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【オリスタ】アークティック・モンキーズSS 2 -ソウルメイト-【SS】

1 ◆WQ57cCksF6:2010/08/22(日) 02:45:39 ID:???0
ちゅうい
・あくもんの続編です(今作1話目は前作4話の内容を踏まえて書かれています)
・あくもんが好きで、あくもんはあくもんで完結しているんだ!という人は読まなくてもおkです。
 きっと蛇足です。
・続編はやらない(キリッ とか避難所で言ってたくせに書いちゃいました。大人は嘘つきなのです。
・夏休みなのでこっちもあっち(RS)もそっち(単発)も頑張って書きます。お願いします。

534名無しのスタンド使い:2011/11/12(土) 19:58:09 ID:z4uTKcX60
>>531
超乙でし!
アクモンさんのにやけ方がたまらないでし

535名無しのスタンド使い:2011/11/13(日) 19:49:05 ID:OsWbSBbYO
僕の中でWQ先生は偉人の粋に突入してる
間違いない

536 ◆WQ57cCksF6:2011/11/15(火) 00:17:04 ID:srz4ONrQ0
>>531
う、うおおおおおう……おおおおお
なんて、なんて素晴らしいんだァ
こんなに百万倍も美しい集合絵はみたことがねえ……
未来が眼帯を外してるのがすごく良い……うれしすぎて漏らしかけた……

本当にありがとうございます!
家宝余裕でした!
乙ですさん、マジで超乙です!やっほおおおううううう!!


>>535
やん!照れるじゃない!

537 ◆WQ57cCksF6:2011/11/24(木) 23:08:40 ID:mV2.z8v20
お知らせ。
今年のクリスマスは三連休なので、三夜連続でおまけSSを投下したいと思います。
三人のヒロインたちが主役のSSになる予定です。
え?三連休は暇なのかって?今から用意するんだもん!お楽しみに。


第一夜「ヒナちゃんの電撃クリスマス!」(藍川 比奈乃)
第二夜「融雪」(虹村 那由多)
第三夜「悔恨の行方」(神田 愛莉)

538名無しのスタンド使い:2011/11/24(木) 23:30:47 ID:2B0J78Zw0
クリスマスちょっと前くらいに別れる呪いかけといたけど解除するわ。

539名無しのスタンド使い:2011/11/24(木) 23:42:27 ID:yLPlt9o60
愛莉たんスピンオフついにくる!
おおお!今年は明石家サンタにバイバイだぜ!

540名無しのスタンド使い:2011/11/25(金) 00:09:12 ID:tcjffaic0
愛莉たんのスピンオフか……ソウルメイトに出てない愛莉たんSSはA世界の前日譚なのか、それとも本編で書かれなかったB世界の愛莉たんがついに書かれるのか……

541名無しのスタンド使い:2011/11/25(金) 00:43:20 ID:9xYpPy3w0
ikirukibougafueta ^o^

542名無しのスタンド使い:2011/11/25(金) 02:00:28 ID:3sTl.lEc0
町中のカップル共を蒼玉の電撃で一掃するヒナサンタ期待

543 ◆WQ57cCksF6:2011/12/24(土) 23:46:15 ID:SMUmENuA0
「ヒナちゃんの電撃クリスマス!」


◇『組織』アジト・休憩室 21:45


比奈乃「さあ! 本日はクリスマスイブというわけで!」

丈二「…」

琢磨「…」

比奈乃「『組織』の男子、女子たちによるプレゼント交換会をはじめたいと思いまーす! いえーーい!!」キャイキャイ

忍「…」

航平「…」

比奈乃「男子、女子のみんなー? プレゼント持ってきたかーい?」

丈二「あのさ……ちょっといいスか?」

比奈乃「なにー?」

丈二「参加者……俺たちしかいないンだけど………」

琢磨「……」

忍「……」

航平「……」

比奈乃「…いいじゃん!5人で楽しもうよ!」

航平「つかさ、女の子ヒナだけじゃん……4:1じゃプレゼント交換できないだろ……」

比奈乃「大丈夫! 私四人分のプレゼント買ってきたし!」ドン!

琢磨「一人で四つ用意して来ちゃったの!?」

比奈乃「さあ買ってきたプレゼントをテーブルに置いてください!」

忍「交換ってどうやんだよ?」スッ…

比奈乃「アミダくじ作ってきましたー! これで決めよ! みんな名前書いて」

丈二「……」カキカキ

琢磨「……」カキカキ

忍「……」カキカキ

航平「……」カキカキ

544 ◆WQ57cCksF6:2011/12/24(土) 23:53:52 ID:SMUmENuA0
10分後

比奈乃「さあ、じゃあ早速くじを引いていきましょうか! いえーーい!!」キャピキャピ

比奈乃「じゃあまずは女子勢からまいりましょー♪ 一番手は私いきまーす……はい、引きました!これ誰のプレゼント!?」

忍「俺のだ」

比奈乃「キャーッ忍のプレゼントだー! なにかな、なにかな?」ガサゴソ

丈二「……」

琢磨「……」

航平「……」

比奈乃「わぁーっ、アロマキャンドルセットだ! 可愛いーっ!」

忍「おう、香り三種類入ってっからよ」

比奈乃「ありがとう! やった、やった♪ さあ次いきましょー」

545 ◆WQ57cCksF6:2011/12/24(土) 23:55:17 ID:SMUmENuA0
比奈乃「次も私でーす! どれどれ……はい、これ誰の!?」

琢磨「俺の」

比奈乃「琢磨の! 開けまーす……」ガサゴソ

丈二「……」

忍「……」

航平「……」

比奈乃「おお、なにこれ! 腹巻き?」

琢磨「カシミヤの腹巻きだよ。暖かいぞ」

比奈乃「もふもふだ! すごい、なかなかセンスいいねー! ありがとう!」

琢磨「あ、ああ…どういたしまして」

比奈乃「よーし! じゃあ次……」

丈二「もうやめろォーーー!!!」

比奈乃「えっ」

丈二「お前しかいないんだから俺たちのプレゼントは全部お前に行くんだよ! もう直接受け取れよめんどくせえんだよ!!!」

比奈乃「何言ってんの? そんなの面白くないじゃん」

丈二「いや、もう既に面白くないよ!?」ガビーン

比奈乃「仕方ないなあ、じゃあ次男子勢引いていいよ」

546 ◆WQ57cCksF6:2011/12/24(土) 23:56:41 ID:SMUmENuA0
ヒナ→丈二

丈二「引いたぞ」

比奈乃「丈二は私のプレゼントだね」

航平「俺たちのプレゼントは全部お前からだけどな」

丈二「なんだ?」ガサゴソ

丈二「…なんだこれ……」

比奈乃「それは……定期付きPASMOですね」

丈二「…これ、何で区間決まってんの? 俺、全然使わない駅だけど……」

比奈乃「誰が当たるかわかんないから、適当なとこ選んどいた!」

丈二「……」

琢磨「……」

忍「……」

航平「……」


ヒナ→航平

航平(期待できないなぁ…)ガサゴソ

比奈乃「あ、おめでとう! それ一番いいやつ!」

航平「おお、マジで? んん、これは……」

比奈乃「電子辞書だよ♪ テレビも見れるんだよ、それ! すごいでしょ」

航平「お、おお……ああ……」

琢磨(いや、なんだよそのチョイス……)

丈二(なんだよこの会………)

547 ◆WQ57cCksF6:2011/12/25(日) 00:14:09 ID:Il3j8/4.0
ヒナ→忍

忍「なんかいいにおいがする」ガサゴソ

比奈乃「へへへ」

忍「おわっ!?なんだこれ!ベタベタすんぞ!」

比奈乃「フライドチキンです」

忍「おまっ…そのままいれんじゃねーよ!手に油ついたろーが!!」

航平(いや、そこじゃないだろ)

琢磨(そこじゃない)

丈二(そこじゃねーな)


ヒナ→琢磨

琢磨「さて、なにかな」ガサゴソ

比奈乃「あーそれは…マフラーだね」

琢磨「これってもしかして、いつも君が巻いてる……?」ドキドキ

丈二「おいキメーぞ」

忍「んなわけねーだろアホか」

航平「ドキドキしてんじゃねーよブタ」

琢磨「なにこの総バッシング!?」

比奈乃「いや、それ実は編みかけなんだよね…」

琢磨「ホントだ、完成してねえ!ふざけてんのか」

比奈乃「時間足りなくて…えへへ」

琢磨「なんだったんだこのプレゼント交換!」

琢磨「なんなんだよこのSS!!!」



琢磨「オチもないのかよ!」



☆変な空気で聖なるクリスマス!
「ヒナちゃんの電撃クリスマス!」…おわり

548 ◆WQ57cCksF6:2011/12/25(日) 00:15:03 ID:Il3j8/4.0
作者も迷走の第一夜!
第二夜へ続く

549名無しのスタンド使い:2011/12/25(日) 00:17:02 ID:mOYzc/Yo0
乙でし!てっきり三連休の祝日23日から来るかと思ってバックレたかと思ったのは内緒だぜ

550 ◆WQ57cCksF6:2011/12/25(日) 00:21:06 ID:Il3j8/4.0
ぶっちゃけ間違えてましたwwwサーセンwwwwww

551名無しのスタンド使い:2011/12/25(日) 00:21:46 ID:7qaoS/YwO
網掛けなのはマフラーだけじゃなくて…ゴホゴホ

続きも期待してまーすん♪
琢磨は裏切らないなぁ〜

552 ◆WQ57cCksF6:2011/12/26(月) 01:10:49 ID:1sXzz74c0
ちょっと急用が入ってしまってすまぬ
明日(今日)の夜更新します、おやすみなさい

553融雪1/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/26(月) 22:15:37 ID:/0qZna6M0
「融雪」



雪は恋心似ている。
ふわふわで、ひらひらで、美しい。
人肌の温度で溶けてしまう。
儚い。

降り積もれば美しい世界が一面に広がるが、それは最初だけだ。
時間が経てば邪魔に思い、鬱陶しくなり、踏み鳴らされ汚れる。

雪も恋も、舞っている内が華。
蓄積されていったそれには、ただ足を取られるだけなのだ。

554融雪1/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/26(月) 22:17:46 ID:/0qZna6M0
◇◇

「あのさあ、那由多は俺になにか隠し事してるでしょ」

そう言って、"彼"は那由多の太ももを軽く撫でた。
ストーブの上のやかんがふつふつと揺れている。 

「なにもないよ……」

「ホントかな……」

「ウソつかないって」

那由多はウソをついた。ウソは、決して小さなかわいらしいものではなかった。
彼女には大きな秘密があった。

555融雪1/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/26(月) 22:20:57 ID:/0qZna6M0
二日前

「俺だ、"荷物"を確保した。車を出してくれ」

ハンチング帽の男が、耳元の無線にそう呟いて、空港から外に出た。
外は吹雪いていた。男は帽子を深くかぶり直し、肩にかけたカバンを握りしめて歩きだした。

空港のトイレでは、二人の『組織』工作員が頭を撃ち抜かれて死んでいた。

男がぶら下げるカバンは、彼らが奪ったものだった。『組織』から盗み出した"荷物"。中身は不明である。

ハンチング帽の男は足早に、人気のない倉庫街を横切っていく。
彼が二番倉庫の角を曲がったときだった。

「……ぐうっ!」

突然胸に空いた激しい痛み。やがてじわじわと拡がる熱。
「撃たれた」のだと理解する前に、もう二発、無音の弾丸が胸部と腹部に突き刺さった。

膝をついて倒れる瞬間、男は拳銃を握って立ち尽くす敵の姿を見た。
女だった。若いというより幼い、自分の娘と同じくらいの歳の女だった。

男は冷たい雪の中に倒れた。
虹村 那由多は拳銃をしまい、男に近づいてカバンを奪い返した。
中は空だった。

「! ……やられた」

そう呟いて、那由多は無線を開く。

「こちら"ストリッパー"。カバンを奪回したが中身を確認できず。"荷物"の回収に失敗した
この数分の間にどこかに隠したんだわ。衛星で遡って確認して」

"ストリッパー"。それが彼女のコードネーム。
彼氏が知らない秘密の名前である。

"ストリッパー"こと那由多は、無線で仲間に報告してから、男の死体を後にしてその場を立ち去った。

556融雪1/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/26(月) 22:24:13 ID:/0qZna6M0
昨日

この日も朝から雪だった。
お昼を過ぎても凍えるような寒さは緩和されない。

東北地方のとある有名国立大学。
雪の積もるキャンパス前で、那由多は"彼"の授業が終わるのを待っていた。

ふうと吐き出した息が白く、真っ白な空に同化するように消えた。
やがて校舎から授業を終えた"彼"が出てきて、那由多に手を振った。

「待ったよね、ごめん」

「寒かった。肉まん買って」

「太るぞ。デブになったら愛してやんない」

悪戯っぽく笑う"彼"。真冬の寒さで冷えた唇が、那由多の唇に重なった。

「バーカ」

そう言った那由多の顔は、暖かい笑みで満ちていた。
満たされている。那由多は"彼"といるとき、心の底からそう感じていた。

557融雪1/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/26(月) 22:26:18 ID:/0qZna6M0
◇◇
「あ、そろそろバイトの時間だ」

"彼"はそう言って、那由多の太ももから手を離した。
その手で首を撫で、耳を甘噛みする。那由多は思わず息を漏らした。

「そんな顔したってだめ。続きは帰ってから。いいね?」

サディスティックな笑みで"彼"が言った。那由多はこくんと頷いた。
絡ませた指がほどけ、"彼"が立ち上がり、カバンを背負った。

「またあとでな」

ばたん、と扉が閉まった。部屋を去った"彼"は、気が付かなかった。
バイトにむかうその背中を、見送る那由多の視線がーー

「……」

ーー暗く、冷え切っていることに。

かたかたと、ストーブの上のやかんが、煮立った湯を震わせた。

558 ◆WQ57cCksF6:2011/12/26(月) 22:30:03 ID:/0qZna6M0
パソコンがイっちまった…
いまiPodで頑張って書き直してます…
すみません3夜連続とかいって5夜連続くらいになりそうです
すまぬ…すまぬ…
続きは明日

559名無しのスタンド使い:2011/12/26(月) 23:14:17 ID:5Q7dkJHEO
まあ慌てずに
期待してまふ〜

560名無しのスタンド使い:2011/12/27(火) 12:25:03 ID:TsPcKq5o0
なんだこれすげぇわくわくすっぞ!

561融雪2/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:32:12 ID:nevDRR0U0
二日前


西へ向かい逃げる黒のワゴン車。
それを追う銀のスポーツカーの屋根が開かれ、『組織』工作員がマシンガンを片手に立ち上がる。

二台の車は凍ったアスファルトをスリップ寸前のスピードで駆け抜け、タイヤを削りながら徐々に互いの距離を縮めつつあった。
運転手がハンドルを大きくきり、スポーツカーがガードレールぎりぎりの部分を滑る。
狙撃主は不安定な車内から、振り落とされないようにマシンガンを構え、引き金を引いた。

無数の弾が前方ワゴン車のガラスを砕き、黒の車体に穴を開けていく。
それでもワゴン車は止まらない。一歩間違えれば大惨事になるであろう速度で、車道を突っ走る。

そのとき那由多は、二台のカーチェイスの様子を衛星を使い別の場所でチェックしていた。
まもなく、二台の車は長いトンネルに差し掛かる。
トンネルに入る前にワゴン車を止めるのが好ましいが、もう間に合いそうにない。
那由多は衛星からの映像を眺めながら、小さく舌打ちをした。

"荷物"を載せた敵対組織のワゴン車。絶対に逃がすわけにはいかない。

二台の車が、トンネルに突入した。
ここからはトンネルを抜けるまでの数分間、衛星で様子が確認できなくなる。
耳元の無線に送られる現場の音声のみで、なにが起きているのか把握しなければならない。

そのときだった。

《うわあぁぁあ………》 

仲間の悲鳴が無線に届き、直後大きな爆発音がその後ろで響き渡った。
通信はブツリと途絶え、不気味な静寂が那由多の耳を包み込む。

見てもいないのに、トンネルでなにが起きたのか、那由多の脳裏に明瞭なイメージが浮かび上がった。

「ハメられた……」

呆然と、ぼそりと呟いて、那由多はすぐさま通信機材をカバンの中に詰め込み、逃げるようにその場を走り去った。

読まれている、なにもかも。
敵は、完全にこちらの動きを把握している。
ハメられた。全滅だ。

(衛星を使っていること、上から視てること……やつら知ってた!
だからトンネルに…罠だったんだ…!)

雪原を蹴って、那由多は必死に駆けた。
雪が一層強まり、吸い込んだ空気が肺を凍らせるようだった。

562融雪2/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:36:11 ID:nevDRR0U0
昨日


"彼"とは出会って二ヶ月になる。
大学二年生。背が高くて細身で、気まぐれでサディストでナルシストで、遊び人だ。
"彼"の可愛い笑顔に、那由多は惹かれた。

女性関係の噂は絶えない。秘密もたくさんある。なのに、相手の浮気やウソは許さない、身勝手で傲慢な男。 
だけどそれでも良かった。それが好きだった。
主導権を握られた恋に、那由多は酔っていた。

「那由多、ケータイ見せて」

「い、や、だ」

そうだ。こちらにも秘密があるし、ウソがある。だからおあいこ。
"彼"の浮わついた話にショックを受けないのは、お互い様だからだ。

相手が普通の男の子だったら、こちらが負い目を感じてしまう。だから上手くいかない。

だけど"彼"なら、秘密はおあいこ。
負い目は感じない。私は相手のウソを
許してあげているから。

"彼"も、そんな理由であれこれ追及してこない私を気に入っているようだ。


そう考えれば、"彼"との関係はとても心地が良かった。
だけどいつか、こんな風に考えられなくなるほど、気持ちが大きくなるときが来るかもしれない。
割りきって考えられなくなるほど、好きになってしまう日が。
そのときは、どうするか考えなければ……

「……ふふっ」

「なに? なにニヤけてんの?」

「…なんでもないよ」

自然と頬が緩む。
そんな想像も、心の中にはどこか楽しみにしていたところがあったのかもしれない。 
危ないところだった。



そんな心配は、もう必要なくなった。

563融雪2/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:37:34 ID:nevDRR0U0
◇◇

那由多をのこして家から出た"彼"は、ATMから10万円ほど降ろし、駅へと向かった。
駅のコインロッカーに近寄ると、その中の一つをあけ、一冊のバインダーを取り出した。
『組織』工作員たちに関する資料がファイリングされたものである。

"彼"は、バインダーをリュックサックの中にしまい、そのまま二時間後に出発する新幹線のチケットを買った。

そして、駅を出てとある場所にむかい歩きだした。

こんな強い雪の晩に、どこへ向かう?

「……」

"彼"の様子を、那由多はじっと遠くから眺めていた。

564融雪2/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:39:31 ID:nevDRR0U0
◇◇

雪は一層強さを増していった。
体の芯まで染み入る寒さに耐えながら、"彼"は、人気のない湖のそばまで来て、誰かを待っていた。
凍りついた静かな湖畔で、猛雪の中、誰を待つのか。

ざっ、ざっ、と雪を掻き分ける足音が遠くから聞こえた。
"彼"はリュックサックをおろして、足音の方向を見た。

しかし近づいてきたのは、"彼"の想像とは違う人物だった。

「……!」

「バイトはどうしたの?」

虹村 那由多だ。

「な、那由多か……どうしてここに」

「なんでまだ生きてる?、とでも言いたげな顔ね。今頃あの家に、あなたの仲間が突入しているころかしら」

「な、なにを言って……」

「誰か待ってるの?」

吹雪く。まるで雪が氷柱のように、重く冷たく、"彼"の頬を叩く。

「それって……この人?」

そう言って那由多は、肩に下げたカバンを開き、それを逆さまにした。
ごろん、となにかが雪の上に転がり落ちた。

「ひっ……ひああぁぁぁアアッ」

"彼"が絶叫する。
カバンから転がり落ちたのは、男性の生首だった。

この場所で落ち合う約束をしていた、敵対組織の連絡員の、頭部である。

565融雪2/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:41:42 ID:nevDRR0U0
「な、なんで……ま、まさか……」

「そうよ。私がこの場所にあなたを呼んだの」

「あなたのリュックに今入ってるバインダー……それが"荷物"だと、あなたは思ってるんでしょ?
だからここに持ってきたのね。こいつに売るために」

冷たく言いはなって、那由多は足元の生首を蹴飛ばした。

「それがどう……」

「売るものがどんな形なのかきちんと把握してないと……クレームになるわよ?」

その一言で、"彼"は真実にたどり着いた。
思わず、リュックサックを雪の上に落とした。

「!!……ウソだ……そんな、まさか……」

「"荷物"はそのバインダーじゃない。
"このカバン自体"がそれなのよ。
特殊な科学繊維で編まれたカバンは、電磁気を放ち周囲の電子機器から情報を吸い込むことができる。
このカバンからは、途方もない量の情報が解析できるの」

敵に奪われ、敵から奪い返した空っぽのカバン。敵は、それ自体が本当に必要なものだとは気が付かなかった。
だから中身を隠して、囮にカバンを持たせてしまったのだ。

「そんな、でも……お前らは無線で……『"荷物"の回収に失敗した』と……」

力の抜けたように呟いて、"彼"はそのあとはっとしたように那由多の顔を見上げた。

「……そうか」

再び視線を落とした"彼"に、那由多が真実を告げた。
雪が二人を覆うように降り注いだ。

「ネズミが無線を傍受してることは知ってた。だから敢えてウソを流し、バインダーが"荷物"だと錯覚させた。
情報を盗んでる気になってたのね? 私たちはそれを利用させてもらった。とんだマヌケちゃんだわ」

「トンネルでの爆発も、その前に仲間は脱出してたのよ。そこで確信した。情報が漏れてるのは、私からだと。そして…」

「ネズミはあなただと」

那由多はどこか、切なげな瞳でそう言った。

566融雪2/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:48:06 ID:nevDRR0U0
「そうか……なるほどな……」

白い息を吐き出して、"彼"は力なく笑った。
肩に雪が積もっていた。

「一つ聞いていいか? お前、俺に惚れてたのは……マジだったんだろ?」

"彼"が訊いた。その笑みには、かつて惹かれたものは、もうなかった。
これで本当の、終わりだ。

「……かもね」

相手に伝わったかはわからない小ささで、那由多は答えた。
静かに、自分の中の熱が、完全に冷えて消えたことを知覚して、那由多は新たな熱を生み出した。

「『リトル・ミス・サンシャイン』」

熱は、スタンドという力と化して己の外に発生した。
ストリッパーのような格好の、女性型スタンド。
それは"彼"の知らない、"彼"には見えない、虹村 那由多の秘めたる姿だった。

「……さよなら」

その一瞬、二人の周囲だけ吹雪が消えた。
それが、"彼"には時間が止まったかのように見えた。

『リトル・ミス・サンシャイン』の両手の太陽電池から、強烈な熱波がドーム状に発生して拡がったのだった。
太陽の高熱は雪を一瞬の内に蒸発させ、消し去った。
足元の積もった雪が抉れ、むき出しになった地面が、めらめらと燃えていた。

骨の髄から灼き尽くす究極の熱。
熱波は"彼"の体を呑み込んで、その肉体を1秒で炭に変えた。
炭は、止まず吹き荒れる吹雪とともに、風に飛ばされ散り散りになった。

那由多は、ただ黙って、虚空に消えた"彼"の熱を、見つめていた。

567融雪2/2 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:49:33 ID:nevDRR0U0
◇◇

《任務成功おめでとう、"ストリッパー"。無事、ネズミを見つけ出し、始末した君の実力を高く評価しよう》

《早速だが、その実力を東京で活かしてもらいたい。東京支部からオファーを受けている》

《東京支部の阿部が新しくチームを立ち上げるらしく、優秀なスタンド使いを探しているとのことだ。
早速東京へ向かいーー》








雪は恋心に似ている。
ふわふわで、ひらひらで、美しい。 人肌の温度で溶けてしまう。
儚い。

体を凍えさせるそれに、人は惹かれずにはいられない。
その冷たさに火傷しても、心を冷やしてもーー

人は懲りない。その美しさを、
一瞬の心の熱を、永遠に追い求め続ける。

愚かにも、雪が融ければ春が芽吹くと、信じているのだ。






「融雪」おわり

568 ◆WQ57cCksF6:2011/12/27(火) 19:54:42 ID:nevDRR0U0
第二夜終了でございます。トラブル続きで申し訳ない。
コメ返は次が終わったらまとめてやります。
それでは第三夜もお楽しみください。

使わせていただいたスタンド

No.181
『リトル・ミス・サンシャイン』
考案者:ID:PrUXDreeO
絵:ID:wYLh1pVhO
絵:ID:CTBnC6SO
絵:ID:TAK6q120
絵:ID:bDXNIRYo
絵:ID:ZhaJ/eco
絵:ID:lj0aaGMAO
絵:ID:yvQnoWHE0
絵:ID:8jk233NYO
絵:ID:ksSLEn7A0

ありがとうございました。

569名無しのスタンド使い:2011/12/27(火) 20:52:23 ID:mdJ7gWy6O
素敵すぎる……!!

570名無しのスタンド使い:2011/12/27(火) 22:44:10 ID:5T8P47OIO
なるほど…
ストリッパーはそこからか〜
相変わらずそう言う設定組むの上手いな〜

彼との別れのシーンは頭ン中でアニメみたいに動いたです

やっぱなゆたんだな…

ご苦労様です

571名無しのスタンド使い:2011/12/28(水) 11:32:17 ID:aEGbBpgk0
やばいやばい
話が繋がった瞬間、自分でもどういう感情かわからないけど笑いがとまらなかった
めっちゃ毛穴ひらいた 乙だぜええ!

572悔恨の行方1/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/28(水) 21:43:22 ID:UDFsklos0
「悔恨の行方」




罪のかたちは様々だ。
私利私欲を満たすためのもの、誰かのためのもの、否応のないもの、後悔を伴うもの。

罰は平等だ。
それぞれが平等に責めを負う。そこにどんな事情や過程があったとしても、罰からは逃げられない。
だから人は祈る。すがる。告白する。
胸の内をさらけ出して、少しでも楽になろうとする。

人には、さらけ出す場所が、聴いてくれるなにかが必要だ。
私はそんな彼らのために、その役割を買って出ている。


私の名前は神田 愛莉(かんだ あいり)。
ここには、責めを負う人たちが救いを求め、やってくる。

今日もまた1人、私の元に小さなお客さんがやってきた。

573悔恨の行方1/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/28(水) 21:48:16 ID:UDFsklos0
◇カフェ・ノワール


使われなくなった古い教会を改築し、喫茶店に仕上げたのがここ、「カフェ・ノワール」である。
モダンでシックな内装、入って右手側にカウンターがあり、椅子は三つ。
広い店内にも関わらず、カウンターのほかはテーブルが一つだけ。
メニューも、コーヒーが一杯だけである。

ここには、あまり客が訪れない。
しかし、絶対に客足が途絶えることもない。
何故かは後々わかってくるだろう。
ともかく、それゆえこのカフェには、その程度の設備やメニューだけでよいのだ。

カウンターの奥でカップを磨いているのが、カフェ・ノワールのオーナー、神田 愛莉だ。

白い肌に黒いドレスの、どこか儚げな美しさをもつ女性だった。
病的で、幻想的で、まばたきをすればその瞬間にふわりと消えてしまいそうな、そんな線の細さだった。
右目を眼帯で覆い隠し、左の瞳は遠いどこかを見透すように澄んでいた。

彼女が磨いたカップを棚に戻していると、入口のベルが鳴った。
扉をあけ、小さなお客様が一人、店内に足を踏み入れた。
少年だった。小学生から中学生くらいの背丈で、目の周りに大きな青アザがあった。
服はお世辞にも綺麗とはいいがたく、靴も汚かった。

「こんにちは」

キョロキョロと店内を見回す少年に、愛莉が声をかけた。

「……」

少年は挨拶を返さなかった。
愛莉は少年をカウンターまで促して、
席につかせた。

「ここには水かコーヒーしかないのよ。砂糖とミルクはあるけど……どっちがいいかしら?」

カップ棚に振り返り、カップを選びながら、愛莉が少年に訊いた。

「ここ……どこ?」

少年が、不安げにそう言った。

「……貴方は、誰かから聞いてここに来たのね」

「…うん。でも、よくわかんないよ」

俯き気味に答える少年に、愛莉は水を注いだグラスを差し出した。

「いいのよ。ここはカフェ・ノワール。私とお話しをする場所なの」

「貴方のことを聞かせてくれる?」

頬杖をついて、少年の瞳を覗きこみながら、愛莉が優しく微笑んだ。

574 ◆WQ57cCksF6:2011/12/28(水) 21:49:26 ID:UDFsklos0
すみません、三夜連続っていうより三作連続って言った方がよかったですね。
続きはまた明日。

575名無しのスタンド使い:2011/12/28(水) 22:15:08 ID:5GLKJtyUO
okブラザー!楽しみが延びるってモンスよ!
更新お疲れ様です

576悔恨の行方2/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 00:30:49 ID:31e2CoSc0


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー「お兄ちゃん、お腹空いた」

都内のとある小さなアパートの一室。
電気も水道も止まった、ごみだらけの狭く汚く臭い、おおよそ人の住むところでない空間。
この部屋に、幼い三兄妹が暮らしていた。
いや、暮らしていたとは違うかも知れない。

彼らは置き去りにされた。

長男・大輝(たいき)のシャツを、末っ子の里穂(りほ)が指でつまみ、言った。
次男坊の尚太(しょうた)は、極限まで達した空腹に疲れ、ごみにまみれた部屋の隅で横になっている。

三兄妹は、もう一週間なにも口にしていない。

大輝は中学二年生、尚太は小学三年生、里穂は小学一年生だ。
幼い彼らが、いわゆるネグレクト(育児放棄)されているのは、なにも今回が初めてではなかった。

彼らの母親は、とても酷い人間で、これまでもたびたび兄妹をこの狭い部屋に放置しては、行きずりの男と共に姿を消した。
しばらくして男と別れると、この汚いアパートに戻ってきて、三兄妹にコンビニの惣菜をペットに与える感覚で差し出すのだ。
そうして気分で母親を演じてみては、また新しい男を見つけると彼らあっさり見捨て、自分だけ快楽に溺れた。

彼らの母親には母親の自覚も、資格もなかった。

身勝手に無責任に産み落とされた生命が、誰も知らない場所で誰の助けも得られず、必死に懸命にもがいている。
病んだ社会の一角、日のあたらない陰の部分の実状だ。

「ごめんな。もうちょっとでママ帰ってくるから、我慢しような」

わずか13歳の少年が、幼い弟たちの親代わりを、その痩せ細った小さな背中に背負っていた。
もうこんな台詞は、飽きるほど口にした。現実はわかっていた。
それでも、弟と妹のためにそう言うしかなかった。

学校へ行ったり、外へ助けを求めに行くこともできるだろう。でも大輝は、そうすることができなかった。
そんなことをすれば、もう二度と母親は帰ってこないのだと、証明してしまうような気がしていた。

もう一つ、理由がある。
尚太と里穂を、この部屋にのこして外に出るのが怖かった。
なぜならーー

577悔恨の行方2/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 00:43:34 ID:31e2CoSc0
バタン!

「カスミィィ! 糞アマ、どこ行きやがったぁぁ!!」

ーーこの男が、この部屋を頻繁に訪れるからだ。

乱暴に玄関のドアが開かれ、口汚く怒鳴り散らしながら、三兄妹の家に押し入ったこの男、こいつは三兄妹の母親の元カレだった。

金髪で、イカツイ顔つきで、柄物のシャツにだぼついたパンツの、いかにもな風貌の男。
男は足元のゴミを蹴飛ばしながら、自分を捨てた女の名前を叫んだ。

男が来ると、幼い三兄妹はびくりと身体を硬直させた。
ただひたすらに、男の汚い怒声が恐ろしかった。

「大輝ィ、ママはどこいったんだよ?
いつ戻ってくるって言ってんだよ、ああ?」

「わからないです……」

「わからねえわけねえだろうが!!」

男はそう怒鳴りあげて、テーブルを蹴り飛ばした。
大きな音に驚いて、里穂がわんわんと泣き出した。

「泣くんじゃねえよぶっ殺すぞ!!
ああ!?」

里穂の小さな肩を掴み、男は嚇しながら彼女の身体をぶんぶんと揺らした。
里穂は泣き止まず、泣き声はより一層増していくばかりだった。

「うぁぁぁぁ………うううーー!!」

「うるせえーーッ! おい大輝、尚太!! 妹を黙らせろ!」

578悔恨の行方2/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 01:00:47 ID:31e2CoSc0
そういうと男は、ぐったりと横になる尚太の元に近づき、その腹に思いっきり蹴りを入れた。
生々しい鈍い音がして、うぐ、という尚太の小さな呻きが漏れた。
衰弱しきった尚太には、それ以上のリアクションを取ることができなかった。
尚太は腹を守るように身体を丸めるので精一杯だった。

「やめろ! 尚太に触るな!」

弟を守ろうと、咄嗟に男に掴みかかる大輝。
男は、腕にくらい付いた大輝を、振りほどくように窓ガラスに叩き付けた。
めしめしと、痩せこけた肉と骨が軋む。

「うぐっ」

大輝の口から、チョロチョロとなけなしの胃液がこぼれた。
男は、一回り以上歳の違う少年に、ありったけの力をふるった。
何度も何度も、大輝の細い身体を窓ガラスに叩き付けた。

「汚ねえ!くせえ! ガキが!」

「ぐっ……おぇぇ」

「俺に! 触るな! 謝れ!」

窓ガラスにヒビが入っていった。
脳みそをガンガンと揺さぶられる衝撃に、弱りきった肉体状態の大輝は、何度も意識を失いかけた。

ーここで気絶したら、二人になにされるかわかったものじゃない。

その思いだけで、彼は極限の痛みの中、意識を保ち続けた。

「アバズレの! くっせえガキがよぉッ!」

大輝はキッチンの方へ投げ捨てられた。視界がぼやけて、思考が飛びかける。
大輝は無意識の内に、流し台の下の扉を開けていた。
扉の内には、いくつも包丁が差し込んであった。

579悔恨の行方2/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 01:03:00 ID:31e2CoSc0
「アー!アァァーー!!うっせえなァー!殺ッちゃおうかなーッ!」

男が狂乱気味に、首をかきむしりながら叫んだ。
尚太と里穂は、その場から動けなくなっている。
大輝には、あの男が弟と妹と一緒の部屋にいるのが、耐えられなかった。
恐ろしすぎた。

「アァァァーー!」

男が暴れまわり、家具を片っ端から投げ飛ばしていく。
大輝は気付かれないようにひっそりと、包丁差しから包丁を一つ、抜いた。

(守らなきゃ……お兄ちゃんだから……)

(尚太と里穂を……守らなきゃ……)

胸中に呟いたのと、フゥッと息を吐いたのは同時だった。
次の瞬間に、大輝の両足は力強く床を蹴り、跳ねていた。

「うあああああ!」


命からがらの咆哮とともにーー


「!!?」


両の手に握り締めた銀の刃をーー


ブシュゥッ!


ーー男のうなじに、突き刺した。

580悔恨の行方2/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 01:07:27 ID:31e2CoSc0
「アァァアアアアアアアアアアアア」

鼓膜が破れんばかりの悲鳴に、大輝は震えた。
突き刺した包丁が自分の手から離れ、男がそれを引き抜こうとうなじに手を伸ばした。
男の足取りはおぼつかなかった。

「わああーー!!」

ボタボタと流れる鮮血に、里穂が泣き叫んだ。
男は突き刺さった包丁を引き抜き、それを投げ捨てると、血塗れの両手で大輝に掴みかかった。

「よくも……よくも……ガキ…!!」

大輝はそれを紙一重でかわし、投げ捨てられた包丁を拾おうとするが、シャツを掴まれてしまった。
包丁はすぐ目の前。だが男が大輝のシャツを引き寄せる。
大輝は必死に包丁へ手を伸ばした。
しかしあと指先数センチのところで届かない。

「ふ……けんなッてめえッ!!アアアアアアアア」

大輝を仰向けにして、男は大輝の顔面を殴り付けた。
一発、二発、三発。
大輝の目が潰れたようになり、鼻から血がでろんと流れた。
男は、そして両手を大輝の細い首にまわし、その身体を持ち上げた。

「コロス…コロス…コロス…」

「かっ……」

めしめしと、気道がしまる音がはっきりと聞こえた。
13年の短い歴史が、急激に閉じていく音だった。
窒息するのが早いか、首の骨が折れるのが先かーー

(マ……マ………)

そのとき、右手に固いものが触れた。
すぐにわかった。今の今まで握っていた、包丁の柄。

「にいぢゃん!!」

起き上がった尚太が、包丁を拾い、大輝に手渡したのだった。

「ーー!」

潰えかけた命に、最後の力が宿った。


「アアアアアアアアアアアア」

「ああああああああああああ」




ーードシュッ!











ーーーーーーーーーーーーーーーー

581 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 01:11:07 ID:31e2CoSc0
ここまでで。続きはまた明日。(今日?)

愛莉ちゃんは狂言回し的なポジションですが、ちゃんと最後はやることやりますよ。

582名無しのスタンド使い:2011/12/30(金) 02:33:54 ID:mFI6q3IcO
おおぅ……。こんな寒い時にゾッとするもんありがとよ……。
続き楽しみにしてます。

583名無しのスタンド使い:2011/12/30(金) 07:52:29 ID:tzUP52bsO
「神田愛莉は動かない」ってわけですね!
それにしても悲痛なお話だなぁ……乙です

584悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:05:35 ID:mO/mDg9s0
◇カフェ・ノワール



「ーーなるほどね」

「大輝くん、あなたは人を殺してしまった。尚太くんと里穂ちゃんを守るために」

「それが貴方の罪。だからここにきたのね」 

少年ーー大輝の話を受け止めて、愛莉が言った。
痛々しい顔の青アザを隠すように、大輝は俯いたままだった。
愛莉は大輝の隣に腰掛けて、彼の肩に手をかけた。

「……人を殺したら、どうなるの?」

まだまだ幼い肩が、弟たちの命を背負ってきた背中が震えていた。

「……地獄へ落ちるわ」

愛莉は呟くように、大輝に答えた。
幼い肩がびくりと揺れた。

「僕は……なんのために生まれてきたんだろう」

大輝がグラスをぎゅっと握りしめた。

「命は平等よ。みんな等しく尊い。生まれてきたことを、祝福されない命なんかないわ。
だから、他人に奪われていい命もないの」

「……アイツも、そう?」

そう諭した愛莉を見上げて、大輝が訊いた。
アイツーー大輝が命を奪ってしまった、あの男のことだ。
愛莉は大輝の瞳を見つめて言った。

「大輝くん、確かめてみる?
命が失われたとき、周りはどう思うのか……確かめに行きましょう」

席から立ち上がって、愛莉は大輝の手をとった。
確かめるーー。若干の不安が、幼い心に射し込んだ。

585悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:15:21 ID:mO/mDg9s0
◇葬儀場


『カフェ・ノワール』を出て、二人は近くのお寺まで足を運んだ。
お寺には、喪服に身を包んだたくさんの人が出入りしていた。
大輝には、初めての冠婚葬祭の場だった。なんとなくしんみりした空気が、胸をきりりと締め付ける。

「ここは……アイツのお葬式?」

愛莉の裾を引っ張って、大輝が言った。

「……さあ、私たちも中に入りましょう」

「僕は……ここにいるよ」

祭壇に上がる階段の前で、大輝がふるふると首を振った。
きちんとした格好でもないし、故人を弔う気持ちもない。
なにより、殺した張本人だ。ここにいるべきでないのは、だれがみても明らかだ。

「貴方も入るのよ。怖がらないで、さあ」 

愛莉はそんなことを気にせず、強引に大輝の手を引っ張った。


「いっぱいいる……人が」

祭壇に上がって、辺りを見回して大輝が呟いた。
見たことのある顔もいくつかあった。彼らは棺の近くまで近寄ると、中を覗きこんでは、遺体に涙したり、語りかけたりした。

「今はちょうど、お別れの儀の途中ね」

「お別れの……儀?」

「出棺ーー遺体の入った棺を火葬する前に、最後のお別れをするの。
花を添えたり、手紙を入れたり」

「……みんな、お花や手紙を入れてる。みんな……泣いてる」

鼻をすする音がいくつかきこえた。
顔を曇らせた大輝に、愛莉が言う。

「悲しまれない死なんてないのよ。
生まれるときは喜ばれ、死ぬときは泣かれ……みんなそう」

「生きる意味なんて考える必要ないの。特別考えなくたって、ちゃんと意味はあるんだから」

遠い目でそう語った愛莉が、大輝を棺へ促す。

「棺を覗いていったら?」

586悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:27:26 ID:mO/mDg9s0
「……」

少しの沈黙のあと、こくりと頷いて、大輝が棺に歩み寄る。
中を覗きこんで、大輝はかっと目を見開いた。

「……!?」

心臓を掴まれたような衝撃。そこには信じられない光景が拡がっていた。
棺の中に眠っていたのはーー

「……ぼ、僕……?」

ーー大輝だった。

「……穏やかな顔をしてるでしょう? "死に化粧"というの。表情を整えるのよ」

やがて、13歳の少年は理解する。
目の前に眠る自分と、いまいる自分。
その二つが同一であったこと、もう同一ではないことを。

「僕は……」

「……これはね、あの男の葬儀じゃない」

「貴方の葬儀よ。大輝くん」

ーー自分の命がもう、終わっていたことに。

「僕は……死んじゃったのか……」

ぼろぼろと涙があふれ、大輝はその場に崩れ落ちた。
葬儀の参加者たちは、そんな大輝の姿が見えないまま、それぞれ大輝との別れを終えていった。

587悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:36:09 ID:mO/mDg9s0
ーーーーーーーーーーーーーーーー

「貴方は男に包丁を降り下ろしたあと、息絶えてしまったの」

葉の枯れ落ちた並木道を、二人はゆっくりと歩いた。
よく考えれば、大輝は今のいままで寒さを感じなかった。辺りはもう冬なのに。
自分がもう生きてはいないことを改めて実感した大輝は、ずっと気になっていたことを訊いた。

「……尚太と里穂は、どうなったの?」

「二人は保護されて、いまは児童養護施設にいるわ。
貴方があの事件を起こさなければ、二人は誰にも気付かれず、餓死していたかもしれない」

「貴方のおかげよ。二人を守ったの。自分の命を使いきって……」

愛莉の声は優しく、大輝には、それが自分の行為を肯定してくれているように聞こえた。
それだけで、大輝は大分救われた気持ちになった。愛莉の声には、人を赦し、受け入れ、癒す力があった。

「……そっか」

なんだかほっとして、大輝は後ろを歩く愛莉の方に振り返る。

「このあと僕は、どうなるの?」

まっすぐと愛莉を見据えて大輝が訊く。

「死んだ人は、長い時間現世に留まるべきではないわ。先に進まなきゃいけないの」

「地獄へ?」

「……いいえ。そんなところには私が行かせないわ。絶対に」

瞳に決意を据えて、愛莉が力強く告げた。

「……最後に、なにかしたいことはある?」

「尚太と里穂に会える?」

そう訊くと、迷わずそう答えた。
愛莉は首を横に振った。

「生者は、死者には会えない。死者も生者に会ってはいけない」

「……」

俯く大輝。愛莉はそんな彼に歩み寄り、表情を柔らかくして言う。

「でも大輝くん。貴方は特別よ。直接お話はできないけど……
尚太くんと里穂ちゃんがお別れできるように、力を貸してあげる」

頼りになる言葉だった。
大輝は彼女に、"最後にしたいこと"を託すことに決めた。

588悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:40:06 ID:mO/mDg9s0
◇児童養護施設


「『モノブライト』!」

大きな養護ホームの前で、愛莉がスタンドを発動させた。
十字架を背負った小人が愛莉の隣に現れて、楽しそうに跳ね回る。
こいつが『モノブライト』だ。

「これから貴方の分身を造り出すわ。二人のことを、強く想って」

「想うって…どうすればいいの?」

「二人に伝えたいことを、とにかく考え続けて。いいわね?」

こくりと頷いて、大輝は目を閉じた。
『モノブライト』が大輝に触れ、彼の身体の中から煙のような黒いオーラを引き出した。

『REEEE!』

可愛らしい叫びとともに、ずるりと引きずり出した黒いオーラが、一ヶ所に集中して人のかたちを形成していく。

黒いオーラは、真っ黒なもう一人の大輝と化して、本人の隣に立った。

「こ、これ……僕……!?」

スタンド使いでない人間にも、"黒い大輝"の姿は見えるようだった。
自分と瓜二つの存在が突然発生し、大輝は戸惑っていた。
"黒い大輝"は、右手に包丁を握っていた。

「ほ、包丁持ってるよ! 取り上げて!」

「それは無理なの。この姿は、大輝くんの"罪の形"。人を殺した、貴方のね」

「そんな……尚太と里穂が危ないよ」

「貴方は二人のために罪を犯した……だから二人には、危害を加えるはずがない」

「尚太くんと里穂ちゃんは、貴方の生命の全てなのだから」

そう言って、愛莉は『モノブライト』で産み出した"黒い大輝"を施設の中へ歩かせた。

「ブランコの側に、二人を呼び出してあるわ」

「3分経ったら分身を消します。さあ大輝くん、二人にお別れしましょう」

愛莉と大輝は、"黒い大輝"の後ろについて、ホームの庭を歩いた。

589悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:41:59 ID:mO/mDg9s0

「……にい、ちゃん?」

「あっ! お兄ちゃんだ!」

真っ先に気付いたのは、次男の尚太だった。その声で土遊びの最中だった里穂も顔を上げた。

『尚太、里穂!』

大輝の代わりの、"黒い大輝"が二人に駆け寄った。
それを、愛莉と大輝は後ろから見守っている。

「にいちゃん、どこ行ってたんだよ!」

「お兄ちゃん、ここでいっぱいご飯食べれるよ! 一緒に食べよう!」

幼い弟と妹が、黒い兄の腕をそれぞれ引っ張った。
"黒い大輝"は握っていた包丁を落として、包丁はオーラに戻り霧散した。
愛莉が初めてみる光景だった。

("罪の化身"が……"罪"を手放した……)

大輝をそれを見て、ほっとしたようだった。

『ごめんな、寂しかったよな。ほんとごめん』

そう言うと"黒い大輝"は二人を抱きしめて、地面に膝をついた。
その頬に、涙の粒が筋を引いた。
涙を流すなど、"罪の化身"には考えられない現象だった。

『ご飯もちゃんと食べさせられなくて、ママに会わせられなくて、辛かったよな……ごめんな……
にいちゃんなんにもできなくて……本当にごめんな…』

590悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:45:49 ID:mO/mDg9s0
涙ながらに謝り続ける兄に、弟と妹は戸惑いを隠せないようだった。

「いいからあそぼうよー。いまお腹いっぱいだもん」

「ダメだよ!お兄ちゃんも先にご飯食べるの!」

『はは……』

すっかり元気な二人に、"黒い大輝"が小さく笑った。

『尚太。お前はお兄ちゃんなんだから、里穂をちゃんと守るんだぞ』

「わかってるよー」

『里穂は尚太の言うことをちゃんと聞け。里穂のこと、尚太に任せるから』

「お兄ちゃんは? 一緒に暮らすんだよね??」

いつもと違う雰囲気に、真っ先に気付いたのは里穂だった。その表情に、段々と不安の色が募っていく。

『にいちゃんは、一緒には暮らせないんだ。ごめん』

「なんで!? にいちゃん、どっか行っちゃうの!?」

「やだ!お兄ちゃんと暮らす!」

『無理なんだ……。だから、二人で仲良く助け合うんだ。
にいちゃん、尚太と里穂のこと、遠くから見てるから』

「やだよ! にいちゃん、いっちゃやだ!」

「いやーー!」

大きな声でわんわんと泣き出した二人。その声を聞いて、職員が向かってくるのを感じた愛莉が、
「もう最後よ」と"黒い大輝"に告げた。

『こんなお別れでごめん。でもにいちゃん、尚太と里穂のこと、忘れないから。だからーー』

『尚太と里穂も、にいちゃんのこと、忘れないでな……』

ぽろっと最後の涙をこぼして、そう言い残し"黒い大輝"は消えた。
黒いオーラは風に乗って、さらりと遠い空に散っていった。


残されて泣きじゃくる尚太と里穂を、慌てて駆け寄った職員が抱き締める。

二人の様子見つめながら、また大輝も、二人には届かない声を上げて泣いたーー。





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591悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:49:10 ID:mO/mDg9s0
◇カフェ・ノワール


「ーーもう、いいのね?」

「うん。大丈夫。ありがとう」

間接的にお別れを告げて、愛莉と大輝は『カフェ・ノワール』に帰ってきた。
愛莉が出したコーヒーに、大輝は砂糖とミルクをたっぷり入れた。

「お姉ちゃんも、死んじゃったの?」

甘ったるいコーヒーを啜りながら、カウンターに立つ愛莉に問う。

「ええ。昔ね……悪い人に殺されてしまったの。
最初は辛かったけど、ここの仕事を任されたとき、私は嬉しかった。
同じように戸惑う魂を導くーー私が人の助けになれる、って」

「貴方はよく受け入れた方よ。自分の死をね」

頬杖をついて言った。大輝は少し照れていた。

「お姉ちゃんは……ずっとここにいるの?」

「しばらくね。まだまだ困ってる人はいるから」

そうこうしている内に、大輝がコーヒーを飲み干した。
「じゃあ、そろそろ行きましょう」と愛莉が言い、カフェの奥の扉を指差した。

「あの扉をあけて。貴方に前に進むの


「どんなところなの?」

「私も知らないの。でもきっといいところよ」

「どうして?」

「誰も戻ってこないもの」

そう言って、愛莉は優しく笑った。

大輝が立ち上がり、扉に近づいて、手をかけた。
扉を開く前に、カウンターを振り返って、大輝が最後に訊いた。

「そう言えばお姉ちゃんの名前、聞いてなかった」

「ーー神田 愛莉よ。さよなら、大輝くん」

「さよなら、愛莉姉ちゃん」

扉を開くと、暖かく眩い光がカフェを包み込んだ。
大輝のケガや衣服の汚れは綺麗になって、大輝が満足げに、笑った。


愛莉が大輝に手を振った。



光の中に歩みだして、大輝の姿は見えなくなった。
扉が閉じて、カフェを満たしていた光が消えた。


カウンターには、大輝が飲み干したコーヒーカップが一つ、静かに佇んでいた。








ーーーーーーーーーーーーーーーー

592悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:51:24 ID:mO/mDg9s0
ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ルールを破ったようだな、愛莉」

その後、『カフェ・ノワール』のカウンターの席で、一人の男がコーヒーを飲みながらそう言った。
髪の長い、独特の雰囲気を持つ男だった。カリスマだとか、神々しさだとか、そういう表現がよく似合った。

「人を殺めた魂は、地獄に落ちるのが決まりだ」

冷たく言い放ったその人に、愛莉が反論する。

「彼は、幼い弟たちのために全てを失いました。地獄に落ちるなんて、あまりにも救いがありません。
ここは、救いを与える場です」

「ルールはルールだ。生命のな」

飲み干したカップをかつんと置いて、その人が言う。有無を言わせぬ迫力があった。
愛莉はそれでも、自分の主張を曲げなかった。
自分のしたことは正しかったと、信じていたのだ。

「そんなルールに縛られるなら、命なんてくだらない」

愛莉が言う。
奇妙な沈黙が、二人の間に生まれた。
やがて、その人が先に口を開く。

「……まあ、いいさ」

「地獄行きですか? 私は」

空いたカップを下げて、新しいコーヒーを出しながら、その人と目を会わせずに訊いた。

「君がいなくなったら、美味いコーヒーが飲めなくなる。まだまだ働いてもらうぞ」

その人が新しいコーヒーを啜りながら、言った。

「……わかりました」

しっかりとその瞳で、その人を見据えて、力強く愛莉が答えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー

593悔恨の行方3/3 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:52:27 ID:mO/mDg9s0

罪のかたちは様々だ。
罰は平等だ。
自分のために罪を犯しても、誰かのために犯してもーー罰からは逃げられない。


でも私は、そんな命は寂しいと思う。
だから、私は救えるものは救いたい。

幸せになる権利も、救われる命も。
人間は平等だと、私は信じたい。


私の名前は神田愛莉(かんだあいり)。 『カフェ・ノワール』には、責めを負う魂たちが救いを求め、やってくる。
行き場を失った悔恨が、痛みが、ここに集う。


できる範囲で、私は彼らを導き、救う。
それが、私の仕事だ。


今日もまた一つ、私の元に迷える魂がやってきた。





「ーーいらっしゃいませ」









「悔恨の行方」おわり

594 ◆WQ57cCksF6:2011/12/30(金) 23:57:57 ID:mO/mDg9s0
投下終了!クリスマス企画の全三本の投下が終わりました。
色々トラブルありましたが、いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけたなら幸いでございます。

後日、三つの単発のあとがきというか解説みたいなものを投下しようと思います。

読んでくださったみなさん、ありがとうございました。


使わせていただいたスタンド

No.727『モノブライト』
考案者:ID:xOTevAhwO
絵:ID:MTaDEmJk
絵:ID:eLvRNqK8O

595 ◆79EFR1u8EY:2011/12/31(土) 00:05:25 ID:5UJKYsec0
乙です!
映画のような雰囲気が素敵でした。
そういや愛莉ちゃん死んじゃってたもんなあ・・・・・・
素晴しい短編でした!

596名無しのスタンド使い:2011/12/31(土) 01:28:48 ID:P34d.C9cO
普通に泣いた…………
今年最後にいいモノ読めた
やっぱあんたサイコーだわ
多く語ると野望になるからもう一度
いいモノ読めた
ありがとうございます

597名無しのスタンド使い:2011/12/31(土) 03:59:42 ID:P34d.C9cO
野望じゃねェ…野暮だ
台無し…

598名無しのスタンド使い:2011/12/31(土) 14:19:38 ID:D0TWtb2Q0
私ここで結構おいしいおもいしました。
詳細は書けないけど、やり方次第ですね(^O^)
ttp://bit.ly/rRzIgw

599名無しのスタンド使い:2012/01/01(日) 04:44:06 ID:a6l.CANw0
最高でした。これは泣ける。
モノブライトにこんな優しい使い方があったとは…。
実は愛莉も大輝も〇〇でいた…という仕掛けも良かったです。
乙でした。

600名無しのスタンド使い:2012/01/04(水) 05:32:41 ID:JxVkYP.o0
ただただ『素晴らしい』の一言に尽きますね・・・
こんなにも心が通った読み物に出会えてよかった
ありがとう そして ありがとう

601 ◆WQ57cCksF6:2012/01/04(水) 12:00:54 ID:Fs3TtwVA0
新年明けましておめでとうございます。
今年は顔を出す機会が減ると思いますが、よろしくおねがいいたします。



「ヒナちゃんの電撃クリスマス!」
三夜連続企画の第一弾。
後の二本が割かし真面目なやつなので、サクっと読める短いコメディを最初に持ってきました。
スタンドも出ない、地の文もないのは非常にお手軽。
いい感じに手を抜いて書くことができました。
プレゼント交換はクリスマスの醍醐味ですね。



「融雪」
二本目はサスペンス。那由多の『組織』新人時代のお話です。
実は壊れたPCには、全く異なる内容のお話が書き溜めてありました。
書き溜め分が消えたので、急遽用意したのがこのSSです。
割と受け入れられたので、結果的にはよかったかなと思います。

前後二本の単発と比較すると、シリアスさが目立ちますね。
ちょっとばかしエロスな描写にも挑戦してみました。



「悔恨の行方」
企画最後を飾る三本目。当初から、最後はスピリチュアルドラマにしようと決めていました。

Bパートの愛莉ちゃんの話だと思わせて、実はAパートのその後(死後)の話という展開になっています。
「岸辺露伴は動かない」と「デッドマンズQ」を混ぜたような感じですね。
愛莉ちゃんは大分キャラが変わっていますが、内容的に案内役はお姉さんタイプが妥当かな、と思いこんな感じの女性に。
数多の魂と向き合っていくうちに、大人の女性に成長していったのでしょう。

ソウルメイトと同じく、死後の世界を題材にした作品であり
全く違うようで、実は三本の中では一番ソウルメイトに近い雰囲気の作品になっています。


みなさまおコメありがとうございました!

602名無しのスタンド使い:2012/01/06(金) 02:31:44 ID:DIXvvG/cO
後書き乙
愛莉たん確かにキャラは変わってるけど、なんかこのイメージの方がしっくりくる気がする
本編のちょっとぼーっとした所があるのも好きですけどね
また時間出来たらなんか書いてくださいまし

603名無しのスタンド使い:2012/01/09(月) 09:24:47 ID:z2bVTx6w0
漫画化したら面白そうだなー(チラッ

604名無しのスタンド使い:2012/01/09(月) 17:34:04 ID:Dvy2M/zw0
映画化したら面白そうだなー(チラッ

605名無しのスタンド使い:2012/01/17(火) 11:05:38 ID:GIIpMNd20
完結編単発も楽しみだなー(チラッ

606名無しのスタンド使い:2012/01/18(水) 21:07:16 ID:biKuEPp60
電ちゅみかわいいなぁー(チラッ

607 ◆WQ57cCksF6:2012/02/02(木) 15:20:36 ID:4h0RnykA0
「エンジェルウォーズ」のベイビードール可愛いなぁー(チラッ

608名無しのスタンド使い:2012/02/19(日) 20:40:30 ID:gFafuXvc0
ムヒー

609予告 ◆WQ57cCksF6:2012/02/23(木) 04:04:00 ID:u9bxWqSY0
平田「ゴキブリみたいな連中がいるんだけどさ、そいつらを駆除してほしいわけ」

平田「この柏 龍太郎先生にね」



ーー作者もなにも考えていなかった、謎めいた終わりから数ヶ月ーー



譲華「誰のこと言ってんのよ?」

那由多「……あんたでしょ」



ーー「アークティック・モンキーズ」完結編



耀壱「何故かな。キサマのツラを見てると、ヘドが出そうだ」

美咲紀「お互い様よ」



柏「全部やれば、自由だな?」

平田「ああ。約束だ」



ーー遂に始動!



ビエーコ「お前が私の『抑止力』か?」

バッジョ「そのつもりだ」


ヴィヌシュ「ワシが直々に、キサマに永遠の痛みを刻んでやる」

ドゥオーモ「私にしゃべってるのか?」



ーー集結するスタンド使いたち



アシッド「最終的に、全てわたしの手の中に収まる」


乱堂「これが僕の運命なんだ」



ーーそれぞれの目的のために、動き出す



遥「全てもとに戻せるなら……!」

ディエス「それは無理だ」



ーーそして始まる、総力戦!



丈二「あんなことになってんだぞ! お前はなにも感じないのか!」

JOJO「どうにもならねえだろうが!」


柏「うあああああーーーッ!!」


模「僕と組んでください!」

悠「……高いぜ!」


ディエス「全員! 私に従え!」


祐介「あんな奴等、野放しにできるかよ!」

未来「俺が止める! 一撃で仕留めろ!」



ーー物語は、本当の終幕へーー



丈二「……これで終わりだな、柏」

柏「ああ、最後だ」



柏「これで私は、自由になるーー」




「ジェノサイド・エクスペリエンス ーアークティック・モンキーズ 終章ー」

2012年、いつか公開!

610 ◆WQ57cCksF6:2012/02/23(木) 04:09:34 ID:u9bxWqSY0
やりたいことってこれでしたテヘペロ
「アベンジャーズ」みたいのがやりたくなったのだ。

611名無しのスタンド使い:2012/02/23(木) 16:59:19 ID:hnjf3.Kw0
なにこれかっこいい!

おにいさん期待しちゃうぞ

612名無しのスタンド使い:2012/02/25(土) 13:43:37 ID:p2NNPcUs0
全く内容が想像できないが楽しみだwww
美咲紀様、復活してる…?

613名無しのスタンド使い:2012/05/15(火) 16:48:46 ID:Ov/meDes0
WQ先生の単発最高傑作は融雪
異論はみとめる

614 ◆WQ57cCksF6:2012/06/21(木) 15:09:01 ID:ejs3RDo20
お待たせしました!
7月より、単発「ジェノサイド・エクスペリエンス」がスタートします!
全五章で構成された長編単発となります。

まもなく第一章から投下を開始します。
おたのしみに。

615名無しのスタンド使い:2012/06/21(木) 18:15:05 ID:VwJ5pBI20
デッ
マ ジ で!?
やべえ!

616 ◆WQ57cCksF6:2012/06/22(金) 02:42:06 ID:m2FPyI4c0
>>615
マジです!もう少々お待ちください。


以下は「ジェノサイド・エクスペリエンス」参戦予定作品一覧です。
一応完結済orラスボススタンド判明済作品に限定いたしました。
「勝手に使われたら困る!」という作者様がおりましたらお申し付けください。


・アークティック・モンキーズ SS 2 -ソウルメイト-
・ワム!
・ヒートウェイヴ
・スター・ゲイザー
・U2 -黒い森で啼く蒼い鳥-
・宝石の刻
・パラレル・ユニヴァース
・セクター9の世界


(特別出演)
・RS −超常犯罪捜査班−
・ジョン万


よろしくお願いいたします。

617名無しのスタンド使い:2012/07/02(月) 12:47:46 ID:hNEz3IXA0
ネタじゃなかったんだなwww

楽しみにして待ってます!

618第一章 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:16:42 ID:bxXXubMw0


◇2027年 某月某日
サンフランシスコ 「国際エネルギーサミット」会場


アメリカ・サンフランシスコ。西海岸の有名なリゾート地帯に、大きな科学館が存在する。
その広いラウンジに、たくさんの人間が集まっている。
彼らは記者であったり科学者であったり報道レポーターであったり様々だが、共通していることが一つある。
彼らは、ある一人の男のスピーチを聞きに、この会場に訪れていた。

「――まもなく、『プラネット・エレクトロニクス』グループ会長、ススム ヒラタ氏のスピーチがはじまります。
 みなさま、中央ホールにお集まりください」

館内にアナウンスが響き渡り、ラウンジの人間たちが続々とホールに集結していく。
ホールはまたたく間に満席となり、そして壇上にスーツ姿の男が舞台袖から現れた。ホールは無数の拍手に包まれる。

平田「ありがとう。私は『平田 進(ひらた すすむ)』です。
   エネルギーサミットへようこそ、みなさん」

再び拍手が沸き起こる。平田は納得したような顔をして、手元のリモコンのボタンを押した。
背後のスクリーンに、映像が映し出される。
平田は流暢な英語で、言葉をつづけた。

平田「量子力学の思考実験に、『シュレーディンガーの猫』というものがあります」

平田「オートストラリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが提唱したものであります。
   内容はと言うと、青酸ガスの発生装置がついた箱に、猫を一匹いれる。
   一時間以内にガスが発生する確率は50%。
   一時間後に箱を開けるとき、猫が生きている確率は50%、死んでいる確率も50%」

平田「つまり“猫が死んだ箱の中”と“猫が生きている箱の中”。
   観測者が箱を開けるその瞬間まで、箱の中には“二つの世界”が重なっているのです」

平田「そしてそれは、箱の中だけの話ではない」

マイクに吹きこんで、平田はリモコンのボタンを再度押す。
スクリーンの映像が切り替わる。

平田「今朝、私はコーヒーを飲みました。オレンジジュースでもよかったのですが、今日はコーヒーだ。
   私がカップを口に運んだ瞬間に、“世界”は少なくとも三つに分岐しました」

平田「“コーヒーを飲んだ世界”。いま我々が観測している世界です。
   “オレンジジュースを飲んだ世界”。コーヒーではなく、オレンジジュースを選んだ世界です。
   そして“なにも飲まずに部屋を出た世界”……この三つにね」

平田「私たちは観測できないから、時間の流れが一本だと思い込んでいる。
   だけどそれは違う。実際は木の枝のように無数の分岐で複雑だ。
   “コーヒーを飲まなかった世界”は、この宇宙に確実に存在している。断言できます」

平田「しかし存在は、観測故に成り立つものであります。なぜ、私は断言できるのでしょうか?」

場内のだれしもが、ごくりと息を飲み込んだ。

平田「我々『プラネット・エレクトロニクス』は、ついに“多次元宇宙”観測の理論を確立させ、技術開発に成功したのです!」

高らかに宣言した平田。しかし予想していた歓声は起こらなかった。
誰もがみな、自分の耳を疑い、言葉を失ったのだ。

“パラレルワールド”。
人類の科学技術はついに、おとぎばなしでしかなかった“多次元宇宙”を発見するまでに至ったのだ。
間違いなく、この発表は世紀の瞬間になった。その確信が、聴衆の口を塞いだのだった。

やがて少し遅れて、絶叫に似た大歓声が湧き上がった。

それは新時代の幕開けであると同時に、未知への第一歩。
人類の究極の夢であり、極限の進歩。
誰も観測したことない、新しい世界の誕生だ。

平田は、恍惚の表情を浮かべ、聴衆の歓声を全身に浴びた。

619第一章 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:18:02 ID:bxXXubMw0



テイラー「――素晴らしい発表だったよ。実に驚いた」


それから二時間後。たくさんの報道陣から逃れた平田、軍服の男が握手を求めた。
190cm台の白人男性で、アメリカ陸軍の将校だった。

テイラー「『パトリック・テイラー』大佐だ。貴方がたが開発した“技術”に関して、
     我が合衆国政府はとても関心がある。ぜひとももっとお話しをお聞かせ願いたいところだ」

平田「光栄だよ大佐。僕も貴方たちと仲良くしたいと思っていたところだ」

テイラー「お互いいい話ができそうだ。では後日あらためて場所をセッティングするとしよう。
     仕事が控えているため、今日はこれで失礼する。話せてよかったよ、ミスターヒラタ」

平田「こちらこそ、大佐。楽しみにしているよ」

二人は握手を交わして、テイラーは部下を引き連れ会場を後にした。
テイラーの背中を見届けてから、平田も次いで、会場の外に出て、停めさせていた送迎用リムジンの後部座席に乗り込む。
既に、先客がいた。
モノクルをかけた、若々しい見た目の男だった。隣に乗り込んだ平田の顔は見ず、じっと腕を組んで目を閉じている。

平田「出してくれ」

運転手にそう告げると、平田はモノクル男の肩を叩いた。

平田「大成功だった、柏先生」

柏「……」

『柏 龍太郎(かしわ りゅうたろう)』は、言葉を返さなかった。
動き出したリムジンの窓の外に、流れる景色を眺めていた。

平田「アメリカ軍の庇護が受けられそうだ。ようやく、“アレ”の運用に向けて動き出せる」

平田「君の理論は完璧だ。もはや人間の知恵を遥かに超えている。柏先生、君は悪魔かなにかか」

柏「悪魔はお前だろう、平田 進」

その瞬間、明らかに車内の空気が変わった。
張りつめたように、凍りついたように。人知れず、運転手の背中に一筋汗が流れる。

柏「“アレ”を完成させて、動かして、お前はなにがしたい? 一体何が目的だ」

睨みつけて、柏が問う。
平田は答えなかった。柏はまた窓の外に向き直った。
しばらくして、柏が呟くように、平田に問うた。

柏「……全部やれば、自由だな?」

平田「ああ、約束だ」

柏は、窓の外に流れる景色を、じっと眺め続けていた。
もうこんな景色を見ることは、できなくなるかもしれなかったからだ。

景色を映す彼の瞳は、とても複雑な色をしていた。

620第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:19:17 ID:bxXXubMw0







ジェノサイド・エクスペリエンス −アークティック・モンキーズ 終章―










第一章「胎動 −歪む世界―」

621第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:20:25 ID:bxXXubMw0
◇2010年 某月某日
M県S市・杜王町 


……ゴゴゴゴ

ガタガタガタ

静香「……? 地震……?」

東北地方、M県S市杜王町。
早朝、静香・バッジョはホテルのベッドで突然の揺れに目を覚ました。
大きな揺れだった。震度は4、いや5か。
静香はベッドの上で地震が終わるのを待つ間、隣で寝ていた夫の姿が見えないことに気が付いた。

ゴゴゴゴ……

静香「……収まった」

揺れが収まったので、静香は長い黒髪をゴムで簡単にとめ、上着を羽織ってホテルの外に出た。
表に、自分の夫であるロベルト・バッジョの姿が見えた。
白銀の髪に蒼い瞳の彼は、じっと空を見上げていた。

静香「おはようございます、ジョジョさん」

バッジョ「おはよう。どう思う? この空の色」

バッジョに言われて、静香ははじめて空の異変に気が付いた。
“真緑”なのだ。空一面が、まるで青汁のように濃い緑に染まっている。

静香「……こんな色の空、はじめてみました」

バッジョ「俺もだ。なんだか嫌な予感がするな」

バッジョが静香の肩に手をやり、ホテルの中へ戻ろうとしたときだった。
バッジョは遠い向こうに、なにが怪しくゆらめく景色を見た。
蜃気楼のような、空間の歪みだった。

バッジョ「なんだ……?」

622第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:22:20 ID:bxXXubMw0
◇2013年 某月某日
M県Y市・必府町

……ゴゴゴゴ

アクター「うおッ!?」ベチャッ

亜希「なに? 地震?」

JOJO「……」

時は変わり、同じくM県のY市・必府町。
必府高校出身の『川端 靖成(かわばた やすなり/JOJO)』、『佐野 亜希(さの あき)』、
『芥川辰助(あくたがわ しんすけ/アクター)』の三人は、久し振りに集まって町でアイスクリームをなめていた。
突然の地震に、アクターが三段に重ねたアイスの一番上を思わず落とした。

アクター「あーッ!!」

JOJO「おい、見ろ!」

空を見上げるJOJOに言われ、亜希とアクターも顔を上げる。
必府町の空が、西の空から勢いよく染みだしていく“真緑色”に、侵略されていくところだった。

JOJO「なんだこの色……」

アクター「すげえ勢いで、どんどん緑になってくぞ!」

亜希「ねえ、あそこ! なんかあるよ!」

亜希が指差した方向を見ると、なにもないはずの空間が、微妙に“歪んでいる”ように見えた。
蜃気楼のようで、そうでない。
その空間はぐにゃりと景色を歪め、わずかだが亀裂のようなものも見えた。

JOJO「!」
アクター「!」
亜希「!」

ベキベキベキ

亀裂が大きくなり、ひび割れた景色の隙間から、怪しい光がゆらめいた。
ただ事ではないことは一目瞭然だった。しかしJOJOは、その“歪み”に近付かずにはいられなかった。

アクター「おいやべえよ! 離れろJOJO!」

亜希「危ないって!」

JOJO(どうなってる……これは一体なんだ?)

二人の制止も聞かず、怪しい光に誘われるように、“歪み“へ徐々に歩みを進めるJOJO。
そして――

623第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:24:10 ID:bxXXubMw0
◇2016年 某月某日
公立・織須田高校


ザワザワ

「見ろよ空の色! やばくね!?」

「世界終わるのか!?」

「授業なんか受けてる場合じゃねえ!」

午後2時。公立織須田高校では、全教室で行われていた授業が、生徒たちの関心をほかに奪われ、すべて破綻してしまっていた。
生徒たちを授業から引き離したのは奇怪な“真緑の空”である。
生徒たちはいつの間にか濃緑に染まった空を見付けると、授業を放棄して教室を飛び出した。

上城「お前ら! 授業に戻らんか!」

生徒指導教員の上城(かみしろ)先生が叫ぶ。
しかし興奮MAXの生徒たちには届かず、何人かの生徒は校庭に飛び出してしまった。


中条「気味悪いな……」

大和久「確かにな」

管尾「いいから戻ろうよお」

その何人かのうちの三人、『中条 万次郎(なかじょう まんじろう)』、
『大和久 礼司(おおわく れいじ)』に『管尾 仁義(くだお じんぎ)』は、そのとき空の色以上に奇妙なものをみた。

中条「……!?」

大和久「空間が……!?」

彼らの目の前の景色が、突然歪みはじめた。
バリバリと雷鳴に似た激しい音を立て、なにもない喰うかに亀裂が走る。
割れ目から怪しい光を放ちながら、やがて亀裂の向こうから、一人の少女が現れた。

少女「……」フラフラ

管尾「お、女の子……?」

少女「……」ドサッ

大和久「おい、しっかりしろ!」

ふらふらの状態で現れた少女は、全身傷だらけでボロボロだった。
なにもない場所から、突然少女が出現した。奇妙すぎる光景に釘付けになっている全校生徒の前で倒れた少女は、大和久に抱えられる。

遥「どうしたの!?」

三人の元へ、黒髪ロングの女性が歩み寄る。
『上城 遥(かみしろ はるか)』。上城先生の娘であり、スタンド使いの女性だった。

中条「遥さん、どうしてここに……」

遥「お父さんに呼ばれたの。この子、この“裂け目”から出てきたのね?」

少女「……う」グッタリ

管尾「酷いけがだ……誰か、救急車を!」

周囲の生徒に呼び掛ける管尾。
遥は、少女のけがの状態を見て、あることに気が付いた。

遥「これ……殴打の痕だわ。戦闘の傷よ」

624第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:25:42 ID:bxXXubMw0
中条「どういうことすか? この“裂け目”、けが……スタンドが関係してる?」

遥「わからない……」

そのとき、少女が大和久の手首をぐっと掴んだ。そして潰れた喉から声を絞り出した。

少女「……今は、……何年……?」ヒューヒュー

大和久「え?」

少女「今は……西暦、………何年、なの!!」ヒューヒュー

大和久「に、2016年だ……」

少女の普通でない様相に、思わず答えた大和久。
少女は悔しそうな顔をして、一言呟いた。

少女「……クソ………ヨコオ、ハルカめ……」

遥「……え?」

少女「ガハッ」ドバッ

突然、少女から血を吐いた。
それから、目を疑う光景が、大和久の腕の中で起きた。

大和久「う、うわっ!!」

バァァーーーーーーーーン

少女の体が、眩い閃光とともに一瞬で消滅したのだった。

中条「き……」

管尾「消えた……?」

校舎から、職員たちが集まってきた。
職員らは生徒たちを校舎へ戻るよう促す。
しかし戻ろうとする生徒はいなかった。みんな突然のことに、動けなくなっていたのだ。

ただ一人、謎の“割れ目”に近づいていったのは、遥だった。

遥(あの子……)

ふらふらと、割れ目から滲み出る怪しい光に歩いていく。
中条が叫んだ。

中条「遥さんッ! なにしてるんですか!」

遥(『ヨコオ ハルカ』って、そう言った……)

ザワザワ、ザワザワ

中条「近づいちゃダメだ! 戻ってください!」

遥(この奥に……なにがあるの……?)

中条「遥さんッ!!」


――そして、遥は――

625第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:26:44 ID:bxXXubMw0
◇2027年 某月某日
東京都内・とある高層ビル屋上


――クン



―――ドクン



――――ドクン、ドクン



ドクンッ


模「―――かはっ」


はちきれんばかりの心臓の脈動。
突然意識を取り戻した少年『杖谷 模(つえたに ばく)』は、こじあけるように目を見開いた。
青く高い空が見えた。強い風も感じる。

模「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

模「……!? どこだ、ここ……!?」

仰向けになっていた模は体を起こし、周囲を見渡す。そこはどこかのビルの屋上だった。
ゆっくりと起き上がり、歩き出す。
屋上から街の景色が見えた。自分の住んでいる町ではないことは明らかだった。

模「杜王町じゃない……よな……」

屋上の縁に足をかけ、下を覗き込む。
あまりの高さにくらくらしたが、模はビルの真下の車道に、人だまりができているのを見つけた。
たくさんの人が円を作り、車が通行止めになっている。

模「なんだろ、あれ」

模は縁から足を下ろすと、ビル内への階段を探した。
扉を見つけると、それを開け、急いで階段を駆け下りた。

626第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:27:51 ID:bxXXubMw0
そのビルは、どこかの企業の本社だった。
スーツ姿の社員たちの視線を浴びながら、学生服の少年・模はエレベーターで一階まで一気に降りる。
エレベーターが開くと、ビルの外まで一直線に駆けだした。

外に出ると、左手側の車道にさっき見た人だまりが見えた。

模「すみません、通してください!」

理由はわからないが、無意識に模はそこに駆け寄ると、人混みをかき分けて円の中央に出た。
そこには、血を流してぐったりと横たわる、少女の姿があった。
美しい金髪と堀の深い顔立ち。外国人だ。おそらくヨーロッパ系である。

模「……!? 一体、なにがあったんですか!?」

男「こっ、こいつが突然とびだしてきたんだよ!!」

模の問いに、そばにいた一人の男が、うろたえながら答えた。
男の背後に、バンパーがへこんだ車が停めてあった。
交通事故だ。この少女は、車に轢かれてしまったらしい。
模は、少女の首筋をさわり、脈を確認した。そのとき、少女の首筋に“星形の痣”をみつけた。

模(……星形の、痣…?)

模「……脈がない。救急車は!? 誰か呼びましたか!?」

周囲に問いかけるも反応はない。それどころか、多くの人がひそひそと不謹慎なことをつぶやきながら、ケータイで写真を撮っている。
さも見世物であるかのように好奇の目で少女を見下ろし、中には友達と笑いあう者までいた。
模の中で、煮えたぎる感情が爆発する。

模「……アンタたち、なんなんだッ! なにもしないならどっか行けよ!」

怒りを露わにして、模は少女を抱え上げ、深呼吸する。
それは熱くなった心身を落ち着かせるためだけではない、特別な呼吸法だった。

模「大丈夫だよ、絶対に助けるから……!」

模「『サウンド・ドライブ・セクター9』!!」

そう叫ぶと、模の傍らにスタンドが出現した。
顔面の中央に時計をずんと置いた、ごつい人型のスタンドだった。

模「“波紋疾走(オーバードライブ)”!!」

その拳を少女の心臓めがけて打ち込む。
拳から、溢れるエネルギーが少女の体に拡がっていく。
血流にのって、骨を揺らしながら、心臓を満たしていく太陽のエネルギー。

“波紋”。

627第一章 1/2 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:28:46 ID:bxXXubMw0
独特の呼吸法によって生み出されたそのエネルギーを浴びた心臓が、大きく跳ね上がる。
少女はかっと目を見開いて、体をのけ反らせ、息を吹き返した。

少女「―――ッ、はああぁぁっ……!」

模「やった!」

周囲から、おおおという歓声が沸き起こる。
模は学ランを少女に着せて、声を掛けた。

模「大丈夫ですか? 君、名前は? 日本語は話せる?」

少女「!? ここ、どこ!? 一体なにが……」

少女の発した言葉は、イタリア語のようだった。
模は、自分が彼女の話す内容が理解できたことに、驚いていた。
イタリア語は喋れないし知らないのに、なぜだか理解できる。
周囲を見回すと、彼らはまったくわかっていないようだった。
不気味に思いながらも、模は少女に答える。

模「落ち着いて。ここは日本です。君は車に轢かれたんだ。今病院に運ぶから」

少女「……日本? なぜ私……」

少女「……それに、日本語がわかる……どうして……?」

少女はよろよろと立ち上がると、周囲を囲んでいた人だかりを割って、そのままふらふらと歩き出した。

模「だめだよ! どこ行くんだ!?」

少女「……仲間が待ってるんです。……帰らないと、私……」

“仲間”。そのワードを耳にしたとき、模の脳裏に杜王町の景色が浮かび上がった。

模(紅葉……みんな……)

そうだ、自分も、仲間を町に置いてきた。
どこだかわからないこの場所に突然連れてこられた、この子も同じ境遇なのかもしれない。
模は、ふらついた少女に、肩を貸した。

模「僕は杖谷 模。どこ行くのか知らないけど、手を貸すよ」

少女「……」

模「君が心配だし……僕にも仲間がいるから」

ジョルナータ「……ありがとう。『ジョルナータ・ジョイエッロ』です」

頭から血を流した少女が、ジョルナータと小さい声で名乗った。
二人はよろよろと、まったく見知らぬ土地を、歩き出した。
むかうところもわからず、けれど心に決めた共通の場所に、むかうために。

628 ◆WQ57cCksF6:2012/07/17(火) 06:33:23 ID:bxXXubMw0
ということではじまりました!ジェノサイド〜!
長らくお待たせしました!
しょっぱなからめっちゃ文量多くなってワロタ
単発とは言ってますが連載形式みたいな感じなので、時間がかかるとは思いますが、どうぞ最後までおつきあいをよろしくおねがいします。



他作品のキャラ崩壊すまぬ…すまぬ……

629名無しのスタンド使い:2012/07/17(火) 07:29:36 ID:3s9wDsJIO
遂に始まったあああ
オリスタSS歴代のキャラクターが勢揃いとか豪華すぎる……

630 ◆R0wKkjl1to:2012/07/17(火) 10:39:24 ID:pBkENnqM0
ジェノサイドが、キ……キテルー!
指折り数えて待ってましたよおぉぁお!

今後の展開が超楽しみです(^O^)!投下乙です!

631名無しのスタンド使い:2012/07/17(火) 16:34:25 ID:xJ.7qjXs0
きたきたきたきたきたきたきたきたきたーッ!

632名無しのスタンド使い:2012/07/17(火) 23:03:55 ID:.uBEKgE60
きたあああああ
早速懐かしい面々の登場に感激ww
今回の黒幕は平田なんだろうか……
なゆたんやヒナちゃんは登場するのかな?
続き待ってます!

633名無しのスタンド使い:2012/07/20(金) 11:26:18 ID:RAp.CdgoO
きたあああああああああああああああああああ!!!!!
まだ読んでない完結作早く読まねばっ


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