(今宵職務を司るのは新設された煌びやかなカジノの舞台。床には汚れ一つない真紅の絨毯、顔を上げればシャンデリアの煌きが瞳を輝かせることだろう。看守も並一通りでなく、屋内の支柱に沿って一人ずつ黒尽くめの警備員が周囲の警戒を固め配置に付いている様子からも意気込みが垣間見え。一階は遊戯場、中二階は文字通り高みの見物に打って付けなロケーションを設けられ、その立ち入りを許可されるのも関係者と曾て優勝者の称号を獲得した者と制限が為されているのは当然と言うべきか。柵に手を触れて上から覗き込んで見れば、まるで此れを只の娯楽か何かと勘違いしているよう間抜けにも惚けた表情、己の身を案じる陰鬱そうな顔、はたまた無垢に楽しもうと空元気を装う者、苦悶の面、賎しい笑み。傍観者としての地位でこの遊戯を幾度となく見納めているが人間同士が金を巡って感情を剥き出しにする様は何と醜く滑稽な事か、けれど金に飢えた者はより役者としても好都合でもある。駒は十分に揃えられた、ならば残る仕上げは引き金を引く事のみ。指示を受けた部下からワイヤレスヘッドセット―耳栓型イヤホン兼マイク―を受け取り装着するや、合図に伴い会場から光が失せて暗闇を描き、代わってテラスの中央箇所へ照明が一点集中。ショーを盛り上げる為ならば道化師にさえなってみせましょう、誰に向かって囁かれた言葉かその笑みも淑やかに、悠然とした態度にてその場へ躍り出て)
…… Ladies and gentlemen, thank you for waiting. We will rise. ―――So, It's show time! Please enjoy ... “yourself”.
(光の中、皆の注目が集まる中を抑揚付けて声高らかに、安いお決まり文句でさえまるで歌い上げるよう天を仰げば其れを封切りに開幕の火が灯る。目下では何処からともなく沸き起こる拍手喝采、威勢の効いた雄叫び声…――幕は開けた。全ては神の手の内に在る台本にしか過ぎぬというのにこの群衆は哀れなことか、思わず溢れ出そうになったニヒルな笑みを純潔を彩る白の手袋で覆い、そう、極自然に咳払い一つ零す仕草で誤魔化してしまうと何事もなかったかの如く頬笑の鉄仮面を嵌めて。勿体振るよう階段を一歩ずつ降りて行きながら、さて今日はどのような一興が待ち受けているのやら、熱気渦巻くその会場へ身を投じて徘徊してゆく)