えっ、あっ、…――Hold on now!!……ほら、立てる?ゆうれいごっこはもうおしまいだ。
(まだ非現実的な発言の判断がつかないまま、離すんだという言葉に明らかに落ち込んでいる様子だと分かるとおどおどする、とまではいかなくとも困ったような表情と共に離されるがまま取り敢えず離れて、時刻を気に掛けばたばたと慌ただしく時計を探り出す様子を何が出来るでもなく眺めていた。早く会いに行かなきゃ――ふと、その言葉を残して走り出した相手の行動を制止しようと"ちょっと待て!"と声を荒げたが、相手は立ち止まるどころかうまく逃げ出すこともままならず、ごろっとそのまま見事にひっくり返ってしまう。当の本人もその出来事に驚いているようで、それは自分も同じだった。ぽかん、と口を開けてひっくり返った相手を暫く眺めていたがふとした瞬間に我に返ると再び歩み寄って、今度は顔を覗き込ませるかわりにそっと手を差し伸べてみる。外壁を乗り越えて入って来る風は心地よくてその風を受けるとやけに冷静になることができた。考えてみれば自分に霊感はないしそのためそういった現象を目の当たりにしたこともなくて、だから信じたこともなかったのに、いきなり現れた幽霊を発見して触れ合ったり喋ったり転んで痛がったり驚いてる姿を見るなんて、そうそううまい話があるはずないんだ。相手がどうしてそう言ったのかなんて知る由もないことは考えなくてもいいだろうし、一先ず起こして上げて、そのあとで事情を確認するとしよう。幸いこの屋敷は私有地ではないから自分も含めて侵入したことで問われるような問題は何もない。少し場所を移動した月が放つひかりを感じながら手を差し出したままにっこりと笑いかけて)
――It can't get any better than this!
(ぶつかった自分に痛みがないのだから相手にとってもそうそう衝撃的なものではなかっただろうに、それでも確認してしまった問い掛けに対する答えはやっぱり大丈夫という内容のものだった。端正な顔立ちに気を取られていて気付かなかったが相手はその言葉通りなかなかがっしりした体格らしい、服の上からではその全貌をうかがい知ることは出来ないけれど、自分もしっかり鍛え上げている方なので何と無く把握する。そして気が合うんだねとにこやかに告げられれば普段から他人にそんな風に物事を告げられることがないからか非常に嬉しく感じると、"嬉しい、これ以上いいことはない"とはにかむような笑みを浮かべて流暢に返す。何かいいことがあった時に、祖父が必ずと言っていいほど使っていた言葉であり自分にもそれが染み付いているのだ。大の男2人がこのように手をつなぎ向かい合っている光景を周囲の人間はどのように見ているんだろう、ましてや美術館の中である。相手に見せたかった絵画のことも吹っ飛ばして忘れてしまい、ただひたすらあわあわとつながれた手の対処に困っていた。藍色の瞳はそっと伏せられ、おまけに顔を手で覆っているもんだから相手が取り出したタブレットの存在に気付くことなく、勿論写真を撮られてしまったことにも気づくことはなく。ぱ、っと不意に解放された手を顔を覆っていた手と一緒くたにそのまま真っ直ぐ下ろし絨毯と睨めっこを始めようとしていた視線を相手へ戻す。その清々しいまでの笑顔にはお咎めの言葉も出てこない――元より咎める気なんてないが――ので、まだ幾分か気恥かしさやら照れやらの残った表情で笑みを返し、そしてまた不意に頬に触れた手の冷たさに少し目を見開く。自分の顔が熱いだけかもしれない。まるで昨晩読んだ少女漫画にでも出てきそうな相手の行動に熱の引かない状態のままで率直に感想を述べて)
つめ、たい。…きみはきっと女の子にモテるタイプだ。
No sweat――…うん?それなりに鍛えてるからな、それにきみが軽いっていうのもあるかも。お姫様抱っこしてあげようか?…ああ、でもこれは普通おんなのこにするものだ。
(目の前の相手は明らかに驚いた顔だ、でも告げられた言葉は何てことないお礼でどうして礼を言うのに驚いている様子なんだろうと疑問に思いつつそれを感じさせない笑顔で"どういたしまして"と返す。もしかしたら相手の言い分を信じるよという発言に対しての驚きなのかもしれない明らかに人間だというのは流石にもう理解してしまったけど、それでも相手がそう言い張るのならそれを信じるのが自分の中で正解だと思っているので何も不思議な事じゃない。袖を捲くっているとはいえ精々肘までしか肌は露出されていないため直接見せてあげることは出来ないが服の上からでもと思い、右腕の肘を曲げ二の腕の力瘤を作るように力を込めてみせると左手で軽くその部分をぺしぺし、と叩いた。だがしかし力があるというだけじゃなくて、自分と結構な体格差もある相手の身体が軽かったから、という理由も大きい気がしたのでそのまま悪気無く告げると不意に思いついたようにお姫様抱っこという提案をすれば相手がどうこうというよりも完全に自分自身がそれをやってみたい、というだけの個人的な願望をやけにきらきらした眼差しで問い掛ける。だけど直ぐに一般的にお姫様抱っことは女相手にするものであり、いくら体格差があるとはいえ男である相手にそれを実践するのは失礼かと思いしょげた様子で訂正を入れた。そのまま相手の手を引いて歩き出し、斜め後ろ辺りに居る相手に身体を少し傾けて視線を送りながらようやく笑った顔を見詰めて安心したような笑みを浮かべ返事をすると、ごもっともな問い掛けに一旦黙り込んで首をかしげたあとでポケットから取り出した端末から時刻を確認して家まで送ると相手へ視線を戻し)
俺は出来損ないのヒーローだからね、たくさんの練習が必要なんだよ。…取り敢えずきみを家まで送ろうかな?時間ももう遅い。
>>163夏目真夏
わお!綺麗な発音だね、Please tell more me it!
(あまり西洋風でない顔立ちだったために相手の口から流暢な外国語が飛び出してくるとは思ってもおらず、一瞬目を丸くした。そしてすぐふふっと笑うと、綺麗な発音だねとまるで親が勉強を頑張った子供を褒め称えるように頭を2・3回撫でた。父の英才教育で幼い頃から様々な言葉を習わされていた。当時は何故こんな勉強をさせられるのかと憤慨していたものだが、こうやって他人の言葉が理解できるという素晴らしさは大きくなってシミジミ分かってきた。嬉しそうな相手に此方まで嬉しくなって"ぜひもっと僕に聞かせてほしい"と返した。手を握って見せただけなのに顔を真っ赤にして大慌てする彼の反応が珍しくて面白くて。普通こんな男にそんなことをされれば嫌がるか怒るかしそうなものだが、耳まで真っ赤になっている相手が可愛くて仕方が無い。先ほどこっそり撮った写真も、なんとなく面白半分でとったのだが、後で保存したものを見せびらかしたら相手がどんな反応をするのだろうかなんて子供じみたことを考えてわくわくしていた。そして彼の頬に添えた手は見た目どおりでじんわりと熱い。つめたいと率直な感想を述べられれば此方も素直な感想を述べて。女子にモテるタイプだと言われれば、否定はしない。金持ちで名家の息子となれば大勢の女が寄ってくるものだが、所詮は金や名声に目の眩んだ哀れな生き物など相手にするつもりも無い。嫌味でもなんでもなくそう告げた。先ほどまではからかっていたが、自分の遊び心で顔の熱に苦しめられる彼に対してだんだんと申し訳なくなり、外で一度涼んではどうかと提案をした。警備の仕事中なのは百も承知で、こっそりねと付け足すと悪戯っぽく笑って見せた。)
君のココ、すっごく熱いよ…? んー、まぁモテるかな。でも良いことないから〜
…あのさ、一回外で涼まない?カフェあるからさ。絵は涼んでからでもいつでも見れるでしょ?…仕事仲間にはもちろん内緒でさ
え、あ、待っ、――切れちゃった。
(確認を怠ったものの着信相手は予想通りだったらしいのでそのまま会話に持ち込もうとするも一方的に場所と要件を告げられれば相槌を打つ暇も無く、言い終わると同時にプツッという小さく短い機械音と共に通話は絶たれてしまった。名残惜しそうに十数秒ほど通話終了を知らせる画面が照らし出すディスプレイを見詰めていたが、こうはしていられないと足早に本部を後にして相手の指示通りに喫茶店へと向かって走り出す。おい夏目、と怒号が背後に聞こえたが"I'm sorry!!"と振り返ることすらせずに足を進める。警察署から出て直ぐ、角、きょろ…と両角を確認してから喫茶店がある方向へ進みカランカランと客の出入りを知らせる音を鳴らしながらドアを開けて喫茶店内へと足を踏み入れれば店員が寄って来るのを片手で制止しながら上着を持っている人物を探して視線を彷徨わせ、ぴた、っと相手の姿を見て視線を止めればそのまま歩み寄って行き"お待たせ"と声を掛けながら手前の椅子を引いて席につく。電話での様子だと第三者の人間が代理として来ているような言い振りだったけれどそれにしては目の前に座る相手の雰囲気は、彼本人と似過ぎている気もする。髪型も瞳の色も、顔つきも違う。けれど顔立ちはあの暗がりで見た彼のそれと同じだ。暫く黙って食い入るように視線を向けていたがあまり見過ぎるのも失礼にあたるだろうし、この際相手が本人かそうでないかは問題にすべきではない気がしたのでまだ何も頼んでいなさそうな相手に何か飲むかと問い掛けながらメニュー表を広げて相手に見せ先輩からあそこのサンドイッチは美味いぞと聞かされていた事を思い出してその事も付け足しながら相手ににこっと笑いかけ)
Thank you for waiting. …折角だし何か飲む?ここはサンドイッチも美味しいって聞いたけどお腹は?空いてない?
>>夏目 真夏
No need to say that.…あんたが夏目さん?
(相手の口から出た英単語に少しだけ授業でやった事を思い出して、言う必要はないよ、と答える。相手は自分がルアだと気づいているみたいだったけど、とりあえずこの姿で会うのは初めてだし、初めて会うように振舞っておく。メニューを見せてくる相手に注文はしないと言い切る。どちらにせよコートを渡したらすぐに家に戻るつもりだったのだ。相手も仕事があるだろうし、その方がいいと思ったのだ。畳んだコートをポスッと相手の手に押しつけて。一応礼を言っていたとまるで他人事のように告げて、席を立って。)
注文はしないよ。…はい、頼まれた物。…ありがとう、だってさ。
(さようならと言いかけた言葉もその身体と一緒にこの腕の中へ飲み込まれたようだ。相手を降ろしてあげたことによってそのまま立ち去る事を決め込んでいたようだけど、残念ながらそうさせる為におろした訳ではなく抱えたまま無理強いをして自宅に運ぶよりは少しなりとも相手の意志を肯定に傾けた状態で向かいたいと思ったからで。また拒絶されるかもしれないという懸念は確かにあったし寧ろそうなる可能性の方が高いと覚悟を決めていたので、腕を振り払う訳でもなく拒絶の言葉を並べる訳でもなく、ただ甘えるように預けるように身体を寄せて来た相手に驚いてしまうが、その事実を実感すれば嬉しそうに頬を緩ませて指通りの良い髪を撫でる。胸許に押し当てるようにされた顔の所為で表情までは窺えないが何かを堪えるように絞り出された声でポトフと告げられると和食じゃない事を良かったと内心安堵しつつ了承して、"家へ帰ろう"と告げれば顔を上げさせるようになでていた手で頭を2、3回優しく叩きもう片方の手でポケットから薄いタブレット端末を取り出し指で操作しながら、現在の時刻とここから自宅までの距離と時間を見て確認すれば再び歩きだそうとして)
――OK,let's head home.