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ナイトウィザードクロスSS避難スレ
1
:
名無しさん
:2009/06/11(木) 21:08:07 ID:nE8Xn4WE0
本スレが荒らしの爆撃により埋め立てられる被害に遭ったので、
ここに避難所を立てることにしました。
本スレ
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.22
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1244709104/
2
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 13:08:23 ID:tO3oGUZw0
早速また荒らされてる……
3
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 13:18:12 ID:usgeEazUO
避難先はここでいいんですよね?
本スレ、何故あそこまでして潰されなければならないのでしょうか、って感じなのですが……
4
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 13:36:55 ID:/GNbK37U0
本スレは新しくスレつくるんですか?
それともしばらくはつくらずにこっちだけにしますか?
5
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 13:39:40 ID:tO3oGUZw0
しばらく様子見た方がいいんじゃねえかな。
運営も何回かあれ焼いてるっぽいがさっぱり収まらんし。
6
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 13:54:00 ID:1WQ1Zw2QO
新しいスレ立てられちゃったみたいだがな
あれ以上はまた埋め立てで鯖の負担にもなるだろうしこっち進行でいいでしょうさ
7
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:02:03 ID:Ek0PBT9YO
立てられたものを冥魔の餌だけにするのももったいないので、誘導レスだけ貼っておきました。
誘導だけなら構わんよな?
8
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:06:03 ID:/GNbK37U0
さらにたてられた新しいスレも早速荒らされているな
9
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:11:40 ID:bQr3H3U.0
>>7
乙。新スレ、冥魔が早速目をつけてて笑った。なんという暇人。
何はともあれ夜ねこさん、トラブルデイズの人、投稿お疲れ様です。
こんな状況ですが、次回も楽しみにしてます。
10
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:15:58 ID:/GNbK37U0
こうなったら根比べやりたくなってきた
500K行くたびに新スレたててやろうか
11
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:18:00 ID:1WQ1Zw2QO
>>7
乙
19スレあたりで
「あー、次は20の大台だねー」なんて話を振ろうと思ってた矢先の出来事だったり。
思えば遠くまできたもんだね
12
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:40:34 ID:eO51g6zY0
>>10
馬鹿な真似すんな
ジャームに対抗して自分までジャーム化してどうする
13
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:48:49 ID:1WQ1Zw2QO
っていうかそれは単なる荒らし行為だよ
実際やってる人いるみたいだけど、他の人の迷惑になるだけなんでやめてください
14
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 14:53:02 ID:/GNbK37U0
了解です
15
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 16:49:43 ID:531CZOXQ0
保管庫の中の人、避難所移行を確認しました。
こういうところでも専ブラって使えるんですね。
16
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 17:29:10 ID:/GNbK37U0
本スレに荒らしが出なくなったと思ったら別のとこに出てた
しかも避難所を持ってないSSスレに
被害が大きくなるところを狙って荒らしてやがる
17
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 18:41:26 ID:Ek0PBT9YO
どうやら守護者代行による冥魔一掃作戦が実行されたらしい。
レス数二桁に戻ったスレが点在してて笑った。
ところで、余裕のできた今までのスレどうする?
18
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 18:42:01 ID:D0ckxdRE0
アレはアニキャラ総合に移されて不満を持っている住人が
もう一度アニメサロンexに追い出してもらう(戻してもらう)ための
テロだから被害者(運営に文句を言うもの)が居ないと意味がない。
・・・らしい。 最萌なんて見たこともないから自治スレから読み取った情報だが
19
:
17
:2009/06/12(金) 18:49:02 ID:Ek0PBT9YO
と思ったら見間違いだった。
すまん、最近疲れて幻覚が見えたようだ。今日は早よ寝よ…
20
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 19:51:05 ID:eO51g6zY0
>>18
適当なこと言ってんじゃねぇよとだけ言っておく
つか「ろくに見たこともない」ってなら悟ったようなこと語るな
21
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 20:25:15 ID:HC6gJzCU0
まぁゆっくり作品が読めれば、荒らしの動機なんてどうでもいい。
ゼロ魔IFスレの人々もこっち来たみたいだが、
ゼロ魔と聞いて真っ先にボン太君BEが浮かんでしまう辺りもう学園世界末期患者な俺orz
22
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 20:25:18 ID:hvaWAXGY0
単に「荒らせば追い出せる」と勘違いしている馬鹿だろ。
他のスレを荒らすのだって「最萌スレがあるからこうなるんだ」と板住民に思わせたいだけの猿知恵だしな。
23
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 20:42:09 ID:7KHcBELM0
>>22
最萌は別に板のルールに背いてるわけでもなんでもないしね。
ともあれ管理人氏GJでした。
24
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 21:29:20 ID:jD25lqpY0
ここにもスレがどんどんたっていくんだろうか…。
俺、ああいう荒らし見てると怒っていいか悲しんでいいかわからなくなってくるんだよ。
>>21
俺は両方に書き込んでいるが、
るいともサイト君にぼん太君BE着てほしいと思うことがあるんだぜ。
(下がる男コスしていたこともあるもんで)
似たような穴のムジナさ。
25
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 21:39:27 ID:1WQ1Zw2QO
現状立ってるのも2、3日放置して様子見。その間こっちで通常営業ってことでOK?
……って言っても、投下がない以上話すこともないか。
26
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 21:52:48 ID:leMSkrKk0
なら、投下されたけど感想かくヒマもなく埋められた作品について語るとか。
つーか俺もこれから発掘して読んでくる
27
:
◆lwdnNJFGXE
:2009/06/12(金) 22:12:58 ID:T6K7UVaE0
唐突にすみません
NW関係スレの過去ログ保管庫の中の人です。
こちらに避難されたとのことで、
ご質問がありましたので書き込ませていただきます。
現状今までの過去ログは全て保存してありますが、
荒らしが始まってからの過去ログについて荒らしのレス削除して保管したほうが良いか
それともありのまま保存するのが良いか?
保管してある過去ログにあるこちらの避難所のアドレスを伏せたほうが良いか?
の2点です。
ご意見をお聞かせいただければ幸いです。
28
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 22:18:56 ID:alDfhbD20
荒らしのレスは削除した方がいいんじゃないかな。
アドレスを伏せる必要は無いと思う。
29
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 22:21:22 ID:hvaWAXGY0
過去ログに関しては荒らしのレスはばっさり削除する方向で。
ただの埋め立てに容量を割く必要もないからな。
URLに関しては伏せなくてもいいんじゃないか?
根拠は他のSS避難所まで来るような荒らしではないことと、
こっちなら荒らしが来ても比較的容易に対処できるからの二つの点で
30
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 22:39:17 ID:1WQ1Zw2QO
>>27
削除をお願いします
>>26
掘り終わったら語ろうぜ。俺も掘ってくるわ
31
:
俺用リダイレクト
:2009/06/12(金) 23:10:47 ID:alDfhbD20
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.21
学園世界@闇より出でて光の中へ
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1244627649/12-16
嘘予告 〜悪夢を紡ぐもの〜
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1244627649/23-32
執行委員の奔走
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1244627649/36-60
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.22
とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1244709104/28-69
32
:
27@保管庫の中の人
◆lwdnNJFGXE
:2009/06/12(金) 23:21:03 ID:T6K7UVaE0
突然の質問に対し
ご回答頂きありがとうございます。
とりあえずクロスSSスレの過去ログ
19〜22にありました埋立荒らしのものと思われるレスを全て削除完了いたしました。
33
:
名無しさん
:2009/06/12(金) 23:22:01 ID:hvaWAXGY0
>32
乙です乙です
34
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 00:43:28 ID:D0ckxdRE0
本スレ、重複で新スレ立てたから埋め立て荒らしが
スレ23を46KBだけ放ったらかしたまま 24 を埋めだしたじゃないか。
スレ住人としてはここよりも 23 を先に使わないとな
35
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 01:10:33 ID:alDfhbD20
埋め荒らしがすぐ近くに居るのが分かってて通常どおりも無いもんだと思うが
36
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 08:55:27 ID:1WQ1Zw2QO
投下ないからヒマだにゃー
投下っていえば規制引っかかって携帯投下してる例の人が思い出されるけど、
荒らしが消え去った後に代理投下用のスレとかあった方がいいと思う?
37
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 10:07:36 ID:XpXa8woQ0
規制で投下したくてもできない人が出てくるようになってから考えても遅くないような気がする
38
:
魔人と陰は絡み合う
:2009/06/13(土) 11:12:09 ID:UxCopa8M0
15分から、投下します。
39
:
魔人と陰は絡み合う@学園世界
:2009/06/13(土) 11:14:27 ID:UxCopa8M0
「死ねやおらぁ!」
怒号と共に振り下ろされる、力任せの拳。
技も何も無いが、悪魔の膂力と速度でもって凶器と化したそれが、回避不能な速度でライズに迫る。
「…っく!」
とっさにライズは剣を我が身とその拳の間に滑り込ませ、後ろへと飛ぶ。
軽く浮いた身体に、拳の衝撃と加速度が加わり、殺人的な速度でもって寮の壁へと叩きつけられる。
「…っくう…」
受け身には成功したものの、それでも逃がし切れなかった衝撃に、ライズは歯を食いしばる。
「大丈夫ですか!?ライズさん!」
「問題無いわ!」
一瞬だけ後ろを向いた一狼に怒鳴り返し、ライズは自らの剣を己の前に掲げ、刃を確認する。
「…あれで折れないなんてね」
冒険者向けの荒い運用に耐えられるよう幾多の強化魔法が施された、異世界製の細剣の丈夫さに感心しつつ、ライズは立ちあがる。
息を吸いこみ、止めてまっすぐに駆ける。
「―――プレシズ・ヘル!」
駆けた勢いを乗せて、ライズは一狼に向いた魔人の背に対して必殺の技を繰り出す。
「ぐお!?」
繰り出される連撃が流れるように魔人たるチャーリーの身体に傷を刻みこむ。
「はぁぁぁぁぁ!殺人舞!」
その一撃に気を取られた一瞬を、一狼もまた見逃さず、自らの大技を繰り出す。
前と後ろ、その両方に、無数の傷が刻まれた。だが。
「くそったれが!痛てえだろうが!」
並みの悪魔ならとうに力尽きている一撃を受けてなお、チャーリーの命は尽きない。
「邪魔くせえ!」
力任せに拳を振りまわして2人を牽制しつつ、体内の魔力を練り上げる。
「燃えちまえ…マハラギダイン!」
言葉と共に魔界の炎が辺りを赤く染め上げる。
かつて、狐の悪魔に憑かれた少女が放った爆炎にも勝るとも劣らぬ炎の渦が、2人を焦がそうと襲いかかる。
「…ジャベリン」
だが、その炎が2人に到達する直前、空中のシルフィードの上で様子をうかがっていたタバサの作り出した特大の氷の塊が地面に突き刺さる。
2人はそれを見て即座に意味を理解し、その氷の塊にその身を滑り込ませ、盾代わりにする。
「なんだと!?」
回り込んできた炎が身を焼くものの、その程度では、高い魔法防御を誇る呪錬制服を着こんだ戦士2人を倒すには程遠い。
「ちぃ!」
舌うちし、炎が消えると同時に襲い来る2人の剣をかわす。
「なんて奴らだ…」
思わず漏らしたその言葉には、わずかながら恐怖が宿っていた。
(それは、こちらの台詞だわ)
剣を構えながら、ライズは表情に出さず考える。
この相手…目の前の魔人には技術も、経験も足りていない。だが、それを補って余りある"力"がある。
筋力、体力、反応速度、そして魔力…どれを取ってもこの場にいる誰よりも強い。
まさに人間とは一線を画す、"化け物"と呼ぶに相応しい存在。
それが、ライズたちが3人と1匹掛かりで挑んでようやく対等と言える、魔人と言う存在だった。
相手に与えたダメージは既に相当なものとなっている。だが、こちら側に蓄積した疲労とダメージも既に限界近い。
(そろそろ、決着をつける必要があるわね…)
このまま戦い続ければ、潰される可能性がある。そうなる前に倒さなければならない。そう判断したライズが構えた、その瞬間だった。
「…ライズさん、撤退です」
囁くような、一狼の声がライズの耳に届く。
(…撤退?)
その言葉の意味を飲み込めず、ライズが怪訝そうに一狼の方を見た、その瞬間だった。
―――お隣は
関係ないけど
400年
朗々と、よく通る声が辺りに響いたのは。
40
:
魔人と陰は絡み合う@学園世界
:2009/06/13(土) 11:15:33 ID:UxCopa8M0
「あぁ?なにも…は?」
その声に反応し、その声のした方向、近くに立つ寮の1つの屋根を見たチャーリーが間抜けな声を上げる。
そこに立っていたのは、1人の少年。堂々と、見せつけるように腕を組み、屋根の上に立った細い避雷針の上でチャーリーを見下ろしている。
だが、チャーリーが驚いたのは、その少年の格好。
少年はひたすらに黒づくめだった。彼を目撃した悪魔がことごとく"黒い男"と呼んだのも頷けるほどに。
黒い道着とその下に着こんだ黒い鎖かたびら。黒い脚絆が巻かれた、黒いズボン。足もとにはこれまた黒い足袋と黒く塗られた草鞋。
背中には黒い鞘におさめられた忍者刀を背負い、その指にはこれまた黒光りする手裏剣が挟まれている。
そして、とどめとばかりに黒い覆面を顔に巻いた、その少年。
戦国の世の夜闇の中ならいざ知らず、この学園世界の真昼間と言う条件では、あまりにも目立つ、ステレオタイプなその姿。
"日本人"ならば99%くらいの確率でその正体を見抜くであろう、その姿。
「黒い男っつうか…まんま"忍者"じゃねえか!?って言うかマジでなにもんだてめえ!?」
ご多分にもれず一発でその正体を見抜いたチャーリーが思わず突っ込みを入れる。
「…なにものか、か…」
その突っ込みを物ともせず、少年が少しだけ目を細める。そして…
「陰に名などないっ!」
言った。言いきった。そりゃあもうはっきりと。
「何で自信たっぷり何だよ!?って言うか少しは忍べよ忍者野郎!?」
チャーリーのもっともと言えばもっともな突っ込みに、少年はふっと表情を緩める。
「…あいにくだけど、必要があれば"忍ばない"のも"うち"のやり方だ」
「…なんだと?」
その少年の言葉に、チャーリーはハッと気づいた。その少年の狙いに。
「…いねえ!?」
辺りを見回して、気づく。いつの間にかその場にはチャーリーと少年…"たった2人"しかいないことに。
「こうして目立って、相手の注意をそらすのも、お隣さんを守るのには必要な忍術。それが僕のうちでの教えでね」
いつの間にか地面に降り立った少年がチャーリーを見据えて、言う。
「…そうか。てめえが…」
目の前に立たれて、少年の放つ気配の強さで、悟る。この少年は…強い。この場に"1人で"残ろうと考えられるほどに。
そうなれば、この少年の正体は、1つしかない。
「…カゲモリ。あいつらの…」
「隊長だよ。一応、だけどね」
背中に背負った忍者刀をさらりと抜いて少年…カゲモリの隊長、陰守マモルは戦いの構えを取った。
41
:
魔人と陰は絡み合う@学園世界
:2009/06/13(土) 11:18:09 ID:UxCopa8M0
―――佐藤
ワォォォォン!
佐藤の遠吠えを切っ掛けにに、前衛の3体が攻撃を開始する。
バサッ!
ジャターユがその場で羽ばたきを繰り返す。その羽が旋風を巻き起こし風の刃が玲子たちを襲う。
ギャオオオオオオオオ!
ミズチが咆哮を上げ、その尻尾を振り下ろす。巨体から繰り出される一撃は、玲子たち人間の体などたやすく砕く威力を秘めている。
「行きますよ…ヒートウェイブ!」
パワーが気合と共に、卓越した天使の剣技を繰り出す。その鋭い一撃が正確に玲子を狙う。
だが。
「届かせません。私がいる限りは〜」
玲子にはそれを阻む、絶大なる"壁"がいる。壁…ガーディアンである桜花を倒すには、その攻撃はあまりにも貧弱。
人魂で風を焼き払い、ミズチの尾とパワーの剣を霊体の手で受け止める。
「…今ですよ〜玲子!」
「はい!」
桜花の声に反応し、玲子は魔法を完成させる。
「…マハラギオン!」
渦巻く炎が玲子と桜花を除く悪魔たちを飲み込み、荒れ狂う。
「…やはり、前よりパワーアップしてるな」
炎をその身に受けながら、佐藤が冷静に呟く。
ケルベロスの相性は、『火炎吸収』
そのケルベロスの力を引き継いだ佐藤に炎は意味をなさない。
だが、その炎は他のもの…佐藤の配下たる悪魔たちには十分な攻撃となっていた。
「くっ…やはり少々、答えますね…」
炎に巻かれ、焼かれる痛みに顔をしかめながら、パワーが呟く。
他の悪魔たちもかなりのダメージを受けている。いくら佐藤が無傷だと言っても部下たちが倒されては意味がない。
「…バステト、頼む」
佐藤は冷静に傍らに立つ、猫の顔を持つ女神に命令を下す。バステトは頷き、魔法を唱えた。
―――メディラマ
ユミには遠く及ばないものの、それでも強力な癒しの魔法が、悪魔たちの傷を癒していく。
「…セルケト」
その様子に満足し、佐藤は同じく傍らに控える、蠍の魔獣に次の指示をだす。
―――ラクンダ
「…っくう!?やりますね〜」
自らのプラーナの守りが削られる感覚に、桜花が顔をしかめる。
「…言っただろ?次に戦うときは、サマナーとしての力を見せるってね」
ワォォォォォン!
佐藤が再び吠え声を上げると同時に、回復と桜花の弱体を受けて勢いづいた前衛の2体が攻撃を仕掛ける。
「きゃあ!?」
攻撃手段は先ほどと同じ、だが、今度は桜花は無視できないほどのダメージを受ける。
「何で…」
苦痛を受け、桜花は考える。
おかしい。いくらラクンダを受けたとは言え、受けるダメージがあまりにも多い。
明らかに攻撃の威力が上がって…
「…パワーブレス!?」
からくりに気づいた桜花が驚愕の叫びを上げる。それに佐藤はにやりと笑って、答える。
「…正解だよ。僕が何の意味も無しに遠吠えをしてたとでも思ってのかい?」
パワーブレス。攻撃力と攻撃の命中率を上げる、ケルベロスのエクストラ。
「僕だけじゃない。パワーブレスの効果は"味方全体"…僕の仲魔たちにも及ぶ」
2度にわたる強化と、桜花たちの防御力の低下。2つの相乗効果は、桜花の絶大な防御力と言うアドバンテージを奪っていた。
「それと…ミズチ。壁を張れ」
更にダメ押しをするべく、佐藤は先ほど攻撃に参加しなかった竜の王に命令を下す。
ギャオン!
ミズチが一声鳴いた瞬間、地面から大量の水が噴き出して佐藤とその仲魔たちを包む。
「さて、これで玲子さんのマハラギオン…炎は僕らには効かなくなった…」
勝つための方策は充分に終えたとばかりに佐藤…この中で最高の攻撃力を持つケルベロスの魔人が悠然と前に踏み出す。
「…チェックメイト。諦めて、僕らについてきてくれ」
殺気を放ちながら、佐藤は一応降伏を迫る。
「…くぅ」
玲子が唇をかみしめる。
玲子には痛いほど分かっていた。このままでは勝つどころか"持ちこたえられる"かも怪しい。
「…玲子」
不安と恐怖で折れそうになる玲子に、桜花はそっと声をかける。
桜花とて怖くないわけではない。冷静に戦力差と逃げられるかを考えれば今の自分たちが絶望的かは分かっている。だが。
「…諦めないで。信じてください。私と…あの人たちを〜」
それでも、まだ負けは確定していない。
「…分かっています。もう少しだけなら、私も頑張れる。だから…」
ディアラマ…癒しの魔法を桜花に掛けながら、佐藤の方を向く。
「言ったはずです。殺されたって、最後まで戦います。私も…桜花さんも」
はっきりと口にする。
「…桜花さん、最後まで」
「付き合わないって選択肢は最初からありませんよ〜。私は…」
―――玲子のガーディアンなんですから。
にっこりとほほ笑んで桜花は玲子に告げた。
42
:
魔人と陰は絡み合う@学園世界
:2009/06/13(土) 11:19:36 ID:UxCopa8M0
そこからは、酷く一方的な戦いとなった。
佐藤、パワー、ジャターユの攻撃とミズチの水の壁に手も足も出ず、為す術なく桜花はダメージを受け続ける。
「くぅ!?分かってましたけど、痛いですね〜」
何度目になるかも分からない玲子のディアラマによる回復を受けながら、桜花が呟く。
「―――もう、諦めたらどうだい?そろそろだろう?」
そんな様子を見ながら、佐藤が顔をしかめて玲子に言う。
「…そろそろ?」
「…桜花さん、すみません」
佐藤の指摘に顔を歪めた玲子が、桜花に告げる。
「魔力が、ぎりぎりです。多分、使えてあと1回」
魔力とて、無限ではない。使い続ければ、いずれ尽きる。
「…そうですか〜」
ふっと息を吐き、桜花は空を見上げ…ほほ笑む。
「…玲子〜」
「分かっています」
流石は自分が護る存在。玲子の方も気づいたらしい。
「いいでしょう。最後の賭けって奴です〜」
そのまま佐藤に指を突き付けて、桜花が言う。
「次で決着をつけます。玲子、最後の切り札って奴を、佐藤君に見せてあげてください」
「そのつもりです」
不敵に笑う。
「…いいだろう。本気で行かせてもらう!」
その言葉に何かを感じ取ったのだろう、佐藤もまた、全力で応じる。
「全員、攻撃だ!」
佐藤の号令を受けて、5体の佐藤の仲魔が初めて全員攻撃に転ずる。
バサァ!
最初に動いたのはジャターユ。その羽ばたきによって生み出された衝撃波を桜花にぶつける。
―――マハザンマ!
それに合わせるようにバステトが衝撃波を生み出す魔法を唱える。
2つの衝撃が合わさって、玲子を守る桜花のプラーナを容赦なく削り取っていく。
ピシュ!
セルケトが鋭い針を桜花に向けて飛ばす。強化を受けて並みの銃弾を遙かに超える威力となったその針が桜花へとつき刺さる。
「…ぐぅ!?」
その針に込められた、呪いにも似た魔獣の毒で、桜花の動きが鈍る。
ギャオオオオオ!
その瞬間を見逃さず、ミズチが全身で体当たりをかましてくる。
巨体から生み出される、大きな力に吹き飛ばされないよう、桜花はプラーナを振り絞り、その場に立ち続ける。
そして…。
「とどめです。倉沢、桜花!」
天使が自慢の剣を振りかざし、剣技を繰り出す。
「ヒートウェイブ!」
4度に渡る連撃で、既にボロボロになった桜花にそれをどうにかする力は残っていなかった。
「…ごめんなさい〜」
「いいえ。ありがとうございました」
ついに力尽き、くずおれた桜花に、玲子は礼を言う。桜花が必死に守ってくれた。そのおかげで、最後の手が打てる。
「これで、君を守るものはいなくなった!これで…オワリダァー!」
いい知れぬ高揚感を感じながら、佐藤…否、魔人ケルベロスが玲子を倒すべく、攻撃へと転ずる。
まっすぐな、だが玲子では避けきれないほどの素早さを持つ攻撃。だが、玲子はそれを恐れない。
―――確かに速いけど、軌道が単純。常にまっすぐ、確実に玲子が死ぬ軌道しか取らないから、予測は容易
銃を構える。正面から突っ込んでくる佐藤に対して。狙うのはもちろん…
―――腹。一番動きが少なくて、警戒もうすい、そして多少それてもどっかには当たる“当てやすい場所”だ
佐藤の中心とでも言うべき腹をとらえ、一息に16発を撃ち尽す。
「グォ!?」
結果は腹に6発、胸に2発、左足に2発に右足に1発。後は外れ。だが、それで問題は無い。
動きを止めるための護身用に、そこまでの期待はしていない。
佐藤の動きが少し…“魔法一発分”止まればそれで良い。
そして。
「…マハラギオン!」
玲子は最後の一手。自らの残りの魔力を全て注ぎ込んだ、全力の魔法を放つ。
「馬鹿ダナ…僕二、炎ハキカナイ!」
燃え盛る炎に視界を覆われて、ケルベロスは哄笑する。ケルベロスにとって、炎は糧。
炎では決してケルベロスは倒せない。
「最後ノ賭ケハ…」
その言葉を続けようとした瞬間…
“佐藤の負け”は、確定した。
43
:
魔人と陰は絡み合う@学園世界
:2009/06/13(土) 11:20:16 ID:UxCopa8M0
今日はここまで。
…通常掲示板だと連投規制とか無いんですかね?
44
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 13:58:58 ID:531CZOXQ0
したらばのヘルプを見る限り、色々と設定できるみたい。
なので、この辺はBBS管理人さんの告知を待つしかないだろうね。要望スレあたりもチェックしておけば良さそう。
ちなみに1レスあたりの最大文字数もカスタマイズできるみたいだけど、
このカスタマイズ上限は4096文字らしい。
45
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 14:11:48 ID:531CZOXQ0
……む。ここの設定だと日付変わってもID変わんないのか。
アクションシーンは面白いっすねぇ。
全てを投げ出して、自分のSSにもアクション要素を取り入れてみようかしら。
ですが何故でしょう?
激しいアクションシーンのはずなのに、桜花さんセリフが出るたびに、ほのぼのな気分になる(笑)
46
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 14:31:01 ID:7KHcBELM0
>>43
GJ!きっちり伏線を使ってきましたね。
コレでどういうラストに持って行くのか、期待してますw
>>45
>激しいアクションシーンのはずなのに、桜花さんセリフが出るたびに、ほのぼのな気分になる(笑)
俺がいたww
何故だろう。桜花さん出るたびになんか(*´∀`)←こんな顔にww
47
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 15:53:33 ID:D0ckxdRE0
GJ
>>44
1スレあたりの上限も設定可能らしいね。
なのは地下避難所は1000レス上限、容量上限なしになってる。
48
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 16:04:42 ID:531CZOXQ0
. …… .
/ \
. ′ ' .
/ '. 【最近、管理人とだけ言われても3人くらいいるということに
' 気づいたクロスSS保管庫Wiki管理人からの保管のお知らせ】
f^\ { -- ー } ,/^}
'.ヽ ヽ! ___ i// .'
',{^ 〈こ>ー-ァ―-rrァー‐ァ=;斗--- 、_〉} ; 通常クロス作品
; {: : : : /j:{ ≦ヘ|:|{: f! {≧, j ∧ : : :〉' .' ●闇より出でて光の中へ
ヽ, j: : : ∧,}:}tッ-、j:jハ:|}.:f-tッ;{:{ァ}: : : './
^|: : : Ⅵ7f¨¨'´j/, ヘ'..:{`¨f「}∨.: : : } 学園世界
}: : : : "/ ,/ { } '.:ヽ、 j: : : : : / ●繰り返されるウォークライ
_」: : : : : :' ノ i ! ヽ、:V: : : : :*鼻 譙惘狎こΔ寮錣ぁ碧眇盛鎚圈� #05-05 #05-06
rー≦__':. : : : : 廴_ノ} ' `{: : : : : :|ヽ, ●少女達の憂鬱
`ヽ、 ___j: : : : : rー<`¨こ¨´ ,/j : : : : : j > ●悪夢を紡ぐもの 嘘予告
.ィ^} : : : : ヽ,_,ヽ __ .イ^ー': : : : : :〈ー'´ ●『執行委員の〜』シリーズ #06
/ {: : : : : r-一'´ ト、_/: :/: : : :丿 ●とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)#07
/ ヽ、: : :ヽO_,ィL ヽ;__;/ー-イ^ヽ
/`ヽ, \;_辷≧;イヽ ′}ミニ彡{ `ヽ、 その他
,. '´ ヽ ヽ,ヽOー ー/丶==,/ `ヽ、 ●学園紹介ページ
,. '´ '. \\f^}: : : : : '. \
49
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 16:06:36 ID:531CZOXQ0
おや、なんか文字化けしてる
●学園世界の戦い(魔神皇編) #05-05 #05-06
50
:
管理人★
:2009/06/13(土) 16:21:50 ID:???0
投稿制限についてですが、以下の通りになってます。
投稿本文の最大文字数:4096
投稿本文の最大行数:100
名前の最大文字数:64
メールの最大文字数:64
サブジェクトの最大文字数:64
1スレッドの最大レス数:1000
51
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 17:20:48 ID:531CZOXQ0
>>50
乙。
保管庫の方にも転載しておきます。
52
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 19:07:36 ID:1WQ1Zw2QO
>>48
乙〜。
携帯だとなんのAAなのかわからんのが悲しい……。
53
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 21:00:37 ID:D0ckxdRE0
埋め立て荒らしが規制されたから
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.23
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1244781800/l50
に戻るか、埋めきるかしたほうがいいんじゃないか?
eoが全鯖規制されたらしい
54
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 22:38:16 ID:bU51vXLM0
>>53
職人の中にも巻き込み受けた人が居るだろうし、一月ぐらいこっちで過ごしてからでも良いと思う。
55
:
名無しさん
:2009/06/13(土) 23:06:59 ID:1WQ1Zw2QO
この板の管理人さんにあんまり面倒かけるわけにもいかないし
とりあえずなんとか残ったスレ埋めて、新しくスレをアニ総に立て直した方がいいと思うに一票。
圧縮も待ちたいけどな。向こうの板住人には「追い詰められてスレ乱立させた荒らし予備軍」扱いされてるかもしれんし
もしもこの案が通るようだったら、このスレは代理投下とかに使ったりしつつ保守、規制解除に備えるって形がいいんじゃないかなと思ったり。
56
:
名無しさん
:2009/06/14(日) 00:15:56 ID:ESYS819s0
後、雑談用とか。
57
:
名無しさん
:2009/06/15(月) 12:49:47 ID:531CZOXQ0
投下はこっちになるのかな
58
:
名無しさん
:2009/06/15(月) 13:05:17 ID:1WQ1Zw2QO
向こう38kだから、25kくらいなら向こうで。
今は通常営業なんで向こうだけど35以上ならこっちでいいと思うよー
59
:
名無しさん
:2009/06/16(火) 23:46:10 ID:FYChVkmQ0
雑談ついでというか、延々と規制をくらったままなのでこちらで
「蘇りし友、来たり」を聞いててふと思ったのだけど
リオンの持っている本が予言書のような扱いになりやすいのだけども
本来の予言担当であるイコ=スーとの区別ってどうやればいいのだろうと
60
:
名無しさん
:2009/06/17(水) 06:30:13 ID:PRojhYpo0
>>59
リオンの本の能力はあくまでも秘密でなければいけないと出てこないんじゃないんだろうか、元ネタ的にも(元ネタのダンタリオンは相手の思考を読む事で秘密を知る)。だからアニメ本編の希望の宝玉のように無理やりその秘密を変化させられる様な事態までは予測しきれないんじゃないかな。
それとイコ=スーの予言は聞いた相手の思考を予言に依存させてしまう、すなわち予言そのものはあっているけど後にミスリードに導く予言って言う設定になっている。ある意味詐欺師、兎だけに。だけどそのミスリードにしようとする思考事態が秘密なのだからリオンならそれを看破できるんじゃないかな。ただしリオンは聞かないと答えてくれないのでうまく住み分けはできているんじゃないかと。
今度は本来の詐欺師ポジションであるカミーユとかち合いそうだけどイコ=スーの場合はあくまでも予言によるミスリードであるという部分から区別をつければいいんじゃないかな。
61
:
名無しさん
:2009/06/17(水) 10:57:18 ID:MsA6IV6I0
ドラマCDの方は聞いてないんで最近のリオン様の扱いがどうなっとるのかわからんが
リオン様の”予言”ってぇのは「事をやらかそうとしてる対象の目的とかやり方」という秘密を読み取って事件に巻き込まれる対象の秘密とかと総合して立てる”予測”に近い気がする
「○○がここで△△になるのも、この書物に書いてある通り」って決め台詞は、本当にそのまま書いてあるというよりも事件関係者の秘密から考えればこういう展開になるよねー的なことだと思う
62
:
装填完了
:2009/06/17(水) 23:47:06 ID:MokMbNo.0
規制中のため、代理投下願います。
よろしくお願いします―――。
63
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:49:10 ID:MokMbNo.0
***
昼下がりの公園。
ハヤテは手作りのサンドウィッチを籐のお弁当箱に入れ、来てみたのだったが。
「……誰も、いませんね」
「このへんは公園で遊ぶ年頃の子どもの少ない区画らしいからな」
「えっ……お嬢さま、ご存知だったんですかっ!? だったらなんで―――」
「そいつはあんまり色んな奴に顔バレしちゃマズいんだろ? だったら人の少ないところの方がいいだろうと思ったんだよ」
ハヤテの隣にいたナギが、ハヤテの手を掴んで目をキラキラ輝かせている子どもをちらりと見る。
今すぐにでも遊びに行きたい、という気持ちが全身からオーラとしてあふれ出す様子の待てをくらった犬状態の柊少年がそこにいる。
ナギはそんな子犬のような少年を見てため息をついて、言った。
「蓮司、遊んできていいぞ」
「ほんとかっ!?」
「嘘をついてどうする。行っていいのはこの公園の中だけだからな、外には出るなよ」
「いってくる! ありがとナギねーちゃんっ!」
それだけ言うと、わき目もふらずに駆け出す柊少年。
小柄な少年がブランコの方に向かうのを見てため息をつきながら、ナギはベンチに座り込んだ。
「なんでこう子どもっていうのは無駄な問答が好きなのか、理解に苦しむ」
「いいじゃないですか。一緒に遊んでくれる人がいるっていうのは嬉しいものですよ」
父親は無職で家に金一つ入れないプー太郎、母親は借金してでも銀玉弾く賭博狂いという親を持つハヤテが言うと重く感じる言葉である。
そういうものか、とナギは呟いてハヤテの方を見た。
「それにしても、これから二人になれる時間だというのになぜお前はそう厄介事を背負い込むのだ。お人よしにもほどがあるぞ」
「……面目ありません。ただ、執行委員のみなさんにもお世話になってますし」
と言いながらちょっと回想してみるハヤテ。
64
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:49:52 ID:MokMbNo.0
『えぇぇぇぇっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよノーチェさんっ!?
僕、これからお仕事あるんですよっ!? お嬢さまのお世話をして、お嬢さまのお部屋の片付けをして、お嬢さまのお取り寄せ品を取りに行って……』
『別に仕事するなとは言ってないでありますよ。ちょっとお世話する対象を増やしてくれればそれで無問題』
『どこのカード式パワーアップ術を会得した耳長モンスターですか!?』
『いやほら、そろそろわたくしも執行部のマスコット的存在として定着していこうかと』
『マスコットっていうのはもっと何もできない奴のことを指すと思うんだが、どうだノーチェ』
『なるほど、さすがは漫画馬鹿お嬢さま。的確なアドバイス痛みいるでありますよ』
『やめてくださいね? ノーチェさんに役立たずになられると一番にしわ寄せくるの私なんですからね?』
『初春、目が、目が笑ってないでありますよ。ジョークでありますともえぇイタリアンジョーク!』
マスコット論について語ること5分。
『……で、なんでマスコットについて話してるんでありましたかわたくしたち』
『いやいやいやいや。もともとマスコットじゃなくて柊(6)さんを僕に預ける預けないの話だったはずですけど』
『馬鹿、言わなきゃうやむやに済ませられただろう!』
『も、申し訳ありませんお嬢さま。どうもこう、ツッコミの血が……』
『ハヤテ殿も結構天然ボケの類だと思うでござるがなぁ』
『長瀬さんが言いますか』
『そもそもツッコミって常識人がやるものでしょう。時速80km の車に自転車で追いつける人を常識人とは認めませんよ』
『そういう人は両さんっていうんだよ』
『両さんは固有名詞です。人を形容する時には使いません』
『待て、超人の中にだって常識を持ったツッコミ役はいるんだぞ! その定義はおかしいに決まっている!』
ボケとツッコミについて語ること10分。
『なんで私たち最新のお笑い事情について話してるんだっけ……?』
『誰かが滑らない話について話しだしたあたりからおかしくなった気がするのでありますが……』
『だから、どうやって綾崎さんに柊(6)さんを押しつけるかって話をしてたんですってば』
『今押しつけるってっ。押しつけるって言いましたよね初春さん』
『うわ。何ッスかこの面白い生き物』
『あ、いらっしゃいベホイミさーん』
『僕のツッコミはスルーですか初春さん』
『ハヤテにーちゃん、このにほんじんっぽいかんじのねーちゃんもハヤテにーちゃんのしりあいか?』
『髪の色と目の色で日本人かそうでないかを判断しちゃいけませんよ柊さん』
『アンタが言うな』
ベホイミに状況を説明すること15分。
『なるほど。柊(6)さんをどうやればハヤテさんに預かってもらえるかで話してたと』
『そうであります。もうハヤテってば頑固ちゃんで弱っていたところでありますよ』
『実際は話がすごい色んなところに飛んでっててまともに話ができてないだけだけどねー』
『もう僕のツッコミは届かないんですかねー』
『ハヤテにーちゃんげんきだせ?』
『うぅぅ……柊さん、原因はあなたですがお気遣いありがとうございますと言わせてください』
『それならみなさん、こんな言葉はご存知でないッスか? 「将を射んとすればまず馬から」って』
『まず馬から……というよりも馬を落とすにはまず将からって感じだと思いますが。まぁ悪くない案ですねェ』
『え。ま、待て。なぜみんなして私を取り囲むのだ?』
『お、お嬢さま―――っ!?』
ナギお嬢さまをなだめすかしてお話すること20分。
『ほ、ほんとにそう思うか?』
『えぇ。綾崎さんとの新婚生活のためにも、子どものあしらいを覚えるのは大事だと思うんですよ』
『そ、そうだな……ハヤテも家庭的な娘の方が好きかもしれん。うむわかった! あの子どものことは私たちに任せておくがいい!』
回想終了。
65
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:51:07 ID:MokMbNo.0
「……どっちかっていうと、お嬢さまの決定だったような気もするのですが」
「うぅっ……!? う、うるさい! そもそもお前があれを届けようと言い出したのが原因だろう。ならば責任を持つのは主として当然のつとめだ」
ふん、とそっぽを向くナギ。こうなると彼女は自分の非をなんとしてでも認めないので、問答は早めに切り上げるに限る。
そのことはハヤテもとうに分かっていることなため、彼は素直に思ったことをたずねた。
「そういえば、お嬢さまは今の柊さんを気に入っておられるようですが。
以前紹介した時はあまり好意的ではなかったようにお見受けしましたけど……」
実は柊とナギは、以前ハヤテの紹介で会ったことがある。
ある学校同士の派手なケンカに巻き込まれたハヤテが執行委員に協力して事件解決にあたった際、包帯まみれの彼を柊が三千院家別荘に送り届けたことがあったのだ。
その時にハヤテの紹介で顔を合わせてはいるものの、大事な執事が知らない内にケガをして帰ってきたのだ、ナギがかんしゃくを起こさないわけもない。
結果、柊はナギの説教(というか罵倒)を30分ほど受け、二度と来るなこの無能とまで言われている。
一応言っておくがナギはまだ13歳であり、自分の観点でいうところの恋人枠にハヤテがいることもあいまって、少し過激な物言いになったのだ。
後になって本人も自覚したのか、あのプライドがチョモランマ並みの高さを誇るナギが、ハヤテを通じて柊に少し言い過ぎたと謝罪の旨も伝えている。
とはいえ、三千院ナギは確実にハヤテを事件に巻き込んでいる象徴として柊蓮司を敬遠している。
どちらかというと、ハヤテと一緒にいる時間を削ぐ存在として嫌っているはずである。
だからこそ、ハヤテはナギが柊少年を受け入れると言った時に驚いたのだった。
不思議そうにたずねるハヤテに、彼女は胸を張って答えた。
「何を言っているのだ。大きくなれば可愛げなど欠片もないが、今ならば見ていてかわいいものだろう。
それに、あの大男を見下ろすチャンスなんてきっとこれから先ないぞっ!」
「あぁ、つまり小さい柊さんには何の罪もないと」
「うむ。……それに、ハヤテの話を後から聞いたところによると、アレはハヤテの危機を救ってくれたこともあったと言うではないか。
執事の危機を救ってくれた礼をするのは、主として当然のことだろう」
「お嬢さま……そんな深遠なお考えがあるとは存じませんでした」
「私にだって考えくらいある。まったく、人を勢いと反射だけで生きている馬鹿と一緒にするな」
ふん、と言いながらナギはそっぽを向いて―――目に入った光景に疑問を抱く。
「なぁ、ハヤテ」
「なんでしょうお嬢さま。はじめてお嬢さまのお部屋に行った時にホワイトタイガー猫のタマを見た僕のような表情をなさって、何か危険なものでも見つけられましたか?」
「いや……私はこういった場所で子どもが遊んでいるところを見たことがないから、この光景は普通のものなのかとたずねようと思ったのだが」
そう言って彼女が指すのはブランコ。
ハヤテもそちらをつられて見る。
そこには、楽しそうにブランコを漕ぐ柊少年がいる。
……漕ぎすぎて今にも一回転しそうなくらいに勢いがつき、角度にして160°くらいの高さまで上がったブランコで遊んでいる柊少年が。
って、普通なわけないじゃないですかーっ!? と叫びながらハヤテがそっちに走っていくのをみながら、そうなのか、とナギは納得する。
ちょうどその時携帯が着信を告げたのを感じて、彼女は携帯を手にとった。
表示は知人のものであり、珍しいなと思いながら通話ボタンを押す。
「この電話は現在使われておりませんので諦めて切れた後に伝書鳩でも飛ば―――」
『何バカなこと言ってるのよナギっ。無事なのっ!?』
電話のスピーカーから響くのは、当然というべきか液晶に表示された知人のもの。
あまりに勢い込んで放たれた大きな声に、ナギが一瞬眉をしかめる。
66
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:52:57 ID:MokMbNo.0
「……そんなに大声を出さなくても聞こえている。というか、お前は私の鼓膜を破る気なのか?」
ナギの不機嫌そうなその声を聞いて、しかし相手は落ち着いたようにため息をついた。
『よかった、元気そうね』
「勝手に電話をかけてきて大声を出したあげく勝手に納得するなよ。なんのつもりなんだ、ヒナギク」
呆れたように電話の向こうの少女に向けて告げるナギ。
桂 ヒナギク(かつら ひなぎく)。ちなみに漢字表記だと雛菊らしいが原作表記以下略。
白皇学院最強の生徒会長にして、知力・体力・美貌・求心力の全てを備えた完璧超人ツンデレ負けず嫌い男前委員長さんである。
そんなヒナギクは、ナギの不機嫌そうな声に反応してかひとつため息をつくと答えた。
『今極生の大会議場で定例会議があるから来てるんだけど、そこで芝村さんと美里さんから聞いたの。
学院近くの公道に今日の放課後上空から何かが落ちてきて大きなクレーターを作ったことと、その時刻に付近であなたとハヤテ君を見たっていう証言があるって話。
それ今聞いて、無事を確認しようと思って連絡したってわけ。ハヤテ君はこの間携帯壊したってぼやいてたからあなたに連絡をとったのよ。
一応確認するけど、あなたもハヤテ君もちゃんと無事なのよね?』
「あぁ無事だ。ケガなどはしていないし、ヒナギクが心配するようなことはにはなっていない。安心したな? では切るぞ」
そうナギがつまらなそうに言って電話を切ろうとしたとき、そうだ、と何かに気づいたようにヒナギクが呟いた。
『ねぇナギ。時間があるならちょっと参考までに聞きたいことがあるんだけど、問題ない?』
「確かに切羽詰っているような状況ではないが……お前が私に質問など珍しいな。何かあったのか?」
ヒナギクは先も述べたように非常な才媛であり、頭の良さならナギに引けをとることはない。
しかもヒナギクは努力家でもあるため、わからないことがあるのならば自力で調べることも多い。
そんな彼女が誰かに頼ることは数少なく、しかも生徒会役員でもない上に年下のナギに頼ろうとすることはほとんどないと言っていい。
これまでされたことのなかった質問に、いい気になる前に不思議そうに聞き返したナギ。そんな彼女に、困ったようにヒナギクは答えた。
『あなた、ハヤテ君のご主人様よね』
「なんだ? 私がハヤテの主人では不満だと言いたいのか?」
『そうじゃなくて。ハヤテ君も割とワーカーホリックなところがあるでしょう?
極上生徒会関連の下部組織でなかなか休みを取ってくれない人がいて、その人にどうやって休みを与えたらいいかって話が議題に上がってるのよ。
自分の下で同年代の人を働かせてる雇用主で、その上休みをとることに関しては学院でも1、2を争うあなたならどうしたら休ませられるか妙案を持ってるかも―――』
「バカにしてるなら切るぞっ!?」
『でも、否定できないでしょ?』
ぐ、とうめくナギ。
事実ナギは学校にあまり行こうとしない。
それは彼女が幼少期に外に出ては命を狙われたために外に出なくなったことや、頭がとんでもなくいいために学校の授業式の勉強を必要ないものとして考えていることなどが理由でもあるのだが、前者は今ではハヤテがいるし、後者は単なるワガママである。
さすがに言い過ぎたと思ったのか、ヒナギクが乾いた笑い声を上げながら言う。
『まぁちょっと言い過ぎたけど……ともかく、私はどう休ませればいいのかもイメージつかないのよ』
「それはお前もワーカーホリックだからだ」
『べ、別にいいでしょ私のことはっ! ナギ、あなたなら仕事しすぎだと思う人を、どう休ませればいいと思う?』
ごまかすように言ったヒナギクに、一つため息をついてナギは腰に手をあてて語りだす。
67
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:53:42 ID:MokMbNo.0
「いいかヒナギク。休暇というものは仕事の能率を上げるために必要なものなのだ。
仕事しっぱなしでは疲労の蓄積、慣れによる油断など、様々な要因により思わぬミスをすることも多くなる」
『え、えぇ。少しくらいは聞いたことはあるわね』
「だからな? 私もいい仕事をするために学校を休んでいるのであって……」
『……あなたの言ういい仕事って漫画描くことでしょう。学校を休む言い訳はいいわよ別に』
「なっ、ち、違うぞっ!? 確かに話はちょっと脱線したが、本番はここからだ!
いいかっ? どんな人間にだってミスはある。それをいかに少なくするかを考えたり、してしまった後のフォローを考えることでミスのない仕事は成り立つのだ」
『まぁ、そうね』
「ただし、それも適度な休息をとっていればフォローが可能なのであって、疲労が蓄積した状態ではフォローしきれない事態も起きる」
そこで発言を止めるナギ。頭のいいヒナギクならばこの程度のヒントがあれば充分だろうと思ったのだ。
電話の向こうもしばらく静かになったあと、はぁっと息を吐く音がした。
『……なるほど。裏返せ、ってこと。さすがナギ。休むことにかけては真剣ね』
「む……いや、まぁハヤテに暇をやったことがあってな。
その度にあいつはそうたずねてくるから逆転の発想というか、むしろもう屋敷に入ってくるなくらいの勢いでないと休まないというか……」
『ありがとうナギ、参考にさせてもらうわ』
「用はそれだけか?」
『そうね。あ、それからもう一つ』
ヒナギクはそう言うと、くすりと笑って一言だけ告げた。
『また月曜に学校でね、ナギ。それじゃ』
ぷつりと途切れる電話。
ヒナギクの置き土産に、ナギは不機嫌の色をあらわにする。
先も述べたとおり、ナギは学校にあまり自発的に行きたがらない。
それは学校にいくよりも屋敷で何かしている方がよほど楽しいという実に子ども染みた理由からなわけであるが、『学園世界』に来てからは多少学校を休む頻度が減った。
学園世界にいる彼女の従者がハヤテ一人であるということがその理由である。
ハヤテも白皇学院に通う学生である。
しかしハヤテにとっては学業よりもナギの身の安全の方が心配すべきことなのだ。
だからこそ、彼は学園世界に来た後は基本的にナギのそばを離れない生活を送っている。
しかしそれは、逆に言えばナギが学校を休めばハヤテも学校を休まなければならないということに他ならない。
ハヤテはナギとは少し出来が違うため、努力をほんの少し怠れば取り戻すのが難しい。
彼が学校に行こうと思う気持ちが強いことを知っているナギとしても、あまりその邪魔はしてやりたくないのだった。
ヒナギクのその言葉は、最近学校に来るようになったナギに釘を刺すためのものだろう。
ナギは携帯をたたんでしまいながら、ぼやく。
「まったく明日からデビルサバ○バーをジ○ルートで全キャラ仲間にして○シファー戦こなしてジャ○クフロストをリーダーにしてクリアしようとしてたのに」
「な、なかなかマゾい攻略のご予定だったのですねお嬢さま……」
頭の後ろにたんこぶを作って帰ってきたハヤテが、汗を浮かべながら彼女のぼやきに言葉をかけた。
ナギはそちらに気づくとあわててたずねる。
「い、いたのかハヤテっ!? ご苦労だったな、問題はなかったか?」
「いやぁ、満面の笑顔でこちらに手を振った時は本当に肝を冷やしましたよ……。
その後手が離れたことで綺麗にブランコからすぽーんと柊さんが打ち出されたので、なんとか空中でキャッチしたんですよ。
厳重に説得した後、納得していただいたのか、今は鉄棒で遊んでますね」
「そうか。子どもは元気なのが一番とは聞いていたが、元気すぎるのも考えものなのだな」
「元気の範疇なんですか、あれ」
「父親の絵画詐欺に加担するよりはよほど元気がいいと言え……」
「ですからあれは僕に罪の意識はなかったんですってばっ!?」
年端もいかない子どもに詐欺の片棒担がせた親が悪いです。
68
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:54:35 ID:MokMbNo.0
閑話休題。
そんなことより、とハヤテが聞く。
「お嬢さま、どなたとお話なさってたんですか?」
「ん? あぁ、ヒナギクの奴から連絡があってな。極生の会議場で、学院近く謎の落下物の話を聞いて連絡してきたのだ」
「なるほど。さすがヒナギクさんですねー」
ハヤテとしては敏腕生徒会長としてのヒナギクを誉めているのであるが、目の前で自分以外の女を誉められたナギとしては面白くないわけで。
彼女は不機嫌を隠すこともせずに刺々しい口調で告げる。
「……ふん。こんなつまらない報告なんかを主にさせるなよ」
「えぇっ!? あ、ぅ。も、申し訳ありませんお嬢さま。この間携帯電話を壊してしまったもので……」
「買えばいいだろう、新しいの。そんなこともできんのかお前は」
「い、いえ。新しいものを買いに行くにしても、お嬢さまと離れるわけにはまいりませんので今日か明日にでも一緒に行っていただければと考えていたんですが……」
困ったような笑顔でそう言ったハヤテ。
一緒に、という言葉を聞いたナギに激震走る!
……激震はまぁ置いておくとしても、ナギにとってはちょっとした衝撃だった。
学園世界に来てからというもの、ただでさえハヤテと四六時中一緒にいることの多くなったナギ。
しかし、それでも生活の大半は別荘や学校であり、いわば刺激的な体験というものはあまり体験していない。
それも外へ出かけるのがハヤテからのお誘いとなれば、それはもはや彼女にとってはデートのお誘いも同然なのである。
結果、先ほどまで刺々しかった視線が一瞬にしてふにゃりと緩んでしまうほどにはとんでもない衝撃を受けたナギは、顔を真っ赤にしてたずねた。
「い、いいいいい一緒に、かっ!? ふ、二人きりでかっ!?」
「え? え、えぇ。そのつもりでしたが……他にどなたか一緒に行きたい方でもいらっしゃいましたらお呼びしますよ?」
「い、いやいらんっ。は、ハヤテは私の執事なのだっ、私が面倒を見てやらんでどうするのだ!」
顔を真っ赤にしたままそう言って、彼女はそっぽを向く。
ハヤテはといえば許可がでたことを素直に喜んで、その後顔を曇らせた。
「あ、ありがとうございます。でも……」
「で、でもなんだっ!? 何かマズいことでもあるのかっ!?」
「いえ……今の僕たちは柊さんの面倒も見なきゃいけない立場なので、それが終わらないことにはどうにも……」
The ☆墓穴。
柊少年を預かると言ってしまったのはナギであるため、追い出すわけにもいかない。
ずーん、という擬音を背負いながら膝に手をつくナギに、ハヤテは曖昧に笑って言った。
「ま、まぁ執行委員の皆さんも柊さんがいないと困るでしょうし、真剣に考えてくれると思いますよ」
「……飛行物体共は戻らない方がいいと言っていたぞ」
「あ……あー、まぁ見てて面白い方から見ればそうでしょうけど。
実際に機能として見るとあの人が働かないのは困りますから、そんなに時間かからないうちに戻るはずですよ」
そうか、とナギが頷いたのを見て、ハヤテは話題を逸らしにかかる。
「と、ところでお嬢さま。軽食をお持ちしましたがいかがしますか?」
「うむ。今日はなにを用意してくれたのだ?」
「チキンのバジルソースと、タラモサラダ、それから卵のサンドウィッチをご用意いたしました。お茶はセイロンのストレートを……」
お持ちしました、と言おうとして肩にかけて持ってきたはずの水筒を探すがどこにも見当たらない。
おかしいなと思って、公園に来てバスケットと水筒を置いたはずの場所を見る。
そこにはバスケットと―――何故か水を入れる形のダンベルに紐を括りつけたようなものがあった。
69
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:56:17 ID:MokMbNo.0
目を点にしつつそれを凝視していたハヤテが、ダンベルに紙が張ってあることに気づく。
その紙をひっぺがし、まじまじとそこに書いてある文字を見る。
そこには意外と綺麗な文字で一筆添えられてあった。曰く
『―――おいしそうなお茶だったので、有希のところに持ってくお土産にさせていただくでありますよ かしこ のーちぇ』
とのこと。
ハヤテはその紙を見てぷるぷる震えていたものの、心の底より湧き上がってくる気持ちを吐き出した。
「なんで自分の名前はひらがなで書くんですか……っ!?」
「ツッコミどころはそこじゃないだろう。かしこつけるなら前に前略つけろとか、そもそも持っていくなとか。咲が聞いたらハリセンが飛ぶぞ」
ちなみに咲(さく)というのは愛沢咲夜(あいざわ さくや)のことであり、三千院家の親戚筋である愛沢家の長女であり、ナギの姉貴分的な存在の同い年の少女である。
一言で表すなら『ステレオタイプな関西人のノリを持った姉御風お嬢さま』。
生ぬるいツッコミは許さない信念を持った彼女がここにいれば、容赦のないハリセンツッコミが入ったことだろう。
ともあれ、ハヤテはお嬢さまにお出しするお茶を持ってき忘れたことになる。
後でノーチェにはいくらでもお説教できるが、ナギに出すものが欠けているという事態は非常にマズいと判断した。
ハヤテは慌てつつもナギに向けて背を向けながら駆け出す。
「申し訳ありませんお嬢さま! 何かお飲み物を調達して参りますが、何がよろしいですか?」
「乳酸菌をとりたい気分だからそれでよろしくー」
「かしこまりましたっ! では!」
ナギに返事を返すと、彼は大地を踏み抜き一足で四間を詰める勢いで駆け出す。
さすがは時速80㎞の車にママチャリで追いつく男。足腰もすでにウィザード級なんじゃなかろうか。
そんな彼を見送りながら、ナギは置いていかれたバスケットを手繰り寄せ、ハヤテが戻ってくるまで彼の愛妻(違)弁当を眺めようとバスケットを開く。
バスケットの中にはあるのはハヤテ渾身の(東棟給湯室で作った)サンドウィッチがぎっしりと詰まっている。
三千院家執事厳選のもっちり食パン。
ふわふわの食感を残したままの絶妙な火加減の炒り卵に、表面をむいたキュウリ、チーズとレタスを挟んだもの。
軽く火の通された鶏肉に鮮やかな緑色のバジルソースをまとわせ、スライスして辛味を抜いた玉ねぎを挟んだもの。
ゆでたてのジャガイモを食感を少し残したまま潰し、たらことマヨネーズで和えて輪切りにしたオリーブを挟んだもの。
黄・青・赤・白の彩りも鮮やかなハヤテのサンドウィッチを見て、嬉しそうに笑って。
70
:
執行委員の奔走(中・1)
:2009/06/17(水) 23:57:02 ID:MokMbNo.0
そこで彼女は視線に気がついた。
いつの間にか近くまでやってきたらしいところどころ汚れた格好の柊少年が、もの欲しそうにそのバスケットをじーっと見つめている。
少年はそれはもう穴があくほどじーっと見つめている。ナギのことなど眼中にないくらいじっと熱烈に。
ナギが試しにバスケットを両手で持ち上げて右に持っていけば、視線がそちらに動き、左に持っていけばそちらへと追いかけるように続く。
年下の子どもの視線でしばらく遊んでから、彼女はもう一度バスケットをベンチの上に戻し、少年にたずねる。
「……ほしいのか?」
その問いに、少年は言葉すら出さずにこくんと首を縦に振る。
この年頃の子どもにしては何も言わずに奪い取らないだけ行儀がいいと言うべきかもしれない。
が、ナギにとってはせっかくハヤテが自分のために作ってくれた愛妻(だから違)弁当である。諸般の事情により預かることになった子どもに分けてやる道理はない。
ないのではあるが。
待てをくらった犬のようにじーっとバスケットに熱い視線を送り続けている柊少年に、ナギの良心と保護欲のようなものが働きだす。
そんな子犬のような目で見るなー! と内心では叫びだしたい気持ちでいっぱいなのだ。もっとも彼が見ているのはサンドウィッチの方だが。
ハヤテが自分のために作ってくれたものであるという矜持と、雨に濡れた子犬のような目で見られるくらいなら保護したいという庇護心。
2つの心が葛藤を起こして非常なジレンマにおちいるナギ。
しばらくうんうんうなっていたものの、やがて彼女はえぇい、と迷いを断ち切るように大きな声を上げて、ふんと鼻を鳴らした。
「さっきまで遊んでいたのだ、どろどろに汚れている手で食事などさせられるか!
食べたいのならさっさと手を洗ってこい、馬鹿者!」
結局は、ナギも思いやりのある優しい女の子なのだった。だいぶパッと見分かり辛いが。
言われた柊少年は、ぱっと表情を明るくさせた。
「ありがと、ナギねーちゃん!」
「水道はあっちだぞ。ちゃんと綺麗に洗えよ」
おうっ! と言って元気よく駆け出していく少年の背中を見ながら、ナギは一つため息。
自分よりも年下の子どもは扱いづらい。しかもなんか素直だし。すれてないし。言うこと簡単に聞くし。と、内心でぼやくナギ。
この場所がナギのホームグラウンドである漫画の棚の山のある自室やゲーム部屋やDVD部屋や書斎ではないというのが調子を狂わせているのかもしれない。
……もしも柊少年を遊ばせることを口実にナギを外に連れ出そうとハヤテが考えなければ、別荘の中で初代ガンダム全話とかデジモン映画版行脚になりかねなかった。
えらいぞハヤテ、すごいぞハヤテ、本当にありがとうハヤテ。
閑話休題。
ナギとしては、年下の子どもと一緒に遊んだことはあっても面倒を見たことはない。
お姉様、や隊長、と呼ばせたことはあっても自発的にねーちゃん、と呼ばれたことはない。
彼女にとっての柊少年との話は、本当に手のかかる兄弟ができたかのような錯覚を起こすものだったのだ。
そのことに、なんだかむずがゆい感情を持て余しているナギであった。
71
:
夜ねこ
:2009/06/17(水) 23:58:18 ID:MokMbNo.0
分割すれば?とのことだったため、とりあえずは半分くらい。
1時間後くらいに残り投下しにきます。
72
:
夜ねこ
:2009/06/18(木) 00:42:30 ID:MokMbNo.0
残りです。
73
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:43:58 ID:MokMbNo.0
ここで唐突に問題だ。
前述したとおり、ここは年頃の子どもの少ない区画にある公園である。
ようは公園で遊ぶような年頃の子どもは、ここには来ない。
では、本来の目的である子どもがいない場合に公園に集まる人種とはどんなものが挙げられるだろうか。
多くの場合はだいたい4つに分けられる。
1つはカップル。
学園世界にはたくさんのデートスポットがあるため、この世界においてはあまり公園にくるカップルはいない。
2つめは住所不定の人々。
この世界においてはほぼ全ての学生への管理保護制度があり、また学生以外もほとんどつぶしのきかない業種についているため、住まいのない人間はないと言っていい。
3つめは老人。
先も述べたとおり、この世界は8割の学生と2割の働き盛りの人々で成り立っている。余生を過ごしているような老人はあまりいない。
そしてもう1つ。
「なぁお嬢ちゃん。その服白皇だよな? すげーな、白皇っつったら金持ち学校の中でも超金持ちじゃん」
「ねーねー、俺たちとお茶しなーい? もちろん君のサイフで」
……ガラのよろしくないタイプの不登校の学生さんたちである。
ナギに今回声をかけてきたのは二人組の少年達だった。
どこかの高校のものなのだろう学生服、生え際の黒い茶染めの髪、品のないピアスとステレオタイプな彼らを一瞥して、ナギはため息。
「ひとつ、言いたいのだが」
「お、なに? オツキアイしてくれんの?」
「二酸化炭素を吐きかけるなら向こうの樹にやってくれ。私にはあいにく光合成はできん」
は? と思考を停止させる二人組を見て、これだから一般的な知識のない奴らは、と嘆息しつつ、続ける。
「言った意味がわからなかったか? 仕方ない、お前たち程度にでもわかるように知能レベルを落としてもう一度言ってやろう。
失せろ。お前たちとしたい話など私にはない。
せめてガン○ム全シリーズとマク○ス全シリーズ、ナ○シコとエ○ァとカウ○ーイビ○ップをTV放映版OVA版劇場版小説版全部熟読した上転生してから来い」
一息に言いたいことを言い切りつつ、あくびをひとつ。
普通の人にはガ○ダム全シリーズ一気のあたりからして敷居高いと思われる。
ともあれ、二人組にも言っている作品のほとんどは分からずとも、バカにされたことだけはわかったらしい。
ナギを捕まえて力ずくで言うことを聞かせようと手を伸ばす。
その時だ。
ナギと二人組の間に小さな影が割り込んだ。
小さな体で両手をいっぱいに伸ばして、ナギを背にかばうように。
その小さすぎる体ではナギのための壁になることすら難しいのは誰が見てもわかるほど。
それでもその小さな影は、退くことなど考えていないようにナギと二人組の間に割り込んで、言った。
「ナギねーちゃんをいじめんな」
「は? ……なにこのガキ。お嬢ちゃんの弟かなんか?」
「ボーヤ、ケガしないうちにおうちに帰んな」
言って笑いあう二人組を前に、それでも少年はどかなかった。
「いやがるおんなのこにむりやりからむおとこはさいてーだって、まえにねーちゃんがいってた。
ナギねーちゃんいやがってんだろ。だったらやめろよ」
その少年の言葉に先ほどからナギのこともあってイライラしていた二人組は、ちょうどいい欲望のはけ口として少年を選んだ。
目配せして、嗜虐的な笑みを浮かべた一人が、サッカーボールでロングシュートを決めるように、軽くステップを踏んで思い切り足を振りかぶる。
少年が自分の前に立った時から、状況についていけずに目を丸くしていたナギは、その時ようやく少年を止めなければならないと気づく。
力がおよぶはずもないが、それでも彼はナギが傷つかないように前に立ちふさがってくれているのだ。
三千院家の者として、自分よりも力のない子どもが傷つくのを黙って見ているわけにはいかない。
そしてそれ以上に、自分を姉と呼んで慕ってくれているこの少年が自分のせいでケガをするかもしれないのを見ているのは嫌だった。
74
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:44:45 ID:MokMbNo.0
やけにスローモーションに感じる世界の中、ナギは叫んだ。
助けてほしい、という心から湧き上がる強い気持ちを込めて。
ピンチになれば必ずかけつけてくれると信じている、ただ一人の少年の名を。
「ハヤテぇぇぇぇぇぇ――――――っっ!!!」
ただ一人の少女が助けとして呼んだその声は。
―――届く。
「―――見様見真似、龍刃!」
某格ゲーの必殺蹴り技(気をまとった飛び蹴り)を今まさにゴールを決めようとしていた高校生に叩き込みつつ、彼は空中で一回転。
足から綺麗に着地して、微笑む。
「お呼びになりましたか? お嬢さま」
自分の声にまるでヒーローのように応えて来てくれたハヤテに、一瞬飛びつきたい衝動にかられるものの、一つ咳払い。
「お、遅いぞハヤテ! おかげでその間によくわからん連中にからまれたではないか!」
「申し訳ありませんお嬢さま。安全そうな乳酸菌飲料がなかなか見つからなかったもので……。
ようやく先ほど『銀様印の乳酸菌ドリンク朝までEX』を見つけましたのでご安心を」
「そ、そうか」
などというやりとりをしている横で、二人組の内の凄い飛び蹴りを受けた方は泡をふきだして倒れており、もう一人は『よ、よっちゃーん!?』と彼を介抱している。
彼はハヤテを見て叫ぶ。
「お、お前よっちゃんに何してくれんだよっ!? よっちゃんはなぁ、俺と一緒にこの学園世界の番長大会で優勝した奴の舎弟になろうって熱い約束をかわして―――」
「知りません」
ハヤテは、いっそ冷たさすら感じられるほどの声音で彼の口上を遮った。
くるりとそちらを向くと、彼は一部の隙もない笑顔とブリザードの冷たさを感じさせる冷たい視線で、告げる。
「知ったことじゃありませんし、知る気もありません。
あなたが僕のお嬢さまに危害を加えようとしたのは事実です。そして、僕はお嬢さまに危害を加えようとする方が相手ならどこまででも戦います。
龍刃までで止めておくのと、劒楼閣→逆鱗まできっちり決めて、その先も相手をしてほしいと仰るのでしたら止めませんけど―――
僕、お嬢さまのためなら銃刀法とかそういうの、割とどうでもいいんで。その覚悟でお願いしますね?」
三千院家のお嬢さまをこの広い世界でたった一人で守り続けてきた少年執事の本気の気迫に、たかがそこらへんのチンピラ高校生がかなうはずもなく。
よっちゃんを抱え、彼は公園の出口まで一目散に走り去り、覚えてろよーっ!?と吐き捨て、そのまま振り向くことなく駆け去った。
そんな、帰り際までステレオタイプな二人組を見送って、ふぅ、とハヤテはため息をついた。
「丁重にお帰りいただきましたよ、お嬢さま。お怪我はございませんか?」
「私のことはいいのだっ! 蓮司、お前はケガはないかっ?」
ハヤテが来たことで思考が正常に働きだしたのか、ナギは先ほどまで自分の前に立ちふさがった小さな少年の方に目をやる。
と。
……そこには、ヒーローを見る男の子特有の熱い眼差しでハヤテを見上げる柊少年がいた。
「すっげー……すげーよハヤテにーちゃんっ! どかーんって! ずばーんって!
ハヤテにーちゃんすげーつよいんだなっ!!」
「へ? え、えぇあの程度でしたら、なんとか」
照れた様子もなく言ってのけるハヤテに、元気よくすげーを連呼する少年を見て、ナギがほっと息をつく。
「どうやら、ケガはなさそうだな」
「えぇ、なんとか蹴られる前に割り込んで蹴り飛ばしましたけど……どういう状況だったんですか?」
75
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:47:01 ID:MokMbNo.0
ナギが自分を呼んだ、ということ以外は何も知らないハヤテの問いに、彼女は事情をかいつまんで説明した。
自分が先ほどの二人組に絡まれた後、柊少年がかばおうとしてくれたと聞いて、ハヤテはそうだったんですか、と頷いて柊少年との視線を合わせるようにしゃがんだ。
「ありがとうございます柊さん。僕がいない間、お嬢さまを守ろうとしてくれて」
そう言われ、けれど柊少年はうつむいた。頭のアホ毛も心なしかしおれたように垂れる。
「……オレ、なんにもできてない。ハヤテにーちゃんみたいにつよくないから、たぶんあのままじゃナギねーちゃんをまもれてないもん」
自分の無力さに落ち込んだような柊少年の言葉に、ハヤテはそんなことはない、と言葉をかけようとして。
「当たり前だ馬鹿者」
低く重い口調で告げた、ナギの言葉に遮られた。
その言葉にずーん、と重苦しい擬音を背負いこむ柊少年と、彼の周囲の重苦しい雰囲気を感じ取って慌てるハヤテ。
落ち込ませてどうするんですかお嬢さま、と小声でたずねようとした時、再びのナギの言葉に遮られる。
「ハヤテをなんだと思っている。お前の倍は生きている、私を守る私の執事だ。
私を守ろうという気持ちでも負けている上、そんな小さいお前が私を守れると思っていること自体がおこがましいわ馬鹿者」
ナギの言葉の一つ一つが突き刺さるのか、柊少年の周囲の空気がどんどんと重くなっていくのを見て、ハヤテがなんとかフォローをいれないと、と考えているところに。
そう言いながら彼女は一歩一歩柊少年に近づいていき、彼の顔をのぞきこむように見た。
「……だが。
私を守ろうとしたその気概は認めるよ。ありがとう、蓮司。お前に危ないところを助けられた。礼を言う」
言われた柊少年は弾かれたようにナギを見る。
76
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:47:49 ID:MokMbNo.0
彼女の顔は魅力的なほどの笑顔であり、柊少年には嘘をついているようには見えない。
ナギの隣にハヤテがしゃがみこみ、そうですよ、と相槌をうつ。
「まだ柊さんは6歳なんですよ? これからですよこれから。
力なんてこれからつければいいんです。それよりも、自分よりずっと大きな人たちに立ち向かっていった勇気はすごいと思いますよ」
柊少年は下を向き、ごしごし、と袖で目元をぬぐって、ハヤテを真正面から見返した。
「オレ、ハヤテにーちゃんみたいにつよくなる! だいじなひとみんなまもれるくらいつよくなるっ!!」
意外とこの頃はスレてない純情な子だったのかもしれませんねー、と思いつつハヤテは笑顔で答える。
「大丈夫。柊さんなら、きっと強くなれますよ。
あんな大きな人たちに立ち向かっていく勇気と、お嬢さまを守ろうとしてくれる優しい心があるんですから」
「ふぅん? 強くなれるのか、ちょっとハヤテに誉められたくらいで泣くような泣き虫が」
「ないてないっ! つよくなるっ、いつかぜったいハヤテにーちゃんよりもつよくなるっ!」
「ほーう? よく言った。
ハヤテより、と言ったな? ハヤテはGガ○における東方○敗、○のはにおけるエースオブエース並だぞ? ちょっと強くなったくらいでお前ごときが勝てると思うなよ?」
「なるっていったらなるんだよっ! 大きくなったらハヤテにーちゃんにどれくらいつよくなったかみてもらってぜったいにかつ!」
勝手に盛り上がっている二人に蚊帳の外にされながら、知らないうちにどんどん柊少年の師匠ポジションにされていくハヤテ。
正直『ウィッチブレードを振り回して戦う柊さんじゅうきゅうさいと戦うのは勘弁してください』とは思うが、目を輝かせている二人の子どもの話には割り込めない。
お嬢さまの無茶振りには慣れているものの、2mの凶器を自分の手の延長のように軽々扱う相手と戦うかもしれない未来というのはあんまり想像したくないのだった。
なんとか笑ってごまかしていると、ポケットの中に入った乳酸菌飲料を思い出した。
「あのー、お二人とも。
熱くなっているところ非常に申し訳ありませんが、せっかく買ってきたジュースを人肌にしてしまうのも忍びないですし、そろそろサンドウィッチ食べませんか?」
「む、それもそうだな。蓮司、ちゃんと手は洗ってきたのだろうな?」
「ちゃんとあらったぞ」
「そうか、ならばいい。ハヤテも戻ってきたことだし、せっかくのお弁当だ。みんなで食べよう」
それぞれの声で答えて、二人はベンチに腰かけた。
膝の上にバスケットを載せたハヤテは、手ずからサンドウィッチを二人に見せながら言う。
「お嬢さまも柊さんも、どうぞ」
「では卵を」
「なんかあかいのもらうー」
手に手にとって、一口。
77
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:48:33 ID:MokMbNo.0
「むぅっ! 歯を押し返すことなく解けるように抵抗なく口の中で広がりゆく卵のうまさ!
しゃきしゃきとしたキュウリとレタスが心地よい歯ざわりを残し、卵の旨みと一体になったチーズの塩気がまったりと口の中に広がった後野菜の水分がそれを洗い流す!
次の一口へと心誘う、なんとも味わい深く奥の深い味の饗宴!
時折挟まれる荒挽き胡椒の刺激が、辛いものの苦手な私でも食べられるレベルに抑えられている!」
「えぇっと……たらこのぷちぷち、かんが、じゃがいものまったりした、しょっかん? と……、これなんてよむんだ?」
「渾然一体、だ。この程度も読めんでどうする」
「柊さん、お嬢さまグルメ漫画ごっこに付き合わなくても大丈夫ですよ」
ナギの用意したカンペを一生懸命読もうとする柊を見て、カンペを取り上げつつチキンのサンドウィッチを手渡すハヤテ。
もちろんナギは不満そうに唇を尖らすものの、そこの先をとってハヤテが買ってきたジュースを手渡すと、不満を手放してごくりと一口。
まったく、と呟いて彼女はもう一口。
ふと隣を見ると、柊少年の口元にソースが垂れているのを発見する。ナギはため息をつきながらスカートのポケットからハンカチを取り出して、口元をぬぐってやる。
「そんなに急がなくてもサンドウィッチは逃げんぞ。もう少し行儀よく食べろ」
「うー……ん。とれたか?」
「自分の口元くらい自分で拭かんか、私にやらせるな」
「ん。ありがと、ナギねーちゃん」
素直にそうありがとう、と感謝の言葉を口にされることに慣れていないナギは、少しだけ頬を染める。
そんな光景を見て微笑ましい気分でナギを見るハヤテ。
ハヤテはナギの執事であり、執事というのは主を正しく導くための誇り高い従者のことである。
今日一日で年下の相手に対しての愛着や扱いなどを身につけつつあるナギの成長に、少し鼻が高くなったのだった。
自身に笑顔を向けてくる少年二人に挟まれた状態のナギの照れは、いつのまにやら羞恥心に変わり、とうとう爆発した。
「うがーっ! 何をニコニコしながら人の顔を見ているのだっ!?
ハヤテもっ! 私の顔を見て笑っているヒマがあるのなら、とっとと蓮司にジュースの一つでも出してやらんかっ!」
「かしこまりました。ちょっと待っててくださいね、柊さん。お嬢さまの命ですので今から乳酸菌飲料をお渡しします」
わざとらしいハヤテの言葉にさらに苦虫を噛み潰したような気分になりつつも、ナギはやけのように手の中に残ったサンドウィッチを乱暴に口の中に入れた。
わーい、と年頃の子どもらしく急いで手に残ったサンドウィッチを飲み下して両手を空ける柊少年。
キャップをとって渡してもらったジュースを受け取る。
そしてそれを飲もうとした、その時だった。
小さな子どもの体がびくん、と跳ね。
ジュースが手の中を滑って地面に落ち。
ベンチからこぼれ落ちるように、少年が倒れこんだ。
78
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:49:09 ID:MokMbNo.0
「柊さんっ!?」
ハヤテがすかさず駆け寄る。
口の前に手をかざすと、小刻みに、苦しそうにではあるが呼吸があることは確認できる。
頭を打った形跡はなく、外傷もなし。
異変がある部分といえば、顔が赤いこと、苦しそうな呼吸、いきなりふきだしたような汗。
そして――― 鎖骨のあたりにある魔法陣から、先ほどまではなかった黒い蔦のような刺青のような模様が、じわりじわりと伸びていくのが見て取れる。
ハヤテにも何が起きているかはよくわからないが、おそらくは普通の病気や怪我の類ではなかろうと判断。
専門家の判断を仰いだほうがいいだろうと思い、柊少年を担いだ。
「お嬢さま!」
「あ―――ハヤ、テ?」
今の今まで状況に置いていかれた状況だったナギが、ハヤテの切羽詰った声に我に返る。
柊少年が急に倒れたことと苦しそうな息を見て、自分の母親も病気でいなくなったことがオーバーラップして思考が停止していた彼女。
ハヤテに抱え上げられている柊少年を見て、慌てて駆け寄る。
「ハ、ハヤテっ! 蓮司は、蓮司は大丈夫なのかっ!? 息はしているのかっ!? ケガは―――」
「お、落ち着いてくださいお嬢さまっ!」
駆け寄って、必死に矢継ぎ早に質問をぶつけるナギ。
ハヤテがそれを落ち着けるように、一つ一つ噛んで含めるように言い聞かせる。
「大丈夫です、息はしていますから、早いところ治せるところに連れていかないといけません。
ですからお嬢さまにも一緒に来ていただきたいのですが、よろしいですか?」
「う、うむっ」
「安心なさってくださいお嬢さま。
大丈夫です、柊さんはそう簡単にいなくなったりしません。学園世界殺しても死なないランキングで人間部門一位とれる人ですよ?」
「あぁ、わかった。
―――行こうハヤテ。なんとしてもそいつを助けるんだ」
その声は震えてはいたが、それでもナギは目に強い意思を宿らせて一歩を踏み出した。
今日一日姉と慕ってくれたその少年を、絶対に助けるという強い意志をただ瞳にこめて。
79
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:49:48 ID:MokMbNo.0
***
東棟2階。
4つのベッドが置いてある『仮眠室』と書かれたその部屋に、ハヤテが駆け込む。
中には、ベッドに横たわって気休め程度に濡れタオルが額に乗せられた柊少年と、ベッドの横で心配そうに彼を見つめるナギがいる。
「申し訳ありません。
エリーさん、長瀬さん、イリヤさん、美遊さんは調停執行に出かけてるみたいです。
ノーチェさんはなんとか連絡がついたそうなんですが戻ってくるのにしばらく時間がかかるそうで……」
「そうか……他の奴じゃなんとかならないのかっ? 初春は情報処理の達人なんだろ?」
「初春さんは魔法畑の知識はからっきしですから。
僕たちにも、魔法のことはちょっとよくわかりませんしね」
そう言って苦笑するハヤテ。
自分では何もできないとわかっているがゆえの笑みだった。
そんな彼の困ったような笑みを見て、ナギは柊少年に視線を戻す。
呼吸は相変わらず苦しそうで、胸元の魔法陣から生えた蔦の模様が伸びるたびに状況が悪化しているように見える。
苦しそうな少年を見て、今日一日のことを思い出す。
自分を見て、ただ屈託なく姉と呼んでくれた。
ありがとう、と素直に笑顔で礼を言ってくれた。
力がないと知りながら、自分の窮地に立ち上がってくれた。
そうだ。思えば彼の面倒を見る、と言ったのはナギ自身。
ならば誰が諦めていようとも、この私が。三千院ナギが。彼を助けるための努力を怠っていいはずがない。
さっきあれほどこの少年にえらそうに言ってやったはずではないか。
―――助ける気概のない奴が、人を助けられるはずがないと。
「ハヤテ。何を諦めている」
「へ? い、いかがなさいましたかお嬢さま?」
「こいつを保護すると決めたのは私だ。
お前も私の執事なら、こいつを助ける努力を怠るな。やれることが終わったからと諦めず、常に助けられるかもしれない可能性を模索し続けろ」
そう言った彼女の横顔は、ただの守られる負けず嫌いのお嬢さまではなく。
貴族のような令嬢の矜持が溢れていた。
ハヤテはそんなナギの姿を見て、一瞬目を見開き。平に頭を下げた。
「……申し訳ありません。お嬢さまの執事として、あまりに迂闊な態度をとってしまい、身の不覚を恥じ入ります」
「そうか。ならば考えろ。知識などなくてもいい。とにかくこいつが助かる方法を」
言葉少なにそう告げて、ナギは思考に没頭する。目の前の少年を助ける方法を考える。
80
:
執行委員の奔走(中・2)
:2009/06/18(木) 00:50:23 ID:MokMbNo.0
そもそもがこの状況は魔法の力によるものだ、というのは彼の魔法陣の変容からもわかる。
どういう種類の魔法なのかなど、知識のないナギには見ただけで理解できるはずもない。
知識のある相手はみな出払っており、知識を求めるには時間がいる。一番早くつくノーチェでさえがしばらく時間がかかる。
ならば魔法に理解なんて必要ない。起きている現状を考える。
柊蓮司は今日何者かの魔法を受け、存在の時間を巻き戻された。
そして今、魔法陣が変化してどんどん体が弱っていっている。
起きている身体的な現象は発熱。何が起きているのかは分からないが痛みを訴えることがあることと、発汗による脱水症状。
熱で脳細胞に状態変化が起きないように頭を濡れタオルで冷やし、体を温めているものの、正直対症的な処置であり、根本的な解決には至らない。
根本的解決には魔法がどんなものなのかわからないと解呪のようなことができない。
つまり専門家が必要。よって、ふりだしに戻る。
考える。考える。考える。
しかし、頭の冷静な部分が知識もないことへの解が出せるわけもないとその行為をせせら笑う。
ナギには魔法の知識がない。
公式を知らない人間に問題の正しい回答が導けないように、考えは無駄になって『公式を知る人間の到着を待つ』という答えに収束していく。
その度に、めげそうになりながらもナギは絶対に諦めない。諦めないと自分自身で決めた以上、彼女は絶対に諦めない。
探す。探し続ける。
公式を知らないのならば、わかる式まで分解する。
魔法の知識がないのならば、ほんの少しの聞きかじりを必死に思い出そうとする。
その先に必ず活路があると信じて。
自分を守ろうとしてくれた無力な少年に言ったことを、嘘にしないために挑み続ける。
彼のために。そして、自分のために。
だからこそ。
彼女はたどりついた。
小さな小さな答えの断片に。
それは、彼女が東棟の5階で柊少年を預かると決めた会話の中にあった。
息を呑む。
一本につながる。
まるで、もともとあった答えを掘り起こしたように。
あまりに出た答えがきれいに全てのピースがはまったため、確認しようと傍らのハヤテにたずねる。
「……ハヤテ」
「なんでしょう、お嬢さま」
「ノーチェは、魔法の知識に関してウソをついたりするような奴か?」
「そんなことをするような人じゃありませんが……どうしたんです?」
怪訝そうなハヤテを横目に、彼女は立ち上がる。
確信の意思を瞳に込めて。
「見つかったかもしれないんだよっ、ノーチェのあの言葉が本当なら!
こいつを助ける方法が、見つかったかもしれないんだっ!」
ナギのその言葉に、仮眠室の前の扉の向こうにいるだろう人影が、ぴくりと動いたのをハヤテは見た。
81
:
夜ねこのあとがき
:2009/06/18(木) 00:51:49 ID:MokMbNo.0
早く読みたい戦国ラグナロク(挨拶)。
ども、夜ねこです。みなさんいかがお過ごしでしょうか、色々あって実家の田舎に一泊二日で帰ったら超ひぐらしが鳴いていた6月。不吉だなぁ。
では、とりあえず出典を。
桂 ヒナギク(かつら ひなぎく) 白皇学院@ハヤテのごとく!
愛沢 咲夜(あいざわ さくや) @ハヤテのごとく!
今回も、初出典はハヤテから、と。
……実はもう一人初出演がいますが、名前出てない上一言もしゃべってないのでスルー。次回は超活躍します。話の構成上それってどうなんだ。
では、レス返しを。
21スレ
>>52
ショタ言うな。ショタだけどショタ言うな。俺にショタ趣味はないったらない。
小さいものが好きなのは否定しないがショタ趣味はない。
>>58
ハヤテは巻き込まれ型で、ナギは引きこもりですからねー。作中意外と話してない相手がいっぱいいるんですよね。
そういう人も含めてハヤテのごとくはキャラがとにかく多いですね。これはクロス書けないわと思った。学園世界って偉大だわ。
>>59
あの手の口上はどれだけピンポイントに迫れるかっていうのは鉄板ネタだと思ってますよ?
作中ではあえてきちんと書いてませんが、Yesです。神父の幽霊が交渉した結果、ご主人様のためということで妥協してくれたようです。
え? この世界では執事はありとあらゆる武器・魔法・道具にも精通してないといけないんだぜ?
>>61
またの機会の支援をお待ちしていますw
本当ならネタ支援一個一個にもレス返したいくらいに感謝しています。
22スレ
>>10
きっと舞台裏ではそんな話もあったのでしょう。
けど、割と急展開だったためそんな話は今回はありませんでしたが……後編では多少あるかもしれません、そのノリ。
あと、言われるまでベホ出し忘れてたの素で忘れてた(汗)。ちゃうねん。自分にとってベホはノーチェと同じくらい空気みたいな存在やねん。
避難所
>>9
あざーっす。また投稿しに来ました。暖かい目で見ていただけると嬉しいです。
今回の話。
ハヤテのごとくを知らない方には面白いところがどこなのか分かり辛い話かも。すんません。今回は偏ること承知で書いてるのでかなり申し訳ない。
後編は! 後編は多少執行委員風味になるから!
柊(19)と柊(6)の区別としては、作中は後者は柊少年、って表記してます。
一応言っておきますが、ナギの柊に対する気持ちっていうのはラブじゃなくて庇護欲って感じです。
……作外で言及しないとダメな自分の文章力が悲しい。
ナギの気づいた『答え』も、伏線は割とわかりやすくばらまいてあるので、わかった方は言わないでくださると助かります。
もっと仕込めばよかったなぁ……。
後編もありますのであまり多くは語れないためこのへんで。後編は落差を楽しんでいただけたらいいなぁ。
ではでは。
82
:
夜ねこ
:2009/06/18(木) 00:52:40 ID:MokMbNo.0
以上です。何卒よろしくお願いします。
大体20kくらいでわけてあるはずです。
83
:
名無しさん
:2009/06/18(木) 14:29:08 ID:FJEufijA0
>夜ねこさん
投稿お疲れ様です。
柊(6)の可愛さは異常ですな……そりゃナギも和むというもの。
マリアさん(17)は学園世界に来て無いんですね。
てっきりまた、コスプ……じゃなくて変装して白皇学院に忍び込んでるのかと。
まぁ彼女は本職メイドだし、普段はお邸で仕事してますから仕方ないかー。
シリアスな流れになってきて先が気になります。
続きも楽しみに待ってます。
84
:
名無しさん
:2009/06/18(木) 15:39:29 ID:531CZOXQ0
回想シーン噴いた。
セリフだけなのに、なんでこんなにハッキリと脳内で絵が浮かぶんだw
あとヒナたん可愛いよヒナたん。
85
:
名無しさん
:2009/06/18(木) 18:31:45 ID:YXCrySJ2O
もしかしてケータイからだと降順表示ってオチ?
86
:
名無しさん
:2009/06/18(木) 19:44:55 ID:1WQ1Zw2QO
したらばは降順表示だな<携帯
2はそんなことないんだけどなぁ……
87
:
管理人★
:2009/06/18(木) 19:53:07 ID:???0
モバイルのレス表示順を昇順に変更しました。どうでしょうか?
88
:
名無しさん
:2009/06/18(木) 19:54:04 ID:531CZOXQ0
Σはや
89
:
名無しさん
:2009/06/19(金) 11:56:34 ID:pT3hH4JU0
>>87
乙です
さっき携帯で見たら見やすくなってて驚いたよ
90
:
名無しさん
:2009/07/17(金) 19:46:34 ID:z.fYgrVM0
本スレと避難所の使い分けって、何かある?
91
:
名無しさん
:2009/07/17(金) 21:44:52 ID:.z1IsIdQ0
>■投稿規制時の代理投下、クロススレに投下するには微妙なネタや、荒らし等の緊急時は避難所へ。
本スレでは微妙なネタ、例えばNWキャラが出ない学園世界の話とか?
92
:
名無しさん
:2009/07/18(土) 17:30:05 ID:UxCopa8M0
>>91
こっちでならOKなら書きたいな
93
:
管理人★
:2009/07/20(月) 12:54:28 ID:???0
もうひとつの方でも書きましたが、本スレで追い出されそうな物や他スレに持って行けない物など御自由にどうぞ。
基本「避難所行け」と言われるようならばここで。
94
:
名無しさん
:2009/07/21(火) 08:57:23 ID:z.fYgrVM0
したらばってエロどうだっけ?
あとNWが絡まないもの、逆にNWのみのものは別スレにしたほうがいいとかは?
95
:
名無しさん
:2009/07/22(水) 22:47:19 ID:dSYUkmz60
>>94
>■非クロス作品の場合は、卓上ゲーム板の専用スレへの投下も検討してください。
>
>卓上ゲーム板作品スレ その4
>
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1226119982/
エロの場合、保管庫の方が問題になったはず。
したらばより@wikiの方がその辺厳しかったような。
96
:
名無しさん
:2009/07/22(水) 23:33:00 ID:z.fYgrVM0
>>95
クロススレ派生のネタだったり、アニメ版を前提としたネタだったりすると
卓ゲ板では少し投下しにくいかもね
97
:
(flag.X1-2 黒き落としの神子)
:2009/08/04(火) 23:13:08 ID:UxCopa8M0
アク禁中につき、ひっそりとこっちに投下します。
98
:
(flag.X1-2 黒き落としの神子)@学園世界
:2009/08/04(火) 23:13:53 ID:UxCopa8M0
―――輝明学園校長室
日曜日。
輝明学園の理事長代理であるくれはは、休日だからと言って軽々しく休めない。
執行部の顔役として年がら年中忙しい彼女の幼馴染ほどではないにせよ、この学園世界で多数の仕事を抱えている。
輝明学園の運営代表であるため、健康やストレスを考えて休暇にも一定の配慮がなされてはいるが、仕事が溜まった時などはこうして休日に"出勤"することになる日も多かった。
「はわっ?」
目を通し、本日の急な仕事の書類に書かれた"ちょっとした予想外"の部分に眉をひそめる。
「…なんで?」
書類に書かれたその部分…『クラス分類欄』に首をかしげる。
「てっきり大いなるものか転生者辺りかな〜と思ってたんだけど…」
彼女の経歴を見るにその辺が妥当だろう、そう考えていたのと違う。
それが何を意味するのかを考えていたところで…
コンコン
「失礼します。赤羽理事長代理、夜見様がお見えです」
くれはの秘書が待っていた客人の来訪を告げ、くれはは思考の海から引き上げられる。
「はわっ。通しちゃって」
先ほどまでの疑問はとりあえず脇に置いておくとして、くれははそのウィザード…幼馴染でもある夜見トオルを迎えた。
「新米ウィザードの教育係か…ですか?」
くれは直々に頼みたいことがある。そう聞かされて輝明学園にやってきた夜見トオルは、ぎこちなくくれはの『依頼』を聞き返した。
「はわ〜。別にそんなにかしこまらないくていいよ?」
そんな、明らかに慣れていない敬語に苦笑しながらくれはが言う。
「え?いいの?一応こっちではくれは先輩えらい人だからちゃんとした方がいいかなって思ったんだけど」
「いいよいいよ。むしろ変にかしこまられても肩こるしさ。っつーわけでいつも通りよろしく」
「…分かった。それでいいっつうんなら」
「うん。それでよし。そんで話戻すけどさ、教育係制度のことは知ってるよね?」
「え?そりゃあ、まあ…」
くれはの問いにトオルは頷く。
輝明学園に通う学生の大半はイノセント…ウィザードでは無い普通の人間である。
学園世界において彼らイノセントはなんら特殊な力を持たない輝明学園の生徒として、日々暮らしている。
しかし、彼らの中にはある日ウィザードに覚醒するものがいる。
モンスターの類に襲われて、運命の導きで、この世界で異世界の何かから力を得て、異世界の技術を学ぶうちに自然と…
理由は様々だが、とにかくある日突然力に目覚め、非日常の側に立つ生徒は結構多い。
そんな、"学園世界産"ウィザードの発生に伴って、この世界で唯一ウィザードの扱い方を心得ている組織として輝明学園はいくつかの制度を設けた。
輝明学園のウィザードであることを証明する『ウィザード学生証』の発行をはじめとして覚醒したウィザードに装備を整えるための資金を渡す『ウィザード奨学金』、
本人の適性に合わせて必要な知識や技術を教える『ウィザード教習』など、基本的には新たに覚醒したウィザードがその力を使いこなせるようになるまでの間見守るものである。
99
:
(flag.X1-2 黒き落としの神子)@学園世界
:2009/08/04(火) 23:16:25 ID:UxCopa8M0
そしてその1つに、『ウィザード教育係』と言うものがある。それは…
「新しく覚醒したウィザード生徒に同じ学生のウィザードを紹介するって奴だよな?確かその人に近しい人が選ばれるって…ん?」
制度のことを口にしていて、トオルは疑問を覚える。
「ってことはつまり俺に近しい奴がウィザードになったってことで…まさか!?」
そして、気づく。この1年、ただ1人を除いて誰とも関わらぬよう暮らしてきた『夜見トオル』に近しいイノセントは、ただ1人だと言う事に。
その様子にくれはは頷いて答える。
「そう。入ってきていいよ」
ガチャ
「はい。失礼しま〜す。それと、おはよ。トオル」
その言葉と共に入って来たのは…
「ユリっ!?」
彼の幼馴染の少女、朱野ユリだった。
「何でユリが…?」
「うん。昨日モンスターに襲われて、そのとき、ウィザードになったみたい」
驚いているトオルにユリが嬉しそうに説明する。
「なったみたいって…いや、まあよくある話だけどさ」
素質もつものが命の危機から生き残るために覚醒したと言うのは、ウィザードの覚醒の理由としては非常にポピュラーなものではある。
実際学園世界でもモンスターの類に襲われて力に目覚めたウィザードは数多い。
それに元々大地の護符をその身体に有していたユリはウィザードになる才能の1つ"非日常を受け入れられる心の強さ"は持っていた。
「けど、ユリが覚醒するなんて…」
だがトオルは知っている。ユリにはウィザードに必要なもう1つの才能が欠けている。
朱野ユリはウィザードに必要なもう1つの才能、"強いプラーナ"をとある事件で失った。
逆に言えば何らかの要因で解消されればいつウィザードに覚醒してもおかしくは無い状態ではあったのだが、ならば何が起こったのか。
「まあ、ユリちゃんのことはこっちでも色々調べてるからさ、しばらくユリちゃんのことはよろしくね」
そんなトオルの疑問を察したのか、くれはが先んじて答える。
「まあ、そんなわけみたいだから。よろしくね。トオル」
ユリも零れるような笑みでトオルを見る。
「…おう。とにかく、形はどうあれくれは先輩の頼みだしな。よろしくな、ユリ」
そんなユリが眩しくてぶっきらぼうに、承諾する。目をそらしながら。
「…もう。そこはもうちょっと『ああ!これからはずっと一緒だYO!愛しいマイスイートハニーユリ!』とか言わないと」
からかうように言う。
「んな恥ずかしいセリフ言えるかっ!?」
そんなユリのセリフに顔を赤くする。そんな様子に満足したようにユリは付け加える。
「まあ、あたしもトオルがそんなこと言ったら笑うけどね」
「ひでえっ!?」
「ま、冗談はさておき」
そんな、青春ディスタンス街道まっしぐらな会話を打ち切り、ユリがこほんと咳ばらいを1つする。
「これからはウィザードとして、一緒だよ」
心底嬉しそうに、言う。
「…おう」
それにぶっきらぼうに同意するトオル。
それが朱野ユリのウィザードとしての生活の始まりであった。
100
:
(flag.X1-2 黒き落としの神子)@学園世界
:2009/08/04(火) 23:17:35 ID:UxCopa8M0
―――輸入百貨店『オクタマート』
オクタヘドロンを始めとした、異世界を渡り歩く複数の企業が共同出資して作った学園世界最大の超☆巨大ショッピングモール。
それがオクタマートである。
食品、日用品や服、アクセサリなどのファッション用品、各種ポーションや魔道具などの冒険用アイテム。果ては刀剣類や銃器、魔装に鎧などの武具まで。
ここでは学園世界の学生たちの出身世界から"輸入"したありとあらゆる物品が売られている。
0-phoneを用いた電子マネーにも対応し、更に休日には本物の量産型(市価200万円にて絶賛販売中)を使った「ボン太くんショー」などの各種イベントも満載。
その異様なまでの品揃えと行き届いたサービスのお陰で、開店から1ヶ月ほどにも関わらず既にその名は学園世界中に知れ渡っている。
そして、その一角で経営している、中華飲茶店で。
「…遅いわよ2人とも」
ゆったりとしたワンピースを着た鳳来寺麒麟は優雅に温かい烏龍茶を飲みつつ、約束の時間を大分遅れてきた2人をじろっと見る。
「…悪い。ここ来るのは初めてだから、迷った」
余りファッションに興味のなさげな普通の服の上からいつものマントをつけたトオルと。
「ごめ〜ん。アタシもこの区画にはほとんど来たこと無かったから、迷っちゃった」
ひざ丈のフレアスカートにブラウス、それに薄手のカーディガンを着こみ、手を合わせすまなそうな顔をしたユリの2人。
「…まあいいわ。初めてなら迷うのも分かるから」
そんな2人に、仕方がないかと言うように麒麟は溜息をついた。気持は分からないでもない。
この辺りはオクタマートでも特に初心者お断りの場所なのだ。
この区画一帯は通称"オカルトエリア"と呼ばれている。
ここでは各種魔法の習得や儀式魔法に使う材料や魔道具、黒魔術や呪術なども含む魔法が記された魔導書、その他霊能者、魔法使い向けの装備などを主に扱っている。
そのため、普通に蝙蝠の羽根だの正体不明の触手が量り売りで売っていたり、人肌の温度と手触りの装丁が施された魔導書が本棚に並んでいたり、この世のものとは思えぬ何かの鳴き声がどこからか聞こえてきたりする。
やってくる客も霊能者やオカルトマニア、魔術師や錬金術師と言った『本格派』ばっかりと言う一般人がほとんど近づかない一角なのだ。
この辺りはその手の、怪しい人間が多い場所なためかやたら豪華なマントをつけた少年と言うトオルの姿も余り目立っていないのが救いと言えば救いである。
「それで、本当なの?その、ウィザードに覚醒したって」
気を取り直し、麒麟はユリに尋ねる。
「うん。間違いないみたい。あたし、ウィザードになったって」
麒麟の問いに、こっくりと頷く。
「それでね。あたしはキャスター…だっけ?とにかく、攻撃魔法を使うのに向いてるらしいんだけど…」
「ユリは魔法って言うかウィザードのこと事態ほとんど知らんし、オレも箒とか武器なら分かるんだが、魔法はあんまし詳しくないからな。
だからさ、悪いんだけどユリの装備見立ててやってくんないかな?」
「なるほど、そういうことね…」
ユリとトオルから事情を聞き、麒麟は納得する。確かにそう言うことならタイプは違うが魔法の扱いには詳しい自分の方が向いているだろう。
「分かったわ。他ならぬ親友と戦友の頼みだし、そういうことなら私に任せなさい」
そう答え、立ち上がる。
「行きましょ。とりあえず、魔法からね」
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