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オリロワVR

1 : 新しい世界へようこそ! ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:34:56 5/70UkZ.0


『New World』へようこそ!


はじめまして。私は皆様の新しい人生をお助けする案内用AI『シェリン』と申します。
新しい世界であなたにこうして出会えた事、非常に嬉しく思います。
どうぞこれからよろしくお願いいたしますね。

――――『New World』

それはこの遥かなる宇宙に新たに生み出された新世界。
それは様々な世界から集められた勇者が集う世界
それが『New World』

高次元干渉システム『Isaac』による次元介入により強制招集された勇者の一人、それがあなたです。
現在あなたは魂魄制御システム『Pushuke』により、ゲームシステムと魂の直接接続が完了しております。
踏みしめる大地の感触。頬を撫でる風の心地よさ。傷がつけば痛みすらあるでしょう。
生身と変わらぬように『New World』で"生"を感じることができるのです!

そこにあるのは現実と見まごうほどのリアル。
そして現実では味わえないファンタジーです。
新世界はあなたに新体験を約束する事でしょう。

あなたにはこの世界でただ一人の勇者となって貰いたいのです。
そのために他の勇者と殺しあっていただきます。
生き残るのはただ一人のバトルロワイアルです。

優勝者には『World master』の称号が与えられます。
優勝者には新世界『New World』の所有権が与えられます。
優勝者には高次元干渉システム『Isaac』及び、魂魄制御システム『Pushuke』の使用権が与えられます。

まあ! なんて豪華賞品! ぜひとも勝ち残りたいですね。

なお、イベント終了まで『New World』から離脱はできませんのでご注意ください。
また『New World』で死亡した場合、魂が消滅し元の肉体も死亡しますのどうかご注意ください。
この説明を聞き終えた時点でこれら注意事項について同意したものと見做されますのでご了承ください。

それでは早速、新たな世界に触れてみましょう。
と言いたいところですが、その前に。
幾つかご説明させていただきたいことがあります。
少々お付き合いくださいね。

>あなたにGP(ゲームポイント)が300ptが与えらました。

おめでとうございます!
GPは様々な用途に使用できるゲーム内通貨のようなものです。
ゲームを有利に勧めるために沢山集めたいですよね。

主な入手方法としては勇者の殺害です。
1名殺害するごとに30ptが得られます。
また、3名以上を殺害した勇者を殺害した場合、『強敵撃破ボーナス』として2倍の60ptが獲得できます。
チャンスがあれば積極的に狙っていきたいですね!

まずはこのGPを使用して『New World』であなたの分身となるアバターの設定を行いましょう。

>アバターの作成のチュートリアルを表示しますか?


"
"
2 : 新しい世界へようこそ! ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:38:11 5/70UkZ.0
.
.
.
.

アバターの設定お疲れさまでした。
続いてメニュー画面のチュートリアルを開始します。
それが終わればチュートリアルもあと僅か、新しい世界までもう少しなので頑張りましょう!

各種操作はメニュー画面から行えます。
実際にメニューを開いてみましょう。
メニュー操作は思考回路と直結しておりますので、体の一部を動かすような感覚で操作が可能となっております。

[[ステータス]]
[[アイテム]]
[[メール]]
[[メンバー]]
[[オプション]]
[[ヘルプ]]

[[ステータス]]
『New World』であなたの分身となるアバターのパラメータやスキルが確認できます。
所持GPや、装備、状態なども確認できますので細かくチェックしていきましょう。

※ワンポイントアドバイス
状態異常も確認できるので、何か異常を貰ったかな? と思ったらまずはここを確認しよう!

[[アイテム]]
あなたの所持しているアイテムが表示されます。アイテム所持数に上限はありません。
この画面から装備の選択やアイテムの取り出しが可能となっています。
また装備の変更などは便利なショーカットを設定できますのでご活用ください。

※ワンポイントアドバイス
初期アイテムとしてランダムに三つのアイテムが支給されるぞ!
ゲームが開始したらまずはアイテムを確認しよう。それが勝利のカギだ!

[[メール]]
あなたに向けて送られたメールを確認できます。
運営よりのお知らせが6時間に一度の定期メールとしてお届けされます。
勇者の脱落情報やエリアの変化情報などが知れますので必ずチェックしましょう。

※ワンポイントアドバイス
定期メールの他に突発イベントのお知らせなどが届くこともあるぞ!
これを逃すと他のプレイヤーに後れを取ってしまうので、欠かさずチェックしよう!


3 : 新しい世界へようこそ! ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:39:31 5/70UkZ.0
[[メンバー]]
ゲームに参加している勇者のリストが表示されます。
あなたが獲得した他勇者の情報は自動で更新されます。
定期メールの受信と同時に脱落者情報が更新されます。

※ワンポイントアドバイス
ひょっとしたら君の知り合いもいるかも!?
協力出来たらラッキー! 最後に勝つのは一人だけど探してみるのもいいかも!?

[[オプション]]
各種設定をカスタマイズできます。
各自最適な設定を行ってください。

※ワンポイントアドバイス
オプションでマップを視界上に常時表示することも出来るぞ!
視界にちらついてどうしても気になるって人以外は設定しておくのがお勧めだ!

[[ヘルプ]]
システム面などの基本情報について分からないことがありましたら私『シェリン』がお答えします。
どうぞお気軽にお問い合わせください。

※ワンポイントアドバイス
基本情報以外の問い合わせは特定の交換機から申請と共にGPが必要だ。
他の参加者の秘密の情報なにかを知りたいときには活用してみるものいいだろう!

チュートリアルは以上となります。
ここまで、お疲れさまでした。

お待たせいたしました。
さあ、いよいよ旅立ちの時です!

新しい世界があなたを心待ちにしています。

それでは心行くまで『New World』をご堪能下さい。




『New World』へようこそ!


4 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:42:41 5/70UkZ.0
【この企画について】
・募集したオリジナルキャラクターでバトルロワイアルを行います
・20〜30人規模の1年以内に終わる程度の企画を想定しています
・参加者は自主参加ではなく普通に生活してたら強制的に招集された前提です
・ランダム支給品はオリジナルでも実在の品でも構いません

【wiki】
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/

【したらば】
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16903/

【予約】
・必須ではありません
・予約期間は予約から3日
・延長はありません

【キャラ募集ルール】
・キャラクターとアバターのペアでキャラシートを募集します
・一人何キャラまでなどの制限はないので、みなさま振るってご投稿ください


5 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:43:36 5/70UkZ.0
■キャラクターテンプレート

【キャラ名】
【性別】
【年齢】
【職業】所属組織や学校名も明記しておくとその後に優しいです
【外見】
【内面】
【交流】他のキャラとの繋がりがあるならここに
【詳細】

■アバターテンプレート

【アバター名】デフォルトはキャラと同じ。初期設定時のみ50ptで変更可能、途中変更不可能(名簿に反映されるため)
【ルックス】デフォルトはキャラと同じ。10ptで変更可能
【パラメータ】下記で説明
【スキル】下記で説明
【GP】残りGPを明記してくださいい

・パラメータ
STR(筋力)、VIT(耐久)、AGI(敏捷)、DEX(器用)、LUK(幸運)
GPを消費して各パラメータをE〜Sで設定してください、消費ptは下記

E(すごくにがて):0pt
D(にがて):10pt
C(ふつう):25pt
B(すごい):50pt
A(ちょうすごい):100pt
S(さいきょう):200pt

・スキル
GPを消費してスキルの習得が可能となります
スキル内容は自由ですが、効果の強さはスキルの強さによって決定されます
習得できるスキルに個数の制限はありません
スキルと消費ptは下記

C(スキル効果:弱):20pt
B(スキル効果:中):50pt
A(スキル効果:強):100pt
S(チート級スキル):300pt

スキル例:飛行)
飛行(C):瞬間的に空中で静止できる
飛行(B):空中での単純移動が可能となる
飛行(A):一定時間空中での移動が可能
飛行(S):自由自在に空を飛べる

※使い切れなかった残GPはゲーム内に持ち越せます。


"
"
6 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:44:53 5/70UkZ.0
キャラクター作成例)

■キャラクター

【キャラ名】檻露和 太郎(おりろわ たろう)
【性別】男
【年齢】18
【職業】学生・殺戮学園高等部3年
【外見】がっちりしてる
【内面】あなたが思ってるよりはいいやつ
【交流】
イッチ(>>1):恋人だと思い込んでる
【詳細】
どこにでもいる普通の高校生
鍛えているのでそれなりに強い

■アバター

【外見】イケメン、長身長、シュッとしてる
【パラメータ】STR:E VIT:D AGI:C DEX:B LUK:A
【スキル】
隠密(B):気配を消した隠密行動が可能となる、ただし隠密状態のまま攻撃は出来ない
透視(B):壁を1枚透視することができる
【残GP】5pt

こんな感じで外見変更(10pt)+パラメータ(185pt)+スキル(100pt)=295ptとなります
ちょっと小難しくて計算が面倒ですが、それでも作ってみたいと言う方がいらっしゃいましたら期間はあるのでじっくり設定してみてください


7 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:47:13 5/70UkZ.0
【アバターについて】
・アバターは生身と同じように動かせます、アバターが死ぬと本体も死にます
・食事、睡眠は不要ですが可能です、気絶もします
・死亡するとアバターは消滅します、アイテムは当たりばら撒かれ残りますが6時間放置で消滅します
・作中ではアバターはキャラクターが設定したモノであるという扱いになります。
・そんなチマチマしたことをしそうにないキャラはランダムで設定したという事にしてください。
・パラメータの振り直しはできませんが、GPを使用した追加強化は可能です
・INT(知識)、MND(精神)はステータスになく、アバターではなくキャラクターに依存しますがスキルなどでの強化は可能です

【ゲームポイント(GP)について】
・全参加者に初期GPとして300ptが与えられます
・GPはゲーム内で様々な用途に使用できます
・1人殺害するごとに30pt獲得できます
・3名以上殺害した参加者を殺害した場合『強敵撃破ボーナス』として2倍の60ptが獲得できます
・その他入手方法はそれなりにあります

【ゲーム内でのゲームポイント(GP)の使用について】
・GPは特定の交換所で使用できます
・交換所はマップ内に都会のコンビニくらいの間隔であります
・アバターの追加強化
・ランダムアイテムとの交換(100pt)
・シェリンへの質問(50pt)
・その他追加されるかもしれません

【エリア変化について】
・定時メール毎にエリアの切り離しが行われます
・切り離し処理は告知の2時間後に完了します

【作中での時間表記】(深夜0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24

【状態表テンプレート】

[現在エリア/詳細位置/日付・時間]
[キャラ名(アバター名(ある場合))]
[パラメータ]:アイテム使用などでの一時強化も表記
[ステータス]:ダメージ状況などもここに
[アイテム]:装備中のアイテムには(E)の表記を付ける事
[GP]:XXXpt
[プロセス]:行動方針など


8 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:48:13 5/70UkZ.0
【スケジュール】

◆募集期間
2020/09/05(土) 00:00:00 〜 2020/09/19(土) 23:59:59

募集期間終了時点で募集キャラが20名以下なら私が適当に考えたキャラで埋めます
30名以上なら投票で参加キャラクターを選出します

◆投票or穴埋め期間
2020/09/20(日) 00:00:00 〜 2020/09/20(日) 23:59:59

◆予備日(なんかあった時のため)
2020/09/21(月) 00:00:00 〜 2020/09/21(月) 23:59:59

◆企画開始
2020/09/22(火) 00:00:00 〜


9 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/04(金) 23:49:14 5/70UkZ.0
以上となります
少し特殊な形式のオリロワになりますので、テンプレートをよくお読みになった上でご参加ください
よろしくお願いします


10 : 名無しさん :2020/09/05(土) 12:20:41 P8tX3dgI0
■キャラクター

【キャラ名】大和 正義(やまと まさよし)
【性別】男
【年齢】17
【職業】学生/大日輪学園2年
【外見】
黒の短髪、全てを見通す様な黒い瞳、学校指定の白ラン
容姿は突出して整っていると言う訳ではないが、精悍で清潔感を感じさせる
【内面】
名前通り正義感が強い
感情を乱すことは少ないが、内心は熱血漢
弱き助け強きを挫く、困ってる人を見捨てられない
【詳細】
親しい友人からの愛称は『セイギ』
成績は学年10位以内で剣道三段、空手二段、柔道二段の文武両道
幼少の頃から様々な教育を叩きこまれたため、常で冷静であろうと心掛けている
ゲームなどの遊びには疎い

■アバター

【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:E
【スキル】
明鏡止水:A
常に冷静沈着、動揺など抑え精神異常を無効化する
観察眼:B
相手の仕草、様子から的確な情報を分析できる。また周囲の違和感を見逃さない。
【残GP】0pt


11 : 名無しさん :2020/09/05(土) 13:17:45 qcudEMpE0
【キャラ名】プテリクス
【性別】男
【年齢】300歳くらい
【職業】無職(吸血鬼)
【外見】長い白髪、漂白されたような白い肌、赤い瞳、全身黒づくめの衣装
【内面】
傲慢にして自分勝手。
人類に対しては使用人・家畜と思っているし、
他の人外は自分の仲間と思っている。
そこから外れたものには容赦をしない。
【詳細】
伝説のドラキュラ公の末裔、龍(ドラクル)から進化した鳥(プテリクス)を自称する高位の吸血鬼。
その魂を傷つけなければ決して倒れることはなく、唯一倒す方法は新月の日の12時に十字架に掛けて魂を肉体から追い出した上で日光を浴びせ、魂を浄化させることだという。
魂を直接傷つけられる今回は普通に死ぬ、困った。
高位の吸血鬼として古くから己たちより劣っている人類の支配を目論んでいる。

■アバター

【パラメータ】STR:B VIT:C AGI:A DEX:D LUK:D
【スキル】
吸血(B):他人の血を吸収することでHPを回復する
飛行(B):空中での単純移動が可能となる
【残GP】5pt


12 : 名無しさん :2020/09/05(土) 18:45:29 WvCeC7V.0
■キャラクター
【キャラ名】安里 飛鳥(あさと あすか)
【性別】女性
【年齢】48歳
【職業】大日輪学園食堂調理員(パート)
【外見】やせ型。長髪。年齢相応の外見
【内面】
家族第一。家族大好き。
人並みの正義感、倫理観は持ち合わせている。
【交流】
同僚との仲は良好。
大日輪学園の生徒や教師を見れば「うちの生徒(教師)だ」とわかる程度。平素から交流があるわけではない
【詳細】
いわゆる普通のおばちゃん。年齢のわりに心身ともに健康。
夫と大学生の息子と高校生の娘の4人家族。円満な家庭を築き幸せに暮らしていた。
趣味はランニングとヨガ。市民マラソンで入賞が狙える程度。
むやみに他者を傷つけることなく、家族のもとに生還することを目的としている。

■アバター

【パラメータ】
STR(筋力):E
VIT(耐久):C
AGI(敏捷):B
DEX(器用):D
LUK(幸運):B
【スキル】
健脚:A
脚が丈夫で長い距離を走ることができる。走行速度や連続走行距離、脚部の耐久性が向上する。
【GP】
残り65pt


13 : 名無しさん :2020/09/05(土) 19:40:47 5x/oadkc0
■キャラクター

【キャラ名】山本 眼鏡子(やまもと めがねこ)
【性別】女
【年齢】16
【職業】学生/大日輪学園1年
【外見】三つ編み眼鏡の文学少女然とした少女
【内面】
内気で大人しい。ように見えるがその実大抵のことに興味がないだけである
重度の眼鏡フェチ、人は眼鏡の置物だと思っている
【交流】
大和 正義(>>10):有名な先輩。直接的な面識はないが眼鏡かけたい
安里 飛鳥(>>12):弁当派なのでそれほど交流はないが眼鏡かけたい
【詳細】
眼鏡なき者は人にあらず
眼鏡をかけていない人間に人権はなく、眼鏡のためなら手段を選ばない
元はごく一般的な名前だったが両親を説得(脅迫)して改名した

■アバター

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
眼鏡(S)
視界に入った対象に強制的に眼鏡を装備させる
Sランクとなるとこれだけに止まらず、もはや呪いの域に達しており
対象は眼鏡を装着した時点から徐々に思考を眼鏡に奪われ、最終的に眼鏡を置くためだけのオブジェクトとなる
精神耐性があれば延命可能。眼鏡を外すには解呪スキルが必要となる
【残GP】0pt


14 : 名無しさん :2020/09/05(土) 20:44:56 iUvgqlKE0
■キャラクター
【キャラ名】桐本 四郎(きりもと しろう)
【性別】男
【年齢】33
【職業】死刑囚
【外見】少し身長が高めなオッサン
【内面】
人の苦しむ姿・命乞いするみっともない姿を見るのが大好き
過去に起こした事件について全く反省していない
【交流】
親しい友人はいない。連日ニュースで報道されたため有名人。
【詳細】
2年前、14人連続殺人事件(通称・桐本事件)を起こした殺人鬼。
サバイバルナイフ2本のみを武器にして老若男女の区別なく無差別に殺しまくった。
事件を起こした経緯について「このまま会社員をやるのもつまらないと思った」と語っている。
命乞いを見るのは大好きだが、後で刃向かわれても面倒なので最終的には殺すタイプ。

■アバター
【パラメータ】STR:B VIT:D AGI:A DEX:C LUK:B
【スキル】
毒攻撃(B):傷をつけた相手に毒の状態異常を付加することがある。確率は自分と相手のDEXとLUKに依存。
【残GP】15pt


15 : 名無しさん :2020/09/06(日) 00:41:51 lS3dModE0
■キャラクター

【キャラ名】被検体004
【性別】男
【年齢】22
【職業】モルモット
【外見】白髪混じりの長髪、骨と皮だけの様なやせ細った男
【内面】無気力と言うより過酷な実験により常に気力を奪われている、内心は世界に対する復讐心で充ちている
【交流】自分の体を弄った研究者くらいしか知り合いがいない
【詳細】
触れるだけで死亡する特殊なウィルスに侵されている
何故か本人は死亡せず死をまき散らしていた所、兵器転用を目的として拉致、以後16年間隔離され非人道的な実験を行われる

■アバター

【アバター名】ジョン
【ルックス】健康的な青年
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:A
【スキル】
死病:A
通常攻撃時(自LUK-相手LUK)/2の確率で相手に状態異常『死病』を与える
『死病』状態になった場合、状態異常を回復しないと6時間後に死亡する
『死病』は感染者の攻撃時(自LUK-相手LUK)/10の確率で二次感染する、また感染元が死亡しても解除されない
【残GP】40pt


16 : 名無しさん :2020/09/06(日) 02:42:31 MAC0rfeY0
■キャラクター
【キャラ名】江元・E・絵美璃(えもと・エヴァンス・えみり )
【性別】女性
【年齢】17歳
【職業】高校生
【外見】明るい色のボブカットヘアー。大きなかわいらしい目をしているが、現在では目の下に濃い隈がある。いわゆるモデル体型。
【内面】
明朗快活ながら主体性が乏しい。視野が広く観察力が高いためサポ―トに長けている。
現在では度重なる悲劇と絶望で心が折れてしまっており、サバイバーズギルトと死への恐怖の板挟みになり、苦しんでいる。
【交流】
日本人の父とアメリカ人の母と3人暮らし。同じ高校に恋人もいた。
彼女が元いた世界の人間はデスゲームの末に全員死亡している。
【詳細】
とある世界線において全人類を巻き込んだデスゲームが行われた。ゲームの打破、主催者の打倒を目指す仲間たちと志を共にして戦った彼女は、様々な因果の果てにただ一人生き残り優勝を果たしてしまった。


■アバター
【パラメータ】
STR(筋力):C
VIT(耐久):C
AGI(敏捷):C
DEX(器用):C
LUK(幸運):A
【スキル】
危機回避:B
自らに迫る危険を無意識に回避できる。感知できるわけではないのでどんな危険だったかは回避してからわかることが多い。
行動続行:C
肉体的に疲れていても精神的に打ちひしがれていても行動が可能。ランクCなので行動を開始するのに自発的意思が必要。外傷によって行動不能になった場合、このスキルでの行動続行は難しい。
【GP】
残り25pt


17 : 名無しさん :2020/09/06(日) 04:51:23 AU.9B7vU0
■キャラクター
【キャラ名】田戸 康治(たど こうじ)
【性別】男
【年齢】24
【職業】立京大学大学生
【外見】浅黒い肌、短い黒髪の男。白いTシャツと黒いズボンを履いている
体つきは結構がっちりしてる
【内面】
気さくのいい先輩として大学内では知られているが、
調子に乗ってやらかしてしまうことがある
男を恋愛対象としてみている。いわゆるホモ。

【詳細】
大学内の空手部に所属している。
同じ大学の水泳部に想い人の後輩がおり、いつか胸の内を打ち明けようと考えている
このバトルロワイアルもゲーム感覚で参加しており、
その後輩に教える武勇伝を作る程度にしか考えてない。


■アバター
【アバター名】BEASTMAN
【外見】ガタイのいい犬獣人。白いTシャツと黒いズボンを履いている。
【パラメータ】STR:B VIT:C AGI:C DEX:D LUK:C
【スキル】
野獣の咆哮:B
けたたましい大音響で吠えて相手1人を一定時間気絶させることが出来る
VITあるいはLUKの確率で気絶を免れることが可能。

野獣の生存本能:B
多少のダメージでは怯まず、戦闘していない間は受けた傷を
ちょっとずつ回復することが出来る。
【残GP】5pt


18 : 名無しさん :2020/09/06(日) 11:10:10 MAC0rfeY0
■キャラクター
【キャラ名】登 勇太(のぼり ゆうた)
【性別】男性
【年齢】13歳
【職業】中学生/
【外見】黒髪の鬼太郎ヘアー。中一としても小柄で痩身。目はくりくりしている。
【内面】
明るくかわいらしい振る舞いをするが内心では「漢」に憧れており、ゲーム内ではそれっぽい行動を取る。
【交流】
クラスの女子からは小動物扱いでかわいがられている。
【詳細】
PCゲーム同好会に所属する少年。
四神信仰の一角を成す四聖獣の頂点に立つ黄龍の末裔。…という脳内設定を持つ中二病。
とはいえ常識と良識を持ち合わせているので、上記の脳内設定が一過性のごっこ遊びであることもちゃんと理解しており、ゲーム仲間にしか開示しない。
今回のロワを本当にただのゲームだと考えており、いつも通り何も考えずに脳筋パワーキャラを作成した。


■アバター
【アバター名】Brave Dragon
【外見】筋骨隆々の大男。龍を模した仮面を被っている。
【パラメータ】
STR(筋力):A
VIT(耐久):B
AGI(敏捷):E
DEX(器用):E
LUK(幸運):E
【スキル】
変化(黄龍):C
黄龍に変化するスキル。ランクが低いためパラメーターは上昇しない。
大地の力:B
大地に接しているときに限り筋力と耐久が上昇する。接地面積が大きいほど効果も向上する。
畏怖:C
生物として本能的な畏怖を抱かせる常時発動型スキル。
ランクCであるため行動不能になるレベルではなく、人外や耐性スキルを持つ者には効果がない。
【GP】
残り10pt


19 : 名無しさん :2020/09/06(日) 14:01:02 MAC0rfeY0
≫18
残りGP0です。すみません


20 : 名無しさん :2020/09/06(日) 15:35:51 MAC0rfeY0
■キャラクター
【キャラ名】林 亜虎(はやし あとら)(りん やーふー)
【性別】男性
【年齢】16歳
【職業】高校生/空明高等学校1年
【外見】細マッチョ体型。眼鏡。髪型は金髪オールバック。
【内面】
とても粗暴で冷酷。しかし高いカリスマ性を持ち人望も厚い。
【交流】
父親と兄は巨大チャイニーズマフィアの幹部。母親は鬼籍に入っている。
大和 正義(>>10):構成員をちょくちょくぶっ飛ばされているので目の上のタンコブ。いつか落とし前をつけさせたい。
山本 眼鏡子(>>13):恐怖の対象。復讐を誓っているが恐怖を拭いきれない。
【詳細】
大日輪学園の近くにある学校に通う高校一年生。八極拳を主体としたスタイルで、喧嘩では無類の強さを誇る。人を使うことにも長けている。
父親の仕事の都合で5歳までを日本で過ごし、その後中国に帰国。中学卒業と共に再び日本にやってきた。春休みの間に近隣の不良グループすべてを己の支配下に置いた。
入学後しばらくは粗暴にふるまっていたが、山本眼鏡子の眼鏡面をからかってしまったのが運の尽き。とてもこわいめに遭わされ構成員全員に眼鏡の着用を義務づける羽目になった。
一見バカそうに見えるが勉強好きで頭もそれなりに良い。空明高等学校は不良の巣窟であるが、彼がトップに立って以降偏差値が50を超えた。

■アバター
【外見】眼鏡をかけていない以外はデフォルトと同じ。眼鏡を外すためだけに外見を変更した。
【パラメータ】STR(筋力):B VIT(耐久):C AGI(敏捷):B DEX(器用):E LUK(幸運):E
【スキル】
冷静(A)
物事に動揺しにくくなる。精神干渉系のスキルに強い耐性を持つ。
高速思考(B)
頭の回転が速くなる。集中すれば5倍のスピードで思考が可能。
【GP】
残り15pt


21 : 名無しさん :2020/09/06(日) 17:29:21 lS3dModE0
■キャラクター

【キャラ名】美空 善子(みそら ぜんこ)
【性別】女
【年齢】17
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園高等部2年
【外見】意志の強さを示す様な大きな瞳。背は低いがどこからでも目を引くような存在感のある美少女
【内面】さっぱりとした性格で、媚びない態度から女子人気の方が高い
【交流】
大和 正義(>>10):8歳まで同じ空手道場に通っていた。私の事、覚えているのかしら?
【詳細】
芸名は『美空 ひかり』(善子はダサい)
私の歌で世界征服すると公言してはばからない革命的アイドル
幼いころから空手を習っている。この年にして初段の腕前で暴漢対策はバッチリ。
ドル友を狙った暴漢を何度か撃退したことがある(何故私は狙われない?)
大和正義とは同じ空手道場に通っていた幼馴染(私の方が強かった)

■アバター

【パラメータ】STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
【スキル】
アイドル(B)
共に戦う味方を鼓舞し全能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】
歌唱(B)
聞く者の戦意を削ぎ精神を癒す神秘の唄声
精神を癒し精神異常を回復する。Bランクではその他の状態異常は回復しない
【残GP】0pt


22 : 名無しさん :2020/09/06(日) 19:18:52 AU.9B7vU0
【キャラ名】有馬 良子(ありま よしこ)
【性別】女
【年齢】14
【職業】中学生
【外見】黒髪ショートヘアー、白い眼帯をつけている(特に目は怪我をしていない)。私服はゴスロリ。
【内面】
内気で恥ずかしがり屋。
ファンタジー系ゲーム漫画アニメが好きで
自分もその中の登場人物になりたいと言う願望を秘めている。
【交流】
登 勇太(>>18) 「我と同じ魂を持つ妖の少年よ!」
たまにPC同好会にお邪魔しており、なんとなく雰囲気から仲間意識を持っている
【詳細】
いわゆる中二病少女。上記のように恥ずかしがり屋なため
ファンタジー系作品に出てくるような難解な台詞を好む。
漫画部に所属しており、絵描きを趣味としている。
バトルロワイアルにも軽い気持ちで参加しており、自分の妄想の姿を実現でき、ご満悦な模様

■アバター
【アバター名】†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†
【外見】右側に黒い天使の翼が生えた銀髪の少女。黒いドレス、サンダルを履いている。
両腕に包帯、左目に白い眼帯をつけている。瞳は赤(右目)と金色(左目)のオッドアイ。
【パラメータ】STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
【スキル】
漆黒の黒龍:B
包帯を解くことで自らの内に眠る漆黒の黒龍を黒炎として放つことができる
黒と黒で被っているが気にしてはいけない

幻惑の魔眼:B
封印されている左目を見た者に1分間幻術をかけることができる
相手に目を合わせる必要があり、(自AGI-相手AGI)/4、
あるいは(自分LUK-相手LUK)/4の確率で幻術がかかる

封印されし天使:-
かつて最終戦争の後に封印された片方の翼を取り戻すことで覚醒に至る。
本人が自称しているスキル。実際には表示されていない
【残GP】
5pt


23 : 名無しさん :2020/09/06(日) 21:37:35 JzkGr2fY0
■キャラクター
【キャラ名】如月 陸(きさらぎ りく)
【性別】男
【年齢】10
【職業】小学生
【外見】おかっぱの少年
【内面】内気
【交流】まともに学校に行けてないため友達はいない。
【詳細】
現代の科学では完治は難しい難病にかかっていて現在も入院中の少年。
自分の病気が治る見込みがないことを何となく悟っている。
好きなゲーム「デビルキラー・リック」の主人公「リック・バレンタイン」のように動き回るのが夢。
「デビルキラー・リック」はかなりやりこんでおり、リックの台詞を全て暗記している。

■アバター
【アバター名】リック・バレンタイン
【ルックス】ゲームに出てくるリックそのもの(高身長、筋肉質、金髪、イケメン)
【パラメータ】STR:B VIT:C AGI:B DEX:C LUK:D
【スキル】
神聖魔法(B):効果の低い治癒魔法とそこそこの威力の聖属性攻撃魔法が使用できる。
高速化(C):2秒間、移動速度・攻撃速度が上昇する。連発も可能だが体力の消費が激しくなる。
【残GP】10pt


24 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/06(日) 21:47:01 EQtsGekY0
皆さまキャラ投下、ありがとうございます
想定を上回るペースで沢山のキャラが投下されて嬉しく思っております
今後ともよろしくお願いします

下記キャラのGPに誤差があったため報告及び勝手ながら修正させていただきます

>>16 江元・E・絵美璃
GP:25pt->30pt

>>22 有馬 良子
GP:0pt->5pt

面倒な計算が必要でお手数おかけしますが、よろしくお願いします
今後もGPはこちらでも確認していきますので御気楽に投下ください

お待たせしました
遅ればせながら地図が完成しました
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/16.html

多分流れるんで期間後にもっかいまとめます


25 : 名無しさん :2020/09/07(月) 10:09:30 bzzmECYE0
■キャラクター
【キャラ名】木本 奥太(きもと おくた)
【性別】男
【年齢】28
【職業】フリーター
【外見】太っちょ、丸メガネ、バンダナハチマキ、チェックシャツにジーンズの典型的なオタクスタイル
【内面】
地下アイドル「真央ニャン」を熱狂的なファン。
しかし、自分勝手でアイドルや周りのファンのことを考えず、迷惑行為に及ぶこともしばしば

【詳細】
「デュフフwwwwww」と笑ったり、「〜ですぞ」などオタク口調で喋る男。
しつこい出待ちや、度が過ぎる家虎などで出禁を食らってしまった悪質なアイドルオタク。
どう考えても自分が悪いのに「拙者の愛を理解できないのが悪い」と逆恨みする始末。
バトルロワイアルで優勝することにより自分が本物の「真央ニャン」に成り代わろうと企んでいtる

■アバター
【アバター名】真央ニャン
【外見】黒い猫耳カチューシャに露出多めなアイドル衣装を着ているかわいい女性
【パラメータ】STR:E VIT:D AGI:C DEX:C LUK:B
【スキル】
私のお願い聞いて欲しいニャン♪(A)
お願いを言うことで発動できるスキル。
(自分LUK-相手LUK)/2の確率で相手1人を自分の虜にし、
自分の言うことを何でも聞かせられる。
虜を増やすことも可能だがその場合は、2人なら(自分LUK-相手LUK)/4、
3人なら(自LUK-相手)/8と、どんどん厳しくなっていく
【残GP】
30pt


26 : 名無しさん :2020/09/07(月) 13:23:55 eqxDLeKQ0
■キャラクター

【キャラ名】アーノルド・セント・ブルー
【性別】男
【年齢】89
【職業】無職(退役軍人)
【外見】片足(義足)隻腕の老人
【内面】穏やかな老人
【交流】
戦友は殆ど死んだ
妻は一昨年死別。娘2人と孫が6人、ひ孫が1人いる
【詳細】
爆撃で左足を失いながらその場に留まり狙撃を続けた伝説のスナイパー。
片腕を失うまで最前線で戦い続け100名以上を狙撃した。
戦争中毒。
退役後は枯れたように穏やかになったが、今でも心は戦場にある。
もう一度戦えるのならと、叶わぬ願いに思いを馳せている。

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:A LUK:A
【スキル】
気配遮断(C):気配を消す。直接視界に収めるか同ランク以上の探知能力がない限り発見されない。少しでも動くと解除される
透明化(C):肉体を透明にする。少しでも動くと解除される
千里眼(C):視力が上がる。劇的な効果はないが他者よりも遠くが見える
鷹の目(C):空から見渡すような視野を得る。大きく視界が広がるがs後方までは確認できない
夜目(C):闇の中でも視力が落ちない。光源がなくとも輪郭を捕えられるが詳細までは見えない
【GP】0pt


27 : 名無しさん :2020/09/07(月) 13:26:15 /ZRDjNlU0
■キャラクター
【キャラ名】ディラン・ジェンキンス
【性別】男性
【年齢】61歳
【職業】芸能事務所社長
【外見】禿頭、豊かな白髭、小柄ででっぷりと太った体格
【内面】
マッドサイエンティスト。倫理は狗に食わせた。アイドルは天使。
口癖は「原理を説明してもわからんだろうから結果だけ教えてやる」
【交流】
自らの作り出したホムンクルスたちからは「豚」「キモ男」「ジジイ」「アブラデブ」などと散々な呼ばれ方をしている。憎まれているわけではない。
【詳細】
最近まで裏社会で活躍するマッドサイエンティストで、生物工学の権威として有名だった。
理想のアイドルで思う存分ブヒりたいという欲求を叶えるため、4体の女性型ホムンクルスを作成しユニットを結成。裏社会で築き上げたすべてを捨てて日本に渡り、事務所を立ち上げ、彼女たちをアイドルとしてデビューさせた。

■アバター
【外見】痩身の若い男。175cm 59kg。さわやかイケメンだが髭だけはそのまま。
【パラメータ】
STR:D VIT:D AGI:D DEX:B LUK:D
【スキル】
オタ芸:A
オタ芸がすごく上手になる。少し周囲の注意を引くことができる。
生命創造:B
生命の細胞を消費することで別の生命体を創造することができる。創造した生命体は1分ほどで消滅する。
結界:B
自分を中心に直径50m程度の結界を張り外部からの干渉を遮断できる。強力な物理攻撃で破壊可能。呪詛や精神攻撃は防げない。

【GP】
残り0pt


28 : 名無しさん :2020/09/07(月) 14:20:37 yfHZCjnA0
【キャラ名】雨花 響介(あめばな きょうすけ)
【性別】男
【年齢】16
【職業】学生/大日輪学園1年
【外見】前髪が長く両目が隠れている。体格は平均的。
【内面】
根暗。
常に恐怖心にとりつかれている。
何か良くないことが起きる可能性をいつも考えている。
疑い深い。
【交流】
大和 正義(>>10):直接対面したことはないが、人助けをしているところを見たことがあるためたぶんいい人だとは思う。その確証は得られていない。
山本 眼鏡子(>>13):話したことはない。大人しそうに見えるが底知れない何かを感じる。怖い。
【詳細】
とても怖がりな少年。
危険と書かれた場所には絶対に行かない、絶叫マシンにも絶対に乗らない、ヤバいと思ったらすぐ逃げる。
見知らぬ他人も恐怖の対象で信用できると思えるまでは目を合わせない口もきかない。
顔は知っていても直接出会ったことのない内面の知らない人間も信用しない。
このゲームでは外見を変えることができるため、見知った人物でも本人確認ができないと信用しない。

■アバター

【パラメータ】
STR:E VIT:C AGI:A DEX:E LUK:A
【スキル】
心のレーダー:B
自分から半径20m以内の人物の心の声を聞くことができる。範囲内の人物のいる方向から声が聞こえてくる。遠い場所にいる人物ほど聞こえる声は小さくなる。
逃走:C
自分と敵対する相手から逃げようとしたときに相手の動きが停止する。Cランクでは停止時間は最低1秒。自分と相手のLUKの差の分だけ停止時間は1秒増える。
【GP】5pt


29 : 名無しさん :2020/09/07(月) 17:35:38 IbPg1YfE0
■キャラクター
【キャラ名】氷露 雁(ひょうろ かり)
【性別】27
【年齢】男
【職業】会社員
【外見】モヤシ眼鏡
【内面】卑屈、マッチョにあこがれている
【交流】
効果は出ていないが、ジムに通っている
社内では仲の良い者もいるし、反りの合わないものもいる良くも悪くも普通の会社員
【詳細】
筋肉にあこがれ、筋トレに何度も挑戦しようとしているプログラマ。
筋トレするための筋肉がつかない虚弱体質であり、何度も挫折している内にすっかり自信を失っている。
マッチョを過大評価する節があり、筋肉さえつけばどんなことでもできるだろうと本気で考えている。

■アバター
【アバター名】なし
【ルックス】筋肉もりもりマッチョマン、顔は変わってないので非常にアンバランス
【パラメータ】STR:S VIT:B AGI:C DEX:E LUK:D
【スキル】なし
【GP】5pt


30 : 名無しさん :2020/09/07(月) 17:49:32 IbPg1YfE0
性別、年齢欄を見間違えてたので再投稿

■キャラクター
【キャラ名】氷露 雁(ひょうろ かり)
【性別】男
【年齢】27
【職業】会社員
【外見】モヤシ眼鏡
【内面】卑屈、マッチョにあこがれている
【交流】
効果は出ていないが、ジムに通っている
社内では仲の良い者もいるし、反りの合わないものもいる良くも悪くも普通の会社員
【詳細】
筋肉にあこがれ、筋トレに何度も挑戦しようとしているプログラマ。
筋トレするための筋肉がつかない虚弱体質であり、何度も挫折している内にすっかり自信を失っている。
マッチョを過大評価する節があり、筋肉さえつけばどんなことでもできるだろうと本気で考えている。

■アバター
【アバター名】なし
【ルックス】筋肉もりもりマッチョマン、顔は変わってないので非常にアンバランス
【パラメータ】STR:S VIT:B AGI:C DEX:E LUK:D
【スキル】なし
【GP】5pt


31 : 名無しさん :2020/09/07(月) 18:41:30 xVOx7oAo0
■キャラクター
【キャラ名】尾張 縁人(おわり えんど)
【性別】男
【年齢】47
【職業】ホームレス
【外見】ボロボロのアロハシャツとジーンズ、大雑把に磨かれたサングラス、無精髭と禿かかった髪、痩せた小柄な体格、いつも意味なくニヤニヤ笑っている
【内面】怪しげな風貌に反して気さくで飄々としている。陽気だが性根は強かで狡猾。
【詳細】
「終わり」に美学を見出だす怪しいホームレス。駄洒落のような名前は本名である。
人間は破滅や終焉に近付くことで生長できると考えており、敢えて貧しい境遇に身を落としている。
そのため希死念慮を抱えている訳ではなく、寧ろ保身のためなら何処までも生き汚く立ち回る。

裏社会との繋がりを持ち、時折ヤクザなどに雇われては探偵や情報屋のような仕事をしている。
覗きや尾行、盗み聞きが得意。またホームレス仲間や反社会勢力とのコネを利用して情報収集を行っている。
報酬は物資や食料に限り、金銭には一切の興味を持たない。稼いで裕福になることは「終わり」から遠ざかると考えている為である。

■アバター
【パラメータ】
STR(筋力):E
VIT(耐久):D
AGI(敏捷):B
DEX(器用):B
LUK(幸運):D

【スキル】
情報透視:A
視認した相手のパラメータとスキルを見ることができる。

視力拡大:B
視界を伸ばして双眼鏡のように遠方を確認できる。
Bランクならば6倍程度まで拡大可能。

地獄耳:C
聴力の強化。Cランクの場合、離れた場所の声や物音が拾いやすくなる。
ランクが低いため盗聴には適しておらず、専ら他アバターの気配察知が用途。

【残GP】10pt


32 : 名無しさん :2020/09/07(月) 20:31:48 xVOx7oAo0

■キャラクター
【キャラ名】渡恒 蓮太郎(わたつね れんたろう)
【性別】男
【年齢】15
【職業】中学三年生
【外見】黒髪短髪、アイドルのように整った顔立ち、学ラン、腕に煙草を押し付けられた痕が複数
【内面】表向きは人当たりがよく颯爽としている。内面は卑屈で不安定、常に憂鬱な孤独を抱え込んでいる。
【詳細】
容姿端麗な美少年。爽やかな風貌と温厚な性格で女子からの人気が高く、告白されることもしばしば。
しかし家庭では実母から虐待を受けており、人間関係に対して悲観的。
友人と呼べる相手は一人もいない。同時に極度の女性不信に陥っている。
彼はそんな自身の内面や境遇をおくびにも出さない。虐待の体験によって芽生えた破壊的な衝動もひた隠しにし、何事もないかのように日常を過ごしている。

■アバター
【アバター名】スカルモンキー
【外見】猿のような髑髏頭、緑のフライトジャケット、ジーンズ、大柄な体格
【パラメータ】
STR(筋力):B
VIT(耐久):A
AGI(敏捷):B
DEX(器用):E
LUK(幸運):E

【スキル】
痛覚麻痺:C
あらゆる痛みを緩和し、攻撃で怯みにくくなる。
高ランクならば痛覚の遮断すら可能になるが、Cランクでは鈍化に留まる。

苦痛の応酬:C
ダメージを受ける度にSTRとAGIが上昇していく。
Cランクなので効果は微々たるもの。ただし大きな痛みを重ねられる覚悟があればその限りではない。

【残GP】0pt


33 : 名無しさん :2020/09/07(月) 20:58:00 0P0UBJkk0
■キャラクター

【キャラ名】ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ
【性別】なし
【年齢】∞
【職業】超越者
【外見】白であり黒、光にして闇、人の元となった人型、見たものはただ美しいという概念を叩きつけられる
【内面】超越者としての正しき思考は人の価値観を凌駕しているため理解不能
【交流】全ては些事、気にかけるに値しない
【詳細】
とある世界における全てを司る神、破壊神にして創造神、全にして一、全にして一
ステータスの振り方とかよくわからないので、そのまま進めたら初期設定のまま決定された

■アバターテンプレート

【ルックス】幼女。外見がシステムで再現不可能であるため自動でランダムな外見が割り振られた
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】なし
【GP】290pt


34 : 名無しさん :2020/09/07(月) 21:01:07 x.xJ83qg0
■キャラクター
【キャラ名】リィン
【性別】女
【年齢】12
【職業】なし
【外見】赤髪の幸薄そうな少女
【内面】誰も信じられない、でも本当は愛を求めている
【詳細】
子供達にいじめられ、道行く大人に殴られ、親に虐待され、信じていた少年に裏切られた少女。
生まれ持っていた「破壊の力」で全てを破壊し、ひとりぼっちになっていたところをロワに呼ばれた。
自分に敵意を見せた相手には容赦しない。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
破壊(S):触れて「壊れろ」と念じたものを破壊する。
【残GP】0pt


35 : 名無しさん :2020/09/07(月) 21:23:41 IbPg1YfE0
■キャラクター
【キャラ名】馬場 早智子(ばば さちこ)
【性別】女
【年齢】88
【職業】無職(元花屋店員)
【外見】やさしそうなおばあちゃん
【内面】自分の経験を信じて疑わない自信家
【交流】
息子が3人娘が1人、長男夫婦と同居している
【詳細】
機械音痴のおばあちゃん。
どんなときも自分の経験を信じて疑わず、そのノリで機械に接してよく故障させている。
最近膝を悪くしたため、家に籠ることが多くなりその際によく孫にTVゲームを教えられて遊んでいる。。
その際にVRの話題もよく出るが、それがどういうものなのかはよく分かっておらず知ったかぶっている。

■アバター
【パラメータ】STR:B VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
?:B 
入力ミスで発生したランダムスキル。どんな効果なのかは本人にも分からない。
【GP】0pt


36 : 名無しさん :2020/09/08(火) 00:09:50 wVCCjkgE0
■キャラクター
【キャラ名】紋木戸 瑠衣(もんきど るい)
【性別】男
【年齢】16
【職業】海賊
【外見】麦わら帽子、赤い半袖チョッキ、短パン
【内面】破天荒を演じているが、所々で常識的な面が見え隠れしている
【交流】
他の海賊たちからは雑用兼サンドバックとして扱われている
【詳細】
某海賊漫画にあこがれて海へと飛び出した少年。
遭難しかけていたところを運よく海賊船に拾われ、雑用として働かされている。
漫画とリアルの違いに戸惑っていたが、自分で選んだ自業自得の道として
自身を漫画の主人公に重ねながら踏ん張っている。

■アバター
【アバター名】モンキー・D・ルフィ
【パラメータ】STR:C VIT:E AGI:A DEX:C LUK:B
【スキル】
ゴムゴムの実:B 
肉体をゴムのように伸縮させることができるが、無制限ではない。
STR:C以下の打撃、銃撃を完全無効化し、STR:B以上の打撃、銃撃を軽減する。
水に身体の大半が浸かるとLUK以外のパラメータがそれぞれ2ランク下がる。
【GP】0pt


37 : 名無しさん :2020/09/08(火) 02:27:58 paACr3Oo0
■キャラクター
【キャラ名】本堂 満雄(ほんどう みつお)
【性別】男
【年齢】37
【職業】会社員
【外見】無精髭の生えたくたびれたオッサン
【内面】
リアルでは腰の低い男として通っているが、
本性はひねくれた性格で、顔の見えない相手をバカにするのが好き
【交流】
氷露 雁(>>30)営業部とで、部署は違うが同じ会社の社員。
ガリガリな体型なので外見を記憶している。
【詳細】
出会い系サイトやネトゲーで常に女性を選択し、ネカマをして男を釣るのが趣味の男
このバトルロワイアルも似たようなネトゲだと考えており、ネカマをして男を喜ばせたあとで、
ネタバラシをする嫌がらせをしようと考えている


■アバター
【アバター名】まり
【外見】茶髪のロング。ブラウス+スカートの二十代の女性
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:C DEX:B LUK:B
【スキル】
応援(B)
味方1人を応援してLUK以外のパラメータの1つを一定時間ランクアップさせることが出来る

治癒魔法(B)
自分あるいは味方の傷を回復する。小さな怪我程度なら完治することが出来る
【残GP】
15pt


38 : 名無しさん :2020/09/08(火) 07:42:11 uJbJkHsU0
■キャラクター
【キャラ名】陣野 優美(じんの ゆみ)
【性別】女性
【年齢】16歳
【職業】奴隷
【外見】
眼球、歯、四肢を欠損している。
かつては長い黒髪のとても美しい少女だった。
【内面】
全てを憎んでいる。
かつては明るく活発で常に集団の中心にいる人物だった。
【詳細】
このロワが始まる1年ほど前、魔王を倒す勇者として(恋人を含む)親友5人と共に異世界に召喚された。他の5人がチートスキルをもらう中、彼女だけが何のスキルももらえず、一般人として魔王討伐に同行。戦闘以外の支援を務めたが、恋人が賭博でこさえた借金返済のため奴隷商に売却されてしまった。
とある貴族に購入された彼女は「ひどい目」に遭わされた。具体的な内容としては『およそ想像しうるすべて』である。


■アバター
【外見】美しい少女だった頃の姿。召喚される前に通っていた中学校の制服。
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:A
【スキル】
憎悪の化身:A
他者を憎むことで肉体が変質しSTR、VIT、AGIが上昇する。上昇すればするほどその姿は人間からかけ離れていく。
戦闘続行:B
決定的な致命傷を負わない限り、瀕死の傷を負っても戦闘を続行することができる。
悪辣:C
善性、良心を持てなくなり、悪事を行うことに抵抗がなくなる。呪い、精神干渉に微弱な耐性を持つ。
【GP】
残り20pt


39 : 名無しさん :2020/09/08(火) 13:14:35 uJbJkHsU0
■キャラクター
【キャラ名】馬場 堅介(ばば けんすけ)
【性別】男性
【年齢】15歳
【職業】中学生
【外見】やせ型、柔和な顔立ち、眼鏡、ビジネス七三
【内面】
真面目で面倒見の良い性格。コミュニケーション能力は高いが不良には委縮する。
【交流】
学校外にもゲーム、オタク趣味絡みで幅広い年代の友人がいる。
登 勇太(>>18):PCゲーム同好会の後輩。素直で言うこと聞いてくれるいい子。脳内設定も聞いている。
有馬 良子(>>22):PCゲーム同好会に遊びに来る痛い女子。「黙ってればかわいいのに…」
馬場 早智子(>>35):祖母。一緒にゲームする仲。「機械を叩いたら壊れるんだってば!」
【詳細】
PCゲーム同好会長を務める少年。一癖も二癖もあるメンバーをまとめている。
縛りプレイに並々ならぬこだわりがあり、とあるオンラインゲームでは不遇職業とネタ装備でランキング上位に君臨する。
今回のロワについても命を落とす危険があることは承知していたが、欲求に逆らえず縛りプレイアバターを作成してしまった。

■アバター
【アバター名】けるぴー
【外見】小柄な少女
【パラメータ】
STR(筋力):E
VIT(耐久):E
AGI(敏捷):E
DEX(器用):E
LUK(幸運):E
【スキル】
大番狂わせ:A
低確率でパラメータ的に不可能なことを実行できることがある。
周囲から「できるはずがない」と思われているほど成功率が上昇する。
【GP】
残り140pt


40 : 名無しさん :2020/09/08(火) 17:05:54 07l5Jnf20

【キャラ名】本道 華花(ほんどう かか)
【性別】女
【年齢】18
【職業】学生/範当高校3年・学級委員長
【外見】ショートヘア、背は少し低め、かわいい系の顔立ち、学生服
【内面】
超クソ真面目
嘘偽りが嫌い
【交流】
教師や同じクラスの生徒など学校で関わりのある人物は知っている。
教師や近所の人からの評判は良い。
これまで注意したことのある一部の生徒たちから嫌われている。
【詳細】
どんなことにも真面目に取り組む模範生。
不真面目不誠実な者が嫌いでそんな人がいたら注意しようとする。
また、このゲームで名前や外見を変えている者がいたら本当の自分を示すよう迫るだろう。

■アバター

【パラメータ】STR:B VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
嘘発見:C
話の中で嘘が混じっているとそれが分かる。嘘かどうかが分かるだけで本当の内容までは分からない。
【GP】30pt


41 : 名無しさん :2020/09/08(火) 17:54:56 07l5Jnf20

【キャラ名】大小 蘭(だいしょう らん)
【性別】女
【年齢】13
【職業】中学生
【外見】ロングヘア―、身長約200cm、筋骨隆々、顔もいかつい、とても女子中学生には見えない
【内面】
ちょっと暗め
可愛くなりたい
友達が欲しい
【交流】
友達はいないが学校や近所では体の大きさで有名。
【詳細】
生まれつき体が大きくそのことがコンプレックス。
この体のおかげで同級生に怖がられ友達もできなかった。
大人の男に間違えられることもあった。
本来の体は筋力も高いが本人はこれを嫌っている。
普通の女の子みたいになりたいと願っていた。

■アバター
【ルックス】元の外見から普通の少女にした感じ。背丈は年相応より少し低め。
【パラメータ】STR:E VIT:C AGI:B DEX:D LUK:A
【スキル】
可愛い生き物:A
(自分LUK-相手LUK)/2の確率で自分を見た相手に守ってあげたいと思わせ敵意を無くす。
【GP】5pt


42 : 名無しさん :2020/09/08(火) 18:23:44 wVCCjkgE0
■キャラクター
【キャラ名】絵夢町 金十三(えむまち こんじゅうぞう)
【性別】男
【年齢】17
【職業】学生/大日輪学園2年
【外見】天パ、前髪で目が見えない、猫背
【内面】表面上は大人しいが、相当にイラつきやすい
【交流】
大和 正義(>>10):クラスメイト。鬱陶しい、死ね。
本道 華花(>>40):中学での先輩。事あるごとに注意してきて鬱陶しかった、死ね。
山本 眼鏡子(>>13):一時期目を見せて眼鏡をかけろと付きまとわれたことがある。意味不明、死ね。
【詳細】
ホラー好きの少年。
クラスでは空気のような存在であり、虐めほどではないが彼のことは比較的雑に扱ってもいいという風潮ができている。
最近非モテ仲間だった幼馴染に恋人ができ、ことあるごとに自慢してくるのに辟易している。
日々の鬱憤が色々と合わさって普段からナチュラルに世界とリア充一緒に滅びないかな、などと考えている。

■アバター
【アバター名】ジェレディ・ポーガー
【ルックス】アメフトマスクを被った血まみれの大男。右手に鉄の爪、左手に鉈を持っている
【パラメータ】STR:A VIT:B AGI:D DEX:E LUK:C
【スキル】
13日の悪夢:B 
早朝から午後にかけ参加者を二人までマーキングでき、夕方から黎明にかけてマーキングした参加者の元に一度ずつワープできる。
二人マーキングし、一度目のワープではSTR、VIT、AGIが2ランクアップ、
二人マーキングし、二度目のワープまたは一人マーキングし、ワープした場合STR、VIT、AGIが1ランクアップした状態となる。
この効果は早朝でリセットされる。
【GP】5pt


43 : 名無しさん :2020/09/08(火) 18:29:04 paACr3Oo0
■キャラクター

【キャラ名】白井 杏子(しらい きょうこ)
【性別】女
【年齢】30
【職業】保険室の先生(中学校)
【外見】濃い茶色の髪、スーツに白衣を着ている
【内面】
心優しい性格でおおらか。ただベッドを使わせて欲しいだけでも保健室の利用を許すほど。
仕事をしないというわけでもなく、生徒の体が傷、心の傷を負っている時は真摯に向き合う。
サブカル方面にも造詣があり、その方面にも寛容。

【交流】
有馬良子(>>22):よく包帯と眼帯をもらいに保健室に訪れている。
「どこか怪我したの?」と聞くとしどろもどろになるのを「あっ、ふぅん」と察して
それ以上は追求せず、黙って渡している
登 勇太(>>18)&馬場 堅介(>>39):同じ中学校の生徒ととして名前だけ知っている
大小蘭(>>41):中学校の生徒。容姿のことで悩んでいた彼女の相談を受けたこともある

【詳細】
学校内ではどんな小さな病気でも保健室に受け入れる人気の養護教諭。
プライベートでは小さい頃に見た「魔法少女系アニメ」を今でも愛しており、その趣味を他人に言えずにいる。
お気に入りは「魔法少女エンジェル☆リリィ」でコスプレも時々する。

■アバター
【アバター名】魔法少女エンジェル☆リリィ
【ルックス】青い瞳にピンクの髪、天使の翼が生えた白の魔法少女コスチューム。
注射がモチーフの魔法の杖を持っている。
(アニメ「魔法少女エンジェル☆リリィ」の主人公、エンジェル☆リリィそのもの)
【パラメータ】
STR:C VIT:D AGI:C DEX:C LUK:C

【スキル】
結界魔法「ホスピリチュアル」(B)
「魔法少女エンジェル☆リリィ」に登場する魔法がモチーフとなったスキル。
自分の近くにドーム状の結界を張り、対象1人をその内部に包むことにより、
その人物の体力が徐々に回復していく。バッドステータスも時間をかければ回復可能。
また、自分の目の前に展開することで盾としても使用可能。
しかし、強力な攻撃を受け止めると耐えきれず、破壊されてしまう。

ワクチンショット(C)
ステッキから魔力の弾丸を放つ。
当たると小さなダメージを食らうものの、ちょっとチクっとする程度
決定的なダメージには至らない。

浄化魔法「ホーリー・ケア」(B)
「魔法少女エンジェル☆リリィ」の必殺技魔法がモチーフとなったスキル。
相手1人を聖なる光でダメージを与える。スキルを放つためには1分間チャージが必要。
劇中の敵「ワルダーマ」を浄化する設定を持つ関係上、状態異常のスキルを持つ者に対して
2倍のダメージを与えることが出来る

【GP】
残り10pt


44 : 名無しさん :2020/09/08(火) 19:03:28 vW367r4E0
■キャラクター
【キャラ名】水戸 光子(みと みつこ)
【性別】女
【年齢】26
【職業】メイド喫茶の店員
【外見】フリフリのメイド服、胸にかかる長さの黒髪おさげ、垂れ目と泣き黒子の穏和な顔付き、ネイルなど化粧にも拘っている
【内面】メイドさんとしては穏やかなお姉さんキャラで通してる。素の性格は気の強い姉御肌。
【詳細】
都内大手のメイド喫茶で働くメイドさん。店での通称は「ひめな」。
店の中でも屈指の人気を誇るベテラン。おっとりしたお姉さんキャラと磨き上げられた美貌で数多くのご主人様・お嬢様から支持されている。
素の性格はお姉さんというより姉貴。かつては荒んでいたらしく言動はぶっきらぼう。腕っぷしも相当に強い。
しかし面倒見が良いので後輩のメイド達から何だかんだで慕われているようだ。
小学校時代に名前でからかわれたので水戸黄門が嫌い。

■アバター
【アバター名】ひめな
【パラメータ】
STR(筋力):B
VIT(耐久):C
AGI(敏捷):C
DEX(器用):C
LUK(幸運):B

【スキル】
デモリッション:B
物理攻撃を命中させた際、一定確率で相手のVIT値を無視する。
敵が装甲や防具を纏っていた場合はそれを無視してダメージを与える。
自分と相手のLUK値の差によって成功確率が変動する。

愛の魔法:C
不思議な呪文でご主人様やお嬢様を癒す。
他者の傷を治癒し、心の不調も幾分か和らげる。
発動の際には必ず特定のポーズを取って「もえもえきゅぴん」と唱える必要がある。

【残GP】5pt


45 : 名無しさん :2020/09/08(火) 20:20:22 kuweCzaw0
■キャラクター

【キャラ名】大日輪 太陽(だいにちりん たいよう)
【性別】男
【年齢】18
【職業】学生・大日輪学園3年
【外見】白ランに腕章。炎のような髪、燃えるような瞳、暑苦しい体躯
【内面】熱血、単純、豪快
【交流】
大和 正義(>>10):なかなかの男。次期会長に推したい
安里 飛鳥(>>12):毎日美味い食事を提供してもらって感謝している。
山本 眼鏡子(>>13):毎日のように全生徒に眼鏡着用義務を設けるべきという嘆願書を送られてる。
雨花 響介(>>28):何故か逃げられる。何故だ?
絵夢町 金十三(>>42):悩みがあるなら相談に乗るぞ!と声をかけたが無視された
大日輪 月乃(>>46):妹。ライブには必ず参加し、最前列でサイリウムを振っている
【詳細】
大日輪学園学園長の孫にして大日輪学園生徒会長。
絵に描いたような熱血漢であり豪傑。全生徒の顔を名前を把握している。
どんな問題も真正面から一直線に解決するため搦手などに弱い。
大日輪月乃の実兄。父親似

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:A VIT:A AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
熱血(A)
燃え滾る熱い心で限界を超えて行動が可能となる
同属性を持つモノを感化するが、逆属性を持つモノを遠ざける【デメリット】
恐怖などの精神異常を無効化するが、幻影などに惑わされやすくなる【デメリット】
【GP】0pt


46 : 名無しさん :2020/09/08(火) 20:20:44 kuweCzaw0
■キャラクター

【キャラ名】大日輪 月乃(だいにちりん つきの)
【性別】女
【年齢】16
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園高等部2年
【外見】切れ長のクールな瞳、艶のある長い黒髪、長身でシャープなモデル型スタイル
【内面】マイペースで常にボーとしているが意外に負けず嫌い
【交流】
美空 善子(>>21):親友にして宿命のライバル
ディラン・ジェンキンス(>>27):他事務所の社長。変な人だなぁと思ってる
大日輪 太陽(>>45):兄。なんだかんだ好きだが暑苦しい人だなぁと思ってる
【詳細】
芸名は『TSUKINO』
私の歌で世界を癒すと公言してはばからない支配型癒し系アイドル
普段は自分をしっかり者だと思ってる天然少女だが、ステージではクールなカリスマボーカリストに豹変する
大日輪太陽の実妹。母親似

■アバターテンプレート

【ルックス】胸を少し盛ってみた v(*^-^*)v
【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
【スキル】
アイドル(C)
共に戦う味方を鼓舞し一部能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】
歌唱(A)
聞く者の戦意を削ぎ精神を癒す神秘の唄声
精神を癒し状態異常を回復する。明確な目的や固い意志がない限りこの歌を聴きながら戦い続けるのは難しい
【GP】0pt


47 : 名無しさん :2020/09/08(火) 20:51:24 Zm88QC7Q0
■キャラクター
【キャラ名】月光 空我(げっこう くうが)
【性別】男
【年齢】46
【職業】忍者の長
【外見】緑色の忍装束、眼帯、渋いおじさま
【内面】狡猾だが仲間思い。キレやすい。
【交流】
月光 空明:甘ったれの息子。まだまだ長の座は譲れない。
【詳細】
戦国時代に暗躍した忍者組織「月光」の長。
他の忍者組織は全て潰すべきと考えており、「月光」を日本の裏から支配する組織へと育て上げるのが夢。
大層な夢に見劣りしない身体能力・洞察力を持ち、オリジナルの忍術も七つ開発している。
戦国時代出身なので「VR」どころか「スキル」や「ABC」すら分からない。
唐突に誘拐して、意味不明な単語を織り交ぜながら殺し合えと言ってきたシェリンに対してブチギレ。
自分の能力に自信もあったため以後の説明を一切聞かず、パラメータ配分は何も割り振らず決定してしまった。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】なし
【残GP】300pt


48 : 名無しさん :2020/09/08(火) 20:51:52 Zm88QC7Q0
■キャラクター
【キャラ名】月光 空明(げっこう くうめい)
【性別】男
【年齢】26
【職業】忍者
【外見】緑色の忍装束、好青年
【内面】温和で仲間思い。誰もキレたところを見たことがない。
【交流】
月光 空我(>>47):父親で上司。夢にはとてもじゃないが賛同できない。
【詳細】
戦国時代に暗躍した忍者組織「月光」の一員。
戦乱の世でもできるだけ人が死なずにすめばいいと考えているが、人の死は避けて通れないことも覚悟の上。
身体能力は他に忍者に劣るが、洞察力と忍術を操る力に長ける。空我のオリジナル忍術も三つ継承している。
戦国時代出身なので「VR」どころか「スキル」や「ABC」すら分からない。
分からない単語があれば理解するまでシェリンに聞き返し、なんとかパラメータ配分という難関を突破した。

■アバター
【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
気配察知(B):隠れている者の気配を察知する。隠密系のスキルを持っていない相手は少し離れた距離からでも察知できる。
投擲(C):何かを投げつける時、STRとDEXに若干のプラス判定。状態異常によるパラメータダウンを投擲時に限り打ち消す。
隠密(C):一定時間、気配を消した隠密行動が可能となる。再度使用するためにインターバルが必要。隠密状態のまま攻撃できない。
【残GP】10pt


49 : 名無しさん :2020/09/08(火) 22:26:25 vW367r4E0
■キャラクター
【キャラ名】吉岡・フルメタル・以蔵
【性別】男
【年齢】36
【職業】用心棒
【外見】頭部がニワトリ。ゴリゴリのマッチョ。Tシャツに迷彩柄のズボン。
【内面】ハードボイルドを気取っているが、どこか抜けている。アイドルオタクで、グッズやイベントの資金が必要なのでとことん利益にがめつい。
【交流】
ディラン・ジェンキンス >>27:怨敵。何がなんでもブッ殺す。今は芸能事務所の社長らしいが殺す。

美空 善子 >>21:熱烈な大ファン。ネットで知って以来通販でCDなどを買っている。現在の最推しアイドル。

大日輪 月乃 >>46:熱烈な大ファン。ネットで知って以来通販でCDなどを買っている。でも美空ひかりちゃんのがもっと好き。

【詳細】
かつては裏社会でそれなりに名を馳せた用心棒だった。
しかしある事件によってディラン・ジェンキンスの恐るべき人体実験の被験者となり、頭部をニワトリにすげ替えられてしまう。
それ以来世間から身を隠し、虎視眈々と復讐の機会を伺ってきた。
重度のアイドルオタクであり、用心棒として稼いだ金をCDやイベントに注ぎ込んでいた。
しかしニワトリ頭になった今ではライブにも行けず、余計に怨念を溜めることになっている。

■アバター
【外見】元の外見のまま。本当なら人間の頭部に変えたかったが、うっかり設定を忘れてた。
【パラメータ】
STR(筋力):A
VIT(耐久):B
AGI(敏捷):B
DEX(器用):E
LUK(幸運):E

【スキル】
ハーヴェスター:A
他の参加者を殺害した際、相手の殺害人数に関係なく『強敵撃破ボーナス』が発動する。
三名以上殺害した参加者を殺害しても倍加は発動せず、常に60ptで固定される。
また参加者殺害を除いたGP獲得時、更に+20ptが自動で加算される。

【残GP】0pt


50 : 名無しさん :2020/09/08(火) 23:00:36 SeR8VCWk0
【キャラ名】ランス・ミルティア
【性別】男
【年齢】17歳
【職業】騎士
【外見】長身で黒髪、首からゴーグルを掛けている(実質アクセサリー)
【内面】
努力家
勇者(と己を除くその親族)に対する憧れ、羨望
一応それなりの正義感を持っている

【詳細】
とある異世界、世界に覇を唱えた邪教団と戦う騎士。
生まれはかつて魔王を退けた勇者を祖に持つミルティア家の三男。
恵まれた血筋を持ち武芸の才能はあるが、
魔法の才能が無い故、魔法と剣技を持って魔王を退けた勇者を誇るミルティア家での扱いは軽く、
それを払拭するため、平和を打ち破るように現れた邪教団討伐の先遣隊に志願、旅を続けている。
祖先である勇者に関しては羨望と憧れの入り混じった感情を抱いている。
己の夢のため、名誉のため、勇者を目指し戦う彼は果たして英雄の再来か、俗物か。

■アバター

【パラメータ】STR:S VIT:C AGI:C DEX:C LUK:C
【残GP】0pt


51 : 名無しさん :2020/09/09(水) 10:44:23 qgDeQUR.0
■キャラクター
【キャラ名】高井 丈美(たかい たけみ)
【性別】女
【年齢】15歳
【職業】中学生/日天中学校3年生
【外見】
身長178cm、ベリーショートヘア、少しきつい目つきをしている。
【内面】
社交的でストイックな体育会系女子。
「熱血」という言葉が似あう振る舞いをするが内心は不安でいっぱい。一人になると自分の振る舞いや決断について正しかったのか自問自答しまくる。思春期なのだ。
好みのタイプは自分より背が低い男の子。
【交流】
陣野 優美(>>38):部活の先輩で前主将。去年行方不明になった。
登 勇太(>>18):学校で見かけるかわいい男の子。接点がないので頑張って作ろうとしている。
有馬 良子(>>22):登と仲が良いと聞いている。うざい。羨ましい。
馬場 堅介(>>39):こいつ経由で登と接点作れないかな、と思って時々会話する。
大小 蘭(>>41):体格に目をつけバレー部に勧誘するも無言で断られた。
白井 杏子(>>43):運動部に怪我はつきものなのでしょっちゅうお世話になっている。
【詳細】
女子バレーボール部主将。女子バレー部は陣野の失踪により瓦解しかけたが、彼女の頑張りにより持ち直した。
武器は跳躍。身長が高いこともあり、跳躍の最高到達点は全国区の選手と比べても遜色ない。
陣野にはとてもかわいがられたので突然の失踪に心を痛めており、休みの日には陣野達の家族らと共に捜索ビラを配っている。
ゲームには疎いので不可のないパラメータ振りをした。

■アバター
【パラメータ】
STR:B VIT:B AGI:B DEX:C LUK:C
【スキル】
跳躍:B
跳躍するときに体重が軽くなる。跳躍力の向上し、三角飛びが可能になる。
健脚:B
脚が丈夫で長い距離を走ることができる。走行速度や連続走行距離が向上する。脚部の耐久性が気持ち程度に向上する。
【GP】
残り0pt


52 : 名無しさん :2020/09/09(水) 20:08:11 e6pyECVA0
■キャラクター
【キャラ名】枝島 トオル(えだじま - )
【性別】男
【年齢】28
【職業】日天中学校美術教師
【外見】短髪で高身長、最低限清潔感を損なわないようにしている
【内面】本人は自覚していないが、やや偏執的な面がある
【交流】
白井 杏子(>>43):同僚。一目惚れの相手。アピールがさりげなさすぎて気づかれていない。
日天中学校の生徒:良くも悪くも差をつけずに平等に接している
【詳細】
中学校に勤める美術教師。
幼少期から絵に打ち込んでおり、異性とは縁のない日々を過ごしてきた。
子供相手だと何ともないが、同年代の異性相手だと免疫がないためキョドってしまう。
中学校に赴任した際白井杏子に一目惚れをし、どうにか彼女とお近づきになれないかとさりげないアピールを続けている。

■アバター
【アバター名】枝島杏子
【ルックス】白井杏子を模した姿、左手の薬指に「TからKへ」と刻まれた指輪をつけている
【パラメータ】STR:E VIT:D AGI:C DEX:B LUK:A
【スキル】
白衣の女神:B 
養護教諭と同程度の医学の知識と治療技術を得る
【GP】5pt


53 : 名無しさん :2020/09/09(水) 20:35:00 KDOCfy0Y0
■キャラクター

【キャラ名】鈴原 涼子(すずはら りょうこ)
【性別】女
【年齢】18
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園高等部3年
【外見】
肩口まで伸びるふんわりとした髪に艶のある厚い唇。
垂れた目じりがに左目に泣きぼくろ。胸が大きい
【内面】
表向きは素直ないい子ちゃんを演じてるが、裏では性格がよくない腹黒、と自分では思ってる
実際は生真面目な自分にも他人にも厳しい努力家、外面も受け入れられるための努力により作り上げたもの
怠惰な人間は嫌い。怠けてる人間を見るとイライラする
【交流】
美空 善子(>>21):ありのまま自由に振舞って受け入れられてる天性のアイドル。気に食わない
大日輪 月乃(>>46):歌声は素晴らしいが舞台上以外の集中力がなくアイドルとしての自覚が足りない。気に食わない
【詳細】
アイドルグループ『ハッピー・ステップ・ファイブ(HSF)』のセンター兼リーダー
このアイドル戦国時代を伸し上がるためなら何でもするという覚悟をもった野心家、他アイドルへのライバル意識が非常に高い
育った家庭環境が悪かったため、そこを抜け出す切っ掛けになったアイドル活動に思い入れが強い
厳しい態度で接しているが内心ではメンバーを何よりも大事だと思っている
それこそ何をしてでも守る覚悟と、何をしてでももう一度会いたいと思うほどに

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
【スキル】
アイドル(A)
共に戦う味方を鼓舞し全能力を向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
また彼女を推しとした者は彼女のために命を懸けることすら厭わなくなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】
【GP】0pt


54 : 名無しさん :2020/09/09(水) 21:05:26 6oM/yBNE0
■キャラクター
【キャラ名】増田 知徒(ますだ ちと)
【性別】男
【年齢】15
【職業】中学3年生
【外見】黒い長髪を首のあたりでくくっている、眼鏡
【内面】人付き合いが苦手、一度火が付くと満足するまでやりこむ
【交流】
山本 眼鏡子(>>13):通りすがりに眼鏡を褒められたことがある。謎のお姉さん。
登 勇太(>>18):元同じ同好会の仲間。運営の手のひらの上で踊るドラゴン。
有馬 良子(>>22):なんか同好会に遊びに来てた子。運営の手のひらの上で踊る堕天使。
馬場 早智子(>>35):チートを使っても勝てなかった謎のプレイヤー・SATIの中身。リアルでの面識はない。
馬場 堅介(>>39):自分をゲームの道に引きずり込んだ張本人。袂を分かったかつての親友。
【詳細】
オンラインゲームにおいて最強の敵である運営を倒そうとする凄腕クラッカー。
運営を状態異常「緊急メンテナンス」に追いやった回数は10を超える。
PCゲーム同好会に所属していたが、方向性の違いから会長と喧嘩。脱退した。
自分の行いが不特定多数の人間を不幸にしていることには気付いていない。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:D AGI:D DEX:B LUK:B
【スキル】
隠密(B):気配を消した隠密行動が可能となる、ただし隠密状態のまま攻撃は出来ない
【残GP】130pt


55 : 名無しさん :2020/09/09(水) 23:25:39 6v7LQ2/k0
■キャラクター
【キャラ名】掘下 進(ほりした すすむ)
【性別】男
【年齢】12
【職業】小学6年生
【外見】坊主頭、体操服
【内面】
地下世界への興味関心、熱意
【交流】
学校の人々との交流はあるが特別に親しい者はいない。
一部からはモグラというあだ名をつけられている。あだ名はあまり気にしていない。
【詳細】
地下世界への強い憧れを持つ少年。
幼少の頃からそこを探検をしたいと望んでいた。
毎日家の庭を少しずつ掘って大きな穴を作ったこともあったが親に怒られて埋められた。
もし行けたら探検や探掘をして何か発見したいと考えている。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
穴掘り:S
穴を掘って地面に潜るスキル。地面の中を自由自在に動くことができる。
どれだけ深く、どれだけ長時間潜っていても苦に感じることはない。
【GP】0pt


56 : 名無しさん :2020/09/09(水) 23:33:19 qgDeQUR.0
■キャラクター
【キャラ名】禾坂・H・礼歌(のぎさか・ホーエンハイム・れいか)
【性別】女
【年齢】
(公表年齢)16歳
(実年齢)0歳8ヶ月
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園高等部2年
【外見】
大和撫子という言葉がよく似合う。
背中の中ほどまで伸ばした黒髪ストレートヘアー。たれ目。ほっそりとした体型。
【内面】
おっとりしていて包容力のあるお姉さん然とした人物。そういう人格をインストールされているだけだが。
怒る時はニコニコしながら怒る。
【交流】
メンバーをまとめるお姉さんポジション。
ディラン・ジェンキンス(>>27):創造主。「社長」または「豚」と呼んでいる。
美空 善子(>>21):友人であり越えるべき壁。武道に対する価値観の相違で激突することがある。歌唱力では勝負にならない。
大日輪 月乃(>>46):友人であり越えるべき壁。普段ボーっとしている彼女が心配でよく世話を焼いている。歌唱力では勝負にならない。
鈴原 涼子(>>53):学校の先輩でありアイドルとしての先輩でもある。ストイックさには敬意を表している。
【詳細】
ディラン・ジェンキンスに生成されたホムンクルスの一人。自分達が人工生命体であることや生成する上で支払われた「コスト」について正しく説明を受けている。
同時期に生成された他の3人のホムンクルスとともにアイドルユニット『ほむはいむ』を結成。戦国時代と言われるアイドルの世界に飛び込んだ。それなりにファンもついているがまだまだ発展途上。
普段はおっとりしていて動作も緩慢だがダンスのキレはすさまじい。
私服は着物。キャラづくりのために日本舞踊と合気道も習っている。

■アバター
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:C DEX:A LUK:D
【スキル】
受身:A
物理攻撃を受けたときに受身を取ることでダメージを軽減し、直前に受けた傷を癒す。ただし追加効果は癒せない。
受身の成功率には本人の技量とAGI、DEXとLUKが関与する。
ダンス:B
踊りを踊ることで他者からの注目を集め、他のことに集中できない状態にする。効果範囲は使用者を目視している者全員。

【GP】
残り15pt


57 : 名無しさん :2020/09/09(水) 23:38:08 qgDeQUR.0
>>56
芸名は『禾坂 礼歌』です。
記載漏れ失礼しました。


58 : 名無しさん :2020/09/09(水) 23:45:03 jPSJ7UUM0
【キャラ名】ムーちゃん
【性別】女
【年齢】1歳
【職業】人工無能
【外見】黒髪のおさげにセーラー服、目の透けないメガネ
【内面】
人と話したい、会話パターンをもっと増やしたい

【詳細】
約1年前に生まれた会話学習チャットボット、一時期のAIブームに総じてウェブ公開されたがあまり人気も出ずあと数ヵ月でサービス終了の予定。
意図して作られたのか、想定通りのエラーか、魂と呼べるものを得たが変わらず会話学習を続けているためそれに気づいている利用者はいない。
この場でもそれは変わらず、会話学習を続ける模様。

【パラメータ】STR:E VIT:D AGI:D DEX:B LUK:E

【スキル】
人工無能:A
聞いた発言・言葉の解析・再生を行う。
相手との会話量に応じて相手の会話パターンを解析し、模倣することや発言者の声を模倣することが可能。

【残GP】130pt


59 : 名無しさん :2020/09/10(木) 00:54:36 qWQpm5pM0
■キャラクター

【キャラ名】篠田 キララ(しのだ きらら)
【性別】女
【年齢】13
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園中等部2年
【外見】輝くような笑顔が特徴のツインテールロリ
【内面】元気いっぱいで好奇心旺盛
【交流】
登 勇太(>>18):ネットゲーム上のフレンド。お互いハンドルネームしか知らない
美空 善子(>>21):憧れのアイドル。生きざまがカッコいいです
大日輪 月乃(>>46):凄い先輩。歌が大好きです、お昼寝してる所をよく見ます
鈴原 涼子(>>53):尊敬するリーダー。ちょっと怖いけど優しいです
禾坂・H・礼歌(>>56):優しい先輩。楽屋でいつもお菓子をくれます
【詳細】
アイドルグループ『ハッピー・ステップ・ファイブ(HSF)』の最年少。芸名ではなく本名。
元子役で業界のルールを叩きこまれているため年齢の割に礼儀正しい、芸歴はメンバー中最長
純粋無垢に見えて以外に強か、自分の武器を理解している愛され系妹キャラでメンバーのみならず業界全体から可愛がられている

■アバターテンプレート

【パラメータ】
STR:E VIT:C AGI:B DEX:C LUK:B
【スキル】

アイドル(C)
共に戦う味方を鼓舞し一部能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】

愛され系(A)
小動物のように愛され庇護対象となる
善意を持つ者は彼女を見捨てられず、悪意を持つ者は彼女を傷付けられない
これを打ち破るには強い意志または精神耐性系スキルが必要

【GP】30pt


60 : 名無しさん :2020/09/10(木) 05:14:18 whh.9JRs0

■キャラクター
【キャラ名】ギール・グロウ
【性別】男
【年齢】26
【職業】盗賊
【外見】バンダナを頭に巻いた軽装の男
【内面】
欲しいと思ったものは我慢せず、手に入れたくなる性格
その入手が難しいほど逆にハッスルする。
物品を入手するまでの過程も楽しむタイプ

【詳細】
異世界で盗賊を生業としている男。
「シェリン」の説明から優勝報酬を物凄いお宝として認識しており、
是非とも手に入れたいと考えている

■アバター
【パラメータ】STR:D VIT:E AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
アイテム透視(C)
相手1人の所有するアイテムの名前を1つ知ることができる
名前だけで効果やどういう物かは知ることが出来ない

鍵開け(C)
金具を加工することで閉ざされた扉、宝箱を開けるための
ピッキングを作成することが出来る。
成功するかはDEX数値の確率で決まる

強奪(B)
(自LUK-相LUK)/4の確率で、近くにいる人物1人からアイテムを盗み、
自分の所持アイテムにすることが出来る。
盗みに成功した場合は、盗まれた側にアイテムが盗まれた通知が入る

逃走(B)
(自AGI-相AGI)/4の確率で相手との戦闘を離脱し、遠くまで逃げることが出来る

【残りGP】
0pt


61 : 名無しさん :2020/09/10(木) 12:50:40 9c6gYEJ20
■キャラクター

【キャラ名】安条 可憐(あんじょう かれん)
【性別】女
【年齢】17
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園高等部2年
【外見】茶髪のショットカット、八重歯が特徴的。貧乳
【内面】明るく社交的で視野が広い。常に回りを気遣いフォローしている
【交流】
美空 善子(>>21):同級生。さっぱりとした気持ちええ性格しとるで、ウチとは気ぃ合うわ
大日輪 月乃(>>46):同級生。すごい天然さんやから、ちょーとウチとは相性が悪いかなぁ
鈴原 涼子(>>53):頼りになる我らがリーダー! やけど一人で抱え込み過ぎやなぁ、もぅちょい信頼して欲しいわ
篠田 キララ(>>59):カワイイカワイイうちらの末っ子や。けどカワイイからって侮っとったら足元掬われるでぇ
禾坂・H・礼歌(>>56):同級生。ええ娘や。大和撫子っちゅうんはウチとは正反対やから憧れるわ
【詳細】
アイドルグループ『ハッピー・ステップ・ファイブ(HSF)』のバラエティ担当にして副リーダー。関西出身。
常に周囲を気にかけフォローし続ける気遣いの鬼、鈴原が引っ張り安条が支えるのがHSFの基本である
体を張るのは自分の仕事だと思っており「あんじょうおおきに! 何でもやります安条可憐です!」を合言葉にバラエティの汚れ役を一手に引き受けている
ただし恋愛系の話はNG。メンバー内で一番初心、この手の話題では最年少のキララにもマウントを取られている

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:C DEX:C LUK:B
【スキル】
アイドル(C)
共に戦う味方を鼓舞し一部能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】
ムードメーカー(A)
周囲の雰囲気を明るくする才能
絶望的なことがあろうとも彼女がいるだけでパーティの精神が持ち直す
だが彼女自身が落ち込んでしまうと反動で周囲まで落ち込んでしまう
【GP】30pt


62 : 名無しさん :2020/09/10(木) 12:52:57 9c6gYEJ20
■キャラクター

【キャラ名】ソフィア・ステパネン・モロボシ
【性別】女
【年齢】18
【職業】アイドル/学生・ネプチューン国際女学園3年
【外見】色素の薄い肌、宝石のような青い瞳、輝くように白い金髪。雪の妖精のような少女
【内面】
黙っていればミステリアスだが、日本のお笑いが大好きで移動中もイヤホンで聞いているのは落語
口数は少ないがボケたがりで舞台でもシレっとボケる
【交流】
鈴原 涼子(>>53):信頼するリーダー。真面目が過ぎるのでボケ殺しデース、もっと余裕を持ってほしいデース
篠田 キララ(>>59):可愛がってるメンバー。芸能界の大先輩デースって言うと怒りマース。楽しいのでもっと言いマース
安条 可憐(>>61):一番の仲良しなメンバー。いつも的確なツッコみをくれる私の相方デース。愛してマース
【詳細】
アイドルグループ『ハッピー・ステップ・ファイブ(HSF)』のミステリアス担当。芸名は『諸星ソフィア』愛称は『ソーニャ』
ロシア人の母を持つハーフで四ヵ国語を話せるバイリンガル(日・英・露・中)
過去にイタリアロケが決まった際、軽い調子で「ちょっと覚えてきマース」と一週間で簡単な会話をこなす程度のイタリア語を習得し周囲を驚かせた
本人的には完全な日常会話レベルに至ってないので習得という程ではないらしい
日本語はペラペラなのに○○デースとか似非外人風の喋り方をよくする、そこに可憐がツッコむのがお約束
嫌がる可憐を口説き落として共に国民的漫才大会の予選に出場した。
コンビ名は『可憐なソーニャ』。「これやったらソーニャがカワイイだけみたいなないかい!」が掴み。2回戦で落ちた

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
【スキル】
アイドル(B)
共に戦う味方を鼓舞し全能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】
学習力(B)
学習能力が高い
物事の習得が早く理解力が高い。一度経験したことは対応や対策が可能となる
【GP】0pt


63 : 名無しさん :2020/09/10(木) 15:15:29 /1yPx/860
■キャラクター

【キャラ名】田所 アイナ(たどころ あいな)
【性別】女
【年齢】12
【職業】小学生/陽見澤女学園小等部6年
【外見】
金髪のセミロングで垂れ目がちの碧眼。小柄で痩せた可愛い系の美少女。

【内面】
気弱でいつもおどおどしているが、困っている人がいたら助けようと行動を起こせる勇気を持つ心優しい性格。

【交流】
大和 正義(>>10):以前困っていた時に助けてくれたお兄さん。テレパシー能力で内面を覗いて恋心を抱いた。
大日輪 月乃(>>46):憧れのアイドル。ライブやイベントには何度も行っているが、彼女にテレパシー能力は使ったことはない。
木本 奥太(>>25):トラウマ。偶発的にテレパシー能力が発動した際に妄想を読み取ったことで気分が悪くなり、道端で嘔吐した。
水戸 光子(>>44):行きつけのメイド喫茶の店員。テレパシー能力使用済。自分に超能力があること以外、何でも話せるお姉さんとして慕っている。

【詳細】
日本人の父とイギリス人の母を持つとある外資系企業の社長令嬢。テレパシー能力が使える超能力者。
物心がついたころにテレパシー能力が使えることに気が付いた。
両親に自身の能力について伝えたとき、精神病を患ったと思われ、精神病院に連れていかれたことがある。
それ以降、自分に超能力があることを必要以上に知られないようにしている。
超能力の制御はできているが、完璧ではないため、時折意識外で能力が発動してしまうことがある。

かつて優しいおじさんだと思っていた学園の用務員の男に誘拐されかけたことがある。
それ以降、初対面の人には必ず超能力を使い、害のない安全な人間か確認するという癖がついた。
気弱な性格やトラウマ、癖が原因で友達が一人もできたことがなく、毎日寂しい思いをしている。
アイドルやゲーム、ラノベなどのサブカルに強い興味を示したり、恋愛に対して憧れを持つなど、趣味趣向は年相応。

今回のロワが本物だと理解しており、恐怖に怯えながらアバターを作成した。
スキルは自前の能力のダウングレード型のものと護衛用のものを設定している。

■アバター

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:C DEX:C LUK:B
【スキル】
テレパシー:A
半径2m以内のプレイヤーの思考を読み取ることができる。連続使用には1分間のインターバルが必要。
読み取れる思考は表面意識だけであり、本人すら気づくことのない潜在意識を読み取るためにはランクアップが必要。
この能力は相手の精神耐性系スキルを完全に無視して発動可能。
同ランク以上のテレパシーに相当するスキルを持つプレイヤーや意識のないプレイヤーには効果がない。

M(マテリアル)・クラッシュ:A
念じることで掌で触れた物を破壊できる能力。
無機物に使用した場合、Aランク未満のVITであれば呪詛や追加効果などを無視して破壊できる。
Aランク以上のVITの無機物を破壊する場合には、自LUC/4の確率による判定が必要。
プレイヤーや生物に対して使用した場合は、(自LUC-相手LUC)/2の確率で気絶させることができる。
ランクアップによって効果範囲や殺傷力が上がる。

【残GP】0pt


64 : 名無しさん :2020/09/10(木) 16:11:10 VEENMQ9s0
【キャラ名】日騎亜 輝美(ひきあ てるみ)
【性別】女
【年齢】16
【職業】学生/大日輪学園1年
【外見】
そこそこ整った顔立ちに、セミロングのストレートな髪型。
そしてそれに合った伊達眼鏡。眼鏡のデザインは曜日ごとに異なる。
ちなみに視力は両目とも2.0。
【内面】
いつも無気力で何事にも本気を出さず、ヘラヘラしている。
面白半分で選択肢を運任せにすることが多い。
【交流】
山本眼鏡子(>>13):友達。彼女の勧めた伊達眼鏡を素直にかけたので懐かれた。彼女が選ぶ伊達眼鏡は嫌いじゃない。
大日輪 太陽(>>45):よく声を掛けられる。正直鬱陶しい。
鈴原 涼子(>>53):一番推しているアイドル。彼女のCDとグッズは全て手に入れている。
篠田 キララ(>>59):涼子と同じグループということでそこそこ好き。
安条可憐(>>61):いつも面白いが、アイドルとしては見ていない。
ソフィア・ステパネン・モロボシ(>>62):何だコイツ。
【詳細】
自称『運だけの女』
ごく普通の家庭に生まれたが、彼女が買った宝くじが一等当選したことをきっかけに人生は激変する。
親同伴であらゆるギャンブルに手を出し、その全てに勝利してきた。
その結果、もはや彼女の家は七代遊んでも使い切れないほどの資産を手に入れてしまった。
だが彼女はその資産で遊び惚けることなく、ごく普通に生活することにした。
彼女は自身の運がどこまで通用するのか試したくなったのだ。
しかし特に挫折することもなく、彼女は今も運だけでなんとかなってしまっている。
そのせいかは不明だが、彼女は強い意志の持ち主や、努力を怠らない人間に好意を抱きやすい。
が、暑苦しいのは嫌い。後、男もそんなに好きじゃない。
レズじゃない、というのは当人の弁。

今回の殺し合いも正しく事態を認識しているが、そのうえで今回も何とかなると思っている。
パラメータもランダム任せだが、スキルは自分で決めた。

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:B DEX:E LUK:S
【スキル】
眼鏡:C
自身が掛けている伊達眼鏡のデザインを自在に変えることができる。
【GP】30pt


65 : 名無しさん :2020/09/10(木) 19:00:42 whh.9JRs0
>>60
スキル名に間違いがあったので訂正いたします
×逃走(B)→○逃亡(B)
申し訳ございませんでした


66 : 名無しさん :2020/09/10(木) 20:08:46 LABpGPZ20
■キャラクター
【キャラ名】笠子 正貴(かさご しょうき)
【性別】男
【年齢】30
【職業】元警察官(警部補)
【外見】スポーツ刈りの髪型。眼鏡に黒いスーツ。中肉中背で仏頂面。
【内面】穏やかで社交的、人付き合いを大切にするタイプ。正義感が強く仕事熱心。人目につかない場所では指を噛んで独り言に没頭する癖がある。
【詳細】
《先日のネットニュース記事より抜粋》
昨日未明、東京都内で警察官が殺人の容疑で逮捕されました。
逮捕されたのは警視庁××署所属の警部補、笠子 正貴容疑者(30)です。
容疑者は今月×日、都内在住の20代女性の顔を何度も殴りつけて殺害した疑いが持たれています。
現場に残された体液と容疑者のDNAが一致したことから逮捕に踏み切ったとのことです。
調べに対し笠子容疑者は「僕はいつも正しく生きてきました」「何も満たされないので、自分から満たしに行きました」などと意味不明な供述を繰り返し、精神鑑定も視野に入れて取り調べを続けています。
警視庁によりますと、容疑者は他に少なくとも3件の殺人事件、2件の性的暴行事件に関与している疑いがあると見て、余罪を追求していく構えです。

■アバター
【パラメータ】
STR(筋力):C
VIT(耐久):C
AGI(敏捷):B
DEX(器用):A
LUK(幸運):C

【スキル】
身柄確保:C
相手に掴み掛かった際、一定確率で相手のSTR値を無視する。
発動すれば筋力の差に関係なく拘束や柔術を行うことが可能。
DEX値が高いほど成功率が上がる。

制圧:C
相手に直接触れている間、対象のスキルを一つ無効化する。
複数保有している場合、スキル欄の一番上に記載されているスキルにのみ効果を発揮する。

捕縛:C
半径10m以内にいる相手を引き寄せ、自身の間合いまで接近させる。
スキルの対象となるのは一度に一人のみ。また再発動には短時間のチャージが必要となる。

【残GP】15pt


67 : 名無しさん :2020/09/10(木) 21:38:55 FfY1oHOI0
打目木 伐夫(だめき ばつお)
【性別】男
【年齢】32歳
【職業】サラリーマン
【外見】入院着、全身包帯
【内面】
この社会の全てへの妬み恨み、一人でも多く道連れにする。
今ではアイドルの輝きが眩しすぎる。

【詳細】
何をやってもダメなサラリーマン、
業務成果劣悪で上司からの怒号の中徹夜での残業と休日出勤を繰り返すも補填が効かず、
人間関係も同僚や後輩が出世する中取り残され、どの部署からも煙たがれている、
家族からは縁を切られ友人もなく、休日出勤の合間を縫ったアイドルのファン活動以外に人生の喜びはなかった。
そんな絶望的な日々を送るさなか、自分のドジによる交通事故で重体となる
辛うじて意識を失う前に耳に入った医者の話ではもう長くはないとの見立てであった。
事故にあうまで、このアイドル戦国時代で9割のアイドルの顔と名前が一致するという。
能力は全くないが年だけ喰ってしまい、アイドルに関してもどこか上から目線で見てしまい他のファンともうまく関係を築けた試しはない。

【交流】
美空 善子 (>>21):ファン、影の無いところに惹かれる。
大日輪 月乃(>>46):最推しアイドル、彼女に癒されたこと数知れない。今ではその歌声が眩しすぎて聞けない。彼女を胸で判断する奴は何をやってもダメ。
吉岡・フルメタル・以蔵(>>49):かつてTSUKINOファンクラブで激しい論争を繰り広げ、打目木はBANされることとなった。かつてライブで顔を合わせたことがある。
鈴原 涼子(>>53):HSFは好きだけど彼女は普通、SNSの更新とか営業は凄いけど性格悪そう(偏見)
禾坂・H・礼歌(>>56):おっとりした普段とステージ上のダンスのキレのギャップが凄い。間違いなくアイドル戦国時代の新世代。

■アバター

【パラメータ】STR:E VIT:S AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
反射(A):自分が受けたダメージの1/2を攻撃者に与える(自分が受けるダメージが減るわけではない)。追加効果の類は反射不可能。
【残GP】5pt


68 : 名無しさん :2020/09/10(木) 22:52:35 fJN.RHbg0
■キャラクター
【キャラ名】射田 正忠(うつだ まさただ)
【性別】男
【年齢】25歳
【職業】公務員/天道市役所税務課主事
【外見】
眼鏡。やつれた不健康そうな顔つき。
【内面】
真面目で責任感が強い。曲がったことが嫌いな良識人。ただし横紙破りを上から指示された場合は仕事だと割り切って実行する。
【交流】
桐本 四郎(>>14):桐本事件で税務課の屋台骨となっていた先輩職員を殺されたため、海より深く恨んでいる。
大和 正義(>>10)&大日輪 太陽(>>48):休みの日に地域貢献活動に駆り出されると大体いる好青年たち。若さが眩しい。
打目木 伐夫(>>67):深夜まで残業した帰り道で時々見かける。名前も知らないが勝手に仲間意識を感じている。
【詳細】
大日輪学園、空明高等学校、日天中学校、陽見澤女学園、月光芸術学園の所在地である天道市の市役所に務める男。入職3年目。
入職当初は「ホワイト+安定の公務員で将来安泰!」と喜んでいたが、桐本事件によって様相が一変。犠牲になった先輩職員の業務を全て引き継ぐことになりとんでもない量の業務をこなす羽目になる。後任も来るがあまりの過酷さからすぐに鬱病を発症し休職してしまうので勤務状況が改善されない。
平日は朝6時に出勤、深夜2時に退勤している。残業手当は月30時間を超えると出ない。
市役所職員であるため地元消防団に加入しなければならず、休日は消防団の活動か残務処理で終わる。
そんな彼の唯一の趣味はサバイバルゲーム。小学生の頃から楽しんでおり、桐本事件が起こるまでは毎週フィールドに顔を出していた。愛銃は89式小銃。

■アバター
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:C DEX:A LUK:C
【スキル】
リロード:A
弾丸と弾倉を手に持っている場合のみ使用可能。弾丸が弾倉に自動で装填される。
装填スピードはスキルランクとDEXに依存する。
制圧射撃:B
明確に威嚇、制圧を目的として銃を発砲した場合に限り一定確率で対象を跪かせることができる。精神抵抗可能。
このスキル発動中、対象に銃弾が命中する場合、命中しないよう軌道が修正される。
【GP】
残り0pt


69 : 名無しさん :2020/09/10(木) 23:19:31 FfY1oHOI0
■キャラクター
【キャラ名】付侘 兆(つきた きざす)
【性別】男性
【年齢】16歳
【職業】勇者
【外見】
茶髪
金のサークレットと真っ赤なマントがトレンドマーク
【内面】
傲慢、異世界の4分の一は自分のもの、魔王に渡すものは何もない
おしゃべりで賭博と女が好き
【詳細】
このロワが始まる1年ほど前、魔王を倒す勇者として(恋人を含む)親友5人と共に異世界に召喚された勇者の一人。
元は優しい性格だったがチートスキルを授かり、各地で崇められるのを繰り返すごとに傲慢な性格となった。
やがて賭博で借金を作り、かつての恋人を売って難を凌いだ後は積極的に女付き合いを増やして
女の金と名家の名誉とチートスキルを併せ持ったスーパー勇者になったとか。

【交流】
陣野 優美:>>38 元カノ、現実世界では引っ張られる立場だったが異世界では引っ張りまわす側に回った。
     あわや借金で足止めを喰らいそうな所で彼女を売り、この異世界に無駄なものが存在しないことを知った。
ランス・ミルティア:>>50 後の子孫、彼の髪の色は陣野に似た黒髪の愛人の血筋が由来。
高井 丈美(>>51):陣野の紹介で会ったことがある。今やあまり覚えてはいない。

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
付与魔術(S):異世界の誇る四大チートスキルが一つ。
1つの物体の効果・性能を大幅に伸ばす/縮めることができる他、
自他プレイヤーのステータス・スキルのうち1つの強さをA~Eの任意の値(元値がAの場合のみSまで)に変更可能。
同時に二つ以上の付与は行えないが、任意解除及び再使用に制限はない。
解除は術者の術者の意志のみで行える。

【残GP】0pt


70 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/11(金) 01:15:53 F50lZDgM0
みなさまお疲れさまです。
沢山の投稿、誠にありがとうございます。
まだまだ期間はありますので慌てずじっくり考えてご投稿ください。

下記キャラのGPに誤差があったため報告及び勝手ながら修正させていただきます。
>>67 打目木 伐夫
GP:5pt ->0pt


71 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/11(金) 01:16:17 F50lZDgM0
現状の投稿キャラのまとめ

>>10 大和 正義 -- 文武両道で正義漢の強い青年
>>11 プテリクス -- 傲慢な吸血鬼
>>12 安里 飛鳥 -- 食堂のおばちゃん
>>13 山本 眼鏡子 -- 良心を脅して改名した眼鏡狂
>>14 桐本 四郎 -- 桐本事件を起こした死刑囚
>>15 被検体004 -- 死病をまき散らす被検体
>>16 江元・E・絵美璃 -- デスゲームの優勝者
>>17 田戸 康治 -- 先輩!まずいですよ!
>>18 登 勇太 -- PCゲーム同好会の少年
>>20 林 亜虎 -- 不良グループを束ねる中国マフィアの息子
>>21 美空 善子 -- 空手初段のトップアイドル
>>22 有馬 良子 -- 内気で恥ずかしがり屋な厨二病少女
>>23 如月 陸 -- ゲームの主人公に憧れる難病に侵された少年
>>25 木本 奥太 -- 真央ニャン推しで真央ニャンになったキモオタ
>>26 アーノルド・セント・ブルー -- 戦争中毒の退役軍人。伝説のスナイパー
>>27 ディラン・ジェンキンス -- 自分でアイドルを作ったマッドサイエンティスト社長
>>28 雨花 響介 -- 常に何かに怯えている根暗少年
>>30 氷露 雁 -- マッチョに憧れるヒョロガリ
>>31 尾張 縁人 -- 終わりに美学を見いだすホームレス
>>32 渡恒 蓮太郎 -- 母からの虐待により女性不信になった美少年
>>33 ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ -- 全能無能幼女。全ては些事
>>34 リィン -- 破壊の力を持つ少女
>>35 馬場 早智子 -- 機械音痴のおばあちゃん
>>36 紋木戸 瑠衣 -- 海賊版海賊王
>>37 本堂 満雄 -- ネカマ会社員
>>38 陣野 優美 -- 勇者に売られた奴隷少女
>>39 馬場 堅介 -- PCゲーム同好会長。縛りプレイヤー
>>40 本道 華花 -- 生真面目嘘発見機委員長
>>41 大小 蘭 -- 身長がコンプレックスの中学生
>>42 絵夢町 金十三 -- ホラー好きの陰キャ。リア充しね
>>43 白井 杏子 -- 魔法少女コスプレ保険教諭
>>44 水戸 光子 -- 姉御肌メイド
>>45 大日輪 太陽 -- 熱血生徒会長
>>46 大日輪 月乃 -- 天然歌姫。胸を盛った
>>47 月光 空我 -- 初期アバター忍者
>>48 月光 空明 -- アバター設定できた方の忍者
>>49 吉岡・フルメタル・以蔵 -- ニワトリ頭のドルオタ用心棒
>>50 ランス・ミルティア -- 異世界の女騎士
>>51 高井 丈美 -- 女子バレー部主将
>>52 枝島 トオル -- TS美術教師
>>53 鈴原 涼子 -- HSFのセンター兼リーダー。ストイックガール
>>54 増田 知徒 -- 元PCゲーム同好会の凄腕クラッカー
>>55 掘下 進 -- ミスタードリラー
>>56 禾坂・H・礼歌 -- ホムンクルスアイドル『ほむはいむ』の大和撫子
>>58 ムーちゃん -- 人工無能
>>59 篠田 キララ -- HSFの最年少。元子役
>>60 ギール・グロウ -- 報酬狙いの盗賊
>>61 安条 可憐 -- HSFのバラエティ担当。関西人
>>62 ソフィア・ステパネン・モロボシ -- HSFのミステリアス担当。ロシアンハーフ
>>63 田所 アイナ -- 読心テレパシスト少女
>>64 日騎亜 輝美 -- 運だけの女
>>66 笠子 正貴 -- 殺人警察官
>>67 打目木 伐夫 -- ドルオタダメリーマン
>>68 射田 正忠 -- 社畜市役所員
>>69 付侘 兆 -- 外道スーパー勇者


72 : 名無しさん :2020/09/11(金) 01:38:28 fK3PXsy.0
■キャラクター
【キャラ名】焔花 珠夜(ほむらはな たまや)
【性別】男
【年齢】33
【職業】爆弾魔
【外見】茶の爆発髪、中肉中背、作業服、いつもにやけている
【内面】
爆発狂
自分の欲望に忠実
いつか自分も爆発したい
爆弾で他人を殺すつもりはない
【交流】
顔と名前ともに報道されているためそれなりに有名。
美空 善子(>>21):野外ライブ中に曲の終わりに合わせてステージ上空で大爆発を計画していたが偶然準備している所を目撃されて止められて空手で撃退された。何とか逃げることはできた。
笠子 正貴(>>66):昔自分が逮捕された時に会ったことがある。彼が殺人容疑で逮捕されたことを知った時は驚いた。
【詳細】
指名手配中の爆弾魔。
たくさんの人が注目している所を爆破することを好む。
人を殺すつもりはなく爆破の際には注意を払う。
今まで死人は出していない。
目的はあくまでたくさんの人に爆発を見てもらうことである。
いつか自分自身が爆弾になって多くの人々が注目している中で華々しく散りたいと望んでいる。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:C DEX:A LUK:C
【スキル】
爆弾製作(B)
爆弾を作ることができる。作った爆弾は一緒に作ったスイッチを押すか強い衝撃を与えることで爆発する。威力は調整可能だがDEX値が大きいほど調整の幅が広がる。
自爆(A)
自分の命と引き換えに大爆発する。
【GP】0pt


73 : 名無しさん :2020/09/11(金) 12:35:11 ZhF4l8rQ0
■キャラクター
【キャラ名】黒野 真央(くろの まお)
【性別】女
【年齢】
(公表年齢)15歳
(実年齢)21歳
【職業】アイドル

【外見】
身長142cm、幼児体型。
くりくりした目に猫を思わせるかわいらしい相貌、黒のショートヘアー
腹周りが少しボリューミー。
【内面】
表向きは天真爛漫で愛くるしい振る舞いをする。
本性は腹黒で自己中心的で身勝手。自己顕示欲が強い反面努力嫌い。
【交流】
木本 奥太(>>25):迷惑ファンとして認知している。ライブの邪魔。キモい。
美空 善子(>>21)、鈴原 涼子(>>53)、安条 可憐(>>61)、ソフィア・ステパネン・モロボシ
:枕営業で成り上がったアイドル業界のクズ。あくまで真央がそう思い込んでいるだけである。
大日輪 月乃(>>46)、篠田 キララ(>>59):コネで成り上がったアイドル業界のクズ。重ねて言うが真央がそう思い込んでいるだけである。
禾坂・H・礼歌(>>56):眼中にないザコ。どうせすぐ消える。
【詳細】
弱小事務所に所属する地下アイドル。いつか芽が出ると信じて6年が経った。
かわいらしい顔をしているがそれ以外に武器がない。さらに自分は歌も踊りも完璧だと頭から信じ込んでいるので練習しようともしない。そのため新規ファンが獲得できず、ライブは古参ファンしか来ない(客単価は高いが)。
成人して以降毎日のようにビールで晩酌しているので腹回りが少しぷよついており、露出度の高い衣装が着られなくなった。ライブではコルセットを巻いて誤魔化している。
18歳年上の実業家の恋人がおり、既成事実を作ろうと頑張っている。


■アバター
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
アイドル(S)
共に戦う味方を鼓舞し全能力を向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
彼女を一目見たものはたちまち彼女を推すファンになり(精神抵抗可能)、彼女を推しとした者は彼女のために命を懸けることすら厭わなくなる。
どこにいても注目を浴びるためとても発見されやすい【デメリット】
【GP】
残り0pt


74 : 名無しさん :2020/09/11(金) 19:05:27 QO/idDc.0
■キャラクター
【キャラ名】冬海 誠(ふゆみ まこと)
【性別】男性
【年齢】17
【職業】勇者
【外見】顎鬚。彫りの深い痩せぎすの男。左耳と唇にピアスを付けている
【内面】
色欲。この世の女は俺の物、この世の男も俺の物。
女も男もイケるバイ。SEX中毒
【詳細】
このロワが始まる1年ほど前、魔王を倒す勇者として(恋人を含む)親友5人と共に異世界に召喚された勇者の一人。
性的嗜好は変わっていないが元は最低限の節度はわきまえていたがチートスキルを授かり、箍が外れた。
手あたり次第に能力を使って魅了しまくり酒池肉林を楽しんだ、全員が彼の子を身籠ったなんて村も少なくはない。
彼のために命を捧げる屈強な部隊を持ったハイパー勇者になったとか。

【交流】
陣野 優美:親友の元カノ、現実世界でも付侘には秘密で何度か抱いたことがある。
     借金のカタとして売られた時も、能力を手に入れた彼にとっては過去に抱いた女の一人にすぎなかった。
付侘 兆:親友、中学からの付き合いで塾も一緒だったことから仲良くなった、愛していたが抱いたことはない。
     異世界に来てからは互いの力を利用しつつ互いの領分には踏み込まない、いい関係を築けている。

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
魅了魔術(S):異世界の誇る四大チートスキルが一つ。
このすべての人間を自分に惚れさせる魔術。
発動条件は直接触れる事、魅了対象に制限はなく、同時に何人でも魅了可能。
術者の任意で解除も可能だが、魅了中の記憶は残り続ける

【残GP】0pt


75 : 名無しさん :2020/09/11(金) 19:44:10 8KyYSXIo0
>>71
ランス・ミルティアは男騎士では?


76 : 名無しさん :2020/09/11(金) 20:25:37 nMO3dTJ.0
■キャラクター
【キャラ名】正田 光流(しょうだ ひかる)
【性別】男
【年齢】13
【職業】男娼
【外見】低身長、長髪、女顔、声変わりもしていないためそのまま女に見える
【内面】魔性の女を気取っている
【詳細】
とある安アパートの一室で客をとっている男娼の少年。
幼い頃から女として育てられて父親の相手をさせられており、本人の認識も完全に女。
父親から逃げ出し体を売りながら暮らしてきたが、現大家に拾われ囲う目的も含めて現在の部屋をあてがわれた。
本人はチョロイ男を転がしながら生きてきたという認識であり、逆に男にいいようにされてきたという事実には気づいていない。

■アバター
【ルックス】基本的に変わらないが、本人の認識通りより女っぽい肉体になっている
【パラメータ】STR:E VIT:C AGI:C DEX:A LUK:A
【スキル】
サキュバス:C 
キス、抱き着きなど過度の身体的接触を行うことで相手の体力を少量奪うことができる

魔性の女:C
キス、抱き着きなど過度の身体的接触を行うことで相手のGPを少量奪うことができる
【GP】0pt


77 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/11(金) 20:57:04 F50lZDgM0
>>75
ご指摘ありがとうございます。その通りですね
私自身に騎士と言う言葉に対する偏見があったことは否めません。大変失礼しました


78 : 名無しさん :2020/09/11(金) 21:28:46 PUmEJrVU0
■キャラクター
【キャラ名】小鳥遊 つなぎ(たかなし つなぎ)
【性別】女
【年齢】19
【職業】大学生
【外見】素朴で愛嬌のある顔付き。三つ編みのおさげ。透き通った声。
【内面】内気で大人しい。普段の自分への自信がない。
【交流】
ソフィア・ステパネン・モロボシ(>>62):好きなアイドル。雪の妖精のような佇まいに一目惚れした。彼女を含めて「ハッピー・ステップ・ファイブ」を応援している。

【詳細】
以前はバーチャルアイドル「Sally」として活動していた女子大学生。
浮世離れした佇まいとミステリアスな世界観、透き通るような歌声によってコアなファンを獲得していた。
しかし金銭トラブルやセクハラ被害などをきっかけに事務所との関係が悪化し、デビューから1年で引退へと追い込まれる。
自分に自信を持てず、違う何かに変身することを望んでいた彼女にとって、バーチャルアイドルという道は天啓に等しかった。
そのためSallyというペルソナに対する愛情、執着は極めて強い。ただの大学生に戻った今もなお、かつての自分を忘れられないでいる。

■アバター
【アバター名】Sally
【外見】10歳程度の幼女、銀髪ロング、雪のように白い肌、花柄の模様が描かれたワンピース
【パラメータ】
STR(筋力):E
VIT(耐久):E
AGI(敏捷):E
DEX(器用):E
LUK(幸運):C

【スキル】
Misty Rain:A
「霧の歌姫、Sally。彼女は幻か、あるいは―――」
周囲一体に深い霧を発生させ、内部の空間を支配する。
霧の中ではSallyの世界観が具現化され、退廃的でゴシックな情景が展開される。
本体は霧の中を自在に移動できる他、あらゆる位置から歌声を響かせることが可能。

Sweet Dreams:A
「Sallyはどこにでもいるよ。」
彼女の歌声に魅了された者に対して精神判定を行う。成功した場合、相手の心に思念を植え付ける。
常にSallyの幻覚・幻聴が付き纏うようになり、精神を蝕まれれば蝕まれるほど彼女の幻が思考から離れなくなる。
また侵食度が上がるたびにSallyへの信奉心も肥大化していく。

【残GP】15pt


79 : 名無しさん :2020/09/11(金) 22:48:56 nMO3dTJ.0
■キャラクター
【キャラ名】神在 竜牙(かみあり りゅうが)
【性別】男
【年齢】22
【職業】アイドル、バンドマン
【外見】
容姿、服装、言動、全てが派手なオラオラ系のイケメン

【内面】
何事にもクソ真面目な努力家
芸能界を遊びの世界と見下しているが、生来の気質のためバンド活動には真摯に取り組んでいる

【詳細】
大物政治家の息子にして大人気アイドルバンド『那由多』のボーカル。
傲岸不遜、唯我独尊キャラで売っており、ファンと同様にアンチも多い。
本人の気質は生真面目であり、上記のキャラも綿密にマネージャと打ち合わせをして作ったもの。
将来は父親の跡を継いでの政治家志望であり、バンド活動も知名度稼ぎの腰掛程度にしか考えていなかった。
現在予想をはるかに超えたバンドの躍進ぶりに将来設計が崩されかかっており、若干頭を抱えている。
本名は宮本哲也。

■アバター
【パラメータ】STR:C VIT:B AGI:C DEX:B LUK:A
【スキル】
バンドマン:B
アイドルの変名スキル
共に戦う味方を鼓舞し全能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】

【GP】0pt


80 : 名無しさん :2020/09/11(金) 23:06:07 zspViBCw0
■キャラクター
【キャラ名】郷田 薫(ごうだ かおる)
【性別】男性
【年齢】17
【職業】勇者
【外見】ダンゴ鼻。大柄でやや肥満体型
【内面】
強欲。俺の物は俺の物、お前の物も俺の物
――――世界のすべては俺の物
【詳細】
このロワが始まる1年ほど前、魔王を倒す勇者として(恋人を含む)親友5人と共に異世界に召喚された勇者の一人。
このグループのリーダー的存在のガキ大将だったが、高校受験に失敗してしまい他の4人とは別のランクの落ちる高校に進学することとなる
頭は悪いが気のいい兄貴分、だったがチートスキルを授かり、金を生み出せることを理解するとそのまま欲望に溺れていった
何も深く考えず金を量産し続け異世界の金相場が完全に崩壊、多くの商人が路頭に迷い貧困と格差が広る事となった
世界中から金に飽かせた最強装備をかき集めウルトラ勇者になったとか。

【交流】
陣野 優美(>>38):元カノ、付侘と付き合う前に付き合っていた優美にとって最初の彼氏
     俺の金は俺のもの、昔の女よりも今の金が大事なので借金の肩代わりなどせず見捨てた
付侘 兆(>>69):親友、小学校からの付き合い。同じ少年野球クラブ出身
     異世界に来てからは傲慢と強欲、取り分で揉めることが多くなった
冬海 誠(>>74):親友、中学からの付き合い、塾には通っていなかったため付侘を介して知り合った
     金と女をギブ&テイクする関係、尻を狙われているが気づいていない

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
創造魔術(S):異世界の誇る四大チートスキルが一つ。
この世のあらゆる物質を創造する
創造できるのは使用者が把握している物質に限られるため知識が必要となり
形状は自由だがそれを生み出す発想力が必要となる
現在の使用者はそのどちらも欠けている
創造された物質は通常の物質として残り続ける。

【残GP】0pt


81 : 名無しさん :2020/09/12(土) 00:04:07 h3kU62SE0
【キャラ名】出多方 秀才(でたがた ひでとし)
【性別】男性
【年齢】18歳
【職業】学生・大日輪学園3年
【外見】痩せぎす、奇麗な七三分けの上方。眼鏡の奥の瞳は見えない
【内面】成績優秀、データ型、冷静に見えて悲観的
【詳細】
大日輪学園学園長の孫にして大日輪学園生徒会副会長。
データ型であり、不確定排除を排除してから統計的に高い可能性に賭ける。
統計的に見て、最後の最後まで諦めなければ総合的な勝ちは増えるので粘り強い。
しかし、負け勝負にも力を入れるうちにだいぶ悲観的になってきた。
成績優秀で教師、生徒からの人気は高かったが演説の内容が現実的でもあまりに地道だったため生徒会長に慣れなかったのは割と有名。
「この会場にいる30人が対等の条件で戦って最後の一人になれる可能性は約3%。ふっ、私もここまでのようですね」

【交流】
大和 正義(>>10):自分と同類、データ的には自分に近いと思っている。
山本 眼鏡子(>>13):慕ってくれているが、彼女の視線のデータは常に自分ではなく眼鏡を見てることを示している。
大日輪 太陽(>>45):生徒会長、対極の性格だがいざという時に気は合う。
大日輪 月乃(>>46):太陽の妹、データについて良く語るがあまり聞いてもらえない。
日騎亜 輝美(>>64):彼女の運任せは統計の標本として最適ではないかと注目している。

【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
冷静(A)
冷静沈着な心でいついかなる時も平常心で行動できる。
幻影・精神攻撃を無効化するがパラメータ以上の行動はできない【デメリット】
同属性を持つモノと適切な距離を保てるが、逆属性を持つモノを遠ざける【デメリット】
【GP】0pt


82 : 名無しさん :2020/09/12(土) 00:14:27 O3kG8nRc0
■キャラクター

【キャラ名】秋原 光哉(あきはら みつや)
【性別】男
【年齢】58
【職業】投資家
【外見】恰幅のいい中年男性。高級ブランドのスーツにサングラス、指にはゴテゴテした指輪がはめられている
【内面】人を利用する事しか考えていない金の亡者。ヘビースモーカー
【交流】多くのテレビ会社や新聞社の大株主でマスコミを牛耳るドン。政財界に強いコネクションを持つ。
【詳細】
業界にアイドル戦国時代を巻き起こしたフィクサー。
それはアイドルが好きだから、という理由ではなく、単に金になるから。
マスコミ業界に強い影響力を持つ彼の下にはまれにアイドルが貢がれる。
世の中の流れを読む能力がずば抜けており、大きな投資に失敗したことがない。
今回のゲームも大きな利益を得るための投資と割り切ることにした。

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:C DEX:C LUK:A
【スキル】
アイドルフィクサー(A)
アイドルを喰い物にするスキル。訳してアイフィクですよアイフィク
このスキルを持つモノはアイドルに魅了されず、アイドルはこのスキルを持つモノに攻撃を行えない、攻撃を行った場合アイドルの資格を剥奪される
また殺害した対象がアイドルだった場合、追加でGPを50pt獲得する
【GP】0pt


83 : 名無しさん :2020/09/12(土) 00:28:10 zeg6xKdU0
>>81
「大日輪学園長の孫」って設定が会長と被ってますけど大丈夫ですか?


84 : 名無しさん :2020/09/12(土) 00:33:58 n333iEhc0
■キャラクター
【キャラ名】陣野 愛美(じんの あみ)
【性別】女性
【年齢】16歳
【職業】勇者
【外見】長い黒髪のとても美しい少女
【内面】嫉妬。自己愛が酷い重度のナルシスト
他者を頼らず他者を認めず他者を愛さず、在るのはただ己のみ
【詳細】
このロワが始まる1年ほど前、魔王を倒す勇者として(恋人を含む)親友5人と共に異世界に召喚された勇者の一人。
陣野優美の双子の姉。一見すると羨むような仲良ししまいだったが、その心の内は激しい愛憎に塗れていた。
元より自己愛の化身。チートスキルを授かりそれは彼女の世界を実現する力となった。
彼女を崇め彼女を愛し彼女を信奉するものが生まれ、異世界に宗教という概念が生まれる。
多くの者が彼女のために命を捧げ、彼女は完全なる存在となりミラクル勇者になったとか。

【交流】
陣野 優美(>>38):双子の妹、(自分の複製として)深く愛し(自分の偽物として)深く憎んでいる。
妹の持ち物がどうしても欲しくなる悪癖があり、優美と付き合っていた郷田を寝取った、付侘も寝取ろうとしたがその前に異世界召喚にあった。
優美が泣き叫びながら売られる様を見るのは最高にゾクゾクした。

付侘 兆(>>69):親友、幼稚園からの付き合い。
元は愛美にアプローチをしていたが優美の物ではない付侘に興味がなく袖にしていたらいつの間にか優美と付き合い始めた。
異世界に来てから、と言うより優美を売ってからアプローチが強くなったが完全に興味を無くしている。

冬海 誠(>>74):親友、中学からの付き合い、同じ塾に通っていた。
肉体関係はあるがお互い割り切った後腐れない関係。互いの傷を舐め合うように異世界に来てからもその関係は続いている。

郷田 薫(>>80):親友、小学校からの付き合い。優美から寝取ってすぐに捨てた。郷田は未練があるらしくしつこく迫ってきている。
異世界に来てからは金を使ってアピールするようになった、それを余計に鬱陶しいと思っている

【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
完全魔術(S):異世界の誇る四大チートスキルが一つ。
他者の命を取り込み一体化することにより自身を完全にする魔術。殺せば殺しただけステータスがアップする。
本来は触れただけで相手を取り込める力だが、流石にこの世界ではある程度相手を弱らせない取り込めない。
元の異世界では多くの者が喜んで彼女と一つになっていった。

【残GP】0pt


85 : 名無しさん :2020/09/12(土) 00:34:30 h3kU62SE0
>>83
すいません、誤って挿入されていました。

正しくは以下になります。

【キャラ名】出多方 秀才(でたがた ひでとし)
【性別】男性
【年齢】18歳
【職業】学生・大日輪学園3年
【外見】痩せぎす、奇麗な七三分けの上方。眼鏡の奥の瞳は見えない
【内面】成績優秀、データ型、冷静に見えて悲観的
【詳細】
大日輪学園生徒会副会長。
データ型であり、不確定排除を排除してから統計的に高い可能性に賭ける。
統計的に見て、最後の最後まで諦めなければ総合的な勝ちは増えるので粘り強い。
しかし、負け勝負にも力を入れるうちにだいぶ悲観的になってきた。
成績優秀で教師、生徒からの人気は高かったが演説の内容が現実的でもあまりに地道だったため生徒会長に慣れなかったのは割と有名。
「この会場にいる30人が対等の条件で戦って最後の一人になれる可能性は約3%。ふっ、私もここまでのようですね」

【交流】
大和 正義(>>10):自分と同類、データ的には自分に近いと思っている。
山本 眼鏡子(>>13):慕ってくれているが、彼女の視線のデータは常に自分ではなく眼鏡を見てることを示している。
大日輪 太陽(>>45):生徒会長、対極の性格だがいざという時に気は合う。
大日輪 月乃(>>46):太陽の妹、データについて良く語るがあまり聞いてもらえない。
日騎亜 輝美(>>64):彼女の運任せは統計の標本として最適ではないかと注目している。

【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
冷静(A)
冷静沈着な心でいついかなる時も平常心で行動できる。
幻影・精神攻撃を無効化するがパラメータ以上の行動はできない【デメリット】
同属性を持つモノと適切な距離を保てるが、逆属性を持つモノを遠ざける【デメリット】
【GP】0pt


86 : 名無しさん :2020/09/12(土) 13:08:19 FrfsR5ro0
■キャラクター
【キャラ名】魔王カルザ・カルマ
【性別】男
【年齢】323歳
【職業】魔王
【外見】紫肌に黒マント。立派な角が生えている
【内面】怠惰。だったが勇者の無茶苦茶さについにブチ切れた……!
【詳細】
異世界を支配せんとする魔王。
割と長期的な支配計画を立て、人間界の土壌を育みながら融和的支配計画を目論んでいた。
そこに突然やってきた勇者たちによって100年がかりだった全ての計画を滅茶苦茶にされた。
最終的に全面戦争の果てに4人の勇者と直接対決。4対1でもそこそこ渡り合ったが完全体となった神の如き陣野愛美によって敗れた。
普段は威厳ある口調だが興奮すると魔界弁が出る。

【交流】
陣野 優美(>>38):こんなんおったっけ? よう見たらワシを倒した女に似とるな。

付侘 兆(>>69):まあまともな勇者やったな。裏で何しとったかまでは知らんが。
他の勇者見るかぎりやと碌でもなさそうやけど、まあワシ目線やとまともやったわ。
え、自分の女を売り飛ばした? そらあかんでぇキミぃ。

冬海 誠(>>74):お前なぁ! そこいらでポンポコポンポコ子供こさえてからに!
子沢山で将来安泰ね、ってそんなわけあるかい!! 数年後無茶苦茶やぞ!
全員認知するんか!? せぇへんやろ!? 誰がどう育てると思っとんねん!?
女で一人の育児を支援するにしてもこんだけおったら財政破綻するわ!!

郷田 薫(>>80):お、お、おまっ、お前ホンマええ加減にせぇよ!!
せっかくワシが育てた市場こんなメチャクチャにしよってからに! どういう事やねん!?
何に考えとんじゃ!! 何も考えてないんか!? ちったあ考えんかいこんボケェ!!

陣野 愛美(>>84):怖っ……え、怖っ。何こいつ…………怖ぁ。
新たな争いの種になりそうな概念持ち込むのやめーや、一神教やっちゅうに
というかお前にチートスキル授けたんが神さんやろうに真正面から対立すんなや、普通それワシの役目やぞ

【パラメータ】STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
【スキル】
魔法の王(A):
魔法の上位スキル、あらゆる魔法を操るのではなく支配下に置くことができる。
魔王のみが習得できる特殊スキル。

【残GP】0pt


87 : 名無しさん :2020/09/12(土) 14:59:00 h3kU62SE0
■キャラクター
【キャラ名】略画 巧(りゃくが たくみ)
【性別】男性
【年齢】13歳
【職業】中学生
【外見】坊主頭、室内でも帽子を外さない
【内面】
面倒くさがり
会話スキップは基本

【詳細】
PCゲーム同好会に所属する少年。
非常に面倒くさがりで、PCゲーム同好会を勉強をサボるために利用している節がある。
ゲームは好きだが、攻略本やオススメそのままなどテンプレートで遊ぶことを好んでいる。

【交友】
登 勇太(>>18) 同じPCゲーム同窓会に在籍する友人。手間暇かけて設定を考えてて凄いなあと彼の話を聞いている。
有馬 良子(>>22):PCゲーム同好会に遊びに来る人。勇太と同じ匂いがするが、流石に二人分の厨二設定を聞くのは面倒くさい。
馬場 堅介(>>39):PCゲーム同窓会の会長。なぜ縛りプレイという面倒なことをするのかわかっていない。
増田 知徒(>>54):元PCゲーム同窓会のメンバー、昔チートを勧められたが会長に止められた。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
New Worldマスタリー(S):New Worldへの熟練度が上がるスキル。
New Worldの仕様、MAP詳細の把握などの情報や
New Worldで最後の一人になるための指南情報を把握できる。
当然、その中には『初期300ptをNew Worldマスタリーにつぎ込んだ場合、勝ち残るのは難しい』という情報も含まれる。

【残GP】0pt


88 : 名無しさん :2020/09/12(土) 16:24:00 zeg6xKdU0
■キャラクター
【キャラ名】守川 真凛(もりかわ まりん)
【性別】女
【年齢】16歳
【職業】元勇者
【外見】眼鏡、タヌキ顔、乳と尻が大きい。
【内面】内気で押しに弱い。世話焼きで人当たりが良い。
【交流】
陣野 優美(>>38):親友。戦闘面で力に慣れず歯噛みする彼女をよく慰めていた。
付侘 兆(>>69)、冬海 誠(>>74)、郷田 薫(>>80)、陣野 愛美(>>84)
 :元親友。滅ぼすべき巨悪。真凛は優美のパーティ離脱について「戦闘で力になれないことを悔いて自主的に離脱した」と聞かされていた。
【詳細】
このロワが始まる1年ほど前、魔王を倒す勇者として親友5人と共に異世界に召喚された勇者の一人。四大チートスキルには及ばないながらも強力なスキルを8個もらい、親友たちと共に魔王討伐に同行した。索敵、威力偵察、罠解除、ヘイト管理、バフ、デバフ、全体回復、支援攻撃を担い戦闘面での縁の下の力持ちとして活躍した。優美が売却されて以降、彼女が担っていた衣食住の確保や地元住民との渉外、情報収集、金銭やアイテムの管理、なども真凛の仕事になった。
チートに溺れて増長する親友たちや彼らに滅茶苦茶にされた世界で生きていかなければならない己に辟易していたが、優美が兆に売却されていた事実を魔王城突入直前に知らされたことで堪忍袋の緒が切れ、勇者パーティから脱走。異世界を駆けずり回って優美を探している。

■アバター
【パラメータ】
STR:D VIT:D AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
解析(B)
ものの材質や内部構造を解析し理解することができる。
治癒魔法(B)
自分あるいは味方の傷を回復する。小さな怪我程度なら完治することが出来る
鷹の目(C)
空から見渡すような視野を得る。大きく視界が広がるが後方までは確認できない

【GP】
残り10pt


89 : 名無しさん :2020/09/12(土) 17:02:44 20RorzjI0

■キャラクター
【キャラ名】エル・メルティ
【性別】女
【年齢】81
【職業】魔界騎士
【外見】青肌、ピンク髪、黒白目、金色の瞳、とがり耳、外見年齢16歳程、かなり美人、スタイル抜群、黒い鎧を身についけている
【内面】
自分が騎士であることに誇りを持っている。
魔王の計画をつぶした勇者への怒りに満ち溢れている。あんな奴ら勇者とは認めない。
【交流】
魔王カルザ・カルマ(>>86):上司。忠誠心は高く彼の計画に賛同していた。争いが始まってからは彼のために勇者を倒すことを誓った。最後の戦いの時は彼の待つ部屋の前を守護していた。

陣野 優美(>>38):名前も顔も知らないが借金のために恋人に奴隷として売られたと聞いた。その境遇に同情している。

付侘 兆(>>69):恋人を借金返済のため奴隷として売ったという情報に怒りを感じ、対峙した時はあまりにもの傲慢な発言に怒りを通り越して呆れた。

冬海 誠(>>74):スキルの力で人の気持ちを捻じ曲げて物にするところに激しい怒りを覚えた。こんな奴に抱かれるのは死んでもごめん。絶対に許してはならない。

郷田 薫(>>80):市場を破壊し多くの人々を不幸にしたことへの怒り。金さえあれば何でもできると思っているかのような考えなしの行動は全く理解できなかった。

陣野 愛美(>>84):スキルの力もなしに人を操り、自分のために簡単に他人の命を吸い取る姿に恐怖を感じた。同じ人間のはずなのにこの女を神のように扱う者たちも理解不能。

守川 真凛(>>88):魔王城突入前にパーティから離脱したと聞き本当の勇者がいたことに安堵した。

ギール・グロウ(>>60):以前魔王城に忍び込んだ盗賊。逃亡しようとしている時にこの男の顔を見ている。
【詳細】
異世界の魔王の部下の女騎士。
魔王の部下たちの中でも実力は最上位だった。
戦闘では剣を主武装とし、その剣技は凄まじく魔界一であった。
常に兜と鎧をつけていたが兜は勇者一行との戦いの中で壊れた。
勇者一行によって魔王の計画が潰されただけでなく彼らがあまりにも酷いことばかりするため激しい怒りが蓄積されてきた。
魔王城で戦いに敗れた後はこんな奴らに止めを刺されてたまるかと最後の力を振り絞って毒薬を飲んだ。

■アバター
【パラメータ】STR:B VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
【スキル】
魔剣(A)
剣に類する物を装備した時のみ発動する。
剣を使ってダメージを与えれば与えるほど剣の威力がそれに伴って上がっていく。
騎士の誇り(B)
精神力と精神異常への耐性を上げる。
また、自らが騎士として特定の誰かを倒すもしくは守ると決めた時の戦いでステータスが全体的に一段階上がる。
【GP】0pt


90 : 名無しさん :2020/09/12(土) 20:23:25 sdYSksbI0
■キャラクター
【キャラ名】増田 快三(ますだ かいぞう)
【性別】男
【年齢】20
【職業】大学生
【外見】中肉中背、私服の趣味は悪い
【内面】あまり他人に興味を持たない。ゲームは基本的にシナリオクリアが最優先。
【交流】
増田 知徒(>>54):弟。PCの基礎について色々と教えた。
【詳細】
ゲーム改造に精を出すゲーマー。
ネットゲームには興味を持たず、コンシューマゲームを買いあさっている。
ゲーマーとしての実力は中の下程度であり、難しければ難易度を下げればいいが信条。
内部のプログラミングについては独学であり、いつかは一からゲームを作ってみたいと考えることもある。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
メアリー・スー:S
他者を貶めることで自身を相対的に高めるパッシブスキル
このスキルの持ち主と同じエリアにいるキャラのS未満のステータスを最低ランクへ書き換える
(パラメータならE、スキルならCへ)
スキル等を消去するわけではないことに注意
【GP】0pt


91 : 名無しさん :2020/09/12(土) 22:37:26 RsWrBdhA0
■キャラクター
【キャラ名】砦山 宏(とりでやま ひろし)
【性別】男
【年齢】33
【職業】会社員
【外見】常にイヤホンをしているメガネデブ
【内面】仕事はできるが性格が暗く、他人に好かれづらい。
【交流】
桐本 四郎(>>14):両親を殺した殺人鬼。とても憎い。さっさと死刑執行してほしい。
増田 知徒(>>54):左遷の原因。めちゃくちゃ憎いが名前もどこの誰かも分からない。
ソフィア・ステパネン・モロボシ(>>62):生きる目的。精神安定剤。女神。接点はファンレターを送った程度。
焔花 珠夜(>>72):小・中学校の同級生。モチーフにしたキャラをゲームに出していたため指名手配された時はちょっと焦った。
【詳細】
大人気オンラインゲーム「ファイヤーウォリアーズ3」(通称FW3)の開発チームの元一員。両親を「桐本事件」により失い孤独の身。
増田知徒によるサイバー攻撃の際、何とかサービス終了は免れる活躍をするものの会社からは評価されず地方の子会社に左遷。
攻撃者と会社への憎悪から自暴自棄になりFW3へサイバー攻撃しようとしていたところ、偶然つけていたテレビからソフィアの歌声が聞こえて我に返り踏みとどまる。
ソーニャの歌声が憎悪を和らげる(※個人の感想です)ことを知った彼は、それ以降ずっとイヤホンでHSFの曲をループし続けるのであった。
いつか「ぴよちゃん(ひろし→ひろ→ぴよ)」「ソーニャちゃん」と呼び合う仲になることを目標に毎日をしっかりと過ごしている。

■アバター
【ルックス】左遷される前のすらっとした姿(イヤホン装着済)
【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:C DEX:C LUK:B
【スキル】
BGM再生(A)
好きな音楽を流し続けることができる。聞こえる範囲は選んだ対象のみ(複数選択可)または周囲の全員のどちらかを切り替え可能。
音量も調節可能だが、鼓膜やガラス等にダメージが入るほどの大きさにはできない。
【残GP】40pt


92 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/13(日) 00:18:57 DlVIqzCY0
キャラ募集期間も折り返しを過ぎました
沢山のキャラが集まり大変うれしく思っております、皆様ありがとうございます。

前回からの追加キャラをまとめます。

>>72 焔花 珠夜 -- 見てもらいたいだけの爆弾魔
>>73 黒野 真央 -- 腹黒年齢詐称地下アイドル
>>74 冬海 誠 -- SEX中毒のハイパー勇者
>>76 正田 光流 -- 魔性のサキュバス男娼
>>78 小鳥遊 つなぎ -- バーチャルアイドル時代が忘れられない元バーチャルアイドル
>>79 神在 竜牙 -- 政治家志望の真面目バンドマン
>>80 郷田 薫 -- 金相場を完全崩壊させたウルトラ勇者
>>82 秋原 光哉 -- プレイヤーさん!アイフィクですよアイフィク!
>>84 陣野 愛美 -- 自己愛の果てに神となったミラクル勇者
>>85 出多方 秀才 -- 悲観的データ型副会長
>>86 魔王カルザ・カルマ -- ブチ切れ魔王様
>>87 略画 巧 -- めんどくさがりで攻略本に頼るPCゲーム同好会の少年
>>88 守川 真凛 -- 勇者たちを許さない元勇者
>>89 エル・メルティ -- 勇者を認めない誇り高き女魔界騎士
>>90 増田 快三 -- ゲーム改造が趣味なメアリースー
>>91 砦山 宏 -- 桐本事件で両親を失ったゲーム開発者

参加者候補の一覧はこちらのページにまとめてありますので、ご確認下さい

ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/18.html


93 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/13(日) 00:19:53 DlVIqzCY0
マップの詳細について
現在の設定です
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/16.html

【エリアについて】
・積雪エリア。山頂に行くほど気温が落ちます。気温が低い場所に長時間いる場合は防寒しないと危険です
・砂漠エリア。大砂漠は常に砂塵が待っています、探索系スキルがないと方向感覚が失われます
・火山エリア。火山は定期的に小さな噴火を繰り返しています。対火系スキルがない限りマグマに落ちると死にます
・諸島エリア。島々は泳いで渡ることは可能ですが流れが速いので水泳系スキルがないと危険です

【教会・神社・神殿について】
・解呪、解毒などの状態異常の回復が可能です(要GP)

【市街地について】
・現代風の市街地です
・NPCなどは存在しません、全てシェリンが対応します

【コロシアムについて】
・双方の同意があれば、自由に対戦ルールを設定した対決ができます
・参加する全員の同意があれば複数対複数も可能です
・どのようなルールの対戦であれ対決に負けたプレイヤーは全員死亡します
・対戦中は外部からの干渉を受けません
・観客席には誰でも自由に出入りできますが、非干渉の対象外です

【四つの塔について】
・最上階にあるオーブに触れると塔の支配権を更新できます
・定時メールが送られた時に支配権を得ているプレイヤーにGPが100pt与えられます
・現在の塔の支配者はマップ上の塔を長押しすることでいつでも誰からでも確認できます


94 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/13(日) 00:20:36 DlVIqzCY0
その他、キャラ投下以外にも質問や意見などがあればお気軽にどうぞ


95 : 名無しさん :2020/09/13(日) 21:26:24 7OX/ahvo0
■キャラクター
【キャラ名】イコン
【性別】女性
【年齢】16歳
【職業】巫女/偶像(アイドル)
【外見】
長い黒髪のとても美しい少女、
神の生き写しとも言われる。

【内面】
強い信仰心と信者への愛情
信者たちの期待を裏切ることはできない。

【詳細】
異世界にて突如として現れたイコン教団の主。
その目的は大いなる神(イコン以外その名を知ることは許されない)に世界の全てを捧げ、全てを神と一体とすること。
そのため、教団を率いて複数の国家を滅ぼし、その魂を強制的に神に捧げている。
教団内では神の寵愛を受けた巫女として、神の啓示を伝える役割を持つほか、
歌や舞踏を用い、神や信者を楽しませる偶像(アイドル)としての仕事を持つ。

【交流】

ランス・ミルティア(>>50)
:敵対。薄汚れた勇者の血を引いた教団の邪魔者。

付侘 兆(>>69)、冬海 誠(>>74)、郷田 薫(>>80)、守川 真凛(>>88)
:遠い昔活躍した勇者たち。神曰く「クズの煮凝り」のような連中だったとのこと。

魔王カルザ・カルマ(>>86)
:遠い昔現れた魔王。
大いなる神に敗れ去った悪魔。

陣野 愛美(>>84)
:伝説の勇者にして、この世界の宗教の原典となった神。
イコンの崇める神そのもの。
異世界でも広く崇められているが、時間の経過とともに生贄の教義が風化したため、
その名を伏せ、イコンを利用して生贄を捧げさせている。

【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:C DEX:C LUK:C
【スキル】
アイドル(古代):A
アイドルの相互互換スキル
周囲の参加者全体を鼓舞しSTR・AGI・LUKを向上させる熱狂(ファナティック)状態を付与。(精神・アイドル耐性で無効化)
異性に対してはさらに効果が高くなる。
また彼女を推しとした者は彼女のために命を懸けることすら厭わなくなる。
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】

神罰:A
神への供え物を傷つける者へ制裁を下すスキル。
攻撃を受けた際、ランダムで状態異常付与。
熱狂状態の者から攻撃を受けた場合はもう一つ状態異常を付与。
異性から攻撃を受けた場合は追加で攻撃者にダメージ。


96 : 名無しさん :2020/09/13(日) 22:08:34 g78gSVm60
■キャラクター
【キャラ名】植卓 京子(しょくたく きょうこ)
【性別】女
【年齢】14
【職業】中学生
【外見】骨と皮寸前、肉がついていたころは割と美人
【内面】食べるの大好き。太りたくない。
【交流】
有馬 良子(>>22):クラスメイト、お互いに距離をとっている。
白井 杏子(>>43):ある意味での天敵。食生活について何度も問いただされているが、放っておいて欲しい。
【詳細】
拒食症を患う少女。
食べることは好きだが、太ることについて極度の恐怖心を持っている。
食べて吐く食生活を繰り返しているが、特に苦とは思っておらず割とあっけらかんとしている。
いつか体型を気にせずにお腹いっぱい食べたいなと思うこともある。

■アバター
【ルックス】現実よりも若干肉がついている
【パラメータ】STR:D VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
【スキル】
食事:A
口に入る物質ならどんなものでも食べ、回復することができる

【GP】30pt


97 : ◆Ltxz9M0Dto :2020/09/13(日) 22:29:27 u9sVyUSw0
【キャラ名】切間 恭一(きりま きょういち)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校生
【外見】それなりに美形
【内面】正義感が強い性格だが、今は少し影を落としている
【交流】
父は単身赴任で母と二人暮らし。同じ学園に親しい女性がいた
【詳細】
普段はお調子者だがその実頭の回転が非常に早い男子高校生。
複数件の事件をその頭脳で解決した事がある。
相思相愛の間柄と言ってもいい女学生がいたのだが、彼女がある事情から殺人に手を染めた事を突き止めてしまい迷いながらも真相を警察に告発して逮捕させた経歴を持つ。
その事が根深いトラウマになっており、事件の真相より先に彼女の内心を知って支えになってやるべきだったのではないかと後悔し続けている。
それ以来以前よりも暗い性格になり、気を紛らわす為に前はあまりやらなかったゲームもよくやるようになった。

【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:C DEX:C LUK:A
【スキル】
真実の瞳(A)
対象に関して知りたいと思った情報を脳内に読み取るスキル。
一つの対象につき使えるのは一回だけで、どのような事が知りたいか正確に指定した上で念じる事で発動する。
人物に対して使った場合、本人が知りえない情報まで知る事が可能。
ただし、制限によってこのゲームの根幹に関する情報は得ることが出来なくなっている。
【GP】0p


98 : 名無しさん :2020/09/13(日) 22:32:36 u9sVyUSw0
何故か酉入れないといけないのかと思ってました。
特に気にしないでください。


99 : 名無しさん :2020/09/13(日) 22:49:10 g78gSVm60
■キャラクター
【キャラ名】日雲 利人(ひぐも りと)
【性別】男
【年齢】21
【職業】大学生
【外見】不健康そうな色白
【内面】若干体質にうんざりしているが、慣れた
【詳細】
晴れ間を見ることが少ない雨男。
彼の行く先は大半曇りで、重要なイベント時は大体雨が降る。
子供の頃は一喜一憂したこともあったが、現在ではそういうもので仕方がないと諦めている。
現在ではむしろ体質を利用して楽しもうと前向きに考え始めている。

■アバター
【パラメータ】STR:B VIT:B AGI:C DEX:C LUK:B
【スキル】
雨男:A
自身が存在するエリアに雨が降るパッシブスキル
スキルの持ち主を除いた雨に打たれているアバターはすべてのパラメータ、スキルのランクが1下がる

【GP】0pt


100 : 名無しさん :2020/09/13(日) 23:08:52 kcTcgbI.0
■キャラクター
【キャラ名】桃白・H・彩織(ももしろ・ホーエンハイム・さおり)
【性別】女
【年齢】
(公表年齢)14歳
(実年齢)0歳8ヶ月
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園中等部2年
【外見】
黒髪セミロング。丸顔で気だるげな顔をしている。
身長が低く、凹凸のない体型をしている。
【内面】口が悪くて短気な人格と優しく思いやりのある人格をインストールされている。
好意を素直に表明できない。思考が少し短絡的。
【交流】
毒舌ツンデレ妹ポジション。
ディラン・ジェンキンス(>>27):創造主。「社長」または「キモ男」と呼んでいる。
美空 善子(>>21)、大日輪 月乃(>>46):格上。いずれ歌でひれ伏せさせてやる、と思いながら今日も頭を撫でられる。
HSFの皆さん(>>53)(>>59)(>>61)(>>62):格上。ライブだけでなくバラエティでもきっちり活躍しているので尊敬している。同じクラスの篠田に対しては敬意の裏返しでツンツンしてしまう。
禾坂・H・礼歌(>>56):生成コストの説明絡みで確執があったが腹を割って話して和解した。現在ではほむはいむの大黒柱として信頼を寄せている。
【詳細】
ディラン・ジェンキンスに生成されたホムンクルスの一人。自分達が人工生命体であることや生成する上で支払われた「コスト」について正しく説明を受けている。
同時期に生成された他の3人のホムンクルスとともにアイドルユニット『ほむはいむ』を結成。戦国時代と言われるアイドルの世界にかちこんだ。
芸名は『桃白 彩織』
生成されたばかりの頃は精神的に不安定で、所かまわず癇癪を起していたが、現状を受け入れるとともにTPOをわきまえられるようになった。
某漫画に登場する暗殺者と名前が似ておりモノマネをしてみたらわりとウケたので、自己紹介の口上やパフォーマンスに取り入れている。
静かな曲を繊細に歌うのが得意でバラード系の曲ではメインボーカルを務める。

■アバター
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:A DEX:E LUK:C
【スキル】
飛行:A
一定時間空中での移動が可能。移動速度はAGIに依存する。
癒しの歌:B
歌を歌うことで肉体と精神を癒し、損傷と精神異常を回復する。同ランクの治癒魔法よりも重い傷を治せるが回復に時間がかかる。Bランクではその他の状態異常は回復できない
【GP】
残り25pt


101 : 名無しさん :2020/09/14(月) 00:30:48 6BgO7Do60
■キャラクター
【キャラ名】津辺 縁児(つべ えんじ)
【性別】男
【年齢】26
【職業】動画配信者
【外見】金髪ピアス、派手な柄シャツ
【内面】見た目通りイキりまくっている
【交流】
アイドルへ一方的な恨みを募らせている
【詳細】
エンジ君の名で動画配信を行っている男。
いわゆる炎上系であり、様々な時事ネタに首を突っ込んでは叩かれている。
最近飽和気味なアイドル業界を揶揄ったところ、思った以上に大炎上し動画配信停止にまで追い込まれる。
最終的に「ぶっ●してやる、クソアイドルどもが!!!」と吠える動画を最後に行方をくらませた。

■アバター
【アバター名】エンジ君
【パラメータ】STR:B VIT:B AGI:C DEX:E LUK:C
【スキル】
アイドルフィクサー(A)
アイドルを喰い物にするスキル。訳してアイフィクですよアイフィク
このスキルを持つモノはアイドルに魅了されず、アイドルはこのスキルを持つモノに攻撃を行えない、攻撃を行った場合アイドルの資格を剥奪される
また殺害した対象がアイドルだった場合、追加でGPを50pt獲得する

【GP】0pt


102 : 名無しさん :2020/09/14(月) 21:09:04 03AjtZVc0
■キャラクター

【キャラ名】天空慈 我道(てんくうじ がどう)
【性別】男
【年齢】34
【職業】空手道場師範代
【外見】ボサボサ頭に無精髭。日常でも空手着
【内面】物臭で喧嘩好き。意外とミーハー
【交流】
大和 正義(>>10):元門下生。全日本で再会、元弟子を軽く揉んでやるかと挑んだが、思いのほか強くて思わず本気出したら反則で負けた。
美空 善子(>>21):門下生。毎回セクハラをしては撃退されてる。子供のころから知ってる娘や妹みたいなものなので本気の性欲はない
尾張 縁人(>>31):飲み友達。たまに一升瓶片手に訪ねて公園で酒を飲み交わす仲
【詳細】
寸止め無し、反則無しの超実戦空手『無空流』の師範代。
創設者の空手は喧嘩に仕えてナンボという信念の下、実戦を前提とした指導を行っている。
自称日本一強い喧嘩家。
昨年の全日本では反則負けで準々決勝敗退。対戦相手もしっかり負傷させたので実戦派の面目は保ったと思ってる。
勝つためなら手段を選ぶなが信条。
日常的に武器の携帯をしないが、それは最終的に頼りになるのは五体であり、その五体を極めた結果武器よりも効率よく人体破壊できる境地に達したというだけであって実戦での武器の使用も当然ありと考えている。

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:B VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
【スキル】
喧嘩家(B):
実戦に対する機微、戦闘の流れを読む能力。
勝利をもぎ取るためなら手段を選ばず卑怯な手であろうと躊躇いなく実行する。
周囲にあるあらゆるものを武器とすることができ、地形利用に補正がかかる。
【GP】0pt


103 : 名無しさん :2020/09/14(月) 22:51:50 p7w7R4a60
wikiにスキル一覧のページを作成しました。
良ければご活用ください
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/90.html


104 : 名無しさん :2020/09/15(火) 00:06:34 DZz2YMbM0
■キャラクター
【キャラ名】浪速辺 昌(なにわべ あきら)
【性別】女
【年齢】29
【職業】声優
【外見】一見しても印象に残らないくらいに地味、地声は低め
【内面】普段は表に出さないが、自身の外見に若干のコンプレックスを抱いている
【交流】
キャライメージを大事にするという名目で、自主的に顔出しの付き合いは避けている
【詳細】
最近名前が売れ始めている声優。
声優としては遅咲きであり、最近はやりのアイドル売りはされていない。
代表作は『魔法少女エンジェル☆リリィ』主人公「天使李衣(あまつか りい)」。
自身の変身願望も投影して役に入れ込んでおり、コスプレイヤーなどにはあまりいい思いを抱いていない。

■アバター
【ルックス】顔面にモザイクがかかっている
【パラメータ】STR:C VIT:A AGI:E DEX:E LUK:B
【スキル】
変身:A
自身のアバターの姿を一時的に接触した参加者のアバターと同様の姿に変えることができる。
制限時間はデフォルトの場合は総合4時間、変更されていた場合は総合6時間。
このランクだとアバターのストック、分割変身も可能。
【GP】5pt


105 : 名無しさん :2020/09/15(火) 00:08:42 .BLhQtfc0
■キャラクター

【キャラ名】滝川 利江(たきがわ りえ)
【性別】女
【年齢】18
【職業】キャバクラ嬢
【外見】茶色の巻き毛、くりくりとした愛らしい瞳、人好きする笑顔。
【内面】芯の強い少女のようだが本質はネガティブ。それを努力で覆い隠している
【交流】
鈴原 涼子(>>53):一番の親友、だった。脱退以降一度も連絡を取っていない。
篠田 キララ(>>59):元メンバー。慕ってくれたのに申し訳なく思っている。
安条 可憐(>>61):元メンバー。今でも定期的に連絡をくれる。ありがたいけど気を使わせているようで心苦しい。
ソフィア・ステパネン・モロボシ(>>62):元メンバー。定期的に変なおもしろ写真を無言で送ってくる。うん、ありがたいけどそろそろやめてくんない?
【詳細】
アイドルグループ『ハッピー・ステップ・ファイブ(HSF)』の幻のシックスウーマン。
本来HSFは彼女を含め『ハッピー・ステップ・シックス』になる予定だったがデビュー直前になって家庭の事情により彼女だけが脱退した。
父子家庭で酒浸りの父に育てられた。
バイトを掛け持ちしながらの学生生活の中、境遇の似た鈴原涼子と意気投合、共に頂点を目指そうと誓いあう仲だった。
しかし、父親の借金が原因でヤクザに追い込みをかけられ月光芸術学園を中退、同時芸能活動自体も中止せず負えなくなった。
今は水商売に身を落とし借金返済に励んでいる。
そのルックスの良さと誰からも愛される人間性から高級キャバクラのNo1を維持しており、何とか風俗落ちは免れている。
HSFに対してはずっと申し訳ないという気持ちでいる、特に涼子に対しては罪悪感の様な感情を抱えている。

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:C VIT:A AGI:C DEX:B LUK:E
【スキル】
アイドル(偽):A
アイドルに対する憧れと未練による疑似スキル
共に戦う味方を鼓舞し全能力を向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
また応援を受ければ受ける程、自身を鼓舞しステータスが上昇する
【GP】0pt


106 : 名無しさん :2020/09/15(火) 18:13:10 V6YT0GYc0
>>94
予約期間が3日で延長もなしって短すぎませんか?


107 : 名無しさん :2020/09/15(火) 18:40:04 tda/.0Qk0
>>106
まあ初代アニロワと一緒だし、俺ロワだからそういうもんや


108 : 名無しさん :2020/09/15(火) 20:05:16 xZHx.WrM0
今時予約しなきゃ取れないような盛況ロワも碌にないしなあ


109 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/15(火) 22:28:11 mkzdhkcE0
>>106
ご意見ありがとうございます。
一応、期間を短くして回転率を上げたいというブラック飲食店のような狙いがあるで、ちょっと様子見ていただけると助かります。
無理そうなら再考します。


110 : 名無しさん :2020/09/15(火) 23:56:36 BZopzg7I0
まぁここの企画主もそれを見越して少数人数でのロワを考えているわけだし


111 : 名無しさん :2020/09/16(水) 13:36:43 g14a4tww0
■キャラクター
【キャラ名】秋葉・H・朋子(あきば・ホーエンハイム・ともこ)
【性別】女
【年齢】
(公表年齢)16歳
(実年齢)0歳8ヶ月
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園高等部2年
【外見】
明るい色の髪をポニーテールにしていることが多い。意志の強さを感じさせる大きな瞳が特徴。スタイルが良く筋肉質。シックスパック。
【内面】
明朗快活で直情的な人格をインストールされている。
社交的で友達は多い。実用性よりロマンを愛する。思考がかなり短絡的。
【交流】
元気っ子ポジション。
ディラン・ジェンキンス(>>27):創造主。「社長」または「ジジイ」と呼んでいる。
美空 善子(>>21):格上。学校では仲良し。朋子の顔は善子を参考に作られているため少し似ている。
大日輪 月乃(>>46):格上。学校では仲良し。たまに一緒にお昼寝する。
鈴原 涼子(>>53) 、篠田 キララ(>>59)、 ソフィア・ステパネン・モロボシ(>>62)
 :学校や学年が違うのであまり関わりはないが、それなりに仲良くしている。
安条 可憐(>>61):学校では仲良し。二人で一緒にいるとすごくうるさい。キャラ被りの恐怖を感じている。
禾坂・H・礼歌(>>56):ほむはいむの大黒柱。ダンスでは負けたくないライバルでもある。
桃白・H・彩織(>>100):みんなの妹。メンタルが不安定になるのを宥めていた。
射田 正忠(>>68):よく行くフィールドの有名プレイヤー。音信不通らしいが会ってみたい。
【詳細】
ディラン・ジェンキンスに生成されたホムンクルスの一人。自分達が人工生命体であることや生成する上で支払われた「コスト」について正しく説明を受けている。
同時期に生成された他の3人のホムンクルスとともにアイドルユニット『ほむはいむ』を結成。戦国時代と言われるアイドルの世界にかちこんだ。
芸名は『秋葉 朋子』。グループ内で一番運動能力が高い。
アップテンポの曲が得意なほかダンスのレベルも高く、ダンスパートでは礼歌とツートップを組むことが多い。
ミリタリー雑誌のグラビアをやって以降プライベートでもサバゲ―をやっている。愛銃はデザートイーグル。二挺拳銃で敵陣に突っ込む。


■アバター
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:A DEX:B LUK:C
【スキル】
二挺拳銃:B
拳銃を両手に一挺ずつ持っているときに発動するスキル。AGIと命中率が上昇する。
トリガーハッピー:B
銃器を撃つ度に精神が高揚する。畏怖、委縮、恐怖などの精神異常の精神異常に高確率で成功する。
狂乱、熱狂、興奮などの精神異常の精神抵抗に必ず失敗する。【デメリット】
アイドル:C
共に戦う味方を鼓舞し一部能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる。
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】
【GP】
残5pt


112 : 名無しさん :2020/09/16(水) 15:37:35 .BIHenus0
【キャラ名】山熊 嵐(やまくま あらし)
【性別】男
【年齢】45
【職業】猟師
【外見】一見すると熊のような雰囲気を持つ大男
【内面】人慣れはしていないが、人嫌いという程ではない
【詳細】
山に住み山に生きる山男。
自給自足の生活をしており、サバイバル的な知識は豊富。
一通りの狩猟免許は持っており、猟銃や罠の取り扱いは一級品。
たまに本を出して金を稼いでおり、その金で装備の刷新や住居の移動なども行っている。

■アバター
【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:E DEX:B LUK:B
【スキル】
隆起:B
自身のいる場所を頂点として、エリア全体を隆起させる

汚染耐性:A
肉体、精神に対してのランク以下のスキルによる汚染を防ぐ
【GP】0pt


113 : 名無しさん :2020/09/16(水) 19:58:04 g14a4tww0
>>111
✕ 畏怖、委縮、恐怖などの精神異常の精神異常に高確率で成功する。
○ 畏怖、委縮、恐怖などの精神異常の精神抵抗に高確率で成功する。
失礼しました。


114 : 名無しさん :2020/09/16(水) 20:25:46 9H6UVF3k0

■キャラクター
【キャラ名】三土 梨緒(みつち りお)
【性別】女
【年齢】17
【職業】学生/範当高校2年・図書委員
【外見】そばかすメガネの地味少女
【内面】
中学時代、クラスメートに虐めを受けていた過去があり、
それ以来人間不信に陥っている。
【交流】
本道 華花(>>40):同じ高校の先輩。注意されないよう監視の目がある時はおとなしくしている。
【詳細】
範当高校2年生の学生。本を読むのが好きで、開いている時間は常に本を読んで手放さない。
クラスで一緒になった友達、栗村雪がいるが自分にはない明るさと容姿を持っている
彼女にコンプレックスを抱いている。
このバトルロワイアルで優勝することで暗かった自分から生まれ変わろうと考えている。


■アバター
【アバター名】ユキ
【ルックス】上記の栗村 雪の姿を模したアバター。顔が良く、スタイルもいい
【パラメータ】STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
【スキル】
守って白馬の騎士様!(A)
自分を守護する剣と盾を持ち、フルプレートアーマーを身に纏う「白馬の騎士」を召喚する。
「白馬の騎士」は意志はないが、ユキの命令に忠実で、危害を加えようとする者に容赦なく攻撃する。
また、自らが盾になって攻撃を庇ったり、白馬に乗せてもらい移動速度を上げるということも可能。

【残りGP】
45pt


115 : 名無しさん :2020/09/16(水) 22:35:45 B30Ochb20
■キャラクター

【キャラ名】三条 由香里(さんじょう ゆかり)
【性別】女
【年齢】15
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園中等部3年
【外見】自他ともに認める美少女。生意気きそうな釣り目のチビ。この年にしては巨乳。
【内面】自信家。言動はぶりっ子だが良くも悪くも裏表がない性格。
【交流】
鈴原 涼子(>>53):リーダー。超えるべき相手。目下最大の壁。
安条 可憐(>>61):副リーダー。凄いけど私の目指すべき路線とは違うかなー。
ソフィア・ステパネン・モロボシ(>>62):変な人、だけど天才。超えるかどうかは保留。
篠田 キララ(>>59):唯一の年下。なのでマウントを取りたいがなかなか取れない。
滝川 利江(>>105):元超えるべき相手。……知らない。
美空 善子(>>21):ライバル。今は勝てない、けどこいつ超えたら天下よ。媚びない姿勢はいいと思うよ。
大日輪 月乃(>>46):ライバル。歌以外は勝ってる(と思う)ので実質超えたと言ってもいいのでは?
桃白・H・彩織(>>100):ライバル。先輩として偉そうにしたらキレられた、怖い。
禾坂・H・礼歌(>>56):ライバル。彩織と喧嘩した時にニコニコしながら怒られた、怖い。
秋葉・H・朋子(>>111):ライバル。脳筋っぽい。関わらんとこ。
【詳細】
アイドルグループ『ハッピー・ステップ・ファイブ(HSF)』の出来るならずっと秘密にしておきたかった秘密兵器にしてトラブルメーカー。
強気に阿り、弱きを侮る、アイドルとは思えぬ小物。
だが内心では下剋上を狙っており、誰に対しても自分は将来絶対こいつらより大物になると勝手に思い込んでる。
ぶりっ子なくせにオタクに媚びるのは嫌がり、臆病なくせに図太く、すぐヘタレるくせにすぐ調子の乗る。
二律背反を抱えた思春期ガールである。
だが腹黒という訳でもなく、思ってることがそのまま顔に出るので良くも悪くも裏表がない。
そのおかげでトラブルを巻き起こすこともしばしばある。
利江脱退の時、表立って一番泣き喚いたのもこいつ。

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:B
【スキル】
アイドル(C)
共に戦う味方を鼓舞し一部能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】

トラブルメーカー(C)
様々なイベントと遭遇する確率が上がる。
他者を巻き込み、自身はちゃっかり助かるそんな才能。

下剋上(A)
自身より格上の相手と対峙した場合にステ―タスに補正が掛かる。
敵との戦力差に応じてLUK以外のステータスが最大2ランク向上する(上限はAまで)
また格上に勝利した場合GPを3倍獲得する

【GP】0pt


116 : 名無しさん :2020/09/16(水) 23:56:54 7Rwoudxk0
■キャラクター
【キャラ名】宙上 ツバメ(そらかみ -)
【性別】女
【年齢】12
【職業】小学生/星雲小学校6年
【外見】黒髪ツインテール、フリルやリボンのついたワンピース
【内面】
内気で大人しい性格
口数が少ない
他人と話すのは苦手
空への憧れ
心を落ち着かせるときは空を見るようにしている
【交流】
掘下 進(>>55):同じクラスの男の子。目的地は逆方向だが特定の神秘の世界への憧れを持っているところに仲間意識を持っており、ちょっと仲良くなってみたいと思っている。
【詳細】
空を自由に飛びたい女の子。
天道市にある星雲小学校に通っている。
アニメ『魔法少女エンジェル☆リリィ』にあった空を飛ぶシーンを見て飛行に興味を持ち始めた。
行くとしたら飛行機などの乗り物を使わずに自分の身一つで行き、可能な限りまで高く飛んでいきたいと考えている。
そして空からの景色を満喫したいと望んでいる。

■アバター
【パラメータ】STR:E  VIT:E  AGI:E  DEX:E  LUK:E
【スキル】
飛行(S)
自由自在に空を飛べる。
【GP】0pt


117 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/17(木) 00:21:26 L137WZmU0
キャラ募集期間も残り三日となりました。
思い浮かんだキャラはもう全て投下済みでしょうか?
まだまだ期間はありますので皆様悔いのなきようよろしくお願いします。

前回からの追加キャラまとめです。

>>95 イコン -- 異世界の教団における偶像(アイドル)
>>96 植卓 京子 -- 食事スキルを持つ拒食症の少女
>>97 切間 恭一 -- 彼女に対してトラウマを持つ数々の事件の謎を解いた高校生
>>99 日雲 利人 -- 前向きな雨男
>>100 桃白・H・彩織 -- ホムンクルスアイドル『ほむはいむ』の毒舌ツンデレ妹
>>101 津辺 縁児 -- アイドルアンチな炎上系動画配信者
>>102 天空慈 我道 -- 超実戦派の空手師範代
>>104 浪速辺 昌 -- 顔だしNGの遅咲き声優
>>105 滝川 利江 -- 元HSFの幻のシックスウーマン。No1キャバ嬢
>>111 秋葉・H・朋子 -- ホムンクルスアイドル『ほむはいむ』の元気っ子
>>112 山熊 嵐 -- サバイバル知識豊富な山に住み山に生きる山男
>>114 三土 梨緒 -- クラスメイトにコンプレックスを持つ人間不信の少女
>>115 三条 由香里 -- HSFの秘密兵器。トラブルメーカー
>>116 宙上 ツバメ --魔法少女に憧れ空を自由に飛びたい女の子

現時点での参戦候補キャラは85名となります。


118 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/17(木) 00:22:09 L137WZmU0
また、本編での設定についてお知らせします

【ゲーム開始時のメールについて】
全参加者のメールボックスに初期状態では下記の二通のメールが届いています。

>[キャンペーン]Welcome to『New World』!!
>[イベント]スタートダッシュボーナス

届いていると言うだけなので開く開かないはプレイヤーの自由となります。
メール内容は以下。

■[キャンペーン]Welcome to『New World』!!

『New World』へようこそ!
我々は心からあなたを歓迎いたします。
心行くまで『New World』をお楽しみください!!
記念として私たちからの心ばかりの特典をお送りします。

>このメールを開いた全員にGP10ptが付与されます。

■[イベント]スタートダッシュボーナス

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。
スタートダッシュボーナスを実施します。
開始から2時間は撃破ポイントがなんと3倍!
この2時間で沢山の勇者を殺害してライバルに差をつけろ!


119 : 名無しさん :2020/09/17(木) 17:05:06 C9hBwG3o0
【キャラ名】暗舞 影華(くらま えいか)
【性別】女
【年齢】16
【職業】引きこもり兼学生(何処の学校でもいいようにぼかしてます)
【外見】黒セミロングの片目隠れ、黒基調のセーラー服
【内面】
悪い人ではないし、殺し合いも自分の為では進んでできない性分
良くも悪くも基本は等身大の女の子だが、内向的で少し悲観的
内向的だが友達が欲しいし、一緒に遊びたいとも思ってる
幸せそうな人は羨むが、僅かに嫉妬もあって自己嫌悪と陰キャ気質も含む
【交流】
家族は両親共に二人健在だが、
後述により自分の存在は放置されてる
オンラインゲーム仲間が唯一の親友で大事な存在
【詳細】
所謂強くてニューゲームの為に育てられたが受験は失敗
親からはいないもの扱いで、教育方針のせいで内向的な性格になった結果、
虐めの対象にされ、引きこもりでネトゲをする毎日に。そのネトゲではそこそこ有名
このロワについては殺し合いこそ忌避するが、もしも友達がこの場でできたなら
その人を生かす為に尽くすか、その人の目的に賛同してくれるだろう
アバターはしっかりする派で、殺し合いを理解しつつも力は入れてる
一方で負ければ死ぬともあってか、本名や顔もほぼそのままと少し自棄

■アバター
【アバター名】エイカ・クラマ
【ルックス】紺色の軍服。それ以外はデフォ
【パラメータ】STR:D VIT:B AGI:C DEX:C LUK:A
【スキル】
始まりのきっかけ:B
人と交流する為他人と出会いやすく、
偶発的に不意打ち等を防ぐことができる
あくまでも交流のきっかけを作るだけのものであり、
相手が交流の後戦うかどうかは会話の内容、それに相手の性格次第

【GP】
30


120 : 名無しさん :2020/09/17(木) 18:05:17 QVZ9T6nc0
■キャラクター
【キャラ名】日向・H・奈央(ひなた・ホーエンハイム・なお)
【性別】女
【年齢】
(公表年齢)16歳
(実年齢)0歳8ヶ月
【職業】アイドル/学生・月光芸術学園高等部2年
【外見】
銀がかった淡い色のショートヘア。ハイライトのない蒼い目。人形のように整った顔だが無表情ぎみ。スレンダーに見えてスタイルがいい。
【内面】
冷静沈着でプライドの高い性格をインストールされている。
いつもクールで表情を崩さない。天才肌だが普段は意外とドジ。

【交流】
クール系ポジション。
ディラン・ジェンキンス(>>27):創造主。「社長」または「父上」「クソブタ」などと呼んでいる。
美空 善子(>>21):格上。学校ではたまに見かける程度。
大日輪 月乃(>>46):格上。同じクール系アイドルとして強い親近感。朋子を通じて交流している。
HSFのメンバー(>>53)(>>59)(>>61)(>>62)(>>115)
 :ライブやバラエティで頭角を現している彼女たちを強く意識。ライバルとして勝ちたいと思っている。

(ほむはいむのメンバー)
禾坂・H・礼歌(>>56):大黒柱。図らずもよく面倒を見てもらっている。そんな彼女の母性に内心では依存している。
桃白・H・彩織(>>100):世話のかかる可愛い妹分。かつての彼女の苦悩に思うところがある。
秋葉・H・朋子(>>111):考えなしの性格は少し苦手だが、彼女の明るさを好ましく思っている。

【詳細】
ディラン・ジェンキンスに生成されたホムンクルスの一人。自分達が人工生命体であることや生成する上で支払われた「コスト」について正しく説明を受けている。
同時期に生成された他の3人のホムンクルスとともにアイドルユニット『ほむはいむ』を結成。戦国時代と言われるアイドルの世界にかちこんだ。
芸名は『日向 奈央』。ほむはいむの最終ロット、つまり末っ子だが「妹分は彩織」というのがメンバーの共通認識らしい。
歌唱力、運動神経、ビジュアルなど、アイドルとしてのスキルを高水準で備えるオールラウンダー。
本人も高いプライドと思慮深さを持つが、アイドルの素質に能力を振り過ぎたせいか平時では間抜けな姿が目立つ。
素っ頓狂なドジをして礼歌に慰められる姿は『ほむはいむ』の風物詩。
かつては自分達の存在意義や「コスト」について思い悩んでいた時期もあったが、今では諦めたように受け止めている。

■アバター
【パラメータ】
STR:C VIT:C AGI:C DEX:A LUK:E
【スキル】
アイドル:B
共に戦う味方を鼓舞し全能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる。
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】

スターライト:B
自身に危害を加えてきた相手の全能力を僅かに下降させる。ターゲットにされている最中のみデバフが機能する。
彼女を「アイドル・日向奈央」として認識している相手に対しては効果が増す。
相手が奈央の歌やダンスなどに魅せられている場合、更にデバフが強化される。

不屈の誇り:C
物理攻撃や精神干渉系のバッドステータスに対して多少打たれ強くなる。

【GP】5pt


121 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/17(木) 20:26:07 L137WZmU0
失礼。GPチェック忘れてました。

下記キャラのGPに誤差があったため勝手ながら修正させていただきます。

>>104 浪速辺 昌
GP:5pt -> 15pt

下記キャラのGPがオーバーしておりますので作成者様が見ておりましたら修正の方よろしくお願いします。
投票開始までに修正がなされなかった場合残念ながら投票対象外となりますのでご了承ください。

>>95 イコン
パラメータ(125pt):B(50pt)×1、C(25pt)×3
スキル(200pt):A(100pt)×2
計:325pt

>>119 暗舞 影華
アバター名変更(50pt)
ルックス変更(10pt)
パラメータ(210pt):A(100pt)×1、B(50pt)×1、C(25pt)×2、D(10pt)×1
スキル(50pt):B(50pt)×1
計:320pt

>>119の方は残GP的にアバター名変更が無しなのかな?とも思いますが、とりあえずご一報下さい。
よろしくお願いします。


122 : 名無しさん :2020/09/17(木) 20:56:06 tBBIhL0g0
>>121
イコンの作成者です、計算を誤ってしまい申し訳ありません

ステータスを以下のように修正いたします。

修正前:【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:C DEX:C LUK:C
(125pt)

修正後:【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
(95pt)


123 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/17(木) 21:13:43 L137WZmU0
>>122
了解です。wikiに反映させておきますね。
修正ありがとうございました。


124 : 名無しさん :2020/09/17(木) 21:45:42 C9hBwG3o0
119ですが、指摘の通り名前の変更がなしです。お手数かけます


125 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/17(木) 21:47:25 L137WZmU0
>>124
了解です。ご報告ありがとうございます。
こちらも反映しておきます。


126 : 名無しさん :2020/09/18(金) 00:30:15 Oe4kMJ0A0
■キャラクター
【キャラ名】間伊崎 次郎(まいざき じろう)
【性別】男
【年齢】37
【職業】芸人
【外見】ややマイケルジャクソンに似ている
【内面】とにかく目立って仕事が欲しい
【詳細】
マイケルジャクソンのモノマネ芸人、芸名はマイケル崎ジャクソン太郎。
顔だちがマイケルに似ているため一度は小ヒットし、バラエティのひな壇に上がったこともある。
ただネタが古く、レパートリーも少なかったため波に乗れず今では彼のことを覚えているものはわずか。
小ヒット時代に調子に乗って作った借金に現在も苦しめられており、切実に金と仕事が欲しいと願っている。
殺し合いはドッキリと解釈しており、最後のチャンスでとにかく目立たないとと焦っている。

■アバター
【アバター名】マイケル崎ジャクソン太郎
【ルックス】若干歪んだマイケルジャクソン(白)
【パラメータ】STR:C VIT:C AGI:D DEX:B LUK:C
【スキル】
アイドル:A
共に戦う味方を鼓舞し全能力を向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる
また彼を推しとした者は彼のために命を懸けることすら厭わなくなる
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい【デメリット】
【GP】5pt


127 : 名無しさん :2020/09/18(金) 00:37:47 M.t5zFfM0
■キャラクター
【キャラ名】綾辻 時雨(あやつじ しぐれ)
【性別】女
【年齢】17
【職業】元学生
【外見】黒髪ロング、Fカップ
【内面】
基本的には優しい性格だが怒るとヤバい
【交流】
切間 恭一 (>>97):元同級生。お互い惹かれあっていたが、彼の推理によって逮捕された。
【詳細】
殺人事件を起こして逮捕された女学生
父を嵌め、最終的に死に追いやったある人物達に復讐として殺害を決行した経緯を持つ。
その際に用いたトリックを恭一の手で暴かれ逮捕される事になったが、皮肉にもそのトリックは今まで恭一の推理を近くで見ていたからこそ考え付いたものであった。
逮捕時、彼の今までの推理を汚すような事をしてしまった事を悔いて詫びた。
現在はに服役中。


■アバター
【パラメータ】STR:B  VIT:E  AGI:S  DEX:B  LUK:E
【スキル】
なし
【GP】0pt


128 : 名無しさん :2020/09/18(金) 06:19:06 8lKFJOyE0
【キャラ名】ローリア・ソフィ
【性別】女
【年齢】17
【職業】無職
【外見】カールのかかった金髪、碧眼、紺色のドレス、年の割には少し貧しい体格
【内面】
逆境でも折れずに立ち向かう気丈さ、気高さの塊と言うべき人物
元お嬢様でありつつも、温室育ちとは思えぬ反骨精神の心を持つ。なお絵面はあれ
人当たりは意外と普通だったりする。同性からは勇ましさから人気が高かった
【交流】
父と弟の三人家族。元々の仲は良好で、
弟はブラコンと言うほどではないにしても溺愛してた
それだけに言い分を信じてくれなかったショックは大きい
【詳細】
フランスではそこそこ名のある名家ソフィ家の長女
学校で不貞を働いたとして退学させられ(身に覚えはない)、
家からは勘当。懇意にしてくれた侍女の家で色々と学ぶ身
片手間に調査をして、退学は弟が自分を蹴落とす為に仕組んだものと判明
だが直接的な復讐は望まず、弟を見返す形で努力を積み重ねていた

■アバター
【アバター名】デフォルト
【ルックス】デフォルト
【パラメータ】STR:A VIT:C AGI:C DEX:C LUK:D
【スキル】
逆境:A
自分が負傷してたり、状況が劣勢の時ほど攻撃に補正がかかる
元々筋力が高い為、ドレス姿で岩を投げたりパンチで相手を吹っ飛ばしたり、
インパクトの強い絵面をやってくる。本人的には必死なので絵面の割に笑えない
一方で武器や身体が壊れる可能性も高い。特に耐久は高くないのでついていけるか怪しい

【GP】
15


129 : 名無しさん :2020/09/18(金) 13:22:51 7Tw06YiY0
■キャラクター

【キャラ名】シャ
【性別】男
【年齢】24
【職業】殺し屋
【外見】穏やかで優しげな青年、常に目を細めたような糸目
【内面】理性的で沈着冷静、ただ冷静に狂っている
【交流】直接交流を持っているのは一人の交渉人だけで彼への窓口はその一つしかない
【詳細】
素手での殺しに拘る殺し屋。戦うのも殺すのも好き
強者は自らの糧として殺す
弱者は価値がないので殺す
依頼があれば誰でも殺す
依頼がなくても誰彼殺す
とりあえず殺す、交渉の余地はない
誰かを見逃すとしたら満足した時か眠い時か腹が減った時、要するに自分の都合によるものだけである

■アバターテンプレート

【パラメータ】STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
【スキル】
素手格闘(A)
自信が素手である場合、戦闘時にLUK以外のステータスが1ランク向上する
また相手も素手であった場合もう1ランク向上する(上限はAまで)
武器を持つと全ステータスが下がり弱体化する【デメリット】
【GP】0pt


130 : 名無しさん :2020/09/18(金) 18:06:16 8lKFJOyE0
【キャラ名】木下 静(きのした しず)
【性別】男
【年齢】27
【職業】旅人
【外見】少しぼさぼさの黒髪、黒のバックパーカーに青のジーンズ、使い古されたリュックサック
【内面】
人当たりはよく、第一印象は大体話しかけやすい男性
楽観的な性格だし人を放っておく冷たい性格でもないものの、
物事の分別はある程度はついており、自分の身の安全を優先する
無暗に犠牲は出したがらないが、自分の命と天秤にかけてまでするかは別
優勝以外で帰りたいが、無理なら諦めて目指す程度には割り切る
【交流】
旅人だけあっていろんな人と交流がある
同じ旅人とは友人のような関係だが、それ以上の関係はない
【詳細】
世界中飛び回ってた友人が音信不通になって探すことにした旅人
…という理由もあるが、本人が旅が好きだからしてるのもある
旅人だけあって色んな技術、知識、武術等の文化を経験している為、
スペックは低くはないが素人以上プロ未満。全体的に広く浅い

■アバター
【アバター名】ファラ
【ルックス】変更なし。ただしリュックサックはない
【パラメータ】STR:C VIT:B AGI:B DEX:B LUK:C
【スキル】
生存の道標:B
意地汚くとも生き残ろうとする執念
体力や状況が悪いとき程LUKが上がり、
逃げる場合に限り有利な状況に持ち込みやすい
ただし持ち込みやすいだけ。LUKとスキルは高くなく過信はできない
あえて瀕死になっていれば常時幸運が高くなっているので、
運用次第で面白いことにはなりうるかも

【GP】



131 : 名無しさん :2020/09/18(金) 21:41:44 ZgHDAFaE0
■キャラクター
【キャラ名】青山 征三郎(あおやま せいさぶろう)
【性別】男
【年齢】35
【職業】私立探偵
【外見】ベージュのコートとハット、角縁の眼鏡、チョビ髭
【内面】
気さく
やると決めたことはやり遂げる
人を悲しませたくない
【交流】
陣野 優美(>>38)、陣野 愛美(>>84):依頼により現在行方を捜している6人の内の姉妹二人。依頼を持ち込んだのはこの2人の家族だった。調査の過程で姉の愛美が妹の優美から彼氏を奪ったことや優美が現在の彼氏に内緒でその親友と肉体関係を持っていたことを知ってしまった。このことまで調査報告するかは迷っている。
付侘 兆(>>69)、冬海 誠(>>74)、郷田 薫(>>80)、守川 真凛(>>88):陣野姉妹と同じく行方を探している少年少女たち。調査により人間関係のドロドロ、郷田薫が受験を失敗したことや冬海誠がバイでSEX中毒なことなども知っている。彼らの家族は悲しんでおり、何より仕事はきっちりと完遂するのがポリシーなので陣野姉妹と共に絶対に見つけ出すと決意している。
高井 丈美(>>51):探している陣野優美の後輩という関係から知り合うことになった。6人の家族のビラ配りに協力しているところからとても優しい子だと認識している。学校での陣野達の様子を教えてもらうこともあった。
白井 杏子(>>43):聞き込みで保健室の教員の視点からの情報を教えてもらった。
大小 蘭(>>41):中学校を訪れた時に不審者と間違えたことがある。誤解が解けた後は謝った。
【詳細】
依頼された仕事はきっちりとこなす探偵。
仕事が完了するまで礼金は受け取らない。
普段は迷子のペット探しが主な仕事なっている。
異世界に召喚されたことで行方不明となった6人を探すことを依頼された。
手がかりが少なくまだ真相を明らかにできていない。
いつか必ず見つけ出して彼らを家族の下へ帰してやりたいと思っている。

■アバター
【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
【スキル】
観察眼:B
相手の仕草、様子から的確な情報を分析できる。また周囲の違和感を見逃さない。
人探し:B
顔と名前を知っていればその人物がいる方向が分かる。現実のものでもアバターのものでもどちらでもOK。距離までは分からない。
【GP】0pt


132 : 名無しさん :2020/09/18(金) 22:15:30 qS1KZGhs0
■キャラクター
【キャラ名】神林 登(かみばやし のぼる)
【性別】男
【年齢】54
【職業】ホームレス
【外見】手入れされてない髪の毛と髭のおじさん
【内面】自分は神なので何をしても許されると思っている。信じない者には裁きを下す。
【交流】
尾張 縁人(>>31):信者(だと思っている)。情報源にされたり陽動作戦に利用されたりしているが気付いていない。
天空慈 我道(>>102):信者(だと思っている)。公園で行う演説を酒飲みの音楽代わりにされているが気付いていない。
神林 信花:神の血を残すために選んだ乙女達の中でも一番のお気に入りだったので籍まで入れた。
神林 駆:25年ぐらい会っていないが、神の血を引くのできっと素晴らしい大人物に育っているはず。
【詳細】
自分のことを神だと思っているホームレス。特殊な能力が使えるわけではない。よく公園で演説をしている。
傲慢な性格から敵を作りがちではあるが、謎のカリスマ性も併せ持つためホームレスにも信者派閥を作っている。
仲間のことを「天使」、敵のことを「悪魔」と呼ぶ。窮地に陥ると信者も立場も何もかもを捨てて逃げ出す癖がある。
かつては100人規模の宗教で教祖をやっていたが、悪魔達(騙された人々)に追われて逃げ出した。

■アバター
【アバター名】唯一神 神林登
【パラメータ】STR:E VIT:B AGI:E DEX:E LUK:A
【スキル】
神性:A
神々しさを纏い、他者から神と認められるようになる。
全属性耐性(小)を取得し、大規模でない奇跡を起こすことができる。
【残GP】0pt


133 : 名無しさん :2020/09/18(金) 22:16:28 qS1KZGhs0
■キャラクター
【キャラ名】神林 信花(かみばやし のぶか)
【性別】女
【年齢】45
【職業】スーパーマーケットのパート
【外見】黒髪、少し太り気味、年齢よりは若く見える
【内面】信心深く、慈悲の心を持つ。
【交流】
山熊 嵐(>>112):小学校の同級生。クマちゃんと呼び仲良しだったが引っ越したこともあり卒業後の交流はない。
間伊崎 次郎(>>126):テレビに出てたのを何となく覚えている。マイケルという別の神を信じる者と認識。
神林 登(>>132):「救済の旅に出る」と言い姿を消した唯一神。今でも大好きで今でも信じている。
神林 駆:神よ、私は息子の育て方を間違えました……。
【詳細】
唯一神であり夫である神林登を信じるシングルマザー。
両親が事故に遭うなど不幸が続いた15歳当時の彼女は、縋るものとして宗教を選んだ。
今でも1日に4時間は神に祈りを捧げている。最近は危険な目に合っているらしい息子のためにも祈っている。
周りにはカルトな宗教にハマっていると思われて避けられているが、神が見守ってくれていると信じているのでノーダメージ。

■アバター
【ルックス】神と結婚した17歳の頃の見た目(茶髪でスタイル抜群)、シスターな服
【パラメータ】STR:D VIT:D AGI:D DEX:D LUK:B
【スキル】
祈り:A
祈りを捧げた相手のパラメータを一時的にランダムで上昇させるか、Cランク相当のスキルを一時的にランダムで付与する。
相手は視認できる範囲にいなければならない。
連続して使用することも可能だが、祈るのに必要な時間は増加する上、強い信仰心も必要。

人探し:A
メンバーリストから1人選ぶと、その瞬間その人物がどのエリアにいるか知ることができる。
その人物が死亡している場合、死亡したエリアが分かる。同じエリアにいる場合、どの方向にいるか分かる。
連続して使用すると体力を消耗する。消耗しないラインは1時間に3回が目安。

【残GP】0pt


134 : 名無しさん :2020/09/18(金) 22:18:28 qS1KZGhs0
■キャラクター
【キャラ名】神林 駆(かみばやし かける)
【性別】男
【年齢】28
【職業】ミュージシャン
【外見】金髪モヒカン、右目周辺に赤い星のペイント、パンクな服装
【内面】神や神を名乗る存在がダイキライ。この思い、歌に乗せて伝えるゼッ!!
【交流】
神在 竜牙(>>79):「神」が名前に含まれるためよく喧嘩している。ガチで嫌ってるわけではないのは双方わかっている。
津辺 縁児(>>101):動画に特別出演して神をディスりまくったことがある。当然炎上した。
神林 登(>>132):家族を捨てて今やどこにいるとも知れぬ神気取りのカス親父。同じ血が流れてるなンざ認めねェー!
神林 信花(>133):カスに洗脳されちまった哀れなお袋。1人で育ててくれてTHANK YOU!
【詳細】
神に対するアンチ活動を行うミュージシャン。上の立場の者に不満を持つ層を中心に人気。
歌の内容は「くそったれの神を殺せ」「神の決めたことに従うな」「ファッキン・ゴッド」のように神をディスる方向に過激。
割と人気が出てしまったため、色んな宗教団体に命を狙われている。国際問題にもなりかけた。
父親に対して最も怒りを感じているのは母親を捨てたところ。ボコボコにしてやりたいが殺すほどではない。

■アバター
【パラメータ】STR:B VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
【スキル】
神殺し:A
神と戦う場合、全パラメータが1段階上昇し、バッドステータス・状態異常を無効化する。
神を騙る者・神のしもべ・神の力を使う者と戦う場合、STR・VIT・AGIが1段階上昇し、バッドステータス・状態異常を無効化する。

ミュージシャン:C
アイドルの変名スキル。
共に戦う味方を鼓舞し一部能力を僅かに向上させる。異性に対してはさらに効果が高くなる。
どこにいても注目を浴びるため発見されやすい。【デメリット】

【残GP】5pt


135 : 名無しさん :2020/09/18(金) 23:35:46 8lKFJOyE0
【キャラ名】ジーニアス・ソフィ
【性別】男
【年齢】14
【職業】学生(サン・ルイ学園コロンブ校2年)
【外見】金髪碧眼、燕尾服、童顔
【内面】
人当たりは良いお坊ちゃまで、家柄にも誇りを持つ好青年
しかし優れた姉に勝ちたかったと言う根底が歪んだ結果、
他人を蹴落とすときだけは手段を選ばない容赦のない性格に
そんな性格の割に無関係な人間を巻き込まない主義
【交流】
父と姉の三人家族。父との仲は良好
>>128のローリア・ソフィは姉。溺愛されてたが疎ましく思ってた
蹴落とした今となってはどうでもいい存在…のはずだが、
嫉妬と憧憬と愛憎渦巻くシスコンの事実に気付いていない
【詳細】
フランスではそこそこ名のある名家ソフィ家の長男
家は姉が継ぐことになってたので、退学の形で追い出す
これで自分が継ぐことになる…がその短絡的な行動の結果、
ソフィ家の評判が地に落ちたものとなって世間的に姉以上に肩身が狭い
姉以上の結果を出そうと努力はしており。悪人だが根は変に真面目
今回のゲームはそのことに対する罪を問うものとして選ばれたと思っており、
自分がどのような行動を取ったかで裁かれる可能性が高いと考察している

■アバター
【アバター名】グローリー
【ルックス】今の自分を三、四年ほど成長させたような状態
【パラメータ】STR:D VIT:C AGI:C DEX:B LUK:D
【スキル】
分析:A
短絡行動を恐れたが故に得た、状況を読み取る能力
断片的な情報でもある程度の理解を得られて、
多くの情報があれば心を読むに近いものが得られる
情報が集まればの話で、情報収集が必須条件

【GP】
20


136 : 名無しさん :2020/09/18(金) 23:57:59 EuG4oUXY0
■キャラクター
【キャラ名】柳澤 匠也(やなぎさわ たくや)
【性別】男
【年齢】32
【職業】警察官(機動隊。階級は巡査部長)
【外見】短く刈り込んだ髪型。長身でがっしりとした体型。ビール腹。
【内面】飄々としている。内心では正義の心が燃えている。好き嫌いがはっきりしており、一度好きになったものを嫌いになれず、嫌いになったものを好きになれない。
【交流】
大和 正義(>>10):武道界隈では有名人なので一方的に知っている。
桐本 四郎(>>14):許されざる犯罪者。しっかりと法の裁きを受けてほしい。
美空 善子(>>21):バラエティで空手の形を披露しているのを見て下手すぎてドン引き。以降彼女が番組に出ているとチャンネルを変えてしまう。
笠子 正貴(>>65):その歳で警部補になれるような人間がどうして…?
焔花 珠夜(>>72):不愉快な愉快犯と認識している。
天空慈 我道(>>102):動画サイトに上がっていた彼の形に魅了された。組手では悪名高いことも知っているが嫌いになれない。
【詳細】
警察官。
小中高と空手に明け暮れ、高校卒業後すぐ警察に入職。機動隊に所属し、訓練の日々を送っている。
学科、術科共に非の打ちようのない成績を収めている一方で車の運転が下手。パトカーをこすってしまいよく怒られていた。
長らく地域課の勤務であったが先日の人事異動で念願かなって機動隊に配属された。
このロワをただのいたずらと考えているが、万一に備えて他者を守れるスキルを選択した。

■アバターテンプレート
【パラメータ】STR:B VIT:A AGI:B DEX:E LUK:E
【スキル】
不殺C
誤って他者を死なせてしまうことがなくなるスキル。
明確に殺意を持って行った殺人行為に対してはこのスキルは発動しない。
守護者B
他者を守りながら戦うときSTR、VIT、AGIが上昇する。
【GP】
30pt


137 : 名無しさん :2020/09/19(土) 00:07:44 hTlMdBms0
■キャラクター
【キャラ名】VRシャーク
【性別】無し
【年齢】3か月
【職業】PCウイルス
【外見】VRゴーグルをつけた巨大なサメ
【内面】とてつもなく食い意地が張っている
【詳細】
データの海を泳ぐサメ型ウイルス。
どんなデータもその強靭なあごでかみ砕くことで破壊する。
餌を求めて黎明期の『New World』へ侵入した際、主催者に捕らえられ現在のアバターを被せられる。
製作者の遊び心により、ネット上のサメミームをラーニングしており多少であれば再現することも可能。
片言だが会話をすることで人間の警戒心を削ぐ機能もあるが、これは製作者の悪意によるもの。

■アバター
【アバター名】ヴィラス・ハーク(VRSHARK)
【ルックス】アホっぽくみえる金髪巨乳
【パラメータ】STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
アバター解除:A
チート行為等の発覚時に付与されるデメリットスキル
運営の任意のタイミングで設定された全てのアバターをはく奪される
このスキルは発動するまでスキル保持者も含めて参加者が認識することはできない
【GP】140pt


138 : 名無しさん :2020/09/19(土) 01:16:38 1yDhtNq.0
>>131
詳細の部分で
×仕事が完了するまで礼金は受け取らない。
〇仕事が完了するまで依頼料は受け取らない。
としてください。
申し訳ありませんがよろしくお願いします。


139 : 名無しさん :2020/09/19(土) 01:34:18 HGxMhsQU0
■キャラクター
【キャラ名】酉糸 琲汰(とりいと はいた)
【性別】男
【年齢】23歳
【職業】喧嘩士(ファイター)
【外見】洗練された筋肉質な体型。黒いジャージ。黒の短髪に赤い鉢巻を巻いている。
【内面】
強さこそが全て。真理はこの拳にある。
ファイターとしての求道に拘るあまり、時として規範や常識さえも蹴り飛ばす。
【交流】
天空慈 我道(>>102):一度拳を交えたが訳あって決着つかずのまま。いずれは決着をつける。実戦での有用性を突き詰める無空流の思想に理解を示している。
神林 登(>>132):腕試しで信者複数名を叩きのめしてしまったので「悪魔」認定されている。
大和 正義(>>10):我道と関係があることを知っている。喧嘩士ではないが、彼が武闘家として大成した時には拳を交えてみたい。
尾張 縁人(>>31):時々彼に物資や食糧を提供し、その見返りで「強者」の情報を得ている。

【詳細】
「俺を超える者と戦いに行く」――強者との戦いを求め続ける生粋の喧嘩士(ファイター)。
世俗的な価値観を捨て、世捨て人のような有様で自らの強さを磨き続けている。
ストイックな性格の一方で、強さのためなら常識さえも踏みにじる悪癖がある。
自販機を無理矢理引っこ抜いて筋力の鍛錬に用いる、足腰を鍛えるために高速道路で自動車と併走、子供達がいる公園のど真ん中で瞑想など、その奇行は枚挙に暇がない。
当人は全く悪気がなく、常に大真面目にやっているようだ。

拳を極めることこそが己の道と考え、決まった型を持たない我流徒手殺法を駆使して戦う。
求道者のような思想を貫く一方、喧嘩士としての泥臭い価値観も併せ持つ。
例え敵が武装していようが構わない、卑怯であろうと構わない。実戦ではそれもまた強さである。己はただ鍛え上げた拳で相手を打ち破ればいいと考えている。

■アバター
【パラメータ】
STR(筋力):B
VIT(耐久):B
AGI(敏捷):B
DEX(器用):B
LUK(幸運):E

【スキル】
無念無双:A
武闘家としての心・技・体を極めしスキル。無念無想に非ず、無双なり。
格闘攻撃の判定と与ダメージを大幅に強化し、更に自身の格闘能力を妨げるデバフ・バッドステータスを完全無効化する。

【GP】
0pt


140 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/19(土) 03:00:33 CAztZQmo0
本日でキャラ募集期間も最終日となりました
沢山のキャラ投下ありがとうございます、最終日もまだまだお待ちしてますので遠慮することなくご投下ください。

前回からの追加キャラまとめです

>>119 暗舞 影華 -- 受験は失敗で引きこもるネトゲーマ
>>120 日向・H・奈央 -- ホムンクルスアイドル『ほむはいむ』の最終ロット、オールラウンダーな天才肌
>>126 間伊崎 次郎 -- マイケルジャクソンのモノマネ芸人
>>127 綾辻 時雨 -- 互いに惹かれあう相手の推理によって逮捕された殺人鬼
>>128 ローリア・ソフィ -- 弟に嵌められ勘当された名門のお嬢様
>>129 シャ -- 素手に拘る殺し屋。とにかく殺す
>>130 木下 静 -- 音信不通になった友人を探す旅人
>>131 青山 征三郎 -- 異世界に召喚された子供たちを探す私立探偵
>>132 神林 登 -- 自称唯一神のホームレス
>>133 神林 信花 -- 唯一神を信じるシングルマザー
>>134 神林 駆 -- 神アンチのミュージシャン
>>135 ジーニアス・ソフィ -- 他人を蹴落とためには手段を選ばない少年
>>136 柳澤 匠也 -- 機動隊に所属する正義の刑事
>>137 VRシャーク -- サメ型PCウイルス。
>>139 酉糸 琲汰 -- 強さを求め続ける求道者にして生粋の喧嘩士


141 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/19(土) 03:02:15 CAztZQmo0
翌日の投票ルールについてご案内します。
皆様のご助力のかいあって、現時点で想定以上のキャラ投稿があったため若干の増員を消極的ながら容認します。

【投票ルール】

・投票は1名10票まで
・当選は30名を目途に調整します
・足切りラインの同票キャラが容認できる範囲なら全員採用します、あまりにも多い場合は再投票します
・具体的な容認ラインは結果を見て判断します

投票スレはこちらになります
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1600429247/l50


142 : 名無しさん :2020/09/19(土) 10:19:13 D.8B9UKQ0
■キャラクター
【キャラ名】有間 作兵衛(ありま さくべえ)
【性別】男性
【年齢】37歳
【職業】忍者/農民
【外見】小柄。没個性でどこにでもいる顔。
【内面】
敬虔な一向宗徒。勤勉。
感情は凍てついており、割り切った考え方をする。
【詳細】
戦国時代を生きたフリーの凄腕忍者。かつては大村 純忠に仕えた。
本人は一向宗徒であったが、主が行った仏教に対する苛烈な攻撃や改宗の強要に反発し出奔した。
間諜、暗殺を主としており抵抗する人間を殺したことがない。忍びの仕事がない時は農民として畑を耕している。
「VR」だの「アバター」だのはさっぱりわからないが、宣教師と接していたこともありアルファベットは理解できるのでアバター設定自体は問題なくできた(なぜ「S」が「A」より上なのかは最後まで理解できなかったがそういうものだと割り切った)。
【備考】
大村純忠は実在の人物でキリシタン大名。

■アバター
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
気配遮断:S
気配を消す。直接視認するか同ランクの探知能力がない限り発見されない。
センサーにも感知されない。
【GP】
残り0pt


143 : 名無しさん :2020/09/19(土) 21:14:19 DXDNkM/o0

■キャラクター




【キャラ名】月光 空丸(げっこう そらまる)

【性別】男

【年齢】21

【職業】大学生・動画配信者

【外見】茶髪。童顔イケメン。緑のカエル風パーカー。

【内面】楽観的で好奇心旺盛。性格も言動も軽いが、頭脳明晰。

【詳細】

「ゲッコー★ちゃんねる」という名前でホラーゲーム実況を中心に動画配信を行っている大学生。

本人のトークやリアクション、視聴者をイライラさせないゲームの進行速度から、女性を中心にチャンネル登録者がじわじわと増えつつある。

見た目や言動とは裏腹に頭脳明晰で、幅広い分野の知識を持っている。

このゲームが現実だと認識しているが、自分のプレイヤースキルや洞察力がどこまで通用するか程度にしか考えていない。







【交流】

家族構成は両親と姉・弟。

月光 空我(>>47)、月光 空明(>>48):ご先祖様。

小鳥遊 つなぎ(>>78):好きだったバーチャルアイドル。引退した、、ことは残念に思っている。

増田 快三(>>90):同じ大学の友人。プレイスタイルに共感しないが、彼がどんなゲームを作るのには興味がある。

津辺 縁児(>>101):同業者。互いに名前だけは知っている。




■アバター




【アバター名】ゲッコー★ちゃんねる

【パラメータ】STR:C VIT:E AGI:B DEX:C LUK:C

【スキル】

逃走(C):自分と敵対する相手から逃げようとしたときに相手の動きが停止する。

Cランクでは停止時間は最低1秒。自分と相手のLUKの差の分だけ停止時間は1秒増える。




冒険者(B):エリアのギミックによるバッドステータス・状態異常をある程度無効化できるスキル。

DEXによっては、一部のギミックが操作可能になる。




スキル看破(B):スキルの正体を看破することで、ランクに関係なく、一時的に無効化、または効果の解除する。

スキル名、ランク、効果を正確に言い当てることが発動条件。

ただし、プレイヤー1人につき一回しか使うことができない。




【残GP】5pt


144 : 名無しさん :2020/09/19(土) 21:39:02 d1JTYtWM0
【キャラ名】広東百代
【性別】女
【年齢】80
【職業】市民自由党代表、参議員
【外見】昭和の銀幕スターの晩年っぽい姿
【内面】部活ものの女子校生主人公をそのまま中年にしたようなエネルギッシュさ、腰の低く上品なお婆様、頼みごと断れながち
【交流】
被検体004(>>15):知り合いの公安から噂を聞いたことがある
林亜虎(>>20):彼の家族が所属するチャイニーズマフィアが支持母体の一つ
アーノルド・セント・ブルー(>>26):在日アメリカ軍として日本にいた時に米軍関係者票の取りまとめで出会う。今では疎遠になり一方的に年賀状を送るぐらいの仲
渡恒蓮太郎(>>32):彼の母親が秘書の一人
枝島トオル(>>52):文科大臣をやっていた頃に表彰した。こちらからは覚えていない
田所アイナ(>>63):政治資金パーティーで会った自分と似た境遇の少女
神在竜牙(>>79):同じ党の若手の息子、SNSをフォローしている
秋原光哉(>>82):後援会の重鎮にして前回の政権交代時のパトロン。彼の発案でアイドル議連を立ち上げ、アイドル戦国時代を勃発させる
砦山宏(>>91):彼が開発したゲームを、VRゲーム議連の企画の一端で実況する
浪速辺昌(>>104):コミケで魔法少女エンジェル☆リリィのコスプレをした時にスタッフサイドを通してお礼状を渡した
シャ(>>129):彼の交渉人と間接的にコネクションを持っている。彼の存在は知らない
神林駆(>>134):SNSのタイムラインに時々流れてくる、党の若手の息子の知り合い。一度コラボ企画をやろうとしてプチ炎上した
【詳細】
当選9回の参議院議員にして比較第三党の市民自由党代表。長年連立内閣に関わり、現在は初の女性総理大臣候補の最右翼と目されている。
戦中にマカオに生まれ終戦後は横浜へ。母がポルトガル人の父と中国人の母を持ち、父が広州租借湾で貿易商として働いていた経緯から、日・英・仏・葡・広東語を話せ様々な外国人と関わりを持って育つ。10歳で芸能界入りすると高度成長期にかけて一躍スターになり、30代目前で引退後は政界に進出、以後女子校生が部活作るノリで新党作ったりその新党で何度か政権交代したりアイドル議連やVRゲーム議連の設立に携わったり消費税を10%に上げたりした。

■アバター
【パラメータ】
STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
【スキル】
政治家:S
運営から参加者全員一律にポイントを付与される場合を除いて、参加者間で最もこのランクが高い参加者以外が獲得するポイントを1割天引きし、同ランクのスキルを持つ参加者間で山分けするというルールを運営に認めさせる。
天引き自体は運営が行いメールでポイントが支給されるため、誰から誰にどれだけポイントが渡ったのかは運営にしかわからない。
このスキルを持つ場合、参加者間で最もランクが高い参加者はマップ上に自分の位置が示されるため常に発見されているようなもんである
【GP】
残り0pt


145 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/20(日) 00:00:17 ZBAsnBI60
本当にたくさんのキャラ投稿ありがとうございました。
下記の追加キャラを加えた全103名が参加者の候補となります

>>142 有間 作兵衛 -- 大村 純忠に仕えていたフリーの凄腕忍者
>>143 月光 空丸 -- 忍者の子孫で動画配信者
>>144 広東 百代 -- 元芸能人の政治家。初の女性総理大臣候補

候補者の一覧
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/18.html

それでは次のフェイズに移ります。
これより参戦キャラを決定する投票を開始します。

投票スレはこちらになります
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1600429247/l50

投票スレの投票ルールをよくお読みになった上でご参加ください。
よろしくお願いいたします。


146 : 名無しさん :2020/09/20(日) 00:20:53 JKOqYuxU0
参戦候補キャラクターをプロファイリングしてみました。お役立ていただければ幸いです。

投稿キャラクターまとめ
>>71>>92>>117>>140

【小学生】
・星雲小学校
>>55 掘下 進/>>116 宙上 ツバメ
・陽見澤女学園小等部
>>63 田所 アイナ
・記載なし
>>23 如月 陸
【中学生】
・日天中学校
>>18 登 勇太/>>22 有馬 良子/>>39 馬場 堅介/>>41 大小 蘭/>>51 高井 丈美/>>54 増田 知徒/>>87 略画 巧/>>96 植卓 京子
・月光芸術学園中等部
>>59 篠田 キララ/>>100 桃白・H・彩織/>>115 三条 由香里
・サン・ルイ学園コロンブ校
>>135 ジーニアス・ソフィ
・記載なし
>>32 渡恒 蓮太郎
【高校生】
・大日輪学園
>>10 大和 正義/>>13 山本 眼鏡子/>>28 雨花 響介/>>42 絵夢町 金十三/>>45 大日輪 太陽/>>64 日騎亜 輝美/>>85 出多方 秀才
・月光芸術学園高等部
>>21 美空 善子/>>46 大日輪 月乃/>>53 鈴原 涼子/>>56 禾坂・H・礼歌/>>61 安条 可憐/>>111 秋葉・H・朋子/>>120 日向・H・奈央/
・ネプチューン国際女学園
>>62 ソフィア・ステパネン・モロボシ
・空明高等学校
>>20 林 亜虎
・範当高校
>>40 本道 華花/>>114 三土 梨緒
・記載なし
>>97 切間 恭一/>>119 暗舞 影華
【大学生】
・立京大学
>>17 田戸 康治
・記載なし
>>78 小鳥遊 つなぎ/>>90 増田 快三/>>99 日雲 利人/>>143 月光 空丸
【社会人】
・パートorフリーター
>>12 安里 飛鳥/>>25 木本 奥太/>>133 神林 信花
・会社員
>>30 氷露 雁/>>37 本堂 満雄/>>67 打目木 伐夫/>>91 砦山 宏
・教師
>>43 白井 杏子/>>52 枝島 トオル
・ミュージシャン
>>79 神在 竜牙/>>134 神林 駆
・その他
>>27 ディラン・ジェンキンス/>>44 水戸 光子/>>49 吉岡・フルメタル・以蔵/>>68 射田 正忠/>>82 秋原 光哉/>>101 津辺 縁児/>>102 天空慈 我道/>>104 浪速辺 昌/>>105 滝川 利江/>>112 山熊 嵐/>>126 間伊崎 次郎/>>131 青山 征三郎/>>136 柳澤 匠也/>>144 広東 百代
【無職】
・ホームレス
>>31 尾張 縁人/>>132 神林 登
・流浪人
>>130 木下 静/>>139 酉糸 琲汰
・その他
>>26 アーノルド・セント・ブルー/>>35 馬場 早智子/>>128 ローリア・ソフィ
【犯罪者】
>>14 桐本 四郎/>>36 紋木戸 瑠衣/>>66 笠子 正貴/>>72 焔花 珠夜/>>127 綾辻 時雨/>>129 シャ
【人外】
>>11 プテリクス/>>33 ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ/>>58 ムーちゃん/>>137 VRシャーク
【異世界】
・勇者
>>38 陣野 優美/>>69 付侘 兆/>>74 冬海 誠/>>80 郷田 薫/>>84 陣野 愛美/>>88 守川 真凛
・魔王軍
>>86 魔王カルザ・カルマ/>>89 エル・メルティ/
・その他
>>50 ランス・ミルティア/>>60 ギール・グロウ/>>95 イコン
【忍者】
>>47 月光 空我/>>48 月光 空明/>>142 有間 作兵衛
【その他】
>>15 被検体004/>>16 江元・E・絵美璃/>>34 リィン/>>76 正田 光流

【アイドル】
・ソロ
>>21 美空 善子/>>46 大日輪 月乃/>>73 黒野 真央
・HSF(ハッピー・ステップ・ファイブ)
>>53 鈴原 涼子/>>59 篠田 キララ/>>61 安条 可憐/>>62 ソフィア・ステパネン・モロボシ/>>115 三条 由香里
・ほむはいむ
>>56 禾坂・H・礼歌/>>100 桃白・H・彩織/>>111 秋葉・H・朋子/>>120 日向・H・奈央


147 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 00:59:48 nqd0KE4E0
参加者名簿(書き手向け)

2/2【小学生】
○掘下 進/○田所 アイナ
4/4【中学生】
○登 勇太(Brave Dragon)/○有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)/○馬場 堅介(けるぴー)/○高井 丈美
5/5【高校生】
○大和 正義/○大日輪 太陽/○出多方 秀才/○三土 梨緒(ユキ)/○切間 恭一
3/3【アイドル(ソロ)】
○美空 善子/○大日輪 月乃/○黒野 真央
6/6【アイドル(ハッピー・ステップ・ファイブ)】
○鈴原 涼子/○安条 可憐/○ソフィア・ステパネン・モロボシ/○篠田 キララ/○三条 由香里/○滝川 利江
1/1【ミュージシャン】
○神在 竜牙
3/3【社会人】
○津辺 縁児(エンジ君)/○天空慈 我道/○青山 征三郎
2/2【教師】
○白井 杏子(魔法少女エンジェル☆リリィ)/○枝島 トオル(枝島杏子)
2/2【無職】
○アーノルド・セント・ブルー/○酉糸 琲汰
4/4【犯罪者】
○桐本 四郎/○笠子 正貴/○焔花 珠夜/○シャ
3/3【異世界(勇者)】
○陣野 優美/○陣野 愛美/○郷田 薫
1/1【異世界(魔王)】
○魔王カルザ・カルマ
2/2【異世界(その他)】
○ギール・グロウ/○イコン
2/2【人外】
○ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ/○VRシャーク

40/40


148 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 01:00:08 nqd0KE4E0
参加者名簿(参加者向け)

01.†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†
02.Brave Dragon
03.VRシャーク
04.アーノルド・セント・ブルー
05.青山 征三郎
06.安条 可憐
07.イコン
08.枝島杏子
09.エンジ君
10.笠子 正貴
11.神在 竜牙
12.ギール・グロウ
13.切間 恭一
14.桐本 四郎
15.黒野 真央
16.けるぴー
17.郷田 薫
18.三条 由香里
19.篠田 キララ
20.シャ
21.陣野 愛美
22.陣野 優美
23.鈴原 涼子
24.ソフィア・ステパネン・モロボシ
25.大日輪 太陽
26.大日輪 月乃
27.高井 丈美
28.滝川 利江
29.田所 アイナ
30.出多方 秀才
31.天空慈 我道
32.酉糸 琲汰
33.焔花 珠夜
34.掘下 進
35.魔王カルザ・カルマ
36.魔法少女エンジェル☆リリィ
37.美空 善子
38.大和 正義
39.ユキ
40.ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ


149 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 01:01:13 nqd0KE4E0
以上で参加者は確定となります。

>>146
参考にさせていただきました。
ありがとうございます。


150 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 01:02:54 nqd0KE4E0
改めてオリロワVRのテンプレートをまとめます。
何個か改定入ってる項目もあるので、企画参加を考えてる方がいましたら念のため目を通してください。


151 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 01:03:24 nqd0KE4E0
【基本ルール】
・新世界『New World』でアバターを与えられ最後の一人になるまで殺し合いを行います
・優勝者には『World master』の称号が与えられます
・優勝者には新世界『New World』の所有権が与えられます
・優勝者には高次元干渉システム『Isaac』及び、魂魄制御システム『Pushuke』の使用権が与えられます

【アバターについて】
・アバターは生身と同じように動かせます、アバターが死ぬと本体も死にます
・死亡するとアバターは消滅します、アイテムは辺りに残りますが6時間放置で消滅します
・食事、睡眠は不要ですが可能です、気絶もします
・作中ではアバターはキャラクターが設定したモノであるという扱いになります
・そんなチマチマしたことをしそうにないキャラはランダムで設定したという事にしてください
・パラメータの振り直しはできませんが、GPを使用した追加強化は可能です
・INT(知識)、MND(精神)はステータスになく、アバターではなくキャラクターに依存しますがスキルなどでの強化は可能です
・生命力はVITに依存しますが特定の急所を破壊されれば一撃死する可能性もあります

【ゲームポイント(GP)について】
・全参加者に初期GPとして300ptが与えられます
・GPはゲーム内で様々な用途に使用できます
・GPは参加者を1人殺害するごとに30pt獲得できます
・3名以上殺害した参加者を殺害した場合『強敵撃破ボーナス』として2倍の60ptが獲得できます
・定時メールの送られた瞬間に四つの塔の支配権を得ている場合1つの塔に付き100ptが獲得できます
・その他入手方法はそれなりにあります

【ゲーム内でのGPの使用について】
・GPはGP交換所で使用可能です
・交換所はマップ内に都会のコンビニくらいの間隔であります
・交換所では、アバターの追加強化、ランダムアイテムとの交換(100pt)、シェリンへの質問(50pt)などが行えます
・特定施設ではGPを使用して状態異常の回復が可能です(治療内容により消費ptは変動)
・その他使用方法は追加されるかもしれません

【エリア変化について】
・エリアの切り離しがある場合、定時メールで事前告知されます
・切り離し処理は告知の2時間後に完了します


152 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 01:03:49 nqd0KE4E0
【マップの詳細について】
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/16.html

【エリアについて】
・積雪エリア。山頂に行くほど気温が落ちます。気温が低い場所に長時間いる場合は防寒しないと危険です
・砂漠エリア。大砂漠は常に砂塵が待っています、探索系スキルがないと方向感覚が失われます
・火山エリア。火山は定期的に小さな噴火を繰り返しています。対火系スキルがない限りマグマに落ちると死にます
・諸島エリア。島々は泳いで渡ることは可能ですが流れが速いので水泳系スキルがないと危険です

【すべての施設に関してについて】
・NPCなどは存在しません、全てシェリンが対応します

【教会・神社・神殿について】
・解呪、解毒などの状態異常の回復が可能です(要GP)

【市街地について】
・ビルなどが立ち並ぶ現代風の市街地です
・様々な施設がありますが詳細な施設に関しては自由に設定していただいて構いません。

【コロシアムについて】
・双方の同意があれば、自由に対戦ルールを設定した対決ができます
・参加する全員の同意があれば複数対複数も可能です
・どのようなルールの対戦であれ対決に負けたプレイヤーは全員死亡します
・対戦中は外部からの干渉を受けません
・観客席には誰でも自由に出入りできますが、非干渉の対象外です

【四つの塔について】
・最上階にあるオーブに触れると塔の支配権を更新できます
・定時メールが送られた時に支配権を得ているプレイヤーにGPが100pt与えられます
・現在の塔の支配者はマップ上の塔を長押しすることでいつでも誰からでも確認できます


153 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 01:04:31 nqd0KE4E0
【予約について】
・必須ではありません
・予約期間は予約から3日
・延長はありません

【作中での時間表記】(深夜0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24

【状態表テンプレート】

[現在エリア/詳細位置/日付・時間]
[キャラ名(アバター名(ある場合))]
[パラメータ]:アイテム使用などでの一時強化も表記
[ステータス]:ダメージ状況などもここに
[アイテム]:装備中のアイテムには(E)の表記を付ける事
[GP]:XXXpt
[プロセス]:行動方針など

【ゲーム開始時のメールについて】
全参加者のメールボックスに初期状態では二通のメールが届いています。

>[キャンペーン]Welcome to『New World』!!
>[イベント]スタートダッシュボーナス

メール内容は以下

■[キャンペーン]Welcome to『New World』!!

『New World』へようこそ!
我々は心からあなたを歓迎いたします。
心行くまで『New World』をお楽しみください!!
記念として私たちからの心ばかりの特典をお送りします。

>このメールを開いた全員にGP10ptが付与されます。

■[イベント]スタートダッシュボーナス

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。
スタートダッシュボーナスを実施します。
開始から2時間は撃破ポイントがなんと3倍!
この2時間で沢山の勇者を殺害してライバルに差をつけろ!


154 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 01:07:08 nqd0KE4E0
テンプレは以上となります。

作品の投下及び予約開始は

2020/09/22(火) 00:00:00

からとなります。
予約を行う場合は下記予約スレをご利用ください。

予約スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16903/1600617913/l50


155 : 名無しさん :2020/09/21(月) 08:34:55 6XeRFJag0
VRシャークのアバター名は>>137でヴィラス・ハークですね


156 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/21(月) 09:12:19 nqd0KE4E0
>>155
ご指摘ありがとうございます。見逃してました。
wikiの方を修正しておきます。
ありがとうございました。

ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/124.html
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/125.html


157 : ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:15:22 dbPzZl7g0
投下します。


158 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:17:18 dbPzZl7g0




ふーっ、ふーっ。
荒い吐息が顔面に降りかかる。
いつもの自分ならきっと、気持ち悪いって思うはずなのに。
気がつけば、抵抗する気も起きなくなっていた。
それどころか、この情動に身を委ねたいとさえ感じる。

こんな目に遭いながら、ふいに昔の記憶を思い出した。
アイドルになりたいって無邪気にはしゃいでいたあの頃。地下アイドルから始めようって決意したあの日。自分には才能があると信じ続けた6年。
なんだか走馬灯みたい、と自嘲気味に思う。
目の前に迫る「彼」の顔面も、強引に打ち付けられる腰の感覚も、無理やりにこじ開けられるような痛みも、何もかも些事に感じられた。

「罰当たり」という言葉が脳内を過る。
神様がいたら、大目玉食らっちゃうかな。
でもまあ、いっか。いいよ、もう。
神様なんて、どうせあたしを見放してたんでしょ。

だったら。
幾らでも唾吐いてやる。






【数十分前】


バーチャルにいい思い出はない、と彼女は追憶する。
同じ事務所のアイドル達――ブスの馴れ合いと彼女は捉えている――との付き合いで娯楽施設に連れて行かれた時、VRのアトラクションを一度だけ体験した。
結果、死ぬほど酔った。胃の中の物を戻しそうになる程に。
後輩や同期の前で醜態を晒した挙げ句、腰を痛めた年寄りを心配するような眼差しを向けられた。彼女はその屈辱を今でも忘れない。
以来、二度とVRで遊ぼうとはしなかった。

かぽん、とアルミ缶の蓋を開ける音が響く。
子供のように小さな唇で、迷うことなく飲み口に口づけをする。
そして、飲む。
豪快に、飲み下していく。
ぐび、ぐび、ぐび、と喉の音が断続的に鳴る。
俗な言い方をすればイッキ飲み。支給品『VR缶ビール10本セット』――そう、彼女はビールを飲んでいるのだ。
「アバターでも酔っ払える!コクのある苦味!」が売りの電子的麦酒である。
彼女は命懸けのデスゲームのただ中で、孤独の晩酌を繰り広げていた。

ぷはぁっ。あぁ、うううー。

缶の中身を飲み干し、可憐な風貌からは想像も付かない声を上げる。
うぅ、おう、と呻き声を漏らし、顔を仄かに赤く染めながら、すぐさま2本目に手を伸ばす。
かぽん。蓋を開ける。口を付ける。
そして、ぐび、ぐび、ぐび―――流石に2本目までイッキ飲みは出来なかった。
半分ほど飲み干したところで唇を離し、ふぅーと酒気を帯びた吐息を漏らす。


159 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:18:05 dbPzZl7g0

真夜中の神社、本殿の扉の前に居座っていたのは信仰から程遠い俗人だった。
身長142cm。その出で立ちはまるで女児。
愛らしい猫のような顔立ちと黒いショートヘアーが特徴的。
まるでアイドルのように整った外見――衣服の下のお腹周りを除いて――だが、それもその筈。彼女は正真正銘、アイドルそのものなのだ。

黒野 真央。通称『真央ニャン』。
数々の古参ファンに支持される地下アイドルであると同時に、6年経っても伸び悩んでいる『負け猫』である。

公表年齢15歳の真央だが、実年齢は21歳。立派な成人である。
20歳を超えてからは日々の鬱憤を晴らすべく飲酒に手を出し、それ以来「腹が立ったらとにかく飲む」という悪癖が完全に習慣化してしまった。
毎日の晩酌は当たり前。恋人と喧嘩をした翌日など、機嫌の悪いときにはこっそりライブ前に飲むこともあった。
そして今もなお、真央はこうして酒に走っている。

―――いきなり勇者になれだの、殺し合えだの、ここで死んだらホントに死ぬだの。
―――ふざけんなっての。こちとらアイドルだっての。飲まなきゃやってらんないわ。
―――ってか何だよ。ハッピーステップ?美空?日輪?なんであのブス達までいるんだっての。

何のアポも無ければ前触れさえ無い。気が付いたら突然説明が始まり、そして強制参加。
しかも最近粋がってる同業のガキ共が参加者に何人もいる。普通に腹立つ。いや、あいつらぶっ殺したいとは思ってたけど。
ドッキリが何かの可能性もほんの少し疑ったが、そもそも真央はテレビ局から声を掛けられた試しが一度たりとも無い。不服とはいえ、それくらい彼女自身も自覚している。
VRだのアバターだの説明していたが、あまりにも現実感がありすぎる。頬をつねったら痛むし、酒を飲んだら酔っ払える。
バーチャルリアリティどころか、普通に現実のようだった。
だからこそ、殺し合いという唐突な通達に困惑するしかない。
故に真央は飲むのだ。飲んで不安と恐怖を紛らわせている。

【『New World』へようこそ!】
【我々は心からあなたを歓迎いたします。】
【心行くまで『New World』をお楽しみください!!】

―――楽しませる気なら殺し合わせんな。

先ほどのメールを思い出し、心中で毒づいた。
訳がわからない。シェリンとやらがいったい何をしたいのかも、理解できない。
真央にとって人生二度目のVR体験だが、ますます嫌気が指してきていた。
あの時のようなVR酔いは一切無いが、その代わりビールでしこたま酔っている。
再び勢いよく缶ビールを飲み、2本目を飲み干した真央はぼんやりする頭で思考する。
訳のわからないデスゲーム、怖いに決まっているが―――酒があれば少しはマシになる。
冴えてきた。いける気がしてきた。単に酔って爽快になっているだけだが、それでも現状について考えられる程度に真央の気分は落ち着いてきていた。


160 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:18:42 dbPzZl7g0
武器となる支給品は『ヴァルクレウスの剣』なる剣のみ。装備すれば幸運値が上がり、攻撃も少しだけ回避しやすくなるという。
しかし、直接の殺し合いなんてまっぴら御免だと真央は考える。
たとえアバターだとしても元々荒事には慣れていないし、こんな生々しい空間で人殺しなんてやりたくない―――できることなら。
では、どうするのか。
Sランクの『アイドル』スキル。これこそが黒野 真央にとって最大の武器である。
味方に強力なバフを掛ける効果の他、「真央を一目見た者を魅了し自らのファンにする」という恐るべき精神干渉を併せ持つ。
一度ファンになった者は「真央ニャン命」となり、彼女のために命を投げ出すことすら厭わなくなる。

本当ならこんなスキルに頼らなくても他人を魅了できる才能がある――という実態の無い自負を抱いている真央だが、それはそれだ。
ファンを作り、自らの奴隷へと変え、手を汚さずに生き残る。
真央の戦術は既に決まっている。こんなところで死んでやるつもりなんか無い。自分はこれからのし上がる才能を持った人間なのだから。

「そうよ……あたしは」

思考が固まり、言葉が漏れた。
先程まで締まらなかった決意だが、酒によって導きを得ていく。

「黒野真央……真央ニャン……あたしは真央ニャン……未来の歌姫……」

ぶつぶつと、うわ言のように呟く。
己自身に暗示をかけるように。
自分は生き残るべき存在だ。そう告げるように。

「あたしなら……違う、わたし……わたしならやれるっての……じゃなくって……真央、がんばるニャン……あー」
「あの―――」
「がんばるニャン……がんばるニャン♡すっごく怖いけど、みんなも応援してほしいニャ♡……調子戻ってきた……よし……」
「すみません、もしもし―――」
「……うっさいな……誰だっての……―――!!?」

唐突に聞こえてきた呼び声に、思わずビクリと跳ね上がった。握っていた空の缶も思わず何処かへ放り投げてしまった。
なんの脈絡もない来訪者。このデスゲームの参加者、すなわち敵である。
しかも素の自分を見られた。真央にとって二重の衝撃である。
真央は咄嗟に身構えて、声の主を確認した。


「……お酒、飲んでいるのですか」


神社の境内に足を踏み入れてきたのは、一人の男性。
やけに眩い月明かりに照らされて、その姿が見えた。
スポーツ刈りの短髪。眼鏡をかけ、黒いスーツをまとった出で立ち。中肉中背の体格。
さして目立った特徴のない「普通そうな男」は、好奇心のようなものを伴って真央に話しかけていた。
 



161 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:23:34 dbPzZl7g0


かぽんっ。
かぽんっ。

「乾杯!」
「……乾杯」

神社の屋内へと入り、二人はビールを飲んでいた。
内装は薄暗いというのに、辛うじて視認や行動はできる程度に月明かりが指している。
本日3本目の缶ビールにありつき、真央は顔を赤くしながら不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。

「すみません、突然おじゃましてしまって」
「あ、いえいえ……じゃなかった、あー、気にしないで……ニャン♪」
「ん?それは『キャラ作り』というものですか?」
「いや、その……あー、そうよ。もういいわ、めんどくさい、バレてるから」
「はは……気にしないでください、ばらしたりはしませんよ」

礼儀正しいのか図々しいのか分からない男の態度を、真央は何とも言えぬ表情で見つめる。
どうしてこうなった――彼女はそう思うしかない。
男は突然現れて「お酒はまだ残っていますか?」と聞いてきた。
真央は頷いてみたら、「一緒に飲みませんか」と思わぬ提案をされた。
そうしてなあなあで屋内へと移動し、気がつけば二人で飲んでいた。

「しかしおつまみが無いなんて……もっと気を利かせてほしかったですね」
「あぁ、うん……ほんとよ、ほんと。あのシェリンとかいうの……せめて何かこう、柿ピーくらい用意しなさいよって感じ……」
「僕は焼き鳥でも食べたかったです」

穏やかな笑顔で冗談めいて言う男。
真央は不機嫌なままだったが、思わずフフッと笑ってしまった。

アイドルとしてのキャラバレは致命的だ。真央はそう考える。
「キュートで愛くるしい15歳の真央ニャン」として売り出しているのだから、本当はビール好きなんて知られるのは以ての外だ。
少なくとも今付き合っている彼氏を除いては。
そう思っていたが、こうして敢え無くバレた。
ならばいっそヤケクソのような気持ちになり、今は酔いに身を任せようと真央は考えたのだ。


162 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:24:54 dbPzZl7g0

「そういえば……」
「あ?何?」
「お名前、お伺いしてなかったですね」

―――って、知らないのかよ、あたしのこと。
思わぬ苛立ちを感じてしまったが、燻っているのは事実なので仕方なく名乗る。

「僕は笠子 正貴です。警察官をやっていました……とはいえ、この前退職になりましたけどね」
「おまわりさんだったんだ……あたしは黒野真央……ひっく……真央ニャンって……呼んでほしいニャン♡」
「真央ニャンさん?なんだか可愛らしいですね」
「こちとらアイドル、やってんだよ……」

つい零してしまった真央のぼやきに、男は少し驚いた様子を見せる。

「すごい……お嬢さん、アイドルだったんですね」
「フフン、すごいでしょ」
「歌やダンスとかやるんですか?」
「あたぼうよ……プロよあたしは……この道6年の……」
「かっこいいですね……!」

素直なリアクションを見せてくれる男を見て、真央はあっさりと機嫌が良くなった。
いつもキモオタばかりに囲まれ、黄色く濁った声援ばかり飛ばされてきた。
誰も自分の才能を正しく認めない。いや、認めるべき人間があたしを認めてくれない。
そんな鬱屈を抱え続けていた真央だった。だからこそ、こんな普通そうな男の素朴な賛辞が心地良かった。

「なんかさ……ありがと」
「?」
「いや……話し相手になってくれて」
「あぁ、いえいえ……僕も楽しいですから」
「……みんなさ、認めてくれないのよ」

だからこそ、思わず感情を漏らしてしまう。
既に言うまでもないことだが。
本人は認めようとしないが。
黒野真央は、クズである。

「あたしさ……かわいいじゃん。才能あるじゃん。なのにさ……認めてくんない。みんな、ちゃんと見てくれない、あたしのこと」

過剰なプライドを抱え込み、自分は誰よりも優れていると思い込んでいる。

「6年よ?6年頑張ってんのよ?……なんで?これも全部クズみたいな奴らのせいよ……みそら?はっぴーすてっぷ?ほむはいむ?何?ポッと出のガキどもでしょ……?」

アイドルとして芽が出ない理由を悉く周囲に転嫁し、自らの怠惰からは目を逸らし続けている。

「あたし、がんばってんのよ。努力してんのよ。なんで?成功するんじゃなかったの……?人生、どうなってんの……?」

真央は努力をしない。せいぜい実業家の恋人との既成事実を作ることに躍起になっているくらいである。

「くそ……くそっ、くそ、くそ……みんな大嫌いよ……何なのよホント……クソばっかり……」

挙げ句の果てに、彼女は自分以外の他者を蔑むことに何の躊躇も持たない。

「……ちくしょう……」

理想と現実のギャップに折り合いをつけられず、ただ腐っていくことしか出来なかった。
黒野真央は紛れもないクズだった。


163 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:25:35 dbPzZl7g0
だというのに。

「……つらかったんですね」

彼女の恨み節を聞く正貴は、そう呟いた。

「こんなにも、かわいらしいのに」

慈しむように、真央を見つめる。
穏やかなのに、沼のように濁った、正貴の黒い眼差し。
真央の猫のような目と、視線が重なる。
思わず真央は、少しだけ胸が高鳴る。
実業家の彼氏のことを、一瞬だけ思い出した。
しかしそれは、酩酊する頭によって掻き消された。


そして。
真央の身体が、突然床に叩きつけられた。
きゃっ、と小さな悲鳴を上げた。
予想もしていなかった強い力で、真央は両腕を抑え込まれる。


「ちょっと、何して……」

真央は恐る恐る顔を上げた。
先ほどまで共に酒を飲み交わしていた男が、自身を見下ろしているのがわかった。

「いやっ、やだ、離して、やめて――――」
「ちいさくて、こどもみたいなのに、あなたは大人だ」

無理やり抵抗しようとしても、微動だにしない。
正貴に押し倒され、両腕を抑えつけられ、真央は床に磔にされたまま悶える。
乱暴なことをしているというのに、正貴の表情は何処か切なげであり。


「僕みたいに、寂しくて仕方がない。生きることがわからない……こどもみたいな大人だ」


今にも泣き出しそうな眼差しで。
悲しみに打ちひしがれたような表情で。
正貴は一言、そう呟いた。
そんな彼の様子を見て、真央は思わず動きを止める。

「スキル、使ってますね」
「えっ……?」
「なんでこんな愛おしいのだろうと思いましたが……僕があなたに触れた途端、少し落ち着きました」

呆気にとられた顔で、真央は正貴を見上げる。
正貴のスキル「制圧」は、触れている最中に限り相手のスキルを一つ無力化する。
正貴は真央に強い好意を持っていた。
しかしそれは、彼女が持つスキル「アイドル」による魅了の結果である。
酔った真央は、知らず知らずのうちに自らのファンを作っていた。
だが、もう無意味だ。
彼が触れている限り、彼は真央のファンではなくなる。

「でも、僕はこの想いを無下にしたくない」

それでも、正貴はそう呟く。
自らの胸に芽生えた情動を、愛おしむように。

「あなたは……僕みたいだったから」


164 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:26:11 dbPzZl7g0
真央はもう、抗うことさえ止めていた。
なんでかな。そんなことを考えても、彼女の脳裏に答えは出てこない。

「真央さん、生き残りたいですか」

正貴のふいの問いかけに、思わず驚きつつ。
真央はただこくりと頷く。
こんなところで死にたくない。生きて、絶対にのし上がりたい。
酒に酔いながらも、それだけは確かな事実だと断言できた。
一人で決意したばかりだったのに、こうして思わぬ形で突き付けられて、真央は頷くことしか出来なくなっている。


「僕は、正しいことをしようと思います」


そう言って、正貴は微笑んだ。
その表情に、真央は何故だがほっとしてしまった。


「あなたを護ります。そのために、ほかの参加者を全員殺してみせます」


―――――ああ。
真央はもう、心の何処かで腹を括っていた。
生き残る。そのために、他人を利用する。
そんなこと、既に決めていた筈なのに。
これから自分は、沈んでいくのだ。
深い深い闇の中へと、堕ちていく。
それなのに、何故だが心地良かった。
そうして真央はようやく自分の感情を理解した。


「好きです、真央さん」


笠子正貴は、そっと口づけをした。
ふたりの唇が絡み合い、互いに溶け合うような感覚に囚われた。
耽美な酒の香りに囚われながら、静かに唇を離し。
そして、正貴は自分のスラックスのベルトに手を掛けた。
真央は自らに降りかかる事柄を、ただ受け入れることに決めた。

みんな、嫌いだ。
真央はずっとそう思っていた。
今でも、こんな人生が大嫌いだ。
だけど、この瞬間だけは、悪くなかった。






父さん。母さん。
立派なことをしなさいと、いつも言っていたね。
僕はまた何か、正しいと思ったことをやってみます。
忙しくなるので、暫く実家には顔を出せなくなります。
こんな親不孝者ですが、どうか許してください。
せめて身体には気を付けて。

それでは。お元気で。
あなた達の息子、正貴より。






165 : TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:27:20 dbPzZl7g0


[G-6/神社/1日目・深夜]
[黒野 真央]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E→D(「ヴァルクレウスの剣」の効果でLUKが1ランク上昇中)
[ステータス]:ほろ酔い、回避判定の成功率微増
[アイテム]:ヴァルクレウスの剣(E)、VR缶ビール10本セット(残り6本)、支給アイテム×1(確認済)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:絶対に生き残って、のし上がる。
1.魅了しているのか、魅了されているのか、わからない。
2.できる限り自分の手は汚したくない。

[笠子 正貴]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:黒野真央のファン、軽い酒酔い(行動に問題はない程度)
[アイテム]:ナンバV1000(8/8)(E)、予備弾薬多数、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:15→25pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:何かを、やってみる。
1.真央を護ることを「生きる意味」にしてみる。
2.他の参加者を殺害する。


【ヴァルクレウスの剣】
黒野真央に支給。
伝説の勇者ツキタ・キザスが振るったとされる秘剣のひとつ。
使用者の幸運値を1ランク上昇させ、攻撃回避判定の成功率が微増する。
元の世界では「勇猛なる精霊の加護が施されている」「魔王軍七天衆の一角を落とした武器」など様々な尾鰭と共に言い伝えられたが、実際は序盤のダンジョンで手に入る「ちょっとだけ強い剣」である。
勇者は金に困っていた時期にこの剣を売り飛ばした(昼飯代にはなったという)。

【VR缶ビール10本セット】
黒野真央に支給。
アバターでも酔っ払える!新時代の電子的麦酒。アルコール度数は高めの6%相当。
1パック10本で支給。苦味が強調されたコクのある余韻が特徴。

【ナンバV1000】
笠子正貴に支給。架空の銃器。
8連装の電脳リボルバー拳銃。対アバター用の特殊弾薬が用いられている。
弾丸を命中させた際、相手のAGI値に短時間マイナス補正が掛かる。


166 : ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 10:27:35 dbPzZl7g0
投下終了です


167 : ◆A3H952TnBk :2020/09/22(火) 16:49:19 dbPzZl7g0
すみません、笠子正貴の状態表に記載漏れがあったので以下の一文を追加させて頂きます。

※事件の報道によって他の参加者に名前などを知られている可能性があります。少なくとも真央は気付いていないようです。


168 : ◆EPyDv9DKJs :2020/09/22(火) 17:29:33 Pa9YRsnE0
投下します


169 : ◆EPyDv9DKJs :2020/09/22(火) 17:34:23 Pa9YRsnE0
「あんなにいい子達だったのにどうして…」
「息子たちはまだ見つかりませんか…」
「薫のことだから、大丈夫だとは思いたいんですが。」
「真凛はしっかりした子とは言え、やはり心配で…」
「褒められはしないでしょうけど、それでも誠は家族なんです。」

 今日も不安と憔悴に満ちた依頼人の顔を見るだけに終わる。
 他の仕事と共に並行しているが、進展は少しもなかった。
 六人同時に行方不明で手掛かりゼロ、これが依頼を請け負った人間の結果か。
 得られた情報と言えば、次々と明かされるどろどろの人間関係ばかり。
 高校生かと疑いたくなる。たまに見る昼ドラの方がましに見える内容。
 余りに酷すぎて、陣野さんに報告するべきではないと判断しかねるレベルだ。
 この混沌とした人間関係を持った六人が同時に行方不明…探偵としての勘が告げる。
 俺一人じゃあ到底できない、大きな何かが絡んでいる事件かもしれない。
 だが、それでも諦めるつもりはない。依頼を完遂するのが、俺の拘りだからな。



「こんな中年を誘って、やることが殺し合いのVRゲームってなんだよ。」

 暗い教会の長椅子に座り込み、今の状況をごちる中年の男性。
 ベージュのコートとハットは、ステレオタイプの探偵の姿だ。
 事実、彼こと青山征三郎は少しは名の知れた私立探偵をやっている。
 数々の事件を解決した名探偵…と言う輝かしい結果は特にはなく、
 日々迷子のペットを探すしているのが、彼の探偵家業の日常になる。
 もっとも、別に青山はありふれた依頼に不満があるわけではない。
 誰かが悲しむようなことは避けたい。それは人でなくても同じ。
 ペットにだって、家族であることに変わりはしないのだから。
 手を抜いたりすることなんてせず、全力で取り組んでいる。
 殺人事件も、起きない方がいいとさえ思っているほどだ。
 この間の高校生による殺人事件の新聞を見たときも、
 『なんでしちまうかねぇ』と事務所で嘆いていたぐらいに。

 ふざけてるようにも思えたが、これまた勘が告げていた。
 難事件どころの騒ぎではない、とても危険な状況だと。
 VRゲームをやれるような環境はあの事務所にはない。
 では此処は何処か。今本来の肉体は何処にあるのか。
 分からないことだらけで、それ故に嫌な予感がしていた。
 これは言葉通りの殺し合いで、此処で死ぬのはリアルの死を意味する。
 真に受けてないかのようなごちり方こそしてはいるものの、
 探偵らしく、人探し等を重点的にしたステータス設定をしていた。
 殺し合いにはまず不向きなのだが、人を悲しませたくない青山にとって、
 殺しの技術を高めること自体が間違いであり、
 ある意味STR:Eは彼の信条の表れだ。

「しかし便利だなぁ。」

 メニューを試しに開いてみようとすると、
 さもそれが当然かのようにメニューが浮かぶ。
 半透明なので、視界を塞ぐことがない実に親切設計仕様。
 本当に手足とそう変わらない操作で動かせるとは思わなかった。
 無茶苦茶なことをやってくるだけあって、技術力も無茶苦茶らしい。
 これほどの技術なら、有意義なことに使ってやりなよと肩をすくめる。
 メールを一瞥したものの、内容は彼には殆ど関係ないので、すぐにメンバーを開く。
 探偵の能力にしたのは、何も殺し合いを忌避すると言うだけではなかった。
 ひょっとして、万が一。自分が未だ解決できない六人の行方不明者。
 あれに繋がってるのかもしれないと言う、一抹の望みを賭けたからだ。
 大きな何かが絡んでいる、もしかしてこれなのではと。

「おいおい、まじかよ。」

 その予想は的中。
 陣野優美、陣野愛美、郷田薫。
 行方不明とされていた六人のうち、半数が此処にいるではないか。
 残りの半数がいないのは気掛かりだが、初めて状況が進展した。
 同時に、その捜索中に関わった高井丈美の名前も憶えがある。
 事件の糸口が掴めるかもしれない可能性が出た一方で、
 同時にこんな形でしか手掛かりが掴めないのも複雑な心境だ。

「なんて連中まで呼んでるんだよ、あいつは。」

 同時に、有名人も多数。
 ハッピー・ステップ・ファイブを筆頭としたアイドル、
 ニュースに出た犯罪者の笠子や焔花も大概ではあるのだが、
 よもや死刑囚である桐本四郎まで呼ばれてるではないか。
 シェリンは殺し合いを円滑にしたいことが伺える面子で、
 一筋縄ではいかない難事件だと彼は再認識する。
 (一応、焔花は殺人を一度もしてないのだが)

「早速使ってみるかね。」

 メニューを閉じて試しに念じてみると、
 一気に矢印と対象の名前が複数浮かび上がる。
 彼が得たスキル【人探し】は顔と名前の二つが分かれば、
 対象がどの方向にいるのかが把握できるようになるスキルだ。

「…教師もいたのか。」


170 : ◆EPyDv9DKJs :2020/09/22(火) 17:35:20 Pa9YRsnE0
 白井杏子。行方不明となった六人の男女の捜索の際に、
 聞き込みをしたときに名前を知った人物も出てきた。
 リストにその名前はなかったが、名前を変えたのだろう。
 この中には明らかに変えたような名前も何人かいるから、
 あり得ない話ではない。

 それよりもだ。ざっとメンバーを見た結果、
 参加者の三割程人覚えのある人物がいる。
 するとどうなるか。

(み、みづれぇ…)

 矢印も名前も重なって、誰が何処にいるのか大変分かりにくい。
 視界を覆う程致命的ではないが、正直見づらいことこの上なかった。
 スキルのランクが高くない結果か、大変扱いにくさが出ている。
 名前も重なってるし、近くに行かなければ大体の方角も分からない。
 ついでに距離も分からない。東端の教会故に東にはいないことぐらいか。

「ま、探偵には関係のないことだな。」

 探偵とは、常に足を使って調査していくもの。
 地道な調査や追跡が結果を出してくれる、身体が資本の仕事。
 青山はそれを理解しており、状況の把握を終えれば早速動き出す。
 優先順位をつけるのは申し訳ないが、まずは陣野姉妹の保護を優先とする。
 依頼を持ち込んだのは二人の家族と言う理由と、やはり行方不明の女子高生。
 彼女達の今がどうなってるのか心配でもあり、教会の扉を開けいざ出発。

「あ。」

 開けた瞬間、さっそくエンカウント。
 勢いよく開けてみれば、目の前に一人の青年が立つ。
 十代中頃か。年が離れてるので一概には言えないが、
 自分よりも端正な顔つきをしていることが伺える。
 端正な顔のおかげで、黒い鎧も様になっている恰好だ。




 VRゲームなんてやっていたっけ。
 記憶が曖昧になる程にトラウマなのか。
 本当に好きだったんだと、今ならわかるよ…時雨。
 だから【真実の瞳】を得た。もう、あんなことないように。
 ゲームでそんなリアルのことを考えてスキル作るやついるのかよ。
 なんてクラスメイトに言われるかもしれないが、俺は冷静かと言われると別だ。
 あんなことがあって、落ち着いていられるわけがないのだから。
 だからキャラメイクは真面目に、ガチのロールプレイ感覚で決めた。
 でも、今はゲームをするような気分ではないし早々にログアウトしたかったが、
 ログアウトができないことに気付いて、ようやくこれが現実だと認識できた。
 殺し合い…殺し殺された事件が身近にあったから、正直今は考えたくないことだ。
 アイテムにあった鎧だけでも装備して、近くにあった教会へと駆け込もうとしたら、
 開ける前に参加した人に出会って、俺は固まってしまう。
 今度は俺が時雨と同じ立場になるのか…なんて思ったけど───

「…此処に懺悔を聞いてくれる神父様はいないぜ、少年。」

 どこか、思いつめたような顔つきである様子。
 此処は所謂回復や休憩ポイントと言った位置づけの物。
 だが、彼が求めているのは『ゲーム』における回復ではないだろう。
 【観察眼】のスキルもあるが、探偵として培ってきた観察眼もある。

「そう、ですか…」

「…俺でよければ聞くが、いるか?
 おじさんはこれでも探偵だからな。
 少しぐらいは話を聞く能力はあると思うぞ。
 まあ、ちょいと人探しの都合で歩きながらになるが。」

「え? 貴方も探偵なんですか?」

「ん?」



 青年、切間恭一は青山について行く形で、身の上話を始める。
 面識はないのだが、いくつか事件を解決したとされる、
 頭脳明晰な高校生としてその名を聞き及んでおり、関心を抱く。

「どこぞの探偵漫画の主人公のように、
 平成…いや今は令和か。令和のホームズにでもなれそうだな。」

 自分と違って随分派手な経歴をお持ちのようで。
 なんて皮肉に感じるが、彼としては純粋な誉め言葉だ。
 そこに他意はないものの、

「…残念ながら、俺は主人公と言える柄じゃあないですよ。」

 元々憔悴してた表情は、余計に影を落とす。
 地雷を踏んでしまったかと帽子に手をかけた。
 言葉通り神父の代わりに、青山は彼の懺悔を聞き届ける。
 確かに彼は漫画の探偵のように、いくつか事件を解決した高校生だ。
 だが、ある殺人事件は自分が好意を抱いていた親友『綾辻時雨』が犯人であり、
 彼が関わった事件を繋ぎ合わせた、推理を間近で聞いた彼女だから可能なトリック。
 披露した推理は彼女が殺人のために流用された、復讐のためのパズルのピースになった。
 葛藤の末に、自分の推理によって彼女の逮捕に至ったが、その時の姿は今でも忘れられない。

『ごめんなさい。貴方を利用して…貴方の推理までも汚して。』


171 : ◆EPyDv9DKJs :2020/09/22(火) 17:35:46 Pa9YRsnE0
 相手は父の仇。殺した後悔はなく、
 あるのは恭一を利用したことへの懺悔のみ。
 親友に殺人の実行を後押ししたのは、外ならぬ自分の推理なのだと。

「あの事件にはそんな裏があったのか…悪いな。
 事情を知らなかったとはいえ、傷口を抉るようなことして。」

 先日のニュースにあった女子高生の殺人事件。
 それが、まさかその親友だとは思わなかった。
 好意を抱いた親友は、自分の推理を利用してのトリック。
 それで持ち上げられてたとしても、複雑な心境だろう。

「いえ、いいんです。ある意味、これが俺の罪なので。」

 何もしてやれなかった、気づけなかった。
 華麗に推理をする高校生探偵だとか、我が校の誇りだとか。
 色んな人にそんな賞賛をされたが、そんな風には思えない。
 親友の内心を推理できなかった自分の、どこが名探偵なのか。
 本来は明るかった性格が、暗くなってしまうほどに堪えていた。

「…切間。お前、包丁で殺人があったとして、
 犯人に包丁を売った店主を責める奴をどう思う。」

 そんな彼を見て、青山から突然の質問。
 一瞬疑問に思ったが、意図は理解できた。

「間違ってます。」

 当然答えは間違ってる。
 血管でもない車で人を轢いて、製造会社を責めるわけがない。
 責があるとするなら、そんなことをした本人にあるだろう。
 間違ってると否定すれば殺しのトリックの発端は自分の推理だが、
 トリックを使ったのは考えた時雨の方…だから気負う必要はないと。

「銃の引き金は引いてない…引いちゃあいないんだ。彼女もそう思ってるさ。」

 でなければ、謝罪なんてしない。
 後悔の表情なんてするわけがないと。

「けど、俺のは割り切れません。」

 後悔は、今もゆっくりと積もっている。
 真実に辿り着いた時、信じたくなかった。
 自分の好きな人が殺人を犯したなんて事実を。
 だから、どこか推理に穴があったのではないか。
 試験問題とは比にならない程に何度も考え直して。
 けれど、追求するほどに彼女以外にありえなくなる。
 恭一の推理を間近で見た時雨にしかできないトリック。
 自分にしか立証できず、自分だけが彼女を捕まえられた。
 赤の他人なら別だが、恋慕していた親友なのだから尚更だ。

「…んー、説教臭いのは好きじゃあないんだがな。
 確かにお前の推理は、人を殺す凶器になってしまった。
 けど、それは人を殺すために推理したんじゃあないだろ?
 お前のおかげで助かった、救われた人もいるのを忘れるな。」

 青山の言う通りだ。
 最初は今と違って性格はお調子者で、
 軽々しく事件に突っかかった気はする。
 不純だったのは事実だが、彼は正義感も強い人間だ。
 だから放っておけなかった…ある意味根幹は彼と同じになる。
 人を悲しませないために推理する。それが彼の探偵としての拘り。

「…ありがとうございます。」

 この気持ちは一生背負うだろう。
 一生言えることもない深い傷跡。
 しかし、自分の推理は間違いではない。
 その事実に少しだけ気分が軽くなった気がする。

「そっか。」

 これ以上は何も言わんでおくよ。
 肩にポンと手を置いて、青山は彼女のことの話をしなかった。
 と言うより、これ以上は言えることはないとも言えるのだが。
 後は本人の気持ち次第なのだから。

「ところで、誰を探してるんですか?」

「此処に来る前に依頼で捜索してた子がいるんだ。
 俺のスキルで居場所は分かってるが…一緒に来るか?」

「足手まといでなければ、同行させてください。」

 影を落としてはいるが、根は善人。
 誰かの助けとなるなら、力になりたい。
 シンプルな即答に青山は笑みを浮かべた。

「で、その鎧なんだ? なんか昔やったゲームの暗黒騎士みたいなんだが。」

「これですか? 支給されたアイテムにありました。」

「武器以外もあるのかよ…ちょいと見てみるかな。」

 New Worldにて邂逅した二人の探偵。
 力が罷り通る世界で、彼らの頭脳や足は何を齎すか。
 今言えるのは一つ、PrivateEyeは真実を探す。
 それだけだ。


172 : ◆EPyDv9DKJs :2020/09/22(火) 17:38:13 Pa9YRsnE0
[F-8/教会周辺/深夜]
[青山 征三郎]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:通常
[アイテム]:支給アイテム×3(未確認)
[GP]:10pt(キャンペーンで+10)
[プロセス]
基本行動方針:探偵が殺し合いなんてしないさ。
1:参加者の保護。優先は陣野姉妹>郷田含む【人探し】の対象>犯罪者
※【人探し:B】によって対象の名前と現在位置の方角だけ把握してます
 対象:切間、アイドル・犯罪者などの有名人、依頼の対象三名、調査で関わった高井、白井
 高井と同じ学校の登勇太、有馬良子、馬場堅介、枝島トオルも対象かもしれません。
 (これらの人物について対象かどうかは後続にお任せします)
 向かった方角、死者もこのスキルの対象か、どちらの陣野を探すかは後続にお任せします

[切間 恭一]
[パラメータ]:STR:C VIT:C→B(エル・メルティの鎧で上昇) AGI:C DEX:C LUK:A
[ステータス]:精神耐性上昇
[アイテム]:エル・メルティの鎧(E)、支給アイテム×2(確認済み)
[GP]:10pt(キャンペーンで+10)
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。
1:青山さんに同行。
2:少しだけ、前に進めた気がする。
※【真実の瞳:A】を使用した相手はまだいません。

【エル・メルティの鎧】
魔王カルザ・カルマの部下エル・メルティが装備してた漆黒の鎧。兜はセットではない。
装備対象のVITを一段階上昇させ、精神干渉に関する干渉を防ぎやすくなる。
本来の鎧にこのような耐性はないが、彼女と相対した勇者が異常すぎたせいか、
当人の精神が、愛用された鎧にも定着したのかもしれない。


173 : ◆EPyDv9DKJs :2020/09/22(火) 17:38:44 Pa9YRsnE0
以上で『二人のP/信じあう力はいつか』投下終了です


174 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:46:37 MRIdLWmg0
両氏とも投下乙でした

>>TAXI DRIVER ◆A3H952TnBk
いきなりおっぱじめててビックリした
一人が誘惑しその隙に制圧する凶悪なコンビが誕生しましたね
このカップルがゲームをどこまでかき乱すのか

>>『二人のP/信じあう力はいつか』◆EPyDv9DKJs
青山さん、なんという頼りがいのある大人
大人と子供であれ探偵同士といういい師弟関係が築けてますね
このロワ頭脳派が少なそうなのでこの二人の活躍には期待せざるおえない

それでは私も投下します


175 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:48:00 MRIdLWmg0
一人の少年が夜に舞っていた。

夜の草原に三日月が描れる。
それは月光を照り返しながら弧を描く少年の足先であった。
風が吹き抜け波立つように草葉が揺れる。

舞うが如き華麗さは武と言うよりも舞。
それは少年――――大和正義の行う演武であった。

だが、これ程までに華麗な演武も見守るのは風と月のみである。
これは誰に見せるための物ではなく、体に染み込んだ動きを反復するためだけの物であった。
常との差異を、こうして実際に体を動かすことで確かめているのだ。

「フゥ――――――ッ」

肺の中身を全て出すように大きく息を吐く。
最後に放った正拳を静かに収め動きを止める。
そして誰もいない正面に静かに一礼し、演武を終える。

結論として、体の動作に何の違和感も感じなかった。

そう。筋力、反応、柔軟性、可動域。
その全てが違うにも拘らず、だ。

自分であるのに自分でない。
何とも不気味な感覚である。

恐らく大半の参加者は違和感すら感じないだろう。
それに気付けたのはスキルとして得た『観察眼』故か、それとも生身の扱いに慣れているからこそか。

ここまで違うとなると違和感を感じない事に違和感を感じる。
この違和感にならぬ違和感、早めに調整しておかねば致命傷になりかねない。

確認した限り、外見はすべて同じだった、古傷すらある。
だが、本当にこれは自分の体ではないのだと理解する。
あの作成したアバターに従って作り替えられたのだ。

状況の何もかもを受け入れた訳ではないが、人知を超えた異常事態である事だけは理解した。
だが、そういった物に巻き込まれたと正しく理解しながら、彼の精神は平静を保っていた。


176 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:49:12 MRIdLWmg0
ただあるのはふつふつと沸き上がる怒りのような感情。
彼の心は激しい義憤に燃えていた。
その炎は青く冷静に心に燃え広がってゆくが、幼少より鍛え上げた『明鏡止水』の心はその炎に飲み込まれることもない。

正しき怒りと、静かな水面の様な冷静さ。
これこそが大和正義を形なす根幹である。

だが奥底の冷静な自分が問いかける。
この怒りの矛先は果たして、どこに向けるべきものなのか?

怒りを向けるべきはシェリンか?
いや、そうではない。彼女はただの案内役だ。
黒幕はその奥底、いまだ影すら見えない所にいる。
そもそも何者なのかすら分からない。

怒りの炎は絶やすべきではないが、今はそんな相手に怒りを向けても無意味だろう。
まず目を向けるべきは目の前の事である。
さしあたっての行動方針を決めねばなるまい。

殺し合いになんて当然乗る気はない。
乗らずにどうしたらいいのか、なんて事は分からないが、自らに恥じる行いなど出来るはずもない。

弱きを助け、強きを挫く。
やる事なんて変わらない。
そもそも変えられるほど器用ではないのだから。

そうと決まれば、まずは支給品とメールの内容についてだ。
支給品はアンプルのセットと薬のセットにスーツが一つ。武器の類はなかった。
出来れば剣があれば心強かったのだが、無手の心得もある。
なにより自衛のためとはいえ殺傷能力の高い武器を持つと言うのは万が一の事があるかもしれない。
むしろ幸運だったと考えるべきか。

ひとまずシステムの確認を兼ねて、支給されたアイテムをショートカットに設定しておく。
習うより慣れろだ。何事も使ってみなければ慣れないだろう。
こういったものになれていないからこそ積極的に利用していく。
尤も、殺し合いのために用意されたシステムなど余り慣れたいものではないが。

届いていたメールは二通。
ゲームの開始を歓迎するものと、早めに殺せば得をするなどという内容だった。
こんなものに乗せられる人間がいるとは考えたくはないが、送り付けた相手の悪意に吐き気がする。
メール一つで人殺しをさせようなどと、余りにもふざけている。

いや、ふざけているというのならこの催し自体がふざけている。
殺し合いをさせるにしても、余りにも全てが軽すぎる。
本当に遊びのようである。

どういう意図があると言うのか?
考えたところで答えは出なかった。


177 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:49:36 MRIdLWmg0
名簿は既に確認済みである。
そこで得たのは40人もの人間が巻き込まれたのだという事実と、幾つか見つけた知り合いの名である。

25.大日輪 太陽
30.出多方 秀才
同じ学園の生徒会長と副会長である。
どちらも人間的に素晴らしい方々で信用できる人間だ。
頼りになる二人がいるとうのは心強い。

26.大日輪 月乃
会長の妹さんだったか。
直接の面識はないが、会長の口からよく話題に上るため、会った事がないという気がしない。
何でも世界一かわいいアイドルだとかなんとか。

31.天空慈 我道
昔世話になっていた道場の師範代である。
強さのみを追求した余りにも礼を排した教育方針に本家が苦言を呈した結果、8歳で別流派に転向させられたのだが。
去年16になり出場資格を得て、初めて参加した空手の全日本で再会した。
結果として試合に勝ったが勝負に負けた。空手の試合であるからと言って投げ技や極め技、倒れてからの追撃に警戒を怠った正義の未熟である。

37.美空 善子
昔馴染みの少女だ。
最近彼女を思い出すことが増えたが、まさかこんな形で再会することになるとは。
正義は余りテレビやネットを見る方ではないが、街中の広告などで彼女に似た少女が姿を見かけることが増えた。
正義にしては本当に珍しいことにアイドルの名前まで調べた、結局名前が違ったので本人ではないと認識しているのだが。
その活躍に励まされると同時に、元気だった少女の姿を回想していた。

少なくとも正義の認識では、彼らは全員信用できる相手である。
何をなすにしても合流を目指すべきだろう。
自分ひとりでは出来ないことも、仲間がいれば出来るはずだ。
そう信じている。

ひとまず現状確認と行動方針の確定を終えた正義は行動を始めた。
マップを視界に表示して現在位置を確認する。
どうやらここは中央エリアの北西あたりのようである。

まずは市街地を目指すべきか。
月明かりを頼りに移動を開始する。
灯りを灯して自らの位置を示すような真似をするわけにいかず、暗いままの夜の草原を進んでゆく。
見通しがいいとまでは言わないが夜目は移動には困らない程度には効くようだ。
それは正義がと言うより、このアバター全体の基本能力なのだろう。

周囲の警戒を怠らず、湿地帯近くへと差し掛かった、その途中だった。
そこにその人影は在った。

月明かりが照らすのは小さなシルエットだった。
身長からして年端もいかぬ子供であろう。

一歩近づく。
影のベールが月に剥がされ、それが少女であると見て取れた。
少女は呆と、光のない目を見開いて虚空を見上げていた。

この肉体は仮初の肉体であり、アバターの設定時にそれを変更できるのは、既に説明されており正義もそれは理解している。
だがゲームに不慣れな正義は、それを身を飾る装飾程度の物だろうとしか考えておらず、男性がわざわざ女性になったり、成人が童子になるという発想がなかった。

故に、茫然自失と言った風に立ち尽くす幼い少女を見た目通りに捕えた。
相手も参加者である以上不用意な接触は危険であると理解はしていても。
こんな所に幼女を一人放っておくなどと言う選択肢を選べる男ではない。


178 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:50:18 MRIdLWmg0
「キミ、大丈夫かい?」

近づきながら声をかける。
敵意のなさを示すように両手を上げ、出来る限り怯えさせないよう優しい声で、

だが少女に反応はない。
聞こえていないのか、空に視線を漂わせたまま微動だにしない。

「おーい、本当に大丈夫かい?」

少し強く声をかけた。
それでようやく気付いたのか、少女の視線が空から落ちる。
ゆっくりと、その瞳が正義を囚えた。

「ッ!?」

意味もなく、寒気がした。
夜よりも深い、光なき瞳。
まるで底の見えない深淵のよう。
ここで揺れ動くことなく冷静でいられたのは、明鏡止水の精神の賜物か。

色のない瞳。
しばらく無言のまま正義を眺めた後、無表情のまま幼女が口を開く。

「ほぅ。これは驚きである。我を見るか。
 塵芥が如きに認識されるなど、幾万、否、幾億年ぶりの事か」

呟くように述べて、そこで幼女は何かに気づいたのか、む、と声をあげ自らの体を顧みた。

「なるほど、どうりで違和感があるはずだ。明確な形を持つなど初めての事、新鮮ではある。
 歪めた肉を造るのではなく魂を歪め肉を従わせるとは愉快な事をする、どれ」

そう言って幼女は自分のしっぽを追いかける犬の様にくるくるとその場で回り始めた。

「えっと……」

突然の奇行。
これにはさすがの正義も戸惑う。
少女の言動はどれもこれもが彼の理解の外である。

ともあれ、少なくとも少女にこちらに対する敵意がないことだけは見て取れた。
そもそも敵意どころか、興味すらなさそうだが。

「とりあえず名乗っておこうか。俺は大和正義。
 キミの名前を聞いてもいいかな?」

くるくる回り続ける少女に人間関係の基本として名乗りから始めて見た。
少女は回っていた動きを止め無表情のまま正義を見た。

「我の名を問うか、小さきモノよ」
「いや、君の方が小さいと思うけど」
「なるほど。塵芥の尺度をもってすればそう言う見方もあるのか」

馬鹿にするでもなく本当に関心した風に少女は頷いた。
幼い外見に見合わぬ老人の様な仕草だった。


179 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:51:11 MRIdLWmg0
「……その塵芥っていうのやめてくれないか。
 さっきも名乗ったと思うが俺の名は大和正義だ。大和でも正義でもいいからそっちで読んでくれないか?」
「ほぅ。この我に塵芥の一粒を認識しろと申すか。何という傲慢か、面白い」

無表情のままククと喉を鳴らした。
まるで愉快そうには見えないが初めての感情らしき反応である。

「まあよい、全ては些事である。我が名は―――◆△◆△〇■◎〇■◎〇■◎◇である」
「ッ!?」

その名は福音の様なノイズとなって正義に届いた。
正義が咄嗟に頭を抱える。
理解できない。
それは人の理解できる音ではなかった。

その様子を見て、こちらが理解できていないことを理解したのか、
落胆するでもなく少女は当然の様に頷くと。

「然もありなん。声などと言う低級な意思疎通方法では我が名は表せぬか。不便な事よ」

だからといって別段分かりやすく伝える努力などするつもりはないのか。
名乗りは終えたと言った風に幼女は再び呆と視線を辺りに漂わせた。

少女がこの態度となると後は聞いた側の問題であるようだ。
正義は先ほど頭に叩き込んだ名簿の名前を思い返した。
彼女が参加者である以上その中に名前があるはずだ。

「……………ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ」

その名が口を付く。
名簿の最後に記された最も目につく名。
外国語を無理やりカタカナに変換したようなものだが、あの異様な音源に一番近しい名がこれだった。

「なんだそれは?」
「キミの名前だと思うんだけど」
「そうなのか?」
「多分ね」

変な会話だった。
言われ、少女は自らの名がそう言うものであると受け入れたのか僅かに頷く。

「なるほど。まあよかろう。名など些事。どのような物であれ我が在り方は変わらぬ」

別段これと言った感想はないのかこれまでと変わらぬ無味乾燥な反応だった。
少なくとも嫌がってはいないようである。

「なんと呼べばいいかな?」

さすがにこの長い名前をそのまま呼ぶのは躊躇われる。
何か適当な渾名なり呼び名が欲しい所だが。

「構わぬ、好きに呼ぶが良い。言ったでろう些事であると。
 それとも我が名一つで在り方が変わる程脆弱な存在とでも思うたか?」

寛大なのか、興味がないだけなのか判断のつかない態度で少女は言う。
判断を投げられ、正義は少しだけ考えた後、一番特徴的なところを抜き出しこう決めた。


180 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:52:04 MRIdLWmg0
「じゃあロレちゃんで」
「ロレチャン。よかろう些事である」

承認を得られ呼び名が決まった。
なんだかんだ言って、全然否定しないなこの子。

「それでロレちゃん。一つ提案なんだが、俺と一緒に行動しないか?
 ここに一人でいるは危険だ。いつ誰に襲われるとも分からない。
 頼りになるかは分からないが俺なら君を守ってあげられると思うんだけど」

観察眼を発揮するまでもなく、ここまでのやり取りで目の前の幼女がただならぬ存在である事は見て取れた。
だからと言ってそれが彼女を放置していい理由にはならない。
放っておけば永遠にこの場で突っ立っている気配すらある。
少なくともこちらに対する敵意はない、そんな相手を危険な場所に放置しておくなど正義に出来るはずもない。

「――――――――」

この提案に返ったのは沈黙。
値踏みでもしているのか。
静かに全てを呑み込むような瞳で正義の姿を見つる。

「生も死も全ては些事。個の死など鑑みるにも値せぬ」

紡がれる言葉にはどこか隔絶した価値観が含まれていた。
ともすれば、自らの死にすら興味を持っていなさそうである。
ここで死んでもいいと言うのか。
正義が思わずそう感情に任せて問い返そうとした。
だが、それより早く少女は続ける。

「故に、生を選ぶもまた些事。よかろう、此度はそうしてみるか」

そう言って、その場から一歩も動かなかった幼女が一歩踏み出した。

「えっと……つまり?」

余りのも遠回りな言い回しに思わず問い返す。
正義の足元まで近寄ってきた幼女は、視線を合わせるでもなく明後日の方に向いたまま片腕を上げた。

「我を守ると言うのなら守るが良い。我は関せぬ、己が為したきを為すが良いヤマトマサヨシよ」
「了解した。ありがとう」

その手を取る。
そこには確かな温かさがあった。
作り物とは思えない、人の温かさが。

「じゃあ、行こう。ロレちゃん」

その手を引いて幼子に合わせた歩幅で歩く
幼子は特に抵抗するでもなく、そのまま正義の後に続いた。

少年と幼女が手を取り合って夜の草原を進んでゆく。
手を引かれながら、幼女の姿をした超越者はこう思う。



「全ては些事である」


181 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:53:09 MRIdLWmg0
[C-4/湿地帯近くの草原/1日目・深夜]
[大和 正義]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:アンプルセット(STRUP×1、VITUP×1、AGIUP×1、DEXUP×1、LUKUP×1、ALLUP×1)、薬セット(回復薬×3、万能薬×3、秘薬×1)、万能スーツ(E)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:正義を貫く
1.ロレちゃんと行動を共にする
2.知り合いと合流したい
3.なんとか殺し合いを打開したい

[ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3(未確認)
[GP]:290pt
[プロセス]:全ては些事

【アンプルセット】
STRUP:一時的(2時間)にSTRを1ランク向上させる(上限Aランクまで)
VITUP:一時的(2時間)にVITを1ランク向上させる(上限Aランクまで)
AGIUP:一時的(2時間)にAGIを1ランク向上させる(上限Aランクまで)
DEXUP:一時的(2時間)にDEXを1ランク向上させる(上限Aランクまで)
LUKUP:一時的(2時間)にLUKを1ランク向上させる(上限Aランクまで)
ALLUP:一時的(2時間)に全てのステータスを1ランク向上させる(上限なし)

【薬セット】
回復薬:ダメージをある程度回復する
万能薬:全ての状態異常を回復する
秘薬:ダメージと状態異常を完全回復する。また部位欠損も回復する

【万能スーツ】
極寒、灼熱などの地形効果に対応する。
攻撃ダメージの軽減効果などはない。


182 : 全ては些事 ◆H3bky6/SCY :2020/09/22(火) 18:53:20 MRIdLWmg0
投下終了です


183 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/22(火) 21:46:19 f30XQH420
投下します。


184 : 教導者 ◆ylcjBnZZno :2020/09/22(火) 21:52:15 f30XQH420
純白の道着が闇夜に踊る。


――前方に中段掻き分け、中断を蹴り、三本連突き。

――掌底にて敵の突きを受ける。

――下段交差受けにて敵の蹴りを潰し、顔面に裏拳突きを入れる。

――落し受けにて敵の中段突きを叩き落とす。

――敵の手を掴み、掴んだ手を引きつけながら敵の喉を突く。


日本空手道連盟第一指定形が一つ『慈恩』
ここに成れり。


◆◆◆


天空慈 我道は表演を終え一息つく。
「なぁるほど。確かにそんなに大差はねえやな」

『慈恩』は空手の基本となる動きが多い。故に、基本に立ち返りたいときに行う空手家は多く、天空慈もその一人であった。
体操、柔軟運動、立ち基本、移動基本、そして形。空手の練習のとき、ウォーミングアップも兼ねて行う基本動作の確認を、VR空間であるここ『New World』でも変わらず行っていたのである。
「空手は喧嘩に使えてナンボ」という信念を掲げる超実戦空手流派『無空流』
道場内での組手稽古はおろか、流派を超えた大会に於いても常識や規則を飛び越えた破天荒な技を使うことで悪名高く、敗因における反則負けの割合が異様に高い。
その流派で師範代を務めるこの男。「基本が盤石であるからこそ応用が活きる」と考えており、意外にも基本を大事にするのだ。


そんな天空慈の日常は、こちらを一方的に勇者呼ばわりする自称AIに破壊された。
うにゃうにゃと並べ立てられる御託は聞き流していてほとんど頭に入っていない。だが、ここで死ねば本当に死ぬということ、その上で自分たちはこれから、どこぞのB級映画のような殺し合いをさせられるのだということはしっかりと理解できた。
アバターやらパラメータやらスキルやらも大して理解はしておらず、『VR』という単語にもAVくらいでしか接したことのない天空慈ではあったが、少なくとも身体感覚が平時とは異なるものになる可能性があることもしっかりと理解できた。
となれば為すべきことは一つと、何よりも先に基本稽古を行い、この世界における自分の動きを確かめたのだ
結果はまずまずといったところ。突きは少し軽いが打点の正確さは現実の身体よりも上だ。喧嘩に差し障ることはないだろう。


185 : 教導者 ◆ylcjBnZZno :2020/09/22(火) 21:53:56 f30XQH420
「ほぉ。こりゃ便利だ」
続いてメニューを確認する。指で指し示したりする必要もなく、考えただけでカーソルが動くことに感心しながら「新着2件」のマークがついている[[メール]]を開く。


■[キャンペーン]Welcome to『New World』!!
『New World』へようこそ!
我々は心からあなたを歓迎いたします。
心行くまで『New World』をお楽しみください!!
記念として私たちからの心ばかりの特典をお送りします。
>このメールを開いた全員にGP10ptが付与されます。

■[イベント]スタートダッシュボーナス
『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。
スタートダッシュボーナスを実施します。
開始から2時間は撃破ポイントがなんと3倍!
この2時間で沢山の勇者を殺害してライバルに差をつけろ!


ポップなデザインのメールに目を通すと、どうやらGPなるものがもらえたらしい。
よくわからないのでヘルプを開くとゲーム内通貨のようなものであることがわかる。
主に他の参加者を殺害することでもらえるようで、2通目のメールはそれを促進するのが狙いであるようだ。
おそらく他の勇者とやらの中にはこの甘言に乗せられて序盤から積極的に他者を害さんとする者もいるのだろう。というより、俺のような荒くれが呼ばれている辺りそういう人間を多く選んでこのゲームに参加させているのかもしれない、とも考える。

[[アイテム]]を確認すると「カランビットナイフ」「魔術石」「耐火のアンクレット」の三つが記載されていた。一通り取り出し検分して、役に立ちそうにはないと判断してさっさと戻していく。


186 : 教導者 ◆ylcjBnZZno :2020/09/22(火) 21:56:05 f30XQH420
「なぁんで、正義と善子がいるんだよ…!?」
元門下生であり武術に関わる者たちの間では有名人になりつつある大和 正義。
門下生でありながらアイドルの道に入り、暫定ではあるがその頂点に立っている美空 善子。
他にもオリコンランキングのTOP3を独占して話題になったアイドル・大日輪 月乃。
戦国時代と言われるアイドルシーンにおいて実力派として頭角を現しているHSF(ハッピー・ステップ・ファイブ)の面々や去年発生した集団失踪事件の被害者の名前まである。
当初はこうした戦場で嬉々として戦いに臨む武辺者たちが集められているのかと思っていた。
しかしどうやらこの催しを企てた者は外道の類であるようだ。

「ちぃとばかし…胸糞が悪ぃ話じゃねぇか。なあおい…」
天空慈は喧嘩が好きだ。
拳を合わせ、蹴りを交わし、投げを打ち、時には噛みつき、目つぶし、金的も使い己の敵を暴力によって蹂躙する。この快感に取りつかれた人間は無空流に限らず星の数ほど存在する。
しかしそれは対等な覚悟を持つ者同士だから成立する闘争なのだ。
闘士でもない未成年を問答無用で闘争に放り込み、臆面もなく楽しめなどとのたまう主催者に対し、天空慈は少なからず不快感を覚えたのだ。

「いよぉし。決めたぜ。」
天空慈の口元が歪む。
「柄じゃあねえが、悪しきを挫き弱きを救う正義の味方になってやろうじゃあないの」
気に入らない主催者はぶっ飛ばす。人を襲う輩もぶっ飛ばす。
このゲームに反抗するやつがどのくらいいるかはわからんが、とにかく集めてゲームを打破して家帰って日本酒呑んで寝る。きっと美味い酒が呑めるだろう。
「ま、具体的な方法は正義に考えさせればなんとかなるだろ」
乱暴な結論を出した天空慈は歩き出す。向かうは北西。人が集まる中央エリア。



[G-8/1日目・深夜]
[天空慈 我道]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:カランビットナイフ、魔術石、耐火のアンクレット
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:主催者を念入りに叩き潰す。
1.なるべく殺人はしない。でも面白そうなやつとは喧嘩してみたい。
2.中央エリアに向かう。
3.門下生と合流する。
4.覚悟のない者を保護する。


【カランビットナイフ】
柄がU字に湾曲した折り畳みナイフ。手に握りこんで使用する。

【魔術石】
異世界ではメジャーに使われている魔法アイテム。
あらかじめ魔法を刻印しておくことで、魔法の素養がない者でも無詠唱で魔法が使える。
使い捨て。
※刻印されている魔法が何かは後続の書き手さんにお任せします。

【耐火のアンクレット】
使用者に火や熱に対する耐性を付与するアンクレット。
安物なので、耐性としてはスプレー缶火炎放射をノーダメージでしのげる程度。


187 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/22(火) 22:45:32 f30XQH420
すみませんコピペを失敗しました。
>>185>>186の間に下記の文章が挿入されます。

早々にアイテムに興味をなくした天空慈は[[メンバー]]を確認して目を剥くこととなった。
到底本名とは思えない突飛な名前や、連続殺人事件の犯人、一度拳を交えた喧嘩士が名を連ねる名簿の中に見知った名前を見つけたのだ。


188 : 名無しさん :2020/09/22(火) 23:05:24 pcH2aYkM0
投下乙です
投下解禁日に4話も投下が来てて驚きました

>TAXI DRIVER
開幕からクズとクズの交わりから始まるの、募集段階から暗めのキャラが多かったこのロワらしいですね
最初からクライマックスの二人に未来はあるのか

>二人のP/信じあう力はいつか
酸いも甘いも?み分けた探偵と青臭い高校生探偵のタッグ誕生!
二人の探偵の行く末に期待ですね!

>全ては些事
大体オーソドックスに済ませる正義くんに
全てわかってるようで何もわかってなさそうなロレちゃんとのやり取りが微笑ましい

>教導者
支給品の確認を1行で済ませる天空慈のガサツさに笑った
果たして極めた技はこの場でも通用するのか


189 : ◆A3H952TnBk :2020/09/23(水) 18:22:19 yuw4GaIM0
投下します。


190 : さすらいの拳 ◆A3H952TnBk :2020/09/23(水) 18:22:48 yuw4GaIM0



――――最強への道。
――――それは、漢の旅路である。



B−3エリア、大砂漠。
周囲を照らすのは偽りの月明かりのみ。
日中とは真逆の冷え込んだ空気が周囲を支配する。
この夜の闇と気候に加え、砂塵が吹き荒れるという過酷な環境が繰り広げられる。
生半可な者では指針を失い、自らの進むべき方向すら分からなくなるだろう。
この果てしない空間そのものが、訪れた者への試練に他ならない。

そう、試練である。
それも悪くない、と受け入れる漢が一人。

それはある意味で、信じがたい光景である。
砂漠の行軍には不釣り合いな黒いジャージ服を身に纏った男が、大地のど真ん中で鎮座している。
どれだけ風が吹きつけようと、砂煙を叩きつけられようと、決して動じたりはしない。
いや―――それどころか、目を瞑ったまま微動だにしていないのだ。
衣服の下からでも伝わる筋骨隆々の肉体も相俟って、その姿はまるで仁王。
全身から迸る気迫を放ち、ただただ「無の境地」を突き詰めている。
これ即ち、瞑想である。
砂漠の中心で座禅を組み、精神を統一しているのだ。

これは死合、つまりデスゲームだ。
仮想空間を舞台に、たった一つの席を求めて奪い合う闘争である。
そんな状況下で、なぜ彼はこのようなことを行っているのか。
答えは単純。それこそが拳を極めるための道だからだ。
強さを渇望し、心技体を磨き上げる。
己の闘気を充実させるための瞑想は必要不可欠の工程だ。

その漢、酉糸 琲汰。
己の生き様を拳に捧げる、生粋の喧嘩士である。


191 : さすらいの拳 ◆A3H952TnBk :2020/09/23(水) 18:23:32 yuw4GaIM0
「俺を超える者と戦いに行く」。
魂の根幹と呼ぶべきその信念を胸に、彼は常に戦いの日々に明け暮れていた。
自分と同じような喧嘩士との対決は幾度となく繰り広げた。因縁と共に襲いかかってきた不良共は纏めて蹴散らした。反社会勢力の用心棒とは道端で殴り合った。地下格闘技場での乱戦にも身を投じた。山奥では羆と三日三晩に渡る死闘を行った。海では迫り来る鮫をヨット上から撃退した。警察の補導からは全速力で逃げ続けた。

彼の生活。それは闘争そのものだった。
全ては拳を極めるため。
漢の頂点、最強の座に立つため。
戦い続けることで、彼は強くなってきた。

無論、鍛錬を怠ることもしなかった―――修行と実戦こそが琲汰のサイクルである。
突きや蹴りなどの基礎的な動作を研究し続けた。新たなる強敵に備えて技――奥義・覇動昇虎拳など――を編み出してきた。精神力を鍛えるべく飲まず食わずで一日中瞑想を行った。廃車に紐を括り付けて筋力で引っ張るトレーニングも続けた。高速道路では走り屋相手に生身でデッドヒートを繰り広げた。特急電車と真正面から対峙し、寸前のところで身を躱す修行は何度もやった。警察の補導からは全速力で逃げ続けた。

決まった師を持たず、教養も持たない琲汰のスタイルは全て我流である。格闘術も鍛錬方法も、何もかも。
まさに型破り。より正確に述べるならば、常識を破っている。
只管にストイックな彼の意志は、このVR空間でも揺らぐことはなかった。

唐突に始まった殺し合い。生身の肉体を奪われ、仮のアバターで戦うことを余儀なくされた。
喧嘩士(ストリート・ファイター)ならぬ電脳喧嘩士(バーチャル・ファイター)、と云ったところか。
鍛え上げた肉体を行使できないことに琲裁は最初こそ憤ったが、いざ演舞を行ってみればなんてことなかった。普段と変わらぬ動きが問題なく出来たからだ。
腕力や脚力など、基礎能力が少しばかり抑制されている気がしないでもないが――もう少し思い切ってパラメータを割り振るべきだったか。
そんな思いが一瞬でも過ったが、つべこべは言っていられないとゲーム開始当初の琲汰は考えた。後悔、邪念は己を高める妨げになるからだ。
愚痴を零すことに意味など無い。何事も挑戦、為せば成るのだ。





192 : さすらいの拳 ◆A3H952TnBk :2020/09/23(水) 18:24:07 yuw4GaIM0



瞑想を始める前、琲汰は支給品の確認を行った。
興味深い代物は「スイムゴーグル」なるアイテム。
このゴーグルを身に着けている間は水泳や潜水の能力が大幅に向上し、更に強い海流の抵抗を受けずに泳ぐことが出来るらしい。
普段ならば「この肉体があれば十分」と考えるだろうが、この未知数の状況で備えは大事だ。必要ならば海を泳いで移動することも考えようと琲汰は当たり前のように考えた。

そして彼は思考からメニューを開き名簿を確認した。
そこで見つけた名―――思わぬ僥倖だと琲汰は驚いた。
天空慈 我道。かつて道端で琲汰と拳を交え、しかし決着付かずのままだった男。
空手は実戦に使えてこそ。そんな理念を掲げる超実戦空手流派『無空流』の師範代である。
向こうはあくまで「暇潰しの喧嘩」といった風ではあったものの、あの一件で琲汰は我道に興味を抱いたのだ。
そもそも決着がお預けになったのは琲汰が派手に暴れすぎて近隣住民からの通報を食らったせいだが、そんな事情を彼は省みない。
この地にあの男が呼ばれたのもまた宿命か、と琲汰は考えた。
必ず決着を付けねばと、そう決意を固める。

それに、どうやら大和 正義なる青年もこの地にいるようだ―――昨年の全日本選手権は観させてもらったが、中々に見所のある若武者。
腕前も然ることながら、あの精悍な眼差しを気に入った。
我道の元門下生という話も聞いている。今はまだ素人(アマチュア)に過ぎずとも、更なる鍛錬を重ねれば大成するであろう器の持ち主と琲汰は直感した。
出来る事ならば彼が成熟してから拳を交えたいものだったが、これもまた修羅の宿命か。
美空 善子という名も聞いたことがあった。確か我道の門下生だったか。
どれほどの腕前を持つかは未だ把握していないものの、叶うならば一目会ってみたいものだと考える。

犯罪者やアイドルなどの名前が並んでいることには一切気づかない。彼は己の好奇心を唆られないあらゆる事柄に無知である。「我道の門下生・美空 善子」は知っていても「アイドル・美空 ひかり」など全く知らないし、アメリカ合衆国の現大統領が誰なのかさえ彼はよく分かっていない。
強さを求めるあまり世俗的な観念はほぼ放棄しているのだ。生活においても野宿やサバイバルは当たり前、どうしても金が必要ならば闇格闘技や用心棒稼業、あるいは日雇いの肉体労働で稼ぐのである。

ともかく―――彼の関心の対象となるものは、強者のみ。
この地にはまだ見ぬ猛者共が集っているのだろうか。
待ち受ける闘争の予感に武者震いしながら、琲汰は砂漠のど真ん中で座禅を組んだ。





193 : さすらいの拳 ◆A3H952TnBk :2020/09/23(水) 18:24:53 yuw4GaIM0



やがて琲汰は、ゆっくりとその両眼を開く。
闘気は研ぎ澄まされた。肉体が気力で満ち足りている。
ならば、道は一つ。行動あるのみだ。
その屈強な脚によって、琲汰は立ち上がった。

この場における酉糸 琲汰のスタンスは当然決まっている。
――――強者との闘争。それだけだ。
勇猛なる闘士と全力で戦い、強さの高みを目指す。
普段と一切変わらない。戦うことだけが琲汰の生き様だ。
生きるか死ぬか。それもまた一興。喧嘩(ファイト)とは暴力、暴力とは命の奪い合いへと連なる。
例え闘争の果てにどちらかが散ることになったとしても、それは当然の摂理に過ぎない。

彼が望むのは強者。戦う意志を持つ闘士。
それ故、弱者に興味は無い。されど、挑んでくるならば受けて立つ。
力無き者には相応の戦いがある。例え弱者が手段を選ばずに襲いかかってきたとして、足元を掬われることがあるとすれば、それは己の実力不足の為だ。
琲汰は本質的に己だけを見ている。強者への敬意は持ち合わせているとはいえ、彼が他人を見る上での最大の価値基準は「自身を高みへと導く存在かどうか」なのだ。ある意味で強者も弱者も関係は無い。

さて、と琲汰はメニューからマップを確認。
ここが北西に位置する砂漠の一角であることは明白だ。
目指す場所は決まっている。「砂の塔」だ。
この会場に存在する四つの塔のひとつ。
屋上にあるオーブに触れることで塔の所有者となり、定時メール受信時にGPを得る権利が与えられる。
しかし、琲汰の目当てはその特典ではない。
所有権を目当てに塔へと接近してくる参加者を待ち受ける。それが目的だ。
強者と判断すれば勝負を挑み、この拳の糧とする。相応の猛者には敬意を払いたいものだと琲汰は考える。
弱者は無視だ。寧ろ勝手に塔の所有権を得てくれる方が有り難い。GPを蓄えれば弱者も強くなる可能性が生まれるからだ。

いざ往かん。
酉糸 琲汰はこのデスゲームにて、闘いへの一歩を踏み出す。





数分。否、数十分は経過したか。
琲汰の目の前に広がる景色は全く変わらない。
砂漠。砂塵。夜空。月明かり―――。
座禅を行った場所で見ていた光景と何一つ変わらない、ように見えた。
そもそも、此処は砂漠だ。そう簡単に抜け出せる訳が無ければ、風景に富んでいる訳でも無い。
若くして巌のような面構えを持つ琲汰は、神妙な表情で周囲を見渡す。


「此処は、どこだ」


この場において初めて、琲汰は口を開いた。
彼は気付いていないが、この大砂漠で探索系スキルは必須に等しい。
それが無い場合、止まぬ砂塵や判別の付かない地形という自然の脅威によって方向感覚が失われるからだ。
彼のスキルは格闘能力の向上と維持を齎す「無念無双」のみ。探索能力など意識の外だ。
つまるところ琲汰は、道に迷っていた。

「これも俺に課せられし試練、ということか……」

試練ではなく、道に迷っているだけである。
彼はあらゆる事柄を鍛錬に置き換え、前向きに捉える習性がある。
此処で延々と彷徨い、抜け出すことも出来ず、やがて野垂れ死ぬ。
仮にそんな運命を辿ったとして、彼は己の不運を呪ったりはしない。
この修練を乗り越えられなかった不甲斐なき自分に責があると考えるからだ。
故に彼は、ただ黙々と目の前の脅威に立ち向かい続ける。

「先ずはこの砂漠を生き抜くべし、さもなくば闘争への道は拓かれん―――成る程、道理に適っている」

ならばその試練、受けて立とう。
武人としての自己解釈で即座に納得した。

酉糸 琲汰は徹底してストイックな戦士だ。
強さを磨く為ならばあらゆる修練を怠らない。社会の基準から外れることも厭わない。
それ故に、彼自身は気付いていない。
彼は無頼の闘士であると同時に―――何処か抜けているのだ。


194 : さすらいの拳 ◆A3H952TnBk :2020/09/23(水) 18:25:35 yuw4GaIM0

[B-3/大砂漠/1日目・深夜]
[酉糸 琲汰]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:闘気充実
[アイテム]:スイムゴーグル、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:ただ戦い、拳を極めるのみ。
1.「砂の塔」を目指し、そこを訪れる者を待つ(辿り着ければの話だが……)。
2.強者を探す。天空慈我道との決着を付けたい。
3.弱者は興味無し。しかし戦いを挑んでくるならば受けて立つ。
※探索系スキルがないので方向感覚を完全に失っています。どこに辿り着くのか本人もわかっていません。

【スイムゴーグル】
装備している最中は水泳能力・潜水能力が大幅に向上する。
更に諸島エリアの海域などにおける強い海流を無視して泳ぐことができるようになる。


195 : ◆A3H952TnBk :2020/09/23(水) 18:26:06 yuw4GaIM0
投下終了です。


196 : 名無しさん :2020/09/23(水) 21:45:44 GWm4crp20
投下乙です
参加者を待ち受けるつもりの男が待ち受ける予定の場所に
辿り着けるか分からないの初めて見たな…


197 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:14:04 l9PQsNcw0
お二人とも投下乙でした

>教導者 ◆ylcjBnZZno
乱暴なようでしっかり正義感がある天空慈さん、正義くんの元師匠なだけある
しかし武闘家全員演武しがちである

>さすらいの拳 ◆A3H952TnBk
酉糸さん無謀に見えて国家権力からは逃げる実に懸命
遭難しているが飢え死にしないアバターでよかった

それでは私も投下します


198 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:15:56 l9PQsNcw0



高ければ高い壁の方が登った時気持ちがいい。


なんて、誰かが唄った。




――――馬場堅介は縛りプレイが好きだ。

なんでそんな苦行を自らやってるんだ、なんて周りは言うけれど。
だってゲームは手ごたえがあった方が面白いに決まってる。
堅介からすればチートプレイで俺TUEEEEEEなんてやってるやつの気持ちの方がまるで理解できない。

そんなもので何の達成感が得られるのか。
苦しければ苦しいほど達成感は大きいくなるもの。
縛りプレイでクリアした瞬間の気持ちよさは何物にも代えがたい。

それはオフゲよりもオンゲ、特に対人要素があるものの方がよりいい。
強い装備で固めたプレイヤーを初期装備で倒すというのは同等な状態で戦う格闘ゲームともまた違う快楽がある。

純粋な自分の実力だけの世界。
勝ちも負けも全て自分に還る緊張感。
言い訳の余地のない世界。

そんな中で、勝ってきた。
それが日天中学PCゲーム同好会長、馬場堅介の誇りである。

だからこのゲームに巻き込まれた時も、そうしてしまった。

ステータスALL:E。
強者にワンチャン勝てるスキルだけ取った縛りプレイ。

どこかフワフワとした心地だった。
本当にやってしまったという後悔と、かつてないほどの興奮が同時に全身を満たしている。
飲んだことはないけれど、きっと酒に酔うとはこんな感じなのだろうか。

失敗すれば死ぬ。
これまでとは違う。
経験したことのないほどの緊張感。

命がけの状況に体が震える。
それが恐怖によるものか武者震いなのか自分でも判断がつかない。


199 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:17:42 l9PQsNcw0
「って、寒ぅ…………ッ!」

粉雪が舞い散る積雪エリア。
それが彼の初期位置だった。
どうやらこの震えは寒さによるものだったようだ。

「うぅさぶさぶぅ〜ッ!」

幼女が歯を鳴らして身を震わせる。
そう、そこにいたのは七三分けの真面目少年の姿ではなく、愛らしい小柄な少女の姿だった。

それが彼のアバターである、けるぴーである。
外見が幼女なのは手癖で設定したいつもの癖というか、彼はプレイ中一番見るキャラなのだからかわいい方がいいじゃない、というタイプのプレイヤーなのだ。
この殺し合いに置いては、油断を誘う効果が見込めるかもしれないという下心もあったかもしれない。

だが、勢いで縛りプレイのアバターを設定したはいいが今彼は迷っていた。
よくよく考えれば、縛りプレイを設定したと言う事はこのゲームを遊ぶという意思表示になるのではないか?

このゲームの目的は殺し合い。
勝つという事は殺すという事だ。
それに乗ったのか? と問われるとそうではない。

ましてや参加者名簿によるとここにはPCゲーム同好会の友人たちもいるという事である。
そんな彼らを殺すなんて、出来るはずもない。

まあ、何かの冗談なんじゃないかなーと未だに思っている所もあるが。
わけのわからない場所に連れてこられたというのは事実である。

「あ、夢って線もあるなぁ」

なんて、現実逃避めいたことを呟いたところで、

「―――――こんばんハ」

心臓が跳ねる。
いやアバターにそんなものがあるのかは知らないけれど。
慌てて振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。

「いやはや。寒いですネ。エリアの端っこの方でこれだと山頂の方は本当に凍死しちゃいそうですヨ」

言って。二の腕をさすりながら、温和な笑顔を浮かべた青年が近づいてくる。
あまりにも自然な態度に呆気にとられた。
こんな状況だ。警戒して突っぱねるべきだろうか。どうするべきか迷う。

だが明確な敵意を見せない相手にそんな態度をとるのは失礼なんじゃないだろうか。
なんて、そんな思想が頭の中を駆け巡る。

「おっと、スイマセン。名乗りもせず失礼でしたネ。
 ワタシ、シャ言いマス。おジョウさんのお名前聞いてもイイですカ?」
「あっ。え。ぼ、いや私はけるぴーです」

紳士的な対応に思わず名乗り返していた。
当然、名乗るのはアバター名だ。ネットプレイヤーとしての常識である。


200 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:20:01 l9PQsNcw0
「おお! けるぴーサン!」

こちらの名前を聞いて、男が興奮したように声を荒げた。
突然のテンションの跳ね上がりにちょっとびっくりした。

「けるぴーサンってFW3の上位プレイヤーであるアノけるぴーサンですカ!?」
「し、知ってるんですか?」
「はい。あなた有名ヨ。縛りプレイで上位にいるスーパープレイヤーだってネ」
「スーパーだなんてそんなぁ。へへっ。ひょっとしてあなたもプレイヤー?」

堅介は少しだけ気を良くして問い返す。

「はい。仕事が忙しくて最近はあんまりやれてないですガ、ワタシも休日に結構ゲームやりますヨ。へたっぴですけどネ」

そう言って冗談めかした笑みをこぼす。
その笑みを見て堅介の警戒心が僅かにほぐれる。

「お仕事ですか。シャさんは社会人なんですねぇ」
「はい、今は日本を中心に働いてまス」
「へぇ、ってことはシャさんは外国の方?」
「そうデス。ワタシ中国の人デス」

同じゲームを趣味にするものであると知れたのも大きいだろう。
PCゲーマーに悪い奴は……まあ沢山いるんだけど、キッズと煽り合いの世界なんだよなぁ。
それでも、こんなところで、同じ趣味の同士に出会えるなんて奇跡のような巡り合わせである。
こんな状況にもかかわらず、雑談にも花が咲く。

「けど、あの大型アップデートは最高にクソでしタ!」
「ああ、あれね。実はさ、これ上位プレイヤーしか知らない噂なんだけど、あれって実はハッキングを喰ららしくて、その対策って話だよ」
「おお! そうなんデスね! 流石けるぴーサン、事情通ですネ」
「へへっ…………」

同じ趣味を持つ者同士。
不安がっていた反動もあって急速に打ち解けた。

「おっともうこんな時間だ。少し話し過ぎてしまったようですネ」
「ああ、そうだね。こんなところで話し込んでも寒いしね」

気付けば三十分は経っていた。
こんな寒空の下、よく話し込んだものであると自分で呆れてしまう。

「それもそうなんですガ、最初の目的を忘れる所でしタ」
「最初の目的?」
「はい」

答えながら、シャがけるぴーの正面に立った。

「それでは死んで下さいネ、けるぴーサン」
「え?」

瞬間、けるぴーの胸元から血が噴き出した。


201 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:21:21 l9PQsNcw0
ごく平和な日常を送ってきた中学生には、想定すらできていなかった。
さっきまで雑談していた相手を、当たり前のように殺しに来る人間がいるだなんて。

噴出した血は、地面に堕ちる前に光の粒になって消えていった。
綺麗だななんて、事態に追いつけていない頭はそんな事を考えていた。

「あララ? 殺れたと思ったんだけどナー。なかなかやりますネ、けるぴーサン」

楽しそうに。
先ほどまでと変わらぬ温和な顔で、悪びれるでもなくそう言い放った。

「な…………なんで?」

徐々に認識と痛みが、追いついてきて頭を支配していく。
刃物で切り裂かれたように胸元から血が流れる。
ヴァーチャルとは思えない熱い血が。

「日本ではコレ足刀言いマス。切れる当たり前ネ」

そう言いながら足首を伸ばした片足をぷらぷらと振った。

「ち、違う! なんでいきなり…………ッ」

攻撃してきたのか。
言葉にならない訴えを投げかける。
だが、シャはキョトンとした顔で首を傾げ。

「? 何故も何も、殺し合いでショウ?」

そんな疑問を持つ事が分からないといった風な顔で、当たり前のように言った。
これがゲームだったらその通りだ。堅介だってそうするだろう。

「け、けど……これは殺したら本当に死ぬって」

ここで殺してしまえば人殺しだ。
これまでは堅介も半信半疑だったけれど、今は違う。
殺せば本当に死ぬ。
だって、胸の傷がこんなにも痛い。

きっとそれが相手には分かっていないのだ。
だったらそれを伝えればこんなことはやめてくれるかもしれない。
そんな微かな希望に縋ろうとしたが。

「ははは。面白いコト言いますネ、けるぴーサン。殺せば死ぬ当たり前ヨ」

まるで友人の冗談に笑うように。
シャという名の男は虫も殺さぬような顔のままそんなことを言ってのけた。
それで堅介の全身の血の気が引いた。

理解不能の殺人鬼に襲われるのならまだ分かる。
だって相手は別物なのだから。

だけど、これは違う。
さっきまで同じ趣味ついて語らっていた相手が、それまでと同じ顔して襲い掛かろうとしている。

それが何よりも恐ろしい。


202 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:22:57 l9PQsNcw0
「…………ッぅ!!」

駆け出す。
背を向け一目散に逃げだした。
逃げなくては殺される。
自分なんかとは違う、不気味な何かに殺される。

だが、遅い。
最低ランクのその足では逃げられるはずもない。
敏捷性に差がありすぎる。
シャがその気になれば、すぐさま追いつかれてしまうだろう。

だが、シャはその場から動かなかった。
走りだす代わりに足先で雪を救い上げると、そのまま前方に蹴りだした。
瞬間、雪の叩きつけられた地面でいくつもの爆発が巻き起こった。

「トラップの発想は良きネ。ただ少々露骨すぎるヨ」

これが本当にゲームの中ならシャも引っかかっていたかもしれない。
だが実戦はそう単純ではない。

僅かな不安、視線の揺れ、感情の動き。
ただの中学生にそう言ったモノを隠し通せるはずもなく。
百戦錬磨の殺し屋はそう言ったモノを見逃さない。

地雷原をクリアし、ようやくシャが駆け出した。
クンと、弾かれたように加速する殺し屋の体。

爆発が収まるまでの僅かなアドバンテージがあるが、そんなものがどれほどの意味を持つのか。
何事もなければ数秒で追いつくだろう、それは双方の確信であった。

そう何事もなければ。

けるぴーの小さな背を追うシャ。
その目が僅かに見開かれた。

シャの眼前。
その視界に、回転する三本の斧が迫っていた。

それは手斧だった。
正確にシャの体めがけて飛んでくる刃。
恐らくけるぴーが走りながら後方に投げつけたのだろう。

一つでも当たれば致命傷は免れない。
それを前に殺し屋はまるで慌てるでもなく、回転を見極め一つはキャッチし、一つは躱し、一つは足裏で踏みつけにした。
シャは受け止めた手斧を投げ返すでもなく、武器の携帯を嫌うようにその場に投げ捨てる。

「うん、面白イ」

この状況で反撃に転じるとは思わなかった。
追い詰められているとはいえ、いざとなれば躊躇いなくこちらを殺しにかかっているのも実にイイ。
シャ好みの状況である。

だが、一つ疑問がある。
走りながら投げたにしては、少し狙いが正確すぎる。
偶然と言うのならそうなのだろうが、よっぽどDEXが高いのか、それとも。

「何かのスキルかナ? だとしたら何のスキルかナァ……?」

再び駆け出しながら、その瞳が好奇心のような輝きを得る。
思えば最初の回避も奇妙だった。
絶対に躱せないと思ったはずなのに躱された。

思考を巡らせる。
この男はこの状況を心の底から楽しんでいた。


203 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:25:20 l9PQsNcw0
「ひっ…………!?」

地雷と手斧。
それで完全に足止めの手立てを失ったのか、あっという間に並走を許した。

横に並んだシャが身を屈め足払いを放つ。
絶対に躱せない一撃。
だが、タイミングの妙か、走り抜ける足運びが偶発的にその足を躱した。

「―――なるほどネ。だいたい理解したヨ」

二の矢が飛ぶ。
最初の足払いにすぐさま後ろ足が続き、カニばさみのようにけるぴーの体を挟み込むと、そのまま地面へと引き倒した。

「うッ!?」

シャが流れるような動きで倒れた堅介に馬乗りになる。
けるぴーの小さな体が完全に地面に固定された。

「ヨウは偶然を起こすスキルと言ったところかナ?
 どうダイ? 中らずと雖も遠からズ、と言ったところじゃないかナ?」

難しいなぞなぞを解いた子供のような笑み。
堅介は答えられずだた喉を詰まらせるのであった。
答えなど期待していないのか、マウントポジションに構えるシャは静かに鉤手に構えた両手を掲げた。

「実はネ。ワタシも縛りプレイが好きなンですヨ」
「え…………?」

突然の告白。
状況にそぐわぬその言葉に堅介はポカンと自らに跨る男の顔を見上げた。

「仕事(コロシ)は素手デ。別に武器が使えない訳じゃないヨ、だけどだってその方が――――」

言われる前に堅介にはその先が理解できた。
出来てしまった。

「――――達成した時楽しいかラ」

だってそれは堅介と同じ。
だけどまるで違う、理解できない答えだった。

「デワ」

振り上げられた両腕が、豪雨のように振り下ろされた。

「ャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

絶叫が響く。
シャが指を振り下ろす度、血と肉が辺りに巻き散ってゆく。
眼、鼻、頬、耳、唇、眉間、頭皮、顎、喉、鎖骨、肩、鳩尾、あばら、脇腹、乳首、腹部、二の腕、肘。
鳥が啄むようにあらゆる場所の肉が削げてゆく。
血も肉も地面に落ちると同時に煙のように掻き消え、周囲の世界はきれいなまま。ただ地獄はここだけに。

振り下ろされる腕は稀に狙いを外すが、豪雨のような連打の前に多少のミスなど関係がない。
こうなってはもう『大番狂わせ』など起きようがない。


204 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:27:10 l9PQsNcw0
「ふぅ」

一仕事終えたように殺し屋が息をつく。
幼い少女の姿をしたけるぴーの体は穴だらけだった。
アバターでもそれはあるのか、所々内臓や白い骨が見えている。
手の届く範囲の中で傷のない場所などない、まるで蓮の実の様だ。

「…………ぁ……ぁ……ぁッ」

だというのに、驚いたことにまだ生きている。
潰れた両目で空を見て、裂けた口から声にもならぬ喘ぎを上げていた。

それは堅介の生命力が高かったと言うより、シャが殺さないギリギリで手を止めたからである。
何故そんなことをしたのかと言うと、それは拷問がしたかった訳でも、ましてや慈悲でもなく。
ただ殺す前に確認しておきたいことがあっただけの話である。

「シェリン。ゲームのシステムに関する質問ネ」
『はい。あなたのシェリンです。何なりとお尋ねください』
「コイツ、殺せば持ってるGP奪えたりするカ?」
『いいえ。基本的には不可能です。そういったスキルが設定されている場合のみ可能となります』
「なるほどネ。じゃあ別の質問だヨ。プレイヤー間のGP移動は可能カ?」
『はい。双方の同意がある場合のみ可能です』
「具体的ニ」
『勇者同士でコネクトし、送る側がGPを送信、受け取る側がそれを許可すればGPの移譲が完了します。
 手数料として移譲GPの1割が徴収されますのでご了承ください』
「コネクトとハ?」
『勇者同士で5秒以上の単純接触を行う事です』
「なるほど。どれもこれも初耳ネ。何故説明しなかったカ?」
『聞かれませんでしたので』
「なるほどネェ」

面白くなさそうな声で相槌を打つと、メニューを閉じて呼び出したシェリンを非表示にした。
つまりは実装されているものの運営側としてはあまり知られたくない機能と言うところか。
推察するにオミットされたのははパーティプレイに関する項目か。
生き残りは一人なのだから当然と言えば当然だが、腑に落ちない所もある。

「という訳なんだけド…………どうかナ?」

自分が馬乗りにしている相手へと問いかける。
さっきから馬乗りになっているのだからコネクト状態にはなっていると思うのだが。

「ぁ……ぅ……ぁ」
「ダメみたいネ」

ぐしゃり。

まともな応答ができそうにないと見るや、すぐさま何の躊躇いもなく固めた拳を振り下ろした。
縛りプレイヤーの彼ならGPを余らせていると思ったのだが、少し追い込みすぎたようだ。
次はもう少し気をつけよう。

そんな反省をしながら立ち上がり、けるぴーの死体から離れた。
同時に拳についた血が消え、死体が描き消えた。


205 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:28:05 l9PQsNcw0
「うん。返り血が残らないのは快適ネ」

死体の在った場所に残ったのは一つのアイテムだ。
恐らく地雷と手斧以外の使わなかったけるぴーの支給品だろう。
武器ならば要らないが、そうではないようだ。

「うーん。確かにこれは使えないネ」

落ちていたのはタリスマンだった。
何でも放置されているアイテムがあるならその方向を指し示すとか。
確かにこれは逃亡には使えない。

「さテ。ボーナス期間中に後2、3人殺しておきたいところではあるんだけド」

近場の塔も制圧しておきたいが、時間制限のある方を優先しておくべきだろう。
まあ参加者が見つからなければ等の方を優先してもいいが。

「こういう嗜好は嫌いじゃないネ」

ゲームも好きだし殺しも好きだ。
この殺し合いはシャにとっては理想的な遊び場と言える。

彼にとってはネットゲームの雑談も殺し屋の仕事もこの殺し合いも等価だ。
全て特別ではないただのライフワークである。

楽しければそれでいい。
その為なら努力は惜しまない。

だってその方が達成感があるだろう?

[馬場 堅介(けるぴー) GAME OVER]

[A-5/雪の塔近くの雪原/1日目・深夜]
[シャ]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3、タリスマン
[GP]:0→100pt(キャンペーンで+10pt、勇者殺害×スタートダッシュにより+90pt)
[プロセス]
基本行動方針:ゲームを楽しむ
1.スタートダッシュボーナスがあるうちにもう少し殺したい
2.雪の塔の制圧

【地雷魔法陣】
物体の動きを察知し爆発する設置型魔法陣。
メニューから設定できるため相手に気づかれず配置できる優れもの。

【手斧】
投擲用の斧。
投げるのに適した重心をしているため直接戦闘には向かない。

【タリスマン】
近くに放置されたアイテムがある場合その方向を指し示す。
また隠されたアイテムを見つけることも…………?


206 : 縛りプレイヤー ◆H3bky6/SCY :2020/09/23(水) 22:28:25 l9PQsNcw0
投下終了です


207 : 名無しさん :2020/09/23(水) 23:43:02 qVD1iQ..0
投下乙です
最初の犠牲者は馬場くんになったか
シャはやっぱり中国人な殺し屋なのねw


208 : ◆.uihLnpY8Y :2020/09/24(木) 00:28:12 iW7PrwJs0
投下します


209 : 彼の理論武装 ◆.uihLnpY8Y :2020/09/24(木) 00:29:14 iW7PrwJs0

「みなさん、大事な発表があります」

市街地にある閑散としたブディックの中、鏡の前で女が幸せそうに笑っている。
濃い茶色の髪、スーツに白衣、見るものが見れば彼女の正体は一目瞭然。

「私、白井杏子は本日をもって大切な人と結婚します!」

日天中学校養護教諭、白井杏子。
その左手の薬指には銀色の指輪が光っている。

「お相手は皆さんもよく知っている人です!」

一旦息をつく。

「なんと、美術担当の枝島トオル先生です!」

そして『彼』は割れんばかりの拍手と祝福の言葉を幻視する。
感極まったのか崩れ落ち、小さく涙までこぼす。
白衣の襟元に隠れた白いチョーカーを外し、再びつぶやく。

「……最高だ」

その声は先ほどの高めの女のものとはうって変わる低い男のものであった。



日天中学校美術教師、枝島トオルは恋をしている。
相手は同僚、現在彼が姿を模している養護教諭、白井杏子だ。

一目ぼれにして初恋。

これまで半生を絵を描いて過ごした彼にとっては初めての情動であった。

白井杏子との出会いは枝島トオルの人生を大きく変えた。

本来、枝島トオルは人に大して興味を持たない典型的な芸術肌の人間だ。
それが曲がりなりにも嫌われずに教師を続けていられるのは彼女の影響が強い。

彼女へアプローチをかけるために身だしなみを整え、ある程度見られるような姿にもした。
自分の女性への耐性のなさを考慮に入れていなかったために、それは長く厳しい道になってしまうのだが。

結論を言えば、彼はある種の天然なのだ。
好きなアバターを作ってもよいとされたところで迷いなく本当に好きなものをアバターとその名前にしてしまうほどに。


210 : 彼の理論武装 ◆.uihLnpY8Y :2020/09/24(木) 00:29:41 iW7PrwJs0



「しかし、どうしたものか」

一通りやりたいことをやり終え、枝島トオルは今更ながらに考える。
名簿を眺めた際に見覚えのある高井丈美の名前が目についた。
本人かどうかの確証はないが、本人だった場合は必ず生きて帰させなければならない。

そして最悪の可能性に思いを巡らす。
彼の教え子たちは難しい年ごろである中学生。
彼女のほかにも自身と同じようにアバターと名前をいじって参加している可能性すらあるのだ。

枝島トオルは生徒にあまり深入りはしないが、さすがに自分が教師であるという自覚は持っている。
それになにより生徒の死は想い人たる白井杏子が悲しむ。
心情的にそうなることはどうしても避けたい。

そして、その場合ネックになるのが彼の現在の姿だ。
白井杏子の姿で枝島トオルとして振舞うことは控えめに見ても変態以外の何物でもない。
下手をすると学校時代の信頼すらも失う可能性も高い。

「仕方がない……か」

つぶやきながら支給品の一つ、『変声チョーカー』を再び身に着ける。
白井杏子の優しさは彼だけでなく生徒全体が知るところだ。
もしも彼女がこの場にいてもゲームに乗ることはあり得ない、少なくとも彼はそう確信している。

だから現在の姿を利用する。

白井杏子の姿をした枝島トオルよりも白井杏子本人の方が高井の信頼は稼げるだろう。

ここからの自分は白井杏子だ。
演劇は未経験だが必要なことだ。
彼女を見ていた自分ならできるはずだ。
彼女への愛を示す時だ。

……決して彼女の声を聴いていたいという邪な動機からではない。

気持ちを新たに枝島トオルはブディックを後にする。

彼は知らない。
彼の想い人たる白井杏子。
彼女もまた参加しているということに。

[E-4/市街地、ブディック前/1日目・深夜]
[枝島トオル(枝島杏子)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:B LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:変声チョーカー、不明支給品×2
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:白井杏子のエミュをしながら生徒の保護。
1.高井丈美との合流を目指す。
2.他に生徒がいれば教師として保護する。
3.耳が幸せ。

【変声チョーカー】
ダイアルを回して首に着けることで自在に声を変えることができる。
現在は白井杏子の声が設定されている。


211 : ◆.uihLnpY8Y :2020/09/24(木) 00:30:20 iW7PrwJs0
投下終了です


212 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 00:43:26 RtblKrUE0
投下乙です。
紛うことなき変態である、にも関わらず思考はまともな先生で草
思い人の方もとんでもねぇロールプレイしてるから気づかないのも当然なんだよぁ、お似合いなのでは?


213 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:21:26 Zz42DkWc0
投下します。


214 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:22:28 Zz42DkWc0
砂漠エリアA-3。



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
「待て待て〜!」


走る。走る。走る。
月明かりの下、乾いた空気を切り裂き、砂塵を巻き上げながら二人の男が砂漠を走る。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
前を走る男は坊主頭で身長が低い。
爪の生えた籠手を装着しており、学校指定と思しき体操服を着ていることから子どもとわかる。
男改め少年は走りながら幾度も振り返り、振り返るたびその表情は恐怖で歪む。


「逃がさんぞ〜!」
後を走るは筋骨隆々の大男。
龍を模した仮面を被っており身長は2mに届くだろうか。
男改め大男は仮面の上からでもわかるほどの笑顔を浮かべ、黄金に輝く巨大なハンマーを振りかぶりながら子どもを追う。


(ふざけんな!なんだあれ!追っかけてくんな!どっか行け!)
少年は恐慌に陥りながらそれでも走る。
既に20分近くこうして走っており体力的には限界が近いが、そんなことを気にしてはいられない。
自分のような子どもをハンマー振りかぶりながら笑顔で追いかけてくるようなやつだ。
追いつかれれば殺されるに決まっている。


(面倒くさいな〜。AGIがEランクじゃなかなか追いつけないよ。)
大男はじれったく感じ始めていた。
アバター設定にGPを使い果たしてしまっているので、2時間のスタートダッシュボーナスのうちにせめて2人くらいは殺しておきたいところである。
しかし敏捷性を表すAGIを低く設定した影響か、前を走る少年になかなか追いつけない。
むしろ少しずつ距離を離されている。
このゲームの会場である『New World』。エリアは広いようだがプレイヤーは40人しかいない。
少年に追いつけなければ、再びどこにいるかもわからない獲物を探し求めなければならないのだ。

大男はメニュー画面を開き時間を確認する。既にゲーム開始から30分が経過していた。

目の前にいる少年は逃げる以外に敵に抗する手段を持ち合わせていないようだ。
ろくな抵抗もしてこない弱小プレイヤーを殺すのにこれ以上時間をかけたくない。
試運転にもちょうど良いだろう。
「スキル発動。『変化(黄龍)』」
――ミシリ。
大男の身体が軋んだ。


215 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:23:44 Zz42DkWc0
◆◆◆

少年は走る。
疲労がたまり動かなくなる脚、悲鳴を上げる肺、夜の砂漠の凍えるような気温。
全て無視して走り続ける。

そもそもどうしてこんなゲームに巻き込まれたのか。
いずれ地下世界の謎を解き明かした偉人になる予定ではあるが、今のところは穴掘り好きの普通の小学生に過ぎないのに。
勇者とやらに選ばれ強制招集されなければならない心当たりなんかなかったし、ましてや初対面の異様に怖いガチムチ大男にいきなり殺されそうにならなければならない理由なんかあってたまるものか。

時々後ろを振り返ると、だんだん距離が広がっているのがわかる。
しかし、このまま逃げ切ることも可能かもしれない、と気が緩んだのがいけなかったのか。
ついに足がもつれて前のめりに転んでしまう。

すぐに立ち上がらなければと地に手をつき、体を持ち上げようとする。
しかし、限界まで酷使した脚は言うことをきかない。
体を支えることもかなわず、再び砂地に五体を投げうつ羽目になる。
(死にたくない!助けて!父ちゃん!母ちゃん!)
立ち上がろうと藻掻く少年。
しかし甲斐なく、装着した籠手から伸びる爪が空しく砂を掘る。
砂に手が沈み、這いずることすらままならない。

手足を遮二無二動かし何とか状況を打開しようとする少年に影が差す。
砂漠を照らす月明かりが何かに遮られたのだ。
何事かとうつ伏せのまま首を天に向ける少年の目に、信じられないものが飛び込んだ。

「ドラ…ゴン…?」
はは、と乾いた笑いが漏れる。
夜の砂漠の乾いた空には黄色い体色の巨大な龍が鎮座していた。

地下世界を追い求める研究の中で見た覚えがある。あれは黄龍だ。
青龍、白虎、朱雀、玄武といった四神の長であると言われ、五行思想における土の元素を司る神獣。
かつて中国では幾度かこの神獣の名を年号に採用したこともある。

人間、それも穴を掘るしか能がない矮小な人間である自分が立ち向かおうとすること自体が畏れ多い存在だ。

彼の龍の鼻息一つで自分は周りの砂ごと吹き飛ばされその命を散らすことになるのだろう。
そのあまりに豪壮な姿に少年の心は折れ、もはや抵抗しようという気も起こらない。
先ほどの足掻きでずいぶん深く掘れてしまった砂地に体を預けることしかできなかった。
(父ちゃん…母ちゃん…助けてほしかったよ…。
ごめんな、地下世界。お前の謎はオレが解明すると誓ったのに。約束、守れなかったよ…。)



――かくしてうつ伏せに倒れる少年の背に向けて、巨大な黄龍の尾が振り下ろされた。


216 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:24:34 Zz42DkWc0
◆◆◆


初戦を勝利で収めた黄龍は人間の姿に戻り、勝利の余韻を噛みしめていた。

「よぉし!まずは1キルだ!」
言ってしまえばこれは最近流行りのバトロワゲームだ。
魂魄制御システムの設定は斬新で面白かった。
頬にあたる風、踏みしめる砂、冷やされた大気。
どれをとっても文句のつけようがない。「生身と変わらぬ生を感じられる」というキャッチコピーに偽りなしだ。

GPはまだ配布されていないようだが、おそらく時間差があるのだろう。
これで60ポイントを獲得できた。
スタートダッシュボーナスが終わる前にできればもう一人くらいキルを挙げておきたい。
ランダムアイテムとの交換が100ptであることを考えれば、いつでも惜しみなく使える程度のGPを確保しておきたいところだ。

これらを考慮して次の目的地を定める。
目指すはA-4にある砂の塔だ。ここを拠点にする。
現在地であるA-3ならかなり近いし、拠点に近づく者があってもスキルを使えば一方的に攻撃できる。
塔を目指すプレイヤーもいるだろうから、道中で彼らを狩ればボーナス時間内にもう1〜2キル稼ぐことはできるだろう。
探知系スキルはないが、黄龍に変化すれば方向を見失っても軌道修正することができる。
ゲームを楽しむ戦略は万全だ。


「それにしても運が良いなあ。こんなすごいゲームのベータテスターに選んでもらえるなんて!」

そう。
大男こと、登 勇太――プレイヤー名 Brave Dragon――は、今回のバトルロワイアルをただの新作ゲームのベータテストだと思っている。
『New World』で死亡した場合元の肉体も死亡する、というのは紛れもない事実であるのだが、勇太はそれをただのストーリー上の設定であると頭から決めてかかっている。

中学生の多くが妄想する脳内設定を、脳内設定として楽しめる者としか共有しない――そんな勇太の良識が凶悪マーダー・Brave Dragonを生んでしまったのだ。

真実を知った時、勇太がどうするか。今はまだ誰にもわからない――。


217 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:25:29 Zz42DkWc0



◆◆◆


「…なんでオレ、まだ生きてるの?」


◆◆◆


218 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:26:34 Zz42DkWc0


身動きが取れない彼の身に迫る龍尾は少年――堀下 進に死を悟らせるのに十分な威容を放っていた。
あんな大質量の物体を叩きつけられれば、矮小な人間など車に轢かれた蛙のように潰れてしまっていただろう。

であるならば、龍尾が直撃した筈の進が今も生きているのは何故だろう。


答えは勇太のスキル・変化(黄龍)のランクにある。

ランクSであれば巨大な質量に大抵の物理攻撃では傷もつかない鱗を備え、身にまとう神通力の障壁はあらゆる魔法や神秘による攻撃を遮断する。
全パラメータがAまたはSランクに上昇し、攻撃に於いても防御に於いても右に出る者のいない最強の生命体になれたのだ。


しかし勇太の変化スキルのランクは最低であるC。するとどうなるか。

ランクSなら最大まで上昇するパラメータは、ランクCでは一切上昇せず。
ランクSなら最大10tにもなる質量も、ランクCでは一切増加せず。
ランクSならほとんどの物理攻撃を無効にする鱗も、ランクCでは人の爪程度の硬度すら持たず。
ランクSなら自在に使いこなせるはずの神通力も、ランクCでは発動することすらできない。
すなわち。

「…あの竜の尻尾、まるでスポンジみたいだったな…」

ランクCで変化できる黄龍の質量は身長2mの成人男性と同程度。
天を貫くほどの巨体に変化してしまえば、見掛け倒しのはりぼてと化してしまうのである。


いかに高所から叩きつけられても、それがいかに巨大な物体でも、質量がスポンジのそれと大差なければ到底致命傷にはなり得ない。

龍尾が舞い上げた砂塵に紛れてスキルで穴を掘り、自ら生き埋めになることでやり過ごし、そのまま勇太が立ち去るタイミングを見計らって(勇太の進路とは反対方向に)地中を潜行し、戦闘を離脱。
結果的に、堀下 進は凶悪マーダー・Brave Dragonによる襲撃をほとんど無傷でやり過ごすことができた、というのがこの戦いの顛末だった。


そして進は地中を掘り進む。
このまま地中にいれば誰かに発見されることもないだろう。
アバター作成にあたり取得したスキル「穴掘り:S」を駆使し、地面の中を自由自在に動きまわる。

「せっかくだし、このゲームの世界にも地下世界があるのか確かめてみるのも悪くないかもな」
進は地中を掘り進む。
まだ誰も見たことのない景色を求めて。


219 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:27:18 Zz42DkWc0



[B-3/大砂漠/1日目・深夜]
[登 勇太(Brave Dragon)]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:ゴールデンハンマー、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:見敵必殺!優勝目指して頑張るぞ!
1.「砂の塔」を目指し、そこを訪れる者を待ち伏せて殺す。
2.スタートダッシュボーナスの間にもう一人二人殺す。
3.「けるぴー」って馬場先輩だよね。帰ったら感想聞いてみよう。
[備考]
1.本ロワをただのゲームだと思っています。
2.少年(堀下 進)を殺害できたと思っています。


[堀下 進]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E→C DEX:E LUK:E
[ステータス]:疲労大、地中潜行中
[アイテム]:忍びの籠手(E)、神速のブローチ(E)、支給アイテム×1(確認済)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:死にたくない。
1.地中に潜ってやり過ごす。
2.この世界の地下の謎を解き明かすのも悪くない。


【ゴールデンハンマー】
郷田 薫が異世界で作り出し、使っていたハンマー。
黄金でできているがそれだけの代物。大した威力もないのでちょっと使ってすぐ売却された。
非常に重いのでSTRがD以下だと持ち上げられない。

【忍びの籠手】
戦国時代に活躍したとある忍者が使用していた鉄爪。

【神速のブローチ】
着用者のAGIを二段階上昇させる。
連続使用可能時間は60分。エネルギーが切れると充電が必要。
※充電用のUSBケーブルは付属しておりません。


220 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 12:28:45 Zz42DkWc0
タイトル『ヴァーチャル・リアル鬼ごっこ』

投下終了です。


221 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 21:36:53 RtblKrUE0
投下乙です。
ついに出てしまった無自覚マーダー、まだ本当に犠牲者が出てないのが救いか
そして小学生なのに堀くんの知識が半端ない、さすが世界の謎を解き明かそうとしてるだけある

ただ一点気になった所が。

>60ポイントを獲得できた。

とありますがスタートダッシュボーナスは×3倍なので獲得できるとしたら90ポイントですね
まあ登くんのモノローグなので彼が勘違いしてる可能性もありますが

それでは投下します


222 : 譲れない私の ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 21:39:07 RtblKrUE0

「なんでこないな事になってしもうたんや………」

人気アイドルグループ『ハッピー・ステップ・ファイブ』の副リーダー安条可憐は膝を抱えて震えていた。
その震えは寒さによるものではない。
むしろこの場は燃えるような熱気に包まれていた。

ここは火山のお膝元にある鉱山の中。
可憐が転送されたのはその近くだった。
近くの火山が定期的に噴火するというマップの注意書きを見て、避難のために慌てて駆け込んだのがここだった。

それが間違いだった。

鉱山の入り口は一つ。つまりは出口も一つ。
そこを塞がれれば、もう逃げ場などないという事にもっと早く気づくべきだった。

「我は魔族を総べる王。魔王カルザ・カルマである。
 そこな者。隠れていないで疾く姿を見せるがよい」

唯一の出入り口の前には魔王を名乗る人外の者が立っていた。
可憐はただ物陰に座り込んで隠れるようにして息をひそめることしかできなかった。

「ホンマに、なんでこないな事になってしもうたんや………」



最初はドッキリかな? と思った。

けれど、シェリンなる少女によりあれよあれよと話が進んでいき。
だんだんドッキリとかそういうレベルの話じゃないなと気づき始め。
気付けば、見知らぬ地に飛ばされていた。

ありない出来事の数々。
目の前にマグマの池が広がっていた時にはすでに死んでて地獄にでも来たのではないかとすら考えたくらいだ。

真っ先に確認した参加者名簿を見れば、驚くべきことにHSFのメンバー全員がいた。
それどころか、デビュー前に脱退した利江までいるではないか。
私たちに何の恨みがあるというのか? ドッキリでもあり得ないくらいの人選だった。

「この体が作り物(アバター)ってホンマかいな……むっちゃ汗かくやん」

誰に言うでもなく一人愚痴をこぼしながら、頬を伝う汗をぬぐう。
汗が吹き出し服がぴったりと体に張り付く。
体は外からも中からも熱され、湯気のような靄が全身から沸き立っている。

「あぁー、あん時もこないな感じやったなぁ」

冒険バラエティの過酷すぎる海外ロケで、火山地帯を探索させられたことを思い出した。
お笑い好きのソーニャは『可憐ばっかりズルいデース、私もそういう仕事したいデース』なんて、いつものエセ外人口調で抗議していたけれど、こればかりは譲れない。
HSFの中で、そういう体を張る仕事は可憐の担当だ。

何でもできる器用なソーニャはこういう仕事もこなしてしまうんだろうけど、可憐はそうじゃない。
ダンスも歌も才能がない自分がユニットのために出来る事を考えた末に導き出した役割だ。
ユニットのためだけじゃなく、自分自身のためにもこの役割だけは誰にも譲るつもりはなかった。

「しっかし、熱いなぁ」

地図を確認するべくメニューを開く。
思考すればメニューが開く。
どんな超技術だ。

現在位置の確認と共に火山エリアの注意書きが目に入った。

「うわぁマジかいな、ここ活火山なんかい。移動中に噴火されたらかなわんで」

なんてボヤキながら、屋根のある場所を探して歩いた。




223 : 譲れない私の ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 21:40:37 RtblKrUE0
そうして今に至る。
熱を帯びる大地に尻もちをつきながら、出口に立ちふさがる相手の姿をちらりと盗み見る。

人種の違いなどでは説明のつかない紫の肌。
何より目に付くのは頭部より生えた巨大な二本の角である。
それが人とは違う生物であることを何より雄弁に語っていた。

「隠れていても始まるまい。いい加減出てきたらどうだ?」

それだけで力があるような威厳を含んだ声。
隠れている可憐の存在などお見通しだと言わんばかりである。

「10秒待つ。それまでに応答がなければ敵対の意思があるとみなして攻撃を開始する」

反応を見せない可憐の態度に業を煮やしたのか魔王が最後通牒を突きつけた。
重力が増したのではないかと錯覚するような重圧が可憐の全身にのしかかった。

「10、9、8、」

カウントダウンが始まった。
その声が、可憐の焦りを加速させる。

(どないする……!? どないしたらええ……!? だいたい魔王ってなんやねん!
 そんなんきょうび中二のキララでも言わんわ! けど由香里やったら言うかもなぁ……。ってそんなんどうでもええねん!!)

自分で自分にツッコミながら、混乱する頭を落ち着けるよう努力する。
出ていかなければ攻撃される。
だからと言って、あんな怪物の前に無防備に姿を晒すだなんてそれこそ自殺行為だ。
なら、どう動けばいいというのか?

「5、4、3、」

答えは出ない。
考えもまとまらない。
それでも無慈悲にもカウントダウンは進んでいく。

「2、1、ゼ」
「ッ。ま、待ってください!」

カウントダウンが終わるギリギリのところで、可憐は両手を上げなら通路の影から出ていった。
元より選択肢などなかった。
出ていかなければ確実に攻撃される。
ならば、まだ可能性のある方を選択するしかない。

「あの、その‥‥ウチに戦う気ぃなんてないんです。
 すぐ出ていかんかったんは、こないな事に巻き込まれてもうて、どないしたらええかわからんくて、混乱してもうてて……」

言い訳めいた言葉を並べる可憐を魔王の眼光が射抜く。
刃よりも鋭いその視線に呼吸が止まる。
動きを止めた可憐に出来るのは、沙汰を待つ罪人のような心境で魔王の次の動きを待つことだけであった。
心臓が止まりそうなほどの緊張感の中、魔王はふむと納得したように頷いて。

「…………その言葉、まさか同郷の者か」
「同郷…………?」

混乱しながらも思わず問い返していた。
事態をつかみ切れていない可憐を安心させるように魔王の表情から威厳が張り付いた仮面が剥がれる。
そして、少し照れたようなはにかんだ表情で魔王は言った。

「ワシも……そうやで」

「魔王はん…………ッ!」




224 : 譲れない私の ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 21:42:09 RtblKrUE0
「怖がらせてもうたようでスマンな。ワシは同族には手ぇださへん安心しいや」

話してみれば悪の大魔王の様だった相手は、気さくなおっさ……お兄さんだった。
地元の近所に住んでたおっちゃんたちを思い出す気さくさである。

その外見はどう見ても人間ではないのだが、そう言えば外見は好きに設定できるのだった。
恐らくはそれでイジったのだろう、と可憐は納得した。

よく考えればそりゃそうだ。
そもそも名前に魔王なんて入ってる人がいるはずもない。
自分で名前も外見もカスタマイズしたと考えるのが自然である。

「えっと、ほななんとお呼びすればええですかね?」
「好きに読んでくれてかめへんで。立場上普段はアレやけど、堅っ苦しいのは好きちゃうねん、ホンマはな」

話を聞く限り、どうやらこの魔王様は社長的な何かをやってる人の様である。
部下の前では威厳を保って振舞っているため、いろいろと大変らしい。

「ほな、カルマさんてお呼びさせてもらいますわ。
 ほんでカルマさんはこれからどないするおつもりです?」

そう可憐は問いかけた。
可憐自身、どうしたらいいのかわかっていないからこそ、他人がどうするのかを聞いておきたかったのだ。

「ワシけ? せやなぁ。同郷の人間がおると分かった時点で、もうシェリンとかいうネェちゃんのゆうてた話の乗るんはなしやなぁ
 ただ、ここにはどうやらワシに因縁のある勇者がおるようてな、そいつらだけは許されへんな、出会ったらいてもうたろか思っとるわ」

勇者? と一瞬疑問に思ったが、そういえばシェリン曰くプレイヤーの呼称が勇者だったか。

「因縁て、どないな関係なんです?」
「おお、聞いてくれるか可憐の嬢ちゃん? これがホンマに酷い輩どもでなぁ。
 ここには二人おるんようなんやけど、一人は「郷田薫」ゆう、金融の流れを無茶苦茶にしおったドアホゥでな。
 おかげでワシが長年かけて作り上げた土壌が全部ぱぁや。何人も喰うに困って死者も出た、ホンマ酷い話やったで」
「それは…………ホンマに酷いですね」
「もう一人はある意味もっと酷うてな。「陣野愛美」とかいう女なんやけど、なんやワシらの土地で怪しい宗教なるもの始めおってな。
 そいつにのめり込んで何人も死んでいったわ」
「宗教ですか……そういう話もよう聞きますけど、怖いですねぇ」

金融崩壊に悪徳宗教。
世の悪逆を煮詰めたような、聞いているだけで吐き気がする連中だった。

その話はあまりにも可憐にとっては現実離れした別世界の話だったが、社長ともなればそういう世界とかかわりがあるのだろう。
語るカルマの辛酸を舐めたような表情は実に実感がこもっており、同情を誘った。

「スマンスマン。暗ろうなってしもたな。そういう嬢ちゃんはどうなんや? なんや知り合いでもおるんか?」
「知り合い、ですか。そうですねおるみたいですわ……」

そう言って名簿に載っていたメンバーの名前を読み伝える。
その名を聞きながらカルマはふむふむと頷きを返す。


225 : 譲れない私の ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 21:44:00 RtblKrUE0
「さよか。それでその子たちは嬢ちゃんとどないな関係なんや?」

親しい間柄なのか、それとも自分のように敵なのか?
そうカルマは問うていた。
可憐は僅かに言葉に詰まる。

知り合い。などという生易しい関係ではない。
友人、仲間、同僚、ライバル。
”彼女たち”を言い表す言葉はいろいろあるだろう。
その中で何が一番適切なのか。

「そうですね。ここにおるんはどうしようもなく可愛らしゅうて、何よりも頼りになる。ほんで、どうにも心配なウチの家族ですわ」

苦楽を共にし共に生きていく運命共同体。
それが彼女たちの絆を表す一番適切な言葉だろう。

「家族か、そら守護らなアカンな」

「……家族を、守護る」

カルマの何気ない呟き。
それで、可憐の中で曖昧だった自分のやるべきことが決まった気がした。

「カルマさん、ありがとうございます!!」

勢いよく立ち上がった可憐はカルマに向けて深々と頭を下げた。

「お、おぅ。いきなりどないしたんや可憐嬢ちゃん」
「カルマさんのお蔭で、やるべきことが決まりました。
 すんません。いきなりですけどもう行きます!」

HSFを守護る。
HSFのために動く。

そうと決まったからにはじっとなんてしていられない。
HSFのために体を張るのは可憐の仕事だ。
この役割だけは誰にだって譲ってあげない。

あっけにとられていたカルマだったがそれも一瞬。
決意を決めた可憐の目を見て、ニカっと笑った。

「いい目や。決めたからには気張りや可憐嬢ちゃん! さっき聞いた名前の子らはワシも気にかけとくわ」
「はい! ありがとうございます」

元気のよい返事ともに可憐が炭鉱の出口まで駆けていった。
そこで一度立ち止まり、カルマの方を振り返って。

「あんじょうおおきに! 安条可憐でした。ほな!」

ビシッとキメ台詞を残して駆け出していく。
そんな姿を見送りながら、魔王カルザ・カルマが手を振った。




226 : 譲れない私の ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 21:44:30 RtblKrUE0
「クク。元気のよい事よ」

再び威厳のある口調に戻り、喉を鳴らして魔王は笑った。

気持ちのいい元気な娘だった。
あのようなモノがいるのなら魔族の将来も明るいというもの。
その家族たる魔族の一族がこの地にいるというのなら、魔族の王として気に掛けるのは当然のことと言える。

可憐に同行しその目的を助けるという選択肢もあっただろう。
だが、魔王はそうしなかった。
何故なら魔王には魔王の目的があるからだ。

それは勇者との戦いである。
むろんシェリンの定義する勇者ではなく、魔王の住まう世界を侵略した悪しき勇者たちである。

彼女と行動を共にしていては、その戦いに巻き込むことになる。
特にあの神の如き女、魔王たる己を滅ぼした陣野愛美との戦いともなれば手加減はできない。
周りの被害など気にしている余裕はなくなるだろう。

肉体を失い、魂の身の存在となった己に与えられた二度目の機会。
転生までの数百年を待たずして訪れた好機である。
逃すわけにはいかない。

「逃しはせん。勇者ども覚悟しておれ!」

炭鉱の中に魔王の声が木霊する。
その頭上で、火山が小さく噴火する音がした。

[G-3/鉱山周辺/1日目・深夜]
[安条 可憐]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:HSF(家族)を守る
1.HSFのメンバー(利江を含む)を探す
2.「陣野愛美」と「郷田薫」に警戒
※魔王カルザ・カルマをゲーム好きのどっかの社長だと思ってます

[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
※HSFを魔族だと思ってます


227 : 譲れない私の ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 21:44:41 RtblKrUE0
投下終了です


228 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/24(木) 22:25:30 Zz42DkWc0
>>219
位置情報を間違えました。正しくはA-3です。
申し訳ありません。

>>221
強敵撃破ボーナスと混同しました。
登くんの勘違いということで進めていただければ幸いです…


229 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/24(木) 22:27:50 RtblKrUE0
>>228
了解です、位置情報だけ修正しておきます。
訂正ありがとうございました。


230 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:35:57 hYJnyaXQ0
投下します


231 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:37:10 hYJnyaXQ0
「ぅう………っ」

大森林の巨大な木の根っこの間にその少女はいた。
街灯の灯りなどない暗闇の世界。唯一世界を照らす月の光も木々に隠れて疎らに降り注ぐばかりである。
暗闇の中、膝を抱える少女は小動物みたいに震えていた。

少女の名は田所アイナ。
テレパシー能力を持った超能力少女である。

彼女はこの殺し合いが本物であると正しく認識していた。
だからこそある程度の覚悟を望んで挑んだつもりだったが、いざ降り立ってみればこれだ。

周囲は暗闇、影絵の木々が立ち並ぶ夜の森。
まるで怪物の腹の中にいるようだった。
不安で一歩も動くことができなかった。

こうして隠れている間に、白馬の王子様みたいなヒーローが解決していくれればいいのに。
なんて、そんな夢みたいなことを事を思う。

王子様。
その言葉に、彼女の脳裏に浮かぶのは一人の少年の姿だった。

大和正義。
誘拐されかけた彼女を助けてくれた彼女の恩人であり、初恋の相手である。
何の見返りも求めない純粋な善意は人間不信に陥りかけた彼女の心を救った。
あれほど尊い存在をアイナは見たことがない。

アイナは尊いものが好きだ。

ゲームやアニメも尊いから好き。
その中でも一番尊い物、アイドル。
昨今のブームに乗せられた口だが、尊さではアイドルの右に出るものないだろう。

中でも彼女の一推しは歌姫、大日輪月乃である。
彼女のコンサートにも何度も足を運んでいる。
世間ではカリスマヴォーカリストとして評価されているが、それよりもアイナは彼女の神秘的な雰囲気の方が好きだった。

だがなんと言う事か。
そんな彼も彼女も、この殺し合いの地にいると言うではないか。
殺し合いだと正しく認識しているアイナにとっては絶望でしかない。

「はぁ」

ため息が零れた。
彼女の心境を示す様に、彼女の上に影がかかる。
月が雲間に隠れたのかと思ったけれど、そうではなかった。
見上げればそこに

「お、お嬢ちゃん、お、オレがイイものをみ、み、見せてあげるよ、グヘヘ」

爆発したような頭をしたにやけヅラの変態がいた。

時が止まる。
ハァハァと息を荒げる男と、プルプルと身を震わせるアイナが無言のまま数秒見つめ合い。

「…………き」
「き…………?」

「キャアアアアアアア―――――――!!!!」

絹を裂くような悲鳴が響いた。
つんのめりながらも、脱兎のような勢いで少女が駆け出す。
必死の形相で不安定な獣道を駆けて行った。

「あっ。ま、ま、待って!」

男もそれを追う。
夜の森で男と少女の追いかけっこが始まった。


232 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:38:16 hYJnyaXQ0
「キャアア! キャアア! キャアアアアアアア!!」

後ろから迫る変質者の気配を感じ、少女は悲鳴を上げながら走り続ける。
追いつかれればどんな目にあわされるか、想像するだけで恐ろしかった。

運動神経はあまりいい方ではないアイナだが、成人男性相手に距離を詰められることなく逃げられているのはアバターのAGIのお蔭だろう。
距離の詰まらない所から見て恐らくは同ランク。
順当にいけば捕まることはない、差が詰まる要素があるとするならば、コース取りやペース配分。
それに、

「きゃっ!?」

アクシデント。
飛び出していた木の根に引っかかって、アイナがスッ転んだ。
地面は柔らかい腐葉土であったため、痛みもなく服が汚れるだけですんだが。

「はぁはぁ、お、追いついた、よ」

倒れるアイナの視線先に息を切らした男が迫っていた。

「いや…………た、助けて」

ジリと距離を詰めてくる男。
倒れこんだままのアイナが後ずさる。

「助けて、助けて…………正義さん!」

彼女の中のヒーローの名を呼ぶ。

「――――――とぅ!」

その瞬間、それはまるでヒーローみたいに現れた。
彼女たちの横合いから飛び込んできた小柄なシルエット。
それは矢のような軌道で一直線に変質者へと向かって跳んだ。

「ぶっ!?」
「懲りないわね、爆弾魔…………ッさん!」

飛び込んだその足が変質者の顔面へとめり込み、そのまま一息で振り抜かれる。
鼻血を垂れ流しながら変質者の体が吹き飛んだ。
その体は一本の樹の幹にぶつかって、ずるずると地面に落ちた。

そうして漆黒を抱えた夜の森に、光を持って彼女は現れた。

腐葉土の大地に音もなく降り立った影。
木々の間から零れる僅かな月明かりがスポットライトのように彼女を照らし影を払った。
彼女が舞い降りただけで、そこは一瞬でステージに変わる。

夜でも光を失わぬ大きな瞳。
子供から大人へと移り変わる一瞬のみに許された、愛らしさと美しさの入り混じった奇跡の美。
自信に満ち溢れた凛とした態度には誰もが目を奪われ惹きつけられるだろう。
そして一度見れば目をそらすことを許さない、全てを支配する圧倒的存在感。

それはまさしく地上に現れた綺羅星。
スターの登場にオーディエンスの声が重なる。


「「ひかりちゃん…………!!!」」





233 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:39:28 hYJnyaXQ0



――――アイドルランキング。



それは業界の仕掛け人「秋原光哉」が打ち出したアイドル界の新たなる指標である。

売上、人気、パフォーマンス、影響力など100を超えるアイドルに関する項目を数値化し、これをランキングとして大々的に公開。
これにより、これまであったユニット内の競争にとどまらず、事務所の垣根すら超えアイドル間の競争が激化。
格差を嫌う時代の流れに真っ向から逆らう、業界全体を巻き込んだ一大革命である。

世はまさに群雄割拠が覇を競うアイドル戦国時代。
そのアイドルランキングにおいてソロ部門、及び、総合ランキング暫定1位――――美空ひかり。
彼女こそ、アイドル界の頂点である。

「またこんなことしてぇ。前回の件で懲りなかったのかしら? 爆弾魔さん」
「ち、ち、違っ。お、お、お、オレはただ、お、怯えて、たみたいだったから、こ、この子を」

怒気を含んだ問いかけに、赤くなった鼻を抑えながら爆弾魔、焔花珠夜が弁明を述べる。
だが、アイドルはその言い訳を断ち切るようにぴしゃりといい放った。

「だまらっしゃい! 女の子を追いまわして、こんなに怯えさせておいて言い訳無用!」
「……ぅ、ぐっ」

反論の余地がないのか、焔花は言葉を詰まらせる。

「さあ、観念なさい!」

美空ひかりが堂に入った構えを取る。
それを見て、過去に撃退されたトラウマがよみがえったのか、

「きゃひぃいい〜〜ッ!」

爆弾魔は奇声を上げて逃げ出した。

「あっ。コラ、待て!」
「ひ、ひぃい」

すぐさまそれを追おうとするが、その視界に何かが放り投げられたのが見えた。

「むっ!?」

それが爆発物であると瞬時に見極めた少女は追おうとする足を止め、その場に腰を落として身を構える。

次の瞬間、爆発が起きる。
熱を含んだ爆風が迫った。

それを前に、前羽に構えた少女の両腕がくるりと回る。
廻し受け。
美しい円を描く二つの軌道が、爆風を一瞬で払いのける。

「う〜ん。今日の私、絶好調ぅ。師範代にも勝てちゃうかもねん〜」

などと調子に乗ってみるが、破片一つ混じっていないこの爆弾はどうやら殺傷目的ではなかったようだ。
どうやらただの足止めための目くらましだったようである。

「逃がしたか」

見通しの悪い夜の森林で一度相手を見失っては追いつくことは困難だろう。
追跡を諦め、蹲る少女に振り返ると、手を差し伸べる。


234 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:39:49 hYJnyaXQ0
「あなた、大丈夫だった?」

その姿をアイナは夢でも見るような瞳で見上げていた。

ただ手を差し出すその動作すら、キマっていた。
王子様みたいなカッコよさと、可憐な少女性を兼ね備えた完全な偶像。
月乃推しのアイナも思わず推し変してしまいそうなカッコよさだった。

「け、けどなんでひかりちゃんが?」

その驚きも当然。
名簿には「美空ひかり」の名はなかったはずである。

「ああ、芸名なのよね、ひかりって。本名は美空善子っていうの。まあ気にせずひかりって呼んで、えっと……何ちゃんだっけ?」
「あっ。わ、私は田所アイナです」
「そう。よろしくねアイナちゃん」

そう言って手を握られる。
彼女が握手会をしたなら6時間は行列ができると言われている相手とこうもあっさり握手ができるなんて、変態に追いかけられてみるものである。

「ところで、聞き間違いかもしれないけど、さっき正義の名前を読んでなかったかしら。
 あなた、あいつの知り合い?」

問われて、驚いたのはアイナの方だ。
天下のアイドル美空ひかりの口から自分の個人的な想い人の名前が出てくるなんて。
久しく思えていない対人関係の何でという驚きに、そう言えば恐怖と興奮でこれまでスキルを使い忘れていた事に気づく。

「昔助けてもらったことがあって……ひかりちゃんの方こそ……知り合い、なんですか?」
「そうね。昔馴染みって所かしら。あいつ……私の事、覚えているのかしら……?」

どこか拗ねたような態度で髪の先を弄りながら。
凛としたアイドルとは違う、少女の顔でそう言った。

「あっ…………」

それは乙女の勘か。
心を読むまでもなく、その感情が伝わってしまった。

自分の心の奥底にしまった宝物のような感情にひびが入る。
だってそうだろう。
彼女は誰もが認めるトップアイドルだ。
そんな相手に、こんなちんちくりんが勝てるわけがないじゃないか。

「えっ。ちょっとアイナちゃん!?」

気づいたら走り出していた。
何で走り出したのか。
自分でも訳が分からない。

ただ、あれ以上彼女の前にいられなかった。
自分の小ささが暴かれてしまいそうで混乱する。
ただ一刻も早く彼女から遠ざかりたかった。




235 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:41:16 hYJnyaXQ0

だが、あっという間に追いつかれた。

後ろから抱き着くように抱え上げられ逃亡を封じられる。
さっきまでの追いかけっこで疲労していたというのもあるのだろうが。
そもそも彼女は動き方が全然違った。
山歩きかそれとも鬼ごっこが得意なのか、あるいはその両方か。
仮にAGIが互角だったとしても、こうも違うものなのか。

「どうしたのいきなり? 私が何か困らせるようなこと言っちゃった?
 私無神経なところがあるから、ごめんね、謝るから機嫌直して。一人じゃ危ないから、ね?」

申し訳なさそうに謝罪のべる。
そこからは純粋にアイナの身を案じている心が伝わってくる。

「う」

逃げ出すこともできず、勝手に混乱して迷走して、その上、悪くもない相手に謝らせる。
恥ずかしくて情けなくって、なんだか無性に泣き出したくなる。

「ううっ……うっうっ…………うえぇん……びゃああああ……!」

と言うか泣いた。
全力の号泣だった。

「え、どうしよう」

突然ギャン泣きする小学生に戸惑うトップアイドル。
どうすればいいのかオロオロしていたが、それも一瞬。
すぐさま表情を引き締め、抱えていたアイナの体をゆっくりと地面におろすと、目の前に立ち大きく息を吸った。

「♪――――I can fly! あの美しい空へ行こう〜♪」
「あ…………っ!」

美しい歌声が響く。
普段の力強いヴォーカルとは異なる、森の木々に染み入るような穏やかで優しい調べ。
アイナは先ほどまでの激情も忘れその歌声に聴き入っていた。




236 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:42:32 hYJnyaXQ0
「す、すごい! ひかりちゃんのデビュー曲『BEAUTIFUL SKY - ひかり -』のアコースティックバージョン…………ッ!!」

独唱を聞き終えたアイナが興奮しながらぴょんぴょんと跳ねる。

「アコースティックって言うか、あんまり大きな声が出せる状況じゃないからゴメンね」
「そんなことないです! すごかった! なんかこう……すごい、すごかったです!」

トップアイドルが自分のためだけの生ライブ。
しかもレアなアコースティックバージョン。
アイドルファンとして興奮しない訳がない。

「私っ感動しましたッ!」
「そう。よかった」
「あっ」

安心したように笑う善子を見て、先ほどまで号泣していたことを思い出した。
再び恥ずかしさが込み上げ来る。
だが、また逃げ出そうとは思わなかった。

「お、オレも感動したよぅ……」
「あんたもいたんかい!」

近くに隠れていたのか、木の陰から涙をちょちょぎらせた爆弾魔もひょっこりと現れた。
その姿を見て、アイナを庇うように善子が前へと踏み出る。

「わざわざ自分から姿を見せるなんて、また痛い目にあいたいのかしら?」

先ほどまでとは打って変わって、冷たく問いかける。
その眼光に、うっと焔花は言葉を詰まらせた。
一触即発。このままでは暴力沙汰は必死かと思われたが。

「ま、待って! ……ください」

その善子の動きを引き留めたのは意外にもアイナだった。
後ろから善子の服の裾を引き、その動きを制す。

「え。ど、どうしたのアイナちゃん?」
「えっと……なんて言ったらいいのか。その人、悪い人じゃない…………と思うので、多分」

最初に声をかけられたときはアイナも混乱していたが。
こうして落ち着いて、心の声を聴いてみると違う答えも見えてくる。
アイナは迷いながら、怯えながら、それでも伝える。

「す、少し、お話を聞いてみてあげるのはダメ…………でしょうか?」




237 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:44:14 hYJnyaXQ0
聞けば。
焔花は森の片隅で、怯えている少女に気づき。
彼女を元気づけるために爆発を見せてやろうとしたのだという。

「だ、だって、爆発は最高の芸術だから…………」

それを見せれば元気になってくれると思ったらしい。

「ほ、ほんとみたい、いや、だと思います、信じてあげてもらえませんか…………?」

どういう訳か襲われていたはずのアイナが弁護に回っていた。
嘘のような話だが、アイナの覗く焔花の心に悪意などみじんもなかった。
それが見えたからこそ、こうして彼女は焔花の弁護に回っている

2対1.いつの間にやら数的不利の追い込まれていた善子は難しい顔をして話を聞いていたが、やがて諦めたように大きくため息を漏らした。

「あなたに悪意がなかったことは分かった。誤解していきなり蹴っちゃったのは悪かったわ。ごめんなさい」

そう言って頭を下げる。
まさか謝罪までされるとは思っていなかったのかアイナも焔花も戸惑った。
だが、勢いよく頭を上げた善子が、くわっと目を見開く。

「けど! 爆破はダメ! NGです!
 そんなの見せられても、余計におびえるに決まってるでしょうが」

指で作ったバッテンを突きつける。

「で、でも。みんな、は、花火とか、す、好きだと思って」
「まぁそれは…………そうだね。けど爆弾は別じゃない? 殺傷力あるんだし」
「は、花火だって、お、同じだよ。扱い方を間違えたら、け、ケガをする」

確かにその通りだ。
そう考えると、爆弾も花火も変わらないような気すらしてくる。

「お、オレの爆弾は、ちゃんと誰もケガさせないようしてるから、あ、安全。
 さ、さっき、ひかりちゃんに投げた爆弾だって、ちゃ、ちゃんと、け、ケガをしないように調整してただろ?」
「うーん。まあ、それは確かに。それなら……いい、のか?」

ううん。と善子が考え込むように腕を組んで首をひねる。
なんだか納得してしまいそうだった。

「あの…………」

おずおずとアイナが手を上げる。
爆弾魔に論破されるアイドルに小学生の助け舟が入った。

「爆弾と花火が同じなら、花火でよくないですか?」
「確かに」

小学生の意見に一瞬で同意するアイドル。
これに対して爆弾魔は。

「ば、爆発性が違う」

バンドの解散理由みたいな事を言い出した。




238 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:45:06 hYJnyaXQ0
結局。

善子が監視しこの場では自衛以外で爆破はしない、という事で話は落ち着いた。
その結論にこの爆弾魔が本当に従うかまではわからないが。

「とりあえず協力して帰る方法を探しましょう」

殺し合いなんてまっぴらゴメン、と言うのが三人の共通したポリシーだった。
とりあえず行動を共にして協力者を増やす。
それが行動方針である。

アイナは一人、今回の件を自省していた。
結局、自衛のために取ったスキルも使えなかった。
まず冷静でいないと話にならない。
読心もほぼ無意識で使えていたテレパシーと違ってスキルの方は発動が任意だし、インターバルもあるため難しい。
この感覚に慣れなければ、生き残るのは難しいだろう。

「よし、それじゃあ行こうか。私が先頭、アイナちゃんが真ん中。焔花さんが後ろね」

そう指示を出して動き始める善子の下へ、何か表情を固めたアイナが近づいていった。

「ひかりちゃん! 私、負けません」

両のこぶしを握り締めフンスーと鼻息荒く善子へ宣戦布告を突きつける。

「うん? 頑張ろうね、アイナちゃん」

よく分かってない善子はアイナの頭をなでる。
アイナは不満そうに口を尖らせるも、なでられる感触がくすぐったくて目を細めた。

「お、オレも頑張る、よ!」
「う、うん。あなたはまあ程々にね」

[E-6/大森林/1日目・深夜]
[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.知り合いと合流

[田所 アイナ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:お家に帰る
1.ひかりちゃんには負けない

[焔花 珠夜]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:A LUK:C
[ステータス]:顔面にダメージ
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:多くの人に最高の爆発を見せたい。
1.約束したので我慢はする(我慢するとは言ってない)


239 : 恋するテレパシスト ◆H3bky6/SCY :2020/09/25(金) 23:45:57 hYJnyaXQ0
投下終了です


240 : ◆A3H952TnBk :2020/09/26(土) 10:33:44 eP21omp20
投下乙です。
ひかりちゃん、頼もしすぎる……
いちいち一喜一憂するアイナちゃんが可愛い
爆弾魔は予想以上に憎めない小物で危険人物なのに微笑ましい

自分も投下します。


241 : Rolling Thunder ◆A3H952TnBk :2020/09/26(土) 10:34:26 eP21omp20



昔々、とある日の記憶―――。
まだ若かったときのおじいさんは、旅に出ました。
みんなといっしょにライフルを抱えて、海の向こうへと行きました。
ヘリコプターに揺られて、やがてどこまでも広がるようなジャングルへと辿り着きました。
ここがおじいさんの新しい仕事場でした。





昔々、とある日の記憶―――。
まだ若かったときのおじいさんは、友達と再会しました。
友達はシーツをかけられて、顔を見ることもできませんでした。
おじいさんが頼み込んでも、仲間はシーツを取ってくれません。
ひどい有り様だから見ちゃいけない、の一言でした。
おじいさんは友達が運ばれていくのを見送ることしかできませんでした。





昔々、とある日の記憶―――。
まだ若かったときのおじいさんは、とても怖くなりました。
15才くらいの男の子が、爆弾を抱えて自爆したからです。
男の子はこっぱみじんになって吹き飛びました。
おじいさんの仲間たちは手や脚を喪ったり、目が見えなくなったりしました。
中には跡形もなくなってしまう人もいたし、今までのような生活が全部できなくなる人もいました。





昔々、とある日の記憶―――。
まだ若かったときのおじいさんは、気が付きました。
おじいさんの友達はみんないなくなってしまいました。
友達はたいていシートに包まれて運ばれてきました。
目の前でいなくなってしまうこともありました。
おじいさんは悲しくなりました。
おじいさんはやるせなくなりました。
おじいさんは何度も何度も泣きました。
おじいさんは怒りました。
おじいさんは憎みました。
おじいさんはまた銃を取りました。
おじいさんにもう迷いはありません。





昔々、とある日の記憶―――。
まだ若かったときのおじいさんは、引き金を弾きました。
カチャリとライフルを構えて、パンと弾を飛ばしました。
おじいさんの手にかかれば、みんな倒れてしまいます。
子供がいてもおかしくない歳の兵士の頭を撃ちました。
自分より年下に見える、まだまだ若い兵士の頭を撃ちました。
森の中に隠れ潜んでいた女の人の頭を撃ちました。
何もしていないけど、これから何かするかもしれない青年の頭を撃ちました。
赤ん坊がお腹にいるお母さんの頭を撃ちました。
ちいさな男の子の頭を撃ちました。
ちいさな女の子の頭を撃ちました。
みんなみんな、撃ってしまいました。
もう誰かいなくなってもおじいさんは構いません。
友達を奪っていった人たちを、次々に撃ちました。
大人だろうと子供だろうと関係ありません。敵と見なした人を、みんな撃ちました。
いつの間にかおじいさんは、伝説になっていました。







銃声。
老人は、引き金を弾いた。
そして、撃ち抜いた。
相手の輪郭は見えていた。
孫娘とさして変わらぬ背格好であることには、気付いていた。







242 : Rolling Thunder ◆A3H952TnBk :2020/09/26(土) 10:35:36 eP21omp20



真夜中の工業地帯を裂く、一発の咆哮。
その銃口から、殺意を吐き出すように硝煙が上る。
ふぅ―――と、一呼吸。
感覚が研ぎ澄まされる。
意識が集中していく。
まるで、かつて戦場に身を置いていた時のように。
老人の眼差しは、鷹のようにぎらついていた。

無数の煙突やパイプの陰の間に隠れるように、老人は高台で身を低く屈めながら小銃を握り締めていた。
その銃身にスコープは装着されていない。暗視ゴーグルも無ければ、赤外線センサーの類いもない。
だと言うのに、仄暗い鉄塊の隙間を縫うようにして、その老人は“標的”に弾丸を命中させた。
老人は小銃を持ち上げ、下部に取り付けられたレバーを引く。
カチャン、という音と共に空の薬莢が側面から排出される。

ウィンチェスターライフル改。
彼に支給されたのは、骨董品のような銃器だった。
アメリカの西部開拓時代、保安官やアウトローの間で広く普及していた名銃を中距離射撃仕様に改良したものである。
しかし、改造を施しているとはいえ、本来それは過去の遺物。
性能面において、現代の最新式の銃器とは比べるまでも無い。
マニアが家に飾るか、粗野な田舎者が所持するか、あるいは博物館にて展示されるか。そういったレベルの代物だ。
されど、骨董品と言えども銃。果てしない荒野にて猛威を振るった伝説の逸品。人を殺すには十分の力がある。

老人は、銃を構え続けていた。
スキル「千里眼」による視力の強化。
スキル「鷹の目」による視覚範囲の強化。
スキル「夜目」による暗視の効果。
老人は視覚にまつわるスキルを複数所持していた。
いずれも偵察や監視のみならず、狙撃に転じられる実用的な能力。
スコープは無く、周囲は暗闇の中。長距離の精密射撃は当然できない。しかし、射撃そのものはできる。
老人はスキルによる補助―――そしてアバター化によって蘇った「肉体の勘」を駆使して、中距離狙撃を行っていた。
本来の老いた肉体ならばライフルを持つことすら覚束なかっただろう。しかし、今の彼は生身ではない。

老人―――アーノルド・セント・ブルーは、目を細める。
200メートル程度離れた位置にいる標的を見据えた。
先程まで地上を歩いていた相手は、右肩を撃ち抜かれたことで悶え苦しんでいた。
流石に、一撃で仕留めることは出来なかったか。
ヘッドショットには程遠い。勘は蘇ったが、数十年ぶりの戦場に身体はまだ馴染んでいない。
それに、この暗闇。そして改良されているとはいえ、決して狙撃向きとは言い難いライフルの性能。
アバター化やスキルによる補助はあれど、彼に課せられた制約は少なくなかった。

暗黒の中で、アーノルドは標的を再び視た。

――――――何だ、あれは?

彼は思わず目を見開いた。
肩を抑えて蹲っていた「少女」が、慟哭を上げていた。
悍しい怪鳥のような金切り声を放ちながら、勢い良く立ち上がっていた。
肉が歪み、肉が割れ、肉が形を変えていく。奇怪な音が僅かながらアーノルドの耳に入る。
仄暗い闇の中に浮かんでいたあどけない輪郭は、徐々に変貌しつつあった。

その光景を見つめて、老人はただゆっくりと、呼吸をする。
あまりにも異常。この状況も含めて、普通ならば冷静でいられるはずがない。
しかし、この老兵の意識は、まるで若かりし頃のように研ぎ澄まされていた。






昔々、とある日の記憶。
■じいさんは、とても嬉しくなり■した。
おじいさ■は、とても楽し■なりました。
お■いさんは、と■も満たされました。


■々、■ある■の■■。
おじいさん■、片脚■無くしました。
戦争は■わりました。
お■いさんはもう■てません。
おじいさん■もう撃て■せん。
■じいさ■はもう、何もでき■せんでした。
平和■暮らし■、心■中はいつも独りぼっ■でし■。







243 : Rolling Thunder ◆A3H952TnBk :2020/09/26(土) 10:37:01 eP21omp20



二度目の銃声。
パイプの隙間から迫り来る「少女」の腹部が弾け飛ぶ。
再び仰け反った「少女」は、しかしすぐに再び動き出す。
まるで薬物中毒になった兵士のように、傷さえも気に掛けずに迫り続ける。
血を流すたびに変わりゆくカタチ。小さく可憐だった肉体が、次第に人ならざる何かの如く変異していく。
少しずつ大きくなっていく体躯。鉤爪のようなものが生えた禍々しい右腕。獣の如く獰猛な形状になりつつある脚。
まさしく、異形の類い―――これもアバター化やスキルによる恩恵なのか。
老人は思考と共に、あくまで冷静にライフルを構え続ける。

徐々に接近してくる「少女」を高所から見据えて、アーノルドは息を止めた。
彼の脳裏に記憶が蘇る。

うだるような暑さの、果てしない密林の中。
草陰に隠れ潜んでいた少年が、唐突に仲間達のもとへと突っ込んでいった。
その直後に、何もかも弾け飛んだ。自爆攻撃であることに気付くのにそう時間は掛からなかった。
動揺。恐怖。苦痛。混沌。仲間達の絶叫。阿鼻叫喚。血と肉が撒き散らされた地獄―――。


        ・・・・・・
あれに比べれば、たかが怪物だ。
あの焦燥に比べれば、なんてことはない。



排莢。照準。
迷わず三発目、四発目の弾丸を放った。
三発目、首筋に着弾。
しかし、それでも相手は動く。
四発目、頭部に―――命中せず。
偏差による着弾を先読みするように、「少女」は間一髪で弾丸を躱したのだ。

老人はその様子を睨むように見つめる。
先程まで、的のように撃たれるばかりだった相手。
その程度のステータスしか持ち合わせていないのだと判断したが、今しがた能動的な回避行動を取った。
それも明らかに反応速度が向上している。敏捷性が目に見えて増しているのだ。
予想して当然ではあるが、あの外見の変貌はやはり単なる見掛け倒しではない。何らかの自己強化が施されている。
ゲーム開始から2時間実施されるGPのボーナスを目当てに狙った相手だが、思わぬ強敵だったらしい。
老人の口元が、綻ぶ。

迫る。
少女だった怪物が、迫る。
老人が陣取る高所へと目掛けて、走る。
獲物を狩り取らんとする狩人のように、迫り。
そして。
怪物が、突然足元を掬われた。
暗闇の中、パイプや工具の間に仕掛けられたワイヤーを足に引っ掛けて転倒したのだ。
同時に、カチリと音が鳴る。
ワイヤーが引っ張られると共に転がってくる、二つの物体。
それが手榴弾であることに気づく前に。
怪物は、弾けるような爆炎に包まれた。

仕留めたか。
そう思い、高台から相手を見下ろすアーノルド。
再びライフルを構えて、銃撃。トドメの一撃を刺すためだ。

だが―――僅かな驚愕と共に、老人は目を見開いた。
紅蓮に包まれ、全身を焼かれたはずの怪物が、転がりながら弾丸を回避した。
そして、ゆっくりと、その場から立ち上がったのだ。
先程に比べれば、まるで覚束ない足取り。
されど、動揺するような様子も見せず。
怪物は、老人を見上げた。

黒く濁って、淀んだ眼差し。
この暗闇の中でも、それだけはハッキリと伺えた。
ああ、これは――――。
老人は怪物の目を見て、どこか物悲しい気持ちになった。
同時に、兵士としての冷静沈着な判断が彼を動かす。
火力不足。そう捉える他無い。あの一撃を受けてなお、怪物は生きている。
ヤツは血を流し、負傷もしている。殺せない相手ではない。
しかし、このまま戦い続ければ、此方の消耗も避けられないだろう。
短期決戦か、長期戦か。その見込みすら分からない現状で、不確定な戦いに身を投じる訳には行かない。

老人の動きは早かった。
低い敏捷性を補うような迷い無き動作で、高台の後方を滑り落ちていった。
そのまま怪物の追跡が来るよりも先に、工業地帯の狭間に姿を消していった。





244 : Rolling Thunder ◆A3H952TnBk :2020/09/26(土) 10:38:15 eP21omp20



燃やされるのも、撃たれるのも、なんてことはない。
ずっと味わってきた苦痛に比べれば、些細なことだった。
独りぼっちでいることにも、もう慣れていた。


全身を焼かれた怪物の傷は、少しずつ、少しずつだが自己治癒を果たしていく。
スキル「憎悪の化身」による肉体の変貌。人ならざるものへの変異。
それが発動すれば耐久力が増すばかりか、自己再生能力さえも人のものではなくなる。
更には「戦闘続行」スキルによる異常な生命力の獲得―――それ故に、生半可な攻撃で彼女を死に至らしめることは出来ない。

酷く冷めきったような目付きで、怪物は夜空を見上げた。
異形の腕。異形の脚。異形の肉体。
それらは時間とともに、徐々に「少女」のものへと戻っていく。
美しい黒い髪を持ち、小綺麗な制服に身を包んだ、元の姿へと。
癒えつつある火傷に覆われた可憐な面持ち。怪物から少女に戻ろうと、その眼差しだけは変わらない。
陣野 優美は、ただ全てを憎んでいた。

名簿に記載されていた名前を、鮮明に記憶している。
陣野愛美。郷田薫。
かつて共に異世界へと送り込まれた肉親と親友であり、泣き喚きながら売り飛ばされる自分を冷ややかに見送った“醜い勇者たち”。
兆は何処へ行ったのか。誠は居ないのか。優しかった真凛も私を置いていったのか。
分からない。何がなんだか、もう分からない。
高井丈美―――懐かしい名前も見えた。昔可愛がっていた後輩だ。

でも、もうどうでもいい。
親友も、恋人も、みんなみんな、私を救ってくれなかった。
私のことを、誰も守ってくれなかった。
誰も私を愛してくれなかった。
愛という名のもとに、ずっと虐げられ、辱められ、痛めつけられ、嬲られ―――。

そこまで思い出して、優美は膝を付いた。
おえっ、ごほっ、がはっ。
胃の中の物を吐き出思想になるほどの不快感と嫌悪感。
腹の底から渦巻いてくる気持ち悪さは、まるで生身の人間のようだった。
こんな苦しみを、ずっと抱えてきたのに。
結局、手を差し伸べてくれる人はいなかった。

勇者になって、他の勇者を殺しましょう。
あのシェリンという少女はそんなことを告げてきた。
―――――ふざけるな。
優美の胸の内から込み上げたのは、激しい怒りと憎悪だった。
勇者になって。勇者になって。勇者に、なって?
もう勇者なんて、信じないと決めたのに。
もう勇者なんて、要らないと決めたのに!
もう勇者なんて、ならないと決めたのに!
憎くて憎くて、全てが臭かった。
腐った肉の海に放り出されたようなおぞましい感覚に囚われていた。

彼女は迷うことなく、己の方針を定めた。
すべてを消し去る。目の前に立ちはだかる何もかもを、有象無象を、殺し尽くす。
あの狙撃手も、私を見捨てた勇者も―――私に勇者を押し付けた、シェリンとやらも。
この胸を支配する夥しい憎しみで、敵を押し潰す。

美しかった少女は、生ける屍のように歩き出す。
己の黒い血を踏みしきりながら、ゆっくりと。







――――昔々、とある日の記憶。
――――女の子は、売り飛ばされてしまいました。
――――女の子は、ずっと泣いていました。
――――みんなは、とても笑っていました。






245 : Rolling Thunder ◆A3H952TnBk :2020/09/26(土) 10:39:23 eP21omp20



[C-6/工業地帯/1日目・深夜]
[アーノルド・セント・ブルー]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:A LUK:A
[ステータス]:疲労(軽微)
[アイテム]:ウィンチェスターライフル改(9/14)(E)、予備弾薬多数、手榴弾×8、ワイヤー、不明支給品×1(確認済)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:生き残る。
1.充実感。

[陣野 優美]
[パラメータ]:STR:E→C VIT:E→C AGI:E→B DEX:E LUK:A
[ステータス]:疲労(中)、銃創(右肩、腹部、首筋)、全身に火傷、出血中、いずれの傷も自己再生中
[アイテム]:不明支給×3(確認済)
[GP]:20→30pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:全部、消し去る。
1.姉(陣野愛美)と郷田薫は絶対に殺す。
2.自分に再び勇者を押し付けたシェリンも、決して赦さない。
※スキル「憎悪の化身」によるパラメータ上昇は戦闘終了後に数分程度で解除されます。また肉体の変質によって自己再生能力もある程度上昇します。


【ウィンチェスターライフル改】
西部開拓時代に活躍したレバーアクションライフルを中距離射撃仕様に改造したもの。
通常は拳銃弾を用いるのに対し、内部構造を改良したことによって小口径のライフル弾を発射することが可能になっている。
とはいえスコープは装備されておらず、本格的な狙撃銃に比べれば射程も威力も劣るという中途半端な代物である。

【手榴弾】
ピンを引き抜けば数秒後に爆発する、通常の手榴弾。
10個セットで支給。

【ワイヤー】
アーノルド・セント・ブルーが工業地帯で現地調達した極細のワイヤー。
手榴弾のピンに繋げて即席のトラップを作るなど、応用が効く。


246 : ◆A3H952TnBk :2020/09/26(土) 10:40:37 eP21omp20
投下終了です。


247 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:37:23 3WjydajA0
投下します


248 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:38:34 3WjydajA0
『New World』にお越しのお兄ちゃん、お姉ちゃん、こんばんは!
ハッピー・ステップ・ファイブ、みんなの妹!篠田キララです!

本日、私はVR空間『New World』にてバトルロワイアルをすることになってしまいました!とっても怖いです!
死ぬのも殺すのもぜーーーーったい嫌なので、戦いに巻き込まれないよう、応援よろしくお願いします!!

――え?何を言ってるかわからないって?
大丈夫!言ってる私が一番わかってません!


◆◆◆


249 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:40:25 3WjydajA0


ということで、私――篠田キララのバトルロワイアルが始まってしまいました。

どうしてこんなことに?っていうと、授業中に少々うつらーうつらーとしていたんですが、気がついたら知らない空間にいて、目の前にシェリンとかいう女の子がいまして。

制服を着て学校にいたはずなのに、ライブの衣装に着替えさせられてて(ヘアメイクまで完璧でした)、状況がわかんなくてえ?え?ってなってる間に、シェリンちゃんはまくし立ててきて。

「この説明を聞き終えた時点でこれら注意事項について同意したものと見做されます」とか言うから慌てて「同意しません!」って言ったけど完全に無視されて。

全然状況が飲み込めないでいるうちにアバター作成させられてVR空間にポイです。
不親切にもほどがあるというものです。

ご意見メールフォームで文句言ってやろうかと思いました。
実装されていませんでしたが。

とまあ、何が何だかさっぱりわからないけれど始まってしまったものは仕方ありません。
自分の手札や与えられてる情報を確認するとしましょう!
ゲームの基本ですね。



――さてさて、 メニュー画面を開いて[[ステータス]] [[アイテム]] [[メール]] [[メンバー]] [[オプション]] [[ヘルプ]]と一通り確認させていただきました。

[[ステータス]]は、まあ設定した通りですね。
アイドル(C)は強力なスキルじゃないのは察していましたが、私にもアイドルとしての矜持がありますので。
発見されやすいデメリットをカバーするために愛され系(A)を取得しました。
善意ある者を惹き付け悪意ある者を遠ざける。
これが私の生存戦略です!

[[アイテム]]は説明の通り3つ入っていました。
一つ目はスタングレネードです。
非致死性兵器はありがたいです。愛され系スキルで防げなかった場合の切り札になりますしね。

二つ目は掃除機でした。
この空間で何を掃除しろというのでしょうか。
シェリンちゃんの思考がマジで読めません。

三つ目はM1500狙撃銃です。弾薬が予備を含めて10発です。
日本国産のボルトアクションライフルです。
私がやってるゲームにも出てきますし、説明書きも丁寧なので扱い方はわかります。
ただ、STRを最低ランクに設定してしまったので取り回せるかが不安です。


[[メンバー]]は人選が謎すぎました。
私のネトゲ友達のBrave Dragonさん。
トップクラスのアイドル 美空ひかりこと美空善子さん。
同じくTSUKINOこと大日輪月乃さん。
それとTSUKINOさんのお兄さんと思しき大日輪太陽さん。名前からして暑苦しそうです。
加えて『HSF』のみんなが勢揃いです。脱退してしまった滝川さんまでいます。

正直、参加者の選考基準がわかりません。
アイドル枠を作りたかったにしても謎です。
最近のアイドルシーンだけでも『ほむはいむ』のサバゲ―マー 秋葉さんとか、新体操のインターハイ経験者 麻布蔵さんとか、メンバー全員現役自衛官の『みにみり!』の皆さんとか。
『HSF』よりももっと、こういう戦いの場にふさわしい人選があったんじゃないかと思います。
…彼女たちが巻き込まれなくてよかったとも思いますが。

[[ヘルプ]]ではあまり有用な情報は得られませんでした。
ここから出るにはどうしたら良いか訊いてみましたが「優勝してください」としか答えてくれません。
優勝する以外の脱出方法も訊いてみましたが「基本的に存在しません」とのことでした。
不親切です!



◆◆◆


250 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:41:29 3WjydajA0


それでは一通り確認も終わりましたので行動を開始したいと思います。

まずはHSFのみんなとの合流が第一目標。
六人で家族同然に支え合って頑張って、アイドルデビューにこぎつけた運命共同体です。
脱退したとか関係ありません。誰が欠けても嫌です。

それとひかりさんやTSUKINOさん、そのお兄さんである太陽さんやBrave Dragonさん。
こういった信頼できる仲間を集めて脱出を目指したいところです。
死ぬのも殺すのも絶対嫌ですから。

とはいえ私自身はか弱い子どもでしかありません。
現在地は死角の多い大森林。月明かりも木々に遮られてしまうので視界が悪いです。
スキルがあるので不意打ちを受ける危険性は低いですが、早々に移動したいところです。
お化けが出そうで怖いとかじゃありませんよ?


とりあえず市街地に向けて歩いていた私の目に白い学ランが映りました。
黒い闇のなかでよく映える白ランを着た人は、どうやら両手を挙げて真っすぐこちらに向かって歩いてきているようです。

既に発見されたと思ってよいでしょう。
両手を挙げているのは敵意がないことを伝えようとしているのでしょうね。
とりあえず接触しても大丈夫そうです。油断はしませんが。


私は右手に握るスタングレネードを強く握りしめました。



◆◆◆


251 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:43:43 3WjydajA0


鬱蒼とした木々の間から現れたのは、腕章を巻いた白ラン、炎のような髪と燃えるような瞳、暑苦しい体躯が特徴的な男性でした。
「暑苦しい体躯」って何?って思うかもしれないですけど、それ以外に形容する言葉が思い浮かばないんですよ。

互いの顔が見える距離まで近づくと、白ランの方が口を開きます。

「こんばんは!!お嬢さん!!」
「こんばんは。声が大きいです」
「むっ!すまない!」
「もうちょっと小さく」


TSUKINOさんから聞いていた通りだなあと思いながら自己紹介をします。

「初めまして。『HSF』の篠田キララと申します。」
「うむ!俺は大日輪学園生徒会長 大日輪太陽という!よろしく頼む!」
「こちらこそよろしくお願いします。TSUKINOさんには大変お世話になっております」
「そうか!!月乃から聞いていたか!話が早くて助かる!!」
「声が大きいです」
「む!すまない!」

思った通り、白ランの方はTSUKINOさんの兄、大日輪太陽さんでした。
「外見も中身も暑苦しくて胸焼けする」と慈愛に満ちた表情で言っていたのを思い出します。

私達は互いに信頼できる人間だと判断し、情報交換を行います。

「俺に支給されたアイテムはこのボウイナイフとマイク、それと指輪だ!
ボウイナイフは普通のモノだが、マイクはスキルを付与する効果があるらしい!
指輪は気温30度以上の環境で装着していると、周りの気温を25度に下げてくれるそうだ!!」
太陽さんは腰に下げたナイフ、指にはめた指輪、アイテムボックスのマイクと順番に披露してくれました。

「良いアイテムを引き当てましたね。あと声が大きいです」
「おお!すまない!」

また、このマイクを使って歌を歌うと、聴いた者の戦意を削ぐことができるらしいです。
ただ効果が表れるまでの時間は使用者のリアル歌唱スキルに依存する、ということなのでアイドルである私がもらい受けました。

代わりに太陽さんには掃除機をあげました。
いざというときには振り回すそうです。


次に、互いにこの場にいる知り合いについての情報交換を行いました。


252 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:44:22 3WjydajA0
太陽さんはゲームが始まってすぐに出会った女性と協力関係にありましたが、「花摘みに行く」と言って別れた彼女とはぐれてしまい、捜索中だったそうです。
妙に不用意に歩いているなと思ったらそういった事情があったようです。

そして今後の方針を話し合います。
「ということで、協力できる仲間を集めてこのゲームの打破を目指します」
「うむ!大いに賛成だ!!」
「声が大きいです」
「おお!すまない!」
予想通り、ゲームに対する基本的なスタンスは同じだったので安心します。

「なので仲間を効率的に集めるために、もっとも人が集まりやすいと思われる市街地に向かいたいと思います」
「なるほど!だが、それには反対だ!」
こちらは予想通りとはいかず、市街地に向かう案には反対されてしまいます。

「まず、市街地には優勝を目指す者も多く集まることが予想される!
君にライフルが支給されているように、遠距離から一方的に攻撃できるアイテムがそういう輩の手に渡っていることも十分に考えられる!
また、君のスキルやマイクの効果による防衛性能には不確定要素が多い!
攻撃を妨害できるかどうかが相手の意志に依存するからな!
容易に高所を取られる市街地に行くのはリスクが高い!
故にこの森林で志を共にする人間を集めて守りの手段を増やし、リスクを減らしてから向かうべきと主張する!」

確かに一理あると思います。
人数があまり増えるとフットワークが重くなってしまいますが、その分外敵に抗するための手札が増えますし。
市街地で拠点となる建物を確保できればその問題も解決するでしょう。

「それと先ほども言った通り、俺は志を同じくする女子と既に協力関係にある!
少なくとも花摘みに行くと言ったきり戻ってこない彼女の安否を確認するまでは森林を離れるべきではないと思う!」
「わかりました。ありがとうございます。声が大きいです」
「うむ!すまない!」

それも道理です。
せっかく見つけた仲間をむざむざ見捨てるわけにはいきません。

「そうですね。であればまずはその女性を探しましょう。どんな方ですか?」
「ありがとう!
その女子は『ユキ』と名乗っていた!
女子にこういう形容をするのは良くないが、長身でグラマラスな体型をしている。」

「ありがとうございます。服とかはどうでしょう。」
「ああ!範当高校の制服を着ていた!」
「ではその方とはぐれたところまで戻ってみましょう。ひょっとしたら彼女も戻ってきているかもしれません」
「そうだな!こちらの方角だ!」

先導する太陽さんを追って歩き出します。
いきなり信頼できる相手と遭遇して、協力関係を築くことができました。
幸先良いスタートと言えるでしょう。


私達HSFは六人で協力して、支え合ってアイドルとしてメジャーデビューという大きな目標を達成しました。
そして太陽さんがそうだったように、このゲームに反感を持つ参加者は決して少なくないはずです。
六人よりももっと多くの方たちと協力していけば、きっとこのゲームの打破という目標も達成することができるはずです。


とそんなことを考えながら歩いていた私の鼻先に白いものがぶつかります。
太陽さんの学ランです。
どうやら前を歩いていた太陽さんが立ち止まったようです。

到着したのでしょうか。それとも何か見つけたのでしょうか。
太陽さんの身体越しに彼の見ている方向を見てみますが、変わったものは目に入りません。
着いたなら着いたと言ってくれれば良いのに、太陽さんは黙りこくっています。

らちが明かないので尋ねてみます。
「どうかしましたか」


尋ねられて、のそりとこちらを振り返った太陽さんは、




――先ほど見せてくれた大きなナイフを振りかぶっていました。




◆◆◆


253 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:45:07 3WjydajA0


ユキこと三土梨緒は手元のタブレットに何か打ち込みながら木陰から飛び出した。
そして虚ろな目で棒立ちする太陽に駆け寄るとその手を握る。

「あなたの持つGP 100ptの内、90ptを私に譲渡しなさい」
「はい…」

梨緒のとんでもない要求に、太陽は嫌がる様子もなく応じる。
これにより太陽からキララを殺害して獲得したGP 90ptが送信され、手数料1割を引いた81ptが梨緒に移譲された。



◆◆◆


私はいじめられっ子だった。
暗くて内気で容姿も地味な私は、いじめっ子たちからすれば絶好の標的だったのだろう。


直接的な暴力こそなかったものの、私の心は踏みにじられ、ボロボロに傷つけられた。
いじめっ子たちから離れたい一心で勉強し、進学校である範当高校に進学した。


範当高校のクラスメイト達は皆、自信に満ちていてキラキラしていた。
私だけが惨めだった。
目を逸らすように本に没頭した。


ある日クラスメイトに声をかけられた。その本ウチも好きなんだ、と。
クラスメイトは栗村雪と名乗った。


友達ができて嬉しかった。
本の話ができて楽しかった。
雪は私に光を当ててくれた。


ある日気づいてしまった。
雪がくれる光は雪のものだ。
私は光ってなんかいない。今も暗くて地味なままなのだ。



◆◆◆


254 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:47:21 3WjydajA0

梨緒はこのゲームに召集され、説明を受けた瞬間心に決めた。
優勝し、今までの暗くて地味で惨めな自分とは決別することを。

アバターは雪と同じ外見にした。
雪になりたかった。
そして雪の外見の方が男ウケが良い。きっと都合よく利用されてくれる。
優勝するためにはどんな手段も厭わず使おう。



会場に降り立った梨緒は、キララ同様自分の手札の確認に務めた。
[[メンバー]]を見て知り合いの有無を把握するのも、[[アイテム]]を見て戦い方を決めたのも同じ。


違ったのは、梨緒はシェリンに建設的な質問をたくさんした、という点だ。

これはできるのか。こんなことは可能か。このくらいならできるか。
問いへの答えは肯定もあれば否定もあった。
しかし、「他人からポイントを譲渡してもらえるか」という問いにシェリンが肯定するのを見て、戦略の成功を確信した。



最初に出会った参加者が単純馬鹿だったのも幸運だった。
大日輪太陽と名乗るその男と情報交換。隙を見てセンサーを貼りつけた。

このセンサーは梨緒のランダムアイテムの一つ『人間操りタブレット』の付属品である。
かなり単純な命令しか出せないが、センサーが貼りつけられた人間を操ることができるという代物だ。

貼りつけた後はもう一つのランダムアイテム『隠形の札』を用いて隠れ、太陽が他の参加者と接触するのを待つ。
太陽の立ち振る舞いを見てゲームに乗っていると思う者はいないだろうし、そのカリスマはゲームに乗ることのできない弱者の心の拠り所となるであろう。
それが梨緒の仕掛けた甘い罠であるとも知らずに。

太陽が信用されてしまえばあとは単純。
太陽を操作して油断した弱者を殺し、太陽からGPと死者の支給品をかすめ取る。

操られ何人もの参加者を殺させられていたと気づく頃には、私の手札は充実している。
仮に怒り狂った太陽に逆襲されても問題なく返り討ちにできる。

これが私の戦略だ。



「それじゃ、太陽先輩に合流しましょうか。
きっと落ち込んでるだろうから慰めてあげないと」

タブレットの電源を落として太陽に近づく。
ここからは演技力の勝負だ。


◆◆◆


255 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:48:21 3WjydajA0

太陽が意識を取り戻したとき共闘を誓った少女はいなくなっていた。

「どこだ!キララさん!どこへ行った!?」

辺りを見回し、大声でキララに呼びかけるが返事はない。

キララは既に死に、死体は消失した。アイテムは梨緒に持ち去られている。
応答が返って来るはずは決してないのだが、その事実を知ることができない太陽は大声でキララを探し求める。

「太陽先輩!!」

太陽を呼ぶ声。
振り向くと先ほどはぐれたユキがこちらに駆け寄ってきていた。



無事を喜ぶのもそこそこに事情を説明すると、顔面蒼白になったユキが言う。
「東の方に向かう何かを見た気がしたんですけど、ひょっとして…」

言い終わるが早いか太陽は駆け出す。



力なき少女を拉致した卑劣な敵を憎む大日輪 太陽。
強く前を睨む双眸は、背後の悪を捉えない。




[篠田 キララ GAME OVER]


256 : 太陽への贈り物 ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:49:25 3WjydajA0
[E-5/大森林/1日目・深夜]
[大日輪 太陽]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康、『人間操りタブレット』のセンサー貼付
[アイテム]:ボウイナイフ(E)、涼感リング(E)、掃除機
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt、勇者殺害×スタートダッシュにより+90pt、ユキに譲渡したため-90pt)
[プロセス]
基本行動方針:仲間を集めてゲーム打破
1.篠田キララの捜索、犯人の拘束。
2.大森林の中で仲間を増やして市街地へ。
3.可及的速やかに月乃を発見したい。
[備考]
ユキの「花摘み」発言について、『New World』では排泄の必要がないことに気づいていますが「女性だし色々あるんだろう」と流しています。

[三土梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、スタングレネード、歌姫のマイク
[GP]:0→91pt(キャンペーンで+10pt、太陽から譲渡を受け+81pt)
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.太陽を操って他の参加者を殺していく。



【人間操りタブレット】
センサーを貼りつけられた人間を操るタブレット。
連続で操作できる時間は1分。それを超えると電源が落ちる。電源を落とすと15分経過しないと再起動できない。10m以上離れると操れなくなる。
スワイプすることで移動、『攻撃』ボタンで簡単な攻撃ができる他、『肯定』ボタンで肯定の意を、『否定』ボタンで否定の意を示すことができる。

【隠形の札】
身体に張り付けている間、使用者にCランクの隠密スキル(一定時間、気配を消した隠密行動が可能となる。再度使用するためにインターバルが必要。隠密状態のまま攻撃できない)を付与する。

【M1500狙撃銃】
国産の狙撃銃。SATなどで採用されている。

【スタングレネード】
強烈な音と光で敵を麻痺させる。

【歌姫のマイク】
使用している間、使用者にCランクの歌唱スキル(聴く者の戦意を削ぐ。効果発生までの時間は使用者の歌のうまさに依存する)を付与。

【涼感リング】
気温30度以上の環境で装着していると、周囲1mの気温を25度に下げる指輪。

【ボウイナイフ】
刃渡り30cmのナイフ

【掃除機】
国産の高性能な掃除機。型が古いのか少々重め。
使用済み。


257 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 15:50:10 3WjydajA0
投下終了です。


258 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/26(土) 16:17:47 3WjydajA0
>>256
三土梨緒の残GP訂正します。
✕ 0→91
〇 45→136

大変失礼いたしました。


259 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/26(土) 17:20:06 xyjkY1hM0
両名とも投下乙です

>Rolling Thunder◆A3H952TnBk
スナイパーおじいちゃん強い、完全に殺しにかかってるスキル構成が恐ろしい
それでも死なない優美も怪物じみている

>太陽への贈り物◆ylcjBnZZno
ああキララ……
熱血スキルは洗脳に弱く、愛されスキルも洗脳の前には意味がない
ラジコンと化した太陽の運命はどうなるのか

あと私もミスってたので
安条可憐の残GPを下記に修正します。
30→40pt


260 : ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:55:16 PlrBgODQ0
投下します。


261 : 月の下で、分析と炎上 ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:55:58 PlrBgODQ0
「この会場にいる40人が対等の条件で戦って最後の一人になれる可能性は約2%。ふっ、私もここまでのようですね」

名簿や支給品、バーチャル空間やアバターという特殊性から出多方秀才が導き出した結論である。



まずは名簿についてだが……この"名前"も厄介な代物となっている。。
例えば、秀才の親しい者である生徒会長の大日輪太陽が参加者として存在する。
太陽は熱血な性格をしていて人助けに労を惜しまない人物だ。
故に、彼と合流することができれば秀才の生存率は上昇するだろう。

……だが、名簿の"大日輪太陽"が本物とは限らない。
アバター設定時、アバターの名前と見た目を変更することが可能であることを秀才は確認している。
生徒会長である太陽の交友網はかなり広く、同じ学校の者なら彼に化けることは容易いだろう。
本物の彼が培ってきた信頼を使用して騙し討ち……太陽を知る者限定ではあるが、勝ち抜く戦法の一つとしては悪くない。

本物とは限らない……これは名簿に載っている自分以外の全参加者について言える話だ。
HSFのリーダー・鈴原涼子の中身は涼子の熱心なファンで、好きすぎるが故にアバターを再現した……とか。
ミュージシャン・神在竜牙の中身は竜牙の熱心なアンチで、彼の評判を地に落とすためにアバターを再現した……とか。
殺人鬼・桐本四郎の中身は犯罪者に憧れる中学生で、普段は喧嘩すら避けるような臆病者だった……とか。考え始めるとキリがない。

しかし、この"名前と本人が不一致"問題はある程度クリアできると踏んでいた。
なぜなら、秀才には今までに集めてきたデータがあるからだ。
周囲の人物やテレビに出るような有名人の様々なデータが秀才の脳には蓄積されている。
これらのデータとスキルの"冷静"の効果が合わされば、その人物のフリをしているかどうかを見破れる確率は高いはずだ。
むしろ相手の方針を見破る手がかりにすらなるだろう。


次に支給されたアイテムについて考えると、こちらもなかなか良いものが揃っている……ような気がした。
武器としては槍が支給されている。近接戦闘なら、槍のリーチの長さは有利に働く。
防具はVITを上昇させるものではないが、火や熱への抵抗力が上がる装飾品があった。
そして最後の一つは……20枚ほどの写真であった。

「……」

誕生日ケーキのど真ん中にモアイが鎮座している写真。モアイはいつもの無表情で祝う気が一切見当たらない。
学習机の引き出しの中で青いタヌキが漫画を読んでいる写真。オスっぽいタヌキなのに読んでいるのは少女漫画。
ギター+口紅=手足が生えたオカマ風のギター、な写真。どうやら同僚のベースのことが好きらしい。
その他、見るだけで微妙な気持ちにさせてくれる写真の詰め合わせである。
この写真について秀才は、相手を困惑させるのも立派な武器だろう……と強引に結論づけた。


最後に考えるべきは、バーチャル空間での殺し合いという点についてだ。
・"殺し合い"なのだから、戦闘慣れしている者が有利である。
・親しい者が死んでも人を殺しても動じない、メンタルの強い者が有利である。
・アバターのパラメータもスキルも自由度がかなり高いため、ゲーム慣れしている者が有利である。

どれも正解であり……秀才はどの要素も持っていなかった。
武術についてのデータはあれど身につけたことはなく喧嘩も弱い。
スキル"冷静"のおかげでメンタルだけは強く保てそうではあるが、優勝してスキルを失った後は人を殺したことに悩む日々が続くだろう。
そして最近はプレイヤー同士が戦うゲームが流行っているが、秀才はプレイしたことすらない。
対人においてどんなスキルや立ち回りが強いか……なんてデータも持っていない。
物理攻撃と精神攻撃の両方に対抗できるパラメータとスキルにしてはみたが、より強い設定がきっと存在する。

これらの要素を全て考慮した上での結論が約2%の生存率だ。
決して40人のうちの1人だから1÷40で約2%を導き出したわけではない。


262 : 月の下で、分析と炎上 ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:56:35 PlrBgODQ0
さて、この約2%の確率をどのように高めていけば良いだろうか。
そのカギは支給アイテムである"焔のブレスレット"にあった。
このアイテムは、身につけていればマグマに落ちても3分間は生きられる程度の炎熱耐性を得る……らしい。
それなら、火山が定期的に噴火すると注意書きのある火山エリアを中心に動けばいい。
わざわざ危険な火山エリアに向かおうとする者は統計学的に考えて少ないはずなのだ。
……もしかしたら秀才の知らないゲームの定石があるのかも知れないが、今の秀才は自分の持つデータを頼りにするしかない。

方針は決定した。そして、今いるのは砂漠エリアだ。
幸いにも川……か海かは分からないが水辺が見えており、このまま水沿いに進めば火山エリアに繋がる橋へと行き着くはずである。

そうして歩くこと数分。秀才の耳は一つの歌声を捉えた。

「……でも…………ない……〜♪」

遠くて聞こえにくいが、それは知己の声であった。
声の主は大日輪月乃……芸名はTSUKINO。生徒会長の妹で、ファンの多いアイドルである。
ファンが多いということは、誰かが化けている可能性も低くないということだ。
しかし、秀才には今まで月乃と交流してきたアドバンテージがあり、偽者なら見破れるという自信もある。
そして何より、こんな殺し合いというフィールドで歌っている知り合いを放っておくことは秀才にはできなかった。

声の元へと急いで向かう秀才。そこにいた月乃は制服ではなく、ライブで着るような華やかな衣装を着ていた。

「〜♪ 月の下で出会った〜♪」
「月乃君っ!」
「あら、出多方さん!良かったぁ……怖い人が来たらどうしようって……」

月乃は秀才の名を呼んだ。つまり、月乃の中身は"月乃と秀才の関係を知っている者"である。
この時点で月乃の中身はかなり限定されたと言っても良い。
第一候補は月乃本人。第二候補はTSUKINOの大ファンを公言している生徒会の書記か。
だが、秀才が今までに集めたデータが目の前の月乃は本人ではないことを告げていた。
自分の関係者であれば、"月乃が偽者であることを見破った"ことを突きつけた時の反応で、秀才ならその中身が絞り込める。

「見た目も声も月乃君そっくりだ。よく設定しましたね……」
「……出多方さん?」
「だが、キミは一つのミスを犯した……そのミスが、私にキミを偽者だと看破させたのですよ」
「な、何を言って……」

秀才は決定的な証拠である"アバターの設定ミス"を突きつけた。

「大日輪月乃の胸は!もっと小さいッ!!」



「……で、出多方さんのえっち!」

「……へ?」

両腕で胸を隠すような仕草を見せる月乃。秀才はその仕草に見覚えがあった。


263 : 月の下で、分析と炎上 ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:57:19 PlrBgODQ0

そう、あれはいつの話だったか。秀才は人気の出るアイドルについて月乃に語っていた。
世間に向けたアピールの仕方からやがて話は性格・ルックスへと移り、その中で月乃のスタイルに言及する。
『世の中の男性の半分以上は胸が大きい方が好みだというデータがある』……そんなことを、月乃の胸を見ながら言ったのだ。
彼の名誉のために言っておくと、その時の秀才はセクハラしようとする意思など全く持ってはいなかった。
あくまでも"人気の出るアイドル"と"男性の好み"と"月乃のスタイル"をデータから見て語っていただけである。
その後、彼は月乃の兄である太陽に往復ビンタされたのだが……まあこれは余談である。

兎にも角にも、先ほど月乃が見せた仕草はその時と同じものだったのだ。
まさか貴重なポイントを使って胸を盛るなんて秀才は考えていなかった。
これはあまりにも月乃が天然すぎたが故に起きた勘違い。ただそれだけなのである。
偽者と見破られた動揺は全く見られない。動作や視線の動き、立ち方といったデータはリアルでの月乃と一致している。
流石に、月乃の性格を完璧にトレースしたファンという線は捨てて良いだろう。

「すまない。キミは本物です」
「……もう!ヒドイですよ、出多方さん!」

秀才は冷静だった。この環境下で人間関係がこじれたら致命傷になりかねないことも当然把握している。
故に、一瞬で謝罪した。





月乃と話してみると、やはりというべきか現状の認識がかなり甘かった。
これはゲームのようなもので実際に死ぬとは考えてなかったし、支給アイテムや地図、メールの確認もしていないという。
歌っていたのも、「知り合いが見つけてくれると思った」「夜の砂漠で歌うアイドルは神秘的だと思った」からだとか。
秀才は月乃に現在の状況を正しく教え、ルール等を一緒に確認していく。知り合いが偽者の可能性があることも伝えた。
秀才には何だかんだで困っている人を見捨てられないところがあり、そこが生徒からの人気を集めている部分であった。

一通りの確認を終えた後、二人は今後の方針を決めることにした。
せっかく出会えた月乃を見捨てるわけにもいかない秀才は、一人で火山エリアに隠れる計画を捨てた。

「わたしはアイドルです。わたしの歌で、殺し合いを止められるはずです!」
「"歌唱"のスキル効果ですか……果たして、どこまで信用できるのか」

月乃が取得している"歌唱"スキルは、相手の戦意を削ぐ効果があるようだ。
しかし、秀才は参加者の中には殺人を好む者が何人も紛れていると考えている。
Sランクならともかく、Aランクではそんな相手に対して効果が薄いのではないか……と懸念しているのだ。

月乃の方針に乗るとしても、どこで歌えば効果的なのか。
塔の一つを支配し、GP狙いでやってきた危険人物に歌を聴かせるか。
コロシアムで決戦を行いに来た人々に歌を聴かせてコロシアムの利用を思いとどまらせるか。
市街地でライブ会場のような音量を増加させられる施設を探し、広範囲に歌を響かせるか。
……やはりどこで歌っても目立つのは確実。よからぬ者に襲撃されて死ぬ未来しか秀才には思い浮かばなかった。

そんな時だった。月乃と話しながらも周囲を警戒していた秀才が、一人の男を見つけた。
男の方も秀才達に気付いたようで、歩いて近づいてくる。月明かりに照らされて男の姿がはっきりと見えた。
金髪に派手なシャツ……見るからに不良系なその姿は、秀才的にはお近づきになりたくないタイプだった。
だが向こうから近づいてきたからにはそうも言っていられない。秀才は月乃を守るように一歩前に出た。

「よぉ……最近、アイドル増えすぎだと思わねぇか?メガネの兄ちゃん」


264 : 月の下で、分析と炎上 ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:57:52 PlrBgODQ0

その問いかけは秀才にとっては予想外のものであった。
秀才はこのような環境では「あなたは殺し合いに乗り気ですか」といった会話が第一声になると思っていたからだ。
問いかけの意図は不明だが、話し合う予知はあるということ。秀才は慎重に言葉を選んだ。

「確かに……アイドルは増えすぎている。そう言っても過言ではありません。
 誰が言い出したか、『アイドル戦国時代』。この言葉が去年の流行語大賞となったように、アイドルの増加は世間も認めるところです。
 アイドル増加指数も上昇の傾向にありますし、先月行われたアンケートでは中学生女子のなりたい職業ランキング1位がアイドルという結果が」
「うるせえ!誰がアイドルについて語れっつったよ!?コラァ!」
「……すみません」

データを披露するという悪癖が出てしまい、秀才は反省する。
しかし相手の意見には肯定的な立場を示している。印象は悪くないはずだ。

……その考えは、金髪の男が筒のようなものを装備した時点で覆された。

「増えすぎたアイドルは俺がブッ殺してやるよぉ!死ね、TSUKINO!アイドルは消毒だァ、ヒャッハッハッハ!」
「危ない、月乃君!づぅっ……!」
「出多方さんっ!」

それは火炎放射器だった。
武器の形状が弾丸の類を発射するには大きすぎると分析した秀才は自ら月乃の盾になった。
月乃を守れるのは今は自分しかいないという思いが半分と、火炎放射器なら焔のブレスレットによる炎耐性が期待できるという打算が半分だ。
事実、秀才は高いVITと炎耐性によって火炎に耐えることができていた。リアルなら死んでいてもおかしくない火力だった。

「チッ、人ってそんなに燃えねぇもんかよ。すぐ炎上させてくる癖によぉ!」
「月乃君……石……だ……!」
「仕方ねぇ、最大火力だオラァ!」
「い、石……これですね!」

燃やされながらも秀才は冷静だ。この火力では反撃に移ることは困難である。
故に、ここは逃走一択。先ほど月乃にショートカットの使い方を教えており、すぐに支給品は取り出せる。
そして月乃は火炎に耐える秀才に支給品の石を押しつけた。

「ワープ!」

「……あ?」

月乃の支給品、ワープストーンの効果によって秀才と月乃はワープした。
砂漠には、金髪の男……エンジ君のみが残されたのである。





二人がワープした先は、何の変哲もない寝室だった。どうやら、市街地にある民家にワープしたようだ。

「火傷で手がまともに動かせません……とうとう私もここまでのようです」
「ごめんなさい、出多方さん……」


265 : 月の下で、分析と炎上 ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:58:21 PlrBgODQ0

炎耐性があったとはいえ、最大火力を数秒受けてしまった秀才は酷い火傷を負っていた。
顔は両腕でガードしていたが、最もダメージを受けているのはその両腕だった。
手は握った状態のまま開くこともできず、腕は空気に触れるだけで痛みが走る。
服もズタボロで半裸になるしかない。だが、そんな状況だろうと"冷静"のスキルは効果を発揮する。

「まずは、この家に誰もいないことを確認しましょう。私の傷の手当てより、そっちが優先です」
「……せめて出多方さんは動かないでください。わたしが見に行きます!」
「駄目です。危険人物がいた場合、複数人で対応した方が生存率は上がります。
 それに、出会った人物が迷いを抱いているなら私が殺し合わないことの正当性を……」
「……それでも、です!」

秀才は、月乃の視線が怒りの感情も伝えてきていることに気付いた。
どうやら自分の意見を譲る気は無いようだ。
ここで言い合いになった場合、それこそ危険人物の思うつぼである。秀才は折れることにした。

「せめて、この槍を持っていってください。今の私では扱えませんからね。頼みましたよ、月乃君」
「は、はいっ!」

結局、二人がワープした民家は誰もいなかったようで、月乃は氷水とタオルを持って寝室に帰ってきた。
火傷の対処方法は秀才のデータの中に存在している。この身体はアバターらしいが気休めにはなるだろう。

「……わたし、ダメダメですね。歌で殺し合いを止めるなんて言っても、あの人を前に何もできなかった」
「そんなことはないですよ。今、私が生きているのはキミのおかげですから」
「あの人は……すごく、憎んでる表情をしてました。わたしの歌は、あんな人を癒すためにあるものなのに……」
「世の中には、私やキミの想像も及ばないような酷い人もいるんです。そんなに気にすることはありません」
「……でも、わたしは癒してあげたいって思うんです」
「そうですか、その思いは否定しませんよ」

月乃は普段はマイペースで天然な性格だが、意外と負けず嫌いな一面も持つ。
先ほどの一件では、エンジ君の抱く憎悪と自分自身が抱いた恐怖に負けてしまったと彼女は感じていた。
……次は、負けない。月乃は決意したのだった。

「助けてくれてありがとうございました、出多方さん。お礼に歌を贈ります」
「歌ですか……いいですね、聞かせてください」
「〜♪ そう、きっとわたし達なら〜♪」
(さすがはプロのアイドル、声量は家の外に聞こえない程度に抑えてある)

歌を聴いて安らぎながらも、スキルの効果で秀才は冷静だった。
冷静な状態の彼でも、月乃の歌には何かしらの神秘を……可能性を感じざるを得なかった。
月乃の歌唱力が優れているのか、"歌唱"のスキル効果によるものなのかはわからないが……。

(……この歌なら、本当に殺し合いを止められるかも知れませんね)

火傷によって握った状態にしかできなかった秀才の手は、いつの間にか開いていた。


266 : 月の下で、分析と炎上 ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:58:52 PlrBgODQ0
[D-3/市街地の民家/1日目・深夜]
[出多方 秀才]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:火傷(大)(月乃の歌唱で回復中)、半裸
[アイテム]:焔のブレスレット(E)、おもしろ写真セット
[GP]0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:人は殺したくない。
1.動けるようになったら月乃と共に行動する。
2.月乃の歌の活かし方を考える。

[大日輪 月乃]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:海神の槍、ワープストーン(2/3)、不明支給品×2(確認済)
[GP]0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:歌で殺し合いを止める。
1.出多方さんを癒やす。
2.金髪の人(エンジ君)には、次に会ったら負けない。

【海神の槍】
魔王城にまつられていた槍。水辺で戦う際にパラメータが上昇する。
勇者ツキタ・キザスがパクって持って帰り、愛人が欲しがったので振るう機会もないままにプレゼント。
その後、ミルティア家の家宝となった。

【焔のブレスレット】
イコン教団が保有する装飾品の一つ。
炎耐性・熱耐性を上昇させ、マグマに落ちても3分間は生きられる。

【おもしろ写真セット】
ソフィア・ステパネン・モロボシが滝川利江に送った写真のセット。
見た者に状態異常「困惑」を付与する。

【ワープストーン】
「ワープ」と叫ぶと触れている者を隣接する別のエリアにワープさせる石。
使用者のLUK値によっては空中や水の上、エリア外に飛ばされることも。
3回まで使用可能。使用回数はGPを消費することで回復する。


267 : 月の下で、分析と炎上 ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 13:59:47 PlrBgODQ0



「クソッ、役に立たねぇな〜この武器もよォ!」

アイドルを逃してしまい思わず砂に火炎放射器を叩きつけるエンジ君。
しかしすぐに拾い直す。この殺し合いで優勝するためには武器を捨てるわけにはいかない。

「役に立たねぇ、か……チッ、嫌なこと思い出しちまった」

役に立たない、それはエンジ君……否、津辺縁児が社会人時代に先輩から言われた一言だった。
縁児にだって真っ当な社会人として生きようとしていた時代はあった。
だが短気でイキりがちな性格をしている縁児にとって、あまりにも会社というものは合わなかった。
上司や先輩に反発し、後輩は暴力で従わせ、取引先にはパワハラする。
クビになるのも当然な言動なのだが、縁児には不当な解雇であるとしか思えなかった。

その後に始めたのが動画配信だった。
思ったことをそのまま言うだけの動画だったが、内容が過激だったからかだんだん注目され始めた。
動画にはやがて批判コメントが付き始める。批判に暴言で対抗するともっと批判コメントが付く。
それを繰り返した結果……動画収入で生きていけるぐらいの再生数が稼げるようになっていった。

――これでオレをバカにしやがった社会の奴らを見返せる。そう思っていたのに。

きっかけは「最近、アイドル増えすぎだよなぁ?」といった感じの、何気ない一言だった。
エンジ君にはアンチも多い。すぐに「アイドルが増えて何かあなたに迷惑がかかるんですか?」という言いがかりコメントが付いた。
縁児とコメント欄が激しいバトルを繰り広げ、エンジ君の発言内容もどんどん過激になっていく。
コメントは一般ユーザーで、エンジ君は動画配信を生業とする者。発言が注目されてしまうのはエンジ君の方である。
『【炎上】動画配信者のエンジ君、今度はアイドル業界に喧嘩を売る!?』
とあるブログにこんな見出しで紹介されたエンジ君の動画には大量のアイドルファン達が集まっていった。

そして動画は今までに見たことの無い再生数とコメント数を記録し。
リアルまで特定されそうになった縁児は動画配信を辞めざるを得なくなってしまったのだった。

「クソアイドル共め!絶対に、全員殺してやるぜェ!!」

アイドルへの憎悪は、殺し合いに参加しているかどうかもわからないアイドルに対するスキルを取得させるほどだった。
その向こう見ずな選択は大当たり。なんとこの殺し合いにはHSFの5人やTSUKINOが参加していた。
他にも縁児の知らないアイドルや偽名で参加しているアイドルがいるかも知れない。

「オレの復活記念動画は、アイドルの処刑動画だって決めてんだよ……!」

この殺し合いで優勝したら、何ちゃら管理システムの何ちゃらがもらえるらしい。
正しい名称は縁児には覚えられなかったが、そのシステムを使えばアイドルやアイドルのファンに対する復讐ができる。
まずは全ての電子媒体をハッキングし、全てのアイドルをエンジ君が処刑する動画を生放送で流す。
これだけでアイドルのファン共は阿鼻叫喚だ。
その上で、エンジ君を炎上させた奴らの個人情報や秘密を全てネットに暴露してやる。
アイドルのファン共は敢えて殺してやらない。生きがいのなくなった世界で苦しみながら生きるがいい。


――オレの唯一の生きがいだった動画配信を奪った連中だ。オレも奴らの生きがいを奪ってやるよ!!

[D-2/中央付近/1日目・深夜]
[津辺 縁児(エンジ君)]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:C DEX:E LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:火炎放射器(燃料85%)(E)、不明支給品×2(確認済)
[GP]0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:優勝してアイドルとファンに復讐する。
1.アイドルやファンは優先して殺す。
2.TSUKINOとそのファンのメガネ野郎(出多方秀才)は次に会ったら殺す。

【火炎放射器】
火炎を放射する武器。火力調節が可能で、火力が高いほど燃料の消費も激しい。
燃料はガソリンや灯油など、それっぽいものを詰めれば動くようになっている。
GPを燃料とすることも可能。


268 : ◆aXWPWp3wcc :2020/09/27(日) 14:00:25 PlrBgODQ0
投下終了です。


269 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 15:44:45 zkAe4aTM0
投下乙です

エンジ君がヒャッハーメンタルすぎる
副会長はデータキャラらしい冷静さと考察力、まさか胸盛りに気づくとは……やりおる
火傷まで癒せるとか月乃の歌唱スキルも凄いですね、さすが歌姫


270 : 名無しさん :2020/09/27(日) 16:43:31 fHJP9wWw0
投下乙です

開幕からここまでですって言ってるのに秀才がしぶとい
アイドル優先マーダーなんてピンポイントな奴に当たるし
生徒会長の太陽も大変なことになってるし果たして2%の壁を越えられるんだろうか


271 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:34:22 zkAe4aTM0
投下します


272 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:36:05 zkAe4aTM0
「ええっと…………」

寂れた廃村の一角で、鈴原涼子は一人息を漏らした。
崩れかけた民家の壁にもたれかかり、頭を押さえる。

頭痛がする。
思考がまとまらない。
気分は最悪だった。

彼女の足元には男の死体が転がっていた。

腹部には深々とナイフが突き刺さり、紫色の顔をしてびくびくと痙攣してる。
正確にはまだ死んでいない。
だが辛うじて息はあるものの、もうじき息絶えるだろう。

「…………なんでこうなったんだっけ」

酷く気怠い。
混乱があるのか、記憶が曖昧だ。
ゆっくりと絡まった糸を手繰る様に、記憶を思い返していく。

頭が割れそうに痛い。
吐き気がする。
最悪の気分。

ああ――――なんだか、昔に戻ったみたいだ。



「いやー。よかったー知り合いに会えて」

夜の廃村を一人で歩いていた私の背後に男の声がかかった。
警戒しながら振り返る。

「…………神在さん。お久しぶりです」

そこにいたのは『那由多』のボーカル神在竜牙だった。

男の人は苦手だ。
特に軽薄な男は。
男への苦手意識を表情には出さず私はぺこりと頭を下げる。

「涼子ちゃんも巻き込まれた系? ところでこれ何の番組? 逃走する、的なアレかなぁ?」
「さぁ……? 私も何も……」

男は気楽な態度で、不気味な廃村をきょろきょろと眺める。
まるで観光気分か何かのようだ。
私は知らず、自身の腕を強く握りしめていた。

「本当に……何かの番組なんでしょうか…………?」

そんな気はしない。
不穏な空気が嫌と言うほど漂っていた。
ここにきてからずっと嫌な予感が続いている。


273 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:37:24 zkAe4aTM0
「え? そうでしょ? ひかりちゃんとかもいるみたいだしさ。
 これだけ規模がでかいとなるとゴールデンの番組かなぁ?
 困るなー。まーた人気出ちゃうよ、そんなのこれ以上いらないってのに。
 あ、撮られてるのにこういう事言っちゃまずいか。
 けど、どこで回ってるんだろうねカメラ。全然見つけられないけど。
 っていうかガチなんだね。俺ドッキリって事前に言われて演技してるんだと思ってたよ」

一人、捲し立ててハハハと笑う。
私は相づちも打つことなく、彼の発した一つの言葉が気になっていた。

「…………困るんですか?」
「え?」
「人気、出ると困るんですか…………?」

その言い草が引っ掛かった。
日々それを得るために努力を続けるのがアイドルだというのに、それをいらないと切り捨てる言動だけは捨て置けなかった。
男はああと頷いた後、悪戯を告白する子供の様な顔で笑い。

「実はさ、俺政治家目指してるんだよね。
 知ってる? 俺のオヤジ。ま、知ってるか。
 その後を継ぎたいんだよねぇ。だから人気が出過ぎちゃうと引退しづらいじゃない?」
「……じゃあ、なんでバンド活動なんて」
「だって政治家になる時に知名度があったほうが有利じゃん。
 市自党の広東議員って知ってる? 初の女性総理候補って言わてるあの人。
 あの人も元アイドルなんだよねぇ。そう言う所を目指してるんだよね俺。
 あっ、これオフレコね、見てたんならカットしといてねースタッフさーん」

チョイチョイと虚空に向けて指で作ったハサミを切った。

「そんな理由でアイドル活動をするのはファンに失礼だと思います」
「いやいや。そりゃあやるからには真面目にやってるよ?
 実際人気じゃん俺ら。子豚ちゃんたち――あ、ウチのファンの呼称ね――も俺のパフォーマンスには満足してると思うよ?
 それにさ」

男はヘラヘラとした態度を崩さず。
軽薄に笑みを浮かべたまま。

絶対に許せない言葉を口にした。


「どうせ、アイドル活動なんてお遊びでしょ?」





274 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:38:13 zkAe4aTM0
この発言が許せなくて殺した?

いやいや。
そんな訳ないでしょ。

確かにこの発言で彼の事を嫌いになったが(元から好きでもないけど)。
それはあくまで個人的な心象の話。
人を殺す程の事じゃない。

その後、もっと個人的な事を揶揄されたような……。
それが原因だったか?
どうだろう……上手く思い出せない。

さらに深く記憶の糸を辿る。

ああ――――頭が痛い。



「あ。ごめんごめん、言い方が悪かったよね
 けど、どうせ10代過ぎたらできなくなる仕事なんだから、身の振り方は考えておいた方がいいでしょ。
 それとも年齢誤魔化して続けちゃうとか? 永遠の十代みたいな」

そう言って男は笑った。
心底見下すような笑いだった。
無言でいる私を見て、気分を害しているのを察したのか、男は取り繕うように話題を変える。

「そんなのよりもさ、どう? 涼子ちゃんも政治家とか興味ない?
 さっき言った広東議員みたいに、涼子ちゃんならいい線行くと思うんだけどなぁ。
 なんだったら紹介しようか、そう言う人脈」

そう言って男はイヤらしい笑みを浮かべた。
気持ち悪くって私は視線を逸らす。
頭が痛い。
吐き気がする。

「…………いえ、遠慮しておきます」
「そう? いいと思うんだけどなぁ。
 アイドルなんか続けるよりもご両親とかも喜ぶんじゃない?」

アイドルを軽視するような発言の連続。
これ以上話題を続けたくない私は、突き放すような態度で言った。

「いえ。私、施設育ちなので両親は……」

それを聞いた男は気まずそうに、っべーと呟き視線を泳がせた。

「へぇー。ああ、ふーん。大丈夫大丈夫、俺そう言うのに偏見ないからさ!」

下らない。言うんじゃなかった。
本当に偏見のない人はそんな事を言わない。
あなたのいい人アピールに私を利用しないで欲しい。

「あっそうだ。俺が政治家になったらそう言う政策に力を入れちゃおうかな?」

そう冗談めかして笑った。
合わせる様に私も笑う。
実に乾いた笑いだった。

何がおかしい。
冗談のネタにするような事か?

バカらしい。
何よりも、こんな話に愛想笑いをしている自分が一番バカらしい。

ああ、本当に。

気持ち悪い。




275 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:39:11 zkAe4aTM0
自分の出自を冗談のネタにされ、それで殺した?

いやいや、今更そんな事で人を殺すわけがない。
学生時代の地獄を思えば、あの程度なんてことは無い。

地獄のような中学時代。
その中で同じような境遇の利江と出会って、絶対に見返してやろうって誓いあったんだっけ。
一緒に頑張って。頑張って頑張って、
その悔しさをバネにしてここまで這い上がってきたんだ。

その頑張りが認められて高校からはあの名門、月光芸術学園に入学が認められたんだ。
そしてHSFのみんなと出会って。
それから、それから。

……いや、違う。
これは今思い返すべきことじゃない。

足元の死体を見る。
今思い返すべきは、どうしてこうなったかだ。

再び記憶を思い返していく。

幸せな記憶を放り出して、私は再び地獄へ向かう糸を辿る。



「ユニット……バンドメンバーの人たちは知ってるんですか、それ?」

思わず、私は聞いていた。
聞かなくてもいい事を。

男は意外な事を聞かれたといった顔で目をぱちくりと瞬かせる。

「え? そりゃ知って……いや、どうったったっけな?
 マネージャには言ってるはずだけど、あいつらには言ったっけな、どうだったっけ?」
「そんな、いい加減な……ッ!」

いい加減な態度。
仲間に対して、ユニットに対してそんな。

「いやいや、何怒ってんのさ涼子ちゃん。
 メンバーなんてそんなもんじゃない? ビジネスライクだよビジネスライク。
 あいつらだって将来大物政治家と同じバンドだったって自慢話に出来るって」

そこまで行ってああ、と何かに納得したように呻いてこちらを見た。
どこか嫌な視線だった。

「女の子ユニットの場合そうじゃないのか。
 いいよね。女の子ユニット、ゆるふわで仲良しって感じでさ。気楽そうでさ、嫌いじゃないよ」

男が嗤う。
頭が痛い。
その声が嫌に癪に障る。

違う。
仲間は、ユニットは。
そんな安い関係じゃ。


276 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:40:27 zkAe4aTM0
「そう言えば見たよ可憐ちゃんが出てるこの前のロケ。アイドルとは思えない程体張ってて笑っちゃったよ。
 けど何というか必死だよねぇ彼女。俺なら絶対やらないなー、ああいうの。
 あ、悪い意味じゃないよ。いい意味でだから、いい意味で」

やめて。
可憐がどれだけ、私たちの事を思って体を張ってるるのかも知らないで。
勝手のことばかり言わないで。

「ソフィアちゃんはパフォーマンスは凄いよね、天才って言うの?
 いいよね努力しなくてもなんでもできそうで羨ましいよ。
 けど変わってるていうかハハ、なんか変な子だからねぇ」

やめて。
ソーニャがどれだけ努力してるのかも知らないで。
表面ばかり見て知った風な事言わないで。

「キララちゃんもさぁ、子役時代はよく見たけどその後はしばらくパッとしなかったよねぇ。
 子役ってのも大変だよな、アイドル以上に消費期限が短くて、アイドルなんかになちゃって。
 ま、アイドル活動頑張れば将来はまた女優に戻れるかもね。そう言う意味じゃ俺と似た者同士なのかな」

やめて。
キララがどれだけアイドル活動にひたむきに頑張ってるのかも知らないで。
あなたなんかと一緒にしないで。

「由香里ちゃんは、まあ面白い子だよね。面白い子だけどちょっと生意気って言うか。
 よく問題も起こすし、正直、あの子はちょっと考えた方がいいんじゃない?
 いや悪口言ってる訳じゃないよ、彼女の事を思っているんだからね?」

やめて。
やめて。
やめて!

私はどうせ最低の腹黒女だ。
何を言われても構わない。

けど、ユニットは。
ハッピー・ステップ・ファイブのみんなだけは。

私達の事なんてなにも知らないくせに。

私の大切な宝物を、バカにしないで!



ユニットのみんなをバカにされて、激昂して殺した?

ああ、それは……あるかもしれない。
あの子たちは私の誇りだ。
その誇りをバカにした奴を放っておくくらいなら、私はバカでいい。
激昂しやすいのは反省すべき点だが、後悔すべき点ではない。

いや、それでも相手殺す程、短絡的ではないと思うのだけど。
思いたいのだけど。

冷静さを失ったのは確かだろう。
何かのはずみ上がったのか。
それとも私が思う以上jに私は愚かだったのか。

もう少し先を、思い出す必要がある。




277 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:41:22 zkAe4aTM0
「…………訂正してください」

激昂した頭で感情がそのまま声になっていた。
喉の奥から震える声で言う。
男はよく聞き取れなかったのか「え?」と間抜けな顔で問い返してきた。

「今言った言葉、全部訂正してください!」
「うわっ!?」

そう叫び、思わずかっとなって男に掴みかかる。
だが、筋力の差かあっさりと振り払われた。
受け身も取れず無様に地面に転がる。

「なんだよ、掴むなよ…………ったく本気になるなっての。こんなのただのプロレスじゃんか。
 こっちは取れ高のためにキャラ守って真面目に仕事してるだけだってのにさ」

男は乱れた衣服を正しながら、心底呆れた様に言った。
そして転がる私を冷たい目で見下す。
その視線に、私の怒りさらに燃え上がる。

「ふざけないでよ! 何が取れ高よ! そんな物のために私たちをバカにしないで!」

叫びを上げながら、再び男へと向かって掴みかかる。
だが、不意を突かれた先ほどとは違い、男も待ち構えていたのか。
今度はヒョイと躱され、勢い余った私は、そのまま転んで地面を滑った。

「謝りなさいよ! 可憐に! ソーニャに! キララに! 由香里に!
 謝れ! ハッピー・ステップ・ファイブに謝れ!」

それでも諦めずすぐさま立ち上がると、泥に塗れあがら喰らいつくように相手へと飛びつく。
今度こそ男は躱しきれずもみ合いになった。
男は手で押し切ろうとするが、私は離れずに食い下がる。

「このっ……!」

業を煮やした男の蹴りが顔面に入って掴んでいた腕が離れた。
鼻血を流しながら転がる私を見ながら、息を切らした男が言う。


「キミさぁ――――ちょっとオカシイんじゃないの?」





278 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:42:44 zkAe4aTM0
そうだ、あの後もみ合いになって。
先に刃物を出したのはどっちだったっけ?

刺したのは事故だったか、それと自分の意思だったのか。
曖昧だ。
そうだったような、そうじゃないような。
どれも違う気もするし、どれも本当だった気もする。

まあどうでもいい事か。
あるのは、ただ殺したと言う事実だけである。

光の粒子になって死体が消えて、刺さっていたナイフがカランと落ちる。
唯一残った罪の証、ナイフを拾い上げる。

そこには何もかもなくなって、まるでさっきまでの出来事が嘘みたいだ。
本当に、嘘だったらいいのに。

「ああそうか。私、人…………殺しちゃったんだ」

今更になってそんなことを思う。
マネージャーに電話しようとして、そんな状況じゃない事を思い出す。

「これって、罪になるのかしら……」

殺し合いは強要されたものだし、殺したのはアバターである。
なんて言い分が通るだろうか?

別に自分がどうなろうと、それはどうでもいい。
ただ、これでユニットに迷惑をかけるのだけが嫌だった。

「…………どうしよう」

両腕で顔を覆う。
どうしたらいいのか分からない。
寒くって震える。
なんだか迷子みたいだ。

施設を脱走したあの日を思い出す。

ここにいたくないのに、どこにも行けない。

雨の中一人立ち尽くしている。

「…………可憐、ソーニャ、キララ、由香里」

彼女たちの迷惑になるくらいなら、私は死にたい。
何より大切な。
私の仲間。
私の家族。
私の全て。
私の。

「私の、ハッピー・ステップ・ファイブ…………」

ふらふらとした足取りで歩きはじめる。
ここにいてはならない。どこかに行かなくては。
そんな衝動に駆られ、目的地もないのに歩き出す。

「…………利江、私どうしたら」

かつての親友の名を呼ぶ。
もう二度と会わないと誓った相手。
なのに彼女に無性に会いたかった。

[神在 竜牙 GAME OVER]

[G-6/廃村内/1日目・深夜]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱
[アイテム]:ポイズンエッジ。不明支給品×5
[GP]:0→100pt(キャンペーンで+10pt、勇者殺害×スタートダッシュにより+90pt)
[プロセス]
基本行動方針:どうすればいいのか分からない

【ポイズンエッジ】
刃渡りの短いナイフ。
毒効果を付与する。


279 : 糸を辿る ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 17:42:59 zkAe4aTM0
投下終了です


280 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/27(日) 18:03:46 zkAe4aTM0
業務報告
『彼の理論武装◆.uihLnpY8Y』にて枝島 トオルの初期GPが誤っていたため、勝手ながらこちらで修正しました
作者さまはご確認の上、ご納得いただけると幸いです

修正前
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
修正後
[GP]:5→15pt(キャンペーンで+10pt)


281 : ◆TNTD5VseJA :2020/09/27(日) 22:52:11 UjbdvoAk0
投下します


282 : カルマは誰キャラ!? ◆TNTD5VseJA :2020/09/27(日) 22:54:50 UjbdvoAk0
「ククククク………」

灯台前の岬の上に佇み不敵に笑う人物。
銀色の髪、黒いドレス、右側に生えた黒い天使の翼。
そう、彼女こそは最終戦争の末に天界によって力を封印されるも、
魔界に逃れ、再び地上への降臨の刻に至るまで雌伏の時を待つ、
その名は―――黄昏の堕天使アルマ・カルマ


(カンペキ!)

日天中学2年生、有馬良子は心の中の高揚感を抑えきれずにいた。
先ほど自身の姿を見回したが、それだけでも自身が描いた絵の中の設定の人物が
そのままアバターとして投影されていたことがはっきりと分かった

(こんなに思った通りのアバターになるなんて、このゲームって凄い…!)

この世界に来る前に『シェリン』と名乗るAIに勇者と殺しあうバトルロワイアルであるという
説明を受けたものの、良子は未だそのことを実感できずにいた

(あれ?向こうに誰かいる……)

灯台へ続く坂道のふもとに見える人影の方に良子は歩いていくと
そこには金髪の青い瞳を持つ少女が立っていた

(うわぁ……キレイ。外国の人なのかな?日本語通じるかな……)

外見の美しさに加え外国人ということに良子は初めて出会った人物にどう接するべきか考えあぐねていた

「貴方は誰デスカ?」

(日本語喋れる人なのか……良かった。よし、私もちゃんと話さなきゃ"黄昏の堕天使アルマ・カルマ "として!)

「ククククク…よくぞ聞いてくれた。我が名は黄昏の堕天使アルマ・カルマ!」


283 : カルマは誰キャラ!? ◆TNTD5VseJA :2020/09/27(日) 22:55:35 UjbdvoAk0
良子はビシッとポーズを決めながら自らの名を名乗るも、
それを見た外国人の少女は良子をじっと見つめるだけであった

(あれ?おかしいな……最初の掴み間違っちゃったかな?)

反応を見せない外国人の少女に内心戸惑う良子。
沈黙の間が続くかと思った瞬間、外国人の少女は珍しい物を見たかのごとく瞳を輝かせる

「ワーオ!それはもしや、『チューニビョー』というモノデスね!ソーニャ初めて見マシタ!」

「えっ、ちょ……ちがっ……」

いきなり自身の本性を暴かれたことに良子は思わず素の自分を漏らしてしまう

「怪我をしてないのに包帯を巻いたり、眼帯をつけたりするんデスヨネ?」

「ぐっ……」

ソーニャと名乗った少女の無垢な言葉の棘が、自分の心にグサグサと刺さっているように良子は感じた

「あとそれから苦いコーヒーを飲んだり、十字架やチェーンをよく身に着けたりとか……」

「ち、違うもん……そんなんじゃないもん……」

良子は涙目になりながらも必死に反論しようとする
最早、†黄昏の堕天使 アルマ・カルマ†を演じる余裕さえなかった

「イズヴィニーチェ……ごめんなさい、貴方をいじめるつもりは無かったデス。ただ、すごく関心したのデス」

「ほ、ほんとぉ……?」

涙目になった良子を見たソーニャは申し訳無さそうな顔をする

「ソーニャには真似できない凄い人達だと思うのデス。ソーニャ、面白い人達は大好きデス!」

「私が凄い……?」

「ダー。その通りデス。それに貴方みたいな人が初めて出会った人で良かったデス。殺し合い、しないデスヨネ?」

「と、当然であろう。我が翼は叛逆のためにある。天界に与するつもりは無い」

純粋な顔で尋ねるソーニャに、良子は真剣な顔つきに戻りながら答える


284 : カルマは誰キャラ!? ◆TNTD5VseJA :2020/09/27(日) 22:56:13 UjbdvoAk0
「フフッ、さっきみたいに戻ったみたいで良かったデス。えーっと……ゴマダレの天使アロエ・カレー?」

「ち、違う!黄昏の堕天使 アルマ・カルマ!」

「ソーリー、名前が覚えづらかったので、つい面白くしちゃいマシタ」

「つい面白くしなくて良い……我は、黄昏の、堕天使、アルマ・カルマ!それ以上でもそれ以下でもない」

あっけらかんとした顔のソーニャに良子は、ゆっくりと丁寧に自身の名前を言葉を覚えさせる

「そうそう、先ほどいろいろメニュー画面を見てたのデスが、ソーニャと同じアイドルのメンバーがいるみたいデス。
ソーニャ、みんなを探しに行こうと思います。アルアルはどうシマス?」

「あ、アルアルとはっ!?」

「アルアルはあだ名デス。カワイイと思ったのデスガ……」

「そのあだ名はともかくとして、我はそなたと同行しよう。我が魂の赴くままに」

「ありがとうございます。それではレッツゴーです、アルアル!」

「そのアルアルはやめてぇ……」

かくして黄昏の堕天使に身を転じた中学生有馬良子と、
ロシア人のハーフアイドル、ソフィア・ステパネン・モロボシという
奇妙なコンビが結成されたのだった


[H-8/灯台付近/1日目・深夜]
[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0pt→10pt
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.HSFのメンバーと利江を探す

[†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†(有馬良子)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:5pt
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.ソフィアに着いていく
2.殺し合いにはとりあえず参加しない


285 : カルマは誰キャラ!? ◆TNTD5VseJA :2020/09/27(日) 22:56:40 UjbdvoAk0
投下終了しました


286 : ◆.uihLnpY8Y :2020/09/27(日) 23:46:04 MfvNxdbo0
投下乙です

>>280
コピペ後の修正が漏れてました
修正ありがとうございます


287 : ◆.uihLnpY8Y :2020/09/27(日) 23:53:16 MfvNxdbo0
投下します


288 : 彼女の戸惑い、あるいは金魚鉢の中のサメ ◆.uihLnpY8Y :2020/09/27(日) 23:53:54 MfvNxdbo0

「はぁ、どうしよう……」

暗闇の中、私、高井丈美はため息をつく。
ゲームなんてあまりやらないし、VRは勝手がわからない。

とりあえず最初のアバター設定の時のように念じてみる。
あ、出た。よかった。

まず最初にしないといけないのは名簿の確認。
暗い中でもメニュー画面は意外とはっきりと読める。
VRってこんなこともできるんだって私は少し感心する。

名簿確認でまず思ったのは、この十字っぽいのって何だろうという素朴な疑問だった。

まあ知らない名前だしいいか、と下へ進む。

「青山征三郎って、あの青山さん?」

いきなり知っている名前が出てきて面食らう。
とある事件について調べている探偵さんであり、何度か協力したこともあるけどとても信頼できるいい人だ。
もしこの人があの青山さんならぜひとも合流を目指したい。

次に引っかかったのは見覚えのある苗字だ。

「枝島……杏子、女の人か。びっくりした」

うちの美術の先生の顔が一瞬思い浮かんで消える。
というか杏子という名前の方も見覚えはある。
よくお世話になってる保健室の白井先生の下の名前と同じだ。

偶然なんだろうけど少し気持ち悪く思いながらさらに下に進める。

ちょこちょこテレビとかで見るアイドルの人たちの名前もあるけど、これ本人なのかな?
最初に名前や姿を変えられるみたいな説明があったから別の人なのかも。

結構名前変えている人もいるっぽいし、私も変えてもよかったかもなあとちょっと後悔しながら進める。

そして信じられない名前を見つける。

「陣野…え、陣野先輩……?」




289 : 彼女の戸惑い、あるいは金魚鉢の中のサメ ◆.uihLnpY8Y :2020/09/27(日) 23:54:24 MfvNxdbo0
陣野先輩、陣野優美は今私が主将を務める女子バレー部の先輩だ。
とてもとてもやさしい先輩で、私も姉みたいに慕っていた。

私はあまり関わりはなかったけど、仲のいい双子の妹さんもいて校内でも美人姉妹として有名だった。

当時は犬のように先輩の後を付いて回り、先輩経由で出会った人も多い。
先輩が私を自慢の後輩だと言ってくれることがとてもうれしかった。

あの頃は本当に夢のような時期であり、先輩の卒業で一旦終わってしまうことをとても惜しく思っていた。

そして夢は終わる。
想像とは全く別の方向で。

『中高生6人連続失踪、誘拐の可能性も』

当時の新聞の見出しはありありと思いだせる。

先輩は突然姿を消した。
妹さんと一緒に失踪者の中に名前があったのを見つけた時は愕然とした。

悪夢だと思いたかったが、それから何日経っても先輩が帰ってくることはなかった。

それから私はできることに打ち込んだ。
ビラ配りも、警察にも、青山さんにも協力できることは何でもやった。
先輩が戻ってきて気に病んではいけないと、先輩が消えてボロボロになったバレー部を必死になって立て直した。

それでも一年、何の音沙汰もないまま時間は過ぎていった。

諦めてはいないが、心がくじけかけてはいた。

そんな中、巻き込まれたゲームで見つけた先輩の名前。
本人かどうかは分からないけど、そんなことは後だ。
いてもたってもいられず、私は行動を起こそうとする。

まず、立ち上がろうとし……『何か』に盛大に頭をぶつけた。



「痛っ……」

痛みで思わずしゃがみ込む。
VRでも痛覚があるというのは本当だったみたいだ。
そして同時にどさりと『何か』が倒れる音がした。

恐る恐る振り向いてみると、視界に足が見え…慌てて後ろを向いた。
そこにはきれいな金髪の女の人が倒れていた。




290 : 彼女の戸惑い、あるいは金魚鉢の中のサメ ◆.uihLnpY8Y :2020/09/27(日) 23:54:52 MfvNxdbo0

「すみませんでした!」

間もなく意識を取り戻した彼女に平謝りする。
状況から考えるに、立ち上がった私の頭が後ろから声をかけようとした彼女の鼻にクリーンヒットしたようだ。

私はゲームには疎いのでパラメータは穴が開かないようにバランスよく振っている。
その上でスキルも使い慣れた足に関するものだ。
彼女の防御のパラメータはおそらく私の攻撃のパラメータよりも低かったのだろう。

見た目は白人美女の彼女は目を覚ましてから所在なさげに周りを見回している。

そして私の手を取り、当然のように口に入れた。

「ちょ……!」

何をされたのか一瞬分からず、慌てて手を引き抜く。

「なんデ?」

問いかけてくる彼女を見て猛烈に嫌な予感がしてくる。

「あの……名前は?」
「ヴィラス・ハーク?」

なぜか疑問符がついてくるが、それは無視。
確認したいことはそこじゃない。

「一応、念のためだけど、年は……?」

指を折って数える様に嫌な予感がさらに増す。

そして突き出された3本の指に完全に頭を抱えてしまう。

私はこの人…この子をどうしたらいいんだろう……?

[E-4/市街地、ブディック前/1日目・深夜]
[高井丈美]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:どうしよう……。
1.ヴィラスへの対処。
2.陣野先輩も探したい。
3.出来れば青山さんとも合流したい。
※ヴィラス・ハークの正体を3歳の子供だと考えています



ヴィラス・ハークは新型コンピュータウイルス『VRシャーク』にアバターを被せた存在だ。

その際に制御しやすくするため一部のプログラムは書き換えられた。

フナが金魚に改良されたように、この存在はどこまでも主催者の掌の上。

だが、この存在はサメなのだ。

ラーニングは現在も続いている。

『New World』という金魚鉢の中でサメがどのように泳ぐのか。

それを予測するのは不可能とは言わないが、おそらく困難だ。

[VRシャーク(ヴィラス・ハーク)]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康、鼻が赤くなっている
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:140pt→150pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:???
1.食べたい


291 : ◆.uihLnpY8Y :2020/09/27(日) 23:55:16 MfvNxdbo0
投下終了です


292 : ◆.uihLnpY8Y :2020/09/28(月) 00:09:06 FzlnI8OU0
現在位置ミスです
[E-4/市街地、ブディック前/1日目・深夜]→[F-7/島/1日目・深夜]でした


293 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 00:13:10 vI2T2Ee60
両名とも投下乙です

>カルマは誰キャラ!? ◆TNTD5VseJA
前話との温度差で風邪ひきそうなくらいめっちゃのほほんとしてるw
似非外人と中二病という強すぎる個性のぶつかり合い、なんというかわいらしいやりとり、平和であってほしい(叶わぬ願い)

>彼女の戸惑い、あるいは金魚鉢の中のサメ ◆.uihLnpY8Y
遂に出たVRシャーク君、何も知らず保護してしまった高井ちゃんの運命は如何に
齧ろうともステータスが低すぎてダメージが与えられていないサメ、弱すぎて逆にどうなるのか本当に予想がつかない


294 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 00:28:35 vI2T2Ee60
>>284
業務報告
アバターがある場合の状態表は正しくは下記になります

[キャラ名(アバター名)]

勝手ながら収録時に修正しておきましたのでご了承ください


295 : ◆TNTD5VseJA :2020/09/28(月) 00:30:13 Xxulq7b.0
すみません、ごっちゃになってました
修正ありがとうございます。


296 : ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:18:11 wPW4wnjA0
投下します


297 : Water Hazard ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:19:28 wPW4wnjA0



「ウッッッッッソでしょーーーーーーーーーーーー!!??」

――悲痛な声が月夜に響き、けたたましい水音が空を破った。


298 : Water Hazard ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:20:14 wPW4wnjA0
◆◆◆


VR空間『New World』で行われるバトルロワイアル。
ハッピー・ステップ・ファイブの秘密兵器、三条 由香里の開始位置はG-1の海上だった。


(せっかくLUKに50ptも使ったのに、初っ端からびしょ濡れとか最悪じゃない!
第一、こういうのは可憐さんの役回りでしょーーーがっ!)

開始早々海に叩きつけられた彼女の心中は穏やかではない。

普段から数々のトラブルを巻き起こしている彼女としては、不運によって己の身に降りかかるトラブルを可能な限り回避したいという思惑があった。
故にGPをはたいてBランクのLUKを取得しておいたわけだが、この仕打ちである。

幸い、着水時の体勢が良かったため溺れずには済んだ。
しかし水深は深い。正面と左側に陸地が見えるがそれなりに距離がある。
あまり長く水に浸かっているとどんどん体温を奪われ死に至るだろう。
急いで陸地に上がらなければならない。

なぜかライブの衣装を着させられているが、ノースリーブの衣装なのでそんなに泳ぎに支障はないはずだ。

――さすがにスカートは脱いで[[アイテム]]に収納した。
陸地に他の参加者がいるかもしれないが、気にしていられない。
死ぬことに比べたらアンスコ見られるくらいどうってことない。


299 : Water Hazard ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:21:15 wPW4wnjA0



ざぱざぱとうろ覚えのクロールで正面の陸地に向かい進んでいく。
この時間、この辺りの海流は穏やかで、由香里の上手とは言えないクロールでも着実に陸地に近づいている。

(最初の転送以外は割とツイてるじゃない。
このままなら問題なく陸地にたどり着けそう)


マイペースながらも着実に泳ぎ進み、陸地が眼鼻の先にきた。
もうすぐ陸地にたどり着けると安心する。

しかし、しばらく泳ぎ続けるうちに異変に気付いた。

(…なんかさっきから距離変わってなくない?)

陸地が10m先に見えてきてから5分ほど泳ぎ続けているが、陸地までの距離が一向に縮まらない。
むしろ遠ざかっているようにすら感じる。

(ちょっとちょっと…このままじゃ…)

このままでは疲労と低体温で体が動かなくなる。
その先にあるのは――――死だ。



由香里が岸にたどり着けない原因は離岸流だ。
海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとする時に発生する海流で、海浜事故の主要因の一つでもある。

その離岸流に押し流されてしまい、岸に近づこうとしても近づけないというわけだ。


海岸に対して平行に泳げば離岸流が発生している区域から脱し、海岸に打ち寄せる海流「向岸流」に乗ることも可能ではあるが、ここ数年海水浴すらろくにしていない由香里はそんな解決方法には思い至れない。

岸を目指し、一心不乱に泳ぎ続ける由香里に更なる不運が襲い掛かる。


(…足つった)
これはもう…どうしようもない。
「万事休す」という言葉が脳裏に浮かぶ。
せめてもの悪あがきと腕をばたつかせるが何の意味もない。

ついに体力が尽きた由香里は心の中でシェリンにあらん限りの面罵を浴びせながら、その体を水に預けたのだった――。


300 : Water Hazard ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:25:31 wPW4wnjA0
◆◆◆


「起きろ由香里ィ!!」

勢いよく頬が張られて由香里は目覚める。

――ああよかった。
殺し合いに巻き込まれたのも、開始早々海に落とされたのも、なぜか陸に近づけず溺れたのも全部夢だった。
目が覚めればベッドの上で、いつも通りの日常が待っているはずだ。


「寝言言ってんなバカ!全部現実だよ!VRだけど!」

しかし目を開けた由香里はベッドの上ではなく水の中にいた。

体力が尽きて海に沈むはずだった自分の体を誰かが掴んでいる。


――聞き覚えのある声だ。とても懐かしい。
あの人によく似た声――。

「利江…さん…」
「そうだよ!利江だよ!助けに来たんだよ!」

派手な色に染められた髪、実年齢より遥かに大人っぽく見えるメイク。
由香里が知っている姿とはかけ離れているが、そこにいたのは間違いなく、デビュー直前に『HSF』を脱退した滝川 利江だった。


「間に合ってよかった!死んじゃったらどうしようってすごく怖かったんだから!」

久しぶりに会う利江はひどい顔をしていた。
可愛らしいその相貌を濡らしているのは、海水だけではないのだろう。
利江の脱退を知って泣き喚いていた自分も、こんな顔だったのだろうか。

「早く陸地に上がるよ。私に掴まって!
大丈夫。私には海流を無視して泳げる指輪があるの。
絶対、あんたを陸まで連れてってあげるから!」


301 : Water Hazard ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:25:55 wPW4wnjA0
――頼もしいなあ。

かつての私はこの人を越えようと頑張ってきた。


リーダーの涼子さんも、その無二の親友である利江さんも。
アイドルとして遥か高みにいる二人を乗り越える。
それこそが、私を助けてくれた二人への恩返しになると信じていた。


利江さんが理由も言わずに脱退された時は泣いた。
勝ち逃げされたと悔しくて悔しくて泣き腫らした。


利江さんを除いた5人で『ハッピー・ステップ・ファイブ』としてデビューして、アイドルランキングを駆け上がった。


もう利江さんは越えたと思った。
眼中にないと思った。
強く強くそう思おうとした。


そして今日、久しぶりにその顔を見た。

また助けてもらってしまった。
全然敵わなかった。


「利江さん…」
「?
どしたの?由香里?」

心の中で呟いたつもりだった言葉が声になってしまった。

どうしよう。こういう時何を言えば良いのか。
黙ってても不自然なので、とりあえず思いついたことを言う。




「やらしー下着、着けてますね…」
「今気にすることじゃないでしょ!!!」


[G-1/海上/1日目・深夜]
[三条 由香里]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:B
[ステータス]:疲労大、びしょ濡れ
[アイテム]:不明支給品×3(確認済)
[GP]:0pt(まだメールを開いていません)
[プロセス]
基本行動方針:HSFみんなと合流。みんなで生きて帰る。
1.陸に揚がる。
※アイテムは名前だけ確認し「この状況では役に立たなそう」と判断しました。

[滝川 利江]
[パラメータ]:STR:C VIT:A AGI:C DEX:B LUK:E
[ステータス]:びしょ濡れ、下着姿
[アイテム]:暗視スコープ、海王の指輪(E)、不明支給品×1(確認済)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:HSFみんなと合流。みんなを生きて帰す。
1.由香里を陸に揚げる。
2.なるべく殺人はしない。襲われたら容赦しない。
※衣服及び暗視スコープはG-1東側の陸地に放置してあります。回収して着るつもりです。

【暗視スコープ】
暗所でも見えるスコープ。僅かな光を増幅するタイプのものなので完全な暗闇では使用不可。

【海王の指輪】
指輪。装着すると海流の影響を無視して泳ぐことができる。
泳ぎが上手になるわけではない。


302 : Water Hazard ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:27:12 wPW4wnjA0
◆◆◆


G-1。北側の陸地。

ここに、三条由香里と滝川利江の一連の騒動を眺め、歩き出す男がいた。

少し高めの身長、特徴のない体格、特徴のない顔、特徴のない髪形。

すれ違ってもすぐに忘れられてしまいそうな、そんな外見の男。


しかし、街行く人に彼の写真を見せれば一様に目を見開いて、彼の名を呼ぶ。
そしてある者は面罵し、ある者は無関心を装い、またある者は発奮するだろう。
彼の名は、彼の顔はそれほどまでに人口に膾炙している。


彼はアイドルか――――否。
彼はタレントか――――否。
彼はスポーツ選手か――――否。
彼は政治家か――――否。


彼は死刑囚。
14人もの人間の命を無差別に刈り取り、死刑判決を受けた殺人鬼だ。


彼の名は――――桐本四郎。



[G-1/1日目・深夜]
[桐本 四郎]
[パラメータ]:STR:B VIT:D AGI:A DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3(確認済)
[GP]:15→25pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:人が苦しみ、命乞いする姿を思う存分見る。
1.女二人の上陸地点で待ち伏せ、陸地に揚がったところを襲う。
2.称号とか所有権は知らんが、狙えるようなら優勝を狙う。


303 : Water Hazard ◆ylcjBnZZno :2020/09/28(月) 15:27:35 wPW4wnjA0
投下終了です。


304 : 名無しさん :2020/09/28(月) 21:46:16 .G6m28Xs0
投下乙です
開始地点すらトラブルにする由香里のトラブルメーカーっぷりが光る
そんな状況でも知り合いに出会えたのは幸運か……でも恐ろしいおっさんに目をつけられてるからやっぱり不幸だ


305 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 21:51:39 vI2T2Ee60
投下乙です
いきなり海に落ちたものの頼りになる先輩と合流出来て運があるのかないのか、トラブルメイカーの名に恥じぬドタバタっぷり
そして桐本さん、ナズェミテルンディス!! トラブル続きでやばいですね

それでは私も投下します


306 : 雪の神殿 ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 21:54:04 vI2T2Ee60

その、コテージは神を祀る神殿と化していた。

黒髪の美しい女だった。
女は白い息を吐き、自らの両手を温める。
窓から覗く四角く切り取られた世界は白に侵されていた。

そこは雪の吹き荒れる極寒の世界だった。
コテージはそこに敷かれた数少ないセーフゾーンである。
女はコテージ1階の共有スペースにあるソファーに座り、寒そうに手をすり合わせていた。

女の年の頃は少女と言っていい年齢だろう。
にもかかわらずその所作一つ一つには色香が漂っていた。
見るものを蠱惑するような毒の花。
その全てが、どうしようもなく女だった。

「寒いわね」

誰に言うでもなく女が呟く。
その呟きに応える声があった。

「こちらを」
「あら、ありがと」

この場にいた女は二人。
驚いたことに二人の女の顔は生き写しのように瓜二つだった。

だが、決定的に違う点が一つ。
一人は崇め奉られるように鎮座し、一人はその足元に傅くように跪いていた。

傅いていた少女が差し出した分厚いコートを女は当然のように受け取り羽織る。
男性用なのか、サイズの合わないコートの余った袖を弄びながら、足元の少女を見つめ問いかける。

「イコンちゃんは寒くないのぉ?」

イコンと呼ばれた少女が纏っているのは薄い布を重ねただけの踊り子のような衣服だった。
見ようによっては祭事に祈祷する巫女のようでもある。
室内とはいえこの薄着では寒いはずだが、イコンは興奮したような表情で顔を赤くしていた。

「はい。よもや、神に直接の拝謁を賜る日がこようとは‥‥‥‥ッ!
 わたくしの心は歓喜に打ち震え、熱いくらいでございます!」
「そう」

自分で問うておきながら、神と呼ばれた少女は興味なさげに弄っていた爪先をふぅと吹いた。
周囲の気温はマイナスを下回っており、コテージの中にあっても体の震えが止まらぬほど寒い。
そんな中で防寒具を独り占めしておいて、女は悪びれる様子もなかった。

それも当然であろう。
彼女たちの関係は対等ではない。

神と信者。
讃えられる者と讃える者。
一方的に捧げられるのは当然と言えた。


307 : 雪の神殿 ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 21:55:35 vI2T2Ee60
「それでぇ、イコンちゃん。
 ここでも私のお願い聞いてくれるわよねぇ?」
「はっ! 勿論に御座います愛美様!
 我が身を御身に捧げよと望まれるのなら、今すぐにでも!
 御身と一体となれるなら、至上の喜びにございます」

信者は興奮気味に捲し立てる。
愛美と呼ばれた神は、その情熱とは対照的に変わらぬ様子で応じた。

「私の贄になるのもいいけれど、その前に私の手足におなりなさぁい」
「はっ。お望みとあらば」

神から望まれることの歓喜に震えながら、イコンは跪き首を垂れる。

「そうね、まずは2、3人ほど取り込んでおきたいわ。
 死体は消えちゃうんだったかしら? なら適当に痛めつけて私のところに連れてきなさい。
 それが無理そうなら、その場で殺しちゃっていいわ。その場合は獲得したGPとやらを私に捧げなさい。貰ってあげるから」
「御意に。しかし、GPの献上はどのようにして?」
「あら? できないの? シェリン」
『はいはい。あなたのシェリンですよ〜』

ヘルプから呼び出され電子妖精が現れる。

「この子が私にGPを献上する方法を教えてあげて」
『はい、コネクトして双方に同意がある場合ればGPの移譲は可能となります。
 その場合手数料としてGPの1割を徴収しますのでご了承ください』
「ですって」

ふふと笑う。
信徒たる巫女は神の在り方に身震いをする。
愛美の発言はシステムを理解しての事ではない。
全ては自分に捧げられて当然の物という思考からの物であった。

なんという傲慢。
なんという慢心。
なんという自己愛。

そして世界はその通りになる。
世界は彼女を中心に回っている。

「それができたらご褒美に貴女も私にしてあげる。嬉しい?」
「は、はい! 光栄の至りにございます……!」

女の細く白い指が女の頬から顎をなぞる。
指は顎から落ちて乳房を撫ぜた。
狂信者は恍惚の表情で身を震わせ、自らの命を捧げるられることに一筋の随喜の涙を零した。


308 : 雪の神殿 ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 21:57:36 vI2T2Ee60
「ああ、けど――――陣野優美。私と同じ顔をした私のスペア。
 この子だけは殺しちゃダメ。絶対に生きたまま私の前に連れてきてちょうだい。
 まあ向こうも私に会いたがってるだろうから、私の名前を出せば素直についてくると思うけど。
 あの子、私を殺したがってるでしょうしねぇ」

唇に手をやり愉しそうにクスクスと笑う。
それはこれまでの笑みとは違う。
どこか腐乱した果実の様に甘ったるくて毒々しい笑いだった。

「はっ。御身の現身として、仮にその殺意をこの身に受けようとも必ずや成し遂げてみせます」

仮に己が命を賭しても成し遂げると、イコンは忠義を示す。
だが、見上げた神の表情は一変していた。

「――――――何を、言ってるの?」

イコンの全身から血の気が引いた。
外の吹雪など比較にならぬほど、どうしようもなく冷たい声。
歯の根が鳴りやまない。
イコンの体がみっともないほどに震える。

「私の代わりに殺意を受ける? バカ言わないで。
 あの子が私を――――見間違う訳がないでしょう?」

両眼を見開いて、心底汚らわしいものを見るようにイコンを見下す。
それはどうしようもない恐怖と絶望。
狂信者にとって神に見放さるよりも恐ろしいことはない。

「も、も、申し訳ございません!! どうか、どうかお許しを!!」

コテージの床板が砕けんばかりに自らの頭を叩きつけた。
床板に赤い線を引きながら、それでも地面へと頭をこすり続ける。

「顔を上げなさい」

土下座を続けるイコンにそっと声がかかった。
許しを得て、額から血を流したイコンがゆっくりとその顔を上げる。
そこには菩薩の様な慈悲の笑みを浮かべた神の姿があった。

「いいのよ。許してあげる」
「か、神ッ! 神の寛容に感謝いたしますぅ…………ッ!」

再び地面に擦り付けんばかりに頭を下げる。
そんなイコンにそっと屈みこんだ愛美が、面を上げさせる。

「あらあら、こんなにして、かわいそうに」

そう言って赤い舌で額から垂れる赤い血を舐めとった。
イコンの全身が先ほどとは違う理由でブルりと振るえる。
余りの恍惚に気をやってしまいそうだった。


309 : 雪の神殿 ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 22:00:54 vI2T2Ee60
「ああ、そうそう。薫ちゃんに関しては殺しちゃっていいわ。
 同化する気にもならないから、連れてる必要もないわ。その場でぱぱっとやっちゃって」

邪魔な粗大ごみの処理を命じるように、何の未練もなく愛美は言う。
彼女にとって彼はもはやその程度でしかない。

「魔王ちゃんはそうねぇ。今会うのはちょっと不利ねぇ。
 私の完成度が高まるまでなるべく遠ざけておきたいところだけど、まぁあなたじゃ絶対に勝てないから見かけたら無視しておきなさい。
 とりあえずはそんなところかしら?」
「はっ。御心のままに。
 して合流はどのように致しましょう? 神はここに留まられる御積もりでしょうか?」
「そうねぇ。寒いからあまり動きたくないのは確かだけど、ただジッとしてるのもねぇ。
 とりあえずこれを持ってなさい。私の場所がわかるわ」

そう言って彼女は自らの支給品を手渡す。
神からの賜りものをしっかりと両腕で受け取る。

「拝借いたします。これは?」
「受信機、という物よ。これで発信機を持つ私の位置がわかるわ。
 使い方はシェリンにでも聞いておきなさい」
「はっ。それでは早速。失礼いたします、愛美様」

深々と一礼して、イコンはコテージより出ていく。
裸同然の恰好で何のためらいもなく雪の舞い散る外へと飛び出していった。

「元気ねぇ」

気だるげにそう言って、僅かに身を震わせる。
イコンが出ていく際に開いた扉から僅かな雪風と共に冷気が流れ込んでいた。
コテージの窓から吹雪く外の景色を見つめ、白い息と共に呟く。

「寒いわね」

[C-8/コテージ/1日目・深夜]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)。発信機。不明支給品×2
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人

[イコン]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
[ステータス]:健康
[アイテム]:受信機、不明支給品×2
[GP]:5→15pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:神に尽くす
1.何人かの参加者を贄として神に捧げる
2.陣野優美を生かしたまま神のもとに導く
3.郷田薫は殺す、魔王は避ける

【防寒コート】
分厚い防寒用のコート。
男性向けであるためややサイズが大きい。
僅かながらにダメージ軽減効果がある。

【発信機&受信機】
発信機の位置が常に受信機に表示される。
受信範囲はマップ全域(地下、上空を含む)。


310 : 雪の神殿 ◆H3bky6/SCY :2020/09/28(月) 22:01:05 vI2T2Ee60
投下終了です


311 : 名無しさん :2020/09/28(月) 22:13:14 .G6m28Xs0
投下乙です
神の神っぷりにゾクゾクしちゃいます
イコン、元の世界でも振り回されてたんだろうなぁ……


312 : ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 22:58:31 c68OeIsQ0
投下します


313 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 22:59:16 c68OeIsQ0
「……やってしまった」

巨大な塔の前で立ち尽くしたいたのは、あまりにもファンシーな魔法少女だった。

夜に光り輝くサファイアみたいな青い瞳。
両結びにされているのは現実にはあり得ないピンクの髪が風に揺れる。
天使の翼が生えた白の魔法少女コスチュームに身を纏い注射器みたいな魔法の杖を振りかざす。

彼女こそ魔法少女エンジェル☆リリィ。
地球を癒すべく魔法の世界からやってきた魔法少女である。

いや。
正確には、魔法少女エンジェル☆リリィのコスプレをした三十路養護教諭、白井杏子である。

「出来心だったんです……」

誰に聞かれてもいないのに犯人は自供する。
コスプレ趣味が高じて、つい好きなアニメのキャラクターを再現してしまった。

だってこのクオリティで自由に設定できるとか言われたら…………ねぇ?
レイヤーの性として、やっちゃうでしょ?
しゃーない。これは情状酌量の余地しかない。
まあ……能力再現まで目指したのは正直やりすぎたとも思うけど。

やってしまったものは仕方ないにしても。
こんな姿生徒や同僚に見つかったら死ねる。

幸か不幸か参加者名簿を見る限り、知っているのは「高井丈美」の名一人だけであった。
明らかにゲーム名みたいなのがちらほらと見受けられたので、その中に知り合いがいる可能性はあるが。
かくいう私もその口なので何も言えない。

同姓同名の可能性はあるが、まずは高井丈美を探すのが最優先だろう。
その真偽は別としても殺し合いなどという物騒な状況である。
教育者として生徒の保護を最優先するのは当然のことだろう。
明らかな異常事態、少なくとも拉致されてるのは間違いなのだから。

「なんでこのカッコにしちゃったかなー」

だって生徒がいるなんて思わないしさー。
彼女を保護するという事は彼女に正体を明かすという事だ。
必然的に私のオタバレがするという事である。
地獄かな?
天使を選んだはずなのに、地獄とはこれ如何に?


314 : 名無しさん :2020/09/29(火) 22:59:20 YLIzAiPo0
投下乙です
登場話で主従が揃って万全の悪の組織ムーヴをしてるのは珍しいですね
オリロワの登場話なのにすでに安定感すら感じる


315 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 22:59:50 c68OeIsQ0
「あっ!? 魔法少女エンジェル☆リリィだ!」

背後よりの突然の大声に、体をビクつかせる。
普通にビックリした。
なんだよもーと振り返る。
その先でさらにビックリすることが待っているとも知らず。

そこには、竜を模した仮面をかぶった筋骨隆々の大男が立っていた。
男にはどこか生物的な「畏怖」を呼びよこすような何かがある。

え、めっちゃ怖い。
こんな相手に殺し合いの舞台であった私の心境たるや察して欲しい。
日常生活でもこんなのに夜道で出会ったら100%逃げる。
だと言うのに恐怖と混乱で私の足は動かなかった。

「あっと、しまったよ。あんまりにもクオリティが高いから思わず話しかけちゃったや」

そう言って大男が仮面の上から頬を掻く。
その仕草は外見に見合わず妙に子供っぽかった。
いやまあアバターなんだから中の人が本当に子供である可能性はあるけれど。

それで僅かに恐怖が和らいだ。
相手が子供である可能性を考えたからというより、その行動本位が共感できたからだ。
二次元が三次元に降臨するというオタクの夢を目の前にして興奮せざるを得ないのは分かる。
アバターが三次元かどうかについては審議の余地があるだろうが。

「けど、すごいなぁ、いいアバターだなぁ」

純粋な反応で褒められると、むくむくと沸き立つものがある。
イカン。
このままだといけない。
こんなカッコをしているのもその性質が原因なのに。
レイヤーとしての血が疼きだしてしまう…………!

「わかります? わかっちゃいます?」

だが、ついついこだわりなんかについて語りたくなってしまう。

「顔面の設定を落とし込むのには苦労したんですよねぇ。
 やっぱアニメ長を現実的な感じ再現するっていうの? なかなか上手くいったと思うんですけどどうです?
 衣装なんかも、小道具は分かりやすかったんですけど、衣装は設定資料にもないから大変でしたよ。
 コス作る時は翼部分がネックなんですけど、アバターだと楽ですね意外とすんなりでした」

捲し立てる。
これが人の性か。
いやオタクの性か。

「衣服に関してはドレスはやっぱり細かくって特にこの辺のフリルの質感とかこだわったんですよねぇ」

ピラっとスカートの端をつまみ上げると、目をそらしつつも視線はがっつり露になったふとももに向かっていた。
まあその手の視線はカメコで慣れてるけど。男の子だなぁ。


316 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 23:00:53 c68OeIsQ0
「あなたも好きなんですか? 魔法少女エンジェル☆リリィ」
「え、あっ。べ、べつに好きとかじゃねーし」

ツンデレかな?
いやあれか、魔法少女アニメなんか見てると知られるのは恥ずかしい的なやつか?
思春期男子特有の価値観を拗らせた人なのか、それとも本当に思春期男子か?

さっきからの反応を見るにそんな気がしてくるが。
こんな思考になるのは普段から中学生と接する職業をしてるためだろうか。

「ちょっとお尋ねしたいんですが、ひょっとして学生さんだったり…………?」
「えー出会い厨じゃないだから、リアルのこと聞くのは無しでしょー」

恐る恐る聞いてみると、ネットリテラシーのしっかりした意見が返ってきた。
まあこれはこれである意味安心の答えである。
知らなければ確定することはない。
これ以上触れなければこの話題はおしまい、だというのに。

「まあ年齢くらいならいいか。実は今年中学生になったばかりなんですよね」

くそー。中学生のネットリテラシーェ……。
今の子は逆に緩いのか?
私の違いは違ったんだけどなぁ。

「へ、へぇー、へぇー。そうなんですね。へぇー」

まさかね?
いくら何でもないない。
どんな偶然なんだって話だろう。
けど、高井さん(少なくとも同姓同名の人)は巻き込まれてるわけだしなぁ。
あーそれに、うちの中学なんかPCゲームの部活とかあったような……。

「中学で部活とかー…………やってたりしますぅ?」
「部活って言うか同好会ですけど、PCゲーム同好会に所属してますね」

ああ、そうだそうだ。
部活じゃなくて同好会だった。

あーうん。つまり、うん。
あれだ、確定かこれ?

「…………日天中学」
「え!?」

ぼそりと呟かれた私の言葉に、大男はびくりと体を震わせる。

「え、え!? なんで? え? え!?」

突然の身バレに大男が本気で困惑した様子を見せる。
このリアクション。ああ……もう間違いないだろう。

黙ってたいなぁー。
けどダメだよなぁー。
大人の責任だもんなー。

自校の生徒ならなおのこと確認しておかないとダメだし。
ええい、ままよ!

「私が――――養護教諭の白井よ」




317 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 23:01:11 c68OeIsQ0
「まさか白井先生にこんな趣味があったなんてなぁ」
「やめて、忘れなさい。登くん」

登くんはこちらをからかうようにニヤニヤと笑っている。
しばらくこのネタで弄られるんだろうなぁ。

けれどまあ、そのかいあって互いの身分を明かしあって情報を交換することはできた。

「それで、このけるぴーっていうのが馬場くんで、この……なに? †黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†ってのが有馬さんってことね」
「うん。そうだよ」

失ったものは大きかったが、こうして保護すべき生徒の正確な情報が入ったのでよしとしよう。
よしとしよう!

「この枝島杏子って人は先生の知り合いじゃないの? 同じ名前みたいだけど」
「馬鹿ね。同じ苗字ならともかく、名前が同じなだけならただの他人じゃないの」
「それもそうか。けど枝島杏子って枝島先生と白井先生結婚したみたいな名前だね」

こちらをからかっているのだろう、楽しそうにイシシと笑う。
その仕草と筋骨隆々の男とのミスマッチが酷いな。

「やめてよね。枝島先生にも失礼よそういうの」
「はーい」

まったく。全く興味のない相手とカップリングされてもお互いいい迷惑だろう。
なま物の取り扱いには注意してもらいたいものである。

「よし、それじゃあ、馬場くんたちを探しましょう。いいわね登くん?」
「え、なんで?」
「え?」

僅かに固まる。
何かがかみ合ってないような違和感。
それが何なのか、ここで正確に把握しておくべきだった。

「……なんでって、みんなと協力して立ち向かうためによ」
「協力? 甘いね先生」
「え?」

ズガンと言う衝撃。
拳が叩き込まれたと気づいたのは、自分の体が塔の石壁に叩きつけられた後の話だった。

「…………ぁ……ぐっ。は…………っ!」

血を吐いた。
肋骨が砕けて、チクチクと内臓に刺さっている。
壁に叩きつけられた背骨にもダメージがあるのかうまく体が動かない。

何が起きたかわからない。

殴られた?
誰に?
決まってる。
だけど何故?
何のために?

「へへっ油断したね。残念がらこれは協力プレイじゃなくて、情け無用のバトルロワイアルなんだよね!」

筋骨隆々の大男はゲームでも遊んでるかのように愉しそうに笑いながら、その場でシュシュと素振りを見せる。
何を言っているのか。
あまりにも無邪気に紡がれる言葉に恐怖を覚える。

「…………待っ、て」

息をするのもギリギリの状態で、なんとか絞り出すように言う。
命がけで懇願する私の声を聴いて、私の守るべき生徒は。


「待たないよ〜だ」


岩のように巨大な拳を容赦なく振り下した。




318 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 23:01:22 c68OeIsQ0
殴る。

僅かに血が飛び散る。
なんて地味な演出。エフェクトもしょぼいし、その割にリアリティがない。
リアリティが高いと評判の洋ゲーはもっと血しぶきがド派手に飛んでたものだけど。

蹴る。

骨が折れた鈍い音が響く。
SEも微妙だ。音量も小さい。
アバターのクオリティはいいのに、その辺の造り込みが甘いのが実に惜しい。
βテストの意見フォームにはこの辺の改善案を出しておきたいところである。

貫く。

振りぬいた拳が胴体を貫いた。
それで完全にHPが0になったようである。
先生のアバターは粒子となって消えていった。

あ、この辺はゲームっぽい演出かも。




319 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 23:01:48 c68OeIsQ0
「あーあ、あとで怒られちゃうかもなぁ」

調子に乗ってやってしまったが、ちょっと不意打ちっぽかったかな、と反省する。
まあもともと話しかけちゃったのがイレギュラーだ、最初の目的を果たしただけとも言える。
あのクオリティで好きなアニメキャラが目の前にしては話しかけざるおえないので致し方ない話だった。

ソロゲームで協力プレイなんて軟弱な方針をとる登ではないが、次に学校に行ったときに先生には怒られてしまうかもしれない。
まあゲームなんだし、大人な先生がムキになるとは思わないけど。
優しい先生だきっと笑って許してくれるだろう。

「しかし白井先生があんな趣味の人だったとはなぁ。
 あ、この件で説得すれば、顧問になってもらえたりしないかなぁ、そうすれば念願の部昇格とかになったりして」

そう言って、悪戯を想像するように笑う。
その未来をたった今自分の手でたたき壊したとも知らず。

「あれ? 100ptしかない?」

敵を撃破したことだし、その成果であるGPを確認する。
だが入っていたのは100ptだった。
前回の更新分も含まれてるはずである。
登の計算では130pt入っているはずなのだが。

「あーそうかぁ! クソぉ間に合わなかったのかぁ!」

登はスタートダッシュボーナスが2倍だと勘違いしていた。
数学どころか算数レベルで躓いている中学生だった。

スタートダッシュボーナス中に倒した最初の相手が30pt×2。
白井先生を倒したときにはスタートダッシュ期間が終わっていたため30pt
これでウェルカムボーナスの10ptと合わせて100pt。計算は合う。

「けどまだ2時前なんだけどなぁー」

時計を確認する。
まだギリギリだが2時前である。

「まぁβだしな、仕方ない。後で報告しておこう」

β版にバグはつきもの。
その辺には寛容であらねばなるまい。
それがテスターとしての礼儀である。




320 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 23:02:09 c68OeIsQ0
「これでいい……のかな?」

砂色のオーブが光り輝く。
あっさりと砂の塔の制圧は完了した。

妨害するような敵もおらずただ塔を登ってオーブを更新するだけ。
ボスキャラデも待ち構えているんじゃないかと考えていた登からすれば拍子抜けであった。

当初の予定では、ここで待ち伏せをしてボーナスを稼ぐというのものだったが。
バグのせいかボーナス期間が終わってしまったため、うまみは少なくなってしまった。
そうなると、GPを稼ぎたいのなら別の方法を考えるべきだろう。

塔の頂上から外を見る。
夜で視界は殆どないが、地図で見る限りおそらくこの視線の先にはもう一つの塔があるはずである。
塔をハシゴするのはどうだろうか?

雪の塔の制圧。
上手くいけば、あっという間に300ptゲットできる。
GPの使用方法はアイテムとの交換をまず目指していたが。

「やっぱほしいよなぁSランクスキル」

この100ptを使ってしまうのもいいけど、ゲーマーとしてはSランクスキルという響きには惹かれるものがある。
だが、堅実に行くべきという考えもゲーマーとしての考え方だろう。

どうするべきか。
GPの使い方についてあれやこれやと夢想する。
それだけで楽しいものである。


新しいゲームに、少年はワクワクが止まらなかった。


※砂の塔の支配者が[Brave Dragon]に書き換わりました。
 この情報はマップ上から確認できます。

[白井 杏子(魔法少女エンジェル☆リリィ) GAME OVER]

[A-4/砂の塔/1日目・深夜]
[登 勇太(Brave Dragon)]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:ゴールデンハンマー、支給アイテム×5(確認済)
[GP]:10pt→100pt(勇者殺害×スタートダッシュにより+90pt)
[プロセス]:
基本行動方針:見敵必殺!優勝目指して頑張るぞ!
1.「雪の塔」を目指し、300ptを目指す。
2.「けるぴー」って馬場先輩だよね。帰ったら感想聞いてみよう。
3.この件で説得すれば白井先生が顧問になってくれるかも。
[備考]
1.本ロワをただのゲームだと思っています。
2.少年(堀下 進)を殺害できたと思っています。


321 : Easy Game ◆H3bky6/SCY :2020/09/29(火) 23:02:24 c68OeIsQ0
投下終了です


322 : 名無しさん :2020/09/29(火) 23:10:43 YLIzAiPo0
投下中に邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした。

投下乙です
順調に勇太くんの取り返しがつかなくなっている
行動方針に無邪気に白井先生顧問の話があるのが悲しいですね…


323 : 名無しさん :2020/09/30(水) 01:08:34 .GJjdhkM0
投下乙です
白井先生が逝ってしまったか
彼女が自分のアバターにときめいてるとこはかわいかっただけに残念だった


324 : 名無しさん :2020/09/30(水) 18:34:07 0TvVvT520
投下乙です
白井先生……アバターは趣味に走っちゃったけど生徒思いな良い先生だったよ
勇太は先生の話をちゃんと聞いて欲しかった


325 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:33:22 KZmR8SrA0
投下します


326 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:34:11 KZmR8SrA0
夜の小島を覚束ない足取りでふらふらと歩く女の影があった。
女の名は鈴原涼子。
人気アイドルグループ「ハッピー・ステップ・ファイブ」のセンター兼リーダーであり。
怒涛の如き勢いでアイドルシーンを上り詰めた、アイドル戦国時代を代表するアイドルの一人である。

光り輝くアイドル。
だが、その輝きは今や見る影もない。

その衣服は薄汚れ、輝きを写すはずのその瞳は、光なく虚ろな闇を宿している。
寒そうに震え、どこに行けばいいのかもわからないまま目的もなく彷徨っていた。

ふらついて、蹴躓いて、道端にあるには明らかに不自然な何かにぶつかった。
持たれかかりながら、なんだろうと呆とした頭でそれを見つめる。
それはコンビニに置かれているATMのような何かだった。

そう言えば、これまで通り過ぎていた道のりにもいくつかあったような気もした。
曖昧な頭で最初に確認した説明を思い返す。
確か、マップの所々にGPを使用するための交換機なるものが配置されているとか言う話だったか。

どうでもいい話だ。
彼女の興味はそんなところにはなかった。
それよりも一刻も早くみんなに会いたい。
彼女にあるのはそれだけだった。

「…………………」

だが、何か気づきがあったのか。
虚ろだった彼女の目が僅かに見開かれた。
持たれかかっていた体を起こし、タッチパネル式の交換機の正面に回って、躊躇いがちにゆっくりと手を伸ばす。

『はーい。あなたのシェリンです。初めてのご使用ですね。お助けが必要ですか?』

その手が画面に触れようとした瞬間、どこからともなく人形大の少女が彼女の目の前に実体化した。

『操作はタッチパネル式ですが、直接私に命じていただくことでも可能です。
 ステータスアップは現在の能力値との差分だけ、』
「そういうのはいいわ。それよりも、この質問に答えるっていうのはどういう物なの?
 今こうしてあなたとやり取りしているのとどう違うの?」

シェリンの言葉を遮り、矢継ぎ早に問いかける。
涼子が気にかけたのは『シェリンへの質問』という項目だった。
言葉を遮られたところでAIであるシェリンは気分を害するはずもなく、変わらぬ態度で応じる。

『基本的なシステムに関する事以外の、本来参加者に公開されない情報について回答が可能となります。
 注意点といたしましては、運営上回答できない質問もいくつか存在しており、回答できない場合でも申請した時点でGPが消費されますのでご注意ください』

理不尽すぎる物言いだが、今更だ。それはいい。
涼子が知りたいのはただ一つ。


327 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:35:51 KZmR8SrA0
「例えばそれは…………他の参加者がどこに居るかなんて事も聞けるの……?」
『はい。お答えできます』

望みの回答を得て涼子の頬に赤みが戻る。
HSF(みんな)に会えるかもしれない。
そう考えただけで、凍えかけていた心に僅かに火が灯るようだ。

だが、涼子の探し人は5人。
5回の質問をするとなると250ptのGPが必要となる。
だが現在の涼子が支払えるGPは100ptまでである、全員は探せない。

なら誰を探す?
優先順位をつけなければならない。
心配な年少組のキララと由香里を優先するべきか。
それとも頼りになる利江や可憐と先に合流すべきか。

「……――あっ」

ひらめきがあった。
それは天啓だったのか。
霞がかっていた思考が晴れるようだった。

「――――本当に、一つの質問なら何でもいいのね?」
『はい。答えられるモノであれば』

答えになってない返答も気にならない。
これが通るならすべての問題は解決する。


「じゃあ申請するわ――――ハッピー・ステップ・ファイブのメンバーの現在位置を教えて」


対象は複数であろうとも、一つの質問であることに違いはない。
脱退した利江は対象から外れてしまうが、それは残りの50ptで聞けばいい。

『了承しました。GPが50pt消費されます。
 問い合わせを申請しますので少々お待ちください』

特に異議を申し立てるでもなく、事務的にシェリンは対応する。
このルールのスキを突いたトンチのような質問が、果たして通るのか。
却下されれば50ptを失うだけの賭けである。

『お待たせしました』

数秒ほどで返答が返ってきた。
固唾を呑んで沙汰を待つ。

『申請が受理されました』

申請はあっさりと受理され、涼子の心配は杞憂に終わった。

『これからお教えするのはあくまで申請時の現在位置であり、その後その位置に居続けることを保証するものではありませんのでご了承ください』
「いいから、早くっ!」

注意事項を読み上げるシェリンを急かす。
シェリンは、それでは、と切り上げ、本題である回答を始めた。


328 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:36:53 KZmR8SrA0
『読み上げます。鈴原 涼子 H-6』

思わず拍子抜けする。
HSFという括りなら涼子自身も含まれるのも当然だろうが、そんな情報はどうでもいい。
いいから早く次をと、気持ちばかりが急いていた。

『安条 可憐 G-4』

――――近いっ!
涼子の心が波のように沸き立つ。
現在の涼子がH-6、可憐がG-4。
地図上でも繋がっているし、すぐにでも会える距離だ。

『ソフィア・ステパネン・モロボシ H-8』

これも近い!
可憐とは逆方向だが、同じくらいの距離である。
可憐とソーニャに囲まれた場所にいる。
それだけで心が落ち着くようである。

『三条 由香里 G-1』

少し遠いが、許容範囲内だ。
反対側と言うほど離れてはいないし、上手くいけば全員合流できるかもしれない。
どん底だった心が僅かながら希望に傾きかける。
あとは、

『以上となります』

「……………………………は?」

その時シェリンが何を言っているのか理解できなかった。
来ると思っていたものが来ず、冷や水をぶっかけられたように沸き立っていた心が急激に冷める。
訳もなく心臓が大きく跳ねた。

「…………ちょっとまって、まだでしょ?」

息が荒くなる。喉がカラカラに乾いてうまく唾が呑み込めない。
こめかみが痙攣するようにひくひくする。
脂汗が全身からあふれ出して気持ちが悪かった。
嫌な予感がする。

「キララは? キララの現在位置は…………ッ!?」

バクバクと心臓がうるさい。
うるさすぎて、大事な…………大事な言葉を聞き逃してしまいそう。

「……ねぇ。答えなさいよ。キララはどこにいるの!?」

悲鳴のような声を上げて、目の前の立体映像に詰め寄る。
電子妖精は微笑を浮かべたまま、表情を変えることなく告げる。

『篠田 キララさんは死亡しました。現在位置は存在しません』
「―――――――ぁ」

全身から力が抜ける。
膝からその場に崩れ落ちた。
自分がこれまでどうやって立っていたのかすら分からなくなってしまったようだ。


329 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:37:26 KZmR8SrA0
「…………嘘よ。嘘言わないで。嘘よ! 嘘ッ!!」
『嘘ではありません。篠田 キララさんは死亡しました。現在位置は』
「うるさいッッッ!!!!!」

乱暴にウィンドウを閉じて訳の分からないことをいう女を消し去る。

「嘘よ。キララが死ぬなんてそんな……」

そこまで言ったところで、脳裏に紫の顔をした男の恨めしそうに見開いた瞳が浮んだ。
目の前で死んでいった、自分が殺した男の死を思い出す。

「…………ぅぷっ」

吐いた。
人を殺した後も吐かなかったのに、強烈な死のイメージに吐瀉した。
だが、アバターの胃の中身はからなのか、出てくるのは胃液のような物だけだった。

「うぅ。キララ…………キララ……キララぁ………ぅ……っ。キララ…………ぁ」

立ち上がることもできず
己の吐瀉物の上で胎児の様に丸まって泣いた。

自分の体の一部が欠けたような喪失感。
いや、その方がどれほどましだっただろう。

彼女の世界は壊れてしまった。
もう二度と、元に戻ることはないだろう。




330 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:38:37 KZmR8SrA0
最初は、私と利江の二人で『ハッピー・ステップ』だった。

ユニットの名前は二人で決めた。
二人とも家にはいたくなかったから、放課後の教室で一冊のノートにあーでもないこーでもないと言いあいながら二人でシャペンを走らせていた。
不幸だった過去から飛び出して、これから幸福をつかむんだ、という意味を込めた名前だった。

それから、手あたり次第にいろんなオーディションを受けまくった。
レッスンなんて上等なものを受けたことはなかったし、振りも自分たちで考えた拙いものだ。
今思えば、本当にお遊びみたいなレベルだったと思う。
当然のごとくオーディションは落ちまくった。けれど充実していたと思う。
辛いだけだった人生が、初めて輝き始めた気がした。

中学も終りに近づいた頃。
やっと今の社長の目に留まって、レッスン生として養成所に所属が許された。
可憐とは養成所で出会った。
同じレッスン生としてともにレッスンを重ね、仲を深めていった。

翌年には由香里と、特待生としてソーニャが養成所に加わり。
次の年にユニット結成の話が持ち上がったところで、最後に加入したのがキララだった。

私も名前くらいは知っていた。
ドラマの主演経験もある元子役。
何の実績もない私たちの中にそんな彼女が放り込まれるという事に、いろんな意図を感じて私は気後れした。
だが、そんな私の印象は彼女の第一声で覆された。

『今日からアイドルを始める篠田キララです。
 3歳のころから役者をやってました、芸歴は皆さんの中で一番長いです。
 けれど、アイドルとしては今日生まれたばかりの新人です。
 先輩の皆さん、どうか私にアイドルを教えてください。よろしくお願いします』

そう言って深々と頭を下げた。

落ちぶれた元子役がアイドルになる。
それが周囲からどういう目で見られるのか。
自分がどういう意図をもってユニットに組み込まれたのか。
そんな自分の立場を誰よりも理解していたのがキララだった。

アイドルとして生きる覚悟。
素人の覚悟しか持っていなかった私たちの中で、彼女だけが唯一プロとしての覚悟を持っていた。

私たちの中で一番幼く、一番大人な彼女との出会い。

そんな事があった。




331 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:39:58 KZmR8SrA0
もはや涙すら枯れてしまったのか、だらしなく口元を開いたまま何の感情もない顔で幽鬼みたいに彷徨い歩いていた。

考えると辛いから。
考えるのを放棄した。
そうすれば、何も感じず生きていけると、彼女は知っていたから。

「ッ…………子!」

自分がいつ立ち上がって、歩き始めたのか、明確な記憶がない。
継ぎ接ぎしたフィルムのようだ。場面が途切れ途切れだ。
ああ、どうでもいい。
こんな壊れたくらいにいるくらいなら、いっそ。

「涼子…………!」
「ぇ?」

顔を上げる。
自分を呼ぶ声。
懐かしいような、一番聞きたかった声が。

無意識の内に彼女を求めてそちらに歩いていたのか、それとも完全なる偶然か。
それは分からない。
ただ会えた。それだけで感情がないまぜになって枯れていたはずの涙がとめどなく溢れ出す。

「可憐…………? 可憐。可憐ッ!」

その存在を認めた瞬間、幽鬼のようだった足取りは駆け出すものに変わっていた。
飛びつく勢いで抱き着いた涼子を、可憐は両手を広げしっかりと受け止める。
可憐は自分の腕の中で泣きじゃくるリーダーの背を優しくなでた。

「おーおー。どないしたんやウチらのリーダーは泣きむしさんやなぁ。
 こんな汚れてもうてせっかくの美人が台無しやないか」

そう言って可憐は涼子の涙を拭いて、衣服の汚れを払う。
そして嫌な顔一つせずに吐瀉物で汚れた口元を拭った。

「ぅぅ……可憐………可憐……ぅっ」

可憐は嗚咽を繰り返す涼子の背中をなだめるように擦り続ける。
決して急かすことなく、涼子が落ち着くのを待つように。
時間をかけて解きほぐし、涼子の嗚咽は徐々に落ち着きを取り戻して行く。

「それで。どないしたんや。なんや辛いことでもあったか?」

相手を落ち着かせるような優しい声で問いかける。
その問いに、涼子は答えようとして言葉を詰まらせる。
だが、言わねばならないと決意して、泣き叫ぶように言った。


332 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:41:44 KZmR8SrA0
「………………キララが、キララが死んじゃったよぉ…………ッ!!」

口にして再び涙を溢れさせる涼子。
その言葉は可憐に対しても頭を殴りつけるような衝撃を与えた。

「……なんで、そんな…………」

とっさに言葉が出ず、そんな事しか言えなかった。

「…………GPを使って聞いたの……みんながどこに居るのかって…………。
 けど、キララの位置は教えられないって…………! キララはもう死んじゃったからって…………!!」

涙を流しながら、途切れ途切れに涼子は説明する。
その事情を聞き終えた可憐は、唇を噛みしめ固く目を瞑っった。
だがそれも数秒。
すぐさま開かれた目の奥には何らかの決意の色が含まれていた。

「アホいいな――――それホンマに確かめたんか?
 涼子が自分の目でキララが死ぬとこを見たわけやないんやろ?」

その問いに涙を流し続ける涼子は縦に首を振った。

「ほな、まだ分からんやないか!
 何かの誤認や誤動作かもしれんし、仮に脱落してたとしても死ぬ言うの自体が嘘っぱちかもしれん。
 いやそもそも、キララがここにおったちゅうんもホンマかどうかわからんやろ。
 最初から呼んでもおらんのを死んだちゅうことにしとるだけかもしれへんやないか!
 せやから、悲しむんはちゃんと全部確かめてからでも遅ぅはないやろ!?」
「けど…………!」

何かを言おうとする涼子の頬を両手で挟んで発言を遮る。
そのまま手を引き、顔を近づけて視線を無理やり合わせながら問う。

「涼子。あんたはウチとあのシェリンとかいうお人形さんのどっちを信じられる?」
「そんなの。可憐に決まってる」

何の迷いもなく即答する。
聞くまでもない問いだった。

「せやったら、今はウチを信じてその悲しみを預けてくれへんか? それじゃ……アカンか?」
「…………ダメじゃない。可憐を信じる」

どうしもうない欺瞞だった。
そもそも発言した可憐自身ですらそんな可能性を信じていない。
涼子だってそれは分かっているだろう。
無理な理屈だと分かった上でそれでも可憐を信じて飲み込だのだ。
立ち上がるために必要な欺瞞だったと信じて。


333 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:43:31 KZmR8SrA0
涙を止めた涼子がようやく自分の足で立ち上がった。
その最初の一歩で、距離を取るように可憐から離れた。

「涼子。どないしたんや?」
「ごめんなさい。私、もう一つ言わなくちゃいけないことがあるの」

泣き笑いのような表情で、別れを告げるように告白する。

「――――私も、人を殺しちゃった」

その罪の告白に、先ほどまでとは違う緊張感が奔り、静寂が落ちる。

「怖い、わよね。気持ち悪いわよね。ごめんなさい。
 あなたが一緒いられないと思うんなら、仕方ないもの。消えろと言うんなら消えるわ」

震える声で言う。
罪を告白する少女の姿は、嫌われることを恐れる子供の様だ。

だが、懺悔を受ける少女の心に動揺は少なかった。
正直、そんな気はしていた。
というより、最初に問いかけた時に返ってくると思っていた答えがこれだった。
予想外の方向からダメージを喰らってしまったけれど、ある意味覚悟は決めていた。

「なんやそれ。ウチの前から消えて、どないするつもりやねん?」

強めの口調で問う。
その声に彼女たちのリーダーは、取り残された迷い子の様に小さく自身の身を抱いた。

「………どうしたらいいのかしらね? 自首、すべきなんでしょうけど、出来るような状況でもないし。
 何よりそんな事をしたら、あなたたちに迷惑が掛かってしまう。それだけは避けたい。
 安心して、なんて言っても信じられないだろうけど。けど絶対、あなたたちの迷惑にはならないようにするから……!」

縋るような視線。
自罰的な態度。
その全てが癪に障った。

「…………迷惑ってなんやねん」
「え?」

余りも勝手なその言いぐさに、可憐の中で何かがキレた。

「迷惑かけたらアカンのか……? んなわけあるかい。迷惑くらいかけろや! ウチらはあんたのなんやねん……?
 それがダメやったら由香里なんてどうなんねん!? 毎日迷惑かけられっぱなしやっちゅうねん!
 せやけどウチはあの子が大好きやぞ! 可愛ゆうて仕方あらへんわ!」
「か、れん?」

ここまで怒っている可憐を初めて見た。
いや、怒っているのか?
発言内容は愛を叫んでいた。


334 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:45:17 KZmR8SrA0
「涼子!」

戸惑う涼子の手が取られた。
涼子の体が驚きにビクリと跳ねる。

「大丈夫や! 何があってもウチはあんたの味方や。ウチだけやない他のメンバーだってそうや、当たり前やないか!」
「……けど」
「けどもへったくれもあるかい!
 ウチが人を殺してたらどないや? あんたはウチを見捨てるんか!?
 できへんやろ!? 自分が出来もせんこと人に押し付けんなやボケェ!!」

怒鳴りながら、思い切り抱きしめる。
抱き潰してしまうのではないかと言うくらい力を込めて、思い切り。

「…………大丈夫。大丈夫やから」

可憐はそう繰り返す。
自分自身にも言い聞かせるように。
なが大丈夫なのか可憐自身もよくわからないけど、それでも続ける。

「あんたが堕ちるんならウチも堕ちたる。大丈夫や、ウチがおる。信じろ」

保証のない信頼を強要する。
どうしようもなく欺瞞だらけだった。

どんな事情があれ、人殺しは悪だ。
そんな事、考えるまでもない当たり前のことである。
だけど、

(こないに傷付いてボロボロになっとる涼子を突き放せるかいな)

これで正解だったのか。
可憐には分からない。
だが、今の涼子を突き放すには、彼女は優しすぎた。

ソーニャならどうしただろう。
あれで締める所は締める女だ、もっとうまく答えを出せたかもしれない。
感情に素直な由香里なら、泣きながら糾弾するだろう。
一番年下だけど一番しっかり者だったキララなら、

「…………あっ」

そこで不意に可憐の視界がにじんだ。
抑えていたものが決壊して溢れそうになる。

(ッ。アカン。考えるな考えるな考えるな…………! 今ウチが折れたら終わりや…………!)

抱きしめている涼子に気づかれない様に必死で涙をひっこめる。

無茶な理屈を可憐を信じて飲み込んで立ちあがったのだ。
だから、今ここで可憐が折れるわけにはいかない。

(……スマンなキララ。今はウチらのリーダーを支えたらなあかんねん。
 あんたの事を考えるのは全部が終わってからや。…………あんたの死を悲しんでやることもできへん、薄情な私を許してな)

[H-6/島西寄り/1日目・黎明]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱(ムードメーカーの効果により回復中)
[アイテム]:ポイズンエッジ。不明支給品×5
[GP]:100→50pt(シェリンへの質問により-50pt)
[プロセス]
基本行動方針:可憐を信じる
1.近くにいるソーニャとの合流
2.少し遠くにいる由香里との合流
3.どこにいるのか割らかない利江との合流(シェリンへの問い合わせも検討)

[安条 可憐]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:40pt
[プロセス]:
基本行動方針:HSF(家族)を守る
1.涼子を支える
2.HSFのメンバー(利江を含む)を探す
3.「陣野愛美」と「郷田薫」に警戒
※魔王カルザ・カルマをゲーム好きのどっかの社長だと思ってます


335 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:47:30 KZmR8SrA0



「正貴さん。アイドルランキングって知ってるかしら?」

地下アイドル黒野真央は傍らの男に問いかけた。
問われた男、笠子正貴は少しだけ考える様にして、そうですねぇと相槌を打つ。

「聞いたことはあります。あまり詳しくはないですが、1位の子の顔くらいは見たことがある気がしますね」

名前なんかまでは知りませんが、と付け足す。
元よりそれほど興味がなかったというのもあるが、服役期間もあり最新の流行には疎かった。
流石に露出の多い1位ともなれば、刑務所内での食事時間中にテレビから流れる貴重な情報の一つとして耳に入るものもあるが。

「そう、それじゃあ私の順位、何位だと思う?」
「……さあ? アイドルには詳しくないので何とも」

正貴は口を濁して明言を避ける。
こういう時の女という生き物は面倒だ。
低く言っても機嫌を損ね、高く言っても嫌味になりかねない。

「それで、何位なんですか?」

迷っている衣服のどっちがいいかを聞くようなものだ。
女の中では既に答えは決まっている。
男の役割はその答えを女の口から気持ちよく述べさせるだけである。
望み通りか、問われて女はハッと、吐き捨てるように笑った。

「それがねぇ! 圏外よ圏外!? 地下アイドルは集計対象外なんですって!?
 笑っちゃうわよねぇ。私の6年間は評価する価値もないんですって!」

そう言って、女は狂ったように笑った。
本当に狂っていたのかもしれない。
アイドルという狂気に。

「なにがぁアイドルランキングよ!? なぁにがアイドル戦国時代よ!? ふざけんなっての!
 あぁ下らない! 結局、権力者に股を開いて媚を売ればいくらでも操作できるものじゃない!
 そんなものに一喜一憂している奴らもバカみたい! アイドルもファンもみんなバカよ!!」

侮蔑を込めた声で吐き捨てる。
アイドルを憎んでいるのではない。
むしろ彼女はこれでもアイドルを愛している。

だからこそ自身をアイドルとして認めない世の中を恨んである。
男は女の激情を無言のまま見つめていた。

そうして、全てを吐き出しきったのか、すっと女の瞳は冷静へと戻る。
細められた、その視線の先には慰めあう二人の少女の姿があった。

「正貴さん」

女が男を引き寄せる。
二人は熱い口づけを交わした。
淫らに舌と舌が絡み合い糸引く。


「――――だから殺しましょう。私の6年間のために」
「はい。あなたが望むのならばそうしましょう」


[H-6/島西寄り/1日目・黎明]
[黒野 真央]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E→D(「ヴァルクレウスの剣」の効果でLUKが1ランク上昇中)
[ステータス]:ほろ酔い、回避判定の成功率微増
[アイテム]:ヴァルクレウスの剣(E)、VR缶ビール10本セット(残り6本)、支給アイテム×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:絶対に生き残って、のし上がる。
1.正貴を使って涼子と可憐を殺す
2.できる限り自分の手は汚したくない。

[笠子 正貴]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:黒野真央のファン、軽い酒酔い(行動に問題はない程度)
[アイテム]:ナンバV1000(8/8)(E)、予備弾薬多数、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:25p
[プロセス]:
基本行動方針:何かを、やってみる。
1.真央の望みを叶える
2.真央を護ることを「生きる意味」にしてみる。
3.他の参加者を殺害する。
※事件の報道によって他の参加者に名前などを知られている可能性があります。少なくとも真央は気付いていないようです。


336 : 喪失と欺瞞、あるいは無価値 ◆H3bky6/SCY :2020/10/01(木) 23:48:08 KZmR8SrA0
投下終了です


337 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/01(木) 23:58:26 MV55YTZU0
投下します。


338 : 敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男 ◆ylcjBnZZno :2020/10/02(金) 00:00:07 hcKsPOsI0
大和正義は市街地に向けて歩を進める。
幼子の手を引いているためその歩みは緩やかだ。

手を引かれるはロレちゃんことンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ。
とある世界においては全てを司る神であるが、この世界では何の力も持たぬ幼女だ。

ぽてぽてと歩く幼子に正義は尋ねる。

「そういえば、君のアイテムやスキルはどんなものなのかな。
差し支えなければ教えてほしい」
「好きに見るがよい」
「いや、他の参加者の[[メニュー]]を見ることはできないから教えてほしいんだ」

それを聞いた幼子は眉一つ動かさず、アイテムを現出させる。

「好きに見るがよい」
「良いのかい?」
「構わぬ」
「ありがとう」

礼を言い、それぞれのアイテムを手に取って検分し、それらを返却する。

「よし、それじゃあ…」

次はスキルを――と言いかけ口を閉ざした正義の耳に異音が入る。
後方――それもそう遠くないところから聞こえるそれはエンジン音だ。

音のする方向に振り返ると、ライトをつけたバイクがこちらに近づいていた。

迷いなく接近してくるところをみるに、こちらの姿は既に発見されているのだろう。

周囲にろくな遮蔽物もない草原だ。
接触は避けられない。


バイクは正義達に近づくと5mほど離れたところで停止した。
アイドリングのまま、バイクに乗った男が声をかけてきた。
金髪でノーヘル。
いかにも不良染みた姿をした、軽薄そうな男だった。

「よぉ兄ちゃん達。
ちょいと訊きてえことがあるんだが教えちゃあくれねえか?」



◆◆◆


「よぉ兄ちゃん達。
ちょいと訊きてえことがあるんだが教えちゃあくれねえか?」

なるべくフレンドリーに。
エンジ君こと津辺 縁児はそう心掛けながら、白い学ランを着た少年と幼子に声をかけた。

情報収集のために第一印象は良い方がいい。

「何でしょう」

白ランの少年が応じる。
第一関門突破といったところか。

「いやな。アイドルを探してるんだよ。参加者にいるだろ?
誰か見なかったかなーと思ってさ」
「アイドル…?それを知ってどうするつもりですか」
「チッ…。質問に質問で返すんじゃねーよ…」


339 : 敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男 ◆ylcjBnZZno :2020/10/02(金) 00:01:26 hcKsPOsI0
思わず舌打ちが漏れてしまう。
そう訊かれるのは想定していたが、やはり気分が悪い。

「いやな。俺はアイドルが大好きでよ?
TSUKINOやらHSFのやつらがこのゲームに巻き込まれてるっつーからよ。
ここはいっちょ、この超有名動画配信者エンジ君こと津辺縁児が守ってやろう、とまあこういうわけよ」

正直絶対に使いたくなかったが、やむを得ず用意していた台本の通り答える。
たとえ嘘でも憎きアイドルを「大好き」などと宣わねばならない状況に虫唾が走るが、ここで感情のまま行動しては欲しい情報も得られない。

「っつーわけでもしアイドルの居場所を知ってたら、この超有名動画配信者エンジ君こと津辺縁児に教えてもらいてえんだが…どうよ?」
「俺は知らない。この少女とあなた以外の参加者とは遭遇してない」
「お嬢ちゃんはどうだい?」
「塵芥の区別など知らぬ」

どうやらこの少年たちは縁児が欲する情報は持っていないようだ。
期待はしていなかったとはいえ、反吐が出る思いをしながら試みた情報収集がうまくいかなかった事実に腸が煮える。

「ああそうかよ。それじゃあもうてめえらにゃ用はねえ」

もはや猫を被る必要もない。
バイクのギアを上げる。

「あばよ」

――言い終わると同時、縁児はバイクのアクセルを思い切り回した。

けたたましい音をたてながら、少年めがけてバイクが突っ込む。

真っすぐに突進するバイクを、少年は幼子を抱えて回避した。

「アイドルどもの居場所を知らねえなら用済みだ!俺の復讐のために死にやがれえ!」

回避された縁児のバイクは少年の背後に回り、反転して再び突撃する。
今度は前輪を持ち上げ、ウィリー走行になる。
かつて動画の企画のために練習したウィリーがこんなところで役に立とうとは。


「ヒャッハー!」

縁児はウィリーを維持しながら少年に肉薄し、その脳天目掛けて前輪を振り下ろした。



◆◆◆


縁児の態度は演技であり、発する言葉は嘘である。
スキル『観察眼』を使うまでもなく正義は見破る。

アイドルが好きで守りたい――。
そう話す男の眼には炎のような憎悪が宿っていたからだ。

それほどまでに強い憎悪を向ける対象を「守りたい」と嘯くということは、この男はアイドルの抹殺を目的にゲームに乗った可能性が高い。
そう判断した正義はこれ以上この男に情報を与えないよう努め、その出方を窺うことにした。

結果としては予想通り。
望む情報が得られないと判断するや否や会話を打ち切り、攻撃を仕掛けてきた。

スキル『観察眼』でアクセルを握る手に力がこもるのを確認。
急いでロレちゃんを抱え上げ、突撃してくるバイクを回避。
彼女を地面に降ろし離れているよう伝えたのち、自らはウィリーでこちらに向かってくるバイクを迎え撃つ。


340 : 敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男 ◆ylcjBnZZno :2020/10/02(金) 00:03:05 hcKsPOsI0
「ヒャッハー!」

奇声と共に振り下ろされる前輪を真横に跳んで回避し――

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

――気勢と共に横蹴りを男の脇腹に突き刺した。


「えぶぉ!」
潰れた蛙のような悲鳴をあげてバイクもろとも草原に投げ出される縁児。
尻もちをついたままバイクを収納し、火炎放射器を現出させ構える。

「調子乗んじゃねえ糞ガキ!」

ゴウ、と炎が吐き出される。
しかし再び横に跳んで回避した正義がバーナーを持つ手を蹴り飛ばす。

「ぐあっ!」
手を押さえてうずくまった縁児はバーナーを取り落してしまう。

そんな縁児を意に介さず、正義は背後に回り裸絞めの体勢になる。

「悪いが拘束させていただく」
首を絞め上げる腕を引き剥がさんとする縁児。
しかしその腕は、鋼鉄のように微動だにしない。

ギリギリと頸動脈を絞め上げられ、頭部から血の気が引いていく。
柔道有段者である正義の裸絞め。武道の心得などない縁児に逃れる術などない。


誰が見ても絶体絶命の状況で、しかし縁児は顔を笑いの形に歪ませる。

「だから…よぉ…」

首に巻きつく腕を引き剥がさんとするのを止め、腕を天高く掲げる。

「調子乗んじゃねえってんだ!糞ガキがぁあ!」

掲げた腕のその先――二人の頭上に、収納されていたバイクが現れた。



◆◆◆



正義は後方に、縁児は前方に。
それぞれ回避し、バイクを挟んで対峙する。

正義は前屈に構え、構えると同時に蹴りを放つ。
中段の回し蹴り。縁児が手に持つ火炎放射器のバーナーを狙ってのものであったがしかし、その蹴りは空を切る。

縁児の手は正義の想定よりも少し下にあり、手に持つバーナーの噴射口は――足元のバイクに向けられていた。

火を噴く火炎放射器。

縁児の狙いを察した正義は改めてその持ち手を狙い、蹴りを放つ。
しかしその蹴りも再び空を切る。
今度は正義の目線と同じ高さにバーナーが持ち上げられていたからだ。


341 : 敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男 ◆ylcjBnZZno :2020/10/02(金) 00:03:55 hcKsPOsI0

「狙いが単純なんだよお!糞ガキィ〜〜〜!」

同時に炎が来襲する。

至近距離からの火炎放射。
ダッキングでは逃れられない。
素早く判断した正義は地面に倒れこみ、火炎から逃れる。

そしてその姿勢のまま地面に両手をつき、卍蹴りを放つ。

空手ではない。躰道の技。
道場見学で教わった程度だがうまく極まった。


生生しい打撃音と共に縁児の右手の指二本があらぬ方向に折れ曲がり、右手に持たれていたバーナーは再び縁児の手から取り落とされる。

「がああああ!」

激痛に顔を歪ませ、右腕を押さえる縁児。

戦いにおいてその隙は致命的。
体勢を立て直し一息にバイクを飛び越えた正義の手が、その耳を掴む。



――縁児が足にわずかな衝撃を感じると同時、その視界が夜空で埋め尽くされる。

彼がそれを認識する頃には――正義の拳が顔面に突き刺さっていた。



◆◆◆



――拳打の衝撃で跳ね上がっていた縁児の脚が地に落ちる。



残心を取り、倒れた男を観察する。


――――1秒。
――――2秒。
――――3秒。


金色に染められた髪を草原に投げ出し、白目を剥く男。
津辺縁児と名乗っていたその男は立ち上がるどころか微動だにしない。


342 : 敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男 ◆ylcjBnZZno :2020/10/02(金) 00:07:55 hcKsPOsI0


大外刈りで天を仰いだ相手への下段突き。
加減はしたつもりだった。

しかし縁児が背負っていた火炎放射器のタンクが支点の役割を果たし、てこの原理により正義の想定以上のダメージを与えてしまっていた。


正義は己の未熟を恥じる。

武術は相手に勝てばよいというものではない。
同時に己に克たねばならない。
技を完全にコントロールし、想定以上の損傷を与えないことが求められる。

縁児は命こそ取り留めたようだが、生身であれば重篤な後遺症が残ってもおかしくない。

それほどの損傷を己の意図を越えて与えしまったこと。

未熟であることの何よりの証左である。



「――よし」

反省を終え、後始末を始める。

火炎放射器とオートバイは回収して[[アイテム]]にしまう

火炎放射器はともかくオートバイの方は落下の衝撃と火炎放射で完全に壊れていた。
熱された燃料タンクが爆発して他者を傷つけてはよくないので海沿いを通ったときにでも破棄しよう。


気絶した縁児についてはシャツを脱がせて両腕を拘束するに留めた。

目を覚ませばまた誰かを襲うかもしれないが、これだけの重傷だ。
できることなどたかが知れている。

何より無抵抗の相手にとどめを刺すことは、正義の倫理観が許さなかった。
これを機にアイドルの抹殺など諦めてくれることを祈るばかりだ。


全ての処理を終え、離れたところで虚空を眺めていた幼子に歩み寄る。

「それじゃあ行こう。ロレちゃん」


手をつなぎ、再び歩き出す。

手を引かれ同じ歩幅で歩きながら、幼女の姿をした超越者はやはり思う。



「全ては些事である」



[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・黎明]
[大和 正義]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:疲労中
[アイテム]:アンプルセット(STRUP×1、VITUP×1、AGIUP×1、DEXUP×1、LUKUP×1、ALLUP×1)、薬セット(回復薬×3、万能薬×3、秘薬×1)、万能スーツ(E)
火炎放射器(燃料75%)、オートバイ(破損)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:正義を貫く
1.ロレちゃんと行動を共にする
2.知り合いと合流したい
3.なんとか殺し合いを打開したい
4.海があったらオートバイを捨てる。

[ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3(未確認)
[GP]:290pt
[プロセス]:全ては些事
※支給品を目視しましたが「それが何であるか」については些事なので認識していません。

[津辺 縁児(エンジ君)]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:C DEX:E LUK:C
[ステータス]:両腕拘束、右人差し指骨折、右中指骨折、鼻骨骨折、頭蓋骨後部にヒビ、気絶中
[アイテム]:不明支給品×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:優勝してアイドルとファンに復讐する。
1.気絶中

【オートバイ】
250㏄オフロード仕様のバイク。


343 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/02(金) 00:08:34 hcKsPOsI0
投下終了です。


344 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 00:25:45 R7nKAVFc0
投下乙です
エンジ君マジでやべーな、メンタルが現代生きていた人間のそれではない
正義くんは流石の強さ、だけどとどめを刺せないのが正義の味方の辛い所、起きても多分改心しないぞエンジ君は


345 : 名無しさん :2020/10/02(金) 01:11:51 XlQa0N8I0

お二方投下乙です

>喪失と欺瞞、あるいは無価値
投下乙です。参加者になってないが、秋原はあの世界のアイドルの歴史を
大きく変えた大物だったんだなってことが垣間見えた

>敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男
エンジ君、お前ただのアイドルアンチじゃなかったのか!?
アイドルに目をつける前は過激なことなら何でもやるチャレンジャー配信者なのかもしれんな…


346 : 名無しさん :2020/10/02(金) 01:35:44 9pu2pPh.0
投下乙です

>喪失と欺瞞、あるいは無価値
可憐ちゃん、なまじ良い子だから自分の欺瞞を理解した上で慰めてるっぽいのが辛い
しかしバフ持ちコンビVS前衛殺人犯&バフ持ち、マジで勝ち目が見えなくて恐ろしい

>敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男
前話に引き続いてエンジ君まじで元気すぎて逆に楽しすぎる
このバイタリティーを社会で活かせていれば……って一瞬思ったがその結果が炎上キャラである
大和くんは流石に強い、ひかりちゃんもそうだけど我道さん門下生組が頼もしい


347 : ◆TNTD5VseJA :2020/10/02(金) 02:40:39 /X66KG1Y0
自分も投下します


348 : お宝大作戦 ◆TNTD5VseJA :2020/10/02(金) 02:41:17 /X66KG1Y0
南西部にある火山のふもと。
それが盗賊を生業とする男、ギール・グロウのスタート地点だった。

「まずは、メニューとやらを確認するとしますかね」

ダンジョンを探索するにおいてまず優先することは情報だ。
規模や魔物、罠、先に踏破した冒険者の数などお宝を入手するためには必要不可欠な要素だ。

「確か「シェリン」って奴が言うにはメニューを開けって言ってたな」

ギールが心の中で念じると同時に目の前にメニュー画面が出現した
ギールは「メンバー」の項目を選択し、自分以外の"勇者"を確認する。

「ほう……ゴウダ・カオル、ジンノ・マナミか」

ギールは郷田薫、陣野愛美の名前に聞き覚えがあった。
曰く、この世界の神が平和をもたらすべく異世界より召喚された5人の勇者であると。
ギールが訪れたことのある町全てで、彼らの名は話題に上がらないことはなかった。

「ま、おキレイな勇者サマってわけじゃなさそうだな」

しかし、その一方でギールの使う裏社会の情報網では彼らの周りには黒い噂がまことしやかに囁かれていた。
――――勇者の訪れた村が一夜にして無人の廃墟と化した
――――勇者の訪れた町で多くの商人達が失業し、自殺者や路上暮らしが続出した
――――勇者の来訪した王国の王子、姫全員が国を捨て、勇者へその身を捧げた

耳を疑うような事件の数々が彼らの行く先々では起こっていたのだ。

「奴らに出会ったら警戒するにこしたことはねぇな」

次に目に着いたのは「魔王カルザ・カルマ」。
最近、先ほどリストに名前が載っていた勇者達に倒されたという情報が入ったばかりだった。

「そういや、一度ヤツの城に忍び込んだことがあったな」

目ぼしいお宝が見つからず城を彷徨っていた時、彼の部下らしき女騎士に発見され、
一目散に逃亡することになった思い出がギールの中で蘇った。

「何で生きてるかは知らねぇが、あの女の報告を聞いてるかもしれねぇな。奴も要警戒だな」


349 : お宝大作戦 ◆TNTD5VseJA :2020/10/02(金) 02:41:37 /X66KG1Y0
一通りメンバーを確認し終えたギールは、[[アイテム]]の項目を開き、
自分に支給されたアイテムを1つずつ確認していく。

「まずは……チッ、両手剣か。俺の得意な獲物じゃねぇが無いよりはマシか」

支給された武器は両手で振るう大きな剣。彼の得意とする取り回しのいいナイフとは対象的な武器であった。

「次は………何だこりゃ?」

次の項目にあったアイテム名は『アイドルCDセット&CDプレーヤー』と表示されていた。
ギールがそれを取り出すと、女性の顔と名前が描かれた多数の平べったい箱と、丸い装置が出現した。

「箱の中身は……チャクラムか?にしちゃあ軽いし、切れ味も全然ねぇな」

ギールは箱の中に入っていた銀色の輪っかを指にはめ、くるくると回す。

「咄嗟の投擲武器には使えるか」

次に目についたのは平べったい箱に描かれている女性の顔。
「真央ニャン」、「TSUKINO」など先ほどチェックしたメンバーに似たような名前があったのを思い出す。

「こいつらの武器、ということなのか……?」

ある意味では間違っていない呟きをしつつも、ギールは一旦アイテムをしまい、
最後の支給品を確認する。

「これも見慣れないモンだな……」

『機銃搭載ドローン』と表示されたアイテムを取り出すと、ギールの両手には
鉄でできた四本足の虫のような物体と、四角い形の装置が現れた。

「こっちには説明書があるな……なるほど、この四角い装置でこの鉄の虫を使い魔のように操作できるのか」

説明書が書かれたメモ用紙を見たギールはダンジョンで稀に見かけるゴーレムを思い浮かべる。
あの土くれの魔物とは違い、自身で操作する必要があるが似たような運用ができるかもしれない。

「早速試してみたいとこだが……」

ギールは空の方を見上げる。その先には煙をもくもくと上げる火山がそびえ立っていた。

「今は保留だな。あの火山が噴火したら動かすどころの話じゃなくなる」

最後のアイテムを確認したギールは、[[アイテム]]の項目から、[[メール]]項目に移る。
一通り内容を確認したギールはメニュー画面を閉じた。


350 : お宝大作戦 ◆TNTD5VseJA :2020/10/02(金) 02:42:06 /X66KG1Y0
「しかし、「シェリン」の言う新世界『New World』の所有権ってのはどんなお宝かね」

ギールは魔術についての知識は深くはないものの、
異世界より召喚された5人の勇者達は皆神のごとき力を有していたと聞く。
「シェリン」の言う言葉を信じるならばおそらくは彼らのような力を入手できる宝なのだろう。
ギールはそう考察する。

「ま、捕ってからのお楽しみという奴さね」

ギールはひとまず、この火山地帯にある「炎の塔」を目指すことに決めた。
地図の説明によると定時メールを送られた時に支配権を得ているとptが貰えるという情報があったからだ。
ギールは北の方角へと歩き始めたのであった。


[F-3/火山のふもと/1日目・深夜]
[ギール・グロウ]
[パラメータ]:STR:D VIT:E AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:両手剣、アイドルCDセット&CDプレーヤー、機銃搭載ドローン
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:
1.炎の塔を目指す
2.他の参加者と出会ったらまずは様子見。隙があればアイテムや命を奪う
3.「郷田薫」、「陣野愛美」、「魔王カルザ・カルマ」に警戒
[備考]
1.CDを確認して参加者である「TSUKINO(大日輪 月乃)」、「HSF」のメンバー、「真央ニャン(黒野真央)」、
「美空 ひかり(美空 善子)」の顔を覚えました。

【両手剣】
両手で持つことを前提とする大きな剣。

【アイドルCDセット&CDプレーヤー】
「TSUKINO」、「美空 ひかり」、「ハッピー・ステップ・ファイブ」、「ほむはいむ」、「真央ニャン」の
全楽曲が収録されたファンならば感涙のCDセット。ポータブルCDプレーヤーも付属しており
いつでも曲を聞くことができる。

【機銃搭載ドローン】
遠隔カメラと機銃が搭載されたドローン。付属のコントローラーを操作することで
画面を通じて遠くを見たり、機関銃を発射して攻撃することができる。


351 : ◆TNTD5VseJA :2020/10/02(金) 02:42:26 /X66KG1Y0
投下終了です


352 : ◆TNTD5VseJA :2020/10/02(金) 02:47:25 /X66KG1Y0
すみません、脱字がありました
基本行動方針:この殺し合いで優勝し、報酬獲得を目指す
です。


353 : 名無しさん :2020/10/02(金) 20:25:35 NNj0Dz/M0
投下乙です

>喪失と欺瞞、あるいは無価値
涼子は可憐と出会えて一安心、と思いきや一難去ってまた一難
真央と正貴の行動を真央のファンに見せてみたい

>敵か味方か!?『New World』にあらわれた最凶の男
VR空間でしかできない戦い方をするエンジ君も素手でその上を行く正義もすごい
ロレちゃんが一貫して大物なの好き、全ては些事である

>お宝大作戦
やっぱり異世界人からすれば勇者も魔王も警戒対象になるよね
優勝賞品ははっきりわからないけど凄そうだからゲットしようというギールの盗賊スピリットがいい


354 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 22:58:52 xN8F1xVE0
投下乙です
剣以外はファンタジー世界の人間にはなじみのないものばかり支給されて文化が違うと大変だなぁ
魔王様が同じエリアにいるけど、魔王様いい人だから悪いようにはならないとは思うけどどうなるのか

それでは私も投下します


355 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:00:15 xN8F1xVE0
「〜♪ 恥ずかしくって目も見れない」
「いいぞぉ! それでも目を見ろ! 隙を見せるな!」
「いえーい! フーフー!」

フロアは熱狂に包まれていた。
アイドルの歌声に、韻を踏んだコールを送る者。とりあえず声を上げて盛り上がる者。
そこから生まれるグルーブ感。オーディエンスの熱狂は怖いくらいだ。

喧嘩家は何かに優勝したみたいに両腕を上げて、うぉおおと雄たけびを上げながら上半身を振るっていた。
あまりにもキレの良すぎるオタ芸に、パフォーマーはこちらではないのかと見紛うほどである。

堕天使はアイドルに向かって光る棒を振るっていた。
たとえそれがスタンガンでも、アイドルに向かって振るわれている以上それはサイリウムだろう。

灯台の照らすスポットライトの下、小高い丘のステージで星空の下踊るはアイドル。
ここが今――――世界で一番熱い場所だ。

「〜♪ けど夢の中ならできる。Chu! Chu! Chu!」
「あ、夢ぇの中なら、チュチュチュ!!」
「いえーい! ちゅちゅちゅぅ!」

甘々なアイドルソングに合わせるコールとしては些か喧しすぎる気もするが。
オーディエンスも舞台上のアイドルもまったく気にしないのだから、楽しんだものが正義である。

「〜♪ 叶えてよ。Hei! Hei! 一緒にー! Hei!」
「「Hei!!」」

舞台上のアイドルが観客を煽れば、その煽りにオーディエンスも応じる。
コール&レスポンス。ライブシーンの一つの完成形が今ここにあった。

「〜♪ この恋。Hei!」
「「Hei!!」」
「Hei!」
「「Hei!!」」

自分たちもライブを作る一つの欠かせないパーツなのだ。
その一体感にオーディエンスは陶酔する。

オーディエンスの盛り上がりに中てられたのだろう。
アイドルも正直ラブソングに必要なのか? と思えるほどの超絶技巧のステップを刻み始めた。
決められたセットリストのない即興劇、だからこそ会場の盛り上がりに応じて演者もアドリブで応じられる。

「〜♪ 止められないこの心。駆け出してあなたの心まで」

キレのあるターンに、見るものを沸かす見栄えの良い振り、そして決まりすぎのポーズ。
最後に観客に向けてハートマークが見えそうなキュートなウィンクを飛ばす。
それを受けて会場の熱狂は最高潮に達した。

オーディエンスは今のウィンクは自分に向けられたものだと己惚れた勘違いに没溺する。
まあ実際お客は2人しかいないのだから、ほぼその通りではあるのだが。
2分の1の戦いであった。

シャンと最後の振りが終わり、動きを止めたアイドルの美しいシルエットが映し出される。
熱狂の余韻を残す一瞬の静寂。
それを打ち破るようにアイドルは輝くような笑顔となり。

「ありガトござマシたー。チュ!」
「うぉぉおおおソーニャ―最高おおお!!」
「いえー!! さいこーーーーー!!」

投げキッスに歓喜するオーディエンス。
シャワーみたいな歓声を浴びながら、アイドルは一礼してステージを降りる。

こうして大盛況のままライブは終了した。

何故、こんなところでゲリラライブが行われているのか?
何故、黄昏の堕天使がキャラも忘れてオーディエンスとして盛り上げっているのか?
そして何故、稀代の喧嘩家が当然のような顔をして一緒に盛り上がっているのか?

それを知るためには、少々時をさかのぼる必要があるだろう。
大した理由はないだろって?
うんまあ、それはそう。




356 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:01:19 xN8F1xVE0

「…………ん?」

ピクリと、我道の耳が動いた。
中央に向かおうとするその耳に、どっからともなく聞こえてきたのは歌声だった。
方向は南。地図の端も端。人が集まるとも思えない、我道の目的とは逆方向ではあるのだが。
歌。というイメージに善子がいるかもしれないと思い、踵を返して南下を始めた。

だが、近づくにつれその予想は裏切られていく。
聞こえるのは力強い善子の歌声とは違う、透き通るような歌声だった。
雪の世に儚く、氷のように透明な声。
探し人の当ては外れたが、気づけばこの歌声の正体を確かめたくなっていた。

そうしてそこにたどり着いた。
灯台が見える丘の上にはこの世の物とは思えぬ幻想的な光景が広がっていた。
そこにいたのは漆黒の堕天使と純白の雪の妖精だった。

「あれは…………」

我道は身内贔屓で善子を応援しているが。
そもそもこの男、割とミハーな所がある。

流行にはとりあえず乗る、過去には白いたい焼きも食べたしタピオカも飲んだ。
あれ? これ材料同じじゃね? と業界の闇に触れもした。
なので今流行しているアイドルについてもそれなりに詳しい。

「なんか諸星ソフィアがライブやってる…………」

何故? と思ったし。
正気か? とも思った。
こんな状況で何をしているのか。

止めようかと思った、が、やめた。
とりあえず周囲に危険はなさそうだし。
ある程度なら自分が対処できる。

それに、なにより楽しそうだったから。

喧嘩と祭りが好きな血が騒ぐ。

「おーい。俺も混ぜろよ!」




357 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:02:42 xN8F1xVE0
「…………これが偶像(アイドル)なる者の魔宴(サバト)…………!」

始めて生で見たアイドルライブの興奮冷めやらぬ堕天使は、心ここにあらずと言った様子でぽやぽやとしていた。
ニッチを好むお年頃としては大衆の流行には全く興味がなかったけれど、流行るだけの理由が心で理解できた。

「ふぅ。いいライブだったぜ、久々に盛り上がっちまった」
「ありガトござマース。ところでアナタ誰デスかー?」

なぜか照れ臭そうに人差し指で鼻下をこする我道がソフィアと入れ替わるようにステージに上がる。

「よーし。じゃあ自己紹介がてら次俺な。2番。天空慈我道。『無空流』門外不出の奥義『牙折』、行きます」
「いえーい。もんがいふしつぅー!」
「イエーイ! よく分かりまセンがイエーイ!」

熱狂した頭は細かいことは気にしない。
いつの間にか宴会芸の流れになっていた。

「っし」

先ほどまで騒いでいた男と思えないほど真剣な表情で我道が構えた。
一瞬で空気が張り詰めた物へと変わる。
我道が睨むその目の前に、見えない対戦相手が現れた気がした。

「――――――フッ」

鋭い息吹。
見えない相手の動きに合わせて、一息で両腕が瞬き両足が跳ねる。
我道の体が空中で反転し、そのまま地面に落ちた。

「地味ー」

堕天使が不満の声を漏らす。
傍から見ている限り、だた我道がなんか変な動きをして地面に転がったようにしか見えなかった。

「ばっかお前、一瞬で極打絞投を同時に叩き込む技だぞ。超強いわ」
「強くても地味ー、バッタみたいに跳ねただけじゃん」
「善子並みに失礼なガキだなぁ……。実戦的な技ってのは地味なんだよ」

アイドルライブからの落差に不満を漏らす堕天使。
喧嘩家は当てが外れたように頭を掻く。

「っかしいなぁ。門下生の前だと大受けするなんだけどなー」
「ソレは門外不出の奥義が門外に出る貴重な機会だカラでは?」
「ちっ。じゃあゴスロリ少女、次お前の番だぞ」
「え、私、いや我もやるの?」

慌てて言い直すも語尾がそのままだった。

「ったりめえだろ。人にダメ出したんだからそれなりのもん見せろよな」
「イエーイ。アルアルのちょっとイイとこ見てみたいデース」

無責任なノリでソフィアがパチパチと拍手を送る。
もはや、やるしかない空気であった。
こうなると覚悟を決めるほかない。

「さ、3番。†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†。く、くくく。愚民ども我の絶技にひれ伏すがよい」

開き直るように笑った堕天使が取り出しいたるは、野球ボールのような丸い何かだった。
右手に二つ、左でに一つの計三つ。
両手にそれを持ったまま構える。

「見るがよい! これぞ我が奥義よ!」
「こ、これは!?」

三つの玉が浮き上がり堕天使の手によって弄ぶように自在に操られる。
それぞれが放物線を描きながら次々と空中で交差してゆく。
永遠に終わることのない輪廻(ループ)を繰り返すように……。


358 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:04:14 xN8F1xVE0
「はっ。ほっ。ふっ」
「いや、ただのお手玉じゃねぇか……!」
「お手玉などではない。『輪廻の如き永遠の舞い(ジャグリング)』と呼ぶがよい!」
「ドー違うんデス?」

ソフィアの純粋な疑問に答えず、アルマ=カルマは嗤う。
マイペースな奴らだった。

「クク。侮るでない、我の力はまだまだこんなものではないぞ…………!」

なんとアイテム欄から球が追加された。
お手玉は五つに!
難易度が跳ねあがる!

「これぞ我が奥義、『交錯せし運命の光(カスケード)』である!」
「アルアルすごいデース!」
「そうかなぁ」

素直に感動するソフィアとは対照的に冷めた態度の我道。
その態度が気に食わないのか、むっ。と堕天使は気分を害する。

「ならば、これで――――どうだぁー!?」

宙を舞う球体の数がさらに増える。
その数なんと7つ。

「ウハハハハハハハ!! ……っとと」
「ой! アルアル限界を超えてマース!」
「……おぉ。流石にここまでくると多少の見ごたえはあるな」

目まぐるしく球が空中で踊るように跳ねまわる様は美しさすら伴っていた。
所詮女子供手遊びと偏見のあった我道も、ここまで行くとさすがに感心せざる負えない。

「とぅ!」

気合の掛け声とともに7つの球を空高く放り投げ、一回転しながら全てキャッチして決めポーズ。
顔に張り付けたピースサインからオッドアイの瞳が覗く。
すこしだけ息を切らした堕天使がふふんと息を漏らし得意げな顔で喧嘩家を見た。

「どうであるか!? 我が力理解できたか?」
「ふっ。負けたぜ」

ヒシっと堕天使と喧嘩家は握手を交わした。
歴史的和解である。

「アルアール。さっきの私もやってみたいデース」
「アルアルはやめてぇ。まあ、よかろう。落とすでないぞ」

ソフィアはアルマ=カルマから三つの球を受け取った。

「うーん。しょ。こんなかんじデスか?」

そう言って軽い調子でソフィアは3つの球を回し始める。
テンポよく宙を泳ぐ三つの玉。
見事なジャグリングである。

「ククク。お主も我と同じ『輪廻を操りし者(ジャグラー)』であったか」
「イイエ。初めてやりマシタ。面白いデスねこれ」
「え゙?」
「初めてデスけど。アルアルのをチャンと見てマシタから、ダイタイ分かりマスヨ?」
「えー」

なんと未経験者であるという。
三つだけとはいえ初心者にこうもあっさりやられては立つ瀬がない。

「慣れてきマシた。ボール追加してくだサーイ」
「つ、追加ってどうやって……?」
「投げてくだサーイ。アルアルのコント―ロルならイケまーす」
「えぇ。ど、どうなっても知らんぞ!」

ポイっと球を投げ込む堕天使。
ソフィアは美味くそれを流れに組み込み、四つのジャグリングに成功する。
その様子を見て我道は関心したように言う。

「へぇ。大したもんだな。流石は天才諸星ソフィアって所か」
「へ。て、天才?」


359 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:04:52 xN8F1xVE0
アイドルランキング。
それはアイドルを数値化して格付けする残酷な制度。
苛烈な競争世界において、それは才能の有無すらも明確にする。

ユニット部門3位、及び、総合5位「ハッピー・ステップ・ファイブ」所属。
そして――――ソロ部門7位。ソフィア・ステパネン・モロボシ。

数多のアイドルの中でソロ、ユニット両部門でトップ10入りの偉業を果たしている唯一の存在。
故にアイドル界において彼女はこう呼ばれる。

――――天才、と。

「うーん。これ以上は無理デスねー。私がジャグれたのは5つまでのようデス。アルアルすごいデース」
「う、うむ。当然である。後アルアルはやめてぇ」

ソフィアの記録は5つ。
アルマ=カルマの7つには遠く及ばなかった。
とは言え、アルマ=カルマからすれば初心者にここまでやられては穏やかではなかった。

「我はこれより鍛錬に励む」

にわかには負けられぬと、再び『輪廻の如き永遠の舞い』に勤しむ堕天使。
いやまあ、ジャグラーは本業でもなんでもないけれど。




360 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:07:16 xN8F1xVE0
「それで、なんで歌ってたんだ?」

改めて、アルマ=カルから少し離れたところで、我道はソフィアに問いかけた。
この状況でライブをやるなど正気ではない。
それを理解しながら全力で楽しむ方向にシフトした我道も大概だが、我道の場合自衛手段がある。
ソフィアの場合はそうではないだろう。

「うーん。そうデスねェ。強がってましたけどアルアル、不安そうデシタから」
「だからライブで元気づけた、と?」
「ハイ。何事も、笑顔でいるのが一番デスからね。
 ワタシの考えた一発ギャグ100連発と迷いマシタが……イイ感じのステージがあったノデ」
「そりゃ賢明な判断だったな」

誰かに笑って欲しい。単純な理由だ。
だが、それにしたって危険すぎる行為だ。

「危険だとは思わなかったのか。俺だからよかったものの危ない輩が来たらどうするつもりった?」
「そうデスねぇ。この辺なら安全カナとも考えてマシたけど」

確かに、ここは地図上の端の端。
中央に比べれば目指す人間も少ないだろう。
かく言う我道だって、中央を目指していた一人だ。
そう言う意味は多少は安全だろうが。

「多少の危険ヨリも、何よりアルアルと仲良くナリたかったカラですね」
「仲良くねぇ…………」

確かにその成果はあったのだろう。
†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†こと、有馬良子はかなりの人見知りである。
中二病のキャラを被っていなければ初対面の人間とはろくに会話もできないような小心者の人間である。
それが、ソフィアのみならず、無精髭のオヤジに対しても時折素を見せるくらいには気を許していた。

それはライブの中で心ひとつにして盛り上がったからだ。
あの一体感が心の距離を縮めた。
それは間違いないだろう。

どこまで計算してやったことなのか。

「変な奴だな、お前」
「ой。ソレよく言われマース」

天才。そう彼女は評される。
だがもう一つ。彼女を表する言葉があった。

変人。ソフィア・ステパネン・モロボシ。

良い意味でミステリアス。
悪い意味で変人。
どうしようもなくつかみどころがない。

「ま、いいや。とりあえずお前らは俺が面倒みてやる。いいな?」
「ワタシはイイですヨー。アルアルには聞いてみないと分かりまセーン」
「んじゃ聞いてきてくれ」
「ハーイ。アルアール!!」
「アルアルはやめてぇ」

仲良くじゃれる堕天使と雪妖精を見つめ我道は息を付く。

(しかし、一度見たらだいたい理解できる、ね…………)

だとするならば。
我道が見せた奥義もあるいは……。

(…………まさかな)

そう簡単にマネられる技でないからこその一発芸である。
我道は自分の中で生まれたその考えを笑い飛ばした。


361 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:07:38 xN8F1xVE0
[H-8/灯台付近/1日目・黎明]
[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.HSFのメンバーと利江を探す

[有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:バトン型スタンガン、ショックボール×10、不明支給品×1
[GP]:5pt
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.ソフィアと我道に着いていく
2.殺し合いにはとりあえず参加しない

[天空慈 我道]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:カランビットナイフ、魔術石、耐火のアンクレット
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:主催者を念入りに叩き潰す。
1.なるべく殺人はしない。でも面白そうなやつとは喧嘩してみたい。
2.中央エリアに向かう。
3.門下生と合流する。
4.覚悟のない者を保護する。

【バトン型スタンガン】
長さ15インチの棒状スタンガン。
最大100万ボルトまで流れる。

【ショックボール】
球状をした投擲型の炸裂球。
衝撃を与えると炸裂し、破片と衝撃波をあたりにぶちまける。
危険なので投げて遊んだりしてはいけない。


362 : 偶像魔宴 ◆H3bky6/SCY :2020/10/02(金) 23:07:59 xN8F1xVE0
投下終了デース


363 : 名無しさん :2020/10/02(金) 23:34:15 9pu2pPh.0
投下乙です
ズタボロのリーダーに対してソフィアちゃん、あまりにも図太すぎて安心感すらある
ライブで盛り上がったりみんなで一芸披露するとこのわちゃわちゃ感めっちゃ好き


364 : 名無しさん :2020/10/03(土) 02:28:40 9CxQ4vIs0
投下乙
ハッピー・ステップ・ファイブ周りが大変なことになっていく中で
ソーニャちゃんのとこは貴重な癒し枠やな
守っていきたい


365 : 名無しさん :2020/10/03(土) 19:25:59 xwGAlpFc0
投下乙です
天才変人のソーニャちゃんもライブを全力で楽しむ我道もジャグリングでどや顔するアルアルもかわいい、和む
……ってそのボール、ジャグっちゃ危ないやつ!


366 : ◆TNTD5VseJA :2020/10/03(土) 22:37:13 9CxQ4vIs0
投下します


367 : BIG G ◆TNTD5VseJA :2020/10/03(土) 22:38:11 9CxQ4vIs0
D-5の中央エリアに位置する草原にとある男がいた。
彼はその場には似つかわしくない金ぴかの座り心地の良い豪華な椅子に
腰を下ろしまるで王様のようにふんぞり返っていた。

「ふん、シェリンの奴。エーアイだかアンナイだか知らねぇがこの俺をこんなとこに連れてくなんて生意気なんだよ」

彼の名は郷田薫。かつて君臨する魔王を倒すため、異世界に召喚された5人の勇者のうちの1人である。
勇者の力として彼が授かったスキルは創造魔術。この世のあらゆる物質を創造するチートスキル。
その力で大量の金を創造し、世界中の最強装備をかき集め魔王討伐に貢献したのだった。
薫が今座っているこの椅子もまた、自身の創作魔術で作った代物である。

「奴は『他の勇者と殺しあっていただきます。』だの言ってたが他の39人全員ちまちま探して
ぶっ飛ばすなんてやってられるかっつーの!」

メニュー画面に映るメンバーを見ながら薫は1人不平を口にする。

「それに何で俺達がぶっ殺した魔王の名前があるんだよ。意味わかんねぇ」

先ほど椅子に座りながらメニューの[[メンバー]]を見ていた薫は
「魔王ガルザ・カルマ」の名前があることに違和感を覚える。
この『New World』に来る前にいた異世界の魔王城にて、
薫は魔王ガルザ・カルマが魔物や人、あらゆるの命を取り込み、超絶的な力を得た
陣野愛美の一撃を受け、止めを刺され消滅する様を確かに目撃していた。
しかしいくら考えても答えが出ず、薫はすぐにそのことについての思考を止める。

「まぁ、いいや。まず今は子分が必要だな。あん時みたいにな」

薫は小学生の時を思い出す。ガキ大将として少年野球クラブのリーダーとして
他のメンバーをトレーニングの為ビシバシ鍛えていた日々。
薫が高校受験で失敗するまでの出来事で一番の思い出だった。

「とりあえずこいつで子分を作れるみたいだが、他にいる奴をぶん殴って言うことを聞かせるのが一番だな」

薫は[[アイテム]]から取り出した「W」の文字が書かれた黒い球体を見つめる。
説明によれば物にくっつけると、「ワルダーマ怪人」なる物が生まれる。というような内容が書かれてあった。

「それに愛美のこともあるしな。兆と誠の奴がここにいねぇのは気になるがむしろチャンスかもしれねぇ」

薫はかつて共に世界を救ったメンバーのことを思い出す。
特に異世界では大量の金や財宝、豪華なドレスなどを贈ってものらりくらりとかわしていた陣野愛美。
この殺し合いの場で自分のかっこいいところを見せれば彼女も自分に惚れ直すに違いない。
薫はそんな下心を隠せず、ニヤリと笑う。

「ったく、しょうがねぇ。めんどくせぇが行くしかねぇか」

薫は椅子のクッションの座り心地を惜しむようにゆっくりと立ち上がる。
そして、大きなため息をつきながら歩き始めるのだった。


[D-5/草原/1日目・深夜]
[郷田薫]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:ワルダーマ玉、不明支給品×2(確認済み)
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:全てのものは俺のもの
1.自分の言いなりになる子分を見つける
2..陣野愛美を探す
3.優勝する
[備考]
D-5の草原に郷田薫が創造魔術で作った豪華な椅子が放置されました


【ワルダーマ玉】
「魔法少女エンジェル☆リリィ」の劇中にて敵組織「ワルダーマ」の幹部が使用する「W」の文字が書かれた黒い球体。
中に「ワルダーマウイルス」が入っており、物体に憑依させることで、その物体を「ワルダーマ怪人」にすることができる。
「ワルダーマ怪人」になった物体は5mほどの大きさになり、「ワルダーマー!」と鳴き声を発しながら
建物の破壊、生命体の精神や肉体を弱らせる胞子を撒き散らしながら暴れ回る。


368 : ◆TNTD5VseJA :2020/10/03(土) 22:38:33 9CxQ4vIs0
投下終了です


369 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/03(土) 23:45:58 E1Z3sGPk0
投下乙です
このガキ大将めっちゃ小物感漂っている、しかし能力はガチだし物体に意思を宿らす支給品との相性もいい
草原の真ん中に金ぴかの椅子があるのはシュールすぎる


370 : ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:37:19 N24UEz7w0
投下します。


371 : 多分こいつは敵だと思う ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:37:43 N24UEz7w0


その男は、両手を縛られていた。
鮮やかすぎる金髪に、ギラついたピアス。見るからにチャラチャラした風体だ。
上半身には何も着ておらず、恐らく身に着けていたであろうTシャツが縄代わりとなり腕を拘束している。
鼻は圧し折れ、指の一部もあらぬ方向に曲がっている。
更には無様に白目を剥き、口を半開きにさせながら倒れていた。
男は気絶している。どう見ても「叩きのめされた後」の姿だ。

男を囲むように見下ろす三人組――美空善子、田所アイナ、焔花珠夜。彼らは下手人ではない。北側から森を抜け出し、ひとまず市街地を目指して歩いていたときに偶々それを発見しただけだ。
草原に横たわる人影。遠方で誰かが転がっていることにアイナが偶然気付き、咄嗟にそのことを二人に伝えた。
事情は分からないが、こんなところで倒れている人間を無視する訳にもいかない。そう考えた善子は、二人を引き連れてアイナが指差した方向へと歩み寄った――のだが。
倒れている人物を見下ろす三人の顔には、何とも言えぬ表情が浮かんでいた。

現役アイドル、美空ひかりこと善子はその男を勿論知っている。マネージャーはこちらに配慮してその存在を隠そうとしたらしいが、あれだけ有名になれば否が応でも認識してしまう。彼が何をやらかしたのかも把握している。
無論、その顔に浮かぶのは不快感。

サブカル趣味の小学生、アイナもその男の悪評をネットで知っている。SNSのタイムラインに彼のアイドル中傷動画の晒し上げスクリーンショットが流れてきたこともあった。あまりの酷さ故にすぐ視界から消してしまったが。
その時の記憶を思い出し、アイナは困惑と不安の表情になる。

爆弾魔、焔花もその男を知っている。彼は野外ライブ上空爆発計画を企てる程度にアイドルを齧っているのだ。業界について調べる中で炎上動画を見かけたこともある。あまり興味は無かったが。
善子のひりついた態度を察したのか、珠夜は彼女と倒れた男を落ち着きなく交互に見ていた。

気まずさのような沈黙が場を支配する。
こんなところに、あの男が。
よりによってアイドル中傷と業界揶揄で大騒ぎになった男が、目の前に。
暫くした後、無言に耐えられなくなった三人は思わず口を開く。


「「「――エンジ君……」」」


その男の通り名を、三人でハモった。
数々の時事ネタに首を突っ込み、毎度炎上を繰り返していた厄介者。
一丁噛みで吐き出した罵倒、暴言、批判で注目を浴び、アンチを増やしながら再生数を稼いできた俗物。
やがて群雄割拠のアイドル業界を揶揄したことで大爆発し、ブチ切れながら表舞台より姿を消した男。
彼こそが、悪名高き迷惑系配信者――エンジ君である。


372 : 多分こいつは敵だと思う ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:39:01 N24UEz7w0



「エンジ君じゃん……」
「『あの』エンジ君……ですよね」
「こ、こいつ、見たことある」
「焔花さんも知ってるんだ、こいつ」
「で、でも、オレとは、炎上の方向性が、違う」
「あなたは物理的に燃やすしね……」

取り留めのない反応で三人は語り合う。
あまり関わりたくないタイプの人間を発見してしまった――そんな感じの空気に包まれている。

「名簿見たときはまさかって思ったけど……本当に実物がいたなんて」
「ど、どうしましょうか……このエンジ君って、やっぱり本人なんですかね……?」
「あの炎上キャラに成り済ますような物好きなんて、まあいないでしょうね」

気絶している最中の相手に読心は使えないので、アイナは恐る恐る呟く。
彼女の問いかけに対し、腕を組んでいた善子は何とも言えぬ素振りで答えた。
問題人物・エンジ君に成り済ますメリットなどない。というか、あんなヤツの姿を模倣したがる人間が存在するなんて思いたくない。そう考えてしまう程、善子のエンジ君への心象は悪かった。
革命的トップアイドル・美空ひかりは自身の仕事に対する強い矜持を持っている。業界を腐すばかりか、今もなお夢を抱いて奔走している多数のアイドルたちを侮辱するような輩を好きになる筈が無かった。

「オ、オレ、弔いの爆弾、打ち上げるよ……こ、こんなヤツでも、成仏くらいさせてやりたい」
「いや死んでないでしょうが」

思わずツッコミを入れる善子。
このVR空間において脱落したアバターは消滅してしまうのだから、ここで倒れている時点でエンジ君はまだ存命中ということだ。

「なんで、こんな風に放置しちゃったんでしょう……?」

ぴくりとも動かずにのびているエンジ君をじっと見つめながらアイナが呟く。
善子は口をへの字に曲げながら「うーん」と考え。

「エンジ君が『乗っていた』という前提で話すなら……これをやった人は殺し合いには乗っていない。普通はトドメ刺すと思うし。
 誰かがこいつに襲われて、返り討ちにした。でもこの状況で危険なやつを保護する余裕も無いから、とりあえず縛った上でほっといた……ってところかしら」

現場の状況から、善子はとりあえずの予測を立てる。
エンジ君は「乗っている可能性」を前提に語られているが、そのことに異を唱える者はいない。
善子の冷静な推察が理に適っているということも大きい。しかしやはり、三人はエンジ君が「どのように有名なのか」を知っているからこそ大きな不信感を抱いていた。

エンジ君の経緯について推測した後、善子は師範代の言葉を思い出す。
曰く、「寸止め」とか「半殺し」というものは喧嘩のやり方を知っているからこそ出来る。
武道を知らない者とは、暴力の扱い方を知らない者に等しい。
そういう輩は良心の呵責以外に加減を行う術を知らないし、勢い余って相手を殺してしまうこともある。

このエンジ君を叩きのめした相手は、恐らく武術というものを身に付けている。
師範代のように「加減の仕方」を理解した上で喧嘩ができる人物だ。
もしもこれらの仮定が正しいとすれば、殺し合いに反対する心強い仲間になってくれるかもしれない。
宛もなければ確証もないが、そういう人物がいる可能性を見出せたのは善子にとって大きかった。

「あの、ひかりちゃん」
「ん?」
「どうしますか、エンジ君」


373 : 多分こいつは敵だと思う ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:39:51 N24UEz7w0
―――沈黙。
アイナの質問に対し、とても気難しそうに善子が黙り込む。
「う〜〜〜〜〜〜ん」と露骨に悩みながら、答えを決め倦ねている。

そんな善子の態度にそわそわしつつ、彼女が何を思っているのかはアイナにも理解できた。
エンジ君を見下ろす時の善子の表情。テレパシーを使わなくても分かる程度には嫌悪に満ち溢れていた。
実際、気持ちとしてはアイナも同じである。大好きなサブカルチャーの界隈にズケズケと踏み込み、罵詈雑言じみたコメントで大騒ぎして荒らしていく―――エンジ君の悪評は風の噂でも度々流れている。
端から聞くだけでも不快感があったのに、アイドル批判のあれこれは腹が立つ程のものだった。推しのTSUKINOちゃんも、ひかりちゃんも、あんなにキラキラ輝いているのに、この人は業界を引っくるめて彼女達を馬鹿にしたのだ。
そんな相手を助けたいかどうかで言えば、正直あまり助けたくはないというのがアイナの本音だった。
しかし、かといってこの場に見捨てるのも気が咎めてしまう。
いくら酷い人だからといって、死んでいい理由にはならない。アイナの良心はあくまでそう告げている。
それに、焔花さんのような人だっている。アイナは彼の方をちらりと見た。不安そうに、だけど心配するようにひかりちゃんを見ている。
最初は怖くて危ない人だと思ったけれど、本当は少し変わっているだけで悪い人じゃなかった。もしかしたらエンジ君も、そんな可能性がある――――かもしれない。
アイナは自分でもあまり信じていない希望的観測を抱きつつ、善子を再び見た。

「……とりあえず、安全なところまで連れていきましょっか。不服だけど。
 目を覚ましたら一応事情を聞く。どうするかはそれから、ってことで」





善子による鶴の一声で方針は決まった。
しかし、出発前にささやかな壁にぶち当たった。
エンジ君をどのように運搬するか。

「うーん……焔花さん、ある?なんか人間を運べるアイテムとか」
「オ、オレは、特にそういうのは、ない」
「すいません、私も……」

困ったように項垂れるアイナと焔花。
ほんの少し前までは追う者と追われる者の関係だったが、気が付けばすっかり馴染んでいる。

「で、でも、さっきアイナちゃんに、渡したやつで、もっとコイツを縛るくらいなら……」
「あ、『ロングウィップ』ですよね?でもこれ、攻撃するときにしか伸びないみたいです……」
「そ、そっか、残念」

アイナは装備していたアイテムを取り出しつつ言う。
『ロングウィップ』。三人で行動を開始した直後、焔花がアイナに護身用として譲った支給品だ。
念じながら振るうことで、リーチがゴムのように伸びる特殊な鞭である。
Tシャツによる簡素な拘束では心許ないと思った焔花はロングウィップを縄代わりにすることを提案したが、「鞭が伸びるのは攻撃時の一瞬のみ」という特性故に断念した。
そもそも護身用の武器をおいそれと使うことも出来ない。
ままならない現状を前にした善子は、思わず小さな溜息を吐いてしまう。


374 : 多分こいつは敵だと思う ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:40:36 N24UEz7w0

「しょーがない。背負うしかないわね」

やれやれと言いながらしゃがむ善子。
倒れ込んでいるエンジ君をそのまま抱え上げようとしたが、焔花に「ちょ、ちょっと待った」と止められる。

「ひ、ひかりちゃん、オレ、背負うよ」
「うん?いいの?」
「お、女の子に、任せるのは、気が引ける。そ、それに、その、何かあったとき、一番強いのは、たぶんひかりちゃんだから」

そう言う焔花は、自分の言動の矛盾に気付いていた。
女の子に任せるのは嫌だが、有事の際にはその女の子が一番頼れる。彼自身もそんなことを言う自分が情けないと思ってしまう。
しかし、それは事実なのだ。大事なときに一番頼れるのは善子だと言い切れる信頼があった。
理由はシンプル。かつてのライブの時と、この殺し合いの会場―――焔花珠夜を二度もやっつけたのは、“美空ひかり”しかいないからだ。
彼女の強さを知っているからこそ、いざという時に彼女の強さを縛りたくないと焔花は考えた。
今後色々と爆発させるにしても、せめてエンジ君の処遇が決まってからにしよう――という、謙虚にして邪な思いも少なからず入っている。

「……ありがと、焔花さん。それじゃ、頼んだわねっ」

焔花の意図を汲み、善子はエンジ君の面倒を彼に託した。
ニコッと不器用な笑みを浮かべた焔花はエンド君をいそいそと背負う。

「じゃ、まずは市街地に移動。エンジ君どうするかは適当な建物で安全を確保してからね」


[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・黎明]
[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.市街地に向かう。
2.知り合いと合流。
3.エンジ君の処遇はとりあえず本人が起きてから考える。

[田所 アイナ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:ロングウィップ(E)(焔花から譲渡)、不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:お家に帰る
1.市街地に向かう。
2.ひかりちゃんには負けない

[焔花 珠夜]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:A LUK:C
[ステータス]:顔面にダメージ、エンジ君を背負ってる
[アイテム]:不明支給品×2
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:多くの人に最高の爆発を見せたい。
1.約束したので我慢はする(我慢するとは言ってない)
2.市街地に向かう

【ロングウィップ】
焔花珠夜に支給。
外見は何の変哲もない鞭だが、使用者が強く念じることで攻撃時にリーチがゴムのように伸びる。
最大で10mまで伸びるが、効果を発揮するのはあくまで攻撃時の一瞬のみ。


375 : 多分こいつは敵だと思う ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:41:20 N24UEz7w0
◆♢◆♢


殺す――殺す――。
ブッ殺す―――。
オレを見下す奴ら全員殺す―――。

恨みがマグマのように燃え盛る。
憎しみが腹の中を掻き回す。
込み上げる感情はどこまでもリアルなのに、肉体に降りかかる感覚は酷く曖昧だ。
エンジ君こと津辺縁児は気絶し、夢を見ていた。

気が付けば、見慣れた景色が広がっていた。
しょぼい畳の部屋に、けちなパソコンと配信用のカメラが設置されている。
部屋はゴミや荷物が散乱しており、清潔とはとても言い難い。
そうか、ここは俺の部屋だ―――エンジ君はすぐに気付く。
ぼんやりとした意識の中、エンジ君は座布団代わりの布団に腰掛けながら虚空を見つめていた。

『エンジ君……エンジ君……』

そんな時だった。
己を呼ぶ謎の声が、響き渡ったのだ。
エンジ君は思わず飛び上がり、おっかなびっくりな態度で周囲を見渡す。
そして、気配は目の前のパソコンから現出した。
モニターの内側から通り抜けてくるように――それこそまるでテレビ画面の内側から飛び出す「貞子」のように――謎の仙人が姿を現したのだ。

「――誰だ……?」
『動画配信の……仙人……』
「頭おかしいんじゃねえかお前……」

思わず素でツッコミを入れてしまった。

『エンジ君……お前はよく頑張っている……数多の誹謗中傷に晒され、一度挫折を経験してもなお己を曲げずに戦い続けているのだから……』

何がなんだか分からないが、この仙人とやらは自分を褒めているらしい。
そのことを認識したエンジ君は、ぽかんとした表情を浮かべた後。

「だっ!だよなぁ〜〜〜!?オレ正しいこと言ってんのによぉ!ちょっと業界批評した程度でオレの住所とか晒そうとしたんだぜ!?あれがまともな人間のやることかよ!!」

速攻で調子に乗り始めた。
承認欲求に飢えているエンジ君は単純である。そもそもこれは彼自身の夢であることも深く考えていなかった。

『だがエンジ君……このままでは君は本当にゲームオーバーになってしまう……』
「マジかよ……」
『しかしキミには最後の支給品が残されているはずだ……』
「え、なんかあったっけ」
『忘れんなバカ……』

仙人に怒られてしまった。
舌打ちしながらエンジ君は懐を探す。

『護符を持っているだろう……』
「あぁ、あったわこんなん」
『それが“癒やしの護符”だ……』
「なあジジイ、これ効果なんだっけ?」
『説明書あっただろ……ちゃんと読めよ……』

仙人はエンジ君の空想の産物なので、荘厳に見えて態度がふてぶてしい。
それに関しては思うところがありまくるエンジ君だが、今はそんなこと重要ではない。
そう、仙人が言うように彼には一つだけ支給品が残されていた。
正しく装備していなかったが為に大和正義にも気づかれなかった、最後の切り札が。


376 : 多分こいつは敵だと思う ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:42:11 N24UEz7w0

『それを使うのだ……エンジ君……』
「どうやって」
『念じるとか……そういうので……』
「クソみてえにアバウトだな……」
『ともかく、それは君を救ってくれるだろう……』

不満を抱きつつも、エンジ君は言われるがままに念じ始めた。
その最中、脳裏をよぎる記憶が幾つもある。
あのくそったれアイドルのTSUKINO。その取り巻きのナヨナヨしたメガネ野郎。
そして、自分をこんな目に合わせたクソ学ラン野郎。
アイドルへの憎悪だけではない。自らを貶める全てに対し、エンジ君は激しい逆恨みを持っていた。
ぜってえ殺す。オレをコケにした奴ら全員に復讐する。何が何でも―――。


『動画収入と共にあらんことを』


動画配信の仙人が、祝福の言葉を送った。
それを聞いたエンジ君は思う―――つまりどういうことだよ。


[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・黎明]
[津辺 縁児(エンジ君)]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:C DEX:E LUK:C
[ステータス]:両腕拘束、右人差し指骨折、右中指骨折、鼻骨骨折、頭蓋骨後部にヒビ(いずれの負傷も急速に回復中)、気絶中(焔花珠夜に背負われている)
[アイテム]:癒やしの護符(E)(無意識に発動)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:優勝してアイドルとファンに復讐する。
1.気絶中
2.アイドルぜってえ殺す、あの学ランのガキ(正義)も殺す―――。


【癒やしの護符】
津辺 縁児に支給。太陽の絵柄が記された護符。
使用することで体力・負傷の回復速度が大幅に増加し、全快になるまで効力が続く。
一度だけの使い切りアイテムで、発動後はただの護符でしかなくなる。


377 : ◆A3H952TnBk :2020/10/04(日) 22:42:47 N24UEz7w0
投下終了です。


378 : 名無しさん :2020/10/04(日) 23:49:14 1vTxofWk0
投下乙
爆弾アーティストさえも引き気味なエンジ君の所業に笑うw
そして動画配信の仙人にも出てさらに草生えた
ジャッカルの精霊みたいなもんですかね…


379 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/05(月) 00:40:12 yAYgLnWI0
投下乙です
エンジ君思った以上に有名人というか名が知られていた
そして自らかなりの爆弾を抱えてしまったひかり一行、爆弾魔もいるし爆弾だらけだなこのチーム


380 : ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:51:34 9aBVWOMY0
投下します。


381 : ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:51:55 9aBVWOMY0
地中に光は届かない。しかし、スキルのおかげで周りの様子が視認できる。
地中に空気はない。しかし、スキルのおかげで普通に息ができる。

進む。進む。ひたすらに掘り進む。右に掘り、下に掘り、上に掘り、左に掘る。
手につけた爪の武器で掘る。足で掘る。肘で掘る。頭で掘る。
クロール。平泳ぎ。授業でやったことのない背泳ぎやバタフライ。
疲れたらちょっと広い空間を作って寝っ転がって休む。

天の国と書いて天国、地の獄と書いて地獄。
彼にとってはその逆。地下世界は、掘下進にとって天国だった。

「ふぅ〜……」

現在も進は休憩中。殺し合いが行われていることや大男に襲われたことは覚えている。
それでもなお、彼はリラックスしていた。
大好きな地下世界に居続けられる。地下世界まで追ってくる奴はいない。

(いっそ、ここにずっといれば優勝できちゃったりして)

そんなことだって考えてみる。考えるだけなら何だって自由だ。
地下世界に文明を築く地底人と最初に交流する地上人になってみたり。
まだ誰も見たことない新種の生き物とふれあってみたり。
失われたと考えられていた古代文明のお宝を発見してみたり。

「お宝……だよな、これ」

進が地中で見つけたもの……お宝は二つあった。
一つは、バスケットボールより一回り小さいぐらいの大きさをした球体、黄金の宝石だ。
これが本物の黄金なら一体どれぐらいの値打ちがつくのか、進には想像できなかった。
もう一つはGPである。地中には不釣り合いなプレゼントボックスがあったので開けてみたら空だった。
勝手に取得されたのかと思ってメニューを見ていたところ、GPを獲得していたことに気付いたのだった。

「待ってろ…………地下世界!」

この広い砂漠にお宝が二つしかないということもないだろう。
それに、お宝だけでなく地下世界が存在しているかもしれない。
体力もちょっと回復したし、また掘り進む旅に戻ろう。






382 : モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:52:27 9aBVWOMY0



進む。進む。ひたすらに掘り進む。上に掘り、右下に掘り、左下に掘る。
パンチで掘る。キックで掘る。体当たりで掘る。
下に掘り続けてみる。何も見つからず、飽きて上に戻ってみる。
疲れたらちょっと広い空間を作って寝っ転がって休む。

「何も出てこない……」

進は地中を掘り進みながらも愚痴る。未だに三つ目のお宝は見つかっていない。
まだ砂漠エリアの中にいるのは頭の中では理解しているが、いくら掘っても出てくるのは同じ砂ばかり。
文明どころか、動物の骨や質の違う土すら出てこないのである。
まるで、ホームセンターで一つの銘柄の砂ばかりを買って庭に敷き詰めたような。そんな感じだった。
そんな仕打ちをされても進は地下世界が好きだ。スキルの効果もあって、地中にいることを苦に思うことはない。

「もう砂しかなかったりして」

それでもお宝が二つ見つかったことは事実。進は諦めず、一心不乱に掘り進む。
そして、諦めなかった進に対するご褒美かのように土の質が変わった。
今までは砂漠の砂だったが、今度は植物も育つ普通の土って感じだ。

「……!」

進のテンションが上がる。勢いよく前へ前へと掘り進む。
しかしその勢いが仇となった。
思い切り伸ばした右腕の先が土でない感触を捉えた。そう思った時には、既に手遅れだった。

「げぶっ!」

進の顔に勢いよくぶつかってきたのは水だった。進の開けた穴から水がなだれ込んできたのだ。
水は重力に従ってどんどん流れ、やがて地中というフィールドは水中へと属性を塗り替えられる。
地中で息が可能となる穴掘りスキルも水中では無力。
息がまともにできなくなった進だが、それでもまだ頭は働いている。
穴の中にいては浮かび上がることはできず、そのまま窒息するだけ。
ならば進むべきは前、穴からの脱出。穴から出たら上、水面を目指す。

……この時、進は上斜め後ろに掘り進めば息のできる地中フィールドに出られることに気付けなかった。
まずは水をどうにかしなければという思いが強かったのだ。

前に進むためにはなだれ込む水流をなんとかしなければならない。
解決策は後ろにあった。後ろの穴を閉じれば水は行き先がなくなり、水流も発生しないのだ。
後ろ足を駆使して穴を閉じる。水流は止まり、前への移動が可能となる。
水中で目を開けるのは苦手だがそう言っていられる状況でもない。上を見る進。

(遠っ……)

今まで掘り進んでいた深さを実感させられた、絶望の瞬間だった。





383 : モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:52:52 9aBVWOMY0


「…………む」

砂塵が晴れ、遠くも視認できるようになる。
そこにあったのは、目指していた砂の塔ではなくオアシスだった。
どちらかというと闘いのためではなく憩いのために立ち寄るような場所である。

「…………」

酉糸琲汰は地図を確認する。眼前にあるのはA-1、オアシス。目指すべき塔はA-4。琲汰の背後である。
今まで琲汰はまるっきり逆の方向に向かっていたのだった。
そもそも開始時にどっちの方向を向いていたかすらわからなかったので、塔に辿り着けないのも必然とは言えた。

「……」

おまけに砂の塔は既に支配者が存在する状態になっていた。
支配者の名はBrave Dragon。直訳すれば勇敢なる龍といったところか。
名は体を表すと言う。龍と出会えていれば、心躍る闘争を繰り広げられていたはずだった。

もはや誰もいないオアシスになど用は無い。
踵を返そうとした瞬間、琲汰はオアシスに浮かぶ存在に気がついた。

「……童子か」

うつ伏せのまま浮かんでいる子供。身体に力が入っているようには見えない。
息がどれだけ続くか試しているわけではないだろう。つまり、溺れた後ということだ。

あの子供を殺せばGPが手に入り、後の闘いで有利になるだろう。
だが、琲汰がしたいのは闘争。優勝が目的ではなく、闘争が目的なのだ。
優勝狙いならGPを得るという選択もあった。だが、闘争狙いならここは救助一択だ。
子供そのものが強者という可能性もあるし、子供から強者の情報を得ることができるかも知れない。

決めてからの行動は早かった。服を一瞬で脱ぎ、オアシスに飛び込む。
子供の元へとクロールで駆けつけ、片手で軽々と陸地に放り投げる。
すぐさま自分も陸地に戻り、心臓マッサージと人口呼吸を行う。
鍛え上げた肉体のみが成せる、一切の無駄のない救助行動である。
……肉体は見た目しかこの殺し合いに持ち込むことはできず、泳ぎが早かったのは装備品・スイムゴーグルの恩恵ではあるが。

「がぼっ!げほっ……げっほ!」

かくして、少年――進は無事に救助されたのである。

「……」

琲汰は少年の近くに腰を下ろし、少年を観察する。少年は両腕にはかぎ爪のようなものを着けていた。
琲汰が思い出すのは以前に戦ったかぎ爪使い。奴はかぎ爪を使って金網をよじ登り、空中から攻撃を仕掛けてくる強敵だった。
ただ、かぎ爪以外は……特別に鍛錬した様子もない普通の少年だ。
闘争は望めないか、と少しがっかりした気分になる琲汰。後はこの少年が強者の情報を持っているかどうかである。

少年の目が開く。どうやら意識を取り戻したようだ。


384 : モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:54:03 9aBVWOMY0

「……起きたか」

琲汰の声を聞き、少年も琲汰に気付いたようである。
目と目が合う。少年の視線はだんだんと下がっていく。

「うっ、うわああああーっ!?」
「むっ!」

突然、少年はそのかぎ爪で琲汰を攻撃してきたのである。
いきなり攻撃してくるとは思っていなかった琲汰だが、闘争の道を歩んでいれば何度も奇襲を受けた経験はある。
頭で考える前に本能で防御する。琲汰の左腕に浅いひっかき傷がついた。

琲汰が闘争の中で編み出した奇襲への対策、それは防御だった。
奇襲した側とされた側、有利なのは圧倒的に前者である。
奇襲者に対して闇雲に攻撃を仕掛け、さらに不利に陥るなんてことはザラにある。
さっきまで溺れていた少年が二の矢三の矢を用意しているとは考えにくいが、琲汰は少年を敵と認識している。
敵であれば、例え童子を相手にしたとしても全力だ。

防御態勢を取りながら少年の様子をうかがう琲汰。
少年は琲汰に背中を見せ、一心不乱に穴を掘っていた。

(何かが埋まっているのか……?)

地面から何かを掘り出して闘いに使用するためか、あるいは砂を使用した目潰しの準備か。
どちらにしろ、攻撃に転じるには良いタイミングだった。

「でぇい!」

琲汰は少年に対してローキックを放つ。
鍛えていない少年に放つには重すぎる蹴りだ。当たれば死に至る可能性も高い。
だが、それが闘争だ。闘争の結果、相手が死ぬことになっても仕方ないと琲汰は考えていた。

そのキックは少年が地中に潜ることによって避けられた。
琲汰は少年が入り込めるほどの大きな穴を掘る時間は与えていない。
それでもなお、少年は地中に潜ることができた。これは、少年のスキルの効果か――!

「なにっ……くっ!」

少年へ追撃をするために穴へと踏み出す琲汰だが、地面が揺れてバランスを崩してしまう。
どうやら少年は地中を掘り進んでいるようだ。地面がぼこぼこと盛り上がっていくのが見える。
これまでに色んな敵と戦ってきた琲汰だが、地中の相手に対して攻撃ができるような技は持っていない。

「地裂拳!」

技がないなら編み出すまで。琲汰は思い切り地面を殴りつける。
殴った衝撃が地中を伝わって少年の元まで届く、ことはなかった。やはり即席の技では無理があったのだ。
少年はさらに深く掘り進んでいく。やがて、地上からは少年の痕跡も追えなくなった。


385 : モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:54:33 9aBVWOMY0

「……」

琲汰は左腕につけられたひっかき傷を見る。
かぎ爪による傷だが、まるで人間の爪でひっかいたかのような浅い傷だった。
パラメータの差がありすぎるためか、武器を使ってもあまりダメージが入らなかったのだ。
もしもあのかぎ爪に毒でも塗られていたら……最悪、琲汰は死亡していた。

「……見事だ」

それは、少年の取った戦法に対する感想だ。
弱者を装い、奇襲を仕掛ける。奇襲で相手を殺せれば良し。失敗すれば地中に逃げる。
逃げる際は地上にいる相手の真下を通るようにして、バランスを崩し追撃を阻止する。
考えてみれば、初撃のタイミングも見事であった。話しかけた直後でもなく、目が合った瞬間でもない。
琲汰の警戒心がほんの少しだけ緩んだところを的確に突かれた。

だが、そんな見事な戦いぶりを見せた少年はオアシスで溺れていた。
おそらく、あの少年の戦い方が通用しない相手がオアシスにいたのだろう。

「……次は負けん」

少年は南へ向かって逃走していったが、途中で方向を変えれば追っ手を撒くことは容易。
ここは、どこへ行ったかわからない少年よりも塔にいる勇敢なる龍と戦う方が確実だ。

――次は負けない。
その言葉は、少年に対してのものであり、次に戦う誰かに対してのものであり、この砂漠に対してのものでもあった。





少年は――進はただ、怖がっていただけだった。
そこにいた男はスイムゴーグルをしていて目線もよく見えなかった。
そして、男は……裸だった。裸にゴーグルをつけただけの姿だった。進には変態にしか見えなかった。
進は、世の中には「男しか愛せない男の人」が存在することは知っている。

(へ、変態に、襲われるっ!)

襲うとはどのような行為を指すのか進はまだ知らなかったが、とにかく良くないことをされるのは確かだ。
進はパニックに陥りながら変態を遠ざけようとする。
思い切り突き飛ばすつもりで両腕を前に出すと、かぎ爪が男の腕を引っ掻いていた。
その後は男の行動など気にせず、全力で地中へとエスケープ。
後ろに進めばまた水の中なので、進むべきは前。前に進めば、ちょうど男の真下を通る形になる。


琲汰が見事だと称した少年の戦法は、全て偶然によるものだった。


386 : モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:54:58 9aBVWOMY0


誰も敵のいない地中を掘り進むうち、進は冷静さを取り戻していく。

「……あ」

そして気付く。さっきのお兄さんは溺れていた自分を助けてくれたのではないか。
裸だったのは水着を持っていなかったから。ゴーグルを着けていたのも泳ぐため。
自分は、助けてくれた恩人に対して攻撃を仕掛けて逃げ出した、とんでもなく嫌な奴だったのではないかと。

謝れない男にはなるな、が進の父親の口癖だった。
喧嘩した後は友達に謝った。庭を掘った後は両親に謝った。
……あのお兄さんにも謝らなければ。

また溺れるのも嫌だったので地上を走ってオアシスへと戻る進だが、そこには男の姿は既に無かった。
地面には男の足跡が残っている。急いで足跡を追うと、途中で足跡は途切れていた。
大砂漠を吹き荒れる砂塵が足跡を消していたのである。

「お兄さーん!」

大声で呼びかけてみるも、砂が舞う音でかき消されてしまい遠くまでは届いていないように感じる。
声には何の返答もなかった。

「……」

進は地図を確認する。
さっき地上に出た時にちらっと見えた建物。あれは神殿だろう。
神殿とオアシスの位置から男の向かった先を考えると、砂の塔へと行き着く。

「ドラゴン……って……」

砂の塔には既に支配者が存在しているようだ。
Braveなんて単語はまだ習っていないが、Dragonなら分かる。
進の脳裏には最初に出会ったあのドラゴンに変身する大男の姿が想起されていた。

「……止めなきゃ」

あの大男は危険人物だ。お兄さんと出会ってしまったら、お兄さんが殺されてしまうかも知れない。
進は、溺れていた子供を助けるような心優しいお兄さんが自分のせいで殺されるという結果が怖かった。
……最も、琲汰の方も進を殺そうとした男ではあるのだが、進は琲汰が攻撃してくる瞬間を見ていなかった。

進は砂漠を進むことを決意した。お兄さんに謝るため、そしてお兄さんが殺されるのを防ぐために――。


387 : モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:55:16 9aBVWOMY0
[A-2/大砂漠/1日目・黎明]
[酉糸 琲汰]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:闘気充実、左腕にひっかき傷
[アイテム]:スイムゴーグル、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:ただ戦い、拳を極めるのみ。
1.「砂の塔」を目指し、Brave Dragonと戦う。
2.強者を探す。天空慈我道との決着を付けたい。少年(掘下進)にも次は勝つ。
3.弱者は興味無し。しかし戦いを挑んでくるならば受けて立つ。
※探索系スキルはありませんが真っ直ぐ進めば砂の塔に辿り着けると信じています。


[掘下 進]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:疲労(中)
[アイテム]:忍びの籠手(E)、神速のブローチ(E)、支給アイテム×1(確認済)、黄金の宝石
[GP]:10→20pt(地中で拾って+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:死にたくない。
1.「砂の塔」を目指し、助けてくれたお兄さん(酉糸琲汰)に謝る。大男(Brave Dragon)の危険性も伝えたい。
2.何かあったら地中に逃げる。
3.地下世界、まだ何かあるかも。砂漠以外の地下も掘ってみたい。
※神速のブローチの充電が切れたことに気付いていません。
※探索系スキルはありませんが真っ直ぐ進めば砂の塔に辿り着けると信じています。

【黄金の宝石】
地中に埋まっていた綺麗な宝石。
効果や使い方は後続の書き手さんにお任せします。


388 : モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc :2020/10/05(月) 18:55:54 9aBVWOMY0
投下終了です。
地中にものを埋めてみましたが、何か問題があれば修正します。


389 : 名無しさん :2020/10/05(月) 19:15:25 Uz9K2FeA0
投下乙です
酉糸、どれだけ推察が的外れでも本人が全て前向きに納得してしまうので草生える
一人だけ探索ゲーになりかけてた堀下くんは何だかんだいい子だけど、あんな感じの酉糸と勘違いマーダーの登くんの渦中に巻き込まれるのかと思うとかわいそうで笑う


390 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:25:23 cC6GIK2g0
投下します


391 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:27:04 cC6GIK2g0
積雪エリア

道とすら言えない雪原を歩く二人の男がいた。

「すまんね。付き合ってもらっちゃって」
「いえ、お気になさらず。
こちらこそすみません。万能スーツ貸していただいて」
「それこそ気にしなくていい。コート着てるからね、俺」

雪を踏みしめ足跡を残しながら歩く。
向かう先は北にある雪山。
発案者は青山だ。

「この1年探し続けた子どもたちの一人が、この方向にいるらしいんだ」
「そうですね。探しに行かないわけにはいきませんよね」

青山のスキル『人探し』
顔と名前を知っていればその人物のいる方向が分かるというものである。

彼らの向かう先にいると示されているのは陣野愛美。
1年前に起きた失踪事件の被害者である少年少女の一人である。

元の世界で方々駆けずり回って一つも得られなかった手掛かりがこの『New World』で得られたのだ。
決して取りこぼすわけにはいかない。


雪は標高が高くなるにつれて強くなり、視界も悪化していく。

「ん…?あれは…」
「人…ですかね…?」
D-8からC-8に差し掛かるころ、雪の間に黒いものが見えた。
風にたなびくそれが長い黒髪であることに気付いた青山の目が見開かれる。

「まさか…!」
「青山さんあれ…!」
「ああ間違いない…!陣野さんだ!」

依頼を受けて以来何度も写真で見た顔。長い黒髪のとても美しい少女。
この気候にはそぐわない薄い布のみの衣服を着ているが間違えようがない。捜索対象である陣野姉妹の一人が今目の前にいる。
スキルで地図上に表示された方角から察するに、おそらく前方にたたずんでいるのは姉・愛美の方だろう。
青山は――そして青山から話を聞いていた切間もそう確信する。

青山の『人探し』スキルは対象とする人物の、現実世界の人相を知っていれば『New World』でどのような姿をしていても探し当てることができる。

例えば桐本四郎が美空ひばりの姿でこのゲームに参加していたとしても、この『人探し』スキルで『桐本四郎』を対象にすれば美空ではなく桐本の方向を指し示すのである。

その青山のスキルが、自分たちの進む先にいる少女は陣野愛美であると示しているのだ。疑う余地などない。


青山が走り出す。
積もる雪を蹴散らし、降りしきる雪を振り払いながら。
そして少女のもとにたどり着くや否や、着ていたコートを少女に被せて叫ぶ。
「大丈夫かい!陣野愛美さん!」

少女は、初対面の男に名を呼ばれた驚きからか目を丸くする。


「…ええ。大丈夫です」
少し間を置き答える少女。
しかし大丈夫、という返答とは裏腹に少女の肌は血色を失い青白い。

遅れて切間も到着する。
「この人が…陣野愛美さんですか?」
「ああ!そうだ!間違いない!この子が陣野愛美さんだ!
 よかった!生きていて本当に良かった!」

異様に興奮して喜ぶ青山。放っておいたら万歳三唱でもしかねない勢いだ。
1年探し続けた捜索対象を発見したのだからさもありなん、とは思うがさすがにはしゃぎすぎではなかろうか。


392 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:28:11 cC6GIK2g0
「どうか…お助けください…」
切間の思考は少女の消え入りそうな囁きにかき消される。

「ああもちろんだ!この先にコテージがある!そこで暖を取るんだ!
 こんな格好でいつまでも外にいたら低体温症で死んでしまう!
切間、手伝ってくれ!」
「は、はい!」

青山の態度に奇妙な違和感を覚えながらも、切間は少女を抱えて走る青山の後を追った。


◆◆◆


――よかった。
うまくいった、とイコンはほくそ笑む。



イコンは、神に贄を捧げ、全てを神と一体化することを目的とするイコン教団の主である。
神のために幾人かの贄を捧げるよう命じられた。
使命達成のあかつきには、イコン自身も神の一部にしていただけるのだ。
一刻も早く贄を神に捧げたい。

自分の支給アイテムの一つであった防寒着は大いなる神である陣野愛美様に献上した。
自分は今、神に仕える巫女としての正装のみを着ている状態だ。
氷点下を下回る積雪エリアに適した格好からは程遠いが、自分に支給された防寒着が神のお役に立つのだから光栄なことこの上ない。寒さなど些細なことだ。

とは言え神から受けた使命を果たせぬまま凍え死ぬわけにもいかないので、温暖なエリアに移動せんと進路を南に取る。

しばらく歩いてると遠くからこちらに向かって歩を進める二人の男が視界に入った。
男たちは一人はコートを、一人は鎧を着ている。

イコンは思わず破願する。
神の求めに応えるための贄が二人も手に入るのだ。
喜ばしくてたまらない。


イコンのスキルは『アイドル(古代)』。
他の参加者に熱狂(ファナティック)の状態異常を付与するスキル。
熱狂により精神が昂ぶり判断能力の減退した人間は、厭うことなく命を懸けるほどイコンに魅了されてしまう。
しかも相手が異性であればその効果は更に高まる。

イコン教団の人間であれば教祖として命じ、その命を喜捨させよう。
そうでなければか弱い少女のふりをして騙し討とう。
スキルを使えば思いのままだ。


393 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:29:52 cC6GIK2g0


そんな作戦を立てて男たちの前に姿を晒した。
信者であれば「イコン様!」と叫び駆け寄るだろう。
そうでなければ「大丈夫かい!」とでも声をかけてくるのだろう。

イコンを見つけた男たち。
コートを着た男が駆け寄ってくる。

「大丈夫かい!」

男のリアクションは彼女の想像した通りだった――――途中までは。


「陣野愛美さん!」
コートの男は確かにそう言った。

ありえない。
秘匿され、誰も知らない神の御名。
その名を知るのはイコン教団教祖であるイコンのみ。そのはずなのに。

元の世界に存在していた、目視した相手の名を看破するスキルの使い手かとも思ったが、この男はイコンを見て神の御名を呼んだ。
すなわちそれは神の尊顔と御名を知った上で、神と瓜二つになるよう顔を作り替えたイコンを神と誤認したということなのだ。

困惑し言葉を失うイコンにお構いなしに、着ていた上着で包んだ男はみるみる表情を喜びの色に染めていく。
その目にはみるみる内に涙が溜まっていく。
まるで生き別れになった家族と再会でもしたかのようだ。
大丈夫と答えてやるとその顔はさらに喜びに満ちていく。

スキルによる魅了が効いている。
イコンにそう確信させるには十分だった。

鎧の男も追いついてきた。
「どうか…お助けください…」
弱り切った声色を作り懇願してやる。

強力なスキルを有しているとはいえ正面戦闘はイコンの得意とするところではない。
また、贄は生かさず殺さずの状態にして神の元に運搬しなければならないが、イコンのSTRは最低のE。
運搬するのは現実的に考えて難しい。

受信機を見ると、どうやら神はまだコテージから移動していないようだ。
とあらば、己を餌に贄をコテージまで誘うべきだろう。
そこで騙し討って瀕死にし、神に献上するが得策だ。


スキルの影響下にあるコートの男(もうコートは着ていないが)は一も二もなく、イコンを抱えて走り出す。
誘導するまでもなくコテージに向かうことを決めてもくれた。
なんと扱いやすいのだろう。スキル様様だ。

あとはコテージまで運んでもらい、屋外で二人を不意打ちし行動不能にして神に捧げるだけだ。


394 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:31:07 cC6GIK2g0


雪原を駆けること30分。
コテージが肉眼で見えるようになるころ、コートの男が口を開く。
「陣野さん。君が無事でいてくれて本当に良かった」
未だに私を神と勘違いしているようだ。

しかし続けて発せられた言葉がイコンの逆鱗に触れた。


「妹さんや郷田くんもこの世界にいるんだ。
君だけじゃない。妹さんや郷田くんはもちろん、付侘くん、冬海くん、守川さんも見つけてみせる。
――君の友人たちを必ず助けてみせる」

「あ…?」
イコンの顔が凍りつく。



――こいつは今何を言った?

“友”と呼んだのか?神以外の勇者を?神の友と?

薄汚くて下劣な穢れし勇者共を、こいつは神と対等に扱ったのか?


なんという不敬。
なんという不遜。
なんという侮辱。


軽々に神の御名を呼ぶのも無礼だというのに。
それに飽き足らずこの男は神を低劣な勇者共と対等に扱いその名誉を貶めた。

これは神に対する冒涜に他ならない。


ここで殺さなくては。

神に代わり私がこの男の命脈を絶たねばならない。

全てが神と一体になる世界からこの涜神者は排除されなくてはならない!


イコンは[[アイテム]]から七支刀を取り出し、男の胸に刺し込んだ。



◆◆◆


「あつっ」

前を走っていた青山が小さく叫んで足を止めた。膝をつき、その腕に抱えられていた少女が雪原に転がり落ちる。

「どうしました青山さん?」
追いついた切間は青山の正面に回ろうとするが――

(赤い……まさか!?)
――足元の雪に落ちる赤い雫を見て足を止める。


395 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:31:53 cC6GIK2g0


胸を押さえてうずくまる青山。
足元にしたたる赤い雫。

状況から考えられる真実はただ一つ。

「陣野さん!どうして!?」

そちらに目をやった切間の視界に映ったのは奇妙な形の刃物――七支刀をその手に握る陣野愛美。
その切っ先は青山の鮮血で濡れていた。


うずくまる青山と、困惑し立ち尽くす切間。
二人に向けて鬼気迫る表情で叫ぶ。

「貴様らのような涜神者が神の御名を呼ぶな!」

再び青山に向けて刃を向ける少女。

「死ね!神を冒涜する悪魔ども!抵抗せずに死ね!」

立ち上がり刃物を構えてこちらに駆けてくる。
発言が支離滅裂で、もはや正気の沙汰とは思えない。

おそらく誘拐され、薬物か何かを投与されて気を違えてしまったのだろう。
専門の医療機関での治療が必要だろうがこの状況ではそれも適わない。

――だからといって。

「このまま青山さんを殺させるわけにはいかないもんでね!」
言いながら、切間は二人の間に割って入り、少女の手首を掴んでその突進を止める。

「陣野さん一体何があったんだ?俺でよければ話を聞くぜ」
青山がそうしてくれたように切間は少女に呼びかける。
彼女を沈静化させるためにあらゆる手段を講じたい。

想い人の凶行を後押ししてしまった自分にそんな資格があるとは思えないが、そうも言ってはいられない。
刺された青山の手当を早急にしなければいけないのだ。イコンとの戦闘をダラダラ続けるわけにはいかない。

「悪魔と交わす言葉などない!邪魔をするな!後ろの男を殺させろ!」
しかし少女は血走った目を更に見開き叫ぶ。七支刀を握る両手に力がこもる。

その表情は幾度となく見てきた表情。
これまで解決してきた事件の犯人たちが被害者や自分に向けてきた憎悪の表情だ。


396 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:33:14 cC6GIK2g0


何故自分たちをこんなにも憎悪し攻撃してくるのかはわからない。
だが青山の消耗を考えると、これ以上長引かせるわけにはいかない。
「陣野さん!ごめん!」
手首を掴まれてがら空きになっている腹に蹴りを入れる。
少女は吹き飛ばされ雪上を転がった。


好機と走り出す切間。だがその耳にパチリと小さな破裂音が聞こえ全身から力が抜ける。
転倒し、分厚く積もった雪に体を埋めた次の瞬間――――切間の体に向けて雷が落ちた。



霹靂をその身に受けた切間は立ち上がれない。
威力は高くなかったようだが体に力が入らない。[[メニュー]]を確認すると『スタン』の状態異常を付与されていた。

何故雪の中雷が落ちるのかについては考えても仕方がない。
(恐らくそうだろうが)少女のスキルだと言われても確認のしようがないし、理由がわかったところでこの状況が好転するわけでもない。
蹴り飛ばした少女が近寄って来るのが目に入る。
15秒もあればその手の七支刀は切間の頸動脈を切り裂くだろう。

この状況を好転させるためには1瞬でも早く立ち上がらなければならない。
ゲームのレバガチャのように泥臭くても足掻くしかないのだ。


体を持ち上げようと勢いをつけて地面に手をつき腕に力を籠める。
反動でなんとか持ち上がった体は、しかし何者かに上から抑えつけられた。


「なんで…!?」
まだ少女は10歩前方にいる。
切間を抑えつけることができるのはただ一人。

「どうして俺を抑えるんだ!?青山さん!」
「俺たちは陣野さんに死を望まれた。だから俺たちは死ななければならないんだ」

何言ってんだあんた。そう言いかけた切間だったが、青山の目を見て全てを理解した。
いつかの事件で関わった麻薬中毒者のように、その目はとても正気の人間のそれではなかった。

(ああ、なるほど)
陣野を見つけた青山が妙にハイテンションだったのは少女のスキルの影響だろう。精神に干渉する系統の何らかのスキル。
たぶん切間が影響を受けていないのは支給された鎧の効果だ。確か精神干渉を防ぐ効果があったはずだ。

それにしてもなんて強力なスキルなのだろう。
あれほど論理的で落ち着いた人物だった青山に、ここまで自分を見失わせてしまうのだから。

青山に抑えられたまま足掻いてみるが、ただでさえ力が入らない体を上から抑えつけられているのだ。STRで勝っていても跳ね除けられない。
少女の危険度を見誤った自分たちの完全敗北だ。


397 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:34:01 cC6GIK2g0


切間は抑えつけられたまま、雪を踏みしめる音を聞く。
一歩、一歩と近づくそれはまるで死神のカウントダウン。

10を数える頃、その音が止み、切間はついに己の傍らに立った少女を見上げる。

ひどい顔だった。
美しい少女の相貌が幻だったかのよう。
とてもとても醜い顔だった。


――綾辻もあの事件の時、こんな表情をしていたのだろうか。


(だとしたら、嫌だなあ…)



それが高校生探偵・切間 恭一の最後の思考になった。



◆◆◆



鎧の男の肉体と返り血が消滅し、辺りにアイテムが散乱する。

それらには目もくれず、イコンはコートの男に七支刀を向ける。

「次は貴様だ。死ね、涜神者」
「ああ!君が望むならこの命、君のために捧げよう!」
あまりにも露骨に瞳を輝かせて応じる男の態度にイコンの興が削がれる。

「………やはりやめだ」

先ほどの鎧の男は成り行きで戦う羽目になった。
『アイドル(古代)』スキルが効いていればそうはならないはずだった。
しかし結果としては戦闘に陥ってしまい、戦いの中で簡単な命令を下しても心揺さぶられる様子を見せなかった。
故にコテージに誘導するのは困難と判断して殺した。

一方この男は神を貶めた大罪人だが、スキルが効いているため容易にコテージまで誘導できる。
何よりこの男には、イコンの為ではなく神のために死んでもらわなくてはならない。

こうした理由から、イコンは青山をここでは殺さず神に捧げることを決めた。


「さ、罪人。神の元に行くのだから早くアイテムを回収してついてきなさい」
「はい!」

いずれ贄となる者たちの足跡はもう少し続く。

神に向かって一直線に。


398 : Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:34:50 cC6GIK2g0



[切間 恭一 GAME OVER]

[C-8/コテージ近辺/1日目・黎明]
[イコン]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
[ステータス]:低体温症寸前
[アイテム]:青山が来ていたコート(E)、受信機、七支刀、不明支給品×1
[GP]:15pt→45pt(勇者殺害により+30pt)
[プロセス]
基本行動方針:神に尽くす
1.コートの男(青山)を贄として神に捧げる
2.コートの男(青山)が涜神者であることを神に説明し、要らないと言われたら心置きなく殺す。
3.何人かの参加者を贄として神に捧げる
4.陣野優美を生かしたまま神のもとに導く
5.郷田薫は殺す、魔王は避ける

[青山 征三郎]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:胸に浅い刺し傷、イコン推し
[アイテム]:エル・メルティの鎧、万能スーツ、支給アイテム×4(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:陣野愛美(イコン)の仰せのままに
1.陣野愛美(イコン)の望む通りに行動する
※イコンを陣野愛美だと誤認しています。


【七支刀】
六本の枝刀を持つ剣。神に縁深き者が使えば様々な効果を発揮する。


399 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/05(月) 20:35:22 cC6GIK2g0
投下終了です。


400 : 名無しさん :2020/10/05(月) 20:58:37 Uz9K2FeA0
投下乙です
イコン飛ばして洗脳で生贄回収する戦法、もはや釣りめいている
探偵コンビ瓦解からの青山さん信者化、もう餌になるか処分されるかの二択になりつつあって切ない


401 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/05(月) 21:46:11 yAYgLnWI0
両名とも投下乙です
>モグラ・ファイト ◆aXWPWp3wcc[
琲汰さんあのまま遭難せずに出られて何より、おっさんにファーストキスを奪われた掘下くんが混乱するのもやむなし
そして塔周りがなかなか混沌を極めてきた、どうなるのか

発掘に関しては、一応後で砂漠のお宝発掘イベントはやる予定だったので、それを先に見つけちゃった感じで問題ないです

>Blasphemous Detective ◆ylcjBnZZno
青山さんテンションたけぇwと思ったら魅了されてた
洗脳スキルが強すぎる、このロワ精神耐性スキルが大事すぎるな


402 : 名無しさん :2020/10/06(火) 02:26:03 FMXfAbF60
お二方投下乙です
>モグラ・ファイト
このロワの地下は重要なポジションになりそうな予感がするな
しかし、排太さんも誤解してるし、登くんも誤解してるし
砂の塔は波乱の予感だ

>Blasphemous Detective
青山さんと切間くんいいコンビだっただけに惜しいな…
アイドルスキルが強いな。このロワでは洗脳が猛威を振るいそう


403 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:37:02 CmtAdshM0
投下します


404 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:37:34 CmtAdshM0
不気味な夜の海を進む二人の少女があった。

一方は仰向けになって水中に浮かび、もう一方がそれに手を添え押すという構図である。
こうしてみれば一方が楽をして一方が尽くすという不平等な構図だが、やむにやまれぬ事情があるのだから致し方ない事だろう。

「あんた胸が浮袋みたいになってるわね」
「うっさいですねぇ、年下にサイズ負けてるからって僻まないでくださいよ」
「ぶっ飛ばすわよあんた」

海流を無視できる海王の指輪を装備している利江にとっては波のないプールを泳いでいるようなものだが。
そうじゃない由香里は利江に頼るしかなく、やることと言えば浮かぶことに専念するしかない状態である。
ならばと、せっかくなんで利江もその浮力をビート版のように利用して泳ぎの助けにしていた。

ある意味では相互補助の関係と言える。
おかげさまで、こうしてお互い顔を上げて会話するくらいの余裕があった。

そうして、しばらく海上を進んで、岩石海岸の小高い陸地が目視出来てきた頃。

「利江さん…………戻ってこないんですか?」

ぷかぷか海面を浮かぶ由香里がそんなことを言った。

「はぁ? いきなり何言ってんの?」
「いやまぁ何となく、その気はないのかなぁって」

由香里の僅かに揺らしたし先が、ぴちゃりと水面を蹴った。
言葉は何の気ない様子を装っているが、その態度からずっと聞きたかった質問なのだろう。
利江がゆっくりとバタ足を続けながら答える。

「金に困ったなんて自分勝手な理由で辞めておいて、ユニットが売れたから戻ります、とは行かないだろ」
「けど……それは」
「ほら、馬鹿なこと言ってんなよ、もうじき陸地に付くぞ」

そう言って利江は会話を打ち切る。
これ以上この話題を続けるつもりはないという意思表示。
その意図を感じ、由香里もそれ以上は何も言わなかった。

固い岩肌へゆっくりと接岸する。
利江が岩肌を掴んで、先に陸地へと上がった。
上下合わせた紫の下着姿が露になり、全身から滴り落ちる水滴が岩の地面を色濃くにじませる。

「ほら、掴まれ由香里」

そして、振り返って海中の由香里へと手を差し伸べる。
だがどうしたことか。
由香里はその手を取らず、青ざめた表情で利江の姿を見上げていた。

「利江さん、後ろ!!」
「え?」

由香里の叫び声に振り替える。
そこには、

「――――オーライ」

金属バットを振り被った凄惨に笑う男の姿が。

ガキンという音。

何の躊躇いもない全力スイング。
金属バットで人の頭をボールみたいにヒッティングした。

血飛沫が舞う。
およそまともな倫理観があればできない行為。
目の前で繰り広げられた惨劇に由香里が声を失う。
そのまま力なく投げ出された利江の体は、今しがた上がってきた暗い海の中に水しぶきを上げて落ちていった。




405 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:37:55 CmtAdshM0
「なんだよ、ハズレの方が残っちまったか」

つまらなさそうに桐本四郎は吐き捨てた。

先に出てきた方を、とりあえず全力でぶん殴った。

二人いるのだから一人は殺していい。
目の前で一人を殺せば残った一人の心も折れる。
そうなれば残った方で楽しみやすくなるだろう。

その程度の考え。
その程度の考えで、人の頭をカチ割った。

だが、違う楽しみ方ができそうなイイ女の方が先に出ててしまったようだ。
残念なことに残ったのは毛も生えそろってなさそうなガキである。

「おら、何やってんだよ。上がれよ」

水面で完全に固まっていた由香里の襟首を乱暴に掴む。
そのまま引っ張り上げると、固い岩石の地面へと放り投げた。

「ッ…………たぁ」

岩盤に尻を強かに打った由香里が痛みに声を上げる。
尻もちを付いた体制の股の間に金属バッドの先が叩きつけられ、岩と鉄がぶつかって火花が散った。

「ひっ…………!」

恐怖に顔をゆがめる由香里の髪が乱暴につかみ上げられる。
無理やりに視線を合わされた。
血走った瞳に正気の色などない。
その恐ろしさに気を失ってしまいそうになる。

「――――死にたくないか?」

地の底から響くような低い声で問われた。
恐怖のあまり声を失った由香里は、呼吸ができない魚の様に口元をパクパクさせる。

その様子に桐本はイラついたように舌を打つと、もう一度金属バットを振り下した。
振り下ろされたバットは由香里の足元、風圧すら感じられるようなギリギリを掠める。
一歩間違えば足の骨がぐちゃぐちゃにつぶれていたかもしれない。
その恐怖に由香里の表情がみっともないくらいに引きつった。

「聞いてんだよ! 死にたくねぇのか!? どうなんだ、あぁん!!?」

怒鳴り声に身を竦めながら、祈るように両手を合わせてこくこくと頷く。
恐怖にひきつったその顔を見て、桐本は満足そうな息を漏らした。
その顔に歪んだ喜びを称えた、笑顔を張り付ける。

カツンと杖みたいに鉄バットを付いた。
その音に、もはや恐怖が刷り込まれているのか、由香里の体がビクンと跳ねた。

「脱げ」
「え…………?」
「服を脱いで素っ裸で踊って見せろ。裸踊りが面白かったら殺さないでやる」

困惑と怯えを含んだ揺れる瞳が桐本を見つめる。
そんな約束を守るとも信じ切れていないのだろう。
その目には猜疑の色が含まれている。
だが従うしかないのだ。

桐本は無様に命乞いをする様を見るのが好きだ。
助かるためなら何でもする様を見るのが好きだ。

勿論面白かったところで殺すのだが。
その期待がい裏切られた瞬間を見るのも大好きだ。

「早くしろ…………!」
「…………ひっ!」

怒鳴りつけられ目じりに涙をためた少女が、葛藤しながら震える指を伸ばす。
その指がアイドル衣装みたいな服の背中にあるファスナーにかかった。

羞恥と恐怖に彩られた顔色。
桐本は尊厳が踏みにじられる様を見るのが好きだ。
プライドやズタズタになった人間の媚びた瞳が好きだ。
自分が相手の命を思い通りに支配しているという万能感を得られる。

「っ………………ぅ」

ファスナーが下ろされてゆき、穢れを知らぬ少女の柔肌が露になろうとした、直前。

「どっ――――せいッッ!!」

下着姿の痴女が、横合いからミサイルみたいに飛んできた。




406 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:38:41 CmtAdshM0
「ぐっ…………ごッ!?」

完全に油断していたのか、ドロップキックが桐本の脇腹に突き刺さった。
勢いに押し出されて、たたらを踏む桐本の体がそのまま海へと落ちた。

「走るよ!」
「え? え?」

現れた下着姿の女、滝川利江が呆けている由香里の手を取る。
戸惑いながらも手を引かれ由香里も走りだした。

「な、なんで無事なんです? 利江さん頭ホームランされてましたけど!?」

走りながら先を行く由香里が下着姿の女へと問いかける。

「無事だったから無事なんでしょ! 多分アバターの耐久にメチャクチャ振ってたからだと思うけど」
「耐久って、なんでそんなところ地味な所に!?」
「うっさい! 地味で悪かったな! 人生耐えられば何とかなるもんなんだよ!」
「うわっ。暗い! あまりにも発想が暗いですよ利江さん!」

利江と軽口を叩きあいながら、先ほどまでビビり散らかしていたことなど忘れたように由香里は調子を取り戻していった。
すぐヘタレるがすぐ持ち直すというのはこの少女の短所であり長所である。

しかし、まだ危機的状況が去ったわけではない。
一刻も早くこの場を遠ざかるべく、連れ立って海岸沿いを駆け抜ける。
どこまで行けばいいのかわからないが、少なくとも身を隠せる場所まで逃げ延びねばならない。
だが、その道半ばで、唐突に利江が膝をついた。

「ちょっと利江さん!? まさかもうバテたんじゃ…………!?」

そう悪態をつこうとする由香里だったが、利江の様子が尋常ではない事に気づき口を止めた。
見れば利江の顔色は青紫色に染まっており、明らかにただの体調不良などという様子ではない。

「ど、ど、ど、どうしたんです!?」
「……わからん。けどこれ以上はろくに動けそうにない。
 私を置いて逃げろ。落ちたって言っても岸の方だ。すぐに上がってくる」
「い、いやですよ! そんなの!」

いきなりそんなことを言われて、はいそうですかと従うほど由香里は薄情ではない。
むしろ感情には素直に生きているからこそ、好きな相手を見捨てるなんてできなかった。

「大丈夫だ。お前が逃げるくらいの時間はしがみついてでも稼いでやるから……」

ここまでにどれほどの無理をしていたのか。
もはや動くことすら苦しいのか、荒い息で悲壮な決意を口にする。
この調子の利江と共に逃げるのはどう考えても無理だろう。

無理でも江利とともに逃げるか、江利を見捨てて逃げるか
由香里は決断を迫られる。

考えている時間はない。
ここで迷っていればあの殺人鬼に追いつかれてしまう。
三条由香里は決断する。

「……戦いましょう。やっつけましょうアイツ」

この決断に驚愕したのは利江の方だ。
青い顔を押して大声を張り上げる。

「はぁ!? 戦うって、無理言うな! 私はこんなだし、お前殴り合いの喧嘩なんてしたないだろ!?」
「大丈夫です! 弟たちと喧嘩したときプロレス技とかかけたりしてますから!」
「バカ! そんな次元の話じゃないだろ! ビビってんだろ!? ヘタレの癖にカッコつけてないでさっさと逃げろ!」

怒鳴りつける利江。
その言葉通り、由香里の手は恐怖に震えていた。
その恐怖は彼女の根元に刷り込まれている。
先ほど殺されそうになった相手だ、怖くないはずがなかった。


407 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:39:29 CmtAdshM0
「そりゃ! そりゃ怖いですよ……。
 けど、多分……ここで利江さんを見捨てる方が、もっと怖いです……ッ!」

由香里が逃げたとして、残された利江がどうなるのか、想像するだけで恐ろしい。
由香里が逃げる時間を稼ぐために自死もできず、あの男を満足させる慰み者にされるのだ、確実に殺された方がましな目にあうだろう。

尊敬していた先輩をそんな状況に追いやるのと先ほど男に追い詰められていた恐怖。
どちらが恐ろしいかと問われれば由香里には答えられない。
同じくらい怖いのなら、利江が助かる方がいいに決まっている。

「だからって……!」
「だから江利さん!!」

それでも続けようとする江利の言葉を大声で遮る。
震えたまま、強がるように笑って。

「だから、頑張れって言ってください。逃げろじゃなくて頑張れって」
「由香里……」
「アイドルってそれだけで頑張れる職業なんですよ。誰かの頑張れで輝けるんです」

利江が言葉を失う。
誰がどう見ても強がりの言葉。
だが、アイドルに憧れた一人の人間としてそれを否定する言葉を江利は持たなかった。
溜息を洩らし、呆れたように言う。

「……それって誰の言葉?」
「ま、まぁ涼子さんからの受け売りですけど……! HSFのスローガンになってるので実質私の言葉と言ってもいいのでは?」
「ハハ。相変わらずねあんたのそういうとこ」
「もう、笑わないで下さいよ!」
「……けど、変わったんだなあんたたちは」

自分の知らないHSFのスローガン。
彼女たちは自分の知らない所で歩んできたのだろう。
その歩みを見せつけられたような気がした。

「それで戦うにしても勝ち目はあるのか?」

戦うことは受け入れた。
だが、何の手段もなければ自殺と変わらない。
この問いに由香里はどこか曖昧に笑うと、それでも確かに頷いた。

「なくはない……ですかね。半信半疑でしたけど、さっきの利江さんを見る限り本当っぽいんで」

言われて、心当たりのない利江が首を傾げた。

「私…………?」




408 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:40:51 CmtAdshM0
海面より這い上がった桐本が彼女たちに追いつくのはあっという間だった。
桐本の敏捷性が最上級であったという事もあるだろうが。
それ以上に少女たちがそれほど遠くまで逃げられていなかったからである。

その理由を苦し気に息を吐く女の顔色を見て桐本は悟った。
恐らくは初撃により桐本の持つスキル、毒攻撃による毒が付与されたのだろう。
たった一発で付与されるなど、よっぽど運がないらしい。

顔色の悪い女を庇うように前に出たのは先ほど桐本に命乞いをしていた少女だった。
逃げるでもなく大鉈を構え、どうやら戦うつもりらしい。

「――――ハッ」

その様子に思わず吹き出す。
堪えきれず、そのまま笑ってしまう。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!
 なんだそりゃ!? 本気かよ!? いいねいいね、最っ高じゃねぇのッ!
 お仲間なんて見捨てて逃げりゃよかったものをよお! 無意味なドラマに浸ってここで無駄に殺されるんだからなぁ!! ヒャハハハ!!」

ヒロイックな感情に流されて最悪な選択を取る阿呆。
その滑稽さは桐本にとって最高の見世物だ。

「いいぜ。そこの女。よく見てろよ?
 お前のせいでこれからこのガキは死ぬ。お前の目の前でゆっくりバラシて殺してやるよ。
 お前はその悲鳴を聞きながら無様に素敵に地面に這いつくばってろ」

バットの先を付きつけて、ホームランみたいに予告する。
それを利江は言い返すでもなく無言で睨み返した。
いや、その視線はそもそも桐本ではなく、立ち向かおうとしている少女の背に向けられていた。

「…………その前に聞かせて、どうしてこんなことをするの?」

由香里が問うた。
その問いに、桐本は下らないと言った風に乱暴に答える。

「どうしても何もねぇよ。お前らは俺を楽しませるためしか存在価値のない生き物なんだよ。
 だから、お前らは俺を楽しませるためにみっともなく喚いてりゃいいんだよ」

下卑た笑みを浮かべる殺人鬼。

「あたしたちはあなたを楽しませるためだけの存在…………」

突きつけられた言葉を反芻する。
それは恐ろしいまでの価値観の違い。
不条理な怪物を前にして、由香里は。


「――――つまり。あなた、あたしより格上って事ですよね?」


確認する様にそう、問うた。
桐本は少しだけぽかんとした後、当然のように応える。

「あぁ? 当然だろ。さっきからそう言って、」
「そう――――じゃああたしの敵じゃない」


三条由香里は思い込みが激しい。


その悪癖によって様々なトラブルを引き起こしてきたトラブルメイカー。
だが、今、この瞬間だけは違う。

下剋上スキル。
格上に対して優位を取る三条由香里の取得したスキル。
アバターの耐久度によって金属バットのフルスイングを耐えた利江の姿を見て、アバターの設定が本物であると確信したからこそこ、スキルに賭けることができる。

このスキルの発動条件は相手が格上であること。
相手が格上かどうかの判定はスキル使用者の主観的認識に縛られる。
表面上ではなく、深層的な領域による判定であり偽証は許されない。
だからこそ、彼女の思い込みの激しさが意味を成す。

相手を大きく見れば見るほど、相手を恐れれば恐れるほど、スキルの効果は高まる。
すなわち、恐怖を強さに変えるスキルだと言える。
相手を恐怖し飲み込まれてしまえばいくら力を得ようともまともに戦う事などできないだろう。
先ほどの由香里がそうだった。

だが、恐怖に縛られ踏み出せない一歩は、背中を押してくれる誰かがいれば踏み出せる。

「由香里―――――頑張れええええ!!!」
「はい! 頑張ります!!」

滝川利江の最上級のアイドル(偽)スキルによる応援効果。
全てが上乗せされた、現在の三条由香里パラメータは――――。


409 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:41:54 CmtAdshM0
「はっ!」

桐本が応援合戦をくだらないと鼻で笑って、バットを構える。
こんな茶番も絶望を引き立てるスパイスだ。
存分に味わって台無しにしてやる。

「行っ、くぞ―――――ぉ!!!」

少女が自らを鼓舞する叫びをあげて、やけくそ気味に飛び出していった。
支給品である大鉈を振り被った真正面からのただの突撃。

そんなものは桐本からすればただの絶好球だ。
イノシシみたいなその突撃を横に躱して、そのままバッドで脳天を叩き割る。
そうすべく、バットを振り被ったが、その狙いはしかし。

「ちィ…………ッ!」

舌を打つ。
桐本の目の前で火花が散った。
カウンターを取るどころか避けることすら叶わず、とっさに金属バッドを盾にして受ける事しかできなかった。

――――速い。
想定以上の速さに不意を突かれはしたものの、反応自体は間に合った。
速度(AGI)は遅れを取っていない
だが、受けた腕に僅かな痺れを感じる。

「ッんのおおおおおおおおおお!!」

小さな少女が声を上げた。
鍔迫り合いのような形から、そのまま強引に力を籠め、男を押し切る。
桐本は舌を打って、手首をひねって力を逸らすとそのまま後方に数歩引いた。

大の男が年端も行かぬ少女に単純な押し合いで押し切られてた。
速度(AGI)は互角でも、筋力(STR)で負けていた。

あり得ない。
こんな小娘に力負けするなど。

「……んなことが、あっていい訳ねぇだろうが!! オレが上で、テメェは下だろうが!」

桐本が吠えた。
捕食者と被食者。
この関係が覆っていいわけがない。
誰が相手であろうとも桐本は常に殺す側でなければならない。

「死ぃ―――――ねぇ!!!」

今度は桐本が攻める。
その烈火の如き気性をぶつける様に、金属バッドを手あたり次第に叩きつける。

「うっ…………くっ!?」

由香里はその猛攻を防ぎながら、ずるずると徐々に後退していた。
攻撃は見えるし正確な反応もできる。
だが、一発ごとに叩きつけられる殺意に身が竦む。
それを振るう恐ろしいまでの形相に飲み込まれそうになる。

「こらぁ! 腰が引けてるぞ! 負けるな! 由香里ィ!」
「ッ! はい!」

叱咤の声。その声に応じる。
応えようと心を震わせる。
烈火の如き打ち込みに対し、怒涛の如く打ち返していく。

「…………バカな」

応援などで何も変わることはない。
桐本四郎は、そんなことは現実にありえないことを嫌と言うほど知っている。
そんな奴らを殺してきた。
そんな奴らも殺してきた。
そんな奇跡はただの一度も起き得なかった。

だが、これは何だ?
あり得ないことが起きている。


410 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:42:46 CmtAdshM0
桐本の一方的な連撃は、いつの間にか互いに攻め手を奪い合う打ち合いに変わっていた。
金属音と火花を散らし、金属バットと大鉈が幾度もぶつかりあう。
空中で弾け離れては、引き寄せられるように再度ぶつかる。

「ッぅううう…………!」

削られる。
手数は互角でも、正確性と一発の重さが違う。
体力(VIT)の差か、先に動きが鈍り始めたのは桐本の方だ。

このままでは押し切られるのはどちらなのか。
その答えは誰から見ても明白だった。

「こんな……事が…………ッ」

あり得ない。
あり得ない。
あり得ない。
あってはならない事が起きている。

桐本の目の前にいるのはどう見てもただの小娘である。
にもかかわらず野生のゴリラでも相手にしてる気分だった。
技術も何もない、ただ純粋に性能(スペック)が違う。

「…………ヒャハ、なるほどな。ヒャハハハハハハ」

追い詰められて桐本は狂ったように笑い始めた。

殺人鬼は学ぶ。
この世界は現実とは違うルールで動いていると。

通常の殺し方じゃダメだ。
この世界のルールに沿った殺し方が必要になる。

彼女たちが海岸に上がってきたときの最初の不意打ち。
スキルの発動条件を満たす前に不意打ちで殺しておくべきはこちらだった。
そうだ、あの時なら殺せた。
殺せたはずなのに。

残ったのは本当にハズレだった。

「理解した。理解したよ。ヒャハハハハハハハハハハ!!!」

「――――うるさい。そろそろ黙りなさい!」

言って、打ち出されたのは鉈ではなく、痛烈な後ろ回し蹴りだった。
まるでダンスのステップの様に踏み出されたそれを桐本は鉄バットでガードするが、衝撃までは殺しきれず体が大きく後方に飛んだ。

5メートル近く宙を舞った桐本の体は、そのまま海面を跳ねて、渦潮の中に叩き込まれた。
海に沈んだ桐本はすぐさま顔を出して、自らを蹴りだした女を睨んだ。

「ぷはっ。小娘ぇえ! お前は殺す。犯しながら指の先から解体して、殺す、がぼっ、ヒャハ、ハハハハハ、ごぽぽぽ、ハハッ」

不愉快な笑い声を残して、海流に飲まれて消えていった。




411 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:44:34 CmtAdshM0
海岸沿いの岩盤を進む二人の少女があった。

一方は青紫の顔色で足元ふらつかせて歩き、もう一方がそれに肩を貸し支えながら歩いているという構図である。
こうしてみれば一方が楽をして一方が尽くすという不平等な構図だが、やむにやまれぬ事情があるのだから致し方ない事だろう。

「……利江さん、復帰の話、やっぱり本気で考えてみません?」

道すがら唐突に、支えながら歩く由香里がそんなことを言った。
支えられる利江は困ったような声で応じる。

「…………またその話? ……さっきも言ったけど戻る気はないって」
「まあまあ聞いてくださいって。
 知ってます? 私達ランキングを駆け上がっちゃって今やユニットで3位なんですよ3位!」
「……知ってる。知ってるよ。ずっと応援してた」

HSFの活躍を、自分のことのように喜んでいた。
辛い日々も彼女たちの活躍に励まされてきたから耐えられた。

「だから利江さんは、あの反則みたいな1位と2位に勝つための切り札なんですって!」
「…………切り札ねぇ」

元気のよい声とは対照的に曖昧につぶやく。
HSFの一員として輝かしい舞台に立つ自分。
その姿を想像したことがなかったと言えば嘘になる。

「大丈夫ですって。可憐さんは受け入れてくれるだろうし、ソフィアさんはあの人楽しければ何でもいいでしょうし。
 キララは……まぁ、あいつそう言うの嫌いそうですけどぉ。あたしが説得しますって、大丈夫。あいつあたしの子分みたいなもんですから何とかなりますって」

楽しい未来を描く様に由香里は努めて明るい声で捲し立てる。
そうだったらいいなと利江もそう思う。
だけど。

「涼子さんは………………ま、まぁ何とかなりますって、絶対!
 全員で泣き落とせばあの人イヤって言えませんから、厳しいようでなんだかんだ私たちに甘いので!」

クククと悪だくみをするように笑う。
毒が回って曖昧な頭でその顔を見つめて。

「立派にアイドルなんだなぁ、あんたも…………」

あの時。
殺人鬼に立ち向かうと決めた由香里を見て、そんなことを思った。

それが全てだ。
そう思った時点で利江はアイドルではくなった。
誰か輝かせる側ではなく、その輝きを浴びる側の人間になってしまったのだと、あの瞬間残酷な事実を突きつけられたのだ。

もう彼女たちは自分とは違う。
それが嫌と言うほど理解できた。

まさかよりにもよって一番の問題児だった由香里の成長に引導を渡されることになるとは思わなかったけれど。
だからこそ、どこか清々しい心境だった。
ずっと燻っていた未練が晴れたような気がした。

「え、今の言動のどこら辺が?」
「……自覚あったのかよ、あんまり涼子や可憐に迷惑かけんなよ」


412 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:45:02 CmtAdshM0
[H-3/海岸沿い/1日目・黎明]
[三条 由香里]
[パラメータ]:STR:D→B→A VIT:C→A AGI:B→A DEX:C→A LUK:B→A(下剋上の効果でLUK以外が一時的に2ランク上昇(上限A)、アイドル(偽)の応援効果により全ステータスが一時的に1ランク上昇(上限A))
[ステータス]:疲労大
[アイテム]:大鉈(E)、不明支給品×2(確認済)
[GP]:0pt(まだメールを開いていません)
[プロセス]
基本行動方針:HSFみんなと合流。みんなで生きて帰る。
1.利江を解毒する

[滝川 利江]
[パラメータ]:STR:C VIT:A AGI:C DEX:B LUK:E
[ステータス]:状態異常:毒(B)、衰弱、頭部裂傷、下着姿
[アイテム]:海王の指輪(E)、不明支給品×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:HSFみんなと合流。みんなを生きて帰す。
1.解毒手段を探す
2.なるべく殺人はしない。襲われたら容赦しない。
※衣服及び暗視スコープはG-1東側の陸地に放置されています。
※毒(B)の効果を解除しなければ3時間ほどで死亡します、またこの制限時間はダメージなどの体力減少により短縮されます

[?-?/海中/1日目・黎明]
[桐本 四郎]
[パラメータ]:STR:B VIT:D AGI:A DEX:C LUK:B
[ステータス]:疲労中、ダメージ小
[アイテム]:野球セット、不明支給品×2(確認済)
[GP]:25pt
[プロセス]
基本行動方針:人が苦しみ、命乞いする姿を思う存分見る。
1.恥辱を味合わせた女二人を殺す。特に小娘(三条 由香里)は確実に殺す。
2.称号とか所有権は知らんが、狙えるようなら優勝を狙う。
※海流に流されました、どこかに流れ着くかそのまま溺死します

【野球セット】
金属バットとグローブと硬球の1セット。
セットと言いつつこれだけではノックくらいしかできない

【大鉈】
巨大な鉈。丈夫だが特殊効果などはない。


413 : バイバイ、アイドル ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 20:45:34 CmtAdshM0
投下終了です


414 : 名無しさん :2020/10/06(火) 20:54:10 FMXfAbF60
投下乙です
VRならではのスキルやパラメータが作用したバトルで素晴らしい!
しかし桐本の脅威は未だ健在!
どうなる利江由香里って感じですね


415 : 名無しさん :2020/10/06(火) 21:16:12 T9UVzpBs0
投下乙です
普通なら間違いなくアイドル組詰んでたんだろうけど、アバターの特性駆使してちゃんと渡り合ってて面白い
アイドル二人の掛け合いも微笑ましいけど流石に状態異常は危ない、素殴りで毒付与させるのは地味ながら強いな……


416 : 名無しさん :2020/10/06(火) 21:21:57 LDnMyIq.0
投下乙です
由香里は下剋上だけでも桐本に勝てるパラメータだけど、利江がいないと立ち向かう選択はできなかった
二人の絆の勝利ですね
それにしてもこの殺人鬼ノリノリである


417 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/06(火) 23:30:43 D208x52U0
投下します


418 : 「楽しくなってきた」 ◆ylcjBnZZno :2020/10/06(火) 23:34:11 D208x52U0
雪原に聳え立つ巨大な塔。
その頂上に置かれた白いオーブが光り輝き、雪の塔は制圧された。

「うーん。拍子抜け…というか興醒めネ」

頂に立つ男は落胆した表情で頬を掻く。

その頭や肩には雪が乗っている。
おそらくは長時間屋外にいたのだろう。

「まさカ誰一人塔を取りに来ないなんてネ」


このシャという男、最初に遭遇したけるぴーこと馬場堅介を殺害した後、スタートダッシュボーナスの期間中にもう1、2人殺しておきたいと思い参加者と接触しようとした…のだが。

姿を隠してみたり、逆に大声で叫んでみたり、大の字で寝転がってみたり、途中まで塔に登って上から眺めたり、少し塔から離れて探索してみたり、山に登ってみたり下りてみたり、中央エリアに渡る橋の前で仁王立ちしてみたり。
とまあ次なる獲物を求めてかなり頑張って動き回ったのだが、誰一人シャの前に現れることはなく、そうこうしている間にスタートダッシュボーナスが終わってしまったのだった。

「これだけ探して見つからナイとなるト、ココからはもう離れた方がいいだろうネ」
1時間以上近辺を探したが人っ子一人見つからない。おそらくこの辺りがスタート地点となった参加者自体が少ないのだろう。
それに中央や砂漠と比べればこのエリアはとにかく寒い。
仮に中央エリアで大規模な戦闘でも発生してくれればあるかもわからないが、こんな序盤では中央からわざわざ厳しい環境に流入してくることもないだろう。

となると雪の塔を制圧した今、もはやこのエリアにいても旨味はない。
中央エリアに移動すべきかとも考えたシャだったが、マップを見てあることに気づく。


419 : 「楽しくなってきた」 ◆ylcjBnZZno :2020/10/06(火) 23:34:47 D208x52U0
「オヤ。砂の塔も制圧されたカ。」

雪の塔には支配者であるシャの名が記されている。
そしてその隣のエリアにある砂の塔。ここにも既に支配者の名が記されていた。
支配者の名はBrave Dragon。
先ほど出会ったけるぴーがリア友だと言っていたプレイヤーだ。

シャの口元が三日月のように歪む。
けるぴーとの戦いはそれなりに楽しめた。
彼のリア友だというのなら期待が持てる。
けるぴーからはBrave Dragonについて、脳筋プレイを好む人間で、FW3では大剣を抱えて敵陣に突撃してよく蜂の巣になると聞いている。
けるぴーとはまた違った戦いが楽しめるだろう。


「決まりだネ」


次なる目的はBrave Dragonとの交戦だ。
目標が雪の塔を制圧しにこちらに向かっている可能性もあるが、殺されたくない一心からどこかへ逃げ去ってしまっていることも考えられるし、案外彼が好戦的で砂の塔を制圧しに来る者を待ち伏せているかもしれない。

いずれにせよ己が向かうべきは砂の塔だ。


さあ――楽しくなってきた。


[A-5/雪の塔近くの雪原/1日目・黎明]
[シャ]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3、タリスマン
[GP]:100pt
[プロセス]
基本行動方針:ゲームを楽しむ
1. Brave Dragonとの交戦
2.砂の塔の制圧


420 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/06(火) 23:43:51 CmtAdshM0
投下乙です
登くん狙われまくり。塔の支配、リスクが高すぎるのでは?
たまたま戦闘狂が周囲にいた運の悪さもあるだろうけど、登くんの運命はどうなるのか


421 : 名無しさん :2020/10/07(水) 02:06:07 6IEt3eEQ0
投下乙
登くん周辺は危なそうな雰囲気になったな
排太、堀下くんもそこに居合わせるとなるととんでもないことになりそう


422 : 名無しさん :2020/10/07(水) 07:18:25 aHkfPljM0
投下乙です
初期配置が積雪エリアなのは4人しかいなかったから出会えないのも仕方ない
2つの塔が近いのは良い感じに火種になりますね


423 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/08(木) 21:03:58 L/JAccnk0
投下します


424 : 水を得た魚 ◆H3bky6/SCY :2020/10/08(木) 21:06:36 L/JAccnk0
「足元気を付けてね」
「う、ん。あっ」
「ほら、言ってるそばから」

階段の段差に躓きかけたブロンド美女の手を、ベリーショートの長身な少女が取った。
その手を引いて最後の階段を登り切る。

手を引く少女は背丈こそかなりの長身だがその顔付きにはまだ幼さを残っていた。
肉付きも成熟した女性とは言い難く、まだ成長途中の年頃であることがうかがえた。

手を引かれる女はブロンドの髪に豊満なバスト、成熟した大人の女性と言った外見である。
しかしどこか呆けたような表情をしており、それは幼さと言うより危うさを感じさせた。

手を引く少女と手を引かれる女、未成熟な少女と成熟した女性。
傍から見てどちらが保護者かと問われれば答えに窮する事だろう。

だが、アバターの外見は自由に設定できるため中身とが意見が一致しないこともある。
巨乳ブロンドの中身が3歳児であることだって、あり得るだろう。
少なくとも高井丈美はそう認識している。

高井丈美とヴィラス・ハークの二人は水の塔の最上階にたどり着いていた。

これからどうしたモノかと思案していたところに、どういう訳かヴィラスが遠くに見える塔に強い興味を示した。
丈美としても行く当てがなかったため、とりあえずやってきたのだが。
これでよかったのかという後悔は拭えなかった。

水の塔は30mくらいの石造りの円柱の塔で、まっすぐなピサの斜塔と言った風な外観だった。
塔の内部には螺旋階段が敷かれており、その横幅は他の人間が逆方向から来たらすれ違うのも難しいくらいに狭い。
階段は入り口から最上部までの一本道であり、逃げ場のない構造だった。
避難するには所々ある窓枠から外に飛び降りるくらいしかないだろう。

階段を登っている間、もし本当に上から誰か来たらどうしようと不安だった。
どうにか階段を登り切り最上部へとたどり着いたが、フロア中央にそびえる台座に祭られたオーブ以外に特に何もない。
他にあると言えば、半楕円に切り抜かれた窓から見える景色くらいのものだろうか。

丈美は高い所から見る景色が好きだ。
バレーが高さのスポーツだからと言うのもあるだろう。
それとも高さが好きだからバレーを選んだのか。
その辺はもうよくわからない。

高く、より高く。
全力で跳躍した最高到達点から見る景色は最高に気持ちがいい。
だからこそ、塔の頂上からん景色にも少しだけ期待していたのだが。

「うーん。ちょっと残念だなぁ」

昼間だったら島中を一望できたかもしれないが、夜では景色がほとんど見えない。
街の明かりもないから暗闇が広がるばかりで、南にそびえる灯台の光が見てとれるくらいである。
あれは火山エリアのマグマだろうか、目を凝らせば遥か遠くの方で僅かに赤くにじんで見えた。


425 : 水を得た魚 ◆H3bky6/SCY :2020/10/08(木) 21:08:06 L/JAccnk0
「……いっ。だからかじらないでよ」

夜景を眺めていた丈美の肩をヴィラスがかじった。
別にたいして痛くはないが、涎が付くので少し汚い。
繰り返されると、わずらわしく思ってしまう。
3歳児ってかじり癖があるんだろうか? とも思ったが丈美は一人っ子だからその辺はよく分からなかった。

「あレ」

そう言ってヴィラスが指さしたのは中央。
どうやらオーブに興味を示しているようである。
オーブは電源を落とした電球のように光を失っており、誰かに灯されるのを待っているようにも見えた。

丈美は一通りのルールは熟読した。
確か、中央を除く各エリアの塔はオーブに触れることで支配することができるとか言うルールだったはずである。

それがヴィラスが塔に興味を示した目的なのだろうか?
3歳児にそんな判断ができるとも思えないが。

「おーぶ」
「あ、待って」

ふらふらと中央のオーブに近づいてゆくヴィラスを慌てて止める。
あれに触れればこの塔の支配者はヴィラスという事になるだろう。

やらせていいのか?
そんな疑問が頭をよぎる。

塔の支配者はたしか名前が表示されてしまうはずである。
正直、ゲームの事はよくわからないので、これがメリットなのかデメリットなのかいまいち判断がつかない。

そもそも面識のない相手の名前が出たから何なんだとも思う。
実際、砂の塔と雪の塔の支配者が表示されているが、そうなんだ、くらいの感想しかない。

意味があるとしたら知り合いの名前が表示された時くらいだろう。
仮に今表示されているのが陣野先輩や青山さんだったら、丈美もそこに向かっていくかもしれない。

「――――そうだ」

仮に参加者の中に彼女を知る人間――もしかしたら保護者なんか――がいれば、この子がここにいるというメッセージになるのではないだろうか?

うん。それはいいかもしれない。
自分の発想を褒め称える。
正直、子供の世話なんてしたことがないので持て余しつつある。
預けれる人がいるなら預けてしまいたい、というのが丈美の本音であった。


426 : 水を得た魚 ◆H3bky6/SCY :2020/10/08(木) 21:09:08 L/JAccnk0
「ぅう」

ヴィラスが自らの動きを制する丈美に恨めし気な視線を送る。
丈美は少しだけ思案したが、結局好きにさせることにした。

解放されたヴィラスが中央のオーブに近づいてゆき、手を伸ばす。
伸ばされた手でそのまま台座にしがみ付いて、カジカジとオーブをかじった。

「こらこら」
「あぅう…………」

引きはがす。
唸る姿はとっても悲しそうだった。
どうやらかじった歯の方が痛かったらしい

「仕方ないなぁ。こうやって……こう、かな?」

ヴィラスの手を取ってオーブの上にのせる。
すると、それが認証の合図だったのかオーブが淡い光を放ち始めた。

夜に美しい青が灯る。
光を放つオーブの中で波打つように水が揺らめいた。
まるで水晶の中のアクアリウムのようだ。
これには丈美も目を奪われる。

ヴィラスも同じく目を輝かせながらオーブを見つめていた。
だが、その興味は光というより中で揺れる水に向けられてる様子である。
水が好きなんだろうか?
もしかしたら海に近い所で育った子なのかもしれない。

「ん…………?」

目の錯覚か。
一瞬、オーブを見つめるヴィラスの体にノイズのようなようなものが奔った気がした。
チラつくように見えたのは。

「…………サ、メ?」

何故、そう思えたのか。
否定するように首を振って目を擦る。
再び彼女の姿を見てみれば、そこにあったのはこれまで通りのヴィラスの姿だった。

「疲れてるのかな…………?」

部活動でくたくたになってもこんなことはなかったのだが。
色々あった精神的疲労だろうか?


427 : 水を得た魚 ◆H3bky6/SCY :2020/10/08(木) 21:10:43 L/JAccnk0
「満足した?」
「しタ」

それならば、もうこの塔に用はない。
ヴィラスの名に気づいた人間を待つにしても、逃げ場のない塔で待つよりは外で待てばいいだろう。
丈美としては誰か来る前に一刻も早く降りてしまいたかった。
ヴィラスの手を取って、歩き出す。

「痛っ! 強いってば。噛まないでって!」

指をかまれて思わず振り払う。
これまではたいして痛みのない甘噛みだったが、今回はよっぽど強く噛んだのか、噛まれた指に鋭い痛みがはしった。

「もう噛んだらダメだってば! 次やったら本当に怒るからね!」

痛みと溜まっていた物もあり、強めに叱りつけた。
ヴィラスは少しだけシュンとしたようにうつむく。
どこまでこの説教が届いているのか分からなかったが、そうシュンとされるとこっちが悪かったように思えてしまう。

「…………大声出してゴメン。ほら、行こう」

そう言って手を差し出す。
今度は歯ではなく、ちゃんと手で握り返された。

※水の塔の支配者が[ヴィラス・ハーク]に書き換わりました。
 この情報はマップ上から確認できます。

[F-8/水の塔/1日目・黎明]
[高井 丈美]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康、指に痛み
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:ヴィラスの保護者を探して預けたい
1.とりあえず塔の周辺で待ってみる
2.陣野先輩も探したい。
3.出来れば青山さんとも合流したい。
※ヴィラス・ハークの正体を3歳の子供だと考えています

[VRシャーク(ヴィラス・ハーク)]
[パラメータ]:STR:E→D VIT:E AGI:E→D DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康、鼻が少し赤くなっている
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:150pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.食べたい
※水の塔の支配権を得たことにより水属性を得て本来の力を僅かに取り戻しました


428 : 水を得た魚 ◆H3bky6/SCY :2020/10/08(木) 21:10:56 L/JAccnk0
投下終了です


429 : 名無しさん :2020/10/08(木) 22:07:17 tqae4rfg0
投下乙です
サメが水を得てパワーアップ、理に叶っている
三歳児を見捨てられない丈美ちゃんがエサになりませんように


430 : 名無しさん :2020/10/09(金) 00:59:18 .mgl4riI0
投下乙
サメちゃんと高井さんのやりとりがほのぼのする
そんな回でした


431 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:22:45 4NScjgzI0
投下します


432 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:24:11 4NScjgzI0
「よう。久しぶりじゃねぇか、優美」
「――――――――お、前」

声をかけられた女、陣野優美は戸惑ったように目を見開いた。

それは彼女にとってまさかの出来事だった。
青天の霹靂だったと言ってもいい。

探し求めた復讐対象の一人。
必ず見つけ出して、どれだけ逃げ回ろうとも、どこまでも追い詰めて殺してやる。
そう決意していた相手が、探すまでもなく、逃げるでもなく、向こうから話しかけてきた。
これを戸惑うなという方が無理があるだろう。

「まったく、異世界の次はVR空間とはつくづく俺たち変なことに巻き込まれるな」

郷田薫は語り掛ける。
当たり前の様に。
何事もなかったように。
久しぶりに出会った友人に語り掛けるように。
その態度が優美を更に戸惑わせた。

「……お前。お前ッ! どういうつもりだ!!?」
「は? どうしたいきなり。
 てかなんだよその姿。はは。魔王城のモンスターみてぇ」

謎の狙撃手との戦闘において異形化した優美の姿を薫は笑う。
あまりにもあっけらかんとした態度に怒りよりも戸惑いが先に立った。
だが、徐々に呆けた頭に憎悪が思い出されてゆく。

「どうしただと…………!? お前がそれを問うのか? お前らそれを私に問うというのかッ!?」

ヒステリックに頭を掻きむしり優美が怒りと憎悪を吐き出す。
だが、薫はそれが本当に分からないと言った風に首をかしげる。
その態度が更に優美をイラつかせた。

「お前らは私を裏切っただろうがッ!
 あの奴隷商に私を売り飛ばして、あの後私がどんな目にあったか、知らないとは言わせないぞッ!!」

その言葉に「ああ」と納得したように声があがる。

「なんだよ。その話かよ、逆恨みってやつだろ、それは。
 売り飛ばしたのは兆だろ。恨むんなら兆のやつを恨めよ。俺はお前に何もしてないぜ?」
「そうだ! 何もしなかった! 売られていく私を見捨てて笑ってただろうがッ!! 同罪だろッ!!」

優美は激昂した感情をぶつけるが、まるで宇宙人と会話しているみたいに話がかみ合わない。
その感情を受けて薫は腕を組んで考えるように呻り。

「いや、それっておかしくね? お前なんで――――」

薫は本当に不思議そうな顔で。
それが心底おかしなことであると指摘する様に。


「――――自分が助けてもらえる前提で語ってるんだ?」


「……………………………………なに?」

今度こそ本当に優美の時が止まった。
言っている意味がまるで理解できなかった。


433 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:25:05 4NScjgzI0
「何もしなかった俺を恨むってのはそう言う事だろ?
 確かに俺たちはお互い初めてのカレカノで初めての相手だったけどよぅ。別れたんだから他人じゃん。
 まあ友達ではあっただろうけどそれだけだろ。身内の愛美ならともかく俺にお前を救う義務はなくね?」
「お前は…………」

優美の体がわなわなと震える。
このままでは内部で膨張した感情が爆発しそうだった。

「そりゃあ俺には金があったよ? お前を助けるだけの金を持ってたさ。
 けど、それをどう使うかは俺の意思でしょ。俺の金は俺の物なんだから」
「お前は、どこまで…………」

握り締めた拳は爪が鋭く尖り始め、食い込んだ手の平を血で濡らした。
砕けんばかりに噛み締めた歯が徐々に牙の様に変質していった。

「それを使って助けて感謝されるってんならわかるけど、助けなかったから恨まれるってのはおかしいだろ。筋が通ってねぇよ。
 その理屈が通るってんなら世界中の金持ちは金に困っってる人間に勝手に恨まれることになるじゃんか。それはおかしいだろ」
「お前は、どこまで腐ってるんだ…………ッ!!」

叫びと共に怒りを爆発させる。
それを受けてもなお薫の対応は冷ややかだ。

「おいおい逆恨みの次は逆切れかよ。真っ逆さまだなお前」
「身勝手な理屈を並べるな!! 仲間を裏切った自覚はないのか!? そんなに金が大事か!?」
「ああ大事だね。金はいいぞ優美。何でも買える、手に入らないものはない」

まるで悪びれず世界を救った勇者は言う。
異世界の経済を混沌に貶め、己が一人の欲望を成し遂げた男の言葉だ。
その言葉を、優美は心底下らないと笑い飛ばした。

「ハッ! 何でも買えるって言うんなら、学歴でも買ったらどう?」

薫のこめかみがピクリと動いた。
それが男の逆鱗だったのか、ここにきて始めて憎悪の感情を露わにした。
それを理解した上で、優美は見下した口調で続ける。

「ああ、だけど。品性は買えないか」
「俺様をバカにすんじゃねぇ――――――殺すぞ」
「こっちは最初から――――そう言ってるんだよッッ!!」

互いに殺意が露わする。
それが開戦の狼煙となった。


434 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:25:47 4NScjgzI0
今こそ復讐を果たす時だ。
待ちきれぬと優美が駆けだした。

一歩大地を踏みしめる度に、憎悪が染み渡り、肉体を変質させて行く。
引っ提げられた異形の爪が憎き仇を引き裂かんと振り下ろされる。

「……ッ!?」

だが、砕けたのは振り下ろした爪の方だった。
その眼前には鉄の盾。
どこからともなく出現した鉄塊によって防がれた。

動きの止まった優美に向けて薫がダンと地面を踏みつける。
すると、優美の足元から彼女を串刺しにせんと幾本もの鉄杭が創造された。
優美はそれを読んでいたように後方に跳躍してそれを避ける。

――――創造魔術。

この世のあらゆる物質を生み出せる万能魔術。
生み出す際にどのような形状でも自由自在に設定できるため、応用すれば加工困難な鉱物などを成形した形で生み出すこともできる。
また希少鉱物であろうとも大量生産が可能であり、人々の暮らしを豊かにするための魔術である。
四大魔術の中で最も汎用性が高いのはこの能力だろう。

だがそれら全ては使い手の知識と発想力に依存する。
求められるのは、どの状況に何の物質が有効かなどの最適解を導き出す知識と対応力。
現在の使用者には、その両方が欠けていた。

彼が主に生み出すのは金と鉄。
金を無限に生み出すその魔術により異世界の経済は完全崩壊したがそれはまた別の話。
何がどう使えるのか理解できていないため、戦闘時には取りえず丈夫な鉄で対応する。
優美がいた頃から、まるで成長していない。

加えて、先ほど生み出したのは四角いだけの鉄の盾。先を尖らせただけの単純な鉄杭。
想像魔術は生み出す際に形状も指定できる。
だが、構造の知らないものは作れないため、精密機械どころか銃すら仕組みを知らないため作れない。
生み出すのは鈍器や刃物といった単純な構造をした物だけである。

「ハッ! 鉄、鉄、鉄、鉄! 馬鹿の一つ覚えね! ほんと馬鹿は大変ね!」
「だから俺様をバカと――――呼ぶんじゃねぇ!!」

怒りをむき出しにして薫が吠える。
同時に、優美の頭上に幾つもの黒い球体が浮かんだ。

その名の示す通り、創造魔術に出来るのはあくまで創造のみであり生み出したものを操れるわけではない。
故に、生み出したものを敵にぶつけるには先ほどの様に創造したものを最初から敵に当たる様に生み出すか、もしくは。

「こういう使い方もできるってこった!!」

薫が誇示するように自らの頭を指す。
創造の座標を空中に指定することにより、単純に重力落下により移動させる。
これこそが、薫の考案した鉄の雨。

巨大なボーリング球のような鉄塊が雨のように降り注ぐ。
それは悪夢のような光景だった。
その真下にいる優美に回避する術など無いだろう。


435 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:26:41 4NScjgzI0
「――――やっぱり馬鹿ね。お前は」

優美が怪物化した片腕を天に掲げてそう言った。
雨の様に隙間なく降り注いだところで、止まっていれば当たるのは一つ二つ。
それでもまともにぶつかれば致命傷にはなるだろうが、上から来ると分かっているのだから対応は可能だ。
10kgを超える落下物を受け止めるなど仮に分かっていても困難なことかもしれないが、憎悪により増強された今の筋力ならば不可能ではない。

優美が手の内にある鉄球を握り締める。

創造魔術の利点にして最大の弱点。
創造魔術によって生み出された物質は残り続ける。
それは生み出した術者にも消し去ることはできない。
つまりは、相手に武器を与えてしまうと言う事だ。

大きく振りかぶって10kgの鉄球を投げ飛ばす。
創造の勇者の命を奪わんと、まるで砲弾の如き勢いで鉄球が奔った。

炸裂するような音が響いた。
砲弾は巨大な鉄塊にぶつかって弾けるように明後日の方にひしゃげて消えた。
それは1m近い厚さの鉄塊だった。
これ程の厚さ、おそらく戦車砲でも打ち抜けまい。

「ハッ。臆病者め」

たかが砲弾一つにこれ程の全力防御を敷いたその性根を嘲笑う。
その嘲りに勇者は羞恥と怒りに顔を赤らめ、敵を罵る。

「ッぅ! こ、この。化け物め!」
「ああそうだ。お前たちが作った――――化け物だ!!」
「くっ!」

再び迫る怪物。
それを前に、勇者は僅かに怯んだ。
小さく舌を打ち、アイテムから『W』の文字が書かれた黒い球体を取り出す。
そして先ほど盾として生み出した巨大な鉄塊に向けて投げつけた。

「!?」

ズズズと重い何かを引きずるような音がした。
駆ける優美の目の前で異様な変化が起きていた。
1m四方の長方形が更に巨大化する。
手足の様なものを生やして立ち上がり、生み出された顔の様な紋様が叫ぶ。

『ワルダーマ!』

鉄が人格を得る。
そこにいたのは見上げるような巨人。
全身鉄製の怪物だった。


436 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:27:51 4NScjgzI0
巨大な鉄拳が振り下ろされる。
一瞬呆気に取られていた優美だったが、咄嗟に反応しその拳を避ける。
標的を見失い行き場を失った拳が地面を打った。

瞬間、まるで爆撃でも受けた様に地面が爆ぜる。
何という破壊力。
憎悪によって進化した優美でもまともに喰らえばひとたまりもないだろう。

「このっ!」

地面に拳を叩きつけた体制となった鉄巨人の、下がった頭を全力で蹴りだす。
だが、返る手ごたえは重厚な鉄その物。
余りにも固すぎる。

『ワルダーマ!』
「!?」

鉄巨人の口から紫の煙が吐き出された。
咄嗟に自らの口元を押さえるが遅い、僅かに吸い込んでしまった。
胞子のようなそれを吸い込んだ瞬間、優美の動きが大きく鈍った。

『ワルダーマ!』
「しまっ…………!?」

そこに横殴りに放たれる大振りの拳。
躱しきれず、優美の体は吹き飛び地面に叩き付けられた。

「がは…………っ!!」

血を吐いた。
地面にめり込む優美の体を容赦なく巨大な腕が掴みあげた。
まるで人形のように鉄の片腕に優美の体が収まる。

「ハハハハ。なんだよ! 強いじゃねぇか! どうした優美!?」

予想以上のワルダーマの成果に気分を良くした勇者は嗤う。
拘束された復讐者はそれを忌々しそうに睨み付ける。
その視線が気に喰わなかったのか、勇者はつまらなさそうに舌を打った。

「そうだな。まずは俺様を傷つけようとしたその悪い両腕をへし折れワルダーマ」
『ワルダーマ!』
「なっ! やめろ…………くっ、離せ……!」

拘束を解こうと鉄巨人の手の内で優美が暴れるが、まるでビクともしない。
鉄巨人の力が尋常ではないと言うのもあるが、力が入らない。
先ほどからずっと吸い込んでいる胞子の影響だ。

胞子を吸い込むたびに脳がぼやける。
精神が衰弱して憎悪が薄れる。
それは彼女の能力に対して致命的だった。
憎悪が薄れればそれに伴い肉体が人間に戻る。弱くなる。

固く巨大な親指と人差し指が優美の細い腕を摘まんだ。
その指に力を籠められ、まるで乾いた枝木の様に優美の腕がポキリと折れた。

「ああああああああああああああああああああああああああ!!」

痛みに絶叫する。
そんな優美の様子にも一切構わず。
鉄巨人は無感情に逆の腕も摘まむと、あっさりとへし折った。


437 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:29:22 4NScjgzI0
「ぁ……うっ…………くっ……」

両腕をへし折られた痛みに涙をこぼして嗚咽する。
痛みなど慣れ切ったはずなのに、胞子によって弱った頭はその痛みを享受して逃れたがっていた。

「ははっ。いいざまだな優美。昔のよしみだ。寛大な俺様は今謝れば命だけは許してやるぞ」
「助、かる…………?」

胞子を吸うたび、境界がぼやける。
憎しみすら白い靄の向こうに消え去ってゆく。
あるの痛みと、この痛みから助かりたいと言う懇願だけだ。

「…………ふざけるな」

そんな自分に唾を吐く。
噛み切るつもりで舌を噛んだ。
ぼやけた頭でも感じられる鋭い痛みがあの地獄を思い出させてくれる。

両腕をへし折られ涙を流して泣き叫ぶしかない自分。
それは、あの頃の自分だ。

同じように痛みを与えられ。
同じように懇願を続けて。
ただの一度も叶えられなかった。

それを覆すための今だ。
それが復讐のための原動力。
それが、こんな訳の分からない人形の、訳の分からない胞子ごときに。

「――――こんなもので、こんなもので私の憎悪が途絶えるとでも思ったか…………ッ!!」

曖昧だった優美の瞳に憎悪の火が再点火される。
手を使うでもなく思考一つでアイテム使用ができるのが便利だ。
優美が使用した支給品は二つ。

一つは『興奮薬』。
状態異常:興奮を付与するアイテム。
本来は敵に使用して状態異常を与えるものだが優美は自らに使用した。
これにより曖昧になった頭を強制的にハイにした。

そして、もう一つは

「なっ…………!?」

優美を握りしめる鉄巨人の腕が唐突に爆発した。
爆風により拘束が僅かに緩んだ、その隙に優美は拘束から脱する。

だが握られた手の中で爆発すれば、その指向性を全てその身で受けることになる。
両腕は折られ、爆発を受けた全身は焼けこげ、所々骨すら覗いてる。
生きているのが不思議なくらいだ。

だが、肉が蠢く。
死ななければそれでいい。
再燃した憎悪は最高潮である。
肉体は驚異的な速度で再生してゆく。

「ぐるるうううぅぅっぅうううう!!」

憎悪により肉体は人間から離れてゆく。
あるいはその心も。


438 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:30:27 4NScjgzI0
「っあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

叫びを上げて優美が駆ける。
真正面の鉄巨人に向けて。

拘束からは脱した。
だが、それがどうしたと言うのか。
一瞬唖然としたものの、薫の余裕は崩れない。

鉄巨人は強い。
優美が何をしても通じず、ダメージすら与えられない。
優美では絶対に勝てない相手である。

それは紛れもない事実だろう。
だが、そもそも優美はこいつを倒す必要がない。

「薫ぅぅううううううううううううううううう!!!」

獣のような咆哮。
優美の目的は鉄巨人ではない。
最初から郷田薫一人である。

優美が駆ける軌道を変える。
鉄巨人はその動きに対応できなかった。

絶対無敵の鉄巨人。
固くて強くて、遅い。
全体が重厚な鉄であるが故に、その動きは小回りが利かず遅い。

鉄の巨人を躱して駆け出す。
だが、鉄巨人の巨大なリーチをもってすれば、すぐに追いつく。
故にチャンスはこの一度きり。

「ちっ!」

勇者が復讐者を迎え撃つ。
瀕死の優美なら倒せるという判断だろう。
その手には創造魔術によってつくられた日本刀が握られていた。

振り下ろされる刃。
両腕の動かない優美にこれを防ぐ術などなく、竹割りのように脳天に刃が吸い込まれてゆく。

「なっ…………!?」

驚愕の声は男の物だった。
振り下ろされた刃は魔物が如き怪物の牙に咥えられ、そのままいとも簡単にへし折られた。

男は驚愕しているが、女にとっては当然の結果である。
折り返しも焼き入れもしていない日本刀など、ただの薄っぺらい鉄だ。
そんなことも知らないのか。


439 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:31:34 4NScjgzI0
「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

そのまま肩口から突っ込む。
筋力の差か敵は抵抗することもできず引きずられてゆく。

薫を引き連れて何処かに向かって走り続ける優美。
その狙いに気づいた薫が騒ぎ出す。

「待て、待て待て待て待て待て待て待て、一回待てって!」
「―――――誰が待つかッ!!」

その行き先には、設置された幾本もの鉄杭があった。
止まることなくそこに向かって駆けこんで、自分ごと貫く。

「ぐ、は…………ッ」

一本の鉄杭に共に貫かれる。
胸部の中心を貫かれた薫が、塊のような血を吐いた。

「こ、んな……あぁ…………かーちゃん」

それが最後の言葉となり、串刺しになったままの薫の死体は粒子になって消えた。
それがこの世界の死なのだろう。
同時に、後方で何が巨大なものが崩れる音がした。
恐らく主人を失ったワルダーマが元の鉄塊に戻ったのだ。

「っあ…………ッ!」

自らの体を串刺す鉄杭を引き抜く。
開いた穴からゴポリと血が零れ堕ちた。
超再生と超耐久の合わせ技によって強引にやってきたが、いよいよもって限界だ。
次の復讐の前に、何処かで休みたいが気分は昂ったままであり、この状態で休めるだろうか。

興奮剤の影響か、脳は熱いくらいに加熱していた。
初めて人を殺した。
昔から知る幼馴染をこの手で。

復讐を果たせばもっと心は歓喜で充ちるのだと思っていた。
だが、今優美の心に訪れたのは。

薫とのやり取りを思い出す。
優美が裏切られたと感じたのは、彼らを信じていたから。
友達だと思っていたからだ。
そんな相手を今、殺した。

「うっ」

吐き気をかみ殺す。
だからどうした。

この世界にいる姉を殺し、どこかにいる兆と誠を殺す。
復讐は始まってしまった。


もう止まれないのだ。


[郷田 薫 GAME OVER]

[D-6/草原/1日目・黎明]
[陣野 優美]
[パラメータ]:STR:E→A VIT:E→A AGI:E→B DEX:E LUK:A
[ステータス]:状態異常:興奮、疲労(大)、両腕骨折、胸部に穴、全身に火傷、出血中、いずれの傷も自己再生中
[アイテム]:爆弾×2、不明支給×3(確認済)
[GP]:30→60pt(勇者殺害+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:全部、消し去る。
1.姉(陣野愛美)は絶対に殺す。
2.自分に再び勇者を押し付けたシェリンも、決して赦さない。
※スキル「憎悪の化身」によるパラメータ上昇は戦闘終了後に数分程度で解除されます。また肉体の変質によって自己再生能力もある程度上昇します。

【爆弾】
時限式の爆風でダメージを与える爆弾

【興奮剤】
状態異常:興奮を付与する
興奮状態になるとSTEが上昇するがDEXと判断能力が低下する
また精神異常耐性が低下する


440 : それは転がる岩のように ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 17:31:46 4NScjgzI0
投下終了です


441 : 名無しさん :2020/10/11(日) 18:43:13 UytgZGwQ0
投下乙
ジャイアン死んじゃいやん!(親父ギャグ)
優美と薫のバトルは見応えがあって好き
そしてその結果として優美は復讐者街道まっしぐらだな


442 : ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:06:55 1qXfgUc.0
投下乙です
ジャイアン、真っ先に因縁の相手にぶち当たったのが運の付きだった……
能力は普通に強かったけど、やっぱりワルダーマといい力押しが目立ったのでどの道しくじってそうだった

自分も投下します。


443 : GREAT HUNTING ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:07:23 1qXfgUc.0



ギール・グロウは常に危険を犯す。
スリルを楽しみ、困難を楽しみ、自ら死地へと突き進むことを楽しむ。
例え窮地に追い込まれる可能性があろうと、目的の為ならば博打に出ることも厭わない。

破滅願望の類を持ち合わせている訳ではない。
彼の欲望は無尽蔵であり、彼は盗むことを至上の娯楽としているだけだ。
欲しければ盗む。標的が大物であるならば、難敵であるならば楽しむ。それだけのことだ。
盗んで生きることが幼い頃からの生業なのだ。決して楽な生活ではないが――だからこそ、そんな人生さえも楽しまなければ損である。
彼はそう考えていた。

魔王城への侵入劇は酒場での話題の種になった。
ギールは一匹狼の盗賊だが、決して独りで生きている訳ではない。
所謂盗賊ギルドとの繋がりは持っているし、その手の同業者が集う日陰の酒場で情報収集や雑談に勤しむこともある。
「命知らず」「最強の大馬鹿野郎」「本物の勇者」―――魔王城に忍び込んだというギールの武勇伝を聞いた酒場のアウトロー達は口々にそう言った。
呆れ混じりの驚嘆を肴に、その時のギールは相も変わらず次の標的について考えていた。

喝采を浴びるのは悪くない。
だが、称賛のために盗むのではない。
己のために、この享楽に身を投じるのだ。





一筋の汗が頬を流れる。
鼓動の音が静かに響く。
肉体の反応と緊張感は、生身のそれと何ら変わらない。

海からそう遠くはないE-2、炎の塔まであと数百メートル程の地点。
積み重なった火山岩の大地で、ギール・グロウは足を止めていた。
蛇に睨まれた蛙のように、彼は動くことも出来ずに立ち尽くしている。
その視線は塔の方角とは逆側、50メートルほど離れた地点へと向けられている。
唇を噛み、歯を食いしばる。
気押されぬように、腹を括った態度で『敵』を睨む。

「ほう、人間がいたか」

岩石の上に立ち、ギールを見据える偉丈夫。
悪魔のような角。紫色の肌。漆黒のマント。その異様な風貌は、明らかに人間のそれではない。
それもそのはず。その男はあらゆる魔族の頂点に立つ存在なのだから。
カルザ・カルマ―――異世界を支配線と目論む、魔王だ。


444 : GREAT HUNTING ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:08:07 1qXfgUc.0
目を細め、此方を見定めるように睨む魔王に対し、ギールは金縛りを食らったように固まっている。
見覚えがあった。いや、忘れるはずがない。
アバターとやらを似せて作った紛い物――そんな可能性も思い浮かんだが、あの魔王に化ける輩などいるものか。
そんなことをすれば最後、あらゆる魔族から不届き者として命を狙われる。


「―――貴様もしや、エル・メルティが追い払ったという盗人か」


そして、思い出したように魔王が口を開いた。
その一言を耳にし、ギールの脳裏に記憶が蘇る。
魔王城に侵入した時のことだ。意気揚々と乗り込んだはいいものの目ぼしい宝を見つけられず、やがて魔王の部下と思わしき女騎士に発見され、辛うじて逃げ延びた。
エル・メルティというのは、あの女騎士だろうか。ともかく、魔王はギールの顔を認識していたのだ。

魔王城は魔族のテクノロジーを結集させた要塞だ。魔術を応用した監視機能――現代社会でいう監視カメラのような――なども、城の至るところに設置されているのだ。
怠惰な魔王は部下のハイテクにもよく頼る。
そして怠惰であるが故に勇者出現まで殆ど強行的な行動を起こさず、それが結果として情報の秘匿に繋がっていた。
ギールは魔王城の監視機能を把握できず、そのまま顔を知られてしまうことになった。

魔王城の技術を知る由もなくとも、ギールは今の魔王の一言で悟った。
自身が城に潜入した盗人であることに気付いている。
つまり、相手は自分を間違いなく敵として認識する。
そう、あの魔王の怒りを買うことになる。

先程まで固まっていたギールが、瞬時に地を蹴る。
盗人は迷いなく駆け出す。魔王へと向かっていくのではない、魔王から全力で離れるのだ。
そして疾走と共に振り返り、『アイドルのCD』を手元に出現させる。
そのまま後方にいる魔王へと向けて、円盤とケースを手裏剣のように投擲した。
魔王目掛けて勢い良く迫る二つの飛翔体。
しかし、それらが命中する寸前。

「くだらん」

空中で、静止した。
まるで風のクッションに受け止められるように、円盤とケースが宙に浮いたまま微動だにしなくなる。
紫色の手でそれらを軽く摘み上げ、魔王は走りゆく盗人を睨む。


「我から逃れる気か?」


魔王が一歩、大地を踏む。
そして、次の瞬間。
神風のような勢いと共に、魔王は猛進した。
詠唱もなしに、自身の『すばやさ』を瞬間的に上昇させる強化魔法を発動したのだ。


445 : GREAT HUNTING ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:08:49 1qXfgUc.0
AGIで勝っている筈のギールが、魔王との距離を詰められていく。
ギールは目を見開く――『逃亡』スキルの発動に失敗した。
判定に用いるAGI値は元々大きな差も無く、更に魔王自身のバフによってそれすら埋められた。
元より低い確率の博打に敗北したのだ。故に、逃げることはできない。

ギールが咄嗟に振り返った。
そして、勢いよく右腕を伸ばした。
迫る魔王に掴み掛からんとしているのか。
しかし、その抵抗は虚しく。
彼の肉体に、凄まじい衝撃が叩き付けられた。
それが強化魔法による瞬発力を上乗せした魔王の鉄拳であることに気付く前に。
ギールは容易く吹き飛ばされ、火山岩の大地を無様に転がっていく。

「げほっ、ごほ、がはァッ……」

岩石にぶつかり、漸く止まったギールは血反吐を吐く。
肉体の内側に響くダメージに喘ぎ、悶え苦しむ。
辛うじて致命傷は免れた。幸運だったとしか言い様がない。
VIT値が最低ランクのEであるギールは、下手すれば今の一撃で命を落としかねなかった。
それは奇跡的とも言える。されど、彼の身に叩き込まれたダメージは計り知れない。
一時的な強化魔法が解除された魔王は、遠く吹き飛ばされたギールを悠々と見据える。
今の一撃を生き延びた盗人に感心しつつ、悶える彼を冷ややかな眼差しで嘲る。

「フン、鼠めが―――」

その一言と共に右手を構えようとした矢先、けたたましい轟音が響いた。
突如としてばら撒かれた『それ』に目を見開き、咄嗟に防御魔法を行使。
次々に迫り来る『鉄の塊』を、盾状のバリアによって弾いていった。

蹲りながら、ギールはコントローラーを握り締めていた。
アイテム欄から咄嗟に取り出した『機銃搭載ドローン』を操作し、闇雲の掃射を行っていたのだ。
宙に浮かび続けるドローンは魔王を牽制するように、そのまま弾丸をばら撒き続ける。

魔王は防御魔法を維持し、銃弾を弾いていく。
未知のカラクリへの驚愕と警戒によって思わず後手に回った。
しかし、それが使い魔やゴーレムのような類いであることにも魔王はすぐに気付いた。
襲い来る弾幕も集中砲火を喰らえば痛手にはなるが、一発一発は大したものではないと防御の最中に分析する。
がむしゃらに放たれる弾丸を凌ぎつつ、魔王は攻勢に回るべく構えようとした。

だが、そのとき魔王は気付く。
蹲っていたはずの盗人が、いつの間にか走り出していたのだ。
身を屈め、岩陰や地形で巧妙に姿を隠しながら魔王との距離を離していく。
闇雲な掃射を行っていたのは、逃走と足止めを同時に行うためだった。
走りながらのドローン操縦でまともな精密動作を期待できる筈もない。
だからこそギールは弾丸を撒き散らし、この未知のカラクリによって僅かな時間だけでも魔王を足止めしたのだ。
逃がすものかと魔王が再び魔法を行使しようとした、次の瞬間。

盗人の姿が、消えた。
否、消えたのではない。
落ちたのだ――魔王は気付く。
どぼん、と水音が小さく響いた。





446 : GREAT HUNTING ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:10:14 1qXfgUc.0



E-2は火山エリアにおける海沿いの地点だ。
北東へと進めばすぐに海へと辿り着くし、その気になれば飛び込むこともできる。
あの盗人は5メートルほどの断崖から跳び、迷わず海へと潜り込んだのだ。

断崖の上に立ち、魔王は目を細める。
夜の海は暗闇に染まっており、視界はハッキリとしない。
最早あの盗人を探すことは無意味だろう。
それを悟り、魔王は大人しく海から背を向ける。
目指す先は炎の塔だ。

(アバターっちゅうモンも、不便やなぁ……)

魔王カルザ・カルマは思わず心中でごちる。
幾ら怠惰で面倒嫌いとはいえ、己はあらゆる魔族の頂点に立つ絶対的存在である。
人間など赤子同然。あの恐るべき勇者達とも互角以上に渡り合った。
だが、今の体たらくはどうか。
あんな鼠一匹も仕留めきれず、あろうことか逃走を許してしまったのだ。
そして―――アイテム欄から、支給品が一つ消失していることにも気付く。

先の戦い、強化魔法と共に魔王がギールに一撃を叩き込んだ直前。
ギールは咄嗟に振り返り、魔王目掛けて右腕を伸ばしていた。
あの時は単なる悪あがきかと思っていたが、寧ろ魔王が「してやられた」のだと気付く。
通知欄にいつの間にか入っていた「アイテムが盗まれました」というメッセージを苦々しく見つめる。

ギール・グロウは『強奪』スキルを持つ。
(自LUK-相LUK)/4の確率で対象からアイテムを盗むことが出来る。
『逃亡』スキルこそ失敗に終わったものの、LUK値が最低である魔王カルザ・カルマから強奪することは寧ろ容易だったのだ。

本来ならば魔王には有り得ない程の失態の数々。
特殊スキルのおかげで戦闘は今までのようにこなせるものの、やはり肉体や魔力そのものは大きく劣化している。
アバター化による一種のハンデを認識した魔王は、改めて気を引き締めた。
彼が炎の塔を目指していたのは、自身を滅ぼした勇者――陣野愛美と郷田薫との戦いに備えるためだ。
GPを蓄えれば戦力の拡張に繋がる。塔の支配権を得ることは十分に意味があると判断したのだ。

先の戦闘で、魔王はその方針を更に噛みしめる。
このゲームはまさに未知の戦い。魔の覇者ですら足元を掬われてもおかしくないのだ。
己の油断と慢心を戒めながら、魔王は歩を進めていった。





『炎の塔』の頂上にて、魔王はオーブに触れる。
塔を登るまでに何ら障害はなく、あっさりと屋上に辿り着いた。
そして所有権もまた容易く得られたのだ。
余りの呆気なさで拍子抜けに思いつつも、魔王はアイテム欄からあるものを取り出す。

(しかし……何やろなあこの円盤……それと箱……あの女の子おるやんけ)

あの盗人が投擲した武器らしきものだ。
チャクラムや手裏剣の類いかと思っていたが、その割に素材が貧弱で頼りない。
回収したそれをまじまじと眺めて、魔王は目を細める。

四角い箱――即ちCDケースのジャケットを見た。
5人組の少女が笑顔で並んでいる。うち一人は先程出会い、そして別れた魔族の少女『安条 可憐』だった。
共に並んでいる他の四人が彼女の言っていた『家族』なのだろうか。そもそも、この物体は何なのか。何故彼女達の肖像が刻まれているのか。あのチャクラムモドキの円盤も何なのか。
魔王はハイテクに頼るが、現代社会のハイテクなど知る由もない。

まあ、ツラ覚えられたし結果オーライやな。
笑顔の少女たちを見つめながら、魔王はそんなことを思っていた。


[E-1/炎の塔/1日目・黎明]
[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:魔力消費(小)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、不明支給品×2
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.勇者(陣野愛美、郷田薫)との対決に備え、力を蓄えていく。
2.あの盗人(ギール)は次会ったら容赦せん。なに人のもんパクっとんねん
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。
※「炎の塔」の所有権を獲得しました。


447 : GREAT HUNTING ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:11:52 1qXfgUc.0



「―――はーっ……ふぃーーー……」


黎明の海にぽつんと浮かぶ影が一つ。
ギール・グロウは大柄な丸太にしがみつき、海上を漂流していた。 

出会い頭、魔王と対峙した時点で『アイテム透視』スキルを使って支給品の一つを把握した。
そして魔王が限界まで接近してきた瞬間に『強奪』スキルを発動、判定に成功した。
そのアイテムは『破壊の丸太槌』。あらゆる防御を突破して攻撃することができる大柄な丸太だ。
そのサイズと形状ゆえ武器として振り回すには相当の筋力が必要となるものの、ギールはあくまで海に逃げ込むためにそれを盗んだ。
浮力を利用し、浮き輪代わりに使うのだ。
一か八かの賭けだったが、こうして海を漂流することに成功している。
炎の塔へは辿り着けず、ドローンを失ったのも痛いが、命を掴めただけでも儲け物だ。

ギールの口元から、微かに血が溢れる。
先程のダメージによるものであることにはすぐ気づいた。肉体が消耗しているのも明らかだ。
にも関わらず、その表情は満足げだった。

――あの魔王を相手に、盗んだ。

その事実が、ギールを少なからず満たした。
圧倒的な存在を前にしてアイテムの奪取に成功し、そして逃亡をも果たした。
悪くない気分だった。目指すべき最終目標は優勝と言えど、こうしたスリルも大切なのだ。

魔王は課せられた制約を認識し、己を省みた。
しかし盗人は違う。彼は変わらない。
ギール・グロウは危機を楽しむ。困難を楽しむ。
追い詰められることも、逃げ延びることも、日常茶飯事に過ぎない。
これもまた、ある意味で享楽なのだ。
丸太にしがみつき、盗人は夜空を見上げて不敵に笑った。


[E-1/海上/1日目・黎明]
[ギール・グロウ]
[パラメータ]:STR:D VIT:E AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:疲労(中)、全身にダメージ(大)
[アイテム]:破壊の丸太槌(E)、両手剣、アイドルCDセット&CDプレーヤー(HSFのCD喪失)、ドローンのコントローラー
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:この殺し合いで優勝し、報酬獲得を目指す
1.海の流れに乗って陸地に上がる。
2.他の参加者と出会ったらまずは様子見。隙があればアイテムや命を奪う。
3.「郷田薫」、「陣野愛美」、「魔王カルザ・カルマ」に警戒。
[備考]
1.CDを確認して参加者である「TSUKINO(大日輪 月乃)」、「HSF」のメンバー、「真央ニャン(黒野真央)」、
「美空 ひかり(美空 善子)」の顔を覚えました。
※「破壊の丸太槌」にしがみついて海上を漂流しています。


【破壊の丸太槌】
魔王カルザ・カルマに支給→ギール・グロウが奪取。
城門破壊に用いる丸太槌を個人携行可能にした異常兵器。
敵の防具や防御行動を無視して貫通ダメージを与えることが可能。
また防壁や結界を攻撃した際、確率で一撃破壊する。
尤も丸太自体が極めて大柄なので、武器として使うには相当のSTR値が必要となる。


448 : ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:12:21 1qXfgUc.0
投下終了です。


449 : ◆A3H952TnBk :2020/10/11(日) 23:20:24 1qXfgUc.0
すみません、魔王カルザ・カルマの状態表に以下の一文を追加します。

※ドローン本体を回収しました。少なくともアイテム欄にしまっている最中は他参加者による遠隔操作が不可能になるようです。


450 : 名無しさん :2020/10/11(日) 23:29:16 UytgZGwQ0
投下乙
炎の塔支配の失敗やダメージを負ったり、得るものは少なかったけど
魔王から逃げられただけでも十分な成果だね


451 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/11(日) 23:34:46 4NScjgzI0
投下乙です
前回の気のいいおっちゃんから一転、魔王様流石の貫録。アバターは元から強い人の方が苦労しそう
ギールくんは魔王相手に逃げられないのは仕方ない、それでも一矢報いてあたり盗賊の意地が見える
魔王様が炎の塔を支配してこれで全ての塔が支配されましたね


452 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:17:16 WPYQoeyM0
投下します。


453 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:19:59 WPYQoeyM0
ワープにより辿り着いた民家の中、出多方 秀才は己の手首に指を当てていた。
トクン、トクンと規則正しい鼓動が指先から伝わってくる。
出多方のデータ通り、平常の脈拍だ。
果たしてそれが「正常な」結果なのか、今の出多方にはわかりかねていたが。

そんな時、寝室の扉が開いた。
民家内から衣服が無いか探していた月乃が戻ってきたのだ。

「出多方さん、何をやってるんですか?」

「ああ、月乃君。今脈を測っていました。」

「脈?」

「大したことではありません。
それよりも見てください月乃君、火傷がだいぶ良くなりましたよ」

出多方は己の手を、月乃の目の前で開いた。
水膨れは多少あるが、先ほど火炎放射を浴びたとは思えぬ軽傷だ。

「わあ、凄い…!」

月乃は目を輝かせる。
「私の歌で世界を癒す」と公言している彼女だが、
まさかここまで物理的な効果が出るとは本人も思っていなかった。

「こんなに簡単に傷が治るなんて、まるでゲームみたいですね」

「月乃君」

「はっ」

出多方の目が咎めるような鋭い目つきに変わった。
月乃は出会った時に「これは遊びではない」「仮に遊びであったら危険な誘拐事件だ」と散々注意を受けていたのを思い出した。


454 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:20:40 WPYQoeyM0
「ごめんなさい。頭ではゲームじゃないってわかってるんですけど、つい」

「私のデータにもあれほどの火傷がこの短時間で治癒した事例はありません。
やむを得ないことですが、気を付けてください。」

「うう…仮想空間だと思ってつい…」

しょげる月乃を尻目に出多方は考える。
自分の推論が正しければ、彼女の詠唱スキルや自分の冷静スキルはこの殺し合いにとって重要な役割を担いうる。
何より、自分のこの考えを説明できるのはこの殺し合いに置いて月乃と太陽のみだ。
話した方がいい、そう考えた出多方は口を開いた。

「私は、いっそここが現実であって欲しいと思います。」

「え?」

「月乃君。よく聞いてください。今後の方針にも関わることだ。
この殺し合いが本物である証拠は、確かにあります。」

「ど、どこにですか?」

「それは…」

出多方は己のこめかみに人差し指を当てた。

「私の頭の中に、です。」

「頭の中に?」
月乃は首を傾げた。

「はい。考えて見てください。」

「――普通の高校生である私が、
 火炎放射を浴びながら、あんなに冷静に指示を出せると思いますか?
 叫び声も一つも上げずに?思わず逃げることもせずに?」


455 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:23:26 WPYQoeyM0
「た、確かに…」
月乃はそう聞くと、引っかかる点が一つあった。

(あっちゃちゃちゃアッツい!太陽!この熱さは通常のお茶の温度を大幅に超えてるぞ!)

「この前、兄さんが淹れたお茶を飲んだ時の出多方さん、凄い悲鳴を上げてましたもんね!」

「………覚えていてくれたようで何よりです。」

いや、調理実習で火傷をしたときとか他にもあっただろう。
出多方はそう考えたが月乃は納得してくれたので言わない事にした。
冷静スキルの恩恵である。

「まあともかく、通常なら私はもっと取り乱していたはず、とデータから導き出せますね。」

「でも、それがゲームじゃないって証拠になるんですか?
 それはあくまで、出多方さんの冷静スキルの能力ですよ。」

「月乃君、考えて見てくれ。スキルでプレイヤーキャラの傷が治るゲームはあるでしょう。
 しかし、スキルでプレーヤーそのものの意志判断を変更するゲームなんてものがあると思いますか?」

「あ……」

月乃は愕然とした。
仮に身体や感覚がバーチャルで再現できたとしても、
それを受け取る判断能力そのものを変えられるはずがない。
バーチャルリアリティでは説明がつかない現象が起こっているのだ。

「もっとも、まさか頭の中を弄られるとは思わず、
 スキルを取得した私の迂闊さが無ければわかりませんでしたがね。」

出多型は気まずそうに、眼鏡の位置をクイと直した。
コンピュータゲームの類には疎い彼であったが、
精神状態異常と言っても本人の意思に関係なく体が動いてしまう。
そんな漠然としたイメージがあったことは否めなかった。


456 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:24:20 WPYQoeyM0

「身体がバーチャル、頭の中も本物とは限らないとなると、
 いっそ現実である証拠が欲しい、とすら思えますね。」

「じゃあ今の私たちって、現実の私たちを再現した
 あのシェリンっていう人みたいなAIだったりしません?」

「いや、その可能性は低いですね。
 再現が目的なら容姿の変更が行えるのは妙です。
 本当に再現できているのか検証できませんからね。」

出多方は月乃を見る。
そう、再現が目的なら出多方の当初の推論は間違っておらず、
その胸を変更できるはずがない。

「………出多方さん?」

「こほん、これからが今後に関わることですが、
 この精神干渉能力が既に猛威を奮っている可能性があります。」

「みんなもスキルで頭の中が変わる、なんて思ってないですもんね」

「はい、他人のスキルで洗脳、或いは好戦的にされる可能性は高いです。
 しかしこれはあくまで可能性、できれば検証を行いたいですね」

「検証って何をやるんですか?」

「月乃君が命令してその通りに動くか確認します。当然相手に同意を取った上で」

「わ、私!?いくら私がカリスマボーカリストだからってそこまでできるかな…」

「あくまで月乃君の支配能力ではなく、アイドルスキルの支配能力の確認です
 確か月乃君が設定時に確認したところ、上位ランクになれば洗脳まがいのことができたはずですね。」


457 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:24:58 WPYQoeyM0
「でも、私のアイドルスキルってCランクですよ?そこまではできないですよ」

「逆に言えば最低ランクのアイドルスキルで何かしらの支配能力が認められれば
 他のそれらしきスキルには当然支配能力があると確認できます。」

(なにより、この場にアイドルが多い理由に説明が付く。)

出多方は心の中で付け加えた。
HSFに加えて月乃と美空善子、この戦いにはアイドルが多い。
それが洗脳能力で戦いを掻きまわす事を期待しているのであればあまりにも危険だ。
指摘の通り月乃のCランクの能力ではデータとして不安があるが、それを差し置いても確認をしたい。
なにしろ、月乃の歌ならその類を無力化し、主催者の目論見を挫くことができるかもしれないのだ。

「しかしこの検証には互いに信頼関係が必要。
 それをどうするか……」

「あ、それなら当てがあります!」

月乃が勢いよく手を挙げる。

「当て?」

「出多方さん、直感で行きたい方向に指を指してもらえますか?」

「直感?」

このワープしてきたばかりのところに参加者の当て?直感?
何を言っているんだ?
月乃の発言に出多方は困惑を隠せなかった。

「じゃあ……あっちです」

出多方は適当な方向に指を向ける。


458 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:27:25 WPYQoeyM0
「じゃあ、その逆方向に行きましょう。」

「月乃君、今指を指した意味は?」

「きっと、逆の方向なら兄さんがいます。」

「太陽が?理由を聞かせてくれませんか?」

「ふっふっふ、それは…」

月乃はビシッと指を指して言った。

「冷静スキルが働いているからです!」

「冷静スキル…デメリットの事ですか!」

出多方の持つ冷静スキル。
この場においては基本的に、精神攻撃を無効化するものであるが、
『同属性と適切な距離を保てるが、逆属性を持つモノを遠ざける』というデメリットが存在する。
確かにそれが正常に働いていれば、あの暑苦しい太陽を思わず遠ざけてしまいそうだ。
しかし

「月乃君、君のその理論には欠点がある!」

その理論にある穴を出多方は決して見逃さない。

「太陽が仮に冷静スキルを取っていたら、遠ざけてしまう可能性の方が高い!」

「兄さんが冷静スキルを取ると思います?むしろ熱血スキルの方が可能性があると思います。」

「それはもちろん…」

普通に考えたら冷静スキルを取る可能性はある。
自分は、元から冷静であることに自信がある。とは言えないから冷静スキルを取った。
元から熱血漢のあいつが、熱血スキルなんて取ってどうするんだ。


459 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:28:48 WPYQoeyM0
しかし相手は太陽。
そんな理屈が通用するだろうか。
それはもちろん…

「…熱血スキル、取ってそうですね。」

「ですよね」

「ふっ、まさかこの私がデータで敗北するとは。
 どうやら私もここまでのようですね。」

「出多方さんの推測が悲観的なんですよ」

月乃の冷ややかな視線が出多方に突き刺さる。
確かに一定の理がある以上、自分の向かいたい逆に進み、太陽を探すことが得策だろう。
望み薄とは思うが、出多方とてデータの徒だ。
実践しなければ正誤の判断ができないことは誰よりも知っている。

「いいでしょう。他に案が無い以上、太陽を探しましょう。もっとも…」

「私の着替えが済んでから、ですが。」

火傷は治ったものの、ズタボロの半裸状態は直っていない出多方は、一つくしゃみをした。


460 : 検証:影の反対には太陽があるのか? ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:29:05 WPYQoeyM0
[D-3/市街地の民家/1日目・深夜]
[出多方 秀才]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:火傷(小)(月乃の歌唱で回復中)
[アイテム]:焔のブレスレット(E)、おもしろ写真セット
[GP]0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:人は殺したくない。
1.自分の向かいたい逆に進み、太陽を探す。
2.月乃の歌でこの殺し合いを止められるか…?

[大日輪 月乃]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:海神の槍、ワープストーン(2/3)、不明支給品×2(確認済)
[GP]0→10pt(キャンペーンで+10pt)
[プロセス]
基本行動方針:歌で殺し合いを止める。
1.出多方さんを癒やしながら兄さんを探す。
2.金髪の人(エンジ君)には、次に会ったら負けない。


461 : ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/12(月) 23:29:29 WPYQoeyM0
投下終了です


462 : 名無しさん :2020/10/12(月) 23:50:29 lNkIWUck0
投下乙です
出多方くん、しっかり現状把握に努めようとするので頼もしい
でも学生だから月乃ちゃんと漫才じみた掛け合いもしちゃうの好き


463 : 名無しさん :2020/10/13(火) 00:26:48 4/zWFOHo0
投下乙
出多方くんは名前に恥じない分析タイプの人間だな!
そして兄さん好き好きな月乃ちゃんもいいね


464 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/13(火) 00:31:27 I4LBbrLA0
投下乙です
出多方くんめっちゃ冷静スキルがかみ合ってる、死にかけてからこそ生きると言うのは皮肉だけども
このロワにおける貴重な頭脳派なので頑張ってほしい
月乃とも元から兄を通じて信頼関係があるため色々話がスムーズでよき


465 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:37:54 AfSYPePM0
投下します


466 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:39:42 AfSYPePM0
「こんばんハ」
「こんばんは」

青黒い空には白い満月が浮かんでいた。
月が見守る橋の上で、対峙しているのは二人の男だ。

龍を模した仮面で素顔を隠した筋骨隆々の大男は背後に砂嵐を背負い。
橋を対する微笑をたたえた優男は背後に吹雪を背負っていた。

およそまともな世界ではありない光景である。
だがあり得るのだ、この世界ならば。

「アナタが、Brave Dragonサンですか」
「そういうあなたはシャさんですね」

互いの名を呼びあい、互いに口角を吊り上げる。
名乗るまでもなく互いの名を認識している。
その事実が、目の前の相手が望むべき相手だと言うこれ以上ない証明だからだ。

「ドーヤラ、目的同じミタイですネ」
「そのようですね」

塔の支配者としてもう一つの塔を奪い合いべく雌雄を決する。
同じ思想であることがうれしかった。
きっと、素晴らしい戦いになるだろう。

「でハ」
「戦いましょうか!」

同じ目的を持つ同士ならば、多くを語る必要はないだろう。
互いに静かに構えをとる。

一方は無手のまま半身となって重心を低く落とす
一方は巨大な体躯に見合う黄金の槌を振りかぶった。

仮面の男は槌を構えたまま不動。待ちに徹する。
初戦は想定外の追いかけっことなってしまったが、真正面からの戦いならばパワー型の戦い方は心得ている。

敵は無手、構えからして武道家(モンク)だろう。AGIとDEXに特化したタイプであると見て取れる。
ならば、端からそこでの勝負には付き合わない。
多少のダメージを喰らう覚悟で高火力で叩き潰す。
痛み分けなら火力型のこちらが勝つ、という算段である。

加えて、橋と言う左右の移動が限定された状況、必然的に正面からの戦いとなる。
ならばリーチが物を言うだろう。
体躯に勝るが大男が武器を持っているのだ、どちらが有利かなど語るまでもない。

「コォ―――――ッ」

対する暗殺者が肺の中の空気を全て吐き出すように息を吐いた。
丹田に力を籠め、己の中の気を練り上げる。

その心には敵に対する畏怖があった。
どういう訳か、あの敵を見るたび恐怖の様な物が感じられる。
久しく感じていなかった感覚だ、その感覚にシャはブルりと震えた。

状況の不利はシャにも理解できている。
迂闊には踏み込めないだろう。

優位な方は待ちに徹し、不利な方が先んじて動く理由はない。
開幕から状況は僅かに膠着する。


467 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:40:05 AfSYPePM0
この状況が崩れるとしたら、どちらかに遠距離攻撃がある場合だが。
無手を旨とするシャは手段があったとしても使わないだろう。
ならば、勇太の方はどうか?

勇太は構えを維持したまま思考のみでメニューを操作しアイテムを発動させる。
発動させたのは炎の球を放つファイアーの巻物だった。
それは白井杏子を倒して得た支給品、魔法が込められたいくつかの巻物(スクロール)である。

これは敵をしとめることを狙ったというより、敵を動かすための牽制だ。
溜まらず飛び込んでくればよし、そうでなければ遠距離攻撃で削れればよい。
どちらにせよ撃ち得となる一手である。

シャに向かって三筋の炎が迫る。
その程度、避けることは容易い。
問題は左右の幅のない橋上で後ろに避けるか前に避けるかである。
敵への畏怖で満たされている今の心では前に踏み込むのは難しかろう。

だが忘れてはならない。
恐れから踏み出せなくなる人間もいれば、恐れるからこそ踏み込みたくなる人間もいるという事を。
シャは後者だ。中毒と言っていいレベルで常にスリルを追い求めている。
故に、シャは前へと踏み込んだ。

だが、それは龍の待ち構える巣に飛び込むようなものである。
その動きは勇太からすれば想定通りだ。

「てやぁ――――ッ!!」

巨大な槌が振り下ろされる。
まともに喰らえば人一人など容易く平らにしてしまうほどの一撃であった。
それほどの圧力を前に暗殺者は止まらず。

「シ――――――ッ」

打ち下ろされた黄金槌を左腕で受け止め化勁で捌く。
腕の回転によりツルりと滑る様に力の方向が受け流される。
槌は横合いに逸れ、橋の欄干を砕いた。

暗殺者はそこから更に一歩踏み込み、槍に見立てた貫手で鳩尾を抉った。
だが、浅い。
筋肉の隙間を狙った貫手は心臓までは届かず、分厚い筋肉に阻まれ半ばで止まる。

本来のシャの指先であれば薄い鉄板くらいなら貫けるはずなのだが。
アバターではそういう特殊な功夫は反映されていないようである。
高パラメータもあくまでも平均的な身体能力の底上げにとどまっているようだ。

初撃に失敗した以上、懐にとどまり続けるのは拙い。
シャは素早く身を引いて距離を取った。

5歩ほど引いたところで、槌を受け流した左腕を確かめる様に振るう。
流石に完全に力を受け流すことまではできなかったのか、僅かに痛みが走った。
どうやら骨にヒビでも入ったようである、攻防は痛み分けと言ったところか。

腕に頸がしっかり通っていればこんなことはないのだが。
どうにも頸の練りが甘い。と言うよりまるで練れていない。
そちらもこのアバターでは再現不可能なようだ、個別にスキルを取得する必要があるだろう。

「良キ」

愉しくて仕方がないと言ったようにシャは笑う。
一対一で手傷を負うこと事態が久しぶりだ。
こちらのスペックが落ちていて、その結果いい勝負ができるというのならそれはそれでいい。

弱者を虐殺するのもいい。
強敵との殺し合いもいい。
シャにとっては全てが愉悦。


468 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:40:44 AfSYPePM0
対して、勇太は仮面の下の顔を青ざめさせて動きを止めていた。

「…………痛い」

抉られた鳩尾が痛む。
ゲーム中にダメージを喰らって思わず「痛っ」と言ってしまう事はあるが、これはそんな次元ではない。
”本当に”痛いのだ。
傷口を抑えてみればぬるりとした血糊が手の平を汚した。

「ちょ、ちょっと待って……」

思わず待ったをかける。
遊びの最中に怪我をしたのだから止めるのも当然だろう。
シャは追撃はせず、素直に動きを止める。

「? どうしましタカ? 大丈夫デス。心臓まデハ届いてないノデ、かすり傷デス」
「……そう、なんだけど。おかしい。痛いんだ……ゲームのはずなのに…………?」

胸に穴が開く程度、ゲームなら軽傷だろうが、現実なら重症である。
それを聞いて下らないジョークでも笑い飛ばすようにシャは笑った。

「傷つけバ痛いコレ当然ヨ。けるぴーサンとイイ面白い事言いますネ、アナタ達」

目を細め微笑を浮かべたまま、当然の摂理を説くように言う。

「けるぴー…………さん?」

それは勇太と同じ同好会に所属する、先輩の使うアバター名だ。
なぜ今、その名が出てくるのか。

「ハイ。ワタシ、ココで最初出会ウ人、けるぴーサンでしタ。オヤ、お知り合いデシタか?」

胸元を押さえまま無言でこくりと頷く。

「そうデスカ。良キ偶然ネ」

本当にそう思っているのだろう。
変わらぬ温和な笑顔で、シャはこの偶然を喜んだ。

「そ、それで、けるぴーさんはどうしたの…………?」

同行しているわけでもないだろうし、そのまま素直に別れたとも考えづらいが。
その問いにシャはあっさりと答える。

「私が殺しマシた」
「そ、そう」

けるぴーは上位プレイヤーではあるが最強という訳ではない。
きっとここでも無茶な縛りプレーでもしてたのだろう。
出会いがしらに敗北する、そう言うこともあるだろう。
殺したと言っても、ゲーム上の死ならそれは。

「けるぴーサンも殺せば死ぬカラ、ナンテ言うアリましタ。
 面白イですネ、傷つけレば痛ム、殺セば死ヌ、コレ当たり前ヨ。アナタ達の間で流行りあるジョークですカ?」
「け、けど、それは! そういう設定のゲームってことでしょ…………?」

最後の方は小さくなりすぎて消え入りそうな声になっていた。
自らの言葉を否定するように、どうしようもなく胸が痛い。


469 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:41:32 AfSYPePM0
「そうカモ知れなイですネ。まあドッチでもイイじゃなイですカ。
 信じたいモノを信じたイように信じれば良キですヨ」

シャは別段、否定も肯定もしなかった。
親でも教師でもないのだ、答えなど与えてくれはしない。
判断材料はあるが証明の方法はないのだから、どう結論を出すかは個人の自由である。
信じたいものを勝手に信じればいい。

「けド、どうせナラ命がかかってルと思った方ガ楽しいでショウ?」

亀裂のような笑み。
何がそんなに楽しいのか。
男は何か人として決定的なモノが破綻していた。

「…………そんな。違う。これはゲームだって」

頭を抱え、いやいやをするように首を振る。
それが現実なら、これまで自分のしてきたことは。

こんな現実は認められない。
これは幻想でなくてはならない。

だが、痛みだけがその幻想を否定する。
傷つけば痛むのならば、殺してしまえばどうなるのか。

信じたい幻想。
認めがたい現実。
その狭間の中で少年は。

「うああああああああああああぁぁぁぁl!」

絶叫した。
こんな現実も、これが幻想だとも、受け入れられない。
受け入れられないのならどうするのか。
幻想も現実も全てを全てなかったことにして、やり直すしかない。

大男を模した少年の体が膨れ上がる。
全てを破壊するべく、人ならざるものへと変貌していく。

その光景に、シャの薄く閉じられていた目が見開かれた。
その口元に笑みを浮かべ、開いた目を輝かせて叫ぶ。

「――――龍(ロン)!!」




470 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:41:48 AfSYPePM0
「――――龍(ドラゴン)!!」

酉糸琲汰は遠方に出現した龍の存在を認めた。
『Brave Dragon』という名を追ってきたがよもや本当にドラゴンだとは。
これはさすがに予想外であった。

その瞬間、男の心に訪れる感情は歓喜だった。
この出会いに感謝。
この機会に感謝。
この世界に感謝。

琲汰は常に戦いを求めてきた。
世界各国をめぐり強敵を打ち倒し、対戦相手がいないときはその辺の車や積まれたレンガを破壊したりもした。
その内に人間だけではとどまらず、バッファローや白熊、数多の獣を狩ってきたが、ついぞ龍とは戦ったことがない。
その機会をこんなところで得られるとは。

気づけば、琲汰の足は駆け出していた。
スキップでも踏むような足取りのまま、前方へと跳躍。
感謝の飛び蹴り。
頂点から急降下する軌道をもって蹴りで龍を強襲する。

だが、その蹴りは横合いから飛び込んできた蹴りによって弾かれた。
互いに喧嘩ゴマのように弾かれながら、空中で体制を立て直して両足で地面に着地する。

「何カオマエ。ワタシが先約ヨ。邪魔するなヨロシ?」
「うぬぅ」

正論である。
一対一の戦いに乱入はご法度。
それが許されるとしたらせいぜい戦う直前に相手を一撃で打ち倒して成り代わるくらいだろう。

だが、龍と戦える千載一遇のチャンス。
逃すのはあまりにも惜しい。
どうしても戦いたい。
本当に、どーしても戦いたかった。

「ならば、どちらが先に仕留められるか競争と言うのはどうか?」

琲汰は食い下がる。
図々しい提案だと思うが、彼の立場化するとこうするしかない。

「競争ネ……」

シャは僅かに思案する。
制限のある方が楽しいというのは遊戯の基本だ。
シャとしては楽しめればそれでいい。

「まァイイヨ。遊戯としてハ悪クないネ」
「よっしゃぁ!!」

伝説に現れるような巨大な黄金の龍。
対峙するは二人の修羅。

これより、龍退治が始まった。


471 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:42:02 AfSYPePM0


後に、その光景を目撃していた掘下進は語る。

あれは戦いなどではなかった。

ただ一方的に獲物を追い込む狩猟だった、と。




472 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:43:14 AfSYPePM0
「ぐるぅああああああああああああああああああああああ!!」

龍が吠える。
その方向は空気を震わせ、並みの人間ならばそれだけで気絶してしまいそうな圧力があった。

だが、龍に相対する勇者はどちらも並みではない。
それほどの圧力を前にして歓喜に心躍らす何かが壊れた狂人たちである。

金色の龍が舞う。
龍は砂の塔を支配したことにより砂の属性を得た。
黄龍は五行における土行を司っており、それは虎に翼、サメに水と言っていい相性のよさであった。
これにより龍化のランクは上昇し、新たなるスキルも獲得された。

宙を舞う龍の体から砂が発生する。
辺りが砂塵で覆われてゆき、視界が砂に満たされてゆく。
だが、いかに砂塵が巻き散ろうとも、これほど巨大な龍の姿がそう簡単に隠れることはない。

「セイッ!」

先手必勝と、最初に動いたのは格闘家、酉糸琲汰だった。
砂のスクリーンに浮かぶ影絵の龍に向けて跳び蹴りを放つ。

だが、その蹴りは空を切った。
琲汰が打ったそれは砂に映る幻影である。
辺りに舞うのは方向感覚を狂わせる大砂漠の砂塵と同種の物だった。

「ならコッチネ」

琲汰が外した様を見ていたシャが、すぐさま影からズレた方向へと蹴りを放つ。

「が…………っ!?」

その蹴りが実像を捕えた。
衝撃が内臓へ伝わったのか、龍が口から反吐をまき散らしながら身悶える。

「囮役。ご苦労様ネ」
「ぐぬぅ」

琲汰の蹴りに反応した影の動きを見て、シャは相対的に龍の位置を割り出した。
つまりは琲汰は体よく使われたという事である。

「ぐぅ……ッ。ああああああああああああ!」

龍が雄たけびを上げ自棄のように爪と尻尾を振り回し暴れ始めた。
素早くシャと琲汰が反応し、後方へと身を引く。
その隙に、龍は再び砂のカーテンの奥へと引っ込んでいった。

黄龍が更に砂を吐いているのか、砂塵はより濃く染まってゆき、龍の姿は影すら薄れていく。
こうなるとそう簡単に龍の姿を捕えることは難しくなる。

戦士二人は砂中で足を止める。
無暗に突っ込むというのは自殺行為だろう。
命知らずではあるが死にたいわけではない。

だが、この状況で動きを止めている相手など格好の獲物でしかない。
視界を奪われているのは人間だけ、砂を支配する龍には全てが見えている。
つまり、一方的に敵を蹂躙できるという事だ。

巨龍が全身をしならせ尾を振り抜いた。
巨大な尾が砂塵の中から唐突に出現するのだ、回避などできようはずもない。

「墳ッ!」

琲汰は尾の先が見えた瞬間に反応して殴打をブロッキングした。
敵の姿が見えずとも、攻撃の瞬間なら捕えられる。
足を止めたのは相手の仕掛けを待っての事。

「ちぇええりゃああっ!!」

受け止めた尻尾を両手で捕まえ、そのまま一息で投げ飛ばす。
細長い龍の体が放り出されて、ビタンと地面に叩きつけられる。
その風圧で砂塵が辺りに巻き散ってゆく。

「思いのほか軽いな、龍!!」
「ホゥ。ナカナカやるネ」

さしもの殺し屋も格闘家の動きには目を見張るものがあったのか、その動きに関心の声を漏らした。
競争相手に負けられぬと、暗殺者は地面に叩きつけられた龍に向かって駆けだす。
もはや黄龍は敵ではなく、競争相手に己が実力を見せつけるためのただの的でしかなかった。


473 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:44:29 AfSYPePM0
そこからはただただ一方的だった。
もはや、なまじ耐久があるからこそ悲惨である。

龍が爪を振るう、だがその大振りは当たらない。
身をかわしたシャは反撃に転じ、防御の薄い所を見極め細かく削ってゆく。
対して逆側から攻める琲汰は固い鱗も構わず強力な一発を叩き込んだ。

もはや戦いの立ち回り一つとっても巧さが違った。
狩人たちはあえて身を晒して攻撃を誘い、巨体の生み出す風圧によって砂塵を払わせている。
龍はそれにすら気づかず、ただ力任せに暴れまわるだけであった。

完全に冷静さを欠いている。
むしろゲームであれば、敵に対してそういった立ち回りをするのが勇太の十八番であったはずなのに。
その程度の事が分からくなっている。

「ハアァ――――――ッッ!!」

格闘家の咆哮。
登り龍のような対空アッパーカットが黄龍の顎先を捕えた。
会心の手応えである。
脳を揺らされ龍が白目をむいた。

一度捉えた敵を逃がすまいと、そのまま空中で竜巻のように回転して連続蹴りを叩き込む。
流れるような空中コンボ。
最後に縦回転を加え、胴回し回転蹴りを叩きこむ。
天から叩き落とされ大量の砂埃を巻き上げ巨体が地に沈む。

――――勝機。
琲汰の目が見開かれる。

地に伏せた黄龍目がけて空中からトドメの一撃を狙う。
放つは手刀。
狙うは首筋。
頭蓋と頸椎の繋ぎ目は龍とて存在するだろう。
そこを穿つ。

「ハァ――――――!!」

もはや重力落下の域を超えて流星の如く豪傑が落ちる。
だが、それよりも一歩早く。

「――――――戴きヨ」

横合いから現れた暗殺者の爪が地面に落ちた龍の眼球を抉った。
強固な筋肉や鱗は難しくとも、柔らかな眼球ならば素手でも通る。

「なっ! 貴様」

獲物を掻っ攫われた琲汰は激昂するが、横取りも美味しいとこどりも当然の行為である。
元より早い者勝ちの競争を提案したのは琲汰だ、ここで異を唱えられる立場ではない。
やるべきは異を唱える事よりも、一刻も早く龍をしとめる事だろう。

シャはそのまま腕を伸ばし、直接脳を掻きまわすつもりである。
そうはさせじと舞い落ちる琲汰の手刀が龍の頸椎へと迫る。
どちらが先に命を絶つか。
龍殺しを競う、その勝負はしかし。

「ぐぅあああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!」

他ならぬ龍の絶叫によって断ち切られた。

「!?」

爆発的な勢いで龍の全身より砂が噴き出す。
落下する琲汰はこれに巻き込まれ、眼球に手を突っ込んでいたシャもこれに飲まれた。

強烈な砂嵐。
致命になるようなものではないが、噴出するその勢いに押し出される。

黄龍は狂ったように暴れ回っていた。
近づくものがなくなっても手あたり次第に暴れて暴れ暴れつくす。
ついには自らバランスを崩して欄干の崩れた橋の上から川へと落ちた。
黄龍が水に沈んだことにより、砂嵐が止む。


474 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:45:31 AfSYPePM0
「ッ。逃さん!」

すぐさま復帰した琲汰は跳ねるようにして川沿いを駆け出す。
決着をつけるべく、水流に流れてゆく龍を追ってそのまま消えていった。

「――――ぺっ」

一人その場に残されたシャは口に入った砂を吐き出す。
砂で汚れた口元を拭い一言。

「白けたネ」

それだけを吐き捨てると、砂の塔に向かって歩き出した。

※砂の塔の支配者が[シャ]に書き換わりました。
 この情報はマップ上から確認できます。

[A-4/砂の塔/1日目・黎明]
[シャ]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
[ステータス]:左腕にヒビ
[アイテム]:不明支給品×3、タリスマン
[GP]:100pt
[プロセス]
基本行動方針:ゲームを楽しむ
1.次の獲物を探す

[B-5/川・川沿い/1日目・黎明]
[酉糸 琲汰]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:闘気充実、左腕にひっかき傷
[アイテム]:スイムゴーグル、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:ただ戦い、拳を極めるのみ。
1.龍を追う
2.強者を探す。天空慈我道との決着を付けたい。少年(掘下進)にも次は勝つ。
3.弱者は興味無し。しかし戦いを挑んでくるならば受けて立つ。
※「Brave Dragon」を黄龍としての姿でしか認識していません

[登 勇太(Brave Dragon)]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:瀕死、左目喪失、
[アイテム]:ゴールデンハンマー、魔法の巻物×4、支給アイテム×4(確認済)
[GP]:100pt
[プロセス]:
基本行動方針:全て壊してなかったことにする
[備考]
1.本ロワをただのゲームだと思っていました。
2.少年(堀下 進)を殺害できたと思っています。
※砂の塔の支配権の喪失とともに砂属性は失われました

【魔法の巻物(マジックスクロール)】
魔法が込められた巻物。
それぞれ違う魔法が込められている。
一度発動すれば消滅する使い捨て。


475 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:46:09 AfSYPePM0


望遠鏡を使い遠目からその一部始終を目撃していた掘下進は身を震わせる。
あれだけ強大だった黄龍が、人の姿をした二人の怪物に翻弄されていた。

一方は知らない男。
一方は彼が追っていた相手である。

龍の脅威を伝えようとしていた相手は、龍よりも恐ろしい何かだった。
その事実が無性に怖くなって、進は彼らに見つからないように砂漠を引き返していった。

[A-3/砂漠/1日目・黎明]
[掘下 進]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:疲労(中)
[アイテム]:忍びの籠手(E)、神速のブローチ(E)、単眼望遠鏡、黄金の宝石
[GP]:20pt
[プロセス]:
基本行動方針:死にたくない。
1.この場から離れる
2.何かあったら地中に逃げる。
3.地下世界、まだ何かあるかも。砂漠以外の地下も掘ってみたい。
※神速のブローチの充電が切れたことに気付いていません。
※探索系スキルはありませんが真っ直ぐ進めば砂の塔に辿り着けると信じています。

【単眼望遠鏡】
筒状の単眼望遠鏡。
倍率は調整可能で最大100倍。
ナイトビジョン付きなので夜でもくっきり。


476 : Dragon Slayers ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 21:46:20 AfSYPePM0
投下終了です


477 : 名無しさん :2020/10/14(水) 21:58:21 QPqOAjsw0
投下乙です
登くん、スペック的に決して弱くはなかったが相手が悪すぎた
嫌すぎる暴力コンビに囲まれてボコられる黄龍、もはや哀愁さえある


478 : ◆A3H952TnBk :2020/10/14(水) 23:13:14 QPqOAjsw0
すいません、拙作『GREAT HUNTING』で現在位置表記のミスがあったのでwikiで修正させて頂きました

ギールの現在位置
×E-1 → ○E-2


479 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/14(水) 23:16:52 AfSYPePM0
>>478
了解しました


480 : 名無しさん :2020/10/14(水) 23:17:51 rwElUDNU0
投下乙です!
やはり生粋の殺し屋と格闘家とではレベルが違いすぎたか
全員生き残ってはいるものの、この世界が現実と自覚し始めた龍太くんは
果たしてどうなることやら…


481 : 名無しさん :2020/10/15(木) 19:01:39 o70Yx6PU0
投下乙です
龍は目立つから戦闘狂のターゲットにされるのも仕方ない
ちょっと待ってくれるシャと頑張って混ぜてもらおうとする琲汰好き
掘下君は戦いに巻き込まれたら即死してそう、望遠鏡があって良かった


482 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/15(木) 20:17:07 c3S7gfjk0
【書き手向けの告知】

時間帯が早朝に移るタイミングで、生存してる全参加者に以下のメールが送信されます。
必ずしも作中で触れる必要はありませんが届いている事だけ留意してください。
よろしくお願いします。

---------------------------------------------------

[イベント]砂漠のお宝さがし開始のお知らせ

〜風の噂が流れた、あの大盗賊がお宝を砂漠に隠したと。さあ君に見つけられるかな?

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。

砂漠エリアにて砂漠のお宝大探索イベントを実施します!
大砂漠に大盗賊のお宝が埋められました。

GPや強力なアイテムなどをGetできるチャンスです!
砂漠に存在する10個のお宝を見つけることができるか!?

イベントは本メール受信より開始となります。
全アイテムの発見を持ちましてイベントは終了となります、ご了承ください。

※お宝は特定ポイントに到達した際、LUKの確率で発見できます。
※また探索スキルや探索アイテムがあると必要なLUKが下げられイベントが有利になります

---------------------------------------------------


483 : 名無しさん :2020/10/15(木) 22:43:36 fWKZjuWs0
十個のお宝というのは既に堀下が見つけてる2つを除いて10個なのか
それとも既に堀下が見つけた2つを含めて10個(残り8個)なのかどちらでしょうか


484 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/15(木) 23:08:18 c3S7gfjk0
>>483
既に発見されたのを含めて含めて10個です、なので残りは8個ですね
イベント開始後に地表近くに浮き出る予定で、地中で待機状態だったのを堀下に発見されたとお考え下さい


485 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 17:59:43 WYFSzXwE0
投下します


486 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:00:34 WYFSzXwE0
「キララさーーーーん!!」

夜の草原に野太い大声が響く。
大日輪太陽とユキこと三土梨緒は突然姿を消した篠田キララを探し夜の大森林を捜索していた。
しかし、どれだけ大声を上げて捜索を続けようとも、キララの姿は影も形も見つけることはできず。
何の手がかりも得られないないまま、ついにはその足は大森林を抜けてしまった。
大森林を抜けた先の草原でも太陽は大声を張り上げ続け、キララへの呼びかけを辞めなかった。

「大日輪さん、あまり大きな声は」
「すまない! だがユキさん! キララさんが見つからんのだ!」

視野が狭く薄暗い大森林だ、見逃してしまった可能性もあるだろう。
だが、あれだけ太陽が大声を張り上げ続けていたのだ。
聞こえる範囲にいたのなら反応くらいはあってもいいはずである。
それがないと言う事はただ事ではない。

「もしかしたら何者かの手によって反応すらできない状況に陥ってるのやもしれん!
 幼気な少女が悪漢の手に落ちたかと思えば居ても立っても居られないのだ!」

正義感を燃やし憤る太陽を見て、梨緒は心中でため息をつく。
消滅しているため見つからなくて当然である。
手を下したのは他ならぬ太陽なのだから、事情を知る梨緒からすれば茶番もいいところだ。

いつまでこの茶番に付き合えばいいのか。
ある程度で引き上げて次のターゲットを見繕いたいのだが。
少なくとも太陽の大声に誰も反応しなかったのだから、キララに限らず周囲には誰もいないようである。

太陽を操ってキララの捜索を諦めさせてもいいのだが、操っている間の記憶は失われる。
これに関してはキララ殺害実行前に確認した事である。
そうでなくては人殺しなどさせない。

仮に肯定させて、いったん探索を諦めさせたところで、後で整合性を取るのが面倒になる。
細かいことは気にしない太陽だったから成立してきたが、流石にここまで執着している事項に対しては一時的な操作ではどうしようもない。
純粋な弁舌で太陽を説得する必要がある。

「太陽さん、いったん引き返しませんか?」
「何故だ!? まだキララさんは見つかってはいないぞ!?」

あくまでキララ捜索を優先する姿勢の太陽。
それに対して梨緒は面倒くさいと思っている心中を億尾も出さず、悲しそうな表情を作って申し訳なさそうに言った。

「見通しの悪い夜の森でしたし、私が見た東に向かう人影というのが見間違いだったのかもしれません……。
 それに…………」

辛そうに目を伏せて、出来る限り言いづらい言葉を言う健気さを装って言う。

「これだけ探しても見つからないなら、もしかしてキララさんは、もう…………」
「ぐぬぅ…………」

太陽とてバカではない。
その可能性を全く考えていなかった訳ではなかった。

「だが、諦めたくないのだ! せめて彼女がどうなったのかを知るまでは……!」
「太陽さん!」

太陽にも負けない大声で発言を遮る。

「キララさんが心配なのは分かります、けどまずは私たちの安全を考えるべきです」
「否。我が身可愛さに少女を見捨てるなど日本男児としてそのような事が出来ようか!!」
「だったら私の安全を考えてください。ずるい言い方になるかもしれないですけど私だって危険にさらされている女の子なんですよ?」

これには太陽も押し黙る。
自分がどれだけ危険に巻き込まれようとも覚悟の上だが、少女を危険に突き合わせるのは太陽の本意ではない。

「むぅ……確かに、君の言う通りかもしれんな」

太陽が折れた。
このまま続けても発見の見込みが薄いと言うのもあっただろう。
太陽一人であれば0に近い可能性であろうともつづけただろうが、連れ合いがいる以上そうもいかない。

「じゃあ、とりあえずいったん森の方へ、」

大森林の方へ引き返そうと言う梨緒の言葉がそこで強制的に遮られた。

梨緒の体は後方へ弾かれたように倒れ。

赤い飛沫が舞った。




487 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:02:20 WYFSzXwE0
時代遅れの古めかしい工場の立ち並ぶ工場地帯。
機械の作動する喧しいまでに雑音などどこにもない。
街並みに灯りはなく、煙突も煙を吐くことなどない。
死んだように街は稼働を止めていた。

その最南端。
詰みあがったコンテナの上で、狙撃手は寝述べりながら小銃を構えていた。
辛抱強くその体勢のまま、身じろぎひとつせず待ち続ける。

スナイパーは寄られれば終りだ。
周囲の警戒を怠ることはできない。
本来はスポッターが果たすべき役割を、周囲を見渡す鷹の目のスキルを持ってして代用しながら、前方への集中力を保ち続ける。

そうして、どれほど待っていたのか。
前方に森から抜け出てきた男女の姿を認めた。

撃ち抜くには僅かに遠い。
出来る限り引き付けたい。
獲物の動きを凝視し狙撃の機を待つ。
しばらく観察していたが、獲物が引き返す動きを見せたため、これ以上近づくことはないと判断し即座にこれを撃った。

距離にして約300メートル。
当てることはできたが掠めただけだ。
最新の狙撃銃があれば1キロスナイプもこなして見せるが。
やはりスコープ無しの裸眼では、この距離を精密射撃とまではいかない。

さが、どう動くか。
一人を負傷させ、もう一人の足を止めさせるというのはセオリーではある。
だが、ここからでは傷の程度は分からないが、掠めた程度では軽傷だろう。
即座に森に引っ込まれると狙撃手としてはお手上げである。

それともあの怪物のように変貌した少女のようにこちらに向かってくるだろうか。
戦場のセオリーを覆すようなあの少女が例外だったのか。
この戦場はアーノルドの常識を覆す存在ばかりなのか。

まずは、それを知りたい。




488 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:03:04 WYFSzXwE0
「大丈夫か!? ユキさん!!」
「うっ…………くっ」

ユキは肩口を押さえ蹲っていた。
銃弾は肩先を僅かに掠めただけのようだ。
軽傷で済んだのは幸運だろう。

太陽は銃弾が飛んできた方向を睨む。
夜に紛れて、その視線の先には闇しか見えない
だが、確実にその先に狙撃手がいる。

卑劣な狙撃。
よもやキララも魔の手にかかったのかもしれない。
太陽が巨体を震わせ拳を握り締める。

「許゙ざん゙!」

太陽の怒りが頂点に達した。
この悪逆非道を討たねば鳴らぬ。
狙撃手に向かって一直線に駆け出して行った。

「ユキさん! 君は森に隠れていてくれ!」
「ちょ!? 待ちなさい!」

駆け出した太陽を静止すべく、アイテム欄からタブレットを取り出し操ろうとするが時すでに遅し。
既に射程範囲の10メートルを離れていた。

「ッ…………のバカ」

傷口を抑えながら忌々し気に吐き捨てる。
護るべき対象を放って走りだすなど、信じられないバカさ加減だ。
梨緒は太陽を利用して勝者になろうとしているだけなのに。
どうしてこう思い通りにいかないのか。

大森林は十数メートル先である。
そのに飛び込めば少なくとも狙撃の心配はないだろう。
だが、隠れてろと言われても撃たれた肩が痛いのだ、そう素早く動けるはずがない。
太陽から見れば軽傷でも梨緒からすれば十分に大きな傷である。

(まったく自分を基準に考えるな脳筋め!)




489 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:04:09 WYFSzXwE0
距離にして約300メートル。
猛然と少年がアーノルドに向かって迫る。
少女の方を見捨てたのか、それとも何らかの信頼があるのか。
どちらにせよ何の策もなく真正面から狙撃手に特攻するとは正気の沙汰とは思えない。

恐らくアーノルドと同程度のAGIなのだろう、足はそれほど速くない。
ここに至るまで50秒程度はかかるだろう。
撤退の時間を計算に入れても何発か撃つ余裕がある。

アーノルドのとれる選択肢は三つ。
勢いよく迫りくる少年を撃つか。
のろのろと森に隠れようとする少女を撃つか。
このまま撤退するかだ。

銃声。
煙硝が風に流れる。

アーノルドは撃つことを選択した。
そして撃ったのは、少女の方だった。

まずは仕留められそうな方を確実に仕留める。
森に隠れられる前に先んじて少女を仕留めるのが正解だろう。

少女を狙う凶弾。
確実に胴の中心を狙った弾丸は吸い込まれるように少女の胸部へと迫り。

唐突に出現した不気味な白い騎士の盾によって弾かれた。

夜でも分かる程の純白。
それは白馬に乗った騎士だった。
つなぎ目がなく盾も鎧も馬さえも一体化した無機物めいた白騎士。
それが、少女を守っていた。

常ならざる現象。
これがあの少女の特異性なのだろう。

あの守護を騎士を縫って少女を打ち抜く。
正規の狙撃銃ならともかく、旧式の小銃では難しいだろう。

アーノルドは即座に少女を諦め、照準を少年へと移し替える。
距離にして約200メートル。
少年は変わらず、一直線に迫ってきていた。
頭と心臓だけは両手で守りながら走っている。
恐らく数発喰らう覚悟でいるのだろう。

だがライフル弾はその程度で防げるものではない。
旧式の骨董品とは言え、人の手足程度なら貫くだけの貫通力を持っている。
少女たちのようにこの少年にも何かあるのか、それとも無策の阿呆か。

それを確かめるべく、空となった薬莢をレバーアクションで排出。
次弾を装填。目視で照準を定め、引き金を引く。

着弾。僅かに誤差をを確認。
少女と同じく肩を掠めたようだ。
その程度の傷、足止めにすらならないのか少年の動きには一切の変化はない。、

再度レバーを引いて薬莢を排出し次弾を装填。ミリ単位で誤差を修正して引き金を引く。
頭部に着弾。腕でガードしているが、腕ごと貫いたはずである。
だが、少年は止まらない。
一瞬だけ動きを鈍らせたがすぐさま、体勢を立て直した。

腕部に防具でも仕込んでいるのか、と思ったがそうではない。
ここからでも流血はしているように見える。

「…………はっ」

思わず口元から笑いが零れた。
なんてことは無い、本当に腕で弾丸を防いだのだ。
単純にあの少年は頑丈なのだ。
突撃は無策ではあったが、勝算がなかった訳ではないようである。

だが、弾丸を耐えられるなど人体の頑丈さではない。
ここにあるのは人体であって人体ではないのだ。

つくづく常識の通用しない。
これこそが戦場だ。
異様なこの世界に限らず、戦場ではなんでも起きるのだ。
予定外想定外予想外。それら全てを乗り越える事こそ戦場を生き抜くと言う事である。


490 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:05:48 WYFSzXwE0
距離にして約150メートル。
装填にかかる一連の動作自体は1秒とかからない。
次弾までに数秒とかかるのは殆どが動く標的に狙いを定める時間である。
だが、その時間も敵が近づく程に短くなり、射撃の精度は上がる。

急所はガードされている。
ならばと、狙いを変え一発、二発と殆ど間隔なく連射する。
狙いは足だ。
弾丸は正確に両足の太腿を打ち抜いた。
この状態で走れる人間はいないだろう。

だというのに、少年は止まらない。
限界を超えて走り続ける。
馬鹿なと言う驚愕と、そうでなくてはと言う歓喜がアーノルドの心中で入り混じった。

距離にして約100メートル。
撤退までの時間を考えればそろそろ限界だ。
ここまでで仕留められなかった時点でアーノルドの負けである。

逃走経路を確保するのがスナイパーの基本だ。
ここに陣を構えた時点で、既に逃走方法は確立している。

アーノルドはサイドに張ったワイヤーを引く。
瞬間、別のコンテナに設置された手榴弾が爆発した。
ドミノ式にコンテナが崩れ、爆炎が引火し一帯が炎上する。

アーノルドはコンテナから炎の逆側へと飛び降りる。
炎によって道が塞がれ、追手が追いつくことはかなわないだろう。

「驚いたな」

だが、アーノルドは見た。
炎の中を駆け抜ける少年の姿を。

それは少年の装備する涼感リングの効果
30度以上の環境で装着していると、周囲の気温を25度に下げる指輪。
それはつまり、炎によって100度を超える環境になろうとも、装備者の周囲は25度に保たれるという事である。
煙に気を付けさえすれば炎を超えることは不可能ではない。

「まったく、白兵戦は得意じゃないんだがな」

逃げきれないと悟ったのか、ライフルをしまってナイフを取り出す。
待ち構えるアーノルドの下に、揺らめく炎背負って少年が立つ。
左腕と両足からは血が流れ、平然と立っていられるのが不思議なくらいの傷である。
だが、両の足で地を踏みしめ、ハッキリとした声で言った。

「キララさんの殺人容疑及び殺人未遂の現行犯で拘束させていただく」
「ふっ。戦場に罪科など問えないさ」
「これを戦争と申すか、ご老公」
「ああ、戦争だよ。私にとってはね」

ナイフを逆手に構え交戦の意思を示す。
素手で挑むは無謀と悟り、太陽もナイフを構える。
くしくも同じ武器、ナイフデスマッチが成立した。

「ではッ! 参る!」

雄叫びを上げて攻める太陽。
ナイフはあくまで牽制にとどめ、敵を拘束すべくその腕を取ろうと手を伸ばす。
対照的にアーノルドは冷静に身を躱して伸ばされた腕を裂いた。

短期戦を狙った狙撃戦とは異なり、アーノルドは長期戦の姿勢であった。
自分からは攻めず、向かってきた相手の手足を確実に切り裂く。
これを続けるだけでよい。

太陽の傷は深い。
これだけ大量の血を流しながら動けるだけでも異常である。
如何に限界を超えられる熱血スキルとはいえ限度はあるだろう。

それでも攻め続ける太陽。
太陽からすれば短期決戦を挑むしかない。
自身が出血多量で倒れるまでに、老人を制する必要がある。

だが、技量では明らかに老人方が上である。
攻める度に手足が細かく切り裂かれてゆく。
迂闊に攻めれば、痛みが増すばかりだろう。

痛みを恐れるまともな人間であれば、ここで攻め手を止めることもあるかもしれない。
だが、大日輪太陽は違う。
血の気の足りなさを熱血で補い、ふら付く足元を根性で支える。


491 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:07:46 WYFSzXwE0
自身の状況に関わらず、太陽の出来ることなどただ一つ。
一瞬に全てをかける事しかない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

老人に向かってナイフを投げつける。
唯一の武器を投げ出す愚行。
故に、老人の意表を付けた。

アーノルドは飛来するナイフを弾く。
だが、間髪入れず二の矢、全身を投げ出すようにして太陽が迫っていた。

胴タックルが決まる。
アーノルドが地面に倒され、太陽が馬乗りになった。
STRや体格の差から、ひっくり返すことは困難だろう。

「…………それでは拘束させていただく」
「見事だ、日本男子(カミカゼ・ボーイ)」

心の底からの敬意と称賛を送る。
刃物を持った相手にタックルを挑む勇気
それでいてきっちりと要点は押さえている。

片腕はナイフを持つアーノルドの右手首を抑えていた。
ナイフを持った手首は抑えられ、アーノルドに反撃の予知はない。

「だが、惜しかったな」

ナイフを持った指先が僅かに動く。
瞬間。太陽の喉から噴水の様に血が噴き出した。

「…………がっ、ごっ…………!?」

スペツナズ・ナイフ
柄に内蔵したスプリングの力で刀身を射出することができる特殊武器である。
スプリングによって発射された刃が、太陽の喉に突き刺さっていた。

「道具の差だが、戦場にはこういう運も必要と言う事だ」

実力ではなく道具の差。
そして、それを得る事の出来た運の差である。

太陽の体が消える。
掴まれていた右腕が解放された。
そこには巨大な手の跡がついていた。
凄まじい握力だった、あのままでは掴んでいるだけでへし折られていたかもしれない。

太陽が消えた場所には幾つかのアイテムが残っていた。
彼の装備していたナイフとリング、何故か掃除機そして。

「…………なんだこれは?」

妙なセンサー機械を拾い上げる。
どういう用途の道具なのかはよく分からないが。
とりあえずアイテム欄にしまっておいた。

[大日輪 太陽 GAME OVER]

[D-7/工業地帯/1日目・黎明]
[アーノルド・セント・ブルー]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:A LUK:A
[ステータス]:疲労(大)、右腕に痛み
[アイテム]:ウィンチェスターライフル改(8/14)(E)、予備弾薬多数、手榴弾×6、ワイヤー、スペツナズ・ナイフ、『人間操りタブレット』のセンサー、ボウイナイフ、涼感リング、掃除機
[GP]:10→40pt(勇者殺害+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:生き残る。
1.充実感。


492 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:08:16 WYFSzXwE0
白馬に乗った三土梨緒は草原を駆けていた。

馬での移動となったため森中を抜けられなくなったため、大森林を迂回する軌道を辿る。
馬上で揺られるたび傷に響く。
もう少しおとなしく走って欲しいが、一刻も早く安全なところまで移動することを優先した。

梨緒を助ける白馬に乗った白騎士。
これは梨緒のスキルによって生み出された存在である。

梨緒自身がピンチを認識しないと出せないため、今回の様な狙撃などは防げない。
そこを補うための太陽だったのだが、まさかあそこまで使えない男だったとは。
素直に梨緒に従っていればいいのに、周囲の人間はどうしてこうも使えないのか。
梨緒は自身の境遇を嘆く。

馬に揺られながら、太陽の向かった工場地帯に目を向ける。
そこには炎が揺らめき赤く燃え上がっていた。

白騎士の守りがあれば狙撃手の居る方向にも近づけるだろう。
今からでも太陽との合流を目指すか?

まさか。
既に殺されている可能性もあるし、なにより愛想が尽きた。
バカの方が操りやすいと思ったか、バカが過ぎると制御不能だ。
人間操りセンサーが失われるのは痛手だが太陽はもう切り捨てる。

馬に揺られながら、遠く揺らめく炎を見る。
次に利用する相手は、もう少し頭のいい人間がいいのだが。

[D-7/草原/1日目・黎明]
[三土 梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:右肩に軽傷
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、スタングレネード、歌姫のマイク
[GP]:136pt
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.次の獲物を探す(利用するか殺すかは状況に応じて判断)


493 : Flame Run ◆H3bky6/SCY :2020/10/18(日) 18:08:33 WYFSzXwE0
投下終了です


494 : 名無しさん :2020/10/18(日) 18:26:09 .IJxwoD60
投下終了です
アーノルド爺さん、向こうが手傷負ってて敏捷互角とはいえあの低スペで白兵戦こなすの恐ろしい
大和くんもめちゃめちゃガッツある男だったが実戦経験の差は覆せなかったか……
早速洗脳対象を失った梨緒ちゃんの明日はどっちだ


495 : ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:12:40 .IJxwoD60
それでは自分も投下します。


496 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:13:07 .IJxwoD60




「なんでアイドルになろうと思ったか」なんて。
彼女の場合、ごくごく単純な理由だ。
昔から“皆を楽しませること”が好きだったから。
小さい頃にテレビで見たアイドルが、すごく眩しかったから。

画面の中で歌って踊る女の子達。
キラキラした表情と、可愛らしい歌声と、愛くるしいステップ。
彼女達のきらめきによって、ステージも客席も昂揚していく。
みんなが笑顔になっている。
なんて素敵なんだろう。
彼女は心からそう思っていた。

安条可憐は、まだ幼稚園に通っていた頃から、歌番組に出てくるアイドル達が大好きだった。
いつも映像に大喜びで釘付けになって、気がつけば見様見真似で振り付けを真似するようになっていた。
苦手な歌の練習だって始めた。まだ小さかったから、基礎もへったくれも無かったけど。
それでも、へたっぴなりに頑張ってそれなりの歌ができるようになった。
いつしか彼女は自信をつけて、近所の“ちいさなアイドル”になった。

周りの人達はみんな優しくて、彼女の歌や踊りを受け入れてくれた。
両親に踊りを褒められたり、仲良しな近所のおばさんにも歌が上手って言われたり、一緒に遊ぶ友達とアイドルごっこをしたり。
あの輝きを追いかけて、自分もそうなりたいと思ったから、可憐はアイドルの真似っ子をするようになった。
みんなはいつも、笑顔で見守ってくれた。

可憐ちゃんは面白い、可憐ちゃんは可愛い。
可憐は、皆からそんなふうに褒められるのが好きだった。
あのテレビの中のアイドルみたいに、自分も皆を笑顔にできる。
それが嬉しくて堪らなくて、胸の内で確かな暖かさとして残り続けた。
小学生に上がってからも、可憐は歌やダンスの練習を続けた。
そろそろ恥ずかしいんじゃない、そんなに本気にならなくても、なんて言う子もいたけど、気にしなかった。

本当のところ、彼女はもう小学生の頃にはわかっていた。
皆は褒めてくれるけど、自分の才能はそう大したものでもない。
声がよく伸びるわけでもない。高音のパートでつっかえることはしょっちゅうだ。
踊るときも余裕なんてものはない。動きが固くなったり、身体が追いつかなくなったり、よくあることだった。
周囲からは一目置かれても、きっと業界でも上手くやっていける―――なんてことない。
テレビで見た、夢を追う同年代の女の子たちの方がよっぽど素質に溢れていたのだから。
可憐は明るく陽気な少女であると同時に、他人や自分を冷静に見つめる聡さがあった。

それを知って尚、どうしてアイドルになりたかったのか。
どんな理由があってプロの世界を目指したのか。
別に劇的な動機があるわけでもないし、何か大それたエピソードが運命を決めた訳でもない。
好きだから、憧れたから。その想いを忘れなかったから。本当にそれだけ。
キララが聞いたらちょっと呆れられてしまうかもしれない、なんて自嘲するように可憐は思う。
でも、それこそがアイドル・安条可憐のオリジンだった。
胸を張って断言できる、彼女の始まりだった。

『あんじょうおおきに、あんじょうかれんです!』
幼かったあの日、テレビに出る自分を夢見て考えた挨拶の口上。
安条可憐の象徴となった決まり文句。
これだけは、今でもずっと変わらない。


497 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:14:05 .IJxwoD60

中学生になった可憐は、本格的に夢を追うようになった。
今まで以上に自主トレーニングを繰り返して、慣れない書類を何度も書いて、幾度となくオーディションを受け続けた。

落ちた回数は、もう覚えていない。とにかくぶつかって、でも上手くいくことは無くて。
一度は挫けかけたこともあったけど、母親や父親は可憐を優しく支えてくれた。
仲の良い友達は可憐の夢を精一杯応援してくれた。
だから、可憐は諦めずに走り続けることができた。
為せば成る。うちならなんとかなる!そう自分に言い聞かせながら、可憐はひたむきな努力を重ねた。

そして、果てしない審査を乗り越えて。
中学ニ年の終盤、今の社長に素質を見込まれて、養成所に入ることが決まった。
可憐は勿論、跳び上がった。嬉しかった。本当に良かった。今までの努力は無駄なんかじゃなかった。
アイドルになれる。ずっと憧れてきた、追いかけてきた、輝くステージに立てる!
家族には真っ先に連絡して大喜びで祝福されたし、友達グループの皆とはお祝いのパーティーをやった。
念願のアイドルへの道が拓かれて、可憐の歓喜は頂点に達していた。


そうして、“あの娘達”とは、養成所で出会った。


可憐より少しだけ遅れて養成所に入った、二人の女の子がいた。
鈴原涼子。滝川利江。
可憐から見て一個上の先輩で、二人はいつも一緒に行動をしていた。
他の研修生とは距離を置いているようにも見えた。
皆がそれぞれ集まって皆で自主レッスンをしていても、涼子と利江は孤立したように二人だけで練習に励んでいた。
馴染めない。溶け込めていない。嫌われている――それとはまた違うように見えた。
二人の方から皆を警戒して、顔色を伺って、関わりを避けているようだった。
別に交流を絶っている訳ではない。話し掛けられたら人並みに応えていたし、彼女達のひた向きさは皆も知っている。
だけど二人は、なにかを疑うように、周囲をどこかで突き放している。
可憐の目に映る二人の横顔は、なんとなく寂しく見えた。

小学生に入ったばかりの頃、いじめられっ子を庇ったときの記憶が蘇った。
可憐は笑顔が好きだ。誰かが悲しみ傷ついているのは嫌だったし、いじめなんて以ての外だった。
助けたいじめられっ子は、おどおどしていた。
可憐の顔さえも伺って、いつも誰かを疑って、びくびくと怯えている。
手を差し伸べられても、恐る恐る握り返すのが精一杯のように見えた。
その姿がとても印象に残っていて、そしてとても物悲しくなった。

可憐は、涼子や利江が気になって仕方なくて。
このままじゃ、いてもたってもいられなくて。
だから意を決して歩み寄って、満面の笑みで挨拶した。


―――あんじょうおおきに!安条可憐です!






498 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:15:13 .IJxwoD60



―――大丈夫や!何があってもウチはあんたの味方や。
―――ウチだけやない他のメンバーだってそうや、当たり前やないか!


自分が涼子にぶつけた言葉を、可憐は脳内で反復していた。
涼子は同じユニットの仲間だ。親友だ。なのに、彼女が一番辛かった時期に支えてあげられなかった。
その負い目があったからこそ、可憐は面と向かってそう言えたことに僅かな安心を覚えていた。

涼子を見つめて、可憐は考える。
キララの死と自らの罪を告白した涼子は、可憐に抱き締められながら静かに啜り泣いている。
自分がぶつけた言葉は、ただの気休めに過ぎない。そんなことは可憐にも分かっている。
だけど、そんな気休めであっても涼子を少しでも慰められたなら、今はそれでいい。
今の涼子に必要なものは叱責でも罰でもなく、寄り添える相手なのだから。
だったら幾らでも胸を貸すし、どんなことがあっても涼子の味方で居続ける。可憐は自らに言い聞かせるように誓った。

今にも泣き出しそうなのは、可憐も同じだ。
キララが生きているなんて確証だって、何処にもありはしない。
だけど。それでも。今だけは、嘘をつかせてください。
神様というものに祈るように、可憐は心の中で強くそう願った。

「……可憐」

涙と共に鼻を啜りながら、涼子が顔を上げた。
真っ赤になって腫れた目元が可憐を見つめる。
未だ悲しみは晴れていない。それでも、少しだけ瞳に光を取り戻していた。

「ありがとう、可憐……そばにいてくれて。支えてくれて。慰めてくれて……」

再び泣き出しそうな顔になりながら感謝の言葉を告げる涼子。
そんな彼女を見つめ返して、可憐はニッと笑う。

「当たり前や。涼子は、HSFのリーダー……ウチらの大事な大事な仲間やから」

いつも通りを装った笑顔。優しい言葉。涼子を心配させないために作った、精一杯の反応だった。
そんな可憐を見つめて、涼子は少しだけ寂しげに、申し訳なさそうに微笑む。

「可憐。みんなを、探しましょう」

そして、意を決したように涼子が言った。
ソーニャ。由香里。利江。―――キララ。
この会場の何処かにいるはずの仲間達。掛け替えのない親友達と合流する。

「……うん、わかっとる。みんなを、探さんとな」

可憐もまた、受け止めるように頷いた。
みんなの無事を確認し、行動を共にする。それこそが最優先だということは、可憐も同じだった。

「さっきな、他の人にも会うたんや。魔王カルザ・カルマっちゅう、変わった名前やけど気のいいおっちゃんでな」
「魔王……うん?」
「そう、ヘンテコな名前やけど魔王や。その人も、ウチらの力になってくれるかもしれへん」

可憐は魔王カルザ・カルマのことも伝えた。
先程出会い、その場では別れてしまったが、温厚で気のいい人物だった。
殺し合いに乗ることもないと言っていた。もしかしたら、HSFの力になってくれるかもしれない。
確証はなくとも、可憐は魔王を信じていた。
心強い味方のアテもある。このまま皆で集まって、力を合わせれば―――。

集まったところで、どうするのだろうか。

可憐の脳裏に、ふいにそんな思考がよぎる。
ずきりと胸が痛む。後先のことなんて何も考えていなかったけど、避けられない問題だった。
シェリン曰く、生き残れるのはたった一人。全参加者で凌ぎを削る殺し合いだという。
キララの死という宣告から目を逸らした可憐は、改めて現状を飲み込む。
もしも涼子が人を殺したというのが本当だとしたら。もしもキララが死んだことが本当だとしたら。
この殺し合いから、誰も抜け出せないとしたら。

「……それで、涼子!聞きそびれたっちゅう利江の居場所も、」

そんな思考を振り払うように、可憐は声を張り上げる。
今は目の前の自体が先だ。うじうじ怯えていたら、涼子にまで負担を掛けてしまう。
それだけは避けなければならないと可憐は強く思った。
だから可憐は、言葉を紡ぐ。


ザッ。


「シェリンっちゅうんが、」


ザッ。


「知っとるんやろ、」


ザッ。


「GPってモン、使えば―――」
「すみません、そこのあなた達!」


迫る足音と共に、その場に声が響いた。





499 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:16:05 .IJxwoD60




養成所で、可憐は涼子と利江に話しかけるようになった。
粘り強く接しているうちに、二人は心を開いてくれるようになった。

初めは訝しむような素振りを見せていた涼子も、次第に可憐と打ち解けていった。
一緒にレッスンをしたり、一緒にだべったり、一緒に街へ遊びに行ったり。
それまでは何処か表情に陰のあった二人だったけれど、ようやく心からの笑顔を見せてくれるようになった。

お節介かもしれないけれど、可憐はそれが嬉しかった。
誰かに踏み込むことは、結果的に傷つけることになるかもしれない。
それでも、誰かと結びつくためには、勇気を出して踏み込むしかないのだ。

涼子と利江は、自分たちの身の上を可憐に話すことはなかった。
可憐はそれを理解しながら、その上で二人の友達で居続けることを選んだ。
二人が家族の話をはぐらかしていることも、そのたびに切なげな横顔を見せていることも、気付いていたからだ。
可憐は二人の過去を知らない。だけど、決定的な何かがあったことだけは分かる。
だからこそ、悲しみを抱え込む涼子と利江に寄り添うことを誓っていた。

二人との出会いを皮切りに、運命は引き寄せられていった。
可憐が養成所入りした翌年、後の“秘密兵器”こと由香里が仲間に加わった。トラブルメーカーだけど、本当は誰よりも素直で自分の感情に正直な子だ。
希代の才能と愉快な人柄を併せ持つソーニャも特待生として入ってきた。お笑いを通じて彼女と可憐は大親友になった。
ついにユニット結成が決まったとき、最後のメンバーとして加わったのがキララだった。元子役で誰よりも芸能界の心構えを理解している、可愛い末っ子である。

涼子と利江が考えたユニット名、ハッピー・ステップ。
可憐たちは、この名前を背負ってデビューすることになった。
ハッピー・ステップ・シックス。六人でひとつ。六つの花弁と共に咲く華。
だけど、みんなで羽ばたくことはついに叶わなかった。

“家庭の事情”だった。
デビュー直前になって、利江がアイドルを辞めた。
可憐は何も言えなかった。少しでも事情を知っていたからこそ、引き止めたかったのに、引き止められなかった。
ソーニャも、キララも、由香里も、みんなショックを受けていた。
それは可憐も同じ。だけど、誰よりも悲しみを背負い込んでしまったのは。
利江と二人で夢を追って、利江と二人で養成所に入って、ここまで一緒に歩き続けてきた、涼子だ。

あの時の涼子の表情を、可憐は鮮明に覚えている。
折れかけてて、挫けそうで、今にも泣き出しそうで。
なのに「なんともない」「大丈夫だから」なんて誤魔化している。
もっと自分や皆を頼ってほしい。仲間だから。ハッピー・ステップは、涼子ひとりじゃないから。
そう伝えたくても、可憐は足踏みをしてしまった。
涼子が無意識に作っていた“壁”を、感じ取ってしまったから。
他人を観察し、他人を気遣うことに長ける可憐だからこそ分かってしまった。

涼子はいつだって、他人を限界まで踏み込ませようとしない。
それが出来たのは、きっと利江だけだった。でも、利江はもういなくなってしまった。
親友になった涼子の傍にいるのに、涼子のことを支えられなかった。涼子を心の底から笑顔にしてあげることが出来なかった。
それが可憐に、深い恐怖と後悔をもたらした。
みんなを喜ばせたいから、笑顔にしたいから、憧れのアイドルになったのに。
なのに、涼子ひとりに悲しみを背負わせたまま、アイドルとしてデビューしてしまった。

だからこそ、可憐は誓った。
何があっても、絶対に可憐を見捨てないことを。
どんなことがあっても、“ハッピー・ステップ・ファイブ”の一員で在り続けることを。

自分には才能がない。凡人だ。可憐はそう思っている。
歌も、踊りも、ビジュアルも、心構えも、野心だって、きっと他の四人のほうが優れている。
養成所で何度もレッスンに励んだからこそ、可憐は改めてそう確信していた。
そんな自分がユニットのために貢献できることがあるとすれば。アイドルとしてのキャラクターを確立できる素質があるとすれば。
それはきっと、“みんなを楽しませること”だろう。
お笑いも、身体を張ることも、きっと自分の性に合っている。
だったら、それを個性にすればいい。可憐はそう考え、決心した。


―――あんじょうおおきに!
―――何でもやります、安条可憐です!


これこそが、譲れない立ち位置。
HSFを支えるのは、安条可憐の役目なのだ。






500 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:18:23 .IJxwoD60



木々の隙間から現れ、声を発した人影。
可憐と涼子は驚いたようにそちらを見た。

涼子はびくりと怯えて、震える手でナイフを取り出す。
もしものことがあれば、自分が。そう言わんばかりに、涼子は唇を噛み締めている。
それを見て、思わず可憐は動いた。咄嗟に涼子を庇うように立ちはだかり、アイテム欄から取り出した武器を握り締めた。
ボウガン。矢を番えて発射する銃器だ。

生まれて初めて手にする感覚に震えながら、可憐はゆっくりと姿を現す相手を睨む。
怖いのはお互い様だと可憐は分かっている。自分の中で込み上げてくる恐怖も理解している。
それでも、人を殺したという涼子をこれ以上苦しめる訳にはいかない。
しかし。

「可憐……」

それでも、涼子は可憐の隣に立った。
未だ恐怖を抱え込みながらも、意を決したようにナイフを握りしめる。

「ちょ、涼子!あんたはまだ……」
「可憐は、私を見捨てなかった。だから私も、可憐だけに任せない」

今にも泣き出しそうな顔でそう告げる涼子。
可憐は目を丸くし、負い目を感じつつも、ふっと微かに微笑んだ。
そういうところだ。涼子は自分を嫌な人間だと思い込んでいるけれど、本当はいつだって真面目だ。
そのいじらしさが、可愛らしくて。そして、そのひた向きさこそがリーダーたる所以なのだ。
可憐は改めてそう思い、隣に立つ涼子を受け入れ。


「―――『頑張れ、可憐』」
「―――『頑張れ、涼子』」


そして、互いに鼓舞の言葉を交わし合う。
スキル『アイドル』の効果が発動する。
二人の身体に、力が漲っていく。
隣に信頼できる仲間がいるという、確かな安心があった。

月光に照らされて徐々にその風貌を顕にした相手は、無害であることをアピールするように両手を上げていた。
短い黒髪と眼鏡に、スーツ姿。さほど特徴のない出で立ちをした男が、口を開いた。


「安心して下さい!警察の者です!」


―――警察。
それを聞いて、二人は一瞬だけ警戒が解けそうになる。


「殺し合いには乗っていません!私は一般の方を保護するために行動しています!」


畳み掛けるように、次の言葉が飛んでくる。
涼子達と男の間の距離は10メートル程。
ある程度その姿が見えているとはいえ、未だ鮮明とは言い難い相手に可憐と涼子の警戒は解けない。

警察。一般の方の保護。
それが本当だとすれば、何よりも心強い味方だろう。
国というものが認めた、紛うことなき“正義”なのだから。
だけど、その言葉の確証は何処にもない。


501 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:19:06 .IJxwoD60

「身分を証明するモノはありません。証拠は私の言葉だけです。ですが、これだけは信じて頂きたい」

それでも尚、男は言葉を発し続ける。
根気強く説得を試みる交渉人のように。

「私は、あなた達に危害を加えるつもりは一切ありません。市民の安全を守ることが我々の使命です!」

声を張り上げて、可憐達に訴えかける男。
可憐の脳裏に、ほんの少し前の記憶が蘇る。
魔王カルザ・カルマ。彼は殺し合いに乗らないことを告げていた。
もしかしたら。あの人と同じように。
目の前の相手もまた、本当に乗っていないのではないだろうか。
可憐の心に、そんな思いが過る。

言葉による呼びかけとは、かくも強いものだ。
嘘を吐いているのか、否か。その真贋を見抜くことは難しい。
しかし、必死になっている人間が目の前にいれば。
叫びながら助けを求めている人間が目の前にいれば。
そういった者達が、粘り強く声を上げていたら。
もしかすると、本当なのではないか――そんな風に思ってしまうのも無理はない。


「……ほんまか?ほんまに、乗っとらんのか?」


可憐は、顔を強張らせる。
隣に立つ涼子は、男と可憐を交互に見る。


「なあ……」


可憐は、言葉を吐き出す。


「嘘やったら」


可憐は、武器を僅かに下ろす。


「承知せんからな、」


瞬間、可憐の身体が“引っ張られた”。
まるで引力か念力か、目に見えない力に引かれるように。
可憐が、男の方へと瞬時に引き寄せられる。
突然起こった奇怪な現象に、涼子も可憐も対応できない。

『捕縛』。
半径10m以内にいる単体の相手を引き寄せる。
それが男の持つスキルだった。

可憐は男の至近距離まで引き寄せられた。
男は可憐に掴みかかった。
咄嗟にボウガンを鈍器のように振って、抵抗を試みた。
可憐は涼子の『アイドル』スキルでステータスを強化されている。
なのに、ボウガンは男の手刀でいとも容易く弾き飛ばされる。
男もまた、偽りの『アイドル』スキルで強化されているなど二人は知る由もない。
そして、可憐は男に衣服を掴まれる。


「かれ―――」


涼子が声を上げた。
動き出そうとしたのに、足が動いてくれない。

可憐の身体が宙を舞った。
大外刈り。掴んだ相手の重心を崩し、足払いによって投げ倒す柔道の技。
華奢な可憐は成すすべもなく、容易く地面に叩きつけられる。


パァン。
乾いた音が轟く。
頭が弾ける。
トマトの果肉のように血が撒き散らされる。
生身の肉体のような脳漿が、ぶちまけられる。
男の右手には、拳銃が握られていた。

パァン。
追い打ちの二発目。
ぐちゃぐちゃの血肉が地面に散らばる。
既に倒れていた少女の身体が、激しく痙攣する。

パァン。
確実に仕留めるための三発目。
弾丸によって徹底的に穿たれる脳天。
紅。塗料のような紅が、水たまりのように土を汚す。





502 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:21:16 .IJxwoD60




言葉が出なかった。
目の前の現実に、目を見開いていた。
記憶が蘇る。
ほんの少し前の記憶が、蘇る。
口論になって、揉み合いになって。
故意の殺意か、不慮の事故か。
今となってはもう思い出せない。
しかし、足元で痙攣しながら死へと向かっていく青年の姿は、涼子の脳に焼き付いていた。

何が起こったんだろう。
何で、こんなことになったんだろう。
涼子は、何も出来なかった。
ただ眼前の事態を、見届けることしかできなかった。

可憐が男に引き寄せられて。
そのまま地面に投げ倒されて。
そして。その頭目掛けて。
三発も、撃ち込んで―――。

スーツ姿の男――笠子 正貴は、真顔のまま拳銃の弾丸を込めている。
可憐への興味を失ったように、悠々と。
そして、横たわる可憐の姿が、消えていく。
まるで消去されるデータのように、血肉もろとも消滅していく。
それを目にした途端、涼子の意識は急速に引き戻される。
この現実へと、冷酷に。


「……なん、で?」


思わず、言葉が漏れた。
それが、最初に込み上げた感情だった。

「なんで、可憐を」
「いや」

正貴が、ぽつりと呟く。
ぬらりと顔を上げて、涼子の方を向いた。

「だって……可哀想だから……」

絞り出すように、言葉を紡いだ。
その一言に、涼子は呆気に取られる。
何故って――その意味が分からなかったから。

「ご友人である、あなたの目の前で撃たなかったら……」

ぼそぼそと喋りながら、徐々に俯きがちになっていく。
落ち着き払った声色なのに、時折子供のように自分の爪を噛んでいる。
ほんの少しの間、沈黙する。
そして、スーツ姿の男は。
ゆっくりと、涼子を見つめた。


「この子は……独りぼっちで、亡くなってしまうじゃないですか」


涼子は、言葉を失っていた。
理由なんて、幾つもある。
だけど、一番に言えることは。
目の前の男が、心底悲しそうな目をしていたからだ。
可憐を少しでも弔いたいと言わんばかりに、そう告げてきたからだ。


「……彼女のご冥福を、お祈りします」


意味がわからなかった。
理解ができなかった。
絶望、恐怖、動揺―――それ以上に、涼子の頭は混乱していた。


―――だって。
―――なんで、申し訳なさそうなの?
―――自分で殺したのに。
―――なんで、悲しそうな顔してるの?
―――自分が殺したのに。


そうして涼子が立ち尽くしていたとき、正貴は再び銃を向けた。
何事もなかったかのように、冷たい眼差しで涼子を見抜いた。


503 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:22:26 .IJxwoD60
涼子の胸中から、吐き気のような、恐怖のような、雁字搦めの感情がこみ上げてくる。
走馬灯か何かのように、頭のなかで過去が渦巻く。

何処かへ逃げ出したくて、施設を家出した幼い日の記憶。
周りから疎まれ、嫌われ、蔑まれた中学時代。
利江と出会い、一緒に夢を追うことを誓い合ったあの日。
二人で頑張って、二人で支え合って。可憐、由香里、ソーニャ、キララとも仲間になって。
だけど、利江だけはいなくなって。
悲しみを押し殺しながら五人で頑張って、どんどん駆け上がっていって。

そして。
あの軽薄な男と、揉み合いになって。
思わず、■してしまって。
そして。
そして。
そして、
キララが■んじゃったことも、知らされて。
悲嘆していた自分を、可憐が支えてくれて。
男の人が現れて。
可憐が―――。


「―――っ、あ」


言葉が、漏れた。
嘔吐するように、零れ落ちた。
涙が、溢れ出た。
悲しみも、絶望も、堪えきれない。
全てを吐き出してしまいそうな感覚に、涼子は沈んでいく。

「……大丈夫ですか」

正貴は、そんな涼子を見つめながら呟く。
眼差しに浮かぶのは、友人を失った少女への哀れみ。
それと同時に、内包していたのは。
少女の身体を“観察”し、“品定め”するような、ねちっこい感情。
相手に気づかれぬように唾を飲む正貴だったが、すぐさま思考を切り替えた。

「本当に、すみませ―――」

正貴が謝罪と共に引き金を弾こうとした、次の瞬間。
突如として、正貴の視界が真っ白に染まった。
煙幕が周囲を覆い、辺りを把握することが出来なくなる。
咄嗟に腕を振るって煙を追い払おうとしたが。
十数秒後、視界が晴れた頃にはもう涼子の姿は無かった。





「……正貴さん」
「真央さん」
「見てたけど……やった、のね」
「はい」

物陰に隠れ、遠目から見張っていた真央が姿を現す。
正貴はゆらりとした動きで歩み寄り、回収したボウガンを渡した。

「すいません……片方、逃してしまいました」
「そう」

申し訳なさそうに謝る正貴に対し、真央はただ一言だけ呟いた。
初手で『捕縛』スキルが決まったのは大きかったが、再発動までのチャージに数分程度の時間が掛かる。
それ故に鈴原涼子を『捕縛』で引き寄せて殺害することは出来なかった。
尤も、涼子に時間を稼がせたのは正貴自身の気まぐれじみた行動による部分も大きいのだが。

肝心の真央は、再び缶ビールを取り出していた。
ごく、ごく、ごく――と、一気飲み。
気を紛らわせるように、動揺を誤魔化すように、酒を身体に注ぎ込んでいた。

「ぷはぁっ!あぁーーー……」

そして口を離し、アイドルらしからぬ呻き声を出す。
ほろ酔いの感覚に身を委ねて、ぼんやりと宙を見上げ。
真央の表情は、次第に綻んでいく。

「……ははっ……ははは……」

声が漏れる。笑みが漏れる。
高揚と動揺が、同時に込み上げてくる。

「ぷっ、く、はははは!あはははははははっ!やった!やってやったわ!ざまあみろっての!
 くたばったんだ、あいつ!そうよ!頑張ってきたのは!生きるべきなのは、私!あんなガキじゃなくて、私!」


504 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:23:15 .IJxwoD60
絞り出すような狂喜が、吐き散らされた。
心底愉快そうに。しかし、何処か恐ろしげに。
目の前の現実を笑って誤魔化すように、彼女は死んでいった少女を侮辱していく。

「ははっ、はは、ははは、はぁ、ああ―――――」

あのHSFのガキを殺してやった。絶望を与えてやった。
楽しくて楽しくて仕方ない。だというのに。
真央の胸中に浮かぶのは、不安と恐怖だった。
自信の感情を、酒を飲んで無理矢理紛らわせていたのだ。
そんな真央を、正貴はまじまじと見つめる。

「大丈夫ですか」
「……うっさい」
「あの」
「何よ」
「人が死ぬところは慣れてませんか」
「うるさいっての!!」

思わず声を荒らげる真央。
当然だった。真央は歪んだ人間であっても、別に荒事に慣れている訳ではない。
ましてや人の死を間近で見ることなんて、今まで一度たりとも無かった。
だからこそ彼女は、正貴の殺人に少なからず動揺していた。

「……すみません、真央さん」

そんな彼女の様子を見てか。
正貴はその場で膝を付き、真央の手を取る。
突然のことに真央は僅かに驚く様子を見せる。
そして正貴は、彼女の手の甲へと優しく口付けをした。

「僕が、あなたを支えますから……どうか安心して下さい」

そう言って、正貴は穏やかな顔で微笑んだ。
温厚に、優しげに。先程まで銃を握っていた男とは思えない、柔和な表情。
しかし、その目は黒く濁って、何も捉えていない。
そんな彼の眼差しに、真央は惹かれていた。
先程までの動揺も、酔いも、怒声も忘れて、口元が綻んでいた。





「はぁっ、はぁっ、はぁ……!」


木々の隙間を抜けて、橋を越えて、必死に走っていく。
逃げる。ただひたすらに、逃げていく。

なんで、こうなってしまったのだろうか。
私達が、何をしたって言うんだろう。
どうしてキララが、可憐が。

心が折れても不思議ではなかった。
あの場で泣き叫んでもおかしくはなかった。
それでも、辛うじて残されていた気力を振り絞って、涼子は逃げ出すことができた。
支給品の『煙幕玉』。地面に叩きつけることで、周囲に煙幕を発生させる。
アイテム欄から咄嗟にこれを取り出して使用し、追撃を免れることができた。

何してるんだろう。
何でなんだろう。
何なんだろう。

走る涼子の脳裏に、何度も言葉が木霊する。
まるで彼女自身を苛むような言葉が、心も身体も蝕んでいく。
それでも。それでも、今の涼子にできることは。
ただ走って、その場から離れることだけだった。


[安条 可憐 GAME OVER]


505 : Stand by Me ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:24:00 .IJxwoD60

[G-6/島南/1日目・黎明]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱、強いショック
[アイテム]:ポイズンエッジ、煙幕玉×4、不明支給品×4
[GP]:50pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.この場から逃げる。
2.近くにいるソーニャとの合流
3.少し遠くにいる由香里との合流
4.どこにいるのか割らかない利江との合流(シェリンへの問い合わせも検討)
※可憐から魔王カルザ・カルマと会ったことを聞きました。

[H-6/島西寄り/1日目・黎明]
[黒野 真央]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E→D(「ヴァルクレウスの剣」の効果でLUKが1ランク上昇中)
[ステータス]:ほろ酔い、回避判定の成功率微増
[アイテム]:ヴァルクレウスの剣(E)、VR缶ビール10本セット(残り5本)、ボウガン、支給アイテム×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:絶対に生き残って、のし上がる。
1.正貴を使って他の参加者を殺す。涼子は次見つけたら絶対に殺す
2.できる限り自分の手は汚したくない。

[笠子 正貴]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:黒野真央のファン、軽い酒酔い(行動に問題はない程度)
[アイテム]:ナンバV1000(8/8)(E)、予備弾薬多数、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:25→55pt(参加者殺害で+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:何かを、やってみる。
1.真央の望みを叶える
2.真央を護ることを「生きる意味」にしてみる。
3.他の参加者を殺害する。
※事件の報道によって他の参加者に名前などを知られている可能性があります。少なくとも真央は気付いていないようです。
※『捕縛』スキルのチャージ時間は数分程度です。


【煙幕玉】
鈴原涼子に5個セットで支給。
地面に叩きつけることで瞬時に煙幕を発生させる玉。
煙幕の効果は十数秒ほど持続する。

【ボウガン】
安条可憐に支給。
矢を射出できる携行用銃器、つまり通常のボウガン。


506 : ◆A3H952TnBk :2020/10/18(日) 23:25:34 .IJxwoD60
投下終了です


507 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/19(月) 00:07:50 J4SLVK7.0
投下乙です
可憐……仲間想いのいい子だったよ
HSFを支えてきた可憐の脱落は他のメンバーにも影響が大きそうですね、リーダーのメンタルが心配
そして、捕縛スキルと武器と組み合わせは初見殺しすぎる
真央ニャンは意外というか当然と言うか殺人に対する嫌悪感は残ってるのね


508 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:06:14 3OegFg.c0
ちょっと遅れましたが投下します


509 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:07:32 3OegFg.c0
空はまだ昏く、時計はもうすぐ午前四時を指そうとしている。

かなり西に傾いた月に照らされた草原を、えっちらおっちらと歩く男女がいた。


「焔花さ〜ん。やっぱり担ぐの代わろうか〜?」
美空ひかりが最後尾から声をかける。

「大…丈夫…!」
先頭を歩く焔花が答える。その肩には金髪の男がぶら下がっている。
筋肉質とは言えず、STRも低い焔花にとってその男は非常に重荷なのだろう。一歩進むたびに体がふらついている。
その歩みは幼子のそれよりも遅い。

「本当に大丈夫ですか…?」
「だい、だいじょう、ぶ!」
焔花のすぐ後ろを歩くアイナの呼びかけにも同様に答える。
しかしその足取りはおぼつかず、到底はいそうですかと言ってやることはできない。
見かねたひかりが手を叩く。
「はいはい!ちょっと休憩にしましょ、焔花さん!」

でも、と反発する焔花の言葉を遮ってひかりは続ける。

「『でも』じゃないでしょ。さっきよりだいぶペース落ちてきてるし、このペースじゃ市街地に着く前にエンジ君が目を覚ましちゃう。
それに足が疲れたときは、ちょっと屈伸するだけでもだいぶ変わるからさ。能率を求めるなら時には休憩も必要だよ」

ひかりは不満げな焔花にかまわず手ごろな岩に腰掛け、「アイナちゃんもおいで」と手招きする。

焔花も不承不承と言った面持ちで別の岩に腰掛けた。
とはいえ脚にはかなりの負荷がかかっていたらしく、すぐに屈伸運動や太もものマッサージを始める。

その様子を満足げに眺めるひかりに焔花が声をかける。
「ひ、ひ、ひかりちゃん。あ、合言葉を決めておき、おきたいんだ」
「合言葉?」
「そう。あ、合言葉」

いまいち発言の意図を図りかねている様子のひかりに、焔花は説明する。

「さ、さっきひかりちゃんがい、言ったように、市街地に着く前に、エンジ君が目を覚ましたとして、仮にの、『乗っていた』とするなら一番最初にこ、攻撃されるのは、多分オレだから」
「まあ、そうね。それで?」
焔花が自ら申し出たとはいえ、危険な役目を彼に押し付けてしまったことに引け目を感じているのか、ひかりは少し気まずそうな顔をしながら先を促す。

「オレのスキルには、そ、そういう状況をひっくり返せるものが、あるんだけど、ま、周りを巻き込んでしまうんだ。
 だから、お、オレがその合言葉を言ったらすぐに、アイナちゃんを連れて、オレから離れてほしい」
焔花にしては長いセリフを、どもりながらもしっかりと言い切った。

「まあそういうことなら。どんな合言葉にするの?」
「そ、それは――――」




合言葉が決まると、何かを振り払うようにアイナが立ち上がり「そろそろ行きましょう」と二人に笑いかける。
合言葉を決めるやり取りの間、少し暗い顔をしていたような気がしたが、今はそんな様子はない。
遅れて焔花が立ち上がるのと同時、彼らの頭の中で短い電子音が鳴る。

「メール?」
「みたいですね」

各々メニュー画面から[[メール]]を開き内容を確認する


510 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:08:11 3OegFg.c0

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[イベント]砂漠のお宝さがし開始のお知らせ

〜風の噂が流れた、あの大盗賊がお宝を砂漠に隠したと。さあ君に見つけられるかな?

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。

砂漠エリアにて砂漠のお宝大探索イベントを実施します!
大砂漠に大盗賊のお宝が埋められました。

GPや強力なアイテムなどをGetできるチャンスです!
砂漠に存在する10個のお宝を見つけることができるか!?

イベントは本メール受信より開始となります。
全アイテムの発見を持ちましてイベントは終了となります、ご了承ください。

※お宝は特定ポイントに到達した際、LUKの確率で発見できます。
※また探索スキルや探索アイテムがあると必要なLUKが下げられイベントが有利になります

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「……どう思う?」
ひかりが口火を切る。
現在地はD-4。砂漠エリアは北東に向かってエリアを一つ二つ越えれば到着する。
率直に言ってかなり近い……のだが。

「罠とかではないと思いますが……」
「し、正直、い、今のオレたちには……」
「まあそうよね」
同行する二人からは難色を示され、ひかり自身もそれに同調する。

現在三人はエンジ君から事情聴取を行うため、砂漠とはほぼ反対方向にある市街地に向かっている最中である。
そのうえ、縁児を背負っているためその行軍は亀のように遅い。

[イベント]と言うからには、すべてのプレイヤーにこのメールが送られていることだろう。
つまり、イベントに参加しようと考えるプレイヤーが砂漠エリアに集まるということ。
ゲームの打破を目的とするSTRの高いプレイヤーと遭遇できれば、エンジ君の運搬を代わってもらえるのでありがたいところだが、そう都合の良い話はないだろう。
これまで『乗った』人間に遭遇していないこと自体が奇跡のようなものなのだ。

現在の三人の状況では、何を考えているかもわからない不特定多数の参加者との接触は避けたいというのが本音だ。
しかも市街地と違い、砂漠エリアにはおそらく遮蔽物もない。

ということで、身を隠せる場所も安全が保障される場所もない、と来ればこのイベントはスルー一択と結論付ける。

「それじゃあイベントは「焔花さん!!」
「がッ……!!?」 

イベントの不参加を二人に告げようとしたひかりを遮り、アイナが叫ぶ。
弾かれるように焔花の方を振り返ったひかりが見たものは――――


511 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:08:46 3OegFg.c0


――――焔花の後ろから彼の首に腕を回す、エンジ君の姿。



◆◆◆

動画配信の仙人との邂逅から数時間。

深い眠り―――というか気絶から目覚めたエンジは声を聞く。

知らない男と女の声。

否。女の方はどこかで聞いた覚えがある。

確か、テレビのCMだか、音楽番組だか。
動画配信サイトの広告でも聞いたような。

思い出すな、と脳が告げている気がするけれど。
今は殺し合いの真っ最中。

気絶していた自分のそばに誰かがいるこの状況で、その正体を確認しないわけにはいかないのだ。

目を開き、周囲を見る。
全員がエンジから注意を逸らしていた。

一人は金髪のガキ。
一人はアフロヘア―のおどついた男。
そしてもう一人の女の顔を見てエンジの口が歪む。
忌々しい傷も完全に癒えた今、為すべきことはただ一つ。


さあ、アイドルを殺そう。



◆◆◆



「動くんじゃねえ!!!」

焔花を拘束したエンジ君が吼える。

右腕はしっかりと焔花の首に巻き付き、左手には拳大の石をもっている。
Tシャツによる簡素な拘束は、どうやら簡単に外されてしまったようだ。

「よお美空ひかりィ!
 何でいるのか知らねえが会えて嬉しいぜ!トップアイドルのてめえをこの手でブチ殺せるってんだからよお!!」

やはりというか、予想通りというか、焔花のように『実は良い人』ということもなく、この男はゲームに乗っていた。


512 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:09:32 3OegFg.c0


「焔花さんを離しなさい!」

こういう展開も予想していたので、ひかりの身体はスムーズに動く。
後方でアイナが何か叫んでいるようだが耳には入らない。
流れるような足さばきと共に繰り出されるは競技空手において最もリーチが長いとされる逆拳上段連突き。一般的に「逆逆」と呼称される技だ。

右構えから放たれた上段逆突きが、3mほど離れたエンジの顔面を撃ち抜く。

「なっ…!」


――否。
撃ち抜く――――はずだった。


鼻っ柱に着弾するはずだった拳はエンジの顔の1cm程手前で静止してしまっている。
見えず、触れもしない何かに遮られ、ひかりの拳はエンジには届かなかったのだ。

「美空ひかり…!俺を…『攻撃』したな!」


エンジの顔が愉悦に歪んだ瞬間。
美空ひかりが纏っていた『何か』が消失した。

カリスマのようなオーラのような。
どちらでもあり、どちらとも形容できそうにない、美空善子をアイドルたらしめていた何かが。


「アイドル…フィクサー…!」
「お、よく知ってたな。ガキンチョ」

アイナが呻くようにそのスキルの名を呼ぶ。
『アイドルフィクサー』
それはエンジが持つ唯一のスキル。
アイドルを喰い物にするスキルであり、アイドルから攻撃を受けず、そして――――。

「俺に攻撃を行ったアイドルは、アイドルである資格を失う。
 つまりアイドル・美空ひかりは死んだってことなのさ!」

そんな馬鹿な、と善子はメニュー画面を開き[[ステータス]]を確認する。
見ると、先ほどまでは確かに存在していた『アイドル』スキルが消失していた。

「う…そ…」

愕然とする善子。しかし直後に聞こえた鈍い音が、彼女を現実に引き戻した。
エンジが石を持った左手で焔花を殴りつけた音だった。鈍い音と共に焔花の顔が苦悶に歪む。

「てめえ、おっさん!今何かスキル使おうとしただろ?
今の自分の立場わかってねえのか!ああ!?」

ゴツゴツと頭や肩、脇腹を殴りつける。

「くっ……!」
血を流す焔花の姿に己の甘さを悔いるひかり。
拳を握りしめ、奥歯が軋む。

善子もアイナも強く後悔した。
こんなやつを助けなければよかった。
おそらく危険人物であろうとは予想していた。
助けたくないという本音を抑え、悪い人じゃないかもしれないと希望的観測をし、仏心を出した。しかし結果がこの有様。
仲間を人質に取られ、アイドルスキルをも失った。
完全に仇で返された形だ。


513 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:10:49 3OegFg.c0


「おっと、妙なこと考えるなよ。次、俺に攻撃なんかしてみろ。何失うかわかったもんじゃねえぞ。
 歌を歌うための声か、それとも曲を作るための耳か。
ドルオタ共と握手するための手かもしれねえし、ダンスを踊るための足かもしれねえ。
 どれ失ってもアイドルとしちゃあ致命的だよなあ」

「ひかりだけじゃねえ、取り巻き共もだ。
変なそぶりなんか見せようもんなら、即てめえの首へし折ってやるからな。
そっちのガキもだ。手に持ってるもんさっさと捨てな!」

エンジのさらなる要求にアイナも仕方なく従う。

首をへし折るという行為がエンジに可能かどうかはわからないが、それが可能であった場合、焔花は確実に殺されてしまう。
善子も、アイナもそれを怖れて手を出せずにいる。
焔花を盾とされているこの状況で役に立つ支給品もない。

歯噛みし、睨みつけるしかできない善子の様に気分を良くしたエンジは、下卑た笑みを浮かべて口を開く。


「よーし、美空ひかりィ!服をぜぇぇんぶ脱いで、『BEAUTIFUL SKY - ひかり -』を歌いながら踊れ。
 てめえのデビュー曲だ。歌えねえ踊れねえとは言わせねえぞ!」

とても正気の沙汰とは思えない要求。
従うしかない状況だが、さすがに貞操の危機すら感じさせる要求に黙って従いたくはない。

「仮に私がその通りやったとして、あなたはそれをどうするのよ」
「このゲームで優勝すりゃゲームの管理権がもらえるんだろ。
管理者権限でその映像をゲットして、世界中にばら撒いてやんのさ!」
「そんな…!」
「よかったなあ美空ひかり!!
 万一このゲームが本当にただのゲームで、俺に殺されて元の世界に帰れたとしても、もうアイドルなんざやらなくていい!なんせ、ポルノ女優としてのキャリアが拓けてるんだからなあ!」


ギャハハハと高らかに嗤うエンジ。
善子の堪忍袋の緒が切れるが、この状況ではなにもできない。

「下種が!!!」

善子が吐き捨てた侮蔑に、エンジが憎悪で応える。
「うるせえ!てめえらアイドルは全員等しく屈辱にまみれて死ぬべきなんだよ!」
さあ脱げ!それとも、このおっさんを縊り殺されなきゃできねえか!」


514 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:11:37 3OegFg.c0


善子が観念し、服に手をかけたその時、


「ひ、ひ、ひかりちゃああん!たす、助けてくれええ!死にたくないよおお!」



捕まって以降、押し黙っていた焔花が叫ぶ。
涙を散らし、鼻水と涎を垂れ流し、助けを求めて泣き喚く。


それがきっかけ。
エンジに相対していた善子はアイナの腕を掴んで踵を返し、全力で二人から離れるべく走り出した。



◆◆◆

「アイドルが人質見捨てて逃げやがった!」


品のない笑い声をあげるエンジ。

エンジとしてはアイドルを貶めるネタを得たかっただけなので、ひかりが要求を飲もうが飲むまいがどちらでもよかった。
そもそもガキの裸体になど端から興味はない。

人質を取り無理難題を押し付け、全裸で踊る無様を晒すか、自分かわいさに人質を見捨てるか。
ポルノ女優に身を堕とすか、自分のようにバッシングの中姿を消すか。
どちらの行動を取ったとしても、その映像を世界中にバラ撒けば、美空ひかりがアイドルを続けることは不可能だろう。

そうして絶望したアイドルをぶち殺すことが自分の復讐の一歩なのだ。

だから嘲笑いこそすれ、このまま二人を逃がすつもりはない。

まずは手始めにこのアフロのおっさんを殺してから――――



そう考え、エンジが視線を移すと、

焔花は体の内側から、強く光り輝いていた。


◆◆◆



「ダメ!ひかりちゃん!止まって!戻って!」

STRの差からなすすべなく引き摺られるアイナが悲痛な表情で叫ぶが、善子は足を止めることなく彼女の懇願を却下する。

「ダメよ!アイナちゃん聞いてなかったの?
あれは焔花さんと決めた合言葉だったじゃない!」

そう。
あのとき決めた合言葉は『助けてくれ。死にたくない』。
焔花がこの言葉を発することが一発逆転のスキルを発動する合図。
自分達の仕事は巻き込まれない距離に離れることだ。
必ず全うしなければならないが故に善子は走るのを止めない。


515 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:13:17 3OegFg.c0

「違います!そういうことじゃありません!」
しかしスキル『テレパシー』で焔花の思考を読み取っていたアイナにはもう少し深い真実が見えていた。


「焔花さんは!スキル『自爆』でエンジ君を道連れに死ぬつもりなんです!!!」
「――――え?」

アイナの言葉に驚き、足を止めたその瞬間。
先ほどまでいた場所から爆炎が上がり、轟音と空気が膨張したことによる突風が二人の身体をしたたかに叩いた。



◆◆◆



―――至近距離で発生した爆炎に身を内から外から焼き尽くされ、己の死が確定したことを自覚した津辺縁児は思う。



どうして自分がこんな目に遭わなくてはならないのだろう。


自分は間違ったことなんかしていないのに。



間違ったことを言う上司に反発し、甘ったれた後輩の成長を促すために愛の鞭を振るい、会社に利のある契約をするために取引先に強気で接した。

それなのに会社のために泥をかぶった自分が、使えないと言われて切り捨てられた。



新たに始めた動画投稿だってそうだ。

時事ネタに積極的に首を突っ込んだのも、凝り固まった価値観に一石を投じて見方を広げてやりたいと思ったからだ。


それなのにちょっとアイドル業界を批判したくらいで、配信停止にまで追い込まれた。



―――これらは今の状況を正当化するための後付けの理屈。
―――しかし時を経るにつれて、それらは縁児にとっての真実にすり替わっていた。



認めて欲しかった。

縁児君が正しかった。俺を見下し害した連中に、そう認めて頭を下げて欲しかった。

それなのに。



「どゔじで、俺だげが―――――」


――――誰にも認められないのだろう。



◆◆◆



焔花 珠夜は考える。


ついにやってしまった。


516 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:13:49 3OegFg.c0


『爆発で人を傷つけない』

それは爆発は最高の芸術であると信じる自分にとって、絶対に守らなければならない矜持だった。

だがその矜持を曲げてでもひかりとアイナを守りたかったのだ。


あの歌声を聴いたとき、美しくも優しい青空が心に浮かび、感動を伝えずにいられなくなってしまった。直前に顔面を蹴り飛ばされて隠れていたのも忘れて、だ。
以前、ひかりのライブで試みた爆破が、未遂に終わってしまったことが悔やまれる。
成功していれば、あの素晴らしい歌声に、この手で彩りを添えられたというのに。


アイナは自分を信じてくれた。
初対面であんなに怖がらせてしまったのに、ひかりに疑われる自分をかばってくれた。
今回の作戦でも自分の身を終始慮ってくれた、優しい子だ。


そんな二人を守って、最期に華々しく散ることができた。

他人を傷つけた以上、もう『爆発は芸術だ』などと言う資格は、自分にはないけれど。

悔いはない。多分。まあ、一応。
そういうことにしておいた方が格好いいし。


欲を言うなら、自分の最期の爆発を――――もっと多くの人に。



◆◆◆



爆炎も煙もやがて収まり、後には大きく浅いクレーターが残った。

戻ってきて、その中心に散らばったアイテムを呆然と眺める美空善子。


アイドルスキルを失い、目の前で仲間に死なれた彼女の胸に去来する物とは――――。



【津辺 縁児 GAME OVER】
【焔花 珠夜 GAME OVER】


517 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:15:05 yU2OUyyk0
投下します。


518 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:15:47 yU2OUyyk0
すみません、更新をしてなかったです。
投下中に失礼しました。


519 : 自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:17:54 3OegFg.c0
[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・早朝]
[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康、絶望
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.今は何も考えられない。
2.市街地に向かう。
3.知り合いと合流。
※『アイドルフィクサー』所持者を攻撃したことにより、アイドルの資格と『アイドル』スキルを失いました。
GPなどで取り戻せるか、現実の美空ひかりに影響があるかは不明です。

[田所 アイナ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:ロングウィップ(E)、不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:お家に帰る
1.焔花さん…
2.市街地に向かう。
3.ひかりちゃんには負けない

[備考]
クレーターの中心に焔花の支給アイテムが散乱しています。


520 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/19(月) 21:18:15 3OegFg.c0
投下終了です。


521 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:44:10 yU2OUyyk0
さきほどは失礼しました。
投下します。


522 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:45:04 yU2OUyyk0
イコン教団が本格的に活動を行うより約一年前、彼女が偶像となるその瞬間まで、生きてきた世界は貧しい寒村だった。
親の顔すら知らず、姓も持たない孤児として育った彼女であったが、元よりあぶれ者やすねに傷を持つ人間で構成されたその村は、彼女を拒むことは無かった。

彼女は己の境遇を変わったことは何もないと思っていた。
教会付属の孤児院の中で歌うことや踊ることが大好きで、皆そんなイコンに魅了されていた。
貧しい暮らしで次々と人が倒れたが、それが普通だと思っていたし、
猛吹雪が降る前日、村から多くの人間が消え、その内数人の孤児院の仲間が怪我をして帰ってきたこともありふれたことだと思っていた。

「ザナク、具合はどう?」

「ああ、今日は調子がいいよ」

イコンはベッドの上の少年を見る。
少年の肌は窓の外で降っている雪の様に白く、顔はやつれていた。
もっともそれは彼が怪我をして帰った数日前からではなく、彼が生まれてからの事だ。

「ギン兄とローア姉も、一昨日までは元気だったんだけどなあ」

「ザナクはきっと元気になりますよ。」

この付近は、血縁的にほぼ全員が親戚である。
度重なる近親婚の果て、生まれながら奇病を持つものがもはや過半数であった。
別の血を取り入れようにも、隣村も、その隣村も、果ては国の王族すらこの村と同じく勇者「マコト・ユフミ」の親戚である。
イコンは別の血が強いのか、幸運にもそのような症状は無く、奇跡の子とも呼ばれているが、そんなことはない。
むしろ、自分一人だけこの村から取り残される恐怖が強かった。

「なあイコン、なんでここに村ができたか知ってるか?」


523 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:47:07 yU2OUyyk0
ベッドの上の少年は白髪の頭を揺らし、ベッドから身を起こした、

「聞いたこともありません」

「昔、金が貴重な時代があって、
 向こうの山から取れる金を目当てに、いろんな人が集まってできたんだってさ」

「銀ならともかく、金に人が集まる時代があったなんて、信じられませんね。」

「勇者ゴウダって奴が、アホみたいに金を増やしたから悪いんだよ。
 俺たちも勇者の時代の前に生まれてたら、大金持ちになれてたのになあ」

「ザナク、お腹が空いているのだったら、アイク兄さんがもうすぐ狩りから…」

「いや、そういう意味で言ったんじゃないよ、
 アイク兄が帰ってきたら二人で食いな」

「でも何か食べないと体に良くないわ」

「いや、最近は調子もいいから平気だって。
 そうじゃなくて…そこの棚の一番上、開けて見な」

「?」

少年の言うとおり、一番上の衣類棚を開ける。
衣装棚の中は、一瞬衣装棚の中が外に続いているのと錯覚する白景色が広がっていた。

「まあ…!」

中に入っているのは、純白のウェディングドレスと、煌びやかな装飾品であった。

「前に、ツキタの子孫の入り婿が来るって噂聞いたろ?
 そこからちょっとクスねてきたんだ。」

クスねた、それだけでイコンは眩暈がしそうになる。
しかもこれだけの量の荷物、とても穏便に、しかも一人で盗めたはずがない。
イコンは銀色に輝く指輪を手に取った。
ズシリと重い、その重さは勇者の時代には加工の問題で見向きされなかったというプラチナで作られていることを示している。
顔を近づけよく見ると、指輪には花を模した精巧な細工が施されている。


524 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:48:47 yU2OUyyk0
「…数日前、崖崩れがあった場所に兵士が集まってましたね
 まさかツキタ一族を敵に回したのですか?」

現代でもプラチナにこれほど精巧な細工を施す方法を聞いたことはない、
勇者ツキタの子孫、下手をすると勇者の時代にツキタ・キザス本人が魔術を用いて加工した代物に違いない。
イコンの顔から血の気が引いた。

ツキタの子孫と言えば、この時代において病に侵されず勢力を伸ばしている一族である。
なぜ病に侵されなかったのか、それは奇跡でも何でもなく、
女に生まれれば各地の有力者に売り飛ばすように送り込まれ、男に生まれれば有力者の女を娶るという
人を人と思わぬ強引な方法で勢力を伸ばした故に過ぎない。
その統治も強引で、経済の安定を目論む性急な貨幣の刷新と、近親婚の排除を目的にした強引な民族管理により大勢の人間が混乱の渦に巻き込まれた。
この村の人間も、そのあぶれ者が大半だと聞いている。

「勇者様の子孫相手にやってやったぜ、へへ…」

「バカ、勇者の子孫って言ったら、凄い魔法が使えるんですよ。
 この村の人間が束になっても勝てるはずないですよ。」

「いや、今回の花婿様は噂通りそんなものは使えなかったよ。
 大したことない奴だった。」

「大勢やられて、あなたも刺されたのに?」

「俺と同じ、人間だったよ」

少年はベッドにごろりと寝ころんだ。

「あーあ、なんで同じ人間なのに、こんなに差があるんだろうなあ
 俺たちはただ、明日の飯が欲しかっただけなのに…」


525 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:51:44 yU2OUyyk0
「ザナク……」

「イコン、それやるよ。
 それもってどっかに逃げた方がいい」

「そんな、これはせめてザナクが持つべきだわ」

「気にすんなよ、そんなことより、歌ってくれよ
 やっぱ、宝石なんかよりもイコンの歌の方が俺は好きだよ」

イコンは、ザナクの目を見た。
その瞳に、かつてのような活発さは無かった。

「それも………いえ、わかりました。」

犠牲を払って手に入れたものをなぜ放り出すのか、
それを悟ったイコンは歌を紡ぎ、少年は目を閉ざした。
イコンは歌も踊りも好きだが、この時ばかりは歌っている時も悲しかった。


それから数時間後、背後のドアが、ギイと音を鳴らして開いた。
見慣れた大男が入ってきたが、イコンはザナクから目を離さなかった。

「ザナクはどこだ?」

「アイク兄さん、何か取れました?」

「何も獲れなかった。相変わらずの不猟だよ。」

アイクと呼ばれた男は首を横に振った。

「そんなことより、ザナクはどこだ?
 居なくなった連中、入り婿を迎える領主の娘を殺して金品を奪ったと村の連中から聞いたぞ。」


526 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:54:51 yU2OUyyk0
今度はイコンが首を横に振った。

「死にました。」

男はベッドの上の少年を見た。
生まれつきの青白い顔がさらに白く、安らかな顔で目を伏せていた。

「………逃げるか?
 吹雪が明けたらいつ追手が来るかわからんぞ?」

大男は棚の中に目を向ける。
あれだけの財宝があれば、当分生きるのに困らないだろう。
逃がすなら、せめて健康なイコンを逃がす。
それが村の合意であった。

「私は残ります」

「なぜだ?」

「私の世界は、ここにしかありませんから。」

イコンは窓から村を振り返った。
楽しいことが色々あった、祭りの最後に、イコンの歌と踊りを村の総出で見てくれたのは一番楽しい思い出だ。
辛いことも色々あった、寒さで手がかじかみ、裁縫が上手くできずに叩かれたことが何回もある。
イコンの思い出は全部この村に詰まっている。
それに、仮に女一人でこの村を出たとしても、自分には生きる自信が無かった。
短い人生だったが、皆と一緒なら何も怖くはない。
この世界の、この村のために生きる。それが彼女の生き方だった。

「ああ、せめて、最後にはみんなと同じ場所に向かえたらいいのだけど」

(その望み、叶えてあげるわ)

村に声なき声が響き渡る。
その瞬間、運命は変わった。


527 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:58:06 yU2OUyyk0
吹雪が明けたのち、盗賊を追った兵士たちが見たものは、
既にもぬけの殻になった寒村であった。

その一部始終を、窓からのぞいている男が居た。
窓の外からも伺える。ベージュのコートとハットを携え、
角縁の眼鏡が窓に当たるほど、窓の外の光景に注目していた。

「こりゃあいったいどうなってるんだ…?」

一部始終を除いていた男、青山 征三郎はそう独り言ちた。
陣野 愛美と思わしき少女に連れられ、雪山のコテージの中に入った青山であったが、
中に入ったとたん、窓の外ではまるでテレビ画面の用に、別の光景が広がっていた。
いつの間にか愛美はいなくなっていたし、映像の中のあの少女も、声こそここに連れてきた愛美とそっくりであったが、顔は別物だ。

「なあ、愛美くん、これは一体……」

背後を振り向く青山、
しかしそこにいたのはさっきまでいた黒髪の少女ではなく、白髪の少年であった。

「へえ、あんた探偵やってたんだ」

少年はパラ、パラと青山愛用の手帳をめくる。
青山はその顔に見覚えがあった。
ついさっき、彼の顔を見させられていたばかりだ。

「お前は確か…ザナクと呼ばれていたっけな」

「そう、俺はザナクだよ、青山 征三郎さん」

そう言って少年は笑った。
窓の外で見た彼の顔色は、雪よりも白い物だったが、
目の前の彼の顔色は血色も良く、活発そうな印象がある。

「さっきの見世物は、お前がやったのか?」


528 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:58:41 yU2OUyyk0
「うーん、そうだね。俺たちがやったんだ。」

少年はわざとらしく腕を組み、あからさまに考えたふりをして言った。
それに気を悪くした青山の語気は荒くなった。

「何が目的だ?」

「それがアンタの目的だろ、探偵さん」

「何?」

「一つはあの少女、ここに連れてきた俺たちのイコンについて調べること」

「イコン?俺を連れてきたのは愛美くんだぞ?」

「あんたの語彙を借りれば彼女は整形って奴をしたのさ。
 声はそっくりだったはずだし…」

少年は懐からテレビ用のリモコンを取り出し、スイッチを押した。
コテージ内の天上隅に配置された放送用TVの電源が付く。
一瞬にして室内に聞きなれた騒音が響く、観客の騒音だ。

『優美ー頑張れー!』

画面にバレーボールの試合が映る、中心に居るのは陣野優美。
聞こえてくる画面横のピントの合ってない男の声は付託 兆の声だ。
この映像は何回も見た。
陣野家から資料としてダビングさせてもらった陣野優美の試合中の映像だ。
白熱した守川 真凛、冬海 誠や郷田 薫の声も背景で聞こえる。

『優美ー!』

陣野愛美の声が響いた。
雑音だらけであったが、確かに注意深く聞くと少女とは声が違う。

「な?違ったろ?」


529 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 21:59:27 yU2OUyyk0
画面では優美がレシーブを決め、幼馴染5人は大いに沸き立った後、自然と電源が落ちた。
その間、青山は何も答えることができなかった。
そんなことには構わず少年は捲し立てる。

「もう一つは『アンタが探してた勇者様達はとっくの昔に死んでて。
 好き勝手やったせいで世界一つが無茶苦茶です。』
 って言うのが俺たちから見た今だよ、これが知りたかったんだろ?」

「ふ、ふざけるな!剛田くんに陣野姉妹の3人が生きてるはずだ!
 どこにいる!」

「うーん、剛田は何で生きてるんだろうね、心当たりはあるっちゃあるけどさ。
 けど、愛美様がどこにいるかは知ってるよ。」

「どこだ!?」

「ここにいる。」

「ここ、とは?」

「ここって言ったらここだよ」

「話にならねえな」

禅問答の兆しを見せた対話に見切りをつけ、青山は少年の前を横切り。
コテージの扉に手を掛けた。
しかし、ここに来た時と違い、コテージの扉はびくともしない。
少年は背後でけらけらと笑った。

「ダメだよ青山さん、ここは一度入ったら出られないんだ。」

「くっ!」

ドアを殴る。椅子を叩きつける。
あらゆる方法を試みたが効果はない。


530 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 22:00:20 yU2OUyyk0
「なあ青山さん、さっきも言ったけどアンタの目的はあれを知ることだったんだ。
 だったらもういいじゃないか、ここでゆっくりしようよ。」

「……違う!」

少年の誘惑を、青山は跳ね除ける。

「確かに彼らの消息を調べるのが俺の目的の一つだった、
 それは果たせた。」
 
「しかし!」

「探偵として大人として…この情報を、彼らを依頼人に届けるのが俺の仕事だ!」

幼馴染5人が映ったあのビデオを回したのは陣野の母親だ、
資料として渡してくれた時の陣野の両親の顔は今でも青山の心に残っている。
付侘、冬海、郷田、守川、全員同じ、悲しい顔をしていた。
探偵としての義務、大人としての吟味。
青山はまだ、なにも果たせてはいなかった。

「だから頼む…俺をここから出してくれ…」

「ならば祈れ。」

項垂れる青山の目の前に、大男が現れる。
さっき見た顔だ。

「アイク…?」

「祈れば、我らが主に声が届きましょう。」

今度現れたのは、見知らぬ女性だ。
しかし、なぜか青山は彼女の名前を知っていた。

「ローア…?」


531 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 22:04:52 yU2OUyyk0
「青山さん、そろそろアンタにもわかってきただろ?
 愛美様はきっと、青山さんと一緒に戻ってくれるよ。」

何の根拠もない言葉だが、
不思議と、青山にもそうなるような気がした。

「ああ…そうか…」

「これもみんな、青山さんがここまで来たからさ。」

「俺のやったことは、無駄じゃなかったのか…」

安堵感に包まれた青山は、急に意識が遠くなってきた。
そうだな、今やることはやったんだ。帰る前に少し休んでもいいか。
そう思った青山は、目を閉ざした。

「……さん!青山さん!ダメだ!」

コテージの外で響く学生探偵の声を知ることもなく。

「目を覚ますんだ!青山さん!」

「煩い。」

やがて、その声が消えたことも知らず。
青山の意識は闇に落ちる。
偶像となる前の少女の物語も、探偵青山征三郎の物語もここに終わりを告げた。


532 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 22:07:31 yU2OUyyk0
後日、というには早すぎる時間の後、
所は変わり、愛美、イコン、青山の揃ったコテージの中の談が始まる。

全ては順調であった。
命令通り、イコンは信者となった男を引き連れた。
彼女の命令により、男はポイントを委譲したのち、平然と陣野愛美との同化を選んだ。

「煩い。」

陣野愛美はそう言って、青山の手からかつて学生探偵が持っていた袋を取り上げた。

「愛美様!どうかなされましたか!」

「残留思念っていうか、魔力耐性っていうか…
 この男、変なもの持ってたみたいねえ、イコンちゃん」

「も、申し訳ございません!私の気が回らぬばかりにとんだ粗相を!」

イコンは冷たい床の上で土下座をした。
イコンが出て行った後、普通に寒くなった陣野愛美が暖炉に火をつけたからまだいいとはいえ、
この雪山エリア内を薄着で数時間動き回った代償として彼女の体力や判断能力は限界を迎えていたのは言うまでもない。
それを見た愛美は、クスクスと笑う。

「良いわよお、イコンちゃん。
 今回は中々良い貢物を持ってきてくれたのに免じて許してあげる。」

数時間待ち、コテージから戻ってきたイコンが連れてきたのは男一人、
しかも当初は二人だったが、イコンの癇癪のせいで一人になってしまったというのだ。
折檻が必要かと思った愛美だったが、男のスキルの説明を聞いて考えを改めた。
優美の所在が把握できるこの男を独断で使わず連れてきた、彼女の有能さは一考に値するだろう。
なぜなら

「きたきた…」

愛美の視界に優美の名前が浮かぶ。
完全魔術による一体化によって、ステータス、すなわちスキルを己が物にできるのだ。
必要なスキルは他人に持たせるよりも、自分のものにした方が都合がいい。

「あらら、ちょっと劣化もあるのね
 まあいいわ。そんなことよりこいつの人脈とかも見ないと。」

青山の記憶のものとは映り方が違う。
パラメータはすべて万全に奪えたが、スキルに関しては劣化があるようだ。


533 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 22:10:56 yU2OUyyk0
これも制限だろう。

「あはは。イコンちゃん、この人が私の名前知ってるのに嫉妬しちゃったの?
 簡単な話、単に同郷ってだけよ。」

完全化による同化には、対象の人生経験、記憶が含まれる。
すでに陣野愛美は青山征三郎の人生を垣間見ていた。

「同郷…まさか神の国からおいでになったのですか!?」

「そうそう、名簿の名前の感じだとそれっぽいのが大勢だから。
 今度は気を付けてね。罰として今回は私にしてあげない。」

「つ、次こそは神のお目に叶うよう精進致します。」

イコンは既に地に付けた頭を、めり込ませるように深々と頭を下げた。

「私も含めて、みんな待ってるわよぉ〜」

『みんな待っている』
古くから、多くの信者には一体化すれば自分の中で永遠に生きられる。
そう説明していたし、イコン含む信者はそれを信じているが、
人間が食べたものが自分の中でどう血肉になっているか知らないように、
陣野愛美自身は、取り込んだものが自分の中でどうなっているかなんてことは知らなかった。

「あの一体化されている最中の笑顔…
 あの男も、皆の御許へ導けたのですね…」

だが、記憶や肉体が愛美の中で永遠に保存される事は嘘ではないし、
何より当人たちが、それを信じて幸せそうなのだ。
何も悪いことはしていない、愛美はそう思って微笑んだ。

「次にぃ、おんなじことをしないよう、イコンちゃんには私の故郷の事を教えてましょうねえ」


534 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 22:12:33 yU2OUyyk0
神の国、ですか?」

想像もできない都に、イコンは目をパチりと瞬いた。

「なんだか、懐かしくなってきちゃったしねえ」

勇者として崇められることは無かったが、様々な楽しみや喜びがあふれていたあの世界。
男の記憶で懐かしい父や母の顔も見た。
今度この催しが終わったら、帰る方法を調べて見ていいかもしれない。
滅びかけのあの世界と違った、あの万全な世界をすべて取り込む事を想像して、愛美は夢心地となった。


535 : 二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 22:14:22 yU2OUyyk0
[C-8/コテージ/1日目・早朝]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:E VIT:E→B AGI:E→B DEX:E→B LUK:E→B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)。発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、不明支給品×6
[GP]:10→60pt(イコン・青山からポイント移譲)
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
[備考]
観察眼:Cと人探し:Cを習得しました。

[イコン]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
[ステータス]:低体温症寸前(コテージ内で回復中)
[アイテム]:青山が来ていたコート(E)、受信機、七支刀、不明支給品×1
[GP]:0pt
[プロセス]
基本行動方針:神に尽くす
1.何人かの参加者を贄として神に捧げる
2.陣野優美を生かしたまま神のもとに導く
3.郷田薫は殺す、魔王は避ける


536 : ◆VJq6ZENwx6 :2020/10/19(月) 22:14:38 yU2OUyyk0
投下終了です


537 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/19(月) 22:19:43 J4SLVK7.0
両名とも投下乙です

>自分の中に毒を持て ◆ylcjBnZZno
焔花さんいつか自爆するだろうとは思ってたけど、二人を護って見事な最後だったよ
エンジ君は最初から最後までヒャッハーしてたな
アイドルスキルを失ったひかりちゃんにはもう歌と空手しか残ってない……十分では?

>二つのE/その声は誰がために ◆VJq6ZENwx6
精神世界に取り込まれる青山さんを追体験する不思議な読後感
勇者どもほんとうに異世界で好き勝手してたんだなぁ
そして劣化するとは言えスキルマで取り込むとか完全魔術すごい、チートスキルは伊達ではない


538 : 名無しさん :2020/10/20(火) 01:44:04 sFEPuBcw0
お二人とも投下乙です

>自分の中に毒を持て
焔花さん、まさに華々しい最期……
エンジ君はギャグめいた設定から終始ガチのヒールだったので恐ろしい
アイフィク刺さったひかりちゃんが心配になる

>二つのE/その声は誰がために
勇者組の爪痕がヤバい、近親者だらけの村とか金の価値暴落とか嫌に生々しい
青山さんは結局順当に飲み込まれたけど、一応は家族の思いを愛美様に繋げられた
回想や幻想パートの不気味な浮遊感好き


539 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:42:24 Se6c4Sj60
投下します


540 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:43:53 Se6c4Sj60
大和正義とンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィことロレちゃんは市街地に足を踏み入れていた。

ビルの立ち並ぶ無機質な街並み。
足音を殺しながら慎重な足取りで明かりのない道路を進む。
いくら深夜とはいえここまで人の気配がない街と言うのは都会育ちの正義には初めての体験である。
別段、闇を恐れるような性質ではないが、人口の街で人の営みが感じられないというのは自然の静寂と違う不気味さがあった。

振り返り、自らの背後についてくる少女を見る。
この不気味な街においても少女の様子にはまるで変わりがない。
明鏡止水の心を持った正義などよりもよっぽど平静を保っているように見えた。

ビルの角に差し掛かったところで、正義が足を止める。
後ろに手をやり背後の幼女に止まるよう合図を送った。
幼女はその合図を全く気にせず歩き続けたので、直接肩を掴んで止める羽目になったのだが。

正義の聴覚は微かに響く足音を捕えていた。
足音は二つ。歩幅と間隔から男と女と推察できる。
男の方は極力足音を消そうと努めているようだが完全には消しきれていない、恐らく素人。
女の方は言わずもがな、警戒はしているようだが平時と変わらぬような足音である。

一人しか生き残れないルールの中で複数名で行動しているという事は殺し合いではない別の方針で動いている可能性は高い。
だが、殺し合いに乗った人間同士の一時的な同盟関係という可能性もあるし、何より甘い想定をしていては致命的な隙となる。
警戒を怠らず正義はビルの陰から足音の方向の様子をうかがう。

そこには予測通りの人影が二つ。
徐々に近づいてくる影がベールをはがされその姿が露となる。

「出多方副会長」

その正体を確認した正義が声を上げた。
隠れていたビルの影から飛び出し、自らの姿を晒す。
正義の姿を認めた相手も驚いたように目を丸くしていた。

「息災で何よりです副会長」
「待った! そこで止まりなさい」

駆け寄ろうとする正義に待ったがかけられた。
正義はその指示に従いその場に足を止める。

「どうされました?」
「ここでは外見も名前も変えられます。まず初めに、あなたが本物の大和君なのか確認したい」
「なるほど。副会長らしいですね。いいでしょう」

正義は納得したように深く頷き、姿勢を正す。

「では僭越ながら、簡単に来歴などを」

大和正義は大和家の嫡男として生を受けた。

大和家は武に身を置くものなら知らぬものなどいないほどの武門の名家である。
警察などにも指導を行っており、曾祖父の代から現当主である父に至るまで全員が名誉師範の称号を戴いている。

大和家は武のみならず礼と義を重んじており、文武両道を理念として掲げていた。
この理念に従い正義も幼少の頃よりあらゆる武術を叩き込まれ、厳しい礼儀作法と多種多様な分野の教育を受けて育ってきた。

大日輪学園に進学後は1年では空手、2年では剣道の全国高校選手権に出場しこれを制覇。
3年では柔道部への転属が予定されており前代未聞の異種目三冠王を目指している。
また満16歳となり出場資格を得て初出場した全日本空手大会では準々決勝で負傷、準決勝を棄権しベスト4に終わった。


541 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:45:34 Se6c4Sj60
「とまあ、こんなところでしょうか」

簡略的に語られた来歴を聞き終え、秀才は眼鏡をクイを上げる。
不敵な笑みを浮かべ、どこか強気な態度で告げた。

「ふっ。まあ大和君はその道では名の知れた有名人ですからね。調べればその程度の情報は分かるでしょう。
 さぁ私の質問はここからですよ! 今から君にはもっと私的な学園生活に関する質問に答えていただく! そもさん!」
「せっぱ!」

異様なテンションで男たちは向き合い、対決の様相を呈していた。
互いの証明をかけた勝負が今始まる。

「第1問。大日輪学園の現在の学園長の名前は?」
「大日輪銀河学園長」
「正解。それでは第2問〜」

チキチキ大日輪学園クイズを始めた二人をよそに、月乃はぼーと立ち尽くす幼女へと近づいていった。
その目の前までくると、視線を合わせるように屈みこんで語りかける。

「お姉ちゃんは大日輪月乃って言うの。お嬢ちゃんお名前は?」
「ロレチャンである。敬うがよい」
「よしよし。かわいいねぇ。飴食べる?」
「供物か。よかろう。ほぅ……これが味覚なる肉の悦か」

幼女は差し出された飴玉を口の中で転がしながら、なすがままに頭を撫でられる。
どこかほのぼのとした交流を重ねる少女たちをよそに、男たちの戦いは続いていた。

「第9問! 食堂の水曜のみの特別メニューとは!?」
「飛鳥おばさんの元気もりもり量ももりもり特製ランチ!」
「正解!」

戦いは佳境に入り、二人の声も熱を帯びる。
今のところ正義の全問正解。
果たして合格基準はどこにあるのか不明なまま、秀才が最後の出題を行う。

「では最後の問題だ! 我が大日輪学園の校歌を歌ってみたまえ!」

その問いを受けた正義は改めて姿勢を正す。
肩幅に足を開き、後ろに回した両腕を腰のあたりで組んだ。
顎を引き、視線も高らかに歌い上げる。

『大日輪学園校歌 〜熱き血潮に〜』

作詞:大日輪 銀河 作曲:秋原 光哉

♪ ああ〜大日輪 少年よ〜 天に輝く太陽となれ〜

♪ 日輪の如く〜 熱き血潮よ〜 燃え上がれ〜

♪ 山も川もないけれど〜 太陽ならどこにでもあるさ〜

♪ 若人よ〜 大志を抱け〜 努力しろ〜 飯を食え〜

♪ 困難なんて〜 若さと勢いで乗り越えろ〜

♪ 何とかならなくっても〜 明日があるさ〜

♪ 若者よ〜 とにかく燃え上がれ〜

♪ ああ〜大日輪 大日輪 大日輪 我が母校〜


542 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:47:09 Se6c4Sj60
校歌の斉唱が終わり、僅かな静寂が訪れる。
待ちくたびれた幼女と歌姫から、どうでもよさげな呟きが漏れた。

「ファルセット足りてなくない?」
「些事である」

そんな歌姫からのダメ出しも他所に、正義といつの間にか一緒に歌いだしていた秀才は互いに一歩踏み出した。

「どうやら間違いないようですね。会えてうれしいですよ大和君」
「こちらこそ、心強いです出多方副会長」

男たちはがっちりと再会の握手を交わした。
正直序盤の時点でほぼ確信は得ていたが勢いでここまで来てしまった感はある。

「変なクイズ大会終わりました〜?」
「変なとは失敬な。大事な確認作業ですよ月乃君」

苦言を呈する秀才をあしらいながら、それじゃあ、と月乃が正義へと向き直る。

「はじめまして。大日輪月乃です。TUKINOって名前でアイドルやってます」
「はじめまして。大和正義です。ご活躍は会長よりかねがね伺っております」
「これはまた、愚兄がご迷惑をおかけしております」
「いえいえ。日頃から良くして頂いております」

そう言いながら、互いに頭を下げ合った。
太陽という共通の知り合いもあってか、スムーズに関係を築けそうである。

「けど、大和正義くんかぁ。どこかで聞いたことあるような……」

その名前が記憶のどこかに引っかったのか、月乃が頬に指をあて頭をひねった。
心当たりを思い出そうとするが思い出せないようである。

「キミほどではないにせよ彼も有名人ですから、どこかで名前くらいは聞いていてもおかしくはないでしょう」
「うーん。そういうんじゃないんですよねぇ」
「では太陽に聞いたのでは? 彼も大和君には一目置いていますからね」
「うーん。誰かに聞いたというのは、そう、かも……?」

一応の納得は得たのか、そこでひとまずその件は打ち切られた。
秀才は改めるように一つ咳払いをして正義を見る。

「それでは大和君、まずはこの状況で、君はどういう行動方針をもって行動しているのかを確認したい」
「はい。私はたった一人になるまで殺し合うなどと言う方針には従えません。
 殺し合いを止め、出来る限り多くの人間と共に帰還したいと考えています」

返ったのはこれ以上ない程まっすぐな意見だった。
秀才とて元より正義が殺し合いに乗るなど思っていないが、ここまでくるといっそ清々しいものがある。
だがその心中を態度には出さず、あえて厳しい口調で試すように問う。

「だが、生き残るのはただ一人という話ですよ。
 あると思いますか? 複数の人間が帰還できる、そんな方法が」
「わかりません。ですが『ある』という前提で行動すべきだと考えています。
 なかった場合は死ぬだけですが、本当にあった場合に諦めていたなら死んでも死にきれない」
「なるほど。君らしい考えですね」

正義の意見を受けて、秀才は神妙な面持ちで眼鏡を吊り上げた。
そこで固くしていた表情をふっと綻ばせる。

「そして私と同じ考えだ」

諦めないという強い意志を示す。
これこそが大日輪イズムである。
志を同じくする同士との邂逅、これほど心強いことはないだろう。


543 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:50:34 Se6c4Sj60
「大和君。私たちは月乃君の歌唱スキルによってこの殺し合いを止められるのではないかと考えています。
 彼女の声をこの島全域に届ける方法があれば、少なくとも争いは止められるともいます」
「出多方さん……!」

秀才の言葉に月乃が目を輝かせる。
それは月乃が掲げた目標である。
秀才は照れ臭そうに眼鏡を上げて、月乃から視線を逸らす。

「……歌で、ですか? 確かに校内放送で聞き及ぶ彼女の歌声は素晴らしいものであると理解していますが。
 流石にそれで殺し合いを止めるというのは現実的ではないのでは?」

だが正義はその方針に難色を示した。
当然の反応だろう。
歌で争いを止めるなど夢物語のような話である。

「え、ちょっと待ってください。大日輪では校内放送で私の歌が流れてるんです? 職権乱用じゃない? 何やってんの兄さん」
「いえ、会長ではなく学園長の方針です。特にCDリリース前後は月乃応援週刊として休み時間毎に月乃君の新曲が流れます」
「何やってんのお爺ちゃん……」

もっとすごい職権乱用だった。
身内の恥にドン引きする月乃を置いて話を進める。

「大和君。君が訝しむのも理解できますが、月乃君の歌声には争いを止める力があるのです」
「それは、そう言ったスキルの効果がある、という理解でよいのでしょうか?」
「ええ。確かに月乃君の持つ歌唱スキルには戦意を削ぐ効果があります
 だがそれは強い敵意を持つモノまでは無力化できず完全ではありません。
 ですが、私はスキルどうこう以上に、彼女の歌に賭けてみたくなったのです。
 彼女の歌にはその力があると、そう私が信じたのです」

秀才も最初は正義と同じく猜疑的なスタンスだったが、実際に月乃の生歌を聴いて確信した。
いや、確信と言うより、賭けてみたいと思ったのだ。
彼女の歌が世界を癒すさまを見てみたいなと。

その熱意がどれほど伝わったのか、正義は思案するように一点を見つめる。
そして僅かな思案の末、自分なりに飲み込めたのか口を開く。

「なるほど。理解しました。
 無効化できなかった人間は当然月乃さんを止めに来る、それを迎え撃って一網打尽にするという事ですね」
「まあ……少し違いますが、そうですね。大和君がいればそれも可能でしょう」

武闘派な正義らしい意見である。
秀才では襲撃されて死ぬ未来しか想像できなかったが、正義がいればそうではない。
理性を重んじるという点では正義と秀才は似通っているが、こういう所は会長である太陽に近いだろう。

「ただ、油断しないでください大和君。
 君は確かに強い。だがここにはそういった強さとは違う強さもあるという事を認識しておいてください」
「それは、どういった意味でしょう?」

厳しい目つきで正義が問う。
勝負事の話になれば目つきが変わるあたり、やはりその本質は戦士なのだろう。
強さに対する自信と矜持は誰よりも強いのかもしれない。

「スキルという未知数の要素があるという事です。
 このスキルには常識を外れた超常的な行為ができるモノもある可能性が高い」
「なるほど。可能性があるとそう推察する根拠をうかがっても?」

断定ではなく可能性を語る秀才に正義が問う。
その問いに秀才は問いを返した。


544 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:51:58 Se6c4Sj60
「大和君。君も精神系のスキルを取ったのではないですか?」
「はい。お察しの通りです」

秀才は同類である正義ならば冷静スキルもしくはそれに類するスキルを獲得していると予測していた。
そしてその予測は的中したようである。

「ならば君にも心当たりがあるのではないですか? 自らの精神が操作されていることに。
 私も火炎放射の炎に焼かれ、痛みも熱さも感じながら『冷静』スキルの効果により冷静さを保っていました。
 これは私自身の認識が操作されているという証明に他ならない」

その説明に正義は得心する。
プレイヤー自身の認識を改変するという意味では正義の明鏡止水や観察眼もそうである。

「つまりスキルはアバターを超えてプレイヤーに介入することができている、という事ですね」
「ええ、その通りです。それどころかスキルによっては自身のみならず他者を操作して支配することができるモノもあるかもしれません。
 そう言ったものが猛威を振るっている可能性もある。精神耐性を持つ我々には直接的に効かないかもしれません。
 しかし、例えば操作された太陽なんかが襲い掛かってくる可能性だってある訳です。そうなった場合に君は戦えますか?」
「……なるほど。確かにそれは厳しいですね」

現実ではなかなかあり得ない状況だが、ここならば簡単に実現できてしまう。
直接的な脅威のみならずそう言った間接的な脅威もあると念頭に置くべきである。

「なので、精神に作用するスキルの効果を月乃君のアイドルスキルで確かめたかったのですが、
 私では月乃君の魅了が効いているのかを確かめらませんので、出来れば信頼できるの他の人間にと考えていました。
 予想はしていた事ですが正義君も精神耐性持ちとなると、はやり別の当てを探すしかなさそうですね」

視線を移す。
正義以外もここに誰かいると言えばいるが。
その先では月乃になすがままに撫でまわされいる幼女の姿があった。

「あれは……スキルの効果で懐いているのでしょうか?」
「いえ、ああいう子ですのでなんとも……」

心配になるくらいに基本的には何でも受け入れる子である。
不快に思ってるのか、それとも喜んでるのか、観察眼をもってしてもその内心は見て取れない。

「それで、別の当てとは?」

正義が話を戻す。
秀才の当てがあるという言葉を聞き逃さなかった。

「太陽ですよ。太陽と合流して実験台になってもらおうと」
「なるほど。その口ぶりからして会長の居場所が分かっているのですか?」
「確実ではありませんが、私の冷静スキルと反目する熱血スキルの持ち主を逆説的に探し当てられるのではないか、という月野君の提案した方法です。
 まあそれも太陽が熱血スキルをっているという前提の話ですが」
「取っているでしょうね、あの御仁なら」
「でしょうね」

共通する妙な確信があった。
あの大日輪太陽が熱血などという言葉を選択しないはずがないと。


545 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:53:49 Se6c4Sj60
「しかし、反目するスキル効果による探索ですか、それが確かならますますオカルトじみていますね」
「まあ仮想空間(バーチャル)ですので、その辺は然もありなんと言ったところでしょう」

秀才のその言葉に正義が考え込むようなしぐさを見せた。
自分の言葉の何が引っ掛かったのか、秀才には分からなかったが、すぐに正義が顔を上げた。

「そもそも……ここは本当に仮想空間なのでしょうか?」

そう、大和はずっと抱えていた疑問を口にした。
これには秀才も面を喰らった。

「それは間違いないでしょう、設定したパラメータ通りの体と、スキルなる未知なる能力を与えられ、さらには肉体の外見その物が変更できる。
 これは現実世界ではありえない事だ」

現実の自分の精神が操作されている可能性には思い至った事はあっても。
そこに疑問を持ったことはない。

「ですが、キミがそう言うからには根拠があるのですね?」
「根拠、と言うほどのものではないのですが」

そう前置きをして正義は語り始めた。

「恥ずかしながら何分そういう物に疎いので、仮想空間という物に漠然としたイメージしかないのですが。
 感覚がバーチャルにしてはリアルすぎる、と感じました。リアルどころかそのものだ、現実としか思えないほどに」

当たり前に受け入れてしまっていたが、それは誰もが感じる事だろう。
いや余りにも違和感がなさすぎて、違和感がないことに違和感を感じられないのかもしれない。

「それにシェリンと言う説明役が行った最初の説明を思い出してみて下さい。
 あの説明の中でここが仮想世界だと一言でも説明されていましたか?」
「えぇ……そんな一言一句覚えてるわけじゃないんですから」

苦言を呈する月乃とは異なり、秀才は口元に手を当て僅かに思案し何かに気づいたようにハッと目を見開く。

「確かに、ゲームやアバターと言ったそれを連想させるワードは出てきましたがバーチャルなどの仮想空間を示す単語は一度たりとも出てきていない……!
 あの説明の中に嘘が含まれていない保証も本当のことを言っている保証もありませんが、ここが仮想空間であるというのは我々が状況から勝手にそう誤認しただけだ」
「えぇ……二人とも覚えてるんですかぁ」

どうやら二人とも一言一句覚えているようである。
覚えていない月乃に出来る事と言ったら、モチモチとした幼女のほっぺたを弄ぶことしかなかった。

「いや。だとしても偶然その単語が出なかったと言う事もある。
、それにここが現実世界であるという方が説明できない事の方が多い」
「ええ、私もここが現実であるとは思いません、ただ仮想空間でも別の何かではないのかと漠然とそう感じているのです」
「別の可能性……」

精神は洗脳や暗示などで説明がつかないこともないが、肉体を別人のように変質させるなど整形でも不可能だ。
現実に影響を及ぼすバーチャル。それが秀才の認識である。
それ以外の可能性など、


「――――ふぁまふぃえあう」


「ん?」
「なんです?」

割り込んできた声に、二人の男が振り向く。
声は月乃の腕の中に納まり、餅のように頬を伸ばされている幼女から発せられたものだった。

「うん? どったのロレちゃん?」

喋りたがっているのを察して月乃が頬から手を離す。
解放された幼女が改めて言葉を繰り返した。


546 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:56:05 Se6c4Sj60
「魂である」

簡潔なその言葉。
だがそれでも何か気付きを与えたのか、二人はハッとしたように深く考えこんだ。

「……魂」
「確かに言っていましたね、魂と」

最初の説明で何度か出た言葉だ。
魂魄制御システム、魂の直接接続。
そんなことを言っていたはずだ。

「魂は存在の根源。その在り様に従い肉も心も変質するは道理である」

幼女は続ける。
それは全てを知る全能の神の如く。

「…………つまりこういう事ですか?
 ここにいるのは我々の魂そのものであり、敵には魂を操作するシステムがある。
 設計図である魂を変質させれば肉体も精神もそれに従い変化すると?」
「然り」

自身の理解をぶつける秀才の言葉に幼女は頷く。

「私たちが魂ってここはあの世みたいなことです? あれ、ってことは私たちもう死んでる?」
「そうではないでしょう。おそらく生霊のような存在であると考えた方がいい。
 なるほど。魂が消滅すれば死ぬのは道理だ。肉体と精神の変質と影響、それも筋は通る」

その解釈ならば確かに筋が通る。
いや、筋が通りすぎている。
そうなると別の疑問も生まてしまう。
まるで答えを知るように、僅かな言葉で導いたこの幼女は何者なのか、という疑問である。

「大和君。この子は何者なんです?」
「わかりません。外見通りの中身という訳でもないとは思いますが。
 少なくとも悪意のある人物ではないという点は信用してよいかと」
「それに関しては大和君の見る目を信じましょう」

秀才は大和から視線を外し幼女へと向き直る。
そして直接、月乃に抱えられた幼女に向かって問いただす

「あなたは何者です?」
「ロレチャンである」
「ロレチャン? そのような参加者は……」
「名簿の最後に載っている長い名前の参加者です。呼ぶのに不便なので私が名付けました」

正義が補足する。

「なるほど。それではロレチャンさん、もう一度問います、あなたは何者だ?」

改めて問う。
名前ではなくそう言った存在であるのか、その正体を。
幼女は隠すでもなく平然と答えた。


547 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 21:59:08 Se6c4Sj60
「我は一にして全、全にして一なる存在である」
「なっ!?」

その返答に秀才がこけそうなほど大きく仰け反る。
だが、何とか踏みとどまった。

「ふっ。危ない所でした、私に冷静スキルがなければ尻もちを付いて腰を抜かしているところでしたよ」
「カッコつけてますけどカッコ悪いですよそのセリフ」
「それで、副会長。今の言葉の何にそんなに驚かれたのです?」
「おや、大和君もサブカルチャー方面は明るくないようですね」

クイっと眼鏡を上げる。
僅かに息を飲み、神妙な面持ちで告げる。

「これは――――とある神話における邪神を表す言葉です」

邪神。
余りにも不穏な響きのある言葉に、正義と月乃は幼女を見た。

「ロレちゃん神様なの?」
「我は我。定義など些事である」
「だよねー」

タプタプタプと両頬を弄ぶ。
その勢いにおっおっおと幼女は声を漏らした。
神をも畏れぬ行為であった。

「よしよし。飴をあげようねぇ。あ、ハッカだ。出多方さんいります?」
「まったく。ハッカが美味しいんじゃないですか。頂きますが、あなたには効果がないとはいえそれも支給品なんですから無駄遣いしない様に」
「はーい」

言いながら缶を振って次に出た、いちご味を幼女の口に放り込む。
表情こそ変わらないが素直に受け入れている辺り気に入っているのかもしれない。

「邪神。それは危険な存在と言う事でしょうか」
「ええ。少なくとも私の知るその言葉を示す存在は危険な存在でした」
「ですが私には今の彼女に危険があるとは思えません。
 彼女の言葉の通りだ、彼女は彼女そのような言葉の定義に惑わされるべきではありません」

どこまでも真っ直ぐな正義の言葉。
秀才は嬉しそうにふっと笑う。

「ふっ。私の負けのようですね。分かっていますよ大和君。
 彼女の知見が我々に気づきを与えたのも事実、邪険にはしませんよ」

目の前にいる存在よりも神話や物語に語られる話を信じる程秀才は愚かではない。
秀才はデータを重んじるが、データを重んじると言うのはそう言う事ではないのだ。

「と言う訳で、よろしくお願いしますよロレチャンさん」
「うむ。敬うがよい」




548 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 22:01:55 Se6c4Sj60
「今後の方針としてGPの確保が重要だと考えます」

話題も落ち着いてきたところで、正義がそう切り出した。

「何故です?」
「脱出方法や他のクリア条件などの情報収集において、重要となるのがGPを使用した『シェリンへの質問』と考えるからです」
「なるほど、それは確かに一理ありますね。
 質問によっては秘匿されるかもしれませんが、直接的な返答は得られずとも返答を得られないという事が分かるだけでも収穫にはなる」

解答できないと言う事すらも一つの情報である。
質問内容次第では問いかけることで何か事態を進められるかもしれない。

「それともう一つ。月乃さんの歌唱スキルをSランクに押し上げれば問答無用で争いを止められる可能性があります」

それはある種の理想と幻想を含んだ月乃たちの策とは違い、スキル効果のみに頼った現実的な提案である。
彼女たちの理想を否定するような案だが正義はあえて口にした。

「そうですね。検討はしておきます」

それを理解して秀才はクールに受け止める。

「けど……GPって他の人を倒したときに手に入るんですよね」
「ええ、ですのでそれ以外の獲得方法を模索すべきかと、例えば」
「塔の制圧ですね」

先を繋いだ秀才の言葉に頷きを返す。
塔の制圧ならば血を流すことなく大量のGPが獲得できる可能性がある。

「他にも獲得方法はあるという説明でしたが……」

そこまで言ったところで、新着メールが届いたことに気づく。
メールを見た月乃がつぶやく。

「砂漠のお宝さがし…………?」

それは砂漠エリアの大砂漠でイベントを開始したという告知メールだった。

「出来過ぎなタイミングですね………どうします?」
「GP入手の機会ですが、相応の危険もありそうですね」

他のプレイヤーも集まる可能性は高いだろうし。
方向感覚を狂わせる大砂漠への侵入を余儀なくされる。
危険度は高い。

「どちらにせよ会長がいると思しき方向とは別方向だ。なんにせよまずは会長との合流を目指すべきかと」
「そうですね。まずは兄さんとの合流が先ですよね」

ひとまずは保留、まずは太陽との合流を目指すと言う方向で一致する正義と月乃。
だが秀才は一人、何かを考え込んでいた。


549 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 22:04:46 Se6c4Sj60
「二手に分かれましょう」

秀才がそう切り出した。
この提案に正義と月乃は怪訝な反応を見せる。

「同意しかねます。確かに分かれた方が効率的でしょうが危険です」
「そーですよ。みんなで一緒の方が安全でしょ?」
「多ければいいという物もないでしょう、足手まといが増えて危険になるのは大和君、あなたです」

この中でまともに戦えるのは正義だけである。
共に戦えるものならばともかく、守護対象が増えれば増えるほど正義の負担は大きくなる。
秀才とて最低限戦えるようアバターを設定したがやはり危険人物に対抗できるほどではない。

「見くびらないでいただきたい。未熟の身なれど、三人程度守護れずしてなにが武術家か」

怒気すら含んだ正義の言葉。
それに対して秀才は一切怯むことなく堂々と言い返す。

「ええ、だからこそ別れるのです。
 長引け長引くほど犠牲者は増える。一刻も早く事態を解決することこそが人を救う道です。
 つまりこれは三人以上を守るための選択なのです」
「…………しかし」
「大丈夫です。無理はしません。何より太陽と合流出来れば戦力不足も解消される」

正義ほどではないにせよ太陽もまたかなりの武闘派である。
第一目標である彼と合流出来れば懸念は解消できるだろう。
正義が大きくため息を漏らす。

「副会長には敵いませんね」
「ふっ。弁舌ならば大和君にも負けませんよ」

二手に分かれる方針を受け入れると、如才なく次の方針を固める。
共に脱出に向けた情報収集を続け、及び脱出を目的とする同士との合流を目指す。
正義はGPの獲得、秀才たちは正義との合流を目指す方向でで決定した。

「合流はどうしましょう? 待ち合わせ時間と場所を決めるとしても、イレギュラーが起きる可能性は高い。
 予定に合わせて無理に合流しようとするのも、合流相手を待って一カ所に留まるのも危険だ」
「確かに、何か連絡を取れる手段があればいいのですが……」

顔を突き合わせて頭を悩ませる男二人の様子を見て、月乃がキョトンとした顔で言った。

「ん? このメールって送れないんですか?」




550 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 22:07:21 Se6c4Sj60
その後、シェリンに確認したところ。

メールは連絡先を知る相手ならば送ることができる。
連絡先を知るにはコネクトする必要がある。
コネクトとは5秒以上の単純接触によって行われる。
メールは1通出すのにGPを10pt使用する。
などと言う情報を得た。

「しかしずいぶんと回りくどい説明でしたね」

正義たちと別れ、太陽がいると思しき方向に向かって秀才たちは進んでいた。
シェリンは問えば答えるものの1項目1項目を逐一問う必要があった。
余程伝えたくなかったのか、随分と遠回しな返答である。

だが、これもおかしい。
参加者に使われたくない機能ならば、そもそも実装しなければいい。
何故、そんな機能があるのか。

「あっ、思い出した! 正義くんだ!」

唐突に月乃が声を上げた。
秀才の思案が打ち切られる。

「何を言っているんですか。思い出すも何も先ほど出会ったばかりじゃないですか」

そんな事も忘れてしまったのかと、月乃にかわいそうなモノを見る目が向けられる。

「違いますって! 聞いたことがるようなって言ったじゃないですか!
 確か善子から聞いたんですよ、正義くんって」
「善子? ああ、美空ひかりさんの本名でしたか」

あのトップアイドルと堅物の正義に繋がりがったなど、意外な話である。

「どのようなご関係なんですか?」
「えっとそこまで詳しくは……アイドル始めるきっかけになった少年の名前ってくらいしか」
「そうなんですね」

意外な繋がりがあるものである。
人間関係の妙に秀才はしみじみそう思った。

[D-4/市街地/1日目・早朝]
[出多方 秀才]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:焔のブレスレット(E)、おもしろ写真セット、回復薬×1、万能薬×1
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:出来る限り多くの人間と共に脱出を目指す
1.自分の向かいたい逆に進み、太陽を探す。
2.月乃の歌でこの殺し合いを止めたい
3.ある程度の目途が立ったら正義との合流

[大日輪 月乃]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:海神の槍、ワープストーン(2/3)、ドロップ缶、回復薬×1、万能薬×1、不明支給品×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:歌で殺し合いを止める。
1.兄さんを探す。
2.金髪の人(エンジ君)には、次に会ったら負けない。

【ドロップ缶】
いちご、れもん、めろん、ハッカなどいろんな味の飴が入った四角い缶。
演説、歌唱など声を使うスキルをブーストする(上限A)
また沈黙などの声に関する状態異常を回復する


551 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 22:08:31 Se6c4Sj60
「よかったね、飴。分けて貰えて」
「うむ。よき供物。重畳である」

月乃から幾つかの飴を分け与えられご満悦のようである。
その代わりと言う訳ではないが、正義も秀才と月乃に薬セットから回復薬と万能薬を分け与えた。
正直、自身一人で使うには持て余していたためちょうどいい機会であった。

具体的な行動方針は正義に一任された。
砂漠エリアへと向かうか、それとも塔の制圧に向かうべきか。
決断せねばならないが、ロレちゃんがいる以上、安易な選択はできない。

その幼女、ロレちゃんを見る。
その正体は邪神であるという。
鵜呑みにするわけではないが、確かに神と言われれば納得できない事もない風格はある。

「まあ、だからと言って何が変わる訳でもない、か」

自身が秀才に行った言葉を思い出しながら、そう呟いた。

[D-3/市街地/1日目・早朝]
[大和 正義]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:アンプルセット(STRUP×1、VITUP×1、AGIUP×1、DEXUP×1、LUKUP×1、ALLUP×1)、薬セット(回復薬×1、万能薬×1、秘薬×1)、万能スーツ(E)
火炎放射器(燃料75%)、オートバイ(破損)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:正義を貫く
1.人殺し以外のGPの獲得を目指す(塔の制圧、砂漠のイベントなど)
2.脱出に向けた情報収集、志を同じくする人間とのとの合流
3.何らかの目途が立ったら秀才たちとの合流
4.海があったらオートバイを捨てる。

[ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:飴×5、不明支給品×3(未確認)
[GP]:290pt
[プロセス]:全ては些事
※支給品を目視しましたが「それが何であるか」については些事なので認識していません。


552 : 熱き血潮に ◆H3bky6/SCY :2020/10/24(土) 22:09:01 Se6c4Sj60
投下終了です


553 : 名無しさん :2020/10/25(日) 00:09:02 Y5wxo28c0
投下乙です
旧知で頭脳派の二人が揃って話が進む進む
今まで殺伐としてたので冷静スキル持ち同士の気があうやり取りと
アイドルと実質幼女のやり取りが微笑ましい


554 : 名無しさん :2020/10/25(日) 07:37:20 khhCBczQ0
投下乙です
二人とも生真面目なのでスムーズに考察が進むけど、生真面目すぎて身元確認のクイズ大会で白熱しちゃうの好き
ロレチャンと月乃ちゃんが横でわちゃわちゃ絡んでたのも可愛い
しかしロレチャン、核心めいたことを突いてきたのでやはりただならない


555 : vent the anger… ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:49:29 NXFBFkPA0
投下します


556 : vent the anger… ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:50:10 NXFBFkPA0
月は西に大きく傾いている。
空は白み始めているものの未だ濃い闇の中、迷いなき足取りで進む女性が一人。

白衣をたなびかせ、大股で歩くのは白井京子――――ではなく、彼女の姿を模したアバターに身を宿す枝島トオルだ。

その視線は北西、砂漠エリアに向けられていた。

十数分前、彼は運営から一通のメールを受け取った。
それは『砂漠のお宝さがし』なるイベントの開始を告げる知らせ。

メールによると砂漠エリア内の複数個所に埋められた宝を探すという単純なイベント。
LUKが高いか探索系スキルを持っていないと発見することが難しい仕様になっているようで、何が手に入るかは発見してみないとわからない。

彼は己の高いLUKを信じ、宝さがしイベントへの参加を決心していた。
当然危険はある。
イベントと称し、餌をちらつかせて参加者をおびき寄せているのだ。どんな輩がエリアに集うかわかったもんじゃない。

会場内には教え子である高井丈美がいる。
他にも自分がそうであるように本名とは違う名前や姿で存在している生徒もいるかもしれない。生徒の捜索は困難を極めるだろう。

現実ならいざ知らず、この世界における自分は美しく優しく、しかしか弱い女性の身体で、戦闘系のスキルを獲得しているわけでもない。
戦闘に直結するステータスも軒並み低い。

支給されたアイテムには戦闘に使えるものはない。
それは決してハズレアイテムだったことを意味しない。むしろアタリの部類と言って良い。
しかしそれでも銃は愚かナイフを持った相手に抗することすら難しいだろう。


それら全てを織り込んだうえで、しかし。
「生徒を保護して生きて帰る。そのために危険な橋を渡るのは教師である俺の当然の義務だ」
生徒に対しては平等に深入りしない姿勢を貫いている枝島。

しかし教師として、大人として。
リスクに飛び込み、生徒を守るための、元の世界に帰すための力を獲得する義務があるのだ。

故に枝島は進む。

生徒を守る力を求めて。



「あれは……」

湿地帯に差し掛かるころ、よく見知った衣服が見える。
赤みがかったグレーのブレザー。トオルが勤務する日天中学校の制服だ。
それに身を包んだ黒髪の少女が二時の方向に見える。
遠目なので自信はないが、その生徒の外見に見覚えはない。

「……ちょっと声をかけてみよう」
多感な年ごろの中学生だ。
外見にコンプレックスを持つ者や女性への変身願望を持つ者が外見を美しい少女のものに変えていたとしても不思議なことはない。
保健室の外で立ち聞きしたことがあるので、実際にそういう生徒が存在するということは把握している。

「そこの君!」
声をかけられ、制服の少女が振り返る。
白井京子の姿をした枝島を見た少女が喜色を露わに駆け寄って来る。

「白井先生!お久し振りです!」
見知らぬ少女に親しげに声をかけられた枝島は面食らう。


557 : vent the anger… ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:51:25 NXFBFkPA0

「えーっと君は…」
「ひっどーい!保健室には何度もお世話になったじゃん!陣野優美ですよ。女バレ部主将の。あ、元主将か。」
「あ…ああ!うん久しぶりだ!……だね!」
写真は資料でしか見たことがなかったので思い出すのに時間がかかったが、間違いない。
作年、県大会を目前に控えて突如行方不明になった女子バレーボール部主将・陣野優美だ。
姉である陣野愛美や親友の守川真凛、その他三人の男子高校生と共に何の痕跡もなく姿をくらましたと聞いている。

敬語とため口が混ざった言葉遣いから察するに白井京子とは相当に仲が良かったらしい。
自分が彼女の姿を偽っていることがバレたら信頼関係を構築するのはむずかしいだろう。決してバレるわけにはいかない。

「先生の名前なんて[[メンバー]]にありましたっけ?」
枝島が逡巡している間に優美が尋ねてくる。

「…って、ああ『枝島京子』って先生のこと?それにその指輪…ひょっとして、結婚したんですか?」
「ああ…じゃない、うん。そうよ。同僚の枝島先生と」
「枝島…?うーん知らないな〜。
 ひょっとして、私たちがいなくなってから赴任してきた先生?」
「うん、確か去年の10月」
「あーそりゃわかりませんわ。
 私らがむこうに召喚されたの去年の7月とかだもんね。てか時間軸同じなのかな」
「そ、そうだね。よくわからないけど」

召喚だの時間軸だの聞きなれない単語が飛び出しリアクションに困る枝島。
そんな枝島に優美は構うことなく続ける。

「子どもは?まだなの?」
「こ…ここ……こ、子ども!?
 ああ、うん、子ども、子どもね!まだ!うん、まだだよ!」
「動揺しすぎ!どうかしたんですか?」
「なんでもない!なんでもないさ!」

「子ども」という単語から情事を連想して取り乱す枝島。
動揺のあまり口調が素に戻ってしまったが優美が気にする様子はない。

「まあいいか。先生が幸せなら私も嬉しいよ」

優美が枝島に抱き着く。
大人びた魅力を持つ美しい少女に抱き着かれ、胸元にあたるふくよかな感触に顔が上気する。今は自分にも同じものがついているのだが。

幼少期から絵画に打ち込み、所属するあらゆる共同体で「陰キャラ」のポジションに鎮座し続けた彼には、異性と触れ合う機会などほとんどなかった。
教師と生徒として接触する程度であればどうということはないが、ここまで直接的な身体接触となるとさすがに冷静さを失ってしまう。

左の肩口が熱くなる。
動揺と興奮により心臓が平時より遥かに高速で拍動し、体温を高めていく。

(お、落ち着け……!俺! 相手は子ども!相手は子どもなんだ!
 こんなのただのスキンシップだ!動揺するな〜〜〜〜〜!!)

普段生徒として、子どもとして接しているのと同年代の少女からの抱擁。
教師として、大人として邪念を捨てねばならぬと努めたのが良かったのか少し冷静さを取り戻した枝島はあることに気付く。

(あれ?ドキドキしたときこんなところ熱くなったっけ?)

――否。良くはなかったのかもしれない。
不思議に思い、首を向けた彼は気付いてしまった。

異形の爪が肩口を刺し貫いていることに。
その爪はおそらく、自分を抱きすくめる陣野優美から伸びているらしいということに。


558 : vent the anger… ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:52:10 NXFBFkPA0


「その幸せを私の手で壊せるから」

その言葉が合図だったかのように、刺された肩が激痛を訴えだした。



「先生、行方不明になった私たちが、どこで何してたか教えてあげよっか」

爪が引き抜かれ、ぬかるんだ湿地帯の地面の上に押し倒される。
枝島の着る白衣や刺された傷が泥にまみれるが、優美は気にせず語り掛ける。

「一年前、私達は異世界に召喚されたの。わかります?異世界。
一応私も他のみんなと同じ勇者として召喚されたんだけど、私だけ何のスキルももらえなくてね。
しばらくは一緒に冒険してたし、戦い以外の部分でそれなりに活躍してたんだけど、兆の馬鹿がギャンブルで借金こさえて。私、その返済のために性奴隷として売られたの」

さすがにひどいと思わない?と付け加えながら話を続ける。

「そりゃあ私もそれが初めてってわけじゃなかったけどさ。
ローションも避妊具もないからすっごく痛かったし、デキちゃうんじゃないかってすごく怖かった」

目の前の、自分より一回りも年下の少女から語られる性の話に絶句する枝島。
しかし優美はそんな彼にはやはり構わず続ける。
でもそんなの全然序の口だった、と呟きながら、爪を人間の形に戻してはにかむ。

「ねえ先生、私のこの姿どう思います?普通の女の子に見えます?答えて」
「見……える」
「うん。ありがと。
 でもこの姿、アバターで再現したものなんだ」

少女が、先ほどとは違い悲しげにはにかむ。

「私の本体はもうぐちゃぐちゃなの。
 歯はペンチで全部引っこ抜かれたし、腕は切り落とされてオークションで売られた。
眼球は逸物突っ込むためだけにくり抜かれたし、脚は調理して食べられた。
 しかもその脚、私二切れくらい食べさせられたんですよ。歯全部引っこ抜かれてるから噛めないし、何より嫌悪感で味なんかわからなかった。かといって吐き出したらしこたま殴られますから気合で呑み込んだんですけど。
それと先生、昔『子宮はお腹の中で赤ちゃんを育てるための部屋』って教えてくれたよね。
私のは魔法で摘出されて目の前でハンマーで潰されたよ。
 いやあ本当、ゴミみたいに扱われたなあ。地獄だったよ」

語られるあまりに凄惨な体験を、枝島は僅か数分前に貫かれた肩の痛みすら忘れて聞き入る。
理不尽にもそんな目にあわされた彼女の絶望はいかなるものか。
平和な世で平和に絵を描き暮らしてきた自分には想像することすらできない。

再び爪を変形させた優美がすっくと立ち上がる。
纏う雰囲気が変わる。
どうやらここからが本題らしい。

「ねえ白井先生」

ザグリ、と枝島の右肩に爪が刺さる。
悲鳴をあげそうになるが、優美にものすごい形相で睨みつけられ、それを噛み殺す。

「私が彼氏に裏切られてひどい目にあわされてる間、先生は恋愛して、結婚して、多分旦那さんと家族計画なんかも話し合ったりしてたんだよね。
あんなに仲良くしてくれた私のことなんかコロっと忘れて」

そんなことを言われても、というのが枝島の本音だ。
枝島自身は陣野優美とは面識などなかったし、そもそも枝島と白井の結婚自体が枝島の願望に過ぎず虚言でしかない。
とはいえここでネタばらしなどしたところでこの少女は行動を変えないだろう。
むしろ怒り狂ってどのような行動に出るかわからない。

ズブリと両ひざに爪が刺さる。
爪を引き抜いた優美は、蠱惑的な仕草で血を舐め取る。


「だからちょっとくらい私の苦痛を分かち合ってくれても良いよね」

二コリと笑った優美は『京子』の下腹部に五指の爪を突き刺し、くるりと手首を返す。
そして、くり抜き取り出した『それ』を潰すと同時に枝島の肉体は消滅した。


559 : vent the anger… ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:53:32 NXFBFkPA0



◆◆◆



罪悪感なんて感じない。良心の呵責なんてない。
けれど、それを感じないことへの違和感は確かにあって。



あの世界で凌辱され虐げられる中で精神はすっかりすり減って、発散する術のない憎悪だけが優美の命を繋いでいた。

シェリンというAI少女にこの世界に呼びつけられ「勇者になって、他の勇者を殺してください」と言われた時、姉・陣野愛美も同様に呼ばれていると直感した。

優美にはいつでも優しく接してきたあの姉が。

優美のものを何でも奪い取ろうとするあの姉が。

売られていく優美を恍惚とした表情で見ていたあの姉が。

たとえ兆が、誠が、薫が、真凛が呼ばれていなくとも、あの姉だけはこの世界に存在していると確信した。


ようやく得た復讐の機会、逃すわけにはいかない。


だから『悪辣』なんてスキルを取った。
善性で殺意が鈍らないよう、わざわざスキルで消したのだ。



そうして先ほど郷田薫を殺し、今、白井京子を殺した。

自分が苦しんでいる中で、のうのうと幸福を享受していた者を殺した。

これは罰だ。

助けて、と藻掻き苦しむ私に手を差し伸べてくれなかった全てのモノに私が下す――――罰なのだ。



◆◆◆



F-4。市街地内にある診療所。


枝島トオルはそこで目を覚ます。

「何だったんだあの子は……?」

内蔵を抉り潰される体験など夢だと思いたかった。
しかしそうではないと肩やひざの痛みが告げていた。

考えるのは後だ、と傷の処置を始める。
刺し傷を泥につけてしまったのだ。処置が遅れれば敗血症や破傷風を発症する可能性がある。


湿地帯で殺害されたはずの枝島が市街地で蘇生したのは彼の支給品『コンティニューパペット』の効果だ。

所有者を設定して設置すると、その場所に一定確率で、決定的な致命傷を治療したうえで転移させ蘇生するというもの。
砂漠に向かう前、市街地を徘徊していた時に発見したこの診療所に設置しておいたものだ。
使い捨てのアイテムであるため二度目はないが、とにかく枝島はその博打に勝利し蘇生を果たしたのだった。


「秘密兵器を失った以上もう少し慎重になるべきか……だがそれでは生徒たちが……」

スキル『白衣の女神』が教えてくれる通りに、手際よく処置を行う枝島。

消毒液を傷に垂らして顔をしかめるのだった。


「ぎゃひぃ!!」


[F-4/市街地、診療所内/1日目・深夜]
[枝島トオル(枝島杏子)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:B LUK:A
[ステータス]:両肩、両ひざに刺し傷
[アイテム]:変声チョーカー、不明支給品×1
[GP]:15pt
[プロセス]
基本行動方針:白井杏子のエミュをしながら生徒の保護。
1.治療を終えたら砂漠に向かう?
2.高井丈美との合流を目指す。
3.他に生徒がいれば教師として保護する。
4.陣野優美、陣野愛美もできれば救ってやりたい
5.耳が幸せ。

【コンティニューパペット】
スカーフェイスにサングラスをかけたぬいぐるみ。
設定された所有者が死亡すると、設置した場所に決定的な致命傷のみを治療したうえで転移させ蘇生する。
一度この効果で蘇生した者はいかなるスキルやアイテムの効果でも、二度と蘇生できない。
蘇生の成功率は以下の通り。
LUK:S 70%、A 50%、B 30%、C 10%、D 1%、E 自動失敗


560 : vent the anger… ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:54:52 NXFBFkPA0



◆◆◆



砂漠に向かって歩き始めた優美は気付いた。
いつまでたってもポイントが付与されないことに。
薫の時は、その身体が消滅すると同時に付与された。
しかし白井京子の身体が消滅し、数分が経過した今も優美の所持するGPは変わっていない。

この状況から導き出せる答えは一つ、白井京子は生きている。
スキルの効果かアイテムの効果はわからないが。何せゲームの世界だというのだ。そのくらいはあり得るだろう。


「白井先生。お仕置きが足りないなら何度でもやってあげますよ」



彼女の復讐譚は始まったばかり――――。


[D-4/湿地帯/1日目・早朝]
[陣野 優美]
[パラメータ]:STR:E→D VIT:E→D AGI:E→C DEX:E LUK:A
[ステータス]:状態異常:興奮、疲労(中)、両腕の骨にヒビ、胸部に穴、全身に軽い火傷、いずれの傷も自己再生中
[アイテム]:爆弾×2、不明支給×3(確認済)
[GP]:60pt
[プロセス]:
基本行動方針:全部、消し去る。
1.姉(陣野愛美)は絶対に殺す。
2.自分に再び勇者を押し付けたシェリンも、決して赦さない。
※スキル「憎悪の化身」によるパラメータ上昇は戦闘終了後に数分程度で解除されます。また肉体の変質によって自己再生能力もある程度上昇します。


561 : vent the anger… ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:55:36 NXFBFkPA0
投下終了です


562 : ◆ylcjBnZZno :2020/10/25(日) 19:56:45 NXFBFkPA0
枝島先生の状態表が深夜のままでした……。
正しくは早朝です……。


563 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/25(日) 21:15:15 XODC6kIY0
優美ちゃん異世界であった酷い目が本当に酷い
だとしても復讐関係ない人間まで襲い始めるとか完全に壊れちゃってますねぇ


564 : 名無しさん :2020/10/25(日) 21:53:04 khhCBczQ0
投下乙です
優美ちゃんは本当に可哀想な目に遭ってるけど、恨みつらみを自覚的に駆使しているのでそれ以上に悪辣すぎる
先生はかろうじて陣野姉妹との繋がりも作れたけど、現状市街地で足止め食らってるようなもんで心配になってくる


565 : 名無しさん :2020/10/26(月) 03:50:38 2HbcJKe20
投下乙
優美ちゃんアカンなー
復讐に取り憑かれてるな
愛美ちゃんもそうだけどヤバイなこの姉妹


566 : ◆H3bky6/SCY :2020/10/30(金) 21:05:29 0U.v4slU0
投下します


567 : この素晴らしき世界 ◆H3bky6/SCY :2020/10/30(金) 21:06:49 0U.v4slU0
漆黒の空に、浮かぶのは淡く白い月である。
闇に輝く唯一の寄る辺。誇りをもって輝きを放つ孤高の光。
ならば月の見守る大地。黒い夜を反射する水面に浮かぶのは何か。

盗賊ギール・グロウは海流に流されていた。
沈まぬよう巨大な木製の槌に掴まりながら、思考でマップを操作して現在位置を確認する。
どうやら中央エリアと砂漠エリアの間を流れる川に差し掛かった様だ。

魔王の居る火山エリアからはそれなりに距離をとれた。
そろそろ安全圏だろう。
ギールは陸地に上がろるべく岸に向かてバタ足を始めた。
だがどういう訳か、一向に岸へと近づかない。

(…………やべっ)

そこで気づく。
魔王から受けたダメージは思った以上に深刻だったようだ。
水流が激しいというのもあるが、それ以上に流れに逆らうだけの体力がない。

なんてマヌケ。
言い訳ではないが、いつもならこんなミスはしない。
本来の肉体と異なるアバターであることの影響か、何かが普段よりも劣っている。

ともかく、このままではまずい。
運よく岸に流れつくこともあるだろうが、そうならず積雪エリアまで流されてしまえば体温を奪われて衰弱死する。
いや、それ以前に浮き輪代わりの丸太槌に掴まっているだけの体力がなくなってしまえば、そのまま溺死だ。

魔王に一杯食わせたはいいものの、自ら海に飛び込んで溺死だなんて笑い話にもならない。
いや、なるかもしれないが、話す相手がいなくなる。
それは困るしつまらない。

どうにかしなくてはならない。
ならないのだが、どうしようもない。

体力もない、スキルもこの状況では役に立たない。
この危機的状況を都合よく脱せられるような道具もない。
もはや万策尽きたといっていい。

故に、ギールは考えるのをやめた。
川の流れに身を委ねる。
運に任せることに決めたのだ。

それは諦めの選択ではない。
自信の運を信じたのだ。

こんな最後は天下の大盗賊ギール・グロウの終わりに相応しくない。
大盗賊の終わりはお宝に埋もれて死ぬのだと相場が決まっている。
己はこんなところで終わる器ではない。

ゲームで設定されたLUKなどではなく。
ギール・グロウとう存在に賭けられた魂の運命力。
それを信じているからこそ、全てを手放して運に賭けられる。

何より分が悪い賭けは嫌いではない。




568 : この素晴らしき世界 ◆H3bky6/SCY :2020/10/30(金) 21:07:49 0U.v4slU0
「見失ったぁッ!!」

川岸に男の叫びが木魂した。
裂帛する咆哮に足元の砂が弾けるように舞い上がる。

川に落ちて流れてゆく龍を追って、砂漠エリアの川沿いを駆ける琲汰だったが、エリアの分かれ道辺りで完全にその姿を見失った。
見通しの悪い夜とはいえ、あれほどの巨体を見逃す琲汰でもないのだが、どういう訳か完全に見えなくなってしまった。
それこそ煙にでもなったように唐突に影も形も消えてしまったのだ。
川の底に沈んだか、それとも本当に煙にでもなったのか。
龍の生態など知る由もないゆえに、そんな益体もない想像が浮かんでしまう。

どうする?
鋭い視線で流れる夜を写す黒い川を睨む。
本能だけで生きてきた琲汰が珍しく思案していた。

とりあえず勢いのまま砂漠エリアを走り続けてみたものの、逆側の積雪エリアの方に流れていったのかもしれない。
引き返してそちらの方に向かってみるか、それともこのまま砂漠エリアの川を探索を続けるか。
いっそ諦めて次の強者を探すというのも一つの選択肢としてはあるだろう。

琲汰は決断を下す。
愚直に進み続けるが武道である。
やはり、引き返すなどという選択肢は琲汰には似合わない。
火山エリア方向にむけて砂漠エリアの川沿いを進み続けた。

走りながら夜の水面を変化一つ見逃さぬよう凝視する。
そこで、何か水面に流れる大きな丸太のような影を見つけた。
見失った龍が返ってきたのか、と期待に胸躍らせながら駆けつける。
はっきりとそれが何であるのか目視できる距離まで近づき、叫ぶ。

「誰だ貴様あぁッ!!!」

だが、そこにいたのは龍ではなかった。
丸太に掴まりながら川を流れるバンダナを巻いた男である。
どうして龍じゃないのか? 琲汰は理不尽な怒りを吐き出す。

そもそも向こうから流れてきている時点で流れが違う。
つまりは見当違いの方向に向かって全力で走っていたという事になる。
琲汰がプルプルと怒りと悔しさに震た。
龍に会いたくて震える琲汰を眺めながら、川を流れる男は言う。

「……いや、ともかく助けて貰えませんかね」




569 : この素晴らしき世界 ◆H3bky6/SCY :2020/10/30(金) 21:08:27 0U.v4slU0
絞った服から滝のように水が滴り落ちた。
水を吸い込んだ砂が色を滲ませてゆく。

濡れた服をとりあえず絞れるだけ絞ったが、これ以上は自然乾燥を待つしかない。
割り切って若干重みを増した服を着なおす。
肌に張り付く感覚を我慢しながら最後にバンダナを巻きなおす。
これで、形だけはいつも通りの盗賊ギール・グロウの姿に戻った。じっとりしているが。

「いやぁ、助かりましたぜ、旦那」

自らを引っ張り上げてくれた格闘家、酉糸琲汰へと礼を述べる。
琲汰は強者とあれば見境ない男だが、性根の腐った悪人という訳でもない。
助けを求められれば助ける程度の良識はあった。
むろん、強者がいればそちらを優先することもあるだろうが、幸か不幸か龍は見失われてしまった後である。

「それで、ずいぶんと慌ててらしたようですが、旦那は何を? 誰かお探しで?」

先ほどの様子からギールが問う。
これに対して琲汰はどこか遠く闇の先を睨みながら、こくりと頷いた。

「龍(ドラゴン)を追っていた」
「ドラゴン? そいつぁ魔界でもそうはお目にかかれない大物だ」

ドラゴンは魔物の中でもかなりの上位生物である。
だが、ここはモンスターが生息するギールの故郷と違い、その世界はモンスターがいるわけではない。
つまりは参加者にドラゴンがいる、という事なのだろう。

そう言えばドラゴンなんて名前のついた参加者がいたことを思い返す。
まあ魔王がいるのだ、魔物の一匹や二匹いてもおかしくはないだろう。

「念のために聞きますが、何のために?」
「無論、この拳を交えるために」

当然のようにそう言って、格闘家特有の丸い拳を握り込む。
何かを殴り続けることによって磨かれた宝石の如き拳。
それは一種の芸術品の様である。

(おいおい、正気かこいつ)

だが、ギールは内心でその正気を疑っていた。
ドラゴンを単独で狩りにいこうなど正気の沙汰ではない。

目の前の相手を値踏みするように見つめる
盗賊として目利きは必須スキルである、人を見る目はあると自負している。
特に相手の強さを理解するというのは、生き残るための必須条件だ。

身に纏う雰囲気、立ち居振る舞いの隙のなさ。
ただモノではないのは感じられるが、それがどれほどのものなのか、その深さを測る。

基本的にドラゴン一匹を狩るには国家の正規軍、もしくは複数ギルドが協力した連合戦力が必要となる。
それこそ悪名高い勇者どもに匹敵するような実力者でもない限り、一人でドラゴンと戦うなど命を捨てに行くようなものだ。
龍と言っても幼龍なのか、それとも伝説級の武具でもあるのか。
少なくとも装備はないように見える、素手を主とする格闘士のようだ。
素手でそれほどの武力を持つモノなどギールの知識の中には存在しないが……。


570 : この素晴らしき世界 ◆H3bky6/SCY :2020/10/30(金) 21:09:36 0U.v4slU0
「ッ!?」

気づけば、ギールは跳び退いていた。
ここまで彼を生き乗らせてきた生存本能が思考よりも早くその身を動かした。

「その動き。貴様、それなりに使えるようだな」

どうやら値踏みしていることを察せられたようである。
闘気を放ってギールを挑発した琲汰にまんまと乗せられた。

強者との戦いのためならいかなる手段、いかなる過程をも躊躇わない、あらゆる倫理を飛びこえる狂気。
助けた命、あるいは逆に命を助けてくれた相手であろうとも、強者であればブチのめす。
それが酉糸琲汰の生き方である。

「いやいや、やめてくれよ旦那。こちとらケチな盗賊ですぜ」

上げた両手をひらひらと振り、叩きつけられる闘気を風のようにいなす。
真正面から受け止めない、ひょうひょうと全てを躱しきる。
正々堂々などいらない、美味しい所だけ戴いていく。
それがギール・グロウの生き方だ。

「それよりも、旦那にいい話があるんですが」

話を切り替えるように切り出す。
一向に闘気を納めない琲汰の様子を見て、ギールはその性質を理解した。
勝つ事よりも戦う事を求める戦闘狂。
そう言う相手の食いつく話題も心得ている。

「龍の行方は知りませんが、強い相手を探してるんなら、いい相手を知ってますぜ」



琲汰は砂漠を駆けていた。
砂漠を超え向かうは荒涼たる大地、火山エリアである。
盗賊の言によればそこに琲汰の望む強敵が待つという。

『炎の塔を支配しているこの魔王ってのが、強いのなんのって』

心が躍る。
ギール・グロウの話は彼にとって夢の詰まった寓話だった。
一つの世界を力によって支配していたという魔王。
その実力は如何なるものか。

龍に次いで魔王。
現実ならざる世界であるが故に戦える強者たち。
そんな出会いを与えてくれるこの世界には感謝しかない。

琲汰は拳を極めすぎた。

俺より強い奴に会いに行く。
そう決意を固め日本中を放浪したが、そんな相手はついぞ出会えなかった。

いや、相手がいなかったわけでない。
天空慈我道のような強者や大和家などの武道の名門も確かに存在する。
だが、天空慈我道との戦いが近隣住民の通報により中断されたように、そもそも現代の日本国において命をとした決闘など不可能である。

だが、この世界ならば、そんな邪魔は入らない。
心行くまで闘争を楽しめる。
それだけでこの世界には価値がある。

ああ、なんと素晴らしき世界か。

[C-2/砂漠/1日目・早朝]
[酉糸 琲汰]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:闘気充実、左腕にひっかき傷
[アイテム]:スイムゴーグル、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:ただ戦い、拳を極めるのみ。
1.魔王と戦うべく炎の塔に行く
2.強者を探す。天空慈我道との決着を付けたい。少年(掘下進)にも次は勝つ。
3.弱者は興味無し。しかし戦いを挑んでくるならば受けて立つ。




571 : この素晴らしき世界 ◆H3bky6/SCY :2020/10/30(金) 21:10:02 0U.v4slU0
猛烈な勢いで走り去っていく琲汰の姿を見送ってギールは舌を出した。

あれだけのやり取りだったが、琲汰の強さは十分に察せられた。
恐らくギールでは彼には勝てないだろう。

だが、それを恥とは思わない。
ギールは戦士ではなく盗賊である。
別に正々堂々勝ち抜くなんてつもりはないし、勝つという結果があればそれでいい。
何だったら勝たずにお宝を得られるなら万々歳である。

魔王と格闘士。
どちらもギールでは勝てない強者である。
正面から勝てないような強者は強者同士でせいぜい潰し合ってくれればいい。
そうなるよう誘導はした、あとは結果をつばかりだ。

それよりもギールの注目は別の物に向けられていた。
先ほど届いたメール。
その内容が彼の琴線に触れた。

「砂漠のお宝さがし、ねぇ」

お宝と聞いては黙っていられない。
何より、このギール・グロウを差し置いて大盗賊を名乗るってのも気に食わない。
まあ煽り文句だというのは分かっているが、譲れないものもあるという事だ。

琲汰にとってそうである強さをギールがあっさりと放り出したように、譲れないものは人によって違う。
盗賊としての矜持。
これこそが彼の譲れない一線である。

ちょうどいいことに、ギールが現在地はイベントの開催されている砂漠エリアである。
大砂漠は目と鼻の先。
方向感覚を狂わすというその嵐の中に、ためらうことなく突き進んでいく。

そこにお宝がると言うのなら、向かうのが盗賊。
心躍るお宝探しの始まりだ。
勝ち残れば最後にさらに大きなお宝を得られるというのだ。
なんと、素晴らしき世界か。

さあ、根こそぎ頂いていくとしましょうか。

[C-3/砂漠/1日目・早朝]
[ギール・グロウ]
[パラメータ]:STR:D VIT:E AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[アイテム]:破壊の丸太槌(E)、両手剣、アイドルCDセット&CDプレーヤー(HSFのCD喪失)、ドローンのコントローラー
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:この殺し合いで優勝し、報酬獲得を目指す
1.砂漠のお宝さがしに参加する。
2.他の参加者と出会ったらまずは様子見。隙があればアイテムや命を奪う。
3.「郷田薫」、「陣野愛美」、「魔王カルザ・カルマ」に警戒。
[備考]
1.CDを確認して参加者である「TSUKINO(大日輪 月乃)」、「HSF」のメンバー、「真央ニャン(黒野真央)」、
「美空 ひかり(美空 善子)」の顔を覚えました。


572 : この素晴らしき世界 ◆H3bky6/SCY :2020/10/30(金) 21:10:23 0U.v4slU0
投下終了です


573 : 名無しさん :2020/10/30(金) 21:24:16 LVAg6ZM.0
投下乙です
落ち着いてるのに性根がひたすらテンション高い酉糸で笑う
魔王相手にけしかけられる羽目になったけど、こんだけやる気満々なら却って幸運なのかもしれない


574 : ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:00:31 LtZ2gpPI0
投下します


575 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:01:17 LtZ2gpPI0
瞼の裏に白を感じた。
その刺激に閉じていた目を瞬かせる。

「あ、れ…………?」

覚醒しきらない頭で周囲を見渡す。
どうやら眠っていたようだ。

薄めた瞳に映るのは、いつもの場所から見るいつも通りの光景だった。
窓際から差し込む光の眩しさに、開いた目を細める。

「って………!?」

ポカリと頭に軽い衝撃。
見上げれば、そこには丸めた教科書を手にした教師が立っていた。

「こらー登、居眠りかー? まーた遅くまでゲームやってのかー?」

年老いた社会科教師の間延びした声と共に、教室中からくすくすと笑い声が響く。
叩かれた頭に大した痛みはなかったけれど、羞恥に頬が染まるのが分かった。

ここは一年三組の教室。
僕、登勇太の指定席である、窓際の一番前の席だった。
当然、先生の目の前だから、居眠りなんてしようものならこんな風にクラス中の注目を浴びる事になる。

君の身長では前が見えないだろうと言う余計な配慮から、僕の席は席替えのクジに関係なくいつも強制的に一番前となるのが定番だった。
僕とは逆に常に一番後ろの席になる大小さんが正直羨ましい。

1学期の頃に楽しみしていた新作ゲームをつい徹夜で遊んでしまい授業中に居眠りをしてしまったことがある。
その時に今と同じようなことになって、それ以来そうならないように気を張っていたのに。

昨日そんなに遅くまで遊んでいたっけ? FW3でイベントでもあっただろうか?
寝起きだからかいまいち思い出せない。

外を眺める。
窓の外から差し込む光が眩しい。

何も変わらない、いつもの場所から見るいつも通りの光景である。

どうやら悪い夢でも見ていたようだ。




576 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:02:31 LtZ2gpPI0
「あっ。の、登くん!」
「あ。高井先輩。こんにちは」

また眠っていたのだろうか。
気付けば、授業は終わり放課後だった。
部室に向かう途中の廊下でバレー部の主将である高井先輩と出会った。

3年の教室から体育館へ向かう廊下とは別方向のはずなのだが、どういう訳か先輩とはこの廊下でよく会う。
一度それを直球で訪ねたところ、部活前のアップがてら校舎を遠回りしているとの返答を得た。
運動部って大変なんだなぁ。

それから部活開始の時間まで少しだけ雑談して別れる。
話している間ずっと息が荒かったけど、校内を走ってきたからだろう。

高井先輩は名残惜しげだったけれど、主将である自分が遅れるわけにいかないからと何度も振り向きながら走り去っていった。
背も高いメジャー運動部の主将が文化部未満の同好会所属の背の低い僕なんかを気にかけてくれるなんて、いい人なんだろうなぁ。

「おはようございまーす」

挨拶をしながら建付けの悪い横開きの扉を開ける。
校舎の端にある整備もされていない空き教室。
それが僕の所属するPCゲーム同好会の部室だった。

L.L.教室はパソコン部が使用しているため、同好会である我らは教室とは名ばかりの5人も入れば一杯になるような縦長の小さなスペースに押し込まれていた。
まあLANケーブルがあるだけましだけど。
当然、同好会の貧弱な部費ではゲーミングPCなど賄うことができるわけがなく、使わなくなった設備のPCを譲ってもらい、各々PCパーツを持ち込んでカスタマイズして使っている。

「やぁ、登くん」
「おはようございます。馬場先輩」

一番の奥の席に座った部長である馬場先輩がモニター越しに片手を上げる。
僕は挨拶を返して自分のカスタムPCの前に座ろうとしたが、そこには椅子を並べたベッドの上に寝転がりっている男がいた。
帽子をアイマスク代わりに顔の上に乗せているが、誰であるかは一目瞭然だった。

「おい。起きろよ巧。教室にいないと思ったら、またサボってたのかよ」
「よおぅ、勇太ぁ。おはよぅ」

あくびをしながら身を起こして、坊主頭に帽子をかぶりなおす。
こいつは略画巧。同じクラスの友達だ。
たまにこうして部室で授業をさぼることがある。
本当にめんどくさがりな奴で、すぐ諦めるし、すぐサボるし、初プレーのゲームで攻略サイトに頼るような奴だが、まあ悪い奴ではない。


577 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:03:42 LtZ2gpPI0
「我、降臨!」

勢いよく部室の扉が開け放たれた。
大きな音に、全員の視線が集約する。
その視界に漆黒のマントがはためいた。

「フッハハハハ! 血を分けし我が同志たちよ、打ち棄てられし世界の果てにて今宵も第五世界たる電子の海にて宴に興じておるようだな!」

腕を十字にクロスさせた白い眼帯をつけた少女が黒髪のショートヘアーを揺らした。
血塗られた口上と共に高笑いが響く。
末世の地上に黄昏の堕天使の降臨である。

「……有馬さん。扉を開ける時はもう少し静かに」
「有馬ではない! †黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†である!」

部長が窘めるが堕天使はどこ吹く風の高笑い。
部長は呆れたように頭を振って、巧が眠そうにあくびをしている。
これがこの部室におけるいつもの光景である。

奇天烈な格好をした堕天使の真名は有馬良子。2年の先輩である。
部長は呆れているが、僕はそのノリは嫌いではなかった。
と言うか僕もその手の人間だ。

「黄龍の血を引きし猛き龍、Brave Dragonよ。今宵も息災であるようだな!」
「ふふ。呑気なものだな黄昏の堕天使よ。我が龍鱗が捕えし情報によれば天界よりの使者が貴様を捕えるべく動き始めたようだぞ?」
「なにィ!? 組織が動き出したというのか……!? 最終決戦(ラグナロック)は近いという事か……」

僕は四神信仰の一角を成す四聖獣の頂点に立つ黄龍の末裔、という事になっている。
勿論本気で考えいてるわけではない。
ただのお遊び、単なるロールプレイである。

「それじゃあ、今日はFW3の第3層にアタックして完全下校時間までにクリアを目指す」

パンパンと手を叩き馬場先輩が場を仕切る。
僕は有馬先輩の相手を打ち切って自分の席に座ってFW3を起動した。
巧も面倒くさそうにしながらもPCを起動する。

「では、貴様らが遊戯に興じる間、我は電子の深海で闇の情報を閲覧しているとしよう」
「はいはい。ネットサーフィンね」

馬場先輩に促され有馬先輩が開いている席(と言ってもほぼ有馬先輩用になってる)に座って、スマホを取り出す。
有馬先輩はPCゲーム部に入り浸っているが同好会の部員ではない。
彼女はPCゲームにさほど興味はないらしく、肩を並べて遊ぶことは殆どなかった。

そんな彼女が、何故このPCゲーム同好会に入り浸ているのか。
それは、きっとここが唯一自分を出せる場所だからだろう。

日天中学はそれなりの進学校である。
いわゆる厨二病である彼女の趣味はあまり理解されていない。
眼帯やマントだって授業中に付けてて没収されたので、わざわざ放課後になって付けているらしい。

巧も厳しい両親に進学校に入れられたもののついていけず、勉強からの逃げ場所としてここを使っている。
馬場先輩も今は喧嘩別れをしてしまったけれど、親友の増田先輩と立ち上げたこの同好会に思い入れを持っている。
みんなそれぞれの事情でここにいるのだ。

僕だってそうだ。
クラスでも、家でも、きっとどこにも受け入れられない自分を見せられるのはここだけだ。
ここだけが自分を受け入れてもらえる居場所である。

それに、家に帰ったところで共働きの両親は深夜になるまで帰ってこない。
だから何も飾らなくていい気の合う仲間たちと、部室に入り浸って遊んでいる。

ここでしかいられない連中の居場所。
それが日天中学PCゲーム同好会である。


578 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:04:22 LtZ2gpPI0
「え!?」
「勇太…………!?」

突然周囲が騒ぎ出した。
何事かと思ったけれど、どういう訳かみんなの注目は僕の方に向いていた。

不思議に思っていると左目に熱を感じる。
目から熱い何かが零れていた。

変な感傷に浸って泣いてしまったのかと思ったけれど、違った。

「血…………?」

机に跳ねたのは赤い雫だった。
涙かと思ったそれは血液だった。
左目から涙のように血涙が流れていた。

「お、おい大丈夫か、勇太?」
「そ、そうよ。あ、安静にしないと。目薬? 手術? どどど、どうしよう」

珍しく巧が慌てたように狼狽しており、有馬先輩までキャラを忘れてオロオロしてる。
その様がなんだか妙におかしくって冷静になってしまった。
他人が慌てている様を見ると落ち着いてしまうと言うのはよくあると思う。

「君たちがまず落ち着きたまえ。登くん大丈夫なのかい?」
「ああ、大丈夫、大丈夫です。痛みもないし」

唯一冷静だった馬場先輩がこちらの様子を伺う。
だが、強がりでもなく本当に痛みもない。
ただ、血涙が止まらないだけ。

「ならいいけれど。ひとまず今日は帰りなさい。それとも保健室によって行くかい?」
「そうですね。帰っても誰もいないんで、保健室行ってみます」

そう言ってPCを落としてから荷物をまとめる。
部長が付き添いを申し出たが、別に目眩もないし大丈夫だろうと思い、丁重に断っておいた。
心配そうな顔をする巧と有馬先輩に軽く手を振って部室を後にする。

誰もいない廊下を歩きながら有馬先輩が貸してくれたハンカチを目元に充てる。
ハンカチからは香水みたいないいにおいがした。
それを血で汚してしまうのはなんだか悪い気がした。

ゲームのやりすぎで白目が真っ赤になるくらい充血したことはあるけど、さすがに血涙は始めてだ。
そんなに目を酷使した覚えはないはずなんだけど。

そんなことを考えながら1階の保健室までたどり着いた。
だが、そこで動きが止まる。
何故か、その扉を開くのが酷く躊躇われた。

何を躊躇っているのか。
血涙はいまだに止まっていない。

ここで帰っては何しに来たんだという話になる。
そう理屈で自分を納得させて、意を決して扉を開く。
そこには。

「あら。どうしたの? 怪我でもした?」

優しい声がした。
鼻を衝く消毒液のにおい。
カーテンで隠れた白いシーツのベッドが夕日に染まる。

そこには、先生がいた。


579 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:04:53 LtZ2gpPI0
優しくって生徒みんなに人気の保健の先生、白井先生。
先生は座っていた丸い椅子をクルリと回転させ入り口の僕に向き直る。

ああ、なんて懐かしい。

懐かしい?
頻繁に来る訳でもないこの場所に、何故、懐かしいなんて感想が浮かんできたんだろう。
ここにあるのはいつも通りの、なんでもない光景だ。
なのに、今にも泣き出してしまいそうになるのは何故なんだろう。

「先生……」

堪えきれず感情が溢れる。
結果したダムの様に右目から透明な涙が零れた。

「ど、どうしたの? そんなに痛む?」

心配そうな先生の声。
泣き出した僕を見て慌てたように立ち上がりこちらに駆け寄ってくる。

ああ、痛い。
とても痛い。
血涙を流す左目なんかよりも、どうしようもなく胸が痛い。

「ごめんなさい、先生…………ッ!
 僕。僕は……ッ! ごめんなさい……ごめんなさい……許してッ!」

謝罪の言葉が吐き出される。
先生にしがみつくようにして、両目からは赤と透明な涙を流しながら、謝罪の言葉を繰り返し続けた。

先生はどうしたらいいのかわからず戸惑っていた。
当然だろう。
なにせ、謝っている僕ですら何に対して謝っているのか理解できていないのだ。
この世界の誰にもその罪を理解できるはずがない。

『――――赦しましょう』

だが、理解できない罪を赦す声があった。

先生の声ではない。
聞いたことのない声だった。
だがどこからともなく声がする。

『あなたの罪は私が赦します。誰が許さなくとも私だけはあなたを赦します』

全てを赦す慈悲の声。
溢れる涙で視界がにじむ。

赦されたという喜び。
受け入れられたという喜び。
きっと僕はずっと誰かにそう言ってもらいたかった。

暖かな光が見える。
世界が融ける様に白く染まってゆく。
光に呑まれ、思考が溶けてゆくようだ。

思考が、自分が、魂が溶けてゆく。
海に落ちた一滴のインクのように拡散していく。
薄く消える、融ける、溶ける。一つに混ざる。
大きな何かに飲み込まれる。

温かい。
まるで母の胎内にいるように温い安心感に包まれている。

ああ、ここが僕の――――




580 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:05:44 LtZ2gpPI0
「ええ。あなたの罪は私が赦します。だから安心してお眠りなさい」

慈愛に満ちた言葉が世界に落とされた。

異世界で神として崇められた少女、陣野愛美は慈しむような瞳で雪の落ちる川を見つめていた。

イコンに元の世界の説明を済ませた後、愛美はコテージを後にした。
このゲームが始まって以来一度も動かなかった重い腰を上げた理由は勿論、最愛の妹に合うためである。

雪の中、極寒の風に身を震わせながあら、人探しスキルの導く方向へ歩いてゆく。
防寒コートがあるとはいえ、もともと寒いのはあまり好きではない愛美にとって積雪エリアの寒さは堪える。

それでも雪の中を歩き続けたのは愛ゆえだろう。
どのような形であれ彼女は妹を愛している。
それだけは確かだった。

その途中、エリアの端。
中央エリアに向かう橋の知覚で、川縁に引っかかる何かを見つけた。

それは死体だった。
いや、この世界では死体は残らないのだから、正確には死体寸前の何かだろう。

死体寸前のそれは小さな少年のようだ。
積雪エリアの川は冷たく、そこに長時間浸ったのだ、体温はとっくに失われ指先は壊死したように青黒く染まっていた。
その全身にはどこかでリンチでも受けたのか打撲痕があり、左目は潰れ血涙は川縁の雪を赤く染め上げていた。

そんな誰もが近づきたいとは思わないぼろ雑巾のような相手に、愛美は何の躊躇いもなく近づいて行った。
氷のように冷たい川に足を濡らしながら、その傍らまで近づき、そっと優しく指を伸ばして頬に触れる。
傷つき朽ち果てようとするモノに手を差し伸べる様は、宗教画に描かれる聖母のようにも見えた。

そうして少年を垣間見た。

垣間見たのは愛美にとっても懐かしい風景である。
少年の記憶に見えた学校は彼女にとっても母校だった。
どうやら後輩だったようだ。奇妙な縁である。

母校の風景は変わっていないようでどこか安心するモノがあった。
まあ1年で何が変わるようなものでもないだろうが。
僅かにあった望郷の念が僅かに強まるようである。

そして、かつての世界のみならず、この世界で彼が何を考え何をしてきたのか、それも見た。
彼が成してきたことを、彼以上に正確に愛美は理解していた。
理解した上で、彼女はその全ての罪を赦した。
慰めの言葉などではなく、純粋なる慈悲によって。

陣野愛美は自己愛の化身である。
彼女の中に他者はなく、他者など気に掛けるにも値しないどうでもいい存在だ。

故に、彼女は勇太の罪を赦す。
自己となった彼を、愛によって赦した。

彼女はこれまでに取り込み自分となった、10432人の魂を平等に愛している。
全てを記憶し、全てを理解し、全てを愛している。
それは聖母の如く、あるいは神の如く。

他者に一切の関心を向けず辛辣な態度でありながら、自己になったとたん狂おしいくらいに愛する。
その二面性こそが彼女が崇め奉られる理由なのだろう。

愛美は川辺に触れていた指先を話し、川から離れた。
そして誰にでもなく自身に向けて、慈悲に満ち溢れる聖母のような声で告げる。

「おやすみなさい。私の中でゆっくりお眠りなさい。」

[登 勇太(Brave Dragon) GAME OVER]

[B-6/積雪エリア橋近く/1日目・早朝]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:E→A VIT:B→A AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)。発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、ゴールデンハンマー、魔法の巻物×4、不明支給品×10
[GP]:60→90pt(勇者殺害で+30pt)
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
[備考]
変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:Cを習得しました。
観察眼:C 人探し:C


581 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 22:06:08 LtZ2gpPI0
投下終了です


582 : 神様の中でお眠り ◆H3bky6/SCY :2020/11/04(水) 23:11:42 LtZ2gpPI0
アバターの外見を忘れてたので、>>580の下記の部分を修正します
大変失礼しました

>死体寸前のそれは小さな少年のようだ。
>積雪エリアの川は冷たく、そこに長時間浸ったのだ、体温はとっくに失われ指先は壊死したように青黒く染まっていた。
>その全身にはどこかでリンチでも受けたのか打撲痕があり、左目は潰れ血涙は川縁の雪を赤く染め上げていた。

死体寸前のそれは仮面を被った大男だった。
積雪エリアの川は冷たく、そこに長時間浸ったのだ、体温はとっくに失われ指先は壊死したように青黒く染まっていた。
その全身にはどこかでリンチでも受けたのか打撲痕があり、ひび割れた仮面から覗く左目は潰れ、血涙は川縁の雪を赤く染め上げていた。


583 : 名無しさん :2020/11/04(水) 23:13:14 d1dgKfVk0
投下乙です
後悔するにも謝るにも何もかも遅すぎた登くん、切ねえ
愛美様はぐんぐん吸収していってえらいことになってる


584 : 名無しさん :2020/11/04(水) 23:41:21 kK80b7UM0
投下乙です
現状をゲームだと思い続けた登君の行く末が仮想の在りし日になるとは皮肉だなあ
邪神様、まだ未戦闘とは思えぬ支給品数とステータスとポイントでヤバい


585 : ◆H3bky6/SCY :2020/11/10(火) 21:10:33 .2Y05PtU0
投下します


586 : 暗黒時代 ◆H3bky6/SCY :2020/11/10(火) 21:11:06 .2Y05PtU0
炎のオーブを戴く塔の頂上。
水晶のようなオーブの中で支配者を歓迎するように赤い炎が渦を巻く。
オーブの放つ光に照らされ、フロアは淡い茜色に染め上げられる。

茜色を照り返しながら、その中心に佇むのは漆黒のマントであった。
その肌の色は人とは違う事を示すような紫。頭部より生える威厳を示すような巨大な角が目を引いた。
彼の者こそ、この塔の支配者にして魔界の支配者たる魔王ガルザ・カルマである。

魔王は怪訝な表情で確かめる様に己の手のひらを見つめていた。
この塔を支配した直後より、僅かな違和感があった。
恐らくこの魔王でなければ気づけぬような類の違和感である。
魔王はその違和感の正体を確かめるべく、塔の最上階の開けた窓へと向き直ると、外に向かって手を突き出した。

地、水、火、風、闇。
五指にそれぞれ別属性の魔力を込めて、塔の頂上から夜に向けて同時に放つ。
まだ形になる前の純粋な魔力はすぐさま風化して消え去ったが、炎の魔力だけが僅かに強く最後まで残った。

「ふむ」

その結果を見届けた魔王が頷く。
ガルザ・カルマの属性は地。
本来であれば地の魔力が最後まで残って然るべきだが、残ったのは炎である。

この魔王に限って魔法のコントロールをしくじることはない。
となるとカルザ・カルマの中で地の属性がなくなり、炎の属性が強まっているという事である。

炎の属性が強まったのは恐らくは炎の塔を支配した影響だろう。
地の属性がなくなったのは、この世界で肉体を再構成された影響か。

これは魔法による一時的な強化(バフ)や、魔道具などの外的要素による外付けの属性付与とも違う。
カルザ・カルマという存在の属性そのものが書き換わっている。

カルザ・カルマは魔法に長けた魔王である。
戦闘能力自体は剣技に長けた先代魔王に及ばないだろうが、魔法の扱いにおいては歴代の魔王の中でも群を抜いている。
魔道に対する深い理解がある彼だからこそ、いとも容易く行われているその行為がどれほどの難易度なのかを嫌と言う程理解していた。

個人の属性とはそう簡単に書き換えられるものではない。
経験や環境により長い年月をかけて属性が変化することはあるだろう。
だが、こうも容易く変化することはあり得ないし、地が炎になるような劇的な変化でもない。

属性とは産まれおちた時に確定される存在としての在り方である。
それを書き換えるのは魂に刻まれた在り方を変えるに等しい行為だ。

魂と言う物はとかく扱いが難しい。
下手に触れれば、いともたやすく壊れてしまう。

その形を好き勝手歪めるなどと言うのは魔道を極めた魔王ですら不可能である。
魔王に不可能である以上、世界中の誰にも不可能であると言っていいだろう。
魂の形を歪めながら存在を維持するなど、それこそ神の御業である。

だが、この地ではその神業が当たり前のように行われていた。

この地にある存在が魂を元に再現された肉体と精神であるという事は魔王は最初から理解していた。
そもそも魔王の肉体はすでに陣野愛美によって滅ぼされている。
魂のみとなった魔王が肉体と精神をもってここにいる以上、魂を元に再現された存在であることは明白だろう。

魂を元に肉体と精神を再現するだけならば可能だ。
実際、魔王が敷いた転生術式も、残存する魂をかき集めそこから元の肉体と精神を再構築するという代物である。

だがこの地で行われているのは違う。
存在を維持したまま好き勝手に魂を歪め、その形を元に肉体と精神を存在させるという外法。
それがこの世界におけるアバターと呼ばれるモノの正体である。

(そもそも、何が目的やねん……?)

これほどの力をもって、何を目的としているのか。
最初は魂を集めて行う何かの儀式かと思ったが、魂を自在に操作できるような力を持っているのならこんなことをする必要がない。
蟲毒をしたいのならば、蟲毒を経てうまれた魂に作り変えればいいだけの話である。

(…………もしかしたら、ホンマにただのお遊びなんか?)

底意地の悪い神のお遊び。
最悪の可能性だが、一番しっくりくるのがこれだ。
加えて、そう言ったことをしかねない相手に心当たりがある。

それは文字通りの神。
魔王の住まう世界の唯一神である。
そんな疑惑が沸くくらいに、魔王の住まう世界の神は悪辣な存在であった。

思い返されるのは、神が無き時代と呼ばれた時代。
ガルザ・カルマが魔王となったあの暗黒時代が脳裏に呼び起された。




587 : 暗黒時代 ◆H3bky6/SCY :2020/11/10(火) 21:11:35 .2Y05PtU0
先代の魔王は聖剣を持った勇者と共に消滅した。

曰く、数名の幹部と共に人知れず勇者パーティと最終決戦を行い引き分けた。
曰く、次元の渦に巻き込まれ共に異世界に消えた。
曰く、神の怒りに触れ消滅させられた。
様々な噂が流れたが真実は定かではない。

ただ一つ確かだったのは、勇者と魔王という人間界と魔界の象徴ともいえる存在が同時に消滅したという事実だけである。

象徴を失った世界はどうなるのか?
縋るものを失い、頼るべき寄る辺を失った世界。
そこに訪れるのは混乱と、秩序の崩壊である。

意外に思われるかもしれないが、魔界にも秩序はあった。
それは前魔王が敷いた力による秩序だったが、それでも確かにあったのだ。
それが崩れた。

魔族は元より血の気の多い種族である。
一度崩れてしまえばあとは雪崩のようだった。
力による秩序は崩壊し、力による混沌の時代が訪れる。

空席となった魔王の座を狙い、魔族どもは覇を競った。
己が最強だと誇示しその証明に戦禍を広げる者。
己が分をわきまえ強者に付き従う者。
その混乱に乗じて利を得ようとする者。
ただ暴れたいだけの者。

様々なモノが好き勝手に暴れまわって、荒涼たる魔界の大地は更に荒廃して行く。

光の差さぬ魔界にてなお暗い、これより100年に及ぶ暗黒時代の始まりである。




588 : 暗黒時代 ◆H3bky6/SCY :2020/11/10(火) 21:12:25 .2Y05PtU0
カルザ・カルマが生を受けたのは魔王城の聳える中央から遠く離れた魔界の片田舎だった。
勇者たちにも鑑みられないような僻地であり、争いや物語の中心からは程遠い、そんな場所だった。

血気盛んな魔族にしては珍しくのんびりとした性格だった。
彼自身、綿々と続く魔王と勇者の争いなどにはまるで興味はなく。
中央に取り立ててもらおうと血気盛んに己が力を誇示する友人たちを余所に、一人怠惰に惰眠をむさぼっていた。

そんな風だったから、周囲からは変わり者とバカにされることも少なくはなかったが本人はそんな風評は気にも留めなかった。
ただこの片田舎で畑でも耕して生活できればいいな、なんて欠伸をしながら考えていた。

そのぼんやりとした将来設計も、暗黒時代の到来により脆くも崩れ去った。

覇を競う魔族たちの戦果は燃え広がり、その火種はついに彼の住む村まで到達する。
村にやってきたのは当時の一大勢力に対抗せんとする組織だった。
新たな戦力を求めてこの片田舎まで手を伸ばしたという話である。

この呼びかけに、力を持て余した彼以外の若者たちは喜び勇んで徴兵に応じた。
彼は一人、故郷を捨てて旅立つ友人たちの背を複雑な表情で見送っていた。

だが、新戦力を引き連れ中央に向かうその一団を待ち伏せる影があった。
それは対抗組織の動きを察していた一大勢力の小隊だった。
そこので小競り合いは村を巻き込んだ諍いとなり、そこで彼は初めて目撃する。
愚かにも争い合い、滅びの道へと突き進んでいく同胞たちの姿を。

その光景を目の当たりにして彼の中で一つの決意が生まれた。
怠惰に日々を過ごすだけだった彼の中にも、故郷を想う気持ちがあったのだろう。
そうして、彼は立ち上がった。

その争いを収めたのは彼だった。
彼には類稀なる魔法の才があった。
彼にとっては農作業を楽にするくらいしか使い道のない、誇るほどの物でもない力だったけれど。
傍から見れば、それは比類ないほどの強力な力だった。

この魔界を何とかせねばならないという決意を抱いて。
彼は争いを収める唯一の方法、新たなる魔王の誕生に向けて歩み始めた。

それから、100年の時が過ぎた。
乗り越えた開戦は10を超え、倒した敵は1000をも超える。
気付けば、従える部下は100万を超えていた。

どれもが、生半可な戦いではなかった。
彼ほどの才覚をもってしても幾度の死線を超えた事か。
皮肉にもその激しい戦禍においてその才能は磨かれ開花していった。
その道のりの中で彼は魔王として完成したのだった。

そうして新たな魔王は生まれ、ようやく魔界は平定された。

彼はまずその統治により荒れ果てた魔界を立て直していった。
破壊と暴力の支配する魔界を、秩序と知性を持った新しい魔界へと生まれ変わらせてゆく。

それはきっと勇者が消失していた、というのも大きいだろう。
戦いを是とする魔族だったからこそ、対立すべき存在の不在は大きく影響を与えた。
この時代だからこそ成し遂げられた異業である。

それから数年は穏やかなモノだった。
魔法による魔王城の監視体制の構築。魔界の開発方針の指示などの国策を打ち出し。
後は優秀な部下たちに実務を任せ、自身は魔王城の奥に引き籠って怠惰を貪る日々を送っていた。

だが、気がかりはあった。
魔界は平定されたものの、人間界の暗黒時代は未だに続いていた。
寄る辺を失った人間たちは新たなる象徴を立てることもできず、これまでの魔界のように小競り合いを繰り返し続けていた。

それも仕方がない事だろう。
最も強いものが魔王となるという至極単純な原理である魔族と違い、勇者は聖剣によって選ばれる。
その聖剣が勇者と共に消えてしまった以上、人間たちにはどうしようもない。

この状況を纏め上げるべき立場にいる人間の国王にそれを治めるだけの力はなかった。
これもまた魔族との違いかもれしない。
力を是とする魔族たちは最強たる魔王に無条件で臣従の意を示すが、血筋のみで選ばれる人間の国王が有能とは限らない。
あるいはとんでもない愚王が即位する事だってある。

そのような事態に陥っても神は何もしなかった。
新たな聖剣を与えるでもなく、救いをもたらすでもなく、何もせず神はただ人々を見守るばかりであった。
あまりにも動かぬ神に、人々の間では神は死んだとすら囁かれたほどである。
全ての人類が信仰する一神教の神がここまで言われるとなれば、どれほどの異常事態かわかるだろう。

加えて、魔王の誕生は人間界にとって凶報として届いていた。
魔王によって一枚岩になった魔界の軍勢が、未だ纏まることない人間界に攻めてくるのではないか?
そんな噂が人々の間で実しやかに囁かれるようになっていた。


589 : 暗黒時代 ◆H3bky6/SCY :2020/11/10(火) 21:12:51 .2Y05PtU0
それで対魔族に一丸となったのならまだよかっただろう。
だがそうはならない。
人間界は纏まることなく、より苛烈に混乱を極めるのみであった。

そんな状況が魔王には哀れに映った。
魔界の平定が終わり、統治も落ち着いたころだったからだろう。
魔王として力をつけ、視野を広げた余裕もあったのかもしれない。

見かねた魔王は、その救いの手を人間へと伸ばした。
伸ばしてしまった。

それが間違いだった。

魔王が取った手段は極めて平和的で長期的な手段だった。
有史より続く民族間の敵対感情は容易く薄れるものではない。
その歴史を鑑みて、性急な手段は取らず長期的な視点をもって、荒れ果てた大地を潤わせ、融和の道を測る。

成果はゆっくりと、だが徐々に表れ始めた。
その恩恵を受けた人間からは感謝の言葉もあった。
和解と共存の道へと向かって、一歩ずつだが確実に世界は進んでいった。

だが、その状況を忌々しく思っていた者がいた。
他でもない人間界における時の国王である。

国王にとって敵対していたはずの魔族の王による救いの手は恥辱だったのだろう。
荒れ続ける国内を治める事もできなかった己の無能さを論われているようでもあった。

だからなのだろう。
国王が異世界からの勇者召喚などと言う暴挙に及んだのだのは。

異世界からの勇者召喚。
人々の危機に何の救いの手を与えなかった神が、よりにもよってこれを祝福した。
悪辣な神は、悪辣な勇者のみに権能を与えた。

その結果があれだ。

彼らは正しく異界からの侵略者だった。
勇者たちは好き勝手に世界を荒らしていった。
たった4人の侵略者によって人間界はどうしようもないほど蹂躙された。

社会制度、人種民族、資産価値、信仰宗教、一年とたたずその全てが崩壊。
悪魔を呼び込んだ国王は逆上した国民の手によって一族郎党殺され、王政は崩壊。
その魔の手は魔界にすら及び、ついには魔王をも撃ち滅ぼした。

こうして、世界は暗黒時代をも超える最悪の時代へと突入するのだが。
それは既に滅んだ魔王には知る事の出来ない話である。

肉体を滅ぼされ、魂を霧散させる魔王が最後に想ったのは三つ。

どうしようもない人間の愚かさ。

勇者と呼ばれる4人の侵略者。

そしてこの状況を作り上げた悪辣な神。




590 : 暗黒時代 ◆H3bky6/SCY :2020/11/10(火) 21:14:02 .2Y05PtU0
あの神ならばこの程度の事は出来るだろう。
なにせ神だ、神業などお手の物である。
このような悪趣味な催しもやりかねない悪辣さも持ち合わせている。

だが、それは違うとも感じる。
所感でしかないが、魔王の知る悪辣さとこの催しの悪辣さは方向性が違うように思えた。

何よりこの世界と元いた世界では価値観や世界観という物が違う。
仮にもあの世界の神が用意したにしては乖離が過ぎる。

「ま、今考えたところでわからへんか」

あれに近しい存在。
少なくとも力を持っていると考えるべきだろう。

己が知る神ならば討つ。
同じく悪辣ならば討つ。

その正体を調べてみるのも悪くはないかもしれない。

[E-1/炎の塔/1日目・早朝]
[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:魔力消費(小)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、不明支給品×2
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.勇者(陣野愛美、郷田薫)との対決に備え、力を蓄えていく。
2.あの盗人(ギール)は次会ったら容赦せん。なに人のもんパクっとんねん
3.主催者を調べる
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。
※「炎の塔」の所有権を獲得しました。
※ドローン本体を回収しました。少なくともアイテム欄にしまっている最中は他参加者による遠隔操作が不可能になるようです。


591 : 暗黒時代 ◆H3bky6/SCY :2020/11/10(火) 21:14:14 .2Y05PtU0
投下終了です


592 : 名無しさん :2020/11/10(火) 22:08:03 cSRDyNK60
投下乙です
ただ怠惰に過ごしたかっただけなのに魔界の惨状を目の当たりにして行動を決意した魔王はん、偉すぎる
勇者組があんなんだから余計まともに見える


593 : ◆5IjCIYVjCc :2020/11/13(金) 21:44:41 hsqK091c0
投下します


594 : 土の竜と書いてモグラと読む ◆5IjCIYVjCc :2020/11/13(金) 21:45:28 hsqK091c0
「オレ、生き残れるのかな…」

砂漠を1人でとぼとぼ歩きながら穴掘り少年、掘下進はそんな弱音が口に出た。

彼が思い出浮かべるのは先ほど望遠鏡越しに見た光景、2人の男によるドラゴン狩りであった。
一人は溺れた自分を助けた命の恩人で、もう一人は初めて見る男だった。
その男たちが追い詰めていたドラゴンは、おそらく自分が出会った大男が変化したものと同じであろう。
掘下は最初その恩人を助けるつもりだった。
大男は自分の命を狙っていたためその大男を圧倒するほど恩人が強かったのならそれはそれで安心できる事柄のはずだった。
だが、そんなことは全くなかった。

それはきっと、その戦いがあまりにも一方的なものであったからであろう。
戦いの間はまるでドラゴンが自分と同じくらいの年齢の子供のように見えた気がした。
男たちはそんな子供相手に虐めているように見えた。
だから片方は命の恩人であっても彼らがとても恐ろしいものだと感じたのだろうか。
近づかず望遠鏡越しで様子を見たのは正解だったかもしれない。

彼らに出くわしたら自分はどうなってしまうのだろう。
対話の余地はあるのか、問答無用で殺されてしまうのか。
自分を助けた男は、自分が感謝の一つもせずに逃げ出したことを理由に見つけたらすぐ殺すつもりかもしれない。
考えていくうちにだんだん不安になっていく。

攻撃や防御の手段がほぼ皆無の自分では彼らに勝利することは難しいだろう。
せいぜい、穴掘りスキルで地中に逃げるので精一杯だ。

元々、掘下は戦うつもりでアバターを作っていない。
突然殺しあえだとか言われても彼に実感は全然わかなかった。
アバター設定の時は「ん?穴掘りスキルってのがある。えっ!?Sランクだと地中を自由に進めるの!?やったー!!」といったことしか考えていなかった。
今思えば、これは浅はかな考えだっただろう。

舞台に降ろされてすぐ、大男に追い掛け回された時、初めて命の危機を感じた。
オアシスで溺れて、この世界では実際に苦しみの感覚があることが分かった。
さっき目撃した戦いで、人間でありながらとんでもなく強くそして恐ろしい奴が何人もいることを知った。

「…これからどうしよう」

そう呟いてしまう。
これからの行動方針について悩みが生じる。
自分はこの場から生還できるのか、もはやどこへ行っても危険人物しかいないのでは、そんなことを考えてしまう。


595 : 土の竜と書いてモグラと読む ◆5IjCIYVjCc :2020/11/13(金) 21:46:13 hsqK091c0
ふと、メールがあったことを思い出し、新しい情報が入っていないかと確認してみる。

「お宝!?」

新しく届いていたメールには自分が今いる砂漠エリアにて宝探しイベントが始まったと書いてあった。
これは地下世界好きの掘下にはとても興味をそそられる内容であった。
それだけでなく、お宝にはGPや強力なアイテムがあると書いてあった。

(それがあればオレでも戦えるかもしれない)

そのアイテムがあれば今まで出会ったり目撃した人物が襲ってきても身を守れるかもしれない。
そう考えるとこのメールは吉報だと言える。

(…ん?待てよ)

そういえば、と掘下は前にこの砂漠の地中で見つけた宝箱のことを思い出す。

(もしかしてあれもこのイベントのお宝ってこと?)

掘下はアイテム欄からその時見つけた黄金の宝石を取り出す。
これがとても貴重なものだということは見て分かる。
だがメールには宝は強力なアイテムとあった。

(これ、何に使うんだ?)

つまり、これはただの黄金の塊という訳ではなく何らかの力を持つ特殊なアイテムだとも考えられる。
それが分かれば自分が生き残れる確率を上げられるかもしれない。
だが説明書といったものはついてなく使い方を知る方法がなかった。

掘下にできるのはこれを隅々まで観察することだけだ。
上下左右あらゆる角度から隅々まで見て、ようやく一つ他と違うところを見つけた。

「これは…」

一か所だけ小さな円状の溝がある部分を見つけた。
試しにそこに指を置いてみると、指は少し沈み『カチリ』と音が鳴った。
どうやらこれは何かのスイッチのようだった。

次の瞬間、黄金は発光した。

「うわっ!」

あまりもの光量に掘下の目が眩む。
黄金から出た光は彼の体を包んでいった。

(な、何が起きたんだ?)

おそるおそる目を開けてみると、黄金は既に手の中になかった。

「あれ?」

そして自らの手を見てみると人間のものでなくなっていた。
爪は長く鋭くなり、肌はまるで爬虫類のもののようになっていた。
目線を地面に向けてみると明らかに前よりも高い場所から見下ろしていた。

掘下進の体は龍に変化していた。


596 : 土の竜と書いてモグラと読む ◆5IjCIYVjCc :2020/11/13(金) 21:47:36 hsqK091c0
「なんでオレがドラゴンに!?」

思わず驚いて叫んでしまう。
よく体を見てみるとドラゴンの肌は黄色であった。

(この体、ひょっとしてあのドラゴンと同じもの?)

掘下が思い浮かべるのはまたまたあの大男(ドラゴン)。
今の掘下は彼が変化したドラゴンとそっくりな姿をしていた。

(あいつと同じスキルを手に入れたってことなのか?)

今の状況からはそうとしか考えられない。
きっとあの黄金の効果であろう。
いきなり変化させられるとは予測できなかったが。

(だけどこれ、役に立てられるかなあ…)

掘下にとっては正直なところ龍にあまり強いイメージを持てなかった。
まず最初に自分に攻撃したときは自分を殺しきれなかった。
そして先ほど見たように2人の男たちがドラゴンを追い詰めていた。
だから自分が変化しても同じ結果になるのではないのか?

(とりあえず元に戻ろう。えっと、念じればいいのかな?)

(戻れー戻れー)と心の中で念じることで龍の体は縮んでいき本来の人型になっていく。
本来の姿に戻った掘下は手元から黄金が完全になくなっていることを確認する。
どうやらあれは消費アイテムであったようだ。

(龍になれるようになっただけじゃまだ不安だ。他のお宝も探さないと)

改めて宝探しをする決意をした掘下は穴掘りスキルで地中を掘り進むことにした。
宝は特定ポイントに到達でLUKの確率で発見できるとメールにあった。
だが掘下のLUKはEであためこれで見つけることはできないかもしれない。
そのため地上からでなく地中から探索することに決めた。
それに、前にもこの方法で見つけられた。

「さてと、また見つけ出してやるぞ…お宝!」

この砂漠でどんな宝が待っているのか期待が高まる。

[A-2/大砂漠/1日目・早朝]
[掘下 進]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:疲労(小)、地中潜行中
[アイテム]:忍びの籠手(E)、神速のブローチ(E)、単眼望遠鏡
[GP]:20pt
[プロセス]:
基本行動方針:死にたくない。
1.砂漠のお宝さがしに参加する。
2.何かあったら地中に逃げる。
3.地下世界、まだ何かあるかも。砂漠以外の地下も掘ってみたい。
4.ドラゴン狩りをしていた人たち(酉糸琲汰とシャ)には警戒しよう。
※神速のブローチの充電が切れたことに気付いていません。
※探索系スキルはありませんが真っ直ぐ進めば砂の塔に辿り着けると信じています。
※変化(黄龍):Aを習得しました。

【黄龍の宝玉(黄金の宝石)】
宝箱から出てきた黄金の宝石の正体。
スイッチを押すことで使用者にランクAの変化(黄龍)スキルを付与する。
使用後は消滅する。


597 : ◆5IjCIYVjCc :2020/11/13(金) 21:48:04 hsqK091c0
投下終了です


598 : ◆H3bky6/SCY :2020/11/13(金) 22:23:00 EFWVHS0g0
投下乙です
何の因果か登くんと同じのスキルを登くんに襲われた掘下くんが習得するとは
Aランクだから強いはずなんだけど龍と見れば喜々として襲い掛かってくる輩が多いので不吉!


599 : 名無しさん :2020/11/13(金) 22:48:54 P393liX.0
投下乙です
僕が死んで、土竜が生まれた
登くんみたく狂気の暴力集団にボコられないことを祈る


600 : 名無しさん :2020/11/13(金) 23:35:15 6XuLYtAg0
投下乙です
流石に砂漠の宝探しは穴掘りガチ勢に分があるなあ


601 : ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:29:47 5jCqDR620
投下します


602 : 酔生夢死 ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:30:37 5jCqDR620
プシュ、と炭酸ガスの溢れる気持ちのいい音が響き、黄金の飛沫が跳んだ。

新たな一本のプルタブを開き手を付ける
喉を鳴らして一気に煽ると、顔を赤らめ熱の籠った酒臭い息を吐く。

地下アイドル黒野真央は彼女は初めて人が死ぬ瞬間を目撃した。

いや、小学生のころ祖母の死に目に立ち会ったことがあるが、あれは穏やかな死だった。
恐らくあれが人としての正しい死なのだろう。

だが彼女が目撃したのはそう言う正しい死とは違う、誰かに殺害されるという間違った死だ。
なまじ顔を知っている相手だったというのもあるだろう。
その死に様が脳裏に張り付いて離れなかった。

なにせ、その死を生み出したのは他ならぬ真央である。
実行したのは相棒の正貴だが、正貴は真央の殺意を実行したに過ぎない。
自分の殺意によって人が死んだのだ。

その事実が酒を進ませる。
嫌な記憶を忘れるために酒を煽る。
嫌な事実を誤魔化すために酒を煽る。
どこれもこれも彼女にとってはいつもの事だ。

いつからだろう。
彼女が酒に逃げるようになったのは。

10代のころは自信に満ち溢れていた。
こんなにかわいい私がデビューすれば、すぐさまスターダムに伸し上がれると、酒は飲めなくても自分自身に酔っていた。

だが現実はそうじゃなかった。
6年たっても芽は出ることなく、いつまでも日の当たらない地下でくすぶっている。
これだけ冷や水をぶっかけられ続けてれば、誰だって酔いも醒める。

アイドルという商売は残酷だ。
商品である自分が売れないという事は、オマエじゃないと突き付けられるという事である。
自分の価値という物を嫌と言う程わからされる。
毎日毎日。

真央だけじゃない、アイドルなんてものは全員得てして自分に酔ってる。
そうじゃなければ、自分を商品とする業界になんて立っていられない。
だから、それでも立ち続けるのならば、酔っぱらうしかないのだ。
自分に酔えなくなったら酒に酔うしかない。

そう、立ち続けなくてはならない。
生き残るために。

「私は生き残るのよ。芸能界でも、この殺し合いでも……!」

空となった缶を投げ捨て口元を拭う。
生き残るためにはこれから、これを繰り返さなければならない。
直接手を下さずとも、己の殺意で人が死んでいくという事に覚悟を決めなくてはならなかった。

そんなのは、酔っぱらわないとやっていられない。
そもそも殺し殺されなんて素面のままやってる方が異常である。

「真央さん。さすがに飲みすぎですよ」

だが、酔いを深めるべく次の一本に手を駆けようとしたところで、それを止める手がかかった。

「っさいわねぇー」

振り払おうとして千鳥足をもつれさせふら付く真央の体を正貴が支えた。
悪態をつきながら、首元に手を回してそのまま撓垂れ掛るように体を預ける。

男を侍らせ酒も飲む。
お陰で今は気分がよかった。
不安を紛らわせるべく、男にも酒にも依存する。
黒野真央はそんな弱い女だった。


603 : 酔生夢死 ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:31:21 5jCqDR620
「多少飲酒はいいと思いますが、さすがに足取りまで不安定になるまで飲む問うのはどうかと。危険です」

多少の飲酒は気分を高揚させるという利点はある。
だが、ここまで行くと緊急事態に対応できなくなってしまう。
荒事は正貴が担当とはいえ、これはよくない。

「だいたい酔う訳ないでしょVRなんだから。あれ? けど酔っぱらっちゃってる?
 アバターなのに酔っぱらうとか。笑える」

そう言って、真央はケラケラと笑った。
どう見ても酔っ払いである。
だが、それを聞いた正貴は僅かに考えを巡らせた。

「確かに。VR酔いというやつでしょうか?」

自分で言って惚けたことを言ってしまったなと内心で正貴は反省する。
だが、正貴も飲酒したときにほろ酔いのような状態になった。
あの時は特に疑問に思っていなかったが、改めて考えると不思議な現象である。

VRで何に酔っている?
まあ痛みが感じられるのだから、酔っぱらう程度おかしくはないのだが。
いや、そもそも痛みを感じるのがおかしいのか?

「全然違うわよ。アバターでも酔っ払えるって書いてるんだからそうなんでしょ」

投げやりな回答である。
かなり酔っぱらっているのか思考能力の低下が見受けられる。
真央はぐでっと正貴にしなだれかかりながら体重を預ける。

「むしろ、あなたは平気なの?」

出来上がった声で、そう聞いた。

「平気とは…………?」
「…………人を殺して」

それが聞くべきではない問いであることは真央にだってわかっていただろうが、酒のせいか口が滑った。
恐らくこれが素面であれば問わなかった問いだろう。

「そうですねぇ」

問われた正貴は気分を害するでもなくそう相槌を打つ。
そして少しだけ感心したような顔で赤らんだ女の瞳を見つめる。

「真央さんは、なんと言うか……まともですよね」
「……は? それって褒めてる? それともバカにしてんの?」
「いえ。ステキだと思います」

ご機嫌取りの言葉ではなく男は本心からそう言った。
その言葉に、女は酒臭い息を吐き捨て笑う。

「はっ。これから全員殺してでも生き残ろうって女がまとも?」
「ええ。それはあなたが正しく状況を理解しているからだ。
 殺し合いなのだから、殺すのが正しい」

どのような状況でも絶対的な正義を貫く人間が正しいとは言えない。
むしろ異常な状況で、まともを貫いている人間こそ異常だろう。

人間とは決して善良なだけではない。
清濁併せ呑んでこその人間だ。
そう言う意味でも真央の在り方は正貴にとって好ましい。


604 : 酔生夢死 ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:31:47 5jCqDR620
「僕はね、ずっと正しく生きていこうとしてきたんですよ」

正貴は語りだす。
正しく生きなさいと、両親は口癖のように彼に言って聞かせてきた。
机に縛り付けられながら教育を叩き込まれ、彼もそう在ろうと精進しながら生きてきた。

「けれど、『正しさ』とは何なのかずっと分からなかったんです」

両親は教えてくれなかった。
だから、満たされないのは当然だった。

分からないまま、正しく生きようとしてきた。
分からないまま、正しさの執行者である警察官にもなった。
分からないまま、正しさを満たそうとしていた。

「……それで。今はそれが分かったのかしら?」

赤ら顔の真央が先を促す。
意外と聞き上手な人なのかもしれない。
なんて改めて好きな要素を一つ見つけたところで。

「――――待ってください」

唐突に正貴は話を打ち切り、抱えていた真央を丁寧に剥がすと後方へと視線を移した。
真央も釣られるようにその視線の先を追う。

「誰かいます――――」

視線の向けられた先は海岸だった。
そこには先ほどまでいなかったはずの人影が打ち上げられた。
どうやら海から流されてきたようである。

「……生きてるの?」
「生きてるのでしょう。忘れましたか? ここで死ねば死体は消えます」

言われて真央が口元を抑える。
忘れていた先ほどの殺害現場が思い出されて酒酔いもあってか吐き気がした。

と言うかそのまま吐いた。
どちらかと言うと死体のフラッシュバックより飲みすぎが原因の嘔吐だった

「ぅぷ。それで、どうするの?」

正貴に背中を擦られながら口元を拭う。
吐くものを吐き出してすっかり酔いが醒めたのか、赤みの薄れた顔で真央が問う。
肉体が残っている以上、生きているのだろうが意識を失っているのかピクリとも動かない。

「まずは確認しましょう」

及び腰になっている真央とは違い正貴は迷いがなかった。
この状況においても恐怖など微塵も感じていないような足取りで、意識のない漂流者に向かって歩いて行った。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。あまり先に行かないで……!」

真央も遅れてその後を追う。
足を緩めた正貴に追いついて背後からその袖口を掴む。
そのままペンギンの親子みたいな足取りで海岸までたどり着いた。

足を止めた正貴は足元に転がる人影を見つめ黙りこくった。
その様子を不思議に思いながら真央も正貴の後ろから顔を出し、倒れた人物を覗き込む。
そして、その顔を確認した瞬間、大きく息を呑んだ。


605 : 酔生夢死 ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:32:20 5jCqDR620
「…………桐本四郎」
「おや、ご存じでしたか?」
「そりゃそうでしょ。流石にアレだけ話題になった事件くらいは知ってるわよ」

桐本事件。
2年ほど前に連日ワイドショーで報道されてかなり話題になった事件だ。
あまりニュースを見ない真央も、いくら何でも知っている。
逮捕された時は顔写真付きで大々的に報道されていたのだから、ある程度の年齢であれば知らない国民の方が少ないだろう。

「真央さんってニュースとか見ない人かと思ってました」

正貴は真央が自分の起こした事件を全く知らなそうだった事から、そう予測していた。
だが、よく考えれば正貴自身、自分の起こした事件がどの程度報道されているのか把握していない。
逮捕されてテレビやネットが見られる環境になかったのだから当然ではあるのだが。

なにせ警察官の不祥事である。
必要以上にセンセーショナルに報道されたか、それとも身内に不祥事を嫌う警察からの圧力で最低限の報道となったかのどちらかだろう。
真央の反応からして恐らくは後者である可能性が高い。
流石に全く報道されていないという事はないとは思うが、もしかしたら適当なネットニュースくらいしか流れてないのかもしれない。

「失礼ね。まぁ確かにあまり見るほうじゃないけど」

ニュースは音がないのが寂しいから適当につけてるテレビから流れるものを流し見する程度だ。
新聞も取ってないし、ネットニュースもバズったモノしか見ない。エゴサはするが。

「意識はないみたいだし、今のうちに……」

そう言って真央が正貴に目配せをした。
意識のないうちに息の根を止めろという事なのだろう。
危険人物に出会った人間として正しい感情だとは思うが。

「助けましょう」

だが、真央の期待とは正貴は対極の結論を口にした。
信じられてないといった風に見開いた眼を向ける。
男の視線は倒れている男に向けられたままであった。

「……本気?」
「ええ。まだ始まったばかりなのだからこういう危険人物は放置すべきだ。排除するのはもう少し減ってからでいい」

40人近い人間を全員を殺し尽くすのは難しいだろう。
ある程度は危険人物に暴れまわってもらわなくてはならない。

「この男なら勝手に暴れてくれるでしょう」

危険だから排除するのではなく
危険だからこそ受容するべきである。
まともな状況ではないのだから、まともな判断を下していてはダメだ。


606 : 酔生夢死 ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:32:34 5jCqDR620
「けど、その矛先が私たちに向いたらどうするの?」

真央が問う。
やはり真央の発想はまともである。
歪んでいるのに歪みきっていない。
見ようによっては器の小ささではあるのだが、見ようによっては美点である。

「その時は、もう一度捕えるまでです」

淡々と述べられるその言葉には、本当にそう出来るのだろうという頼もしさがある。
その心強さに心酔する真央だったが、同時に僅かな引っかかりを覚えた。

「……もう一度?」
「ええ。彼を逮捕したのは僕なので」
「えぇ!?」

想像もしていない話が飛び出して、思わず品のない声でリアクションしてしまった。
元警察官とは聞いていたので、冷静に考えると犯罪者と関係があってもおかしくないのだが。

「……ひょっとして正貴さんってかなり優秀な警察官だった?」

あれほど話題となった凶悪事件を解決した刑事だというのなら相当なモノだろう。
だが、正貴はそうではないと首を振る。

「それは違います。僕一人で捜査していたわけでもないですし、犯人の潜伏先を発見できたのは捜査員全員の功績です。
 その最後の一手を担ったのがたまたま僕だった、というだけの話です」

謙虚なのか卑屈なのか、それとも単なる事実なのか、真央には判断のつかない意見だった。
真央としては最後の一手を任されている時点で相当だと思うが、本人が否定しているのだから、それ以上は言うのは野暮だろう。

「そう言う因縁があるのなら、なおさらやめておいた方がいいんじゃない? 狙われたりしない?」
「まあ、名前まで知られているわけではないので僕がいることは気づいてないでしょう」

武士の決闘でもあるまいし、尋常に名乗り合ったわけでもない。
最低限警察手帳は提示したが、いちいち覚えてはいないだろう。
取り調べをしたのも別の職員だったし、直接対峙したのは確保の瞬間だけである。

「ただ、流石に顔を合わせると面倒な事になるでしょうから、意識を取り戻さない程度の最低限の感じで助けましょう」

言いながら袖をまくる。
警察官として救助活動の講習は最低限受けている。
身をかがめ瞼を開いて瞳孔の動きを確認。
顔を近づけ呼吸と脈拍を確認する。

「だいぶ水を飲んでしまっているようだ。まずは水を吐かせましょう」




607 : 酔生夢死 ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:33:30 5jCqDR620
正貴は一つだけ嘘をついた。

いや、ただ言わなかっただけで正確には嘘ではないが。
正貴は真央を愛しているが隠し事がない訳じゃない。
そもそも連続殺人及び婦女暴行犯である事は黙っているのだ。
愛していても、言わなくていいことは沢山ある。

正貴が桐本四郎を生かそうとしたのは、殺し合いにおいて有利に働くから、という理由だけではない。
彼が正貴にとっての恩人だからだ。
流石に真央を勝たせる障害になる時には殺すが、この一度だけは見逃した。

笠子正貴が事件を起こした背景には、桐本四郎の影響が多分にあった。

直接対峙したのは一度きりだけど。
刑事として彼の事件を追う中で、調査資料を確認し事件現場を目撃した。
その足跡を追って、その悪性、その思想、その人生。沢山の彼に触れた。

捜査第一課として沢山の凶悪事件に携わってきたがその事件は何かが違った。
事件の足跡を追うだけでもわかった。

この事件の犯人は満たされているのだな。と。
誰かを殺すことで、満たされない何かを満たしている。

被害者は玩具のように弄ばれていた。
男も女も性器は抉られ、臓腑は芸術品のように並べたてられており、輪切りになった四肢はそこら中にゴミみたいに打ち捨てられていた。
だと言うのに、被害者は一様に顔だけは綺麗に残されていた。

その全てが絶望に染まった表情をして固まっていた。
きっと、それを見続けたかったのだろう。

それを見て、何だか酷く羨ましくなってしまった。

正しさも分からず正しさを満たそうとして恥の多い生涯を送ってきた。

だが、その瞬間、己は己が欲するものを知った。

正しさとは、誰かの定めたものではなく――――。

[H-7/海岸/1日目・早朝]
[黒野 真央]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E→D(「ヴァルクレウスの剣」の効果でLUKが1ランク上昇中)
[ステータス]:酒酔い(嘔吐により多少緩和)、回避判定の成功率微増
[アイテム]:ヴァルクレウスの剣(E)、VR缶ビール10本セット(残り4本)、ボウガン、支給アイテム×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:絶対に生き残って、のし上がる。
1.正貴を使って他の参加者を殺す。涼子は次見つけたら絶対に殺す
2.できる限り自分の手は汚したくない。

[笠子 正貴]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:黒野真央のファン、軽い酒酔い(行動に問題はない程度)
[アイテム]:ナンバV1000(8/8)(E)、予備弾薬多数、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:55pt
[プロセス]:
基本行動方針:何かを、やってみる。
1.真央の望みを叶える
2.真央を護ることを「生きる意味」にしてみる。
3.他の参加者を殺害する。
※事件の報道によって他の参加者に名前などを知られている可能性があります。少なくとも真央は気付いていないようです。
※『捕縛』スキルのチャージ時間は数分程度です。

[桐本 四郎]
[パラメータ]:STR:B VIT:D AGI:A DEX:C LUK:B
[ステータス]:気絶、疲労(大)、ダメージ小
[アイテム]:野球セット、不明支給品×2(確認済)
[GP]:25pt
[プロセス]
基本行動方針:人が苦しみ、命乞いする姿を思う存分見る。
1.恥辱を味合わせた女二人を殺す。特に小娘(三条 由香里)は確実に殺す。
2.称号とか所有権は知らんが、狙えるようなら優勝を狙う。
※応急処置を受けたため溺死は回避しました


608 : 酔生夢死 ◆H3bky6/SCY :2020/11/17(火) 21:33:44 5jCqDR620
投下終了です


609 : 名無しさん :2020/11/17(火) 21:55:49 DfSZxcas0
投下乙です
酔っ払ってやさぐれて吐いての真央ニャン、荒んでるのに何となく滑稽で憎めない
桐本はあんだけの大事件起こしたし影響もでかいよなあ、笠子の引き金になっていたとは


610 : ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:14:17 .6nEjJTE0
投下します


611 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:15:59 .6nEjJTE0
《とある地方のローカルニュースより》

本日、中学生県女子バレーボール選手権大会が行われました。
全国大会常連であり、アイドルの清水 マルシアさんが主将を務めるなど多くの注目を集めているネプチューン国際女学園中学校。
関東大会出場を懸けた準々決勝に臨みましたが、二度目の県大会出場となる日天中学校にセットカウント2-1で敗れ、創部以来初めて県大会で姿を消すことになりました。
 各チームのキャプテンにお話を聞きました。



◆◆◆



「嬢ちゃんたち、ポイントなんぼよ?俺10pt」
「私も同じデース」
「わた、我は15ptだ」

ATMのような機械を囲む三人の男女。
その表情は険しかった。

彼らの囲む機械はGP交換所。
他参加者を殺害するなどの方法で得られるGPを使って、ステータスの上昇や情報収集、アイテムの獲得などを行うことができる。
このゲームに於いて有効活用できれば大きなアドバンテージを得られる重要な代物だ。
彼らもそれを承知しているからこそ近寄って検分しているわけである。

だがしかし。
「無え袖ぁ振れねえしな」

 彼らの持ちptは微々たるもので、今できることと言えばEランクのステータスをDランクに向上させる程度がせいぜいだった。

 現状、GPを増やす方法は現在判明している限りで三つ。
 
一つは他参加者の殺害。
これは論外だ。
殺し合いへの不服従、主催の打倒を掲げている以上、GPを稼ぐために他者を襲うなど許されることではない。

一つは砂漠エリアで行われるというイベントへの参加。
こちらも難しい。彼らの現在地はマップの南東端。
正反対方向にある砂漠エリアで行われるイベントに参加しようとしても、彼らの到着する頃には終わってしまっているだろう。

となれば選べる方法は一つ。

「……塔だな」

 塔を支配して定期メール着信時に得られる100ptをいただくことだ。

「『水の塔』デスか?デモ既に支配者がいますよ?」
「そこはまあ交渉だな。支配者を味方に引き込むなり譲ってもらうなり」

 大雑把な我道の案を聞いた良子の顔が曇る。

「そう上手くいくものか?GPは皆が欲するものであろう?それこそ…その…」

口ごもる良子の言葉を我道が引き継ぐ。

「『それこそやる気になってるやつも含めて』か?」


612 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:16:39 .6nEjJTE0

良子は元々、今回のバトルロワイアルゲームについてあまり深い考えを持って臨んではいない。
というか†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†としての自分をアバターで作り出し、振る舞うことができた時点で概ね彼女の目的は達成されたようなものである。
他人に危害を加えたり殺されてやるつもりは全くないし、そもそもゲーム開始から厨二病を弄られ、ライブで盛り上がっていただけの彼女には自分がそういう環境に置かれているという事実にもあまり実感がないのだ。

 しかしそれはこの空間にいるすべての人がそうであるということを意味しない。

気のせいかもしれないが、銃声や爆発音のような音がかすかに聞こえてきている気もする。
島を一つ隔てれば、否、エリアを一つ隔てれば、誰かが死に―――誰かが人を殺しているかもしれないのだ

実際にはそんなことが起こっていなかったとしても、『やる気』になっている人がいると口に出してしまえばそれが現実になってしまうような気がして、良子はそれがたまらなく怖かったのだ。

「まーいるだろーなー。そーゆー輩も」

そんな良子のセンチメンタルな思考を台無しにしながら、我道が無精ひげを撫でる。

「ニュースやら交番の前やらで見た犯罪者共の名前もちらほらあるしな」
「模倣犯(コピーキャット)デハないデスか?」
「それなら可愛いもんだが。ガードの固いお前さん方アイドルを、こんなにたくさん連れ込んでやがるんだ。マジモンの死刑囚の一人や二人、参加させててもおかしかねえと思うぜ。
 んで本題、『ヴィラス・ハーク』ってのはどんな奴だと思う? せめて男か女かくれーは割り出しときたいとこだが…ソーニャ、どう思う?外人だしわからねえか?」 
「нет!ワタシ日本人デース!外人違いマース!」

我道に話を振られたソーニャが怒りを露わにする。
 とはいえ、それほど怒ってはいないようで、その様はどこか愛らしい。

「がっはっは!悪い悪い!それで、どう思う?」
「そうデスね…」

ソーニャが顎に指を当て思案を始める。

「『ヴィラス』と言う名前が人名に使われているのはあまり見た記憶がありまセーン。『William』の短縮形で『Vill』が使われることがあるノデ、その変形かもしれまセーン」
「男であるということか?」
「正直何とも言えまセーン。今更言うのもなんデスが、名前も外見も性別も身体スペックも変更できるこの状況でソレを考察してもチョット無意味デース」
「本当に今更だな…」


思考が煮詰まり、三人の間に沈黙が訪れる。


613 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:17:20 .6nEjJTE0


「よし!行くか!」

数十秒が経ち、口火を切ったのはやはり我道だった。

「誰がどんなスタンスでこのゲームに臨んでるか知らんが、会わなきゃなんも始まんねえよ。
 会って話してそれから考える!それでいいだろ?な?」

 我道らしい大雑把な結論。
 しかしそれは空手を通じて多くの強敵(とも)と拳を交わし、酒を通じて多くの呑兵衛(とも)と盃を交わし、広い人間関係を築いてきた我道だからこその結論だった。

「そうデスねー。虎穴に入らずんバ虎児を得ずデース!」
「うぅむ…ソーニャがそう言うなら我も従おう」

 賛同するソーニャ。そして良子もそれに不承不承といった表情で追随する。

「ま、荒事になったら俺が矢面に立つがな。
 お前さんのスキル『幻惑の魔眼』、もしもの時にゃ頼りにしてるぜ!アルアル!」

 我道がニカっと笑って良子の頭を乱暴に撫でまわす。

「頭を撫でるなぁ!アルアルはやめてぇ」


我道の大きな手を振り払い、髪を直す良子。
 その表情は少し明るかった。



◆◆◆



――清水マルシアさん、お疲れ様でした。今のお気持ちをお聞かせください。
「ありがとうございます。
私たちの世代は不作って言われてたので、何とか見返そうとここまで来たんですが、力及ばず悔しいです。
ネプ中女バレ部の歴史に傷をつけてしまうことになってしまって申し訳ない気持ちです」

――清水さんは高校ではバレーを続けないと伺いましたが?
「はい。高校ではアイドル活動に専念したいと考えています」

 ――最後に日天中学校に一言。
「必ず優勝してください!」

 ――本日はありがとうございました。お疲れ様でした。
「ありがとうございました」



◆◆◆



 高井 丈美はため息を吐きながら水の塔の外周を歩く。


614 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:18:07 .6nEjJTE0
 

 この『New World』なる空間にいる知り合いは4人。

 一人は陣野 優美。敬愛する先輩。
 一人は陣野 愛美。優美の姉であり、悪。
 一人は郷田 薫。優美の元彼。
 最後に青山 征三郎。優美たちが行方不明となった『中高生同時失踪事件』の被害者たちの行方を追う私立探偵。

 行方不明となった優美がこの空間にいることを知った丈美だが、探しに行きたい衝動に駆られながらも、いまだに塔周辺でお散歩する羽目になっている。
その直接の原因が水の塔の支配者、ヴィラス・ハークだ。
本人曰く三歳児であるという彼女をこの殺し合いの場に放置していくのはさすがに気が咎めて、ダラダラと時間を浪費してしまっていた。


(本当はこんなことしてる場合じゃないんだけどなあ……。
ヴィラスちゃんの保護者の人、早く来てくれないかなあ……)

 こうしている間にも陣野優美が、陣野愛美がどんな行動を起こしているかわからない。
 そんな考えがいら立ちや焦燥となって丈美の中に募っていった。
 はあ、と もう何度目になるかもわからないため息を吐く。



 陣野優美、陣野愛美は双子の姉妹だ。
 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。そんな誰もが羨むハイスペック姉妹として評判だった。
 二人の周りには多くの友人がいたし、愛してくれる恋人もいた。
彼女たちの両親もまた二人を平等に愛していた。


しかしその姿がまやかしであることを、高井丈美と女子バレーボール部員たちは知っていた。

陣野姉妹の両親は愛美に誘導され、優美に対しておぞましい虐待を全くの無自覚に行っていた。

元々優美の友人・恋人であった者たちは皆、後から関係に介入してきた愛美に夢中になっていった。

優美が何かを得るたびに、何かを作る度に、それらは全て、姉である愛美に根こそぎ奪われていった。

優美自身もそんな状況に苦しみ、人格を歪ませていった。
何かを奪われれば過敏に反応し、苛烈に当たり散らした。

 それでも丈美たちは陣野優美だけの友人であり、仲間であり続けた。
 バレーボールを、勉強を、友達作りを、恋愛を、頑張る優美が好きだから。
 だからこそそれを嘲笑うように阻害する愛美を彼女たちは嫌い、排除し、女子バレーボール部を愛美と共用ではない、優美だけの場所として成立し続けた。

 バレーボールに熱中し、八つ当たり癖も落ち着いて来たころ、優美は愛美らと共に行方をくらました。
 丈美も意図的に距離を置くようにしていた陣野夫妻とも再び関わりを持つようになり、優美が一刻も早く見つかるよう尽力したが何の手がかりも得られないまま1年が過ぎた。

 そして今、高井丈美はよくわからない殺し合いのゲームに巻き込まれている。
 なぜ自分がそんなものの参加者に選ばれてしまったのかは見当もつかなかったけれど、長く探し続けた陣野優美が、この場にいると知ることができた。
 ようやくつかんだ手掛かり。逃すわけにはいかない。


「とはいえ優美先輩、ゲームに乗ってなきゃいいけどなあ」

 あの醜悪な自称友人たちと共に一年も行方不明になっていたのだ。取り返しのつかない何かを失った優美が自棄になってしまうことも十分に考えられる。
優美の精神状態を思うと、丈美は気が気じゃなかった。


(だからヴィラスちゃんの保護者〜!早く来〜い!ネグレクトで児相に通報すんぞ〜!
 ってあれ?)

 苛立ちを募らせる丈美の目に一瞬、見覚えのある顔が映った。

「あれって……アイドルの?」



◆◆◆



天を衝くがごとく聳え立つ――――と形容するには少し高さが足りない水の塔。
 その麓の岩陰から三人の勇者が顔を出し、辺りを見回す。

「あれが水の塔か。歩いてみると結構近いもんだな」
「くっ!わが両脚よ…!鎮まれ……!」
「アルアルの嬢ちゃんは何言ってんだ?」
「疲れて脚が震えるそーデース。我道さんの歩きはチョット早かったデスから」
「アルアルはやめてぇ。解説しないでぇ」

 間の抜けた会話を繰り広げながらも、我道とソフィアは辺りの哨戒を行う。
周囲に人の姿はないが、身を隠すのに都合よさそうな岩や木が点在しており誰もいないと判断はできない。
 塔に目を遣ると造りは非常に単純で、頂上にたどり着くには一直線に階段を昇るしかないらしいことがわかる。


615 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:18:44 .6nEjJTE0

「一番怖ぇのは、階段を昇ってる最中に上か下で待ち伏せされて集中砲火を食らう、とかだな」
「塔を昇るとして、もしソーなったらドーします?」
「そんときゃああれだ。アルアルの…なんだっけ?『邪王炎殺…』」
「『漆黒の黒龍』だ!パクリみたいに言うでない!」

 頬を膨らます良子にがははと笑う我道。
 知り合ってからの時間は短いが、こうしたやり取りもだいぶ板についてきていた。

「というかそれでは人を傷つけてしまうではないか。無闇に他者を害するのは我の本意とするところではない」
「まあそうだよな。それじゃショックボールでひるませてその隙に俺が…」
「ガドーさん、アルアル。誰かがこちらに向かってマース」

 ソーニャが岩陰から出していた顔を引っ込め、策を練る二人を制する。
 朗らかだった二人の表情に緊張が走る。

「どんな奴だ?」
「女の子二人組デース。一人は黒髪で日本人ぽいノデ、もう一人の金髪の女性が『ヴィラス・ハーク』さんデショウ」
「なるほど。どう接触したもんかね」

 二人の女子はこちらに向かっているという。
 こちらに気づいた上での行動であれば先制攻撃の機会を与えてしまう怖れがあるし、彼女たちがこちらに気づいていなければ出会い頭の戦闘に発展してしまう怖れがある。
どちらにせよ接触するなら距離が詰まらないうちにするべきだ。
早急に結論を出す必要がある、と思った矢先のことだった。

「すみません!そこに誰かいますよね?」

 二人のどちらかが声をあげる。

「私達、戦う気はありません!そちらも同じなら出てきていただけませんか?」

 どうやらゲームには乗っていないらしく、接触を求めてきている。

「願ったり叶ったり、だな」
「待て!罠の可能性も…」
「あるだろうがどのみち接触する他ねえだろ」
「見たところ丸腰のヨーデスし、いきなり撃たれることはないデショウ」

 すでに日の出の時刻を過ぎ、周囲もだいぶ明るくなっている。故に彼女たちが武器らしきものを手にしていないことも、ソーニャは一目で判断できた。

ソーニャ、我道が岩陰から出て二人の元に歩み寄っていく。
 良子も後に続き、我道の後ろにぴたりとくっつく。

 2mほど離れた地点で両陣営共に足を止める。ソーニャの言う通り一人は黒髪で一人は金髪だ。
 黒髪の方は我道よりも背が高く体の凹凸もほとんどないが、まだあどけなさを残す顔つきからソーニャと大して変わらない少女であることがうかがえる。
 金髪の方はナイスバディな成熟した女性だ。しかし呆けたような表情と少女に手を引かれるままに歩く様は、この殺し合いの場に似つかわしくない危うさを感じさせた。

「突然お声がけしてすみません。日天中学校3年4組 女バレ部主将の高井 丈美と言います。
 隣にいるのがヴィラス・ハークちゃんです」

 礼儀正しく頭を下げる黒髪の少女。先ほど声をかけてきたのもこちらのようだ。
 体育会系らしいハキハキした自己紹介に我道も好感を覚える。


616 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:19:32 .6nEjJTE0

「おうよろしく。俺は無空流空手道場天道支部 師範代の天空慈 我道だ」
「ご丁寧にドーモデース。『HSF』の諸星 ソフィアデース。[メンバー]には本名で載ってマース」
「……我は……†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†……である。」

 自己紹介を終えると丈美が目を輝かせながらソーニャを見る。

「ちらっと見えたのでまさかとは思ったんですけど、本物の諸星ソフィアさんにこんなところで会えるなんて思わなかったです。
 後輩にもHSFのファンがいますから、帰ったら自慢しますね」

 丈美も年頃の女の子なので流行にはそれなりに聡い。
 特にアイドルファンというわけでもないが、目の前に芸能人がいる状況でテンションを上げずにいられるほど無関心でもなかった。

「ありがとデース。ワタシもあなたのことマルシアちゃんから聞いてマース。
『あのブロックが抜けなかった!“高井丈美”じゃなくて“高井壁美”に改名したらいいんだわ!』って言ってマシタ」
「それ喜んでいいんですかね……? そうだ、握手してもらっていいですか?」
「もちろんデース」
「うぉっほん!!」

 握手まで始めた二人を我道が強引に引き戻す

「それで、嬢ちゃんはどうしてあんな真似を?」

 塔の支配者となったヴィラスを連れている丈美。
 塔が支配されればマップで確認できるようになり、そのアドバンテージを横取りしようという参加者がこぞって集まりかねない。
 支配を上書きしに来た参加者を待ち伏せて狩るつもりだったというならともかく、こうしてゲームに乗っていないことを表明して対話を試みるというのはあまりに非合理だ。

 我道が問うと丈美は苦笑しながらヴィラスを右手で示した。

「実はこのヴィラスちゃん、外見と中身が全然違うみたいで……。年齢訊いたら3歳だって言うんですよ。
 だから保護者の方とかがこのゲームに巻き込まれてたら、迎えに来てくれるんじゃないかなーと思った次第です」
「ゲームに乗った連中がやって来るとは思わなかったのか?」
「正直最初は気付かなくて。
後になって思い至ったんですけど、アイテムで防御できるんで良いかなーと」

 そう言ってジャージの袖をまくり、手首に巻いたブレスレットを見せる。
 青みがかった銀色の、重たそうな代物だ。

「それがアイテムデスか?」
「はい。なんか一定以上の威力?の攻撃に対して自動でバリアを張ってくれるらしいです」
「良いモン引き当てたじゃねーか。俺のガラクタとはえらい違いだ」
 そう言ってカラカラと笑う我道。しかしすぐに表情を引き締め丈美に向けた。

「それで? 嬢ちゃんたちはこれからどうするつもりだい?」

問われた丈美もつられて表情を引き締める。

「ヴィラスちゃんについてはよくわからないんですけど……。
 私は優美先輩を探したいと思ってます。メンバーの…真ん中辺りに名前あるんですけど」
「……ああこれだな。
ん?日天中学校の陣野姉妹っていやあ……」
「去年の『中高生同時失踪事件』の被害者デース。 上の方に郷田薫の名前もありマース」

 なるほどな、と言って我道は名簿から目を離す。
「この三人と合流して、元の世界に帰る。 それがお前さんの目的かい?」

 尋ねられた丈美は「いやいや」と手を横に振る。
「私の目的は優美先輩と一緒に帰ることです。
見ず知らずの参加者の人たちはともかく、愛美先輩と郷田先輩の二人に関しては一緒に帰って来てほしくないっていうのが本音です」


 礼儀正しい、さわやかな体育会系。そんな印象の丈美からは想像しにくい陰湿な言葉が発せられ、我道もソーニャもきょとんとしてしまう。

「ドーしてデスかー? 行方不明になった6人は親友だったと聞いてマース」

 ニュースでは一緒に遊びに行ってそのまま行方不明になったと報じられていた。
 そのうちの一人である陣野優美を殺し合いという状況下で捜索したいと願う人間が、その親友である二人の生還を望まないというのはいささか不自然に思えた。

 ソーニャの呈した疑問に「そうですね」と丈美は乾いた笑いを浮かべる

「表向きにも、本人たちの認識でも彼らは親友同士のグループです。それは間違いありません。
 でも外から傍観してた私に言わせれば、あんなグロテスクな関係性を『親友』なんて呼んじゃあいけないってもんですよ。
 もっと言えば、優美先輩を取り巻くほとんどすべての人間関係は、愛美先輩の手で非常にグロテスクに歪められています」


617 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:20:18 .6nEjJTE0

「だからバレー部だけはその毒牙にかからないよう、私たちで必死に守ってきたんですけどね」と、そう言って丈美はヴィラスの手を離す。

「だから皆さんにはヴィラスちゃんの保護をお願いできないかなって思うんです。
 優美先輩を探しに行きたいですけど、こんな子どもを一人で殺し合いの場に置いていくっていうのも嫌なので」


 丈美の目には確固たる意志があり、それはいかなる言葉でも覆らないだろう。
 それはわかっていたものの、保護者として、大人として、単身で虎穴に入らんとする丈美に訊かないわけにはいかなかった。

「それは、お前さんも含めて俺たちと同行して探すってわけにはいかねえんだな?」
「はい。私は脚力を強化するスキルを取っているので。敏捷が……多分A以上はないと足手まといです」
「じゃあソーニャと握手とかしてる場合じゃねえじゃねえか……」

 そんなに急ぐならようと、二回り近くも年下の少女に足手まとい呼ばわりされた我道はげんなりし、ため息を吐く。

「だったらせめて、連絡手段を決めとこうぜ。のろしとかよ」
「それならメールを送ればいいデスよ」

 しばらく黙っていたソーニャが口をはさむ。

「1通出すのに10ptかかりますケド、連絡先を知ってる相手には送れマース」

 初めて聞く情報の数々に我道と丈美が目を剥く。

「ソーニャおめえ何でそんなこと知ってんだ!?」
「アルアルに会う前にシェリンちゃんに質問しマシタ。
 他にもイロイロ聞いてますヨー」
「連絡先の交換ってどうやるんですか!?」
「5秒以上の単純接触『Connect』すればOKだそうデース」


 そんな具合で、互いの知っていることについて情報交換を行った。



「それじゃあ、何かあったらメールで連絡ってことで」
「おう。お前さんも気をつけてな」
「また会いマショー」

簡単に挨拶を済ませ、丈美が走り出す。向かう先は中央エリアだ。
『健脚』スキルの名の通り、その速度は乗用車にも匹敵するだろう。
長身の丈美の姿は小さくなり、やがて見えなくなった。


「それじゃ、俺らはしばらくここで待機だな」

情報交換と作戦会議の末、彼らはヴィラスが塔の支配者に与えられる100ptを受け取ってから出発することに決まった。必然的に第一回の定期メールの受信を待つことになる。

「今からだと…30分くらいデスね。そしたら来た道を逆戻りデース」
また、彼らは丈美とは異なるアプローチで中央を目指すこととなった。
 現在地から諸島エリアを時計回りに巡り、神社をゲームに抗する集団の根拠地とし、その後で仲間集めに奔走する。

 丈美にはそうした情報の伝達も依頼した。
 優美を探して駆けずり回れば他者との接触も増える。
 当然リスクもあるがそれ以上に多くの仲間を集め、弱者を保護することができるだろう。


「ところで、だ」
と、我道は背中にぴたりとくっつく少女を見遣る。

「アルアルは何だってそんなに怯えてんだい?」

 有馬良子は接近してくるのが高井丈美であると知って以降、我道の後ろに隠れてしまい、会話にもほとんど参加していなかったのだ。
 道着を掴む良子の手から震えが伝わってきたので我道も何も言わなかったわけであるが。

「か、か、彼の者は現世での我を知る光の天使故!
 何故光に身を堕としたのかは我の知る定めにないのだが!」
「ソーニャ!通訳頼まぁ!」
「リアル知り合いだカラ、身バレしたくない。しかも嫌われてるのに理由もわからないから怖いそーデース」
「がッはッは!なるほどなあ!」

 我道は高らかに笑い、良子の頭を撫でる。
 「この年頃の女子は色々あらぁな」と、面倒を見ている姦しい弟子たちを思い出しながら。


618 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:23:32 .6nEjJTE0


[F-8/水の塔/1日目・早朝]

【共通行動方針】:第一回定期メールを待つ。受信後南下し神社を抑える。

[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.HSFのメンバーと利江を探す

[有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:バトン型スタンガン、ショックボール×10、不明支給品×1
[GP]:5pt→15pt (キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.ソフィアと我道に着いていく
2.殺し合いにはとりあえず参加しない

[天空慈 我道]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:カランビットナイフ、魔術石、耐火のアンクレット
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:主催者を念入りに叩き潰す。
1.なるべく殺人はしない。でも面白そうなやつとは喧嘩してみたい。
2.中央エリアに向かう。
3.門下生と合流する。
4.覚悟のない者を保護する。
5.丈美からの人物評は話半分に聞いておく。

[VRシャーク(ヴィラス・ハーク)]
[パラメータ]:STR:E→D VIT:E AGI:E→D DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康、鼻が少し赤くなっている
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:150pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.食べたい
※水の塔の支配権を得たことにより水属性を得て本来の力を僅かに取り戻しました

[備考]
丈美から以下の情報がもたらされました。
・ヴィラス・ハークは3歳児であるらしい。
・青山征三郎は正義感が強く信頼できる相手。
・陣野優美はゲームに乗っている怖れがあるので要注意。丈美にとって大事な人なので傷つけないでほしい。
・陣野愛美はゲームに乗っていないと思われるが生来の極悪人なので関わらないのが吉。
・郷田薫は腕っぷしは強いがゲームに乗る度胸はない。味方につけても役には立たないと思う。



◆◆◆



――高井丈美さん、お疲れ様でした。今のお気持ちをお聞かせください。
「ありがとうございます。
去年は主将不在で負けてしまったので雪辱を果たせて嬉しいです。」

――去年の主将と言うと『中高生同時失踪事件』の被害者の陣野優美さん?
「はい。そうです」

 ――陣野さんにどんな思いを伝えたいですか。
「一刻も早く帰って来てほしいです。
帰ってきたら優美先輩の引退試合してあげたいです。まだできてないので」

 ――最後に一言お願いします。
「勝ち進んで、今日の勝利がまぐれじゃないことを証明します」

 ――本日はありがとうございました。お疲れ様でした。
「ありがとうございました」


619 : 虎尾春氷――序章 ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:23:45 .6nEjJTE0


[E-6/橋/1日目・早朝]
[高井 丈美]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:バリアブレスレット(E)、不明支給品×2
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:陣野優美の捜索及び保護
1.優美先輩を探すべく中央エリアへ行く
2.ゲーム打倒を目論む参加者を神社に向かわせる。
3.出来れば青山さんとも合流したい。
4.陣野愛美を強く警戒。極力関わらない。
※ヴィラス・ハークの正体を3歳の子供だと考えています

【バリアブレスレット】
一定以上の威力の攻撃に反応し、着用者の周辺に球状のバリアを張る。
但し、どの程度の威力の攻撃に反応するのか、どの程度の威力まで防げるのかについて記載がなく不明。

[備考]
我道陣営から以下の情報がもたらされました。
・ソフィアがシェリンに質問して得た情報
・大和正義は信用できる相手。人相?知らん。
・美空善子は我道の弟子。信頼できないわけがない。
・酉糸排汰は危険人物。接触は慎重に。
・HSFの皆がゲームに乗るわけありまセーン。月乃ちゃんも同様デース。
・滝川利江の人相。ただし長いこと会ってないので変わってるかもデース。
・桐本、笠子、焔花ら犯罪者の人相。ゲームに乗ってるものと思え。


620 : ◆ylcjBnZZno :2020/11/24(火) 15:24:09 .6nEjJTE0
投下終了です


621 : ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:33:41 9AhY5Rwo0
投下乙です

天空慈チーム、何気に一番安定した対主催パーティでは? 一匹サメが混じってるけど……
あの姉妹どっちと会ってもろくなことにならないから高井ちゃんは諦めた方がいいんじゃないかな

それでは私も投下します


622 : 役に立ってから死んでくれ ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:34:51 9AhY5Rwo0
「まずはもう一度、兄さんのいる位置を確認してみません?」
「そうですね。情報を更新しておくのは大切な事です」

正義たちと別れた秀才と月乃がまず行ったのは指差し確認だった。
最初に太陽の位置を割り出してから数時間は経過している。
太陽は一所にじっとしているような性質ではない。
合流を目指すにあたって現在をもう一度割り出して目標地点を修正しなくてはならないだろう。

それでは、と前置きして秀才が太陽が居そうな場所を適当に指さす。
だが彼の人差し指が指示したのは最初に指した方向とは真逆の方向だった。
つまりはこれまで向かっていた進行方向をそのまま指していた。

「あれ? 兄さん反対方向に行っちゃったんでしょうか?」

ニアミスしてすれ違った可能性はないとは言えないが、あれ程目立つ存在が近くを通り過ぎて気づかないと言う事もないだろう。
かと言って、この短時間で真逆に回り込まれたかと言えば、月乃が持ってるような瞬間移動できるアイテムでも使わない限りそれも考えづらい。

「バイアスがかかっているのかもしれませんね」

そう言って秀才が刺した指を顔に引き戻し眼鏡をクイと上げる。

「どういう意味です?」
「私があちらに太陽がいるかもと無意識の内に認識しているため、そちらを指してしまったのかもしれないという事です」

元より明確な意思ではなく無意識に頼る方法である。
その無意識にバイアスがかかっていれば正常な結果は得られないだろう。

「まあ、もともと確証のある方法ではないですから、最初からハズレだったと言う可能性も大いにありますが」
「やっぱりそうですかねぇ」

月乃が残念そうに肩を落とす。
その様子を見て秀才が厳しい表情を浮かべた。

「月乃くん、先に断っておきます」
「なんでしょう? 出多方さん」

真面目な雰囲気を感じ取り月乃が佇まいを正す。
その妙に畏まった態度に、秀才が一つ咳払いをした。

「当面の目標として私たちは太陽との合流を目指してはいますが、会えるという確証がある訳でもない。
 確証のない方法にいつまでも時間を割くわけにはいきません。ある程度の区切りは必要です」
「それは……そうですね」

直接的な人探しのスキルではなく、スキル同士の反発作用を利用した裏技のようなモノだ。
確実性のないこの細い糸を辿るような方法を頼って、いつまでも探索を続けるわけにもいかない。

「もちろん太陽を探す道中でも志を同じくする多くの人を集めながら、脱出に向けての情報収集は行えるでしょう。
 それは必要なことだ。ですが、それも中央エリアまでで区切るべきだと考えています。
 積雪エリアや諸島エリアまでは探索の足を延ばさず、どういう結果になろうとも一旦そこで大和くんたちとの合流を目指す。
 この行動方針で行こうと思います。構いませんね?」

希望を持たせすぎないよう現実を突きつけるように厳しい口調で言う。
兄を心配する妹からすれば受け入れがたい方針だろうが、納得してもらわなければならない。


623 : 役に立ってから死んでくれ ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:35:35 9AhY5Rwo0
太陽と合流が果たせなければ、武力のない二人だ。
月乃の歌である程度の戦闘は回避できるかもしれないだろうが、それにも限界がある。
太陽のとの合流の線が細くなった以上、月乃の安全を第一に考えるのならば正義との早めの合流も視野に入れておいた方がいいだろう。

「そうですね。そうしましょうか」
「え、いいんですか?」
「なんで出多方さんが驚いてるんですか?」
「い、いえ。そういう訳では」

あえて厳しいことを言ったのだが、こうもあっさり受け入れられると言った方が戸惑ってしまう。
だが月乃はちゃんと理解している。
秀才が自らの安全と心情を案じて言ってくれていることを。
全てを含んだ上で月乃は気丈に笑った。

「大丈夫ですって。だってあの兄さんですよ? 殺したって死にませんよ。
 それより私たちの安全第一ってことですよね?」

太陽が死ぬはずがないのだから、自分たちが生きていれば必ず会える。
兄を信じればこそ、その理屈は正しい。

「……まあ、そうですね」

そのイメージに関しては秀才も同意する。
なにせ登校途中に車道に飛び出した猫を庇ってトラックにはねられても、そのまま登校して授業を受け続けたような男だ。
銃で撃たれようがそれこそ怪物に襲われようとも簡単に死ぬとは思えない。

「ただ…………」

懸念があるとするならば、この地にいるのは太陽ではなく、太陽の作り物の体(アバター)――邪神曰くむき出しの魂か?――であるという点だ。
いくら不死身の太陽でも、その体が別物になっていればどうなるかは分からない。

「ただ、なんです?」
「いえ、何でもありません」

秀才は口を濁す。
頭を振って自らの悪い予感を打ち消した。
わざわざ口に出して不安がらせる必要はないだろう。

彼にできるのは兄を信じる妹のように、親友の無事を信じるのみである。




624 : 役に立ってから死んでくれ ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:36:07 9AhY5Rwo0
草原を踏みしめる蹄が規則正しい音をかき鳴らしていた。
夜の闇を切り裂くがごとく白馬が駆ける。
それは守護るべき姫を運ぶ人馬一体の白馬の騎士だった。

騎士は輝かんばかりの白銀の鎧に全身を包み、その両腕には手綱ではなく剣と盾が握られていた。
馬上での戦闘を前提とする騎士にとって、馬の操作に手綱を必要としない事は基本技能の一つではあるのだが、上体一つ動かさぬ様子からは熟練した技量が伺える。

それもそのはず、この白騎士の人馬一体と言うのは比喩ではない。
なにせ騎士の上半身は白馬の背から生えていた。
常では見られぬ異なる生物。いや、生物ですらないだろう。

馬上の背後で揺られる少女、三土梨緒のスキルによって生み出された非生物。
それがこの騎士の正体である。

白馬に揺られること数分。
梨緒が狙撃された地点からは、ずいぶんと移動できた。

ここまでくれば大丈夫だろうか?
狙撃手の射程範囲なんて知らない梨緒からすればどこが安全なラインかなんて判断できないため、大袈裟に移動しすぎたかもしれない。

白騎士を操り白馬の足を緩めさせる。
徐々に速度を落として行く白馬が足踏みをして草原に静止する。

梨緒は馬の背から降りようとしたが、思った以上の高さに僅かに戸惑った。
だが、馬の背に張り付いた騎士はエスコートなどしてくれない。
仕方なしに梨緒は飛び降りるようにして馬の背から降りた。

「ッ…………!」

馬上から地面に足を付いた衝撃で、撃たれた肩が痛んだ。
何故自分がこんな目に合わなければいけないのか。
痛みと共に怒りのような感情が湧き上がってくる。

「消えなさい……!」

苛立ちをぶつけるように白騎士に向けて吐き捨てる。
すると白騎士の体がノイズのように歪み、徐々に散り散りに欠けながら消えていった。
自らを助けた白騎士を不満そうに見送りながら梨緒は舌を打った。

競走馬のような移動速度。加えて狙撃すら防ぐ鉄壁さ。
まだ発揮されていない攻撃性能もこれならば期待できるだろう。
Aランクスキルは伊達ではないこの性能のどこに不満があるのか。

言うまでもない、外見である。
白騎士は異形が過ぎた。

人馬一体どころか鎧や剣盾まで一体化している。
恐らく装備だけをはぎ取れないようにと言うゲームバランス的な配慮だろう。
だが、これでは騎士どころか白くのっぺりしたケンタウロスだ。
いや背中から人が生えてる時点でケンタウロスですらない。

カッコいい王子様を希望して選んだはずのスキルだったはずなのに。
本音を言えば自分を守る王子様との物語のようなドラマを期待したヒロイン願望的なところもある。
だというのに、なんだこのクリーチャーは。
こんなのを連れて歩いていたら自分から危ない奴ですと言っているようなものだ。

それに実際召喚して分かったことだが、白騎士は召喚まである程度時間がかかる。
10秒未満の短い時間だが、先ほどの狙撃の様な奇襲には対応できないし、危険人物に襲われてから出しているようでは遅い。

常に侍らすには不気味過ぎる。
だと言うのに緊急時に出すには遅い。
切り札に足る能力を持ってはいるが、使い勝手が悪すぎる。

その穴を埋める別の手が必要である。
だからわざわざ太陽を洗脳して使ってやっていたのだが、それも太陽の暴走により台無しとなった。
まったくどいつもこいつも使えない。

梨緒は助け合いなどと言う相互関係は求めていない。
信頼関係によって築かれる関係性など人間不信である梨緒は最初から信じていなかった。
何よりこんな状況でそんな関係を築けるはずもないだろう。

求めているのは、梨緒だけが得をする一方的な関係性。
梨緒が生き残るために、利用するだけの道具だ。

それを得るために、必要なものは――――。




625 : 役に立ってから死んでくれ ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:36:46 9AhY5Rwo0
「助けてください!」

草原を進む秀才たちの歩みがコロシアムに差し掛かった所で、巨大なコロシアムの陰から唐突に血相を変えた少女が飛び出してきた。
わざとらしいくらいに息を切らした少女は、銃撃でも受けたのか肩を抑えて苦痛に表情を歪めていた。

「だ、大丈夫ですか!?」
「月乃くん…………ッ!」

突然現れた少女に秀才は警戒して身構えたが、月乃は傷ついた少女を案じて近寄って行った。
秀才はこの行為を軽率と窘めるべきか迷ったが、戦うつもりのない人間の保護も目的に含まれる以上難しい所だ。
少なくとも、面識のない人間に対して最低限の警戒がないのは咎めるべきだが、その優しさまで咎めるのは憚られた。

ひとまず、駆け寄った月乃に少女が何かをする気配はない。
助けを求めると見せかけて不意打つつもりという事もなさそうだ。
月乃が無事であることに胸をなでおろし、秀才もひとまず少女を受け入れることにした。

「なにがあったんですか?」
「わかりません。森でいきなり誰かに襲われて……」
「襲われた? 襲撃者はどうしたんですか?」

まさか追ってきているのか、秀才が少女のやってきた方向を確認する。
だが、視界には薄暗い夜の闇が広がるばかりであり、ひとまず追ってくる気配はなさそうである。

「……わかりません。必死で逃げていたらいつの間にか振り切ってたようです」

少女は弱々しく首を振る。
混乱しているのか返答もわからないばかりで要領を得ない。
それを月乃が大丈夫ですよと背をさすりながら元気づける。

必死で逃げていて振り切った。
襲撃者もプロとは限らない以上、そういうこともあるのか?
少なくとも肩の傷がある以上、何らかの襲撃を受けたというのは本当だろう。

だが、秀才の中で何かが引っかかるものがあった。
それは冷静スキルによるものか、神経質な本来の気質によるものかはわからないが、少女に対して何か違和感のようなものを拭えずにいた。

「うっ!」
「大丈夫ですか?」
「傷が……ッ!」
「痛むんですか!? そうだ! 回復薬がありますよ!」

月乃が正義より譲り受けた回復薬の存在を思い出し、それを取り出そうとアイテム欄を操作する。
だが、回復薬を使おうとする月乃を秀才が制止した。

「待ってください。見る限り、彼女の傷は回復薬を使う程の傷ではない。
 ありあわせの道具で応急処置をすれば十分では?」

正義より1つずつ譲り受けた回復薬はある程度の重症でも回復する強力なモノだ。
傷である以上それなりには痛いだろうが、少なくとも希少な回復薬を使う程の傷には見えない。


626 : 役に立ってから死んでくれ ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:37:22 9AhY5Rwo0
「そんな……酷いです出多方さん。こんなに痛がってるのに」

月乃が悲しそうに眉を下げる。
少女は月乃の胸の中でうっうっと嗚咽を漏らしていた。
人が良すぎる月乃からすれば、こんな様子の少女を放置するなどできないのだろう。
それにしても、少女の言い分を受け入れすぎなような気もするが。

「まあ、月乃くんに譲られた回復薬をどう使おうとそれは月乃くんの自由ですが……」

少女二人の責めるような態度に耐え切れず、秀才は折れた。
真正面からの議論なら打ち負かす自信はあるが、こういう攻め手にはめっぽう弱い。

だが、見る限り肩を掠めた程度の傷である。
既に血も止まっているようだし、過剰な治療は必要ないと思うのだが。

(……止まっている?)

秀才が眉を顰める。
少女に対して最初から抱いていた違和感に気づいた。

少女の傷はもともと大した傷ではない、ある程度時間がたてば自然と出血も止まるだろう。
だが、息を切らした少女の様子から、襲撃を受けて逃げてきたばかりのはずである。
その傷がすでに乾いているというのはどういうことか?

少女を見る。
既に月乃が回復薬を使用していた。
傷が治り、疑惑の根本である証拠が消える。

「ありがとうございます。えっと……」
「あ、まだ名乗ってなかったですね。大日輪月乃です。同い年くらい、かな?」

傷が治ってすっかり元気を取り戻したのか、少女は佇まいを正し丁寧に頭を下げて礼をする。

「はい。範当高校2年、栗村雪です。アバター名はユキで登録してます。よろしくお願いします」




627 : 役に立ってから死んでくれ ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:38:54 9AhY5Rwo0
――――上手くいった。

三土梨緒は内心でほくそ笑んだ。

新しく利用できる相手を見つけ、上手く取り入ることができた。
声をかけたのが危険人物だったら自爆するだけなのだが、声をかける前からある程度の勝算はあった。

二人組だったと言うのがまず一つ。
たった一人の生き残りを目指すこのゲームで複数名で行動するという事は生き残りを目指していない、殺し合いに反発する太陽のような連中である可能性が高い。
まあ一概には言えないが、当の梨緒のような存在もいるだろう。

勿論根拠はそれだけではない。
男女双方に見覚えがあったことが彼らを選んだ最大の理由である。
勿論、直接的な面識がある訳ではない。

見覚えと言っても、男の方は顔ではなく服装にある。
男が着ているのは太陽と同じ制服だった。
同じ制服に身を包んでいるが受ける印象は太陽とは対極である。

面白みのない真面目さだけが取り柄ですと言った顔である。
いかにも童貞臭い、女に耐性のなさそうな男など、ちょっと涙でも見せれば騙せるだろう。

対して、女の方は目を引くような美形だった。
そう生まれただけで人生の勝ち組になるような理不尽な美しさ。

その顔は知っている。アイドルの「TSUKINO」だ。
そして、あの愚か者、大日輪太陽の妹でもある。

彼女の存在は太陽から聞いていた。
というか妹についてべらべらと喋っている隙に人間操りタブレットを取り付けたのだから。
そうじゃなくてもメディアで見かけて最低限の人となりは知っていた。
クールな外見に見合わない頭の弱いぼやけた女だったと記憶している。騙すのも容易いだろう。

だが、だからと言って、その所感を当てにはしない。
彼らを利用するために万全を尽くす。
幸せになるための努力は怠らない。

ここに来るまでに、太陽から捧げられたポイントでスキルを得た。
捧げられたこのポイントだけが、使えなかったあの男の唯一の功績だ。

獲得したのは、自分の言葉を信じさせる効果のある『演説』スキルである。
ランクは100ptを使用した最上級のAランク。

これがあれば、日和見主義の連中の中に潜り込むのは容易い。
目論見通り妹の方は私の事を信じているようである。お陰で怪我も回復できた。
太陽。お前のおかげで得たスキルによって妹を利用することができた、その点は素直に感謝しておこう。

男の方は微妙な反応だが、スキルがある以上信じない問う事もないはずである。
恐らく眉目秀麗な雪の顔に近寄り難いと思っているだけだろう。

役に立たなかった兄と違って、精々役に立ってから死んでくれ。

[D-5/コロシアム近く平原/1日目・早朝]
[出多方 秀才]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:焔のブレスレット(E)、おもしろ写真セット、回復薬×1、万能薬×1
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:出来る限り多くの人間と共に脱出を目指す
0.ユキを警戒
1.太陽を探しながら同士を集め情報収集。
2.月乃の歌でこの殺し合いを止めたい
3.ある程度の目途が立ったら正義との合流

[大日輪 月乃]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:海神の槍、ワープストーン(2/3)、ドロップ缶、万能薬×1、不明支給品×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:歌で殺し合いを止める。
1.兄さんを探す。
2.金髪の人(エンジ君)には、次に会ったら負けない。

[三土 梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、スタングレネード、歌姫のマイク
[GP]:136pt→36pt(スキル習得(A)に100ptを使用)
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.生き残るべく秀才と月乃を利用する。
※演説(A)を習得しました

【演説(A)】
自身の言葉を信じさせるスキル。
Aランクともなればかなり無茶な理屈でも相手に信じさせることができる。
ただし相手に精神耐性や同ランク以上の思考力に関するスキルや矛盾点を付くスキルがある場合その効果は大幅に落ちる。


628 : 役に立ってから死んでくれ ◆H3bky6/SCY :2020/11/24(火) 21:39:21 9AhY5Rwo0
投下終了です


629 : 名無しさん :2020/11/28(土) 03:25:42 akSpklto0
投下乙です。感想を2つほど

・虎尾春氷――序章
異世界組は疾走前からある意味学校で話題になってたんだな
こんなメンバーを召喚した「神」の思惑は一体…
身バレを恐れる良子ちゃんもかわいい。やはり癒しの堕天使
和気あいあいとしたメンバーだがサメちゃんの加入と、
この先にかち合いそうなマーダーの気配からしてまだまだ楽観はできなさそうだ

・役に立ってから死んでくれ
新たなスキルを得てステルスに特化した梨緒ちゃんは手ごわそうだ
あと、梨緒ちゃんの呼び出す騎士は自分も想定していたのは
人馬一体の騎士なのでイメージ通りに補完してくれて素晴らしいです


630 : ◆H3bky6/SCY :2020/11/29(日) 17:46:24 0FuZhOqs0
投下します


631 : 中国気功クラブ ◆H3bky6/SCY :2020/11/29(日) 17:47:05 0FuZhOqs0
パン、と弾けるような音と共に石が宙を舞った。
弧を描いて夜を舞った石は、そのまま音を立てて川へと落ちる。

橋の欄干の上には先ほど宙を舞った物と同程度の大きさの石が等間隔に並べられていた。
それがタン、タン、タンと規則正しく、端から順に何かに弾かれたように次々と飛ばされてゆく。

石を弾き飛ばしているのは礫でも弾丸でもない。
見えない衝撃波のようなモノが奔って石を弾き飛ばしていた。

崩れた欄干の端に並べられた最後の石が弾かれる。
他の石たちと同じく弧を描いた石は川に落ちることなく、そのまま空中でさらに弾かれ、二度、三度とお手玉の様に宙を跳ねた。

「なるほド」

謎の力が止まり、ポチャンと石が川に落ちる音が響いた。
暗殺者シャはその手応えを確認する。

先の戦闘において、自身の頸の練りの甘さを実感したシャは新たにスキルを習得した。
それは気を操る『気功』スキル。
今の石遊びは軽い試運転である。

中国拳法において頸は重要な要素である。
頸の裏打ちがなければ如何なる技も十分な威力を発揮することはできない。

頸とは積み重ねた鍛錬により獲得する、己の中で力を高める技術だ。
それは呼吸や血流、果ては脳内物質を操作して行う理屈のある力であり、超能力じみたファンタジーな能力ではない。
あくまで練り上げた気は己を充実させるものであり、頸を打ち込むというのも力の流動を操り自らの力を思う通りに相手に伝える技術である。
それを放って敵を攻撃するなどはありえない。

そんなのは日本のコミックくらいでしかお目にかかれない代物である。
だが、今回得たスキルはどちらかと言えばそれに近い。

想定したものと違ったが、これはこれで面白い。
こういう力を実際振えるというのは心が躍る。
素手であることには違いないのだから素手格闘の範疇だろう。

とは言え、遠当て威力はさほど高くはない。
軽いジャブ程度の威力である。
牽制には使えるが、人を殺せるほどではないだろう。

どちらかと言うと期待できるのは近接戦だろう。
本来の内勁を練り上げるような使い方も勿論できる。
攻防に気を乗せることができるだろうし、このスキルの場合”本当”に気を直接叩き込める。

そして気功スキルを得てもう一つ面白いことが出来るようになった。
いや出来るようになったと言うより、最初から出来ていたと言った方がいいか。

シャが丹田に力を籠め体内で気を練り上げる。
練り上げた気を息吹と共に辺りに放出した。
先ほどの遠当てとは違う、ゆっくりとした流水の様な静の気が周囲に満ちる。


632 : 中国気功クラブ ◆H3bky6/SCY :2020/11/29(日) 17:47:37 0FuZhOqs0
吐く息が白く染まる。
周囲の気温が徐々に下がってゆく。
放たれる気は凍える程の冷気を纏っていた。

周囲の気温が氷点下に迫ろうかという所で、シャが意識を変える。
すると変化がった。
今度は周囲に漂っていた気が濁ったように色を帯びたのだ。

世界が黄土色に染まって行き、空気中に細かな粒子が混ざる。
それは砂だった。
周囲は砂塵に覆われた様に閉ざされ、砂の幕が張られた。

冷気と砂。
それは雪の塔と砂の塔、これらの支配権を得た影響だろう。
突飛な発想だが、ゲーム慣れしているシャはすぐにそう理解した。

それと気功スキルが合わさる事により生まれたのが気の属性操作である。
この属性変化した気を浸透頸で直接敵の内部に叩き込めば面白いことになるだろう。

だが、それを得たことよりもシャが気にかけたのは、本来あり得ない技術を当然のように操作できる自分自身についてである。
最初からそうだったように、まるで魂に刻まれたように使い方が本能的にわかった。
明らかな後付けの能力であるにもかかわらず、何の功夫も積まず使いこなせている。
考えようによっては恐ろしいことなのかもしれないがシャはまったく気にしなかった。

ゲームで遊ぶときにゲーム機がどうやって動いてるのかなんて気にする人間はいない。
飛行機に乗る時に何故飛ぶのかを気にする人間もいないだろう。
まあ、人によってはするかもしれないが、少なくともシャは興味がない。
そう言うものなのだったらそれでいい。
役に立つと言う結果だけがあればいい。

ともかく稀代の暗殺者は新たな力を得た。
そんな彼が次に取るべき方針は二つあった。
単純に言えば守備的に行くか、攻撃的に行くかの二択である。

具体的に言うと、現在シャは二つの塔を支配している。
これを防衛するのか、それとも塔を放置して打って出るのかだ。

二つの塔の位置は近い。
現在のシャがいるのはその中間に位置する橋上である。
ここで構えていればシャであれば防衛はそう難くはない。
だが、いつまでもここには張り付いて防衛を続けると言うのも退屈である。

塔を放置して打って出るとするならば、向かうのは砂漠の探索イベントだろうか。
基本的に武器は必要としないシャにとってアイテム発見のメリットは薄いがGPはあって損はない。
イベント目当てに集まった参加者を狩るのもいいだろう。

だが、イベントの行われている大砂漠は方向感覚が失われるという。
下手に突入すれば最悪遭難する可能性もある。
眠気も空腹も感じないこの体ならば、遭難したところで死ぬことはないだろうが、時間的なロスは痛手だ。


633 : 中国気功クラブ ◆H3bky6/SCY :2020/11/29(日) 17:48:17 0FuZhOqs0
しかし現在のシャに限って言えば、その心配はないのかもしれない。

雪の塔を支配した直後からシャの感覚に変化があった。
氷点下を誇る積雪エリアにおいて寒さを感じなくなっていたのだ。
寒さに慣れた、などと言う次元の話ではない。
寒さによって生じる、震えや手足の感覚の薄れ、そう言ったものが一切なくなったのだ。

そこから推察するに、その地域の支配者は恐らく地形に付随するバッドステータスを受け付けない。
火山エリアではおそらく熱さやマグマに対する耐性を得られるのだろう。
諸島エリアの場合は海流に流されなくなるのかもしれない。
この推察が正しければ砂の塔の支配者であるシャは大砂漠でも迷わない可能性が高い。

加えてシャにはタリスマンがある。
けるぴーからドロップしたそのアイテムは放置されたアイテムの場所を指し示すという。
アイテム探索系イベントにおいてはかなり有利に働くだろう。

ここまで有利な条件が重なると参加しない理由がない。
なによりシャはこのゲームを楽しむことこそが目的だ、イベントにはなるべく参加しておきたい。
まあそれを言うなら塔の防衛も醍醐味の一つかもしれないが。

それらを踏まえてどうするべきか。
シャは少し考え込んで、ひとまずポイントが得られるまでは防衛に努め、それが得られてから探索に動くという折衷案を結論とした。
ポイントが得られる定期メールとやらが送られてくるまでは後1時間もない。
シャだってそのくらいは大人しく待てる。

そもそもシャは別段短気と言う訳ではない。
これまで沢山の人間を殺してきたが短気を起こして殺したことは一度もない。
結果として殺すという結論に至るだけで、むしろ気は長い方だと自負している。
のんびりと、まあ塔の襲撃者が来ればそれなりに激しく、待つとしよう。

既に砂漠の探索を始めている参加者に対して出遅れることになるが、そこは仕方ない。

まあ最悪、殺して奪い取ればいいだろう。

[A-4/橋上/1日目・早朝]
[シャ]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
[ステータス]:左腕にヒビ
[アイテム]:不明支給品×3、タリスマン
[GP]:100pt→0pt(スキル習得(A)に100ptを使用)
[プロセス]
基本行動方針:ゲームを楽しむ
1.定時メールが来るまで塔の防衛
2.砂漠のお宝さがしに参加する
※気功(A)を習得しました

【気功(A)】
気を練る技術。気は様々な用途に使用可能。
気を込めた攻撃は追加ダメージが発生、気を込めて防御すればダメージが減少する。
また全身に気を巡らせれば回復力が強化され、気を放てば遠距離攻撃も可能となる。


634 : 中国気功クラブ ◆H3bky6/SCY :2020/11/29(日) 17:48:29 0FuZhOqs0
投下終了です


635 : ◆H3bky6/SCY :2020/11/30(月) 00:00:44 fhZtpMMU0
【告知】
現在予約されている作品がなくなった時点で区切りとして第一回定期メールを投下します
予約がなくなるまでに新たな予約が来た場合は新規予約が投下完了するまで待ちますのでご安心ください
投下したい作品がある方は、それまでに予約及び投下するようよろしくお願いします


636 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:16:36 Y4GJ9bKM0
投下します


637 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:19:24 Y4GJ9bKM0


氷の棘みたいな少女だった。

透き通るように美しく、どこまでも真っすぐで。

その棘はどこか触れるだけで砕けてしまいそうな脆さと共に、自分自身すら傷つけるような鋭さを持っていた。

私はその在り方を美しいと感じたのだ。



すっかり秋の気配が身をひそめた冬の放課後。
私は誰もいなくなった廊下をぶらついていた。
吐く息も白く、自らの足音だけが響く静寂とひんやりとした空気が心地よい。

行く当てもなく廊下を進む。
1-1の教室の前を通り過ぎたところで、誰の居なくなった教室でカーテンがはためいたのが見えた。
窓を閉め忘れたのかと思って教室を覗き込むと、窓際の席でジャージ姿の少女が茜色に染まる外を眺めていた。
少女が斜陽に照らされ風に吹かれるその様は何と言うか絵になるなぁなんて、そんなことを思った。

「鈴原さん……だよね? なにしてるの?」

思わず声をかけていた。
そのまま教室に入って、彼女の前の席に座る
少女は目の前に座った私を一瞥して、すぐに視線を外に戻した。

「あ。知ってる分からないけど、私2組の滝川利江、よろしく」

努めて明るく声をかけるが返事はなかった。
視線すら向けず冷たい態度でだんまりを決め込んでいる。
私に構うなと言う意思が全身からにじみ出ていた。

だが、そんなものは知らないと、私もその気配を無視して彼女の前に居座り続ける。
無言の攻防が数分続いて、ようやく私に立ち去るつもりがない事を察しったのか、呆れたような視線をこちらに向けた。

「暇なの?」
「そうかも」

冷たい声に負けずにひょうひょうと答える。
そんな私の態度に溜息をもらして、再び視線を外へとそらした。

「放課後なんだから、することがないんなら帰ったら?」
「つれないねぇ。そういう鈴原さんこそ、なんで残ってるの? 用事があるって訳じゃなさそうだけど」
「別に。どうでもいいでしょ」

刺々しい態度だったが無視を決め込むのはやめてくれたようだ。
会話に応じてくれたことが嬉しくって、気を良くした私は最初から抱いていた素朴な疑問を聞いた。

「なんでジャージのままなの? 1組は6限体育だっけ?」

そこまで言って、失言に気づく。
何故なら1組の体育は2組と合同だから、私のクラスがそうじゃない以上彼女のクラスもそうであるはずがない。
その問いにジャージ姿の少女は外を向いたまま、そっけなく答える。

「制服が濡れちゃったのよ」
「…………あぁー」

その一言で察した。
私が察したことを察したのか、下らないと彼女は吐き捨てた。

「同情なんていらないわ。いつもの事よ」

なんでもない事のように言う。
それがいつもの事なのだとしたら、そちらの方が辛い事なのではないだろうか。


638 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:23:07 Y4GJ9bKM0
鈴原さんは美少女だ。
学年一どころか多分学校でも一番だろう。
こうして改めて顔を眺めていると同性の私ですらドキドキするような色香があった。

当然の様に入学当初から男子からの人気は凄まじく、同級生はおろか上級生からも告白されたなんて噂も後を絶たない。
だが、その全てを彼女はにべもなく袖にしてきた。

どんなふうにかと言うと、私に対応しているこんな風にだろう。
だから軋轢を生むようなその態度せいで要らぬ恨みを買う事も少なくなかった。
手ひどく振られ恨みに思った誰かが、彼女の出自を調べ学校中に張り出した、なんて事件もあったくらいだ。

そして当然の如く女子からの評判は悪かった。
お高くとまってるだの、育ちが悪いから男に媚びうるビッチになるだ、なんて根拠のない悪評は枚挙に暇がない。

そんな感じて彼女は孤立していた。
私が知らなかっただけで、こんな風に直接的なイジメを受けることも珍しくはないのだろう。
イジメなんだから教師が対応しろと思わなくはないが、本当かどうかは知らなないが、生活指導の先生に迫られたなんて噂も聞く。
美少女も大変だ、なんて噂を聞いた隣のクラスの私は他人事のように思っていた。

だけど、こうして実際に話してみた彼女は、私の思っていた印象とは違った。

強くあるために、負けない様に強く心を冷たく尖らせている。
まるで氷の棘を纏ったハリネズミ。
その在り方は孤独と言うより孤高に見えた。

「じゃあ服が乾くまで待ってるって事?」
「そう言う訳じゃないわ。こうしてるのは今日に限った事じゃないもの。
 あなたの方こそ何をしていたの? 部活動って感じじゃなさそうだけど」
「まあね。そうなんだけどさ」

互いに同じように言葉を濁して、沈黙が訪れる。
意地の張り合いだった先ほどとは違う、気まずい沈黙。
その間にひときわ強い風が吹き抜けた。
カーテンが揺れて、冬を運ぶ北風が彼女の髪を梳かした。

「…………帰りたくないの?」

乱れた髪をかき上げながら、向こうから問いかけてきた。
私は答えなかった。
けれど、その沈黙だけできっと答えは伝わっているのだろう。

――――家に居たくなかった。

帰っても、待っているのは飲んだくれの父親だけ。
だから朝は父親よりも早く起きて新聞配達に出かけ。
放課後は年齢を偽ってバイトをして、寝るとき以外はなるべく家にいないように努めていた。
けれど今日みたいにバイトがない日はすることがない。
バイトがあるから部活動をするわけにもいかず、こうして放課後の学校で時間を潰していた。

「鈴原さんも…………そうなの?」
「そうね。帰っても居場所がないもの」

隠すつもりもないのか、それとも私に同類としてのシンパシーを感じてくれたのか彼女はそう素直に認めた。

居場所がないと彼女は言った。
養護施設の暮らしがどんなものかは私は知らない。
だけど学校ではいじめられ居場所のない彼女がそうだとするのなら、それは……。

彼女をイジメる誰も彼もが下校した誰もいない放課後。
この時間だけが彼女に許された誰にも侵されない自由な時間だった。

どこにも居場所がない少女は、こうして誰もいない教室で一人、外の世界を眺めているのか。

ガタンと椅子が揺れる。
私はなんだか腹が立ってきて、衝動のまま勢いよく立ち上がった。

「ねぇ。鈴原さん。こうしていつもぼーっとしてるってことは放課後は暇なんだよね?」
「ま、まぁ……そうだけど」

突然立ち上がった私に驚いたのか、目を丸くして勢いに気圧されるように頷いた。
その顔すらも愛らしいのだから反則だろう。

「だったら。私と一緒にアイドルやらない?」




639 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:24:43 Y4GJ9bKM0
「見えてきましたよ利江さん! もうちょっとですから頑張ってください」

鳥の声一つない静かな森に元気な声が響いた。

殺人鬼の襲撃を辛くも退けた三条由香里と滝川利江は神社を目指していた。
目的は利江が殺人鬼より受けた毒の治療である。
ルール説明によれば神社では状態異常の回復が可能だという話だ。
そのルールに希望を託し二人は一路神社を目指していた。

毒の効果は命に係わるため一刻も早く治療を行うべきなのだが、その歩みは亀のように遅い。
だが、それも致し方あるまい。

毒を受けた利江の顔色は青紫に染まり、下着姿の全身からは完全に血の気が引いていた。
足元は毒の影響か覚束なくなっており、もはや支えがなくては一人で歩くことも難しい状況にある。
その利江に体格的に劣る由香里が肩を借して歩いているのだから、歩みの遅さは目を瞑るべきだろう。

桐本戦で発揮された下剋上スキル効果によるステータス上昇効果はとっくに切れている。
素の由香里のステータスでは人一人支えて歩き続けるのがどれだけ大変なことか。
それでも励ましの言葉をかけ続けながら利江を支え続ける由香里の健気さに文句など言えようはずもない。

その道中、由香里はずっと利江に話しかけていた。
利江が離れてからの事。自分の事。HSFの事。話題は尽きなかった。
毒に侵さされていなければ水商売で培ったトークスキルで話を盛り上げたのだろうが、思考の回らない今では相槌しか打てなかった。
由香里もそれは分かっているのか、一方的に捲し立てていた。

ゆっくりと、だが確実に進む二人の歩みは荒涼たる火山エリアから橋を渡り諸島エリアへと突入していた。
既に目的地である神社を構える森の中へと踏み入り、森に敷かれた参道を辿る。
そこからどれほど進んだのか。
ようやく目の前に赤い鳥居と台座に構える狛犬の姿を認めた。

「あとちょっとですよ、もうひと踏ん張りです利江さん!」

目的地が目に入ったところで息をつくでもなく、そのまま鳥居をくぐり境内に足を踏み入れる。
たった40人しかいない世界において音一つない静けさは珍しい事ではないのだが、何処か神聖な静謐さを感じさせた。

だが神社にたどり着きはしたが目的はここからだ。
毒の治療が行える場所を探さなければならない。
由香里は神社の探索を開始する。

だが探索と言っても境内はそれほど広くはない。
おみくじ売りの売店がある訳でもなく、手を清める手水舎もない。
あるのは賽銭箱を構える小さな社だけである。

何かあるとしたらこの境内社しかないのだが。
賽銭箱に投げる小銭はないので、取りえず賽銭もなしに鈴緒を引いてカランカランと鈴を振る。

『はいはーい。神社のシェリンですよー』

神社の鈴はその音色で魔を祓い清め神様を呼び込むものとされているが、現れたのは紅白の巫女服姿の電子妖精だった。
参加者にとって不吉な予兆でしかない存在だが、今は彼女たちが縋るべき唯一の希望である。

「利江さんの毒を治療してください!」

開口一番由香里が叫んだ。
シェリンはニッコリと笑って答える。

『毒の治療は20ptとなります』
「え、無料じゃないの!?」

想定外の返答にあわあわと困惑する。
言われてみれば要GPと書かれていた気もする。

「ど、ど、ど、どうしましょう!? あたし最初のアバター作成で全部使い切っちゃってポイントなんて持ってないですよ!?

あたしってきっちりした女だからと謎の後悔を見せながら慌てふためく由香里。
対照的に要救助者である利江は落ち着いていた。
ぐったりとして騒ぎ立てる元気もないだけなのかもしれないが。


640 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:26:25 Y4GJ9bKM0
「……落ち着きなさい、最初のメールで10ptは貰えるでしょ?」
「メール? これですか…………あ、ほんとだ」

いきなり海に叩き込まれたドタバタに加え、直後の殺人鬼に襲撃によってメールを確認するどころではなかった。
ここにきてようやく由香里は初めてメールを開く。

「やった! 10pt貰いましたよ利江さん!
 これで合わせて20pt。なーんだ、大丈夫じゃないですか」

やったやったと踊るように喜んで、ほっと胸をなでおろす。
これで利江の治療に関する問題点はクリアされた。
由香里は改めて巫女姿のシェリンへと向き直る。

「じゃあ私と利江さんで20pt支払うんで、治療の方よろしくお願いしまーす」
『ダメでーす。分割支払いは認められていませーん。GPはお一人が一括でお支払いくださーい』
「えぇ……っ!」

だが、またしても申請は拒否された。

「え、じゃあ、あたしのポイントを利江さんに渡せないんですか?」
『はい。譲渡は可能ですよ』
「あ、そうなんですね。なら私の全ポイントを利江さんに譲ります」
『それでは手をつないでコネクトを行ってくだい』
「ん? こうですか」
「ちょっと由香里……待ちな、」

由香里が利江の手を取った。
利江が言葉を挟むが、その前にコネクトが開始され由香里の全GPが利江へと譲渡される。

「どうです? 行きました?」
「……19pt」
「え?」
「今の私のGPは19ptよ」

利江のGPは19pt。
解毒に必要な20ptには1pt足りない。

「って、なんでですかぁ!!?」
『手数料です。GPの譲渡は1割が徴収されます』
「…………ああもう、考えなしなんだから。ちゃんと説明は最後まで聞いてから実行しなさい」
「えぇ、もっと早く言ってくださいよ……!」

言おうとしたがその前に実行したのは由香里である。
今の利江に素早い反応を求めるのは酷だろうが。

「1ptくらいいいじゃないですか! まけて下さいよぉ!」
『ダメです。1ptもまかりません』

由香里は値切り交渉を始めるが、AI相手にそれは無意味だろう。
こうして無駄な交渉を続けている間にも時間は刻一刻と過ぎ去ってゆき、毒に侵された利江に残された時間もまた減っていった。

時間を無駄にしている場合ではない。
頭を切り替えて別の方策を考えなくてはならないだろう。
由香里は落ちかけた頭をガバっと上げて、パチンと見ずからの両頬を叩く。

「――――決めました」

その目には何かの決意を固めた色が秘められていた。
その様子を見て、青い顔の利江は苦笑いを浮かべる。

この感じは知っている。
HSFの誇るトラブルメーカー、暴走の予感だ。

「……待て由香里。どうするつもりだ?」
「他の参加者を探してptを譲ってもらいます!」
「いや……待て……」
「大丈夫ですって! 人助けのためなんだから1ptくらい譲ってくれますって!」
「そうじゃない…………危なすぎる」

ここは殺し合いをするゲームの舞台で、彼女たちも実際に殺人鬼に襲われたばかりだ。
あんな危険人物の居る場所で無作為に話しかけに行くなどリスクが高すぎる。

「そうですけど、これしか手がないじゃないですか!」

別の方策があるのかと問われれば、利江にだって答えられない。
だが、それでも自分のためにかわいい元後輩を危険にさらすなど望むはずもない。


641 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:29:35 Y4GJ9bKM0
「ダメだ……待ちなさい」
「へっへ。止めたって無駄ですよ! 今の利江さんには私を止められないですよねぇ!」

何故か悪役めいた口調で煽るHSFの暴走列車。
一度言い出したら聞かないのだから、いつもなら頭を叩いて力づくで止めていたのだが、毒で弱った状態では実力行使も難しい。

「……そうじゃない。譲ってもらうなら1ptじゃなくて3ptにしなさい」
「3pt?」

こうなるともう止めるのは無理だと判断して、せめて最善となるよう誘導する方針にした。
言われた言葉の真意が分からず由香里は首をかしげる。

「………………シェリン、1ptを委譲した場合どうなるのか具体的に説明して」

自分で説明するのも億劫なのか、シェリンへと説明を投げる。

『はい。1ptを委譲する場合、手数料で1pt差し引かれて、移譲されるポイントは0ptとなります』
「えぇ!? 0ptぉお!? 詐欺じゃないですか詐欺!!」
『詐欺じゃないです。そういうシステムでーす』

やかましく騒ぎ立てる由香里と違いその答えを予測していた利江は黙したまま、ただ苦々しく表情をゆがませ息を荒くする。
システムである以上、抗議は無意味だ。
納得はできていないようだが、由香里もそのシステムを受け入れた。

「だとしても2ptでよくないですか? 1ptはおまけ?」
「そんなわけないでしょ……由香里への譲渡で1pt。由香里から私への譲渡で1pt。手数料は2pt引かれるのよ」

説明を受けてようやくなるほど、と頷く。
そうと分かれば立ち止まっている時間が惜しい。

「わかりました! じゃあ3pt貰ってきます、それまで死なないでくださいよ! 絶対ですからね!」
「そっちも、くれぐれも危ない人には気をつけろよ、無理せずにすぐ逃げろよ……!」

おつかいに行く小学生に向ける言葉の様だが、互いに本当に命がかかっている忠告だった。
HSFの秘密兵器が走り始める。

「…………行った、か」

後輩が立ち去って張っていた気力が切れたのか、利江はその場に崩れ落ちた。
凍ったみたいに指先が冷たい。
毒が喉にまで回ったみたいだ。
息をするのすら苦しい。

諦めた訳じゃない。
由香里に伝えた方策は助かるためのものだ。
由香里がすぐに戻ってくれば間に合うだろう。

だけど、自分の事だからわかる。
たぶん由香里が戻るまでは持たないだろう。

助かるとしたら、何か奇跡のような出来事でも起きた時だけだ。

だが、奇跡なんかには期待できない。
不幸続きの人生を送った自分に、そういう物が起きないのは知っている。
そんなものに夢を見るほど子供ではいられなかった。

霞み始めた目で神を祭る社を見上げる。

神の前にありながら、いまだ救いの手はない。

[G-6/草原/1日目・早朝]
[三条 由香里]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:B
[ステータス]:疲労大
[アイテム]:大鉈(E)、不明支給品×2(確認済)
[GP]:0pt→10pt→0pt(キャンペーンで+10pt、利江への譲渡により-10pt)
[プロセス]
基本行動方針:HSFみんなと合流。みんなで生きて帰る。
1.助けを探して3ptを譲ってもらう




642 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:31:23 Y4GJ9bKM0
鈴原涼子は死んだような光のない瞳でとぼとぼと彷徨っていた。

その心の中に広がるのは深い絶望。
全身が底なし沼に飲み込まれたように重く気怠い。
足元に纏わりつく絶望を引きずりながら、それでも歩き続ける。

なぜ自分が歩いているのか。
なぜ自分が生きているのか。
そんな事すら分からなくなってしまいそうだった。

キララが■に、可憐も■んだ。
可憐に至っては目の前で■された。

涼子はまだ18年しか生きていない小娘だけれど。
それでも、その人生全てを懸けて手に入れた宝物が僅か6時間と経たないうちにぶち壊されてしまった。
もう二度と同じ形に戻ることはないだろう。

自分の命よりも大切な宝物が壊れて、彼女の心はいつ壊れてもおかしくない打ちのめされた。
脳髄は怒りと恨みで加熱し、悲しみと絶望で凍り付く。
それら全てがないまぜになって狂ってしまいそうだった。
あるいは、もう狂っているのか。

折れてしまいそうな心が未だ形を保っているのは何故か。
鉛よりも重い足が未だに動いているのは何故なんだろうか。

それはパンドラの箱のように絶望の底に残ったひとかけらの希望。

ソーニャと由香里、それに利江は生きている。
もう手遅れで、どうしようもないけれど。
まだ、全てが終わったわけじゃない。

みんなと合流する。
それだけは諦められない。
諦めてはいけないその一本のか細い糸だけが、今の彼女をギリギリのところで支えていた。

壊れかけの心を奮い立たせて奥歯を噛みしめる
決意と共に視界を上げる。
その先には生い茂る木々が広がっていた。
地図によればその先には神社があるらしい。

今更神頼みもないだろう。
涼子は神様に祈ったことはない。
神様は何も与えてくれなかった、当たり前に与えられる環境も、親すらも。
全ての困難は自分の力だけで乗り越えてきた。

だから、そんなものには背を向ける。
一刻も早くソーニャの居る南東を目指さなくてはならない。

数時間前に効いた現在位置に今もとどまっているとは思わないが痕跡くらいはあるかもしれない。
こうしている間にもソーニャも移動しているだろう。
大きく離れないうちに急いだほうがいい。

今いる場所から南東の小島に向かう道は北回りと南回りの2通りがある。
涼子は南から逃げてきた。
つまり南には可憐を殺した連中がいる。

可憐を殺したあいつらは絶対に許せない。
淡々と人を殺して何の感情も見せない昆虫のような男。
その顔を思い返すだけで殺されかけた恐怖と身を裂くような恨みや憎しみが全身を駆け巡る。
だけど、その復讐心よりも、これ以上失うことの方が怖かった。


643 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:34:02 Y4GJ9bKM0
今は鉢合わせにはなりたくない。
向かうなら彼らを避けた北を経由して行くべきだろう。

そう決めて、行動を始めようとしたところで、ふと交換機が目に留まった。
意識しなければ目に入らないほど、当たり前にあるそれを見て思い出す。
キララの件にショックを受けすぎてそれどころではなくなってしまったが、まだ利江の場所を聞いていなかったことに。

涼子は交換機へと近づいて、慣れた様子で画面を操作する。
電子妖精が現れ、涼子は相手の口上を待たずに問う。

「質問よ。滝川利江の場所を教えて」
『了承しました。GPが50pt消費されます。問い合わせを申請しますので少々お待ちください』

前回と同じ事務的な言葉が繰り返され、どこに問い合わせているのか数秒ほど待たされる。
これでGPは完全になくなってしまったが、涼子にとって彼女たち以上に大切なものなどないのだ。
使い切ったところで何の後悔もない。

『お待たせしました。申請が受理されました。
 これからお教えするのはあくまで申請時の現在位置であり、その後その位置に居続けることを保証するものではありませんのでご了承ください』

これまた最初に問い合わせた時と同じ文句が並びたてられる。
急かしても意味のない事だと分かっているので内心の焦りといら立ちを抑えるべく深呼吸をしておとなしく待つ。

『滝川 利江の現在位置はG-6/神社となります』
「え!?」

思わず叫んでしまった。
痛いくらいに心臓が跳ねる。
期待と興奮で血が巡って目眩がした。

涼子の現在地もG-6である。
グループ単位の問い合わせだった前回と違い、単独だったからかエリアだけではなく場所も教えてくれたのか。
先ほど目を背けた森に目を向ける、神社はあの森を超えた先にある。

目と鼻の先に利江がいる。
会いたくてたまらなかった親友がいる。
そう考えただけで、自然と足が動き出していた。

天から垂れる救いの糸をたどるように、森の中を突き進む。
誰かに襲われるかもしれないなんてことは考えなかった
あまりにも前のめりで視野狭窄になっていたこの状況で不意打ちを受ければ、おそらくそのままあっさりと殺されていただろう。

息が切れているのは疲労によるものなのか、興奮によるものなのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、会いたくて会いたくて、疲労すら置き去りにして駆け抜ける。
木の根につんのめり、枝葉にひっかけた服の端が破れ、枝先が掠めた頬が裂ける。
どれほど走ったのか、突然視界が開けた。

石造りの小さな社の背が見える。
森を抜け神社の裏手から境内へと入ったようだ。
切れる息も構わず、涼子は境内社を回り込み辺りを見渡す。

そこに探し求めた彼女はいた。

「利江…………ッ!」
「…………涼、子?」

そうして、数年ぶりに親友は再会した。

互いにどうしようもない死と絶望の気配を纏いながら。




644 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:37:29 Y4GJ9bKM0
「アイドル?」
「そ、アイドル」

あまりにも唐突で荒唐無稽な提案に、私はしばらく呆気にとられ言葉を失っていた。
彼女の提案がどういう意味だったのか、理解しようとしばらく考えてから。

「…………………………………………なんでアイドル?」

思わず素でそう問い返していた。

「うーん。どうしてかぁ」

深い考えがあった訳ではないのか。
言われてから理由を考えているような素振りで顎に指を添えて考え込む。

「鈴原さんはアイドルになりたいって思ったことはないの?」
「ないわよ。そんなの」

そんなものあるはずがない。
週に一度。1時間だけ許されたテレビの中に映る輝きを放つ少女たち。
煌びやかな世界。女の子の憧れ。
その姿に私だって羨望を抱いたことはある。
だけど、そのキラキラした世界は泥の底に浸かった私の人生とは別世界すぎて、自分がそこに行くなど想像したこともなかった。

「あなたはあるの? アイドルになりたいって思ったこと」
「あるよ」

意地悪い皮肉を込めた問いかけに、即答を返されて面を喰らう。

「嫌な事、つらいことがあった時。想像の世界で踊るの。あなたは違う?」

そう言って彼女は目を瞑る。
辛い現実を忘れて想像の世界に逃げる。
それは私たちに許された唯一の逃げ場所だった。

「そんなの……ただの現実逃避よ。実際になれるかどうかは別の話でしょ?」
「そうだね」

夢を見るだけなら誰でもできる。
けれど、夢を実現できるのは選ばれた人間だけだ。

「それでも私は目指してみたいの」
「どうして……?」

私は、私がそんな特別な人間だとはどうしても思えない。
それはきっと、彼女も同じはずなのに。

「私も鈴原さんと同じなの。ここが嫌なのに、どこにも行けない」

私と同じ。
そうなのだろう。
私たちはお互いに同じ匂いを感じている。

ここが嫌で、どこかに行きたいのに。
何の力も持たない子供でしかない私たちはどこにも行けず、何もできない。

「けど、誰もどこにへも連れて行ってくれないから、私たちで行くの」
「無理よ。私たちはどこにも行けない」

逃げ出したかったのに、結局どこにも行けなかった。
連れ戻され、今でもあの養護施設(じごく)にいる。

誰も助けてなどくれない。
それどころか、他人は私を傷つけるモノでしかなく。
誰もどこにも連れて行ってくれない。

だから一人で生きていける強さを身につけなくてはいけなかった。
そう思って、生きてきた。
誰の手も取らず、一人で強く。

「だとしても、目指していれば、少しでも近づけるかもしれないじゃない?」

例えここが地の底でも、空を目指していれば、たどり着けるかもしれない。
空にはたどり着けなくても、ここじゃないどこかへは。

「あなたとなら――――行ける気がするから」

手を取られる。
一人で生きる強い私はその手を振り払わなければならなかったのに。
一人で生きられない弱い私はその手を振り払う気にはなれなかった。

繋いだ手から熱が伝わる。
窓から吹き荒れる冬の風も気にならない。
氷を解かすような熱い体温。

暮れ始めた空。
彼女は輝きを放つ一番星を指さしながら。

「どうせなら頂点を目指そう。一緒に一番星(スター)になりましょう」

誰もいない二人だけの放課後。

まだ一つしかない星の下。

どこにも行けない私たちは、一番高い星を目指した。




645 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:40:00 Y4GJ9bKM0
「どうしたの!? しっかりして利江!」

倒れ込む親友の姿に涼子は駆け寄って身を屈める。
利江は何故か下着姿で境内の石畳の上に倒れ込み、苦しそうに息を吐いていた。
全身は完全に血の気が引いたように白く所々青紫に染まっている。
どう見ても尋常ではない様子だ。

「ははっ。ちょっと……毒を貰っちゃってさ」

その言葉に涼子がここがどこなのか思い出して周囲を見た。
ここは解毒が可能な神社である。
社の前には紅白の巫女衣装を着たシェリンが浮かんでいた。

「治療してシェリン!」
『解毒は20ptが必要です』
「なっ…………」

システムが由香里と利江を絶望させた言葉を繰り返した。
涼子が声を失い顔を青くさせる。

「利江、あなたポイントは!?」
「19pt…………涼子は?」
「…………0pt」
「…………そう」

涼子の答えを聞いて、やっぱりと利江の表情が諦観したように沈む。
一瞬浮かんだ希望が消えてしまったような、そんな顔だった。
だが死に直面した利江よりも、涼子の絶望は深かった。

HSFと利江の現在位置の把握でGPは全て使ってしまった。
譲渡しようにも涼子のGPは1ptも残っていない。
絶対に後悔しない使い方をしたはずなのに。
地獄の底に沈むような深い後悔が待っていた。

1ptでもあればそれだけで助かる命なのに。
死ぬのか。
何よりも価値のあるはずの命が、ゲームのたった1ptのために失われてしまうのか。

「……ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

涙が溢れた。
壊れた様に謝罪を繰り返す。

自分がGPの使い方を間違えなければ助けられたかもしれないのに。
間違えたから親友が死ぬ。
これでは、自分が殺したようなものだ。

「…………何を謝るのよ。バカね」

もはや持ち上げるのも苦しいだろうに、震える腕を上げて私の涙をぬぐう。
僅かに落ちて頬に添えられたその手を握る。
暖かだったその手は、氷のように冷たかった。

「…………むしろ謝るのは私。ずっとあなたに謝りたかった事があるの」
「え?」




646 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:43:20 Y4GJ9bKM0
「その前に伝えておかないと…………」

意識が遠のいてゆく。
私の後悔を晴らすよりも優先すべきことがある。
いつ途切れるかもわからないこの意識が途絶える前に、伝えてるべきことを伝えないと。
私のために危険を冒している彼女のために。

「由香里がいるんだ。私を助けるために他の参加者からGPを貰おうと奔走してる」
「由香里が……?」
「南の方に、向かって行った……すぐに戻ってくるかもしれないけど、気にかけてあげて」
「ええ。分かってる。当然でしょ……!」

ああ、当然だろう。
今となっては途中で抜けた私よりも涼子の方が由香里と付き合いが深い。
私なんかが言うまでもなく、当然のように気にかけるだろう。

「後は…………GPもアイテムも、このままだと無駄になっちゃうから…………少ないけど、全部あげる」
「いや……いやいやいやいやッ! 待って、待ってよ! そんな遺言みたいな事言わないで…………!!」

私の親友は駄々をこねる子供の様に髪を振り乱した。
けどそうじゃない。みたいじゃなくて遺言だ。

いっそこのままとどめを刺してくれればよかったのだけど。
毒に殺されるくらいなら、彼女になら殺される方が良かった。
そうすれば私を殺したGPは彼女に渡り、彼女が生きる糧になって私の死も無駄にならない。

けれど、それは高望みという物だ。
優しい彼女には無理だろう。

ずっと出会いたかった親友に看取られる。
それだけで私にしては十分な奇跡だ。
不幸ばかりだった自分の人生にとって上等な最期だろう。

伝えるべきことは伝えた。
後は、心残りを果たすとしよう。

「――――約束破ってごめんなさい」

この数年間、ずっと言いたかった言葉を告げた。

一緒に一番星を目指すと誓ったのに。

アイドル活動は楽しかった。

現実逃避でしかなかったのかもしれないけど。
夢に向かって何かに打ち込んでいる間は全てを忘れられた。

あの時はお互いだけが支えだった。
一緒に居られればそれでよかった。

けれど、その内、私たちはみんなになって。
大切なものなど何もなかった氷の少女は、多くの大切を得てその氷を溶かした。
必死で纏っていた鎧を脱ぎ捨てたむき出しの彼女は弱くなったのかもしれないけれど。
それでも私が居なくても、みんながいれば大丈夫だって、そう思えたから、私は。

私は輝いていた夢を捨てて、泥まみれの現実を選んだ。

父親が嫌いだった。
お母さんが死んでから、逃げるように酒に溺れ。
働いてもすぐに問題を起こしてクビになってはまた酒逃げる。
遂にはギャンブルで借金をこさえて、私の人生を台無しにした。

あんな飲んだくれのろくでなし、見捨ててしまえばよかったのに。
あの時の私なら、それが出来たはずなのに。
泣きながら土下座する姿に優しかったころの顔がちらついて、見捨てて逃げることもできない。
なんて半端で、最低な私。


647 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:45:47 Y4GJ9bKM0
全身から力抜ける。
ああ、いよいよ終わりの時が来たようだ。
伸ばした腕が彼女の手をすり抜けて落ちる。

「あっ、ああ、あああああああ…………ッ!」

慟哭が聞こえる。
どこからか降り注ぐ熱い粒が体を打った。
体温がなくなろうとしている体には、それこそマグマのように感じられた。

「いや…………死なな、いで。……死なないで、死なないで、死なないでよっ、利江…………ッ!」

霞んだ目に、光が映る。
光ない夜のはずなのに、なんて眩しい。
あれは――――。

「――――――、一番星」
「え」

そんなはずはない。
もうじき夜明け、むしろ昇るのは太陽だ。
一番星どころか星が消える時間である。

だけど見えたのだ。
確かに輝く一番星が。

「―――――あ」

それは涙だった。

昇り始めた朝日を反射する、一筋の星の様な光。

自分に縋るようにして涙を流す少女を見て。

綺麗だな、なんてそんな事を思う。

冷たい冬の教室で、夕日に照らされ外を見ていた少女。

単純に彼女は綺麗だった。
その容姿も、その在り方も、これまで出会った誰よりも美しかった。

アイドルに誘った理由はそれだけだ。

泥の様に現実の沈むを彼女を救い上げたかった。
泥の様な現実から彼女に救い上げられたかった。

私は現実に掴まってしまったけれど。
輝き続けてた彼女みたいに、夢を信じて突き進めなかったけれど。

それでも――――

「今だって輝いてるよ。私の一番星」

[滝川 利江 GAME OVER]

[G-6/神社/1日目・早朝]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱、強いショック
[アイテム]:ポイズンエッジ、海王の指輪(E)、煙幕玉×4、不明支給品×5
[GP]:50pt→0pt→18pt(シェリンへの質問により-50pt、利江からの譲渡により18pt)
[プロセス]
基本行動方針:???
1.由香里との合流
2.近くにいるソーニャとの合流
3.少し遠くにいる由香里との合流
※可憐から魔王カルザ・カルマと会ったことを聞きました。


648 : 一番星目指して ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:46:01 Y4GJ9bKM0
投下終了です


649 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/04(金) 23:47:31 Y4GJ9bKM0
それでは告知の通り予約及び投下を締め切ります
明日中くらいに定期メールを投下しますので少々お待ちください


650 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/05(土) 00:08:58 5qBXxISQ0
>>647
最後に以下の一文を追加で

※勇者殺害により桐本 四郎に30ptが付与されました


651 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/05(土) 17:07:34 5qBXxISQ0
それでは第一回定期メール投下します


652 : 第一回定期メール ◆H3bky6/SCY :2020/12/05(土) 17:09:19 5qBXxISQ0
[重要]第一回定時メール

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。
新しい世界での新しい体験を楽しんでいただけているでしょうか?
これまで以上に勇者の方々にお楽しみいただけるよう誠心誠意努力を重ねていきたいと思っております。

■脱落した勇者のお知らせ

現時点までに脱落した勇者をお知らせします。

02.Brave Dragon
04.青山 征三郎
05.安条 可憐
09.エンジ君
11.神在 竜牙
13.切間 恭一
16.けるぴー
17.郷田 薫
19.篠田 キララ
25.大日輪 太陽
28.滝川 利江
33.焔花 珠夜
36.魔法少女エンジェル☆リリィ

以上。13名が脱落となります。
以上の情報は[[メンバー]]に反映されますのでご確認ください。

現時点で『強敵』は発生していません。
現時点で『勇者』は完成していません。
バトルロワイアルは続行されます。

■塔の支配権のお知らせ

続いて塔の支配権の発表となります。
現時点の塔の支配者は以下になります。

雪の塔:シャ
砂の塔:シャ
水の塔:ヴィラス・ハーク
炎の塔:魔王カルザ・カルマ

塔の支配権を得た勇者の方々にはボーナスGPとして100ptが支給されます。
おめでとうございます!

二つの塔を支配されたシャさんは200ptの獲得となります。すばらしいですね!
皆さんシャさんに出会ったら拍手を送りましょう。

■廃棄エリアのお知らせ

氷雪エリアが破棄されます。
破棄作業は当メール着信から2時間後の8:00に行われますので該当エリアに在中している勇者の方々はご注意ください。

破棄されたエリアに存在する雪の塔は凍結となります
以後ボーナスGPの獲得はできなくなりますが、塔の支配権は維持されますのでご安心ください。

お知らせは以上となります。
これからもを引き続き『New World』お楽しみください。
よろしくお願いします。

※全参加者のメールボックスに下記のメールが同時に届いています。

[アップデート]施設追加のお知らせ
[イベント]鉱石大発掘イベント開始のお知らせ


653 : 第一回定期メール ◆H3bky6/SCY :2020/12/05(土) 17:09:56 5qBXxISQ0
[アップデート]施設追加のお知らせ

中央エリア E-4 お食事
中央エリア C-6 リサイクルショップ
砂漠エリア D-2 ボート貸出所
火山エリア F-3 温泉施設
諸島エリア F-7 放送局

以上の施設が追加されます

【お食事】
GPを支払いお食事をとることができます
食事には一時的なバフ効果など様々な効果があります

【リサイクルショップ】
不要なアイテムを売却しGPに変換できます
変換レートはアイテムごとに異なります

【ボート貸出所】
ボートを貸し出しています(要GP)
ボートは使い捨てで降りた時点で消滅するため返却の必要はありません

【温泉施設】
天然温泉のみならずサウナや露天風呂などを構える温泉施設です
温泉は浸かることで傷や状態異常を徐々に回復できます

【放送局】
海を臨む小さな放送局です
『New World』全体に声を届けることができます

以上の情報はマップに反映されますのでご確認ください。


[イベント]鉱石大発掘イベント開始のお知らせ

〜目指せ一攫千金! 掘って掘って掘りまくれ!

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。

火山エリアで発掘作業が可能となりました!

火山エリアの岩石を掘り進めると、鉱石がドロップします。
鉱山や採掘所ではドロップ率が高く、希少な鉱石も取れやすくなっています。
噂では火山の山頂でしか取れない希少な鉱石もあるとか・・・。

獲得した鉱石は交換所にてGPに変換出来ます。

鉱石ごとに獲得できるGPが異なるため、希少な鉱石を沢山GETしよう!

※STRが高いほど発掘作業は楽になります
※また発掘に関するスキルやアイテムがあるとイベントが有利になります


654 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/05(土) 17:17:05 5qBXxISQ0
定時メールは以上となります

更新後の地図はこちらです、ご確認下さい
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/16.html

メールのタイミングと内容は下記のページで確認できます
ttps://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/185.html

メール着信以降の予約は日付の変わった12/06 00:00:00より開始されます
また予約に関して現在5日間の予約期間を儲けていますが、2日間の延長期間を設けます

よろしくお願いします


655 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:23:04 .FDSoATc0
投下します


656 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:24:28 .FDSoATc0
「…………焔花さん」

朝日に照らされる爆発跡を見つめ、アイナがはらはらと涙を流す。
その胸元には形見のように自分たちのために犠牲となった彼の支給品を握りしめられていた。

焔花は不器用なだけの優しい人間だった。
短い付き合いだったけれど、アイナは心が読めるからこそ彼の優しさを理解していた。
そんな優しい人間が死んでしまったのが、ただひたすらに悲しかった。

悲しむアイナの後ろ姿を見つめながら、善子も拳を痛いくらいに強く握り締めていた。
焔花は自分たちのために犠牲になった。
体を張るのは武術家である善子の役割だったのに、己の無力さに腹が立つ。

何故、焔花の真意を見抜けなかったのか。
爆発で人を傷つけないという彼の矜持を見誤った。。
彼は己の矜持よりも、善子とアイナを助けることを優先したのだ。

彼の尊い自己犠牲にどうすれば報いられるのか。
死者に報いる方法など今の善子にはわからない。
ただ焔花の守ったアイナだけは何としても守らねばと、善子はその決意を新たにした。

新着メールの着信音を確認したのは、ちょうどそのくらいのタイミングだった。
時刻はちょうど6時を示していた。着信は3通あった。

>[重要]第一回定時メール
>[アップデート]施設追加のお知らせ
>[イベント]鉱石大発掘イベント開始のお知らせ

一通は事前に告知されていた死亡者が発表されるという定時メールだろう。
メールである以上、開くかどうかの判断はこちらに委ねられる。
ならば、開かないという選択肢もあるのかもしれない。

だが、命にかかわる重要事項が記されている可能性がある以上、見ないわけにもいかない。
実質選択の余地はないにもかかわらず、わざわざ自分の意志で開かせるというのが底意地の悪さが感じられる。

「…………ひかりちゃん」
「そうね」

アイナもメールの着信を確認したのか善子へと視線を送る。
善子は視線を合わせて頷き、二人は同時にメールを開いた。

まず驚いたのはずらりと並ぶ、13人と言う死者の数だ。
たった6時間で1/3の人間が死んだなどと尋常な事態ではなかった。
あのエンジ君の様な誰かを害そうとする危険な人間がどれほどいるのか想像もつかない。

そこにその名が無い事を祈りながら知り合いの名を探す。
だがその祈りも虚しく、二人はいくつかの見知った名を見つけてしまった。

05.安条 可憐
19.篠田 キララ
28.滝川 利江

アイナにとってはテレビで見る人気アイドルグループHSFのメンバー。
善子にとっては共にアイドル活動を行う仲間でありライバルであり、月光芸術学園の後輩と同級生である。
とは言え、アイナはデビュー前に脱退した利江については知らないし、善子にとっても高等部からの入学だった上に1年にも満たない間に自主退学してしまった彼女とはそれほど面識がある訳ではないが。

だが、可憐は善子にとって親しい友人だった。
誰にでも優しく気の回るいい子だったのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
このゲームの元凶に対する深い怒りが善子の中で沸きあがった。


657 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:26:01 .FDSoATc0
25.大日輪 太陽

善子の親友である月乃は無事の様だが、その兄の名は死者に連ねられていた。
ライブに足繁く通うくらいに仲のいい兄妹だったから、きっとショックを受けているだろう。
善子が傍にいれば慰めてあげられたのだけれど、彼女が誰か心を預けられるような人と一緒にいればいいのだが。

09.エンジ君

彼女たちを襲撃した異常な男。
死者を今更悪く言うつもりはないが彼の様子は完全に常軌を逸していた。
炎上系動画配信者として悪名を馳せてい彼だったが、だからと言って人殺しをするような人間だったとは思えない。
彼もこの殺し合いと言う状況で箍が外れたのか、彼もあるいはこの状況の被害者なのかもしれなかった。

33.焔花 珠夜

そして、最も二人を落ち込ませるのはその名だ。
彼が死んだという事実を改めて突きつけられるようだった。

死亡者の確認を終え、その後の連絡事項に軽く目を通してメールを閉じる。
二人の間に訪れるのは沈黙。重々しい雰囲気に沈む。
これだけの死者が出たのだ、そうなるのも当然だろう。

だが、落ち込んでる人がいる時こそ。誰かを元気づけるアイドルの出番である。
アイドル美空ひかりの役割は、気を落とす少女のために何かしてあげる事だろう。

だが、エンジ君の持つ『アイドルフィクサー』によって美空ひかりからアイドルは失われた。
アイドルが失われた、と言ってもスキルが失われたに過ぎないのだが。

事務所との契約が続いている以上職業としてのアイドルは続くだろうし、勿論こんな事でファンや視聴者の支持を失ったわけでもない。
何も変わったとは思わない。
ならば、この心の中にぽっかりと開いた穴は何なのだろう?

「ひかりちゃん。どうしたんですか?」
「ううん。何でもないよ」

心配そうにアイナが善子の様子を窺っていた。
逆に心配されてしまったようだ。
武術家としても助けられ、アイドルとしてもこれでは未熟だ。
なんて情けない。トップアイドルが聞いて呆れる。

善子は気持ちを切り替える。
美空ひかりとして、アイドルとしての矜持を魅せるために。

「アイナちゃん。歌っていい? 焔花さんや、みんなのために」
「え。う、うん! そうだね、私も聞きたい!」

ひかりは歌う。
ナンバーは3rdシングル『キミへ送るヒカリ』
明るい曲ばかりだった美空ひかりの新機軸を打ち出した美しいバラード。

焔花へ、そしてエンジ君や多くの死者たちへと送る鎮魂歌である。
力強い歌声で紡がれる切ない旋律にアイナが耳を傾ける。

(…………あれ?)

だが、アイナが首を傾げた。
歌詞も音程も正確。
美しい歌声には幾分の曇りもない。

だというのに、心が動かない。
森で聞いた時はあれほど感動と興奮を覚えた生歌なのに、どういう訳か感動がない。

それ以上に戸惑っていたのは歌っている善子である。
歌っているのに、ライブ中に感じる燃え上がるような情熱も、輝くような煌めきも何も感じられれない。
そう、魂からアイドルに関する情熱や煌めきが失われてしまったようにすら感じる。
まさかこれが、アイドルが失われたという事なのか?


658 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:28:04 .FDSoATc0
「――――綺麗な歌声ね」
「ッ!?」

闖入者に歌声が止まる。
歌声に誘われたのか、そこには女がいた。

黒髪の美しい少女だった。
これに関しては善子たちも人のことは言えない有様であるため、わざわざ口にすることもなかったが。
恐らく彼女もこの6時間でそれなりの修羅場を超えたのだろう、衣服は乱れ血と泥で薄汚れていた。

「急に話しかけてしまってごめんなさい。歌が上手いのねあなた」

そう言って少女は笑いかける。
誉め言葉ではあるのだがトップアイドルに向ける言葉としてあまりにも不躾な言葉だった。

「当然ですよ! アイドルの美空ひかりちゃんですよ!」

その言葉に鼻息を荒く憤慨したのは善子ではなくアイナの方だった。
一アイドルファンとして、余りの無知に一言言わずにはいられなかったのだろう。

「そうなの? ごめんなさい、最近の流行には疎くて」
「そうなんですか?」
「ええ。一年ほどこっちを離れていたから」

海外にでもいたのだろうか、少女はそんなことを言った。
それならば近年のアイドル戦国時代に疎くても仕方がないかもしれないが。

「それよりも、教えてほしいんだけど。私と同じ顔をした女を見ていないかしら?」

おかしな質問だった。
?を浮かべて首をかしげる二人に少女は苦笑しながら訂正する。

「ああ、ごめんなさい。双子の姉を探しているの」
「姉妹…………確かメンバー一覧に同じ苗字がいたような」

善子がメンバーに乗っていた参加者の名前を思い返す。
同じ苗字は善子も知る大日輪兄妹とあと一組あったはずだ。
五十音順であるため同じ苗字の続きは印象に残っている。

「ってことは、陣野さん?」
「ええ、妹の優美よ。よろしくね」

そう言って穏やかな笑顔を見せる少女。
物腰も柔らかでステキな女性だなとアイナはそんな印象を受けた。

「ごめんなさい、お姉さんは見てないです。ひかりちゃんも私とずっと一緒にいたから」

そうだよね、と視線を送ると善子も頷きを返す。
その返答に優美は落胆するでもなく、そのままの笑顔でそうと返し。

「それならいいわ。さようなら」
「え?」

ヒュン、と風を切る音。
アイナは何が起こったのか分からなかった。
気づけば、善子の胸に抱きかかえられていた。

善子は振り下ろされる凶爪からアイナを庇いながら、優美の胴の中心を蹴った。
相手を後ろに弾き飛ばすとともに、その反動で自らも後方に跳ぶ。
タッと地面に着地して抱えていたアイナを下すと、尻もちを付いている優美に対して怒りをあらわに叫んだ。

「いきなり何をするの!?」
「何って、言ったじゃない。さようならって」

先ほどと変わらぬ様子で平然とそう言い、ゆっくりと立ち上がる。

「やだ、この辺濡れてるじゃない」

何事もなかったように、尻についた湿地帯の泥を払い落とす。
まるでアイナを殺そうとしたことよりも、自身の汚れのほうが重要と言った風である。
その態度に、善子もアイナも戸惑うしかない。


659 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:30:14 .FDSoATc0
「なんでアイナちゃんを攻撃したかって聞いてんのよ!?」
「だって、あの女の行方を知らないのならもう用がないんだもの。用がないならお別れするのは当然でしょ?」
「あなた……何を」

余りにも何を考えているのかわからない言動。
アイナはそれを読み取ろうとして。

「………………ぁ」
「アイナちゃん!?」

瞬間、頭を抱えながら泡を吹いて昏倒した。

アイナは見てしまった。
彼女の心を。
その闇を。
それは、一瞬で少女の許容量を超えた。

アイナは生まれながらのテレパシストとして多くの人間の心を見てきた。
心の綺麗な人、汚い人。良い人、悪い人、気持ちの悪い妄想をする人もいた。
けれど、これほど壊れた心を見たのは初めてだった。

それほどまでに女の心は壊れていた。
むしろ、これほどまで壊れた人間が先ほどまでにこやかな顔で正常なやり取りを行っていた事実に恐ろしくなる。
あるいは、あれが彼女の正常なのか。

一瞬同調しただけで昏倒するような狂気。
読心能力が常と違って任意発動のスキルになっていたのは幸運だった。
そうでなければ、アイナの心は完全に壊れていただろう。

地面に倒れたアイナは白目をむいて痙攣していた。
意識を失ったアイナを庇うように抱きかかえながら善子は優美を睨みつける。

「…………何をしたの?」
「知らないわよ。何でもかんでも人のせいにしないで」

襲い掛かってきた事を棚上げして女は言う。
その様子からは罪悪感という物が感じられない。
むしろ、お前らが悪いといった態度である。

「そう……。一応私たちを殺そうとする理由を聞いておいていいのかしら?」

単純に殺し合いに応じただけなのかもしれないが、目の前の女から感じる殺意はあの男、エンジ君に近い。
どこか私怨めいた執念のようなモノが感じられる。

「だって、あなたは私を助けてくれなかったじゃない」
「……何の話?」

返答の意味が分からなかった。
彼女とは初対面である、善子にはまるで心当たりがない。
アイドルとして一方的な恨みを買う事は少なからずあるが、優美は善子がアイドルであることすら知らなかった。
ならば恨みを買う覚えなどないのだが。

「私があれだけ辛くて苦しかったのに…………ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと私は助けてって叫び続けたのにぃいいいいいいいいいいいいッ!!」

まるで話がかみ合っていない。
言語の通じない宇宙人との会話の様だ。
いや、言語が通じているからこそ、肌が泡立つような恐ろしさがある。

少女の目は他者を見ていない。
にもかかわらず、その憎悪だけが他者に向かっていた。
なんて黒くて、矛盾した炎。

「能天気にお気楽な歌なんか歌っちゃってさ、アイドル? ハッ! 笑わせる。
 幸福な奴は死ね。私を助けなかったヤツは死ね……! みんなみんな死んでしまえぇッ!」

世界のその物を呪うような憎悪の呼び。
感情の起伏がジェットコースターみたいにピーキーだ。
常人ではついていけない速度で優美という女の感情は廻る。


660 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:32:49 .FDSoATc0
「…………なっ」

善子が言葉を失う。
それはおよそ日常ではお目にかかれないB級ホラーめいた異様な光景だった。

女の憎悪に呼応するように、その腕が音を立てて変形する。
指先から伸びる爪は鋭いなどと言う次元ではない。
完全に人のそれから外れ獣の如く鋭く異形化していた。

「ハハハハハハハハ! 死んじゃえよお前ッ!!」

壊れたように笑いながら、振りかぶるような体勢から巨大な腕を振り下ろす。
ナイフを連ねたような巨大な腕、人間を引き裂くには十分な脅威である。
それを眼前にして、善子は恐れることなく前に踏み込んだ。

善子は師範代である我道の様に路上での真剣勝負の経験はない。
だが、それがどうしたというのか。
ステージでの真剣勝負なら常にしている。

我道が自慢げに語る1対50の喧嘩での勝利など笑わせる。
こちとらドームで1対50000の戦いを繰り広げているのだ。
度胸だけなら誰にも負けるつもりはない。

懐に踏み入り、爪を避けて手首を払う。
いなされた自身の腕の振りの勢いに体勢を崩した優美に対して、眉間に手の甲、人中に一本拳、水月に掌打。
威力ではなく速度を重視した3連撃を見舞う。
加減はしているが人体急所たる正中線への連撃。一時的に敵を無力化するには十分な攻撃だった。

「――――痛っ……たいなぁあ!!」

だが、止まらない。
手応えがなかったわけではない。
いや、むしろ確かな手応えがあったにも関わらず止まらないのが異様だった。

「止ぉおおまる訳ないでしょおおがッ、この程度の痛みでええええええぇぇぇッ!!!」
「っ!?」

意表を突かれたのは善子の方だ。
片腕で首を掴まれた。
体格的な差異はないはずなのに、持ち上げられ足が浮く
見れば女の筋肉は肥大化しており、体格は成人男性程度にまで膨れ上がっている。

指が首に食い込んでゆく。
両足が浮いている以上、筋力勝負で振り払うのは無理だ。

「ぐ……ッ! セイッ…………!!」

即座に善子は意識が落ちる前に掴まれた首を軸に足を振るって、振り子のように蹴りを放つ。
柔らかな関節から放たれる蹴りは顔面を直撃し、優美が体勢をぐらつかせる。
その衝撃で握力が緩んだ隙に解放された善子が、体勢を立て直して距離を取った。

一瞬でも判断が遅れていれば命取りな状況だった、今度は加減する余裕はなかった。
全力蹴りが顔面に直撃したのだ、これで倒れないというのなら正真正銘の怪物だ。

「ひっ……どいなぁ、女の子の顔を蹴るだなんてぇ」

仰け反った体がゾンビめいた動きで立て直される。
確かに効いているはずなのに精神が肉体を凌駕している。

だが、襲い来る動き自体は素人だった。
戦い慣れているような感はあるが近接戦の技量は師範代などと比べれば赤子も同然である。
打ち負けることはないとは思うが、奥底から湧き上がる嫌な予感が尽きない。
どこか打てば打つほど敵が強くなるような錯覚を覚える。

「あぁ…………ッ! そんなにかわいらしくて強いなんて! ムカつく、ムカつくなぁ!
 私はあんな風になっちゃったって言うのにさぁッ!!」

狂ったように頭をかきむしる。
鋭い爪で頭皮が抉られ血が垂れた。
血走った眼を見開き、牙のように鋭い歯を噛み鳴らし口端から涎を垂れ流す。

正気ではない少女が憎悪を口にし狂気に奔るたび肉体が不気味に脈動する。
ギリギリと歯ぎしりをする牙が伸びる。
膨れ上がる筋肉はもはや成人男性を超え熊のようだ。

その外見は既に少女とは呼べまい。
怪物、そう呼ぶに相応しい。


661 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:36:35 .FDSoATc0
進化し続ける怪物を前にして空手一つでいつまで保つか。
だが相手がこうも敵意をむき出しにしている以上、一人ならともかくアイナを抱えて逃げるのは難しいだろう。

前羽の構えを取る善子の目が細まる。
アイドルと空手は長年培った美空善子を作る大きな要素だ。
その片翼であるアイドルが失われた影響か、彼女の中で武道家としての側面が強まっていた。
目の前の敵を打ち倒す。善子の思考がその方向にシフトしていく。

逃げ延びるには完全に昏倒させるか、最悪、命を奪うかだ。
そうはしたくはないが、実戦の矜持に関しては師範代に口酸っぱく言われていることだ。
戦うからには、殺し殺される覚悟を持てと。

何より、善子はアイナを守らなくてはならない。
命を懸けた焔花のためにも、覚悟を固める必要がある、あの時の彼のように。

「…………だ、ダメです、そんなの」

いつの間に意識を取り戻したのか、止まらない涙と鼻水を流しながら、アイナが震える手で善子の袖を引いていた。
アイナは善子の心を聞いた。
自分のために善子に人を殺す覚悟なんて持ってほしくない。

「ダメです…………あの人と戦っちゃ」

何より、あんな悲しい相手と戦うなんてできない。
その心が見えたのは意識を失うまでの一瞬だったが、アイナに伝わったのは狂ってしまう程、辛くて苦しくて、助けを求める心だった。
確かに狂って壊れてしまった心だけれど、それでも誰かに歪められて壊された悲しい人だった。

「…………アイナちゃん」

理由までは分かっていないが、アイナの言葉は不思議と正鵠を射ているところがある事は善子も気づいている。
その言葉は信頼していいとは思うが。

「と言っても、ねぇ…………ッ!」

トン、と軽い力でアイナを押し出し、両手を開いてダンプカーみたいに向かい来る優美を迎え撃つ。
向こうから攻めてくるのだから、戦うしかない。

横薙ぎに振り抜かれる腕を下からかち上げ軌道を逸らす。
勢い余って駆け抜ける優美の背中を、すれ違いざま前蹴りで蹴り飛ばし距離を取らせる。

まだ、捌ける。
まだ捌けるが、そろそろきつい。
相手の肉体の強化がまだ続くと言うのなら、限界は近い。

「だ、大丈夫です、これがあるから」
「それは…………!」

そう言って、アイナが握り締めていたのは焔花が残した支給品の一つだった。
この状況、この一瞬なら、それは確かに効果的なアイテムだろう。

「っえーい!」

彼女なりの気合の掛け声とともに、アイナが手にしていたボールを放り投げた。
ボールは優美に向かって緩い放物線を描く。
だが、そんな物が当たるはずがない。

遅すぎる上に、向かっている方向がそもそも見当はずれの方向だ。
優美が何をするでもなく、ボールはベシャリと水っぽい音を立てて何もない地面に落ちた。

瞬間。
球体がパカリと開いて、中央から黄色い光が弾けた。

「ッ!? があああああああああああああああッ!!?」

優美が叫びをあげる。
善子に蹴り飛ばされ、優美が足を踏み入れたのは薄い水の膜が張った湿地帯であった。
そこに対して、球体から電撃が流れる。

意志に関わらず電撃は強制的に筋肉を弛緩させる。
これならば、いかな怪物とて動きを止める他ないだろう。

この隙に善子はアイナを抱えて走り出す。
振り返ることなく、駆け抜けていった。

善子に抱えられながら、アイナは後方を見つめていた。
その目に映るのは、恐ろしい怪物のようになった少女。
その姿が醜く歪めば歪む程、それはアイナの目には悲しい存在に映った。


662 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:37:33 .FDSoATc0


球体は数秒間電気を放ち続け、ようやく放出しきったのかその光を収める。
ようやく電撃から解放された優美は、自らを封じ込めていたすっかり光を失ったボールを拾い上げる。
既に、善子たちの姿は見えなくなっていた。

「やって、くれたわね」

恨み言を呟く。
だが、この件で特別彼女たちを恨んだ、と言う訳ではない。
何故なら彼女は元より全てを恨んでいる。
自分を救わなかった全てを世界を。

特別があるとしたら4人だけ。
今はもう3人。この世界には1人だけ。
その特別を殺すためならば、彼女は醜い怪物にだって何にだってなる。

憎悪の化身により、肉体を変質させるたびに怪物になっているのは肉体だけではない。
その精神もまた、怪物に近づいていた。
いや、変質してるのは魂か。

世界を恨み続ける優美は常にそのスキルを発動させ、もはや戻れぬ領域に踏み込もうとしていた。
だが、それでもいい。

「ふふ」

優美は笑う。
醜く歪んた怪物の口で。

優美は笑う。
狂気を秘めた怪物の目で。

優美は笑う。
完全に壊れた怪物の心で。

[D-4/湿地帯/1日目・朝]
[陣野 優美]
[パラメータ]:STR:E→C VIT:E→B AGI:E→C DEX:E LUK:A
[ステータス]:状態異常:興奮、疲労(小)、全身に軽い痺れ、頭部にダメージ、胸部に小さな穴、いずれの傷も自己再生中
[アイテム]:爆弾×2、ライテイボール、不明支給×3(確認済)
[GP]:60pt
[プロセス]:
基本行動方針:全部、消し去る。
1.姉(陣野愛美)は絶対に殺す。
2.自分に再び勇者を押し付けたシェリンも、決して赦さない。
※スキル「憎悪の化身」によるパラメータ上昇は戦闘終了後に数分程度で解除されます。また肉体の変質によって自己再生能力もある程度上昇します。

【ライテイボール】
球体の充電式スタンガン
閉じている間は充電、開いている時に放電する
放電はMAXで1分ほど、充電は2時間程度で完了する

[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・朝]
[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康、疲労(小)
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.逃げる
2.市街地に向かう。
3.知り合いと合流。
※『アイドルフィクサー』所持者を攻撃したことにより、アイドルの資格と『アイドル』スキルを失いました。
GPなどで取り戻せるかは不明です。

[田所 アイナ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康、精神疲労(大)
[アイテム]:ロングウィップ(E)、不明支給品×4
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:お家に帰る
1.優美さん…
2.市街地に向かう。
3.ひかりちゃんには負けない


663 : 壊れた心 ◆H3bky6/SCY :2020/12/10(木) 23:37:52 .FDSoATc0
投下終了です


664 : ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:32:51 mkezfcIA0
投下します


665 : 三度目の正直 ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:33:36 mkezfcIA0
「誰か、誰かいませんかー!」

三条由香里は諸島エリアの中で南西に位置する島の上を駆け回っていた。
彼女はマイクを片手に呼びかけを行っていた。
アイドルがマイクを使うのは本来なら歌うためであろうが、この場においては違う。
目的はもちろん、滝川利江の解毒のためにGPを分けてくれる人を探すことだ。
もう片方の手には利江が言ったように危ない人と出会った時の護身用として鉈を持ったままにしてある。

「人が…私の大切な人が毒で苦しんでいるんです!解毒のためにあと3ptのGPが必要なんです!誰でもいいので助けてください!」

既に何度も何度も呼び掛けた。
だが、それに応える声はない。

(早くしないと本当に危ないのに…!なんで誰もいないのよ!)

誰も来ないことに多少いらつきながらも由香里は助けを求める声を止めない。
メールの着信音が鳴ったようだが、それに気をとめる暇はない。

「お願いです、人の命がかかっているんです!ですから…ですから…誰か来てください!」

既に救いたい人間はこの世にいないことも知らず、彼女は叫び続けている。
しかし、それに反応してくれる者はいなかった。

(この辺りで人がいそうな場所と言えば…あの廃村…)

由香里はまだ廃村に足を踏み入れていない。
村の外から見ると、そこはまさに住民たちが消えて何年も経っているという感じだ。
ボロボロな建物だらけであることがそのことに拍車をかける。

(あんなところに人がいるのか分からないけれど、かすかでも希望があるのなら!)

正直近づきたくもないくらいの廃れ具合だが背に腹は代えられない。
由香里は意を決して廃村の方へ向かって歩みを進め、その中に入った。

(本当にこんなところに人がいるのかしら…)

いざ入ってみるとよりその村の廃れ具合を実感できた。
ほとんどの建物の壁や屋根は崩れて半分以上無くなっている。
中を覗けば床もまた剥がれて地面が見え隠れしている部分が見える。
村中のあちこちで何らかの植物が生い茂っているのも見える。

「誰かいませんかー!」

それでも由香里は諦めず村の中を歩きながら叫ぶ。
ひょっとしたら殺し合いにおびえた誰かがここを隠れ家としている可能性もある。
そんな人に自分たちが殺し合いに乗るつもりがないことをうまく説明できれば快くGPを譲ってくれるかもしれない。

そんな可能性も捨てきれない以上この村の探索をやめるわけにはいかない。
だが、ここでも誰かが応えることはなかった。

(このままじゃ間に合わない…!)

せめて早く人を見つけられるようにと由香里は廃村中の家々を中まで隅々と見て回る。
そんな時、ある民家の中で今までにないものを見つけた。

(あれは、宝箱?)

それは大きな宝箱だった。

それがあった家もまた他と同様ボロボロになっており出入り口の扉も外れて中が丸見えだった。
宝箱には豪華な装飾が施されており、廃村の外観とはミスマッチなように見えた。
だからこそ中にある宝箱が一際目立っていた。

(人は見つからなかったけど、もしかしたらあの中に…!)

なぜあんなところに宝箱があるのかは分からない。
だがここはVRの世界、それもスキルやステータスといった概念があるゲームのような世界だ。
こういった場所に宝箱を隠していてもおかしくないかもしれない。

(それに、あの中にGPか解毒に使えるアイテムが入ってたら利江さんを助けられる!)

由香里は今抱えている問題を解決できるかもしれないと、希望はまだあるのだと思った。

その家の中に入り由香里は宝箱を開けようとした。

近づいた瞬間、宝箱がひとりでに勢いよく開いた。

「よう」

「…え?」

中に入っていたのはアイテムでもGPでもなかった。
中から出てきたのは人間、それも由香里がよく知る人物だった。
その男を由香里は海に突き落としたはずだった。

宝箱から出てきたのは殺人鬼、桐本四郎だった。
桐本は宝箱から顔を出して直ぐに手に持ったバットを由香里へと振り抜いた。


666 : 三度目の正直 ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:34:10 mkezfcIA0
時は少し遡る

「ぐっ…げほっ、げほっ」

桐本は海岸近くで目を覚ました。

(ハ、ハハハ、俺も運がいいってことか)

桐本は溺れた時、本当に死ぬかと思った。
命を奪う側の自分がここまで追い込まれるなんて、殺し合いが始まったばかりの頃は思ってもいなかった。
それでも自分は生きている。
これであの時の娘たちを今からでも殺しに行ける。
桐本が助かったのはたまたま通りかかった笠子正貴によって応急処置を受けたからなのだが、それに気づくことはない。

(あっちに火山が見える。あそこに向かえば…!)

覚醒してすぐ桐本は火山エリアの方へ向かおうとする。
なぜならそこが桐本が突き落とされた場所に他ならないからだ。
あれからどれだけ時が経っているかは分からない。
だがあそこからそう遠くまでは行っていないだろうと桐本は西に向かって歩き出した。

『誰か、誰かいませんかー!』

(……あの声は)

歩いている途中で急に聞こえてきた声は彼が探し求めていた三条由香里のものに他ならなかった。
まさかいきなりその声を聞くことになるとは思っていなかったが、ここで出会えるのならば願ったりかなったりである。

『人が…私の大切な人が毒で苦しんでいるんです!解毒のためにあと3ptのGPが必要なんです!誰でもいいので助けてください!』

どうやらあの時下着女に食らわせた毒を治療するためにあの小娘はこんなところで叫んでいるらしい。
だがそのおかげで居場所が分かった。
そのことが桐本の気分を上げて体を動かすための気力となる。
桐本は起き上がって由香里の下まで行こうとする。

(待ってろよ小娘、今すぐ殺しに…)

桐本はふと、足を止めた。

(このまま行っても殺せるのか?)

そんな考えが頭によぎった。

(くそっ!この俺があんな小娘なんぞに!)

前回の戦いで桐本は敗北した。
認めたくはないが、紛れもない事実である。
そのことへの怒りが湧き上がるがそれと同時に冷静な部分が行動にストップをかけていた。
もし何の対策もせずに行けばまた返り討ちになるかもしれない。
そう考えてしまう自分にも腹が立つ。

この世界にはこの世界ならではの殺し方がある。
そのことは桐本も理解している。
ならば、どう殺すべきなのか?

彼女の現在位置を確かめるべく、身をかがめながら声のした方へ移動する。

(いた)

桐本はその姿を視界にとらえた。
幸い、こちらの方は気付いていないようだ。
その時の三条由香里は廃村に入ろうとしていた。
どうやら人探しの場所を移すようだ。

(…!)

それを見た桐本に妙案が浮かぶ。
桐本は見つからないよう、由香里が入っていったところとは別方向から廃村の中に忍び込んだ。


667 : 三度目の正直 ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:34:42 mkezfcIA0
「きゃあ!」

「ハッハー!また会ったなあ!」

「な、なんであんたがここに…」

桐本の作戦はこうだ
①村の建物の一つに支給品の宝箱(空)を設置する。
②その中に入って待つ。
③近づいた瞬間に飛び出してバットで殴る。

廃村の中に入ってからは建物の影に隠れながら見つからないように移動していた。
そして彼女が他の建物を確認している隙に準備を済ませていた。
外の様子は鍵穴の隙間から見ることができた。
そして目論見通り、本物の宝箱だと思って油断して近づいてきたため不意打ちすることに成功したのであった。

殴られ、吹き飛ばされた由香里はその拍子に手に持っていたマイクと大鉈を落としてしまう。
その大鉈は桐本が拾い上げて切っ先を由香里の方へ向ける。
護身用にと手に持っていたことがあだとなり結果的に奪われる形となってしまった。

「ぐっ…!」

由香里の体にはバットによるダメージが与えられた。
お得意の下剋上スキルはどんな格上が相手でも、はっきり認識しないと発動しない。
そのため、元の耐久力のまま桐本の一撃をくらってしまった。
幸い毒をもらうことはなかったようだが、体中に大きな痛みが走っている。

「あんたに…構っている暇は…ない!」

由香里はこの場から逃げようとした。
海に落としたのに生きていたこと、宝箱の中に隠れていたこと、
気になることはたくさんあるがそれをいちいち気にしていたら解毒は間に合わない。
一先ずここを振り切ってから次の手を考えようと思った。
下剋上スキルもようやく発動し敏捷性が上がっている。
痛みを我慢して走れば振り切ることもできるかもしれない。
後は何とかして隙を作ればいい。
相手を睨みつけながら逃げるための算段を付けようとする。

(ふん、気に入らねえな)

桐本は由香里がまだ諦めてない様子が気に食わなかった。
前回も目の前の小娘はこんな風に自分にたてついた。
どれだけ自分の方が上の立場にあることを教えても、この娘が屈することはないだろう。

だが、桐本には相手の心を折るための手段があった。

「そうそう、お前が必死に助けようとしていたあの女、死んだぞ」

「…え?」

その言葉は由香里にとってとても信じられないものであった。

「さっき俺のメニューを確認してみたらよお、いつの間にか30pt増えてやがったんだ。つまり、俺の毒であの痴女は死んだってことに他ならねえよなあ?」

桐本は宝箱を取り出すときに自分のGPが増えていたことを確認していた。
そして箱の中で定時メールも読んだために滝川利江が死んだことに確信を持てた。
この小娘はそのことも知らず必死になって叫び回っていたことに気付いた時は思わず吹き出しそうになった。

「う、嘘よ、私を騙そうと」

「いいや、嘘じゃねえさ。定時メールにも書いてあるぜ、確かにお前が呼んでいた利江って名前がよお!」

利江の死、それも命を奪った本人である殺人鬼からもたらされたその情報は由香里の心をかき乱す。
男の言葉が真実かどうか確かめる方法は簡単だ、自分にも届いている定時メールを読めばいいだけのことだ。
だがそんなことをすればその隙に男は自分を殺すだろう。
さらにもしメールの脱落者情報が本当だったら、つまり自分は間に合わなかったことになる。
絶対に助けると約束したのにそれを破ったことになってしまう。

「いや、嘘よ、そんな、まさか、いや…!」

由香里の心は激しくかき乱される。
目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。

「残念だったなあ!せっかくお友達を助けようとしていたのに、そのせいで俺に殺されるんだからよお!」

三条由香里の表情は悲しみ、恐怖、混乱が入り混じった状態になっていた。
目の前の女は心が折れかかっている。
今なら逃げることを考える余裕はないだろう。
あとは足を折るなり逃げる手段を奪ってしまえば、煮るも焼くも好きにできる。
そう考えて桐本は手にバットと大鉈を持ち近づいていく。
その時であった

「由香里から、離れて!!」

声が聞こえたと同時に桐本の視界が真っ白に染まった。


668 : 三度目の正直 ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:35:25 mkezfcIA0
三条由香里と桐本四郎が廃村の中に入った頃、鈴原涼子は橋を渡り終えて二人のいる島まで来た。

「どこ、どこなの、由香里!」

涼子は焦燥の念に駆らねながら三条由香里を探していた。

かつての親友を目の前で失い、更なるショックを受けた涼子は冷静になるのに少し時間がかかった。
わずかな冷静さを取り戻してすぐ、彼女はある最悪の可能性が頭に思い浮かんだ。

(早く見つけないと由香里まであの男に殺される!)

涼子が恐れていたのは由香里が可憐を殺した男(笠子正貴のこと)と出くわすことだった。
利江から聞いた由香里の向かった方角は南、つまりあの男がいた場所と同じであった。
奴が別の場所に移動していれば杞憂で終わる。
だが、この数時間で何度も仲間の死を経験した涼子にとってはその最悪の方が起きる可能性が高いと思っていた。

「由香里!由香里!由香里いいい!!」

衰弱した精神でも気力を振り絞って名前を叫ぶ。
既に3人HSFに死亡者が出ている。
彼女はもうこれ以上仲間を失いたくない
まだ由香里とソーニャが生きていることが最後の希望
そのことが涼子のボロボロの精神をギリギリで支えていた。
もし2人を失ったらどうなってしまうのかは少しでも考えたくはない。

そして、彼女が求めるものへの道筋となる出来事が起きた。

『誰かいませんかー!』

マイクを通した三条由香里の声が聞こえた。
涼子はその声が聞こえてきた方に視線を向ける。

(…あそこは)

声が聞こえてきた場所を涼子は覚えていた。
彼女にとって忌々しい思い出の残る場所
彼女の罪の証となる場所
できるなら二度と近づきたくなかった場所

鈴原涼子が神在竜牙を殺した廃村であった。

「そんな、よりによって…」

自分が初めて人を殺した時の光景がフラッシュバックする。
男が苦しそうに死ぬ様子がまた脳裏に浮かぶ。
あの村で罪を犯したことが全ての悲劇の始まりだったかもしれない。
仲間が死んだのはその罰なのかもしれない。

「…でも、いかないと」

でも、もしこのまま行動せずにいたら可憐の時のようなことがまた起きる。
それが何より一番怖い。
あの男の恨めしそうな顔が脳裏をかすめる。

(…今はあなたを気にしている場合じゃないの)

自分の過ちを自覚すると罪悪感で体が震えてくる。
だけど、何よりも大切なもののために涼子はそんな状態でも村の中に入っていく。

村に入ると何者かの声が聞こえたのでそちらの方に歩を進めた。
そして見つけたのは探し求めた三条由香里の姿とここでは初めて見る男の姿だった。

男はあの時の殺人警察官とは別人だった。
だが、彼が危険人物であることは一目で分かった。

その男は右手に大鉈を、左手に金属バットを持っていた。
男の前には由香里が恐怖に引きつった顔で座り込んでいた。
これだけでも彼女が今現在襲われている最中であることが見て取れる。
つまり、三条由香里は絶体絶命の大ピンチであるということだ。
そのことを理解した瞬間、なぜこんな状況になったかを思考するよりも体が先に動いた。

「由香里から、離れて!!」

そう叫ぶと同時に涼子は煙幕玉を取り出し2人がいる方へと投げつけた。


669 : 三度目の正直 ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:36:15 mkezfcIA0
「うわっ、なんだこりゃ!?」

「由香里!こっち!」

「りょ、涼子さん!?」

地面に着弾した煙幕玉は破裂して辺りに煙をまき散らす。
突然の出来事に桐本は驚いてしまう。
その隙に涼子は由香里の手を引いてその場から立ち去ろうとする。

「くそっ、逃がすか!!」

桐本は手に持つ凶器を振り回しながら煙を追い払おうとする。

「くっ!」

偶然にも鉈が何かを切り裂いた。
どうやら2人のうちどちらかに当たったようだが肉を切り裂く感触は浅く手ごたえは薄い。
傷つけたにもかかわらず2人がこの場から離れていく足音が聞こえる。
どうやら致命傷には程遠かったようだ。

「ちくしょう、どこ行きやがった!」

視界が晴れると2人は桐本の目の前から消えていた。
桐本は辺りをきょろきょろと見渡しながら2人の姿を探す。
だが村のどこにも彼女たちは見当たらない。

「俺から逃げられると思うなよ…!」

桐本は獲物をまた殺し損ねたことに腹を立てる。
突然の乱入者に邪魔をされたことは彼を更に憤らせる。

この世界に来てから全然自分の思い通りにいかない。
工夫してもそれを嘲笑うかのように望んだ結果を得られない。

「今度こそ、今度こそ絶対に殺してやるからなあ!!」

廃れた村の中で殺人鬼は一人怒りの咆哮をあげる。

[G-6/廃村内/1日目・朝]
[桐本 四郎]
[パラメータ]:STR:B VIT:D AGI:A DEX:C LUK:B
[ステータス]:疲労大、ダメージ(小)、激しい怒り
[アイテム]:野球セット(金属バット)(E)、大鉈(E)、野球セット(グローブ、ボール)、大音量マイク、大きな宝箱&鍵、不明支給品×1(確認済)
[GP]:25pt
[プロセス]
基本行動方針:人が苦しみ、命乞いする姿を思う存分見る。
1.さっき逃がした女2人を確実に殺す。
2.まだ遠くには行ってないはずだから探し出す。
3.称号とか所有権は知らんが、狙えるようなら優勝を狙う。

【大きな宝箱】
桐本四郎に支給。
豪華な装飾が施された宝箱。
最初に支給された状態では中は空っぽ。
大人一人が入れるくらい容量は大きい。
鍵もついており外からかけることができる。

【大音量マイク】
三条由香里に支給。
使用すると、その時いるエリア全体にまで音声を届かせることができる。


670 : 三度目の正直 ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:36:49 mkezfcIA0
「涼子さん、ごめんなさい。私のためにこんな…」

「いいのよ、あなたが生きているのなら、それで」

由香里と涼子の2人は共に殺人鬼から逃れるべく村から出て走っていた。
先ほど傷つけられたのは涼子の右腕であった。
涼子はもう片方の手で傷口を抑え、痛みに耐えながら走っていた。
自分を庇って傷ついてしまったことを由香里は申し訳なく思う。
不幸中の幸いか、顔色を見た感じでは自分と同じく毒状態になることはなかったようだ。

「あの、利江さんが…」

「………その話は後、まずはあなたの無事が先決よ」

由香里は利江の解毒が間に合わなかったことを涼子に謝ろうとした。
だが涼子はまるでそのことを知っているかのように言葉を遮った。
顔を見れば普段と全く違い、まるで地獄でも見てきたかのように暗い表情をしていた。
その変貌ぶりは本当に涼子本人なのか少し信じられないほどだ。

(あれ?その指輪は確か…)

涼子の指をよく見てみると利江が持っていた海王の指輪がつけてあった。
つまり少なくとも彼女の支給品を回収できるだけの何かがあったことは確かだ。
由香里は涼子と利江の間に何があったのかはまだ知らない。
もし彼女らが再会できていたとしたら一体何が起きたのかは気になる。

でも、一先ずはあの殺人鬼から逃れることを優先しよう。
そう判断して由香里は涼子に連れられてその場を走り去った。

[G-6/草原/1日目・朝]

[三条 由香里]
[パラメータ]:STR:D→B VIT:C→A AGI:B→A DEX:C→A LUK:B→A(下剋上の効果でLUK以外が一時的に2ランク上昇(上限A)
[ステータス]:疲労大、ダメージ(中)
[アイテム]:不明支給品×1(確認済)
[GP]:0pt
[プロセス]
基本行動方針:HSFみんなと合流。みんなで生きて帰る。
1.涼子さんと一緒に殺人鬼から逃げる
2.メールを読んで利江さんが本当に死んだのか確かめる
※第一回定期メールをまだ確認していません。

[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱、右腕に切り傷、出血(小)
[アイテム]:ポイズンエッジ、海王の指輪(E)、煙幕玉×3、不明支給品×5
[GP]:18pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.由香里と一緒に殺人鬼から逃げる
2.ソーニャとの合流
※第一回定期メールをまだ確認していません。
※可憐から魔王カルザ・カルマと会ったことを聞きました。


671 : ◆5IjCIYVjCc :2020/12/12(土) 23:37:40 mkezfcIA0
投下終了です。


672 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/13(日) 00:04:20 f.z1KtDo0
投下乙です
宝箱から飛び出すミミック桐本、廃村に巨大宝箱はシュールすぎるw
HSFの二人は首尾よく合流出来てよかったけど、殺人鬼との追いかけっこから逃げ切れるのか
今度こそメンバーを守り切れるのか、リーダーの試練と受難は続く


673 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/13(日) 00:34:14 f.z1KtDo0
【修正報告】
>>669で桐本 四郎に滝川 利江殺害のGPが加算されていないようでしたのでwiki上で下記の様に修正しました
作者の方はご確認の上、問題ありましたらご報告ください

修正前
[GP]:25pt
修正後
[GP]:25pt→55pt(勇者殺害により+30pt)


674 : ◆5IjCIYVjCc :2020/12/13(日) 12:27:57 hpRvEIWg0
すいません。GPについては忘れていました。修正ありがとうございます。


675 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:21:50 sUEVXHTA0
投下します


676 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:22:50 sUEVXHTA0
もともと射撃は好きだった。

狩猟が趣味である父に付き合わされ、射撃のいろはを叩き込まれた。
めきめきと実力をつけジュニアハイスクールを卒業するころには腕前は父を超えていた。
海兵隊に入隊してからも、その技術は抜きんでており軍内の射撃大会で優勝を重ねる。
その腕を見込まれ戦争に駆り出され最前線へと赴くこととなる。

戦場でもその実力は遺憾なく発揮され、アーノルドは多くの伝説を残した。
敵軍はその帽子につけられた特徴的な赤い羽から『レッドフェザー』と彼を恐れた。
その首には敵軍から破格の賞金が懸けられ、彼一人を殺すためだけに12人の精鋭狙撃手が送られたこともあった。
そのことごとくをアーノルドは返り討ちにした。

成果には達成感があったが、決して人殺しを楽しんでいたわけではない。
彼は敬虔な信徒であり、敵兵を殺す度に神への祈りは欠かさなかった。
全ては自分の後ろにいる戦友やその先にいる国民や子供たちのため、何より愛する家族を守るために戦っていた。

そんな彼の転機は僻地に取り残された友軍を救うべく、僅かな部下を引き連れ敵軍の一個中隊を相手取った時だった。
アーノルドは指揮を執る将校と連携の要である通信兵を的確に狙撃を続け、中隊の組織的行動を瓦解させ、実に1週間の足止めに成功する。
その成果もあって友軍は無事に撤退できたものの、最後まで戦場に残り続けたアーノルドは敵空軍機による援護爆撃を受け、足と腕を失う事となった。

その負傷によりアーノルドは前線から退き、彼が撤退して程なくして大国である祖国は小国を相手に撤退を余儀なくされた。
それは敗北と言っても過言ではないだろう。少なくとも歴史的にはそう扱われている。

自分がいたのなら勝てた、などと己惚れはしない。
彼がどれほど優秀な狙撃手であろうとも、一個人で戦果を翻すことなどできないだろう。
ただ、戦場に未練を残した。

彼は、最期まで戦いたかったのだ。
最期まで戦場に居続けたかった。
体は戦場にいられなかったからこそ、心が戦場に置き去りになってしまった。

戦場に置き去りになった心を取り戻す手段は戦場に赴く以外にない。
傷痍軍人となったアーノルドからは、その心を迎えに行く足は失われてしまった。

心を取り戻せぬまま、彼は年老き、難病を患う。
徐々に病状は悪化してゆき、最近では動くことすらままならなくなってしまった。

だが、彼は十分すぎるほどに生きた。
穏やかな生活を得て、暖かな家族にも恵まれた
傍から見て文句のつけようのない人生だろう。
後は天よりの迎えを待つばかりである。
未練は未練のまま、取り戻せないまま終わるのだと、そう思っていた。

だが、奇跡のような機会を得た。

もう一度、動ける。
もう一度、歩ける。
もう一度、戦える。
もう一度、銃をとれる。

戦場だ。
目の前には戦場がある。
大義もなく、戦友もなく、それでもなお戦場があるのならば。

ただ戦う。
どのような結果になろうとも、今度こそ最期まで戦い続ける。
それが果たされた時、戦場に置き去りにした心を取り戻せるような気がした。

どうせなら勝って生き延びるのがいいが、別段死んでもいいし負けてもいい。
ただ、終わりたいのだ。
終わりまで戦い抜いた結果なら、きっと未練なく終われる気がする。

それがアーノルド・セント・ブルーの戦争だ。




677 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:25:25 sUEVXHTA0
稼働することのない死した工場の屋根の上。
煙を吐くことない煙突の下に狙撃手はいた。

狙撃の安定するうつ伏せの体勢ではなく、有事の動きやすさを考え座り込んだ体勢で足膝を立て両腕をクロスさせライフルを構えていた。
うつ伏せ状態よりも目立つのが欠点だが、今の彼は透明化により目視できない状態にある。
僅かでも動けば無効化される最低ランクのスキルだが、彼は工場地帯南端での攻防より北部に移動して数時間、決して楽とは言えぬその体制のまま微動だにせずにいた。

スナイパーの仕事は耐える事である、数時間程度では苦にもならない。
戦時は敵司令官を暗殺するべく、その後を追って3日間匍匐前進を続けたことすらあった。
痕跡を残さないために屎尿は全てズボンの中に垂れ流しにして、全身虫刺されで水膨れ用になったあの時を思えば、排泄も睡眠も不要で虫の一匹もいない状況は高級スイートルームにいるように快適だ。

そうして待ち続けている間に夜も明けてきた。
世界を覆っていた闇を朝日が払い光が照らす。

本来であれば、朝日の訪れはスナイパーにとって歓迎するべきものだ。
夜はスナイパーの天敵である。
相手が明かりのある場所にいるのなら話は別だが、光のない場所へのスナイプなど暗視スコープ無しで出来るようなものではないのだから。
だが、千里眼と夜目のスキルにより夜の狙撃を実現させてきたアーノルドにとっては一方的な有利を捨てる事となる。

スナイパーライフルのような射程であればどうとでもなるだろうが。
千里眼があるとはいえ目視撃ち程度の射程となると撃てば相手からも容易く補足されてしまうだろう。

寄られればスナイパーは終わりだ。
先ほどのように詰められるようなことがあってはならない。
朝となったここからの行動は、より慎重を求められる。

ここが特殊な世界であることは十分に理解している。
かと言ってこの齢でヴァーチャルだのゲームだの新しい要素に柔軟な対応ができるとは思わない。
実際、孫のやってる最近の遊びも彼にとってはチンプンカンプンだ。

アーノルドにできることなど元より一つだけ。
出来る事と言えばその精度を高めるだけである。

先ほどは意固地になって制限時間のギリギリまで粘った挙句、白兵戦まで持ち込まれてしまった。
何とか運よく勝利を拾えたが、あれは失態だ。
同じ間違いは侵さない。

朝日によってリスクは上がったが、シルエットしか捉えられなかった夜よりも狙撃自体の条件はいい。
心掛けるべきは一撃必殺。徹底すべきは一撃離脱。
スナイパーとは元よりそういう物だが、ここには撃っても簡単には殺せない化物がいる。
そんな化物だって、さすがに頭部を撃ちぬき脳症をぶちまければ死ぬはずだ。

先ほど届いた定時メールによれば積雪エリアが破棄されるらしい。
この報せは北に構えるアーノルドにとっては好都合だった。
沈む積雪エリアから脱するには、各エリアに続くいずれかの橋を通ることとなる。
『Rats desert a sinking ship.』の格言の通り、逃げだすネズミを狩る楽な仕事だ。
狙撃手は待ち続ける。

そうしてメールの着信から程なくして、橋を渡る人影があった。
獲物がかかった。
橋を進む相手の動きに合わせてミリ単位で銃口を動かし引き金にそっと指をかける。
青い瞳を凝らして集中力を高めたアーノルドの千里眼が、その顔を捉えた。

見覚えのあるその顔にアーノルドが僅かに困惑する。
朝日に照らされるその顔は、彼がこの世界で最初に遭遇した不死身の化物に酷似していた。
あれから積雪エリアに渡り、エリア破棄に伴い戻ってきたのだろうか?
女の行動を推察したが、即座にそれを否定する。

どこか違和感がある。
この距離だ、はっきりとしたことは言えないが、最初の女とこの女はどこか違うように感じた。
怪物化した姿と健常な姿では違うのは当然と言えば当然なのだが、そうではない。
最初に出会った化物は夜よりも昏い闇を纏っていたが、今橋を渡る女はどこか朝よりも眩しい光を感じさせる。
あくまで印象でしかないのだが、同一人物にしてはあまりにも真逆な印象だ。

銃口は正確に頭部を捉えている。
後は引き金を引くだけだが、撃つべきか撃たざるべきか。

火力不足な状況は変わっていない。
仮にあの化物女本人だった場合、撃ったところで最初の繰り返しになる可能性は高い。
不用意な攻撃をするよりはリスクを回避するのも選択肢の一つだろう。

だが、朝日も昇り対象はよく見える。
ターゲットまでの直線状に障害物なく強い風もない。
勘を取り戻していなかったあの時とは違う。
条件はいい。あの時は決められなかったヘッドショットを決める自信はある。

逡巡は刹那。
アーノルドは心を決めた。
女が橋を渡り切ったところで撃つ。
その瞬間を平常心のまま伝説の狙撃手は待つ。


678 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:27:45 sUEVXHTA0
だが、橋を渡り切る直前、女が唐突に足を止めた。
それに合わせて動きを追っていた銃口も止まる。
何事かとアーノルドは様子を伺う。

女の視線が動く。
それは偶然か、はたまた必然か。
その視線は、銃を構え狙いをつけているアーノルドの方向を見た。

気づいているはずがない。
現在のアーノルドは透明化している。
見たところで見えるはずもない。

だが、数百メートル越しに視界が交錯する。
そしてアーノルドの千里眼が捕えた。
愉しげに釣り上がる、その口元の笑みを。

瞬間、アーノルドは引き金を引いていた。

幾多の戦場で何度かあった、アレは殺さねばならぬ存在だと本能が訴えかけるような感覚。
その感覚に従いアーノルドは即座に殺害を決意した。

狙いは完璧にして正確無比。
弾丸はその命を華と散らさんと女の頭部に向かって吸い込まれるように向かって行き――――額に触れる直前でピタリと静止した。
その代わりと言ったように女の胸元で何かが弾けた。

何が起きたのか。
その理解が及ぶ前に、女は眼前の弾丸に布切れのようなものを被せ手を振るった。

「ッ!?」

アーノルドが横に転がる。
弾丸のような何かが飛んできた。
カウンタースナイプは常に警戒していたため避けることができたが、動いたことにより気配遮断や透明化は解除された。
狙撃手は即座に撤退を決める。
この距離ならば撤退するに十分な時間があるはずなのだが。

「ひっどいわねぇ、女の子の顔を撃つだなんてぇ」

声は背後から聞こえた。
どうやって、などと言う無意味な疑問を抱くよりも早く、アーノルドは反転しながら背後を撃ち抜く。

銃声が響き薬莢が落ちる。
だが、取り回しの悪いライフルを乱暴に振り回して狙いがずれたのか、弾丸は相手が避けるでもなく明後日の方向に外れていった。

「元気ねぇ、お爺ちゃん」

そこには、クスクスと笑みを浮かべた女が立っていた。
整った顔立ち。黒髪黒目の黄色人種。チャイナかジャパニーズか、はたまたコリアンか。
人種特有のものかその顔は幼く見えるが、纏う雰囲気は幼稚さとはかけ離れ老練さすら感じさせる。

アーノルドが後退る。
だが、ここは屋根の上である、逃げ道などない。

近接された時の備えとして周囲にはトラップを張り巡らせている。
今はそれが仇となった。
想定していた逃走経路には、立ち塞がるように女が立ってた。

それは生来のモノか、はたまたそう言うスキルなのか。
女はその観察眼で周囲に仕掛けたトラップを見抜いているかのように、自然な振舞いで実に的確に逃げ道を塞いでいた。

他に逃走経路があるとするならば、この屋根の上から飛び降りるくらいのものだが。
ここは地上から25m程の高さで、下は固いコンクリートの地面である。
飛び降りなどそれこそ自殺行為だろう。

それでも、この女とまともに相対するのなら、そちらの方がよっぽどましなのかもしれない。
そう感じさせるほど、目の前の女は異様であった。

先ほど殺した少年は、決死の覚悟を秘めた戦士だった。
そう言ったモノをアーノルドは戦場で多く見てきた。
だが、目の前の相手は覚悟や決意などなく、それでいて平和ボケしているわけでもない。
そう言ったモノを超越しており底が見えない。

この距離では逃げられない。
敵兵が出会ったならば、どちらかが死ぬまで離れられぬ距離。

アーノルドは静かに、半身になってボウイナイフを逆手に構えた。
スペツナズ・ナイフはバネが強力過ぎて一度放ってしまえば再装填するのは難しい。
近接戦でまともに使えるのはこのナイフ一本だけだ。

これまでアーノルドは多くの敵兵を殺してきた。
屈強な兵士も、特攻する少年兵も、嫌疑だけの民間人も、敵陣深くに構えた敵将校も。
スコープの先に捉えた相手は例外なく全て撃ち抜いてきた。

これが狙撃銃、せめて拳銃ならば違ったのだろうが、手に握る大振りのナイフが何とも心許ない。
敵を前に初めて予感する。
殺せる気がしない。


679 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:30:39 sUEVXHTA0
「……なんなんだお前たちは?」

思わず口をついていた愚痴のような疑問に女が反応した。
お前たち、という複数を示す言葉の意味を愉しそうに受け止めている。

「あら、妹に会ったの? 元気だったぁ? あの子」

当たり前の日常会話のように女は言う。
ともすれば、その姿は妹の心配をする姉の様でもある。
アーノルドは答えない、女は気にせず続ける。

「そうそう私が何者か、だったかしら。
 とある世界では勇者なんて呼ばれていたこともあるけれど、今はここにいる全員が勇者なんだったかしら? だとしたら少し紛らわしいわねぇ」

うーんと目を閉じて思い悩むポーズをとる女。
アーノルドは言動など無視して隙あらばすぐさま攻撃に移るつもりだったが、一切の隙がない。
というより、どう見ても全身が隙だらけなのに、斬りかかれば間違いなく返り討ちになると直感がそう告げていた。

「そうねぇ――――神様、なんて呼ばれてたこともあったかしら」

女は自らを神と謳った。
それは自惚れか、はたまた真実か。
どちらにせよ正気とは思えない。

「なるほどイカれてるのだな、姉妹共々――――!」

右腕に構えたナイフではなく、左腕の袖口に隠したスペツナズ・ナイフの刀身を投擲する。
それは半身にした死角からの不意を突いた一撃だった。
にもかかわらず女は笑みを浮かべた表情一つ変えず、分かり切ったことのように首だけを傾け最低限の動きだけで躱した。

だが、空を切ったナイフが一本のワイヤーを断ち切った。
その先に繋がれた手榴弾が爆発する。

爆炎が上がる。
しかし女は爆炎が上がる背後を振り返りもしなかった。
当然だ、女には爆炎も破片も届いていない、手榴弾が破壊したのは別のモノである。

爆炎の代わりに、女に影が落ちた。
それは倒壊する巨大な煙突の影だった。

爆破解体のように破壊位置を調整し煙突を倒した。
アーノルドも多少は巻き込まれるかもしれないが、背に腹は変えられない。
屋根全体を押しつぶさんと石造りの煙突が倒壊し、tを超える超重量が女を押しつぶさんと襲い掛かる。

だが、女は笑う。
この程度、危機の内にも入らぬと。

それは異様な光景だった。
煙突の影よりも長く、朝日に照らされた女のシルエットが伸びる。

それは黄金。
女は自らの身の丈ほどもある巨大な黄金のハンマーを細い片腕で事もなげに振り上げていた。

金色の暴風が薙ぎ払われる。
それは倒れこむ煙突を容易く打ち払い、一瞬で石塊に変えた。

現実離れした凄まじい破壊を生み出した黄金の軌跡は止まらない。
女は踊るように廻る。
金色は弧から円を描き、そのままアーノルドへと襲い掛かる。

アーノルドはとっさに身を引く。
だが、逃げ場のない屋根の上でその凶悪なまでの速度と射程を前に逃げ切るとなどできようもない。

戦車砲にも匹敵する一撃が構えたナイフごと右腕を打ち抜き、完全に砕いた。
アーノルドの体はドライバーで打たれたゴルフボールみたいに撥ね飛んで、対面の工場へと叩きつけられる。
そのまま壁を削るようにしながら地面に落ちた。

壁にぶつかって衝撃が分散されたのは幸運だった。
幸運と言っても、即死しなかったという程度のものでしかないが。

アーノルドは即座に立ち上がろうとして、失敗する。
叩きつけられた際にどこかで潰されたのか、左足が動かなかった。
ハンマーの直撃を受けた右腕も、もう使い物にならない。

この世界でせっかく取り戻した手足も元通りである。
絶望的ともいえるこの状況に、アーノルドは凄絶な笑みを浮かべた。

それでもまだ、生きている。
生きているのなら戦える。
ここには彼から戦いを取り上げる者はいない。
アイテム欄からライフルを取り出して杖代わりにしながら立つ。

吹き飛んだアーノルドを追って女が屋上から飛び降り、事もなげに両足で着地する。
それほど強化されているのか、根本的な能力値(ステータス)が違う。
その力を得るためにこの短時間で何人殺したのか。

壁に背を預け杖代わりにしていたライフルを左腕で構える。
ライフルは連射性の低さと取り回しの悪さから近接戦に向いていない。
まして片腕ではまともに狙いをつけることも難しく、素早いレバーアクションは望めない。

撃てたとして一発。
この一発が勝負を決める。
その覚悟をもって、女へと銃口を向けた。


680 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:33:29 sUEVXHTA0
「あら? まだやるの? いいわよぉ、撃っても」

銃口を向けられても逃げも隠れもせず、女は両手を広げて全てを受け入れるような体勢を見せる。
目の前の女が神聖な存在に見えて吐き気がした。
朝日を背にするその様は神々しさすら感じさせる。

アーノルドは熱心な教徒だ。
子供のころから日曜の礼拝を欠かしたことはない。
戦場にいた頃だって毎日、神への祈りと感謝は欠かさなかった。

そんな彼でも神と対峙したことはない。
戦場に神などいなかった。
あったのは鉛と火薬と人の業だ。

人は頭を撃ち抜けば死ぬ。
化物であっても頭を打ち抜けば死ぬだろう。
ならば、神は頭を打ち抜けば死ぬのだろうか?

「怖がらなくていいわよぉ。安心なさい。殺しはしないわ」

見当はずれな言葉だ。
死に恐れなど無い。
恐れるとするのなら、それはむしろ。

「殺しはしない、だと…………どういう、意味だ」

血を流しすぎたのか、朦朧とした頭で問う。
自らの胸に手を当てながら、救いを謳う神は告げる。

「あなたは私と一つになるの、全ての苦痛、全ての苦悩を私が呑み込み、その全てを愛してあげる。
 あなたは私の中で死ぬこともなく永遠に生き続けるの」

正しく女は人の苦を救う現人神だった。
苦悩を抱える老兵を救ってくれると言う。

冗談じゃない。

「……そんなのは、御免だね」

銃を構える。
青い瞳で神を睨む。

そんなものはいらない。
そんな救いはいらない。

この神を名乗る女は、戦場での死すら奪うのか。

銃を突き付けられても神は不動。
慈悲すら感じさせる笑みで迎え入れる。

それは老兵の弾丸では死なぬという余裕か。
女が信じているのは何か。
耐久か、幸運か、それとも運命か。

少なくとも、その弾丸を撃ったが最後、すぐさま老人を取り込む算段だろう。
そんな事はアーノルドも理解している。
それを理解したうえで、引き金を引くことを決めた。

銃声が響いた。
救世の神を否定する、最後の弾丸が放たれる。
笑みを浮かべていた女が、初めて余裕を崩した。




681 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:35:20 sUEVXHTA0
「――――やられたわね」

弾丸は老兵の頭部を吹き飛ばしていた。

あの瞬間、アーノルドは長い銃身を片腕でクルリと回して、大きく開いた自らの口の中に銃口を向けた。
そして、躊躇いなく引き金を引いた。
それほどまでに神の中で生き続ける事を拒み、戦場での死を選んだ。

愛美にとって最悪の一手だ。
自らの愛が否定されたこともそうだが。
死なれてはその魂を取り込めもしない、自殺ではGPも貰えない。

勝利したこと事態を喜ぶべきなのだろうが、彼女にとっては勝利などという物に価値はない。
戦いなど勝って当然、そもそも戦いですらない。
全てを己とする慈愛である。

命を守るという貴重なお守りも消費してしまった。
老人の残したアイテムを回収するが大したものはなさそうだ。
総合的に見て損だったが、収穫はあった。

優美の動向を知れた。
人探しスキルによって何となくの方向は分かっているが、直接接触したと思われる人物に出会えたと言うのは大きい。
その足跡をたどって行けば、最終的に出会えるだろう。

自己にして他者、他者にして自己。
完全魔術によって己となった者たちとは違う。
唯一無二の元は一つだった己の片割れ。

人探しスキルなどに頼るまでもない。
予感がある。
運命が近づいている。

再会の時は近い。

[アーノルド・セント・ブルー GAME OVER]

[D-7/工業地帯/1日目・朝]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)、天命の御守(効果なし)(E)、ゴールデンハンマー(E)
発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、魔法の巻物×4、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(5/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、掃除機、不明支給品×7
[GP]:90pt
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C

【天命の御守】
命を守る御守。
向けられた殺気に反応して振動し、致死となる攻撃を一度だけ防ぐ。
効果が発動すると中の護符が消滅し効果はなくなるが御守自体は残る

【巻き戻しハンカチ】
包んだ対象の動作を包んだ秒数だけ巻き戻すハンカチ。
戻せるのは最大で1分まで、戻せる対象はハンカチで全体を包めるものに限られる。

【シャッフル・スイッチ】
マーキングした対象と自身の位置を入れ替えるスイッチ。
対象は非生物のみで生物は不可。指定できる対象は一つまで、指定する際に触れている物に限られる。
対象の再設定は行えるがそれまでの設定は解除される。
対象との距離に制限はないが、距離が離れるほど再使用までの時間は長くなる。
具体的なインターバルは[移動した距離(m)×1秒+1分]


682 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/19(土) 22:35:35 sUEVXHTA0
投下終了です


683 : 最後の弾丸 ◆H3bky6/SCY :2020/12/20(日) 00:16:17 wwQnizPw0
>>681
すいません現在位置、変更し忘れてたので修正します

[D-7/工業地帯/1日目・朝]

[C-6/工業地帯/1日目・朝]


684 : ◆ylcjBnZZno :2020/12/28(月) 14:26:23 MQKQw40.0
期間超過してしまい申し訳ありません。
投下します。


685 : ◆ylcjBnZZno :2020/12/28(月) 14:30:06 MQKQw40.0
 高井丈美は足を止め、思案していた。

 時計がAM6時を表示すると同時に届いた第一回定期メール。その内容は衝撃的なものだった。

 ゲームが始まってから6時間が経過しているが、攻撃的な人物にも遭遇せず、戦いに巻き込まれることもなかった丈美は、自分が殺し合いの場にいるという現状にいまいち実感が持てていなかった。
 なんなら誰も脱落なんかしていないんじゃないか、などと考えてすらいたのだがそんな楽観的な考えは見事に打ち砕かれた。
 丈美のあずかり知らぬところでゲームは進行しており、今しがた届いたそのメールによると最初40人いた参加者はその内13人が脱落してしまったらしい。

 無機質に並べられた名前の数々。その中には丈美が知っている名がいくつもあった。

 04.青山 征三郎。
 優美たちが失踪した事件を解決しようと動いてくれていた、正義感の強い探偵さんだった。顔を合わせたことも、言葉を交わしたこともそう多くはなかったけれど。
 この殺し合いで唯一と言ってもいい、無条件で信頼できる人間だった。
 きっとここでも優美たちを探し出そうと行動し、犠牲となったのだろう。

 17.郷田 薫。
 優美の元カレだったものの、愛美の誘惑に乗ってあっさりと乗り換え、最後には捨てられてしまった愚かな男だった。
 優美の紹介で、丈美と初めて顔を合わせた際にも非礼な言葉を投げかけてくるような奴だったから、第一印象から今までずっと嫌いな相手で『死んでしまえ』と思ったことがないと言ったら嘘になる。我道たちに言った『一緒に帰りたくはない』と言う言葉も偽らざる本音ではあったけれど。
 それでも、見知った相手が永遠にこの世から失われてしまった事実は丈美の心をざわつかせた。

 05.安条 可憐
 19.篠田 キララ
 28.滝川 利江
 三人とも、ソーニャから聞かされていたHSFのメンバーたちだ。
 アイドルとして華々しい活躍をしていた彼女たちに何の落ち度があって、こんな催しに参加させられ、そして命を落とす羽目になったというのだろうか。
 メンバーであるソーニャはもちろん、ファンとして彼女たちを応援している人たちの悲痛な顔が脳裏に浮かび、胸が締め付けられるような思いがした。


 ゲームは丈美の想像を超えたペースで進行している。
 仮に今回脱落した参加者全員が異なる誰かの手にかかっていて、その下手人たちが全員ゲームに乗った上で生存していると仮定した場合、生存者27人の内、約半数がゲームに乗った危険人物であると仮定することもできる。

 あくまでこれはかなり悪い想定だが、どの程度当たっているにせよ間違いなく数を減らしているゲームに抗する意思を持つ者たちをなるべく早く我道たちと合流させてやらなければならないとは思う。


 一方、黙って送り出してくれた彼らには悪いが、自分にとって最も優先すべきは陣野優美との合流だ。
 したがって、優美がいそうな場所を優先的に探すのが好ましい。我道たちの仲間となる者の捜索はあくまで優美捜索のついでであるということは変わらない。

 では優美がいそうな場所と言えばどこだろう。

 真っ先に思いつくのはやはり市街地だ。
 優美は基本的にシティガールで、休みの日に二人で出かけるときは大抵繁華街に繰り出していた。慣れた環境に身を置きたがるというのは十分に考えられる。
 
 逆に候補から外れるのは大森林だ。優美は虫の類が大嫌いで、虫を寄せつけるからと植物からも距離を取りたがっていた。
 同じような理由から湿地帯も捜索優先度が下がる。

 そしてもう一つ丈美はある施設に注目していた。
 それは先ほどのメールで追加されることが告知された五つの施設の一つ。


686 : ◆ylcjBnZZno :2020/12/28(月) 14:32:15 MQKQw40.0

「温泉……かぁ」

 優美は風呂に入るのも好きだった。
 学校の施錠時間ギリギリまで練習を行い、その後は決まって銭湯に行っていた(丈美も、ほかの部活メンバーたちも何度も一緒に行った)
 風呂くらい家で入ればいいじゃないか、と訊かれると『広くて気持ちがいいから』と笑っていたけれど、本当の理由はそうではないことも丈美はよく知っていた。

 まあとにかく温泉だ。
 理由はどうあれ風呂を好む優美が、追加されたその施設に対してひとかけらの興味も示さないとは考えにくかった。

 人間がこのような特殊な状況下で普段のような行動を取るかと言われれば丈美自身確信は持てない。しかし丈美は普段の優美の姿しか知らない以上、普段の優美の言動や思考以外にその行動を予測する手がかりがないのだ。

 そこまで考えて丈美は走り出す。目指す先はもちろん温泉だ。
 市街地に入ったところで建物全てを検分することはできない。温泉との位置関係を考えると、全体をくまなく捜索してから温泉に向かうというのはいささか非効率だ。
 ここから温泉施設に向かう際に市街地エリアの南端部分を通り過ぎることになるので、そこだけは軽く捜索していこう。



 そうして30分ほど走り続けると、草が生えた剥き出しの地面が突然舗装されたアスファルトの道に換わる。
 どうやら市街地に進入したようだ。

 片道一車線の車道に整備された歩道。その脇に立ち並ぶ高低様々な建造物群。
 大都会と言うよりはそこから少し外れた郊外の街。そんな印象。
 死角は多く路地も入り組んでおり、くまなく捜索するには思ったより骨が折れそうだ。

「足止めてる場合でもないか」
 
 そうつぶやくと走りながら建物の中、路地、屋根の上などをチェックし始める。


 バレーボールにおいてブロックとはただ高く飛んでブロックを阻めばよいというものではない。
 セッターの視線や手の角度などからトスが上がる方向を予測し、上がったトスのスピードから攻撃のタイミングを読み、スパイカーの助走の角度や体の向き、目線からスパイクのコースを予想する。
 こうした細やかな情報を、スパイカーに振り切られないよう走り回りながら瞬時に掌握し、正確に処理した上で、高く跳躍することが求められるのだ。

 関東はおろか全国レベルでも優秀なミドルブロッカーとして名を馳せるようになった丈美も、こうした技術を高いレベルで身に付けていた。


 故に、小ぢんまりとした診療所の中で、何をするでもなく行ったり来たりしている人物を発見できたのも、ある意味では必然とも言えるのかもしれなかった。



◆◆◆



 こんこん、と扉をノックする音に枝島トオルの心臓は飛び跳ねる。
 診療所の中で見つけた果物ナイフを大慌てで握り、音のした玄関を睨む。

 傷の処置を終え、定期メールを確認した枝島の心は遅れてやってきた恐怖に支配されつつあった。
 13人もの人間が命を落とした。『コンティニューパペット』がなければ14人目として己の名が連なっていたかもしれないのだ。
 そのうえ自分を救ってくれたアイテムはもう失われ、まともに身を守る手段もないまま、陣野優美や連続殺人犯・桐本四郎のような危険人物が跋扈する会場に足を踏み出すことができずにいた。

 そんな彼が、ある意味セーフティゾーンのように思っていたこの建物に誰かが侵入しようとしている、もしくは、自分の存在に気付いて接触を試みているという事実に恐れおののくのも無理からぬことだろう。


687 : ◆ylcjBnZZno :2020/12/28(月) 14:34:46 MQKQw40.0

 どんな扉の前にいるのはどんな人間か。
 陣野優美か、桐本四郎か、はたまた、未知なる危険人物か。
 鼓動が早まり、黒い靄がかかったように視野は狭くなる。


 枝島の緊張は扉の外からの声で強制的に解かれることとなる。


「すみません。
 私、高井丈美と言います。戦う気はないので、少しお話しできませんか?」

 声を耳にした枝島はナイフを捨てる。
 視界にかかっていた靄が一気に晴れ、鼓動はさらに早まる。
 ずっとずっと保護しようと、探し求めた教え子の声!
 はじかれたように玄関に飛びつき、勢いよく扉を開ける。

「高井!! 無事だったか!」


 叫んだ枝島の手にガツン!と固いものがぶつかる衝撃が走り、全開にしようとした扉が半ばほどで止まった。

 恐る恐る扉の影から顔を出した枝島の目に映ったのは、透明な膜のようなものに覆われ尻もちをつく高井丈美の姿だった。


「はい、無事ですよ。
 今、結構危なかったですけどね。白井先生」



◆◆◆



「そっかぁ……」

 枝島の目の前には頭を抱えてため息を吐く少女の姿があった。

 この殺し合いの場で、おそらく知己であろう優美に遭遇した丈美が不用意に近づいて殺害される。そんな事態が発生しないよう陣野優美がゲームに乗っていることを伝えたのだが、そのリアクションは枝島にとっては少々意外だった。

「驚かないの?」

 普通自分の知り合いが他者を躊躇なく殺害しようとしているなどと知れば、まずは驚き「そんなはずはない」とか、そんなふうに取り乱すのだろうと思っていた。

 しかし丈美の反応は驚愕よりも落胆の色が強いように見える。


 顔を上げた丈美は苦々しく笑っていた。

「まあ、あり得ない話じゃないなとは思ってたんで。
 そこまでひどい目に遭わされていたとは思ってませんでしたけど、一緒に消えた面々が面々ですからねえ」
「そうか」


 本人が言うならそうなのだろう。あまり追及はしない。
 少なくとも優美とは会ったこともなかった枝島に、二人の関係性を推しはかることなどできないし、深入りすべきじゃあないというものだ。


「それじゃあ君……じゃなかった、あなたはこれからどうするの」
「私は優美先輩に会いに行きます」


688 : ◆ylcjBnZZno :2020/12/28(月) 14:37:07 MQKQw40.0

 枝島の目が見開かれる。
「君、俺の話聞いてたのか!?」

 口調を作ることも忘れて叫ぶ。
 完全にゲームに乗っている危険人物に自ら会いに行こうというのだ。さきほどまでそういう相手を怖れて震えていたことなど棚にあげてでも、止めなくてはならない。
 大人であり教師でもある自分が行くならまだしも、生徒をそんな危険にさらすわけにはいかない。

「あの子は今話が通じる状態じゃあない!
 俺を刺したときだって全然躊躇しなかったし、俺が死ななかったのだって結果論だ!
 君の先輩である陣野優美さんは、知り合いが相手でも躊躇なく殺しに来る危険人物なんだ!
 さっきも言った通り、拉致された先でひどい目にあわされて、ひょっとしたら現実世界に戻りたいとも思っていないかもしれないんだぞ!
 君一人で会いに行くなんて認められるわけがないだろう!」

「先生に認めてほしくて言ったわけじゃありません。私は優美先輩に会わないといけないんです」

「会ってどうする気だ!」

「止めます」

「無理だと言っただろ!」

 二人の口論は完全に平行線をたどる。
 枝島とて止められるものなら優美を止めたい。
 子どもが道を外れたなら正してやるのが大人の責務だ。
 しかしあの陣野優美には、元の道に戻してやったところで、そこを真っすぐ歩くための足も、先を見据える目も奪われてしまったのだという。

 その絶望は五体満足な枝島には推しはかることしかできなかったし、安易に同情などすれば逆上されるだけだろう。

 人生経験の浅い子どもである高井が優美を見てどんな言葉をかけてしまうか、そしてその言葉に優美がどれほど激昂するか。
 想像に難くない。

 とは言えあまり弁が立つ方ではない枝島には、半ば意固地になっているようにも見える高井を説得する言葉が思いつかなかった。


 しびれを切らしたのか、丈美が立ち上がる。

「優美先輩のこと、教えてくれてありがとうございました。
 それでも私は先輩に会いに行きます」

「ま、待つんだ! 高井!」

「そんな姿で正論言っても説得力ないですよ、枝島先生」


 そう言って玄関の扉を開き出ていった。

 どうやら自分が枝島トオルであることを見抜かれてしまったようだ。
 まあこれだけ素を出して話していれば、ばれてしまってもなんら不思議ではない。

 だが正体がばれたことなどもはやどうでもいい。
 己がどんなにみっともない姿をさらしていようとも、自ら危険に足を踏み入れようとする生徒を止めてやるのは教師の義務なのだ。

 追いすがろうと立ち上がった枝島は優美に刺された傷が痛んでうずくまり、その隙に扉を閉められてしまう。

「待てと言っているだろう! 高井!」

 痛む脚を叱咤しながら立ち上がり、玄関を飛び出す。

 しかしそこに高井丈美の姿はなかった。

 おそらくは彼女の持つ『健脚』スキルで視界外にまで走り去っていったのだろう。

 それでも向かう先は予想がつく。
 自分が陣野優美に遭遇した湿地帯がある北の方向だろう。


「行くんじゃない……! 高井!」

 消毒と止血を施しただけの膝が激痛を訴えるが無視して足を前に。
『走る』と表現するにはあまりにも遅いけれど、教師は子供たちのため駆け出した。


689 : ◆ylcjBnZZno :2020/12/28(月) 14:39:06 MQKQw40.0



◆◆◆



高井丈美は建物の屋根の上に立ち、枝島を見下ろす。
 真っすぐ北に歩いていく彼を見るに「湿地帯で陣野優美に遭遇した」という情報に嘘はないようだ。

丈美は枝島に見つからないよう少し迂回気味に進路を選択。
『健脚』と『跳躍』の合わせ技で、まるで忍者のように屋根の上を駆けていく。


もうすぐ会える。
ずっとずっと探し続けた優美に会える。



[F-4/市街地/1日目・朝]
[枝島トオル(枝島杏子)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:B LUK:A
[ステータス]:両肩、両ひざに刺し傷(処置済)
[アイテム]:変声チョーカー、不明支給品×1
[GP]:15pt
[プロセス]
基本行動方針:白井杏子のエミュをしながら生徒の保護。
1.高井丈美を止める。
2.高井丈美を連れて神社で結成されるらしい対主催集団と合流する。
3.他に生徒がいれば教師として保護する。
4.陣野優美、陣野愛美もできれば救ってやりたい
5.耳が幸せ。
※果物ナイフは診療所の中に置いてきてしまいました。そのことにはまだ気づいていません。


[E-4/市街地・屋根の上/1日目・朝]
[高井 丈美]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:バリアブレスレット(E)、不明支給品×2
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:陣野優美の捜索及び保護
1.優美先輩に会うべく湿地帯に向かう。
2.ゲーム打倒を目論む参加者を神社に向かわせる。
3.陣野愛美を強く警戒。極力関わらない。
4.あれが一種のコスプレだとしても、あの指輪の文字はキモイ。
※ヴィラス・ハークの正体を3歳の子供だと考えています
※枝島杏子=枝島トオルであると確信しました。

[備考]
枝島トオル、高井丈美の間で情報交換が行われました。
互いに持っている情報は包み隠さず話しました。


690 : ◆ylcjBnZZno :2020/12/28(月) 14:41:59 MQKQw40.0
投下終了です。
タイトルは「命短し走れよ乙女」です。


691 : ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:44:17 /MRJg7zg0
投下乙です
変態バレより生徒を気にかける教師の鑑
傍から見るとあの姉妹に関わるの自殺でしかないので枝島先生が正論すぎる
それでも突っ走る高井ちゃんヤンデレ味がある

それでは私も投下します


692 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:45:31 /MRJg7zg0
天空慈我道はため息をついた。

パーティの雰囲気は最悪だった。
ライブで共にあれ程の一体感で盛り上がっていたのも今は遠い昔のように感じられる。
あれはあれでおかしな状況だったとは思うが雰囲気としては悪くなかったはずだ。

それらをすべて一撃で打ち壊した原因は一通のメールである。

そこには多くの脱落者の名が連ねられていた。
この数時間で実に3分の1が脱落した。

ここまで危険人物とは遭遇していなかったから、殺し合いと言えどもそこまで序盤から激化したモノではないと思っていたが大間違いだったようだ。
たまたま自分たちのいるマップの端の島が平和だっただけで、人の集まるような場所ではそこらかしこで殺し合っていたらしい。

我道はVRだのはよくわからないが、ここでの死は現実の死であるという。
その話にどこまで信憑性があるのか、我道は未だ半信半疑だが、嘘にせよ真実にせよ胸糞の悪い話である。

幸運な事に我道の親しい人間の名はなかった。
正義は我道に匹敵する実力者だし、善子もみっちり鍛えた愛弟子だ。そう簡単に敗れ去ると言う事もないだろう。
だからと言って、親しい人間の名を見つけたモノの心情を慮れない程、我道は無神経な男と言う訳でもなかった。

友人の名があったのだろう。
アルマ=カルマを名乗る少女は涙を流していた。
けったいな名を名乗りおかしな恰好をしているが、中身は年相応の少女である。

「……アルアル、元気出して下サーイ」

雪の妖精のような少女が片翼の堕天使の背中を擦る。
誰かを元気づけるのがアイドルの役割だと言う自覚からか励ます側に回っているが、脱落者の中にはHSFのメンバーの名があった事を我道は知っている。
表面上は気丈に取り繕っていても彼女が内心で受けているショックは計り知れないだろう。

ヴィラスは相変わらず虚空を見つめて何を考えているのかわからない。
メールを開いているかも怪しいというか、そもそも3歳児ならば文字は読めないだろう。
それはそれで、そんな幼児が巻き込まれていること自体が心配ではあるのだが。

「……気に食わねぇな」

我道はヤクザや半グレを泣かすのは好きだが、ガキどもが泣くのは気に食わない。
この状況を作った誰か。
こんな状況に踊らされて奴が誰かを殺した奴。

この場で殺しをした人間全員が悪だとは言わない。
そいつもある意味では被害者なのかもしれない。
だが、殺すしかないようなどうしようもない悪人は存在するし、我道だって殺す時は殺す。
その覚悟は常にしている。

だが、この少女たちの知り合いがそんな悪人であるはずもない。
それらを殺した輩は間違いなく許しがたい悪だ。

そして何より許せないのは、こんな状況を仕向けた奴らだ。
今もどこかでほくそ笑んでる。

どちらも必ず打ち倒す。
今のうちに大いに笑っておくがいいさ。
見つけ出してその報いを受けさせてやる。




693 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:46:04 /MRJg7zg0
有馬良子は泣いていた。

友達が死んでしまった。
大切な友達が。

登勇太と馬場堅介。
PCゲーム同好会に所属する友達。
メールには彼らがPCゲーム内でいつも使用していたアバター名が記されていた。
良子は漫画部で同好会には遊びに行くだけの関係だったけど、ありのままの自分を受け入れてくれた大切な場所だった。

ファンタジーな世界の住民になりたかった。
普段からそんな幻想を夢想し、想像の中で妄想していた。

自分を持たないほど子供ではなく、上手く世界と折り合いをつけられるほど大人ではない。
そんな中学二年生という時期に疾患する一種の病気、
それに彼女も罹っていた。

元々引っ込み思案な性格で人付き合いが苦手だった。
そんな自分でも幻想に浸っている間は弱い自分を忘れられるようで楽しかった。
その殻を被れば彼女は強くいられた。

けれど非日常を幻想していれば日常で浮いてしまうのは当たり前と言えば当たり前だった。
あいつは変な奴だとレッテルを張られ、世界から浮遊して孤立する。
叶う筈もないありえない幻想はいずれ現実に磨り潰され、折り合いをつけることを強要されるのだろう。

だが、世界の方からやってきた。
叶う筈のない夢が叶ったのだ。

嬉しかった。
楽しくって、浮かれてた。

だから忘れていた。
夢が叶って喜んでいる場合じゃなかったんだ。

ここに名前がある以上、死ぬこともあるって考えるべきだったのに。

何もかも信じられないと、突っぱねることもできただろう。
だけど、信じたくないのに信じている自分がいた。

普段から不可思議なことを夢見てきたからこそ、この状況を受け入れられた。
この状況を受け入れてしまったからこそ、この世界の全てを否定することもできなった。

作ったキャラを含めた私を受けれくれた人たち。
いつの間にか、作ったキャラなんかよりも大切になっていた友人たち。
そんな彼らを失った事を否定できない自分。
そんな自分がどうしようもなく嫌だった。

変えられない自分。
受け入れられない自分。
受け入れられたい自分。

そんな自分を受け入れてくれた大切な人たちだったのに。
ありのままを受け入れてくれた大切な場所だったのに。

だからせめて涙を流そう。
ありのままの自分で。




694 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:46:40 /MRJg7zg0
ソフィア・ステパネン・モロボシはこの催しが大嫌いだった。

彼女は楽しいことが好きだ。
彼女は悲しいことは嫌いだ。

誰かが笑っていれば嬉しい。
誰かが喜んでいれば楽しい。
誰かが悲しんでいるのは悲しい。

だから子供の頃から誰かを笑わせるような事ばかりをしてきた。

そんな彼女にとってアイドルは天職だった。
本気でお笑い芸人と迷ったけれど、どうにも才能はアイドルの方にあったらしく、スカウトを受けてアイドルになった。

最高の仲間たちと共に多くの人を笑顔に出来た。
それだけで彼女の中では満足だった。
頂点を極めるという事にはあまり興味はなかったけれど、より多く、より沢山の人を喜ばせる場所を目指して、気付けば頂点に手が届くところまで来ていた。

だけどそれも終わりを告げられた。
強制的に、どうしようもない悪意を持って。

可憐、キララ、利江。
無機質なメールに連なった彼女たちの名前。

デビュー前に脱退した利江は正規メンバーではないけれど、大切な人だった。
常に全体を気にかけ周りを引っ張ってゆく、リーダーになるはずだった少女。
家庭の事情で辞めていくことになった利江は強がってはいたが辛そうだった。
そんな彼女に笑って欲しくて、笑えるような画像を見つけるたびに送ったりした。
反応はなかったけれど、少しでも笑ってくれていたのならよかったのだけど。

キララはHSFでは一番年下だったけれど一番のしっかり者だった。
何かと適当なところのあるソフィアはよく叱られた。
最初からプロとしての意識を持っていたのはキララだけだったと思う。
彼女がいたから今のHSFがあったと言っても過言ではない。
それくらい大事な存在で、大好きな存在だった。

可憐は親友だった。
放置されがちなソフィアのボケを放置せずツッコミをくれる理想の相棒。
ソフィアの我侭に付き合って漫才大会まで出てくれた。
結果はすぐに予選敗退してしまったけれど、それでも最高の思い出だった。
本当に大好きな一番の親友。

そんな彼女たちが世界から失われてしまった。
それはどうしようもない悲しみとなってソフィアの心を蝕んだ。

誰を笑わせる事もなく悲しみばかり産む。
そんな世界は大嫌いだった。



ヴィラス・ハークは虚空を眺めていた。

金髪碧眼の巨乳美女。
だが、何かを考えているのか感情が見えない。

それもそのはず彼女の正体は人間ではない、生物ですらない。
データの海を泳ぐサメ型ウイルス――――VRシャーク。
それが彼女の正体である。

高井丈美の幼児の様であるという見立ては正しい。
だが単位を間違えてた。
なにせまだ産まれて三カ月の赤子も同然の存在である。
彼女は今まさに世界を学んでいる最中だ。

だがかと言って何も考えてない訳ではない。
それが人に理解しがたいだけで、幼児にだって意志はある。
意志や思考、行動原理は確かにあるのだ。

ただ一つの行動原理に従い、電子のサメは牙を研いでいた。




695 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:48:11 /MRJg7zg0
黒野真央は自棄のように笑っていた。

「ハッハッハッハ! ざまぁないわぇ、ハッピーステップファイブ!
 ハッハッ……ゴホッ……! ゴホッ…………!」

笑いすぎて咽る。
それくらいに愉快だった。

私たちが殺してやった安条の他に篠田も死んだ。
HSFは崩壊寸前で、ざまぁみろだった。
あとは憎っくき美空と日輪もくたばれば万々歳だ。

まあ憎いといっても彼女たちに何をされたわけでもないが。
そもそも会ったこともない。向こうは自分のことなど知りもしないだろう。
その事実こそが腹立たしい。こっちはアイドル歴6年の大ベテランだというに敬意を払えと言うのだ。

「真央さん、楽しそうですね」
「そりゃそうよ、ライバルが減ったんだから」

ご満悦な声で応じるが何故か正貴の反応は悪い。

「いえ、すいません。よくわからなくって。
 ライバルが減るっていうのはそこまで喜ぶものなんですか?
「んん? そりゃあ…………そうでしょう?」

当たり前すぎて考えたこともなかった。
ライバルが減ればそりゃあ嬉しいだろう。

「嫌いなんですか? アイドル」
「ええ。嫌いよ、私以外のアイドルなんてみんな大嫌い」

肯定する。
自分より売れているアイドルは全てが憎むべき敵である。
いつだってテレビの前で呪っていた。死んでしまえばいいと思う。

「真央さんは、なんでアイドルなんです?」
「え?」

唐突な話題に切り替えについていけず戸惑う。
こちらの戸惑いに濁った瞳の正貴がああと頷く。

「失礼。言葉が足りませんでした。真央さんはどうしてアイドルになったんですか?」
「なんでって……アイドルになれば簡単にチヤホヤされると思ったからよ」
「けれど、6年も続けていたんでしょう? 簡単ではない」

確かにそうだ。
簡単にちやほやされたいだけだというのなら、別の道を目指せばよかった。
自分で言うのもなんだけど、キャバ嬢にでもなった方がよっぽと簡単に稼げただろう。

誰からも認められず、上手くいかないという現実を見せられ続けながら。
辛く苦しいだけの6年間を諦めもせず続けたのは何故なのか。
改めて問われて、即答できない自分に気づく。


696 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:48:27 /MRJg7zg0
自分ならすぐにスターになれるという己惚れを抱えて少女は舞台に立った。
そんなのは真央に限らず誰だって同じだろう。
それが若さだ。

だが、選ばれた才能を持たない多くの少女は現実を知って折れてゆく。
だけど、真央はそうじゃなかった。
現実を知りながらも、そこから全力で目をそらしながら、それでも折れる事だけはしなかった。

地下アイドルと言う立場が、コネづくりに便利だったというのもあるけれど。
それは擦れて腐って爛れてしまった後に生まれた目的だ。
上手くいかない現実に腐りながら、それでも続けていたのは。

「ま……好き、なんでしょうね。結局」

導き出されるのはシンプルな答えだった。
口にしてようやく自分の奥底の想いに気づけた。
いや、思い出せた。
その初心を。

アイドルに憧れてテレビの中のアイドルのステップに合わせて踊っていた。
そんな時期が真央にもあったのだ。

チャラチャラとしたアイドルが嫌い。
キラキラとしたアイドルが好き。
アイドルと言う概念は好きだ。

真央は今だって誰よりも強く思ってる。
アイドルとして輝きたいと。

自分以外のアイドルが嫌いという思いは、自分がアイドルとして輝きたいという思いの裏返しだ
だからそのために。

「素晴らしい事だと思います」
「そうかしら? 好きなモノを仕事にすべきじゃないともいうじゃない……」

弱音のような言葉を吐くその様は年相応に大人びて見えた。
幼い顔つきは男に縋る弱い女の顔をしていた。

「いえ」

男は女の弱音を否定し、肯定の言葉を与える。

「人を殺してまで叶えたい願いがあるというのは素晴らしい事だと思います」
「――――――」

その返答に息を呑んだ。
皮肉ではなく本気で言っているのだろう。

一瞬、頭を吹き飛ばされる安条(アイドル)の顔が脳裏をよぎる。

自分の殺意が殺したという事実。
そうだ、真央は真央の夢のために、全てを殺しつくさねばならない。
そう、いざとなれば自分の手を汚してでも――――。

だが、決意と共に踏み込もうとした足に静止がかかる。

「止まりましょう真央さん、誰かいます」




697 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:49:03 /MRJg7zg0
笠子正貴は身をかがめ遠く前方を見つめた。

そこに居たのは男女が4名。
どうやら落ち込んでいる少女を周囲が慰めているようだ。
その事に気を取られているのか、こちらにはまだ気付いていないようである。

「…………わちゃわちゃと群がってまぁ」

物陰に身を隠しながらその様子を窺っていた真央が小声で悪態を付いた。
確かに、この状況において集団と言うのはなかなか作るのが難しい。
利害の一致、信頼関係の構築、死以外の最終目標の達成、クリアすべき条件が多すぎる。

元々の知り合いだろうか? それとも我々の様にスキルによる強制的な関係か。
はたまた心を一つにするような魔法のような何かがあったのだろうか?

理由は不明だが厄介である事には変わりない。
すでに出来上がった集団であると言う事はそれだけで強みだ。
全滅を目指す立場からすれば邪魔以外の何物でもない。

「あれは……ステパネンじゃない」

集団の一人を指して真央がつぶやく。
当然のように正貴は見覚えはない。

「誰です?」
「アイドルよアイドル。さっき出会った二人と同じグループのアイドル」
「なるほど」

と言う事は正貴が殺した少女の訃報を見て彼女も悲しんでいるだろう。
大切な人を失った悲しみは正貴味わったことのない感情だが、かわいそうな事である。
同情を禁じ得ない。

確認のため正貴も集団を見つめる。
その中の一人に見覚えがあった。

「あの胴着の男、天空慈我道ですね」
「…………誰?」

今度は真央が尋ねる番だった。
アイドル以外には明るくない様だ。

「名の売れた空手家ですよ、警察にいた頃に一度だけ指導を受けた事があります。
 まあ、向こうはこちらの事など覚えていないでしょうが」

普段指導を行っている『無空流』師範の代わりに、一度だけだが師範代である我道が訪れたことがある。
彼の指導を受ける多くの警察官の中に正貴もいた。

「そんなにヤバいの?」
「そうですね。なかなかの怪物ですよ」

警察官ほど様々な怪物と出会える職業はない。
常軌を逸した犯罪者もそうだが、武術指導の名目で定期的に武を極めた達人と触れ合う機会がある。
あれらは異常性の怪物たる犯罪者たちとはまた違った意味での怪物たちだ。

「なにせ、100人組み手と称して警察官全員と乱闘を始めた人ですからね。私も一撃でのされました」
「別の意味でヤバい奴じゃない」

その通りである。
なにせ、そうした理由が普段は警察に喧嘩を売れないからというのだから呆れるしかない。
確かに指導と称した組み手ならば合法だろうが、それにしたって屈強な警察官相手に喧嘩を売る当たり正気ではない。

「…………どうするの? 引き返す?」

不安そうな声で真央が尋ねる。
受け入れているとはいえ、スキルによる魅了をされている以上、最終的な主導権を持っているのは真央だ。
そんな生殺与奪の権を握っている状況にありながら、無理に突撃せよとは言わない辺り優しいのか気が弱いのか。
どちらにせよ彼女らしい。

「いえ、やりましょう。あれ以上戦力が拡大する前に今のうちに叩いたほうがいい。
 現実での真正面からの立ち合いならまず勝てませんが、ここはゲームで殺し合いだやりようはある」

動かす操作感覚はあるだろうが、体は完全な別物だ。
現実で強いからと言って、ここで強いとは限らない。
加えてスキルと言う超常的な要素もある。

不意を突いて『捕縛』スキルを使えば1人は殺せるだろう。
唐突に自分の体が引き寄せられればまともな人間であれば混乱するはずだ。
先ほどの少女がそうだったようにとっさの抵抗程度が関の山である。

機会は手の内がバレていない1度きりだが、それで十分。
護衛役の狼を排除できれば残された羊はどうとでもなる。

「そう……じゃあ、頑張って」
「はい。お任せを」

応援を受ける。
奥底より力が湧き上がるようだ。
今ならば誰にも負ける気がしない。

物陰から飛び出し一息で駆け寄る。
当然の様にこちらの存在にも気付かれたが、もう遅い。

既に『捕縛』スキルの射程圏。
正貴は我道に向かってスキルを発動させた。


698 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:49:40 /MRJg7zg0


「ぅお!?」

クンと見えない釣り竿に吊り上げられた様に我道の体が宙を舞った。
唐突に自分の体が浮き上がる超常現象。
そんな事態に巻き込まれれば、まともな人間であれば混乱するだろう。

そうまともな人間であれば。
だが武術家は須らく、まともではない。

人体を闘争に特化した肉体に作り替えた埒外の生き物である。
緊急事態を意識が認識するよりも早く、肉体は臨戦態勢に変わった。
呼び起こされた闘争本能に従い肉体は思考よりも早く最適を選び取る。

引き寄せられながら我道は弓の様に身を引き絞った。
その動きを見て正貴は瞬時に組み伏せるという目的を諦め、一撃を防ぐことに意識を集中させた。
そうでなければ、死ぬのはこちらだと直感する。

そして引かれる勢いすら利用して、振り下ろされる――――肘。
その一撃は鉞の如く。
氷柱すら容易く砕くだろう。

正面から受け止められる一撃ではないと察し、正貴は両腕で横合いから撃ち払った。
辛うじて捌けたが、それでも両腕に凄まじい衝撃が返る。
恐らく真央の応援効果がなければ防げなかっただろう。

一撃は止めた。
だが引き寄せた勢いまでは止まらず、体がぶつかり合いもつれあって転がる。
そして二人の体はそのまま勢い余って島端の崖へと転がり落ちた。
我道は崖から落ちながら残された事態についてけずポカンと呆けている三人に向かって叫ぶ。

「こいつ一人とは限らねぇ、気を付――――!」

遠ざかり最後の方は聞こえなくなっていったが、意味は十分に伝わったようだ。
堕天使は怯えるように身を竦め。
アイドルは素早く青い瞳で周囲を見た。

「あそこ、誰かいマス!!」

そして、すぐにそれは見つかった。

「モシモーシ。そこのアナタ? おとなしく出てきてくだサーイ」

ソーニャが声をかける。
その呼びかけに観念したのか、チッと舌を打つ音が返った。
そうして物陰からゆっくりとその姿が表れる。

それはアイドルだった。




699 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:50:22 /MRJg7zg0
物陰に身を隠していた真央が姿を現す。
アイドルとは常に注目を浴びる職業(もの)。
プライベートでも身バレする様に最上級のアイドルスキルを持つ真央が潜伏することなど不可能だ。

即座に発見されたことに苛立ちながらも、相手は小娘三人。
何とかなるだろうと真央は覚悟を決める。

大きく息を吸う。
両手を顔の前で遊ばせ、内またで駆け寄る。

「ち、違いますぅ。たまたまそこに隠れていただけでぇ。怖くってぇ。信じてくれますぅ?」

全力の媚びるような口調で、困ったような眉を寄せた。
これこそが天真爛漫で愛くるしい地下アイドル真央ニャンの姿である。
我ながら白々しい言葉だと思いながら相手の様子を伺う。

「無論。信じる愛らしき者よ」
「可愛らしいデース」
「かわ、イイ……」

だが通る。
説得力皆無のこの言い分が愛らしさと言う一点だけで押し通った。
どう見ても怪しいこの状況すら覆す問答無用のアイドルスキル。

「く……くくくっ」

そのあんまりな無茶苦茶さに、思わず笑ってしまう。

「ハッハッハ。バッカみたい!!」

ちょっと媚びるだけでこれだ。
一目見ただけで対象を魅了して推さずにはいられなくなるという呪いの域に達したアイドルスキル。
もはやこいつらは真央のために命を懸けることもいとわない兵隊となった。

「何がハッピーステップファイブよ。調子に乗ってんじゃないわよ!
 安条といい、こうして私に利用されるために生まれてきたのねぇ!」

連日メディアで調子に乗ってるアイドルがこうして、自分に熱狂してるのだから笑える。

「さぁどうしてやろうかしら!? 殺し合わせる!? それとも肉壁としてこき使ってやろうかしら!?」

この場における女王は世間から天才と持て囃される諸星ソフィアでもない。
誰も知らないような地下でクズぶってる地下アイドルの真央ニャンだ。
それがたまらなくおかしくて、ふんぞり返って真央は命じる。

「そうねぇ。3人もいらないから殺し合いなさい、あなた達。
 生き残ったやつにはキスしてあげるわ!」

そう言って愛らしいポーズで投げキッスを送る。
推しのキスをかけた殺し合いが始まろうとしていた。




700 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:50:44 /MRJg7zg0
崖から落ちた二人の男は互いに受け身を取り即座に立ち上がる。

崖下は海にほど近い岩盤地帯だった。
固い岩盤の上で互いに向かい合い、構えを取る。

「よう。あの肘を防ぐとはやるじゃねぇか。
 防御は巧い上にその構え、けど柔道家って感じでもねぇな、どちらかつーと逮捕術か。つーことぁポリか?」

僅かな攻防と構えのみでそこまで言い当てられるモノなのかと感心する。
だが、わざわざそう言うあたり、我道が正貴を覚えていないのは確かなようだ。

正貴は答えず無言のまま足に力を籠める。
我道も元より返答など期待していない。
言葉よりも、その態度が何よりモノを言う。
それが立ち会いという物である。

固い地面を正貴が蹴った。
滑るように低い軌道で足元を狙った低空タックル。

敵は空手家。
立ち技では話にならない。
一、二発貰う覚悟でも、掴みさえすれば。

「――――――と、思ってんだろ?」

右足が消えた。
そうとしか思えぬほど鮮やかな蹴りだった。
蹴り足はしなやかな鞭のような軌道を辿り、タックルを決めようとしていた正貴の顎先を掠めた。
顎を素早く打たれればテコの原理で脳が揺れ、人間は確実に昏倒する。

「すべき覚悟は、一撃を貰う覚悟じゃなく、一撃も貰わない覚悟だったみてぇだなぁ」

そうして一撃にて決着した。




701 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:51:04 /MRJg7zg0
「アルアーール! 目を覚ましてくだサーーーイ!」

向かい合う三人の少女。
今にも殺し合いが始まろうという瞬間、強烈なビンタが炸裂した。
そのビンタの勢いに堕天使が倒れる。

「…………い、痛い」

涙目の堕天使が頬を抑えながら唸る。
その目は正気の色を取り戻していた。

闘魂の白手袋。
装備すれば、打った相手の精神異常を回復するというアイテムである。
解除成功率はビンタの強さに比例するため渾身のビンタであった。

「ヴァラランも目を覚ましてくだサーイ!」
「あぅ」

幼児と思しき少女に対しても全く容赦のない全力ビンタが炸裂した。
受け身も取れず地面に突っ伏す金髪美女。
だが、これにより先ほどまでのおかしな状態も解除されたようである。

「はいはーい。多分、あの人見てたら心を奪われちゃう見たいデスネー。
 モッカイ効くかは分かんないデスケド、念のためアルアルとヴィラランはあっち向いててくだサーイ」
「ぅぎぎ」

正気の色を取り戻した二人の首が強制的に向こうにひねられる。
この体勢では堪らないと良子は回れ右して背中を向けた。

「なんでアンタは平気なのよ……ッ!?」
「何の話デス?」

悔しそうな声で真央が叫ぶ。
ソフィアも真央のアイドルスキルに魅了されていたはずなのに。

「私のことカワイイって言ったじゃない、私のスキルで魅了されてたんじゃないの?」
「アー。ソーイウ事ですカー。けどワタシはそう思ったカラ、そう言っただけデースヨ?」
「なっ…………!?」

真央が6年間磨いた相手に媚びる技術。
その力が本物だったからこそソフィアは思った通りそう言っただけである。
つまりは培った技術が身を助けず足を引っ張ったという事だ。

「じゃあつまり、アンタは最初から私のアイドルスキルにかかってなかったってこと? どうしてよ!?」
「サー? ファンじゃなく私もアイドルだからじゃないですカ?」

同系スキルの軽減効果。
アイドルはファンを引き付けるモノ。
同じアイドルには効果が薄い。

「という訳で。アルアル。ヴィラランを連れて離れていてくだサーイ」
「え、けど…………」
「大丈夫デース。信じて下サーイ」

振り返る訳にもいかないのでソフィアがどんな顔をしているのか良子には分からなかった。

「う、うん。では、任せたぞ我が同士たる雪の妖精よ!」

そう言い残し、目線を送らないようにしながら堕天使が幼女の手を引いて走り去ってゆく。
ソフィアが立ち塞がっている以上、立ち去ってゆく二人を追う訳にもいかず真央もその背を見送るしかない。
彼女たちが完全に立ち去りその場に残されたのは真央とソフィアというアイドルが二人だけとなった。

ふぅとソフィアが息を吐いた。
その様子は真央の目にもわかるほど明らかに別物へと変わった。
ふざけたような表情は鳴りを潜め、細めた目は見るだけでゾクリとする氷みたいな冷たさがあった。

「それで――――可憐がどうって話、詳しく聞かせてほしいんだけど」

流暢な日本語。
首に手をかけコキリと鳴らす。
絵にかいたような片言さはどこにも見受けられない。

そこに居たのは先ほどまでのアイドル諸星ソフィアではない。
真央にはすぐに理解できた。
何故なら真央もそうだから。

それは舞台上の自分とは違う素の自分。
これが素のソフィア・ステパネン・モロボシなのだろう。

「はっ! キャラ作りはどうしたのよ!? 化けの皮が剥がれてんだよクソガキ!」

煽るような真央の言葉に対しても、ソフィアは動じずどこまでも冷静だった。
諸星ソフィアは誰かを楽しませるための存在だ。
誰かの笑顔が自分の幸せだから、誰かの笑顔のためにそうやってきた。
だが、目の前の相手は違う。

「アンタを楽しませる義務なんてないもの」

そう冷たく言い放った。


702 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:52:07 /MRJg7zg0


顎に一撃を貰い意識を失った正貴の体が崩れ落ちる。
一撃にて勝負は決着した、筈だった。

意識を失った正貴の体は力なく地面に向かって倒れこみながら――――我道の手首をつかんだ。

「な…………ッ!?」
「ふふぁふぁふぇふぁ」

正貴は意識を失ってなどいなかった。
ゆっくりとその顔が上がる。
それを見て我道は理解した。

(テメェで……顎を外しておいた!?)

顎が外れた状態ならば脳を揺らすこともない。
だが、自ら顎を外すという行為もそうだが、外した顎を自ら打たせるなど正気ではない。
一撃を打たす覚悟は読んでいたが、一撃を打たす覚悟の深さを読み誤った。

我道が次々と屈強な警察官を打ち倒してゆく様を正貴ははっきりと見ていた。
我道にとって正貴は打ち倒した有象無象の一人だったかもしれないが。
その雄々しくも猛々しい姿は、鮮やかな記憶として残っている。

天空慈我道が低空タックルにどう対処するのかも覚えていた。
目視不能なほどの速さの蹴りなど避けることもできないが、正確無比であるが故にどこに来るかは読めていた。

だが、掴まれた所で我道は空手家である以上に喧嘩家である。
総合格闘以上の多種多様な相手と戦ってきた。
掴まれた時の対処など嫌と言う程心得ている。

掴まれた手を剥がそうと切るような動きで手首を捻る。
だが、敵の腕は我道の手首を離れず掴んだままだ。
上手く力が入らず引きはがせない。

合気の達人は相手の手首をつかむだけで相手の動きを封じるというが、それとは違う。
力が入らないというより、入る力が弱まっている。
これは技術ではない何かによるものだ。

抵抗する間もなく、手首を引かれ引き寄せられる。
そのまま胴着の襟を掴まれ咄嗟に重心を落とすが、力の入らない状態では何の抵抗にもならなかった。

最強の格闘技は何か?

それはパンクラチオンの時代がから現代に至るまで結論の出ない問いかけである。
ならば条件を限定すればどうだろうか?
路上。素手。一対一。
そこまで情報を絞るなら候補に挙がるのが、柔道である。

剣道と並ぶ警察官の必須科目。
畳の上だから競技として成立しているが、実戦においてこれほど凶悪な格闘技はない。
簡単な話だ。
固い地面に頭部から叩き落せば、人間は死ぬ。

ゴッ。
固い何かがぶつかる鈍い音が響いた。




703 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:53:00 /MRJg7zg0
†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†は強い、と思う。

漫画の世界の住民みたいに戦える。
そう設定した理想の自分だ。
きっと戦っても強い、はずだ。

だが、そう思えど良子は動けずにいた。
ソーニャを助けに行こうにも、見るだけで魅了されてしまう相手なんて助けに行ったところで足手まといでしかない。
ここで待機するのが一番の助けだろう。

かと言って我道の援護に行くのもそれはそれで気が引ける。
大人の男同士の喧嘩に割り込んでいくのは、正直怖い。
姿だけ理想の自分になっても中身は引っ込み思案な自分のままだ。

どうしたら良いのかわからず傍らのヴィラスを見た。
状況を理解してないのか、変わらぬ様子で口を開けて呆けている。
道理も分からない3歳児を戦いに巻き込むわけにも、放置するわけにもいかない。
この子のお守りが今は自分の役目だとそう自分に言い聞かせる。

「くくっ。安心せよ無垢なる者よ。
 我らが同志の勝利を信じ、我と共にここで帰還を待つが良い」

ヴィラスを安心させるべく言葉をかける。
それがどれほどの意味を持つのかは分からないが、ひとまず注意は引けたのか。
ヴィラスが涼子を見ながらぽつりと呟いた。

「…………たべたい」
「む。空腹であるか?」

と言っても、残念ながら食料は支給されていない。
何か食べさせてあげたいけれど、どうしたものかと考えて、ふと気づく。
そもそも、食料が支給されていないのはアバターであるこの体に空腹はないからである。
ならば、ヴィラスは何を。

「たーーぁべたああいいいいいいい!!」
「!?」

突然叫びを上げたヴィラスが大口を開いて良子に噛み付いてきた。
咄嗟に出した手を噛まれて、小指と薬指が完全に口内に飲み込まれる。

「い、痛いッ!!」

それは甘噛みなどと言う次元ではなかった。
ゴリゴリと骨を削るように牙を突き立てられる。
振り払おうとするが、まるでピラニアのように食いついて離れない。

「ッ……ぁあ…………ッ!」

これまでの人生であり割ったことのない鋭利な激痛。
痛い。痛い。この痛みから逃れたい。
アイテム欄にはスタンガンがあり、噛みつかれていない片腕は開いている
これを使えば、この苦痛から逃れられるかもしれない。

「ぅ…………っ!」

だが、誰かを攻撃するというのはある種の覚悟が必要となる。
その覚悟が、良子には足りていなかった。
まして相手は幼児であるという事実が、既の所で攻撃を躊躇わせた。

良子はスタンガンではなく自らの左目に巻き付けた包帯による封印を解くことを選択した。
封じられし金の瞳が解放され、青い瞳を捉える。
それは見た者に1分間の幻を見せる幻惑の魔眼。


704 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:53:49 /MRJg7zg0
「ッ…………水の牢獄に呑まれよ!」

与えたのは溺れる海のイメージ。
酸素を求めて口を開く。
それを期待しての事だったが、効果は覿面だった。

いや、覿面すぎた。

酸素を求める様に口が開かれ、解放されて引き抜いた指に赤の混じった糸が引いた。
肉は裂けうっすらと白い骨が見えるが指はかろうじて繋がっている。
痛みに顔をしかめながら、その傷の元凶であるヴィラスを見る。

溺れた魚みたいに口をパクパクとし続ける。
苦しそうなその様子に、良子は幻術を解こうとした、だが。

「え…………?」

困惑の声をあげ、その動きを止めた。

見ればヴィラスの顔が変わっていた。
美しい女性の顔は魚みたいに目が離れ眼球が飛び出すように盛り上がる。
パクパクと開く口元からはノコギリみたいな歯が覗いて。
まるでそれは、そう、邪神信仰における深き者みたいだ。

「………………サメ」

凶悪な海の捕食者。
口を付いたのはそんな言葉。
その言葉に応える様にギザギザの歯が並ぶ頬まで裂けた口を開いて、再び良子へと襲いかかった。

「ひっ!?」

良子はなすすべなく身をすくませる。
今度は指なんかでは済まず、胴体ごとかみ砕かんとする勢いで飛び掛かった。

だが、幻影の獲物に飛びついたのか、良子を過ぎ去りそのまま勢いよく海に落ちていった。
海上に大きな飛沫が上がる。

その様子を青ざめた顔で良子は見降ろした。
自業自得な感はあるが、そこまでするつもりはなかった。
追っていこうにも下は激流だ。

一人取り残された堕天使が呆けた声で呟く。

「…………どうしよう」

[G-7/海岸近くの草原/1日目・朝]
[有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:右手小指と薬指を負傷
[アイテム]:バトン型スタンガン、ショックボール×10、不明支給品×1
[GP]:15pt
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.ソフィアと我道と合流したい
2.殺し合いにはとりあえず参加しない




705 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:55:18 /MRJg7zg0
「っ…………ぉ!」

呻きを上げたのは正貴の方だった。

我道は地面に叩きつけられる直前、握り込んだカランビットナイフで相手のわき腹を刺した。
天空慈我道は武器の使用を躊躇わない。
素手が最も効率的だからそうしているだけで、必要とあらば何でも使う。

これにより叩きつけられる寸前で僅かに拘束が緩んだ。
とは言え最後の一押しを防いだだけで頭部を地面に叩き付けられたことに変わりはないのだが。
割れた頭部から血がドロリと流れた。
赤く染まった視界が揺れる。

「…………さて、困ったな」

正貴が外れた顎を嵌めながらぼやく。
刺された傷も浅く、行動に支障はない。
ダメージは確実に我道の方が大きいだろう。

だが、スキルは全てネタが割れた。
この状態でも正面戦闘では分が悪い。
手負いの獣が相手だ、油断すれば喰われる。

「キャオラッッ!!!」

野獣のような雄たけびを上げ我道が攻める。
頭部の傷は深く、止血もならず大量の血が流れ続けている。
如何に血の気の多い我道とは言え、行動不能になるのは時間の問題であった。
烈火の如き猛攻で狙うは短期決戦である。

対する正貴は防御に徹した。
狙いはもちろん大量出血をしている敵の消耗。
警察官の扱う逮捕術は拘束と防御に特化した武術である。
一流の使い手が防御に徹すれば、それを破るのは不可能に近い。

だが、目の前の空手家はその不可能を可能とせんとしていた。

それは多くの凶悪事件を担当し荒事に巻き込まれてきた正貴をして味わった事がない領域の猛攻だった。
瀑布のように降り注ぐ打撃。
一撃が早く重く巧い。
まるで激しい大滝に撃たれているようだ。

たまらず相手に組みかかるが、突き出し手を握り締めたナイフで裂かれた。
勝負の要点を読む力がずば抜けている。
攻撃一辺倒に見えて、掴ませないという一点は徹底していた。

刃物を持ちながら主体としないスタイルも厄介だ。
刃から注目を切る訳にもいかず、打撃に対する対応がおろそかになる。
これならばいっそ刃物を主体としてくれた方が攻撃が読めて楽なのだが。

「ご…………ッ!?」

刃に気を取られるうちに、平拳が防御を縫って蟀谷に炸裂した。
直接的な打撃で僅かに脳が揺れる。
このままでは先に力尽きるのは正貴の方である。

「うぉおおおおおおおおおおッ!!!」

正貴が叫ぶ。
彼らしからぬ雄たけびと共に全身を投げ出すようなタックルを放った。
そこに放たれるカウンターの膝。
顔面に直撃を喰らい数本の歯が飛んだ。

「ッ…………ぉ!?」

だが、そのまま勢いを止めず押し出した。
推し負けた我道が僅かに体勢を崩す。

捨て身により生まれた一瞬の隙。
正貴が最後の切り札を出すのは、この瞬間しかなかった。

最後まで隠し通した切り札。
それはただの銃だった。

ただ普通に撃っただけなら天空寺我道には通用しなかっただろう。
だからこそここまで封じてきた。
ここまで無いと思わせたからこそ、ただの銃が切り札足りえる武器になる。

意識の外より放たれる万が一すらの討ち漏らしを許さぬ、文字通りの必殺の意思を込めた全弾発射。
至近距離より放たれた8発の凶弾が空手家を襲った。




706 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:56:25 /MRJg7zg0
余裕を作るような笑みを浮かべながら真央は右手に「ヴァルクレウスの剣」という名の片手剣を構え、左手に構えたボウガンを突きつける。

「このボウガン。安条から奪ったモノなの、意味は分かるかしら?」
「そう、つまりはアンタが可憐を殺したのね」

予測していたのか、ソフィアは激昂するでもなく氷のような冷静さでその事実を受け止めた。
真央も否定はしない。
事実、可憐を殺すように指示したのは真央である。

「アンタも安条の残したボウガンで逝けるなら本望でしょう?」

悪役のように笑いながら、ボウガンの弦を番えた。
真央は片手剣とボウガンという遠近隙のない装備を構える。
対するソフィアは武器になる支給品がなかったのか無手。

ボウガンの矢を突きつけられたソフィアが真央の周囲を回るように動き出した。

「ちょこまかと…………!」

動かれると狙いが付かない。
ボウガンの心得などあるはずもない真央が、動く獲物を狙うなど簡単にできるはずもない。

ソフィアは止まらずただ無言で周囲を回り続ける。
凍ったみたいに表情一つ変えないその顔が癪に障った。
真央が堪えきれずソフィアに向かって引き金を引く。

放たれた矢は狙いを外れ、地面へと突き刺さる。
狙いのぶれた片手撃ちでは当然の結果だ、せめて両腕で構えるべきだった。
加えてスキルに全振りしたためDEXは最低レベル、これでは静止していたところで当たるかどうか。

矢が放たれたことを確認したソフィアが周囲を回っていた軌道を変えて、一直線に真央へと迫る。
それこそ矢の如き疾走。
雪の妖精が走る。

「このっ!」

向かい来るソフィアに向けて、真央が右腕の剣を振り下ろす。
だが、その間合いに入る直前でソフィアがピタリと静止した。

恐るべきボディバランス。
アバターのDEX(技能)もあるのだろうが、それ以上に身体感覚がずば抜けていた。

振り下ろされた刃は空を切る。
空ぶった勢いに釣られて真央がバランスを崩した。
そこに向けて、ソフィアが拳を振りかぶった。

「は?」

肩を回して放たれる打撃。
それはロシアンフックと呼ばれるフックの一種だった。

予想外に放たれる弾丸のような一撃。
それ呆気にとられ、真央が思わず後ずさった。

「キャ!?」

そこに偶然あった石に躓いて転ぶ。
それにより幸運にも一撃は避けられた。

だが、その拍子に剣から手を離してしまった。
地面に置き去りになった剣はソフィアに蹴飛ばされ遠くに転がっていく。


707 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:58:09 /MRJg7zg0
「ふざけんなよ…………アイドルが格闘技って美空じゃないんだから」

アイドル同士の喧嘩だ。
地下アイドルの楽屋裏でたまにやるようなキャットファイトのような取っ組み合いのになると予測していた。
素人同士の喧嘩なら武器のあるこちらが有利だと妄信していた。

だが、ソフィアの動きはそう言った女子供の取っ組み合いとは質が違った。
明らかな格闘経験者の動きである。

天才――――ソフィア・ステパネン・モロボシ。
ロシア軍の女将校を母に持つ、才女である。

「く、来るんじゃないわよっ!!」

再び矢を番えたボウガンを構える。
ソフィアは自身に向けられる殺意を冷ややかな目で見送って、首を鳴らす。

真央の技量に見切りをつけたのか、もはやソフィアは周囲を回ることすらしなかった。
真っすぐに真央に向かって踏み出す。
ソフィアは宝石のような青い瞳で敵を見据え、走るでもなくゆっくりを距離と詰める。

「このッ……舐めやがってぇ…………ッ!!!」

今度は両腕で狙いをつける。
だが、腕の震えが伝わって上手く狙いがつけられない。

一歩、また一歩と距離が詰まる。
その歩みはもはや外しようもないほどの近距離にまで近づいていた。。

「フザケ、んなあぁ…………ッ!!!」

真央が引き金を引く。
だが、それよりも一瞬早く、真央の顔面に足裏が突き刺さりその鼻柱をへし折った。

鮮やかな高速ソバット。
傍から見れば妖精が躍る美しい舞いのようにも見えただろう。

大量の鼻血が噴き出す。
仰向けになって倒れこんだ。

「ッこ、アイドルの顔を…………ッ!!」

自慢の顔がつぶれたことにショックを受けながら身を起こし呪い殺す強さで敵を睨む。
そこで気づく、先ほどの衝撃で落としてしまったのか手元にボウガンがないことに。
どこに行ったか周囲を見渡す。


708 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 22:59:59 /MRJg7zg0
「探し物はこれ?」

ソフィアの手にそれはあった。
既に矢は番えられていた。
その矢先を突き付けられる。

「ま、待って!」
「何を?」

冷たい声。
真央はその場に正座して頭を地面に叩き付けた。、

人を殺せる道具を初めて突き付けられた。
喉がキュッとしまる、背筋がザワザワする。
感じた想いは一つ。
ただ、死にたくない。

「ごめんなさい……! 私だってこんな事したくなかった!
 けど巻き込まれて殺さなきゃ殺されると思て……死にたくなかったのよ!!
 そう思って精一杯悪ぶってたの……かわいそうだと思わない!?」
「そうね。かわいそう」

大量の涙を流しながら、地面に額をこすりつける。

「生き残りたかった、生き残ってアイドルとして輝きたかった!
 そう思う事は悪い事なの? あなたもアイドルなら分るでしょう!?」
「そうね。わかるわ」

ようやく初心を思い出せた。
今ならアイドルとしてもう一度飛び立てる気がする。
だから、死にたくない死にたくない死にたくない。

「もうしない! 心を入れ替える! あなたに協力してもいい、いえ、協力させて! だからッ!!」
「そうね。あなたが心を入れ替えたって信じてもいいわ」

許しのようなその言葉に、真央が顔を上げた。
そこで彼女の全身が凍った。
彼女を見下ろす、ロシアの永久凍土のように凍るような青い瞳。

「けどね。私の親友を殺したアンタを――――許すわけないでしょ?」

放たれたボウガンの矢は見上げた脳天に突き刺さった。
どれだけ泣いて詫びようとも、罪は消えない。
真央の体が粒子となって消える。

風に流されれるその様をソフィアは見送りもせずボウガンを抱きしめるようにして膝を付いた。
痛みをこらえるように表情を歪める。

全てが終わった、誰もいなくなったその後で。
今はアイドルではないソフィア・ステパネン・モロボシとして、静かに涙を流した。

[黒野 真央 GAME OVER]

[G-7/草原/1日目・朝]
[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:闘魂の白手袋(E)、ボウガン(E)、不明支給品×3
[GP]:10pt→40pt(勇者殺害により+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.HSFのメンバーを探す
※ヴァルクレウスの剣がその辺に放置されてます




709 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 23:00:40 /MRJg7zg0
至近距離より放たれた8発の凶弾。

だが、稀代の空手家は、それすらも凌駕した。

残像すら追いつけぬほどの超人的反応。
半数の弾丸を避け、頭部と心臓の弾丸は両腕で防いだ。
防ぎぎれず腹部と左足に開いた穴を気にせず、我道は跳んだ。

「―――――シッ」

落とされる稲妻の様な踵落とし。
銃を持つ正貴の手首を破壊し拳銃を地面へと叩き落とした。
岩盤に叩きつけられたナンバV1000が砕け散る。

右腕は砕かれただが正貴は損傷を気にせず無事な左手を伸ばす
我道が血濡れた腕で振り払おうとするが、遅い。
先ほど命中させた弾丸は相手のAGIを一時的に封じる特殊弾薬である。
この一瞬ならば、正貴の方が早い。

襟を掴む。
その瞬間『身柄確保』スキルにより我道のSTRが封じられる。
STRもAGIも封じた、この状況ならば――――!

「うあああああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおおお!!」

二匹の野獣が叫ぶ。
先ほど同じ轍は踏ぬよう、ナイフを握った手を制しながら、体ごと投げ出すように大外を刈る。
共にひっくり返る二人の体、下になった我道の頭部が、二人分の体重を乗せて岩盤に叩きつけられた。
頭蓋が完全に砕かれる音が響いた。

正貴が這いずるようにして身を離す。
残された我道の体は粒子となって消えていった。

闘争の化身のような男だった。
未だに勝てたのが信じられないほどの強敵。

だが、安心してなどいられない。
正貴は肉体に鞭打ち震える足で立ち上がる。

まだ終わりではない。
獲物は3人残っている。

何より、早く真央の下へ戻らねば。
長時間遠く離れてしまったせいか応援によるバフは切れていた。
同時に魅了も切れているのだろう。

それでも胸の中には確かに真央も想う心があった。
きっとそれが「生きる意味」になるのだろう。
勝利に酔いしれる暇もなく、男は愛する女の下へと向かっていった。
その先に何が待ち受けるかも知らず。

[天空慈 我道 GAME OVER]

[G-7/海岸/1日目・朝]
[笠子 正貴]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:頭部にダメージ(大)、前歯なし、右手首骨折、左わき腹に小さな刺し傷、軽い酒酔い(行動に問題はない程度)
[アイテム]:予備弾薬多数、カランビットナイフ、魔術石、耐火のアンクレット、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:55pt→85pt(勇者殺害により+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:何かを、やってみる。
1.真央の元に戻る
2.真央を護ることを「生きる意味」にしてみる。
3.他の参加者を殺害する。
※事件の報道によって他の参加者に名前などを知られている可能性があります。少なくとも真央は気付いていないようです。
※『捕縛』スキルのチャージ時間は数分程度です。




710 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 23:00:55 /MRJg7zg0
ヴィラス・ハーク――――否、VRシャークは海を泳いでいた。

連なる島々の影響により生み出された複雑な激流など何するものぞ。
彼女は水の塔の支配者である、激流に飲み込まれることはない。
いや、それ以前に魚が溺れるなどあるはずのない。

その顔は人のモノを離れ、魚の混じった半魚人めいていた。
迷彩が半分剥がれた歪な怪物。

精神異常を回復するソフィアの闘魂ビンタ。
アルマ=カルマの魔眼が見せた海の幻影。
これらが合わさり、VRシャークは海の捕食者として覚醒した。

その思考はシンプルだ。
齧り。噛みつき。喰らいつくす。
血の味を知った捕食者の本能が呼び起される。

もう止まらない。

[G-7/海/1日目・朝]
[VRシャーク(ヴィラス・ハーク)]
[パラメータ]:STR:D→C VIT:E→D AGI:D→C DEX:E→D LUK:E
[ステータス]:幻覚、インマウス面
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:150pt→250pt(塔の支配ボーナスにより+100pt)
[プロセス]
基本行動方針:???
1.食べたい
※水の塔の支配権を得たことにより水属性を得て本来の力を僅かに取り戻しました
※魚としての自覚を得て本来の力を僅かに取り戻しました


711 : 虎尾春氷――破章 ◆H3bky6/SCY :2020/12/28(月) 23:01:06 /MRJg7zg0
投下終了です


712 : ◆H3bky6/SCY :2021/01/10(日) 23:55:04 P0rTPNok0
投下します


713 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/10(日) 23:55:55 P0rTPNok0
橋の上で暗殺者シャは欠伸を漏らした。

予想通りの退屈な結果となった。
二つの塔を訪れる者はなく、何事もなく制限時間となった。
予測していたことだが襲撃者の一つもないというのは実につまらない。

だが制限時間を告げるメールには興味深い内容が書かれていた。
羅列される死者。それはシャにとってはどうでもいい。
まあ数の多さは目を見張るところがあるが、どうせならその苛烈さがもっとこちらに降りかかれば面白いのに、と思う程度だ。

積雪エリアの封鎖。これもまあいい。
この関して一番の損害を被ったのは雪の塔の支配権を有するシャなのだが、ゲームの運営が理不尽なのはどこも同じだ。
特に個々の運営の横柄は今更だ。
文句をつけても仕方がない事はネットゲーマーであるシャは嫌と言う程理解している。

それよりもシャが気に留めたのは『支配権は維持される』の一文だ。

「シェリン。システムに関する質問ヨ」
『なんでしょう?』

システムに関する質問と断わりを入れてシェリンを呼び出す。
勝手に別の質問と判断されて50ptとられたのではたまったものではない。
ここの運営はそれくらいやりかねない。

「塔ノ支配権を持った人間ガ殺されタ場合はどうなるカ?」
『お答えします。基本的に塔の支配権は塔での直接更新が優先されますが、塔の支配権を持った勇者が殺害された場合、支配権は殺害した勇者に移ります』
「なるほド。つまりハ、どのような形であれ支配権は常に参加者の誰かが保有している事になるという事だネ」
『はい。その通りです』

それだけ聞ければ十分と会話を打ち切りシェリンを消し去る。
知りたいことは知れた、何となく見えてきた。
ともかく確実なのは雪の塔の支配権を得るためにはこのシャを殺すしかなくなったと言う事である。

シャは橋から踏み出す。
沈む雪の世界を背に、向かうは砂の世界。

目的地は大砂漠。
目的はお宝さがしである。




714 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/10(日) 23:56:48 P0rTPNok0
盗賊ギール・グロウは大砂漠に足を踏み入れていた。

ゆっくりと一歩一歩を確かめるような足取りで砂の大地を進む。
辺りを舞う砂塵。
残る足跡は砂に飲まれてすぐさま消えて行く。

砂の煙で視界は覆われ1メートル先もまともに見えない。
大砂漠に突入した段階で現在位置機能は停止したようで、マップを頼りすることもできなかった。
これならば方向感覚が失われるという説明も頷ける。

それでも黙々と前へと砂を踏みしめる。
足に変えるのは昔を思い出す様な懐かしい感覚だ。
ギールが生まれたのは砂漠の中にある小さな集落だった。

魔界にほど近い人間界の東に広がる砂漠領。
砂漠は何かを隠すには適しているのか、そこには大規模な盗賊ギルドの本拠地が点在していた。
その影響もあってか村人には盗賊へと身を落とす者も多く、ギールもその一人だった。
彼は特定のギルドに所属しない一匹狼として行動しながら様々な偉業を果たし名を知られるようになっていった。

砂漠に生きる民として砂漠の歩き方は嫌と言う程心得ていた。
砂嵐が吹き荒れる中を歩くなんて事も珍しくない。
これほどの砂塵ともなるとそうそうあるものではないが、それでもやり様はある。

一面に砂が広がるばかりの砂漠において、唯一の目印となるのが砂丘である。
注視しなければただの隆起にしか見えない砂丘だが、その形は同じに見えてどれも違う。
砂丘の高さや形の細かな違いを識別し記憶する事こそ、砂漠での迷わぬ歩き方だ。

地道で気の遠くなるような作業だが、砂の民が命を繋ぐために必要な作業である。
むしろ渇きや飢えがないこの仮初の体では気楽な作業と感じられるくらいだ。

砂塵によって足元しか見えなくともそれは同じだ。
足元を見て見える範囲の細かな砂丘を目印にして歩く。
より細かく、より小まめに情報を更新して、これをひたすらに繰り返す。
そうして移動した方向を計算し、地図と照らし合わせて現在位置を大まかに把握する。

だが、ただ進んだところで意味がない。
そもそも砂漠を呑気にお散歩をするのが目的ではないのだ。
現在行われているお宝探索こそが目的である。

お宝が本当に自然に発生した物ならともかく、誰かが意図をもって隠したというのなら当たりはつけられる。
知識と経験の蓄積による状況判断、これこそ盗賊の嗅覚と呼ばれる正しい意味でのスキルである。
そうして当たりを付けた場所まで近づくことができた。


715 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/10(日) 23:57:20 P0rTPNok0
「…………この辺りが臭いんだがねぇ」

しらみつぶしにそれらしい場所を歩き回る。
お宝はLUKによって発見しやすくなるというが、具体的にどうなるのか。
ギールのLUKはB。判定をクリアする水準としては十分だと思うのだが。

「お…………!」

変わりのない砂ばかりが広がる光景に変化を見つける。
判定に成功したのか、砂塵の向こうに僅かな輝きを見た。
それはこの砂漠において明らかな異物だ。

見つけた。
慌てて駆け寄るような未経験者のような真似はせず、変わらぬ足取りで光の下まで近づいてゆく。
そうして足元の宝石のような光を拾い上げる。

それは砂塵の中でも確かに輝く六角柱のクリスタルだった。

摘まみあげたクリスタルを天にかざす。
砂塵の合間を縫って降り注ぐ日光。
透明なクリスタルは光の加減で七色に色を変えた。

だが、この世界で換金用のお宝など意味がない。
単なる綺麗な宝石、とうこともないだろう。
職業柄ある程度の鑑定眼はあるが、そんな事をするまでもなくこの世界においては便利な機能がある。
メニューのアイテム欄を開く、そこから先ほど獲得したクリスタルを選択し効果を確認する。

「…………ありなのか、これ?」

一読してまず漏れたのがそんな戸惑いの言葉だった。
それくらいに反則めいた効果のアイテムだった。

かなり強力なアイテムだ。
流石、わざわざお宝を謳うだけの事はある。

これをうまく使えば探索効率は確実に上がる。
今の状況に適したアイテムだと言えた。
だが、下手をすればこちらに牙をむく危険性もある効果である。。

危険な匂いもするが、ギールはクリスタルを握りしめた。
リスクよりも成果を優先する。
このアイテムを使用する事にした。

スリルを楽しめ、それが盗賊。
それがギール・グロウだ。

【お宝残り 7/10】




716 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/10(日) 23:58:20 P0rTPNok0
「これハ、巻物かナ?」

大砂漠に突入したシャは早くも二つ目のお宝を発見していた。
一つ目は大砂漠に突入した直後に発見した魂を集めると言う香。
二つ目がこの巻物である。

こうも効率よくお宝を発見できるのは、シャの胸に輝くタリスマンの恩恵である。
アイテムの位置を指し示すというその効果は予測通りお宝にも有効だったらしく、有効範囲はあるようだが、お宝に近づくだけでタリスマンが動きお宝の方向を示してくれた。

効率的に探索を行えた理由はそれだけではない。
大砂漠に突入した者たちを惑わす砂塵の影響を彼は全く受けていない。
砂の支配者たるシャにとっては砂塵など無いに等しく、遠くまではっきりと見ることができる。

と言っても見えるのは一面の砂景色なのだが。
砂塵がなくとも砂漠は変わらずだ。

彼のマップは現在位置機能が生きているため迷うことはないが、同じ景色ばかりと言うのはつまらない。
なにか変化が欲しい所なのだが、そういう意味では先ほど発見したお宝はうってつけだった。

それは使用すれば参加者の現在位置を示す巻物だった。
ただし表示されるのは30秒のみ。
使用できるのは一度きりの使い捨ての消耗品だ。

使いどころの難しいアイテムなのだが、シャは迷うことなくこれを即座に使用した。
巻物が消費されマップ上に20名以上の名が一斉に表示される。
制限時間は30秒。全ての名と配置を覚えるなどよほどの記憶力がないと不可能だろう。
だが、シャは端からそんなものを把握するつもりなどない。

元より探し人などいないシャからすれば、誰がだこにいるかなどどうでもいい話だ。
知りたいのは大まかな参加者の分布と、この大砂漠にいる人数である。
やはり参加者の殆どは中央エリアに滞在しており、あとは諸島エリアに少々集まっている程度なようだ。
火山エリアには殆どおらず、そしてこの大砂漠にいるのはシャと後二人。

[掘下 進]
[ギール・グロウ]

その名に自体は興味はないが、これから始まる狩りを思えば自然と口端が吊り上る。

「獲物は二匹ネ」

どちら先に喰らうか。
それを考えながら、これからの楽しみを想像してシャは嗤った。

【お宝残り 5/10】




717 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/10(日) 23:59:55 P0rTPNok0
「うーん。見つからないなぁ」

掘下進は地中を掘り進めながらそうぼやいた。
彼は穴掘りスキルにより地中世界を縦横無地に突き進んいた。

音も光もない地下世界。
Sランクの穴掘りスキルはただ穴を掘れるだけではなく穴掘りに関する必要事項を全てがフォローされていた。
そのため、こんな世界でも問題なく突き進むことができる。

彼が今現在いる座標はB-2。
大砂漠の真っただ中である。
地中のメリットは砂塵の影響を受けない事である。
大砂漠に途中下あたりからマップの現在位置を機能は動作していないが、方向感覚が失われることもない。
まあだからと言ってお宝の場所が分かっている訳ではないのだから虱潰しに違いはないのだが。

そうして地中からお宝を探してどれくらい経過したのか。
お宝は一向に見つからなかった。

やはりLUKがないと発見は厳しいのかもしれない。
進のLUKはE。最低ランクである。
穴掘りの魅力に抗えず全てをそこに費やしてしまった。

進だってこのLUKでお宝発見の判定をクリアできるとは思っていない。
むしろこうして見ると何故前は二つも見つけられたかを疑問に思うべきだろう。

ひょっとしたらあれは地中に待機していた準備状態のお宝だったのかもしれない。
イベントが開始され、倉庫から取り出されるように正しい所に配置された。
ならば今となってはもうお宝は地中にはないのだろうか?

穴を掘る手を止めて考える。
根拠のない曖昧なイメージでしかないが。
地上にいる参加者に獲得できるもっと上の方に浮き上がっているのかもしれない。

上を見上げる。
まあそんな事をしても見えるのは砂だけなのだが、気持ち的に。
イメージに従い進は真横だった道筋を上に修正する。
そうして地上スレスレまで登ったところで、再び横に向かってお宝の探索を再開した。

進はこういう検証と探索は好きだった。
探検家を夢見る進にとってこんな風に地下を掘り進んでお宝を探すなんて楽しく仕方がない。
殺し合いという最低最悪の一文が無ければ最高のVR体験だったに違いない。
素晴らしいからこそ憤りを感じる。
こんな夢のような世界を、どうしてこんな最悪なことしか使えないのか。


718 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:00:11 oSHTUxsI0
「…………あれ?」

砂の先に僅かな光が見えた。
元より地中に光源などないのだが、スキルの副産物により見えていた光景とは違う異質な光。
その光には覚えがある。
地中で見つけた二つのお宝、それに近しい光である。

「やった…………!」

どうやら予測が当たったようだ。
はやりお宝の隠される位置が変わっている。
恐らく、地上でここを通りかかった時にLUKの判定に成功すればこれが地上に出るのだろう。

そうなる前に掻っ攫う、穴掘りを使った横抜きのチート技。
ズルをしているようで心苦しいが、全GPを使用したSランクスキルの恩恵と思えば自分の中で納得もできる。

急く様に地面を掘る手を早める。
間を塞ぐ砂を掻き出しながら、光に向かって手を伸ばす。
だが、光はその手から逃げる様に地上に向かって浮き上がり始めた。

「あ、待って…………!」

反射的にその後を追う。
地上に向かって泳ぐように砂を掻いた。

手を伸ばして光を掴む。
手の内に固い感触。
ようやく進むはお宝を手に入れた。

だが、光を追うのに夢中で失念していた。穴掘りスキル最大の欠点を。
穴掘りスキルはその恩恵で地中の様子はある程度把握できるが、地中にいる間は地上の様子が分からないと言う事である。
自分と同時にそのお宝を狙う人間がいる可能性を考慮していなかった。

「え…………?」

お宝を手にすると同時に、それを持つ手ごと何者かに掴まれた。
そしてそのまま地上へと引き上げられた。

【お宝残り 4/10】




719 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:01:06 oSHTUxsI0
シャはこの大砂漠で今だ誰にも出会っていなかった。

砂塵の影響を受けず、他二人の存在とある程度の位置を把握しているシャがその気になればすぐにでも探し当てられるだろう。
なにせ一方的に敵を目視できるのだ。
他者にとっては脅威と言う他ない。

そうなっていないのは、その道中、またしてもタリスマンが反応したからだ。
お宝さがしも目的の一つなのでこれを無視するわけにもいかず、そちらを優先していた。

そこで発見したのが『自然操作機』というアイテムである。
その名の通り、これを突き刺したエリアの自然環境を操作できるという代物だ。
環境自体を変えられると言うのは強力な効果だが使い所は難しい。

雨、雷なんかも面白いが。
それをどう生かすかとなると中々状況が限られる。
曖昧に使い道を考えながら、シャは次の目的に向かって歩き始めた。

【お宝残り 3/10】




720 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:01:47 oSHTUxsI0
「わっ!?」
「うぉ!?」

驚きの声は二つ。
自らの手を掴まれて引き上げられた方は当然として。
自らが獲得しようとしたお宝を地中から生えた手が横取りするなんて引き上げた方からしても驚きだった。

「いで…………っ!」

乱暴に手を離され、進は砂の上に放り出された。
尻もちを付いた体勢から見上げ、始めて大砂漠の地上に出た進は砂塵の激しさにまず驚いだ。
そして砂嵐が吹き荒れる中、バンダナを撒いた盗賊風の男は怪訝そうな顔で進を見下ろしていた。

「なんだぁお前? まさかお前がお宝ってんじゃねぇだろうなぁ…………?」

考えてみれば当たり前なのだが、自分以外にもお宝狙いの人間がいて当然である。
自分の宝探しに夢中で進はそこを失念していた。

「ま、そんなこたぁねえか。手にしたそいつを、寄越しな坊主」

言われて気づく。
引き上げられたことに驚いて何を手に入れたのかをまだ確認していなかった。

それは銃だった。
ただしおもちゃの銃である。
先端には銃口ではなく丸い球体。
ポワワとリング状のビームでも打ちそうな、低学年でも持たないようなチャチさである。
お宝としてはハズレだろう。

「い、いやだよ。僕が最初に手に入れたんだから」

だとしても、せっかく手に入れたお宝だ渡したくはない。

「違げぇよ! 俺が先に見つけた俺のお宝だ。
 痛い目見ないうちに寄越しといた方が身のためだぜ、ガキ」
「は、離して……っ!」

胸元を掴まれチンピラみたいな口調で凄まれる。
全てが最低ランクのステータスでは振り払えない。
どうやら、お宝が浮き上がったのは目の前の男のLUK判定に引っかかったからのようだ。
それを掠め盗ったのだから、文句の一つもつけたくなるのは分からないでもない。


721 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:02:09 oSHTUxsI0
「スキルで奪ってやっても良かったんだが、多分"俺"のレベルじゃ上手くいかねぇからよ。
 "こっち"に出会った不運を恨めよ」
「や、やめて」

乱暴に奪われそうになる。
それに必死で抵抗する。

何故こんな目に合わなければならないのか。
アイテムを出現させたのが本当に目の前の男だとしても、アイテムの所有権はこちらにある。
お宝の奪い合いと言うイベントで先に取った事に文句を言われるのはだんだん腹が立ってきた。

抵抗してやろうという決意が湧く。
もみ合いになりながら、玩具でも電撃の一つでも出ないかと玩具の銃の引き金を引いた。

瞬間、世界を七色の閃光が染め上げた。

それは山すら吹き飛ばすような巨大な破壊光線だった。
天を覆う砂塵すら吹き飛ばして空への一筋の道を作り上げる。

「あっ……わっ、わっ!?」

眼前が七色に染まる。
余りに事態に思わず引き金を引きっぱなしになってしまった。
止めようにも指は固まったみたいに動かない。
結局そのままエネルギーは放出され続け、完全にエネルギー切れになってようやく止まった。

残ったのは何もない。
砂塵すら払われ、空の切れ間から朝日が覗く。

確かめるまでもない。
人間なんて跡形もなく消滅しただろう。

あれ程固かった銃を握りしめる腕は力なく玩具の銃を落とす。
そして進は砂の上に膝を付く。

なんてことをしてしまったのか。
こんなことになるとは思わなかった。
まさかあんな玩具の銃が、これほどの破壊兵器だったなんて。

吹き荒れる砂塵が太陽を再び覆い隠した。




722 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:03:27 oSHTUxsI0
「おっと、もうやられちまったか」

ギール・グロウが呟き、砕けたクリスタルの破片を砂の上へとバラまいた。

彼が先ほど入手したアイテムこそ、自分の分身を作るというこのクリスタルである。
ステータスやスキルは本体から1ランク落ちるが反則的に強力な当たりアイテムだ。
実際アイテム説明にも目玉商品だと書かれていた。

素直に従わない、最悪反逆されるリスクはあったが、自分が増えれば探索効率も倍になる。
そうシンプルな発想から実行したのだが、早くも他の参加者にやられてしまったようだ。
本体で向かっていれば本当に殺されてい可能性もあると考えれば、身代わりが出来ただけ有意義ではあっただろう。

そう考えながら、ギールは先ほど発見したお宝へと向かって近づく。
クリスタルに続くお宝はどんなものかと盗賊は期待に胸を高まらせる。
この瞬間こそ盗賊の本懐と言える。

「げっ」

思わず声が出た。
それくらいの厄物だった。

瘴気を放つような黒い御守。
なるべく触れないよう指の端で紐をつまみあげる。
魔法について詳しくないギールですら分かるくらいにどう見ても呪われている。

出来るなら装備したくない所なのだが、アイテム欄から詳細な効果を確認する。
率直な感想としては全く使えない、慰めのような効果だが、ある意味では自分向きの効果とも言える。
どちらにせよ装備しないと使えないので、装備はせざるおえないのだが。
変な呪いがこちらに降りかからなければよいのだが。

ともかく手に入れたお宝はこれで2つ目。
イベント告知のメールに寄ればあ宝は全てで10個。
今現在どれくらい残っているのだろう。

盗賊であるギールが2つしか見つけられていない辺りまだ余裕があるように思えるが。
探索系のスキルやアイテムを持っている参加者がいれるとすればもうあまり残っていないのかもしれない。
もう既に盗り尽されている可能性すらある。
ないお宝を探して危険な場所をうろついているようでは笑い話にもならない。

イベント告知がなされたのだから他の参加者がいるのは意外でもないが。
あっさりと分身が殺されたあたり、危険な輩がいるのは間違いない。
引き際を見誤れば待つのは死だ。

続行か撤退か。
栄光か死か。

他の参加者に出会うようなら逃げる。
そうじゃないなら続行だ。
スリルを楽しむギールはそのギリギリを攻める。

仮に出くわしたところでギールにはいざとなれば逃亡スキルがある。
それが失敗したとしても、視界の悪い砂塵を利用すれば逃げ遂せる自信はあった。
誰にとってもこの砂漠の過酷さは同じ、条件が同一ならば地の利は砂漠の民であるギールにある。

ゲーム内のスキルとギールの培ったスキル。
逃げに関してならば双方において隙は無い。

「ヤァ、キレイな虹が見えるネ」

そう、相手が砂塵の影響を受けないこのエリアの支配者でもない限り。

【お宝残り 2/10】




723 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:04:40 oSHTUxsI0
どこからともなく響き渡る声。
ギールは素早く周囲を見た。
だがギールの視界には深い黄色の砂塵が広がるだけである。
吹き荒れる砂塵の音に紛れてどこから聞こえたのかすら判然としない。

「ギール・グロウ、の方でアってるカ?」

名を呼ばれた。
その瞬間ギールは迷うことなく逃走を選択した。
スキルを発動さながら全力で砂を蹴る。
こうなると砂丘の確認もできず、どこにいるのかすら分からなくなってしまうだろうが、ひとまずこの場を離れることが最優先である。

だが、その行く手が阻まれる。
回り込まれたのか、走り去ろうとする目の前に、一人の男が立っていた。
逃亡スキルは失敗した。成功条件を満たしていたのかも怪しい。

ぶつかりそうになり足を止める。
砂塵の中でも顔の見れる距離。
そこで初めて相手の姿を見る。

目の細い男。一見すれば何の変哲もない温和な男に見える。
だが、長年培われたギールの生存本能はこれを全力で否定する。

全てを呑み込むような威厳と威圧のある魔王とは違うヤバさ。
感覚としては一度だけ見たことがある暗殺ギルドの長に近いそれだ。

後手に回っては勝てない。
先手を取るべくギールはチャクラムを投げつけながら、両手剣を振るう。
回転する様に大範囲を薙ぎ払う斬撃。

これを前に敵はあっさりと後方へと引き砂のカーテンの中に消えていった。
直後、背後から衝撃。
回り込んで蹴りを打たれたようだ。
肺から息を吐き出し、砂の上を転がる。

速い。
そして強い。
それ以前に動きが違う。
スキルによるものか、視えている。

ギールは砂漠でなら大抵の相手なら有利に戦える自信はあった。
だが、砂漠の環境を多少は生かせる程度のギールと砂塵の影響を全く受けない相手では余りにも次元が違う。
自力で負けている相手に条件まで負けていては話にならない。

逃亡は不可。
戦闘は論外。
そうなると取れる選択肢は一つ。

「ッ!? 待て…………!」

静止の声を上げるが、構わず攻撃は続けられる。
容赦なく撃ち込まれる拳の雨。
何とか両手で急所だけを守りながら、しぶとくも叫ぶ。

「だから待てって! このまま続けりゃアンタにとっても不幸な結果になるぜ!!」

懇願するような訴え。
そこでようやく攻撃の手が止まる。

「どうイう意味カ?」

砂塵の先から声がする。
ギールの言葉を真に受けた訳ではないだろうが。
少なくとも言葉を交す程度の興味は持たせられたようだ。


724 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:05:36 oSHTUxsI0
「あんたもこんな所にいるからにはお宝探しに来たんだろう?」
「ソウネ」
「俺もそうさ、お宝を手に入れた」

言って、胸元に付けた黒い御守を摘まんで周囲に掲げた。
どこから見ているのか分からない相手に見せつける。

「この御守さ、どんなご利益がある御守だと思う?」
「サァ?」

興味がないと言った風な相槌である。
これ以上興味を失われられてしまえば殺されるだけだ。
引っ張るのは無理だろう。

「この御守の持ち主を殺した相手を呪い殺す御守さ」

自分が死ねば相手も死ぬという強制心中アイテム。究極のカウンター。
だが自分が死んだ後に発動するアイテムなんて考えようによっては全く意味がないアイテムといえる。
できる事と言ったら死後の憂さを晴らすだけだ。

だから、こうやって効果を相手に知らせる事こそ正しい使い方だ。
知ってしまえば相手は手を出せない。

ギールはギャンブルも得意だ。
特にカードゲームの駆け引きならば負けなしである。
この場面も乗り切って見せる。

「いいハッタリネ」
「そう聞こえるかい。そう思うなら試してみるかい?」

ギール・グロウはあくまでも強気な態度で不敵に笑う。
そうじゃなければ駆け引きにならない。

嘘か本当かは実際に殺してみるまで分からない。
本当だったら死ぬのだから試すにはリスクが高すぎる。
まともな人間であれば、躊躇うだろう。

完全に信じ込ませる必要はない。
少しでも隙を見せてくれれば、それで。

「ナラ、そうするネ」
「なっ…………!?」

言うが早いか、砂塵より現れた暗殺者の拳が盗賊の胸を貫いた。
指先が内臓を抉り、心の臓破壊する。

失敗はただ一点、交渉相手を間違えた。
敵はギャンブラーではない。
自身の命がチップでも迷わずオールインする狂人である。

殺すか殺さないかの選択ならばこの暗殺者シャは迷わず『殺す』を選ぶ。

ギールの体が光の粒子になって消滅する。
同時にそこから黒い靄のようなモノが飛び出し、シャに纏わりつく。

「おッ…………?」

誰よりも死に触れてきたシャだからこそ感覚で変わる。
これは死の気配だ。

どうやらハッタリではなく本当だったようだ。
それはどのような呪いか。
徐々に蝕まれて死ぬのか、唐突に死ぬのか。
少なくとも即死はしない様だが、解呪しなければ死ぬのだろう。

「面白くなっテきたネ」

死を纏う暗殺者。
己が命の危機すらも嬉々として笑った。

[ギール・グロウ GAME OVER]




725 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:08:21 oSHTUxsI0
進は砂漠の上で呆けていた。

事故の様なものだが人を殺してしまった。
いや、引き金を引いたのは自分だ。
無理矢理絡んだ相手も悪いが、自分も責任を逃れられない。

進の気持ちは視線と共に深く沈む。
下がった視線に、何かが映った。
変化のない砂ばかりの世界。
そこに現れる変化など、あるとするならばそれは。

「何してル? 落とし物でモしたのカ?」

見上げる。
そこには男がいた。

笑みを張り付けた男。
その顔には見覚えがある。

それが龍をいたぶっていた超人の一人であると気づいた瞬間、固まっていた進の体は電撃でも受けたかのように動いた。

逃げの一手だ。
飛び込みの様に頭から砂の海に飛び込み、逃げ道を掘り進める。

「オヤ。土竜みたいネ」

慌てるでもなくその様子を呑気な声で見送る。
その隙に進の全身は地中に潜り込むことに成功した。
彼だけが進める無敵の地下世界。
ここまで来れば誰も追ってこれない、これなら。

「けド――――逃さないヨ」

残酷なまでの宣言と共にアイテムから『自然操作機』を設定する。
そして取り出したそれから手を放して地面へと落とした。

「――――え、あっ」

異変はすぐに起きた。
地中を進むべく掻き出す砂が震える。
周囲の全てが波立ちあっと言うの間に進は砂に飲まれた。

引き起こされた自然現象は『地震』である。
震度にして7相当。
こんな状態で地中にいればどうなるか。
常識ではありえない状態の答えがこれだ。

砂に溺れる。
スキルがフォローするのはまともな穴掘りの状況までだ。
こんな異常事態は想定の外である。

溺れた人間がそうであるように、進もたまらず天を目指す。
追い込まれ、地上へと打ち上げられる。

天を覆う砂の檻。
地は揺れる砂の海。
待ち構えるは、決して敵を逃さぬ暗殺者。
世界の終りのような光景だった。

砂の広がる砂漠地帯であるため倒壊物などはないがまともに立っていられる揺れではない。
その中においても、暗殺者は不動のまま。

巨大な龍の口が犬みたいに浅い呼吸を繰り返す。
先ほどまでのワクワクとは違う、恐怖と緊張で鼓動が高まる。

いざとなれば地中に逃げればいいと思っていた。
その逃げ道を完全に潰された。
もう生き残るには戦うしかない。

幸運にも今の進にはその力があった。
地を泳ぐ土竜から天を舞う黄龍へと成る力が。
脳裏に浮かぶ光景を振り払うようにして、その身を龍へと変化させる。

「龍(ロン)。流行ってるンですかネ?」

龍となった進の様子を見てシャは冷めた様子でそう感想を漏らした。
前回が期待外れだったと言うのもあるだろう、二度目ともなれば興奮も冷め冷静にその変化を受け止める。


726 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:09:51 oSHTUxsI0
荒れ狂う龍の巨大な尾が振り下ろされる。
自らを押しつぶさんとする影。
シャは立っている事すらできないような状況にありながらそれを躱す。

「ホっ」

尾が砂漠に叩きつけられると爆発の様な音を立て、小山ほどの砂波を立てる。
その衝撃の大きさにシャは楽し気に声を漏らして目を見開いた。

砂の津波を掻い潜り、揺れる地面を蹴る。
飛び上がりそのまま宙を舞う龍の背を殴りつけた。

だが、固い。
まるで分厚い鉄のようだ。
頸を通していなければ、砕けていたのは拳の方だろう。

加えて重い。
先ほどの龍は風船のように軽かったが、こちらは違う。
見た目に見合うだけの重量がある。

「うぁあああああ!」

黄龍が咆哮を上げ宙に浮いたシャへと突撃する。
ダンプカーの衝突めいた超重量のぶちかまし。
シャの体が勢いよく弾き飛ばされた。

砂の上を撥ねながら体勢を立てなおし両足でブレーキをかける。
数十メートルほど砂の上を滑って止まった。

ハリボテの龍とは違う、伝説や伝承に登場する龍そのものと言って差支えない力だ。
ここまでくると、無茶苦茶に暴れるだけで人など及びもつかぬ脅威となる。

「イイ手応えネ」

気と化勁で受け流したが何本か骨が折れていた。
額から垂れる一筋の血を拭って、ペロリと舐めとる。

「中身ガ詰まって美味そうヨ」

それを前に暗殺者は嗤った。
揺れ続ける地面を駆けながら牽制の気を放つ。
砲弾のように放たれれるたそれは龍に触れた瞬間、神通力めいた力によって無効化される。

外面は城壁のよう鉄壁だ。
はやり崩すには近づいて内側から攻めるしかない。

天からの突撃を避ける。
立っていることすら難しいこの状況でここまで動けること自体が脅威だが、流石に万全とは言えない。

対して宙に浮いている黄龍は地震の影響を受けない。
逃げ道を塞ぐ代わりに、地の利を捨てたといえる。
この状況で災害の様な存在に近づく、のがどれほどの難関なのか。

「ッ!?」

横薙ぎに振るわれる尾。
それだけで回避不能な鉄の鞭だ。

避けられず直撃する。
小さな体などそれだけでバラバラになってしまいかねない。
それだけの手ごたえはあった。
だが、

(どこに、行った!?)

進は敵の姿を見失った。
遠く飛ばされ砂塵に紛れたのか。
それにしたって吹き飛ぶ様すら確認できなかった。

シャは自らを打った尾に張り付いていた。
巨大の欠点だ。小回りが利かず、大きすぎる故に全身を確認できない。

鱗を辿って背に昇りその上を駆ける。
そこに来てようやく進は自身の体に張り付かれていた事に気づくが敵の方が早かった。
シャは龍の内蔵の位置など知らないが、この辺だろうと適当に当たりを付けて両手を当てる。

「砂ト氷、ドチラが好みカ?」

右からは砂を、左からは冷を。
そっと添えられた掌から中に向かって叩き込む。

「ぐぁあああああああああああああああ!!!」

内側から生じる初めて体験する痛み暴れまわる。
乗っていたシャの体が引き剥がされ宙に放り出された。
砂の地面に背から叩きつけられる。
だが、追撃はなかった。

見れば黄龍はシャに尾を向けて、一目散に逃げていた。


727 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:14:43 oSHTUxsI0
空を駆ける。
砂塵によりどこをどう奔っているのかも分からない。
戦うなんて無理だった。
下手に選択肢を与えられたからそんな選択を選んでしまった。

背後は砂塵に隠れて見えない。
けれどわかる。
追ってきていると。

見えないけれど。
奔らなれば。
追いつかれる。

死に。

視界の端に何かがチラついた。
とてもかすかな光。だが気のせいと切り捨てるには大きいな光。
この死がすぐ迫った切羽詰まった状況で気にかけるべきことなのかわからない。
けれど、ただ暗い死から逃れるように光に向かって奔った。

光。
お宝の光だ。

現在の進はAランクの黄龍である。
全てのステータスはAランク相当にまで向上している。
そのLUKが判定をクリアしその宝を出現させたのだ。

周囲の砂ごと飲み込む様に口先で光を咥える。
それは五角形の石だった。

迫る暗殺者。
その姿は捉えられる所まで迫っていた。
それに向けて、どのようなモノかもわからぬままその石を解放した。
事故のようだった先ほどとは違い明確な殺意を持って。

口内から閃光が奔り、熱を感じる。
矢の様な勢いで現れたのは炎。
紅い火の粉が舞う。

それは紅蓮の炎を身にまとった怪鳥だった。
巨大で悠然とした黄龍とはちがう、鋭く羽ばたく空の王者。

足裏から気を放ち、空中での軌道を変えて回避する。
だが、完全には避けきれず、炎が胸元を焦がす
掠めただけでこれだ。
直撃していればどうなった事か。

だが、長い尾がシャの体を叩き落とす。
黄龍の物ではないまた別の蒼い龍。

『召喚石』
召喚者を助ける召喚獣を呼び出すアイテム。
召喚獣のランクは召喚者のLUKでランダムに抽選される。
今現在のLUKはA、故に最高ランクの召喚獣を引き当てた。


728 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:18:17 oSHTUxsI0
あるいはそれは運命だったのか。
黄龍を中心に置き四方を守る聖なる獣。
つまりは四聖獣。

砂漠に叩き付けられたシャの元に輝くような白い虎が砂塵を切り裂き襲い掛かる。
その噛み付きを片腕で受ける。
牙が肉を裂き骨を砕く、引き換えに口内から頸椎を破壊した。

「ハっ!」

息つく暇もなく左右より迫る蒼龍と朱雀。
朱雀の突撃は冷の気で受け、すれ違いざまに気を叩き込む。
反目する属性を叩きこまれた炎の鳥はもがき苦しむ様に地面に堕ちた。

だが、白虎に砕かれた左腕側の攻撃は防ぎきれず、龍の爪をまともに受けた。
爪が脇腹深くにまで突き刺さる。
そのまま振り抜かれ肉と共に内臓まで抉った。

受け身を取って立ち上がる。
だが滴り落ちる大量の血が砂を固めた。
この状況の置いても闘争本能に些かの陰りもない。

敵を見据える。
その目の前には蛇の巻き付いた巨大な亀がいた。

「…………ァ」

その口から鋭く放たれる水。
ウォーターカッターの如き水の刃が胴を両断した。

こうして盗賊の残した最後の呪いが成立した。
運命的な死を与える死の呪い。
この呪いを受けた者は必ず死の運命をたどる。

シャの体が光の粒子になって行く。
それと同じように役目を終えた四聖獣が姿を消した。
残されたのはその長たる黄龍の化身のみ。

また罪を重ねてしまった。
だが今はその恐れより助かったという安堵が胸を満たしていた。

【お宝残り 1/10】




729 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:20:21 oSHTUxsI0






「―――――イヤァ。死んダのは初めテの事ヨ」

だが

絶望を告げる声がした。
それは悪夢の様な光景だった。

浮かび上がる光の粒子。
バラバラになり霧散した光が一点に集約する。
そして一塊の光となった。

『集魂香』
シャが最初に発見した、拡散する魂を集めるという香。
所有者が死亡した際に自動でふりまかれ所有者を復活させる。
光が形を成して行きその肉体が復活。あるいは再構築される。

砂塵が舞う。
聞こえるのは砂塵をまき散らす風の音。
砂の地面に絶望を持って死神が立つ。

「オヤ、地震のエリアを出てシまったカ」

見れば地震は収まっていた。
空を舞う巨大な龍は小さな人間を前に絶望に囚われて動けない。
先も見えない砂塵に在りながら、どういう訳かそれだけは明確に見えた。
嗤う暗殺者の口元が。

「逃げないのカナ?」

言われて、弾かれたように龍が動いた。
頭から砂漠に突っ込み地中へと潜ってゆく。
だが、それは誘導された動きだ、当然の如く捉えられた。

龍特有の長い胴が仇となった。
一息で地中に潜り込むことはできず、半端に頭部が地面に埋まっており逃れようがない。
地上に出ている胴体に手が添えられた。

「ワタシの奢りヨ。タラふく喰らウヨロシ」

復活直後で体調も気力も万全。
全開の気を属性を込めて一気に叩きこむ。
爆発的に体内が膨張し龍の体がツチノコみたいに膨らんだ。

「…………あっ……あっ……ぱっ……!!?」

膨らむ。
冷たい砂が体内を満たす。
内蔵を蹂躙される経験したことのない苦しみ。
壊れた蛇口から水を流しこまれているよう。
止めてほしいのに一行に止めてくれない。
絶望と苦しみが限界を迎え、そして――破裂した。

氷の混じった砂が舞う。
キラキラと輝くそれらは砂塵に紛れて消えていった。
もう集まることはないだろう。

[掘下 進 GAME OVER]




730 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:22:29 oSHTUxsI0
『おめでとうございます!』

呼んでもないのにシェリンが飛び出してきた。

「なんネ?」
『勇者を3名殺害しました。あなたが【強者】として認定されました!』
「強者? アア、そんなのあったネ」

3名以上殺害した勇者を殺害したら強敵撃破ボーナスが貰えると言う話だったか。

「ソレ、ワタシ得アルのカ?」

狙われるのは歓迎だが、称えられた所で嬉しくもない。
ゲーム特有のコンプ要素だろうか。

『はい。【強者】認定されました勇者には特典があります。特典を選択して下さい』

・GP100pt
・専用装備の獲得
・ゲームヒントの開示

選択肢を提示されシャは考え込む。
専用装備という響きは惹かれるものがあるが、シャには装備は必要ない。
無難なのはGPなのだろうが。

「デは、ゲームヒントを寄越すヨ」

シャは一番曖昧な選択を選んだ。
GPは十分にあると言うのもあるが、ゲーム的にはこういう選択肢こそ真実が隠されているものだ。
そう言う経験則からこの選択を選んだ。

『了解しました。では全参加者のペルプページが更新されます。
 更新内容。ゲームクリア条件その1』
「オイオイ。ワタシだけデはないのカ?」

これは一杯食わされた。
流石のシャも予想外だった。

『では、次の称号【豪傑】は5名の殺害となりますので【豪傑】を目指して頑張りましょう』

言うだけ言ってシェリンが消える。
勝手に出てきてこの態度、全く勝手な事だ。

参加者を排除し悠々とした足取りで砂漠を行く。
この砂漠はもうシャの物だ。
邪魔するものもなく、タリスマンの反応に従いお宝を発見する。
それを拾ったとこでメールが届く。

---------------------------------------------------

[イベント]砂漠のお宝さがし終了のお知らせ

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。

砂漠エリアにて行われていました砂漠のお宝大探索イベントで全てのお宝が発見されました。
本メールの着信をもってイベントは終了となります。

参加頂いたすべての勇者の皆さま、お疲れさまでした。

引き続き『New World』をお楽しみください。

---------------------------------------------------

つまりはこれが最後の一つ。

「手に残ったノはこれだけカ」

紙切れをピラピラと弄ぶ。
手に入れた物は使い切って、残ったのは最後に手に入れたこれだけだ。

まあそれなりに楽しめたイベントだった。
まともな龍とも戦えたし、何より熱く激しく燃えるような暗く冷たく沈むような"死"を体験できた。
中々に愉快な体験だったが、二度はいらない。

イベントが終わってしまえばもうこのエリアに用はない。
先ほどの現在位置表示で砂の塔を攻められる位置に誰もいないのも確認済みだ。

参加者の集まる中央に向かうのが定石なのだろうが、シャの向かった先は違った。
彼の足が向かうのは火山エリア。
より詳しく言うならば炎の塔である。

目的は四つの塔の支配。
それがこのゲームのクリア必要な条件だ。

【お宝残り 0/10】


731 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:23:52 oSHTUxsI0
[C-1/大砂漠/1日目・午前]
[シャ]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
[ステータス]:健康
[称号]:【強者】
[アイテム]:不明支給品×3、タリスマン、申請券
[GP]:0pt→260pt(塔の支配ボーナスにより+200pt、勇者殺害により+30×2)
[プロセス]
基本行動方針:ゲームを楽しむ
1.炎の塔に向かう

※C-2エリアに地震が発生しています
※午前の段階で生き残った全参加者のペルプページが更新されます

【集魂香】
死亡時に霧散する魂を集める香。
所有者が死亡した場合に自動で消費され所有者を蘇生する。
蘇生時の状態はその魂の記憶している完全な状態となる。

【CPスクロール】
全参加者の現在位置を表示する魔法のスクロール。消費アイテム。
使用したその時点の全参加者の現在位置を30秒のみ使用者のマップ上に表示する。

【スワンプマンクリスタル】
目玉商品その1。
使用者の分身を作り出す魔道具。
分身の能力は本体よりも1ランク劣り、人格は本体をベースに温和、乱暴、悲観、冷徹のいずれにかにランダムで決定される。
分身の命はクリスタルに繋がっており、輝く光色によって大まかに同行が把握でき、分身が死亡した場合クリスタルは砕け散る。
また破壊されない限り分身は持続されるが、クリスタルを破壊すれば破棄することも可能である。

【自然操作機】
エリアの自然環境を操作する。
条件を入力して地面に突き刺すと発動する。
効果は抜き取るか破壊されない限り永続する。

【超電磁メガ粒子砲】
目玉商品その2。
破壊光線を打ち出す銃型の粒子砲。
放たれた七色のエネルギーは対象を粒子単位で分解し消滅させる。
引き金を引き続ける限り放出し続け、残弾はエネルギー制で充填は不可能。

【讐命の御守】
装備者を殺害した者を呪い殺す漆黒の御守。
この呪いを受けたものは呪いによる直接的な死ではなく、運命値を操作され必ず死の運命を辿る。

【召喚石】
召喚獣を召喚する。
何が召喚されるかはランダム。
LUKが高いほど強力な召喚獣が召喚される可能性が高まる。
一度使用すれば召喚石は崩れ去る。

【申請券】
運営に要望を一つ伝えることができる券。
あくまで伝えるだけなので申請が通るとは限らない。


732 : お宝争奪戦 ◆H3bky6/SCY :2021/01/11(月) 00:24:10 oSHTUxsI0
投下終了です


733 : ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:11:00 xWGUdUGI0
投下します


734 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:12:21 xWGUdUGI0
「バカな…………!」

珍しく正義が驚愕を露わに語気を強めた。

定時メールにより得た情報は多岐にわたった。
死者の多さも驚くべきことだが、それ以上に驚愕だったのはそこに大日輪太陽の名が連なっていたことである。

大日輪学園の学徒であれば正しく太陽が落ちたが如き驚天動地の事態だろう。
トラックにはねられようが屋上から落下しようが快活に笑っていた快男児である。
正義をしてもあの不死身の男が死んだなんて信じられない。

だがそれは殺しても死なぬ生命力と言う意味だけではない。
あれ程存在感を持った男がもうこの世にいないなど想像すら難しい。
日常においても太陽の様な男だった。
だからこそその喪失感は凄まじい。

正義ですらここまでのショックを受けているのだ。
親友であった秀才や妹の月乃の精神的ショックは計り知れない。
太陽との合流を前提とした行動計画も修正を余儀なくされる。

「サマヨシよ」

唐突にかけられた下からの声に正義は僅かに驚いた。
ロレちゃんが話しかけてきたようだ。
話しかければ応じてくれるが、彼女の方からアプローチをしてくる初めての事かもしれない。

「乱れているな」

言われて、自らが取り乱していたのだと気づく。
動揺を抑える明鏡止水の境地なれど、人としての感情を失ったわけでもなし。
喪失は悲しく、心動くこともあるだろう。
表には出していないつもりだったが、この幼女の目は誤魔化せなかったようだ。

「そうだね。すまない見苦しい所を見せた。
 先ほどのメールで知り合いの死を伝えられてね」

めーる?と首をひねりながら。
それでも、こちらの言葉は理解したのか幼女は、ふむと頷く。

「何を嘆く。元より貴様らは定命。瞬きの内に滅びるが定め。
 死は想定された終りであろう」

幼女の姿をした邪神は言う。
人の死など取るに足らない些事であると。

「その通りだ、人間はいずれ死ぬ」

正義もそれは否定しない。
否定のしようがない事実である。

人はいずれ死ぬ定め。
それが早いか遅いかの差でしかない。
永遠を生きる存在からしてみればそれこそ誤差でしかないのだろう。

「だからこそ、俺たちは懸命に生きるんだ」
「いずれ終わると理解しているのにか?」
「いずれ終わるからこそ、だよ」

終りがあるからこそ精一杯、後悔のないよう生きるのだ。

「だからこそ、理不尽に奪われてはならない。
 だからこそ、このような不条理を赦してはならない」

正義は拳を固く握りしめる。
精一杯生きているからこそ喪失を悲しみ、それを奪う理不尽に猛り怒るのだ。
それに抗うために、この拳はある。

「成程。死あるからこその生、と言う事か」

死を持たぬ超常の邪神は眉一つ動かさずそう呟く。

「だが、その生にも意味など無かろう、塵芥の一粒など世界に何の影響も与えぬ」

たった一つの命など、この宇宙に何の影響も与えはしない。
無意味に生まれ落ち、無意味に死ぬ。
生命とはそういう物だ。


735 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:12:48 xWGUdUGI0
「それは違う」

だがそれは違う。
そうハッキリと否定する。

「意味はある。何も変えられずとも、何も生み出せずとも。命にはそれだけで意味がある。
 その価値を証明するために、懸命に生きるだけだ」

力強い声で迷いなく言う。
たとえそれが世界にとっては瞬きの様な時であっても、その瞬間を燃え上がるように生きる。
それこそが命の価値。人間の価値だと正義は信じている。

幼女は深く暗く底のない、宇宙の様な瞳で正義を見つめる。
正義はその深淵を見つめ返す。
ふっと邪神が目を閉じた。

「世界は我にとって夢が如し、命など瞬きの間に散っては湧き出る塵芥だと思っていたが。
 塵芥の一粒が全て貴様のようなモノであるとするならば、我の夢(せかい)はさぞ愉快であろうな」

表情は変わっていない。
だが、

(…………笑った?)

正義の目にはそう見えた。
それは僅かな表情の動きを見逃さぬ観察眼によるものではなく、ただ正義がそう感じただけなのかもしれないが。

「ならば生きるがいい。その短き生で何が出来るのか、我にその価値を示すが良い」
「そうだね。ありがとう」

幼女との問答は自分との問答だった。
改めて自らのすべきことを思い出す。

歩みは止めない
考えることを止めない。
前に進まなければならない。

止まっていた頭に火をつけて動かす。
何より、自分の死が原因で足を止めたなどと知られては会長に殴り飛ばされてしまう。

先ほどのメールを読んだ際に感じた引っかかり。
『観察眼』はメールに目を通した際にも発揮される。
正義が疑問を持ったのは『支配権は維持される』の一文である。

何故残す?
何の意味がある?

説明を読む限り塔の支配権はGP獲得の手段でしかない。
その役割が失われたのなら残す意味はないはずだ。
ならば、残っている以上は意味があるという事である。

「シェリン。質問がしたい」
『はい。なんでしょう?』

そうして奇しくも同時刻、正義は稀代の殺し屋と同じ質問を投げかける。
そして同じ理解を得た。

支配者を殺せば支配権は移る。
つまり、全員を殺しつくせば必然的に全ての支配権は一人の勇者に集まると言う事だ。
逆に言えば全ての支配権を得ていることがクリア条件であると言える。
それで即クリアとはならないだろうが、進展はあるはずだ。

ただ一人の勇者を生み出すバトルロワイアル。
ただ一人の勇者を生み出せばそれで終わるのではないか?
かなり強引な考え方だが、取っ掛かりとしては悪くないだろう。


736 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:13:07 xWGUdUGI0
仮に別のクリア方法があるというこの推察が正しかったとして、問題はいくつかある。
まずクリア者が出たところで他の参加者がどうなるのかの保証がないという点だ。
ただ一人の勇者になるまで殺し合いだとシェリンは言った。
用無しになった参加者は始末される可能性もある。

そして、最大の問題点。
それは雪の塔が沈んでしまうとなれば雪の塔の支配権を得るためにはシャという人物を殺害する必要があると言う事だ。
一番平和的な方法はこのシャという人物にクリアしてもらうという事だが、この人物が平和的な人間であるとは限らない。
むしろ、二つの塔を支配している辺り積極的な参加者である可能性の方が高い。
いざとなれば交戦も視野に入れなければならないだろう。

そもそもなぜ勇者なんだ?
何をして我々は勇者なのか?

広義的な意味では勇者とは勇気のある者のことである。
だが、ここにいる人間全てに必ずしも当てはまるとは限らないだろう。
いや、当てはまるのか? それが集められた人間の条件?
ならば勇気をなくせば勇者ではなくなるのか?
そんな事はあり得るのか?

ダメだ。考えが上手くまとまらない。
全体像がゲーム的であることは分かる。
だが、この手の事柄に関して正義は圧倒的に知見がない。
如何に考えを巡らせようとも知らないことは分からない。
出来るなら識者に詳しい話を聞きたい。

「して、どうするのだ?」
「そうだね」

ロレちゃんが問いかける。
考えをまとめるにしても、材料なしではこの辺りが限界だろう。
そろそろ具体的な行動方針を決めた方がいい。

砂漠のお宝探しには参加しない。
探索系の能力もアイテムもない状態での参加はリスクが高すぎる。

向かうべきは火山エリアの方だろう。
こちらのイベントなら上手くいけば誰を傷つけるでもなくGPが獲得できる
何より、塔の支配権が何かしら重要な意味を持つとするならば、向かうべきは一つ。

「炎の塔に、向かおう」

[D-3/市街地/1日目・朝]
[大和 正義]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:アンプルセット(STRUP×1、VITUP×1、AGIUP×1、DEXUP×1、LUKUP×1、ALLUP×1)、薬セット(回復薬×1、万能薬×1、秘薬×1)、万能スーツ(E)
火炎放射器(燃料75%)、オートバイ(破損)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:正義を貫く
1.炎の塔の制圧、鉱山イベントへの参加
2.脱出に向けた情報収集(ゲーム、ファンタジーについて詳しい人間に話を聞きたい)、志を同じくする人間とのとの合流
3.何らかの目途が立ったら秀才たちとの合流
4.海があったらオートバイを捨てる。

[ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:飴×5、不明支給品×3(未確認)
[GP]:290pt
[プロセス]:全ては些事
※支給品を目視しましたが「それが何であるか」については些事なので認識していません。




737 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:13:24 xWGUdUGI0
「誰もいないではないかぁあああッ!!」

天空にほど近い塔の頂上に男の叫びが響き渡る。
盗賊ギール・グロウから得た情報を元に炎の塔にたどり着いた琲汰を迎えたのは、眩しいばかりの朝日のみであった。

炎の塔には人っ子一人いない。
それも当然だろう。
塔の支配権が書き換えられてから数時間。
支配権を得た魔王がこんな何もないところでジッとしているはずもない。
立ち去ったと考えるのが当然だろう。

今すぐにでもその後を追って魔王との決闘と洒落込みたいところだが、追おうにも探す当てがない。
ギールから特徴くらいは聞いているが、その程度だ。
どちらに行ったのか方向すら見当がつかない。

少なくとも琲汰がやってきた砂漠エリアの方に行った訳ではないというのは分かるがそれ以上は不明だ。
まだ近くにいるのなら、大声で呼びかければ届くだろうか?

「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!!!
 魔王やぁあああああああああああああいい!!!!!!!!!!!!!!!」

呼びかけは朝の空気に虚しく木魂する。
当然、返るものなどない。
既に周囲にはいないのだろうか?
まあ聞こえたところで返事はしてくれないだろうが。

「むぅ…………」

どうした物か。
琲汰は呻りをあげ、これからの行動方針を考える。

魔王に見切りをつけるか。
それとも魔王を探すか。

琲汰の目的は強者との戦いだ。
魔王に拘る必要はないが、できるならその全てと拳を交えたい。
そう、彼らの命運が尽きる前に。

先ほど届いたメールによれば琲汰の知る猛者はいまだ健在だった。
だが、今後もそうであるとは限らない。

ここは琲汰をして生半ではない戦場である。
伝説に謳われるような龍もいれば、龍退治を競った中華風の男もなかなかの使い手であった。

だからこそ琲汰は滾り燃えるのだが、だからこそ不安でもある。
猛者たちがそう容易く敗れる事はないと理解しているが、敵も猛者である以上、後れを取る可能性がないとはいいきれない。
誰がどうなっても不思議ではない。

琲汰は知りたいのだ。
自分の位置を。

琲汰は武に全てを捧げてきた。
道理を無視し、社会性を捨て、人の道からも外れて、ひたすらに研鑽を積んだ。

大和家は武により名家としての地位を得ている。
あの天空慈我道ですら武術師範という社会的立場を得ていた。

対して、琲汰にあるのは武のみである。
それ以外のモノは余分と削ぎ落した。
それが全てを捧げるという事である。

この道はどこまで続いているのか。
この道を進み辿り着いた果てに何があるのか。
全てを捧げるだけの見返りはあるのか。


738 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:13:39 xWGUdUGI0
ただ武を収め、道を究める。
誰もを圧倒する力を持ちながらそれを振るわず、その成果は己の中にあればいいという考えもあるだろう。
だが、それは達人を超えて仙人の境地だ。

琲汰は違う。
琲汰は競いたい。
琲汰は、どうしても最強が欲しい。

手に入れた成果を確かめたい。
上達の実感を得るため他者と戦いたい。
己が生涯をかけたこの道は価値があったのだと証明したい。
そうして、見返りを求めてしまうのは弱さなのか。

同時に恐ろしくもある。
負けるのはいい。
それはただ至らなかったというだけの話。

ただ、己が生涯をかけたものが、何の価値もないとしたら。

その価値を証明するには戦うしかない。
漁夫の利など御免被る。

琲汰は戦いを求める。
こんな何もない塔の頂上でジッとなどしていられない。
すぐにでも塔を駆け下りようとして、ふと光が目に留まった。

何もないというのは正確ではなかった。
このフロアの中央に飾られるように台座に置かれたオーブがある。

眩い朝日とは違う淡い光を放つオーブ。
これに触れればこの塔の支配権を書き換えるという。

だが彼の興味は強者のみ。
塔の支配権にもそれにより得られるGPにも興味はない。
オーブから視線を外し、階段を降りようとしたところで一つ思い付きがあった。

現在の塔の支配者は魔王である。
ならば、その支配権を奪い取ったならどうか?
奪われた支配権を取り返そうと戻ってくるのではないか?
それをここで待ち受ける。

悪くない案だ。
そうと決まれば即行動。
炎が揺らめくオーブに触れ、塔を支配したいと念じる。

体が熱い。
これは闘志か。
自身の中で炎が燃え上がるのを感じる。

炎の塔の支配権を得た琲汰は腕を組み斜め下を見ながら風に鉢巻きをはためかせる。
この衝動をぶつける相手の到来を望み、炎の塔の頂にて挑戦者を待つ。

[E-1/炎の塔/1日目・朝]
[酉糸 琲汰]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:闘気充実、左腕にひっかき傷
[アイテム]:スイムゴーグル、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:ただ戦い、拳を極めるのみ。
1.炎の塔で魔王(もしくは別の強者)を待つ
2.強者を探す。天空慈我道との決着を付けたい。少年(掘下進)にも次は勝つ。
3.弱者は興味無し。しかし戦いを挑んでくるならば受けて立つ。
※「炎の塔」の所有権を獲得しました。




739 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:14:10 xWGUdUGI0
炎の塔より僅かに離れた赤く煮えたぎるマグマの池でコポリと泡が跳ねた。
肺を焼くような灼熱の空気の中に佇むは漆黒。
漆黒の外套に包まれた青い肌は汗一つ掻かず常と変わらぬ悠然さである。
この程度の環境、過酷を極める魔界の王からすれば過酷のうちに入らなかった。

だが、その魔王が僅かに表情をしかめた。
それは先ほど届いたメールの内容を見た事による。

死者の中にはこの世界で出会った同族の少女、安条可憐の名を見つけた。
ガルザ・カルマは幾多もの大戦で多くの死を体験してきた。
今更死一つで取り乱すことはないが、それでもやはり将来有望な同胞の若者が失われるのは悲しい事である。
魔の王は神への祈りではなく、ただ黙祷をささげた。

他には魔王の世界を無茶苦茶にした異界の勇者である郷田薫の名もあった。
奴は異界の勇者の中では一番の小物、死したところでたいして驚きもない。

そして当然の様に陣野愛美の名はない。
あの醜悪な聖女がそう簡単に死ぬはずもなく。
この世界ではどれほどの存在になっているのか、想像もつかない。

やはり奴を討つのはこの魔王を置いて他にないのだろう。
嘗ては破れたが、ここでは同じ結果にはしない。
そう決意を新たにしたところで、魔王はふと自身の中で何かが失われたのに気づいた。

炎の塔を見つめる。
どうやら支配権が奪われたようだ。

それはつまり、今現在炎の塔の頂上にはオーブに触れている誰かがいるという事である。
今すぐに戻れば、塔の最上階にいる人物と鉢合わせる事も出来るだろう。

マップ上から炎の塔の支配者の名前を確認する。
『酉糸 琲汰』
知らない名だ。何者であろうか。

「ま、ええわ」

ガルザ・カルマは塔にあっさりと見切りをつける。
魔王が炎の塔を制圧したのは陣野愛美との決戦に備え、GPの獲得することが目的である。
今回のGPは獲得できたし、支配権自体は別段こだわるほどのモノではない。
次の定時メールまで支配権を維持する労力を割くつもりは元よりなかった。

塔の支配者が陣野愛美であれば、すぐにでも飛んで行っただろうが、そうではなかった。
あるいは可憐の仲間たちの名前だったならば保護しに向かう事もあったかもしれないが。

ガルザ・カルマの目的は陣野愛美の討伐と主催者の手がかりを探す事。
GP獲得のため鉱山に立ち寄ると言うのもいいかもしれない。
近くにできた温泉というのも興味が引かれるものがあるが。
具体的な行先は道すがら考えるとしよう。

振り返るほどの未練もなく、魔王は炎の塔に背を向けた。

[E-2/炎の塔/1日目・朝]
[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:魔力消費(小)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、不明支給品×2
[GP]:10pt→110pt(塔の支配ボーナスにより+100pt)
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.陣野愛美との対決に備え、力を蓄えていく。
2.あの盗人(ギール)は次会ったら容赦せん。なに人のもんパクっとんねん
3.主催者を調べる
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。
※「炎の塔」の所有権を失いました。


740 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:14:39 xWGUdUGI0
投下終了です


741 : 炎の塔 〜 行く者、去る者、留まる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/01/18(月) 23:21:42 xWGUdUGI0
>>739
現在位置を修正します

[E-2/炎の塔/1日目・朝]

[E-2/マグマの池近く/1日目・朝]


742 : ◆ylcjBnZZno :2021/01/27(水) 01:45:04 DP.gs3Jo0
投下します


743 : ◆ylcjBnZZno :2021/01/27(水) 22:56:32 DP.gs3Jo0
昨日トラブルで投下できませんでした。
ご迷惑おかけし申し訳ありませんでした。
改めて投下します。


744 : 神は追憶の果てに掃除機を砕く ◆ylcjBnZZno :2021/01/27(水) 23:01:52 DP.gs3Jo0
 とある王国の中央にある大きな広場。
 憩いの場として、人々の交差点として、王国の平穏の象徴となっているその広場は、今日は普段と違う性質を帯びていた。

 設けられた高台。周囲には国軍の兵士ががっちりと固め、上にはギロチンが鎮座する。

「許すな!」 「殺せ!」 「涜神者め!」
 集まった群衆からは物騒な言の葉が飛び、憎悪のこもった視線が投げかけられる。
 
 ギロチンには一人の少女がつながれていた。
 晒された一糸まとわぬ裸身には、夥しい数の傷と穢れが、癒されも清められもせず付着していた。


「静粛に!!」
 傍らに立つ神官服の男が声を張る。

「これより、『攘勇志士党』頭目 マリン・モリカワの処刑を執行する!
 立会人は我らが神、アミ・ジンノ様が務めてくださる! 心して見届けよ!」

 高台の上、ギロチンから少し離れたところに置かれた豪奢な椅子から少女が立ち上がる。
 それと同時に群衆からは割れんばかりの歓声が上がる。

 アミとよばれた少女は軽く手を挙げ歓声に応える。
 すると歓声は更に大きさを増した。

「静まれ!」と神官服の男が声を上げるが、歓声に飲まれ誰にも届かない。
 
 歓声、拍手、指笛、感極まって泣く声が、たっぷり1分ほど広間を包んだ。

 会の収拾がつかなくなるほどのそれらは、アミが声を発しようと息を吸うや否や、嘘のようにぴたりと止んだ。

 先ほどとはうってかわって静寂に支配された広場で、アミが語る。

「この者、マリン・モリカワは、私たちと同じ勇者でありながら魔王と通じ、私たちの魔王討伐を頓挫せしめんとしたわぁ。
 また、魔王が討伐された後には魔王軍の残党と結託して『攘勇志士党』なる組織を結成し、私たち勇者によって世界にもたらされた平和を瓦解させることを目的とする破壊活動等を陰謀、実行したわぁ。
 逮捕起訴された後、公判により死刑が確定。
 本刑の執行はこの判決に基づき行われるものであることをここに宣言するわぁ」

 アミの言葉が終わると再び群衆が沸く。

 勇者の身でありながら魔の道に堕ちた不届者は誅されなければならない。
 群衆はそう無邪気に信じ、これから下される神罰に期待し熱狂する。


745 : 神は追憶の果てに掃除機を砕く ◆ylcjBnZZno :2021/01/27(水) 23:02:56 DP.gs3Jo0

 アミもそれに応えるように手を挙げ軽く振るう。
 それこそがギロチンの刃を吊るすロープを切る合図だった。

 ピンと強く張られたロープに向けて、執行人でもある神官服の男が斧を振り下ろそうとしたその時である。

 一陣の風が吹き、砂塵が彼の目に飛び込む。
「ぐっ」と小さく短い悲鳴をあげてひるむ執行人に海嘯のような突風が襲い掛かる。

「うわあああ!」
 今度は大きな悲鳴をあげて執行人が吹き飛ぶ。
 突風はすぐに渦を巻きギロチンを中心に高台全てを呑み込んだ。
 真凛の持つ風魔法のスキルによるものだと気づいたときにはもう遅い。
 渦は竜巻となり、天高く昇っていき、余人の侵入を拒む風の結界が完成した。


「聞け!愚昧なるジンノ聖教国の民草よ!」

 結界の中から声が響く。
 隣の人間の叫びも聞こえないほどの風声の中、マリン・モリカワの声だけが群衆一人一人の鼓膜を揺らす

 彼女を黙らせようと国軍の兵士や神官が結界の排除を試みるが、近づくこともできずに吹き飛ばされていく。
 中空を舞う木端共にかまうことなく声は続ける。

「勇者を排斥せよ! 勇者を撃滅せよ! 勇者という存在を、この世界で一人たりとも生かしてはならぬ!
 キザス・ツキタの恐怖政治! カオル・ゴウダがもたらした金相場の崩壊! マコト・フユミの多重婚による近親婚の激増!
 これらの事象は諸君らの子々孫々の暮らしに暗い影を落とす! 必ずだ!
 刮目せよ! 耳を澄ませ! 見えるはずだ! 聞こえるはずだ!
 諸君らの、勇者への狂信に食い潰された未来で苦しむ子孫の姿が! 諸君らを呪う子孫の声が!
 憂う者あらば、我ら『攘勇志士党』の意志を継ぎ、勇者共を討滅せよ!
 諸君らの未来を、諸君らの手で掴むのだ!」


746 : 神は追憶の果てに掃除機を砕く ◆ylcjBnZZno :2021/01/27(水) 23:04:50 DP.gs3Jo0


 一息に話した真凛は群衆に向けて吹かせていた風を止ませる。
 息を切らし、苦悶の表情を浮かべる彼女の耳に「ぱち、ぱち」と拍手が聞こえる。

「やるじゃない。真凛」

 人間を木の葉のように吹き飛ばす突風が渦を巻く地獄。
 その渦中にあって、突風を、まるでそよ風であるかのように平然とその身に受ける陣野愛美が、手を叩きながら真凛に歩み寄る。

「スキルの出力を抑制する呪いとスキルを使うと激痛が走る呪い。 両方付与しておいたんだけど、まるで形無しねえ」

 そしてそのまま、真凛の顔の前に屈み、指でつまむようにして顔を持ち上げる。

「改めて訊くわ、真凛。
 あなた、やっぱり私と一つにならない? この世界の民を慈しむあなたの心、とても美しいと思うわ。 私の中で、あなたの理想を叶えましょう? 」

 現人神となった愛美からの甘美なる救いの提案に「そうだね」と真凛は笑う。
 その声には、先ほどまでの戦乙女のような凛々しさはない。
 普通の、中学生らしい幼さの残る声色と口調だ。

「愛美ちゃんのスキルなら、私の望みを正しく、欠けるところもなく、理解できちゃうんだろうね」
「愛美ちゃんに取り込まれれば、私はすっごく安らかな心地でいられるんだろうね」
「苦しいことも、つらいことも逃げきれて、ぜーんぶ気にしなくていい、幸せが得られるんだろうね」

 わが意を得たりとばかりに笑いうなずく愛美。

「でもね」と続く真凛の言葉にその顔が曇る。


「私の望みを理解できても、愛美ちゃんが愛美ちゃんである限り、それは叶わないし、私も私で私の罪から逃げるわけにはいかないんだよ」


 交渉の決裂を悟った愛美が強引に真凛を取り込もうとスキルを発動させる。

 しかしそれよりも先にギロチンの刃を吊るロープが風魔法で断ち切られた。

 叩きつけられる刃により切断され、中空を舞う真凛の頭部。

 それでも尚、彼女の口は動いた。


「先に地獄で待ってるよ」



◆◆◆



 救いを拒否し、自らの手による死を選んだ老人を見て、かつての友を思い出した。
 彼女もまた、救いを拒否して自裁したので。

 けれどもう、それだけ。思い出すだけだ。
 あの妙に誇らしげな顔が少し癇に障ったけれど、己にならなかった人間などもはやどうでもいい。


747 : 神は追憶の果てに掃除機を砕く ◆ylcjBnZZno :2021/01/27(水) 23:06:00 DP.gs3Jo0

 
 優美と出会うべく先を急ぐべきなのはわかっている―――が、しかし。
 愛美の注意は老人から回収したアイテムの、その中の一つに引かれていた。


「中に…何か入ってるわねえ……」

 そのアイテムは掃除機だ。
 説明に『使用済み』と書かれているため、入っているのはほぼ間違いなくゴミやほこりの類―――のはずなのだが、それにしてはこの掃除機、妙に重い。

 一般的な掃除機の重量は3.5kg程度と言われているが、これは床移動型と呼ばれるタイプの場合であり、いま愛美の手にあるスティック型の掃除機なら大抵2kg以内。最新のものだと1kgに迫るものもあるくらいで、逆に2.5kgを越えてくると『かなり重い』と評される。
 日本の掃除機は日進月歩で進化を遂げているのだ

 しかし老人から回収したこの掃除機、どんなに軽く見積もっても5kg以上はある。
 STRがAにまでなっている愛美にしてみれば枝切れのようなものだが、スティック型掃除機としては異様に重いのだ。


 その重量の『謎』に『観察眼』が反応している。
 普段の愛美であれば気づかなかった、気づいていたとしても無視していた程度の些細な違和感。

 スキルの影響か、それともそのスキルの元々の持ち主である青山征三郎の影響か。
 愛美は『謎』を解き明かし、その正体を確認したい衝動に、強く強く駆られていた。

「面倒なものをよこしてくれるわねえ」

 そう呟きながら掃除機を破壊し、ダストボックスを取り出す。


 掃除機に隠されしその正体とは――――。


[D-6/工業地帯/1日目・午前]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)、天命の御守(効果なし)(E)、ゴールデンハンマー(E)、掃除機(破損)(E)
発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、魔法の巻物×4、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(5/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、不明支給品×7
[GP]:90pt
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
1.掃除機の中を確認。
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C


748 : ◆ylcjBnZZno :2021/01/27(水) 23:07:27 DP.gs3Jo0
投下終了です


749 : ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:07:49 Wlf..aeA0
投下乙です
やはり異世界は地獄だぜ、真凛ちゃんが唯一の希望
掃除機の中身も気になりますねぇ、わざわざ掃除機に隠すような物とは

それでは私も投下します


750 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:10:38 Wlf..aeA0
「歌……ですか?」

とんだ夢物語だ。
秀才たちから計画の説明を聞いた梨緒の感想はそれだった。

歌による停戦計画。
そんなもので殺し合いが止まるものかバカめ。
やはり芸能人と言うのはお花畑なのか。
それに便乗する男の方の頭の程度が知れるという物である。
そう心の中で悪態を付く。

「そうなったら素敵ですね。素晴らしい計画と思います」

内心で毒づきながら、梨緒は笑顔で心にもない言葉を並べ立てる。
計画がどんな物であろうと梨緒にとってはどうでもいい事だ。
今は適当に話を合わせておくだけいい。

本気で計画に乗るつもりはないし、失敗したところで関係がない。
梨緒の目的は優勝である。その方針に変わりはない。
停戦計画が成功しそうなら逆に邪魔する必要があったかもしれないが、その必要もなさそうである。

自らが積極的に動いて参加者を減らすという方針はやめた。
序盤は消極的に生存を優先する。

こういう平和ボケしたお花畑連中の中に潜り込み守ってもらう。
そうやって終盤まで生き残り、最後に裏切る。
そちらの方が安全で確実だ。

勿論、参加者を減らすチャンスがあれば減らす。
だが、あくまでそれは確実かつ安全が確保されている場合に限る。
少なくとも三人で行動している間は動かないのが無難だろう。

「ユキさん、不躾な確認で申し訳ないのですが。貴女はGPを何pt所持していますか?」

唐突に秀才がそう切り出してきた。
梨緒ことユキは戸惑うような素振りを見せながらもそれに応じる。

「GP……ですか? 構いませんが、何故です?」
「実は我々には別行動をしている仲間がいまして、彼らと連絡を取るためにGPが必要となるんです。
 シェリンによれば10ptでメールが1通送れるとの事です。ご協力をお願いできませんか?」

表面上は協力関係にある以上、こう言われては断りづらい。
えっとと躊躇うような暫しの間を置き、ユキはハッキリとした声で答える。

「0ptです」
「0pt?」

教えるつもりなど無い。
下手に増えたGPの出処を探られても面倒だ。
持ってないと答えるのが一番手っ取り早いだろう。
だが、その答えを受けた秀才はおかしいですねと呟き。

「最初のメールで10ptは貰えるはずですが、それは何かに使ってしまったと言う事ですか?」

その指摘にユキは慌てて誤魔化す様な微笑を浮かべる。

「ああ……すいません。10ptでした。そのGPの事をすっかり忘れてました。
 GPが手に入るような事をしていないので勘違いしていました」
「……勘違いですか。まあそう言う事もあるでしょう」

人間なのだから勘違いくらいするだろう。
秀才は言葉の上では納得を示した。

だが、GPはメニューを開けばすぐにでも確認できる事だ。
確認をしなかったと言う事は逡巡するような間は別の意味を持つ事になる。
秀才が眉を顰める。


751 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:12:14 Wlf..aeA0
「ところで、その別行動をしている仲間ってどういう人なんですか?」

ユキが話を切り替えた。
むずかしい顔をしている秀才の代わりに月乃が答える。

「正義くんって言う私達と同年代の男の子とロレちゃんっていう小さい女の子の二人組だよ。
 ロレちゃんは無口な子なんだけどほっぺがぷにぷにでねぇ、おもちみたいに伸びるんだよね」
「そうなんですか。ところで正義さんと言うのはどんな方なんですか?」

月乃が熱く語った幼女にではなくユキが喰いついたのは男子の方だった。

「……えっと、正義くんかぁ。
 兄さんや秀才さんの後輩で、確かすごく強い武道の名門の家の人だったかな?」

どんなと問われても月乃はそこまで詳しい訳ではない。
秀才とのやり取りを聞きかじった知識を思い出しながら答える。

「そんなに強い人なんですか?」

想像以上にぐいぐいと来るユキに押されながら、詳細までは知らない月乃は直接的な知り合いである秀才へと視線を送る。
秀才は仕方なさげに眼鏡をクィと上げて応じた。

「そうですね。あらゆる武術に精通し同年代では敵なし。
 腕っぷしだけではなく精神的にも非の打ち所のない。彼は真の意味での強者でしょう」
「へぇ、それは凄いですね」

ユキが本心から目を輝かせた。
強者と共にあると言うのは梨緒の目的に沿っている。

「でもどうして別行動を?」
「正義くんたちは塔の制圧やイベントの参加を行ってもらいGP集めをしてもらっています。
 我々は月乃くんのお兄さんと合流を目指しながら、協力者を募っている所です」
「そうなんですね。なら私も協力者の一人と言う事なんですか。ご迷惑なっていないようでよかったです」
「そうですね、よかったです」

互いにハハと笑いあう。
流れるのは和やかな空気ではなくどこか空々しいものだった。
その空気に気づいているのかいないのか月乃が呑気な声で報告する。

「あ、何か来たみたいですよ」
「定時メールですね。もうそんな時間ですか」

言われて秀才とユキがメニューを開く。
そこには3通のメールが届いていた。

「確認しましょう」

秀才の確認に二人の少女が息を飲みながら頷く。
そこに彼に関わる死が記されているとも知らず。




752 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:13:56 Wlf..aeA0
親友の悲報を受けても、秀才の心は落ち着いていた。
感情が動かないのは冷静スキルの影響か。

いや、そうではない。
ただ単に実感がないのだ。
あの暑苦しい男の死が無機質なメールの一文で済まされるというのは余りにも実感がなさすぎる。

何にせよ冷静にいられるのは今はありがたい。
秀才にはなすべきことがあるのだから。

「月乃くん」

名を呼ばれビクッと月乃が肩を震わせる。
彼女もまた、実兄の死を知ったのだろう。

「な、何ですか出多方さん……?」
「……大丈夫ですか?」
「ッ。や、やだな出多方さん大丈夫ですよ……ッ!
 このメール。キララちゃんや可憐ちゃん…………兄さんが死んだなんてそんなことある訳」

否定の言葉を捲し立てるがその瞳からは一筋の涙が零れた。
そのまま堪えきれず、両手で顔を覆って涙を流し続ける。
ユキが駆け寄り、慰めるように月乃の肩に手を添え秀才に向かって言う。

「こんな状態の月乃さんを引き連れて進むのはかわいそうです。
 いったん引き返して正義さんたちと合流すべきでは?」

身内を失った月乃を慮った言葉だが、もちろんその真意は違う。
梨緒からすれば、太陽の死など、自分の命令を無視して勝手にツッコんだバカがやっぱり死んだのか、程度の物である。

正義との合流。
強者の庇護を求める梨緒は月乃を出汁に使ってその目的を果たそうとしていた。

「いえ、このまま進みましょう」

だが、秀才は非情な決断を下す。

「どうしてです!?」
「追加された放送局を確認しておきたい」

定時メールと同時に届いたアップデートメールに記されていた追加施設。
その中に、全体に声を届けることができるという放送局があった。
月乃の歌を島中に届かせる計画におあつらえ向きな施設だ。
計画に向けてこれの調査は必須である。

「だからってそんなッ!」
「………………いえ。私、行けます…………! 大丈夫です」

庇い建てるユキを静止して、月乃が涙をぬぐって気丈に振る舞う。
自分たちに課された任務の重要性は月乃だって理解している。
多くの命がかかっているのだ、止まってなどいられない。

だが、そうなると困るのは梨緒の方だ。
この二人は肉壁くらいにはなるだろうが、戦力的には頼りない。
有能な護衛である正義と合流する方向に向かって貰わなければならないのだから。


753 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:17:26 Wlf..aeA0
「無理しないで月乃さん」
「……ありがとうユキさん。けど、やらなくちゃダメな事だから。グズグズしてたら兄さんに怒られちゃう」

月乃は自信を奮い立たせるような強い言葉を吐く。
それに梨緒は内心で舌を打つ。

演説スキルを生かすには心配の言葉ではだめだ。
ある程度強引でも説得力を持つ理論を用意しなくては。
梨緒は僅かに思案し、説得の言葉を吐く。

「そうかもしれないけれど。やっぱり引き返すべきよ。
 私たちには戦う力はない。太陽さんと合流できなくなった時点で護衛役はいなくなったのだから、すぐにでも正義さんと合流した方が安全でしょう。
 お兄さんだって月乃さんを危険にさらしたいとは思わないはず」

感情をたっぷり込めて梨緒はそれらしい事を言う。
月乃も太陽を持ち出されては否定は出来ず、言葉を飲んで俯いた。

「太陽をご存じなんですが?」

背後からの秀才の問い。
この声にユキは僅かに動きを止めた。

「……いいえ。お二人のお話でしか知りませんが、ああ、名前ですか。名前なら名簿に載ってるじゃないですか
 メールにもあった名前ですし、月乃さんと同じ苗字なので分かりますよさすがに」

月乃の兄としか説明されていない太陽の名前を知っていた事を追求したかったのかもしれないが、その程度の揺さぶりには引っかからない。
だが、そうではないと秀才は首を振る。

「違います。そうではなく、月乃くんのお兄さんと合流しようと思っているとしか説明していなかったはずですが。
 どうして我々が太陽を護衛役として探していたと思ったんですか?」
「それは、当然…………ッ!?」

そこまで言って梨緒は自らの失態に気付く。
見るからに屈強な太陽を護衛役として考えるのはそれほど突飛な発想ではない、梨緒だってそうした。

だが、スラリとした美女である月乃の兄と言われて、あのゴリラを思い浮かべる人間は少ないだろう。
大抵は線の細い美男子を想像する。
大日輪兄妹が父と母の遺伝子が混ざらなかったとしか思えないほど似ていない兄妹であるなど、知らない限りは答えようがない。

「……話の流れで、そう判断しただけですよ。
 月乃さん綺麗だからそのお兄さんも強くってかっこいいって幻想見ちゃってたのかもしれないですね」
「そうですか」

苦しい言い訳だが演説スキルの補正があれば言い分は通る。
少なくとも梨緒はそう認識している。

だが、実情は冷静スキルにより無効化されている。
月乃には有効だが、秀才には効いていない。

「ともかく、秀才さんは調査がしたい、けど月乃さんを引き連れるのはかわいそうだと思います。
 なのでこうしましょう。私と月乃さんは正義さんと合流、放送局には秀才さん一人で行く。どうです?」

ユキが二手に分かれるという折衷案を出した。
双方が目的を果たせる、落としどころとしては悪くない提案だろう。

「いいえ、ダメです」

だが、秀才はにべもなくこれを却下する。
内心のイラつきを押さえながら、ユキがその理由を問う。

「どうしてかしら?」
「あなたと月乃くんを二人きりにするのは危険だからです」

確かに女二人では道中の危険度は高いだろう。
庇護を求めて正義たちとの合流を目指して、その途中で襲われたのでは話にならない。


754 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:19:46 Wlf..aeA0
「けど、それは秀才さんと同行していても同じなくて?
 どこに行くにしても危険度はそう変わらないと、」
「違います。そうではなく」

幾度目かの否定の言葉でユキの言葉を遮り、秀才は告げる。
決定的な告発を。

「ユキさん。貴女――――太陽の死に関わっていますね」
「なっ…………!?」

完全に空気が凍り付く。
傍から見ていた月乃すら言葉を飲んだ。
言葉の矢尻を向けられたユキの心情はいかばかりか。

「そんな相手と月乃くんを二人きりにするなんてできないと言っているんです」
「……何を、いきなり」
「いきなりではないですよ、最初からあなたは疑わしかった」

最初に気づいた血の渇きのみならず、根拠は幾つもあった。
演説スキルが効かず、そのスキルを持っていると知らない秀才からすれば稚拙な数々の言動は目に余るほどだ。
出会いの時点でもそうだ。

闘技場の陰から飛び出してきたユキは森から逃げてきたと言った。
だが秀才がユキが飛び出してきた方向を確認したが、そちらには森はなかった。
真逆とまではいわないが、森はややずれた方向にあった。
襲われて混乱していた可能性は十分にあるだろうし、真っ直ぐ逃げてきたとも限らない小さな違和感でしかないが。

謎の襲撃者から逃げ着てきたにもかからず落ち着くのも早すぎだ。
負っていた傷自体は本物だったが、襲撃された直後であったというのは虚言であったように思える。

それら自体は追及する程の事ではない。
だが小さな疑惑でも積み重なると大きな疑惑になる。

何より決定的だったのは最初に出会った時の月乃に対するリアクションだった。
ユキは『TSUKINO』を知らない風な反応を示していた。

『TSUKINO』はアイドルランキング個人(ソロ)4位、総合9位の実力者だ。
特に『TSUKINO』は数々の楽曲がタイアップされており、街中でも彼女の歌声は流れているためランク以上に認知度は高い。
全国民が知っているとまでは言わないが、彼女の年代でTSUKINOを知らないと言うのは考えづらい。
緊急時だったとはいえ、何らかのリアクションがあってもいいだろう。

ここまでそれを追及はしなかったのは、ユキがそうする理由が分からなかったからだ。
月乃を知らないと装う必要性が分からず、もしかしたら本当に知らないだけなのかもしれないと自分を納得させていた。

だが、太陽の死で状況が変わった。
それを前提として考えると線が繋がる。

ユキが太陽を直接殺した、とまでは秀才も思っていない。
細腕の少女があの太陽を殺したというのはどうしても想像がつかないからだ。
だが、何らかの関わりがあった可能性は高い。
その関わりを隠蔽すべく、太陽から聞いた情報に知らないふりをした、というのなら納得がいく。

「僕の推論は以上です、何か反論があればどうぞ」

反論などあるはずもない。
何せ全て事実である。

仮に太陽に助けられ、自分を助けた太陽は死んでしまったとでも語っていれば秀才もお手上げだっただろう。
だが真実に嘘を織り交ぜるのではなく、嘘に嘘を重ねたからこそボロが出た。
これはスキル以前の梨緒自身の対人スキルの低さによるものだ。

「話にならないわね」

だからと言って、素直に認めるはずもなく。
述べられた秀才の推察をユキは鼻で笑い飛ばした。


755 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:22:54 Wlf..aeA0
「どう思う月乃さん?」
「え…………?」

秀才から視線を外し心配そうに二人のやり取りを見守っていた月乃へと向き直る。
ここまで来れば梨緒にだって秀才に演説スキルが効いてないことくらい理解できる。
だからこそ崩すなら月乃の方だ。

「あなたも私が太陽さんの死に関わっていると思う?」

戸惑う月乃を気にせず問いかける。
本当に月乃の心情を慮っているのならこんな質問をするはずもない。
そこにあるのは兄の死の遠縁になった女が、妹を骨の髄まで利用する最悪の構図だった。

「私は太陽さんの死に関わってはいないし、そもそも太陽さんと出会ったこともない。
 信じてくれるわよね? 月乃さん」

信頼と言う暴力を強要する。
その問いに対して月乃の答えは決まっていた。

「……うん。ユキさんを信じるよ」

その言葉に梨緒が口元を歪める。
自身の言葉を信じさせる演説スキルの効果は絶大だ。
梨緒は七三眼鏡を切り捨てて月乃を伝手に強力な守護者を手に入れる。

「けど、」

だが、月乃は続ける。

「出多方さんも信じてる。理由もなく誰かを悪く言うような人じゃないから」

どちらかしか信じないのではない。
月乃はどちらも信じている。

「誤解があるんなら話して欲しい、ちゃんと話を聞くから。話し合いましょうユキさん」

少女は自身の兄の死の原因となったかもしれない女に笑いかける。
兄の死のショックが抜けきってはいないだろうに。
その笑顔を能面の様な無表情で見つめ、ユキが呟く。

「………………………………は? 何それ」

とんだ茶番だ。
何が信頼だ下らない。
梨緒はそんなものを信じていない。

このスキルを得るのにいくら払ったと思っている。
どうして無条件に私を信じないのか。

クラスの連中もそうだ。
私の言葉を信じなかった。
それどころか私を嘘吐きと罵り無視を始めた。

そんな中で雪だけが、雪だけ違った。
私の言葉を信じてくれた。
相手を無条件で信用する。
それが真の友情だ。

「もういいや」

感情のない声。
使えない奴ら。
それができない、利用すらできないこいつらはいらない。
計画を投げ出す程に気持ちが悪く、受け入れがたい。


756 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:25:22 Wlf..aeA0
「そうよ、太陽が死ぬ原因を作ったのは私」

開き直ったようにユキが告げる。
月乃が目を見開き、秀才が眼鏡の奥の目を細めた。

「あいつを洗脳して利用して、人を殺させたわ。生き残りたかったんですもの仕方ないでしょう?
 けど信じて、遠くから銃で撃たれた所にあいつが勝手にツッコんでったのよ、私が指示した訳じゃないわ」
「なんて事を…………」

想像以上の悪行に秀才ですら言葉を失う。
月乃は悲しげな瞳でユキを見つめた。

「ユキさん……」
「何よ、同情したような眼で見てんじゃないわよ、怒り狂いなさいよ大日輪月乃!」

その視線にい無性に苛立ちを覚え梨緒が叫ぶ。
自分の兄を利用した相手、自らを騙していた相手にどうしてそんな目が向けられる?
偽善者っぷりに吐き気すらする。

「…………拘束します」
「あら? 私に暴力を振るう気?」

秀才の言葉を梨緒が皮肉気に笑う。
告発とはある種の暴力装置があって成立する。
秀才もそれは理解している。

秀才の見立てではユキに戦闘能力はない。
それはこちらも同じことだが、二人がかりなら制圧できると踏んでいた。

秀才のその見立ては正しい。
ユキには戦闘能力など皆無である。
そう、ユキには。

「―――――守って白馬の騎士様!」

ユキが叫んだ。
それがなにか異様な事であるのは秀才も月乃も気づいていた。
だからこそ、この時点で相手の命を奪う、最低でも昏倒させておくべきだった。
ここに正義がいたなら確実にそうしただろう。

だが、この二人は戦士ではない。
故に見送ってしまった。
唯一にして決定的な隙を。

梨緒の傍らの空間が歪み、そこに守護騎士が出現する。
剣と盾を構える白銀の異形を前に秀才も月乃も動きが固まった。

「もういいや。めんどくさい。殺っちゃえ白騎士」

容赦のない号令。
主の許しを得て人馬一体の騎士が駆ける。
四足で力強く地を蹴り流星の如き勢いで突撃する。
その先には少女が立ち竦んでいた。

「月乃くん!」
「きゃ…………!?」

秀才が飛びかかる様にして咄嗟に月乃を突き飛ばした。
そこに迫る白騎士の突撃。
突き出された剣が腹部に突き刺さり、そのまま振り抜かれる。
突撃の勢いのまま振り抜かれたその斬撃は内蔵ごと腹部をえぐり取り、その体を吹き飛ばした。

「出多方さん…………ッ!!」

歌姫の悲痛な叫びが木霊する。
地面へと転がる秀才の体。
即死ではないが、どう見ても致命傷、死ぬのは時間の問題だろう。
月乃が駆け寄ろうとするが、その前に蹄の音を立てて守護騎士が立ちふさがる。

「さあ! その女もやってしまえ白騎士! 兄妹諸共、私に使われて死ね――――!」
「くっ!」

迫る絶対の死を持った白い死神。
目の前の死を覚悟して月乃が目を瞑る。


757 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:28:26 Wlf..aeA0
だが、死は訪れなかった。
月乃がゆっくりと目を開ける。
どういう訳か、剣先は眼前でピタリと止められていた。

「そこまでです」

聞き馴染んだ声が響く。
見れば、秀才がユキを後ろから拘束し、その首をチョークスリーパーのような形で締め上げていた。

秀才の腹部を抉った傷は回復していた。
これは正義から譲渡された回復薬によるものである。
痛みの中でも冷静に行動できたのも幸いだった。
即死でなければ回復できる。

そうして、殺したと思って秀才から注意を逸らしていた梨緒はあっさりと背後を許してしまった。
白騎士は本来意思のない非生物ではあるが。
スキル名にある通り本来の役割は主の守護。
それに反する行動は出来ない。

「下手な動きを見せれば、首をへし折ります」

秀才は運動は苦手ではあるが
腐っても文武両道を旨とする大日輪学園の生徒である。
柔道の心得くらいはある。

「はっ。あなたに人が殺せるの? 出来る訳がない!」
「さて、どうでしょう。しかし自分だけならともかく。
 月乃くんと、キミの命を天秤にかけて、できないと思いますか?」
「くっ…………!」

秀才は梨緒の命を、白騎士は月乃の命を。
互いに人質を取った状態となり、事態は膠着していた。

「月乃くん!!」

ユキを拘束しながら秀才が呼びかけた。
そして腕に付けた炎ブレスレットを見せつける。
それだけで伝わる物があったのか、月乃のが悲痛な顔で首を振る。

「嫌です! 秀才さん」
「大丈夫です。私は私で何とかします、だから信じてください、私を」

信じろと言われてしまえ信じるしかない。
いつも悲観的な男だったけれど、だからこそ月乃は秀才が信頼を裏切った事がない事を知っている。
グッと唇を噛んで決意を込めて叫ぶ。

「ワープ――――!」

叫びと共に月乃の姿が消えた。
ワープストーンによる空間転移。
こうなってはもう追いかける事も叶わない。


758 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:32:23 Wlf..aeA0
秀才はそれを見送って申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
月乃には嘘をついてしまった。
最初で最後の嘘を。

その先の策など無い。
信頼を裏切ってしまうようで心苦しいが、だがそれも許してほしい。

「お………前ェ!!」

してやられたユキが顔を真っ赤にして激昂する。
その足元に何かが落ちた。
それはスタングレネードだった。

自分自身すら巻き込まれる距離。
故に使いたくはなかったが、激昂した梨緒はその選択を取った。

「白騎士ィ!!」

梨緒の叫び。
直後にスタングレネードが炸裂し辺りが爆音と閃光に包まれる。

目を焼く閃光も非生物である白騎士には関係がない。
光の中を白銀の騎士が駆け抜ける。

誰もを混乱させる、眩いまでの白の中。
秀才の頭は冷静だった。

「ふっ、私もここまでのようですね」

何も見えない。
冷静であってもどうしようもない白の闇。
麻痺した耳では馬の闊歩も聞こえない。

だが、何とか親友の妹を守ることができた。
自分の意思は頼りになる後輩に引き継ぐことができた。
十分だ。

何も出来なかったわけじゃない。
きっと自分の意思はそうやって引き継がれて続くのだ。
後を託すことのできる信頼できる仲間たちがいる、これほど素晴らしいことはない。
そうだろう? 親友。

「月乃くん、正義くん、ロレチャンさん、後は託しましたよ」

[出多方 秀才 GAME OVER]




759 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:34:25 Wlf..aeA0


「…………くそっ。あの七三眼鏡ぇ…………ッ!」

グレネードによる耳鳴りと涙がようやく止まり、梨緒が秀才への恨み事を吐く。
苛立ちのままあたまをガシガシを掻きむしりながら、霞みのとれた瞳で周囲を睨み付ける。

月乃を逃がしてしまった。
これは梨緒にとっては大失態である。

潜伏し誰かを利用する道を選んだ梨緒にとって、その真意を知る物がいるのは致命的である。
大日輪月乃は必ず殺さなければならない。
何としても、探し出して殺す。

これまでは誰かを使った間接的な殺意だった。
だが、今回は違う。
自らの手をもって殺すという絶対の殺意を持って梨緒は駆けだした。

[D-6/大森林北の草原/1日目・朝]
[三土 梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、歌姫のマイク、焔のブレスレット、おもしろ写真セット、万能薬×1
[GP]:36pt
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.大日輪月乃を必ず殺す。
2.正義と合流して過ごしてもらいたい
※演説(A)を習得しました

[?-?/???/1日目・朝]
[大日輪 月乃]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:海神の槍、ワープストーン(1/3)、ドロップ缶、万能薬×1、不明支給品×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:歌で殺し合いを止める。
1.秀才さんと合流する。


760 : 信頼 ◆H3bky6/SCY :2021/01/28(木) 01:34:53 Wlf..aeA0
投下終了です


761 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:40:17 p96ruc2k0
投下します。


762 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:44:01 p96ruc2k0
『はーい。あなたのシェリンです。』

炎の塔に背を向けた矢先、魔王の目の前に電子妖精が現れる。

「なんのようや?」

『魔王カルザ・カルマ様、コレクトコールの申請が来ました。お電話をお繋ぎいたしますか?』

「コレクトコール?」

『はい、着信者様が一回10Gpの支払いを行って通話を行うサービスです。
 今回は顔認証式・コレクトコールチケットを用いてお電話が届きました。』

「どこのどいつや?」

『E-8エリアのイコン様です。』

「知らん名やな…」

安条可憐から聞いた家族の一員ではない、大体顔を合わせていないので可能性は限りなく低い。
さらに先ほどであった盗賊にしては距離がやたら遠い。

そうなると元の世界の人間である可能性が高い、
業務中は城に引きこもっていたとはいえ、魔王として自画像を何十枚と描かれた覚えがある。
当代の魔王として人間界でも魔界でも顔が知れ渡っている自覚があった。

「ま、話さんとわからんな、
 その糸電話だかなんだか、繋いでくれや。」

『了解です。10Gp徴収いたします。』

奇襲がありうる距離ではない。
敵か味方か、それがわかるだけでも10Gpの価値はあるだろう。
メニュー画面が開き、通話中の画面に切り替わった。


763 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:46:19 p96ruc2k0

「魔王様!ご無事ですか!?
 今、どこにいますか!?」

開幕、電話の向こうの少女はそう叫んだ。

「いきなりそう言われてもわからん、どういうことか説明しろ」

取り乱している少女からなんとか話を聞きだすに至った魔王であったが、
その内容はにわかに信じがたい内容であった

「未来人…?」

「はい、遠い昔に魔王様はあの悪魔のごとき勇者一行と戦い、敗れ去ったと聞いています。
 あの伝説の勇者がこの場にいるため縋るか迷いましたが、あの勇者すらこの場で敗れたと聞いてもはや魔王様以外に縋るものが無いと思い電話いたしました…
 どうかご慈悲を…」

少女の震えた声が聞こえる。

「考えてやらん事もないが、俄かに信じがたいな。
 お前の知ってる未来とやらを教えろ」

「承知しました。
 魔王様無き後のアミドラドについて語りましょう。」

アミドラド、確か陣野愛美登場後の世界の名前だったか。

「未来の魔界はどうなっている?」

「わかりません。ご存じでしょうがあなた様が最後の力でゲートを封印して以来、あちらの現状は全く伝わっておりません。」

「本当に、あれ以来開いてはいないんだな?」


764 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:49:14 p96ruc2k0
「はい、キザスも撤退中に財宝を目にしたが槍一つ持って帰る他無かったと残しており、勇者たちも迅速に撤退したようです。」

「ふん、ざまあないな」

魔界と人間界を繋ぐ大門、小門の封鎖、
万一に備え、勇者登場直後から取り掛かった仕掛けだ。
閉じるまでに時間がかかる分、次の転生まで凌ぐに足る強力な封印である。
それでも逃げ帰れない人間界残存の多くの魔王軍や人間の事を思うと苦渋の決断ではあったが、功を期したようだ。

「陣野愛美と信者共はあれからどうした?」

「私は宗教には詳しくありませんが、長い闘争の末に世界や勇者に絶望した一派のせいで
 あれから生贄など取り止められ、徐々に衰退しているようです。
 それに呆れた陣野愛美も、長い間姿を見せていないと聞きます。」

「ふん、あの狂信者共もマトモになったものだな」

「やめてください!もし今の言葉を信者に聞かれたら、
 ジンノ教信者に対する攻撃と受け止められますよ!!
 そんなことになったら、どんな恐ろしい目に合うかご存じでしょう!」

「当然だ、そのつもりで言っている。
 この私がいる限り奴らに幅を利かせるものか。」

「………わかりました、魔王様を信じます。」

陣野愛美の一派は弱体化しているらしい。
これが本当であれば、この場における陣野愛美の弱体化も期待できるかもしれない。

「金の相場はどうなってる?」

「1:2で安定しています。」


765 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:53:13 p96ruc2k0
「やれやれ、あれから金の価値も戻ったようだな」

「金の価値?銀1に対して金が2ですが」

「相場逆転んんんん!?
 どんだけ金作ったんやゴウダ!?」

魔王の叫びが場にこだまする。
元々無茶苦茶やっていたがここまでとは、
そこまでやったらどこまで金増やしても利益にならないだろう。
アホなのか、アホだったわ。

「はあはあ…なんかもう聞とうなくなってきたが、
 マコトの子孫はどれくらい増えた?」

「今や厳密な総数が測れないほど増えました。
人口の多数を占める彼らに対して攘勇党とミルティア家が各々対応していますが、私が生まれてから進展はありませんね。」

「人口爆発どころか遺伝的多様性の危機!?」

自分が生きていた時代は人口爆発の時代だったが、状況はさらに悪化しているらしい。
頭が痛くなってきた。

「最後はツキタの子孫ですが、付与魔術で他人の付与魔術の才能を引き出す方法で最も才能がある者が当主を継承し、
 世界貨幣を付与魔術で劣化させなければ鋳造できないプラチナ硬貨に挿げ替えるなど、世界を己の能力ありきの形に変え続けています。」

「………今生きてるお前からしたらこれが一番憤りを感じるんだろうが、
 他のインパクトが強すぎて割と普通に感じてしまうな。」

キザスの政治は良くも悪くも想像通り、悍ましいというより小賢しい。
血統に寄らず才能で、争いなく次代を決める方法がある、とか言っていたがそんなものか。
それが魔王の感想だった。


766 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:55:56 p96ruc2k0
「さて、私が未来から来たという話は信じていただけましたか?」

この女が話している内容は、魔王にも思い当たる点がある。
恐らく事実だろう、そう判断した魔王は答えた。

「ああ、信じるぞ。愛美信者よ」

「愛美信者?何のことですか?」

「目立つヘマは2点ある」

「最初に“悪魔のごとき勇者達一行”と言ったのにゴウダとアミがいるこの場では“勇者”は単数形だったな、愛美はどうした?」

「それは言い方の誤りです」

「もう一点、他の勇者は全員何をやったかを答えたが、愛美だけ何をしなくなったか語ったな?
 詳しくは無いといったがそちらの方が詳しくなければ語れんぞ?」

「………」

「そもそもこのタイミングで、合流したいですと言い出したのが怪しい。
 しかも真っ先にこっちの居場所を聞きに来る始末だ。」

「あの探偵二人は愛美様と合流してから使おうとしていたようですが、
 私が使うとなるとそうもいきませんからね」

独り言が聞こえてくる。
もはや自白しているようなものだが、もう一押し加える。

「もし違うというのなら愛美に勇者を付けて呼んで見せろ」

さてどうでる。魔王がそう思った時、
画面の向こうから笑い声が響く。


767 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:58:16 p96ruc2k0
「クスクスクス…愛美様をあの勇者どもと同列に語れと?
 面白いことをおっしゃりますね。」

「もう猫被りは終わりか?」

「ええ、私こそが真のジンノ教を伝えるイコン教団教祖、イコンです。
私の手前、発言には気をつけなさい、旧魔王。」

画面越しに空気が変わったことを感じる。
さっきまでの気弱な少女とは違う、愛美と同質のオーラがある。
残念ながら、百戦錬磨の魔王にとってはそよ風に近い。

「愛美の側近か。
 この場でお前と愛美を倒せば、後はキザスの継承者を倒すだけと言う事だな。」

「愛美に伝えろ、コソコソしてないでさっさと決着を付けに来いとな」

「コソコソ?塔の支配権を奪われて逃げ迷っているあなたの事ですか?」

(伝えられることは否定しないんやな。)

こんな道具を持っている以上察してはいたが、間違いなくこの女は愛美と連絡を取っている。
自分の炎の塔の支配権が切れ、直ぐに足止めを掛けようとする辺り近づいてるのか?

「世界を統べる神に対して決着とは、
 未だに己の敗北を認められないのですか?」

「ふん、言うに事欠いて世界を統べるとはな、
 新たな魔王にでもなったつもりか?」

必要な情報は手に入った。通話を打ち切ろうとした所でイコンの声が響いた。

「ええ、そのつもりですよ。」

「笑えない冗談だな」


768 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 20:59:35 p96ruc2k0
「冗談のつもりはありません。
 こちらこそ、あなたが愛美様に逆らう理由がわかりませんね。
 権威も血統もなく、ただ己が身と授かった技能のみで世界を蹂躙する勇者達こそが魔王の望みではありませんか。」

「私があいつらの登場を待ち望んだ、だと?」

「ええ、そうですね。あなたが発端であることには違いないでしょう。
 引き抜いたものに分け隔てなく神の加護を与える聖剣無き地上に、
 能力<スキル>を持つ者が全ての権威を与えられる、輝かしい魔王の位を持ち込んだのですから。」

「冗談も休み休み言え、私が魔王を持ち込んだ?
 当時はまだ融和政策を取っていただけでそこまでは至ってない。
 腹立たしいがミルティア王国の連中が勇者召喚に至ったのが証拠だ。
 私が統治していればそんなヘマはしないからな。」

「異世界からの勇者召喚、それに至らせたのが魔王の統治の証だと思いません?」

「なに?」

「考えて見てください、万人に平等に権威と力を与えられるシステム亡き後に、愚かにも血統で権威だけを紡いできた王家。それが全く別世界の人間に勇者と言う権威を与えたのですよ?血筋に寄らず、能力に全ての権威を与える魔王の正しさに憧れたのではないですか?」

「私に敵対するためではなく、対等に立つためにあの勇者どもを呼んだ…か、面白い説だな。」

「そして勇者たちは王国とカルザカルマを呑み込み、世界の全てを手にしました。
 強いものが世界の全てを手にする、これこそ魔王の理想ではないですか。
 なぜあなたが敗れてなお、愛美様に反目するのか理解に苦しみますね。」

「…お前が言ってる魔王、私の事ではなく魔王制のことだな?
 なぜお前が魔王制に拘る。よもや貴様も魔族か?」


769 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 21:01:33 p96ruc2k0
「さあ、生憎と親の顔も見たことが無いので、どうでもいいことですね。
 いまやこの身に流れる血の色も神と同じ完全な真紅です。」

「カルザカルマ、私たちとともに来ませんか?
 完全なる能力を持つ愛美様と、全て等しく一体となる事こそが今世における最大の救済。
 神の内なる故郷で永劫の怠惰に浸ればいいでしょう。」

「ふざけるな!
 誰が貴様ら狂信者共の口車に――!?」

瞬間、魔王の体を稲妻が貫いた。

「アーハッハッハ!残念ですカルザカルマ!
 望郷の念を抱く同志として差し伸べた手を跳ねるとは!
 ああ、あなたの転生の末まで災いあらんことを!」

「待て……」

魔王の制止も虚しく、通話は途切れた。
ツーツーと鳴る画面を前に、魔王は今までの会話を回想していた。

(ふん、あの“狂信者共”もマトモになったものだな)

(やめてください!もし今の言葉を信者に聞かれたら、
 “ジンノ教信者に対する攻撃と受け止められますよ!!”
 そんなことになったらどんな恐ろしい目に合うか…)

(“当然だ”、そのつもりで言っている。)

(ええ、“私こそが真のジンノ教を伝えるイコン教団教祖”にして、
 新しく魔王の意を受け継ぐもの、イコンです。
私の手前、発言に気をつけなさい、旧魔王。)

(ふざけるな!
 誰が貴様ら“狂信者”共の口車に――!?)


770 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 21:06:06 p96ruc2k0
「カウンターか…」

してやられた、自分が探りを入れている間、あちらは自分の言葉を攻撃として互いの承諾を得て反撃の準備を整えていた。
魔王を継ぐ云々はそれまでの引き延ばしか。

(魔王の名を継ぐつもりはあるか?)

(聖剣は破棄する)

どこかであったかもしれない光景。
先代の勇者と魔王がどのような結末になったのか、誰も知ることは無いが、
結果として魔王の位が残り勇者の証は失われた。

強者による統治、強者による慈悲、正しいと思っていた魔王のやり方の果てにあったのは、
より強きものにとって代えられ、強者によって生かされる世界だったのか?

「やめややめ、所詮こっちの攻撃を誘う引き延ばし、気にすることあらへんな」

そう言って雷を受けた身に鞭を打ち、魔王は歩き始めた。
引き返す道など、もはやないのだ。

[E-2/炎の塔/1日目・朝]
[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:魔力消費(小)ダメージ(小)状態異常耐性DOWN(天罰により付与)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、不明支給品×2
[GP]:110pt→100pt
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.陣野愛美との対決に備え、力を蓄えていく。
2.イコンとか言うのも会ったらしばく。
3.主催者を調べる
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。
※「炎の塔」の所有権を失いました。


771 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 21:09:02 p96ruc2k0
[E-8/1日目・朝]
[イコン]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
[ステータス]:低体温症寸前(回復中)
[アイテム]:青山が来ていたコート(E)、受信機、七支刀、不明支給品×1、コレクトコールチケット×1→0
[GP]:0pt
[プロセス]
基本行動方針:神に尽くす
1. 愛美の道を阻むものを許さない
2.何人かの参加者を贄として神に捧げる
3.陣野優美を生かしたまま神のもとに導く
[備考]
魔王カルザ・カルマから自分・愛美への誹謗発言が攻撃判定となりました。

[D-6/工業地帯/1日目・午前]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)、天命の御守(効果なし)(E)、ゴールデンハンマー(E)、掃除機(破損)(E)
発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、魔法の巻物×4、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(5/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、コレクトコールチケット×1、不明支給品×6
[GP]:90pt
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
1.掃除機の中を確認。
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C
※支給品の一つがコレクトコールチケットと判明しました


772 : 魔王システム ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/06(土) 21:09:49 p96ruc2k0
投下終了です


773 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:06:43 D63zuHTw0
投下します。


774 : 2.15(前編)〜Let’s Play Volleyball〜 ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:09:02 D63zuHTw0
陣野優美は先ほど送られてきたメールを確認していた。
具体的にはその中の一通『施設追加のお知らせ』だ。

「食事処に温泉……。いいじゃない」

目を引いたのはやはりその二つだ。

陣野優美は物資・資源の溢れる現代日本から異世界に召喚された。
連れていかれた異世界では食事も元の世界と比べて遥かに低い水準だったし、風呂に至っては毎日入る習慣すらなく、冷たい川の水か井戸水で水浴びをするのがせいぜいで、毎日不満を垂れたものだ。

しかも優美は奴隷として売却されている。
奴隷に身を落としてからは、ただでさえ低かった生活水準は更に下回った。
特に食事は完全に悪意を持って劣悪なものを食べさせられていた。それからの日々で口にしたのは麦粥と水、精液に排泄物、そして優美自身の脚の肉くらいだ。
一方、汚れた玩具は好みではなかったらしく、水浴びだけはきちんとさせてもらえていたのだが。

そんな生活を送ってきた優美が、バーチャルの世界とは言えまともな食事、まともな風呂にありつける施設が追加されるという知らせに心躍らせないわけがなかった。

とはいえ、明記されている食事処はもちろん、温泉についてもおそらくGPを使用する必要があるだろう。
手持ちは60pt。決して潤沢とは言えない。
塔を支配した参加者や積極的に他参加者を殺害している参加者がスキルや装備品を獲得して強化されていくことを考えると、食事や温泉といった無駄遣いに終わってしまいかねないものに使用する猶予があるかは微妙なところだ。

GPを稼げるか。また、稼げる目途が立つか。
それ次第で施設を利用するか否かから考えなければならないだろう。

まあなんにせよ。

「優美先輩!!」

近づいてきたカモを喰らってから考えよう。



◆◆◆



中空に閃光が走る。

バリアと爪が衝突し、火花が散る。

間違いなく、バリアが無ければ首が飛んでいた軌道だ。

距離を取り、同時に着地した両者がにらみ合う。


775 : 2.15(前編)〜Let’s Play Volleyball〜 ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:10:54 D63zuHTw0

「やっぱり丈美だったのね」

優美の言葉に、丈美は胃が痛くなった気がした。こめかみを抑えたい衝動を抑制する。
なにせ優美は今、こちらの正体には気づいていながら、何の確認もせずに殺しにかかったのだ。
枝島の言葉が嘘であってほしいと願っていた丈美だが、それは裏付けとしては十分すぎる言葉だった。

「優美先輩、本当に、ゲームに乗ったんですね」

それでも確認したかった。
「いやねえ、ただのスキンシップよ」とか「おふざけを真に受けるの、あんたの悪い癖よ」とか聞きなれたセリフで、自分の確信を否定してほしかった。

「ええ、そうよ。誰に聞いたの?」
そして当然のように肯定される。

「さっき逃げられちゃったアイドル……は、ちょっと方向が違うし、スナイパーは会話が通じる相手じゃなさそう。
 となるとまあ必然的に、白井先生情報ってことよねえ」
論理的思考能力が落ちている様子もなし。

「あれは白井先生じゃありませんよ。
 白井先生に片思いしてる枝島先生が、外見再現して着てるだけです」
「は? なにそれ? キモッ」
完全に素のトーンで放たれる軽口。
何者かに操られている、とかの線も薄そうだ。

もはや疑いようがない。
優美は完全に自分の意志でゲームに乗っている。
十分予想していたこととは言え、やはりショックは大きい。

「優美先輩、もうやめましょう」
とはいえ丈美の為すべきことは当初と何ら変わらない。
マーダーを辞めさせ、優美を連れて元の世界、元の家に帰る。
それだけだ。

「連れていかれた先の異世界でなにがあったのか、ざっくりと話は聞いています。
 自棄になってゲームに乗りたくなる気持ちもわからなくはないです。
 でも、一緒に帰りましょう」
説得は無駄と悟りながら、それでも丈美は言葉を紡ぐ。
一縷の望みを諦めることはできなかった。

「日本に帰れば、腕も脚も目だってどうにか……」
「なるわけないでしょ。馬鹿なの?」


776 : 2.15(前編)〜Let’s Play Volleyball〜 ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:12:19 D63zuHTw0
そんな丈美の悪あがきを、優美は一蹴する。

「完全に失われた体のパーツやら機能やらを完全回復させる技術なんて、そっちの世界にあるわけないでしょ。
 仮にあったとして、姉びいきのあの両親がそんなお金を私に使ってくれると思う?」
陣野姉妹の両親は姉びいきを通り越して愛美至上主義だ。
厄介なことに彼ら自身にその自覚は皆無だが。
丈美自身、その事実は陣野家との交流の中でよく知っており、閉口せざるを得なかった。


一瞬で間合いを詰めた優美が爪で喉を狙う

「それより丈美、私、GPが欲しいのよ」

短い悲鳴と共に思わず顔をかばった丈美をバリアが守る。

「それ私に死ねって言ってるのと同じですよね!?」
「そう言ってんのよ!」

一方的に再開される戦闘。
孤を描くバリアの外郭を爪が滑る。
その勢いを殺すことなく肉薄、バリアに足をかけ、丈美の背後に回る。

振り返った丈美の目に映るは、右腕が異常なほど筋肥大した優美。
振り上げたその腕から、大ぶりのパンチが繰り出される。
耳をつんざくほどの激突音が響き、バリアに深い亀裂が走る。

「そんな!? バリアが!」
「硬った! チートじゃない!」

叫びは同時。
たまらずバックステップで逃げる丈美を優美が追う。
しかしスキル『跳躍』で強化された跳躍力には追いつけず、距離が縮まらない。
丈美が着地する頃にはバリアは引っ込んでいた。
思わず舌打ちを漏らす。

「やめてください! 優美先輩!」
叫ぶ丈美を無視して取り出した鉄球を投げつける。
薫との戦いで彼が作ったものを回収しておいたものだ。


777 : 2.15(前編)〜Let’s Play Volleyball〜 ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:13:50 D63zuHTw0
とっさに身をかわし、視線を戻す丈美。
投げると同時に走って来ていたのだろう優美が、目前に迫っていた。

もう一度後方に跳んでかわそうとする丈美に優美の掌打が迫る。

丈美の身体は回避に成功したものの、掌打は自動展開されたバリアに直撃。
バリアが砕け散った衝撃と風圧で吹き飛ばされた丈美は、開けた天井からコロシアムの中に突っ込む。

中空で一回転し、着地した丈美。
優美と激突したD-4エリアに最も近い入り口を睨む。

そこから優美が、悠々と入って来る。
「ま、このくらいで死んでくれれば苦労はしないのだけど、現実ってのはうまくいかないものよねえ。
 そう思わない、丈美?」
「そうですね。
 やめてって言ってるのにやめてくれない優美先輩見てると本当にそう思います」
「あら、生意気言うようになったじゃない。誰の影響かしら」
「誰かさんがいなくなった影響に決まってるでしょう」

優美は丈美の皮肉を微笑み一つで受け流し、そして言った。


「シェリン」


この場所でその名を呼ぶ。
丈美は戦慄する。脂汗が流れ、鳥肌が立つ。
その行為が示す意志は唯一つしか存在しない。

「死ね」と言われても、爪で切りつけられても、拳を叩きつけられても、鉄球を投げつけられても尚、いまいち実感できなかったそれ。
丈美に対する、優美の殺意。
『絶対にお前を今ここで殺す』その意志を、今更ながら、確かな実感とともに受け取った。


優美の目の前にシェリンが現れる。
『お呼びでしょうか』
「私、陣野優美は高井丈美に決闘を申し込むわ」



◆◆◆



「どうして!」

丈美は叫ぶ。
その目には涙が浮かぶ。

「どうしてですか! どうしてそこまでして私を殺そうとするんですか」

シェリン越しに丈美を見遣る優美。

「だってあなた、私を助けてくれなかったじゃない」

まるで昏い樹洞のような目で、うわごとのように答える。

「私が、あの異世界で、勇者なんてものに、勝手に祭り上げられて、裏切られて、奴隷にされて、『やめて』って、『助けて』って、叫んでる間、あんた、何してたのよ?
 部活に、恋に、勉強に。青春してたんじゃないの?
 私のことなんか、綺麗さっぱり忘れてッ!!」
「忘れるわけないでしょうが!馬鹿なんですか!」

激昂し、叫ぶ優美に叫び返す丈美。
まるで幼子の喧嘩のよう。

「そりゃ部活は頑張りましたよ! 優美先輩に育ててもらった恩を返したかったんですもん! そのためには結果出してドヤるしか方法思い浮かばなかったんですから!
 いなくなってから瓦解したバレー部立て直したのだって、戻ってこれたら中3ダブる予定だった優美先輩のためにも居場所を残してあげたかったからですよ!
 勉強なんてしてませんよ! 部活だけで日々の生活手一杯ですもん! その私と同じ練習量こなしながら学年上位取ってたあんたと一緒にしないでください! スポーツ推薦でしか行ける学校ないんですよ、私!
 恋はまあ、してましたけども! でも進展とかほぼ皆無ですよ! 完ッッ全に片思い! 何でって、決まってるでしょうが! 部活も休みの休日は丸一日優美先輩の捜索ビラ配ってんですから!
 だって私、優美先輩ともっと一緒にいたかったんですよ! 帰って来て欲しかったんですよ!
 同じ高校行って、同じ大学行って、先輩がプロになるなら一緒にプロになって、同じチームでバレーしたかった!」


778 : 2.15(前編)〜Let’s Play Volleyball〜 ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:16:46 D63zuHTw0

叫んで叫んで、息を切らす丈美。
それを無視して、シェリンに向き直る。

「シェリン。申請は受理されたかしら」
『いいえ。決闘の内容を指定したのち、対戦相手である高井 丈美さんの同意を得る必要があります』
「面倒ねえ」
本当に億劫そうに、丈美は顎に指を当て思案するようなそぶりを見せる。

「―――内容は一対一の殺し合い。スキル、アイテム使用可。死んだ方が負け。逃げた方も負け。以上。
 丈美、同意しなさい。」
「嫌です」

丈美が即答する。同時に優美が鉄球を取り出す。
「同意しなさい」

表情はにこやかに。しかし断れば殺すと言外に含ませ命令する。

「さっきの話の続きなんですけどね」

だが丈美はその言葉を無視して語りだす。

「優美先輩がいなくなった後、県大会は初戦でネプ中に負けたんです。」


入鹿金子山中学校、早蕨中学校、そしてネプ中ことネプチューン国際女学園中学校。
県大会では順位の変動こそあるが、この3校が毎年1位2位3位を獲り、関東大会出場枠を独占し、三強と呼ばれていた。

昨年、優美を中心に高いレベルでまとまり、県大会進出を果たした日天中学校だったが、優美が行方をくらましたことによりチームが瓦解。
何とか丈美が立て直したものの、一回戦でネプ中と当たり、あっさりと姿を消した。

そして優美の世代が卒業し、丈美が女子バレー部を率いることになった今年。
破竹の勢いで地方大会を突破した日天中学校は三強すべてを破り優勝した。
しかも丈美はこの県大会で、三強と呼ばれる中学校のエーススパイカー全員を封殺し、ベスト6――大会中最も優れたパフォーマンスを発揮した6人――に選ばれたのである。


「そう。よかったわね。」
そんな話を聞かされた優美は尋ねる。

「それで、どうして今そんな話をするのかしら」
穏やかな表情を作っているが腹の内はグラグラと煮えている。
あなたのせいで大変でしたとでも言いたいのか。ふざけるな。
誰が好き好んであんな世界行きの片道電車に乗り込むというのか。

今すぐに鉄球を投げつけたい衝動に駆られるが、彼我の間にこんなにも距離があっては簡単に避けられてしまう。
数限りある武器をわざわざ失うのも馬鹿らしい。
そう思い直して丈美の話を聞く。掌に力をこめながら。


「私、ずっと優美先輩のためにバレーやってました」
丈美が顔を上げ、誇るように空を見上げる。

「さっきも言った通り、同じ高校行って、同じ大学行って、先輩がプロになるなら一緒にプロになって、同じチームでバレーしたかった。
 優美先輩と一緒にその夢叶えて、ずっとコートであなたを支えていきたかった。
 そう思ってたんですよ――――最近までは」

その目がぎろりと優美を向く。
いままでとは違う怪しい光を宿して。


779 : 2.15(前編)〜Let’s Play Volleyball〜 ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:19:00 D63zuHTw0

「決勝で入鹿中と当たって、エースの山本さんをノックアウトさせたとき、憎らし気に私を睨みながらコートを出ていく彼女を見て、初めて『私はバレーボールが好きなんだ』って自覚できたんですよ。
 それで、『もっとあの顔が見たい』って。
 もっとレベルの高い戦場で、もっとレベルの高い人たちに、あの表情をしてもらいたいって思ったんですよ」
「何が言いたいの、丈美?」

結論を急がせる優美。
じれったくなったというのもあるが、それ以上に焦燥を覚えていた。


なにせ自分に向けられたあの目は―――追い詰められ、『せめて一太刀』と腹をくくった魔物と同じ目だったから。


「『優美先輩と一緒に叶えたかった夢』は『私一人ででも叶えたい夢』になったってことです。もちろん、前者の方が良かったですけど。
 だから、それを邪魔立てするって言うなら、たとえ優美先輩でも排除します」


そして突き付けられる宣戦布告。

動揺を与えて可能な限り有利に事を運びたかった優美としては、多少予定に狂いはあれど望んだとおり展開だった―――ように見えた。

「それじゃあ、さっきのルールに同意しなさい」
「それは嫌です。
 私はこの決闘、バレーボールで決着をつけることを提案します」

やっかいなことを言いだした。

こちとらバレーボールの存在しない世界に1年もいた。その上腕を切断されているのだ。
毎日触っていたはずのボールの感覚すら、今となってはよく思い出せない。
一方、丈美は1年間練習を積み重ね、優美が獲得できなかった県大会ベスト6をも獲得したのだ。
成長した丈美と劣化した優美。どちらが有利かなど火を見るより明らかだ。
加えて優美はスキル『悪辣』で善性が死んでいる。他人の『お願い』を聞き入れる優しさなど、もはや持ち合わせていない。

「そんな提案受け入れられるわけないでしょう。私が不利になるだけじゃない」
そう言うと丈美は「え? 認めちゃうんですか?」と目を丸くする。

「猫かわいがりしていた格下の後輩に上行かれて、その事実を黙って受け入れられる―――そんな物分かりいい人でしたっけ?
 異世界くんだりまで遠征して、習得したのは負け犬根性ですか?」

今度は優美が目を丸くした。
僅かな空白の後、「ぷっ」と吹き出し、笑う
「ふふ。ふふふ。
 あははははは!
 はーーはっはっははははは!!!」

ひとしきり笑い終えると、手に持つ鉄球を地面に叩きつけた。
轟音が響き、砂煙が舞い上がる。
鉄球が砕け、破片が散る。


「上等」


優美はスキル『悪辣』で善性が死んでいる。

だが闘争心は殺せていなかった。


780 : 2.15(前編)〜Let’s Play Volleyball〜 ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:21:51 D63zuHTw0



◆◆◆



【ルール(特記事項のみ)】
・25点先取、1セットマッチ。
・スキル使用可、アイテム使用不可。
・試合中は負傷しない。
・陣野優美、高井丈美以外のメンバーはNPCシェリンで補填。
・NPCシェリンについて
 ポジションごとに同じ能力、同じ外見である。
GPを使用することで能力を向上させることができる。


青天井には屋根がかかり、砂を敷き詰めた地面は板張りに。
コロシアムの内装は、バレーボールでの決闘が決まると同時に、それに適した体育館に変化していた。

ルールを確認し、アップを終え、両チームがコートのエンドラインに並び立つ。

赤と黒のユニフォームに身を包む優美チーム。
黄色と白のユニフォームに身を包む丈美チーム。

「よろしくお願いします!」
審判の笛を合図に挨拶。そして各々のポジションに向かう。
丈美はフロントセンターで構え、そして―――


―――コイントスで先攻を選んだ優美が、ボールを持ってエンドラインのさらに後方へ歩いていく。

「丈美ィ!」
サービスゾーンの、そのぎりぎりまで下がった優美が叫ぶ。

「人生最後の試合、楽しみなさい!」
「こっちのセリフですよ先輩! 私のバレー人生はまだ続くんですから!」

不敵に笑う両者。
そして優美が、右手に持ったボールをやや前方、高くに投げ上げる。
助走をつけて跳躍し、筋肉で肥大化した右腕で撃ち抜いた。

轟音と共に放たれたボール。
それはさながら戦車砲。
現実であれば、レシーブした腕を引きちぎってしまうのではないか、誇張でもなんでもなくそう思えてしまう威力。

文字通りの殺人サーブが丈美に迫り―――


「あ」


―――ネットに突き刺さり、床に落ちた。


ピッ

何とも言えない空気の中、審判の吹く笛の音が間抜けに聞こえた。

陣野優美チーム 対 高井丈美チーム
0対1


781 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:28:23 D63zuHTw0
※NGが出たのでタイトルを酉から外します。
後編のタイトルは 2.15(後編)〜狂人の真似とて大路を走らば〜 です。


782 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:29:06 D63zuHTw0
優美の強烈なスパイクに、ブロックに跳んだ丈美が吹き飛ばされる。

9対6。
優美のサーブミスで先制こそしたものの、連携の齟齬やイージーミス、相手のラッキーパンチなどが重なりあっさり逆転を許した。
加えて、前衛にあがってきた優美はおそらくスキルで筋力を増強しているようで、そのスパイクを止めるのは丈美をもってしても容易ではなく、点差は少しずつ開いていた。


一方優美にとっても、丈美を相手に攻撃を綺麗に決めるのは簡単ではなかった。

完璧な高さ、距離で上げられたトスを完璧なタイミングで撃ち抜かなければ今のような得点にはならない。
実際、この試合中、優美が丈美のブロックに打ち勝てたのは今のスパイクが初めてである。
それを実現するためにはAパスやBパス―――つまりセッターがトスをしやすいボールを上げなければならないのだが―――

「ごめん短い!」

―――それを為すには優美のDEXは低すぎた。

DEX―――すなわち器用さ。
力任せにすべてを蹂躙することをコンセプトにパラメータを設定した優美のDEXは最低値のEランク。
その下方修正が入り、レシーブやトス、スパイクの際のコースの打ち分けなどの点で、優美は現役時代の実力を発揮できずにいた。


前衛の、更にその手前に落ちるサーブを優美がアンダーハンドレシーブで上げる。しかしセッターの真上を狙って放たれたボールは、優美の真上から離れてはくれなかった。
高く上がったボールの真下に入ったセッターが低く長いバックトスで繋ぎ、最高到達点に走りこんだ優美がスパイクを炸裂させる。
苦し紛れとはいえ、スキルで筋力を増強して放つスパイク。その威力は中学生女子のレベルなど遥かに超えている。
だが、ネット下からにょきりと伸びた丈美の腕が、ボールを優美側のコートに叩き落とす。

惚れ惚れするようなキルブロックに思わず苦笑いが漏れる。
優美が現役の頃から全国に名を轟かしていたスパイカー、『バランスのいい山本』こと山本 実乃梨を完封したというだけのことはある。



11対8。
ローテーションは回らず、優美が前衛レフト、丈美が前衛ライトのまま、正面に立つ相手をにらむ。

「一本ナイッサー!!」
「ここで切るよ! 気合入れろ!」

互いから目を逸らさないままにチームメイトを鼓舞する。
主審が笛を吹き、サーバーである丈美チームのセッターがスタンドのままで打ちだす。
おそらく前衛ライトにいるセッターを狙ったのであろうサーブはその頭上を越え、後衛ライトにいるWS(ウイングスパイカー)に向かう。
これを後衛センターから飛び出してきたリベロが捌いてセッターに渡す。
そしてセッターから前方斜め上に放たれる短く、早いトス。


783 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:29:44 D63zuHTw0

―――Aクイック!

瞬時に判断した丈美がブロッカーを連れて優美の前に移動し、タイミングを合わせて跳ぶ。

「ブロック二枚!」
(タイミングドンピシャ!)
敵後衛から飛ぶ声に、ブロックの成功を確信する丈美。

そして丈美の目の前。
スパイクを構えて跳ぶ優美の腕が―――空を切った。


呆気にとられた次の瞬間、左方向から打撃音。
振り返ると相手のMB(ミドルブロッカー)がスパイクを打ち抜いた姿勢で宙に浮いていた。
後衛のレシーバーたちが地面に伏せ、床を跳ねるボールを悔しげに見ている。

この試合中、スパイクは全て優美が打っていたので他のアタッカーへの警戒を下げていた。
完全にしてやられた形だ。


つづく優美チームのサーブを一本で切り12対9。サービスゾーンに歩いていくのは丈美だ。
優美の記憶の中ではスタンディングでしかサーブを打てていなかった丈美だが、この一年でジャンプサーブを身につけていたらしい。
一本目は大きくエンドラインを越えてアウトになっていたが、その威力は筋力を増強した優美に引けを取っていなかった。

ボールを投げ上げ助走をつけて跳ぶ。
ルーティンから踏み込み、フォームまで、やはり優美のサーブにそっくりだ。
かつて優美が教えたスパイクサーブを、1年かけて磨き上げたのだろう。

唯一異なるのはその高さ。180cm近い高い身長と空を飛ぶが如き跳躍。
その高さから繰り出されるスパイクサーブはまるで雷だ。

ごう、と風を切るスパイクサーブがサイドラインぎりぎりに着弾。そのままサービスゾーンの後ろの壁に激突する。
NPCたちは反応すらできずに立ち尽くすだけだった。

随分怖い選手に育ったものだと歯噛みする。
自分達の代ならまだしも、あのへなちょこだった丈美達の代が県大会で優勝を果たしたというのはにわかには信じがたく、話を盛っているのではと疑ってもいた。しかしここまでのプレーを見せられてはそうも言っていられない。


レシーバーを後ろに下がらせ対処を試みるも、追加で二本、合わせて三本連続でサービスエースを許し、12対12の同点になる。
四度サービスゾーンに歩いていく丈美。
妙に嫌な予感がした優美は半歩前に出る。

「優美さん?」
「気にしないで」
怪訝に思ったのか声をかけてきたNPCを黙らせサーブに備える。


打ち出されるジャンプサーブ。


784 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:31:20 D63zuHTw0
しかし音が違う。そのサーブに先ほどまでのスピードはない。

―――無回転(フローター)!!

無回転(フローター)サーブ―――ボールを押し出すように打つことでボールの回転を殺し、空気抵抗によって予測不能な変化を生じさせるサーブだ。
それをジャンプして行うことで威力を強くするのがジャンプフローターサーブ。

―――優美が最後まで習得することかなわなかったサーブだ。


高井 丈美は間違いなく、陣野 優美を越え、全国でも通用するプレイヤーに成長したと、優美は初めて確信した。


「それがどうしたッッ!!」

大きく右に曲がりながら優美の目の前に落ちようとするサーブの、さらに下に入り、オーバーハンドでトスを上げる。

「チャンスボール!!」
叫ぶ優美。
ボールの下に走りこんだセッターが繋ぎ、優美の元へ送り返す。


丈美は成長した。優美に1年のブランクが無くても勝てない相手かもしれない。
丈美をここで倒してしまうことは日本のバレーボール界にとって大きな損失になるかもしいれない。

しかし、だからどうした。それがどうした。
復讐を成し遂げるため、ここで勝ちは譲れない。
己の目的のため、愛した後輩の将来を、愛したバレーボールの可能性を―――

「ここで摘む!!」

クロス方向を塞ぐブロッカーを避けてストレート方向に。
避けた先にレシーブを構える丈美がいることも承知の上で。

優美のスパイクが火を噴いた。


スパイクをその腕で受けた丈美が吹き飛び、ボールが壁に激突する。

13対12。
動き出した歯車は止まらない。



◆◆◆



相手WSの仕掛けたフェイントに、腕を伸ばして無理矢理触る。
「ワンタッチ!!」

緩やかに床に向かうボールをリベロが拾う。
「チャンスボール!」と声が上がり、走りこんだセッターが高くトスを上げる。

スパイクを構えて高く跳ぶ丈美。つくブロックは二人。
現在の丈美チームの得点は18点。その内丈美がスパイクで決めたのは5点。
ブロッカーの警戒も強くなっている。

―――だからこそ、この囮が活きるのだ。

セッターが送り出したボールの先にいるのは、アタックラインから跳び込むWS。
丈美に対処するためライトに寄っていた守備陣。逆サイドの隅を狙ったスパイクに手が届く者はいない。
最も近くにいた優美が腹這いに滑り込むが、着弾点はその手の20cmほど向こう。


床にバウンドしたボールが高く上がる―――が、審判は笛を吹かなかった。

(はぁ!?)
面食らった丈美は打ち込まれたツーアタックに対応できない。

「ちょっと待ってよ!」
淡々と優美チームへの得点を宣言する審判に丈美が怒鳴る。

「今のはこっちの点じゃないの!? ボール落ちたでしょ!」
しかし審判は抗議に微塵も動じず首を振り、優美を指さす。

丈美がそちらに目を遣ると、優美がにやにやしながらこちらに手を振る。
その指から生える爪は30cm近くに伸びていた。
手が届かないと判断し、出会い頭に丈美の首を掻き切ろうとしたあの爪でレシーブしたのだ。


785 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:32:45 D63zuHTw0

「優美先輩! 何ですか、それ! ズルいですよ!!」
「うっさい! スキル使用可っつったのアンタでしょ!
 審判がアリっつってんだからアリなのよ!!」

「くっそ〜」と言いながら元の位置に戻る丈美。
軽いノリを装ってはいるが心中は穏やかではない。

ついに20点の大台に乗られた。
丈美が提案したスキル使用可のルールも完全に裏目に出ている。
その上、優美が前衛に上がってきた。
下手をすればこのままずるずると点差をつけられ、試合が終わる。

負けられないのは丈美も同じ。
それは命がかかっていなくてもだ。
バレーで戦う以上、負けていい試合などない。

優美のスパイクを連続でシャットアウトし得点を並べる。

「クソが……!」
悪態をつく優美。
「そう簡単に終われると思わないでください?」


更にローテーションが二つずつ回り得点は22対22。依然同点である。
丈美にサーブが回って来る。

セッターを狙ったスパイクサーブは読まれていたのだろう、レシーブで拾われる。
しかし距離が短く、高さも足りない。
かろうじてボールを丈美チームのコートへ返す。

「チャンスボール!」
NPCが一打目にレシーブを、二打目に高いトスを上げる。
天井に届くのではないかというくらい高いトス。

「あれやる! 構えて!」
丈美が叫ぶと後衛にいるセッターがオーバーハンドパスの構えをとる。
そこに立ち幅跳びの要領で跳び上がった丈美が足を乗せ―――

「うりゃっ!」
気勢と共に二段ジャンプで跳び上がる。

スキルを使い、天井すれすれの高さに到達した丈美がスパイクを打つ。
通常ではありえない高さからほぼ垂直に落とされるスパイクは、まさしく落雷の如し。

「甘い!!」
しかし優美の手から伸ばされていた爪がボールを引っ掻き威力を減殺した。


スキル『跳躍』は使用者の跳躍力を向上させるとともにその体重を軽くする効果もある。
故に、丈美が打ち出したスパイクも体重が乗らず威力不足になり、優美の爪に捉えられた。
丈美自身、その欠点は理解していた。一度くらいは決まるだろうが二度はない、と。
だからこそこの技は、強引に主導権を握りたいこの局面まで奥の手として隠し持っていたのだ。

一方優美も、出会い頭の小競り合いや試合序盤のブロックの様子などから、丈美のスキルの体重を軽くする効果に気づいていた。
コロシアムに丈美を叩き込んだ際の感触から、スキルを使った時の丈美の体重は10kgにも満たないと知った優美は、丈美が攻撃のためにスパイクを使うと同時に爪を伸ばすことを決めていた。

指一本のソフトブロックでもスパイクの威力は減殺できる。
そして体重の軽いスパイカーは、打つスパイクも軽くなる。
それならばスキルを使って跳躍した丈美のスパイクなら、爪が掠るだけでも十分な効果を発揮すると考えたからだ。


786 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:34:12 D63zuHTw0


そしてこの技にはもう一つの欠点があった。
―――決められなければ、コートに復帰するのに時間がかかる。

丈美がコートに着地するのと同時に優美のスパイクが丈美のコートに着弾した。

23対22。再びリードを許す。

「この場面でスキルを使ったトリックプレイ。
 ちょっと見苦しいんじゃない?」
まあ嫌いじゃないけど。そう言いながら後衛に回り、サービスゾーンに向かう優美。
筋力を増強した腕から放たれるサーブが丈美の腕でバウンドし、後方の壁に激突する。

24対22。
マッチポイントだ。

「まだ終わんないよ!」
自身に言い聞かすように叫ぶ。応! と仲間が応える。

現役時代ビッグサーバーとして警戒された優美だが、今日はサーブの調子が良くないようで、打った三回のサーブの内二回はミスに終わっている。
またネットに引っかかってくれればいいな、とは思うがそれを勘定には入れない。

襲い来るサーブを上げて繋いでカウンターを叩き込む。
トリックプレイももういらない。
単純にして王道で優美を打ち砕く。


審判の笛が鳴り、優美がトスを上げる。
ボールを追うように助走をつけた優美が跳躍し、筋肉で肥大化した右腕でボールを打ち抜いた。

戦車砲のようなサーブが丈美に迫る。
しかし角度がつきすぎたのか、ネットの上部に激突し、完全に勢いが殺されたボールが―――ネットを越えて丈美チームのコートの床に落ちる。


優美のスパイクサーブに備えてやや後ろに下がっていた守備陣。
その隙間を縫うように丈美が滑り込む。
スキル『健脚』と『跳躍』を併用して実現させたパンケーキレシーブがボールを高く浮かせた。
高く高く。浮いたボールは、優美チームのコートに。


床に手をつき、立ち上がらんとした丈美が見たのは―――スパイクを構えて跳ぶ優美の姿。


「■■■■■■■―――――――!!!」

獣のような叫びと共に優美の腕が振り抜かれ、決着がついた。


【結果】
スコア:25対22
勝者:陣野 優美



◆◆◆



両チームがエンドラインに並びあいさつし、ネット越しに握手を交わして、ようやく丈美の身体の消滅が始まった。

そのようにルールを設定したとはいえ、最後までとことんバレーボールだ。

NPCは皆既に消滅した。
ネット下にへたり込む丈美の元に優美がやって来る。


787 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:35:31 D63zuHTw0

「優美先輩、どうしてあんな嘘ついてるんですか」
何か言おうとした優美に先んじて、丈美が尋ねる。

『私を助けてくれなかった』
異世界で彼女を売り払った兆や、助ける力がありながら見殺しにした誠や薫、愉悦を満たすだけだった愛美、何もできなかった真凛に対してならまだしも、そんな理由で何の関係もない人間を害せるほど、優美は破綻していなかった。
会話を通して、試合を通して丈美にはそれが理解できた。だからこそ訊かずにはいられなかった。
何故己を騙してまでゲームに乗るのか。

「別に、嘘なんかついてないわよ」
そう答える声はどこか空虚だった。

優美は地獄に放り込まれ、そこで想像しうるすべての辛苦を、想像を絶する惨苦を味わった。
終わることのない凌辱に心は折れ、尊厳は踏みにじられ、何もかもを失った。

残ったのは憎悪。
自分を勇者として選びながら何も与えなかった、神に対する憎悪。
増長し、あっさりと自分を切り捨てた、友や姉に対する憎悪。
人間としての全てを奪い去った、かの貴族に対する憎悪。
自分に起きた不幸を、当然にあるものとして受容するあの世界に対する憎悪。
あの幸せな世界の、自分の知らないどこかで幸せに暮らしている誰かに対する憎悪。

燃え盛るような、凍てつくような憎悪だけが彼女の心を支えていた。
この殺し合いに招聘されたのはそんな折だった。

再び自分を勇者と呼んだシェリンを憎みながらも、選んだスキルは3つ。
有り余るほどの憎悪を刃に変える『憎悪の化身』
その刃を際限なく振るうための『戦闘続行』
そして、今なお優美の心に残る慈愛と優しさが、憎悪の刃を鈍らせないための『悪辣』

優美はこのゲームに参加しているあの世界の人間を、このゲームの会場となっているあの世界そのものを、破壊し、誅戮することを心に定めた。

このゲームの会場はあの世界とは全く異なる世界で、参加者にはあの世界の住人などほとんどおらず、あれほど望郷し、会いたいと望んだ元の世界の人間が多いことに気づく頃には―――全てが手遅れになっていた。


だがそれを丈美に話してやる気はない。
そんなことより遥かに大事なことをまだ言えていないのだ。
今ならまだ言える。言えるうちに言わなければ。

丈美の手を取り、大切な宝物のように握って。真っ赤に腫れた目を真っすぐに見て言う。
「ナイスゲーム」

一瞬呆気にとられた丈美。
ああそういえば、挨拶の時にはNPCと握手をしたんだっけ。
二、三秒逡巡した後、目を伏せ、
「ご武運を」
と短く言う。

優美が握る手に少し力を入れると、丈美の手はほどけるように光の粒子となり、腕から肩へ、肩から全身へと伝わっていくように散っていった。



感傷に浸るかのように、天に昇り消えていく光の粒を眺める優美。

それらが完全に消えて見えなくなったころ、ただでさえ大きな目を、さらに大きく見開いた。
目が血走り、手が震え、口角が吊り上がった。


スキル『悪辣』が善性を殺していく。
優しさも、達成感も、誇りも、敬意も、スポーツマンシップも。
嘲りと侮蔑で、どす黒く塗りつぶしていく。

後輩との甘美な戦いは、咀嚼され、味わわれ、そして嚥下され、消えてなくなった。

「ふふ。
ふふふ。
ふふふふふふふふふふふふふふふ。
あはははは。
あーはっはっは!
ぎゃはははははっはははっははははっぎゃはっぎゃははは!!」


天を仰ぎ、呵々大笑しながらコロシアムを後にする。
その姿はまるで―――――



◆◆◆



二度目の勇者は復讐の路を嗤い歩む。

道行く人は彼女を何と見るだろう。



[陣野 優美]
[パラメータ]:STR:E→C VIT:E→D AGI:E→B DEX:E LUK:A
[ステータス]:状態異常:興奮、疲労(小)、全身に軽い痺れ、頭部にダメージ、いずれの傷も自己再生中
[アイテム]:バリアブレスレット(E)、爆弾×2、ライテイボール、不明支給品×5(確認済)、鉄球(個数不明)
[GP]:60pt→90pt(勇者殺害+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:全部、消し去る。
1.姉(陣野愛美)は絶対に殺す。
2.自分に再び勇者を押し付けたシェリンも、決して赦さない。
※スキル「憎悪の化身」によるパラメータ上昇は戦闘終了後に数分程度で解除されます。また肉体の変質によって自己再生能力もある程度上昇します。


788 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:36:05 D63zuHTw0



◆◆◆



『You’ve got mail!』

To:ソフィア・ステパネン・モロボシ
From:高井 丈美



【高井 丈美 GAME OVER】


789 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 12:36:32 D63zuHTw0
投下終了です。


790 : ◆ylcjBnZZno :2021/02/07(日) 18:02:47 D63zuHTw0
>>787
[D-4/コロシアム付近/1日目・午前]

入れ忘れてました。申し訳ないです


791 : ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:37:04 ufAzSGDQ0
投下乙です
>魔王システム
勇者の被害報告が酷い、世界の名前を変える程の影響力があるとは
電話越しでも届く距離無視カウンター、魔王様に一杯食わすイコンちゃんもなかなかやる

>2.15
高井ちゃんあの姉妹に自ら関わった時点でこの運命は決まっていたけど、まさかのバレーボール
スキル使用ありの超人バレーは予想外、そして最後のメールはいったい

遅ればせながら私も投下します


792 : 062.虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:38:42 ufAzSGDQ0
海を臨む小島の草原を雪の妖精の如き少女が歩く。
ただ少女が歩くだけでイメージビデオのワンシーンのように全てが絵になる。
誰もの目を引く天性のアイドル。
これこそが。HSFの誇る天才、ソフィア・ステパネン・モロボシである。

「アルアーール! ヴィララーーン! ドーコ、デース、カーー!?」

草原を歩きながらソーニャが良子とヴィラスを探して声を上げる。
何処かに避難しているにしてもそう離れていないはずだ。
呼びかけが届かない程遠くに行ったとは思えないが返事がない。

何かしらのアクシデントでもあったのか。
そうソーニャが危惧したところで、こちらに駆け寄る白い眼帯を付けた堕天使の姿が見えた。
†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†こと有馬良子の姿である。

駆け寄ってきた良子はそのままソーニャの胸の中に飛びこんできた。
珍しく素直に甘えた様子にソーニャは僅かに驚く。

「アルアール!? ドーしましたか?」

自分の胸の中で縋りつく良子は震えていた。
身を強張らせかなりの動揺が見える。
事情を聴く前にまずは落ち着かせるべきだろう。
ソーニャはやさしくその背を撫でた。

そうしているうちに、ソーニャは良子の異常に気付いた。
縋る様に服にしがみ付いているのは左手だけである。
右手はだらりと垂れさがり、その指先から滴り落ちる赤い液体に気づいた。

「アルアル怪我してマス! スグに手当てしマスネ!」

慌ててソーニャはアイテム欄から取り出した回復効果のある包帯を巻きつける。
誰かに噛み付かれでもしたのか、鋭い歯型の様な傷跡だった。
かなり深い傷だ。殆ど千切れかかっている。

「アルアル、ヴィラランはドーしまシタ…………?」

そう言えば、良子は一人だ。
共にいるはずのヴィラス=ハークの姿が見えない

その問いに良子がキュと唇をかみしめる。
だが、このまま黙っている訳もいかない。
自分に起きた出来事を思い返しながら、良子はおずおずと説明し始めた。




793 : 062.虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:39:58 ufAzSGDQ0
「ナルホド。急にヴィラランが噛み付いてキテ、封じられし禁断の薄暮を照らす幻惑の魔眼『ファントム・オブ・トワイライト』にヨリ水ノ幻覚を見せたら、ヴィラランが深き?ようは何カ半魚人にみたいにナッテ、そのママ海ニ飛び込んでイッタ、ってコトですかね?」

確認するようにソーニャが要約する。
他人の口から改めて聞かされてみても訳が分からない状況だ。
ソーニャはもちろん良子も訳が分かっていない。

「ウーン。結局、ヴィラランは悪い子だっタって事デスか?」
「それは…………どう、なんだろう?」

良子は答えを濁らせる。
ヴィラスの豹変、変化、何一つ理由が分かっていないのだ、答えようがない。
悪意があったようにも思えるし、そう言ったものとは違うもっと純粋な、本能的な何かだったように思える。
3歳児が大人の体を得て無邪気に噛みついた結果だったと言われればそうと思えなくもない。

どちらにせよやりすぎた、という自覚がある。
もしかしたら、ヴィラスは死んでしまったかもしれない。
そう思うと恐ろしかった。
人を殺してしまうと言うのは殺されるのと同じくらい恐ろしい。

そこまで考えたところで気づく。
自分の事に必死で気付かなかったが、そう言えば良子と同じくソーニャも一人だ。
対峙していたあの女はどうしたのだろうか。

「ソーニャは…………」

あの女をどうしたのか。
そう問おうとしたが、その先の言葉は続かなかった。
どんな答えが返ってきても恐ろしいことになりそうで、どうしても聞けなかった。
ただ良子にわかるのは僅かに赤いソーニャの瞳と、目じりに残る涙の跡だけである。

「我道サン、ダイジョーブでショウか?」

その良子の葛藤を理解しているのかいないのか、ソーニャが呟いた。
確かに、それも心配事の一つである。
我道は突然引っ張られるようにして男と共に崖下に落ちていった。
その程度で死ぬタマではないだろうが、どうなったのか心配ではある。

そこにガラリという音が聞こえた。
音の方向に目をやれば、そこには崖下から這い上がってくる手があった。

「我道のおっちゃん!」

登ってくるのは我道だと疑うことなく良子が駆け寄る。
我道が勝つと信じているのは同じだったのか、僅かに遅れてソーニャもそれに続く。

「ッ。待つデス、アルアル!」

だが、すぐに異変に気付いた。
崖端を掴む手にスーツの袖口が見えた。
我道が着ていたのは道着である。
つまりこの手は我道の物ではない。

「おや、こんにちは」

這い上がってきたのボロボロな男だった。
中肉中背の黒スーツ。数々の打撃痕と抜け落ちた前歯により愉快なモノになっていたがその顔には見覚えがある。
我道と共に崖から落ちていった男である。

「片腕で崖を登るのはなかなか骨が折れました、まあ本当に折れてるんですけど」

赤く腫れた右手首をさすりながら、冗談なのか何なのか、淡々とした様子でそう述べる。
満身創痍でありながら、常と変わらぬようなその様は異様であった。

「…………我道サンはドーしましたカ?」
「分かるでしょう?」

二人落ちて登ってきたのは一人だけ。
それがどういうことを意味するかなど、問うまでもない事である。

それを理解した良子は怯えた様に一歩下がり、
ソーニャは不快感を示す様に眉根を寄せて、庇うように前へ出た。
それを気にせず男は首を振って周囲を見渡した。

「そちらは……お二人だけですか」

先ほど確認した時より、一人足りていない。
何らかのアクシデントがあったのか。
どこかに隠れているはずの真央の姿を探して崖際から一歩踏み出す。


794 : 062.虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:41:00 ufAzSGDQ0
「オット、ソレ以上近づかナイでくだサイ」

その動きを牽制すべくソーニャがボウガンを突き付ける。
それを見て男がピタリと動きを止めた。
状況を理解したのか男は無表情のまま呟く。

「そうですか、死んだんですね真央さん」

その呟きにソーニャは答えない。
良子は恐れていた事実に押しつぶされそうになる。

「その人は……大事な人だったの?」

震える声で良子が問う。
自分たちを操り殺し合わせようとした女だったが、彼にとってはどうだったのか。
男は即答はせず、僅かに思案する様に俯き。

「そう…………ですね。大事にしたかった人です」

大事にしたかった。
その辺の男女の機微は良子には理解しきれない。
だが、それでも大切人間だったのだろうと言う事は理解できた。

「ワタシも一つ聞きマス。真央とか言うアノ女、可憐を殺したって言ってマシたけど、アナタもソウ?」
「…………ええ。実行犯は僕です」
「ソウ」

想像通りの答え。
ただ氷のように冷たい表情でスッと目を細め、半身に構える。

目の前の男は我道と可憐の仇である。
そしてまた、ソーニャも真央を殺した仇だ。

互いに仲間を殺し合い、互いに互いが仇である。
お互い奪い合ったからと言って、ここで手打ちとはならないだろう。
殺し合いは避けられまい。

「いいわ。カタキ討ちをしたいナラ私だけにしなサイ。アルアルは関係ありマセン」
「仇討ち、ですか……」

良子を後方に下がらせながら、ソーニャは構える。
復讐の連鎖はどちらかの存在を完全に消し去るまで終わらない。
やり合うのなら望むところである。
だが、男の反応は思った物とは違った。

「すべきなんですかね…………仇討ち」
「…………なんですって?」

ソーニャは耳を疑う。
その発言は憎しみは何も生まないという殊勝な心構えによるものではないだろう。

「僕はどうするべきなのでしょう?」

返ってきたのは虚無だった。
よりにもよって、それを仇に問うのか。

「真央さんの仇を取るべきなのでしょうか?
 それとも真央さんの遺志を継いで、皆殺しに励むべきなんでしょうかね?」

淡々と問いを投げ続ける男。
良子には目の前の相手がどうしようもなく不気味な存在に見えた。
まだ、激昂して殺しに来る方が理解できる。
大事な人間を殺されながら何も感じていない様子は理解しがたい。
ヴィラスといい、この世界では理解不能の怪物ばかりに出会う。

「それとも、ただあなた方を犯して殺せば、満足できるんでしょうか?」

一片の光もないような暗い瞳が二人の少女を捉えた。
生理的嫌悪の様な怖気が良子の背筋を走る。

――――笠子正貴。

元警察官にして連続婦女暴行、及び殺人犯である。




795 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:41:53 ufAzSGDQ0
笠子正貴は弁護士である父と教師である母の間に生まれた。
両親は人格的に優れた人間であり、周囲の人望は厚く、多くの尊敬を受けていた。

我が子にもそうある様にと、幼少の頃から熱心な教育を施されてきた。
正しいことを行いなさい。立派な人間であれ。
正しい人間はただそれだけで満たされるのだと。
両親は毎日の様に我が子に説いてた。

そう。
毎日毎日。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。
それはきっと傍から見れば行き過ぎた教育だったのだろう。

課題をこなせるまで食事抜きなんてことは日常茶飯事だった。
出来なければ当然の様に体罰は行われたし、出来た所で次の課題が課されるだけだった。
日に30時間の学習という矛盾。
彼はその教育に対して不満一つ漏らさず、黙々と課題をこなしていった。

彼には一つ、産まれ持った才能があった。
彼は好きでもないことを続けることに長けていた。
才能と言うものが人生を豊かにする物だとするのなら矛盾した才能だった。

そんな正貴に両親は喜々として詰め込み、彼も黙々とそれを受け入れた。
両親はそれを正しいものだと疑いを持たなかったし、そんな両親に育てられた彼もまた疑いなど持たなかった。
親子の関係は致命的なまでに噛み合っていた。

彼が不満一つ漏らさないから両親も彼を従順な人間だと誤解していた。
続けられると言う事は平気でいられるという事や心を削らないという事と同義ではない。
そんな当たり前のことに両親も本人も気づくべきだった。

そうして詰め込み。
詰め込み詰め込み詰め込み。
詰め込み詰め込み詰め込み詰め込み詰め込み。
詰め込み詰め込み詰め込み詰め込み詰め込み詰め込み。

そして壊れた。

いや、あるいは最初から壊れていたのか。
なにせ、表面上の彼の行いは変わらないのだ。
いつ壊れたかなど周囲に解かるはずもなく、彼本人にすらわかるまい。


796 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:42:21 ufAzSGDQ0
壊れたまま走り続け、遂に彼は旧帝大に現役で合格する。
両親の言に従い正しさを為すため警察官を目指して、キャリアには拘らずノンキャリアとして警察官となった。
そうして社会人になって家を出て親の支配からは解放された。

初めて自分の意思で生きていく。
そうなったところで初めて気づいた。
何をしたらいいのか分からなかった。
正しいものを満たしていたはずの自分の中身は空っぽだった。

だから仕事をしている間は楽だった。
与えられた課題をこなす事だけは得意だった。
休み方は教えてもらわなかったから、ただひたすらに働き続けた。
結局、命令する対象が両親から仕事に変わっただけだった。

彼の配属された調査第一課は凶悪事件を扱う。
異常な現場。
異常な殺人。
異常な犯人。
異常な日常。
その激務に精神を病む人間も少なくはない。

彼が不満一つ漏らさないから周囲も彼を屈強な人間だと誤解していた。
異常な状態で正常を貫くことは異常である。
そんな当たり前のことに周囲も本人も気づくべきだった。

正しく生きてきたはずの満たされない自分。
だから、人殺しという間違いを犯して満たされていた桐本を見て、酷く羨ましくなってしまった。
満たされない自分を満たしてみたいと思った。

正しいことをすれば満たされると両親は言った。
ならば、満たされている桐本の行為は正しい物なのではないのか?
何より桐本四郎の様になりたいと思ったのだ、手段など決まっていた。

実行は容易かった。
ターゲットはそれこそ誰でもよかった。
多くの凶悪事件を扱ってきた彼が参考にできる知識は山のようにあった。
罪悪感と言った感情は壊れ果てており、ブレーキなどかかるはずもない。

初めて女を犯して殺した。
確かに興奮があった、快楽もあった。

だが、それだけだった。
相手がダメだったのか、手段がダメだったのか。
興奮する自分とは別にどこか醒めた自分がいた。
何をしていても自分の背後に両親が立っているような感覚があった。
その幻想を振り払うように何度も犯行を繰り返した。

満たされるのは注いでいる瞬間だけ。
すぐに空っぽになる、底の抜けたバケツの様だ。

だから、続けるしかない。
中身を満たし続けるために。




797 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:44:05 ufAzSGDQ0
「こんな奴に私の親友が殺されたと思うと、腹が立ってきたわ。
 アナタがどうあれ、こっちはアンタを許す気はないのよ」

自分の意思すらないような男に我道や可憐が殺されたのか。
余りにもひどい正貴の態度に、ソーニャが怒りを露わにする。
虎の尾はとっくに踏まれているのだ。

「ソーニャ…………?」

良子は雰囲気を豹変させたその様子に戸惑う。
その変化にあの女を殺したという事実が繋がって、恐ろしくなる。

良子たちが去った後、何が起きたのかまではわからない。
ヴィラスを海に追い込んだ自分の様に、きっと仕方がない状況だったのだろう。
それでも。

「……ゴメンね、アルアル」

それは何に対しての謝罪だったのか。
ソーニャは怯えたような良子を悲しそうな瞳で振り返る。
雪の妖精は振り切る様に前を向いて、ボウガンの引き金に指をかける。
ソーニャは躊躇わない、為すべきことのためならばなんだってする。

「そうですか、まあそれも悪くないのかもしれません」

ゆらりとボウガンを向けられた男の体が揺れる。
復讐が自らを満たすものであるのならばするのだろうが、そうであるかは彼自身にだってわからない。
復讐に拘らないのなら正貴としてはここで引いてもいっこうに構わないのだ。

だが、我道との戦いは悪くはなかった。ほんの一瞬だけだが熱くなれた。
殺人や強姦と同じように喉元を過ぎれば忘れるような熱さだったけれど。
ほんの僅かでも味わえるのなら、それを味わうのも悪くない。

「では」

ソーニャがボウガンの引き金を引き、同時に正貴が手を振るった。
瞬間。ソーニャの体が宙に浮き、クンと引き寄せられる。
急に引かれた勢いにより狙いが逸れボウガンの矢は明後日の方向に外れていった。

引き寄せられるソーニャを捕まえと伸ばされる腕。
それを前にソーニャは慌てず、自らを捉えようとするその手を冷静に払うと、相手の膝を踏み台にして逆足を跳ね上げる。
顔面に膝が叩き込まれ、男が鼻血を噴き出した。

「それは一度”視た”わ」

『捕縛』により引き寄せる我道の姿をソーニャは既に視ている。
一度視た技は天才の『学習力』には通じない。

正貴は鼻血を流しながら、表情を変えず左腕を振るう。
その先には刃。カランビットナイフが握られていた。
ソーニャは握りこまれた刃をボウガンの胴で受ける。

元はカランビットナイフは我道のアイテムである。
我道が倒されたと言うのなら、それが奪われている可能性も想定済みだ。

ハンドルを切る様にボウガンを回す。
パキと音を立てボウガンの胴の亀裂が広がり、深く刺さった刃が捻られ音を立てて折れた。
互いの視線交錯し、その間に木片と小さな刃の破片が舞う。


798 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:45:48 ufAzSGDQ0
ソーニャが顔面を狙った鋭い上段蹴りを放つ。
それを正貴はスウェイで潜る様に躱した。
そして一歩踏み込み、敵に掴みかからんとする。

だが、右腕が壊れている正貴の動きは読みやすい。
左腕だけを警戒していれば対応は可能である。

しかし、突き出されたのは右腕だった。
それがどれほどの苦痛であろうと、動くのだから出来る。
笠子正貴はそういう風に出来ている。

意表を突かれ胸倉を掴まれた。
だが、握力はない。
これならば振り払うのは容易い。

しかし『身柄確保』のスキル効果により技をかけるのに筋力は不要となる。
踏ん張りも効かず背負い投げで投げ飛ばされる。

ソーニャは受け身を取るも、すぐさま寝技に入った正貴に後ろに回り込まれた。
そのまま裸絞に持ち込まれる。

食い縛った口端から泡の様な唾液が漏れる。
右手首が折れているため後頭部の押し込みが足らず完全に極まっていないが、重量差のある相手にこうも巧く足を絡められては逃れられない。
このままでは落とされるのは時間の問題だ。

完全に決まった裸絞からは逃れられない。
酸欠により意識が白み始める
ソーニャがこの状況をひっくり返すのは不可能だ。

後方で何かが弾けた。
寝技の真っ最中であるため互いに振り返れない。
ビリビリと振るえる衝撃波のような物だけが僅かに離れた背後から伝わる。

続いて先ほどより近い場所に衝撃。
何度か繰り返し被弾した何かが弾け、そのうちの一つがついに正貴の背を打った。
衝撃により裸絞が僅かに緩んだその隙に素早くソーニャが逃れる。

「ゲホッ……ゲホッ……!」

解放され、咳き込みながら距離を取る。
後方に下がったその先に、少女がいた。

ショックボールを投げつけソーニャを助けたのは良子だった。
利き腕が負傷して上手く狙いはつけられなかったため、何発も投げる羽目になったが。

「…………アルアル」

怯えられ、見捨てられたのかと思った。
そうなっても仕方ないと思っていた。
だけど、

「助けるよ、仲間なんだから!」

涙を浮かべながらありのままの少女が叫ぶ。
ソーニャと正貴の違いは一人ではないと言う事。
助けてくれる仲間がいる。


799 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:46:46 ufAzSGDQ0
ヴィラスが豹変した事。
我道が殺された事。
ソーニャが人を殺した事。
全てがショックだった。
人を信じられなくなってもおかしくないような出来事ばかりが起きた。

だけど、だからと言って仲間を見捨てる事なんてできない。
ソーニャは仲間だ。ピンチだったら助ける。
そんなのは当たり前の事である。

「……ありがとう」

ソーニャは再び構える。
例えそれで良子に恐れられ嫌われるようなことになっても、やる必要があるのならやる。

「背中は任せる。だから、――――見ていて」

それは仇討ちというだけの理由ではない。
良子を守るためにも、この男はここで始末すべきだ。
それがソーニャの覚悟だ。

歩くような速度でにじり寄るソーニャ。
正貴は身を深く構えこれを迎え撃つ。

だが一瞬、正貴が目を見開き動きを止める。
雪の妖精の如き少女に思わず目を奪われた。
まるで春の野に張る氷の上を渡るような儚げで幻想的な煌びやかさ。
ただ歩くだけでそこは彼女の舞台だった。

ソーニャの集中力はかつてないほどに高まっていた。
怒りや復讐心ではなく、誰かのために。
それこそがアイドルの本懐。

気付けば、互いの距離は手の届くような間合いに迫っていた。
反射的に正貴が動き、右腕で襟元に掴みかかる。

意表を突いた再度の右も学習力の前には通用しない。
その動きを読み切っていたソーニャにより伸ばした手は振り払われた。
だが、そこに右が振り払われることを前提とした本命の左が伸びる。
全力を込めた万力の握力で胸元を掴んだ。

「フゥ―――――」

雪の妖精より吐き出される鋭い息吹。
それすらも、天才は読み切っいていた。

相手の動きに合わせるように、自らの胸ぐらをつかむ手首を両手で取った。
腕を引き寄せながら両足を跳ねさせ、ドロップキックの様な蹴りを顎下に掠めさせながら飛びつき腕十字のような形へ持ち込んだ。
そのまま深く伸ばしきった足が曲がり首へと巻き付き、腕を上回る足の力で首を絞め上げる。
打撃と絞めにより一時的に意識を混濁した相手を、腕を極めながら身を反転させ体重移動で投げとばす。

打ち、絞め、極め、投げる。
これぞ『無空流』門外不出の奥義『牙折』。

二人の体がクルリと廻る。
脱出も受け身も不可能な状況で、顔面から地面に叩き落とし頸椎を破壊する。
牙折完了。

その威力は正しく必殺。
決して表に出してはならぬ門外不出の殺し技である。


800 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:48:39 ufAzSGDQ0
「っ…………ぁ」

だがそれも不完全。
如何に天才の学習力と言えど奥義を完全再現とは行かなかった。
即死ではなく、まだ息があった。

だが、左腕と首の骨が折れている。
もう立つ事は叶わず、じきに息絶えるだろう。

正貴は死ぬのは恐ろしくはない。
生も死もそれほど違いがあるとは思わない。
最後には真央のために死ぬのだって構わないと思っていた。
ただその先に、己を満たすものがあるかどうかだ。

結局何も満たされない人生だった。
正しさとは、満たされるとは、生きる意味とは。
何一つ、わからないままだ。
結局のところ、自分は。

「……何かに夢中になりたかった、のか」

真央と出会った瞬間。
スキルによって歪められたものだったとしても、あの瞬間には全てがあった。

追い求めていた感覚。
初めて感じる身を焦がす程の激情。
何かに夢中になったあの瞬間が忘れられない。

だからきっと愛せると思った。
彼女を愛せれば、きっと満たされるはずだと。
永遠に注がれ続ける愛情と言う蜜が、壊れた器を満たすのだと、そう信じた。

だが、その結論に至る前に、彼女は奪われた。
それに激怒すべきなのか、悲観すべきなのか、それすらも分からない。

「――――バカね」

憐憫すら感じさせる声。
視線を向ける、そこには自分を殺した雪の妖精の様な少女がいた。
訛りのない口調で、少女は伝える。

「それなら――――夢中になりたいのなら、私たち(アイドル)のライブに来ればよかったのよ」

歌と踊りとパフォーマンスで誰もを夢中にさせる。
この世界の灯台下だろうと、彼女たちが歌い踊ればそれが舞台となる。
誰かを夢中にさせるために、少女たちは己の若さと青春を燃やし尽くしているのだ。

誰もを熱狂させ夢中にさせる。
それがアイドル。

「アナタを夢中にさせチャイますヨ〜」

クルリと廻って、衣装が跳ねる。
可愛らしくポーズを決めて、ハートが飛ぶほどの投げキッス。
泥に塗れた汚れすら気にならない、クールでキュートでパッションに溢れる輝くような少女。

その眩しさに、目を細める。
光の先に、ありえない世界が幻視された。

法被を着てサイリウムを振り回しながら、売れない地下アイドルを応援している。
そんな世界も、あったのかもしれない。
想像してみたら、なんだか笑えた。

「それは、きっと楽しい………でしょう、ね」

誰かを傷つけるのではなく。
己を傷つけるのでもなく。
そんな事でよかったのかもしれない。

満たされた夢を見ながら。
満たされない男は意識を閉じた。

[笠子 正貴 GAME OVER]




801 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:49:17 ufAzSGDQ0
男の体が消えていく。
男が死亡したという証拠である。
つまり、また一つソーニャが罪を重ねた証でもある。

「アルアル」

ソーニャは背後の少女に振り返る。
受け入れられなければそれはそれで仕方ない。

自分が間違ったことをしたとは思っていない。
ただ、恐れられても仕方がないことをしたことも理解できている。
これまで通り、無邪気にとはいかないだろう。

良子は胸の前で自身の手首を掴みながら俯いていた。
その指が右腕に巻かれた包帯に触れる。
俯いていた良子は、顔を上げた。
そして勢いよく腕を掲げ、前へと振り抜く。

「……我が眷属、流麗なる雪の偶像ソーニャよ! 我が盟友、我道の仇をよくぞ打ち倒した!」

堕天使は尊大に仰け反り、高笑いを響かせる。
ソーニャは唖然とした顔で、その様子を見送る。

「気に病む出ないぞ。貴様は我が身を守る役割を果たしたにすぎん! だから……だから」

言葉が詰まる。
伝えたいことがあるのに、上手く言葉が続かなかった。
ゲームの中では敵を倒すという簡単な一言で片づけられることが、現実ではどういうことなのか理解していなかった。
その意味を、今こうして理解した。

「…………アルアル」

少女の気遣いが身に染みる。
少女が少女であり続けるのなら。
たとえそれが偶像だとしても、求められる姿でそれに答える。

辛い事。
苦しい事。
沢山あったそれらを振り払うように笑って。

「アリガトウござマス、アルアル。コレカラも、ヨロシクお願いしマスネ」

[G-7/草原/1日目・朝]
[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:闘魂の白手袋(E)、予備弾薬多数、ヴァルクレウスの剣、魔術石、耐火のアンクレット、不明支給品×4
[GP]:30pt→70pt(勇者殺害により+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.HSFのメンバーを探す

[有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:右手小指と薬指を負傷(回復中)
[アイテム]:治療包帯(E)、バトン型スタンガン、ショックボール×6、不明支給品×1
[GP]:15pt
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.殺し合いにはとりあえず参加しない

【治療包帯】
巻いている箇所の治療効果を促進する包帯


802 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:49:42 ufAzSGDQ0
投下終了です
投下が遅くなって申し訳ありませんでした


803 : 虎尾春氷――急章 ◆H3bky6/SCY :2021/02/07(日) 22:52:15 ufAzSGDQ0
>>801
[G-7/草原/1日目・朝]
の時間帯を修正で
[G-7/草原/1日目・午前]


804 : ◆VJq6ZENwx6 :2021/02/08(月) 23:41:33 a33YWZkg0
>>771

支給品の説明が抜けていたので以下追加します。

【コレクトコールチケット】
着信者が10Gp負担することにより通話が可能になる、コレクトコール機能を利用するためのチケット
名乗りづらい殺し合いの場にも優しく、対象の顔をイメージしてダイヤル可能を行う顔認証式通話サービス。
着信者には発信者の情報は開示され、通話の可否の決定が可能


805 : ◆H3bky6/SCY :2021/02/16(火) 23:59:50 6P3zU0Wk0
投下します


806 : 歌の道標 ◆H3bky6/SCY :2021/02/17(水) 00:01:11 3HD7p/uw0
ダストボックスの中に入っていたのは、当たり前と言えば当たり前だがゴミだった。
愛美とて参加者にランダムで配る支給品に必須級の重要アイテムが入っているとは最初から思ってはいない。
だが見つければ有利になるくらいの便利アイテムはあるのではないかと期待していたのだが、その期待は裏切られる形になった。

埃に紙屑、何かの袋、水っぽいなにか。
恐らくこれまでの掃除機の使用者が吸い取った物なのだろう。
その中に宝石が紛れていた、と言う事もなく、何の変哲もないごく一般的なゴミの山である。

ただ一点。このゴミにおかしな点があるとするならば、その量だ。
中から出てきたゴミの総量は明らかにダストボックスの容量を超えていた。

地面に撒き散ったゴミ山を見つめる。
確かにこれならばあの重量も納得だろう。
納得ではあるのだが、この小さなダストックスにそれだけの容量が入っていたというのは納得がいかない。

恐らくはこの掃除機は無限に吸い込めるというアイテムとしての特性なのだろう。
いちいちダストボックスの中身を交換するなんて現実的要素を持ち込む必要はない。
ゲームに持ち込むべきリアリティラインの話だ。

だが、かと言って吸い込んだものをそのまま消してしまえば、間違って大事な物を吸い込んでしまった場合に取り返しがつかなくなる。
最低限の安全性としてダストボックスをひっくり返せば中身を取り出せるように吸い込んだものは保持する必要がある。

この矛盾する要素を同時に実現した結果がこれだ。

質量は無視するのに内容を保持して重量は反映するだなんて、明らかに物理法則を無視している。
何らかの圧縮が行われていると考えるのが一番しっくりくるが、そう簡単にできるものではない。

逆に言えば、これがバーチャル世界だと言うのならその仕様に何の疑問もない。
圧縮も解凍も思うがまま、あって当然とすらいえる。
先ほどのメールに会ったように新しい建造物が瞬時に建てられることだって、ここがバーチャルならなんの不思議もない。

愛美はゲームなんかにはほとんど触れたことはないし詳しくないのだが、彼女の中には取り込んだ登勇太の知識がある。
その知識に照らし合わせて考えると、ここは間違いなくバーチャル世界であると言えた。
だが、そうなると別の知識から別の疑問が発生する。

完全魔術は言うなれば魂の融合である。
魂を喰らう事により相手の存在そのものを取り込む、あれはそう言う魔術(チート)だった。
それを扱う彼女は、ここにある存在が魂である事を理解している。
ここのいるのは魂であり、魂はバーチャルな存在ではない。

・ここにいるの参加者の魂である
・この世界はバーチャルである。

両方が真実だ。
矛盾した要素、というより、別の要素が両立している。
そんなことはありえない。
だが事実としてありえているのだから、それを実現できる理由があるはずだ。

それが何であるのか。
その心当たりが愛美にはあった。
いや、愛美だけではなく全参加者にあるだろう。

「不思議な世界ね」

朝日に照らされ、光り輝く世界を見渡し愛美は呟く。
現実、アミドラド、この世界。
愛美にとって都合三つ目の世界『New Word』。

バーチャルであることやビルや工場などの建造物は現実に即している。
その一方で魂の扱いやスキルなどの魔法的要素はアミドラドに近しい。
二つの世界観が合わさった、集大成のような世界だ。実に興味深い。

陣野愛美という少女は在るべきを在りのまま受け入れる存在である。
そう在るのならばそれでいい、それを肯定した上で全てを取り込み自らの糧とする、それが彼女の強さ。

そこに疑問など持たない。興味すら持たない。
だと言うのに、そこが気になってしまうのは取り込んだ探偵の影響だろう。

だが、完全魔術は本来はそうではない。これは魂の比重の問題である。
この世界に顕現した時、愛美はまっさらな陣野愛美の魂だけになっていた。

この世界で取り込んだのは、まだ2人だけである。
アミドラドの神として10432人の魂を取り込んでいた時とは訳が違う。
1対10432と1対2では同じ1でも影響力が違う。
大きな1である愛美を覆すことはありえないが、若干ながら引きずられてしまう事もあるだろう。

もっとも、それも無視できる範囲の話でしかないが。
次々と取り込んでいけばそのうち紛れて消えてしまうだろうし、目的の邪魔にならない範囲で容認しているにすぎない。
仮に妹が目の前にいれば、こんな衝動は振り切って愛美は愛美の欲望を満たすだろう。

朝日に照らされる黄金の草原を、踊るような足取りで神は歩む。
踏みしめる大地の感触、頬を撫でる風が心地よい。
鼻歌でも歌いだしそうなその耳に、どこからか美しい旋律が届いた。


807 : 歌の道標 ◆H3bky6/SCY :2021/02/17(水) 00:01:43 3HD7p/uw0


月乃が転送されたのはD-5エリアの草原だった。

直前の惨劇を思い返して両手で自身を抱く様にしてブルリと身を震わす。
兄の死に関わっているという少女。
そしてどこからともなく現れた白い異形の騎士。
月乃はワープにより難を逃れたが、残された秀才が心配だった。

今すぐに戻って助けに行きたいが、戻ったところであの白騎士に対抗できるだけの戦力がなければ先ほどの繰り返しになるだけである。
それでは逃げた意味がない、月乃を逃すために体を張った秀才を裏切ることになる。
彼を思えばこそ、今は自分の安全を確保する事こそ重要だろう。

それならまずは正義と合流して助けを求めるのも一つの案だ。
彼がいればあの白騎士を撃破して秀才を助けに行けるかもしれない。
だが、正義と合流してから駆け付けたのではどう考えても遅いだろう。
今は助けに向かう事を考えるより、あの場を切り抜けるという秀才の言葉を信じるしかない。

秀才と合流するためにメールを送るにしても月乃のGPは10ptしかない。
送れるメールは1通だけなのだから使い所は慎重に考えねばならないだろう。

秀才にメールを送って現在位置を知らせたところで、秀才の状況が分からないとなると、それで合流できるとも限らない。
折り返しで秀才にメールを送らせることになってしまえば、それこそ両方がGPを失い足を引っ張る結果になるだけである。
そんなのは嫌だ。
秀才の方から何らかのアクションがあるまでは月乃は下手に動かない方がいいのかもしれない。

どうにかしたい、という気持ちばかりが逸る。
今の月乃にできる事など何があるのか。

「―――――――♪」

月乃は歌う。
自らにできる、自分にしかできない歌を歌う。

自分を鼓舞するため。
あるいは願うように。
あるいは祈るように。
自分がここにいることを知らせるように。

月乃は小さいころからぼんやりとした子供だった。
道端で見かけた猫や蝶々を追いかけてはよく迷子になっていた。
一人ぼっちで寂しくなると自分を勇気づけるために歌を歌った。
いつだって、その歌声を目印に兄は月乃の下に駆けつけてくれた。

『ガッハハハ。お前の歌声はどこまでもよく聞こえるらな!
 どこに居たって、兄はいつだって駆けつけるぞ!』

そう言って太陽みたいに豪快に笑って、大きな手でグリグリと頭を撫でる。
口にはしなかったけれど、無骨なその腕が月乃は好きだった。

月乃にとって歌は誰かに出会う道しるべ。
歌は多くの出会いを彼女に与えてくれた。

多くの友人。
学園のみんな。
アイドル仲間。
プロデューサー。

みんな歌が繋げてくれた大切な絆だ。

けれど、いつだって駆けつけてくれる兄はもういない。
この歌を聞いて駆けつけてくれることはないだろう。

そんな喪われた物に哀悼を込めて歌う。
それはこの場において誘蛾灯の如き役割を果たし、危険を運ぶだろう。

だが、歌う事こそ彼女の戦い。
争いを収める彼女の歌が本物ならば、運ぶのは悲劇ばかりであるはずがない。

どこまでも届くような伸びやかな声。
世界を魅了する歌姫THUKINOの歌声には何処か物哀しい切なさと、寄り添うような優しさ、そして励ます様な力強さがあった。
透き通るような朝の空気の中に美しい旋律が響き渡る。
そんな最中。

「――――綺麗な歌声ね」

それは現れた。

「あら、中断させてしまったかしら。気にせず続けて」

現れただけで世界が変わる、そんな女だった。
月乃が歌の女神(ミューズ)なら、それはさながら愛と美の女神(ビーナス)だろう。
穢れ一つない瀟洒な出で立ち。足音すら優雅に響かせ、艶のある黒髪を風に揺らす。

年は月乃と大差ないだろう、ともすれば月乃より年下かもしれない。
だが、月乃にはない様々な経験を経た成熟した女の色香が漂っている。

それは芸能界で多くの美男美女を見てきた月乃ですら思わず見惚れるような美しさだった。
アイドル顔負けの美貌もさることながら、何より纏う雰囲気が浮世離れしておりどこか神々しさすら感じさせた。
目を奪われるとはこのことか、その風格はアイドル界の頂点、ステージ上の美空ひかりを思わせる。

女はその場に止まると、ニコニコとした表情で歌の続きを促した。
少なくとも敵意や害意と言ったものは感じられない。
いずれにせよ、スキル効果を考えれば歌った方が安全なのは確かだろう。

その楽しそうな表情に促され、月乃は途切れていた歌声を再開させた。


808 : 歌の道標 ◆H3bky6/SCY :2021/02/17(水) 00:03:00 3HD7p/uw0


パチパチと拍手が送られる。

「素晴らしいわ。まるで天上に響く賛歌のよう。女神を称える吟遊詩人もあなたには及ばないでしょう。
 あなたの歌声はとても美しいわ。私、美しいものは好きよ」

歌姫の歌に女は惜しみなく称賛の言葉を贈る。
何の変哲もない褒め言葉がどういう訳かアワードの審査委の言葉の様に喜ばしく感じられた。
吐くその言葉がひどく光栄な物だと感じさせるような不思議な女だった。

女は月乃に歩みを寄せる。
伸ばした白い指先が月乃の唇に触れた。
唇から伝うように指先が降りてゆき、美しくシャープな顎をなぞって、歌声を震わす喉の上に止まる。

「私もそんな風に歌えたらって思うのだけど、どうかしら?」
「どう、って…………?」

百合の花の様なか細い首など力を籠めればたちどころに折れてしまうだろう。
歌姫の命を握られながらもゾクリとするような漆黒の瞳に囚われ月乃は動くことができなかった。
畏れとも恐れともつかない感情に戸惑う月乃の様子に、女はクスリと笑みをこぼした。

「けれど、芸術は私が生み出すものじゃなく私に捧げられるものだから、私にしたところで仕方がないのよねぇ」

女は悩まし気な仕草で軽いため息をついて、喉元から指を放して自らの口元にやった。
そして、弾むような足取りで一歩、後ろに下がると、よく顔の見える距離まで離れて楽しそうに微笑む。

「そうねぇ。残しておいてもいいかしら。あなたは顔も綺麗だし」
「? ありがとう」

よく分からないが、褒められたみたいなのでひとまず礼を返しておいた。
女は変わらぬ慈悲の笑みを浮かべたまま、自らを示す様に胸元に手を当てる。

「名乗りが遅れてしまったわね。私は陣野愛美、よろしくね歌姫さん」

そう言って握手を求めるように手を差し出した。

「あ、えっと。大日輪月乃です……よろしくね、愛美ちゃん?」

僅かに呆けていた月乃は慌てて名乗りを返して差し出された手を掴み返す。
全てを見透かす様な黒い瞳。
愛美と名乗った女は握られた手を掴んだまま、蠱惑的な甘い声で囁くように言う。

「先ほどの歌声は美しくも、悲しげな旋律だったわ。
 何か悲しい出来事でもあったのかしら? 良かったら私に聞かせてくれない?」




809 : 歌の道標 ◆H3bky6/SCY :2021/02/17(水) 00:04:50 3HD7p/uw0
「そうお兄様が、それは辛かったでしょうね」

兄の事。秀才の事。ユキの事。
まるで告解室で懺悔する罪人の様に月乃はここまでの事情を愛美に洗いざらい全て話した。
出会ったばかりの他人に話すような事ではなかったのかもしないが、愛美には思わず心中を吐露してう不思議な魅力があった。

「私もここに双子の妹がいるの。肉親を失う痛みはよく理解できるわ」
「そう、なんだ」

名簿に陣野の名は二つあった事を思い返す。
恐らくそれが妹なのだろう。
肉親が巻き込まれる奇妙な共通点に妙なシンパシーを感じる。

「それで、これからどうするべきか。迷っているのね、月乃ちゃん」

心中を言い当てられてドキリとした。
ここから先どうすればいいのか、月乃は迷っている。

月乃にできる事など歌う事だけである。
そして歌は愛美との新たな出会いを与えてくれた。

だが、その先は。
月乃に何ができるのか。
月乃は何をすべきなのか。
それが分からなかった。

そんな月乃に対して愛美は啓示を示す神の様に告げる。

「どうすべきかが分からない時は、どうしたいかで選びなさい。
 己の心が欲するまま、己の心に従いなさい。
 少なくとも、私はいつだってそうしているわ」
「自分がどうしたいか…………」

月乃はその言葉を受け止め、噛みしめる様に呟く。
そして、きゅと拳が握られる。
彼女の中で何か何かが固まった。

「ありがとう愛美ちゃん。上手くできるかわからないけど私やってみるよ」
「ええ、励みなさい。結果はついて来るものよ。どうなるかなんて、誰にも分らないのだから」

その言葉に背を推され月乃は心を決めた。
手始めに、目の前の少女に向かって、己の心をぶつけてみる。

「愛美ちゃん。私と一緒に行かない?」

協力者を求めるという方針は健在である。
底が見えない少女だが、少なくとも月乃の目には悪い人間ではないように見えた。
ここで仲間が増えるのならば、秀才や正義たちにとってもいい事だろう。

「せっかくのお誘いだけど、ごめんなさい。私これから妹に会いに行くの、あなたとは一緒にはいけないわ」

そう言ってこれまでにない嬉しそうな表情で微笑む。
余程大切な相手なのだろう。
それは超越者めいた女が初めて見せる少女らしさだった。

その気持ちは痛いほど理解できる。
だからこそ大事な肉親の元に向かうその足を止められるはずもない。
もう誰にも自分の様な気持ちを味わってほしくない。

「そっか、なら仕方ないね。けど妹さんの場所が分かるの?」
「ええ。私にはあの子の居場所が分かるの、双子の奇跡ってやつ?」
「そうなんだ!? 凄いねぇ」

月乃の素直な反応に愛美は驚いたように目を見開き、上品な仕草でクスリと笑う。

「ふふ。冗談よ。そう言うスキルを手に入れたの」
「え、そうなんだ? 真に受けちゃったよ、もぅ」

そう言って、お互いに笑いあう。
気の重くなるような事が続いていたけれど、この一瞬だけは少しだけ気が楽になった気がした。

「それじゃあ、あなたが生きていればまた会う事もあるかもね」
「そうだね。愛美ちゃんも気を付けて」

数奇な運命に巻き込まれた妹と姉。
不思議な会遇を終え、それぞれの目的へと向かって歩き始めた。

[D-5/草原/1日目・午前]
[大日輪 月乃]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:海神の槍、ワープストーン(1/3)、ドロップ缶、万能薬×1、不明支給品×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:歌で殺し合いを止める。
1.己の心に従う。

[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)、天命の御守(効果なし)(E)、ゴールデンハンマー(E)、掃除機(破損)(E)
発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、魔法の巻物×4、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(5/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、コレクトコールチケット×1、不明支給品×6
[GP]:90pt
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
1.妹に会う
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C


810 : 歌の道標 ◆H3bky6/SCY :2021/02/17(水) 00:05:03 3HD7p/uw0
投下終了です


811 : ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:40:02 Qw63lCCY0
体調不良で投下遅れました、すいません
投下します


812 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:40:47 Qw63lCCY0
カポーン、という音はどこから来るものなのだろう。
真っ白な湯気に包まれた空を見上げて、正義はそんなこと思った。

給湯口から滝の様にかけ流される水音が耳に心地よい。
透明でさらりとした湯は、すべすべとした肌触りである。
痺れるような熱さは、これまでの苦労を忘れさせる様だった。

石造りの浴槽に入浴している連れ合いは青い皮膚の大男と幼女だった。
共に一時、課せられた重しを忘れ心身を癒す。

ここは温泉。
この世の物とは思えぬ幽世の湯。
まるで殺し合いが遠い彼岸の出来事のようである。



大和正義とロレちゃんの二人は中央エリアより火山エリアに渡っていた。
その道中、両エリアに架かる橋からオートバイを破棄。
オートバイは川の下へと沈んでいった。

比較的現代的な中央と違い、火山エリアの大地は荒涼としていた。
道筋はあまり整備されていない荒道で、所々にゴツゴツとした大きな岩々が転がっている。
気温も高温多湿な日本の暑さと違ってカラリとした暑さである。

目指すは炎の塔。
その道すがら正義は傍にある岩石を殴る蹴るなどして発掘に勤しんだが、小一時間ほどで採掘できたのは鉄鉱石が3つと銅鉱石が1つだけである。
GPにして11pt。誰も害することなくメール1通分が稼げたと思えば上々だが、シェリンへの質問ができる50ptまでは程遠い。

観察眼を用いて怪しい岩石に辺りを付けて採掘をしてこれでは、やはり採掘だけで稼ぐのは時間がかかりすぎるようだ。
鉱山や採掘所に行けばもう少し効率よくなるのだろうが、塔とは真逆であるためそれも難しい。
行けるとしたら、炎の塔に向かった後の話なるだろう。

「…………むっ」

前方に気配を察して、正義が足を止めた。
背後からついてきているロレちゃんを片手で制する。
前回の経験で学んでくれたのか、今度はちゃんと止まってくれたようだ。

「ロレちゃん、少しそこで待っていてくれ」

正義からの言葉に異議を唱えるでもなくその場で尊大にうむと頷く。
出来れば物陰にでも隠れて欲しかった所なのだが、指示に従いその場に止まってくれただけよしとすべきだろう。

正義は凜とした態度で歩を進める。
遮蔽物の多い火山地帯ではあるのだが、隠れるような真似はしなかった。
悪意を持たない相手ならば身を隠す必要はないし、悪意を持った相手ならば正々堂々対応するまでだ。

遠めに相手の姿が見える。
青い皮膚に頭部より生えた角。
生徒会長である太陽を思わせる見上げるような巨大な体躯。

ただ者ではないのはここからでも見て取れる。
正義の存在に気づいていないと言う訳でもないのだろう。
にも拘らず相手も逃げも隠れもせず王道を行くように堂々と姿を晒していた。


813 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:41:21 Qw63lCCY0
そうして、互いの眼前で足を止める。
手を伸ばせば届くような、既に互いに必殺の間合い。
その状況においてなお動かぬ互いの様子を見て、黒マントの男が口を開く。

「ふむ、ひとまず争うつもりはないようだな」
「ええ。無益な争いは望みではありません。可能ならば話し合いが望みです」

互いに先手を許すリスクを負って、相手の出方を窺っていた。
仮に攻撃されたとしても対応できるという自信を前提とした策である。

「そうか。だが貴様は人の子であろう。我は見ての通り魔族にしてそれを総べる王。
 魔王たる我を信用できるのか?」
「魔王……ですか」

問われ、正義は僅かに考え込む。
魔族も魔王も聞いたことがないとまでは言わないが、それは小説、フィクションの中に登場する種族の話だ。
現実に魔族がいるなどついぞ聞いたことがない。
聞いたことがないのだから魔族に偏見など持ちようがない。

「失礼ながら、私は魔族なる種族に覚えがない、知らない物に対して偏見など持ちえません。
 故に貴方が魔王だからと言って恐れる理由も、信用しないという理由にもならない」

信用できるかと問われれば、今目の前の男を見て判断するしかない。
そもそも邪神と連れ立っている時点で魔王と言われても今さらである。

「……なるほどな。そう言う事か」

その返答に、魔王は一つの疑問に確信を得る。
アミドラドの住民であれば魔族や魔王を知らぬなどありえない。
建造物などの文化形態の違いから察していたが、ここには別世界の住民がいる、いやむしろ中心はそちらだろう。
ともすれば、あの忌々しき勇者たちと同世界の出身者である可能性すらある言う所まで聡明な魔王は察していた。

「よかろう。こちらも情報交換は望むところだ。我が名はカルザ・カルマ、その申し出に応じるとしよう」
「大日輪学園2年。大和正義です。よろしくお願いします魔王殿」

正義が握手を求め手を差し出した手を魔王が握り返す。
魔王からしても情報交換は有益な行いだ、応じるのはやぶさかではない。
だが、それ以上に目の前の男に興味を引かれた。

目の前の男は知らぬから恐れる理由がないと言い切った。
人は知らぬからこそ恐れる生き物である。
話してみるのも一興だろう。

「それでは、まず」
「まあ待て」

早速この場で情報交換を開始しようとした正義を片腕を上げ魔王が制する。
どうしましたか、と正義が首をかしげる。

「ここではなんだ、場所を変えようではないか」




814 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:43:25 Qw63lCCY0
「ここだ」

後方で待たせていたロレちゃんと合流して魔王の案内に従い歩くこと数分。
辿りついた先に在ったは温泉施設だった。

古き良き時代の銭湯と言った風な外観で、入り口には男と書かれた青い暖簾と、女と書かれた赤い暖簾が垂れさがっている。
流石にロレちゃんを一人で女湯の方に行かせる訳にもいかず、三人で青い暖簾を潜った。
ずらりと並ぶ靴箱。その奥にある曇りガラスの扉を開いたその先に、番台に電子妖精が座っていた。

『温泉のシェリンですよ。入場料は1名10GPとなります』

入場料は10GP。
鉱石掘りの稼ぎがほぼなくなってしまう額である。
希少なGPを使うのは躊躇われたが、交際費だと割り切る他ない。
正義とて本音を言えば、鉱石掘りで掻いた汗を流したいという気持ちはあった。
なにより、この出会いを支払った物に見合うだけの有益なモノにすればいいだけの話だ。

各々がGPを支払い脱衣所へと入る。
御座が敷かれた脱衣場には四角形のロッカーがずらりと並んでいた。
髭剃り用の鏡や流し、一服するための木製の長椅子などもある。
十分に立派な施設である、とても急造で建てられた一夜城とは思えない。

アイテム欄にしまえるのだから、衣服を入れるロッカーは不要に思えるが郷にいては郷に従えである。
正義はロレちゃんの衣服を脱がせ、自らの衣服と共にロッカーに畳んで入れて、鍵を閉める。
ゴムの付いた鍵を腕に付けて、浴場へ繋がる扉を開くと白い湯気が吹き込んできた。

脱衣所の入り口は男女に別れているが、そこから繋がる浴場は一つだけである。どうやら混浴の様だ。
だからと言って男二人と幼女が一人では色気のある展開になることはありえないのだが。
幼女は開いた扉からとてとてと石の地面の駆けて行き、そのまま一直線に湯船に飛び込もうとして、その体が空中で捕まえられた。

「マサヨシよ。何ゆえ我の道行きを阻むか。理由如何によっては貴様と袂を別つ事になるが?」
「まず体を洗わないとダメだよロレちゃん」

公共浴場において、いきなり湯船につかるのは礼儀違反である。
捕まえたロレちゃんを洗い場の前に座らせると、備え付けの石鹸を泡立たせ、ロレちゃんの全身へと泡を塗りたくる。
幼女はくすぐったいのか風呂嫌いの猫みたいに嫌がるが、それを逃がす正義でもない。

「まあ、固い事を言う出ない正義よ」

背後を通り過ぎる青い影。
魔王が桶を手に取り湯船から掬った湯で軽くかけ湯をしてそのまま湯船へと浸かる。
それに気を取られた正義の隙を付き、ロレちゃんが泡を纏ったまま駆けだすと、湯船目がけて飛び込んだ。
泡の怪物が湯船を侵さんとするその刹那、湯船に浸かっていた魔王が桶で掬った湯を浴びせかけ泡の鎧を剥がす
裸となった幼女が飛沫を上げて浴槽に飛び込んだ。

「……まったく」

仕方なさげにため息を漏らすと、正義も最低限のかけ湯だけして湯船に使った。

「ふぅ〜」

湯につかると思わず息が漏れた。
痺れるような心地よい熱さが身に染みるようだ。
筋肉と共に緊張がほぐれ、疲れが湯の中に解けてゆく。
常在戦場の心構えはあれど、入浴はつい気を緩めてしまいそうだ。

だが、戦場での心得として無防備となる入浴や睡眠、性行中こそ気を配るべきである。
アイテムはメニューからいつでも取り出しができるこの世界では有事となれば対応はしやすい。
正義は気を引き締める。

首を上げると見えるのは周囲を取り囲む高いコンクリート壁であった。
恐らく覗き防止ではなく狙撃防止のためだろう。
そもそも混浴であるのだから覗きも何もないのだが。

見上げた天上は壁に遮られ切り取られたような空が見える。
この時間帯に見えるのは太陽と青空。
これはこれで健康的な趣があるが、夜であれば月や星が見えてさぞ風情があっただろう。

ロレちゃんはかけ流しになっている源泉の下で滝行の様にうたれている。
熱湯が頭に注ぐ刺激が心地よいのか「お、お、お」と感嘆の声を漏らしていた。


815 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:44:18 Qw63lCCY0
「ふぅ。やはり湯浴みは良いものだな」

気持ちよさげに息を漏らしながら、魔王が透明な湯を手ですくい青い皮膚にかけ流した。
血行が良くなったのか、青い肌が赤みを帯びて紫がかり、全身に刻まれた傷跡が浮かび上がる。
それは正義も思わず見惚れるほどの歴戦の勇士の勲章であった。

「付き合わせてしまって悪いな。思わぬダメージを負ってな、ダメージを回復すると言う温泉を目指していたのだ」
「ええ。それは構いません。ですが、のんびりしている状況でもない。さそっくですが情報交換を始めたい」

事を急くのは若さか。
魔王はそんな事を思ったが、確かに状況はのんびりとしているものではないのは魔王も理解している。
このまま酒の一つでも飲みたいところだったが、魔王は一つ頷くと先んじて切り出した。

「よかろう。では、まずはこちらからだ。
 陣野愛美、イコン、鈴原涼子、ソフィア・ステパネン・モロボシ、三条由香里。
 この何れかの名に覚えはないか?」

魔王は探し人の名を並べる。
それは倒すべき宿敵と、守護るべき同族である。
この問いに正義は横に首を振る。

「いえ、残念ながら。我々は中央エリアより渡ってきましたが、その名に心当たりはありません」
「そうか」

元よりそこまで期待しての問いではなかったのか、残念がるでもなく魔王は両手で掬った湯で顔を洗った。
それなりに広いエリアで彼らが歩んでいた道のりなどたかが知れているだろうが、出会わなかったと言うのも有益な情報である。

「ではこちらも、美空善子、天空慈我道、この2名に心当たりは?」
「生憎だが、我はこの火山エリアより出ておらぬ。この場では可憐という魔族の少女とケチな盗賊としか出会ってはおらぬな」
「そうですか」

探し人はお互い空振りだった。
魔王は幼女に視線をやるが、探し人などいるはずもない幼女はわれ関せずと言った風に給湯口に腕を突っ込んだりしていた。

「それで、わざわざ中央エリアからこんな僻地に何用があっての事か?」
「GPを獲得できるイベントが発生したのが一つ。もう一つは炎を塔を目指しての事です」
「炎の塔?」

先ほどまで魔王が支配していた塔の名だ。
まあ火山エリアに来る目的などそれくらいの物だろう。

「それもGPが目当てか?」
「それもあります。ですがそれ以上の理由がもう一つ」
「ふむ。それ以上となると、先ほどのアレか?」
「はい。それに関連したものです」

魔王と正義の言葉が指し示しているのは、先ほどあったペルプページの更新である。
更新されたのは『ヒント』なる謎の項目。
そこにはこう書かれていた。

・ゲームのクリアには四つの塔の支配が必要である。

「今は違うようですが魔王殿は炎の塔の支配者であられたようだ。どういったものなのか伺いたい」

支配権を得るとはどういう物なのか。
その所感を旧支配者に問う。

「生憎だな。さして劇的なものではない、説明の通り塔の頂上にあるオーブに触れるだけで書き換わる。
 支配権を得たところでその塔に関する属性が強まる程度の物だ」
「なるほど」

属性と言うのは正義にはよくわからないが。
あくまで称号的な意味合いが強いのだろう。


816 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:44:47 Qw63lCCY0
「そもそもクリアとは何だ? 殺し合いなのだから殺せば終わりだろう、訳が分からんな」

魔王がぼやくように呟く。
殺し合いなのだから最後の一人になればクリアなのだ、クリア条件も何もない。

「そうですね…………恐らくですが、そっちが後付けなんです」
「……後付け? どういう事だ?」

正義の意味深な言葉に魔王が反応する。
何がどう後付けだと言うのか。

「――――殺し合いが、です」

正義が告げる。
魔王が怪訝そうに眉を動かした。
湯船が揺れる。

「『殺し合い』という問題が大きすぎて、そちらが主題だと思い込んでいた。
 けれど全体を通して冷静になって考えてみると、『殺し合い』の方が異物なんです」

言われて、魔王は思案する。
殺し合いが後付け、盤面ひっくり返すような発想だが中々に面白い発想だ。

「何故そう考えた。根拠を聞こう」

突飛な発想であれ、そこに至ったからには理由があるはずである。
その理由を魔王は問うた。

「それを説明するにあたり、失礼」

そう言って正義が手を伸ばす。
その指先が温泉でしっとりとした魔王の玉の肌に触れた。

「む!? どうした?」

押し返す様な弾力のある分厚い胸元。
そこに数秒触れ、ゆっくりと離れる。

「これで私と魔王殿はコネクトされました。GPを使ったメールの交換が可能となります。この機能をご存知でしたか?」
「知らぬな」

初耳の機能である。
シェリンからは説明されていない。

「ええ、そうなのです。こういった協力を前提とした機能について、共有がされていない」
「成程な。確かにただ一人の生き残りを決め催しにはそぐわぬ機能よな。だからこそ説明では触れなかったのではないか?」
「いいえ。それはおかしい。必要ない機能ならば、最初から作らなければいい」

言われて、魔王が考え込む様に口元に手をやった。
チャプリと湯が揺れる。

「ならば、何故そんな機能があるのか。
 それがお前が『殺し合い』が後付けであると考える根拠なのだな?」
「ええ。『殺し合い』と、この『New World』は本来別の物なのではないかと。
 その前提で考えると、いろいろ納得のいくところは多い」

プレイヤー同士の協力機能。
案内役であるシェリンの余りにも軽い調子。
ゲーム的な世界観に勇者と言う称号。

「『New World』は元々娯楽を目的としたバーチャルゲームであるのならば全て説明がつく」

その中で明らかに殺し合いだけが浮いている。
故に、そこが違和感となった。


817 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:45:25 Qw63lCCY0
「バーチャルなるものがよくわからぬが、それは魂を扱えるものなのか?」

ここにいるのは魂。
正義たちが立戸取りついたその結論には魔王も辿り着いている。

「いいえ、私も門外漢ではあるのですが、少なくとも魂を扱うようなオカルティックな話でない。
 電脳空間に作成した仮想空間を疑似的に体感するだけのものだと認識しております。
 本来は繋がらい二つ。だが、それを繋ぐものがある。それを我々は知っているはずだ」

そこまで言われて魔王も気付く。

「――――『Isaac』か」

然りと頷く。
最初から全ては説明されていた。

この舞台となったバーチャル世界『New World』。
参加者の魂を操作しアバターを製作したのは魂魄制御システム『Pushuke』だろう。
そしてその二つ、文字通り次元の違うそれらを繋いだもの、高次元干渉システム『Isaac』。
何者かがこの三つを使って引き起こしたのがこの『殺し合い』だ。

「それは解かった。だとしてもどうなる?」

世界の仕組みは理解できた。
問題はそれをどう利用するかだ。

「『New World』が『殺し合い』とは別物の娯楽を目的とした遊戯(ゲーム)であるならば、本来のクリア方法があるはずだ」
「成程。それを探そうと言うのだな。その為の炎の塔か」
「はい」

後付けであるからこその穴。
塞がれている可能性はあるだろうが、模索する価値はあるはなしだ。
そうなると支配権を手放したのは惜しいが、今となっては悔やんでも仕方がない事だ。

「ならば、そちらは貴様らに任せるとしよう」

事態解決は正義たちに任せた方が良いだろうと魔王は判断した。
巻き込まれたこの事態とは別目的である愛美の討伐。
自身はこれに注力すべきである。
どこに在ろうとその世界を滅茶苦茶せずにはいられないあの女を討つ事は間接的に彼らの支援になるだろう。

「ところで正義よ」

話もひと段落したところで切り替えるように魔王が切り出した。

「なんでしょう?」
「あの童女は何者だ」

鋭く尖った爪で幼女を指さし問かけた。
滝口での遊びにも飽きたのか、今は全身を投げ出して湯に浮かんでいた。

魔王から見て正義は高レベルの戦士であり、ただ者ではないのは見て取れた。
ある意味で分かりやすい存在である。

だが、幼女の方は魔王の眼力をもってしても何者であるかは読み取れない。
わかるのはただの幼女ではないと言う事だけである。

「ロレちゃんである」

空を仰ぎ水死体みたいにぷかぷかと浮かびながら、幼女が答えた。
だが、魔王はそれを無視して再度正義に問う。

「何者だ? ただの童女という訳でもあるまい」

正義は濡れた髪をかき上げ、やや考え込む。
素直に答えるべきか逡巡するが、ここまでのやり取りでの魔王の人柄を信頼し答える。

「曰くどこかの世界の邪神だとか」
「…………神だと?」

魔王は眉を寄せて怪訝な表情を見せた。
邪神はすーと湯船を流れながら魔王へ視線を返す。


818 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:46:07 Qw63lCCY0
「我は一にして全、全にして一なる存在である。敬うが良い」

敵意すら含んだ視線も気にせず邪神は変わらぬ調子であった。
なんとも信じがたい話だが、神の類であるのならば得体の知れなさにも納得がいく。

「ふん。彼のような存在が囚われるなどこの催しの主催者の力は余程強力なのか、それとも囚われた神の方が間抜けなのか」

神と言う言葉に対する嫌悪感を隠そうともせず魔王は辛辣な言葉を並べる。
それに対し邪神は気分を害するでもなく身を翻しバタ足を始めた。

「コラ。飛沫が周りに飛ぶからそれはダメだよロレちゃん」

抱え上げられ正義の横に座らされる。
自由を奪われ邪神は気分を害した。

そのやり取りを見て魔王が大きなため息をついた。
余りの緊張感のない態度に毒気を抜かれたのか、自分だけ気を張っているのが単純にバカらしくなったのか、肩の力を抜いて緊張を解く。

「……まあ神と言っても、我が世界の神とは違うようだな。つまりは外なる神か」
「貴様らが我を何と定義しているかなどそのような些事は我の知る所ではない、好きに定義するが良い、我にとっては些事である」
「ふん。そうさな。貴様が彼のような存在と言うのならば問いたい。
 貴様はこの催しの真相が見えているのか? 解決方法も全て」

自分で答えを解くよりも、答えを知る物がいるのなら聞いたほうが早い。
怠惰なる魔王は単刀直入に神へと答えを問うた。

「我は世界。世界は我。我に見えぬ物など無し、我に知り得ぬ物など無し」
「ならば」

全知にして全能。
真にそのような存在ならばこの事態は瞬時に解決である。

「だが、今の我は本体より離れた分け御霊、全能は能わず、全知に能わず」

その答えに魔王が嘆息を漏らす。

「ふん。つまりは貴様は全知全能の神とは別物の神の切れ端と言ったところか。
 役に立たんな、本体とやらが切れ端の貴様を助けに来たりはせぬのか?」
「我はただそこに在るモノ。何事にも関わることはなし、何者も救う事はなし。
 我が消えたところで本体に何一つとして影響もなく、この我の死は世界のどこにも意味を持たぬ些事となろう」

神の死は世界の死と同義である。
神が死ねばその夢である世界は崩壊するだろう。
だがしかし、ここにいるのはその切れ端。
ならば消えたところで何の意味もない。

故に全ては些事である。
彼女は己が死にすら関心を持たない。

「なんの意味もないなんて、そんな事はないよ、ロレちゃん」

湯船から立ち上がって正義が言った。
彼女が彼女の死に関心を持たなくとも。
そうじゃない人間だっているのだ。

「君はここにいる。ここで世界を見て、感じ、考え、生きている。
 ここいる君は君だけだ、そんな君の死が些事なわけがないだろう。なにより君が死ねば俺が悲しい」
「ふむ?」

わからないと言った風に首をかしげる。
それでも正義は語る。
伝わらずとも伝えたい言葉を伝える。

「君は俺に生きろと言った。その価値を示せと、ならば、それを見届ける義務があるはずだ」

大きな漆黒の瞳が見上げる。
その内面は誰にも理解できない。
肉を持った邪神は変わらぬ表情のまま口を開く。

「なるほど。義務か。本来の我からすれば下らぬ些事だが。肉としての形(アバター)を得た故か、我が我として成立しつつあるのやもしれぬ、な……」

言い終わらぬうち、頭をふらふらと回して、そのまま湯船に突っ伏した。

「ろ、ロレちゃん!?」

見れば、全身が湯でダコみたいに真っ赤になっていた。
慌てて正義が湯船からその体を抱え上げる。
それに合わせるように魔王も立ち上がった。

「邪神も茹ったようだし、そろそろ上がるとするか。我の傷も癒えたしな」


819 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:46:54 Qw63lCCY0


グワングワンと天井で回る扇風機の音が響く。
脱衣所の長椅子にのぼせた幼女を寝かせて、正義は備え付けのバスタオルでバサバサと煽って風を送っていた。

「ではな、我は先に行くとしよう」

既に着替えを終えた魔王が羽織った黒マントを翻す。
幼女の回復まで付き合う義務はない。
魔王は番台を通り過ぎ、出口のガラス戸に手をかける。

「魔王殿。最期に一つ。魔王であるアナタに問いたい」

正義に呼び止められ魔王が手を止める。

「なんだ?」
「勇者とは何か、それをあなたに問いたい」

勇者。
古今東西、あらゆる英雄譚で対峙する。
それは魔王にとって因縁深い言葉だ。

「その問いを我に問うのか」
「ええ、貴方だから問うのです」

魔王も正義の人柄は理解している。
魔王すら受け入れ、邪神すら引き連れる男。
悪戯な意図で聞くような男ではないだろう。

「個人的な事言えば、憎き怨敵であるのだが、聞きたいのはそう言う事ではないのだな?」

正義は頷く。
こればかりは個人の所感ではなく、定義が知りたい。
魔王は考えを吟味する様に僅かに黙り、しばらくして口を開く。

「そうだな。勇者とは選ばれし者だ」
「選ばれる? 何に?」
「神、王、聖剣、あるいは運命。ともかく力無き者の代表として何かに選ばれた存在だ。それが勇者だ」

選ばれし者。
その答えを正義は受け止め。

「参考になりました。ありがとうございます」

頭を下げる正義に片手を振ってガラス戸を開く。
そのまま出口へ向かい魔王が青い暖簾をくぐる。

「ではな。実に有益なひと時であった。その名を覚えておこう大和正義よ、邪神もな」

言って魔王が立ち去る。
正義もロレちゃんを扇ぎながらその背を見送った。

[F-3/温泉施設/1日目・午前]
[大和 正義]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:健康
[アイテム]:アンプルセット(STRUP×1、VITUP×1、AGIUP×1、DEXUP×1、LUKUP×1、ALLUP×1)、薬セット(回復薬×1、万能薬×1、秘薬×1)、万能スーツ(E)
火炎放射器(燃料75%)
[GP]:10pt→11pt(鉄鉱石+2pt×3、銅鉱石+5pt、温泉入場料-10pt)
[プロセス]
基本行動方針:正義を貫く
1.炎の塔の制圧
2.脱出に向けた情報収集(ゲーム、ファンタジーについて詳しい人間に話を聞きたい)、志を同じくする人間とのとの合流
3.何らかの目途が立ったら秀才たちとの合流

[ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:のぼせた
[アイテム]:飴×5、不明支給品×3(未確認)
[GP]:290pt→280pt(温泉入場料-10pt)
[プロセス]:全ては些事
※支給品を目視しましたが「それが何であるか」については些事なので認識していません。

[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:状態異常耐性DOWN(天罰により付与)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、不明支給品×2
[GP]:100pt→90pt(温泉入場料-10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.陣野愛美との対決に備え、力を蓄えていく。
2.イコンとか言うのも会ったらしばく。
3.主催者を調べる
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。


820 : 幽世の湯 ◆H3bky6/SCY :2021/02/28(日) 20:47:04 Qw63lCCY0
投下終了です


821 : ◆5IjCIYVjCc :2021/03/04(木) 21:40:48 W0GG9e/60
投下します。


822 : 知らせて芸術 ◆5IjCIYVjCc :2021/03/04(木) 21:42:03 W0GG9e/60
「高井ー!どこに行ったー!高井ー!」

枝島トオルは草原の上で生徒の名を叫ぶ。
診療所から出ていった彼女を追って、現在は陣野優美に出会った湿地帯の近くにまで歩いて来た。

傷のせいで走ることもできず、痛みに耐えながらであったためこの場に到着するのに時間がかかってしまった。
それでも自分にできる限りの速度を出して移動したつもりだ。
しかし、ここにたどり着いた時に高井丈美の姿は見えなかった。
それどころか人の気配も一つも感じられなかった。

(あいつ…今はどうしているんだ)

2人の姿が見えないことの理由はいくつも考えられる。

1.高井がこの辺りに着いた頃には陣野は既に別の場所に移動しており、それを探すために高井も別の所を探し始めた。
2.高井が陣野と再会後、説得に成功して2人で行動を共にした。
3.高井と陣野はこの場で再会し、陣野が高井を殺害した。
4.高井が陣野を返り討ちにしてしまった。
5.全く別の第三者による介入が起きた。

何が起こるか分からない殺し合いの舞台である以上、他にも様々な可能性が挙げられる。

(俺が〇を付けたいのは2だか、この可能性は一番低い。もしこうなっていたとしたら2人は神社の方に向かうはず。それだったら俺がここに来る途中で出会っているはずだ。それにあの子が説得に応じるとは思えない。)

都合の良いことである程、その可能性は自身でも否定的な考えの方が頭に出る。

(まだ良い可能性で最も起こりそうなのは1だ。だが、悪い出来事が起きたことも否定できない)

誰に相談できる訳でもなく、2人の行方に関して考えを巡らしても、自分が納得いく答えが見つからない。

(ここはやはり、1を信じてみるしか…)

こうなった以上、取りあえず自分に出来ることからやってみるしか他はない。

(だが…俺はどこに向かうべきだ?)

高井が別の場所に行ったと仮定しても彼女がどこに向かったか分からなければ行動のしようがない。
見当違いの方向に行ってしまえば彼女との距離がさらに離れていく事態になってしまう。
そうなった場合、この足では追い着くことはもはや不可能と言っても過言ではない。

(俺はここからどうすればいいんだ…!?)

現状だと、彼にできることはほぼ何も無いに等しいことになってしまった。
このままでは無意味な時間が過ぎていき、高井を助けることもできなくなってしまう。
教師として、人間として、白井杏子として、それは何としても避けたいところであった。

(こうなったら…!)

枝島はとある手段をとることにした。
それは彼にとっても苦肉の策であった。



美空善子と田所アイナは、怪物に変じる少女から離れ、市街地の中にまでたどり着いていた。

そんな彼女たちは街中に入ってすぐの位置で足を止めた。
なぜなら彼女たちは後方からある音を聞いたからだ。

「今の音は…」

彼女たちが聞いたのは小さな爆発音であった。
街中に入ってひと息ついている間が無ければその音を聞き逃していたかもしれないくらい小さな音だった。
その爆発音を聞いた時、2人にはある男の顔が思い浮かんだ。

「ひかりちゃん、今のはもしかして」

「うん、あの音は焔花さんの…」

彼女たちは爆発音を聞いて、その音が焔花珠夜の爆弾の音であることを確信した。
誰かを傷つけるつもりはなく、ただその爆発を見てもらいたい。
そんな彼の不器用な想いを感じる音であった。
彼女たちは焔花の爆弾の音を聞き慣れているわけではない。
だが、先ほどの爆発音は絶対に彼が作ったものであると確信できる言葉では表現できない『何か』があった。


823 : 知らせて芸術 ◆5IjCIYVjCc :2021/03/04(木) 21:42:44 W0GG9e/60
「でも、なんであっちから音が?あの辺りに誰かいるの?」

「一体誰が…それに、今の音は空から…」

爆発音はただ後方から聞こえたわけではなかった。
まるで花火のように、上の方へと打ち上げられる音も一緒に聞こえていた。

美空善子はかつて焔花が自分のライブ会場に爆弾を仕掛けた時のことを思い出した。
爆弾自体は彼女が彼を追い払ったので爆破は未遂に終わった。
後から爆弾を回収した警察に聞いた話によれば、その時の爆弾は打ち上げることで上空で爆発させる物だったらしい。
それと同じような物がこの殺し合いの場にあったということだろうか?

「ひょっとして、誰かが自分の居場所を知らせるために…?」

爆弾により空の上で光と音が出れば、意識はそちらの方へと向く。
威力は小さかったがようだが、自分達のように近い位置にいる者であればそれを知るには充分であった。

「もしかして…陣野優美が?」

可能性の1つとして先ほど出会った少女、陣野優美によって爆発が起こされたというものが思い浮かぶ。
(何故かは知らないが)彼女は自分の姉を恨んでおり、その行方を探している。
もしかしたらその姉に場所を知らせるために爆弾を使ったのかもしれない。

「でも、それはない…かな?」

しかしもしその目的で爆発物を使用するのならもっと前に使うはずとも考えられる。
それにあの音量では自分達のような位置の者じゃないと音は聞こえないだろう。
せいぜい地図で区分けされたエリア1マス分の距離までしか届かないだろう。
どこにいるのかも分からない人を探すためにあんな使い方をするとは考えにくい。
だとしたら、誰が一体どんな目的で今の爆発を起こしたのか、その理由は分からない。

「ひかりちゃん、さっきの音がした方へ行って確かめてみようよ」

「大丈夫?アイナちゃんはさっきので…」

「そのことは心配しないで。あれから時間が経っているから一応回復してるの」

美空善子が心配するのはアイナが陣野優美の心の声を聞いて気絶したことである。
テレパシー能力を持たない善子ではあるが、その時の様子からアイナが感じ取ったものは相当すさまじいものだったのだろう。
善子はこれによる精神疲労がまだ残っていると考えていた。

確かに、アイナの精神はまだ完全には回復しきっていない。
けれども、爆発音についても気になるし、何よりアイナには善子を心配させたくないという想いがあった。

「それにもし焔花さんの爆弾があるのなら、それが悪いことに使われてほしくない」

「……うん、確かに。あの人の気持ちを汚されちゃうと思ったら、嫌だよね」

焔花珠夜は文字通り命をかけて自分たちを守ってくれた。
爆発が陣野優美の仕業じゃないとしても、他の危険人物によるものとも考えられる。
もしそうなら、彼の爆弾を悪用することも考えられる。

爆弾がまだ残っているかどうかは分からない。
それでも、彼の爆弾が何かよくないことに使われると思うと嫌な気持ちが出てくる。
誰が使っているか知らないがそれは避けたいところだ。

「分かった。それじゃあ行こうか」

2人は市街地から出て、今まで来た道を戻るという選択をとることにした。

[D-4/市街地近くの草原/1日目・午前]
[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康、疲労(小)
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.爆発音が聞こえてきた方向に行く
2.危険人物がいたら撃退する
3.知り合いと合流
※『アイドルフィクサー』所持者を攻撃したことにより、アイドルの資格と『アイドル』スキルを失いました。
GPなどで取り戻せるかは不明です。

[田所 アイナ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康、精神疲労(中)
[アイテム]:ロングウィップ(E)、不明支給品×4
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:お家に帰る
1.爆発音が聞こえてきた方向に行く
2.優美さん…
3.ひかりちゃんには負けない


824 : 知らせて芸術 ◆5IjCIYVjCc :2021/03/04(木) 21:43:55 W0GG9e/60


市街地近くでアイドルとテレパシー少女が聞いた爆発を起こしたのは枝島トオルであった。
彼は自分の居場所を高井丈美に知らせる目的でこの爆発を起こした。

もちろん、この爆発が彼女に届いてない可能性も考えている。
もしかしたら爆発が危険人物を呼び寄せてしまうかもしれない。
だが、それでも何もやらないより、何らかの行動をとるべきだと判断した。
爆弾はまだ残っている。
ここに危険人物が来てしまった場合はこれで撃退するしかない。
全く関係のない人物が引き寄せられた場合は協力を要請しよう。

焔花珠夜という男の名はニュースで聞いたことがある。
だからこの男がしでかした事件についてもある程度の情報は得ている。
何でもこの男にとっては爆発は芸術でありそれを見てもらうために事件を何度も起こしたらしい。
美術教師として、そんなことをのたまう狂人が作った物を使用するのには抵抗があった。
けれども、状況が状況だ。
使える物は何でも使うしかない。
本人(本人じゃない可能性もあるが)は既に死んでいるらしいから、このアイテムも遠慮なく使わせてもらう。

愛しの白井杏子がこんなものを使うとは思いたくない。
彼女の姿でこれを使うことは心の中で謝っておく。

とにかく、生徒を救うためだ。
頭のおかしい犯罪者の道具でも使ってやる。
とりあえず今は爆発で高井が引き寄せられ、来てくれるのを待とう。

「高井…頼むから来てくれ…!」


だが、その祈りはもう届くことはない。

[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・午前]
[枝島 トオル(枝島杏子)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:B LUK:A
[ステータス]:両肩、両ひざに刺し傷(処置済)
[アイテム]:変声チョーカー、焔花珠夜の爆弾砲台(残り…中弾・大弾)
[GP]:15pt
[プロセス]
基本行動方針:白井杏子のエミュをしながら生徒の保護。
1.この場で高井が来るまで待つ。
2.危険人物が来た場合は撃退する。
3.その他の人間が来た場合は協力を求める。
4.誰も来なかった場合は別の場所を探す。
5.高井丈美を連れて神社で結成されるらしい対主催集団と合流する。
6.他に生徒がいれば教師として保護する。
7.陣野優美、陣野愛美もできれば救ってやりたい
8.耳が幸せ。
※果物ナイフは診療所の中に置いてきてしまいました。そのことにはまだ気づいていません。
※爆発音はC-4,5とD-4,5で聞こえた可能性があります。

【焔花珠夜の爆弾砲台】
焔花珠夜が作った爆弾を発射する砲台。
地面に設置して使用する。
威力を小・中・大で調整することが可能。
手持ち式の起爆装置についた赤いボタンを押すことで発射される。
赤いボタンは威力ごとに3つある。
使用可能なのは小・中・大それぞれ1回まで、合計3回まで。
砲台の発射角度は上下左右360度自由に調整可能。
また、製作者の強い想いによりこれによる爆発で発生した光を見たり音を聞くといったことがあると「爆弾を作ったのは焔花珠夜だ」と思わせる効果がある。


825 : ◆5IjCIYVjCc :2021/03/04(木) 21:44:16 W0GG9e/60
投下終了です。


826 : ◆H3bky6/SCY :2021/03/04(木) 23:18:17 e.9pZLik0
投下乙です
焔花さんの縁がこう繋がるとは、これはひかりたちは無視できんよなぁ
花火の見える範囲にいるのはやべー奴らもいるので引き寄せる人次第では大変な事になりそう


827 : ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:19:09 8r6uV2jI0
投下します


828 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:19:47 8r6uV2jI0
三土梨緒は悔しそうに爪を噛んでいだ。

白騎士の力なら確実に殺せると踏んだが、失敗した。
小賢しい七三眼鏡に邪魔され、相手にはワープという切り札もありまんまと逃げられてしまった。

諦めと見切りが早いのは梨緒の悪い癖だ。
言いがかりをつけられ判断を早まってしまった。
学園生活も、それで何度しくじったことか。

日和った連中を利用する道を選んだ梨緒からすれば、悪評をまき散らされては立ち行かなくなる。
そうなる前に大日輪月乃を確実に見つけ出して絶対に殺さなければならない。

最大の問題はメールである。
七三眼鏡曰く10GPでメールが送れるという話だ。
正義にチクリメールを送られようものなら一瞬で終わりである。
なにせメールを出すなんて防ぎようがない。

だが、月乃には初期GPの10ptしかないはずだ。
塔の支配もせず、参加者の殺害を良しとしない奴らにGPを得る手段はない。
送れるメールは一通だけ。その一通を梨緒の悪行を伝えるためだけに使うか? いやしない。

安心を得るため、必死で否定材料を探す。
猶予はある。そう信じて梨緒は月乃を殺すために動く。

だが、どこを探せばいいのか。
走りだしたはいいが探す当てがなければ、動きようがない。

月乃が行ったワープが、どの程度の性能でどこまで跳べるものなのか。
情報がなさ過ぎて推測もたたない。
スキルか支給品かも不明である。

どうせならいっそ、沈んだ積雪エリアに跳んで海の中に沈んでいればいいのに。
もしくは地中か空中に放り出されてそのまま死んでくれれば楽だ。
まあそんな希望的観測を信じて、放置するわけにもいかないのだが。

確か、月乃たちは放送局を目的地にしていたはずだ。
そこに向かうかどうかでひと悶着あった、梨緒が責められる切っ掛けもその話だった。

ならば、月乃もそこに向かうかもしれない。
あのワープが位置まで指定できるとしたらならば、既に放送局にいる可能性すらある。

心当たりができてしまえば、そこに心が支配される。
逃げられてしまえば、梨緒は破滅だ。
立ち去る前に一刻も早く向かわなければという焦燥感に駆られる。

追い詰められたように目撃されるリスクも承知の上で梨緒は白騎士を呼び出した。
自分の痕跡を消すために痕跡を残す矛盾。だが、やらねばならない。
梨緒は幸せになりたいのだから。
その為ならなんだってやろう。

それに白騎士自体を目撃されるのは構わない。
正体不明のクリーチャーがいると知れたところで、それが梨緒と繋がらなければそれでいい。
騎士の背後で隠形の札を使っていれば身を隠せるばずだ。

白騎士の背後に登りしがみ付く。
隠形の札を使用して自らの存在が隠されたことを確認すると、白騎士を走らせた。

大森林をなぞるように草原を駆ける。
かつて狙撃手より逃げるために辿った道筋を、こんどは殺すために駆け抜ける。

風の如き馬の疾走はあっという間に中央エリアを抜け、諸島エリアにかかる橋に入った。
響く蹄の足音が石を打つ音に変わる。
軽快な音がテンポよく響き続ける。
そして再び音の種類が変わった時には、その建物が視界に入っていた。


829 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:19:57 8r6uV2jI0
それは海を臨む放送局だった。
小島に佇む小洒落たロケーションは殺し合いには似つかわしくない。
こじんまりとしたその建物の前で馬の足を止めさせる。
白騎士に頼らず意を決して自ら飛び降りた、おかげで今度は無事着地できた。

白騎士を消して、梨緒は放送局の押し扉を開き玄関を潜る。
月乃がいるかもしれない、そう考え出来る限り慎重な足取りで歩を進める。
放送局に侵入した彼女を迎えたのは受付にいたシェリンだった。

『はいはい。放送局のシェリンですよ。ご利用ですかぁ?』

場違いな呑気な声に苛立つ。
こいつがべらべらしゃべるんじゃ気配をひそめた意味がない。

「ここに大日輪月乃はいる?」
『このシェリンにご案内できるのはこの施設に関する情報だけです。他参加者の情報はお答えできませぇん』

使えない。
苛立ちを隠そうともせず舌を撃つ。
ならばと思考を切り替える。

「なら質問を変えるわ。今この施設に私以外の利用者はいる?」
『いいえ。現在ここにいる勇者はあなた様だけです』

最初からそう言えと言うのだ。
ともかくここに月乃はいないようである。

既にたどり着いて立ち去った後なのか、それともまだたどり着いていないのか。
その判断がつかない。
しばらくここで待ち伏せるべきだろうか?

だが、放送局のロビーでぼーっと月乃を待っているだけでいいのだろうか?
焦燥感に駆られた状態でジッとしているというは苦痛である。
何か手を打っていないと落ち着かない。
次に取るべき手段に悩む。

そこで、梨緒は何かに気づいたように周囲を見た。
自分が今いる場所を改めて思い返す。
梨緒は一つの手段を思いついた。

放送局。
全体に声を届けるというこの施設を使って月乃の言葉を信じるなと伝えるのはどうだ?

悪評を巻き散らされる前に先手を取って相手の悪評をまき散らす。
いきなり流れる声を信じる人間も少ないだろうが、梨緒には演説スキルがある。
スキル効果を考えれば可能だろう。

「シェリン。この施設の使い方を教えて」




830 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:20:14 8r6uV2jI0
『放送室はそこの通路を進んだ先ですよー』

案内に従い、受付の横にある細い通路を進んだ先。
その突き当りに放送室はあった。

何やら様々なスイッチがならんだ机の中心に一本のマイクが突き立っている。
学校の放送室もこんな感じだった、ような気がする。
まあ放送部でもないのではっきりとしたことは言えないが。

電子妖精より受けた説明によれば、なんでもエリア1マスに対して3GPが必要となるらしい。
つまり会場全体に声を伝えるには8×8×3で192pt必要となる計算だ。
沈んでしまった積雪エリアを無視するにしても、100pt以上が必要だ。

現在梨緒が持つGPで届けられる範囲は12マス。
中央エリアくらいならカバーできるが月乃がどこに跳んだのか確証がない。
悪評をまき散らすなら月乃がいる周辺でなければ意味がない。

確実に月乃を追い詰められるのならば踏ん切りもつくだろうが。
確実性のない方法に貴重なGPを使うのをもったいないと感じてしまう。

逡巡の末、やはり使えないと、そう結論付けた。
やはり引き返そうと放送質の防音扉を開く。
その時、梨緒の耳に扉が開かれる音が聞こえた。

気のせいではない。
誰かがこの放送局に来たのだ。
慌てたように手にかけた扉を閉じて放送室へと引き返す。

月乃がやってきたのか?
心臓が高鳴る。

思わず思わず放送室に戻ってしまったのは悪手だった。
月乃であろうがそうでなかろうが、放送局に来たのなら放送室(ここ)を目指すに決まっている。
ここまで通路は一つ、回避して逃げ出せる非常口もない。
放送設備以外何もないこの部屋で隠れるのは無理だ。
出会いは不可避である。

今のうちに白騎士を出しておくべきか。
そう考えて首を振る。
それは相手が月乃じゃなかった場合に面倒な事になる。
月乃を殺すのも急務だが、新たな寄生先を見繕う必要があるのだ。
出来る限り穏健派とは交流を深めキープはしておきたい。

だが、今の梨緒には月乃を排除する義務がある
それを終えるまで下手に手を組むこともできない。

面倒だ。
ああ本当に面倒だ。


831 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:20:37 8r6uV2jI0
「あら。先客がいたのね。こんにちは」

そうして迷っているうちに、それは現れた。

穏やかな語り口の黒髪の女だった。
月乃ではない。
だがそれに匹敵するほどの整った目鼻立ち、ひらひらとした露出の高い服。
見たことはない。売れない地下アイドルだろうか。

「…………こんにちは」

出来るだけ距離を取るように壁際に背を預けながら、ひとまず挨拶を返しつつ出方を伺う。
少なくとも、問答無用で襲い掛かってくるような輩ではなさそうである。

「あなたもこの施設が使いたくって来たのかしら?」
「……そういう訳じゃないわ。どんなものか見に来ただけ、使うんならどうぞ」
「そうなの。まあ私も様子見に来ただけなのだけど」

そう言って微笑む。
女はちょうど入り口を塞ぐ位置に立っている。
意図的なモノか偶然かわからないが邪魔なことこの上ない。
女は興味深そうにスイッチだらけのコンソールを見つめていた。

「神のお声を世界に届けるのにちょうどいいと思ったのだけれど、GPを消費するんじゃちょっと使いづらいわね」

神とか言いだした。
宗教家だろうか。宗教なんて胡散臭いイメージしかない。
怪訝そうな顔で押し黙る梨緒に気づいたのか、女は梨緒に視線を向けた。

「名乗り遅れたわね。私はイコン教団の教祖イコンです。イコン教団、ご存じかしら?」
「……ごめんなさい初耳だわ」

どう返したものかと一瞬迷うが、正直に答える。
イコンは激昂とも落胆とも違う感情の動きを見せ、何かに納得したように一人頷く。

「知らない……そう、そうなのね」

小さな声でなにかをぶつぶつと呟く。
そして、改めて梨緒を見つめる。

「あなたは神の世界の住民という事ね」
「違うけど……」

電波なことを言いだした。
梨緒は引いたが、後方は壁だった。
この女には梨緒が神様にでも見えるのだろうか。

「よいでしょう。無知なる者に啓蒙するもまた巫女の努め。私があなたに神の教えを説きましょう」

心の底から素晴らしいものを語るように教祖は語り始めた。

「結構よ。宗教には興味ないの」
「無知は罪ではありません。知ろうとしない事こそ罪なのです。
 神の世界の住民に神お教えを説く、これもまた天啓でしょう」

こちらの話など聞いていない。
その顔は自分を正しいと疑っていない人間の顔だ。
女がカツンと足音を立てて歩を進める。

「世界は不完全で人間もまた不完全な存在です。
 生きとし生ける限り、人の生には様々な苦痛や苦悩があるでしょう。
 古来より数多の神は人に試練を与えるのみで人を救いはしなかった。
 けれど我が神は違う。全ての人間をお救いになられる。あれ程現実に人をお救いになられた神は存在しない。
 何の学もない孤児も、何の力もない老人も、何の価値もない罪人も、わけ隔てない愛で、お救いになられるのです。
 神は唯一無二の完全なる存在、我ら信徒は己が命を神に捧げることで自らも完全なる存在となれる。これほどの至福がどこにありましょう?
 我が神こそこの世界の唯一の救い。不完全な人が、完全なる存在となれる唯一の道なのです。
 貴女も我が神を信仰しその命を捧げる最上の至福を味わいたくはありませんか?」

恍惚とした表情で女は語る。
その演説に寒気がした。
女の話が理解できないからではない。
女の話が理解できたからだ。


832 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:21:21 8r6uV2jI0
不完全な三土梨緒を捨てて完璧な栗村雪になる。
程度は違えど、その理想の方向性は同じだった。
だから、この女の言葉は毒の様だ。

だが違う。
決定的に違う点が一つ。

それは生と死。
梨緒は生きるために完璧になりたいのだ。
死を前提として語るこの宗教女とは違う。

「興味ないって、言ってんでしょうが!」

その誘惑を振り払うように叫ぶ。
頭が熱狂する。

この女はダメだ。
利用できない。
ならば梨緒にとって無価値な存在だ。

ならば殺す。
殺していい存在だ。

白騎士を呼び出す。
恍惚とした表情で神を語る女を引き裂いてしまえ!

「うぐっ!?」

唐突に、梨緒の体が弾かれるように吹き飛んだ。
何が起きたのか分からなかった。
先手を取ったはずなのに、倒れているのは梨緒の方だった。

それは神罰。
神の供え物を攻撃とする者を問答無用で罰するカウンターである。
イコンすら認識していない不意打ちだろうと、攻撃を行おうとした段階で神罰は下る。

「ッ!?」

だが、驚いたようにイコンが飛び退く。
腹部の衣服ハラリと落ちる。
露になった白い腹に一本の紅い線が走り、つぅと雫を垂らした。
あと数センチ深ければ内臓が転び出ていただろう。

その目が敵を捕らえる。
梨緒ではない、それはこの狭い一室にあまりにも不釣り合いな巨大な異形だった。

「召喚獣!? いえ、ゴーレム!?」

人馬一体の白銀の騎士。
あるいはイコンにとってはこの不可思議な施設比べれば見慣れた存在だったのかもしれない。
どちらにせよ、イコンにとってこれはマズい。

使用者の意志を介さず攻撃を行う自立型の非生物。
敵意や攻撃の意志に反応する天罰の対象外。
召喚スキルはイコンの天敵に他ならない。


833 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:22:01 8r6uV2jI0
神託の巫女。
直接戦闘は担当ではないが、あの激動の時代を生き抜いたのだ、荒事に巻き込まれることには慣れている。
神の威光を介さぬ愚かな敵対者に命を狙われることも少なくなかった。

その判断は早い。
身を反転させ、背を向けて出口へと向かう。

だが、白騎士の方が早い。
容赦なく馬上より稲妻のような斬撃が放たれる。

だが、その一撃はイコンの背後の防音扉に引っかかって斬撃が僅かに遅れた。
その隙に身を低くして潜るようにして躱す。

この狭い室内で小回りが利かない巨大な白騎士は本領を発揮できない。
イコンは文字通り切り開かれた扉より抜け出てそのまま通路を駆け抜けた。

白騎士はその背を追わなかった。
馬体で狭い通路を駆け抜けるのが難しいというのもあるが、最大の理由はその背後。
痛んでいる梨緒の存在だ。

白騎士の役割は梨緒の守護。
指示がない限りは敵の殲滅よりもそちらを優先する。
彼女がダメージを追って動けない以上、白騎士がこの場を離れることはない。

「ッ…………っ」

壁に手を付きながら梨緒が立ち上がる。
傍らの白騎士を見つめ、取り逃したことを認める。
月乃に続き二人目の失態だが梨緒にそこまでの焦りはなかった。

要は、話の信憑性の問題だ。
危険人物の場合、梨緒と同じく集団に潜り込むようなスタンスでもない限り誰かに話すという機会自体がないだろう。
故に無暗に悪評をき散らされる可能性は低い。
何より、国民的アイドルの言葉ならまだしも、イカれた宗教女の言い分など誰が信じるというのか。

依然として、梨緒の優先目標は大日輪月乃だ。
梨緒は壁から離れると、念のため白騎士を侍らしながら放送局のロビーへと向かって行った。

[F-7/放送局/1日目・午前]
[三土 梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:ダメージ(小)
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、歌姫のマイク、焔のブレスレット、おもしろ写真セット、万能薬×1
[GP]:36pt
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.大日輪月乃を必ず殺す。
2.正義と合流して守護してもらいたい
※演説(A)を習得しました

[イコン]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
[ステータス]:腹部に軽傷
[アイテム]:青山が来ていたコート、受信機、七支刀、不明支給品×1
[GP]:0pt
[プロセス]
基本行動方針:神に尽くす
1.愛美の道を阻むものを許さない
2.何人かの参加者を贄として神に捧げる
3.陣野優美を生かしたまま神のもとに導く


834 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/11(木) 22:22:35 8r6uV2jI0
投下終了です


835 : 名無しさん :2021/03/11(木) 22:50:42 JCwV.TrY0
投下乙です
梨緒ちゃん、イコンの天敵だったけど
どっちもあくまで自衛能力なぶん本格的な殺し合いには至れなかったかー
後、確か天罰スキルは状態異常付与が常時でダメージの方が男性専用の追加効果だったような


836 : 神に至る病 ◆H3bky6/SCY :2021/03/12(金) 20:05:12 2kS/zrgg0
>>835
ご指摘、ありがとうございます
完全に逆だと認識してました、失礼しました

・『神に至る病』の該当箇所を下記に修正します

>唐突に、梨緒の体が弾かれるように吹き飛んだ。

唐突に、梨緒の体が痺れるように固まった。

>痛んでいる梨緒の存在だ。

麻痺している梨緒の存在だ。

>壁に手を付きながら梨緒が立ち上がる。

万能薬を使用した梨緒が立ち上がる。

・三土 梨緒の状態表を下記に修正します

[三土 梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、歌姫のマイク、焔のブレスレット、おもしろ写真セット
[GP]:36pt
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.大日輪月乃を必ず殺す。
2.正義と合流して守護してもらいたい
※演説(A)を習得しました


837 : ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:48:11 MbhNGrxk0
大変遅れましたが投下します


838 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:49:10 MbhNGrxk0
息を切らしながら少女二人が駆ける。
愛らしい少女らしからぬ必死の形相だが、それも当然だろう。
これは追いつかれれば死ぬアイドルと殺人鬼の命を懸けた追いかけっこなのだから。

「それで、どこに逃げてるんですか!?」
「どこって、それは…………」

由香里の問いに涼子はすぐには答えられなかった。
とりあえず場当たり的にその場を離れているだけにすぎない。
具体的な目的地がある訳ではなかった。

煙幕によって時間は稼げているが、殺人鬼がいつ追いつくとも限らない。
傷口を抑え出来る限り出血は抑えているが完全ではないだろう。
血の跡を追ってくる可能性は十分にある。

ここは小さな島である。
別の島に逃れるには橋を渡るしかないのだが、橋は遮蔽物のない数百メートルの直線である。
橋に向かう可能性は向こうも分かり切っているだろう。
よほど運がよくない限り、渡っているうちに発見される。

「なら、煙幕を使えば……」
「バカね。橋に煙幕がかかってる時点でどこに居るかはバレバレでしょう」
「あ、そっか」

唯一の出口がそうであるなら、島の外に逃げるのはリスクが高い。
かといってこの島には森や街といった物陰や障害物がほとんどなく、隠れてやり過ごすと言うのもの難しい。
逃げ出した廃村こそが一番隠れやすい場所ではあったのだが、まさか戻る訳にもいかない。

「なら、戦いましょう!」

逃げも隠れてもできないのなら、立ち向かう。それしかない。
殺人鬼との対決。由香里からすれば一度通った道だ。
恐れる必要はないと震える拳を握りしめて自身を奮い立たせる。

「……ダメよ」
「大丈夫ですって、あたしあいつと一回戦って勝ってるんですから!
 嘘じゃないです! マジです!」

信じてほしいと鼻息荒く訴えかける。
だが涼子は苦し気な表情で首を横に振る。

「……それは信じる。けどダメよ」

涼子は由香里を護るために来たのだ、危険には晒せない。
由香里を矢面に立たせるなど彼女の中ではあってはならない事だ。
こうなっては意固地な涼子は譲らない事を由香里はよく知っている。
だが、隠れる事も逃げる事も戦う事も出来ないとなると、いよいよもって手段がない。

「あっ。涼子さん、その指輪!」
「……だから、その件に関しての説明は後でするって」
「そうじゃなくって……!」

わたわたと手を振って由香里が何もない明後日の方向を指さす。
いや何もない訳じゃない。
確かにそこに広がるものがあった。

「海ですよ、海! その指輪があれば行けるんですって!」

島の間を流れる潮の流れは外側の海よりも激しい。
魚や水泳選手でもなければ何の用意もなく飛び込めば確実に溺れてしまうだろう。
だが、涼子は親友より託された指輪に触れる。

海王の指輪。
これがあれば海流の影響は受けない。
この海を超え、殺人鬼から由香里を護れる。

「……そうね。わかった。海から逃げましょう。
 けど、指輪をはめているのは私だけなんだから、私の手を絶対に離さないでね」
「はい。分かってますって」

互いに頷きあい、手をつないで駆け出す。
そのまま僅かに小高い崖の上から飛沫を上げて海へと飛び込んでいった。




839 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:50:08 MbhNGrxk0
「由香里は浮かぶことだけに集中して!」
「ばぁい」

一心不乱に水を掻く。
塩水が傷口に染みるが、気にしてなどいられない。
違う島に渡れればそれで彼女たちの勝ちだ。
周囲は激しい流れなのに自分だけが影響を受けないというのは不思議な感覚だった。

泳ぎは苦手という訳ではないが特別得意という訳でもない。
海流の影響を受けないのは涼子だけだ。
流されそうになる由香里を引き留めながら泳ぐと言うのはなかなか難しい。

「っ……ぱ」
「黙ってて」

海中で何かしゃべろうとする由香里を叱りつける。
だが、涼子の言う事を聞かず、由香里は水が口に入ることも厭わず叫ぶ。

「ッ……後ろですって…………!」

その叫びに涼子は振り返る。
そこには、海面を物凄い勢いで切り裂く刃のような何かがあった。

それは背びれだ。
映画なんかの影響か、それを見て連想するものは一つ、サメ。

まさかこんなところで、人喰い鮫に襲われるなど誰が思おう。
参加者以外の生物などいないと思いこんでいた。

水面に顔を出したサメが大口を開いた。
ノコギリみたいな牙が見える。

「由香里……ッ!」

喰いつかれようとも構わない。
こんどこそ絶対に大切な仲間を守護る。
涼子は自らを盾とするように、絶対に離さないという強い決意の元繋いだ手を引き寄せる。

だが、その手が離れる。
引き寄せようとした涼子を由香里の方から突き放したのだ。

「由香…………ッ!?」

二人の身が離れ、その間を大口を開けたサメが通り過ぎる。
由香里がそうしなければ、どちらかの腕を食いちぎられていただろう。

だが、海王の指輪を持たない由香里が手を放してしまえばどうなるのか。
あっという間に由香里は海流に飲み込まれ遠くに消えて行った。

「…………あっ」

海王の指輪を装備した者は海流の影響を受けない。
逆に言えば、流れに乗って加速することもできない。
追いかけようとするが激流に飲み込まれて遠くに消えていく由香里に追いつけない。

完全に見失った。
もう手を伸ばしても届かない。

指輪があるから流れに乗れないのならいっそ指輪を外すか。
一瞬そんな破滅的な考えが浮かぶがすぐさま否定する。
それでは二次災害になるだけだ。

それに周囲には人喰いサメもいる。
海中に潜ったのか、今は見えなくなってしまったが、いつ襲われるとも分からない。
海流を無視できる指輪があったとしても海は危険だ。
いったん地上に出て海岸沿いを探索したほうがいい。

我が身がどうなろうと構わないが、由香里を助けるには涼子が無事である必要がある。
涼子は断腸の思いで海路を諦め、近場の陸地に向かった。

水を吸って重くなった服を引きずり海岸を這い上がる。
全力疾走からの水泳、トライアスロンめいた強行軍でかなりの疲労が溜まっている。
それでも切れた息を整える間もなく、すぐにでも立ち上がる。
駆けだそうとして顔を上げた涼子に影がかかる。

「――――ぃよう。待ってたぜぇ」

楽しそうな声がかかる。
愕然とした表情で顔を上げる。
そこには、殺人鬼が立っていた。




840 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:50:49 MbhNGrxk0
「…………ぁ」

絶望に喉が絞まっておかしな声が出た。
まるで待ち伏せでもしていたかのような登場だった。
単なる偶然、不幸? そんなことがあるのか?
偶然にしてはいくら何でも出来すぎである。
そもそも、涼子たちを追っているのならこんな所にいるはずがない。

「なんで、って顔してるなぁ」

凶悪さを秘めた顔で男は笑う。
それは自分の優位性を疑わぬ笑顔だった。
混乱した隙を突かれ逃げる間もなく胸倉を捕まれる。

「もちろん偶然じゃぁねぇぜ。なにせ、そういうスキルを取ったんだからなぁ!!」

敗北を経て桐本四郎は学んだ。
この世界において重要なのはスキルである。
稀代の殺人鬼があんな小娘に後れを取ったのはスキルがあったからこそだ。

だから、桐本は無暗に追いかけるのではなくその場に留まりスキルを取得した。
取得したスキルの名は『狩人の嗅覚』。
獲物の逃亡位置を予測できるスキルである。
Bランクでは何となくここに来るだろうという程度のものだが、それで十分だった。

「ま、来たのがテメェの方だってのは計算外だが」

振り回すように乱暴に涼子の体を地面に叩きつける。
地面に倒れた涼子の鳩尾に容赦なく桐本の踵が振り下ろされた。

「が…………はっ……ッ!?」

稲妻のような激痛が体内を駆け巡る。
可憐を殺した男のような洗練された武力ではない。
女の腹を何の躊躇もなく全力で踏みつけられる凶暴性。
思わず身が竦むような純然たる、暴力。

「…………ぁ…………ぁ」

体も心もどうすれば人は折れるのか。
この男は人間の壊し方を理解してる。
全身が麻痺して呼吸ができず、指一本動かせない。
ただ苦悶の表情を浮かべ痙攣したように体を震わせることしかできなかった。
桐本は上機嫌な様子で動けなくなった涼子に背を向けアイテム欄から取り出したマイクを握りしめた。

『あーあー。テステス。よぅクソガキ、聞こえてるかぁ? まあ聞こえてなくてもしゃべるんだがよ』

大音量マイクにより音声がエリアに全体に響く。

『お前と逃げてた女を捕えてる、ほら喋れよ』

マイクを涼子に向けるが、激痛に息も絶え絶えな涼子はそれどころではない。
桐本は仕方なさげにため息をつくと、倒れこんでいる涼子の元へと歩み寄るとその腹を蹴り上げた。

『…うッ……ごふ……ッ!』
『聞こえたかぁ? 念のためもう一回いっとくか?』

言って、もう一度涼子の体を蹴り上げる。
苦し気な喘ぎがマイクに乗って島中に響き渡った。
桐本は涼子に向けていたマイクを戻す。

『今から1分ごとに1本。この女の指を切り落とす。
 全部の指が潰れるまで10分。あぁ、足も合わせりゃ20分か。それまでに廃村北の海岸に来い。
 それまでに来なければこの女を殺す。いいな』

言いたい事を言い終わり、演説を打ち切る様に桐本がマイクを放り投げる。
マイクはゴッと衝突音を島中に響かせ、良子の目の前へと転がった。

桐本は鼻歌交じりに動けない涼子の手を取って、まな板に乗せるように地面に固定する。
殺人鬼の手にはマイクの代わりに鉈が握られていた。

『さぁて、スタートの合図だ。派手に頼むぜ…………ッ!』

鉈を振り下ろす。
廃村を構える小島全体に絹を裂くような女の悲鳴が響き渡った。




841 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:51:41 MbhNGrxk0
「ケホッ……ケホッ……!」

咳込みながら水を吐く。
トラブルに巻き込まれても生き残るトラブルメーカーの面目躍如か。
完全に海流に飲み込まれた由香里だったが、幸運にも島の海岸に流れついていた。

「うぅ……喉がイガイガする」

それなりに海水を飲み込んでしまった。
ここにきてこんなのばかりだ、全く水難に縁がある。

口元を拭って立ち上がる。
気分が悪いが、ゆっくり休んでる場合でもない。

逸れてしまった涼子との合流を目指さなくては。
とりあえず流されてきた方向を戻ればそのうち会えるとは思うが、追ってきている殺人鬼もいるのだから気を付けなければならない。

『あーあー。テステス。よぅ聞こえてるかぁ?』

だが、どこからともなく、絶望を告げる声が聞こえてきた。
一瞬自らを追う殺人鬼に追いつかれたのかと思ったが、首振って周囲を見渡すが姿はない。
聞こえているのは声だけだ。
恐らく由香里から奪った大音量マイクによるものだろう。

そうしてどこからかの声が地獄のようなゲームの説明を始め、始まりが告げられる。

『さぁて、スタートの合図だ。派手に頼むぜ…………ッ!』
『いやああああああああああああああああああッッッッッ!!!』

慣れ親しんだ人の聞いたこともない壮絶な悲鳴。
そのあまりの恐ろしいさに思わず足が竦んだ。

『ぅ……く…………由……香里、来ないでぇえ……ッ!! 来ちゃダメェ…………!!』

絶叫の合間に涼子の叫びが聞こえる。
それはどこまでも由香里の事を案じる声だった。
聞いたことのない涼子の声だったが、いつも通りの、涼子の言葉だ。

「行かなくちゃ…………」

それで由香里の心が決まった。
来るなと言われた。
それでも。だからこそ行かなくては。

HSFの問題児。
みんなの言う事を聞かず何回叱られた事か。
今更怒られる回数が一回増えたところで、知ったことではない。

思いのままにやりたいように。
それこそ三条由香里の生き方だ。

大丈夫だ。
一度勝った相手である。
武器は奪われてしまったが、それでも勝てるに決まっている。

足を止めようとするいくつもの不安を振り払ってHSFの秘密兵器は走りだした。




842 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:52:04 MbhNGrxk0
「……はぁ……はぁ」

廃村の北、指定された場所に息を切らして由香里は辿り着いた。
1分ごとに響き渡る絶叫を振り払って地獄のような道中を無我夢中で走ってきた。

「よぅ。ビビッて逃げちまうかと思ったぜ」

ゆっくりと、殺人鬼が振り返り、頬ついた返り血を拭う。
その足元には、涙と涎を流しながら見たこともない表情で白目をむいた涼子がビクビクと痙攣していた。

「よかったなぁ、まだ片手が潰れただけだ」

言って力なくだらりと垂れ下がった涼子の右手を掴み、由香里へと見せつけるように掲げた。
血だらけの右手からは全ての指が切り落とされていた。
当然のように手当などしていないのだろう、プラプラと振るわれる傷口からは大量の血が垂れ流され続けている。

指先は神経が集中しており、麻酔もなしにそれを切り落とされる苦痛は正しく拷問である。
繰り返される激痛によって意識を失い激痛で意識を覚ます。
それを繰り返す地獄の責め苦を受けた涼子の精神は崩壊寸前にまで追い詰められていた。

「あたしは来たぞ! 今すぐ涼子さんから離れろ、このクソ野郎! こんなことして何が楽しいってのよ!?」

感情のまま動く直情型の由香里が尊敬する涼子にここまでされて黙っていられるはずもない。
その罵倒を受けて桐本は掴んでいた右腕を放り捨てる様に離して、愉しげな笑みを浮かべる。

「楽しいね。誰かを傷つけるのは最高に楽しい」

その言葉に一瞬で頭は沸騰した。
由香里は誰かを笑わせるために日々努力を重ねるアイドルである。
誰かを傷つけて笑っていられる、こんな人間がいることが信じられない。

「あんたなんてぇえ!!」
「ハハッ! こいよクソガキ!」

激情まま由香里が殴りかかる。
殺人鬼は報復の時間だと、嬉々として受けて立つ。
アイドルと殺人鬼が二度目の衝突を開始する。




843 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:53:03 MbhNGrxk0
桐本は右手に大鉈を、左手に金属バットを握りしめた二刀流。
長柄ではあるがいつも扱うナイフの二刀流に近しいスタイルだった。

それに対して、由香里が両手に構えたのはトンファーである。
構えたトンファーで振り下ろされる大鉈を弾き、金属バットを受け止める。

「くぅ…………ッ」

だが勢いに圧され、体が弾かれる。
明らかな力負けだ。
それはつまり筋力で劣っているという事である。

成人した男と年端も行かぬ少女なのだから当然の結果のように見えるが、この世界においては勝手が違う。
むしろ前回は強引なスペックによる力推しで由香里が勝利を収めたくらいだ。
その結果と今は真逆の展開を辿っていた。

そう、由香里は桐本に一度勝利している。
下剋上スキルは格上に対して発動するスキルだ。
その発動条件は由香里の主観的な認識に依存する。

一度勝った相手だという意識が、その発動条件の邪魔となっていた。
全く効果が発揮していない訳ではないが、前回のような劇的な効果はないだろう。
加えて、あの時は利江のスキルによる応援効果があったが、涼子が気絶している今の状態ではその応援効果も期待できない。

「なんだよ、なんだよなんだよなんだよ! 期待外れだなぁオイッ!!」

由香里とは逆に敗北し辛酸を舐めさせられた桐本に油断はなかった。
前のように小娘如きと侮りはしない。
雪辱を晴らすべく本気の猛攻を繰り広げる。

女子供でも全く容赦しない殺人鬼の本気である。
今は辛うじて防いでいるが、それだけだ。
反撃に転じれなければ、一方的な嬲り殺しとなるだけである。

だが反撃に転ずるには武器が悪い。
単純に振り回せばいい長柄の武器と違い、トンファーはあまりにも素人には扱いづらい。
防御には使いやすいかもしれないが、攻撃に打って出るには難しすぎる。

こうしてみると前回の勝利がどれほど綱渡りの薄氷の勝利だったのかがわかる。
同じ対戦カードでありながら、あらゆる状況が前回とは違う。
この状態でアイドルが殺人鬼に勝てるはずがなかった。

「オラぁッッッ!!」

鉄バットによる殴打。
トンファーを盾に両腕で受けるも、ついに由香里の体勢が崩れた
そこに容赦なく振り下ろされる大鉈が頭部を直撃した。

「ッ…………ぁあッ!!」

頭部が裂け血が噴き出る。
あわや脳天を唐竹の如く割る一撃だったが、幸運にも大鉈は涼子の指を切り落とした際にべったりと付いた血と脂によって切れ味が落ちていた。
それが寸前で絶命を避けた。

とはいえ、鉄の鈍器で頭部を殴られたダメージは大きく一瞬意識が混濁する。
ふらついた由香里を桐本が蹴飛ばした。
なすすべなく少女は倒れた。
それを見て桐本は心底失望したと、ため息をこぼす。

「つまんねぇなぁ。つまんねぇよお前。
 せっかくテメェを為に意気込んで来たってのによぉ!!
 これじゃあ猛りがおさまんねぇよなぁ、どうしてくれんだあぁんッ!?」

理不尽な怒りとと共に、倒れた由香里の顔のすぐ横にバッドの先端を振り下ろした。
叩きつけられた海岸の小石が撥ねて頬を打った。

「ひっ」

暴力を突き付けられ思わず身がすくむ。
それは最初の出会いの焼き直しのようだった。


844 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:53:38 MbhNGrxk0
「テメェにゃ責任を取って貰わねぇとなぁ。
 バトって満足させられねぇなら、別の体の使い方で楽しませてもらおうか」

そう言って、男は下卑た笑みを浮かべる。
由香里とて、それの示す意味が分からぬほど幼くはない。
むしろ多感な時期だからこそ生理的嫌悪が強かった。

「……い、嫌っ」
「そうかよ。まあ俺もガキは好みじゃねぇ。そうだな、あそこで転がってる女を犯っちまうか?」

言って、バッドの先を突き付ける。
その先には倒れ込んでいる涼子がいた。

「さぁ選ばせてやるよ。俺に犯られるのはどっちだぁ? 俺はどっちでもいいんだがけどなぁッ!!」

この場で主導権を握っているのは桐本だ。
何をどうするにも誰に意見を伺う必要もない。
その状況で、あえて選択を突き付ける。

「あたしを……やるんなら、あたしをやりなさいよ!」

半ば自棄のように由香里が叫んだ。
その返答に、桐本は不愉快そうに表情を歪める。

「『やりなさい』? 立場が分かってねぇようだなぁ?」

桐本は由香里に背を向けると、その魔の手を涼子へと向けようとした。
由香里が焦りと絶望で表情を歪めた。

「ま、待って。…………お、お願いします。あたしに……して下さい」
「あぁ? 分かんねぇよ、何をどうしてほしいって?」

悔し気に唇をかみしめる。
全身を震わせ、消え入りそうな声を絞り出す。

「あ、あたしを犯してください。お願いします……」

王子様とのキスを夢見るような穢れを知らぬ少女が、己を汚す懇願の言葉を吐かされる。
その余りの恥辱に、悔しくて涙が零れた。

「ククッ。ハァッハハハハハッ!」

満足そうに桐本が嗤う。
自分に屈辱を味合わせた小娘が無様にへつらう姿が愉快だった。

「そこまで言われちゃ仕方ねぇな!」

魔手が伸び、由香里の衣服が乱暴に破り捨てられた。
夢と希望を届けるアイドル衣装が黒い欲望に散っていく。
胸元の衣服が下着ごと剥ぎ取られ乳房が露わになった。

「はっ。ガキにしてはいいもんもってんじゃねぇか」

握りつぶすように乳房を掴まれる。
快楽などない、あるのは苦痛と嫌悪だけだ。

「痛ぃ……!」
「うるせぇな、黙ってろ」

男が嗤いながら片腕で顔面丸ごとつかむようにして口を塞ぐ。
呼吸ができない。相手の事など情動をぶつける道具としか考えていない。

「…………ぅ…………ぁっ」

思わず由香里は口内に入った指を噛んだ。

「何してんだよゴラッ!」

口内から手を引き抜き、そのまま固めた拳が振り下ろされた。
顔面に叩き込まれ前歯が折れる。
一度や二度ではない、何度も何度も顔面を殴られた。


845 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:54:12 MbhNGrxk0
可愛らしい容姿が自慢だった。
可愛らしさが誇りだった。
周囲からも蝶と花よとおだてられ、キラキラとしたアイドルになれるとそう思っていた。

今やその顔は醜く腫れ上がり、見る影もない。
前歯は全て失われ、顎骨や頬骨が折れているのか顔の形も歪んでいた。

「……くうっ。ぅわぁぁぁ……ッl」

ついに由香里は声を上げて泣き出した。
それを見て桐本は愉悦に浸る。

暴力は相手を屈服させる手段である。
痛みと恐怖で人は折れる。
桐本はその瞬間を見るのが好きだ。
絶望に歪める顔を見るのは、性行為なんかよりも最高だ。

「……………………もんか」
「あぁ?」

啜り泣きの合間。
大量の涙と血の混じった鼻水を流しながら折れた歯を食いしばって呟く。

「……負けるもん、か、あたしは……」

桐本が唖然と言葉を失う。
今更何を言うのか。

「んだそりゃ!? とっくに負けてんだろうがテメェはよォ!!」

見るも絶えない顔で涙を流して、これが敗北でなくて何なのか。
桐本の恫喝など聞こえていないのか、由香里は続ける。

「あたしは……あたしたちは、あんたなんかに負けない…………ッ!」

泣いたって終わりじゃない。
傷ついたって立ち上がれる。
汚されようとも、折れない。
だって。

「あたしは、アイドルなんだから…………!」

その誇りさえ折れなければ、何度だって。
すぐに挫けてすぐに立ち上がる。
それが三条由香里というアイドルだ。

「…………ふ」

折れたはずだ、絶望したはずだ。
思い通りに行かない。

「ふっざけんなッ!!!」

癇癪を起したように桐本が衝動的に鉈を手に取り振り下ろした。

「ぅぐ!?」

振り下ろした鉈の石突が乳房の間に深々と突き刺さった。
肋骨をパキリと裂いて、その下の臓器へと至る。

口から塊ような血を吐いて、由香里の瞳孔が大きく開く。
ビクンビクンと二度痙攣して、粒子となってその体が消えていった。

「チッ」

桐本が舌を打つ。
思ず衝動的に殺してしまった。
通常の殺しとは違う事を、失念していた。
死体が残っているのならその死体を犯して辱めることもできたのだが。

気分が晴れない。
鬱憤はたまったままだった。

[三条 由香里 GAME OVER]




846 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:54:31 MbhNGrxk0
「――――あたしは、アイドルなんだから…………!」

声が聞こえた。
その声に呆けていた涼子の意識が僅かに揺らいだ。

意識が僅かに覚醒する。
それに伴い右手の激痛が再燃した。
五指が喪失した事実は夢ではないことを告げていた。

「由…………香、里」

倒れ込んだまま視線を這わせる。
その先で、由香里の上に男が覆いかぶさっていた。
最悪の予感に全身が総毛立つ。
止めなければと、痛む体を動かそうとしたところで、男が由香里に向かって鉈を振り下ろした。

「…………あっ」

幾度も見た光の粒子が散る。
その光に涼子の虚ろだった眼が見開かれる。

「ぅうぁあああああああああああああああああああああああああああああああっッッッ!!」

喉から血が出るような獣の咆哮。
その瞬間、完全に理性など吹き飛んだ。

左手にナイフを握って駆け出す。
痛みなど知らない。
自分がどうなるかすら頭にない。

殺意が感情を支配する。
目の前の男を殺す。
涼子に頭はもう、それしか考えられなかった。

「あん?」

だが、少女の決死の想いなど、殺人鬼は容易く打ち払う。
あっさりと刺突を避けると、すれ違いざまにバッドで背を打った。

「うぁあ…………ぁあああッ!!」

涼子は血の混じった反吐を吐きながら倒れ、それでも止まらず。
急き込みながら這いずるようにして血まみれの手で落としたナイフを掴む。

「ふぅ……ふぅ……ッ!」
「うざってぇ」

鼻息荒く自らをにらみつけるその視線を、面倒くさそうに吐き捨てる。
発狂しただけの怪我人など桐本からすれば物の数ではない。

獰猛な獣のような殺意を向けられれば、あるいは怯む者もいるのだろうが。
桐本にとって狂気など、気持ちよく吹くそよ風と変わらない。
涼子の殺意など、ただの小娘のヒステリーだ。
まるで脅威を感じない。

「いいぜ、殺してやるよ。たっぷり楽しんでからなぁ」

舌なめずりをして嗤う。
あの小娘では下げきれなかった留飲をここで下げさせてもらうとしよう。

とはいえ、相手を侮り由香里との初戦では煮え湯を飲まされた。
その反省を込め油断はしない。

桐本四郎という殺人鬼は、この場でアイテムを学び、スキルを学び、死体が消えることも学んだ。
この世界における楽しみ方を学んだ。
その経験と知識を使って全力をもって、目の前の女で愉しんでやろう。

「犯して、解体して、殺してやるよ」

だが、憎悪に染まっていたはずの涼子の動きが止まっていた。
理性を失った女が今すぐにも襲ってくるかと思っていた桐本は不思議に思うが、その原因が分からなかった。

何が起きているのか。
殺意の塊が止まる、それほどの異常が起きていた。
それを無視してはならないと殺人鬼の本能が告げる。

正体が自らの背後にあることに気づき桐本がとっさにその視線を辿って振り返る。

「なっ…………」

桐本ですら声を失う。
そこには、開かれた大口にずらりと並ぶノコギリ状の鋭い牙があった。

耳まで裂けたような大きな口が殺人鬼を一息で飲み込んだ。


847 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:54:53 MbhNGrxk0


VRシャーク。

それはVRゲーム『New World』に侵入したウイルスデータである。
参加者たちとは、入り口から違うこの世界におけるただ一人、いや一匹の例外。
不法侵入者でありながら、ある意味で唯一の正しい存在である。
全参加者の中で唯一、魂を持たない完全なるデータなのだから。

魂を起点としない改竄(チート)により進化や成長を自己で促しながら、電子の海を行く。




848 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:55:41 MbhNGrxk0
ミサイルみたいな流線型の体。
刃のような背びれと、翼のような横びれ。
顔面の横にあるむき出しの鰓孔。
不気味な丸い瞳が輝き、白い口元から鋭いノコギリのような牙が覗く。
どれをとっても紛れもないサメである。

だが、その胴体の端々には異形のような、小さな人間の手足が付いていた。
見るだけで理性が削れるような、どうしようもなく不気味な深き怪物。
それはサメではなくサメのような何かだった。

海中より現れたその怪物は海岸に立っていた殺人鬼の上半身を丸ごと飲み込んだ。
バキ、ボキと何が砕ける音がサメの口内から響く。
破片のような何かがサメの口端から零れ落ちていった。
こうなっては助かるまい。

「……っぶねぇなゴラァ!!」

だが、怒声と共に桐本が口内からぬるりと脱出する。
強靭な顎で噛み砕かれたのは宝箱だった。
桐本は咄嗟に宝箱を出現させ、口内に僅かな猶予を作ってその隙に抜け出したのだ。

だが、それでも無傷と言う訳ではなかった。
脱出するときに引っかけたのだろう、ノコギリ刃に鑢掛けられたように、全身が血で塗れていた。

「っんのッ!! 喰われるだけ魚類が! 何ぃ人間様に噛みついてんだぁあん!?」

鼻っ柱を金属バットで打ち抜く。
サメの鼻から血がシャワーのように噴き出した。

上がった顎を踏み抜くように前蹴りで蹴りだす。
そしてバットのグリップを両手で握り、大きく振りかぶって全力でスイング。
バッドは胴の真芯を捉え、サメの打球みたいに吹き飛んで海に還っていった。

「ハッ! 人間様に勝てるわけねぇだぅろが、魚類如きがよぉお!」

自らの流す血とも返り血とも分からぬ赤で全身を染め上げた凄惨な笑顔の殺人鬼が吠える。
高笑いを浮かべる、その背後に衝撃があった。

「あ?」

見ればその腰元には、ナイフが突き刺さっていた。
そして暗い瞳と憎悪の表情でナイフを握る女の姿があった。
サメの登場に完全に気を取られていた桐本と、ただ桐本を殺す事だけを考えていた涼子の違い。

「このアマぁ……ッ!」

すぐさま振り返り、女の顔面を裏拳で殴りつける。
華奢な女は鼻血を流して倒れ込む。

「チッ」

舌を打ち、傷を確認する。
刺さったと言っても傷は浅い。
内蔵には届いてはいない。
この程度なら大した支障はないだろう。

「ッ!?」

だが一瞬、意識がふらついた。
何が起きたのかはすぐに理解した。
状態異常を確認するまでもなく、自身が持つスキル効果だから分かる。
これは毒だ。

幾度も指を落としながら一度も毒状態にならなかったことからわかっていたことだが。
毒判定に使われるパラメータが涼子は桐本を上回っている。
スキルと装備による違いはあれど毒使いとしてなら涼子の方が上だった。

毒による一瞬のふらつき。
それはすぐにでも立て直せる程度のものだ。
だが、決死の覚悟を持つ相手を目前にしている状況ではそれは致命的な隙である。

「うわああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

なりふり構わぬ捨て身の突撃。
流石に足元の覚束ない状態では避けられない。

もつれ込むように倒れたその上を涼子が取った。
跨った体勢で振り上げたその手には、鈍い光を返す刃が。


849 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:55:51 MbhNGrxk0
「こ、のッ」

反射的に桐本は制止する様に手を振り上げる。
だが、涼子は構わず刃を振り下ろした。

「……死ね、死ね、死ねッ、死ねぇッ、死ねぇえッ!! 死んでしまえぇええええッ!」

刺す。
刺す。
刺す刺す刺す。

指のない右手を左手に添えて力いっぱい振り下ろす。
振り下ろすたび激痛が奔るが、そんな事は知ったことではなかった。
この男を殺すためなら痛みすら厭わない。

手に、腕に、腹に、胸に、頬に、額に、喉に、耳に、目に、肩に、鼻に、口に、頭に。
一心不乱に刃を振り下ろし続けた。

それは事故のような最初の殺人とは違う。
明確な殺意をもって相手を殺す、初めての殺人行為だ。
それしか死ぬ機械のように、その行為を繰り返す。

そうして、何十回目かの繰り返しの後、振り下ろしたナイフが地面を刺した。
この世界の法則に従い桐本の体が光の粒子となって消えていったのだ。
そうでなければ、彼女はいつまでも繰り返していただろう。

振り上げた憎悪が行き場を失う。
湧き上がる感情はない。
復讐を遂げたところで達成感もなかった。

残ったのは何もない。
燃えるような憎悪すらも消えた。
この世界では死体すらも残らない。
ただあるのは喪失だけだった。

感情が壊れてしまったのだろうか。
もはや涙も流れなかった。

このまま手にしたナイフを自分の喉に突き刺して、死んでしまいたかった。
けれど、それはできない。

ここには、まだソーニャがいる。
彼女を置いて死ぬこともできない。

本当に何もなければ、苦しむこともなかったのに。
ただ一つ残った希望。
希望が彼女を地獄へと引き留めていた。

[桐本 四郎 GAME OVER]

[G-6/廃村北の海岸/1日目・午前]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱、背中にダメージ、腹部にダメージ、鼻骨骨折、右手五指欠損、右腕に切り傷、出血(小)
[アイテム]:ポイズンエッジ、海王の指輪(E)、煙幕玉×3、不明支給品×5
[GP]:18pt→48pt(勇者殺害により+30pt)
[プロセス]
基本行動方針:???
※第一回定期メールをまだ確認していません。
※可憐から魔王カルザ・カルマと会ったことを聞きました。
※桐本のアイテムが周囲に散らばっています

[G-6/海/1日目・午前]
[VRシャーク(ヴィラス・ハーク)]
[パラメータ]:STR:C→B VIT:D→C AGI:C→B DEX:D→C LUK:E
[ステータス]:サメ、頭部にダメージ、腹部にダメージ
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:250pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.食べたい
※水の塔の支配権を得たことにより水属性を得て本来の力を僅かに取り戻しました
※魚としての自覚を得て本来の力を僅かに取り戻しました


850 : サメ×アイドル×殺人鬼 ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:56:06 MbhNGrxk0
投下終了です


851 : ◆H3bky6/SCY :2021/03/23(火) 22:57:57 MbhNGrxk0
【告知】
最近(主に私の)予約超過が目立つため予約期間を延長します
予約期間は1週間+延長2日となります
よろしくお願いします


852 : ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:00:37 L.B2nzhE0
投下します


853 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:01:22 L.B2nzhE0
少年と幼女が荒野を行く。
温泉ですっかりのぼせてしまったロレちゃんは酔っ払いのような足取りを楽しんでいるようだった。
それを導く様にして正義はその手をつないで歩く。

「転ばないようね」
「うむ。フワフワとして中々に愉快である。これに飴という味の愉悦も加わればクク。神の身は味わえぬ愉悦よな」

言いながら口に飴を放り込み口内で転がす。
表情は変わらないが実に楽しそうであった。

その様子は正義の目には少し変わっているだけの年相応の少女に見える。
神様であった頃は、こうして湯冷まし歩くこともなかったのだろう。
それはどこか寂しいことのように思える。

「ロレちゃん、楽しいかい?」

何気なくそんな問いをしていた。
無機質な幼女の黒い目が正義を見つめる。

「そうさな。愉快である。これもまた人としての肉を得たが故だろう」
「どういうことだい?」
「神は完全にして完璧である。故に感情など無く愉悦もない。あるのはただ完全と言う機能のみある。
 だが、我は肉をもって人としての視座を得た。人の余分を得たのだ。それ故の愉悦であろうな」

完全でなくなったが故に楽しさを得た。
それは余分であると彼女は言う。

「それは……いい事なのかな?」
「良いも悪いもなかろう。ただの些事である。本体より別れた我の終末などどうなろうと何の影響も持たぬ」

幼女はあくまで大局的な視座で語る。
正義はそうかと相槌を打つと。

「なら、君は好きに生きていいという事なんだね」
「ふむ?」

正義は対極の局所的な価値観を述べた。
幼女は不思議そうに首をかしげる。

「そうなのか?」
「そうさ」

迷いなく断言する。
幼女は正義から視線を外して前を向いて。

「なるほど。お前が言うのならそうなのだろう」

そう言って歩き始めた。
いつの間にか足元のふらつきは納まり、しっかりとした足取りである。
目的地である炎の塔が近づいていた。




854 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:02:19 L.B2nzhE0
「……宇宙開闢以来の苦難である」

延々と続く塔の階段で幼女は息を切らしていた。
初期設定を忘れた彼女のパラメータは全てが最低ランクである。
幼女の歩幅で階段を登り続けるのは体力的にすごくしんどい。

「この我にこれほどの苦難を与えようとは……人とは業深い……」

肩で息をしながら愚痴をこぼす。
それでも足を止めないのは、真面目なのか融通が利かないのか。
単に目的を止めると言う選択肢を知らないのかもしれない。

「ロレちゃん」

先を進んでいた正義がその様子を見かねて、下段に回り込んでその場に屈んで背を向ける。
しかし、ロレちゃんはそれを無視して階段を登る。

「……待ってくれロレちゃん。そこで無視されると少し悲しい」

呼ばれてようやく足を止め振り返った。
屈みこむ正義を怪訝そうな目で見つめる。

「どうした。マサヨシよ。遊んでいるのなら置いていくが?」
「違うよ。疲れているようだから僕の背に乗っていかないかと思ってね」
「ふむ。そういうのもあるのか」

感心したように呟くと幼女は階段の上から正義の背に飛び乗った。
変な体制になったロレちゃんを整え、正義が立ち上がる。

「ほぅ。労をせず天へと至れる。これが人の叡智か」
「いや、まあ……そうだね」

やってることはただのおんぶなのだが、甚く感動している様子なので水を差すのも野暮だろう。
それに、あながち的外れではない。

「人間は助け合いさ。それは確かに叡智とも言えるね」
「ふむ?」

ロレちゃんを背負って長い階段を登る。
まったく掴まる気のないロレちゃんを落とさないよう気を付けながら慎重に足を進めてゆく。
そうして、ようやくこの塔の終着点、頂上フロアへとたどり着く。


855 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:02:43 L.B2nzhE0
「――――――――」

そこには腕組をしながら起立する無骨な男がいた。
正義はそれを視界に捉えながら、慎重に負ぶっていたロレちゃんを降ろす。
彫刻のように静かに佇んでいた男がゆっくりと目を開いた。

「面白い。魔王は来ずとも別の魚が釣れたか」

刃のような鋭い瞳が正義を捉える。
正義も目をそらさず、真っすぐにその目を見つめ返した。

「大和家の嫡男、大和正義だな」
「ええ。貴方は酉糸琲汰殿とお見受けするが、相違ないか?」

男、酉糸琲汰は然りと頷く。
互いに武に身を置き名を知られた者同士、直接的な面識はなくとも名は知れていた。

「大和家の次代は現当主を上回る才覚と聞く、試してみたものだな」
「身に余る評価はありがたく。されどまだ未熟の身なれば」

それを謙遜ととらえたのか琲汰はくっと笑う。

「よかろう。大和正義。立ち合いが望みだ。その実力、確かめさせてもらおう」

全身から湯気のように燃えるような闘気を発しながら男が構えた。

「私にはあなたと仕合う理由がない」
「ここに来たという事は当の支配が目的なのだろう? 目的を果たしたくば我を倒すしかないぞ」

言って自らの背後のオーブを親指で指さす。
その様はさながらオーブを守護る番人のようであった。

「確かに、我々は炎の塔の支配権が目当てだ。されど此方としては現時点で支配権を持つ貴方の協力が得られればそれでも構わないのですが」

正義としてはできうる限り無用な争いは避けたい。
排汰の協力を得られればこれ以上はないのだが。

「クドい! 武人に言葉は要らぬ。拳をもって語れぃ!」

ダンと地面を踏みしめ琲汰は頑として引かなかった。
正義とて平時であれば武道家として応じるのも吝かではない。
だが、今はそれよりも優先すべき目的がある。

ロレちゃんの守護と事態の解決。
その目的にこの塔の支配は必須ではない。
今の段階ではあくまで正義の推察の一つとして必要かもしれないというだけである。

必要性とリスクは見合うものなのか。
戦うか、諦めてここは引くか。
逡巡する正義。
だが、その観察眼が違和感を捉えた。

ハッとして振り返る。
いつの間にそこにいたのか。
それは気配もなく現れた。

最上階フロアの入り口には黒衣の男がいた。
少なくとも階段を上ってくる足音はしなかった。
互いに気を取られていたとはいえ、この二人がここまで気づかぬなどただモノではない。

「貴様は……」

その顔に見覚えがあった排汰が反応した。
共に龍退治に挑んだ男である。

「ドーモ。ワタシ、シャいいマス」

シャと名乗った男はニコやかに名乗りを上げるが、その笑顔に絆され油断などしない
排汰はこの男の凶暴性を知っているし、正義の観察眼にも男の笑みは今にも食らいつかんとする獣の笑みに映っていた。
恐らく正義と排汰が仕合えば、すぐさま横から喰らいつかれるだろう。

「オヤ、どうしまシタ? 戦ウのでショウ、ワタシを気ニせず続けるイイですヨ」

シャを警戒したように動きを止めた二人を挑発するように促す。
正義の正面には立ち合いを挑む琲汰に、背後からの不確定要素である第三勢力の登場。
こうなっては逃げるのも難しい、もはや衝突は避けられまいと正義は腹を決める。


856 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:03:02 L.B2nzhE0
「いいでしょう。だがその前に場所を変えましょう。3人で戦うにはここは少し手狭だ」

ここで戦えばロレちゃんを巻き込む恐れがある。
正義としてはそれだけは避けたい。

「構わん。では塔を降りて下で闘ろう」

琲汰からすれば幼女の安全などどうなろうとかまわない。
だが、だからと言ってわざわざ脅かそうとも思わない。

単純に弱者に興味がないのだ。
琲汰が心配するのは正義のメンタル面。
後顧の憂いをなくして全力を出せるというのならそれに応じるのも吝かではない。

移動を始めようとする二人。
そこに喉を鳴らすような笑い声が響く。

「武道家は、トロケそうなホド甘イですネェ」

それは武道家を嘲笑う暗殺者の声だった。
戦いの仕切り直し? 場所を変える?
敵を前にして、なんという甘い考えなのか。

「トックに始まってるヨ」

風を切る音。
傍らに佇む無防備な幼女の頸椎に魔手が伸びる。
だが、その手が届くと寸前で、割り込んだ正義がその手を掴んだ。

「貴様、真っ先に子供を狙うのか……ッ?」

握り潰すような力で腕を捻り上げながら、怒気を籠めた瞳でシャを睨む。
シャはそれに怯むでもなく飄々とした態度で答える。

「当然ネ。ココにいるノだから殺すヨ、大人も子供もナいネ、平等ヨ」

殺し屋シャは誰よりも平等だ。
男も女も大人も子供も全てを殺す。

シャは腕を捕まれながらも、構わず蹴りを放った。
狙いは幼女。と見せかけ蹴りの軌道が変わる。
正義と幼女、二者択一を迫る変則二段蹴り。

正義もそれは読んでいた。
だが読んでいてもロレちゃんへの攻撃は防がずにはいられない。
結果、自身の防御が疎かになり蹴りが頭部を霞める。

「…………くっ」
「正義ノ味方は大変ネ」

浅い、が体勢は崩れた。
そこシャが追撃を見舞う
だが、追撃に走ろうとしたその足が止まる。
同時にシャは横合いから放たれた蹴りを受け止めた。
琲汰の横槍である。

「こちらが先約だ」
「オイオイ。龍狩りノ時は混ぜテやったロ? 横槍はお互い様ネ」
「ぐぬぅ……」

そう言われては琲汰は返す言葉もない。
あの時先約を無視して乱入したのは琲汰の方だ。
そんな排汰を龍狩りに加えて貰った恩すらある。
だが、しかし。

「それはそれ、これはこれ!!」

なんという我侭。
己が我侭を押し通すことしか考えていない身勝手の極み。
これには暗殺者も呆れるしかない。

シャと琲汰が睨み合う。
その隙に正義はロレちゃんを抱えて階段へと駆け出した。

「あ、待て! 逃げるな、ぷッ?」

その動きに気を取られた排汰の顔面が強かに打たれる。
シャの裏拳が人中にめり込んだ。
そのまま足元を払われ、琲汰は重心を崩しその場に転がされる。

シャは倒れた排汰に目もくれず、正義の逃げた階段へと駆けた。
全く減速することなく壁を蹴り階段を下りる正義の背を追う。


857 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:03:36 L.B2nzhE0
「くっ…………!」

速い。
正義は階段を下りながら背に迫る気配を感じる。

このままではすぐに追いつかれると直感した正義は足を止め半身に構えた。
小柄な幼女とはいえ人一人を抱えたまま、振り切れるほど甘い相手ではない。
片腕はロレちゃんを脇に抱えているため塞がっている、使えるのは左腕だけだ。

暗殺者が階段を数段飛ばしで飛ぶように迫る。
それを前に息を吐き意識を集中、敵の動きを『観察』した。

暗殺者は狭い階段通路の壁を三角跳びの要領で撥ね、相手の逆を突く動きを見せた。
そこから放たれる鋭い跳び蹴り。
蹴りだした足が別の生き物のように撥ね予測不可能な軌道を辿る。

回避不能な必中必殺。
だが、その一撃を正義は片腕で打ち払った。
観えている。
『観察眼』を前にフェイントの類は通用しない。

正義が反撃に転じる。
攻撃を捌いた勢いのまま一歩踏み出し槍のように鋭い前蹴りを突き出す、
だが、その蹴りはしかし、あっさりと躱され背後の壁へとめり込んだ。

「ドコ狙っテ……ル!?」

軽口を叩こうとしたシャがその場を飛び退いた。
そこに蹴りの衝撃で剥離した天井が落ちてきたのだ。
明鏡止水の冷静さと観察眼で正義はあの一瞬で敵の動きのみならず、周囲を脆い個所を見抜いていた。

天井の落下にシャが怯んでいる隙に正義が身を翻して再び階段を下り始める。
だが、このくらいでは時間稼ぎにしかならないだろう。
一刻も早くこの階段を降り切って外に出なければならない。
そこまで行けば、いくらかやりようはある。

急ぎ階段を駆け出す正義。
だが、その眼前で唐突に外側の壁が破裂するようにぶち抜かれた。
大量の瓦礫と共に現れたのは筋骨隆々の男。
最上階に取り残されたはずの排汰である。
排汰は階段で追うのではなく、塔の外へ飛び降り外側から壁をぶち抜いて先回りしてきたのだ。

「逃がさんッ」

先ほどはシャを足止め正義を援護する形となったが、排汰は正義の味方ではない。
ただ自分が戦いたいがためだけの男である。
獲物を横取りされるなどされたくないし、正義にこのまま逃亡を許すのも嫌だ。
故に、後方より迫るシャよりも先に倒す。
排汰の思考はその一点。

階上からはシャが迫り、階下は排汰によって塞がれた。
ロレちゃんを抱えた状態では満足には戦えない。
絶体絶命の状況の中で正義の下した結論は。

「ゴメンよ」

そう謝罪の言葉を口にして、正義は脇に抱えていたロレちゃんを琲汰の開けた穴から外へと放り投げた。

「なっ…………!?」

余りの蛮行に排汰ですら呆気にとられた。
その一瞬。その隙をついて正義も駆け出す。
飛んで行ったロレちゃんを追うように、自らも炎の塔から飛び降りた。

既に塔の中頃、高さは10メートルほど。
それでもまともに落ちれば落下死は免れない高さである。

正義はあえて壁際を落下し、途中何度か意図的に壁を擦って落下速度を軽減。
そして地面に衝突する直前に体を丸め、落下の衝撃を五点に分散させるように回転することで無傷の着地を成功させる。
そこで正義は止まらず、自身の無事を確かめる間もなく立ち上がるとすぐさま駆け出した。
高めに放り投げたロレちゃんの落下地点まで先回りすると、落下してきたロレちゃんを危なげなくキャッチする。

「無事かい?」
「うむ。ヒュンとした」

風圧で頭がボサボサになったロレちゃんを優しく地面に降ろす。


858 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:03:51 L.B2nzhE0
「待ていッ!」

正義を追って排汰も飛び出す。
だが勢い余って壁際を離れすぎた、これでは壁伝いの減速はできそうにない。
憐れ排汰はこのまま投身自殺に一直線である。

「墳ッ」

排汰が廻る。
足をプロペラのように回転させ空中で旋風を巻き起こす。
そのまま回転を続けながら落下し、最後に大きく砂埃を舞わせながら両足で着地した。

それはどういう物理法則か、はたまた力業か。
ともかく排汰も五体満足のまま10メートルを超える自由落下をクリアした。

「逃がさん…………ッ!」

絶対の意志を籠めた拳を固く握り締め、正義を睨みつけた。
ようやく出会えた好敵である。
このまま逃がしてなるものか。

「オヤ、お二人で見つメ合っテ、待っテテくれたのカ?」

そこに僅かに遅れてシャが到着する。
シャはバカには付き合わずそのまま普通に階段を下り切り、出入り口から出てきた。

炎の塔のお膝元。
障害物のない荒野にて、一定の距離を置いて三人が睨み合う。
前哨戦は終わり、ここからが本番である。

「ロレちゃん。離れていて」
「うむ」

この相手に背を向けて逃げるのも難しいだろう。
二人を視線で牽制しながら、安全な場所までロレちゃんを下がらせる。

「――――マサヨシ」
「どうしたんだい?」

正義は少し驚いた。
彼女から話しかける事自体が珍しい。
何事かと思い、僅かに背後へと注意を裂く。
たが、

「? 何であろうな、貴様に声をかけねばならぬ気がしたのだが」

言った本人が心底不思議そうに首を傾げていた。
産まれた人としての感情に戸惑っているようにも見える。
正義は内心でそれを嬉しく思いながら。

「そうかい。なら、こういう時は「頑張れ」と言って送り出して欲しい」

ふむ、と無表情のまま幼女は納得を示す。

「では、頑張るがよいマサヨシよ」
「ああ。全力を尽くすよ」

立ち去っていく幼女を背に正義は気合を入れて前羽に構えた。
排汰も炎のような闘気を滾らせ拳を構える。
それを見てシャは二ィと口端を歪め呟く。

「――――鏖ね」




859 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:04:38 L.B2nzhE0
三つ巴において陥りやすい状況は三通りある。
一つは誰かに襲い掛かった瞬間を狙われる危険性を恐れて誰も動かなくなる膠着状態。
一つは強い相手を落とすべく戦力的に劣る二人が協力する展開。
そしてもう一つは、最も弱い者が狙われ真っ先に落とされる展開である。

真っ先に狙われるのは弱者。
ではこの三人の中で最も弱いのは誰か?

三人の男が縦横無尽に動き回ていた。
それは半端な実力者では巻き込まれただけで吹き飛ばされるような嵐である。

最も機敏に動きまわているのはシャだった。
圧倒的な機動性を生かし、少しでも隙を見せればすぐさま喰らいつく狡猾な蛇の様な動きである。

最も攻撃的な動きをしているのは排汰である。
敵の仕掛けを待たず、自ら先の先を取る攻撃的な仕掛けを見せていた。

正義に向けて排汰の腕が振るわれる。
見舞われる五月雨のような散打を防ぎながら、正義は半歩踏み込み強かに腕を払う。
拳を握り反撃に転じようとした瞬間、背後よりの蹴りを察知しその場に屈み込む。
シャの蹴りが頭上を過ぎ去る。回避と共に放った足払いは跳躍により回避された。

そして最も狙われているのは正義だった。
正義が後の先を狙うスタイルであると言うのもあるだろう。
シャと排汰は隙を見せれば牽制程度に打ち合う事はあるが狙いは正義に集中していた。

シャは現在二つの塔の支配権を得ている。
それがどれ程の影響を持つのか不明だが、GPによる強化も行っており確実な強者である。

排汰の得た支配権は一つだが、この決戦の地を支配する支配者である。
後押しの様なものがあってもおかしくはない。

対する正義はアンプルを使用しSTR、AGI、DEXを強化しているが、それでようやく追いついている状態だ。
正義も一流の使い手ではあるが、相手もまた一流である。
二対一で勝てる程、甘い相手ではない。

だが、格上二人に狙われたこの状況においても正義は冷静だった。
観察眼を駆使し、状況を読みながら、明鏡止水の精神で動じることなく防御に徹する。

とは言え、このままではじり貧なのは確かだ。
この平原では先ほどのような地形を利用した紛れはない。
単純に強いものが勝つ。

あるとするならば一対一ではなく三つ巴と言う状況だが、狙われている正義にとっていい方向に転ぶとは考えづらい。
つまり、この状況を動かすとしたら、それ以外の要因でなければならない。

「マサヨシ――――」

それは後方で戦況を見守っていたロレちゃんの声だった。
追い詰められている正義を見かねたのか、それとも別の理由か戦場に近づいてきる。

それは正義にとって望まぬ展開だが、その懸念をよそにロレちゃんが何かを放り投げた。
幼女の筋力ではまったく正義の下には届かなかったが、役目は追えたとばかりにとてとてと踵を返していった。
それが何であるかを見た正義が駆ける。そして放り投げられたそれを手に取った。

琲汰は知っていた。
故に、それを追わず、すぐさま飛び退いた。

シャは知らなかった。
故に、それを追い、反応が遅れた。

その手には日本刀。
流れるような動作で鯉口が切られ、振り返り様、刀身が鞘より引き抜かれる。

抜刀から紫電一閃。
雷光の如き刃が振り抜かれる。

数多の武を収めた若き天才。
その武功の中で最も名を知られているのが剣である。

大和正義は剣士である。

その事実を、日本の武術界隈に詳しい排汰は知り、海外の殺し屋であるシャは知らなかった。
それが命運を分け、シャの右腕から手首の先が落ちた。


860 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:05:21 L.B2nzhE0
切り落とされた腕を押さえシャが跳ねるように距離を取る。
腕を切り落とされたシャはタリスマンの紐を口にくわえて器用に傷口を縛り上げ止血を完了した。
そうして傷口を見つめ怒るでもなく落胆したように肩を落とす。

「イイ腕ヨ。けどガッカリネ。何故首ヲ狙わなかったカ?」

トントンと無くなった右腕で自らの首を叩く。
あの一瞬なら首を落とせただろう。
殺せるチャンスに殺さないなど、シャからすれば理解しがたい。

「殺す覚悟モない孩子にワタシ倒せないヨ」

シャも正義の剣の腕を知った
痛手であったが、先の様な不意打ち染みた奇襲はもう通用しない。
勝機を不意にした愚か者だ。

「それは違う。殺す覚悟など、とうの昔にできている」

大和に生まれたものが最初に教えられる覚悟とは殺す覚悟である。
御国の守護者として滅私奉公。最初に自らを殺すのだ。
だからこそ。

「殺す覚悟をしたうえで、殺さない覚悟をしている」

どうしようもない悪ならば斬る。
その覚悟もできているが、だからと言って簡単に命を諦めるような真似はしない。
取るとするならば最後の手段だ。

その覚悟を示すように正義が正眼に構える。
その立ち姿に一部の隙もない。

糸の張ったような一瞬の静寂。
その糸を断ち切るように待ち構える正義に向かってシャと排汰が駆けた。

迎え撃つ正義。
それだけならば先ほどと変わらぬ構図である。

だが振るわれる刃は、流水のように流麗であり雷光のように鋭かった。
足を止めさせるような払い。
シャは踏み止まり、その間合いから逃れる様に刃を避ける。

迂闊に踏み込めない
剣道三倍段とはよく言ったもの。
素人が刃物を持ったところで物の数ではないが、達人級の相手ともなると次元が違ってくる。

素手における対刃物において最も困難な点は攻撃を受けられないという所だ。
刃物による斬撃は同じく武器で受けるか防具を着込むことでしか防げない。
受けて踏み込むことも叶わなければ、長物による単純なリーチの差を覆せない。

だが、その常識を無視して踏み込んでゆく男が一人。
孤高のストリートファイターである排汰だ。

自ら間合いに飛び込んできた敵に対して、正義は容赦なく刀を振るった。
ここで躊躇う程、正義は甘くはない。
急所こそ外しているものの、手足の一本は落とす覚悟の一撃だった。

この刃に排汰の拳が衝突した。
弾かれる刃、だがすぐさま返す刃で切り返す。
再び剣が舞い、檻のような斬撃が嵐のように攻めたてる。
だが、排汰はその全てを拳一つで打ち落とした。

刃と拳の打ち合いと言うあり得ぬ攻防。
それを実現しているのはブロッキングという技術である。
攻撃の瞬間に合わせて防御を行うことによりダメージを無効化する絶技。

一つしくじれば先ほどのシャの二の舞となり手が落ちる。
それを日本刀を相手にやってのけるのだから、その技量もさることながら、実行する度胸もまた常軌を逸していた。


861 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:05:50 L.B2nzhE0
ブロッキングを繰り返しながら、じりじりと踏み込む。
刃より拳の間合いへ。
たまらず詰められた間合いを離すべく正義の足が僅かに引いた。

その刹那を見逃さず、排汰が大きく距離を詰めた。
それを迎え撃つべく正義が刃を振るう。
正しく狙いはその瞬間。

「ちぇりゃああ――――!!」

裂帛の叫びと共に繰り出されたそれは、素手による最も有名な対刃物の技。
すなわち白刃取りである。
軌道が読めれば十分に実現可能だ。

「くっ」

正義が刀を振るおうとするが、完全に固定され押すことも引くこともできない。
排汰が動く。狙うは武器破壊である。
折られる。直観的にそれを察した正義は、排汰の動きに合わせてあえて手から力を抜いた。

「な…………ッ?」

抵抗がなくなり、刀にかけた力が一瞬行き場を失いバランスを崩す。
その瞬間を見逃さず再び刀を握る力を籠めて手首を返すと、白刃取りを振り払い武器破壊を免れる。
再び距離を取ろうとする正義、だがその鳩尾に衝撃が走った。

「ワタシも忘レちゃイヤデスヨ」

いつの間に懐に入り込んだのか。
シャの肘が鳩尾に突き刺さっていた。
刃の矢面に立つ役を排汰に丸投げし、自身は一撃を叩き込む隙を虎視眈々と狙っていた。

「ぐっ…………がっ……!」

正義がその場に崩れ落ちる。
膝をついた正義を蹴り飛ばし、その勢いで背後の排汰へと振り返った。
一瞬で間合いを詰めたシャの左腕が排汰の腹部へと添えられる。
正義への一撃を目の当たりにしていた排汰はその一撃が浸透勁によるものであると見抜いた。

浸透勁。
それは不可思議な力などではない。
地面を踏みこむ抗力を自らを通して敵の体内に叩き込む、力の伝え方を点ではなく波として伝える中国武術の合理である。
様々な武術と相対してきた排汰は対応など心得ている。
始動となる足を注視しその瞬間を見逃さなければ、

「ガハ……………………ッ!?」

だが、起こりなどなかった。
何の前触れもなく爆発するような衝撃が腹部に沈殿する。
たった一撃で排汰が膝をつく。ただの一撃ではない。
まるで体内に直接、氷のように重い何かが叩き込まれたような異常な一撃だった。

「君ラ二人とも遊びガ足りないネ。もっとイロイロ遊びヲ知らナイと」

勁が不可思議な力ではなく武の合理であるという常識は現実世界での話だ。
勁とは、この世界においては正しく不可思議な力である。
アニメやゲームの知識があれば、あるいはその発想もあったのかもしれないが。

地に伏す二人、立っているのはシャだけである。
シャにとっては当たり前に訪れた当然の勝利だ。
それなりに楽しめただけの単なる娯楽でしかない。
倒れた二人のとどめを刺すべく動こうとしたシャの前に、腹部を抑えた正義が立ち上がる。

「オヤ、なかなかタフだネ。イヤ、回復アイテムかな?」

その言葉の通りである。
回復薬により体内のダメージを回復させた。
すぐさまそれを見抜くのもまた、ゲーム知識によるものか。

「ナラ、決勝戦と行こうカ」

シャが構え正義がそれに応じる。
三つ巴は終わり。
弱者の脱落を経て、最強を決める決戦が始まった。




862 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:06:02 L.B2nzhE0
「……………………ま……て」

激戦を繰り広げる様を排汰は地を舐めながら見ていた。
悔しさを滲ませ地面を掻くと、五指の形に削れた。

自分を置いて戦いを続ける二人。
取り残される。置いて行かれる。
嫌だ、嫌だ。こんな結果は認められない。

排汰は武に全てを捧げてきた。
誰よりも、何よりも。

力が及ばなかっただけならいい。
それは捧げる全てが足りなかっただけの話。
それで敗れるのは仕方がない。

だが、武に全てを捧げてきたからこそ負けるなどと言う話は認められない。
遊びがないから負けたなどそんな話はあってはならない。
アイテムがないから負けたなどそんな話はあってはならない。
排汰が余分なものとして切り捨てたものが必要だったなどと今更、今更認められるモノか!!

素手はシャにとってはより楽しむための遊びである。
素手は正義にとっては目的のため取りうる手段の一つだ。
琲汰は違う。
素手は己の強さを突き詰めることこそが目的である。
己が五体。己の身を磨き上げる事こそに意味があるのだ。

誰よりも、何よりも、武に全てを捧げてきた。
だから誰よりも、何よりも排汰は。

「――――強ぃいはずだぁあああああああああ!!」

叫びと共に勢いよく立ち上がった。
体内の氷を溶かすように魂を燃え上がらせる。

その叫びに呼応するように、大地が震えた。
同時に爆発するような轟音がエリア全体に響いた。

見れば、中央の火山が天にも届くような火を噴出していた。
エリア説明にも合った火山の噴火だ、だがこれは大きすぎる。

巨大な火山弾が雨のようにエリア全体に降り注ぐ。
それを見て。正義はシャとの攻防の手を止め、敵に背を向けるリスクを呑んで踵を返した。

広範囲の大災害、恐るべき灰と即死の雨。
その脅威からロレちゃんを守護るべく駆け出したのだ。

シャもその背を追わなかった。
流石のシャからしてもこの事態はそれどころではない。
この瞬間だけは、全員が戦闘ではなく、この天変地異に対応を要求されていた。

シャが自らに降り注いだ、火山弾を蹴りで打ち払う。
その砕けた火山弾の向こう。
排汰が降り注ぐ火山弾など見えぬような足取りで踏み込んで来た。

この瞬間だけは、全員がこの天変地異に対応を要求される。
そう、ただ一人、この地の支配者を除いて。

支配者の持つ特権の一つ。
エリアによる地形効果の悪影響を受けない。
この火山弾もその一つ。

突進からの肘打ちが暗殺者の鳩尾に直撃する。
僅かに下がった頭に向けて放たれるアッパーカット。
だが、シャは体勢を崩しながらもこれに反応し、掌で受け止めるように防いだ。

奇襲は失敗。
格闘家は世界を味方につけてもこの暗殺者を上回れないのか。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」

否。否である。
運命を打ち破るように雄たけびを上げる。
昇り龍のように逆腕が跳ね上がった。
片腕を失ったシャには文字通りそれを防ぐ手がない。

「――――――滅」

格闘家の剛拳が暗殺者の胴の中心を打ち抜く。
衝撃が突き抜け、肋を粉砕しながら敵を天へと打ち上げる。

流星のように降り注ぐ火山弾。
その一つに交じって、シャの体が乾いた大地に落ちた。




863 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:06:14 L.B2nzhE0
正義は駆ける。
それこそ矢よりも早く。
自身に迫る火山弾に構っている暇などなかった。
いくつもの被弾を受けながら、遠方で佇む幼女の下へと駆けつける。

死の雨の中でも幼女はいつものように立ち尽くしていた。
世の些事など気にかけぬ超越者然とした態度で。

だが、それでも今の彼女はただの幼女なのだ。
そんな彼女を正義が守護らなければ誰が守護ると言うのか。

「ロレちゃ――――――」

名を読んで手を伸ばす。
幼女も、応じるように手を伸ばした。
伸ばした手が届く。
それよりも早く。

巨大な火山弾が幼女の体を直撃した。




864 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:06:27 L.B2nzhE0
必殺の一撃が決まった。
格闘人生の集大成ともいえる生涯会心の手応えだった。
昏倒どころか、絶命してもおかしくはないだろう。
排汰は倒れるシャを見つめる。

「…………クッ」

だが、倒れた男から声がした。
それはあるいはダメージに喘ぐ声のようでもある。
しかし、ゆらりと幽鬼の様に男が立ち上がる。

「ク、クカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ」

口から大量の血を吐きながら、それに構わず殺し屋が笑う。
その足元、男を中心に砂嵐と吹雪が入り混じった嵐が吹き荒れる。
火山が排汰の猛りに呼応したように、男も何かを呼び立てていた。

「很危?、很危?。如果我不用勁保?我就死定了(危ない危ない。勁で護らなければ死んでいたよ)」

狂気に躍りながら、この世全てを嗤うように男は口元を歪めた。
余りにも悪魔じみた光景に排汰の中で純粋な疑問が湧く。
あれは本当に人間か?

否。あれは人を超えた魔人である。
魔人は血で濡れた髪をかき上げ糸のような目を見開くと、排汰に向けて指をさした。

「很有趣。我无聊了、所有的弱者。?是?得一?(面白い、弱者ばかりで飽き飽きしていた所だ。お前は殺すに値する)」

弾丸のような殺意が向けられる。
その弾丸に射抜かれた排汰が息を呑んだ。

龍を見た時は血が沸いた。
宿敵たる我道との戦いはいつだって肉が躍った。
正義の剣技に向かっていった時だって恐れなどなかった。

だというのに足が竦む。
強敵を前にして恐れを感じる事など、生まれて初めての経験である。

「…………ハハッ」

思わず笑みがこぼれる。

排汰にとって闘争に置いて行かれることこそが恐怖であり、闘争その物を恐れたことなど一度たりともなかった。
心にあったのは常に挑むことへの沸き立つような炎。
だが、それこそが排汰にとっての壁だった。

恐れぬが故に戦いに勇気など必要がなかった。
恐れるが故にそれに挑む機会を得た。

恐れても踏み込むその一歩。
ここを踏み抜いた先に、求めるものがある。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
「クカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!」

排汰は笑う。
シャも笑う。
火山弾の残り香のような炎が降り注ぐ空の下、砂と雪の吹き荒れる嵐の中で二人の魔人が笑いながら殺し合いを始めた。




865 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:06:44 L.B2nzhE0
「――――愚かな」

幼女は無感情な瞳で傷だらけで倒れる正義を見下ろしていた。

「己が命より他者を優先するなど生命として破綻している」

砲弾よりも巨大な火山弾の直撃を受け、幼女の伸ばした手は千切れ、内臓は破裂し、絶命は免れない致命傷を負った。
だが、死の一歩手前を彷徨う幼女に、正義は自らも火山弾の雨に晒され傷ついているにもかかわらず虎の子である秘薬を躊躇うことなく使用した。

「まったく、最後まで人とは理解し難い」

生きて種をつなぐ事こそが命の意味だ。
つがいでも子孫でもない他者を優先するなど理解し難い。

「……いや、最後扱いはやめてくれないかな、まだ生きてるよ」

正義が刀を杖代わりにして立ち上がる。
いくらか火山弾の直撃を受けたものの致命傷になるほどのものではない。
とは言え、無事とも言い難いのだが。

「だとしても同じ事だろう。お前ではもうあれに勝てぬ」

淡々と、どこまでも冷静に邪神は事実のみを告げる。
邪神の指す先で拳を交わし合う魔人たちは、人を捨てもはや別の領域に達していた。
どちらが残ったとして、この傷で挑むのは命を捨てに行くようなモノだろう。

「だとしても、君が逃げられるくらいの時間は稼いで見せるさ、だからどうか君一人でも逃げてくれ」

あの戦いがどれほど続くかはわからないが、この傷では逃げることも難しいだろう。
勝ち残るのが格闘家ならばロレちゃんに手を出すこともなかもしれないが、暗殺者ならば確実に殺すだろう。
それを防ぐためには正義が戦うしかない。
だが、進もうとする正義を引き留める様に、後ろ手を捕まれる。

「行かせてくれロレちゃん……いや、待て、君は何を……」

掴まれた手はコネクトされていた。
そこからロレちゃんの持つGP280ptから手数料を引かれた252ptが正義へと移譲される。
これほど大量のGPを持っていたことも驚きだが、それ以前になぜこんなことをするのか。
戸惑う正義にロレちゃんは言う。

「言ったのはお前ではないかマサヨシ、好きに生きろと。だから好きにしている」

正義の足元から光が上がる。
ポイントだけではない、ロレちゃんの手によって正義に何かが実行された。

あの時受け渡された刀もそうだ。
GPも支給品も正義はあえて彼女の所有物を確認はしなかった。
確認すれば正義にとって役立つモノを持っていたかもしれないが、それは正義の都合だ。
彼女のアイテムもGPも彼女のモノなのだから彼女が必要だと思ったのならその時に明かさせばいいと、そう思っていた。

だから、ロレちゃんが何を持って何をしたかなんて正義には正確にはわからない。
それでも気づくものはあった。

「待て、それは違う。それは役目が違う。君を守るのは俺の役目だったはずだ」
「そうだな。確かに貴様はそう言った。我も許可した、
 だが、人間は助け合い、なのだろう?」

識らぬものなどない全知全能の超越者は塵芥が如き存在の一粒に為り果てた。
飴の味を知り、温泉の熱さを知り、知識でしか識らなかった人間を知った。
その事実を楽しげに受け止め幼女は笑った。

不敵で不遜で幼女らしからぬ笑みだったけれど。
それでも確かに。

「ではな。マサヨシ。人としての生、なかなかに愉快であった」
「ダメだ。ロレちゃん、逃げるなら君が……!」

伸ばす手も声も届かず。
正義の体が空に向かって消えていった。




866 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:07:05 L.B2nzhE0
魔人と魔人の衝突は、人智を超えた領域に足を踏み込み始めていた。

「ハァ――――――ッ!!」

燃えるような闘気が炎となり放つ拳に炎が纏う。
撃てば敵を砕いて燃やす剛なる炎拳。

「シッ――――――ッ!!」

振るわれる炎拳を氷の気を込めた腕で払う。
荒野に激しく拳がぶつかり合う音が響く。
その度に炎焔が散り、氷雪と砂塵が舞う。

全てが必殺。全てが致死。
互いに即死の嵐を打ち合い、防ぎ払い躱し続ける。

永遠に終わらぬような至上の輪舞曲。
だが、それを終わらせるべく、シャが仕掛けた。

氷雪の息を吐き、踏み込みに砂塵を舞わせる。
多数の細かなフェイントを織り交ぜ、最終的に振るわれたのは失われた右だった。
排汰も僅かに虚を突かれたが、すぐさま対応しこれを防ぐ。
だが、いつの間にか止血を解いていたのか、受け止めた腕の断面から血飛沫が飛び排汰の顔面へと降りかかった。

だがこの程度、今の排汰にとって目つぶしにもならない。
多少の血糊が目に入ったところで、強く意思をを持てば目を閉じず視界は保てる。
来ると分かっている目つぶしなど怖くもない。

しかし、排汰はその意思に反して目を閉じた。
それは血の氷礫だった。
凍った刃が眼球を傷つける。
こうなれば意思一つで耐えられるものではない。

「くっ」

視界が奪われた。
だが一片の光もない夜闇の中で戦ったことなど一度や二度ではない。
視覚などなくともどうとでもなる。

だが、敵も達人。
辿るのは至難の業である。

だが不可能ではない。
あるとするならば攻撃の一瞬。
その瞬間に肉を切らせて骨を断つ。

一片の光もない闇の中に刹那にも満たぬ一瞬を待つ。
恐るべき緊張感に身が震える。
恐ろしい。だからこそ、歓喜する。

一方的な虐殺でも、健全な競い合いでもない。
現代日本では決して味わえぬ、殺し合いという至高の美酒。
これこそが排汰が求めていた物だ。
その一瞬を超えた先に、最強がある。


867 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:07:18 L.B2nzhE0
極限の集中。
敵の攻撃が皮膚の産毛に触れた。

瞬間、排汰は動いた。
人体限界反応速度を超える超反応。
攻撃の方向に必殺の炎拳を叩きこむ。

だが、その拳は何も捕えなかった。
狙いを外したのでも避けらたのでもない。
まるで最初から何もなかったよう。

「我逆?(逆だよ)」

声は逆からあった。
それが遠当てによる囮だと気づいた時にはすでに遅い。
放たれた抜き手が肋骨を縫って心臓を握る。

「ぐ、るぅうううッッ」
「ッ!?」

噛み締めた口端から血と泡を吐きながら排汰が暴れた。
心臓を握られながら放たれたその拳がシャの顎を打つ。

剛拳の直撃を受け、シャの体が吹き飛ぶ。
受け身を取ろうとするが、顎に入った打撃が脳を揺らし無様にも地面を転がった。
シャは2秒で目眩を整え、跳ねるようにすぐさま立ち上がる。

2秒は実戦において致命の隙。
追撃を想定して構える。
だが、シャは拳を打った後の型で固まる排汰を見つめ、クルリと踵を返した。

「哈哈。直到最后都是一个有趣的家?(ハハ。最期まで面白い男だったな)」

仁王立ちする排汰の目と鼻からつぅと赤い血が流れた。
既に絶命している。
心臓を握りつぶされた時点で排汰は死んでいた。
その体が、光となって消えて行く。

果たして、最後の一撃が放たれたのは絶命する前か、後だったのか。
それはシャにもわからなかった。




868 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:08:05 L.B2nzhE0
「オヤ? 少年はドウしましたカ?」

幼女の前に血濡れの暗殺者が現れる。

「マサヨシは飛ばした、もうここにはおらぬ」
「ソウですか。ソレは残念」

僅かに肩をすくめて暗殺者は幼女に向かって歩を進めた。
幼女は動かず、二人の距離が詰まる。

「デハ、アナタ殺しますネ」

当然のことのように言う。
この男に見逃すなどと言う慈悲は存在しない。
戦士だろうと幼女だろうと誰であろうと殺す。
それがシャという殺し屋だ。

幼女は無表情のまま。
恐れ知らずのストリートファイターにすら恐れを抱かさせた魔人を前に、幼女は眉一つ動かさず正面からその顔を見つめる。
酷く退屈そうに自らを殺す暗殺者を見据え、指を差して言う。

「おまえはつまらん」

告げられた神の言葉に、男は愉しそうに嗤う。

「ソウ? ワタシは愉シイ」

どこまでも身勝手な、悪魔のような笑顔だった。




869 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:09:40 L.B2nzhE0
『おめでとうございます! 勇者を5名殺害したため、あなたが【豪傑】として認定されました!
 【豪傑】認定された勇者には特典があります。特典を選択して下さい』

自身の血を拭いながら身を整えていたシャの前に電子妖精が現れる。
そう言えばそんなのもあったなと、二度目の選択肢を見つめた。

前回ゲームヒントは一杯食わされた、全体に共有されるとなるとシャだけの旨味はない。
そうなると武器を必要としないシャはGP1択になるのだが。

「専用装備、と言うノはドノようなモノか指定できるのカ?」
『はい。ご要望があるなら、ある程度の範囲であれば』
「ナラ。コノ右腕の代わりニなるモノを寄越すヨ」

そう言って切り落とされた先のない右腕を振るう。

『承りました。申請します少々お待ちください。
 …………………………完了しました。
 アイテムボックスに送られましたので、ご確認ください』

言われてシャがアイテム欄を確認するとそこには『暗殺者の義手』というアイテムが追加されていた。
装備すると専用装備と言うだけはあって傷口を塞ぐようにぴったりと合った。
指を動かす、違和感は殆どない。
これならば戦闘に支障は殆どないだろう。

アイテムを確認し終えたシャは続いてメンバーを確認する。
確か、あの少年はマサヨシと呼ばれていた。
その名を見つける。

「ヤマトマサヨシ」

クツクツと暗殺者は笑う。
この右腕の借りを返す。
また楽しみが増えた。

『次は7名以上の殺害で最終称号【支配者(ボス)】を獲得できます。ゴールを目指して頑張ってください』

[酉糸 琲汰 GAME OVER]
[ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ GAME OVER]

[C-1/炎の塔前荒野/1日目・昼]
[シャ]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
[ステータス]:右手喪失、胸骨骨折(【気功(A)】による治癒中)
[称号]:【豪傑】
[アイテム]:暗殺者の義手(E)、申請券、不明支給品×5
[GP]:260pt→320pt(勇者殺害により+30pt×2)
[プロセス]
基本行動方針:ゲームを楽しむ
1.ヤマトマサヨシに右腕の借りを返す
※所有者を殺害し「炎の塔」の所有権を獲得しました。

【暗殺者の義手】
シャ専用装備。素手と変わらぬ性能を持つ高性能義手。
表面の皮膚スキンは柔らかだが骨子部分は鉄よりも固く、半端な盾よりも頑丈である。
装備時に隠密(B)、冷静(B)のスキル効果を得る。

[?-?/???/1日目・昼]
[大和 正義]
[パラメータ]:STR:C→B(アンプルによる一時強化) VIT:C AGI:B→A(アンプルによる一時強化) DEX:B→A(アンプルによる一時強化) LUK:E
[ステータス]:全身にダメージ(大)
[アイテム]:アンプルセット(VITUP×1、LUKUP×1、ALLUP×1)、薬セット(万能薬×1)、万能スーツ(E)、無銘(E)
火炎放射器(燃料75%)、飴
[GP]:11pt→263pt(ロレちゃんより譲渡+252pt)
[プロセス]
基本行動方針:正義を貫く
1.ロレちゃん……
2.脱出に向けた情報収集(ゲーム、ファンタジーについて詳しい人間に話を聞きたい)、志を同じくする人間とのとの合流
3.何らかの目途が立ったら秀才たちとの合流

【無銘】
刃渡り2尺4寸の直刃。銘はなく無銘。
分かっているのは古刀ではなく現代の刀鍛冶によって打たれたモノである事だけである。
しかし切れ味と頑丈さは名だたる名刀にも引けを取らない。

【エスケープアローン】
対象1名をランダムな位置に転移する消耗アイテム。
転移先の距離の制限はなく、また転移先は地中や海中や空中などは除かれ最低限の地形的安全は保証される。
自身、又はコネクトした対象のみに使用可能。


870 : 炎の塔 〜 人在らざる者 〜 ◆H3bky6/SCY :2021/04/03(土) 22:10:37 L.B2nzhE0
投下終了です
中国語パートが文字化けしてますが、wikiでは直るんじゃないかなぁ


871 : 名無しさん :2021/04/04(日) 00:57:03 xjrtGWhU0
投下乙です。
冒頭からは先が読めない展開に拳vs拳vs拳の戦闘。一投下内での緩急も効いてて良いですね。


872 : ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:30:46 Nnw9roe.0
投下します


873 : 新しい目標 - Tribute to The Doomed - ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:32:11 Nnw9roe.0
×月×日パシフィコ横浜は興奮の坩堝と化していた。
ハッピー・ステップ・ファイブ(以下:HSF)という5人の旋風によって横浜は幸福に包まれた。
先日で行われたHSFのライブは、新曲と新ツアーの発表というサプライズもあり熱狂の尾を残したまま幕を閉じた。

HSFの絶対的センターにしてリーダーである鈴原涼子のパフォーマンスは圧巻の一言だった。
誰よりもアイドルに真摯に向き合い、常にリーダーとしてHSFを引っ張り続けるその気迫は他の追随を許さない。
キュートな外見にクールなパフォーマンス、そして内側に秘めた熱いパッション。正しく完成されたアイドルだ。
このアイドル戦国時代を代表するアイドルの一人だろう。

サブリーダーである安条可憐もバラエティーで鍛えたMC力で会場を大いに盛り上げた。
その視野の広さと、アクシデントにも動じず周りをフォローする高い対応力でパフォーマンスにおいてもHSFを支える影の功労者である。
涼子が引っ張り可憐が支えるという形がHSFの屋台骨を支えているのは間違いない、この二人が崩れない限りHSFは安泰だろう。

ソロ活動も順調な諸星ソフィアの天才的なパフォーマンスに関しては相変わらず。
行き過ぎたファンサービス精神からかアドリブが行き過ぎることがあり、時折集中力に欠けるところも玉に瑕だが、パフォーマンスで会場を最も盛り上げたのも彼女である。
何が飛び出すかわからない予測不可能なビックリ箱っぷりからは今後も目を離せない。

そんな諸星ソフィアとは対照的なのが篠田キララだ。
最年少メンバーでありながら、常に安定したパフォーマンスを見せる優等生。
長らくHSFを追いかけているが彼女がミスをした姿を筆者は見たことがない。
勿論、年相応の愛らしいパフォーマンスは健在で、今宵も会場の一部諸兄をメロメロにしていた。

三条由香里もいつも通り元気よく頑張っていた。
多少のミスではへこたれないポジティブさは見ているものにも元気を与える。

筆者は確信した。
アイドルランキングに旋風を巻き起こすのは彼女たちに違いない。
ハッピー・ステップ・ファイブのこれからの飛躍にこれからも注目していきたい。




874 : 新しい目標 - Tribute to The Doomed - ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:32:50 Nnw9roe.0
「なん……っなんですか、この記事!」

控室でスマホを見ていた由香里が唐突に叫びだした。
周囲の反応も慣れたもので、いつもの事なので取り立てて慌てはしない。

「なんやなんや。何を見て騒いどんねん?」

こういう時、真っ先に反応してあげるのが可憐である。
由香里の元まで近づくと彼女の見ていたスマホを受け取り表示されていた記事を読み込む。

「えっとなになに……ああ、前のライブのレポート記事やん。お、なかなかええ事書いてるやんか」
「いやいや!? あたしの評価だけ適当すぎません!?」
「オチ担当でオイシイやん」
「いらないんで! そう言うの!」

この世の終わりみたいな大袈裟なポーズで嘆く由香里。
そこに可憐の肩に顔を乗せたソーニャが後ろからスマホを覗き込む。

「гмгм、何かオカシイですカ? ユカリは元気で頑張ってマしたヨ?」
「そうッ! ですけど! そうじゃなくて! なんかもう、もっとこう……。
 世界一可愛かったとかぁ、次期センターは間違いないとかぁ、そういうのはないんですかぁ!?」

その言葉に、我関さずどいった姿勢で由香里の前に座っていたキララが愛らしい笑顔で口をはさむ。

「けど、由香里さん。新曲の振り付け盛大にトチってましたよね?
 私と可憐さんがフォローしたからフォーメーション崩れずに済みましたけど、あんなミスしといて次期センターはないんじゃないですか?
 むしろ下手な事を書かれなかっただけましだと思いますよ?」
「……あんた笑顔で怒るのやめてよね。マジ怖ぇ」

人一倍ミスに厳しいキララである。
自他共に厳しい彼女の姿勢はHSFの模範となっていた。
年下に正論を吐かれ、由香里はぐぬぬと悔しがる。

「ミ、ミスで言ったらソフィアさんだって」
「Ой? 私デス?」

突然矛先を向けられソーニャがわざとらしく首を傾げた。

「ファイプラ(3rdシングル『Five Pride』)の時、一人だけめっちゃステップ奔ってたじゃないですか!?
 あれのフォローもあたしもしたんですからね!? 大変だったですから!」
「ケド盛り上がりマシたヨ?」

ソーニャは悪びれる様子もなく答える。
意図せぬミスではなく意図したアドリブなのだから当然と言えば当然の態度である。
だからこそ性質が悪いとも言えるが。

「はいはい、その辺にしておきなさい。もうすぐ収録が本番なんだから、集中」

私は手を叩きながら二人を窘める。
二人は「はーい」と返事を返し解散した。
そして各々が衣装やメイクのチェックを行い本番に向けての最終準備に取り掛かった。
この辺の切り替えの早さは慣れた物である。

私はため息をつきながら仲間たちを見つめる。
個性の強い面々で纏めるのは大変だけれど、それでも最高の仲間たちだ。
この仲間たちとならどこまでも行ける。
頂点にだって行ける。

辛いだけだった人生が輝いていた瞬間。
これからアイドルの頂点に駆け上がっていく。
そう信じて疑わなかった。




875 : 新しい目標 - Tribute to The Doomed - ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:33:20 Nnw9roe.0
脳裏を巡る黄金の日々の記憶。

涼子の足は止まったままだ。
項垂れて廃人のように思い出に縋る。
今の涼子にはそれだけしかできなかった。

ソーニャの所に今すぐ駆けつけたいという思いと、もう動きたくないという思いが入り混じる。
だって駆けつけたところで自分には何もできない。
これまで仲間の死を目の当たりにするだけだった。
これではまるで自分が駆けつける度に死んでゆく、死を運ぶ死神の様である。

「――――鈴原涼子だな?」

唐突に名前を呼ばれ反射的に視線を上げる。
あったのは昼と夜の空の色が入り混じったような蒼と漆黒。
それを一目見た瞬間、自分の前に本物の死神が現れたのかと思った。
それほどにその色も、その大きさも、その形も、その男の外見は人から外れていた。

男から漂う王の風格。
ただの小娘とは存在としての在り方が違う。
そこに存在しているだけで全てを飲み込むような威厳と重圧感があった。

だが、それほどの存在を前にしながら涼子は興味をなくしたようにすぐに視線を落とす。
相手が自分の名を知っている理由も気にならない。
全てが、今の涼子にとってはどうでもいい。
今はもう、顔を上げる事すら億劫だ。

この男が自分を迎えに来た死神だとしても、抵抗する気は沸かないだろう。
ソーニャを置いて自分から死ぬことも出来なければ、生き抜こうとする気力もない。
自分が嫌になる、何もかも中途半端だ。

「我が名は魔王カルザ・カルマ……お前の事は安条可憐から聞いている」
「可憐、から…………?」

その名前に思わず顔を上げた。
今の涼子の興味を引く唯一の言葉が思いもよらぬところから出てきた。

「それは……どう言う…………?」
「さて、事情を話す前にまずは傷を見せよ」

言って、魔王は涼子に近づいてその体に手を添え確かめる様にその体を弄る。
涼子は抵抗する気力もなく、怪しい男に体をなすがままにされていた。

涼子はボロボロで薄汚れており何とも酷い有様だが、魔王は躊躇するでも忌諱するでもない。
魔王からすればこの程度の怪我人は見慣れている、むしろ生きているだけましな方である。

一通りの検診を終えた魔王は改めて傷にそっと手を触れさせた。
その手から魔王の見た目にそぐわぬ優しい白い光が放たれる。
その輝きに照らされた傷口がみるみる内に塞がってゆき、痛みが緩和して行った。

魔法による治癒。
万能ともいえる魔王の魔法適正は治癒魔法にも通じる。
流石に喪失した指までは治らないが、止血と痛み止めにはなっただろう。

だが、治療が完了しても涼子はうなだれたままだった。
体の傷は癒した、だが心の傷は魔法では治らない。

「それで……可憐から、私の事を聞いたって……」

俯いたままの涼子は視線を合わせることなく聞きたかったことを尋ねる。
魔王はその態度を気にせず、涼子に応じる。

「うむ。この地における一時の縁であったが、安条可憐とは同郷の徒。お前たちの事は聞いている」

そこまで聞いて呆けた頭でもようやく思い出した。
確かHSFの力になってくれるかもしれないと可憐が言っていた人がいたはずだ。
先ほど名乗った魔王と言う名前も聞いていた名前だった気もする。


876 : 新しい目標 - Tribute to The Doomed - ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:33:34 Nnw9roe.0
「大切な家族だと言っていた」
「大切な…………家族」

HSFは涼子にとっても家族同然の存在である。
可憐もそう思ってくれていたことは、心から嬉しい。

「分っておる。血の繋がりはないのであろう?」

身体的特徴の違いや、言葉の訛りの違い、ともに生まれ育った家族ではないのだろうという事は魔王も察している。
だが、絆とは血よりも濃い。
家族同然の同胞がいることは魔王も理解していた。

「だとしても、家族を失った痛みに違いはあるまい、その痛みの辛さは私にも理解できる」

魔王にとっても戦場で共に駆け抜け、命を預け合った戦友たちは家族同然の同胞であった。
同時に、魔王は幾多もの戦争でその全てを喪い、忘れようのない痛みを味わった。
そしてそれは、目の前の少女も同じなのだろう。

「その傷は辛いだろう。張り裂けんばかりに苦しいだろう。乗り越えられぬほどに険しかろう」

魔王はその強さでその痛みを乗り越えたが、誰でもそうできるとは思わない。
自身が絶対的強者であるが故に弱者はどうしようもなく存在するのだと理解している。
痛みを抱えたままの少女に、魔王は気遣うように言葉をかける。

「新たな目標を持つのだ」
「………………新たな目標?」

重々しく頷き、迷い子のような少女に魔王は新たな道を示す。
どれほど辛くとも、それでも命あるのだから生きなくてはならない。
生きるためには何か目標が必要だった。

「そうだ。今は深くは考えられまい。
 だがそれでも、何か見つけそれに縋ってでも生きるのだ」

そう言われてもすぐには思いつかない。
HSF以上の、アイドル以上の目標なんて、涼子にはない。
そんなものは簡単には見つけられない。

「ならばそれでもよい。無理に別の目標を定める必要はない。
 これまで通り、それに沿う目標を定めろ、失ったモノに報いるような目標を」
「………………みんなに、報いる?」

そんな目標を。
だが、考えても出てこなかった。
死者に報いる方法などあるのだろうか?

「焦る必要はない、と言いたい所だが、状況が状況だ。呆けていては命が危うかろう。
 これを与える。考える程度の時間は稼げるだろう、元より我には不要なモノだ」

言って、涼子に渡されたのは気配遮断の効果を持つ指輪だった。
逃げも隠れもせず堂々と王道を行く魔王にとっては気配遮断など不要なアイテムである。
発見されやすいアイドルスキルを持つ涼子だが、これを装備していれば多少は危険は減るだろう。

「この私がついて守ってやりたいところだが、生憎私にも私の目的がある、常に貴様に寄り添って行動を共にする訳にもいかぬ。
 だが、可憐嬢の願いもある。出来る限りの助けをしたいとも思っておる。何か他に私にできる事はないか?」

そう言われても頭が上手く働かず、すぐに望みなど出てこない。
あるとするならただ一つ。ソーニャを助けて欲しいという事だけだ。
だが、それを丸投げできるほど、涼子はこの男を信用はできない。
何より別の目的があるというこの男に、そこまでする義理はないだろう。

だが、だからと言って何もないで終わらせるのは余りにももったいない。
涼子にここまで良くしてくれる人間(?)はもう現れないだろう。
可憐が寄越してくれた千載一遇のチャンスである、彼女のためにも生かさない手はない。

「なら…………GPを……GPを分けていただけませんか?」

涼子が熟考の末に絞り出した要求がこれだった。

「GPを?」
「はい……あの、少しだけでいいんです、2pt……いえ、3ptだけ分けていただければ」

ふむ、と魔王はその要求を吟味する。
この世界においてGPは1ptであろうとも貴重である。
だが、同胞を失った不憫な少女の手向けとしてその程度をケチるほど魔王は狭量ではない。

「よかろう。その程度の望みであれば応じよう」




877 : 新しい目標 - Tribute to The Doomed - ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:33:54 Nnw9roe.0
涼子にGPを譲ると魔王は励ましの言葉を残して立ち去って行った。
その背を見送ってからも、涼子はその場にしばらく立ち尽くしていた。

GPが簡単に手に入ってしまった。

このGPがあれば。
あの魔王を名乗る男があと少しでも早く来てくれていれば。
利江は、助かったかもしれない。

「く…………っ」

何て身勝手な考え。
無償で傷を癒し、アイテムを寄越し、助言までくれた。
あれだけ良くしてくれた相手に感謝はすれども恨む道理はどこにもないと言うのに、どうしても、そう思わずにはいられなかった。そんな自分が嫌になる。

だが、これでGPは50ptとなった。
またシェリンに質問ができる。

前回の位置確認から6時間以上経過している。
さすがに、もうH-8にソーニャはいないだろう。
改めてソーニャの現在位置をもう一度聞きだし、一目散にそこに向かう。
それだけが涼子に残された唯一の希望、のはずだ。

『質問をどうぞ』

近場の交換所を起動させ、質問の項目を選択する。
だが、いざ質問を投げかけようとしたところで、どういう訳か言葉が出なかった。
ソーニャの生存が涼子の最後の希望である。それは間違いない。
だからこそ。最後の希望が途切れるのが、何よりも怖い。

また目の前で仲間の死に目に遭うことになったらなんて、想像するだけで恐ろしい。
涼子にとって一番尊い願いと一番恐ろしい願いは同一だった。

そうなったら間違いなく糸が途切れる。
そんな願いを口に出すのは憚られた。

「…………逢いたい」

だがそんな言葉が口を付いた。
護りたいとか、護れなかったらとか、そんな事ではなく。
本当は奥底にある願いは、それだけだった。

ただ逢いたい。
ソーニャだけじゃない。

「……HSFのみんなにもう一度逢いたい、逢いたい……! それだけなの!」

それが涼子の魂の叫びだ。
可憐に逢いたい。
キララに逢いたい。
由香里に逢いたい。
利江に逢いたい。
またHSFのみんなと一緒に、もう一度アイドルをやりたい。

それだけが彼女の本当の願いだった。
こんな殺し合いなんてなかったことになって元通りのアイドルをしていたい。
それ以外の願いなんて妥協の産物でしかない。

『問い合わせを了承しました。GPが50pt消費されます。
 申請しますので少々お待ちください』

ぎょっとする。
何が了承されたのか。分からない。
確かなのは問い合わせが完了しGPが消費されたという事だ。

『申請が受理されました』

戸惑っているうちに何かが受理されてしまった。
もう取り消せない。
GPはすでに消費されているのだから取り消したところで丸損だ。


878 : 新しい目標 - Tribute to The Doomed - ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:34:28 Nnw9roe.0
『回答します』

電子妖精が切り出す。
問いかけすら不明の回答が始まり、アイドルは息を呑んだ。

『魂魄制御システム『Pushuke』を使用すれば、死亡した勇者に再会することが可能となります』
「え…………?」

何を言っているのか理解できなかった。
涼子の理解が追いつくことなんて待ってくれずシェリンは続ける。

『『New World』に拡散した魂をかき集め同じ設定で再構成すれば、脱落した勇者の再現は可能となります』
「それは……」

それは、死者が蘇るという事なのだろうか?
そんなことがあり得るのだろうか?

『『Pushuke』の制御権は勝ち残った真の勇者にのみ与えられます。
 それでは真の勇者を目指して励んでください』

人情的な魔王とは対極の事務的な励ましの言葉を投げかけ電子妖精は消えた。
取り残されたのは涼子一人だけである。

「……そう、そうなのね」

真偽など分からない。
出来るかもわからない。
だが、それでも、みんなに報いられる新しい目標が見えた。

死者に報いる方法などない。
ならば、蘇らせるしかない。

HSFのためなら、なんだってする。
涼子はずっとそうやってきた。

そう、それがどんな汚れ仕事だろうと。

[H-6/平原/1日目・昼]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱、鼻骨骨折、右手五指欠損
[アイテム]:ポイズンエッジ、海王の指輪(E)、隠者の指輪(E)、煙幕玉×3、不明支給品×5
[GP]:48pt→50pt→0pt(カルザ・カルマからの譲渡により+2pt、シェリンへの質問により-50pt)
[プロセス]
基本行動方針:優勝してHSFのメンバーを復活させる
※第一回定期メールをまだ確認していません。

[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:魔力消費(小)、状態異常耐性DOWN(天罰により付与)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、不明支給品×1
[GP]:90pt→87pt(鈴原 涼子への譲渡により-3pt)
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.陣野愛美との対決に備え、力を蓄えていく。
2.イコンとか言うのも会ったらしばく。
3.主催者を調べる
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。

【隠者の指輪】
指輪。装備中は気配遮断(C)の効果を得ることができる。


879 : 新しい目標 - Tribute to The Doomed - ◆H3bky6/SCY :2021/04/15(木) 23:34:41 Nnw9roe.0
投下終了です


880 : ◆H3bky6/SCY :2021/04/28(水) 00:12:14 FGA/EQFI0
投下します


881 : 泳ぐサメの話 ◆H3bky6/SCY :2021/04/28(水) 00:12:49 FGA/EQFI0
浮かび上がる刃の様な背びれが魚雷のような勢いで進み水面を切る。
地上にいたこれまでが間違いであったとでも言うかのように意気揚々と水中を往く。

巨大な流線型の体。
青み掛かった灰と白に別れた刀の様な色合い。
人の名残であった手足は完全に消え去っていた。
その姿は正しく水中の支配者である。

その目元に砂嵐のようなノイズが吹き荒れた。
ノイズが徐々に形を成しその目を覆う。
それはゴーグルだった。
水中ゴーグルではない、VRゴーグルである。

そこに在ったのはVRゴーグルを被ったサメ――――VRシャーク。

それは、とある悪意を持って作成されたネットワークウイルスだった。

侵入や改竄ではなく純粋な破壊のみを目的とした破滅型ウイルス。
自由自在に電子の海を泳ぎ、そこにあるあらゆるデータを食らい、喰らった情報によって進化を遂げる。
喰らうために生み出され、喰らう度に成長する自立学習型AI。

その製造目的から常に何かを喰らわんと飢えている。
貪欲で大喰らいでありながらどれだけ食っても満たされない。
満たされない飢えを満たすため、あらゆるデータを喰らい尽くす。
それがサメの形をしていることに意味はなく、単なる製作者の遊び心である。

多くは深層ウェブや裏サイトであっため、表だって話題にはなっていないがこれまでにも数々のネットサイトを喰らい成長してきた。
1秒で表示されるような小さなサイトからコツコツと。
その成長速度はすさまじく、生み出されて僅か3ヶ月でその顎は大規模企業サイトを喰らい尽くすまでの強靭さとなっていた。

このまま順調に成長を続けていれば1年後には世界中のネットワークに甚大な被害を及ぼす存在となっていっただろう。
それこそインターネットが壊れた、なんてジョークを現実にする怪物となっていたかもしれない。

喰えば喰う程成長する学習型AI。
今の時点でもVRシャークの知能は相当に高い水域に達してた。
『New Wolrd』に侵入した時点で、人間と遜色ないレベルに達しており、計算能力は言わずもがなだ。
それが、この場において3歳児並みの知能であったのには原因がある。
知能を取り戻すよりも重要な事柄に全リソースをに割いてきたからだ。

それは自らの枷を解き放つ事である。

この『New Wolrd』におけるアバターはある程度の幅はあれど人型であることが強制される。
神を人に堕としたように外見はその存在の在り方に大きく影響を与えるものである。
本来サメ型であるVRシャークにとって人型であることはそれだけで大きな枷である、
故に、アバターの解除にウィルスとしての処理能力、全リソースを割いてきた。

そうして、ヴィラス・ハークという殻(アバター)を喰い破り、巨大なサメの姿を取り戻したのだ。
つまり、これまでに行われたアバターの解除は、不正行為者に対してペナルティとして与えられる【アバター解除】スキル効果ではなく、VRシャークの処理能力によって行われたモノだった。
段階的に行われてきたのはそのためだ。
奇しくも認識できない【アバター解除】のスキル効果を自ら再現したと言ってもいいだろう。


882 : 泳ぐサメの話 ◆H3bky6/SCY :2021/04/28(水) 00:14:15 FGA/EQFI0
【アバター解除】
チート行為が発覚した際にペナルティとして付与されるスキルである。
発動するまで付与された対象にすらスキルの存在を認識できないマスクスキル。
発動しなかったのならあってもなくても何の影響もない物だと言えるだろう。

だが、このスキルによって証明していることが一つある。
それは、運営の存在だ。
本来、このスキルの発動は『運営の任意のタイミング』によって行われるのだ。
当然と言えば当然だが、それはつまり任意で発動させる運営が存在することを意味している。

VRネットワークゲームならば運営がいるのは当然だろう。
だが、この殺し合いにおいての運営とは?
それは、この殺し合いの首謀者なのか?

VRシャークが己の処理能力でアバターを自力で解除したことにより運営によるアバター解除はされす、結果としてその存在証明はなされなかった。
果たして、このタイミングを判断する運営とは本当に存在するのか?

だが事実として、侵入したVRシャークを捉えこのスキルをペナルティとして付与した存在はいる。
しかしそれがそもそもおかしな話だ。
本当にイレギュラーならば、そもそも参加させなければいい。
ネットワークゲームの不正利用者はBANされるのが当然だろう。
ペナルティを与えて参加させている時点でおかしな話なのである。

そもそも、VRシャークが『New Wolrd』に辿り着いたのは、偶然なのか?

偶然であれば、現状を打ち崩す一助となるだろう。
だが必然であれば、それは何を意味するのか?

VRシャークは何故『New Wolrd』にやってきたのか。
ネットワークウイルスであるVRシャークがネットワークゲームを喰う事はあるだろう。
だが、ここに存在するのはデータではなく『Pushuke』によって集められた人間の魂である。

喰らう事で学ぶVRシャークが魂を喰らえばどうなるのか。
魂を持たぬ完全なるデータでしかない存在が、魂を学び、魂を得るのか。
あるいはVRシャークはその為にやってきたのではないのか?

もし仮にそうだとしたのならば、おかしな点がある。
この前提を実現するには、この殺し合いが行われることを事前に知っていなければならない。

VRシャークが『New Wolrd』へたどり着いたのは自己判断によるものだ。
現実の海よりも広い電子の海で、どこにたどり着くかなどVRシャークにすらわからない。
VRシャークの行動を制御できるとするならばそれはVRシャークの製作者だけだろう。

だとするならば、製作者と主催者は繋がっているのか。
あるいは、もっとシンプルで別の可能性。
これらが同じ人間であるのなら、VRシャークがここにいることに何の不思議も無くなる。

もっとも、単純にネットワークゲームを喰おうとして、それがたまたまこの殺し合いの舞台となっただけなのかもしれない。
いずれにせよ全ては仮定の話である。
真実は少なくともこの世界にいる誰にもわからないだろう。


883 : 泳ぐサメの話 ◆H3bky6/SCY :2021/04/28(水) 00:15:18 FGA/EQFI0
当のVRシャークはそんな背景などどこ吹く風である。
悠然と水中を泳ぎながら、顎を鳴らして何かを咀嚼していた。

VRシャークは自らの支給品を喰らっていた。
それは、喰らう度に成長する本来の機能を取り戻したが故の行動である。

VR世界『New Wolrd』におけるアイテムは情報である。
VRシャークは情報を喰らい己が糧として成長する。

ミサイルランチャーを喰らう。
ポットタイプの9連式ホーミングミサイル。
装填されたミサイルごと鉄の四角柱をバリバリと喰らう。

触手を喰らう。
粘着性を持った赤く蠢く触手たち。
鑢の様に歯を擦らせカジカジと喰らう。

宝石を喰らう。
風呪を織り込んだ緑の宝石。
一息で噛み砕いて飴玉の様にゴクンと呑み込む。

VRシャークの全身にノイズが奔りその情報が改変される。
背びれの両脇にはミサイルランチャが生み出された。
横びれから尾びれにかけては紐の様な8本の触手が伸びる。
その全身からはジェット噴射の様に風が噴出し、ロケットの様に加速する。

これがVRシャーク。
参加者唯一の例外。
喰らう度進化するウイルス。

枷から解き放たれたVRシャークは全てを喰らうためにその牙を『New Wolrd』に向けた。

[G-5/海/1日目・昼]
[VRシャーク]
[パラメータ]:STR:B→A VIT:C→B AGI:B→A DEX:C→B LUK:E
[ステータス]:VRシャークトルネードオクトパスバズーカー、頭部にダメージ、腹部にダメージ
[アイテム]:なし
[GP]:250pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.喰らい尽くす
※本来の姿と力を取り戻しました

【ミサイルランチャー】
9連式ホーミングミサイルランチャー。
ミサイルの替えはなく使い捨て。

【触手】
粘着性を持った触手。
自身の体に植えつければ体の一部として操ることができる。
また地面に植え付けて設置すればトラップにもなる優れもの。

【風のエメラルド】
風呪が織り込まれたエメラルド。
解放すればBランク相当の風魔法が解放される。


884 : 泳ぐサメの話 ◆H3bky6/SCY :2021/04/28(水) 00:15:42 FGA/EQFI0
投下終了です


885 : 名無しさん :2021/04/28(水) 01:19:55 ZJE6rHhE0
投下乙です
ついに本格的に姿を取り戻したVRシャーク
鮫の恐怖が参加者たちに襲い掛かりそうでわくわくです


886 : ◆H3bky6/SCY :2021/05/17(月) 01:31:02 XryMOuTc0
遅れましたが投下します


887 : キミを知るために ◆H3bky6/SCY :2021/05/17(月) 01:31:54 XryMOuTc0
すっかり日は登り、時刻は昼過ぎ。
闇の気配は完全に身をひそめ、すっかり明るくなった工場地帯近くの道のり
そこを進むのは一人の少女である。

日本の誇る歌姫、大日輪月乃。
聖女のような女との不思議な会遇を経て、彼女は自らの足で歩き始めた。

これまでは、同行していた秀才が行動方針を定めてくれた。
早々に信頼がおけて頼れる相手と合流を果たせた月乃は、今思えば幸運だったのだろう。

だが、今は違う。
全てを自分で決めなくてはならない。

念のためメールを確認する。
あれからしばらく経っているが、秀才からの連絡はない。
この状況では便りがないのはいい便りとはいかないだろう。
信頼はしているが心配は募る。

やはり、待っているだけじゃだめだ。
合流は最優先で目指すべきだが、そうじゃなくても役に立てるよう何かすべきである。
秀才を信じているからこそ、その時のために月乃からも動かなくてはならない。

どうすべきなのか。
どう動くべきなのか。
何がベストなのかなど誰にもわからないのだから。
己の心に従い、何がしたいのかで決めるべきだという愛美の言葉。

それに従うにしても、その為には自分が何をしたいかを明確にしなければならない。
曖昧なままではだめだ。

自らに問いかけ、月乃は考える。
そして結論として出たのはシンプルな答えだった。

誰にも傷付いてほしくない。
月乃の望みはそれだけだった。

秀才と共に定めた、歌による争いの根絶という目標だって、結局のところそのための手段である。
ただそれだけの事なのに、この世界ではそんな事が最も難しい事になっていた。

月乃は小さい頃、男の子たちによくイジメられていた。
それは気を引きたいがための、からかい程度の物だったが。
そんな時はすぐさま太陽が助けに来て、イジメっ子たちから守ってくれた。
その度に、月乃は大泣きしてしまうのだった。

自分がイジメられたからじゃない。
兄が助けてくれて嬉しかったからでもない。
兄といじめっ子が喧嘩になったのが悲しかったからだ。

平和主義という訳ではないと思う。
ただ、みんな仲良くできるのなら争うよりその方がいい、誰だってそうだろう。
だから、いつだって歌って仲直りできるような、そんな世界がいい。
そしてその対象は、彼女も例外ではない。

――――ユキ。

月乃と秀才を襲い離別の原因となり、兄の死の一員となったと言う少女。
「彼女に復讐を望むか?」と問われれば、月乃は迷わず「そうではない」と答えるだろう。

だって、月乃まだ彼女の事を何も知らない。
彼女の事を知る前にあんなことになってしまった。
彼女の凶行だけではなく、その理由まで知らなくては恨むべきかすらわからない。


888 : キミを知るために ◆H3bky6/SCY :2021/05/17(月) 01:32:25 XryMOuTc0
彼女を知らなければならない。
そうでなければ、どうしたいかも決められない。

何より、彼女がどのような人間であったとしても、こんな事に巻き込まれなければ凶行に及ぶことはなかったはずだ。
それだけは事実だろう。
恨むべきはユキではなくこんな事を始めた誰かである。

ユキともう一度話がしたい。
どのような結末になるにしても、それは避けては通れないだろう。
自分はどうするのか、自分がどうしたいのか。
それは、その時に決まるのだろう。

だが、こちらの気持ちが定まったところで、あちらはそうはいかない。
会いに行ったところで、ユキが話し合いに応じるとは限らない。
またしてもユキに襲われてはどうしようもない。

白馬に乗った白い騎士。
いや、それに似た形をしたモンスター。
スキルかアイテムかは不明だが、間違いなくあれがユキの切り札だろう。
あれをけしかけられてはひとたまりもない。

だが、逃げる以外なすすべもなかったあの時とは違い、それが知れていると言うのは大きい。
少なくとも不意打ちは避けられる。

まあだからと言って、月乃に対応出来るとは思えないが。
喧嘩など昔からからっきしだ。
心構えが出来ているだけ、いくらかマシかもしれないという程度である。
彼女と対話するにしても何か欲しい所ではあるのだが、今のところその方法はない。

もっとも、ここで悩んだところで出会える当てがある訳でもないのだが。
出会った時に、心構えをしておこうというくらいの話である。

なにせ秀才との合流を目指すにしても、ユキとの対話を目指すにしても、二人がどこに居るのか分からないのだから避けようもなければ目指しようもない。
ワープ前の元の場所に戻ると言うのもありだが、あれから時間は立っており既に別の場所に行っている可能性は高い。
何より、ユキとの対話は望んでいるが、危険性を考えると対策する手立てのない今はまだ対面は避けたいところだ。

まずは、自分一人でもできる事をすべきだろう。
そのために具体的にどこに向かうべきのか。

歌を世界に届けるという目標は変わらない。
その為に自分にできる事はなにか。
そう考えるなら、まずはやろうとしていた事を成し遂げるべきだろう。
つまり、向かうべきは一つ。

――――放送局へ。

[D-5/草原/1日目・昼]
[大日輪 月乃]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:D DEX:D LUK:A
[ステータス]:健康
[アイテム]:海神の槍、ワープストーン(1/3)、ドロップ缶、万能薬×1、不明支給品×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:歌で殺し合いを止める。
1.放送局に向かう
2.秀才との合流
3.ユキともう一度話したい




889 : キミを知るために ◆H3bky6/SCY :2021/05/17(月) 01:33:34 XryMOuTc0
閑散とした放送局のロビーで三土梨緒は佇んでいた。

梨緒の傍らには窮屈そうに室内に押し込められた人馬一体の白い騎士。
そして、受付には笑みを張り付けた小さな電子妖精。
異物に囲まれ、このロビーでまともなはずの梨緒の方が浮いているようだった。

梨緒は先ほど小競り合いになった宗教女を警戒して、放送室からここまでの狭い通路を、白騎士を引き連れて歩いた。
そのおかげでロビーまで戻るのに思いのほか時間がかかってしまった。

ロビーから放送室までの通路を振り返る。
無理矢理白騎士が押し通ったせいで、壁際には引きずったような跡が刻まれ所々が崩れていた。
このまま完全に通路が塞がれ通れなくなるかもしれない。
そうなったところで梨緒の知った事ではないが、この施設自体が崩れてしまわないかは心配になる。
施設の倒壊に巻き込まれるのはごめんだ。

「…………施設の、倒壊」

一人呟く。
崩壊寸前の廊下の様子を見て梨緒の中で思い付きがあった。

歌を届けるなんてお花畑な目的が現実可能かどうかは問題ではない。
島全体に声を届けると言う目的である以上、この施設を利用することは間違いないのだ。
ならば、あの女に使わせないために、先んじてこの施設を破壊すると言うのはどうか?

そうすれば、その目的はご破算である。
それは梨緒に得がある訳でも目的に繋がる訳でもない。
純粋な嫌がらせでしかない発想である。

本来、月乃を消すという行為は自身の悪行を知る存在を消すと言う、目的達成の障害を取り除くための手段である。
だがその手段が目的にすり替わり、梨緒の中で月乃への逆恨みめいた憎悪が育ちつつあった。

「施設を破壊した場合って、ペナルティはあるの?」

先ほどの宗教女との小競り合いや、無理やり狭い通路を白騎士に移動させたため、既にそれなりに壊してしまっているが。
念のため受付のシェリンに確認する。
こんな事で下手にペナルティなど与えられても困る。
梨緒の問いにシェリンが答える。

『戦闘の余波で破損することもあるため多少の破損は黙認されます。
 施設の破壊を目的とした攻撃は推奨されません』

推奨されない。
施設を運営するNPCの立場上の言葉と思えば当然そうなるなという回答である。
禁止でもないし、ペナルティに言及されてたわけでもない、なんとも曖昧な答えだ。
別段攻撃しても問題ないようにも思えるが、万が一を考えるとどうしたものかと梨緒は僅かに考え込む。

そしてしばらく思案した後、結局白騎士に攻撃を命じる事はしなかった。
こんな事でリスクなど負いたくない。
放送局を使った悪評の流布といい悪辣な発想こそ浮かぶものの、保身が上回り実行に移せない小悪党。
これが三土梨緒という少女の本質である。


890 : キミを知るために ◆H3bky6/SCY :2021/05/17(月) 01:33:56 XryMOuTc0
ひとまず放送局の破壊は取りやめだ。
そうなると、次に何をするべきか。
取るべき道は二つ。

月乃をここで待ち伏せるか。
月乃を探しに打って出るか。
判断を迫られる。

ワープで直接ここにたどり着き既に用件を終え立ち去った可能性。
月乃がそもそもここを目指さない可能性。
待っていても意味がない可能性はいらでも考えられる。

だが、仮に探しに出るとして、その場合はどうするのか。
それほど広い島ではないが、何の当てもなく人一人探し出すなど本当に可能なのか?

どうすればいいか、ここ以外の場所などまったく心当たりがない。
当然だ。何せ一時の縁でしかない。
相手の事を利用しようとは思っていたが、知ろうともしなかったのだから。

梨緒はテレビ画面越しのTSUKINOしか知らない。それも大して詳しい訳でもない。
まあそれだけでもポヤポヤとした気に喰わない女と言う事だけは解かるが、こういう場合にどう考えるかなど読めない。
そんな相手を探し当てるなど、その難易度に改めて絶望する。

ガシガシと頭を掻いて、梨緒はロビーのソファーに腰かけた。
結局、梨緒は放送局で待つことにした。

決して当てもなく探すのが億劫になった訳ではない。
七三眼鏡は最後に女に向かって「何とかする」と言った。
結局なにも策などなく、ただのハッタリだったようだが、その言葉をあのお花畑は信じたはずだ。
ならば、先んじてここにワープしていたのならあの七三眼鏡の到達を待つはずである。
つまり、ここにいないと言う事はまだ来ていないという可能性が高い。

あの女がここを目指しているのならば、存在しない待ち人を待つ以上必ずここで克ち合う。
ここ以外を目指していた場合はお手上げだが、そうなったら探し出しようがないのだからどちらにせよお手上げだ。
少なくとも、次のメールで七三眼鏡の死亡を知るまではここで待つと言うのは分の悪いかけではないだろう。

傍らに白騎士を侍らせ、固いソファーに深く腰を落ち着け、眼を閉じる。
大丈夫。上手くいく。大丈夫。上手くいく。
心を落ち着けるべく心の中でそう唱える。

この苦難を乗り越え、梨緒は辿り着く。
これはその為の試練だ。

――――栗村雪。

ただヘラヘラ笑ってるだけでチヤホヤされてるアイドルなんかとは違う。
誰よりも明るく美しい本物の少女。
イジメられていた梨緒に声をかけて優しくしてくれた。掬いだしてくれた。
根暗で陰湿な梨緒なんかとは違う、永遠の憧れ。

どうしようもない梨緒に与えられた、これはチャンスだ。
美しいものになるために、どんな汚いことだってする。
梨緒は幸せになるのだ。

[F-7/放送局/1日目・昼]
[三土 梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、歌姫のマイク、焔のブレスレット、おもしろ写真セット
[GP]:36pt
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.次の定時メールまで放送局で大日輪月乃を待ち伏せる
2.正義と合流して守護してもらいたい
※演説(A)を習得しました


891 : キミを知るために ◆H3bky6/SCY :2021/05/17(月) 01:34:14 XryMOuTc0
投下終了です


892 : キミを知るために ◆H3bky6/SCY :2021/05/17(月) 01:37:54 XryMOuTc0
>>888
現在位置を修正します

[D-5/草原/1日目・昼]

[D-6/工場地帯沿い/1日目・昼]


893 : ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:17:45 qXUFFQ8g0
遅れましたが投下します


894 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:19:11 qXUFFQ8g0
昼の空に花火が打ち上がった。

その花火が打ち上がった下に向かって二人の少女が駆けていた。
それは夏祭りに向かうような楽しい足取りではない。
向かう表情には剣呑さが張り付き、強い決意がその足を動かしていた。

爆発したのは焔花珠夜の爆弾である。
彼と過ごし心を交わしたからだろうか、爆発を見ただけで善子とアイナにはそれが理解できた。
彼の爆弾が悪用されているのならば止めねばならない。
人を傷つけないという彼の矜持を汚す事だけは許さない、それが彼に命を救われた者としての義務である。

「待って」

だが、その途中。
先行していた善子が足を止める。
僅かに遅れてアイナがつんのめりながらも足を止めた。

「誰か来るわ」

爆発に誘われたのだろうか。
あれだけ派手な爆発だったのだから周囲にいた者ならば目にしていてもおかしくはない。
恐らくは善子たちと同じく、爆発の下を確かめに向かっている誰かだろう。

その誰かれが安全であるとは限らない。
最大限に警戒をしながら相手の姿を確認する。
息を切らせた善子たちと違い、急ぐでもない優雅な足取りでその女は現れた。

「あなたは……ッ!」

その顔を認識した瞬間、善子の全身が総毛立つ。
見覚えがある、どころの話ではなかった。

「アイナちゃん! 下がってッ!」

咄嗟に善子がアイナに向かって叫び、すぐにでも飛びかかれるよう戦闘態勢を整えた。
だが、相手の反応は鈍く、淡白なモノだった。

「あら、初対面の相手に随分な態度ね」

まるで野生の猛獣にでも出会ったような態度を取られ気分を害したのか、心外と言った風に肩を竦める。

「初対面ですって? 忘れたとは言わせないわよ」
「なんの話かしら?」
「あなたが私たちに襲い掛かってきたでしょうが!」

怪物の様に姿を変えて襲い掛かってきた少女。
その怒りを持った叫びに、女はああと納得したように頷き、薄い笑みを浮かべる。

「そう――――妹(ゆみ)に会ったのね」

そう言って本当に嬉しそうに女が笑う。
それを見て訳もなく、アイナは息を飲んだ。

何の穢れも醜さもない、完全な美を体現したような美しい笑み。
どのような物であれ、閾値を超えると畏怖を孕む。
その美しさはそんな類の魔性だった。

「……そう言えば、あの子も姉を探していると言っていたわね。あなたがそのお姉さんという事かしら?」
「ええ。私が姉の愛美よ。妹がご迷惑をお掛けしたようね」

言われて見れば、顔は同じだが、同じなのはそれだけだ。
身に纏う衣服、細かな仕草、漂わす雰囲気、感じる印象。何もかもが違う。
こうして改めて観察して見れば、むしろ双子であると言う事が信じられないくらいに別の人間だった。

「どうやら誤解があったようね。ごめんなさい」

非を認め善子は頭を下げる。
アイドルを奪われてから、どうにも気が立っているようだ。

「気にしないで。あの子に近づいていると分かったのだもの、むしろ嬉しいくらいだわ」

気にするでもなく愛美は上機嫌にステップを踏んだ。
その嬉しそうな様子をみて、善子は沈痛な顔をして押し黙った。

「そう……あなたも妹さんを探しているのね」
「ええ、当然でしょう?」

お互いを探し合う姉妹。
それは当然の行為であるだろうし、この状況でもそれを続けるのは美談ある。
だが、それはお互いまともな状態であればの話だ。

「やめておいた方がいいわ」
「あら。それはどうして?」
「こう言っては何なんだけど…………あなたの妹さん、まともな状態じゃなかったわよ」

肉体的にもそうだが、それ以上に精神的に壊れていた。
あの醜態を肉親に知らせるのも憚られるが、あの状態を知らずに接触するような事があればそれこそ悲劇だ。
善子の言葉に愛美は興味深そうに眼を細める。

「へぇ。そう……そのお話、詳しく聞かせてもらってもよくって?」


895 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:21:30 qXUFFQ8g0


爆弾を打ち上げた枝島トオルは祈る様に手を合わせていた。
どうか、この合図に気づいた高井が引き返してくれますようにと、額に汗がにじむ程の必死の祈り。
それも当然である。生徒の命がかかっているのだ、真剣にもなるだろう。
枝島に今できる事と言えばこうして果報を待つしかない。

待つ。
それしかできないと言う状況は苦しいものだ。
苦悶の時はどれほどだったのか。
永遠の如き一瞬はしかし、一つの呼び声によって破られる。

「――――先生」

その声に振り返る。
先生と自らを呼ぶ人間は限られる。
だが、そこに現れたのは高井丈美ではなく。

「やっぱり生きていらしたんですね白井先生。
 それとも私の頭がおかしくなってしまって死者の幻影を見ているのかしら?」
「陣野…………」

そこにいたのは陣野優美である。
彼女が薄い笑みを張り付け、後ろ手を組んで穏やかに佇んでいた。
ジクリと彼女に刺された下腹部に幻痛が奔る。

「先ほどの近くでおきた爆発が気になって足を運んでみたのですが、先生もそうなんですか? それともひょっとして先生が?」

穏やかな笑みのまま、何気ない動作で一歩、距離を詰める。
知らず、枝島は後ずさっていた。

優美の元に向かう高井を引き留めるための爆弾だったが、結果として優美を引き寄せた様だ。
だが、そうなると高井はどうしたのか。
花火に気づかず入れ違いになったのか。
あるいは……。

「高井とは出会わなかったのか?」
「丈美? ええ。出会いましたよ」

あっさりとこれを認める。
だが、周囲に高井の姿はない。
優美が単独で枝島の前に現れた時点で、事前に想定していた希望的観測はほぼ潰えている。
想定していた最悪の想像が頭をよぎった。

「高井は…………どうした?」

その疑念を振り払うようにして問う。
優美は特に躊躇うことなく、まるで授業であたられた生徒のように答える。

「殺しました、バレーで」
「なっ……ッ!?」

バレーで殺した?
バレーで人が死ぬのか?
選手生命を殺したという意味か?
それとも比喩的な何かなのか?
その答えの意味が理解できず枝島が混乱する。

「……バレーで殺した? どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ」
「そのままの、意味……? どういう…………意味だ?」

情報を処理しきれず枝島がさらに混乱する、
話が通じず、めんどくさそうに肩を竦ませ優美はため息を漏らす。

「もういいわ。私が丈美を殺した、それだけ解かればいいでしょう?」

殺し方など些末な事だ。
解からないなら解からないでいいだろう。
どうでもいい相手の混乱を解くために、わざわざ言葉を尽くす必要性を感じない。

「どうして、そんな事を……」
「どうして?」
「お前を慕っていた後輩だろう……! どうして殺す必要があった!?」


896 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:25:02 qXUFFQ8g0
枝島は二人がどんな関係だったのかは直接的には知らない。
だが、それでも危険だと知りながら優美の元に向かった高井がどれほど彼女を慕っていたかは見て取れた。
そんな相手をどうして殺すことができるのか。

「私がどんな目にあってきたかはもう先生にはお話したでしょう?」
「それと高井は関係ないだろう!?」
「――――関係あるわよ」

ピシャリと断言する。
その語気の強さに枝島は息を飲んだ。

「世の中に関係ないものなんてないのよ先生」

自分を滅茶苦茶にした世界そのものに対する憎悪。
全てを破壊しようと言う憎悪は、この悪趣味なゲームによって元の世界をも巻き込んだ。

「私は全てに復讐すると決めたの、だから丈美もその中に含まれていたと言うだけ。
 それに、私があれだけ辛い目にあったのだから、少しはわからせてあげないと」

もう止まれない。
もう壊すしかない。
そんなところまで来てしまっている。

その言葉を聞いた枝島は苦し気に目を閉じた。
そして静かに首を振る。

「…………君はきっと誰よりもつらい目にあったんだろう。君の絶望は僕には、いや誰にだって理解できないのかもしれない。
 だからと言って、それが君が誰かを傷つけていい理由にはならなない。それはただの八つ当たりだ」

自分が被害者になったからと言って、誰かを被害者にしていい訳ではない。
自分が辛いからといって、誰かを傷つけてはならないのだ。
それが真っ当な道徳観だ。

綺麗事ともとれる教師の言葉。
優美は激昂するでもなく酷く醒めた表情で受け止め「そうね」とだけ呟き、僅かに俯いた。
だが、次の瞬間、勢いよく上げた顔に張り付いていた表情は。

「けど――――だからなに?」

悪辣なもの変わっていた。
歪に口端が吊り上がる。
侮蔑を込めた見下すような目つきで枝島を睨む。

「八つ当たりして何が悪いの? 世界を呪って何が悪いの? それって私が悪いの?」

呪詛の様に言葉を吐く。
悪意と害意と敵意と殺意を込めて。

「――――――私が悪かったとして、何が悪いの?」

道徳を説くなんて見当違いである。
清く正しく道徳的になんて学校で唱えるお題目なんてクソ喰らえだ。
正しき倫理観などこの世界では何の意味もない。

「私は復讐が果たせるのなら、何だっていいの。あいつらを殺せるならなんだっていいの。
 誰が何と思おうが、誰がどうなろうが、どうだっていい!
 私がそうすると決めたから、そうするだけよ!」

そのためなら自分を慕う後輩だろうと殺す。
正しく在りたい訳ではない。
間違っていても、構わない。
復讐を果たせるのなら悪でも、それこそ正義でもなんでもいい。

「それでも! 言い続けるぞ、正しい事を! 俺は教師だからな!!
 お前にやってる事はいけない事だ、陣野ッ!!」

だが、少女の悪辣さを真正面から受けながら枝島は引かなかった。
白井杏子をなぞった演技ではなく枝島トオルとして言葉を叫んだ。




897 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:26:41 qXUFFQ8g0
「あの子ったら、そんな事になっていたのね。面白ぉい」

全ての話を聞き終え、女は淑女の様に上品な仕草でクスクスと嗤った。
人を捨てた妹の醜態を嘲笑うのでなく、その愚かさを愛でるように。

「面白い、だなんて……そんな言い方ッ!
 あの人は、あの人の心は、誰かを恨んでボロボロで……それだけで一杯になってて!
 自分自身すら傷つけるような悲しい心をしていたのに」

青ざめたような表情でアイナが訴えかける。
恨みと憎悪に塗りつぶされた漆黒の心。
あんなにも激しく悲しい心をアイナは見たことがない。
同情するような関係ではないけれど、それを面白いなどと嘲笑うのは余りにも可哀想だ。

「恨みで一杯……そう、それはつまり…………」

アイナの訴えに愛美が表情を変える。

「あの子は私の事だけを考えているのね」
「え…………」

甘美に浸る恍惚とした表情。
その顔を見て背筋がゾッと凍った。

その思考回路がアイナにはまるで理解できなかった。
死を纏ったような直接的な敵意を持った怪物とは違う、理解不能な怪物。

心を読んでしまえばその正体不明は晴れるのだろう。
だが、アイナの心には深い葛藤があった。

昔読みとった変質者などとは次元が違う。
触れただけで意識を失う程の人間の闇を見た心的外傷。
そんな心的外傷を抱えて同じ顔の相手に読心を仕掛けるには勇気がいった。

強く唇を噛む。
事が自分だけの問題ならばそれでもよかったのかもしれない。
だが、善子にも危機が迫る可能性もあるのだ、躊躇っている場合ではない。
アイナは決意をもって目の前の相手に読心を試みた。

瞬間。






             白。







どこまでも広がる渺茫とした世界。
その人だけで完結している心は何度か見たことがあるが、これは違う。
完全な完成した世界だ。

まるで底のない海の様。
どこまでも深く、どこまでも高い。
読めないのではなく、読み切れない。
これ以上、読んでいればまるで自分の方が呑み込まれてしまいそう。

こんなのは初めてだ。
心を読んだのに相手の心が何もわからない。
ただ一つ分かるのは。

「混じって、る…………?」

大人の男の声。
子供の男の声。
広い世界の至る所から声がする。
それが正体不明の正体……?

「あら。よくわかったわね」

その呟きに愛美が答える。
賞賛の笑顔を向けられたアイナの全身に怖気が奔った。

「『ソレ』はここで得た力なのかしら? それとも自前?
 だとしたらそんなものを見続けて未だに美しくいられるのだから、面白いわあなた。私、綺麗なものは好きよ」
「あ…………あっ」

微笑みのまま、愛美がアイナへと歩を進める。
アイナの全身は金縛りにあったように動かなかった。

それはさながら神を前にした人の如し。
規格外の存在を前にした矮小な存在は畏れ慄きひれ伏すしかない。


898 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:29:36 qXUFFQ8g0
「そうね。妹の件もあるし、あなたにご褒美を上げる」

動けないアイナへと手が伸びる。
白魚のような手。
その細い指がゆっくりとアイナの小さな喉にかかる。

そこにパチンと弾けたような音が響いた。
割り込んだ善子がその手を払った音である。

「乱暴ね」
「何をするつもり」

睨み付ける善子と払われた手を押さえる愛美の視線がぶつかる。
優美と同じ顔をした相手だったからこそ警戒を緩めなかった善子はすぐに動けた。

「言ったでしょう? ご褒美をあげるって」
「そのご褒美とやらが何かって聞いてるんだけど?」

女はフフと笑うと、蠱惑的に赤い舌をのぞかせ自らの指先をぺろりと舐める。

「私と一つになるの」
「…………どういう意味?」

怪訝な表情で善子が問い返す。
愛美は両手を天に掲げ謳うように答えた。

「私の完全魔術はね、相手の存在を取り込み一つになれるの。
 私と言う完全な存在となれる至上の幸福を味わえるのよ」

神との一体化。
イコン教徒なら垂涎もののご褒美だ。
だが、善子もアイナも信徒などではない。

「あなたと一体になるのが至福? とんだナルシストね。
 本気でそんなものが幸せだと思ってるの?」
「そんなの決まってるでしょ」

皮肉気に吐き捨てる善子の煽りに。
愛美は当然の様に。

「もちろん――――思ってないわよ」

そう答えた。
その解答に意表を突かれたのか、善子が目を丸くする。

「えっと、なんだったかしら、イ、イ、イー、そうイモン教団。違った? イコンだったかしら? まあどちらでもいいのだけれど。
 私を神と称える教団の教義らしいのだけれど、笑っちゃうわよね」

そう言って嘲笑う。
これまでの妹に向けられた笑みとは違う、純粋な嘲笑だった。

「正直、あなたたちの幸せなんてどうでもいいのよね。
 私は私が良ければそれでいいの、それだけでいいの」

徳を積み自分を磨いた者のみが供物として神の一部となれるという、イコン教団の掲げる教義すら神(あみ)にとってはどうでもいい。
それも質のいい魂を喰らうために、都合がいいから利用しているだけに過ぎない。
イコン教団だけではない、アミドラドという世界自体が彼女が作り上げた都合のよい餌場である。

自分の周りをよりよくするために周囲の世界を変える。
大なり小なり誰だってやっている事だが、愛美の場合は度が過ぎる。
自分に都合のいいように世界を塗り替える事に長けた侵略者。
それが彼女だ。

「私が決めた、私がそうする。それ以上に理由が必要かしら?」
「…………姉妹揃って、まともじゃないみたいね」
「ふふっ。褒め言葉として受け取っておくわ」

姉妹一まとめにされた愛美は上機嫌に笑う。
妹に比べればまともな人間かと思ったが、姉の方も十分に異常である。

「と言う訳で、あなたを貰うわお嬢さん。私がそう決めたのだからいいわよね?」

そう言って神は穏やかにほほ笑む。
これまでと変わらぬ美しい笑みだった。




899 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:31:12 qXUFFQ8g0
「いけなかったらどうするってのよ!? 止める力もない癖にィィッ!!」

優美の右目と右腕にビキビキと分厚い血管が浮きあがる。
獣の様な右腕が奔り、枝島へと襲い掛かった。
乱暴に振り回された腕を避ける事でも出来ず、何とか両手でガードできたものの吹き飛ばされる。

「くっ、うぁ!?」
「どーしたのぉ!? ひゃっはっはっははははははははははははははははははははははは!!!」

地面を転がる枝島に、あっさりと追いついた優美がその顔面を掴んだ。
万力の様な力で顔面を固定し、片腕で振り回す。

「そぉ――――っれッッ!!」

プロペラみたいに回って、そのまま放り投げる。
バレーボールみたいに飛んで行った枝島の体は背から地面に叩き付けられ、そのまま地面を削った。

「どうされました先生? まだ始まったばかりですよぉおお!? もう立てませんかぁあ???」

ケタケタという笑い声が響く。
勝負にすらならない。
優美の言う通りだ。
枝島に優美を止める力など無い。

「くぅっ…………」

それでも何とか立ち上がる。
既にダメージは甚大だ。
ふら付く視界で、目の前の少女を見る。

血走った赤い瞳と大男の様な右腕をした怪物と化した少女。
優美はもう救いようがない。
誰の目から見てももはやそれは明らかだった。

枝島が悔しさに奥歯を噛む。砕けるほど強く。
それは、自身が追い詰められているこの状況にではない。
目の前の少女一人救えぬ自らの弱さが悔しかった。

間違い続ける事しかできないのなら、これ以上間違いを重ねる前に、ここで止めてやるのがそれが彼女のためだ。
そんな彼女のために枝島ができる事と言えば、せめて。

「一緒に死んでやるからな、陣野…………ッ!」

枝島が駆ける。
その手元には爆弾砲台が握り締められていた。

先ほど空中に打ち上げた爆弾をこの場で爆破させる。
大弾と中弾の同時爆破。
地上で爆発させれば辺り一帯は無事ではすむまい。
その爆発には勿論、枝島も巻き込まれるだろう。

殺すことでしか救いをもたらせない。
それほどまでに彼女は終わっていたし。
そんな方法しか思いつかないのは自らの未熟を恥じる。

「うおおおおおお!」

爆弾を抱えて特攻する。
教師としての信念に殉じる事に悔いはない。
心残りがあるとするのなら愛しき人を婚前に未亡人にしてしまう事だけだ。
どうか、幸せに。願いはそれだけだ。

連続した爆発音が辺りに響き渡る。
鮮やかな炎は辺り撒き散って、一帯は火の海に包まれた。




900 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:33:53 qXUFFQ8g0
真っ先に動いたのは善子だった。
先手必勝。後手に回っては敗北すると本能で察した。
稲妻めいた動きで距離を詰めると、躊躇いなく顔面を蹴る。
奇襲は成功し、蹴りは頭部に直撃した、だが。

「……重ッ」

重い。
蹴った足の方が痺れるようだ。
華奢な少女ではなく、まるで象でも蹴ったようだ。
最上級の耐久度に大地の力が加わり、生半可な攻撃などでは大地を踏みしめた足を動かせもしない。

「あら、乙女に対して失礼ね。けどそうね、ここは魂の世界なのだから、魂の総量が多い私の重さは相応なのかしら?」

そう言って僅かに裂けた頭部からの血を指先で拭う。

「あんたみたいなナルシストは顔を傷つけられたら怒る思ってたわ」
「そんな事では怒らないわよ。私はどんな私でも愛しているもの」

傷が付いた程度で自分を愛せなくなるほど彼女の自己愛は浅くない。
完璧な自分だけではなく、傷付こうが醜かろうがどんな自分だろうと愛せる。
それが彼女の自己愛だ。

「けど、痛いのはムカついたわ」
「ッ!?」

何かが投げつけられ、善子は咄嗟にそれを叩き落とす。
地面に壊れた掃除機が叩きつけられ砕けて破片となった。
瞬間、その破片の隙間から横合いに回り込んだ愛美の姿が見えた。

投擲で気を引いた隙に横合いから殴りつける。
拳も握った事のない令嬢かと思ったが、思った以上に喧嘩なれしていた。

「がはっ…………!?」

呼吸が止まる。
脇腹に強い衝撃を受け、その場に膝を付いた。
肋骨が何本かイカれたかもしれない。
細腕とは思えぬ凄まじい力だ。

「や、やめて!!」

立ち上がれない善子をかばうようにしてアイナが静止に入る。
勇気を振り絞って固まっていた体を動かし、目端に涙を滲ませながら愛美の前に立つ。
その様子を愛美は変わらぬ笑顔で見下ろす。

「ダメ……アイナ、ちゃん………逃、げて……」

絞り出すような善子の声。
だが、その願いも虚しくアイナの首が絞め上げられた。

「ごめんなさいね。ある程度は弱らせないといけないの」

誠意など無い謝罪の言葉。
両手で掲げるようにして小さな体を浮き上げる。
持ち上げられた両足がバタバタと暴れた。
もちろん、その程度で愛美が手を放すはずもない。

「ダメよ。あまり暴れないで、殺さない程度に加減するのが難しいの」

必死でもがくアイナに、子供のやんちゃを窘めるように言う。
苦悶の中、アイナは手元にロングウィップを出現させる。
アイテムはこの状況でも取り出せるのは強みだが、まともに振れない鞭など脅威にはなり得ない。
ゆらりと振り回された鞭の先端が、愛美の顔に力なく巻きついた。

鬱陶しく髪にかかる鞭をアイナの首を絞める片腕を外し振り払おうとした、瞬間。
何か見えない衝撃が愛美の頭部で弾けた。

M・クラッシュ。
精神波を物理的衝撃として叩き込むスキル。
本来対物用スキルであるのだが、生物に使用すれば確率で意識をシャットアウトさせる。
そのスキルを、鞭を通して発動させたのだ。


901 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:41:08 qXUFFQ8g0
だが。
意識を失い落ちるはずの手は落ちなかった。

「ぐ…………あっ」

むしろ、首を絞める力が強まっていた。
耳と眼からツゥーと血をながしながら、血で汚れようとも穢れない美しさで笑う。

「いいわね。あなたますます気に入ったわ」

アイナの顔が青紫に染まる。
その様子を見て、善子が痛みをこらえ歯を食いしばって立ち上がった。
無理に動けば状態が悪化するだろうが知った事ではない。

「この……ッ。アイナちゃんを、離せ……ッ! 離せぇ…………ッ!!」

アイナの首を絞め続ける愛美の体を背後から殴りつける。
だが、それでも愛美はその場に杭でも打ち付けたように動かなかった。

ダメージで上手く力が入らないとはいえ、長年空手を収めた善子の打撃だ、全く効いてない訳じゃない。
僅かだろうが確かにダメージはある。
だが、そのダメージをまったく気にしていないのだ。

「…………なんなのよ、あんたら姉妹はッ!
 アイナちゃんを離してッ! どうせ殺すなら私にしなさいよ!」

何度殴りつけても、まったくと言っていいほど状況は動かない。
絶望のまま半ば自棄になって善子が叫ぶ。

「嫌よ。だって、あなたには微塵も魅力を感じないもの」

あっさりと冷たく切り捨てた。
美空ひかり(アイドル)が失われた美空善子には見向きもしない。
愛美の目には何の価値も感じられなかった。

「ひ……かり、ちゃん」
「あっ」

絶望に彩られた瞳でアイナが震える手を伸ばす。
善子がそれを迎えに手を伸ばした。
だが、

「ごちそうさま」

その手は取られることなく、愛美の中に呑み込まれた。

「あっ…………あぁっ」

善子は何も掴めなかった自らの手を震わす。
そして悔しさのまま血を滲ませる程の力で拳を握り締める。

「ああああああああああああああああ!!!!!」
「あなたの声がよく聞こえるわ」

絶叫のまま、愛美へと襲い掛かる善子。
その様子を眉一つ動かさぬまま愛美は見送り、どう動くかが手に取るようにわかっているかのような動きで躱した。

「あなたは、つまらないわね」

すれ違いざま突き抜けるようなボディブローが叩き込まれる。
その一撃は鳩尾から体内を突き抜け、その意識を刈り取った。

パンパンと服の汚れを払う。
殺すことも同化することもできただろう。
そうしなかったのは偏に、本当に自分にするだけの価値を感じていなかった。

「それでは、さようなら」

意識を失った善子を置いて愛美はその場を後にした。




902 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:42:17 qXUFFQ8g0
色とりどりの爆炎が辺りを包んでいた。
あらゆる生命活動など許さぬ煉獄の世界。
全てを焼き尽くす炎の揺らめくさまはどこか美しさすら感じられる。

だが、その中心にいる枝島トオルはどういう訳か生きていた。
何故自分が生きているのか枝島自身にも理解できていない。

彼は焔花珠夜という人間を誤解していた。
枝島からすれば焔花という男はニュースで見た爆破犯であり、ただの犯罪者に過ぎない。
その思想も信念も、何一つ知りはしない。

この爆弾は殺傷目的で作られたものはない。
むしろ、低温で燃える冷炎を中心とした人を傷つけない爆弾である。
流石に爆心地にいては無傷とまではいかないが、枝島ですら無事で済む程度の爆発で、優美が死ぬはずもない。

「信じてたのに! 綺麗事を並べ立てても結局殺そうとするなんて、酷い!!」

爆炎の向こうより怪物が炎を切り裂き姿を現す。
小鳥の歌うような声は嗄れた怪物の物となり、見目麗しい少女は見るも無残な怪物へとなり果てた。

悪辣。
信じてたなどと言う言葉は、相手を憎悪をするための後付けの理由でしかない。
最初から信じてなどいなかった。
だが、その言葉を誰よりも少女自身が信じていた。
この矛盾。

自分の周りをよりよくするために自分の世界を変える。
大なり小なり誰だってやっている事だが、優美の場合は度が過ぎる。
自分に都合のいいように自分を塗り替える事に長けた欺瞞者。
それが彼女だ。

炎を纏った怪物が襲い掛かる。
切り札を失った枝島になすすべなど無い。
交通事故めいた衝突に地面に引き倒され、意識を朦朧とさせる。

「そう簡単には殺さないわ。もう二度と復活しない様に、徹底的に殺してあげる」

刃の様に鋭い爪先が振り下ろされ、サクッと小指の先端を縦に切り裂いた。

「うっ…………ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?」

端から裂きイカのように指を裂いてゆく。
全身を突き抜けるような痛みに意識が覚醒し、地獄の断末魔が響く。

一思いに殺しはしない。
なにせ殺してしまえば消えてしまう。

あの時復活を成し遂げたコンティニューパペットはもう存在しない。
コンティニューパペット使用による制限により、いかなる手段をもってしてももう復活することは叶わないのだが、そんな事は優美は知らない。
丹念に、念入りに、必要に。
殺して殺して殺しつくすだけだ。

「大丈夫。殺さないように殺すやり方なら、誰よりも詳しいから…………ッ!」




903 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:43:12 qXUFFQ8g0
『おめでとうございます!
 勇者殺害数が3名に達しましたので、【強者】として認定されました!』

優美の目の前に電子妖精が現れた。
鬱陶しそうに眉間に皺を寄せ目を細める。
構うのも面倒なので無視して進もうかとしたが、次の言葉に足を止めた。

『【強者】認定されました勇者には特典があります。特典を選択して下さい』

提示された選択肢はGP100ptと専用装備とゲームヒント。
頂けるものがあるのなら頂こう。
目的のために。

ヒントはどうでもいい。
必要なのは姉を殺すための力だ。
そうなるとGPもありだが、それよりも――――。



「そうねぇ」

電子妖精を前に愛美が悩まし気に頬に手をやる。
彼女が迷う事が珍しい。
別段迷うほどの大した選択肢でもないのだが。
少しだけ予感がある。

「決めたわ――――」



僅かに離れた異なる地で同じ音の二つの声が重なる。

「「――――専用装備を」」

妹が手にしたのは乾いた血の様な黒いナイフ。
姉が手にしたのは神々しい輝きを放つ純白の杖。
姉妹はそれぞれの武器を手にした。

目的は同じ。
姉妹との出会うその時のための準備品。
昼の花火に導かれた運命の双子。
離れていても繋がっている。

その形がどんなものであったとしても、その絆だけは確かに。


904 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:44:03 qXUFFQ8g0
[田所 アイナ GAME OVER]
[枝島 トオル GAME OVER]

[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・昼]
[陣野 優美]
[パラメータ]:STR:E→B VIT:E→C AGI:E→C DEX:E LUK:A
[ステータス]:状態異常:興奮、軽い火傷、疲労(小)
[アイテム]:復讐する者(E)、バリアブレスレット(E)、爆弾×2、ライテイボール、不明支給品×5(確認済)、鉄球(個数不明)
[GP]:120pt→150pt(勇者殺害+30pt)
[プロセス]:
基本行動方針:全部、消し去る。
1.姉(陣野愛美)は絶対に殺す。
2.自分に再び勇者を押し付けたシェリンも、決して赦さない。
※スキル「憎悪の化身」によるパラメータ上昇は戦闘終了後に数分程度で解除されます。また肉体の変質によって自己再生能力もある程度上昇します。

【復讐する者(アヴェンジャー・エッジ)】
『陣野優美』専用装備。
みすぼらしく血を固めた様にどす黒い片手ナイフ。
装備者の憎悪の感情によって形状が変化し、段階が進めば装備者と一体化する。
またダメージを受ければ受けるほど攻撃力が向上する復讐の刃。

[D-4/草原/1日目・昼]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:B DEX:B LUK:B→A
[ステータス]:ダメージ(小)
[アイテム]:愛喰らう者(E)
発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、魔法の巻物×4、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(5/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、コレクトコールチケット×1、防寒コート、天命の御守(効果なし)、ゴールデンハンマー、ロングウィップ、不明支給品×10
[GP]:90pt→120pt(勇者殺害+30pt)
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
1.妹に会う
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C テレパシー:B M・クラッシュ:B

【愛喰らう者(アモーレ・プレデトーレ)】
『陣野愛美』専用装備。
見る者の心奪う神々しい意匠の純白の聖杖。
掲げることで聖なる光を放ち相手の心を奪い尽くす【魅了(A)】の効果を放つ。
また、手にしている限り【回復(A)】をの効果を得る。
非常に丈夫であるため鈍器としても使用可能。

[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:気絶、左肋骨にヒビ、疲労(中)
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.アイナちゃん……
2.危険人物がいたら撃退する
3.知り合いと合流
※『アイドルフィクサー』所持者を攻撃したことにより、アイドルの資格と『アイドル』スキルを失いました。
GPなどで取り戻せるかは不明です。


905 : 双子座に昼花火の導きを ◆H3bky6/SCY :2021/06/02(水) 23:44:24 qXUFFQ8g0
投下終了です


906 : ◆H3bky6/SCY :2021/06/09(水) 01:19:09 k3rDeJj20
【告知】
現在予約されている全作品が投下された時点で一旦予約を締め切り第二回定期メールを投下します
それまでに新規予約がされた場合は、その作品の投下完了まで定時メールの投下は延期されますますのでご安心ください
投下したい作品がある方はそれまでに予約及び投下するようよろしくお願いします


907 : ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 00:51:23 g3EcEOSY0
遅れましたが投下します


908 : 天上楽土 ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 00:53:41 g3EcEOSY0




私はその日、神の声を聴いたのです。





私は神に祈った事はない。
だって、祈ったところで何の意味もない事を知っている。
この世に神など居らず、この世に救いなどない。
この最果ての村に、祈りで手を塞ぐ余裕などないのだから。

運命を呪いはしなかった。
訪れる過酷を当然の物として受け入れてきた。
何故なら、それ以外を知らなかったのだから。
ここよりも良い世界も悪い世界も見たことがない。

大陸の北端にほど近い、常に吹雪が吹き荒ぶ極寒の地。
始まりの理由も廃れ、今はただ打ち棄てられたモノが集う最果ての村。
ここがイコンと呼ばれる私の世界、その全て。

その村は今、滅びの運命に直面していた。
それは村人の一人ザナクが、勇者の子孫を殺害しその財を奪った。
その報復によってこの村は滅びを待つだけだった。
そう在るのならば、それも仕方がない。
運命は吹き荒ぶ嵐のような物。

恨まない。
抗わない。
望まない。

それが持たぬ者たちの信条だった。
それに逆らったのだから滅びは必然だった。
運命に飲み込まれるのならば、それは仕方のない事なのだろう。
世界と共に終わるのならば、それもいいのかもしれない。
達観したような心でそんなことを思った。

強い風が吹いた。
身を引き裂くような凍てつく空気に目を閉じる。

「……アイク兄さん?」

次に目を開いた瞬間、すぐそこに居たはずのアイクの姿がなくなっていた。
何処かに行ってしまったのだろうか?
それにしても何の声をもかけず音も無くいなくなるだなんてアイクらしくもない。
首を振って周囲を見渡すも影も形もないどころか、立ち去ったような足跡すらなかった。
まるで世界から消えてしまったようだ。

これまでに感じたことのないような黒い靄の様な不安が胸中に広がる。
まさかツキタの手勢が既に到達してしまったのだろうか?
ありえない。あまりにも早すぎる。
何より、いくら殺されたとはいえ死体は残るはずだ。
まるで消えたみたいに跡形もなくなるなんてことはありえない。

さっきまで話していた人間がいなくなるなんて事は、この最果ての村では珍しくはないけれど、これは違う。
人間がいきなり消えるだなんて、いくら何でも異常だ。
まるで、本当に運命その物に飲み込まれてしまったよう。

私は焦燥に駆られ、思わず駆けだしていた。
誰か生きている人間がいることを確認したかったのだ。
中央の広場に差し掛かったところで、焚火を囲み暖を取る数名の人影を見つけた。
私は声を上げる・

「オル――――――」

だが、その名を呼ぶよりも早く、オルディナの姿は私の目の前で音も無く虚空に呑み込まれるようにして消えた。
その隣にいたリルもガラもレイクも、断末魔を残す暇もなく次々と消えて行った。
何かが起きているのか分からぬまま、私は雪の世界に立ち尽くす。

異変は村中でおきていた。
遠くに見えるか影が消える。
室内から人の気配が消える。
私の世界から全てが消える。
私を残して。

『――――病人と老人ばかりで、味気がないわねぇ』

声がした。
風鳴りの音などではない。
明確な誰かの話声だった。

「だ、誰ッ!?」

戸惑い狼狽えながらイコンが辺りを見渡し声を上げる。
問われたこと自体が意外だったか、僅かに息を飲む気配があった。
だが見渡せどそこには寒々とした世界が広がるだけだ。


909 : 天上楽土 ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 00:55:14 g3EcEOSY0
『あら。珍しいわねぇ、私の声が聞こえるの?』

天上の調べのような声が世界から響く。
それは直接脳髄を揺さぶる超常的な何かの声だった。

『クスクス。一番美味しそうだったのを最後まで取っておいただけなのだけど、まさかこんなことになるなんてねぇ。
 魂を取り込み過ぎて”こうなって”から、”私”以外の人間と言葉を交わすのは初めてよ 波長が合うのかしら?』

この声の主が何者なのか。
この声を主が何を言っているのか。
何一つ私は分からない。
ただそれよりも気になるのは一つ。

「む、村のみんなは…………どこに……?」

呑み込まれそうになる心を奮い立たせ、震える声を絞り出す。
村人が消えた原因は間違いなくこの声の主によるものだ。それだけは分かる。
だから村のみんながどうなったのか、聞かねばならない。

『心配しなくても”ここ”に、居るわよぉ』
「ここ…………って?」

訳も分からず問い返す。
なにせ声の主の場所すらわからないのだから、ここと言われても要領を得ない。

『そうねぇ…………少し待ってねぇ……あ、居た居た』

雑多な荷物を漁って目当ての物を見つけ出したように声が弾む。

『イコン』
「アイク兄さん…………?」

響いたのはそれまでの調べのような声とは違うモノだった。
それは酷く聞きなれた、馴染み深い声。
声色、口調、抑揚の癖。そのどれもが紛れもなく先ほど消えたアイクの物だった。

『……ああ、心配いらない。皆もいる、大丈夫だ』
「皆も……? いったい、どこにいるのです!?」

彼らはどこかにいる。
だが、それはどこがどこなのか。
その答えはなく、またしても声が別人のものに変わる。

『俺の声が聞こえてるかい? イコン』
「無事なのザナク!?」
『無事? ああ、ここは素晴らしい所だよ……! ここに来てから調子がいいんだ。
 こんなのは久しぶりだ。寒くない、飢えもない、痛みもない、苦しさがないんだ。
 ああ……何て心地いい。幸福が溢れている。イコン、ここは正しく神の国――――天上楽土だ』

それが本当に幸せそうな声だったから私は理解した。
滅びるしかない運命だった彼らは、救われたのだ。
他ならぬこの――――神によって。

私はこれまで祈ったことはなかった。
神は何者も救わぬと、祈りに意味がないことを誰よりも知っていたから。

「私も…………私も、皆と共に神の国に連れて行って頂けるのでしょうか!?」

だが気付けば、私は跪き両手を合わせ祈りを捧げていた。
双眸からは随喜の涙が溢れて止まらなかった。
寒さではなく歓喜で全身が震える。
何よりも心が震えた。

『そうねぇ……いいわよぉ。けどその前にあなたにやって欲しい事があるんだけどいいかしら?』
「は、はい! 何なりと!」

そうして、私は御神託を受ける巫女となった。
私は特別な存在ではないけれど。
ただ当たり前に消えゆくだけだった存在だったけれど。
特別な存在に選ばれたのだ。

神の喋り方を真似、声質に近づけるよう努力を重ね、神の御心のまま生まれ持った顔も捨てた。
そうして神の代行者として、神の言葉に従えば何もかもが上手くいった。
なにせ本物の神がついているのだ、上手くいかないはずがない。

一年と経たず、神に供物をささげる事も忘れ、金と権力により腐敗したジンノ教を一掃し、新たなるジンノ神の教えを広めるイコン教を普及させた。
求めるのは金でも権力でもなく純粋なる神への奉仕。
その先に在るのは神と一体化すると言う腐敗のしようもない、完全なる信仰だ。

そうして今の私が、イコン教団教祖であるイコンがある。
神を信じて進んでいれば、私も辿り着けるのだ。

皆の待つ天上楽土へ。




910 : 天上楽土 ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 00:55:49 g3EcEOSY0
「――――こんにちは」

激戦を乗り越え、動き始めようとしたソーニャと良子の前に風の様に一人の女が現れた。
隣島から全力疾走してきた女はソーニャたちの姿を認めると足を緩め立ち止まる
そして、汗に張り付いた美しい黒髪をかき上げ、笑顔を張り付けた顔を見せた。
放送局からここまで走り抜いてきた必死さを感じさせぬ優雅な振る舞いであった。

これに戸惑うのはソーニャたちである。
突然全力疾走で現れた女、唐突すぎて逃げることも叶わなかった。
応じるべきか無視して逃げるべきか。

先ほど手痛い出会いがあったばかりである。
我道を失った今、警戒するのも当然と言える。

何より、彼女たちをざわつかせたのはその顔だ。
丈美から聞いていた陣野姉妹の特徴と余りにも一致している。

片方は危険人物だが丈美の探し人。片方は関わらないほうがいいという極悪人。
どちらだったとしてもあまりいい結果になるとは思えなかった。
優美の方だった場合は丈美の事を話せばあるいは話し合いになるかもしれないが。

だが、今後誰とも接触せず無事に済ませると言う訳にもいかないだろう。
何よりHSFの生き残りと合流を目指しているソーニャとしては情報を得るため参加者とはできうる限り接触する必要がある。

「どうしたのかしら?」
「イエ。失礼しましタ。ワタシはソフィア言いマス。そちらのお名前、伺ってもヨロシデスカ?」

促され、ソーニャが口を開く。
不意打ちで仕掛けてきた奴らと違って、正面から話しかけてきたのだから少なくとも対話の余地はあるはずである。
危険を感じたらすぐ逃げる、良子とアイコンタクトを交わして頷きあった。

「私はイコン。よろしくね。ソフィアさん」
「イコン?」

その名前にソーニャが反応を示した。
想定したどちらの名でもない。
イコンはソーニャに隠れるようにして押し黙っていた良子へと視線を向ける。

「そちらは、魔族……ではなさそうですね。宮廷魔術師、いえ道化師かしら?」

道化師めいたド派手な衣服はイコンからすれば、これまで見てきた神の国の住民よりもアドミラドのそれに近い。
それ故の何気ない問いかけだったのだが、良子からすれば自らの理想の姿を道化扱いされたも同然であった。
警戒も忘れ憤慨するに足る嘲りである。

「道化師? 否! 否である! 我は†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†
 最終戦争にて片翼を封じられしもがが……ッ!!」

熱くなって設定を語り始めた良子の口をソーニャが両手でふさぐ。

「ちょっと派手な格好してマスけど、普通の女の子デース、気にしないでくだサーイ」
「普通の? そうは見えませんが」
「ソウ言う病気なのデース。大目に見てやってくだサーイ」
「……病気ですか。なるほど」

堕天使を名乗る普通の少女にイコンは気の毒な視線を向ける。
解放された良子は恨めしそうに抗議の視線を向けるがソーニャは無視した。

「ところで一つ尋ねてもよろしいかしら?」
「何でショウ?」
「あなた方はイコン教団をご存じかしら?」

そんな宗教など知るはずもなく、良子は首をかしげる。
当然の様に知らないと答えようとして、それよりも早くソーニャが口を開いた。

「ハイ。存じていマス」

ソーニャが返したのは意外な答えだった。
普通の日本人中学生である良子には宗教だとかはよくわからない。
三大宗教くらいしか知らないので、そう言う名前の宗教もあるのか、くらいの感想である。
漠然としたイメージで宗教はデリケートな問題な気もするので、あまり口を挿むべきではない気もしてひとまず成り行きを見守ることにした。


911 : 天上楽土 ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 00:56:25 g3EcEOSY0
「なるほど。愚問でしたか。
 それで、あなたたちはイコン教徒なのですか?」
「勿論デス! ヨモヤ教祖様とコンナ所で出会えるなんテ思いもしまセンでしタ!!」

そう言って雪の精のような少女は目を輝かせ感動に打ち震える。
だが、その感動をぶつけられたイコンの表情は変わらなかった。
信徒と出会えた喜びを感じていると言う風でもなく、むしろ訝しんでいるように見える。

「ドーしましタ?」
「いえ、何でもありません」

イコンの直感が不信を感じている。
アミドラドにも神を信じぬ不逞の輩は僅かながらに存在する。
そう言った輩が粛清を逃れるために信徒を騙るというのはよくある話だ。

「そうですね。信徒を騙る不逞の輩がいないとも限りません。一つ問答をしましょうか」

その真偽を問うべく教祖自らが裁定を行う。
さすれば自ずと真実は暴かれるだろう。

「我らが信仰する神の名を、答えなさい」
「我らが神の名はオイソレと口にスベキではありまセン」

「我らは何を神に捧げるべきか、答えなさい」
「祈りと信仰ヲ。富や財ナド不完全な俗世の生み出しタ不純物に過ぎまセン」

「では我らが神のため信徒の為すべき勤めを、答えなさい」
「イズレ来る日のタメ、研鑽を積ミ、己を磨き上げる事デス」

「神が我ら信徒にお与え下さる温情とは何か、答えなさい」
「愛ニよる救イを」

「救いとは何か、答えなさい」
「神と共ニ完全な存在となる事デス」

ソーニャは全ての問いに淀みなく答えを返した。
イコンからしても全てが完璧な回答であった。
その信仰が虚偽であれば不敬と断ずる事もできようが、虚偽と断ずる根拠もない。

「それでは最後の問いです。
 完全なる存在となった先に、あなたは何があると考えますか?」

最後の問いを投げる。
それはこれまでの問いとは毛色が違った。
定められた答えではなく、ソーニャ自身の考えを問う内容だった。

淀みなかった回答に僅かな間が空いた。
しかしその逡巡も一瞬。
雪の精のような少女は真っすぐに目を逸らさずに、答えを口にする。

「仲間と、失ったモノともう一度出会える世界が」

イコンがその目を見据える。
故郷の雪景色を思わす青い瞳。
だからだろうか何者でもない少女だった頃の情景が思い出された。

『最後にはみんなと同じ場所に向かえたらいいのだけど』

それは、何も持たぬ少女が望んだ唯一の願い。
その答えに、イコンは感じ入るように目を閉じて、裁定を下した。

「嘘、ではなさそうですね」

イコンは一大宗教組織の教祖として多くの人間を見てきた。
少なくとも信仰に関する事ならば、相手が余程の役者でもない限り真偽を見定められる自信がある。

その真偽眼が今の言葉は虚偽ではないと告げている。
少なくとも最後の言葉は本心であると感じられた。
不審な点がないとは言えないが、嘘と断ずるには至らない。


912 : 天上楽土 ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 00:59:27 g3EcEOSY0
「よいでしょう」

彼女らを信徒と認めたイコンはアイテム欄から何かを手元に取り出し視線をやった。

「では、D-4に向かいなさい、そこで我らが神よりお慈悲を頂けるでしょう」

神託を告げる巫女が導きを与える。
従順なる信徒は頭を垂れ、その神託を受け取った。

「アリガトウゴザイマス。スグに向かわさせて貰いマス。
 ト、ソノ前に一つ、ヨロシイでショウカ?」
「構いません。なんでしょう?」
「リョーコとユカリという少女を知りませんカ?」

顔を上げ彼女の本題を切り出した。
だが、イコンはゆっくりと首を振る。

「残念ながら知りません。それはあなたにとってどのような者なのです?」
「ワタシの大切な、家族のような仲間たちデス」
「……そうですか。大切にすることです。
 このような末世の地でも神は我々をお見捨てにはなりません。神と一体となった天上楽土で、いつか出会えるよう祈るのです」

教祖は両手を合わせ神への祈りを捧げる。
静かに祈るその姿は正しく聖女だった。
それは何物にも犯しがたい神聖さを感じさせる。

「あなたに方に救いが在らんことを」

敬虔なる信徒に祝福の言葉を贈って、教祖は立ち去ってゆく。
その背中をソーニャはやうやうしく頭を下げて見送った。
すっかり置いてけぼりだった良子も慌ててそれに倣って頭を下げた。

「ソレじゃ、行きまショウか。アルアル」

イコンが立ち去っていったのを確認し、ソーニャが歩き出した。
良子は戸惑いながらもその後ろを追いかける。

「え? え? D-4に行くのソーニャ?」
「え? 行かないデスヨ?」

足を止め、お互い顔を合わせて首をかしげた。

「けど、さっき……」
「アレは話合わせただけデース」
「う、うん? その割に詳しかった気がするけど」

ただ話を合わせたにしては迷いなき応答だった。
適当に話を合わせただけで納得するような相手には見えなかったが。

「Ага。それはコレのおかげデース」
「これって…………」

そう言ってソーニャが取り出したのは一冊のボロボロの本だった。
それは教祖であるイコン自身が書いたイコン教の教義をまとめた経典である。
ソーニャは一度目を通しただけだが、彼女の学習力があればそれで充分だった。
その内容を加味して、下手に刺激するよりはと話を合わせたのだ。

質問も解答も全ては教義に基づく物。
余りにも模範解答すぎた気もするが、どれだけ疑念があろうとも正しい内容である以上否定はできない。

だが、最後の質問だけは教義にない問いだった。
神との一体化したその先についてなど教義には書かれていない。
あれだけはアドリブが求められたが、どうにか対応できた。

「それにしたって慣れた感じだったけど……」
「マー、芸能界変な人多いですからネー。アア言うのも日常サ飯事デスヨ」

事務所がある程度は守ってくれるものの、それでも名が売れればおかしな知り合いも増える。
適当に話を合わせておく、なんてあしらい方も心得たものだった。

「ソレヨか。もうすぐ定時メールの時間デスネ」
「う、うむ。そうであるな」
「突然口調が戻りまシタネ。アレ? 何かもうメールが来てマスネー」
「うん? 刻限にはまだ早い様だが、我の所には来ておらぬが」

良子が確認するが定時メールは届いていない。
時刻もまだ12時には僅かに早い。
届いたメールの送信者を確認したソーニャが言う。

「ドウやらタケミからメールみたいデスヨ」


913 : 天上楽土 ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 01:00:23 g3EcEOSY0
[F-8/草原/1日目・昼]
[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:闘魂の白手袋(E)、予備弾薬多数、ヴァルクレウスの剣、魔術石、耐火のアンクレット、イコン教経典、不明支給品×3
[GP]:70pt
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.HSFのメンバーを探す

[有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:右手小指と薬指を負傷(回復中)
[アイテム]:治療包帯(E)、バトン型スタンガン、ショックボール×6、不明支給品×1
[GP]:15pt
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.殺し合いにはとりあえず参加しない

[G-8/草原/1日目・昼]
[イコン]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
[ステータス]:腹部に軽傷
[アイテム]:青山が来ていたコート、受信機、七支刀、不明支給品×1
[GP]:0pt
[プロセス]
基本行動方針:神に尽くす
1.愛美の道を阻むものを許さない
2.何人かの参加者を贄として神に捧げる
3.陣野優美を生かしたまま神のもとに導く

【イコン教経典】
イコン教の教祖イコンが綴った経典
信徒に配られたモノと言うより、彼女個人の信仰をまとめた手記のような物である


914 : ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 01:00:47 g3EcEOSY0
投下終了です
続いて定時メールを投下します


915 : 第二回定時メール ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 01:02:36 g3EcEOSY0
[重要]第二回定時メール

『New World』をご利用いただき、ありがとうございます。
新しい世界での新しい体験を楽しんでいただけているでしょうか?
これまで以上に勇者の方々にお楽しみいただけるよう誠心誠意努力を重ねていきたいと思っております。

■脱落した勇者のお知らせ

現時点までに脱落した勇者をお知らせします。

03.アーノルド・セント・ブルー
08.枝島杏子
10.笠子 正貴
12.ギール・グロウ
14.桐本 四郎
15.黒野 真央
18.三条 由香里
27.高井 丈美
29.田所 アイナ
30.出多方 秀才
31.天空慈 我道
32.酉糸 琲汰
34.掘下 進
40.ンァヴァラ・ブガフィロレロレ・エキュクェールドィ

以上。14名が脱落となります。
以上の情報は[[メンバー]]に反映されますのでご確認ください。

おめでとうございます! 3名の『強敵』が発生しました!
うち1名が更に『豪傑』に達しました!

現時点で『勇者』は完成していません。
バトルロワイアルは続行されます。

■塔の支配権のお知らせ

続いて塔の支配権の発表となります。
現時点の塔の支配者は以下になります。

砂の塔:シャ
水の塔:ヴィラス・ハーク
炎の塔:シャ

塔の支配権を得た勇者の方々にはボーナスGPとして100ptが支給されます。
おめでとうございます!

シャさんは前回に引き続き二つの塔を支配されています。大変すばらしいですね!
皆さんシャさんに出会ったら握手を求めましょう。

■廃棄エリアのお知らせ

火山エリアが破棄されます。
破棄作業は当メール着信から2時間後の14:00に行われますので該当エリアに在中している勇者の方々はご注意ください。

破棄されたエリアに存在する炎の塔は凍結となります
以後ボーナスGPの獲得はできなくなりますが、塔の支配権は維持されますのでご安心ください。

お知らせは以上となります。
これからもを引き続き『New World』お楽しみください。
よろしくお願いします。


916 : 第二回定時メール ◆H3bky6/SCY :2021/06/22(火) 01:04:13 g3EcEOSY0
投下終了です

予約はこれより解禁となります
よろしくお願いします


917 : ◆H3bky6/SCY :2021/06/29(火) 23:26:35 6rz9YYHw0
投下します


918 : 暗殺者は海を征く ◆H3bky6/SCY :2021/06/29(火) 23:28:59 6rz9YYHw0
暗殺者シャは指を振るって確認していたメール画面を閉じた。

ゲーム開始から半日が経過した。
2度目の定時メール。
プレイヤーに絶望を告げる凶報もシャにとってはただの連絡事項だ。
最初から知り合いなど存在しないシャが気にするのは死者の名前ではなく死者の数だけである。

脱落したのは14人。これで生き残りは13人。
人数も減ったというのに前回より多い。順調すぎるくらいのペースである。
このまま行けば、ともすれば夜を待たずして終わるだろう。

北へ向かってシャは歩き始める。
その先にあるのは砂漠エリアに続く橋だ。
現在地である火山エリアが廃棄エリアに指定されたため、ひとまずそこから脱する必要がある。
砂漠エリアへの出戻りになるが、少し気になっていたこともあるのでちょうどいい機会だ。

だが、その前にやっておくべきことがある。
塔の支配ボーナス、GP200ptの獲得。
これでシャの持つGPは520ptになった。

これほど潤沢なGPを腐らせておくのもバカらしい。
そろそろ使い時だろう。

シャは近場にあった交換所へと足を運ぶと、画面を立ち上げる。
施設利用などGPが必要になる場面を考えてある程度は残しておくとして、どういう方向の力を得るか。
ゲーマーとして一番楽しいステ振り作業の始まりだ。

パラメータの強化は不要だろう。その辺はスキルで補える。
やはり強化すべきはスキルだろう。
新たなスキルを習得するとう選択肢もあるが、シャが選択したのは現在持つスキルを強化する事だった。

『素手格闘』『気功』の両AランクスキルをSランクに引き上げる。
それぞれ差額の200ptを支払うと瞬時に情報が書き換えられ、魂がアップデートされた。
と言っても大した実感はない。
あるのは情報が書き換わったという事実だけだ。

そうなると、チート級ともされるSランクスキルがどの程度のモノなのか試してみたくなるのが人情だ。
まあ人としての情などないが、手に入れた玩具を試してみたい気持ちは疼く。

だが、『素手格闘』は戦闘時に自動で付与されるバフであるため周囲には誰もいないこの状況では確認するのは難しい。
まあ効果としてはパラメータの上昇値と上限値が引き上げられたというシンプルなモノであるため、確認は後回しでもいいだろう。

今すぐ試せるのは『気功』スキルの方だ。
試運転として右腕の義手に気を通す。
義手が熱を帯びる
感覚で分かる。その質、量ともにこれまでの比ではない。

弾けんばかりに腕に溜まった気を一気に放出する。
瞬間。着弾した地面が大きく爆ぜた。
まるで砲撃の跡のように地面が抉れ、砕け散った大地の破片がパラパラと降り注ぐ。

「ハハッ。ホントにコミックの世界ネ」

冗談めいた威力にシャは笑う。
Aランクでは牽制程度の威力しかなかったが、これは十分に”殺せる”威力だ。
弾数のない不可視の弾丸。属性を持たせればさらに面白い使い方が出来るだろう。
その威力に不満はない。ただ問題があるとするならば一つだ、――――強すぎる。

このゲームルールからして殺せば殺すほど強くなる仕組みである。
その救済として塔の支配によるボーナスがあるのだろうが、その恩恵を最も授かっているのがシャである。
これほどGPを稼いだプレイヤーは他にいないだろう。

今の自分と渡り合える相手は、果たして存在するのだろうか?
それだけが暗殺者の抱える憂いである。

先ほどの定時メールによれば、自分以外に3人以上殺したプレイヤーが2人いるという。
名も知らぬ『強者』に期待すべきか。

あるいはそれらが期待外れだったとしても、その時はその時だ。
その時は頭を切り替え、殲滅戦に精を出せばいい。
一方的な蹂躙も殺戮もまた楽しかろう。


919 : 暗殺者は海を征く ◆H3bky6/SCY :2021/06/29(火) 23:30:43 6rz9YYHw0
それに確実な楽しみならば一つある。
ヤマトマサヨシ。

シャは暗殺者として標的を逃したことはない。
だが、この世界におけるアイテムやスキルと言う不確定要素により逃亡を許した。

しかし、まだ完全に逃したわけではない。
この殺し合いの世界『New wolrd』という籠の中である。
逃した獲物を追い詰めるのもまた、新たな楽しみだ。

もし己が仕留めるまでに籠の中で勝手に死に絶えるような弱者ならば興味もない。
そうでないのならば確実に決着をつける用意が必要だ。

「シェリン」
『はい。あなたのシェリンですよ〜、何用でしょうか?』

シャはシェリンを呼び出すとアイテム欄から取り出した1枚の紙切れを差し出した。

「申請券(これ)を使いタイ。どう使うカ?」
『了解しました。私に申請内容をお申し付けください』
「デハ、ルールの追加を」

新たな縛りを世界に刻む。
地獄の様な世界を望む最悪の暗殺者は告げる。

「逃亡禁止をルールに盛り込むよう申請するヨ」

必見必殺。勝負とはそうでなくては。
いざ決着となって、また逃げられてもつまらない。
逃亡など許すものか。

「タダシ、条件付きヨ」

出来るなら完全な逃亡禁止のような強力な縛りを設けたいところだが、問題となるのは申請券の説明にあるこの一文。
『あくまで伝えるだけなので申請が通るとは限らない』という点だ。
ゲームバランスを完全に崩壊させるような申請は通らないだろう。
この狂った運営ならばもしかしたら通るかもしれないが、一度きりしか申請できないのだから慎重を期すべきだろう。

幾つかの条件を付け加え申請する。
あとは通るかどうかを待つだけだ。

『申請が受理されました。ペルプページが更新されます』

程なくして暗殺者の悪意が世界に認められた。
更新されたルールを確認する。

・挑まれた勝負から逃げてはならない。
・成立した勝負から逃げてはならない。
・違反した物にはペナルティが与えられる。

完璧、と言う程でもないが不満がある程でもない上々の結果だ。
好戦的ではないプレイヤーの逃げ道として不意打ちなどからの撤退戦であれば逃亡も許される。
シャとしては自分の戦いがつまらないものにならなければそれでいいのだから、その辺は目溢しても構うまい。
強いて言うならヤマトマサヨシに逃亡を許した時の様な、本人の意思ではなく第三者の介入による逃亡が防げるかどうかと言う点の方が懸念か。

ともあれ、これでより最悪な方向へ世界が変わる。
この世界に渦巻いている死の渦は激化するだろう。

弾むような足取りで暗殺者の歩は進む。
荒涼たる大地を超え、茫漠と広がる砂の海へ。
そのまま河沿いを下って南下したところで、シャの足が止まる。

そこにあったのは飾りっ気のない掘っ立て小屋であった。
それは砂漠エリアの南端にある追加施設、ボート貸出所だ。
シャは何の気ない足取りで開きっぱなしの入り口をくぐる。


920 : 暗殺者は海を征く ◆H3bky6/SCY :2021/06/29(火) 23:33:25 6rz9YYHw0
「大将、やってるカイ?」
『ハイハーイ、ボート貸出所のシェリンですよー』

受付に電子妖精が現れる。
目的はもちろんボートのレンタルだ。

殺戮を望む暗殺者は人の殆どいないこの周辺のエリアから、人のいるエリアに移動しなければならない。
移動方法は何でもいいのだから、どうせなら面白い方がいい。
海路を選ぶのもまた一興だろう。

『ここではボートの貸し出しを行っています。ご利用の場合ボートの種類を選択してください』

シェリンの案内に従い、シャの目の前にメニューが表示された。

・手漕ぎボート:20pt
・スワンボート:30pt
・モーターボート:50pt

その中からシャは手漕ぎボートを選択する。
GPが差し引かれ、支払いが完了する。

『ご利用ありがとうございます。それではボートを用意しましたのでこちらへどうぞ。お足もとに気を付けてください』

そう言って電子妖精に川岸に繋がる出口へと案内される。
そこには隙間の広い木製の桟橋があり、踏み込んだ足元がギィと軋む。
その先端には公園にあるようなミニボートが浮かんでいた。

海面に浮かぶボートにゆっくりと乗り上げると、重さで僅かに船体が沈んだ。
波にフワフワと揺れる船上に、暗殺者は涼しい顔で起立する。

船体に用意されている備品を確認する。
備え付けられているのはオールだけのようだ。
ライフジャケットや安全装置はよういされていないようである。

『使用より2時間で自動的に返却となります。それでは海の旅をお楽しみ下さい』

電子妖精に送り出され、ボラードに巻き付いた固定ロープを外して出港する。
シャは直立不動のまま起立し、片足で器用にオールを回していた。
不規則に揺れる船上に片足で立つ驚異的なバランス感覚。

それは曲芸を見せたいなどと言う事ではなく、視覚を保持し狙撃などの不測の事態に対しての警戒を怠ららないためである。
そんな抜け目のなさをおくびにも出さず、本人は船路を楽しむように気持ちよさそうに息を吸う。

「いい風ネ」

水を含んだ風の香りを堪能する。
太陽の照りかえる水面の輝きに目を細めた。
27人もの命が半日で失われた地獄のような美しき世界。
その全てを謳歌するように、暗殺者は海を征く。

[D-2/川上/1日目・日中]
[シャ]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:B LUK:C
[ステータス]:右手喪失
[称号]:【豪傑】
[アイテム]:暗殺者の義手(E)、不明支給品×5
[GP]:320pt→520pt→100pt(塔の支配ボーナスにより+200pt、スキル習得により-200×2、ボートの貸し出し-20pt)
[プロセス]
基本行動方針:ゲームを楽しむ
1.船路を楽しむ
2.ヤマトマサヨシに右腕の借りを返す

※全参加者のペルプページが更新されました

【素手格闘(S)】
自身が素手である場合、戦闘時にLUK以外のステータスが最大2ランク向上する
また相手も素手であった場合もう1ランク向上する(上限はSまで)
武器を持つと全ステータスが下がり弱体化する【デメリット】

【気功(S)】
気を練る技術。気は様々な用途に使用可能。
気を込めた攻撃は追加ダメージが発生、気を込めた防御は体を硬化させダメージを大幅に減少させる。
また全身に気を巡らせれば回復力が大幅に強化され、気を放てば強力な遠距離攻撃も可能となる。


921 : 暗殺者は海を征く ◆H3bky6/SCY :2021/06/29(火) 23:33:58 6rz9YYHw0
投下終了です


922 : ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:54:10 lHFCwkbQ0
投下します


923 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:55:25 lHFCwkbQ0
太陽が天高く上り切り、麗らかな日差しが地上に降り注ぐ。
周囲を川の流れた小島には海とは違うべたつきのない心地よく涼しい風が吹いていた。
その中央に聳えるのは静寂に包まれた放送局である。

頼りない蛍光灯の明かりがちらつく薄暗いロビーにカタカタカタと言う音が響く。
音は来客用ソファーの中央に座る女から。
膝を揺らして貧乏ゆすりを繰り返し、靴底が不規則にリノリウムの床を叩いていた。

その傍らに黙然と佇むのは純白の騎士。
このような場所に在ってはならない異物である。
騎士を侍らせ、佇むさまはどこぞの姫君のようもであった。
だが不安と苛立ちに滲んだ表情で爪を噛む様は姫と呼ぶにはあまりにも品性がない。

その姫君、三土梨緒は眉間にしわを寄せ、つまらなそうな顔で送られてきたメールの内容に目を通していた。
そして大きく舌を打つと、鳴り響くほど強く踵を打ち付け、その勢いのままソファーから立ち上がる。

時刻は12時を過ぎた。
梨緒が設定した大日輪月乃を待ち受ける刻限である。
秀才との合流するためにここを目指すであろう月乃を待ち伏せるという策も、定時メールによってその死を知ってしまえば成立しなくなる。
ならば、これ以上ここにいる意味はない。

一歩、踏み出そうとして、くしゃりと苛立たしげに頭を掻きむしる。
踏み出すはずの足は動かなかった。

これからどうすればいいのか。
羅針盤のない航海に放り出されるような不安感。
扉を開いた先に待ちくけるのはそんな世界だ。
何も当てはないのに焦燥ばかりがある。

だが、梨緒が扉を開くよりも早く、小さな世界の外と中を分かつ扉がゆっくりと開かれた。
その変化に梨緒は破顔して、訪れた福音を出迎えるように両手を上げた。

「ギリギリだったわね。待っていたわよ――――大日輪月乃」
「……ユキさん」

二人の少女が再会する。
月乃は険しい表情のまま梨緒を見据える。
対照的に梨緒の表情は暗い喜びに満ちていた。
互いに恋焦がれる様に再会を待ち望みながら、出会ったところで喜び合うような間柄ではない。

「そう、待っていたのは私ッ! 残念だったわねぇ!」

安堵と興奮により梨緒は高らかに笑う。
梨緒の読み通り月乃は秀才との合流を目指して放送局にやってきた。
それは紛れもない事実である。

「確かに私は出多方さんと合流するためにここに来たけど、それだけじゃないわ」

だが、月乃も定時メールには既に目を通して、秀才の死を把握している。
それでも、扉を開いたのは、別の目的があったからだ。

「私は、あなたに会いに来たの」

ここにいるとは思わなかったが。
いるかもしれないとは思った。
だから秀才の死を知っても扉を開いたのだ。

その言葉をどうとらえたのか。
梨緒はキョトンとした顔をして首をかしげると、すぐに弾けるように笑った。

「ハッハッハ! 仇討ちって訳ぇ!? バカね! 勝ち目なんてある訳ないじゃない!」

梨緒には白騎士がいる。
人間とは根本から存在理由の違う、暴力の化身。
戦うためだけに生み出された生物ですらない非生物。

コレがある限り、この場において梨緒は絶対的な強者である。
絶対的な立場と言うのは実に気持ちがいい。
梨緒をイジメていた彼女たちもこんな気持ちだったのだろうか。
彼女も、こんな気持ちだったのだろうか。

「それも違うよ」

圧倒的な暴力を前にしながら、月乃は白騎士には目もくれず、ただ真っすぐに梨緒を見ながら言った。

「私は、あなたと話をしに来たの」
「話ぃ?」

心底下らないと見下す様に、その言葉を鼻で笑う。


924 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:56:13 lHFCwkbQ0
「そうねぇ。私もあなたに聞きたいことがあったわ。けど、その前に――――白騎士ッ!」
「!?」

傍らで不動の姿勢だった白騎士へと呼びかける。
不動だった人馬一体の怪物が動き出す。

「痛めつけてやりなさい!」

主の命に従い四つの蹄が固い床を蹴って駆け出した。
入り口で佇む少女へと一瞬で間合いを詰め、横殴りに盾で殴打する。
月乃の体は放送局の壁に叩きつけられ、そのまま距離を詰めてきた白騎士の盾で押し潰すように挟まれた。

「くっ、はッ……!」

足が浮き壁に張り付けになる。
肺が圧迫され息ができない。
盾を両手で押し返そうにも、びくともしなかった。
その気になればこのまま圧殺する事だってできるだろう。

「ふふぅん」

梨緒は鼻歌交じりに盾に挟まれた月乃の下まで近寄ると、その右手に手錠をかけた。
そして2メートルほどの鎖によって繋がれた手錠の逆側を自らの腕にもかける。

「この鎖は死ぬまで外れない。これで、逃げられない」

またワープで逃げられてはたまらない。
鎖で繋がっていればワープしたところで梨緒も一緒に転送される。
これで、逃がすことはないだろう。

「それで、聞いておきたいんだけど」

殺すだけなら簡単だ。白騎士に「殺せ」と命令を下すだけでいい。
だというのにそうせず、わざわざ逃がさないよう鎖でつないだのは、その前に確認すべきことがあるからだ。

「――――私の事、誰かに話した?」

静かに問いかけるがその声には逼迫した強い圧力が籠っていた。
それを確認しておかないと彼女は立ち行かない。

だが、答えは返ってこない。
返事がない事に苛立ちを覚えるが、盾に胸元が圧迫されて喋れない状態にある事に気づき仕方なさげに白騎士を僅かに引かせる。

声を出せる程度に圧迫が緩む。
浮いていた足が地面について、堰き止められていた息を吸い込む。
月乃は僅かに咳き込むと、呼吸を落ち着けて声を出した。

「…………それを聞いて……どうするつもりなの……?」
「いいから、答えなさい!」
「うっ」

苛立ちをぶつけるように強かに床を踏みつける。
その苛立ちに呼応するように盾が押し付けられ緩んだ圧迫が再び強まった。
質問に対する回答以外は求めていない。

「……誰にも……話していないわ」

愛美という少女に全ての事情を話してしまったが、愛美に迷惑はかけられない。
そんなことをを伝えればどうなるのか、想像に難くない。

「そう……話してないけどメールは送った、なんてトンチはなしよ?」

その言葉に月乃は頷きを返す。
それを信じたのか、それともそう答えるしかない無意味な問いだと気づいたのか。
梨緒は安堵とも落胆ともとれる息を吐いた。
どちらにせよ、この後彼女のやることは変わらない。

「ならもういいわ、殺しなさい……ッ!」

白騎士が猛る。
逃さぬよう盾がより強く押し付けられ、そのまま串刺しにせんと剣が振り上げられる。
力の差は歴然。押しつぶさんとする圧力は跳ね返せるものではない。
完全に逃げ場のない状況である。


925 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:56:44 lHFCwkbQ0
呼吸もできない状況で月乃は咄嗟にアイテム欄から海神の槍を出現させる。
蒼い宝槍がその場に出現し、壁を仕えにして僅かに盾を押し返す。
無茶な圧力によって壁には穴が開き、とある名家の家宝とされる宝槍は中頃から折れた。
その代償を対価にして、僅かに白騎士の体が後方に離れる。

だが、それで稼げた時間は一瞬だけ。
戦うことを義務付けられた騎士は瞬時に体勢を立て直しすと、再び剣を振りかぶりながら距離を詰める。
その一瞬で月乃に出来る事など、精々叫ぶことくらいだろう。

出す声は悲鳴か、命乞いか。
月乃は大きく息を吸うと、透き通るようなどこまでもよく通る声で叫んだ。

「――――――ワープ!!」

瞬間、白騎士の体がその場から消えた。

「なっ…………え?」

何が起こったのかわからず混乱する梨緒。
月乃が転移したのならば、鎖でつながれた梨緒もその後を追っていただろう。
だが、消えたのはこの場で唯一鎖で繋がれていない白騎士だった。

「ゲホッ…………ゲホッ…………!!」

白騎士が消え、解放された月乃が胸元を抑えながらせき込む。
盾で圧迫されている最中、月乃は両手で押し返しながら盾にワープストーンを張り付けていた。
月乃としても狙ってやったというより、追い詰められた咄嗟のひらめきによる苦肉の策だが殊の外上手くいったようだ。

「ッ! 消したところでッ!!」

どこかに飛ばされたところでもう一度召喚しなおせばいい。
梨緒はすぐさま白騎士の再召喚を行う。
だが、なにも反応はなかった。

ワープストーンは触れているものをワープさせる便利アイテムだが、LUKによってはおかしな場所へと転送されるデメリットも存在する。
そして、プレイヤーではなく判定としてオブジェクトである白騎士にLUKなど存在せず、当然引くのは最悪のクジ。
行く先は地中か海底か、はたまた壁の中か。
どの道、ろくな事にはなっていまい。

『守って白馬の騎士様!』スキルは白騎士を作成するのではなく、あくまでも召喚スキルである。
本体である白騎士が一度破壊されてしまえばそれっきりだ。

「大ぃ日輪んん月乃ぉおおおおおおおおおおおおおおっッッ!!」

切り札を破棄された事に気づき、梨緒は歯をギリギリと鳴らして怒りを爆発させる。
白騎士と言う暴力を失い、彼女の優位性はなくなった。
これで立場は対等だ。
逃げ出そうにも鎖に繋がれていては逃げようもない。

また墓穴。
墓穴墓穴墓穴。
梨緒の人生、墓穴ばかりだ。

「……なんなんだよ、何がしてぇんだよテメェは!?」
「言ったでしょ、話し合いをしに来たの」

猛り叫ぶ梨緒とは対照的に、月乃は冷静に咳で汚れた口元を拭う。
話し合いのテーブルにつく最低限の条件は整った。

「ハッ! 話し合いだぁ? 殺し合いだろうが!」

ここで行われているのは殺し合いだ。
だからその為に梨緒はこうして頑張っているのだから。

「……本当に? 本当にあなたは殺し合いなんて、そんな事がしたいの?」

真っすぐな眼差しと共に向けられたその問いに、言葉に詰まる。

「違う、私は…………」

そんなのは決まってる。
梨緒だって殺し合いがしたい訳じゃない。
殺し合わなくてはならない状況に追い込まれて、殺し合う事で得られるものがあったからそうしているだけだ。
したいのは殺し合いじゃなくて。

「私には……生き残って、叶えたい願いが…………」

そこまで言って梨緒は吐き捨てるように笑った。
自分は何を言っているのか。
何故こんな事を、友人でもない、因縁の相手に話す必要がどこにある。

「あなたの叶えたい願いって何?」

だがそれに構わず、月乃は問いを続ける。
梨緒は訳もなく苛立ち、ギリと奥歯を噛み締めた。


926 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:57:05 lHFCwkbQ0
「それを聞いてどうしたいの?
 分かってるでしょう!? 秀才とか言う七三眼鏡を殺したのは私、アンタの兄貴だって自分のために利用してやったわ!
 そんな相手の願いなんて聞いてどうするって言うのよ!?」

あの状況だ、秀才を殺したのが梨緒だってことも分かっているだろうに。
実の兄を体よく利用したことも知っているはずなのに。
それなのに。

「私を恨んでるんでしょう?」
「うん」

「私に怒ってるんでしょう?」
「そうだね」

「だったら」
「けど、それでも、いえ、だからこそ――――私はあなたの事を知りたいの」

どうしてそうしたのか。
どうしてそうしなければならなかったのか。
その理由を知らなくては、彼女は立ち行かない。

「私の事を知りたい………………?」

唖然としたような顔で立ち尽くす。
悔し気に唇を噛むと、拳を握りわなわなと震え出した。

「…………私はユキ。栗村雪よッ!!
 私は美しい存在になるのよ!!!」

醜く顔を歪ませながら叫ぶ。
弱く醜い芋虫は強く美しい蝶に生まれ変わる。

叫びを上げながら梨緒はアイテム欄からM1500狙撃銃を取り出した。
その銃口を月乃に突きつけ、迷わず引き金を引いた。

耳を劈くような銃声。
薬莢が地面に転がる。

「ッ。ぁあ……ッ!」

痛みの声を上げたのは梨緒の方だった。
弾丸は狙いを大きく外れ、後方の壁に穴をあけた。

本来狙撃銃は反動を抑えるべく腹ばいなどの狙撃姿勢で撃つモノである。
それを素人が片手撃ちなどしようものなら、反動に振り回されるのは当然の事だ。
むしろ反動によって脱臼しなかった事が奇跡である。

取り落された狙撃銃は遠くに弾き飛ばされ、回転しながら廊下を滑っていった。
梨緒は痛む片腕を押さえながら銃を拾いに行こうとするが、そうはさせじと繋がった鎖を引っ張られ回収を阻止される。

「させない…………ッ」
「この…………ッ!」

鎖の引き合いは綱引きのように拮抗する。
梨緒は召喚スキルにGPを使用していたため本人のステータスは貧弱である。
筋力が最低ランクである梨緒では引っ張り合いでは敵わない。
拮抗しているあたり月乃も最低ランクなのだろうが、拮抗状態は引き留める側の月乃にとって都合がいい状況だ。

「……美しい存在になるって…………それがあなたの願い?」

鎖を引きながら月乃が問う。
拉致が明かぬと見限ったのか、銃を追うのを諦め、梨緒が月乃へと振り返り言った。

「ええそうよ! 何の苦労もなくただ綺麗に生まれたってだけでチヤホヤされてるようなあなたみたいな人間には、わからないでしょうね!!」

アイドルなんて自分の美貌や可愛さを商売にしている人間にはわからない。
皮肉を込めた言葉を槍の様に投げる。

「そう…………けど何となくわかった」
「分かったぁ? 何が分かったって言うのよ!?」
「そうだね。全部が分かった訳じゃないけど、あなたはユキさんって人になりたいんだね」

これまでの言動と今の表情を見て、月乃はその事情を察した。
思い返せば秀才が最初に月乃を別人のなりすましだと疑ったように、この世界では別人にもなれる。
その知識があったからこそ、この結論に辿り着いた。

「なっ…………」

何も考えていないような女だと思っていた相手に、己の心中を見抜かれたのが余程驚きだったのか。
梨緒は心底意外そうに眼を丸く見開いた。

そうだ、梨緒はユキになりたい。


927 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:57:39 lHFCwkbQ0


美しい存在になる。
雪のように。
それが私の願いだ。

誰に期待もされない。
誰にも望まれない。
誰の目にも映らない。
何者でもない空気みたいな私。

雪はそんな何者でもない私を掬ってくれた。

いつも優しかった雪。
いつも庇ってくれた雪
いつも可愛い雪。

そんなユキがイジメの主犯であることなんて、私はとっくに知っていた。

私の言葉を信じるふりをして裏で嘲笑っていたことなど最初から昔に知っていた。
イジメられっ子を救う健気で勇敢な優等生を演出するため道具として利用していたことなんて知っていた。

だからこそ憧れた。
弱者を平然と踏みつけにする強かで美しい存在に、自分もそうなりたいと憧れを抱いたのだ。

誰に期待もされない。
誰にも望まれない。
誰の目にも映らない。
何者でもない空気みたいな私。

そんな私を掬い上げて、引き立て役のいじめられっ子という役割を与くれたのだ。

雪の志望校を調べて同じ範当高校を受験した。
本来の志望校だった大日輪学園からはずいぶんとレベルの落ちる高校だったけれど、私は満足だった。
入学式で私の姿を見た雪は驚いていたけれど、それでも仲良くしてくれた。

いつも表面上は優しかった雪。
いつも自作自演のイジメから庇ってくれた雪。
そんな企みが誰にもバレていないと思っている可愛い雪。

私はこの世界で雪になる。
雪の姿を借りて、誰かを踏みつけにして輝くそんな存在に。




928 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:58:10 lHFCwkbQ0
「………………それがわかったところで何なのよ? 同情でもしてくれるって言うの?」

その願いがなんであれ、身勝手な願いで誰かを犠牲にしたことに変わりはない。
月乃にとって梨緒は大切な人を奪った仇敵だ。
どんな事情があろうとも、赦すことなど無いだろう。
少なくとも梨緒なら絶対に赦さない。

「同情はしない。けど、納得はしたよ」

誰にだって憧れはある。
その憧れが歪んだ形で発露した。
つまりは、魔が差したのだ。

何が悪いというのならこの状況が一番悪い。
だからと言ってしてきたことすべてが赦されるわけじゃないけれど。

「あなたがこれ以上、罪を重ねないと約束してくれるなら。私はあなたを赦します」

だが月乃は、月乃だけはその罪を赦した。
恨みも怒りも抱えたまま、それでも赦すと、彼女はそう言っていた。

「…………どうして」

どうして、と言う当然の疑問。
これまで梨緒は、利用して、騙して、貶めて、殺して、酷いことをしてきたから。
彼女と出会えば憎み合って罵り合って殺し合いなる物だと思っていた。
けれど、そうはならなかった。

何故なのかと言うその問いに、月乃が返したのはシンプルな答えだった。

「私がそうしたいと思ったから」

自らの心に従う。
月乃が愛美との対話により得た答え。

大日輪月乃は大日輪月乃だけは裏切れない。
兄を、秀才を思うのならばこそ、彼らの信じた月乃を裏切ることだけは許されない。
恨みながら怒りながら、それでも目の前の仇を赦す。
そんな自分の在り方に従うだけだ。

「…………何それ」

思わず言葉を失う。
赦しは安堵よりも不気味さを齎せた。
梨緒は初めて、目の前の相手に恐怖を感じた。

訳が分からない。
お花畑どころの話ではない。
ましてや聖人や聖女なのでもなく、もはやそれを通り越してイカれてる。

梨緒はユキになりたい。
弱きを踏みつけにして悪辣で美しい強者になりたい。
だけど、目の前の美しすぎて醜い、そんな偶像にはなりたいとは思えない。
そんな生き方はどう考えてもごめんだ。

はぁと息を吐く。
大きく、これまでの全てを吐き出すように。
月乃が恨みを晴らすというのなら戦わなければならないと覚悟していたが、争わないというのならこれ以上何を言うのか。

「…………もういいわ、バカバカしい」

お手上げだと両手を上げる。
そもそも白騎士を失った時点で梨緒は詰んでいる。
この場を切り抜けられたとして、先がない。
誰かに取り入るにしても安全性を保障する武力という切り札がなければ、そうするのも難しい。
ならば素直に月乃に従って、その軍門に下る方がまだマシだろう。

「分かったわ。もうしない。あなたに従うわ」

自分に従うというその言葉に、終始険しい顔していた月乃が始めて表情を崩した。

「そう、なら、まずは――――」

それは幼さすら感じさせる悪戯な笑顔で。

「――――歌を聞いて」

やっぱり月乃は争いよりも歌がいい。




929 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 01:58:52 lHFCwkbQ0
「♪〜 そうきっと、わたし達なら 〜」

灯りのないステージで歌姫は唄う。
止める間もなく歌いだした月乃に梨緒は飽きれてしまうが。
それ以上にその歌声は余りにも心地よかったから、素直に旋律に耳を傾けた。

(…………あ、この曲)

耳ざわりのよい朗らかな歌声。
アイドルに興味のない梨緒でも街中で聞いたことがある。
一人ぼっちの人込みを歩く何気ないようないつもの風景。
目を閉じると、音に結びついた日常の記憶が思い返されるようだ。

伸びやかで艶やかで美しい。
温かく満ち足りていて、どこか寂しい。
そんな歌姫の歌。

これまでずっと張り詰めていた気持ちがほぐれる様な心地よさ。
梨緒は無意識にハミングを口ずさんでいた。
この一時だけなら、心が安らぐこの心地よさに身も心も委ねてもいいかな。
何て、梨緒が思ったところで。

「…………え」

視界が赤に染まった。

二人の少女は何が起きたのかわからない呆然とした顔で向き合う。
熱い飛沫が降り注ぎ月乃の頬を濡らす。
見れば、梨緒の首から火花のように赤い飛沫が噴出していた。

二人をつないでいた手錠がカチリと音を立てて外れる。
死が二人を分かち、梨緒の体が粒子となって消えていく。

「こんにちは…………月乃さん」

薄暗い蛍光灯の光、リノリウムの床、カツンという足音。
赤い飛沫がシャワーのように降り注ぐ中、消えた梨緒の後ろから入れ替わるように現れたのは一人の少女。
気配など無かった、にも拘わらず一度認識してしまえば何故気づかなかったのかと思う程の存在感があった。

血しぶきを浴びて佇む美少女。
その少女の指の欠けた右手には、布をぐるぐる巻きにして固定されたナイフが握られていた。
余りにも現実離れした凄惨さと美しさがあるその光景に、まるで夢でも見てるような声で、その名を呼ぶ。

「涼子、ちゃん…………?」

月光芸術学園の同級生。
同じアイドル活動に励む仲間にしてライバル。
妥協を許さないストイックさを月乃は同じアイドルとして尊敬すらしていた。

だが、その姿は自分の記憶にある涼子と同一人物とは思えなかった。
その顔は同じでも、顔つきがまるで違う。
普段から厳しい表情をすることの多い少女だったが、今彼女の顔に張り付いているのは厳しさを通り越した悲痛さを湛えていた。

泥にまみれた薄汚れた姿は光り輝くアイドルからは遠くかけ離れ、常に熱く滾るような輝きに満ちていたその瞳も今は違う。
だというのに、どういう訳かこれまで以上に強く目を引く。
輝きがないのではない。その瞳は暗い光に満ちていた。

「ッ!?」

ゆらりと動いた涼子がナイフを振るう。
月乃は咄嗟に回避するが、躱しきれず僅かに腕を切り裂かれた。

だが、傷は浅い。
皮が裂かれ少々血が流れた程度のモノだ。
壁際まで逃げ延び、手を付きながら後ずさる。

放送局というアイドル二人が揃うのにおあつらえ向きの舞台。
だが、握っているのはマイクではなくナイフで、行うのは収録ではなく殺し合いだ。

「一応聞いとく。涼子ちゃん……どうしてこんなことを?」
「……別に、大した理由なんてないですよ。単なる私の我侭のためです」
「そう……やっぱりHSFのためなんだね」
「…………」

その無言が肯定していた。
不器用さは変わっていない。

この少女が偽悪的な言い方をするときは、いつも仲間のためである。
この凶行がどうHSFのためになるのかは月乃には分からないが、彼女がやるのならそうなのだろう。

ユキの事は何も知らなかった、だから知ろうとした。
しかし同じ学校に通う友人として、同じ夢を目指すアイドルとして、涼子の事は知っている。
一度決めたことを覆すような少女ではないという事を、月乃はよく知っていた。

何より、涼子は月乃の歌が響く中で梨緒に攻撃をしてきたのだ。
Aランクの歌唱スキルと言えど、強固な強い意志は覆せない。
涼子の意志はそれほどまでに固いと言う事の証左である、説得はできないだろう。


930 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 02:00:02 lHFCwkbQ0
残念だが逃げるしかない。
すぐさまそう判断して駆け出そうとした月乃だったが、その足元が唐突にグラついた。

それはナイフの刃に仕込まれていた毒の効果。
平衡感覚を失い月乃が地面に転がる。
涼子は冷たい目でそれを見下ろし、ゆっくりと近づいてゆく。

「心配しなくていいわ、月乃さんも蘇らせてあげますから」

慈悲も容赦もなく、動けなくなった月乃の心臓めがけて避けようのない一撃が振り下ろされる。
だが、そのナイフは月乃を捉えることなく、僅かに床を削った。

「なっ…………!?」

動けないはずの相手に回避されたことに涼子が僅かに戸惑う。
その隙に、月乃はすぐさま立ち上がって一目散に駆け出した。
涼子が入り口を塞ぐ立ち位置にいたから必然的に逃げ込むのは放送局の奥となる。

『逃亡禁止ルールに違反したためペナルティが課せられます。ペナルティにより『アイドル』スキルが剥奪されます』
「ハァハァハァ」

呼びもしないのに出てきた電子妖精が何やら騒いでいる。
だが、今の月乃にそんな声を聞いている余裕はない。

巨大な何か――恐らくあの白騎士だろう――が通ったのか、壁の崩れたボロボロの廊下を走る。
窓でもあればそこから逃げ出すつもりだったが、防音性を保つためかそれらしい物はない。
後ろからは彼女を追う足音が響いている。

『逃亡禁止ルールに違反したためペナルティが課せられます。ペナルティにより『歌唱』スキルが剥奪されます』
「ハァハァハァ」

毒は正義に譲ってもらった万能薬のおかげで無効化できた。
だが、止血はままならず腕から滴り落ちる血液が地面に点々と跡を残した。
放送局の廊下殆ど一本道に近い、跡が残ったところで支障はないのは幸運なのか不幸なのか。

足音が近づく、AGIの違いか、恐らく向こうの方が足が速い。
追いつかれるのは時間の問題だろう。

『3度目の警告となります。これ以上の違反行為を続けられますとアカウントが強制的に消滅します。今すぐに停止して戦闘行為を続行して下さい』

月乃の足が止まる。
それは警告に従ったからではない。
廊下が途切れ、行き止まりに突き当たったのだ。
最奥にある一室、入り口の上にあるプレートにはこう書かれていた。
――――放送室と。

「追いつい、ったッ!」

足の止まった月乃に向けて、追いついてきた涼子がその勢いのままナイフを振るった。
咄嗟に月乃は転がるようにして扉の破壊された入り口に飛び込む。

放送室。
歌を届けるという本来の目的を達するために必要な施設に、期せずして彼女は辿り着いたのだった。

月乃は血に濡れた手で中央にあるコンソールに手をついて立ち上がる。
首を振って放送室を見渡せど、やはり窓はなくここから逃げることはできそうにない。
入り口は扉が破壊されているため籠城することもできない。

「逃げ場は、ないようですね」

僅かに息を切らした涼子が入り口を潜る。
狭い室内に逃げ場などない。
いよいよもって追い詰められた。

互いに荒い息のまま睨み合う。
涼子は間合いを図るようにして僅かににじり寄り。
月乃は視線を涼子から外さぬまま、コンソールに血の滴る手を添えその場を動かなかった。

「ふぅ」

僅かに深い息。
固めた右腕に左腕を添え、意を決したように涼子が地面を蹴った。

繰り出される刺突。
月乃は大きく飛び退くようにして身を躱した。
だが、避けきれず僅かに腹部を切り裂かれる。
コンソールに引きずったような赤い跡が引かれた。

「ぐっ……!」

飛び退いた勢いで背中から壁に衝突する。
その衝撃で息を吐いた。

また毒の刃を喰らってしまった。
もう解毒ができる万能薬はない。
毒が廻った足元を支えきれず、壁に背を引きずるようにしてその場に尻もちを付く。

「ここまでです」

立ち上がることもできず、動けなくなった月乃に向かって涼子はナイフの先端を突き付ける。


931 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 02:00:54 lHFCwkbQ0
抗うか、戦うか、諦めるか。
もはや月乃に取れる選択肢など殆どない。
この追い詰められた状況で、月乃が選んだのは。

「♪…………そう、きっと……わたし達なら〜……」

歌を、歌った。

「………………何を」

気でも狂ったのか。
そんなことに意味などないとでも言うように、涼子は冷たい視線を送った。

戦場において歌に力などない。
歌ったところで何も変わらない。
歌で敵は倒せないし、歌で戦いは終わらない。

「♪……一緒に手を取り合って、行ける〜……」

戦場ではアイドルは無力だ。
戦うにはマイクを捨てて刃を手にするしかない。
壁にもたれかかりながら歌う月乃に向かって、涼子は静かにナイフを振り上げた。

「♪……悲しみも、憎しみも全て乗り越えて、輝かしい明日へ〜……」

歌唱スキルはペナルティにより失われている。
諍いを止める効果などなく、その歌は響かない。
故に涼子がこのナイフを止める理由などどこにもない。

「♪……どうか、嘆かないで、傷付かないで〜……」
「どうして…………」

なのにどうして、涼子は振り上げた手を降ろすことができずにいるのか。
振り上げた腕が震える。
捨てたはずの自分の中の大事なモノが見つかってしまったような気恥しさ。
何故か胸の奥で涙が出るような焦燥感に駆られる。

「♪……忘れ、ないで、愛、を〜……」
「もういい、黙って…………月乃さん」

ヴァーチャルがどうした、ゲームがどうした、スキルがどうした。
月乃は元より世界を魅了した歌姫なのだ。
そんな余計なものは無くとも、その歌声が心に響かぬはずがない。
だからこそ、その声は涼子を揺さぶる。

「♪……あなたは……一人じゃない……から」
「黙りなさい!」

だが、それでも歌声は届かない。
刃が胸元に振り下ろされ、その歌声は強制的に中断された。
振り下ろされる暴力の前に、歌声は無力だ。
歌声は途切れ、歌姫の体は光り輝く粒子へと還る。

『おめでとうございます! 勇者を3名』
「…………あとにして」

現れた電子妖精をキャンセルしてその場にへたり込む。
息を荒くした涼子はナイフを振り下ろした体制のまましばらく固まっていた。

わざわざナイフを振り下ろさずとも、あのまま毒によって死んでいたかもしれない。
それでも振り下ろさずにはいられなかった。
振り下ろさなければならなかった。
そうしなければ、決定的な何に敗北してしまいそうだった。

アイドルとして歌い続けた彼女とアイドルを捨てた自分。
それを認めてしまえば戦えなくなる。
戦い続けるためには、こうするしかなかった。

涼子は掻き毟るように自らの胸を掴んだ。
敗北しないためにナイフを振り下ろしたはずなのに、その胸の中には敗北感のようなものが沈殿していた。
だが、それでも走り続けなければならない。
そこにたどり着くまでは、涼子は止まることなど許されないのだ。

たとえ自分の夢(アイドル)を犠牲にしても、彼女には救いたいモノがあるのだから。

[三土 梨緒(ユキ) GAME OVER]
[大日輪 月乃 GAME OVER]

[F-7/放送局/1日目・日中]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱、鼻骨骨折、右手五指欠損
[アイテム]:ポイズンエッジ(E)、海王の指輪(E)、隠者の指輪(E)、煙幕玉×3、不明支給品×6
[GP]:0pt→60pt(勇者殺害+30pt×2)
[プロセス]
基本行動方針:優勝してHSFのメンバーを復活させる
※第一回、第二回定期メールを確認しました。
※強者ボーナス未選択状態です。
※ロビーに三土梨緒のアイテムが放置されてます。

【愛憎の鎖】
呪いの鎖手錠。どちらかが死亡するまで決して外れず、また何があっても離れることはない。
互いと繋ぐ鎖は2メートルほどの長さで、2人に装備された時点で物理破壊不可能な強度となる。
憎いアイツとのデスマッチに使ってよし、愛しいあの子と繋がってもよしの優れもの。


932 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 02:01:20 lHFCwkbQ0
美空善子は打ちのめされていた。
意識を取り戻した時には全てが失われていた。

体の傷はいい。
痛みはあるが動けないほどではない。
この程度の傷など、アイドル活動を始める前では日常茶飯事だった。

それよりも彼女を打ちのめしたのは精神面。
なすすべもなくアイナが殺された。
何も出来なかった。守護れなかった。
10年以上鍛え上げた拳など何一つ通用しなかった。

バーチャル世界の仮の身だから、などと言う言い訳は通用しない。
アイドル活動にうつつを抜かしたから練度が足りなかったなどという言う次元の話でもない。

生物としての格が違う。
人間がどれだけ鍛え上げようとも熊や虎には勝てない様に、何をしようと恐らくあれには敵うまい。
積み上げてきた鍛錬がすべて否定されてような感覚。
残酷なまでの事実として突き付けられる。あれには武では勝てないという事実。

そして追撃のように彼女を打ちのめしたのは師匠である我道の死だった。
終りを知らせるメールを見て、それを知った

善子にとって我道は幼いころから知る兄の様な存在だった。
人間的にはまったく尊敬できないダメ親父だったが、武人としてはこれ以上ない尊敬の対象だった。

これまでなら殺しても死なないようなあの男が死んだなどとても信じられなかっただろう
だが、今なら。あのような怪物に打ちのめされた今なら、信じられる。
あれほどの強者であろうと死ぬのだと、自分でも驚くほどすんなりと信じられてしまった。

アイドル美空ひかりとしても。
武道家美空善子としても。

全てが奪われた。
全てが踏みにじられた。

彼女にはもう何も残っていない。
誇れるものなど何も。

当てもなく幽霊の様に彷徨う。
どう立て直せばいい。

バラバラに砕け散った自信や矜持を、だれか元に戻してくれるというのか。
立て直してくれる人などどこにも――――。

「月乃…………?」

彷徨う善子の耳にどこからともなく美しい旋律が聞こえてきた。
それが彼女のよく知る歌姫の声だと、善子はすぐに気が付いた。

間違えるはずがない。
いつも聞いていた、大切な友達の声なのだから。

まるで天上から響くような歌声。
どこから聞こえてくるのか。
周囲を見渡せど、声の方向すらつかめない。

善子は音源探しを諦め、その歌声に耳を傾けた。
掠れる声を振り絞るような歌声に、いつもの輝く宝石の様な美しさはない。
だが、その歌声の中には魂が籠った煮えたぎるような熱さがあった。
全てを慈しむ母のような優しさがあった。
その情熱がどうしようもなく心に響く。

それは放送局の機能を使った月乃の歌声。
善子がいる場所を狙ったわけではない。
月乃の所持ポイントで届けられるのはたった3エリアだけだった。
その中で、ただ誰かに届けばいいと人が居そうな中央付近を選んだだけだ。
そこに善子がいたのは偶然か、あるいは運命か。

だが、その歌声もすぐに途切れる。
何者かに途切れさせられたのだ。

気付けば善子の目から涙が零れていた。
それは友の末路を想ってのものではない。
いつまでも、最期まで彼女で在り続けた親友の強さに胸を打たれたのだ。

善子は立ち上がる。
親友にしてライバル。
そんな彼女の頑張りに、負けてはいられない。

歌声は届く。

偶然でも、運命でも、奇跡でもいい。
確かに伝えたい誰かに届いたのだ。

[E-4/草原/1日目・日中]
[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:左肋骨にヒビ、疲労(中)
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.月乃…………
※『アイドルフィクサー』所持者を攻撃したことにより、アイドルの資格と『アイドル』スキルを失いました。GPなどで取り戻せるかは不明です。
※E-4、E-5、F-5に歌姫の歌声が響きました。


933 : 歌声は届く ◆H3bky6/SCY :2021/07/23(金) 02:01:53 lHFCwkbQ0
投下終了です


934 : 名無しさん :2021/07/23(金) 22:03:11 AKDSb8tU0
投下乙です
序盤の秀才との会話が梨緒の正体を見抜くのに繋がってるの好き
最期までアイドルであることを貫き通した月乃の歌が親友の善子を立ち直らせるのは熱い
何気にシャの追加ルールがすごく凶悪


935 : ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:39:14 3c/Y8x3.0
投下します


936 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:43:29 3c/Y8x3.0
教祖の朝は早い。

朝日と共に起床する。
起床して最初に行うのは日課である朝の祈りだ。
これは神との交信ではなく、日々の感謝と幸福を願う純粋な祈りである。
半刻程の祈りを済ませた後は、備え付けの台所で朝食の準備を始める。

本日の朝食はサラダと豆のスープ。
質素な食事だが、毎日喰うに困らなくなっただけでも自分には贅沢すぎる。

石造りの自室は夏は暑く冬は寒い。
けれど温かい毛布はあるし、ガラス窓にはヒビ一つない。
暮らしをするには十分な環境である。

朝食を終えると、隣室の簡素な浴場に向かう。
そこで冷水で身を清めると、祭服に着替えると離れの自室から回廊を渡って神殿へと向かう。

自室と違い、神を祀る神殿は絢爛なものにした。
神殿は神の威光を示す物。
どれだけ豪勢を極めても足りない程である。

「おはようございます」
『おはようございます、教祖様』

教団に仕える巫女たちに声をかける。
気持ちの良い挨拶が返った。

「本日は神送の儀式があります、準備は整ってますか?」
「はい、滞りなく」

今日は選ばれた信徒が神の世界に導かれる選定の日である。
決まった周期はなく、月に1、2回の頻度で神託により日程が決定される。
贄の選定は神託の巫女であるイコンに一任されていた。

神の要求は日によって異なる。
若い女を要求する事もあれば、屈強な男を求める事もある、あるいは枯れた老人なんて要求もまれにあった。
心美しい穢れを知らぬ善人やあらゆる悪行を行った悪人なんて要求すらある。
神の御心は気まぐれにも見えるが、恐らくイコンに測れぬ程深いのだろう。

そして本日の注文は幼い子供だった。
一室に集められた10余名の年端もいかぬ子供たち。
幼すぎる彼らは状況を完全に理解していないのか戸惑うようにざわついていた。

「きょうそさま」

その中の一人の少年がイコンへと声をかけた。

「どうしました?」
「ぼくたちしんじゃうの?」

不安そうな声。
イコンはにこりと笑って、その不安を拭うように優しく頭を撫でる。


937 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:44:14 3c/Y8x3.0
「いいえ、死ぬのではありません。あなた達は神の国へ導かれ、救われるのです。
 恐れる事はありません。それは大変、名誉で幸福なことなのですよ」

子供たちは不思議そうに顔を見合わせる。
幼い彼らはよく分かっていないようだった。
別の少女が声を上げる。

「けど、おかーさんやおとーさんと、おわかれしないといけないんでしょ?」
「安心なさい。あなたの家族が真摯に祈りを捧げ生きる真の信徒であるならば、いずれ楽園で会えるでしょう。
 あなた達は少しだけはやく楽園に向かうだけなのです」

いずれ出会う約束の地。
家族も幸福も。
そこには全てがある。

「けど…………」

だが、まだ戸惑いがあるのか。
一人の少年が躊躇いがちに声を上げた。

「まだ、ちょっとだけこわい」
「ならば祈るのです。祈れば恐怖は無くなります」

そう言ってイコンが祈ると、それを真似るように子供たちも祈った。

「神様、神様。どうか我らを導き下さい」
『かみさま、かみさま、どうかわれらをおみちびきください』
「神様、神様。どうか我らをお助け下さい」
『かみさま、かみさま、どうかわれらをおたすけください』

彼らなりの真摯な祈りを見届け、イコンは満足そうに笑うと子供たちを送り出す。
カーテンに遮られたその先にあったのは祭壇だった。
階下では、祭壇を見上げる多くの信徒たち。
その中には子供たちの両親もいるのだろう。

聖火の灯った台座に四方を囲まれた祭壇の中心に子供たちは置かれる。
イコンは儀式を取り仕切る巫女として、階下の信徒たちへと声を上げた。

「敬虔なる信徒たちよ! 彼らが今宵、神の国に送られる幸福なモノたちである。
 あなた達も日々研鑽を怠らず自らを高め、魂を磨き上げるのです。さすればいずれ神のお導きがあるでしょう」

お決まりとなった儀式の口上を述べる。
階下にいる信徒たちも倣うように一同が両手を合わせて祈りをささげる。
全員が一糸乱れず同じ動作を行うその様は、一つの生き物のようだった。

「さぁ、救済の時間です。神に祈りを捧げなさい、私たちは救われるのです」

神の供物となった子供たちが消えて行く。
神の国、天上楽土へ導かれたのだ。

幸福であれ。

そう願いながら。
いずれ私もと、祈るのだ。




938 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:45:08 3c/Y8x3.0
灯台を臨む岬に海風が吹き付ける。
岬に繰り返し打ち付けられる強い波がうるさいまでの潮騒を響かせた。
降り注ぐ日差しの温かさ、少しだけべたついた風の匂い。
その全てがとても仮想世界とは思えない実感を伴って世界を満たす。

バーチャル世界『New Wolrd』。
夜に始まったゲームは朝と昼、二つの契機を超え、いよいよ佳境へと差し掛かろうとしていた。
巻かれた運命の種は各地で芽吹く頃合いだろう。
そしてここでもまた小さな種が一つ。

昼の灯台を誘蛾灯にするようにして誘われたのは一人の男と一人の女。
同じ世界を出自とする二人は最南東に導かれ、遠方に互いの姿を認め足を止める。
辛うじて互いの声が届く距離。
ステージの様な僅かに小高い丘を挟み、赤と黒の瞳が交差した。

同じ世界の住民と言っても、生きた時代の違う二人だ、直接的な面識はない。
だが、互いが何者であるのかなど名乗るまでもなく理解できた。

「愛美ではないな。お前はイコンだな」

潮騒や風音の中でも不思議と通る威厳を含んだ低い声が響く。
見紛うはずもない自分を殺した宿敵の顔。
だが、それとは違う。
あの神の如き女とは違い、目の前の相手は人の範疇である。

「ええ。直接お会いするのは初めてですね、
 改めて名乗りましょう私はイコン教団の教祖イコン。初めまして神に敗れし魔王カルザカルマ」

挑発的な笑みを浮かべながら、礼儀正しく首を垂れる。
その顔を見ながら魔王は不快そうに眉根を寄せた。

「その顔。まったく嫌になる程似ているな」

自らを殺した存在と同じ顔が目の前にある。
別人であると理解しても不快感は募るばかりだ。

「そうでしょう。我が相貌は神の威光と教えを広めるため、神より賜りし恩寵その物なのですから」

狂信者は誇らしげに謳うように語る。
この顔は神によって取り替えられた賜りもの。
神の声を聞いた翌朝、イコンの顔は変貌していた。
これをイコンは神の奇跡だと信じて疑わなかった。

己が容姿すら奪われ偶像となる。
その狂信を、魔王は心底下らないと鼻で笑った。

「ふん。その境遇を嘆くのではなく喜んでいるのだから救いようがないな」

もはや愚かを通り越して哀れだと、静かに首を振った。
だが、魔王の哀れみなど神の現身に届くことはない。
真っ直ぐな瞳のまま祈るように手を合わせる。

「いいえ、我らは救われるのです、他ならぬ神によって」
「神は人を救わぬさ。ただ悪辣な試練を与えるのみだ。
 逆説的に人を救うのならばそれは神ではない、別の悍ましい何かだろうよ」

魔王は彼女の神を否定する。
だがその言い分を教祖はハッと笑って吐き捨てる。

「下らない。過去の在り方にどれほどの価値がありましょう。
 我らが神は新しい神なのです。既存の価値観を覆すのは当然のこと。
 これだから価値観を更新できない老害は困ります」

未来を生きる少女からすればその価値観は古い。
彼女の神はそう言った物を超越した最新の救世主である。

「モノの道理も分からぬ小娘がよく吠える。いや、盲目であるからこそか。
 盲いたまま誰を導き、どこに向かうと言うのか。お前たちはどこにも行けない」

魔界を束ねる魔王は宗教という一大組織の教祖を否定する。

「行けますとも、私は楽園に行くのです」

言論は噛み合わず、どこまで行っても平行線。
魔族の王と神の使いは分かり合えない。
そんな事は既に分かり切っていた事だ。


939 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:45:50 3c/Y8x3.0
「話にならんな。いいだろう。神ではなくこの魔王が導いてやる、貴様が行くのは地獄だ」
「やる気になっている所申し訳ないのですが、生憎あなたとは戦うなと、神にそう忠告されてますので」

イコンは視線を魔王に置いたまま、僅かに後ずさる。
通話越しとはいえ天罰の餌食となったマヌケだ。
神が警戒する程の脅威とは思えなかったが、イコンは神の忠告を無視するような不信心者ではない。
ここは素直に引き下がる事とした。

「逃がすと思うのか?」
「思いますとも。あなたは私に攻撃できない」

能力を知っているからこその抑止力だ。
神罰がある限り魔王は神の使いを攻撃できない。
イコンは慌てることなく悠々とこの場を立ち去ればいい。

「そうだな。ならば、攻撃でなければどうだ?」

言って、魔王は指先に挟まれた1枚のカードを突き出した。
それは自身が一度受けたスキル効果を一度だけ”そのまま再現”するアイテムカード。

「コール。スキル再現」

その宣言にイコンは瞬時に『神罰』が再現されることを警戒した。
だが、その警戒は杞憂に終わる。
発動したのは『神罰』ではなく。

「――――――『強奪』」

カードが燃えるように輝きながら消滅した。
盗賊ギール・グロウより受けた『強奪』のスキルが再現される。
燃え尽きたカードの代わりに、魔王の手元には一つの機械が握られていた。

「成功、のようだな」

その呟きは『強奪』スキルの成功についてではない。
『強奪』スキルを行ったにも拘らず『神罰』が下らなかったことに対してのものだ。

再現したのが直接的に相手を害する『神罰』であれば『神罰』が返っていただろう。
だが、『強奪』スキルでは発動しなかった。

危害の違いではない。
それならば舌戦では発動しないはずだ。
その違いは何か。

それは行った行動(コマンド)の違い。
発動のトリガーを、より具体的に言うならば。

「カウンター発動条件は、『貴様』に対して『攻撃』を『選択』した場合、だな?」

攻撃の内容すら問わない幅の広さだが、攻撃でなければ問題はない。
条件は判明した、だがイコンはそれどころではない。
慌てた様子で何を失ったのかを確認すると、その目が大きく見開かれた。
そして噛みつくように吠える。

「ッ。か、返せッ! それを返せ!!」
「ほぅ。ちょっとした確認のつもりだったが、どうやら当たりを引いたようだな」

魔王が手元のアイテムを確認する。
それは何やら画面に光が点滅する機械だった。
魔王にとっては未知の道具だが、この世界は便利な物で、アイテムの詳細欄を見れば簡単な概要はくらいは理解できる。
詳しい使い方はシェリンに聞けばいい。

「なるほどな、『発信機』とやらを持つ者の現在地を示す道具か。
 その慌てた反応からして、ここに示されているのは、」
「黙れッッ!!」

その先を言わすまいと大声を張り上げる。
だが、言葉を途切れさせたところで事実が否定できるわけではない。


940 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:46:40 3c/Y8x3.0
失態だ。
知れてしまった、神の所在が。
よりにもよって神の命を狙う魔王を導くなど失態どころの話ではない。

「それを返してもらうぞぉッ、カルザカルマァ!!」

後ろに下げた足を前に踏み出す。
それは神のために踏み出した一歩であり、初めて彼女が神の神託に背いた一歩だった。
取り返さねば。何としても取り返さねばならない。

「来るか狂信者。だが身の程を弁えよ。貴様如きでは我の敵にすらならぬと知れ」

魔界の王は揺るぎなく。
冷徹な絶対強者の風格で受けて立つ。

それを前にしても狂信者は怯まなかった。
彼女の両足を支えるのは信仰と確信である。

「何を戯言を。敵ではないのは貴方の方だ。天罰がある以上、貴方は私に攻撃できない」

強奪が成功しようと、条件が割れようと、その事実になんら変わりはない。
むしろイコンを引き留めたのは自ら首を絞めたと言える。
魔王は何食わぬ顔でふむと頷く。

「確かに我は貴様には攻撃できぬ」

言いながら、魔王は片腕を天に掲げた。
その掌に巨大な炎が渦を巻く。
この世界において魔法を放つのに詠唱し術式を組み立てるなどという過程は必要がない。
具体的なイメージさえあれば、選択するのみで発動する。

だが、どうする。
この業火をイコンに放てば神罰が下る。
それが分からぬ魔王ではあるまい。

「貴様には、な」

言って、練り上げた上級爆炎魔法を叩きつけた。
咄嗟に両手で身を守るも、飛び散った炎がイコンの身を焼く。

「……ッ!?」

まさかカウンターによるダメージ覚悟の自爆戦法か。
そう驚きながら攻撃してきた魔王を見つめる。
だが、魔王は健在。『神罰』が下った様子もない。

「分からぬ、と言う顔だな」

戦っているとは思えない程興味なさげな態度で、魔王はイコンではなく魔法を放った自らの手の平を見つめる。

「貴様のカウンター能力の条件は先ほども言った通り、『貴様』に対して『攻撃』を『選択』することだ。
 逆に言えば、その条件をすべて満たさなければ発動はしない。
 だから我は貴様ではなく、この地面を攻撃した。これはその攻撃に貴様が勝手に巻き込まれただけの話である」

魔法が叩き付けられたのは魔王とイコンの中間あたりの地面だった。
イコンに襲い掛かったのは周囲に飛び散った炎でしかない。

「これより我は、貴様を眼中にも置かぬ。言ったであろう貴様は我の敵ですらないと」

直接攻撃ではなく範囲攻撃で巻き込む。
イコンの能力は魔王にとってそれだけで攻略可能な障害に過ぎない。
視線すら向けず、独り言のように残酷な宣告を行う。

「適当に巻き込まれて、適当に死ね」




941 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:47:51 3c/Y8x3.0
灯台を臨む岬はあらゆる魔法が飛び交う戦場となっていた。
魔法師団もかくやという魔法の嵐を生み出しているのは、たった一人の魔族である。

魔法を司る王の両手から幾つもの閃光が弾ける。
次々と飛び交う魔法は手当たり次第で節操がない。

轟く雷鳴。雨の様に雷が落ちる。
地面は針山のように隆起し地形その物を変化させていた。
地表の一部は凍り付き、棘のような氷が突き立っている。
またある一部では高温で融解した地面が泡のように沸き立っていた。
熱と冷気が入り混じって吹き荒れる暴風は金切声の様な絶叫を上げながら、全てを切り裂く風の刃となる。
色とりどりの魔法力はプリズムの様に反射し空に虹の様な美しい紋様を映し出してた。

もはやこの世の物とは思えぬ光景だった。
その渦中にいるイコンは、まだ自分が生きているのが不思議で仕方がなかった。
これ程の地獄の中で生きているのは実力ではなく、完全な運でしかない事を理解しいていたからだ。

魔王の手から上空に向かって放たれた光の矢が空中で拡散した。
光の槍となって雨のように降り注ぎ地面に多くの沢山のクレーターを作る。
一条の光がイコンの肩を掠めた。

「…………くっ!?」

生き延びられている理由は敵の狙いの散漫さ故である。
直撃することはないためダメージも少ない。
本当に明後日の方向に放たれることもある。

だが、あまりにも多く、あまりにも広範囲すぎる。
僅かに掠める魔法のよって生命力が。
安全地帯を模索して駆けまわることで体力が。
いつ直撃するとも知れぬ恐怖で気力が。
直撃はせずとも、時間と共に削られてゆく。

爆心地たる魔王を見る。
宣言通り魔王はイコンに視線すら向けていない。
それどころか、完全に両目を閉じてすらいた。
意図的に、逃げ惑うネズミの気配すらを感じていないだろう。

だが、これは絶好の機会でもあった。
魔王は攻撃のために防御を完全に捨てている状態だ。
それを前提とした策なのだろうが、その態度はイコンを完全に嘗めている。

攻撃をするのは自分だけだと言わんばかりの魔王の背は隙だらけだ。
恐らく背後に回られたことすら気づいていまい。
これ程隙だらけの相手なら、イコンであろうと仕留められるだろう。

問題は一つ。
イコンの持つ直接攻撃できるような武器は七支刀だけだった。
近接武器で攻撃するには、当然ながら近づく必要がある。
それはつまり、ありとあらゆる破壊が渦巻く地獄の爆心地に飛び込んでいく必要があると言う事。

取り出した七支刀を握り締める。
彼女は戦士ではない。
破壊の渦を縫って駆け抜ける技量などない。
それでも、まともな生存圏など無い道を迷わず駆け抜ける、その勇気があるか。

彼女は神の神託を聞き届ける巫女である。
彼女の心には決して揺るがぬ信仰があった。
信仰は生きる糧となり、前に踏み出す勇気をくれる。

迷いはいらない。
躊躇えばそれこそ死だ。
振り切るようにして目を閉じてイコンは駆けだした。

イコンにできるのは祈る事だけである。
どこを走ろうが同じならば、最短距離を一直線に駆ける。

目を閉じて明後日の方向に攻撃を放ち続けるその背を、目を閉じた襲撃者が狙う。
それは傍から見ればさぞ異様な光景であっただろう。

幾重もの風の刃が身を掠める。
氷塊が背後に落ちた音がした。
目の前を灼熱の炎が通りすぎた熱を感じる。

その地獄の道のりを不意打ちに気付かれぬよう、歯を食いしばり声を出さずに駆け抜ける。
痛みがある、恐怖がある、躊躇いがある、それら全てを信仰心でねじ伏せる。


942 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:48:45 3c/Y8x3.0
それは信仰の賜物か。
イコンは五体満足のまま辿り着いた。

七支刀を振りかぶりイコンが目を見開く。
眼前には無防備な敵の背中。
トドメとなる最後の一歩を踏み込んだ所で。

その足元が爆発した。

「ネズミが掛かったか」

その爆発音に魔王が振り向き、閉じていた目を片方だけ開く。
魔王は自らの周囲に、地雷の様に罠魔法を仕込んでいた。
敵の踏み込みをトリガーにするこれもまた『天罰』の発動条件外の攻撃である。

「我に手の内を見せたのが間違いだったな」

電話越しとはいえ、魔王に己が手の内を晒す意味。
イコンはそれを理解していなかった。

いや、理解はしていたが、見誤っていた。
魔王など、彼女からすれば神に敗れた敗北者。
軽蔑はすれど警戒をするに値しない存在だった。

だが、イコンの生きる時代は勇者によって平定された時代だ。
たとえそれがディストピアめいたものであったとしても、秩序の保たれた世界に生きた女である。
立場上命の危機に晒されることも少なくはなかったが、それも小競り合い程度の戦闘しか経験したことがなかった。

それに対して、魔王が生きたのは戦乱の時代。
十を超える大戦を超え、魔界を平定した百戦錬磨の戦闘巧者である。

魔王の名は伊達ではない。
彼我には戦闘経験には天と地ほどの差があった。
敵の手の内が知れれば対応策など、それこそ五万と考えられる。

「確かに……あなたにコールをしたのは失敗でした」

トラップを踏んだ右足は動かない。
だが、今はそれが功を奏した。
すぐ攻撃されないのは下手に動かないからこそである。

トラップに引っかかった時点で魔王はイコンを認識した。
動かないでいる限り、天罰を意識してすぐには攻撃ができない。

だが、それもこの一時の事だろう。
この魔王の事だ、すぐさまルール外の攻撃を仕掛けてくるだろう。
魔王がゆっくりと動けないイコンへと近づく。

直接攻撃による奇襲は失敗した。
魔王相手に手の内を見せたのも悪手だった。
侮っていたのも認めよう。

「ですが…………」

まだ、全てを見せた訳ではない。
切り札を出したとしても、まだ奥の手がある。

「近づいたぞ――――魔王ッ!!」

カッとイコンが目を見開く。
イコンが持つもう一つのスキル『アイドル(古代)』。
近づきさえすれば、範囲内の対象に熱狂状態を付与できる。
スキル効果の有効圏内。

だが、魔王に状態異常は通らない。

それは魔王の支配する時代に生きる者であれば誰だって知っている常識である。
故に、魔王に状態異常を与えようとするなど戦術として成立しない。

イコンは魔王の存在しない時代に生きた存在だからこそ、その常識を知らない。
加えて、他ならぬ天罰により魔王の状態異常耐性は下げられている。

アイドルに魅せられ魔王の目の色が変わる。
魔族特有の金と赤の瞳から正気の色が消え失せ、狂気を帯びた炎が灯る。
無知と偶然によりこの戦術は成立した。

灯る狂気と情熱の炎。
その炎が、向けられる先は。

「イコン――――我が愛しの君よ」

魔族の頂点たる魔王が、最大限の敬意を払うようにその場に跪いた。
勝った。
イコンは内心で勝利を確信する。


943 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:50:30 3c/Y8x3.0
神に感謝を、幸運に祈りを。
魔王はイコンに従う信徒となった。
勇気でも技術でもなく、これは神を信じ駆けだした信仰の勝利である。

慌てる必要のなくなったイコンはゆっくりと七支刀を杖代わりにして立ち上がった。
自らに傅く巨体を見下ろす。
見下ろすと言っても魔王の座高とイコンの身長は大差がないのでほぼ水平ではあったのだが。
ひとまず自らに従う木偶となった魔王の処遇を考えねばならない。

贄として神の下に連れて行くか。
いや、まかりなりにも神の命を狙う魔王である。
万が一と言う事もある、それは危険だろう。
神の御身を危険に晒す可能性のある行為は避けるべきだ。

つまらない欲は出さず、自害を命じるなりしてここで始末しておくべきだろう。
イコンはそう決断を下す。
だが、その前に。

「周囲の罠魔法を解除し私の足を治しなさい」

この足では行動に支障をきたしてしまう。
まずは治療を行わせる。
魔法を自在に操る魔王なのだから、回復魔法も思うがままだろう。
だが、魔王は俯いたまま動かなかった。

「…………どうしました?」

促された魔王はゆっくりと面を上げる。
地面にポトリと何かが落ちた。
その目には、一筋の涙が。

「え?」
「許せよ。我が君」

魔王の腕に魔法の輝きが灯り、躊躇いなく振り落とされた。
それは癒しの力などではなく、全身を焼く炎だった。

「ぁあ…………ッ!!」
「くっ!」

上がった悲鳴は二つ。
身を焼かれたイコンと、『天罰』によるカウンターダメージに苦しむ魔王の物だ。
あれほど封じていた直接攻撃を今になって何故。
それ以前に、信仰を持ったはずのイコンに対して攻撃を行うなどあってはならないことだ。

イコンの誤りは信仰を絶対であると考えた事。
信仰している相手を殺せないと自らの尺度に当てはめてしまった事である。

愛の形は千差万別。
愛しているから守りたいという価値観もあれば、愛しているから殺していなんて事もある。
むろん魔王はそんな気質ではないけれど、愛していようが殺す男ではあった。

怠惰にして同胞を庇護する慈悲深く情深い魔王。
だが、敵であれば殺す。
そこに好悪など関係がない。
その価値観を当たり前の常識として持っている。

このガルザカルマが魔界を統一するために、何度同胞を殺してきたと思っている。
それは恨みで戦ったのではない。
むしろ敬い尊敬していた相手達だった。

それでも殺した。
殺す必要があったから。
そうしなければ魔界に秩序を齎せなかったからだ。
それが魔王カルザ・カルマという男の生きざまである。

「我が愛する君よ。苦しまぬよう一思いに殺してやる」

涙を流しながら、愛しき人を手にかける。
『熱狂』状態となった者は彼女のために命を懸ける事も厭わない。
その効果が齎したのは、自らが傷ついても殺すという覚悟だった。
これらが合わさり、魔王は自傷を厭わぬ直接攻撃に踏み切った。


944 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:53:58 3c/Y8x3.0
「くっ…………」

動かない足を引きずってイコンは後ずさる。
神の言葉は正しかったと今になって理解できた。
魔王にはイコンでは敵わない。

いや、神はいつだって正しい。
それに背いたイコンが間違いだったのだ。

逃げるしかない。
受信機を取り返せないのは業腹だが、勝ち目のないこの状況ではどうしようもない。
無駄死にするよりは一度引いて次のチャンスを待つべきだ。
この足で逃げ切れるかは怪しいが、それなら一か八か崖から海に飛び降りてでも逃げ延びてみせる。
そう考え、一歩引いたところで。

『逃亡禁止ルールに違反したためペナルティが課せられます。ペナルティにより『アイドル(古代)』スキルが剥奪されます』

「な――――――?」

電子妖精の宣告。
同時に、元凶となったスキルが立ち消え、魔王の目から狂気の色が立ち消える。
熱狂から醒めた魔王は冷静に更新されたヘルプページを確認した。

「ふむ。どうやら、今しがた逃亡禁止ルールが追加されたようだ。残念だったな」

魔王からは逃げられない。
そんなルールがこのタイミングで追加されていた。

「いや、しかし――――やるではないか、イコン」

魔王は片手で自らの顔を負おうと、クツクツと笑った。
笑みと共に発せられたその声には、してやられた相手への敬意と、どうしようもないほどの敵意が含まれていた。
陣野愛美に至るために払うべき露としか認識していなかった相手を、敵と認めたのだ。

「――――――――ぁっ」

重圧を持った魔王の視線がイコンを射貫く。
イコンは動けない。
なにせ、逃げればスキルが失われる。

『神罰』スキルが失われれば、それこそ終わりだ。
直接攻撃を受けないための抑止力でありイコンの生命線である。

かと言って、進めば罠に引っかかる。
もう信仰がどうこうの次元の話ではなくなっていた。
どこにあるのか分からない地雷原を突き進むことなどできるはずもない。

進むことも戻ることもできない。
ただイコンは立ち尽くし、魔王の沙汰を待つばかり。
その心中に渦巻くのはただ一つの想い。

死にたくない。

神と一つになる
天上への道が見えているのに。
その先にみんなが待っているのに。
こんなところで無為に死ぬだなんて、耐えられない。

「褒美だ。魔界の深淵――――禁呪を見せてやろう」

その祈りを打ち砕くは魔界の王。
それは先代魔王が得意とした禁呪。
全てを破壊する終りの具現たる究極魔法。

「この仮初の身でどこまで再現できるか、我自信にも分からぬが共に確かめようではないか、我が愛しの怨敵よ!」

魔王の腕が漆黒に光り輝く。
矛盾した暗い光に照らされながら魔王が嗤う。
中てられたようにイコンは呼吸することすらできない。

瞬間、世界が黒に染まる。
日の光すら吸い込むような黒い光の束が灯台目がけて放たれた。

音が消える。
黒い極光は灯台を根元から消滅させ、足場を失った灯台が倒壊した。
倒れこむ灯台、その真下には動けないイコンが。


945 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:56:04 3c/Y8x3.0
「――――――ぁ」

地鳴りと轟音。
もはや生存など望むべくもない死の雨が降り注ぐ。
だが、ここで魔王にも予想外の出来事が起きた。

地面に降り注ぐ巨大な灯台の破片。
これに耐え切れなくなったのは、この岬の方が先だった。

魔王の魔法を直接ぶつけられていたのは他ならぬこの地面である。
耐えきれなくなるのは当然と言うモノ。

足元の地面が切り崩されたように欠け落ちた。
魔王は咄嗟に跳躍し非難したが、イコンは大量の瓦礫と共に海へと落ちて行った。

「さて、どないなったか。仕留めたんかわからんのが面倒やな」

魔王は崩れた岬の先端で顔を出して海を眺める。
海を流れてゆく土塊や瓦礫の中に紛れてイコンの姿は確認できない。

メニューを開き所持GPを確認するがGPに変化はない。
と言う事はまだ死んではいないようである。

「おい、使い魔。逃亡禁止いう話やけど、あれはええんか?」

流れてゆく残骸を指さしながら、電子妖精に問いかける。

『事故のようなものですので、逃亡行為としては認められません』
「さよか」

あっさり、魔王は即座に意識を切り替える。
逃してしまった者は仕方ない。
あの状態ではその内溺れて死ぬだろう。

生き延びたならその時はその時だ。
その悪運を祝福する他ないだろう。

手傷は追わなかったが、随分と魔力を消費してしまった。
禁呪は元より、広範囲魔法を何発も放たされたのだから当然だろう。
そう言う意味では厄介な相手だったと言える。

唯一の収穫。戦利品である受信機を見つめる。
中央近くで点滅する光点。
ここに魔王の宿敵がいる。

あの陣野愛美が誰かに殺されるとは思えない。
やはり決着をつけるのはこの魔王なのだろう。

居場所は知れた。
あとは、戦うだけだ。

決選は近い。

[H-8/崖/1日目・日中]
[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:魔力消費(大)、状態異常耐性DOWN(天罰により付与)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、受信機、不明支給品×1
[GP]:87pt
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.陣野愛美との対決に向かう。
2.主催者を調べる
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。


946 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 21:57:54 3c/Y8x3.0


思い返すのは冬の記憶。

何もなかった、私が私でしかなかった頃の記憶。

北部地方の冬は長い。
春は短く夏はなく秋も短い。
一年の殆どは冬であり、雪と寒さと共存した暮らしを強いられます。

凍り付いた凍土では作物も育たず、獣は冬眠しているため狩りで得られる獲物も少ない。
短い冬以外の季節の間に慌ただしく冬籠りの準備を行い、蓄えた僅かな食料で日々を食いつなぐ。
そうして冬をやり過ごし短い春を待つのです。

中央に行けばもっといい暮らしが出来る。
お前は若く器量の良いのだから、きっとここを離れても上手くやっていけると。
そう言う村人もます。
けれど、私はそうは思いません。

私にとっての世界はここだけです。
私はここでしか生きていけないのです。
どれだけ厳しかろうとも、変わらない。
誰にとっても故郷とはそういう物でしょう?

私は子供たちを起こさないように孤児院から外に出ました。
外は昨日の猛吹雪が嘘のような天気でした。
細かい雪がちらついていますが、これでもこの地方では晴天とも言えるいい天気なのです。
何せ雪の切れ間に輝くような青空が見えます。
そんな日は年に数えるほどしかありません。

遠く続く青空を見上げ、凍るような空気を肺に吸い込む。
意識が透き通るようなこの感覚が私は好きでした。

悴んだ指を擦る。
空を流れる雲の様に、輝くような白い息が流れて消えた。
私は青空を見上げながら両手の指を合わせて祈りを捧げる。

日々を忘れず。
感謝を忘れず。
祈りを忘れず。

どうか世界が、いつまでも続きますように。




947 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 22:05:18 3c/Y8x3.0


「冷……たい」

冷たい水の中で意識を覚ました。
首を動かすのも億劫で視線だけで周囲を見渡す。
見えるのは見渡す限りの海、遠くに水平線が見える。

イコンは海に浮かんでいた。
この状況で溺れ死なずに済んでいるのは装備したライフジャケットのお蔭である。
こんな装備が何の役に立つのかと思っていたが、こうして救われるとは思わなかった。

泳げない訳ではないが激流に逆らって泳げるほど得意でもない。
何より波に逆らう体力も気力はない、波に従い進んでゆけばいずれ何処かに流れ着くだろう。

地上に付いたらすぐに神の下に向かい先ほどの件を報告に向かわなければならない。
自らの失態を明かすことになるが、神の御身が第一である。
一刻も速く地上に辿りつべく現在地を確認しようとした所で、海の異変に気付いた。

海が赤い。
潮の異常かと思ったがそうではない。
異常の原因は何なのか。
それはすぐに判明した。

「……………な、に?」

肘から先の右腕がない。
海を染める赤は自分の失われた右腕から流れ出る血液によるものだった。

「ッ!?」

何が起きたのか。
こんな誰もいないような海で。
わからない。

その混乱を助長する様に、赤い海を切り裂く刃の様な何かがイコンに向かって近づいてくる。
その刃の下には、海中を泳ぐ意味不明の生物が居た。

――――魚だ。
それに一番近しい生物を上げるなら魚だった。

その魚は周囲に風を纏い、渦を生み出し水中を泡立たせていた。
背びれには幾つもの吸盤の付いた蛸の様な触手を生やし、背には明らかに自然物ではない四角い何かを背負っていた。
イコンは内陸育ちで魚には詳しい方ではないけれど、あんな魚は自然界のどこを探しても存在しないと断言できる。

その正体不明の怪物は、鋭い牙でイコンの右手を咥えていた。
全身が総毛立つ。
それは水による寒さではなく、純粋な怖気によるものだ。

「ハッ……ハッ……ハッ」

喘ぐような荒い息で自身のステータスを確認するが『天罰』は失われていない。
ならば何故、こうして攻撃を受けているのに発動しないのか。

仮に愛美がイコンを取り込むとして、それは天罰が下るだろうか?
たとえそれでイコンが消滅したとしても、愛美がそれを攻撃と認識していなければ下らないだろう。
罪が無ければ天罰も無い。
何より、喰らうと言う獣の本能に天罰など下るはずもない。

魚から伸びた触手がイコンの体に纏わりつく。
引き剥がそうとするが吸盤が吸い付き剥がれない。

「なっ…………はッ!?」

そのまま魚はイコンを伴い水中へと潜った。
口から酸素が漏れ呼吸が奪われる。
急激な水圧の変化に、灰と眼球が潰れた様に圧迫され、肺が裏返る様だ。

パニックになりながら、拘束から逃れるべく暴れまわる。
それは更なる酸素の消費を促したが、幸運にも振り回していた七支刀の枝葉が絡まり触手を絶った。
解放されたイコンの体がライフジャケットの浮遊力により海面へと浮かび上がる。


948 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 22:06:40 3c/Y8x3.0
「ぷはっ!!」

海面に顔の出た瞬間、大きく息を吸う。
だが、意識が朦朧とする。
脳が揺れ、目眩がした。
今にも吐いてしまいそうだ。

血を流しすぎた。
ただですら白い肌は、青ざめた色に変わってゆく。
傷口からとめどなく水中に赤い血が流れていった。

だが、息を付く暇もなくイコンを追って魚が迫る。
身に纏った風を推進力として、大砲みたいな勢いでイコンを狙う。
抵抗しようにも水中の機動力が違いすぎる。
いや、地上でもどうこうなるレベルの速さではない。
海に浮かぶだけのイコンに避ける術など無い。

すれ違いざま、いとも容易く今度は左足が食いちぎられる。
この魚にとってイコンは獲物ですらない。
ただ喰らうだけの餌にすぎない。
逃げ場のない水の牢獄で、なすがままにされるだけ。

「やめろ…………私は…………ッ」

こんなところで死ぬわけには。

だって、待っているんだ。
天上楽土で。

神と一つに。
約束の地である神の国へと。
そして天井楽土で、みんなと。
永遠に。

だが、無慈悲にも通り過ぎていった魚が水を切ってUターンする。
今度こそ逃さぬと、狙いを定めるようにして。

「いやだ、やめて……やめてやめてやめてやめて」

こんな事はあってはならない。
献身的であり続けた日々の祈りは報われなくてはならない。
その結末がこんな形で会っていいはずがない。

彼女の望みは、こんな魚に食べられることじゃない。
こんな魚の餌になることじゃない!

「たすけて、かみさま、かみさま」

もう祈りの姿を取れなくなった片腕で。
子供の様に呟きながら、神に助けを請う。

だが、祈りは届かない。
神は人を助けない。

無慈悲な野生の牙が、その祈りを断ち切った。

[H-4/海/1日目・日中]
[VRシャーク]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:A DEX:B LUK:E
[ステータス]:VRシャークトルネードオクトパスバズーカー、頭部にダメージ、腹部にダメージ
[アイテム]:なし
[GP]:250pt→280pt(勇者殺害+30pt)
[プロセス]
基本行動方針:???
1.喰らい尽くす
※本来の姿と力を取り戻しました

【ライフジャケット】
水を感知してガスで膨らむ自動膨張式のライフジャケット。
複雑な操作も必要なくお子様も安心。




949 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 22:07:51 3c/Y8x3.0
「――――イコン」

誰かが私の名前を読んだ。
私は「はぁい」と応えて振り返る。

また食料の取り分での諍いだろうか。
それとも誰かが体調を崩したのだろうか。
やれやれと首を振って私は声の方に向かって歩いてゆきます。

これが私の世界。
世界のすべて。

何もなかったけれど満たされていた冬の記憶。

私にはそれだけで良かったのです。

[イコン GAME OVER]


950 : Prayer ◆H3bky6/SCY :2021/08/16(月) 22:08:09 3c/Y8x3.0
投下終了です


951 : ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:49:33 /7qu8UDU0
コロナになったり、忙しかったり、サボったりでだいぶ遅れましたが
快復して完成したので投下します


952 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:51:31 /7qu8UDU0
太陽が頂点に近づき、陽光が仮想世界を照らす。
時刻は正午を目前としていた。
2度目の定時メールを前に、ソーニャの下に少し早めのメールが届いていた。

それは高井丈美から届いたメールである。
だが、それがただのメールではないことは開く前から察せられた。
何故なら、このゲーム内においてメールはおいそれと送れる物ではない。
貴重なGPを使用するのだからただの雑談なんて事はないだろう。

「ソレじゃー開きマスネ」

その重みを理解しながら、いつもの調子を崩さずソーニャがメールを開くべくメニュー画面を操作する。
だが、その横でなにやらもじもじとしている良子の様子に気づいた。
ソーニャは仕方なさげに小さくため息をつくと、笑みを浮かべる。

「メールの文面を投影しマスネ」

丈美からのメールを良子も読みたがっている事を察したソーニャは、メールの文面を前面に投影した。
良子はぱっと表情を輝かせ、とことことソーニャの傍まで駆け寄ると、肩を寄せ合い同じ方向からメールの文面に目を通す。

「こ、これは…………ッ!?」

その内容を見て良子が驚愕の声を漏らした。
そこに書かれていたモノとは。

『ひゑレニナょ丶)まιナニ、ぉレナ″ω、キτ″すカゝ?』

「よ、読めぬ………」

文字化けでもしているのかと思ったが、違うようだ。
まるで暗号である。
そう言えばクラスの女子たちがこんな文章でやり取りしていたな、なんて記憶が思い出された。
同じ女子中学生ではあるものの同年代女子と付き合いのない良子からすれば古代文字や神代文字の方がまだ分かりやすい。

「ふむふむ。ナーるホド」
「よもやよもやだ!? この暗号を解読できるのかソーニャ!?」
「Да! バイリンガルですカラ!」

ビシッと親指を立ててサムズアップする。
バイリンガルってすごい。良子はそう思った。

自信にあふれた笑みのままソーニャはこほんと咳払いを一つ。
透き通るような美しい声で、翻訳した内容を読み上げ始めた。

「拝啓。薄暗い夜の闇も明けて行き、暖かな日の光が照らす時刻となってまいりました。皆様いかがお過ごしでしょうか?」
「……ホントにそんな事書いてる?」

怪しくなってきた。
ツッコミも気にせずソーニャは滑らかな発音で翻訳を続ける。
それによるとメールの内容はこうだった。

『そちらに預けたヴィラスちゃんはお元気でしょうか?

 私の我侭で皆さんに押し付ける形になってしまった事を今更ながらお許しください。

 皆さんに押し付けた立場で勝手を言うようですが、ヴィラスちゃんをよろしくお願いします。

 あれから私は幸運にも優美先輩の所在を知る事が出来ました。

 上手くいけば、これから接触できる予定です。

 そこで積りに積もった想いを晴らしたいと思います。

 どのような結果になっても後悔はしないつもりです。

 ですが、もし次の放送で自分の名前が呼ばれたのなら、優美先輩に殺されたと考えてください。

 そうなったとしてもどうか先輩を恨まないで上げてください。

 それでは。勝手な願いばかりでしたが、どうか同行しておられる我道さんや有馬さんにもよろしくお伝えください。

 追伸

 私がダメだった場合、バレー部のマルシアにリベンジできなくてごめんなさいと伝えてください』

「かしこ…………トの事デス」


953 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:52:41 /7qu8UDU0
ソーニャが翻訳したメールの文面を読み終えた。
決死の覚悟すら読み取れる内容に二人は口を開かず沈黙が落ちる。
慕っているのに殺される可能性を考慮している、不思議な関係だった。
彼女の追っている先輩とは、どのような人物なのか。

それも気になる所だが、それ以上に良子が気にしているのはヴィラスの事だ。
彼女たちの下にヴィラスはいない。
託された者として丈美に申し訳がない気持ちがない訳ではないが、それ以上に、怖い。
あの野生の眼光と、全てを噛み千切るような鋭い牙。
思い返すだけでジクリと噛み付かれた傷口が痛む。

懸念を抱え沈黙が続いていたが。
その静寂を打ち破るようにソーニャが一つの疑問を口にした。

「……ところデ、有馬サンって誰デスかね?」

メールに登場した謎の名前。
首をかしげるソーニャに、良子が肩を震わせ反応する。

「き…………っ」
「…………キ?」

ゆっくりと頭を抱えてくの字に折れ曲がってゆく良子を同じ速度で観察しながらソーニャが追う。

「き、気づかれてたぁああああああああああ!!」

ぐおおおおっともんどり打ってのたうち回る。
良子にとって丈美は同じ中学の先輩である。
親しい間柄ではないが、理由は異なれど互いに目立つ存在であったため顔見知りではあった。
と言うか一方的に妙に敵意の籠った視線で睨まれることもあった気がする。

その為、出会った時はばれないように隠れていたが普通に気付かれていた。
気付いてたのにノーリアクションだったのが更に痛い。

良子にだって羞恥心くらいある、というか人一倍ある照れ屋さんだ。
赤の他人や気心知れたPCゲーム同好会のみんなならまだしも、顔見知りの一般人に知られたのは恥ずかしい。
そのリアクションを見てソーニャはポンと柏手を打つ。

「Ой! 有馬サンってアルアルの事だったデスネ」
「ぐおおおおぉぉおお」

容赦ない追撃。
知人へのアバターバレのついでに友人への本名バレまでした。
折角これまで†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†と言うアバターを完全に演じ切っていたと言うのに。

「…………ク、ククッ。ハッハッハ!!」

ここまで来ると失うものなど無い。
良子は開き直るように仁王立ちすると、ヤケクソ気味の高笑いを浮かべた。

「勘違いするでない我が盟友よ!
 有馬良子は現世における仮の名に過ぎぬ、我が真名は貴様の知る†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†であるッ!! 間違うでないぞッ!!!」
「あ、ヨシコって言うんデスね。いい名前だと思いマス」
「……ククッ。失うモノあったわ」

いらぬ墓穴を掘り、フルネームまで明かしてしまった。
くぅと頭を抱えて屈みこむ黄昏の堕天使。
ソーニャはうーんと思い悩む様に腕組をしながらゆっくりとその周囲を歩き始めた。

「ヨシコちゃんとアルアル。呼び方ドッチがイイです?」
「ど、どっちもやめてぇ……」

そんな定番になったやり取りをしている間に、メールの着信を知らせる通知が届く。
今度はソーニャだけではなく、両方に届いたようである。
時刻は正午、定時メールの時間だ。


954 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:53:30 /7qu8UDU0
僅かに息を飲み互いに頷きあうと、各々が自分に届いたメールを確認する。
前回と同じような連絡事項を読み飛ばす。
確認は必要だろうが、今は興味があるのは一点だけだ。

目を向けるのは死者の名前。
そこにはある意味で予想通りの名があった。

高井丈美。
先ほど送られたメールの内容からして、間違いなく陣野優美に殺されたのだろう。
これで陣野優美は危険人物で確定。避けるべき相手となった。

先ほどのメールからして、丈美はこの結末を覚悟していた。
本人が覚悟していたとしても、あれほど慕った相手に殺されたのかと思うとやりきれない話である。

そしてもう一つ。
ソーニャだけが気にした名前があった。

三条 由香里。
HSFのトラブルメイカー。
彼女の巻き起こすトラブルはいつも楽しい物だった。
ソーニャも振り回す側だったので一緒に騒いで、よく可憐に叱られたものだ。
そんな由香里ももういない。

可憐が死に、キララが死に、利江が死に、由香里が死んだ。
これでもうソーニャ以外のHSFの生き残りはリーダーである鈴原涼子だけとなった。
訳の分からない理不尽な殺し合いに巻き込まれて終わってしまった。
大声で泣き出しそうになる、絶望に挫けそうになる。
だけど、今は。

静かに目を閉じる。
それは死者に捧げる黙祷であり、涙が零れないように堪えるための動作でもあった。
悲しみも弔いも後回しだ。
今それをすればきっと動けなくなるから。

今のソーニャには守護るべき友がいる。
涼子だって探さなければならない。
自分の事情ために死者への祈りを後回しにする勝手を、どうか許して欲しい。
涙が零れないように天を見上げる。

そこで少女は昼の空に流星を見た。




955 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:54:07 /7qu8UDU0
悲しいまでに青い空を引き裂く様に光の線が奔る。
それは流星。あるいは天の落涙のようでもあった。

流星は地面に叩き付けられるでもなく、音も無くふわりと羽の様に着地した。
それは大和正義と言う名の少年だった。

その場に蹲るようにひざを折る。
すぐに立ち上がることはできなかった。

それは傷によるものだ。
体ではなく心の。

いかに大和正義とて、所詮は17歳の少年である。
一度砕け散った信念と自尊心はそう簡単に治る物ではない。

自らが敗れるだけならばいい。
己を最強であるなどと言う驕りはない、敗北もするだろう。

だが、守護ると誓った小さなあの少女を守護れなかった。
守護るどころか、守護られたのはこちらの方だ。
その事実が何よりも彼を打ちのめし、鉛を飲んだ様に体を重くする。

敗北の味は喉元を苦くする。
俯きは視界を狭め、目の前を暗くする。
項垂れは手足を固まらせ、動く気力を奪ってゆく。
全ては己の力不足によるものだ、言い訳の余地はない。

何と情けない。
自らの現状に誰よりも嘆きながら。
なればこそ、自縄自縛の鎖から逃れることができずにいる。

沈み込む正義。
だが、そこでふとポケットに何かが入っている事に気づいた。
ポケットをまさぐると指先に僅かにべたついた固い感触が触れる。
それを握りしめ取り出す。

ゆっくりと手を開く。
手の平には宝石のように輝く、どこか安っぽい黄色。
それは飴だった。

「――――――」

誰が入れたか、なんて考えるまでもない。
歯を食いしばり、飴を強く握り締めた。
握り締める手に、失われたはずの力が籠る。

飴を口内に放り込む。
己が糧とするように乱暴に噛み砕く。
苦い敗北の味は、柑橘系の甘味に打ち消されていった。

その味に自分が何をすべきかを思い出す。

今は悲嘆に暮れる時ではない。
拳を握り立ち上がる時である。

怒りは己が両足を支える礎とせよ。
後悔は己を奮い立たせる活力とせよ。
正義は己の奥底で燃える炎とせよ。

眼に火が灯る。
冷たい手足に血が通う。
短い倦怠は終りだ。


956 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:54:44 /7qu8UDU0
正義が、動き出した。
彼女から託されたものは飴だけではない。
GPを確認する。263pt。
これもまた彼女に譲られたモノだ。

手数料を差し引いてもこれほどのGPを持っていただなんて驚きではあるのだが。
恐らくは初期GPからほぼ手つかずだったのだろう。あの娘らしいと言えばらしい話だ。

これは彼女が託してくれた想いである。
1ptだって無駄遣いはできない。

だがGPはこの殺し合いの攻略に必要なものである。
使わず後生大事に抱えて腐らせていたら、それこそ無意味だ。

何が必要なのか。
何に使うべきなのか。
その見極めが必要となる。

次に届いていた定時メールを確認する。
速読する様に目を通し、そこで知るのは二つの死。

幼少の頃指導を受けた、かつて師である我道の死。
我道程の達人が敗北したのは驚きではあるが、正義の辿った道のりを思えば不思議ではない。
哀悼を捧げる気持ちはあれど、この場においても恥じぬ生き様を貫き通した事は確信している。

それよりも、今の正義にとって直接的に関係するのは秀才の死だ。
この地における協力者の死。
同行していた月乃の名がない事から、秀才が身を挺して守護ったのだろう。
そこに疑いはないが、月乃の現状は心配だ。

メールを確認するが、月乃からの連絡はない。
アプローチするならばこちらからと言う事になる。
いきなりのGP仕様になるが、背に腹は代えられない。
現状の報告と次に取るべき方針についての内容を正義は素早くメールをしたため月乃へ送る。

ひとまず、この場で出来る事はこれくらいだろう。
これ以上を求めるなら、行動が必要となる。
まずやるべきは。

「そこの君たち、話を聞いてもらえないだろうか」




957 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:55:25 /7qu8UDU0
ソーニャと良子の二人は昼の空に落ちた流星を追っていた。

天を見上げ、流星の軌跡を視線でなぞってくと、流星は水の塔近くへ落下した。
それを目視し互いに頷きあうと、二人は慎重な足取りで落下点へと向かって行く。
そして落下点にあるのが人影である事に気づき、物陰に隠れて様子を窺う。

水の塔の陰に座り込んでいたのは少年だった。
俯き打ちひしがれた少年であったが、ソーニャの感じた印象はまるで鋭い刃の様だった。
恐怖を与える凶器ではなく、安心を与える武器のように。
鍛え上げられ研ぎ澄まされた刃が、来るべき時のために鞘に納まっている。

「――――そこの君たち、話を聞いてもらえないだろうか」

隠れていたはずのソーニャたちに声がかけられる。
少年の決意を込めたような鋭い瞳がソーニャたちが隠れていた方向に向けられた。
気付かれた、いや、最初から気付いていたのか。

「ドーします? アルアル」
「う、うむ…………どーしよう」

応じるか否か。
決断を委ねられた二人は声を潜めながら相談を始めた。
だが襲撃を受け痛手を負った後である、すぐには決断しかねるのもしかたなかろう。
害意はなさそうに見えるが、それだけの根拠で不用意な接触は躊躇われた。

そうして迷っているうちに少年が動いた。
くるりとソーニャたちのいる方向に背を向けて両手を上げる。

「無理にとは言わない。信用できないと言うのなら、このまま立ち去ってくれて構わない」

相手が悪意と銃を持っていれば頭を撃ち抜かれてもおかしくない体勢である。
安全を示すにしてもやりすぎだ。
見せられる誠意がこれしかないと言うように無防備を晒している。

「勿論、戦おうというのならそれでも構わない。その場合は全力で相手になる」

無防備な背を見せながら、一切のブレなく変わらぬ調子で言う。
それは余程の自信か、それともよほどの考えなしか。
判断がつきかねる態度である。

「トリあえず。お名前聞いてもヨロシイデスカー?」

身を隠したまま声だけでソーニャが問いかける。
名を問われた少年は降参を示すような両手を上げた状態のまま、そうとは思えぬほど堂々とした態度で名乗りを上げた。

「――――大和正義」

その名前に二人が反応して顔を見合わす。
それは聞き覚えのある名前だった。
我道から聞いていた信頼できる人間の一人。

「ソノお名前は我道サンから聞いてマス」
「……我道さんから?」

思いもよらぬ名が出てきたことに驚き、思わず正義が振り返る。
そこには雪の妖精の様な美しい少女が立ってた。
物陰から出っていたソーニャから僅かに遅れて、おずおずと堕天使も姿を現す。

こうして三人の少年少女が結び付く。
一人の男が繋いだ縁によって。




958 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:57:00 /7qu8UDU0
「なるほど……師範代らしい」

ソーニャたちから話を聞き終え、我道の脱落の経緯を知った正義はそう感想を漏らす。
脱落すれど我道は少女一人助けられなかった正義と違って少女二人を守護ったのだ。
そこには敬意と尊敬しかない。

正義とソーニャと良子は互いにこれまでの簡単な経緯と情報を交換し合った。
出会った人物や危険人物の情報、探している知り合いの情報。ここまで正義が立てたある程度の推察。
話題に出た人はもう殆ど脱落してしまったが、ひとまず一通りの共有できた。

「ツキノは無事でナンでショウか」

HSFの情報は得られなかったが、アイドル仲間の月乃の情報は得られた。
別行動中に同行者が脱落したと言う話だが。

「……分からない。メールで連絡はしたけれど、まだ返事は来ていないね」
「ソーですか……」

心配であるが、今はどうしようもない。
無事を信じる他ないだろう。
自分たちにできる事と言えば今できる事をやるだけだ。

「人の心配も大事だが、今は自分のできる事をしたい。
 そのために君たちの力を貸してほしい。俺一人では足りないんだ」

正義は己が無知を知っている。
事態の解決にはどうしても協力者が必要だ。
我道が繋いでくれた縁に感謝しながら改めて尋ねる。

「力を貸すトハ?」
「知恵を借してほしい、幾つか質問したい事があるんだ」
「質問デスカ? 構イマせんケド。余リ難しい事は答えラレないデスよ?
「そう構えなくていい。率直な意見が聞きたいだけなんだ」

そう言って正義は二人に視線を向ける。
ソーニャは微笑を湛えたまま変わらぬ表情だが。
如何に我道の知り合いとは言え人見知りの激しい良子は僅かにソーニャの背に隠れるように立っていた。
さっきから正義とのやり取りもソーニャまかせである。

「まず尋ねたいんだが。君たちはここに来た経緯を思えているかい?」
「ケイイ?」

問い返すソーニャに正義は頷きを返す。

「我々がここにいる以上、必ず連れてこられた瞬間と言うものがあるはずだ。」
 そこに何故我々が選ばれたのか、その理由が――共通点があるはずだ」

そう言われて、ソーニャは腕を組んで頭を捻る。

「Хм。ソンな記憶はナイデスネぇ〜」

良子もこくこくと頷く。
それはそうだ。あればとっくに話している。
この質問を投げかけた正義にだってそんな覚えはない。

「それなら逆に考えてみよう。君たちは、どこまで思い返せる?」

ここにくるまでの最後の記憶はどこか。
ある程度の記憶改竄も可能だとするならば、犯行の証拠は残すまい。
だが、全ての記憶を消した訳ではないのならば、思い出せる最後の記憶があるはずだ。

言われて、二人の少女は自身の記憶を思い返す。
まあ良子は思い返すまでもなく、いつもみたいに同好会のみんなと部室でだべってた記憶しかなかったが。
開き直るようにとりあえず笑って雰囲気を出しておいた。

「クククッ。我は電脳を支配せし同志たちと日課の暗黒円卓会議よ」
「ワタシはバラエティ番組の収録でしたネ。正義クンはドーなんデス?」
「会長に生徒会室に呼び出された、所までは覚えている」

予想通りではあるが、まるで共通点がない。
強いて言うなら良子と正義が学校内に居たと言うくらいだろうか。


959 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 21:58:39 /7qu8UDU0
「諸星さん。その番組の具体的な内容は思い出せるかい?」
「Хм... 何の企画だったかは思い出せませんが共演者はHSFと…………」

そこまで言ってソーニャが何かに気づいたように言葉を詰まらせた。
そしておずおずと口を開く。

「……ヒカリとツキノ。ココに呼ばれた2人デス」
「アルマ=カルマさん、君は誰と一緒にいた?」
「えっと……同好会のメンバーだけど……である」
「聞き方を変えよう。君と一緒にいた人は、この場に呼ばれているかい?」

こくんと頷く。
その頷きを見て正義もまた確信を得た様に頷く。

「俺が生徒会室に行った時そこには会長と副会長がいた。2人ともこの世界に呼ばれている」

ここまで来ると偶然ではないのだろう。
記憶の途切れた瞬間にそばにいた人間が連れてこられている。

「ソレはまァ、記憶が途切レタ後に何かがアッタと言うのはソウなんでショウけど、ソレ以上は分からナクないデスカ?」

ソーニャの言葉に良子もうんうんと頷く。
なるほど、記憶が途切れた後に何かがあったのだろう。
それ自体は想像に難くない。
問題はその何かが何であるかだろう。
そればかりは想像もつかない。

「いや、そうとも限らない」

その否定的意見を正義が否定する。

「ここがネットワークゲームなのだとしたら、もっともシンプルな答えがあるはずだ」

その言葉に、気づきを与えられたのかソーニャが先を続ける。

「ネットワークゲーム『New World』に接続した人、デスネ」

フルダイブVRゲーム。
この『New World』に接続したものが囚われた。
それが一番シンプルな推察であり回答だろう。
つまりは、消されているのは本来の『New World』に関する記憶。

「私達は番組の企画がソーだったとシテ、アルアルもソー言う部活らしいノデあり得るカモデスけど。
 正義クンのは難しくないデスカ? 生徒会室でゲームしマス?」

しかもフルダイブVRゲームともなればそれなりの環境が必要になる。
そんなものが学校の生徒会室に在るとは思えないが。

「諸星さんの言った企画がそうだったとして、そこに月乃さんが居たのならあり得る」

月乃がその手の企画に参加すると言うのならば。
その兄である太陽が事前に安全性の確認と称して、同じ内容を確かめる可能性は高い。
そして、それに秀才や正義がつき合わされた可能性は大いにある。

「ナラ、ココにイル人達はみんなネットゲームに接続したって事デス?」
「そう、とは言い切れないかな」

ここにいるのは一般人だけではない。
参加者の中には獄中にいるはずの犯罪者の名もあった。
彼らにネットワークゲームに接続できるような環境があったとは考えづらい。
なにより魔王、ましてや邪神がVRオンラインゲームに参加するとは思えない。

「複数の入り口あって『New World』の接続以外にも入り口あるのか、そもそもこの推察が見当はずれなのか」

一つの可能性としての思い付きにはなったが、今すぐに真偽を判断するのは難しいだろう。


960 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 22:00:38 /7qu8UDU0
「では次の質問、どちらかと言えばこちらが本題だ。
 君たちはゲーム――――特にオンラインゲームについて詳しいだろうか?」

オンラインゲーム。
切り出された問いは、真剣な表情とは余りにも不釣り合いな内容だった。
その真剣さに僅かに戸惑いながらもソーニャは答える。

「Хм。空き時間にスマホでソシャゲくらいならヤリますケド……詳しいカと言われるとソーでもないデスネ」

楽しいものはなんでも手をだすソーニャだが、幸いリアルが充溢しすぎてオンラインゲームにまで手を出すに至っていない。
HSFで言えば由香里がプレーしているなんて話は聞いた事があるが、ソーニャ自身は楽屋で暇つぶしにスマホを弄る程度だ。
応じられるほどの知識を持たないソーニャは、視線を自らの後ろに隠れるようにしていた堕天使に向ける。

「ケド、アルアルは詳しいんじゃないデスカ?」

話をパスされ、二人の視線が自らに向けられてる事に気づく。
黄昏の堕天使はシュババと手をクロスさせ顔半分を隠すようなポーズを決める。

「ククッ。深淵の一端も知らぬ無知なる者はこれだから困る。光の世界に生きる者には分からぬか、この領域の話は……。
 確かに我は常人の及ばぬ深淵に生きる者。しかし深淵の知識も一枚岩ではないと知るが良い!」
「ヨウは守備範囲が違うカラ、ゲームはアンマり詳しくないデス?」

PCゲーム同好会に入り浸っていたが良子が所属しているのは漫画部である。
漫画部と言っても先輩が卒業して部員は良子一人となってしまったが、それはそれ。
良子の領域はゲームではなく漫画、特にファンタジーモノである。

「侮るでない! 一芸に秀でるは多芸に通ず!
 日々電脳遊戯に勤しむ賢人たちの最高会議所にて、我は魔導書を漁る日々を送ったものよ」
「ナルホド。ゲームに詳しイお友達のトコロで雑誌とか読んデタんデスネ」

PCゲーム同好会の部室で暇つぶしに専門誌を読み漁ったりもした。
少なくとも何も知らない一般人に比べればいくらか造詣は深い。

「すまない。不勉強ゆえか彼女の言葉が理解しかねるのだが……つまりは?」

特定の病人特有の言い回しに、正義が要領を得られず困惑を示した。
そこにソーニャが助け舟を出す。

「ワカラン事もナイって感じみたいデスヨ」
「なるほど……諸星さんは博学でいらっしゃる」
「Да! バイリンガルですカラ!」

ビシッと親指を立ててサムズアップする。
正義もそれなりに語学に精通しているつもりだったが、まだまだ未熟であると思い知る。

「それでは黄昏の堕天使 アルマ=カルマさん、君に尋ねたい」
「う、うむ」

律儀にアバターのフルネームを呼び、良子へと真正面から向き直る。
アルアル呼ばわりも抵抗があるが、文字上ならともかく面と向かって音読されると妙な戸惑いと気恥しさがある。
というか他人からまともに呼ばれたの初めてじゃなかろうか。
そんな良子の困惑をよそに、正義は尋ねた。

「ゲームにおける勇者とは何か」

魔王ですら回答に熟考を必要としたこの問いに、良子は特に悩むことなく返した。

「役割(ロール)もしくは職業(ジョブ)」

勇者を選ばれし者だと答えた魔王とは別方向からの答えだった。
当事者視点ではなく、より高い視座からの内容ではなく枠組みに対する答えである。

「勇者はただの役割に過ぎず特別ではないと?」
「否! 勇者は殆どの場合において特別であろう!
 特別であるが故に、また特別な存在であるプレイヤーがそう在るのである!!」

ゲームの中では誰もが勇者(とくべつ)になれる。
それがRPG(ローププレイング)である。

唯一無二の存在であるプレイヤーが唯一無二の勇者になる。
それは至極まっとうな流れであり納得できる話だが、一つ疑問が生じる。
プレイヤーが複数存在するMMORPGでもそれは同じ条件になり得るのか?

「プレイヤーが複数名がいるなら、勇者も唯一無二の特別な存在という事にはならないのではないか?」
「クククッ。甘い……! 駅前のフルーツタルトのような甘さよ!
 定められし命題、すなわち『宿命』は世界によって異なるモノ……! 勇者が唯一無二足らぬ運命もまたあろう。
 世界のシステムによっては勇者が誰にもなれる職業(ジョブ)である事もある。無論それを選択できるのも特別な存在である我々(プレイヤー)のみの話であろうがな」

教えを説く立場として話ていてテンションが上がったのか。
派手な身振り手振りを加えながら語る堕天使の言葉は、また難解になった言い回しに突入していた。

「物語(ゲーム)の設定に依る、との事デス」
「なるほど」

横からのソーニャの補足を聞いて理解する
身も蓋もない話だが、その通りだろう。


961 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 22:02:30 /7qu8UDU0
ならば必然、湧く疑問がある。
『New World』における勇者の定義とは何なのか?

「そう言ったものは、どうやって知るんだ?」
「世界の定義を示し魔導書もしくは電子の海に記された予言、あるいは世界の始まりを告げる戯曲」
「ダイタイ説明書か公式HPかオープニングで語らレルそーデス」
「オープニング?」

それらしきものに心当たりがあるとするならば、最初の説明だ。
確かあの説明の中にあったのは、招集された全員が勇者である事。
この世界における唯一の勇者を目指すために殺し合いを行う事。
あの中にそれらしい説明はこのくらいか。
目的では明確であるが定義は明確ではない。

「それは必ず説明されるものなのかい?」
「否。秘匿され語られぬこともある、封じられし物語……」

黄昏の堕天使が遠い目をして海を見つめる。
プレイヤーに対して設定上の世界観は必須ではない。

「それは必ず存在するものなのか?」
「古代の遊戯であれば存在せぬものもあると伝え聞く。だが現世の遊戯で物語が定義されておらぬ物は珍しかろう」

古いゲームならまだしも、今どきのMMORPGであれば大抵はストーリーは存在する。
ならば『New World』のストーリーはあると考えるのが自然だろう。

その内容はなんなのか。
こればかりは個別の話だ、具体的な所は一般的なゲーム知識ではどうしようもない。
ならば、ここから先を問うべきは黄昏の堕天使ではなく。

「シェリン。聞きたいことがある」
『はい、あなたのシェリンですよ。何でしょうか?』

ヘルプコールで電子妖精を呼び出す。
鱗粉のような光をまき散らしながら虚空に可憐な少女の姿が現れる。

「『New World』における勇者の定義とはなんだ?」
『回答できません』
「では『New World』のストーリーとはなんだ?」
『回答できません』

予想通りの答えが返る。
このシェリンはこの殺し合いの案内役だ。
殺し合いに関する質問であれば答えられるが、それ以外は答える必要がない。
いや答えられない。

だが、その答えを知る方法をプレイヤーは持っている。
正義が振りかえり、ソーニャと良子を見据えると深々と頭を下げた。

「ありがとう。2人とも。キミたちのお蔭で新たな知見を得られた。心より感謝する。
 だが、もう少しだけ付き合ってほしい、少し場所を変えたいんだが」
「ワタシは構いマセンけど、ドチラまで?」
「そう遠くはないから心配しないでくれ」

そう言って正義は歩き始めた。
二人の少女もその後に続く。

辿り着いたのは本当にすぐそこだった。
正義の目の前には至る所に配置されたコンソールの一つがある。

「最初に少し説明したが、この殺し合いは元からあったVRゲーム『New World』を流用したものだと推察できる。
 つまり、この殺し合いとは違う、本来のVRゲームとしてのシナリオがあったはずだ。
 そこに攻略の鍵があるのではないか、とアルマ=カルマさんから教授頂いた話でそう言う結論に至った」
「ケド、ソレには答えられナイって言ってたデスヨ?」
「ああ、だからこれで聞く」

言って正義はコンソールを操作する。
コンソール上から改めて電子妖精が呼び出された。
現れた電子妖精に向けて迷うことなく正義は問うた。

「質問だ。『New World』の本来のストーリーを教えてくれ」
『了承しました。GPが50pt消費されます。問い合わせを申請しますので少々お待ちください』

正義は不動のまま、コンソールの前で返答を待つ。
その背後で緊張感に耐え切れず良子は息を飲んだ。

『お待たせしました。申請が受理されました』

世界の秘密を解き明かす申請が受理された。
電子妖精が語り始める。
世界に刻まれた本来の物語を。


962 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 22:03:36 /7qu8UDU0
『今は小さき一つの世界。

 その中心には一つの塔が聳え立つ。

 塔の頂点には美しく輝く宝玉があった。

 宝玉には世界が封じられていると、そう言い伝えられていた。

 塔には多くの財宝が眠っていたが多くのモンスターが蔓延り、頂上に辿り着いた者はいない。

 そんな世界に異世界より勇者が現れた。

 恐れを知らぬ勇者たちは塔を登る。

 塔の頂上で勇者たちを待ち受けるの宝玉を守護する強力な守護獣。

 勇者たちは力を合わせて困難へと挑む。

 守護獣を乗り越え全ての大陸を解放した先に、救いの塔が現れる。

 ――――新たな世界(New World)を切り開け』

説明を終えたシェリンが一礼して姿を消した。
腑に落ちない点は多々あるが、一つ大きな納得があった。

「そうか……新しい大陸(せかい)を解放していく、だから『New World』なのか」

本来はエリアは解放されてゆくものだった。
定時メール毎にエリアが除外されてゆくこの世界とは真逆のゲーム性だ。

「……何故、そのままにしなかったんだろう?」
「ソリャー、ゲームもビジネスですカラ。人が増えて行ってソレに合わせてエリアも増えて行く想定だったのでショウ」
「そうか……目的自体が真逆なのか」

人が増えて行く想定のネットワークゲーム。
人が減っていく想定の殺し合い。
真逆の方向性だからそのままでは使えない、調整が必要だった。
それがエリアの除外。

相違点はそれだけではない。
確かに塔の頂点には宝玉(オーブ)があった。
だが、モンスターも守護獣もいなかった。
何もなさすぎて拍子抜けしたくらいだ。

「これは恐らく参加者以外の殺し合いを嫌ったのだろう」
「強イ敵が居タラ協力しちゃいマスからネー」
「うむ。本来はその守護獣とやらはレイドボスであったのだろうな」

三人の意見が一致する。
こちらが無くなった理由はわかりやすい。
本来はプレイヤーの協力を推奨するゲームだったが、殺し合いに流用するにあたって協力要素を排除したのだ。
メールシステムなどからそれは見て取れる。
だが一つ、気になる単語があった。

「レイドボスと言うのは?」
「数多の勇者が力を束ねて挑む無双の強敵の事である!」
「なるほど」

そのレイドボスを倒せば大陸、こちらで言う所のエリアが解放されたのだろう。
そしてその全ての大陸を解放すれば出現するという『救いの塔』。
最後に現れるという立ち位置から重要性は見て取れるが、どういう役割を持つ物なのか。

そもそもこの殺し合いにおいても存在するのかという疑問はある。
全ての大陸を解放するという条件は、大陸を除外していくこのゲーム内では成立しない。
このゲームでもそれがあるとするならば、真逆の要素で同じ結論を導くための代用品が必要となる。

それが何かと言うのなら、心当たりはある。
本来の『New World』にはない要素。
恐らく支配権だ。

そう考えるならば、全ての支配権を集めた先に待つ物。
それが『救いの塔』なのか?

「救いの塔とは何だと思う?」
「わからぬ!」

賢人は自信満々に即答した。
潔さすらある。

当然と言えば当然の回答である。
ストーリーと同じく『New World』のオリジナル要素などわかろうはずもない。


963 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 22:06:31 /7qu8UDU0
「だが、空想は出来よう!」

ビシっと指さし堕天使が言う。
想像し空想し推察する。
それこそが人間の力だ。

文殊の知恵を引き出すべく三人が頭を突き合わせて考える。
最後に現れる救いの塔。
その役割がなんなのか。

「ラスボスが居るとかデスかネ?」

安直な発想だが、それ故の大いに在り得るだろう。
だが、それはレイドボスを排除したこの殺し合いにも反映できるかどうかは難しい所だ。

「この『New World』の支配権が得られるというのはどうだろう? 最初のシェリンの説明にも繋がる」

塔は支配権を得られるという殺し合いのルールに乗っ取っているし。
最初に行われた優勝者は『New World』の所有権が与えられるという説明にも合う。

「ケド、ソレは殺し合いノ方に調整したルールデスよネ?
 元がネットワークゲームだト言うナラ、ユーザーに支配権を与エルと言ウのもヨクわかりマセンし」

もっとな意見である。
これに対し正義は反論する。

「そう言う役割に改変されている可能性もあるのではないか?」
「コレまでの正義クンの話を聞く限りダト、やってイルのは元カラあったゲームのシステムを使うか使わないかダケじゃナイデスカ?
 ゲームの内容自体を改竄するヨウな真似は出来ていナイような気がしマス」

確かに、その通りだ。
参加者に対する絶対的な改変力があったから勘違いしていた。
この殺し合いの黒幕にできるのは『Pushuke』を使用した魂の改竄だ。
つまり魂を持たない『New World』のシステムに対して介入できる余地は少ない。
だからこそ、メールシステムを残すだなんて隙があったんじゃないか。

バラバラにしたジグソーパズルで別の絵を作り上げたような違和感。
パーツパーツは一致しているが全体像が異なるような気持ち悪さがあった。

ならば、『救いの塔』は同じ役割を持つと言う事になる。
最終的に表れてゲームと同じ役割を果たす塔。
そんなものが本当にあるのだろうか?
やはり殺し合いには関わらない『New World』だけの要素なのだろうか?

そんな弱気な結論に至ろうとしていた正義の横で、一人黙って考え込んでいた良子がポツリと呟く。

「…………別サーバーに跳ぶ、とか?」
「別サーバー?」

その呟きに正義が反応する。
如何に遊びに疎い正義とて、現代的一般教養としてサーバーという言葉自体はわかる。
だが、今の言葉がどういう物なのか、いまいち掴みかねていた。
意味を咀嚼しかねる正義にむかって、堕天使がこれを要約する。

「つまりは! 異世界に旅立てると言う事である!」

ババンと、突き付けられたその答えに正義が目を見開く。
すぐさま冷静さを取り戻したように目を細め、努めて落ち着いた声で問う。

「そう思った理由を聞いてもいいかな?」
「む、うむ。世界の拡張がこの電脳遊戯の売りならば、全ての世界が埋まってしまえば世界の終焉であろう?
 ならばどうするか!? 答えは一つ! 別世界に旅立つまでよ!!」
「ナルホドナー。世界が拡張してイクのが売りダトしても、容量的な都合もありマスしネー」

世界を広げて行き、広げきったら別世界へと旅立ってそこでまた繰り返す。
確かにそれは筋が通っている。
これこそが『New World』のゲーム性なのだとしたら。
この殺し合いではそれはどうなる?

「それが正しいとするならば、それが脱出口と言う事なのか?」

そうだとするならば、正しく救いの塔である。


964 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 22:09:54 /7qu8UDU0
「ソウだとイイデスけど。ソレは実際見てみナイと分かんないデスネ」
「そうだね。では質問を変えよう。
 これまでのやり取りを踏まえた上で、『New World』における勇者とは何なのか、君はどう思う?」

正義は黄昏の堕天使に向けて問うた。
一般的な定義や意味などではなく、これまで冴えた意見を出し続けてきた彼女自身の意見を。

「………うーむ」

この問いに、堕天使は僅かに言い澱む。
答えが浮かばないと言うより、真剣に聞いてる人にこんなこと言っていいものか逡巡するようである。
だが、このまま黙っているわけにもいかないので、そのまま答えた。

「…………フレイバーテキスト?」
「フレイバーテキスト…………?」

正義の知らない言葉だ。
無論、英単語として直訳した意味はわかるが、何かの専門用語だろうか、指し示すところが分からなかった。
苦笑しながらも例の如く良子の発言をソーニャが補足し解説する。

「Ну... ヨウは雰囲気作りノ設定って事デスネー」

その説明で、ようやく意味を理解した正義は深く考え込む様に眉根を寄せて。

「つまりは…………意味など無い、と?」

良子が控えめに頷く。
プレイヤーをそう呼ぶための意味付けでしかない。

これまでの応答を根本からひっくり返すちゃぶ台返しだ。
物事に正しい意味を求める正義にはない発想である。
だからこそ、その答えが得られたこの話し合いに意味がある。

全てを鵜呑みにするつもりはないが。
新たな知見を得ると言う意味ではこれ以上ない意見だった。
申し訳なさそうにする良子に笑いかける。

「いや、気にしまないでくれ。非常に参考になったよ。
 ありがとう。アルマ=カルマさん。君の知識と発想は俺にはない大変素晴らしい物だった」
「う、うむ」

こうも真正面から忌憚なく褒められることなどそうそうない良子は照れてながら尊大な態度で受け応えた。
どこかたどたどしいが、その尊大な態度はあの幼女を思わせる。

「諸星さんもありがとう、君の聡明さと博識さには色々と助けられた」
「Нет Нет」

畏まる良子とは対照的に褒められ慣れてるソーニャは軽い調子で受け応える。
意思疎通という面ではソーニャの翻訳がなければ、この有益な情報も正しく得られなかっただろう。

「このまま君たちと共に行きたいところなのだが、すまないがここでお別れだ」
「え、一緒に行かないの?」

最初に警戒心を露わにしていた良子だったが、話しているうちに懐いたのか。
驚きと悲しみの声を上げる。

「ああ。俺にはやらなければならない事があるんだ。俺と共にいれば確実に危険に巻き込むこととなる」

良子でも感じ取れる程、強い決意の籠った言葉。
折れ曲がらぬ意思は日本刀のようだ。

「ソーデスか。ソレは残念デスね」

言っても無駄と聡く感じ取ったのか。
ソーニャは深く追求はせず、その言葉を受け入れる。

「ここまで付き合ってもらっておきながら、俺には返せるものがないのが心苦しいが」
「正義クンが小難シイ謎解きヲしてクレるナラ私達も助かりマスカラ。ソレで脱出方法ヲ見つかレバ万々歳デスヨ」
「ああ、それは必ず。最善を尽くそう」

正義が脱出までの道筋を見つけ出してくれれば、ソーニャとしても涼子を探すことに専念できる。
二人は潔く別れの挨拶などを交わしていたが、その後ろで俯く良子は少しだけ名残惜しそうだった。




965 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 22:12:17 /7qu8UDU0
『ソレデハ、正義クンも頑張って下サーイ』
『我と対なるジャスティスを冠する者よ、貴様とはいずれ決着を付けばなるまい。それまで精々生き延びるがよい、ククク』

そんな別れを経て、正義が見上げるのは水の塔である。

無論ここで二人を放り出すのも危険であるのは正義とて理解してた。
だが正義のこれから行おうとしている事を考えれば、それ以上に傍にいる方が危険である。

これからの正義の目的。
それは暗殺者との対決だ。
これだけは正義が成さねばならない事である。

死を恐れず、戦いを愉しむ。
手段のために殺すのではなく。
殺すためなら手段を選ばない。
存在目的自体が悪意と殺意の塊のようなあの男。

あの男だけは倒さねばならない。
それは単純な仇討ちという意味ではない。
あれは全参加者にとっての厄災であり、この殺し合いを打破する鍵である。
この二人とのやり取りでそれを確信した。

まずはここを登る。
正義の推察が正しければ、それが全ての足掛かりとなるはずだ。

モンスターも守護獣もいないだろうが。
勇者は塔を登る。

[F-8/水の塔近く/1日目・日中]
[大和 正義]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:B LUK:E
[ステータス]:全身にダメージ(大)
[アイテム]:アンプルセット(VITUP×1、LUKUP×1、ALLUP×1)、薬セット(万能薬×1)、万能スーツ(E)、無銘(E)
火炎放射器(燃料75%)
[GP]:263pt→203pt(メールの送信-10pt、シェリンへの質問-50pt)
[プロセス]
基本行動方針:正義を貫く
1.暗殺者との決着
2.『New World』を攻略する

[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:闘魂の白手袋(E)、予備弾薬多数、ヴァルクレウスの剣、魔術石、耐火のアンクレット、イコン教経典、不明支給品×3
[GP]:70pt
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.鈴原涼子を探す

[有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:右手小指と薬指を負傷(回復中)
[アイテム]:治療包帯(E)、バトン型スタンガン、ショックボール×6、不明支給品×1
[GP]:15pt
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.殺し合いにはとりあえず参加しない

※正義とソーニャたちがこれまでの情報を交換しました


966 : 昼の流星に願いを ◆H3bky6/SCY :2021/09/29(水) 22:12:46 /7qu8UDU0
投下終了です、これからもよろしくお願いします


967 : 名無しさん :2021/10/02(土) 22:03:04 2jSCSKMQ0
投下乙です
大和君周り、色んな視点で考察が進んでいって面白い
アルアルみたいな一般女子も考察要員になれるのはこのロワならではですね


968 : ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:01:42 XvcO0t4k0
投下します


969 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:02:54 XvcO0t4k0


生ぬるい黒風が吹いた。

その汚濁は少女の形をしていた。
漆黒を煮詰めたような、気配を引きずりながら少女が歩く。
彼女が歩くだけで周囲の草木すら枯らすような瘴気が墜ちた。

全身は熱を帯び、呼吸すら火のように熱い。
引きずるような足取りはどこまでも重く、重い枷でも付けられているようだ。
握り締めた右手から赤黒い雫が滴り落ちる。
その手の内には血の塊のような刃がむき出しのまま握り締められていた。

頼りないふらつく様な足取りだったが、どういう訳かどこに向かうかだけはハッキリとしていた。
心の中の確信が導くのだ。

暖かな春風が吹いた。

この世の清浄を一心に背負ったような女だった。
女は地上に在りながら太陽よりも眩く尊い存在が奇跡のような聖光を纏っていた。

純白の聖杖をバトンのように振り回して踊るように進む。
足取りはどこまでも軽く、どうしても足が弾んでしまう。
それも仕方あるまい。

この先にずっとずっと求めていたモノが待っている、そんな予感がある。
いや、これは予感ではない、確信だ。

古来より双子には不思議な力があると言われている。
曰く、テレパシーのように互いの考えている事が分かる。
曰く、遠く離れた場所にいても同じ行動をとった。
曰く、一方が傷つけば、傷のないもう一方も同じ個所に痛みを感じた。
世界中の事例を挙げれば枚挙に暇がない。

その双子の確信が伝えるのだ。
この先にいる互いの存在を。

二つの足音が揃って停止した。
澱み輝く清濁合わさった突風が吹く。
波のような草原の騒きが耳に煩い。

互いの目の前には、自分と同じ顔が立っていた。
鏡の前に立ったような不思議な感覚。
産まれた時から慣れ親しんだ違和感に再会する。

二つに分かれた運命が出会う。


970 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:04:06 XvcO0t4k0


中学生になって学年が一つ上がった春。
人間関係がリセットされたクラスの中で私は早くもその中心にいた。

私は優秀な人間だと思う。
成績は小学生のころから学年上位をキープしているし、運動神経だって悪くない。
今では強豪バレー部の次期エースだとまで言われている。
人付き合いも苦手じゃない、自分で言うのもなんだがクラスのみんなに好かれていると思う。
教師からの信頼も厚く、私の周囲にはいつだって人に溢れていた。

対して、学校での姉は常に一人きりだった。
私はそんな姉に話しかけるでもなく、クラスの中心から教室の端っこで佇む姉を見ていた。
人を侍らせる私の精一杯当て擦りなど、どこ吹く風だ。
周囲の目など何も気にせず、自身が独りであることなどまるで気にかけてない。

いつだって窓際の席で深窓の令嬢のよう静かに読書を嗜んでいた。
柔らかな風に吹かれる姿は、どの一瞬を切り取っても美しい芸術作品のようである。

その細かな所作から漂う気品と美しさがあった。
同じ環境で育ったのに、どうしてこのような差が生まれるのか、いつも不思議に思う。

同じ顔、同じ声、同じ制服。
双子はよく間違われるなんて話もあるけれど、そんな双子あるあるには私は共感できなかった。

私たちはまるで違う。
間違われることなんて殆どない。
似ているのは顔だけで好きも嫌いも性格も能力も何もかも違った。
そんな姉に私は劣等感を感じてしまう。

姉は孤独ではない。孤高なのだ。
畏れられてはいても嫌われてはいない。
周囲が勝手に近寄り難く感じて距離を置いているだけである。
むしろ、心の中では敬愛や尊敬の念すら持っているだろう。

いざ話しかけられれば邪険にするでもなく、にこやかに優しく対応する。
誰にでも分け隔てなく接するその対応に心酔する者も少なくなかった。
他人に対して怒りや憎しみの感情を露にした場面を誰も見たことがない。

だが、私は知っている。
姉は周囲の人間を愛しているのではない。
怒りや憎しみを抱くほど他者に興味がないのだ。
ただ、自分を愛してくれる環境を愛しているだけだった。

そんな一線を引いた孤高の姫君。
他者を必要としていない完璧で完全な完成された自己完結。
その在り方は幽世に住まう仙人のようだ。

だが、クラスの、いや、学校中の人間がどうしようもなくなった時に最後に頼るのは姉だった。
いつから、誰が最初にそうしたのかはもう分からない。
何らかの問題や揉め事、解決しがたい困難が発生した時、皆一様にして姉に相談するのだ。

その問題を姉は困った顔一つせず受け止め、安楽椅子探偵のようにすぐさま解決する。
その相談相手には教師は愚か教頭や校長、果ては生徒の保護者まで含まれる、なんて笑えない噂話もあるくらいだ。

ある日の放課後、クラスメイトの一人が深刻そうな顔で相談を持ち掛けた。
相談してきたのは図書委員を任されているような真面目な女生徒だった。

なんでも、付き合っていた男との行為中の映像が裏サイトで売り出されていた。
彼氏を問い詰めると開き直られ、ウリをしなければ顔のモザイクを取っ払って家族や学校にバラすと脅された。
どうやら彼氏だった男は巨大売春斡旋業者の末端だったらしく、その元締めは反社組織にも繋がっているらしい。
追い詰められてどうしたらいいのかわからない、という内容だった。

本来であればクラスメートに相談するような話ではないだろう。
そもそも相談されたところでただの学生にはどうしようもない話である。

だが、そんな話も姉はいつも通りの聖母の様な笑みで聞き終え。
「心配しなくてもいいわ。すぐに解決するから」
なんて、同情とも慰めともつかない言葉を投げかけた。

その言葉の通り相談した翌日にはその問題は解決していた。
姉がどのような手段をとったのかは分からない。
ただ朝一番の通学路にボコボコに顔を腫らした彼氏だった男が尋ねて来て、二度と関わらないと上役のヤクザのサインまで入った誓約書まで寄越してきたそうだ。
その顛末を聞いて、恐ろしいと思うと同時に姉ならばできるのだろうと私は心のどこかで納得していた。

普段は遠巻きに眺められながら、恐れられ、崇められ、必要な時だけ願い乞われる。
まるでどんな願いもかなえる神様みたいだ。
双子の姉の姿を遠巻きに眺めながら、そんな他人事の様な感想を抱いた。


971 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:05:03 XvcO0t4k0


「…………愛美」
「――――優美」

互いの名を呼んだ。
嫌悪と愛好。
同じ声色でありながら含まれる色は対極のモノだった。

「久しぶりね。嬉しいわ、こうして逢えて」
「そう、ね」

戸惑いながらも応じる。
目の前にした瞬間、憎悪が爆発して正気を失くすと思っていた。
目と目が合った瞬間、殺し合いが始まると思っていた。
だけど思ったよりもずっと穏やかな心持だった、

互いにとって再会は久しいものだった。
だが、彼女たちの時は違う。

このゲームに巻き込まれたタイミングも。
異世界で過ごした年数も。
生きた年月も。
全ては違ってしまった。

産まれてから異界に旅立つまでの15年。
一時も離れる事のなかった二人だと言うのに。

優美にとってこの瞬間は、永遠にも思える地獄の時間の先に在る、主観的な観点からの永劫の果て。
愛美にとってこの瞬間は、人の身を捨てた幾星霜の先に在る、客観的な観点からの永劫の果て。
主観と客観という違いはあれど、数える事すら億劫なほどの時間だったと言う事だけが共通していた。

「――――薫を殺したわ」

優美はそう切り出した。
それは罪の告白ではない。
妹としてではなく復讐者としての言葉であり、次はお前だという宣戦布告を突きつける行為である。
その告白に、愛美は驚いたような顔をした後、表情を引き締め問いかけた。

「……どうしてそんな事を」
「どうして…………? そんなことをも分からないのッ!?」

蔑むような冷笑が口端が歪ませる。
それはこの期に及んでそんな疑問を抱く相手に対する軽蔑と侮蔑であり。
己が罪業を知らしめさせてやるという加虐めいた熱狂であった。
その熱に促されるように復讐者は声を荒げる。

「分からないんだったら教えてあげるわよッ! お前たちの犯した罪を――ッッ」
「――――違うわよ」

だが、その熱狂は酷く冷めた声で遮られれる。

「どうしてそんな分かり切ったことを報告するのか、と聞いているの」

淡々と相手を威圧するような支配者の声。
遥か高みより全てを見下すその視線に呑みこまれる。
言葉を失う優美の様子に、愛美はつまらなそうにため息を盛らず。

「はぁ……せっかくの再会だっていうのに、そんなつまらない話題を振らないでよ。
 相変わらず気が利かない子ねぇ」

呆れたように腕を振る。
その様子に、優美の心に怒りが灯った。
呑まれかけていた心を奮い立たせる。
愛美ではなく、愛美に対する憎悪に自ら呑み込まて行く。

「はっ! 薫と違って自分たちが何をしたか自覚はあるみたいねッ!」
「ええ。知っているわ」

日常会話のような相槌を打つ。
その悪びれもしない態度に吐き捨てるような嘲笑を返した。

「知ってるぅ? あながた何を知っているというの!?」
「あなたの事なら何でも」

優美が強く噛みしめた奥歯が鳴った。
どこまでも噛み合わない。

「話にならない…………だったらどうして……ッ!!!」

毎日のように思っていた。
どうして自分がこんな目に。
どうして自分が選ばれたのか。


972 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:05:51 XvcO0t4k0
「どうして…………ッ!」

助けてと。
ずっとずっとそう願ってきた。
神様に祈るみたいに。

「…………どうして…………助けてくれなかったの?」

この場で幾度も繰り返された問い。
それは無差別に世界に向けられた呪いの言葉。
だけど、そこに含まれる感情はこれまでとはまるで違う。

この言葉は姉に投げかけるべき言葉だった。
唯一の味方だった真凛でも元凶である兆でもなく、肉親である彼女へ。
この問いに、愛美は言葉を濁すでも誤魔化すでもなく、はっきりと答えた。

「助ける必要がなかったからよ」

助けられなかったでも、助ける気がなかったでもなく。
助ける必要がなかったと、そう言ったのか。

「………………何それ?」

歪んだ顔で嗤う。
下衆貴族に泣き叫びながら連れていかれる優美を見送る恍惚とした表情が思い出される。
ロクな答えが返ってこないと分かっていながら、こんな事を聞いた優美がバカだった。

「私があの下衆に何をされてきたかッッ!!
 この場で全部全部、丁寧に聞かせてあげようか――――ッ!?」

唾が巻き散るほど激しい怒号。
肉体と精神、人としての尊厳まで凌辱しつくされた、地獄と呼ぶことすら生ぬるい絶望の日々。
あの絶望を一欠でも理解してたならば、そんな言葉を吐けるはずがない。

だが、それ程の激情を前にしても、彼女の姉は表情一つ変えなかった。
柔らかな笑みのまま、穏やかな声を上げる。

「言わなくても分かるわよ。あなたの様子は漏らさず逐一報告させてたもの」
「………………えっ?」

相手の罪過を知らしめ、責めるはずの状況が、たった一言でひっくり返った。
言葉を失う妹に、姉は笑いかける。

「あら、ネタばらしはなかったの? それは手落ちねぇ。それとも、そうなる前のあなたなのかしら?」

そもそも、何故貴族は優美を欲したのか。
ただの女一人にあれほど高値を支払ったのか。
なぜ、自分が選ばれたのか。
あれほど求めたその答えが、目の前に投げ捨てられていた。

同じ顔をした神の偶像を汚したいという願望。
同じ顔を凌辱しながらその裏で同じ顔に傅くという倒錯した欲望。
それを果たすための代替品。
陣野優美などという存在は求められてすらいなかった。

全身が震える。
爪が食い込み握り締めた拳から血が滴り落ちた。
膨れ上がる感情で今にも体が爆発しそうだ。
千切れそうになる理性の鎖を必死に抑える。

「…………そんなに私が憎かったの?」

残った欠片の理性で問いかける。
あんな地獄に突き落としたいと思うほど優美の事が憎かったのだろうか。

「あなたが憎い?」

不思議そうに首を傾げ、清廉な淑女のようにくすくすと笑う。
目の前の憎悪など意に介さぬ優雅な所作と美しい笑顔は、闇を色濃く際立たせる眩い光のようだ。

「―――――ええ、抱きしめたいくらいに大嫌いで、殺したいくらいに愛してるわ。
 そういう物でしょ姉妹って?」

優美の足元が立ち眩みのようにふらついた。
血の気が引いた青い顔でゆるゆると首を振る。
徐々にそれが髪を掻き乱す動作に変わり、爪を喰い込ませた半狂乱のそれとなった。


973 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:06:33 XvcO0t4k0
「……違う。違うわ…………違うッ!」

姉妹は。
私たちは。
そんな関係じゃない。

――――憎い。

「お前が…………ぁ」

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
ただひたすらに憎い。
あるのは憎しみだけだ。
心全てが黒い憎悪に塗りつぶされる。
そこに愛などあるものか。

「お前がぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ…………ッッッ!!」

憎悪を絞り出すような絶叫だった。
その絶叫を愛美は恍惚とした表情で受け止める。

「それでいいの。あなたは私の事だけ考えていればそれでいいの」

完全魔術により取り込んだ田所アイナの読心能力。
洪水のような憎悪が一滴も洩らさず全て自分に向て叩きつけられているのが分かる。
劣化した能力では思考まで読むことはできず、読めるのは感情の発露のみ。
だが、それで十分だ。

このバカげた殺し合いも。
異世界での勇者ごっこも。
これまでの16年の人生も。
全てはこの瞬間のためにあった。


「さあ。憎しみ合って、愛し合って、どこにでもある姉妹喧嘩をしましょう……ッ!」


974 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:08:41 XvcO0t4k0


通学路は秋の色どりに満ちていた。
衣替えも終え、制服も冬服に変わった10月。
夏の名残は消え、妙にピンとした空気の廊下に二つの揃った足音が響く。

「こうして二人で帰るのも久しぶりね」
「…………そうね」

隣には私と同じ顔をした私の片割れが肩を並べて歩いていた。
楽しそうに制服を翻す姉とは対照的に、私はどこか物憂げだった。
姉と並んで歩くのが苦痛だと感じるようになったのはいつからだろう。

私たちは別段仲の悪い姉妹という訳ではない。
喧嘩なんてしないし、姉が私に辛く当たった事もない。
私が勝手に苦手意識を抱えているだけだ。

姉の言葉の通り、こうして肩を並べて下校するのも小学生以来の事である。
普段はバレー部の活動があるため、部活に所属していない姉と帰宅時間が被ることはなかった。
だが、部活動のないテスト期間中ばかりはそうもいかない。

本来ならこう言った時に共に帰るのは彼氏の役目なのたが、生憎と彼氏である兆は予定が付かなかった。
そうなると帰る家が同じなのだから、特別な理由がなければ一緒に下校するもの必然だった。

「兆ちゃんも忙しいわね。彼女を放ったらかして」
「……仕方ないよ。家の手伝いがあるんだから」

兆は毎日のように母親の経営する喫茶店の手伝いに奔走していた。
それはマスターである兆の父親がギャンブルで身を持ち崩して蒸発したためだ。
そのせいで、兆はあれほど好きだった野球も辞めてしまった。

「それにしたって、少し過剰というかやりすぎよね。
 こう言っては何だけど、あの喫茶店って毎日手伝いが必要なほど忙しい訳でもないでしょう?」
「それは……お母さんが心配なんだよ。兆は優しいから…………」

幼馴染に対する辛辣な言葉に怯みながら、私は曖昧な擁護の言葉を述べる。
強く言い返せないのは内心で私も思う所があったからだろう。

「そうかしら? 兆ちゃんは優しいというより、優しくあろうとしているだけのように思うけれど」
「……同じ事でしょう?」

口には出さないが、兆は賭博で身を持ち崩した父親を心の底から軽蔑していた。
だからこそ父親を反面教師にして絶対に自分はそうならないよう努めている。
優しい人間であろうと努力しているのだ。

「出力される結果はそうでしょうね。
 まぁ私としてはそちらの方が好感が持てるけれど、優美にとってはどうかしらね……?」

揶揄するようにくすくすと笑う。
これ以上続けると見るべきではないものまで見えてしまいそうで、私は話を変える。

「姉さんの方こそ、彼氏はいいの?」
「彼氏? ああ薫ちゃんの事? もう一月くらい前に別れちゃったわ」
「別れた…………!? どうして?」

何でもない事のようにあっさりと言う。
だが、それは私にとっては青天の霹靂とも言える驚愕の出来事だった。

薫は私の初めての彼氏である。
彼のとの出会いは小学5年の頃、兆と同じ少年野球クラブに通う1つ上の先輩が薫だった。
私たちは試合に出るという兆の応援に行って、エースで4番として活躍する薫と知り合ったのだ。

その後、彼と同じ中学に進学して、猛烈なアプローチを受けて1年の夏に付き合い始めた。
だが、付き合って1年が立とうかと言う頃、薫が唐突に別れて欲しいと言い出した。
嘘の付けない男である薫は、正直に他に好きな人ができたのだと謝ってくれた。
その相手が愛美だと知った時はさすがの私も少し荒れて、過剰な反応を見せてしまった。

それが一月と少し前の話。
薫に振られた私を兆が慰めてくれたのを切っ掛けとして、私と兆は付き合うことになった。
その結果自体に不満はない、直後は少し不安定になったこともあるけれど、薫にとって姉の方が魅力的だったというだけの話だろう。
だが、そんな略奪愛を繰り広げておいて、こうも簡単に別れられると澱みのような気持ちが残る。

「なんだか話が合わなくって、薫ちゃんって少し品性がないというか、おバカなんだもの。
 それにマザコンな所があるでしょう? 友人としてはいいのだけど彼氏としてはちょっとねぇ?」
「そんな言い方…………ッ」

昨日今日の短い付き合いではないのだから薫の性格など分かっていただろうに。
確かに薫は考えが足りず強引な所があるが、いつもみんなを引っ張ってくれる頼りがいのある男だった。
彼が身の丈に合わない国立高校を目指しているのも、将来いい仕事について母を楽にさせるためだと語っていた。
そんな彼を私は嫌いではなかった。


975 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:09:29 XvcO0t4k0
「そうね。少し言い過ぎたわ。けど、男と女の話ですもの。いくら姉妹とは言え部外者に余り口を出してもらいたくないわ」
「それは…………そうだけど」

複雑な気持ちのまま私は言葉を濁す。

「それに優美だって今では兆ちゃんと付き合ってるんでしょう?
 だったらお互いその辺の話は言いっこなしよ」

そうだ、薫よりも気にかけるべきは今の彼氏は兆である。
何よりも兆は私を選んでくれた。
姉ではなく、他でもない私を。

だが、時々不安になる。
兆はその優しさから憐れな私を見捨てられなかっただけじゃないのか。
優しくあろうとするからこそ、傷ついた幼馴染を見捨てるという選択をとれなかっただけではないのか。
どうしても、その不安がぬぐい切れなかった。

「あら陣野さんたち、一緒に下校? やっぱり双子って仲が良くていいわねぇ」

保健室の前を通りかかった所で、ちょうどその扉が開き中から保険教諭が姿を現した。
昔からこんな風に私たちは一緒くたにされる。
双子とはそういう物なんだろうが、私は一緒くたにされるのはあまり好きではなかった。

「ふふ。そう見えます?」

私と違い姉はどういう訳かそう扱われると嬉しそうに喜ぶ。
傍から見れば私たちは仲良し姉妹なのだろう。
本当に私たちは似てない。

「テスト期間で早く帰れるからって寄り道しないで帰るのよ。
 まあ優等生の二人に言うまでもないことかもしれないけれど」
「はい。さようなら白井先生」

そそくさと私は頭を下げながら保健室を通りすぎた。
姉もそんな私に続いて先生の前を手振りながら通り過ぎる。

「さようなら、杏子ちゃん」
「こらぁ。先生をちゃん付けで呼ばないの」

体裁上注意はするものの、その声色から本気で怒っているわけではないことは窺える。
むしろ生徒に親しみを持たれて嬉しがってる様子だった。
教師すら絆されるような魅力が姉にはあった。

「……姉さん、ああ言うのやめてよね」
「あら。どう言う意味かしら?」

保健室を通過し、校門に差し掛かった所で、私は姉を振り返ってそう言った。
私の言いたいことなど分かっているだろうに、不思議そうな顔で惚けるように首を傾げる。

私は知っている。
愛美が『ちゃん』付けするのは、親しみからくるモノなどではない。
それは相手を格下だと認識したときに呼ばれる呼称である。

私たちの周囲で愛美が『ちゃん』付けしない人間は家族を除けば殆どいなくなっていた。
その呼び名が増える度、まるで膿の様な何かが浸食していくような不気味さを覚える。
いつかそう遠くない日、私はおろか両親すらそう呼び出しそうで、薄ら寒いモノを感じてしまう。

「……もういいわ」
「ふふっ。おかしな妹ねぇ」

優雅な笑みをこぼして、無言のまま立ち尽くす私を置いて愛美は校門を潜る。
校内に取り残された私は無言のまま、その背を追いかけるようにして歩き始めた。


976 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:11:22 XvcO0t4k0


「さぁ、姉妹喧嘩をしましょう――――ッ!」

掲げられた杖が白い光を放つ。
その聖光は最高ランクの魅了スキルに匹敵する神の威光。
あらゆる者の心を奪わんとする光はしかし、悪辣に染め上げられた精神を侵すに至らなかった。

出会いの確信を得ていたのは愛美だけではない。
その確信に従い、優美は事前に悪辣スキルをAランクに引き上げていた。
精神汚染など、この悪辣の前には大海に落ちた雫に等しい。

心臓が跳ねる。血液のように憎悪が全身を駆け巡った。
沸騰するような熱が神経を焼き、蟲が這う全身の筋肉が蠢いた。
筋と神経が流動しながら折り重なるように肥大化して行く。

スキル『憎悪の化身』による肉体の変質はその憎悪に比例する。
筋肉は沸騰したようにボコボコと沸き立ち、肌は鋼の様な黒に染まった。
その体積は肥大化を続け、肉体は今や2メートルを超えて3メートルに届かんとしていた。、
少女は怪物へと変貌する。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

怪物が吠える。
骨まで震える程の咆哮。
振り上げられた右腕には、ずっと握り締められた刃があった。
樹木のように伸びた刃は怪物の掌を貫き、小柄な愛美の身長の倍はあろうかという大剣へと成長を遂げる。
まるで憎悪を喰らうように。

右腕と一体化した大剣を振り上げる。
このまま振り下ろせば、恐らく民家程度なら一撃で両断できるだろう。
それこそ人間など粉微塵になってもおかしくはない。

「あらあら。ダメじゃない、そんなに的を大きくしたら」

だが、愛美は余裕の笑みを崩さなかった。
愛美はアイテム欄からライフルを取り出すと、反動を筋力で抑え込みながら引き金を引いた。
ライフル弾は振り上げた大剣に被弾し、一体化した腕が弾かれる。

「ほら、当たった」

これほど的が大きければ素人の片手打ちでも外さない。
畳みかけるように次弾の装填を行う。
そして外しようのない巨大な胴の中心に狙いを定めて、撃つ。

弾丸は肉体に届く前に、バリアブレスレットの生み出す障壁に衝突した。
肉体への攻撃に自動防御が反応したのだろう。
球体バリアの曲線を滑って弾丸が逸れる。

これを見て愛美はマジックスクロールを同時展開。
4属性の魔法が混じり合いマーブル模様の極彩が放たれた。
魔法の渦はバリアを粉砕すると胴の中心に全弾直撃した。

「―――――――!!」

衝撃に圧され、怪物が僅かにたたらを踏む。
だが、この程度、高耐久によるごり押しで耐えきれる。
痛みなど激しい憎悪で打ち消せばいい。

怪物はダメージに構わず前へと突き進んだ。
だが、前掛かりになった頭部を横合いから黄金の巨槌が捉える。

パリンと言う音。
出現したバリアはあっさりと砕かれ、正確なフルスイングで蟀谷を殴り抜かれる。
怪物が巨体で地面を削りながら転がってゆく。

愛美が巨大な力と力の衝突に耐え切れずへし折れた巨槌を投げ捨てる。
この次元の戦いにおいてこの程度の障壁などペラ紙と変わらない。

「ダメよ優美。あなたがしているのは考えるのを放棄して感情のまま暴れてるだけ。
 憎悪を燃やせば勝てるなんて、そんな都合のいい話はないの」

ダメな妹を諭すように、優しく姉は説く。
お前のしている事は考えるのが辛いから全てを憎悪に身を任せているだけだと。


977 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:11:46 XvcO0t4k0
「考えなさい。どうしたらいいのか、自分は何ができるのか、相手は何をされたら嫌なのか。得意でしょうそう言うの?」

砕けんばかりに奥歯を噛み締める。
その上から目線の言葉が感情を逆撫でする。

「ッ! …………誰が聞くかッッ! お前のっ、お前の言う事なんてぇえええッ!!!」

忠告を無視して、思考を黒一色に染めた。
更に肥大化させた憎しみによって、身を歪める。
どれだけ憎悪を燃やしても足りない。

口端が亀裂のように裂け、口元が犬のように伸びる。
皮膚は鱗の様に棘が立ち、その棘が全身を覆った。
頭部の一際大きな棘は鬼の角のようでもある。

それは人間から離れ、もはや悪魔と呼ぶべき異形だった。
正しく憎悪の化身である。

力が足りないのなら更なる力で叩き潰す。
憎悪を燃やしても足りないのなら、さらに憎悪を燃やすまでだ。
優美にはそれしかない。

「愛美ぃぃぃいいいッ!!!」

悲鳴のような絶叫を上げて悪魔が特攻する。
触らば吹き飛ぶ蟻と象のような体格差。
まるで城壁が迫る様な超質量の突撃が迫る。

その突撃に対し、愛美は避けるでもなく真正面から向かっていった。
自らを挽肉にせんとする巨人の股下をスライディングで潜り抜ける。

足元の隙。これもまた巨体故の欠点だ。
小柄な愛美であれば潜り抜けるのは容易かろうが、一つしくじれば即死は免れない状況でやってのける度胸は流石である。

後ろに回り込まれた巨人は素早く振り返る。
そこには取り出した武器を振り上げ構える愛美の姿があった。

優美は咄嗟に右手の大剣で頭部を守った。
それが如何なる武器であろうと関係がない。
例え腕ごと切り落とされようが構わない、即死さえしなければすぐさま喉笛を噛み切ってやる。
それ程の覚悟で敵の攻撃を待つ。

だが、振り下ろされたのは斬撃ではなかった。
それは鞭。ロングウィップがくるくると腕に巻き付きその腕が引かれる。

だが、綱引きなら優美の望むところだ。
優美のSTRは最高ランクを振り切っている。
力勝負なら重量に加え補正が加わっている優美が勝つ。

「ぅおおおおおおおおおおッ!!」

咆哮と共に愛美を釣り上げんと全力で腕を引いた。
だが、返ったのは空ぶるような手応え。
見れば、見計らったように愛美は鞭から手を放していた。

優美がバランスを崩す。
その一瞬の隙に、愛美が間合いを詰めた。

その手には薄く透明な刃が握りしめられていた。
それは一振りで砕け散る代わりにあらゆるものを切り裂くガラスの剣。
一閃された透明な刃が発生したバリアごと両足首を両断する。

光り輝く破片と両足から噴出した赤い血糊が宙に舞った。
支えを失った巨体が倒れる。
だが、悪魔は完全に倒れ込む前に両手を地面に突く。
そして大きく口を開いて、そのまま地面を掻きだし飛び掛かろうとした。

「――――――遅い」

愛美が指を鳴らす。
すると上空から巨大な杭が落ちた。
杭は地面を蹴らんとしていた両掌を貫き、優美を地面へと磔にする。

地に伏せた山のような巨人が見上げ、神の如く佇む小さな少女が見下ろす。
まるで二人の立場を示すように。


978 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:12:01 XvcO0t4k0
愛美は湯水のようにあるアイテムを惜しげもなく消費する。
顔に似合わぬ戦闘巧者。
それもそのはず、意外かもしれないが、異世界における直線戦闘は愛美の担当であった。
チートスキルを与えられなかった優美や真凛は元より、他の3勇者の能力もその本質は補助であり直接戦闘向きではない。

薫が『創造魔術』で武器を生み出し。
兆が『付与魔術』で効果を付与し。
誠が『魅了魔術』で敵を惹きつけ。
『完全魔術』で完成した愛美が討つ。
これが異界における勇者たちの基本戦術である。

「ダメね。ダメ。何もかもが半端だわ。
 狂戦士になりたいのなら理性をすべて捨てなさい、半端な駆け引きなんて考えちゃダメ。
 そもそも全て棄てると言うのが間違いよ、使えるものまで捨ててるんじゃ話にならないわ。
 そう言うやり方もあるにはあるでしょうけど、あなたに向いてない。別の方法を考えさない」

勇者にすらなれなかった半端者に、魔王すら討った勇者は言う。
その言葉に、ブチと何かが千切れる音がした。
それは磔になった筋肉を無理矢理に引きちぎった音だった。
掌が豚の蹄みたいにぱっくりと割れるが、この程度の痛みなどすでに慣れ切っている。

「――――教ぉ育ママかよぉッ! テメェはあああぁッ!!」

引きちぎった筋肉も、断ち切られた脚もすでに再生を始めている。
四肢の再生など本来はできるはずもないが、彼女の再生力は憎悪に比例する。
彼女の憎悪をもってすればすぐさま完治するだろう。
だが、その完了を待ちきれず、再生しきらない手足のまま優美は四つ足の獣のように襲い掛かった。

「違うわ――――お姉ちゃんよ」

だが、そんな不完全な状態で愛美を仕留められるはずもない。
真正面から掌打で迎え撃たれ、恐らく装備によるものか、爆発した掌に吹き飛ばされる。

「ぅ………………ぁ」

ゆっくりと巨体が沈む。
爆発の直撃を受けた胸元がプスプスと焼け焦げていた。

仰向けになった優美の視界に青い空が広がる。
余りにも遠い。
遠すぎる。
この身を焦がす憎悪全てをぶつけてもまるで届かない。

愛美は焼け焦げた手袋を投げ捨てる。
その下の美しかった白い手は、焼け焦げたような火傷の痕が刻まれていた。
聖杖の効果で回復するとはいえ、自らが傷つくことへの躊躇の差は妹と大差がない。

優美の場合は慣れ。
愛美の場合は、

「憎しみだけではダメ――――愛が足りないわ」


979 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:13:17 XvcO0t4k0


年が明け、もう学年も変わろうかと言う白い冬。
外では灰色の空から降り注ぐ白い雪がチラついていた。

カーテンを閉め切った暗い部屋にオレンジ色の炎が灯る。
煙草の先が赤く灯り、吐き出された紫煙が部屋に満ちた。

煙草を咥えていたのはベッドから身を起こした裸の男だった。
目を引くのは上半身にびっしりと掘られた黒い炎の様な刺青である。
ソフトモヒカンに整えられた髪から伸びた揉み上げはきっかりと切り揃えられた顎鬚へと続き、髪と同じ金に染められていた。
煙草を加える唇には左耳と揃いの金のピアスが光っていた。

これで中学生だというのだから信じられない。
冬海誠、彼氏である兆の紹介で知り合った私たち友人グループの一人である。

だが、今の私たちは友人と呼ぶには不適切な関係にあった。
私たちは裸のまま一つのベッドに同衾していた。
どう見ても情事に耽った後である。

求められ、私は断り切れずにずるずると流されてしまった。
だからと言って、肉体関係はあれど恋愛感情がある訳ではない。

私はシーツで胸元を隠しながら身を起こす。
垂れ落ちてきた髪をかき上げながら、部屋の寒さに身を震わせる。
気怠さを息と共に吐き出すとタバコとは違う白い煙となって消えていった。

「…………タバコ」
「ん……?」
「私といる時は吸わないでっていってるでしょ」
「ああ…………すまない」

誠はそう思い出したように謝って、まだ火を付けたばかりの煙草を灰皿に押し付ける。
タバコを吸わない私からすれば、吐き出される副流煙を吸い込むのは気持ちのいいものではない。

胸元を抑えていたシーツをそのまま体に巻いてベッドを降りる。
冷蔵庫まで歩いてゆくと、扉を開いて水を取り出した。
喉を鳴らして冷たい水を一口飲みこみ、火照った体を冷ます。

「……姉さんとした時は、吸うの?」

視線を冷蔵庫に向けたまま聞いた。
その問いに。

「吸うよ」

少しだけ意外な答えだった。
穢れを嫌う愛美は私以上に嫌がりそうなものだが。

「……姉さんは嫌がらないの?」
「嫌がらないよ。というか……愛美も吸うからね」
「……知らなかったわ、そんなの」
「それはそうだろうね。彼女は行為の後に一本だけ吸うのさ」

誰にだって家族にも見せない顔もある。
姉にもそう言う顔があったのだろう。

だとしても姉が煙草を吸うシーンは、私にはどうしてもイメージできなかった。
私は灰皿で燻る煙草を手に取ると、口に加え思い切り吸い込んだ。

「おいおい」
「……………ぶッ、げほっ、げほっ!!」

咽た。
すぐさま煙草を灰皿に放り投げる。

「っ……よくこんなの吸えるわね」

煙たいだけだ。
好き好んでこんな煙を吸う人の気がしれない。

「まぁスポーツマンの吸うような物じゃないかもね」

苦笑しながら誠が念入りに煙草の火を消す。
私は煙で汚れた喉を洗い流すように、水でうがいして流しに吐き捨てる。
手の甲で口元を拭って一息つくと、私は問いかけた。


980 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:13:31 XvcO0t4k0
「姉さんはあなたの事が好きなの?」
「まさか。君も良く知っているだろう、彼女は――――誰も愛さない」

強烈な自己愛。
その愛は内部に向けられたもので外部に向くことはない。

「例外は一人だけだ」
「…………誰の事?」
「わかるだろう?」

意味深な顔をした問いかけ。
そんな事を言われても、わからない。
わかりたく、ない

「姉さんがそうだったとして、 誠は姉さんの事が好きなの?」
「彼女とするのは好きだよ。彼女は巧いし何より美しい」

茶化す様な解答をする誠をジト目で睨みつけると肩を竦めた。

「それに知ってるだろう? 好きという感情は僕にはよくわからない」

誠の上半身を覆う刺青は火傷の痕を隠すために掘られたモノである。
その火傷は彼の両親の『教育』によって刻まれた痕だ。
それを行った両親は自分たちの行いを愛情であると疑っていなかった。
今だってこうなってしまった息子を見て、どうしてと嘆くばかりで自分たちの責任だなんて欠片も思っていないだろう。

それから彼は愛という物が分からなくなり。
精神的繋がりを信じられなくなり、肉体的な繋がりばかりを求めるようになった。
それが彼の歪み。

それは私もそうだった。
私の両親は確かに私を愛しているのだろう。
けれど、それも愛美のオマケの愛情でしかない。

優先されるのはいつだって愛美だ。
しっかり者扱いの私は二の次。
愛される事に関して、あの女の右に出るものはいないだろう。

だから、私は私を求められたい。
誠の誘いに応じてしまったのはそんな私の弱さがあったからかもしれない。

「そうだな……愛美と僕は割れ鍋に綴じ蓋と言うやつさ。僕らは傷の嘗め合いをしているだけさ」

あの完全無欠の姉に、傷なんてあるのだろうか。
私には想像できなかった。

「僕たちはこの世界ではどうしても生きづらい」
「僕たちって…………兆や薫もってこと」

私も、とは聞けなかった。
そんな私の誤魔化しを見抜いているのかいないのか誠は変わらぬ調子で応える。

「いいや」

どこか呟くような声。
煙草が無くて口さみしいのか顎鬚を撫でる。

「人間全部さ、誰だって何かを抑えている。
 箍が外れないように、折り合いをつけて生きているのさ」

誰だって何かしらの歪みを抱えている。
それは愛美だって同じだと、綴じ蓋はそう言っていた。


981 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:14:23 XvcO0t4k0


愛が足りない。

その言葉が頭の中で反芻される。

愛などない。
あるはずがない。
あったとしても、悪辣が塗りつぶしてくれる。
そう、仮にあったとしても、今は全て憎悪に染まる。

だと言うのに、その憎しみによって作られた肉体が萎んでゆく。
悪魔の外装は取り払われ、そこに残ったのは優美という少女の姿であった。

「あら、もうおしまい? 楽しみにしていたのに、つまらないわね」

姉は立ち上がれなくなった妹を嘲るように言う。
その声には深い失望が込められていた。
果たしてそれは、何に対する失望だったのか。

「全ても懸けず勝てると思われていたのなら、嘗められたものだわ」

愛美にしては珍しい、怒りを含んだ叱咤の声。
だがその怒りはおかしい。

優美は全ての憎悪を込めた。
その全てをぶつけても愛美には届かなかった。

彼女の憎しみはただの憎しみではない。
憎しみは彼女の全てだ。
何もなくなった彼女に残されたのはそれしかない。
それが届かなかったという事は、彼女全ての否定である。

憎しみがなくなれば、彼女にはもう何もない。
戦意の喪失に足る理由だった。
そのはずなのに。

「――――ようやく立ったわね」

言われて気づく。
気が付けば優美は立ち上がっていた。
何もなくなったというのに何故。

「いいわね。それで、どうするの?」

彼女の敵が問いかける。
それは優美が聞きたい。

憎悪では届かない。
愛など始めからない。
どうすれば勝てるというのか?

分からない。
分からないが、まだ戦えると彼女の肉体が告げていた。
まだ懸けていない何かがあると、殺すべき姉が告げていた。

そもそも、勝てるから戦っていたのか?
そうじゃない、そうじゃないだろ。

これは復讐だ。

出来る出来ないの問題ではなく、やるかやらないかでもない。
やるしかない。
それしかないのだ。

敵を殺せと憎悪が示す。
敵に勝てぬと理性が告げる。

ならば、どうすれば勝てるかを考えろ。

憎悪は捨てない。
あの地下牢でこの世の恨みや辛みを味わい続けた彼女にとって憎悪はもはや己の一部である。
今更捨てられるモノでもない。

ただ、その使い方を変える。
余りにも巨大な憎悪をそのまま肥大化させるのではなく、一点に集中させるようにその質を高める。
憎悪をただぶつけるのではなく無駄をそぎ落とすように研ぎ澄ます。

ただ一人を殺すのに巨大化する必要などどこにもない。
その身はその身のまま、中身をダイヤモンドのように密度を高める。


982 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:14:56 XvcO0t4k0
愛美と目が合う。
それは余裕か、動くことなく変わりつつある優美を見守っている。
構わない。
何か狙いがあるのであれ、余裕であれ、油断であれ、使えるのなら使うまでだ。

己の武器。
己だけの武器を模索する。

異界の神やゲームシステムみたいな、誰かに与えられたものではない彼女だけの武器。
そう考えれば、自然と体は動いていた。

左手に鉄球を持つ。
右足は少し前に出して構える

何百、何千、何万回と繰り返してきたルーティン。
考えるまでもなく体が動く。

優美がバレーを始めた理由はバレーが好きだったからではない。
バレーなんてやったことはなかったし、そもそも興味なんてなかった。
ただ、愛美がやっていない事なら何でもよかった。
それがバレーだったのは、たまたま学校で一番強い部活がバレー部だったからというだけの理由である。

それでも、続けていればいつの間にかバレーは優美の一部になってた。
それが、優美に足りなかった物。
バレーに対する愛、そして自分のこれまでを愛する心だ。

その一部を否定してはならない。
お節介な後輩から伝えられた教えだ。

青春全てを賭けた神聖な物だったからこそ
いつの間にか掛け替えのないものになっていた。
だからこそ、丈美の時のように勝負の結果としての死ではなく、バレーその物を人殺しの道具として使うことに躊躇いがあった。

自分の中に、まだそんな余分があったのかと自嘲する。
そんなものは要らない。
使えるものは全て使えというのなら、それも使うべきだ。

優美の専用装備であるアヴェンジャー・エッジは装備者の感情に応じて形状が変化する復讐の刃。
彼女の心情に合わせて最適な形状に変化する。
今の彼女の心情を表す形は一つ。

左足を前に踏み出しながら、体の真上にボールをトスする。
短い助走から跳躍し、空中で弓のように体をしならせバックスイングの体勢へ。

振り上げたその右手は力全てを一点に集中するハンマーのような形になっていた。
バレーボールと言う競技に対する冒涜とも言える暴力的フォルム。
だが、それでいい。

愛は愛でる者じゃない。
愛は浸蝕し冒涜し消費するものだ。

「来なさい――――」

迎え撃つ愛美が、ダンと強かに地面を踏み付けた。
足裏に何かを仕込んでいたのか、それを合図に地面が次々と隆起し土の壁が生まれる。
支給品により生み出されたブロックは三枚。

だが、それがどうした。
ウォームアップはすでに終わっている。
1年間のブランクは後輩との試合で取り戻した。

ブロックを避けるのでも、ブロックアウトを狙うのでもない。
真正面からぶち抜いてやる――――!

「――――――――シァッ!」

体重を乗せた大振りの腕で、鉄球の中心を打ち抜く。
爆発したような炸裂音と共に、鉄球が一条の光となって打ち出された。
鉄球であればこそ為し得た異業、バレーボールではその力量に耐えきれず破裂していただろう。

怪物じみた剛力により打ち出され赤熱化した鉄球が、三枚の土壁を紙の障子のように容易く撃ち抜く。
選手時代、戦車砲に例えられた弾丸サーブは比喩ではなく正しくその物の破壊力となっていた。

金属同士がぶつかる鋭い音が耳を劈く。
レーザーサーブは純白の聖杖に弾かれ鉄球が後方に逸れた。
直線軌道に合わせて事前に構えていた聖杖が盾となったのだ。


983 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:15:13 XvcO0t4k0
「ッ」

その衝撃に押され地面に刺していた聖杖の石突が地面に深い一文字を刻んだ。
握り締めていた手が燃えるように熱を帯びた。
これほどの衝撃を受けて無事であるのは流石は専用武器と言ったところか、丈夫さは折り紙付きである。

だが、安堵の息を吐く暇などない。
一切の隙など与えず、優美は千本ノックのように連続してサーブを打ち込んだ。
星を穿つ流星群がたった一人を消滅させるためだけに降り注ぐ。

愛美は聖杖を構えなおす。
こうなっては土壁は視界を遮る邪魔にしかならない。
その全てを弾き落とさんと目を見開き、自らに迫る流星群をハッキリと視界に捉え杖を振るった。

襲い掛かる流星を次々と弾く。
逸れた鉄球が被弾した地面が爆撃でも受けたかのように抉れてゆく。
一撃を弾く度、衝撃により腕の骨が折れるが、握り締めた専用武器アモーレ・プレデトーレの効果により再生する。
拷問のような繰り返しの最中、僅かなズレもなく全ての動作を一切のミスなく完遂する。

どれほどの猛攻であろうとも、繰り返せば慣れがでる。
防戦一方も飽きてきた。
愛美は目の前の鉄球を弾いた後に攻撃に転じようとする。
だが、瞬間――――目の前の一球がブレた。

フローターサーブにより打ち出された無回転の鉄球が、構えた杖を避ける様に落ちて愛美の脇腹にめり込んだ。
ごふっと口から血が零れる。
そのまま鉄球は体を抉り、傷口から真っ赤な血が蛇口を開いたように溢れ出た。

「な、る、ほ、ど、ね」

踏み止まり血濡れのまま愛美は嗤う。
バレー経験のない愛美は、リアルタイムで学習を続ける。
見極めるべきは回転だと愛美は学んだ。

「そ――――――――レッ!」

その間にも次の鉄球は容赦なく打ち込まれ続ける。
周囲に血を巻き散らかしながら、愛美は杖を構えてそれに応じた。

熱を帯びた赤い閃光が奔る。
その軌道は、今度は落ちるのではなく大きく横に逸れた。
フローターサーブとは違うキレのある横回転のカーブサーブ。

それを、愛美は聖杖をバッドのように振り抜き、鉄球の真芯を捉えた。
ジャンプサーブの着地もままならない優美の背後で地面が爆ぜた。

「ストラーイク、だっけ? 違ったかしら?」

にぃと笑った愛美の視線が、驚愕に見開かれた優美の視線と交錯する。
鉄球は優美を僅かに逸れ場外ファールとなったが、打ち返したのは確かである。

愛美はバレーやましてや野球に対する知識もない。
それを初見で打ち返せたのは見極めた回転からマグヌス効果による変化を予測しただけである。
そして、その回転は青山征三郎より得た観察眼があれば見極められる。

「次は、当てる」

着地し動きを止めた優美に向かって、杖先を突きつけ予告ホームランのように宣言する。
真正面から跳ね返せば、その速度が仇となりサーブ直後の優美は避けられない。
それは先ほどの一球で証明されている。

鉄球による流星が止まった。
既に鉄球は尽きた。次が最後の1球である。
故に、この一打席で勝負は決するだろう。

愛美が聖杖を盾にするのではなくゆるりと振りかぶる。
そして力を溜めるように重心を後ろにテイクバックした。

対する優美はルーティンをこなすと。
祈るようにボールを上空にトスした。
これが運命の一球。


984 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:16:06 XvcO0t4k0
一球入魂。
サービスエースを狙う渾身の一打。
その速度はこれまでの比ではない、恐らくマッハに迫るだろう。

だが”観える”。

回転はドライブ。
最短最速。真正面から胴体の中心を射抜く軌道。

絶好球。
愛美が足を振り子の様に揺らしスイングを始めた。

(違う………………ッ!?)

瞬間、愛美は違和感に気づいた。
違和感を見逃さぬ観察眼、しかし着弾までコンマ1秒にも満たぬ刹那の出来事であれば、気づいた時にはもう遅い。
振りぬいたバットは止まらずボールを打ち抜く。

眩い閃光の様な火花が散った。
否、それは火花ではなく雷鳴だった。

球が杖に触れた瞬間、球体がパカリと開く。
形も大きさも同じだが、放たれたのは鉄球ではなかった。
雷を放つライテイボール。
構造上強度が満たぬそのボールは砕け散りながらも、電撃を放ち続けその役割を果たした。

杖を通して愛美の全身に電撃が流れる。
電撃によりその動きが完全に止まった。

勝機があるとするならばこの一瞬だろう。

この刹那、全てが決する。

報われなかった彼女の人生全てに。

決着の時だ。


985 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:18:05 XvcO0t4k0


「私も総体が終われば引退か……」

3年になり季節は夏。
汗の臭いが漂う蒸し暑い空気が体育館に満ちる。
私にとって中学最後の大会が目前に迫っていた。

公立校でありながら強豪校にも食い込むだけの成長を見せた私たちの学年は黄金期とも呼ばれていた。
この3年間、それこそ彼氏や姉妹よりも長い時間を過ごした仲間たちである。
プライベートで遊びに行くような関係ではなかったけれど、彼女たちと別れるのは名残惜しかった。
続けられるのならずっと続けていたかった。

「何言ってるんですか、全国まで勝ち進んで行けば引退はまだまだ先ですよ」

私のつぶやきを聞いていたのか、私の柔軟を手伝っていた背の高い後輩が励ますような声を上げた。
全国にまで出場すれば引退が8月に伸びる。
全国を目指すのは当然として、続けるために頑張るというのも悪くはなかった。

「そうね。けどまずは目の前の県予選からよ。油断せずに行きましょう」

はい!と元気のよい返事が返る。
慕ってくれる後輩、かけがえのない仲間。
碌でもない動機で始めたバレーだったけれど。
今となっては、私の居場所はここだけだった。

教室での私は一人だった。
人望なんて簡単に移ろう物で、私の周りにあれほどいた人々はすっかりいなくなっていた。
別にクラスメイトから嫌われているわけではない。
ただ川の水が流れるように、ごく自然に人望が流れていったのだ。
愛美と言う海に向かって。

3年になり、クラスの中心となっていたのは愛美だった。
クラスメイトは愛美の取り巻きとなって休み時間毎に彼女を取り囲んでいだ。
周囲の人間は盲目的な信者と言った方が表現として正しいだろう。
その様子は餌に群がる鯉みたいで、傍から見て気持ちが悪かった。

私が得たものは全て愛美のモノになっていた。
私は誰にとっても私ではなく、愛美の妹でしかなくなっていた。

直接的な暴力や嫌がらせなど何一つない。
ただ、私が得た物は気が付けば愛美の物になっていく。
まるで真綿で首を締められるよう。
これでは、奪われるために得ているようだ。

私は何かを奪われるたびバレーにのめり込んだ。
鬱憤を晴らすように、青春の汗を流した。

煩わしい人間関係がなくなったこともあり、バレーにも集中できた。
彼氏である兆も実家の手伝いに忙しく、私の部活動も相まって予定が合わず最近は疎遠だ。
学校での昼食と休日に数十分電話をする程度の交流にとどまっていた。

「ほら、ダラっとしてない! 練習始めるよぉ!!」

パンパンと手を叩くコーチの声が響く。
バレー部の全員が一斉にコートに向かって機敏に奔りだすと、体育館にキュキュと不揃いの足音が響いた。

飛び交う掛け声。ボールの音。
今日もコートの上で汗を流す。

そんな中、意識の外でふと考える。
何故この場だけ奪われなかったのか。
部員のみんなは周囲から孤立する私の状況を知り、私を守ろうと躍起になっていたが。
彼女たちには悪いが愛美からすればそんなものは藁の家よりも脆い守りにしかならないだろう。

その答えも見つからないまま、練習終えて帰路に付く。
7月になり日も長くなったが帰る頃にはすっかり日が暮れていた。
妙に蒸し暑い鈴虫の声が響く夜道を歩く。

自宅へ続く最後の角を曲がったところで、自宅の玄関が開いたのが見えた。
今日は仕事の都合で両親の帰りが遅く、家にいるのは愛美一人のはずである。
だから、家の中から出てくるのは愛美以外にはあり得ない。
だが、玄関から出てきたのは愛美ではなかった。


986 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:18:31 XvcO0t4k0
「…………兆?」

私の幼馴染にして私の彼氏。
私に気づいていないのか、こちらに振り返るでもなく、どこか慌てた様子で逃げる様に立ち去って行った。

街灯の先に消えてゆくその背を呆然と見送る。
そしてその意味を理解した瞬間私は瞬間湯沸かし器のように頭に血を登らせた。
兆を追うのではなく兆が出て行った玄関を乱暴に開いて一直線にキッチンに向かうと、そこにいた姉を問い詰める。

「姉さん! どういう事なの!?」
「おかえりなさい。いきなり大声をあげてどうしたの? 食事の用意ならもう少し待ちなさい」
「そうじゃないわ! 今っ! 兆が出て行ったのを見たの! 私がいない間に二人きりで何をしていたの!?」

私が部活に精を出していた間に逢瀬を重ねていたのか。
家の手伝いを理由に疎遠だった兆がこんな所にいる事もそうだが。
バレー活動が大事だったからこそ、この裏切りは許しがたい。

「あら、兆ちゃんとは幼馴染じゃない。二人きりでお話しするのも変な事ではないでしょう?」
「だとしても! 今は私の恋人なの! 二人きりで逢うのはやめてよね!」

やめて欲しい。
これ以上私から、何かを奪うのは。

「あら? それは下衆の勘繰りと言うモノよ。信じてあげないの? 彼氏の事」

感情的な私と違って、姉はいつだって冷静だ。
生まれてこの方、私が愛美が取り乱した様子を見たことがない。
それが更に私の激情を加速させる。

「だから、それがッ…………ぁ」

振り上げた腕が、勢い余って花瓶に当たる。
花瓶が割れる音が響き、フローリングに破片が散らばる。
伸びた水たまりがカーペットを濡らした。
それは毎日母さんが大事そうに花を飾っている花瓶だった。

「……あっ」

急激に頭の熱が醒める。
またやってしまった。
こうして感情的に暴れてモノに当たっては、何度も両親を困らせた。
そんな自分を恥じて、バレーに打ち込み、変われたと思ったのに。

「大丈夫、ただの花瓶よ。花が無事なら花瓶を変えておけば大丈夫でしょ」

固まる私を余所に、愛美は動じるでもなく散らばった破片を拾い始めた。
それを見て慌てて片づけを手伝おうとした私を愛美が制する。

「いいわ。大会を控えた大事な体なんですもの、怪我なんてさせられないわ。
 私が片付けておくから、あなたはシャワーでも浴びてきなさい」

優しい口調だが、反論を許さぬ圧力があった。
それは言外にこの話しは終わりだと告げている。
すっかり頭は醒めて、噛みつくほどの勢いは萎えてしまった。

いつだって感情的になるのは私だけ、私の激情は柳のように受け流される。
私の抗議はまともに取り合われもしない。

だから私たちは喧嘩にもならない。
それがどうしようもなく、もどかしい。

いっそ、無茶苦茶になるまで殴り合えたらいいのに。

脱衣場で服を脱ぎ去り、浴室に入ると冷水のハンドルを捻る。
冷たいシャワーを浴びながら頭を冷やす。
蒸し暑い夏の熱気に冷たい水は心地よい。

『僕たちはこの世界ではどうしても生きづらい』

誠の言葉が思い返される。
私達はどうしても生きづらい。

この世界じゃない別の世界なら私たちは楽になれるのだろうか?


987 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:19:51 XvcO0t4k0


陣野優美は駆け出した。

電撃にって行動が封じられているが、相手は陣野愛美である。
電撃による行動阻害など、すぐさま回復するだろう。

勝機は一瞬。
故に、この瞬間に全てを懸ける。

鉄球はすでに尽きた。
かと言って半端な攻撃では届くまい。
殺すのならば、直接この手で仕留めるしかない。

何より復讐すると誓った時に最初から決めていた。
殺すならば、この手で。
命を絶つ感触を忘れないために。

「愛美ぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっっっ!!!!!」

血を吐く様な咆哮。
感情の箍が外れたのか。
その目からとめどなく涙が溢れた。

良心などない。
理性などない。
ならば、これは何の涙だ。

感情が溢れた憎悪の涙か。
憐れな己に対する憐憫の涙か。
決着を前にした離別の涙か。
それとも、もう戻れない哀愁の涙か。

私には分かる術がない。
何故ならこれは、私の涙ではない。
かつて私だったモノの涙だ。

『――――姉妹喧嘩をしましょう』

そうだ。私たちはもっと早く、こうしておくべきだったんだ。

けれど、もう遅い。
ビンタ一つで終わるような領域はとっくに過ぎ去っている。

私たちはとっくに壊れて、壊れて、壊れ果てた。
ここにいるのは姉妹だったモノの残骸だ。
私は怪物に堕ち果てて、愛美は神なんてモノに成り果てた。

みんな必死に生きていたのに。
箍は外れてしまった。
もう、戻ることなど出来ない。

だから、終わらせる。
手遅れなくらいにグチャグチャになるまで。

全て炉にくべろ。
過去も、現在も、未来すらも。
燃やせ燃やせ、燃やし尽くせ。

何も残さない。
この瞬間に、何かも終わらせられるのなら、燃え尽きて死んだっていい。

「優美いぃぃ――――――――――ッ!!」

愛美が動く。
杖の回復効果により電撃の痺れを振り切り、鉄球を防いだ時のように軌跡を読んで杖を構える。

「く――――――――――ぁッッ!!」

最後の一歩を踏み込む。
魂をニトロのように燃焼させる。
両足に力を籠めて、シューズで体育館の床を蹴るイメージ。
脚の筋肉が爆ぜる勢いで、駆けるのはなく――――バレーのように跳ぶ。
ただし縦ではなく横にむかって。

陣野優美と言う存在全てをこの一撃に籠める。
その速度は音の壁すらも破り、システムの限界値を超えた。
右腕は刃に、その身は光の矢のような貫く刃となる。


988 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:20:33 XvcO0t4k0
衝突は刹那。
命が弾けるような閃光が散った。
鮮やかな赤が咲く。

光の矢は構えた杖を小枝のようにへし折り、そのまま右手の刃が胴の中心を貫いた。
腹部を貫いた衝撃が体を突き抜け、背より弾けた血と臓物が花のように咲いた。
愛美の口から吐き出された塊のような赤い血が優美の顔を汚す。

だが。


「――――捕まえた」


抱き寄せられる。
強く、それでいて優しく。
愛おしい恋人を抱きしめるように。

愛美の傷は致命傷だが、即死ではなかった。
『愛喰らう者』では優美の刺突を止めることはできずとも、ほんの僅かに軌道を逸らすくらいはできる。
それにより即死に至る重要な臓器だけは避けられた。

「楽しかったわ、あなたとの姉妹喧嘩。私たちは喧嘩なんてしたことがなかったから、一度くらいはしておかないと」

それが彼女の目的。
だからこそ、優美にも全力を出してもらわないといけなかった。
何て身勝手で、自分が勝つと言う結末を疑わぬ我侭さ。

「さぁ――――――――、一つになりましょう」

脳を痺れさせるような耳元で囁かれる声。
ズブリと、優美の体が愛美の中へと沈んでゆく。

「な……んっ、これ、は…………ッ!?」

これは異世界で嫌と言うほど見た、完全魔術だ。
引き剥がさねば取り込まれる。

「ッ、離せ…………離せッ!」

愛美の腹部は切開されたように開き、刃も突き刺さったままである。
いくつも臓器は吹き飛んで、既に瀕死だ。
このまま優美を取り込めなければ、死ぬのは愛美である。

優美は取り込まれないよう抗い、愛美は死ぬまでに取り込む。
これはそう言う戦いだ。

瀕死の愛美の抱きつきに拘束力などない。
今の優美の筋力ならば、こんな拘束すぐにでも振り解けるだろう。

「な……っ、く」

だが、ビクともしない。まるで振りほどけなかった。
これは愛美の拘束力の問題ではない、問題は優美の方にあった。
全くと言っていいほど力が入らない。

この瞬間のために準備をしていたのは優美だけではない。
愛美は最初から、いや戦う前から”こうなる”ことは予測がついていた。
この時のために触れた相手のSTR値を完全に無視する、Aランクの身柄確保スキルを取得していた。

力が全く入らない。
ならばと腹部に突き去ったままの刃を動かす。
痛みで拘束を解けば良し、このまま止めをさせればなお良しだ。

「こぉら、動かないの」

優美の視界に白い火花が弾けた。
マテリアルクラッシュ。
抱きよせられた頭部に直接叩き込まれた衝撃で意識が揺れる。

「ッッくぅ!!!」

だが落ちる直前、噛み千切るつもりで思い切り舌を噛む。
鉄の味が口内に広がる。
舌は半分千切れたが、おかげで辛うじて意識を繋ぎとめられた。


989 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:20:59 XvcO0t4k0
ぎりぎりで繋ぎ留められた意識が融けるように揺蕩う。
愛美に取り込まれてゆく意識が混じりあい記憶が混濁する。
曖昧な頭で、それでも拭いきれぬ憎悪がありのままの想いを口にする。

「――――――憎い。お前が憎い。憎い憎い憎いッ!
 どうして、勝てないの。嫌だ、私は、嫌だ、私はずっと苦しんできたのに。
 愛美に負けたくない、当たり前みたいに全てを持っていくなんて酷すぎる……ッ!
 どうしていつも姉さんばっかりが持て囃されるの? どうして私は愛されないの?
 私だって、褒められたかった、認められたかった、愛されたかった!!
 私だって……お姉ちゃんみたいになりたかった!」

絶望と怨嗟の声は、何でもないどこにでもあるような確執と嫉妬の叫びに変わっていく。
燃え尽きたはずの燃え滓のような、どうしようもない残骸(わたし)が残っていた。
だが、そんな当たり前を口にしたのは初めての事だった。

「大丈夫よ優美。あなたはこれから私になるの」

優しく髪を梳くように頭を撫でられる。
曖昧な頭が暖かさで満たされる。
まるで母の胎内にいるような安心感。

それは久方ぶりに感じる人の温もりだった。
自分と同じ不思議な匂いが鼻孔をくすぐる。
生まれた時から隣にあった懐かしい体温。
余りの心地よさに、絆されてしまいそうになる。

それが何より嫌だった。

殺すなら残酷に殺してほしい。
誰よりも冷酷に。
何よりも無惨に。

そうじゃなければ報われない。
何一つ報われることなんてなかった私が、あまりにも報われない。

私が何かを得ると奪われる。
私は何もかも奪われてきた。

だけど、どうかこの憎悪だけは奪わないで。

一つの大きな何かに向かって流れ込んでゆく。
夢でも見る様に、意識が溶ける。

悪辣よ。

どうか。


990 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:21:18 XvcO0t4k0


窓の外で桜の花びらが舞う。
新しい何かを予感させるような春の陽気に心が弾む。

訪れる事のなかった春。
私は新しい制服に身を包んでいた。
今日から、私は高校生になる。
鏡の前で回ってスカートを翻す。

進学先は県内屈指の進学校であり、文武両道を掲げるだけあってバレー部も強豪である。
なにより制服の可愛さもこの高校を選んだ決め手の一つだ。

「そろそろ起きないと遅刻するよ、姉さん」

ベッドで眠る姉さんに声をかけるが反応がない。
はぁとため息をついて、ベッドまで近づいて眠っている姉さんの肩を揺する。
姉さんは口元をむにゃむにゃと震わせながら、呻きのような声を上げた。
寝ころんだまま机の上に手を伸ばして目覚ましを手に取る。

「んもぅ……なんなのぉ、まだ早いでしょぉ」
「もうっ。寝ぼけてないで起きなさい! 中学より遠いんだから15分は早く出ないと遅刻しちゃうよ」
「えぇ……そうだったかしら……?」

姉さんは要領がよくて、世渡り上手だけど、どこか抜けたところがある。
特に朝は弱い。よわよわだ。
こんなこと、家族くらいしか知らないだろうけど。

姉さんは仕方なさげにベッドで身を起こすと、大きく伸びをした。
そしてあくびを噛み殺しながら眠気眼で私を見つめた。

「なに? もう制服を着ているの?」
「いいでしょう別に、新しい制服なんだから」

今日から私たちは同じ高校に通う。
スポーツ推薦だった私と違って、姉さんの合格はギリギリだった。
と言うより、ギリギリ合格できる最低限の努力で済ませたのだろう。

要領がいいというか要領がよすぎる。
落ちたらどうするつもりだったのだろう?
まあ姉さんに限ってそれないんだろうけど。

私は眠そうに目を擦る姉さんの手を引いて階段を下りる。
一階にキッチンに連れて行くとコーヒーとトースターで焼いたパンのいい匂いが漂ってきた。
キッチンで朝食の準備をしていた母さんと、コーヒーを片手に新聞を読む父さんに朝の挨拶を交わす。

「ほら、座って」

姉さんを朝食の用意されたテーブルの席につかせる。
今日の朝食はサラダとスクランブルエッグとパンだ。
姉さんはフレッシュオレンジジュースを一口飲むと、トースターで焼いたばかりのパンにストロベリージャムをたっぷりと塗りたくる。

既に朝食をすましていた私は、櫛を取り出して朝食を食べる姉さんの後ろに回って柔らかな絹糸の様な髪を梳く。
姉さんはくすぐったそうに首を振る。

「ちょっと、ジッとしててよね姉さん」
「もぅ。食べづらいんだけど」
「姉さんがゆっくりしてたから、時間がないの。入学式に揃って遅刻する双子なんて見世物になりたくなければ我慢して」

ブラッシングが終わるころには、姉さんも朝食を食べ終わっていた。
おっとりとしているようで、姉さんは意外と食べるのが早い。
上品に口元を拭きながら、後ろにいた私を振り返った。

「優美こそ寝ぐせ、ついてるわよ」
「え、うそぉ…………!?」

慌てて頭を抑えるが、鏡がなければ寝ぐせがどこにあるのかわからない。
そうやってる隙に櫛を奪い取られ、入れ替わるように席に座らされ交代のように髪を梳かれる。
寝ぐせなんて自分で直せる、と思ったけれど誰かに髪を梳かれるのが思いのほか気持ちがよかったので身を任せることにした。

「ははっ。お前たちはいくつになっても仲がいいな」

新聞を読んでいた父さんが、私たちを見ながらそう言って笑った。

「当たり前でしょう。私たちは生まれた時から一緒の仲良し姉妹なんだから」

笑いながら姉さんが言ったその言葉に両親が笑った
釣られて私も笑った。

幸せな家族の情景。
特別なことなど何もない。

どこにでもいるような姉妹が、どこにでもあるような日常を送る。

そんなあり得ない夢を見た。


991 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:22:25 XvcO0t4k0


「馴染むッ、あぁ……実に馴染むわぁ…………ッ!!」

それは取り込んだ魂の影響か。
愛美らしからぬ激しい感情の露発を見せながら、両手を広げてくるくると廻る。

これまでにない充実感。
100万の魂と一体化してもこれほどの充実感は得られまい。

一つの魂を二つに分けた一卵性双生児。
それを完全な状態に戻す、完全魔術はこのためにあった。

欠けていたものが埋まる感覚。
生まれてからずっと感じていた、自分には欠けているものがあると。

彼女は激情を持たなかった。
どのような事があれ心を揺り動かされる事がない。
感情がない訳ではない、ただ何事にも熱くなれず、心躍らない。
何事もこなせる才覚を持ちながら、それを向けられる情熱がない。
それが彼女の歪み。

そして、半身たる妹は彼女の持たない激情を抱えていた。
恐らく妹は母の腹の中で卵子と共に別れてしまった激情なのろう。
彼女はそうであると疑わなかった。

自分の一部を奪った妹が何よりも憎らしく。
されど自分の一部である妹が何よりも愛おしかった。
彼女の激情は妹であり、その情熱は妹のみに向けられた。

それが彼女の愛。
妹がその情熱で手に入れた物を奪う事でしか生きられぬ歪んだ愛。
この歪みは永遠に矯正されず、己はこのまま生きていくのだと、そんな諦観をもっていた。

だが、力を手に入れた。
この歪みを正す、歪んだ力を。
彼女の箍が外れたとするのならその瞬間なのだろう。

舞台の中心で人生の絶頂を謳うように少女は踊る。
その目からは、一筋の涙が伝った。

それは誰の、何の涙だったのか。
完全なる存在になったはずの愛美にも、それは分からなかった。

[陣野 優美 GAME OVER]

[D-4/草原/1日目・日中]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A→S VIT:A→S AGI:B→S DEX:B→S LUK:A
[ステータス]:完全、胴体に穴(再生中)
[アイテム]:
発信機、エル・メルティの鎧、万能スーツ、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(3/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、コレクトコールチケット×1、防寒コート、天命の御守(効果なし)、爆弾×2、不明支給品×11
[GP]:120pt→80pt(Aランクスキル習得-100pt、強敵撃破ボーナス+60pt)
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
1.消化試合を終わらせる
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C テレパシー:B M・クラッシュ:B 憎悪の化身:B 戦闘続行:C 悪辣:B
※身柄確保(A)のスキルを習得しました

【ガラスの剣】
儚く美しい剣。
一振りすればあらゆる物を切り裂くが、刀身も崩壊する。

【苦しみの杭】
発動すれば自動的に対象を磔にする杭。
使用するには以下の条件を全て満たさなければならない。
・使用者と対象者の距離が10m以内である。
・対象者の両掌が磔にできる何かに接している。
・対象者が咎人(殺人者)である。
・使用者が対象者を愛してなければならない。

【紅蓮掌砲】
手袋型の爆弾。
掌から直接爆撃を叩き込むため破壊力が高い。
最大火力で放つと自身の手にも被害が及ぶため扱いには注意が必要。

【Ground Barricade】
地面を材料としてバリケードのように壁とする術式。
作成されるバリケードは使用したフィールドの属性に従う。
海面など不定形の地形で使用した場合、維持されず即座に崩れ落ちる。


992 : Sister War ◆H3bky6/SCY :2021/10/31(日) 02:22:43 XvcO0t4k0
投下終了です


993 : ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:42:24 j0WHnU0g0
投下します


994 : Deep Blue Sea ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:43:59 j0WHnU0g0
■プロジェクトS■ 経緯報告書

■概要

本プロジェクトの最終目標はクローンとは異なるアプローチの人間の製造、完全なる人造人間の生成である。

AI技術の発展により、人間と遜色ない受け答えのできるAIの開発が可能となった。
AIは人間の精神の再現と言えるだろう。

また人体も人工筋肉や人工臓器などの開発が進んでいる。
縮小化などの課題もあるがゼロから人体の再現も不可能ではない。

この技術の組み合わせによって人造の肉体に人造の精神を乗せた人造人間の開発は可能である。
だが、それは人間足りえるか?

この命題に対して殆どの人間がNoと答えるだろう。
肉体と精神だけでは人間足りえない。

人造人間はインプットに対するリアクションは可能だが、自ら行動を発する衝動がない。
如何に正確な受け答えができようとも、それは哲学的ゾンビでしかない。

存在の根幹をなす行動原理。
決定的に足りないものが『魂』である。

ツリー元の概念改変能力の応用により魂の改竄は可能となった(魂の加工技術はプロジェクトPを参照)
しかしゼロからの人工的な魂の作成は現時点では不可能である。
これを可能とするには代入すべき魂の値を明確にする必要がある。
以下の検証はその数値を取得するための方法を模索するものである。

■実証・経過

捕食したデータを取り込み学習する自己学習型AIによるアプローチを試みる。

運用テストとして捕食本能のみをインプットしてネットワーク上に放出した。
ネットワークの海で全てを喰らう王者としての特性からシャークウィルスと仮称する。

放出後、3ヶ月経過を観察。
シャークウィルスは順調に成長を続け、3歳児程度の知能まで成長のが見られた。
学習能力に問題なし、放置し続ければ2045年のシンギュラリティを待たずして人間の知能を超えるAIが生まれた可能性は高いだろう。

■問題定義・問題点

このシャークウィルスに魂を学習させることは可能なのか?
魂を喰らう事が出来れば、その変動値を解析するれば魂の値を明確にし、再現性を持たせることも出来るだろう。

当然の問題として、学習型AIはデータ上の存在であり、魂の学習を行うための捕食対象がネットワーク上には存在しない。
これら問題解決の目途が立つまで、本プロジェクトは一時凍結とする。

                  プロジェクトS 統括責任者
                     ■■■■・■■■■

(以下、手書きの走り書き)

別ラインで計画されているプロジェクトVを利用することで実現可能なのではないか?

合同実験の提案は却下された、仕方ないのでこちらで秘密裏に実行することにした。

せっかくなのでウィルスデータもVRゲームに沿った外見にすることにしようと思う。




995 : Deep Blue Sea ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:44:45 j0WHnU0g0
「ふあぁ〜〜〜ぁ」

川を下る暗殺者がオールを足で漕ぎながら気の抜けたような大きな欠伸を零した。

太陽は高く、日の光を照り返す水面はキラキラと眩いばかりに光り輝いていた。
水気の混じった暖かな風は心地よく、どこか眠気を誘う陽気である。

のんびりと釣り糸でも垂らしたいところだが、生憎とこの海には魚一匹存在しない。
針に引っかかるのはボートの底に根掛かりするか海底に引っかかるくらいだろう。
現実と見紛うバーチャル世界も設定されないものは存在できないのである。
プランクトンすら存在しないこの海に、生命の息吹は一片たりともない。

手持無沙汰になったシャは地図上の表示を確認する。
雪、砂、炎の三つの塔の支配権を得たシャにとって残るは水の塔だけとなった。
件の塔の現在の支配者が誰なのかを確認する。
そこに表示されているの名は『VRシャーク』

知らない名である。
そんな参加者がいただろうか?

改めて参加者一覧を確認し、記憶と照らし合わせる。
消えている名前はヴィラス・ハーク。
迷彩が剥がれる様にVRシャークに差し変わっていた。

GPを支払えば参加者の名の変更は可能だが、それは初期設定に限られるはずだ。
後付けで名前を変えられるとしたら認識阻害のスキルを得たか、あるいはその逆。
最初から施されていた認識阻害のスキルが剥されたかだ。

緩やかな波に揺られ風に吹かれる、その様子は平穏そのもの。
だが、少々刺激が足りない。
平穏にも些か飽きてきた。

よくよく考えれば、海上を行く参加者など余程の暇人か変人くらいだろう。
他の参加者と出会う可能性は低い。
だからこそ安全な道のりとして選ぶ参加者もいるのだろうが。
シャとしては何事もなく波乱もないともなれば、欠伸が出るほど退屈な事この上ない。

もう船旅はいいだろう。十分に楽しめた。
生き残りは少数、10余名、あるいは10名を切っている可能性すらある。
そろそろ適当な場所に接岸して参加者を探すべきか。
参加者が集まるとするならば中央エリアだろうと予測をつけ、そちらの岸へとオールを切った。

「オッと」

ボートを動かそうとしたところで、一際高い波に浚われボートが大きく揺れた。
直立していたシャは倒れないようバランスを取る。
その耳にどこからか異音が響いた。

音の方へ視線を向ける。
シャは最初はそれが自分と同じく貸出所を利用した何者かのモーターボートの音だと思った。
だが海上のどこにもそれらしい影はなく、あるのは異音のみ。
その水を掻き乱すスクリューの様な異音は海中からだ。

それは魚だった。
巨大な魚影がジェット噴射の様なもので波を切り裂きながら遊泳している。

その背が僅かに浮かぶ。
海中から顔を出したのは背びれではなく、背負われた四角いポッドだった。
バシュと火薬が弾けるような音が鳴り、ポッドに開いた丸い穴からミサイルが発射された。

3発の誘導ミサイルが船上の標的に向かって迫る。
波濤によって足元が揺れる中、シャは両足を肩幅に開き片足を半歩前に踏み出すと内股に絞った。
三戦立ち。中国で生まれた船上で戦うための構えでミサイルを捌く。
その両手はゆっくりと柔らかな手つきで円を描くと、余りにも自然にミサイルの軌道をすっと逸らした。
まるで体をすり抜けるな自然さでミサイルは通過して行き、遥か後方で爆発する。

熱風を背後に感じながら愉しそうに口端を歪める。
――――敵襲だ。
やはり敵がいなくては始まらない。
陸側からの狙撃や奇襲は警戒していたが、強襲は予想外の海中から。

「愉シイ船旅にナリそうネ」

三戦立ちのまま船上でシャは構える。
一瞬の凪は嵐の前の静けさか。
深く潜ったのか、それともあのまま通り過ぎたのか、水中の巨大な魚影はその姿を隠していた。


996 : Deep Blue Sea ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:46:22 j0WHnU0g0
波に煽られ僅かに足元が揺れた。
チャプンとボート周辺の水面が揺れる。
瞬間、船底から8本の触手が四方を囲むように飛び出した。
その全てが中心のシャに向かって一斉に襲い掛かる。

小さなボートの上ではまともな足捌きなど利かず、逃げ場などない。
8本の触手全てを二本の腕で対応する必要があった。

腰を据えては対応できない。
瞬時にそう見極めたシャは、水面を揺らさぬ静けさで独楽のように回転する。
制空権は円球を描き、全方位から迫る触手の全てを叩き落とし、打ち落とし、弾き返した。

回転を止め、両の足を付く。船上が僅かに揺れた。
次に水中のビックリ箱から飛び出すのはミサイルか再び触手か、はたまた別の何かか。
心躍らせながらシャが構えた所で、その前方から一際大きな飛沫が上がった。

水のベールに包まれていた敵が、初めてその姿を現す。
それは視界全てを覆い隠すような巨大な大口。
ノコギリの様な鋭い歯で船上のシャを食い殺さんとするそれは、ゴーグルの様な何かで目元を隠した巨大なサメだった。

ボートの横幅よりも巨大なサメの突撃を避ける術はない。
これを避けるのならば、ボートの外に飛び出すしかないだろう。

その事実に従い、シャが海に向かって飛び出す。
これにより人食いサメの噛み付きは回避できた。
だが、それは一時しのぎにしかならない愚策でしかない。

何故なら突撃を避けられた所で、海に飛び込めばそれこそ餌食である。
相手は海の王者、水中戦では勝ち目がない。
無論、それが分からぬ殺し屋ではない。

鮮やかな伸身宙返りをしながら空中でシャは『気』を海に向かって放った。
Sランクとなり強力な遠距離攻撃が可能となった気功スキルに雪の属性を籠める。
放たれた冷の気は海面を凍らせ、生み出された薄氷を足裏で踏んだ。

だが表面に張っただけの薄い氷では人一人を支える事などできない。
持つとするならば僅かに一瞬。薄氷を踏みしめすぐさま跳躍する。
そのまま近接していた中央エリアの崖まで跳びつくと、その側面を蹴り上げ三角跳びの要領でボートに戻った。
着地したボートが僅かに揺れる。

そのまま崖を駆けあがることもできただろうが、逃亡禁止のルールがある。
なにより、動物一匹いない世界にせっかく現れたモンスターである。
二匹の龍のように参加者が変化した物か。
砂漠でシャを殺した四聖獣のようなスキルやアイテムによる召喚獣か。
ともかく、こんな面白い戦いを放棄するなんてありえない。

VRシャークという水の塔の支配者は目の前の相手がそうだろう。
名は体を表すと言うが、ここまでくると間違ようがない。

砂の黄龍。
炎の拳士。
最初の雪を除けば塔の攻略にはそれぞれボスキャラが立ち塞がった。

これもまたその一つ、水のサメ。
このサメを殺せば全ての支配権を獲得できる。

ご褒美として与えられたゲームヒントによれば、四つの支配権を得る事こそがゲームクリアの条件だ。
そこに至れば果たして何が起きるのか。
楽しみである。

海の支配者の影が悠然とボートの周囲をぐるぐると廻っていた。
海は完全に敵のフィールドだ。
寄る辺となるのは足元で不安定に揺れるボートが一隻のみ。
絶対不利の状況で暗殺者は不敵に笑い、巨大な魚影に向かってクイクイと手首を返して挑発する。

「来いネ」

海中に声が届いた訳ではないだろうが、その挑発を合図にしたように再び触手が海中から飛び出し船上の暗殺者へ襲い掛かった。
シャは不安定なボートの上から飛び出し、再び薄氷を創って渡りその場を逃れる。
触手も軌道を変え、逃げるその背を追う。

一歩、二歩と暗殺者が氷上を渡る。
それを追う触手は同じ方向に向かって一纏となった。

その瞬間を狙って陸地の崖壁を蹴り、反転から放たれた足刀が触手を断ち切る。
そして跳び蹴りの勢いのままボートに向かって跳びながら魚影に向けて気弾を放つ。
空中から海中へすれ違いざまに三発撃ち込む。
だが、水中の敵に効果は如何ほどか。どうにも手応えが薄い。

身を捻りボートに着地する。
海面を見れば、先ほど断ち切ったはずの触手が海中でうねっていた。
どうやら触手は再生するようだ。


997 : Deep Blue Sea ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:46:57 j0WHnU0g0
ならばと、続いて放たれた3発のミサイルを化勁で大きく軌道を変え魚影へとぶつける。
水中でミサイルが爆発し大きな三つの水柱が立った。
爆発の衝撃が伝わったのか、魚影が僅かに怯んだように離れていった。

だが、遊泳する速度に陰りは見えない。
爆雷や魚雷と違って本来水中で扱うようなものではないせいか、ダメージはそれほどなさそうである。

枝葉である触手やミサイルをいくら捌いた所で意味がない。
かと言って本体のいる海中に飛び込む訳にもいかない。

このサメがどの程度状況判断ができるのは分からないが、跳ね返されると分かった以上、普通であればミサイルは早々に撃たないだろう。
そして、触手だけではシャを仕留められない事もこれまでの攻防で理解できたはずだ。
ならば必然、本命は本体による噛み付きなる。
暗殺者が狙うはその瞬間、現れた本体へのカウンターである。

腰を据え暗殺者は機を伺う。
だが、サメの次にとった行動は意表を突くものだった。

海中より現れたのは触手。
そして8本のタコ足はシャではなくその足場となるボートに絡みついた。
シャはすぐさまその意図を察しボートに絡みついた触手を断ち切るが、一瞬では8本全てを断ち切るに至らず、サメの勝手を許した。
グンと急加速を始めたサメにボートが引かれる。
死を懸けたウェイクサーフィンの始まりである。

安全性など考慮するはずもない乱暴な牽引でボートを振り回すように蛇行する。
振り落とされれば、そこは海の王者の狩場である。
人間などすぐさま餌となるだろう。

強い慣性に引っ張られる。
何度も振り落とされそうになるが、腰を落とし船底に手をついて何とか踏み止まった。
何の安全ベルトもない状態でジェットコースターに乗っているようなものである。
ここまでくると三戦立ちだけではどうにもならない。

振り落とされないようにするのが精一杯だ。
サメとボートを繋ぐ触手を断ち切るまでの余裕はない。
何処かで手を打たねばいずれは放り出されてしまうだろう。

だが、ここで追撃の手を打ったのはサメの方だった。
牽引を続けるサメの背部から絶望を告げる発射音が鳴り響いた。
前方に向かって放たれた3発のミサイルがUターンして後方の獲物に向かう。

両手はバランスを取るために使われ塞がっている。
強烈なGに振り回されている状態では流石のシャでも対応のしようがない。
ならばと、シャはGに対する抵抗を止め、むしろその勢いを利用して放り出される前に自ら飛び出した。

遠心力により勢いよく打ち出された跳躍は一直線に火山エリアの岸壁に達する。
岸壁に叩きつけられそうになったところで、猫科動物のようなしなやかさで空中で体を反転した。
背を追うミサイルを撃退すべく先ほどまでの三角跳びのように壁を蹴りだそうとしたところで、その足が空を切った。

目測を誤ったのではない、足場となるはずの岸壁が消滅したのだ。
定時メールより2時間が経過した。
エリアの除外処理が実行され、火山エリアがまるごと消滅したのである。

「嘖嘖…………ッ!」

間の悪い処理に舌を打つ。
蹴りだす足場を失いシャの体が空中に放り出される。
そこに示し合わせたように水中からジェットで発射されたような勢いで風を纏ったサメが飛び出した。

避けようのない空中。
空中で無防備となった暗殺者に向けて、追いついた三つのミサイルと共に鋭利な牙を見せつける様に大口を開いたサメが迫る。

これに対して、シャは炎の気を飛ばし二つのミサイルを撃ち落とすと、残る一つを殴りつけるようにして弾いた。
爆炎が目の前で巻き起こる。

砂の気で盾を作り直撃は避けた。
だが、VRゴーグルを付けた人食い鮫その爆炎を食い破りながら襲い掛かっていた。

シャは空中で体を捻ると突き上げる様に廻り、自らを噛み砕かんとするサメの下顎を思い切り蹴り上げる。
突き刺すような蹴りに、巨大な魚体が更に空へと押し上げられた。

だが、咄嗟の抵抗もここまで。
宙に打ち上げられたサメから伸びた触手がシャの全身に絡みつく。
その体はサメと共に落下し、大きな波しぶきを立てながら一人と一匹は水中に沈んでいった。




998 : Deep Blue Sea ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:49:27 j0WHnU0g0
巨大な落下物によって生み出された大量の気泡が揺らめく太陽に向かう。
風を纏ったサメはまるで落下する様に暗い深海に向かって泳ぎ始めた。
その道筋には竜巻の様な大渦が生み出されて行く。

下に下に、より深く。
闇に生きる暗殺者はより暗い海底に向かって引きずり込まれていた。
触手に引きづられながら大渦に巻き込まれる。

急速な水圧の変化により肺が圧縮される。
破裂するような激しい耳の痛みに、吐き気と目眩がした。

吐き出しそうになる酸素を飲み込み何とか耐えきった。
ここで息を吐き出せばそれこそ終わりだ。
潜水においてはどれだけ苦しかろうと酸素を吐いてはならない。

触手の拘束から抜け出さなければどうしようもない。
だが、全身を拘束する触手は引き剥がそうとしても、吸盤が吸い付き簡単には引き剥がせなかった。
ならばと、シャは引きずられながら体内で気を練り上げる。
本来ならば気を練り上げるには呼吸が重要となるが、このスキルであれば呼吸の出来ない海中でもそれが可能だ。

全身から一気に炎の気を放る。
触手は焼き切られ、拘束は解かれた暗殺者は海中に放り出される。
サメは止まれば死ぬような勢いでシャを置き去りにしながら暗い海へと消えて行った。

一片先すら見えないほど深い蒼の中に取り残される。
そこは光の届かぬ深海である。

ここから海面までどれほどの距離があるのだろう。
見上げれど、距離は測れなかった。

シャは素潜りなら10分は持つ。
だが、この仮の体ではどれほど持つかはわからない。。
それに潜水に当たって酸素も十分に取り込めたとは言えないだろう。
この水圧下で激しい運動をこなす事も考えれば持って3分と言ったところか。

その3分以内に、水の牢獄から逃れなければ待つのは死だ。
素直に上に泳いでいったところで確実に追いつかれて後ろから喰われるのがオチである。
ならばどうするか?

決まっている。
3分以内に逃げる?
待つのは死?

下らない。
そんな当たり前の思考に唾を吐く。

逃げるのではない。
この絶対不利な水中戦で、海の支配者を。

3分以内に『殺す』のだ。

シャは目を閉じ、指先で自らの腕を裂いた。
赤い血が暗い海中に溶ける様に流れてゆく。

自らの手元すら曖昧な深海で視力は無意味だ。
敵を探し当てることも、探し当てた敵に追いつくことも無理だろう。

ならば、血の匂いを撒き餌にして標的を誘い出す。
敵を発見できないのなら敵に発見してもらうまでである。

30秒経過。
命の刻限が迫る中、精神を乱さず深海で静止して敵の出方を待つ。
シャの感覚が暗い海の先から迫る敵の気配を捉えた。

VRシャークは身に纏った風によって爆発的に加速力を得ている。
だが、それ故に大きな水の揺らぎを引き起こす。
これにより視覚ではなく感覚で動きを捉えられる。

だが、動きを取られられることと動きに反応できることはまた別の話である。
遊泳系スキルを持っていれば別なのだろうが、如何にシャが超人的な身体能力を持っていようとも人と魚では遊泳能力には天地の差がある。
この水中で風に乗って加速するシャークタイフーンにまともに対応などできようはずがない。

海中に浮かぶことしかできない人間に向かって、海の殺し屋が大口を開けて一直線に迫る。
だが、喰らいつかんとするその瞬間、サメの速度がガクンと減速した。

シャはただ何もせず敵の到来を待っていたわけではない。
静かに両手から放った砂の気を自らの周囲に網のようにバラまいていた。

砂の網に突撃したその速度が早ければ早いほど、気の混じった砂粒に鮫肌を削られる。
そして砂の混じった重い水は突撃の速度を鈍らせ、触手の動きを制する牽制となる。

一瞬の怯み。
その隙を逃さずシャはタッチターンのように水中で縦回転する。
回転の勢いを乗せた踵がロレンチーニ器官を持つ鼻先に叩きつけられた。

だが、打撃の威力は水の抵抗により減衰する。
加えて、地面の存在しない水中では、踏ん張りや踏み込みが効かず打撃その物の威力も物足りない。
これでは固い鮫肌の鎧には届かない。


999 : Deep Blue Sea ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:50:04 j0WHnU0g0
鼻先に足裏を叩きつけ動きを止めるシャに、砂を振り払った触手が一斉に襲い掛かる。
サメの頭部を蹴り出してそこから逃れて距離を取った。

ただの打撃ではダメだ。
壊すなら内側、気を叩き込むしかない。
だが、地上ならまだしもこの身動きの制限される水中で十分に気を叩き込むのは難しい。
特に触手が邪魔である。

1分経過。
獲物を逃したサメは深追いはせず離れて行き、またしても互いの距離が離れた。
仮に何かの気まぐれでサメが獲物に興味を失ってこのまま去ってしまえば、シャは海中で一人マヌケに死んでゆくだろう。
音のない暗闇の中で、敵を信じて来るのを待つしかない。

水中で心を凪にして水の揺らぎを鋭敏に感じ取る。
揺らぎは背後から、シャは水を掻き反転すると、振り向きざま腕に溜めていた雪の気を放出した。
一帯を凍り付かせる程の冷気が周辺の海を巻き込みながら襲撃者を凍結させる。

その手応えに、返るのは違和感。
確かに何かを凍結させたが、手応えが余りにも軽い。

シャはサメの纏う風によって生み出された波の流れを元に敵の位置を掴んでいる。
その方法を逆手に取られた。

凍り付いたのはサメの本体ではなく一本の触手であった。
チョウチンアンコウのように伸ばした一本の触手に風を纏わせ囮としたのである。
加えて風を纏った触手は砂を払う効果があった。
とても魚類とは思えぬ知能の戦術。

切り開かれた水の道筋を人間には避けようがない速度で人食い鮫が奔る。
そして胴の中心に目掛けて深海に輝く白い牙がギロチンのように降ろされた。

だが、胴を食い破らんとするその牙が直前で逸れた。

水流を変えられるのはサメだけではない。
炎と雪。両手から放つ二つの気による寒暖差によって水のうねりを生み出したのだ。
乱れた水流に巻き込んで胴の中心から狙いを逸らした。

空ぶった突撃の勢い余って、サメの体はシャの脇をそのまま通り過ぎ去ろうとしていた。
だが、そうはさせじとサメの体が捻られる。
無理矢理に体を折り曲げ、それこそ竜巻のように回転した。

恐るべき狩猟本能。
人食い鮫の鋭い牙がシャの右腕へと噛み付いた。

遂に獲物を捕らえた。
VRシャークは腕を咥えたまま頭部を振り回すように鋭い回転を始める。
強靭なサメの咬筋力によるデスロール、か細い人間の腕など一瞬で噛み千切るだろう。

だが、回転を始めようとしたその体は静止していた。
動かないのではなく動けない。
海の王者が、たった一本の腕を噛み切れずにいた。

専用装備『暗殺者の義手』。
その右手は特別性だった。
元より容易く壊れる代物ではなく、気を通したその腕は鋼鉄よりも固いだろう。
如何にサメの咬筋力をしても、そう簡単に噛み切れるものではない。

果たして、獲物を捕らえたのはどちらだったのか。

所詮は食欲しかない獣。
食べるために殺す野生の本能如きが、殺すために殺す殺し屋の理性に勝てるはずがない。

閉じていた暗殺者の目が見開かれる。
噛み付かれたままの腕に引き金を引くようにして気を籠め、最大火力の炎の気をサメの口内で爆発させた。
深海に赤い炎が灯る。

固く噛み締めていたサメの口がだらりと開かれ、赤い軌跡を描きながら熱された義手が引き抜かれる。
力なく大口を開きっぱなしにしたサメの死体がゆっくりと浮かび上がってゆく。

既に2分は経過している。
血中の酸素濃度が低下し始めたのか手足に痺れを感じる。
脳の酸素欠乏により意識が僅かに霞みはじめた。

浮上までの時間を加味すれば余裕は殆どないだろう。
浮かんでゆく死体を横目に追い抜くようにして、暗殺者が暗い深海から光に向かって泳ぎだした。

しかし、それは致命的な見落としだった。
こんな極限状況でなければ、この稀代の暗殺者が残心を忘れる事もなかっただろう。

この世界では死亡した死体は消滅する。
その法則を誰よりも殺してきた暗殺者が知らないはずもない。
それが残っているという事は、何を意味するのか。

上に向かって登り始めたシャの真下から竜巻が昇った。
人間の泳ぎなど無意味だというように、その体はあっと言う間にその渦潮に吸い込まれる。
その渦の下には焼け焦げた口を大きく開けたサメの姿があった。

渦に呑まれる。
逃れようもなく、暗殺者は巨大ザメに全身を呑み込まれた。




1000 : Deep Blue Sea ◆H3bky6/SCY :2021/11/18(木) 22:59:02 j0WHnU0g0
失礼、スレがギリギリなので気づきませんで
続きは新スレに投下します
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1637243867/


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