(痛い。痛い。耳が痛くて痛くて仕方がない。そんな錯覚を覚えてしまう程の甲高い耳鳴り、そんな耳鳴りを起こしてしまう程の静寂。風さえ吹かず、自分のマントが空気を孕み揺れることもなく、ただただ揺れもせず鏡のような水面を保ち続ける湖に、視界に黒く線を引く髪の毛の隙間から視線を注ぐだけ。その紅い瞳をどこか陰らせて、端から見れば白けた視線のようにも見え、泣きそうにも見え、光がないようにも見えた。湖の水面を見ているんじゃない、その奥、もっと奥底に眠る――。一度会っただけで武器を向け合った彼女は、今この底で目を閉じているのだろう。もしかすれば、その口許には変わらぬ笑みが浮かべられているのかも知れない。別に自分に行動を咎める権利はない。咎めるつもりもない。ただ少し我が儘を言うのならば、自分の手で最期を迎えさせて見届けたかった。もうあの金色の髪も、人の命を刈り取り続けるチェーンソーも、その音も、自分の目には映らないし鼓膜を震わせはしないのだ。その事実は重く、だがそれでもストンと心の中に、最初から用意していたかのような隙間に静かに収まる。最初の戦慄はどこに行ったのか。それすら最初からなかったよう。それがまた不可解で、疑問で、恐ろしい。自分はこんな末路を予想なんてしていなかったのに。まるで予想していたようじゃないか。あの時だってそうだった、自分の大切な人が死んだって自分は涙を流さない。否、もしかすれば既に泣き方なんてものは忘れてしまったのかも知れない。だってこんなに胸の中は様々な感情がせめぎ合っているのに、それが言葉にも涙にもならないなんて。悲しみ怒り戸惑い恐怖哀れみ、訳の分からないものばかりだ。――ああ、自分にこんなものは似合わない。普段通り、今まで通り、「馬鹿」なんて吐き捨てて嘲笑ってやればいいんだよ。それで。それでいいのに。何なら今から自分が底に潜って、彼女の招待状を奪ったって。彼女のxを奪ったって。……それがどうしてもできない自分は、やはりただの人間らしい。だからさいごに、死神に憧れる凡人である自分から“彼女ら”に最後の手向けを。花束の一つも用意できない人間で悪いけど、これが一番自分らしい。人数分のタロットカードを取り出し、一度三日月の光に透かすようにして見る。刷られた絵柄は相変わらず。黒いローブを身に纏う骸骨は鎌を持って笑う。自分はそうなれない、憧憬を抱くしかなく、それでいて、無力だ。指を離せばその紙切れはふわふわと不規則に舞い落ち、水面に落ちてやっと湖の水面に波紋を生んだ。このカードが水底に届くことはないのだろう、それでもいい。だから、自分はもうこの言葉を贈って、この場を離れよう。開いた唇が、出した声が震えていたことに気付かない。気付けない。血のように赤い瞳を濡らし、視界を歪ませるそれにも気付かなかった。――“You must have the saving grace of God of death”、どうかあなた方に、死神様の御加護がありますように。)
(p:お久しぶりです。久々にこのスレに顔を出して驚きました。ソロルを書くのは初めてで、下手な文章ですがお別れの言葉と受け取って頂ければ…。少ししか絡むことが出来なかった上に無愛想な狼でありましたが平八様との少ない会話、そして雰囲気楽しくて嬉しかったです。平八様の存在は忘れません。お疲れ様でした、そして本当に有り難うございました。 Dark Wolf本体)
あの時投函したのは自分の招待状で、それは恐らく主催者からすれば“紛失”と処理されることだろう。そうなれば案内人達が自分を始末しに来るのも容易に予想できる。それを知っていてあんな事をしたのは、何とも言えない。ただ、この場にいるのは自分ではなくても良いのではないか。そんな感情に、あの時のdoll共々囚われただけなのだが。だから出来る限り自分のことを知らない人間ばかりの居る地域にまで逃げてきたわけだが。逃げるなんて馬鹿馬鹿しい。そう思えば、彼女の声が聞こえたような気がして。恐らくこんな姿を見られたら、彼女には叱咤されてしまうだろう。ああ、それも悪くない。悪くないよ。――でも、今更戻ることは出来ないから。だから今はひとまず姿を眩まして、さよならしよう。dollも便利屋も情報屋も王族も死神も、皆が同じ思考で繋がっているなんて彼には想像も出来なかった。――“You must have the saving grace of God of death”、どうかあなた方に、死神様の御加護がありますように。更にそれに続けてタロットカードの下に書き込んだ自分の言葉を載せる。自分を忘れないで、と虫の良い言葉を。そして、最後に。
――綾織史乃様。貴女に俺の全てのxを委託する事をお許し下さい。
どうか生きて下さいなんて言葉が似合わないのは言われなくても解っているから、せいぜい笑っていて下さい。
I Lave Youなんて台詞は言わないから。 ――Arshilat=Sarasvaty)
>>104 Dark Wolf
(手の中にある新作のバーガーの美味しそうな香りに鼻をヒクヒクとさせる。あの大混雑の中で手に入れたのだからこでなくちゃ困る。大口をあけようやく舌が待ち望んでいたものを頬張ろうとした瞬間、誰かの足音と何かを引きずるような音に気がついた。しかもだいぶ近い。自分自身が周囲の物事の察知能力が低いのは理解しているがここまでの接近を許してしまうなんて。どうしようかと考えている間もなくその男は柱の影から現れた。人形を愛おしそうに抱くその姿にきょとんとしてしまうが、彼の口にした情報を耳にした時、あの時この場所で体験したあの感覚が蘇るようで心臓がバクバクと音を立てた。すっと立ち上がると心音を隠し子供っぽい笑みを浮かべて言葉を発した。)
んー、お兄さん!そんなことよりさ!ここ爆弾魔がでるらしいから気をつけた方がいいよ!
(pl:絡みありがとうございます!子供っぽい男ですがよろしくお願いします^^)