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アニメキャラ・バトルロワイアル3rd Part21

1管理人◆4Ma8s9VAx2:2015/03/15(日) 20:21:03 ID:???
アニメキャラ・バトルロワイアル3rdの本スレです。
企画の性質上、残酷な内容を含みますので、閲覧の際には十分ご注意ください。

前スレ
アニロワ3rd 本スレ Part20
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13481/1336833730/

まとめwiki
ttp://www29.atwiki.jp/animerowa-3rd/

83ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:22:03 ID:fxNQ5zpc



/アリー・アル・サーシェス






罅割れた眼球が俯瞰する。



窓ガラスの全て割れたオフィスビルの屋上の柵に、その肉体は引っかかっていた。
色々な部分の欠けた体で、動いているのは眼球のみ。
視線の先には、歌い続ける小さな女神があった。




―――あーあ、もう終わっちまう。




そんな諦観と少しの落胆を滲ませながら、それでも彼は愉快気に。
既に上半身しか残っておらず、もうじき死する定めとしても。





―――だが、まだ、終わってねえ。




踊り明かした戦いの最後を見つめていた。





―――ああクソ、なんかよく視えねえな。




血が零れる。
意識が抜けていく。
歌声なんて、とっくに聞こえなくなっている。


それでも、もう少しだけ見せてくれよと。
彼は楽しそうに、声をかけた。


「なあ、おい、テメエもこっち来て観てみろよ」




傍らに近づく、誰かの足音へと。




「今回最後の戦争だ。フィナーレだぜ、切ないねぇ………」











◇ ◇ ◇

84ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:23:52 ID:fxNQ5zpc


/両義式



僅か、聞こえる歌声に、目を覚ます。


体の感覚がほとんど死んでいた。
視力と聴力以外、何も残っていないくらいに。

仰向けに寝転がったまま、見上げた空は泣いていた。
まったく、空が泣いている、だなんて、
陳腐な表現がこれほど当てはまる場面もそうそうない。

ただし泣き方は、よく言われているものと違っていたけれど。
哀しさを振り絞るような悲哀(あめ)じゃなく。
ぽろり、ぽろりと、懐かしむような、あるいは別れを惜しむような、哀切(ゆき)の空。

天頂を中心に、私に視える『線』は広がって、空を覆う。
真っ白を引き裂くように、黒い亀裂が広がっていく。
まるで、世界そのものが死に往くように、際限なく。

それがなんだか、少し嫌で。
黒線のない、純白の空が見てみたくて。

そこで私はふと思う。
私は今までどうやって、この黒い線を視界から消していたのだろうか。

分からない。
分からなくなっていることに、今更になって私は気づいた。

今までの私は、いったい何を、観ていたのだろうか。
一体何を、達観していたのだろうか。
此処まで来て、今更、見失って、しまった。

視る事も叶わなかったアイツの死。
視る事になった、誰かの死。

ずっと、この場所で感じてきた、やけに重い死のように。
天頂に広がる死線はハッキリと感じられて。

なんだ、ばかばかしいくらい簡単なコトだった。
ああ、死はこんなにも、重く切ない。
いつの間にか、無視できない程に、私はそう捉えてしまっていた。


「―――お前は、いくのか」


私は眼を閉じて、傍らへと声をかける。
いましがた、立ち上がったばかりの誰かに。


「――――そう、か」


閉じた視界に映るのは誰の死でもない、微睡。
耳に入るのは返答の声と、遠ざかっていく足音だけ。

もう、空の死は視えない。
響く歌は、聞こえない。








◇ ◇ ◇

85ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:27:05 ID:fxNQ5zpc



/阿良々木暦




―――歌が、聞こえた。



雪と共に、風に乗って届られる。
それは悲しい歌だった。

外国の、それなりに有名な、僕ですらきっとどこかで聴いたことのある曲。
日本語じゃない歌詞の意味は、良く分からなかったけれど。
少なくともいま聞こえるこの歌は、なんだか哀しくて、切なくて。
胸を締め付けられるような切望の込められた、そんな歌だと、僕は思った。

分からない言の葉の、意味、だけど分かることが一つだけ。

この歌は、呼んでいる。
僕を、僕たちを、この世界に未だに残る、生きた者達を。
生きるモノ達が運んできた、願いの訪れを待っている。
だから、行かないといけない。

幸い歌声はそう遠くない筈だ、ほんの少しの距離を歩いて、たどり着くだけ。
特別な力なんて要らない誰にだって出来る簡単な、
たったそれだけのこと、なのに……どうして……それが、こんなにも難しいんだろうか。

「――――――」

視界いっぱいに広がる、漂白されたような空から、雪が降りてくる。
言葉すら、もう発することが出来なかった。
痛みを感じることも無い。
あり得ない程の寒気が、体を覆い尽くしている。
僕はいま、いったいどんな状態になっているのだろう。

身体が動かない。
砂利の下に埋まっている両足の感覚が、酷く鈍い。
投げ出したような右腕はもう、ピクリとも動かない。
だから唯一動いた左の方で、

「―――――――」

ひ、ひ、と。
勝手に喉が鳴っていた。
自分の身体なのに、一瞬あまりの重さに気が遠のいた。
何度も何度も、左手を地面に叩き付けるようにして、無理やり上半身を押し上げる。
口から勝手に、涎なのか血なのか良く分からないモノがダラダラと流れ出てみっともない、けどそのままにする。

「………ぎ……ぅ」

ひゅーひゅーと。
過剰なまでに息を吸い、嘔吐するように吐き出す。

まだ、だ。意識を、手放すな。
まだ僕は、立ち上がってすらいないのだから。


歌は、今も聞こえている。
聞こえている。
だから、聞こえなくなってしまう前に――――

「お……ォ……おおおお……アァ……………っ」

漸く、悲鳴以下の呻き声を混じらせて、僕は重たい全身を持ち上げる。
砂利に埋まった二本脚を引き抜き、自分の足で、地面を踏みしめ。
ついでに辺り一面に、血反吐をぶちまけながら。

――――嗚呼、よかった、まだ、下半身、付いてたんだ。
なんて、迂闊にも安堵したのが、どうやら失敗だったらしい。

「――――――――――ぁ――――――れ?」

ゆっくりと全身を回っていた血が、急激な運動によって薄れる。
すっと意識が遠のいて、脳味噌がカラになったような錯覚を知る。
ああ不味い、これは駄目だ、なんて思った時には遅かった。

86ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:29:43 ID:fxNQ5zpc


身体のコントロールを失って操縦不能、前後不覚に陥る。
ふわりと気持ちが軽くなり、抱きしめられるような優しい微睡に引き込まれる。

明滅する視界の中で、僕は理解した。
このまま倒れてしまえば、二度と立つことは出来ないだろう。
分かっていた。
けれどもう、どうしようもなかった。既に傾いた体は、倒れるまで止まらない。

最後の瞬間。
僕の頬に、雪が落ち、溶けて消える。
同じくらい簡単に、意識は溶けていく。
耳に響く歌声が、願いを呼ぶ声が、ゆっくりと遠のいて――――




「――――約束」



こつん、と。
今にも倒れそうな重たい体が、誰かに支えられるのを、感じた。


「……約束、しましたよね」


寄りかかる、柔らかなもの。
血まみれの手を握る、暖かさ。
漂白された視界の中で、誰かが、傍にいるのを、感じていた。


「――――ぁ」

意識が帰ってくる。
視界が戻ってくる。
感覚すら思い出す。

真っ白い空の色。
降り積もる雪の感触。
瓦礫の絨毯の硬さ。
視界を流れ過ぎていく、亜麻色の髪。

「……手を……引いて、くださいよ……」

そして、ほほえみ。
抱きしめるように、僕の肩を支える少女が、そこにはいた。

87ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:31:11 ID:fxNQ5zpc

僕に負けないくらい、ボロボロの有様で。
やっぱり、立ってるのが精一杯な状態で。
それでも尚、彼女は微笑んでいた。

微笑んで、言った。
ほら、約束を果たして、と。
待ち望んだ時に、心を弾ませるように。

「人は、誰も救えない。助けられない。
 自分で助かるしかない……ですよね……」

「……ああ、そうだ…………」

僕たちはどうしようもない他人で、別々の物語だ。
救う事も、救われることも出来はしない。

「だけど」

そう言った彼女の手は、僕の手を握っていた。
今だけは、隣り合う僕らは、同じ物語の中にいた。


「『助け合う』ことなら、出来ませんか?」


彼女の肩が、僕を。
僕の肩が、彼女を。


「私にも、引かせてください。あなたの手」


互いの身体を、支えている。


「私の重さを少し、預けます。
 だから私にも、あなたの重さを、少しだけ、分けて……」



支え合っている。



―――Come with Me.



魔女の歌響く空の下。


「約束です」


自分の歌を誇らしく唄うように、平沢憂は囁いた。



「ああ……一緒に、行こう」


今こそ、約束を果たそう。
僕もまた、握り返す。彼女の手を。
すると感覚の鈍い足に少しずつ、血液が巡る、力が籠る。

僕たちはどうしようもない他人で、救えない愚か者で。
お互いの思いを背負う事なんて、結局最後まで出来はしなくて。
だから出来た事は、重さに倒れそうな互いの身体を、支え合う事だけだった。

血だらけの手を握り合う、熱が。
隣にいる誰かの存在が、その小さな一歩を可能にする。

耳に聞こえる歌を頼りに、終わる世界を歩んでいく。
重い体、一人じゃ立てない足。一人じゃ進めない道。
それでも、誰か、隣に居てくれたなら。
まだ、頑張れる。重さを分けあって、足はまた動き出す。


そう遠くない、むこう側。
目の前に、辿り着くべき場所が、在った。
瓦礫の上で、一人、瞳を閉じたまま、歌う女神の姿。

「……行こう、か」

きっと、その時、僕は初めて口に出していた。
僕の思う、この物語の結末。
僕の望む、どうしようもなく、救えない最後のカタチを。


「バッドエンド、目指して―――」


数十メートル先、雪降る世界の中心に立つ者。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
白き聖杯。真なる奇跡。懸ける願い。


―――――その終点の、目前。

88ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:32:56 ID:fxNQ5zpc







銃声が鳴った。





「………………が……っ!?」



腹部に直撃した圧力に、体が崩れ落ちる。
僕という支えを失った事で、平沢もまた倒れていくのが見えた。

熱が、全身を支配する。
平沢が与えてくれた物とは違って優しいモノじゃない。
これは忘れかけていた『痛み』、生命の危険信号。
数発の鉛弾が体内を抉り、抜けていくのを感じる。

全身が痛すぎて、何処を何発撃たれたのかも分からない。
だけど、いずれにせよ、既に血液は流し切った。
半吸血鬼の再生能力は、今やまるで働いていない。

全身からドクドクと血が、流れ続けている。
確信する。僕は、殺される。
今度こそ、今度こそ、死は、避けられない。


「……………お……まえ……」


大量の血を吐き出しながら、崩れ落ちていく僕は、見た。
あと残り、たった数十メートル先にあった到達点。

歌う女神。白き聖杯。真なる奇跡。
その終点の、目前にて。


一人の少女が、立っていた。
身に纏うスクールブレザー、揺れるスカート、胸元には青いリボン。
そして、風に靡く、長い黒髪。

聖杯の前に、立ちはだかるように。
自らの願いを、守るように。
僕の、阿良々木暦の、最後の敵として。



――――そこに、秋山澪が立っていた。










◇ ◇ ◇

89ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:35:59 ID:fxNQ5zpc



/秋山澪






歌が、聞こえている。



『僕の願いは――――』



認めない。
絶対に、認めるわけにはいかない。
そう思った。

銃弾は、目の前の少年の胸を確かに貫いたように見えた。
まだ生きているのは不可解だけど、どっちにしても結末は変わらない。
彼は満身創痍、既に死に体に近い。もうじき、ぜんぶ終わる。

もう目の前に、奇跡はある。
あと、一歩なんだ。
あと、ほんの少しなんだ。
あと少しで、あと少しだけ頑張れば、全て戻るんだ。

全部を、取り返す事が出来るんだ。
奪われた全部を、失くした全部を、求め続けた日常を、もう一度手にとることが出来るのに。

なのに、なのに、なのに―――

「なんで……動かないんだよぉ……!?」

ようやく立ち上がった足は、ピクリとも動かない。
間隔がマヒしたように、進めない。
痛みに支配されて、思うように身体を運べない。

だったら地を這ってでも、あとほんの少しの距離をゼロにする。
泥だらけになるなんて、なんてことない。
だけどそれじゃあ遅いんだ。それじゃ、追いつかれてしまう。
挫いた足じゃ、追い抜かれてしまうと思ったから。

私の背後、近づいてくる人に。
目の前の奇跡を、私の願いを、壊されてしまうと確信していたから。
銃を向けるしかなかった。

「あ……ぎ……やまぁ……!」

彼の血液がポタポタと、地に落ちる。
雪に染み込んで、溶けて混じる。

「そんなになって……まだ……進むっていうのか……?」
「お互い……さまだろ……?」

ボロボロの身体を撃ち抜かれて尚、立ち上がり、進もうとする少年が、私を追ってくる。
血を流しながら、聖杯を目指して、進もうとしている。
どれだけ傷ついても、辿り着けるなら構わないと言うように。

「やめろよ……来るなよ……」

だから私はもう一度だけ、銃を構えた。

「どうして……?
 いいじゃないか……なあ、叶えさせてよ……」


――――阿良々木暦。


「嫌だね。僕は、この先に行く」


私は、彼の願望を知っている。

90ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:38:33 ID:fxNQ5zpc




聖杯に告げる祈りを知っている。
フレイヤを巡る戦いの中で、彼が私に告げたコト。


『僕の願いは――――――』

『だったら、私たちは……』

『ああ、宿敵って、ことかもな』


それは私にとって、最悪の願い事だった。
そして今、再度告げられたその、終わりのカタチは、


『行こう。
 バッドエンド、目指して―――』


―――私の願いを、破壊する。


握り締める、東横桃子が残した銃。
痛めて尚、酷使し続けていた左手首は、もう感覚すら残っていなかった。
それでも弾丸はあと一発だけ残っている。あと一発だけなら、撃てる。
例えこの先、一生、左手が使えなくなってもいい。

膝をつきながら進み続ける彼の頭部に、銃口を向ける。
彼を止める。例え殺すことになったとしても。

取り戻す、私は、此処で失った全部を。
それは絶対に失くしてはいけないモノなんだと、信じているから。
この願いだけはどうしても、誰にも譲ることが出来ないから。


だから―――




「私は認めない、そんな結末……!!」



放つ銃声。
最後の一射は私の左手を代償にして、阿良々木暦の眉間を、確かに捉えていた。













◇ ◇ ◇

91ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:41:05 ID:fxNQ5zpc




/平沢憂





歌が、聞こえる。


ふと、眼を開ければ、真っ白い空が一面に広がっていた。
はらり、はらりと、頬に降る粉雪。
なんとなく、いつかの、誰かの言葉を、思い出す。


『じゃじゃーん、ホワイトクリスマスだよ――――』


ああ、綺麗だなあ。
なんて、単純で、純粋なコトを、私は思った。
現実の景色も、連想される思い出も、こんなにも鮮明で、輝いて見えて。


「綺麗……ですね……」


隣にいる誰かも、同じ思いを抱えてくれていれば、もっと素敵だ。
違う誰か、違いすぎる他人、だけどこの一瞬でも、同じ気持ちで在れたなら。
それはどんなにも、幸せだろうか、と。

「ねえ、阿良々木さんも、そう、思いませんか……?」

「ばか……やろ……」

涙が、落ちてくる。
ぽたりぽたりと、胸元に雫が零れ、そこに在る紅いものと混じり合って、雪の上に落ちていく。
それは私を抱え上げたまま、必死に止血を施そうとしている、少年の嗚咽だった。

「ああ……そっか……私……」

やっちゃったなあ。
なんて、軽い感想を抱いた。

澪さんが、引き金を引く、瞬間。
手を伸ばしたのは、咄嗟に彼を突き飛ばしたのは、何故なのだろう。
それが何を意味するのか、分かっていた筈なのに。
だけど、いま、分かることがあった。

―――私は、また選んだのだ。

示された選択肢。
『夢』か、『命』か。
いつかは選べなかった、もう一つの選択を。

「どう……して……だよ……」

その声は、愕然とする澪さんが、発していた。

「どうして……どうして……なんでだよ! なんでだよ! なんで……ッ!」

僅かに首を動かして、彼女の方を見る。
涙を溢れさせながら、絶叫する、大切な人。
とても、とても、悲しい姿だった。

「ごめんなさい……澪さん」

あなたの願いは、決して間違いなんかじゃない。
失くしてしまったモノを、永遠に去った幸せな過去を、取り戻す。
取り戻したいと願うことを、誰が否定できるだろう。

「あなたは間違って、ないんです、だけど―――」

私の願いが正しいのかも、本当は分からないけど。
だけど、知っていて欲しい思いがある。
あなたの願いは、あなたの大切だった場所は、あなたの帰りたかった『過去(きのう)』は、きっと。


「それは、あなたにしか、見る事の出来ない夢だから」

92ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:47:10 ID:fxNQ5zpc



私は、違うモノを願ってしまった。
哀しい結末の、その向こうに。
それがどれだけ怖くて、永遠に消せない傷を抱えた日々だとしても。


何かが終わってしまっても、私達が続く限り、きっとまた始まりはやってくる。
私がここにいる限り、あなたがそこにいる限り、物語は始まり続けていく。
それを、教えてくれた人達がいた。



『俺はただ――が欲しかった。
 時を止めたくはなかった。
 そこに、その先に、続くものがあると信じたから』




―――ねえ、ルルーシュさん、私の王さま。
貴方の言葉が、今なら分かる気がするんです。


ふと昔の夢を見て切なくなる日があったとしても。
私たちが続く限り、何度でも、何度でも、違う願いを、新しい夢を、また見る事が出来る。
今ならそう信じられるから。


私はもう、昨日には戻れない。今日に留まることを選べない。
この先の、知らない景色を見てみたい。
大好きな人たちと一緒に。


たとえば、ほら、いま私の為に泣いてくれる人がいる。
隣にいてくれる人がいる。
この人を守れてよかった、この人を守れる『重さ』が私の中にあって良かった。
なんて、思える。そんな、新しく出会えた、大切な人と、一緒に。


もう一度、無我夢中に、一生懸命に、なれるものを見つけたい。
新しい景色、新しい大切、新しい胸満たすユメを探し続けたい。
それはまだ、ほんのささやかで、不完全な、だけど私の見つけた、私だけの夢だから。



ねえ、お願い、私も――――





「……私も……明日が、欲しいよ……」






◇ ◇ ◇

93ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:50:25 ID:fxNQ5zpc


/ALL LAST





それが最後だった。


「ばか…………それじゃあ……お前が死んだら、意味ないだろ……」


僕の握る手の平から、ゆっくりと力が抜けていく。
抱えた身体から熱が抜けていく。
最早、それは覆せない絶対だった。

「そう……ですよね……間違えちゃいました。……ごめんなさい」
「僕に謝ってどうすんだよ」
「ああ、そっか、私が謝らなきゃいけないのは……きっと、私に願ってくれた人たち……」

平沢憂は胸元を真っ赤に染めて、僕の手を弱々しく握っていた。
僕には、どうしても理解できなかった。

「なあ……平沢」
「はい」
「なんでお前……笑ってるんだよ……」

平沢の微笑み続けるそのワケが。
さっき言ってたことが本当なら、悔しくて悔しくて、堪らない筈なのに。
痛くて、怖くて、寂しくて、泣きだしたい筈なのに。
なのになぜ、こいつは僕に笑いかけるのか。

「だって、私が泣いたら、阿良々木さん、笑えないじゃないですか……」

彼女は言った。
笑っていてほしい人の前だから、私は笑顔でいます、と。

「……………」

「阿良々木さん、寒いんですか?」

「……ん、ああ、雪が降ってるからな」

「じゃあ、こうすれば――――」


―――それはいつか、大好きだった人が教えてくれた『魔法』です。
そう、少女は耳元で囁いて。

「あったか、あったか」

未だに残る彼女の熱を、抱きしめる腕に感じた。
ああ、全く、お前は、どこまで……。
本当に寒いのはお前の方だろうに。

「ああ、暖かいな」

「えへへ……」

密着した彼女の表情は、もう見えない。
耳元で聞こえる涙の音も、聞こえないふりをする。

「ああ、最後にこれだけは、伝えなくちゃ……」

だからその声も、本当は聞こえないふりをしたかった。
何処に通じているか、分かり切っているから。

94ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:51:53 ID:fxNQ5zpc


「阿良々木さん」

光の粒子が舞い上がる。島の各地から、それは発せられていた。
この小さな世界の中で、訪れた全ての死が、天に昇る。
空に広がる白き輪の内側へと消えていく。


「ありがとう……」


彼女の身体もまた、少しずつ、少しずつ、光の粒へと変わり―――


「怖いよ……」

「ああ」

「嫌だよ……」

「うん」

「それでも、あなたが生きてて、良かった」

「…………」

僕は叫びだしくなった。


「ありがとう。此処に、いてくれて」


何もかも滅茶苦茶に壊してやりたかった。
だけど壊すものなんて、この世界にはもう、ロクに残っちゃいなかった。
何もかも、とっくに、壊れていた。

「なん、でも……」

ああ、畜生。
馬鹿だ。
僕は、僕が一番の、大馬鹿だ。


「なんでも言えよ!! 何でもいいから、望みを言えよ!!
 僕が絶対に叶えてやる。どんな不可能な事でもカタチにしてやる、だから、だから――――」

「――――ああ、そうだ、ねぇ……阿良々木さん」

だけど、もう僕の声すら聞こえていない彼女は、最後に。
夢見るように呟いた。


「私……いま、新しい夢……見つかったんです。聞いて……くれますか……?」


小さく頷いた僕に、彼女は頬を寄せて。
言葉と、吐息と、握り締めた手のひら。
抱いていた熱が、同時に、霧散する。
ふわりと、少女は光の泡となって、空へと昇っていく。




――――それが、この世界における、最後の『死』、だった。













【平沢憂@けいおん!  死亡】







◇ ◇ ◇

95ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 03:59:03 ID:fxNQ5zpc



歌が、聞こえている。




僕は進んで行く。
たった一人で、足を引きずりながら。
這いずるように、みっともなく、恥をしらずに進み続ける。

身体はもう、滅茶苦茶に擦り切れていたけれど。
どうしてだろう、心がヤケに冷たくて、意識が鮮明過ぎるほどにハッキリしていて。
歩くことが、出来た。

「やめろ」

誰かの、声がする。

「やめろ、行くな」

追いすがる、声がする。
知らない。僕は、何も聞こえない。

何も拾えない。
何も、何も、救えやしないから。

「いかないで……」

何も出来ない僕は、誰も救えない僕は、だけど一つだけ、決めたから。
今だけは、今だけは、選択をしようと、主人公になろう、と。
そう、決めたから。



一歩ずつ、一歩ずつ。
誰かの切望を振り切って、僕は、たどり着く。
瞳を閉じたまま、歌い続ける少女のもとに。






白き聖杯。
世界の女神。
イリヤスフィール。
彼女の、肩に、そっと、血に濡れた左手を、置いた。


「―――――」


歌が、終わる。
ゆっくりと、少女は瞼を開き、目の前に立つ僕の姿を認識する。
そうして、一つだけを、問いかけた。






「それじゃあ、問うわ。
 ―――あなたの、願いを」

96ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:04:10 ID:fxNQ5zpc


その一瞬だけは全ての雑音が消去された。
僕の頭の内側を色々なものが物凄い勢いで駆け巡る。
ここで、在った。ここに、在った。それは全てだった。

愛していた人が居た。
大切だった人が居た。
ずっと、一緒にいたい人達が居た。

失くしたモノ、消えたモノ、悲しいモノ、痛いモノ、辛いモノ。

どれもこれも、取り返しがつかない存在ばかりで。
それでも取り戻したい、返してほしいと切に思えて。
もう、会えないなんて、耐えられなくて。

叫びたかった、喚きたかった。
全部、返してくれよと。
全部、元通りにしてくれよと。
だから、ああ、僕は、僕は、僕は――――


「僕の……願いは……」


僕の、阿良々木暦の願える思いは、ただ一つ。


「10億、足りる限り全部使う。
 ここでまだ、生きている全員、元の世界に戻せ。
 余りが出ても僕はいらない。それで終わりだ」


いつかの春休みと同じ、万人に平等なバッドエンド。


「――――――」


絶叫が、僕の背中を突き刺す。

「やめろ!」

それは少女の哀切で。

「やめてくれ!」

全く以て正当な怒りで。

「そんな結末は嫌だ!」

誰にも否定できない純粋な感情だった。

「嫌だ……嫌だ……そんな終わりは……認めない!!」


女神もまた、僕に告げた。


「あなたが望むなら、なんだって出来るわ。
 死者の蘇生もできる。たとえ根源に至れなくとも、使い切れない程の魔力がある。
 ――――なのにあなたは、何も望まないというの?」

そんな、優しい、言葉を。
優しい物語を。
だから僕はもう一度だけ、後ろを振り返る。
背後に立つ、誰よりも奇跡を切望する少女と向き合った。


「なんで……そんな……こと、願えるんだよ……」


秋山澪は、弾の切れた銃のトリガーを引き続ける。
何度も、何度も。
僕を、僕の願いを、止めるように、撃ち抜くように。

「ふざけるなよ……使わないなんて……そんなの……ッ!
 私にはある、願いが在るんだ!! 死んだって叶えたい願いが在るんだ!! だから……!」

ああ、なんて、彼女は正しいんだろう。
だけど、さ。
僕にはそれを願えない。

叫びたかった、喚きたかった。
全部、返してくれよと。
全部、元通りにしてくれよと言いたかった、けどさ。

この場所には、確かに在ったんだ。
ほんの僅かでも、ここに来たから、得られた掛け替えのないモノが。

ここで見つけられた物、ここで手に入れた何かを、僕は、どうしたって嘘に出来ないんだ。
たとえそれが、いずれ消えてしまう、泡沫の感情だったとしても。
絶対に後悔すると分かっていたとしても。僕は何度でも、この願いを、選ぶだろう。

死んでしまった人に、生きてほしいと思うこと。
それは、どこまでいっても、生きている僕らの、勝手な我儘でしかない。
失われた彼ら彼女らの願いは、本当の気持ちは、僕たちには永遠に知ることが出来なくて。
だけど、それでも一つだけ、僕には信じていたい事があるんだ。

97ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:08:25 ID:fxNQ5zpc



泣き崩れる秋山の背後、薄く積もった雪に付けられた二人分の足跡。
それは誰かがそこに居た証。
僕と彼女が、目指した夢の軌跡だった。
二人で一緒に支え合って歩いた、あの時、確かに僕と彼女は、同じものを、目指していた。

そう、信じているから。

だから僕は、その夢を、最後まで、守ろう。
他の誰でもない、僕の傍にいてくれた、彼女の願いを。
ひたむきに明日を目指した、少女のユメを。

泣き叫びながら僕を糾弾する秋山と、眠りについた誰かの足跡を、最後に、目に焼き付けて。
再び、聖杯の少女と向かい合う。
そして瞳を閉じて、僕は告げた。




「僕は、誰も救わない。ただこの物語を――――」


この物語のあるがままに。


「終わらせるよ」


告げられた少女はどこか、諦めたような笑顔で、ゆっくりと告げた。



「……そう、じゃあ―――願いを、受諾した。

 


 優勝者、阿良々木暦。




 ここに、バトルロワイアルの終了を宣言するわ」
























【 バトルロワイアル  -ゲーム終了-  優勝者:阿良々木暦@化物語 】












◇ ◇ ◇

98ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:10:52 ID:fxNQ5zpc


◇ ◇ ◇














/送界式















◇ ◇ ◇

99ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:12:24 ID:fxNQ5zpc


グラハム・エーカーは自らの存在が薄まっていくのを感じていた。
身体の感覚が希薄になり、触れた物の感触が上手く指先に伝わらない。

「終わるのか……」

世界から消滅していく、というよりは元の居場所に少しずつ引っ張られている。
還っていくのだと、彼は自覚出来ていた。

「辿り……着いたのか……阿良々木暦……」

終点に至った彼の選択を、此処に残る全員が見ていた。
物語の最後、消えてしまった一人の少女だけを除いて。

「……願ったというのか。
 誰の返還でもなく、誰の希求でもなく、ただ、残るものを残すことだけを……」

修道服の少女を抱きかかえたまま、先へ行った少年の背に声は届かない。
少年の言葉もまた、おそらくグラハムが聞く事はないだろう。
運命に身を委ねるならば、もう二度と、彼らの運命が交わることは無い。

グラハムには分かっていた。
此処に残る全員が知っていた。
少年が何を願ったのか。
還っていく自らの身体が、証明していたから。


「……何処に行くのだろうな、我々は」

還る場所は、元の居場所の他にない。
けれどそこは今、自らにとって、居場所と呼べる場所なのだろうか。
変えられてしまった彼らは、元の場所まで帰り着けるのだろうか。

分からなかった。
確信を持てなかった。
それでも手のひらは、残されたものを離せない。

触れている感覚の絶えた両腕の中で、修道服の少女は薄れていた。
返還されていく兆候、阿良々木暦の願いに、彼女もまた含まれていた。


「……誓う」

壊れた少女。
だけどまだ、生きているのなら。


「必ず君達を、見つけ出す」

100ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:14:05 ID:fxNQ5zpc


例え世界が別れても。
それを新たな、グラハム・エーカーの願望とする。


「君達を、救って見せる」


悲しみの終点で選んだ、阿良々木暦の願いを知っている。
終点へとたどり着き、思いを届けてくれた者が居る。
それを無駄にしないと決めた。


「いつか私はたどり着く」


この胸に、生きる理由の在る限り。
少年の選択。
哀しい物語を、悲しいままに。

その決定を覆す。
それがグラハム・エーカーなりの、彼への礼だ。


「君らのもとに」


いつか、また。
今度はグラハム・エーカーの好きな空の下で。


「――――また会おう」


残された男は、再会を誓った。






【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダム00  生還】


【インデックス@とある魔術の禁書目録 送還】





◇ ◇ ◇

101ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:15:37 ID:fxNQ5zpc



「やだ……」


その少女はいつまでも泣いていた。


「いやだ……!」


天に昇る光にむかって、弾丸の尽きた銃を握り締め、引き金を引き続ける。
待ってくれよと、納得できない結末に泣き叫ぶ。
終わらないで、終わらせないで、まだ終わらないでくれと。

だって、許せないから。
どうしても、失くせないから。

「まって……まってよ……私は……まだ……!」

薄れていく身体の感覚が、秋山澪を引き戻す。

「嫌だ……私はまだ……なにも、出来てないのにっ!」

意志を斟酌せず、送り返そうとする。
それに涙ながらに抵抗しても、無意味であることは誰が見ても明らかなのに。

挫いた足で、それでも消えていく光を追おうとする。
手を伸ばして、少しでも近づこうとして。
つまずいた彼女は、雪のなかに倒れこんだ。

「取り戻さなきゃいけないんだ……帰さなきゃいけないんだ……このまま消えちゃ……駄目なんだよ……!」

その隣に彼女はいた。

「なあ……秋山」

広がる雪原に、仰向けになって、両儀式は舞い上がる光を眺めていた。

「もう、いいよ。
 お前やっぱり、ちっとも向いてなかったじゃないか」

「…………し、き」

いつも通りの突き放すようでありながら。
それは彼女を知る者からすれば、あり得ないほど優しい声で。

「終わりだ」

澪ですら、その意味が理解できてしまった。

「お……わり?」

「ああ、終わったんだよ、もう」

他の誰の言葉でも、納得できなかったそれが。
なぜだか雪のように胸の澪の内側に染みていった。

「ああ、終わりだ、秋山、これで全部、全部おしまいなんだ。
 だからいいだろ、これ以上泣かなくて。煩くて……寝れない」

力が抜ける。
それは優しい、微睡だった。

「……終わり……おわ……り……そ……っか……ほんとに……終わりなんだ、これで……」

二人の少女は仰向けに、雪の中で横たわる。
昇っていく光を、一緒に見つめて。

「……やっと……終われるんだ……」

少しずつ薄れていく、互いの存在を近くに感じながら。
身体の感覚が消え去るその時まで、彼女たちは同じ風景を見つめていた。






【秋山澪@けいおん! 生還】

【両儀式@空の境界 生還】






◇ ◇ ◇

102ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:19:20 ID:fxNQ5zpc


聖杯の器は昇る光と成って、空へと姿を消した。

奇跡の過ぎ去った跡。
最も中心に近い場所に、彼らは居た。
何もかもを終わらせた少年は雪のなかで膝をつく。
放心したように、何も語らぬままで。

「君は―――」

枢木スザクは、目の前の彼に、問いかけた。
それが無粋であると知っていて、それでも。

「よかったのか? これで」

願いの是非を。
彼らしい、彼にしか選べなかった終わりの意味を。

「ああ、ははっ、もちろん……これで……」

問いかけに少年は虚空を見つめたまま。

「いい……わけ……ねえ……だろうが……」

血を吐くような悔しさを。
殺意にすら近い激情を、己自身に向けていた。


「間違ってる……間違えてるんだ! 正しいワケないだろッ!」

心からの後悔を叫ぶ。
こんな結末しか選べない己自身を、殺したいと本気で思う。


「もっと上手くやれる奴がいたんだ!! きっと、どこかに、もっとマシな、結末に出来る奴がいたんだよ!!」


己のような下手糞じゃない、偽物じゃない主人公が、どこかにいた筈だ。
全部を救ってくれるような、何もかもを取り戻してくれるような、完全無欠の希望が。

明日を望んだ少女を死なせることなく。
昨日を希求した少女を泣かせることなく。
今日を留めようとした神様すら救い上げて。

全部、笑顔で終わらせられる。
最高のハッピーエンドを描けた主人公が、どこかに、きっと――――


「―――いいや、そんな者は、何処にもいなかった。
 だから君が残った。君がたどり着いた。君が、君だけが、選ぶことが出来たんだ。
 君が正しいと信じて、選んだ。だったらそれが真実だ」

枢木スザクは否定する、阿良々木暦の後悔を。
そして肯定する、阿良々木暦の願いを。

「辿り着いたのは、君なんだ。
 僕も、誰も、君の言う完全無欠な希望が在ったとしても、此処に至ることは出来なかった。
 だからそんな仮定に意味はない。
 君がいなければ、選ぶ事すらできなかった、僕たちの思いは、届く事すら無かったから」

103ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:21:03 ID:fxNQ5zpc






「それ……でも……」

僕がもっと、上手くやれていれば―――
そう痛む思いは、阿良々木暦にしか分からない。
枢木スザクに理解することはできない。

「たどり着けなかった僕たちに、君を責める事はできないけれど。
 君はこれから、選択の責任を背負うんだと思う」

そして、その意味を、価値を、決められるのは一人だけ。

「ただ、君が君を否定する事は、君に纏わる全てを否定する事になる。
 君の選択を信じた誰かの思いを無意味にする、君の選択を糾弾した誰かを蔑ろにする。
 それだけ、分かっているならそれでいい」

明日を願った少女を笑わせたのも。
昨日を願った少女を泣かせたのも。
全部、傷として、阿良々木暦がこれから連れていく。

その傷を、間違いだったと悔やめるのも。
正しかったと胸をはれるのも。
阿良々木暦だけなのだ。


「この世界における戦いは終わった」


消えていく全て、失くして行く何もかも。
薄れる二人の身体。

「僕はこれから、僕の世界に還る。僕のやるべき事をなす為に」

終わっていく物語の中で、枢木スザクは宣言した。
今度は、己の物語を始めると。

新しく始めるストーリー。
それはやはり悲しい結末を辿るのかもしれない。


「君はどうする?」


けれど、その形は、まだ、誰にも分からない。


「君は、これからどこに行く?
 これから、どうしたい?」


「ぼく……は……」


とても、とても、哀しい物語が在った。
それは失うばかりの痛物語(いたみものがたり)。
誰もが等しく傷を受けて終わる、バッドエンドのお話だった。
けれど、それだけでは、無かったのだから。



「また、始めたいよ……もう、一度」



そして、もうすぐ、終わるのだとすれば。


「僕は見たい……あいつらが……見たかった物語(ゆめ)の続きを……」


まだ、見つづけたいと思う。
願い続ける事を、止めらなれないから。


「なら行ってくればいい」
 

さあ、次の物語を始めよう。
今はまだ先が視えなくて。
また、悲しい物語が始まるだけなのかもしないけれど。

少なくともまだ見ぬ物語が、そこに在る。
ならばせいぜい期待して。
今度は救済の、誰もが笑顔で終われるような、そんなお話を思い描きながら。

104ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:23:03 ID:fxNQ5zpc




「――――そうだ、枢木。約束、憶えてるか?」

「僕ら『全員』また同じ場所で、出会う。……だろう?」

「ああ、良かった。じゃあ、僕は楽しみにしてるから」

既に姿を消した枢木スザクは応えない。
けれど、阿良々木暦は期待することにした。
決してあり得ない物語を、自らの新しい夢として見ることにした。




いつか、どこかで。
少女が願った明日のむこうに――――




「僕は、その日をずっと、待っている」




そんな、優しい物語を描いていた。





【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2 生還】


【阿良々木暦@化物語 生還】









◇ ◇ ◇

105ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:24:12 ID:fxNQ5zpc


痛みなど、とうの昔に残ってはいなかった。
だから彼は、彼女は、ソレは、最後に話すことを楽しみとした。

「おーおー。もう何にも視えねえよ。すげえな、視界が割れまくって万華鏡みてえさ」

廃れたビルの屋上で、傭兵は消えていく。
光の粒子としてではなく、薄れゆく存在として。

「綺麗だねぇ……なあ?
 アンタにはどう見えてんだよ、傍観者」

アリー・アル・サーシェスは、最後に。
偶々いま自分の隣にいた者と話すことにした。

「どうもなにも、おしまいだよ。『ただのおしまい』ってやつさ。
 沢山ある終わっていく物語の、これも一つに過ぎないってことだね。
 どれだけ長く続こうと、終わってしまえば誰もがやがて忘れ去る。
 それもまた、物語の命題だ」

サーシェスが引っかかっていたフェンスにもたれかかる、火のついていないタバコを加えたアロハシャツの男。
忍野メメ。
彼と話すことが、アリー・アル・サーシェスの、最後の時間の使い方だった。

「は、違いねえな。だが俺は楽しませてもらうぜ?
 俺こそは、他でもねぇ終わりの当事者なんだからよ」

雇い主と呼ばれた忍野は否定する事なく。
戦いが始まる前における、傭兵とのやりとりを思い出す。
暗い路地裏で彼に持ち掛けた、契約のお話を。


『君に頼みたい事があるんだ――――両生類ならぬ傭兵類ちゃん?』


やりたい放題やらせてやる。
のみを条件に依頼した、たった一つの干渉ごと。


「べーつに、大したことじゃないよ。
 君こそ、まったくもって滅茶苦茶に動いていたけどね、手順を決めた意味がなかったよ。
 誰が『枢木スザクを墜落させろ』、だなんて依頼を出したんだい?」

「細けえなあ、最終的なところは一緒だったんだからいいじゃねえよ。
 ぜんぶぜんぶ、ぶっ壊れるようにする。そういうオーダーだったろ?
 任務完了だ。報酬をくれってな」

「報酬ならもう渡した。ヴォルケイン一機、前払いだったろ?」

「ああ、そういや、そうだっけか。いけねえなあ、ついつい、あげちまったよ」

サーシェスは何一つ、忍野メメの狙った通りに動かなかった。
枢木スザクに仕掛けた事、そのスザクにヴォルケインという切り札をあっさりと渡したこと。
神様にも、雇主にも、彼は縛られることなく。
まさしく『己が楽しいから』という理由のみで、動き続けた。
最後の戦いの場所で、唯一どんな思いにも縛らず。

一見して滅茶苦茶だったけれど、彼がいなければ状況がこうなっていなかった事もまた事実。
もしかすると、と忍野は思う。
間接的にであるが、彼の存在なくして、この結末は無かった。
誰も予想できなかった彼の行動こそ最も、神のシナリオを狂わせた要因だったのかもしれない。

106ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:29:51 ID:fxNQ5zpc


己のプリミティブな感情に従い続けた故の結末。
なるほど確かに、彼は救済の物語を台無しにする戦火だった。
戦争屋を名乗るにふさわしい。
恒久的に世界平和を阻み続ける、人という種の悪意がここに在る。


「なあ、俺はどうなる?」


なので敬意を払う、でもなく、蔑ろにするでもなく。
ごく普通に。
忍野メメは傭兵からの最後の質問に、正しく答える事にした。


「死ぬね。阿良々木暦が願ったのはただ『還す』ことだ。
 ここで得た『傷』を、直すことを選ばなかった。
 そして君がこれから戻る元居た世界に、いまの君を治す技術は無い」

「じゃなんだ? 俺は適当なところに落っこちて、そのまま死ぬのがオチってことかよ?」

忍野メメは開いた手のひらに落ちてきた雪を消え去るのを感じながら、己もまた送り返されていくのを感じていた。
阿良々木暦の願いが、己を含んだものなのだと理解して。

「そうだろうね」

「つまんねえなぁ……」

既に笑う余力は残っていないのか、傭兵は喉を鳴らし始めた。
くつ、くつ、と。
いや、もしかしたらそれは、泣いていたのかもしれない。
これ以上、続けられないという事実に。

「死にたくねえ……なあ……」

悲しそうに、なのに楽しそうに、サーシェスは泣き笑っている。
逃れられぬ死が、すぐそばに迫っていて尚、紛れもない悪性の熱に支配されながら、絶望するでもなく、狂うでもなく。
喉を鳴らして笑い続ける。

ドロドロのコールタールを結晶にして磨き上げるような、不思議な感情の発露だった。
だから、忍野は、別れ際に聞いてみる事にする。いつものように。


「それにしても君は元気が良いね。何かいいことでもあったのかい?」


すると傭兵は、よくぞ聞いてくれたとばかりに破顔一笑し。


「……ああ……あったさ……面白いこと尽くしだったぜ……」


泥の底でも、悪意の権化になり果てても、人は純粋に笑える生き物なのだと証明してみせた。


「楽しかった、か」

「ああ、今から……次が……楽しみで……楽しみで……たまらねえよ……」

「もうすぐ死ぬのに?」

「おっと、へっ……そうだっけ……か、……楽し……すぎて、つい、また、忘れちま……」

声が消える。
悪も、善も、中庸の傍観者も、等しく巻き込んで。
残る生命の全てが、この世界から消えていく。


何もかもが、戻されていった。








【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダム00  送還】


【忍野メメ@化物語 生還】








◇ ◇ ◇

107ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:32:46 ID:fxNQ5zpc


最後に、殺さなければならないモノがいた。
だから彼は目を覚ました。

「―――――ォ」

目覚めなければ、痛みを感じる事は無かった。
眠り続けていれば、それは静かで、安らかな幕引きだったことだろう。
散々に感じてきた悲しみも、嘆きも、これ以上与えられることは無かった筈なのに。



「――――ぎィ―――――がああああああァァァァ!!」


べしゃり、べしゃり、と。
全身から吐き出す夥しい量の血液が、狭苦しい路地裏にぶちまけられる。
一体ここがどこか、なにがどうなったのか。

痛みに咽び続ける彼には、何もわからなかった。
ただ、全身を苛み続ける痛みと、後悔と、絶望に、悲鳴を上げ続ける。
既に思考する事すらままならない意識の中で、地獄を知る。



「ァ――――――wgn――――アアアアアア――――おォォォォォ―――!!」


存在が薄れていく現象と並行して、身体が内側から爆ぜていく。
それは取り込んだ■■の拒絶反応か、能力の過剰消費化、単なる外傷によるものなのか。
原因さえも瞭然としないままで、加熱され暴発する傷の痛みを感じていた。
痛みだけが、今の彼の全てだった。

視界は捻じ曲がり前後も左右も理解できない。
聴覚はとっくにイカれて役に立たない。
嗅覚は己の吐き出す血の匂いしか嗅ぎ取れない。

狭い路地裏を、身もだえながら、さ迷い歩く。
何処に向かっているのかも知れないままで。
何処にいるのかも分からないままで。
己が動いていることすら、認知できずにそれでも。

「ぎォ……ァ………ァ…………」

歩き続けた。
罰を求めるように。
痛みを感じることを良しとして。

「――――」

その姿はまるでバーサーカー。
既に傷つけるものがいないから、残る己を痛めつけようとしているだけの壊れ者だった。
足取りは弱々しく、コンクリートの床につまずき、壁にぶつかり、
道端の屑籠をひっくり返し、水溜りに身体を突っ込みながら、泥だらけで進み続ける。

向かう座標は一切瞭然としない。
周囲の様相すら思考に入れられない。
最強を名乗るなど到底おこがましい。
簡単な視覚情報すら演算出来ない彼は、今やどんな無能力者(レベルゼロ)よりも最弱だった

「――――ァ?」

硬いモノが、両手に触れたのを感じた。
既に目の前の物を壊す力など残っておらず、軽く、力を込めて、押す。

108ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:35:22 ID:fxNQ5zpc


動かない。
目の前の壁はびくともしない。
扉の開き方すら、もうわからない。

「ご……ォ………」

リミットは近い。
終わりの瞬間はすぐそこに。
その前に果たさなければならない事がある。
やらなきゃならない責務がある。

この力の代償を、払わなければならない。
沢山のヒトを■すために振るった力は、結んだ契約の履行を求める。

だから最後に、最後に、■さなければ。
この世界を創った■■を。
働かない思考回路を独占する声にしたがって。

覚束な足取りで。
目の前に在った扉を開く。

その瞬間、足を滑らせて、床に倒れこんだ。
狭い廊下を、虫のように這って進む。
目的は、ただ一つ。もう二度と、こんなふざけた催しが起こらないように。


敵を■さなければ、
■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、
■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、

奴を。
奴を。
奴を。
原因のアイツだけは―――――必ず―――――必ず――――


「か――――は――――っ」


また、行き止まりだった。
硬いモノが、這い進んだ手に触れる。

このまま何も映さない瞳を閉じ、灰になって消えるのは救いだろう。
けれど許せない。
落とし前をつけろ、■し続けろ、あまりに多くのモノを■し過ぎたお前は、最後までそうやって醜く■ねと己自身が掻き立てる。
だから身体を僅かに持ち上げて、そこにあったドアノブに、行き止まりの先に、手をかけて、ゆっくりと回した。

かちゃりと、扉が、静かに、開く。
這いずる体が、そうして、たどり着いた。

「ォ―――ア――――klg――――」

震える両腕で立ち上がり、血まみれの身体を起し、一歩、その部屋に、踏み込んで―――

「――――?」

そこが、己の目指していた場所と違っていたことに、気が付いた。

「―――――――」

109ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:36:35 ID:fxNQ5zpc



思考が空白で塗り潰される。
体中から湧き上がっていた声が、止む。
この時、この瞬間だけ、彼は痛みすら忘れた。
あれほど体を支配していた絶望も、悲壮も、憤怒すらも、崩れていく身体の灰に乗って、後ろ側に流れていく。

よろよろと、弱々しい、赤子のような歩みだった。
それはこじんまりとした部屋の隅に置かれた、ベッドに向かっていく。
決して高価ではない、小さなベッドの上。
ゆっくり、規則的に上下する布の内側、そこに眠る小さなもの。
ずっとたどり着きたくて、なのにずっと離れようとしていた、ちっぽけで、かけがえのない存在がいた。

帰り着いていた、その場所。
誰かと共に過ごしていた家の寝室、一方通行の、還るべき場所で。

ふかふかの羽毛布団にくるまって、穏やかな寝息をたてる少女がいた。
幸せな夢を見ているのか、口角を緩く上げて、微笑みながら眠り続けている。

その微笑みを見た瞬間。
彼は、心が、決壊するのを、感じた。


「――――――」


ため込んでいた疲れが、どっと襲ってくる。
そして急にバカバカしくなり、脱力感に任せて床に腰を下ろす。
様々な悪態が、思考が、やっと頭の中で形になった。


―――ったく、クソがきが。
人の苦労もしらねェで、なにをアホ面で寝てやがる。
まったく、まったく、ほンっとに、オマエってやつは、畜生、あァ――――




「あァ――――安心した」



―――君を守れてよかった。
生きていてくれてよかった。
笑ってくれるだけで、それだけで、嬉しかった。

血と泥で汚れた指先では、彼女に触れる事は、もう出来ないけれど。
その寝顔を見る事が出来ただけで、十分だった。

心から、救われた。
そんな馬鹿みたいに単純な己を自覚して、それでも自然と頬が緩むのを抑え切れない。

彼は少女の見る幸せなユメを夢想しながら。
守り抜いた幻想に抱かれるように、ようやく訪れた微睡に瞳を閉じた。










【一方通行@とある魔術の禁書目録 帰還】










◇ ◇ ◇

110ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:38:55 ID:fxNQ5zpc





終わる物語。



役割を終えて、消えていく世界。
残されたフレイヤが大地も空も抹消し、宇宙すら閉じていく。
誰一人残らない、捨てられた場所に、未だ残る者達がいた。

始まりの二人。
電子の世界で再会を果たす、発端である『彼』と『彼女』。


「――ふざけているッ!」


それは、彼にとって、リボンズ・アルマークにとって、絶望以外の何物でもなかった。
本来なら、再び彼女と、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと出会う場所は、こんな終わり切った電子空間では無かったのに。

「馬鹿げてるだろうッ!! こんなものは茶番に過ぎないッ!!」

現実の空の下、現実の大地を踏みしめて。
己は神として、人類を救済する確固たる願いを、彼女に届けるはずだったのに。


「救われたんだ。救えたんだ、僕になら、人を永遠の幸せを実現できたのに。
 世界を……変える事が出来たのに……」

あと一歩だったのに。
既に聖杯は使用されてしまった。
根源に届くはずの魔力は流れ出してしまった。

これではもう駄目だ。
リボンズの希求する世界のルールの改竄、その実現には至れない。
目の前にあった世界平和はただの理想に逆戻り。
いったい何処で間違えたのか、何が原因だったのか。


「あんな……あんな……馬鹿げた願いに……僕の……この僕の、聖杯が……ッ!」


ヴェーダの内側で、肉体を失った二人は向かい合う。
怒りに身を任せ叫ぶリボンズを、イリヤは静かに俯瞰し続けていた。
電子の海ですら、残り数分も持たないだろう。
肉体を失っている彼らは、元の世界に戻るすべは無い。
だからここで、二人は抹消を待つのみだ。

特にイリヤはその存在の役割を終えている。
今動いていることが奇跡に等しい。
いつ、停止してもおかしくない。
泡沫のような時間の中で、リボンズは咽び続けている。

111ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:41:25 ID:fxNQ5zpc


「人は……愚かだ……!」

「そうね」

イリヤスフィールは、リボンズの怒りを肯定する。

「こんな結末は間違っている」

「そうね……だからやっぱり、救えないのよ。最初から、きっとそうだった」

リボンズに触れようとはせず、近づこうともせず。
ただ静かに、怒りに震える彼を見つめるだけだった。

「ねえ、リボンズ」

そうして、ふと思いついたように、話し始めた。

「私はね、私の物語が欲しかったの」

以前に話したこと。
イリヤの願い、イリヤの祈り、それはどんな形をしていたのか。
無価値に消えたくなかった。
誰かに求められたかった。

――結局、私はただ、誰かから必要とされたいだけだったの。

戦いの直前、彼女は彼に、そう語っていた。



「ああ、聞いたよ。だから僕は、僕は君に―――」

「でもね、それって、すっごく簡単なコトだって気づいたのよ。
 私の……いいえ、多分『私たち』の本当の願いはね。
 ええ気づいてたのよ、本当は、もうずうっと前に……」

「君は……何を言ってるんだ?」

そう、イリヤスフィールはずっと前から気づいていた。
あの時、彼女の願いを聞いたリボンズが、答えたその時に。


―――だけどね、イリヤスフィール。僕には君が必要だ。


遅すぎる答えを得てしまった。


「うん、分かってたのよ」

「分からない……なぜ笑っている……何を納得しているんだ、イリヤスフィール……?」

この人も、同じなんじゃないか、と。
イノベイド、それは人を救うために作られた劣等種。消費される運命だった道具。
産まれながら定められていたならば、己を人と、対等だと思えるわけがない。
そして劣っているから使いつぶされる、その運命に抗うなら。

――――そうか、僕は神か。

己は上位種だと、考えるしかないのは自明だろう。
全人類を見上げていた低い視点を、見下ろせるほど高くする他に、どう落としどころを見つけられるという。
そして、そうなってしまえば、誰を己と対等だと感じられるのか。

112ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:44:53 ID:fxNQ5zpc


果てしない孤独だったはずだ。
どうしようもない孤立だったはずで、
なのに人を救う為に生み出された彼は、人を救おうとしなければ、生きてさえいけなかったのだ。
だとしたら結局のところ、唯一無二の自分を、世界に必要とされているのだと、他に認めさせる行為でしかなくて。
それは聖杯としての役割を全うすることで己の価値を得ようとした愚かな誰かと、酷く似ているように思えた。

「ねぇ、リボンズ。私の願いはね、実はもうとっくに叶っていたのかもしれないの」

「何を言っている? なにも叶えていない、僕たちは何も出来ていない、このままじゃあ、これで終わりだ。
 価値無く終わって、終わったままだ……」

リボンズ・アルマークにとって唯一、対等だと、信じられるものが在ったとすれば、それは何だろう。
彼の瞳の中に、イリヤはそれを見てしまったような気がした。
だとすれば自分たちは酷く滑稽で、そしてどこまでも救えない。

「そうね、やっぱり、叶わなかったんだと思う。
 永遠に叶わない、そういう願いもあるんだと思う。
 それがたとえどれだけ簡単でも、方法に気づけなかった私たちには……。
 あなたは最後まで、気づけないのね……リボンズらしいといえば、らしいのかしら」

自分の価値なんて自分で決めるしか無くて、だけど自分の気持ちなんてあやふやで、自信が持てないから。
人は他人の瞳の中に、鏡を作る。
そこに映る自分の価値ならば、信じられる気がするから。

ならば世界には、最初から、二人いれば十分だった。
誰の死も、永遠の命も、世界の平和も、必要は無かった。お互いが映し鏡になれるなら。
だけどそんな事は、

「気づいたところで、いまさら何の意味も無いけれど」

とっくの昔に、この物語は完結するまで止まれない所に来ていた。
イリヤが簡単な事に気づいたときには、何もかもが遅かった。
だからイリヤは目の前の彼に伝えたのだ。

いいよ。
あなたが勝っていいよ。
私を、奪い取っても、いいんだよ、と。

破綻した二人の願いを自覚していながら。
誰よりも、己を求めている人が居るという、甘美な現実を優先して。

「僕には……君が何を言っているのか分からない……君は、正しいっていうのか?
 この結末を、この終わりを!?」

「正しい終わり、間違った終わり、区別なんてきっと無いのよ。
 あるのは折り合いを付けれるかどうか。
 私は……そうね、しかたない……かな、そんなふうに思うわ」


何もかもを知って、微笑みながら最後の時を待つ少女に対して。
リボンズ・アルマークは最後まで気づけない。
己が何を願っていたのか、何を、望んでいたのか。
目の前の少女に対する、愛にすら満たないの幼稚な感情の、意味にさえ気づけず。

「いま、全員を戻した。全部で7名。参加者以外も含めれば9名か。
 ……一億円分、余っちゃったわね。じゃあこれは、私の好きに使っちゃおうかな」

イリヤ・スフィールは寂しそうに微笑みながら、最後にささやかな願い事をした。
それはありきたりな承認欲求。

「最後のわがままよ、良いでしょ? リボンズ」

113ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:48:18 ID:fxNQ5zpc


知ってほしい、認められたい、ここに居る実感を得たい。
そんな、彼女と、そしておそらく彼が願い続けた、人として当たり前な感情だった。


「何の意味があるんだ……そんな事をして……」


いよいよ、残された電脳世界に崩壊が訪れる。
全てが光の中に消えていく。
彼らに訪れるのは死ですらない、世界ごと虚無に消えて、魂さえ残らない。

「ただの失敗の記録じゃないか……! そんなものを残してどうする? なぜ、君は怒らない? 悲しみもしないんだ?」

リボンズ・アルマークは怒りと悲哀を滲ませて、少女に問いかける。
少女は応えない。
微笑んだまま、彼を見返すだけだ。

「願いが叶わないんだぞ? 許せるのか? ここまで来て、あと一歩だったのに!!」

リボンズ・アルマークは怒りと悲哀を滲ませて、少女に問いかける。
少女は応えない。
微笑んだまま、彼を見返すだけだ。

「君は良いのか? 本当にこれで!?」

リボンズ・アルマークは怒りと悲哀を滲ませて、少女に問いかける。
少女は応えない。
微笑んだまま、彼を見返すだけだ。

「分かっているのか……イリヤスフィール……。
 このままじゃ君の願いも、存在も、何もかも無価値なまま消えるんだぞ……?」

リボンズ・アルマークは力無く、絶望を込めて少女に問いかける。
少女は応えない。
当然だ、彼女はもうとっくに、その機能を停止していたのだから。



「僕は……」


光が、全てを覆い尽くす。



「僕は……嫌だ……」



閃光は遍く事象を消し去り、そして世界に、終わりが訪れた。





【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night 消滅】



【リボンズ・アルマーク@機動戦士ガンダム00  消滅】







◇ ◇ ◇

114ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:57:09 ID:fxNQ5zpc

星が、煌く。
仮初の世界が掻き消える、その間際。

最後の魔力が行使された。
聖杯という願望器それ自身が願っていた、末期の願い。
少女の、ほんの少しだけの、我儘だった。

散っていく魂の流れに乗せて、ヴェーダが記録していた情報が飛び立っていく。
終わりかけのこの場所に接続された並行世界へと。
誰も知らない物語が、流れ込んでいく。

それは記憶という形で、何処かの世界の誰かのもとに届けられる。
拡散していくストーリーだった。

それは哀しく、切なく、残酷な、けれど確かに存在したお話。

誰かと誰かが、出会ったこと。
誰かと誰かが、殺しあったこと。
誰かと誰かが、触れあったこと。
誰かと誰かが、別れたこと。


泣いたこと。
怒ったこと。
殺しあったこと。
笑いあったこと。


死んだこと。
生きたこと。



そして、夢見たこと。

鮮烈な、生と死の、戦いの、記憶。

いくつもの物語(いのち)の記録。


誰かに、知ってほしい。
そして出来れば、分かってほしい。
どうか手に取って読んでみてほしい。

それは悲しい物語、けれど明日に繋がる物語だ。

彼ら彼女らの死にざまと、生きざまに、何かを感じてほしい。
何かを、想ってほしい。
そういう形の拙い、けれど純粋な祈りの煌き。

―――駆け抜けた命の、その輝き。

願いのかけらは飛んでいく。
流れ星のように散っていく。
やがて、全部の光が飛び去った後、ゆっくりと、狭い宇宙が閉じ切って。








―――――ここに、一つの物語が、終わりを迎えていた。















【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd  -完- 】






◇ ◇ ◇

115ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 04:59:21 ID:fxNQ5zpc



――――ひとりの少女が、そこにいた。


真っ白で、真っ黒で、真っ赤で、真っ青で、思ったとおりに変わる世界がある。
形を定めぬ不定形。何でもあって、何にもない。
ここはそういう場所だった。

天の杯が作り上げる道。
ごく短い時間、あるいは常しえの追憶を費やして、変遷し続けた伽藍の洞。
『 』が確かに存在する証左だった。

そこから繋がり、対を為す、集合無意識を内包した黄昏の神殿。
黄金の、夕焼け。
境界線の曖昧になった二つの世界。
接合し、混在し、再編される空間の最果て。

彼女はずっと、そこにいた。

永遠に広がる、黄昏の空の下で、たった一人。
足元に広がる水面の上に、ぽつりと立ったまま、暮れゆく茜色を見つめていた。

少女の黒髪と、身に着けた着物の袖が、吹き抜ける潮風に揺れている。
だからと言って何をするでも、考えるでもない。
何処にいようと、何が在ろうと、彼女は何もするつもりはない。

制止した時の中、永遠にここにいる。
ここにいる彼女は、ここにしか居られない彼女は、ずっと、ずっと、ただ、ここにいた。

足を付ける水面に映る境界線の真ん中で、あちらでもこちらでもない中間で。
何をするでもなく。誰を待つでもなく。
強いて言うなら、世界の終わりを待ちながら。
ただ、そこに在り続けた。

時に、誰かがここを通る事もあった。
あちら側から、こちら側へと通過する。
或はその逆か。

いずれにせよ、彼女の足元に在る境界を越えて、隣を通り過ぎ、光の先へと消えていく。
その度に、その背中を見送っていた。それが永遠に続くかのようだった。
とても、とても、つまない、退屈な時間だった。


けれど、この世界にも、漸く終わりが来たらしい。


日が急速に暮れていく。
陽光が無くなり、薄ぼんやりした群青が空に差し込んで来る。
一つの世界の終焉。
ならばここに留まり続ける少女も、世界と共に消えて行くのだろう。

すると繋がっていたモノがどうなるのか。
確かめる気も、彼女には起らなかった。
自己が消えるなら、消えればいい、と。少女はただ、気怠く、その時を待っていた。

しかし、その時、ちゃぷり、と。
背後から水の跳ねる音がした。

振り向く。
もう何度も見てきた光景へと振り向いて、そこに現れた誰かの姿を見る。





「――――あなたが、最後よ」

116ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 05:10:07 ID:fxNQ5zpc


事実を言葉にしたのは、きっと気まぐれに過ぎない。
本当の、本当に、最後の通過者だったから、そんな理由でしかなかった。
この世界で、ここを通った幾人もの人達。その最後に現れたのは、一人の少女だった。
どこかの高校の制服を身に纏い、亜麻色の髪をポニーテールにしている。

どうやら彼女は戸惑っているようだった。
その反応自体は珍しくない、此処に来る人は大抵そういう反応をする。
けれど彼女は、こちらの『姿』を見て、少し驚いたようだ。その理由も分かっている。

「あっちよ」

だから、違いを示すように、彼女が向かうべき先を、声に出して、指先で示した。
すると『別人である』と理解したように、少女の戸惑いの色が薄まった。

「行きなさい。みんなが待っているから」

この場所で、最初に他者へ話しかけた時と同じように、そう告げる。
いつか、目の前の少女によく似た姿をした誰かへと、示した道。


「でも少し……遅すぎたみたいね……」


けれど、今回の言葉は嘘になってしまうかもしれない。
指し示す方向、神殿の奥には、もう誰も待ってはいなかった。

最後の通過者たる少女は、来るのが遅すぎた。
既にそこに居た者達は、行ってしまった後だった。

そしていま、世界の崩壊が、天の杯が作る道を歪めている。
もう陽の日は沈んでしまった。
光の扉はくすんでいる。
今からむかったところで、先に行ってしまった者達と同じ場所に行けるとは限らない。

むしろ、たどり着ける可能性は低いだろう。
闇色に歪んだ扉の先に在るのは、混沌の道。

何処かの並行世界に連結させられるかもしれない。
全く別の宇宙に飛ばされるかもしれない。
何処にも通じていないかもしれない。
或は入った瞬間に魂を細切れにされる事さえありうる。

間に合う可能性もゼロではない、しかし、既にあの扉は異界へ続く孔と言って差し支えない。
端的に言って、何処に繋がっているのか、何が起こるのか分からないのだ。


―――この本物の『神様』の知覚をもってしても。
別世界に通じている捻じれた扉の向こうを、もうすぐ滅びゆく世界の、気だるげな全知は知り得ない。

この先、何が待っているか分からない、と。
告げられたポニーテールの少女は一人、緊張した面持ちで、ぎゅっと袖を握りしめて。

それでも一歩を踏み出した。
水面を揺らしながら、隣に立つ。
そして、さらに一歩、境界線の向こう側へ踏み越えた。

「行くのね」

指さす先で、光の扉は時が経つほどに歪んでいく。
ゆっくりと歩き出そうとする少女の背中を、もう何度目かの、旅立つ者の背中を、彼女は見送る。
最後の背中を、最後まで、見送ろうとして―――

117ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 05:16:16 ID:fxNQ5zpc


「それじゃあ、あなたは―――?」


不意に、振り返った少女と、再び目が合った。

「あなたは、どうするんですか?」

真っ直ぐに、眼を見て、発せられたその言葉。
『寂しくないの?』、と問うような。

同じことを、少女とよく似た誰かからも、聞かれていた。
だからまた同じことを、告げることにする。


―――私はここにいるわ。ここにしか、いれないもの。


例え崩壊する世界の渦中だったとしても、そのまま消える定めだとしても。
それは真実だった。普遍の理ですらあった。

言えばそれだけで、目の前の少女も理解できるだろうから。
ゆっくりと、言葉にしようとしたとき、だった。




「良ければ、一緒に―――」



「―――――――?」


ぱし、と。
掴まれていた。

「一緒に、行きませんか?」

小首を傾げながら、己の指先を見る。
扉を指していた指先、いましがた降ろそうとしていた手のひら。
それを、目の前の少女の手が、掴み取っていた。
手と、手が、繋がれている。


――――これは、なんだろう?


と、そう思った時には、遅かった。


「行きましょう」


くい、と。
軽く引っ張られる、一人の神様が、何とも間の抜けた形で、体が傾き、思わず一歩前に出てしまう。
驚くほどあっさりと、境界から出てしまっていた。
あちら側、或はこちら側か。いずれにせよ、少女の側に、引っ張り込まれていた。


「その方がきっと、一人より、寂しくないから」


そうして、手を握ったまま、ポニーテールの少女は走り出していた。


「きっと、たのしいから」


何処へ通じているかもわからない扉を目指して。
自分が今、何をしでかしたのか自覚もせずに。

「あなたの手を、引かせてください」

彼女は駆けていく。
自然、手を握られたままの存在も、引っ張られるようにして走らされていく。

着物の少女は、あまりにも簡単に起こってしまった事態に、呆然としたあと。
ちょっとだけ、どうしようか、と考えて。
まあいいか、と結論付ける。

118ALL LAST ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 05:24:04 ID:fxNQ5zpc


この事態、今後、何処かの世界で。
ちょとした大ごとになったり、するかもしれないけれど。
まあ、だとしても、それはまた別の物語だ。

そして彼女に、もとよりそういった危機意識は存在しない。
無気力な彼女はここを動くつもりも無かったけれど。
同じように、この手を無理やり振り払う気も無いのだから。

世界なんて、いつでも握りつぶせるけれど、しないのと同じ。
やる気のない神様は、一人の少女の手に引っ張られるがまま、ガランドウから連れ出されていく。


「ねえ、あなた、どこに行くつもり?」


最後に一つだけ問いかけた、その声に。
前を往く少女は、笑顔で振り返りながら答えていた。
行先の分からない扉のむこう、この先に待つ何かに、少しの恐れと、少しの期待を胸に抱いて。




「明日へ―――」



黄昏の終わり。
願いが瞬く、満天の星空の下。




二人の少女が進んでいく。
ぱしゃぱしゃと足元の水を跳ねさせて。



繋いだ手を引く少女は、神様一人を道連れに、駆けていく。


駆けていく。


どこまでも、どこまでも。





―――――遠い、夢の続きへ駆けていく。































【 ALL LAST -To the next story!- 】

119 ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 05:25:54 ID:fxNQ5zpc
投下終了です。

120名無しさんなんだじぇ:2015/03/16(月) 05:26:34 ID:EucFNrE6
投下おつでした!
文字通り全てを出し切った最終章でガンソやWもガンガン絡んでいて嬉しかった
神を挫くのが馬鹿で愚かな人間とは
ロワならではのお前たちが望んだハッピーエンドをくれてやるという救済者に救いようがないと思わせるってのがすごく好きだ

最終話は誰かが行く、誰かが来るという構図が感慨深かった
群像劇していて誰んだろと思わせてドキドキしつつも少し寂しいすべての終わりへと近づいていく物語
白降る世界に響く歌声の中聖杯に向かって誰かが歩いて行く光景が本当に綺麗で静かだった
そして至る、いつかの春休みと同じ、万人に平等なバッドエンド。ただのおしまい
明日へと続くバッドエンド。スザクじゃないけどこの結末は阿良々木さん以上にすとんとくる人はそうはいないと思う
しかしまさかサーシェス、最後の最後まで出てくるとはw
言われてみればなるほどな戦争屋だったわ。恒久平和を望んだリボンズは彼を雇った時点で終わってたのか
それぞれの表記の差もずるい。帰還にはぐっと来た
男と女の最後は、これ、リボンズの「君は良いのか? 本当にこれで!?」って自分が嫌だよくないじゃなくてイリヤに訴えかけてるのがほんと、
イリヤを対等に見ているってことなんだよな……
そして完の後にまさかの続いてそうか、お前もいたんだと思ったらすげえ
まさにしでかし。憂すごいことをしでかしてしまったwww
すげえ、ほんとすごかったです! 面白かった!

121僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

122名無しさんなんだじぇ:2015/03/16(月) 05:27:25 ID:EucFNrE6
と、いい忘れ
完結おめでとうございます!

123名無しさんなんだじぇ:2015/03/16(月) 05:56:38 ID:tkVTtCrY
完結おめ乙

124 ◆MQZCGutBfo:2015/03/16(月) 07:47:38 ID:nQIVkWks
最終回投下お疲れ様でした!

阿良々木君の願い。非常に彼らしかったです。
ハッピーエンドでは決してないけれど。
しっかりと着地する、納得のいく結末でした。

そして、満月を背に、空を駆けるグラハムが本当に本当にかっこよかったです!(そればっかりか

>―――では何のために?

>決まっている。


>「このグラハム・エーカーの鬱積を晴らすためだ」

ああもう最っ高、最高でした!
グラコロ最高です。
ヴォルケインを辛うじて動かすスザクの狙撃するさまも、絵で想像できる程でした。


道中ちょこちょこした繋ぎしか書けませんでしたが、
だいたい一回は書いたことのあるキャラクター達を、物語の最後まで見守れたのは幸いでした。

アニロワ3完結、おめでとうございます!
そして、最後まで諦めず、完結まで続けた合作書き手さん方。本当にお疲れ様でした!!

125名無しさんなんだじぇ:2015/03/16(月) 09:10:28 ID:aaKeeg.6
長い長い物語、完結おめでとうございます。
総ての書き手さん、管理人さん、関係者の方々、そして読み手の皆さん
お疲れさまでした。
とても楽しかったです。またどこかで。

126名無しさんなんだじぇ:2015/03/16(月) 11:21:01 ID:PEjCVrpA
ああ、アニロワ3の完結おめでとうございます
最後まで、結末まで読めてよかったああ

127僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

128名無しさんなんだじぇ:2015/03/16(月) 20:16:22 ID:fe2kRrDU
投下乙
面白かったです
ただ15日に投下するって言ってたけど今日は16日だぞ
15日にしたのは投下宣言だけ
それでお付き合いくださいって…付き合えないだろ
16日じゃん
普通は投下するのは何時になりそうですとか遅くなりましたとかありそうなもんだが
それも無いってどうなってるのさ

129 ◆ANI3oprwOY:2015/03/16(月) 23:25:17 ID:lgBKVqEM

多くの感想ありがとうございます。
そろそろ一日が終わろうとしておりますので、
簡単ではありますが諸連絡を伴う挨拶をさせていただきます。

最後まで読んでくださった方々。
ここまで待っていてくださった方々。
本当にありがとうございました。
この物語に触れて頂いたこと、心から嬉しく思っています。

次に諸連絡です。
今後、エピローグの投下を予定しております。
具体的な日程は近日中に本スレに記します。


そして、もう一つ。
こちらは、まだまだ具体的な事柄が決まっていないのですが、
座談会のような物を企画する予定です。
最終回に関する事か、あるいは一話から振り返ってみたりするか。

予定は未定ですが、チャットを解放して参加したいただく形になると思います。
日程等は、追って報告いたします。



そして、もう一度。
ありがとうございました。
今はただ、それだけしか、言葉になりません。


では、今日のところは、これで失礼いたします。

130僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

131名無しさんなんだじぇ:2015/03/16(月) 23:46:41 ID:2SchPBaE
まさか生き残ってた参加者で一番戦力が乏しくみえたアララギくんが優勝者になるとは
書き手のみなさん、長い間お疲れ様でした。

132僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

133僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

134名無しさんなんだじぇ:2015/03/17(火) 00:47:05 ID:s2io5MuA
バトロワ物はROM専だったし感想を書き込む気も一切なかったけど
今回ばかりは書かせてくれ

ハッキリ言って、完結するとは思わなかった
これはもうエターナるなと数年間決めつけ続けてきたわ
そんで久々に来たらなんか更新されてんの 自分の浅はかさを思い知ったよ
しかも偶然最終話の 投下に立ち会う事ができた それだけでも感無量だわ
お疲れ様でした

135名無しさんなんだじぇ:2015/03/17(火) 09:35:23 ID:OzASgXRY
最終回投下乙でした。
ガンダムの力を捨てたグラハムが好きだ。
レイの声と共にヴォルケインを駆るスザクが好きだ。
言峰に決意を語る澪が好きだ。
どこまでも【殺し】合う式と一方通行が好きだ。
主人公をやる阿良々木さんが好きだ。
壊れながらゲイボルグをぶちかますインデックスが好きだ。
土壇場で普通の女子高生が唯の拳銃で殺し合うのが好きだ。
一方通行が幻想を夢見て、更に踏み砕くのが好きだ。
聖杯でなく、彼女は僕のものだと言うリボンズが好きだ。
生きたいと願うようになってしまったスザクが好きだ。
インデックスを見捨てられないグラハムが好きだ。
世界の終わりで最後まで笑うサーシェスが好きだ。
新しい夢を見つけた憂が好きだ。
終わることでやっと休めると安堵する澪が好きだ。
最高のハッピーエンドを選べない阿良々木さんが好きだ。
変わらず背負い続けるスザクが好きだ。
最後の最後に、セイギノミカタと同じ場所に辿り着いた悪党が好きだ。
つまり最高だってことだ。

136名無しさんなんだじぇ:2015/03/17(火) 22:05:01 ID:lIbgHscA
完結おめでとうございます!

グラハムとリボンズの戦い、ガンダムVSやってたのが懐かしいですw
衣が死んで腐りかけてたけど立ち直って、人間の強さと諦めの悪さを見せつけてくれました。
主催といえば遠藤が復活したのは驚きでした。「金で魔法を買った」の衝撃は今でも覚えています。

首輪ちゃんサーシェスが戦争屋として場を乱しに、相手がスザクで乗機はヴォルゲイン。
サクライズとの再戦が熱い、状況的には違うかもしれないですが因縁は燃えます。
最後まで生きて、戦って、樂しんで。個人的にはサーシェスが最後までよく生き残ったと思います。

合同でやることになってから長い間お疲れ様でした。
完結の瞬間(今日ではないですが)を見れて大変嬉しかったし興奮しました。

憂と澪の邂逅、式と一方通行の戦い、阿良々木さんの選択……。
信長との戦いとルルーシュの死を乗り越えたことを考えると……けいおん組

まとめたり書くのが下手で申し訳ないです。
個人的には一方通行が大好きです!
上条さんの死、瘴気と壁や外部因子に阻まれた悪党の最後は言葉に表せません。

投下お疲れ様です、完結おめでとうございます!

137名無しさんなんだじぇ:2015/03/17(火) 22:21:20 ID:oThcjxfY
最終話遅れて読み終わりました
一方通行どうなるんだろうとロワ中盤からずっと思ってただけに、くあーーーくあーーーって感じです
説明するのは難しいが、くあーーーって感じなんだ。うむ、くあー
あららぎくんもね、いいワケないけど選んだのが、な


わかりづらい感想になったけどよかった。おもしろかった。とにかく乙と言いたい
いいワケなくても選びたくなったぜ

138僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

139僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

140僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

141僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

142管理人◆4Ma8s9VAx2:2015/03/18(水) 23:54:36 ID:???
お願い

〇毒を吐くなら毒吐きスレへ
本スレはもちろんですが、無関係の人に迷惑をかけないよう
外部サイトへの書き込みも控えていただきたく思います

〇荒らしはスルー
荒らし、煽りと思われる書き込みにいちいち反応しないでください

〇本企画以外の話題は雑談スレや該当の場所で
詳細については管理人スレをご確認ください

143名無しさんなんだじぇ:2015/03/19(木) 06:14:40 ID:xsQumKLU
最終話投下乙です!
ほんと、よくぞ完走してくださいました。
今までこのアニロワ3rdに関わってきたあらゆる人々にあらん限りの感謝をこめて!

144名無しさんなんだじぇ:2015/03/21(土) 21:30:48 ID:U5mlaYTw
投下乙〜
最終回なのに削除されすぎw

145名無しさんなんだじぇ:2015/03/22(日) 20:05:09 ID:LDrKkZsA
やっと読み終わったよ、書き手の皆さんと管理人さん本当にお疲れ様でした

全キャラが活き活きと描かれてて、お腹一杯の最終回でした
阿良々木さんもうちょっと欲張ってもよかったんじゃないの、思わないでもないけどw

完結おめでとう!エピローグも楽しみにしてますよー

146名無しさんなんだじぇ:2015/03/28(土) 02:00:56 ID:ZUmZlxkA
素晴らしい最終回でした。
書きたいことがたくさんありますが、とてもではないですが書ききれません。
本当にお疲れ様でした。
エピローグと座談会楽しみにしています。

147 ◆ANI3oprwOY:2015/04/20(月) 23:47:09 ID:3hFQUrec
テスト

148 ◆ANI3oprwOY:2015/04/20(月) 23:58:58 ID:3hFQUrec

今週からエピローグの投下を開始していきます。
では、さっそくですが1話、投下します。

149ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:02:55 ID:GnBVTppo










追ってくる。
果てのない『くらやみ』の向こうから、何かが私を追ってくる。
逃げなければならない、今すぐ動かなければならないのに。

身体が、重い。
足に、力が入らない。


それはもう、すぐそこまで来ている、私のすぐ後ろまで。
早く逃げなくちゃ。
逃げなくちゃ。
逃げて、逃げて、どこまでも逃げて、たどり着かなきゃ、いけない、のに―――


挫いた足が、動かない。
身体が重くて進めない。
振り向けば目の前に、後ろから追ってくる怖いもの。



それを、私は――――



「……………っ!!」



そこで、いつも目が覚める。





◇ ◇ ◇

150ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:05:42 ID:GnBVTppo






「うぅ……寒いな……」




寒空の下、通いなれた道を私は一人で歩いていた。
とうに秋が過ぎ新年を迎えても、住み慣れたこの町の冬はもう暫く続く。
冷え切ったアスファルトを踏みしめつつ、いつもより厚着して家を出たのは正解だったと確信した。

少し早い朝の通学路、生徒の姿はいつもより少ない。
こう寒いと、みんな家を出たくなくなるのだろうか。

なんて言う私も、今日は、いつもより家を出るのが遅れている。
別に、私の目覚めの悪さは、寒さのせいじゃないけれど。

目が醒めたとき、目覚ましのアラームは既に1回鳴っていたし、朝食を食べているときも何だか気怠い感覚が取れず。
トーストを喉の奥に押し込み、制服に着替え、やっと意識を晴らして家を出た時には、何時もの出発時間から15分近くズレていた。
遅刻が危ぶまれるほど遅れたわけじゃない。けれど、気持ち早足で歩くとする。

もう何夜も連続で見ている悪夢。
削れていく睡眠時間。
私にとって、目下最大の悩みだった。

「おっす、みーおっ!」

そのとき後ろから、声が聞こえた。
と、同時、背中に衝撃。
誰かに叩かれたのだと、すぐに分かった、そこに誰が居るのかも。


「うわっ! って……なんだ、律か」
「なんだとは失礼なー」


勢いのあるハキハキとした喋り方。トレードマークのカチューシャ。
私の幼馴染であり、今に至るも友達である。
田井中律が、そこに居た。

「珍しいじゃん、澪がこの時間帯に登校なんてさー。どういう風の吹き回しなんだよ〜?
 ひっさしぶりに私と登校したくなったのかこのこのー!!」

いつもと変わらない。
明るく賑やかで、ちょっとうるさい。
私の、親友だった。


「別に……」

「素直になれよぅー、最近の澪ぜんぜん一緒に登校してくれなくなったじゃん。
 そろそろ私が恋しくなったてことなんだろー?」

律は満面の笑顔で、背中をバシバシ叩いてくる。
恋しくなったのはお前だろ。
なんて、軽口を言いかけて、止めた。

「……今日は……夢見が悪かったんだよ」

すると律はすぐに吹き出して。
『なになに怖い夢でもみたのかー? 澪はいつまで経っても怖がりだなー!』。
なんて茶化してくると、思っていたんだけど。
違った。

「……あ、ごめん」

気まずそうに、気遣うように、そして……心配そうな、顔をした。

「前生徒会長から聞いたんだよ、最近、ほんとに良く見るんだってな……嫌な夢」

151ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:07:42 ID:GnBVTppo


ああ、なんだ、和が話していたのか。しかも、その深刻さまで添えて。
そして私は、律に話していなかったのか。
思えば久しぶりだった。律と一緒に歩くのは、こんなにゆっくり、話すのは……。

「そ、そういえばさぁ、楽器店について来てくれるって話。あれいつになったら行くんだよー」

律は話題を変えようとする。
少し、無理のある笑顔で。

「こんど、な」
「こんど、こんど、って、澪最近付き合い悪いぞー?」
「……ごめん」
「うーん……ま……いいんだけど、さ」

律はすぐに引いてしまう。
実際、付き合いが悪くなったのは事実なのに。
心なしか、先ほどまでの元気が、私の大好きだった彼女の明るさに、影が差してしまったような気がした。
罪悪感に駆られる。
だから私は、大きめの声で、色々な事を誤魔化すことにする。

「行こう、ゆっくり歩いてたら遅刻するぞ」
「……うん」

そこからは二人、とりとめのない会話を続けながら歩いた。
学校を目指して。


「……あ、澪。見ろよ、空」
「………降ってきたのか」


ちらちらと、粉雪の残る。
3年生の3学期。




私にとっての高校生活、最後の冬だった。












◇ ◇ ◇

152ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:09:17 ID:GnBVTppo




いつも通りの日常が過ぎていく。


窓際の席は少し寒いけど気に入っていた。
授業は私なりに真面目に受け、休み時間はボンヤリと窓の外を見る。
昼休み中には律、唯、ムギ、梓がやってきて、和も交えて雑談する。
そんな、いつも通りの平和な一日だった。




「ねえ」

放課後、隣の席から声がかかる。

「ねえ、元副会長」

「なんだよ、元会長」

「あなた最近、ずっと外ばかり見てるわね」

「窓際の席だからな」

ぶっきらぼうな言い方に、和が苦笑するのが分かった。
軽音部のメンバーとは、終ぞ同じクラスになることはなく。
けれど彼女とは2年、3年と連続して一緒だった。

『生徒会に入りたい』

なんて突然言った時、和は驚きながらも快く相談に乗ってくれた。
結果として、私は生徒副会長になって、彼女との付き合いは長く。
色々な事があったけれど。
もしかしたら今の私にとって、彼女こそが一番の理解者なのかもしれない。


「先生がよんでるわ」

「私を?」

「そう」


気怠く前を見れば、教壇の隣で、さわちゃん先生が私を見ていた。







◇ ◇ ◇

153ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:10:25 ID:GnBVTppo





「……と、言うわけなのだけど」


「そうですか」


「まずは、おめでとう、秋山さん。担任として嬉しいわ」


「ありがとうございます」


「でも、秋山さん……」


「なんでしょうか?」


「ごめんなさい、いまさら変な事を聞くんだけどね。
 あなたが2年の頃から、大変な努力をしていたのは分かっているの。
 恥かしがりのあなたが副生徒会長にまでなって。
 でも、本当に……これで、よかったの? あなたは―――」


「いいんです。両親も納得してますし。なにより私が、自分で決めたことですから」







◇ ◇ ◇

154ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:12:36 ID:GnBVTppo


「澪先輩」

背後から声をかけられたのは、職員室を出て、廊下を歩いていた時だった。
振り向けば、そこには後輩である中野梓が立っていた。
ギターケースを抱えて、私を見つめている。

「今日は、部活来られますか?」
「ごめん。引き継いだばかりの生徒会の様子を見にいきたいし、それに勉強もしなきゃ……いけないからな」
「そっか、そう、ですよね。先輩たちもうすぐ卒業、ですもんね」

何かをはぐらかす様に、梓は私から目を逸らす。
おかしなものだと私は思う。
はぐらかしているのは私なのに、どうして梓の方が気まずい顔をしているのだろう。

「梓は、これから部活?」
「あ、はい。唯先輩達、今日はちゃんと練習するのかなぁ……卒業ライブしたい、卒業旅行いきたい、って言ってるくせにだらけてばっかりで……」
「大丈夫だよ。あいつら受験終わったんだし、梓がビシッと言ってやればちゃんとやるさ」
「ほんとでしょうか……。でも先輩がいないとみんなの気が締まりませんから、大変なのはわかりますけど、たまには部活、来てくださいね」
「……うん」




梓と別れ、夕暮れの廊下を一人で歩く。
窓から流れ込むオレンジ色の光が、教室のドアや窓をぼんやりと照らしていた。
誰も居ない廊下、何処からか、楽器の音が聞こえてくる。
その音を聴きながら私は歩き続ける。穏やかな時間だった。

何も変わらない毎日。
何も変わらない日常。
だけど一つだけ以前と変わったことが確かにあった。

最近、部活をサボりがちだという事だ。


『でも、本当に……これで、よかったの? あなたは、みんなと同じ大学に行きたかったんじゃないの?』


さわちゃん先生は、きっとそう言いたかったんだろう。
勉強するから家に帰る、なんて嘘だ。
私の受験なら、今日、ついさっき終わったばかりだというのに。




推薦による、海外(ロンドン)の大学への留学試験―――無事合格だった。

155ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:14:12 ID:GnBVTppo


「……ああ、そうか、じゃあ、もう引き上げないと、いけないのか」

ふと、忘れ物を思い出す。
ずっと隠していたもの。
気まずいかもしれないけれど、今日、取りに行かなければならないモノだと思った。

階段を上ってすぐの音楽室に、それはある。
夕焼けの部室。
ここに来るのはいつ以来だろうか。
一年と少し前、ちょうど私が悪夢に悩まされるようになった時のこと。

徐々に部活に顔を出さなくなって。
最初はみんな心配していた。
けれど、理由を察したのか、すぐに何も言わなくなった。
友人としての関係は変わらなかったけど、気を使っているような雰囲気は感じていた。

部室のドアをゆっくりと開く。
楽器の音は無く、人の声もしない。
夕暮れ時の、空っぽの部室がそこにあった。
ちょうど今朝、観た悪夢の再現のような――――

「……………」

幸い、今はなぜか、誰もいないようだった。
みんなして梓の説得を振り切り、梓を巻き込んで練習をサボっているのだろうか。
その様子を想像するだけで、ほほえましい気持ちになる。

残念なような、ほっとしたような、おかしな感覚の中。
私は、早急に忘れ物を、置きっぱなしにしていた楽器と私物を、右手で拾い上げる。
今日持って帰らなければ駄目だと思った。
じき、出立の準備を始めなければならない。そしてここに来ることは、おそらくもう無いだろうから。


そうして、荷物を担ぎ上げた私は、こっそり部室を出ようとして―――




「あれ、澪ちゃん。帰ったんじゃなかったの?」




気がつけば、部室の入り口に、一人の少女が立っていた。

156ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:16:26 ID:GnBVTppo


「………ぁ」


平沢唯。
夕焼けに照らされた彼女に、私は絶句する
赤く染まった唯の姿に、私は、何を、連想したのだろう。


「あ、ああ……えっ……と、忘れ物、したんだよ。でもすぐ帰るから、ごめん、また明日っ……!」


言い訳できない大荷物で何を言ってるんだろう、私は。
早足で、唯の隣を通り抜ける。
通り抜けて、去ろうとした。その直前に、唯はぽつりと、呟いた。

「澪ちゃん……なんだか最近変わったね……」

足が、縫い付けられたように止まる。
ボンヤリとしているようで、その実、
誰よりも勘の鋭い唯は、もしかしたら見抜いていたのだろうか。

「私達と距離置いてるって言うのかな。ううん、もうちょっと曖昧な感触。
 壁って言うより、膜があるっていうのかな。あんまし上手く言えないんだけど……。
 なんか澪ちゃんの心が、遠くに行っちゃったみたいで……さわれなくなっちゃったみたいで……」

「な、なに言ってるんだよ唯。
 私はいつもどおりだ。そうだよ、これ以上の『いつどおり』が……他にあるもんか」

「そっか、うんそうだよね。でも……もし悩みがあるなら何でも言ってね。
 私達はいつでも相談に乗るから、だって最近の澪ちゃんはまるで――」

私は一歩後ずさる。
唯は優しく触れ合おうとしてくる。
指が、私の頬に伸びてくる。私の頬に、在る『傷』に―――

「『無理して澪ちゃんを演じてるみたい』だよ」

やめろ。
聞きたくない。
触れられたくない。



違う、私は――――触れたくないんだ。

157ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:18:03 ID:GnBVTppo


「私、行くから」


逃げるように、俯いて、顔を隠して、唯を押しのけるようにして、部室を出る。
逃げるように、逃げた、廊下の先に。

「み、澪……じゃん、どうしたんだよ……」


―――律が、いた。
―――律だけじゃない、ムギも、梓も、そこに居た。


「帰るんだ……」

もう誰の顔も見たくない。
律も押しのけて、今度こそ家路に着こうと。


「―――なあ澪。私も、みたんだよ、悪夢」


ああ、やっぱり、今の会話、聞かれちゃってたんだ。


「私たち全員が同じ夢を見てる。
 それは澪が、頑張る夢なんだ。唯、ムギ、梓、それに私の……為に、軽音部の為に、一生懸命になって。
 傷ついて、ボロボロになって、死にそうになって、それでも戦う、そんな夢なんだ。
 あれさ、本当は夢なんかじゃなくて……」

「――ッッ!!」

「……まってよ、澪ッ!」




もう、限界だった。

振り切るようにみんなを置き去りにして、私はそこから逃げ出した。





◇ ◇ ◇

158ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:19:38 ID:GnBVTppo




振り返らずに走る。

逃げる。

逃げている。

なにから?

私はなにから逃げている?

日常から逃げている。

仲間から逃げている。

あれほど取り戻したかった、全てから逃げている。

何故?

どうして、どうして私は―――


「……っ……っ……な………ん……でだよぉ……」


何も分らないまま走り続けて、気がつけば、小高い丘の上にいた。
走りつかれ、丘の上で蹲るように。
たった一人で、泣いていた。


「………なん……で」


夕暮れの空を見渡せる丘。

私の町を見下ろせる丘。

全てがここにあった。

全てが元通りになっていた。

あれほどに取り返したかった日常が、全て、ここにあるのに。



「なんで、私は…………?」


だけど、どうしても、日常に帰れない。
心のどこかにある、異物感が拭えない。

どうしてなのだろう。
何も変わっていないはずなのに。
なのに辛い。
苦しい。
日常を生きることが、仲間と接することが。

どうしても引っ掛かりを感じてしまう。
噛み合わない感触に耐えられない。
あれほど望んだ事のはずなのに。
やっとの思いで、地獄から抜け出したのに。
やっと、やっと、還ってこれたのに。

159ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:22:02 ID:GnBVTppo

殺し合いに生き残り、日常に帰還する事が出来たのに。
どうして私は、この安息に苦しみを感じているのだろう。
いったい何が変わってしまったのだろう。
私とみんなとの、ズレは、何処に在るのだろう。

ずっと、ずっと分らなかった。
だけど今日、やっと分ったような、気がした。

日常に異物感があるんじゃない。
この自分こそが、日常に紛れた異物なのだと、知った。
変わったのは世界じゃなくて、私自身だったんだ。

怖い。
怖いんだ。
何も知らない彼女達の無垢な瞳が。

単純に、純粋に、心配してくれる、その心が怖い。
こんな私を見つめる、その綺麗な目が怖い。

私のなかじゃ、何も消えていない。
何も、何も、無かった事には出来ない。

殺し合い。

あの地獄の痕跡は、確かにある。
左手首は今も満足に動かせず、ベースを弾くことは二度とできないかもしれない。
毎晩、見続ける悪夢。
そして何より、この頬に残る刀傷が、鏡を見るたびに思い出させる。

地獄の、殺し合いの、記憶を。
恐怖。
痛み。
絶望。
そして、罪。

傷は、消せない。
化粧で隠せても、消す事だけは出来ない。

憶えているし、分かっている。
私は、ただの人殺しなんだと。
自分の為に他人を傷つけた。
そのくせ、何の報いも受けていない。

地獄から解放された後。
戻る世界には、失った筈の全てが残っていた。

馬鹿げている。
殺したくせに、殺したくせに。一人で幸せな世界に戻ってきた。
こんなことは許されない。許せ、ない。

―――本当は誰一人救えなかったくせに。

私は、彼女達に案じてもらえる立場に無い。
両手は血で汚れきっている。
こんな手で彼女達に触れたくない。

私の好きだった平穏に、私が泥を付けてしまう。
関わるだけでみんなを汚してまう、そんな気がして。
何も知らない彼女達の純粋な心が怖くて、堪えられないんだ。

確信する。私はもう一生涯、あの陽だまりの中には戻れないんだろう。
気がつけば、そこからとてもとても、遠い場所に来てしまっていた。
日常を取り戻す為に、日常から遠く遠く離れて。
そしてもう、帰ることは出来ない。

たとえ目の前にあるように見えても、もう二度と、手に入れる事は出来ないんだ。
そう、悟った。
だって私はこれを、何よりも大切なモノを、気づかぬうちに、自分で捨ててしまっていたんだから。

160ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:23:56 ID:GnBVTppo

きっと、これが相応の罰なのだろう。
自分の為だけに、命を奪ったことへの報い。
結果を笑って迎えるほど、潔くはないけれど。
仕方の無いことなのかな。とは思う。


それに私は、なんでだろう、不思議と――――


「なんだ、じゃあ、やっぱり救えない……」


記憶を消してしまいたいとだけは、どうしても思えなかったから。
あの場所で、あの世界で、私が出会い、そして守ろうとしたモノ。
その正体を知っても、後悔できないのだから、本当に救いようがない。

命を懸けた。
人を殺した。
取り戻したいと本気で願った。

全力で、戦った。
あの地獄の中で、私は、何を失ったのだろう。
そして何を、得てしまったのだろう。

「痛いな……」

何処かに残る、傷が痛む。

「痛い……」

たとえば、片頬に残るモノ。
この傷を、残すと選んだのは私自身だ。

私が決めた。
私が、選んだ。

それだけが重要なことだったんだ、と。
定めたのも、私自身だった。

「…………っ」

両の手を、強く握り締める。
なんて馬鹿げた選択肢。
なんて、愚かな生き方なんだろう。

忘れてしまえばいいのに。
記憶を消して、それでふわふわと、帰還した緩やかな日常に身を任せればいいのに。

なのに私はまた、選んでいた。
罪を、思いを、あの場所で背負ったモノを、未だ持ち続ける事を。

「そっか。まだ、在るんだ。ここに……」

―――そう、私は、まだ背負ってる。
背負うと決めた、重い、思いの全て。
失った誰かへの気持ち。
殺した誰かに対する罪科。
共に戦った誰かの孤独。
約束した誰かへの憧れ。

あの場所で出会って、そして失った彼女達の思いを。
そして、私自身の、選択を。

ぜんぶ、ぜんぶ、背負ってる。
きっとそれだけが、私があの地獄のなかで最後まで守り通した、たった一つのちっぽけな意地だから。

161ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:24:44 ID:GnBVTppo



いま、歌いたいと思った
遠く離れた世界まで響くように。

声は風に乗って、天に届け。
空を越えて、世界を超えて、どこまでも、どこまでも、どこまでも響き渡ればいい。

そしたら、また、歩き出せる気がするんだ。
どこかに行ける気がする。
この、重い体を引きずって、どこかへと。
どこかへと、どこまでも、私は、行きたいんだ。



『じゃあ、せいぜい頑張って――――』



不意に、世界に溶けた彼女の声が、私の背中を押した気がした。
私は、肺がいっぱいになるまで、息を吸い込む。
どこにも届きはしない、小さな声。
だけど、たとえ届かなくったって。




「――――――――――――」




今の私に出来る全力で、歌う為に――――















◇ ◇ ◇

162ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:27:03 ID:GnBVTppo








―――――遠い異国の風が、私の頬を撫でていく。












潮の匂いを感じながら、広大な野原を歩いて行く。
振り返ってもそこに、誰もいない。

一人きりの旅路。
もうどこにもいない4人分の幻影を引き連れながら、進む。

向かい風は強く、からだは重く感じるけれど。
希望を捨てられない私は、この重さとともに歩くだけ。


―――私はどこに行くのかな。


きっと永遠に届かない希望(おもい)を抱えたまま、飛ぶ事なんて出来はしないけど。
私は今も、背負ってる、それを誇りに。


―――私はどこまで行けるのかな。


どこまででも行いける。どこまででも行く。
翼を失って、飛べない私は、この二本の足でどこまでも。


想いを引き連れてどこまでも。

163ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:31:42 ID:GnBVTppo


「道なき道でも進もうよ」



どこまでも、行きたいと、願う。



「一緒に、踏み出すそこが道だよ」



音はもう私一人しかいなくて、だから標(しるべ)すら無くて、それでも。



「ビートで胸に刻む、誓い」


この想いだけは、消せないから。


「いつまでもずっと―――」


足は未だ、止まらない。




「――――Yes,We are Singing NOW」




「へえ、日本語の歌なんて、こっちに来てから久々に生で聞いたわ」




声を出し切った充足へと。
不意に、誰も居ない筈の背後から、誰かの呼びかけ、小さな拍手。



「上手いわね」


少し、嬉しくなる。
きっと此処から始まるモノもある、此処から変っていくモノがある。
そう信じられるから今は、予感と共に足を止め。
私はもう一度、私の後ろへと。

誰かの声に、まだ見ぬ何かに、振り返る。
きっと、そこに確かに在る、何かが。



「ありがと、あなたは――――」





私の、夢の続きだ。
























【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / 秋山澪 -To the next story!- 】

164 ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 00:32:51 ID:GnBVTppo
投下終了です

165名無しさんなんだじぇ:2015/04/21(火) 01:45:38 ID:fdVrQGkc
投下乙〜!
多分どういうことか全然分かってないのだけれど。
それでも、澪がまた歌を歌おうと思って歌ったことになんかじわりときた。

166 ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:33:46 ID:AGARX4jY
test

167 ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:35:03 ID:AGARX4jY
お待たせしました。エピローグ2話目投下します

168ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:37:58 ID:AGARX4jY



いつも通りの服を着て、街を一人で歩く。
外は寒く、空気が痛いくらいに張り付く。
まるで小さな針で刺されてるみたいで目が痺れる。
まだ冬が終わる日にはなりそうにもない。
雨が降ってないのは幸いだ。もし降っていたら骨まで響いていただろう。
病院生活はとっくに終わっているが、病み上がりの体に違いはない。
傷は完治してもも古傷のようなものは残っているらしく、こういう寒い日には体の節々が疼く。
切り傷の類はあまりなかった筈だった記憶だけれど、おかしな話だ。


世界の移動なんて大それた行為の実感もなく。
当たり前のように帰ってきた私は、その場ですぐに倒れた。
帰る前に治療をしておくなんて気前のいいこともなく、瀕死手前の状態のまま放り出されてだ。当然といえる。
まず止血した方がいいと思ったが、既に気力も体力ももう限界でとにかく休みたかったのだ。
家に帰る気、というのもしない。その時思い浮かべたのが、両儀の屋敷でもなく、自分の何もない部屋でもなかったからなのだろう。
先のことは考えず眠るように瞳を閉じたところ、暫くして慌ただしく近づいてくる足音が聞こえ、
現れた人にそのまま救急車に運び込まれて入院することになった。
容体は重症だったが命に関わるものはなく、時間を置けばどれも自然に治癒するものだった。
退院届はとうに出し終わり、こうして自由に出歩くこともできる。

……後で聞いたところによると、病院に連絡を入れたのはトウコだった。
どういういきさつがあったのか、私が遭った事態についてあっちはおおよそを把握していたらしく、
私が帰った時より少し前から根回しをしていたということだ。




『どうもこうもない。私に宛てられた役は最初から画面越しの観客だったということさ。
 元の世界との橋渡しの一要素に使うには、あの状態の私は適役だ。
 器が壊れればあそこの記憶は部外の私に流れる。箱の中の猫は自動的に観測された結果となる。
 劇を見聞きすることは出来るが、それ以外の行動干渉は一切受け付けない視聴者視点。
 世界を重ね合わせ過ぎた狭間の中で起きた物語が『在った』ということを確定させるための実数。
 生還者が鏡面界に囚われることのないための配慮とはいえ随分な念の入れようだよ、あの便利屋は。
 ……なのにその後始末を私に放り投げるとは、アフターサービスがなっちゃいないんじゃないかね。
 世界との癒着の綻びを剥がすのにどれだけ手間が要ると思ってるんだ。下手をしなくても私が見つかりかねんぞ。
 よしやはり二、三ほどは残しておくか。電話線程度の繋がりを維持すれば逆探知して引き摺り込めるんだがな……』

169ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:39:08 ID:AGARX4jY




何度も理由を本人に問い詰めているが、口に煙草を咥えて文字通り煙に巻かれている。
結局大半が分けのわからない上私情が混じり始めていたので、諦めて聞き流すことにした。

その中の報告で留まった一点。
私達、と言う通り、失踪したのは私だけではない。
礼園女学院から女生徒と、既に一人しかいない男性教師、関連性のない二人が姿を消している。
世界の矛盾を抑止するため働いた辻褄合わせなどとトウコが言っていた。
連れ去られた時間がそれぞれ異なっていたとしても、帰ってこれなかった時点で彼らの死は確定し現時点から消失したと。

分かっていたことだ。仮にここに生きた幹也が私を迎えにでも来ていたら、本当にどうしていたか想像できない。
ただ同時に、私を捜してくれたのがあいつでなくトウコだったということに、
何か期待していたものを裏切られたと感じてしまったのが無性に腹立たしい。
矛盾した在り方。相反する感情。
どちらも本当のことで、陰と陽はどちかも曖昧なのに、溶け合うことなく綺麗な境界線を敷いている。


街は変わり映えすることもなく、平穏そのものだ。
昔巷を震わせた殺人鬼の再来とか、少年少女が同時失踪したとか、物騒な話はまるで浮かばず。
道行く人や物にまとわりつく無数の線も、カタチを変えずそこにある。
その傷痕が、かつてないほど私の何かを急き立てる。

……早いとこ、目的のものを貰おう。足早にトウコの事務所へ向かった。



   





事務所の扉を開くと、机に座っていた黒桐鮮花と目が合った。
私を見るなり紙に紋様を記していた手を止めて、言葉もなく目つきを険しいものに変える。

「――――――」

無言で、ただ視線に意思を乗せて睨み付ける。
今すぐ飛びかかって喉笛を噛み千切らんとする激情を理性で抑えつけそれでも止められず漏れ出した、悪魔じみた表情。
これまでを遥かに超えるこの態度が、ここ最近私が見る鮮花の平常だった。

「何しに来たのよ、式」

きちんとした言葉を出せるぐらいに落ち着いたのか、割合そっけなく声をかけられる。
隠すまでもなく、声には黒々とした感情が乗せられてるが。

「用があるのはトウコの方だ。頼んでたのを貰いにきただけ……って、いないじゃないかあいつ」
「橙子師は外出中です。昨日また新しい綻びが発見されたとかで、その後始末に向かっています」

あくまで事務的に伝える鮮花。その態度よりも伝えられた内容の方に私は顔をしかめた。
日がなデスクに腰かけ煙草を指に挟んでいる眼鏡をかけた女所長は、この時ばかりは不在だという。

「なんだあいつ。自分から取りにこいって言ったくせに」
「それについては私から預かっているわ。はいこれ」

約束をすっぽかされ待ちぼうけかを食らうかとと思っていたところに、鮮花は座っていた机の隅に置かれていた小物入れを手に取った。
刀の柄より少し太い、特に変わり映えのしない眼鏡入れのケースだった。
そうか、と差し出されたそれを持ってこの場を立ち去ろうとする。
トウコの顔が見たいでもなし、留まる理由がなくなったから長居する理由もない。

170ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:40:52 ID:AGARX4jY


「……」
「……」


それが結局出来ないでいるのは。
私が握るケースの逆を掴んだ鮮花が、いつまでも手を離さないからだ。

早く離せ、と目で訴えてる。
嫌よ、と同じく目で返される。

「ケンカ売ってるつもりなの、あんた?」
「いや、それはオレの台詞だぞ」

引っ張る力を強めるが、鮮花の手は吸盤でもくっついてるかのようにぴったりと箱に張り付いて離れない。

「橙子さんも橙子さんよ、なんだって私にこんなものを渡して、よりにもよってこいつ宛てなんて任せるのよ……」

珍しいトウコへ苦々しい不満を口に出す鮮花の言葉の中で、流せない台詞が聞こえた。
今度は、私の琴線が触れて揺れた。

「まさか、見たのか」
「見てないわよ。けど眼鏡ケースに入ってるのが眼鏡以外だなんて普通想像しないでしょ。
 あんたに譲らない理由なんて、それだけでお釣りが出るくらいだわ」

手の力は段々と増していっており、箱がミシミシと軋むのを振動で感じた。
互いに譲らず、このままでは先に目的の品の方がおしゃかになってしまいそうな境になって。


「なんで、守れなかったのよ」


ぽつりと呟いたのは、安全装置を外して暴走しないようにするスイッチだった。
迸るほどの感情を、なるべく理路整然とした意味ある言葉へ変えて、正統に訴えるための準備。

「幹也も藤乃も死なせたのに、あんたはそんな風にしていられるのよ。
 結局あんたにとっては替えが効く相手でしかなかったってこと?
 あれだけ私から幹也を奪っておきながら返しもせず捨てていくなんて、そんなの卑怯にもほどがあるでしょう」

私が帰ってきて、トウコからその際の顛末―――黒桐幹也と浅上藤乃の死を伝えられた時、鮮花はそれこそ世界の終わりに直面したような顔になっていたという。
実際世界が滅ぼうが相変わらず泰然としていそうな性根の鮮花には、幹也の死は正しくこの世の崩壊に等しい災事だっただろう。
そこからは泣きもせず、嘆きもせず、元々刺々しかった私への態度を剣の鋭利さまで研ぎ澄まして、見た目は淡々と普段通りの生活を送っていた。


幹也達の死の責任を私に押し付けられるのが、八つ当たりだとは思わない。
だって私は、あいつの死体を見た。
体の硬直度や残っていた生乾きの鮮血から、直接斬りつけられてから数時間程しか経っていないと判断がついた。
つまり、決して間に合わない時間の差は無かった。いやそもそもあの島のどこかにいるのは確実なんだから捜そうとすればもっと早く気づけた筈なのだ。
たとえ後付けの結果論だとしても、死なせた事実には言い訳が利かない。

だから鮮花の怒りはもっともで、その矛先を私に向けるのはまったく正統だ。
……どれだけそれが恐ろしいことか知っていても、受け入れるしかない。

171ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:42:47 ID:AGARX4jY

「橙子師に頼んで修行の段階を上げる許可を貰ったわ。実戦だって礼園で経験済みだしいつまでも油断しないことね。
 門戸を叩きに来るのを覚悟しておきなさい」

本人の性格が表れてるような、堂々の宣戦布告。鮮花の目は、名前通りの鮮やかな翠(いろ)の中に煌々と烈火が宿っている。
しかも門戸を叩く、ときた。



本物の殺し合いを、あの場所では数知れず経験した。
快楽のため。狂気のため。野望のため。願いのため。誰かのため。
多くの動機が、他者が私を殺そうとする理由だった。


けどこの意思を向けられたことは、一度もない。
最後に戦った相手さえ、本質的には私に対しての殺意ではなかった。
あれは互いに、道にいた邪魔を払おうとしただけに過ぎない。
あの世界では私もただの参加者の一人。異常性なんて埋もれて消えるぐらい濃い場所にいたただの人。


ああ。なんだろう、これは。
本気で憎まれてるのに、恨まれてるのに。
それがとても新鮮な気持ちに感じられているのは。


「誰が何と言おうが、幹也を見殺しにしたあんたを絶対に許したりなんかしない。
 いつか必ず―――私が殺してやるんだからっ!」


ねじれのないあまりにも正面的過ぎる殺意。
届く叫びは、胸に空いていた穴に向かって見事に直撃した。


そんなことを言える奴なんて、あいつしかいないと思っていたのに。
ひょっとしたらだけど。それは私にとって初めての体験だったのかもしれない。



「―――ああ。おまえなら、いいかもな」



気づけば、素直な感謝を口にしていた。
私の台詞に呆気にとられた鮮花はぽかんと口を開けて黙っている。
握力が緩んだのを感じ取って、その隙をついてケースを素早く指の間から引き抜いた。

「……あっちょっと!どういう意味よ、それ!ふざけてるの!?」
「言葉通りの意味だよ。その時が来たならよろしく頼むぜ。
 もちろん、オレだって黙って殺される気はないけど」

後ろで続けて文句を言う鮮花を放って事務所を出て行く。
頬が僅かに緩んだ安心した顔を今見せでもしたら、それこそこの場で殺し合いが勃発するかもしれなかったからだ。





172ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:44:21 ID:AGARX4jY




空にはぶ厚い雲がかかっていて、蒼い景色は隠れている。
今にも雪が降りそうな天気だったが、急ぎもせずゆっくりと帰り道を歩く。
その途中、無事回収したケースを開き、その中身に流石に顔をしかめた。

「……本気でケンカを売っているのはあいつなのかもな」

確かにデザインについて注文をつけてはいなかったが。これは、流石にないだろう。
文句を言いつつも、地味な黒色に縁どられた眼鏡をかけて、空を見た。

「―――――――――ぁ」

―――レンズ越しの世界は、とても綺麗に見えた。
昏睡から目覚めて以降見慣れた街並みが、まったく別の景色みたい。

万物の綻び、死を司る線はレンズにはまった視界の中だけ消えてしまった。
まだ式と識がひとつだった頃のような、ありのままの姿。
欠けるものもない代わりに、何も満たされることもない空虚な日々。

けれど、視えなくとも死はすぐそこにある。
眼鏡を外せば元通りの、両儀式の世界に引き戻される。
だからこんなのは、ただの気休めでしかないものだ。
今までにないお節介たちのせいで、以前よりずっと弱くなってしまった私。
この先の未来を生きていくのに必要な枷。

だっていうのに。喪われたかつての幸福な視界(せかい)を幻視できたことが、泣いてしまうくらい嬉しくて。
そんな頼りない繋がりに、私は寄りかかれてしまっている。



鮮花に真正面から怒りを突き付けられた時、本当は自分がどうなるか不安だった。
幹也を喪った虚しさと衛宮を殺した責に、押し潰されてしまわないか。

『―――精一杯生き続けなさい』

頑張れ、だなんて最後に残した声が、頭に留まって離れない。

『――そういう、特別を願うよ』

普通のやつが失ったものを取り戻そうと懸命に走る顔が、いつまでも忘れられない。

173ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:46:01 ID:AGARX4jY


埋まらない胸の孔には幾重にも糸が張り巡らせて、バラバラになってしまいそうな体を縛り付けている。
それらの縁が、どうにか私に前を向かせている。

これから先、夢の終わりに気付かされるときが何度か来る。
またおかしな出会いに巻き込まれるのはまっぴらだけど。
どうやら……あの最後について、まだ未練が残っているようだ。

死んだ人間が見えることなんてない。
遠くから自分を呼ぶ声なんて聞こえてこない。
でもこのまま忘れて放りっぱなしにするには、後味が悪くなるものが。
せめて"その日"が来るまでは――――――ことなのだろう。

生と死が螺旋する世界を俯瞰しながら、人を殺して残る喪失の痛みを忘却せず。
がらんどうの胸に僅かに生まれた、これから続く未来に思いを馳せる。

言い訳しようのない。なんて、無様。
けれど、それも受け入れる。
ほんの少しだけ癒えた孤独を背負って、私は日常を過ごしていく。
いつも隣にあった熱をもう感じることが出来ないことを、やはり寂しく感じながら……。






















【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / 両儀式 -To the next story!- 】

174 ◆ANI3oprwOY:2015/04/21(火) 23:46:51 ID:AGARX4jY
投下終了です

175名無しさんなんだじぇ:2015/04/22(水) 01:24:59 ID:k6Sp75vc
すげー、空の境界だ、これ。
お前なら、いいかもな、でもガツンと来たのに。
死の線のない空を見上げてからの喪われた〜寄りかかってしまっているにもってかれた。
言い回しやこういうの思ってしまう式が本当にかつて俺らが読んでどっぷりはまった空の境界だ。
ちょっと泣いた。

176名無しさんなんだじぇ:2015/04/22(水) 07:19:56 ID:U9r6XbPc
乙でした。
空いた胸の穴には誰かの思い出が詰まって、そしてまた生きていく。
式らしくない普通の人生にしてバッドエンド。
個人的に生還が一番意外だったのがこいつだ。

177 ◆ANI3oprwOY:2015/04/22(水) 23:49:42 ID:KPWgiLGY
test

178 ◆ANI3oprwOY:2015/04/22(水) 23:53:11 ID:KPWgiLGY
お待たせしました。エピローグ3話目投下します

179ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY:2015/04/22(水) 23:54:01 ID:KPWgiLGY


戦いの日々が続く。
トリガーを引き、連動して愛機(ランスロット)の持つ左手の剣が敵機の胴体を泣き別れにする。
右手に持つライフルから射出される熱線が風穴を空ける。
世界に争いは絶えない。
次元が違ったところでありようはそう違うわけでもなく、当たり前のように戦いが始まる。

数えきれない屍を重ね、夥しい量の血を流す。
戦争の在り方は人ではなく機械同士のものへと姿を変え、今や王の握るスイッチひとつで戦局が確定する。
死を見ることなく人を殺すそれは、直接殺し合ったあの場所よりもある意味で残酷な所業だ。

ナイトオブゼロの役割。ゼロレクエイム成就のための露払い。
即ちは、皇帝ルルーシュの剣として在ること。
ブリタニア領で倒れていたのを発見され現在の状況を把握出来るまでに回復してからの、枢木スザクの日常が続く。

刃向う者、逆らう者は全て消す。
人の意識を捻じ曲げる呪いで隷属させ、圧倒的な武力によって処刑する。
向かってくる数がいなくならない限り何度でも、何度でも繰り返す。

誰もが憎しみを込めて指さす。悪逆皇帝、歴代で最も暴虐で傲慢な独裁者と。
身を変えては権力者に尾を振る売国奴、裏切りの騎士と。



「それでいい。僕らは証のために罪を犯した。
 多くの戦いを起こし、多くの命を奪った。その怨嗟の声は当然のものだ」



この世の誰からも憎まれて。誰よりも惨たらしく死ぬよう望まれる。
そうなるように振る舞い、その通りに成るべく行動してきた。
人々の願い/怒りがひとつに集まり、頂点に達した瞬間。
悪逆皇帝は正義の反逆者の刃に倒れ、全ての膿を引き連れて血に沈む。
そこに―――礎になることを喜べと、傲岸に生贄を強いる神と、違いがあるといえるだろうか。



人の救世を豪語したリボンズ・アルマークにも、そこには大義はあった。
それによって救われる人も、あるいは本当にいたのかもしれない。
他者との軋轢はなくなり争いは地上から永遠に消え。
死すべき運命だった人と共にいつまでも生きられる。
世界の平和。どれだけ年月が経っても色褪せない完成された絵画。
根底の理念はどうあれ、目指した地平は同じだった。

全てを救えるとは言わない。
報われぬ人は出てくる。これは完全なる救済とは程遠い、目指す未来には遥かに遠い一歩に過ぎない。
平和が訪れても、死んでいった人の怨嗟、涙は無にならない。
過去の蟠りを消し去っても、人が変わらない限りいずれまた憎しみは芽吹く。
結果がどんなに美しく、過程の犠牲に見合うのだとしても、犠牲そのものを忘れていいはずがない。

ゼロレクイエムの役割の意味は贖罪であり、清算だ。
苦しみ、悲しみ、間違い続けながらも考え抜いた答え。
人の愚かさを知り、醜さを味わい尽くして、それでも人は明日を進めると信じた。
その一歩を踏み出すために、これまでの罪科の全てをゼロにする手段。

数えきれない過ちがある。
その時は最善と思った選択が誤っていて、望まない被害を生み出していった。
今度こそはと志しても、残る現実は後悔と絶望の連続だった。
もっと上手くやれたのかもしれない。そう思わなかった時などなかった。

180ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY:2015/04/22(水) 23:54:46 ID:KPWgiLGY



だけど、忘れてはならないこともある。
その失敗が、苦渋が、涙が、怒りがあったからこその、ゼロレクイエムなのだと。

悲劇を知った者がだけが、その重さを本当に知ることが出来る。
撃たれなければ、真の痛みは分からない。

……神との決定的な違いはそこだ。
遍く救済は同時に一方的な、安易な幸せの強制になる。
自分達はそれを良しとしなかった。罪も痛みも愚かさも、人類が未来を築くのに必要な枷。
傷ついて這ってでも進んでみせろと、突き放すように信頼を込めて後を押す。
その思いが、続く世界をここまで形作って来たことを無駄にはしたくないと、総ての意識が帰る場所で誓った。



「そうだ。だから、嘘にはしない。
 あそこにいたルルーシュが辿り着いた最期を、ただのあり得た未来に変えるわけにはいかない」



バトルロワイアルの真実。
平行世界も聖杯も、そこにあった出会いも、別れも。
そんな痕跡は、この世界の何処にも残してはならない。
残されていたメッセージには、ルルーシュの死―――ゼロレクイエムが完遂されたことしかなかった。
未来の情報、現在のルルーシュに伝えればより理想的な結果に導けるだろうものも、何も。
本人が一番分かっているのだろう。見えぬ明日を明確に知ってしまえば、自分は同じ道には進めなくなると。
同時に、この筋書きでいいとそう肯定している。この道で間違いはないと声なき後押しを聞いた己に送ったのだ。


だから全てに蓋をする。
ゼロレクイエムに協力する者、ルルーシュ本人にすらも約二日の失踪の理由を明かすことはしなかった。
どれだけ追及を受けようとも口を噤み、ただ計画に支障はないとだけ答えた。
最終的には行動で示すことで皆に納得をもらい、療養期間を除いて作戦の大幅修正もなく進行に移っていった。

変わるのは、独り知る己の心だけ。
歴史がつつがなく流れる裏で、禁忌の真実を隠し通す。
そうでもしなければ釣り合わない。地獄を生き残った枢木スザクが背負うべき責任。
体は鋼に。心は鉄に。
戦いにも似た激しさで、己を殺していく。

フレイヤを載せたダモクレスを持つ、シュナイゼル卿と黒の騎士団の連合軍にも。
そこにトウキョウ租界で死んだと思われたナナリーが生きて対立したことにも。
戦友だったジノも、射出されたフレイヤの相殺も、最後に戦うカレンの紅蓮にも。

不意に溢れそうになる思いを封殺し切って、ナイトオブゼロの役割を果たし抜いた。
最期の交錯。大破したランスロットの爆炎と共に、枢木スザクの人生は闇に消える。
死者になり、新たな仮面(ペルソナ)を被り表舞台に立つ頃には、自分の存在は世間に認知されなくなる。
全てを捨ててこそこの役割を果たすことが出来る。
身を隠し、名を無くし、身分も失せ、生者の資格さえ捨て去って。
何もかも削ぎ落としても、生きている自分に残るものがあるだろうか。

……時が来た。
託された、最後の命を果たそう。

181ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY:2015/04/22(水) 23:55:26 ID:KPWgiLGY











約束の日の空は、晴れやかな晴天だった。
世界を統一した皇帝の記念式典。
引き連れた反逆者を処刑する壮大なパレードの下で、英雄は復活する。
黒衣と仮面、個人としての記号を排除した無貌の出で立ち。
虐げられる無辜の人々の願いを背負って立ち上がる、名無し(ゼロ)の反逆主。

貫通した切っ先が艶やかに濡れ光る。
肉の感触を確かめるように、剣の柄を強く握り締める。
剣は確実に胸の中心、心臓を穿っていた。死を避けようのない、致命傷だ。
自らの血に濡れ、力なく倒れて寄りかかる皇帝。

ここに、鎮魂歌(レクイエム)は真に完遂した。



「これは、お前にとっても罰だ。
 お前は正義の味方として、仮面を被り続ける……」



外す意図を浮かべることも、感情の揺れが手元を狂わせることもなく、始めから決めた通りに滑らかに事を成した。
当然だ。
異界に連れ去られるよりも、ずっと前からこの結末を決めていた。
変えようなどと思ったことはなく、この手で今度こそ命を奪えることに安堵すらした。
ただ、事前に決める覚悟が二重になっていただけ。



「枢木スザクとして生きることは、もう無い。
 人並みの幸せも、全て世界に捧げてもらう……永遠に―――」



背中から剣を生やして、息も絶え絶えで紡ぐ声を聞く。
レンズ越しで横目に入る顔は血を失って蒼白になっている。
血の脈動も止まり、あと僅かの逡巡で死が訪れるのだと握った剣で感じ取れる。

この世界における、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの死。
枢木スザクにとって、二度目の光景を目の当たりにする。

同じ人間の死を二度経験しても、心は摩耗せず同じ感情を抱いている。
悲しみも、憎しみも、どちらも消えていない。
自分はやはりこれからもルルーシュを憎み、そして死を悼むだろう。
君が行ってきたこと。
君が目指したもの。
間違いも正しさも全て、空になった胸に留める。



「そのギアス……確かに受け取った」



これより先、永遠に縛り続ける命。
願いにも似た呪いを受け取る。
その時頬を熱いものが流れ落ちる。
ああそうか。
俺はまだ、ここに。

182ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY:2015/04/22(水) 23:56:20 ID:KPWgiLGY



「――――――ありがとう、ルルーシュ。
 僕に生きろと、願ってくれて」


剣を引き抜く。
敵であり、友であった男との別れが済まされる。
血飛沫がこぼれ、ルルーシュの体が崩れ落ちる。





『――――――ああ、ありがとう、スザク。
 これでようやく、俺も明日に向かえる』





吹いた一陣の風。
それに混じって、遠い遠いの空から、声が聞こえた。




「―――、■■■■■……?」

呟いた自分の声は言葉に成りきらず、湧き上がる歓声に飲み込まれた。
見上げてもそこには何もない。
無限の彼方まで広がる、宇宙(そら)の先まで続いてそうな蒼い空があるだけだ。

血溜まりだけがある地面を眺める。
その下から聞こえるのは、少女のむせび泣く声。
ルルーシュの落ちた先、玉座の置かれた場所の真下に誰がいるのかを知っている。
刺した後の所作までは決めていないのだから、祭壇からずり落ちてそこに辿り着いたのは偶然でしかない。
けどその偶然が、あのルルーシュにも起きていたのなら―――ふたつ重なれば、それは運命と呼んでいいだろうか。
彼が戦うことを志した理由の起源。
永遠に悪名を背負うことになる男への最後にかける声が彼女であること。
世界を騙しおおせた嘘吐きに等しく同じ餞(はなむけ)があってくれるように。
そう、願った。










―――日は昇った。
さあ、次の道を歩き始めよう。


誰にも先が分からない、未知の明日が待っている。


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