(コツ、コツ、とまるで彼を急かす様に態とブーツの甲高い音を鳴らしながら紅い絨毯の上を進む。壁に掛かる高貴な調度品達を横目に見る振りをしつつ、鏡に映された我が執事の姿を確認すると喉奥を響かせる様な奇妙な笑い声を零した。暫くして客間に着き、客人を椅子に座らせてから己の専用となっている白と金と赤で彩られた椅子に腰を降ろす。調度良いタイミングで部屋に入って来た彼、其の様子を横目に口端のみ吊り上げた微笑を浮かべてはテーブルに置かれたカップを手に取った。普段の御茶よりは控えめだが甘ったるいバニラの香りが鼻を擽る、左手でカップを手に持った侭ふと右手を見遣ると彼の手が重なっていて、床に跪く姿を当然の様に目を細めて見据える。如何なる時も忠実に、自分に従い、そして離れない。そう訴える様に。先程首を絞めてしまった事を少しだけ、――少しだけ後悔した。歪んだ彼の表情が脳裏に浮かぶ、自分が恐ろしい。そんな歪んだ彼の表情でさえ愛しく、もっと壊したいと願ってしまうのだから。きっと狂気に踊らされている己には゛普通゛の愛を彼に捧げる事は出来ない、いつまでもああやって彼を傷付けて、貶めて、苦しめて、…そんな愛でしか。今直ぐに謝罪の言葉を零して、痛かっただろうかと問えたら、優しく抱き締めて遣れたら。けれど己はそんな術は知らない。…呪文の様に、誓いの様に紡がれる言葉をひとつひとつ胸に刻みながら、そんな思考を続けていた。ふわり、そんな表現がぴったりな程に柔らかい口付けを手の甲に落とした彼。ふと思い浮かぶのは結婚式の誓いの口付け、まるで…、そう思考をして珍しく柔らかな微笑を浮かべては何事も無かったかの様に左手に持つカップを口元に運ぶ。少し冷めてしまった紅茶も嫌いでは無いが、味を楽しむ程の余裕などある訳も無く。暫くしてカップから口を離すと、それをテーブルへと再び戻し、横目に彼を見遣る。客人の手前、可愛らしいもうひとりの自分を演じなくてはいけない。其れは今の状況からすれば好都合かも知れない、そう考えれば、そっと穏やかな手付きで彼の両手を自らの両手で包み込んだ。割れ物を扱う様に、大切に。きっと本当はこうやって扱いたかったが裏の自分では駄目だ、出来る訳が無い。包んだ手を引いて自らの身体に抱き寄せれば、静かに耳元で偽りにも事実にも取れぬ口振りで言葉を紡ぐ。揺れる青い眸は何処か悲しげで。だけど其れで居て切なげに、そんな風に彼を見据えると優しい口付けを彼の額に落とした。)
une promesse.…Ne le trahissez pas.――、お前は僕だけの物だ。そして、其れに因って僕もお前の物だ。…だから、僕を独りにしないで。お前だけはずっと僕の傍に居て。C'est un ordre.
78:Loit de Claude-Michel(遊びに来る者2) ◆2PNMI1qvac:2010/10/25(月) 00:05:24