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【SS】貴方の物語を教えてください…!【小説】
1
:
ただの本
◆/Oucn1qs.o
:2011/02/15(火) 21:40:20
「本当はこんな設定あるんだけど、スレ内で表現できる機会が無い。」
「この子とあの子の昔話を書きたい。」
「夢のコラボを読んでいただきたい。」
なんて思った事みなさんありませんか?
ならば、このスレッドで思う存分書けばいいのです…!!
このスレッドはそんな思いを小説として表現する物です。
「ルール」
・一度でもオリキャラに存在したキャラ なら可能
・自分のキャラ以外が登場する場合は本人に許可を取る(第三者が書く場合も同じく)
・キャラ壊しは、控える事。(キャラ本人の許可があれば可能)
・もしも系も可(もしも学園系だったなら…など)
・レスは連続最大5レスまで(収まらない場合はこれ以上も可)
・一つの話しは出来るだけ書き終わってから投稿する事(途中に違う話が入るのを避ける為)
・最初か最後にスレ名を記入。
以上のルールは必ず守ってください。
あくまでも本スレッドのサブとしてお使いください。
何か分からない事があれが質問してください。
それでは、皆様のお話をお待ちしております…!
2
:
◆rpPcEsu/EI
:2011/02/16(水) 23:59:54
この日の為に用意されたまるで深い海の様に青く美しいドレス。クリームの様なふんわりした髪をまとめ宝石の付いた髪飾りをそこに付ける。化粧は薄め、首にはキラキラと輝くネックレスを、そして最後に仮面をつけましょう。だって、ほら。今日は…
――――――仮面舞踏会、
リストラック家に滞在してから数カ月の日々がたったある日。昔からなじみの深い貴族の招待により彼女は、久しぶりに舞踏会という社交場に足を進めていた。まだ、継承戦争にピリオードを打てたわけでもないし、彼とぎこちない関係のままである彼女はどんなに美しく着飾っても正直言って乗り気ではなかった。だが、父親の顔を立てる事や誘った相手の事を考えると断ることも出来ずに馬車に揺られているのだ。
「はぁ……」
会場に付いたにも関わらずあふれ出すため息の止め方さえも分からない。ただ、分かる事は馬車を開いた時、
「こんばんは、Miss Dahlia」
出迎えてくれる人が彼では無く違う人と言う事。
「こんばんは。Feuilles伯爵本日はお招きいただきありがとうございます。」
コツリコツリとヒールの音を上げ、ドレスのすそを上げぺコリと頭を下げる。
「こちらこそ、貴方に来ていただけるなんて光栄ですよ。さぁ、行きましょう。」
ニッコリと微笑み頷きながら差し出された手を取る。中身の無い話し、心に無い返事。そんなことに気づかず目の前の彼は微笑みながら彼女をエスコートして行く。彼は貴族の長男で、ベルフローラ家とリストラック家と同様にもしかしたらそれ以上に交友が深い。もしリストラック家とこのまま交友が戻らなければ、彼と…。でも、仮面をしていたとしても貴方は違う。それだけ。豪華に飾られた廊下も、目に入らない。通り過ぎて行く人々の声も耳に入らない。それでも笑顔を崩さないのは、以前にあの人にそう教えられたから。
人々があふれかえるホールに二人腕を組み足を進める。豪華な内装。この日の為に用意された豪華な食事や演奏。そこには、緑や桃色や赤。様々のドレスに身をくるんだ女性たちやきちりとした正装を着た男性たちが仮面を被り姿や身分を隠しながら踊っている。幼い頃、おとぎの国の姫になったような気分になる事の出来るこの空間が好きだった。今はそんな事さえ思い出せない。何度か関わりのある人間であれば仮面の下の素顔を知る事は可能だが、知らぬ人の顔をしるのは難しかった。でも、良く知る人間ならば…。Feuilles伯爵に合わせていたはずの足がぴたりと止まる。一度彼の腕から手を抜き相手の顔を見つめ、目の前に出されたFeuilles伯爵の大きな手をDahliaはどこか寂しそうにに見つめた。
「もしよければ、ご一緒に…踊りませんか?」
これの手の平の意味をもう分からない歳では無かった。そんなに馬鹿で入れない事など知っていた。だからこそ、彼の手を取るのが怖くて何故か罪悪感さえも覚えて躊躇してしまう。こんな思いをするのならば、一層の事断ってしまおうと息を吸った瞬間。彼女の大きな瞳がより一層に大きくなった。
「………メ………ド……?」
3
:
◆rpPcEsu/EI
:2011/02/17(木) 00:01:42
泣きそうになった。彼女の視線の先に居る人物。それは少し前まで許嫁として隣にいた人物であり、昔からただずっと愛し続けていた人。彼がそこで違う女性の手を引き、あの頃の私に向けていた笑顔を知らない女性に向けられていて。大好きだったあなたの隣はもう他の人の物になってしまったのだろうか。嫌だ、嫌だ、嫌だ。足が佇む。動けなくなる。時が止まってしまった様に体が重い。誰か、助けて。
「……lia、……Dahlia?どうかしましたか?」
「……あ。な、なんでもありませんわ。」
ふと気がつけば、Feuilles伯爵が心配そうに眉を寄せていた。
Dahliaが手を取らなかったのが不安だったのか、慌てて言葉を紡ぎニッコリと微笑み、彼の手を取ると彼はまた優しそうに笑みを浮かべた。先ほどまでかかっていた少しハイテンポの曲が終わると、手を引かれホールの真ん中へとエスコートされる。それと同時に次のゆっくりとした音楽が鳴るという所は流石長男だな…。なんてね。そんなこと今は関係ないけれど。視界の隅、見える銀色の髪を見ないふりしなければ、これ以上笑う事は出来ない。そして、曲は終わる。
もう一曲踊らないかと尋ねられたけど、わたしは首を横に振り、ホールの端っこへと移動した。逃げ出す様にそのままホールから出てしまいたかったけれども、さすがにそんなの事は出来なかった。ふと一息壁にもたれかかり仮面を付けた人間が踊るホールを見つめる。どうして此処にいるのか、なぜこうなったのか。考えれば、考えるほど寂しさがあふれ出す。どうしようも無い現実を受け止める程の強さはわたしにはまだなくて。一人にいるのが怖くて。仮面の無いわたしは今も崩れてしまいそう。でも、ふと気がついた。私は今仮面をつけている。それならば…。もたれた背中をふっと勢いよく離しピンヒールで大理石の床を踏みしめ足を進めて行く。その進行方向には、元許嫁の彼の姿。先ほどの女性とは、踊り終えたのだろう。今はワインの入ったグラスを口につけ一人立っていた。彼の前に立ちニッコリと微笑み、手を差し出す。
「もしよければ、ご一緒におどりませんか?」
彼の名前は言わない。自分の名前も言わない。それが重要なポイント。
「…………あぁ。喜んで。」
彼が息を飲むようにゆっくりと思い口を開ける。
わたしも彼もお互いを知っている。それでも今は、ただの男と女として。彼はわたしの手をとりゆっくりと手を取った。先ほどと同じ様にホールの真ん中へ。先ほどと違うのは音楽が早くなっていて目の前の相手が違う事。慣れたテンポ、息の合ったステップ。
そして、あなたがしてしまう癖も全部、全部、懐かしい。仮面の奥の緑の瞳が優しく微笑んでくれる。わたしのひとみだけを見つめてくれる。それだけで、幸せだった。それでもやはり時は過ぎて行く。あなたはまた違う女性の所へいくのだろうか?またわたしは、それを見つめるのだろうか、一人で。最後のメロディーが終わりを告げる。わたしがその手を離そうとした瞬間、一筋の雫が頬を滑り落ちた。自分でも意識出来ない程自然と流れ落ち、それを見た彼の緑の瞳は大きくなり、突然彼の長い指が強くわたしの指を握りしめる。そして、そのまま彼は歩きだしホールの外へと向かった。わけも分からず彼の後ろを小走りになりながらついてゆく。表情の見えない彼が何を考えているか分からなかったけど、涙は止まる事無く零れ落ちる。そして最後着いた場所。大きな中庭の隅にある小さなベンチ。ふわりとそれにすわらせられ、手を離す事無く、隣には彼が座る。涙は止まらない。
そして、沈黙。それをやぶったのは…。
4
:
◆rpPcEsu/EI
:2011/02/17(木) 00:05:48
「ふぅ…Dahlia、どうしてそんなに泣いてるんだ。」…彼。
「……っ……」
「……Dahlia、言葉にしなければ分からないだろ?」
なんて言葉とは逆に、ゆっくりと自分の仮面と私の仮面を取り優しくあの頃の様に頭を撫でてくれる。それに余計涙が出たけど、私はゆっくりと口を開いた。
「……だって……、メドは……」
「私はなんだ?」
「メドは…わたしが他の人と踊って…いても……平気そうでしたから……。」
撫でていた手がふと止まり、一度涙を零しながらも彼の顔を見上げると、彼の頭の上には大きなはてなマークが現れていて、不思議そうに私の顔を見つめていた。
「何をいってるんだ?……舞踏会はいろんな人と踊る場所であろう。好きも嫌いもないだろう。」
「そうですけれども……!……もうメドなんか……知りません…っ……!」
そういって勢いよく立ちあがりその場を後にしようとした瞬間。わたしはなにか強い力にひっぱられ、つぎに気付いた時は彼の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「……だからと言って、わたしから逃げても変わらないだろう。お前が泣いていた本当の理由きちんと教えてくれ。」
「…………メドが…他の人と……おどってる……のが…」
「ん?なんだって?」
キョトンとした声が耳に届く。ここまできたら観念するしかないようだ。
「…だから、メドがわたし以外の人と踊ってるのを見るのが、嫌なんです…!」
こんな声久しぶりに出した。そう思えるぐらい大きな声を出す。ここまでわたしの顔は涙を流しながらも赤くなっていた。後ろから抱きしめられていて良かった。こんな顔彼に見せれるわけがない。
「………っ…Dahlia…それって…。」
「そうです…、どうせ、一方的な嫉妬心ですわ…!あなたが…他の女性に惹かれて行くのが怖くて…寂しくて…。」
あれほどの事を言ったのに彼は何も反応しなかった。こんな子供の様な事をいってしまって嫌われしまったのだろうか。呆れられてしまったのだろうか。ゆっくりとわたしをだきしめていた腕がほどけて行く。
「……メ……ド…?」
不安げに眉を下ろしながら身体ごと彼の方を向くと、彼は口を片手で覆いわたしの目から瞳をそらしていた。頬はわたしと同じように桃色に染めていた。それでも彼は私の手を握り、恥ずかしそうに口を開いた。
「……すまん、Dahliaがそんなこと思っていたなんて…嬉しくて。」
「嬉しい…?嫌じゃないんですか…?」
次はわたしがあたまにはてなマーク。こんな醜い好意が嬉しいだなんて思いもしなかった。
「嫌なんかじゃないさ。」
「どうして…?こんなに醜いのに…!」
思わず大きな声を出してしまう。いつの間にか涙は消えていた。そんなわたしのすがたにも彼はにっこりと微笑みもう一度私の頭を撫でた。優しく、ゆっくりと。それだけで思いが伝わってくるような。
「―――――――。」
「……っ」
目の前に見えたのは貴方の優しい微笑み。そして唇に触れた柔らかい感触。
嗚呼、時間が止まってしまえばいい。そう思えた。
( C'est une histoire secrete de deux personnes…..xxxx)
:
5
:
◆rpPcEsu/EI
:2011/02/17(木) 00:06:35
(PL/ど う し て こ う な っ た 。
すすすすすすすすいませんorz視点がくるくる変わってしまったし台詞の苦手さが表れすぎてるorzとりあえず、この時代の雰囲気だけでも伝わればと…!!!←
そして文字数が多いために微妙な分割になってしまいました><見にくくなってしまって申し訳ないです…orz
>>メド様本体様
今回は許可を頂きありがとうございました^^これからも本体やダリアの事をよろしくおねがいします!色々と内容が変化してしましてすいませんorz
それでは、「ロートシルト継承戦争」から失礼いたしました)
10
:
名無し
:2012/01/16(月) 09:01:52
支援あげ
11
:
××
◆KGqWMK2Fbo
:2012/01/19(木) 07:15:05
(p.若干グロテスク?な描写がありますので苦手な方は回避を推奨致します。)
びゅうう、と自分の耳元で風を切る音が聞こえる。
かなりの速度で落下している筈なのに、男にはどうにも時間と風景がゆっくり流れていくように見えて仕方がなかった。
――ああ、そういえば、人間は死に直面すると時間がゆっくりと流れているように感じるんだったか。確かにその通りだな、と雨に打たれながら落下していく男は心の中で笑う。
瓦礫が小石のように見えていた地面に直撃するまで後、数秒。
目を閉じて、頭が砕ける感覚に身構えて――。
それはいつまで経っても訪れなかった。
男は自分が雨に打たれる感覚も、落下していく感覚も、何も感じていない事に気付く。
もしかして死ぬ直前の痛みさえ感じずに死んだとでもいうのだろうか? 確かに飛び降り自殺では地面にぶつかる前には意識を失っているらしいが、これが“死んだ”ということならば随分と呆気ないものだ。
目を開いている感覚はない。それはつまり目を閉じているということなのだが、もし本当に死んだというのならば身体はない。魂が云々幽霊が云々を信じている人間ではなかったが、万一にも死んだ後でも意識があるのならば、自我を保っていられるのならば魂は存在するのだろう。
男は“目を開く”と念じてからゆっくりと瞼を持ち上げた。
そこは四方八方全てが真っ白い空間だった。床も天井も壁も何もない、だから“空間”であるのだと男は理解する。それと同時に、一応は自分の姿がまだ保てていることも理解した。
自分は確かに二本の足で立っているのだが、立っているという感覚が感じられない。
ついでに言えば雨に打たれていたはずの自分の身体も軍服も全く濡れていない。自分の部屋に置いてきた筈の二振りの長剣も腰にある。そう、正に今まで通り普段通りの出で立ちで男はぐるりと辺りを見回した。
「…………ここが死後の世界なら、退屈だな」
掠れることもなく普段通りの声が出て思わず苦笑する。
ああ、退屈だ、こんな世界が死後の世界だというのなら退屈だ。もしも死後の世界に行けるのならば自分は自分が殺した人間達に罵詈雑言を浴びせられて死後の世界でもずっと苦しむとばかり思っていたのに。
くすくすと肩を震わせて笑い、そっと首に手をやる。指先に触れたチョーカーの感触に一度は触れた手を離し、手を下ろした。
12
:
××
◆KGqWMK2Fbo
:2012/01/19(木) 07:15:43
さて、死んだなら死んだでいいのだがこの後はどうするのか。このまま一生――死んでいるのに一生も何もないが――ここで過ごすのはごめんだ、と心の中で呟いて、兎に角身体は動くらしいからと一歩踏み出した時だった。
「シン」
後ろから呼び止められ、踏み出したばかりのシンの動きが止まる。
これが自分の知るどちらかの誰かに呼び止められただけならまだよかった。もしも呼び止めたのが忌々しいbehyの誰かだろうが、gaolの誰かだろうが、自分にチョーカーをくれた彼だろうが、自分に顔を見せてくれた少女だろうが、自分を拾ってくれたボスだろうが、今は誰でも安堵の溜め息を吐けただろう。
しかしそんな希望など、この空間では全く意味を成さず。
「シン」
再び名を呼ばれる。その瞬間にどくんと一際大きく心臓が脈打って、シンは肩越しに背後を振り返った。
淀みきった緑眼が自分を呼び止めた人物の姿を捉えて大きく見開かれる。
細身の体躯に黒い軍服を纏い、鞘から抜かれた一本の長剣を肩に担ぎ、まとめることなく垂らした長いシャンパンゴールドの髪。
まだ光を失っていない翠玉の瞳と淀みきって光を映さない緑眼が合わさる。
「――タナトス、」
まだこの世界は終わっていないと、この世界を守るのだと、そしてこれが“正義”であると信じてやまなかった頃の自分自身の名を口にする。
本当に命を落としたというのならば、こうして過去の自分と相対することも可能なのかも知れない。まだ自分が生きているというのなら、これは質の悪い悪夢か。
ただシンからしてみればそんな事はどうでもよかったのだ。
今まで自分を苦しめてきた相手が目の前にいる。自分を追い詰めた相手が目の前にいる。自分が憎んだ自分が目の前にいる!
憎い、恨めしい、妬ましい、羨ましい、戻りたい、様々な感情が荒れ狂う自分とは裏腹に微笑を湛えたままの自分(タナトス)の姿を見て、気付けばシンは無い筈の地面を蹴っていた。
武器である長剣の柄に手を掛けて引き抜き、右手に持ったそれを渾身の力で切り付ける――否、叩き付ける。
当然その攻撃はタナトスの持つ長剣に防がれて、辺りに耳障りな金属音が鳴り響く。同時に散った火花と剣の鈍色越しに光を宿す緑を見てシンは舌打ちした。
――いつだろうか、自分がアイツの眼に映るような意志を忘れたのは。
そんな事は決まっている、“あの時”だ。伸ばした手を穢らわしいと言わんばかりに振り払われたあの日だ!
ぎりぎりと鍔迫り合いの状態から互いに剣を弾き、ある程度間合いを持ってから再び駆ける。タナトスの首を切り落とさんばかりに剣を横に薙げば彼はその場から下がり回避する。その瞬間に捉えた金糸が数本宙を舞って掻き消えた。
シンがタナトスに幾度剣を振るおうが彼はそれを呆気なく防ぎ弾き返す。だがそれだけだ、タナトス自身は幾ら攻撃を仕掛けられようがシン自身に明確な敵意――或いは殺意を持って剣の切っ先を向けることはしない。
それがまたシンの癇に障る。
自分はこんなにも苦しんだのに、苦しんでいるのに、痛いのに、いたいのに、いたいのに、コイツは何も感じていないのか、と。
「……オマエの所為だ……」
最早子供のようにがむしゃらに向かっていっては闇雲に剣を振り回すだけのシンの唇からぽろりと零れる。
その声にタナトスはぴくりと眉を動かすだけで特に何か言うわけでもない。彼はシンの名前を呼ぶだけで特に彼を叱責するでも、嘲るでも、それこそ慰めもしない。
13
:
××
◆KGqWMK2Fbo
:2012/01/19(木) 07:16:27
ギィン、と耳障りな金属音を聞きながら、シンは再びタナトスへと剣を振り下ろした。
「オマエの所為だ、タナトス!」
剣の柄を握る手に力を込めて、更に剣を押し付けながらシンは腹の奥から絞り出した。
その声が微かに震えていたことに気付けたのは一方的に責められるタナトスだけ。
「オマエがあんな事をしなければ、オレはこんな思いをしなくて済んだんだ!」
それはあまりにも身勝手な言い分。彼が自分であると意識の根底では理解している以上、それは自責と後悔がぐちゃぐちゃに混ざり合った“自己嫌悪”でしかない。
仲間だと思っていた部下や上司から捨てられて、沙だらけの地面を這いずり回って、飢え死にしそうになって。そんな事になったのも、全部全部、全部、
「オマエさえ、……自分(オマエ)さえ居なければ、オレはっ!」
未だ腰に差したままの二本目の長剣の柄に手を掛ける。どこか悲しげとも取れる表情でシンの声を聞いていたタナトスはそれに気付くのが一拍、遅れた。
その間に黒い鞘から剣が引き抜かれ、光源が何処にあるかも分からないこの空間でも鈍く光を反射する刃がタナトスの脇腹を深々と貫いていた。
「ッ……!」
タナトスの、自分と全く同じ筈なのに全く違う顔が苦痛に歪む。その表情を見てシンはにやりと口許を歪めて嗤ってやった。
彼の身体がぐらりと傾いたところで剣を捨て、その胸倉を掴んで押し倒す。
細身の身体を貫通した剣の切っ先は本来であれば地面を抉るだろうが、生憎この不可思議な空間ではそれもなく。確かに刃物が刺さっているのに血が溢れることもないこの光景は些か不気味でもあったがそれを気にする余裕は互いに無かった。
馬乗りになる形でタナトスの胸倉を掴む手に力が籠もる。
「オマエ、が、…………っ?」
だが何度口を開いても、シンの唇から何かの言葉が出ることはなかった。まるで声帯が痺れたかのように、言うことを忘れてしまったときのように、ただ声にならない吐息だけが漏れていく。
オマエの所為だ? 違う。
オマエさえ居なければ? 違う。
オマエが死ねばよかった? 違う。
自分の所為だ? 違う。
自分さえ居なければ? 違う。
自分が死ねば良かった? 違う。
なら、答えは――。
そこまで考えて、不意にシンの身体に衝撃が走った。
14
:
××
◆KGqWMK2Fbo
:2012/01/19(木) 07:16:56
タナトスの持つ長剣がシンの腹部を貫いていた。自分がタナトスにしたように。今までどれだけ攻撃を防ごうと自分から仕掛けては来なかった彼の一撃に、シンは息を詰める。
軍服の襟を強く掴んでいた手からも徐々に力が抜け、最後まで何かを言おうと中途半端に口を開いたままでがくりと身体を崩れさせた。
仰向けに倒れる自分に凭れ掛かるように崩れるシンの身体に両腕を回して支え、タナトスは上体を起こした。
「――そうだ、オレの所為だ。それでいい」
噛み締めるように口にして、ぴくりとも動かない自分(シン)の身体を抱き締める。
「それでいいんだ」
呟くように言い、罪悪の名を持つ男の腹に突き刺さったままの剣を引き抜く。それでも血は一滴も流れずに、更に言えば身体に風穴が空くことも、軍服に穴が空くこともなかった。
剣を適当にその場に放り投げて、タナトスはぐったりと力を失ったままのシンの腕を自分の肩に回し、もう片方の手で支えて立ち上がる。
そこで漸くこの空間特有の気持ち悪い痛みに慣れたらしいシンがゆっくりと顔を上げた。
くすんでしまった翠玉を見て、タナトスは微苦笑を漏らした。
「…………全部、全部、オレが責任を持って持っていく。だからもう、オマエが苦しむ必要はないんだ」
「……っ?」
言葉の意味が汲み取れずにシンは思わず眉を顰める。
だがタナトスはその意味をわざわざ説明するでもなく、シンの背中に片手を回した。
「オマエは生きろ」
告げられた言葉に眼を瞠る。と、同時にふわりと感じた浮遊感。
突き飛ばされたのだと直感的に理解できた。今まで自分の足で立てていた筈の白い空間から落ちていく。
「――タナトスッ!」
今まで力なく下げていた手を伸ばした。
邪魔で憎くて仕方がなかった“自分”を求めて手を伸ばしたのはこれが初めてだったかもしれない。
「さよなら、シン」
/
15
:
××
◆KGqWMK2Fbo
:2012/01/19(木) 07:23:55
(p.全部sageで投稿するつもりが最後の最後で上げちゃってほんのり涙目、「青空の無い街」よりシンことTの本体です。復活したので(という割には結構遅れましたが;)少しばかりシンの飛び降りた直後のお話を。
色々解釈というか、読んで下さった方々のご想像にお任せしたい部分が御座いますので結構綻びだらけとは思いますがUPさせて頂きました。結果としては頭を強打した事による衝撃もありますがシンの中に残っていた“タナトス”の自我が苦しむシンの記憶も一緒に持っていった、という何だかスピリチュアルというかファンタジーな感じですが……だからきっとTの中には既にタナトスは居ないのでしょう。
これからも本スレで頑張っていこうと思いますのでよろしくお願いします。
それでは、失礼しました。)
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