸を焦がすのは羨望。互いの落差を痛感させられて。
 
 少女は問うていた。
 今、己がここにいることの存在意義を。選ばれた理由を。己に向けて。
 
 卑屈に考える。卑屈に決め付ける。
 
 本当の答えを/それが、己の望まぬ答えであるのではないかと恐れ、誰に問うこともなく、答えが見つからないように――
 
 ――少女は己に向けて問いかける。
 
 
grow&glow PHASE 20 「ホテル・アグスタ」始まります
 
 
 ミッドチルダ首都南東地区
 都心部から離れた緑地帯。その緑と穏やかな湖面に囲まれるように存在する白亜の建物――ホテル・アグスタ。
 都心部とは離れてはいるが、交通の便が悪いわけではない。
 近くを走る道路はすぐに高速と繋がり、またホテルからの直行便の利用度も上々。
 故に、観光・慰安を目的とする客でシーズンは賑わい、時には(違法物も取り扱う)オークションでもまた、人の波が押し寄せるのだった。
 
 
 ホテルから林道/ハイキングコースへ繋がる人気のない道ばたに直立する一人の少女。
 少女/ティアナ――制服ではなく既にバリアジャケットを着用=任務中(仮)/警戒中(仮)。
 不審者が通りかかれば仕事は生まれるが、周囲の人間――ゼロ。
 シーズンオフにホテルに滞在する+訪れる一般人の目的はオークション。
 
 綺麗な空。気持ちの良い空気/風。
 そんなものより、珍しいブツにしか人々の興味/関心は向いていない。
 
 開店休業――やることが生まれない=暇。
 と、脳裏に相棒からのリンクが繋がった。
『そっちはどう? ティア』もう一人の暇人=スバルからの念話だ。
「なーんにも。あんたのとこは?」
『こっちも平和だよ。凄く平和』
 
 オークション開始まで、残る時間は3時間と少し。
 各々の持ち場についた彼女達――六課のメンバーたちはオークション会場の外を固めながら、「その時」を待つ。
 だが、常に気を張り詰めていた結果、有事に全力で対処できなければ意味はない。
 故に、敵の発見を担うロングアーチとは異なる分隊であるティアナ達が言葉を交わすことに/緊張をほぐそうとすることにお咎めはない。
 
 
 会場内の警備は厳重。一般的なトラブルには十分対処可能。入口に備えられた防災用の非常シャッターはつい先日、PS装甲の技術を転用したものに変更され万全の体制をとっている。
 油断はできないけど、少し安心かな。
 
 それが、分隊長から告げられた言葉だった。
 
『あ、あたし中だから隊長達見かけたんだけど……凄くドレス似合っていたよ。受付の人が鼻の下伸ばすくらい』スバル――楽しげに言葉を弾ませる。
「そりゃあ……何かの公報か! ってくらいに隊長達は全員綺麗よね。シャマルさんがお仕事着なんて言ってたけど……そういえば、シャマルさんが現場に出るなんて思わなかったわ」ティアナ――感慨深げに言葉を淡々と。
『そういえば、今日は八神部隊長の守護騎士団全員集合かー』
「言われてみれば、そうよね」
『だったら、今回もサクッと終わりそうだね』
「……あの人たちが居るんだし、そうかもね」
 訓練校の卒業後もアスランやイザーク達と連絡を取り合っていたおかげか、ティアナにとっては、知人以上友人未満という程の仲にはなっている。
 親兄弟のいない独り身というティアナの境遇を誰かがはやてに話したおかげか、時には食事に誘われ、近況を聞かれ――と気にかけてもらっていることもあり、八神家の面々を知らないわけでもない。

646KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:30:54 ID:CBPuUKZA0
『6人揃えば無敵の戦力な守護騎士団も揃って、なのはさん達もいるんだし、ティアも、もっと気楽にしたら?』
「しょうがないじゃない。訓練とは違って実戦――それも、5人の指揮をするかもしれないんだから緊張くらいするわよ。あんたがお気楽お花畑なだけ」
『ひどいよティア』
「うっさい」
 気負いを見抜かれ、気遣われ、ティアナは念話を切り上げる。
 嘆息。焦りを吐き出すために/余裕を取り戻すために。
 冷静さを取り戻し、ティアナは思案する。
 六課の戦力の異常さ――それは、ティアナはとうの昔に知っていたことだ。
 部隊毎に保有できる魔力ランクの総計規模の問題をクリアするため、常に出力リミッターが掛けられているオーバーSの隊長格とニアSランクの副隊長。
 そして、他の隊員達もまた、未来のエリートが勢ぞろい。
 隊長達から指導を受けている新人もまた、自分より年下ながらBランク持ちのエリオとレアで強力な龍召喚士のキャロはフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの秘蔵っ子。危なさはあっても、潜在能力と可能性の塊+優しい家族のバックアップもあるスバル。コーディネーターとしての素養の高さを持ったイザークにディアッカ。
 己を外せば、並みの人間が見つからない。
 
 気落ちすることだが、事実は事実。
 気持ちを切り替えたくて、
「やっぱりあたしの部隊で凡人はあたしだけか」俯き、吐き捨てるように言葉を漏らすが、
「今更、何を言っている。貴様は」一人の男に拾われる。
「なんであんたがここにいるのよ?」思わず、半眼+仏頂面。
 それでも、男――イザークは気にする素振りも見せずに歩み寄る。
 冷笑。「巡回で動き回っていることも想像できんのか」
「うっさいわね。タイミングが悪いってことぐらい読み取りなさいよ」視線を逸らす。イザークが警備担当のエリアを持っていないことを今更ながらに思い出す。
「タイミング? ……ああ、ティアナが自分を凡人だとようやく理解したことか」
「改めて誰かに言われるとムカつくわね」
「それがどうした。貴様がそんなことを気にするたまか?」再び嗤う。
 愉快だと言わんばかりに腹を抱え、肩を小刻みに揺らされ――しかし、ティアナは押し黙る。
 
 ――だけど、そんなの関係ない。あたしは立ち止まるわけにはいかないんだ。
 
 飲み込んだ――イザークに声を掛けられていなければ、続いて口から飛び出していたはずの宣告。
 視線をイザークへ/どう言い返して来るのかを楽しみにしているかのようなほほ笑み=今の己に無い余裕。
 ムカついた。
 それでも、己が考えていたこととイザークの言葉に違いはない。
「そうよ。他がなんであってもあたしには関係ない」
 イザークに/自分に言い聞かせるように。
 ティアナに100%の自信はない。
 が、イザークは満足したのか、背を向け、再びの歩哨を行な――行おうとして、止める。
 
 
 世界がざわめいた/警告音が脳内を駆け抜ける。

647KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:31:36 ID:CBPuUKZA0
 
「ティアナ!」呼び声。瞬間、イザークの口が次の言葉を紡ぐ前に答える。「わかってるわよ」
 アラームの瞬間。走り出していたイザークを追いながらティアナは通信に耳を傾ける。
 観測されたモノはガジェット・ドローン陸戦Ⅰ型、陸戦Ⅲ型。
 先日、リニアレール内で出会った敵と同一種。
『ティアナ、打ち合わせ通り、お前がスターズ・ライトニング03以下の指揮を取れ。防衛ラインをホテル前に設置だ』
「はい」簡潔に。ヴィータの命令をティアナは即座に受領する。
『ラインを維持することが最優先だかんな』
 新人だけとはいえ、初の実戦での部隊指揮。
 凡人の自分が――ふと湧き上がる劣情を振り払い、ティアナは新たに通信を繋ぐ。『前線各員へ、状況は広域防御戦です。ロングアーチ1の総合管制と合わせて、私シャマルが現場指揮を行います』全体通信の送り主へ。
「シャマル先生。あたしも状況を見たいんです。前線のモニターもらえませんか」
『了解。クロスミラージュに直結するわ。クラールヴィント、お願いね』
 シャマルの変身が終わると同時、ティアナの眼前に展開されるモニター/情報。
 映されるのはシグナム、ヴィータ。そしてザフィーラだ。
 
 
 デバイスロックを解除され、レベル2での起動承認を得た2人は既に変身済み。翔けるは空の上。
「新人たちの防衛ラインには一機たりとも通さねえ。速攻でぶっつぶす」
「お前も案外過保護だな」
「うるせーよ」
 主催者からは、オークションの中止は考えていないと告げられている。
 それは、六課の実力を信じてのことか/自分たちの益を考えてのことか――おそらく後者だが、依頼主がオークションの実行をやめない/客の避難を行わない以上、敵を断固阻止せねばならない。
 視認――小物にデカ物。
 決断――瞬時にシグナムは割り振った。
「私が大型を潰す。お前は細かいのを叩いてくれ」
「おうよ」異論ナシとヴィータはシグナムを見送ると、次いで浮かべる、8つの鉄の球。
「まとめてぶちぬけえぇええええええ」
 敵を/獲物をぶち抜くためにヴィータは放つ――シュヴァルベフリーゲン。
 
 シグナムへの、一機たりとも通さないという宣言を実現するために。
 数には数を。
 抗魔法には実弾を。
 
 空を切り裂き飛翔するツバメたちは、ガジェットの体を食い破る。
 
 
 
「副隊長とザフィーラすごーい」歓声。
 単純に副隊長たちの力に感激するスバルから/副隊長たちが映るモニターから目を逸らすように、ティアナは俯いた。
 知っていたことでも、現実に見せつけられれば嫌でも教えられる。
 力の差を/凡人である己とニアSランクの者の差をまざまざと。
 
 副隊長たちは屠ってみせるのだ。いとも容易く一撃で。
 言ってみせるのだ。一機たりとも通さないと。
 
 今の自分に同じことができるのか――否。
 同じ高みに立つことができるのか――自信がない。

648KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:32:07 ID:CBPuUKZA0
 と、
「おいおいしっかりしろよ。副隊長が凄くても数が多いんだから俺たちにも仕事はくるって」呆れ返った調子のディアッカに小突かれる。
むっとなる。「わかってるわよ。あんたもちゃんとフォーメーションの確認とかしたの?」
苦笑。「前衛はスバルとイザーク。中衛がティアナ。後衛は俺とキャロ。エリオは臨機応変に前と真ん中。今の俺たちに他のフォーメーションが組めるのかよ」
 肩をすくめられ、ようやくティアナは、己の余裕のなさを自覚する。
 今まで何度も繰り返してきた訓練内容を思い出せば、他に組むべき選択肢はない。
 「できないこと」を「できるようにする」訓練ではなく、「できること」を「もっとできるようにする」訓練だったのだから。
「頑張れ隊長さん」ディアッカ――からかうように。
「隊長、ファイト!」スバル――励ますように。
 二人はティアナの背中を/心を押してやるのだった。
 
「あ」反応/キャロの両手に備わるデバイスが明滅。
「キャロ?」
「近くで誰かが召喚を使ってる」
 まるで準備が整うことを待っていたかのように、戦況に変化が訪れる。
『クラールヴィントのセンサーに反応。けど、この魔力反応って』驚愕の声を上げたシャマル――指揮を取る者として褒められない行為。だが、シャマルを始め、情報を解析していたロングアーチの者たち皆は、集まるデータに驚嘆を発していた。
 
 モニターに浮かぶ光点に変化が現れる。
 多数のガジェットが、アグスタとの距離を詰めるのだった。
「ヴィータとザフィーラの漏らしが来そうだな」
「Ⅰ型は数が多い。やむ終えまい」
 呆然と立ちすくむ/実戦経験の少ない4人に向けてイザークとディアッカは言った。
「わざわざ向こうから来てくれたんだ」「歓迎してやらないとな」
 
 瞬間。目の前の大地が光りだす。
 
「遠隔召喚きます」
 浮かぶ紋様――桔梗色に輝くミッド式の魔法陣。
「ほんとお早いことで」驚愕するエリオとキャロの傍ら、ディアッカの表情に凶暴な笑みが宿る。
 スバルの驚嘆。「召喚ってこんなこともできるの」
「優れた召喚士は転送魔法のエキスパートでもあるんです」
 ティアナの叱咤。「なんでもいいわ。迎撃いくわよ」仲間に向けて/息をのんでしまった己に向けて。鼓舞するように
 心に刻む。また証明すればいいのだと/自分の能力と勇気を証明して、いつだってやってきたんだと。
 イザーク=敢然と。「いくぞ、スバル」
 スバル=即応。「おう!」
 確実に前回の敵よりも強いと理解しながらも、笑顔を浮かべ、突撃を開始する。
 強い相手だからこそ心が踊る。
 どんな相手にもひるまず/恐れずブチ抜いてみせる。
 分隊長である高町なのはと同じ、突撃思考/一撃必殺。
「無茶しないでよね」そんな二人にティアナは釘を刺す。
 気持ちは同じでも実力差は明確――Bランク相当の前衛が突撃すれば、文字通り「当たって砕ける」結果が待っている――無論、そんなことは許されない。
「わかっている」「だいじょーぶ!」初撃をかわされながらも、惑うことなく即座に離脱。
 より前で敵を引きつけ、少しでも後ろの余裕を生み出すために。
 撃墜されず、戦い続けることを優先しながら、二人は敵の中を乱舞する。

649KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:32:40 ID:CBPuUKZA0
 
「ちょ、当たんねー」
「集中しなさいよ」
「……て、言われても」
 射撃/砲撃型の2人は挫けそうになる心を励まし勇気付け――何度も避けてみせる敵を目掛け、銃撃を継続。
 放つ/命中ゼロ。
 放つ/回避される。
 放つ/ようやく掠める。
「前よりも動きが段違い」
 レールウェイの時は屋内だったとはいえ、運動能力の向上が身をもって知らされる。
「迎撃」改造されたⅠ型をから放たれる12のミサイル。
「わかってるわよ」撃ち落とす。
 
 刹那。
「ティアさん」キャロの警告。
 振り返り、気づく。青い光/回り込んで己に狙いを向けるⅠ型数機。
 放たれた熱線は跳躍して回避。即座に撃ち返すもののⅠ型の防御を貫けない。
「落ち着けって」
「うるさいッ」
 脳裏を過ぎる、なのはの教え。
《ティアナみたいな精密射撃型はいちいち避けていたりしたら仕事ができないからね》
 事実だった。
《ほら、そうやって動いちゃうと後が続かない》
 回避し、思考もままならないままに撃った光弾は目標を貫けず、落ち着いて/正確な弾丸をセレクトして狙ったであろうディアッカの弾丸は敵を貫いて爆散させる。
 
 視野を広くするために足は止めていた。
 それでも、強くなった的に不安を感じ、冷静な思考が鈍り、いつのまにか狭くなっていた己の視界。
 狭い視野での棒立ち――優先して狙って欲しいと告げているようなものだ。
 判断速度と命中精度。どれもが、なのはの期待する域には達していない。
 
 個人としての戦果と同様、チームとしての戦果にも目立ったものはない。
 防衛ラインの突破――ゼロ。
 が、それだけだと己を責める。
 敵の撃破もままならず――それは、前衛であるスバルとイザークが、敵の撃破ではなく、自身が生き残ることに/時間を稼ぐことに重点を置いていることもあるのだが――有利な展開に状況をもたらすことができない己に憤る。
 
 焦燥がティアナの胸を焦がしだす。
 
「エリオ! 後ろでぼさっとするな。これ以上指揮官を狙わせてどうする」
「すいません」
「わかったら行動で示せ!」
 イザークのエリオへの叱責が、まるでティアナに向けて/視野が狭いという叱責のように耳へと届く。
『防衛ライン。もう少し持ちこたえていてね』
「はい」
『ヴィータ副隊長がすぐに戻ってくるから』
 シャマルとスバルのやり取りが、自然と「ティアナにこの防衛ラインを任せていられない」に頭の中で変換されてしまう。
 
 証明できない。このままでは。
 失敗に終わるのではないか――湧き上がる切迫感が思考を塗りつぶす。
 この後、慰められたところで。慰めの言葉の最後に「凡人だから」というフレーズが入るのではないか。
 勝手に口が意見を唱えていた。
 シャマルへの反論。「守ってばっかじゃ行き詰まります。ちゃんと全機落とします」――焦燥の爆発だった。
『ティアナ大丈夫? 無茶しないで』
「大丈夫です。毎日、朝晩練習してきてんですから」
 今の上官ともいえるシャマルに向かい、否定はさせないとばかりの剣幕で言い募りながら、ティアナは決断を下す。
「エリオ、センターに下がって。あたしとスバルのツートップで行く」
「は、はい」
 威圧され、後ろへ下がるエリオを見送ることなくティアナは相棒へと作戦を告げた。
「スバル、クロスシフトA行くわよ」
「おう!」元気を取り戻したティアナに喜び勇み、スバルは即座に了承。
 熱線にひるむことなくウイングロードを展開/ガジェットの間を駆け抜けた。

650KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:33:35 ID:CBPuUKZA0
 
「落ち着け。今の貴様は指揮官だぞ。エリオを後ろに下げて遊ばせるなんてどういうつもりだ! 貴様の頭は飾りか!」
「うっさい。あたしという人間が他に術を知らないのよ!」
「イザークが言う言葉じゃねーけど、冷静になれよ。普通じゃないぜ」
「それでも……いける!」助言を跳ね除け、カートリッジを連続で叩き込む。
 無茶は百も承知。
 それでも魔力量を強制的に跳ね上げる。
 ――証明するんだ。特別な才能やすごい魔力がなくたって一流の隊長達の部隊でたって、どんな危険な戦いだって、あたしは、ランスターの弾丸はちゃんと敵を撃ち抜けるんだって。
 暗示のように己に向けて言葉を刻み込む。
 視野の広さも、冷静な判断力もそこには存在しない。
 なのはの教えではなく、原点――自分とスバルと敵に立ち向かうことをティアナは選択するのだった。
『ティアナ、4発ロードなんて無茶だよ。それじゃ、ティアナもクロスミラージュも』
 シャマルの叫び――聞き流す。
「もう、勝手にしろ」
 イザークの嘆息――聞き流す。
 16発の橙色の弾丸が周囲に浮かべ/統制から漏れた魔力を放電のように周囲に飛び散らせながら、自身の証明のために
「クロスファイアアアアアア」
 チームの為ではなく、己自身の為にティアナは魔力を解き放つ。
「シューーート」
 
 すべての敵を撃ち抜かんと。
 すべての決着を自分だけで決めようと。
 ティアナはランスターの弾丸を放ち続けるのだった。
 
 己の領分を超えた射撃を繰り返したのだった。
 
 
 故に、それは偶然ではなく必然。
 
 
 ガジェットに避けられた一発の光弾。
 その進む先にあるのは、無防備な仲間/スバルの背中。
 
 軌跡を逸らそうと――制御を外れた光弾がティアナの意思に従うことはなく。
 呆然と、ティアナは否定したい/否定できない「味方の撃墜」という未来をただ見つめることしかできなくて。
 
 が、視線の先/表情を引きつらせるスバルとランスターの弾丸の間に赤い影が滑り込む。
 
「ヴィータ副隊長!」
 息を荒げながらも、駆けつけ、瞬時に弾丸を叩き落とした紅の守護騎士が一人――ヴィータがそこにいた。
「ティアナ、この馬鹿! 無茶やった上に味方を撃ってどうすんだ」怒号。
 己の引き起こした未来に虚脱し、棒立ちになったままのティアナに向けて。
 己の行いがどれだけの結果を――それも最悪なモノだったかを思い知らされたとはいえ、ヴィータは叫ばずにはいられない。上官として、叱らずにはいられない。
 
 ティアナが本来の優先すべき結果は、防衛ラインの維持。
 ガジェットを全て落とせなくとも、ラインの後ろに抜かれなければそれでいいのだから。
 
「あの、ヴィータ副隊長。今のも、その……コンビネーションのうちで」
「ふざけろ、タコ。直撃コースだよ。今のは」
「違うんです。今のはあたしが避けて」
「うるさい馬鹿ども」
 必死に弁解を行おうとするスバルをヴィータは一睨みで黙らせる。
 六課でも/それ以前でも接してきたからこそ、スバルの純粋さ/優しさも知っている。
 だからこそ、その行為を/ティアナを庇う行為をそのまま許すことなどできはしない。
「もういい。後はあたしがやる。二人まとめてすっこんでろ」
 だが、二人に説教を行うのは今ではない/ヴィータではない。
 結果的にティアナの射撃のおかげで周囲に展開するガジェットも減ったとはいえ、数機は健在――未だ戦闘中だ。
 戦闘で使い物にならないと下し、頭を冷やさせる意味でも、ヴィータは二人を戦線から切り捨てた。

651KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:34:16 ID:CBPuUKZA0

 戦闘は継続する。
 ヴィータが参加したことで前衛から中衛にシフトしたエリオがディアッカの脇で立ち止まる。
「僕のせいですよね。やっぱり」
「なにが?」
「僕がちゃんと前で抑えていられたら。ティアナさんがガジェットを気にしないくらいにできていたら……」
 イザークの一喝が心に残っていたのか、答えを欲するようにディアッカはエリオに見つめられたのだった。
 実戦2度目の子どもに的確な状況判断を行えるはずもなく――むしろその役割はティアナだったのだが、イザークは戦場にでた相手には、年齢性別問わずに不満があればぶちまける。
 経験が少ないといえばティアナの指揮官役もそうそうないことを思い出しながら、
「エリオ、戦いに『たら』とか『れば』はねーよ。もし思ったんなら、次に挽回すりゃいいんじゃね? ……五体満足で今も生きてるんだからよ」諭す。
「はい……」
「同い年のキャロも心配かもしれないけど、キャロはフルバック。基本は俺とティアナの後ろ。そうそう狙われねーし、狙わせねーよ。だから、次は……後ろを信じて前に突撃だ」元気づけるようにエリオの肩を軽く叩く。そして、
「それに、女は男が守るってもんだろ? ああ、子どもも対象にすべきか?」意地悪く見下ろしてみせた。
 
「ひとりでも大丈夫です」
「無茶はするなよー」
 むっとしながらも、己の役割を発揮しようと前へと走り出したエリオを見送りながら、ディアッカは戦場の先。今は自分よりはるか遠く/最前線でデュエルを振るうイザークの気持ちを推し量る――相変わらずの不器用さ。
 この後の戦闘報告で、「勝手にしろ」という言葉を拡大させて責任の一部を取ろうと仲間思いのあいつはするだろうと推察。
 階級がティアナよりも一つ上である以上、それらしい意見になるのかもしれないが、わかりづらすぎる親友の不器用さがどうにかならないかと――ため息が漏れだした。
 真っ直ぐだからこその不器用さ。それは、スターズ分隊の3人全員が持つものだ。
 だが、外から3人を眺めていることも/3本の直線を結びつけることもディアッカにとっては面白く、刺激的な日々を過ごさせてくれることもまた事実。
「なるようになれってね」笑顔を浮かべながら砲撃をぶっ放す。
 首の骨を鳴らしながら、使い終わったカートリッジを廃莢。装填。
 
 今持つティアナの不安も、3人がまたぶつかり合えば、解決する。
 どこかそんな想いを胸に、ディアッカは終幕が近づく戦場を眺めているのだった。

652KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:35:27 ID:CBPuUKZA0
ご静読ありがとうございました。

最近イザークの台詞書いてると、とある金ピカの台詞にしか聞こえないというKIKIですorz
今日の話は追加エピいれようかとも悩んだんですが、時間かかりそうなのでボツにして投下。
ストック作らないのはデフォですが、次の話は珍しく構想なんとなくできたりしています。
その結果が満足してもらえるかはわかりませんが、頑張ってみます。
ではでは。今回みたいに2、3週間後になるのかはるかそれ以上かはわかりませんがまたいずれ。

追記――望氏、完結お疲れ様でした(遅ッ!)

653名無しの魔導師:2012/06/23(土) 08:08:39 ID:T4gcmrLgC
更新お疲れ様です。

654名無しの魔導師:2012/06/23(土) 17:10:41 ID:rw0BD5tI0
>653 ありがとうございます。

あげ
名前消すの忘れてたorz

655名無しの魔導師:2012/06/26(火) 13:24:39 ID:ztbFqT4sO
出遅れたか……!
だがあえて、乙と言わせてもらおう!

656KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/07/03(火) 04:00:21 ID:d/GgKmSI0
>>655
サンクス ノシ

昔投稿した話の編集してるので次の話書くの休憩中。
職人様カムバアアアアアアアアアアック!

657名無しだった魔導師:2012/07/23(月) 03:45:05 ID:RW.bLOSYO
ククク、まさかこんな時間に投下する奴がいるとは思うまいて。

一ヶ月とちょっとぶりに、ゲリラ的に投下しちゃいますね。

658鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:46:48 ID:RW.bLOSYO
シンは、強くなった。
僕なんかよりもずっと確かな、本当の強さを手に入れた。それが何よりも嬉しくて、なんとなく悔しい。

「そう……“逢えた”んだね?」
「……ああ、夕方にSEEDを使った時にな。──結局、アンタの予測通りだった」

あのメサイア攻防戦以降、勝者として、敗者として、被害者として、加害者としてさまざまな角度から戦後を眺めたシンは、正にキラ・ヤマトと同等で対極な存在となってくれたんだ。

「誰、だったの?」
「……、……」

だからこそ、背中を預けられる。一緒に歩いていける。
そして今、僕らは同じ道を往く権利を得た。
運命に歯向かう、遠く険しい道を。


『第十三話 戦闘準備』


「さぁ! セインさん特製超究極的モーニングセットの調理開始だぁ!! 御飯作ると元気になるねっ」
「朝から妙に上機嫌ですね……どうしたんですか?」
「いやー、これだけ上等で新鮮な食材があるとね、シェフとしての血が騒ぐものなのだよう」
「……そうですか」

得意気に人差し指を立て、純白のエプロンを翻し、満面の笑みを浮かべるは水色ショートヘアの女性。
昨夜の温泉騒動の責任をとる形で急遽、昨夜の晩ごはん及び今日の朝ごはん制作担当者となった、聖王教会所属のシスター・セインさんだ。
僕はそんな彼女にちょっと引き気味。なんでそんなテンション高いんですか。まだ朝の5時なのに。
そう、僕らは今、アルピーノ家のキッチンにいる。
聖王教会での調理係は当番制で、セインさんとはいつもコンビを組んでいるの。だから、今日この時も一緒に料理をするのが当然というわけで此処に来たんだだけど……
いきなりついていけない……

「よっこいしょ、と……ふぃ〜。どうだいキラっち、この食材は初めて見るだろ?」
「……、……え?」

…………なんだろ、アレ。手足と顔がある大根……?
セインさんが重そうに籠から取りだし、まな板の上に置いた野菜らしきナニか。ミッドチルダで収穫されるお馴染みの野菜達とは一線を画すオーラを放つアレは、本当に食物なのだろうか。
あれが上機嫌の原因なの?

「これはマンドレイク! レア物なんだよ〜。やっぱり現地調達はいいね。で、こっちはユニコーンの腿肉、この粉末はリントヴルムドラゴンの爪だよ」
「……はぁ、そうですか」

流石は異世界、いや魔法世界というべきなのだろうか。あんなのどうやって料理するんだ……ってか、マンドレイクって確か激毒物だった気が……世界が違うから別物、なのか?
セインさんの料理の腕は本物だから、そんな彼女が朝日よりも眩しい得意顔で作るご飯はきっと素晴らしいモノに違いないんだろうけどさ。
ちょっと不安だよね。

「じゃあキラっちはいつも通りのお願い。量は多めでね。あ、それと……たしか6時半に赤組のミーティングだよね。時間に近くなったら上がっていいからー」
「はい、了解です」

まぁ、取り合えず作業に取り掛かろう。お気に入りのエプロンとバンダナを装着して、包丁を握る。

659鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:48:34 ID:RW.bLOSYO
時間までに仕上げないとね。
時間、すなわち赤組のミーティング開始時刻までに。
それは、本日の一大イベントに関わる大事なことだから。

(今日は一段と気合いを入れないと)

訓練合宿二日目恒例イベント、大人も子供もみんな混ざっての朝から晩まで三連続陸戦試合。僕とシンが初めて経験する大規模チームバトル。
だから胃に優しく、それでいてカロリーが高い物を。

(みんなに振る舞うんだ。全力で、おいしくするんだ)

さて、昨夜の発表の結果で、僕は赤組所属という事になった。
この試合の仕様は、赤組と青組7人ずつに分かれたライフポイント制のフィールドマッチ。ライフは各々のポジション毎に設定されていて、残りポイント100未満で『活動不能』、0で『撃墜』扱いになるらしい。
細かい事項としては、

1:転送魔法禁止(召喚は可)
2:広域結界魔法禁止
3:通信妨害・盗聴禁止
4:その他自由

と規定されていて、ワリと大雑把なルールようだったね。狙いは“それなりに実戦に近い試合”といったところか。
それで、肝心の第一回戦でのチーム分けとポジションだけど……

  赤組     青組
FA:アインハルト ヴィヴィオ
  ノーヴェ   スバル
GW:フェイト   エリオ
  キラ     リオ
CG:ティアナ   なのは
WB:コロナ    シン
FB:キャロ    ルーテシア

Front-Attacker
    HP:3000 役割:前衛
Guard-Wing
    HP:2800 役割:遊撃
Center-Guard
    HP:2500 役割:司令
Wing-Back
    HP:2500 役割:後衛
Full-Back
    HP:2200 役割:支援

こんな感じになった。
うん、大方予想通りではあったんだけど、なのはが敵側なんだよね。これは厄介な事になりそう……
それに、シンもシンで不気味で心配だ。
マルチレンジファイターのデスティニーを装備するといえどもインファイトを好むシンが、WB──後衛──に入るなんて想定外だったよ。
一体何故……いや、これは“何かある”と覚悟してかからないと……
それに、あの懸念事項についても検討しとかないと。考えることはいっぱいだ。


「おはよう、みんな」
「あ、キラ。おはよう」
「うっす」
「おはようございますっキラさん」

そんなこんなで6時15分、赤組集合場所である宿泊ロッジ正面の丘へ。輝く大陽と霞む双月の下で、みんなに笑顔で挨拶……っと、まだ揃ってないのか。

「アインハルトちゃんと、コロナちゃんは?」

年少組がいないな。

「コロナは新しいデバイスの試運転で裏山に行ったから……でもすぐ戻ってくると思う。だけど……」
「アインハルトはまだ見てないわね。どうしたんだろう」
「アイツ、あー見えて緊張しやすそうな性質っぽいからなー。もしかしたらソレが祟って寝坊助かもしれねーなぁ」
「それかジョギング中って線か……僕、ちょっと中を見てきますよ」
「あ、宜しくお願いします。私達は外の方を」

660鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:50:09 ID:RW.bLOSYO

フェイトとティアナとノーヴェさんとキャロちゃんとで緊急会議。緊急といっても和やかなモノだけどね。
兎に角、アインハルトちゃんを探そうか。

「……ッ」

額あたりに、微かな疼きのような感触を得る。ムウさんやラウと同じ、空間認識能力の発動だ。
脳意識領域を意図的に拡大させ、その力でヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんにだけ感じる『何か』の尾を探して、掴む。
──建物、部屋の中。二人一緒にいて、ついでもう一人もいる、か。
これはノーヴェさんの寝坊説が濃厚かな?

「……それにしても」

……それにしても、何故あの二人だけに特別な『モノ』を感じるのだろうか。
いや、正確には三人──教会で眠っているイクスちゃんを含めて──なんだけど。
何故なんだろう。他の人には特別なのは感じないのに。
これも、僕の体内に在るSEEDの仕業なのかな……


◇◇◇


昨夜。
温泉から上がって、シンと共に宿泊ロッジ正面の丘に来て。彼は告白した。
真実に触れたと。
あの日、アインハルトちゃんと出逢った雨の日に、僕が知った真実の一端に。
それでも気丈に振る舞えているのは、やはり彼の強さなのだろう。
ただ、僕らが温泉に入っている時に独り隠れて泣いていたみたい。だからシンの瞳は何時にも増して真っ赤だ。
やっぱり、コレばかりはね……

「誰、だったの?」
「……、……」

それ程までに、事は大きい。
心が麻痺している僕さえ三日も気を失った原因たる情報に、彼もまた溺れそうだったんだ。

「……ステラと、レイと、……マユ……──みんな、穏やかな顔をしててさ、俺……俺は……」
「……そう」

僕らの中には、自分のモノだけでなく、幾つもの魂が存在している。
それはきっとC.E.にかけられた呪いだ。

「悲しいね、シン……」
「…………っ」

全てはエヴィデンス01の掌の上で踊らされた、破滅へと向かう終曲。
ジョージ・グレンが地球に持ち帰った羽鯨の化石によって人類は暴走し、狂喜の果てに鯨の細胞を埋め込まれて産まれた僕ら──SEEDを持つ者──が狂気の時代を戦い生き抜いて。
そんな世界が今やエヴィデンスの苗床として、次元世界から消え去ろうとしている現状。
その実感をシンは得たんだ。
今日の夕方に、SEEDを使った事をきっかけに。

(こんな事をわざわざ再認識させる……悪趣味な通過儀礼だよ、本当に)

僕らの体内に注入されたエヴィデンスの細胞──SEED──はその特性から、『保有者と近しい存在であり、リンカーコア所持者であった死者の存在を吸収する』という機能もある。
エヴィデンスの持つ『あらゆるモノを魔力に変換し己の糧とする能力』、その名残なのだろう。
つまり、
僕の中には“ラクス”と“フレイ”と“ラウ”がいて、
シンの中には“ステラ”と“レイ”と“マユ”がいる。
だから僕らは涙を流した。

661鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:52:47 ID:RW.bLOSYO
確かに、また逢えて言葉を交わせるのは嬉しい。だけどそれ以上に、
僕らから死別すら奪われ、彼女らが未だこの世に縛られている現状が、どうしようもなく悲しかったから。
戦争だから仕方無い、生命はいつか死ぬ。そんな言葉で片付けられるほど命は軽くない。
そんな命が、僕らの戦争で死んだ命が、ココに在る。
悲しい現実。

(あの人は、これも知っていたのかな)

何故、昔の学者はこんな巫山戯たモノにSEED──種子──と名付けたのか、今となってはわからない。
もしかしたら一時期学会で発表され議論されたSEED理論──

Superior
Evolutionary
Element
Destined-factor
優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子

──に当て嵌めただけなのかもしれない。
だけど、こんなモノが花咲く未来なんて、こんなモノで進化する人類なんて、僕は認めない。
絶対に。
だから僕は……

「だからアンタは、全部壊そうとしてるんだろ。コレさえも利用して」
「……うん。悪いとは思うんだけどね、ラクス達には協力してもらうよ」

こんな運命を破壊してみせる。

「目標の為なら死者も利用する……やっぱアンタは異常だよ、キラさん」
「今さらだよ、シン……、……一緒に来てくれるかい?」
「当然」

これからの全ては実験であり、ウォーミングアップだ。
だから、もう退路はない。
僕らは全力で生きて闘って研鑽して、目標を達して世界に対し贖罪しなければならない。
あんな世界にも愛着はあるし、何より大切な人達がいるのだから。
前に進まなくちゃいけない。
きっと僕らはその為に、此処に来たんだ。

そう誓った、昨夜の想い。


◇◇◇


謎は謎のまま、ただ疑問だけが積み重なって、答えはちっとも見当たらない。
それをそのままブッ壊そうというのだから、僕も随分と大雑把になったものだ。彼の影響かな?
昔ならずっと悩んでいただろうに。

「部屋の前についたよ」

注)周りに誰もいない…………って、そうじゃなくて。
宿泊ロッジの、子供達の寝室前についた。ここを使っているのはヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃん、コロナちゃん、リオちゃん、ルーテシアちゃんにキャロちゃんだ。
その他には男性用と女性用と寝室は計三つあるんだけど、男性用寝室の寂しさといったら……
まぁ、とりあえず中にいるかどうか確認しないと。時間も押してるから、少し急がないといけないな。

「……」

じゃあ早速とばかりに扉を開こうとドアノブに手をかけて、
そしたら、

──いけませんわキラ。女の子の部屋に無断で入っては。
──ノックぐらいしなさいよ。アンタって本当デリカシーがないんだから。

ラクスとフレイに怒られてしまった。うん、ごめんね、気がまわらなくて。
確かに彼女達は年頃の少女なんだから、こういう時は気をつけないと。
この頭に響く声は、僕の中に在る彼女達の意識そのものだ。

662鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:54:21 ID:RW.bLOSYO
人は慣れるもので、この事実を知ってから最初の内は夢の中でしか会話できなかったけど、最近は何時どんな時でも会話できるようになった。
それ以来はこうして助けてもらう事も結構あったりする。
……よし、ノックを。

「アインハルトちゃん、ヴィヴィオちゃん? いる?」
「……」
「……」

返事がない。でも気配を感じるのはこの部屋の中だから……
しょうがない、強硬突破だ。

「入るよ、いいね?」

いいよね? 入っちゃうよ?

──ふむ、仕方ないのではないかね、こういう時は?

貴方がそういうなら、そういう事にしておきます。
よし、じゃあ、お邪魔しまーす……
慎重に扉を開けて、いざ禁断の女子領域へ。

「……うん、こうだろうと思ってはいたけどさ」

寝ていらっしゃいました。
気持ち良さそうに、スヤスヤと。ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんとリオちゃんが。
なんとも微笑ましい光景だ。写真に収めておきたい程に可愛らしい。
大きなベッドの上で。リオちゃんは豪快にお腹を露出して、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんはお互いに寄り添うように。
まぁ仕方ないのかな。
この三人は昨日で特にはしゃいでいたから、疲れていたのだろう。
それに、彼女達の足下に散らばっている沢山の書物。これから推察するに、少し夜更かししてしまった可能性もある。
それか緊張で眠れなかったか、かな。
子供らしいというか、なんというか。
……ん、この本は……
古代ベルカ時代のエッセイ本かな?
まだミッド語やベルカ語は勉強中だから自信はないけど、多分そうだろう。この二人の出生絡みの事を調べていたのか。

(古代ベルカ、ね)

僕も聖王教会に関わる者として、古代ベルカについては勉強している。だから、この二人のご先祖様の事も大体は知っている。詳細は諸説あるから一概には言えないけど。
だから今こうして二人が仲良く一緒にいるのには感慨深いものを感じるな。

(そういえばイクスちゃんも古代ベルカの王様だし、書物にはエヴィデンスの事が書いてあったし、……ひょっとしてベルカって羽クジラと深い関係があるのか?)

うんまぁ、そんな事を考えるのは後にしよう。
最優先事項として、この三人を起こさなきゃ。

「ほら、朝だよっ。起きて!」

一緒に遅刻して怒られるのはイヤだからねぇ。ちょっとかわいそうだけど、強引にやらしてもらうからね。




「ヴィヴィオ、そこの醤油とってくれる?」
「はいフェイトママ。なのはママも?」
「うん。ありがとヴィヴィオ」

「醤油か……目玉焼きには胡椒だな、俺は」
「私はウスターソースね」
「そういやこの前にアイスを載けってみたんだけど、なかなかイケたよー」
「え……」

「ニンジン、いらないよ」
「駄目だよリオ、好き嫌いしちゃ」
「野菜がそんなに好きかーっ!」
「えぇ!?」

「ほれアインハルト、遠慮してないでもっと食っとけ」
「あ、ありがとうございます……」

663鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:55:53 ID:RW.bLOSYO
「あの、ノーヴェさんは食べ過ぎでは……?」
「んー、何時もこんな量だった気がするけど、ノーヴェは」
「そうなのルーちゃん?」

7時15分、朝食が始まった。
ミーティングは滞りなく開始され、滞りなく終了。リビングに集まって、みんなで「いただきます」を合唱して。
うん、実に平和で賑やかな食事風景だ。懐かしいな、孤児院で過ごした時間を思い出す。
あの時も確か、子供達がこんな風に……
あの孤児院は第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の後、功罪相殺の末に住民登録を抹消されたアーク・エンジェル‐クルーとエターナル‐クルーの為に、カガリが用意してくれた院だったっけ。
あれからもう5年。僕は異世界にいるよ。

「へぇ……ユニコーンってこんな味なんだ……」

それでもって伝説の幻獸の肉(薫製)を食べてるよ。そう言ったらアスラン達は驚くかな? 僕は自分に驚いてるよ。
ちなみに、ユニコーンはよく分かんないけど、なんか神聖っぽい味がした。

「ねぇシン、その野菜サラダにかかってる赤い粉末、なんだか知ってる?」
「いや知らないな……少し辛いから唐辛子の類いか?」
「リントヴルムドラゴンの爪だって」
「……マジ?」
「マジマジ」
「流石は異世界」
「流石だよね」

そんな不思議な食卓で、シンと軽口をたたきながら、さりげなく彼を観察する。
やっぱり僕は、この右隣に座る男のポジションが気になってどうしようもない。
横目で見ても特に気負った雰囲気を出していないのが、更に僕の疑念を掻き立てる。

(だって、シンが後衛なんだよ?)

オーソドックスな射砲撃魔法しか使えないのに、どうやってこなすつもりなんだ?
そもそも、僕達は根本的に後衛に向いてないってのに……

そう、検討中の懸念事項。

それは僕達自身の特性についてだ。
たしかに僕、キラ・ヤマトとシン・アスカには他の人にはないモノを持っている。
長年の従軍経験、
優れたコーディネイターとしての身体、
ハイパーデュートリオン・VPSシステム登載型デバイス、
新人類の能力、
SEED因子、
そしてシステムG.U.N.D.A.M.。
あらゆるユニークスキルを備えた、一見反則級とも取れる僕達にも、一つの、しかし最大の欠点がある。
それは、

圧倒的な魔力不足。

これは仕方ない事だ。基本的に魔力の源たるリンカーコアは、筋肉と同じように幼少の頃から鍛えれば鍛えた分だけ成長する物だ。
大人になってから魔法を使い始めた僕らの魔力が少ないのも当然のこと。
それが仇になった。
僕らの保有魔力はたったCランク相当の量しかなくて。
そして本来使用する魔法のランクはB〜Aが中心なわけで。
だから、実戦の際には、Cランク程度まで落とした省エネモードでしか魔法を使えない事になる。
十全の体勢で戦いに望めないんだ。
いかにハイパーデュートリオンによる自動魔力回復があるといっても、もともとの容量が少ないんじゃ意味がないからね。
つまり、後衛が使うような大魔法はおいそれと使えないんだよ。

(これが、僕達が根本的に後衛に向いてない理由。シンも承知している筈なのに)

664鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:57:09 ID:RW.bLOSYO

もちろん、策はある。
SEEDを解放して総魔力量を増やしたり、状況毎に魔力リソースを振り分けたりすれば、短時間だけなら本来のパワーの魔法を使う事が可能だ。
他には多数のデバイスを同時使用したりとか。
根本的解決ではない、その場しのぎの策だけどね。
この懸念事項をどうするかが、僕達の今後に大きく関わっていく事になる。

(やっぱり、シンは警戒しとかないと。絶対、『何か』がある)

僕とシンが、お互い実験の為に全力でと誓ったこの試合。
一波乱ありそうな予感が、僕の背を汗という形で撫でていった。

「キラさん、食欲ないんですか?」
「あ、と、ごめん。大丈夫。食べるよ」

試合開始まで、あと一時間。






──────続く

665名無しだった魔導師:2012/07/23(月) 04:01:15 ID:RW.bLOSYO
最近は、
コーディネイターみたいな学習能力や、
魔導師みたいな同時並列思考能力とかが欲しいと割と真剣に考えていたりします。
つまり何が言いたいかと言うと、
「時間が足りない……」

ですねー。いやマジで投下が送れまくってすいません

666とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:33:44 ID:ejePPM6k0
私も少しお借りします。

667とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:34:43 ID:ejePPM6k0

 鬱蒼と木々が茂る森の中を一匹のフェレット―ユーノが駆ける。何故、彼はこの小さな身体で懸命に疾駆しているのだろうか?それは、恐らく自身の失態により巻き込んでしまった二人の少年少女の安否を想っての事だろう。もしくは、自身の発掘した遺失物を自らの手で処理したいからだろうか?だが、彼の心の中にある真相は彼しか知り得ない。

 桜台の森林地帯に入ってから、大分時間が経過したがジュエルシードやなのは達の気配は一向に表われない。細身の身体で駆け続けるには、高町家から些か距離が離れ過ぎていただろう。しかし、今のユーノ・スクライアには魔法を行使し続ける程、リンカーコアの機能が回復していない。それにジュエルシードの場所を特定する為に、探索魔法の術式を展開した事も影響しているので自身の身体で駆ける他無い。そんな疲労困憊な状態ながらも、森林を疾駆するユーノの神経に魔力反応が感知された。



 ――なのは達二人やジュエルシード異相体の魔力反応とも異なる魔力反応だ。



 ――その気配は上空から此方に接近―いや、此方に気付かずに通り過ぎるだろう。


 
 ユーノは首を上空に向け、その気配の出所を見ようとした。ユーノが黄昏時に染まった紅の空を見上げた先に二人の魔導師が空を翔けていた。一人は黒衣のバリアジャケットと金色の髪を二対のツインテールに纏めた髪が特徴の少女、もう一人が、シンの機械的な造りをした防護服に形状が酷似している金髪の少年、この二人がユーノの上空を通り過ぎようとしていた。

 ユーノは近づいて来る二人の魔導師、その挙動を観察した。恐らく二人は洗練された魔法技術を取得している管理世界の人間なのだと、ユーノは結論付けた。何故自分以外の人間がこんな辺境の管理外世界に、と呟いたユーノの脳裏に一つの解答が導き出された。

 「……まさかっ!?なのは!!シン!!」

 ユーノは真相を確かめようと、この先に居るであろうなのは達の元へとその脚を速めた。


 


       魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE04」





 黒衣の少女達が去っていった空を見上げたまま、なのはは呆然としていた。既に地上への着陸は済んでおり、気を失ってしまったシンは両腕をなのはの背中に回したまま身体を預けている状態が現在の状況というところだ。なのは自身もシンの背中に両腕を回し、黒衣の少女からの射撃魔法が直撃したシンの背中を擦る。すると、不思議な事に防護服は破れているのだが、特に目立った外傷が出来ている様には感じられない。何度も何度もシンの背中を擦ってみるが、見事なまでに触り心地の良い、きめ細やかな柔肌の感触しか伝わってこない。


 ――そう、あの黒衣の少女は手加減してくれたのだ。


 この森林一帯を去る直前に黒衣の少女が口にした言葉―手加減―その言葉通りに自分達に目立った外傷を与えずに彼女達は去って行ったのだ。最もシンに至っては金髪の少年からかなり強力な一撃を腹部に与えられていたので、シンにしてみれば踏んだり蹴ったりである。

668とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:35:26 ID:ejePPM6k0
なのははつい先日、魔法という未知の力に遭遇した。ジュエルシードという高魔力によって変貌した化け物を自身が撃ち出した魔法によって撃退したのだ。実際にはレイジングハートという魔導端末による恩恵が強いのだが、心の底では自分が強くなれたのでは無いかと、ほんの少し【思い違い】をしていた。

 要は、有頂天になっていたのだ。ジュエルシードの魔力反応を感知した時に気持ちが急いていたのは、それの表れでもあったのだ。だが、先程の戦闘によって自分が強くなったという【思い違い】は打ち砕かれた。

 黒衣の少女、金髪の少年―この二人との魔法戦闘において、魔法技術を行使して戦闘に応用する手法、実力の違いをなのは達は見せ付けられた。更に完膚無きまで叩きのめされてから、なのはは純粋にこう思った。


 ――凄い、と。


 そして、なのはは自分が本気で魔力の扱い方を覚えなければレイジングハートの【乗り手】になることは出来ないだろう、と結論付ける事も出来た。 

 「なのは!!シン!!大丈夫!?」

 ユーノの声がなのはの耳に入った。先程念話によってジュエルシードの位置を教えて貰って以来だ。しかし、そうは言っても場所を教えて貰ってから精々30分程度しか経っていない。にも関わらず、ユーノは魔法を行使せずその小さな身体で、家から2km程離れたこの桜台の丘までやって来たのだろう。

 そう想うと、なのはは途端に申し訳ない気持ちに包まれた。ジュエルシードの収集に協力する事を自分から言い出したのに、この体たらくである。しかも、技量が自身より優れているとは言え、同年代の少年少女達に奪われたのだ。彼に何と謝罪を言って言いか?その解が見出せずに、なのはは気落ちした表情で顔を曇らせた。

 「ユーノ君、私は大丈夫だよ。特に傷付いてる訳じゃないから」

 なのはの言葉にユーノは彼女の様子を観察する、特に身体に異常が在る様には見受けられないので一安心した。防護服も所々で煤けているが、デバイスが破損している訳でも無いので大丈夫だろう。しかし、問題なのは…

 「…シンは大丈夫なの?」

 そう、問題なのはシンである。防護服は背中部分が破けており、気を失ってる様にユーノには見受けられた。

 「…うん、大丈夫だよ。防護服は破けてるけど身体に傷付いて無いし、呼吸もちゃんとしてるよ」

 ほら、と言いつつなのははシンの背中に回した腕を離し、シンの防護服が破けた背中部分をユーノに見せる。なのはの言うとおり、シンにも特に目立った外傷は見当たらないのでユーノはホッとした。しかし、傷付いている訳では無いのに何故シンが気を失ったのかと、ユーノは疑問が浮かんだ。

 「じゃあ、シンは如何して気絶しているんだろう?なのはは何か分からない?」

 ユーノの疑問に対して、どう答えて良いのかなのはは分からなかった為、シンが意識を手放す前に行った最後の行動、「簡易射撃魔法を使ったら気絶した」となのはは解答した。だが、その程度で気絶するものなのか、となのはは言ってから考え付いた。昨日の時点では、シンは簡易射撃魔法で異相体に応戦していた為、急に気絶するのはどう考えてもおかしいのである。

669とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:38:11 ID:ejePPM6k0
 
 なのはやユーノが解決しない疑問に頭を悩ませた、そしてその疑問に解答したのは、シンのデバイスであるデスティニ―であった。

 『――なのはお嬢様、ユーノさん、マスターが気絶した原因は魔力使用過多によるブラックアウトが要因です――』

 【ブラックアウト;Black Out】という単語に目を丸くするなのは、疑問が晴れたのか1人頷き納得するユーノ、反応はそれぞれだった。

 【ブラックアウト;Black Out】とは、魔力使用過多によって対象者自身の魔力が枯渇、もしくは純粋な魔力ダメージが原因で自身に内包される魔力総量が急速に枯渇する事によって引き起こされる意識喪失の症状を表す言葉である。単に魔力を使い過ぎた事によってその症状が引き起こされる程度ならば問題は無いのだが、魔力過負荷を瞬間的に掛けた場合などには魔力だけではなく肉体にも損傷が及ぶ場合があり、この損傷を【ブラックアウトダメージ;Black Out Damage】と呼称している。

 先程の黒衣の少女と金髪の少年両名との魔法戦闘の際に、シンは金髪の少年から魔力が伴った蹴撃を腹部に受けた。金髪の少年によって魔力量はかなり削がれてしまったのだ。更に黒衣の少女から発射された射撃魔法をなのはから庇う為に無意識ながらも強化魔法を行使した。魔力の分配も曖昧な上、出鱈目に強化魔法を構成したのだ。そして極め付けには黒衣の少女達に対して、反撃の射撃魔法を放った。

 以上の経緯から、魔力ダメージによる急激な魔力減少に加えて、構成が滅茶苦茶な強化魔法使用による魔力使用過多によって、シンがブラックアウト現象に陥ったのではないかとデスティニ―は推測したのだ。

 魔法技術に触れて二日しか経っていないのに、無茶苦茶な魔力運用を行うシンにユーノは内心溜息を吐いた。此れでは、昼間の授業時間中に自分の事を「無理が過ぎる」と自分の事を評したシンに対して異を唱えなければいけない。


 ――つまり、無理が過ぎるのは御互い様では無いのかと。


 なのはが傷つく事に対して我慢が出来なかったのだろうか、とユーノは予測を立てたが当の本人が気絶していては事実を確認出来ようも無い。どちらにせよ金髪の魔導師達は大分手加減をしてくれたのは、なのはの様子を見れば明らかである。シンが予想外の損傷を受けた事は、言ってしまえば自業自得だ。だが、彼は純粋な善意自分の事を助けてくれている、これほどありがたい事は無いだろう。

670とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:38:41 ID:ejePPM6k0
 ならば、リンカーコアが正常に機能を取り戻すまで自分に出来ることは、シンに対して揚げ足を取るよりも、魔法技術における魔力運用の基礎をレクチャーする事になるだろう。序でに、インテリジェントデバイスとして機能したばかりのデスティニーやシンと同じ状況のなのはも一緒に教えた方が、異相対との戦闘が発生しても二人が危機に陥る確立は低下するだろう。

 自分の思慮の至らなさや、二人を巻き込んでしまったことに対する贖罪は、今はその様にしていく事でしか返せるものが無い。既に発生してしまったトラブルなど、取り返しようが無いのだから。なのは達が魔力運用を学びたいと言い出す事が前提になるのだが、ユーノは自分が今出来得るこの二人への貢献に対して、このような結論に辿り着いた。

 「なのは、取り敢えず僕が回復魔法を使用出来るようになるまで、暫くはここで待機しよう。後の事はそれからだね」

 ユーノは現在、魔力の消耗を軽減させる為に敢えて変身魔法を使ってフェレットに擬態している。元々スクライア一族はこの様に変身魔法で動物に擬態する事によって、発掘が困難な狭い場所にも潜り込んでいけるのである。更にこの形態ならば、消費した魔力の回復も早いのも長所である。

 地球の魔力素がユーノの体内にあるリンカーコアとの適合不良を起こしている為、魔力の回復値も心許無い。だが、僅かばかりしか魔力量が回復出来なくても、このフェレットの姿に擬態する事で平常時に自らが使用する魔法を行使出来るのだ。封時結界や探索魔法を滞り無く行使出来るのも、この変身魔法が使えるからこその恩恵なのである。但し、魔力が多少程度回復した矢先に、封時結界や広域探索魔法等の高等魔法を行使するので、中々ユーノの安定基準値まで魔力量が回復して来ないのが現状でもある。

 「うん、分かったよ。ユーノ君」

 ユーノの提案になのはは首をコクンと頷かせて、了承の形をとった。

 魔法戦闘で手も足も出ず、撃墜されたことにショックを受けているのではないかとユーノには印象に残った。しかし、話題を振って気を紛らわす様な高等手段をユーノは持ち合わせていなかった。しかし、真実はユーノの印象とは異なっていた。一見落ち込んだような表情に見えるのだが、ユーノの意見に了承したなのはは何かを決意した様な表情を作り上げ、夕闇に染まりつつある紅の空、黒衣の少女達が去って行った空を眺め続けていたのだった。

671とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:39:44 ID:ejePPM6k0



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ――海鳴臨海公園 噴水広場――

 海鳴臨海公園の一角に存在する大きな噴水広場がある。夜になれば、其処は幻想的な美しさを演出する一つのアートに変わり映えするという話題で格好の評判となる。噴水広場へと続く階段は四方にシンメトリ調に施工されており、その凝った創りは施工者・設計者の拘りが垣間見えて来る。

 そんな噴水広場へと続く階段に二つの影があった。一人は階段に腰を掛けて座っており、空中に浮遊するモニターに見つめていた。もう一人はモニターを見つめている人物の隣に座り、手に持つ書物に目を滑らせて読み進めていた。暫くすると、空中に浮かび上がっているモニターに変化が起こった。最初は映りの悪いテレビの様にノイズを走らせたのだが、次第にその現象が収まった。次にモニターが映し出したのは、鮮やかな橙色の長髪を持ち、狼の様な耳を生やした女性―アルフであった。まるで高画質のテレビを見ているかのように鮮明な画像で映し出されたのだった。

 「アルフ、お疲れ様」

 輝く様な金髪の髪に深紅の瞳の少女―フェイト・テスタロッサ―は目の前に浮かぶモニターに映るアルフに労いの言葉を掛けた。フェイトに言葉を掛けられたアルフは、見た目不相応に感じられる程の無邪気な笑顔を浮かべた。

 「フェイト、今第四区画の広域サーチが終わった所だよ。それで発動前のジュエルシードも一つ見つけたよ」

 フェイトと、その隣に座る金髪の少年―レイ―がジュエルシードを目視、又は中距離程度の探査魔法によって海鳴市を中心にジュエルシードを探索する一方で、橙色の髪色の女性―アルフ―が市内を広域探査魔法によってジュエルシードを探索していた。昨夜の内に役割を割り振って、それぞれの行動方針にそってジュエルシードの探索に当たっていたのだ。

 「ありがとう、遅くまでごめんね。私達の方は夕方に封印した一つだけ」

 アルフの喜びと安堵が混じった声に対して、フェイトの声には労わりと同時に申し訳無さが含まれていた。広域探査魔法は術式の維持に非常に集中力を必要とする魔法なのだ。その魔法を長時間行使し、広域探索の役割を買って出てくれたアルフに対して、フェイトとレイ二人掛りで探索した結果、アルフと同じ成果だという事実を情けなく感じているのだろう。

 フェイトの心中を察してか、アルフはジュエルシードの報告を切り上げ別の話題をモニター越しの二人に振った。

 「……それにしてもフェイトとレイがぶつかったこの二人。まさか…管理局じゃないよね?」

 アルフが発したその声には【敵意】というよりも【疑念】の色が強かった。バルディッシュを通じて送信された戦闘場面をモニターして、アルフは腑に落ちない表情を顔に張り付けた。アルフの魔法戦闘及び訓練の経験上、どう考えてもこの二人は魔法に関して慣れていない印象を受ける。

672とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:41:37 ID:ejePPM6k0


 何故なら、身体の使い方・魔力運用どれをとっても「まだ魔法を使い始めたばかりです」と言わんばかりの拙さなのだ。時空管理局の戦力となる局員でも、此処まで酷い動き方はしないだろうとアルフは考えている。実際に言えば、確かにモニターに映るなのは達は魔法に関して全くの素人なのである。

 「それは違うと思うよ。魔法もちゃんと使えて無かったし」

 フェイトもアルフと同意見なようで、今し方アルフがぼやいた言葉に対しての解答を送る。

 「…恐らくは、この世界の現地住人だろう」

 今まで無言を保ち、読書に耽っていたレイが二人の会話に加わった。レイが導き出した答えに対して、アルフは疑問の声を強めた。それは彼らが所有していた魔導端末にも疑問に感じる一端がある。白い魔導師が所有していたデバイスは、フェイトの所有するデバイス・バルディッシュと同様に、インテリジェントタイプのデバイスのように見受けられる。扱いが非常に難しいデバイスな上、管理外世界では絶対にお目に掛かれない代物である。

 そして一番重要なのが、もう一人の紅の瞳の色をした黒髪の子供が所有していたデバイスだ。何しろ、レイが所有するデバイス・レジェンドと殆どの機能に似通っている部分が在る事をモニターの映像から識別出来るのだ。

 「この黒髪のガキンチョ、レイと同じタイプの魔導端末持ってる様だけど【何か分かった事】はあったのかい?」

 アルフが発した言葉、実はレイという少年にとっては非常に重要な事項なのである。何を隠そうレイ…レイ・ザ・バレルという少年は記憶喪失を患っているからである。レイとフェイト、そしてアルフとの邂逅は何れ詳しく語るとして、ここではレイが今までに辿った経緯を【さわり】だけ御伝えする事とする。



 約2年前のある日、フェイトは第1管理世界ミッドチルダ南部森林地帯・アルトセイム山岳近隣にて魔法技術の修練を、魔法技術の【教育者】と一緒に行っていた。フェイトには、魔法技術の修練は日常の一部でもある行為だったのだが、あるトラブルが発生して中止したのだった。

 突如として付近の森林で轟音とともに発光現象が巻き起こったのだ。当時フェイトの教育担当を行っていた者は、訓練を中止し様子見の為に轟音が鳴り響いた森林の方角へと脚を踏み入れて行った。轟音に驚いて、フェイトは涙ぐみながらも、その教育者が帰還するまでその場で待機していたのだ。

 暫くしてからその教育者は、一人の少年をその背に背負いながら帰還して来たのだった。この少年こそが、レイ・ザ・バレルである。レイは発見当時にはサイズの合ってない奇妙な服を着用しており、更に魔導端末―レジェンドを所持していたのだ。


 その日の訓練を中断し、教育者は負傷していたレイの治療に専念してくれた。 


 レイの傷が癒えてからは、フェイトの母親の薦めもあって、フェイトと共にレイも魔導師としての訓練や学問を学んだのだった。何故か、レイは一度説明した事や教わった事に関して非常に物覚えが良かった。早い期間から魔導師としての英才教育を行っているフェイトでさえも舌を巻くほどだったのだ。教育者に褒められるレイにフェイトが嫉妬する事も度々あり、幾度もフェイトはレイに対抗し競い合っていったのだった。その過程にアルフも加わりつつ月日は過ぎるのだが、レイは一つの大きな問題を抱えていたのだ。

673とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:42:12 ID:ejePPM6k0
 そう、それは自分自身に記憶が存在しないことだ。レイが今現在まで使用している名前も、自らが着用していた奇妙な服に刺繍されていた名前をそっくりそのまま使っているだけに過ぎない。本当の名前・記憶も分からぬまま、およそ2年の月日が経過したのだが、一向に記憶が蘇る気配が無いのだ。


 教育者がフェイトやレイに対しての教育が完了し、フェイトがインテリジェントデバイスを教育者から授かった後は、フェイトの母親の探し物をフェイトやアルフと協力して探索している。フェイトの母親曰く、他の世界を渡り歩けば何かしらの情報が入手出来るかもしれないとも言われ、拾って貰った恩を返す一環で行っているのだ。

 この地球におけるジュエルシードの探索も恩返しの一環であるのだが、変化は不意に訪れたのだ。それが、自分と同系等の魔導端末を所有している黒髪の少年の存在なのだ。自分の記憶に関する手掛かりが得られるかもしれないと、逸る気持ちを抑えつつ少年に問答を行ったのだが、結果はシロだったのだ。魔導端末の出所を皮切りに話を聞いてみようとしたが、黒髪の少年の発言から推測すると【何も分からない】という事が明確になっただけであったのだ。

 何かしらの進展が在るかもしれないと期待しただけに落胆する気持ちも大きかったが、即座に思考を切り替え目的のジュエルシードの確保を優先したのだ。障害となる白い魔導師と黒髪の少年を行動不能にした後に、単独で行動していたアルフと情報交換をしている現在に至っているのだ。


 繰り返しになるが、今語らせて頂いた事は【さわり】程度のものなのでレイ達の邂逅については別の機会で詳しく語る事にさせて頂く。


 
 「…映像を見れば分かると思うが、特に判明した事は無い」

 アルフからの問答に表情を変えずにレイは返答した。その口ぶりから、もう黒髪の少年事など気に止めてもいないのだろう、とアルフは予想を付けた。レイの心中を察して、アルフは一言謝罪を申し上げモニターの視聴を再開した。夜間という事もあり、アルフは音声機能をオフにした状態で送信されて来るモニターを視聴し続けている。それから程無くして、夕方に発生した魔法戦闘の映像を視聴し終えたアルフは一息吐いた。

 「…一通り目を通して見たけど、レイの言う通り確かにこの世界の住人みたいだね。何から何まで素人もいい所だね」

 アルフは戦闘場面の映像から、白い魔導師達をこの様に評価した。特に黒髪の少年に至っては、魔力に自分自身が振り回されており、挙句の果てにはブラックアウトの症状を引き起こしている。こんな様で魔法戦闘に秀でているフェイト達と競り合うなど無謀にも程がある。そう結論付けると、アルフは魔法戦闘を映していたモニターを消して、フェイト達を映しているモニターへ顔を向ける。

 「夕方起きた戦闘はこれで終わりだよ、それでねアルフ。レイと話し合って、これからはアルフと二人一緒でジュエルシードを探さないかって話しになったんだけど、どうかな?」

 フェイトからの提案にアルフは少々唸りながら思考した。三人で探す事になると【ジュエルシードの捜索】という点で、効率が多少落ちてしまうかもしれない。しかし、白い魔導師達に他にも味方の魔導師が居ると想定した場合、正確な人数が判明していない。フェイトとレイのコンビネーションならば、凡庸の魔導師相手に手数で遅れを取るヘマ等しないと信頼出来るのだが、最悪な展開も想定しなければならない以上アルフもフェイト達に加勢した方が、捜索における危険度はより少なくなるだろう。

674とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:43:00 ID:ejePPM6k0

 「そうだねぇ、フェイト達を守るのもアタシの役目だからね。二人に合流する事にするよ」

 アルフからの気の良い返事にフェイトは顔を綻ばせ、合流地点を言い伝えた。アルフの了承の返事と共に空中に浮遊するように映っていたモニターは消失した。それからフェイトは自身が腰を掛けていた階段から立ち上がり、スカートに付いた埃を丁寧な仕草で確りと払う。レイも読んでいた本に栞を挟んで閉じて立ち上がり、フェイトの隣に立ち並んだ。

 フェイトはレイが隣に並んだ事を確認すると、両手を顔の前に組み、目を閉じて何かを呟いた。次に発生したのはフェイトの魔力光の色をした魔法陣であり、フェイトとレイの周囲に金色の輝きを放っている。周囲の金色の魔力が眩い程の輝きを放った後に、魔力光と共にフェイトとレイの姿が消え去ったのだ。




 ――消え去った二人の後に残されたのは、金色の魔力光の残滓と大きな噴水と照明が織り成す幻想的な風景だった。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 身を切るような疾風をものともせず、茶髪を括ったツインテールを揺らしながら僅か10歳にも満たない少女が雲一つも無い大空を疾駆する。そして、その少女に追随するかのように中心部に英語の【target】の言語に似た語句が浮かび上がっている桜色の球体が滑空していた。その球体は縦横無尽に少女を追跡または前方で複数存在している。

 「福音たる輝き、この手に来たれ。導きのもと、鳴り響け!【ディバイン・シューター;Divine Shooter】シュート!!」

 『――Divine Shooter.――』

 少女・高町なのはの詠唱と共に周囲に桜色の球体が四つ出現する。なのはが出現させた球体は数秒ほどなのはの周囲を待機した後に、怒涛の勢いで【target】と表示された球体に肉薄する。すると、語句を表示している球体は軌道を変更し、追随していたなのはの周囲から逃げるように散開する。

 逃げる球体の方角を確認し、無手の右手を振りかぶり球体を指し示す。その後になのはの誘導指示のもと【ディバインシューター】と呼称された球体は逃走した球体を追跡する。逃走する球体は墜落されまいと、より一層速度を加速させるがなのはの射出した【ディバインシューター】は逃走する球体以上の速度を叩き出し、グングンと接近する。その様子を食い入る様に見つめ、撃墜出来ると思ったのかなのはに安堵の表情が垣間見られる。



 
 ――勢い良く迫る【ディバイン・シューター】が逃走する球体に着弾し、撃墜する……かのように見えたが、



 
 逃走していた球体が再び方角を90度変更し、見事なのはの射出した【ディバイン・シューター】から逃げおおせたのだ。その様を見て、なのはの表情に動揺が走る。しかし、闘いの場面でその様な隙は致命的である。逃走に成功した球体は、なのはに生じた一瞬の隙を見逃さなかった。注意力散漫となったなのはに今度は、一斉に逃走した球体が急接近する。急激に接近してくる球体になのはは気付いた。

 (だめ!今から操作したんじゃ【ディバイン・シューター】は間に合わない!)

 先程まで遠隔操作していた【ディバイン・シューター】から意識を切り替えて、今度は別の射撃魔法をなのはは準備した。

675とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:43:42 ID:ejePPM6k0




 ――迫り来る球体に悪あがきの射撃魔法をお見舞いするが、撃墜出来たのはたったの一つであり、残りの球体は全てなのはに着弾した。




 『――Mission Failed.(ミッション、失敗です。)――』 

 レイジングハートの機械音声が周囲に響き渡った。球体がなのはに着弾したことによって、辺り一面が煙に包まれていた。次第に煙が薄れていくと着弾したにもかかわらず、これといって被害も見当たらず防護服に破れた形跡も見られなかった。

 「くっ……失敗しちゃったね」

 『――Don't mind My master.(お気になさらず、マスター)――』

 なのははレイジングハートにフォローを貰った後に【誘導制御型】の射撃魔法のレクチャーを受けた。

 【誘導制御型】射撃魔法は射撃型魔法の中でも、機動・追尾能力にリソースを振った魔法となる。発射後に射出弾の方向制御・誘導が可能であり、熟練者にもなると多数の誘導弾を全く異なる軌道で放つ事が可能となる。高町なのはが使用した【ディバイン・シューター】はディバイン・スフィアと呼ばれる発射台を生成し、そこから誘導制御の魔法弾を発射する。

 ディバイン・スフィアという発射台をあらかじめ形成することによって、大掛かりな魔法陣制御やチャージを必要としないため、通常時における魔法陣を形成した状態での誘導弾と比べて弾速は遅いものの、発射速度は比較的速く連射も可能なのだ。更に付与能力としては自動追尾とバリア貫通の能力を保有している。

 複数の【ディバイン・シューター】を立体的に誘導操作し、高町なのは自身の射撃魔法の主力攻撃手段とすることで、防護服の防御性能の高さによって発生する弊害、機動力の低さをカバーするという目的があり、レイジングハートの実戦訓練メニューによって、なのははこの魔法を習得しようとしている。また、レイジングハートの想定している次段階のビジョンとしては、なのは自身が異なる種類の魔法を行使していても【ディバイン・シューター】の魔法弾操作が行えるようになって欲しいとも考えているのだ。

 ただレイジングハートが想定しているこのビジョンは、思念制御の中でも高等技術であり、魔法を習いたてのなのはには些か厳しいようにも見受けられるのだが、ある意味ではそれだけレイジングハートが高町なのはに対して期待しているのでは無いかとも予想できる。そもそもの話、なのはがこの【ディバイン・シューター】の習得をする事になった理由と言えば、黒衣の少女との戦闘がキッカケとなったと言える。

 黒衣の少女、金髪の少年との戦闘において特に高速機動戦闘を行う黒衣の少女によって、なのははその速度に翻弄されてしまい自分の持ち味と成り得る射撃・砲撃型の魔法戦を行う事が出来なかったのだ。レイジングハートの戦闘分析によって浮かび上がったその欠点を補う為に、自らの周囲を保護する誘導弾の習得は必須要素だったのだ。遠距離からの砲撃によって敵対勢力を撃ち落すことは、なのはの特性にを考慮しても理想的ではあるが、それ以外の局面、特に近・中距離戦闘においての自衛手段の取得はそれ以上に重要となってくるのだ。

 現段階では【ディバイン・シューター】を使用するには、詠唱を唱えなければ上手く制御出来ないのだが、後数週間も訓練を重ねれば詠唱を唱えずとも【ディバイン・シューター】の実戦使用が可能となる、とレイジングハートは予測している。何故このように予測しているかと言うと、術者である高町なのはにディバイン・スフィア形成のイメージが固まりつつあり、デバイスに魔力を流し込むだけで一通り完成しているからだ。

 正直な話、これほどまでに魔法習得が早ければ、単独で黒衣の少女を撃退する事も夢ではなく実現出来るのではないか、と思わせる程に高町なのはの魔法技術の習得速度が速いのだ。

 「あ、いけない。もうすぐ授業が終っちゃう」

 つい先程行った訓練内容をモニターし、反省点・改善点をチェックしようとした矢先に授業終了の時刻が迫っていることになのはは気付く。何を隠そう今は授業中なのだ。授業を受けているにも関わらず、何故なのはがレイジングハートと共に魔法の鍛錬を行っているのか?授業を受けなくても良いのか?と疑問符が浮かび上がるかもしれない。

676とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:44:13 ID:ejePPM6k0


 だが、心配に及ばずとも高町なのははしっかりと授業を受けている。言い換えればこれもれっきとした魔法技術の修練なのだ。


 まだ詳しく語る事は出来ないのだが、なのはは【現実空間】つまり、我々が日常に過ごしているのと同じ時間の中では、きちんと聖祥大小学校3年1組で授業を受けている。では今なのはが訓練している場は何なのかと言うと、魔法によって形成・維持しているイメージトレーニングの空間、仮に【意識空間】とでも呼称する事にしよう。

 聡明な方は、現実と意識、二つの空間に神経を注ぐのは大変な労力なのではないかとお考えになるだろうが、魔法技術には複数の思考・行動を行う技法が存在し、魔導師はこの技法のトレーニングも行っている。より精錬した魔導師となるには必要な技法をなのは達は修練しようとしているのだ。

 「レイジングハート、お昼休みになっちゃうから午前の訓練はここまでにしておくね。モニターチェックは後でするよ」

 『――All light My master, Make yourself at home.(了解です、マスター。どうぞごゆっくり)――』

 レイジングハートに休憩を取る事を伝え、なのはは意識空間を主体にした意識から現実空間を主体とした意識に切り替えた。なのはの意識の切り替えと同時に授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。授業が終了したことに一安心し、なのはは複数行動によって書き写した自分のノートを確認した。いつも彼女が書き写しているノートの状態と寸分違わないので、上手に出来ていることにふと笑みがこぼれる。

 「なのは、お疲れ。お昼は何処で…って、随分嬉しそうだけど、何か良い事でもあったの?」

 授業が終了したので、友人のアリサがなのはの席に近付き昼食を摂る場所を何処にするか聞き出してくる。しかし、なのはの笑顔がこぼれる様子を疑問に思ったのか、アリサがその訳を尋ねた。

 「あ、アリサちゃん、いや、な…なんでもないよ。お、お昼は屋上で食べようよ。すずかちゃんやシン君も……って!?」

 アリサからの質問にタジタジとなってしまったなのはは、話題を逸らそうと昼食を摂る場所の相談を後方の席のすずかやシンに求めようとしたが…

 「あの…シン君?どうしたの?」

 「………」

 【心此処に在らず】といった状態、いやまるで能面のような表情で虚空を見つめるシンを心配したすずかの姿がなのはの目に映った。シンの様子に気付いたアリサがシンの席の隣に居るすずかに声を掛ける。

 「すずか〜、シンがどうかしたの?」

 「あ、アリサちゃん。シン君の様子がおかしかったから、呼びかけてみたんだけど反応が無くて…」

 「何よそれ?シン、具合でも悪いの?」

 なのはの席を後にしたアリサはシンの席に向かう。



 

   ―――――シン君!――シン君!!意識戻して!!――授業終わってるよ、シン君!!―――――





 なのはは咄嗟に念話で呼びかけるが、シンからのレスポンスが無く、舌を巻いてしまう。かなりトレーニングの方に意識が傾倒しているのでは無いかとなのはは気付き、必死にシンに対して念話で呼びかける。



   ――結局シンが意識を現実空間に引き戻したのは、なのはが念話で呼びかけ続けてから5分ほど経過した後であった――

677とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:44:56 ID:ejePPM6k0


 
 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 見渡す限りの青、藍、蒼…上を見ても下を見ても青空ばかりが広がる空間に一人の少年―高町シン―が居た。いや、正しく言えば一人ではなく、ここ最近この少年の話し相手の一人に加わった魔導端末―デスティニー―も含めて一人と一機が存在している。

 『――では、始めてくださいマスター ――』

 デスティニーから開始を促され、シンは返事と共にコクンと頷き両手を前面に差し出す。差し出した両手の間に桜色の魔力光が発生する、それを元に自分の全身に行き渡る様にリンカーコアという器官から魔力を放出し調節していく。

 その感覚をシンが把握すると、魔法術式を展開する為の【トリガー・アクション;Trriger Action】を言葉にする。

 「――我は求める、頑強なる守護。幼き我が身に鋼の護身を……【エンチャント・ディフェンス・ゲイン;Enchant Defence Gain】!!――」

 シンが言い終えると、シンの全身が桜色に激しく輝き、炎が燃え上がる様に魔力光が勢いを持ち始める。その様子を一見すると、辺り一面広がる青空と相まって非常に映える光景にも思える。しかし、暫くしてシンの口から苦悶の声が上がり始めた。炎の様な勢いを持った魔力光は収まるどころか、より一層その勢いを増そうとしている。堪らずシンは術式を解除する為の解除ワードを発声した。

 その言葉を発する事によって、シンを覆っていた荒れ狂う炎の様な桜色の魔力光は急激に大気中に散って行った。肝心のシンはと言うと、長距離マラソンを走った後のように、息を荒げて足りなくなった酸素を肺に取り込んでいた。

 『――マスター、今の魔力の流れは防護服を中心としたフィールドを強化しようとして、危うくフィールドの外まで魔力を流出する所でした。自身の身を強化したいのであれば、正しいイメージで御自身の身と防護服を中心としたフィールド内に魔力を流すべきです――』

 デスティニーから情け無用の指摘が入っているが、勢い良く魔力が駄々漏れし、呼吸することすら困難だった所為か、シンはデスティニーの忠告に応じることすら出来ずにいた。

 今し方シンが発現させ様とした魔法はミッドチルダ式の補助魔法であり、発動者もしくは対象者の能力強化を主眼においた【Increace Type;インクリースタイプ】つまり、対象者に能力強化の効果を齎す【ブースト魔法】である。シンがこのミッドチルダ式の補助魔法を使用しているのは、単にユーノに教えて貰っただけではなく、シン自身の魔力の特性が関連するからである。

 そもそも【魔法】という技術は大気中に存在する魔力素を特定の技法で操作して【 作用 】を発生させる技術体系である。術者の魔力を使用して、【変化】【移動】【幻惑】 原則的にはこのいずれかの【 作用 】を起こす事象なのだ。この引き起こされる【 作用 】を術者が望む効果が得られるように調節もしくは組み合わせた内容を、魔導師は術式詠唱などのトリガー・アクションによって発動する。

 この原則的な【 作用 】を軸にして、枝分かれする様に【圧縮】や【放出】など様々な魔法技術が存在するのだが、この魔法技術の種類の得手不得手は個々人によって差異が生じる。この様な個々人が持つ魔力的特徴を【魔力資質】と称している。魔法技術の様々な場面で顕著に現れるものだ。

 先日発生した黒衣の少女達との魔法戦闘においてシンが発現させた強化魔法をデスティニーは解析した。解析の結果、シンの魔力資質は【変化】を起点において、【自分自身もしくは他人の能力に強化を齎す魔法】に特性が在るのでは無いかという結論に至ったのだ。そこで一度、単純に魔力を込めて自分自身を対象に施す能力強化【自己ブースト】の訓練をデスティニーを主体とした教導の下にシンは訓練を敢行した。

 しかし、シン自身の加減が下手なのか要領が悪いのかイメージが不出来なのか定かではないが、シンは毎回毎回制御困難な事態に陥り一気に魔力量を消耗し疲弊してしまうのだ。ここで【自己ブースト】の利点を説明すると、一度行った魔力による能力強化は無意識でも維持できる事に利点がある。但しシンの場合、何故か魔力量が底を尽きてしまう程に【自己ブースト】が掛かってしまうのだ。桜台での魔法戦闘においてシンがブラックアウトを引き起こしたのも、この事が原因であると、デスティニー達は結論付けている。

678とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:45:47 ID:ejePPM6k0
 一応ここ数日の間シンが訓練する際には、なのはやレイジングハートそしてユーノも手伝っている為、訓練の後はなのははシンの介抱、レイジングハートはまだ魔導端末として幼いデスティニーへの助言、ユーノは介抱された後のシンとデスティニー対して魔法技術の講釈を行うのが、ここ数日の日課となっていた。

 だが、シンよりも魔法技術の修得が早いなのはとレイジングハートのコンビの足手纏いになる訳にもいかない。自己ブーストをシン自身が扱いきれない事を問題に思ったデスティニーはシン共々ユーノに解決策が無いか教えて貰ったのだった。その結果として、ミッドチルダ式の【ブースト魔法】をユーノから教えて貰ったのだ。【ブースト魔法】は一定の魔力付与の元に能力強化を行うのが特徴だ。発動のプロセスとしては…


 ①消費する魔力量を術者が調整し、どの種類の能力(防御や攻撃、速度強化など)に強化を施すのか詠唱によって設定する

 ②詠唱の段階で能力強化の対象者を設定する(例;術者自身の場合、我が〜等)

 ③最後に魔法術式を展開し、魔法効果を発動する為にトリガーアクションを詠唱する


 以上、この三点が【ブースト魔法】の発動プロセスとなる。最後にトリガーアクションの詠唱と説明しているが、最もポピュラーなのは効果を齎す術式名を唱える事になるだろう。一応、この【ブースト魔法】と呼ばれる補助魔法は魔力ランクCレベル相当にあたる困難さであり、飛行魔法よりも修得は困難でもある。飛行魔法をデスティニーの補助が在る事前提で行使出来るシンには些か苦難するレベルの魔法なのだ。

 「…ハァ…ハッ…ちっ…くしょ…う…分かってるよ…」

 『――いいえ、マスターは理解しておりません。…ですが一度の訓練で魔力が底を突かなくなったのは大きな進歩なのでしょうが――』

 今デスティニーが洩らした愚痴の通り【ブースト魔法】を教えて貰ってからのシンやデスティニーの訓練における利点はこの一点に尽きるのだ。今までは訓練と呼べる程の内容をシンは全くこなせなかったのだ。

 デスティニーとしては、射撃魔法の誘導制御といった実践的な訓練に移行しても良かったのだが、現在なのは達を含めて海鳴市に確認される四人の魔導師の内、魔法戦闘においてシンだけが持ち得る優位性を確立する事が先決だと考えた為に、【ブースト魔法】や自身の能力強化を主体とした訓練を積んで来たのである。未だ予測段階ではあるのだが、デスティニーが想定しているビジョンとしては【ブースト魔法】を修得していく内に、シン自身が魔力の制御や加減も身に付くようになるだろうと考えているのだ。そして【ブースト魔法】を使役出来るようになれば、現在海鳴市で確認されている魔導師の中で魔力量が四人の中で最も劣っていても撃墜され難い術を身に付けられるのでは無いかと予測しているのだ。

 ここで一番重要なのは、シン達が魔法戦闘で対峙する事になる黒衣の少女と金髪の少年を撃墜する事ではなく、最終的にジュエルシードを封印し確保する事が重要になるのである。その為には、封印魔法を登録しているレイジングハートを使用出来るなのはを守護出来るようになるのが、理想的な形なのだ。シン自身もその事には納得しており、その為に魔力を消耗して気絶する様な目にあっても【自己ブースト】ないし【魔法ブースト】を修得しようとしているのである。 

 「………なぁデスティニー、防護服の性能って変更出来ないのか?」

 魔力を消耗した状態から回復したシンが、デスティニーに対して問い掛けた。何故そのような事を訊ねてくるのかデスティニーはシンに説明を要求した。
 
 シン曰く、自身が【ブースト魔法】を展開する際に、全身から防護服まで魔力を浸透させようとすると腰部、脚部そして腕部の防護服の部分で【魔力の流れが重くなるような】感覚に陥り、無理矢理に魔力を流そうとするのだ。そして、無理矢理に魔力を流した後は、制御が困難な状態に陥り【自己ブースト】を行う時と同様な結果となってしまうらしい。シンは自分が掴んだ【この魔力の感覚】から、自分自身が【ブースト魔法】または【自己ブースト】を使用する際に制御困難な状態に陥るのは防護服に何かしらの原因が存在するのでは無いかと考えたのだ。だからこそ、シンはデスティニーに防護服の性能を変更出来ないかと提案したのだ。

679とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:46:18 ID:ejePPM6k0

 どうやらデスティニ―の思惑通りにシンも魔力の感覚を掴んできているようであり、デスティニ―は自らに存在するかも分からない歓喜に包まれて来るような感覚で満たされたのだ。

 『――了解しましたマスター、そういうことでしたら防護服とマスターの魔力波長を計算しておきます。御時間が掛かるかも知れませんので、防護服の設定の変更については今しばらくお待ちください――』

 「ああ、頼むよ」

 シンが魔力の感覚を掴んで来ている事に喜ぶ反面、防護服の性能面での問題点が浮き上がってしまった為デスティニーは問題解決を洗い出すのに時間が掛かる旨をシンに伝え、了承を貰った。魔導端末であり使用者をサポートする自分に問題があるのであれば早急に原因を調べ上げなければならないのでデスティニ―は必死になる。自分が使用者であるシンに負担を掛けるなど問題外にも程がある、とまだ幼いインテリジェントデバイスは思考しながらもモニターを展開し、情報を整理し出した。冷静を装いながらも慌ただしく状況確認をしているデスティニーのその様子をもしもレイジングハートが観測していたら【まるで目に涙を溜め込みながら必死にモニターを見ていますね】と評された事だろう。



   ―――――――――シン君!!!!――――――――



 「!?な…何だよ!?なのは!?イキナリ大声で念話するなよ、びっくりするだろ!?」

 突然なのはから思念通話が入ったことで、シンは驚愕してなのはに苦言を呈した。しかし、先程から何度も何度もなのははシンに対して念話で呼び掛けていたのだ。その事実についてデスティニ―は感知していたのだが、シンからの指示が無かったので応答しないでいたのだ。実際の所、シン自身はなのはからの念話を無視していたという訳ではなく本当に耳に入っていなかった様だ。それだけ【ブースト魔法】の魔力流と自身の魔力の感覚を掴む事に必死だった様だ。しかし、デスティニーはその事を指摘する余裕は最早片鱗を見せて居らず、待機状態のアクセサリーのままモニターを凝視している。



   ―――――シン君、やっと念話が繋がった…早く意識を戻して!!もう授業終わっちゃってるよ!!―――――

 

 「はあ!?嘘だろ…全く気付かなかった…」

 シンは自意識をイメージトレーニングを行う意識空間に傾倒するあまり、現実空間において授業を受けていることに全く意識を割けなかったことにまたしても驚愕するのだった。だが、今は思考しても、意識を現実空間に向けられなかった自分を責めても仕方ない。すぐさまシンはモニターを見つめている待機状態のデスティニーに向き直った。

 「デスティニー、ごめんな。授業終わったから意識を切り替えるよ」

 『――了解しました。どちらにしても解析には時間が掛かりますので、良い区切りになります。しばし休息を取って下さい――』

 シンの謝罪の意図とその理由を知っているからか、デスティニーはシンの謝罪に対して了承の言葉と気遣いの言葉を同時に掛けた。デスティニーからの返答を受け取ったシンは自身の眼前に右手を差し出し、魔力を込める。そして、シンの右手前方に魔法陣を展開し自らの周囲に魔力光を纏わせる。すると、シンの身体が下半身から消失する現象が発生し始めた、その消失は次第に上半身にまで表われて来る。やがてシンの身体全体が消失し、意識空間には待機状態のデスティニーだけが残された。

 『――まだまだ問題は山積みですね。私がしっかりマスターを導いて行かなければなりませんね――』





 ――シンが現実空間へと戻った事を確認してから、デスティニーは前方に展開していたモニターを増大させた。





 ――最初は一つ、二つと増えていただけなのだが、次第にその数は勢いを増して行った。





 ――前方に展開するだけでは足りなくなったのか、デスティニーの左右後方上方下方周囲360度にモニターが展開されて行った。





 ――デスティニーを取り囲むモニターから漏れ出す輝きで、青一色の意識空間は色取り取りの輝きを周囲に放つ。





 ――何処か不気味さを感じ取れる様なその空間の中で、一機の魔導端末はモニターを見つめ続けるのであった。

680とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:47:03 ID:ejePPM6k0




◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 



 海鳴市にある市街地、高層ビルが立ち並び大勢の人々の出入りの多い場所だ。人の出入りが多いとなると、当然交通区画も整備されていなければ、安全に行き交う事も出来なくなる。なので、この市街地ではあちらこちらに十字路交差点などが見受けられ、都心に似通った風景が感じとれる。歩行者と自動車の交通を分離する役割を持った信号機が、歩行者に対して『止まれ』つまり『赤』色の表示を行っている。そして、その表示が『進め』つまり『青』色の表示になるのを待ち構えている人々の群れの中に一際目立つ一組―レイとフェイト―が居た。

 この国の人々に見受けられる黒髪や茶髪系統の髪ではなく、透き通るような金色の髪は人々の注目を集める。しかし、そのような様子を特に気にする訳でも無く、平然としていた。「平然としている」この様子は、当人以外の人々から見た印象であり、実際のところはいちいち気に掛けていられる程の余裕が無かったりするからなのだ。レイに関しては、フェイトとレイ、二人から少し離れてジュエルシードの探索を行っているアルフと連絡を取り合っているのだ。

 では、フェイトはどうなのかと言うと、横断歩道の向こう側、彼女自身の正面にいる親子に目を向けていた。

 この表現をすると「フェイトがサボタージュをしているのでは無いか」と勘違いをされるかもしれないので弁明するがアルフとの連絡の取り合いはレイとフェイトが交代交代で行っており、今の時間帯はレイが担当をしているのだ。それで手持ち無沙汰になってしまったフェイトが何か無いかと考えて視線を回した結果、今視線を向けている親子に目が止まってしまったのだ。

 「今日のお昼ご飯、なに?」

 「ん〜そうねぇ。何にしよっか?」

 数メートル離れていても、子供の元気溢れる声と母親の微笑みの様子から、会話の端々を読み取れる。時間帯から考えて、昼食のメニューについて相談しているのだろう、とフェイトは予想していた。ごく平凡な、どこにでもあるような普通の家庭の光景。





   ――その光景は彼女自身にかつての自分と母との記憶を想起させるのには充分過ぎる光景だった。



 

   ――どれほど小さい時だったかも覚えていない頃の幼いときの記憶、いや、記憶と言うほどでもないありふれたものだった。



 

   ――記憶の中の彼女が描く母の似顔絵、食事の準備が出来た事を伝える母の柔らく優しい声。





   ――食事のメニューは自分の好物か確認を取る無邪気な彼女、そんな彼女に対して【優しい笑み】を浮かべて応える母。



 

 記憶の中の母の笑顔は、今現在フェイトに向けられる表情とはあまりにも違う事にフェイトの胸は張り裂けそうな程に痛んだ。一体何時の頃から母は変わってしまったのか?とフェイトは自問自答した。しかし、どんなに思考を巡らせても結論など出てこない。だからこそ、フェイトは彼女の母親が突き付けて来る無理難題に答え続けなければならないのだ。

 因みにフェイトの母親が突き付けて来る無理難題とは「フェイトの母親が指定する世界で、指定した物体を持って来ること」である。その指定された物体の中には、ロストロギア級の物も含まれているのだ。優秀な魔導師として教育を施されて来たフェイトとレイ、アルフが一緒であれば、困難な事などそうそう存在する物ではない。しかし、フェイトの母親はそれを理解しており、度々困難な要求を突き付けて来る。それでも、フェイトは記憶の中の母親が幼い時に見せてくれた様な笑顔を再び自分に向けてくれる様に自分が頑張らなければならないのだ、と自分に言い聞かせ続けているのだ。それが彼女の心を縛り続ける呪詛になるとは把握できずに。

681とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:47:34 ID:ejePPM6k0

 「……イト、………フェイト」

 「…!?…っえ!?」

 数歩先を進むレイに声を掛けられ、フェイトはふと我に返った。周囲を確認すると、信号機は何時の間にか『青』色の表示に変わっている。立ち止まっていた人々も既に動き出していた。フェイトが立ち止まったままで居た為に、彼女の後ろに居た人たちは彼女を避けながら、横断歩道を渡っていた。フェイトが動き出さない事をその背に察したレイは、見かねて彼女に声を掛けたのだ。

 思考の海に沈みこんでいたフェイトはすぐさまその状況を把握すると、頬を赤らめながら早歩きでレイに近付いた。すると、先程自分が記憶を思い返す原因となった対面にいた親子とすれ違った。親子は仲良く会話を続けている。それをフェイトは横目で眺めて、すぐさま目を逸らす。

 「ごめんね、レイ。ボーっとしてて」

 「いや…気にするな、対した事じゃない」


 レイ達は『青』色の表示が点滅し、『赤』色に変わる前に横断歩道を渡りきった。


 レイは横断歩道を渡りきる直前、フェイトが横目で見ていた親子を見た。仲の良い親子の様子にフェイト自身がかつての彼女と母親の関係を思い返していたのだろう、と予測したのだ。フェイトと彼女の母親の関係は今よりもずっと幼い頃良好だったという事は、レイはフェイトから聞き及んではいた。しかし、だからこそどうしたら最善なのか対応が出来ないでいるのが現状でもある。

 レイにとって、テスタロッサ親子とフェイトの教育者は命の恩人でもある。だから、彼女達の力になれることならば可能な限り応えたい。しかし、一番の命の恩人であるフェイトの教育者は既にレイやフェイトの下から去ってしまっている。その上フェイトの母親は「フェイトが向かう世界の先々で彼女の手助けをしてくれればいい」と言うだけだ。

 では、最後にフェイトに対して支援出来ているのかと言うと、彼女は自分で出来る事は大抵自分で行おうとするし、向かう世界において魔法戦闘などが発生するにしても、彼女が自ら先導して事無きを得てしまうのだ。それほどまでにフェイトは魔導師として教育を完璧に施されているのだ。レイが手助け出来る事といえば、複数人の魔導師が束になって此方に戦闘を仕掛けてくるような事態になった時などはサポートに徹している。

 普段の生活においてはフェイトの教育者から教わった炊事洗濯などの健康面でフェイト達をレイはカバーしている。フェイト自身もまだ10歳にも満たないので、日常で必要となって来る生活スキルが乏しいのは仕方の無いことだし、アルフは元々フェイト達にに出会う以前は【普通の生活】を行って来ていないため、生活スキルを備えてなどいないのだ。結局、今のレイに出来ること戦闘面においては、実を言うとそれ程多くは無い。その為常にフェイト達に対してあらゆる面でサポートを行っている。今回の第97管理外世界でのジュエルシード捜索も例外ではないのだ。

 「…フェイト」

 「レイ…何…?」

 横断歩道を過ぎ去ってある程度歩いてきた所で、レイはフェイトに振り向き声を掛けた。突然呼び掛けられた事に驚きながらフェイトはレイの呼びかけに応える。

 「そろそろこのエリアの捜索も終わる…時間も丁度良いから、捜索が終わったら食事にしよう」

 「え?…でも…」

 突然のレイの申し出にフェイトが異を唱える。それもその筈だ、フェイトとしては一刻も早くジュエルシードを揃えて母親に渡したい気持ちで一杯一杯なのだ。その為にはこのエリアの捜索が終了したら、すぐさま次のエリアを徘徊したいとも考えているのだ。

 そう、休んでいる暇など無いのだ、自分の母親が満足する代物を見つけ出すまでは休息する事をフェイト自身が許しはしない。行動の果てに優しかったかつての母親の笑顔を取り戻し、記憶の中にある柔らかくも優しい思い出を実現させたいという行動原理が彼女にあるからだ。どんなに辛く厳しい事態にも耐えなければならない、愛しさに肩を震わせても、為し遂げなければならない。何故なら、彼女には譲れない【願い】があるのだから…

682とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:48:05 ID:ejePPM6k0

 「フェイト、どんなに気が急いていても休息を取らない人間に成功など有り得ないぞ」

 「……え?何で?」

 自分の考えを見透かされている事にフェイトは驚く。

 「…やはり、直ぐにエリアを移して捜索する事を考えていたか」

 「…!!」

 レイが発した言葉からカマを掛けられていた事に気付き、フェイトの眉根が吊り上る。

 「フェイト、根を詰めることは悪い事だとは言わない…だが、それは度が過ぎれば自身の身を滅ぼす事にもなる」

 フェイトの表情にいかにも「不機嫌です」という感情が表われていても、レイは自身の考えを言葉に出すのを止めない。レイの持論としては以下の通りとなる。

 人間にとって何かしらの活動を行うに至って継続するということは確かに大事なことである。ただ、人間という生き物は活動を行い【成功】を収めるためには【集中力】が重要な要素となって来る。例えるならば、学業・仕事・スポーツなどありとあらゆる場面で【集中力】の有無が成否を左右することが多々あるのだ。そして、この集中力というものは、日々の食事に気を使い充分な栄養も摂取すること、休息を取ることも大事なのだ。そして、これを疎かにすると良い事態どころか最悪な事態すら起こしかねない。それほどまでに人間にとって集中力というものは重要なのだ。

 「でも、この間の戦闘からジュエルシードの発動が感知されていないし…あんまり長引かせて母さんを待たせたくない……」

 レイの説得を聞かされても尚フェイトは引き下がらない。彼女にとって一番に優先する事項とは、とっくに自分の心の中で決定しているからだ。例え、幼い頃から切磋琢磨している仲で家族同様の存在であるレイの言葉でも揺るぎはしなかった。

 「…まぁ、そう言うとは思っていたさ、だから賭けをしよう」

 「賭け……?」

 レイからの思わぬ提案にフェイトは宝石の様な瞳を丸くして、呟いた。

 「ああ、このエリアの捜索が終った後に次のエリアに移る。但し、そのエリアで、きっかり1時間捜索してジュエルシードの反応、発動が無い様だったら大人しく、アルフも交えて三人で休憩を取る。これならシンプルで分かり易いだろう?」

 「分かった。次のエリアで1時間以内に反応、発動が確認されたら……」

 「もちろん、ジュエルシードの確保に向かうさ。」

 レイが提案してきた賭けにフェイトは頷き、彼女は必ず次の1時間で見つけ出してみせると心中で決め込んだ。一方のレイもジュエルシードの発見の有無はともかくとして、捜索に対しての時間の区切りをフェイトと取り決めできた事に安堵した。フェイトは約束事に関しては必ず守るきちんとした人格を持ち合わせていることをレイは理解している。だからこそ、フェイトに対して先程の【賭け】を要求して来たのだ。

 「そうと決まればさっさとこのエリアの捜索を終えて、次のエリアに向かおう。時間というものは誰に対しても平等で、貴重なものだ」

 その言葉を最後にレイは再び歩き出し、フェイトもその後に続く。




 ――そして、レイ達が次のエリアに移動してから1時間後、レイの思惑通りフェイト達は3人で休憩を取る事となったのだ――

683とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:53:30 ID:ejePPM6k0
スレの皆様方ご無沙汰しております。

挨拶も手短にして、何とか訓練編と絵を書いたので投下します。
鮮烈氏に追随する形での投下となってしまい大変申し訳ございません。


http://download5.getuploader.com/g/seednanoha/73/PHASE04-1.jpg.jpg
http://download5.getuploader.com/g/seednanoha/74/PHASE04-2.jpg.jpg

最後に絵を載せてお暇させていただきます。

684名無しの魔導師:2012/07/24(火) 04:26:28 ID:BalSYiAAO
投下キテター!!
お二人とも乙です!

685名無しの魔導師:2012/07/24(火) 16:35:55 ID:YJ/DguWc0
ここもちょっと活性化し始めてうれしい限り! 次も期待しています!

686名無しの魔導師:2012/07/30(月) 11:34:54 ID:SazHU7K.C
遅いですが、更新お疲れ様です。

687名無しの魔導師:2012/08/03(金) 12:45:23 ID:CDcCcLyg0
いつの間にか書き込めるようになってた
遅ればせながら投下乙です

688KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/15(水) 23:25:07 ID:53x5mokM0
昔の投下分の編集もしつつでペース遅いですが、ある程度にまとまったので
今日の24時(明日0時)に投下します

689KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:00:22 ID:DKrJiRFY0
では、投下開始します。

690KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:01:06 ID:DKrJiRFY0
 あたし達は、ずっと一緒にやってきた。
 辛いときも、苦しいときも、楽しいときも。
 支え合って、助け合って一緒に戦ってきた。
 大好きな友達って言うと怒るけど、あたしにとっては、夢への道を一緒に進む大切なパートナー。
 失敗も/つまずきも/後悔も一緒に背負う。
 だから、一緒に立ち上がろう? 
 それはきっとあたしだけの想いじゃない。
 ティアナを一人にしないみんながいるから、きっとできる。



grow&glow PHASE 21 「願い 二人と(前編)」始まります


 戦闘が終結して半刻ほど。
 ティアナはなのはと共にホテル・アグスタから少し離れた場所/林道の中にいた。
 二人は歩く/人気から離れるように林道を。
 先に進むなのはと後に続くティアナ。
 ドレスから制服姿に戻り、反省会を行った後になのはが設けた二人の時間。
 付いてきながらも、一度も顔を上げることのないティアナに振り返りながら、なのはは言った。
「失敗しちゃったみたいだね」
「すみません。一発逸れちゃって」
 返ってくるのは、消えそうな言葉――表情が見えなくとも伝わる反省に、「あたしは現場に居なかったし、ヴィータ副隊長に叱られて、もうちゃんと反省してると思うから、改めて叱ったりはしないけど……」諫める選択を辞めて、1つのことを指摘する。
「ティアナは時々、少し……一所懸命過ぎるんだよね」
 今日の結果/誤射だけではなく、日々の訓練姿勢をも合わせた問題点。
 その時々を/そうなる理由を思い出すうちに視線が上がり――故に、ティアナの視線がさらに下がった事を見逃した。
「……それでちょっと、やんちゃしちゃうんだ」なのはは、気遣うように優しく肩に手を置いて。
 無言。ティアナは、己の無茶――その理由を察してもらえなかったもどかしさに俯いて。 
 
 気づけなかった/伝えなかった。
 故にすれ違う。
 
「でもね。ティアナは一人で戦っているわけじゃあないんだよ――」
 なのはは指摘する。仲間の存在を。ティアナがどう戦うべきだったのかを。
 ティアナの今日の“やんちゃ”理由が、実戦の緊張から初めてのポジション/己の役割を怠ってしまったからだと考え、批評する。
「――ちゃんと考えて、同じミスを二度と繰り返さないって約束できる?」
「はい」故に、ティアナは肯定する。センターガードとしての己の不甲斐なさ理解できているからこそ。ポジション上、スバルと突出すべきではなかったと理解できるからこそ。
 なのはの言葉を否定しない。
 
 それでも、己の力を場違いだと考え――先日のエリオやキャロのように、力の証明を果たせなかったティアナには、すんなりと受け入れられるものではない。
 証明できなかった以上、仲間と共に立つべき存在にはなれないとティアナは結論づける。
 現状――仲間の中で、ただ一人足を引っ張る存在だと。
 右も左も仲間がいる。けれど、その仲間のなかで、唯一己が劣るのだと。
 そんな己が仲間に指示をして……たとえ、命令を聞いてくれても、ティアナ自身がソレを望まない。耐えられない。
 
 ティアナは戻る。なのはと共に、アグスタへ。
 行きと同じく、従順になのはの後ろをついて行く。
 終始無言だった為か、俯いたままだった為か。
 心配そうな視線を時折感じながら、ティアナは黙って歩き続けたのだった。

691KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:01:39 ID:DKrJiRFY0

 やがて、その先。
 なのはと別れたティアナを待ち受ける2人の仲間。
「ティア!」一人は息を切らせて駆け寄ってくる古くからの相棒。
 自分が誤射されて――それでも、何時もと変わらず息を切らせ、心配してくれるスバルに嬉しくて/余計に申し訳なくて、
「いろいろ、ごめん」自然と謝罪の言葉が漏れ出した。
「ぜーんぜん」笑顔で受け止め/気遣うように問いかける「……なのはさんに怒られた?」
「少しね」
「そう……」
 自分のことのように落ち込む姿を見せられ、思わずティアナは苦笑する。
 それだけでも、どこか心が軽くなってしまうかのような気持ちになるのだった。
「あんたが落ち込むこと無いでしょ。一緒に無茶したといっても、あんたを撃っちゃったあたしだけが怒られるのは当然よ」
「ほう……ちゃんとわかってるじゃないか」そして、もう一人。「ようやく戻ったか」イザークはいつもと変わらず、ゆっくりと歩み寄る。
「悪かったわね。あんたにも迷惑かけて」
「殊勝な心がけだな。それより、早く手伝え」
 バインダー/書類の数々をティアナの両手の上に落とすと背を向ける。
「けど、ティアは休んでたほうが……検証の手伝いはあたしが頑張るから」スバルの批難。
 一瞥。「それでウジウジされるとこっちがかなわん」イザークは鼻で笑う。
「わかっているわよ。凡ミスしておいて、サボりまでしたくないしね」
 今は身体を動かすことが賢明だとイザークに告げられ、ティアナは頷いた。
 身体を休めたところで、頭は休まらない。
 一人で休んだところで、やってしまうことは決まっている――自己嫌悪。
 だから今は、グルグルと考える時間をティアナは自分に与えない。
「やると決まったら、さっさと終わらせるわよ」
「うん」
 突き動かされるように、ティアナは検証に打ち込むのだった。



 ホテル・アグスタからの帰還。そして解散から数時間後。
 
 夕暮れから宵闇に沈んだ隊舎側の木々の中で、一人自主訓練に励む者がいた。
 愛機のクロスミラージュを両手に携え、ティアナは周囲に展開したスフィアが光る瞬間に銃口を向けながら、何度も何度も繰り返す。
 360度。全方位に浮かぶスフィアに意識を傾けて。
 大きな動きは無くとも、瞬間毎に全力で身体を動かして。
 蓄積する肉体と精神の疲労――息が上がってきているのを感じながら――それでもティアナは繰り返す。

 少しでも力を付けるために。
 少しでも仲間に追いつくために。

 額に滲む汗を拭いながら、ふらつきだした足に力を込める/握力の落ちた両手に力を込める。
 明らかなオーバーワークに身体中から悲鳴が上がろうが気にしない。
 ただひたすら繰り返す。
 一人で黙々と繰り返す。

692KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:02:41 ID:DKrJiRFY0

 踏み込みの足音と荒い息づかいだけが木霊する中、ふいに誰かの拍手が紛れ込んでいた。
「もう4時間も続けてるぜ。いい加減倒れるぞ」
「ヴァイス陸曹。見ていたんですか」
 昔なじみの来訪者。
 ティアナは訓練を中断し――膝に手を置きそうになるのを堪え、姿勢を正す。
「ヘリの整備中にチラチラとな」苦笑。
 階級を気にした応対で返され、そんなティアナの変わらぬ真面目さが、かつての戦友に重なった。
「ほれ」
「ありがとうございます」
 差し出したドリンクを口にし/喉の渇きか、一息に飲もうとして咽せるティアナを眺めながら、
「ミスショットが悔しいのはわかるけどよぉ、精密射撃なんかそうホイホイ上手くなるもんじゃねえし。無理な詰め込みで変な癖つけでもしたらよくねぇぞ――という、陸曹如きとはいっても、元はスナイパーだった先輩からの経験談だ」ヴァイスは己の経験と教えられた知識を告げていた。
 だが、ティアナは首を横に振る。
「詰め込んで練習しないと上手くならないんです。凡人なもので」
 優等生のままの訓練を続けたところで誰にも追いつけない。
 皆と同じように訓練に励むだけでは誰にも追いつけない。
 故に、一日の時間を誰よりも長く訓練に割り当てる。
 
 スフィアを展開。一息をつくことができたおかげか、足に身体を支える余裕が戻っていた。
 
「ま、邪魔する気はねえけどよ。お前等は体が資本なんだ。体調には気をつかえよ?」
 ヴァイスは“凡人”という言葉を否定しない。ティアナの周囲に存在する魔導師/知り合い達の実力を知っているからこそ、ティアナの自己評価が“凡人”になることは、仕方がないと理解はできている。
 己もオーバーSランクの人間と身近な存在になっていたからわかること――異常なまでに能力の高い/素養の高い仲間達に囲まれるが故の劣等感。
 ヴァイスは大人だ。自制/割り切ることも簡単にできる。
 だが、ティアナは子どもだ。それも負けん気の強い子どもであったことは、昔から知っている。
 そんな彼女が、今何を思って訓練に望んでいるのか、わからないはずも無い。
「ありがとうございます。だいじょうぶですから」
 予想していたティアナの解答にヴァイスは苦笑する――努力の否定はしたくもないが、無茶を見過ごして倒れさせる訳にもいかないとも思ってしまう自分に向けて。
「時間も時間だ。日付が変わるまで……は長いな。後、30分くらいにしとけよ」
 無言。
「わかったな」
「……はい」
 おざなりなティアナの返答/同意。
 言質を取った以上、ヴァイスのこれから行うことは決まっていた。

693KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:03:39 ID:DKrJiRFY0

 隊舎――スバルとティアナの自室。

 一人で自主練に向かい、夕飯の席にも現れなかったティアナを心配し、スバルはため息を吐き出していた。
 きっと無茶をしている。そうわかっていながらも、スバルにティアナは止められない。

 昔、聞かされたティアナの夢。執務官を志望する理由。
 全てを聞かされていた。
 一人でティアナを育ててくれたお兄さんのこと。
 ティアナが10歳の時に任務中に亡くなった後、上司から最後の仕事が無意味で役に立たなかったと言われて、すごく傷ついて悲しんだこと。
 お兄さんが教えてくれた魔法は役立たずじゃないことを証明するために、どんな場所でもどんな任務でもこなせる魔導師になってみせるということ。

 お兄さんが叶えられなかった執務官になる夢を叶えるために一生懸命に必死に訓練に望むティアナを/訓練校時代から一度も変わらない、強くなりたいというティアナの気持ちを、スバルは止められない。

 日付が変わるまで――1時間以上。
 まだまだティアナが帰ってこないであろうと予想できて――しかし、小さいながらも彼女の声が耳に届く。
 次第に大きくなりながら。
 それが、文句であり罵倒であるとわかった時には目の前の扉が開かれる。
「って、ヴァイス陸曹! どうしたんですか」
 視線の先――挨拶代わりに片手を挙げるヴァイス+その肩に担がれ、暴れるティアナ。
「無理にでも連れてかないと終わりそうも無かったからな。見逃して体調崩されたらなのはさんにどやされる」
 今はしがないヘリパイをしていようが元は陸士。
 頬に肘がめり込もうが。
 頭を強く押されようが。
 少女が暴れたところで動じない。
「ティア。肘、肘」
「気にするな。ティアナはお兄ちゃん子だったからな。“愛しのおにい”以外が担ぐとこうなるのは知ってるさ」
「何言ってるんですか! ヴァイス陸曹」
「大人しくしねえと、ティアナが“愛しのおにい”の職場に来たときの可愛い話をスバルに喋るぞ」
 真っ赤に染まっていっそう暴れ出したティアナを黙らせ大人しくさせると、ヴァイスは無造作にベッドの上へと放り捨てる。
 鈍い音。
 くぐもった悲鳴。
 共に無視しながら、感慨深げに口に出す。
「流石に鍛えた筋肉も付いてる分、重くはなるな」
 飛来してきた枕を受け止めながら、ヴァイスは笑う。
「まだ2度目の実戦だ。何を考えるかは自由だが、今日はしっかり休めよ」
「ヴァイス陸曹にそこまで言われる筋合いはありません」
「ちゃんと約束はしただろ、後30分って。ティーダは約束を守る男だったんだけどなあ……」
 右手で頭を押さえ、盛大に肩を落としてみせる。そんなわざとらしいヴァイスの行動だが、余計な一言がティアナの口を封じさせていた。
「わかりました。今日はもうしません。早く寝ることにします」
 ティアナは選択する。ヴァイスをここから追い出すことを。
 これ以上留まらせれば、その軽い口からどれだけのスバルに聞かせたくない歴史を語られる。
 故に、しおらしく頭を下げて目で訴える――早くどっか行け。
 そんな応対にヴァイスは愉快そうに笑みを浮かべると、踵を返してもう一言。
「そういえば、明日は5時にならないと玄関は開かないらしいぜ」
 目覚まし時計に伸びていたティアナの手が止まる。
「どういうことなんですか?」ティアナ――年上に向けるべきではない不機嫌そうな表情で。
「俺に言われてもな。アスランが言うには、隊舎の防犯システムを弄るかなにかで……詳しくはわかんねえけど、部隊長さんがオーケー出してるんだから、ちゃんとした理由はあるだろうさ」ヴァイス――小さく肩をすくめてドアの先へ。
 数秒後にはティアナが詰め寄ってくることを予想できたのか、廊下を出ると同時にヴァイスは走り出していた。

 一拍。

「ティア……もう、寝る?」
「寝るわよ! ちゃんと」
 訓練着を脱ぎ捨てると、ティアナはベッドの上に飛び込んでいた。

694KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:04:10 ID:DKrJiRFY0

 普段の耳障りな音とは僅かに異なる電子音が頭の中を木霊する。
 重い身体に辟易しながらも左腕を伸ばす。
 叩く。叩く。叩く。
 停止。
 首をひねって確認した時刻は午前5時の少し前。
 ある程度の睡眠をとれたおかげか、一度目が覚めれば眠気も皆無。
 身体が重いことは重々承知。痛みがないだけマシだ思いながら、少しでも早く自主訓練を開始しようと身体を起こそうとして――ティアナは気付く。
 視線の先――いつもより盛り上がる布団。全身ではなく、一部の身体のみが重かった。
 予想は一つ。嫌な答え。
 それでも、このままにしておくこともできず、布団をどける――ティアナの胸に顔を埋めるスバルがそこに居た。
 一拍。
 2つの柔らかい膨らみを堪能するかのようにモゾモゾと動かしていた顔がティアナに向けられる。
「あ、おはようティア」幸せ100%の笑顔。
 瞬間、ティアナの両手はスバルの頬に伸びていた。
「なーにが、『あ、おはようティア』よ。いったいどういうつもり? あんたのベッドは上でしょ」
 全力で右手は右に/左手は左に。
 スバルの頬を引き伸ばしながらティアナは問うていた。
「ひゃ、ひゃべれない」
「念話があるでしょ」
「ひぢょい」
「で?」
 ガンを飛ばされ+痛みに観念したのかスバルは答えを返す。
(「いつも寝るときってベッドがあるから別々だし、ティアは一緒に寝るのは嫌がるし……だから昨日はチャンスかなーって……ごめん」)
 殊勝に瞳を伏せられ、ティアナは嘆息する。
 スバルが甘えん坊なことは訓練校時代から知っている。
 片親がいない影響か。姉にべったりだった影響か。
 聞いたことは無くとも理由は察せられる。
 それに、本気で怒っていたというわけでもない。
「まったく……しょうがないわね」
 ティアナは両手を離すとスバルの頬を解放してあげる。
 朝の目覚めから、すでに余計な時間が過ぎている。これ以上はもったいない。
 ティアナは身体を起こし――もう一度スバルに問いかけた。
「で、アンタは何してるわけ?」
 見下ろした先――スバルが胸に顔を埋めていた。
 それも、落ちないようにティアナの背中にがっしりと両腕を回しながら。

 視線がぶつかる。
「だって、『しょうがないわね』ってことは……いいんじゃないの?」スバル――しおらしく小首を傾げてみせながら。
 瞬間。ティアナの両手はがっしりとスバルの頭を捕まえていた。
「へえ……アンタがそこまでお馬鹿なんて知らなかったわ。ほんと、しょうがないわね」
 満面の笑顔で語りかけながら。瞳は告げる――わかっているわよね、と。
「ごめんティア。冗談だからその手は――」
 朝の小鳥の鳴き声に混じって、一人の少女の絶叫が宿舎に木霊した。

695KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:04:40 ID:DKrJiRFY0

「なるほどねえ。だからスバルの頬がそこまで赤いのか」
「ひどいんだよ、ティア。ギューって千切れるくらいに引っ張るから」
「やれやれ。胸の中に顔を埋めるくらいで文句言うなんて、心が狭いぜ」
「そうだよね」
「うっさい、変態」
「俺だって女の子の胸に顔を埋めて眠りたいってのによぉ」
「八神はやてが部隊長とあっては、そうそう隊の女に手も出せんか」
「そうなんだよな。ほんとに警戒が堅くて」
「そろそろ話してもいい?」
 食堂――朝食にはままだ早く人気の少ないその場所で、4人の訓練生達が額を寄せ合っていた。

 起床時間と起きてからのやり取りのおかげで自主練を行う時間は残されておらず、できることと言えばミーティング。ティアナは朝食の時間も使って自主練の内容をスバルに伝えようと食堂に来たところ、どういうわけかそこにいたイザークとディアッカが合流した結果。
「けど……」
 ティアナは一同を見回しながらも遠慮がちに告げる。
「スバルもそうだけど、別に付き合わなくていいのよ」
「一人より二人」スバル――両手で作った拳を胸の前で掲げ。
「二人より三人」イザーク――口角を僅かに持ち上げて、
「増える分、練習のバリエーションも増えるよな」ディアッカ――自信を持って胸を張る。
「あたしに付き合っていたらまともに休めないわよ」
 即答。「知ってるでしょ。あたしは日常行動だけなら4、5日寝なくてもへいきだって」
 追随。「俺もスバルとはいかんが多少の無茶はできる」
 追従。「ま、俺は端から手伝える時しか参加しないつもりだし」
「日常生活じゃないのよ。スバル……アンタの訓練は特にきついんだから、ちゃんと寝なさいよ。イザークも前衛だし」
 否定。「やーだよ。あたしはティアと一緒のコンビなんだから」
 同調。「俺も貴様と同じストライカーズの一員だからな」
 だから一緒に頑張るのだとティアナは二人に告げられる。
「あ……」
 自然と頬に熱を感じ/自分の表情が予想できてしまい「勝手にすれば」視線を落とす/俯いた。
「おいおい、横向いたら離しできないじゃねーか」
「うっさい。ちゃんと話すわよ」断言。
 それでも十数秒。
 ティアナが面を上げるのを待っていたスバルが問いかける。
「で、ティアの考えてることって?」
「とりあえず、短期間で現状戦力をアップさせる方法。うまくいけば、アンタとのコンビネーションの幅もグッと広がるし、イザークとの連携強化とかエリオやキャロのフォローももっとできる」
「うん。それは、わくわくだね」
「たしかにレベル0上げる方が楽だよな。すぐに上がるし、トータルで考えたらそっちの方が早い」
 イザークも無言でうなずき、三人の同意を得たティアナはこれから行うことを具体的に話し出す。
 現状、ガジェットの能力向上及び新型機が出てくることは予見できるもの。
 そのために戦力を向上させることへの文句を言う者など、一人も居なかった。
 いつ、いかなる時に強敵ができるともわからない。そのためにも強くなるに越したことは無い。

 朝食の時間が終わるギリギリまで、4人の話し合いは続くのだった。

696KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:05:58 ID:DKrJiRFY0

以上となります。ご静読ありがとうございました。

編集に意外と時間を取られてしまい、前回から間が開いてしまいました。
当初予定はなのはさんバトル後含めてでしたが、ここで7000字突入してきたので分割としました。
長さ的には妥当なのかがちょっと判断しかねてますが、もうちょい一話は長い方がいいでしょうかね?

ではでは、またいずれ  ノシ

697名無しの魔導師:2012/08/16(木) 11:48:20 ID:U9W5pLDk0
久々のGJ! 映画効果かここにどんどん人が戻ってきていてうれしい限り。
文章の形も独特でいいですね。

698名無しの魔導師:2012/08/19(日) 01:06:28 ID:0J4BSvTw0
この調子で途中で終わってる物語が再開してくれるといいな……

699名無しの魔導師:2012/09/03(月) 23:44:48 ID:vQdgoQQMO
D.StrikeSの続き読みたい

700名無しの魔導師:2012/09/04(火) 04:12:27 ID:U7bvYgzEO
座談会へGO!

701名無しの魔導師:2012/09/04(火) 19:57:13 ID:hJA56wMMO
>>699
自分もDストの続きが気になるなぁ
あのアフターでのvividはどうなるんだろうか想像してしまう

702Argusheuromor:2012/09/05(水) 09:49:14 ID:L6YZsfIg0
Ever due to the fact the public became mindful about the hazards of cigarette smoking several a long time in the past, many individuals have found quitting the tobacco addiction challenging. Companies are actually innovating and producing using tobacco cessation items for a few years now. From nicotine patches to gum, nicotine addicts are utilizing them to stop their behavior.

<a href=http://pic-n-save.com/mr~mid-261137~Vapor-Ultra.aspx&gt;electronic cigarette electronic cigarette </a> (often known as e-cigarettes and electric cigarettes)are the newest item around the marketplace. They are really created to look and feel like genuine cigarettes, even all the way down to emitting artificial smoke nonetheless they do not basically contain any tobacco. People inhale nicotine vapour which seems like smoke without having any from the carcinogens uncovered in tobacco smoke that are damaging on the smoker and other individuals approximately him.

The Ecigarette contains a nicotine cartridge containing liquid nicotine. Whenever a person inhales, a tiny battery driven atomizer turns a small volume of liquid nicotine into vapour. Inhaling nicotine vapour provides the person a nicotine strike in seconds rather than minutes with patches or gum. Once the person inhales, a small LED mild in the suggestion from the electronic cigarette glows orange to simulate a real cigarette.

The nicotine cartridges by themselves are available in numerous strengths. Most of the key manufacturers, including the Gamucci electronic cigarette have total power, 50 percent energy and minimum energy. It is designed for individuals who desire to stop smoking. Because they get used to making use of the e-cigarette, they could step by step decrease the power they use right until they give up.

The key rewards e-cigarettes have about nicotine patches or gum is to start with, users hold the nicotine strike considerably quicker and secondly, since a huge motive why smokers fall short to quit suing patches and gum is simply because they still pass up the act of inhaling smoke from a cylindrical object. The electric cigarette emulates that even down to the smoke.

The ecigarette is additionally helpful from the monetary point of view. A set of 5 nicotine cartridges fees approximately £8 and is also equal to 500 cigarettes. Although the first financial commitment of an e-cigarette package of £50 may appear to be steep at first, consumers spend less money in the long term.

As with quite a few popular products, there happen to be a large number of inexpensive Chinese imitations flooding the market. They are ordinarily fifty percent the price of a branded e-cigarette and appear like the actual detail at the same time. It is actually inadvisable to use these since they have not been topic for the exact same rigorous testing the official e-cigarettes have and can potentially be hugely harmful on the user's wellness.

As e cigs turn into increasingly more well-liked, they're more and more made use of to smoke in pubs and clubs with a smoking cigarettes ban. E cigs seem to be the next matter and may shortly change genuine cigarettes in clubs.

703名無しの魔導師:2012/09/06(木) 22:51:58 ID:9MyiGh760
自分はリリカルクロスSEEDが…

704名無しの魔導師:2012/09/08(土) 13:13:48 ID:/SVKl2ysO
望氏、また書かないかな……

705名無しの魔導師:2012/09/08(土) 20:08:18 ID:8..nbhK.0
同じくリリカルクロスSEED求む

あそこまで上手いことまとめて、これからstrikersってときに止まったからなぁ
ゼストやティアナの兄とキラになにがあったのかがすごい気になる

706名無しの魔導師:2012/09/09(日) 01:50:28 ID:YbIKjYPA0
遅筆でもいいから書いてほしいですよね。




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