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裏設定・SS・画像投稿スレ

1名も無き異能都市住民:2009/06/30(火) 00:21:12 ID:Na4ra5qU0
キャラ設定スレには投下できない!
キャラには知って貰いたくない!
でも中の人には知ってもらいたい!
そんな設定をコッソリ投下するスレ

裏設定を投下する場合は【○○(キャラ名前)の裏設定】と文頭に書いておくといいでしょう


画像や小説の投下もおk!
どうでもいい小ネタも投下して遊ぼうぜwwww
みんなの邪気を晒していこう^p^

235柳田邦悪:2010/09/07(火) 01:07:17 ID:XGVBIZa20
 大気が爆砕し、衝撃波が嵐のようにのた打ち回り、周りの全てを削り飛ばそうと真空の刃が荒れ狂う衝撃。
それがたった一発の、異能の力だという事実に、柳田邦悪は背筋が凍りつくような恐怖を味わう。
「うらあっ!」
 波のように襲い掛かってきた衝撃波に質量――本来の姿である山神の質量を乗せた拳を叩き込む。
二つの威力に、衝撃波は周りに破片となって飛び散り、土や木々をなぎ倒す。
 ここが無人の山でよかったと柳田邦悪は本気で思う。
「フシュウウウウウウウウウウウッ」
 目の前で双眸を赤く染め、悪魔のような黒い翼を羽ばたかせる少女の凶行を無理やり抑えることができるから。
街中で大規模異能の使用と、住人の殺傷は、そのまま犯人への強硬手段を可能にさせてしまうから。
「さて、異能都市への人事異動の前に、少しばかし、本気でやるか。飛ぶ鳥、跡を濁さず、っていうしな」
左右の拳をあわせることで、ゴングのように打ち鳴らす。
「シャアアアアアアアアアアアアッ!」
邦悪の戦意に、反応するように黒翼の少女が周囲に漂わせる三本の刀を躍らせ、一気に鷹のように襲い掛かる。
雷光と旋風と呪樹。三つの力を宿す刀、そして神の血を引く少女の妖気に、邦悪は全身から妖気を迸らせ、拳を構えて迎え撃つ。
「いくぜえっ!」

236柳田邦悪:2010/09/07(火) 01:32:29 ID:XGVBIZa20
 刀が奔る。強烈無比、無造作に鍛え上げられ練り上げられた、芸術品のような
鋭さと煌きを宿す打刀(うちがたな)とは違う。鎧の上からでも相手を切り潰すために
練りこまれ、鍛え上げられた野太刀。それが三本。左右、そして上段から迫るのを見て、
邦悪は両手の質量を上げる。二つの刃が両腕に激突し、しかし、その質量を上げた皮膚を
突き破れず、弾き返される。しかし、邦悪は苦痛のうめき声をもらした。
 相手の刀は異能の刀匠が作り出した、異能の武装。
右腕には毒のような紫電が絡みつき、左腕にはまるで苔のような植物が皮膚に生え、血を啜る。
そして、頭上には真冬の冷風のような鋭い風を纏った斬撃が落ちる。
 ソレに対して下段から跳ね上げた蹴りが刃の側面を蹴ることで弾き飛ばす。
「っあ」
 刀を纏った冷風が右足を凍らせる。この様子じゃ刀には熱風や腐風さえ纏わせることが出来そうだ。
どんな万能の異能なんだよ、と呻きながら邦足は残った足で少女の顔面を狙う。
 蹴りの威力は殆どなく、目的は相手の首筋を足首で捉え、そのまま地面に押さえつける。
そのつもりが、―――――
「んな!早すぎるだろ!」
 蹴りはかすりもせずに、夜の帳をすり抜ける。少女の速度が加速した。
否、加速と言う言葉すら生ぬるい。相手が向かってくる所を相対的に攻撃したのだ。
 それがかすりもせず、そして姿も見えないほどの速度で交されるとか、一体どれだけの速度で動いているのか。
そして、その速度を持つ相手がどういう攻撃を起こすのか。
 邦悪が振り向くよりも、その頭部を後ろから小さな手が掴まえる。
やばっ、と邦悪が呟くよりも早く、砲弾のような速度で邦悪の顔面がアスファルトの地面に叩きつけられる。
 その威力は、振動が山を揺らすほどもあり、クレーターが生まれた。

237柳田邦悪:2010/09/07(火) 08:16:18 ID:87BfjeXc0
 叩き付けたクレーターから、土煙が巻き上がる中、
黒髪の少女は真紅の双眸を爛々と煌かせながら、地面に叩き付けた柳田邦悪を片手で持ち上げる。
 まだ150弱の少女が邦悪の長身を持ち上げられるのは、いかなる膂力か。
頭からダクダクと赤い液体をこぼす邦悪へと、少女は見上げ、笑う。
「これで終いか、山神」
「―――俺は、それでもいいんだが……もし、俺が、ここでギブアップしたらどうする?」
「それは勿論。そんな屑に喇叭はやれん。ここで斬って潰して微塵にして吹き飛ばす」
 邦悪の顔面を捕まえている掌の間から、邦悪の双眸が爛々と黄色――琥珀色に輝き始める。
「前から言ってるだろ。異能家同士の婚約なんて今頃古いってな!」
邦悪は裏拳を放つ。その拳が異様な力を纏い、少女の顔面へと放たれる。しかし、あたることも無く
その拳は空気の壁をぶちやぶり、周りに暴風を撒き散らすだけに留まる。

238光速:2010/09/07(火) 23:33:19 ID:/55Xo8R60
薄暗い倉庫があった。
大きな棚が立ち並び、段には様々な奇妙な品が納められていた。
品の一つ一つには、日付、土地の名前が書かれたラベルがついている。
どうやらこの品々は、どこかの遺跡からの出土品らしかった。

割れた壁画や、大きな祭器らしきものが置くために設けられた広めの一角に、黒いローブに身を包んだ男が座っていた。
よくよく見れば、男が座る床も出土品らしく、魔法陣のような紋様が描かれている。

「様子はどうだ」

突如、黒いローブの男に声が投げかけられた。
ローブの男は振り返る。
スーツに身を包んだ男が背後に立っていた。

「手間取りましたが、もう完成するところです」

「ふむ、なら近いうちに実行に移すとしよう。
 ……素材となった男は、なんと言ったかな」

スーツの男は、ローブの男の肩越しに、部屋の奥を見つめる。
視線の先には、まるで大地が裂け、マグマが覗いているかのような赤い光が煌々と輝いている。

「知りません、その辺りのチンピラを捕まえてきたんですから」

「あー……そうかね。
 じゃあ、続きをよろしく頼むよ、"ベイ"」

スーツの男は踵を返して出口に向かう。

「お任せください、"首領"殿。
 さぁ、もう少しだ、そうだね、名前は……」

バチンっ、と赤い光が弾ける。
ベイと呼ばれた男は、ゆっくりとその光に歩み寄る。

「"ニトロ"、でどうだい?」

そこには、岩石のような皮膚を持ち、全身に筒のような器官を備えた、怪人としか表現のしようのない生き物が、佇んでいた。

239南瓜:2010/09/08(水) 09:56:12 ID:k6nVC4j20
クエスト『対都市戦争』概要

一つの弱小国があった。資源も無く国土も無く人口も少ないその国が持つのは、ある技術のみだった。
一般人の異能開発技術の先駆けとして以前の強国に立ち戻ろうとしたその国の幹部は、
既に異能者の比率が異常に高い『異能都市』に脅威を感じていた。
政府の駒であるパンプキンヘッドは、異能都市陥落の為にあらゆる工作を行い、
ついに国の世論を戦争に向けて一致させる。
都市攻撃の駒は、『国立人工異能研究所』、通称『TOWERS機関』の戦闘専門部隊。
三つ頭
『TRINITY』と呼ばれる彼等を動かす為に、政府は彼等にとって命より大切な
『先生』を人質に取った。

一人でも動けば災害レベルの被害を出す彼らの出撃を止めるため、
研究所の二人組『No.31』と『No.52』は自分達で先に都市機能を破壊する事で
被害を最小限に食い止めようとするが、都市の観測局と協力者に阻止される。
そして遂に、『TRINITY』が動き出す。
彼等にとって万の命より重い、『先生』を救い出すために。
その異能の刃は都市に向けられた。

240光速:2010/09/09(木) 01:50:28 ID:/55Xo8R60
「ニトロ……やられたようですね」

ある遺跡の出土品が収められた倉庫。

「ふむ、仕方あるまい。
 まだアレは実験段階なのだろう?」

スーツの男、"首領"と、ローブの男、"ベイ"が話していた。

「こんな物でしょう。
 能力のせいか、あれは少し凶暴すぎましたが」

「それで、どうなんだね。
 実験の結果は」

手を持て余しているようで、首領は出土品を手に取り眺める。

「あれだけ暴れれば良好だと思いますよ。
 今から"覚醒鱗"の回収に向かいます」

そう言って、ベイはローブを翻す。
その瞬間、ローブに飲み込まれたかのように、その姿は跡形も無く消え去ってしまった。

「ふん……復活はまだ遠い、か」

【To Be Continuedとか言ってみたかった】

241歪みと『歪』/異能都市の最果てにて:2010/10/07(木) 01:19:17 ID:fDkngjxU0
異能都市の、とある最果て。 銀髪蒼眼の術師が、彼方へ向かい瞑目する。
都市の歪みの先 「何処か」へと続くこの道は、果たして「何処」へと続くのか。

ある者は彼の地へ、ある者は此の地へ。またある者は別の地へ。一つの空間から異なる場所へと繋がる異常。
三次元上の物理的な構造として、絶対に起こりえない矛盾を内包した「歪み」。
ともすれば転移の類の術式と通ずるところもあろうその存在は、しかし魔力を無しに在り続ける。

在り得ぬ筈のその先。
全てを知る絶対の瞳 その持ち主たる「人間」が、歪みの果てに何を見るものは。

「━━━━━……」

瞑目していた術師が何かを呟くと。その身体が、ふと揺らいだ。
地へと倒れんとするその身は、倒れ伏す前に歪みへと飲まれ、消えていく。

========

━━━━其処に在るは、変わらぬ風景、異能都市の最果て。
静寂に満ちたその地は 先程の来訪者など無かったかのように、ただ在り続けた。

242もふもふ教典/一部抜粋:2010/10/12(火) 12:57:30 ID:PBnIervYO
人がヒトであったころ、空にある雲より、暗闇に輝く星よりも高い場所から、大爺様は見ていました。
生まれ、育ち、産み、死んでゆく。小さな命が花開き、散って、広がって行く様を見ていました。
なんと素敵なものだろう!大爺様は、その命の輝きに、山よりも、海よりも大きなその体が感動に震わせました。
震えた体より、二本の産毛が零れ落ち、命広がるその場所に落ちていきます。大爺様はほんの少しでも、命の輝きに近付きたかったのです。命に気付いて欲しかったのです。
二本の産毛はその意志に沿い、変わっていきます。
見るための目を、触れるための手を、語らうための口を、胸震わす心を。
命の輝きにより近い、ヒトの姿似に。
より多く、より細かくとも、より広く。
命の輝きにより知らせる、大爺様の姿似に。
こうして神と御使いは分かたれ、産まれ、我らと共に、今ここにあられるのです。

243統一国軍イベ ”エピローグ”:2010/11/11(木) 22:36:20 ID:7gFzKdaU0
森の、とあるログハウス。
そこの玄関前に置かれた台の上に、赤毛の少女が立っている。
全身包帯まみれの痛々しい姿だ。
うつむいた顔は、前髪に隠されてその表情を隠している。
そして、少女の横には白衣の少女と白スーツの少女がいた。
更に、彼女らの前には数百人の人間が。
皆傷だらけで、ふらついている者も、地面に座るものもいる。
しかしながら彼らの表情はみな明るい。
赤毛の少女が顔を上げる。
其の、赤く、強い輝きを孕むその目で、皆を見つめた。

「皆」

花のような唇を動かし、呼びかける。
それだけで目の前の大人たちが従うような気配へと変わった。
分かるだろう――彼女が、彼女こそがこの集団のリーダーで有るということが。

「皆、これまでよく頑張ってくれたね。
皆、色々有ったけど、最後までアタシ達と戦ってくれた」

ゆっくりと、よく通る声で全体に話しかける。

「――アタシ達の目的は、覚えてるよね?」

全体が、同意の声を上げた。
そう、この集団は元々、統一国軍と言う組織を倒すために作られたものだ。
そして、統一国軍は――倒された。

「目的は達した。だったら、アタシ達は何をするべきだと思う?」

声が、声に込められた意志が、皆に伝わっていく。
嗚呼、そうなのだ。戦うために集まった集団なのだから。
ならば戦う必要がなくなれば、解散するのは自明の理。

「皆、やりたいことを、やろう」

強い言葉で、強い笑みで言った。

「この世界に残る人は、残ってやりたいことを――、帰りたい人は、愛香が返してくれるから」

だから

「――、反統一国軍レジスタンス――”アルバトロス”は!今日を以て解散します!」

皆が、腕や腰に括りつけた腕章を掲げる。
鳥と剣。自由と力を象徴する其の証。

「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」」」」」」」

一斉に、色とりどりの布が、宙を舞った。
血に汚れ、色あせ、ボロボロの其れは、しかしながら――何よりも尊いものの如く感ぜられた。

「みんなッッ!!!ありがとうッッ!!!」

「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」」」」」」」

そして、少女は後ろを振り向き、歩き出した。
少女も又、反統一国軍レジスタンス”アルバトロス”副長の萌葱アテナとしてでは無く――只の一人の少女として。
白スーツの少女は、それを追うように歩いていく。そして並び立った。
彼女――オイジュスは、アテナと並び立つ親友であり、盟友であり、好敵手として。又――家族として。
泣くアテナの肩を抱き、そして其の二人の間に入る白衣の少女、愛香。
どうやらこの三人は、この世界に――異能都市に残るつもりのようだ。
アテナは、今日から只の喫茶店店員。
オイジュスは現在求職中。まあ、いつか何か見つかるだろう。
愛香は研究の材料を探し東奔西走の日々を。
アルバトロスの物語は終わった――。
だが、アルバトロスで無くなった彼らの物語は、これからも続いていくのだ。

244怪人の会合:2010/11/12(金) 22:57:41 ID:y62ai9l60
「変わったなぁ、世界は」

タオルをバンダナのように頭に巻いた男が、ビルの上で呟いた。
もう冬だと言うのに、半袖のアロハシャツを着て平気で寝転んでいる。
その傍らには、ローブの男、ベイが立っていた。

「当たり前だ。
 二千年間だぞ?僕らが封印されていたのは」

「まぁ、そりゃそうか……」

手すりを背に立ち上がり、ベイに向き直った。

「で、だ。俺はその親愛なる首領様のために、何をすればいいんだ?」

「君には、怪人の素材を持ってきてもらったり、僕が作った怪人の監視をしてほしい。
 と言っても今はまだ新しいのを作成中だからね、勝手にしててもいいよ。
 完成したらその時はこっちから呼ぼう。
 ただし、くれぐれも正体は市民にバレないようにね」

「あいよ。偽名も考えとかなきゃな」

アロハの男はその場を立ち去ろうと、手すりを乗り越えた。

「ああ、ちょっと待ってくれ、ひとつ頼みがある」

ベイがふと何かを思い出したように呼び止めた。

「こないだ怪人に、"レスト"の逆刃刀を預けたままだった。
 今は観測局かどこかにあると思うから、暇な時にでもそれを奪い返してきて貰えないか?」

「……こういうのは"アイル"の仕事だろ。
 面倒だな、一人復活ごとに魂入りの覚醒鱗四枚も必要なんて」

アロハの男はため息をして、肩を竦めた。

「頼むよ、レストは最後に蘇らせる予定だから、それまではいつでもいい」

「あいよ。
 まぁ気が向いたらな、魔将ベイ」

「その肩書きを聞くのも久しぶりだね。
 じゃあまた、闘将"ダーネス"」

二人はそのまま別れ、ダーネスはビルから路地裏に飛び降り、ベイはローブを翻すと共に姿を消した。

245怪人の会合:2010/12/06(月) 21:22:06 ID:y62ai9l60
「まさか、お前が復活していたとはな」

スケイル関連の遺跡からの発掘物が納められた倉庫。
ローブの男ベイ、アロハの男剣山、そして白い怪人の3人が集まっている。
白い怪人の脚は歩けるようになるまで回復しており、無くなった腕も新たな細胞がその傷口を覆いはじめていた。

「どうやって復活した?」

剣山が、白い怪人に詰め寄った。

「数週間ほど前に、海の底で突然目覚めた。
 原因は知らない」

「海の底とは、具体的にどこだ?」

ベイが、様々なメモが書かれた地図を取り出した。
都市の歪みのせいか、各地が途切れ途切れだが。

「ここだ、このあたりで目覚めた」

「ベイ、どうなんだ」

ベイは、ローブに隠された顎に手を当てて考えるる。

「……うん、ここはどうやら比較的邪気や魔力といったものが溜まり易い地形になってるみたいだ。
 二千年もかければ、たしかに怪人一人を蘇らせる程度のエネルギーが得られるのかもしれない」

「つまり?」

剣山が問うと、ベイは地図の一部を指で円を書くように示した。

「この地形全体が、エネルギーを蓄える魔法陣のような形になってるってことさ。
 ここから先は風水とかの分野だからよく知らないけど」

「ってことは、似たような地形と怪人の封印された覚醒鱗が揃っていれば、
 白いの以外にも復活している可能性があるということか」

「確立は低いけど、そういうことになるね」

そういうと、ベイは剣山と白い怪人に向き直った。

「話は変わるけど、これから僕は、怪人の製造に取り掛かるよ。
 白い同胞、君は傷が治り次第その能力を強化させよう。
 そしてダーネス、君は白い同胞達の監督をしてやってくれないか?」

「あいよ。
 今日のところはこれで解散でいいか?」

そう言って、剣山は二人を見比べた。

「いいよ。
 と言っても、今自由な行動が出来るのは君だけだけどね」

「はっはっは、怪人作るのが楽しいくせによ。
 じゃあな白いの、ゆっくり休めよ」

そう言って、剣山は部屋から出て行った。
剣山は、部屋から出ると呟く。

「おっと……まだ首領とやらに顔あわせてなかったな、俺……」

そう言って、どこかへ歩いていった。

246柳田邦悪:2010/12/08(水) 00:37:30 ID:FiUKcYlw0
 「ほぅ、ようやく本気になったな」
ケラケラと笑いながら、邦悪から距離を取り、少女は手に紫電を纏わせる野太刀を握る。
 その全身から吹き荒れる妖気の風は、まるで山にぶつかったように邦悪の前で裂け、
左右にあったものを吹き飛ばす。
 相対するように邦悪は双眸を爛々と琥珀色に輝かせる。
元々長身で、鍛えられた体つきだが、その体が更に膨れ上がったかのような威圧感を持って邦悪は、悪たれを吐く。
「少しばっか本気でやるぞ。明日、筋肉痛ぐらいは我慢しろよ」
「ふん、その首があったならな」
 羽を揺らしながら、長い黒髪の少女は齢に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべ、そして次の瞬間、刀を振りかぶる形で
邦悪の後ろにいた。振り下ろす刀は、纏う紫電を伴い、閃光。全てを斬撃と熱によって焼き斬る魔性の刃を邦悪はしゃがむことで交わす。
 まさか、交されるとは思ってなかった、と驚く少女の頬ギリギリへと迫る裏拳。

247柳田邦悪:2010/12/08(水) 01:15:43 ID:FiUKcYlw0
 今度も少女は交わす。しかし、さっきはかすりもしなかったのに前髪数本が落ちる。
距離が近すぎる、刀を振る距離じゃないと、羽根と風を操ろうとする少女の動きよりも早く
邦悪の拳が放たれる。ただの拳。武装もない拳なのに、少女の背筋を走る生存本能の悲鳴。
「っ、呪樹、風魔、紫電」
三つの刀がまるで騎士のように、拳の前に立ちふさがる。しかし、邦悪は強引に叩き込む。
「うらあっ」
ぶつかった時に上がった声は重機同士が激突したような轟音だった。

248怪人の会合:2011/01/30(日) 23:53:24 ID:sicV56OY0
「やぁ、待たせたねダーネス君」

スーツの男が、ローブの男、ベイを引き連れて部屋に現れた。
部屋はどこかの企業の応接室のような様相で、部屋の奥のソファに、アロハシャツの男が座っていた。

「こんなかたっくるしいとこに呼ぶなんてやめてくださいよ。
 息が詰まりそうです、首領殿」

アロハの男、剣山、いや、ダーネスがスーツの男に答える。

「誰も居ないから、もう少しリラックスしてもいいんだよ。
 あと君までその呼び方をするのはやめてくれたまえ、私はただのスポンサーだ。
 君たちにはもっと優秀な指導者が居るだろう?」

それを聞いて、ダーネスは笑い顔で答えた。

「鱗怪帝は首領というか、俺たちの帝王……いや、信仰する神みたいなものですよ。
 ただ、俺たちの神は他の宗教と違って実在しますがね。
 で、今日は何の用でしょうかね?」

そういうと、スーツの男の背後に立っていたベイが前に出た。

「その質問には僕が答えよう。
 言いたいことは二つ。
 まず、僕と首領殿は明日から、暫く北に出かける。
 新しい怪人のいい素材が見つかってね、捕獲しにいこうと思って。
 もう一つ、君に頼んでいたレストの刀、まだ取り戻していないみたいじゃないか。
 僕らが帰ってくるまでに、取り戻しておいてくれ」

「おいおい、レストの復活予定はまだ先だろ?
 そんなに急ぐこと無いだろ」

ダーネスが大げさなポーズをしながら言うと、ベイはダーネスに詰め寄った。
ベイはダーネスに人差し指を責める様に突きつける。

「僕はだいぶ前から頼んでいたはずだろう?
 急ぐことじゃないが、さすがに遅すぎるってことさ。
 なに、あちこちで素材を捕まえてくるつもりだから、一月ぐらいかかる。
 まだゆっくりできるはずだ」

「わかりましたよ、ったく、自分で手下に預けて自分で無くした癖に」

ダーネスがため息をつく。

「まぁ、そういうことだ。
 地下に怪人が一体だけだが用意してある。
 必要になったら使いなよ」

ベイが人差し指を今度は床に向けた。

「準備がいいことで」

249名も無き異能都市住民:2011/02/12(土) 21:36:28 ID:j/lGlpv20
真っ暗な世界が一つ、ありました。
時の流れもなく、色も形もない世界。
そんな世界に”彼”は閉じ込められていました。

鈴のような、澄んだ小さな音。
静かにきらきらと銀色の光を零しながら、彼はじっと、何もない世界を耐えていました。

どれほどの年月が経っているのか、彼には分かりません。
何度も何度も外に出ようと声を張り上げ、魔法の力を振り絞っても、暗い世界は全部を飲みこんで溶かしてしまいます。

どんなに頑張っても外に出れない時間は続きました。
それでも、諦めるつもりなんて彼にはありませんでした。

けれど、彼の力は無限ではないのです。
人から見ればまさに限りなくと言えましたが、それでも確かに限界はありました。

限界ぎりぎりまで魔法を使ったのち。
いつしか彼は、子供のように身を丸めて、眠るようにただゆらゆらと漂っていました。
閉じ込めるくらいなのだから、きっといつか何か起きるはずだと彼は信じることにしたのです。

250名も無き異能都市住民:2011/02/12(土) 21:39:02 ID:j/lGlpv20
待ち望んだ変化は、意外と直ぐにやってきました。


ある時彼は、小さな音を聞きました。
最初はたった1つ。
すぐに幾つも繋がって、染みるように真っ暗な世界に広がっていきます。

sstaary kstw varl taal
謳いなさい 星を満たすように強く
 sstaary ff tagge ziqm
 謳いなさい 理さえも越えるように
colga endite bzt yysj
凍り止まった貴方の心
 wfz wfz wfz zz wtirn
 その深く深く 魂の底に
sstaary rre hymmnos raa
宿った無垢な詩を響かせて

何度も何度も、詩はそれだけを繰り返して彼に聞かせます。


彼は音楽を使って、感情に任せた魔法を使う生き物です。
だからこそ彼は、この歌い手が誰かというだけでなく、どんな気持ちで謳っているのかを知ることが出来ました。

力のないただの詩に、溢れんばかりに宿っていた感情。
それは、彼の「ここから出たい」という意志さえも吹き飛ばすほど強い気持ち。
彼が、歌い手に興味を持つのには十分なほどの想いでした。










――――彼が閉じ込められているのとは、別の世界のお話。

『聞かせろ』
「おや、ついに協力してくれる気に?光栄なことだ」
『いいから話せ、全部』
「全部、とは」
『望みも祈りも想いも夢も何もかもをだ』
「……無論だとも」

傍から見れば剣と会話する怪しい灰色の男の人は、にっこりと、嬉しそうに笑って頷きました。

251名も無き異能都市住民:2011/02/14(月) 20:01:40 ID:FCIa6weI0
灰色の服を着た巫女が、月夜の街並みで詠っている。
これは巫女が、アスファルトに覆われた都市そのものに、人知れず仕えていることを象徴している。
巫女の髪は聳えるビルの1棟1棟へと繋がっており、巫女の精神が街の隅々まで行き渡っていることと共に、
逆に巫女自身がこの都市に束縛されていることを示す。
巫女が目を瞑っているのは、巫女が夢をみているからに他ならない。
無機質で殺伐としたこの都市も、巫女にとっては夢の中の出来事でしかないのだ。

http://dice2ch.es.land.to/uploader/src/uploader0085.png

252光速:2011/02/27(日) 21:05:33 ID:LIzoKx..0
http://loda.jp/elusion/?id=115.jpg
http://loda.jp/elusion/?id=116.jpg
幹部怪人二人のイメージ
あくまでもイメージだからイベント内で外見にそぐわない行動するかも

253怪人達の会合:2011/03/02(水) 21:24:19 ID:LIzoKx..0
「おー、こないだの奴が新聞に載ってやがる」

街の喫茶店で、アロハの男、剣山が新聞を読んでいた。
"棘だらけの怪人と、一つ目の怪人が公園を焼け野原に変えた"
そんな記事が、新聞に出ていた。

「俺も有名人だな、これで……ん?
 異能都市より北の街で、大型の怪人が出現、現地の能力者によって撃退……。
 おいおい、こりゃあまさか……」

「やぁ、久しぶりだね、剣山」

驚く剣山に、ローブの男が話しかけてきた。
第一の幹部、魔将ベイだ。

「……噂をすれば……いつ帰ってきたんだよ。
 っていうかこれは何だよ。
 一人で勝手に楽しそうなことやりやがって」

剣山は、ベイに詰め寄り、新聞の記事を指差す。

「いいじゃないか。おかげで面白い怪人が作れるようになったよ。
 良質な素材も手に入ったしね。ちゃんと魔力の溜まった覚醒鱗も手に入った。
 この新聞を見ると、君も手に入れたんだろう?これでアイルが復活できる。
 すぐに戻って復活させてやろうじゃないか」

そう言うとベイは踵を返し、さっさと歩いていってしまった。
剣山はため息をついて新聞を折りたたむ。

「相変わらず勝手な奴だ」

254宣託をうけて洗濯するまえに宣託するunknown:2011/03/02(水) 21:58:20 ID:s42RcinY0


「君には、好きなモノ、愛してるモノ、ある?」

 此処が何処だかわからない。わからないけれど、彼がいる。
 彼女にしか見えない彼のどれほど見つめ合おうとも永遠に交錯することのない外斜視の視線が、私を見つめていた。

「僕は君のコト好きさ。愛してる。だいすき。何故なら顔が可愛らしい。髪がきれい。だからだいすき」

 さらり。
 彼が私のほうへ顔を傾けると、さきっぽだけが白く染まった長い黒髪が滝のように流れ落ちて、私の顔を擽る。
 そのじれったい感覚に身を捩ろうとして、ようやく気付いた。

「そういうの、よくないって。みいんな言うんだけどね、僕には何が悪いかわかんないの」

 動け、な、い。
 身じろぎひとつ出来やしない。それに気付いた瞬間、呼吸をすることすら難しくなったような気がした。
 彼は笑っている。笑っている。ふつうに。いつもと同じように。


「……むかしむかし、ね、神様が人間にマジ切れしてさ、世界をぜーんぶ洗い流しちゃおうって思ったらしいよ。
 でさ、信用できるひとりの人間に、お舟のつくりかたを教えたんだって。洗い流す水にも耐えられるすてきなお舟。
 いいよね、すてきだよね。それに乗れば助かるんだもん。
 で、ね。君がその舟のつくりかたを教えてもらった人間だとしたら、こう考えたりしないかな」

 助けて、赦して、謝るからなんでもするから。私の彼氏があんたを殴って犯したのを怒ってるんでしょう。
私は何もしてない、やめなよって言ったもん、関係ないもん。叫びたいのに、口が動かない。
 溺れる視線が、壁掛けにひっかかった彼氏だったモノのあたまと胴体とその他臓物もろもろを捉えて、
さらに呼吸がし辛くなっtああぁあぁっぁああぁぁああああ痛い痛い痛いいだっああああぁ

「そのお舟にね、自分の好きなモノだけを乗せて。洗い流した後のきれいな世界で、ずうっと楽しく過ごしていたいって。
 少なくとも僕はそう思うなあ、好きなモノだけに囲まれて過ごす世界って、きっととってもしあわせだよ。
 だから僕は、いっぱいいっぱい。いろんなモノを好きになりたい、って思うの」

「君のコト好きだよ。だいすき。愛してるの。アイラブユー、」





「……フォーエバー。になるほどは、好きじゃなかったね。だからごめんね」

「僕のお舟に、君は、乗せてあげない」


 彼の首にとりついた首輪が、ひかった。

255良くある登場シーン:Fe-105&Fe-107の場合:2011/03/09(水) 01:19:26 ID:onviSg/.0
105「広い道路! 高いビル! おっきい街だね〜。
 でも、こっちの気候は良く知らなかったけど、ちょっと寒いねえ?」

目を輝かせ、手をすりすりしながら夜の街を眺めるは、半袖短パンの小柄な少女。
まだ少し冷える季節、鳥肌こそ立っていないが、見るからに寒そうな外見だろう。

107「ならもっと厚着してはどうですか、ファイブさん。
 もっとも、厚着せずとも貴女なら幾らでも体温調節できると思うのですが」

無表情かつ無感情でそれに突っ込みを入れる、メイド服の少女。
ロングスカートなので、少しは寒気に強そうだ。

105「この服装がボクのアイデンティティなの。
 あと、「体温調節」とか言わないの。あと、それから「ファイブ」とか呼ばないの。
 誰かに聞かれてたらどうしてくれるの、クロナ?」

ちょっと不満げな表情を採る、ファイブと呼ばれた少女。
見た目こそ普通の少女にしか見えないだろうが、その雰囲気は人間とは何か違う。

107「どうせこの街で暮らすうちにバレるんですから、別に良いでしょう。
 それよりも、早く息子様を見つけなくては」

あくまで冷静な、クロナと呼ばれた少女。
こちらもやはり普通のメイドにしか見えないだろうが、その雰囲気は人間とは何処か異なる。

105「はいはい、分かったよ。兄さん、逮捕とかされてないかな?」
107「されているでしょうね、確実に」
105「クロナ、そこまで言わなくても……」

クロナの予想とは違い、「息子様」=「兄さん」=『佐宗スグル』は逮捕されていない。
もっとも、一度は逮捕されかけたので、大外れでは無いのだが。

ともかく、二人の不思議な少女はスグルを探しつつ異能都市を歩き始めた。

256良くある登場シーン:“脾臓”&“腎臓”の場合:2011/03/09(水) 01:23:13 ID:onviSg/.0
二人の少女が到来した日の、更に深い夜の中で。
とある公園のど真ん中の空間が、突然ひび割れる。
次の瞬間、景色が粉々に砕け、そこには真っ黒な大穴が現れた。

脾「此処に逃げ込んだんですね、七代目は」

穴から最初に出て来たのは、白いワンピースを着た少女。
その右手には、淡いピンクのミトンを嵌めている。

腎「お疲れだぜ、ヒィちゃん? 後で俺がキスしてやろう」

少女に続いて現れた、迷彩服を着た青年。
黒髪オールバックを撫でながら、冗談かセクハラか、そんなことを言う。

脾「ジンさん、次に不用意にキスとか言ったら貴方の首を『喰らい』ますよ」
腎「酷いなあ。俺、マジで結構ヒィちゃんのこと気に入ってるんだぜ?」
脾「知りません、死んで下さい」

ヒィちゃんと呼ばれる少女の、琥珀色の瞳は本気の色だ。
ジンさんと呼ばれる青年の、銀色の瞳はチャラチャラしている。

脾「それにしても、この街……なかなか良い匂いがしますね」
腎「ああ、確かに“異能使い(どうぞく)”の香りがプンプンするぜ」
脾「それと、“魔術師(くずども)”の汚い臭いも……ふふふ」
腎「おいおいヒィちゃん、ヨダレ出てるぞー?」

あっ、と顔を赤くして涎を拭く少女。
ヘラヘラしながらその様子を眺める青年。
そんな二人から染み出すのは、普通では無い『獣』の気配。

脾「ま、まあ、そんなあれこれは後回しです。
 ひとまず七代目を捕まえて縛り上げ、それからゆっくり『喰らい』ましょう。
 とりあえず、穴はもう塞いで良いんですよね?」

少女は穴の方へ振り返り、右手のミトンを外す。
そして現れた右手は、何かに侵されたようにどす黒く、形も何か歪んでいる。

腎「オッケー、頼んだ。さて、どんな可愛い女の子と巡り合えることやら」

青年の了承を受け、少女は黒い右手を穴に向けて一振り。
すると、ガラガラという音を立てながら穴は復元を開始し、そして完全に塞がった。
それを確認した少女は再びミトンを嵌め、右手を隠す。

脾「では行きましょう、ジンさん……いえ、三代目“腎臓”」
腎「把捉了解だぜ、ヒィちゃん……いや、二代目“脾臓”」

暫定七代目“肺臓”――即ち『佐宗スグル』の捕獲のため、二つの臓器が始動する。

257残滓 1/3 いえるさ:2011/03/20(日) 01:58:02 ID:0ebeJXvA0
 いつまであの人の影を追っている?
不意にそんな問いが脳裏をよぎった。
それが誰の言葉だったかは忘れてしまったけれど、少なくとも俺にとっては深刻な問いだった。
 俺はいつまであの人の真似事を続けるつもりなんだろうか。
今の所、答えは出ていない。

 或る秋の日のこと。
空は吸い込まれそうな位に澄んでいて、柔らかな風が一ちぎりの雲を緩やかに運んでいる。
そんな日に、俺は故郷を訪れていた。
否、正確には故郷だった場所を訪れていた。
 それが過去形である理由は語るべくもない。
襲われて、滅んだ。
そんなありふれた言葉で片づく。
ともかくそんな陰気な場所を、俺は訪れていた。

「……変わんねえな、此処は」

 溜め息混じりの言葉。
変わらないのは良いことだ。
それは確かだと思う。
この世は常に変化で満ち溢れているから。
変わらないものは、貴重だ。
 しかしずっと変わらないと言うのも如何なものかと思う。
俺でさえ変わったのに。
少なくとも此処に帰ってきても泣かないくらいには変わった。
けれど此処はいつまで経っても寂れた廃墟の町だった。

258残滓 2/3 いえるさ:2011/03/20(日) 02:03:27 ID:0ebeJXvA0
 中心部に向かって歩いて行くと、町はその陰鬱さを増していった。
建物は所々が朽ち、中には全壊してしまっているものもちらほらと見受けられる。
かつて賑やかとまではいかずともそれなりに人通りのあった石畳の路は既にその姿を保ってはおらず、好き勝手に根を這った雑草の影にひっそりとその面影だけを覗かせていた。
 町、というものは人がいて初めて成り立つ。
誰も居ないこの死んだ町にはそれが欠落しており、その欠陥が何とも言えない違和感として町全体を覆っていた。

 さっさと用事を済ませよう。此処に長居はしたくなかった。
本能がそう望んでいた。自然と早足になり、俺は目的の場所へと急いだ。

「……」

 その場所へは割とすぐに着いた。
そこは教会だった。
白かった壁は灰色にくすみ、罅が入っていた。
けれどそれは未だに厳然として佇んでいた。
唯一町の雰囲気に呑まれていない建造物としてそこに在った。

 俺は大きく深呼吸をしてそこに歩み寄る。
扉を引く。
開いた。
中に入る。
進む。

居た。

「……」

そこであの人は眠っていた。
そこに彼の墓はあった。

259残滓 3/3 いえるさ:2011/03/20(日) 02:08:10 ID:0ebeJXvA0

「……久しぶりだな。元気だったか?」

 声を掛ける。
勿論返事はない。
彼は相変わらず穏やかに眠っているようだった。
それもそうだろう。
あの時この町の時計は止まったのだから。
そしてこれからどんなに長い時間が経とうとも、これ以上進むことは無い。
 俺はポケットに仕舞っていた煙草を取り出した。
それは俺の被っている黒い帽子と同じく、あの人の形見だった。
或いは俺の中で生き続けているあの人の欠片だった。

「……試したけど、駄目だった。噎せちまったよ」

「やっぱりコレはアンタのモンだ」

 俺はそう言うと、静かに煙草を彼のもとに置いた。
指先がそれから離れた瞬間、心にのしかかっていた重石がとれたようだった。
 ようやく解放された。
誰から?
俺自身から。
 
 それから暫くしてそこを離れた。
もう此処を訪れることは無いだろう。
俺の心は今までになく晴れやかだった。

 最後に問おう。

 俺は何時まであの人の影を追っている?

 答えはもう、出た。


『残滓』終。

260SS-「"ロージェンス"」(1/2):2011/03/25(金) 00:21:31 ID:1sJsd2CgO

 目覚めると私はベッドに寝ていた。
 頭が痛い。身体もなんかだるい。それよりも陽射しが目に痛い、朝か昼かも分かりゃしない。
 見覚えの無い場所だ。起きてみてそう思った、布団も毛布も真っ白なシーツがかかっている。

「……。……、ん」

 白布団から抜け出ようとしたら、腕を引っ張る何かがあるようで何気なく寝惚け眼で確認。

 ……、チューブが伸びてた。

「あ、おはようございます。点滴、気になります?」

 なしてこんなもんが腕から伸びてんだろうか、とぼんやり考えていた頭に明るい声が降ってきた。見ると白衣の女が居た。
 そして彼女は答えを挟む余地無く話しかけてくる。針が痛むなら言ってくださいねー、とか。

「昨日はビックリしちゃいましたよ、お仕事終わったーって病院出たらあなたが落ちてるから。そしたらほら、やっぱ看護師として担いでとんぼ返りするしかないでしょ?そのまま夜勤ルートで朝まで看病して、常勤と交代してすぐ院内で仮眠してたら今朝ですよ――あ、それじゃ見つけたのは一昨日かー……、よく考えたらあなた一日中寝てたのね?」

 話しながら忙しなくベッドの周りを動く看護師がブラインドに伸ばした手を止めて尋ねてくる。
 というか、聞かれても私にわかるわけないだろ、寝てたんだから。

「ここは……」

 私が尋ねかえすと、看護師はブラインドを開ける。正直、めちゃくちゃ眩しい、なぜか腹がたつ。

「うーん、ごくごくありふれた病院――まぁ、異能都市にあるって時点で普通じゃないけど、普通の設備しか揃ってないから普通なのかも。あぁ、そういえばあなたの名前は?」

 ……、分からなかった。
 いつも使い慣れ、聞かれれば咄嗟に頭に浮かぶ自分の名前が。
 名前だけじゃない、今まで何をしてきたのか、自分が何処の誰なのか、なんで行き倒れたのか。
 そういった自分の記憶が無かった、綺麗サッパリ。過去をまるごと失くした。

「……その様子だと記憶喪失、かな?この街じゃそういう事は珍しくないらしいけど……、ちょーっと困ったかなぁ。待ってて、医院長と相談してくる」

 あなたの服はアクセサリーと一緒に脇に畳んであるからー。と言い残して看護師は部屋から出ていった。
 ……この黒い服と鎖、あとジャラジャラした無数のアクセサリーは私の持ち物、らしい。

「……ホントに、忘れてるんだな」

 いっそ、話し方すら忘れていたらと思う。

 邪魔くさい針を抜き、ベッドから降りる。素足に床の冷たさが伝わると思わず身震いした、忌々しい。
 着替えさせられていた院内着の紐を解いて肌を滑らせる、下着を着て、レギンスを穿きベルトを通す。バックルに流された細いチェーンの束の端を適当にホールへ掛けていく、ジャラジャラと音がなった、鬱陶しい。
 黒いローブを手繰り寄せ手短に羽織る、袖は肩口の焼け跡を見るになくなったらしい、なんとなくいい気味。長い鎖を胸から肩に掛け、腹を回って腰まで縛り付け余った両端はさらに腰でキツく縛った。

「……、気持ち悪い。どうしてこの服はこんなにも身体に馴染むんでしょうねぇ、答えは私の服だからー!……ったく、そう言って全然覚えてねぇだろうが、このゴミクズ」

 部屋の洗面台に向かって罵る。
 鏡に映る私の顔はやっぱり初めてみる顔だった。
 全身は、と言えばどうだ。まるで黒ローブの鎖巻きだ、おまけにローブは端々が焼けて膝丈になっている。いったい何をしたらこうなるのか検討がつかない、自分の事なのに。
 着てみたら何か分かるかもと少しの希望を持ってみたけど、やっぱりなんにも思い出せない。なのに服の着心地は自然というから、憎たらしい。


 落ちた小物を拾い集めてベッドに置く、いろいろあった。
 リングを指に、ブレスレットは手首に、イヤリングは耳に、ネックレスは首に……、さすがに多い。余ったものはベルトポーチの中にしまっておこう。

「……、げ」

 開けてみると中身はベッドの上と似たような物で埋め尽くされている。なんでこんなに、と正直引いた。
 しぶしぶ、入れるのを諦めて再びベッドの上を適当に片付けていると、ポーチの中にも無かった物に気が付く。

 "たったひとつのチョーカー"

 それに気が付いた瞬間、胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われた。

「――ッ!」

 咄嗟に震える手でチョーカーバンドのホックを外し、しばらく食い入るように見つめるその裏側には。

 ――"私の名前"があった。

261SS-「"ロージェンス"」(2/2):2011/03/25(金) 00:23:11 ID:1sJsd2CgO

「そうかい、あのお嬢さんは記憶喪失だと」

 病院の受付。ナースステーションと共同された空間には二人の人間が居た。
 隻眼の男はのんびりと、看護師の報告に返すと少し歪んでいるパイプ椅子に腰掛ける。椅子は大柄な体格の主を迎えてギィ、と軋んだ。

「そうです、名前を聞いても返事がないんです。こう……、深々と考え込むように眉間にシワを寄せて……――そういえば彼女、鼻と頬にピアス開けてますけど、飲み物を口に含んで漏れたりしないんですかね?」

 無記名のカルテを作りながら看護師は頬を膨らませて風船のような顔を男に向ける。
 そこにゴツい指が突き立てられ、気の抜けた声と共に風船から空気が抜ける。

「鼻と耳のはバッチリ軟骨貫通してたが、頬のは皮膚表面で開けてんだよ。この手で確かめたから間違いない、お前さんも早とちりせずにしっかり確かめろ。もしかすると、ただ名前を言いたくなかっただけかもしれん」

「それは早とちりじゃなくて直感というやつです。あの流れと台詞のタイミングは絶対に記憶喪失ですって、意識不明の行き倒れはフラグと見て間違いありません」

 自信満々の看護師に、フラグってお前なぁ。と隻眼の男がため息を吐いた頃、通路からジャラジャラした音が歩いてきた。

「――へーぇ、何かと思えば私の話題で盛り上がってる?」

 噂をすれば影。
 話題の患者は院内着ではなく鎖に縛られたローブを纏い、身に付けた装飾品で耳障りな音を鳴らして受付の二人へと近づいていく。
 看護師は驚いて立ち上がり、隻眼の男は座ったまま口を開く。

「おはよう、記憶喪失のお嬢さん。その様子だと身体の調子は良いみたいだな。二日前は身心共に衰弱しきっていたとは思えない回復力だな、若さがそうさせるのか、或いは……ふっ、まぁいい。それは後々考えるとして、まずは自己紹介だ。俺はアオギリ、今はこの病院の医院長をやっている。こっちの早とちりなナースはカンナだ。よろしくこき使ってくれ」

 早とちりな看護師と紹介したうえに『こき使ってくれ』とは何事だ。と、カンナは口を開きかけて、結局何も言えずに息巻いていた。

「わざわざご丁寧にどうも。でもね、ルームサービスが来てもお茶すら出ない質の悪い宿屋に泊まる気はないわけ、わかる?」

「あなた、ここを何だと思って……!」
「カンナ、ここは病院だぞ?静かにな」
 アオギリに諭され、途端に言い詰まったカンナは乱雑に座り、黙ってカルテに向き合う。その背からは静かに怒気が発露している。
 そんな血の滾る従業員を気にも留めず、医院長は涼しい顔で患者に接する。

「……だが、なるほど。病人でない者を収容しても意味は無いよな……。そうだ、お嬢さんの言うところの『宿代』は『女将』の不始末に対する『経営者』からの御詫びとして、今回限り無料でいいぞ」

「……あんたさ、お人好しをすっ飛ばしてバカでしょ?しかも底抜けに阿呆の」

「クク、そうだな、俺は仕事バカだ。たとえ患者が身元不明の不審者でも、いろいろ詮索するのは俺の仕事じゃあない。だから俺はお嬢さんに何も聞かない」

 罵られても飄々と芝居がかった仕草で耳を覆うアオギリを見て、なんともつまらなさそうに患者はため息を吐く。
 望んだものが思うように得られない失望の念を、諦めに包んで捨てたのだ。

「……あんた、私のこと嫌ってないのね。なぁんか、そういうのだけ分かる体質みたいでさ、そっちのナースからはビンビン感じるんだけど、あんたはまるで空気ね。味気ないわ」

「当たり前だ、患者を嫌う医者がどこにいる?少なくとも俺は嫌わないね。どうしても嫌って欲しいなら、身体も記憶も全部治して"健康体"になってから再チャレンジしてくれ」


 この変人には敵わないわ。
 記憶を全て失くした患者は心の中で自分の負けだと思った。
 理由を尋ねられても記憶としての過去の経験を失っているのだから、ただなんとなくとしか言えない。
 だけど、素直に負けを認めるのは気に食わない。


「――そういうことなら、私は一歩だけ、その"健康体"に近付いているわけね」

 だから、"彼女"は一矢を報いることにした。
 力強く言い切る彼女の言葉に、アオギリは覆っていた手を退けて耳を傾ける。

「ロージェンス――ロージェンス・カプル・ニブラス。それが私の名前、思い出した最初の記憶」

 踵を返し、ロージェンスは病院から出ていった。
 もはや、ここに居る意味は無いと断言するかのように。
 彼女は異能都市に一歩、自ら足を踏み入れたのだった。

《了》

262コンニチハ『GF』計画 ◆JBbLACK.JY:2011/03/27(日) 21:42:13 ID:WEhMfl5k0
ヒホロ=ゼルトマン ログ解析結果
スモーク=ゼルトマン手記

○月×日
異空間転移実験は失敗
 この世界と別の世界と1:1のコンタクトを予定していたが、別の二つの世界とつながってしまう。
 出力先、保護カプセルに二つの世界の混合物が出力される。人型生物。状態極めて悪し。『GF』とナンバリング。
 細胞がいり混じり粒状に罅割れた皮膚。おそらく内部も同様の様子と思われる
 私たち一つの世界の人々を救うために二つの世界の人々を苦しめるのならこの実験はやめてしまおうと思う

○月▽日
『GF』の状態に変化
 バラバラでかろうじて繋がっていた細胞が徐々に順応を始めた。現在進行中
 人の形を模した肉だったものが今では人と言っていいほどになっている
 身体的特徴は男女入り交じっている、女性ベースの両性具有と近似
 引き続き転送元データの検証を実行、『GF』は経過観察

◎月□日
転送元
 転送元は登録ナンバーZGDGおよびKKF。転送物はやはり2つの生物。人型。男性と女性。
 『GF』は状態安定。人型で生命活動を開始している
 無責任ながら彼女(とする)にはこの実験を抹消するため、この都市に放り出す
 最低限の武器は持たせる

考察
 転移元のどちらかの意識が主となるか、2つの人格の同居があり得る
 よって精神不安定となる可能性が高い
 異常による合成のため通常の人体構造と異なる点(主に身体内部)あり
 詳細調査の時間は無い
 出来る限り早くデータの保管、次いで『GF』自身を別邸に放し邸の権利委託等が必要

263SS-「路上の片隅で」:2011/04/04(月) 23:53:25 ID:1sJsd2CgO

 深夜の商店街、店のほとんどが軒並みシャッターを閉めて寂れた雰囲気が月明かりに沈むアーケード。
 昼間に賑わう姿とは似ても似付かない一面に、裏表が入れ替わった錯覚を覚える。

「……。マズっ……」
 舌にまとわりつく甘さ。
 ジャムパンって、こんなものだったのか。知らなかった。

(知らなかった、か。"忘れてた"じゃあないのね……、間違いなく嫌いだったろうな、私)

 アーケードの傍らで、コンビニから失敬してきた菓子パンを食みながら鎖巻きの黒装束は自分の失くした記憶について考える。

 考えたところで、なにひとつ思い出せないのだが。

 ――ジャラ……。
 腕を動かすと腹に食い付く鎖が鳴る。
 ゆっくりと小さな装飾品を撫でる手に冷たい金属の重みが落ちる。
 拳銃だ。側面に雄々しいタテガミを持つ獅子の彫刻が施されている自動拳銃。

(……でも、弾が無い)
 空っぽの弾倉を入れ直して、傍らに置く。
 最近思い出した事といえばこの拳銃を出す『マドウキ』の扱い方、鎖も『マドウキ』の一種だけど少し違う。

 どうも部分的過ぎてイマイチすっきりしない。
 なにより、なんで武器を隠し持っているのか、それが分からない。

(ま、あれば便利だと思ってたから。それはそれで良いけど、撃てないんじゃねぇ)
 このマドウキという品物、どういった仕組みになっているのかは、ぼんやりと霞んでいてよく分からない。

「……寝よ」
 新聞紙を掴み、適当に段ボールの上で寝転がる。
 一日中広い街を歩き回って、食い物と寝床を探すだけで日が暮れる。とてもじゃないが記憶の足掛かりを探すヒマなんてありゃしない。

 でも、それでも、気が付くと何処かにないかと探している。
 過去より今を生きなければ、と考えていても。やっぱり"私"が分からないのが怖いのかもしれない。

(バカみたい。なに感傷に浸ってんだか……――――)
 うつら、うつら、と。
 ロージェンスは寒さを忘れさせる黒装束より暗い夢の中へと沈んでいく。

264怪人達の会合:2011/04/08(金) 00:05:22 ID:LIzoKx..0
http://loda.jp/elusion/?id=117.jpg
http://loda.jp/elusion/?id=118.jpg
カメレオン怪人ダロクとアリジゴク怪人テルメスのイメージ
なぜか写真を撮るごとに下手になっていく

265いえるさ:2011/04/09(土) 01:22:33 ID:0ebeJXvA0
深夜のノリで描いちゃったイェルサ。
鉛筆画なのは勘弁ー。

http://loda.jp/elusion/?id=119

266いえるさ:2011/04/09(土) 01:43:35 ID:0ebeJXvA0
何故か三つ同じの上がってますが上の二つは無視して……orz

267名も無き異能都市住民:2011/04/10(日) 23:34:37 ID:6IfkJPTM0
雑談の流れを見る限りきっと使う機会なのだろうと勝手にage

268怪人達の会合:2011/04/21(木) 21:04:31 ID:ste/2NNA0
とある喫茶店。
ローブの男、ベイと、秘書風の女、止木が座っていた。

「なんだよ、いきなり呼び出して」

後から来たアロハの男、剣山が椅子に座る。

「アイル……いや、止木が話したいことがあると言っててさ。
 丁度僕も話したいことがあったから」
「ふーん、で、止木、何の用だ?」

剣山が身を乗り出して止木の方を向く。

「実は、テルメスが復活してたのを見つけたのよ。
 それで、少し奴を使ってなにか出来ないかと考えてね。
 もしテルメスを見かけても手は出さないで置いてくれないかしら」
「へえ、テルメスが。
 テルメス、昔からあんまり任務に忠実じゃなかったしね。
 このまま姿を眩まそうとうか考えてるつもりかな」
「まあ、止木に見つかっちまったけどな。
 とにかく解った。ベイ、お前はなんだ?」

剣山はそういうと、ウェイトレスを呼んでいくつかの商品を注文する。
量は多いが全て自分用だ。

「止木と同じような話なんだけど、イグラスを見つけたんだ。
 と言っても、既に人間に倒されてて、しかも覚醒鱗も砕かれちゃったけど。
 もったいなかったなあ」
「……あいつ飛ぶの遅いくせにいっつも羽持ちに勝負挑んでたからちょっと鬱陶しかったのよ」

止木が愚痴るように言った。

「まあいいじゃないか。向上心を持つのはいいことだよ。
 とにかく、前の白い奴も含めると、意外と多くの怪人が蘇ってるみたいだね」
「ああ、そうだ!忘れてた!
 俺もちょっと言いたいことあったんだ」

突然ダーネスが叫んだ。

「実はこの間、鱗怪帝の器を見つけたんだよ」
「……ちょっとまて、剣山。
 そんな重要な話をこんなところで、しかも突然は無いだろう」

何でも無いことのように言った剣山に、ベイは目を丸くする。

「移動するわよ」
「え?まだ注文来てな――」

止木は剣山の襟首を掴んで引きずる。
ベイはそれの後に続いた。

269腹が減っては戦は出来ぬ:“脾臓”&“腎臓”:2011/05/03(火) 21:57:51 ID:onviSg/.0
ジン「『“天災”襲来』……『都市の未来や如何に』……ねえ。
 えらい大変な事件だったみたいだな、あの騒ぎ」

とあるファミレスにて。
今朝の新聞の一面に目を通しながら、三代目“腎臓”――ジンは呟く。

ヒィ「みたいですね……」

関心があるのか無いのか。
ミニポニテを修正しながら、二代目“脾臓”――ヒィは呟きに返答する。

ジン「なあ、ヒィちゃん。もし此処に『おっさん』が来たら、これより酷いことになると思うか?」
ヒィ「なるんじゃないですか?」

どうにも形が纏まらないらしい。
ヒィは一度髪をばらし、また纏め直し始める。

ヒィ「ワンさんなら、『あれより酷いこと』を『誰にも気づかれずに』引き起こせますよ」
ジン「やっぱりそうかなあ……あのおっさん、人間離れしてるからな」
ヒィ「そもそもワンさんは人間なのでしょうか?」

二人が「ワンさん」や「おっさん」と呼ぶのは、“五臓会”のNo.1たる初代“心臓”のことだ。
異世界の“機関”で裏最高位に立つ研究者だけあって、彼に人間の常識は通用しない。
特に、彼の使う洗脳魔術は「最早既に別のモノ」である。
「高度に発達した洗脳魔術は念動力と見分けが付かない」のだ。

ジン「自分の本当の年齢が何桁かも良く分かってない奴が、同じ人間だとは思いたくないな」
ヒィ「ジンさんも人間では無いでしょうが」
ジン「うひょー、手痛い突っ込み……っていうか、事態は急を要するよなあ」
ヒィ「何がですか?」

今度は満足出来るミニポニテになったらしく、ようやく髪から意識を離すヒィ。
その様子を眺めながら、ジンは腕組みして話し出す。

ジン「俺達の、“五臓会”の目的は、あくまで『暫定七代目“肺臓”を連れて帰る』ことだ。
 そもそも俺達には縁も所縁も無かった都市なんだから、出来るだけ被害無く目的を達成できる方が良い。
 この都市に恩を売る気が無いのは当然だし、恨みを買うつもりだって無い。
 でも、どうだ? もしおっさんがこの都市に来るようなことになったら、それこそ大惨事になるぜ。
 あのおっさんはガキだ、目的と計画を絶対に取り違える」

ヒィも一丁前に腕組みし、それに返答する。

ヒィ「……そうですね、何をやらかしてくれるか分かりません。
 要するに、「おっさんが来る前に、さっさと七代目捕獲して帰ろうぜ」、ということなのでしょう?」

ジン「そうそう、その通り。
 つーわけで、俺達もそろそろ大きい事件を……って、これは何だい、ヒィちゃん?」

何人かの店員が料理を携えてやって来たため、ジンの台詞は止められた。
店員達が分担して持って来たのは、20を超える枚数のステーキだった。
テーブルに並ぶそれを見て、ジンの目は円くなり、ヒィの頬は赤くなる。

ジン「……これ、全部ヒィちゃんの?」
ヒィ「……悪いですか?」
ジン「いや、ヒィちゃんが大食いなのは分かってるから、悪いとは言わないぜ。言わないが――」

腕を逆に組み直し、脚まで組んで、ステーキを睨みながらジンは続ける。

ジン「――「これで足りるのか」って、俺は訊きたいのさ?」
ヒィ「……足りませんが、何か問題でも?」

顔全体まで赤くしながら、ヒィは一枚目のステーキにかじりつくのだった。

270:2011/05/04(水) 16:15:45 ID:1sJsd2CgO
ロージェンスのイメージ
鎖がワケわからないことになってる。
慣れないことはするもんじゃない、そう思った。


http://u.pic.to/1687ro
後ろ姿
http://h.pic.to/15pyab

271怪人の会合:2011/05/08(日) 00:31:49 ID:ste/2NNA0
【少し前、赤紫の怪人が千夜学園の生徒らに撃退された直後の話】

「畜生……!千夜学園の奴らめ……俺を見下しやがって……!」

とあるビルの一室でピアスの男が壁を殴りつけていた。

「ベイ、なぜこのような馬鹿者が怪人になったまま意思を失わずにいる?」

ベージュ色のスーツを着た秘書風の女性、止木は、窓の外を見ながら呟いた。

「さあ、僕にもわからない。
 偶然……か、能力と鱗怪人の力の相性がよかったのかも、としか言えないよ。
 すごく興味深いね」

ローブの男、ベイは何か石版のような物を見ながら言った。

「おい、お前、俺を馬鹿者って言ったな?
 見下してんじゃあ……!」

椅子を蹴飛ばして、ピアスの男は止木に詰め寄る。
止木は振り向きざまに腕を振るった。
ベージュ色の羽根が、金髪の男の腕に突き刺さった。

「っ!?ぎゃああっ!!」
「うるさいぞ蚊め。
 私はお前のような誇りの無い奴が嫌いだ。
 お前と同じく人間から怪人となったレストは、誇り高い戦士だったというのに」

倒れた金髪の男の襟首を掴み、吐き捨てるように言うと、男から手を離して止木は部屋から出て行った。

「まあ、アイル……止木の言うことは気にしないで、君は君のやりたいことをやればいいんじゃないかな。
 自信を持ちなよ、君には才能がある。
 人間から怪人となって意思を保った者は、大抵そうだったんだ」

ベイは金髪の男の前にしゃがみこんで、慰めるように言うと、石版を抱えて部屋から出て行った。

「……ちくしょおおおぉぉぉっ!!!」

272清算出来ない凄惨さ:スグル&ジン&ヒィ&イツカ&クロナ:2011/05/08(日) 19:08:30 ID:onviSg/.0
スグルの借家の一部屋に、“五臓会”の面々がひしめいていた。

ヒィ「…………」
ジン「いやあ、しかしヒィちゃんは良く寝るなあ」
グル「ジン、僕を睨みながら言うな」

公安局の局員に、死者16名。
観測局の局員に、死者9名。
負傷者は多数……と言うより、ほぼ全員。
やっぱり「無駄遣い」だったな、というのがスグルの結論だった。
そして、守らなければならなかったヒィは死の淵を一時彷徨い、今の今まで眠り続けている。

グル「公安局に嘘のタレコミなんて、すべきじゃ無かったんだろうなあ。
 俺様が大人しくタイマンを引き受けるか、或いは独自に協力者を募るべきだったんだ」

事件が終わってから、スグルは合計で20回は吐いた。
払わなくても良かった犠牲を、たっぷりと払ってしまった。
『甘い病』を患うスグルにとっては、これでも足りない後悔と失敗だ。

ジン「死んじまったもんは、もうどうしようも無いだろうが。大人しく諦めて、「良い勉強になった」と思ってろ」
ロナ「そうです。いつまでもウジウジと醜いモノを見せられても困ります」
ツカ「それに、兄さんは瀕死の重傷者を何人か救ったじゃない。死んだ人も、皆許してくれるよ」

温かく、しかしどこかうんざりした感じも持たせながら、合成獣と二人の人工天使はフォローを入れる。

グル「んな簡単に行くかいっ!」

そんな彼と彼女らを、スグルは一蹴し。

グル「終わってからでも出来ることは、どんどん進んでやっていくつもりさ。
 見舞いと賠償の計画も、大まかにだけど組みつつある。
 でも、でもな、許してくれるなんて、私は思って無いからな。
 それよりも何よりも、俺は僕自身を多分一生許せない」

それだけ一気に言うと、花束と「奇蹟を込めた見舞い品」を抱えて、街へと姿を消してしまった。

====

ジン「……立ち直れるのかねえ、アイツ」
ロナ「向こう一ヶ月は他人をイライラさせ続けるでしょうね」
ツカ「まあ、気が付いたら吹っ切れて、元の兄さんに戻ってくれる……って信じてるけど」

ジンは大きな溜め息をつくと、眠るヒィの頭を優しく撫でる。

ジン「ヒィちゃんは当分起きないだろうし……明日あたり、俺が単独で報告しに帰るよ。
 “心臓”のおっさん、七代目や都市のことを諦めてくれれば良いんだが」

ツカ「気を付けてね? あの人凄い不気味だし、何だか……不気味だし」

心配そうな表情を採るイツカ。
それを見て、ジンは微笑みながら立ち上がり、そしてイツカの頭も撫でる。

ジン「努力はするし、注意もする。まあ、安心して期待しな?」

“五臓会”のNo.1である初代“心臓”を上手く丸め込む自信は、ジンには無い。
何しろ、あのおっさんの思考や性格は未だにガキなのだ。
そして残念ながら、恐らく彼の報告と説得は失敗に終わる。

273SS-「第666号研究所」(1/2):2011/05/14(土) 23:35:01 ID:1sJsd2CgO

「――また、調整のやり直しかしらね……。」
 諜報部員の提出した『第134次Θライン実験レポート』に目を通して、白衣の女は頭を抱える。

「“また”ですか……」
 それを聞き顔をしかめた部下の男に手元のレポートを渡して、彼が注いできたコーヒーに口を付ける。
 部下も同じように目を通して、しかし、と首を傾げた。

「あの初期設定にしては、なかなかの活動だと思いますけどね……。諜報部員も、技術習得が予想以上に早い点を評価していますし」

 たしかに、その通り。
 実験レポートは見落としもなく細やかで申し分ない出来だ、諜報部員の有能さが良く分かる。
 だからこそ、私には実験体が予測とは大幅に異なる活動をしているのが目について仕方がない。
 それが今は良い結果を生んでいるとしても、だ。

「そうね――記憶のリセットから復元までの早さは――たしかに私も驚いたわ。環境が環境だから、予想より刺激が強かったのかもしれない……」
 ……とはいえ。量産が前提の計画、多少の想定外もやむを得ないのかもしれない。
 しかし、私は「〜かもしれない」で片付けたくはなかった。

「だけど、言い換えれば『影響力が強い』ともなる。
 それはつまり、思想や価値観、さらには人格までもが作戦地域に根差した物に刷り変わる可能性を示唆しているわけ。
 まぁ、アレね。侵略前提の抹殺兵器でありながら、ご当地密着型の人格になってしまっては意味が無いのよ」

「それは、つまり……。
 作戦環境に対応する汎用性の期待を捨てて、製造段階で作戦が要求する技能をインプットするって事ですか?
 そんなワンオフ……ましてやフルオーダーな製造方針では、日々多様化し拡大する奴等に勝てませんよ!」
 研究者である男は、女の提案をすぐに理解し、そのうえで問題点を挙げた。
 だけど、それは言われなくても分かっている。

「たしかに、それだけじゃ勝てないでしょうね。
 だから、バックグラウンドでのサポートを再び視野に入れた調整を考えているわ」

 と、言い終わる前に男は机を叩き、肩を震わして女を睨み付ける。
 信じられないモノを見たような言い知れぬ表情がそこにあった。

「――な、何を言ってるんだ。
 それは『Δライン』の製造方針、そのままじゃないかッ!!
 キサマ……第一検体(オリジナルサンプル)の分際で、我々研究者の積み重ねてきた――『Εライン』から現行する『Θライン』までの――四世代の実験を否定すると言うのかァッ!?」

 怒りを露にする研究者に涼しげな表情で第一検体と呼ばれた女は笑う。
 怒鳴られるのが楽しいとでも言いたげに、女はゆっくりとした口調で返した。

「あら荒々しい、アナタもそこまで激昂することがあるのね。意外だわ。
 でも残念だけど、それは早とちり。私がベースにしたいのは『Δライン』じゃなくて『Εライン』のほう。
 あなた達“機関”が関与する証拠因子を出来る限り取り除きたいのは私も同じ――臨時雇いと言えど正社員と同じ働き手でしょう?
 ……でも、私は技術畑の人間として、出来る限り不安要素も取り除きたいの。
 そのうえで、計画を確実なものにするには、ある程度“私達も”積極的にならないと難しいって、分かってもらえる?」

「チッ……。
 あぁ、分かるさ、それくらい承知の上だ。そういう事なら研究者として協力する。
 だけどな、俺はその提案には納得出来ない。それだけはアンタも理解してくれ……」
 渋々、と言った具合に感情を静める研究者に第一検体であり技術者でもある女は、くすりと笑いかけた。

「そう、分かったわ」
 互いに譲れない物がある。
 妥協したくない物がある。
 この男に、自分と同じ物を見れた事が何故だか少し嬉しかった。

274SS-「第666号研究所」(2/2):2011/05/14(土) 23:35:55 ID:1sJsd2CgO

「いやぁ、白熱した議論だったようですね」
 いつの間にか開いていた研究室のドアからしゃがれた猫なで声が入ってきた。
 体育会系な体格に似合わずピッシリとしたスーツを着た40歳程の男、何処と無く胡散臭さの立ち上るおっさんだった。

「若いうちに互いの意見を聞き合って尊重し合えるのは良い事ですよ。それはもう本当に、良い事ですよ」
 良い事、と強調しながら研究室の中へ入ると紙の束を女へと手渡す。

「これはどうも、飛鷹さん。
 盗み聞きとは良い趣味してますね」

「盗み聞きなんてとんでもない。これを渡しに来たら、たまたま、お二方の話が耳に入ってしまっただけですよ」
 女に飛鷹と呼ばれたおっさんは、にへらと笑って彼女が紙の束に目を通すのを見ている。

「しかし、まぁ、なんというか稀有なタイミングですよねぇ?
 あんな話が出た頃に、こんな事態ですからねぇ。運命なんてものを信じたくもなりますよ」
 相も変わらずしゃがれた猫なで声を放つ飛鷹は、持ってきた紙の束の概要を話しているようだ。
 確かにな、と呟いた女に紙の束を渡された研究者は同じように目を通す。

「大臣から軒並み同じ申請が来てるなんて、英雄も楽じゃないみたいね。
 しかし、もう嗅ぎ付けるとは……。さすが異能都市というべきかしらね?」

「いやいや、死に損ない共がハイエナみたいな鼻をしてるだけでしょう。あの程度の微細な活動を嗅ぎ分けるコツを聞きたいですよ、えぇ是非とも」

「……聞かなくても十分知ってるクセして。よく言う」
 研究者は紙の束から顔をあげ、飛鷹に突き返す。
 中身は全て署名が違うだけで余す所なく同じ書類だ。
 “大罪人 贖罪の女山羊を捕らえるため。かの地、異能都市への行軍許可を頂きたい”
 それが、アゼル連合に属する小国の数集まっているのだった。

「で、どうするんです?」

「……そうね。大臣共から代表者を一人決めて、飛鷹と一緒に異能都市へ向かってもらう」

 正直、なんで今なのか、と思う。
 気付かれるより前に回収し、調整を終えてからでもいいではないか。
 だがしかし、これは上手くいけば面倒事を一挙に解決するチャンスでもある。
 なら、やってみる価値はある。

「シナリオには『商会』を使って、現地の能力者共に我々が流布している指名手配者としての情報を開示して協力を要請。
 その後、引き続き飛鷹は現地で対象確保に相互的に協力、機を見て実験中の『Θ/d9』を回収すること、いいな」

「おお、さすが女山羊の親。素晴らしい作戦ですな、いや本当」
 しゃがれた声でイヤらしく言う飛鷹に、女は視線を突き刺す。

「そんな上辺の世辞が、私には通用しないの分かってるでしょ?
 アンタが“悪意”を向けてるのはバレバレ。言いたい事はさっさと言ったほうが身のためよ」

「おぉ、怖い怖い。
 そんな怖いお嬢様に本音なんて言えるわけがありません。
 ですから、こちらの事は私、飛鷹にお任せ頂ければ給料分の働きはする次第にて」

「……分かった。そっちはアンタに任せる。
 こっちは、調整の準備でもしてのんびり待ってるから……」
 相変わらずの性格だな、と考えて。女は研究室の奥へと消えていく。
 それを合図にして、この集まりは一時解散となった。

275SS-「Dr.サイクロプス」:2011/05/25(水) 02:08:00 ID:1sJsd2CgO

 梧総合病院。
 異能都市に数ある病院の一つ。
 今は少し遅めの休憩の最中である。

「……匂うな」

 隻眼の大男、院長のアオギリの呟きに納豆サンドを食べていた看護師が顔を上げる。

「あれ、院長って納豆嫌いでしたっけ?もしそうなら今は我慢してくださいとしか言えませんのでご容赦を〜♪」

「いいか、カンナ、そうじゃない。
 むしろ俺は納豆が大好きだ、だからこそ納豆をサンドイッチの具にする発想に疑問を覚えずにはいられない。
 だが、カンナ、今はそうじゃない」

 再び糸を引くサンドイッチに顔を戻す看護師のカンナに「納豆はやっぱりご飯だろ」と諭しつつ、アオギリは彼女の根本的な勘違いを訂正する。

「それじゃあ、何だって言うんですか?納豆が好きなら様々なバリエーションで味わってみたいと一度ならず常々試行錯誤するのが普通だと私は考えます」

「たしかに、新しい味覚の追求は飽きやすい自炊生活に無くてはならない努力、個人が絞り出す苦肉の策を否定する気は毛頭無い。
 しかしだな、いい加減、納豆から離れろ……」

「院長の命令と言えど、それは嫌です。何故ならば私と納豆は一心同体、切ってもなかなか切れない絆で繋がっているのです!」

 ……駄目だ。全く伝わっていない。
 粘つく口で熱弁を奮うカンナに諦めを吐き出したアオギリは単刀直入に切り出す事にした。

「最近、世間で妙な事件が多い。
 少し前にニュースを賑わせた身元不明のバラバラ死体、ある界隈で話題になったドッペルゲンガーの行軍。
 そして今は、青少年の同時失踪が後を絶たないという……」

「そうですねー。最近はテロ疑惑がどうとか怖い世の中ですよねー、私達からすればいつもの事ですけど。
 ……で、院長。それがどうしたんですか?どれもそれぞれ関係ない一つの事件だと思いますけど」

「確かに、見たところは特にこれといった関係は全く無い。
 しかし、それらの事件を探っていくと不思議な事に、どれも一様に『Dr.サイクロプス』という名前が浮かび上がるんだ」

 どれも根も葉もない噂程度の情報だが、その名前の研究者が関係しているらしいと、多くの界隈から異口同音に聞くのだ。
 ただし、こういう噂に多い「確かな筋から聞いた」というソースも皆同様に添えられているのだが……。

「Dr.サイクロプスって……昔々、やんちゃな若者だった頃の院長の通り名ですよね?」

「あぁ。元は別の研究者を指していたらしいが、いつの間にか俺がそう呼ばれるようになっててな……。
 その時のように、俺が捨てた名を継ぐ三代目のDr.サイクロプスが現れたのかもしれない」

「……しかし、それはデマかもしれない。ただ、そう考えると意図してデマを流した何者かが居ることになる、と。たしかに匂いますねぇ」

 流石に長い間助手をしているだけの事はある。
 その気になれば言わんとする事を分かってくれる。その気になれば。

「特に目的意識の無いただの愉快犯にせよ、アングラな通り名を知っているからにはロクな奴じゃ無いだろう。
 ……さて時間だ。休憩はこれにて終了、俺は仕事に戻るぞ」

「は〜い。これ食べたら戻りまーす」

 足早に院外に去るアオギリを背に見て、少し遅めの休憩は定時に終わった。
 これから夜が更ける、夜勤のカンナは非常事態に備えて一人でナースステーションでぼんやりするだけだ。

276SS-「怪しげな動き」(1/2):2011/05/29(日) 03:26:47 ID:1sJsd2CgO

 事務机の並ぶ研究室、第666研究所の中で幾つかある小部屋の一つである。
 “機関”のおぞましい研究も実験前のブレーンによる綿密な会議があってこそ。
 部屋を埋め尽くす資料の山奥に、若い男女と太めの中年オヤジの三人が座っている。
 彼らはそれぞれ本実験では幹部クラスの最高責任者達である。
 若い男はステュクス計画研究総轄代表にして本実験における“機関”とのパイプ役。
 若い女は兵器技術バイオ部門最高責任者にして、本実験の第一検体(ファーストサンプル)。
 そして、太めの中年オヤジは広域情報統制課ステュクス計画担当官、鮫嶋商会の飛鷹。

 その中で一冊のファイルに目を通し終えた女、第一検体が深いため息と共に口を開く。

「とりあえず、θラインの情報閉鎖は完了。現状、幹部補佐から末端クラスまで総動員で取り掛かってるΒからΔライン第四次までの記録改竄は概ね問題ないわね、今のところ」

「問題があるとすれば、人員を割きすぎていることくらいですかねぇ? 期間の短さから考えれば致し方ないですけど」

「レベル毎に分けたファイルをバタフライに対応させて断片化すれば機密情報もただの記号。間違い探しとその修正作業みたいなものよ」

「それを慎重に再構築するのはワタクシ達なんですけどねぇ。たまに漏らしもあって面倒なんですよぉ、意外と」

 ああ言えばこう言う飛鷹に舌打ちひとつくれてやる。
 バタフライを用いて緻密に意味崩壊させた一部とはいえ機密情報を本来知りうることのない末端の目に晒しているのだ、私だってコイツの言いたい事も少しは解る。

 だが、なにせ膨大なのだ。
 第一検体を基にして各ライン毎に調整した量産用DNAデータが特に。

「研究家業のこちらとしちゃあ、Εラインの抹消と上書き準備がいち早く整っただけでも、万々歳なんだが……なんだかなぁ」

 細く紫煙を吐きながら若い男は怨めしげに二人を睨めつける。
 研究者である彼にとっては、後処理や隠滅作業より新ラインの稼働状況のほうがよっぽど興味がある。
 しかし、未だにΕラインは稼働を再開していない。
 それは入力するデータの最終調整版が手元にないという単純な理由だ。

「そうやって愛くるしい表情でおねだりしても、まだなモノはまだなの。
 うっかり屋な飛鷹がデッド・オア・アライブ、ノーアスクでオーダーしたから運が良ければ全身丸ごと標本にできるわよ」

「あー……もう、この際。腕一本分でもいいからデータが欲しい気分なのに、そんな贅沢三昧、今のところは夢にも見たくない。……あ、そうだ、暇つぶしにΑライン稼働していいかな」

「腐乱人間造るなら、アンタのDNAベースでお願いね。複製と言えど私の身体が秒単位で崩壊するのはもう嫌だし」

 俺ので汚染したら始末書どころじゃないだろー。と机にぐったりしながら研究者は暇を持て余す。
 その様子に飛鷹はその太い指を一本立てて、にじり寄る。

「そんなにお暇なら、ひとつ。ワタクシ達のお手伝いでもどうですか?」

 ニタニタと笑う飛鷹に研究者は無言でかぶりを振ると、さらに増して沈み込む。

「ソレって、片目男を使ったアレのこと?」

「えぇ、まさにソレはアレしたコレですねぇ。うふふ。
 中身は着々と広まっているようでワタクシとしては大満足ですけど、同期からは刺激が足りないと言われましてね。
 そのお手伝いを、と……無言で断られましたけどね、はい」

277SS-「怪しげな動き」(2/2):2011/05/29(日) 03:28:16 ID:1sJsd2CgO

 と、目の前のノートパソコンにデータが転送されてくる。
 転送元から察するに再構築が終わったデータ類だろう。

「おや、もう仕事が来たようですよ?
 しかしまぁ、あれほど簡便な手法で送るなと言っておいたのに……。
 どうして、こうも潔く間違えるなんて……ワタクシも愉快な部下に恵まれましたねぇ。
 えぇ、もう、ホント。愉しくてしょうがない」

「さすが、飛鷹サンの部下だけあって優秀ですねー。こんなにまとまってる」

 うつ伏せのまま苦笑いして研究者はパソコンに落ちてくるデータを眺める。
 塊と言っても差し支えない量が流れ込む様子に「大変だったろうなー」と男は他人事のように呟いた。

「さて、私、ちょっと疲れちゃった。
 忙しいところ悪いけど、先に少し休憩してくる。
 あぁそうそう、その新人は片目男の件に使ってあげれば浮かばれると思うわ」

 終始笑みを絶やさない飛鷹に女はアドバイスを送って部屋を出る。
 少々根を詰め過ぎた。
 これでは良い結果は生まれないだろう。
 少し休憩して、軽い運動でもすれば頭も状況もスッキリするだろう。

278空想と妄想の臓器:ジン&初代“心臓”&初代“心包”:2011/05/30(月) 01:22:41 ID:onviSg/.0
適切な「門」を通過しない次元渡りには、基本的に時間が掛かる。
頭では「僅か数分」に感じられる旅路でも、実際には一ヶ月以上の時が経過していることもあるのだ。
ヒィの築く門を利用できない今回は、往路だけでも丸々一週間を無駄にしてしまった。

そして、“五臓会”の幹部会議室にて、ジンは跪いていた。
ジンの前に立つのは、無表情で白い口髭を撫でる中年の男と、それに抱き付きながら妖しく笑う女。

ジン(何なんだ、この恐ろし過ぎるオーラ……)

床を睨むジンの姿勢は、男と女に対する敬意から採ったポーズでは無い。
そこにあるのは、「ひたすら怖い」という感情だけ。
――とっとと用事を済ませて、早く此処から逃げ出してえ。
ジンの身体を巡るハリネズミの血が、そう叫んでいる。

心臓「……一応言わせてもらおう、ご苦労だった。
 そして訊かせてもらおう、何をしに帰って来た?」

威圧的な声色でジンに問う男は、「カノッサ機関研究開発部裏最高位組織・五臓会」のNo.1たる初代“心臓”。
口髭に続いて、今度は総白髪のロン毛を指先で弄り始めた。

心包「あは、あはは、そうさ、そうよ!
 七代目どころか蛇っ娘(へびっこ)も居ないってのは、一体どういう状況なのかしら?」

危ない笑みをニヤニヤ笑いへ徐々にシフトさせながら問いを足す女は、“五臓会”のNo.6たる初代“心包”。
どうせ失敗したのだろ、とでも言いたげな声色だ。

二人の態度に、ジンはまた委縮する。
が、異能都市に対する余計な借りを肥大化させないためにも、報告しなくてはならない。
捕獲目標である暫定七代目“肺臓”、すなわち佐宗スグルを発見したこと。
しかし先手を打たれ、都市の各局のメンバーやボランティア達との交戦になったこと。
その末に我々、すなわちジンとヒィは破れ、特にヒィは今も眠り続けている(いた)こと。
そして、異能都市の民は大層強かった、ということ。

感情を抑え、冷や汗を我慢しながら、ジンはそのようなことを“心臓”と“心包”に対して語る。
緊張しながら述べなければならなかった理由は、言うまでも無い。
この「失敗物語」が、若干大きめの誇張表現と、弱い予定調和に覆われているからだ。

279空想と妄想の臓器:ジン&初代“心臓”&初代“心包”:2011/05/30(月) 01:24:54 ID:onviSg/.0
====

心臓「ほう」

ジンの細解を聞き終えた“心臓”は、それだけ言うと歪んだ笑顔を採る。
それに抱き付く“心包”は何も言わないが、完成されたニヤニヤ笑いは素晴らしく鬱陶しい。

ジン「……んじゃ、そういうわけで、そろそろ失礼させてもらいますぜ。
 ヒィちゃんを置いて来てるから、回収のために一旦都市へ戻らないとな」

ジンは早口でそう言い、立ち上がると“心臓”達に背を向け、会議室から去ろうと歩き出す。
しかし、微かな血の香りが突然鼻をくすぐると、ジンの脚は突然固まってピクリとも動かなくなった。

心臓「待て。お前は駄文を読み終えただろうが、私の卓説はまだ始まってもいない」
ジン「……それなら、こうする前にそう言ってくれよ。問答無用で実力行使すんな」

ジンの鼻から入り込んだのは、ごく薄い霧と化した“心臓”の血。
自らの血に組み込んだ洗脳魔術を起動させて“心臓”はジンを洗脳、脚に対して『硬化』を強制的に発動させたのだ。

ジン「で、「卓説」ってのは何だよ」
心臓「言うまでも無い。私に嘘をつくなどという、無謀な行為に出るなと言いたいだけだ」
ジン「……!」

返答を聞くと、ジンはまだ自分の意思で動かせる右手を頭にやる。
洗脳した相手の記憶を読むことなど、“心臓”にとっては何の苦労も必要無い――

ジン「おいコラおっさん、勝手に頭に入んな……」
心臓「別にお前の脳味噌を解析したわけでは無い。私は『生中継』を観ていただけだ」
ジン「……!?」

――が、“心臓”はジンの記憶から嘘を暴いたのでは無いと言う。
意味が分からない様子のジンに、“心包”は馬鹿にした声色で言い放つ。

280空想と妄想の臓器:ジン&初代“心臓”&初代“心包”:2011/05/30(月) 01:27:20 ID:onviSg/.0
心包「てめえ、“心臓”様をナメるのは止めてくれるかしら?
 “心臓”様は、てめえと蛇っ娘があの都市へ渡る時には、既にアンタらを洗脳してたのよ。
 そんで都市に到着後、“心臓”様はアンタらを経由して都市のアホな人間を洗脳した。
 その中には『公安局』とかいう組織の雑魚も含まれてて、そのうちの一人がアンタらの捕獲作戦に参加してた。
 んで、“心臓”様はアンタらとボケ局員の目玉を通して、戦いを生で観測してた。
 そんだけの話……何もイミフなことはねーでしょ?」

捕獲作戦のずっと前から、ジンの視界を通して、“心臓”は異能都市を見ていた。
真実をその目で見ていたのに等しいのだから、嘘など通じるわけが無い。
ジンは絶句した。

ジン「……おっさん、鬼か?」
心臓「鬼では無い。神だ」
ジン「……余計なこと訊いた俺が悪かったよ」

最早溜め息しか出ない。
“心臓”という男は、既に相当無茶なことをやらかしていた。
それに追い打ちを掛けるように、“心臓”は楽しそうな声をして話し始める。

心臓「しかし、あの都市、中々見所が多いと見える。
 我々だけでは出来ない研究が、そして我々が知る由も無い素晴らしい奇蹟が、あの都市にはあるのだな。
 これは正しく好機、私の手中に収めるしかあるまい」

それに続くように、“心包”も話し出す。

心包「ああ、そうです、素晴らしい考えですわ、“心臓”様!
 でも、何も出来ねーショボショボ一般人どもと、邪魔な正義漢どもは虐殺しねーとねえ。
 あんな都市なんて、2秒で制圧できるわ」

二人して、都市を褒めているのかバカにしているのか、とんでもないことを言っている。
ジンは心底呆れていた。
本当に2秒で制圧できるかは別として、この馬鹿げた戦いは簡単には終わりそうも無い。

ジン「……痛い目見ても知らねーぞ。邪魔はしても手伝いはしないからな」

洗脳を解いてもらったジンは、急いで次元を渡り異能都市へ向かった。
そして見事に酔い、ふらふらと公園へ入るのである。

281怪人の会合:2011/06/03(金) 22:31:42 ID:ste/2NNA0
怪人たちがアジトとして使用している、ビルのとある一室。
そこには研究所から奪った遺跡の発掘物が多数保管されていた。
窓の下には、ベイが直接研究所から運び出した櫃が置かれている。

「剣山、レストの覚醒鱗はどこへやった?」
「鱗怪帝の櫃の上じゃあないのか?」

剣山は櫃を指差した。
先日、ある研究所から奪い取ったものだ。

「無いんだよ。一緒に置いていた他の二枚も無い」
「どういうことだ、止木、お前は?」
「いえ、触れてないわ」

ふと、ダーネスが窓辺を見る。
窓の縁に、手形のような焦げ目がついていた。

「なんだ、この焦げ目は……?
 ……ちょっと待て、まさか!」

ダーネスが窓から身を乗り出した。
窓の下の路地に、足跡のように焦げ目がついていた。

「嘘だろう?復活できる訳が無い、エネルギーが足り無すぎる。
 いや……もしかすると、鱗怪帝の櫃が原因で……?」
「それじゃあレストは復活……」

ベイが窓の焦げ目に触れ、止木をさえぎるように言う。

「いや、多分完全には復活していない。おそらく力が暴走している……」
「不味いぞ。早く見つけないと、能力者に倒されちまう。
 そしたら、鱗怪帝の復活がかなり面倒になる……!」
「すまない、僕の管理不足だ。僕は完全にレストを復活させるための覚醒鱗を作って来る。
 止木、剣山、悪いがレストを探してきてくれ」

二人は頷く。
止木は窓から飛び降り、剣山、ベイは部屋から出て行った。

282光速:2011/06/05(日) 22:57:57 ID:ste/2NNA0
http://loda.jp/elusion/?id=126.jpg
半分変身したテルメス
描く度に怪人態のデザインが変わるのだった

283SS-「スケープゴート」(1/2):2011/06/24(金) 07:44:40 ID:1sJsd2CgO

 アゼル連合国の事件は、新聞の一面を賑わしていた。

【国家ぐるみの麻薬密売検挙される】
 千夜グループ都市警備部門の調査により。
 寺打海産と鮫嶋商会総会長がアゼル連合国と手を組み、麻薬の密売を行なっていた事が先日、分かった。
 犯行グループの密輸現場を摘発した時、小規模の戦闘があったものの周辺への被害は少なく、比較的穏やかに済んだといえよう。
 後の捜査でアゼル連合国は手配名『贖罪の女山羊』こと、犯罪者ロージェンス・カプル・ニブラスの捕縛に躍起になるばかり、絶望的な資金難に陥っていた事が判明した。
 連合国は、その各地に散在する国土を利用して麻薬を製造、鮫嶋商会を通して、わが国の各地に密売した容疑でアゼル連合国の大臣各位と鮫嶋商会総会長、鮫嶋・エリー・スカーレット容疑者を昨日未明に逮捕。
 寺打海産社長、寺打吉竹氏は市内の病院で死亡が確認されたため書類送検された。
 現在、事件捜査の一部を引き継いだ国際警察が、主に犯行グループに対する余罪の追求にあたっている。

――その下に小さな関連記事

【開業医殺害される】
 梧総合病院 院長 梧三勇(34)が○○港にて、他殺体となって発見された。
 麻薬摘発の現場で死亡した容疑者に殺害された模様。
 事件との関連性を現在調査している。


 ――ガサ、と新聞を荒くたたんでデスクに叩き付けた。
 読むのも面倒くさい。
 この数日間、情報操作のために何度同じような文面に目を通したことか……。

「これで“隠れ蓑”は焼かれて、ただの灰になったわけだ……。
 国をまるまる一つ作りあげて、用済みになったら壊す……盛大な積み木遊びをした気分はどうだい? 元『英雄』さん」
 長い髪を後ろで束ね、白衣の背に垂らした優男。
 第666号研究所“研究者”赤羽浅井史は、目の前の女性“第一検体”に嫌味を言うように話しかける。
 だが、女は赤羽の態度に笑み一つ返して口を開く。

「一言で表すなら……そう、爽快ね。自分で積み上げたものが音をたてて崩れていく様が想像した通り、思ったように崩れてくれたんだから、最高よ」
「連合国を大層大事に管理していたから、今なら傷心してる君を見れるかも。という期待は淡くも崩れ去ったわけか……」
 整理されたデスク、綺麗に資料が無くなった研究室を順に眺める。
 赤羽は、さて、と切り替えて、
「連合国の除去は済んだ、“θ/d9”の回収も済んだ、研究所の分化と移設は昨日終わって、今しがた情報操作の完了を確認した。
 これで、我々“機関”の関わりを示す証拠は全て抹消出来たわけだ。君と俺の関係も、ここまでってことで……、それじゃ――」
 満足げに頷き、部屋から出ようとする赤羽の身体に、細腕が巻く。
 その背に抱きついた女は、そのまま、赤羽に伝える。
 彼にのみ伝わる、震えた声で。

「ごめんなさい」

 ――銃声。
 腕の中からするりと抜け、床に落ちた肢体。
 赤羽の頭を撃ち抜いた女は、倒れた彼から赤い血が広がるのを静かに見ていた。



 ――数時間後。

「処理は終えたようですねぇ? ワタクシも終わったところですよ、やっぱり回収はしませんでしたが」
 じんわりと空間から滲み出た異形。
 三角錘の頭部から軟体の沸騰する肉を寄り合わせた身体を生やし、ぶくぶくと泡を立てて話す奇怪窮まる姿をしている。
 話しかけられた女は視線を下に落としたまま、何も言わなかった。

284SS-「スケープゴート」(2/2):2011/06/24(金) 07:45:46 ID:1sJsd2CgO


「……おーい。聞いてますぅ?」
「聞いているわ……。いつ見ても気持ち悪い姿よね、飛鷹阿佐見氏――いいえ、エージェント《Nyarlathotep》」
 喉の奥から漏れた空気を咀嚼するような音の並びで呼ばれた異形は、ぶくぶくと泡立つ。

「そんな貴女はエージェント《Shub-Niggurath》」
 異形は、息をちぎって吐き捨てるような音の並びで女を呼び返す。
「……ワタクシの容姿に言及するのは御法度ですよ?
 �絺錺織唫靴陵道僊諭漫丶�|特定(χ)}∈{χ|不定(χ)}〕=φ ∴真=偽 なんですから」
 そして、もはや音ですらないうえに言葉なのかも怪しい抗議をする。
 異形の振る舞いに沸き立つイラつきを呑み込んだ女は、こめかみを押さえながら。

「……あの都市に置いた“偽の商会”はしっかり処分したのかしら。それと日戸のほうも」
「それはもちろん。“偽の商会”は今頃もぬけの殻でしょうし、日戸の彼らはとっくの昔に缶詰になってますしねぇ」
 ま、倉庫の肥やしになってますがね。と、異形はくつくつ笑った。

 異能都市にある日戸アーケード商店街。
 『地域に根差した商店の街』を方針に日戸グループが、所有する土地いっぱいに詰めた商店街である。
 八百屋に精肉店、ドラッグストアやスーパー等の地上の店舗から、地下通路にあるゲーセンやカラオケ等の娯楽店まであるが。
 軒並み同グループの傘下企業ばかりが入っているため『日戸商店ロード』とも呼ばれる。
 日戸商店ロードの地下には、日戸グループの上層一部しかその存在を知らない非合法の食肉加工工場が広がっている。
 そして工場が取り扱うのは『人肉』のみ、もっぱら缶詰にして売っていた。
 カニバリズム
 “食人嗜好”や日常的に人喰いを必要とする常連客を抱えるこの闇市場は、需要が絶えることなく儲かるのだという。
 だが、ある時を境に日戸の出荷はストップ、市場から姿を消した……その原因が――

「そもそも、そんな汚れきった材料で作った缶詰なんて、需要あるのかしらね……」
「もののけの類いは肉に染みた業を喰らうと聞きますからねぇ。旨味が濃縮されていて美味なのでは?」
 ――従業員と上役の一斉失踪。
 しかし、そんな裏の顔が居なくなったところで表の顔には、精肉店が閉店したぐらいの陰りしか生まれないのだが。
 ちなみにロージェンスが“隠れ家”としていた場所は、集団失踪により無人となった加工工場である。


「……それじゃ、アンタにとって。彼は物凄く美味しい食事なのかしらね」
 まだわずかに温もりのある赤羽の死体を見つめながら、女は呟いた。

「さぁ? ワタクシはもののけの類いではありませんから、ただただ血生臭いお肉にしか思えませんけどねぇ」
 異形は死体に近づいて吸い込むように咀嚼して喰っていく。
 その様子を無表情で見下しながら、女は機械的に状況の再確認を行う。

「証拠抹消のステージは完了。同時進行していた回収計画は破棄、同じく“計画”に関わるあらゆる情報については幹処理が完了している。
 これから私達は情報を分化処理にて整理。
 平行して“Ε/a7〜c0”の生成クローン体を基に“個の群隊”生産ラインを確立、研究成果の実演をもって計画を終了とする」

 ファーストサンプル
 “  第一検体  ”としての女の役目は、終わった。
 後はエージェント『千の狂気産み落とす黒山羊』としての責務のみ。

285SS-「黒山羊の独白。」:2011/06/24(金) 08:07:18 ID:1sJsd2CgO


 贖罪の日――ヨム・キプル。
 この冒涜的な計画の名称だ。

 二頭の山羊を供物に、人々の罪を流す。スケープゴートの語源となった宗教的な儀式。
 その人々は教徒であり、この計画では“機関”の構成員を指す。
 そして、流すべき罪とは……言わずもがな、だ。

 この一斉掃討計画が始まって、まずは戦力を量産するためクローンの生産ラインが試作されては失敗していった。
 わずかな成功例に、戦争向きであると評価された私の能力を移植して再び生産実験を繰り返した。
 試行ラインはそれぞれメリットデメリットが存在したが、実地試験にはΘラインが用いられた。

 その実験体θナンバーであるロージェンスは、試験最中の副産物である敵勢力達に幾度も殺害された。
 その都度、反省点を活かしてバージョンアップしていき、やがてナンバリングは“θ/b9”まで至る。
 実用段階の試験として、洗浄計画とともに異能都市に送り込んだロージェンスがそれにあたる。

  ロージェンス
 “贖罪の女山羊”は罪を背負って野に放たれた。
 私の何百体目かのクローンである彼女がアゼルによって罰を受けてしまえば、こちらの罪が露呈する事は無い。
 そうあるべきと願を込めて名付けたのだが、先にアゼルが消えてしまったからには、果たしてどうなるのだろう。
 捧げられる事もなく、生き延びるのだろうか。分からない。

 彼女には可哀想な事をしたが、計画が無ければそもそも生まれない命だ。
 ……同情する意味は、無い。


 今は量産ラインが稼働している。順調にいけば、じきに予定数が揃うことだろう。
 この計画に携わってきて、今さら分かった事が一つある。
 野に放たれていった彼女達を見送ったこの私は、どうやら、もう一方の山羊なのだという事だ。

286怪人の会合:2011/07/08(金) 23:10:23 ID:ste/2NNA0
「大丈夫か?ベイ」

アロハの男、剣山=ダーネスが、ローブの男、ベイを椅子に座らせた。
ベイはローブの有りこちが焦げていて、体中に酷い火傷を負っていた。
特にレストを抱えていた腕はもはや炭と見間違えるほどだ。
とは言え、ここまで酷い傷でも怪人は放っておけば自然治癒してしまう。

「水道でダーネスが拾ってくれなかったら死んでたかもね」
「気にすんな、アイルが呼びに来たんだ。
 鱗怪帝の復活の為だ」

剣山はため息をついた。
マンホールに逃げたベイはそのあと暫く進んで気絶した。
そこに止木=アイルに呼ばれてやってきた剣山がレストとベイの気配を感じて二人を見つけたのだった。

「レストは?」
「弱ってるから辛うじて閉じ込めておけるが、力が戻ったらすぐにでも俺達を襲うだろうな。
 今はアイルが見張ってる」

ベイはふら付きながら立ち上がった。

「よし、じゃあ早速始めよう」
「その体でか、もう少し傷が回復してからのほうがよくないか?」
「レストが先に復活したらどうする、レストさえ完全な姿に戻してしまえば、
 後はゆっくりと鱗怪帝復活の準備が出来るじゃないか」

ベイは部屋を出る。
廊下の先の扉の前に、秘書風の女、止木が立っていた。

「ベイ、もういいの?」
「ああ、今から始める。鍵を」

止木がベイに鍵を渡すと、ベイは扉を開けて部屋に入り、閉めてしまった。
部屋は砂漠のように暑く、その熱源は、
部屋の中心で鎖に繋がれた真っ赤な怪人、レストだった。
レストは俯いていて、何も喋らず、ベイが部屋に入ったことも気づかないようだった。

「さあ、レスト。
 元の姿に戻してやる」

287Q:私について A:解答したいです  ◆X7kkkkkkkk:2011/08/23(火) 02:10:00 ID:qaX.fP9o0
【自室】

「…………変態……ですか」

白を基調とした部屋で、メイド服を畳み終えた少女が立った。
ワンピースタイプの寝巻きを着た彼女はそのまま電燈を落とし、寝室の戸を開けて入り、ベッドに倒れこむ。
深く、溜め息を吐いた。
自分の母であり、姉のようであり友達のようであり、上司であり、世界で一番尊敬できる女性に、言われた。
何度目だろうか。脳のメモリに問いかけると、五回目だった。
そう言われて今のように落ち込むのも五回目目だろう。
たしかに、変態かもしれない。
やや自身の価値観が変な気がし、尋ねて、変態扱いされているから、変態なんだろう。

「………………んー…………」

暇を持て余すと自己分析をする癖がある。
メンテナンスという意味ではなく、自分の性格についてだ。

自分が自覚できるほど好きな人は、手に入らない人。
逆に手に入る人は、手に入ってもその価値に気付かないまま、おざなりに扱ってしまう。

「…………おざなりに扱って後悔しちゃうんですけどね。後から欲しくなっちゃったりとか。
てきとうな付き合いしかしてなかったのに、パタリと付き合いがなくなったら寂しくなるとか」

しかし、それよりも。問題は前者であるのだ。
前者、好きな人、例えば社長である。

「なんとなくですけど…………」

一線を引かれている気がする。

「……いえ、良くしてもらってますけど」

声をかければ返してくれるし、かけずともこちらを気にしてくれることがある。
でも、だ。でも、互いの間に距離を感じてしまう。
あくまで他人と接するように、社長は自分と関係している気がするのだ。

そして私は、その距離を詰めれないかと、
その距離があるからこそ、詰める過程に浪漫を感じ、心身が焦がれる。
彼我の海が遠く深ければ深いほど航海を終えた後の達成感が堪らない。

社長に言ったら変態と言う言葉と苦笑いが返された。

「………………………………変態、ですかね」

変態なんだろう。
巷で流行っている恋愛小説を読むと、好き+好き=ラブになっている。
しかし私は、相手の嫌いと私の好きでラブになっているのだ。

………………こう整理すると、普通に思えるのだけれど。

「……自分がよくわかりませんね。機械でメイドなのに」

ベッドのふかふかが心地よい。
今日は少し、暑い。足を動かして扇風機のスイッチをつた。
枕に、息を零す。金糸と銀糸が入り乱れる髪を、束ねることもせずに投げ出して、目を閉じた。

「………………悲しいです。ちょっとだけですけど。社長」

今、身を最も深く焦がす情熱。
中心に立つ男性に思いを馳せる。

今、どこにいるのだろう。今、誰といるのだろう。


―――――――― 今、どれだけ私のことを嫌いなんだろうか。

最後に会った時、彼は私に凄く怒っていて。
当事は凄く悲しかったけれど。
今、私は。
それが産んだ溝に、恋焦がれているんだ。

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289姉妹儀式(1/2):2011/08/31(水) 21:15:36 ID:yyNmr.iM0
「ん……」

蛹を機械的に模したようなカプセルの中で、その少女は目を覚ました。
どれくらいの時間を眠っていたのだろうか、と思わせるほどの虚脱感のような感覚が、
仰向けに横たわる少女を蝕んでいる。すぐには起き上がれそうにない。
まだはっきりとしない意識の中、半透明のカバーを通してカプセルの外を見渡す。
大小様々なコードの走る天井、大人一人簡単に入れそうな培養槽、
アームの群れに囲まれたような大きな作業台……異様な物が目に付く、初めて見る場所だ。

「何よ、ここ……」
「おや、目が覚めましたか」
「?」

首だけ動かして声の方を見やれば、そこにはコーヒーカップを片手に持った、白衣を着た金髪の女性が一人。

「今日あたり目覚める頃だと思ってましたよ。あなたの修理と改修が終わってから、丸一日経ちましたからね」
「修理……。…………っ!?」

修理。そのワードを切っ掛けにして、少女は全てを思い出した。
突然下された攻撃命令。目標は、「異能都市」と呼ばれている大規模都市。
通常の都市とは違い、多数の異能力者が住む都市ゆえ、エーフィルヴルムに帯同。
そして、その結果は……。

「っ、フィー、フィーはどうなったの!? ここは何処!?」

少女、いや、対能力者戦闘用アンドロイド「フェルティア」は、悲鳴にも似た声をあげる。
対する女性は、「ああやはり」といった顔で、カプセルの近くまで歩いてきた。

「落ち着いてください。私に答えられることは全部答えますから。
 ……結果だけ言いますと、エーフィルヴルムは最後まで抵抗した末、能力者たちに撃破されました。
 あなたは撃破、と言っても過言ではないほどの損傷を受けて行動不能になり、この私に鹵獲されました。
 ここは、そんなあなたを修理した、私の秘密ラボですね」
「鹵獲……は、ははっ」

フェルティアは自嘲の笑い声をあげた。
なんということだろう。フィー……エーフィルヴルムは破壊され、自分も多大な損傷を受けて行動不能になった。それだけならまだいい。
問題は、その上自分は鹵獲されてしまった、ということだ。
鹵獲された以上、自分はこの女性に「運用」される羽目になるだろう。それは、生き恥をさらせと、言われているようなものだった。
ひとしきり自嘲の笑いをあげたフェルティアは、ふう、と息をつき、

「で? あたしに何をしろって言うの、新しいマスターさん?」
「簡単なことですよ。とある学校の用心棒を兼ねた美化委員をしてもらいたいのです」
「はいはい、用心棒と…………は?」

フェルティアは耳を疑う。自分にやらせる仕事として、用心棒は、まあ理解できる。だが、美化委員とは何だ? それも学校の?

「…………なにそれ」
「なにそれも何も、今言ったとおりのことをしてもらいます。あなたには学校を守りつつ、校内環境の美化に努めていただきます。
 始めは用務員にでもなってもらおうかと思ったのですが、あなたの容姿で用務員はちょっと無理がありますからね。それで……」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待った。なんか他にもあるでしょ!? あたし、対能力者戦闘用なんだよ?
 それを掃除屋まがいの仕事にしかつけないってことは、いくらなんでも無いでしょ」
「ああ……確かにそうですね」

何かに気づいたような女性の様子に、フェルティアはそれみたことか、と内心で呟く。

「私の家族になってもらう、というのを忘れていました」

が、その呟きは意外な形で裏切られてしまった。

「は? 家族? な、何言ってるの?」
「まあその話は、あなたを再起動してからにしましょう」

フェルティアの問いかけを受け流した女性は、カプセル横のコンソールを操作し始める。

「修理と同時に、いくつかの改造を施させていただきました。その一つとして、バッテリー式の動力をエーテルリアクターに交換しているので、
 以前よりも体が軽く感じられると思いますよ。……さ、リアクターに火を入れますね」

女性に告げられてから数秒後、フェルティアは全身に力が戻ってくるのを感じた。全てのシステムがアクティブになり、ぼんやりしていた感覚がはっきりしてくる。
カプセルのカバーも同時に開いたので、フェルティアはゆっくりと身を起こす。
確かに、体を動かすのに必要な力は以前よりも小さい……と言うか、全身の力が強くなっている感じだ。

290姉妹儀式(2/2):2011/08/31(水) 21:21:21 ID:yyNmr.iM0
「エクステリアと内部機構にも手を加えました。特筆すべきは、人工筋肉の構成材にミスリルチップを混ぜたことでしょうかね。
 これによって筋肉の耐久性は格段に上がり、これまで以上の高出力に対応できるようになりました。
 10トントラック程度でしたら、余裕で持ち上がると思いますよ」
「ちょっと待った。あたしの性能を上げてくれたのは嬉しいんだけど、もしあたしがあんたをのして、元の家に戻るつもりがあったらどうするのさ」
「あなたの家はあの艦隊ではありませんよ」
「はん、自分のとこが本当の家だって言いたそうな顔ね」
「ええ。私はあなたの姉であり、生みの親でもありますからね」

女性の言葉にフェルティアは一時、きょとんとした顔をしたが、すぐに吹き出して、

「姉? 生みの親? 何言ってんのさ? あたしの製作者は……」
「アラン・ミッチェル・マクヴリス。違いますか?」

通称、Dr.マクヴリス。自分の製作者を言い当てられ、フェルティアは絶句する。

「彼があなたを製作した際、製作補助として私もその場に居合わせたんですよ。そして、この私もまた、彼の手によって作られた存在……。
 姉であり、生みの親でもある、とはそういうことなんです」

「それに」と、女性は今までフェルティアが寝ていたカプセルの横に目をやって、

「あなたの「妹」も、ここに居ます」

その視線につられるまま、フェルティアもそちらを見る。
彼女のカプセルと同型のカプセルがそこにはあり、半透明のカバーを通して、一糸まとわぬ姿の、
銀髪の少女が中で眠っているのが確認できた。
そして、フェルティアはその少女に見覚えがあった。

「こいつ……! あのときの!」

エーフィルヴルムと共に都市を襲った際、良いところで邪魔をしたあのアンドロイド少女であった。同時に、彼女が使ったあの不可解な赤い力を思い出し、フェルティアは内心で身震いする。

「Dr.マクヴリスの主導による大殲滅個体開発プロジェクト「八号計画」で生み出されたアンドロイドたち……
 いわゆる「アシュレイシリーズ」の四号機であり、かの計画の完成品として生み出された子です。
 計画のナンバリングに従い、彼女は自分のことを「アシュレイ・4th」と呼んでいるようです」
「アシュレイ・4th……あの子達の、四人目が……」

フェルティアの呟きを聞いた女性が、怪訝な顔をする。

「あの子達? 四号機以前のアシュレイシリーズの子達を知っているのですか?」
「……うん。面倒だから、あたしはみんなのことを簡単に1st、2nd、3rdって、呼んでて……みんな、みんな良い子達だった」
「だった?」
「そう、「だった」。あの子達は、「正義」の能力者サマにみんな殺されちゃったよ」

「正義」の部分を、フェルティアは吐き捨てるように言った。

「あたしは……何も好きこのんであの艦隊と一緒にいた訳じゃない。あたしがあそこにいたのは、同じ自律型の兵器なのに、
 コミュニケーション機能が無くてひとりぼっちだったフィーの側に居てやりたかったのもそうなんだけど、
 そいつらみたいな、「正義」っていう錦の御旗を掲げて、自分たちの価値観に合わない物を全否定して、
 排除しようとするような考え方の奴らが大っ嫌いだからだったの。そりゃ、「八号計画」なんて計画、褒められた目的は持ってなかったけどさ。だからって、計画のために生み出されただけで、実際は何にも知らなかったあの子達まで、殺さなくったっていいじゃない?
 兵器だけど……兵器だったけど、あの子達にも心はあった! 感情はあった!
 あたしのこと、「お姉ちゃん、お姉ちゃん」って、呼んで、くれてた……」

291姉妹儀式(3/2)※字数オーバーだった……:2011/08/31(水) 21:22:37 ID:yyNmr.iM0
ぽろぽろと大粒の涙を流し始めたフェルティアを、女性はそっと抱きしめた。
フェルティアはその腕から逃れるどころか、逆にしがみついて、

「頭おかしいよね、マクヴリスってヤツ。あいつの作った兵器、みんな心があるんだよ。あの子達も、あたしも、フィーだってそう。
 きっとそこで寝てる、4thだってそうだと思う。何なの? あいつ、あたしらに心を与えて、何するつもりだったの?」
「……Dr.マクヴリスは、兵器作りの才があっただけではなく、魂とそれに伴う意識、つまり心についての造詣も深い人物でした。
 生物、非生物を問わず、全ての物には魂が存在していて、しかし、心が発現する条件が整っていないと、魂は心を生じない……
 かつて、彼は私にそう説きました。おそらく、心を発現させる何らかの方法を考えついていたのだと思います」

女性は涙を流し続けるフェルティアの頭を撫でながら、言葉を続ける。

「頭がおかしい、という意見には私も同意しますよ。ある時、「どうして兵器に心を与えるのか」と訊いたことがあるんですが、
 彼は私に何て答えたと思います? 「兵器と対話できたら、面白いと思わないか」、ですって!
 私はびっくりしすぎて、二の句を継げませんでしたよ」
「……ふふっ、なにそれ」
「ええ、私もそんな感想を抱きました。……でも、今はそれで良かったと思います。兵器のあなたと、家族になれるんですからね」
「……………………」

より強く抱こうとした女性を、フェルティアはやんわりを押しのけた。

「あたし、あんたのこと、家族だなんて思えない」
「フェルティア……」
「だって、さ」

まだ瞳を潤ませたまま、フェルティアは意地悪そうな笑顔を向けて、

「名前も知らないヤツなんか、家族じゃないじゃん?」
「あ……ああ! 私ったら、一人で盛り上がって、うっかりしてました……」

恥ずかしそうに頬を押さえた女性は、少ししてからこほん、と咳払いをして、

「私はフランシスカ・キールダリア。人造天使であり、あなたの姉です。これからよろしくお願いしますね」

フランシスカがすっと手を差し出すと、フェルティアはすぐさまその手を取って、

「フェルティア。知っての通り、対能力者戦闘用アンドロイドよ。あんたの妹、ってことになるのかな。よろしくね」

照れくさそうに目線を逸らしながら言ったフェルティアは、「で」とアシュレイのカプセルを指さし、

「あっちの子とは、いつ家族になれんの?」
「アシュレイは改修にもう2、3日必要ですから、その時までお預けですね。それまで、良いお姉ちゃんになれるよう、頑張ってくださいね」
「ふん、言われなくても」

勝ち気なフェルティアの言葉にフランシスカが笑み、それから少し遅れてフェルティアも笑みを見せた。
この日、天使と兵器という奇妙な姉妹が、異能都市の片隅で誕生したのだった。

292怪人の会合:2011/10/13(木) 02:21:29 ID:DvGffmgQ0
異能都市に無数に存在するブラックな組織の、とある研究施設。
その最深部に存在する、中央に半透明な、小さなドームが安置された部屋。
せわしなく動き続ける研究員風の白衣の男達の中に一人、何もせずにドームを見つめる男女が4人立っていた。
白い服装の少女、黒いスーツの大柄の男、金髪の釣り目の女性、茶色いベストにパンツの男。

「何よクイーン、急に呼び出したりして」

金髪の女性が怒ったような声で言った。

「ふふふ、そんなに怒らないの。
 実はもうじき不死鳥がこの街に現れるかもしれないの」
「怒ってないわよ。もともとこういう性格よ」

タダでさえ釣りあがっている目を更にきつくしながら、叫ぶように言う。

「求めていた大型の幻獣か。これで新たな帝王を作り出す計画が進められるな」

後ろの方に居た茶色いベストの男が呟いた。

「そう。でも覚醒鱗のエネルギーはまだ足りないわ。
 奴が現れるまでまだ時間がある、それまでに出来るだけ能力者のエネルギーを採取してきて欲しいの」

少女がドームに目を向ける。
ドームの中身は、ボウッと淡い光に包まれており、中には大量の覚醒鱗――怪人の基となる鱗状のエネルギー吸収物質が収められていた。

「しかし、ヌラタとルースが死んだとして、他の三人は今日は来ていないのか?」
「ラルキムとシグロウは来る筈だったんだけれどね」

「もう来てるぞ」

急に屋根から声が聞こえた。
同時に、四人の真中に褐色の影が舞い降りた。
立ち上がると、その姿は黒いマフラーを巻いた男に変わる。

「遅いぞ、ラルキム」
「みんな2000年の封印で身体が鈍ったんじゃないか?
 俺は最初からこの部屋に居たんだがな」

大柄の黒服の男が、白い少女に耳打ちをする

「……ラルキム、マフラーを見なさい」

そう言われた黒いマフラーの男は、マフラーの角に小さな針を見つけた。

「……エクエス、いつ付けた?」

マフラーの男は大柄のスーツの男を睨み付けた。
大柄のスーツの男は何も言わずに丁寧なお辞儀をする。
茶色いベストの男が、ラルキムのしかめっ面を見て失笑した。

「シグロウもマイペースね……本当に来ないなんて。
 ……それにあと一人……」

293怪人の会合:2011/10/13(木) 02:23:07 ID:DvGffmgQ0
>>292
訂正……。

異能都市に無数に存在するブラックな組織の、とある研究施設。
その最深部に存在する、中央に半透明な、小さなドームが安置された部屋。
せわしなく動き続ける研究員風の白衣の男達の中に、何もせずにドームを見つめる男女が4人居た。

294怪人の会合:2011/10/17(月) 17:37:44 ID:et1rlL8Y0
「ひゃひゃひゃひゃ!
 こいつは笑えるぜ!
 坂口もテルメスも、シグロウも、皆能力者から逃げ帰ってきただと!?」

怪人が集う研究施設。
今日は、釣り目の女性、テルメスと、黒いマフラーを巻いた男、ラルキム、
茶色いベストとパンツの男、坂口が集まっていた。
ラルキムは階段の上に座り、胡坐をかいて、膝をバンバンと叩いて笑っていた。

「今ここであなたを殺して新しい帝王の糧にしてもいいのよ、ラルキム」
「テルメス、そう怒るな。……逃げ帰ったのは俺もお前も事実だ」

ラルキムを睨み付けるテルメスを、坂口が制す。

「ひゃひゃひゃ……ま、まあ、冗談はさておき。
 この時代の能力者はそこまで強いのか?」
「差が激しいが、上限が高い。
 まあ、鱗怪帝の力を持ってすればとるにたらぬ程度の力だが」
「そいつはさっさと新しい帝王の力を確保しないとな」

ラルキムはため息をつくと、ふと思い出したようにあたりを見渡した。

「そういえばシグロウの奴、何処行ったんだ?」
「奴はクイーンの話も聞かずに食事に行った。
 俺も今から能力者を倒しに出るつもりだが……テルメスとラルキムはどうする」
「……私は翅が回復するまでは無理ね。
 しばらくここで大人しく……療養するわ」

そう言うとテルメスは、にやけ顔のラルキムを睨み付けた。

「ひゃひゃひゃ、俺も暇つぶしにちょっと狩りに行ってくるかあ」

そう言って、ラルキムは二人を尻目に、施設から出て行った。

295在りし日の彼の思い出:2011/10/17(月) 18:28:51 ID:xm/dFKGs0
この異能都市ではない何処かの世界にある、
闘凶―――荒宿の葛■■研究所。

「うーい■■■■ーん。晶ちゃんは一緒じゃないのー?」
「いいや、今日は学校何だとさ。で、それなにやってんだ?」

そういって、彼は大きな試験管の中に収束と拡散を繰り返す、
黒い物体を見て呟く。

「んー、虚数空間を実体化してー、その中に物体を詰め込んだらさ。
物を無限に詰め込める便利な物ができるんじゃあないかと思ってさー」
「17にもなってアホ臭い研究続けるなぁ、オイ。
彼氏の一人でも作ったらどうなんだよ……」

彼がそう言うと、彼女は少しムカついた様な表情になって。

「いい年こいて女だらけの中で彼女もいない、
研究一本の■■君に言われたくありませんーだ。
大体、もし結婚できなかったら■■君に貰ってもらうもんねー」
「またお前はそんなふざけた事を……」

そう言って、他愛の無い話が続く。
そのときはつづくとしんじていたんだ、そんなにちじょうが。
けれど、もうそれは手の届かないものになっていて。
今は最早懐かしむことすらもできない物になってしまった。
だからせめて私は彼女との思い出を覚えておくために、名前を記憶に刻み付けている。

296怪人の会合:2011/10/27(木) 00:19:15 ID:et1rlL8Y0
異能都市の人気の無い一角、白い服装の少女が、傍らに黒服の大柄な男を引き連れて歩いていた。
そしてその周囲には、強い気配を持つものが一つ。
少女は建設中のビルに入って行き、中心部で立ち止まる。

「そろそろ姿を現してもいいんじゃないかしら?闘将ダーネス」
「……やっぱ気づかれるよな。ははは」

少女がそう言うと、少女をつけていた気配が姿を現した。
頭にタオルを巻いた、アロハを着た浅黒い肌の男。
鱗怪人の幹部、闘将ダーネス、別名剣山だった。

「何の用かしら」
「解ってるだろ?レギア、いや、クイーンと名乗ってるんだったか。
 お前の持つ"反則の力"を鱗怪帝が奪い返して来いってさ」

剣山はクイーンに向かって手をかざす。
剣山の手の平からは精神に揺さぶりをかける波動が出ていたが、クイーンはしれっとした顔のままだ。

「無駄よ、不完全とは言え、私は既に将に匹敵する力を得ているわ。
 マインドコントロールは自分よりもある程度下に属する怪人にしか効かないんでしょう?」
「やれやれ。……力ずくで奪い返すことになるが、後悔しても遅いぜ」

ダーネスの身体が鱗に包まれ、顔の右半分に仮面をつけた、緑色で刺だらけの怪人に変貌する。
変化が完了すると同時にダーネスは少女に向かって殴りかかろうとした。
すると、少女の傍らに立っていた男が前に出、黒と黄色の縞模様の、両腕に盾をつけた怪人に代わった。
男が変化した怪人がダーネスに向かって盾を構えると、いくつもの六角形が組み合わさった、黄色い光の障壁が現れた。
しかし、障壁はダーネスの拳を拒むことなく砕け散り、腹にダーネスの拳の刺が突き刺さり、殴り飛ばされる。

「流石闘将。エクエスのバリアを一撃で砕くなんて」
「褒める前に例の物の在り処を答えた方が懸命だと思わないか?」

ダーネスは拳の刺を伸ばし、クイーンに突き刺そうとするが、クイーンは人間を遥かに越える身体能力で未完成の上階に跳ぶ。

「私を捕まえたければ鱗怪帝本人を連れてきなさい」

そう言うと同時に周囲から、十数体のレイピアを持った黄色と黒の兵がダーネスを取り囲み、剣を突きつける。

「流石に闘将と言えど、毒のレイピアに斬られても再生能力は使えるのかしら?」
「……部下に毒を持たせられるまでに自らを強くなっていたか。
 だが、俺に勝つにはまだ足りないな」
「……どういうことかしら」

突如、ダーネスの全身が赤と黄色の極彩色に輝く。
同時に放たれた波動でビルの窓は割れ、怪人は残らず吹き飛ばされ……。

――

クイーンは黒服の男に抱え上げられていた。
黒服の男も腹に血を滲ませ、足取りはおぼつかない。

「流石闘将……いや、無限の闘志……。
 しかも、帝王の力はあれを更に越えるのね……。
 完成するのが楽しみだわ……」

白い服を血に染めた少女は、黒服の男に抱きかかえられたまま、何処かへ去って行く。
背後には、瓦礫の山と貸したビルだけが残されていた。

297機構戦士ジェネオン 序章:2011/11/03(木) 00:38:33 ID:xm/dFKGs0
異能都市に存在するタワーの一室。
合成な装飾がされているその部屋に、5体の影が出来ていた。

「どうやら彼の者がここに辿り着いたようだ」
「へぇ、意外と速かったねぇ」

一つの影が重苦しい声で事実を告げると、
もう一つの影が女性のような声で答えていく、そして、
それに反応するように一番大きな影が呻き声の様な声を上げた。

「ヤツラ…マタ、タタカウ?」
「そーなるんじゃねーのぉ?俺しらねーけどなっ?」
「貴様も闘うのだが、分かってるのか?」
「わかってるわかってるってぇ。どうせ血をださせりゃいいんだろぉ?」

やたらと動く影がヘラヘラした声でうめくような声に答えると、
先程の重苦しい声の影が咎める様に言うが、そんな事は知らぬ、
と言うようにヘラヘラと言葉を返した。
そうしている時、影の一体が立ち上がると、先程まで会話していた影が止まる。

「―――時は来た。我々の大願を今こそ果たすときだ」

その声に先程影達は一気に気配を締めると。

「アンサングはこれより『計画』を開始する。
そして、その障害となるものすべてを排除するのだ!」
「「「「ハッ!!!」」」」

今此処に、『ジェネオン』と『アンサング』の戦いが再び始まろうとしていた。

機構戦士ジェネオン 序章、完。

298:2011/11/06(日) 04:43:08 ID:1sJsd2CgO

 油臭い男達が騒ぎたてる呑み屋の奥に、似つかわしくない陰がひとつ。
 灰色の胴衣から白い袖と黒いズボンを生やし、鳥打ち帽を深目に被った蒼い目の男――焔魔堂宗也。
 彼はひび割れた薄汚い硝子が嵌め込まれた窓に視線を放り出して人を待っている。
 ……いや、待ち伏せている。のほうが正しいか。
 しかしなかなか現れない。
 あまりの手持ちぶさたに頼んだはずの紫色に濁った水っぽい酒はもう飲む気にはなれなかった。此所ではこんなものを葡萄酒と呼ぶらしい。
 正直帰りたかったが、そういう訳にもいかない唯一つの理由が宗也を此所――地下に留めている。

 宗也の待ち人は地下暗黒街を主な活動拠点とする人物、この掃き溜めのような下層部に時折現れる自称上層部からの紹介人。通称デリバー。
 それは饅頭の乗った大福餅が正装を着て歩いているような御仁で、出所不明だが高額な依頼を気前よく紹介してくれる。
 宗也も地上でだが会った事がある、人当たりの良い人畜無害そうな男の口から「死体処理のアルバイトが……」と出てきた時は流石に耳を疑った。
 地下のこの呑み屋もそのデリバーから紹介された。
 都市の片隅、打ち捨てられてもなお残る無人の廃屋を対認識結界として囲んだ転移陣が設置されているとは夢にも思わなかった。
 しかしそれもどうやら氷山の一角なのだと地下住人達から盗み聞く話の端々に考えられる。
 昔バックパッカーとして訪れた時から陰のある街だとは常々思っていたが、一度この目に見てみて思い知らされた。未知は晴らせば晴らす程鼠のように殖えていくのだ、やはり底が知れない。
 言い様の無い興奮があった、しかし現実は酷だ。何をするにも金だ金だと皆一様に迫ってくるのは何処も変わらないのだ。
 だから宗也は此所に留まり、ひたすらにデリバーを待っている。金になる仕事を求めている。

「おい、そこの小綺麗なにぃちゃん。あんた、ずぅっとその席で酒と睨めっこしてるケドよ。下戸なのか?」
「あぁ、一滴呑めば吐く。間違いなく」
 薄汚い線の細い男が話しかけてきたので適当に返す。
 とても飲めた代物じゃないのであながち嘘でもなかった。
「そうかい。要らねぇなら頂戴しても構わないよな」
 言いながら男は奪い取るように欠けたコップを鷲掴みにし、一口で飲み干した。
 久しぶりの香り付きは旨ぇな等と嘯いて男は顔をしかめた。

「ところでにぃちゃんは何か。“あの”デリバー待ちなのかい」
 あのを強調して言う男に宗也はただ一言、そうだ。と答えた。
 すると男は芝居がかった口調で、こりゃまた命知らずな若者だ。とやけに驚いた。
「命知らず?」
 宗也はそんな物になった覚えは無い。
 むしろそれは逆で、人一倍荒事からは身を遠ざけて暮らしている……と思う。
 あるにしても荒事の後処理とか事前準備だとか、そういう事をデリバーから請け負った覚えがある程度だ。
「ありゃ、お前さん。知らねぇのか、彼奴から依頼を受けた者は誰一人帰ってこねぇって云われてる。運良く帰ってこれた猛者もいるがそのうち身を滅ぼしちまう……死を送り付けてくるんだよ彼奴は」
「ああ――」
 成る程、だから配達人――デリバーなのか。
 だが、あの恰幅の良さで配達人といえばサンタが連想されて少し可笑しい。
 まぁ、贈り物に難があるだけなのだから言い得て妙である。

「――しかし、そこまで危ない気もしなかったな……」
 少なくとも自分の命が脅かされるような目には遇っていない。
「すると、にぃちゃん結構強いんだな。そういえばあんたから言い知れない覇気が……まるで無いな。こんなの、上にゃ掃いて捨てる程居るわな」
 なんとなく呟いただけの独り言を聞き拾った男は値踏みするように宗也を見て感想を述べた。
 酷い言い様に文句の一つでも返そうかと考えていると、入口に大きく見覚えのある影が立っていた。
 嗚呼、漸くやってきた。
 新鮮な死の香りを贈るにこやかな配達人が。
 その濃密な香りにしかし宗也は気が付ない、やがて命の危機に晒される運命にあるとは知らぬまま受け取ってしまうのだ。
 その、厄災が詰まったパンドラの箱を。

299魔剣の呼び声(1/2):2011/11/11(金) 19:02:03 ID:VIha5UK.0
神羽荘204号室。
六畳一間の貴族趣味なその部屋に、檜造りの日本的な棺桶が横たわっている。
西洋式の調度品が並ぶ中、ミスマッチなことこの上ないその棺桶の中では、一人の吸血鬼が眠っていた。

「う、う〜ん……」

セーラー服姿で棺桶に横たわるその吸血鬼の名を、早瀬川巴という。
ただの一般市民だった彼女は、ある日吸血鬼に襲われ、死んだ。だが、運が良かったと言うべきか……彼女は処女であったために、
そのまま生涯を閉じることなく、吸血鬼として生まれ変わってしまったのだ。
運が良かったのか悪かったのか……そのあたりのことを彼女に訊けば、彼女はこう応えるだろう。
「私を殺した吸血鬼を殺せただけでも御の字ですよ」と。

「うう……」

その吸血鬼、早瀬川巴であったが。
彼女は快眠を得られるはずの棺桶で、脂汗を流しながら呻いている。有り体に言えば、うなされていた。

「だ、だれ……あなた……」

彼女の夢の中では、白いワンピースを着た、ぼうっと赤く光る女性が巴を手招きしている。
内容自体はそれだけであったが……こんな光景を眠り始めからずっと見ている身からすれば、それは悪夢と言えよう。
始めはそのあまりの非現実的な光景に拒絶反応を起こし、女性の手招きに応じることはなかったのだが、
それを数時間続けられている巴の精神は、もうすでに限界であった。
……このままいっそ、あの女性の所に行けば、この悪夢は終わるのではないか?
そんな考えが一瞬過ぎったのを皮切りに、夢の中の巴は、女性の元へと歩を進めていた。
女性はそれを見てひどく喜ばしそうな顔をする。それを見て、ああ、これで正解なんだ、と巴もホッとした表情を見せた。
こちらが行動を起こすまでずっとそのままだなんて、何だかゲームのイベントみたいだ……そう思った頃にはもう、
巴は女性のすぐ近くまで来ていた。
女性はぼうっとした赤い光の中で嬉しそうな笑みを見せて、近くまで来ていた巴を抱き寄せた。

「えっ、あっ……?」

困惑する巴をよそに、女性は巴を抱いたままその頭を優しく数度撫で、そして、その唇を巴のそれに寄せていった。

「あっ、そんな、だめ……」

それは女性同士することではない、という常識的な考えからくるものだったのか、もう自分は吸血鬼だからそんなことをしてはいけない、
という諦めにも似た考えからだったのかはわからないが、そんな弱々しい拒絶では、相手は止まらない。
やがて女性のそれは、巴のそれにゆっくりと影を重ねて…………。

300魔剣の呼び声(2/2):2011/11/11(金) 19:03:29 ID:VIha5UK.0
「だ、だめ〜っ!!」

その直前の瞬間になって、巴はガバッと跳ね起きた。
荒い息をつきながら、耳まで真っ赤になった顔をペチペチと叩いて、先ほどの夢を記憶から消し飛ばそうとする。
もちろん、そんなことでは消えはしない。

「わ、我ながらなんという恥ずかしい夢を見てしまったのですか……間違いなく他人が聞いたら噴飯ものですよ、こんな夢……」

と、そこで巴は違和感に気がついた。
自分は夢のあまりの内容に跳ね起きてしまった。ここまでは良い。しかしそうであるならば、棺桶の蓋に頭を強打してしまうはずだ。
その蓋がない。と言うか、お尻から伝わるこのごつごつとした感覚、これは岩場か何かではないか。
巴は息を落ち着けて周囲を見渡す。
誰かが置いている照明器具に照らされて、岩盤が露出した壁や古びたつるはし、投げ捨てられて数年は経っているであろうランタンなどが確認できた。

「これって、どう見ても鉱山か何か…………っ!?」

視線を巡らしていた巴は、ついに、その存在に目を留めた。
それは綺麗な、本当に綺麗な漆黒の刀身を持った一振りの剣であった。
柄頭やガードにちょっとした装飾らしき意匠が施してあるだけの、シンプルな剣であったが、
巴の目は新月の夜をそのまま剣にしたようなその刀身に、一目惚れをしてしまう。
ただ、残念ながらその刀身は半ばまでしか見えなかった。どういう経緯でそうなったかはわからないが、
その剣は地面から露出した大きな岩の天頂に深々と突き刺さっていたのだ。

「誰だかわからないですけど、無粋なことするものですね……。抜いてしまいましょう」

誘蛾灯に寄る羽虫のようにゆっくりと、その美しさに魅入られている巴は剣に近寄った。
岩に刺さった剣。どこかで、そんな話を聞いた覚えはあったが、今はそんなことどうだって良かった。
早く全部の刀身を見たい。それはもう美しいだろう――――。


……。
…………。
………………。


――――――――ほら、こんなに綺麗。

301機鋼戦士ジェネオン 第一話(イベント前):2011/11/12(土) 19:02:55 ID:xm/dFKGs0
矢野探偵事務所一階のデスクで何時ものように捜査資料とにらめっこしているスーツの男、
名前は矢野 映二と言い、彼は都市で頻発する人攫い事件を調べていた。

「こいつもこいつも外れだ…あいつ等巧妙に尻尾隠してやがる」
「気長にやっていくしかないと思うよ?その内、大きく動き出すはずだから」

そう言って彼と向かい合った先のデスクで作業している女性物のスーツを着た女性が言う。
彼女の名前はルディア=アージュ、矢野と共に探偵事務所を経営する人物であった。
彼女はパソコンを使い色々な情報網を使って捜査をしていた。
そこへ、デスクに備え付けられた電話が鳴った。

「ハイもしもし、矢野探偵事務所ですが」
『矢野か?私だ、斉藤だ』
「……何か新しい情報でも入ったんで?」
『アンサングが本格的に動き出すぞ、モンスターの召還反応を感知した』

その発言を聞いた瞬間彼の顔は一気に強張って行く。
そして焦った様な声で「場所は何処ですか」と聞くと。

『異能都市の中央公園だ…今は何も無いが直に動き出すぞ。
スーツの使用権利を今日から君達に完全に譲渡する、頼んだぞ』
「了解……精一杯やらせてもらいます」

そう言って電話を切ると、ソファーで談笑していたラルフと真由を見て。
ルディアに同意を求める目配せをした後。

「ラルフ、真由。中央公園にアンサングの反応を感知した。
俺達は準備をしておくから、至急向かってくれ」
「オッケイ!行くぜジングウジ!」
「はい、行きましょうかハインさん!」

そう言って二人はそれぞれの愛車に乗って現場へと急行していく。
その様子を見ながら映二は祈るように両手を合わせて。

「頼むぜ…二人とも…!」

と呟いたのだった。

302光速:2011/11/27(日) 00:50:27 ID:et1rlL8Y0
http://loda.jp/elusion/?id=128.jpg
唐突に登場する予定の無いサソリ怪人を上げてみるのだった…
というかスタイリッシュさを追求するあまりサソリに見えなかった

303怪人設定:2011/12/07(水) 23:47:16 ID:et1rlL8Y0
共通能力
 ・怪人は紋章の入ったベルトをつけ、体のどこかに鱗の領域を持つ。
 ・老化、寿命は特に無く、飯を食わなくても少しぐらいは平気。ただし、素材自体は老化・劣化するようである。
 ・上級怪人は、自分より下位の怪人に対してマインドコントロールが可能。瞬間ではなく、下位の怪人は逃げることは出来る。
 ・これを応用し、相性にもよるが人間をマインドコントロール出来る者も居る。
 ・人、動物を殺すと、その魂や魔力、生命力と言ったものを吸収し、自らを強化できる。
 ・怪人にとって殺さないことは不調や精神の異常に繋がる。理由ははっきりしていない(一説には鱗怪帝の仕業)。
 ・無から怪人を作り出せるのは鱗怪帝のみ。幹部は覚醒鱗と素材があれば作り出せる。
 ・一部の最上級怪人は擬似怪人(戦闘員)を作り出せる。ただし戦闘員にベルト(=覚醒鱗)は無い。

素材有りの怪人について
 ・素材有りの怪人は、大抵意識を持たない獣のような精神状態。しかし、これを乗り越えることが出来た怪人は強力な怪人となることが多い。
 ・素材有りの怪人は、倒されると覚醒鱗と素材が無傷の状態で分離する。ただし素材が生物の場合昏睡状態での排出となる。
 ・別に素材は人間でなくても良い。無生物でも良い。
 ・上位の怪人の傘下に入っていたり、マインドコントロール下にある場合排出された覚醒鱗はその怪人の下へ飛んでいく。特に所属が無い場合その場に落ちる。ちなみに魔力たっぷり。
 ・怪人を人間に戻す方法は現在、物理的にぶっ倒す以外確認されていない。覚醒鱗のみを狙い撃ちしても意味は無い(覚醒鱗へのダメージ自体が無い)。

素材無しの怪人について
 ・核心に関わる可能性があるので記載しない。今のところ特には(考えて)無い。

怪人を使用する場合の心構え ※出来ればでよい
 ・正義の能力者達の「乗り越えるべき壁」であることを意識する。
 ・完全なオープンシェアの設定にするわけではありません。
 ・今後矛盾が出ても突っ込まない(←重要)。
 ・近いうちではありませんが、いずれ怪人事件は終息させる予定はあります。要覚悟。

304 ◆ZwSFISyT06:2012/02/06(月) 23:28:59 ID:1sJsd2CgO
【連続放火魔イベント
 ――探偵役のゲートウェイ】

・空逸由利香の依頼

 異能都市で七件もの放火を犯した連続放火魔が未だに捕まらず、その事が微かに世間を賑やかにする一因になっていた頃。
 奇妙な風聞が――もっともこの程度なら日常茶飯事だが――やはり微かに流れていた。

 とある闇市場の話だ。
 何処かは言わないが、とにかく人前では口に出せないアンダーグラウンドな場所で、『あるもの』の取引が一部のコミュニティで盛んだという話なのだ。
 扱われているのはアッパー系のクスリだ。いや、透明になれる薬だ。違う違う、極秘裏に開発された生物兵器だ。等々、取るに足らぬ出鱈目なウワサにしか過ぎなかった。

 それが、ある人物との会話を切っ掛けにじわりと現実味を帯び始める事になる。

「私は公安局広域捜査課、四係の空逸 由利香といいます」
 その『ある人物』は、自らの身分をそう名乗った。
 初めてで苗字を「クルツ」と読める人は少ないんですよ、とも言ったか。
 ともかく、捜査のエキスパートに調査を頼まれるというのは印象に残るうえに、その理由も気になるもの。

「――『セルグリア』という薬物が出回っているのを知っていますか?」
 彼女は手元のバッグから幾つか資料を取り出して、聞くまでもなく説明を始めた。

「……まぁ、知らないのが普通ですよね。本来、あってはならない物なんですから」
 あるはずのない物、その現物が入ったプラケースを取り出しながら彼女は言う。
 それは楕円形の錠剤とカプセルの二種類が存在していた。

「これは能力抑制剤の研究開発グループに属していた赤羽製薬が、抑制剤開発の過程で開発してしまった薬物――いわば『毒』なんです」
 だが、プラケースに入った二錠の『毒』は、人を害する物では無い。
 操作系能力を数段強化するという、限定的だが有用な効果をもたらすのだ。
 しかし、その効果は「暴徒化した能力者を鎮圧する手段の一つ」として能力抑制剤を研究開発するプロジェクトには決してあってはならないものだった。
 だからこそ効果が判明して後、即座にこの開発は棄てられた。徹底して無かった事にされた。
 薬品として認められず、製造法すら瞬く間に闇へと葬られた、名も無き化学化合物。

 しかし、それは現実このプラケースに収まっている。

「あるはずの無い物が流通している。そんな風聞が流れるだけでも頭が痛いのに、それがこうして……非常事態ですよ」
 非認可ならどのような薬利作用を持っていようと、やはり毒物なのだ。
 それが非合法に製造され、あまつさえ流通しているのならば、事なおさらにそれは毒と言えよう。

305 ◆ZwSFISyT06:2012/02/06(月) 23:30:03 ID:1sJsd2CgO
>>304 続き



「それで、本題なんですが――」 この『セルグリア』の流通ルートを辿り、流通元……製造している組織を見付ける事。

 それが、空逸由利香からの依頼であった。
 何故、公安局の外部に調査を依頼するのかについては、半ば愚痴の様であり、しかし納得できる理由だったように思う。
 子細は不明瞭というか、わざと言わなかった節もあるのだろう。
 なかなかデリケートな問題らしく、公開できる情報とできない情報の線引きも難しいようだ。
 それはこの、黒塗りだらけの資料を見ても分かる……というより、実質的な情報量が少なすぎはしないか。

 しかし、まぁ――引き受けてしまった以上は仕方ない。
 幸いにも、現物を回収したというアーケード街付近で、怪しげな取引があったらしいタレコミ情報があるとか。
 ……十中八九、偽情報だろうが調べれば別の手掛かりが見付かるだろう。
 とにかく何か見付けなければ、渡された【セルグリアとその取引についての資料】を活用する機会もないんじゃ、依頼人に失礼だ。


▼セルグリアとその取引についての資料
 現在確認されているセルグリアの加工形態(錠剤とカプセル)とその効果に関する情報。
 過去に取引が行われた、或いは行われたであろう場所と、取引に関わったと思わしき人物の一覧。
 不正確な“噂”の域を出ない情報が大多数である。質より量というわけか?

306セルグリア:基本設定 ◆ZwSFISyT06:2012/02/08(水) 18:49:08 ID:1sJsd2CgO
//放火魔イベに関するフリーな設定。怪しく自由に使ってね。
//だいだい『デリバー』のせいにすればバイヤーも可。

【セルグリアに関する風聞】
近年、アンダーグラウンドで取引され始めた新手のクスリ。
歴史の浅い新芽のコミュニティから出回ったとされるマニアックな一品。
『液体カプセルと楕円形錠剤の二種類から選べ、やや値が張るが学生でも手が届く。
 効果は操作系能力の強化、レベルで言えば二段階上昇はカタい。
 効きが速けりゃ醒めも早い、長続きのコツは一回一錠を一日二回』
というのが売り文句である。
が、しかし……
「致死量が極めて微量」
「短時間で効果が出る」
「副作用が気にならない」
「最高にイイ気分になれる」
「眠っている能力が覚醒する」
「体内で分解され残留物が検出されない」
「独自のルートで流通する会員制の特製品がある」
……等々。
セルグリアに対する“噂”は情報の劣化が著しく、誤情報による小さなトラブルが多いようだ。
知名度の低さと市場の未発達が原因で、勘違いやデマが伝達しやすいためと考えられる。

【資料に記された記録】
能力抑制剤の研究開発段階において『K-B1.04.75』のミラーモデルとして赤羽製薬が開発した薬品。
能力者を募った臨床実験にて、試験的に投与したが能力の抑制効果は得られず、操作系能力の強化が見られた。
極微量で効果が表れ、10〜14時間程持続。
体内に残留せず、副作用は見られない。
しかし、被験者に精神的依存症の兆候が見られた。
臨床結果から研究開発グループは『K-B1.04.75』と、そのミラーモデルの廃棄を決定。
赤羽製薬はこれに従い、関係する研究資料を全焼却処分した。
 ――参照資料:第4次臨床実験公式記録

上記の薬品と押収した薬品の構造が一致し、同一の薬物と断定。
捜査員が赤羽製薬のデータベース上にハッキングされた形跡を発見、そこから情報が漏れたと見ている。
容疑のある女性社員は行方不明で現在捜索中、自宅は放火により全焼しており証拠は発見出来ず正確なハッキング元は不明。

307風邪の人/神宮寺真由:聖気発勁、電気発勁の奥義:2012/02/10(金) 20:30:04 ID:xm/dFKGs0
異能都市の北部の神宮寺家の実家―――武家屋敷の様な雰囲気の家に、私は久しぶりに帰ってきました。
門の前には相変わらず愛想の無い二人が出迎えてくれて、彼らなりに敬意を払って私を案内してくれた。
母に挨拶するのを忘れてしまったけれど、それはもう後でもいいでしょう。
今日ここに来たのは、私の友達に少しでも近づく為に来たのだから。

「―――恥知らずめ」

父の開口一番のキツイ一言。でも否定は出来ない、私はそう言われる様な事をしたから。
私が言葉を吐き出す前に父はさらに言葉を続けた。

「だが…良く帰ってきてくれた。
師としてはお前を恥ずべきだが、父としては喜ばしい」
「は…はい、師匠」

珍しい言葉で私は面食らってしまったけれど、笑いを堪えて真っ直ぐに父に言葉を返す。
心を落ち着かせた後、私は父に本題を速くぶつける事にした。

「師匠「父でよい」父さん、頼みがあります」
「なんだ、言ってみるがいい」
「はい……私に聖気発勁を伝授してください」
「―――ほう」

父は少し眉をひそめると、私の顔を真っ直ぐに見つめた後。
静かに、だが私には確かに解るように嬉しそうに笑った。
父は立ち上がると。

「良いだろう、お前も18を超えた。
家を出た14の頃よりもお前は拳士になった」

4年前、途中だった修行を突然止めて私は家を飛び出した。
それは修行が嫌になった訳でもないし、父を嫌いになったからじゃない。
知らなかった外の世界を、見て見たかったから。

「だが、覚悟しておけ。
お前の気は4年前よりも確かに高まっているがだからと言って得られるものではない」
「はい」

『聖気発勁』それは体のポイントから発する気を魂から発せられる気へと置き換える事。
それを体に満たす事で心身を清め不浄を取り除き、体を格段に扱いやすくすることが出来る技。
聖気発勁はその魂の気を通常私が使う体の気へと置き換えて放つ技。
体から発する気と比べてその浸透力と気の圧力は高く、ただ相手の肉体で爆発させるだけでも大きいダメージを与えられる。
けれど、それに至るには並大抵の年月で辿り着くものでなく何十年と修行して初めて得られるものだ。
3の頃から修行を始めて約15年……辿り着けるかは解らないけれど、私は得たいと思う。
もう一度、彼女と全力でぶつかりたいから。

「そして…私もこれに関してお前に教えられる事は無い。
―――お前自身が、お前自身の力で、私との仕合で掴み取るのだ」
「―――はい」

父は立ち上がって静かに構えて私を見ながらそう言った。
私もそれに習い、静か立ち上がって構え真っ直ぐに父を見る。

「神宮寺式気功術、最後の極意。
『一の檄に魂を乗せ放つ事』…掴みとってみせよ」
「はい……よろしくお願いします」

308風邪の人/神宮寺真由:聖気発勁、電気発勁の奥義:2012/02/10(金) 23:03:39 ID:xm/dFKGs0
>>307続き

「ぬんッ!!」

震脚からの接近―――そして突き上げるような右手の一撃。
音も無く道場の床を疾走してきた相手の攻撃を私は間一髪体を左に回して避ける。

「はっ!」

左に体を回した状態から相手の背後へ回りこんで右の手を開いて相手へと打ち込む。
この状態からの反撃は不能―――しかし、相手の後ろでに回した左手で易々と受け止められ―――。
その状態から軽く右回りから投げ飛ばされる。

「ふッ!」
「―――っ!」

勢い良く道場の壁は叩き付けられ、私は痛みに耐えながら立ち上がり。
向かってくる相手の一撃を掻い潜ってへその辺りに一撃を打ち込む。
体制を低くしてからの右手掌底の一撃―――相手は僅かに怯む動作を見せたが、
反撃の一を打ち込もうと左の手を放ってくる。

「せいッ!」
「たぁっ!」

両足の力と相手の肩に置いた手で相手を基点に回転するように背後へ回り、
そこから素早く振り向いて、震脚しながら。

「だぁぁっ!!」

両手を相手へ突き出し、勁を打ち込む。
震脚を使い、発生させた勁を接触する両手へ、そして両手を使って相手へと発する――!
ぐらりと体が揺らぎ此方へ顔を向けながら背中を壁にぶつけた。
そこからゆっくりと立ち上がりお互いに構えて、機を窺う用に歩く。

「……」
「―――」

さっきとは空気が違って、お互い気を練るような重い雰囲気。
相手を飲み込む様な大きな気を相手は放っている、私とは違う大きい中に強く燃えているような。
これが、魂の気って事なのだろうか…私は呑まれそうになるのを自分の気を練って避ける。
呑まれてしまえば、負けだ。呑まれれば神経が張り詰めてしまうからそこに一撃をいれられるだけで、
最悪、死ぬ―――死への恐怖と緊張が体を襲い練る気が落ちていく。

相手は仕掛けては来ない―――最大まで落としてとどめを刺すつもりなのだ。
間違いなく全力で此方を殺しにきている…気の練り具合と空間を占有する重さで感じる。
その死の恐怖と緊張の中で活路を見つけるのがきっとこの戦。

309風邪の人/神宮寺真由:聖気発勁、電気発勁の奥義:2012/02/11(土) 00:36:53 ID:xm/dFKGs0
>>308続き、段々質が落ちてる気がする

長い長い静寂が続いていく、1秒は10秒に10秒は100秒に。
体にかかる重圧が増す度に時間間隔が長くなっていく。
増していく死の重圧、恐怖、緊張―――全てが脅威だ。

あらゆる攻撃手段を仮想して、相手へと仕掛けるイメージを浮かべるが。
どの攻撃も、返されるイメージしか浮かばずさらに焦っていく。
気功を乗せても相手に返されては終わりだ……焦りだけが募る。

「っ―――」
「……」

山の様に佇み構える相手……それの重圧が体を襲う。
その重圧を撥ね退けるように、ふと丹田に力を込めて気を発する。
―――?さっきよりも若干だけれど重圧がなくなった。
感覚を探るように、もう一度。今度はより引き出すように。

「ふぅ―――っ」
「……!」

間違いなく、今までよりも体を陽気が満たしている―――。
体の重圧が消え、体が寧ろさっきよりも扱いやすくなっている気がする。
もしや、これが魂の気と言うものなのだろうか。いや、きっとそうだろう。
仕掛けるなら、きっと今だ。こちらの気に相手は戸惑っている。

「ふぅッ!」
「ぬゥッ!?」

飛び込むように前に跳ねながら拳を突き出す―――絶招歩法。
一撃は正確に芯を捉えて、今までよりも格段に速く。
相手は気を取られていたのか、反撃する思考すらも追いついていない。

「ぐぅっ…!?」
「てやぁッ!」

そこへ突き上げる様に左の手を一撃、中段に打ち込む。
そこから相手の鎖骨に指先を引っ掛けるように、掌打に気を乗せて打ち込む―――!!!

「っつぁぁ―――!!」
「!!??」

力強く打ち込まれた掌打によって相手は大きく飛ばされ、道場の床へ投げ出される。
相手は痛みに耐えるて声を絞り出すと。

「参った―――私の負けだ」

悔しがる事も無く、どちらかと言えば悲しそうにそう言った。

310風邪の人/神宮寺真由:聖気発勁、電気発勁の奥義:2012/02/11(土) 00:49:45 ID:xm/dFKGs0
>>309の続き。最後ですぜ

仕合の後、私と父は力が抜けたように道場の床で倒れた。
私は緊張が取れてまるで力が入らず、体の節々が痛い。
そして、袴をきた母は入ってきた所に開口一番。

「二人とも、お疲れ様」

優しい笑顔でそう言って、私と父を引きずっていった。
体がいたい人になんて仕打ちだ、けれどこの優しさが今はありがたかった。

その後、夕食を食べた後に父はまた私に話をしてくれた。
私に注意を促すようにいくつかの懸念を。

「真由子、お前が会得した聖気発勁は強く激しい物だ。
そして、お前自身の生命力も多く使ってしまう…いいか真由子よ。
電気発勁も聖気発勁も、易々と使って物ではない事は、解っているな」
「うん、解ってる」
「お前が何をしているかを今は聞かぬ。
だが、これだけはいっておきたい―――死ぬな、生きてまた顔を出せ。よいな?」
「―――うん!」

力強く頷くと、父は私を抱きしめて頭を強く撫でてくれた。
母は、それを見てとても楽しそうに笑っていた。



聖気発勁、電気発勁の奥義―――完

311『調査結果-1』/放火魔イベ ◆ZwSFISyT06:2012/02/16(木) 23:20:34 ID:1sJsd2CgO

―― 2月4日
調査の為にアーケード街付近に乗り出してみると、やはりというかなんというか。
その筋に幾らか通る者の顔は無かった。
放火魔の捜査に出た治安維持機関が見回りをしているのが原因だろう。
ここらの世間が平和なのは構わないが、これでは調査が捗らない……。
何処か別のところで聞き込みをしよう。

―― 2月8日
セルグリアが出回っているらしき噂を聞き、都市西部スラム街にて聞き込み。
だが、聞いた噂のイメージに反して、ほとんどの住人は都市伝説のように思っているらしき感触を受けた。
しかし、同様に存在を信じる者も多く情報提供に協力的かそうでないか、対応が極端に分かれた。
そして、協力的な者の一人である魔術媒介品を扱う露店商(自称)から「それらしきクスリを買った男を知っている」との比較的有用な情報を得た。
悪ガキを束ねる少し賢い悪ガキだそうで、接触の際に彼のチームに所属する若者達からなんとも手厚い待遇を受けた。
放浪の水使いたる私に死角はなかったがな。
結果から言えば、彼が買ったのはセルグリアで間違い無いようだった。
取り巻きの一人に操作系能力の向上が見られたそうで、バイヤーの居場所を執拗に訊かれたらしい。
あまりにしつこいから教えてやったら次の日から姿を見なくなり、集会にも来ないんで住処に行ったらもぬけの殻だったとか。
本人はアッパー系の合成麻薬だと思って買ったようで、本当の効果は知らなかったという。

彼は隣のエリアにある「緋トカゲの舘」に出入りしているバイヤーから購入したと言っていた。
調べるなら次はここだろう。

―― 2月12日
憂鬱な気分だ。
調査がまったく進まない。
まず、知り得た事から述べよう。
通称「緋トカゲの舘」と呼ばれる、スラムにしては立派な洋館がある。
その洋館には武器商人が舘の主人目当てに出入りしている。
この武器商人は取引先で盗んだセルグリアを若者に適当な値で売った。
取引先は忘れたの一点張り。
……以上だ。
粘ったのだが、商談があるからと舘に向かった商人は二度と戻ってこなかった。
代わりに舘の住人が襲いかかってきた、機銃掃射はマジ勘弁。
しばらくあの辺りは歩けないだろう、先に情報収集をしておくんだった。

――2月16日
あの商人は数ヶ月前まで、鮫島商会に所属していたらしい。
現在の所属は不明、フリーでやっていたとも聞いた。
空逸由利香から連絡が来た、分かった事があるとかで直接会って話したいという。
今から向かうつもりだ。

312『調査結果-2』/放火魔イベ ◆ZwSFISyT06:2012/02/26(日) 01:11:10 ID:1sJsd2CgO

―― 2月14日
依頼を受けた。
依頼人の言うには放火魔も、このセルグリアを使用している可能性があるようだ。
兄を殺した放火魔に繋がるなら調べてやってもいいだろう。

―― 2月18日
鮫嶋商会との関係性が疑われる。
依頼人はそう言った。
赤羽製薬はアカハネ会の中心的な会社だと聞く、そしてアカハネ会は鮫嶋商会に所属していた。
鮫嶋商会といえば、所属していた寺打海産が武器や麻薬の違法取引で組織を腐敗させた事で一時的に取り沙汰されたが。
なるほど、そういう事か。
実質解体された組織と放火魔が、セルグリアで繋がった。

―― 2月22日
おかしい。
赤羽浅井氏は殺した。
セルグリアを開発し、強化した能力者で恐るべき陰謀を画策した赤羽製薬の社長を処理したというのに。
まだ放火魔が活動しているだと?
セルグリアを寺打海産と共謀して闇市場に流したんじゃないのか?
暴徒化した能力者を隠れ蓑になにか恐るべき陰謀を企てたんじゃないのか?
諸悪の根源は絶たれたんじゃないのか?

―― 2月23日

おかしいのは俺?

違う、世の中がイカれてんだ。
俺は正しい。

ウルサイ!
なんなんだ、この“声”は!?
耳障りだ。
.._________
……暗闇? いや、隙間から聞こえる。

―― 2月24日
嘘だ、信じられない。
今、赤羽製薬の社員データを覗いてみた。
放火魔がいるなら絶対この中なんだ。
だけど違う、これは確実に違う。
でなければ、俺がオカシイ事になってしまう。
>.__ha______k_モyo?
異次元同位体……。
なるほど、そういう事なら説明がつく。
しかし……。
.>do___no?__ka…_
あ、うん。
なんというか、それじゃ納得出来ないんだ……
..______
どうも違うようなんだ。
依頼を受けた日、あの区画での“歪み”の観測記録は見当たらないから。
あ、もちろん未確認って可能性もあるけど。

―― 2月26日
依頼人から連絡。
俺も直接会って話したいと思ってたところだ。
確認したい事が一つあるからな。

313『調査記録』/放火魔イベ ◆ZwSFISyT06:2012/02/27(月) 01:23:50 ID:1sJsd2CgO

―― 2月20日
調査依頼から一週間経過
セルグリアの流通路は依然として不明瞭

・赤羽製薬の社長、赤羽浅井氏の遺体が発見された。
非公式ながら、セルグリア開発元の最高責任者が殺害された事実は非常に気になるところだ。
 ――容疑者の名前は湯河原毅

・緋トカゲの舘、主人はセルグリアの授受を否認。
以前、小口で契約していた武器商人がそれらしい話を持ち出してきたが興味が無いので断った。
念のため舘の使用人に話を訊くも皆同様にセルグリアの話は主人以外知らないようだ。
 ――使用人の中に放火殺人容疑者の一人、明石燐太郎らしき人物を発見。
 その場は避けたが要追及か。

―― 2月23日
赤羽浅井氏殺害について調査を行った
二日間の成果はまずまず

・湯河原毅の事件までの行動
湯河原毅は日戸アーケード街で焼死した警備員、湯河原忠志の弟であり、
2月6日、兄が殺されたと職場で報せを受け即座に退社した。
実家で葬式をあげ、12日遅く帰ってきた彼は酷く落ち込んでいたが、
翌日には普段通りの時間に家を出ていたと近隣の住民は語る。
しかし、彼は13日から職場には顔を出しておらず正確な足取りは不明。
職員らに話を訊き、湯河原毅の姿を見たという職員から詳しく訊くと
湯河原毅が見知らぬ女性と話をしていたのを見かけたという。
付き合いの邪魔をするのは悪いと思って別段呼び止める事はしなかった、との事。
正確な日時は不明だが、事件の起こった20日の数日前だという。
 ――この、見知らぬ女性の容姿を訊くに、何故かその女性に見覚えがあるような気がしてならない。

・湯河原毅の事件後の行動
2月20日、赤羽製薬の運営する医療研究所へ視察に向かう赤羽浅井氏の乗った車を襲撃。
同乗していた役員と研究所警備員を昏倒させ、赤羽浅井氏を刺殺し、逃走。
単独犯、迷いの無い襲撃から計画的な犯行と見るのが妥当。
翌21日に警察関係者が彼の自宅に向かったが不在
近隣住民によれば前日外出したっきり戻っていないとの事。
よって、事件後からの足取りは不明。
 ――民間の限界か。
 いや、湯河原毅が持ち出したらしい職員用携帯端末……。
 それを探査すれば或いは……。

――2月24日

・職員用携帯端末の探査
既に警察が探査しているため、民間には開示出来ないとの事。
 ――同じ治安維持機関なら情報を流してくれないかと、依頼人に連絡。
 未だに返答無し。

314『調査記録』/放火魔イベ ◆ZwSFISyT06:2012/02/27(月) 01:25:39 ID:1sJsd2CgO

―― 2月25日
依頼人からの連絡を待つ間、セルグリア調査に戻る
……我ながらあべこべな事をしているな

・セルグリアに関する“噂”の分布
聞き込み調査の結果や感覚からいうと
おおよそ学生に多い。
この層では無能力者や能力者の区別なく、共通する認識として
「実際にあるらしい」という無根拠ながら、存在する実感のようなモノを伴い広まっている。
飛び抜けた実績を持つ生徒や、実態の不明瞭な生徒、あるいは先輩など
発信者自らの関わりが薄いコミュニティにまつわる「実話」として語られる
学生の層に広まる“噂”は真贋の見極めが非常に難しい。

その一方、実際に流通しているらしい闇市場やアンダーグラウンドでは少ない
しかも大抵の情報元が、酒の席で小話程度に語られる信憑性の薄い無駄話だ。
もちろん本当の話も混じっているが、辿り着くのは又売りのバイヤーが精々だった
話のリアリティは根拠の確かさと比例して高まり、その場限りの作り話は実証が何一つ無い
その点、真贋の見極めは容易だが流通元に遡ろうとすれば途端に途切れる。
 ――まとめながら気が付いた事が一つある。
 アンダーグラウンドに関わりの無い層からの“噂”はほとんど学生が関係しているのだ。
 もしかすると、セルグリアのターゲットは学生か?だとすれば、どうして?

―― 2月26日
依頼人から連絡が来た
公安とは管轄が異なるから解らないそうだ。
セルグリア調査の進捗具合を訊かれたが
まだ不明な点も多く推測の段階だと返した

・連続放火魔容疑者二名の死亡
昨日25日夜、弐舞伝治と弐舞晃が市街地で大規模なテロを起こしたと報じられた。
テロ自体は民間人によって速やかに処理され、後日両名の死亡が確認されたとの事。
つまり、件の連続放火魔としてリストアップされていた四人のうちの二人が死亡した。
残る容疑者は二名
明石燐太郎と焔魔堂宗也
共にその風聞や過去は不明だ。
だが、明石燐太郎は緋トカゲの舘にその姿を確認している。

連続放火魔は2月4日まで七件、約一週間毎に放火を行ない、かつ放火では死傷者を出していなかった。
犯行の目撃時刻から全焼までの時間が非常に短い、燃え盛る巨大な怪物の腕が確認される等
状況や証人により細部は異なるが大まかな共通項が多数見られる事が同一犯と見る理由だ。
 ――あの兄妹が放火魔だとすれば三週間ぶりに現れた事になる。
 個人的に気になる事件だから、これで終幕というのは納得がいかないが……
 事件が止むならそれでも良い気がする。

315『調査記録』/放火魔イベ ◆ZwSFISyT06:2012/03/07(水) 14:52:45 ID:1sJsd2CgO

―― 2月27日

・学生への聞き込み調査
今回は“噂”で語られる学生を中心に調査
セルグリアの流通について収集した情報を整理しつつ話を訊く事にした
一日で得られた事を箇条書きで記す
 ・“噂”の中心になるのは優良不良問わず中高生が多い
 ・学生同士の売買について、事実関係はほぼ無い物と見て間違いない
 ・セルグリアを摂取したと思わしき学生のおよそ二割が現在行方不明
 ・ただし学生の行方不明者総数から見れば5%にも満たない
 ・所々で耳にする『デリバー』という単語、売り子の通称か?

 ――たった一日では足りない、半数も消化出来なかった
 なんで訊く度にこうも新しい“噂”が増えるんだ……
 全体の共通項は多いクセして、単体で見ると途端に嘘臭くなる
 いったいどれが原点なんだ

―― 3月2日

・人形使い
デリバーの噂を辿っていると、一人の少女に行き着いた。
噂を頼りにデリバーを探し回っているようだが、聞いた感覚では形振り構わずという感じであり。
彼女自身が売り子仲間の一人であったとか、裏切ったから見捨てられたんだとか
知っている者を始末するために聞き回っているのでは、という噂まである。

―― 3月3日

・無題
おそらく彼女が例の人形使いで間違いない。
追跡調査を始める。
 ――どうやら、あの超二流と揶揄される造形師の娘のようだ。

―― 3月6日

・無題
今日も動き無し。
引き続き追跡調査を続ける。
 ――生身の彼女が外出するのは相当珍しいようだ。
 あれ以来、ずっと人形のほうしか見ていない。

―― 3月7日

・無題
私があの男を知っている?
知りたいのはむしろ私のほうだ。
私がこの件で素性を知らぬのはあの男ぐらいだからな。
だが、この小娘がセルグリアに確実に関わっている事は確かに成り得た。
そうだ、デリバーから買ったのだ、この小娘は確

―― 3月7日

・怪しい男
デリバーと名乗る男が出没する場所には一貫性が見られず
昼でも夜でも人目があろうとなかろうと、何処からともなく現れるようだ。
デリバーは学生達にセルグリアを売り渡すが、会えるのは一度きりで探しても見付けられない。
素性の分からない怪しい男である。
また、その容姿も特徴的だ。
大福餅に饅頭を乗せたような非常に恰幅のいい紳士で、終始笑みを絶やさない。
デリバーとは、そんな男だという。
だが、私が思うに彼は学生同士の噂や怪談にありがちな共同幻想のようなものだろう。
突然、素性の分からない誰かさんがやってきて何かをして去っていく
という構図はお伽噺にも散見される虚構の大きな特徴の一つだ。
 ――調査はふりだしに戻ってしまった。
 次は放火魔との関連性を調べる事にする。

316名も無き異能都市住民:2012/03/16(金) 00:49:50 ID:do5XJmGE0
アイリスの祖国の大きな勢力を纏めてみた

本家:純血の祖フォン・ルズィフィール(正確には不明。約4000年前には存在していた)
分家:公爵家フォン・ブルステーヌ(約2000年)
分家:公爵家フォン・キルステンバーグ(約1500年)
分家:侯爵家フォン・ミスリリス(約1200年)
分家:侯爵家フォン・ラスフォルト(約1000年)

本家の元に集う代表的な四家で、吸血鬼としての力は本家には及びはしないが各家が特殊な能力を継承する家系。
国内でも大きな力を持つ四家であり、領地も広く、本家との血縁も近い。
公爵家フォン・ブルステーヌは本家の次に旧く、伝統と歴史に裏打ちされた特殊な炎を自在に操る。
公爵家フォン・キルステンバーグはフォン・ブルステーヌの次に旧く、永久凍土の如き氷と格闘術を自在に操る。かつてのフォン・ルズィフィールの眷属が興した家である。
侯爵家フォン・ミスリリスはフォン・キルステンバーグの次に旧く、資金力に強く、大嵐が如く風と水を自在に操る
侯爵家フォン・ラスフォルトは四家の中では最も新しく、大地と音楽を愛する一族

それぞれの家は後天的に吸血鬼になった者、かつての本家の祖の眷属が独立等様々な理由で本家に力を貸す。

317逆襲の紅(1/3):2012/03/17(土) 23:21:49 ID:4fdv4rtI0

異能都市港湾地区。
巨大な都市である異能都市の主な玄関口の一つであり、大小様々な船が日々、二桁の単位で行き来する場所である。
当然、それら船舶のためのドックや貨物集積所、倉庫街などもそこに存在している。
港町情緒、といった旅行誌に書かれているような港町の雰囲気はなく、そこは内地の工業地帯に似た、
無機質な孤独感とも言える空気に支配されていた。

港湾地区には、そういった事業関係の施設が建ち並ぶ地区の他に、港湾事業に従事する者達のために設けられた住宅地がある。
住宅地と言えば聞こえは良いが、実際は公営の団地が所狭しと建ち並ぶ、煩雑とした場所である。
その一角。その住宅地の住民向けに営業するナイトパブがあった。
店の名は「シーラカンス」。なんでも、十数年も前から営業しているのに、港湾事業従事者とその関係者しか知らない、そのどマイナーさを皮肉って、
店のマスターが「生きた化石」の異名を持つ深海魚に例えて付けたのだ、という話がまことしやかに酔っぱらい達の間で語り継がれている。

……しかし、それは表向きの話。
この店はナイトパブとしての表看板を持つと同時に、店と同じ名前の裏看板も持っている。
ヴァンパイアハンターギルド「シーラカンス」。それが、この店の裏看板であった。
店のマスターでありギルドマスターでもある初老の男、ロドリゴ・エルチアーノは、元々対化物専門の高名な聖堂騎士であったが、
とある任務の最中に故郷に置いてきていた妻と子供が吸血鬼に襲われて屍食鬼化し、以来、吸血鬼を強く憎むようになっていた。
彼はその事件の後に騎士を辞めて、世界各地を巡り、同じような思いをして吸血鬼を憎む同志を集めて、この「シーラカンス」を結成。
吸血鬼の出現報告の多いこの異能都市へと移り住んだのが、ナイトパブとして営業を始めた十数年前のことである。

彼が人々を吸血鬼の毒牙から守るために結成したそのギルドが、どうして「シーラカンス」などという名前なのか。
表看板しか知らない者も、裏看板しか知らない者も、その名前の由来には謎を抱えていた。

――――――だが、それを知ることはもう出来ない。

「か、火事だー!!」

その夜、ナイトパブ「シーラカンス」は不自然なほどに激しく燃えさかっていた。

318逆襲の紅(2/3):2012/03/17(土) 23:24:04 ID:4fdv4rtI0
……「シーラカンス」が紅蓮に消える、その数十分前のこと。

店で働いていたウェイトレスやバーテンが最近少なくなっていることに、最後の客から心配され、
苦笑いで送り出したマスターが、ドアの表札を「閉店」に変えて店に引っ込む。
それから少し経って、およそこの場所この時間帯には似つかわしくないような、セーラー服の上にダッフルコートを着た、
いかにも女子学生風の少女が、「閉店」の表札が掲げられた「シーラカンス」のドアを開け、中に入っていった。
その後、店からは何かゴトゴトとした音と、大声のような声が聞こえてきたが、十分少々でそれは収まった。
夜中に人が騒ぐ店であるので、それなりの防音設備が施されていたからだろう。それらの音は周囲の住民を起こすには至らなかった。

それが、「シーラカンス」の最期を決定づける要因の一つとなった。

店の中は屍と血で塗りつぶされ、凄惨を極めた。
心臓が在るべき場所に大穴を開けられた者や、ギロチンに落とされたように首の無い者、
手足をもがれ、トルソのごとく床に投げ出されたまま死んでいる者。薄くほの光るナイフにハリネズミにされた者など、
その死に様は様々であった。
だが、その誰にも共通していることがあった。それは、全身の血を残らず抜かれていることである。
傷による失血で失った分は床や壁面を濡らしているが、そうでない血は、身体のどこかにある二つの小さな穴から抜かれていた。
それは、吸血鬼の牙という、人間にとっての天敵が持つ凶器によって開けられたものであった。

「ふふ、ふふふ…っ……くすくすくす……」

そんな地獄のような光景の中で、赤い舌でちろりと唇を濡らす人物がいた。
コートがボロボロになってそのあたりにうち捨てられ、真っ白な剣を持つ右腕以外の四肢には無事な箇所が無く、
特に左腕が肘から先が無くなっていながら、こみ上げる可笑しさを堪えられずに、歓喜の声を漏らしているその人物は、
閉店した後の店に入っていった、あの少女であった。
名を、早瀬川巴。近頃この都市にやって来た、新参者の吸血鬼である。

「う、ぬ……きさ、まぁ…………!」

巴の他に、店の中で息がある者がもう一人。
右腕を斬り飛ばされ、両足の骨を破砕されて床に尻餅をついたままでいるが、眼光は未だ鋭い初老の男。
ギルドマスター、ロドリゴ・エルチアーノその人である。
既に一線を引いて久しいが、彼の対吸血鬼戦闘における技能は未だ凄まじく、巴に付いている傷の殆どはこの男が付けていた。
しかし、そこまでである。いくら戦闘技能が優れていても、いきなり現れた巴に対して効果的な武装を揃えられなかった人間たちは、
継戦能力と攻撃力に優れた吸血鬼を打倒するには至れなかった。
ギルドに残っていたハンターは皆死に、大黒柱たるロドリゴもこの様である。完全に詰みの状態であった。

「いやぁ……嬉しくなっちゃいますね。これで私の頭痛の種だったハンターに追われずに済むようになったんですから。
 あなたもいい加減、休みたくなる時期だったでしょうし、お互いにとって良い結果ですよ、うん」
「喧しい! 貴様、元人間だろう!? 何故ここまで惨い殺し方が出来る!? 生まれたときからサッカーだった連中とは違うはずだ!!」

その言葉を聞いて喜悦をサッと引っ込めた巴は、右足を跳ね上げてロドリゴの上半身を蹴撃し、
座っていた彼を床に打ち倒して、胸を強く踏みつける。
サッカーとは、ブラッドサッカーを縮めた言い方で、吸血鬼を侮蔑的に呼ぶときの名称だ。
だが、巴の攻撃的な琴線に触れたのはその名称ではなかった。

319逆襲の紅(3/3):2012/03/17(土) 23:25:23 ID:4fdv4rtI0

「元人間だから何だって言うのです。…………ああいえ、元人間、の部分は関係ありましたね。
 あなたもよく知っているように、私は一度、吸血鬼の手にかかって死にました」
「……ぐぅっふ…………だから、どうした……」
「今はこうしてアンデットとして生きているわけですけど、それでも、いわゆる臨死体験はしたんです。
 ……怖いんですよ? 死ぬのって。天国やら地獄やら、黄泉の国やら根の国やら。
 そんなもの、何もないんです。ただ、自分という情報が、まるでアリの群れに食べられるパンみたいに、
 少しずつ、少しずつ削られていくんですよ。
 私を象るはずの意識も、大切な記憶も、かけがえのない経験も、何もかも一切の区別無く、です。
 誰かに助けを求めても、誰もいない。声すら上げられない。何も聞こえない。何も感じない。
 そんな、意識だけの孤独を味わいながら、自分が消えていくのをただ黙って見ているしかないんですよ」

その時の感覚を思い出したのか、巴の顔色に恐怖と悲哀が乗りかける。
が、すぐに元の無表情に戻って、

「あなた、そんなのに耐えられますか? 私はもう無理です。あんなの、二度とゴメンです。
 なのに、あなたがたはそんな私にもう一度死ねと言う。死ねと言って刃を振り下ろす。
 あなたがたにとっては当たり前でも、私にとってはこのうえなく非道なんですよ、それ。
 ああやって――――」

巴はそこいらに散らばっている死体のうちのひとつを指さし、

「惨たらしく殺してやりたいくらいに、ね」
「っ……!」

ルビーのように爛々と輝く紅の瞳が、死体からロドリゴに帰ってきて、

「私は私に殺意を持って攻撃する者を、絶対に許しません。
 できれば、手足を引き千切ってから、死にたくなるような苦痛を与えてから殺したい。
 でも、それって難しいんですよね。あなたがたと戦って解りました。
 人って、手足を千切られたら、気絶するし血はドバドバ流れ出ちゃうし、失血ですぐ死んじゃうし。
 それが解ったのも、あなたがたとの戦いで得た戦利品でしょうかね……」
「……げほっ…………狂ってやがる」

狂気を指摘された巴は、それで不機嫌になるどころか笑顔になり、

「それを狂気と呼ばれるなら、それはそれで光栄ですね。狂っているように見えるほど、妥協してないってことですから。
 さて、お喋りが過ぎましたね。そろそろ、楽にして差し上げましょう」

しゃがみ込んだ巴は倒れているロドリゴの身体を手と足を使って押さえつけ、
牙を剥いてその首元へと迫る。
ロドリゴは目を閉じ、

「ああ……ハンナ、レティス、すまない……」

妻と子に謝るロドリゴの首に、巴は深々と牙を差し込んだ。

320紅のその後:2012/03/17(土) 23:26:51 ID:4fdv4rtI0

ギルドで生き残った最後の一人。
その血をありったけ啜り、店に火をかけた巴はその場を去り、団地の屋上から店が燃える様を見つめ続けていた。
手すりに身体を預けたままボーっと見続けるその瞳は未だ紅い。
騒ぎが大きくなり、消防車が到着し始めたあたりで興味を失い、手すりから離れる。
ぐぐーっと伸びをし、脱力。

「ようやくこれで終わるんですね。長かったです……。
 ……でも、これから始まるものもあります、か」

剣帯の鞘から剣を抜き放つ。
聖魔剣『曙光』。吸血鬼である巴の持つ、邪気喰らいの聖剣。
今回の戦いでも随分と役に立ったが、これからはもっと役に立ってくれるだろう。
何故なら、

「あの最後の人、騎士様だったなんて驚きでしたね。道理で強いと思いました。
 まあそのおかげで、少なくとも剣の技においては、一定以上の技量は確保できました。
 ……ふふっ、あんまり無能だと、アイリスさんに愛想尽かされちゃいますからね」

だが、問題も浮き彫りになった。
聖魔剣は強力な武器である反面、吸血鬼としての自分をもその聖気で侵す諸刃の剣であることが発覚してしまったのだ。
巴自体は聖気というものに特別耐性がないわけではないタイプの吸血鬼なので、その聖気で滅ぶということはないが、
いつまで経っても剣がしっくりこない程度の違和感は常に付きまとっている。

「どうしましょうかねー…………って、ちょっとした案は浮かんでるんですけど。
 ちょっと実行するのが怖いですけど……うん、大丈夫でしょう」

真っ白な聖魔剣を月明かりにかざし、紅い瞳を満足そうに細める。

「ルーンは未熟で吸血鬼としての力も上の人たちには及ばない。
 私の切り札と言えばあなただけです。……頼りにしてますよ『曙光』」

刀身が、応えるように光を反射した。




――――エリュシオン・プレス 3月17日 第2893号 21面

16日未明、異能都市○×区△△のナイトパブ「シーラカンス」で火災が発生し、木造平屋建ての店舗を全焼。
周辺住民の通報により、出火から20分ほどで消防車十数台が到着するも火の勢いが強く、鎮火には3時間を要した。
この火事で、店内にいた従業員、店主併せて7名が焼死し、近隣住民も煙を吸うなどして14名が病院に運ばれた。

火元は調理場とみられているが、火の勢いが強すぎるために、警察では発火系能力者による放火も視野に入れ、調べを進めている。

321風邪の人/神宮寺真由子・裏設定っぽいもの:2012/04/15(日) 02:36:49 ID:xm/dFKGs0
ジェネオン装着者A級機密資料―――神宮寺真由子。

【この内容は我々斉藤カンパニーが彼女の素性やそれに関わる物を洗い出した結果、
確定と思われるもの、不確定である物を別けて記載しておいておくものである】
【尚、内容の成否に関係無く、この内容は我々以外に知られる事があってはならない】

確定している情報を以下に記述する。
1.神宮寺真由子(以下対象と書く)の遺伝子情報には我々人間には存在しない筈の情報が含まれている。
 例:我々通常の人体とは明らかに違う筋肉の情報、恐らく彼女の前代の物と思われる者の記録、解読不能の暗号、遺伝子に刻まれている原初のルーン等。
2.対象は間違いなく神宮寺家の実子では無い、それどころか【本当の】神宮寺真由子は生後3年で衰弱死している。
3.対象の師であるクー・ストレンジは彼女が原初のルーンの保持者である事を知っている。
4.対象は次元情報的にかなり強力な防壁を仕込まれており、魂への干渉や対象の情報の改竄は我々では不可能である。
5.対象は遺伝子情報の異常と共に、人工的に肉体強化された痕跡が所々見受けらている。
  (これは我々が【検査】の際に行ったのモノとは異なる)

不確定とされているものを以下に記述する。
1.対象の肉体構造のあきらかな差異から、別時代の人間または違う世界の人間である可能性。
2.対象はどこかの研究対象、又は被検体と思われる。
3.前述した防壁の存在から、かなり大きな力を持つものによって彼女は強化されたと思われる。

以上が、対象の調査において現時点で明らかになった、推測される情報である。

322風邪の人/裏設定:矢野映二:2012/04/15(日) 18:39:09 ID:xm/dFKGs0
ジェネオン装着者A級機密資料―――矢野映二

【この内容は我々斉藤カンパニーが彼の素性やそれに関わる物を洗い出した結果、
確定と思われるもの、不確定である物を別けて記載しておいておくものである】
【尚、内容の成否に関係無く、この内容は我々以外に知られる事があってはならない】

確定している情報を以下に記述する。
1.矢野映二(以下対象と書く)は肉体的にも精神的にも純粋な人間であり、
  他2名の様な肉体改造の痕跡や、先天的な肉体の異常は無い。
2.対象の深層情報にはまるで収まるものが決まっている様な空白が存在している。
  これは恐らく天沢裕太と同一のペルソナと言う物が収まっていたと考えられる。
3.前述した通り肉体の異常は存在しない為、対象の身体能力は本人の研鑽によるものであるだろう。
4.対象が嘗て天沢裕太やルディア=アージュと通っていた西神原高校出身者には数多くのペルソナ使いが存在している。

不確定とされるものは現時点では無い。

以上が、対象の調査において現時点で明らかになった、推測される情報である。

323鷹野 裏設定:2012/04/25(水) 20:56:30 ID:IrsgDsYs0
 戦闘体勢に入るか物質創造能力を使うとき、瞳が赤くなるということは戦ったことのある人なら誰でも知っている。
 しかし、ここからが裏情報。生命が危ういとき、もしくは決死の覚悟で戦うときに頭髪が一気に白くなり、長髪になる。
 この時、再生能力が飛躍的に上昇。ただし物質創造能力がほとんど使えなくなり、専ら妖刀「心渡」で戦うことになる。破壊力が桁違いに上昇するので、正面からの肉弾戦は危険。素早く後ろをとるか、長距離からの狙撃で急所を狙うのが有効。

324じお:2012/05/14(月) 19:46:25 ID:IrsgDsYs0
>>323

あぅ・・・昔の設定が生き残ってる・・・

これナシで!

325鱗怪帝"ヴァリー"の帝国:2012/05/14(月) 22:32:18 ID:NntjvIzM0
男の名は、ヴァリー。
濃い青と黒の衣装に、灰色のマントを纏ったヴァリーは今、怪人の前に立っていた。
逆刃刀を持った、二本の角を持つ、幹部怪人レスト。

「……まさか……鱗怪帝……が……」

男の正体は、鱗怪帝と呼ばれる存在だった。

「ここまでの……強さ……」

レストの姿は、以前のように外骨格的な風貌から、
鳥類を思わせる風貌へと変化していた。
剣は巨大に変形しており、刀と言うよりも、斧やノコギリのように見える。
それは、レギアから奪い取った帝王の力によって得た力だった。

「……そのような紛い物で、よく我に挑めたものだな。
 しかし、レギアの物よりも実に馴染んでいる……」

レストの周囲には、ダーネス、アイル、ベイが倒れていた。
いずれもスケイル帝国の幹部達。
確かな実力を持った戦士達だった。

「……ヴァリイイイイィィィィ!!!!」

剣を振り上げ、レストは鱗怪帝に踊りかかる。

「しかし、その力を得ても、鱗怪人のさだめからは……」

レストの腹部を、鱗怪帝が貫いていた。
その手の先には青い鱗と、赤い炎の塊が握り締められていた。

「逃れられなかったようだな。
 戻るがいい、脆弱な人間に……」

レストが、人間に戻っていく。
しかし、通常の人間態の若い男では無い。
まるでカラカラに乾いた老人……いや、それを通り越して、ミイラのような姿になっていく。

「……あ……ア……アア……」

鱗怪帝は、腕を引き抜いた。
その手には、一滴の血も見られず、レストの腹部には穴どころか、傷の一つも無かった。
レストは鱗怪帝に寄りかかるように崩れ落ち、砂と貸した。
鱗怪帝は、砂を振り払うと、ダーネス、アイル、ベイに向き直った。

「……我が子供達よ……我の中で傷を癒すと良い……」

ダーネス、アイル、ベイの身体が、液体となっていく。
液体は、鱗怪帝の中に吸い込まれていった。

「新たな時代には、新たな戦士が必要だ……。
 それまで、お前達には眠っていてもらおう……」

鱗怪帝は、夜の闇の中へ消えていく。

「その時まで、たった一人の帝国か……悪くない。」

その夜。
怪人化を受け、昏睡状態だった全ての者達は、
蘇ったように目を覚ましたのだった。

326組織設定.放火魔イベント/狗:2012/05/20(日) 03:48:51 ID:1sJsd2CgO
▼日戸グループ
大きなアーケード商店街を共同運営していた中小企業の集まり。
古くから続く庶民の味方であったが、近くにデパートやスーパーなどが建ち始めてから業績は怪しくなっていった。
そこに追い討ちをかけるように運営していたアーケード商店街が放火され、現場調査により隠蔽された地下施設が発見される。
施設内で人肉を缶詰めに加工したらしき痕跡が見つかり、捜査のため厳重に秘匿されているが、しっかり週刊誌に曝されている。
各方面から追及を受けているが、上層部の人間が軒並み行方不明で組織として壊滅しているためか裁判沙汰にならない。
さらに言えば、彼らがその施設で殺害された疑いがあるようだ。
社長及び副社長は一年前から引き継ぎが行われず今も空位のまま。
放火の前に営業課長の不破厳令が解任されており、残る管理職は人事部の大葉崎遼平のみ。
組織の運営は停止しており実質の廃業状態。


▼緋トカゲの館
武器兵器の輸入と装備部品や制御装置の輸出、及びそれらの売買を行う武器商人グループ。
主な客層は民間軍事会社。
傭兵企業御用達の武器問屋である。
構成員は身体の何処かに必ず『赤いトカゲの刺青』をいれており、その箇所や大きさ、トカゲのポージングによって地位を表しているとされている。
法を遵守したクリーンな商売を徹底しているが、裏で非合法に仕入れた魔術兵装を取り扱っているような、きな臭い噂が絶えない。

現在の女主人は二代目。
今代の緋トカゲの館は合法でクリーンな取引以外は扱わないというスタンスを貫いている。
だが、先代が武器兵器とマジックアイテムの非合法な販売を行い、一代にして富を築き名をあげた過去があるため、なにかと偏見を持たれている。

“二代目女主人”
現、緋トカゲの館当主。
豪気であり怠惰な恐れ知らずの性格。
連絡もせず長い間館を留守にしたと思えば、引っ張り出そうとしても館から出てこない時もある。
その界隈ではサンドラ・ヴァーミリオンの通り名で知られるが本名は誰も知らない。
缶詰めのレーションが好物と言い張る。
事実、毎食必ず無銘の缶詰めを食べているが、果たしてそれが本当にレーションかは不明。

327フリーな設定いろいろ/狗:2012/05/20(日) 04:05:49 ID:1sJsd2CgO
※フリーシェアな設定、需要は不明。
 少なくとも自分がイベントに使って放置する予定。

《大規模設備》
▼特殊都市計画区域
俗称、旧都。クニナシ秘境とも呼ばれる。
歪みの影響により異能都市郊外内陸部に出現した廃墟都市。
つい先ほどまで人々が生活していたかのように都市としての景観を留めたまま荒廃し、あらゆる都市機能が停止している。
未知の発生理由と打ち捨てられたような外観から心霊スポットとしても有名、秘境と徒名される程に世間の目はまるで届かない。
ダウンタウンやスラムなどを跨ぐように陸橋が掛けられており、アクセスはお手軽で非常にスリリングとの評判がある。

特異点を押し広げるように出現し、発見された当初から荒廃した廃墟都市の様相であり、雑草と野生動物が生息する程度だった。
存在が確認されるや否や公的私的問わず、企業や個人がこの土地の所有権を得ようと争いちょっとした事件となった経歴がある。
そのような混乱を回避するため、山津建造社を始めとする土木建設業社団が都市開発事業機構『クニナシ』を発足。
現在に至るまで数年間、クニナシが代表して全開発区域の権利を仮所有しており、開発資金を投資した団体及び個人へ公平に分配するとしている。
開発の進捗具合は未だ全体の四割程度と遅々として進まないためか、当初に比べ投資者が新規参入する勢いは衰えている。


《組織》
▼都市開発事業機構『クニナシ』
特殊都市計画区域の管理と開発を担う、山津建造社を代表とした事業連盟。
主に土木建設業や運送業が中心となり、その他建材産業などがスポンサーに名を連ねる。
突発的に異常発生した当区域の保護と利権の公平化が機構の目的。
身内の集まりと揶揄されるように、開発事業団関連が先導する姿勢に当初は世間も批判的だったが次第に有耶無耶になってしまった。
いまや悪い噂も無ければ良い噂も無い、活動の実績が地味に積み重なっている縁の下のなんとやら。

328じお:2012/05/20(日) 17:57:08 ID:IrsgDsYs0
 鷹野の私有軍について

 放火魔イベントで無制限に使用した結果チート臭くなったので、規模を縮小してここに記しておきます。

●イージス巡洋艦「のと」
 名前の由来は中の人の住んでいるところから。
 排水量2万t、ヘリ搭載機数8。
 外見はあたご型護衛艦に酷似。しかしヘリ格納庫がでかく、艦そのものもいくらかでかい。

●航空機
 ・SH60Jシーホーク×2 汎用ヘリ。なんでも屋。
 ・RAH-66コマンチ×2  ステルスヘリ。
 ・V22オスプレイ×2   ティルトローターの輸送ヘリ。なんでも屋。
 ・F35ライトニングII×4 VTOL戦闘/攻撃/爆撃機。この中ではおそらく最強。

●戦車
 ・90式戦車×3      対異能者用に少しは強化されているというが・・・

●その他
 ・輸送艦×2       何の変哲もない。
 ・豪華客船[サント・アンヌ](フリーシェア、というよりご自由に)
  鷹野の収入源の一つ。10万tクラス。名前の由来はポケットモンスター赤、緑、青、ピカチュウに登場する豪華客船から。
 沈んでもなぜか数日後には素知らぬ顔して浮かんでる不思議な船。

329公安局2課5系の日常の一部:2012/05/21(月) 22:14:24 ID:xm/dFKGs0
公安局本部―――2課5系室

「おはようございます」

僕は扉を開けて口だけで挨拶をする。
公安に務め始めて2年、もうお馴染みになってきた挨拶に対して。

「おーっす、おはよーさん」
「おはよう」
「……Guten Tag」
「おっはよー!」
「ん、おはようさんだな」

それぞれタイプの違う挨拶が何時もどおり返ってきた。
最初に返ってきたのは東雲、相変わらず新聞から顔を動かす気が無い。
2番目は茂之、パソコンで何かやっているらしいが多分また新作ゲームだろう。
ドイツ語で返してきた優奈相も変わらずぬいぐるみを抱えている…今日はニヤついたうさぎ、趣味が悪い。
元気良く返してきた弓形さんは名前からは想像出来ないが女性だ、元気と良く回る頭、そして天を衝く事もあるくせ毛が特徴だ。
そして、またダルそうに書類整理をしている杉並次官は最後に挨拶してくれた。

「東雲さんまた競馬?」
「いや、シノ君今回はカーレースに賭けてるみたいだよ」
「つい最近始まったよね!あのビュビューンって感じはやってみたいなー!」

東雲はどうやらこの前の競馬で大負けして懲りたと思ったら今度はカーレースに賭け出したらしい。
その前はボートレース、その前は電子競馬、その前は麻雀と。
東雲は懲りる事を知らない奴だ、でも何だかんだで生活は回っているようで、飯を強請ったりはしない。
その東雲は目付きの良くない目を此方に向けて。

「うっせーなお前ら、デカい声で言うなっつーの。
また一系の連中からさすが5課一ユルい系ですねぇ、とかいわれるだろうが!」

此方に強く言い放ってきた、どうやら朝にまた嫌味を言われたらしい。
多分情報交換の時に言われたんだろう、本当に嫌そうだ。
が、空気をまるで読む気が無いように弓形は口を開く。

「でもウチがユルいのは事実じゃないですかー。
人員いませんし、給料管理は雑だし、書類整理もいい加減ですし」
「弓形君、今の発言で給料0.25割カットね」
「がぁん!」

ああ、空気を読まずにホントの事を言うから杉並次官に給料カットされた。
でも杉並次官の事だから飯奢ってくれるだろう、よかったな弓形。
僕は優奈の方を見て、優奈がぬいぐるみを抱えながら能力を使っているのを察した。

「優奈、君はなにやってるんだ?」
「茂之に頼まれて、能力の残滓から能力を特定してる」
「ま、私じゃあそう言う事は出来ませんからね。
能力者が使っている所まではわかりましたから、後を任せているわけです」
「報酬は新しいぬいぐるみ」
「ああ、成程ね」

机に置いてあるハンドガンに視線を集中させたまま優奈は答えて。
茂之の方も遊んでいる訳じゃなかったらしい。
優奈は欲しい物がある時は大体鑑定で報酬を要求する。
で、そう言う時ほど結構身が入る事が多い。
多分茂之がそれを察して頼んでみたんだろう。

「そう言えばあっきー、ペルソナ抜きさんはどうなったの?」
「駄目だな、ここ最近まるで足跡を残しちゃくれない。
暫くは定期的に情報を探っていくしかない……弓形こそ、電子ハッカーはどうなったんだ?」
「ん?勿論捕まえたよー!餌を出して喰らい付いた所をこう、グイッとね!
ふふふー、これで四課のお姉さんに借し作っちゃった!」
「それは大した働きかもな、ご苦労さん」

釣竿を持った感じに体を動かして弓形は成果を自慢する。
能力者の違法者の検挙に手を貸して貸しを作ったらしい。
4課は割と実践が強い奴等だから、今回の貸しは役に立つだろう。
でも機器修理の請求がきていたし、また機会が犠牲になったんだろう。

(続く)

330公安局2課5系の日常の一部:2012/05/21(月) 22:38:41 ID:xm/dFKGs0
「諸君、一旦話に耳を傾けてくれ。
ついさっき、西区に定期情報をしに行った一系から、
緊急の協力要請が届いている」

杉並次官がそう言った瞬間に、僕達は全員次官の方を向く。
次官はデスクのキーボードを叩いていくと、モニタに情報が映し出された。
写っているのはビル…立て篭もりか?

「要請はこのビルを占拠する複数の能力者の逮捕だ。
どうやら能力者の一人がビルのセキュリティを操作しているらしい。
そのお陰で一系では手に負えなくなってしまっているようだ」
「つまりはアレですか、また俺らだけでやれって事っすかそれ」
「そう言う事になるな。尚現地の近くに守谷君が既に配置についている。
人質の救出も頼みたいそうだ」

長く溜め息をつきながら肩をすくめる東雲を尻目に。
茂之は爽やかな顔のまま、真剣な顔で杉並次官に聞き始める。

「じゃあ、誰か一人はここでそれを逸らさなければいけませんね。
……というか、私しかいないのですが」
「そう言う事になるな、富野君。
頼んだぞ」
「シゲ君頑張ってー!」
「ありがとうございます、弓形さん。
私に任せてください」

弓形の激励に嬉しそうに茂之は答える。
気持ちを切り替えたのか、東雲は口を開いた。

「じゃ、優奈もこっちに残ったほうがいいだろ。
多少力になれるだろうしな。
秋雪、お前は俺が合図出したら弓形と一緒に正面から突っ込め。
人質の方は俺が向かって助け出してくる」
「分かりました、そっちは任せましたよ」
「シノさんの方も頑張ってください!」

東雲は僕達に向かってグッとサムズアップした。
東雲なら大丈夫だろう、守谷の援護もあるなら尚更だ。

「それじゃあ、現地に向かってください。
私が次官と話し合って作戦をお伝えしますので」
「「「了解」」」

僕達は部屋から出て、車に乗って現地に向かう。
今日も物騒な一日になりそうだ―――。

(完)

331(1/2)後ろ暗いキャラ設定@放火魔イベ/狗:2012/05/25(金) 22:35:33 ID:1sJsd2CgO
・放火魔イベント、セルグリア調査(推理パート)に関わるキャラクターの設定です。
 メディアや噂を通じて知っている事にしていただいて構いません。
※ちなみに全員、何がしかの罪を犯しています。
 その大小、重要度はピンキリですが犯罪者である事に変わりはありません。
 そんな後ろ暗いキャラクターたちです。

【名前】明石燐太郎
【性別】男性
【年齢】二十六歳(四十代に見える)
【種族】人間
【役職】公的記録では無職
【メディア露出】
・至る所に張り出された連続放火容疑者の手配書
・公開データベースに、上記と同様の指名手配書
・どちらの手配書にも「リン化合物を操作する能力者」と書かれている
【経歴】
元、赤羽製薬会社の研究員
能力抑制剤の研究を中心に精力的に働いていたが
およそ三年前、突然仕事を辞めると途端に行方知れずになった。
その後の目撃情報はほとんどない
だが今年の一月二十一日、赤羽製薬の会社員Kさんの自宅が放火にあった現場での目撃情報がある。
この目撃情報から連続放火容疑者に名を連ねているようだ。

―― 噂まとめ ――
だいたい半年前から緋トカゲの館に所属し、裏取引の掃除役になっているようだ。
最近は魔術の研究に凝っており怪しげな骨董品を求めては裏市場を彷徨いているようだ。
マッチ一つで燃え盛る魔物を召還し、気に食わない奴を炙り殺しているようだ。


【通称】サンドラ・ヴァーミリオン
【性別】女性
【年齢】三十代との推測
【種族】人間
【役職】緋トカゲの館 二代目当主
【メディア露出】
・商人ギルドに名を連ねる程度
【経歴】
五年ほど前、初代当主が正体不明の自然発火現象で死亡。
そこから今まで二代目を続けている。
緋トカゲの館は武器兵器を取り扱う武器商人グループではあるが、
今は二代目の意向により合法的な取引しかしないというスタンスで運営している
そのお陰か、この五年間、目立ったニュースは無い。

―― 噂まとめ ――
五年間の沈黙には裏がある
初代がやっていたような違法な兵器や魔法道具類の売買を続けているに違いない
足繁く館に通う馬鹿面した男がいるが、あいつは間違いなくクスリのバイヤーだ


【名前】不破ジュン
【性別】男性
【年齢】二十代後半
【種族】人間
【役職】自称フリーの運び屋
【メディア露出】
・無し。強いて挙げれば戸籍程度
【経歴】
運び屋の青年、見た目通りの年齢で二十代後半。
およそ三年前から緋トカゲの館に出入りしている
九割程度の成功率を誇っているが性格に難ありとの評価
精神操作の邪気眼能力持ち、だが注意を逸らす程度の弱い能力

―― 噂まとめ ――
態度が横柄なのは甘やかす奴が多いからだ、まるで言いなりにでもなってるみたいだよ
美味い話しか乗らない、九割もボロい依頼をかっさらってるだけの男だよ
フリーを名乗ってはいるが、もはや緋トカゲの館に所属してる専属の運び屋だよ
最近いつもスナックみたいなのをバリバリ食べてるね

332(2/2)後ろ暗いキャラ設定@放火魔イベ/狗:2012/05/25(金) 22:38:01 ID:1sJsd2CgO
※日戸グループ側

【名前】大葉崎遼平
【性別】男性
【年齢】三十代前半
【種族】人間
【役職】日戸グループ 人事部長
【メディア露出】
・数ヶ月前、アーケード街放火の調査で隠蔽された地下施設が発見された時からしばらくの間
・ニュース番組で『地下施設隠蔽の関係者と目される』と匿名で話題にされ、たまに流れる映像資料に顔が出る程度
・週刊誌などでは『隠された人肉缶詰め生産工場の運営者!?』と題され名前と写真付きで掲載された号がある程度
【経歴】
三年前から人事部長をつとめている。
それからおよそ二年間、人事異動や退職が相次いでいたという。
そして去年の六月頃、日戸グループ上層部の人間が行方不明である事を明らかにし、組織解体の準備を始めた。
だが今年の二月頃、日戸アーケード街の地下施設隠蔽が露呈し、組織解体を中止。
現在、各方面からの追及への対応にたった一人、忙殺されている。

―― 噂まとめ ――
「日戸が人肉を缶詰めにするのは人外狩りへの復讐らしいぜ」
「いや、人外狩りは人間を缶詰めにする日戸への復讐だったんだ」
「な、なんだってー」
 ――匿名掲示板、ジョークの一例。
行方不明の日戸グループ社長って、実はこいつに缶詰めにされてるんじゃないか? 食肉的な意味で。
日戸グループになにか個人的な恨みでもあったのかも知れないよ。


【名前】不破厳令
【性別】男性
【年齢】五十代後半
【種族】人間
【役職】元日戸グループ営業部長
【メディア露出】
・数ヶ月前、アーケード街放火の調査で隠蔽された地下施設が発見された時からしばらくの間
・ニュース番組で『地下施設隠蔽の関係者と目される』と匿名で話題にされ、たまに流れる映像資料に顔が出る程度
・週刊誌などでは『隠された人肉缶詰め生産工場の運営者!?』と題され名前と写真付きで掲載された号がある程度
・隠蔽が露呈する前に退職している事実をせっせこと突かれている印象だ
【経歴】
日戸グループ最古参。
四年程前の組織再編(調整)の影響で、肩書きの部長と課長が区別されず混同していた。
去年の六月頃、組織解体の最中に辞職。
今年の二月頃、地下施設の隠蔽が露呈してから一時期はマスコミに追われていた。
同様にこの時期に離婚している、妻がマスコミに耐えられなかったからだと彼は話している。
現在、家にはあまり帰らずビジネスホテル等での外泊が続いているようだが、それが何故なのかは不明。

―― 噂まとめ ――
この人の奥さんは三十近く年が離れた若い研究員、製薬だか生物だかの研究所に勤めていた。
外泊は珍しくなかったが連日続くようになったのは、おそらく甥の不破ジュンが揉め事を起こして泣きついてきたからだ。
クニナシ特区に土地を買ったらしい、ここ数ヶ月よく出入りしている。

333SS:「燃ゆる人形館」その後(1/2):2012/05/26(土) 15:13:33 ID:1sJsd2CgO

「聞いたよ、もう退院するんだってね。体調は良いのかい?」
「……両脚が全く動かせなくて、利き手も動かすのに不自由してんのが良好なら、そうなのかもね」
 ベッドの上で半身を起こして、こちらに鳶色の髪を向けたまま、か細い少女は淡々と応えた。
 彼女の名はコレット・フランキス。
 放火により全焼した、通称人形館の中から助け出された千夜学園高等部の……たしか一学年だったはず。

「嫌味が返せるほどに元気なのは分かったよ」
 体調が芳しくないなら、医者も退院を許可しない。
 だから聞く前から分かってはいた。

「手首のマニピュレータ、扱い心地はどうだい?」
「不自由してるって言ったでしょ、ホント腹立つ。ぜんっぜん、自由に動いてくれない」
 彼女は左手を見せるように上げて、すぐに下げた。
 施術して日は浅い、自在に扱えていないのは経験上分かっていた。
 なぜなら自分も肩に入れているからだ、関節の代用品としては鈍くて扱い辛い。

「パターンに則るだけの自動機器だからね。君が人形を操るようにはいかないんだよ」
「もう、本当に、その通り……」
 はっ、と何かに気がついたように、ようやく顔だけがこちらを振り向いた。
 一度見開いた目を細めて、眉間にシワが出来るほど眉をひそめ、有らん限りの感情を目に込めて睨んでいた。

「って、また私の事調べたでしょ! 公安だか警察だか知らないけど、刑事が勝手に人のプライバシー覗き見ないでよ!」
「だから、俺は刑事じゃなくて公安の――」
「――どっちでもいいでしょ!?」
 口を挟んだら一蹴された。
 確かに正論だ、グサリとくるものがある。
 だが、そのプライバシーに犯罪は潜むもので、公共の安全を保つ役目を担う我々は往々にしてそこへ土足で踏み入るのだ。
 もちろん、注意はしている。出来る限りの範囲で。

「……あー、それじゃあ。君のこれからの事なんだけど……」
「分かってる! クルツさんから聞いたから。刑事さん、それくらい知ってるでしょ?」
「……クルツ?」
 誰だ、そいつ。
 調査の段階でそんな名前は浮かばなかったぞ?
 あ、いや、停職中の身だから調べ損ないもあるやもしれんな。
 などと、呆けていると、馬鹿にしたような声が返ってきた。

「なぁんだ、知らない事もあるんだ。
 あんたと、お ん な じ 公安局の四係にいる女の刑事さん
 あんたと、ち が っ て 優しくて気配りの出来るいい人だよ、クルツユリカさんは」
「そ、そうか……それじゃあ、そのクルツさんはなんて?」
「どうしてあんたに教えなくちゃいけないの?」
「それは、伝達しきれていない情報もあるかもしれないからさ」
 主に自分に伝わっていない事柄だが。
 ここに来る前に、周辺を警備していた局の下っ端らしいヤツと、たまたま意気投合して。
 親切にも近況だかなんだかの話をしてくれたお陰で、事情は粗方分かったつもりだったが……コンニャロウ、欠片も口にしやがらなかった。
 四係のクルツユリカ、まさか同じ課内にそんなヤツがいたなんてなぁ……。

「これから先、学園の寮生活になるから、身の回りの警備とか訪問とかについていろいろ」
「……それだけ?」
 そこは聞いたから知っている。
 他に何か、部下に黙っておくような、その何かは……。
「特に言われたのは、それだけ。後はもうどうでもいいでしょ」

 ――よくない。
 そこが聞きたい、その情報が重要かもしれない。
 特にこの件はお互いに……もう、既にどうでもいいと言えない所まで関わっているのだから。
 コレットがそれを自覚しているかどうかは抜きにして、俺はそれを知っている。

「どうでもよくないって、もしかすると大事な情報がすっぽ抜けてるかも知れないんだぞ」

「……うるさいな」
 様子が変わった。
 シワが寄るほどシーツを握りしめ、身体ごとこちらを向いて噛みつくように怒鳴り始めた。

「いちいちウルサイんだよ、情報、情報、情報、情報って!
 私はデータなんかじゃない!そんな過不足なんて些細な問題!
 あんたは私の個人情報ならなんでも知ってるかもね。
 でも、私自身の好みが分かった?分からなかったでしょう!?
 あんたが持ってきたミステリー小説、あれ以外何も無かったから読んだけど……。
 本当はあんなの大っ嫌い!
 どうせならホラー、いいやファンタジーのほうが何倍もマシだった!」
 充血した両目に、カチカチと音をたてる歯。
 落ち着きの無い腕の挙動と、時折、洟をすするような水っぽい音。
 どう見ても普通じゃなかった、一体何が、どうして、なぜ、彼女を――コレットをそうさせているのか、分からなかった。

334SS:「燃ゆる人形館」その後(2/2):2012/05/26(土) 15:16:41 ID:1sJsd2CgO
>>333

「ああ、ごめん、悪かったから。でも静かにしないと、ここ一応病院だし」
 なだめるように、とりあえずそう言う事しか出来なかった。
 ……ほかにどうしろと?

「……なら、帰って」
「え? かえ……え?」
 心を読まれたと思った。
 だが、そんな考えは妄想だ。
 なぜならコレットは思考を読み取る能力者では無いからだ。
 後に続く言葉は、それが偶然である事を示していた。

「ここから出てって!
 あんたが、いま、すぐに!
 そしたら静かにしてあげる、じゃないと呼ぶよ?看護士さん。
 あることないこと訴えて、無理矢理にでも消えて貰うよ?」
 ここまで言われれば、馬鹿でも分かる。
 俺は彼女を怒らせたんだな、と。



 逃げるように病室を飛び出た八代真人は、通りかかった看護士の怪訝な視線を背中に強く感じながら待合室ロビーまで歩いた。
 いまごろどんなに酷く言われているだろうか、もう少し言葉を選べなかったのか。
 頭に浮かぶ気になる点はすべからく自分の事だけだ、怒らせた少女の事はついでのようだ。
 少し、嫌になった。
 向こうが透けて見える自動ドアをつっかかりながら抜けて外に出る。

「……病院、か」
 コレットの通院記録を見ると、本当に小さい頃から病気がちで事ある毎に通院していた事が窺えた。
 それは次第に数を減らしながらも定期的に、千夜学園中等部卒業頃まで続いて高等部に入る頃にはほとんど無くなっている。
 それどころか、小さい頃からずっと通っていた病院自体が無くなっていた。

 『梧総合病院』

 今からおよそ一年前、医院長であるアオギリ氏の死亡に伴い廃業した個人運営の病院だ。
 崩壊したアゼル連合国と麻薬をやり取りしていた寺打海産の社長に、取引現場で撃ち殺されるという最期だったらしい。
 半年の捜査で麻薬取引とアオギリ氏の関係性は無い、と判断されたようだ。
 逆に麻薬取引をせっせと行っていた寺打海産の社長はというと、死んだ。
 同様に取引現場で受けた銃創が致命傷だったようだ。
 果たして何があったか、その事実は朧気でうまく掴めない。

 数ヶ月前、赤羽製薬会社の社長が殺された。
 この社長は、アカハネ会という医療関連グループの会長であり、寺打海産と同じく鮫嶋商会に所属していた。

 そして最近、ジェームズ・フランキスが放火によって死亡し、彼の一人娘であるコレット・フランキスが救出された。
 放火魔の仕業、と言われているがこの八件目以外、ただの一人も火災による死者は出ていない。
 これが幸運ではなく、何者かの作意だとしたら?
 半ば事故のような狂人の犯行に見せかけた、殺害計画だとしたら?

 つまり例えば……
 コレット・フランキスも殺すつもりでいたのだとしたら?

 そう仮定すると、一年前の事件も、数ヶ月前の殺人も、放火魔騒ぎも。
 まるで『何か』に関わった者を始末するかのような構図が、この少女という一欠片を嵌める事で全体として完成するのでは?
 だが、同様にそれだけでは足りないのだとも感じる――何が足りない?

「……情報だ」
 そう呟いて、踵を返すと、八代真人は一目散に病院を背に駆け出した。
 怒り心頭な看護士が視界に映ったような気がしたからだ。
 なにかあの看護士は勘違いしてるな、と頭の片隅で思いつつ全力で退散するのであった。


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