■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

ゲームキャラバトル・ロワイアル

1 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 13:49:52 xTZ37IjE0

参加者一覧

7/7【ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
○イレブン(主人公)/○カミュ/○シルビア/○セーニャ/○ベロニカ/○マルティナ/○ホメロス

6/6【ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
○リンク/○ゼルダ/○ミファー/○ダルケル/○リーバル/○ウルボザ

6/6【FINAL FANTASY Ⅶ】
○クラウド・ストライフ/○ティファ・ロックハート/○エアリス・ゲインズブール/○バレット・ウォーレス/○ザックス・フェア/○セフィロス

6/6【クロノ・トリガー】
○クロノ/○マールディア/○ルッカ/○ロボ/○カエル/○魔王

5/5【ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
○トウヤ(主人公)/○N/○チェレン/○ベル/○ゲーチス

5/5【ペルソナ4】
○鳴上悠(主人公)/○花村陽介/○天城雪子/○里中千枝/○久保美津雄

5/5【METAL GEAR SOLID 2】
○ソリッド・スネーク/○ジャック/○ハル・エメリッヒ/○リボルバー・オセロット/○ソリダス・スネーク

5/5【THE IDOLM@STER】
○天海春香/○如月千早/○星井美希/○萩原雪歩/○四条貴音

4/4【BIOHAZARD 2】
○レオン・S・ケネディ/○クレア・レッドフィールド/○シェリー・バーキン/○ウィリアム・バーキン

4/4【ドラッグ・オン・ドラグーン】
○カイム/○イウヴァルト/○レオナール/○アリオーシュ

4/4【龍が如く 極】
○桐生一馬/○錦山彰/○真島吾朗/○澤村遥

3/3【NieR:Automata】
○ヨルハ二号B型/○ヨルハ九号S型/○ヨルハA型二号

10/10【書き手枠】
○/○/○/○/○/○/○/○/○/○

計70名

【主催側】
マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン
ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて

【まとめwiki】
ttps://www65.atwiki.jp/game_rowa/pages/1.html


"
"
2 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 13:50:16 xTZ37IjE0
【基本ルール】

全員で殺し合いをし、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。

・「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
・「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
・「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
・「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
・「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わない。
・「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
・「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
・「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【予約】
期限は7日間。

【支給品】
伝説のポケモンやメタルギアなど、ゲームバランスが崩壊しかねないものは支給禁止。

【書き手枠】
書き手枠として参加させられるキャラは一予約につき一名ずつ。既に名簿に記載されている作品外からの参戦も可。
また、原作がゲームの作品以外のキャラの参戦は不可。
作品が投下された時点で参戦確定となる。

【参加者名簿】
書き手枠のキャラが全て出揃った後、第一回目の放送開始時点でデイパックに転送される。
全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。

【状態表テンプレ】
【座標(A-1など)/詳細場所/日付 時刻】
【キャラ名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
3.

【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24


3 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 13:51:00 xTZ37IjE0

【会場全体図】
ttps://www65.atwiki.jp/game_rowa/pages/10.html

【イシの村@ドラゴンクエスト 過ぎ去りし時を求めて】
主人公が育てられた最初の村。
崩壊前の姿なので、民家などはちゃんと残っている。
探せばやくそうなどのドラクエ関連のアイテムが見つかるかも。

【ハイラル城@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ガノンに乗っ取られた大きな城。
厄災ガノンはいないものの、怨念の沼は健在。
数は少ないものの朽ちたガーディアンなどが眠っている。
探せばハイラルダケなどのブレワイ関連のアイテムが見つかるかも。

【カームの街@FINAL FANTASY Ⅶ】
ミッドガルを脱出したクラウド達が最初に立ち寄る街。
本編での城のような外壁は撤去されており、民家が立ち並ぶ形に。
探せばポーションなどのFF関連のアイテムが見つかるかも。

【北の廃墟@クロノトリガー】
亡霊が出ると噂される廃墟。
地下にはサイラスの墓がある。
ゴースト系のモンスターが潜んでいるかもしれない。

【Nの城@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
ポケモンBWでのラストダンジョン。
中には愛の女神(バーベナ)、平和の女神(ヘレナ)がおり、頼めばポケモンの回復をしてくれる。
この二人は参加者扱いではないものの首輪が嵌められており、主催への反逆を許されていない。

【八十神高等学校@ペルソナ4】
鳴上悠達が通っている学校。
教室がある三階建ての教習棟と、二階建ての特別教室のある実習棟がある。
その他、体育館・運動場等の施設が揃っているが、プールの存在は見られない。

【偽装タンカー@METAL GEAR SOLID 2】
タンカー編の舞台となる輸送用のタンカー。
新型メタルギア、RAYを輸送するために使用されたが、本ロワではRAYは搭載されていない。
探せば止血剤などのMGS関連のアイテムが見つかるかも。

【765プロ@THE IDOLM@STER】
アイドルマスターの舞台となる芸能事務所。
外観は初期事務所の形で、雑居ビルの一階が居酒屋「たるき亭」、二階が765プロとなっている。

【ラクーン市警@BIOHAZARD 2】
バイオ2の舞台となる警察署。別名R.P.D.
元々美術館だった建物を警察署に改築したらしくあちこちに美術館時代の名残が見受けられる。
数は少ないものの、クリーチャーが潜んでいるかもしれない。
探せばハーブなどのバイオ関連のアイテムが見つかるかも。

【女神の城@ドラッグ・オン・ドラグーン】
主人公カイムの妹、フリアエの居城。本編では最初の戦いの場となった。
傍にあった女神の神殿は撤去されている。
かなり広いが、帝国軍の襲撃に遭った後のため内装は廃れている。

【セレナ@龍が如く 極】
桐生一馬、錦山彰の行きつけの高級クラブ。雑居ビルの二階に店を構えている。
マスターの麗奈はいないが酒はそのままなので、美味しいお酒が飲めるかもしれない。

【遊園地廃墟@NieR:Automata】
名前の通り遊園地の廃墟。
ジェットコースター、観覧車などのアトラクションが揃っている。
各所にNPCロボがいるが、こちらから危害を加えない限り攻撃してこない。


4 : オープニング ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 13:51:40 xTZ37IjE0

――深い眠りに落ちていた。

寝起きの体を迎え入れたのは柔らかい布団の感触ではなく、固く冷たい地面。
ぼやける視界をはっきりと覚ますように目を擦り、天海春香はゆっくりと立ち上がった。

「……え?」

段々と澄んでゆく視界を覆ったのは何十人ものひとだかり。
まるで小規模なライブのようだった。しかしそんな楽しげな雰囲気でないことは、周りの人々の面持ちから容易に察せる。
みな、自分と同じく不安と困惑に満ちていた。人混みでよく見えなかったが、一瞬知り合いの顔も写った気がする。

春香が最後に覚えているのは、自宅で就寝した記憶だ。
それが今、目覚めたら知らない場所で知らない人間に囲まれている。

――まさか、拉致されたのだろうか。

脳裏をよぎる最悪の予想に春香は血の気が引くのを感じた。
助けを呼ばないと、とポケットに手を入れるも携帯はない。没収されたのだろうか。
だったら、さっき見かけた知り合いの姿を探そう――そう思った矢先、声が響いた。

「あ、みんな目が覚めたみたいね」

春香を含め、その場にいる全員の視線が声の方向へと注がれる。
そこには、ついさっきまで存在していなかったはずの金髪の少女が愉しそうに笑っている姿があった。

「わたしはマナ。あなた達をここに連れてきた本人よ。どうやって連れてきたかは内緒」

無邪気な声に反した衝撃的な発現に集められた者たちは各々の反応を示す。
抗議の声を上げる者、困惑の息を漏らす者、少女の次なる言葉を待つ者。
異なる一同の反応を見て満足げな笑みを浮かべたマナは、勿体ぶるようにすぅっと息を吸った。


「今からあなた達には殺し合いをしてもらうわ。……ね、楽しそうでしょ?」


瞬間、時が凍った。
いや、実際にはそうではない。マナの言葉を理解できなかった春香の脳が思考を停止したのだ。
しかし先程の表現が過言ではないことを、先程までざわついていた場がしんと静まり返ったことがなによりも示している。

「って言っても、実感湧かない? じゃあみんな、自分の首触ってみて。首輪があるでしょ?」

言われるがままに春香は自分の首に触れる。
冷たい。春香はマナに言われて初めて首輪の存在に気が付いた。
それは春香だけではないのか、「えっ」という驚愕の声があちこちから聞こえた。


5 : オープニング ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 13:52:34 xTZ37IjE0

「この首輪、すっごく素敵なの。わたしの気分次第で自由に爆発させられるんだから」

――え?

今、なんと言った?
ばくはつ。爆発。首輪が?
それはつまり、死――状況を把握しきれない春香を強烈な立ち眩みと吐き気が襲いかかる。
思わず膝から崩れ落ちてしまった。心臓はやかましいほどに泣き叫び、じわりと熱を帯びる目頭からは涙が零れ落ちる。
そんな春香の体を、何者かの腕が支えた。

「っ!? あ……」

「大丈夫か? ……気をしっかり持て」

涙で滲んだ春香の目に映ったのは強面の男性。
状況が状況だというのに不安や恐怖といった感情を一切見せない顔は、眉間にシワが寄り憤怒の色に染まっている。その様はまるで、龍が如く。
春香は男の言葉に答えられる余裕がなく、ただうろたえた。男も春香の状態を案じてかそれ以上下手に言葉をかけることはなかった。
しかし、多少春香の心が落ち着いたのは事実。なんとか立っていられる程度には回復した。

「信じられない、っていう顔してるやつらがいるわね。ああ、残念。じゃあ誰かで”試す”しかなくなっちゃった。……えーっと、こいつでいいや」

しかし、すぐにまた春香の心はへし折られることとなる。
少女、マナは天使のような悪魔の笑顔を見せて一人の青年を指さした。
春香に声をかけた男性と同じく厳しい顔立ちだった。それでも比べれば幼さが残るが。

「えっ……、はっ!? 俺!?」

「あなたの首輪、爆発させるね」

「おいっ! テメェふざけ……!」

青年の言葉を最後まで聞かず、マナはどこからか取り出したスイッチを押す。

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。

冷たく、不気味で、残酷なアラーム音が反響する。
生理的に嫌悪感を示さざるを得ないその音に、青年だけでなく春香も顔を青ざめた。
アラームの間隔が短くなってゆく。無機質な死刑宣告を下された青年は、焦燥に駆られながらも抵抗の意思を示すように強く拳を握りしめていた。

「な、なんなんだよこれっ……! くそッ! ペルソ――」


――ボォンッ!


しかし、現実は無情だった。
爆発音と共に青年の首は弾け飛び、首があった場所からは噴水のように血が噴き上がる。
辺りを絶叫と狼狽が支配した。だらりと脱力した青年、巽完二の死体は自らが作った血溜まりにべしゃりと沈み、赤の勢いを加速させる。

春香は再び崩れ落ちた。それだけではなく、込み上げる嘔吐感を堪え切れず胃液と共に吐瀉物を吐き出す。
もう何かを思考する余裕などない。目の前で人が死んだ。それも、常識では考えられないような殺され方で。
真っ黒な脳の中で青年の死の瞬間だけが何度もリピートされる。もう二度と心の底から笑うことなど出来ないのだと、おぼろげな思考の中でどこか春香は確信していた。

「ふざけんなっ! お前、自分が何やってんのかわかってんのか!?」

未だ残響を残す絶叫を掻き消して、一人の男の声がマナの鼓膜を刺激する。
独特な青髪の青年だった。顔立ちを見るにいまさっき殺された完二と年はそう変わらないだろう。
青年の名はカミュ。勇者の仲間として相応の修羅場をくぐってきた彼は、物怖じすることなくマナへ立ち向かった。

「あれ、逆らうの? 今の、見たでしょ?」

「だから言ってんだろうが!! ……やめねぇなら、力づくでも止めてやる」

精一杯の威圧を睥睨に込めて、カミュは構えを取る。
得物であるナイフやブーメランはない。ゆえに得意とはいえない徒手空拳の構えだ。
それでも並大抵の人間なら容易に下せる実力を持っている。相手がただの少女となれば結果は言うまでもない。

「ふーん、やってみれば?」

「っ……!」

しかし、状況が状況だ。
マナは一切臆さず、どころか挑発するような口調でカミュを煽る。
その手に握られたスイッチはカミュの方へ向けられていた。マナとカミュの距離はそれなりに離れている。幾らカミュが俊敏であろうと、正面から向かっていけば到達する前にスイッチを押されるだろう。
ゆえにカミュは動きを止めた。その一瞬の逡巡を、マナは見逃さなかった。

「はい、お利口さん。けどわたしに逆らったから殺すね。ばいばい」

「なっ――!」

マナは最初から、自分に反逆する者を許すつもりなどなかった。
指先一つで人を殺せる絶対的な力を得て、もともと歪んでいた思考は拍車をかけて狂気に染められていた。

(だめっ! あの人も死んじゃう!!)

スイッチにマナの指がかかる。カミュの絶望した顔を見て、マナは愉悦に頬を歪ませた。
彼らの問答を聞いていた春香は現実から目を背けるように目を瞑り、耳を塞ぐ。それでも微かに聞こえる息遣いと肌を灼く緊張が春香に現実を突きつける。
もうダメだ――諦観が春香の心を支配した瞬間、二つの影が飛び出した。


"
"
6 : オープニング ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 13:53:29 xTZ37IjE0

「あ……! うぐっ!?」

カミュに意識を向けていたマナは迫りくる影に反応が遅れた。
一人がマナの手を蹴り上げスイッチを弾き飛ばし、一人がマナを投げ技の要領で取り押さえる。
爆発音が聞こえないことに春香は顔を上げ、マナが地に倒れ伏す姿を目にして僅かに希望の光を取り戻した。

「奇遇ね」

一人は黒い長髪の女性、ティファ・ロックハート。

「……そうだな」

一人は今しがた春香に声をかけた男、桐生一馬。

全く別の世界に住み、全く違う生き方をしてきた二人は奇妙なほど息の合った連携でマナを制圧した。
マナは地面に投げ飛ばされた痛みからか力なく唸り声を上げている。九死に一生を得たカミュは二人へ感謝の言葉を告げた。

場は完全に反撃の傾向にある。
ある者は拳を握り、ある者は魔力を溜め、集結した戦意は容赦なくマナ一人に注がれた。
それは春香も同じだった。あっけなく殺された完二の姿を思い浮かべ、マナという少女にどうしようもないほどの憤りが湧き上がった。

「ふ、ふふ……馬鹿ね。あんたたちほんと馬鹿」

「……あ? 何言ってやがる。ガキ」

しかし当のマナは、地面に寝転がりながらも余裕は崩さない。
それを桐生は一蹴する。が、何かがおかしいと参加者の中の数名が違和感を覚えた。


「――がぁっ!?」

「ぐっ!?」


瞬間、桐生とティファが紫色の波動に大きく吹き飛ばされた。
何が起こったのか理解できたのは、ほんの一握りの人間だけだろう。それこそ、その力の正体を知る者しか。

「ウルノーガ……!」

誰が呟いたか、それを合図にしたようにマナの背後に人影が現れる。
青白い肌、トサカのような赤髪、側頭部から伸びる禍々しい角。
人の形をしていながらあまりにも人間離れした容姿と威圧感は、芽生え始めた希望を摘み取るには十分すぎた。

「マナよ。司会を任せるとは言ったが、参加者を殺せとは命じておらん。次に勝手な行動をすれば、どうなるか分かっているな?」

「ふふ、はーい。じゃあ、説明に戻るわ」

ウルノーガと呼ばれた者は既に他の者には興味を失ったとばかりにマナを一瞥する。
それを受けたマナは不気味な笑顔を携えたまま、静まり返った参加者達と向き合った。

「首輪の効果はもうわかった? これ、無理やり外そうとしても爆発するから覚えておいてね。あ、あと放送のときに言われる禁止エリアに入っても爆発するわ」

声を弾ませながらルール説明を続けるマナに抗議の声を上げるものは、いない。

「みんなにはこれから殺し合い専用の会場に飛んでもらうんだけど、その時にリュックが配られるわ。中身は食料とか武器とかいろいろ。開けてからのお楽しみね。……あ、それと六時間ごとにさっき言った放送があるから、聞き逃さないようにしなさい。死者とか禁止エリアとか、しっかりメモしなきゃ大変よ?」

マナの語るルールが頭に入っている者は一体何人居るのだろうか。
少なくとも春香はその内の一人ではない。怯えている群衆をマナとウルノーガは虫けらのように見下していた。

「あ、大事なこと言い忘れてたわ。この殺し合いの優勝者は元の場所に帰れる権利と、何でも一つ願いを叶えられる権利が与えられるの。どう? やる気出てきたでしょ?」

えっ、と春香の口から久々に言葉が漏れる。
願いを叶えられる――あまりに非現実的すぎて、それだけが春香の脳にこびりついた。
沈黙を貫いていた参加者たちの間にもざわめきが走る。それを遮るようにマナはパンッと両手を叩き、にっこりと白い歯を見せた。

「これでルール説明は終わり! じゃあみんな、頑張ってね」

酷く自分勝手なマナの言葉を最後に、春香の意識は急速に闇に落ちてゆく。
意識を失ったものから順に会場へと飛ばされる。そして最後に残ったのは、くるくると回るマナと口元を三日月に歪めたウルノーガだけだった。


【巽完二@ペルソナ4 死亡確認】


ゲームキャラ・バトルロワイアル――開幕


7 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 13:55:29 xTZ37IjE0
オープニング投下終了です。
予約は今からでも大丈夫です。

リンク
ヨルハ二号B型
萩原雪歩

予約します。


8 : 名無しさん :2019/05/15(水) 18:43:41 EKA72Qgg0
企画乙ですよ

質問ですが参戦させられるのはCS限定でしょうか


ウィリアム・バーキン


書き手枠で
ウォー【DARKSIDERS 〜審判の時〜】

予約させて貰います


9 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/15(水) 19:01:40 erQI01UY0
>>8
質問ありがとうございます。
いえ、原作がゲームであれば家庭用でもアプリでも大丈夫です。


10 : ◆3Yix5UnzdM :2019/05/15(水) 20:23:51 EKA72Qgg0
取り付け忘れてました


11 : 名無しさん :2019/05/16(木) 06:11:46 zG6DZgnA0
ペプシマン@PS版ペプシマンは駄目ですよね…?


12 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/16(木) 10:31:30 5kJedRbQ0
>>11
駄目とは言いませんが、タックル時の消滅効果は制限がかかりそうです。


13 : <削除> :<削除>
<削除>


14 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:51:05 pK6xf6z20
投下します。


15 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:52:27 pK6xf6z20

殺し合いが始まって既に三十分。
萩原雪歩はうずくったまま、一歩も動くことが出来なかった。

彼女が転送されたのはイシの村にある一軒の民家。立つことすらままならない雪歩にとっては屋内であるということだけでも救いだった。
しかし、殺し合いの現場にいるという根底は変わらない。もし今の彼女が殺人鬼に狙われれば、一瞬で殺されてしまうだろう。

雪歩自身それは分かっている。
分かっているが、どうすればいいのかわからない。

「……うっ、ぐすっ……プロデューサー、さぁん……」

助けを求めたところで、脳内に描いた”彼”が自分の前に現れることはないだろう。
これが都合のいい夢ならばあるいは颯爽と駆けつけてくれたかもしれない。だが、本当に都合のいい夢だというのならばこんな状況にはなっていないのだ。

泣きはらして、絶望して、無駄な時間を浪費してゆく。
事務所で何度か見ていたアクション映画とは違う。問題を解決するために戦う主人公の姿に憧れの念は抱いていたが、それまでだ。もし自分がそんな状況に陥ったら――など、考えたこともない。

もし菊地真ならば、こんなときでも変わらず誰かを守ろうと一生懸命動くだろう。
もし秋月律子ならば、恐怖に負けず冷静に自分がなにをするべきか判断するだろう。

けれど、雪歩は違う。
目の前で肉塊と化した巽完二の姿が、死神のように纏わりついて離れない。
首輪から鳴り響く警告音が鼓膜にこびりつき、自分の首輪からも同じ音が鳴っているような錯覚さえ覚える。
次は自分がああなる番だ――他でもない、自分自身がそう囁いているようでどす黒い”諦め”という闇が心を侵食していくのがわかった。

「いやッ――!」

震える喉奥から絞り出したのは、果たして何に対するものか。
辛うじて動いた右腕は行くあてもなく空を切り、また雪歩の顔を覆い隠す。また、意味のない行動だ。


16 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:52:43 pK6xf6z20

ザリッ。

「……ひっ!?」

家の外で足音が聞こえる。
かなり近い。もともと騒いでいた雪歩の心臓は一瞬大きく跳ね上がり、先ほどの比ではない速度で鼓動を打ち始めた。
誰かがいる。理解したくないとはいえ、緊張の中で研ぎ澄まされた聴覚はそれが気のせいではないと訴えかけていた。

両手で口を塞ぎ、力いっぱい目を瞑る。
閉じた瞼の間からは大粒の涙がとめどなく溢れる。それを拭う余裕もなく、雪歩は迫りくる死の予感に生きたいという欲望をぶつけていた。

ザリ、ザリ、ザリ――

足音はどんどんと近づいてゆく。
やめて、来ないで。頭の中で必死に念じるも、神が願いを聞き入れてくれる様子はない。
一歩、二歩――駄目だ、見つかる! 完全に心を絶望が覆い切ったその瞬間、足音がやんだ。

(……え?)

まるでビデオを一時停止したような不自然な音の途絶え。
足音がないせいか自分の鼓動の音だけが響く。しかしそれも、緩やかに落ち着きを取り戻しているようだった。

(どこかに、行ってくれた……?)

諦めきった雪歩の心に僅かな光が灯る。
そのまま一分、二分と待ってみたが、足音はもう聞こえない。
幻聴だったのか、あるいは本当に誰かが去ったのか。雪歩としては前者を願いたかった。
雪歩の口から深い、深い息が溢れる。呼吸をすることも疎かにしていたのか肺が酸素を求めているのを感じ目一杯空気を吸い込んだ。

目の前の死からはひとまず乗り切った。
安堵に導かれるまま顔を上げ、目を開く。そうして雪歩の目に映ったのは、自分を見下ろす金髪の青年の姿だった。


「――い、」


全身の毛が逆立ち冷たい何かが背筋を駆け抜ける。
まだ機能している生存本能が、雪歩の喉に熱を込み上がらせた。



「いやああああああああぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」






17 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:53:45 pK6xf6z20


見慣れない植物に、見慣れない建物。
西暦11945年という途方もない文明から呼び出されたヨルハ二号B型、通称2Bは周囲の景色に戸惑いを隠せなかった。

いや、冷静沈着な性格の持ち主である2Bを惑わせているのは何も景色の問題だけではない。
ポッドも、オペレーターも、司令官も、9Sも――自分をサポートする存在が誰一人存在しない。その現状こそが2Bに迷いを与えていた。

2Bは普段、司令官から与えられた任務をこなすために動いている。
それをオペレーターやポッドの指示に従って、自分が何をするのか判断するのだ。

ゆえに、一人であるということに慣れていない。
言ってしまえば、自分で物事を判断してどう解決するかと考える経験をしたことは殆どなかった。
いや、正確には彼女には命令が下されている。最後の一人になるまで殺し合え、と。
しかし流石の2Bも見ず知らずの少女から与えられた無茶苦茶な命令に従うつもりはなく、殺し合いに乗る選択を除外した。

であれば当然、対主催という立場になる。
それに必要なものは何かと考えて、まずこの首輪を外せる人材が必要だと至った。
自由に動くためにはこの首輪はあまりにも邪魔だ。自分はこういったことに詳しくはないが、可能性があるとすれば9Sだろうか。
9Sはあの時集められた際に姿を見かけた。もっとも、首輪云々と関係なく9Sと合流するのが2Bの最優先事項であることは確定していたのだが。

もし9Sと合流するまでに自分に敵対する存在が現れたのならば容赦なく殺す。
そうでなければ見逃す。それが最終的な2Bの方針だった。

(それにしても……これは、なに?)

一通り考えを纏めたところで、2Bはデイパックから赤と白に彩られたボールを取り出す。
付属されていた説明書を読むに”ポケモン”という生命体を呼び出すものらしいが、使い方がわからない。
試してみたいという気持ちがないわけでもないが、もし一度限りの兵器だった場合を考えれば無闇に使う訳にはいかない。
自分の情報にはないそれを眺めていたところで、2Bは意識を別に向けることとなった。



「いやああああああああぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」



「……! 悲鳴!?」


18 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:54:03 pK6xf6z20

方角は北、ちょうど少し先に村がある位置だ。
2Bは思考するよりも先に疾走する。やはり2Bは考えるよりも先に体が動くタイプだった。戦闘型だからというのもあるだろうが、それは2B自身の性格の問題なのだろう。

景色が溶けるスピードで駆ける2Bが民家にたどり着くのに十秒とかからなかった。
木製のドアを蹴り飛ばす。と、中には怯えた様子の少女へ青年が迫り寄る光景があった。

声の主は言うまでもなく少女。襲撃者は青年。
青年の方は2Bに向き直り警戒の表情を見せる。見たところ武装は黒い盾のみ。支給品の刀を構え青年の懐へ潜り込む2Bに迷いはなかった。

「はぁッ!」

「っ……!」

横薙ぎ、袈裟斬り、袈裟返し。
踊るように華麗でありながら強固な盾を揺らがせる力強い剣技は、青年を圧倒していた。
反撃を許さぬ連閃に青年はついに体勢を崩す。その隙を見逃さず、2Bはサマーソルトの要領で盾を蹴り飛ばす。
それなりの重量があるはずのそれは呆気なく宙を舞い床に突き刺さった。

終わりだ。そう心の中で確信しながら、2Bは着地と同時に刀での回転斬りを放つ。
そんな中、青年が咄嗟に台所からナベのフタを手にしているのが横目に見えた。

――まさか、防御するつもりか。

先ほどの剣の冴えを見た人間ならばナベのフタ程度で攻撃を防げるわけはないと理解しているはずだ。
だというのに迷いなくそれを盾にする青年は、最後の生存本能に身を任せたのだろうか。2Bはその愚行に呆れる間もなく、ナベのフタごと青年の体を断ち切らんと無慈悲に刀を振り抜いた。





パリィ――ンッ!





起きてはならないことが、起きた。
刀を振るったはずの2Bは弾かれる形で大きく体勢を崩し、対する青年はかすり傷一つ追った様子もない。

「……は?」

何をされた? なぜ斬れなかった?
アンドロイドの脳をもってしても理解が追いつかない。そして、そんな唯一であり決定的な隙は青年に反撃の機会を与えるのに余りあった。

「でりゃぁッ!」

「ぐっ……!?」

空いた2Bの脇腹に青年の足刀が叩き込まれる。
予想外の衝撃に2Bは呻きを上げ、数歩分距離を取る。さっきの理解不能な現象のせいか、刀を持つ手に痺れが走っていた。
いつの間にか青年の手にはさきほど弾き飛ばしたはずの盾が構えられている。2Bは一気に警戒のレベルを上げ、迂闊に攻めるのは危険と判断した。

――手強い。

刀を握る手が無意識に力むのを感じる。
いまさっき体験した不可解な力が最たる理由だが、不意打ちに近い形で襲撃したにも関わらず未だ傷一つ負わせられていない現状が青年の実力を物語っている。
戦闘型の機械生命体か、否か。どちらにせよ2Bは目の前の敵に生半可な攻撃は通用しないと確信した。





19 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:54:46 pK6xf6z20


――手強い。

奇しくも青年、リンクも2Bと同じ感想を抱いた。
リザルフォスを遥かに凌ぐ機動力に加え、自分の手から盾を弾き飛ばす並外れた膂力。そして即座に戦闘法を変える知性。
ワンパターンな攻撃しかしないライネルよりもよほど脅威的といえよう。

なぜナベのフタで2Bの攻撃を弾くことが出来たのか。
理由は簡単、ガードジャストだ。元々リンクはいかに強靭な盾も一撃で粉砕するガーディアンのビームをナベのフタで反射するといった神業を成し遂げている。
そんな化物じみた技術を持つリンクが、刀を防げない理由はなかった。

もしも2Bにポッドがいれば、リンクはガードジャストを決める暇もなく蜂の巣になっていただろう。
しかしそれはリンクも同じこと。リンクが武器とシーカーストーンを持っていれば、あくまで物体である2Bの時間はビタロックによって止められ滅多斬りにされていたはずだ。
どちらが勝つにせよ互いが全力であれば一瞬で勝負は決していた。この殺し合いにおいて設けられた装備の制限が、二人に互角の戦いを演じさせたのだ。

2Bとリンクの睨み合いが続く。
張り詰めた糸に空間が縛られたようだった。そして、先にその糸を断ち切ったのは2Bの方だ。

瞬く間に射程内へ潜り込み、盾の守りが甘い足元への刺突を放つ。
閃光のように鋭く速いそれをしかし、タイミングを伺っていたリンクはギリギリで横に飛び回避する。
ジャスト回避。極限まで意識を集中させたリンクは、止まったように感じる時間の中で2Bの元へ迫り、盾でのシールドバッシュをお見舞いした。
だが、それが触れる直前突如2Bの姿が何重にもブレる。すると刹那、リンクの頭上に出現した2Bが踵落としの要領で落下するのが見えた。――ジャスト回避を使えるのは、なにもリンクだけではない。

パリィ――ンッ!

二度目の音。爽快感さえ感じるそれの音源である盾は、2Bを空中に弾き飛ばす。
くるりと縦に回転しつつ華麗に着地する2B。互いに決定打にならない攻防は、まるでよく洗練された達人同士の演舞のようだった。

だからこそ、だろう。
雪歩の瞳が二人の戦いに釘付けになっていたのは。





20 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:55:04 pK6xf6z20


(すごい……)

雪歩は2Bとリンクの攻防に見惚れていた。
命を賭けた戦闘にしてはあまりにも美しく、激しく、非常識だったから。
自分が殺されるかもしれないという状況も忘れて、まるで誰もいない映画館の特等席に座っているような感覚を覚える。

我に返ったのはリンクが自分の目の前に躍り出てからのことだった。
雪歩を背にして2Bの攻撃を凌ぐリンクの姿は、まるで自分を2Bから守っているように見える。
思えば雪歩は、リンクに何をされたわけでもなく彼の姿を見るやいなや叫び声をあげた。それを聞きつけてリンクに攻撃をしかけた2Bも雪歩を思ってのことだろう。

殺し合いが始まって以降、今この瞬間雪歩の思考は最大限に落ち着いていた。
もしかしたら、と至った上記の思考が雪歩から恐怖を取り除いてくれたおかげだろう。
雪歩は考える。もしそれが本当ならば、いますぐにこの戦いを止めなければ――と。

「あ、あの……!」

「キミは下がってて!」

「ひゃうっ!?」

しかし、雪歩の力ない声は2Bの余裕のない叱責に掻き消される。
リンクからの言葉はない。しかし、気を抜けば殺されかねない状況の中でまともな返事を要求するのも酷な話だ。
リンクと2Bの戦いは続く。片方が攻め片方がそれをいなす。先ほどからこれの繰り返しだ。

(私じゃ、止められないの……?)

戦いを止められないという事実に雪歩は途端に無力感に苛まれた。
変わりたいと願ったのに。変わってみせると約束したのに。自分が理由で起きた戦いを止めることすら出来ないなんて――嫌だ。
震える足に鞭を打ち、立ち上がる。2Bとリンクは雪歩の状態に気を回せる余裕もない様子だった。

(……駄目、今のままじゃ駄目! 真ちゃん、プロデューサーさん……私に、私に勇気をください!)

息を吸い込む。
ただそれだけなのに、どうしようもないほどの緊迫感がつきまとう。
けれど、負けない。今吸い込んだ息を乱してしまったら、きっと変われない。
限界まで息を吸い込む。目一杯に膨らんだ肺の訴えを聞き入れて、雪歩は涙目になりながら自分の意思を伝えた。


「――戦いを! やめてくださぁぁぁぁぁい!!」


二人の戦士の肩が震え、互いの動きが静止する。
呆気にとられたようにこちらに顔を向ける二人を見て、雪歩はやっと一歩踏み出せたのだと安堵した。





21 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:55:40 pK6xf6z20


(どうして、こうなった?)

雪歩の説得によりリンクとの戦いを中断して数十分ほど。
2Bは困惑した様子で木製の椅子に腰掛けていた。ゴーグルで隠された瞳の先には、リンクが鼻歌交じりに料理をしている姿。
そして自分の隣にはどこか期待に満ちた表情でリンクの後ろ姿を眺める雪歩。例の叫び声を挙げた本人とは思えないほど活気を取り戻していた。

互いの誤解が解けたリンクと2B、そして雪歩はそれぞれ自己紹介を兼ねた情報交換を行った。
そこでわかったのは全員殺し合いに乗るつもりはないということと、他の参加者とは会っていないこと。そして、全員の住む世界がまるで違っていたということ。

2Bの世界では西暦が11945年まで進んでおり、人類は皆月に移住していた。そして自分たちアンドロイドが機械生命体から地球を守っているのだと話した。
しかし雪歩の世界は西暦2000年代であり、人類移住化計画などまるで現実味のない話だった。意思を持ったアンドロイドなどもってのほかだ。
二人の間に生じた矛盾に最初こそどちらも疑念を呈したものの、雪歩の必死な態度や2Bの人間離れした身体能力からそれが真実なのだと互いに理解した。

そして一番の問題はリンクだった。
ハイラル、厄災ガノン、ガーディアン、ゼルダ姫。まったく聞き覚えのない単語が当然のように飛び出した。
彼が言うには自分の世界は厄災ガノンという存在がハイラルという世界を支配しようとしているらしい。まるでおとぎ話のようで、雪歩は目を輝かせ2Bは頭を抱えた。
リンクはあまり感情を表に出さない性格のようで、真顔でそれを語っていたのだから真偽の判断も難しい。ひとまずは全員の情報を真実とする、という結論で片付いた。

その際に2Bは9Sという首輪を外せるかもしれない存在がいると二人に話した。
9Sの捜索を方針とすることに雪歩とリンクは賛同したが、その際に雪歩が行き先を提案した。
D-2、765プロ。雪歩が所属していたアイドル事務所だ。自分以外のアイドルが参加させられていた場合、そこに向かう可能性が高いと雪歩が判断したからだ。
これに2Bもリンクも特に反対はしなかった。9Sがどこにいるか分からない以上、闇雲に探すよりも行き先を決めたほうが今後も動きやすいだろう。


閑話休題。

そんなこんなを経て、リンクが誤解をさせてしまったお詫びにと料理を振る舞うことになった。
食材はリンクに支給された基本食料品である肉とリンゴ、そしてイシの村から調達したカボチャの三種類。一見組み合わせが良いとは思えないものの、台所から立ち込める香りが雪歩の食欲を刺激した。
正直なところ雪歩は食事をする気分ではなかった。けれど普段無表情なリンクがあまりに楽しそうに料理をするものだから、それに釣られて眠っていた空腹感が顔を出し始めたのだ。

「できたよ」

「わぁ……! ありがとうございます、リンクさん。いただきます!」

ことん、とテーブルに置かれたのは肉厚なステーキにカボチャのソースがかけられ、焼きリンゴが添えられたボリューミーな料理。
一見脂っこく見えるがしっかりと火を通した肉は脂身が落とされており、ひとくち口にした雪歩はその深い味わいに目を丸めた。肉の旨味に加えてカボチャのほんのり甘いソースが肉本来の味を強調させる。
付け合せの焼きリンゴも、しつこすぎない甘さが口の中をさっぱりさせてくれる。雪歩は夢中で食べ進め、席についたリンクも自分の料理をガツガツと食べ始めた。

そんな二人の様子に2Bはため息をつく。
本当に状況を分かっているのか、と叱責してやりたかった。今こうしている間にも9Sは危険な目に遭っているかもしれないと考えたら気が気じゃない。
2Bの視線に気が付いた雪歩はふと顔を上げ、ばつが悪そうに切り出した。

「あの、2Bさんも……食べますか?」

「え? ……いや、私はいい」

「そうですか? なんだか寂しそうだったので……」

寂しそう? 身に覚えのない感情を指摘され、2Bは首を横に振る。
その後も何度か雪歩は食事を勧めてきたが、しつこいという2Bの言葉に一蹴された。いつの間にか食べ終わっていたリンクはデイパックから取り出したマップを広げまじまじと見つめている。


22 : 恋しさと切なさと心強さと ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:56:04 pK6xf6z20

「リンク」

「? どうしたの?」

「貴方は、ハイラル城という場所に向かわなくていいの?」

そこで、2Bは少し前から抱いていた疑問をぶつける。
ハイラル城、マップに示されたその場所はリンクに関わりが深い城だ。さきほどの話し合いからもそれは容易に察せる。
リンクは少し悩むような素振りを見せたあと、相変わらずの無表情を貫いたまま口を開いた。

「大丈夫」

「なぜ?」

「多分、ハイラル城には誰もいないから」

リンクの言うことはもっともだった。
厄災ガノンに乗っ取られたハイラル城には危険なガーディアンがはびこっている。
この会場に厄災ガノンがいないことはすぐにわかった。魔物が発する邪悪な気配が一切感じられなかったからだ。
となると、厄災を抑えていたゼルダもわざわざ危険な城に向かう理由はない。手がかりを探すために向かうには危険すぎる場所だということは、ゼルダ自身にも分かっているはずだから。

短い言葉に込められた意味を2Bは全て理解することはできない。しかしそう語るリンクの顔は強い確信に満ちており、2Bはそれ以上意見する気になれなかった。
用は済んだとばかりにリンクは再び地図へ視線を向ける。淡々としたその態度は2Bを持ってして機械のようだという印象を抱かせた。

「ご、ごちそうさまでした」

冷たい空気を壊す一声。
見れば雪歩の皿に乗っていた料理は綺麗になくなっている。
彼女の「ごちそうさま」という言葉は暗に出発するという合図だ。現に2Bとリンクは既に準備を終えていた。

アンドロイドとハイリア人、そしてただの人間。
性格も種族も世界も全く異なる三人は、同じ旗の下で反逆の一歩を踏み出した。


【A-1/イシの村/一日目 深夜】
【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 満腹
[装備]:デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実
[思考・状況]
基本行動方針:
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。
3.ゼルダが連れてこられているかどうか情報を集めたい。

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。

【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:健康
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、モンスターボール(中身不明)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
3.遊園地廃墟で部品を探したい。
4.モンスターボール……ってなに?

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安 満腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:
1.D-2、765プロへ向かう。
2.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。
3.2Bさんやリンクさんと仲良くなれるかな……。


【支給品紹介】

【デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
リンクに支給された大きな黒い盾。
元々はグレイグがデルカダール王から譲り受けた一品物。デルカダール王国伝来の盾で、王国最強の騎士に与えられるという。
中心部分に国章である「双頭のワシ」がデザインされている。

【陽光@龍が如く 極】
2Bに支給された刀。特殊能力で気絶効果がある。
攻撃力は230。龍が如く 極本編でこれを越える攻撃力を持った刀は「朝嵐」と「龍殺し」しかない。

【モンスターボール@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
2Bに支給。皆さんご存知ポケモンが入ったボール。
どんなポケモンが入っているかは後の書き手さんにおまかせします。

【ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2】
萩原雪歩に支給された特殊な拳銃。
見た目はファイティングナイフだが、柄部分に単発のハンドガンが組み込まれている。
使う際には柄の底を相手の方に向け、柄の側面にある安全装置を開きながら、底面横に備えられたスイッチを操作すると弾丸が発射される。


23 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 01:57:32 pK6xf6z20
投下終了です。
感想、ご指摘などありましたらよろしくお願いします。


24 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/19(日) 03:22:38 pK6xf6z20
リンクと雪歩の基本行動方針を書き忘れたので訂正しました。

【A-1/イシの村/一日目 深夜】
【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 満腹
[装備]:デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いからの脱出。打倒主催。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。
3.ゼルダが連れてこられているかどうか情報を集めたい。

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。

【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:健康
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、モンスターボール(中身不明)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
3.遊園地廃墟で部品を探したい。
4.モンスターボール……ってなに?

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安 満腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を集めて生き残る。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。
3.2Bさんやリンクさんと仲良くなれるかな……。


【支給品紹介】

【デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
リンクに支給された大きな黒い盾。
元々はグレイグがデルカダール王から譲り受けた一品物。デルカダール王国伝来の盾で、王国最強の騎士に与えられるという。
中心部分に国章である「双頭のワシ」がデザインされている。

【陽光@龍が如く 極】
2Bに支給された刀。特殊能力で気絶効果がある。
攻撃力は230。龍が如く 極本編でこれを越える攻撃力を持った刀は「朝嵐」と「龍殺し」しかない。

【モンスターボール@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
2Bに支給。皆さんご存知ポケモンが入ったボール。
どんなポケモンが入っているかは後の書き手さんにおまかせします。

【ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2】
萩原雪歩に支給された特殊な拳銃。
見た目はファイティングナイフだが、柄部分に単発のハンドガンが組み込まれている。
使う際には柄の底を相手の方に向け、柄の側面にある安全装置を開きながら、底面横に備えられたスイッチを操作すると弾丸が発射される。


25 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/20(月) 02:30:55 jzk0j3is0
アリオーシュ

予約します。


26 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/20(月) 22:38:59 jzk0j3is0
投下します。


27 : Aの食卓 ◆NYzTZnBoCI :2019/05/20(月) 22:39:26 jzk0j3is0


――グチャッ、ブチィッ、ゴリッ、ベチョッ……。


それは、不幸な事故だった。
”奴”が拠点としている警察署に迂闊に入ってしまったから。
無防備に背中を晒す餌を前にして、”奴”は喜んで涎を垂らしていた。


――ブチッ、ゴリリッ、グチャッ、ボリッ……。


天井に張り付いていた”奴”は躊躇いも慈悲もなく槍のように鋭い舌を餌へと向ける。
高速で迫りくるそれは呆気なく餌を――これ以上は語る必要もあるまい。


――ゴクンッ。


丁度食事を終えたそれは、肉塊となった餌を見下ろす。
脳を剥き出しに、四肢をもぎ取られ、体の至る部位を食い千切られた憐れな餌の名は――

「ふふ、ごちそうさまァ」

残骸、リッカーであったものを俯瞰しながらアリオーシュは緋色の唇を舐める。
美しい顔は返り血に彩られ、革製の衣服には内蔵らしきものが飾られているその姿は、リッカーを遥かに

越える狂気を演出させていた。


28 : Aの食卓 ◆NYzTZnBoCI :2019/05/20(月) 22:39:52 jzk0j3is0

事の発端は上記の通り、アリオーシュがラクーン市警に訪れたことが原因だった。
飢えたリッカーは生者の気配を感じ取り、盲目でありながら的確にアリオーシュの首を狙って天井から舌を伸ばした。
並の人間ならばその時点で首が掻っ切れていただろう。しかし”契約者”であるアリオーシュは並の人間という枠には収まらない。
振り向きざまに振るわれた大剣の一撃で舌を切り落とされたリッカーはたまらず地上に落下し絶叫。
近寄るアリオーシュへ抵抗しようと巨大な爪を振るうが、その時には既に四肢が切断されていた。

よもやリッカーも自分が捕食される側になるとは思っていなかっただろう。
生きたまま――といっても死んでいるが――アリオーシュの餌となったリッカーは最初こそ身体をバタつかせていたものの、四口目ほどで動かなくなった。

アリオーシュはリッカーの味を思い返し、僅かに眉を顰める。
やはり子供と比べて味も悪いし、硬いし、臭い。けれど食べられるだけマシだ。
自分のお腹の中に入れれば、この醜い世界から守ることが出来るのだから。アリオーシュの行動理念はただその一筋の狂気に引っ張られていた。

「うふ、うふふふふ……まってて、私のかわいいこどもたちィ……」

大剣を引きずり、ラクーン市警を後にする。
ここにはもうなにもない。さっきの肉も、もう食べ飽きてしまった。
ああ、柔らかくて美味しいこどもたちをまもりたい。まもりたい。マモりタい。タベタイ。タベタイタベタイタベタイタベ――

笑顔を張り付けるアリオーシュは気づかなかった。
リッカーを捕食したことで自分がT-ウイルスに感染していることに。
もっとも彼女の世界にはT-ウイルスなど存在しないし、仮にあったとしても対処法などない。加えて元々食人衝動のあるアリオーシュは自分の異変にも気が付かないだろう。
よって、彼女はこの時点でクリーチャーとなることが確定した。


T-ウイルスに耐性がなかった場合は、だが。


【F-3/ラクーン市警/一日目 深夜】
【アリオーシュ@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:T-ウイルス感染(軽度)
[装備]:バタフライエッジ@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こどもたちをまもる。
1.人、できればこどもを探してまもる。
2.あの肉、あんまり美味しくなかったわ。

※リッカーを食べたことによりT-ウイルスに感染しました。
耐性があるかどうかは後の書き手さんにおまかせします。
また、クリーチャー化した場合脳を破壊され完全に活動を停止した段階で「死亡」と判断します。

【バタフライエッジ@FINAL FANTASY Ⅶ】
アリオーシュに支給された大型の剣。FF7本編ではクラウド専用の武器。
見た目は大きめのサバイバルナイフといった感じ。


29 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/20(月) 22:40:10 jzk0j3is0
投下終了です。


30 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/21(火) 22:05:05 G4TmzUws0
セーニャ
レオン・S・ケネディ

予約します。


31 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/21(火) 22:24:46 G4TmzUws0
このロワ、あまり需要ないんですかね。


32 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/22(水) 19:02:24 RHC1DX.k0
>>8
◆3Yix5UnzdMさん、いらっしゃいますでしょうか。
予約期限が過ぎたため、日付が変わるまで応答がなかった場合予約破棄とさせていただきます。


33 : 名無しさん :2019/05/22(水) 20:45:54 Lf9bk/lA0
投下乙です!
まさかアリオ―シュはリッカ―までもおいしく食べてしまうなんて……
アリオ―シュはリッカ―のママになるのでしょうか?


34 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/23(木) 00:54:50 QcXdFDIA0
>>33
感想ありがとうございます!
そうですね、アリオーシュにとっては言葉も発せず立つこともできないリッカーは赤ん坊のように見えたのかもしれません……。


35 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/23(木) 00:55:43 QcXdFDIA0
◆3Yix5UnzdMさん、日付が変わっても応答がなかったので予約破棄扱いとさせていただきます。


36 : ◆2zEnKfaCDc :2019/05/23(木) 12:12:22 kSJDOrGQ0
ベロニカ、書き手枠1つ予約します


37 : ◆2zEnKfaCDc :2019/05/23(木) 12:27:06 kSJDOrGQ0
書き手枠はハンター@MONSTER HUNTER Xでお願いします


38 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:36:17 eh8zS.SU0
投下します。


39 : 過ぎ去りし時を―― ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:36:54 eh8zS.SU0

(――殺し合い、か)

アスファルトの上、レオン・S・ケネディは静かにマナのルール説明を思い出す。
殺し合い。それも人間同士で。ゾンビまみれの街を徘徊するという非現実的な体験をしたレオンを持ってし

ても異常と言わしめる発想だ。

無論、レオンは殺し合いに乗るつもりなど毛頭ない。相手がゾンビならばまだしも理性のある人間を殺した

いなどとは思ったこともなかった。
そう、レオンはこれまで話の通じない相手と戦ってきた。ゆえに話し合いで解決できる可能性があるという

だけで希望に繋がる。たとえ相手が殺人嗜好の持ち主でも、言葉を交わすことは出来るのだ。
会話ができないことの恐怖をよく知っているレオンだからこそ言える。この殺し合いはきっと止められる、と



だが、障壁は多い。

まず第一に、この悪趣味な首輪をどうするかだ。
これがある限り主催の掌の上から逃れることはできない。それはルール説明の際の一連の流れで思い知

らされている。
機械弄りは苦手ではないがそのレベルの腕でどうにかなる代物でもあるまい。これに関してはそういった

知識と技術を持ち合わせた参加者と合流できることを願うほかにない。

第二に、ウルノーガと呼ばれたあの怪物。
いつかのタイラントを思わせる不気味な肌を持ったその怪物は、不可解な能力でマナに立ち向かった桐生

とティファを吹き飛ばした。常人であるレオンからすれば何が起こったのかすらもわからない。
まるでファンタジー映画の悪役のようだった。ああいった類には銃弾が通用するのかどうかすら怪しい。
超能力も魔法も使えず、警官としての体術と銃火器への知識がある程度の人間ではとても太刀打ち出来

ないだろう。現状、これがレオンにとっての最大の障壁だ。

「くそっ、俺はいつのまにオカルト世界の住人になったんだ?」

話を変えるが、ここに連れてこられた彼は新米警官だった頃のレオンである。
大統領直轄のエージェントとして特殊訓練を積むのは当分先の話だ。つまり、今のレオンは参加者の中で

も無力な類に入る。
時期が違えばもっと冷静に、もっと慎重に立ち回ることができただろう。”話し合えば解決できる”などという

人間の底を知らぬ甘い考えも、彼がまだ未熟であるがゆえのものだ。
仮定の話など無意味とはいえ、今のレオンが未来のレオンに比べ劣っているのは事実。


これは、それを踏まえた上での話だ。


40 : 過ぎ去りし時を―― ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:37:52 eh8zS.SU0
//すいません、改行をミスしてしまったので投下し直します。


(――殺し合い、か)

アスファルトの上、レオン・S・ケネディは静かにマナのルール説明を思い出す。
殺し合い。それも人間同士で。ゾンビまみれの街を徘徊するという非現実的な体験をしたレオンを持ってしても異常と言わしめる発想だ。

無論、レオンは殺し合いに乗るつもりなど毛頭ない。相手がゾンビならばまだしも理性のある人間を殺したいなどとは思ったこともなかった。
そう、レオンはこれまで話の通じない相手と戦ってきた。ゆえに話し合いで解決できる可能性があるというだけで希望に繋がる。たとえ相手が殺人嗜好の持ち主でも、言葉を交わすことは出来るのだ。
会話ができないことの恐怖をよく知っているレオンだからこそ言える。この殺し合いはきっと止められる、と。

だが、障壁は多い。

まず第一に、この悪趣味な首輪をどうするかだ。
これがある限り主催の掌の上から逃れることはできない。それはルール説明の際の一連の流れで思い知らされている。
機械弄りは苦手ではないがそのレベルの腕でどうにかなる代物でもあるまい。これに関してはそういった知識と技術を持ち合わせた参加者と合流できることを願うほかにない。

第二に、ウルノーガと呼ばれたあの怪物。
いつかのタイラントを思わせる不気味な肌を持ったその怪物は、不可解な能力でマナに立ち向かった桐生とティファを吹き飛ばした。常人であるレオンからすれば何が起こったのかすらもわからない。
まるでファンタジー映画の悪役のようだった。ああいった類には銃弾が通用するのかどうかすら怪しい。
超能力も魔法も使えず、警官としての体術と銃火器への知識がある程度の人間ではとても太刀打ち出来ないだろう。現状、これがレオンにとっての最大の障壁だ。

「くそっ、俺はいつのまにオカルト世界の住人になったんだ?」

話を変えるが、ここに連れてこられた彼は新米警官だった頃のレオンである。
大統領直轄のエージェントとして特殊訓練を積むのは当分先の話だ。つまり、今のレオンは参加者の中でも無力な類に入る。
時期が違えばもっと冷静に、もっと慎重に立ち回ることができただろう。”話し合えば解決できる”などという人間の底を知らぬ甘い考えも、彼がまだ未熟であるがゆえのものだ。
仮定の話など無意味とはいえ、今のレオンが未来のレオンに比べ劣っているのは事実。


これは、それを踏まえた上での話だ。


41 : 過ぎ去りし時を―― ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:38:14 eh8zS.SU0


「――あの、少しよろしいでしょうか?」
「っ!? ……あ、ああ。気が付かなくて悪かった」

考えに耽っていたレオンは背後からかかる声に肩を跳ねさせた。
もし相手が殺人鬼だったならば、と考えたらゾッとする。己の失態を反省しながら、声の主へと顔を向ける。
柔らかな顔立ちの女性だった。金糸雀のように憂いを帯びたブロンドのショートヘアにレオンははっと息を呑み、視線が行くあてもなく彷徨った。

「俺はレオン・スコット・ケネディだ。君は?」
「セーニャと申します。……あの、レオンさまは殺し合いには……」
「勿論乗ってないさ。不安がらなくていい、なんなら荷物も預けよう」

セーニャ、と名乗った女性へレオンはできる限り無害であることを主張する。
デイパックを地面に降ろし、両手を挙げぶらぶらと何も持っていないことを強調させれば、セーニャは緊張に強張った顔を少しだけ和らげた。

「安心しました。もし声を掛けた方が殺人を肯定していたら……と心配していましたが、杞憂に終わったようです」
「はは、俺がそんな風に見え……まぁこんな状況じゃ仕方ないか。セーニャ、よければ一緒に行動しないか?」
「よろしいのですか? では、お言葉に甘えて。これからよろしくお願いいたします、レオンさま」

こちらこそ、と苦笑気味にレオンが返しデイパックを拾い上げる。
ぺこりと丁寧にお辞儀まで交えるセーニャの言動は真面目で清楚という印象をレオンに抱かせた。
活発で肝の据わったクレアと長く行動を共にしてきたせいか彼女のような女性を新鮮に感じる。だからこそ、自分が守らなければとレオンの真っ直ぐな決意をより固いものにした。

「早速だがセーニャ、俺はこの首輪を外せる人間を探したい。そのために近くの病院に行きたいと思うんだが、構わないか?」
「病院、ですか……はい、構いませんよ」

反芻するセーニャの口ぶりはどこかぎこちないものだった。まるで病院という言葉を初めて聞いたかのように。
それに違和感を覚えなかったわけではない。だが些細なことであるためレオンは特に追求せずに頷いた。

「じゃあ病院へ向かおう。運が良ければ薬も手に入るかもしれない」
「まぁ、それは魅力的ですね。……あ、その前にレオンさま、支給品の確認はお済みですか?」
「支給品……ああ、そういえば考えごとに夢中で忘れてたな。武器が入っているかもしれないし、悪いが少し待っていてくれ」

レオンが武器を持っていないことに気付いてか、投げられたセーニャの問いはレオンにとって完全に失念していた事柄だった。
支給品の確認など基礎の基礎であるというのに。殺し合いをどう突破するかという思考に囚われすぎていたせいで普段よりも緊張感を欠けさせていたのかもしれない。

セーニャへ一言声をかけデイパックを再び降ろした。
上の方にある地図やランタンなどの基本支給品を掻き分け、メインであるランダム支給品を探る。やがて忙しなく動いていたレオンの右手は硬い感触にぶち当たった。

「これは……槍、か? 立派な武器だが、出来れば銃の類が良かったな。あまりこういう武器は得意じゃないんだ」

取り出したのは黒い大きな槍。
扱う人間が違えばとても強力な武器なのだが、槍の心得のないレオンにとっては扱いづらいことこの上ない。男の自分がこうなのだからセーニャにも扱えないだろうと判断し手元に置く。
セーニャはその武器を見て僅かに瞠目するが、背を向けているレオンはその微細な変化に気づくことはなかった。

「……おお! これはいいぞ、見たところ薬みたいだ。説明書を読んでみる」
「レオンさま」
「ん? どうかしたのか? …………HPを回復? なんだこの説明は。まるでゲームじゃないか」

セーニャの呼びかけに応じはするも、レオンの目は軟膏薬に付属された説明書に向けられている。
大した用事ではないと判断したのだろうか。それとも説明書に記された内容があまりにもふざけたものだったせいか。
どちらにせよ、それは間違いだったと後に気付かされることとなる。


42 : 過ぎ去りし時を―― ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:38:41 eh8zS.SU0

「ごめんなさい、レオンさま」
「……なに? セーニャ、なにを――」








――――メラゾーマ。








セーニャの唐突な謝罪にレオンが振り返る直前、詠唱が終わった。
そこにレオンの想定していたセーニャの顔はなく、代わりに太陽のような灼熱の塊が目前に迫る。
声を上げることもできなかった。呆気にとられたまま、何が起こっているのかも分からないまま――大口を開けた焔はレオンの身体を飲み込んだ。

ぼうッ、と何かが弾ける音がした。
じゅうッ、と何かが焦げる音がした。

火球が着弾した箇所、つまりレオンがいた場所から龍のような火柱が立ちのぼる。
既にレオンではなくなったそれを執拗にむしゃぶるルビーの炎は、まるで獲物を骨の髄まで焼き尽くすと語っているようだった。


43 : 過ぎ去りし時を―― ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:39:39 eh8zS.SU0


仮定の話など無意味だ。
しかしもし、もしもだ。今ここに連れてこられていたレオンの時期が違えば。エージェントとしての経験を積み、バイオテロを解決したレオンだったのならば、だ。
出会って間もないセーニャへ無防備に背中を向けることも、突如向けられた火球を前に棒立ちすることもなかっただろう。相応の場数を踏んだ彼なら立場は逆転していたはずだ。
だが、現実は決して覆らない。


火柱が収まったのは果たして何秒、何分経った頃だろうか。
焼け焦げたアスファルトの上にレオンはいない。いや、正確に言えばレオンだったもの――もっとも、それを証明するものは何一つ残っていないのだが。
代わりに残っているのは髪と肉が焦げる残り香と彼が漁っていた支給品のみ。デイパックは燃え尽き、槍と軟膏薬しか原型を留めていない。

「……うッ、おえッ……! げほ、っ…………う、ぐぅ……!」

レオンを殺害した張本人、セーニャは立ち込める異臭に吐き気を催した。
いや、なにも異臭だけが理由ではない。自分が人を、さっきまで話していた人間を殺した事実がぐちゃぐちゃな感情となってセーニャを掻き乱した。

「レオン、さま……ごめん、なさい…………ごめんな、さい……ッ!」

膝を折り、地に手をつけるセーニャの翡翠の双眸から雫がこぼれ落ちる。
それはとても人を殺した者のとる行動には見えない。自分が行ったことを心の底から後悔し、神に懺悔するなど矛盾している。
そう、セーニャは矛盾していた。助けたいから殺す、殺してしまったから悲しむ。そんな不可解な鎖に縛られていた。

嗚咽と嘔吐きを繰り返すセーニャのレオン殺害の動機は至ってシンプルだった。
優勝し、この殺し合いをなかったことにするためだ。更に詳しく言うのならば、彼女の世界で起こった世界樹崩壊前まで時間を戻すため。

この殺し合いはウルノーガの手によって開催されたものだ。
ならばウルノーガが世界を支配する前の時間まで戻り、そこでウルノーガを倒せばこの殺し合いは起きないはず。
更にセーニャの姉であるビアンカは世界樹の崩壊から自分達を救うために命を投げ捨てた。時間を巻き戻せば、ウルノーガの暴走とビアンカの死を阻止できる可能性があるのだ。
勿論その道を歩むことの罪深さは理解している。理解した上でセーニャはビアンカを、みんなを救いたかった。

この場に呼ばれたのは自分だけではない。ルール説明の際に見えたカミュの姿が決定的だ。
恐らく集められたのはウルノーガに因縁が深い人物。つまり、セーニャが共に旅をしてきた仲間たちだ。
イレブン、カミュ、シルビア、ロウ、マルティナ、グレイグ――この中の数名、あるいは全員が呼ばれているのは確実だろう。
そう推測していたセーニャは、自分が願いを叶えられずとも他の仲間に託すと決めていた。

きっと、彼らは自分を止めるだろう。
彼らは立ち向かうはずだ。願いを叶えるという甘言に乗らず、自らの手で生き残りウルノーガを倒さんとするだろう。
けれどそれではベロニカは生き返らない。この殺し合いで犠牲になった人達は蘇らない。

「……私は、私は皆様を……救いたい、……!」

自分に言い聞かせるように呟いた言葉は風に溶ける。
このままでは自分を見失いそうだから。心を軋ませる罪悪感と重圧に押し殺されてしまいそうだから。
その信念だけは曲げない。自分はみんなを救うために殺す。
ひどく矛盾した決意を固めたセーニャは、震える足で立ち上がりレオンの遺した支給品を回収する。

ぎぃ、と槍が悲しみの音色を奏でた。
重い。けれど、命の重さにしては軽すぎる。
哀しき処刑人は祈りを捧げる。天へ昇ったレオンの魂を悼むように。あるいは、自分の内に牙剥く罪の意識を和らげるように。
数分の黙祷を捧げ、覚束ない足取りで歩く。レオンが言っていた病院という施設へ。

過ぎ去りし時を求めて。



【レオン・S・ケネディ@BIOHAZARD 2 死亡確認】
※レオンの死体は焼失しました。


44 : 過ぎ去りし時を―― ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:40:37 eh8zS.SU0
【D-5/一日目 深夜】
【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 】
[状態]:健康、決意、罪悪感(大)、MP消費(極小)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、世界樹崩壊前まで時を戻す。
1.優勝する。それが無理ならば他の仲間を優勝させ後を託す。
2.病院へ向かい、参加者を殺害する。
3.……ごめんなさい、レオンさま。

※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っています。
※回復呪文、特技に大幅な制限が掛けられています。(ベホマでようやく本来のベホイミ程度)
※ザオラル、ザオリクは使用できません。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。

【黒の倨傲@NieR:Automata】
レオンに支給された黒い槍。
特殊効果として『攻撃速度UP』、『黒い衝動』が付与される。
『黒い衝動』はHPが30%以下に攻撃力が40%上昇する効果。本ロワオリジナル効果としてこの状態になった場合、大きな破壊衝動に駆られる。

【星屑のケープ@クロノ・トリガー】
セーニャに支給されたケープ。
高い防御力に加え、魔法防御+10の効果がある。女性専用装備。

【軟膏薬@ペルソナ4】
レオンに支給された回復アイテム。
味方単体のHPを100回復させる。とはいえ100という数値はペルソナ基準であるため当てにならない。
わかりやすく言えば中程度の回復効果がある。


45 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/24(金) 01:42:35 eh8zS.SU0
投下終了です。
短めになってしまいましたがご容赦ください。


46 : 名無しさん :2019/05/24(金) 09:24:46 L7a5jrPg0
投下乙です
レオン一話退場とは泣けるぜ…。
4以降からの参戦なら安心感があるけど新米時代じゃどうにもないか


47 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/25(土) 00:48:17 Me8H5TMs0
>>46
感想ありがとうございます!
そうですね。4でも6でも超人じみた身体能力を持っていますし、戦力的に大きく差があると思います。


48 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/25(土) 19:22:59 Me8H5TMs0
カミュ、カエル、ジャック、セフィロス

予約します。


49 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/27(月) 19:03:50 gmzl2kvA0
書き手枠十人じゃ多過ぎましたかね?
予約があまりつかないので、持て余してしまいそうです。


50 : ◆pnpG6UgSkw :2019/05/28(火) 17:41:46 V/dvC2QA0
その辺決めるのは既存の面子が出揃ってからでもでも宜しいのでは?

アリオーシュってタイラントでもむーしゃむーしゃしそうですね

ソリダス・スネーク クレア・レッドフィールド ウィリアム・バーキン
あと書き手枠でP・シルバ(ガーディアンヒーローズ)
予約します
予約します


51 : ◆pnpG6UgSkw :2019/05/28(火) 18:04:49 V/dvC2QA0
質問ですがバイオハザードダムネーションでレオンと鬼ごっこしたいつもの倍はあるタイラントは出せますか?


52 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/28(火) 21:28:14 r6M0SWwM0
>>50
ありがとうございます。そうですね、今は様子見します。
質問の件ですが、ダムネーションは映画なのでそれを許してしまうとうーん……となってしまいます……。
他作品のタイラントならば歓迎なのですが。
しかしその場合、ホラゲーロワのように唯一存在のクリーチャー用の名簿も作った方がわかりやすいかもしれませんね。


53 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/30(木) 12:29:39 w/t9Xu.U0
>>36
◆2zEnKfaCDcさん、いらっしゃいますか?
予約期限が過ぎました。日付が変わるまでに反応がない場合、予約破棄扱いさせて頂きます。


54 : ◆2zEnKfaCDc :2019/05/30(木) 16:39:58 CWOyTvPo0
>>53
連絡遅れて申し訳ありません。
今日中に間に合うか微妙なとこなので、一旦予約破棄します。


55 : ◆NYzTZnBoCI :2019/05/30(木) 21:23:24 7ww1Pbng0
>>54
返信ありがとうございます。予約破棄の件、了解しました。

かくいう私も書き溜めが消えてしまったので、もう一週間延長します。


56 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:19:48 KZLzIZgc0
投下します。


57 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:20:32 KZLzIZgc0

――キィンッ! ガギィンッ!

冴える月光の下、暗がりの丘陵にて火花が舞い踊る。
鬱蒼と茂る草を踏みしめ駆けるは二つの影。一つは人間、一つは異形。
耳を揺らす金属音は果たして何度目になるだろうか。会場でもっとも高い場所に位置するそこでは戦士の攻防が繰り広げられていた。

「ちぃっ……なんなんだこの魔物は!」

いびつな金属音と共に後方へと跳躍する人間、カミュ。
普段のような調子者を演じる余裕もなく武器を構え直す。彼に支給されたのはよりにもよって扱ったことのない大剣だった。
剣というジャンルである以上扱えないわけではないが片手剣やナイフと比べて圧倒的に練度が足りていないのは事実。
ゆえにカミュの額には冷や汗が伝い、これが得物であればどれだけよかったかとどうにもならない”もしも”を渇望していた。

「どうした! 来ないならこっちからいくぜッ!」

対するは小柄な身体を活かし高速でカミュへ肉薄する異形、カエル。
両生類の肉体とは裏腹に、器用に金属バットを片手に握り大剣と渡り合う実力はカミュでさえ息を呑むほどだ。
確かにカミュが押され気味である理由には慣れない武器だからという理由もある。が、仮に互いが得物を持っていたとしても実力の差はさほど無いだろう。
カエル自身金属バットなどという代物は扱ったこともない。しかし単純に両手で握り、振るうという用途が同じ以上適応するのにそう時間はかからなかった。

「はぁっ!」
「くっ……!」

大剣の腹に手を添え、盾のように構えるカミュはカエルの攻撃を間一髪で凌ぐ。
何十回目の火花が散り互いの顔を一瞬照らし出した。カ自分の焦燥に濡れた顔を見られるのを嫌ったカミュは力任せに大剣を振るう。
質量の違いか、バットごと吹き飛ばされたカエルはしかし華麗な着地と同時に再びカミュへと急接近。
しかしカミュとてそう何度も肉薄を許さない。

「ジバリーナ!」
「ッ!?」

聞き慣れぬ単語が飛び出しカミュが手をかざしたかと思えば刹那、疾走するカエルの足元に魔法陣が描かれる。
警戒を抱き足を止めたカエルの判断は誤ちだった。一瞬の地鳴りを立て魔法陣の中央から生み出された土塊がカエルを大きく突き上げる。
強烈な勢いで腹部を押し上げられる感覚に空気が漏れる。明滅する視界が映す空の色から初めて自分が宙に舞っているのだと気が付いた。


58 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:21:16 KZLzIZgc0

油断していた。まさか魔法まで使えるとは。
気持ちの悪い浮遊感に苛まれながらもカエルの思考は冷静だった。
だからこそこのまま素直に地面に叩きつけられてやるつもりもないし、そうならない手段をカエルは持っている。

「なッ!?」

勝利への一歩に笑みを浮かべていたカミュの顔は一瞬にして驚愕に変わる。
それも当然。カエルは空中でありながら的確にカミュの右腕へ向けて舌を伸ばし器用に巻き付けてみせたのだから。
その状態のままカエルは全力で舌を引き戻す。ぐん、と抗いようのない引張力がカミュをカエルの元まで連れて行った。
こうなってしまえば土俵は同じだ。

「がッ、は――!?」

カエルのフルスイングがカミュの脇腹を捉える。
鈍く痛々しい音があたりに響いた。バットに打ち落とされる形でカミュの肉体は猛烈な勢いで地面へ落下する。
背中を打たれ白濁した意識が無理やり引き戻された。見開いた目が捉えたのは、落下しながら第二の攻撃を加えんとするカエルの姿。

舌打ち交じりにカミュは必死に転がる。
それとほぼ同時にカエルのバットが先ほどまでカミュの頭があった場所を打ち抜き、小規模なクレーターを作り上げた。
痛む身体にむち打ちカミュは立ち上がり距離を取る。ダメージはさほど深刻ではないものの二度と喰らいたくない威力だった。

「く、そ……! 味な真似、しやがるぜ……」
「はっ、先に奇妙な魔法を使ってきたのはそっちだろ。青髪」

そしてそれは軽口を返すカエルも同じだった。
ジバリーナというカエルの知らない魔法。それは彼にとって十分脅威に値するものだ。
未だに内蔵を突き上げられる感覚が忘れられず、痛みも抜けない。互いのダメージは五分といったところだろう。
緊迫した睨み合いが続く。どちらも実力が拮抗している上、どんな隠し玉を持っているかわからないため迂闊に攻め込めないのが理由だ。


なぜ二人が争うことになったのか。二人の性格を知る者は疑問に思うだろう。
カミュもカエルも殺人嗜好の持ち主などではないし、それどころか正義漢と言える真逆の性格だ。
事実カミュに至っては最初の広場でマナに反抗している。

一方のカエルは、呪いによって姿を変えられる前は騎士道精神に溢れていた立派な男だった。
しかし魔王によって親友を殺され、その罪を贖おうと必死で戦い続ける中でその性格は徐々に歪んでいった。
勿論困っている人間を助けたいという根底の気持ちは変わらずある。しかし、魔王を殺すことだけが親友への唯一の罪滅ぼしとしていたカエルにとってその目的は何よりも優先すべきことだった。

魔王を打倒するためには元の世界に帰らなければならない。
この殺し合いに魔王が連れてこられていることを知らないカエルはそう考えていた。
元々世界の未来よりも友情を取る男であるカエルが迷う余地はない。カエルはこの殺し合いに優勝し、元の世界に帰り――願い云々が本当なのであれば、親友サイラスを蘇らせることを目的とした。
無論、サイラスの死を受け止めた時期のカエルであればこのような考えには至らなかっただろう。
今のカエルはよりにもよって、ようやく魔王と対面し一騎打ちを果たす直前に連れてこられたのだ。冷静でいろという方が無理があった。

つまり、この戦いはカエルが仕掛けたものだった。
計算外だったのはカミュが予想以上の手練れだったということ。一瞬で終わると思っていた戦いがここまで長引き、あまつさえダメージを負ってしまった。
この殺し合いで勝ち残るということがひどく険しい道なのだと思い知らされる。


59 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:21:35 KZLzIZgc0


「ジバリーナ!」

睨み合いを先に切り上げたのはカミュだった。
さきほど聞いた脅威の名。しかし同じ過ちを繰り返すほどカエルは馬鹿ではない。

(馬鹿め、その魔法はさっき見たぜっ!)

予想通り、カエルの足元に魔法陣が完成される。
それと同時、カエルは全身の力を脚に込めてカミュへと飛びかかった。
さきほどまでカエルがいた場所に取り残された魔法陣は無意味にも土塊を生み出し、結果それはカエルの遙か後方で崩れ落ちることとなる。
ジバリーナという魔法は設置型だ。発動する前にその場から離れればいい。
無論それを成せる実力の持ち主など限られているが、カエルは当然と言わんばかりに勝利した。

(――ッ!?)

だというのに、なぜだろうか。
なぜ今にも殴りかかられる直前であるはずのカミュは笑っているのだろうか。

バットがカミュの頭を打ち抜くまさに直前、カエルの顎に信じられない衝撃が駆け抜けた。
風に舞う布切れのごとく打ち上げられるカエルの身体。思考が一瞬停止し何が起こったのかと考えることもできない。
掠め取られた意識が戻ったのは数秒後。地面に体が打ち付けられてからのことだった。

「俺の勝ちだ、カエル野郎」

掛けられる声は上から、つまり倒れ伏すカエルを見下ろす形だ。
カエルの首元に大剣の鋒があてがわれ、冷たい刃の感触がカエルを底冷えさせる。
自分が敗北した――刃と共にその事実を突きつけられたカエルは丸めた目をぱちぱちと瞬かせた。

カエルは知るよしもないが、カミュが放ったジバリア系の呪文には継続効果がある。
更に言えばジバリーナは設置型ではなく追跡型だ。描かれた魔法陣は固定ではなく、標的を追って再び魔法陣が生成される仕組みとなっている。
すでに呪文をやり過ごしたと思い込んでいたカエルはまるで攻撃に備えておらず、一度目よりも大きなダメージを負ったのは必然と言えよう。
完全決着。カミュが勝利を確信し、敗北を悟ったカエルが瞳を閉じた。

「命までは奪わねぇ。とっとと消え――」
「ウォタガ!」

カミュは一つ誤ちを犯していた。
それは、カエルに魔法は使えないと思いこんでいたことだ。
とはいえカエルは自分が追い込まれる最後の最後までバット一つで戦い、剣士としての実力を存分に見せつけていたのだからカミュがそう思い込むのも無理はないことなのかもしれない。

暴力の権化と化した巨大な津波がカミュの体をさらう。
身を捻るような水圧に襲われ水の中で声にならない悲鳴をあげた。周囲の木々はへし折られあえなく流木と変わる。
もがくことすら許されないまま数十メートル流され、岩が乱暴に身体を受け止めたことでようやく死の川の流れが途絶える。いつの間にか津波は幻のように消え、苦しげに咳き込むカミュだけが取り残されていた。

「かはッ! けほ、げほッ……! あ、のやろぉ……」

一瞬とはいえ死を予感させる威力の魔法を受けたのだ。恨めしげに立ち上がるカエルを睨むも、すぐに反撃に移ることは出来ない。
そしてそれはカエルも同じだ。ジバリーナのダメージに悶え、血混じりの咳を忙しなく吐き出している。
奇跡的に手放さなかった大剣を杖代わりにカミュが立ち上がる。もう油断はしない、そんな決意は不意に捉えた気配に遮断された。

「誰だ?」

声を上げたのはカエルだ。どうやらあちらも気配に気が付いていたらしい。
二人分の視線は生き残った一本の木に注がれていた。そのまま数秒と経ち、やり過ごすのは無理だと判断したのか激闘の傍観者は姿を現す。
ブロンドのショートヘアに端正な顔立ちにカミュは一瞬女性かと見間違えたが、スーツ越しに見られる鍛えられた肉体がそれを否定した。





60 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:22:45 KZLzIZgc0


「……、……」

男、ジャックこと雷電はナイフを構えながらカミュとカエルの動向を探る。
雷電がこの場に訪れたのは少し前、カミュがジバリカを放った辺りからだった。
魔法という概念を知らない雷電は最初こそ二人の常識外な戦いに目を見開いたが、人外じみた攻防はソリダスとの一軒で経験している。
さすがに津波に襲われたときは度肝を抜いたが、今こうして生き残っている事実がなによりも雷電の人並み外れた実力を物語っている。
あの時と比べナイフ一本と随分心もとない装備だが、生を手放すつもりは毛頭なかった。

「おい、あんた危ないぞ! こいつは強い、逃げたほうがいい!」

カミュが雷電へ叫ぶ。
その言葉が心からのものなのかは判別がつかないが、どちらにせよ雷電はカミュの方へつくつもりだった。
少なくともカエルの容姿を持ったモンスターと組む気はない。雷電の判断を促したのはごく当たり前の人間らしい思考だ。
そしてそれはカエル自身もよく知っている。クロノ達と出会うまで人間から信頼されたことなどなかったのだから。ゆえにカエルは雷電もカミュも同時に相手するつもりでいた。

「情報交換がしたい。手を貸そう」
「なっ……いいのか? あんたを守りきれる自信はないぜ」
「いや、問題ない。自分の身は自分で守れるさ」
「……そうか。なら、頼みがあるんだが――」

カエルを注視したままカミュの元へ近寄る雷電。
状況が状況ゆえに会話は端的だが意図は伝わった。雷電の実力を知らないカミュにとっては懸念の一つでもあるが、戦力が増えることはそれ以上にありがたい。
そこでふと何かを思いついたかのようにカミュが語りかけたところで、カエルが手をかざすのを雷電は見逃さなかった。
しかし、対処できるまでには至らない。

「ウォタガ!」

虚無から水の波動が生まれ、解放された力はあらゆるものを呑み込まんと大口を開ける。
発動されるのは実に二度目だがカミュと雷電はその脅威を知っている。同じ相手に同じ技を使うのは通常では愚行だが、この魔法に限っては最適解だ。
巨大な波はやがてカエルの視界からカミュと雷電の姿を覆い隠す。獲物の恐怖心を増大させるかのように緩やかに迫る津波は、ついに二人へ噛み付いた。
撃破には及ばずとも大ダメージは逃れられまい。そうカエルが確信したまさにその瞬間、三つの斬撃が瞬いた。

”同時”に放たれた三つの剣閃は津波を切り裂き、飛沫と変わる。
唖然とするカエルが目にしたのは三人に増えたカミュがナイフを構えている姿だった。
左右の分身を消滅させ、中央に残った本体が浮かべたニヒルな笑みはまさしくカミュがウォタガを打ち破った本人なのだと証明していた。

津波がカミュ達を覆い隠した瞬間、カミュが起こした行動は四つ。
まず雷電と武器を交換しナイフを手に入れ、次に『会心必中』を発動。そして『ぶんしん』を作り出しウォタガへと斬撃を放った。
言葉にすれば簡単だがウォタガに呑み込まれるまでの僅か一分にも満たない時間で判断、実行するとなると常識的ではない。それが出来たのはカミュが歴戦の戦士であるからだ。
邪神すらも打ち倒した彼だからこそ、何の変哲もないただのナイフでこれだけの神業をやってのけたのだ。

「馬鹿な……!? なんだ!? なにをしたんだっ!?」
「さぁな、自分で考えてみなっ!」

狼狽するカエルに今度はカミュが疾走する番だ。
ナイフを手にしたカミュの実力はさきほどの比ではない。高速で迫る無数の斬撃を防ぐので手一杯だ。
面積の少ない金属バットでは完全にはしのぎ切れず身体の幾箇所に浅い裂傷が走る。一度距離を取るべくカエルは後方へと跳躍した。


61 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:23:22 KZLzIZgc0

「ケアルガ!」

僅かに出来た時間で回復魔法を自分にかける。
期待していたほどの回復効果は得られなかったが確かに体が軽くなった。
安堵する間もない。疾駆するカミュへ向かってカエルは空高く跳躍した。ジバリーナもナイフも届かない空というフィールドに回られた今、カミュは防御に回るしかできなかった。

「はぁぁッ!」

気合一閃、落下エネルギーを加えた攻撃がカミュへと降り注ぐ。
しかしカエルは一つ見落としていた。そう、雷電の存在である。
カミュがウォタガをやり過ごした後カエルの視界から外れ身を潜めていた雷電は、今まさに自分が出る幕だとカミュの前へ躍り出て大剣を斜めに構える。
甲高い金属音が鳴り響いた。あまりの衝撃に雷電は顔を顰め数センチ足を地に沈めるが、なんとか防衛には成功した。

「今だ!」
「ああ!」

雷電の掛け声に合わせてカミュが風のようにカエルの右方へ回り込む。
ジャンプ斬りの反動で体勢を立て直そうにも間に合わない。打つ手がなくなったカエルの脳裏を諦観とともに仲間たちとの記憶がよぎる。

(――俺は、死ぬのか……)

あっけない。罪無き人々を殺める覚悟を決めてまで友情を選んだ自分はなんだったのか。
相手の実力を見誤り、自分が仕掛けた勝負で負けて死ぬなどサイラスに格好がつかない。
ああ、魔王の笑い声が聞こえる。自分を嘲笑っているのだろう。考えれば考えるほどに惨めになる。
死が迫る一瞬の間がとても長く感じられた。


いや、事実その死は訪れない。
カミュも雷電もぴたりと動きを止めていたからだ。


「……な、……」

我に返ったカエルも彼らが動きを止めた理由を思い知らされることとなる。
空気が重い。重力が何倍にも引き上げられたかのようなプレッシャーが肌に纏わりついて離れない。
凍えるような悪寒が背筋に走り擬似的な死を体感させてくれる。反して心臓は焼けるように熱く滾り地鳴りのような鼓動が脳を活性化させた。


62 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:23:56 KZLzIZgc0

「随分と楽しそうなことをしているじゃないか」

美しく、それでいて冷たい声色が転がる。
言葉一つ一つに三人はじとりと生ぬるい汗を滲ませた。

「私も混ぜてくれないか?」

硬直した身体を無理矢理に動かし、三人は同時に声の主へと振り返る。
二メートルはある長身に黒いロングコートを風に揺らす銀髪の男の姿は死神と呼ぶにふさわしい。
否、彼は死神などではない。――堕ちた天使だ。

「ちぃっ!」

カミュの舌打ちに続いて雷電、カエルが武器を構える。
その場の誰もが直感した。次元が違う、と。
そして、全員でかからなければ勝てない相手だということも。

「ああ、そうだな。お前達は光だ。だからこそ私は闇になり、光をも食らう混沌となろう」

全員の戦意が向けられる中、当の天使は涼し気な顔で雷電の方を一瞥する。
いや、詳しく言えば雷電ではなく雷電の持つ大剣だ。無骨な刃を舐める視線は心底愉しげで、哀しげだった。

「さぁ、はじめよう。長き絶望を」

男、セフィロスが片手をかざす。
途端に夜闇を暗雲が包み、稲妻が走る。
雷雨に導かれた三人の戦士はセフィロスという共通の敵を討たんと地を駆けた。





カミュ、カエル、雷電と対峙するさなか、セフィロスは物思いに耽ていた。
雷電の持つ大剣。見間違えるはずもない、あれはクラウドの剣だ。
正確に言えばザックスからクラウドが譲り受けたものだ。あの飾り気のない巨大な刀身を見るたびに心に熱情の霧がかかり、みぞおちに熱い塊がせり上がる。
憎んでいるのか、悲しんでいるのか、興奮しているのか、セフィロス自身胸に螺旋を描くこの感情に明確な名前をつけることができない。

ただ、

(――因果かな、クラウド)

運命とはわからないものだ。
片翼の天使は嗤う。極彩色の空想を頭の中で紡ぎながら。
さぁ、抗え光よ。闇を払う夜明けはまだ遠い。





63 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:24:20 KZLzIZgc0


セフィロスの力は圧倒的だった。
残像すら見せるカミュの連撃を最小限の動きでかわし、カエルのトリッキーな攻撃を予測し、雷電の重い一振りを片手で受け止める。
元々カミュとカエルは戦いによって疲弊していたということを踏まえても次元が違う。渾身の攻撃が空を切るたびに本当に勝てるのかという疑問が三人の脳に張り付いた。

「どいてろ! ウォタガ!」

出し惜しみはしない。カエルの持つ最強にして最大の攻撃魔法を放つ。
二度それを見ているカミュと雷電は即座にその場を離れ取り残されたセフィロスに巨大な津波が迫る。
いくら歴戦の戦士であろうとその魔法を初見で対応することなど不可能だ。カエルはその考えは過信なのだと思い知らされることとなった。

「ファイガ」

宣告。同時、爆炎。
草原を灼き木々を燃やす灼熱の塊は津波と衝突し、猛烈な勢いで水蒸気を発しながら豪水を打ち消す。
カエルにもその魔法の名は聞き覚えがあった。しかしその威力は自分の知ったものとは比にならない。
津波を蒸発させる膨大な熱量など知っているはずもあるまい。
やがて完全にウォタガが消失した頃、立ち込める水蒸気はセフィロスが虫を払うかのように腕を薙いだことで晴れた。

「うおおぉぉぉっ!!」

呆けた顔のカエルを横切り、二人の分身を携えたカミュがセフィロスへ肉薄する。
カエルが稼いだ時間の中でカミュはぶんしん、会心必中を発動させていた。今現在自分ができる最大の強化を経たカミュは疾走の勢いを殺さずヴァイパーファングを放つ。
猛毒を帯びた三つの刃は紫に煌めく。二つは空振るが、一つがセフィロスの右腕を掠めた。
ほう、と息を漏らしたセフィロスが興味深そうに傷口を眺める。視線は動かさぬまま、追撃を仕掛けるカミュの身体に拳打を与え吹き飛ばした。

「毒か。面白い技だ」

そう言うセフィロスの顔は、とても毒にかかっているとは思えないほど涼やかだ。
耐性があるのか否か。どちらにせよ、自分の最大の攻撃がまるで通用しない事実にカミュは苦悶の表情を浮かべる。

セフィロスの視線が上を向いた。
上空十数メートル、そこには金属バットを掲げたカエルの姿があった。
バットが悲鳴をあげるのにも構わずただ目の前の敵を破壊することだけを目的とした剣技を前に、セフィロスは冷たい笑みを浮かべる。
隕石の如く降り注ぐカエルの攻撃をセフィロスは”右手”で受け止める。ヴァイパーファングによって受けた傷口から少量の血が噴き出し、鈍い音が聞こえたが無機質な表情はひび割れない。
即座に体勢を立て直そうとするが意思に反してカエルの身体は動かない。バットの穂先をセフィロスが掴み、信じられない怪力を発揮していたからだ。

いくら引いても微動だにしない。そうして悪戦苦闘している内、メキメキと不快な金属音がカエルの耳に届いた。
みれば金属バットは見事にへし折られている。その光景にゾッとしたカエルは即座にグリップから手を離し、ウォタガを放とうと右手をかざす。

「ウォタ――」
「遅い」

瞬間、カエルの腹部にセフィロスの足刀が炸裂。
ジバリーナを上回る衝撃に呼吸を忘れ、彼方へと緑の風を走らせた。
水平に数メートル吹き飛びやがて硬い地面に身体をバウンドさせてようやく勢いが止まる。
ぐるぐると乱れる視界の中で使い物にならなくなった金属バットを投げ捨てるセフィロスの姿が見えて、そこでカエルの意識は途絶えた。


64 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:25:27 KZLzIZgc0

「さて」

一瞬の内にカミュとカエルを叩き伏せたセフィロスは、まるでメインディッシュだと言わんばかりに雷電を見る。
ナイフのように鋭い視線を浴びた雷電は肩を跳ねさせはしたものの、抵抗の意思は失わない。
自分では敵わないということは知っている。しかし逃げるために背を向ければその瞬間に殺されるだろう。
だからこそ、生きる意味を知った雷電は死なないために剣を構える。最愛の人との、ローズとの再会のために。

「お前はなにを見せてくれるんだ?」
「っ!? くそっ!」

セフィロスの姿が陽炎の如く揺らめいたかと思えば刹那、雷電の手の触れられる距離にまで迫っていた。
動じながらも雷電は即座に反撃の刃を翻す。しかしそれよりも早くセフィロスの手が雷電の腕を掴んでいた。

「ぐっ! あ、あぁぁっ!?」
「ああ、やはり見れば見るほどに愚かな剣だ」

掴まれた雷電の左腕が痛々しい悲鳴を上げ限界を訴える。
セフィロスにとっては雷電の腕を折ることなどまさに赤子の手を捻るようなものなのだろう。
雷電の空を裂くような絶叫を楽しむように嬲るその姿は今まさに死地におかれている雷電にとっては悪魔そのものだった。

「……ッ、……!」
「ほう?」

しかし、セフィロスの期待は裏切られることとなる。
雷電はこういった拷問を過去に経験していた。目尻に涙を滲ませながら奥歯を噛み締め、鋭い眼光でセフィロスのガラスめいた双眸を射抜く。
気に入らない目だった。勝機もないのに屈さず反抗するその目が。
セフィロスの顔から笑みが消えたかと思えば躊躇なく雷電の左腕がへし折れた。

「が、ああああぁぁぁぁッ!!」

凄まじい熱と激痛が雷電の左腕を駆け抜け、ぶらりと脱力する。生を繋ぐバスターソードが地に落ちた。
ありえない方向へと折れ曲がったそれに視線を当てようともせず、喉が枯れるほどに叫び終えた雷電はがくりと項垂れた。
待ち焦がれた反応だ。セフィロスは細い指で雷電の顎元を撫で顔を上げさせた。

「自らの無力を呪うといい」
「だ、れが……!」
「お前がだ」

上げられた雷電の顔はやはり期待とは異なるもの。
死を目前にしながらも瞳は死んでおらず、動く右手でセフィロスの身体を力なく叩く。
醜く生に縋る姿は一種の芸術のようだった。そしてセフィロスにはその芸術は理解できない。
とどめを刺さんとセフィロスの右手が雷電の首にかかる。その瞬間、セフィロスの右上腕部に刃が突き立てられた。

「や、らせるかよ……ッ!」

気配を消して忍び寄っていたカミュのナイフを伝い血が滴り落ちる。
貫通させるつもりで刺したのにも関わらず僅か数センチに留まる現実に歯噛みする。一体どんな肉体をしているのか、そんなカミュの疑問に答えてくれる者はいない。


65 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:25:50 KZLzIZgc0

ヴァイパーファング、ジャンプ斬りに続いて刺突と右腕を集中的に攻撃されたというのにセフィロスは動じる気配もない。
それどころか感嘆の息を漏らし、口角を釣り上げてみせた。
ぞくりと背を走る悪寒にカミュは瞠目し、直後セフィロスが右腕の筋肉に力を込めたかと思えばナイフは呆気なく砕け散った。
特殊な効果も能力も持っていない一般的なナイフはこの激闘の内に限界を迎えていた。武器を失ったカミュは抵抗も出来ず、セフィロスの肘打ちを受けて弾丸となる。

「……か、は……っ! ぐ、……!」
「これで邪魔者はいなくなったな」

歪んだ視界ではなにが起こったのかを理解するのも難しいが、自分が窮地に立たされているという事実だけは薄れる意識の中でも明確に主張している。
もう言葉を紡ぐこともできない。セフィロスの低い唸りのような笑い声が雷電の鼓膜に張り付いていた。
セピア色の記憶の中で蘇るのは英雄の背中。彼ならばもしかしたらこんな状況でも生き延びる手段を見つけ出せたのかもしれないと願望に近い理想を描く。
では、自分は――やはりまだ、自分は自分を信じれていないのか。本当の自分というものを見つけられていないのか。
それだけは、嫌だった。意思を持たぬ兵器のままでいるのは嫌だった。

「お、い……のっぽ、やろう……!」
「なに?」

潰れかけた喉から血混じりの声を絞り出す。
そのたびに込み上げる血の泡に咳き込みながら、雷電は言葉を続けた。

「おれ、たちは……勝つ! ……おまえの、負けだ……!」

それは、十人が見れば十人が負け惜しみと答えるだろう。
しかし雷電には心当たりがある。こんな化物相手でも決して引かず、生き延びるであろう男に。
セフィロスの眉が僅かに歪んだ。何故ならばセフィロス自身にも心当たりがあるからだ。自分を打ち負かす存在に。
知らずにしてセフィロスの心を揺さぶった雷電は役割(ロール)を果たしたと言わんばかりに瞳を閉じる。
言ってやったのだ。兵器としてではなく人間としての挑発を。最高の負け惜しみを。
不快感を示したセフィロスは雷電を宙に放り捨てる。地を失った雷電は風を浴びながら最愛の人の姿を思い浮かべる。

(――――ローズ……)

ザン、と空を舞う雷電の身体を赤に染まった大剣が支える。
雷電の腹を貫通し、尚も刀身を余らせる質量の名はバスターソード。宿敵の剣を持つセフィロスの顔は、どこか嘆くように歪んでいた。

「強い光だ。だからこそお前にこの剣は似合わない」

背に剣を生やす雷電だったものに語りかけ、無造作にバスターソードを振るい死体を放り投げる。
セフィロスの胸に達成感や喜びはなかった。ただあるのは埋めようのない虚無感と、宿敵への執着心だけ。
大剣を肩に担いだセフィロスは振り返ることなく、その場を後にした。





66 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:26:30 KZLzIZgc0


丁度セフィロスが雷電を殺害した後、必死の形相で山岳を駆け下りる影があった。
カミュだ。激闘の中で刻まれた傷に顔を歪ませながら、息を切らしセフィロスから距離を取る。
完全な敗走。カミュの心の中には屈辱と後悔が入り混じっていた。

(くそっ! あの野郎……躊躇いなく殺しやがって!)

目の前で見せつけられた雷電の死はカミュにショックを与えるのに余りあった。
名前も知らない男だが共に戦った仲間だ。その仲間が目の前でなにも出来ずに殺されたという事実はカミュの心に疑問を抱かせる。
自分がもっとうまく立ち回っていれば殺されずに済んだのではないか。助けられなかった自分に責任があるのではないか、と。

.どちらかと言えばカミュは過去のことは悔いても仕方ないという思想の持ち主だ。
しかし状況が状況ゆえに割り切れない。デルカダールにイシの村を焼かれた時のイレブンは恐らく、これ以上の自責の念に囚われていたのだろう。
仇を取ってやる、という決意はしかし勝てるのだろうかという疑問で揺れる。

(……まだだ、まだあいつには勝てねぇ。武器が、仲間が必要だ……!)

そびえる木々を視界の端で溶かしながら、カミュはその結論に行き着く。
イレブンやベロニカなどの仲間達がいれば勝てる。そう心の底から思う。
だからまずは戦力を整えなければならない。これから先カエルやセフィロスのような実力の持ち主と戦わなければならない機会がないとは考えられないのだから。

(無事でいろよ……イレブン)

焦る脳内に浮かぶ相棒の顔は、霞がかっていた。



【C-5/展望台付近/一日目 黎明】
【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(小)、後悔
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、折れたコンバットナイフ@BIOHAZARD 2、ランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
1.とにかくこの場から離れる。
2.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
3.雷電の死は自分の責任?

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。

【コンバットナイフ@BIOHAZARD 2】
雷電に支給されたナイフ。
特別な効果もなく耐久力も一般的なナイフと変わらないので武器としては心もとない。
セフィロスによって刃を折られている。





67 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:27:07 KZLzIZgc0


「……ん、……」

意識を失って一体どれくらい経った頃だろうか。
カエルは丸い目をゆるりと開き、ぼうっと熱を帯びた脳で状況を整理しようとしていた。

「ようやく起きたか」
「なッ!?」

しかしそれは響く低声に中断させられる。
咄嗟に後方へ宙返り、落ちていた金属バットを拾い上げる。
見上げた先にあったのは予想通りセフィロスの姿だった。しかし予想外だったのはセフィロスが一切の戦意を無くしていたということ。
いや、戦意というよりも興味自体を無くしているようにみえた。

「やめておけ。お前では私には勝てない」
「……っ、ふざけんな……!」

セフィロスの言葉は挑発や誇張でもなんでもない、確かな事実だ。
唯一の武器である金属バットは折れ、ダメージも蓄積している状態。対する相手はほぼ無傷に近い上にバスターソードまで手にしている。
それにカミュや雷電の姿も見当たらない。三対一でも僅かな傷をつける程度しかできなかったのだからカエルに勝機はなかった。

「一人は殺し、一人は逃げた。残っているのはお前だけだ」
「なっ、殺したのか!?」
「ああ。お前がしようとしていた事をしただけだ」

淡々としたセフィロスの言葉を聞き、そこでようやくカエルはセフィロスの手に血濡れたデイパックが握られていることに気がついた。
殺されたのはカミュか、雷電か。その疑問はセフィロスの後方で倒れ伏す雷電の亡骸を目にしたことで晴れる。

「……俺を、殺すのか?」
「そのつもりだ。だが……そうだな、私の頼みを聞いてくれたら見逃してやろう」
「頼み、だと?」

頼み、とは口ばかりで実質それが命令なのだとカエルは確信する。
そしてそれは当たっていたようで、セフィロスの抜き身のような視線がカエルを射抜いた。

「クラウドという男に、私が展望台にいると伝えろ。私の名はセフィロス、この名を聞けばあいつは必ずここを訪れる」
「……わかった」

カエルはこんなところで命を落とす訳にはいかない。
素直に従うことに嫌悪感を抱かなかったわけではないが、そんなくだらない感情の末に死ぬなど御免だ。
そもそもここを離れてしまえば自分が約束を守るかどうかなどわからないはずだ。それもセフィロスの自信の現れだろうか。
命令通りに動こうが動かまいがどうでもいいと暗に言われているようでカエルの自尊心に亀裂が走った。
と、おもむろにセフィロスが雷電のデイパックをカエルの前へ投げ捨てた。


68 : こころないてんし ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:27:33 KZLzIZgc0

「持っていけ、私には必要ない」
「な……」

思わずだらしなく開いたカエルの口から驚きが漏れる。
まさか必要ないなどという言葉が飛び出るとは思いもよらなかった。この殺し合いにおいて支給品がどれほど重要なのかぐらいはセフィロスも分かっているはずだ。
それでも今の彼には必要ないという。それも当然、セフィロスには既に最高の武器が手に入っているのだから。
それを知らないカエルは彼の正気を疑いつつ、警戒交じりに雷電のデイパックを拾い上げた。

一刻もこの場を離れたいという気持ちと反面、カエルはセフィロスの動向が気になっていた。
クラウドという男との関連性。圧倒的な力を持つセフィロスが出会いたいと思う人物。
もしやそれがこのセフィロスという男の友の名なのか。自分とサイラスとの関係がふとよぎり、気がつけばカエルはセフィロスに質問を投げていた。

「そのクラウドという男は、お前のなんなんだ?」
「因縁、というべきか。私は奴と決着をつけなければならない」
「……決着、だと?」

ああ、とセフィロスが短く紡ぐ。
セフィロスからの返答はカエルが予想していたものとは違った。
どちらかと言えばカエルと魔王の関係に近い。隣で戦う仲間ではなく、対面する敵なのだ。
何故戦うのか、その理由を聞こうとしたカエルはセフィロスの吐息混じりの笑みに制止される。

「これ以上お前と遊ぶつもりはない。命が惜しければ行け」
「……へっ、言われなくてもそうするさ」

セフィロスにその気がない以上問答を続ける意味はない。
カエルはくるりと身を翻し、焦るように山を駆け下りる。セフィロスの元を離れた途端、彼の思考に負が満ち始めた。

(……俺は、弱いのか?)

カミュという手練に手を焼いていたのもそうだが、セフィロスに手も足も出なかった現実がそんな疑問を抱かせる。
カエルは自分が実力者であると自負していた。事実元の世界ではクロノ達と肩を並べて数多の魔物を薙ぎ払っていたし、苦戦することはあれどどんな敵も倒してきた。
しかし今はどうだ。カミュと雷電相手に一度は敗北しかけ、セフィロス相手に至っては三人同時でかかっても全滅した。
自分の力がこの殺し合いに通用するのか、そんな一抹の不安が騎士としてのプライドを削る。

(いや、勝ってみせる。絶対に――!)

結果、カエルはそう自分に言い聞かせるしかなかった。
こんな姿になった時点でプライドもなにもあったものではない。卑劣と言われようと、どんな手段を使っても生き残り魔王を倒す。
目的に囚われ身体を駆り立てるその姿は、まるで兵器のようだった。


【ジャック@METAL GEAR SOLID 2 死亡確認】
【残り68名】


【C-5/展望台付近/一日目 黎明】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(中)、自己嫌悪
[装備]:折れた金属バット@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)、ジャックのランダム支給品(2個)
[思考・状況]
基本行動方針:友との誓いを果たす。
1.クラウドを探し、展望台にセフィロスがいることを伝える。
2.その過程で参加者を殺して回る。
3.俺は本当に優勝できるのか?

※魔王打倒直前からの参戦です。
※グランドリオンの真の力を解放するイベントは経験していません。
※魔王が参戦していることを知りません。
※ケアル系の魔法に大幅な制限が掛けられています。

【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:右腕負傷(小)、毒
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。
1.展望台でクラウドを待つ。
2.因果かな、クラウド。

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
※ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。


【金属バット@ペルソナ4】
カエルに支給された武器。
命中率が30と極端に低いものの、当たれば大ダメージが期待できる代物。
セフィロスによってへし折られている。

【バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ】
カミュに支給された大剣。一度雷電に渡り、セフィロスの手に渡った。
身の丈ほどもある巨大な片刃両手剣であり、持ち主であるクラウドはこれを片手で軽々振り回す。
元々はザックスの愛剣だったが、本編の五年前にクラウドがこれを使ってセフィロスを突き刺している。
恐らくRPG史上もっとも有名な初期装備。


69 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/03(月) 15:27:50 KZLzIZgc0
投下終了です。


70 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/04(火) 17:53:46 nO.PC.mg0
>>50
◆pnpG6UgSkwさん、いらっしゃいますか?
予約期限が過ぎました。日付が変わるまでに反応がない場合、予約破棄扱いさせて頂きます。


71 : ◆pnpG6UgSkw :2019/06/04(火) 19:21:31 HTQR/Nwo0
あと1日あると思っていたのですが
延長をお願いします。不可なら破棄で


72 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/04(火) 19:29:05 h4U695HU0
>>71
了解です、お返事ありがとうございます。
無理せずゆっくりお書きください。


73 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:11:41 QjtYAZNE0
遅くなりましたが、>>36で予約し、破棄した分の投下をしたいと思います。


74 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:12:35 QjtYAZNE0
『殺し合いをしろ』

爆発する首輪を着けられて生殺与奪の権利を奪われた上で、シンプルに絶望を植え付けられる命令を受けた、そんな状況下で自称天才魔法使いのベロニカが最初に思ったことは「なぜあたしが生きているのか」であった。

この悪趣味な企画の主催者でもあるウルノーガは、命の大樹の力を使って世界を焼き払うほどの大爆発を起こした。
その時に自分は勇者たちを助ける代償に落ちていく大樹と運命を共にした………はずだった。

しかし今、自分は間違いなく生きている。
試しに地面に向けてメラの呪文を放ってみると命の大樹で使い果たしたはずの魔力も問題無く操ることが出来た。
つまりウルノーガはあたしを万全の状態で蘇らせたということ。全盛期の力を使って抵抗されようと問題ない、そう言われているようで腹が立つ。

確かに勇者の力をウルノーガに奪われ、自分たちのパーティーは絶望的な状況に追い込まれていた。
自分が命と引き換えに守った勇者たちも、あの後どうなったのか……贔屓目に見ても負け濃厚の戦いだったと思う。
最初の場所でカミュが巻き込まれていたのを見たのを見ると、彼もまた自分と同じようにウルノーガに殺されたのかもしれない。
要するに敗北して殺された人間はこうして巨大な見世物小屋の中で再び殺し合って奴らを楽しませよってわけだ。

さて、現状把握をあらかた終えたからには次に考えるべくは行動方針。

まずはゲームに乗るか否か──考えるまでもなくお断りだ。
元より捨てた命。今さら生に執着して人を殺そうとは思わない。

かといって、状況は絶望的だ。
こちら側の抵抗で脅かされる可能性が少しでもあるのなら、わざわざこんな殺し合いなど開催するはずがない。
こちらの生死を握っている状態でありながらなお弄ばれているこの状況、ここから逆転できるとは思えない。


75 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:13:15 QjtYAZNE0
「はぁ……一体どうしたものかしら……」

「願いを叶える」という釣り餌がチラつかされているのだ。生への執着がある者であれば乗っていてもおかしくない。そんな人物と出会った時、果たして生への執着の無い自分なんかがその邪魔をして良いのだろうか。

邪魔をするということはつまりこの手を以てその命を絶つということ。邪魔をしないということはその者に殺されるのを受け入れるということ。
逃げて延命措置を取ってもいずれ訪れるその選択を先延ばしにしているだけ。
一体どうすれば……

そんな時、背後から男の声が聞こえた。

「迷っているようだな?」

「誰!?」

唐突な出来事に飛び退くベロニカ。
次の瞬間、彼女はあまりの光景に脱力することになる。

「案ずるな。拙者はこんな催しに乗る気などござらん。」

「ええと……まあそれは見たら分かるっていうか……」

ベロニカのいる場所は温泉。
主催者によって用意された施設の中のひとつである。
そのことは何となく把握していたのだが、まさかこんな時に温泉に浸かるわけがあるまいと思っていた。

しかしあろうことかその男は、温泉に浸かり、ゆったりとリラックスしていたのである。

ベロニカの中に様々な感情が湧き上がってくる。悩んでいた自分と、悩みなどなさげに温泉に浸かっている相手とのギャップに──とりあえずは言いたいことを片っ端からぶつけることした。


76 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:13:50 QjtYAZNE0
「アンタねえ、レディの前で何て格好してくれてんのよ!っていうか今の状況分かってんの?なに呑気に一息ついてんのよ!キンチョー感が足りないわ!キンチョー感が!!」

浮かんだ感情は怒りとはどこか違う。呆れともどこか違う。
言うなれば、羨望。
こんな絶望的な事態に直面していながらも平静でいられる男が羨ましかった。
目の前の男のように悩みなど無いようにいられれば、再び拾った命を儲けものとでも捉えられるのかもしれない。
誰かに殺されるその時まで、ささやかな余生を謳歌することだってできるのかもしれない。
しかし、なまじ賢い頭脳を持っているからこそ考えれば考えるほど絶望に沈むばかりだ。
自分も、この男のようになれればいいのに……。

そんなベロニカに対し、男は平然とした様子で返答する。

「まあ落ち着け。こんな時だからこそ温泉に入るのだ。」

「はぁ?」

「ユクモ村には狩りの前に温泉に入るという風習がある。士気を高めて狩りの成功を祈る……良い話だ。」

そして男は、聞き慣れない村の名前や「狩り」という物騒な単語に戸惑うベロニカに対し手招きをする。それが何を意味するのかベロニカはすぐに理解できず、首を傾げる。

「お主も入るといい。なかなかにいい湯だ。」

さて、ここで前言撤回。
どこか羨望の篭もった感情は、物の見事に怒りに書き換えられた。

「は…はぁ!?どうしてこのあたしが見ず知らずのオッサンと混浴しなくちゃいけないワケ!?」

ついつい声を荒らげて返答してしまう。


77 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:14:36 QjtYAZNE0

「ユクモでは混浴など常識だ。」
「さっきからどこなのよそれ!」
「案ずるな。お主の裸体になど興味は無い。」
「あたしが気にすんのよ!っていうかこんな麗しのレディーを捕まえて何て言い草よ!」
「何より──」

しばしの水掛け論を繰り広げる。この世界で悪意が無く、血を流さずにこうしてぎゃいぎゃい言い合える相手は貴重な存在だろう。しかし冷静さを欠いている今のベロニカにはその実感は薄かった。
彼女にこの繋がりをポジティブに捉えさせたのは、男の次の一言だった。

「生き返るぞ。」

「……へえ?」

面白い皮肉だ、とベロニカは鼻で笑う。
宿敵から生き返らせられたことで自分はこんなに絶望しているというのに。

(まだあたしは死んでいる……そういうことなのかしら)

生きた心地、そんなものはまだ全くと言っていいほど湧いてこない。
この温泉に入れば、それが湧いてくるとでも言うのか。

「いいわ、入ってやろうじゃない。その生き返るという温泉に。」

その言葉を聞くと男はベロニカにバスタオルを放り投げた。
どうやら主催者によってこの温泉に設置されていたものらしい。

「……こっち向いたら、お仕置きだからね。」

男の背を横目に服を脱ぎ、バスタオルを巻き始める。
死人の分際で何を羞恥することがあろうかと自嘲気味に、ベロニカは入浴姿へと変わる。

ちゃぽん、とどこか心地良い音と共に温泉に脚を踏み入れる。
一気に脚先から全身に駆け巡る温度は、確かに生を実感させてくれる気がした。

「どうだ?」

男が問いかける。
思ったままを口にするのも癪なので、ぼかして答えた。


78 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:15:11 QjtYAZNE0
「…まあまあね。」

「そうか。」

こうしていると、ホムラの里の蒸し風呂を思い出す。
セーニャと2人で入っているところにイレブンが女湯に忍び込んで、「飽くなき探求者」などと呼ばれたりしたものだ。
しかし、もうそんな日常にはもう戻れない。既に過ぎ去りしひと時なのだ。
もう戻れないのなら生き返らなければ良かったのに。

「……ねえ。あたしはどうしたらいいのかしら。」

「……先程から迷っているのはそういう事か。」

弱みを見せるつもりなどなかったのに、ついつい口を滑らせてしまったことに気付く。温泉で上昇した体温のせいか、どこか気が緩んでしまっている。

「それならば、拙者に着いては来んか?人は殺さぬ。こんな世界からは脱出し、あの憎き主催者を叩き斬るのみよ。」

「そんなこと、本当に出来ると思ってるの?」

男の答えに、信じられないと言いたげな顔で返した。

「人は殺さぬ。かといってみすみすと殺されるつもりもない。それならば、残された道はひとつ。脱出を試みるしかないのではないか?」

「……まあ、それもそうね。」


79 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:15:42 QjtYAZNE0

男は狩人であった。
ベルナ村という村で、魔物の生態を調査する『龍歴院』の依頼の下でモンスターを狩猟し続けてきた。

そして男は狩りに対し、ひとつの信条を持っていた。
それは狩りの中で感謝を忘れないということだ。

彼が狩りに専念できるのは、多くの者たちの力の賜物だ。
魔物の出現情報を集め、その依頼を管理するギルドの人々。
狩りの道具を揃え、時には半額で売ってくれる購買の人々。
武器や防具の加工をしてくれる工房の人々。
狩りの前に飯を作ってくれるキッチンアイルーたち。
彼らには感謝してもし尽くせない。

また、そもそも狩りを行うことで自然の摂理に逆らいながらも"素材"という恵みをもたらしてくれる超越者への感謝も忘れてはならない。

では、この殺し合いの場はどうか。

【メインターゲット:参加者全員の討伐】

馬鹿げていると言う他ない。こんな狩りのどこに感謝の生まれる余地があろうか。
自らの益は他の損。他の益は自らの損。こんな環境、生まれるのは憎悪だけだ。そして感謝を忘れた狩りなど、ただの蹂躙。そんなものに手を染めるつもりはない。
勿論、自ら命を絶ってリタイアするつもりもない。

ではどうするのか。
話は単純。メインターゲットを達成せずともクエストはクリア出来るのだ。
勝ち目の無い大型モンスターを相手にしながらも、「竜のナミダ」だけを納品して撤退したり。
なかなか採取できない特産キノコを諦め、代わりに虫退治で済ませて後続の捜索者の負担を軽くしたり。
ギルドの依頼には「サブターゲット」と呼ばれる、撤退が許される最低限のボーダーがある。

【サブターゲット:マナとウルノーガの討伐】

このゲームにおいても、参加者の皆殺しなどせずとも主催者だけを倒して帰ればよいのだ。

…と、男はその旨をベロニカに伝える。


80 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:16:12 QjtYAZNE0
「はぁ……」

消去法的に主催者に抗う。
言っていることには一理あるし、着いていく以外に道が無いのも分かる。
何より、他者との交流に少し心が落ち着いてきたのも事実。なるほど、確かに先ほどまでの自分は"死んでいた"のかもしれない。

「仕方ないわねぇ……そういうことならこのベロニカさまが手伝ってあげるわ。」

「ベロニカ、か……。良い名だ。」

心なしか暗いオーラの薄れたベロニカを見て、男はにいと笑った。

「そういえば、アンタの名前はなんて言うのよ?」

「忘れた。」

「は?」

「気が付けば自然の中に人生の半分ほどを費やしていたのでな……長いこと名など呼ばれておらぬ。街の人たちのように、ハンターとでも呼んでくれ。」

そうして、2人はしばらくの間身の上話などの雑談を交わした。
その際、ベロニカはハンターが死んでいないことを知ることとなる。

自分が死んだのに招かれたのだから、ほかの参加者も皆死んでいてもおかしくはない。そう思っていたのだが、そうなるとカミュも元の世界では死んでいないのかもしれない。

「良かったらちょっと付き合って頂戴。あたしは知りたい。あたしの死後、彼らに何が起こったのか。」

最初の会場ではカミュしか見なかったが、ほかの仲間たちも巻き込まれているかもしれない。誰であれ、この殺し合いの世界の地図の中で、私たちの唯一の共通項である「イシの村」を目指せば合流が望めるはずだ。

「任せておけ。必ずお主を護ると誓おう……拙者の名に賭けて。」

「覚えてもないもんを賭けてんじゃないわよ……。」

こうして「生き返った」あたしは、とりあえず生きがいと呼べるものを見つけられた気がする。
まだ明確な希望は見えない。前は向けない。だけど、あたしを残して過ぎ去りし時──それを知るまでは、意地でも死んでやるもんか。


81 : Revive ◆2zEnKfaCDc :2019/06/05(水) 17:21:43 QjtYAZNE0
【B-5/温泉/一日目 深夜】 

【ベロニカ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 】 
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況] 
基本行動方針:仲間を探す
1.イシの村に行けば仲間と合流出来るかも
2.自分の死後の出来事を知りたい

※本編死亡後の参戦です。
※仲間たちは、自身の死亡後にウルノーガに敗北したのだと思っています。

【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲
1.ベロニカを護りつつイシの村に向かう
2.ベロニカは呪文を使えるなどと言っていたが……どういうことだ?

【支給品紹介】

【斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅩⅠ 過ぎ去りし時を求めて】
男ハンターに支給された武器。本編では両手剣(主に大剣が分類される武器種)の一種であるが、名前と見た目に従って、彼が扱う場合は太刀として扱うものとする。


82 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/05(水) 18:25:47 EVGuO9Tw0
投下乙です。
まさかのハンターさんのござる口調に驚き、その過去や意思の描写で感嘆しました。
私もモンハンXはやっていたのですが、確かに彼は色々な人に支えられていましたね。
殺し合いに乗らない理由、運営を打倒する確かな意思が伝わりました。

ベロニカも、死後からの参戦という時期を活かした思考が見ていて面白かったです。
今後仲間と出会いどんな反応をするのか、楽しみですね。
距離的にベロニカたちのいるB-5とカミュのいるC-5は近いので、もしかしたら再会するかもしれませんね。
ベロニカとハンターさん、思わぬ組み合わせですがいいコンビになりそうです。


83 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/06(木) 22:45:40 fk5fFbgg0
桐生一馬、ハル・エメリッヒ、シェリー・バーキン

予約します。


84 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/09(日) 14:18:08 qKWWZILI0
投下します。


85 : 腕力と知力 ◆NYzTZnBoCI :2019/06/09(日) 14:18:53 qKWWZILI0

「どうだオタコン、なにかわかったか?」

コンクリートジャングルに囲まれ、無人だというのに人工の灯りを星々のように散りばめた市街地。
街灯の傍に用意されたベンチに腰掛けながら桐生一馬が問いかける。
オタコンと呼ばれた眼鏡の男はベンチの裏に回り桐生の首輪を熱心に見つめていた。

「うーん、駄目だね。これじゃ情報が足りなさすぎる」

やがて首輪の観察をはじめて十分ほど経過した頃オタコンがそう切り上げた。
そうか、と桐生が言葉を返す。しかしその視線はオタコンにではなく、オタコンの差し出した右手に向けられていた。

『外装は綺麗に金属に覆われていて繋ぎ目もない。一見手の出しようが無いように見えるけど、裏側は首との接触面に僅かな隙間がある。専用の工具を使ってテコの原理を利用すればカバーを外せるかもね。……その際、首輪が爆破しないとは限らないけど』

メモ用紙に書かれたオタコンの整った文字を見て桐生はそうかと返す。
メモの内容はオタコンによる首輪解除の考察。しかし彼の優れた頭脳を持ってしても上記のような”ないよりはマシ”程度の情報しか得られない。
それほどまでにこの首輪は隙がない。繋ぎ目どころか線一つ見当たらない金属のリングはもはや知識云々の話ではないだろう。
オタコン自身記載した内容を試すつもりは今のところはない。爆破されない確信を得た状態でならば話は別だが実践するにはリスクが高すぎた。


話は変わるが、桐生とオタコンが出会ったのは一時間ほど前まで遡る。
桐生が地図片手にセレナという見覚えのある場所へ向かっている途中、現在桐生が座っているベンチで項垂れるオタコンの姿を目撃した。
声を掛けた際はひどく驚かれ許しを乞うてきたが、その後三言ほど会話を交わした時点で和解した。

オタコンには主催に立ち向かう勇気もなく、かといって殺し合いで優勝できるほどの実力もない。
そんな八方塞がりの状況で出会った桐生という存在はまさに棚からぼた餅。スネークと同等以上の体格の持ち主である桐生が只人ではないことは一目でわかった。
それに会場でマナに立ち向かった現場も目撃している。自分にはない勇気と実力を兼ね備えた桐生はパートナーとしてうってつけだ。
その代わりに今まで培ってきた知識を最大限活用し生還へ貢献する。その条件で桐生とオタコンは共に行動することとなった。


86 : 腕力と知力 ◆NYzTZnBoCI :2019/06/09(日) 14:19:24 qKWWZILI0


閑話休題。

どうしたものかと思考する桐生にオタコンが追加でメモを手渡す。
盗聴対策により運営に知られたくない内容は筆談で、と切り出したのはオタコンからだった。

『考えられる首輪の機能は盗聴、脈拍測定、体温測定、GPS機能、爆弾、禁止エリアを検知するセンサー機能かな。盗撮も考えたけど、どんなに目を凝らしてもカメラ穴もレンズも見当たらなかったからひとまず除外するよ』

メモいっぱいに連なる文字列を流し読み、桐生が頷く。
筆談で、とは言ったものの文字を書いているのはほとんどオタコンだ。考察担当を担っているのもあるが桐生が質問する隙を与えないほど緻密な内容を一気に記しているのが理由だ。
もし自分の知らない技術力で盗撮機能が備わっていた場合、不審な動きは少ない方がいいとオタコンが筆談自体極力少なく済まそうと心がけているのだからそれも当然だろう。
そしてその成果は十分に発揮され、桐生はメモ用紙を一枚も使わず相槌を主に返していた。

「オタコン、次にどこに行くべきかお前が決めてくれ」
「そうだね……研究所が気になるかな。ここからだと少し遠いけど、行く価値はあると思う」
「研究所か……たしかに、そこならなにか分かるかもしれないな」

面倒な筆談もほどほどに、桐生の問いにオタコンが地図を広げながら答える。
研究所、他の施設と比べて明らかに名前の響きが怪しい。そう易々と参加者に反逆を許すような材料があるとは思えないが手がかりはあるかもしれない。
願望に近いそれを胸に抱きつつ、オタコンの視線は僅かに傾く。
偽装タンカー。その文字を見た瞬間にマンハッタン沖タンカー沈没事件の記憶が蘇る。
あのタンカーは爆破されたのだからもう存在しないはずだが、何故わざわざ偽装という文字を入れるのかが気になった。

まぁ、気にしすぎかな。
数秒の思考ののち、オタコンの中でそう結論付けられる。
実際には気にしすぎというわけではなくまさにRAYを載せていたタンカーそのものなのだが、今のオタコンがそれを知るよしはない。

「その前にお互いの支給品を確認しようよ。これなんか僕に扱いこなせそうにないし」
「ん? ……グローブか、確かにこれはあんたには扱えそうにないな。よし、互いに使えそうなものがあれば交換しよう」

オタコンの提案のもと二人は支給品をアスファルトの地面に並べる。
桐生が取り出したのは銃と弾薬、バナナ、インカム。オタコンのものは先ほどのグローブと忍装束のような黒い衣服。
武器と呼べるグローブと銃はそれなりに強力なものだが、インカムとバナナは言うまでもなく外れアイテムだ。
戦力のバランスをとるためだろうか。しかしそれにしても無意味なものを寄越すなど嫌がらせのように感じる。
忍装束も外れのように見えるが、付属された説明書には「足音を消し相手に気づかれにくくなる。夜間は走る速度が速くなる」と書かれていた。これが本当ならかなり有力な装備品だ。

結果、桐生にはグローブとバナナが。オタコンには銃と忍装束、インカムが渡った。
しかしオタコンは忍装束を広げてはうーんと唸り、なかなか着替えようとしない。
そんな彼の様子を怪訝に思った桐生は忍装束を指差し問いかけた。


87 : 腕力と知力 ◆NYzTZnBoCI :2019/06/09(日) 14:19:55 qKWWZILI0

「その服、着ないのか?」
「え? ……ああ、うん。なんというかあまりこういう服は着慣れなくてね。ニンジャ、というやつだろう?」
「……まぁ、そうだな。俺も流石に着たことはないが、いい服じゃないか」
「桐生、それ本気で言ってるのかい?」

オタコンは日本の文化に興味を持っていたし、彼が兵器工学の道を歩んだのも日本のロボットアニメに影響されたからだ。
しかしだからといって日本文化を特別好んでいるわけでもない。ましてや彼が手に持つ忍装束は中々ボディラインを強調する代物だ。
出来れば着たくないが桐生の期待するような視線が痛い。いい服、というのをオタコンは皮肉と捉えたが実際桐生のファッションセンスは独特なものだった。

渋々オタコンが忍装束に着替えたのはその問答から五分ほど経過した後だった。
灰と紺の二色で彩られ、胸部に赤い目のマークが入っているその服を纏っている姿は不審感を煽る。
これで説明書の内容が嘘だったらすぐに着替えてやる、と思って辺りを走ってみたが確かに普段よりもかなり速く走れて足音が鳴らない事を実感した。
オタコンは嬉しさ半分、悲しみ半分といった表情で着用を続行した。

「はぁ……これ、他の参加者に会ったらどう説明すればいいんだろう」
「俺の周りには裸に蛇革のシャツを着てるやつだって居るんだ。……まぁ、俺が説明してやろう」

君も怖い顔してるけどね、とは言えなかった。
というか裸に蛇革のシャツとはどんなファッションセンスだ。聞いても仕方ないとは言え追求したくなる。
しかしこれ以上ここに長居は無用。早めに研究所へと向かおうとしたその時、

「……あ、……」
「!? ……子供?」

ベンチからやや離れた植え込みから金髪の少女が飛び出し、桐生達と目があった。
しかし二人を見るや否やか細い声を漏らし、街路を走り逃げてしまう。

「あ、待って! 僕たちは――」
「捕まえるぞ」
「え?」

乱暴な言葉に思わずオタコンが聞き返した頃には既に桐生は隣に居なかった。
代わりに全速力で走る彼の姿が写り、それはあっという間に少女に追いつき腕を掴む大の男のものに変わった。
はっきり言ってヤクザ顔の男が幼い少女の腕を掴む光景はアブナイものにしか見えない。オタコンは慌てて二人の元に駆け寄った。

「い、いや……!」
「ちょっと桐生! いくら何でも乱暴じゃないかい? 相手はまだ子供じゃ――」
「子供だからだ。こんな状況でガキが一人で逃げてたら格好の的だろう。それも錯乱してたら尚更だ」

桐生の主張は正しかった。
オタコンは思わず口をつぐむ。確かにあのまま立ち止まり、少女を見失いでもしたら終わりだ。
自分達と同じような者に出会えればいいが、願いをかなえるという虚言に乗ったやつに見つかったりしたらまず間違いなく殺されるだろう。
ならば無理矢理にでも自分たちと行動を共にさせたほうがいい。この場合で言う優しさの定義はなんなのか、考えるまでもなかった。


88 : 腕力と知力 ◆NYzTZnBoCI :2019/06/09(日) 14:20:14 qKWWZILI0

「桐生、腕を離してあげてくれ」
「……わかった」

オタコンに従い桐生が腕を離す。
解放された少女は逃げても無駄だと悟ったのか俯いたまま肩を震わせていた。
オタコンは少女の前へ移動し視線の高さを合わせるため身を屈める。顔を上げた少女の視線は案の定オタコンと重なった。

「僕はハル・エメリッヒ。オタコンって呼んでくれると嬉しいな。……君の名前は?」
「……シェリー・バーキン」
「シェリーか、いい名前だね。よければ僕たちと一緒に来ないかい? こんな格好だけど、怪しいものじゃないよ」

シェリーはオタコンの穏やかな言葉にすぐに頷けなかった。
いや、頷くべきだというシェリーにもわかっている。しかしオタコンの後ろでじっと自分を見下ろす桐生の顔を見ると素直について行っていいのか不安になる。
桐生は自分が信頼されていないのだと知りどうしたものかと思考するが、オタコンが「ああ」と納得したように呟きそれを遮った。

「紹介するね、こっちのおじさんは桐生一馬。怖い顔してるし無愛想だけど、優しい人なんだ」
「……そうなの?」
「うん。ほら、桐生も挨拶して」

好き勝手言ってくれる。そんな文句を心の内にしまいつつ桐生がシェリーへ向き直る。
シェリーも僅かながら警戒を解き、桐生と向き合った。

「桐生一馬だ。……よろしくな」
「うん。よろしく……カズマ」
「カズマ、か。なんというか、子供にそう呼ばれんのは慣れねぇな」

たどたどしいシェリーの呼びかけに桐生は思わず戸惑いを見せる。
自分よりも二回り以上年下である少女に名を呼ばれるのは彼の経験上あまりない。相手が日本人ではない以上仕方ないが大抵の子供がおじさん呼びだった。
しかし不快というわけではない。無意識の内に遥とシェリーを重ね、ほんの少しだけ眉尻を下げた。

「ほら桐生。笑顔」
「あ? ……こうか?」
「ははは! 予想通りぎこちないね。笑い慣れていないのかい?」

頬を引きつらせ歯が見え隠れする不自然な笑顔にオタコンは思わず声を上げて笑った。
む、と一瞬にして厳つい顔に戻る桐生の姿が尚更おかしくて、オタコンだけでなくシェリーの顔も緩んでいる。
望んだ形ではなかったがシェリーとも打ち解けられたようだ。桐生はオタコンの人懐こい性格に感謝し、同時に尊敬の念を浮かばせた。
怯えた子供と一瞬で打ち解けるなど、極道という真っ当ではない道を進んできた桐生には真似できない芸当だ。

「僕たちは今から研究所に行く。シェリー、改めて聞くけど一緒に来ないかい?」
「……うん。私、一緒に行きたい」
「そうか! 大丈夫、君のことは僕と桐生が守るから安心して」
「ふ。僕と桐生、か。しっかり守ってやらなきゃな、オタコン」

う、とオタコンが苦い顔をする。
桐生はいわばオタコンのボディーガードだ。弾みで言ってしまったが、言葉を訂正するなら「君と僕のことは桐生が守る」となる。
しかしシェリーはオタコンよりもずっと無力な存在だ。桐生が二人を守れない状況に陥ったいざという場合はオタコンが守らなければならない。
最悪の展開はあまり予想したくないが、そんな状況が訪れた場合のことを踏まえて訂正はしなかった。


89 : 腕力と知力 ◆NYzTZnBoCI :2019/06/09(日) 14:20:30 qKWWZILI0

「シェリー。お前の支給品はなんだ?」

え? とシェリーが桐生に聞き返す。
オタコンがシェリーに分かりやすく解説を入れた。恐らくルール説明も聞く余裕がなかったのだろう。
説明を終え、理解したシェリーがデイパックを降ろし中身を取り出してゆく。中からは基本支給品に交じって一つのボール状の物体が出てきた。

「これは?」
「わかんない。でも、これが一緒に入ってた……」
「それは……説明書かな?」

上半分を赤、下半分を白でペイントされたボールは桐生もオタコンも見覚えがない。
中央のボタンのようなものが気になったが、迂闊に触るのは危険と判断しオタコンの手に説明書が渡り、次に桐生へとボールを渡す。
しかし、ボールを桐生に手渡す瞬間シェリーの手からボールが滑り落ちてしまった。

「あっ――!」

コロン、と不思議なほど軽い音を立ててそれが地面に打ち付けられる。
慌てて拾い上げようと桐生が屈み込んだまさにその時、赤と白の境目がぱっくりと開き中から閃光が飛び出した。
白く流れる光の筋はやがて形を成し、巨大な生物に変わる。青い全身に四肢と頭部に黄金の鎧じみた外殻を持つそれは、驚く三人の顔を見つめ天高く吠えた。

その生命体はポケモン――ダイケンキ。
この場に呼ばれた一人の少年の相棒であり、最大戦力である。
いまだ自身の存在に目を瞬かせるシェリーが自分を呼び出したのだとダイケンキは理解した。
元の主、チェレンはどこにいるのか。モンスターボールの持ち主の命令を聞くという枷に縛られたダイケンキは彼を探すことも出来ない。
いまはただ目の前の少女を守るだけ。元々強い正義感を持つダイケンキはその事実を受け入れ、主人を守る決意を叫びに乗せた。


【F-4/一日目 深夜】
【桐生一馬@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:クリスタルグラブ@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、スウィートバナナ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを潰す。
1.なんだこいつは……!?
2.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。

【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:デザートイーグル(残弾数20)@BIOHAZARD 2、忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.こ、この生物は一体……?
2.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。

【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ダイケンキ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.え? え?
2.桐生とオタコンについていく。


【支給品紹介】

【クリスタルグラブ@FINAL FANTASY Ⅶ】
オタコンに支給されたグローブ。本編ではティファ専用武器。
形状は水色のレザーグローブの拳先に小さなクリスタルを備え付けて強化した物。
マテリア穴が六個あり、ティファの武器の中では最多を誇る。

【スウィートバナナ@クロノ・トリガー】
桐生に支給された甘くて黄色い食べ物。
食べるとMPが20回復する。

【デザートイーグル@BIOHAZARD 2】
桐生に支給されたIMI社が生産している大型軍用拳銃。
R.P.D.のメダリオンが埋め込まれた木製グリップが装着されている。
本来50AEモデルの装弾数は7発だが、この銃は8発装填できる。

【忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
オタコンに支給された装備。
忍びマスク、忍びスーツ、忍びタイツの三つセット。
足音を消す効果がある他、セットボーナスで夜間移動速度が上がる。

【765インカム@THE IDOLM@STER】
桐生に支給されたインカム。
オレンジ色のデザインが特徴。

【モンスターボール(ダイケンキ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
シェリーに支給されたダイケンキが入ったモンスターボール。元々の持ち主はチェレン。
覚えている技はハイドロポンプ、ふぶき、シザークロス、アクアジェットと攻撃型。


90 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/09(日) 14:20:54 qKWWZILI0
投下終了です。


91 : 名無しさん :2019/06/11(火) 06:17:54 uKf3A3gg0
投下乙です!
こんな時だからこそ、桐生さんは渋くてカッコいいですね! 数多くの修羅場を切り抜けた彼だから、子どもを一人にしてはいけないと瞬時に判断できるのでしょうし。
ただ、オタコンが言うように、シェリーに笑顔を見せようとしてもやっぱり不器用になるのでしょうか?


92 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/11(火) 21:22:10 tIK3Dp1w0
>>91
感想ありがとうございます。
そうですね、桐生さんって本編で笑う場面ってあまりありませんからね。意識して笑顔になるとなると、ぎこちないものが想像できます。

トウヤ(主人公)、予約します。


93 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/11(火) 21:23:26 tIK3Dp1w0
>>71
◆pnpG6UgSkwさん、いらっしゃいますか?
予約延長から一週間が過ぎました。明日までに反応いただければ幸いです。


94 : 名無しさん :2019/06/12(水) 21:25:00 BtH6snbM0
ちょっと質問なのですが、チェレン→ダイケンキとのことですが、トウヤとベルの初期ポケはゲーム設定に則ってトウヤ→ポカブ、ベル→ツタージャでないとダメでしょうか?


95 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/12(水) 21:29:54 SYYXw0SQ0
>>94
質問ありがとうございます!
いえ、同一の世界線、時間軸でなければならないという決まりはないのでその辺りは自由で構いませんよ。ダイケンキを二体出してくれても大丈夫です。


96 : ◆pnpG6UgSkw :2019/06/12(水) 21:37:13 v2BCluOY0
延長までしていただいて大変申し訳ないのですがですが
一旦予約を破棄します


97 : ◆OmtW54r7Tc :2019/06/12(水) 21:56:28 BtH6snbM0
>>95
返答ありがとうございます。
問題ないようなので、ベルでゲリラ投下させていただきます。


98 : 最初の一歩、踏み出して ◆OmtW54r7Tc :2019/06/12(水) 21:58:00 BtH6snbM0
『トウヤ、こっちだよ!』
『ベルがね、旅を始めるなら最初の一歩はみんな一緒がいいって』
『ねえトウヤ、一緒に1番道路に踏み出そうよ!』

彼女の提案に、幼馴染の少年はコクリと頷く。

『じゃ、いくよ!』
『せーの!!』

そして彼女、ベルはポケモントレーナーとしての第一歩を…


「……え?」

…踏み出せなかった。

―今からあなた達には殺し合いをしてもらうわ。


99 : 最初の一歩、踏み出して ◆OmtW54r7Tc :2019/06/12(水) 21:59:21 BtH6snbM0


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「ふええ…」

新米トレーナー、ベルは殺し合いの会場に飛ばされて早々、地面にぺたりと座り込んでいた。
金髪の少女からの突然殺し合いをしろと言われ。
男の人の首が吹き飛んで。
人間とは思えないような異形の化け物が現れて。

「わけが分かんないよお…」

あまりのショックな出来事な数々を思い出して、その場に崩れ落ちてしまったのだ。

「あたしも…死んじゃうの?」

呟いた言葉を否定するように、ブンブンと身体を左右に振る。
嫌だ、死にたくない。
だけど…

「怖い…怖いよお!」

生き残るためには、まず立ち上がらなければならない。
それなのに、足がすくんで動けない。
一歩が、踏み出せない。
立ち上がろうとするたび、マナという少女の殺し合いの宣言と、首を吹き飛ばされた男の死体が脳裏にフラッシュバックして、またその場にうずくまる。
その繰り返しだった。

(いっそのこと…このままここにいる?)

地図も見てないのでここがどこかも分からないが、動かなければ誰にも出会わず殺されることもないかもしれない。
そんな弱気な考えが頭をもたげたその時、


100 : 最初の一歩、踏み出して ◆OmtW54r7Tc :2019/06/12(水) 22:00:33 BtH6snbM0
「……………」
「…へ?」

顔を上げると、目の前にランタンが浮いていた。
いや、正確に言えばランタンを模した生物だった。
よくみれば、自分のそばに置いてあったデイバックが空いている。
どうやら、ここから出てきたらしい。

「え、なにこれ…ポケモン?」
「……………」

目の前のポケモン(?)は何も答えない。
ただ黙ってベルの方を見ていた。

「…あれ?よく見たら背中に何か紙が貼ってある」

手を伸ばしてその紙を手に取ると、そこにはこう書いてあった。

種族名:ランタンこぞう
使用技・術:メラ

「ランタンこぞう…メラ?」

初めて聞く名前と技に、ベルが思わずつぶやくと、

「……………!」

ランタンこぞうはメラを唱えた!

「へ!?うわわわわ!」

突然迫りくる炎に、ベルは立ち上がり炎を回避する。

「び、びっくりしたあ…」

自分が立ち上がれていることに気づかず、ベルは炎を回避したことに安堵する。
そして…悲しそうな表情でランタンこぞうを見つめると、ポツリとつぶやいた。


101 : 最初の一歩、踏み出して ◆OmtW54r7Tc :2019/06/12(水) 22:01:23 BtH6snbM0
「ポカポカ…」

ポカポカ。
それは彼女のパートナー、ポカブのニックネームだった。
まだ『ひのこ』も使えないひよっこポケモンだが、炎を放ったランタンこぞうを見て、炎ポケモンである相棒が脳裏によぎったのだ。

「…!もしかして!」

ベルは、慌ててデイバックの中を探る。
このランタンのポケモンみたいに、ポカポカもこの中にいるかもしれない。
そう思ってデイバックを漁るが…

「いない…」

ポカポカ本人も、彼が入ったモンスターボールもなかった。
この殺し合いに呼ばれる前まで、確かに一緒にいたのに。

「ポカポカ…どこにいるの?あなたもこの殺し合いに呼ばれてるの?」

相棒の不在に、ますますベルの中で不安が大きくなる。
再び、その場にうずくまってしまった。
思い出すのは、彼と相棒になってすぐに行ったポケモンバトル。

『ポカポカ、たいあたり!』
『ポカァ!』

トウヤの部屋の中でバトルして、そのせいで部屋はめちゃくちゃ。
だけど、バトル中はそんなこと全く気にならないほど楽しくて、興奮して。
これから旅の中で、こんなドキドキワクワクをいくつも体験するんだって、信じてた。

「ううん違う…今だって信じてる」

相棒の、ポカポカの姿を思い出す。
あの子と、旅をしたい。
旅をして、楽しい思い出をいっぱい作りたい。
まだ旅の一歩目だって踏み出してないのに、それなのに…!

「こんなところで、止まってなんかいられない!」

そう叫ぶとともに、再び立ち上がる。
しかし、その足はまだ震えていた。


102 : 最初の一歩、踏み出して ◆OmtW54r7Tc :2019/06/12(水) 22:03:30 BtH6snbM0
「ねえ、あなた…」
「……………」
「隣に、来てくれない?一緒に、やりたいことがあるの」
「……………」

ランタンこぞうは何も言わない。
しかし、ベルの要望を聞き届けるかのように、彼女の隣へと移動した。

「ありがとう」

ベルは礼を言うと、ランタンこぞうの頭の取っ手のような部分をつかむ。
そして、一度大きく深呼吸をすると、

「これが、あたしの旅の始まり!その第一歩だよ!」
「……………!?」

立ち幅跳びでもするかのように、前方へと思いっきりジャンプした。

「これでよし!ありがとうね、『ランラン』!」
「……………?」

笑顔で礼を言うベルを、急に名前をつけられたランランことランタンこぞうは不思議そうに見つめる。
『最初の一歩』を踏み出した彼女の足は、もう震えていなかった。

【A-3/一日目 深夜】

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランラン(ランタンこぞう)@DQ11 不明支給品0〜2個
[思考・状況]
基本行動方針:
1.ポカポカ(ポカブ)を探す。
※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうをポケモンだと思っています。


【ランタンこぞう@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
ベルの支給品、もとい支給モンスター。
うち捨てられたランタンに住み着いた種火の悪魔。
ランタンに化けて夜道を歩く旅人をおどろかせる。


103 : ◆OmtW54r7Tc :2019/06/12(水) 22:04:04 BtH6snbM0
投下終了です


104 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/12(水) 22:17:42 O.Zt/qBc0
>>82
返信遅れてすみません…!
感想ありがとうございます。
知っている出演作品が現状DQとポケモンくらいしかないのでどこまで投下出来るかは分かりませんが、可能な範囲で支援させていただく所存です。

セーニャも病院に向かっているのも含めて、あの周辺がこれからどうなるか気になりますね…


105 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/13(木) 02:46:41 STgaEySU0
>>96
予約破棄の件、了解しました。
また機会があればよろしくおねがいします。

>>最初の一歩、踏み出して
投下乙です!
よりにもよってこの時期での参戦とは……。
トレーナーとしての知識も技量も持っていない分、生き残るには辛く厳しい道のりになりそうですね。
そしてパートナーがポカブ、お供がランタンこぞうという名采配!
同じ炎を扱うモンスターだから面影を見たのですかね……応援したくなります。
彼女の踏み出した足がどこに向かうのか、とても楽しみです!


106 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/13(木) 02:49:18 STgaEySU0
>>104
ありがとうございます、企画主としてそういったお言葉を頂けるだけでとても嬉しいです!
とりあえず予約がつかない限り全キャラの初登場話を書き出すつもりなので、それでどんなキャラなのかというのを知っていただけたらなーと思っています。


107 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/15(土) 07:47:06 MksnmAm60
投下します。


108 : 夢の果て ◆NYzTZnBoCI :2019/06/15(土) 07:49:40 MksnmAm60

冴える月光、歌う木々。
平たい岩を椅子代わりに片膝を立てて座る少年はさあさあと流れる夜風を感じていた。

「殺し合い、か」

少年の唇から溢れた声は驚くほどに落ち着いていた。
いや、落ち着いていたというよりも感情すら読み取れない。
動揺も、興奮も、悲壮も、憤慨も――人にあるべきはずのそれらが一切こもらない機械的なものだった。

少年、トウヤは事実殺し合えと言われてなんの感情も抱かなかった。
自分が気づかなかっただけで心の揺れはあったのかもしれない。が、それも認識できないほど微細なものだ。
異常だと自覚はしている。しかしそうならざるを得ない道をトウヤは幼くして歩んでしまったのだ。





自身を見上げる人々がありったけの歓声と羨望を浴びせる。
チャンピオンを撃破し、名実ともにトウヤはイッシュ地方最強のトレーナーとなった。
旅立ちから夢見ていたポケモンリーグ制覇という願望を果たし、ポケモン図鑑を揃え、全てを手に入れた少年は栄光の山を登るような充実感に満たされていた。




しかし、頂上にあるのは下り道だけだ。




上がいないという現実はトウヤの心から何もかもを奪い去っていった。
宇宙のように無限に続く思っていた探究心も、目に映るもの全てに湧き上がっていた好奇心も。
バトルのたびに胸を燃やしていた底熱い競争心も、敗北をものともしない向上心も。
その全てが幻のように消えていった。


109 : 夢の果て ◆NYzTZnBoCI :2019/06/15(土) 07:50:34 MksnmAm60

敵のいないトウヤはそれでもトレーナーとしての腕を磨き続けた。
時にはポケモンの生態を学び知識を高め、時には野生のポケモンとの実戦で判断力や瞬発力を鍛えた。
目的もないのにまるであるかのように偽り、ただ無我夢中でトウヤは強くなり続けた。

辞書のように分厚い本を何十冊も読み漁り、全てのポケモンの急所や弱点を学んだ。
森や山から野生のポケモンが姿を消すほどバトルを重ね、全てのポケモンの癖や技を覚えた。

愛情があればどんなポケモンも強くなると思っていた。
しかし実際は違う。同じポケモンでも個体差や能力値の違いがあり、感情論でそれが覆ることはありえない。
それを知ったのは随分と前のことだ。気がつけば何千ものポケモンを捕まえては能力値を確認し、弱いものは切り捨て強いものを厳選していた。
最初こそ多少罪悪感があったものの、慣れるのにそう時間はかからなかった。


そうしてトウヤが行き着いた先にあったのは――どうしようもない虚無感だった。


いつからだろう。ポケモンバトルを作業のように感じ始めたのは。
いつからだろう。全てのポケモンがデータとして見えるようになったのは。
いつからだろう。自分の行動全てに意味を見いだせなくなったのは。

頂点に立ったトウヤは毎日を無気力に、無意味に生きていた。
そんな中突然顔を出した殺し合いという”刺激”。生きる意味を失いかけていた今、別に自分の命が惜しいわけでもないし他人を殺したいというわけでもない少年はそれに動じることはなかった。

しかし同時に、空っぽだったトウヤの心に僅かな期待が灯るのを感じていた。

ウルノーガという未知なる生物への興味。その力の片鱗への関心。
久々に味わう刺激に対して少年は笑ってしまうほど敏感で、殺し合いが始まってからもただ一つの期待が頭を支配していた。
もしかしたら、自分を満たしてくれる存在に出会えるかもしれないと。

期待を裏切られるのには慣れている。その期待が大きければ大きいほど裏切られた時のショックが大きいのも勿論知っている。
だが、賭けてみたくなった。この虚無感を拭ってくれるのならば喜んで主催者の掌の上で踊ってみせよう。
もう自分が真っ当な人間ではないのだと悟りながらトウヤはデイパックを漁り、見慣れたそれを取り出す。
モンスターボール。同梱された説明書にはこう記されていた。



オノノクス ♀
特性:かたやぶり

覚えているわざ
・りゅうのまい
・きりさく
・ダメおし
・ドラゴンテール



簡易なポケモンの説明を読み終えたトウヤはある一つの感想を抱く。

――まぁ、使えなくはないかな。と。


110 : 夢の果て ◆NYzTZnBoCI :2019/06/15(土) 07:51:07 MksnmAm60

ふっ、と思わず小さく噴き出した。
使えなくはない。以前の自分ではそんなこと考えもしなかっただろう。
少なくともあの時は、己の確たる信念と意思によってゲーチスを打ち倒したあの時は、ポケモンを使える使えないの基準で見てはいなかった。

だが今は違う。
トウヤの有り余るトーレナーとしての才能が、並外れた努力が、トウヤという人間を変えてしまったのだから。

「オノノクス」

冷淡な声と共にモンスターボールを投げる。
不思議な機械音に遅れ、上下に開いたボールから威圧的な風貌のポケモンが飛び出した。
斧のように巨大で鋭利な二又の顎を持つそれの名はオノノクス。百八十センチを越える巨体はトウヤを大きく上回り、全身を覆う甲冑のような黄金の甲殻は銃弾をも弾くだろう。

しかしその怪物はトウヤの顔を見下ろすやいなや従順な様子で姿勢を低くする。
自分の主がこの少年なのだと認識したオノノクスに逆らう理由はない。トウヤはそんなオノノクスを一瞥し、すぐに視線を別へ移した。

「君はオレの指示に従ってくれればいい。わかったかい?」
「グルルル……」

はばかるように低い唸り声に了承の意が込められていることをトウヤはわかっている。
通常、モンスターボールの持ち主にポケモンが逆らうことはないのだから。
岩から降りたトウヤはもう一つの支給品であるチタン製レンチを片手に”ついてこい”とオノノクスに命じる。あてもなく歩を進めるトウヤの後を大地を振動させながらオノノクスが続いた。

オノノクスをモンスターボールに入れない理由は二つある。
一つはその方がスマートにバトルに移れるため。ポケモンバトルというルールに則った枠組みならまだしも殺し合いという状況では不意打ちの危険もある。
もう一つは脅し道具として利用するため。オノノクスのような威圧的なポケモンは連れているだけでもプレッシャーとなり弱者を引き寄せないことを知っている。
トウヤが求めるのは弱者への一方的な蹂躙ではなく強者との心躍る戦い。あくまでも効率重視、それが今のトウヤのスタイルだ。


111 : 夢の果て ◆NYzTZnBoCI :2019/06/15(土) 07:51:29 MksnmAm60

(……とはいえポケモンは多く手に入れたい。空のモンスターボールが無い以上、他の参加者から奪うしかないのか?)

極力無駄な接触は避けたいが、オノノクス一匹では自分の全力が出せるとは言い難い。
万が一に今の状態で他人に負ければ言い訳ができてしまうのだ。自分の手持ちが悪かった、と。
トウヤはそれを嫌い、戦力を増やしたかった。モンスターボールどころかまず野生のポケモンも見当たらない現状、捕まえるという手段は現実的ではないだろう。
となると他者から奪うのが合理的だ。トウヤは驚くほど冷静にその思考へ至った。

殺しはしない。ただ、ポケモンを持っている人物と出会った場合は力づくで奪う。
まるでプラズマ団だな、とトウヤは鼻で笑った。自分が潰した組織と同じ思想を持つなど皮肉でしかない。
だがいまさら正義のヒーローを演じるつもりもないしそんな道を歩めないことも知っている。すべてを手に入れた少年は、すべてを失ったのだから。

「――オレに、生きる実感をくれ」

ぽつりと呟いた言葉にオノノクスが反応する。
しかし当のトウヤはひたすらに進んでゆく。離される距離をオノノクスは大股で取り戻し、トウヤは帽子を深く被り直した。

ああ、月の光が鬱陶しい。

”一緒”に踏み出した足は誰よりも遠く、遠くに向かっていた。


【E-2/一日目 深夜】
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.自分を満たしてくれる存在を探す。
2.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。


【モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
トウヤに支給されたオノノクスが入ったモンスターボール。元の持ち主はアイリス。
特性はかたやぶり、覚えているわざはりゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール。


112 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/15(土) 07:52:13 MksnmAm60
投下終了です。


113 : 名無しさん :2019/06/15(土) 22:49:05 9k.2Co.o0
投下乙です
トウヤくん…これは、ベルとは何もかもが対極すぎる
前ゲームロワのレッドといい、ゲーム版ポケ主人公はこじらせ廃人になる運命なのか…


114 : 名無しさん :2019/06/16(日) 00:10:09 Bz134TtY0
投下乙です!
頂点に昇り詰めることだけを考えて、個体値厳選までしたトレーナーが抱える虚無。
このトウヤに、あの名言を聞かせたらどう反応するのか、興味があるなぁ。
このバトロワには、それこそモンスターみたいに強い存在もいるけど、どうなるかな。

◆NYzTZnBoCI氏に質問です。
アイマス勢について、名簿には【THE IDOLM@STER】と表記されていますが、Xbox版にいない貴音が名簿に入っているということは、タイトルは本家のシリーズであればどれでも良いのでしょうか。


115 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/16(日) 00:42:47 dYkANG160
>>113
感想ありがとうございます!
同じ名前のロワが既にあったことを初めて知りました……次スレまでには改名して差別化を図りたいです。

>>114
感想と質問ありがとうございます!
そういえば高音はSPから登場でしたね、うっかりしていました……。
そうですね、この際ですのでアイドルマスターシリーズであればどのタイトルでも良いと明記させて頂きます。
混乱させてしまい申し訳ありません。


116 : ◆vV5.jnbCYw :2019/06/16(日) 21:45:13 X0CPbHjY0
イレブン ダルケル予約します。


117 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/16(日) 23:07:22 dYkANG160
久保美津雄、ザックスで予約します。


118 : ◆kslSBnejmg :2019/06/17(月) 20:32:19 YGwww49Y0
チェレン、ホメロス 予約します


119 : ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:45:53 pBJhpTq20
投下しますね。


120 : 幽霊と怨念 そして呪い ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:47:13 pBJhpTq20
『魔王に挑んだ愚かな男、サイラス
ここに眠る』

(ふーん……とすると、ここは誰かの墓ってワケか?)

北の廃墟の最深部にある、サイラスの墓。
これを眺めている男が、一人いた。


(皮肉なモンだな…死んだと思ったら奇妙な戦いに参加させられ、その先で墓場を見るなんてヨォ………)

岩と見間違えそうなくらいガッシリした体つきの男の名は、ダルケル。
ハイラル一の火山、デスマウンテンを統べるゴロン族の族長にして、ハイラル全土を守るとされる姫を、護衛する英傑の一人である。

(確か、オレはガノンの怨霊と戦って……それから………)

そこまではダルケル自身もよく覚えている。
この戦いも、死後の世界で行われたことだと思えば納得が行く。


しかし、どうにも訳が分からないのがその先のこと。

ミファー、ウルボザ、リーバル、そしてリンク
さらに、自分が守ろうとしている、ゼルダまで参加しているではないか。


(おかしい……リンクは封印され、姫さんは確かに守られてるって、聞いたハズなんだが……)

そしてこの戦いを開催したという少女と、魔物。

(ガノン以外にもあんなバケモノがハイラルにいたのか?)
ウルノーガ、と名乗った怪物からは、厄災ガノンと対峙した時のような禍々しさを感じたし、マナ、という少女からも異様な魔力を感じた。

たとえこの首輪がなくても、あの二体はかなりの強者だろう。
ハイラルにいれば、その力が耳に入らないわけがない。
たとえ力を隠していたのだとしても、なぜ今になってこんな下劣な催しを開いたのかも理解しがたい。

訳の分からないことはあれこれあるが、いつまでもジッとしてられない。


(よし!!まずはリンクと姫さんを探す!!それで全てを決める!!)
彼自身は強いだけではなく情に厚く、ゴロンからも他の種族からも信頼もあった。
考えることこそやや苦手で、その点を同じ英傑であるリーバルにたしなめられてきたのだが。

ダルケルは墓に祈りを捧げ、そこを後にした。


121 : 幽霊と怨念 そして呪い ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:47:32 pBJhpTq20
扉を開け、廊下を歩いてすぐの所。

ダルケルの前に、二体の戦士の姿をした幽霊が現れた。
「な、なんじゃこりゃあ!!」

驚く瞬間、早くもナイトゴーストはダルケルの目の前に現れ、斬りかかってくる。
自分達がかつて戦った存在も怨念だったが、どうにも慣れないものだ。
まあ、犬の幽霊じゃないだけ、マシともいえるが。

「ちっ!!」
巨体に似合わぬ反射神経で、幽霊の斬撃を躱す。


幽霊と言っても、有害な存在も無害な存在もいる。
だがコイツは、間違いなく有害な部類に入るだろう。

そういえば、と昔ダルケルが読んだ、デスマウンテンの歴史書の中身を思い出した。

自分の遠い先祖にして、自分の名前の基にもなっている、ダルニアの時代。
その時代には、ポウという悪霊がハイラル中に巣くっていたらしい。

倒さなきゃならないと、あわててザックから武器を取り出す。

どうやってこんなザックに入っていたのか疑問に思うくらい巨大な武器が入っていた。
それは、武器というよりも、鉄の塊、といった方が正しいのかもしれない。


しかし、刃物より、力任せに振り回す鈍器の方を好んでいたダルケルにとっては、ありがたい支給品だった。
本当は自分の愛用の武器、巨岩砕きが欲しいのだが、この際贅沢は言えない。

ダルケルは鉄塊を一振り。

ブンという轟音と共に、廃墟の壁に大きな穴が開く。
しかし、ナイトゴーストには、全くダメージを受けた様子がなかった。

「な、なぜだ?」

今度はナイトゴースト達の反撃。剣を振り上げ、襲い来る。

「ゴロォォォォ!!」
ダルケルの叫びに共鳴して、彼の体を紅い結界が守る。
ダルケルの英傑たる力は、剛力のみではない。

あらゆる攻撃を打ち返し、あらゆる弾を跳ね返す無敵の結界、ダルケルの護りだ。
結界こそ容易に破壊されるも、ダルケルの護りの真骨頂はこれから。
衝撃を相手に返すことで、一時的に相手を動けなくさせる。
どうやら幽霊もダルケルの護りの反動で、怯んでいるようだ。


今がチャンスだと再びダルケルは鉄塊を一振り。しかし、ダメージを受けたのはまたも廃墟の壁のみだった。


122 : 幽霊と怨念 そして呪い ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:47:53 pBJhpTq20
(コイツ……透き通るから、オレの攻撃が効かないのか?)

今度は二体目のナイトゴーストの攻撃が、ダルケルに迫る。
(しまった!!)
今度はダルケルの護りを打つ暇がない。

しかし、よく見れば剣は大した長さではなく、ダルケルの岩のように固い皮膚に到底入りそうになかった。

「ぐ!?」
突然ダルケルの体を、虚脱感が襲った。
どう考えても、刃物で斬られたダメージではない。

ナイトゴーストの怨霊で形成された剣は、肉体ではなく魂を傷つける。
そのため、どれほど生命力がある存在が相手でも、一定数のダメージを与えてくるのだ。
そんなことを知らないダルケルは、戸惑い続ける。


(こっちの攻撃は透き通るクセに、向こうの攻撃だけ当たるなんて、反則もいいところじゃねえか………)

意気揚々と進もうとするダルケルは早速出鼻をくじかれ、苦戦状態になった。


「消えろ……悪霊め!!ライデイン!!」

一人の青年の声が廃墟に響く。

室内にも関わらず、雷が現れる。

その雷蛇は、いとも簡単にゴーストナイトを焼き払った。

(す、すげえ……。)
高位の雷の術を操れる者がウルボザ以外にもいたことに、ダルケルは感銘を受けた。

消える間際にゴーストナイトは一体がダルケルに、もう一体が青年に黄色い光を放った。
それが終わると聖なる雷にその身を焼かれ、天に還って行く。

何が起こったのか一瞬焦るも、特に体に異常はなかったダルケルは、青年に話かける。


「ありがとよ兄ちゃん、助かったぜ!!」

上の階から降りてきたのは、髪がサラサラの青年。
いかにも、旅人然とした身のこなしだ。

(ん……?)
ダルケルは何かを思い出したかのように、青年を見つめる。

「どうか……しましたか?」
青年が答える。

「いや、なんでもねえ。」

ダルケルは、青年にどこか旧友の面影を感じた。
敵を瞬時に薙ぎ払ってしまう強さ、そして曇りのない光を纏った瞳。

英傑リンクさながらだ。


123 : 幽霊と怨念 そして呪い ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:48:15 pBJhpTq20

「ところでな、オレは探してえ人がいるのよ。兄ちゃんもいるだろうし、一緒に探さねえか?」

突然青年は黙りこくってしまった。

「兄ちゃん、向こうの方に行きたかったのか?でもあっちには、サイラスって人の墓しかなかったぞ」

ダルケルが話を続ける。

「それと兄ちゃん、お礼も兼ねてだ。何か必要な物はあるか?
オレはこの武器以外、何なのか全く分からねえ。」

ダルケルのザックからは綺麗なポットに入った淡い紫の薬と、おかしな形をした野菜が見られた。

薬は説明書曰く、飲めばMPが全回復するらしい。
しかしダルケルにとってMPとはなんのこっちゃの話だし、野菜に関しても特に知識はない。

以前カカリコ村を訪れた時に、畑に植えてあった野菜に似ているし、リンクなら上手に料理してくれそうだ。

けれど自分は、岩料理以外のレシピを知らない。


袋の中で持て余すくらいなら、誰かにあげても損はないだろう。

しかし、青年はまだ動かない。返事もない。

「おーい、兄ちゃん、どうしたんだ!!オレはもう行くぞ!!」

返事はない。ダルケルは痺れを切らして、廃墟の外へ出て行った。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○


(行ってしまった………)

ダルケルを助けた青年、イシの村の勇者イレブンとしては、別にダルケルがゴーレムに似ているからとかいう理由で、気に食わないというわけではなかった。

仮にダルケルが人間でなくとも、自分はヨッチ族やスライム、ドラゴンバケージなどの異種族とも交流を取ったことがあるし。

むしろ、ダルケルとは話したいことは山ほどあった。


たとえば、この戦いの主催者のこと。

少女の方は見たことのなかったが、ウルノーガのことはよく知っている。
かつてニズゼルファを倒した勇者の仲間であり、そのニズゼルファに魂を汚されたウラノス。
二度に渡って倒したことは事実だし、その情報の共有を是が非でもしたかった。

ダルケルの方も仲間がいる可能性が高いし、仲間、あるいは自分にとってのホメロスのような危険人物の情報共有もしておいて損はないだろう。


124 : 幽霊と怨念 そして呪い ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:48:38 pBJhpTq20

だが、出来ない。

たとえ話す相手が異種族でも、唐突に襲ってくる。
恥ずかしいという気持ち。

朝食べたものが、歯に挟まってないだろうかとか。
目の前のゴーレム似の男がつぶらな瞳で見つめてくる瞬間とか。
考えていた話題が思いつかなくなったらどうしようとか。

さっきの幽霊の魔物との戦いも、呪文を使うことが急に出来なくなったら、どうしようかと、気が気で仕方なかったのだ。


仲間と共に、ニズゼルファを倒した後でさえ、この呪いは消えなかった。

なんでもこの呪いは、イレブンの遠い祖先の、そのまた知り合いから引き継いだものらしい。
教会で解いてもらえるそうだが、神父に話しかけると、言葉を紡げなくなってしまう。
自分にかけられた呪いを解いてください。その言葉が声に出せないのだ。


ようやく足が動くようになり、イレブンもノロノロとダルケルの後を追う。
本当のことを言うと、さっきのダルケルが持っていた薬が欲しかったのだ。
あのポットの形は間違いなくエルフの飲み薬。

ゴーストナイトがイレブンのライデインに浄化される際に、マジックバスターをかけて、魔力を奪い去って行ったのだ。

自分は剣術にも心得はあるが、攻撃の多様性も兼ねて、やはり魔法が使いたい。
薬を飲まなきゃ、しばらくの休息が必要だ。

やはりダルケルに協力を求めよう、とイレブンは思い、走り出した。
既にどこにいるか分からなかったが。

仲間と共にこの戦いからの脱出。
そして、自分にかけられた呪いの解呪を目指して。


125 : 幽霊と怨念 そして呪い ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:49:07 pBJhpTq20
【B-2/北の廃墟入り口/一日目 深夜】
【ダルケル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:HP1/2+α  ダルケルの護り消費(あと2回)
[装備]:折れた鉄塊 @ドラッグオンドラグーン
[道具]:基本支給品 ミメットの野菜@FF7 エルフの飲み薬
[思考・状況]
基本行動方針:
1. リンク、ゼルダ、ついでに他の英傑も探す。
2. とりあえずハイラル城へ向かう
3.殺し合いには消極的だが、襲われれば戦う。

※炎のカーズガノンに敗れ、死亡直後からの参戦です。

【B-2/北の廃墟B1一日目 深夜】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0  恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個、呪いを解けるものはなし)
[思考・状況] ああ、はずかしい はずかしい
基本行動方針:
1.とりあえずダルケルを追う。
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。


【鉄塊@ドラッグオンドラグーン】
ダルケルに支給された大剣(という判定でいいのか?)
文字通り鉄の塊。長さは人間の身長を超え、重さは40キロほど。
切れ味はすこぶる悪いため、力で振り回して叩きつけるのが主流の使い方。一応、武器を通して爆発魔法(アイオブサクリファイス)が打てるが、ダルケルに打てるかは不明。

【ミメットの野菜@FF7】
ダルケルに支給された野菜。
チョコボ(本作で出るかは不明)の好物とする野菜の一つ。人間が食べても僅かにHPが回復する。カボチャのような見た目。

【エルフの飲み薬@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
ダルケルに支給されたMP回復アイテム。ダルケルの世界ではMPという概念がないため、本人は何のための道具か分かっていない。(飲めばダルケルの護りの使用回数が増えるかも?)

【ゴーストナイト@クロノトリガー】
原作では北の廃墟に巣くう幽霊の魔物。本作でも登場した。まだいるかもしれない。
物理攻撃が全く効かないし、魔法で倒せば反撃にHPを減らす「おんねん」か、MPを0にする「MPバスター」を打ってくる。中の人が原作で特に嫌いなモンスター


126 : 幽霊と怨念 そして呪い ◆vV5.jnbCYw :2019/06/17(月) 23:49:20 pBJhpTq20
投下終了です。


127 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/17(月) 23:58:08 msTmJObI0
投下お疲れ様です。
イレブン……主催がウルノーガのロワの中で勇者はどう振る舞うんだと期待していたらこれだよ!!
縛り要素で遊んだことはなかったのですが、はずかしい呪いをロワに持ち込むとすごくシュールですね……。
これからどうなるのか楽しみにしています。


さて、マルティナで予約します


128 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:03:10 xdysm0Bg0
投下乙です!
まさか縛りプレイ中からの参戦とは思いませんでした……情報共有が命のバトロワでこれは辛い!
そしてナイトゴーストの最後っ屁の表現や、物理攻撃が効かない描写などがしっかり再現されていて感動しました。
確かに魔法が使えないダルケルとは相性が悪いですね……イレブンもMPが無くなってしまったし、これからどうなるかハラハラします。


129 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:55:17 xdysm0Bg0
投下します。


130 : お前、いきなりアウトってわけ ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:55:58 xdysm0Bg0

僕は無力なんかじゃない。
そう証明したくて僕は一人の男を殺し、世間の注目を浴びた。

とても気分が良かった。
画面越しとは違う本物の視線を浴びて、僕は自分が認められているのだと思っていた。
やってやったんだ。僕はそこらの人間とは違う特別な存在なんだ。
けれどそれは突然現れた僕のニセモノに否定された。
お前は虚無だとかなんとか好き勝手言って、まるで僕の全てを知っているような口振りだった。

違う。僕はなんにも出来ない人間なんかじゃない。
そうやって怒鳴り散らして、後から来た八高のやつらにも思いっきり啖呵を切ってやった。
その瞬間僕の意識は途絶えて、気がついたらニセモノが消えて探偵気取りの高校生に囲まれてた。
偉そうに説教を垂れて、僕をまるで下に見ているようなあいつらの態度が気に食わなかった。

そうして僕は逮捕された。
これで僕の全てが終わるのだと思ったらあまりにも滑稽で、無様で、泣きたくなった。
僕を否定するやつらを全員殺してやりたい――そう心の底から願った瞬間、僕は”あの場所”にいた。






131 : お前、いきなりアウトってわけ ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:56:33 xdysm0Bg0



「はは、はははは……なんだよ、なんだよこれっ!」

僕は興奮していた。
男も女も、大人も子供も関係なく集められた殺し合い――まるでゲームのようだ。
僕自身がゲームの登場人物(キャラクター)に選ばれたようで心が躍る。それも、自分の力を示すにはもってこいの内容なのだから。

そうだ、やっぱり僕は特別な存在だったんだ。
あそこで終わるのは惜しい人間だと神がチャンスを与えたんだ。
そう考えれば考えるほどに笑いが込み上げて鼓動が高鳴る。街路の真ん中で空を仰いで、僕を連れてきた神様とやらに感謝した。

「そうだ……そうだよ。僕が、このオレが! 諸岡を殺せたオレがあんなやつらに負けるなんてありえないんだよッ! おかしいだろ、そんなの!」

思いっきり笑いながら近くにあった花壇を踏みつける。名前も知らない青い花が無残に潰れた。
今の僕は無敵だ。僕は選ばれた人間なんだから誰にも負けるはずがない。
僕はリュックを下ろして支給品を取り出した。手のひらにゴツゴツとした感触を返すそれを見て僕はやっぱり”選ばれた”んだと確信する。

「これ、これっ……! すげぇ……じゅ、銃だ!」

拳銃だ。見たことない形だけどそんなの関係ない。
ずっしりした重みに未来的な見た目、手に吸い付くみたいな独特の感触が堪らなかった。
試しに標識に向かって引き金を引いてみた。聞いたこともない銃声と反動で思わず声を上げて尻餅をつく。
標識には当たらなかった。けどオモチャなんかじゃないというのは今ので思い知らされた。

勝てる。これなら優勝できる。
なんだよ、殺し合いなんて回りくどい方法しなくても僕の優勝は決まってるじゃないか。
ああ、そういえば願いを叶えるとかも言っていたな。何を叶えようか……いざ考えるとなると結構迷う。
金も女も自然と手に入る。だから僕は名声が欲しい! 僕に相応しい大きな名声が!

頭の中で風船のように膨らむ妄想は止めようがなかった。
自然と溢れる笑い声を必死に押し殺そうとして空気の漏れるような音が唇から聞こえる。
そのまま優勝した後の僕の英姿を想像し続けてはや五分。僕のそれは不快な足音に遮断された。

「ひッ……!?」

意思とは関係なく掠れた声が漏れた。
コンクリートを踏みつける音の方向に目を向ければ、丁度裏路地から表通りに出ていく男の姿があった。
背中にでっかい岩みたいな変な武器を持っているその男はまだ僕には気づいていないみたいで、間抜けにも横を向いている。
僕は建物の影を伝ってバレないように男の後ろ側に移動した。

なんだ、ビビることないじゃないか。
よく見れば警戒心の欠片もない間抜け面だし、第一あんな大きな武器人間に扱えるわけない。
それに筋肉はそれなりにあるみたいだけど所詮人間だ。銃に敵うはずない。

「へ、へへ……ラッキー……!」

慎重に、標識を撃つ時とは違ってしっかりと狙いを定める。
動き回ってるわけじゃないし距離的にも当てられるはずだ。でも顔は面積が小さいから背中でも狙っておこう。
どこに当たっても痛みで反撃なんかできないはずだ。
僕は熱い高揚感に導かれるままに引き金に指をかけた。

(――死ねっ!)


そして、銃弾が発射された。





132 : お前、いきなりアウトってわけ ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:57:18 xdysm0Bg0


(……は?)

何が起こったのかわからなかった。
引き金を引いて、やっぱり尻餅をついた僕が目にした光景は予想していたものと違った。
確かに銃弾は届いたはずなのに。男は傷一つ負ってないどころか背負っていた岩の塊を”片手で”持ち上げ、僕の方に体を向けている。

銃弾を弾かれた。
その時の僕はそんな非常識なこと思考の片隅にも浮かびさえしなかった。
そんな馬鹿げたことに気がついたのは、僕が尻餅をつきながらがむしゃらに弾を撃ったときだった。

「う、うわっ、うわああああぁぁぁぁぁッ!!」

狙いなんて知ったこっちゃない。当たりさえすればいい。
けど男は僕の期待に応えてくれなくて、岩を軽々と振り回しながら涼しい顔で銃弾を弾いていた。
男と僕の距離が無くなるのはあっという間だった。まるで自動車がトップスピードで向かってきているように感じた。

「く、くるなっ! くるなくるなくるなぁッ!」

いつの間にか僕の目の前まで迫っていた男の顔に銃口を向ける。
この距離なら顔でも当たるはずだ! そう思って引き金を引こうとした瞬間、

「よっと」
「いづッ!?」

男の足が僕の手を蹴り上げてしっかり握っていたはずの拳銃が宙に舞う。
蹴られた手が痛すぎて拳銃に手を伸ばす余裕なんてなかった。気がつけば拳銃は男が握っていて、銃口を向けられていた。

「ひッ……あ、あ……!」
「……なんだ、子供じゃねーか。こんな物騒なもん子供が持っちゃダメだろー?」

死を確信して怯える僕と対照的に男は笑顔で拳銃を仕舞っていた。
上手く働かない思考の中でもわかる。僕はこの男にナメられている、馬鹿にされている、と。
ふざけるな! 僕だって、もっと武器が良ければお前を殺せてたんだ!
運が悪かったんだ。たまたま僕に雑魚い武器が支給されて、お前が強い武器を持っていただけなんだ!
そう真実を突きつけてやりたいのに言葉が出ない。
悔しくて、惨めで、情けなくて、涙が溢れた。

「お、おいおい! 泣くことねーだろ? 先に撃ってきたのはお前の方なんだし……俺、悪くないよな?」
「うるさい! 黙れ黙れ黙れよッ! オレをそんな、そんな目で見んな……! 見んなよ……」
「はぁ? 何言ってんだよ、お前」

もう男が何を言っているかなんて知らない。ただ掠れた涙混じりの声で懇願した。
気に入らない。ついさっき僕に殺されかけたっていうのにそんな事忘れたって顔してるのが。
気に入らない。いつでも僕を殺せる状態だったのに何もしないで勝った気でいるのが。


133 : お前、いきなりアウトってわけ ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:58:14 xdysm0Bg0

「……よくわかんねーけど、気ぃ悪くしたなら謝るよ。な? えっと、立てるか?」
「っ! さ、触るなぁっ!」

生意気に男が僕に手を差し出す。
思いっきり叩いてやった。それが僕にできる最大の抵抗だったからだ。
けど男はつまらなそうに眉を顰めて首をかしげるだけ。その人を舐め腐った態度が余計に僕の怒りに油を注いだ。
だけどもうとっくに炎は消えている。銃も奪われてるんだから、こんな化け物に抵抗する手段なんてなかった。
やっぱり現実は腐ってる。涙に混じって絶望の笑いが込み上げてきた。

「は、はは……なんだよ、これ。終わりかよ……オレ、終わりなのかよ……」
「は? 終わり?」
「そうだよ! ……ほ、ほら、殺せよ。それで満足なんだろ!? 自分より弱いやつボコボコにして、痛めつけて、プライドとか全部ぶっ壊して! 高いところから見下ろしてんのが楽しいんだろ!? ふざけんな、ふざけんなよ……チクショウ……、……だせーよ、オレ……こんなクズに殺されんのかよぉ……」

もう生きる気力なんてなかった。
結局僕にチャンスなんてなかったんだ。どん底に堕ちた僕を救い上げる振りしてもっと下の掃き溜めに落としやがった。
こんなみっともない醜態晒して死ぬなんて嫌だった。けどもうどうにもならない。
お望み通り蹲って地面に顔を向けて理不尽な死を待ってやった。

「ザックス」

なのに、返ってきたのは意味不明な単語だった。
は? と聞き返す僕は自然と顔を上げて男の表情を見た。
そこにあったのは憐れみとか、怒りとか、そういうのとは違った見たことのない視線だった。

「な、なんだよ……意味わかんねーよ……」
「ザックス。俺の名前。で、お前は?」

なんだ、それ。
いきなり自己紹介とかキモいっつーの。
でも、どうせ従わなきゃ殺すんだろ。むしろなんで生かしてんだよ、そんなに自分の力見せつけたいのかよ。
くそ、胸糞悪い。こんな自己中な奴に従わなきゃいけないなんて反吐が出る。

「く、久保……美津雄……」
「美津雄か。うっし、行くぞ!」
「い、行くってどこに……」
「わかんね。でもま、その辺歩いてれば他の奴らと会えるだろ。もし危ないやつが来てもしっかり守ってやっから安心しろよ、美津雄!」

反論したいのに吃って上手く言えない。
っていうか、守るってなんだよ。どうせ盾にでもする気なんだろ。
外ヅラで優しく偽って、綺麗事ばっかり吐き捨てて、勇者か英雄気取りかよこいつ。だせーよ、マジで。
なんだよ、僕だってなれるんだよ! お前みたいな内面真っ黒の偽善者とは違う、本物の勇者に!

「ああ、そうそう。これ返しとくぜ」
「え……え、っ、これ……」

ふつふつと湧き上がる怒りをザックスとかいう男が遮った。
乱暴に投げ渡されたのはさっきの拳銃だ。別に何か細工されたわけでもない、いつでも撃てる状態だ。
こいつ、正気か? またいつ撃たれるのかわからないのに、こんなに簡単に武器を渡すなんて。
そう思った瞬間にさっき目の当たりにした超常現象を思い出す。ことごとく銃弾を弾いて僕に迫るあの姿は多分一生忘れられない。

「持っときな。ま、俺には通用しなかったけど無いよりはマシだろ?」
「……ちっ、……」

まただ、またあの目だ。感じたことのない不可思議な視線。
蔑まれてるわけでも見下されてるわけでもない。正直言って、不快じゃなかった。
けどどうしようもなく不気味だった。目の前の男が、それに従っている僕が。

「じゃ、行こーぜ美津雄。こんなふっざけたゲーム、ちょちょいとぶっ壊してやろうぜ!」

いいよ、わかったよ。今は見逃してやる。
けど殺せる機会になったら絶対にぶっ殺してやるからな。
拳銃を握りしめながら僕は意志を固める。だけど引き金に指は掛けられなかった。


■ □ ■


134 : お前、いきなりアウトってわけ ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:58:54 xdysm0Bg0


美津雄が一人にしたらダメな人間だという事はわかっていた。
言ってしまえば廃人になってしまったクラウドのように放っておけない人種だ。
わけもわからず自分を攻撃してきて返り討ちにあったのだから、彼を一人にすればどんな結末が待ち受けているのか容易に想像できる。
そんなこんなでザックスは美津雄のことを切り捨てる事ができなかった。

(……ま、あちらさんは俺の事を信用してないみたいだけどね)

今こうして背を向けて歩いている最中でも美津雄からの殺気が痛いほどに伝わってくる。
それもしかたないかもな。とザックスは自分の行いを反省する。沈静化するためとは言え銃弾を弾きながら猛スピードで迫られたら泣きたくもなるだろう。
美津雄は神羅兵でもなんでもない、見たところただの子供だ。
殺し合いという状況に錯乱しているのかもしれないし、尚更自分が守らなくてはならない。
そのためにはまず信用されることからだ。ザックスは無言の時間をできるだけ作らないように度々美津雄へ声を掛けていた。

「な〜美津雄〜、腹減ってないか? ハーラ!」
「……別に」
「あっそ。俺、減ったから食べちゃうもんね」

言いながら器用にデイパックから食糧を取り出す。
缶詰だ。缶切りがなくても開けられるタイプだったので、乱暴に蓋を開ければそのまま逆さにして口の中へ流し込む。
逃亡生活中では味わえなかった鶏肉とコーンの食感が幸福感をもたらした。場を和ませようとしたための行動だったが本気で堪能してしまった。
ちらりと後ろを見れば美津雄は俯いたままぶつぶつと呪文のように何かを呟いている。
クラウドよりよっぽど扱いづらいな、とザックスは頭を掻いた。

(ま、こんなもんこんなもん。英雄になるにはこんくらいの障壁乗り越えてみせなきゃな)

だが、ザックスに迷いはない。
美津雄は守るしこの殺し合いもぶっ壊す。
両方やらなくちゃならないのが英雄の辛いところだ。


【D-1/一日目 深夜】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して自分の力を証明する。
1.なんなんだよ、こいつ……!
2.強い武器がほしい。そしてこいつを……。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。

【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.うっし、適当にぶらついて仲間でも探すか!
2.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。

※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。


【ウェイブショック@クロノ・トリガー】
久保美津雄に支給された銃。元の世界ではルッカ用の武器。
海底神殿で手に入り、これが手に入る段階の武器の中では間違いなく最強格。
高い攻撃力に加え被弾した相手に60%の確率で混乱効果を与える。
しかし流石に強すぎるので本ロワでは制限対象となっており、確率が10%まで下げられている。

【巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ザックスに支給された大剣。というか岩の塊。元の世界の持ち主はダルケル。
大剣の中では最高級の硬度を誇り、破壊力もかなり高い。
ダルケルはこれを片手で軽々と振るっていたが、並の人間が使いこなすにはかなりの熟練が必要らしい。


135 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/18(火) 00:59:28 xdysm0Bg0
投下終了です。


136 : 名無しさん :2019/06/18(火) 17:07:39 awzV4F4k0
投下乙です
ザックスはやっぱり良い兄貴分だなぁ
久保は原作通りの下衆野郎で終わるのか、それとも改心するのだろうか


137 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/19(水) 09:32:08 KollpW.E0
投下します。


138 : 伸ばした手はまた、虚空を掴む ◆2zEnKfaCDc :2019/06/19(水) 09:33:06 KollpW.E0
私はずっと、後悔し続けて生きてきた。

もう17年前の話になる。
親交の深かったユグノア王国が、魔物の集団の襲撃によって崩壊した。

当時の私は弱かった。
エレノア様が命と引き換えに私たちを逃がしてくださり、その際にまだ赤ん坊だった彼を任された。だというのに、私は魔物の集団から彼を守りきれなかった。

川に落ちた彼に手を伸ばすもその手は空を切り、彼は濁流に呑み込まれて消えていった。
私はロウ様に助けられて命は繋ぎ止めたけれど、彼を失ったショックは消えなかった。あの時ロウ様に助けられたのが私じゃなくて彼だったら──幾度となくそう思った。
しかしその後悔は、私が強くなる糧となってくれた。

そして16年もの旅路の末、何と私たちは生きていた彼と再会することが出来たのだ。

今度は彼の仲間として、彼の隣で戦う日々が続いた。
16年の修行で手に入れた力を彼のために駆使して、彼の役に立てていると自負していた。
この時のために王女という立場も捨てて厳しい修行に臨んで来たのだ。
16年の後悔も報われた……と、そう思っていた。


139 : 伸ばした手はまた、虚空を掴む ◆2zEnKfaCDc :2019/06/19(水) 09:33:56 KollpW.E0
しかし命の大樹に辿り着いた時、私たちはウルノーガの策略によって再び引き裂かれた。
彼は勇者の力を失い、私は魔物の手に堕ちてしまった。
私はまた、彼を守れなかったのだ。

ただし今度は、彼の方から私を助けに来てくれた。
その時、私は思い知った。私は彼を守る対象としか捉えていなかったことに。
しばらく見ない間にとても大きく見えるようになった彼を、いつしか私は「きみ」とは呼べなくなっていた。

私は安心していたのだ。
今度こそ彼と一緒に平和な世界を取り戻せるって。
強くなった彼の背中を見て、私はにっこりと微笑んでいた。

それでも結局、彼はいなくなってしまった。

ウルノーガを倒して、その中で 死んだベロニカの供養のために再び集まった私たちに提示された新たな冒険。
この世界を捨てて過去の世界に旅立つ──もしかしたらベロニカも助けられるかもしれない世界を求めて。

ただし、過去に戻れるのは彼だけだったのだ。

止めたかった。
行ってほしくなんてなかった。
だけど止められなかった。
手を伸ばしても取りこぼしてしまった命への後悔がどれほど胸を突き刺すのかを、私は知っているから。
結果的に彼が生きていて、私は16年間の後悔から解き放たれた。だけどあなたがベロニカを守れなかった後悔からは、この機会を逃せばもう解き放たれないのだ。

笑顔で見送ろう。
彼が後悔しないように、笑顔で。

『行ってらっしゃい』

彼の姿がとこしえの神殿から消えた瞬間、貼り付けていた笑顔は消えて、代わりに涙がどっと堰を切って流れ出してきた。


140 : 伸ばした手はまた、虚空を掴む ◆2zEnKfaCDc :2019/06/19(水) 09:34:44 KollpW.E0
今度は魔物の侵攻でも、魔王の攻撃でもなく、彼自身の意思で……私は彼を完全に失ってしまったのだ。

そうして彼が居なくなってから数ヶ月の月日が過ぎた。
ウルノーガが滅びてもなお世界には魔物が残っていたため、私は彼を除く仲間たちと共にその残党狩りを依頼されてきた。
それは魔王を倒した私たちにとって、手が余るほど軽い仕事だった。

そしてそんな簡単な魔物討伐から帰還する度に思うのだ。
『ああ、この世界に彼は本当に必要なくなったんだな』と。

勇者がいなくても平和が維持できる世界。
違う……私はこんな世界を作るために戦ってきたわけじゃない。どうしてあの時、彼を止められなかったの?

考えてしまった。
もしウルノーガをまだ倒せていなかったのなら、彼は過去に戻ることはなかっただろうと。
彼がいなくても私たちが大丈夫な世界だから、彼は過去に旅立ったのだろうと。

(あの時、あなたを失いたくないともっと強く言えていたら……私は大丈夫じゃないと伝えていたら……あなたは残ってくれていたの……?)

あ……。

これは、駄目だ。

また私は、後悔してしまった。
今度は二度と解き放たれない後悔を……。

それを感じてからは、自分の精神が次第に蝕まれていくのが分かり始めた。


141 : 伸ばした手はまた、虚空を掴む ◆2zEnKfaCDc :2019/06/19(水) 09:36:39 KollpW.E0
彼を守りたい。
彼の隣に居たい。
彼と共に戦いたい。
彼に逢いたい。

想いは止まることなく募っていく。
もし私が彼に恋していたのだったら、もっと話は簡単だったのかもしれない。
しかし人生のおおよそ3分の2を彼を守るために捧げた想いはそんな尺度では測れなかった。

『あなたの居ない世界なんて、私には救った意味も無いのよ……。』

魔物の残党の屍を放り棄てながらそう吐き捨てた。何かが狂い始めているのが自分でも分かった。

そのままに流れていく灰色の生活。
その果てに、彼女はこの世界に集められた。

参加者全員が集められた最初の会場。
誰もが困惑し、そして誰も絶望したであろうこの殺し合いの始まりの舞台。
そこで私は──彼の姿を見つけた。

群衆の遥か先に見えた彼。
後ろ姿だったけれど、見間違うなんて有り得ない。その姿を認めた瞬間、私は走り出した。

見知らぬ少年が見せしめに殺されようとも。
仲間が殺し合いに反抗しようとして殺されかけていようとも。
かつて倒したはずの宿敵が現れようとも。

私は……おそらく私だけは……そんな"ノイズ"など気にも留めずに走っていた。

群衆を掻き分け、何人かにぶつかりながらも、もう少しで背に触れられる……。
私は手を思い切り伸ばした。


142 : 伸ばした手はまた、虚空を掴む ◆2zEnKfaCDc :2019/06/19(水) 09:38:27 KollpW.E0
『 これでルール説明は終わり! じゃあみんな、頑張ってね』

しかし主催者の最後の一言を聞いた次の瞬間、私たちはそれぞれ別の場所に飛ばされていた。

伸ばした手は、彼に触れることは叶わなかった。

あの日のユグノアでの光景がフラッシュバックする。
もう一歩踏み込めていたら掴めていた彼の体と、彼を守れない無力な私。

気付けば私──マルティナは見たことの無い世界に独りで立っていた。

ここは殺し合いの世界。
彼がこんな催しに乗るとは思えないけれど、他の参加者は何を考えているか分からない。彼が易々と負けるとも思えないけれど、他の参加者がどれだけの力を持っているのかも分からない。

だったら私のすべきことはひとつだ。
もちろん第一に彼──イレブンを探す。そして……彼と合流するまで、出会った人間は全員殺す。誰かが彼に危害を加える可能性をことごとく排除して回る。
もちろん分かっている。それが許されないってことくらい。
それでも私は、もう後悔したくはないの。

私はすでに………あなたを3回失っているのだから。


【D-3/一日目 深夜】 
【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況] 
基本行動方針:イレブンと合流するまで他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間と出会った時は……どうしようかしら。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。

【支給品紹介】

【光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
本編ではミファーの形見となった槍。三又の形状をした名槍で、耐久力も高め。「祭事の槍」という模造品も存在する。


143 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/19(水) 09:39:03 KollpW.E0
投下終了しました。


144 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/19(水) 19:54:26 25ytzysY0
>>136
感想ありがとうございます!
美津雄君は原作でも派生作品でも救われないまま終わったので、自分としては改心してほしいですね……。

>>伸ばした手はまた、虚空を掴む
投下乙です!
マルティナマーダー化か……過ぎ去りし時に置いてかれた仲間の視点が詳細に描かれていて、マーダー化した理由も納得できました。
イレブンは勿論、ベロニカや他の仲間と出会った際の展開などが楽しみです。
理由は違えど狂っている、間違っていると自覚しつつ殺し合いに乗るという決断はセーニャと同じですね。


145 : ◆OmtW54r7Tc :2019/06/19(水) 21:18:45 WHt4JfYM0
ソリッド・スネーク、書き手枠で予約します


146 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/20(木) 00:00:07 8Gx6UhEo0
澤村遥、ウルボザ、カイムで予約します。


147 : ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:05:34 H.G4l6CI0
投下します


148 : ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:07:32 H.G4l6CI0
「殺し合い…か。やれやれ、今回は随分と物騒なミッションだ」

厳つい顔の男が溜息をつく。
彼、ソリッド・スネークはこの殺し合いの中でも冷静だった。
幾つもの死線を潜り抜けてきた彼に殺し合いに対する恐怖などない。
代わりにあるのは、胸に秘めた小さな怒り。

「…マナにウルノーガ、だったか。あいにく俺はあんたらの部下じゃないからな。好きにやらせてもらう」

上司だったとしてもお断りだけどな、と心中で毒づく。


―スネーク、俺達は政府や誰かの道具じゃない
―戦うことでしか自分を表現できなかったが、いつも自分の意志で戦ってきた。


それは、かつての友の言葉。
そうだ、俺はあんたらの道具になるつもりなどない。
俺は俺自身の為に、信じるもののために戦うだけだ。

「とりあえず、まずは所持品を確認するか」

デイバックを開き、地図や水などを取り出して一つ一つ検分する。
そして出てきたのは…紅白のボール。

「なんだこれは?」

見たところ、赤と白の間にあるまるい部分がボタンのようだった。
押して見たくなるが、しかし爆発物かもしれない。

(押すにしても、距離を取るべきだな)

スネークは、ボールを思いっきり投擲する。
数メートル先で地面に落ちたボールのボタンが押され、中から飛び出してきたのは…

「ポカ〜!」

…見たこともない生物だった。


149 : ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:08:49 H.G4l6CI0


「なんだこいつは?」

突然現れた生物に、スネークは忍び足で近づく。
見たことない生き物ではあるが、印象としてはオレンジの豚、という感じだった。
オレンジの豚——ポカブは、しばらく辺りをキョロキョロ見まわしていたが、

「ポカ〜!!ポカ〜!!ポカカ〜!!!」


突 然 、で か い 声 で 叫 び だ し た!


「なっ!おい、静かにしろ!」

スネークは慌ててポカブに接近する。
どこに敵が潜んでいるか分からない中で叫ばれては、たまったものじゃなかった。
ちょっとした物音を聞きつけた兵士に見つかって窮地に陥ったことが、これまで何度あったことか。

口を塞ごうと接近してきたスネークに、ポカブはビクっと一瞬身体を震わせる。
しかしその表情はすぐにスネークを睨みつけるものに変わり、

「ポカアアア!」
「なっ!?ぐほっ!」

体当たりをくらい、スネークは尻もちをつく。

「ポカァ!」
「待て、落ちつけ!…ぐはっ!」

尻もちをついたまま2発目の体当たりを食らうスネーク。
しかしポカブは相変わらず興奮した様子でこちらに3度目の体当たりを仕掛ける!

「なめるなよ!」

しかし、さすがに攻撃を見慣れたスネークは、立ち上がるとすぐさまその場を離れ回避する。
不意打ちで2度もくらったとはいえ、体当たりの軌道は単調なもので、避けるのは難しくはなかった。

「ポカッ!?」

攻撃を回避されたポカブは、そのまま前方の木へと激突。
目を回しながらその場に倒れた。

「よし!捕まえたぞ!」
「ポカッ!?ポカブ〜!」

スネークはポカブを両手でホールドする。
捕まったポカブは暴れるが、拘束から逃れることができない。
やがて口も塞がれ、森は再び静寂を取り戻す。

「ふう、やれやれだ」

スネークは安堵していた。
しかし彼は気づいていなかった。
ポカブに、変化が生じていることを。



ソリッド・スネーク。
伝説の兵士であるビッグ・ボスの遺伝子によって生み出された彼は、一部では伝説の英雄とも呼ばれる。
そんな彼との戦闘は、短時間とはいえポカブに成長を促した。


―ポカブはレベルが上がった!
―ポカブはひのこを覚えた!

「ブフォオ!」
「あちっ!」

口を塞いでいた手から熱さを感じ、スネークはポカブへの拘束を緩めてしまう。
その隙に、彼の腕から逃れるポカブ。


150 : ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:09:57 H.G4l6CI0
「こいつ、炎が吐けるのか…」
「グルルルル…」

しばし、にらみ合う両者。
お互い相手の次の出方をうかがっている。
そんな緊張感あふれる状況の中、


「おいおい、もうバトってんのか?血気盛んな奴らだ」


突然の第三者が、そんな空気を引き裂いた。
スネークもポカブも、声の主の方へ振り向く。

「なに…!?」

そこにいたのは、黄色い体毛に赤いほっぺ。
ギザギザ模様のしっぽに、ウサギのような耳。
見た目は可愛らしい謎の生物が…

「そっちはポカブか?…ん?首輪をしてない?もしかして俺と違って参加者じゃないのか?そっちのおっさんの支給品か?」

可愛らしさからはほど遠いおっさん声で喋っていた…!
オレンジ豚——ポカブも奇妙だったが、目の前の黄色い生物はそれ以上に怪しいと言わざるを得なかった。

「人語を話す黄色いウサギ…だと?お前は…何者だ?」

そんな奇妙な生物に、スネークは思わずそう聞いていた。
すると黄色いウサギみたいなやつは得意げな顔で喋り始める。

「オレか?オレの名はピカチュウ…」

持っていた”探偵帽”を頭にかぶると、そいつは続けて言った。

「名探偵ピカチュウだ」



「名探偵…ピカチュウ?」
「ああそうだ……ん?」

名探偵ピカチュウと名乗った生物は、スネークを驚きの目で見つめながら言った。

「お前…お前も、俺の言葉が分かるのか!?」


151 : ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:11:03 H.G4l6CI0


「ポカポカ、ポカブ〜」
「ふんふん、なるほどなあ」

ポカブが、ピカチュウを相手に話をする。
それをピカチュウは、相槌を打ちながら聞く。

「どうだ、何かわかったかピカチュウ」
「ああ、どうやらこいつはベルって子のパートナーポケモンで、その子からはポカポカと呼ばれているらしい」
「ポケモントレーナー、というやつか…」

スネークは、ピカチュウから彼やポカブの世界について簡単に説明を受けていた。
そこでは人間と彼らポケモンが共存しており、ポケモンを持つ者をポケモントレーナーというらしい。

「それでそのパートナーの名前を呼びながら叫んでいたら、顔の厳ついおっさんが迫って来て、ビビって襲ってしまったそうだ」
「悪かったな、恐い顔で」

スネークがポカブの方を見ると、ポカブはビクッとしながらピカチュウの後ろへと隠れてしまった。
どうやら嫌われてしまったようだ。

「しかしおっさん…ええと」
「スネークだ。ソリッド・スネーク」
「ああそうだったな。スネーク…あんた本当にポケモンを知らないのか?」
「ああ、初めて聞いたし、お前たちみたいな生き物に出会ったのも初めてだ」
「そうか…」

ピカチュウは腕組みをしながら考える。
彼の言葉を理解できるのは今まで相棒のティムだけだった。
しかし今、彼の目の前には二人目がいた。
ポケモンのポの字も知らない、おそらくは全くの別世界の人間がだ。

(まさか、この殺し合いの舞台では全員俺の言葉が分かるのか…?)

他の参加者に会ってみないことには確証はないが、そう思わずにいられなかった。
まあ、言葉が通じて別に不都合などないからいいのだが。

「まあいい。それよりスネーク、あんたはこれからどうするつもりなんだ?」
「とりあえず、最初の放送まではこの森の中に潜み、極力移動しないつもりだ」

スネークの行動方針、それは最初の6時間は動かないということだった。
理由は二つある。
一つは、闇夜の移動は危険を伴うため。
もう一つは、放送によってもたらされる情報…それによって動きを決めたいからだ。

「マナという女は死者の名を発表するからメモしろと言っていた。確証はないが…おそらく放送後、参加者の情報が解禁される可能性が高い」

参加者がどれだけいるのか。知り合いはいるのか
その中でどれだけの人数が最初の放送で呼ばれるか。
それによって、危険な人物がどの程度いるのかも推し量ることができる。
知人の有無や敵の勢力の推測が立てば、こちらの動きも決めやすい。


152 : ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:11:59 H.G4l6CI0
「言い分は分かるが…少し消極的じゃないか?」

スネークの話を聞いたピカチュウは、やや不服そうな表情だ。
ピカチュウは探偵だ。
そして探偵は足で稼ぐ仕事だと思っている。
いろんな人に聞き込みをし、現場や周辺の怪しいものを調べ。
とにかく動き回ってこその仕事だ。
そんな彼にとって、スネークの自分とは真逆とも言える行動方針は、性に合わなかった。
それに、犠牲が出ることを前提として話をしているのも気に入らなかった。

「ここは戦場だ。戦場では、自分の命を守ることが何よりも重要だ。そして慎重すぎるくらいがちょうどいい」
「…いや、すまねえ。戦闘のプロのあんたに、専門外のオレが偉そうなこと言えた立場じゃないのは分かってるんだ」

ピカチュウはポケモンではあるが、バトルはからっきしだ。
電撃も、電光石火も、まともにできない。
あるのはこの頭脳だけだ。

(だが…その頭脳も、この世界では通用するのか…?)

元の世界でピカチュウは、相棒のティムと共に様々な事件を解決してきた。
ポケモンが暴れだす危険な事件はあったが…殺人事件のようなものに直接関わったことはなかった。
ティムの父ハリーと相棒だったころには関わりがあったかもしれないが、記憶喪失の彼にはその頃の記憶はない。
しかしここは力こそが正義の殺し合いの舞台。
どうあがいても、殺人は起きるだろう。
そんな世界で、果たして自分の頭脳は力を発揮することはできるのか。

(はは…ティム、お前がそばにいないからかな。柄にもなく不安になっちまってる)

この場にいるのかどうかも分からない相棒の姿を思い浮かべる。
離れてみて、ティムが自分にとって最高の相棒だということを改めて実感していた。

(…なんて、いつまでも弱気のままじゃあいつに笑われちまうよな)

少しセンチメンタルになってしまった自分を恥じつつ、ピカチュウは赤いほっぺをペチペチと叩いて気合を入れ直した。


153 : ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:13:20 H.G4l6CI0


「それじゃあ、俺は市街地の方へ向かうぜ。探偵は足で稼ぐものだからな」
「待て」

一人で行こうとするピカチュウを、スネークが呼び止める。

「こいつ…ポカブも連れて言ってやってくれ。言葉が通じるお前といた方が都合がいいだろうし…俺は嫌われてるみたいだからな」
「ポカ!」
「オレは構わないが…あんたはいいのか?」
「俺は一人でもなんとかなる。単独の潜入捜査には慣れているしな」
「おう、分かった。それじゃあこいつは連れてくぜ。ほら、こっち来いよ」

ピカチュウがポカブを呼ぶ。
しかしポカブは一瞬ピカチュウの方へ向かいかけたかと思うと、足を止めてスネークのいる方へと向き直った。

「どうかしたのか?」
「ポカ!ポカ!ポカ!」

ポカブはスネークに向けて何か言ったかと思うと、再びピカチュウの方へと向かった。

「なんて言ったんだピカチュウ?」
「『襲い掛かってごめんなさい。鍛えてくれてありがとう』とのことだ」
「…生意気な豚だと思ってたが、意外と可愛げがあるじゃないか」

ピカチュウすら置いて去っていく後ろ姿を見ながら、スネークはニッと笑った。

「っておい!俺を置いてくな!じゃあなスネーク!」

慌ててポカブを追いかけていったピカチュウも姿が見えなくなったのを確認すると、スネークもまた身を隠すのにちょうどいい場所を探してその場を去った。

「あ、ていうかスネーク!あんた俺のことウサギとか言ってたが、分類上俺はネズミだ!!」

遠くから、そんなどうでもいい情報が聞こえてきた。
…ポカブといいこいつといい、頼むから静かにしてくれ。


154 : ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:14:01 H.G4l6CI0
【C-6 森/一日目 深夜】
【ソリッド・スネーク@ METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:手に軽い火傷
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
1.放送までは極力動かない。

【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ポカブ)@ポケモンBW、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.市街地の方へ向かい情報収集。
2.ティムやポカブのパートナーを探す。



【モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
スネークに支給されたポカブが入ったモンスターボール。
イッシュ地方で新米トレーナーに渡される3匹の内の1匹。
パートナーはベル。ニックネームはポカポカ。
覚えている技はたいあたり、しっぽをふる、ひのこ。
ただし弱い分伸びしろがあるため新しい技を覚えてこれらの技を忘れる可能性もあり。


155 : ◆OmtW54r7Tc :2019/06/20(木) 07:14:39 H.G4l6CI0
投下終了です


156 : 名無しさん :2019/06/20(木) 07:33:37 8qMvkmqw0
投下乙です!
スネークと、そして名探偵ピカチュウというかなり渋い二人(?)ですね!
ピカチュウはこの場を落ち着かせてくれましたけど、確かにスネークはあの顔だからポカブに怖がられそう……


157 : 名無しさん :2019/06/20(木) 08:09:03 SeOCSXIg0
名探偵ピカチュウがゲームキャラ…?


158 : 名無しさん :2019/06/20(木) 10:05:35 gJfRjZ/s0
名探偵ピカチュウは元々ゲームですよ


159 : ◆RTn9vPakQY :2019/06/20(木) 16:11:29 SP1oJ6zk0
はじめまして、楽しく読んでおります。
天城雪子、如月千早で予約させて頂きます。


160 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/20(木) 20:08:27 8Gx6UhEo0
投下乙です!
まさかの書き手枠ピカチュウとは……意外でした。
ベルのポカブが出てきたのは少し感動しましたね! ピカチュウが一緒なら心強いです。
ポケモンと会話ができ、人間とも会話ができる彼が今後どう動くか想像が膨らみますね。
同じく会話ができるNと出会ったらどうなるか、とか考えてしまいます。


161 : 名無しさん :2019/06/20(木) 22:35:14 Nd1MAxrI0
>>157
無知乙


162 : ◆czaE8Nntlw :2019/06/22(土) 04:42:03 vLbTQpCc0
真島吾朗、書き手枠1つ予約します。


163 : ◆vV5.jnbCYw :2019/06/23(日) 00:13:45 X3hY7sFE0
ゲリラ投下しますね。


164 : 破滅を望む者 ◆vV5.jnbCYw :2019/06/23(日) 00:14:14 X3hY7sFE0
「イウヴァルトね、久しぶり。元気してた?」
「お前は………!!」

これは、バトルロワイヤルが始まり、参加者全員がステージに飛ばされる少し前の話。



イウヴァルトは、話しかけてきた少女を見つめていた。

こいつのことはよく覚えている。
あの日、帝国軍の牢獄で確かに目にした少女だ。
俺に新たな力を持ちかけ、カイムを襲わせた少女。

しかし、どうにも理解できないことがある。

マナは幼馴染のカイムに敗れた。

直接見たわけではないが、巨大化したマナの、少女とも思えない悲鳴が、空中要塞上で響き渡ったから確かなことだろう。

死んだかどうかは定かではないが、最低でも力は失っただろう。


最も俺はフリアエを生き返らせる希望さえ絶たれて、崩れ行く空中要塞の中でフリアエの後を追うのだとばかり思っていた。

それがどうしたことだ。

自分も、マナも生きている。

「まあ、あなたには理解できないことが沢山あるでしょう。」
あの時と同じ、少女らしく純粋な、そして残酷な笑みを浮かべて、話しかける。

「ああ、その通りだ。一体ここはどこなんだ!?なぜおまえがここにいるんだ!!」
「えーと、それはね、教えてあげない。
私が教えてあげるのは、この戦いに生き残れたら、あなたのだーい好きな人を生き返らせてあげることだけよ。」

あの真っ赤な、吸い込まれそうな瞳。
見つめられるだけで、気が狂いそうだ。
いや、もう実際に、全てが狂っているのかもしれないが。

「あなたの道具は特別にサービスしてあげるわ。だから殺しなさい。すべての参加者を。」

「あまり参加者に干渉するな、マナ。」
今度はもう一人の主催者のウルノーガがマナを止める。

「はーい。でもいいでしょ?折角私の知り合いなんだし。」
「まあいい。下僕を放り込んだのは、貴様だけではないしな……。」

主催者同士の会話が終わるよりも前に、イウヴァルトは闇に消えていった。
その眼に、赤い光を加えたまま。


165 : 破滅を望む者 ◆vV5.jnbCYw :2019/06/23(日) 00:14:48 X3hY7sFE0

次にイウヴァルトの前に現れたのは、懐かしい光景だった。
あの時、帝国軍に襲われて、カイムやフリアエと共にここから逃げ出した。

(言われずとも、やってやるさ。)
一度ならず二度までも、あの少女の傀儡として生きるのは癪な話だ。

だが、少女が言っていたこと。
自分が勝ち残れば、大好きな人、フリアエを生き返らせてもらえる。

彼女の命の為なら、100人の死をも受け入れよう。
それにこの戦いは、あのカイムも参加している。

イウヴァルトの婚約者、フリアエの兄にして、自分がどう足掻いても届かなかった相手。
奴は竜と契約したのにも関わらず、マナの力を借りた自分を蔑んだ目で見てきた。
挙句の果てに、フリアエが死んだ後も、生き返らせようとすることを拒んだ。

(殺すしかないなら、殺すだけだろう。邪魔な奴も殺せて、一石二鳥さ。)

マナが道具はサービスすると言っていたから、不利な状況ではない。
だが、それを踏まえても、自分一人70人近くを葬れる可能性は低い。

再び自分が結局勝てなかった男、カイムの顔が思い浮かぶ。
紅い竜の背に乗ったあいつは、自分を止めることよりも、殺すことを目的とした表情だった。

あの顔を思い出すと、復讐心も芽生えるが、恐怖も感じてしまう。
カイム以外にも高い戦闘力を持った参加者はいる可能性は高いし、契約相手の黒き竜もいない今、賭けが成功する可能性は低い。

だから。

この戦いの参加者同士を殺し合わせよう。
カイムを中心とする強者を悪役に仕立て、正義面した気持ちの悪い人間に殺してもらうのだ。
仕方がないだろう。
誰だって、好きな人が死んだら、畜生道を歩むことになっても、生き返らせることを求めるはずだ。

瞳の紅い光が、さらに強くなった。

マナが操る、帝国軍の兵士と同じ、慈愛をなくした者の目だった。

【A-6 女神の城中庭/一日目 深夜】
【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個、主催者によって優遇されている)
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイムを殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。


166 : 破滅を望む者 ◆vV5.jnbCYw :2019/06/23(日) 00:15:23 X3hY7sFE0
投下終了です。予約なしでの投下なので、何かありましたらご意見を。


167 : 破滅を望む者 ◆vV5.jnbCYw :2019/06/23(日) 15:41:17 X3hY7sFE0
申し訳ありません。イウヴァルトの参戦時期は、Aエンド後です。


168 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/23(日) 20:07:46 sx4dzFjM0
セーニャ、ルッカ、ロボ予約します


169 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:45:10 SNbr5GGg0
投下乙です!
イウヴァルト……ジョーカー的な立ち位置ですね。
自分の実力に過信せず慎重にゲームを進めようとする姿勢は中々厄介そうです。
そして本編でも抱いていたカイムへの劣等感が鮮明に描写されていて魅入りました。
彼がどのように動くのか楽しみです。

そしてこちらも投下します。


170 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:46:01 SNbr5GGg0

目の前でフリアエが自害した時、心の底からやり直したいと願った。
彼女が自分を求めていたと知り、目を逸らしてしまったから彼女は死を選んだのだ。

拒絶したわけではない。
突然曝け出された彼女の気持ちは戸惑いこそあれど、嬉しかった。
そんな自分の感情に気がついたのは妹が己の胸に刃を突き立ててからのことだ。
無意識に、フリアエはそんなに汚い人間ではないと否定するために目を逸らしてしまったのだ。


『私を……見ないで……』


否定したかった。例え間に合わなくても最期のその瞬間に真実を伝えたかった。
だが出来ない。赤き竜との契約により舌に刻まれた呪いが言葉を発することを許さない。
フリアエが目の前で死んで悔しかったのに、悲しかったのに、叫びたかったのに。枯れた喉から出るのは空気だけだった。

フリアエを殺すように仕向けたマナが憎かった。殺したかった。
世界の終わりだとか、卵が生まれるだとか、そんな危惧は既になく気がつけば剣を振り上げていた。
それでもマナは余裕の笑みを崩さず真っ赤な瞳でこちらを見ていた。

『天使は、笑う?』

そうして振り下ろした剣は虚しく宙を斬り、意識が白濁に呑み込まれた。





171 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:46:46 SNbr5GGg0


マナのルール説明を終え、カイムは海崖に飛ばされていた。
灯台の灯りだけが頼りの薄暗い景色の中、カイムの胸にはとめどない激情が溢れていた。
あと一歩でマナを殺せたはずなのに。あろうことかそのマナがあまりにも突然に殺し合いを開催したのだ。
反抗しようにも首輪のせいで生殺与奪が決定されている状態。あの会場でカイムはマナに近い場所にいながらも自分の命を優先して逆らうことが出来なかった。

マナに対して、そして自分に対して巡る怒りに歯を食いしばる。
世界の破滅などどうでもいいとさえ思えるくらいに今のカイムは冷静ではなかった。
こうしている間にも卵は生まれようとし、世界は滅びようとしているのだろう。
そしてそれを止められる存在はカイムと契約相手であるレッドドラゴンだけだ。辛うじて残されたカイムの理性が結論を急ぐ。

マナの元へ向かう手段が優勝だけだというのならそれに従おう。
あの女のことだ、願いをかなえるというのも虚言なのかもしれない。それが嘘ならばそれでもいい。
死者は蘇らない。いや、蘇ったとしてもそれは人の形をした怪物だ。数多の死霊兵を薙ぎ倒してきたカイムはそれを知っていた。
カイムの目的は元よりマナの殺害と、それを邪魔する者達の殺戮のみだ。

優勝せずともこの殺し合いを打破できるなどという甘い考えは持ち合わせていない。
それに会話の出来ない自分では他者と協力することなど不可能だ。己の声となるレッドドラゴンがいない今、カイムの行動は大きく制約されている。


月光を返す波を見つめながらカイムはデイパックから武器を取り出す。
基本支給品に埋もれた柄を掴み、ずるりと引き抜く。しかしいくら引いても切っ先が見えてこない。
疑問に思いながらも抜き続け、ようやく終わりが見えたその頃にはカイムの腕は伸び切りその常識外な重量に顔を歪めていた。

その刀の名は正宗。
最強のソルジャーであるセフィロスの愛刀であり、その刀身は二メートルを優に越える。
契約者として超人の肉体を手に入れたカイムをもってしても完全には扱いきれないそれは、常人ならば持つことさえ出来ないだろう。
一体誰が、どんな用途で使うのか。そんな疑問を抱きながらもカイムは正宗を両手で持ち、何度か振るう。
武器が武器ゆえに力任せになってしまうがその威力は強大で、ただの素振りで草がざわめき木々が揺れた。

少々取り回しに苦労するが問題ではない。むしろ当たりの部類だ。
見たところランダム支給品はこれだけのようでカイムはデイパックを背負い直す。
そうしてカイムの足は灯台の方へと向かっていった。この灯りだ、誰かがいても不思議ではない。そんなカイムの予想は当たっていた。


172 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:47:09 SNbr5GGg0


子供だ。幼い女の子が灯台に寄りかかり空を眺めている。
その姿はあまりにも無防備でとても殺し合いという状況を理解しているとは思えなかった。
カイムは一瞬息を呑み駆け出す。彼が子供の目の前まで迫るのに数秒の時間も要さなかった。
当の子供は視線を空からカイムへ移し驚いたように瞠目している。無力な子供に抵抗は許されない。

抵抗がなかったと言えば嘘になる。
カイムがこれまで殺してきた相手は帝国兵だったりモンスターだったりと力を有する者だった。
そしてそんな奴らを圧倒的な力で殺戮することに快感を見出していたカイムは、今まで女子供を見殺しにすることはあれど自分の手で殺したことはない。
カイムは殺戮嗜好の持ち主ではあるが、自分に害のない者を殺すほど無差別ではなかった。

しかし先程自分が決めた信念を捻じ曲げるのは許されない。
正宗を振り上げる。風切り音と共に天を指す切っ先が月光を帯びた。
それは断頭台のように明確な死刑宣告。それを受けた子供は一体どんな表情をしているのだろうか。
怯えているのか、泣いているのか。異常と知りながら好奇心に駆られたカイムの視線は、子供の視線と重なった。


「あなたは、私を殺すの?」


だがその顔は予想していたものと違った。

息を呑む。刀を持つ手が拒絶するように震える。
死を目前としているのにその子供はまるで何かを悟ったかのように目を細めていた。
マナのものとは違う目。しかしマナのものよりも感情が感じられない無機質な瞳だ。
まだ十歳にもなっていないような子供がしていい目ではない。カイムの意思は動揺と緊迫により早くも曲がりかけていた。

「しかたないよ。皆生きたいから。……そのためには、殺さないといけないんでしょ?」

いたいけな声に反して出てくる言葉はどんな大人よりも淡白だった。
それがよりカイムを追い詰める。殺しを肯定、許容されるなど初めての経験だったからだ。
カイムの気も知らず子供の方は受け入れるように目を閉じている。
長い逡巡の末、カイムは雄叫びを上げるかのように口を大きく開き正宗を振り下ろした。


「――はぁッ!」

刹那、一筋の落雷が瞬いた。




173 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:47:38 SNbr5GGg0

澤村遥が刀を振り上げる男に対して抱いた感情は「かわいそう」というものだった。
なにかに囚われたように自分を殺そうとするその姿は今まで見てきたギャングやヤクザのものとは異なる人種だった。
桐生一馬、真島吾朗、風間新太郎、嶋野太、そのどれもが当てはまらない。
ただ一つ当てはまるとしたら自分の父親である神宮京平。怒りや恨みといった感情の中に垣間見えるほんの少しの弱さがまさしくそれだ。
だからこそ、神宮という人を外れた外道に似てしまった彼が「かわいそう」だった。

「しかたないよ。皆生きたいから。……そのためには、殺さないといけないんでしょ?」

そう言って目を閉じる。
このゲームのルールは優勝者しか生き残れない。
ならばこの男は生き残るために自分を殺すのだろう。それはいわば当然の結果で、無力な自分ではその結果を変えることはできないと遥は悟っていた。

ぶん、と耳を叩く風切り音。
いよいよ殺されるのか。遥の脳裏に浮かぶのは幾度の危機から自分を救ってくれた桐生一馬の顔。
せっかく救ってくれたのに報えない彼への申し訳ない気持ちと、ほんの少しの生きたいという欲望が遥の中で渦巻いた。


「――はぁッ!」

そして、幸運が訪れる。

遥の目の前、剣を振り上げるカイムに落雷が降り注いだ。
避雷針となる灯台を無視してカイム目掛けて飛び込むそれは通常の雷とは一線を越している。
予期せぬ攻撃にカイムは苦悶の顔を浮かべ痙攣し、正宗を地に落とし膝をついた。


174 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:48:02 SNbr5GGg0

「え……っ!?」

喫驚し事態を飲み込めていない遥の元に人影が迫る。
それはあっという間に遥を抱きかかえその場から離脱した。
ぼやけた視界の中、カイムは標的を連れ去る来訪者の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。

そうして膝をついたまま時が流れる。
一体どれほど時間が経ったのだろうか。カイムはようやく立ち上がり正宗を拾い上げる。

正直に言えば安心していた。
子供を殺すという行為は初めてだったから、それをすることで自分の中の何かが変わってしまうのではないかと危惧していたのだ。
殲滅戦を好み、殺戮に快感を覚える自分が異常だということは知っている。しかしそれは結果的に世界を救う過程の延長線に過ぎない。

もし、自分の世界を救うためとは言え子供を殺してしまったら。
そしてその行為に快感を見出してしまったら。
その時はいよいよ人の道から外れてしまうだろう。カイムはそれを酷く恐れていた。

あんな子供、自分が手を下すまでもなく他の参加者に殺されるだろう。
だとしたらわざわざ手を汚す必要はない。じわじわと己の中に巣食う恐怖をそんな言い訳で捻じ伏せた。
それよりも問題視すべきは先程の雷だ。雨雲もない中で自分を狙って降り注いだあれは明らかに自然現象ではない。
もしや魔法だろうか。だとしてもあれほど強力な魔法は契約者の力としか考えられない。

無力な子供もいれば契約者に匹敵する力を持つ者も参加している。
どのような基準で集められたのか。そこまで思考するほどカイムも暇ではない。
彼の目的は至ってシンプル、優勝のみなのだから。無駄な考えは一切切り捨て衝動のままに敵を殺す。
しかし赤い竜がいない今自分の力では勝てない存在もいるかもしれない。そんな状況に陥らないよう、相手の実力はしっかりと見定める。

いわば弱者を狙った殲滅戦。今まで通りだ、やることは変わらない。
正宗を握る手に力が込められる。長大な刀身を天に掲げ、カイムは己の意志をを固めた。


【F-1 灯台付近/一日目 深夜】
【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(小)、僅かな痺れ
[装備]:正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する。
2.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
3.子供は殺したくない。

※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。





175 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:48:45 SNbr5GGg0



「ここまで来れば大丈夫そうだね」

舗装された道を避け、木々の中に身を隠す遥とそれを抱える長身の女性。
何が何だかわからないままに連れてこられた遥は目を丸くし未だ状況を理解できていなかった。

「あ、の……」
「ん? ああ、脅かして悪かったね。私はウルボザ、あんたを助けに来た」

そう言って女性、ウルボザはにやりと笑ってみせた。
優しく地面に降ろされながら遥は「かっこいい」と年相応の感情を抱く。
ウルボザは遥の目から見ても戦士と呼ぶに相応しい容姿だった。鍛え上げられた無駄のない筋肉と身に帯びる威風は桐生一馬と似たものを感じる。

「遥。……澤村遥」
「へぇ、珍しい名前だね。見たところハイリア人ってわけでもなさそうだし……ハイラルの外の人間かい?」
「ハイリア? ハイラル? ええと……」
「ああ、悪い。馴染みのない言葉だったかい?」

聞いたことのない言葉を次々と連ねるウルボザに遥は疑問を覚えた。
確かにウルボザは日本人とは思えない風貌だし文化が違うのも当然といえば当然だ。
しかしそれにしても何かがおかしい。ファンタジーじみた格好も、先程の雷も、まるで別世界の人間のように感じられた。

「……聞いたことない。ハイラル、って国の名前?」
「ああ。ハイラル王国……遥か昔から厄災に見舞われ、その都度退魔の剣を持つ剣士と聖なる力を持った姫が魔王ガノンを封印してきた国さ。外の世界は平和だから、こういう話は無縁なのかもしれないけどね」
「……なんだかおとぎ話みたい。それ、本当のことなの?」
「本当さ。ま、知らないなら知らないで構わないさ」

ウルボザが話す内容はやはり非現実的だ。
しかしそれを一概に嘘と切り捨てるほど遥の器量は狭くないし、ウルボザが嘘をつくような人間には見えない。
遥はその言葉を信じ、世界のどこかにそういう国があるのかもしれないと自分を納得させた。


176 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:49:10 SNbr5GGg0

「それより遥。あんたに聞きたいことがあるんだけど、大丈夫かい?」
「え? う、うん」

不意に投げられるウルボザの問い。そして視線。
一体なんだろうかと遥が顔を上げればウルボザの瞳が鋭く細められていた。

「あんた、なんで死のうとしてたんだい?」

短い言葉に込められた威圧のようなものに遥の心臓が跳ねる。
見透かされていたのだろうか。遥は唇を震わせぽつぽつと言葉を紡いだ。

「人を殺さなきゃ生き残れないんでしょ? だから、あの人も生きたいのかなって……」
「で、自分の命をくれてやろうって?」
「だって……人に死んでほしくないもん」

遥自身それが反論になっていないことを知っている。
だが桐生一馬に、人が死んだら悲しいということを教わった。風間新太郎が死んだ時に桐生が涙を流したように、どんな人間にも死を悲しむ存在はいるのだ。
たとえそれがあの神宮でも。実の父親が死んだ時、遥の心の中で大きな動揺があったから。
あの襲撃者もそうなのだろう。そう考えると遥は自分の命の価値がひどく低いものに感じてしまっていた。

「あのね、遥。死ぬってのはあんたが思ってる以上に辛いことなんだよ」
「え?」

激昂が飛ぶと思っていたばかりにウルボザの落ち着いた声色に戸惑う。
なにかを思い返すように月を見上げるウルボザの横顔はとても哀しげで、同時に美しかった。


177 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:49:37 SNbr5GGg0

「死んだらなにも出来ないんだ。戦うことも、伝えることも。ただ見守ることしか出来ない。……私はそれが悔しくて、悲しくて、納得いかなかった。友が一生懸命戦って、ハイラルが危機に見舞われてるってのに私はなにも出来なかったからね」
「……ウルボザさん、それって……」
「ああ、私は既に死んでる」

彼女の口振りに違和感を感じた遥の言葉をウルボザ自身が遮る。
遥は大きく目を見開き、一歩後ずさった。ウルボザは嘘をつくような人間ではないと判断した直後ゆえにそれが冗談だとは思えなかった。
だとしたらウルボザは亡霊の類なのか。遥の恐怖心はしかしウルボザが否定する。

「けど、どうやら肉体を取り戻したらしい。これもあの主催者の力なのか分からないが、折角ハイラルが平和になって成仏できるって時にこれだ。……まったく、悪趣味な野郎だよ」
「そうなんだ……えっと、じゃあウルボザさんは生きてるの?」
「今はね。けど一度死んだ身、いまさら生き返りたいなんて思ってないさ」

ウルボザの言葉の節々から確かな怒りが感じられる。
死者を冒涜するような行為を平然と行う主催者の外道ぶりは温厚なウルボザを怒髪天に導くには十分すぎた。
そして殺し合いという悪趣味なゲームに遥という小さな子供まで放り込んだこと。もはや救いなど無い、生き返らせたことを後悔させてやる。
腰元に提げた片手剣に手を掛けるウルボザの目は怒りに燃えていた。

「遥。夜中に動くのは危険だからあんたを休めそうな場所まで連れて行く。いいね?」
「うん。……ウルボザさんはどうするの?」
「なに、着いたらちょっと周囲を探索するだけさ。もしかしたら遥みたいに助けを求めてる奴だっているかもしれないからね」
「なら私も……」

ダメだ。言い切る前にウルボザに否定された。

「あんたはまだ子供だ。いいかい? 安全な場所まで行ったらそこから出るんじゃないよ。さっきの奴みたいに血の気が多い奴がいないとも限らない」
「でも、私もウルボザさんの役に立ちたいよ……」
「あんたが死なないこと。それだけで私には十分さ」

子供という立場ゆえに遥はウルボザに反抗できない。
英傑としてゼルダを守り続けたウルボザは、桐生よりも遥という無力な存在を扱うのに慣れていた。

「もしかしたら私の仲間も連れてこられているかもしれない。多分遥、あんたもそうだ。だから朝になったら出来るだけ人の多い場所に行くよ」
「仲間……? それって、おじさんも?」
「遥の言うおじさんってのが誰だかは分からないけど、可能性はゼロとは言い切れない。……そのおじさんってのは、あんたの大切な人なのかい?」

初めて遥が示したおじさんという人物にウルボザは興味が湧いた。
遥は年齢にしては肝が据わっており他人にたやすく心を開きはしないということは短いやり取りでわかった。そんな彼女が一番に気にかけたのだからよほど信頼しているのだろう。
そして予想通り遥は一瞬視線を伏せたかと思えば控えめに頷いてみせた。

「だったらその人も探さなきゃね。……行くよ、遥」
「……うん」

歩き出すウルボザの後を遥が追う。
遥の歩幅に合わせているためかウルボザの歩みは普段よりも幾分か遅い。
追いついた遥は隣歩くウルボザの姿に既視感を抱いた。やはりウルボザは桐生と似ている。
そして桐生にしているように遥はウルボザの右手へ左手を伸ばし繋ごうとして――やめた。


178 : Abide ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:50:05 SNbr5GGg0

【ウルボザ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康
[装備]:ロアルドスクロウ@MONSTER HUNTER X
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:この身を捨ててでも殺し合いを止める。
1.遥を守りながら休めそうな場所に向かい、朝になったら人の多い場所へ向かう。
2.刀を持った男(カイム)には注意する。
3.他の英傑達もここに?

※リンクが厄災ガノンを討伐した後からの参戦です。
※ウルボザの怒りに制限が掛かっており、再使用まで一分間のクールタイムが必要です。

【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針: 自分の命の価値を見つける。
1.ウルボザについていく。
2.おじさん達もここにいるのかな?

※本編終了後からの参戦です。


【ロアルドスクロウ@MONSTER HUNTER X】
ウルボザに支給された水属性の片手剣。
水獣ロアルドロスの素材で作られており、 一振りごとに水しぶきを上げる姿に敵は心奪われると言う。
その性能は水属性片手剣の中では最高峰と言っても過言ではなく、高い攻撃力と水属性値を誇っている。


179 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 20:50:31 SNbr5GGg0
投下終了です。


180 : 名無しさん :2019/06/23(日) 21:01:02 REGm/iFU0
投下乙です
知ってる作品がないので感想はちょっと控えさせてもらいますが、気になる点が一つ
オープニングの一件で桐生さんはほとんどの参加者から視認されてるんじゃないですかね?


181 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 21:03:32 SNbr5GGg0
すみません。ウルボザ達の状態表の部分に座標等を記載し忘れました。
こちらに訂正お願いします。

【F-1 F-2付近/一日目 深夜】
【ウルボザ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康
[装備]:ロアルドスクロウ@MONSTER HUNTER X
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:この身を捨ててでも殺し合いを止める。
1.遥を守りながら休めそうな場所に向かい、朝になったら人の多い場所へ向かう。
2.刀を持った男(カイム)には注意する。
3.他の英傑達もここに?

※リンクが厄災ガノンを討伐した後からの参戦です。
※ウルボザの怒りに制限が掛かっており、再使用まで一分間のクールタイムが必要です。

【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針: 自分の命の価値を見つける。
1.ウルボザについていく。
2.おじさん達もここにいるのかな?

※本編終了後からの参戦です。


【ロアルドスクロウ@MONSTER HUNTER X】
ウルボザに支給された水属性の片手剣。
水獣ロアルドロスの素材で作られており、 一振りごとに水しぶきを上げる姿に敵は心奪われると言う。
その性能は水属性片手剣の中では最高峰と言っても過言ではなく、高い攻撃力と水属性値を誇っている。


182 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/23(日) 21:10:38 SNbr5GGg0
>>180
感想ありがとうございます!
そういえばそうでしたね……自分で書いたものでありながら忘れてしまっていました。
訂正したものをこちらに投げます。



「もしかしたら私の仲間も連れてこられているかもしれない。多分遥、あんたもそうだ。だから朝になったら出来るだけ人の多い場所に行くよ」
「……おじさん」
「おじさん? それがあんたの仲間なのかい?」
「仲間、というか……ええと、なんて言えばいいんだろう」

遥は会場の中でも後ろの方にいたため、身長のせいもあり桐生の姿を見ることは出来なかった。
しかしあの時かすかに聞こえた声は確かに桐生のものだった。気のせいだと思っていたが、ウルボザの言葉を聞いて確信に変わった。

「遥の言うおじさんってのが誰だかは分からないけど、あんたはその人を信頼してるんだね」

初めて遥が示したおじさんという人物にウルボザは興味が湧いた。
遥は年齢にしては肝が据わっており他人にたやすく心を開きはしないということは短いやり取りでわかった。そんな彼女が一番に気にかけたのだからよほど信頼しているのだろう。
そして予想通り遥は一瞬視線を伏せたかと思えば控えめに頷いてみせた。

「だったらその人も探さなきゃね。……行くよ、遥」
「……うん」

歩き出すウルボザの後を遥が追う。
遥の歩幅に合わせているためかウルボザの歩みは普段よりも幾分か遅い。
追いついた遥は隣歩くウルボザの姿に既視感を抱いた。やはりウルボザは桐生と似ている。
そして桐生にしているように遥はウルボザの右手へ左手を伸ばし繋ごうとして――やめた。


【F-1 F-2付近/一日目 深夜】
【ウルボザ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康
[装備]:ロアルドスクロウ@MONSTER HUNTER X
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:この身を捨ててでも殺し合いを止める。
1.遥を守りながら休めそうな場所に向かい、朝になったら人の多い場所へ向かう。
2.刀を持った男(カイム)には注意する。
3.他の英傑達もここに?

※リンクが厄災ガノンを討伐した後からの参戦です。
※ウルボザの怒りに制限が掛かっており、再使用まで一分間のクールタイムが必要です。

【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針: 自分の命の価値を見つける。
1.ウルボザについていく。
2.おじさんと会いたい。

※本編終了後からの参戦です。


【ロアルドスクロウ@MONSTER HUNTER X】
ウルボザに支給された水属性の片手剣。
水獣ロアルドロスの素材で作られており、 一振りごとに水しぶきを上げる姿に敵は心奪われると言う。
その性能は水属性片手剣の中では最高峰と言っても過言ではなく、高い攻撃力と水属性値を誇っている。


183 : ◆vV5.jnbCYw :2019/06/23(日) 21:21:01 X3hY7sFE0
投下乙です!!
リンク2B雪歩の時といい、ファンタジー世界が舞台のゲームと日本が舞台のゲームのキャラのやり取りはイイ!!
カイムはセエレの時と同じで、殺人狂に見えて子供には弱いようだけど、どうなるやら……


184 : ◆kslSBnejmg :2019/06/24(月) 16:11:22 PhMb9GHw0
すいません、完成させられなかったので予約を破棄します


185 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:49:11 P5AMfzIc0
投下します。


186 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:50:34 P5AMfzIc0
ルッカは見知らぬ建物の中に送られていた。
どうやらここは病院のようだ。
回復魔法が使えるマールやカエルがいたため、冒険の途中でお世話になったことは1度もない。

『──本当に残念なのですが……奥さまの足はもう、治らないでしょう。』

10年前、父のタバンとお医者さんが話しているのをルッカは聞いた。
ルッカにとって病院とは、自分が発明家を志したキッカケとなった悲しい過去を思い出すだけの場所であったのだ。

だけど殺し合いを命じられた今、場所の選り好みをしている場合ではない。

外から自分の居場所を特定されないように電気を付けないまま、自分に配られた支給品の確認から行っていく。

「……へえ、なかなかオシャレなローブじゃないの。」

最初に取り出したのは水属性の守りに包まれた羽衣。とりあえず着ていた普段着から着替える。

「……武器とか、ないわけ?」

支給された装備品は、【水の羽衣】のみであった。
本当にあの主催者たちは殺し合いをさせる気があるのだろうか。
武器があったところで積極的に殺し回るつもりなどさらさらないのだが、武力抑制の手段くらいは持っておきたいところである。


187 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:51:07 P5AMfzIc0
それはそれとして、ルッカ特製の工具箱が奪われたことの方が痛手である。
遠隔操作で起爆する首輪を解析したり、故障したロボットを修理したり……
そういったサイエンスという武器が概ね封じられてしまったのはルッカのプライドにも関わる問題だ。

とりあえずここはフロアマップによると3階建てであるらしい病院。
何か使える道具は無いか1階から順に散策していく。

その際、ルッカは明らかな違和感に気付いた。

(薬の類が見当たらない…?)

ここが本当に病院であるなら、エリクサーぐらいはあっていいものだろうに。
主催者が抜き取ったのだろうか。

ただし、ルッカの目的は薬ではないため問題は無い。

例えば、メスやドリルなどの医療用具。
殺し合いの武器として使うには不完全極まりない業物であるためかそれらは撤去されずに残っている。

しかしそういった小道具も、工具箱を失ったルッカにとっては十分な「作業道具の代用品」になりうる。



「あれは………!」

1階と2階のアイテム回収をあらかた終え、3階に登ったその時、ルッカは遠くに2つの光の点を見た。


188 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:52:19 P5AMfzIc0
それはルッカの良く知る光だった。
だけど嘘だ。そんなはずがない。
"彼"とはもう二度と会えないはず……。

それでも迷わずその光の元へ向かっていく。その光の主は逃げることなくルッカの前に現れた。

「ロボ!!!」

"彼"の名前を呼ぶ。
ゲートホルダーでラヴォスによって崩壊した未来に飛んだ時に出会った壊れかけのロボット、それが彼との最初の出会いだった。
10年前から必死に科学を学んできたルッカにとって、1300年未来の技術であっても理解できないものではなかった。そのロボットを修理し、「ロボ」と名付けて共に行動をすることとなる。
その中で、ロボがずっと探していた仲間は工場に侵入する者を排除するロボットだったことを知る。そして仲間のロボットは、人間と行動を共にするロボを欠陥品として廃棄しようと襲いかかってきた。

そのロボット達を逆に廃棄して、落ち込むロボにルッカは聞いた。何かやりたいことはないのか、と。

『──ルッカ、ワタシにもしたい事が出来マシタ。アナタ方といっしょに行く事デス。』

ロボはそう答えてくれた。
幼い頃から発明に執心なルッカは度々変わり者と見なされることがあったのだが、科学を知ったことでロボットのこんないじらしい心にも触れることが出来るとルッカは知っている。
だから思うことが出来た──これが自分の在るべき生き方であったのだと。

ロボは特に優しい心を持っていた。
ロボは皆の胸を刺す一抹の不安についてずっと触れずにいてくれた。
きっとそれは、クロノ達が冒険の目的を果たすのを邪魔したくなかったロボの優しさだったのだろう。


189 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:53:01 P5AMfzIc0
【ラヴォスを倒して世界を守れば、崩壊した未来の世界で作り出されるはずだったロボは消えてしまう】

ルッカには分かっていた。
ロボの優しさも、それに甘えて自分が行おうとしていたことも。

長い冒険の果て、クロノ達とようやくラヴォスを倒し人類は滅びの未来から救われた。異なる時代からやって来た人々はそれぞれの時代に帰るため、最後のゲートをくぐることとなった。

その時ロボはようやく告げる。
ゲートをくぐればロボはいなくなってしまうことを。

もう会えないとロボの口から聞いた時、ずっと分かっていたはずなのに涙が溢れてきた。
ロボも泣いていたのだろう。ロボットが泣くはずがないって皆は思うかもしれないけど、ルッカには分かった。
彼はそのアイセンサーから、人よりも優しく温かい涙を流していたのだと。

後世にロボと同じロボットを作る発明家は現れないだろう。
ロボは人類を滅ぼすために作られた。ロボは消えたのだ。消えなくてはならなかったのだ。言わばロボはラヴォスへの敗北の証。人類の未来のためには犠牲にならなくてはならなかったのだ。

だからルッカは、その先の人生を科学の発展に捧げることを決めた。

もう二度と出会えないロボのように心優しいロボットを、いつか誰かが生み出してくれることを信じて、発展した科学を後の世に残す。そのために個人的な発明家ではなく研究者への道を目指し始めた。

それが新たに出来た彼女の夢。
あの心優しいロボを、人類が救われた後世に遺したい。
ロボの形見となった緑色の宝石に誓った、ルッカの夢。

つまるところ、ルッカはもう一度会いたかったのだ。
ロボットの心を知る自分の生き方をそのまま体現してくれていたかのような彼に。


190 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:53:36 P5AMfzIc0




「──シンニュウシャをハッケン、ハイジョします。」




そんな彼の口から発された機械音声は、ルッカの夢を一瞬で打ち砕いた。

「え……何を言っているの、ロボ……?」

一瞬、思考がフリーズする。
目の前にいるロボットは、間違いなくあのロボだ。
製造番号も【R66-Y】と、ロボと一致している。

「ワタシの名前はプロメテス。ロボなどと言ウ名前ではアリマセン。」

その名前を聞いた途端にルッカは理解した。このロボの中身はあのロボでは無いのだと。

プロメテス。それは確かにロボの本来の名前である。
ロボには人間の仲間として潜り込んでその生態を調査するスパイとしての命令が与えられていた。
しかしロボはかつて与えられていた命令ではなく、自らの心に従ってルッカに着いてきていたのだ。今更その名前を名乗るはずがない。

もしかしたらこのロボは自分たちと出会う前の、人類を滅ぼすために動いていた時代からこの世界に連れてこられたのだろうか。

ルッカがひとつの仮説を巡らせ始めた次の瞬間、ロボはルッカに殴り掛かる。
渡ってきたばかりの病院の廊下でバックステップをしてロボのパンチを躱す。

しかし距離を離して一瞬気が緩んだところに、ロボのロケットパンチが飛んでくる。

(違う……この威力ッ……!!)

両腕で防御の姿勢を取って威力を抑えたものの、重機の凄まじい衝撃でルッカは吹き飛ばされてしまう。

受け身を取ると放った腕を元に戻し、再び接近して来るロボ。
自分に飛んできたことはないが、見慣れた技だ。
ロボタックル。
ロケットパンチよりも数段威力の高いその技をまともに受けては本当に殺されかねない。

「くっ……!燃えなさい──ファイア!」

床に炎を放ち、ロボの動きを制限する。
速度を落としたロボの攻撃を回避し、ルッカは再びロボと向き合う。
ロボの攻撃の威力と速度を目の当たりにし、ルッカは先の仮説が間違っていたことを確信した。


191 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:57:00 P5AMfzIc0
ロボはクロノのパーティーに加入してからも新しい技を覚えたり、身体能力を向上させたりと成長を重ねていった。
今目の前にいるロボの動きにはその面影が残っている。これは間違いなく【ラヴォスを倒せるほど成長したロボ】である。

更にはその証拠として、ロボの身体にパーツとして取り付けられた、ロボの姉妹機であるアトロポスのリボンも目視出来る。
自分たちとの冒険を経験していないロボにそのパーツが装着されてあるはずがない。

つまり、答えはひとつだ。

「ようやく話が見えてきたわ……。あなた、プログラムを書き換えられているのね。」

アトロポスもロボと同じように優しいロボットだったはずなのだが、ロボ達の創造主であるブレインマザーによってプログラムを書き換えられ、生き残った人類を殺す工場を管理するようになった。
今のロボも同じ状態だ。プログラムを書き換えたのが誰の仕業かはハッキリとは分からないが、恐らくは殺し合いを円滑に進めるために主催者のマナとウルノーガがやったのだろう。
一緒に冒険したあのロボと、目の前で自分に襲いかかって来るこのロボが同一のものであれば、考えられる可能性はそれしかなかった。

ただし、それは必ずしも悪いことという訳では無い。
ロボがプログラムを書き換えられただけだというのなら、自分たちと冒険した過去の記憶はメモリーバンクから消去されていないかもしれない。
仮に消去されていたとしても、そもそも未来の技術なのだ。バックアップを取っていたり、どうにかすれば復旧のやり方があったりと、そういった可能性もないわけではないのだ。


192 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:57:47 P5AMfzIc0
「思い出して!ここに来る前に私たちは一緒に冒険して、人類を救うために戦ってきたのよ!」

「そうかもしれまセン。或イハそうでないかもしれまセン。どちらにセヨ私はプロメテス、あなたの敵デス。」

「っ…!プロテクトッ!」

避けきれないロボのロケットパンチを魔法によって最低限の威力に抑える。
それでも重い一撃だ。
やはりロボとの1対1は勝てない。実力的にも、精神的にも。

「まあ、ロボットがそーゆー融通効かないのは分かってるわ……だったらここは……撤退よッ!」

だから仲間を集めよう。
更には、この世界に呼び出された時に没収された自分の工具箱の代わりになるものを探し出そう。
今のままではロボに勝つことも、勝った後にロボを元に戻すことも難しい。

しっかりと準備をしてからここに戻って来よう。
かのラヴォスとて時の最果てからいつでも挑める状況にありながら、最後の最後まで準備をしてから挑んだのだ。
最終的には必ずロボを救ってみせる。

ロボがどんな相手にプログラムを書き換えられていようと、サイエンスでの知恵較べなら絶対に負けるものか。

「逃がしマセン!」

ロボがルッカに迫ってくる。
ルッカの使った一手は……

「催眠音波ッ!」

機械が一時的にその機能を失う特殊な音波を作り出す。
魔法ではないためロボの修理に取りかかれるほど長い効果は見込めないが、逃げ去るだけの時間は稼げるだろう。

「え、えらー……動力、一時停止……Zzz……」

「もうちょっと待っててね、ロボ。必ず助けてみせるから。」


193 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 00:58:27 P5AMfzIc0
眠ったロボに語りかけ、ルッカは逃げ出した。
来た廊下を戻り、2階への階段を駆け下りて。

ルッカの頭の中にはロボの思い出ばかりが巡っていた。

誰よりも暗い境遇にありながら、誰よりも明るく振舞っていたロボ。
自分だけはそんな彼の本当の心が分かっていたと思っているから、悲しい時はすなおに悲しむのよと言ってやった。
ロボは優しすぎたのだ。
パーティーの雰囲気をずっと和ませるために本当の心を押し隠して……。
だから一言、ラヴォスを倒して消えるのは怖いと言って欲しかったのかもしれない。
言ったところで何が変わる訳でもないのに。ラヴォスを倒すことに変わりはないのに。

この時のルッカの頭の中には、ロボのことしか無かった。




「──メラゾーマ」




ルッカは完全に失念──否、油断していたのだ。
足音の鳴り響く病院の廊下であれだけ走っていれば他の参加者に居場所を特定されてもおかしくはないに決まっているのに。

まだ別の世界から来た者たちと出会っていなかったというのもあるし、居場所が病院という既知の空間だったこともあるだろう。
このロボと出会ってからの数分間に色々ありすぎて、ここが殺し合いの世界であるということすらルッカは忘れかけていた。

そんなルッカの身体を、足音を聞いて廊下の突き当たりで待ち伏せていた第三者──セーニャによって放たれた特大の火球が包み込んだ。


194 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 01:00:17 P5AMfzIc0
「なに……よ……」

「まだ生きているのですね……。動かないでください。」

何が起こったか分からずその場に倒れ込むルッカ。
着ていた水の羽衣のおかげで火球で受けたダメージはそれほど大きくはないのだが、不意の一撃に対して転倒は免れなかった。
うつ伏せに倒れたルッカに対してセーニャの持つ槍、黒の倨傲が突きつけられる。
抵抗の意思を示そうものなら即座に心臓を一突きにされて殺されるだろう。

「アンタ……何でこんなことを?」

「本当にごめんなさい。私たちの誰かが優勝すれば、貴方も他の皆様も、全員救います。だから……」

メラゾーマで殺せなかったと分かってからは、セーニャはルッカをすぐに殺そうとはしなかった。

セーニャは今でこそ殺し合いに乗ってこそいるものの、根は真面目な少女である。
優勝する目的と、それを為せるのが自分だけであるという責任感からやむを得ず殺し合いに乗った彼女は、先程殺したレオンのように一方的に理不尽に命を奪い続けるのに耐えられなかった。

傲慢な話ではあるが、自分の目的を知ってもらって、全て納得した上で死んで欲しいのである。

現状、レオンとは違って不意打ちで殺し切れず、生殺与奪の権利だけを握っている。つまり、セーニャにはルッカと対話をする余裕が生まれている。

「……貴方の命を私たちに預けていただきたいのです。」

「……なるほど。アナタ、殺し合いが開かれる以前の時代に戻ろうとしているのね?」

一方ルッカはセーニャの物言いからその目的を察する。
言うまでもなく、ルッカ自身が何度も時代を超えて冒険してきたために時間跳躍の話については飲み込みが早いのである。

「話が早くて助かります。私たちはずっと、あのウルノーガという魔導士を追いかけてきました。不意打ちを受けて私たちが敗北した前の時間に戻ればきっと……この殺し合いが開かれる前にウルノーガを倒せる。だから……」

「……。」


195 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 01:00:54 P5AMfzIc0
ルッカに目的を伝えたところで、セーニャは突き付けていた黒の倨傲を振りかざす。
最後にもう一度、ごめんなさいと小さく呟いた。

ルッカが口を開く。

「じゃあ私も最後に一言、いいかしら?」

「ええ、聞きますわ。」

ルッカは悟る。
目の前の名も知らない女性は他人を殺しながら許しを求めているのだと。

「それじゃあ頭脳明晰、才色兼備にして世紀のタイムトラベラー、ルッカ様がありがた〜いアドバイスをくれてやるわ。耳かっぽじってよーく聞きなさい!」

命を奪っておいて許されたい?
そんなの許さない。
自分の過ちで奪ってしまったものは永遠に背負い続けなければならないのだ。

ずっとずっとその一瞬を後悔し続けながら、次にそんなことが起こった時に今度は後悔しないように努めなくてはならないのだ。
少なくとも、今のルッカの根幹を作り上げているのはその後悔なのだ。

「歴史改変は……安易な気持ちでやっていいもんじゃないッ!代償にもっと大切なものを失うかもしれないのよ!!」

うつ伏せでセーニャの顔はハッキリとは見えないが、動揺していることはよく分かる。

「私はアンタを認めない、許さないッ!!二度と戻れないこの一瞬を……永遠にその目に焼き付けなさいッ!」

「っ……!五月蝿い!!」

セーニャの決意を明確に否定する言葉。
セーニャは動揺のままに振り上げた黒の倨傲を振り下ろす。
言葉の続きを聞きたくなくて、臭いものに蓋をするように。

この言葉が少しでも響いたのであれば、どうかこれから先の彼女を変えるキッカケにでもなりますように。
最期の一瞬を覚悟し、ルッカは祈る。


196 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 01:02:12 P5AMfzIc0

「…………あれ?」

しかしその槍は、ルッカを貫くことはなかった。

「ル………カ……………」

セーニャの両腕は、何者かによって背後からがっしりと掴まれていた。

「逃ゲ……………て…………くだ……サイ………」

「ロボ!どうして……!」

顔を上げると、ロボがロケットパンチの要領で飛ばした両腕でセーニャの両腕を掴んでいた。
それは確かにプロメテスではなく彼だったと、その一瞬だけはそう感じた。
その感覚はすぐ、消え去ることとなるのだが。

「──シンニュウシャ、ハッケン。ハイジョします。」

「ぐっ……離し………」

ロボはセーニャの両腕を掴んだままロケットパンチで打ち出した腕を引っ込め、セーニャを引きずり込む。
そしてその身体を無造作に、後方へと放り投げた。

「きゃあああああ!!」

ガシャン、と窓ガラスが割れる鋭い音が聞こえてくる。
何の感情も抱かず人を葬り去る今のロボの様子が、ロボを欠陥品としてダストボックスへ放り込んだかつてのロボの仲間たちの姿と重なった。

「そっか…やっぱり今のアンタは……ロボじゃなくてプロメテスなのね。」

突きつけられた槍が無くなって、自由の身となったルッカは立ち上がる。

「その通リ。アナタの敵デス。」

立ち上がったルッカに渾身のロボタックルが迫り来る。

「分かったわ、もう覚悟は決めた。」


197 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 01:03:06 P5AMfzIc0
次の瞬間、ロボの目の前の床が大爆発を起こして崩れ落ちた。

爆風で後ずさりするロボを横目に、ルッカは臆することなく飛び降りる。

爆発のタネはMPを爆弾へと変換するルッカの大技、メガトンボムである。
ロボを傷付けたくなくてさっきまでは強力な技は使わなかったが、セーニャの奇襲を受けたことでルッカは「何もかも上手く進めよう」という甘えを断ち切り、殺し合いに対して多少の割り切りを覚えた。

荒療治でも今はロボからの逃走を最優先とし、あの状況を切り抜けた。
そして何かと形式美を好むルッカは1階から高らかに、ロボに向かって叫ぶ。

「これは宣戦布告よ、プロメテス…。私は必ずアンタを倒してロボを取り戻す。首根っこ洗って待っていなさいッ!」

ルッカはくるりと振り返り、病院の出口へと向かう。
未だに砂埃が舞う病院の2階で2つの眼の光がチカチカと点滅した。
その目が見ているのは彼の"敵"なのか、それとも……


198 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 01:03:52 P5AMfzIc0
【D-5/病院外(南側)/一日目 黎明】 

【ルッカ@クロノ・トリガー】 
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具
[思考・状況] 
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.ロボが居たってことは、もしかしたらクロノたちも……?

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。
※サブイベント「緑の夢」ではララの救出に失敗しています。


【D-5/病院/一日目 黎明】 

【ロボ@クロノ・トリガー】 
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(小)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況] 
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。
2.ルッ……………カ…………

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。

【支給品紹介】

【水の羽衣@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
ルッカに配られた、あまつゆの糸で織り込まれたローブ。
炎耐性と水耐性を持ち、セーニャのメラゾーマからルッカの命を救った。

【医療器具@ゲームキャラバトル・ロワイヤル】
病院の1階と2階で採集した医療器具。
薬の類は含まれておらず、精密作業に向いた小道具が中心。

【ベアークロー@ペルソナ4】
ロボに支給された武器。
稀に物理攻撃を反射する特殊効果がある。


199 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 01:04:35 P5AMfzIc0
「ぐっ………スカラを掛けておいて………正解でした……わね……」

病院の2階から外へと投げ出されたセーニャは、致命傷だけは何とか免れていた。
起き上がろうにも全身の痛みでなかなか起き上がれない。

(──歴史改変は……安易な気持ちでやっていいものじゃない!)

安易な気持ちなんかじゃありませんわ……。ウルノーガを倒すのは私たちにしか出来ないんですもの……

(──歴史を変えた代償に、もっと大切なものを失うかもしれないのよ!)

恥ずかしながら、それはあまり考えていませんでしたわ。
でも……お姉様より大切なものなんて私にはありません。

さっき出会った少女の言葉が頭の中から離れない。
こんな所で決意を鈍らせている場合ではないのだ。

セーニャはもう戻れない。
なぜなら既に1人、殺してしまっているのだから。

「とりあえず……まずは回復呪文を………」

近くに落ちていた槍を手に取り、杖替わりにして何とか起き上がる。
そしてベホマの詠唱を始め───



「───いいえ、折角の魔力が勿体無いですわ。」

その詠唱を中断した。


「敵は何人いるかも分からないんですもの。だったら限りある魔力なんて全部攻撃呪文につぎ込みませんと、ねぇ?」

セーニャが今まで1度も浮かべたことの無いような、醜悪な笑みを浮かべ始める。

「さあ、壊しましょう。過ぎ去りし時を取り戻すために……。そしたらもう一度……ぜーんぶ、壊せますもの…。」

その手に持つのは黒の倨傲──人の心を狂わせる槍。多大なダメージによって生命力が弱まったことで、心が槍に乗っ取られてしまったのだ。

「ふっ……ふひっ……ふひひひひひひひひひひひひひひっ………………………」

セーニャはもう戻れない。
何もかも、既に過ぎ去りし時。

【D-5/病院外(北側)/一日目 黎明】

【セーニャ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 】 
[状態]:HP1/5、MP消費(小) 『黒い衝動』 状態
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー 
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜2個)、軟膏薬@ペルソナ4 
[思考・状況] 
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。 


※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。 
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。 
※回復呪文、特技に大幅な制限が掛けられています。(ベホマでようやく本来のベホイミ程度) 
※ザオラル、ザオリクは使用できません。 
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。


【備考】
病院は3階建てです。
2階の一部の床が崩れ落ちています。
2階の北側の窓ガラスが1枚割れています。


200 : 後戻りはもう出来ない ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 01:05:31 P5AMfzIc0
投下終了しました。


201 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/26(水) 10:07:11 8kiIulek0
投下乙です!
クロノ・トリガーのキャラの背景が鮮明に描写され、ルッカの心情描写が原作に忠実でとてもクオリティの高い作品だと感じました。
感動の再会とはいかず一度別れざるを得なかったルッカとロボですが、彼女達は再び出会うことが出来るのでしょうか。
そしてロボを元に戻すことが出来るのか。黒い衝動に乗っ取られたセーニャと他の仲間が出会ったらどうなるか。
この先の展開がとても楽しみです。


202 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/26(水) 12:10:54 sI5vVgLI0
魔王、書き手枠予約します


203 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/26(水) 15:25:01 8kiIulek0
A2で予約します。


204 : 名無しさん :2019/06/26(水) 20:54:41 kxkqMZhk0
投下乙です
ロボ、そんなことになってるとは…
微妙に正気も残ってる辺りがせつない
そしてセーニャはどうなってしまうんだ


205 : ◆pnpG6UgSkw :2019/06/27(木) 14:38:35 bUCJY7jc0
ソリダス・スネーク
クレア・レッドフィールド
書き手枠

予約します

今度こそは………


206 : ◆RTn9vPakQY :2019/06/27(木) 15:58:34 sJs6JqkE0
>>159 です。もうすぐ期限ですが、本日中には投下しますので、時間を頂けたら幸いです。


207 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/27(木) 16:23:31 guyu9Krk0
>>206
了解です。延長扱いさせて頂きますね。


208 : ◆2zEnKfaCDc :2019/06/27(木) 23:46:04 3dgEDaCA0
すみません。>>189、エンディング見返すと間違っていたのに気付いたので訂正します


その時ロボはようやく告げる。
ゲートをくぐればロボはいなくなってしまうことを。

もう会えないとロボの口から聞いた時、ずっと分かっていたはずなのに涙が溢れてきた。


それが、ロボとの最後の別れであった。
ずっと分かっていたはずなのに、その時を迎えると涙が溢れて止まらなかった。


209 : ◆RTn9vPakQY :2019/06/28(金) 00:37:08 AAewxY4s0
投下します。


210 : 蒼い鳥 ◆RTn9vPakQY :2019/06/28(金) 00:38:31 AAewxY4s0
 泣くことならたやすいけれど
 悲しみには流されない
 恋したこと
 この別れさえ
 選んだのは
 自分だから





 気づくと私は、床に倒れていた。
 起き上がり周囲を見回すと、そこが通い慣れた八十神高校の教室だと分かった。

「え、ここって……」

 黒板や机の配置を見て、二年二組の教室だと気付く。外が暗く、人がいないこと以外は、いつもの教室と同じだ。
 私はなんとなく、自分の席に着いた。
 もしかして、さっきの光景は全て夢なのか。そんな想像が頭をよぎる。
 ほっとしたのも束の間、喉のあたりに違和感を覚えて、手を触れた瞬間、現実に引き戻された。

「これ、首輪……」

 呟くのと同時に、脳内についさっきの光景が浮かんだ。
 マナと名乗る金髪の少女が、笑いながら話す姿。そして、完二くんの首輪が爆発して、勢いよく血が噴き出している姿。
 思い浮かんだ光景を振り払うように、私はぎゅっと目をつぶる。
 それなのに、脳内からその光景は消えない。

「じゃあ、完二くんは本当に」

 声が震えた。その先は口に出せそうにない。
 頭では理解していても、それを認めたくない。
 私は考えを断ち切るために、別のことを考えようとした。

「……千枝はどうしてるかな」

 さっきの場所には、千枝もいた。
 親友がいつも着ている緑ジャージを見間違えるはずがない。
 正義感の強い千枝は、殺し合いを強制するマナに対して、怒り心頭だろう。
 顔に靴跡をつけてやる、と息巻く姿が、容易に想像できた。

「もしかして、他のみんなもいるのかな……」

 完二くんに千枝、それと私。
 この殺し合いには“自称特別捜査隊”の仲間が、三人も巻き込まれている。
 想像したくはないけど、他の仲間もここにいるかもしれない。
 花村くん、クマさん、りせちゃん、直斗くん。そして、リーダーの鳴上くん。
 みんな信頼できる仲間たちだ。殺し合いの場にいて欲しい、とは言えないが、もし会えたなら心強い。
 花村くんや直斗くんなら、もう脱出する方法を考えついているかもしれない。

「……でも」

 ぽつりと声が漏れていた。
 無意識のうちに出てきた、私の心の声。
 私の頭に浮かんできたのは、鳴上くんの姿。
 頼れるリーダーであり――私にとって初めての特別な人だ。

「鳴上くんには、いて欲しいな……」

 私は自分で自分の肩を抱いた。
 こうすると、鳴上くんに優しく抱きしめられたときの感触を思い出す。
 この先ずっと、忘れることはないだろう記憶。

「って、私ったら何を……!」

 仲間が死んでいるのに、あまりにも不謹慎だ。
 少しだけ熱いほほを手で扇いで、私は窓から空の月を見上げた。
 そのとき、私はあることに気が付いた。
 どこかから、声が聞こえてくる。
 いや、これは単なる声というより、歌声だろうか。
 耳を澄ますと、歌声は上の方から聞こえてくるように感じられた。

(行ってみよう、かな)

 私は教室を出て、歌声のする方へと歩き出した。





211 : 蒼い鳥 ◆RTn9vPakQY :2019/06/28(金) 00:41:45 AAewxY4s0



 群れを離れた鳥のように
 明日の行き先など知らない
 だけど傷ついて
 血を流したって
 いつも心のまま
 ただ羽ばたくよ





(やっぱり、屋上から聞こえるみたい)

 屋上に向かう階段に着くと、女性の歌声がはっきりと聞こえてきた。
 とても澄んだ声だ。曲はゆっくりとしたバラードで、歌詞も聞き取りやすい。

(上手……悲しい曲なのかな)

 歌手に精通しているわけではない私でも、この歌は上手いと感じた。
 けれど同時に、悲痛な感情が含まれている気がした。

(どんな人なんだろう)

 屋上のドアをそっと開ける。
 外は暗いものの、何度も来ている場所なので、恐怖心はない。
 ぐるりと見渡すと、少し離れたフェンスの前に、人影が見えた。
 少しずつ近づく内に、女性は私と同じ長髪だと分かった。

「……っ、誰!?」

 私に気づいたのか、女性は歌を中断して叫んだ。
 その声に私はビクッとしたが、ここで怯えていても仕方がないので問いかける。

「あの……あなたも、参加者ですよね?」
「……はい」
「あっ、名前……私、天城雪子です」
「……如月千早です」

 私が名前を言うと、若干の間はあったけど、相手も名前を返してくれた。
 立ち話もなんだし座ろうか、と促すと、これにも応じてくれた。
 そして、よく鳴上くんとご飯を食べるときの場所に、二人で並んで腰掛けた。

「えっと、高校生?」
「はい」
「そっか、私も高校生なの。偶然だね」
「そうですね」
「……」
「……」
「千早ちゃんって呼んでもいいかな?」
「お好きにどうぞ」
「そ、そっか……」
「……」

 会話が途切れてしまう。
 私は千枝や花村くんのように、初対面からどんどん話に行けるタイプではない。
 かといって鳴上くんのように、話をさせる雰囲気作りが上手いタイプでもない。
 それは相手も同じようで、どうにも会話が弾まない。
 沈黙を断ち切るために、私はいちばん気になっていたことを尋ねた。

「ねえ、どうして歌っていたの?」
「……」
「あ、もし言いたくないなら……」

 これまでよりも気まずい沈黙。
 これは言葉選びを間違えたかもしれない、と焦りながらフォローを入れる。
 すると、断定的な口調での返答が来た。


212 : 蒼い鳥 ◆RTn9vPakQY :2019/06/28(金) 00:43:57 AAewxY4s0
「私には、歌しかないんです」
「え?」

 私は千早ちゃんの横顔を見た。その横顔から感情は見いだせない。
 ただ、もともと落ち着いている声のトーンが、より暗く低くなったように感じた。

「人は死んだら、歌えなくなりますよね」
「それは……」

 私は何か言おうとしたけど、思いつかなくて口をつぐんだ。
 死んだら歌えなくなる。それは、当然と言えば当然のことだ。
 急にそんなことを言い出すなんて、ネガティブになっているのだろうか。
 あるいは殺し合いというマイナスのイメージの言葉が、そうさせたのかもしれない。

「歌えない私に、意味なんてない」

 暗い声でありながら、千早ちゃんの言葉には強い意志が感じられた。

「まだ死ぬって決まったわけじゃ……」
「じゃあ!」

 叫ぶと同時に、千早ちゃんはいきなり立ち上がって私を見た。
 その表情は先程までとは異なり、焦燥がありありと浮かんでいる。

「殺せって言うんですか!?歌うために、他人を殺すの!?」
「……」
「そんなこと、できるわけがない……」

 殺すという強い言葉。それが同年代の口から出たことにも驚いた。
 それでも、それ以上に、千早ちゃんの苦しそうな表情が、印象的だった。
 呼吸を整えた千早ちゃんは、再び腰を下ろした。

「……だから、私は歌い続けます。
 歌い続けることで、如月千早という自分が、ここにいたという証拠を残したい」
「千早ちゃん……」

 私は何も言うことができず、下を向いた。
 声をかけたときは、人が来て危ないかもしれないから歌うのは止めた方がいい、と言うつもりだった。
 けれど、歌うことに対する千早ちゃんの熱意、あるいは執念とも呼べるそれは、あまりにも強い。
 まさに命を懸けてでも、歌いたいのだろう。

(……でも、なんでそこまでして歌うのかな?)

 少し考えたけど、その気持ちは分からない。
 きっと、千早ちゃんの心の深いところに、その原因があるのだろう。
 そんなことを思っていると、ふと、ついさっき耳にした歌の歌詞を思い出した。





213 : 蒼い鳥 ◆RTn9vPakQY :2019/06/28(金) 00:48:02 AAewxY4s0



 蒼い鳥
 もし幸せ
 近くにあっても
 あの空へ
 私は飛ぶ
 未来を信じて





 蒼い鳥が、未来を信じて独りで飛んでいく歌。
 この歌は千早ちゃんにとって、どれくらい大事な歌なのだろうか。
 今の私には、想像することしかできない。

「……話はもういいですよね?私はここから動くつもりはありません」

 そう言うと、千早ちゃんは私に顔をそむけた。
 その動きからは、若干の後ろめたさが感じ取れた。
 私はそんな姿を見て、意思を固めた。

「わかった。じゃあ、私もここにいる」
「え?」

 キョトンとした顔を私に見せる千早ちゃん。
 私は微笑んで、はっきりと自分の意思を伝えた。

「ここにいて、千早ちゃんの歌を聞くね」
「ど、どうしてですか?何の理由が……」

 困惑した様子を見せる千早ちゃん。
 もちろん、捜査隊の仲間がここ、八十神高校に来てくれるかもしれない、という打算的な考えもあるにはある。
 けれど、それ以上に私は千早ちゃんのことを気にしていた。

「私と千早ちゃん、どこか似ている気がするの。
 なんていうか、他人事だと思えないっていうか……」

 他人事だとは思えない。これは私の本心だ。
 歌に執着して――囚われて――いる千早ちゃんの姿が、かつて見た私のシャドウと重なるのだ。
 どうにかしてあげよう、何かできるはずだ、などとは思っていない。
 ただ、なんとなく近くにいてあげたいという気持ちが湧いた。

「それに、千早ちゃんの歌、聴きたい。
 ここにいる理由、それじゃダメかな?」
「……まあ、なんでも、いいですけれど」

 千早ちゃんの返事は、今までよりも少しだけ上ずって聞こえた。


【E-5/八十神高校・屋上/深夜】
【天城雪子@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:
1.千早ちゃんの歌を聞く。
2.八十神高校にいれば千枝が来るかもしれない。

※(少なくとも)本編で直斗加入以降からの参戦です。
※鳴上悠と特別な関係(恋人)です。


【如月千早@THE IDOLM@STER】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:歌う。
1.この場所で歌い続ける。私にはそうするしかない。


214 : ◆RTn9vPakQY :2019/06/28(金) 00:48:42 AAewxY4s0
投下終了です。予約期限の超過、申し訳ありませんでした。以後気を付けます。


215 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/28(金) 02:26:37 /v9H/vxc0
投下乙です!
旅館の跡継ぎという鳥籠に囚われ、赤い鳥のシャドウとなった雪子。
対してアイドルという立場上、歌でしか自分を証明出来ず蒼い鳥を歌う千早。
対照的でありながら確かに似通った二人の心情、掛け合いがとても上手に描写されていると感じました。
正直、この話だけで泣きそうになってしまったくらいに見ている側に訴えかけられました。

――歌い続けることで、如月千早という自分が、ここにいたという証拠を残したい。

千早のこの台詞に特に心を打たれました。
彼女達がこれからどんな物語を紡ぐのか、とても楽しみです。


216 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/28(金) 11:53:39 /v9H/vxc0
投下します。


217 : For a future just for the two of us. ◆NYzTZnBoCI :2019/06/28(金) 11:56:17 /v9H/vxc0

この世界に救いはないと気がついたのはいつ頃だっただろう。
司令部に裏切られ、機械生命体に仲間を全滅されてからもう大分時が立つが未来というものを考えたことはなかった。
ただひたすらに機械生命体を狩り続ける毎日を過ごしていく中、それは突然訪れた。

『みんなを……未来を……お願いするね……A2』

論理ウイルスに汚染され、自身の最期を悟ったヨルハ型のアンドロイドが私にそう言った。
彼女の記憶データが入った武器を手に取りながら私は初めて『未来』というものについて考えた。
頭の中に流れ込む彼女の――2Bの記憶データは無意識の内に私を変えていたのかもしれない。

いいさ、守ってやろう。

星の未来なんて、司令部が守る人類なんてもうどうでもいいと思っていた。
だが気が変わった。2Bが命を賭けてまで守ろうとした『みんな』とやらを、『未来』とやらをこの目で拝んでやろう。
2Bの意志を受け継いだ私は、彼女が彼女でなくなる前に刀を突き刺そうとして――


『今からあなた達には殺し合いをしてもらうわ』


――出来なかった。





218 : For a future just for the two of us. ◆NYzTZnBoCI :2019/06/28(金) 11:57:03 /v9H/vxc0


ここが自分達のいた世界とは全く異なる場所だということにはすぐ気がついた。
空を覆う闇。洞窟の中を思わせるそれは受け継いだばかりの2Bの記憶データによれば夜というらしい。
太陽はずっと空にあると思っていたから衝撃だった。日差しに慣れていたせいか少し肌寒く感じる。
それに辺りを覆う建造物があまりにも綺麗だった。まるで今現在も誰かが住んでいるかのように。
見覚えのない景色はつくづく私の予想が当たっているのだと裏付けてくれる。

空を見上げれば幾つもの光が小さく輝いていた。
星――長らくバンカーに返っていないからかとても久しぶりに見る。
宇宙からではなく地上からでも星が見れるなんて初めて知った。未知に対して眠っていた好奇心が顔を出しかけているのが分かる。
だがそれを抑え込むのは苛立ちと焦燥。勝手に連れてきた挙げ句に殺し合えなどあまりにも馬鹿げている。

一体私を連れてきたのは何者なのだろう。
私以外にも多くの者が連れてこられていた。それがアンドロイドなのか機械生命体なのか分からないが、あれだけの数を一度に集める技術など私は知らない。
単に私が知らないだけかもしれないがそんな技術力があれば脱走兵である私を捕らえるなどいつでも出来たはずだ。
だからこそ、少なくともこの一件に司令部は関わっていないだろうと判断した。

だとしたら奴らはエイリアンだとでもいうのか。
考えられなくはない。ウルノーガと呼ばれた存在の容姿はアンドロイドでも機械生命体でも見られないような不気味なものだった。
未知を未知で説明する結果になるが、今はそう判断するしかない。

それに、真実を知ったところで私の考えは変わらないのだから。

「……未来、か」

私は約束したんだ。
あの世界のみんなを、未来を守ると。
裏切り者という刻印を押され誰からも信頼されない世界で得た一筋の道しるべ。
どんなに腐った世界でも、私はあの場所で生まれた以上あの世界を守る義務がある。
そのためにはこの殺し合いに勝たなくてはならない。相手がアンドロイドであろうと機械生命体であろうと関係ない、見つけ次第殺すまでだ。


219 : For a future just for the two of us. ◆NYzTZnBoCI :2019/06/28(金) 11:57:47 /v9H/vxc0

「それがお前の願いなんだろう。2B」

願いを叶える? ふざけるな。
私の、そして私の中に残る彼女の記憶の望みはお前達の手なんか借りず自分で叶えてやる。
十六号が、二十一号が、四号が死に、私だけ生き残ったのには理由があるはずだ。私は今までその理由を見つけ出せずにいた。
だが今なら分かる――私たちの世界の未来を築くことが、生き残った私のやるべき事なんだ。

「それに気付かせてくれた礼をたっぷりとしてやらなきゃな。主催者どもには」

普段よりも幾分かトーンを落とした声で呟きながら支給品の剣を右手に握る。
誰かの手によって使い古されているだろうその剣は不思議なほどに私の手に馴染み、まるで手の一部のように感じられた。

支給品はあと二つあった。
一つは黄金のリング。説明書を読むに、様々な状態異常を防ぐ効果があるらしい。半信半疑だったが一応着けておく。
もう一つはよくわからない棒が幾つも入っているよくわからない箱だ。説明書には『ソリッド・スネークの嗜好品』とだけ書かれている。
剣、リングとそれなりにいい装備が続いたからか期待を裏切られた気持ちが強い。だがこれだけあれば十分に戦えるはずだ。


剣を一振りし夜の街を駆ける。
高速で移り変わる視界の端で街の灯りが溶けてゆく。
もういい、もう十分見た。私たちの世界ではないこの場所に興味なんてない。
私はただ、未来のために狩るだけだ。


【F-4/一日目 深夜】
【ヨルハA型二号@NieR:Automata】
[状態]:健康
[装備]:カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、煙草@METAL GEAR SOLID 2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、自分の世界の未来を守る。
1.他の参加者を探しぶち殺す。
2.自分以外の参加者はアンドロイド? 機械生命体?

※2Bの記憶データを受け継いだ直後からの参戦です。
※ブレイジングウィングが使えるかどうかは後の書き手さんにおまかせします。


【カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン】
A2に支給されたロングソード。
カイムの初期装備であり、亡き父の形見。
DODシリーズでは皆勤賞となる剣であり、クセがなく扱いやすい。
魔法は『ブレイジングウィング』。火炎弾が放物線を描き飛んでいく。

【スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
A2に支給されたアクセサリー。
眠り、混乱、毒、猛毒、幻惑、マヒ、休みを五十パーセントの確率で無効化してくれる最強の異常耐性アクセ。

【煙草@METAL GEAR SOLID 2】
A2に支給された煙草。
ソリッド・スネークが吸っている嗜好品で、銘柄は不明。MGS1では『モスレム』だったので恐らく同じ。
装備中はLIFE(体力)が減少したり、減りが激しかったりといいところがない。
一応、赤外線センサーの近くで装備すると煙で赤外線レーザーを浮かび上がらせることができる。


220 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/28(金) 11:58:07 /v9H/vxc0
短いですが投下終了です。


221 : 名無しさん :2019/06/28(金) 12:16:11 RSc6rnP.0
投下乙です
途中まで仲間の意志を継いだ熱い対主催誕生かと思ったけど、そういう方向にいっちゃったか


222 : ◆czaE8Nntlw :2019/06/28(金) 21:38:57 Xmhwv2fs0
投下します


223 : 最狂のふたり ◆czaE8Nntlw :2019/06/28(金) 21:40:59 Xmhwv2fs0
狂気。
真島吾朗という男を説明するのに、最も頻繁に用いられてきたのはその言葉だった。
国内でも屈指の武闘派として知られる極道「真島組」――。その組長として君臨する真島の人物像を正確に語るのは、長年の舎弟ですら不可能だろう。
面倒見の良い兄貴分のような一面を覗かせたかと思えば、つい先程まで談笑していた舎弟を半殺しにする。その背中に彫り込まれた般若のように、目まぐるしく変わる彼の本質を理解できたものはそういない。
実際、真島の親分たる嶋野やライバルの桐生でさえ、彼の行動理念を読み切ることに成功してはいなかった。
誰にも飼いならすことができず、また誰にも理解することが不可能な「嶋野の狂犬」。
それが、真島吾朗という男だった。

「アホくさ。なんで俺が殺し合いせなアカンのや」

アスファルトの上に降り立った真島が最初に口にしたのは、そんな言葉だった。
最も、その台詞は倫理観や正義の意思から紡ぎ出されたものではない。裏社会で極道の代紋を掲げてきた以上、今更暴力を忌避する理由は真島にはなかった。
それでも殺し合いに乗ろうとしなかったのは、単に他人の言うことに無条件で従ってやるのはプライドが許さないというだけの話に過ぎない。爆弾付きの首輪ごときで従えられるほど、己の暴力は安くないつもりだ。
それに――真島には殺し合いよりも遥かに重要なことがある。あの子供が訳の分からないことを言っていた空間で、声を上げた一人の男。
真島はその男の表情を思い返し、ニヤリと笑みを浮かべる。

「それにしても、流石は桐生チャンやで。相変わらず変わらへんなぁ」

堂島の龍、桐生一馬。あの場において、桐生は殺し合いに対して明確に反旗を翻した。「筋の通らないことはしない」――かつてそう語った彼らしい、一本気な行動。
真島はそんな桐生を誰よりも気に入っている。彼との喧嘩は真島の生き甲斐であり、ライフワークだ。殺し合いの舞台であろうと、それは変わらない。
つまるところ、真島にとっての行動方針はいつもと同じ。桐生と喧嘩し、それ以外は気の向くまま。首輪を付けられているとは思えない自由さだが、それこそが真島吾朗という男の本質である。

「ま、俺は精々好き勝手にやらせてもらうで?」

空中に向けてそう呟き、真島は周囲を見渡した。真っ暗な景色の中からは、生きている人間の気配は感じられない。……もちろん、自分の姿を見て逃げ出したという可能性もゼロではないだろうが。
真島の格好はいつも通りの蛇革のジャケットに眼帯――カタギの人間なら、そう気軽には近寄れない風貌だ。それに加えて、今回は物騒な得物というおまけまで付いている。
自らの右手に握られた大仰な日本刀を軽く振って、真島は笑みを浮かべた。デイバッグの中に入っていた支給品というやつだが、使い勝手は存外に悪くない。愛用のドスには劣るが、喧嘩には使えるだろう。


224 : 最狂のふたり ◆czaE8Nntlw :2019/06/28(金) 21:41:47 Xmhwv2fs0

「……とはいえ、どないしたもんかのう。得物があっても桐生チャンがおらんかったら、面白ないで」

桐生を探す、とは言ってもアテがある訳でもなく。頭を掻きながら、真島は無人の路上をフラフラと歩き始めた。桐生の居場所はおろか、ここが何処であるのかも分からない。
歩道の周囲に雑居ビルが建ち並ぶ様は神室町によく似ているが、見覚えのある景色ではない。

「なんや、もう始まっとるんかい」

ふと、真島は眼前の光景に足を止めた。車道のど真ん中に、誰かが寝転んでいる。ここが殺し合いの場であることを考えれば、それが何であるかは容易に予想がついた。
一つ息を吐いてから、真島はゆっくりとその死体に近づき――。

「……アホらし。生きとるやないか」

「死体」の正体は、禿げ頭の中年男だった。酒瓶を片手に、爆音でイビキをかきながら眠っている。男は高級そうなスーツを着ていたが、品性は全く感じられなかった。
神室町のホームレスたちと同じ匂いがする、とでも表現すべきだろうか。もっとも、道端に寝転んでイビキをかいている時点で品性も何もあったものではないが。
半ば呆れながら声をかけようとして、真島は一瞬踏みとどまった。男の首には、銀色の首輪が光っている。ここで寝ている男も「参加者」ということなのだろう。
真島は刀を握り直してから、革靴の先で男の身体をつついた。進んで殺し合いをするつもりはないが、全員がそうとは限らない。最も、並みの連中に喧嘩で負ける気はないが。

「オッちゃん、大概にせんと風邪ひくで?」

イビキの音に合わせて何度か軽く蹴りを入れると、男はふらふらと立ち上がった。寝起きの頭をゆっくりと降りながら真島の顔と周囲の景色を見比べて、呻くように呟いてみせる。

「……ここはモーテルの部屋だと思ってたが?」


225 : 最狂のふたり ◆czaE8Nntlw :2019/06/28(金) 21:42:31 Xmhwv2fs0



「……要するに、何にも聞いてなかったんか。難儀な奴やで」

真島は肩の上で刀を揺らしながら、溜息を吐いた。

「聞く必要がなかっただけさ。サンアンドレアスじゃ殺し合いは日常茶飯事だからな。今更ルールなんて知る必要があるか?」

隣でデイバッグの水を浴びるように飲んでいる男――トレバー・フィリップスは、自分が何をするためにここへ集められたのかということさえ把握していなかったのである。
ルール説明の真っ最中に酔っぱらって寝ていたと本人は語ったが、恐るべき豪胆さではある。実際、真島から軽く状況を聞いた後でさえ、トレバーはさして驚いた様子を見せなかった。

「エラい神経しとるで、ホンマ。殺し合いの最中に寝る奴がおるとはな」

無論、真島が絶句するのも無理からぬ話ではある。
トレバー・フィリップスという男は「常識」という言葉から最も程遠い存在で、正常な視点から彼の言動を理解するのは不可能と言っても過言ではない。
強盗や窃盗を日々のルーティンワークとしてこなし、「単なる趣味で」人を殺して喰うような男の思考回路を理解できるような人間がいたとすれば、それは彼と同類の――いわゆる「狂人」に類する者だけだろう。
ある意味では最もルールに縛られない男と言えるかもしれないが、殺し合いが日常茶飯事だという彼の言葉は、比喩表現でもジョークでもなく紛れもない事実だった。

「……で?お前はこれに乗るんか?トレバー」

ふと、真島はトレバーにそんな問いを投げかけた。実のところ、眼前の酔っ払いが殺し合いに乗るか否かはどうでも良い。最初に子供が言っていたように、ここは「そういう場所」だ。
自分が生き残るために、他人を殺す。その選択を咎められるほど、真島は純粋な正義を持ってはいない。ただ、トレバー・フィリップスという男がどちらに立つのか――そこに、真島は興味を抱いていた。
桐生のように、筋を通してみせるのか、それとも――。
眼帯越しに向けられる視線を浴びながらトレバーはデイバッグをかき回し、向けられた台詞に答えた。

「……そいつはあまりいい質問じゃないな、マジマ。聖人の気分なら悪党どもを締め上げるかもしれないし――ムカついてたらバラバラにして喰った後でトイレに流すかもしれん。俺は理性的じゃないからな。マイケルみたいに家庭を持ってる訳じゃないし、フランクリンみたいに成り上がりたい訳でもない。盗んで、撃って、犯して……あとはたまに喰うくらいだが、俺は好き勝手暴れる以外にやり方を知らん。だから、ここでもそうするだけだ」

そこで言葉を切り、デイバッグから取り出した銃を空へ向ける。夜闇の下で、真っ黒な銃口に僅かな光が反射していた。

「要するに――楽しむだけさ、ブラザー。好き勝手に暴れてな」

それから一拍後、夜空に一発の銃声が響き渡った。


226 : 最狂のふたり ◆czaE8Nntlw :2019/06/28(金) 21:43:21 Xmhwv2fs0



「お前はどうする、ミスター・ヤクザ!戦争するなら手を貸すが」

薬莢がアスファルトの上を転がっていく音に合わせ、トレバーが呟く。真島はそれを聞きながら、小さく笑い声を上げた。
殺し合いに乗るか、限界まで逆らってみるか。この場所で選べるのは2つだけだ。だがもし、3つ目の道を選ぶことができるとしたら?
死と隣り合わせの場所で、思いっきり暴れ、思いっきり楽しむ――。並の人間なら、そんな選択肢を選びはしない。
だが、トレバーは選んでみせた。自分の命さえも担保に預け、ただ一瞬の感情のためだけに行動する。それはまさしく、「嶋野の狂犬」と同じ感覚だった。

夜風の中を伸びていく硝煙の匂いを嗅ぎながら、真島はもう一度刀の柄を握り直した。

「……気に入ったで、トレバー。ほんなら精々――思いっきり暴れようやないかい!」



※C-1付近に銃声が響きました。


227 : 最狂のふたり ◆czaE8Nntlw :2019/06/28(金) 21:43:58 Xmhwv2fs0



【C-1 市街地付近/一日目 深夜】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:共和刀@MGS2
[道具]:基本支給品、民主刀@MGS2、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。
1.面白なってきたで!
2.桐生チャンを探しに行こか。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。


【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:二日酔い
[装備]:レミントンM1100-P(6/7)@バイオハザード2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.とりあえずはマジマと好き勝手にやる。
2.マイケル達もいるのか?

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。



【支給品紹介】

【レミントンM1100-P@バイオハザード2】
レミントン社製のショットガン。バイオハザード2本編ではガンショップにてレオンが入手する。
射撃範囲が広く横に広がった複数の敵に攻撃を加えられるが、威力は離れれば離れるほど低下する。
今回支給されたものは専用の「カスタムパーツ」が装着されたもので、装弾数と威力が増加している。


【共和刀&民主刀@MGS2】
刀身を高周波で振動させて切れ味を増した、日本刀を模した武器。
ソリダス・スネークの愛刀でもある。2本セットでの支給。


228 : ◆czaE8Nntlw :2019/06/28(金) 21:44:25 Xmhwv2fs0
投下終了です。


229 : 名無しさん :2019/06/28(金) 22:25:11 qlqN.gco0
投下乙です
ヤクザはPXZ2でしか知らんし、もう一人は作品自体を知らないが…
なんか両者からすごいオーラというか凄みを感じた
かっこいいワルの世界って感じだ…


230 : 名無しさん :2019/06/29(土) 07:47:17 umQ2TvmI0
投下乙です
そういや無印の兄さんは割りと危険人物寄りだったなぁ。3以降なら対主催寄りになりそうだけど
火種になる事間違い無しのコンビの今後が楽しみ


231 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/29(土) 12:05:40 u9V12VcU0
投下乙です!
書き手枠、まさかのグラセフとは驚きました……。
確かに自由というコンセプトを掲げたあのゲームのキャラならではの思考は、この殺し合いという企画の着火剤となること間違いなしですね。
真島の兄さんも、ただ狂気に駆られた人間ではなく真島吾朗という人間として描かれているのが素敵です。
そして各々のキャラの説明が自然な流れで詳細に記されているのも分かりやすかったです。
これからのこの二人の行動が楽しみです。


232 : ◆RTn9vPakQY :2019/06/29(土) 16:11:33 qA4LcaY60
投下乙です!
>For a future just for the two of us.
ニーアは未把握ですが、記憶を受け継いで戦うキャラクターというのは魅力的ですね。
今回は未来を守るために優勝する、という選択を取ったわけですが、同作品のキャラクターと出会ったらどうなるのか、気になります。

>最狂のふたり
「得物があっても桐生チャンがおらんかったら、面白ないで」という台詞から分かる、真島の兄さんのブレなさ。
そして殺し合いを楽しむトレバーの狂人っぷりが、この殺し合いでの狂犬のスタンスを導いたというのが面白いですね。

事後報告になりますが、wikiの拙作を編集しました。
状態表に不足していた部分を加えたり、台詞を若干変えたりしましたが、ほぼ一緒です。
よろしくお願いします。


233 : ◆vV5.jnbCYw :2019/06/29(土) 18:08:36 RrXxdjpM0
投下乙です!
>蒼い鳥
個人的にはこの二人が登場シーンの中で一番好きかもしれない。
戦いなんかは起こらない。一人は歌い、もう一人はそれを聞くだけ。
だけど歌と二人の会話だけでどこか虚無的な雰囲気が出ててめっちゃ惹かれます。

>For a future just for the two of us.
A2は敵でも味方でもこういった殺伐とした世界が舞台ではキャラ映えすると思ったけど、こんな形とは。
予想外なスタンスながらも、A2のクールキャラが全力で出ています。

>最狂のふたり
前回と前々回がテンション低い系の話だったこともあって、鬱要素などどこ吹く風のテンションで、これも大好きですわ。
日本が舞台の世界の893の狂犬と、アメリカが舞台の世界の暴君、どう動いてもカッコよさそうです。


234 : ◆vV5.jnbCYw :2019/06/29(土) 18:09:18 RrXxdjpM0
ではシルビア、書き手枠で予約します。


235 : ◆NYzTZnBoCI :2019/06/29(土) 21:39:02 u9V12VcU0
皆さん予約と感想ありがとうございます……。
感想一つ一つに返信出来なくて申し訳ありません。
皆さんから頂けるお言葉、とても嬉しく感じています。

自己リレーになってしまいますが、トウヤ、ゲーチス、エアリスで予約させていただきます。


236 : 名無しさん :2019/06/30(日) 11:05:22 ZQ4PxzIk0
このロワのwikiってどうやって検索したら出てきますか?


237 : 名無しさん :2019/06/30(日) 11:13:02 XPeag.Ww0
あ、すいませんwiki見つけました
変なこと聞いてすみません


238 : ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 21:54:54 xXhHkdFU0
投下しますね。


239 : 幸せを呼ぶナカマ ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 21:55:37 xXhHkdFU0
「何がバトルロワイヤルよ!!」

ここはとある山の中
一人の男が怒っていた。

「最ッ低!!最ッ悪!!センスゼロ!!こんな催し開くなんて、どうかしてるわよ!!」

口調こそ女性のものだ。
しかし、鬱蒼とした髭、青々とした禿げ頭、桃色のねじり鉢巻き、上着から覗かせる、筋肉質な胸板。
どれも男性であることを誇示している。


男の名前は、サクラダ。
ハテノ村を拠点とするサクラダ工務店の社長、兼棟梁、兼店長である。

その大工としての技術は、ハイラル中の大工を集めても敵わないという。


「あーあ。最悪よ。サクラダ工務店が順調に進歩していたのに。」

サクラダはぶつくさ言いながら、しゃなりしゃなりと山道を進む。
彼女……いや、彼自身にとって、最も不満なことは殺し合いに参加させられたことではない。
後生大事に抱えていた大工道具が、いつの間にやら消えていたことだ。


(しかも道具も取られてるわ……大方あの悪趣味な二人組が、奪ったんでしょうね……)

あれがないと、サクラダとしての実力を発揮できない。
本当ならすぐにでも主催を倒して、大工道具を取り戻したいところだが、具体的な解決策もない。

「あーもうイライラする!!大工道具返しなさいよ!!」

サクラダは怒りをそのまま、山道に転がっていた石にぶつける。


「ちょっと、何するのよ!!危ないじゃない!!」
似たような口調の声が聞こえる。

「ヤダ!!アンタこそだれよ!!隠れてないで出てくれば!?」

声の主は、サクラダの予想の斜め上の、そのまた斜め上から出てきた。
ガサッ、と茂みが音がする。

サクラダはその場所を怪しむ。

声の主はそのまま木の上に飛び乗り、幹を蹴飛ばし、サクラダの後ろに飛び立った。
そのままナイフをサクラダの首元に突き付ける。

「キャーーーー……!!」
サクラダはその人間離れした動きに、悲鳴を上げるが、すぐに口をふさがれる。

「大声出さないでちょうだい。誰が辺りにいるか分からないわ。
一つだけ教えて、あなた、ゲームに乗るつもり?」


240 : 幸せを呼ぶナカマ ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 21:55:56 xXhHkdFU0

サクラダは全力で首を振る。
自分はただの大工だ。殺し合いに参加する気なんて、さらさらないことを主張する。

「でも信用できないわね。さっきアタシの顔に石をぶつけてきたし。」
「誤解よ!!イライラしたところに小石があったら蹴るでしょ!!
誰だってそーするわ!!アタシもそーする!!」

口の拘束が説かれるや否や、後ろの人物に弁解する。

「向こうの方に小屋があるのを見たわ。じゃあそこでゆっくり話し合いましょ。」

後ろの相手に言われるまま、サクラダは前へ進む。


目的地へたどり着くまでの間、後ろの男の解説でもしよう。

サクラダと一緒にいる男の名前は、シルビア。
元はソルティコの町の領主ゴリアテの一人息子である。
彼の父親から騎士の心得を基に育てられてきたが、ある日旅芸人になることを決意し、街を飛び出したのだ。
その後、ひょんなことから勇者イレブンと共闘したことがきっかけとなり、その勇者一行の仲間になる。
紆余曲折を経て、魔王ウルノーガを倒し、その後も魔王の被害を受けた人々を笑顔にするために、日々活動していた。


何の因果か、似たような口調を持った異なる世界の二人は、山小屋にたどり着く。


「ここよ。」
サクラダはシルビアに言われるがまま、山小屋に入る。

「何よこのボロ屋!!」

入るや否や、サクラダは怒鳴り声を上げる。
驚いて、シルビアもサクラダの手を放してしまった。
「最ッ低!!最ッ悪!!センスゼロ!!外も中もボロいわ!!
この戦い始めたヤツら、悪趣味が度を過ぎてるわよ!!」

「元々こんな戦い自体が、悪趣味よ!!」

シルビアが切れ味抜群のツッコミを入れる。

「あらまいけない。でも、こういう時こそ、大工の本領よ!!」
ツッコミをシルビアに入れられて、冷静さを取り戻すが、ここでテンションを再び上げる。

いつの間にやら、シルビアのサクラダに対する警戒心は無くなっていた。


241 : 幸せを呼ぶナカマ ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 21:56:15 xXhHkdFU0
この人の家に対する情熱は、自分の旅芸人に対する情熱以上ではないかと。
そして、これほど一つのことに情熱をかけられる者に、悪人はいないのではないかと。

「そこのアナタ、そのナイフ以外に、何か持ってる?」

いつの間にか会話の主導権を握られたシルビアは、ザックの中身を見せる。

「アタシが持ってたのは、このハンマーとナイフ、そしてペンダントよ。」

ハンマーが目に入った時に、サクラダの目が輝く。
「あ!!これは、間違いないわ。アタシの弟子の物よ!!」

柄の部分を見てみると『エノキダ』と書いていた

「何でエノキダの物をアンタが持ってるのか知らないけど、これは使える。貸してもらうわよ。」
「ええ……いいけど……。」

シルビアが好きな武器は、ナイフや片手剣、鞭のような見栄えの良く、柔軟な使い方が出来る物だったので、鉄のハンマーは好きではなかった。


早速なじみの道具を手に入れて、嬉しそうにしているサクラダに、シルビアが声をかける。
「ところでアナタは、何か支給されてたの?」

「いっけな〜い。アタシとしたことが、忘れてたあ!!」
サクラダのザックからは、ゴロンと大きなチェーンソーが出てきた。

妙に丁寧に作られた持ち手があるし、持つとズシリと重いため、ただのノコギリではないことは、チェーンソーを見たことがない二人にも理解できた。

「何……これ、ノコギリ?」
「スイッチが付いているから、何かの機械じゃない?」

そういえば、とサクラダは思い出した。
ハテノ村の最奥に構えている研究室に、それっぽいものがあったような気がする。

外へ出て、早速スイッチを押してみる。


ギュイイイイイイイイイイイイイイン!!


二人が聞きなれない音と共に、刃が勢いよく回りだした。

「これは……もしかして……。」
サクラダはその動きに注目して、一つのことに閃く。

早速山の木の近くにチェーンソーを持って行って、スイッチを押す。

回転する刃が、いとも簡単に木を切り倒した。
「スゴイ、スゴイわこれ!!」
「回る刃!!飛び散る火花、アツイわ!!この道具!!」

どちらも、未知のチェーンソーの威力に盛り上がるばかりだ。


サクラダは初めて見た機械を器用に使いこなし、木を切り倒していく。

「う〜ん、いいわ〜。木こりの斧より、全然効率的〜。
環境破壊は気持ちいいわね〜。」

山の木を5本切り倒すと、今度は木の余計な部分を削っていく。
支給品の飲料水を惜しげもなくかけて、精製していく。
木々ははいとも簡単に薪の束に変わり、瞬く間に木材へと変化した。


242 : 幸せを呼ぶナカマ ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 21:56:37 xXhHkdFU0

「スゴイ!!スゴいわ!!今度ユグノア城の再建にも協力して頂戴!!」
その技術に、シルビアは興奮を覚えるばかりだった。


「何言ってるのよ!!大工の技術は、これから!!」
サクラダは木材、それとナイフとハンマーを持って、山小屋の中に入って行った。

「これから修理?アタシも手伝うわ。」

「アナタ、聞いてなかったけど、名前は何?」
突然名前を聞かれ、シルビアは戸惑うも、名前を伝える。

「それじゃあダメ!!アタシのサクラダ工務店は、名前が『ダ』で終わる人じゃないと、仕事が出来ないの!!」

意外なことで手伝うのを断られ、さらに困惑するシルビアに、サクラダは続ける。

「別に無理に大工の仕事を手伝う必要はないんじゃない?アナタ、大工って格好じゃないし、出来ることをすればいいのよ。」

そう言いながら、山小屋の木材がボロボロになっている部分を、ハンマーで壊していく。

「分かった。アタシ、邪魔する人がいないか、見張っておくわ。」

シルビアは旅芸人ではあるが、一時期騎士道を歩んだこともあるため、人ひとりを守ることだって不可能ではない。

外へ出ていくシルビアをよそに、サクラダは仕事の腕を速めていく。
釘がないのはいささか面倒だが、問題はない。

鉄鋼資源が不足しがちなリトの村は、木材同士を上手くはめることで、釘も接着剤も使わず、家屋を修復している。

シルビアからもらったナイフで、木材の凹凸の切り口を入れ、準備を整えていく。


「サクラダ工務店、社訓!かなづち トンカン!陽気なリズムで!!」
ふんっ!!はっ!!そりゃっ!!せいっ!!しょっ!!はぁーーーーーーーーーっ!!」

一時はボロボロで、見る影もなかった山小屋は、匠の手により、バトルロワイヤル中でもくつろげる家に早変わりした。

「フーーーーーーッ。いい仕事したわ。あ、シルビア、お仕事ご苦労様。戻ってきていいわよ。」

言われるがまま戻ってきたシルビアは、明かりで家の中を照らす。

「すごい!!すごいわ!!すごく素敵なお家ね!!
ここにイレブンちゃんや他の仲間達も呼んだら、楽しいお茶会が出来そう!!」

さっきまでとは劇的な家の変化に、この世界に来てから未知の出会いばかりだったシルビアも、驚きを隠せない。


243 : 幸せを呼ぶナカマ ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 21:57:17 xXhHkdFU0

「シルビア、アナタ、さっき誰か別の人の名前を言ったわね。その人って、もしかして仲間?」
「ええ、そうよ。少なくともその内の一人は、この戦いに参加しているわ。」

言ってすぐに、シルビアは最初の会場で見たカミュのことを思い出す。
自分とカミュが参加しているということは、他の仲間も参加していると考えることが妥当だ。
それに、自分達がかつて倒したウルノーガがいたということは、この催しの目的は自分達への報復かもしれない。


「良い家を見せてくれてアリガト。アタシはこれから仲間を探しに行くわ。あと大工さん、疑ってゴメンね。」

「いいえ、アタシも行かせてもらうわ。この先悪趣味な建物を、サクラダ工務店の名にかけて、改築させてもらうわ。
あと大工さんじゃなくて、サクラダよ。」

「じゃあ、行きましょう。サクラダさん。」

二人はナカマになり、山小屋を後にし、道を進む。

その目的を果たすため。



【A-2/山小屋 /一日目 深夜】
【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 山小屋の改築が出来てご満悦
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド 
[道具]:基本支給品 チェーンソー@FF7 余った薪の束×3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。


※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。

【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]:青龍刀@龍が如く極  星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、
基本行動方針:カミュ達と合流する、
1.サクラダを守る
2.ウルノーガを撃破する。

※魔王ウルノーガ撃破後、聖地ラムダで仲間と集まる前の参戦です。


244 : 幸せを呼ぶナカマ ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 21:59:50 xXhHkdFU0

【支給品紹介】
【鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド 】
シルビアに支給されたハンマー。何故かその弟子のエノキダのものらしい。
攻撃の威力こそは低いが、頑丈さがウリで、中々壊れない。また、岩系の魔物には大ダメージを与えることが出来る。

【チェーンソー@FF7 】
サクラダに支給された武器。現実世界でも、伐採や除草で使われている。原作では義手に設置して、使うことになるが、この戦いではあまり関係ないらしい。

【青龍刀@龍が如く 極】
シルビアに支給された短剣。ナイフにしてはやや長く、攻撃力もそれなりにある。

【星のペンダント@FF7 】
シルビアに支給されたペンダント。毒状態を無効化できる。

【薪の束@ブレスオブザワイルド】
シルビアが伐った木の、山小屋改築を行う際に余ったもの。
家の建設、改築以外に、料理すれば、『硬すぎ料理』が出来る。味は保証できないが。


245 : 幸せを呼ぶナカマ ◆vV5.jnbCYw :2019/06/30(日) 22:00:48 xXhHkdFU0
投下終了です。


246 : 名無しさん :2019/06/30(日) 22:31:20 RmAe2Z4o0
乙です。
シルビアはサクラダにすっごいシンパシー感じてそうで笑う。
仕事人みたいなところあるし、この二人相性よさげだなあ

ひとつだけ、ソルティコの町の領主の名前はゴリアテじゃなくてジエーゴです


247 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/01(月) 19:08:43 b4Nhfnb20
投下乙です!
シリアスぶっ壊しキャラの二人が揃って波乱万丈の予感がしますね。
まさかのサクラダさんとは予想もしていませんでした。
木材のみで家具や調度品を作ってしまう彼の技術力があれば、首輪解除に貢献できそうですね。
そしてシルビアさん、過ぎ去りし時を求める前からの参戦キャラの中では唯一の対主催ですね。
別の世界線の仲間やベロニカと出会った時の反応が見てみたいです。


248 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/02(火) 00:20:28 ciRPgiQo0
投下します。


249 : 魔王決戦、その果てに ◆2zEnKfaCDc :2019/07/02(火) 00:21:15 ciRPgiQo0
時を超えて、自分の人生を狂わせた存在であるラヴォスへの復讐のために戦ってきた魔族の青年ジャキ。またの名を『魔王』と言う彼は、つい先ほど長き宿命に終止符を打ったばかりのはずであった。

ただしその宿命とは、真の宿敵ラヴォスとの宿命ではない。

『まさかお前とこの時代で決着をつける事になるとはな……。来い……!』

『ああ……行くぞ、魔王!』

終えたのは中世の時代で出来上がった、勇者の力を受け継ぐ者グレンとの宿命。ここでは『カエル』と呼ばれているグレンに魔王は敗北し、聖剣グランドリオンの一閃により悪として散ったのであった。

醜くない死を。
それはラヴォスに2度目の敗北を喫し、古代の時代に再び流れ着いた魔王にとって最後の望みであった。

『 ヤツは死んだ!弱き者は虫ケラのように死ぬ。ただそれだけだ……。』

『 魔王ッ!!』

だからこそ、友の仇として自分を討ってくれるカエルに対してわざと、挑発の言葉をぶつけた。
カエル達はちょうど、クロノの死に直面したばかりであったため、その言葉はカエルの戦意を即座に引き出した。

悪行の限りを尽くし、その報復に自らがカエルに変えた男、グレンに討伐される──何とも自業自得で、そして美しい死。
魔王は自らの死に、何の後悔も無かった。


250 : 魔王決戦、その果てに ◆2zEnKfaCDc :2019/07/02(火) 00:21:55 ciRPgiQo0
それなのに自分はここに呼ばれ、更には生き残りを賭けて戦おうとしている。
これはつまり──



「──ラヴォスを倒せ……そういうことなのか?黒き風よ……」

人道など既に外れている。
数多の人命を奪い、刃向かってきた勇敢な男サイラスまでもを手にかけた。今さら殺しに躊躇するはずがない。

問題は生き残った優勝者に与えられるという願い。そして──そもそもこれに勝ち抜けば、元の世界に生きて帰れるのかということだ。
もし勝ち抜くことと生きて帰れることが別なのであれば、また元の世界でラヴォスと戦うためには優勝者の権利とやらで自らの蘇生を願わなくてはならない。

「……否。我が願いなど既に決まっておるではないか。」

だが、魔王の目的は生き残ることではない。自分や家族の人生を滅茶苦茶にしたあの憎きラヴォスへの復讐である。
そしてラヴォスを倒すのに必要なのが自分ではないことなど、魔王は理解している。

『クロノを生き返らせたければ……時の……時の賢者に……、会え……。』

それがあの世界での魔王の最期の言葉だった。
そう、ラヴォスの覚醒の時に死んだクロノこそが、あのラヴォスを倒すために必要な存在だったのだ。

もしグレン達があの後に時の賢者と出会えていないのならば、その願いとやらでクロノを生き返らせてやろう。

元の世界で生きることに未練など無い。生き返ったクロノ達がどこに囚われているかも分からない姉のサラを助け出してくれるのを祈るのみだ。

これで方針は決まった。
後は実行に移すのみである。


251 : 魔王決戦、その果てに ◆2zEnKfaCDc :2019/07/02(火) 00:22:48 ciRPgiQo0
さて、魔王は先程から前方の地面に違和感を覚えていた。
月の光を反射してキラリと光る地面。何かしらのアイテムがそこに落ちているようだ。

罠か?いや、違う。
そしてその周りの地面をよく見てみると、他の部分とは色合いが異なっている。どうやら一度掘り返されているようだ。
恐らく、地中から奇襲をかけるタイプの魔物が潜んでおり、潜る際に何かを落としていったのだろう。

「そこに隠れている者よ、今すぐに出て来い。大地ごと焼き尽くされるか、それとも地の底で永久に凍り付くか、選ぶこととなるぞ?」

地中に潜む者に向けて警告する。地中から奇襲する魔物といえば、中世で地底砂漠に配置させておいたメルフィックのような魔物だろうか。



「ニャー!!!」



そんな魔王の想像を裏切り、地中から飛び出したのは……猫のように見えるが、魔王の知る猫とも言い難い生き物であった。

「や、やめるのニャ!ボクはこんなゲームに乗る気はないのニャ!!」

その姿を確認するや否や、魔王は放出しかけた魔力を引っ込める。

「……ふん。それならばどうする。殺されるのを黙って受け入れるのか?」

魔王は少し興味を覚えた。正直なところ、先ほどまでの思考では優勝した時の願いを考えるばかりで、このゲームに乗るか乗らないかといった発想は魔王の中には無かった。


252 : 魔王決戦、その果てに ◆2zEnKfaCDc :2019/07/02(火) 00:24:22 ciRPgiQo0
「それは……分からないのニャ。でも誰かを殺すのはよくないから……」

そんな魔王の期待を裏切る、猫の次の一言には失望させられた。
何のプランもなく、ただ罪悪感に襲われるのが嫌なだけ。このような心も体も弱き者に一瞬でも期待した私が愚かだったようだ。


「……もういい、行け。」

「……え?」

「行けと言っているのだ。」

所詮は小さき魔物。自ら手を下さずとも勝手に野垂れ死にするであろう。魔力の無駄、そう思い猫に情けをかけてやることにした。

魔王はくるりと振り返り、その場を去ろうとする。

これからはまた、戦いが始まる。強きものが生き残り、弱きものが死ぬ殺し合いの世界だ。
魔王と呼ばれ恐れられるこの力、存分に振るってくれようではないか。

「……決めたニャ。」

そんな魔王の背中に向け、猫が 口を開いた。



「ボク、アンタに着いてくニャ。」

「……は?」

何を言っているのだ、と魔王は口をあんぐり開ける。

「アンタはボクを殺さなかった……つまり、いい奴にゃ。」

「待て、これ以上近付くと本当に殺すぞ…」

「どうせこんな訳の分からない世界ニャ。普段以上に厳しい弱肉強食の狩りの世界が待ってるんだニャ。」

魔王の静止に耳も貸さず、その猫は喋りたいことだけを喋り続ける。

「だからどうか、ボクを守ってくださいニャ。」

好き放題に喋り続けるその猫に対し、魔王は再び魔力を練って焼き付くさんと迫る。

「……………勝手にしろ。」

しかし、結局魔王はその猫を殺さなかった。
かつてラヴォスの力に魅せられ、人の心を失っていった母のおかげで、魔王は他人に対して心を閉ざしていたことがあった。

その時でも信頼していた者が、彼の姉のサラ。そして──愛猫のアルファド。ラヴォスに敗北して古代に流れ着いた時、アルファドも無事であると知った時は魔王は柄にもなく安堵したものだ。


253 : 魔王決戦、その果てに ◆2zEnKfaCDc :2019/07/02(火) 00:26:31 ciRPgiQo0
要するに、だ。
中世で魔王と呼ばれ恐れられていた彼は…………猫に対しては少し甘かったのであった。

「ありがとうだニャ!ボクの名前はオトモ。よろしくだニャ。」

「………ちっ。」

「あ、そうだ!もしかしたらボクの旦那様も巻き込まれてるかもしれないニャ。探してくれないかニャ?」

ああもう、コイツ本当に焼き尽くしてしまおうか………
魔王の憂鬱は続く。

【B-1/山小屋付近/一日目 深夜】


【魔王@クロノ・トリガー】 
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3個(未確認)
[思考・状況] 
基本行動方針:優勝し、クロノを生き返らせる……つもりなのだが……
1.オトモ……本当に殺してやろうか……?

※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。
※クロノ・トリガーの他キャラの参戦を把握していません。クロノは元の世界で死んだままであるかもしれないと思っています。

【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】 
[状態]:健康 
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3個(未確認)
[思考・状況] 
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ?
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。

※人の話を聞かないタイプ

【備考】
オトモの支給品の中のひとつは、オトモの足元に落ちています。(上の状態表には、それを所持している扱いとしています。)


254 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/02(火) 00:26:47 ciRPgiQo0
投下完了しました。


255 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/02(火) 01:12:54 SPQ.B9Rc0
投下乙です!
魔王が登場すると知り、シリアス傾向になるかと思いきやまさかの癒やし要員ですね。
MHXから二人目の参戦ですね。装備によってはオトモも立派な戦力になるので期待します!
そして魔王様、味方になる以前の参戦ということはバリアチェンジとかいう反則技も使えるんでしょうか。

B-1ということは、ザックス美津雄組とリンク雪歩2B組に挟まれていますね!
どちらに出会っても面白そうだし、また別の誰かと会ってもこの二人ならいい意味で掻き回してくれそうですね。
ハンターさんも近くのイシの村に向かっていますし、合流できるといいなー。


256 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/02(火) 01:17:39 SPQ.B9Rc0
あ、ザックス美津雄組じゃなくてトレバー真島組でしたね……CとD逆に見てしまいました。


257 : 名無しさん :2019/07/02(火) 06:11:37 yT0jzylg0
投下乙です
魔王は一応優勝狙い…ではあるが、クロノや彼の仲間が参戦してることを知った時点で切り替えてくれそう
まあ放送で呼ばれる死亡者次第なとこもあるけど


258 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 14:56:23 67qMrrJ60
投下します


259 : 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 14:59:18 67qMrrJ60
はずかしい。ああはずかしい。

──少年は走った。

はずかしい。ううはずかしい。

──先ほど上手く話せなかったゴーレムのような男を探して。

はずかしい。ひゃあはずかしい。

──周りの様子もよく分からない森の中を走り続けた。

はずかしい。きゃあはずかしい。

──そこで、ようやく少年は気付いたのだった。

はずかしい。はずかしい。
どうやらダルケルを追いかけるには、方向を間違えていたらしい。

『はずかしい呪い』に侵されたイレブンは一人相撲で全力疾走していたことへの恥ずかしさに顔をサッと覆う。
あの巨体だからすばやさはそう高くないはず。少し走って追いつけないのなら方向が違うのだというくらい気づけそうなものなのに、追いかけるのに夢中でそのようなことは考えておらず、かなりの距離を走っていた。はずかしい。なんてはずかしい。

さて、どこまで走ってきたのだろうか。
周りをキョロキョロと見渡してみるものの、木々ばかりで目印となりそうなものは見当たらない。

仕方なく地図を開き、「北の廃墟から走ってきて、未だに森の中なら今はだいたいこの辺りか……」と自分の大まかな居場所の目星をつける。

(さすがにもうあの巨人には追いつけないだろうなあ……)


260 : 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:00:25 67qMrrJ60
ナイトゴーストのマジックバスターによってMPが空っぽになっているイレブンとしては、是非ともダルケルに追い付いてエルフの飲み薬を頂きたいところだったのだが、見失っては仕方ない。
とりあえずは安全そうな場所で休息を取ろうと決めた。
さすがに眠るわけにはいかないので元の世界での宿屋や女神像のようにMP全快とまではいかないだろうが、休息をとればいくらかは回復するだろう。

地図によると、近くには自分の故郷であるイシの村が近くにあるようだ…………

ってそんなはずがない。イシの村が位置するのはデルカダール地方の南部。こんなところにあるはずがない。
こんな間違った地図を堂々と支給してウルノーガははずかしくないのか。

しかし最初の会場で感じたウルノーガの魔力が、以前戦った時よりも大きくなっていたのは事実。もしかしたら町一つを丸ごと移動出来るような芸当もできるかもしれない。

もしイシの村ごとこの殺し合いに巻き込まれたのなら、幼なじみのエマも巻き込まれているかもしれない。まずはイシの村を目指そうとイレブンは決めた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「ねえランラン、あの森まで競走しようよ。」

「…………?」

ポケモントレーナーになりたての少女ベルは、傍らのモンスターと共に予定とは違う冒険に踏み出していた。
それでも彼女は変わらない。

ポケモントレーナーとして、『ポケモン』と共に旅をする。
それは彼女の世界の常識だ。

まだ他の参加者と出会っていないこともあり、ベルにとってこの殺し合いの世界は今や元の世界の旅の延長上。
彼女は隣にいるモンスター【ランタンこぞう】をポケモンの一種だと思っている。

「ポケモン図鑑があればキミのこともっと分かるのにねえ。」

「…………」

「まあいっか。じゃあ行くよお。よーい、ドン!」

「…………!?」


261 : 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:00:54 67qMrrJ60
ベルは陽気に走り出す。
ランタンこぞうは突然走り出したベルの行動に驚きながらも、ふよふよと漂いながらベルの背中を追いかける。

元の世界の相棒、ポカブのポカポカを探さなくてはならない。
自分が殺し合いに巻き込まれた時に両隣にいたトウヤとチェレンも巻き込まれているのなら、2人も探さなくてはならない。

することはたくさんあるけど、とりあえず今は目の前のパートナーとの絆を深めたい。
追いかけっこはそのためにベルが始めた遊びであった。

友達と一緒にポケモンを貰ったら、そわそわを抑えきれずにすぐ戦わせてみたり。次の町に着くまでに何匹ポケモンを捕まえたか勝負してみたり。
こういった競争ごとというのは絆を深める──少なくともベルはそう思っているのだった。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

ちょうどイレブンは、エマのことを思い出していた。

16年間、一緒に育ってきた幼なじみのエマ。
デルカダール王に化けていたウルノーガの策略でイシの村が滅ぼされて以来、彼女の行方はしばらく分からなかった。
無事に再会出来た時はどれだけ嬉しかったことか。
あの時だけは、「はずかしい」の気持ちを忘れられていた気がする。

もし彼女もここに招かれているのなら、何としても自分が守らないと……
そう決意した、その時だった。



「きゃー!!」



木々の奥から聞こえてきた、女の子の悲鳴。
そして……木々の間からふと見えた、魔物に追い掛けられているように見える暗闇でも目立つ金髪の女の子。
夜の暗さで顔はハッキリ見えなかったため、イレブンは最悪の想像をした。


262 : 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:01:55 67qMrrJ60

「エマ!!」

イレブンは弾かれたように、女の子の前に立ち塞がる。

「えっ……?」

「…………!」

突然自分とベルの間に立ち塞がったイレブンに対し、ランランはベルを守るためにメラを放つ。
小さな火球がイレブンの胴を焼いた。しかしそんな攻撃、かの邪神ニズゼルファの放つ終末の炎をいなしながら倒してきたイレブンにとってダメージとも呼べないものであった。

「エマから……離れろッ!」

イレブンはランランに向けて一喝する。
そしてイレブンはいつものように、その背に背負った勇者のつるぎを引き抜き────あっ………

……その右手は空を掴んで引き抜いた。その時イレブンは、自分の装備品が全て没収されていたことを思い出した。

はずかしい。
まったくもってはずかしい。

──イレブンはなんだかはずかしそうだ!


「やめたげてよお!」

……結局ベルの一声で、動けないイレブンと勝てないランランの戦いは仲裁されることとなった。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


263 : 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:02:32 67qMrrJ60


「そっか!私がこの子に襲われてると勘違いしたんだよね!」

事情を察したベルが話しかけるも、イレブンからの返事は帰ってこない。
元々はずかしい呪いのせいで誰かとまともに話すのは苦手なのだ。
さらには夢中で「エマから離れろ」なんて叫んでしまったのを見られたこと。早とちりをしてしまったこと。色々な要因でイレブンの思考は『はずかしい』で埋め尽くされてしまった。

「えへへ、ごめんねえ、紛らわしかったよね。」

どうやら最初の悲鳴は恐怖による悲鳴ではなく、ランタンこぞうと一緒に走っていることでの歓喜の悲鳴だったようだ。
その点に関してはイレブンはこの上なく安心している。

しかしそれとこれとは話が別だ。
ダルケルに話しかけられた時のように、イレブンは完全にフリーズしてしまった。

「あれ?どうしたの?」

これでは駄目だ。
ダルケルの時の二の舞だ。
頭では理解しているものの、イレブンは動けないし話せない。

「もしかして……怒ってるの?」

きっと彼女も、ダルケルのように痺れを切らしてこのまま自分の元を去るのだろう。

「ねえ、返事してよお。」

「えっとねぇ、私はベルっていうの。ついさっきポケモントレーナーになったばっかりなんだよお。」

「あ、それとねそれとね。トウヤとチェレンっていうお友達がいるの!」

「トウヤは優しくって、私が遅刻してもいっつも笑ってくれるんだあ。」

「チェレンはね、すっごくクールで物知りでねえ。でもたまに私に厳しい時もあるの。」

「そんな2人は、私のすっごく大事なお友達なんだよ!」

「それとねそれとね、この子はランランっていうんだけど…………………」


264 : 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:03:25 67qMrrJ60
…………前言撤回。
ベルのマイペースは無敵だった。
イレブンの元を決して離れず、何分間でも話し続ける。

「…………あの」

そして長い長い時間が経過した後、ついにイレブンは口を開くことが出来た。

「………喋るの、はずかしい………」

その言葉がベルに届いた時、彼女の顔がぱあっと明るくなった。

「なーんだ!よかったあ、無視してるんじゃなかったんだね!」

伝えられた。
ようやく自分の意思を伝えられた。
それだけで、イレブンはどこか感動を覚えた。

「えーと、ゆっくりでいいよぉ。お名前教えて?」

「…………イレ…ブン。」

「えへへ。イレブン、よろしくね。」

イレブンはエマと初めて出会った時のことを思い出していた。
かつてのエマもこのように、自分がコミュニケーションが苦手であることを理解してくれて、話のペースを合わせて根気強く付き合ってくれた。
ダルケルとは上手くいかなかったけれど、この子とならある程度しっかり話ができる気がする。

「あっそうだ!さっきイレブンが言ってた、エマってだぁれ?」

…………再び前言撤回。
はずかしい。やっぱりはずかしい。


265 : 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:03:56 67qMrrJ60
【A-3/森/一日目 黎明】 

【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】 
[状態]:HP79/80 MP0  恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:なし 
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個、呪いを解けるものはなし) 
[思考・状況] ああ、はずかしい はずかしい
基本行動方針: 
1.イシの村で休み、MPを回復する
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。 
3.はずかしい呪いを解く。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】 
[状態]:健康 
[装備]:なし 
[道具]:基本支給品、ランラン(ランタンこぞう)@DQ11 不明支給品0〜2個 
[思考・状況] 
基本行動方針: 
1.ポカポカ(ポカブ)を探す。 
※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。 
※ランタンこぞうをポケモンだと思っています。


266 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:04:34 67qMrrJ60
投下終了しました。
最初の宣言で言い忘れてましたが、ゲリラ投下となります。


267 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 15:23:15 67qMrrJ60
ちょっと紛らわしいかつ誤った表現があったので訂正します

>>261

自分が殺し合いに巻き込まれた時に両隣にいたトウヤとチェレンも巻き込まれているのなら、2人も探さなくてはならない。


元の世界で1番道路に踏み込もうとした瞬間にこの世界に連れてこられた。もしかしたら、隣にいたトウヤやチェレンも一緒に連れてこられているかもしれない。


268 : 名無しさん :2019/07/03(水) 17:38:35 tN8FkF8g0
投下乙です
ベルちゃんもイレブンくんもかわいい
ベルちゃんにとっては、なかなか頼もしい相手と合流出来てなによりだ

それとひとつ気になる点があるのですが、イレブンのHPが低すぎないでしょうか


269 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/03(水) 17:50:30 67qMrrJ60
>>268
感想・ご指摘ありがとうございます。
「メラを80回受けたら0になるHP」くらいの感覚で全体の1/80減った、という意味の割合表記だったのですが、確かにこれだと最大HP80しかないようにも見えますね…
素直に「HP減少(微小)」と直しておきます


270 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 19:56:49 QtG1f6Fo0
投下乙です!
タイトルいいですね、踏み出しきれなかったベルとイレブンが足並みを揃えて歩き出す感じが伝わってきます。
一人で行動するには不安要素が多かったベルですが、参加者の中でもかなりの実力者に入るであろうイレブンと同行出来たのは安心しますね。
ニズゼルファ撃破後ということもありメラ程度ではダメージにすらならない様子。頼もしい!
戦力不足のベルに人見知りのイレブン、お互いがお互いの足りない部分を補ういいコンビなのではないでしょうか。

そしてこちらも投下します。


271 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 19:58:08 QtG1f6Fo0

ゲーチスには野望があった。

表向きは「ポケモンを人間から解放する」という思想を掲げ、その真意は「自分だけがポケモンの力を利用できる世界を作る」という途方もない理想の世界を築こうとプラズマ団を立ち上げた。
その表向きの思想に賛同する者も少なくはなく、順調とは言えないが着実にその野望は現実になろうとしていた。

しかし、それは一人の少年の手によって失敗に終わる。

費やした努力や時間とは不釣り合いなほどに呆気なく彼の野望は崩れ落ちた。
理解できなかった。納得いかなかった。しかし現実はゲーチスを置いてけぼりに進んでゆく。
年端もいかない少年に敗北したという現実に自尊心をへし折られ、アデクとチェレンに連行される中でゲーチスは心の底から願った。

やり直したい、と。



『この殺し合いの優勝者は元の場所に帰れる権利と、何でも一つ願いを叶えられる権利が与えられるの』



地獄へ向かうゲーチスの目の前に一本の蜘蛛の糸が垂らされた。





272 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 19:59:04 QtG1f6Fo0


殺し合いの場に降り立って二時間ほど、ゲーチスは草原にて一人の女性と出会った。
名をエアリスというらしい。軽い自己紹介の中で二人は互いにこの場で初めて出会った参加者だと知る。
エアリスはどこか不思議な雰囲気を纏っていた。普通こういう状況での女性といえば慌てたり泣き喚いたりしてもいいものだが、エアリスはそれがない。
どころか毅然とした態度を崩さず、場慣れしているように感じられた。

聞けばルール説明の際に飛び出した黒髪の女性は彼女の仲間らしい。
それを聞いてゲーチスはなるほどと頷いた。知り合いがいることを確認できた上、明確に反逆の意志を持っている仲間がいるからこそ冷静でいられるのだろう。

「ゲーチスは、知り合いとか見なかったの?」
「……いいえ、残念ながらワタクシは誰も」
「そっか。よかった……のかな」
「良かった、というと?」

後ろ手を組み草の上を歩きながらエアリスがぽつぽつと紡ぐ。
舞台の上で演じているような彼女にゲーチスは視線を注ぎながら疑問を呈した。
当のエアリスはスラムでは見れない夜空を見上げ、ゲーチスと視線を合わせようとしない。

「殺し合いになんて、呼ばれない方がいいよ」

その一言でゲーチスは察した。
このエアリスという女性は”使える”と。

「……そうですね。ワタクシとしたことが、考えが及びませんでした」
「ううん。不安な気持ちはみんな一緒だから。しかたないわ」

表向きの穏和な微笑みを浮かべながらゲーチスは内心でほくそ笑む。
言うまでもないがゲーチスの目的は優勝一択だ。しかし実力でそれを目指すのが無謀だということは理解している。
だからこそゲーチスは対主催の立場を演じる。いわゆるステルスマーダーのスタンスを選択した。
プラズマ団の表の顔を演じてきたゲーチスの素性は簡単に見破れるものではない。
しかしそれだけでは不安要素が残るゆえ、エアリスという少女を手元に置いておきたかった。

無力な女性と行動を共にする紳士的な男性。この肩書きを見ればまず警戒されることはないだろう。
エアリスの言うように自分の素性を知る者と出会ってしまえばそれも崩れるが、およそ七十に至る参加者の中で出会う確率は低い。
それにもし出会ったとしても、紳士という外面を崩さずにいればその場しのぎの嘘でどうとでもなる。
なんせ殺し合いという状況下。誤魔化しようなど幾らでもあるのだから。


273 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 19:59:53 QtG1f6Fo0

「エアリスさん、支給品の確認は?」
「あ、忘れてた」

武器が欲しいゲーチスの発言により二人は互いの支給品の確認に移った。
ゲーチスの支給品はあまり恵まれているとは言えず、大きなスコップと緑色の珠、スタミナンXと書かれた飲料と一見まともとは思えない組み合わせだった。
緑色の珠に至っては使い道すら分からないが、エアリスによればマテリアというらしい。自分が持っていても仕方がないとエアリスに譲った。

エアリスのバッグから出てきたのは黄金の装飾が施された派手な弓と矢筒。矢筒の中には二十本もの矢が入っていた。
それだけならゲーチスも驚きはしなかったが、続いて彼女の手に握られたそれを見て目の色を変えることとなった。
モンスターボール――下手な銃器よりもよほど頼りになるそれはゲーチスにとって是非とも手にしておきたい代物だ。ゲーチスはエアリスに頼み込み説明書と共に自分の支給品に組み込んだ。


バイバニラ ♂
特性:アイスボディ


覚えているわざ
•ふぶき
•ラスターカノン
•とける
•ひかりのかべ


「バイバニラ、か……」

説明書に目を通すゲーチスの顔はお世辞にも喜んでいるとは言えなかった。
バイバニラは存在こそ知っているが使い馴れたポケモンではない。わざの構成も、ゲーチスが普段行っている状態異常や天気を駆使するものとは違い守り重視となっている。
しかしレベルは自分のポケモンよりも高いようで、立派な戦力であることに変わりはない。
ゲーチスの握る説明書に横からエアリスが不思議そうな視線を覗かせた。

「ねぇ、それってなに?」
「ああ、バイバニラです。ワタクシはあまり使い慣れていないポケモンですが……」
「ポケモン?」

ポケモン、という単語に疑問符を浮かべるエアリスにゲーチスは怪訝な視線を向けた。
まるでポケモンを知らないような反応だ。どんな片田舎に住んでいようともポケモンの存在くらいは知っているはず。
しかしそんな常識はエアリスの「ポケモンってなに?」という質問によって打ち砕かれた。


274 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:00:41 QtG1f6Fo0

ここで初めてエアリスとゲーチスは互いの世界の違いを知る。
ゲーチスはミッドガルという都市の存在など知らず、エアリスもイッシュ地方どころかポケモン自体を知らない。
簡素に互いの世界の情報交換を終え、エアリスは夢見がちな瞳でぽつりと呟いた。

「なんだか不思議。召喚獣みたい」
「はは、ワタクシとしては貴方の言うミッドガルという場所に興味があります。是非一度行ってみたいものですね」

そう笑うゲーチスの瞳は冷徹にエアリスを見下す。
ゲーチスは元々エアリスの言葉を信じてはいなかった。エアリス自体がユートピアじみた雰囲気を醸していることもあり、全て彼女の脳内での空想なのだろうと冷静に切り捨てる。
ミッドガル、召喚獣、魔晄、ソルジャー――くだらない。そんな幻想に付き合っていられるほど暇ではない。
早々に会話を切り上げたゲーチスはモンスターボールを握りしめ、紳士然とした態度を維持しようとエアリスへ声を掛けた。

「エアリスさん。ワタクシはこのNの城という場所に向かいたい。実はこの場所、ワタクシの住処と同じ名でしてね。本当にワタクシの知る場所と同じなのか確認したいのです」
「うん、そこに行きましょう。けど、途中でティファを探したいな」
「勿論人探しも兼ねてです。運が良ければワタクシ達のような殺し合いに反対する方々とも出会えるかもしれませんから」

にこやかな笑みを浮かべるゲーチスにエアリスが快く頷く。
怪しまれている様子はない。今の自分はエアリスという少女と共に同じ志を持つ仲間を探す勇気ある紳士なのだ。
殺し合いを生き残るにはこの表向きの顔を崩す訳にはいかない。

「では行きましょうか、エアリスさん」

うん、と返すエアリスを横目にゲーチスは右方へ向き直る。
今のところ粗野な振る舞いはない、完璧だ。計画は順調に進んでいる。
そんなゲーチスの揺るぎない自負心は次の瞬間、慢心へと落ちた。







「お久しぶりです、ゲーチスさん」







なっ――と、思考よりも先に口がそれを漏らす。
ゲーチスの左目は信じ難いものを見るかのように見開かれ、瞳孔に驚愕の色を乗せていた。
そうだ、聞き違えるはずがない。ゲーチスはこの声を確かに聞いたことがある。
ひび割れた皿のように充血する瞳に映る少年の影はまさしく、自分の野望と心を打ち砕いた紛れもない存在。


275 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:01:22 QtG1f6Fo0

「ア、ナタは……っ!?」

短い時の中で築き上げた冷静沈着な態度も紳士然とした振る舞いもかなぐり捨て、喫驚に浸るゲーチスは隣のエアリスを置き去りにする。
きょとんと首を傾げる彼女など既にゲーチスの視界には入っていない。
現在、一番出会いたくない人物が。七十分の一という確率を潜り抜けた脅威の塊がそこにいるのだから。

「どうしたんですか? ゲーチスさん」

ざ、と草を踏み締める少年の後ろには黄金の甲殻を纏うポケモン、オノノクスが低い唸りを響かせている。
しかしそれよりも数段、否圧倒的にゲーチスの恐怖心を煽るのは彼の帽子の奥に光る双眸。
以前出会った時とは比にならぬ威圧感にゲーチスは思わず一歩後ずさった。

「出してください――あなたのポケモンを」

やがて少年、トウヤは顔がはっきりと視認出来る距離まで近づいた。



もはや無視はできない。自分一人だったならば戦線を離脱できたかもしれないが、エアリスが居る以上不審な挙動は避けたい。
逃走という選択肢を除外したゲーチスはぎこちない笑みを浮かべ、「知り合い?」というエアリスの問いかけも無視して必死に言葉を募らせる。

「これはこれはトウヤさん。アナタもこんな悪趣味な催しに誘われていたとは、実に嘆かわしい。まだこんなに年端もいかぬ少年にこのような過酷な命運を背負わせるとは許しがたい! どうですか、トウヤさん。ワタクシ達と共にこのふざけた運命を打開――」
「オノノクス」

ゲーチスの演説を遮る呼びかけに応じ、傍らのオノノクスが吠えトウヤの前へ躍り出る。
臨戦態勢に入るオノノクスの全身から溢れる闘気がゲーチスの肩を震わせる。それはゲーチスに争いは避けられないと理解させるには十分すぎた。

「ゆ、ゆきなさい! バイバニラッ!!」
「バニ〜」

震える左手でモンスターボールを投げる。
すると中からソフトクリームを模したような顔が二つ並んだ氷の異形が飛び出した。
ふわふわと宙を浮くバイバニラの姿にエアリスは可愛いとどこか場違いな感想を心の内に抱く。
しかし現状の雰囲気はそれと真逆。戦いの火蓋は既に切って落とされているのだ。
それを感じ取ったエアリスは慌ててその場から離れ岩陰に隠れる。


276 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:02:19 QtG1f6Fo0

「とける!」
「りゅうのまい」

各々の指示に従いバイバニラが己の体を溶かし、オノノクスが舞踏を刻む。
形状が変化し衝撃を吸収しやすくなったバイバニラの防御が上がり、神秘の舞を踊ったオノノクスは攻撃と素早さが上がった。

ゲーチスの思考は冷静だ。だからこそこの戦いを買った。
まず、この場で支給されるポケモンはランダムだ――ゲーチスにはポケモンすら配られていなかったが――すなわち、自分の手持ちや得意とするポケモンが配られる可能性は非常に低い。
ゲーチスの手に扱ったことがないバイバニラが渡ったように、トウヤもまたオノノクスを扱ったことがないとまではいかずとも元の手持ちのように駆使することは出来ないはずだ。
この時点で互いの条件はほぼイーブンとなる。

更に言えば、オノノクスはドラゴンタイプだ。
様々なタイプに耐性を持つドラゴンタイプは脅威とされているが、そんなドラゴンタイプも無敵ではない。
例えばバイバニラのようなこおりタイプの相手には相性が悪く、場合によっては完封される場合も珍しくはなかった。
おまけにバイバニラはオノノクスのレベルを大きく上回る。まともに戦えばまずバイバニラが負けることはないだろう。

それを踏まえた上でゲーチスはバイバニラに指示を下した。


「バイバニラ、ラスター――」
「右へ跳んでそのまま接近しろ」

しかし生憎、この少年は”まとも”ではない。

バイバニラの口からラスターカノンが放たれたときには、既にオノノクスは回避行動を終えていた。
標的を見失った光線は月光よりも鋭く瞬き、大地をえぐり土煙を巻き上げる。
即興の煙幕に乗じてオノノクスは指示通りバイバニラの元へ重厚な見た目とは不相応なスピードで肉薄した。

「付け根を狙ってきりさく」
「な……!?」

二つの顔の間の急所を的確に切り裂かれるバイバニラを見てゲーチスはようやく自分が読み負けたことに気がつく。
苦悶の声を漏らし後退するバイバニラ。しかし抵抗は許されず、そのままオノノクスが牙を振るい追撃の餌食になった。

「きょ、距離を取れ! ひかりのかべだ!」
「りゅうのまい」

慌てて下されたゲーチスの指示にバイバニラが後方へ下がり、ひかりのかべを生み出す。
りゅうのはどうなどの遠距離攻撃対策に備えられたそれだが、物理攻撃しか覚えていないトウヤのオノノクスからすれば無駄行為だ。
生み出された僅かな時間で再び龍の舞を踊らせる。


277 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:03:07 QtG1f6Fo0

「左側から回り込んで目を狙え」

二段階の強化を経たオノノクスの身体能力は先の比ではない。
バイバニラとゲーチスの反応を許さない速度で左側に回り込んだオノノクスが牙を振るう。と、バイバニラの左目が鮮血を巻き上げて視界を遮断させた。
残りの目が三つあるとはいえ突如失った視界は遠近感を狂わせるには十分だ。
絶叫を上げるバイバニラは辛うじて聞こえたゲーチスの指示によりラスターカノンを黄金へ放つ。
しかしその座標は失った左目の弊害により僅かにオノノクスの位置からずれ、結果反撃の刃を急所にもらうことになった。

「ちぃっ……! バイバニラ! とけ――」
「りゅうのまい」

吹き飛ばされたバイバニラの防御を固めるためゲーチスがとけるを指示する。
しかしそれよりも”先”にトウヤはオノノクスに龍の舞を踊らせた。
これが何を意味するのか――つまりトウヤは、バイバニラから攻撃が来ないことを読んでいたのだ。

「ばかな……っ! 読まれていたのかッ!?」

ゲーチスの戦い方や思考、バイバニラの動き、癖などから読み解いたそれはもはや先読みという領域を超えている。
未来予知――現実的ではない単語が脳裏によぎるほどゲーチスは追い込まれていた。
トウヤは以前戦った時よりも桁違いに強くなっている。無駄のない指示と的確な先読みがその現実を嫌という程教えてくれる。
ポケモンのレベル差によりなんとか体力を保っていられているものの、バイバニラは既にあと一、二発でも貰えば倒れてしまうほど消耗していた。
対するオノノクスは無傷。一発逆転の手であるふぶきを狙いたいがタイミングが掴めない。

「さがれバイバニラ!」

もはや悪あがきに近い指示がバイバニラを全力で下がらせる。
三段階の強化を経たオノノクスにとっては無いような距離だが、なぜか接近してこなかった。

「ゲーチスさん」

疑問に思うゲーチスへトウヤが珍しく口を開く。
返事をする間もなく、これを好機とばかりにゲーチスはバイバニラを更に下がらせギリギリふぶきが届く範囲にまで離す。
いける――! 勝利を確信したゲーチスがふぶきと言葉にするよりも早く、トウヤの双眸がゲーチスを射抜いた。


278 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:04:08 QtG1f6Fo0


「バイバニラの四つめのわざ――ふぶき、ですよね?」


どんな揺さぶりが来ても中断する気のなかった指示はしかし、少年の預言により封じられる。
凍りついたのはオノノクスではなくゲーチスだ。なぜ、と掠れた声が溢れ落ちる。
激しい動揺と混乱により刹那の時間ゲーチスが置物と化す。当然、彼からのふぶきの指示はない。
判断を待つバイバニラは目前に黄金の閃光が迫りくるのを眺めることしか出来なかった。

トウヤが何故ふぶきを見抜いたのか、それは勘などではなくれっきとした推察によるものだ。
まず、ラスターカノンととける、ひかりのかべという三つのわざ。見ての通りの耐久型でラスターカノンだけでは火力不足が否めない。
ゲーチスが浮かべていた勝利を確信した顔からするに、ドラゴンタイプを一撃で屠るこおりわざを持っているのだろうと踏んでいた。
しかしゲーチスは最初からそれをせず執拗にラスターカノンを乱射していた。
つまりラスターカノンよりも使い勝手の悪いわざということになる。これにより、ラスターカノンと似た攻撃方法であるれいとうビームは択から消えた。

加えてゲーチスはこの戦いでバイバニラを頻繁に後方へ下げようとしていた。
そしてゲーチス自身はバイバニラの後ろにつくように位置を変えていた。わざによる巻き添えを食らいたくなかったのだろう。
ならば考えられるのは広範囲系のこおりわざ――こごえるかぜ、ふぶきの二つに限られる。
しかしこごえるかぜは威力が低いため無傷であるオノノクスを一撃で倒せるという保証はない。

つまり、答えは決まっていた。

「きりさく」

それは少年による戦闘終了の合図。
重ね掛けされた龍の舞によって倍以上の威力となった剣閃がバイバニラの急所を捉え、その身体を吹き飛ばす。
二度のバウンドを経てようやく草原へ留まるそれは、誰が見てもひんしの状態だった。

「っ!? バイバニラ! 立ちなさい! ワタクシに……ワタクシに恥をかかせる気ですかッ!?」

糾弾虚しくバイバニラは意識を失ったまま身じろぎ一つしない。
もはやポケモンバトルとも呼べない圧倒的な蹂躙。その結果がこれだ。
勝てる戦いだった。相性もレベルもバイバニラのほうが上回っていた。
だが敗北したどころかオノノクスは傷一つ負っていない。これほどまで明確にトレーナーの力量差が示されたことなど歴史上でも初と言っても過言ではないだろう。

「……ゲーチス」
「やめろ! ワタクシをそんな目で見るなっ! ……こんなこと、こんなことあっていいはずがない……!」

切なげに呼びかけるエアリスは今の今まで傍観者の立場から抜け出せなかった。
いや、実際には援護はしようとしていた。オノノクスに向けてゲーチスから譲られたふうじるマテリアを構え、スリプルの魔法を詠唱しようと試みていた。
しかしその最中、目が合ったのだ。激闘を繰り広げているはずのトウヤと。
オノノクスへ指示を下しながら、全く別方向にいるエアリスへ意識を向けるトウヤの視野と虚無を携えた眼光が彼女の妨害を許さなかったのだ。


279 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:04:57 QtG1f6Fo0

「…………」
「うっ!?」

立ち竦むゲーチスの傍へ、トウヤがオノノクスを連れ歩み寄る。
少年のものとは思えぬ威圧感とフラッシュバックする蹂躙がゲーチスの口から情けない声色を転がさせる。
そのまま手の届く位置にまで近寄ったかと思えばぴたりと歩みを止めた。無言のままゲーチスを睨む少年が不気味でたまらなくて、ゲーチスは思わず外聞も捨てて怒鳴り散らした。

「なんだ!? 何が望みなんだッ!? 金か、名誉か!? 欲に塗れた薄汚いネズミめ……! そんな下らぬものを手に入れるために、ワタクシの理想を邪魔するのかッ!」
「そんなもの、もうとっくに持っています。オレがほしいのはポケモンですよ」
「な……ポケモンだと!?」

ゲーチスの豹変ぶりに困惑するエアリスに視線すら向けることなくトウヤの欲望を反芻する。
ポケモンがほしい――確かにそれは万人が抱くであろう欲望だ。だが、それを口にするタイミングがおかしい。
通常他のトレーナーの手持ちのポケモンを奪うことは禁止されている。まっとうな人間ならば野生を捕まえたり、卵を孵化させたりと正規の手段でポケモンを得るはずだ。
それこそプラズマ団のような例外を除いて――

「まさか……ッ!?」
「ええ、そのまさかです。オレ自身、気付かない内に貴方の考えに侵食されていたのかもしれませんね」

平然とした顔で語るトウヤにゲーチスは言葉を失う。

(……こいつは、本当にあの少年なのか――?)

本来悪という立場であるはずのゲーチスがそれを疑うほどに目の前の少年は淀んでいた。
それもゲーチスのような表向きの顔を必要としない、裏も表も黒く染め上げられた逸材。
実力も、頭脳も、威厳も――その全てが支配者であるはずのゲーチスを上回っている。
これでは……これではまるで、自分の立場が無いじゃないか。
ゲーチスの心に言いようのない無力感が襲いかかる。がくん、と途端に脱力した足が崩れ落ち、両膝を落として項垂れる姿勢になった。

「これはもらいますよ」
「……はは、好きにしたらいい。どのみちそんな使えないポケモン、ワタクシには必要ありません」

ありがとうございます、とトウヤは放り投げられたモンスターボールを拾いひんしのバイバニラを戻す。
使えないポケモン、という言葉に反論を示さないトウヤの様子はやはりゲーチスの目から見ても異常だ。
尋常ではない強さといい、機械じみた態度といい、もはやゲーチスのいる世界とは違う世界に住んでいるのではないかとさえ疑った。


280 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:05:28 QtG1f6Fo0

「あ、あの!」
「ん?」

なにも言わず立ち去ろうとするトウヤをエアリスが呼び止める。
振り返るトウヤの瞳は相変わらず無機質で、魔晄を帯びた者とはまた違った異質さが感じられた。

「あなたは、なにがしたいの?」

シンプルな、しかしゲーチスも気になっていた質問はトウヤの目を僅かに見開かせる。
僅かな逡巡ののち、トウヤはエアリスと向き直った。

「生きたいんです。今のオレは死んでいないだけですから」
「……よくわからないわ。どういう意味なの?」
「さぁ、オレもよくわかりません」

では、と早々に切り上げて再び背を向けるトウヤ。
今度はエアリスは呼び止めることは出来なかった。

「ああ、そういえば」

だが呼び止める必要はない。
トウヤ自身が足を止め、エアリスではなく項垂れるゲーチスに視線を向けたのだから。

「オレは貴方の考えに侵食されてるのかも――って言いましたが、厳密には違います。この世でオレ一人だけがポケモンを使えるようになっても、つまらないですから」

それは、ゲーチスにとってトドメとなる言葉だった。
トウヤとしては何の気なしに、ただ訂正しておこうかな程度の気持ちで言い放ったものだ。
だがそれは、トウヤという自分を上回る存在の登場により自尊心を傷つけられ、無力感に苛まれていたゲーチスの逆鱗に触れた。
自分の理想を叶えられるかもしれないトウヤが、その理想自体をつまらないと切り捨てる。これほど屈辱的なことがあるだろうか。

「……けるな」

杖代わりに地に立てていたスコップを強く握りしめる。
明確な殺意を湧き立たせるゲーチスにエアリスは制止の声を上げるが、それを聞く理性は持ち合わせていない。

「ふざ、けるなぁぁぁぁ――ッ!!」

トウヤの元へ駆け出し、怒りに任せゲーチスがスコップを振るう。
しかしそれをトウヤは難なく一歩横にずれてやり過ごし、逆に勢いよくスパナを振るいゲーチスの側頭を打ち抜く寸前でぴたりと止める。
度重なるバトルによって鍛え上げられたトウヤの動体視力の前にゲーチスのおざなりな一撃など通用するはずがなかった。

「……あ、……」
「オレはポケモントレーナーです。こんな真似はさせないでください」

低声の忠告。命を狙った相手にそれだけ言ってトウヤは再び背を向ける。
その背中はひどく無防備だ。だが崩れ落ちるゲーチスにはすでにトウヤへの敵対心は残っていなかった。
ただあるのは踏み躙られた醜いプライドの欠片と無力感のみ。

(……ゲーチス、本当にいい人なの?)

傍に付き添うエアリスには彼の気持ちはわからない。
だが、スラム街で育った彼女にはある程度いい人なのか悪い人なのかを見抜く目がある。
その目を持ってしてもゲーチスがどちらなのか判別がつかない。自分と接してくれた際は優しげだったが、あの少年やバイバニラに向けた態度はとても善人とは思えぬものだったから。
どちらにせよ今は彼の傍を離れるべきではない。今の弱々しいゲーチスを放っておけば、きっと良くないことが起こる。

「ワタクシは……ワタクシは……!」
「…………」

なんとなくだが、そんな気がしてならなかった。


281 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:07:17 QtG1f6Fo0


【E-3/草原(西側)/一日目 黎明】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:戦意喪失、無力感
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.このワタクシが……。
2.エアリスを利用し対主催を演じる。

※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、マテリア(ふうじる)@FINAL FANTASY Ⅶ
[思考・状況]
基本行動方針:ティファを探し、脱出の糸口を見つける。
1.今はゲーチスに付いて行きティファを探す。もし危なくなったら……。
2.ゲーチスの態度に不信感。

※参戦時期はデート後〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。

【支給品紹介】

【雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER】
ゲーチスに支給されたスコップ。
たとえ地面がコンクリートであろうと穴を掘れるトンデモ性能。
本来の持ち主である雪歩がこれを持てば無敵とまで言われていた。

【スタミナンX@龍が如く 極】
ゲーチスに支給された飲料。
体力を大きく回復させる効果がある。

【王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
エアリスに支給された弓。
黄金の装飾がなされ、入手のしやすさと高い攻撃力から作中でもかなりお世話になるはず。
セットで木の矢が二十本入っている。

【マテリア(ふうじる)@FINAL FANTASY Ⅶ】
ゲーチスに支給されたマテリア。
これを手に持っているか、あるいは武防具に装着させることで魔法が使用可能。
使える魔法は「スリプル」と「サイレス」。






282 : ポケットにファンタジー ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:08:02 QtG1f6Fo0



「なにがしたいの、か」

エアリス達から見えなくなった頃、トウヤはぽつりと一人呟く。
エアリスの問いは予想以上にトウヤに響いた。もっともそれも考えを改めるほどのものではないが。

「そんなの、オレが知りたいよ」

あの時は適当なことを言ってしまったが、あながち本心じゃないとは言い切れない。
生きているとはなんだろうか。何度か考えたことがあったが未だに答えは見つからない。
ただ、この場なら見つけられるかもしれない――隣歩くオノノクスの甲殻を軽く撫でながら、トウヤはまだ見ぬ強敵の予感に想いを馳せた。

(……それにしても)

トウヤの脳裏に蘇るゲーチスの姿。
参加者は各地から無差別に選ばれたのだと思っていたばかりに彼が居たのは意外だった。
ゲーチスがいるということは自分の関係者も、例えるならチェレンやベルもいるのだろうか。あの二人ならきっと自分とは違う道を行くだろう。

「まぁ、どうでもいいか」

だが、彼らへの意識はトウヤが口にした一言が如実に表している。
どうでもいいのだ。対等なスタート地点から同時に足を踏み出したのにも関わらず、終始自分の遥か後ろを歩いてきた弱者など。
今のトウヤが求めているのは興奮に値する強者のみ。

【E-3/草原(東側)/一日目 黎明】
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.自分を満たしてくれる存在を探す。
2.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。
3.バイバニラを回復させたい。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。

【支給品紹介】

【モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
エアリスに支給されたバイバニラが入ったモンスターボール。元の持ち主はアデク。
特性はアイスボディ、覚えているわざはふぶき、ラスターカノン、とける、ひかりのかべ。


【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:健康
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。

【バイバニラ ♂】
[状態]:ひんし、左の顔の左目失明
[特性]:アイスボディ
[持ち物]:なし
[わざ]:ふぶき、ラスターカノン、とける、ひかりのかべ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.……。


283 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/03(水) 20:08:24 QtG1f6Fo0
投下終了です。


284 : 名無しさん :2019/07/03(水) 20:46:45 tN8FkF8g0
投下乙!
トウヤやべえええ!
相性なんてものともしない冷静な戦いぶりは、頂点を極めた最強トレーナーの説得力が増し増しで、すごかったし怖かった
ゲーチス…ベルの言葉を借りるなら、一歩目から散々すぎるw
エアリス共々、これからどうなるんだろう…


285 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/04(木) 11:52:49 gjzyEmno0
投下乙です。
>歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を

ようやくイレブン君の話し相手に出来そうな相手が!!ランタン小僧がどう活躍していくかも楽しみ。
カーニバライトや地獄の送り火に進化したりするのかな?

>ポケットにファンタジー
ポケモンBWはやったことないけど、トウヤの圧倒的最強加減が伺える。
何か1度ゲームをクリアして、その後かくし要素もコンプリートして、もう一回ラスボスをボコるプレイヤーを連想してしまいました。
エアリスはやっぱり人間の鑑だ。ゲーチスとどう化学反応を起こすかすごく楽しみ。


286 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/04(木) 15:05:50 7Zs4u6so0
>>205
◆pnpG6UgSkwさん、いらっしゃいますか?予約期限が過ぎました。日付が変わるまでに反応がない場合、予約破棄扱いさせて頂きます。


287 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/04(木) 22:04:10 gjzyEmno0
クラウド チェレン レオナール予約します。


288 : Must Die ◆pnpG6UgSkw :2019/07/04(木) 22:13:57 fWQFP5sY0
投下します


289 : Must Die ◆pnpG6UgSkw :2019/07/04(木) 22:14:28 fWQFP5sY0
「愛国者達が!!」

怒りも露わに、ソリダス・スネークは街灯を蹴り飛ばした。
鉄製の支柱が曲がる程の蹴撃は、ソリダスの高い身体能力と憤激を雄弁に物語る。

自由の子供達(サンズ・オブ・リバティ)。
ソリダス・スネークの野望であり悲願。

合衆国の軍事・経済・政治を社会の影から支配する者達。
情報を検閲し、統制する事で、その存在を隠匿し、技術を独占し、人々の思想すらも意のままにする者達。
奴等『愛国者達』の統制から離れ、真の自由を獲得する為の決起。
それをこんな形で潰してくれるとは!!
ソリダスはあの二人を愛国者達の配下だと確信していた。
明らかに人ならざる力を行使してはいたが、サイコ・マンティスの様な人を逸脱ささた能力を振るうものや、
バルカン・レイブンやヴァンプの様な、超人としか言い表せられない身体能力の持ち主を知るソリダスには、別段思うところは無い。
あのウルノーガとかいう奴は………ホログラムか何かだろう。
そう結論したソリダスは、取り敢えず支給品を探ってみる。戦場においては武器の確認は基本である。
結果、出てきたのは、食料だの水だの地図だのの他に、サバイバルナイフが一本と、壊れて機能しないステルススーツ。

「クソッッ!」

再度の蹴撃を受けた街灯の支柱が、形容し難い音と共にへし折れた。


290 : Must Die ◆pnpG6UgSkw :2019/07/04(木) 22:17:14 fWQFP5sY0
「………………………………」

八つ当たりで気を紛らわしたソリダスは、改めて今後の方針を考える。
奴等の思惑通りに、他の連中を殺して回る?論外だ。
自由を求めて決起した己が、鎖に繋がれた剣闘士の様に、他者の意に沿って闘争し、殺戮する。
そんな事をやる意志はソリダスには存在しない。奴等の意のままに振る舞う事が気に食わない。
何よりも、自由を獲得する為に行動しておきながらそんな真似をすれば、己の存在は道化に等しいものとなる。

「道は一つだけ…という訳だ」

奴等を殺す。奴等の目論見を打倒する。
『何でも願いを叶えてやる』上等だ。叶えて貰おうじゃないか。しかし、それは、他の者達を殺し回って、御褒美として施して頂くなどというものでは無い。
奴等を打ち倒し、這い蹲らせて、願いを叶えさせるのだ。
「どうか貴方様方の願いを叶えさせて下さい」そう言わせてやる。
取るべき道は一つ。ならば実行の為の手段は………。

先ずは手駒を増やす。
奴等の目的を挫く為にも、首輪を外す為にも、手勢を集める事は必要不可欠だ。

第一に、この殺し合いに反感を持つ者達を糾合する事だ。
そして殺し合いに乗った者達を皆殺しにする。
こうすれば奴等の目論見は破綻する。
その上で首輪を外し、奴等を打ち倒す。

「こうなったからには仕方がない。皆殺しにして、愛国者達の情報を得るまでだ」

首輪に付いているであろう、登頂機能を誤魔化すべく、物騒なことを呟いたソリダスは、目指して歩いてきた建物を見上げる。
何でこんな所に警察署が有るのかは分からないが、武器を調達するには丁度良いだろう。
同じ事を考える者が、スタンスはどうあれやってくるかも知れない。
ソリダスは支給品のサバイバルナイフの柄の感触を確かめる様に、二度握り直すと、慎重に警察署内に入っていった。

【F-3/ラクーン市警/一日目 深夜】

【ソリダス・スネーク@ METAL GEAR SOLID 2[状態]:健康・憤怒[装備]:サバイバルナイフ@現実[道具]:基本支給品、壊れたステルススーツ、[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの打破と主催の打倒1.手勢を集める。殺し合いに乗った者は殺す2.首輪を外す3.警察署内で武器を探す。
4.主催者を愛国者達の配下だと思っています

サバイバルナイフ@現実
ソリダスに支給された武器。武器としては微妙だが、サバイバルツールとしては非常に優秀で、無人島に漂着した際に、一つだけ道具を持ち込めるとしたら?という質問の最適解とされる。

壊れたステルススーツ@METAL GEAR SOLID 2
タンカー編OPでスネークが装備していたステルススーツ。
着地の衝撃で壊れている為機能しない。

※ビッグシェル制圧して声明を出した後からの参戦です。


291 : Must Die ◆pnpG6UgSkw :2019/07/04(木) 22:18:20 fWQFP5sY0



「一体どういう事かしら」

素早く周囲を見回して、何もいない事を確認したクレアは、改めて今さっき撃ち殺したリッカーの骸を眺める。
悪夢の方がまだマシと断言出来るラクーンシティから脱出した筈なのだが、何故またリッカーに襲われなければならないのか。

それに………。

「消し飛んだ筈よね」

見上げた先にあるのは、確かに記憶の中にあるラクーン市警の建物。
屋上にぶっ刺さって燃えていた、安心と信頼と実績のカプコンヘリこそ無いが。

「それにこの銃…」

種類としては短機関銃なのだろうが、威力が明らかにおかしい。襲ってきたリッカーの胴に、ただの一発で大穴を開けた程だ。
何もかもが分からないが、一つ言える事は、クレアは際限無くロクでも無い状況にいるという事だ。
クレアはどうするかを考える。殺し合いなどやる訳が無い。となれば取るべき道は一つだ。

「奴等に立ち向かうとして、まずはこれを外さないとね」

指をそっと首筋に伸ばすと、首輪の冷たい感触に触れた。
奴等に命を握られている状況。これを何とかしないと始まらない。

「警察署の中に武器やツールが有るかも知れないけど………」

中にはリッカーやゾンビが徘徊しているかも知れない。

「………………」

暫く考えた後、クレアは意を決して警察署内に踏み入った。


【F-3/ラクーン市警/一日目 深夜】

【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】[状態]:健康・[装備]:P90(残弾数49発)替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2[道具]:基本支給品、不明品(確認済み)[思考・状況] 基本行動方針:対主催1.首輪を外す2.警察署内で武器や道具を探す

P90@METAL GEAR SOLID 2
クレアの支給品。
ソリダスが使っていた銃で、スティンガーミサイルも通じない、メタルギアRAYの装甲をボール紙のように貫通するトチ狂った威力の銃。

※エンディングごからの参戦です。


292 : Must Die ◆pnpG6UgSkw :2019/07/04(木) 22:18:59 fWQFP5sY0
◆、

鈍い足音が警察署へと向かって規則正しく響く。
足音の重々しさは、ただそれだけで、足音の主が強い力と巨軀の主である事を知らしめる。

「S.T.A.R.S………」

襲ってきたリッカーを、ある個体は腕の一振りで無造作に屠り、またある個体は蹴り砕いて、警察署へとまっすぐに歩いていく。
足音の主は止まる事無く、警察署の壁を、腕輪を嵌めた拳で破壊すると、内部へと侵入した。

「S.T.A.R.S………」

足音の主に有るのは新旧二つの命令。
旧い一つは、S.T.A.R.Sの抹殺。
新しい一つは、生きている者全ての殺害。
足音の主の名はネメシスT~型。
このバトルロワイアルの主催者が、殺し合いを円滑に進めるべく、優れた武器を持たせて送り込んだB.O.W
ネメシスは殺す。主催者の命令に従って。
ネメシスはS.T.A.R.Sを捜す。旧い命令に従って。 警察署に来たのもS.T.A.R.Sのメンバーを求めての事だ。
旧き令は未だにネメシスの中にある。
故にもし、S.T.A.R.Sのメンバーがこの地にいれば、ネメシスは最優先で殺しに掛かるだろう。
ネメシスはその者だけの死神となるだろう。



【F-3/ラクーン市警/一日目 深夜】

【ネメシス−T型@BIOHAZARD 23[状態]:健康・[装備]:不明(強力な事は確か)[道具]:基本支給品、不明品×2 豪傑の腕輪+3[思考・状況] 基本行動方針:皆殺し1.S.T.A.R.Sのメンバーが居れば最優先で殺す。

豪傑の腕輪@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて

装備すると攻撃力が上がる腕輪。


293 : Must Die ◆pnpG6UgSkw :2019/07/04(木) 22:19:46 fWQFP5sY0
大分少ないですが、投下を終了します


294 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/04(木) 23:24:50 gMxWbiPs0
投下乙です。
状態表はミスでしょうか? 後で修正させていただきます。
ソリダス、クレア、ネメシスの三人のそれぞれの全く違う視点が描かれていて今後の展開が楽しみになりました。

そして、あまり言いたくはありませんが指摘させていただきます。
上の予約超過の報告について何か反応していただきたかったです。
以前も延長された上で破棄扱いとなっていたので、今回もそうなるのではないかとヒヤヒヤしてしまいました。
それに正直、予約期限を過ぎてしまうほどの文量ではないと感じたため、報告を見てから書いたのではないかと余計なことまで疑ってしまいます。

もし今後も書いてくださる予定があるのなら、留意して頂ければ幸いです。


295 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/05(金) 00:16:21 wfuXGSMU0
>>1さんに質問したいのですが
ポケモンや他の支給モンスターの扱いについてです。

ゲーチス登場回によると、「ひんし」状態は(おそらくNの城やげんきのかけら系統のアイテムの使用で)回復できるように見えるのですが、そういった回復をも許さない完全な【死亡】はポケモンや支給モンスターにも適応できますか?

それともうひとつ、ポケモン以外の支給モンスターもNの城で回復可能ですか?


296 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/05(金) 00:30:31 .LC0Q4sE0
>>295
質問ありがとうございます。
はい、適応されます。ポケモンも魔物も死に至るダメージを受ければ死亡します。
死亡した際は【○○ 死亡確認】と、参加者が死亡した際と同様の表記をし、所持品や装備品から外してもらえると把握しやすいので助かります。

そちらは書き手さんにお任せします。
ですが愛の女神の回復描写を見る限り、ポケモンセンターのような特別な機械を使った回復方法とは違うようなので可能だと思っています。


297 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/05(金) 00:33:59 wfuXGSMU0
>>296
回答ありがとうございます。
把握しました。今後の作品の参考にさせていただきます。


298 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:43:05 b6QQVbzQ0
投下しますね。


299 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:46:53 b6QQVbzQ0
ここはとある遊園施設の路地裏。

参加者全員がこの世界に飛ばされてはや10分。
早くも戦いが始まっていた。


蒼い目の金髪の青年、クラウドが長剣を構え、斬りかかる。
それを長身の青年、レオナールが槍で受け流す。

バランスを崩すクラウド。
印象的に逆立った頭部めがけて、槍を振り下ろす。

だが、クラウドも伊達に死線を潜り抜けたわけではない。
不安定な姿勢ながらも剣の位置を変え、当たる範囲が狭い槍を確実に受け止める。


そのままレオナールの脇腹に蹴りを入れる。
しかしレオナールは、その程度のダメージをものともせずに槍を振り回す。

クラウドは姿勢を低くして、そのまま懐に飛び込む。
槍のようなリーチの長い武器なら、狭い距離で戦った方が有利だ。

だが、レオナールはあわてず騒がす後ろに下がり、再び槍の力が100%発揮できる間合いを取る。

クラウドは姿勢を低くしたままジャンプし、剣を振り下ろすも、悪戯に地面を耕しただけだった。

そこから槍が肩を掠め、鮮血がクラウドの服を汚す。
しかし、攻撃が命中したということは、少なくともその瞬間は防御が手薄になる。

ダメージにもひるまずクラウドは攻撃を続ける。


「なぜ……なぜ、こんなことを……。」
クラウドの攻撃をいなしながら、レオナールが問いかける。

彼は魔力を得るためのフェアリーとの契約の故、盲目ではあったが、匂いで相手の善悪を判別できた。
目の前の金髪の青年は、帝国軍の兵士と同じ、殺意が滾る者の匂いがした。

「なぜだと?」
クラウドの青い光を含んだ眼光が、一層鋭さを増す。

「俺はただ、やり直したいだけだ。」
クラウドの言葉に呼応して、持っている剣の色が、一層どす黒くなる。

かつてはその剣は、聖剣と呼ばれていた時代があった。のかもしれない。
だがその剣は、かつてそれを装備したものが抱いていた復讐心、そして今持つ者の殺意を吸い、邪剣と呼ばれるに相応しい姿をしていた。
精神に呼応して強くなる剣は、使い手によって、邪な方にも曲がる。


最初はレオナールが押していたかのように見えた戦いだったが、一転、クラウドの方が優勢になる。

「くっ……。」
「そこだっ!!」

クラウドが一際強力な一撃を見舞う。
それはレオナールの顔を裂き、両目を血に染めた。


300 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:47:11 b6QQVbzQ0

レオナールの後ろ側、袋小路に当たる場所から、一人の少年が声をかける。
「レオナールさん!!」
「キミは下がってなさい!!」

その少年に声をかける。

クラウドの大きく振りかぶった一撃を、レオナールの槍が打ち払う。

「何!?」
突然強くなった相手の力に、クラウドは驚く。

レオナールの決意が強まる。
後ろにいる、少年を守らないといけないという決意が。

大人のふりをしつつも、まだ身も心もか弱い少年のためにも死んではならない。
まだ筋肉が付いていない少年の躰を、抱きしめ、鎧になり続けなければならない。
この大人になろうとしている少年が、大人になるまで守らなければならないという決意が、レオナールを動かした。

彼は、あらゆる少年を愛した。
少年の愛くるしい瞳を、高い声を、艶やかな唇を、柔らかい肉を愛した。
その決意こそどこかずれているにしろ、レオナールの決意は確かなものだった。

加えてレオナールは契約により、元から盲目であるため、両目の損失はクラウドの思うほどでもなかった。

元々、攻撃範囲が狭い槍は、ガードすることも難しい。
急に勢いの増した槍は、クラウドの脇腹を捕らえた。

相手も星の危機と戦った手練れ。
そう簡単に急所は奪わせない。

「くそ……だが食らえ……!!凶斬り!!」

受けたダメージを、エネルギーに代え、リミット技を打つ。
相手の手の内が完全に読めない以上、強い技を使うのは危険だ。

一閃、二閃。それらが「メ」の字を作る。
だが、最初はレオナールに躱され、二発目は槍で受け止められる。

三閃、「L」の形をした剣筋を、レオナールは後ろへ飛びのき凌ぐ。

「ぐ……だが、私はまだ死ぬわけにはいかない!!」
だが、最後「凶」の文字を作る、上空からの一撃はレオナールの肩に食い込んだ。


301 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:47:30 b6QQVbzQ0

それでも負けじと槍を振るおうとするレオナール。
だが、さっきに比べて思うように槍が動かせない。

肩のケガではない。クラウドの凶斬りは、麻痺の効果も含んでいたのだ。

これでは武器の打ち合いを続けていても、負けるのは時間の問題だろう。

「頼む、力を貸してくれ!!」
この場にはいない契約相手、おおよそ人格者とは言えないが、確かに力を授けたフェアリーに力を求める。

槍の先から光が放出され、散って辺りの瓦礫やごみを吹き飛ばす。

「何だ?これは!?」

妖精の羽
レオナールが契約者の魔力を、戒めの塔に纏わせることで使えた技だ。
だが今回は契約者が近くにいないこと、そして槍に魔力が含まれていないことで、その威力は比べ物にならない程弱かった。

しかし、クラウドの目をくらませることだけは成功した。

今がチャンスだ。ここを逃せば後がないと、レオナールは痺れる体に鞭打ち、クラウドに突撃する。

血が迸る。

おかしい、とレオナールは感じた。
自分は、目の前の青年を殺すつもりはなく、止めるだけのつもりだった。
こんなに血が出るのはおかしい。


よく見ると、自分の腹から自分のものとは違う槍が出ていた。
後ろを見ると、冷たい目をした少年と、もう一匹、正体不明のトカゲの魔物がいた。

「よくやったよ。リザル。」
「な………ぜ………。」

レオナールの失敗は二つ。
後ろの少年が、自分の護るべき無力な対象だと思い込んでいたこと。
もう一つは、チェレンの闇を醸し出す匂いが、クラウドの殺気にかき消されていたこと。

間髪入れずにクラウドの剣が、レオナールの胴を裂いた。


「アンタ、この男を裏切ったのか。」
クラウドは眼鏡の少年、チェレンと、同じように冷たい目をしたトカゲの戦士を見つめていた。

「「裏切った」って言葉が間違ってる。
この人が勝手に仲間だと思い込んでただけだ。おまけに僕のことを嫌らしい目で見てきた。メンドーな奴を倒してくれて、感謝してるよ。」

クラウドは話もろくに聞かず、グランドリオンを構える。
リザル、と呼ばれた魔物は、主人への敵意と受け取り、槍を向ける。

「よしなよ、リザル。」
手を前に出し、威嚇行動を止めさせる。


302 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:47:51 b6QQVbzQ0

「お兄さん、さっき「やり直したい」って言ってたよね。実は僕もそうなんだ。協力出来ない?
さっきの戦いみたいに、僕とリザルが後ろから援護して、お兄さんがトドメを刺すんだ。」

「アンタが裏切らないという保証は、どこにあるんだ?」
「僕は自分の得の為にそんなメンドーなことはしない。僕一人じゃ、倒せない人もいるし、お兄さんとしてもそうじゃない?」


確かに、クラウドとしても、レオナールはかなりの強敵だった。
あの男がこの戦いで一番強いという可能性も低いし、自分とは異なる戦術を持った仲間とは心強いこともクラウドは理解している。


考えた末、クラウドはチェレンと協力するのがベターだと思った。

「分かった。だけど、一つだけ聞かせてくれ。
どうしてアンタは戦いに乗るんだ?」

「僕はね、友達がいたんだ。でもそいつは、強くなっていって、いつからか僕を友達として扱わなくなったんだ。
どれだけ努力をしても、あいつに勝てなかった……!!」

会ってから常に冷静な口調で話していたチェレンの語尾が熱くなる。
「力のため……か。」




チェレンは一時期、ポケモンバトルは勝利こそすべてと思うようになっていた。
だが、プラズマ団と戦う仲間のトウヤ、それにチャンピオンのアデクに影響され、考えを改めていった。

しかし、自分と共に旅に出たライバルであり、チャンピオンを破ったトウヤとの戦いで、彼の人生は暗転する。
(もうやめろ、チェレン。お前は俺には勝てない。)

最初は同じ道を歩いていたはずのトウヤに完膚なきまでに敗れた。
その目は、もう仲間、と見なしていなかった。その他大勢の弱者を見ている目だった。


それからのチェレンは、実力が伸びなくなっていった。
こんな状態じゃ、トウヤと戦うなど、もってのほかだ。

既にトレーナーとして積み上げた実績があるため、この時点で一つの町のジムリーダーくらいになれる実力はあっただろう。

だが、チェレンはそれを由としなかった。
トウヤに勝てなければ、意味がない。
こんなはずじゃなかった。
どこで自分は間違えたのだろうか。

そう思い始めた瞬間、この世界に呼ばれていた。


303 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:48:09 b6QQVbzQ0

「力もあるけど、何より僕は間違っていた。勝利が全てだったんだ。だからこの戦いで優勝して、間違えた人生をやり直させてもらいたい。」

「俺も、やり直したいんだ。死んだ、大切な人の為に。」

クラウドも、同様に後悔の念を抱えていた。
死んだ、大切な仲間、エアリス。

自分達はセフィロスを討ち、仇を取ることは出来た。
しかし、結局セフィロスが放った破壊魔法、メテオはどうにもならなかった。
切り札のホーリーも間に合わず、万事休すと思われていた直後。

ライフストリームの光が集まり、破壊の根源を包み込んだ。
人は死んだとき、そこに集まるという。

クラウドはそこで確かに見た。
八番街で初めて出会った時と同じ、朗らかな表情をしていた彼女を。


その笑顔が、よりクラウドの心に刺さった。
自分達は結局何から何まで、エアリスに頼りきりだったではないか。
何一つエアリスの命に報いることは出来なかった。

その後も、ミッドガルの再建活動で奔走しながらも、クラウドの心が晴れることはなかった。

エアリスだけ犠牲にして、自分達だけのうのうと生きていていいのか。
常にその思いがクラウドの心に付きまとった。

そんなある日、この戦いに呼ばれていた。
そして、始まりの場所で、見てしまったのだ。

エアリスが、いた。

クラウドは、殺し合いの恐怖より、ティファがいた驚きより、もう一度「やり直せる」というチャンスを得た喜びの方が強かった。

エアリス以外の全員を皆殺しにして、彼女を生き返らせてもらおう。
勿論、ティファや他の仲間もいる可能性は高いが、構わない。

自分の全てを犠牲にしてでも、彼女を生き返らせる。

「なるほどね。気持ちは分かったよ。でも、邪魔になればさっきのオジサンと同じ目に遭わす。それでいい?」

「もちろんだ。俺も邪魔になればアンタを殺す。」

青年と少年は、血で汚れた手を握り締めた。


304 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:48:35 b6QQVbzQ0

【レオナール@ドラッグオンドラグーン 死亡確認】
【残り67名】

【E-6/遊園施設 路地裏/一日目 深夜】
【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:HP2/3  脇腹、肩に裂傷
[装備]:グランドリオン@クロノトリガー 
[道具]:基本支給品、その他不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:エアリス以外の参加者全員を殺し、彼女を生き返らせる。
1.今はチェレンと共闘し、参加者を狩る
2.ティファ………

※参戦時期はエンディング後
※最初の会場でエアリスの姿を確認しました。



【チェレン@ポケットモンスターBW】
[状態]:健康
[装備]: なし
[道具]:モンスターボール@ポケットモンスターBW 青銅の槍@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて  基本支給品、ランダム支給品0~1レオナールの不明支給品0~2 
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、人生をやり直す。
1.クラウドと共に参加者を狩る。
2.力が欲しい。そのためにはどんなことだってする。

【グランドリオン@クロノトリガー】
クラウドに支給された剣。
聖剣の名を持つ通り、強い力を持つが、持ち手の想いに呼応し、さらに力が強くなる。逆にマイナスの感情を持って使った場合は、邪剣へと変わる可能性も?
魔王と英雄サイラスの戦いで折れてしまったが、赤き石ドリストーンと賢者ボッシュの力で復活した。
また魔王のバリアを中和する能力も併せ持つ。

※グランとリオンの意思は途絶えています。
【青銅の槍@ ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
チェレンに支給された槍。あまり強くないが、パートナーのリザルに渡している。


305 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:49:00 b6QQVbzQ0

「ギャア、ギャア。」

ふと鳴き声に耳を傾けると、リザルが何かを欲し気にしている。

「リザル、よしよし、お腹が空いたのかい?」
デイパックからチェレンはパンを取り出し、千切ったパンをリザルに食べさせる。

リザル舌をひょい、と出して、器用に食べた。
両手では、自分が持っていた槍と、レオナールの槍を見比べて、楽しそうにしている。

「俺の世界にはいないモンスターだな。アンタ、モンスター使いなのか?」
「僕はポケモントレーナー。僕が支給されたボールに入っていたんだ。
もっとも、こいつは元の世界では見たことないけど。」

「ぽけもん?とれーなー?」
「お兄さんの世界にはない職業なのかな。」
「お兄さん、じゃない。クラウドだ。」


二人には知らないことだが、彼もまた「やり直したい」者だった。
ある日、ゾーラ川のほとりで、魚取りをして、帰ったら自分達の集落が青い服の青年一人に壊滅させられていた。

爆発で弾け飛んだ仲間。切り刻まれた仲間。
持っていた宝石は愚か、仲間の尻尾も、角も、臓器まで奪われた。


集落の中で一番弱いため、魚取りを任せられていたリザルのみが、偶々生き残った。
だから、彼も生き残るために、やり直すことを望んでいる。

食事が済むと、リザルはボールの中に戻された。
集落程ではないが、ここはなかなか居心地がよいので、気に入っている。


【リザルフォス緑@ブレスオブザワイルド】
チェレンに支給されたモンスターボールに入っていたモンスター。
素早い動きと水中や崖の上でも動ける機動性や、舌や水鉄砲、時には武器を投げるなど、トリッキーな戦法で戦う。

※今後の条件次第で、青リザルフォス、シビレリザルフォスなどに進化する可能性があります。

 【草原の竜騎槍@NieR:Automata】
レオナールに支給された槍。持ち主の防御力が上がり、また、空中攻撃の威力が上がる。
かつて竜と生涯を共にした騎士が持っていたのだとか。
現在はリザルが装備している。


306 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:49:15 b6QQVbzQ0
投下終了です。


307 : Reset and Rebirth ◆vV5.jnbCYw :2019/07/05(金) 11:50:53 b6QQVbzQ0
申し訳ありません。チェレンの参戦時期忘れてました。
「クリア後、トウヤに敗れた後」の参戦です。


308 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/05(金) 15:13:50 wfuXGSMU0
投下乙です!
チェレンが死ぬと思いながら読み進めてたらまさかの……

そしてチェレンがひがんじゃってトウヤの王者の風格がよりいっそう増したような……
こんな友達の中でもベルだけはいい子だ

そして何気にクラウドがマーダーってのも危ないですね
最強キャラ候補の1人が……近いしセフィロスと是非出会って欲しい……


309 : ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 18:52:19 qnvr5bnE0
天海春香、書き手枠で予約します


310 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/05(金) 19:22:16 eVAKLF1s0
皆さん投下乙です!

>幸せを呼ぶナカマ
ゼルダは未把握ですが、サクラダさんはこれまた独特なキャラクター。
凄腕の大工がバトルロワイアルで何を作り上げていくのか、今は想像もできません。

>魔王決戦、その果てに
復讐に燃える魔王が、ネコ(アイル-)に甘いというギャップが良いですね。
「そこに隠れている者よ、今すぐに出て来い。大地ごと焼き尽くされるか、それとも地の底で永久に凍り付くか、選ぶこととなるぞ?」のセリフはカッコいい反面、アイルー相手に言ったと思うと面白いです。

>歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を
ベルの登場話を受けての二話目であり二歩目。リレー小説の面白さを感じます。
マイペースなベルはもちろん、少しずつ話すイレブンもかわいらしいですね。

>ポケットにファンタジー
ストーリー上でさえやられたゲーチスが廃人に勝てるはずもなく…。
「左側から回り込んで目を狙え」など、的確な指示で追い詰めるさまを見て、一話目でも強者感がでていたトウヤの強さをさらに認識することになりました。

>Must Die
MGSも未把握ですが、ソリダスは独特な思考ですね。いわゆる危険対主催でしょうか。
クレアはエンディング後なので、緊急時の対応も一般人よりは素早そうですが、さてどうなるか。
そしていわゆるジョーカーのネメシスは……いや怖いなぁ。
Wikiの名簿では【バイオハザード2】に加わっていますが、調べるとバイオ3で登場するみたいですね。

>Reset and Rebirth
>大人のふりをしつつも、まだ身も心もか弱い少年のためにも死んではならない。←おっ、立派な人だな!
>まだ筋肉が付いていない少年の躰を、抱きしめ、鎧になり続けなければならない。←?????
こんなレオナールさんの異常性を前にして、冷静に冷酷に行動したチェレン。
クラウドとの協力関係がどこまで続くのか、楽しみですね。


311 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/05(金) 19:25:12 eVAKLF1s0
星井美希 予約させて頂きます。


312 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/05(金) 19:37:08 .LC0Q4sE0
投下乙です!
予約のメンツから予想していたものとは真逆の展開で、まさかの連続でした……。
イレブン同様全参加者の中でも屈指の猛者に入るであろうクラウドがそちら側に乗ったのは大きいですね。
セフィロスは今の彼を見てどう思うのでしょうか。是非とも出会ってほしいです。
そしてチェレン……なんというか、納得の行く堕ち方でした。プライドの高い努力家だからこそ、劣等感も大きいんでしょうね。
それにしても、レオナールさんがクラウドと渡り合えている描写を見て感動を覚えました。世界観の違うキャラが互角に戦っている描写、すごく楽しいです。


313 : 名無しさん :2019/07/05(金) 20:56:58 .RGL.2vA0
すいませんら、書き手枠は後一つ余ってましたっけ?


314 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/05(金) 21:14:37 .LC0Q4sE0
>>313
現在参戦確定している書き手枠キャラは六人で、今一枠予約されているのであと三つ余っていますよ!


315 : ◆VheK0es1wU :2019/07/05(金) 21:38:27 .RGL.2vA0
ありがとうござます。では改めまして書き手枠で予約します


316 : ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:36:44 qnvr5bnE0
投下します


317 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:38:27 qnvr5bnE0
「芸能事務所…」

気が付いた時、天海春香は見知った事務所の中にいた。
辺りを見回すが、やはりここは自分たち765プロのアイドル達が所属する芸能事務所だった。

「さっきまでのは…夢?」

先ほどまでの出来事を思い返す。
マナという女の子に殺し合いをしろと言われ。
首には首輪がしてあって…

「あ…首輪……」

あの時のように首に触れようとして、たちまち現実に戻されてしまう。
そう、あの出来事は夢なんかじゃない。
ここは、殺し合いの舞台——!


ガチャ


「っ!」


突然の音に、春香はビクリとする。
ドアノブの音だ。
誰かが入ってくる!

(怖い人だったらどうしよう…)

すぐそばにはデイバックがあったが、頭の中が真っ白になっていた春香は、そこから自衛の為の道具を取り出そうという発想には至らなかった。
そして、ドアが開いて、現れたのは…


318 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:39:42 qnvr5bnE0
「…え?女の子?」
「!あなたは…」

そこにいたのは、金髪の女の子だった。
歳は春香より少し上くらいだろうか。
しかし、その雰囲気は見た目以上に大人びた印象を抱かせた。
そしてなりより目を引くのが…全身黒ずくめの服。

(暑くないのかな…)

黒という色は熱を吸収しやすい。
そんなことを思い出して、そんな間の抜けたことを考えてしまった。

そして次に春香の脳裏に浮かんだのは、「黒→悪」というイメージ。
黒ずくめの男を追いかける少年探偵の漫画を思い出した。

(綺麗な人だけど…悪い人なのかな)

怯えながらも、春香はじっと目の前の女性を見つめる。
黒衣の女性は、自分の姿を見て驚いたような表情をしていたが…やがて口を開いた。

「春香!?あなたも殺し合いに巻き込まれたの!?」
「……え?」

自分の名前を呼ばれて、春香はキョトンとする。
天海春香はアイドルだ。
最近はテレビ出演の機会だって増えてきてるし、知名度もそれなりに上がってきてると思っている。
だから目の前の女性が自分を知っていることに関しては別に不思議には思わない。
しかし…この黒衣の女性は春香を初対面で呼び捨てにし、まるで知り合いと話をするかのような態度だった。

「えっと…すみません。どこかでお会いしましたっけ?」


319 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:40:54 qnvr5bnE0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「…というわけで、私とあなたは知り合ったの」
「あ、アーク?プエラ…エテルナ?」

黒衣の女性、ミリーナ・ヴァイスの話を聞いた春香は、大混乱だった。
なんでも自分は、永遠の少女「プエラ・エテルナ」として、アークと呼ばれる異世界に召喚されたらしい。
そして、そこで色々トラブルがありつつも、ミリーナの仲間とライブを行い…春香は元の世界へ帰った。
しかし、帰る前に、アークのまとめ役であるワイズマンの計らいによって『シャドウ』という自分のコピーをミリーナ達の世界『ティル・ナ・ノーグ』に残し、それ以来彼女たちの冒険に同行しているらしい。

「えっと…それ、冗談ですよね?」
「信じられないなら、無理に信じることはないわ」
「あ、その!ミリーナさんを疑ってるわけじゃなくて!」
「いいのよ。こんな話、いきなり信じろって言う方がどうかしてるわ」
「あうう…」

春香は申し訳なさそうに俯いた。
ミリーナが嘘を言っているとは思えない。
しかし、受け入れろというにはあまりにも荒唐無稽な話だった。
それに、春香自身がそのような出来事について全く身に覚えがないのだ。

「でも、異世界でライブかあ…なんだかワクワクする話かも」
「私、春香の歌のファンなの。あなたの歌には…いつも勇気をもらってたわ」
「そ、そうなんですか!えへへ、嬉しいです!」

春香は照れ臭そうに笑う。
身に覚えのない話とはいえ、ファンと言われて嬉しくないわけがない。

「そうだ、春香。一つ、お願いがあるんだけど…あなたの歌、聞かせてくれないかしら?」
「へ?私の歌を…ですか?」
「ええ、久しぶりに春香の歌を聞きたいなって…ダメかしら?」
「いえ、それは構いませんけど…何かリクエストとかありますか?」
「そうね…」

ミリーナはしばらく考え込み…やがて、顔を上げる。

「その…私の作詞した歌、歌ってほしいな」
「え!?ミリーナさん、作詞家さんなんですか!?」
「…さっき話したアークで、バンドをしたことがあって。その時に、作詞を担当したの」
「へええ…ミリーナさんの歌、歌ってみたいです!」
「分かったわ、それじゃあ歌うわ。曲は…『Mr.Right』」

そして、歌が始まった。

(ミリーナさん、歌上手いなあ)

ミリーナの歌は、アイドルの自分からしてもなかなかの歌唱力と断言できるものだった。
しかし…

(なんだろう…本当はもっと明るい曲なのに、暗いような…そんな印象を受ける)

見れば、歌っているミリーナの表情は悲しそうだった。
なにか、悲しい思い出でも詰まった歌なのだろうか…
そんなことを考えていると、いつの間にかミリーナの歌は終わっていた。

「どうかしら、春香」
「はい、短い曲みたいですし…数回練習すればなんとかなると思います」
「そう、良かったわ」
「じゃあ、別の部屋で練習してきますね」

そういうと春香は、ミリーナからもらった歌詞のメモを手に部屋を出ていき、練習を始めた。


320 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:42:03 qnvr5bnE0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

それから数十分。
練習を終えた春香が、ミリーナのもとへ戻って来た。

「おまたせしました」
「待ってたわ、春香。それじゃあ、さっそく聞かせて」
「そのことなんですが…ミリーナさん、一緒に歌いませんか?」
「え!?」

春香の提案に、ミリーナは目を丸くする。

「付け焼刃の練習だったので、まだ少し不安ですし…だから、一緒に歌ってください」
「でも…」
「私、ミリーナさんと歌いたいんです!」
「春香…どうしてそこまで」
「だって…ミリーナさんに、元気になってほしいから」

天海春香はアイドルだ。
そしてアイドルは、お客さんに笑顔を、元気を届けてあげるのが仕事だ。
ミリーナは、先ほど歌っていた時、悲しそうだった。
春香にはその悲しみの理由は分からないが、せめて少しだけでもその悲しみを和らげてあげたかった。

「1人より2人で歌った方が、きっと楽しいですよ!だからミリーナさん…一緒に歌いましょう!」
「…やっぱりあなたは私のよく知る春香なのね。みんなに元気を届ける…太陽のような存在」
「た、太陽だなんて…大げさですよ」
「…分かった、一緒に歌いましょう」
「はい!」

ミリーナが、春香の隣に並び立つ。

「ワン……ツー……ワン、ツー、スリー、フォー!!」


♪                       ♪

暗闇の中で怯え 全てに目を逸らす despair
終わらぬ nightmare 声を上げられずにただ耳塞ぐ

何かが欲しくて遠く伸ばした手を
何も言わないでそっと包み守ってくれたのは君だね

君を守るためなら闇など怖くない
You are Mr.Right 愛してる 身体中で

君を守る光に僕もなれるかな
掴んだその手 未来に導く

♪                ♪


321 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:42:45 qnvr5bnE0
「ふう…ミリーナさん、どうでしたか?」
「…ありがとう、春香。最高だったわ。おかげで…覚悟が決まったわ」
「良かった!」

ミリーナの言葉に、春香は自分のことのように喜ぶ。
そんな春香を見てミリーナもまた、薄く微笑む。

「春香、私、あなたと最後に一緒に歌えて、本当に最高だった」
「私もです……って、え?最後?」

それってどういう、という続きの言葉が紡がれるよりも前に、

「花霞」

春香の意識は、そこで途切れた。
二度と目覚めることなく、永遠に。


322 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:43:40 qnvr5bnE0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

『魔鏡技!スタック・オーバーレイ!!』

『イクス———————っ!!』

愛しの彼は、自らの身を犠牲にし、結晶の中に閉じ込められた。
あの日以来、ミリーナは彼を救うことだけを考えて生きてきた。
例えそれが…世界を滅ぼす結果を齎そうとも。

「殺した…春香を」

動かなくなった春香の遺体を見つめながら、ミリーナはつぶやく。
自分は今、たった今、殺した。
かけがえのない仲間だった少女を。
春香の方は知らなかったとか、そんなことは関係ない。
自分は…殺したのだ。

「これでもう…後戻りはできない」

ミリーナは当初、優勝を目指していた。
目的はもちろん…幼馴染であり愛しの存在であるイクスを救うため。
だが、最初に会ったのはよりにもよって知り合いだった。
故に、揺らいでしまった。

「ありがとう春香…あなたのおかげで、覚悟を決めることができた。全てを犠牲にしてでも…イクスを助ける覚悟が」

『Mr.Right』
あれは、大切なイクスを想って作った歌。
それを、春香と一緒に歌ったことで彼女から元気をもらって、おかげで心の底から声を出して歌うことができた。
だから、覚悟を決めることができた。

「本当にありがとう、春香」


323 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:44:43 qnvr5bnE0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ミリーナは、春香のデイバックを確認する。
そして…そこで見つけた。
彼女のよく知る物を。

「これは…魔鏡」

ミリーナが見つけたもの、それは魔鏡と呼ばれる鏡だった。
魔鏡とは、魔鏡技と呼ばれる、いわゆる必殺技を使えるようになる鏡だった。
別の世界を例に挙げれば、ポケモン世界でいうZ技、クラウド達の世界でいうリミット技みたいなものだ。

「しかもこれは…私の魔鏡」

実はミリーナには、自身の魔鏡が一つ支給されていた。
しかし、春香のデイバックにはそれとは別の、ミリーナ用魔鏡があったのだ。
これでミリーナは、魔鏡技を2種類使うことができる。
しかし…

「これは…いらない」

ミリーナは、その魔鏡を地面に落として叩き割ってしまった。

「この魔鏡技を私が使うなんて…そんなの、許されない!」

春香に支給されていた魔鏡。
それは『Ex-clipse ボーカル』
『Mr.Right』のバンドを成功させたことにより具現化された魔鏡だった。

「春香を!アイドルを!歌を!殺した私が、この魔鏡を使うわけには、いかない!」

そう叫びながら、ミリーナはその場に泣き崩れた。
ごめんなさい、ごめんなさいと、春香の亡骸に向けて謝りながら。


324 : 輝け、少女たちの歌 ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:45:41 qnvr5bnE0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ミリーナは、芸能事務所を後にした。
その顔には、もう涙はない。

「私はもう迷わない」

イクスを救うため、この場にいる者たちを殺す。
たとえどれだけその手が血で穢れようとも。
たとえ相手が仲間であっても。
もう彼女は迷わない。

「世界だって滅びても構わない。それが、「私」なのよ」


【天海春香@THE IDOLM@STER 死亡】
【残り66名】

【D-2/765プロ付近/一日目 深夜】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:健康
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ 
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、春香の不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.他の参加者を探し、殺す

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。

【魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ】
ミリーナに支給された支給品。
魔鏡技「幻夢断鏡闇」を使えるようになる。
原作ではミリーナ専用だが、この場で他の参加者が使えるかどうかは不明。

【魔鏡「Ex-clipse ボーカル」@テイルズ オブ ザ レイズ】
春香に支給された支給品。
魔鏡技「ハーモニー・エウロギア」を使えるようになるが、ミリーナ自身の手で破壊されてしまった。


325 : ◆OmtW54r7Tc :2019/07/05(金) 23:46:24 qnvr5bnE0
投下終了です


326 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/05(金) 23:50:36 .LC0Q4sE0
投下乙です!
リアルタイムで追わせていただきましたが、驚きの連続でした……。
別世界、いわゆるパラレルワールドでの繋がりを見せた掛け合いは初めてですね。
そして初のスマホゲーからの参戦ですね。背景も詳しく描写して下さっているのでわかりやすいです。
自分は残念ながら序盤でやめてしまった勢でしたが……また再開しようかなと思いました。
よりにもよって知り合い、共に戦った仲間を殺してしまったミリーナ。彼女が真っ当な道に戻るのは難しそうですね……。


327 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/06(土) 00:18:24 59NvdZZM0
ミファーで予約します


328 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/06(土) 01:16:14 9gHE96/o0
クロノ、書き手枠予約します。


329 : ◆VheK0es1wU :2019/07/06(土) 12:48:29 mqKvAC/w0
マルティナ、書き手枠で予約します


330 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/06(土) 13:25:56 3043h1OA0
皆さん予約ありがとうございます。
残りの書き手枠全てが予約されたので、今後予約を入れて下さる方は留意していただけると幸いです。


331 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/06(土) 13:42:00 G/UvdHgc0
あ、◆VheK0es1wUさんだったんですね。
これは二つに分けての予約でしょうか?
それとも書き手枠単体での予約を、マルティナと書き手枠の予約に変更したのでしょうか?


332 : ◆Kn6tS7GZtY :2019/07/06(土) 14:17:21 .Ucazwvc0
マルティナを含む予約は自分ではないので、鳥被りみたいですね…。トリップを変更しておきます。


333 : ◆Kn6tS7GZtY :2019/07/06(土) 14:18:30 .Ucazwvc0
安価抜けてましたが>>315です


334 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/06(土) 14:22:10 G/UvdHgc0
了解です。では、書き手枠はこれで全て予約されたようですね。


335 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:04:34 sLFu5UHM0
投下します。


336 : 二つの世界の対比列伝 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:05:35 sLFu5UHM0
(殺し合い?冗談ではない…!)

「せああっ!」

手にした斧を振り下ろす。
それより一瞬早く放たれた敵のレーザーが胴を焼くも、そんなもの構うものかと斬撃を叩き込む。男の捨て身の一撃によって、目の前の朽ちたガーディアンは動かなくなる。
一体のガーディアンを破壊しても、男はまだ止まらない。

(殺されるべきは……俺なのだ。)

この場所はハイラル城。
かつて厄災ガノンによって占領された城である。ただしこの殺し合いの場においては、朽ちたガーディアンが固定砲台としていくつか設置されているのみ。

(これが、俺の罪なのだから。)

既に朽ちて動かない個体も未だに動き続ける個体も、男はひとつひとつ破壊していく。後々この場所に来る者が脅かされることの無いように。半ば自暴自棄的に破壊を続ける男の行動は、少なくとも正義に則った行為である。

(そう、これは然るべき裁きなのだ。)

一発。二発。そして三発。
朽ちたガーディアンのレーザーが男の身を焼いていく。
左手に持った盾で受け止めれば跳ね返せるそれも、男は甘んじてその身で受ける。

「天下無双ッ!うおおおおお!!」

それら全てを受けきってなお、高速の6連撃で2体目のガーディアンを破壊する。

(ウルノーガ……よりによって、お前が俺を裁きに来たのか?)


337 : 二つの世界の対比列伝 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:06:03 sLFu5UHM0
男はその名を、グレイグといった。
その胸に渦巻いているのは、深い深い自責の念。
彼は彼の周りで起こった悲劇を、全て背負い込んでいた。

勇者イレブンが、失った仲間の1人、ベロニカを取り戻すために過去へと旅立った。
そしてそれを見送ったマルティナ様は、次第に心を病んでいった。

突き詰めれば自分のせいだ。
主君が魔物と入れ替わっていたことすら気付かず、命の大樹までウルノーガを招いたからこそベロニカは死に、イレブンは二度と戻ってこない旅へと向かったのだ。

さらに言えば、旧友のホメロスが劣等感を抱きウルノーガの配下となったことも、自分がもっと早くホメロスに感謝を伝えていれば防げた事態だったかもしれない。
そうすれば強力な部下を得られず、ウルノーガの侵攻もあれだけの勢いで進むことはなかっただろう。

全てがたらればであることは分かっている。
しかし自分の行いがことごとく悲劇の引き金となっているのは思い返してみれば間違いのないことなのだ。

だから自分はこの世界で死ぬべきだ。偽りの主君ウルノーガの姿をした裁きの執行者によって、自分は殺されるべきなのだ。

グレイグに参加者を手にかけてさらなる悲劇を生むつもりはない。例え相手が無差別マーダーのスタンスを取っていても、だ。
となれば彼の鬱屈の向かう先が、参加者を襲うNPCに向かうのは当然の理屈であった。

しかし参加者とは違うNPCのガーディアンとはいえ、その実力は馬鹿にならない。
何発も受けたレーザーによって既に身体はボロボロ。いつ致命傷を受けてもおかしくはない。
だがそれでも、歩みを止めるつもりはない。

「ここで終わるのなら──本望ッ!」

グレイグの決意に応えるが如く、一発のレーザーがグレイグの心臓に向けて放たれる。


338 : 二つの世界の対比列伝 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:06:36 sLFu5UHM0

「──やれやれ。見てらんないね………サンダガ!」

しかしそのレーザーは、グレイグを貫くことはなかった。
同じくハイラル城を訪れた第三者の唱えた電撃の魔法によって、グレイグへと向かうレーザーは朽ちたガーディアンごと焼失した。

電撃といえばイレブンが得意としていた呪文だ。
グレイグはまさかと思い、雷の出処の方向へと振り返る。

しかしそこにはイレブンの姿はなかった。
代わりに、イレブンよりはカミュの方に印象が近いような少年が立っている。
少年はゆっくりグレイグの方へと歩み寄り、語りかける。

「オッサン、まだ生きるのを諦めるには早いんじゃねーのか?」

「……放っておいてくれないか。俺には死なねばならない理由があるのだ。」

戦死に向かうのを邪魔されたグレイグは、不服な様子を隠せなかった。

「まあアンタが死にたいほど追い詰められてる理由にも色々あるんだろうさ。無実なのに処刑されそうになった時なんかは、まあ俺もたまんなかったね。」

次に少年が何となく語った一例は、あくまでも少年が昔体験した出来事の話。
しかしイレブンを無実の罪で追い回した側のグレイグからすると、その言葉は自分を責めているようにしか受け取れない。
何が言いたい、とグレイグは少年を睨みつける。

「で、だ。死にたくなるくらいの理由があったら死を選ぶ。それがアンタの"在り方"って奴か?」

するとこの時には、少年の目付きが変わっていたような気がした。

「だったら言わせてもらう。自分にはこの在り方しかないとか思い込んじまうのはさ、勿体なくないか?」

飄々としたイメージだった少年の目は、いつの間にか真剣にグレイグの目を捉えていた。


339 : 二つの世界の対比列伝 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:07:30 sLFu5UHM0
「視野を広げようぜ。アンタはもっと自由だ、何にでもなれる。」

それは少年──クロノの昔からの座右の銘のようなものであった。

彼の幼なじみのルッカ。
彼女は小さい頃、機械の誤動作で母親の足が切断される様を目の当たりにした。
そしてもう二度とそのような事がないようにと科学の勉強を始めたのだ。

クロノは思った。
小さい頃から賢く、色々なものに興味を注いでいたルッカを科学一筋の道に進ませたあの事故が無ければ、ルッカは本当にやりたいことが見つけられていたのではないか?

現在でこそルッカは天才発明家を自称して活き活きと科学の道を進んでいるものの、ネガティブな動機で科学を勉強し始めた頃のルッカの様子はとても見ていられるものではなかった。
それを見ながら育ってきたクロノとしては、人は自由に、自分のなりたい自分になるべきなのではないかと考えるようになっていた。

さらにクロノは時間を超えて未来を変えてきたことで、現在の行いひとつで未来は簡単に変わるということを知ってしまった。それによりクロノは、自分のかねての座右の銘が間違いでなかったことをさらに実感したのだ。

また、クロノがガルディア王国建国千年祭で出会った少女マールディアに恋をしたのも自然な話であった。
彼女は自分の立場から逃れて、自由を追い求めていた。
王族でありながらも、普通の女の子でありたい──まさにクロノの信念を体現したような生き方を彼女は貫いていたのである。

確かに平民と王族は結ばれないだとか、そもそも自分は王女誘拐の疑いで彼女の父親からも追われている身だとか、クロノの恋路の邪魔をする逆風ならびゅんびゅんと吹いていた。

それでもマールディアとの結婚を王家に認めさせたかった。そのために──


『決めたよ、マール。俺はこの世界を救ってみせる。』


──そう。そのために、クロノは世界の未来を救った。
ただのいち平民ではなく英雄と呼ばれる立場まで登り詰めた。

そしてクロノはマールディアとの交際、さらには婚約を申し込むため、ガルディアの王に直に会いに行くことにした。
おそらく返事は決まっている。冒険の中で起こった出来事を経て、ガルディア王は娘の意思を尊重する親へと変わっていった。
それでも、確かな緊張を以てガルディア王国へと歩みを始めた。

クロノがこの世界に呼ばれたのは、そんな時のことであった。

クロノは考える。
これは真に英雄となるための最後の試練なのだと。
この世界でも人々を救ってみせろ──何か得体の知れない大きな存在に、そう囁かれているような気がしたのだ。


340 : 二つの世界の対比列伝 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:08:24 sLFu5UHM0

クロノとグレイグは、互いに互いの境遇や経緯を話し終える。
初めはクロノを邪険に扱って追い返そうとばかり考えていたグレイグだったが、いつの間にクロノとの話に引き込まれていた。

恋心を叶えるために英雄となった少年。しかしその腕にはそう呼ばれるに相応しいだけ振った刀の重みがあることは、同じく英雄と呼ばれたグレイグには分かる。
楽観的な思想だけで語っているのではない。
世界を救うという確かな栄誉を以て、叶えられない夢を叶えた上で語っているのだ。

最初はただの無礼な少年かとも思ったが、次第にその認識は変わっていった。

「……礼が遅れたな。助けてくれたこと、感謝する。」

「グレイグ、アンタはこれからどうするんだ?アンタはまだここで何にでもなれる。ここで犬死にする負け犬にでも、暴虐の限りを尽くす殺人鬼にでも……まあそんときゃ俺が止めるけどさ。あるいは──」

クロノは、ニヤリと笑って告げた。

「──こんな殺し合いの企画をぶっ壊して皆の命を救う、英雄にでも。」

『英雄』──それはかつてグレイグが呼ばれたものである。
イレブンが消えてより大きな罪悪感に苛まれるようになってから、グレイグは自分のことを英雄だと思えなくなっていった。
元々ホメロスと2人で『双頭のワシ』と呼ばれていたのだ。自分のせいでホメロスを失ってしまったことで、むしろ英雄という座を貶めたようにも感じていた。

「俺は……英雄の名を捨てた男だ。仕えるべき主君が偽物であったことにも気付かず……大切な人に深い哀しみを遺してしまった。」

そう、つまりグレイグはずっと忘れていたのだ。
自分の"在り方"について。

「だがこんな俺に赦しの機会が与えられるのなら……俺はこの殺し合いを止め、英雄を守る盾となろう。」

2人の英雄は、手を取り合う。
彼らはまだ知らない。
それぞれの大切な人たちもまた、この世界に呼ばれているということを………。


341 : 二つの世界の対比列伝 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:08:57 sLFu5UHM0
【A-4/ハイラル城/深夜】 

【グレイグ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】 
[状態]: ダメージ(中)
[装備]: グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[道具]: ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況] 
基本行動方針: 主催者に抗う
1.元の世界の悲劇は俺のせいだ……。
※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過(マルティナの参戦と同時期)しています。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。

【クロノ@クロノ・トリガー】 
[状態]: 健康
[装備]: 白の約定@NieR:Automata
[道具]: ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況] 
基本行動方針: 英雄として、殺し合いの世界の打破
※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。

【支給品紹介】

【グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
グレイグに支給された斧。
『攻撃時8%でヘナトス』の効果を持つ。
片手武器なので、盾と一緒に装備できる。

【古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
グレイグに支給された盾。
ガーディアンのレーザーを反射する力を持つが、その効果は利用されなかった。

【白の約定@NieR:Automata】
クロノに支給された太刀。
特殊効果として『攻撃速度UP』、『白き加護』が付与される。 『白き加護』はHPが最大の時に攻撃力が20%上昇する効果。また、本ロワオリジナル効果として、想い人の死を知った時に戦闘能力が向上する(この効果はHP最大の時に限らない)。

【備考】
ハイラル城内部の朽ちたガーディアンは全滅しました。


342 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/07(日) 16:12:24 sLFu5UHM0
投下完了しました。
白の約定の本ロワオリジナル効果について
武器について軽く調べ、その中のウェポンストーリー「アガオモイビト ソノ シ デ エイエン ナル」から設定しましたが、2Bの境遇などを把握していないので、何か不自然であればご指摘のほどお願いします。


343 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/07(日) 16:50:14 VtkxXvqo0
投下乙です!!
あーやばいわ。
この二人凄くかっけえわ。語彙力失うくらいかっけえわ。
主人公勢の中でも、クロノは台詞や個性がないから書きづらいかと思ったけど、これが原作本来のクロノなんだと思う。


344 : 名無しさん :2019/07/07(日) 17:52:25 3gbnpR/60
投下乙です
グレイグは良くも悪くも彼らしい真面目さだし、クロノは王道主人公って感じでいいなあ


345 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/07(日) 22:26:17 ZCjL.z9E0
投下乙です!
グレイグとクロノ……どちらも性格は違えど、同じ情熱を持った人間同士目指すものは同じなようですね。
朽ちた状態とはいえガーディアンを殲滅する二人の戦力はこのロワの中でもかなり高いでしょうね。
過ぎ去りし時を求める前から参戦で、かつ対主催になるのはシルビアとグレイグで二人目ですね。女性が乗り、男性が立ち向かうのは面白いです。
白の約定の効果を見るに、少し不穏な予感がしますが……どうなるのか楽しみです。


346 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/09(火) 12:04:09 3DCAclq60
投下します。


347 : 「私が守る」 ◆NYzTZnBoCI :2019/07/09(火) 12:04:51 3DCAclq60

颯爽と飛び立つ夜風が波を生む。
露を含んだ清涼なそれはミファーの頭から伸びた赤いヒレをひらりと揺らした。
崖に腰掛け、遠くを見つめる虚脱したような落ち着いた表情とは裏腹に、彼女の右手は胸に抱いた決意を形にするように強く短刀を握り締めていた。

――殺し合い。

その言葉の意味を理解するのにそう時間は要さなかった。
ミファーは元々誰に対しても心優しい人徳者で深く広い愛の持ち主だったが、英傑である以上それ相応の振る舞いは見せていた。

厄災ガノンの復活の予兆を知らしめるように増え続ける魔物を自慢の槍で薙ぎ払い、圧倒的な水練により海を自身の領域とした。
リーバル、ダルケル、ウルボザと各々確固たる戦力を持っているが、水中というフィールドであればミファーの右に出る者はいない。あのリンクでさえも。
結果、ミファーの英傑としての活躍は海の平穏に大きく貢献していた。

しかしそれも長くは続かなかった。

厄災ガノンの復活――恐れていたことが起きてしまった。
感じたことのない禍々しい魔力と闇がハイラルに広がる中、他の英傑達が各々の神獣へ乗り込みリンクとゼルダがガノンの元へ向かう。
彼らの背中を見ながらミファーは思った。

怖い、と。


348 : 「私が守る」 ◆NYzTZnBoCI :2019/07/09(火) 12:05:24 3DCAclq60

ライネルやヒノックスといった強敵とは比にならない威圧感。
本当に勝てるのかとさえ思った。そんな負の感情に囚われる自分の肩に、ぽんと手が置かれた。
リンクだった。一刻も早くガノンの元へ向かわなければならないというのに足を止め、ミファーの傍に居てくれていたのだ。

『大丈夫、きっと勝てるよ』

その時の彼は少しだけ微笑んでいた。
昔の無邪気なものとは違う、誰かを勇気付けるためのそれを見てミファーは決意した。
例えどんな事があってもリンクだけは守らなければならない、と。
そうしてリンクとゼルダを見送り、自身も神獣ヴァ・ルッタに乗り込もうとした刹那、視界が暗転した。





「リンク……」

淡い呟きは波のさざめきに消える。
ミファーはあの最初の会場にてリンクの横顔を見つけた。
間違えるはずもない。彼が四歳の頃から一緒にいたのだから。

自分がこの殺し合いに巻き込まれたということは彼もいるのではないか、という危惧はしていた。
杞憂に終わってほしかったが見違えようのない彼の横顔がそれを事実だと突きつけてくれた。自分一人だけならばどれほど良かっただろう。
いざ厄災ガノンを討たんとするタイミングで開かれた催しはミファーから余裕を奪い去り焦燥を残した。

「……ねぇ、リンク。貴方は優しいからきっと、他の人を助けようとするよね。……自分の命を懸けてでも」

言葉にすればするほどにミファーの右手は強く握られる。
リンクが人助けに駈ける姿は容易に想像できる。そんな心優しく、勇敢で、強い性格に恋したのだから。
きっと彼は今こうしてぼうっと海を眺めている自分とは違い、既に他の参加者と出会い殺し合いを打破する道を探っているのだろう。

「――けど、それじゃダメなの」

僅かに顔を俯かせたミファーが立ち上がる。
そう、リンクは希望なのだ。ハイラルにとって、厄災ガノンを討てる可能性がある数少ない英傑の一人。
五人の英傑の中でも抜きん出た実力の持ち主である彼は厄災ガノン討伐の要だ。ミファー達は神獣でそれを援護する役割が与えられた。
つまり、だ。ハイラルの安寧の為リンクがこんなところで殺される訳にはいかない。


349 : 「私が守る」 ◆NYzTZnBoCI :2019/07/09(火) 12:05:57 3DCAclq60

「大丈夫、貴方は私が守るから。……それが例え、許されざる道だとしても」

口にすることでより決意を固める。
セピア色の記憶が蘇る。父が、弟が。ゾーラの里の皆が。
この記憶を途絶えさせる訳にはいかない。家族を、ハイラルを守るためにはリンクの力が必要なのだ。
ミファーは自分の命の価値を軽く見ているわけではない。しかし、自分とリンクのどちらを取るかと言われれば後者を取るだろう。
それは単に彼が自分よりも厄災ガノンに対抗できる存在だからという理由だけではない。
ミファーはリンクを――愛していたのだから。

「リンク……貴方は気付いてないかもしれないけど、私、少し寂しかったんだ。隣りにいた貴方に置いていかれる気がして」

子供だと思っていたのに、背丈も実力もすっかり抜かされてしまった。
自分では苦戦するであろうライネルを剣一本で圧倒する姿は美しく心強いと思う反面、彼が遠くに行ってしまったような錯覚を覚えた。
その場にいるはずなのにまるで舞台を眺める観客と主役のような、そんな絶望的な差があった。

けれど唯一、彼の隣にいられる瞬間があった。
リンクが戦いで負った傷を治癒するときだ。あの時間は彼との差を忘れられる。
また彼の隣にいたい――そんな叶わぬ願望を抱きながら、彼女の中である一つの決断が下された。

「私は、貴方を優勝させる」

それがミファーにとっての最善。
リンクという特別な存在を、ハイラルを救う希望を自らの手で生かす。
他の参加者の命を天秤にかけてでも成し遂げなければならない。数十人の命で国民全員の命が救われるのならばそちらを選ぶ理屈は間違っていない。
彼が生き残りハイラルを救ってくれるのならば自分は喜んで汚れ役を買おう。

「――けど」

だけど、リンクには汚れてほしくない。
リンクが人を殺す姿は見たくない。彼の英傑としての誇りは汚してはならない。
だから彼以外の全ての参加者を自分が殺す。その苦痛は計り知れないが、やらなければならないのだ。
悲劇のヒロインを演じるわけではない。立ち向かう道を逸れ、自ら血に濡れた道を選んだのだから。

立ち止まる時間はこれまでだ。
腰を上げ地に足を着けるミファーの顔は先程までよりも険しく、厳しいものに変わっている。
ゆるく揺らめく水面に映る自分の顔を見て、それを破るように勢いよく飛び込んだ。
急な質量を浴びせられた海は盛大な水音を立てて飛沫を上げる。瞬間、魚雷の如きスピードでミファーが海中を駆けた。


350 : 「私が守る」 ◆NYzTZnBoCI :2019/07/09(火) 12:06:20 3DCAclq60

水中というフィールドで彼女の右に出る者はいないと言ったが、それはこの場所でも適用される。
七十という参加者の中でもミファーよりも早く、自由に水中を泳ぎ回れる人物は誰一人としていないだろう。
つまりそれは水中であれば誰にも負けないということ。事実がどうあれ、彼女にはそう思わせるに値する確かな技術があった。

デイパックが防水なことは確認している。水面にデイパックが浮き上がり参加者に発見されるという恐れを潰すため背中から腹側へと背負い直す。
ヒレを目立たせぬよう深く、かついつでも飛び出せるように浅く。絶妙な深さを維持して縦横無尽に夜の海を駆ける。
深夜ということもあり注視しなければ気が付かないはずだ。崖際で無防備な姿を見せる参加者を仕留めるには絶好の状況。
これがミファーに与えられた特権なのだ。地以外のフィールドを持っているという強みは生存確率を底上げさせる。

(……こんな風に、人を殺すために使う日が来るなんて)

水を掻き分け爆発的な速度で海を進むミファーの心中は穏やかとは言えない。
子供の頃から、それこそリンクが生まれるずっと前から特訓を重ね完成させた泳ぎが、自分の誇りが今人を殺すために使われている。
その事実は消えない。目を逸らさずに受け入れてやる。
どう言い繕っても、自分はもう英傑と呼べる存在ではないのだから。

(リンク、私は貴方を――)

闇色のカーテンじみた海をミファーは駆ける。
星々の瞬きも月の光も届かない水の中でも、記憶の中のリンクという輝きは消えない。
その一筋の光を頼りにミファーは自ら漆黒となった。


【C-3/海中/一日目 深夜】
【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康
[装備]:龍神丸@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させ、ハイラルを救う
1.海を移動し、不意打ちで参加者を殺して回る。
2.呼ばれたのは私とリンクだけ……?

※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。

【龍神丸@龍が如く 極】
ミファーに支給された短刀。
体力が減るほど攻撃力が上がり、最終的には短刀の中でもぶっちぎりでトップレベルの火力となる。
また、武器を手にしている間は炎上効果を無効化する能力も持っている。


351 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/09(火) 12:06:33 3DCAclq60
短いですが投下終了です。


352 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/09(火) 12:21:12 HKoQRdLw0
投下乙です!
タイトルを見た時からそんな予感はしてましたが……奉仕マーダーとは熱いですね
水中という個性も相まって、面白くなりそうです


353 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/09(火) 16:38:55 wjHglPyA0
投下乙です!
>輝け、少女たちの歌
アイマスとテイルズがコラボしていたのは知っていましたが、そのつながりを引き合いに出してキャラを描くというのは、自分の頭にはない発想でした。
歌を歌うことで元気づけようとした春香。歌を歌うことで覚悟につながったミリーナ。
歌を通じて二人の少女が活きた話だったと思います。

>二つの世界の対比列伝
クロノ・トリガー絶賛プレイ中なのですが、ほぼ喋らない主人公がこういう口調に味付けされると、とても良いですね。
在り方を考える二人の英雄が、どのように道を進んでいくのか楽しみです。

>「私が守る」
ここにも奉仕マーダーがひとり。ゼルダは未把握ですが、リンクの愛されようが分かります。
単純に海中を動けるというのは大きなアドバンテージなので、脅威となりそうですね。

では、自分も投下します。


354 : 夢の中へ ◆RTn9vPakQY :2019/07/09(火) 16:40:04 wjHglPyA0
「美希!ニュースだよ、ニュース!」

「ん……どーしたの、春香?ミキ、眠いんだけど……」

「えー!?美希って今日のレッスンが終わったあと、ずっと寝てなかった?」

「そんなこと言われても……仕方ないの……」

「あんまり寝てると、夜に眠れなくなっちゃうよ……って、あー!もう寝てる!?」

「zzz……」

「もう、起きてよ美希!超特大ニュースなんだよ!」

「ん……元気だね、春香」

「そりゃもう!ビックリしないでよ?」

「あふぅ……なんなの?」

「なんと、おにぎり専門店とのタイアップの仕事が来たんだよ!
 今流行りのお店で、アイドルとコラボした商品を作りたいって!」

「おにぎりの仕事……?」

「美希はおにぎりが好きでしょ?だから、プロデューサーさんも美希を推してるみたい」

「それじゃあ、おにぎり食べ放題ってこと?」

「え?えっと……そう、だと思うよ!たぶん」

「それならやりたいの!」

「わっ、いきなり元気だね……。
 それでとにかく、何か具にしたい食材があるか聞いてきて、ってプロデューサーさんに言われたんだ」

「おにぎりの具……あっ!いちごババロアとか、どうかな?」

「い、いちごババロア?……ババロアって、あのお菓子だよね?」

「そうだよ。いちごババロアもおにぎりも、ミキの大好物なの!
 おいしいものとおいしいものを合わせたら、もっとおいしくなるって思うな!」

「そ、そうかなぁ……」

「そうに決まってるの!」

「うーん、あまりにも短絡的な気がするけど……」

「ねぇ、春香ってお菓子作り好きだよね?」

「うん、好きだよ?」

「じゃあ、ババロアも作れるよね!」

「え、うーん……まあ、レシピを見れば作れるんじゃないかな」

「そしたら、いちごババロアおにぎり、今度作ってきて欲しいな!」

「えーっ!?」

「楽しみなのー!じゃ、おやすみ〜」

「ちょ、ちょっと美希〜!もう、仕方ないなぁ……」

「zzz……」





355 : 夢の中へ ◆RTn9vPakQY :2019/07/09(火) 16:40:44 wjHglPyA0



「ただいまなのー!」

「レッスンお疲れ様、美希」

「あ、千早さん!ありがとうなの!」

「美希、最近とても活き活きしているわね」

「そう?確かに最近、調子いいの!」

「そういえば、先週の歌番組も評判が良かったみたいね」

「えへへ……千早さんも見てくれた?」

「もちろん。生放送とは思えないクオリティだったと思うわ」

「ホント!?」

「ただ、歌い出しの音が、少しだけ低かったような気がしたけど」

「うっ……さすが千早さん、バレてるの……」

「たまたま美希の歌を聴いていたから、気づいただけよ」

「たまたま聴いただけで分かるのも、かなりスゴイって思うな」

「ありがとう……でも、これはある意味、職業病みたいなものかもしれない」

「しょくぎょうびょう?」

「どんな歌を聴くときにも、つい音程や表現を分析してしまうの……悪いクセね」

「そんなことないの!」

「えっ?」

「いつも歌を分析してるなんて、きっとすごく大変なの。
 千早さんの歌へのキモチは、765プロでもいちばんだって思うな」

「そうかしら?」

「絶対にそうなの!」

「そう……なのかもしれないわね……」

「ね、ミキの他の歌も分析してるの?」

「えぇ。美希と私では楽曲の傾向も異なるけど、それなりには……」

「それ、教えて欲しいの!」

「え?教えるって、私が美希に?」

「うん。ミキ、千早さんに教わりたいの!」

「そうね……教えることで新しい発見があるかもしれないし……分かったわ」

「やったー!嬉しいの!」

「それじゃあ、今からレッスン室に行きましょうか」

「はいなの!……って、今から?」

「ええ。美希も予定はないみたいだし、時間はあるわよね?」

「ち、千早さん、目がマジなの……」

「やるからには本気でやらせてもらうわ」

「うう……嬉しいけど複雑なの……」





356 : 夢の中へ ◆RTn9vPakQY :2019/07/09(火) 16:41:38 wjHglPyA0



「みんな、ミキのライブに来てくれて、ありがとうございましたなのー!」

『本公演はこれで終了となります。ご来場の皆様は――』

「美希、お疲れ様!」

「あ、プロデューサー!ねえ、ミキ、キラキラしてた?」

「ああ!すごく輝いてたぞ!」

「そっか……あのね、ミキすっごくドキドキしたの!」

「初の単独ライブだもんな。緊張もしただろ」

「ううん。緊張もしたけど、それよりも胸がワクワクでいっぱいになっちゃったの。
 ファンのみんなの前に出て、たくさんのサイリウムを見た瞬間から、ドキドキが止まらな
くって……!」

「……そうか。それは良かったな!」

「うん!でね、ミキはもっとドキドキしたいの!」

「ドキドキ?」

「もっと上のアイドルランクに行けば、もっとキラキラが見られて、もっとドキドキできるよね?」

「ああ、そうだな」

「だからミキ、もっともーっとドキドキするために、トップアイドルになるの!」

「……うん、美希ならできるさ!俺も、全力でサポートするからな!」

「あはっ、ありがとなの、プロデューサー!」





美術館にある大きなソファで、キャミソールの少女が寝ている。
遠くからでも目立つ金髪に、横たわる状態でも分かるスタイルの良さ。
少女の名前は星井美希。765プロダクションの新人アイドルの一人だ。

「zzz……」

そして、美希の傍らには、ピンクの体表に花のもようがある生物が浮いている。
その生物の名前はムンナ。人やポケモンが見ている夢を食べるとされているポケモンだ。
美希に支給されたデイパックから、モンスターボールが落ちたはずみで出て来ていた。

「ん……いちごババロアの大群なの……」

美希が何か寝言を言うと、ムンナは少女の頭に顔を近づける。
そして少ししてから、ピンク色をした煙――ゆめのけむり――を吐き出す。
十数分前から、この繰り返しだ。

「むううん……」

ムンナは美希のことを見つめている。
美希はそんなムンナに全く気づかずに、夢を見続けている。
トップアイドルを夢見る少女が覚醒するまでに、そう長くはかからないだろう。
それでも今はまだ、夢の中へ。


【B-4/美術館のソファ/一日目 深夜】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:睡眠中
[装備]:モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:
1.zzz……


【モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
星井美希に支給されたムンナが入ったモンスターボール。元の持ち主はベル。LV18。
特性はよちむ。覚えている技はあくび、ふういん、サイケこうせん、つきのひかり。
今後レベルが上がることで、新しい技を覚えてこれらの技を忘れる可能性もある。
つきのいしでムシャーナに進化する。

【ムンナ ♀】
[状態]:健康、ピンク色の煙を出している
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:あくび、サイケこうせん、ふういん、つきのひかり
[思考・状況]
基本行動方針:
1.美希の夢を食べる。


357 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/09(火) 16:42:15 wjHglPyA0
投下終了です。


358 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/10(水) 00:05:18 3Vch9Pus0
投下乙です。
夢の中って突拍子もないことを考えてますよね。
核となる考えがないこの状態を、地の文抜きで表しているのが面白いなと思いました。

アイマスはちょうど把握の真っ最中なのですが、美希の緩さと可愛さが醸し出されてますね。
夢の中でまで寝てるのは流石としか……!


359 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/10(水) 00:34:10 C3U6x.hM0
「幸せを呼ぶナカマ」の書き手ですが、
サクラダ、シルビアの立ち位置をB-1のつもりで、A-2にしていました。Wiki編集にて訂正させていただきます。
サクラダが直した山小屋とは、B-1にあるものです。


360 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/10(水) 01:12:59 C3U6x.hM0
それと投下乙です。
アイマスは知らなかったけど、こんなキャラもいるのか……。
美術館という何かのカギになりそうな場所で、もう一人のポケモンも一体どうするか気になります。


361 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/10(水) 02:26:55 ZUff0x8w0
投下乙です!
美希とムンナ、これはいい組み合わせになりそうですね。
まさか夢の中から始まるとは思いませんでしたが、美希らしさを象徴していると感じました。
そして夢の内容、いかにも彼女らしい楽しく明るいものですが、春香とのやりとりを見ていると悲しみを覚えてしまいます。
アイマスキャラはこのロワの中でも特に日常を歩んでいる一般人に分類されますから、より落差が大きいですね。
今後の展開が楽しみです!


362 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/10(水) 12:33:36 ZUff0x8w0
鳴上悠、ピカチュウ
予約します


363 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/10(水) 22:03:42 C3U6x.hM0
マール リーバル予約します。


364 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/11(木) 12:49:28 KR1Ug2Yg0
投下しますね


365 : みなさんご存じのハズレ ◆vV5.jnbCYw :2019/07/11(木) 12:49:48 KR1Ug2Yg0
(殺し合い……!?どうして………?)

私は辺りを見渡した。
それがすぐに知らない森であることが分かる。


ガルディア城の周りにある森ではない。全く見たことのない世界だ。


(まだ私が冒険したことがない世界があるなんてね……。)
城を脱出し、ペンダントの力で中世に飛ばされてから、未知の体験ばかりだ。
今更こんなことが起こったくらいで驚いたりはしない、と言いたいが、やはり未知の世界への不安は募る。

そして、恐怖を覚えたのは、自分をこの世界に呼んだ、あの二人。

ウルノーガという怪物からは言わずもがな。
マナという少女からも、ラヴォスの力の虜になったジール女王のような禍々しさを感じた。

そして、それ以上に私が気がかりになったことは、もう一つあった。
会場で後姿を見た、燃えるような赤色のくせっ毛の青年。

共に冒険をし、やがて恋心を抱き始めたクロノ。
自分が時間の改編で消えてしまった時のように、また彼が救い出してくれるだろう。

問題は、彼が今どこにいるか分からないこと。
自分も伊達に敵と戦ってきたわけではない。
敵はクロノが倒してくれるにしろ、それまで自分の身は守らないといけない。

海底神殿の最深部で経験した時のような、圧倒的な力を前にして何も出来ないままクロノを失うのは嫌だ。


まずはこの森を脱出した方がいいだろう。
見通しの悪い森の中じゃ、いつだれが襲ってくるか分からない。

クロノを、そして安全な場所を探しに。


「おやおやお嬢さん。そんなに急いでどこへ行くんだい?」

ふと背の高い木の上から声が聞こえてきた。

上を向くとそこから、人間とは大きくかけ離れた姿の男が、螺旋を描いて私の所へ降りてきた。

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。」
私は何も言葉にしていないが、表情は隠せなかったようだ。

「そ、そりゃー上から知らない人がびゅーんって降りてきたらびっくりするわよ!!」

よく見ると男は両手が翼のようになっており、口はまんま嘴だ。
恐竜人、というのは見たことがあるが、「鳥人」というものなのだろうか。

「そりゃあ失礼した。まあ人間には出来ない動きだからね。」

鳥人は『失礼した』とは言っているが、明らかに失礼だとは思っていないだろう。


366 : みなさんご存じのハズレ ◆vV5.jnbCYw :2019/07/11(木) 12:50:13 KR1Ug2Yg0

「……で、さっきから色々言ってるけど、アンタはこの戦いに乗るつもり?」
「『戦いに乗るつもりか?』だって?これは笑い種だ!」

私が核心を突いた質問をするや否や、突然鳥人は笑い始めた。

「ハッハッハ、笑わせるなあ!!こんな茶番に乗るかって!?何かのジョーダンだろ!?笑っちゃうね!!
僕としてはあんな小物の命令に従うなんて、論外もいい所なんだよ!!」

とりあえず鳥人がゲームに乗っていないことは分かったが、それ以上に驚いたことがある。
私達に恐怖を植え付けてきたあの二体の怪物を、いとも簡単に「小物」と言ってのけるとは。

「どうして……あの怪物をそう簡単に小物呼ばわりできるの?」
「お嬢ちゃん。ちょっとはアタマを使って考えてみなよ。こんな悪趣味な催し、考えるだけで最早小物以外の何者でもないさ。
それに、自分の力を見せるために参加者を殺すってのも頭が足りない証拠だね。
一人死んだら、単純に一人分殺人が起こる可能性が下がるじゃないか。」

ほっとすると、大げさな振る舞いでまくしたてる鳥人の態度に少し苛立った。

「でも、私たちはあいつに手も足も出なかったのよ!!」

相手が小物でも、私たちはこうして囚われの首輪を着けられている。

たが、鳥人はヤレヤレといった表情で、ザックから私が見たこともある弓矢を取り出した。
鳥人は弓使いなのだろうか。
私も剣や銃より、弓矢の方が得意ではあるが、たぶん譲ってくれないだろう。

「え!?」

鳥人は矢を弓にとりつけ、目にも止まらず速さで私にめがけて三発打った。

「!!」
撃たれた……と思う。
しかし私は、傷一つ付いていなかった。


「おいおい、お嬢ちゃんに狙ったと思っているのかい?さっきの話聞いていた?後ろを見てみなよ。」

よく見ると、私から離れた位置に、弓矢が刺さったリンゴが3つ転がっていた。

大方近くに生えている樹から落ちたものだろう。

「これが僕の実力さ。姫様を守るリト族の英傑、リーバルの実力にかかれば、あんな奴等、簡単に打ち抜くことが出来るんだよ。
不覚を取ったのは、最初弓矢がなかったからさ。」


367 : みなさんご存じのハズレ ◆vV5.jnbCYw :2019/07/11(木) 12:50:30 KR1Ug2Yg0

「すごいわね……。」
自分も弓矢に心得があるとは思っていたが、どうみてもこの鳥人、リーバルの方が上だ。

「でも、それまでにやらなきゃいけないことがある。」
「この首輪のこと……とか?」

いくらリーバルが弓使いだと言えども、弓を弾く前に首輪を爆破されればおしまいだろう。

「それもあるけどね。まずは僕のお気に入りの弓を探す。それが重要さ。
こんなポンコツじゃない。一度に3発打つことが出来る、凄いヤツさ。
協力してくれるよね?」

リーバルはただのビッグマウスではないことは分かった。恐らくその弓矢も、ヴィーナスやワルキューレばりの力を発揮してくれるのだろう。

「分かったわ。私も、回復と氷の呪文には自信があるの。」


弓矢ではかなわないが、一応自分の強みはアピールしておく。
「へえ……回復の魔法ってミファーみたいな術だな。まあ足手纏いになれば置いていくつもりだったから、何か出来るようで一安心だよ。」

自分は仮にも未来を救った人間なのに、足手纏いと見られていたのはなんとも癪な話だ。それはそうとして、私が話を聞く側ってのはどうなのだろうか。

前の冒険では、クロノをはじめ男性陣が無口な人が多かったし、ここまでお喋りな男性もあまり見なかったかも。

そう思っていた瞬間、またリーバルが声をかけてきた。

「ところでお嬢ちゃん、何を支給されてたの?
僕はこの弓矢に、マテリア……とかいう訳の分からない宝玉だったんだ。」

「あっ、忘れていたわ。でも私はお嬢ちゃんじゃなくて、マールディアよ!!」
「へえ、覚えにくい名前だね……。まあ敵がやってこないうちに、確認しときなよ。」

私は言われるがまま、ザックをひっくり返す。

中身を見た。
空気が凍る。
天空を厚い雲が覆っていた古代の地表よりも冷たく。
支給品に対し、ツッコミたくなる。
いや、これはツッコミを入れる支給品なのだが。

ザックからは、大きなハリセンが一つ出てきた。


368 : みなさんご存じのハズレ ◆vV5.jnbCYw :2019/07/11(木) 12:50:58 KR1Ug2Yg0
【A-6/女神の城北の森 /一日目 深夜】
【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 
[装備]:アイアンボウガン@クロノトリガー
[道具]:基本支給品 召喚マテリア・イフリート@FF7 木の矢×10 炎の矢×10@ブレスオブザワイルド
[思考・状況] 
基本行動方針:オオワシの弓@ブレスオブザワイルドを探す。
1.マールと共に、弓の持ち主を探す
2.首輪を外せる者を探す。
3.ゼルダやリンク、他の英傑も参加しているかどうか知りたい。

※神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。

【マールディア@クロノトリガー】
[状態]:健康 困惑
[装備]:ハリセン @現実  リンゴ×3@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.リーバルと共に行動する。
2.クロノを探す
3.何で私の支給品がハリセンなのよ!!


※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。


【支給品紹介】

【アイアンボウガン@クロノトリガー】
リーバルに支給された弓。原作ではマールの2番目の武器。あまり強くはない。


【召喚マテリア イフリート(マテリアレベル1)@FF7】
リーバルに支給されたマテリア
魔力をこれに注ぐと、炎の魔人イフリートが召喚できる。
昆作品では一度使うと、次使うまで一定時間の制限がかかる。


【炎の矢@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
リーバルに支給された矢。木の矢とセット。炎の力を込めた矢で、燭台や焚火に火をつけることも可能である。また、氷属性の魔物に絶大な威力を持つ。

【オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
英傑リーバルが原作で愛用していた弓。一本の矢で3発一度に打つことが出来るというスグレモノ。(リーバルだけ英傑武器が優遇されてるとか言っちゃいけない。)
この戦いで誰に支給されているか、どこにあるかは不明。

【リンゴ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
リーバルが弓矢で撃ち落したこの世界の木に生えていたリンゴ。
読者諸兄も知っているであろう、赤くて丸くて甘酸っぱい果物。そのまま食べても申し訳程度に体力が回復するが、料理すると回復力が上がる。

【ハリセン@現実】
マールに支給された、大きなハリセン。他のパロロワシリーズでも見られる、典型的なハズレ支給品。
殺傷力は皆無だが、良い音が鳴る。


369 : みなさんご存じのハズレ ◆vV5.jnbCYw :2019/07/11(木) 12:51:10 KR1Ug2Yg0
投下終了です。


370 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/12(金) 03:28:13 776kTOW.0
投下乙です!
いいですね、リーバルのキザで自信家な性格とマールの勝気でありながら臆病な性格が見事に絡み合ってます。
リーバルの武器はあまり強いとは言えませんが、マテリアが強力ですね……なにげに召喚マテリアは初登場ですね。
使いようによっては格上相手でも有利に戦いが進められそうなアイテムなので、制限も大きそうです。
そしてマールの支給品……よりにもよってハリセンだけとはなんという不運……。
魔法が使える分まだ救いがありますね。これからの展開が楽しみです。


371 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/12(金) 12:14:18 YXv87XFY0
ホメロス、ウルノーガ予約します。


372 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/12(金) 21:39:26 ZTpipNXc0
>>315
◆Kn6tS7GZtYさん、いらっしゃいますか?予約期限が過ぎました。日付が変わるまでに反応がない場合、予約破棄扱いさせて頂きます。


373 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 00:02:44 aS16Emgk0
>>315
日付が変わるまで応答が無かったので破棄扱いとさせて頂きます。


374 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/13(土) 00:04:56 nV3frxMU0
書き手枠で予約します


375 : ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 11:44:46 tbJ7oQqs0
投下します


376 : 灯火の星 ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 11:49:21 tbJ7oQqs0


俺の直感が告げていた。
あのビームはヤバい、と。
でも大丈夫、オレの足ならちょーっと本気を出せば切り抜けられる。
自慢の速さを景気よくビカビカ光ってる何か変なのに披露してやろうと思った最中の事だった。

視界の端に、必死に駆ける黄色いあいつを捉えてしまったのは。
そして直感的に理解した、あれじゃあ逃げ切れないってね。
一瞬の判断だった。オレは速度を落とし、あいつに向かって手を伸ばした。
……しかし、それは罠だった。
もう少しで手が届く、その瞬間にあいつに迫っていた光線が急にスピードを上げたのだ。
あいつは飲み込まれ、次の瞬間オレの体もビームに呑まれていた。

……Shit!やられたなぁ。
そう思いながら空を見上げると、空を切り裂いて進むピンクの流れ星が映った。
速さはオレよりも遅かったけど、不思議と安心できた。
まだあいつがいるなら大丈夫だ。
あの丸いピンクの英雄が生き残っているなら、灯火の星は消えちゃいない。
それがオレの意識が光に塗りつぶされる前の、最後の記憶。

……そして、気が付けば、此処に連れてこられていた。
『大乱闘』とは違う、本物の勝ち抜き戦。命の保証はどこにもないバトルロワイアル。
命を賭けた冒険には慣れっこだが、流石にこんな悪趣味なパーティに巻き込まれたのは初めてだ。


「リンクとゼルダに…スネーク、クラウド。マリオたちはいないのか」


支給されたバッグに入っていた名簿を眺めてみると、知っている名前は思いの外少なかった。
オリンピックや大乱闘で何度も競い合った『Mr.ニンテンドー』の名前もない。
かといって全く知らない奴らだらけというわけでもなく。
特にゼルダとリンクは大乱闘で初めて知り合ってから十年来の付き合いだ。
?、そんなに付き合ってないと思う、多分。あと最近会ったらイメチェンしてた。
スネークも付き合いは長い方に入る…と思う、メイビー。暫く会ってなかったがこれまた最近再会した。
初めて知り合ったときは何故か俺を避けてた気がするがきっと気のせいだろう。
クラウドは他のメンバーに比べれば付き合いは浅いが、こんなゲームに乗る様な奴でもなかったはずだ。
大乱闘ではあの超究……ナントカとか言う技にはずいぶん手を焼かされたが。


「とりあえず向こうはカービィに任せるとして、こっちはオレが何とかするか」


名簿を仕舞い、一先ずあのビカビカ光ってた変な奴の始末はピンクのヒーローに任せることにしよう。
オレの参戦は、先にこのバカげたパーティーを潰してからだ。
先ずは知り合いと合流して、この首輪を外す方法を探す。
爆弾の扱いに長けたスネークなら何とかできそうだな、ついでにテイルスもいないかねぇ。
でも、その前に。


377 : 灯火の星 ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 11:50:09 tbJ7oQqs0


「Hey!とっくに気づいているぜ。出て来いよ!!」


背後の気配に向けて、声を挙げる。
少し前から後ろの方に誰かいるのには気づいていた。
警戒しているのか、出てくる気配はなさそうだったので声をかけたが、どーにも剣呑な雰囲気、サイアク。


「――――貴方、魔物ね?」


出てきたのはサムスにちょっと似た黒髪の少女。
しかしこのオレを捕まえておいて魔物呼ばわりとは参るぜ、まったく。
『大乱闘』ではBIGな食虫植物とか魔王とか、うじゃうじゃしてるけどな。
出てきた女の子は「…魔物なら」とか何とかブツブツ呟いてる。
どーにも、一人で頭の中が空回りしてる様子だ。



「あー…一つ訂正しておくと俺は魔物じゃない。ついでに言っておくとこの殺し合いにも―――ッ!!」


言いかけた言葉は最後まで紡がれることはなかった。
何故なら、サムス似の少女が持っていた槍を構えて突っ込んできたからだ。
流石のオレでもアレに串刺しにされたら命はないだろう。
だが、遅い。俺を捉えるには余りにもSlowly。
一瞬のうちに急始動・急加速、空中でターンして背後に回る。
少女からすればオレが瞬きの間に消えたように映っただろう。
だけど彼女も中々やるらしい、直ぐに背後のオレの気配を察知して振り返る。


「……ッ!?……貴方、一体……!」


その問いに、オレは不敵に笑って答えた。


「オレはソニック―――ソニック・ザ・ヘッジホッグさ」


378 : 灯火の星 ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 11:51:17 tbJ7oQqs0



正直なところ、私は少し安心していた。
最初に出会ったのがどう見ても人ではない、魔物だったことに。
そう、いつだって魔物は敵だ。人を襲い、村を焼き、彼に仇をなす。
だから、倒す。目の前の青い魔物が人語を介していた所で、それが何になるというのか。
むしろそれは力を持った魔物であることを示す可能性が高い。益々以て屠らなければならない存在だ。
だというのに。


「オレはソニック―――ソニック・ザ・ヘッジホッグさ」


目の前の魔物は風の様に素早く、掴みどころがなく、そして気圧されそうになるほどの自信に満ちていた。


「なぁ、オレは名乗ったんだぜ?そっちも名前があるなら教えてくれよ」
「……マルティナ」


ソニックと名乗った魔物の雰囲気に引きずられたのか、気づけば私は名乗ってしまっていた。
名乗りながら、脳裏にある考えが過る。
目の前の青いハリネズミには魔物の纏う雰囲気というモノがない。
ソニックという名前の魔物は果たして世界を巡った旅路の中で、出会ったことがあっただろうか。
本当に、ソニックは魔物なのだろうか?


(――考えてはいけない、ソニックは魔物。そう、そのはず)


意図的に思考を狭める。考えてはいけない、あれはきっと今まで出会ったことのない地方の魔物だ、と。
仮に魔物でなくとも、イレブンと再会するまで出会った者は全員殺すのだ、躊躇して何になるというのか。
不意に緩みそうになる槍を握る手に力を籠めなおす。
戦意を解かない私の様子を見て、ソニックはなおも言葉を紡いでくる。


「……ohh、もう魔物でもいいよ。でも一つだけ聞かせてくれ。何でそんなに―――」
「―――私は、もう後悔したく無い。もう喪いたくない。それだけ」
「……All right.分かった、それじゃ少し遊んでやるぜッ!」


ソニックの問いに、自分に言い聞かせるように、そう答えて。
最早私に言葉は必要なかった。ここからは、ただ結果だけがあればそれでいい。
心の中にある耳を塞いで、謎の魔物、ソニックに向かって突進する。
選んだ技はさみだれ突き。見た所ソニックの間合いは短い。
先程は不意を打たれたが、ちゃんと注視していれば自慢の速さも追いきれない速度ではない。
だからこそ、点ではなく面の攻撃を仕掛ける。
一発でもかすれば、そこから強烈な痛打に繋げる事が可能だ。しかし、



(―――疾い!)


ソニックが選んだのは体を丸めた猛烈な回転だった。
的は小さくなり、速度は飛躍的に上昇する。回転エネルギーによって当たった攻撃も弾かれる。
仲間がいれば即座にサポートが入っただろう、しかしここは私一人だ。追いきれない。
眼にも止まらない速度で、蒼の砲弾がボールの様に跳ねながら突っ込んできた。


「あぐッ!」


脇腹に命中、苦し紛れに槍を振るうが、既に目標は槍の間合いから脱出済み。
凄まじい速度で突撃してきたソニックはステップで軌道を変え再び突っ込んでくる。
私は迎撃のため薙ぎ払うが、何とソニックは空中で回転し方向転換、流星の様にキックを叩き込んできた。
その動きはとても洗練されており、人と戦いなれているのは明らか。
かといって魔物の様に攻撃に殺意はなく、手加減しているのか一撃一撃はそう重くない、
だが、余りにも素早すぎるのだ。
メタル系の魔物だって、ここまで素早くはないというのに。


「――――マルティナ。あんたには速さが足りてない」


ちっちっちと指を振りながら、ソニックはまた私の攻撃を避ける。
煩い、と心中で毒づきながら、氷結乱撃を繰り出す。
イレブンとの旅路は、いつだって仲間がいた。
たった一人で、ここまでの素早さを兼ね備えた敵と戦った事はなかった。
イレブンと再び離れ離れになった時に強い魔物に単身挑んだことはあるが、その時の顛末は思い出したくもない。
私一人の力では、ソニックには及ばないのかもしれない、でも、やらなければならない。
それが彼を三度守り切れなかった、三度手を掴むことのできなかった私の贖罪なのだから。


「――アンタの事情はよく知らないけど、ハッキリ言うぜマルティナ。
灰色の心じゃ、オレの速さにはついてこれない」
「それでも…私にはこれしかない!!」


まるで底なしの泥沼に沈み込んでいくようだった。
私のこの行動が間違ってるとするならば、もうどうしていいのか分からない。
ウルノーガを倒す以前の私なら、ゲームに逆らう事を選んだだろう。
それはきっととても高潔な選択。
でもそうして生きて、結局得たものは勇者のいない色を失った世界だった。
きっとソニックには分からない。彼の速さなら掴みそこなった手など、一つもないのだろう。


379 : 灯火の星 ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 11:52:35 tbJ7oQqs0

「いいや違うね、無くしたくない物がまだあるんだろう?ならそのやり方じゃダメだ。
アンタが分からないならそれでもいいさ、オレが教えてやる。だからこのゲームを一緒にぶっ壊しに行こう」


そう言ってソニックは私に向かって手を伸ばしてくる。
自分の力を信じてると言わんばかりの表情で、どこまでも真っすぐに。
眼を見れば彼に敵意がない事は分かった。そして、イレブンに対しても同じはずだとも。
でも、私は。


「……ありがとう。でも、ごめんなさい」



私は、彼を拒絶した。
あの時、イレブンの手を掴めなかった私が、他の誰かの手を取れるはずもなかった。


握った槍に魔力を込め、開放する。
紫電の雷がソニックに襲い掛かるが、先程までと同じく彼には当たらない。
けれど、それでいい。私は既に彼と戦い続けるつもりはなかった。
まだバトルロワイアルは始まったばかり、ソニックの様な素早い相手を仕留めるなら、消耗してからの方がいいはずだ。

ソニックが私の放ったジゴスパークに気を取られている内に、デイパックから支給されたアイテムを取り出す。
取り出したのはキメラのつばさ。
これが無ければ、尋常ではないスピードを誇るソニックを撒くのは至難の業だっただろう。


……そうして私は雷がやむのと同時に彼の前から姿を消し、また独りきりで最初にいた場所に降り立った。
着地と同時に、ソニックと出会った場所から逆方向に駆ける。
彼とはできるだけ会いたくはなかったから。
けれど駆けながら、考えてしまう。


もしあの時彼の手を取れていたら、何かが変わったのだろうか。
もし私にソニックのあの風の様な強さがあれば、イレブンが去った世界でも強くいられたのだろうか。
そこまで考えた所で、強引に思考を打ち切る。
余り考えすぎると、動けなくなりそうだったから。


(そう、私が彼の手を掴めなかった事実は変わらない)


過ぎ去った時を求める権利があるのはイレブンただ一人。
私には掴めなかった手を掴めていたらと夢想する権利さえ、許されてはいない。


【D-3/一日目 黎明】
【マルティナ@ドラゴンクエスト? 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエスト? 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1〜0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまで他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間と出会った時は……どうしようかしら。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


380 : 灯火の星 ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 11:53:41 tbJ7oQqs0

「柄でもないことはするもんじゃないなぁ。まったく」


本来なら諭すなんて柄じゃないのは自覚してる。
でもあんまり泣きたいのに泣けないって感じの顔をしてるから、ついおせっかいを焼いてしまった。
マルティナは結局、オレの前から姿を消してしまったし。振り切れるわけないと油断したぜ。
知っていたらデイパックの中に入っていたとっておきを使ってでも止めたかもしれない。
けれど、過ぎたことだ。それならそれでいい。オレの足は速いのだから。
彼女が会場のどこにいようと、必ずまた見つけてみせる。Piece of cake(楽勝だ)


―――オレに掴まれ、ピカチュウ!


オレだって何でも掴めるわけじゃない、掴みそこなうことだってある。
あのビームが飛んできたときもそうだった。
救えなかった。目の前にいた仲間を消された。俺なら、助けられたはずなのに…!
けれど、それで終わりにするつもりはない。何度だって手を伸ばすさ。
あの時取れなかった手を、今度こそ掴むために。
さぁリベンジと行こう―――Are you ready?


「――――できてるよ」

【C-2/一日目 黎明】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?。
1.知り合いを探す。
2.マルティナを見つけて説得する。

※灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。

【支給品紹介】

【スマッシュボール@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
スマブラ恒例の虹色に光る玉。
破壊する事で最後の切り札を一度だけ使用することができる。
ソニックの場合彼の最強形態の一つであるスーパーソニックに変身できる。


381 : ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 11:54:09 tbJ7oQqs0
投下終了です


382 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 12:04:43 N8rV6vsI0
投下乙です!
ここにきてソニックとは粋な登場ですね。それも本編ではなくスマブラからの参戦というのも面白いです。
スピード特化の彼に速さで敵うキャラはこのロワでも居なさそうです。
本ロワでも実力者に当たるマルティナを軽くあしらう姿を見ていると、安心感がありますね。
クラウドが殺し合いに乗った分、彼には対主催として活躍してもらいたいです。

そして、一つだけ指摘させていただきます。
このロワ、少しルールが特殊で名簿が配られるのは第一回放送の時なんです。
紛らわしいルールに設定してしまい申し訳ありませんが、出来れば冒頭の名簿を読むシーンだけ訂正頂ければ幸いです。


383 : ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 12:09:30 tbJ7oQqs0
おっと、そうでしたか、放送後に文字が浮かび上がるのかと混同していました、すいません
後に訂正したものを投下しなおしますね


384 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 12:12:10 N8rV6vsI0
>>383
ありがとうございます!
お手数おかけして申し訳御座いません。


385 : ◆/sv130J1Ck :2019/07/13(土) 13:53:27 JB/Ww9vg0
名簿は第一回放送後でしたか
ではオセロット予約します


386 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:33:10 N8rV6vsI0
投下します。


387 : 星のアルカナ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:33:56 N8rV6vsI0

「ポカ! ポカブーブー!!」
「おぉこりゃ楽ちんだ。頑張れよポカブ」
「ポカブー!!」

背の低い木々の隙間を縫うように駆ける橙色の影。
その影の正体はひぶたポケモンのポカブ。と、それに乗る探偵帽を被ったピカチュウ。
歩幅の小さい上ピカチュウという大荷物を背負っているためかそのスピードはお世辞にも速いとは言えなかった。

「ポカ、ポカブ!」
「なんだよ、不満か? 鍛えてほしいって言ったのはお前だろう?」
「ポカー……」
「まぁそう言うなって。街に出るまでの辛抱だ」

不満げに鳴くポカブだがニヒルな笑みを浮かべたピカチュウに諭されてしまう。
ポカブはベルを喜ばせるため強くなりたかった。先のスネークとの一件でひのこを吹けるようになった感動をもう一度味わいたいというのもあるが、何よりも前者の理由が大きい。
そのためにピカチュウに自分を鍛えてくれと頼んだのだが、なんだか良いように使われているような気がしてならなかった。

「っと、見えてきたな。ポカブ、もういいぞ」
「ポカ!」
「おわ!? 振り落とすなよ!」

そうこうしている内に緑の勢いは弱まり、見慣れたコンクリートジャングルが迫ってきた。
暗闇を歩いてきたためか溢れんばかりの不自然な光が目に眩しい。刺すような灯りにピカチュウは右目を瞑る。
と、もういいと言葉を聞いた途端にポカブに振り落とされコンクリートに投げ出される形で着地した。


388 : 星のアルカナ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:34:30 N8rV6vsI0

(街灯や部屋の灯りが点いてるのに不気味なぐらい静かだ……あくまで演出ってわけか)

目に優しい月の光を嘲笑うように密集した色とりどりの街の灯り。
その様を写真に収めでもすれば活気溢れる夜の街という印象を与える事ができるだろうが、今その場にいるピカチュウが覚えたのは全くの逆の印象だ。
まるで先程まで日常を送っていた街から唐突に住人が姿を消したような、そんなホラーじみた思考がピカチュウの頭をよぎった。

「ポカー?」
「不安そうだな。モンスターボールの中に入っとくか?」
「ポカポカ!」
「はは、お前は勇敢だな」

デイパックの脇ポケットからモンスターボールを取り出すピカチュウをポカブがぶんぶんと首を振り制止する。
現状、ピカチュウとポカブの戦闘能力は無いに等しい。スネークのような参加者ならいいが、殺し合いに乗った者と出会ってしまえば逃げられる可能性は低い。
それをピカチュウが知らないはずもない。だが名探偵という肩書を背負う以上危険を冒してでもこのゲームを打開しなければならないのだ。

夜の街を進む。
まるで専用のスポットライトを浴びている気分だ。
そうして舞台を歩く足は不意に止められることとなる。

「……! あれは……」

人だ。それも見たところ高校生くらいの青年が街路樹に背を預け右手で頭を抱えている。
何かを思い悩んでいるようだ。ピカチュウたちに気がつく気配はない。
武器と呼べるものは左手に杖が握られているだけ。もしなにかあっても逃げられるだろうと判断したピカチュウはポカブを自分の後ろに下がらせ、青年へと声をかけた。

「なぁ、あんた」
「! 誰だ!?」





389 : 星のアルカナ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:35:01 N8rV6vsI0


青年、鳴上悠は苦悶していた。
稲羽市で起きた連続殺人事件を無事に解決し、自称特別捜査隊の皆に見送られる中バスに乗り込んだところまでは覚えている。
しかしそこまでだ。その瞬間悠はあの殺し合いの場に集められていた。

「……完二……!」

そこで行われたのはマナという少女によるルール説明と、見せしめの殺害。
文字にするだけでも憤りを覚えるが、問題はその見せしめだ。首輪を爆破される直前に見たあの金髪は、あのヤンキーじみた顔は、間違いなく巽完二のものだった。
助けようと思ったときにはもう遅かった。爆発音と共に完二だったものが倒れ伏し、新鮮な血溜まりを作っていた。

それに動揺していてそれからのことはよく覚えていない。
しかし僅かに残ったリーダーとしての本能がルール説明だけは聞き逃しはしないとマナから紡がれる情報を頭に流し込んだ。
そうして悠は、見知らぬ街に転送された。


拉致されるという経験は初めてだが、それを経験している友人は何人かいる。
突然見知らぬ場所に連れてこられるというのは予想以上に不安なものだ。彼女達もこんな気持ちだったのだろうか、とどこか冷静な思考を巡らせる。
拉致された先がシャドウがはびこる”あっち”の世界というのは恐怖でしかないだろうが、殺し合いを強要される世界というのも大概恐ろしい。
ただ闇雲に襲ってくるシャドウと理知的に殺しに来る殺人鬼。そのどちらが脅威なのかと一概には決められないが出来ればどちらも関わりたくないのが本音だ。

しかし鳴上悠が抱いている恐怖は別にあった。

「……ペルソナが、出せる?」

悠がここに来て行ったことは支給品の確認、周囲の散策、そして――ペルソナの召喚。
ペルソナが出せるのはテレビの向こうの世界だけで、現実世界で出すことは出来ないというのは実証済みだ。
悠も本当にペルソナが出せると思って召喚を試したわけじゃない。別の意味で期待を裏切られることとなった。


390 : 星のアルカナ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:35:23 N8rV6vsI0

(何故ペルソナが出せるんだ? ……もしかして、あっちの世界に呑み込まれたのか?)

焦る脳は考えうる限り最悪の結論をちらつかせてしまう。
事件が進むにつれ、テレビの世界で充満していた霧が現実世界にも溢れていた。
足立はそれが現実とテレビの世界が一体化する前兆と言っていた。もしそうならばペルソナが出せる現象にも説明がつく。
しかしアメノサギリを倒したことにより霧は晴れたはずだった。
ならばどうして――考えれば考えるほどに疑問が膨らみ、無限ループに至る。

「……やめよう。解決しないことを考えても仕方がない」

結果、悠は生産性のない思考を中断した。
まず最大の疑問であるそれを置いておき、次に気になる点を思い浮かべる。
それは悠の持つペルソナだ。現在彼の手元には初期のペルソナであるイザナギしかいない。

「ヨシツネやトランペッターは……いないのか」

レベルが最大とはいえ、あくまで初期ペルソナであるイザナギは戦力が高いとは言えない。
電撃技のジオ、物理技のスラッシュ、防御力を下げるラクンダ、攻撃力を上げるタルカジャと基本的なスキルは覚えるもののそこまでだ。
恐らく強敵相手では通用しないだろう。生存確率を上げるため、今後ペルソナを手に入れられる条件があるのならそれを探したい。

「もう立ち止まるのは終わりだ。完二、お前の遺志を継いでやる」

今後の方針は決まった。
完二がいたということは他の仲間が連れてこられていることはまず間違いない。
仲間の捜索、首輪の解除、ペルソナの入手。そしてその先にあるのはマナとウルノーガの打破。
きっと完二もそれを願っているはずだ。リーダーである以上、仲間を導き明星へ導かなければならない。

そう決意したまさにその時、

「なぁ、あんた」
「! 誰だ!?」

油断していた。
急いで声の方向へ顔を向ける。が、どこにも姿が見当たらない。


391 : 星のアルカナ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:36:04 N8rV6vsI0

「おーい! ここだここ!」
「……!? シャドウ……?」

声に従い視線を下げれば見慣れない黄色い生き物が目に入った。
それも流暢に人の言葉を喋っている。戸惑いこそしたものの、シャドウを見てきた悠にとってはさほど驚くことではなかった。外見とかけ離れた声色には流石に耳を疑ったが。

「お前はなんなんだ?」
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はピカチュウ、名探偵だ。そしてこっちは迷子のポカブだ」
「ポカポカ!」
「……名探偵?」

ピカチュウの得意げな顔とそれを真似るポカブに悠はぽかんと口を開く。
クマのような喋る異型だという認識でいたが、まさか名探偵という単語が飛び出すとは思わなかった。
とても探偵という風貌には見えないし、直斗のような落ち着きがあるようにも思えない。

「おっと、信じてないって顔だな。……そうだな、じゃあ一つ推理してやろう」
「いや、別にいいです」
「まぁ遠慮するな。そうだな……」

なんだか面倒な事になりそうだ、と悠は断りを入れるがピカチュウは一人勝手に悩み始める。
あまり期待はしていないが、おかん級の寛容さを持っている悠はじっとその様子を見つめ彼の言う推理を待った。

「お前、さっき殺された金髪の男と同じ学校だろう」
「! なぜそれを……」
「制服が同じだったからな。悪いな、こんな無神経で幼稚な推理しか出来なくて」
「……いや、いいんだ。よく見てるんだな」

とんでもない当てずっぽうが飛び出すと思っていたばかりに悠は意表を突かれる。
確かに探偵の推理と呼ぶにはおざなりで稚拙なものだが、それを出会って数分にも満たない相手に確信を持って突きつける様は直斗と重なった。
なるほど、確かに名探偵というのも自称ではないのだろう。悠はピカチュウに対しての評価を改めた。

「友達のこと、残念だったな。気の利いた言葉はかけられないが……お前は生きてる。だからこそ、死んでしまった奴の無念を晴らすべきだと思うぜ」
「ああ、そのつもりだ。こんな悪趣味なゲーム絶対に止めてやる」
「はは、熱い男じゃないか! 勿論俺も手を貸すぞ。事件の解決には名探偵の頭脳が必要だろ!」
「ありがとう。頼りにさせてもらう」

ここに一つの絆が誕生する。
姿かたちこそ違えど、互いに目の前の存在を信頼する仲間と重ねていた。
ゲームの打開に確かな決意と胸に宿る情熱を示す正義漢はまるでティム・グッドマンのようで。
人の姿でなくとも人間に協力しお調子者を演じながらも頼りになる熱血漢はまるでクマのようで。
そんな最高の第一印象を抱いたためか、出会って間もないものの二人は相手を信頼足り得る存在だと確信を持った。

「鳴上悠です。よろしく、ぺかてう」
「おう、よろしく。あとピカチュウな」

ふと、自分が名乗っていなかったことに気がついた悠は身を屈めてピカチュウへと手を差し伸べる。
握手を求めていると気がついたピカチュウは手をぺたりと乗せ、悠がそれを包み軽く上下に振った。

「ポカ! ポカブーブー!」
「ああ。よろしくな、ブーブー」
「ポカブな」

傍で鳴くポカブに向き直り悠が再度手を差し伸べる。
するとポカブは器用にも前足を悠の手に乗せてみせた。悠はそれを硬く握り、握手が成立する。

「さてと、頼もしい仲間も増えたことだし情報交換がてら病院にでも向かわないか? ここからなら近いし、病院なら人も集まるだろ」
「そうだな、もしかしたら俺の仲間もいるかもしれない」
「へぇ、聞かせてくれないか? 悠の仲間の話」
「ふっ、個性的な奴らばっかりだぞ」

ピカチュウの挙げた方針に異論はない。
地図を取り出した悠は病院への方向に見当をつけ、そちらへと足を運んでゆく。
ピカチュウやポカブと歩幅を合わせているため普段のそれよりも遅いが、互いの情報を共有するには丁度いいだろう。
一人ぼっちの役者はようやく舞台を降りた。





392 : 星のアルカナ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:36:33 N8rV6vsI0



我は汝……、汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……

絆は即ち、まことを知る一歩なり

汝、”星”のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん……



【D-6/街路/一日目 黎明】
【鳴上悠@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:リーダーとして相応しい行動をする。
1.ピカチュウと共に病院へ向かう。
2.もし仲間がいるなら探したい。
3.完二……。

※事件解決後、バスに乗り込んだ直後からの参戦です。
※現在持っているペルソナはイザナギだけです。
他のペルソナは参加者と絆を深めることで発現します。(例:ピカチュウ=”星”のペルソナ)
※誰とも特別な関係(恋人)ではありません。
※全ステータスMAXの状態です。

【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.悠と共に病院へ向かう。
2.ティムやポカブのパートナーを探す。

※本編終了後からの参戦です。
※電気技は基本使えません。
※ピカチュウのコミュニティ属性は”星”です。


【支給品紹介】
【女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
鳴上悠に支給された両手杖。
装備すれば攻撃魔力、回復魔力ともに上昇する。また、殴った相手からMPを吸収できる。
あくま系へのダメージが10%増加する効果もあり、あくタイプのポケモンなどには効果的かも。

【ルッカの工具箱@クロノ・トリガー】
鳴上悠に支給された工具箱。
ルッカの技術が合わされば壊れたロボの修理も行える。
具体的に中に何が入っているかは後の書き手さんにおまかせします。

【ポケモン状態表】
【ポカブ ♂】
[状態]:健康
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。


393 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/13(土) 16:36:48 N8rV6vsI0
投下終了です。


394 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/13(土) 17:01:19 XytF4NwQ0
投下乙です!!
おお!!ついに出ましたね、ルッカの工具箱!!そして最後の主人公!!
ペルソナは初代しかストーリー知らないけど、この二人も楽しみです。
あとぺかてふは笑いました。

では、ルッカ、Nで予約します。


395 : 名無しさん :2019/07/13(土) 18:31:34 2psPaX0s0
投下乙です
ポカブへのピカチュウの図々しさがすごいそれっぽいw
悠はここでも新しいコミュを築いていくのか
彼がこれからどんな絆を紡いでいくのか楽しみ


396 : ◆VheK0es1wU :2019/07/13(土) 20:36:02 tbJ7oQqs0
wikiにて修正を行わせていただきました


397 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:23:43 aI6SKJ5Q0
投下します。


398 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:26:21 aI6SKJ5Q0
「殺し合い……ですか?」

「そうだ。ホメロスよ、お前にもう一度チャンスをやろうと思うてな。」

気がつくと私は、暗い暗い闇の底から引き上げられていた。

「協力者のマナも配下を殺し合いに送り込むそうだ。そうだな……主催者が持つ切り札──さしずめジョーカーと言ったところか。」

どうやら主は殺し合いの催しを開こうと画策しているようだった。

「さらば私のジョーカーはお前だ、ホメロス。私の右腕として、そのチカラを持って必ずやこの殺し合いを円滑に進めてくれるだろうと信じておる。」

「はい……ウルノーガ様の仰せのままに……。」

主らしい、この上なく悪趣味な催しだ。
話によると、時間や世界軸をも超えて様々な世界から参加者を集めるとのことらしい。

「お前が喜ぶと思ってな……私に16年間仕えたせめてもの礼として元々呼ぶつもりはなかったのだが、グレイグの奴も呼んでおいてやったぞ。」

グレイグ。
その名に私は確かに反応した。
私の持つ劣等感の、元凶の名────

「ありがとうございます、ウルノーガ様。必ずや、貴方の期待に応えてみせましょう。」

こうして私は──主より新たな命を受け取ったのだ。

「お前の活躍を期待しているぞ、ホメロスよ。」

最後に一言、付け加えるかのように主はそう言った。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼


399 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:27:44 aI6SKJ5Q0
ホメロスが降り立った場所は、どうやら公園であるようだった。
地図によると、ここは小さな島のような形になっていて、周りは他の島とは橋でのみ繋がっているようだ。

殺し合いの世界の中でも有数の、見通しが広く不意打ちを受けにくい場所と言えるだろう。
それこそ海中から襲ってくるような相手でも無い限り、不意打ちを受けることは無さそうだ。
どうやらスタート地点は良い場所を引くことが出来たようだ。

次に参加者全員に支給されているらしいデイパックを開く。

支給品──この中身こそがこのバトルロワイヤルを左右すると言っても差し支えない。
自分の居場所の次に確認すべき事であるのは間違いないだろう。

デイパックを開くと、3つの支給品が確認出来た。
とりあえず、サイズの大きな物から手に取ることにする。

最初に出てきたのは、虹色に輝く刃を持った太刀だった。

試しに一振り、空気を斬りつけると、その斬撃の軌道までもが虹色に輝いていた。

『虹』の名を背負うその武器は、かつて愛用していたプラチナソードよりも遥かに強力そうだ。この世界でも有数の"当たり"の支給品なのだろう。


400 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:28:21 aI6SKJ5Q0
次に出てきたのは、用途の分からない石版だった。
しかしこれには付属の説明書が付いてある。


『シーカーストーン』
様々な機能の内蔵された、ハイラルに伝わる石版。
機能一覧:望遠鏡/マップ/リモコンバクダン(丸型、四角型)/マグネキャッチ/ピタロック/アイスメーカー/ウツシエ


説明書をめくっていき、それぞれの道具の詳しい用途を確認していく限りでは、どうやらこれも"当たり"の支給品らしい。
少なくとも自分の生きていた世界で、これほどまでに便利な道具は存在しなかった。


そして最後に出てきたのは、『モンスターボール』だった。
これに関しては殺し合いの参加者が集められる前にウルノーガから直々に説明を受けた。
使い魔を閉じ込める球──要約するとそんなところだ。

リーズレットやメルトアなど、無駄に知性を持っていて扱いに困るような配下の魔物もこれ一つで簡単に制御できると考えれば多少は便利かもしれない──ポケモンと馴染みの無いホメロスにとって、モンスターボールの用途とはその程度でしかなかった。

ただし、人間相手の殺し合いに使うとなるとそこまで有用なのかどうかは分からない。
先に魔物の参加者と出会えということだろうか。

ともかくこれは"外れ"の部類に入る支給品か……そう考えた矢先、中に既にモンスターが入っていることに気付く。
どうやら、中身のモンスターを支給する際にその管理に便利なモンスターボールを用いていただけのようだ。

早速ホメロスはモンスターボールを地面に投げ、中の使い魔を呼び出した。


「ジャア!」


モンスターボールからモンスターが出てくるところは初めて見たが、話に聞いていた通り、ボールのサイズを一回り超えたモンスターがボールから出てくる光景はなかなかに面白いと思えた。

そしてその中から出てきたのは、深緑のチカラをその身に宿した蛇ポケモン──ジャローダ。

近くにいるだけでかなりのチカラを秘めているのが伝わってくる。
どうやらこの支給品も、なかなかの"当たり"であったようだ。


401 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:29:14 aI6SKJ5Q0
とりあえず周りに敵の見えない現在は必要無しと判断し、説明を受けた通りの手順でジャローダをボールの中に戻す。


何もかもが"当たり"で埋め尽くされた支給品。
更には現在地──マップの中心に位置しており行動方針の選択の幅が広く、不意打ちも受けにくい場所。

(私のチカラを認めてくださるあの方こそが真の王──か……。)

かつて勇者イレブンとグレイグに向けて言った台詞を思い返す。

グレイグと共に『双頭の鷲』と呼ばれる二人の将軍となってから、常に民からの支持を受けるのはグレイグの方だった。

誰も俺のチカラを認めない。
誰も俺を必要としない。

劣等感は時が経てば経つほど増していった。
そんな時、声が聞こえてきた。


(──ホメロスよ、私はお前のチカラが欲しいのだ。)

その声の主がウルノーガだった。
その時は、自分のチカラを認めて貰えたことがただただ嬉しかったのだ。例えそれが、悪の道であったとしても。

そしてここでも、ウルノーガは俺のチカラを必要としている。
俺のチカラを、認めてくださって────


402 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:30:22 aI6SKJ5Q0
「──ふざけるなッ…!ウルノーガァァ!!!」




喉が張り裂けんばかりの大声で、ホメロスは叫んだ。

(何がジョーカーだ。支給品も居場所も、何もかも優遇尽くし……俺のチカラを全く認めていない証ではないか……。)

ウルノーガだけは自分のチカラを認めていてくれるのだと思っていたが、一度真実に気づけば奴の本音などいくらでも透けて見えた。

こんな支給品に頼らなくてはいけないほど自分は弱い──そう言っているようなものだ。
本当にチカラを評価しているのであれば、シルバーオーブの力など与えなくてもよかったではないか。
自分はただ利用されていたに過ぎなかったのだ。それに気付いたのは、皮肉にも自らの最期の瞬間であった。

(──お前こそが………俺の光だったんだ……。)

死の間際にグレイグの本音を聞いて、全ての真実に気付いた。

直接民衆のためとなる任務をグレイグに優先的に回していたのは誰だったか。

『グレイグはもはやお前のことなど見ていない』
そう俺に囁いたのは誰だったか。


403 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:30:58 aI6SKJ5Q0
そう。
どちらも、ウルノーガではないか。

俺がグレイグに抱いてきた劣等感は、配下を手に入れるために最初からウルノーガに仕組まれたものだったのだ。


絶対に殺してやる。
俺のプライドを弄んだお前を…。


だが自分のチカラがウルノーガに及ばないことは嫌というほど理解していた。

……癪ではあるが、奴らのチカラを借りる必要はあるのかもしれない。
勇者イレブンとその仲間──かつてシルバーオーブのチカラを借りた自分が敗北した相手たち。ウルノーガによると、その中にはあのグレイグも含まれているようだ。

(俺は既にプライドなどことごとく失った身……お前を倒す同志を集め、絶対に殺してやるぞ…!)

闇に堕ちた英雄は立ち上がる。
微かに残る、光を信じて──

【ホメロス@ドラゴンクエストXⅠ 過ぎ去りし時を求めて】 
[状態]:健康 
[装備]: 虹@クロノ・トリガー
[道具]:シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド モンスターボール@ポケットモンスターブラック・ホワイト 基本支給品
[思考・状況] 
基本行動方針:打倒ウルノーガ
1.絶対に殺してやるぞ……!
2.仲間が必要…か…


404 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:31:27 aI6SKJ5Q0
【支給品紹介】

【虹@クロノトリガー】
ホメロスに支給された太刀。
クロノの最強武器。原始から未来、すべての時をまたに駆け、陽の光を集め続けた石を原料として、時の賢者ボッシュによって作られてた太刀。
特殊効果としてクリティカル率70%を持つ。
原作のホメロスは片手剣を用いているが、片手持ちで戦うのか両手剣スタイルにするのかは後続の書き手にお任せする。

【シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
シーカー族が作った携帯用の端末。リンクにしか使えないという制限は主催者の手によって無くなっている。
その機能は多岐に渡り、厄災ガノンを倒すリンクの冒険を数えきれないほどサポートしてきた。
ピタロックとマグネキャッチには『生物または生物に密着するものへの使用はできない』という制限がかけられており、参加者の首輪を対象と取ることは出来なくなっている。


405 : 哀れな道化の復讐劇 ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:32:03 aI6SKJ5Q0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「──ふざけるなッ…!ウルノーガァァ!!!」




声が、聴こえた。
怒りと屈辱の籠った声が。
それはいつかの私と同じ声。

貴方も貴方のマスターに反逆しようとしているのね。
その気持ち、痛いほど分かるわ。
私も貴方と同じだから。

『ここでお別れだ、ジャローダ。オレに着いてきても、オレはお前をもう二度とボックスから出さない。』

旅立ちからずっとマスターの相棒として戦ってきたのに…。
『完璧』だけを求め始めたマスターにとって、私は要らない存在だった。

分かってる。
私を野生に帰したのは、それだけ特別な私に対するマスターの情けだってことくらい。
他の"使えない子"たちはわざわざ逃がすこともされず、ずっとポケモン預かりボックスの中で出番を待ち続けるばかりだった。

でも、悲しかったんだ。
ずっとずっと、彼は私のマスターだと思っていたのに。
ボックスの中で彼をひたすら待ち続けるだけの生涯でも、私は構わなかったのに。

私は恨むわ。
私に永遠の苦しみを与えたマスターのことを。
それこそまさに──殺してあげたいくらいには、ね。

だから貴方に手を貸してあげる。
マスターへの恨みや憎しみで苦しみ続けるのは、私だけで構わないから……。

【モンスターボール(ジャローダ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】 
ホメロスに支給されたジャローダ(♀)が入ったモンスターボール。元々の持ち主はトウヤ。しかし野生に帰され、 持ち主無しの状態だった。
レベルは80。覚えている技はリーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい。
性格は『れいせい』


406 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/13(土) 22:34:24 aI6SKJ5Q0
投下終了しました。

すみません。状態表に
【C-4/公園/一日目 深夜】
をつけ忘れていました。


407 : 名無しさん :2019/07/14(日) 04:38:30 fhbcg3qM0
投下乙です
まさか…そう来たか
でもこれは面白い
予想を裏切って打倒ウルノーガの意思を固めたホメロスと哀れなジャローダのこれからに期待!


408 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/14(日) 13:23:30 D.QobOOs0
投下乙です!
予約時点でホメロスがジョーカーとして活躍するんだろうなと思っていたので、予想を裏切られました。
まさか彼が対主催につくとは……ソリダスのような危険対主催というわけでもないようですし、大きな戦力になりそうですね。
そしてジャローダ。ここで満を持してのトウヤの手持ちの登場ですね。レベルも他と比べ圧倒的です。
北にグレイグ、南にトウヤ。どちらも因縁の相手がいるため、どっちに行っても面白そうですね。
彼らがどう交わり合っていくのか楽しみです。


409 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:41:06 z5Ib6kBo0
投下します。


410 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:42:34 z5Ib6kBo0
ルッカが廃病院から逃げ出して、20分ほどが経過した。

あの金髪の女性も、ロボも追ってはこなかった。

(本当に『アトロポス』なのね。)

ロボが追ってこなかったということは、即ち廃病院に不法侵入するものを排除し続けるのだろう。
工場に侵入する者を無差別に排除する、Rシリーズのように。

歩いた先は十字路。
振り切ったと思ったらまた敵に襲われる、なんてことはもうないように、辺りを見回す。
よくよく見れば、鉄や見たことのない金属で作られた建物が並ぶ、トルース村とはまるで違う風景だった。
道も、木材や石材、レンガではなく、コンクリートというルッカの知らない物質で舗装されている。
ラヴォスに破壊されなければ、未来の都市はこのような見た目だっただろう。

明かりは付いている。しかし、人気はおろか、ネズミ一匹いないのが逆に不気味だ。

(ラヴォスに破壊された未来の廃墟都市でさえ、ポーションをくすねていくネズミがいたというのにね……。)


落ち着くと、体がズキリと痛んだ。
金髪の女性から受けた炎の呪文と、ロボから受けた打撃のダメージは、命に関わるほどでないにしろ、決して軽くはなかった。


ルッカは回復呪文は使えず、治療道具もない。
それに周りは人工の光に照らされた、人のいない町。

人がいない、ということは自分の命を狙ってくる者もいないが、反面助けてくれる者もいない。

おまけに明かりに照らされているということは、自分の位置は容易に知らされるということだ。

今こそ動く者の気配は感じないが、いつ狙われるか分からない。
武器もなく、魔法こそ使えても、遠からず限界が来る。

(最後に一人で戦ったのって、いつ以来かしらね……
一人でクロノを助けに、ガルディア城へ突撃した時?)

肉体的な痛みと夜の闇、それに孤独。
全て、人の心を狂わせる条件だ。

いっそ、あの女性のように殺しの衝動に身を委ねてしまえば、楽になれるのに。

そんな考えさえよぎってしまう。
未来を救った天才サイエンティスト、ルッカといえど精神は人間の物だ。壊れることは容易い。


411 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:42:57 z5Ib6kBo0


楽になること、それは彼女自身が許さなかった。

今出来ないことがあっても、やがて出来るようになるかもしれない。
それがサイエンスというものだ。

(可能性はゼロに等しい、しかし0でない限り、かけてみる。)

いつかの時の賢者が遺した記録。
そしてルッカ達はその0に近い賭けに、勝ったのだ。


あの時ロボが助けてくれなければ、自分は串刺しにされていた。
ロボが、限りなく小さな可能性を作ってくれたのだ。
その可能性を棄てて、ロボを棄てて、楽になることなんて許されない。


一度は止まりかけた彼女は、再び歩き始めた。
それから無人の都市部を歩いた先に、一つの掲示板が目に入った。

                ↑
               図書館

←遊園地                       八十神高等学校→

               
一人だと地図を見ている間に襲撃される可能性もあるので、こういう掲示板は役に立つ。

自分は病院から南下したことは覚えているが、それからどれくらいの距離を歩いたかまでは実感がなかった。

ルッカはとりあえず、図書館へ行ってみようと考える。

病院の時と同じで、脱出のカギになる書物は置いていない可能性があることも考慮に入れつつも。

更に歩いていくと、周囲の建物とは少し風貌が異なる建造物が見えた。
直方体で出来ている建造物ばかりの中で、楕円の形を造っている。

扉の前へ近づくと、それは機械的な音を立てて、何もせずとも開いた。
ジール宮殿や未来のドームにあった、ペンダントに反応して開く扉のように。

(この世界、あの未来の世界をモチーフにしてるのかしら?)

中は、外から見るより広かった。
正面にロビーと無人の貸し出し口。
貸し出し口から曲がった先に、正方形の大広間。
壁一面、そして中央の柱の部分が本棚になり、そこに本がずらりと並べられている。

4隅に休憩用のソファーが置いてあり、ここで手に取った本を読むようだ。


412 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:43:14 z5Ib6kBo0

入ってすぐ左の本棚に、工学に関する本が並べられていた。

(でも、これじゃないのよね。)
並べられてある本は、内容からして重要そうに見える。

しかし、たとえ理論が成立していても、道具や環境と言った条件が整っていないと成せないのが科学の欠点だ。

工具箱か、その代理に当たるものが手に入らない限り、どんな知識があっても、首輪解除とロボの修理は難しいだろう。


ルッカが求めていたのは「歴史」、「世界」といった分野の本。
本来の彼女の分野とは少し離れているが、それらの本を読むことで、この世界が少しでもわかるかもしれない。



ルッカは最初に手に取ったのは、『イッシュ神話』だった。
イッシュ。聞いたこともない国だ。

だが、その白と黒で囲まれた表紙は、ルッカを誘惑するような魅力を含んでいた。

    昔、ある所に一匹のポケモンあり。
    ポケモンは双子の英雄と協力し、イッシュ地方に新世界を創造す。
    やがて双子和を乱し、ポケモンも二体に分かれた
    兄に付き白き炎を纏うレシラムは真実を、
    弟に付き黒き雷を纏うゼクロムは理想を追い求める。
    双子は戦いを収めたが、その子孫が再び争い始める時がいずれ来るだろう。


(ポケモン……?人間の言うことを聞くモンスターみたいなものかしら。)
この本が脱出の手がかりにも、世界を知るカギにもなる可能性は低い。
しかし不思議とこの物語に魅入られてしまう。


「キミはその世界に、興味があるんだ。」


急に声をかけられて振り向くと、奥のソファーに青年が座っていた。
青年は真っ白な服と深々とかぶった帽子に身を隠し、ぺらり、ぺらりと読み取れているのかどうか分からない速さでページをめくっていた。


「あなた、何か知っているの?」

ルッカは見知らぬ青年に話しかける。
どこか命の躍動を感じず、話しかけづらい。

「………知っているも何も、僕はそこに書いてあるポケモン、ゼクロムと一緒に、理想のために戦ったことがあるからさ。」

意外と、今読んでいる本はどこか別の世界とつながっていた。
最も青年の言うこと自体はルッカにとって半信半疑だった。

どう見ても青年はこの本に描かれているような猛々しい生物を操って、戦いに身を乗り出すような風体には見えない。

「理想ってどんなこと?」

「人々に囚われているポケモンを自由にする。でもそれは昔の話さ。
僕の理想は間違いだった。あるトレーナーとの戦いで知ったんだ。」

青年は無気力そうに本を読んでいたが、どうやら読み終わったようだ。


413 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:43:36 z5Ib6kBo0
本を戻し、『数学』と書かれた本棚から別の本を取る。


その時、後ろに生物の気配を感じたと思ったら、山吹色のフードをかぶった何かがルッカを見つめていた。


黒目が無く、煌々と光る瞳。
右手には包丁、左手にランタン。
そして山吹色のローブから覗かせる魚のそれと同じ形の尻尾は、モンスターであることを物語っていた。

(………!!)

身長こそ、ルッカの腰の辺りにも届かない。
だが、その異様な姿は、ルッカの心臓を飛び跳ねさせた。

「驚かせてゴメンね。その子……トンベリって名前らしいけど、優しいトモダチなんだ。」

トンベリは、ゆっくりと青年の所へ向かう。
青年が赤と白のボールを取り出すと、そのモンスターは吸い込まれた。


「ちょっ……!!それって、どーゆーメカニズムなのよ!!」

ルッカは後ろに未知の生物がいたこと以上に驚く。
あり得ない、どう考えても、そのボールとモンスター、サイズが合わない。

「メカニズムって……モンスターボールを知らないの?」

「知らないわよ!!」
ルッカはつっけんどんに言い返す。

そして、様々な考察を巡らせる。
あのモンスターが実は固体ではなく、色のついた気体だった。
あのモンスターはただのホログラムで、あのボールのスイッチがトリガーになる。
あのモンスターが幽霊のような存在で、見ることが出来るが質量がない。

そこから青年が答えるまでのほんのコンマ数秒、ルッカは様々な仮説を立てた。

「聞いたことがない?ポケモンの衰弱時に身体を収縮して狭い所に隠れる本能と、球状を利用した内部の質量と磁力を遮断するシステムを用いて………」

青年は早口でモンスターボールのシステムをルッカに説明する。

結局モンスターボールのシステムを、ルッカが完全に理解することは出来なかった。
とりあえず仲間のモンスターを収納するケージの役目を果たすことは分かった。


414 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:44:01 z5Ib6kBo0

「ところで、僕の方からも質問していいかな?君はどうしてここに来た?」

ルッカは説明した。
自分達は、時を越えて、地球の敵ラヴォスを倒し、滅びゆく未来を変えた。
その後この戦いに呼ばれた。
ここに呼ばれてすぐにかつての仲間のロボに会ったが、コードを書き換えられていて、襲い掛かってきた。
突如襲ってきた金髪の女性。一瞬だけ記憶を取り戻したロボ。
ロボを取り戻す手がかり、資料を探しに、この図書館にやって来た。

「へえ……僕としては、時を越えることの方が、モンスターボールなんかよりよっぽど不思議だと思うけどね……。
そんなの、あの本の世界だけだと思っていたよ。」

(………!!)

青年が指を刺した方向にあったのは、ルッカも知っている名前が記された本。

『シルバード 時を渡る翼』
中身もかつて自分達が未来で手に入れた、時の賢者ガッシュが作りしシルバードの内容だった。

「僕も読んでみた。確かに一定のスピードを超えれば、時間を超越できるって理屈は正解だ。
でもこの素材、デザインではそれこそ魔法の力でも使わない限りエネルギーの放出量に機体が耐えられない。」

確かに青年が言う通り、理屈では不可能だ。
実際にその設計者でさえ、この機械を使いこなし、ラヴォスを打ち滅ぼす確立など極めて低いと認識していたから。


「それが、成功したのよ。私たちはこれに乗って時を超えて、未来を救ったの。この戦いだって同じ。あの怪物に勝てる可能性も0に近いけれど、0じゃないからやってみる価値はあるわ。」

青年は驚いた顔をしていた。それまでルッカに目を合わそうともしなかったのに、ルッカの希望に満ちた眼を見つめている。

「いや、君はウソをついている眼をしていない。僕はこのタイムマシンは信じられないけど、君は信じられる。」

「協力してくれるかしら?」

確かにこの青年は、自分よりも優れた頭脳を持っている。
ルッカはそう認めざるを得なくなった。

自分達が今いる場所が本であふれる「図書館」なら、彼自身もまた、一人の知識にあふれる「図書館」である。

そしてこの人物の協力があれば、首輪解除、そしてロボの救助に近づけると確信した。

「どうしようかな……じゃあ、もう一つ教えて。
キミは、『理想』を持ってる?
トモダチを直したいとか、あの怪物を倒したいとか、『誰かに押し付けられた』モノじゃない。
もっと大きな、キミを造るものさ。」


415 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:44:35 z5Ib6kBo0

ルッカは知らないことだったが、青年には今、理想がない。
青年が理想だと思っていたものは、彼の育ての親、ゲーチスによって無意識のうちに植え付けられたものだった。
それをポケモントレーナー、トウヤによって知らされた反面、それまで培ってきた理想も失ってしまった。


青年から意外なことを問われ、一瞬戸惑うも、すぐにこう答えた。

「この私、ルッカ様の力で、科学を発展させる。だから、こんなところで死ぬわけにはいかないのよ。」

「なるほどね。人に押し付けられたものではない、それでいて誰かの為になろうとしている。素晴らしい理想だ。
いいよ。キミのトモダチを助けるために協力しよう。」

やはり仲間と言うのは良いものだ。
たとえ目の前の青年が見知らぬ存在だとしても。

「ありがとう。でも、名前を聞かせて。」
「『N』。そう言ってくれて、構わないよ。じゃあ、行こうか。」


(!?)
やっぱりこの人、どこか変な気がする。
まあ、名前なんてどうでもいいか。

「え!?私、まだここの本を読み終わってないのに……。」
「管理人がいないし、勝手に目ぼしい本を何冊か持って行っていいんじゃないかな。それに、キミもトモダチを直すため、欲しい道具があるんでしょ?
僕も、この子が失くしたっていう、包丁を探してあげたいんだ。」

「結構、勝手ね……。」

言われるがまま、ルッカは気になる本を何冊か拝借し、図書館を後にした。


「ねえ、ところで工具箱とか持ってない?」
「僕はナイフとこのモンスターボールだけだった。どうやら、誰かを探さないといけないみたいだね。それとも、知らない所に捨てられているのかな?」



あの時とは異なる、理想を、それと同時に真実を追求する者の冒険が始まった。


416 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:45:39 z5Ib6kBo0
【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.ロボが居たってことは、もしかしたらクロノたちも……?
4.Nって不思議な人ね……


【E-5 図書館入り口/一日目 深夜】
【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。


※ED後からの参戦です。

【モンスターボール(トンベリ)@FF7】
Nに支給されたトンベリが入ったモンスターボール。
普段は大人しいが、敵を見つけるとゆっくり襲い掛かり、一撃必殺の「ほうちょう」をお見舞いする。本作では愛用のナイフではないため、一撃必殺の力こそはないが、それなりな威力を持つことが予想される。
また、今後の展開次第で、相手の殺害数によってダメージが上がる「みんなのうらみ」や相手の歩いた距離によってダメージが上がる「ほすうダメージ」を持つ可能性も?
あるいはマスタートンベリへと進化する可能性も?


417 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 17:49:55 z5Ib6kBo0
投下終了です。


418 : Library ◆vV5.jnbCYw :2019/07/14(日) 18:05:04 z5Ib6kBo0
訂正箇所を。
謝り【E-5 図書館入り口/一日目 深夜】→正【E-5 図書館入り口/一日目 早朝】


謝り「あの時とは異なる、理想を、それと同時に真実を追求する者の冒険が始まった。」

正→「丁度その時、この世界初の朝日が顔を覗かせる。
それは理想を、同時に真実を追求する者の新たな冒険の始まりを告げていた。」


419 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/14(日) 19:22:43 D.QobOOs0
投下乙です!
これでついにポケモン勢が全員出揃いましたね。他のモンスターと会話できるNは今後の展開に大きく影響しそうです。
彼はトウヤの変わりようを知る前からの参戦のようなので、トウヤへの信頼感もゲームを乱してくれそうな予感がします。
そして初の早朝ですね。いよいよ物語が動き出してきたという感じがします!
トンベリも、本編ではかなり体力が高く一撃必殺持ちだったので不意打ちならばかなり脅威となりそうですね……。
割と相性が良さそうな二人と一匹ですが、果たして工具箱を持った悠たちと出会えるのか。楽しみです。


420 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/15(月) 01:01:02 XUbYRMmg0
美津雄、ザックス、貴音で予約します。


421 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:30:32 eSgAx8ek0
予約分投下します


422 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:31:18 eSgAx8ek0

「だああああああっ!!! なんだよこいつ!!! ポケモンなのか?!」

駆ける、駆ける、駆ける。
全力で、ただひたすらに。
自らの命を守るために、あてもなく。
一人の少年が夜闇を切り裂いて一陣の風となる。

「はぁ! はぁ! はぁ……っ! はぁ……!」

心臓が今まで聞いた事もない速度で早鐘を鳴らしている。
これ以上の逃走は難しいと、全身全霊で訴えかけているのだろう――――無視だ。

無意識に漏れ出す絶叫交じりの声はどうしようもなく呼吸を阻害する。
酸素が充分に行き渡らず、霞む視界は適切な呼吸を要求していた――――無視だ。

硬い地面を一蹴りする度に疲労が足先から全身を襲う。
時折痙攣する筋肉は十二分に張り詰め、その動きを停止しようとする――――無視だ。

張り巡らされた血流からその恩恵を受ける臓器の隅々まで、それら全てが迅速なる行動停止と、適切な休息を筋肉に命令する――――全て、無視無視無視無視無視!

一体自分がどこへ逃げているのかも、何から逃げているのかもわからない逃走劇。
ゴールも見えずペース配分も糞もないがむしゃらな全力疾走故か、滝のような汗が滲む衣服はトレードマークとも言える赤色をどす黒い朱色で所々染め上げていた。
見れば、布地は至る所が切り裂かれ飛び散る泥や滴る汗、その奥から滲む血液がドロドロに混ざり合って見るも無残な様相を呈している。
先の見えないマラソンは容赦なく体力を奪い取っていくが、何よりもいつまで逃げ続けなければならないの明確でない事実が気力を削り取っていた。

打開策は無いかと脚を動かす合間に必死で周囲を見渡すが、辺りに鬱葱と生い茂る木々に見覚えはない。
時折目についた子供向けであろう遊具の数々から今しがた走り抜けた施設が公園のようなものと判断しつつ、だからと言って何が解決するワケでもない。
公園を抜けた先には今までと殆ど変わらず地続きであり、乱雑に草花が咲き誇る景色から先の見通しは、なかった。

(くっそ……見た事ないぞ、あんなポケモン)

酸欠に揺らめく視界を必死にこらし、背後から襲いくる獣の姿を瞳の中に捉える。
辺りが夜闇に包まれていることもあり、その明確な形は把握できない。
だが、相手が只の獣ではなく“ポケモン”であるのならば、少年にとってその姿を把握することは容易であった。

カントーとジョウト。
その二つの地方のバッジを全て集め、ポケモントレーナー達の最高峰とも呼ばれる“四天王”及びその頂点に君臨する“チャンピオン”といった歴戦の兵達との戦いを乗り越えた先。
ポケモンバトルの深淵にて待ち受けている伝説とも呼ばれる洞窟――シロガネやま。
生息するポケモンのレベルも非常に高く、伝説のポケモンがその住処にしている神秘の山。
岩肌に囲まれ山頂には白雪がしんしんと降り注ぎ、荒々しくも静謐な雰囲気を誇る場所。
並のトレーナーであれば即座に踵を返す過酷な洞窟にて、鍛えに鍛え上げられた動体視力と判断力は的確に相手の特徴をみやぶっていた。

だが、しかし。

その過酷な環境を耐え抜き、ポケモンに対する惜しみない愛情や深い理解を深めていったことが皮肉にも今現在の困惑を生んでしまっていた。

紫を基調として彩られたその姿。
ペルシアンやニューラをほうふつとさせるしなやか且つ俊敏な動き。
躊躇いなくトレーナー……否、人間をこうげきする“あく”のわざ。

付かず離れず一定の距離を保ち、じわじわと此方の体力を削る狩人の姿はポケモンマスターと呼ばれた少年――レッドの経験をしても知識にない存在であった。
かろうじて、繰り出される『みだれひっかき』や『おいうち』などのわざからポケモンであると判断することは出来たのだが、今までこんなポケモンは見たことがなかった。

――レパルダス。
今現在のレッドには知る由もないが。
イッシュと呼ばれる地方にてそう呼ばれているポケモンの姿は、当然レッドの知識が及ぶべくもなく。
漆黒に碧く輝く瞳を浮かび上がらせて、鋭利に歪めた視線で獲物の品定めをしている。


423 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:31:42 eSgAx8ek0

「〜〜〜〜〜〜〜っっ!? や、べ……っ!」

走りやすいように整備された道ならいざしらず、砂利や窪みなどの凹凸が至る所に散らばる地面を全力疾走するのは言うまでもなく危険な行為であった。
ましてや、明かり一つない夜闇の中月明かりだけを頼りに、それも自らの知識が及ばぬ場所を駆け回るなど安全性の面からすれば論外と言わざるを得ない。
何度も何度も天然の罠に足をとられ転びそうになり、その都度体勢を立て直し、且つ全力疾走を保持して迫りくる存在から逃走を続ける。
こうして言葉にする以上に困難なミッションをこなす合間に、現状を打破する策を思考せんと脳をフル回転させていた少年ではあったが、遂には闇と同化した木の根に足を掛けられてしまい全力疾走の勢いのまま地面へと投げ出されてしまう。

(不味い……! 早く、早く立ち上がって逃げないと……!)

絶望的な逃走劇が開始して十数分。
幸いと言うべきかどうなのか、紫のポケモンは必要以上に技を繰り出すワケではなく此方の体力を削る目的に終始しており直ぐにでも命が奪われるということはなかった。
無論、もう反撃の余地はないと判断されれば即座に鋭利な爪が襲いくるのだろうが、少なくとも現状打破の時間は与えられている。

(……コレ、履いた後で本当良かったな)

体勢を崩したと見るや否や放たれる、みだれひっかき。
慌てて立ち上がる力を即座に推進力へと変換し、間一髪でそのこうげきを避けると再び逃走を開始する。
転んだ際に打ち付けた膝が擦り切れ布地を赤く滲ませるが、今はそれを気にしている場合ではない。

マナと言うらしい少女の引き起こした惨劇から一転、視界が移り変わったと思ったら地面に寝転んでいたのが丁度二十分程前の話。
ああも容易く人が殺される現実に即座には理解が及ばないながらも、数々の死闘を乗り越えてきた思考は無意識的に支給品を確認しようとしていた。
生憎と全てを確認する前にやせいのポケモンと遭遇してしまい地獄のおいかけっこが始まってしまったのだが、何とか使い慣れた『ランニングシューズ』を取り出し履き替えることに成功していたのはせめてもの救いだと言えるだろう。
地面へと放り出されていたレッドと同じく地面へと投げ捨てられていた小さなリュック。
そこに手を突っ込み最初に触れたのが、人間の加速力を数倍にも引き上げるこのシューズでなければとうの昔に切り刻まれていたに違いない。
ランニングシューズ自体が自身の愛用していた物であったことも含めてラッキーだと、こんな状況だと言うのに笑みを溢しつつも思考は回転を止めようとしない。

こうげきが外れた事に苛立ったのか、風切り音と共に再度放たれる爪。


424 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:32:09 eSgAx8ek0
思い切り進路を逸らすことで躱しつつ、ほんの数秒前まで走っていた位置に生えていた雑草が見るも無残な姿に切り刻まれるのを見て微かに肝を冷やした。

何度強引に方向転換をしようとも影の様にぴったりと食いついてくる相手に対し、逃げ切ろうと思えばどうしたって一度相手を振り切る必要がある。
ただそれだけであれば幾つか手段を思い浮かばないワケではないが、生き残る為にはその後身を隠せる場所がどうしても必要とであり、この二つの条件を都合よくクリアする方法など中々思い付く筈もない。
更に言えば、このままの速度を維持しておかなければ反撃する余裕も消え失せたと判断されてしまう恐れもある為、どれだけ疲労しようとも一定の速度を保たなければならない拷問紛いの状況に小さく舌打ちを漏らす。

(ああああああああ!!!!! 見つけた!!!!!!!! )

そうして、走り始めた三十分が過ぎ去った頃だろうか。
直情的な性格とは裏腹に冷静に逃げる方向を模索してたレッドの瞳が、ある一部分で静止した。
見れば、視線の先には草木に囲まれて見えにくくはあるが、暗闇の更なる先へと誘うかの如きどうくつへの入り口が存在している。

人一人分くらい余裕で通れそうな入り口ではあるが、その先に待ち受けているものが何かはわからない。
入った途端行き止まりにぶち当たる可能性も確かに存在しているし、もしかしたら別のポケモンに襲われてしまうかもしれない。
或いは、マナが言っていた様な殺し合いに乗っている存在が待ち受けているのかもしれない。
だが、このままじわじわと甚振られるよりも道が広がっていることを信じて洞窟へ逃げ込んだ方が生き残れる確率は高いに違いないと。
僅か数秒にも満たぬ刹那の間。
研ぎ澄まされた思考を巡らせ方針を確定すると、即座に方向を急転換して紫のポケモンへと向き直る。
急な反動で足の筋肉が悲鳴を漏らすが、労わるのは逃げおおせた後だ。

「いっけええええええええ!!!!!!!!」

一呼吸の後、その一瞬で呼吸を整えつつ相手の姿を視界にとらえたレッドは、先程転んだ際に掌に握り込んでいた拳大のいしころを紫のポケモンに向けて全力で投げつける。
余裕を持っていたと追い詰めていたとは言え、それなりの速度で走っていたポケモンは急停止に耐えられず地面に転び伏すことになり、思い切り地面へと投げ出される。
その隙を逃さず放たれたいしころは、的確に額のきゅうしょを捉え、一瞬ではあるがポケモンを悶絶させる。

「よっし! サファリゾーンの最多捕獲記録はダテじゃないっての!」

必死に逃げ惑っていたレッドではあるが、大切な仲間であるポケモンが傍にいない丸腰の状態で別のポケモンに相対するのは初めてではない。

レッドが生まれ育ち、数々のポケモンと出会ってきたカントー地方。
ポケモンマスターへの旅を続ける最中。
通りがかったセキチクシティと呼ばれる街に存在していた、レジャー施設である『サファリゾーン』では、入場の際に旅を共にしてきたてもちのポケモンを全て係員に預けなくてはならなかった。
いしころとエサ、それにサファリボールと呼ばれる専用の捕獲道具だけを用いて、広大な土地に生息しているポケモン達をトレーナー自らの力のみで集めていく……と言うイベントを行っている施設だったのだが、時間制限つきのそのイベントにおいてレッドは史上最多獲得数を記録しており今尚破られてはいない。
時には此方を威嚇してくるポケモン達を相手に、状態異常やダメージによる疲労などを抜きに捕獲しなければならないこのイベントに於いて何よりも大切なのはトレーナーの機転と発想であった。


425 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:33:34 eSgAx8ek0

いしころを当てれば、ポケモンはひるみ捕まえやすくなる。
……しかし、此方を警戒して逃げやすくなってしまう。

エサを与えれば、ポケモンは夢中になり逃げにくくなる。
……しかし、心に余裕を持ってしまい捕まえにくくなる。

いしころを投げるのが有効なポケモンがいれば、エサを与えるのが有効なポケモンもいて。
それらはポケモンの種類だけでなく、それぞれ個体差が存在している為その場その場で的確な判断を下さなくてはサファリゾーンのポケモンを捕まえることは出来ない。

そんな、楽しくも過酷な体験で結果を残し観察眼と判断力を養ってきたレッドにとって、転び伏すポケモンのきゅうしょにいしころを当てるなど造作もない事であった。

「よっし! 今のウチっと」

踵を返す直前。
悶絶し、蹲るポケモンにすなをかけるのも忘れない。
どうくつまでの距離は僅かに10メートル程。
視界を奪いさえしてしまえば、なんとか見付からずに入り込める距離である。

「――絶対、絶対お前を捕まえてやるからな! 」

レッドは、笑っている。

ジムリーダーを倒し、ロケット団を壊滅させ、四天王を倒し、チャンピオンを倒し、伝説のポケモンを捕まえ、ポケモン図鑑を完成させ、隣の地方へ足を伸ばし、新たなるジムリーダーを倒し、四天王を倒し、チャンピオンを倒し、新たに増えたポケモンを全て図鑑に記録し、更なる出会いと力を求めて伝説とされる山の深淵へ上りつめ、その全てを網羅して尚、消え失せない情熱。

個体によって変わる能力、とくせい、わざ構成。
それに応じたてもちの編成や、もちものの厳選。
ありとあらゆるポケモン達と出会い、戦い、そして別れてきた。

それでも尽きぬ、心の炎。
汲めど汲めど枯れ果てぬポケモンに対する情熱が、今新たなポケモンとの出会いを前にして激しく燃え盛っていた。

現在進行形で命を狙われる危機に晒されているのだが、そんな事レッドには関係が無い。

生物と生物が合い見える以上ぶつかり合うのはある種の必然とも言えるし、レッドとて相手ポケモンにいしころを全力でぶつけている。
そこにあるのは単純なる本能のぶつかり合いで在り、そんなポケモン達との出会いと戦いをこよなく愛するレッドにとって、今の状況は不安を感じこそすれ怒るような事ではない。
――とは言え、人の命が簡単に奪われたあの首輪での惨状は心に微かな靄を生んでいたのだが。

そうして、決意を新たにレッドは再び駆ける。

そうはさせまいと、一度静止し視界を奪うすなを大きく頭を振る事で弾き飛ばした後、紫のポケモンが去り行く背中追いかけようとするが――既にレッドの姿は消え失せてしまっていた。

時間にしてほんの数秒。
紫のポケモンからすれば、先程までの逃走劇の速度を加味した上で選択した行為であり、逃げ切れる筈がないと自信を持っていた。
それ故に、この数秒で逃げ切れるであろう範囲――先程までの速度と合わせ5メートルの範囲を隈なく探し始めるがその姿は見付からず。

不審げな唸り声だけが、月明かりに響いた。



○  ×  △  □  ○  ×  △  □



「はぁ……はぁ……うまくいったみたいだな」



息も絶え絶えにどうくつへと飛び込んだレッドは、壁に凭れ掛りようやく数十分ぶりの休息を手に入れる。
走り通しだった全身が疲労困憊しており、とてもじゃないが直ぐに動けるような状態ではない。
一番恐れていたのは、目論見が不発に終わり紫のポケモンがこのどうくつへと飛び込んでくる事であったが、どうやらその心配は杞憂に終わったらしい。
入り口から数メートル先から不満げな唸り声がこのどうくつまで届いており、苛立たしそうに地面をける音が聞こえたかと思うと全ての音が消え去って行った。
恐らく、自分を殺す事を諦めて、最初に遭遇した場所に戻っていくのだろう。


426 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:35:11 eSgAx8ek0

五分五分の賭けに成功した事にホッと胸を撫で下ろす。

紫のポケモンとの最初の邂逅やその後の対処から、少しずつたいりょくをうばう作戦である事を察知したレッドは、その先の保険としてランニングシューズで走る速度を微かに緩めていた。
自身の最高速度を勘違いさせておけば後々相手を引き離す際に有効だろうと考えつつ。
少しずつ此方を嬲るタイプが相手であれば速度を緩めていたとて早々致命傷を負う事は無いだろうと考えていたのだが、ドンピシャリのようだった。

最高速度を読み違えていた相手はレッドを見失い、何とか逃げおおせたのである。

懸念していた自分以外の存在や敵意を持ったポケモンの存在も無く、当面の危機が去った事で安心したように息を吐き、小さく嘆息した。

「ころしあい、かぁ……それはちょっと嫌だよなぁ」

当たり前の事ではあるが、レッドとて死ぬのは怖い。
ポケモンバトルで傷を負うだけならまだしも、人間同士で殺し合うなんて怖過ぎる。
先程巡り合ったポケモンを含めて、まだまだレッドの知らぬポケモン達がこの世界には生息しているらしいし。
ポケモンの数だけトレーナー達の新たな戦略が生まれるものであり、その全てを楽しみ尽くしていない今、志半ばにして死んでしまうのどうしたって、嫌だ。

「今みたいなポケモンに襲われて死ぬ人も出てくるかもしれないし……あぁ〜〜〜!!! どうすりゃいいんだよ」

殺し合え、と少女に言われてはいわかりましたとそのまま殺し合いに参加する人間なんて、幾らなんでもそうそういないだろうと楽観視してはみるが、心の片隅で小さな不安が警鐘を鳴らしていた。

人間を殺意的に襲ってくるポケモンと言い、殺された男と言い、この首に嵌められた首輪と言い。
こんな大掛かりで悪趣味な催しを考え付く奴らがそんな事に気付かないとは思えないし、何らかの対策をしていると考える方が自然だろうと、度重なる経験が嫌でも思い付いてしまう。
マナはあの時『なんでも一つ願い事を叶えられる権利をくれる』と言っていた。
レッドには誰かを殺してまで叶えたい願いなんて存在しないし、そもそも自分の願いは自分の力で叶えるからこそ楽しいと思っている。

だが、例えばだが先程殺された男の人の知り合いもこの殺し合いに参加させられていたらどうだろうか。
親友なら、恋人なら、家族なら……どうするだろうか。

ポケモンマスターになったとは言え年齢的に見てしまえば未だ未だ幼い少年であるレッドに大切な人を失う喪失感は理解出来ない。
幸いな事に、これまでのレッドはポケモンタワーを利用する様な事態にもなっていないし、やせいに戻す事はあっても永劫の離別など考えた事すら無かった。

「もしママが殺されたら――」

ざわざわ、と。
考えただけでも、心の奥底がどす黒い感情に飲み込まれてしまう。
ポケモンマスターへの道をずっと見守ってくれていた大事な家族。
これまでも、そしてこれからも。
離れていたって絆で繋がっていると、心から信じられる相手。
ずっと自分を愛してくれていた相手。
そんな、そんな存在があんなに呆気なく殺されてしまい――自分が頑張れば、また出会える可能性があるなんて言われてしまったら。

「どうするかなんて、わからないよな」


427 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:36:19 eSgAx8ek0

その時はきっと、レッドだってこの殺し合いに積極的になっていたかもしれない。
そんな人達がこの場所に多数存在しているのであれば、その先はきっと。

結局のところ、レッドに出来るのはこれまでと同じだ。

ポケモンや、ポケモントレーナー達と戦い、心を通わせる。
殺し合いに積極的なトレーナーや、そんなトレーナーに使われるポケモン達がいるのなら殴ってでも目を覚まさせる。

協力し合える人達と出会えたなら、皆で頑張る。
そんな、当たり前の繰り返しを続けていけばきっとなんとかなる筈だと自分自身に言い聞かせ、痛む体を無理矢理に動かしてデイバッグの確認を始める。

レッド一人では無力な一人の少年に過ぎない。
いつだって、仲間達と一緒に戦ってきたからこそ今のレッドがあるのだし、ポケモンマスターと呼ばれるまでに成長出来たのだ。
出会ったトレーナーのアドバイスはレッドの戦略性を深め、巡り合ったポケモン達はレッドの才能を鍛え上げてくれた。

だからこそ、こんな恐ろしい催しの舞台でもレッドは仲間を求める。

そして、不思議とレッドには確信があった。

「へへ……やっぱり、俺と一緒にぼうけんを始めるのは、お前だよな」

躊躇う事無く取り出されたモンスターボールの中で、自信満々な表情を浮かべている一匹のポケモン。
黄色を基調として丸みを帯びた愛くるしい姿とは対照的に、鋭く研ぎ澄まされた紫電のオーラ。
ポケットモンスターと呼ばれる生物を象徴する存在と言っても過言ではない、数々のトレーナーから愛されてきた電気タイプのポケモン。

「また、一緒に戦ってくれるか? ピカ? 」

モンスターボールを軽く放り投げ、小さな破裂音と共に現れたポケモン――ピカチュウの頭を自然な動作で撫でながら、レッドは在りし日の事を思い返す。

レッドが、初めて捕まえたポケモン。
本来であればトキワの森に生息している筈のピカチュウがマサラタウンでその姿を見せた時の事。

最初の出会いは最悪だった。
それはもう、本当に。

縄張り争いに敗れでもしたのだろうか、見るからに碌な食事をとれていないであろう痩せこけたピカチュウが、家族が出掛けている隙に自宅へと侵入していた。
必死の形相で家の食料を貪っているのを最初に見つけたのは幼いレッドだった。
レッドの住むマサラタウン周辺に生息しているポッポやコラッタとは違い、バチバチとせいでんきを放っているその姿は幼いレッドの心を掴んで離さず、好奇心を存分に刺激される。
幼い子供が初めて見るポケモンに手を伸ばしてしまうのは、半ば必然的とも言える行為だ。

『チュアァァァァァァァァ!!! 』

それが相手にどんな印象を与えるか理解出来ない所まで、含めて。

当然の様にレッドへ向けて放たれる、でんじは。

この家を訪れるまでに、どれ程の試練がそのピカチュウを襲っていたのだろうか。
敵意や、怒りを超えた恐怖の色をその瞳に浮かべて、ピカチュウはレッドへと露骨な警戒心を露わにする。
乱れた体毛を必死に逆立てて、負傷を気付かれないよう傷口を隠す。
優しく頭を撫でられるなんて、当時のピカチュウにそんな発想は存在していなかった。

だがこれは、相対するレッドからすれば到底考えられない事態である。
勝手に家へと忍びこんだポケモンが、自分達のご飯を盗み食いしているのに加えてこうげきまでしてくるだなんて。
そんな理不尽、わんぱくを表現するために生まれてきた子供、家族からと称されていたレッドにとって許せるものではなかった。

好奇心は怒りへと変わり、痛みが敵意へと変わる。

『なにするんだよ! いたいだろっ! 』

結果として、取っ組み合いの喧嘩をしていた。

そんな最悪な出会いからどうしてここまで深い絆を結ぶ事が出来たのか、今でもレッドは思い出せないが――それでも、目の前のピカチュウが自分自身にとって唯一無二の相棒であり最も頼りに出来る相手なのは違いない。

答えを確信して放たれた問い掛けに対して、呆れた様にピカチュウは体を震わせる。

どんな時も、二人で乗り越えてきたのだ。
これまでだって――そう、これからだって。

こうして、一人と一匹はあたらしいぼうけんのたびへ一歩踏み出す事になった。
月明かり差し込むその先に待ち受けるのは、果たして。


428 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:37:18 eSgAx8ek0

【C-4/隠された洞窟内 一日目 深夜】
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:疲労(大)、無数の切り傷
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.疲れを取った後、さっきのポケモン(レパルダス)を捕まえに行く。
2.他にもやせいポケモンがいるかもしれないから探してみようかな。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。
※やせいのポケモンが出現するようです。すべてのポケモンが人を襲うのかは不明です。

【モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
レッドに支給されたピカチュウが入ったモンスターボール。元の持ち主もレッド。
特性はせいでんき、覚えているわざはボルテッカ、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん。
ニックネームはピカ。

【ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
移動速度は歩くより2倍程度速く、自転車より遅い。


429 : ◆rCn09xUgFM :2019/07/15(月) 17:38:11 eSgAx8ek0
投下終了です。タイトルは『ポケモンきみにきめた!』でお願いします


430 : 名無しさん :2019/07/15(月) 18:16:09 gb9YlH8Q0
投下乙です
最後の書き手枠はポケモンの原点、レッドさんか
旧ゲームロワではヤバい奴だったが、今回は熱い情熱そのままみたいだ

「ピカチュウを進化させず88までレベル上げる」「水ポケをかぶらせる」
こんな編成してるくらいだし、エンジョイ勢なのも納得だ


431 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/15(月) 18:47:09 XUbYRMmg0
投下乙です!
最後の書き手枠、誰が来るかと思っていたらこの方でしたか……最後に相応しい人物だと思います。
レジェンドに相応しい経歴と実力を持ちながら未だに情熱と好奇心、向上心を持ち続ける姿はトウヤと対照的ですね。
支給品が全て元々自分の所持品、手持ちポケモンなのは恵まれていますね。初っ端レパルダスに襲われてしまった悪運と釣り合った幸運です。
是非とも彼にはイッシュのトレーナー達と出会い、その感性の違いを知ってほしいです。
近くにはジャローダを持ったホメロスがいますし、今後の展開が楽しみです。


432 : 名無しさん :2019/07/16(火) 21:26:48 OxwtqCQA0
皆様投下乙です。

>>オープニング
アイマスの、戦いとは無縁の一般人視点、いいよね。
バリバリのダークファンタジーたるDODキャラが主催者の司会ってあたり、そういう対比させてるんじゃないかなって思うの。
龍が如くはキャラも知らないんだけど、桐生さんが物語で出てくる情に厚くて筋を通すヤクザって感じの立ち位置なのがよく分かる。
マナの言動って、強いキャラとか知り合いにとってはイキってるクソガキなのかもしれないけれど、
一般人視点だと得体の知れないもの、災厄の化身って感じがひしひしと伝わってくる感じがして好き。
放送のときにもめっちゃ煽り倒してくれそうなキャラに思えるんで、いい選出だと思うのよね。

ウルノーガはちゃんとBGMとして暗黒の魔手が流れてそうな感じ。
割とカタブツなんじゃないかって感じがあるから、司会は自分でやらなかったのかなくらいに思ってる。
建前上は参加者殺すなと言ってるけど、実は一人死んだから70名ぴったりなんだぞ察してねなんじゃないかとちょっと思ってる。

>> 恋しさと切なさと心強さと
やっぱり春香と同じ理由で雪歩は一話目視点としてふさわしかったのかなあって思う。
たとえば順番が変わってて、一話目でトレバー・フィリップスが酔っ払って寝て、二話目で美希が寝てたら主催者の格好がつかないもんなw
しっかり彼女には怯えてもらって、超常的な参加者の身体能力に驚いてもらって、それこそ非日常が始まったってのがバッチリ印象づくのだと思う。
単純に今回は人が死ななかっただけで、誤解から殺し合いが始まる要素も、同じ飯食って仲間として団結する要素、別々の世界観を背景としたキャラのクロスオーバー要素ってのがあって、
しっかり基本ぶっこんだよって感じの作品になってると思うの。

>> Aの食卓
Dの食卓→Aの食卓、なのね。
一話目で主催者妥当がんばるぞーってなった後にこれですよ、これ。
なんかもう彼女いきなり終わってない?
元々SR級の危険人物だったのに、SR級の実力見せる前に勝手にSSR級の危険人物に進化したとしか思えないんだけどw

> また、クリーチャー化した場合脳を破壊され完全に活動を停止した段階で「死亡」と判断します。
不穏すぎて草が生えるw

>> 過ぎ去りし時を――
レオンの参戦時期のこと、もしもっと経験積んでたらってことに何度も言及されてるけれど、これ逆も然りだよね。
もしセーニャが過ぎ去りし時を求められることを知らない時期から連れて来られていれば、
あるいは時を求めたあとから連れて来られていれば、間違いなく展開変わってるもんね。
まあこんなこと言い出したら前話のAさんだって発狂する前から連れてこられればとか言えるんだけどさ。
レオンが死んでしまう理由がこれでもかと何度も描写されてるから、展開としてはとても腑に落ちるんだけど
これセーニャはベロニカに会ったらどうなるんだろうなってのは本当に気になるわ。
参加者が分かったときには手遅れってのは、名簿が後で確定するロワのいやらしい醍醐味だよなあ。


433 : 名無しさん :2019/07/16(火) 21:29:38 OxwtqCQA0
>> こころないてんし
このタイトルってほんと使いやすいよね。この言葉から抱けるイメージがはっきりしてる。
カエル、ジャック、カミュの戦闘描写は手札も切り札も切りまくって一進一退を演出しているのに、
セフィロスがその三人に対して、身体能力任せのゴリ押しで余裕なのが無情感ものすごい。
これ勝てる参加者いるのか? みたいな描写はいつもどおりでちょっと安心した。
相変わらずクラウドのストーカーみたいなことしてるし、セリフの耽美さもいつもどおりだし、こいつ本当にどこに行っても変わらんなあ。
最初の会場でマナに飛びかからなかったのも、クラウド探してたんじゃね? ってくらいには思ってるよ。

カミュとカエルの戦い方は面白かった。手札の切り方が二人ともうまいと思うのよ。
ウォタガをギリギリまで隠し続けて、相手が勝利を確信して油断したところで発動するとか、
ジバリーナの追尾能力で追い討ちをかけるとか、このあたりの描写からすると二人は戦闘巧者だと思う。
というかジバリーナが陣から出ても追っかけてくるのってDQ10やってたら絶対見落とすわ。カエルと同じ気持ちになるわw

>> Revive
ベロニカって別にセーニャと歳変わらないのにお婆ちゃんくさく思えるのは気のせいだろうかw
人生やりきってフェードアウトして達観しちゃった感と、あと背景の温泉のせいだと思うけど。
ハンターさんも半隠居人みたいな落ち着きがあるせいでそこに引っ張られてるのかもしれない。
モンハンやったことないけど、ハンターの信条、生き様が世界観に則して書かれてるので、
こういうキャラ付けなんだってのがすっと飲み込めるってのがいい感じ。

> 「任せておけ。必ずお主を護ると誓おう……拙者の名に賭けて。」
>「覚えてもないもんを賭けてんじゃないわよ……。」
この天然ボケと鋭いツッコミ大好きw

>> 腕力と知力
オタコンって多分首輪作ろうと思えば作れるんだろうなあってのは分かる。
主催者がマナとウルノーガで全部なのかは知らないけれど、本当に二人だけなら技術力なら彼のほうが絶対上よね?
首輪に魔法使ってたらどうなるのかは分からないけど・・・

桐生が最初に主催者に飛び掛ったって点は、強面とかスジモノっぽさを差し引いても大きなアドバンテージだよなあ。
あれやってやっぱりゲームに乗りますってのはなかなか考えられないと思うし、対主催としてはある意味安心感ある。
即主催者に反抗するところとか、怖がられてるの承知の上で子供を確保するところとか、切り替えものすごく早いよね。
修羅場くぐってきたんだろうなあって程度には推測できる。
実際、すぐに確保しなければAの人とこんにちはしそうな位置だったわけで。
服装のセンスについては、『真島吾朗』で検索してバニーガールが出て来た時点で察した。

>> 最初の一歩、踏み出して
> ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
↑一番道路とカノコタウンの境目

元の世界でやれなかったことをもう一回なぞって気持ちを取り戻すってのがとても前向きでいい感じ。
そもそも連れてくるタイミングひどすぎるよね。
何を思って主催者はこのタイミングから拉致してきたんだろうか。
一番希望に溢れてる時期から転落させてやろうっていう気遣いだったんだろうか。

ランタンこぞうってタイプはほのお・ゴーストだろうなあ。トウヤあたりに言わせればランプラーの親戚だろうし。
こいつが仲間になる作品ってDQにはまだないんで、何覚えるかはうまくコラボさせてねってところなのだろう。


434 : 名無しさん :2019/07/16(火) 21:30:31 OxwtqCQA0
>> 夢の果て
ベルのよーしがんばるぞーのあとにこれをぶち込んでくるのがなかなかひどい。
人間の感情なくしちゃったって意味でも、ポケモン厳選って意味でも、二重の意味でまさに廃人。
夢の果てってタイトルも、ああ、そこに行き着いてしまったんだなって感じでディストピア感あるよね。
この子は一回ボコボコにされてこそ、気力を取り戻すのではないかと思うんだけど
彼をボコボコにできそう=超危険人物って感じがして、どう転ぶのかまったく読めない。
と思ってたんだけど、レッドという正当派実力者も出たから、行き着く先は興味はあるなあ。

>> 幽霊と怨念 そして呪い
タイトルだけ見るとおぞましい展開を思いつくんだけど、ネタじゃないか!
ニズゼルファ討伐したイレブンってめちゃくちゃ強いんじゃ……と思うんだけど、
肝心なところで恥ずかしくなることもありうるからバランスは取れてるのかもしれない。
あと、この性格だと一緒に行動できる人が結構限られてきそうだよね。
元の世界の仲間って、勇者探してた人たちとか身内とか芸人とか欠点多すぎおじさんとか、
割とイレブンに甘そうなメンバーだから、性格の坩堝なこの会場でどれだけ仲間増やせるかはちょっと怪しいかも。
リッカーといい、ナイトゴーストといい、会場そのものが割と本気で殺しにかかってるよね?
今のところ、ローカルのモンスターは全部かませになってるけど。

>> お前、いきなりアウトってわけ
このタイトル、美津雄ってザックスが殺す気だったらこの時点でワンアウトだよねって意味で受け取った。
調べたらそういう使い方ではなかったけれど、今回の話だと割とそういう解釈もあるんじゃないかなあくらいに思う。
美津雄は現実にいたら近付きたくないタイプだけど、物語をかき回す役としては面白そうなキャラしてるなあ。
ザックスに心溶かされて一皮剥けるか、鬱屈したまま大暴走するか、それとも無惨に殺されてしまうか、
本当にどうとでも動かせそうなおいしいキャラだよね。

>> 伸ばした手はまた、虚空を掴む
ああ、やっぱりこの解釈来たかって思ってしまった。
単純に巻き戻るだけなのか、命の大樹が一回落ちた世界はそのまま継続するのかって議論はあったからね。
イレブンの件はGITのコミット取り消しみたいなもんだと思ってるけど、
後者の解釈を使うとイレブンは残酷な選択をしたことになるからなあ。
マルティナの気持ちがとても重いのにイレブンがあの性格なんで、色々伝わってないところが多そうで不穏だわ。

>> ある日森の中ブタさんとウサギさんに出会った
たまに見かける実写版のせいか名探偵ピカチュウも顔が怖いと思ってしまうんだが……w
ポケモン自体たくさん出てるからこそ、ポケモンの立場でかつ話が通じるキャラってのは貴重に思う。
この三人はツッコミのいないトリオ漫才やってんのかってくらいコミカルで読んでて楽しい。
三人の連携全然取れてなくて笑えてくる。
スネークが振り回されすぎて哀愁漂ってる感じはほんとすき。

>> 破滅を望む者
出たよジョーカー的立ち位置の参加者。
個人的には、ジョーカーって殺し合いの参加者の呼び名変えただけで立場は同等だと思うんだけれど、
イウヴァルトは実力の過信はなさそうだし手段選ばなさそうだしで、しっかりはたらいてくれそうなキャラであることは確かだわ。
ホメロスが真逆のスタンスになっただけに、唯一のジョーカーみたいな感じに収まるのかな。
この周辺に積極的に動き回るマーダーおらんから、この人をどう動かすかは結構今後のキーになりそう。


435 : 名無しさん :2019/07/16(火) 21:32:02 OxwtqCQA0
>> Abide
ベルの後にトウヤとか言われてるけど、イウヴァルトの後にカイムというのはこれまた狙ったんだろうか、偶然だろうか。
こっちもこっちで随分鬱屈してるよね。この人の殺戮行為は血生臭くて痛々しいものになりそう。
この焦燥感バリバリのキャラをネタキャラに昇華できるなら逆にすごいって思えるくらいに方向性定まってると思う。
遥は欲求を色々抑えてるのかな。他者本意で自己評価がすごく低そうに見える。
桐生自体は近くにいるけど、どの方向いっても危険人物が多すぎてウルボザ含めて本当に生き残れるのかってところが大きな関門になりそう。
前も後ろも囲まれてる上に隠れ家になりそうなところには化物がうようよいるからなあ。

>> 後戻りはもう出来ない
プロメテス時代のロボとして出てくるとは思わなかったし、メラゾーマがルッカ死んだと思った。
そういうピンチ全部さばききってロボ取り戻す宣言するのはかっこいいよね。
セーニャに啖呵切れたのは、実際に時渡りしてきたからこその意見かな。
セーニャが武器の衝動に呑まれるのはうわっと思ったけど、よく見たら初登場時点でそういうの書いてあったんだなあ。
黒の倨傲って呪いの武器っぽいなあって思ったけどやっぱり武器エピソードあるのね。
エピソード持ちの武器はどれもこれも危険物にしか見えなくて複数バラまかれてるのほんと怖い。

>> 蒼い鳥
高校の屋上で歌ってるって生き残るって意味だと悪手なんだろうけれども、これが生き様なら否定なんてできっこないよね。
人生の袋小路にはまってしまった無力感あるわ。
全体的には、すぐに壊れてしまう綺麗なものって雰囲気が随所に漂ってる作品だと思うんだよね。
この二人はしばらくこのままだろうから、次に誰が来るかによって展開が大きく変わるんだろうなあ。

>> For a future just for the two of us.
彼女、言動だけは対主催なのにバリバリのマーダームーブだよね。
主催者含めて皆殺しだから広義には対主催なのかもしれんけれども。
> 私たちの世界ではないこの場所に興味なんてない
乗る理由としてはこれがすべてなんだろうなあ。
だからこそ、2Bとかに会ったらどうするんだろってのは気になるよね。

>> 最狂のふたり
トレバーはクレイジーすぎてまったく動きが読めん。
たぶん俺の狂人度が足りなくてトレバーの気持ちを正確に理解できてないってだけなんだろうけれども。
彼の気持ちを差し図れる書き手さんはがんばれ。
こいつらの好き勝手暴れるっていうのが、単純に殺し合いに乗るってわけじゃなさそうなのがまた影響はかれないところだわ。
気に入らなかったら殺すだろうし、逆に気に入られたらそれなりに庇護してもらえそうでもあるからジョーカー的な存在だよね。
こういうルール無用のやつがいると話が面白くなること多いから期待よ。

>> 幸せを呼ぶナカマ
よくよく考えたら殺し合いの最中に突然家を建て直すなんて意味不明すぎるんだけど、勢いで納得できてしまうパワーがある。
この二人お互いにリスペクトしてそう。オネエ口調もだけど、その道の第一人者って意味でも話が合いそう。
この二人と出会ってペースに乗せられないで話ができる参加者とかそうそういないんじゃないかな。
まあリンクのほうにいけば知り合い同士と女性同士でうまくコミュニケーション取れそうだけど、
魔王のほうにいけば魔王はストレス振り切れそうだわw


436 : 名無しさん :2019/07/16(火) 21:34:06 OxwtqCQA0
>> 魔王決戦、その果てに
重い宿命背負ったキャラとゆるいキャラを組ませるのは常道みたいなところはあるんだが、今のままではどう見てもツンデレw
南なら修羅の国真っ盛りだから一気にシリアス方面に傾くんだろうが、
北ならオカマだのアイドルだの恥ずかしい人だのに続々と出会って憂鬱加速しそう。
なんか行動方針からして受難続きの予感がするんでどうしてもにやにやしてしまう。

>> 歩幅を合わせて、それぞれの二歩目を
前話を意識したいいタイトル。
エマから離れろ! 以降の流れは確かにちょっと恥ずかしいように思うんだけど、
他のキャラならば『人違いだった』でさらっと流して違和感なさそうだから、
ちゃんと読み手が恥ずかしくとれるように気をつけて書いてるんだろうなあって思った。
自身の行動は冷静に把握してるあたり、実はイレブンってツッコミ得意そうだよね。
マイペース同士がうまくかみ合っていいトリオになってる感じがあって好き。
ところで、ニズ撃破後ってことはイレブンはエマと結婚してるんだろうか? ってところがちょっと気になる。

>> ポケットにファンタジー
かませってのはちゃんと実力があってこそかませの仕事をするわけで、
ゲーチスは原作ラスボス、ポケモン界トップクラスのゲスさ、原作で何回再登場してもスタンス変わらないクズっぷりと、悪党の筆頭じゃない?
だからこそ、それを一方的にボコボコにできるトウヤのヤバさが際立って見えるんだよなあ。
ゲーチスの惨めさ際立たせただけじゃなくて、エアリスの存在感すら奪っていったのはもう仕方ないような気持ちになる。
ポケモンバトルにおいてトウヤをちゃんと書けるのはすごいと思った。
ゲーム未プレイでもこの人つええと思わせてくれたからね。
ただ、これ書き手さん結構頭悩ませそうな予感が。
セフィロスとは別の意味でこれどうやって勝つんだ感があるw

>> Must Die
早速ラクーン市警に続々と人が集まってきてるね。
ネメシスが暴れてる時点で内部の人たちが気付かないはずないし、ネメシスとクレアが会って戦いが始まらないわけがないし、
しかも周りは危険人物だの隠れ家を求める人たちだのが集まってきてるし、こりゃ市警吹っ飛ぶだろ。
どうでもいいけどリッカーって外にも結構いるのね。出るたびにちぎっては投げ、ちぎっては投げられてて悲しくなってくるわ。
仮に死者スレとかあったらリッカーとガーディアンの群れで埋まってるだろうね。

>> Reset and Rebirth
チェレンはレオナールに守られる立場に見えたから、ゲームに乗るのは予想外だった。
美津雄ほどとは言わないけれど劣等コンプレックスで歪んでるなあ。
本当にロワで優勝できるなら、トウヤにも負けないだろうけれども今度はチェレンがトウヤみたいな人生観になりそうには思う。
元の世界線のベルはこんなドス黒い友人関係の中、一体どうなっているんだろうかというのは地味に気になる。

クラウドはエアリス派。ティファの勇士見て、それでも全員殺してエアリスを生き返らせてもらおうってなるあたり、業が深そう。
結構近くにセフィロスいるんだけど、ちゃんと対決してくれるのか怪しそう。
レオナールさんはとても誠実な男性で立派な人だったと思います。


437 : 名無しさん :2019/07/16(火) 21:34:53 OxwtqCQA0
>> 輝け、少女たちの歌
あっ、あっ、あ〜……って思った。
少しでも明るく振舞おうとがんばってるのかなと思ってたんだけれど、むしろ決別だったのか。
王道の技法だけれど、序盤の明るい雰囲気の話運びがあるからこそ、終盤の急展開が引き立つよね。
人を殺した作品の中では特に罪というものにメンタルゴリゴリ削られているように思う。

アイマスのキャラはみんな日常→非日常への移行とそれに伴う困惑がしっかり描かれてる感じがあるなあ。
一番現代日本に近い世界観だからこそ、こういう役回りになるんだろうと思うところはある。
アプリのコラボを題材にした絡みは、そういうのもあるのかと思った。
書き手枠があって、ゲームという1ジャンルながらも幅広い題材だからこそできることなのかなとも思う。

それにしても春香視点で出来事書き出してみたら、本当にただの夢オチにできそうなくらい不思議展開の連続だなあ。
この後春香が楽屋で はっと目覚めても驚かないわ。

>> 二つの世界の対比列伝
無名キャラはやっぱり世界観に基づいた書き手の各々の解釈を描かれるからこそ、読んで面白いんだよなあ。
クロノはほぼしゃべらないからこそ、それぞれのイベントに書き手の解釈が加わってくるのが面白いよね。
可能性を色々と示唆するのは、マルチエンディングの多彩なクロノトリガーの主人公だってことを意識してるんだろうか。
クロノだってラヴォスを倒すために諦めないようなキャラだし、彼も英雄だし勇者に相応しいキャラだよね。

グレイグはまた最後の砦時代みたいに自分を追い込むような行動とってるなあ。グレイグらしいといえばその通りだわ。
ゲーム中でもグレイグは頼もしいことこの上なかったけど、今回もクロノとそういう関係になれそうに思う。

>> 「私が守る」
100年前参戦ってことは本編開始前なのかな。
思い人を守るために自分が手を汚すって、間違いなく茨の道だと思うんだよ。
このタイプのマーダーって鋼の意思なら大暴れするんだけど、ミファーは割とグラついてそうだから、メンタル的に耐えられるかどうかが分岐点になりそうな気がするなあ。
それとは別にこの会場って水路の割合が大きいんで、それを今のところ唯一自由に動きまわれるってのは大きなアドバンテージになりそう。
海辺を背にして休むとか橋をわたるとか奇襲のチャンスはいくらでもありそうなんで戦果は上げやすそうな感じがあるよね。

>> 夢の中へ
バトルロワイアルという前提がなければただのほのぼのなんだけどね。
夢の中で幸せそうであればあるほど、目覚めたときの悲惨さが引き立つんだよね。
とはいえ、近くのキャラはそこまで危険な人はいないし、しばらくは快眠かな。
ムンナはベルからの絆が消えてしまってるからなあ。
美希自体と普通に相性よさそうなんでそのままパートナーになってしまいそうな気が。

>> みなさんご存じのハズレ
存じ上げてた。けど、出オチ話というだけでもなくて、リーバルは動くと面白そうなキャラしてんなあって思えるんだよな。
首輪をついでのように言ってのけたり、弓矢がなかったから不覚を取ったとか言っちゃったり、
そのくせ実力は十分あって口だけじゃないところを見せ付けてくれる。
かっこいいキャラでも道化でもどっちにも転がれそうな幅広さがあって書くのは楽しそう。
マールも影薄いわけではないんだけれど、この存在感の前でちょっとかすんでしまってる感じがある。
それこそ本人が感じたように、強みをアピールしていかんとなあ。


438 : 名無しさん :2019/07/16(火) 21:35:34 OxwtqCQA0
>> 灯火の星
なんか分からんがソニックにすごいかっこよさを感じる。
実力は実はそこまで差がないのかもだけど、マルティナを圧倒したように思えるのは強者の余裕を感じるがゆえかな。
スマブラ参戦なら一方的ながら地味に顔見知り多いんだろうなあ。今年追加されるイレブンはどうなんだろう……?
マルティナは早くも揺れ動いてるけど、こういうキャラは誰に会うかによって大きく方針変わるからなあ。
周りには似たようなスタンスのキャラも、逆にマルティナを受け止められそうな包容力のありそうなキャラもいて、次の話でまた大きく動きそうな感じ。

>> 星のアルカナ
ポカポカとピカチュウのコンビがとても癒しになってると思う。
ポカポカってベルに似てマイペースだし、なんだかんだでこいつかわいがられそうなやつだなあって思えるんだよ。
前作からそうだったけど、この二体と他一人のかけあいってなごむんだよなあ。
戦闘力がないとはいうけれども、会った人たちとしっかり関係を作っていくさまは安定しているよね。
ただ、病院はなあ。訳ありの参加者たちがたくさんいるから、これをどう切り抜けていくのかは気になるところだ。

>> 哀れな道化の復讐劇
死亡後から参戦ならホメロスはそうなるよね。グレイグとちゃんと語り合えた後だもんね。
一応ジョーカーとして優遇措置は受けてるだけに、そう簡単には死ななそうだし、
東西南北どこにいっても因縁の相手がいるいいポジション。
ジャローダの立ち位置もおいしいよなあ。
あのトウヤの最初のパートナーで、見切りをつけられて手放されたってのは因縁めちゃくちゃ強くて、
話の素材としてめちゃくちゃおいしそうで面白そうなパーティ。

> それこそ海中から襲ってくるような相手でも無い限り、不意打ちを受けることは無さそうだ。
それフラグっすよ……。

>> Library
この図書館、参戦作品の情報が集まってるのね。
N自身の雰囲気も図書館自体の雰囲気もどことなくミステリアスで、時の回廊とか流れてそう。
読んでる途中で、あれこれバトロワだったっけ? と思える程度には彼のペースに巻き込まれたように思う。
実はNは一番のマイペースなのでは、とちょっと思った。

地味に掲示板の表現がものすごく分かりやすくて好きなのと、
Nもトンベリもなぜわざわざ後ろから登場するんだというところにはツッコミたくなる。

>> ポケモンきみにきめた!
初代主人公きたか。トウヤがダークサイドに堕ちたのと対照的に、レッドは向上心衰えずってところだろうか。
初期名簿状態のままだと、トウヤの求めた強者=セフィロスとかになり兼ねないから、
ここで正反対のスタンスを持つチャンピオンを出してきたのはなかなかナイスチョイスだと思うんだよなあ。
トウヤの出る話が毎回重苦しいのに対して、こっちはドタバタ劇やってるあたりも対照的で面白いと思うんだわ。
どうしてもタイトルとか口調とか初期ポケモンがピカ様なあたりとかの諸々の要素のせいで、
チャンピオンになれたマサラ人って感じてしまうんだが、イメージ的に問題ないよね。


439 : ◆OmtW54r7Tc :2019/07/18(木) 22:14:28 66WCIR1Y0
ホメロス、花村陽介で予約します


440 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/18(木) 22:54:19 5INZ.4Rs0
皆様投下乙です。そして感想もありがとうございます。
ウィリアム・バーキン、錦山彰、マールディア、リーバル で予約させて頂きます。


441 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 22:56:07 4rbunsPs0
全話感想ありがとうございます、お疲れ様です!
とても励みになります……これからも応援して頂ければ幸いです。

予約分、投下します。


442 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 22:59:02 4rbunsPs0

「おいおい美津雄、もうバテたのかよ」
「う、うるせ……お前、速いんだよ……」
「お前じゃなくてザックス。さっきから何回も言ってるだろ?」

あれからもう二時間ぐらい経っただろうか。ぶっ通しで歩き続けた僕の足は肉が付いただけの棒みたいに筋張っていた。
運動なんて滅多にしないからただ歩くだけですごく疲れる。歩けば健康になるとか言ってるやつはとんだ嘘つきだ。現に僕は今健康とは正反対の状態だ。
でも、僕の前を歩いているザックスとかいう脳筋はそれを本気で信じてるのかもしれない。
ああいうのは自分が疲れてるってこともわからないだけのただの馬鹿だ。

「じゃ、ここらで休むか。座れよ美津雄、結構シンドそうだぞ?」
「! う、うん……」

その一言で僕は救われる。道路の縁石に座りながら僕は気付いた。
――あれ、なんで僕はこいつに従ってるんだ?

元々僕はこいつを殺すつもりでいたんじゃないか。
こいつだけじゃない。他のムカつく連中も全員殺して、優勝してやるつもりだったんだ。
なんでこんな重要なこと忘れてたんだろう。そこまで考えたところで、心当たりの塊でしかないそいつが俺の顔を覗き込んできた。

「へへ、バテバテじゃんか。ほれ水、水分補給は大切だぜ」
「……ちっ」

こいつだ。こいつに絡まれるとペースが乱される。
なんでこいつはこんなに僕に構うんだ。ここまで歩いてきた二時間の間もしょっちゅう僕に話しかけてきた。
その間僕はほとんど会話どころか相槌もしてないのに。普通二、三回も無視されたら黙るだろ。
考えれば考えるほどこの男が馬鹿なんだと思い知らされる。差し出された水を乱暴に受け取って喉に流し込み、僕は思考をやめた。
ただの水のはずなのに枯渇した喉が潤う感覚は感動すら覚えた。運動部のやつらが汗まみれで水筒の中身を浴びるように飲んでた気持ちがわかった気がする。

「お、良い飲みっぷり。相当喉乾いてたんだなー」
「……別に。ってかお前、さっきからウザいんだよ。なんで一々話しかけてくんだよ……」
「そりゃ、話したいからに決まってるだろ。……あ! そういややっと話してくれたな! いやぁ、結構嬉しいもんだなぁ〜」
「だから、そういうのがウザいんだって言ってんだよ……」
「ははは! そう照れんなって!」

ダメだこいつ、話に乗ってやったら乗ってやったでこっちの話を全然聞かない。
こっちは切り上げたいから突き放してるのにそんなの構わずグイグイ来る。典型的な面倒くさいやつだ。
本当に、こんな奴に手も足も出せなかったのが嫌になる。さっさと隙を見て殺してやりたい。


443 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 22:59:59 4rbunsPs0


――――本当に、そうなのか?


え、と間抜けな声が漏れた。
さっきのは誰の声だ。誰なんだ、僕の声を騙るのは。


――――本当に、ザックスを殺したいのか?


違う、これは僕の声だ。僕の声が、意志とは真逆に問いかけてくる。
気味の悪い感覚だ。なんだよこれ、僕自身まで僕を否定しようっていうのか?
ふざけんな! 僕は僕だ。みんな殺して、優勝して、見返してやって、そして――

そして、なんだ?

答えが出ない。僕は結局何がしたいんだ?
途端に怖くなってきた。自分が見つからなくて、僕だけが映らない鏡を見せつけられてるような気分だ。
まずザックスを殺して、他の奴らも殺して、稲羽市に帰って、町の奴らに自慢して、僕が無力じゃないって証明して――

一つ一つ自分のやりたい事を挙げていっても必ずどこかで途絶える。
僕を馬鹿にする奴らを見返してやりたいって、無力なんかじゃないって証明したいって。僕はその欲望に疑問なんて感じたことなかった。
なのに、こいつを見ると。ザックスを見ると胸の奥からどす黒い感情が湧いてくる。
僕に纏わりついて離れないそれが問いかけてくるんだ。本当にそれで良いのか、その先に何がある、って。
否定してやりたい。そんなの知らないって目を背けたいのに、何故か出来なかった。

「――い、おい、美津雄!」
「ッ!? な、なに?」
「水、こぼしてるぞ。具合でも悪いのか?」
「……べ、別に、なんでもねぇよ! 一々うるさいんだっての!」

わかってる。僕がザックスを殺したいっていう気持ちが薄まってるのくらい。
今まで僕に接する奴らはみんな汚いものでも見るような目をしていた。運動も勉強もできないし、人付き合いも苦手な僕は自然とクラスのやつらから居ない者のような扱いをされ始めた。
話しかけることもないし、話しかけられることもない。そのくせひそひそ僕のことを馬鹿にして、僕に居場所がないことをまざまざと見せつけてきた。
クラスのやつらだけじゃない、世間も同じだ。
暗いとか挨拶しないとか、ただそれだけの理由であることないこと噂にして遠巻きに面白がってるクズばかりだ。

けど、ザックスは違う。
今まで見てきたどんな人間とも違う目で僕を見て、話しかけてくる。
見下すような目じゃない。面白がって絡んできてるんじゃない。
こんな奴と会ったことがないから明確に言葉に出来ないけど、どこか居心地がよかった。
僕の居場所を奪わないでいてくれるような気がして、心から気にかけてくれるような気がして。
それが僕の”欲望”を塗りつぶしていった。


444 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:00:38 4rbunsPs0

「顔色わりぃぞ、放送までどっかで休むか?」
「なんでもないって言ってるだろ。何回も言わせんなよ!」
「そういう訳にもいかねぇって。もし無理させて体壊されでもしたら、守ってやるって約束破っちまうことになるだろ」

約束、か。そんな言葉聞くの随分久しぶりだ。
正直あの時は必死でこいつの言ってた約束っていうのを聞く余裕はなかった。
だから初耳だ。こいつ、そんな事言ってたのか。けどどうせ、自分が危なくなったら僕を見捨てて逃げるに決まってる。
どんな正義感気取ってるやつだって結局、自分が死ぬのは怖いんだから。

「さて、どっか休める場所でも探すか! それでいいな?」
「……どうせ断っても無理やり連れてくんだろ。お前、ほんと自己中だよな」
「ジコチューでケッコー。えーっと、今いる場所がここだからー……」

地図を取り出すザックスはうんうん唸って現在地を確認している。
僕もそれを覗き込んだその時、


「もし、そこのお二方」


声を掛けられた。見れば銀髪の女が月を背にして佇んでいた。
その女の顔を見て僕は心臓が跳ねるのを感じた。今まで存在に気が付かなかったというものあるけど何より人形じみた顔立ちがあまりにも綺麗だったからだ。
それこそあの雪子と同じくらいに。こんな子も殺し合いに呼ばれてるんだな、ってどこか他人事に捉えていた。

「あー、気付かなくてごめんなお嬢ちゃん。一人でここまで来たのか?」
「はい。この殺し合いなる面妖な催しが始まり、どうしようかと途方に暮れていたところあなた方の姿を視認致しまして……暫し様子を見させていただきましたが、危ない方々ではないと判断し声を掛けさせていただきました」
「へぇ、こんな状況だってのに立派じゃんか! あ、俺はザックス。んでこっちの目つき悪いのが美津雄」
「うるせぇよ……それ、言う必要ないだろ。しかも名前ぐらい言えるって! 余計な真似するなよ!」

くそ、これじゃ第一印象最悪じゃないか。
こういう状況なら女子が僕を頼りにする展開もあり得るのに、ザックスが余計なことしたせいで頼りないやつだと思われただろう。
もしこの女が僕に惚れでもしたら、それこそ僕は無能なんかじゃないっていう何よりの証明になるのに。
まぁそんなことはこの際どうでもいい。この女、こんな状況でも落ち着いてるって……少し不気味だ。


445 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:01:33 4rbunsPs0

「ザックス殿に美津雄殿ですね。私は……如月千早と申します」
「オッケー、千早。俺達今から休める場所探すんだけど、千早も一緒に来るか?」
「まぁ、よろしいのですか? 是非ともご一緒させて頂きたいです」

如月千早、それがこの女の名前か。
見たところただの女だし役には立たないだろうけど、まぁ僕の引き立て役にはなるだろう。
今後こいつをどうしようかと考えてる最中、千早が不意にふらりと体勢を崩した。なんだ、冷静に振る舞ってても結局は僕より弱い存在なんだと安心した。

「……っ、……」
「おいおい、大丈夫か千早?」
「はい、平気です。ご迷惑お掛けして申し訳……あっ、……」

ザックスに言葉を返しながら千早は体勢を戻そうとしてつまづく。
僕の方に転んできた。普段なら避けてやるところだけど今の僕は機嫌がいい。
それに、これで僕が頼りになる存在だって知らしめる事ができるだろう。そうすればこの女も僕に対する印象を改めるはずだ。
雪子は無理だったけど、こんな殺し合いとかいういかにも状況なら僕を認めざるを得ないはずだ。
ザックスもそうだ。悔しいけど今の所僕はやつに完全に負けてる。だからその内見返してやらなきゃいけない。僕にも出来るんだ、ということを。


けどそれは、ザックス自身に邪魔された。


ザックスが僕と千早の間に急ぎ足で割って入ってきたんだ。
当然、僕が受け止めるはずだった千早の身体はザックスが受け止める形になる。
僕はザックスの背中を呆然と眺めながら渦巻く感情に胸が苦しみ出し、肺が過剰に酸素を求めるのを感じる。


――なんだよ、そんなに”いい人”になりたいのかよ。


さぞあいつは嬉しいだろうな。千早っていう可愛い女子に善人らしさを見せつけられて。
ザックスが千早を支えて、僕は動かなかった。残った結果はこれだ、覆りやしない。
僕よりも距離が遠いのにわざわざ急いで僕と千早の間に入ってきたんだ。僕なんかに千早からの好感度を渡したくなかったんだろ?
なんだよ、結局はザックスも他のやつらと一緒じゃないか。少しでもあいつを特別だと思った自分が馬鹿みたいだ。

「――申し訳ありません、ザックス殿」

千早も千早で、ザックスに支えられたまま離れようとしない。
僕だけが見られていない。僕だけがいない者扱いされてる空間。
それが嫌で嫌でたまらなくて、辛くて、惨めで、悲しくて、寂しくて――気がつけば僕は、腰に提げた銃に手をかけていた。


「申し訳ありません、……申し訳、ありません……!」


千早の声を聞いてその時、ようやく僕はおかしな点に気がついた。
千早が何度も何度も謝ってること。謝ってるくせに離れようとしないこと。そしてザックスがさっきから一言も喋らないこと。
何故かはわからない。わからないけど、僕は焦りを抱えながらザックスと千早の横に回り込んだ。



「――――えっ?」



そこで僕は真実を突きつけられる。
頭の中で複雑にばら撒かれた疑問がパズルのピースのように埋まっていくのを感じる。
僕が目にしたのは――千早がザックスの腹をナイフで刺している姿だった。




446 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:02:16 4rbunsPs0

僕がその光景を見てしまったことに気がついたからか、千早は慌ててザックスからナイフを引き抜いた。
苦しげな声を漏らして数歩後ずさり、街路樹に背を預け崩れ落ちるザックスの姿を見ても僕はまだ状況を整理しきれていなかった。
ザックスの腹に空いた痛々しい傷口と、そこから滲み出す赤黒いシミが急速に僕に危機感を与えてくる。
けど、僕は何も出来なかった。逃げることも立ち向かうことも。辛うじて出来たのは千早の方に視線を移すことだけだった。

「お、まえ……!」
「動かないでくださいっ!」
「ひっ!?」

千早が必死の形相で僕の方に刃を向ける。
元々赤色のそれはザックスの血を浴びてさらにどす黒い色へ変化していて、それがより僕の恐怖心を煽った。

――怖い!

自分が殺されるかもしれないっていう恐怖が僕から自由と余裕を奪う。
思考なんてする暇ない。何をすれば良いのかもわからない。
ガチガチと歯を震わせて動悸に息を切らして、徐々に迫ってくる千早を涙で滲む視界で見つめることしか出来なかった。

「千早」
「――っ!?」

その時、僕の後ろから声が上がった。
ザックスだ。深い刺し傷を押さえて街路樹に背を凭れながら今まで見たことない眼光で千早を睨んでいた。
それを浴びせられたわけじゃない僕でもプレッシャーで息が詰まる。多分、千早はその何倍もの感覚を味わったんだろう。
驚きと焦りと、色んなものが交じった表情を張り付けて千早は逆方向へ逃げていく。僕は追おうなんて欠片も考えずひたすら安堵した。
まだ思考は落ち着かない。けど、殺人鬼が見えなくなったことで抑えられていた感情がどっと溢れ出した。
だからこそ思い出してしまう。今さっき目にした光景を。

「――お、おい!」

未だに震える足を無理やり動かしてザックスの元へ駆け寄る。
素人目でもわかるくらい深い傷だ。止めどなく溢れる血を前にして僕は吐き気を催す。
それは単に血というものに慣れていないからというのもあるけど、何よりさっきまで話してたやつがこんな状態になっているという現実を受け入れきれなかったというのもあるだろう。
それなのにザックスはへらへら力なく笑って、千早に対する怒りとか死ぬかもしれない恐怖とかそういうが全然感じられなかった。


447 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:02:51 4rbunsPs0

「ああ、美津雄……怪我、ねぇか?」
「…………お前が、お前が庇ったんだろ……!」
「はは、まぁな。ったく、あいつ……謝るくらいなら、最初からすんな……っての」

言いながら僕は思わず呆れてしまった。
予想通り呑気な反応をするザックスに対してじゃなくて――僕に対してだ。

「なんで、……なんであんな真似したんだよっ! し、死ぬかもしれないんだぞ!?」
「なんで、かぁ……難しいこと聞くなよ。一々んなこと考えてないって……」
「はぁ!? 意味わかんねーよ! なんだよ、それ……っ! ふざけんなよ!!」

ザックスは僕を庇ったんだ。
それを僕は勝手に勘違いして、勝手に失望して、勝手に八つ当たりしているんだ。
筋違いだってわかっていても、怒鳴る相手が間違ってるってわかっていても、今の僕はそうすることでしか立っていられなかった。

別にあのくらい僕だって対処できた。こいつが勝手に庇っただけなんだ。
そうやって自分に言い聞かせることで辛うじて気を保っていられる。
だって、もし認めてしまったら僕は――――とんだ間抜けじゃないか。

「そう、怒んなって……、……千早、大丈夫かな」
「……他人の心配する前に自分の心配しろよっ! お前、これ……っ! 血が、止まらない……!」
「はは、流石に気分悪くなってきたかな……まぁ、ちょっと寝れば治るだろ」
「そ、そんなんで治るわけねーだろ! こんな時までふざけんなよっ!」

ザックスの顔色は明らかに悪くなっている。
余裕そうに笑ってるけど首から上は雪みたいに真っ白だ。そのくせ唇は紫色で不自然な色合いをしている。
なにかしようにも何をすれば良いのかもわからない。リュックを逆さにして中身をぶち撒けたけど治療に使えそうなものはなにもなかった。
そうこうしてる間にザックスは自分のズボンを破って止血のために腹に巻いていた。

「うっし、これで大丈夫だろ」
「あ……」

また、なにも出来なかった。
何回目だ。僕はあと何回これを繰り返せばいいんだ?
銃を持ってるのに千早に対してなにもできなくて、怪我をしたザックスになにもできなくて――笑えるほどに無力だ。
考えないようにしていたのに一度気付いてしまったらもう止まらない。付き纏う無力感に僕は頭痛を覚えて頭を抱えた。


448 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:03:12 4rbunsPs0



――――僕は、無力だ。



「……美津雄」

絶望に打ちひしがれる僕をザックスが呼びかける。
ひどい顔色だ。けど多分あっちからしても今の僕は同じような顔をしてるんだろう。

「俺、今から寝るから。……悪いけどさ、放送の時間まで見張っててくれ」
「……え……?」

耳を疑った。こいつ、本当に寝るつもりなのかよ。
しかもこんな目立つ場所で。冗談であってほしいっていう僕の気持ちに反してザックスは本気みたいで、既に目を閉じて就寝の体勢に入っている。
完全に置いてけぼりにされてる。見張れっていわれても、僕にはなにも出来な――――

「頼りにしてるぜ、美津雄」
「……!」

それっきりザックスからの言葉はない。あるのは小さい寝息だけだ。
頼りにしてる? 嘘だ。どうせ僕なんかにはなにも期待してないんだろ。実際なにもできてないんだから。


だけど、


たとえ嘘でも、嬉しかった。
誰かに頼られるなんて初めてだから。
その言葉が本心じゃないなんて、本当は全く頼りにしていないことなんてわかってる。
でもしかたないじゃないか。初めて僕は無力じゃないって他人に言われたんだから。

ザックスは完全に眠ってる。
そこでふと、僕の中で疑問がよぎった。

――今なら、こいつを殺せるんじゃないか?

震える手が銃に伸びる。
きっと今のザックスは僕でも簡単に殺せるだろう。誰が見ても瀕死の状態で無防備に眠ってるんだから子供にだって殺せるはずだ。
そう、あの化け物じみたザックスを殺せるんだ。そしたら僕はザックス以上の存在になれることができる。
僕は冷静に、無慈悲に銃口をザックスに向けて――



「――出来るわけ、ないだろ……!」



ガチャン、と音を立てて銃がアスファルトに落ちる。
気がつけば僕は膝から崩れ落ちて涙を目尻に溜めていた。
出来るわけない。今更殺せるわけなんかないだろう。こんなの卑怯だ。
生かすことも殺すこともできない。そんな自分に心底嫌気が差して、溜まっていた涙がぽたぽたと地面に垂れる。

ザックスの静かな寝息と僕の啜り泣く声だけが静寂を照らした。


【D-2/市街地(西側)/一日目 黎明】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(中)、困惑、焦燥
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して自分の力を証明する、つもりだったけど……。
1.僕は……どうすればいいんだ……?
2.ザックス……。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。

【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:腹部に深い刺し傷、猛毒、睡眠中
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.Zzz……。
2.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。
3.千早(貴音)が気がかり。

※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。







449 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:03:38 4rbunsPs0


駆ける、駆ける、駆ける。
薄紫色のカーテンが掛かりつつある空も、眩しいくらいに己を照らす無機質な光も今は目に入らない。
織物のように艷やかな銀髪を風に乱しながら如月千早――否、四条貴音は黎明の街を駆け抜ける。

「はぁっ、はぁ……ッ! は、……! けほ、っはぁ……! はぁ、はっ……!」

過剰な運動により限界を訴えた足が意思に反し貴音の身体を引き止める。
整わない息を大量の酸素を送り込むことで緩和し、自重で崩壊しかける足は膝に手をつくことで抑え込んだ。
レッスンと比べれば大したことない運動量のはずなのにその何倍も辛く、苦しい。
滝のように滴り落ちる汗が髪や衣服に張り付いて気持ちが悪い。けどそれ以上の不快感の理由が貴音にはあった。

「わ、私は……人を、人を…………! ザックス殿を、刺して……!」

貴音の定まらない視線は右手に握られた短剣に注がれている。
血塗れた穂先は自分の行いを如実に表わしていた。その何よりも確たる証拠が貴音を呪縛する。
そうして現実を突きつけられた貴音はただ掠めた声を漏らすことしかできず、中途半端な覚悟を露呈してしまった。



四条貴音が転送された先は765プロ――自分達の所属する芸能事務所とそう離れていない位置だった。
殺し合いという状況に放り出されてもなお貴音は戸惑いを飲み込み、周囲への警戒を怠ることなく事務所へと向かっていった。
夢だとかドッキリだとかそんな都合のいい展開は期待していない。ただ事務所に行けば誰かに会えるかもしれないという至って正常な思考の元で貴音は足を運ばせたのだ。

けど、そこにあったものは一瞬にして貴音の冷静な思考を弾き飛ばした。


450 : 輝け!月下の歌劇団☆ ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:04:07 4rbunsPs0


天海春香が死んでいた。


ズタズタに切り刻まれた死体が、わけがわからないという表情をした土気色の顔が。
汗と涙を共に流したかけがえのない友人が、上手く馴染めない自分に真っ先に声を掛けてくれた光が。
真っ赤な血を垂れ流し異臭を醸し出す肉の塊となって貴音を見上げていた。

じわりと胃から込み上げる熱された鉄のような異物を吐き出し水分が枯渇するほど涙を流した。
蘇る春香との楽しい記憶とは裏腹に貴音を支配するのはどうしようもない絶望と恐怖。
視界が真っ白に明滅する中でも春香だったものの顔は鮮明に映っている。それが未だに生きている貴音を恨んでいるようで、耐えきれずに逃げ出してしまった。

貴音は元々淑女と呼ぶに相応しい落ち着いた女性だ。
だがそんなの関係ない。親しい人間が死体となって目の前に転がっている光景を見て落ち着いていられる人間などいるはずがない。
悲しみや悼む気持ちよりもまず貴音に襲いかかったのは、自分もああなるかもしれないという先の見えない暗闇を見るような不安だった。

そんなのは嫌だ。死にたくない。
生き残るにはどうしたらいいのか――貴音の冷静さはその方向へ全力で働いた。


「はぁっ……! はぁっ……、……!」


その結果が、これだ。
他人の名を騙り、人を殺して自分が生き残るという典型的なマーダーへの道。
そこに本来の優しさや正義感が加わり、中途半端に捻じ曲がった殺人犯が出来上がってしまった。

「……あなた、様……、……どうか罪深い私を、お許し下さい……」

貴音の生存欲の根底にあるのは死自体への恐怖ではない。
もう他のみんなに、プロデューサーに会うことができなくなるかもしれないという恐怖だ。
不安だった時はいつだって彼らが傍にいた。逆に自分が彼らを勇気づけ、慰めたことだってある。
それがもう二度とできない――最悪の未来が囁きかけ、貴音をマーダーへと導いた。

「懺悔は、済みました…………これが、私の……選んだ道です」

もし貴音が事務所へ向かわなければ、転送された場所が違ったのならばまた別の道を歩んでいただろう。
己の知識や技術、人を癒やす歌声などを駆使して殺し合いを打破する道を迷わず選んでいたはずだ。
だが、もうその道に戻ることはできない。親友の死というのは人を狂わせるには十分すぎたのだから。

別の友の名を騙る少女は歩む。
固く結ばれた唇からは地獄を進む決意を示すかのように、赤い雫が筋となり走った。


【D-2/市街地(北側)/一日目 黎明】
【四条貴音@THE IDOLM@STER】
[状態]:強い罪悪感、恐怖、不安
[装備]:双剣オオナズチ(短剣)@MONSTER HUNTER X
[道具]:基本支給品、双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。どんな手を使ってでも。
1.如月千早の名を驕り、参加者に紛れながら殺していく。
2.春香……!
3.ザックスが生きているかどうか不安

※如月千早と名乗っています。
※ルール説明の際に千早の姿を目撃しています。


451 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:04:24 4rbunsPs0
投下終了です。


452 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/18(木) 23:13:14 4rbunsPs0
すいません、双剣オオナズチの説明が抜けていたので貴音の状態表に下記を付け足します。

【支給品紹介】
【双剣オオナズチ@MONSTER HUNTER X】
貴音に支給された双剣。片方が長剣で、片方が短剣になっている。
高い攻撃力と毒属性を持っており、毒属性の双剣の中でもトップレベルの強さを誇る。
会心率は0パーセント。


453 : ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:29:51 S3rtzrM20
投下します


454 : 親友と心の影(シャドウ) ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:31:29 S3rtzrM20
「…は?おっさん、いったい何言ってんだ?」

花村陽介は、呆気にとられた表情で目の前の男を見つめる。
今、目の前の男は、とんでもないことを告白してきた。

「二度も言わせるな。私の名はホメロス…ウルノーガの部下だった男だ」
「…マジ、で言ってんのか」
「ああ、ウルノーガによりこの殺し合いを促進させるジョーカーとなり、支給品も優遇されている。この場に呼ばれた何人かの知り合いに聞けば、確実だろう」
「…ああ、そうかよ」

ホメロスの告白を聞いた陽介は、俯いたまま肩を震わせる。
やがて、顔を上げると、キッと怒りの表情でホメロスを睨みつける。

「ペルソナァ!」

もう一人の自分、ペルソナ。
困難に立ち向かうための人格の鎧、ジライヤが陽介の背後に現れる。
ホメロスはペルソナを見て一瞬驚いた表情となるが、しかしすぐさま真面目な表情となって話を続ける。

「話は最後まで聞け。私はウルノーガの部下ではあったが…今はウルノーガの敵だ」
「はぁ!?何意味の分かんねえこと言ってやがる!」


455 : 親友と心の影(シャドウ) ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:32:27 S3rtzrM20
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ホメロスは、打倒ウルノーガの為の仲間を探していた。
しかし、その為には障害があるのだ。

(私の素性…【魔軍司令ホメロス】としてのかつての顔を、グレイグや勇者一行は知っている。奴らの協力を得るのは容易ではない)

グレイグはともかく、勇者一行については彼らの仲間を死に追いやり、あげくその魂を幻覚により侮蔑したという過去もある。
受け入れてもらうのは簡単なことではないだろう。

(だがそれ以上に厄介なのは…グレイグや勇者一行により、私の悪評が広められることだ)

かつて、勇者を【悪魔の子】として喧伝するウルノーガの策に加担してきたホメロスだからこそ、自分がその立場に立たされることの厄介さは分かっているつもりだ。
今はまだ影響が少ないだろうが、放送後に配られるらしい名簿によりホメロスの名が明らかになれば、彼らはこぞって自分の悪評を同行者に広めてしまう。

(それならばいっそ、なにもかも打ち明けるべき…か)

結果、ホメロスが出した結論はこれだった。
どうせ隠してもバレるなら、いっそのこと全てを打ち明けてしまえ。
隠してバレるより、最初からバラす方が心証もいいだろう。

「…あそこに誰かいるな。さっそく接触するか」


456 : 親友と心の影(シャドウ) ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:33:15 S3rtzrM20
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「…と、こういうわけだ。私はたまたま公園にいたお前が殺し合いには乗っていないと聞き、あえて協力を申し出るために素性を明かした」

話を終えたホメロスは、陽介の様子をうかがう。

「関係あるかよ!」

陽介の表情は…依然変わりなく怒りの表情だった。

「てめえはウルノーガの…完二を殺した奴らの仲間なんだろ!そんなの…許せるわけねえだろうが!」
「カンジ…誰だそれは?」
「最初の場所で首輪を爆破された男だよ!俺の後輩で…俺達の仲間だった完二を、てめえらは殺した!」

陽介の言葉に、ホメロスはチッと舌打ちした。
よりにもよって、あの時死んだ男の仲間だとは。
これは、初手から相手を間違えたかもしれない。

「いっけえジライヤ!突撃だ!」
「…仕方ない。ひとまず無力化するか」

気絶させた後、生かしておけば少しは信用を得られるだろうと考えながら。
こちらへ向かってくるジライヤと呼ばれる謎の戦士に対し、ホメロスは武器を構えて衝撃に備え…

「…なに?」

…ようとした。
しかしいつまでたっても衝撃は来ない。
何故ならジライヤは、ホメロスの目前で、動きを止めているのだから。


457 : 親友と心の影(シャドウ) ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:34:01 S3rtzrM20
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

(許せねえ…許せねえ!)

陽介は、目の前の相手に対して怒りを燃やしていた。
こいつが、こいつの親玉が、完二を殺した。
それはつまり、完二の仇も同然だった。

「いっけえジライヤ!突撃だ!」

何が協力だ。
こんな奴の話を聞く必要なんか…


—落ち着け!


(…………え?)

声が、聞こえた気がした。
思わずジライヤを止めて辺りを見回す。
しかし、声の主——鳴上悠の姿はどこにもない。
どうやら、陽介の脳裏にかすめた幻聴だったらしい。

(『落ち着け!』…あの言葉は)

それは、かつて生田目の病室にて、彼をテレビの中に落とすか否かで揉めていた時のことだった。
興奮していた俺達を、悠は…俺達のリーダーはその言葉で一喝したのだ。

「…どうした?私が許せないのではなかったのか」

ホメロスを見つめる。
正直、憎らしくて仕方ない。
だけど、このまま感情の赴くままに従えば…あの時と同じだ。
今、自分がするべきことは…

「…全部だ。なんでウルノーガに従ってたのかとか。なんで裏切ったのかとか。全部、教えろ。どうするかは…それから決める」


458 : 親友と心の影(シャドウ) ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:34:56 S3rtzrM20
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ホメロスは全てを話した。
グレイグと共に高みを目指した青春の日々。
その中で、ウルノーガによって植え付けられた劣等感。
魔軍司令としての悪行の数々。
最後に、グレイグと分かり合えたこと。
そしてこの殺し合いの地にて、自分が道化だと気づかされたこと。
全てを、陽介に話した。

「…これで、大体のことは話したと思うが。納得したか?」
「…正直、俺はやっぱりあんたを許せねえよ。どんな事情があったにせよ、あんたのやったことはそれだけ重いと思う」
「…そうかもしれないな」
「自分のことなのに他人事みたいだな」
「…一つ誤解の内容に言っておくが、私がウルノーガを殺すのは奴が私のプライドを踏みにじったからだ。断じて善意からの行動ではない」

(素直じゃねえ奴)

ホメロスと会話しながら、陽介は思った。
彼がウルノーガを許せないというのは、本心だろう。
しかし、そこに善意が全くないとは、陽介には思えない。
話して見て、感じたのだ。
かつて劣等感を抱いていた親友への、憧憬を。
彼のようになりたいという、想いを。

(なんか、自分を見てるみたいだ)

そんなホメロスを見ていると、陽介は彼のことを思い出した。
親友であり相棒の、鳴上悠のことを。
かつて、自身の影に殺されかかった時、その影相手に一人で立ち向かっていった勇敢な背中。
あの時からきっと、陽介は彼のようになりたいと、心のどこかで思っていた。

(あいつとは対等でありたいのに…まだまだ未熟だな、俺)

こうして感情に任せずホメロスと対話できたのも、直前であいつの言葉を思い出したからだ。
菜々子ちゃんのことで一番つらかったはずなのに、それでも冷静に真実を追求した相棒の言葉を。。

「おい」
「ん、なんだよおっさん」
「まだ答えを聞いてないのだが?私に協力するのかどうか」

陽介はホメロスをじっと見つめる。
確かに彼のしてきたことは許せないと思う。
しかし、ホメロスの過去を聞いた陽介には、もはや彼のことを敵とは思えないでいた。

(こいつも結局…心に影(シャドウ)を抱えた、人間だったってことか)

陽介は事件を追う中で、様々な人の心の闇に触れてきた。
特に親友への劣等感という闇は、かなり身近なものだ。
天城と里中がそうだったし…最近気づいたことだが、俺自身も相棒に対してそんな感情を持っていたことを自覚してきたところだった。
そんな誰でも持ちうる感情を…ウルノーガによって歪めさせられたのだ。
だから陽介は、完二のことでホメロスを恨むつもりはもうない。
憎むべき敵は…マナであり、ウルノーガだ。
答えはもう、決まっている。

「いいぜ、協力してやる。あんたの敵討ちに」
「そうか」
「なんだよ、ノリ悪いな。もっと喜んだっていいんだぜ」
「慣れあうつもりはない、とっとと行くぞ」

ホメロスはそっけない態度で、歩き出した。
そんな彼を、やっぱ素直じゃねえ奴、と思いながらも陽介は追いかけていった。


459 : 親友と心の影(シャドウ) ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:35:32 S3rtzrM20
【C-4/公園/一日目 黎明】

【ホメロス@ドラゴンクエストXⅠ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]: 虹@クロノ・トリガー
[道具]:シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド モンスターボール@ポケットモンスターブラック・ホワイト 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:打倒ウルノーガ
1.絶対に殺してやるぞ……!
2.自分の素性は隠さずに明かす

【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]: 不明
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.とりあえずホメロスについていく
※参戦時期は少なくとも生田目の話を聞いて以降です
※魔術師コミュは9です(殴り合い前)


460 : ◆OmtW54r7Tc :2019/07/20(土) 05:36:08 S3rtzrM20
投下終了です


461 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/20(土) 13:54:36 MVYhk/bY0
投下乙です!
陽介が生田目をテレビに入れた後の世界線からの参戦じゃなくて安心しました……。
ホメロス、確かに境遇的には生田目と通じるものがありますからね。
完二が殺された瞬間を目にしているし、そりゃそうなるよなぁ……と思ってみていましたが、思い留まれる強い人間でしたね。
ホメロスが抱く劣等感という感情へ理解できるのは、人の心の闇を知っている陽介だからこそ出来たことなのかなと思います。
この二人なら戦力も安定してるだろうし、次に誰に会っても大丈夫そうという安心感がありますね。


462 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/20(土) 14:02:43 MVYhk/bY0
>>385
◆/sv130J1Ckさん、いらっしゃいますか?予約期限が過ぎました。21時までに反応がない場合、予約破棄扱いさせて頂きます。

また、事前報告無しの予約超過が多いので次からは一週間を超過した瞬間から警告無しで破棄扱いとさせて頂きます。
期限内での投下が難しい場合は事前に言ってくだされぼこちらでも延長などの措置を取らせて頂きます。
ご理解頂けるとありがたいです。


463 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/20(土) 14:41:41 dR8Q7HXs0
投下乙です!
登場話書いた身としてはホメロスが順調に仲間を集めているのを見ていると、こういうスタンスにして良かったなあと思えます
昔のことが簡単には受け入れてもらえない中、そういった人の心の闇に寛容そうなペルソナメンバーという特徴も押し出されていて好きです


ゼルダ 里中千枝 予約します


464 : ◆/sv130J1Ck :2019/07/20(土) 18:07:19 1.Rnmlys0
>>462
連絡が遅れまして大変申し訳ありません
月曜日までの延長をお願いします
火曜日になっても投下されていなかったら破棄にして下さい


465 : ◆vV5.jnbCYw :2019/07/20(土) 18:31:01 j5Z96nTc0
投下乙です。

〉輝け!月下の歌劇団
アイマスは見たことないけど、FFDQ3rdのデール、Dqbr3rdのローラのように、
貴音もかなり厄介な非戦闘員になりそうですね。

それとザックスの状態異常がヤバい。『毒』ってゲームとパロロワで厄介さが違う状態変化ですからね。(笑)
ミツオ君どうにか頑張ってくださいな。

>親友と心の影

なるほど。他の11勢のことを考えると、仲間を早い目に増やしておいた方がホメロスにとって有利ですね。
イレブン君なんか恥ずかしがりながらもホメロスのことを伝えようとしていたし。
果たしてどこまで生き残れるか楽しみです。

ではカエル、セーニャ、ティファ予約します。


466 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:01:47 k7YNZk.s0
投下します。


467 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:02:07 k7YNZk.s0
夜の草原を、同じ草原と同じ緑を纏って一人疾走する者がいる。
一人、というか一匹に見え、疾走、というか飛び跳ねているのだが。


見栄えはどうであれ、カエルは必死に走っていた。
命としても、精神的な面でも、あの銀髪からは逃れたかった。


カエルにはセフィロスからは、ラヴォスのような威圧感を感じた。
それこそヤツも星一つ食らってしまいそうな。

(冗談じゃねえ……一体どんな修行をしたら、あんなバケモノになるんだ?)
明らかにカエルの仇、魔王より遥かに上の存在だった。

しかも、この戦いの主催者は、そのセフィロスさえも手駒にしたのだ。
故に、この戦いの主催者は自分の足元にも及ばない場所にいる。
その三段論法から考えて、恐ろしさが靴底から湧き出てきた。

テナドロ山でサイラスと共に、魔王と戦った時でさえ、ここまで絶望したことはなかった。

そもそも、自分がこの世界で生き残れる可能性はあるのか。
あるとすれば、セフィロスの言う通りクラウドという者を呼んできて、その後もセフィロスと協力して参加者を倒す。
その後、こっそりとセフィロスを殺す。


3人での戦いで、セフィロスといえども不意打ちや予想外の攻撃は当たることに気付いていた。


最早騎士の誇りもあったもんじゃないやり方だ。
仕方がない。自分は魔王討伐と言う使命がある。友の仇を討つことが一番重要だ。

そうカエルは自分に言い聞かせて、戦略ともいえない戦略を練りながら、草原を走る。


逃げたかった。
どうにかして、目の前にいる恐怖を忘れたかった。

空が丁度白んできたあたりで、カエルの視界に、一人の女性が目に入った。

見た目と負った傷からして、敵に襲われたところをあの槍を使って、辛くも逃げてきたという所。

金髪の女性、セーニャは明らかにふらふらとおぼつかない足取りで歩いていたため、カエルは不幸にもこう認識した。


468 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:02:27 k7YNZk.s0
カエルとの距離が短くなった瞬間、そのスピードは異常なまでに増した。

「死んでください。」

聖女、いや、聖女だった存在が告げる。
カエルはまだ殺すか殺さないか悩んでいる最中だったが、セーニャはその一線を超えていた。

完全に不意を突かれたカエルは、辛くも折れたバットで受け止めるも、あっさりと弾き飛ばされてしまう。

だが、得意のジャンプを使い、バットが弾き飛ばされた時間を利用し、宙に逃げる。

武器が無くなってしまった以上は、ベロと魔法しか武器がない。
この時点でカエルの不利になっていたが、まだ空中戦は有利のはずだ。

ジャンプ斬りこそ出来ないものの、槍の攻撃が届かない高さから、ウォータガの詠唱を練る。

「ウォータg……『メラゾーマ』」

しかしバットが弾かれ、カエルが跳び上がる前に、セーニャは魔法を紡いでいた。

辛うじて放出された洪水が、メラゾーマの威力を和らげるが、防ぎきれない。

あれが当たれば、立ちどころに焼きガエルとなってしまう。
カミュと、セフィロスとの戦いで受けたダメージも無視して、全身の筋肉を全力稼働させる。

水魔術を浴び、幾分か小さくなっていた火球を避けることに成功した。
しかし着地する頃には、セーニャは向かってくる。

その動きは、人間のものでも、獲物を狩る動物のものでもない。
カエルが未来で見たロボットと同じ、殺戮衝動に身を委ねた動きだった。

「お姉さまのために……死になさいッ!!」

メラゾーマを避けたばかりなので、躱しきれず槍に胸元を斬り裂かれる。

人の血ではない、青い色をした液体が、セーニャの綺麗な顔を汚した。
臓器をやられてはいないが、それでもカエルに激痛が走った。


続いて槍で串刺しにしようとしてくる。
だが、今度は後ろに飛びのく。

これまでのセーニャの槍でカエルは判断した。

相手は、魔法こそルッカや魔王にも劣らないが、槍での攻撃はどうと言うことはない。
ビネガー軍やガルディア軍の槍使いを見ていたカエルには分かった。

素人ほど、槍を持てばリーチを生かした突きや斬り付けに頼ろうとする。
だが、正しい槍の使い方とは遠心力を活かした、「叩く」ことにあるのだ。


(魔法さえ使われなければ……。)
そして魔法は火球の単純な直線攻撃。
ある程度距離が離れれば、避けることも不可能ではない。


469 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:02:48 k7YNZk.s0

炎魔法を躱したところ、反撃にウォータガを見舞えば倒せる。

カエルが離れる。セーニャが呪文を再び紡ぎ始める。

「マホトーン」
それは、さっきの炎の呪文とは違った。

「ウォータガ……なぜだ!?」
カエルの魔法は封じられてしまった。

「死んでくださいって、言ってるじゃないですか!!ベギラゴン!!」
「ぐあああ!!」

二方向から炎の渦が迫る。
辛うじて直撃は避けたが、それでも体の一部が焼け、マントもボロボロになった。

セーニャはまだ辺りが燃えているにも関わらず、躊躇なくカエルの懐に飛び込み、足を思いっきり刺す。

「何……を……。」
「これで、跳ぶことはできませんわね……くすくす。」

千切れはしなかったが、最早跳ぶことも歩くことも難しいだろう。

武器を封じ、魔法を封じ、そして跳ぶための脚を封じる。
カエルが壊れていく様を、楽しんでいるようだった。

(何なんだ……コイツは……)
眼をぎらぎらと光らせ、歯をむき出しにして笑いながら迫る少女に、カエルはいいようもない恐怖を抱き始めた。

(本当にコイツ、人間なのか?)
人間とはおろか、魔物と戦っている時でさえ、これほどの恐怖は感じなかった。

中世での魔王の軍団、未来の機械生物、原始の怪獣、古代の魔法生物。
あらゆる生物と戦ってきたカエルだったが、このような殺意を、感じ取ったことはなかった。


魔王やラヴォス、そしてセフィロスと戦っている時にさえ感じなかった恐怖。
まるで『殺戮』が具現化した何かと戦っているかのようだった。


セフィロスや魔王のことなど、どうでもよかった。
ただ、この場から逃げ出したい。この少女の目の届かない所へ行きたい。
カエルの頭には、それしか残っていなかった。

その願いはどうやら叶えられそうにない。

せめて一瞬でも時間があれば、減った体力を逆利用したカエル落としや、雷電の支給品を使うチャンスがあるかもしれない。

だが、最早たらればの話でしかない。

セーニャの手には、赤い光が集まりつつある。
カエルの残った命を焼き払わんとする。


470 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:03:07 k7YNZk.s0

そこへ、草原を駆ける足音が聞こえた。

「何!?」
高々と掲げられたセーニャの手に、流星のような蹴りが見舞われようとする。
慌てて詠唱をキャンセルしたセーニャは、漆黒の槍を構え、第三者を迎え撃つ。


「アンタは……?」
「話は後よ!!」

目の前に現れたのは、イルカを思わせる長い黒髪を持った女性。
メリハリのある躰を、トレーニングウェアのようなシンプルな格好が際立たせる。

カエルが探しているクラウドの仲間にして、カエルに恐怖を植え付けたセフィロスを宿敵とする者、ティファ・ロックハートだ。

「おのれ……よくも、よくも邪魔立てを!!」
破壊の衝動に駆られたセーニャが、槍でティファの心臓を串刺しにしようとする。

しかしティファは姿勢を低くし槍を避け、その間にセーニャの近くに潜り込む。
そして槍の柄をガッチリ掴み、その体勢のまま強引にセーニャごと引っ張る。

「つりゃあ!!」
「ぐッ……!!」

がら空きになったセーニャの胴体に、ティファの蹴りが炸裂した。
そのままセーニャは吹っ飛んでいく。


そのまま槍を奪おうとする。
しかし、どういうわけか槍はとてつもない力で握られており、ティファの力を持ってしても引きはがせなかった。

「逃げるわよ!!」

無力化することを諦め、ティファはカエルを背負って逃げ出す。
ティファの支給品のマテリアの効果で、元々の俊敏性に更に磨きがかかっていた。


「逃がすと思わないで下さいね。マヒャド!!」
起き上がったセーニャが、口から胃液と涎の混ざったものを零しながら、新たな呪文を詠唱する。

ティファとカエルの周りに、氷刃が降り注ぐ。

(なっ……まだ別の手を………)
(コイツ……属性を二つも使えるのか?魔王か、古代の民だとでも言うのかよ……!!)

持ち前の瞬発力を活かし、カエルを背負ったままでも、氷塊を躱していく。

小さい氷の欠片が、二人を傷つけるも、足止めするには程遠かった。

氷の雨が止んだ時には、既にカエルとティファは魔法の届かない位置にいた。
(結局、アイツを無力化出来なかったけど、助けることは出来たし、仕方ないか……)


471 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:04:08 k7YNZk.s0

セーニャはそれでも二人を追おうとするが、突然死んだように倒れた。
体力を使いつくしたまま、休まずに戦い続けていたことの弊害だが、やがて目覚めれば破壊を続けるだろう。


一先ず、カエルの命は救われ、破壊者と化した聖女の動きは止まった。

だが、そんなことで、この悲劇が終わるわけがない。
この戦いの場から殺意を一掃しない限り、それは一時しのぎに過ぎないのだ。


※カエルの武器の折れた金属バット@ペルソナ4がD-5 草原に落ちています。

【D-5 市街地 /一日目 早朝】

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:HP1/10 火傷、脚、胴体に裂傷、MP消費(大)、自己嫌悪 セーニャへの恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)、ジャックのランダム支給品(2個)
[思考・状況]
基本行動方針:友との誓いを果たす。
1.クラウドを探し、展望台にセフィロスがいることを伝える。
2.どうすればいいんだ………。
3.少なくともセーニャには関わりたくない

※魔王打倒直前からの参戦です。
※グランドリオンの真の力を解放するイベントは経験していません。
※魔王が参戦していることを知りません。
※ケアル系の魔法に大幅な制限が掛けられています。


【ティファ・ロックハート@FF7】

[状態]:HP9/10 若干の疲労
[装備]: パワー手袋@クロノトリガー+マテリア・スピード(マテリアレベル3)@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~1個)、
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから参加者を救う
1.とりあえずカエルと共に安全な場所まで逃げる
2.その過程で自分の仲間が参加しているか確かめる。

※ED後からの参戦です。

【D-5 草原 /一日目 早朝】
【セーニャ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 】
[状態]:気絶 HP1/8、腹に打撲 MP消費(大) 『黒い衝動』 状態
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。



※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※回復呪文、特技に大幅な制限が掛けられています。(ベホマでようやく本来のベホイミ程度)
※ザオラル、ザオリクは使用できません。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。


472 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:05:01 k7YNZk.s0
支給品紹介

【パワー手袋 @クロノトリガー】
ティファに支給されたアクセサリー。装備すると若干力が上がる。
原作では武器のポジションではないが、格闘がメインのティファはこれを手に付けて武器として使っている。
【独立マテリア・スピード@FF7】
ティファに支給された紫色のマテリア。
装備品に付けると、装備品の持ち主の速さが上がる。

※FF7の装備品以外にも、この作品に登場する武具は0〜数個のマテリア穴があります。


473 : 破壊という名の何か ◆vV5.jnbCYw :2019/07/21(日) 12:05:16 k7YNZk.s0
投下終了です。


474 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:28:35 29s1TXGA0
投下乙です!
カエル…何とか首の皮一枚繋がったか…
絶対この話で死ぬと思いながら読んでいた…
でも彼の戦闘スタイルだと足やられたら長くは持たなそうだよなぁ

逆にティファは最初に抵抗した人達の1人だけあって、戦力としても立ち位置としても期待できる。
満を持して登場って感じだ


それでは自分も投下します


475 : Don't forget it is the Battle Royale ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:30:01 29s1TXGA0
夜の闇が、深い森の空気により一層の緊張を与えていた。

僅かな光源である月明かりすら、木々に阻まれて道を照らすことさえままならない。
進めど進めど光の見えてこない道を歩き続ける。

人から逃げているのか、それとも人を求めているのか、それさえも分からない。

ただひとつ分かることは、人は死ぬんだということ。
それが幸福に包まれたものであろうとも、あるいは不条理に奪われるものであっても、行き着く先は同じだということ。

普段なら虫や鳥の声でも聞こえそうな大自然を前にしてもなお辺りを支配し続ける静寂の中で──むしろ、こんな静寂の中だからこそ、恐怖は絶えず襲い来る。

そんな中、2人の少女が出会った。

片や、自分の心の闇と対峙し、自らの力として操ることが出来る『ペルソナ』の持ち主、里中千枝。
片や、ハイラル城に巣食う厄災を100年にわたって封印し続けてきた姫君、ゼルダ。
両者ともにそれぞれの世界の悪と対立してきた英雄たちの一端である。

そんな彼女たちは目の前の相手を認めると共に、開口一番、叫ぶ。



「ペルソナ!!」



「ナイト!!」


それは挨拶などではなく。
それはしりとりなどでもなく。

それ即ち──開戦の合図。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


476 : Don't forget it is the Battle Royale ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:31:10 29s1TXGA0
里中千枝は、人一倍の正義感を持った少女である。

例えば悪そうな少年にカツアゲされている人がいれば、それが赤の他人であっても助けに入る。
それで友達の身に危険が及ぶかもしれないとなれば、自分の身を差し出してでも守ろうとする。

少し危なっかしいところはあるが、確かな正義感を持った少女。
彼女は、自称特別捜査隊として友達と一緒に連続殺人事件の解決に努められたことを誇りに思っていた。

そしてそれは、彼女にとって自分を唯一認められる事でもあった。

だけど次第に彼女の正義には小さい──だけど確かにじんわりと──ヒビが入っていった。

怒りの感情のままに生田目の病室へ飛び込んだ自称特別捜査隊の皆。
そこでマヨナカテレビに映し出された、邪悪な犯人の"本心"。

それまでにも彼女は、シャドウを巡る戦いの中で人々の中で抑圧されてきた"本心"に触れる機会は数多くあった。
ただし生田目の場合は、本当の自分を受け入れることを是としてきた自称特別捜査隊の活動の中でも初めての、受け入れられない邪悪であった。

『お前が受け入れようとしている人間の心は、こんなにも邪悪で醜いものなんだぞ』と、誰かにそう言われているような錯覚さえ覚えた。

早い話、彼女はふと思ってしまったのだ。
『生田目は、このまま殺したほうが良いのではないか』と。



彼女は本当の自分の、正義に背く声を聞いてしまった。
確かに友人への嫉妬や羨望といった本当の自分は受け入れることが出来た。
だけどこの正義感だけは否定したくなかったんだ。
悠くんが、それが自分のいい所だと言ってくれたから。

そしてそんな自分の"シャドウ"を見透かされたかのように、悠くんは雪子と特別な関係になった。"いい所"を無くした私が選ばれるはずなんてなかった。

『もし自分が正義の道だけを選べるような人間であったなら、彼の隣に居るのは自分だったかもしれない。』


477 : Don't forget it is the Battle Royale ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:31:38 29s1TXGA0
思い上がりだってことは分かっている。
単に雪子の方が自分よりも彼にとって魅力的だったというだけ。
きっと彼にとっても自分は"男友達"だったというだけ。

堂々巡りする複雑な思考。
そんな中でも、たったひとつハッキリしていることがあった。



もう私は、私を認められない。



一時は認めたはずの私のシャドウ──雪子への嫉妬心が、もう認めたくないほどに肥大していた。
そして、私が私自身を認めることが出来る唯一の要素だった正義感さえぐらつき始めていた。

それらの事件は、里中千枝の元々持っていた正義を狂わせるには充分だった。


ただしそれでも里中千枝は正義感の強い少女である。
極めつけとなったのは、見せしめと言わんばかりに殺された自称特別捜査隊の仲間、巽完二だった。
ペルソナの能力を持っていても、シャドウを倒すことが出来ても、そんなの関係無しに主催者の指先ひとつで、気まぐれひとつで命を奪われる。それは単純にして明快な恐怖。

なまじテレビの世界で様々な人々の本心に触れてきたからこそ分かる。
人は心に影を飼っている。
どれだけ殺し合いに反抗していようとも、完二くんのようになりたくないという本当の声は誰しも持っているはずだ。

『殺さないと殺される。
元々不安定だった正義など、もはや完全に捨ててしまえ。』

彼女はそんな本当の自分の声に逆らわなかった。
シャドウとの戦いの中で、認めるべき本当の自分と逆らうべき本当の自分との区別がつきにくくなっていたのかもしれない。

こうして、里中千枝は殺し合いに乗った。


478 : Don't forget it is the Battle Royale ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:31:57 29s1TXGA0
【B-4/森/一日目 深夜】 

【里中千枝@ペルソナ4】 
[状態]:健康 
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況] 
基本行動方針:殺さないと殺される
1.完二くんみたいに殺されたくない……
2.願いの内容はまだ決めていない


479 : Don't forget it is the Battle Royale ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:32:27 29s1TXGA0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

ゼルダは、人一倍壮絶な人生を送ってきた少女である。

先祖代々厄災ガノンを封印する術を扱ってきた家系に産まれたのだが、母の病死によってその術の継承が上手くいかず、国民たちからは『役立たずの姫』と呼ばれ続けてきた。

迫り来る厄災ガノンとの決戦。
周りの英傑たちが各々の役割を果たしている中、特に厄災との戦いの鍵を握る自分だけが術を使えないことへの焦燥。
そんな自分を非難する父親や国民たちの目。
全部投げ出して逃げることが出来たなら、どれほど楽だっただろうか。

しかしそれは、自分の立場と、隣に居てくれた彼──リンクの存在が許さなかった。

役立たずの姫の分際で──退魔の剣に選ばれた天才──リンクに恋をしていたのだから。

彼が見ている前で逃げ出すことは出来なかった。

さらに言うと、彼の隣に並び立ちたかった。
さらに言うと、自分が居てもいい理由を彼の中に見出したかった。

役立たずの姫は彼に護ってもらってばかりだ。
彼の背中しか見えない。
彼と向き合う資格がない。

だけど一向に封印の術が使えるようになる気配は見えなかった。

そしてそのまま、決戦の時は訪れた。
ハイラル王国を、世界を、守るために神獣とガーディアンを結集して英傑たちは戦いに向かった。

その結果が、惨敗だった。
神獣もガーディアンもガノンに奪われ、彼女はリンクと共に追い詰められる。


480 : Don't forget it is the Battle Royale ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:33:35 29s1TXGA0
皮肉なことに、封印の力に目覚めたのはその時だ。
自分を庇ってガーディアンの攻撃を受けそうになっているリンクを何とかして助けたい。その一心で放った封印の術は何の問題もなく発動した。

こうしてリンクは回生の祠で100年の眠りにつき、ゼルダは厄災ガノンを抑える役目を負うこととなる。
いつか、彼が迎えに来てくれることを信じて。
いつか、彼が厄災ガノンを討伐してくれることを信じて。

そして100年の時が経過した。
100年間の希望の通り、リンクは厄災ガノンを討伐した。

ようやく、彼と正面から向き合うことが出来る。
ゼルダはそう思っていた。

自分を護るために敵に立ち塞がる彼の背中にではなく、今度こそ正面から。

100年分の期待を込めて、彼に問いかけた。



『私のこと・・・覚えていますか?』



──百年ぶりの絶望は、一瞬で訪れた。

私の質問に対し、何も言わずに俯く彼。
答えは、それで充分だった。

回生の祠での眠りで彼の記憶が無くなっていることなど本当は分かっていたはずだ。

だけど信じていた。
私を助けに来てくれるリンクは、あの時のリンクだって。

だけどもう、彼は。
天才であることに苛立って辛く当たったにも関わらず私の傍に居てくれた彼は。
イーガ団の襲撃から私を護ってくれた彼は。
最初はよく分からない人だと思っていたけど、理解していくに連れて次第に私の居場所になってくれていった彼は。
本当に辛い時に大丈夫だと励ましてくれた彼は。



もう、いないのですね。


「貴方は私が恋したリンクじゃない。」


彼は何も悪くないのに。
むしろ彼こそが、厄災ガノンから人々を救ってくれた英雄なのに。
『リンクの姿をした別人』と認識してしまった瞬間から、もう彼のことをかつてのように大切な人だとは思えなくなってしまった。


「ええ、本当に愚かな話。私のために命懸けの冒険をしてくれた彼を拒んでしまうなんて。だけど私は──」


──"リンク"を、取り戻したい。


こんな殺し合いでも何でも勝ち抜いて、100年前の"彼"の記憶を取り戻す。

そのためなら、今の"リンクの姿の者"を殺すことになっても一向に構わない。
死者の蘇生も可能な願いとやらで、100年前のリンクを生き返らせてもらえばいいのだから。

「それまでは、貴方が…貴方だけが私の騎士です──ナイト。」

支給されたモンスターに声を掛ける。
彼女に支給されたのはキリキザン。

ちょうど青色の衣装に身を包んだリンクとは真逆の、赤色をベースとした体色のモンスターである。
そんなキリキザンに騎士を意味する名を付けたのは、今のリンクを騎士として拒絶する、彼女の無意識の心の表れであった。

元々彼女はこんな催しに乗るような性格ではない。
しかし100年の時は、既に居ない想い人を待ち続けるには永すぎたのだ。

こうして、ゼルダは殺し合いに乗った。


481 : Don't forget it is the Battle Royale ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:34:06 29s1TXGA0
【B-4/森/一日目 深夜】 

【ゼルダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】 
[状態]:健康
[装備]:オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、木の矢×10、雷の矢@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド モンスターボール(キリキザン)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況] 
基本行動方針: 殺し合いに優勝し、リンクを100年前の状態に戻す
1.今のリンクは、騎士として認めたくない。
2.最初の会場でダルケルと目が合った気がするけど、そんなはずは…。

【支給品紹介】

【オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ゼルダに支給された弓。
元の世界ではリーバルが愛用しており、029話『みなさんご存知のハズレ』でも言及されている。1本の矢で3発同時に撃つことが出来るのだが、正直原理はよく分からない。

【雷の矢@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ゼルダに支給された、雷属性を帯びた矢。木の矢×10とワンセット。ちなみに元の持ち主はライネルだったりする。

【モンスターボール(キリキザン♂)@ポケットモンスターブラック・ホワイト】
ゼルダに支給されたポケモン。
元の持ち主はゲーチス。
レベル52。おぼえているわざはつじぎり、シザークロス、ストーンエッジ、メタルバースト。


482 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/21(日) 20:34:40 29s1TXGA0
投下終了します。


483 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/21(日) 22:17:58 fiPRN1mM0
投下乙です!

>破壊という名の何か
カエル、かなりの災難が続いていますね……早朝までずっと戦い通しとは、精神がおかしくなってしまっても無理はない……。
特にセフィロス、セーニャは全参加者の中でもトップクラスに危険で恐怖感を煽るマーダーだからなおさら。
ティファという強力な対主催に恵まれたからいいものの、心身ともに傷は大きそうですね。
そしてカエルもルール説明の際にティファの姿は目撃しているはずなので、考え方を改めるのか楽しみ。
スタンスを崩さずマーダーを続けても、対主催に目覚めても、発狂して暴れ回るもどの姿も想像できます。

>Don't forget it is the Battle Royale
千枝とゼルダ、この二人は絶対に対主催になると思っていたばかりにびっくり。
しかしそれぞれマーダーとなる理由がしっかり定められていて、納得できましたね。
ペルソナとポケモン、互いに本人同士が戦わず指示を下す戦法同士というのも面白いところ。
戦闘経験の差で千枝の方が有利そうですが、この場所ではクロノやグレイグ、レッドや美希などの第三者が介入する可能性も十分ありますね。
今後展開しやすいよう戦闘開始のタイミングで区切るのもにくい演出だと思います。


484 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/22(月) 01:45:38 2mDZGD1o0
>>464
すいません、返信をしたつもりでしたが出来ていませんでした……。
延長の件、了解です。

桐生一馬、オタコン、シェリー、A2、トウヤで予約します。


485 : 名無しさん :2019/07/22(月) 22:21:36 mcl3bjb20
グレイグ、サクラダ…既存作品
ハンター、オトモ…複数参戦
ピカチュウ、レッド…ポケモン勢
ネメシス…バイオ勢
ソニック…知人それなりにあり
ミリーナ…春香と知り合い

なんだかんだ真のボッチはトレバーさんくらいしかいないよな


486 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/23(火) 00:08:02 fecNCHks0
>>464
火曜日になっても作品が投下されなかったので破棄扱いとさせて頂きます。
今後また書いてくださる機会があればよろしくお願いします。


487 : ◆/sv130J1Ck :2019/07/23(火) 16:48:27 nxVQU2Jw0
>>486
大変申し訳ございません


488 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/25(木) 22:22:04 Zixh8qbQ0
予約期限ぎりぎりで恐縮ですが、今日中まで延長して頂きたいと思います。


489 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 00:09:13 csHAUOQ60
>>488
了解です。今日中というのは木曜日中でしょうか?
それとも金曜日中でしょう?
一応金曜日と捉え、今日一日まで延長させて頂きます。


490 : 名無しさん :2019/07/26(金) 06:18:02 iXvWvNL60
>>487
見てるか分からないけど一応言っておくんだが
破棄するでもなく数日の延長をしたってことは、話がまとまらないわけじゃなく時間さえあれば投下できるって考えたわけだよな
それなら、オセロットの話もう投下できるんじゃないのか


491 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:48:57 JMf5TdVE0
>>489 寛大な措置ありがとうございます。
それでは投下します。


492 : Danger Zone ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:49:48 JMf5TdVE0
そこは研究所の一室。
所員が寝泊りする専用の部屋で、スーツ姿の錦山彰は目を覚ました。
飾り気のない固いベッドに腰掛けて、傍らにあったデイパックを探る。
拳銃と便利そうな道具を確認し終えて、最後に出てきたのは嗜好品だ。

「おいおい、これが支給品かよ」

ジッポーのふたを開けて、咥えた煙草に火をつける。
ゆっくりと、煙を肺に満たすように吸い、斜め上に吐き出す。
それを三度も繰り返しているうちに、ようやく落ち着きを取り戻してきた。

「殺し合い……ねぇ」

錦山は煙草の煙を見つめながら、マナと名乗る少女の発言を思い返そうとした。
あの混沌とした状況で、殺し合いのルール説明を冷静に聞くことができた参加者が、どれだけいるだろうか。
錦山でさえ、あの場では状況を把握するだけで精一杯だった。
かろうじて首輪が爆発することや、放送があることは理解したものの、詳細は覚えていない。
ただ、ある言葉だけが頭から離れないままだ。

――この殺し合いの優勝者は元の場所に帰れる権利と、何でも一つ願いを叶えられる権利が与えられるの。

錦山には野望がある。
それは、関東最大の広域暴力団「東城会」の“頂点”に立つことだ。
もともと堂島組の若衆だった頃から出世欲はあったが、十年前のとある事件がきっかけで自分の組を立ち上げてからは、他者への負の感情を大量に抱え、今では人間不信となり、野望だけが心の支えとなっていた。
マナの発言が真実だとすると、優勝すればその野望を叶えられることになる。

「ふざけやがって……」

しかし、錦山はマナの言葉など少しも信じていない。
殺し合いを強制する狂人の言葉を鵜呑みにするような真似は、到底できないのだ。
巨大な組織の中でのし上がるために、数多の駆け引きをしてきた経験が告げていた。マナを信用するのは危険だと。

とはいえ、やすやすと殺されるつもりもない。
元の場所に帰るために、優勝しなければならないというのなら、人殺しも厭わない。
既に何人もの人間を手にかけて来たのだから、いまさら数十人を殺すことを躊躇う理由もないのだ。
相手が誰であろうと殺す――不意に、錦山の頭にある男の顔が浮かんだ。

錦山は苦虫を噛み潰したような顔で、半分以下になった煙草を捨てた。
桐生一馬。孤児院からの仲で、共に東城会の風間組に拾われた兄弟分だ。
しかし、それも過去の話。
錦山は桐生と十年ぶりに再会した「セレナ」で決別した。
野望を叶えるために必要な東城会の百億円の所在を巡り、桐生と完全に対立することになったのだ。
そんな矢先に、錦山はこの殺し合いに巻き込まれていた。

「……お前は殺し合いなんてしないんだろうな」

マナを取り押さえた桐生の姿を思い出す。
危険な状況にもかかわらず、飛び出していく度胸。結果として制圧は失敗してしまったとはいえ、あの場で反旗を翻す、その行動自体に勇気づけられた参加者は大勢いることが予想できた。
事実、錦山もあの桐生の行動で冷静さを取り戻したのだ。

「桐生を殺す、か……」

口にしてから、その現実味のなさに乾いた笑いが出た。
若くして「堂島の龍」と仇名された男だ。殺しても死にそうにない。
この島においては、マナに向けてそうしたように、殺し合いを破壊しようと動くだろう。
それならば、むしろ殺し合いを破壊するために、一時的に協力した方が賢いのではないか。
そんな考えが頭をよぎる。

「……馬鹿野郎」

即座に頭を押さえた。あまりにも甘い考え方だ。
兄弟の契りを破棄した相手に、どうして協力を持ちかけることができるだろうか。
桐生を都合よく利用しようというだけではない。もう誰も信用しないという意思すらも曲げる行為だ。

「俺は……」

そのとき、外から大きな物音がした。

「っ!?」

泥沼になりかけた錦山の思考は、それにより幸か不幸か断ち切られた。
物音は断続的に聞こえてくる。ガラスが割れる音や、金属が床にばら撒かれる音など。
どうするか。錦山は逡巡することなく、拳銃を懐に忍ばせて部屋を出た。





493 : Danger Zone ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:50:32 JMf5TdVE0



リト族の英傑リーバルは、暗い海へと勢いよく飛び出した。
人間なら重力に逆らえずに飛沫を上げるところだが、リーバルは人間にはない翼をはためかせて、海面スレスレを滑るように飛んだ。
その速さは草原を駆ける馬より速く、みるみるうちに陸地からの距離は百メートルを越えた。

「さて、どこまでかな」

そう呟いた直後。
リーバルの首輪から、アラームの音が鳴り響いた。
急ブレーキをかけて振り返ると、陸地からはおよそ三百メートル。夜は視界が悪いが、真昼であれば容易に視認できる距離だ。
実際、リーバルの目にもマールディアの金髪がちらちら動いて見えた。

「この辺りが境界か……」

陸地の方向へ数メートル戻ると、アラームはピタリと止んだ。
わずかに息を吐く。もし「首輪のアラームが鳴り始めたら爆発は止められない」設定にされていたなら、リーバルの命はあと数秒だった。
あのマナやウルノーガという小物が、そう簡単に爆発させることはないだろう、という予想に賭けた上での検証だったが、その賭けは成功した。
殺し合いの舞台は、あくまで地図に書かれた範囲まで、ということなのだろう。

「まあ、それは予想通りだけどさ」

空中に浮揚しながら、偉そうに呟いた。
殺し合いにおいて“翼”がどれだけの利点を持つか、リーバルはきちんと理解していた。
英傑の中でも、ゲルド族にもゾーラ族にもゴロン族にも、もちろんハイラル族にもなく、リト族だけにあるのが“翼”だ。
そして、小物が殺し合いの説明をしているときに目にした限りでは、参加者の中にリト族らしい影はなかった。
そうだとすれば、飛ぶことができる参加者は少ないと予想できる。

「遠くを飛んでるだけで優勝できる、なんてことはないようだね。
小物も対策しているってことか……どうやら、知らない武器もあるようだし」

例えば、ボウガンや弓矢の射程距離は三百メートル以下だ。
参加者への支給品がそうした武器ばかりであれば、飛んでいる限り撃たれる危険性がないリーバルは有利である。
しかし、マールディアから教えられた“銃”という存在は、ボウガンよりも小さい大きさで遠くまで届く性能のものもあるという。
そのような武器が支給されているとしたら、リーバルの優位性は失われることになる。
ゲームとしては公平と言えるだろう。

「さて、次は上方向も試さないと」

リーバルは空を見上げた。
上方向に飛べる範囲も限定されている確信はあった。それがどの程度か確認することには意義がある。
ともかく、ひとまず陸地に戻ろうと、マールディアの金髪を目印にして飛ぶことにした。





494 : Danger Zone ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:51:30 JMf5TdVE0



研究所は、錦山が想像していたよりもずっと広かった。
どこまで行っても白一色の壁と廊下にうんざりしながら歩くと、ようやく物音がする部屋にたどり着いた。
入り口の陰から室内を覗くと、そこには、何かを探すようにうろうろと歩く男がいた。

「シェ……リィー……」

男の様相を見た錦山は、言いようのない不安に襲われた。
血に濡れた白衣。よろよろとした足取り。途切れがちに誰かを呼ぶ声。
それだけなら、ヤクザやチンピラが跳梁跋扈しており、治安の悪い神室町においては、さほど異常な存在ではない。
喧嘩をして血まみれの男も、クスリの中毒でふらつく男も、日常茶飯事だ。
しかし、それだけではないのだ。

「シェエリイィィィ……」

男の全身の筋肉は、びくびくと不規則に震えていた。
通常、人間は必要なときに必要な筋肉だけを動かせるように出来ている。
ところが目の前の男は、まるで人形のように、本人の意思と無関係に動いているように見えた。

(なんだコイツは?イカレてるのか?)

錦山が困惑していると、不意に男の動きが止まり、静寂が訪れた。
男は錦山に背を向けた状態で、何かブツブツと呟いていた。
その様子は、肩で息をしているようにも、身体全体が脈打つように動いているようにも見えた。

(コイツも参加者なのか……?)

錦山は男に注意を向けていた。
だからこそ、足元が疎かになった。
男の様子をつぶさに観察しようとして、身体をより壁の近くに移動させた、そのとき。
バキリ、とガラスを踏みつけた音が反響した。





森の中を歩きながら、リーバルはマールディアに検証結果を伝えていた。

「そっか、リーバルの言ったとおりだったんだね」
「ああ。僕の予想通りだ。上方向に飛ぶのも限界がある」

陸地に戻り、今度は「リーバルの猛り(リーバルトルネード)」で上空へ飛翔。
やはり地面から数百メートル離れたとき、アラームが鳴り始めた。
そして新たに、空中に長時間浮揚しているだけでも、首輪のアラームが鳴り始めることが判明した。
具体的には、およそ五分。
今回は、たまたま地面に戻る途中で鳴り始めたために爆発は免れたが、今後は注意する必要がある。

「高く飛ぶことも、遠くへ飛ぶことも、長く飛ぶことも制限されている、ってことだね」

リーバルは怒りを滲ませながら口にした。
飛行能力に長けているリト族を、実質的に飼い慣らしているような仕打ちだ。
誇りを穢されたような気分になっていた。

「でも、飛べるだけでもじゅうぶんスゴイよ?」
「ハァ……そういうことじゃないんだよ、お嬢ちゃん」

マールディアの能天気な発言に、やれやれと肩をすくめて返答する。
しかし、マールディアのお陰で気付いた。小物への怒りで冷静さを欠くなんて馬鹿らしい。
たとえ飛ぶことが制限されていたとしても、リーバルには弓の腕前がある。
小物を前にしてオオワシの弓を手にしていたら、確実に眉間を狙う。そう決意して、リーバルは怒りを飲み込んだ。

「あ、ねぇ!あれ、リーバルが見た研究所じゃない?」
「ん……?ああ、そうだね」

そうして歩いていると、マールディアが嬉しそうな声を上げた。
二人の視線の先にあったのは、リーバルが上空へ飛翔した際に見つけた、白い外壁の研究所だった。





495 : Danger Zone ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:52:33 JMf5TdVE0



背筋が凍る感覚というものを、錦山は久方ぶりに味わった。
動きを停止した男は、ゆっくりと入り口にいる錦山の方へ振り返る。
そして、手近な場所にあったパイプ椅子を右手で持つと、それを引きずりながら歩いて来た。
その首には、確かに首輪が嵌められていることを、錦山はようやく認識した。

「G-ウイルスは……ワタシの……ものだあぁ!!!」

男は叫んだ。その目は焦点が合っていないが、錦山を認識しているのは間違いなかった。
錦山はやるしかないと、懐から拳銃を取り出した。

「止まれ、撃つぞ!」

錦山が拳銃を構えて威嚇するも、男は全く意に介さずに距離を詰めてくる。
何やら声は発しているが、会話が通じそうとは思えなかった。
そして、その動きはひどく緩慢で、酔っ払いにも似ていた。

「わたさないぞ……ウイルスは!!!」

そのとき、錦山は男の動作が遅いことに油断していた。
しかし次の瞬間、男はパイプ椅子を振りかぶって、投げつけてきた。

「なっ!?」

予期せぬ攻撃に対して、錦山はかろうじて腕を身体の前で交差させて防御した。
それでも、かなりの力で投げられたパイプ椅子の威力を殺しきることはできず、よろめいて廊下の壁に背中がぶつかった。
鈍い痛みが走り、呼吸が乱れる。

「ぐうっ!」

男はゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
そして、あと少しで男の腕が当たるほど近づく、そう感じた直後。
錦山は躊躇うことなく、手にした拳銃のトリガーを引いていた。





リーバルとマールディアは、研究所の玄関で銃声を聞いた。
その音は奇しくも、リーバルがマールディアに説明された銃声に似ていた。

「ねえ、今の……」
「何かが起きているようだね」

何やら不穏な空気を察したのか、小声になるマールディア。
リーバルは冷静に、音がした方向を定めようとした。

「リーバル、壁に地図があるよ」
「へえ、意外と広いんだな。音がしたのは……」

すると、さらに銃声が続けざまに鳴り響いた。
リーバルとマールディアは顔を見合わせて、音のした方向へ走り出す。
廊下を走りながらいくつかの部屋を覗いてみると、荒れた様子の部屋が散見された。
そして、ようやく辿り着いた第四研究室には、一人の男が立ち尽くし、一人の男が倒れ伏していた。

立ち尽くしているスーツの男の手には黒い銃が握られており、倒れ伏している男の衣服は血で汚れていた。
リーバルがそこまで観察し終えたとき、スーツの男が気づいて声を上げた。

「誰だ!」
「それを床に置くんだ!」

リーバルは男に対して冷静に告げた。
男は銃を構えようとするも、ボウガンの存在に気づいて躊躇い、やがて銃を放り投げた。

「これは君がやったのかい?」
「……だったらどうする?」
「この僕、リーバルが、君を止める。殺し合いに乗るようなヤツを放置するわけにはいかない」
「そうか……」

スーツの男は下を向いて、何かを考え込んだ。


496 : Danger Zone ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:53:19 JMf5TdVE0
「忠告しておくけど、妙な動きはしない方がいい。
 このボウガンが見えるだろ?僕は君をいつでも撃てるんだからね」

リーバルは構えたボウガンをちらつかせた。
すると、スーツの男はしばらく黙り込んでから、こう切り出した。

「俺はこの男に襲われた。だから撃ったんだ。何の問題がある?」
「えっ……!?」
「フン、何とでも言えるね」

マールディアは驚いた声を上げたが、リーバルは鼻で笑った。
死人に口なし。死んだ者は言葉を発することができないのだから、それを嘘と証明することはできない。
それでも、リーバルは男が嘘をついていると半ば確信した。

「だいいち、襲われたのにそんなに落ち着いていられるかい?」
「職業柄、荒事には慣れててね。それに、そういう性分なんだ」
「おっと!」

喋りながらスーツをまさぐり出した男に、リーバルは制止をかけた。
男はピタリと動きを止めて、こちらに視線を向けた。

「妙な動きをするなと言ったの、もう忘れたかい?」
「煙草を吸うだけだ。許してくれ」
「タバコ?……見せてみなよ」

このとき、リーバルは油断していた。
リーバルと男との距離は、剣や槍では届かないほど遠い。
しかし、ボウガンならば充分に届く。拳銃は床に落ちている。つまり今の時点で距離的な理があるのはこちらだ。
相手は丸腰。まさかガーディアンのように、ビームを発射することができるはずもない。
もし万が一、新たな武器を手にしたなら、即座にボウガンで射抜けばいい。
このような思考が、英傑としての実力の自負が、ほんの僅かな油断を生み出していた。

「コイツだよ」

男は取り出した球体を、真上に投げ上げた。
リーバルがその正体を確かめようとした刹那、その部屋は白に包まれた。
そして、何発目かの銃声が鳴り響いた。





閃光玉とは、モンスターを狩猟する際に用いるアイテムの一種である。
強烈な閃光はモンスターの視覚を奪い、小型モンスターであれば気絶状態、大型モンスターであれば目眩状態にする。
気絶状態は言わずもがな、目眩状態はハンターを見失って単調な行動をする状態であるため、総じて強力なアイテムだ。
ちなみに、ハンター自身にはこれらの効果は及ばない。





研究所が完全に見えなくなる場所まで来た錦山は、足を止めた。
そして、呼吸を落ち着かせるために深く息を吐いた。
白いスーツの下のシャツは、冷汗と全力疾走の汗とが混ざり、じっとりと汗ばんでいた。

「化け物だらけか、この島は……」

気に入らない相手の愚痴をこぼすように、錦山は小さく呟いた。
様子のおかしい狂人に、人語を話す鳥人間リーバル。
前者はまだ頭がおかしい人間として対処できたが、後者は頭が鳥の形なのだから理解が追いつかない。
精巧な人形か、あるいは覆面やマスクの類かとも考えたが、流暢に話す鳥人間は、どこからどう見ても作り物ではなかった。
結果として困惑で埋め尽くされた錦山の脳内は、逃げの一手を選択した。

「これも使いどころを考えた方がいいな」

閃光玉を見ながら、錦山は呟いた。
説明書を読み、スタングレネードのような道具だと理解して使用した閃光玉。
実際は爆音が発生しないため、一般的なスタングレネードと比べると無力化する効果はやや弱いようだ。
また、何度も同じ相手に正面から使える道具ではない。
もし再び鳥人間リーバルと相対することがあっても、まず警戒されて使えないはずだ。
リーバルと、もう一人の少女。追跡はされていないようだが、再び遭遇することは避けたい相手だ。

「再会したくないと言えば、あのイカレてる男もそうだな……」

錦山は煙草に火をつけて、狂人を思い返した。
拳銃の弾丸は、どれも確実に心臓を貫いたはずだ。
それなのに、倒れ伏した男の身体はずっと動いていた。
今にも立ち上がって、平然と動きそうな不気味さがあった。
あれは何なのか。煙草を吸い終えるまでに、答えは出なかった。

「まあいい……俺は生き残る。それだけだ」

これまでと同じだ。目的を達成するためには、どんな手段でも使う。
煙草を踏み潰しながら、錦山は決意を新たにした。



【A-5/研究所付近/一日目 黎明】
【錦山彰@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:マカロフ(残弾8発)@現実
[道具]:基本支給品、セブンスター@現実、閃光玉×2@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:人を殺してでも生き残り、元の場所に帰る。
1.ひとまず研究所から遠ざかる。


497 : Danger Zone ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:55:37 JMf5TdVE0



「クッ、油断した!」

まだ霞む目を抑えながら、リーバルは吐き捨てた。
閃光玉による身体的なダメージはない。しかし、スーツの男に逃げられたことは、リーバルのプライドを傷つけていた。

「大丈夫?リーバル……」
「ああ。お嬢ちゃんこそ、その腕の傷は平気なのかい?」
「平気だよ、かすっただけだから。自分でケアルもかけたし」
「そうかい」

平気そうに答えるマールディアだが、その様子は今までと異なっていた。
男に銃で撃たれて、かすり傷とはいえ、ここが殺し合いなのだということを実感して不安がっているのだろう、とリーバルは予測した。
何か慰めの言葉をかけるべきかとも考えたが、リーバルには思いつかない。
そんなことを考えていると、マールディアが何かに気づいたような声を上げた。

「ねえ、あの人……動いてない?」
「ん?」

マールディアが指差した先には、白衣の男が倒れている。
リーバルとマールディアが来たときからずっと、倒れ伏していた男だ。
銃で撃たれたと思われる場所からは、いまだに血が流れていた。

「そんなはずがないだろう。ピクリともしていな……!?」

そこでリーバルは言葉を止め、息を飲んだ。
男の身体が、大きく脈打つように動いたのだ。





男の身体が震える間隔は、次第に短くなる。
まるで身体全体が鼓動していて、ドクンドクンと音が聞こえるかのようだ。
あるいは実際に聞こえていたのかもしれない。

ふと、男の右腕の筋肉が膨張し始めた。
その勢いで、衣服の右半身の部分が弾け飛んだ。
右腕は元の腕より二回り以上も大きくなり、異常に太い血管や神経が浮き出て、激しく脈打ち始める。
右手の爪は大きく鋭く、小型のナイフのように変化していく。
やがて肥大化した右腕の方の部分に、頭部ほどの大きさの眼球が出現した。
そして、ぎょろりと動いた眼球が、室内にいる二人を捉えた。

かくしてG-ウイルスにより変異した男の名はウィリアム・バーキン。
この島にいる殆どの人間は、彼の名前を知らない。
そして、彼が自らの身体に注入したG-ウイルスの危険性も、まだ誰も知らない。



【A-5/研究所内/一日目 黎明】
【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、動揺
[装備]:アイアンボウガン@クロノトリガー
[道具]:基本支給品 召喚マテリア・イフリート@FF7 木の矢×10 炎の矢×10@ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:オオワシの弓@ブレスオブザワイルドを探す。
0.目の前の化け物(ウィリアム・バーキン)に対してどうする?
1.マールと共に、弓の持ち主を探す。
2.首輪を外せる者を探す。
3.ゼルダやリンク、他の英傑も参加しているかどうか知りたい。

※神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。


【マールディア@クロノトリガー】
[状態]:腕にかすり傷、動揺
[装備]:ハリセン@現実
[道具]:基本支給品、リンゴ×3@ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
0.目の前の化け物(ウィリアム・バーキン)に対してどうする?
1.リーバルと共に行動する。
2.クロノを探す。
3.何で私の支給品がハリセンなのよ!!

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。


【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:G生物第1形態
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:本能に従い生きる。
0.目の前の二人(リーバル・マールディア)に対してどうする?

※身体にG-ウイルスを注射した直後からの参戦でした。現在は融合を続けています。


※ウィリアム・バーキンの支給品一式が、研究所内のどこかに放置されています。


498 : Danger Zone ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:57:58 JMf5TdVE0
【セブンスター@現実】
錦山彰に支給された煙草。日本で長年人気の銘柄。桐生一馬が愛飲している。

【マカロフ@現実】
錦山彰に支給された武器。装弾数8発。予備の弾倉一つも共に支給。

【閃光玉×3@MONSTER HUNTER X】
錦山彰に支給されたアイテム。
狩猟を補助する手投げ玉系アイテムの一つ。強烈な閃光をモンスターの視界に入れることで、モンスターの行動を制限する。


499 : ◆RTn9vPakQY :2019/07/26(金) 06:59:12 JMf5TdVE0
以上で投下終了です。改めて予約期限の超過、申し訳ありませんでした。


500 : 名無しさん :2019/07/26(金) 11:49:37 jsBogk7.0
投下乙です
錦の内面は0を踏まえたような部分もあって、1や極本編でみられるような冷血漢一辺倒な男ではないことが示されていていいですね。
組を背負う男として、桐生一馬を超えようとする男として乗り越えてきた修羅場を感じさせつつも絶縁した桐生への思いを捨てきれないあたりやっぱり錦は良いキャラだと思いました。
一方でG生物と対峙してしまったリーバルたち。生き残れるのかどうか、そもそもそのままバトルなのかどうか非常に気になりますね。


501 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:04:06 p9yjdTuI0
投下乙です。
予約超過の件については齟齬が生じてしまっただけのようなので、大丈夫ですよ。

登場人物達の視点が要所要所で移り変わり、群像劇を見ている気分になりました。
錦山が決意を固めるシーンから始まり、次にリーバルが首輪の機能を確かめるシーンに移る。
同じエリアの中でも全く異なる行為を行っている二人の相違点が強調されていて、これが群像劇という感想を抱いた理由でもあります。

唯一翼を持つ参加者であるリーバルが制限を確認する。一見当たり前のように見えるけどかなり重要ですよね。
パロロワの醍醐味の一つである首輪の爆破条件の確認。禁止エリアも指定されていない状態では誰も試せませんでしたが、リーバルだけが出来るという翼の利点が最大限に描写されていましたね。
詳細な条件を設けてくれたので今後の参考にもなります。
そしてウィリアムの参戦時期と扱いが私の理想に近かったので個人的に嬉しかったです。

それでは自分も投下します。


502 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:05:57 p9yjdTuI0

「――なるほど、この子がどういう生命体なのか大体わかったよ」

にわかには信じ難いけどね、と付け足しながら眼鏡を上げるオタコン。
彼の周囲の街並みは凄惨なものへ変わっていた。津波が過ぎ去った後、といえば伝わるだろうか。
電柱はへし折られ、住居は半壊し、ベンチなどは跡形もなく破壊されている。さらに言えばアスファルトの至る箇所が凍りついていた。
この惨状を引き起こした原因は他ならない、つい先刻彼らを驚異に包み込んだダイケンキその人だ。

「……まるで兵器だな。使い方を間違えると危険じゃないか?」
「そうだね。シェリーに預けておくのは少し不安だよ。……巻き添えを食らいかけたし」

気難しげな表情を見せる桐生と裏腹にシェリーははしゃいだ様子でダイケンキと戯れていた。
その様子は一見すれば微笑ましいものの、ダイケンキの恐ろしさを知っている者からすれば危なっかしくて仕方がない。
とりあえず一度ダイケンキをボールに戻し、オタコンが管理することとなる。その際にシェリーに「ダイケンキと一緒にいたい」とねだられるがなんとか堪えた。
あんな危険な生命体を常時出しておくなど大人二人組の心臓が持たない。

「ダイケンキを使うのは非常事態の時だけにしよう、シェリー。きっと君を守るために支給品として配られたんだから」
「……うん」
「まぁそう落ち込むな。話し相手なら俺達がなってやる」

桐生の不器用な優しさに当てられてかシェリーの顔にパッと明るさが灯る。
ゾンビの蔓延る世界を生き延びたシェリーにとって今の状況は幾らか落ち着くことが出来た。桐生とオタコンは頼りになるしダイケンキというパートナーもいる。
レオンやクレアに守られていたときも思ったが、やはり誰かが傍にいるというのは心強い。
だからこそシェリーは安心していた。心のどこかできっと今回は誰も死なずに生き残れると思っていた。
だって相手は話の通じる人間なのだから。問答無用で襲いかかってくるゾンビとは違い、話せばきっと分かり合えるはずなのだ。




だからこそ思い知らされる。


503 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:06:53 p9yjdTuI0
この殺し合いという現実の無情さを。




「――――オタコン!!」

突然の桐生の叫びに反応できた者はいない。
衝撃をオタコンが襲った。しかしそれは襲撃と呼ぶにはあまりに弱い。
その衝撃の原因はすぐに理解できた。今しがたオタコンの名を呼んだ桐生が彼を覆い被さる形で突き飛ばしたのだ。
何を――紡ごうとした言葉は出ない。つい数瞬まで自分がいた場所に鋭い剣戟が走るのを見たからだ。

「おらぁッ!!」
「ッ……」

襲撃者の姿を確認するなど悠長なことはしていられない。
桐生はすぐさま立ち上がると同時に強烈な裏拳を放つ。咄嗟の反撃とは思えぬほど鋭いそれはしかし襲撃者が後方へ跳躍することで空振った。

そこで初めてオタコン達は相手の姿を確認することとなる。
月明かりに照らされた銀色の長髪と端正な顔立ちは一種の神秘ささえ感じて、同時にうっすらと帯びる淡色の哀愁にオタコンは息を呑んだ。

「……お前、何もんだ?」
「答える必要はない。今からお前は私に殺されるんだからな」

すらりと風を切る剣が桐生に向けられる。
滲み出る殺意は人の感情に鈍感なシェリーでさえも震わせた。
銀髪の剣士、A2はそれ以上の問答は不要と切り捨てるかのように剣を袈裟に薙ぐ。
白い軌跡に反して剣は獲物を求めるかのようにどす黒く、刃の赤い染みを強調させていた。

刹那、A2の姿が掻き消える。
瞬きなどしていない。しかし次にオタコンが見た光景は刺突を繰り出すA2の姿と、それを間一髪屈んで回避する桐生の姿だった。
まるで見えなかった。超人という言葉すら軽く感じてしまう彼らの一瞬の命のやり取りは自身の知る限り最も人外に近い存在、サイボーグ忍者を彷彿とさせた。

「オタコン!! シェリーを連れて逃げろ!!」
「――っ! 君はどうするつもりだ!?」
「こいつの相手をする。いいか、絶対に逃げ切れ!」

屈んだ体勢のまま拳を打ち上げ、またもやA2がバックステップで桐生のリーチから離脱する。
そうして出来た僅かな時間の中で未だ呆けたままのオタコンの意識を引き戻し要点を伝えた。
しかしオタコンはすぐに離れようとしない。恐怖で固まるシェリーを一瞥し、ダイケンキの入ったモンスターボールをポケットから取り出した。

「ダイケンキ!」
「ガァァッ!」

ボールから解放された途端ダイケンキは威嚇の声を上げ戦闘態勢へと移った。
只事ではないと察してかその行動は早い。指示されるよりも先に桐生とA2の間に割って入り睥睨をA2に浴びせた。
突然の乱入者に驚いたA2は一瞬動きを止める。その隙を見逃すほど桐生はお人好しではない。


504 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:08:12 p9yjdTuI0

「ッらぁっ!!」
「ぐっ!?」

踏み込んだ桐生の拳がA2の胸元を捉え強制的に数歩下がらせる。
拳の重さにA2が驚いたように桐生もまた驚愕していた。まるで鉄の塊を殴ったかのような感触と痺れが右手を走っていたのだ。
互いの心境を知らぬオタコンは立て続けにダイケンキに指示を下そうとする。が、それは桐生自身によって止められた。

「馬鹿野郎!! 逃げろって言っただろうが、オタコン!」
「! ……けど、ダイケンキを使えば僕も――――」
「てめぇが狙われたらどうするんだ!」

ハッと目を見開いた。
ダイケンキは立派な戦力だ。指示さえ的確に送れば戦いを優位に進められるだろう。
しかしその指示を送る人間は? ――ダイケンキという防衛線を掻い潜られ、オタコンやシェリーを狙われれば一瞬にして命を刈り取られるだろう。
今になって自分が命の危機に置かれていることに気がついたオタコンは背中に冷たいものが走るのを感じた。
ポケモントレーナーの器量を持ち合わせていないオタコンはその恐怖に支配され次の指示など既に頭になかった。

「……そのアシカはお前の切り札だ。こんなとこで使う必要はねぇ」
「なっ……本気なのかい!?」
「ああ。代わりと言っちゃなんだが、お前の銃を渡してくれ。俺にはそれで十分だ」

戦えないのならばせめてダイケンキを桐生に預けよう。そんなオタコンの思考は桐生の言葉に打ち消される。
正気とは思えなかった。ダイケンキがいるのといないのとでは戦力に大きな差が出る。それは桐生も理解しているはずだ。
しかし、A2も生半可な相手ではない。オタコンが攻撃の瞬間を視認すら出来なかったことからそれは痛いほどに思い知らされている。
おそらくダイケンキがいても無傷では済まない。下手をすればダイケンキが肉盾となり死亡する可能性も十分にあるだろう。

桐生一馬という人間はそれを良しとしなかった。

「……受け取れ、桐生!」

デイパックからデザートイーグルを取り出し桐生の元へと地面を滑らせる。
A2に警戒の視線を向けながらそれを受け取れば、「ありがとよ」と一言残しそれきり桐生はなにも言わずA2と対峙する。
自分のやるべきことを理解したオタコンは震える手でダイケンキをボールに戻し、未だ動けずにいるシェリーの元へ駆け出した。

「桐生! 君の頑固さはこの短い間で思い知らされた。今は何を言っても僕の負けだ! ……だから研究所でまた会った時、君が折れるまで説教してやるからな!」
「……、……ああ。楽しみにしてるぜ」

背を向けたまま僅かに横顔を見せる桐生の口元はにやりと笑っていた。
相変わらずの不器用な笑みだ。けれどそれはオタコンの決意を固めるには十分すぎる。

「お、オタコン……! カズマは、……カズマはどうするの!?」
「桐生は僕らを守ってくれている。……だから僕たちは、守られなきゃいけないんだ」
「ま、まって! オタコン! ダメだよ、カズマが死んじゃう!!」

オタコンに抱きかかえられ我に返ったシェリーが桐生へと手を伸ばす。
しかしその手は届かない。遠ざかる背中にシェリーは涙を含ませた声を荒げた。
遠ざかる足音とシェリーの声を聞いて安堵するのを感じる。心のほつれが取れた桐生は思い切りA2を睨み、拳を構えた。





505 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:08:53 p9yjdTuI0


「律儀じゃねぇか、待っててくれるなんてよ」

桐生の言葉通り、A2はオタコン達の姿が見えなくなるまで攻撃を仕掛けずにいた。
その気になればオタコンやシェリーを優先的に殺そうとできたはずだ。もっともそれは桐生が許さないが。
A2なりに思うことがあったのか否か。どちらにせよ、それを知ったところで両者のやるべきことは決まっている。

「……関係ないさ。お前を殺して、あいつらも殺すだけだ」
「ならあいつらは心配ねぇな。――――俺がお前をぶっ飛ばせばいい話だ!!」

疾呼。同時に肉薄を終えた桐生が鋭い右フックを放つ。
咄嗟に首を引き直撃は避けたものの顎先を掠める拳にA2は舌打ちを鳴らす。反撃の刃を翻すも桐生はそれをスウェーでやり過ごした。

――速い!

A2をしてそう言わしめる身体能力はもはや並の機械生命体を超えている。
鈍重な動きしかしない機械生命体を当たり前のように狩ってきたA2は桐生の持つテクニックとスピードに戸惑いを隠せなかった。
リーチで勝っている分距離を取ろうとしてもすぐさま詰められる。近接と呼ぶには近すぎる距離感は折角の剣も振るえず動きを阻害するだけの枷に成り果てる。
それを知っていて絶妙な距離感を保っているのならば、よほど刃物を持った相手と戦い慣れているのだと認識を改めざるを得ない。

「おッらぁッ!!」
「――!」

耳をつんざく気合と共に目前へ迫る拳。
避ける? ――いや、いい。一発ぐらい食らってやろう。
回避するために身体を動かしてしまえば反撃の手が出せない。いつまでも守りに回っていて戦いが長引き必要以上に時間を浪費するのは避けたかった。
たかが一発程度直撃したところで大したダメージにはならない。金属で出来たアンドロイドの肉体は並の衝撃など寄せ付けないのだから。
確かにこの男の拳は重い。だがそれまでだ、手応えを与え油断させたところで心臓を貫いてやれば――――


瞬間、A2の画策が弾け飛ぶ。
灰色に染まる視界にはノイズが走り、状況を理解するのに時間を要した。
重い。重すぎる。機械生命体から放たれるそれとは比較にならない威力だ。
拳大の質量とは思えない衝撃は、有り得ないと思いつつもあの巨大機械生命体のエンゲルスを思わせる。
反撃? 馬鹿を言うな。体勢を立て直すので精一杯だ。


506 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:09:39 p9yjdTuI0

ノイズ混じりの視界が辛うじて桐生が追撃を仕掛ける様子を映し出す。
回避に全力を注いだA2は急いで後方へ跳んだ。空いた距離は必要以上、剣の間合いより二回り以上大きい。
訂正しよう、この男からの攻撃は一撃も貰ってはならない。狩られるのは自分なのかもしれないのだから。

「お前は、何者なんだ?」

奇しくもA2は自身が投げられた問いを返すこととなる。
それを受けた桐生はぴたりと追撃を止め、暫しの会話という休息に意識を注いだ。

「ただのカタギさ」
「カタギ……?」
「要するに、ただの人間だ」

嘘をつくな、とA2は内心毒づく。
彼女の記憶データにある人類とは脆弱で、狡猾で、何よりも自己の欲求を優先する存在だ。少なくともアンドロイドと殴り合えるような化け物じみた能力は持っていない。
なのにこの男ときたら史実にあるそれとまるで逆だ。仮に人類という言葉を信じたとしてもよほどの突然変異を遂げたとしか思えない。

「そういうお前は一体なんなんだ? その身のこなしといい頑丈さといい、普通の人間ってわけじゃないだろう」
「……アンドロイドだ。ヨルハのプロトタイプの、な」
「アンド……ロイド? ……つまり、ロボットってことか?」

ロボット。その無骨な響きにA2は自嘲する。
機械生命体がそうであるようにアンドロイドもまた生物ではない。
図らずもそれを己の創造主である人類に突きつけられる形となり、A2は再び刃を桐生へと向けた。

「お前達人類には言いたいことは山ほどある――が、やめだ。言葉を交わすよりもこうする方がよっぽど有意義だからな」
「俺もちょうどそう思ってたところだ。それにロボットだってんなら、遠慮なくぶっ飛ばせるってもんだ!」

荒ぶ風をゴングに第二ラウンドが始まる。
残像を描くA2の肉薄を目で追い続く薙ぎ払いを紙一重で躱す。切っ先から生じた真空波が頬に赤い筋を走らせた。
お返しとばかりに桐生は更に間合いを詰め脇腹を狙い打つ。が、咄嗟にA2が剣の腹で受け止めたことで不発に終わる。
甲高い音が鳴り響いた。構わず桐生の追撃がA2の胸元を抉らんと迫るも、即座にA2は身を引くと同時横薙ぎを放つ。
しかしそれを予測していた桐生は屈みながら踏み込みA2の顎をかち上げる。予想通り常識外の衝撃が襲いかかり思考回路に火花が散るのを感じた。

A2は既に二度、ダイケンキの介入の件を含めるなら三度桐生の攻撃を貰っている。
当の桐生は掠りさえすれど一度も直撃はしていない。身体能力でも装備でも勝っているのにだ。
その理由は一重に戦闘経験の差。喧嘩のテクニックを知らない機械生命体を無造作に狩ってきたA2と、様々な格闘技を持つ敵と戦い技を盗んできた桐生とでは決定的な差がある。
このまま真正面からの殴り合いを続けていてもA2のダメージが蓄積していくだけ。彼女自身それを理解していた。


507 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:10:18 p9yjdTuI0

(なにか、策を――――)

既に何度と繰り返した後方への跳躍。しかしその距離はいつもよりも大きい。
だがその程度の距離桐生が全力で駆ければ二秒で肉薄されるだろう。
ゆえにこの策は――いや、策とも呼べない賭けはこの二秒間の行動で決まる。

桐生が力強い一歩を踏み出す。同時にA2は地面を踏み抜き、アスファルトの破片を散りばめる。
知性を得た獣ほど脅威なものはいない。既に半分ほど距離を縮め終えた桐生へ向けてA2は破片を蹴り飛ばした。
散弾銃の如く襲いかかる破片の雨。常人ならばそれだけで致命傷は免れないが桐生は当然のようにそれらを殴り飛ばしやり過ごす。


そのわずか一瞬、桐生はA2を視界から外した。


ひゅっと風を裂く音が聞こえた頃には桐生の右脇腹に熱と激痛が宿っていた。
見ればA2の剣が深々と脇腹を貫いている。しかし肝心のA2はあの場から一歩も動いていない。
――投げたのだ。桐生が破片に気を取られた瞬間の隙を突き、外せば武器を失うというリスクを冒してでもA2はそれを実行したのだ。

結果、A2は賭けに勝利した。

血を吐き悶える桐生へ無遠慮に迫り、突き立てられた剣を握り締めがら空きの胸板へ思い切り足刀を叩き込む。
吹き飛んだ拍子に桐生の身体から剣が引き抜かれた。じとりと刀身を覆う鮮血から仲間外れとなった雫がぽたりぽたりと地面を染める。
重傷の身でありながらも咄嗟に身を引いたためか手応えは薄い。現に桐生は吹き飛ばされこそしたものの未だ倒れず、両の足を地に着けて肩で息をしている。

誰がどう見ても瀕死だ。
感情を殺したA2は特に何の感慨も覚えぬまま、トドメを刺さんと疾走した。



■ □ ■ □


508 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:10:50 p9yjdTuI0



オタコンは研究所への最短ルートを導き出しその道を必死に走っていた。
なるべく早く、なるべく遠くへ。運動などしない身体が悲鳴をあげるのも構わずに忍びシリーズの恩恵をフルに活かして宵街を抜ける。

「――コン! ねぇ、オタコンっ!」

腕の中でもがくシェリーが糾弾に近い呼び声を向ける。
しかしオタコンは答えない。普段の穏和で優しいオタコンからは想像できないほど必死な形相にシェリーは恐怖を覚えていた。
そうした一方的なやりとりはオタコンの体力が尽きるまで続いた。

「オタコン! 戻ろうよっ! 私、カズマが心配だよ……死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「シェリー」

シェリーの心からの訴えに対してオタコンの声は酷く冷静だった。
いや、冷静を装っているだけでその実微かに震えている。それを裏付けるかのように深い呼吸を繰り返すオタコンの顔は泣きそうなほどに歪んでいた。
そんな彼の表情を見てシェリーはなにも言えない。幼いながらも自分の言葉のせいでオタコンを困らせているのだと確信した。

「僕らは……無力だ」

シェリーを見つめるオタコンはもう声の震えを隠すつもりもない。
隠すことなどできるわけがない。自分がいかに無力な人間なのかを告解するのに感情を押し殺せるわけなどないのだ。
ましてやそれが原因で桐生一馬という一人の人間を命の危機に晒している。その事実は冷徹にオタコンを見下ろしていた。

「力がないから、僕らは力のある桐生に助けられている。力のない僕たちが今するべきことは引き返すことじゃない……助けられることなんだ。桐生は僕たちが逃げることを望んで、あの場に残ってくれたんだから……僕たちは、逃げなきゃいけない!」
「……オタ、コン……」

己の状況を噛みしめるオタコンの表情は暗い。
唇の震えは恐怖からではなく無力感からか。気がつけばシェリーの声もか細く掠めていた。

「だからシェリー、逃げよう。……大丈夫、また会おうって約束したんだ。研究所へ着いたら桐生の帰りを待っていればいい」
「……、……」

押し黙るシェリーは頷かない。
オタコンの言うことはもっともだ。それに自分が戻ったところでなにもできない事はわかっている。
けど、だからって桐生を見捨てたくない。子供という立場ゆえにオタコンの言うことを聞くことしかできない自分が悲しかった。

シェリーの無言を了承と捉えたオタコンは彼女を抱き直す。
と、踏み出したオタコンの足は止められることとなった。新たなる来訪者の姿を目撃してしまったから。


509 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:11:32 p9yjdTuI0


「こんばんは」


親しげな挨拶とは裏腹にその声は氷のように冷たい。
声の主は帽子を被った少年。一見無害なように見えるがその背後では恐竜を思わせる二足歩行の怪物が従者のごとく付き添っている。
だがそれよりも異常なのは少年から放たれる威圧感と殺気。少年兵よりも鋭く明確なそれはオタコンとシェリーに容赦なく突き刺さる。
オタコンは確信した。この少年は危険だ、と。

「……君は?」
「トウヤです」
「トウヤ、か。僕はハル・エメリッヒだ。……一体、何の用だい?」

考えろ、この状況を打破する策を。
いきなり襲いかかってこない辺り何か目的があって近づいたはずだ。
不安げにオタコンの服を握るシェリーは何も言わず小刻みに体を震わせている。賢明だ、とオタコンは思った。
言葉一つが刺激となりえない状況では迂闊に攻め入れない。シェリーの一言が琴線に触れる可能性は潰しておきたかった。

「ハルさん。貴方の腰に提げたそれ……頂けませんか?」
「――モンスターボールか」

トウヤの指差す先はオタコンの持つモンスターボール。
オタコンにとって切り札であり、桐生の守るべき対象であるそれは簡単に渡せるものではない。
これを渡してしまえば自分達を守る最後の存在を、桐生の意志を捨ててしまうことになるのだから。
ゆえに迷う。すぐに返答を返せずにトウヤの念押しを許してしまった。

「断ろうとは思わないでください。貴方がポケモントレーナーじゃないことくらいわかっています。……それとも、そのポケモンでオレと戦いますか?」
「……っ、……」

選択肢が潰される。ダイケンキを呼び出しあの恐竜に不意打ちを食らわせれば逃げ切れるかもしれないという希望は幻想と果てた。
この少年には隙がない。ダイケンキを出そうものなら即座に攻撃を加えてくる――言外の警告がオタコンから選択権を奪った。

「わかった、君に渡そう」

えっ、と腕の中でシェリーが驚愕の声を漏らす。
当然だ。オタコンは今、仲間を売ったのだから。自分の命欲しさにダイケンキというシェリーのパートナーを見ず知らずの少年の手に渡したのだ。
なんで、というシェリーの疑問にオタコンは答えない。額に汗を滲ませながらダイケンキの入ったボールをトウヤへと投げ渡す。
それを受けとったトウヤは興味深そうにボールを見つめ、ダイケンキを解放した。

「へぇ、ダイケンキか。これは中々使えそうだ」

咆哮を上げるダイケンキは己の主となったトウヤを睨む。
まるで積年の恨みが込められているかのような眼光をそよ風のように受け流して、トウヤはオタコンと向き直った。


510 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:11:50 p9yjdTuI0

「ご協力ありがとうございます。貴方が聡明な方で助かりました」
「……これで、僕たちを見逃してくれるのかい?」
「はい。どうぞ、行ってください」

トウヤの言葉に従いオタコンはダイケンキに見向きもせずに踵を返す。
自分を裏切ったと言いたげなダイケンキの目をこれ以上見たくなくて。一刻も早くこの場から立ち去りたいと目を背けたのは至って正常な判断だろう。


「――待って!!」


だがシェリーは違った。
オタコンの肩口から顔を出しトウヤを、ダイケンキをまっすぐに見つめるシェリーの目は水の膜を張らせながらも決して逸らされることはない。
まずい、とオタコンが彼女を止めようとした時にはすでにトウヤの瞳はシェリーへ向けられていた。

「その子をどうするの!?」
「……君のような少女も殺し合いに呼ばれているんだね。意外だよ」
「答えてよっ!」
「使うんだよ、戦うためにね。……ポケモンってそういう生き物だろう?」

シェリーはポケモンという存在に触れて間もない。彼らがどういう生態なのかも分からない。
けどトウヤの言うことはちがうと自信を持って言えた。少なくとも、トウヤに従うのを嫌がっているダイケンキは戦いを好むような性格じゃないはずなのだ。
それを無理やり戦いの道具にしようとしている。個々の意志を無視して他者を襲わせるなんて、まるでゾンビだ。

「ちが――」
「駄目だシェリー!」

けど、シェリーの思いがトウヤに届くことはなかった。
シェリーをより強く抱き締めることで言葉を遮ったオタコンは十分に休息の取れていない足を無理矢理に動かしてトウヤとの距離を離していく。
プライドなんて捨てた。みっともないと笑われたって構わない。それでもオタコンは生きなければならない理由があるのだから。
腕の中でシェリーがオタコンの名前を呼びながら暴れ回る。
オタコンは聞こえないふりをして、近い二度目の限界が訪れるまで己の身体を痛めつけた。





511 : その男、龍が如く(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:12:33 p9yjdTuI0


「…………」

オタコンの背中を見送ったトウヤは唸りを上げるダイケンキを睨み返す。
ここまで反抗的なポケモンは初めてだ。イッシュ最強のトレーナーという肩書きは伊達ではなく、ほぼ全てのポケモンを従わせる力がある。
だというのにこのダイケンキはそんな素振りを見せない。
さぞ前の持ち主に可愛がられていたか、自分という存在に恨みがあるか。そのどちらかだろう。
考えられるのならば前者か。自分に恨みを持つトレーナーにダイケンキの使い手はいなかったはずだ。

「ベルのダイケンキ、というわけでもなさそうだしね」

ダイケンキを手持ちに加えているトレーナーで一人思い当たる人物の名を口にする。
彼女の持っていたダイケンキは穏和な性格だった。本当に戦えるのか、と疑問に思うくらいに。
だがこのダイケンキは見るからに気性が荒く、闘志を剥き出しにしている。どちらかといえばチェレンのほうが当てはまるかもしれない。

「まぁいい。ダイケンキ、お前は今からオレのポケモンだ。……いいね?」

モンスターボールの持ち主には逆らえない。
その枷を与えられたダイケンキは横に首をふることができない。
せめてもの抵抗で無言を貫くものの、トウヤはそんなのお構いなしとばかりにオタコン達が逃げてきた方向へ歩を進めだした。

彼らが逃げてきたということはそれほど危険な存在がいるということだ。
胸が躍る。ゲーチスのような”小物”ではなく自分がまだ知りえない存在と出会える可能性があるのだから。
規則正しくアスファルトを鳴らす足取りはまるで執行人のように、着実に混沌へ向かう。


512 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:13:06 p9yjdTuI0
■ □ ■ □



――失念していた。

辺りに鳴り渡る重い銃声。腹部を伝う衝撃。
死刑執行を待つだけのはずである桐生は右手に大型の拳銃を構え、その銃口からは苦い硝煙が立ち込めさせている。
あの傷では何もできないと踏んでいたA2はなんの対策もせずにそれを受けてしまった。その結果A2は疾走を中断し逆に桐生へと隙を見せることとなる。

二発、三発、四発――立て続けに銃弾が叩き込まれた。
左手を、右肩を、左足を。至る箇所が火花を散らし金属らしい無機質な悲鳴をあげる。
アンドロイドにとってただの銃弾など大したダメージにはならない。しかし予期せぬ衝撃には必ず動揺が付き纏うものだ。
マガジン全ての弾を消費した桐生は用済みとなったデザートイーグルを投擲道具として扱う。銃弾の雨から解放されたA2はすぐさま体勢を立て直し、拳銃を弾き飛ばした。

苦し紛れの攻撃だ――そうであってほしいというA2の願望に近い見解は崩れる。
拳銃は本命ではない。本当の狙いは桐生自身の接近。ものの見事にそれを許してしまったA2が己の誤ちに気がついた頃には既に拳が飛んでいた。
A2は努めて冷静に思考する。問題ない、この距離ならば防御は間に合う。
そう信じて拳の軌道に剣の腹を置くよりも先にいびつな金属音が甲高く泣き叫んだ。

「か、ッ――!?」

速い。明らかに先程よりも速度が上がっている。
胸を打つ衝撃自体は幾分かマシだがそれを感じさせない手数の多さがA2を襲う。
反撃も、防御も回避も、全ての行動が阻まれる拳の雨。鬼の形相でそれを叩き込む桐生の身体には幻覚か否か、桃色のオーラが纏われていた。

――ラッシュスタイル。
拳の重みよりも速度を、質よりも量を取るボクサー戦法。

離脱を試みるA2が身を引こうものなら三発の拳が、衝撃を堪え剣を振るう挙動を見せようものなら五発の拳が。彫刻を彫るかのように的確にボディを狙い打つ。
ありえない。重傷を負った人間がまるで普段通り、いやそれ以上の機敏さで動けるなど常識はずれにもほどがある。
A2は再び誤ちを犯す。この男は、桐生一馬という人間は常識という枠組みをとっくに外れているのだから。


513 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:14:09 p9yjdTuI0

「ッらぁッ!」

衰えを感じない掛け声と共に強烈なアッパーがA2の顎を打ち抜いた。
無造作に浮かされたA2の肉体が拳の機関銃に晒される。いつ止むかも分からない連撃は控えめに見てもすでに二十は越えているだろう。

「おららららららららぁ――ッ!!」

A2の思考回路は現状を正しく理解しようとしなかった。
だって文字に起こせば失笑が飛びそうなほどに冗談じみていたから。
実際にその目で見なければ誰も信じないだろう。体重百キロを優に超えるA2が、金属の塊が、人間に殴られて浮かされているのだ。

いや、それよりも――それよりもあってはならない事がある。
人類が勝てないとされる機械生命体を殲滅する為にデザインされたアンドロイドが。人間を遥かに凌ぐ能力を持ったヨルハ部隊の精鋭が!
たった一人の手負いの人間に圧倒されている――!


「どぉ――りゃぁッ!!」


格段に重い一撃がA2の胸元に叩き込まれ、紙屑の如く吹き飛ばされる。
蓄積されたダメージが今になってせり上がりA2は口から血液の塊を吐き出して、飛沫を描いた。






                        極






霞む意識の中、A2は剣を杖代わりに懸命に立ち上がる。
と、目の前には既に桐生が仁王立ちしていた。吠えるA2は支えの剣を突き出し、体勢が崩れることも構わずに刺突を放つ。
しかしその腕はあっけなく掴まれた。身動きを封じられたA2が目にしたのは大きく拳を振り上げ渾身の一撃を振るわんとする桐生の姿だ。
その拳が纏うオーラは赤――原点にして頂点、堂島の龍スタイル。
痺れる程の気迫がそれを幻覚ではないのだと理解させた。


514 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:14:42 p9yjdTuI0

A2の中の防衛本能があれだけは避けなければならないと警告する。
だが無情ながら身動きを許されない状況ではそれも叶わない。絶体絶命の状況下でA2はある決断を下す。
それは決して約束を諦めることでも、自分の身を犠牲にすることでもない。己が持つ唯一の打開策だ。


「――――う、あああぁぁぁぁッ!!」


B(バーサーカー)モード。
ヨルハ機体の中でもA2のみが発動できる特殊機能。
身体能力を底上げする代わりに己の体力と防御力を犠牲にする切り札的立ち位置にあたるモードだ。
急激な排熱によりA2の身体が真っ赤に染まり発生した陽炎が空間を歪ませる。奇しくもA2は桐生と同じ赤色を纏うこととなった。

Bモードの恩恵により倍増した筋力が無理やり桐生を引き剥がす。
狼狽が交じる桐生よりも辛うじてA2の方が速い。黒剣を横に構え回転斬りの要領で一閃を放った。
桐生の胸に横一文字の裂傷が走り紅蓮の花が咲き誇る。噴水の如く立ち上がるそれは勝利を確信させるには十分すぎた。


――当たった!


手応えはあった。これ以上ないと断言できる一撃だ。
ゆらりと糸が切れた人形のように崩壊する桐生を尻目にA2は余韻の息を吐く。
まさか初戦から切り札を使う羽目になるとは思わなかった。もし変に勿体ぶっていたなら負けることはなくとも深手を負っていただろう。
この男から支給品を回収したのち、休める場所で傷ついた身体の修復を――


515 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:15:14 p9yjdTuI0



「――――おい」



ぞくり、背中を凄まじい悪寒が駆け抜ける。
生存本能に従い勢いよく跳躍し距離を取る。身を翻した先には、やはりいた。
脇腹を貫かれ、胸を裂かれ、それでも膝をつかない男が。

「なぜ……なぜ立っていられるんだ!?」

声を荒げるA2はひどく感情的だ。
当然だ。即死級の攻撃を既に二度も受けているのにこの男は未だ倒れないのだから。
あんな傷アンドロイドでも立っていられるのがやっと、人間など立つことは愚か呼吸することさえ困難な状態なはずなのだ。
それでもこの男は命の煌きを失わない眼光でA2を睨む。対峙したことのない現象を前にA2は初めて恐怖という感情を抱いた。

「……てめぇら、鉄の塊には……、……わからねぇかも、しれねぇけどな……人間は誰しも、誰かに助けられて……生きてんだ。それに、カタギもヤクザも、関係、ねぇ……」

息も絶え絶えに桐生が紡ぐ。
その目は既にA2を見ていない。見ているのは遠い確かな記憶。
自分を、自分の周りを助ける為に自ら犠牲になった尊い人々。
風間、シンジ、麗奈、由美、そして錦山。その誰もが確かな覚悟を携えて誰かを助けてきた。


「俺は今まで、沢山の人間に助けられてきた――だから今度は、俺が助ける番だぁッ!」
「うるさい! ――そう言ってお前ら人類は争ってきたんだろうッ!」


気力を振り絞る桐生は再び拳を構えた。
吠えるA2は今度こそ確実に殺そうと剣を斜めに構えて目前の強敵へ迫る。
瀕死の桐生にそれを防ぐ手段はない。ならば迎え撃てばいいまでだ。


ドォンッ、と爆発音が響く。
いや、本当に爆発したわけではない。そう思わせる衝撃がA2のみぞおちに叩き込まれたのだ。

――虎落とし。

本物の虎の頭蓋をも叩き割る最強のカウンター技。
脱力の型から転じて腕のみに力を注ぎ解き放たれる威力たるや、A2の情報データから無理やりに例を引き出すのならば”砲撃”という言葉がもっとも近かった。
そしてその砲撃は、Bモードにより耐久性が低下した装甲で受けるにはあまりにも膨大過ぎた。


516 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:16:41 p9yjdTuI0

意識が飛ぶ。
過剰なダメージにより強制的にスリープモードに突入し、一秒後に再起動する。
その空白の一秒間は戦いの場において決定打となりうる。事実、目を覚ました途端A2の頬が殴り抜かれた。
Bモードが解除されていたおかげで先よりもダメージが軽減され意識を保つことに成功したが、尻餅をつく形で大きく体勢が崩される。
砂嵐じみたノイズに邪魔されながらもA2の視覚機能は確かに第二の拳を振り上げる桐生の姿を映し出していた。
咄嗟にA2は防御態勢に入ろうとするも身体が動かない。ダメージのせいではなく、もっと別の何かが身体に張り付いて離れないのだ。
それが”恐怖”という感情によるものだと、A2自身は理解できなかった。


――――やられる!


その拳を見てA2が出来たことといえば自分の敗北を予感することだけだった。
2Bが託した記憶が、意志が、音を立てて崩れ落ちる。桐生一馬という人間に対する恐怖と2Bへの無念が織り交ざりぎゅっと目を瞑った。

しかし、備えていた衝撃はいつまで経っても訪れない。
恐る恐る開かれたA2の目は次の瞬間、驚愕に見開くこととなった。



「まさか、こいつ――――死んでいるのか!?」



A2のまさかは当たっている。
桐生一馬は今まさにA2を討たんと拳を振り上げたその姿勢のまま――死んでいたのだ。

死してなお桐生は倒れない。
細められた眼光も、鬼神のような表情も、幾百と振るわれた傷跡まみれの拳も、全てが生きていた時と変わらない。
永遠に動くことはなかれど、なおも猛威の名残を見せるその雄姿にA2は息を呑んだ。


517 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:17:05 p9yjdTuI0


「――――……」

おかしな話だ。勝者が敗者を見上げ、敗者が勝者を見下ろしている。
勝った気など微塵もない。勝利の余韻など与えてくれない。
A2の心に渦巻くのは自分が死んでいたかもしれないという恐怖と、桐生が見せた生き様への羨望だけ。

羨ましかった。
他者を守るために命を懸け、最期までその使命を果たした桐生一馬が。
A2の目的はこの殺し合いを生き残り、主催者を殺し、元の世界を守ること。
しかしその道があまりにも険しいものなのだということは今しがた思い知らされた。桐生のような猛者が他にもいたのなら、と考えるたびにどうしようもない不安が首をもたげる。

A2の覚悟は決して弱くない。
しかし、桐生が持つような揺るぎない信念と比べるとどうしても不安定だ。
だからこそそれを自己犠牲という名の鎖で縛り付ける。もし目的を果たせなくとも自分の命が続くまでは足掻いてみせようという死を前提とした思考を行動材料にして。

暫しの静寂の後、立ち上がったA2が桐生と対等な目線で睨み合う。
そうして桐生の瞳を見つめたまま時が過ぎ、踵を返したA2はよろよろとその場を立ち去る。
怒りのままに桐生の遺体を殴り倒すことも出来た。しかし、A2の心に芽生え始めた何かがそれを許さなかった。
この男の誇りを汚してはならない。そんな人間臭い感情がA2を抑え込んだのだ。


この戦いで負ったダメージは深刻だ。すぐにでもどこかで休息を得なければならない。
おまけにBモードにより肉体を酷使したからか心身共に疲労も大きい。
そうしてA2の向かう先には一軒の空き家と――――それを背にする一人の少年がいた。


「こんばんは」


少年の言葉にA2は無言を貫く。
返事をする気力さえ湧かなかった、というのもある。
しかしそれ以上にA2は警戒した。少年自身から発せられる闘気と、それに従う二体の獣を。
その獣の内の一体はオタコン達と邂逅した時に見たものと一緒だ。同一の個体か別の個体か、そんな余計な思考をかなぐり捨てて戦闘態勢に入る。
それを見た少年、トウヤはどこか愉しげに帽子を深く被り直した。


「じゃあ、始めましょうか」
「――っ!」


不気味なまでに澄んだ声色は戦闘開始の合図。
夜明けは近い。しかし太陽を拝める確証はない。
トウヤが指示を出すのとA2が疾走するのは全くの同時だった。
これは呪いか。それとも罰か。戦士たちに科せられた殺し合いの運命は今、起伏を迎え始める。





518 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:17:40 p9yjdTuI0


藍色と橙が混じる黎明の空の下で一人の男が影を伸ばす。
涼やかな風を受ける男は既に息を引き取っているとは思えないほど精悍で、今にも動き出しそこにいたはずの敵を殴り出しそうだった。

その男の名は桐生一馬。
神室町の生ける伝説と呼ばれた男。
伝説の名を冠るに相応しい英姿は、生き様は、誰にも汚すことは許されない。
確たる強さと信念を掲げ生命を失ってもなお伝説を築き上げるその男はまさしく――龍が如く。



【桐生一馬@龍が如く 極 死亡確認】
【残り65名】

※桐生の支給品は遺体の傍に放置されています。
※デザートイーグル@BIOHAZARD 2はF-4のどこかに弾き飛ばされました。


【F-4/市街地/一日目 黎明】
【ヨルハA型二号@NieR:Automata】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、視界にノイズ、全身に銃創(行動に支障なし)
[装備]:カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、煙草@METAL GEAR SOLID 2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、自分の世界の未来を守る。
1.目の前の敵への対処。
2.休める場所を探し傷を修復する。
3.あの人類(桐生)のようなやつが他にもいるのか?

※2Bの記憶データを受け継いだ直後からの参戦です。
※ブレイジングウィングが使えるかどうかは後の書き手さんにおまかせします。

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、モンスターボール(ダイケンキ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.目の前の敵と楽しむ。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。
4.バイバニラを回復させたい。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:健康
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。

【バイバニラ ♂】
[状態]:ひんし、左の顔の左目失明
[特性]:アイスボディ
[持ち物]:なし
[わざ]:ふぶき、ラスターカノン、とける、ひかりのかべ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.……。

【ダイケンキ ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:ハイドロポンプ、ふぶき、シザークロス、アクアジェット
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンを探す。
1.トウヤには従いたくない、が……。
2.オタコン達が気がかり。






519 : その男、龍が如く(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:18:15 p9yjdTuI0


オタコン達は既に鬼門であるF-4を抜けていた。
代償として倒れ込むようにしてオタコンが歩道へと崩れ落ち、滝のように汗を流していたが。
これ以上動くことは出来ない。二度目の限界を迎えた足はもはや感覚がなく不随になったように思えた。

それでも生きている。
A2とトウヤの二人の危険人物と遭遇してなおオタコンとシェリーは無傷でいられている。
桐生があの場に残り、ダイケンキを譲ったことにより今のオタコン達がいるのだ。
常に誰かを犠牲にすることでこの自分達の命は繋がれている。迫る明け方の空を視界いっぱいに映すオタコンは己の無力さを痛感せざるを得なかった。

「ねぇ、オタコン」
「……なんだい?」

傍らでぽつんと座り込むシェリーが声を掛ける。
良い予感はしなかった。そしてそれは的中することとなる。

「なんで……抵抗しなかったの?」

その質問にすぐに答えることは出来なかった。
それはA2に対してだろうか。それともトウヤに対してか。
きっと両方なのだろう。何も知らない少女から紡がれるどうしようもない嘆きをうるさいと一蹴できるほどオタコンは前を向けていなかった。

「どうしてカズマとダイケンキを見捨てたの!?」

シェリーの言葉が痛い。
蓄積された心労に一つ、また一つと重りが乗せられる。
シェリーにだって彼らのおかげで生きていられるのだということは理解している。
だが理屈じゃないのだ。オタコンが力を持たない自分に嫌気が差し抱え込んでいるように、シェリーもオタコン以上に何もできない自分に苛立ち、身近な相手に理不尽な怒りをぶつけている。

「……ごめん」

長い沈黙をオタコンが謝罪で打ち破る。
シェリーの求めていた答えではない。いっそわがままを言うなと叱ってくれた方がずっと気が楽だった。
結果、謝罪を受けたところでシェリーの心は一層曇りを増すだけだ。自分を抱えて倒れるまで走ってくれたオタコンを困らせているという事実だけが残ったのだから。

二人はそれ以上会話を交わさなかった。
互いに命の危機に直面した疲労が抜けなかったというのもあるが、何を言っても言葉が軽くなってしまうという危惧が本音だ。
それほどまでに二人の払った犠牲は大きい。だからこそ諦めてはならない。
彼らはまだ、生きているのだから。

【E-4/南側/一日目 黎明】
【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(大)、無力感
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。
2.武器や戦える人材が欲しい。
3.もっと非情にならなければならないのかもしれない。

※本編終了後からの参戦です。

【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.オタコンについていく。
2.カズマ……。
3.桐生達を見捨てたオタコンに怒り。

※本編終了後からの参戦です。


520 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/26(金) 12:18:36 p9yjdTuI0
投下終了です。


521 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/26(金) 16:13:03 ZIlg54xA0
投下乙です。
初めての前編後編に分かれてる話ですね。

桐生の敗因は人間だったことですが、桐生が人間だったからこそA2をこれだけ揺さぶれたとも言えますよね。本当に熱い展開でした。

クラウド・ストライフ、チェレン、天城雪子、如月千早で予約します


522 : 名無しさん :2019/07/26(金) 17:35:45 iXvWvNL60
投下乙です
いや…桐生さんやばすぎた
オラオラいいながら敵をぶち抜いて、読みながら「承太郎かよ!?生身でスタープラチナかよ!?」ってツッコんだわw
主催者に真っ先に歯向かった男の早すぎる死は、対主催陣にとっては絶望的だよなあ

そして順調にポケモン増やしてくトウヤが怖すぎる
トウヤの世界線のダイケンキがベル似なこと考えると、パートナーのポケモンって主人に似るものなのかもね


523 : ◆jOkrd9mmNM :2019/07/29(月) 02:28:22 2TrsGric0
リボルバー・オセロット バレット 予約します


524 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:19:35 nBDTs/FY0
投下します。


525 : 奪う者たち、そして守る者たち(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:20:48 nBDTs/FY0
夜空に歌声が響きわたる。
美しく澄み渡り……それでいてどこか悲しみを帯びた歌。

偶然にも、ここ数時間の間にそれを聴きつけた者は居なかった。

「……いつまでここにいるつもりなんですか。」

「千早ちゃんが歌ってるなら、ずっと聴いてたいな。」

その歌声の持ち主、如月千早は、どうも落ち着かないなと思った。
プロデューサーが気遣ってくれているからか、普段のボイストレーニングの時に周りに人が居ることは少ない。
仮に居たとしてもその人もトレーニングをしているので、聴き手として意識するわけではない。一人暮らしであるため自宅での自主トレでも同じことが言える。

逆にもう少し人数がいる前で歌うのなら小ライブとでも割り切ることが出来たのかもしれないが、相手が一人だとそうもいかなかった。

「逃げた方がいいですよ。……ここは私の歌で目立っていますから。」

少し後ろめたさを感じながら千早は言う。

「だったら余計に千早ちゃんをほっとけない。それに……誰か来ても私、多少は戦えるから。」

「戦えるって……殺す気なんですか?」

千早の歌の唯一の聴き手、天城雪子は先ほどペルソナ能力が使えることを確認した。
突然現れたペルソナに千早は驚いていたし、最初の会場でマナに反抗していた人たちやウルノーガといった、ファンタジー地味た力を持った人たちが現実なのだと再認識したようだった。

つまり雪子が殺そうと思えば、ただの人くらい簡単に殺せることを千早は理解している。


526 : 奪う者たち、そして守る者たち(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:21:43 nBDTs/FY0
「……最初の会場でさ、首輪の爆発で殺された人、いるよね。」

そんな千早は、雪子の予想外の切り出しに少し困惑する。

「完二くんっていうんだけど…あの人ね、私の後輩だったの。」

「それは……」

ここでご愁傷さまですと言うのも、何か違う気がして千早は言葉に詰まった。
自分たちが死ぬのも遠くないという意識が根底にあるからだと気付いたのはその直後だ。

「……ここには私の友達もいる。姿は見てないけど恋人だっているかもしれない。私はもう、大切な人たちにあんな目にあってほしくないの。そしてその中には、千早ちゃんも含まれてる。」

一言、もちろん殺したくなんてないけどね、と付け加えた。

「雪子さんは、強いんですね。」

「強くなんか……」
「強いですよ。」

千早は雪子の言葉を遮る。
千早には、大切な人の死を乗り越えて意志へと昇華させている雪子が羨ましく思えた。

千早の家庭は、弟の優の死を乗り越えられずに崩壊した。
もし自分や両親に雪子のような強さがあれば、また違った結果になっていたのではないかと考えてしまうのだ。

「……それなら、私は千早ちゃんの方が強いと思うな。」

「私が……?どうしてですか?」

「自分を持ってるから、かな。」

「……?」

雪子の言ってることの意味が分からず、千早は首を傾げる。

「私は自分では見つけられなかったから。私とはこれだー、って言えるようなもの。」

雪子も同様に、自分には歌しかないと言った千早が羨ましかった。
歌しかないということは、言い換えると歌だけは譲れないということだ。

天城屋旅館を継ぐことが、産まれながらに決まっていた雪子は、継ぎたくもない旅館の女将修行をさせられていた。そんな日常から、いつか王子様が助け出してくれる。そんな幻想を抱き続け、主体的な『自分』の無い毎日を過ごしていた。

最終的には悠のおかげで自分が何だかんだ天城屋旅館のことを大切に思っていることに気付けたため、今では自分が天城屋旅館の跡継ぎであることにある種の誇りも覚えている。
だけどそこに至るまでにずっと感じていた抑圧感や反抗心は、今の自分を少なからず形成している要因なのだ。


527 : 奪う者たち、そして守る者たち(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:22:39 nBDTs/FY0
「いいじゃないですか、誰かに頼ったって。……本当に辛い時に寄り添ってくれる人の頼もしさは知っていますから。」

そうね、と雪子はニッコリ笑って頷く。

その言葉の中で千早が最初に思い浮かべていたのは春香の姿だった。
彼女は自分が本当に辛かった時、こちらが冷たく突き放したにもかかわらず心に寄り添ってくれた。当時は放っておいてほしいと思っていた反面、そんな状況でも気遣ってくれる人がいることに安心感も覚えたものだ。

「ねえ、春香──」

「え?」

雪子が目を丸くして千早の方を見る。
先ほどの自分の台詞を思い返してみて、雪子の名前を呼び間違えていたことに気付く。

「あっ………」

「私、雪子……」

「すみません、間違え──」

「ぷーっ!あははははっ!私春香って名前じゃないよーっ!くくくくくっ……」

突然大笑いを始めた雪子の様子に千早はぎょっとする。

「そ、そんなに面白くないです!」

「だってー……」

雪子と春香と呼び間違えたこと──それは辛い時に寄り添ってくれた春香に対する安心感と同じような気持ちを、今も雪子に対して覚えているということだと千早は気付いた。

「雪子さんって変わった人ですよね…。」

どこか親しみを込めながら、なおかつ本心のままそう言った。

「ね、私も雪子って呼んでよ。雪子さんじゃなくてさ。」

呼び間違えられた春香の名前が呼び捨てだったことが気になったのか、涙を拭いながら雪子はそう言った。

「わ…わかりました。ゆ、雪子……?」

「ふふ、まだまだ慣れなさそう。」


528 : 奪う者たち、そして守る者たち(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:24:00 nBDTs/FY0
「……仕方ないじゃないですか。」

「だったらこれから呼び慣れてほしいな……そのために一緒に生き残ろうよ。」

今度は少し悲しそうな顔で雪子は言った。
その言葉からは、雪子の頭の中からも死のイメージは離れないということも暗に現れていた。
雪子は戦えると言っていたものの、やはり不安なのだろう。


「……そうですね。そう思います。」

千早も思う。
雪子と一緒に生き延びたい。
それは僅かな、だけど確かな生への執着。

「そのためにもまずは支給品、確認しよっか。」

「そうですね、しておかないと……。」


2人はあらかた、支給品の確認を終えた。
千早が普段使っている武器である扇こそ無かったが、中身は『殺し合い』のための道具も入っていた。

「雪子さん……それ、使いませんよね……?」

千早は雪子に問い掛ける。

「なるべく、そうしたいね。」

少し引きつったような笑みで、雪子はそう答えた。


529 : 奪う者たち、そして守る者たち(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:24:43 nBDTs/FY0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「歌が聴こえるな。」

八十神高等学校の近くを通った時、クラウドとチェレンはその声に気付いた。

「目的は何だと思う?」

チェレンの考察力を試すとでも言わんばかりに、クラウドはチェレンに問いかける。

「そうだね……現実逃避とか?」

チェレンが真っ先に思いついたのはその可能性だった。
例えばベルなんかは、急にこんなところに呼ばれれば受け入れられずに奇行に走ってもおかしくないような気がする。

「ああそれと、罠の可能性もあるね。」

また、場所が学校であることを考えると、歌でおびき寄せておいて待ち伏せしている可能性もある。
上の階の者と下の階の者が戦う場合、下の階の者は重力に逆らって攻撃しなくてはならない分不利であるからだ。

「確かにその可能性もあるが……知り合いへのサインという線はどうだ?」

それに対し、最初の会場でティファとエアリスを見ているクラウドは真っ先にその可能性を思い浮かべていた。

「なるほど。確かに声だけなら何とか偽装出来ても歌までは難しいだろうからね。知り合いに自分の存在をアピールするなら効果的だ。」

さらにチェレンは考える。

なぜ自分の存在をアピールする必要があるのか。
殺し合いに乗っているのであれば、精神的に殺しにくい知り合いを集める必要はない。
つまりこの歌を歌っているのは、対主催集団を作ろうと画策している者たちということになる。

基本的にマーダーの立場を取る者は利害が必ずしも一致しないため徒党を組みにくい。
今クラウドと組んでいるのだって、いつ相手に殺されるか分からないという緊張状態を孕んでいる。

だから対主催集団というのはマーダーにとっては厄介な存在だ。2人で組んでいるとはいえ、自分たちにとってもそれは変わらない。
奴らは利害が一致する限り、何人でも徒党を組めるからだ。


530 : 奪う者たち、そして守る者たち(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:25:37 nBDTs/FY0
「やっぱり、早めに潰しておかなくちゃね。」

「そうだな。」

その結論が出るまでに時間はかからなかった。


531 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:27:26 nBDTs/FY0
「あなた達は……?」

唐突に開かれた屋上の扉。
雪子と千早の目の前に、二人の来訪者が現れる。

悪意とか敵意とか、そういった類の感覚ではない。
ただ分かるのは、この人たちは自分たちの時間を壊してしまう人たちだということ。

「私たちは殺し合いに乗るつもりなんてないわ。貴方たちには手を出さない。ただ最後の瞬間まで、彼女の歌を聴いていたいだけ。」

雪子の言葉を聞いて、チェレンとクラウドは現実逃避の仮説が一番近かったことが分かる。

「悪いけどさ、お姉さん。ここはそういう世界じゃないんだ。優勝を目指す僕らにとって、お姉さんを見逃すメリットが無い。」

そう言いながらチェレンはポケットからモンスターボールを取り出し、開閉スイッチに手をかける。

それは、戦いが始まる合図であった。

「リザル、やれ」

床の埃を掃除させるかのように、リザルにこの上なく簡潔な命令のみを与えて動かす。

命令を受けたリザルの槍が、千早の前に立ち塞がる雪子に迫る。


「ペルソナ!」


チェレンはこの時まで、雪子も千早も自分と同じように戦闘能力が無いと思っていた。
いや、チェレンだけではなくクラウドも同じだ。
雪子たちはこんな場所で歌を歌い続けるという、現実逃避じみた行動を取っていたため、戦いというものに慣れていないのだと想像していたのだ。
そのため、本来ならリザル1匹で片付くのだと考えていた。


「来て、アマテラス!」


だが、千早はともかく雪子にはペルソナの力がある。
それも、悠とのかかわり合いの中で雪子のペルソナはコノハナサクヤからアマテラスに進化していた。

雪子の頭上に瞬時に現れたアマテラスは、リザルの槍撃を正面から弾き返す。


532 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:27:54 nBDTs/FY0
「なっ…!」

予想外の反撃にチェレンは動揺する。
その隙に、雪子はアマテラスを動かしてリザルに追撃の一太刀を浴びせんと迫る。
チェレンはリザルをモンスターボールに戻そうとするも、間に合うタイミングではない。

しかしそこにクラウドが割って入る。
リザルへの斬撃は届かず、クラウドのグランドリオンに押し返される。

(これは…支給モンスターか?)

突然現れたアマテラスに対し、クラウドは誤った想像を働かせる。
そしてそのままクラウドは、アマテラスの懐へと潜り込む。
アマテラスの巨体。さらには太刀というミドルレンジ向きの得物。それらを統合すると、近距離の方が攻撃を避けやすいと判断したのだ。

近距離からアマテラスに向けてブレイバーを放つ。

しかしそれは悪手であった。

アマテラスの姿が瞬時に消える。
クラウドはアマテラスを倒すべき敵だと考えていたのだ。

アマテラスはタロットカードの中の存在に過ぎず、実質的にその力を操っているのは雪子である。支給モンスターなどとは異なり、雪子が思い浮かべた行動を終えたら消えるのだ。

ターゲットの誤り。
クラウドの剣は大地を叩きつけるに留まった。

こうして隙の生まれたクラウドを炎が襲い掛かる。
アマテラスは雪子の背後に再び現れており、クラウドの僅かな隙を突いてアギダインを放ったのだ。

(これは……!?)

セフィロスの使うファイガ──あるいはそれ以上の火力の炎に包まれ、クラウドは即座に離れる。


533 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:28:26 nBDTs/FY0
(無闇に近付くのは危険、か……。それなら…)

本来なら、魔法を使う相手には魔法を使わせる暇も与えず接近戦に持ち込むべきなのだろう。
だが、ミドルレンジを薙ぎ払うアマテラスの太刀の射程はなかなか接近戦に持ち込ませてくれない。

アギダインの射程範囲外へと下がったクラウドは、グランドリオンを頭上に構え、ぐるりと振り回す。

「星よ────」


(あれは……何をしているの?)


その動きの意味が分からず、無闇に近付けずに警戒する雪子。いつでもアマテラスを再び顕現できるようにタロットカードを出現させる。


「──降り注げッ!」


そのままクラウドは、剣の回転を止めてその場で振り下ろす。

次の瞬間、星々の六連撃──メテオレインが雪子へと降り注ぐ。
しかしアギダインの射程外まで離れていたため、技の発動から命中までにインターバルがある。
雪子は降り注ぐ星をマハラギオンで全て焼き払う余裕があった。

するとその隙を突いて再び、クラウドが迫ってきていた。
今度はアギダインを放つ時間も無く、雪子はアマテラスの太刀で応戦する。

ギィンと金属音が鳴り響き、アマテラスの太刀とグランドリオンがつば競り合った。


(攻撃が重い……だけど……勝てる!)

(斬撃同士では互角…いや、少し押されている…?)

単純な力比べでは、僅かに雪子の方に分配が上がっていた。

「行け、リザル!」

だがクラウドたちは戦える者が2体いる。
クラウドがアマテラスの太刀を抑えている間、リザルの攻撃への対抗手段は手薄になるだろうと考えた。

モンスターボールから再び出てきたリザルは、クラウドとアマテラスの横を通り抜け雪子本体を狙いに行く。リザルフォス種特有のスピードで、槍の射程圏内に雪子を一瞬で捉えた。

リザルをアマテラスで対処しようとすればクラウドが斬る。
クラウドをアマテラスで止めたままにすればリザルが刺す。
そんな状況が現在作られている。


534 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:29:03 nBDTs/FY0
「無駄よ」

しかしそれは、クラウドにもチェレンにも予想外の結果に終わる。

ひとつ。接近スピードこそ雪子の計算外だったが、攻撃の瞬間にリザルフォスは減速するということ。
そのため雪子は、アマテラスを使わずともリザルの槍撃を躱すことが出来た。

だがそのままリザルを放置すれば、何度も槍を振るわれてクラウドとの応戦への集中力が切れてしまうだろう。

ただしここでもうひとつの要因がクラウドたちの誤算となる。雪子は普段、シャドウと戦う際に扇を用いて戦っていたこと。

扇は剣や槍とは違って、射程がほとんどゼロに等しい武器である。
また、バットなどと比べて重量もないため、鈍器として扱うにもその威力は腕の力そのものへの依存が大きい。

そんな武器を用いて日頃から戦闘をしている雪子は──簡潔に言うと素手であっても最低限は戦えるのである。

「ギャギャ!?」

リザルに最低限の集中力しか払わず、クラウドとのつば競り合いをしながら、雪子はリザルをぶん殴った。

さらに、僅かながらも雪子が有利を取っていたクラウドとのつば競り合いにも決着がつく。
リザルという障害を跳ね除けた雪子は押し勝ち、振り払われたクラウドは飛ばされてチェレンと衝突して両者ともに倒れる。

さて、この状況。
雪子の目の前には、殴り飛ばされ隙だらけのリザルが一匹のみ。
その隙を見逃す雪子では無かった。
雪子の眼前に顕現したアマテラスの太刀が、即座にリザルの身体を横に両断する。

「グ……ギャア………」

両断されたリザルの身体は地面へと力なく倒れ込み、そのまま黒いモヤとなって消え去った。
クラウドとチェレンが立ち上がった時には、既にリザルは絶命していた。

リザルを殺した雪子は、再びクラウドとチェレンの方へとアマテラスの太刀を向ける。

「まだやるつもり?言っておくけど、あなたたちが立ち向かって来ないのなら私は手出しはしないわ。」

武力による抑止力。それが雪子が選んだ手段である。

自分たちに手を出してくれば、それ相応の報いを受けてもらうという、単純明快な脅迫。
天城屋旅館に付きまとってきたレポーター達も、脅迫材料こそ武力でこそないものの同じ理屈で撃退した。
自分の守りたい領域を侵す者に対しては、その手段こそ違えど雪子の取る対応は同じである。


「もうやめて!」


そんな時、後方から叫び声が聞こえた。


「お願い……雪子さん……これ以上戦ってたら……本当に死んじゃう……!」

それは雪子が戦うことでずっと守られている、千早の言葉であった。

「大丈夫。私は負けないから」

「私のために雪子さんが苦しむなんて間違っています……。それだけ強ければあなただけ逃げられるじゃないですか……」

「ううん。」

雪子は首を横に振る。

「守りたいものがあるから、私は強くなれる……それだけよ。」


535 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:29:54 nBDTs/FY0
(これ以上戦っていたら……死ぬ……?)

そんな雪子たちに対し、クラウドは疑問を持つ。
ここまでの戦いでは、自分たちは雪子に完全に不利を取っている。
たった今リザルという戦力を殺されており、さらに剣での力比べでも魔法での威力勝負でもクラウドは負けていた。
これだけ向こう側が有利な状況下である中での千早の発言はやや不自然に思えた。

そしてもうひとつクラウドの気になったこと。
雪子の太刀の扱い方は、お世辞にも洗練されているとは言えなかったということだ。
恐らく普段は、エアリスのような後続支援型の戦闘スタイルを取っているはずだ。

だがそれにしては雪子は強すぎる。
曲がりかりにも星を救った英雄であるはずの自分と接近戦でも渡り合われている。

(こんなにも、俺は弱かったのか?)

後続支援を主とする者にも力負けするほど、自分の力が足りていないのだろうか。
だとするとこの世界に呼ばれている雪子の世界の人物は全員、自分よりも強い可能性すらある。

(俺は……70人の人間を殺さなくちゃならないんだ。それなのに……)

クラウドは自らのネガティブ感情を押し殺すように首を横に振った。

相手がどれだけ強かろうと、自分が今行うべきは目の前の相手殺すことだ。
そのためには慎重に出方を伺わなくてはならない。

(待て、情報を整理しろ。あの怪物はあくまでもあの女の手足のようなもの。それなら……)

グランドリオンを握りしめ、破晄撃を放つ。

雪子がそれを躱せば千早に当たってしまう。
充分回避出来る距離ではあるが、アマテラスの太刀を用いてはじき返す。

(っ…!居ない…!?)

だがアマテラスの巨体を眼前に配置することで、雪子の視界の大部分が一時的に塞がれる。

その状態のまま敢えてアマテラスの正面に自らの身を置くことで、クラウドは雪子の視界の外へと消えた。

雪子は咄嗟にアマテラスを消し、視界を確保する。
その瞬間、飛び上がって急襲するクラウドの姿が顕わになる。

しかし前述の通り、雪子自身にもある程度の身体能力は宿っている。
雪子は身を捻ってクラウドの斬撃を避け、身体を両断されることだけは防ぐ。

「ッ……!」

それでも右腕を斬りつけられ、負傷してしまう。
声にならない声を上げ、痛みに悶える雪子。

しかし緊急回避で体勢を崩した雪子に追撃を加えようとするクラウドを炎が包み込む。

その熱により追撃できずにクラウドは引き下がる。
咄嗟に唱えた、詠唱の短い下級スキルのアギの炎。
下級ながらも相当の威力を発揮するそれは、雪子が後方支援型であるというクラウドの予想が正しいことを示していた。

雪子の言葉からするとこちらから危害を加えようとしなければ攻撃はしてこないとのことではあったが、雪子が後衛であるということは先ほどのアギダインの炎よりもさらに遠距離攻撃の手段も持っているのかもしれない。


536 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:30:26 nBDTs/FY0
「チェレン、お前は離れていろ。」

雪子の攻撃の最大射程がどのくらいかは分からないため、チェレンに避難を呼びかける。
レオナールの死に様を考えると、雪子との戦いに集中している間にチェレンを後方に配置しておきたくないというのも少なからずある。

「チェレン?」

しかし、チェレンからの返事は聞こえない。
チェレンは、戦慄していた。

ダメージを受けて弱っているわけでも、まだポケモンセンターに行くと回復できる瀕死状態でもなく、身体を両断されたことによる明らかなリザルの『死』。

それはパートナーを失った悲しみなどではなく、戦力を失ったことへの悔しさだった。
この世界で自分が生き残れる確率が。さらに言えば、クラウドが自分と組んでいた理由のひとつが、一気に奪われてしまった。

『──俺も邪魔になればアンタを殺す。』

これは数時間前にクラウドに言われた言葉。
リザルという戦力を失った自分は、積極的にクラウドに切り捨てられかねない。
どこかで更なる戦力を手に入れないと、この世界でチェレンが生き残るのは絶望的だ。

(落ち着け……僕はまだ生きている……。まだやり直せるんだ……。とりあえず今は、クラウドの役に立つんだ。そうすればこの戦いが終わった後にもクラウドに殺されることはないだろう。)

話が頭に入っていない様子のチェレンを下がらせることを諦めたクラウドは、再び破晄撃を撃ち出す。
躱せば千早に当たるであろうそれを、雪子はアギで相殺する。

(何か僕にも、できることは──)

チェレンはその様子を、心を澄まして観察していた。

そしてトウヤに勝つために様々な知識を吸収し続けたチェレンだったからこそ、気付く。

雪子がまともに受けた攻撃は、右腕に一発だけであるはず。
しかしその割には、雪子はかなり疲弊している。

それも、たった今破晄撃を撃ち落としたその動作ひとつでも、命が削られているように見えるほどだ。

チェレンにはその雪子の状態を説明することが出来る道具に覚えがあった。

「クラウド、分かったよ。あの人が強い理由。」

「何だと?」


537 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:30:59 nBDTs/FY0
「『いのちのたま』だ。」

その言葉が聞こえた瞬間、雪子と千早の顔色が変わる。
それはチェレンの指摘が正しいということをハッキリ表していた。2人とも、この道具のことを知っている人物がいるとは思わなかったようだ。

「何だ、それは」

「簡単に言えば強力な技が出せるようになる道具さ──但し、自分の命を削るのと引き換えにね。」

そう。
千枝のように物理スキルを使わない雪子のペルソナ能力では身体への負荷はかからない。

そして後続支援型の雪子にクラウドを負かすほどの力があるはずがない。
そもそも、この世界に招かれた参加者の中でもトップクラスの実力者の部類に入るクラウドと1VS1で対決して互角以上に渡り合えるはずがないのだ。

「あんなもの使ってたら、70人の殺し合いに勝つ前に自分の命が尽きるに決まってる。あのお姉さん、バカなのか?」

「………。」

クラウドは何も言わなかった。
自分の命を削りながらも決して逃げない雪子の姿の裏に、自分とは異なる形の強固たる決意を感じ取ってしまったから。

守りたいものがあるから強くなれる──雪子は先ほどそう言っていた。
それは精神論でも何でもなかったのだ。
戦う時に自分が生き残るのを前提としなくてはならないクラウドには、いのちのたまのような道具を使うことはできない。


雪子は、自分の戦闘スタイルが一人で戦うのに向いていないのは分かっていた。
それでも、千早を守りたい。
それでも、あの歌を守りたい。

だから雪子は、支給品の中にあったいのちのたまを使うことにした。
本当に守りたい時に、守りたいものを守れるように。

だが命を捨てるつもりなんてさらさらないはずだった。
可能であれば早期決着。
それが不可能であっても、回復スキルを挟みながら戦う。
そうすればいのちのたまの反動も無いに等しいと考えていたのだ。

だが、そのどちらも不可能であった。
最初のアギダインで勝負を決めることが出来ず、さらにはクラウドが遠距離攻撃を使い始めたこともあり勝負は長引いた。

また、時々回復スキルを使ってはみたのだが──雪子も知らなかった事実がそれを邪魔した。

【この世界では回復スキルが大幅に制限されている。】

元の世界では結構な重症を負っていてもディアラハンを唱えればたちまち健康状態まで回復出来ていたのだが、主催者たちはそのような戦術を良しとしなかった。

回復効果は、元の世界のおよそ10%ほど。
しかも重ねがけをすればするほど遅効性のものとなるため、大きな怪我を負うと回復スキルを10回使える魔力があったとしても動けるようになるまでに時間を要する。


538 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:31:29 nBDTs/FY0
「このまま距離を取って攻撃し続けていれば、向こうは勝手に防いで勝手に倒れてくれる。この戦いは僕たちの勝ちだ。」

千早がいるから雪子は回避が出来ないということを利用し、千早を人質に取るような形での戦術を提唱するチェレン。

確かにクラウドにとっても、その通りに戦っていれば間違いなく勝てる戦いだ。


だが──


「おい、クラウド!何を………」


クラウドはチェレンを無視して雪子の方へと走る。そしてグランドリオンを振りかざし、雪子に斬り掛かる。

「アマテラス、来て──」

「駄目、雪子さ……ううん、雪子。逃げて…!」

まともに応戦できる距離へと向かってきたクラウドを相手に、雪子はアマテラスの太刀を構える。

クラウドの剣技とアマテラスの太刀がぶつかり合う。
それだけの所作でもいのちのたまは容赦なく雪子の命を削っていく。

いのちのたまでクラウドを太刀で圧倒するだけの力を得ている雪子である。
アマテラスの斬撃は所々クラウドの身体にダメージを負わせる。
しかしクラウドの剣の技術も相まって、全く致命傷には至らない。

次第に反動で視界すらぼやけていく雪子。
それに対応するかのように動きが鈍くなっていくアマテラスを、クラウドは容赦なく押し込んでいく。

クラウドはクライムハザードでアマテラスの太刀を飛ばす。
アマテラスの手元を離れた瞬間にその太刀は消失した。

距離を詰めたクラウド相手にはアギダインを唱える時間もない。
もう何もクラウドを止めるものはなかった。

「………すまない。」

雪子が最後に聞いたクラウドの言葉は、そして雪子が最後に見たクラウドの表情は、勝ち残る決意の裏腹に、その代償に奪う命の重さを噛み締めているように見えた。

「千早ちゃん………ごめんね………」

「雪子……嫌だ……そんな………」

クラウドの一閃が、雪子の華奢な身体を引き裂いた。


539 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:32:29 nBDTs/FY0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「あそこでリスクを背負うなんて、合理的じゃないね。」

「かもしれないな……それでも、俺はああすべきだと思った。」

倒れ伏した雪子に縋り付いて泣いている千早を横目に、チェレンはクラウドと話す。

(騎士道精神とやらか?僕には理解できないね。……まあ、するつもりもないけど。)

そんなことよりも、チェレンにはまだやらなくてはならないことがあった。

いのちのたまの情報は、結果論であるがクラウドの役には立たなかったと言える。
ここで戦力を補充出来なかったら、クラウドに邪魔になると認定されて殺されるかもしれないのだ。

「とにかく疲れただろう、クラウド。あっちのお姉さんは僕に任せてよ。」

そう言うとチェレンは、レオナールの命を奪った青銅の槍を手に取って千早を指さす。

もちろん、チェレンが自ら手を下しに行くのはクラウドを労るためではなく千早の支給品の所有権を主張するためである。


「いや、いい。」


だがクラウドは、チェレンの申し出を断った。


「俺たちは強敵を1人殺して充分な戦果を挙げた。それでいいだろう。」

クラウドが思い出していたのは、昔の自分だった。
他人への関心が薄く、何に対しても興味が持てなかった自分────クラウドはこの世界で、そんな過去の自分をやり直したいのだ。

ここで『千早を命にかえても守る』という雪子の決意を踏み躙った先に、クラウドの望むやり直しは無いように感じてしまった。
それは殺し合いの世界では致命的となる感情なのかもしれないという自覚はあるが、クラウドの意識は既に殺し合いを終えてやり直した先にも向かっている。

「……正直、少し失望したよ。クラウド、君は情に流され過ぎじゃないかい。」

だがそんな事情、チェレンからすれば知ったことではない。

「……そうかもしれないな。お前がどうしても行くのなら止めはしない。」

耳の痛い指摘だった。
クラウドとしては、千早を殺すチェレンを止めることはできない。
千早を生かそうと殺そうと、自分が雪子を殺した事実は変わらない。
ここで善人のように振る舞うこと自体がそもそも傲慢なのかもしれないからだ。


540 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:33:14 nBDTs/FY0
自分の方へと向かってくる足音を聞いた千早はチェレンの方へと向き直った。

「あなたが……私を殺してくれるんですか?」

千早の心境は、もはや投げやりであった。
雪子に自分の歌を覚えていてもらうこと。それだけが如月千早の生きた証となるはずであったというのに、それは永遠に閉ざされてしまった。

「ああ、僕は殺すよ。みんな殺してやり直すんだ。アイツに──トウヤに負けた過去を──やり直すんだよッ!」

チェレンは青銅の槍を振り上げる。

最後の時を確信し、千早はそっと空を見上げた。



「──勝てないよ。」


「……え?」


しかし、青銅の槍は千早を貫くことはなかった。


「──やり直したってあなたは勝てない。」


「雪子!」


信じられない光景に、千早は目を疑った。
雪子が立ち上がり、アマテラスの太刀でチェレンの槍を受け止めていた。

いのちのたまの反動を受け続けても、クラウドの斬撃を受けてもなお、雪子は立ち上がっている。

千早を守ろう──そう決めた時、雪子はよりいっそう戦いへの決意を固めた。
その決意が、死ぬほどの傷を負っても耐え抜き、この局面で雪子の足を動かした。

「黙れ……僕は……僕はアイツに勝つんだ!」

勝てない──雪子のその一言で、チェレンは過去の自分を思い返す。

何度トウヤに挑んでも、向こうは涼しい顔で自分のポケモンは打ち負かしていく。必死に指示をして、戦局を分析し続ける自分とは裏腹に、トウヤはどこか退屈そうな表情すら見せた。

どうしようもなく自分が滑稽に映る。どれだけ強さを求めても届かない壁がそこにはあった。

そんなの、認めない。
負け続ける自分なんて、自分じゃない。


541 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:33:49 nBDTs/FY0
雪子にはそんなチェレンの苦しみが理解出来た。
自分の心の弱さ──シャドウを認めることが出来なかったかつての自分。

だけど、そのままじゃ勝てるはずがない。
自分自身を受け入れられる強い心が力へと変わる。まずは自分の弱さを認めないと前になんて進めない。
それがマヨナカテレビを巡る一連の事件で、自称特別捜査隊の仲間たちと一緒に見つけた答えだ。

自分のシャドウを受け入れられたのは、助けに来てくれた鳴上くんたちや、自分の弱さを打ち明けてくれた千枝のおかげだ。その時のように、チェレンにかけたい言葉はたくさんあった。手を差し伸べたいという気持ちも少なからずあった。

だけどもう、残された時間は長くはないみたい。

「続きは"向こう"で話しましょう。」

「な、何を…………うわあああああああああああああああ!!!!」

マハラギダイン──これが本当に雪子の最後の力。
クラウドは分からないけれど、チェレンはこのままだと間違いなく千早を殺す。
彼女を守るためには、ここでチェレンを殺しておかなくてはならない。

チェレンの身体を、雪子の決意の現れとも言える灼熱の炎が包み込む。

(僕は………やり直すんだ………そしてあの頃に──)


身体を焼き尽くす業火の中、チェレンはさっきよりもさらに遠い記憶を思い出していた。
あれは、アララギ博士からポケモンを貰って旅立つ、前日の話────



『ねえねえ!トウヤ!チェレン!明日からやっと、ポケモントレーナーになれるんだよね!』

『ああ、そうだな。』

幼なじみのベルが話題を振って、トウヤがそれに同調する。

いつもの光景だ。
何度も何度も繰り返してきた、いつものやり取り。

『いっぱいポケモンバトルしようね!そしていっぱい競争とかしちゃって、お互いに高め合うの!もうわくわくしちゃうよね!』

『絶対に負けないぜ、チェレンにもベルにも。』

だけど僕は、こんなやり取りが大好きだったんだ。
だから旅立つのが不安でもあった。
こんな日常が消えてしまうことが、怖かったんだ。

『でもやっぱり僕は思うんだ。明日から皆旅立って、会えることも少なくなるかもしれないけど──』

ああ、そうだ。
すっかり忘れていたよ。
僕の、本当の望みは───またこうやって、三人で仲良く語り合いたかっただけだったんだ。


「僕……は……」


チェレンの身体が燃え尽きる寸前に見たうたかたの夢。
仮にやり直せていたとしたら、その夢は叶っていたのであろうか。それを知る者はもはや誰もいない。


542 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:34:26 nBDTs/FY0
「千早ちゃん…」

雪子は千早の名前を呼ぶ。
次の瞬間、糸が切れたかのようにその場に倒れ込んだ。

「雪子!しっかりしてよ…ねえ……!」

「信じてる…から…。」

「っ……!」

いのちのたまは、雪子の命の最後の灯火を消し去った。
それでもその死に顔は生前にも負けず劣らず凛々しく、美しいものであった。

「──どうして」

「どうして、私なんかを守るんですか……」

どことなく幸せそうな顔で死んでいる雪子に問いかける。
但し、それは二度と帰ってこない。

「どうせ長くない命…それなら、あなたのために死にたかったのに……」

「アンタが本気で死を望むのなら──」


その時、背後から声が聞こえた。


「──送ろうか?」

振り向くと、クラウドがグランドリオンを千早に突き付けて立っていた。
どす黒く濁ったその刃先は、千早の苦しみも全て吸い取ってくれるような気がした。

(この刃を受け入れたら……この苦しみも消えるの……?)

千早が鳥であるのなら、雪子は翼だった。
彼女ならあるいは、自分をこの暗い世界から飛び立たせてくれていたのかもしれない。

だけどもう彼女は死んでしまった。
もはや私は翼をもがれ生きてゆけない鳥。
それならばここで終わるのも、悪くないと思えた。

(──ううん、違う。)

だけどその時、不意に千早は思い出した。
優を失った悲しみにひとつの区切りをつけたあの思い出のライブ中、客席に見えた光景──優が自分の歌を聴いて、拍手を送ってくれている幻──それは例え生と死で分かたれた二人であっても、歌だけは生死の狭間さえも超えて届くのだと自分に訴えていたようだった。

人は死んだら歌えなくなる。
だから優の分も、雪子の分も生きて、彼らのために歌い続けなくてはならない。私の歌を好きだと言ってくれた彼らに、私の届けられる最高の歌を届けなくてはならない。

「私にはまだ、生きる理由があります。」

「……そうか、ならいい。」

クラウドはそう言うと、グランドリオンをその背にしまい込む。
そして雪子の死体の方へと歩いていき、その手のひらからいのちのたまを抜き取った。

「これは貰っていく。お前には無用の長物だ。」

最後にたったそれだけの言葉を残して、クラウドは屋上を後にした。

(もしかしてあの人……私を試したのな……)

雪子を殺したのはあの人だ。許す訳にはいかない。
だけど最後のあの人の行動についてはそう感じた。


そして千早は独り、八十神高等学校の屋上に取り残される。
まだ気持ちの整理はつかないけれど。
あなたを失った悲しみからすぐには立ち直れないけれど。

せめて前を向こう。
私は歌い続ける。
そのために、生き続ける。


543 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:36:58 nBDTs/FY0
【E-5/八十神高校・屋上/一日目 早朝】 

【如月千早@THE IDOLM@STER】 
[状態]:健康 
[装備]:なし 
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個) 
[思考・状況] 
基本行動方針:生き残って、優や千早のために歌い続ける。 
1.気持ちの整理が付くまではこのまま屋上で歌う

※雪子の支給品(1〜2個)が屋上に放置されています。
※チェレンの支給品は焼失しました。



八十神高等学校を後にし、クラウドは一人歩き出す。

(我ながら……らしくないことをしたな。)

結局、千早を殺せなかった。
それは一種の雪子に対する敬意だった。

また、クラウドは雪子が羨ましいと思ってしまったのだ。
大切なものを守る者の強さ──今のクラウドにはそれが足りない。
いのちのたまを持ってきたのは、それを使うためではない。
これから自分が奪っていく60以上の命の重さを背負うため、そして雪子の命の重みを忘れないため。






蒼い鳥 
もし幸せ 
近くにあっても 
あの空へ 
私は飛ぶ 
未来を信じて






そんな時、あの歌声が聴こえてきた。

クラウドは、彼女が守ったこの歌を心に留めていようと思った。
いつか本当に大切なものを守りたいと思った時、彼女の強さを思い出せるように。







あなたを忘れない
でもきのうには帰れない






544 : 奪う者たち、そして守る者たち(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:37:57 nBDTs/FY0
【E-5/八十神高校付近/一日目 早朝】

【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ】 
[状態]:HP1/5  脇腹、肩に裂傷 所々に火傷
[装備]:グランドリオン@クロノトリガー  
[道具]:基本支給品、いのちのたま@ポケットモンスター ブラック・ホワイト その他不明支給品1~2
[思考・状況] 
基本行動方針:エアリス以外の参加者全員を殺し、彼女を生き返らせる。 
1.ティファ………

※参戦時期はエンディング後 
※最初の会場でエアリスの姿を確認しました。

【リザル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 死亡確認】
【チェレン@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 死亡確認】
【天城雪子@ペルソナ4 死亡確認】




【支給品紹介】

【いのちのたま@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】

雪子に支給されたポケモンの道具であり、現在はクラウドが持っている(装備はしていない)。原作基準では、持たせると使う技のダメージが1.3倍になるが、攻撃技を当てるたびにHPが1/10ずつ減るという効果がある。
「装備していると全体的に強くなるが、戦いの中で勝手にHPが減っていく効果を持つアクセサリー枠」くらいの感覚で構わない。


545 : ◆2zEnKfaCDc :2019/07/31(水) 19:38:23 nBDTs/FY0
投下終了しました。


546 : ◆NYzTZnBoCI :2019/07/31(水) 20:46:55 tpc.O6rg0
投下乙です!
読んでる途中、雪子メチャクチャ強いなって思ってたらそういう理由か……色々な意味で予想を裏切られました。
初めての死者二人となった作品ですね。いや、リザルを含めるなら三人か。
誰かが加勢しに来てくれたり、クラウド達が気を変えてくれたり、そういったご都合主義が訪れず四人の参加者が必死にもがく作品。
殺し合いの非情さを突きつけられると同時に、命の尊さを強く押し出している話だと感じました。

己を犠牲にしてまでも千早を守ろうとする雪子も、それに羨望を抱きより決意を固めるクラウドも、誰よりも生きたいと願い最期に本当の自分を見出すチェレンも、雪子の遺志を継ぎ生きる理由を得た千早も。
その四人全員が輝いて見えました。

ただ一点、読んでいて気になったのが時折千早と雪子の名前がごっちゃになっていることですかね。
自分が気がついたのは前編の

>千早が普段使っている武器である扇こそ無かったが〜

という文と、千早の基本行動方針の部分ですね。
おそらく誤植だと思うので、wiki登録の際に修正させていただきます。


547 : ◆JOKER/0r3g :2019/07/31(水) 21:01:18 XAIC/ZKQ0
お初にお目にかかります。
里中千枝、ゼルダ、錦山彰、グレイグ、クロノで予約させていただきます。


548 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/01(木) 23:50:41 kw9IxjX60
これより投下を開始いたします。


549 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/01(木) 23:56:55 kw9IxjX60

「――ペルソナァッ!」

鬱蒼と茂る木々の群れ、日も差さぬ暗闇の中。
思わず陰気に包まれそうなその空間に、一つの声が溌剌と響いた。
放たれた声の主は、見るからに体力が自慢という様子で常にステップを崩さぬ緑ジャージを着た茶髪の少女、里中千枝。

気合と共に高く振り上げられた彼女の右足は、美しい軌道を描いて宙に浮いたカードを捉える。
それを受けてパリンと割れるカードに伴うように、彼女の傍らに像が一つ浮かび上がった。
トモエと呼ばれるそれは、千枝の心の具現(ペルソナ)だ。

その手に持つ薙刀を縦横無尽に振り回したトモエは、主の激情に応えるように敵対者へと向かっていく。

「――ナイト!」

「キリッ!」

一方で、千枝と対峙する白いドレスに金髪の少女――ゼルダもまた、自身の使役する使い魔へと指示を投げる。
威勢よく返し主の願いを叶えんと飛び出したその魔物は、キリキザンと呼ばれるポケモンの一種だ。
その身を包む甲冑のような甲殻と頭から伸びる一陣の刃は、彼が戦闘に長けた存在である事をこれでもかと主張している。

ペルソナとポケモン、それぞれ異なる世界の異なる理の中で、しかしどちらも主の命に従い戦ってきたその力は、瞬間激突する。
トモエの薙刀とキリキザンの鋭利な刃。それぞれの得物がぶつかる甲高い金属音と共に周囲に発生したのは、あまりのエネルギー故に両者の間に収まりきらなかったインパクトの波だ。
木々が呻き、葉が吹きすさぶそれは、しかし歴戦の少女たちにとっては既に日常も同然の事。

無様に悲鳴を上げることもしないが、それでも予想以上のその威力は、相手の実力を推し量るには十分すぎるものだった。

「トモエッ!」

ギリギリと鍔迫り合いを繰り広げる自身の使い魔にいち早く声をかけたのは、より使役する戦いに慣れた千枝のもの。
主の意を汲み取って瞬時に退いたトモエはそのまま、手に持った薙刀を頭上に掲げ勢いよく振り下ろす。
脳天落としの名を持つその一撃は、千枝が長らく愛用してきた必殺の一撃だ。

こうした物理技は放つだけで自身の体力を大きく消耗するのが玉に瑕だが……この相手に全くのリスクなしでは勝利を掴めないと判断したうえでの行動であった。

「キリィッ!」

逃げられぬ、と判断したか。舌打ちにも聞こえる鳴き声と共にキリキザンはその一撃を自身の両手のみで受け止める決断を下した。
果たして瞬間、クロスされたその腕の上にトモエの薙刀の刃先が一寸の躊躇もなく到達するが、爆発音にも似た衝撃を伴って接触した彼らの攻防は、先ほどのような拮抗を見せず。
千枝の身を削って放たれたトモエの一撃は、何らの技を用いずただ受け止めただけのキリキザンの身体を、彼が立つ地面一帯ごと大きく沈ませた。

「キ……リ……!」

呻きながらも、キリキザンは萎えぬ“まけんき”で薙刀の先にあるトモエを睨みつける。
だがそれに、彼女は応えない。何ら変わらぬ無表情で以て、その薙刀をキリキザンに突き立てんとする。

「させないッ!」

だが瞬間響いたのは、意識外から届いた女の声だった。
思わずそちらを振り向いた千枝は、キリキザンを使役するゼルダが千枝自身に向けて放った三本の矢を視認する。
ただの矢程度、どれだけ勢いづいていてもトモエならば十分対処が可能だが、千枝には回避も撃墜も難しい。

「お願いッ!」


550 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/01(木) 23:58:49 kw9IxjX60

焦りと共に放たれた千枝の叫びに呼応して、一瞬のうちに千枝のもとへ戻ったトモエ。
横薙ぎに薙刀を振り、放たれた矢を全て撃ち落とすがゼルダの攻撃は止むことを知らない。
チラと視線を動かせば、動きは緩慢ながらも穴から這い上がろうとしているキリキザンが視界の端に映る。

「ナイト、魔物ではなくあの女性を狙ってください!恐らくは彼女が死ねば魔物も消えるはず!」

ゼルダの飛ばした指示に頷くキリキザンを見ながら、このままではまずい、と千枝は内心で歯噛みした。
恐らくはこの戦いの中で注意深く観察をすることで、ゼルダは自分とペルソナは一心同体、文字通りの運命共同体であることに気付いたのだろう。
だからこそキリキザンを助けるという名目の中で放ったのだろう矢を未だ途切れさせることなくこちらに向け放ち続けているのだ。

どうするべきだ、と思考を巡らせる。
後数秒ほどで自身はゼルダの攻撃を躱しながら、トモエでキリキザンの相手もしなくてはならないという状況に追い込まれるだろうことは容易に想像ができる。
ただの木製で狙いもそこまでの精度ではないゼルダの矢も、千枝にとっては一本一本が致命傷足り得るのだ。何としてでも躱さなければならない。

だがそうして自身の身を案じて逃げを打っているだけではペルソナに集中を注げず、待っているのはジリ貧からの敗北だ。
キリキザンを引き付ければ或いはゼルダからの矢は誤射を恐れ止むかもしれないが、それでもトモエを一瞬でも突破されれば自分の負けである。
そして、この場で負けてしまうということは、つまり――。

(――ッ)

脳裏に蘇るは、同郷の仲間であった巽完二の最期の瞬間。
呆気なく、抗いようもなく、彼はその命を奪われてしまった。
あんな風には、なりたくない。私は、こんなところで死にたくない。

死の恐怖に打ち震えた彼女はその全身に突き抜けるような悪寒を感じ……そして皮肉にもそれによって冴えた頭が、この状況を打破しうる戦法を閃いた。

「ペルソナッ!」

キレの衰えぬ後ろ回し蹴りで、彼女は勢いよくカードを蹴り飛ばした。
はじけ飛んだ金色のカードの破片が、ペルソナに次の行動を指し示す。
主の命を受け縦横無尽に薙刀を振り回したトモエの背後から、全てを凍てつかせるような冷気を纏った暴風が到来する。

ブフーラと呼ばれるその魔法は、その場に吹雪を呼び起こす超常のもの。
予想だにしていなかったその反撃方法に、ゼルダの矢は狙いを外し彼方へと飛んでいく。
だが、千枝の反撃はこれで終わったわけではなく。

彼女の放った吹雪は矢を飲み込んだ勢いそのまま、ゼルダの元へとその冷気を届けようとしていた。

「嘘、そんな、私……!」

勝利を確信しかけていたところに予想外の攻撃を受け、思わず立ち尽くすゼルダ。
何の有効な対処も出来ぬまま、その身体は吹雪に蹂躙――されない。
ブフーラがゼルダに到来するその直前、彼女が騎士と呼ぶ僕がその身を盾にして吹雪から彼女を庇っていたからだ。

「ナイト!」

呼ばれたキリキザンはしかし、振り返るどころか鳴き声をあげる余裕すらない。
それだけの傷を負ってなお主の盾になろうとするのは、それが自分の使命であると、ただそれだけのこと。
主が誰であれ情を介在させず忠実なる僕であろうとする彼の姿勢は、ある種ドライとさえ言える。

だがしかしゼルダは彼の姿に、自身のナイトに相応しいと感じるだけの気高い精神を見た。
そして同時に、彼にこんなところで倒れてほしくない、とも。

「お願い、負けないで……私のナイト!」

必死に手を合わせ、キリキザンの背に祈るゼルダ。
果たしてその願いは――届いた。


551 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:01:09 mi3XG.sc0

「キリィ!」

鳴き声と共に吹雪を蹴散らし飛び出すキリキザン。
その身にブフーラによるダメージがさほど見られないのは、はがねタイプである彼にこおりタイプの技は“いまひとつ”の相性でしかないからだ。
異なる世界の異なる理の中にあってなお、キリキザンの身体は吹雪を押しのけダメージを軽減したのである。

だがそんなポケモンの相性など、魔法を放った千枝は勿論キリキザンを使役するゼルダも知る由はない。
だからこそその場にいる誰もが、『ゼルダの願いが届いた』のだと、そう思ってしまうのも仕方のない話であった。

「キリッ!」

呆気にとられた千枝を置いて、トモエの目の前にまで肉薄したキリキザンの右腕が眩く光を放つ。
まずい、と千枝は咄嗟に防御態勢へ移行しようとするが……しかしもう既にキリキザンの攻撃は完了していた。

「キリキ……ザンッ!」

「きゃあ!」

横一文字に浮かび上がる斬撃の跡は、彼の持つ“つじぎり”の一撃が決まった証だ。
トモエへと放たれたその攻撃のダメージはそのまま千枝へとフィードバックし、ただならぬ衝撃と共に彼女を後方へと吹き飛ばす。
小さく悲鳴をあげた彼女の身体はそのまま背中から勢いよく木へ打ち付けられ、そのまま重力に伴って地に落ちた。

言うなればそれは、千枝にとってはどうしようもない確かな隙。
元の世界であればシャドウに追撃を許していただろうこの状況はしかし、こと仲間もいない今に関しては文字通り命取りであった。
そして当然ゼルダも、こんな絶好のチャンスを見逃しはしない。キリキザンへと指示を飛ばし、今度こそ千枝の息の根を止めようとする。

(嫌……!死にたくない……!)

刻一刻と迫るキリキザンの躊躇なき刃を前に、千枝はどうにか延命の余地はないかと思考を巡らせる。
回避……それは叶わない。全身に迸る痛みが、彼女の行動を阻害していた。
トモエでの防御……それも駄目だろう。薙刀で防御出来れば幾らかマシかも知れないが、それでも彼女へのダメージは自分へのダメージと同義なのだから。

では、どうしようもないのか?
そう考えて再び、先ほど命を奪われた完二の姿が瞼の裏を過った。
あんな風に死にたくない。この殺し合いが始まってから幾度となく考えたそのフレーズが、限界を迎えつつあった彼女を突き動かす。

抱いた恐怖を枷ではなく糧として、千枝は痛む体を押し勢いよく立ち上がった。
今までを忘れさせるようなその俊敏な動きにはキリキザンも目を見張ったが、しかしそれで今更攻撃をやめるはずもない。
刃を研ぎ澄まし迫る彼を前に、千枝は最後の力を振り絞りカードを蹴りつける。

「死んで、たまるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

全身全霊を込めた絶叫と共に彼女がトモエへと命じたのは、今現在の彼女が持ちうる最強の切り札。
彼女に残った体力の全てを代償として放たれたその一撃の名は、ゴッドハンド。
まさしく神の鉄槌と呼ぶに相応しい黄金の巨大な拳骨は、技を放たんと構えていたキリキザンへと刹那の後に到達する。

「キリィ!」

だがキリキザンは、その攻撃を回避しようとはしない。
どころかまるでそれを待っていたとでも言わんばかりに、その身体を白銀に光り輝かせゴッドハンドを受け止めようとする。

「行っけぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「キリキ……ザンッ!」


552 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:03:49 mi3XG.sc0

瞬間、千枝の全力を込めたゴッドハンドをその身一つで受け止めたキリキザンもまた、意地で最後の技を発動する。
彼がこの瞬間まで温存したその技の名前は、メタルバースト。
自身が最後に受けたダメージを、増幅して敵へと跳ね返すキリキザンの必殺技だ。

そして、彼が最後に受けたダメージは、もう“いまひとつ”のダメージしか与えられなかったブフーラではない。
ポケモンの技相性を無理矢理はめ込むのであればかくとうタイプの――つまりはがねとあくのタイプを持つキリキザンには“ばつぐん”の効果を持つ――ゴッドハンドの一撃であった。
勿論ただでさえ高い威力を持つゴッドハンドを4倍にも増して受け止めるのは、キリキザン本人にも多大なダメージを与えるが……その分だけ、メタルバーストの威力も上昇する。

意地と意地のぶつかり合い、どちらも一歩も引かぬ頂上決戦が、そこにはあった。
どちらも満身創痍故に、どちらも負けられぬ故に、そしてどちらも自身の技に絶対の自信を持つが故に。
どちらも限界を超えてもなお倒れることはなく、限界を超えたその激突は、周囲の木々を嘶かせ薙ぎ倒させる。

「ペルソナァァァァ!!」

「キリィィィィ!!」

そしてキリキザンの身体は遂に、トモエの金色の拳に負けぬほど、否それさえも覆い尽くすほど眩く輝きを放って――。
――深夜を照らしつくす光と共に、辺りは衝撃に包まれた。





夢を……見ていた。
あの子が私よりずっと先を歩く夢。
小さいころから友達で、ずっとずっと自分より可愛くて、いつもいつも自分より皆に期待されてた女の子。

成長すればあの子に並べるかなんて思っていても、自分よりあの子の方がずっと大人になるのが早くて。
気付けばどうしようもないくらい女の子としても人間としても、彼女との距離は広がっていった。
自分が男の子みたいに無邪気に遊んでいるうちに、あの子は慎ましい女性としての礼儀作法を身に着けていて。

自分が将来をどうしようかなんて考えてもいない時から、あの子は次期女将として未来を見つめて頑張っていて。
周りの男の子が可愛いって言うのも、いつもあの子ばっかりで。
それでも自分を一番の親友だって言ってくれるあの子の存在が、嬉しいはずなのにどうしても心苦しい瞬間があって。

だから、そんな息苦しさを覚える日々の中で突然飛び込んできた“彼”は、自分にとって特別なものだった。
初めて出会った、あの子をよく知らない、私とあの子を並べて比較しない男の子。
一緒にテレビの中に飛び込んで、変なクマのマスコットに出会って命を狙われかけて、一緒に街の異変を解決しようなんて言いあった存在。

だから私はきっと、彼に惹かれたんだと思う。
これが恋とかそういう感情で言い表すべきものなのかどうかは正直よくわかんないけど。少なくとも彼は私にとって凄く大切な存在だった。
これから先何が起こったって、その気持ちと感謝に変わりはないはずだとそう思ってはいるけれど。

けれど……結局彼もあの子を選んでしまったのは、どうしようもない事実だった。
色々あってあの子も一緒に力を得て戦う仲間になった後、彼とあの子は仲良くなって、自分の知らない間にお互いただ一人だけの“特別な関係”になっていた。
あの子が私に弾む声でそれを報告してくれた時、親友の恋愛が成就した事は確かに叫んでしまうほど嬉しかった。それは紛れもない事実だ。

だけれどもそれと同じくらいに、自分の手はもうあの子に永遠に届くことはないのだろうという寂しさを抱いたのも、同じくらい誤魔化しようのないくらいの事実だった。
別に彼にあの子じゃなく私を見てほしいだなんて言うつもりはない。っていうかあの子を泣かせるような男なんてこっちから願い下げだし、そもそも彼はそんな人じゃない。
でも、それでも。二人して一斉に私を置いていかなくてもいいじゃないかってそう思ってしまうのもどうしようもない事実だった。


553 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:06:04 mi3XG.sc0

前までは私の特等席だったあの子の隣は、今や彼に取られてしまった。
前までは私と一緒に過ごすこともあった彼の放課後の時間は、今やあの子が独占して付け入る余地なんてない。
当然だよね、分かってる。彼が彼氏だなんて素敵だよね、あの子が彼女だったら、ゾッコンになるって。

でも、私はどうなるの?
二人に置いていかれたら、私は一体自分の存在意義をどこに感じればいいの?
いじめられっ子を助ける正義のヒーロー?それ私じゃないと出来ないこと?わかんないよ、私は一体何なの?

楽しくてあっという間の日々の中、いつもと変わらない仲間たちと一緒に過ごしていても、どうしてもその考えは私の裏側にずっと付き纏ってきて。
いよいよ漠然とした不安が私の声を借りて叫びだしそうになったその時に、私はこの殺し合いに呼ばれてしまった。
言われたことやこの殺し合いの意義なんかは正直わかってないけれど、少なくともこんな所で死にたくはない。

こんなところで死んだら、あの子とちゃんとお別れも出来ない。死因を勝手に霧の仕業にされて私の存在を皆が忘れていくなんてなったら、そんなの耐えられない。
放送で私の名前が呼ばれても、誰も気付いてくれないかもしれない、すぐに忘れてしまうかもしれない。
そんなの嫌だ、私はここにいる。ちゃんと生きてる。他の誰でもない私として。

それに、まだ自分が何をしたいのか、何者なのかもよくわかっていないのに、終わるわけにいくもんか。
私には誰かを殺してまで叶えたい願いなんてないけれど、それでも何も残せないまま死んでしまうくらいなら。
――私は、誰かを殺してでも生き抜いて見せる。





「……うっ」

不意に視界に刺激を感じて、千枝は目を覚ました。
仰向けのまま何とか瞼をこじ開けて空を見てみれば、先ほどよりも空は幾分か赤らみを増していた。
戦いが始まった時間から考えればどうやら少なくとも1時間以上は眠っていたらしい。

のんびりしている場合じゃないかとぼんやりとする頭を振りながら体を起こした千枝は、次に自身の身体と周囲へと目を向ける。
響く全身の痛みはどうやら、気を失う直前あの赤いモンスターが放った技のダメージによるものらしい。
周囲の木々が薙ぎ倒され周囲半径5メートルほどがほとんど更地になっていることを考えると、なるほど彼は身体の小ささに似合わぬ攻撃力の持ち主だったようだと、改めて戦慄した。

――シャドウとの戦いの中でもなかなか目にしないような威力を前にして、彼女が生きていられたのは当たり所がよかったという幸運が一つ。
そしてもう一つは、彼女デイパックの中で眠っている一つのアイテムの効果によるものだった。
守りの護符と呼ばれるそれは、何ら知覚せずとも所有者の防御力を僅かながら向上させる効果を持つ。

千枝が元の世界で使ってきた装飾品と比べても低い効果しか持たぬそれであるが、しかし結果として今それがなければ彼女の命がどうなっていたとも知れないのだから、中々馬鹿に出来ぬ代物であった。

「――って、ぼーっとしてる場合じゃ無い!」

自身の安否や周囲の惨状に気をやっていた千枝であるが、ふと大事なことに気付き声を荒げた。
彼女が気にかけていることは一つ、先ほどまで戦っていた少女はどこにいるのか。
ともかく大慌てで周囲を見渡して、ほどなくして彼女は見つけた。

木の根元を枕代わりにして未だ眠り続ける白いドレスの少女の姿を。

「……こんな子まで、殺し合いに乗ってるんだ」


554 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:09:32 mi3XG.sc0

足を引きずりつつ何とか少女の目の前に立ってから、千枝の口から漏れたのは同情のような響きだった。
先ほどまで命の取り合いをしておいてなんだと言われるかもしれないが、一度寝てすっきりした頭で改めて見てみると、こんな少女と殺し合いをしていたというのが何だか嘘のようだ。
眠っているだけだというのに、そまるで王子を待ち続ける眠り姫のように可憐な彼女の姿を見ていると、今がどんな状況か忘れてしまいそうになる。

「でも、殺さなきゃいけないよね。そうじゃなきゃ、いつか私が殺されちゃうかもしれない……!」

しかしそんな甘い自分を切り捨てるように千枝の口から漏れたのは、やらねばやられるかもという原始的な生存への願望と、何より死への恐怖だった。
今回は確かに自分が相手の生殺与奪権を握っているかもしれない。
だがもしまた襲われたら?最初から自分を狙えばいいと分かっている彼女を相手にして、同じような勝利を掴める確信がどこにある?

浮かび上がる様々な疑問に対して、やるならば今だと心が囁く。
それに反対しようとする正義の味方であろうとする自分を、今の自分にとっては何より生き残ることが第一だと必死に抑え込む。
生きたいという心の声のままにデイパックへ手を突っ込んだ千枝が掴んだのは、鬼炎のドスと呼ばれる一本の短刀であった。

その刀身を隠していた鞘を地面に投げ捨てて、千枝は震える手でそれを逆手に構える。
震えを抑えようと両手で握りしめるが震えは止まらず、生理的な忌避感から込み上げて来る吐瀉物は何とか喉奥に押し戻す。
自分との内なる葛藤を繰り広げながらドスを頭上へ掲げた千枝は、そのままその刃の真下に無防備な身体を晒す少女を置き、その腕を振り下ろす為大きく息を吸い込んで。

「――ふざけんじゃねぇ!」

突如背後から響いた低い男の怒声に、思わず振り返った。





数十分前、A-5エリア、研究所付近にて。
得体のしれぬ存在複数体に襲われた錦山彰は、その身体を休め思考を深めるために海へ向け歩いていた。
勿論向かう先はB-4エリアへと繋がる橋なのだが、そこへ一直線に向かえば先ほどの鳥人間をはじめとして参加者とかち合う可能性が非常に高い。

どころか向こう側のエリアに殺し合いに乗った人物がいれば一本道で襲撃される可能性だって0とは言い切れないのだから、馬鹿真面目に真正面から行くのはハイリスクであった。
なれば一度橋を俯瞰で見られる場所から観察し、横断者などの様子を見たうえで渡ればいいだろうと、そう考え敢えて海沿いに移動するルートを取ったのだが。

「はっ、ツイてるぜ。まさか橋を渡る必要すらなくなるとはな」

そうして海沿いに移動を開始して早々に、止め木にロープで繋がれている一隻の水上バイクを発見した。
白を基調としてところどころに気品を感じさせる茶を織り交ぜたその船はJetmaxと言う逸品である。
一応周囲に警戒しつつ、恐らくは誰かの支給品ではなく現地に元から置かれていた品なのだろうと当たりをつけた錦山は、これ幸いとばかりにその船体へと乗り込んだ。

備え付けられていたキーを回してエンジンをかけ、大海原へと飛び出す。
Jetmaxの凄まじいスピードによって海が水しぶきをあげ幾らかスーツを汚すが、しかしそれに付随する不快感すらも猛スピードで風を切る快感の前には無に等しい。
それでも万が一海中ないしは地上からの攻撃で海に投げ出されれば死は間違いないと、常に視線を動かし警戒を欠かすことはない。

忙しなく視線を動かしつつ、しかし挙動は小心者のそれではなくあくまでも威圧感を持って組長の威厳を周囲へと示す。
誰が見ている訳でもないが、少なくとも自分は見ているのだ。地位に恥じない振る舞いをしなくては。
殺し合いにびくついて恐怖を抱くような小物では、いつまで立っても東城会の頂点になど立てはしない。

そんな風に考えて、錦山は思わず自分自身の思考そのものが馬鹿馬鹿しいと自嘲する。
自分が憧れた風間は、こんなチンケな事を考えたこともないだろう。そんな存在であれば自分は極道なんかを志してはいなかったはずだ。
看板に相応しい所作を心がけてしまった時点で、自分は極道の頂点に相応しくないと自分自身で認めてしまっているようなものではないか。


555 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:12:35 mi3XG.sc0

そんな自嘲を抱いて、自分自身さえ信じられなくなった哀れな不信感の塊は、聞いている方が悲しくなるような乾いた笑い声を漏らした。

(お前は一度だってこんな苦しみ抱いたことねぇんだろうな、桐生)

ただ虚しいだけの笑いを経て、錦山の思考は自身と同じ看板に憧れて極道になった男の事をほぼ反射的に思い出す。
同じ児童養護施設の出で、同じ親に育てられ、同じタイミングで盃を交わし極道の道へ進んだ、かつて兄弟と呼んだ男。
その経緯故に通常極道が兄弟分と認めた相手以上に見比べられ、その度に錦山は見下された。

桐生ならこんな半端なことはしなかった、桐生なら若い奴締めるくらいは訳なかった、桐生なら、桐生なら――。
そんな風に比べられその度に見下される経験の末、いつしか錦山自身も無意識のうちに桐生と自分を比較する癖がついてしまっていた。
その度に自己嫌悪に陥り自分を信じられなくなっていくのだが……しかし長年で根付いた習慣はそう簡単に消えるものではない。

きっとあいつは自分が地位に相応しい振る舞いが出来ているかなんて下らない悩みを考えたこともないのだろうし、恐らくこれから先考えることもないのだろう。
堂島の龍などという大袈裟な異名を付けられても彼は何も変わらなかったのだから、きっとその肩書きが桐生組組長になろうが東城会会長になろうが奴は何も変わるまい。
それこそが極道の看板というものなのだろうと思いこそするが……兄弟と呼んだ男にその風格が備わっている事を純粋に喜べる自分を、錦山は既に遠い過去に置いてきてしまった。

今や自分に残っているのは、変わらなければ生きられなかった自分への無理矢理な自己肯定感と、10年を経てもあの雨の日から何も変わっていなかった桐生への嫌悪感だけだ。
自分は全てを失い全てをただの踏み台として利用することで必死に生きてきたのに、刑務所の中にいただけの桐生はその芯の部分を何も変えないながらもそれでも確かな箔がついていたから。
それを察したのか、自分の組にいたはずのシンジも柏木さんも、ずっと組のために頑張ってきた自分よりも帰ってきたばかりの桐生を持て囃し看板として持ち上げようとした。

まるでそれは、今までの10年間必死に足掻いてきたこと自体が無駄だったのだと、そう言われているようで。
だから錦山はもう桐生と兄弟ではいられなくなって、彼と兄弟の縁を絶った
これ以上彼と比べられ続け見下され続ける人生は、あまりに惨めだったから。

(だってのに結局自分で自分を桐生と比べてるんじゃ、救いようがねぇ)

深い溜息と共に、自身の中に募る苛立ちを吐き出す。
どうしようもなく混線する思考をはっきりさせたくて、少しでも桐生のことを忘れたくて、彼の身体はひたすらにニコチンを欲していた。
流石に両手を離して水上バイクの上で吸うわけにはいかないかと、錦山は適当な陸地を見つけそこに上陸する。

ロープで船を安定させることも忘れることなく久しぶりに地に足着いた錦山は、木々の中に身を隠しながら思い切りその肺に煙を吸い込んだ。
肺を満たし血管を駆け巡る快楽物質によって薄れていく苛立ちが、曇った思考を晴らしていく。
ようやく冷静な思考を取り戻した爽快感と共に息を吐き出した彼は、瞬間とある違和感に気付いた。

(……誰かいんのか?)

それは、深い森の中で動く何者かの気配。
微かに聞こえる音から察するに、息を潜めてこそいるが恐らくこちらに気付いているわけではあるまい。
逃げるべきかと考えて、寧ろ奇襲するべきではないかと冷静な自分がその声を制する。

そうだ、自分は無力な狩られる側の弱者ではない。寧ろ狩る側であり利用する側の強者なのだ。
自身を鼓舞しながら手元に拳銃を手繰り寄せた錦山は、なるべく音を立てぬよう気をつけながら気配の元へと足を進める。
そしてそれから目標を見つけるのにさほどの時間は要しなかった。

何故ならすぐに彼は、まるでそこだけ切り取られたかのように半径5メートルほどの範囲の木々が薙ぎ倒された空間を見つけたのだから。


556 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:14:29 mi3XG.sc0

(これ、戦っててこうなったってのか?やっぱここに来てる奴はただもんじゃねぇらしいな……)

明らかに人智を越えた破壊の跡は流石の錦山と言えど戦慄を禁じ得なかったが、それで怯むほど錦山は伊達に修羅場を潜ってはいない。
油断なく周囲に気を配りこの惨状を生み出した張本人を探して、見つける。
魘されながらもその瞳を閉じ眠りこくる二人の少女の姿を。

(……マジかよ)

今度こそ、錦山は絶句する。
嶋野組の組長である嶋野太や桐生のような大男が全力で戦い合えばこれだけの被害がもたらされるというのも――それでも正直苦しいが――理解出来る。
だが実際には、恐らくこれだけの惨状を森に翳したのは年端もいかない大凡高校生ほどの女であるということは、錦山の常識からすればあまりに考えがたく。

思わず言葉を失った錦山はそのまま、この隙に得体の知れない彼女らを殺した方がいいのではないかと囁く自分の心の声を聞いて、しかしすぐに頭を横に振った。
極道を舐めたケジメをつけさせるというのならともかく、何の恨みもない堅気の寝込みを襲って殺すほど錦山は腐り切ってはいない。
少なくともここで彼女らを殺したところで自分の地位は上がらないのだし、どころか女子供相手にこうまで卑怯な真似をしたとあってはむしろ自分の格が下がろうというもの。

(まぁ、そうと決まれば奴らが起きる前にさっさと撤収するべきか)

思考を終え、触らぬ神に祟りなしと錦山は彼女らに無干渉のままその場を立ち去ることを決意する。
だが、息を潜めゆっくりと後方へ下がろうと立ち上がりかけたその瞬間に、状況は再び動き出していた。
小さく呻きながら、片方の緑ジャージの少女が起き上がったのである。

(クソ、面倒くせぇな)

聞こえぬように舌打ち一つ鳴らして、錦山は仕方なくその場に再び座り込む。
幸いにしてこちらを気遣う様子は一切見られないし、恐らくはそれだけの余裕もないらしかった。
であれば少しの間やり過ごせば勝手にどこかに行くだろうし、最悪また閃光玉を使えば安全に離脱することが出来るはずだ。

出来ればこんな破壊力を持つような相手とタイマンでやりあいたくはないなと心中でごちた錦山を尻目に、緑ジャージは一人で大声をあげて周囲をキョロキョロと見渡していた。
どうやら気絶する前に戦っていた白いドレスの少女を探しているらしいそれは、殺し合いの殺伐とした空間の中ではあまりに慌ただしく悪目立ちしている。
誰かが気付いてこちらに向かってくるようなことにならなければいいが、と眉をしかめる錦山の事情は露ほども知ることなく、緑ジャージは覚束ない足取りで白ドレスのもとへ歩み寄っていった。

それに従って錦山と緑ジャージの距離も遠く離れ、離脱したとして気付かれ得ないだろうだけの距離を確保する。
さてそれでは後は逃げるだけだとその場に背を向けようとして、錦山の耳に一つの声が届いた。

「でも、殺さなきゃいけないよね。そうじゃなきゃ、いつか私が殺されちゃうかもしれない……!」

緑ジャージの漏らした声に、錦山の眉がピクリと動いた。
思いがけず彼女の動作を観察すれば、自身のデイパックからドスを取り出して、白ドレスの胸の真上で構えている。
震える手を押さえ、小さく嗚咽を漏らし、鼻を必死に啜りながら。

「……は?」

思わず漏れた声と共に自分の中に沸き上がった感情の波が何に起因するものなのか、錦山自身にもよくわからなかった。
悲しみとは違う。目の前で誰が誰を殺そうと今更錦山の凍った心は動くことなどないのだから。
少女の身を案ずる正義でもない。白ドレスの女に錦山は借りなどないし、殺し合いを打ち砕くなんて大言壮語を馬鹿真面目に信じるほど愚かでもないからだ。

だからそう……それを敢えて言語化するのであれば、それはただ純粋な怒りだった。
目の前で見知らぬ女が見知らぬ女を殺そうとしている。
ただそれだけのことがなぜだか無性に腹立たしくて、気付けば彼は思い切り立ち上がっていた。

「――ふざけんじゃねぇ!」


557 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:17:07 mi3XG.sc0





突如背後から聞こえてきた声に、千枝はほぼ反射的に向き直る。
茂みの中に隠れていたのだろう声の主はオールバックに高そうな白のスーツという、正直言って厳つくてあまり関わり合いになりたくないタイプだ。
だが、思わず顔を顰めてしまったのは男の風体だけが理由ではない。

今この状況が、自分にとって非常にまずいことを感覚的に察していたからだ。
ふざけるな、と怒鳴り込んできた男は恐らく、自分が白ドレスの女の子を殺そうとしたのを見ているはず。
であればきっと自分が殺し合いに乗っているのも分かったうえでそれを止めようとする人種なのだろうと、何となく推察できる。

相手がどんな能力を持っているのかは分からないが、この傷ついた体ではもう碌な戦闘も出来るまい。
というよりペルソナを呼べるだけの体力も既に怪しいのだから、男の手札次第では詰んだと言っても過言ではなかった。
だがそんな風に冷静な思考が自身の生の終わりを告げていても、千枝の本能は未だ貪欲に自身の生存を求めていて。

どうしようもなく泣き出したくなる気持ちを押して、それでも千枝は男へと向き直っていた。

「あんた一体――」

「――お前、その女殺そうとしたのか」

虚勢を張って何とか絞り出した千枝の声は、小さくしかし確かな威圧感を誇る男の声に遮られた。
その声に秘められた怒りや苛立ちの感情があまりにも重くて、千枝はそれに応じるしかなくなってしまう。

「……そうよ、殺さなきゃ逆に私が殺されちゃう。だから私は、生き残るためになら殺しだって――」

「お前、人を殺すってのがどういうことなのか分かってんのか……?」

びくり、と身体が自然に強張る。
先ほどよりも声のトーンも声量も下がっているというのに底冷えするような錯覚を覚えるのは、決して勘違いではあるまい。
思わず言葉を詰まらせて俯いた千枝を前にして、男は怒りに飲まれたようにわなわなとその肩を震わせる。

「殺さなきゃ殺されるだぁ……?人殺しなんかしなくても生きていけるようなガキが、生言ってんじゃねぇぞ……!」

ふつふつと紡がれる男の言葉は、しかしその実千枝に向けられていないようにも感じられて。
ただその気迫に飲まれて、彼女は一切の口をはさむことが出来ない。

「人を殺すってのはな……すげぇ怖ぇことなんだぞ!それ背負う覚悟もねぇ奴が、こっちの世界に中途半端に足突っ込もうとするんじゃねぇ!」

ビリビリと、空気が震える。
そして同時、千枝をいたわる気持ちなどない、ただ怒りをぶつける為だけの男の怒声を前に、彼女は思わずその場にへたり込んでしまう。
シャドウとの戦いだ心の闇だとごちゃごちゃ言っても、千枝は所詮田舎で育った世間知らずの一女子高生だ。

元々友人の死で不安定になった千枝の心に、大の大人が全力でぶつける負の感情はあまりに荷が重すぎた。
故にただ目の前の男が怖くて、自分がどうしたらいいのか分からなくて、千枝の感情が崩落しただその場で泣き出してしまうのも、無理はなかった。


558 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:20:47 mi3XG.sc0

(私だって人を殺す覚悟なんてないよ、ないに決まってるよ!でも、でも殺さなかったら、逆に私が――)

泣きじゃくりながら、声には出せないながらも心の中で千枝は男に対し必死に抗議する。
人を殺す覚悟など、ないに決まっている。元々そんな殺伐とした世界で生きてきた訳ではないのだから、それは当然ではないか。
だが、そんな風に駄々をこね周囲へ責任を転嫁しようとする自分がいる一方で、彼女は今男に吐かれた言葉にどこか正当性を感じているのも、確かだった。

(このままじゃ何もかも中途半端なまま……それは、確かにその通りだ。だったら私は、私は――)

溢れ出てくる涙が一旦の終わりを迎え、千枝は頬を伝う雫を必死に袖で拭いながら自分が次にどうするべきなのかを考える。
あんなことを言われた今となっては、今更白ドレスの少女を殺すことも出来はしない。
かといって一人では抱いたこの疑問に答えが出ないのも事実……となれば、些か突拍子もない答えではあるが、取るべき手段は一つしかないと、彼女は自分の中に結論づける。

(考えるな感じろ、だよね……!)

思案を終えた千枝は、真っ赤になった瞳にしかし再起の炎をたゆらせて勢いよく立ち上がる。
思い切りがいいのが自分の良いところなのだ。であれば悩んでいる時間など、もう無駄なだけではないかと。
いつの間にか姿を消した男を追って、千枝はその足を必死に動かし始めた。





(ガキ相手に何ムキになってんだ俺は……)

一方で、目の前で泣き出した少女に居心地の悪さを感じその場を後にした錦山は、一人自分の行いを恥じていた。
この10年間で人の生き死には山ほど見てきた。自分が誰かを殺すのは勿論、誰かが誰かを殺すのだって、数えきれないほど無感情に流してきたはずだった。
なのに、なぜ今更あんな小娘が見知らぬ女を殺そうとする程度のことにあそこまで腹が立ったのだろうか。

堅気が堅気を殺そうとしていたから?緑ジャージの女に殺しの覚悟が足りないから?
もし仮にそうだったとして、それを偉そうに説教できるほど自分は出来た人間ではないだろう。
極道が誰かを叱るだなんて笑い話もいいところだと、自分も心の中では分かっているはずなのに。

ただそれでも目の前で行われる凶行をどうしても止めたかった理由があるとすれば、彼女に過去の……あの雨の日の自分を重ねてしまったからかもしれない。
愛する女が襲われたと知って単身で組に乗り込んで、つい感情のままに一線を越えた、あの日の自分。
情けなく兄弟に泣きついて、妹のこともあるのだからと罪を被ってもらって泣きながら茫然自失の由美を連れ帰ったあの日のことを、嫌でも思い出したのかもしれない。

(チッ、なんでったって今更あんな昔のことを……!)

全ての過去を捨て振り切った今となっても尚あの日を思い出すたびに、錦山は甘ったれたかつての自分自身に反吐が出る思いを抱く。
自分で自分のケツも拭けない極道モドキだと言われても、何も返す言葉がないとさえ思う。
だから、そんな自分の過ちが目の前でもう一度繰り広げられるようにさえ思えて、錦山は緑ジャージの女にらしくなく怒りを露わにしたのかもしれなかった。

(クソ、だとしてもイカレてるぜ。あんなガキに必死になるなんて、ダセェッたらありゃしねぇ)

未だ聞こえてくる泣きじゃくる女の声にいい加減苛立ちが天井を突破しそうになった錦山は、早急にこの場から離れようとその足を速めた。
逃げだなんだと罵られようが、取りあえず距離さえ離せばこの苛立ちも収まるだろうと、そう考えて。
そうだ、取りあえず歩きながら煙草でも吸えば良い。そうすれば先ほどのように思考の靄も消えるだろう。

「待って!」

だがそうして懐から煙草の箱を取り出した瞬間に、背後から追いかけてきたらしい緑ジャージの少女に呼び止められた。一瞬奇襲かとも思ったが、その様子はない。
であれば今更何のようだと気怠げに振り返って、どうやらやはりもう戦意はないらしいことを確認してから、錦山は重い口を開いた。


559 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:22:38 mi3XG.sc0

「……何か用か」

「ねぇ、さっき言ってた『こっちの世界』って、やっぱあんたってヤクザ……なの?」

「……だったらなんだ」

溜息と共に吐かれた消極的な肯定の言葉を受けて、少女は数巡するように視線を泳がせて、辿々しい口調ながら何とか言葉を紡ごうとする。

「その、私、正直いきなりこんな事に巻き込まれてどうすればいいのかよく分かんなくて、そもそも死ぬとか殺すとか以前に、自分は何なのかとかも正直よく分かってなくてそれで――」

「――言いたいことがあるならさっさと言え。鬱陶しい」

「だ、だから――!」

あからさまに苛立ちを見せた錦山を前にして、少女は意を決したように一つ唾を飲み込んだ。

「私、あんたに付いていっても……いい?」

「あ?」

今度は、錦山が言葉を失う番だった。
今の流れでそうなるか普通?と思わず突っ込みたくなるような感情を抱いてしまったからか、彼の口から漏れた声には幾分困惑が混ざっている。
だがそんな錦山を見て何を勘違いしたか、少女はお願いしますと深く頭を下げこちらに懇願している。

(何考えてんだ、この女……)

率直に言って、錦山が抱いたのはそんな困惑だ。
極道としての自然な振る舞いとして堅気の人間と距離を置いてきた錦山にとって、こんな状況とは言え頭を下げて同行を求められるとは思っていなかった。
正直なところ面倒な上ガキを連れていると知れれば他の組員ないし東城会の人間に舐められる可能性もある故、躊躇なくその申し出を断るべき……なのだろうが。

(クソッ、よりによってなんでこんな時に、こんな奴に――)

目の前で必死に縋ろうとする少女の姿に20年前の、風間に必死で懇願し極道の道へ進むことの許しを得ようとした、かつての自分たちが重なって見えた。
より正確に言えば、自分よりもずっと風間のような極道になることに憧れ、雨に打たれ涙を流しながらずっと懇願し続けた桐生の方が、近いだろうか。
何度殴られても、何度怒鳴られても、一切曲げない意志でひたすら頭を下げ続けたあの日の桐生が目の前の少女と重なって見えて……錦山は遂に彼女へ背を向けた。

同時、背後で少女が息を呑む声が聞こえたが、構わないとばかりにそのまま置き去りにしようとして。
それからすぐに、深く、深く溜息をついた。

「……付いてきてぇなら勝手にしろ」

短く述べた許諾に対し、緑ジャージは小さく……されどどこか嬉しそうに頷く。
面倒な奴に関わってしまったと思いこそすれ、しかし少なくともこの同行にはメリットも多いとも錦山は感じていた。
少なくとも腕は立つようだし、単身で動いていないことで先ほどの鳥人間たちとの間にあったようないざこざも避けられる。

最悪鉄砲玉か肉壁代わりにすることも出来るのだから、理由こそ分からないものの同行者が出来るというのは無駄ではないはずだ。
少なくともそうした算段に基づく冷静な行動だったのだと自分に言い聞かせなければ、錦山は自分自身がどうにかなってしまいそうですらあった。

「ねぇ、あんたの名前何て言うの?私は里中千枝!」

そんな錦山の複雑な心情も露知らず、緑ジャージは聞いてもいないのに名乗りを上げる。
さっきまでのしおらしげな様子はどこへ行ったんだと思わなくもないが、ともかくそれを言ってもどうにもならないかと、観念したように錦山は一つ息を吐いた。

「……錦山彰」

「錦山さんかぁ、わかった」

確かめるように繰り返す緑ジャージ……千枝を横目で見やりながら、錦山はやっぱり付いてきてもいいなんて言うべきじゃなかったと頭を掻いた。


560 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:25:38 mi3XG.sc0


【B-4/森/一日目 黎明】

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:鬼炎のドス@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される、けど今の私じゃ、殺す覚悟もない……
1.取りあえずは錦山さんと一緒に行動してみる。
2.その最中で“自分らしさ”はどこにあるのか、探してみる
3.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない
4.願いの内容はまだ決めていない


【錦山彰@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:マカロフ(残弾8発)@現実
[道具]:基本支給品、セブンスター@現実、閃光玉×2@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:人を殺してでも生き残り、元の場所に帰る。
1.なんだってこんなガキと俺が一緒に……
2.取りあえずはこの場から離れることを優先に考える。
3.このまま徒歩で移動すべきか、Jetmaxで海上を行くべきか……





「おいグレイグ、そろそろ例のクレーターに着くぞ、気をつけておけよ」

「それはこっちの台詞だ」

互いに短く声をかけながら、グレイグとクロノは深い森の中を進んでいく。
彼らがこうして拠点とも言えるハイラル城から森へと駆り出してきたのは、城のすぐそこの森に一部分不自然な更地があるのに気付いたからだ。
むしろ何故それだけ近くてこれだけ発見が遅れたか、と言われればその理由はグレイグの負傷の手当が予想以上に手間取ったことにある。

最後こそクロノが協力したものの、そもそも城内のガーディアン全てを一手に引き受けて戦っていたグレイグの受けたダメージは、無視出来るほど甘くはなかった。
グレイグは平気だと手当を拒もうとしたが、英雄を目指すクロノにとって目の前の負傷者を野放しで放置することは到底出来ず。
とはいえクロノ自身回復魔法を使える訳でもなかったので、城中をかけずり回り使えそうな救急道具をかき集めようやくグレイグを治療し城の上階から周囲を見渡して……とそこでやっとすぐ近くの森の異変に気付いたのである。

(グレイグを手当してたことが無駄だったなんて思わないけど、もし誰か死んでたら、俺は――)

城から俯瞰で見ただけの感想ではあるが、その更地が作られてから1時間ほどが経っているようだった。
恐らくは自分たちがガーディアンに手間取っている間に戦闘が繰り広げられていたのだろうとは思うが、それを言い訳にして犠牲を享受出来るほど、クロノは大人ではなかった。
もしもこれだけの短時間で、誰かがこんなふざけた催しの犠牲になってしまっていたら。

そう考えるだけで、クロノの心は悔しさと殺人鬼へのどうしようもない黒い感情で押し潰されそうになる。

「大丈夫か」

だがそうして思わず胸を押さえたクロノに対し、彼を案ずる声が一つ。
ハッとして見上げれば、そこには足を進める速度は緩めないながらも確かにこちらを不安そうに見つめるグレイグの姿があった。

「……ふふっ」

「……?何故笑う」

「いや、ごめん。礼を言うよ、グレイグ」

「……?」


561 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:28:07 mi3XG.sc0

困惑するグレイグを瞳に映しながら、クロノは自分の中に沸いた負の感情を振り払う。
少なくとも自分はこの男の命を救い、今この瞬間共に殺し合いを打破する為協力しているのだ。
グレイグ自身の人柄が善良なことも勿論なのだろうが、それでも自身の命を投げだそうとしていた男がこうして自分を案じてくれているということに、クロノは無性に喜びを感じた。

そうだ、これから先どうなるかよりも、今目の前で救える命を一つ一つ救うこと。
それこそが自分のなりたい英雄になるために必要なことではないのかと、クロノは無駄な迷いが消えたような心地を感じていた。
無性にくすぐったいような心地を覚えたクロノはそのまま足を進めて、それからすぐに目当ての場所へ到達した。

「こりゃ酷いな……」

漏れた言葉は、その場の惨状に向けられたもの。
深く生い茂った森の木々はその一帯だけ全て薙ぎ倒され、それによって大きく開けてしまっている。
どれだけの力を放てばこんな大木が倒れるのだ、とその場に起きたのだろう戦闘の凄まじさを感じ取りながら、クロノは確かに今殺し合いを行っている参加者がいるということを理解した。

「――おい、クロノ!こっちだ!」

あんな得体の知れない存在の言葉に踊らされて、まんまと誰かを殺そうとする存在への言いしれぬ感情を何とか噛み砕いていたクロノの思考を呼び覚ましたのは、グレイグの焦燥を含んだ声だった。
まさか誰かの死体が、とどうしようもない不安と共に声の出所へと向かえば、そこにいたのは白いドレスを着た少女が仰向けに倒れ伏す姿であった。

まるで眠り姫のような可憐なその寝顔に、クロノはどうしても嫌な想像を膨らませてしまう。
だがそんな彼を前にして、グレイグはその右手の平を否定の意を込めて左右に緩く振った。

「安心しろ、生きてる。ちょっと疲れてるみたいだけどな」

グレイグの言葉を待っていたように、すぅすぅと小さく寝息を立てる少女。
取りあえずは命が失われていないということにほっと胸をなで下ろして、クロノはグレイグへと小さく頷いた。

「一旦、お城へ戻ろう。彼女を手当して、事情を聞かなきゃ」

「わかった」

クロノの意見に反対する理由もないと小さく肯定したグレイグは、そのまま少女をその大きな背中におぶる。
グレイグ自身の背はともかく硬い鎧は些か寝心地が悪そうだが、それも仕方あるまい。
少しの間辛抱してくれよと小さく少女へ向けて謝罪して、彼らは再び拠点である城へと歩き出していった。

――彼らは、知らない。
自分たちが救った少女が、とある願いの為殺し合いに乗った張本人だと言うことを。
彼らは、知らない。

自分たちが拠点としたハイラル城が、彼女にとって産まれてから100年以上を過ごした我が家以上の場所であり、仮に戦いとなれば地の利は圧倒的にあちらにあるということを。
そして……少女、ゼルダが目覚めた時、彼女は何を思い彼らに何が起きるのか。
それはまだ、誰も知らない。


【B-4/森/一日目 黎明】

【ゼルダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、気絶中、グレイグに背負われている
[装備]:オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、木の矢×5、雷の矢@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド モンスターボール(キリキザン)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針: 殺し合いに優勝し、リンクを100年前の状態に戻す。
0.(気絶中)
1.今のリンクは、騎士として認めたくない。
2.最初の会場でダルケルと目が合った気がするけど、そんなはずは…。
【備考】
※キリキザンは今“ひんし”状態です。時間経過で回復するかは後続の書き手さんにお任せします。


562 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:30:32 mi3XG.sc0

【グレイグ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]: ダメージ(小)、ゼルダを背負っている
[装備]: グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[道具]: ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者に抗う
1.元の世界の悲劇は俺のせいだ……。
2.この少女(ゼルダ)を城で手当しなくては。
※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過(マルティナの参戦と同時期)しています。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。


【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]: 健康
[装備]: 白の約定@NieR:Automata
[道具]: ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針: 英雄として、殺し合いの世界の打破
1.少女(ゼルダ)を手当した後、目が覚めたら事情を聞く。
※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。

【全体備考】
※Jetmax@Grand Theft Auto VがB-4エリアの森付近に止められています。また、同アイテムは支給品ではなく現地設置品でした。
※Jetmaxのような海上バイクが他にも設置されているかは後続の書き手さんにお任せします。


【支給品紹介】

【Jetmax@Grand Theft Auto V】
値段が高い為限られた人の為にあるラグジュリアスボート。
ゲーム内最速のスピードと驚異的な加速力を誇るボートでもある。
基本的にボートは4人乗りだが、このボートは2人しか乗れないので注意。

【守りの護符@MONSTER HUNTER X】
防御力を上昇させる御守り。所持しているだけで、岩石のごとく皮膚が硬質化する。
防御力アップ効果は正直気持ち程度のものではあるが、持っているだけでいいので気付かない内に命を救われていることも。

【鬼炎のドス@龍が如く極】
嶋野の狂犬、真島吾朗が愛用するドス。
『このドスを生み出した刀匠は、業界において"決して彫ってはならないとされる鬼炎"を彫り込んで仕上げた後、自ら鍛えたこのドスでもって動機不明の自害を遂げた』という逸話がある。


563 : ◆JOKER/0r3g :2019/08/02(金) 00:36:02 mi3XG.sc0
以上で投下終了です。
タイトルは『迷える者たちの邂逅』でお願いします。
また、正直キャラの描写に偏りがありまくりなのは自覚しているので、何か問題や指摘などあれば遠慮なくお願いいたします。


564 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/02(金) 01:49:15 1bORDkmM0
真島吾朗 トレバー・フィリップス ソニック 予約します


565 : ◆RTn9vPakQY :2019/08/02(金) 15:20:44 CdXCC0xg0
皆様投下乙です。
>みなさんご存知のハズレ
リーバルの皮肉な物言いの再現度が高いと思いました。
主催者を簡単に撃ち抜ける、と言うリーバルの自信満々な態度は、彼の実力に裏打ちされたものだということが分かります。
マールディアは分かりやすいハズレ武器が支給されましたが、魔法が使えるだけまだいいですね。
この組は戦闘能力の面でも、精神的な面でもバランスが良いと個人的には思います。

>灯火の星
フランクな口調でありながら、「灰色の心じゃ、オレの速さにはついてこれない」のような台詞も決める、ソニックの格好良さが目立ちます。
Are you ready?「――――できてるよ」の流れは、某ライダーが好きなこともあって特に格好いいと思いました。
マルティナは未だに迷いを抱えている様子。今後の出会いが気になりますね。

>星のアルカナ
ピカチュウとポカブのコンビは、流石にポケモン同士なので仲良さげですね。
名探偵が名探偵らしさを見せるシーンが好きです。
ピカチュウと悠はお互いに信頼を得て、ゲームにもあったような「絆」を得たものの、これがロワの最中にどれだけ進展するのか、その点は未知数ですね。

>哀れな道化の復讐劇
ウルノーガの用意したジョーカーでありながら、反旗を翻そうとするホメロス。ストーリーを知っていると、彼の叫びには来るものがあります。
主催者にとっては予期せぬアクシデントということになるのでしょうか。
そして、ホメロスに共感するジャローダ。因縁のトウヤと出会うことはあるのでしょうか。

>Library
数学者と科学者のコンビですね。
トンベリとも意思疎通ができるらしいN、他の世界のモンスター的な存在ともできるなら、それは利点になりそうです。
理想を失ったNが、大きな理想を抱くルッカと出逢えたのは幸運でした。ルッカへの意味深長な質問の仕方は、とてもNらしいと感じます。

>ポケモンきみにきめた!
カントーとジョウトのポケモンリーグを制覇した、伝説的なトレーナーの登場話として、とても魅力的でした。
殺し合いに積極的になっていたかもしれない、という描写が入ることで、超一流のトレーナーでありながらも等身大の人間でもある、と感じられました。
「あたらしいぼうけんのたび」がどうなるのか、楽しみになりますね。

>輝け!月下の歌劇団☆
自身の心の声に答えられない描写は、原作でのミツオ戦の後を思い出しますね。原作では空虚な自分を認められませんでしたが、果たして。
そしてミツオと対照的に、ザックスの性格の良さが目立ちます。あの状態で千早(貴音)を心配するとは。
そして貴音。特にアニメ以降の媒体では、ミステリアスかつ超然とした態度が目立つ人ですが、実際には春香や雪歩とそう年齢は変わらないのですよね。年相応の弱さ、脆さもあると改めて気づきました。

>親友と心の影(シャドウ)
ヨースケは良くも悪くも行動力があり、ともすれば直情的な行動に出かねないイメージがあります。
この話でも、冷静なホメロスに襲いかかろうとしてしまいますが、それを止めたのが、かつて聞いた相棒の声というのが良いですね。
近しい相手への劣等感を抱いた者同士が協力し合う展開は、個人的に熱いです。

>破壊という名の何か
>「これで、跳ぶことはできませんわね……くすくす。」
戦闘中に楽しそうに笑うようになったセーニャ。これは怖い。
カエルは幸運にもティファに助けられましたが、セフィロスといい力の差を見せつけられてばかりなので、メンタルが心配ですね。

>Don't forget it is the Battle Royale
自分で自分を認められなくなった千枝。不安定な状態での殺し合いは、劇薬だったということでしょう。
そしてゼルダ姫。
>しかし100年の時は、既に居ない想い人を待ち続けるには永すぎたのだ。
待つには長い期間を終えて、その結果が「想い人の喪失」であったとしたら。想像すると悲しいですね。


566 : ◆RTn9vPakQY :2019/08/02(金) 15:24:42 CdXCC0xg0
>その男、龍が如く
>「桐生は僕らを守ってくれている。……だから僕たちは、守られなきゃいけないんだ」
>「力がないから、僕らは力のある桐生に助けられている。力のない僕たちが今するべきことは引き返すことじゃない……助けられることなんだ。桐生は僕たちが逃げることを望んで、あの場に残ってくれたんだから……僕たちは、逃げなきゃいけない!」
自分を弱いと認めて逃げるオタコンのこうした台詞は、響きました。強いキャラばかりではありませんよね。

そしてA2と桐生のバトル。
神室町のヤクザやチンピラを数百・数千人単位で倒してきた男が、機械生命体を相手にしてきたアンドロイドを圧倒する展開。
桐生はラッシュスタイルを使い、A2はバーサーカーモードを使う。ゲームの要素も拾いながらの一進一退の攻防は、読んでいて熱が入りました。
そして、決着。その死に様、生き様は想像に難くありません。

トウヤの登場によって一気に絶望的な局面に陥ったA2、どうなるのでしょうか。

>奪う者たち、そして守る者たち
少しだけ打ち解けた雪子と千早、そこに襲い来るクラウドとチェレンのコンビ。ドキドキしながら読みました。
失礼ながらFFは未把握なので、あれ?クラウドと雪子って拮抗するような実力差なのか?と素で考えてしまいました。
「いのちのたま」に気づくのは、当然ポケモントレーナー。チェレンが気づいた描写と同時に自分も気づいて、「なるほど!」と声が出てしまいました。
守るためにそこまでした雪子の意志の強さ。雪子の分まで生きようと、前を向こうとする千早。雪子の姿を見て、覚悟を決めるクラウド。
それぞれの強さが目立つ中、本当の望みを思い出したチェレンが特に印象的でした。


>迷える者たちの邂逅
キリキザンVS千枝は、ポケモンのタイプ相性も用いた見ごたえあるバトルでした。
千枝の物理攻撃はHPを消費する技なので、ゴッドハンドを出したときはかなりハラハラしました。
>「でも、殺さなきゃいけないよね。そうじゃなきゃ、いつか私が殺されちゃうかもしれない……!」
この台詞、自分自身に言い聞かせてる感がすごいですよね。

>「人を殺すってのはな……すげぇ怖ぇことなんだぞ!それ背負う覚悟もねぇ奴が、こっちの世界に中途半端に足突っ込もうとするんじゃねぇ!」
そして錦山のこの台詞、過去の自分と重ねた千枝に言っているということは、なんて考えさせられました。
千枝の頼みを断れずに同行を許した錦山、その選択が何をもたらすのかは今後のお楽しみですね。

そして、クロノとグレイグはちょっとした爆弾を抱えることになってしまいましたが、果たしてどうなるのでしょう。


567 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/02(金) 22:14:12 pZvwvMhk0
投下乙です!
千枝とゼルダのバトル描写もさることながら、とにかく文章が綺麗で惹き込まれました。
タイプ相性を知らないためゼルダの願いが届いたと誰もが確信するシーンは、互いの原作をリスペクトすると同時に二人の心理描写が自然な流れで挟まれており感銘を受けました。
死闘の末に勝利した千枝、このままゼルダが殺されてしまうのかと思いきや……それで終わらない展開も熱い。

錦山の視点に移り変わり、心理描写が一気に緻密になった印象を受けます。
極だけではなく0での錦山の面影も見せており、ただ冷酷で狡猾なだけではなく本来の義理堅い性格も見え隠れしていて、ああこれが錦山だなと感じられました。
そして錦山と千枝の出会い。互いに嫉妬と羨望を抱いた人物がおり、その人物が亡くなっているコンビ。
これからどうなるかは全く予想が付きませんが、どう転んでも面白そうなコンビですね。

ゼルダを発見したグレイグとクロノ。
参加者の中でもトップクラスの実力と心強さを持つ彼らでも、どうしても不安は消せない。
クロノの心理描写でそれを思い知らされると同時、ゼルダをハイラル城へ連れて行く展開になるほどと思いました。
実力では大きく劣る分、もし戦いになれば地理を活かした戦い方で二人を翻弄できそうです。
色々と、書き手として学ばされた作品でした。


568 : ◆jOkrd9mmNM :2019/08/05(月) 00:19:11 MS1Kjr/M0
投下乙です。
現代人強いですね、ファンタジー勢に負けてはいない。
とは言え龍が如くもペルソナも半分ファンタジーですが。
戦いに長けているポケモンですら退けるペルソナ所持者を御した錦山はナイス判断と言わざるを得ない。
ゼルダは目覚めた時どう思うことやら不安です。

続いて予約した話を投下致します。


569 : Bullet & Revolver ◆jOkrd9mmNM :2019/08/05(月) 00:31:02 MS1Kjr/M0


[PEACE MAKER(平和をもたらすもの)]

今私が握っているS.A.A(シングル・アクション・アーミー)の俗称だ。
西部開拓史時代に幾多の名だたるガン・マンがこの銃で争いを収めたからだとか。
なんともヒロイックな呼び名だが、それも含めて改めて評価しよう。
この銃はとても美しい。
美しい、と表するのも武器に対して可笑しな話と思うだろうか。
だが、強ちそうでもないのだよ。
なにしろこの銃が活躍した時代は1870年代、我々の生きるよりもはるかに昔。
1世紀以上も前の武器に過ぎないからだ。
今の時代こいつを手に取るのは博物館職員か時代遅れのガン・マニアくらいに限られるだろう。

「私は後者だよ」

白髪の老爺は、大きな背中に告げた。
のっそり振り返った髭面は、大いにどうでもよさそうだ。
潜めた眉は困惑を物語り、歪んだ唇が「ああめんどうくさい」とでも良いたそうに半開きである。

「そうかい、じいさん。だがよ、俺から一つ忠告させてもらうぜ」

「と、いうと」

「撃ち殺す前の一言にしちゃあちいと長いぜ」

初対面の台詞どころではなく、武器を手にした相手にいち早く発見されてのこれである。
反撃も考えたが、浅黒い肌の大男─バレット・ウォーレスは今現在、片腕という大きなハンディを背負っている。
面倒に巻き込まれる前に煙に巻き逃げるが妥当だと判断した。

「大いな誤解があるようだ。私は殺す相手に長々と講釈を垂れるのは─まあ嫌いではないが」

「あん?」

「リボルバーというのは総じて、引き金に指をかけて撃つものだ。そうだろう」

老爺の手には、回転式拳銃のバレル、そして銃身の部分が握られている。
すなわち、今すぐにはこちらを撃つ気はなく、敵意を持たないことを語っていた。





「一昔以上前のシロモノには違いないが、こんな場では頼れる装備に違いない。そうだろう?」

一頻り歩いた先に、開けた場所があった。
北は見渡す限り水平線ということで、不意の襲撃を避けるには丁度いい。
適当な石の上に2人は何方が先と言うでもなく、腰を下ろした。
座ると、老人はおもむろに唯一の武器だと言う拳銃を地べたにそっと置き、手放す。

「ああ、頼れる装備かもな。で、何の真似だよ」

「君の前にそれを置く……力なき老人が疑い無しに話を聞いてもらう為の苦肉の策と思ってくれ給え」

「力なき?ウソが下手だなじいさん」

横目でその顔を睨んでも、まるで表情に変化はない。
冗談を言うにしては冷めた顔だし、誤魔化しをしているようにも見えなかった。
バレットは自分の言っていることが見当違いのような気がしてきて、自嘲の笑みが浮かんだ。
こいつはウソが得意中の得意なんじゃないか?と。

「俺の右っ側に銃を置いた時点で譲歩にゃなってねえんだよ」

「失礼」

置くなら正面だろうが、と付け加えてバレットは右腕をもう一方の腕で弄りだした。
老人は一瞬視線をこちらに向けたものの、やがて姿勢をもとに戻す。

「片腕が機械なのが珍しいかよ?」

「いいや、よくあることだ」

そういう彼の表情はやはり読めない。
仏頂面というわけでも、感情を殺しているというわけでもないふうにとれる。
どちらにせよバレットにとっては大凡、信用するに値しない。
そういう顔を老人はしていた。

「そういう場に身を置いていた」

「……」


570 : Bullet & Revolver ◆jOkrd9mmNM :2019/08/05(月) 00:32:18 MS1Kjr/M0

評価は少しだけ変わった。
横に居る老人は断言してもいい、"まったく信用できない"。
だが、信用できないことがハッキリとわかるのなら、今はそれでいい。
バレットとて、反神羅地下組織に居たころから腹の探り合いは(あくまで得意ではないが)経験済だ。
少しでも信用していい、と思った相手にこそ牙をむかれた時が恐ろしいのだ。
だったら最初から一定の距離を取り、相手の言動や行動に左右されてペースを奪われるのを避ければいい。
そう思い、バレットは脇に挟んでいた、剣呑な金属の塊を、右腕のジョイント部分と見比べた。
果たしてこの武器と思しきパーツが自分の腕で操れるのかを見るためだ。
見覚えのないこれは、腕の太さは概ね合っているように見えても細かな規格が違っている可能性が高い。

「……思ったより単純な作りのパーツだな」

「戦闘中や移動中に換装可能であろう、君の右腕部分とよく似ている。調整に必要な工具を求めているのなら東はどうかな?」

「なに?」

「停泊しているタンカーがあるがこれは偽装だ。精密機械をも扱う施設を内包している。お望みのものもきっとあるだろう」

「あんた、やけに詳しいな」

「さてね。地図と私を信じるのならば行ってみれば良い」

バレットは自分の思考を、行動を巧みに誘導しようとする老人にため息を漏らす。
いや─本当はわかっているのだ。
彼はごくごく当たり前のことを言っているのに過ぎない。
ここから最も近く、地図に記してある施設と言えばそのタンカーなのだ。

(俺が知ってる"カームの町"へ長い橋を渡って行くことも考えはしたが……)

単独での行動で細い一本道を往くことは間違いなくリスキーだ。
少々考えれば、タンカーへ向かうという行動に行き着いただろう。
この提案、もしかしたら本当にただの親切心での言葉なのだろうか。
疑惑は晴れることがない、しかし。
この場での無闇な反発は意味がないことを、正しく理解していた。

「……そいつはどうも。あばよじいさん」

「私もちょうど、そちらへ行くところでね」

立ち上がって、早々に踵を返そうとした、その歩みがピタリと止まる。
偶然の遭遇までは良い。
だが、その後の同行まではバレットには理由を掴めなかったからだ。

「あんたのお守りをする気はないぜ」

「なに、君と同じ理由で行くのだよ」

「……?」

一瞬、ほんの一瞬ではあるが。
老人の右腕が、妖しく蠢いたように見えた。
生身の腕ではあるようだ。
だがそれは、どこか不自然さの上に成り立っている。

「あんたも……」

「戦いに支障があっては困るのでね」

おそらく、腕を失くしたもの同士。
所作、思考、それら容易く読み取られたのも、片腕の銃使いという共通点があるが故かもしれない。
バレットは本当に食えない相手だ、と顔をしかめた。
だが。

「……付いてくるんなら勝手にしな」

置いていって、どこか目の届かないところで"悪さ"をされる。
それよりはすぐ傍に居てくれたほうがマシと、そう判断した。
更に言えば、今の片腕の自分ではこの老人すら制することが困難だと、バレットは考えた。
奇妙な同行者を受け容れざるを得ないのは釈然としないままに、右腕の調整を優先とするため一路南へと歩みを進める。

「それに類稀な偶然に出食わしたこの喜びを誰かに伝えたく、話し相手を求めていた」

「偶然?何だよ」

「それはだな……私はこう呼ばれている。"リボルバー・オセロット"」

いきなり名乗る老人にバレットは面食らう。
いつの間にやら手元に戻していたピースメーカー。
それを、巧みなガン・アクションで操るその姿は、先程までより人間らしいように思えた。
まるで玩具を買ってもらった少年のような、悪戯染みた笑みまで浮かべて。

「愛銃との再会を喜ぶのは可笑しなことかね?」


571 : Bullet & Revolver ◆jOkrd9mmNM :2019/08/05(月) 00:32:49 MS1Kjr/M0

「そうかい、良かったなオセロットさんよ」

「しかしだ、このグリップ上部の窪みは頂けない。……ああ、どうやらこちらの飾り石はここから落ちたもののようだ」

「?」

「そもそも銃に施す彫刻"エングレーブ"にしては、これは過度なものだ。重心はずれるし、直接手にふれる部分ならばなおさらだ」

隣を歩くことを認めたわけでもないのに、銃を惚れ惚れと撫でながら歩く老人に、バレットは一瞥をくれる。
なるほど確かにその拳銃には、何かを嵌め込むのに適した小さな穴が存在していた。
彼の芸術センスにはそれは許しがたいことだったのだろうか、大いに嘆いている。
バレットは"銃のことに限ってはペラペラ喋りやがって"と心のなかで毒づいた。
知ってか知らずか、彼の銃を語る口は止まらない。
そんな最中、はたと気づいた。
この銃、そして片手の小さな宝石のような物体。
どちらもバレットには見覚えが有るものだと。
紛れもない、仲間のヴィンセントが扱っているものと同型だ。
そしてその武器に装着できるであろう、マテリアに違いなかった。

「戦術的優位性"タクティカルアドバンテージ"を自ら手放している。ガンスミスの趣味とでも?実用と観賞用は違う」

「……そいつはマテリア穴だろう。良い武器には有るのが普通なんじゃないか?」

「ほう」

立て板に水、とばかりに喋っていたオセロットの語りがぴたりと止まる。
自分の中の知識と、今しがた告げられたバレットの言葉とを冷静に繋ぎ合わせているようだ。

「"Material"?君の視線から察するとこの宝玉が。装飾の為ではなく、武器としての品位を高める勲章でもなく。必要があっての穴だと」

「そんなところだが……詳しく教える義理はねえ。そういうのはなんでも屋にでも頼むんだな」

「もっともだ。……そうだな、一時的に君の目的に協力するというのは交換条件になるかね?」

ズンズンと進むバレットは、必要ないと突っぱねるつもりだったが、果たして断ったオセロットは今後どうするだろう。
マテリアのことを知る人間に出会うまで、同じように接触を試みるだろうか。
この会場には確実にティファが居ることは確認済みだ。
もしかしたら他の仲間もそうかもしれない。
今ここで自分が同行することで、仲間達がオセロットと接触するリスクを減少させるほうが得策ではないだろうか。
だが、僅かな同行ではあれど、即刻強硬的な態度に出るような人物ではないと判断できたことだしここは放置すべきだろうか。
まとまらぬ考えに歩きながら頭を掻く。
そしてつくづく感じた。
自分はこういうふうにあれこれ悩むのは性に合わない、と。

「チッ、面倒くせえ。いいか?条件は"俺と、俺の仲間の邪魔するんじゃねえ"だ!それでいいか」

「仲間。私には君の知人の情報はないので判別し難い条件だが」

「会ったら言ってやる!……ったく面倒なことになっちまった」

「さて、一時共同戦線を張るにあたって、まず聞いておきたい。名前は?」

バレットは誤魔化しや腹の探り合いが面倒になったので素直に言ってしまおうとして気がついた。
自分の名前を聞いたら、オセロットは少々面白がるんじゃないかと。
だがここで答えに詰まるのも癪だった。
諦めたように名乗る。

「……バレットだ」

「銃弾"バレット"。リボルバーの傍らにバレットとは!」

当たって欲しくない想像が的中して、バレットはうんざりした。
こういう状況で肩を竦めるのは俺の役目じゃなく、あのツンツン頭じゃあなかったか、と眉をひそめる。

「洒落が利いている。コードネームか?」

「うっせえ、本名だ!……いいか、洒落だか偶然なんだか知らねえが」

無い腕をぶんぶんと振って、バレットはがなり立てた。
握られっぱなしのペースは、こちらが握り返してやる、とでも言わんばかりに啖呵を切る。

「何が狙いか知らねえが、俺があんたにケツを引っ叩かれて鉄砲玉になるだなんて思うなよ」

「君は9mm弾に例えられるような小さい男とでも?」

「ケッ。……いいか俺も詳しく教えられるほど知ってるわけじゃねえからな」

拳銃と銃弾が、一時的とは言えペアとなり、歩き出す。
東の海岸線へと向けて歩み出したその先には、偶然にもバレットの仲間たちが待っている。
果たして巡り合うことができるのか、そしてリボルバー・オセロットの真の目的とは。
どちらも依然として、バレットが知ることはない。


572 : Bullet & Revolver ◆jOkrd9mmNM :2019/08/05(月) 00:37:40 MS1Kjr/M0

【E-2 橋付近の海岸線/一日目 深夜】
【バレット@FF7】
[状態]: 健康
[装備]: 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる
2.マテリアの使用法をオセロットに説明するとともに、怪しいので監視する

※ED後からの参戦です。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×6) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(???)@FF7 基本支給品 ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットとともにタンカーへ向かう。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。。


【支給品紹介】

【デスフィンガー@クロノ・トリガー】
強力な鉤爪で敵を掴むロボ用の武器パーツ。
魔王の城で手に入る、凶悪な見た目の武器。

【神羅安式防具@FF7】
マテリア穴は4個で、連結穴が1組。マテリア成長率は等倍。
神羅の一般兵に支給される防具らしい腕輪。
目立つ赤色のロゴマークが入っている。


【ピースメーカー@FF7】
ヴィンセント・ヴァレンタインが装備する回転式拳銃。
マテリア穴は3個で、連結穴が1組。マテリア成長率は2倍。
コルトS.A.A.(シングル・アクション・アーミー)の通称であり、『調停者』の意味を持つ。
西部劇などに登場することで知られる有名な拳銃。
バイオハザード2やペルソナ4における同名の武器との差異はマテリア装備機能の有無である。

【ハンドガンの弾@バイオハザード2】
最も広く使用されている弾薬で、反動が弱く弾道も安定し、扱いやすい。
ガンパウダー2つで合成が可能。


573 : ◆jOkrd9mmNM :2019/08/05(月) 00:39:11 MS1Kjr/M0
投下完了いたしました。


574 : ◆/sv130J1Ck :2019/08/05(月) 20:05:54 AnhQDic60
投下乙ですよ

オセロットの胡散臭さとバレットの直情さが良い感じに噛み合って面白かったです
そして銃について語り出すオセロットの


575 : ◆/sv130J1Ck :2019/08/05(月) 20:12:36 AnhQDic60
途中で送信してしまいました。済みません


オセロットの胡散臭さとバレットの直情さが良い感じに噛み合って面白かったです
そして銃について語り出すオセロットの長広舌が、オセロットの面倒臭さを更に引き出す

MGS2のリキッドには流石には「ねーよ」と思いましたが、まさかあんなオチがついていたとは
果たしてこのロワにおけるオセロットと右腕の関係は如何に?


ソリダス・スネーク
アリオーシュ
クレア・レッドフィールド
ネメシス

予約させて頂きます

質問があるのですが、支給品では無い武器の類が警察署やタンカーなどに落ちていたりするのでしょうか?


576 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/06(火) 00:51:57 j20mGD9s0
投下乙です!!
バレットにオセロット。渋いコンビですね!!私はバレットしか知りませんがこの同盟がどう傾くか楽しみです!!
熱い投下が三連続来てから、またしても読みごたえ抜群の展開でした!!

ではカミュ、ベロニカ、ハンター、イウヴァルト予約します。


577 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/06(火) 12:59:24 rtXeLoLs0
投下乙です!
バレットとオセロットの性格や感性、世界観の違いが面白かったです。
オセロットが語るリボルバーとバレットの名前の洒落も見ていてなるほどと思いました。

この二人、片腕同士で銃使い、名前が銃関連と結構共通点が多いんですよね。
バレットはオセロットのことを信用していないようですが、オセロットの目的は果たしてなんなのか気になります。
近くにはエアリス達がいますし、彼女とバレットが出会えるのかどうか楽しみですね。

>>575
質問と予約ありがとうございます。
一応武器になりそうなものは落ちています。ですが、あっても角材や警棒、鉄パイプぐらいですね。
弾薬が落ちているかどうかはおまかせします。


578 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:40:16 sevNlcTA0
投下します。


579 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:41:06 sevNlcTA0
「さて、そろそろ上がるか。いい湯だったな。」
「確かにそうね。ウルノーガ……アイツに温泉作りの趣味があったなんて、知らなかったわ。」

意外なことにそこは、かなり質の高い温泉だった。
頑丈な木の壁に覆われ、後ろには山の絵が描いてある。
どことなく、しかし鬱陶しすぎないほどに花の香りが漂い、温泉の経験がある二人にとっても、高評価だった。


二人は体を拭き、いつもの服を着始める。

「中々満足できたわ。ここに飲み物でもあれば、文句なしだけど。」
「お主、中々分かるようだな。ユクモの村でも、風呂での酒は嗜みの一つだ。」
「だからそこどこよ……でも、酒場もないから仕方ないんじゃない?」
「あるようだぞ。」
「ええ?」

よく見れば温泉から出た所に、氷と何本かのビンが浮かんだ鉄の箱があった
箱には「ご自由にお取りください」という張り紙まで付いてあった。

アフターサービスまで万全だと、逆に怪しくなる。

「これ、毒でも入ってるんじゃない?」
「どうやらそのようではないようだ。」

ベロニカの推測を、ハンターはにべもなく切り捨てる。

「拙者は鼻がそれなりに利いてな。毒の混ざった物を見分けるなど、朝飯前よ。」

ハンターとして生きる上で、嗅覚は時として視覚以上に大切だ。
加えて罠を張るのに度々毒を使っている以上、危険かそうでない飲食物は容易に区別がつく。

ハンターはその中から一本を取り出しぐい、と呷る。
ベロニカも適当なものを一本取って、飲もうとする。

「お主には冷酒は早いのではないか?こっちにしておく方が良いぞ。」


ああ、そうだったな、とベロニカは思い出した。
ホムラの里で、見た目で酒場のマスターから追い出されたこと。

こうして妹や仲間との冒険を思い出すと、自然と仲間達とのことも気がかりになってくる。


「失礼ね!!あたしはこう見えて呪いをかけられただけで……。」
「まあ、そう背伸びするな。目標ばかり見ていると、体に毒だぞ。」
「話聞きなさいよ!!」

結局ベロニカはハンターに勧められたジュースを飲んだ。
それは、生き返って久々に口にした飲み物だからか、とてもサッパリした。


580 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:42:18 sevNlcTA0

二人はイシの村へ向けて歩き出した。
地図を見ると、かなり距離がある。
その過程で、誰か別の仲間を見つけることが出来ればよいのだが。


しかし、草原を進む中意外なほど、誰にも会わない。
身長に高低差のある二人だけが、夜の草原を歩く。

「そういえば、ベロニカ殿が言っていた、「呪文」とは何なのだ?」
「え!?呪文のことを知らないって、どこの出身よ?」
「知らぬものは知らぬ。」

彼女は生まれの地、聖地ラムダ。
そこでベロニカは、「双賢の姉妹」と呼ばれ、幼き頃から魔法に触れてきた。
彼女にとっては、魔法が存在しない世界の方が不思議なのである。

「まあ、呪文って一言で言ってもねえ、色々あるのよ。
あたしは火や氷を出したり、敵をかく乱させる魔法が得意だわ。」

「つまりは、戦いのための技の一つか……。」

確かにベロニカの話を要約すると、そうなる。

「でもね、戦いだけじゃなくて、人を守るための魔法もあるわ。
あたしの妹なんか、人の傷を癒す魔法が得意なの。」

「なるほど。狩りと同じで、魔法もまた、奥が深いのだな……。」
「一人だけじゃ完全に成り立たないのも、狩りと同じね。」

ベロニカの胸の奥には一抹の不安がよぎった。
やはりこの戦いに呼ばれたのは、何らかの戦いの力を持つからなのだろう。

自分と同じ力を、戦いに使う者がいなければいいのだが。



それからも二人は歩き続ける。
ベロニカの疑問は膨らみ続ける。
殺し合いをしろと呼ばれたが、自分がやったことは温泉に入って、風呂上がりに二人で冷えた飲み物を飲んだくらいだ。

これでは、ホムラの里の観光客と、やってることがまんま同じである。

(これって……何かの冗談?ハッタリ?)
殺し合い以前に人の姿も見かけない以上は、そうとしか思えなかった。
実際にカミュが飛び掛かって行ったのを見たし、金髪の男性の首が飛ばされた光景も目に焼き付いているにしても。


「ねえ、この世界さ、本当に殺し合いが起こってるの?」
丁度B-6を縦断する橋へたどり着いた所で、久々にベロニカが口を開いた。

しかし、それに答えるハンターの表情は、険しかった。
「気を付けろ……後ろから血の匂いがした者が走ってくる……!!」


581 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:42:39 sevNlcTA0

1つめのB-Blood―血

それを聞くと、ベロニカも後ろに警戒する。
殺し合いと関わった者が近づいてくるという合図だ。

しかし、走ってきたのは、ベロニカが良く知っている人物だった。
勇者イレブンと共に、ホムラの里で初めて会い、共に旅をした人物。
「カミュ!?」
「ベロニカ!?……なんにせよ……よかったぜ……。」

「なんと、ベロニカ殿の知り合いであったか……しかし、その怪我は……。」

ハンターもベロニカの知り合いということで、安堵する。
しかし、その怪我は、明らかにただ事ではなかった。

手傷を負わせる者がいる。そういうことなのだろう。

「大丈夫か?これでも飲んで、ひとまず落ち着くのが良かろう。」
ハンターが先程温泉から取った飲み物のビンを飲ませる。

怪我は治らないが、戦いからの逃走で水分を失っていたので、助かる。

「誰だか知らねえが、ありがてえ。ベロニカの仲間ってんなら、信用できるぜ……いてっ!!」

ベロニカが、カミュに蹴りを入れる。
「相変わらずデリカシーがないのね。死んだ仲間に会えたのに、何なのその態度!!」
「はあ!?オマエが死んだあ!?いつ?」

ベロニカとしては、カミュは自分がウルノーガ達から逃がしたことを知らないのだと思っていた。
「命の大樹でホメロスに襲われたのを、あたしが逃がしたのよ!!」
「何言ってんだ!?あの時なら、イレブンがぎりぎりで俺達から守ってくれたじゃねえか!!」

過ぎ去りし時を求めた者と、未だ求められてない者
このずれが生じるのは当然であった。


582 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:42:59 sevNlcTA0

「カミュ……といったな、その怪我は何があったのだ?
ベロニカ殿も、かつての仲間だからといって、怪我人に無理をさせるな。」
二人の口げんかにしびれを切らしたハンターが、口をはさむ。


カミュは話した。
銀髪の悪鬼、セフィロスのこと。
自分と戦ったカエルの騎士、その助太刀をしてくれた金髪の青年が纏めて殺され、自分だけはどうにか逃げてきたということ。

「何よその銀髪………。」
「手練れの戦士を二人って、そのような輩が本当にいるのか……。」

カミュの敗走、そしてカミュが目の当たりにした人間の死から、ここが殺し合いの世界だと改めて実感する。
本当はベロニカとしては、カミュから元の世界で、ウルノーガに襲撃された後どうなったかもっと聞きたい所だ。
しかし、それ以外にやらなければならないことがあると実感した。

「カエルの方はどうなったかわかんねえ。でも多分死んだと思う。
アイツを倒すために、力を貸してくれ!!」

「ハイハイ。言われなくても分かってるわよ。」
「うむ。そのような危険な輩、のさばらしておくわけにはいかぬ。」

旧知の仲間とは良いものだ。
いくら手ごわい敵と敗北しても、仲間が生きている限り決して負けはしないという気になる。
だが、3人程度では、セフィロスに勝てる可能性はまだ低い。

「あの銀髪もそうだけど、他の仲間もいるか気がかりだ。
戦力強化のためにもまずはこの地図の、イシの村へ行こうぜ。」

「ちょっ、それ、あたし達が言おうと思ってたのに!!」

どうやらベロニカもカミュも、同じことを考えていたようだ。
しかし、この様子だと、他の仲間も(参加させられているとしたら)同じことを考えているのではないか。

こうしているだけでも、自然に仲間が集まっていくのではないかと、カミュとベロニカの間にはどこか希望的観測があった。

橋を渡り始める。
カミュが後方を、ベロニカがサイドを、ハンターが前方を気遣う。

「待て。誰かがくる。」
ハンターが二人に注意を喚起し始めた。

三人の向かう先から、傷ついた男が歩いてきた。
「止まれ!!拙者らは敵ではない!!」

ハンターは大剣を地面に置き、敵意がないことを示す。


583 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:43:23 sevNlcTA0

2つめのB-bridge―橋

「敵意ではない……か。よかった。」

目の前の男は、被害者か加害者かと聞かれれば、どうみても前者という様子だった。
彼、イウヴァルトは最も主催者に近い参加者なのだが、それを見抜くのは難しい。

「おいオッサン、どうしたんだよその傷!?」
「いや……さっき向こうの森の中で、銀の鎧と、大きな剣を持った男に襲われてな……。」

カミュに続いて、この男も手傷を。
やはりこの世界は、殺し合いのために作られたものだと、改めて実感させられた。

「気を付けろ。奴は、名前を名乗っていた!!『カイム』と!!」
「オジサンの腕も、そいつに傷つけられたの?」

ベロニカは包帯のつけた腕を見つめた。
男は急にその腕を隠す。

3つめのB-bantage―包帯


「なるほど。この先には危険な相手がいると。それが言いたいのだな?」
「そうだ。今はカイムはどこにいるか分からんが……気を付けろ。巨大な剣を振り回す、危険な男だ。」

そう言いながら、イウヴァルトはすぐにカミュ達が来た方向に行こうとする。

「おいオッサン、オレ達と行くつもりはねえのか?」
「とんでもない!!もしかして……あんたらはこの先へ行こうというのか?」

北上しようとするハンター達を、イウヴァルトは遮る。

「うむ。拙者らはこの先で仲間を探そうとしていてな。邪魔が入るというなら、押しのけて行くしかあるまい。」

「どうしてもというなら止めない。だが、もし仲間とやらに再開しても、カイムのことは話しておいてくれ。」

そういうと、イウヴァルトはそそくさと立ち去った。


4つめのB-blind―目をくらませる


三人はイウヴァルトの姿が見えなくなるまで、暫く黙っていた。

「さて、どうにも言いたいことが一つある。」
橋ももう少しで終わる所、ハンターが一番先に口を開いた。

「奇遇ね。あたしも言いたいことがあったわ。」
ベロニカもそれに続いて口を開いた。

「ま、ネタの察しは付いてるけどな。」

カミュもそれにつられるかのように、言葉を発する。


「あの男、どうにも怪しくないか?」
「「やっぱり」」

ハンターの言葉に、ベロニカとカミュが同意する。


584 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:43:57 sevNlcTA0
「拙者としては、あの血のついた包帯がどうにも怪しかった。
誰かに襲われたなら、カミュ殿のように多少なりとも血の匂いがするものだが、あの男からはそんな匂いは全くしない。」

「それに、あたしがあいつの手を見た瞬間、隠そうとしたでしょ。
包帯がフェイクだとバレたくないからに、決まってるわ。」

「そもそも、襲われたなら、こんな見晴らしの良くて、一本道の橋なんかに逃げるか?
別のヤツに挟まれたら、それこそ一巻の終わりだろ。」


三人は、イウヴァルトとの対話中に、異なる視点から相手を警戒していた。
生まれは違えど、伊達に戦場を潜ったわけではない。

加えてハンター、盗賊、魔法使い。どれも観察眼がモノを言う職業だ。
情報と経験を繋げて、推理することなど容易にできる。

彼らは、即座にイウヴァルトが被害者を装って、カイムという人物を危険な相手に仕立て上げようとしていることに気が付いた。

偽の包帯に血、逃げ場所には不自然な橋、目くらましのための嘘情報
イウヴァルトをクロだとする条件は揃った。

「Bingo……だね。」


5つ目のB-Bingo


「だけどよ、ちょっと気になるんだ。なんで二人共、アイツがガセの情報をばら撒くヤツだって分かってたのに、攻撃しなかったんだ?」

カミュがまだ分からない疑問を口にする。

「あの男からは、あのマナという少女と同じ臭いがした。それにヤツのザックから、それに輪をかけて嫌な臭いがした。
恐らく何か厄介な道具を支給されているに違いない。」

「こんな所でドンパチやったら、手負いのアンタが危険じゃない?あたしの気遣いに感謝しなさいよ!!
それにあたしたち、誰も回復呪文を使えないでしょ?」

そう言いながら、ベロニカはカミュを小突く。

「すまねえな。そこまで気づかなかったぜ。でもその怪我人に対して、暴力を振るうなよ!!」


585 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:44:20 sevNlcTA0
カミュは口調とは反対に、旧知の仲のベロニカ、そして新たな仲間であるハンターに信頼を寄せていた。

だが、危険人物を見過ごしてしまったのは、三人にわだかまりは残った。
奴の情報を鵜呑みにする者が出ないといいのだが。
カミュだけは、南へ行きセフィロスと言う本物の危険人物と戦ってくれることを僅かに願っていたが、それは都合が良すぎだろう。

自分の判断が、正しいことだったと願いながら、三人は進む。

【B-6/橋(北側) /一日目 黎明】

【ベロニカ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す 
1.イシの村に行けば仲間と合流出来るかも
2.自分の死後の出来事を知りたい
3.カミュが言っていたことと自分が見たものが違うのはなぜ?

※本編死亡後の参戦です。
※仲間たちは、自身の死亡後にウルノーガに敗北したのだと思っています。

【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲
1.ベロニカを護りつつイシの村に向かう
2.主催者の関係人物(イウヴァルト)を警戒する。

【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)、後悔、ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、折れたコンバットナイフ@BIOHAZARD 2、ランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
1.ベロニカ、ハンターと共にイシの村へ向かう
2.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
3.雷電の死は自分の責任?

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。


586 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:45:19 sevNlcTA0

6つめのB―bat―蝙蝠


「と、いうのがヤツらの会話であります。キー!!」

「でかしたぞ。スカウター。」
イウヴァルトは醜悪な笑みを浮かべ、ボールにスカウターを戻す。

イウヴァルトが去った後もハンター達の会話を、橋の下から盗み聞きをしていた。

(小癪な奴等だ。騙されたふりをして、俺を欺いていたのか。)

だが、このスカウター、という魔物。
偵察用としては、かなり優秀だ。

戦闘力は高くはなさそうだが、音を消しながら飛ぶことが出来、言葉が話せる分情報伝達にも使える。
下手なドラゴンよりよほど使い勝手に長ける。
この赤白のボールの仕組みはよくわからないが、マナの奴も中々洒落たものをくれた。

それよりも厄介な奴は、あの長身の男。
自分を匂い一つで、マナの関係者だと見抜いたのか。

まあ、どうでもいい。奴も『危険人物』にすればいいだけだからな。


【B-6/橋(南側) /一日目 黎明】
【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康 腕に布を巻き、ケガを偽装
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(スカウター)@クロノトリガー ランダム支給品(0~2個、主催者によって優遇されている)
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンターを殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。


【支給品紹介】

【 スカウター@クロノトリガー】
イウヴァルトに支給された、スカウターが入ったモンスターボール。
古代に生息する魔法生物で、目玉に蝙蝠の翼が生えたような姿をしている、室内のガードや偵察が中心のモンスター。
実は未来にも少数ながら生息している。
今作のような情報伝達以外にも、睡眠効果を持つ「いちまんヘルツ」や雷魔法の「サンダー」を使う。
また、雷「以外」の属性を吸収し、カウンターで「超放電」を打つ特徴もある。


587 : 6つの『B』 ◆vV5.jnbCYw :2019/08/07(水) 00:45:33 sevNlcTA0
投下終了です。


588 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 00:12:55 0SoG77EA0
すみません、土曜日0:00まで予約の延長をお願いします。


589 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/09(金) 10:58:09 torpDzhk0
投下乙です!
タイトルと本編の絡ませ方がおしゃれですね。
カミュ、次は誰と出会うんだろうと思っていましたがこの二人と組むとは。当分は安全そうですね。
この三人、戦力的にも安定していますし裏もなさそうなので心強い対主催メンバーになりそう。
カミュとベロニカの食い違いも後から解消されていくのかなぁ。楽しみです。
そしてハンターさん、匂いで物事を判別できるなんて有能すぎる……。
近くにはGとリーバル、マールがいて不穏な予感がしますが果たして。

イウヴァルト、マナから優遇されてるだけあって厄介な支給品が配られましたね。
残りの支給品次第で彼の今後の立ち回り方が左右されそうです。

>>588
延長の件、了解しました。

では美希、9Sで予約します。


590 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:24:45 0SoG77EA0
ギリギリになりましたが、投下します。


591 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:25:35 0SoG77EA0
「……で、トレバー。具体的には何をするんや?」

真島組の組長、真島吾郎は目の前の男、トレバーに尋ねる。

殺し合いに乗るでもなく、逆らうでもなく、ただただ気分のままに楽しむ──2人の間で行動方針がそう決まったばかりである。

だがその結果の行動が"好き勝手暴れる"だけであるのなら、その行為自体は殺し合いに乗ることとほぼ同義。
トレバーは楽しむと言っていたが、真島にとってはトレバーの楽しみなど知ったことではない。

「俺にはプライドがあるんや。こんな首輪ひとつで縛られるかいっちゅープライドがな。やけん俺はこの殺し合いには乗らん。でもお前はそういうワケでもなさそうやな、トレバー。」

トレバーは『暴れることしか知らない』と言った。
だがしかし、それならば既知の概念に従って暴れ、殺し合いに乗ればいいではないか。その過程を楽しめるのならむしろ怖がってばかりであるだろう他の参加者たちに比べれば精神的なアドバンテージになる。

「つまり、や。お前にとって『俺と殺し合いに乗ること』と『俺と暴れること』の違いは何や?」

何かがあるはずなのだ。
トレバーが『殺し合いに乗ること』と『楽しむこと』の線引きをしている何かが。
真島は単純な好奇心からそれを尋ねてみた。

「はぁ……ミスター・ヤクザ。お前はどうやら『ゴラク』を知らねえようだな。」

「娯楽ぅ?知っとるわいそんなもん。」

真島は娯楽を知らないと言われたことに多少の苛立ちを覚える。
少なくとも彼の自負する限り、娯楽については嗜んできたつもりだ。
何よりも、彼にとって桐生との喧嘩は何ものにも替えがたい娯楽そのものだった。

「分かってねえ。お前はこの期に及んでまだ『殺し合い』の枠から抜け出しきれてねえのさ。」

「どういう意味や?」

「仕方ねえ、俺が教えてやるよ。まずは──ハンティングなんかどうだ?」

「ほう…よーわからんが面白そうやないか。エエで、ついてくわ。」

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「つまりハンティングとは……ゲームの目的とは全く関係の無い、それでいて己の破壊衝動を満たせる、完全に『ゴラク』な行いなのさ。」

「……アホらし。無抵抗の動物撃って何が楽しいんや?」

「焦りは禁物だぜミスター・ヤクザ。これは言わば前菜よ。こっからおもしれえ奴らとドンパチやることになるかもしれない。ちったあリラックスしろってこった。」

トレバーの言葉を真島はつまらなさそうな顔つきで聞き続ける。

「ようやくおもしれえモンを見つけたぜ……さあ、ハンティングと洒落こもうじゃねえか……」

トレバーが見つけたと言ったのは動物──に見えなくもないが、少なくとも既知の動物の中には居ない奇妙な生き物だった。
トレバーはその生き物に対し、ニヤリと笑いながら銃を向ける。

そして引き金を引き──銃声が鳴り響いた。



「……ほう?」

しかし次の瞬間、トレバーも予想していなかった光景が目の前に広がっていた。

その動物は、銃弾を躱していたのだ。


592 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:26:58 0SoG77EA0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

(Shit!! 間一髪躱したが…ありゃマトモじゃねえな…。)

トレバーが狙撃した動物──ソニックは桁違いの速度と反射神経で銃弾を回避していた。

(威力はスネークのスマッシュ攻撃並…?いや、あんなもんガードすら出来ねえ。)

緊急回避を用いても完全に躱すことが出来なかった散弾が、ソニックの身体に傷をつけた。
速度も攻撃範囲も段違い。
マルティナの時とは違い、殺し合いに乗るのを止めるなどと悠長なことは言っていられない。

(まずは速さで──制圧するッ!)

考えるが先か、超スピードでトレバーの背後へ回り込む。

「!?速ッ……」

からのその場で小ジャンプ蹴りをくらわせる。
トレバーは多少吹っ飛ぶも、すぐにソニックに銃口を構える。
しかし横方向にフェイントを混ぜながら移動するソニックのスピードを追いきれず、狙いがうまく定まらない。

直後、ソニックは辺りをぐるりと旋回してトレバーに接近する。
背後に回った気配を感じ取ったトレバーは振り返りざまに狙撃。
しかしそれを読んで回転しつつ空中へ逃れていたソニックにはまともに命中しない。微かに頬を掠めた散弾もその回転速度に弾かれる。そしてその勢いのまま、ソニックはトレバーに突っ込む。

銃の反動やソニックのスピードのせいでトレバーは防御も回避も間に合わない。

(──このハリネズミ、強い……!?)


593 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:29:05 0SoG77EA0

──ギィィィン!

トレバーがソニックの強さを認識すると同時に、そこに割り込む影が一人。
真島吾朗。
『嶋野の狂犬』の異名を持つ真島組の組長、その男である。
二本の刀をその手に、ソニックの体当たりを押し返す。

「乱闘でのチームプレーはnonsenseだぜ?」

出会い頭に銃をぶっぱなすような危険人物に喝を入れるのを邪魔されたソニックは不機嫌そうに言う。

「乱闘ぅ?んなもんした覚えないわボケ。」

対する真島はトレバーを庇うつもりなどありはしない。
ただ、速度でトレバーを圧倒するその姿を見てこう思っただけだ。

『コイツとガチの喧嘩がしてみたい』と。

良識や恐怖といったものに縛られることなく眼前の楽しみにのみ食らいつくその様はまさに狂犬。その行動原理は理解不能ながらも至ってシンプル。

「俺がやりたいのはただ一つ。喧嘩、しようや。」

「……へぇ、1on1とはいい趣味だ。だけど──」

かくして真島と対面したソニックが最初に取った行動は、その場に留まっての防御の構え。
ソニックのスピードに期待していた真島は一瞬、興を削がれる。

「──止まって見えるぜ?」

だがその一瞬の内に、ソニックの行動は防御から撹乱へとシフトする。
防御の構えを解いた瞬間を目視することも出来ないまま、ソニックは真島の背後へと回っていた。

来るであろう背後からの一撃を貰うのを覚悟し、受け身の準備をする真島。だがその一撃は飛んでこない。
真島が振り返ると、ソニックはトレバーの方へと向かっていた。

(なんやアイツ……戦う気ないんかいな。)

落胆を覚え、興を削がれる真島。
だがソニックにすればそれも当然である。
彼のスピードをもってすれば一対の刀などさして脅威ではない。
この場で彼の脅威となり得るのはトレバーの持つ銃のみであった。


594 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:29:55 0SoG77EA0
「──甘ぇぜ」

だがソニックの次の動きは、トレバーを完全に制することは出来ない。
ソニックのパンチはトレバーに命中することはなく──カウンターとなるトレバーの拳がソニックの顔面にクリティカルヒットする。

「なっ……!」

トレバーがソニックの動きを読み切った理由はふたつ。
ひとつは、トレバーの常人を超えた反射神経。殺し合いなど茶飯事の中で生きてきた彼は、何度も銃弾の速度を目にしながら生きてきた。
ソニックがいくら速いといえども、銃弾の速度と威力を再現することなど出来はしない。
その地点でソニックの脅威度などトレバーの日常に劣る。

そしてふたつ目。
それはソニックの攻撃を受けてから、トレバーが頭を守るために何となく被ったヘルメットである。
被った者の身体の働きを倍増させるメット──『ヘイストメット』によりトレバーの速度が急激に高まった。
持ち前の反射神経も相まって、ソニックにカウンターを当てられるだけの速さを手にしたのだ。

自らの勢いまで利用されたカウンターを受け、吹き飛んだソニックはそのまま仰向けに倒れる。

「やってくれるじゃねえか、ミスター・ハリネズミ。この俺をここまでイラつかせたのは褒めてやるよ。」

そこに向けられるトレバーの銃。
彼に情けなどなかった。
再び、夜空に一発の銃声が響き渡る。


595 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:30:31 0SoG77EA0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

Shit! まさか俺のスピードが破られるとは思っていなかったぜ。
銃を使う奴はカウンターワザを持たない──そんな常識、こんなとこじゃ通用しなかったってことだ。
リトル・マック顔負けの鋭いパンチ貰っちまった。

ああ、奴の銃が眼前に迫ってやがる。
ここでオレは死ぬのか?

いいや、そんなのお断りだね。
アイツだってまだ戦ってる。
オレはアイツに、あの丸いピンクの英雄に、向こうの世界を託したんだ。
だったらこっちの世界の英雄はオレだ。
こんな殺し合い、ぶっ壊してやる。
そのためにもオレはまだ……こんなところで負けてられねえのさ。だから──





──決めてやるッ!





響き渡る銃弾の音に掻き消された声。

そして──銃撃の煙の中から現れた、黄金のオーラを纏ったソニック。
そのオーラは超至近距離からの銃弾さえも跳ね除けた。

「何だ………」

これにはさすがのトレバーも動揺を隠せない。

「何なんだァ、てめぇはよぉ!」

感情的に、ソニックに向かって怒鳴りつける。

ソニックの黄金のオーラの正体は、『スーパーソニック』。
彼の持つスマッシュボールを握り潰すことでエネルギーを得て使うことが出来るソニックの最後の切り札である。
その状態の彼は、言わば無敵。
剣、魔法、爆弾、銃、いかなる手段を用いても傷つけることは叶わない。


596 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:31:10 0SoG77EA0
さらにこの状態のソニックは──速い。いつもにも増して、速い。
目視すらままならない黄金の弾丸がトレバーの胴を叩く。

「がっ………」

傷跡を押さえる暇も与えられず、背を、足を、腕を、トレバーの各部位をソニックは攻撃する。

(悪く思うなよ……このまま銃を使えない身体には……なってもらうぜッ!)

トレバーの危険性を理解したソニック。
ここで手加減など出来ない。

「うおおおおお!!」
「うがあああァ!!」

両者ともに、自らの信念を吐き出す。それは、勝利への渇望。そして次の瞬間、トレバーの叫びに呼応するかのように明らかにソニックは減速した。

(スーパーソニックが…切れる…?)

それは主催者による支給品の制限。
無敵+身体能力上昇というチカラを持つスーパーソニックには──時間に大幅な制限がかけられていた。

トレバーの拳とソニックの拳がぶつかり合う。
単純なチカラ勝負となればソニックは勝てない。

腕越しに痺れるほどの衝撃を受け、硬直するソニック。トレバーの銃の矛先は再びそんなソニックを捉え、銃弾が放たれる。

だがスーパーソニックの速度が多少残っていたのもあり、拳同士の衝突である程度の距離吹き飛ばされていた。

銃弾がソニックに届くまで、僅かなタイムラグが存在していた。

その隙を突いて、弾かれたようにソニックは走った。
その行く先はトレバーの邦楽ではなく、逆方向。
ソニックが最終的に取った手は逃走であった。

もうひとつのスマッシュボールを使えばトレバーは倒せるかもしれない。だがもう1人の人物は実力が未だ未知数である上に、行動方針もよく分からない。
今の戦いでもトレバーの味方をするでもなく、乱入してくることはなかった。
トレバーを倒して消耗した後にどうなるか分からない。また、スマッシュボールをもうひとつ消費すればもうスーパーソニックにはなれない。最後の切り札を失ってしまうリスクを負うのだけは避けたかったのだ。


597 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:32:59 0SoG77EA0
だがトレバーの銃、レミントンM1100-Pの弾は広範囲に拡散する。
逃げるソニックの胴・脚を僅かながらに撃ち抜く。

大乱闘じゃ味わえない、自らの動きが鈍らされるような痛み。
それでも、今だけはスピードを落とすわけにはいかない。
死神はすぐそこだ。
今も銃口をこちらに向けている。

ビームから逃げるあの時の黄色いアイツも、こんな想いだったのかもしれない。
背後に付きまとう死神の影を振り払って、ただ走ることしか出来なかったのかもしれない。

だけどオレに手を差し伸べる者はいない。

だから己の速さを信じて逃げるんだ。
そして誰か手を差し伸べてくれる相手を見つけたら、今度こそアイツを倒す──仮にそれが、オレの命の最後だとしても。
それまで覚えていろ──ダサい捨て台詞を吐き捨てて、ソニックは逃げ去った。


「………逃がした、か。」

結局ソニックを仕留められなかったトレバーは苛立ちを隠そうともせず近くの木を殴り倒した。

「荒れとるなァ、まったく。」

一方、ソニックと1対1の喧嘩が出来なかった真島も多少の苛立ちを覚えていた。

殺し合いを楽しむ──そんな目的はソニックの予想以上の抵抗に阻害されてしまったのだ。

だが真島は、これからの方針を決めることができた。
ソニックもトレバーも想像以上の強者だった。ここにはそういった強者だけが集まっているのだろう。

そう、これは何か大きな存在に与えられたトーナメント戦。
数多の強者と喧嘩して勝ち抜いて、そしてその先に、決勝戦の相手として桐生チャンと戦う。
そこで真島は、何ものにも変え難い究極の『娯楽』を得るのだ。
桐生チャン以外の敵は、言わば全てが前菜。トレバーの言葉を借りるのなら、全てが『ハンティング』の対象なのだ。

(ま、アンタは準決勝まで取っといたるわ、トレバー。)

未だ苛立ちを隠さないトレバーに向けて、真島はニヤリと笑った。

一方トレバーは、辺りの木々を一面なぎ倒しても腹の虫が収まることは無かった。
先ほどの余裕ある態度とのギャップにぞわりとする感覚を覚える真島。
感情的な一面、猟奇的な一面、または精神的に安定している一面、これら全てはトレバー・フィリップスを構成する一面である。
多重人格。
これが、トレバーの本質を誰も掴めない要因であった。

「おい……ミスター・ヤクザ、行くぞ。今の俺は──誰かを拷問にでもかけたい気分だ。」

「ほーん……ま、俺の喧嘩の邪魔しなけりゃ、俺の倒した相手は好きにしてええで。」


598 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:34:04 0SoG77EA0
【C-1 市街地付近/一日目 黎明】 
【真島吾朗@龍が如く 極】 
[状態]:健康 
[装備]:共和刀@MGS2 
[道具]:基本支給品、民主刀@MGS2、ランダム支給品(0〜2個) 
[思考・状況] 
基本行動方針:好き勝手に、1対1の喧嘩をする。
1.決勝戦は桐生チャンやで。
2.準決勝はトレバー、アンタや。


※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。



【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】 
[状態]:二日酔い ダメージ(中)
[装備]:レミントンM1100-P(2/7)@バイオハザード2 ヘイストメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水1日分消費)、ランダム支給品(0〜2個) 
[思考・状況] 
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。 
1.とりあえずは誰かを適当に拷問にでもかける。
2.マイケル達もいるのか?


※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。 
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。

【支給品紹介】
【ヘイストメット@クロノ・トリガー】
トレバーに支給された兜装備。
装備していると常にヘイスト状態となる。
見た目に難ありなので、ソニックとの戦いの中で頭を守る必要性を実感するまでトレバーは装備していなかった。


599 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:35:07 0SoG77EA0





「ぐっ……走るのはもう限界……か…。」

トレバー達から逃げてきたソニックは、後方に追ってくる影が無いのを確認して倒れ込んだ。
銃弾に貫かれた足でここまでスピードを落とさず走って来れたことが奇跡のようなものであった。

前方に広がる海から水を汲み出す。
そして染みるような痛みを堪えながら、傷口にかけて血を洗い流す。

脚を怪我したのはソニックにとって致命的だった。
自慢のスピードを奪われてしまったからだ。
今の状態じゃ、マルティナと再び出会っても叶わないだろう。

リンク、ゼルダ、スネーク、ピカチュウ、クラウド。
今までは殺し合いに乗っている奴ばかりだったけど、自分のよく知る彼らはこんな悪趣味な催しに乗るような奴らではない。
やはり彼らとの合流を図るのが最優先事項のようだ。

協力出来る人間と出会うまでは、戦いはなるべく避けた方がいいのかもしれない。

「さて、これは本格的に動いた方がよさそうだな。アイツらが殺されるわけにはいかねえ。」

銃弾を何とかそう自分に言い聞かせるとソニックは立ち上がる。
海に背を向け、知り合いを探すために一歩を踏み出した。




──ごめんね………。




死神は、唐突に訪れる。




ソニックは何か、後方へと引っ張られるような感覚を覚えた。

What?
後ろは海だ。
誰かに『引っ張られる』なんてことあるはずがない。
海の中では一切の攻撃行動が出来ないのだから。

「な……にが…………。」

そしてソニックは海に──深い深い、闇の底へと落ちる。
直後に首筋に走る斬撃の痛みを感じる術もなく、ソニックの意識は闇へと消えていった。

【ソニック@大乱闘スマッシュブラザーズSP 死亡確認】


600 : 死神の呼び声 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:35:52 0SoG77EA0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「ごめんね……。」


その言葉は、ソニックに向けられたものではない。
ソニックの命を奪った死神──ミファーは、英傑の名を汚したことに対して、姿の見えぬリンクに対して謝ったのだ。
ここは闇の底。
リンクの生きる光の世界にはもう戻れない。

これからも私は、このように闇の中から、何が起こったかも解らせぬまま人を殺し続けるのだろう。

「それでも私は誓ったんだ。君を守るって。だから──」

ソニックのバックパックを回収し、ミファーは再び闇の中へと消えていく。
たった今殺した者が、自分の知らないリンクを知る者だということも、知らないままに────

【C-2 水中/一日目 黎明】 
【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】 
[状態]:健康 
[装備]:龍神丸@龍が如く 極 
[道具]:基本支給品、スマッシュボール@大乱闘スマッシュブラザーズSP ランダム支給品(確認済み、0〜2個) 、ソニックのランダム支給品(未確認0〜2個)
[思考・状況] 
基本行動方針:リンクを優勝させ、ハイラルを救う 
1.海を移動し、不意打ちで参加者を殺して回る。 
2.呼ばれたのは私とリンクだけ……?


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。 
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。


601 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:40:10 0SoG77EA0
投下終了しました。
書いている途中でミファーを出す絶好のタイミングだと気付いたので追加しました。
追加予約しようとも考えましたが、ミファーのスタンスから展開がバレバレになりそうだったので伏せさせていただきました。ゲリラ投下と同じ扱いとしていただければ嬉しいです。


602 : 名無しさん :2019/08/09(金) 23:46:13 gOsoPNGs0
あー、うん、いくらなんでも雑すぎじゃないですかね……


603 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/09(金) 23:51:08 0SoG77EA0
>>602
すみません、もう少し具体的に言って頂けると助かります。


604 : 名無しさん :2019/08/10(土) 00:05:59 HPChLxt.0
マルティナでも捉えきれなかったソニックの音速の速さが銃弾飛び交う世界を生きてきたから捉えられるという理論の時点でまず違和感があり、スピンアタックも使わず亜光速のスーパーソニックで殴ってもピンピンしててしかも一瞬で切れるって言いたくありませんがソニックをトレバーの踏み台にしているとしか…

結末自体はトレバーの関わる所ではないんで変えなくてもいいと思いますけど加筆はお願いしたいです


605 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/10(土) 00:10:23 EZYzrLuA0
>>604
なるほど、把握しました。
言い難いことを言わせてしまってすみません。

自分としてもヘイストメットのくだりは多少強引な感じが否めないので、とりあえずこの投下は破棄とさせていただきます。


606 : ◆KbC2zbEtic :2019/08/10(土) 06:40:36 tpb.YLH60
ソニック・ザ・ヘッジホッグ、四条貴音、予約します


607 : ◆/sv130J1Ck :2019/08/10(土) 13:17:24 i42LBOyo0
書き終えてから気づく
アリオーシュが警察署から電話出ていた事に
書き直すと割と大幅に手を加えなければならないので
予約を破棄します


608 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/11(日) 19:25:38 6jUJ1A320
A2、トウヤ予約します。


609 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:07:17 5/A9kGKI0
投下します。


610 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:07:48 5/A9kGKI0
「オノノクス、『りゅうのまい』。ダイケンキ、左から『アクアジェット』。」



目の前に立っている女。
見た目こそ人間そのものだが、腹に開いた穴から覗かせるものは、人間のそれではない。
だとすると、ポケモンということか?
分かるのは、相手が相当の力を持っていること。
激しい戦いを経てなお、整った顔に映る鋭い眼差しが、それを物語っている。
それこそ、あのゲーチスなどとは比べ物にならないくらい。
獅子はウサギを狩るにも全力を尽くすと言われるが、手加減をしたら瞬く間に殺されるだろう。






目の前に立っている男。
それは、圧倒的な力を持った存在だということが伝わった。
帽子の奥から覗かせる獅子のような眼光が、それを物語っている。
自分がケガした相手だと侮って、手加減してくる相手ではなさそうだ。
逃げるか?
いや、そんなものは自分の決意に反するし、逃げた所で生き残れる相手でもなさそうだ。

彼女は、逃げるという道を自ら捨てる。
逃げればまだ、自分の使命を全うできる可能性もあるというのに。



時々色彩感覚が無くなる眼で、相手の男が連れている怪獣を見て、A2は即座に最適解を見出す。
目の前の怪獣2体は、大柄な図体からして速さはそれほどでもない。
恐らく、エンゲルスのように力で押すタイプ
ならば自分がやることは一つ。

かつてヨルハ部隊にいた時から積極的に取り入れていた戦術。
司令部を叩く。

自軍より数や戦力が多い部隊を目にした時どうするか。
わざわざ相手の兵力や戦力に付き合う必要はない。
司令部、コントロール部分の中心を叩けばいいだけだ。
指示を出す部署さえ壊してしまえば、どれだけの大部隊いや、大部隊であるほど、戦力が容易に瓦解する。

疾走し始めたてから、いきなりダイケンキと呼ばれた怪獣が襲い掛かる。
「!?」
それは、鈍重そうな水獣とは思えない勢いだった。
水に乗り、名の通りジェットのごとき勢い前足の剣で斬りかかる。





相手が何をするかなんて、分かっている。
大方、オノノクスとダイケンキを無視して、指示を出している自分を攻撃するつもりだろう。
あれほど鋭い目で見つめられれば、余程殺意に鈍感な奴じゃない限り分かる。
ならば、リズムを崩しつつ、両サイドから攻撃を仕掛けるだけだ。
しかし、左からのアクアジェットは、女の剣で止められた。
穴の開いた右の脇腹を攻撃するのは、予測される可能性もあった。
だからウラをかいて左を攻めようとしたのだが。



そのまま力任せに、ダイケンキを押し飛ばす。


611 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:08:05 5/A9kGKI0
「オノノクス、右から『きりさく』。ダイケンキ、上に『ハイドロポンプ』」
だが、A2が再びトウヤめがけて走り始めると、トウヤも次の指示を出す。




「速い!!」
オノノクスと呼ばれた怪獣のキバが、襲い掛かる。
(まさかさっきの踊りに、何かからくりがあるのか?)
地面を蹴り、強引に空中へ逃げる。
アスファルトの地面が、大きくえぐれていたことから、その判断が正しかったと認識する。
しかし、逃げた先でダイケンキからの高圧水が、狙ってくる。
だが、それで終わるわけではない。
体を空中で捻り、致命傷を負ってない部分で水圧を受ける。
敵の攻撃を回避することイコール自分の攻撃を放棄することではないのだ。
ジャンプしたことは、オノノクスの攻撃を躱しただけではなく、そのまま男を守る壁を乗り越えることが出来る。



そのまま強引に体をきりもみ回転させ、重力と遠心力に任せて、トウヤを切り刻もうとする。

だが、トウヤはいち早く刃が届く範囲外まで逃げる。
「避けた!?」

確かにハイドロポンプの邪魔があったり、桐生戦でのダメージを引きずっていたりと、万全な状態ではなかった。
それでも、A2の斬撃を躱したのは、トウヤの反射神経があってのものだろう。




(今のは、ほんの少し危なかったな。)
空中でハイドロポンプの高圧水を受けながら、自分の所に斬りかかるとは予想外だった。
あの男と少女が、血相変えて逃げ出しているのも分かる。
あと少し気付くのが遅かったら、剣のサビにされていた。
だが、二撃目はもう撃たせない。
「ダイケンキ、右からアクアジェット。オノノクス、背中に『ドラゴンテール』。」

A2の攻撃を躱すとすぐに、トウヤは指示を出す。




(本当にコイツ、人間なのか?)
今のは人間ではなくても、機械生命体なら間違いなく当たったはず。
それに、目の前で刃物を持っていても、躊躇なく怪獣に命令を出す度胸。
あの桐生という男もそうだったが、人間とは誰かに縋らないと生きることすらできない生き物じゃなかったのか。
だが、次は殺す。
あいつの、2Bの決意を果たすためにも、こんな所で死ぬわけにはいかない。
再びダイケンキが水に乗って超速で斬りかかる。
だが、一度見た技だ。いくら速かろうと軌道が分かれば、怖くもなんともない。



「!?」

A2がカウンターで、ダイケンキを串刺しにしようとした瞬間、悪寒が走った。
ダイケンキとの鍔迫り合いをすぐに破棄し、オノノクスの鞭のようにしなる尾を避ける。


作戦通りのはずだった。
オノノクスのしなる尾で、女にトドメを刺すはずだった。
ダイケンキのアクアジェットと、オノノクスのりゅうのまい。
素早さに影響する技を使い分けることで、攻撃のペースをシャッフルし、敵の防御や反撃のタイミングを掴ませないことを第一とした戦略だ。
そして、あえてダイケンキに同じ攻撃をさせ、対処させやすくする。
ダイケンキを倒せると自信付かせた所で、後ろからオノノクスで刺す。
ここまで躱すとは、やはり人間ではないのだろうか。


612 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:08:26 5/A9kGKI0
手負いの身でポケモン2体を一度に相手にするのは無理だと認識したA2は、双方からの攻撃が届かない位置にまで移動する。


しかし、作戦が失敗してもトウヤは攻撃の指示を止めない。

「オノノクス、『りゅうのまい』。ダイケンキ、『ふぶき』」






(本当に容赦ないな、コイツ……)
氷の混じった強風が襲い来る。
吹雪で霞んだ先を見ると、オノノクスが再びあの舞踏を踏んでいる。
まさか、自分の動きを吹雪で鈍らせた所で、さらにスピードと攻撃力を上げて、一気にとどめを刺すつもりだろうか。

地面の瓦礫を思いっきり蹴飛ばすが、吹雪という向かい風の影響により、大した効果はない。
いくつかは外れ、いくつかはオノノクスのキバに弾かれる。

どうやら、怪獣使いを優先して殺す作戦は、悪手だったようだ。
壁となる怪獣は2体だけだが、奴が出す指示が、その二枚の壁を、難攻不落の要塞へと変える。
加えて怪獣使いも、キリュウほどではないが、強者相応の動体視力を備えている。
そして迂闊に攻撃を始めたが最後、躱された挙句二体に挟撃され、手痛いダメージを食らいかねない。

だからどうした。
作戦が失敗したなら、作戦を変えればいいだけのこと。
まだ戦いは始まったばかり。
これしきのことで、死んでしまったら、かつての仲間に詫びようがない。
それに、死ねたのなら論理ウイルスに汚染された21号を撃ち殺した時に、自分も死んでいた。

吹雪の中でも顧みず、再度二体に突撃する。
Bモードを使えば、オーバーヒートの影響で吹雪を吹き飛ばせるかもしれないが、こんな状況でやったら再起不能は免れないだろう。

だが、このままではいつか敗北するのを待つだけだ。
やるなら、相手の予想を上回る攻撃をしなければならない。
確かにこの剣は、非常に使いやすいが、重さが足りない。

怪獣ごと相手を倒せる武器が欲しい。

A2は再びトウヤ達に向かうかと思いきや、カイムの剣を収める。



まだやるつもりか。
いくら戦術を変えた所で無駄だ。
攻撃を立て続けに与え、思うようにヒットできないが、戦いの主導権は自分が握っているはず。
こっちはほとんど無傷、相手は死に体といったところ。
それなのに、コイツはなぜ負けを認めない?
何かのために、戦っているというのか?

「オノノクス、ダイケンキ、下がれ。」
だが、念には念を入れて、後方に下がらせる。

その判断が正しかったと、すぐに実感する。


613 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:08:43 5/A9kGKI0




A2は、折れかけていた街灯をへし折り、新たな武器にした。

「食らえッ!!」
街灯がブン、と音を立てて横なぎに一閃。
しかし前もって下がらせていた二体には当たらない。
壊れたのは、市街地の壁だけだ。

だが、人間離れした力で振り回される街灯は、安易に敵を近寄らせない。
しかも攻撃範囲が広いため、多少のずれもカバーできる。
まさに、攻撃は最大の防御。

そのまま街灯を振り回しながら、近づく。





これは予想外だった。
折れた街灯を振り回すなんて戦術、聞いたことがない。
2体を下げておいて、正解だった。
あれがまともに当たれば、自分は勿論、オノノクスやダイケンキもただじゃすまないだろう。
しかも、自分の方に街灯が壊したもの、そして街灯の破片が降り注ぐ。

「ダイケンキ、街灯に『ふぶき』!!オノノクスはそのまま『りゅうのまい』」
止む無く、女ではなく、街灯とその二次災害に目を向ける。
吹雪の力で、降り注ぐ瓦礫を吹き飛ばし、さらに街灯を凍らせることで、脆くする。
元々戦いの影響で、壊れかけていた街灯は、壁にぶつかったことで、先端が砕ける。


「今だ!!オノノクス、街灯に『きりさく』!!」
先端が砕けた街灯が、パワーアップしたオノノクスの攻撃を受けて、さらに先端2/3ほどが無くなる

(いない?)

だが、その街灯の先にいるはずの持ち主はいなかった。





(もう少し持ってほしかったが、まあいい。)
単純に長い武器を使ったのは威力と、自分の力をフルに生かせるからではない。
少しでも自分以外の存在に、数百分の一秒でも、意識を向けて欲しかったからだ。

怪獣が放ったふぶきによって、視界が悪くなっていたこともあり、一瞬だけでも意識を自分から逸らすことが出来た。


614 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:09:13 5/A9kGKI0

一瞬、怪獣使いと怪獣たちの視界から逃れた時間を有効活用し、死角から攻撃した。
「シュバアアアア!!」

折れた街灯でダイケンキを刺す。
さらに間髪入れず剣を抜き、オノノクスを斬り付ける。

「ガアアア!!」
悲鳴からして、ダメージがあったようだ。

「オノノクス、『きりさく』!!ダイケンキ、『シザークロス』!!」
しかし、反撃とばかりに、怪獣二体が襲い掛かる。

カイムの剣で、牙を防ぐ。続いて、ダイケンキの斬撃。
一撃は防ぐが、二撃目は、後ろによけるしかなかった。
致命傷こそ与えられなかったが、初めて相手にダメージを与えた。
まだやれる。

「へえ……久しぶりですよ。俺のポケモンにダメージを与えたなんて、これは楽しめそうだ。」

怪獣使いが、帽子の裏からニヤリと笑った。
「楽しむ……だと?」

決死の一撃さえ、娯楽として扱われてしまうなんて、正直笑い話にならない。


「ええ。俺を楽しませるヤツは、前の世界に誰一人としていなかったんです。
けれどこの世界では、予想以上に楽しめそうですね。」

(クソッタレが……)


A2はオノノクスとダイケンキの攻撃を、一発一発躱し続ける。
時には横に、時には上に、時には剣で受け流し。
もう何度攻撃をやり過ごしたか覚えていない。
多分相手も、覚えていないんじゃないのか。
隙を見て、反撃をしたいところだが、どうにもその時間が巡ってこない。
流石に、街灯を使った攻撃も、二度は通用しないだろう。
辺りを観察し、反撃の糸口になりそうなものを探す時間も与えてくれない。



トウヤは休むことなく、波状攻撃を加える。
だが、まともに当たったことは、一度もない。
勿論、ワンパターンではなく、攻撃のリズムを崩しながら、攻め立てる。
3段階攻撃力と素早さが上がったオノノクスと、ダイケンキ。
一度でも当たれば勝機は見える。
だが、その当たる機会が、どうにも見えてこない。

(ここまで時間がかかった戦いも、いつ以来だろうな。)

しかし、時間のかかる戦いこそ、強者と弱者を分ける機会の一つ。
いくら持久戦に持ち込まれたといっても、簡単に崩れたりはしない。


615 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:10:50 5/A9kGKI0
守り続けていれば、おのずと攻撃のチャンスは出来る。
まさに、防御は最大の攻撃。



A2の狙いはこうだった。
一気に攻撃をせず、自分の身を守ることを中心にしながら、少しずつ相手を疲弊させていき、チャンスが来たら一気に攻める。

ボロボロの状態で持久戦を広げるなんて愚かしいとしか言いようがないし、自分もそうだと思う。
だが、愚かでもいい。
みじめでもいい。
自分の決意を、
汚れ仕事を引き受けるなんて、昔からやってきたことだ。





「なッ!?」
しかし、膠着していたと思われた時間が、予想外なまでに早く訪れる。
A2のぽっかり空いて機械の部分が見える部位から、放電の音が聞こえる。
ダメージを過剰に負った状態で、体が限界を迎えたのだ。
その瞬間、体が電子頭脳の指示についていかなくなった。

「く……くそ!!」

その瞬間を見逃す相手ではない。
「オノノクス、ドラゴンテール。ダイケンキ、アクアジェット。」

波状攻撃を抵抗することも出来ず、壁に叩きつけられる。

動け。
動けって言っているだろ。
こんな所で終わってどうする。こんな死に方、死んでいった仲間が満足すると思っているのか。
だが決意も空しく、膝が砕け、脚がもつれ、崩れ落ちる。
このまま勝負を続けていても勝てない、と思ったA2は、最後の賭けに出る。


「勝負、ありましたね。」
最早負ける要素は残されていないと確信し、ポケモンの攻撃を止めるトウヤ。

(何……勝った気でいる……)

だが、彼女は一瞬のチャンスを待っていた。
オノノクスと、ダイケンキの間に出来たスキマから、まっすぐにトウヤが見える瞬間を待っていた。


616 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:11:09 5/A9kGKI0
「でやああああ!!!!!」
「何!?」

その隙間を通して、一直線に剣を投げつける。
しかし、投げた瞬間、A2の体が悲鳴を上げ、スーパーリングを付けた指が砕ける。

「ガアア!!」
オノノクスが尻尾で弾こうとするが、もう遅い。
剣は、まっすぐにトウヤの額を狙っていた。





「……流石ですね。久々に、ヒヤっとしました。」
「失敗……か。」
遠くの方に、カイムの剣が刺さっている。
トウヤの帽子を付けて。
指が砕けた瞬間、狙いが僅かにぶれ、当たることはなかった。

最後の賭けも失敗だった。
万策尽きたと言っても過言ではない。


恐らく自分は死ぬのだろう。
何度も仲間を失うことを目の当たりにしてきた原因か、はたまた自分がアンドロイドだからか、不思議と恐怖はない。

自分が万全の状態で挑めていたら
さっき剣を投げた時に、自分の体にガタがこなかったら。

不思議とそういう言い訳をする気にもない。


「あなたは強かった。俺と一緒に戦いませんか?
勿論、近くの家で応急処置ぐらいはしてあげますよ。」

怪獣使いは手を差し伸べる。
どうやら、殺すつもりはないらしい。


(コイツ、戦いは超一流だが、交渉は三流のようだな……。)
まだ、仲間にならないか、だったら承諾していたかもしれない。
だが、自分の目の前の二体の怪獣のような扱われ方は、断る。
そんな形で渡された命など、かつて自分達を捨石にするつもりだった司令官の下であった命と同じだ。

たとえ、自分に残された使命を全うできる可能性が、数千分の一%ほど上がっても。

「質問を質問で返すのは野暮だと承知で聞く。
オマエのこの世界での目的は何だ?」

深くかぶっていた帽子が脱げ、よく見えるようになった冷たい瞳で怪獣使いは答える。

「オレはただ生きたいんです。それ以上でも、それ以下でもありません。」


617 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:11:36 5/A9kGKI0

これは傑作だ。
目の前の怪獣使いは、桐生のように固い決意があるのかと思っていたら、何もないからこそ、冷酷な戦いが出来ていたとは。
命のないアンドロイドと、命のない怪獣使いと、その命令にしか動けない怪獣の戦い。
この戦いを、滑稽と言わずして、どう形容しようか。

2Bやローズ、桐生のような、固い決意を持った奴らは次々死んでいった。
次に死んでいくのは、私のように中途半端な決意を持った奴。
生き残るのは、こいつのように命がない奴だけなのか。

相も変わらず悔しさはこみ上げてこないが、滑稽さが何故か湧き出てくる。


理解している。
自分のここでの決意は、誰かの決意を粉微塵に砕くことであるくらい。
どうせ死ぬなら、どんな目的でも自分より固い決意の相手に殺されたかった。


否。
我々アンドロイドの命など、自分の脇腹から零れているネジより軽い。
死に場所や死ぬ相手を選別するなんて、贅沢もいい所だろう。
それに、決意を持って死ぬこと、決意がないまま生きること。どちらが良いかなんて自分にも、誰も決める権利はない。


それでも、ただ一つだけ、言いたいことがある。
今にも壊れ行く体が、再び紅蓮に包まれる。

「私が生きるのは、託してくれた仲間のためだけだ!!」
私が死ぬはずだった時に死んでいった仲間は、誰一人望んでいないだろう。
司令官のような、命無き者に従うなど。

(!?)

「なぜ!?」

もう出来ることはないと思っていたが、自分の決意に呼応して、体がBモードに入ってくれたようだ。
神などを信じるつもりはさらさらないが、何かがそうさせてくれたというなら、その『何か』に感謝しよう。


「うおおおあああああああああああっ!!!!!!」
もう目は見えない。だが、相手の呼吸を感じ取り、位置を察知する。
もう脚は動かない。だが、左手で思いっきり地面を殴って跳躍する。
もう剣は持ってない。だが、指もない切り株のような手を振り上げる。


「ダイケンキ、アクアジェット!!オノノクス、きりさく!!」

ダイケンキが水に乗って斬りかかる。
だが、炎を纏った拳は、アシガタナを貫き、ダイケンキの心臓を貫いた。
死ぬことを予想していなかったらしいダイケンキは悲鳴も上げずに、崩れ落ちる。


618 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:12:00 5/A9kGKI0

しかし、それ以降動くことはなかった。
自分も、ダイケンキも。
もう数センチ拳を動かせば、怪獣使いにも命中しただろう。
だが、もう数ミリほども動かすことは出来ない。
オノノクスのキバが、自分の脇腹を貫く。
文字通り、体を斬り裂かれ、抗うことすらできず、地面に崩れ落ちていく。


ああ、これが最期か。
仲間の願いを叶えることも、自分の決意を通すことも出来ず、終わりを告げた。
多くの敵味方の死を目の当たりにしてきたが、こんなものだったとは。
本当に、くだらない。



【ヨルハA型二号@Nier Automata 死亡確認】
【ダイケンキ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 死亡確認】
【残り62名】


「くそ……ダイケンキ!!動けるか!?」
瀕死状態なら、まだ治療の目途があるが、最早治療の施しようがない。

「オノノクス……戻れ。」
わずかとはいえ、久々に熱くなれた戦いだった。

今度は、相手が万全の状態で戦いたかった。
命まで取るつもりはなかった。

あの状況では、オノノクスにトドメを刺す命令を下さなければ、もっと被害が及んでいた。


建物の壁に刺さっていた帽子と、そしてたった今自分が倒した敵の剣、それに相手が付けていた金色の指輪を手に取る。
これらの道具を使うつもりはないが、まだ名前も、人間かどうかも分からなかった相手を忘れないために。

だが、この戦いは期待が出来そうだ。
少し休憩し、次の戦いの為にダイケンキに代わるポケモンを探しに行こう。
バイバニラの治療も行いたい。

丁度のその時、市街地を朝日が照らした。
血のように真っ赤な朝日は、更なる戦いを告げるかのようだった。



【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト  カラのモンスターボール カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、 煙草@METAL GEAR SOLID 2 スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて


619 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 18:12:13 5/A9kGKI0
投下終了しました。


620 : 「命も無いのに殺し合う」の書き手 :2019/08/13(火) 20:13:15 5GfAOhLA0
申し訳ありません。
場所と時刻忘れてました。
F-4 市街地 早朝 です。


621 : 名無しさん :2019/08/13(火) 20:45:54 JCoPkSGY0
投下乙です
A2は最後の最後で一矢報いたか
トウヤの戦力を一つ削ったのはでかい
ダイケンキ…元の主人は死ぬし自分も嫌いな相手に使役されたまま死ぬしで気の毒すぎる…


622 : 命もないのに、殺し合う ◆vV5.jnbCYw :2019/08/13(火) 22:11:04 5/A9kGKI0
>>621
感想ありがとうございます。

実は最後のA2の行動は、オノノクスを殴り飛ばすかダイケンキを殺すかで悩みましたが、
主人が死んでしまったので、後者の方を選びました(ダイケンキファンの読者はごめんなさい。)

それとポケモンの状態表を追加で書いておきます。

【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP3/5
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。

【バイバニラ ♂】
[状態]:ひんし、左の顔の左目失明
[特性]:アイスボディ
[持ち物]:なし
[わざ]:ふぶき、ラスターカノン、とける、ひかりのかべ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.……。


623 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/14(水) 00:33:07 NdbLQIhg0
投下お疲れ様です。
生きている実感を失ったトウヤとアンドロイドのA2が正当に殺し合っている様がタイトルでさらに強調されていますね。
もしA2が傷付いていない状態だったらどうなっていたか分からないところも、パロロワの残酷なところだなあと。
さて、オノノクスがダメージを受けたことも含めトウヤの戦力は大きく削られてしまったがここからどうなるか…


シルビア、サクラダ、魔王、オトモ予約します


624 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:25:06 iX3Wn.rE0
投下乙です!
相変わらずタイトルが秀逸ですね……肉体的に生きていない者と精神的に生きていない者の戦い、見応えがありました。
堅実に攻めるトウヤとそれを爆発力で押し返すA2、互いにギリギリの戦いでしたね。
状態や戦力から見て一方的な戦いになりそうと思っていましたが、かなりの名勝負となりましたね。
今回の戦いで火がついたと同時に戦力を一つ失ったトウヤ、放送で幼馴染の名前を聞くことになりますが果たして……。
そして個人的にですが、A2が桐生について触れていたのが嬉しかったです。

読み終えて一点気になったのが、トウヤの基本行動方針の部分が抜けているところですね。
後で修正して頂ければ幸いです。

そして投下します。


625 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:28:06 iX3Wn.rE0

『ねぇ、美希! 美希ったら!』

『春香、どーしたの? 急に大声出して……びっくりするの』

『……あのね、美希。私……、……その、……』

『? 春香、なんだかとっても悲しそうな顔してる。なにか嫌なことあったの? あ! また千早さんと喧嘩したんでしょ!』

『ち、違うよ! でも、喧嘩、かぁ……なんだかすっごく懐かしいなぁ』

『え? そんなに前のことじゃなかったと思うけど……春香、寝ぼけてるの?』

『だから違うって! ……ねぇ、美希。もし私がいなくなったらどう思う?』

『何その質問ー、春香がいなくなったらなんて考えたくないの。ミキたちはずっと一緒でしょ!』

『……そっか。そうだよね、ずっと、一緒……』

『春香? 泣いてるの?』

『ううん、泣いてないよ。……ねぇ、美希』

『どーしたの?』

『目を覚まして。そして、生きて』

『春香? それ、どーいう――』





626 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:28:25 iX3Wn.rE0


「ん、んん……?」

星井美希が目を覚ました頃には既に殺し合いが始まって一時間以上経過していた。
いくら昼寝好きとはいえこんな状況でたっぷり眠れるほど美希は緊張感のない人間ではない。精々寝ても三十分くらいだろう。
彼女が深い眠りについていた理由は一重に、寝ぼけ眼の彼女に鼻を近づけるムンナにあった。
ムンナの出すゆめのけむりに当てられて美希は心地よい夢に身を置き続けてしまったのだ。
もっともその夢の内容もあまり覚えていないが。

「あふぅ……なんなのー?」

当然、美希の第一声は疑問だ。
自分が殺し合いに呼ばれて、金髪の少女がルール説明とやらを行い、一人の青年が見せしめにされた。
あまりに突発的で非現実的なそれを寝起きの頭では受け入れられない。仮に受け入れたとしても夢だったという言葉で済まされるだろう。
事務所のソファーとは違う硬い感触に煩わしさを感じながら、美希は目を擦り滲む視界をクリアにした。

「…………か」

と、そこにいたのは不思議そうに首を傾げるムンナ。
全身ピンク色で象を思わせる小柄な体躯。まるでぬいぐるみのようなそれに美希は――

「かわいーーーっ!」

凄まじい勢いで抱きついた。
明らかに女子ウケしそうな見た目だ。さぞ心揺さぶられたのだろう。
腕の中のムンナは苦しそうに、しかしどこか満更でもなさそうに鳴き声を返していた。

「君、迷子なの? ミキもそうみたい。一緒に行こうよ」
「むううん……」
「あははっ! 君の鳴き声、おもしろーい!」

自分が置かれている状況もつゆ知らずはしゃぐ美希。
一方のムンナもムンナで美希の夢をたらふく食べられたおかげかご機嫌な様子だ。
こうして美希に両腕で抱えられていても抵抗しないのはそういうことなのだろう。もしくは美希のマイペースっぷりから元のトレーナーを思い出したのか。
美希はムンナの温もりを感じながらようやくソファーから立ち上がり、そこで気付いた点が一つあった。

「あれ、タオルケット……誰かが被せてくれたの?」

自分が今さっきまでいたソファーに乱雑に捲られた白い布。
おそらく美術館から頂戴したものなのだろう。タオルケットと呼ぶには少し肌触りが悪い。
誰かが寝ている自分を見つけて被せてくれたのか。そう思った途端に美希の中で一つの目標が立てられた。

「その人を探さないと! もしかしたら、ミキたち帰れるかもしれないの!」

自分たち以外に人がいるという事実は希望をもたらした。
そうして美希はデイパックを背負い、ムンナを抱いて走り出す。
清閑な美術館にふさわしくないやかましい足音が響く。鼻歌交じりに廊下を駆ける美希の姿を絵画に描かれた女性が見つめていた。




627 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:28:46 iX3Wn.rE0

「うー、疲れたのー……」

美術館は思ったよりも広くあちこち移動した美希の顔には疲弊が見られた。
仮にも日々のレッスンで足腰を鍛えているとはいえ辛いものは辛い。今は走るのをやめてゆっくりと展示品を見て回っている状態だ。
普段なら綺麗に思える絵画や彫刻も誰もいない今では少し不気味に感じる。
しかし肖像ではないものもあるようで、果物やデザートが描かれたものを見ては「美味しそう」と呑気な感想をこぼしていた。

「んっ!? ……おはなちゃん、なにか言った?」
「むううん……」

そうしてこつこつと靴音を鳴らしていると不意に誰かの声が聞こえた。
美希本人は勿論、おはなちゃん(ムンナ)のものとも違う声色だ。
美希は迷わず駆け出す。逃げるためではなく声の主を探すために。
そうして一つ先の角を曲がれば、剣を持った銀髪の少年が絵画を眺めている姿があった。

「あのっ」
「! ……目が覚めていたんですね。おはようございます」
「あ、うん……おはよーなの」

少年からの返答は期待通りのものだった。
やはりタオルを被せてくれたのはこの少年だ。見たところ美希よりも少し年下のようだ。
しかしそれを感じさせないほど落ち着いていて、どこか冷たい雰囲気すら感じる。それに美希は既視感を覚えた。

「えっと、ありがとうなの」
「ありがとう……というと?」
「ほら、ミキにタオルケット被せてくれたでしょ。君、すっごく優しい子だと思うな」
「……そうですか」

のんびりとした美希とは対照的に少年は淡々としている様子だった。
会話を続けようとしない彼に対して美希はむっと頬をふくらませる。と、まだ少年のことを何も知らないことに気がついた。

「あのね、ミキは星井美希っていう名前なの! 君の名前は?」
「名前、ですか? ……9S。そう呼ばれていたような気がします」
「? なんか変な言い方だね」

呼ばれていたような気がする、という言い方に違和感を覚える。
およそ自分の名前を語っているとは思えない曖昧さだ。美希はそんな疑問を包み隠すことなく告げる。
一方の少年、9Sも力なく首を振り困ったように己の頭に手を置いた。

「僕、ほとんど記憶がないみたいなんです」
「えっ! ……それって、記憶喪失っていうやつ?」
「多分、そうです。……なんとなく覚えているのは、自分が死の寸前だったということと……なにか、やらなきゃいけない事があったということくらいですね」
「うーん、なんかムズカシー……それに死の寸前って、本当だったら大変なことなの!」
「はい。でも、よく覚えていません」

慌てた様子で気遣う美希に対して、9Sはひどく冷静だった。
感情を乱しているのが自分だけだという状況に美希は自分と9Sが遠くにいるような錯覚を覚える。
彼の言葉はやすやすと受け入れられるものではない。だが美希は純粋だ、9Sの言葉を真実だと踏まえた上で、距離を潰そうと一歩踏み出す。


628 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:30:00 iX3Wn.rE0

「ねぇねぇ、9Sくん。君が覚えてること、ミキに教えてほしいな」
「僕が覚えていることを、ですか? ……別に構いませんが、大したことは言えませんよ」
「それでもいいよ。ミキもミキのこと教えてあげるの!」
「はぁ……分かりました」

既視感の正体がわかった。
少年、9Sはまるで初めて会ったときの千早のようだった。
あのときの千早は全てのことに対して無関心で、遠くを見ていて、とても寂しそうだった。
そんな時に自分はどうしただろうか……自然と蘇る過去の記憶に頬を綻ばせながら、美希は9Sに言葉を投げ続けた。





「なんだかすごい話なの……9Sくん、ロボットだったんだ……」
「正しくはアンドロイドですけどね。けど、僕の方も驚きです。美希さんが人間だったなんて」

存外に会話が盛り上がった理由の大部分は互いの世界の違いにあった。
美希の語る現代と9Sの語る未来。時間軸だけではない世界線の違い。
当然のごとく両者は驚愕を示したものの、9Sは記憶が曖昧なこともあって美希の言葉を嘘と断定することが出来なかったし、美希はその性格ゆえか彼の言葉をすんなりと信じた。
現段階では9Sは教えられる情報が少ないため、ほぼ美希が一方的に喋り9Sが相槌を打つ形ではあったが。ここで情報を交換できたのは互いにとって有益となるだろう。


629 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:30:44 iX3Wn.rE0

「9Sくんの話、すごく面白いけど悲しいね。その箱舟には乗れたの?」
「……いえ。乗ろうと手を伸ばしたんですが、そこで意識が途切れて……気がついたらあの会場に集められていました」

あ、と美希が声を漏らす。
9Sが死亡する寸前に見た天の箱舟とやらに興味を示して聞いてみたものの、返ってきた答えは美希を急速に現実に引き戻した。
あれは夢じゃなかったのか。今更になって思い出したくもないルール説明の記憶が蘇る。
一人の女子中学生が受け止めるには膨大すぎる不安と恐怖に苛まれながら、それでも泣き出さずに済んでいるのは彼女の器量と、9Sとムンナの存在あってのものだろう。
しかし微塵も動じずにいられるほど美希は強くはない。

「殺し合いって本当だったんだ……美希、これからどうしよう。まだ死にたくないの……」
「……美希さん。少し、いいですか?」
「え? う、うん」

肩を震わせ、ムンナを抱く力を強める美希を気遣ってか9Sが声をかける。
と、美希が頷いたかと思えば9Sは小さな手を彼女の首元――すなわち、首輪へと伸ばした。

「――ッ!」
「わ、わっ! バチッてしたの!」

瞬間、放電するような音と共に9Sの手が大きく弾かれる。
幸い美希本人は音に驚いただけでなんともないようだが9Sの方は弾かれた手を擦り、苦々しく顔を顰めていた。

「9Sくん、今の……」
「ええ、ハッキングです。ですが失敗しました……どうやらこの首輪、外装が強力な妨害装置となっているようです。……多分、本調子でもアクセスは難しいでしょうね」
「よくわからないけど、すごいの! それって9Sくんはこれを外せるかもしれないってことだよね!」

情報交換の際に9Sにハッキング能力があることは知っていたが、よもや手をかざすだけで効果を発揮できるとは思いもしなかったようで美希はキラキラと目を輝かせている。
だが9Sの方はなんとも言い難い表情をしていた。
今は記憶も失っておりハッキング能力も著しく低下している。それを言い訳にするつもりはないが内部を見ることすらできず弾かれるとは思いもしなかった。
自分のハッキング能力が否定されているようで、記憶を失っていることもあり9Sは無力感に苛まれた。


630 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:32:33 iX3Wn.rE0

「記憶を失い、突然殺し合えと言われて何をすれば良いのかわからず彷徨って……やっと見つけた自分の使命も失敗して。僕は一体、なんなんだ……」
「……んー、……」

9Sが頭を抱えるのも無理はない。司令部もポッドもおらず、だからといって死を目前としていた自分が他人を殺すなどできず、八方塞がりの状態だ。
そんな中でようやく見つけたハッキングという自分の居場所。しかしそれすらも否定されてしまった。
通常ならば冷静に判断を下せたかもしれないが、今の彼にそれを求めるのは酷というものだろう。

「ミキは9Sくんは9Sくんだと思うな。自分がなにかーなんて難しいこと考えないで、前向きに行こうよ」
「そんな、僕は貴方とは違います。人間はそれでいいかもしれませんが、僕たちアンドロイドは――」
「人間とアンドロイドって何が違うの?」

それは純粋に美希が気になっていた点だ。
9Sはまるで自分と美希は違うという言い分をしている。それを美希は怪訝に思った。
聞いた話ではアンドロイドも感情を持つし、人間と変わらない知性を持っている。それに、見ず知らずの他人にタオルを被せる優しさだって。
だからこそ星井美希という人間は本気で9Sを自分と”同じ”だと思っていた。

9Sは言葉に詰まる。
確かに明確な違いを答えろと聞かれるとなんと答えればいいかわからない。
内部構造や戦闘能力などを答えても目の間の少女は納得しないだろう。彼女はもっと根本的な違いを求めているのだから。

「9Sくん、まだ記憶も戻ってないんだから無理しちゃ駄目なの。それに、ミキは9Sくんがいてくれるだけでとっても心強いよ」
「……ありがとうございます」

そんな美希の言葉は渦巻く悩みと比べれば気休めでしかない。
だけど、そんな気休めに救われている自分がいた。
そのまま人間とアンドロイドの違いを説明することはできないまま、9Sはほんの僅かに表情を緩ませながら話題を切り替えるかのように息を一つ吐いた。


631 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:39:06 iX3Wn.rE0

「あと二時間ほどで放送が始まります。それまでここで待ちましょう」
「わかったの! じゃあそれまでミキの歌聞かせてあげる!」
「歌……ああ、そういえば美希さん、歌が得意って言ってましたね」

美術館のジメジメとした空気を吹き飛ばすように、美希がムンナを地面に下ろしたかと思えば長椅子の上に登り、ぴっと人差し指を立てて決めポーズをとる。
正直、誰が来るかもわからない状況で目立つ行為は避けたかった。だがそれ以上に美希の歌を聞きたいという欲求が優ってしまったのだ。
それがひどく人間らしい選択だということにアンドロイドの少年は気付かない。

「ミキはミキにできることをするの。だから今は、9Sくんのために精一杯歌ってあげる!」
「なら僕が今できることは、貴方の歌を聞くことですね。……よろしくお願いします、美希さん」

ぺこりと頭を下げる9S。
視線を上げた先には可憐なアイドルが歌っている様ではなく、少し不満げに眉を下げる美希の姿があった。

「あの、美希さん?」
「呼び捨て」
「え?」
「呼び捨てでいいよ。なんだかその呼び方、すこしくすぐったいの」
「……分かりました、美希」

そういうものなのだろうか、と9Sは逡巡の末に頷く。
と、どこかこのやりとりに懐かしさを覚えた。その正体こそ思い出せなかったものの、自分は誰かと同じやりとりをしたのだろうと9Sに確信させるには十分だった。
そして、記憶の手がかりは終わらない。

「その代わり、ミキも9Sくんにあだ名つけていい?」
「あだ名? 構いませんが……」
「じゃあナインズくん! こっちのほうが呼びやすいしかわいいの!」
「……ナイン、ズ……、……っ!」

ひどく聞き覚えのあるあだ名に9Sは思考回路にノイズが走るのを感じる。
電撃が走ったかのように強烈な刺激に乗じて、真っ暗な背景に掠れた音声だけが流れていくのを捉えた。


632 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:39:57 iX3Wn.rE0



『ところで、――』

『なに?』

『僕の事をよく知る親しい人は、僕の事をナインズって呼ぶんですけど……』

『そう』

『そろそろ――もどうですか?』

『何が?』

『だから、ナインズって呼んでくれて良いんですよ?』

『……まだ、いい』



耳鳴りが止んだ。
と、視界が滲んでいるのがわかった。
ノイズだろうか。頬を流れる水滴がそんな疑問をかき消す。
なぜ泣いているんだろう。さっきの音声が原因なのだろうか。自分ですら理由がわからないのだから、美希が困惑するのは当然だろう。

「ナインズくん、泣いてるの?」
「……いえ、大丈夫です。続けて」
「本当に? 無理しないでほしいの」
「いいから。……歌を、聞かせてください」
「んー、わかったの! それじゃあ美希の得意歌、いくねー!」

ワン、ツー、スリーと美希が合図を口ずさむ。
準備期間を終えた美希は鈴のような歌声を無人の美術館に響かせた。




633 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:42:09 iX3Wn.rE0




Future star
今はまだ未知の夢
どれだけの 世界が広がる

Future hope
希望と光を紡ぐ
私はそう 走り出す 未来

いつまでもいらないわ
壊れた絆
新しいスタートをきる




随分とおざなりなステージだった。
観客席の立ち並ぶ舞台ではなく美術館の寂れた廊下。
スポットライト代わりの照明は主役を目立たせることを放棄しよくわからない彫刻を照らす。
足踏みのたびにギシギシと音を立てる長椅子は今にも壊れそうで集中力をかき乱した。

けど、そんなこと気にならないくらいに聞き惚れていた。
歌詞の意味だってよくわからないのに、不思議と心を揺さぶられる。
未来、希望、光、夢――およそ彼には縁のない言葉の羅列を、愛おしく感じた。




Good-bye memories この思い出
春風舞う陽だまりの
君と過ごしたMiracle
超えて行く

Good-bye daily life いつか過ぎ行く
思いのカケラたち
走り続けているのは
強くあり続けるため




傍でムンナがぱたぱたと鼻を動かしている。きっと彼女の歌に喜びを示しているのだろう。
自分もあれほど素直になれれば、こうして指でリズムを取る以外にも出来たことがあったかもしれない。
それでもなんだか照れくさくて。彼女の歌を邪魔したくないという理由を建前に指を動かし続けた。


634 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:42:25 iX3Wn.rE0




Future smile
いつまでも笑顔なら
幸せはきっとやって来る

Future sky
晴れ渡る空を見上げ
星たちの輝く流星

夜明けを朝陽に代え
未来の扉
始まりの時が近づく




弾ける汗を気にも止めず踊り続ける美希の姿に圧倒された。
あの可愛らしくマイペースな姿はどこへやら。今の彼女は真剣そのもので気迫さえ伝わってくる。
洗練された動きは軽やかに、されど華やかに。つい数分前の彼女とのギャップが顕著に顔を出す。

今この瞬間だけは心をよぎる冷たい感覚を感じずにいられる。
過去を求める傍聴人は静かに瞳を閉じ、鼓膜を打つ歌声に耳を傾け続けた。




Good-bye every day いま晴れゆく
心照らす記憶たち
いつまでも忘れないわ――


――あなたのこと


635 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:42:49 iX3Wn.rE0



【B-4/美術館の廊下/一日目 黎明】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:疲労(小)
[装備]:モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
0.9Sのために歌う。
1.9Sが記憶を取り戻す手伝いをする。
2.放送まで美術館に残る。

【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:記憶データ欠如
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:記憶を取り戻す。
0.今は美希の歌を聴く。
1.放送まで美術館に残り、手がかりを得る。
2.僕は一体何者なんだろう。

※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※記憶データの大部分を喪失しており、2BやA2との記憶も失っていますが、なにかきっかけがあれば復活する可能性はあります。

【ムンナ ♀】
[状態]:健康、ピンク色の煙を出している
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:あくび、サイケこうせん、ふういん、つきのひかり
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。
0.美希の歌を聴く。
1.おなかいっぱい。

【支給品紹介】
【マスターソード@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
9Sに支給された古来からハイラル王国より伝わる伝説の剣。
攻撃力自体はさほど高くないが、この武器の最大の特徴として一度壊れても時間経過で復活する。
またハイラル城の近くになると輝きが強くなり攻撃力が倍増する。


636 : Day of the future ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:43:05 iX3Wn.rE0
投下終了です。


637 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/14(水) 01:48:08 iX3Wn.rE0
すいません、9Sのランダム支給品が1〜3個になっていましたが、正しくは0〜2個です。


638 : ◆RTn9vPakQY :2019/08/14(水) 03:11:29 0VShA0zk0
皆様投下乙です。

>Bullet & Revolver
銃弾と拳銃の名を冠する二人が、ここまで登場話が書かれずに残っていたのは何の因果か。
共同戦線ではありますが、どうしても腹の探り合いが苦手そうなバレットが心配になってしまいますね。
リボルバー・オセロットは老獪な印象がありますが、精神が不安定という要素が何をもたらすのか、という意味でも恐ろしいです。

>6つの『B』
ベロニカの身体を心配してジュースを勧めるハンター、そしてそれを飲むベロニカ。ほのぼのしますね。
そんな二人も、カミュとの出会いでセフィロスという脅威を知ることに。三人の戦力を合わせると、現状では強い部類に入りそうですが、これでもセフィロスは難しいのでしょうか。
あと、ハンターが毒や血の臭いに対して敏感という設定、とても「らしい」と思いました。
イウヴァルトの目論見は一旦失敗しましたが、さて次は誰と出会うのか…。

>命もないのに、殺し合う
アンドロイドとポケモンのバトル、とても見応えがありました。
これまでのバトルでも感じたことですが、改めて、冷静な判断を下せるトウヤの強さを感じます。
「命のないアンドロイドと、命のない怪獣使いと、その命令にしか動けない怪獣の戦い。」という表現が良いなぁと思いました。

>Day of the future
まず、夢の中での二人の会話で、グッと胸に来るものがありました。
記憶喪失の9Sがハッキングもできずに自信を無くしそうなところを、前向き(考え無し?)な美希がフォローするというのもいいですね。
「人間とアンドロイドって何が違うの?」という台詞は、ニーアの世界においても核心を突く質問なのではないか、と未プレイながら思いました。
そしてDay of the futureを歌う美希。前向きなこの曲が、9Sに響いたら素敵ですね。


639 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/14(水) 11:07:47 5BPhMA4s0
投下乙です!!
A2、2B共に完全クリア後じゃないから9sはDエンド後だと思ったけど、予想通りだった。
データが消えた後の9sと、無邪気な美希のやりとりが何か悲しい。
E-4他の場所がギスギスしてる反面、ここだけは平和ですね。



それとトウヤの状態表が抜けていたので、貼っておきますね。
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト  カラのモンスターボール カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、 煙草@METAL GEAR SOLID 2 スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.ひとまず休憩
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。
4.バイバニラを回復させたい。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。


640 : ◆KbC2zbEtic :2019/08/17(土) 00:40:26 QodnA8Is0
投下します


641 : 優しいだけじゃ守れないものがある ◆KbC2zbEtic :2019/08/17(土) 00:42:42 QodnA8Is0

無人の街に奔る一筋の青い風。
音速ハリネズミ・ソニックは先程出会った少女マルティナを追って会場を駆けていた。

「うーん、こっちの方だったと思うんだが、あの雷さえなけりゃなぁ…」

マルティナが最後に放った雷はソニックにとっても全力で回避に徹しなければ危険であり、飛んでいくマルティナを気に掛ける余裕はなかった。
結果、見失った少女の姿を探すためにこうして夜の街を駆けまわっている。
本気を出せば会場を一周するまであっという間のソニックの速さでも、建物を注意深く見ていくと時間の浪費はそれなりの物だった。

「……おっ、あそこ、明かりがついてるな」

そんな中発見した一軒のビルディング。
その一帯で唯一窓から明かりの見える部屋があり、誰かが居た形跡が伺える。
ソニックは階段を一足飛びで駆け上がり、目的の部屋へと急いだ。
ドアを蹴り開け、誰何の声を上げる。

「Hey!誰かいる、か……」


部屋には血の海が広がり、その中央には一人の少女が倒れている。


「おい、しっかりしろッ!おいッ!!」


抱きかかえ、頬を軽く叩くが少女は何も答えることはなかった。
ずたずたに切り裂かれた体、虚ろな眼。
少女――天海春香が既に骸だったのは、誰の目にも疑いようがなかった。

「……Shit!」

怒りで拳を震わせ床を打つ。
バトルロワイアルが開始してまだ数時間、しかし少女を手にかけた者が確かにいるのだ。
自由を重んじ秩序を嫌う傾向のあるソニックだったが、邪悪とは何かを彼は知っていた。
邪悪とは、この世に二つとない花を無惨に散らすものだ。

討たなければならない。
こんな所で誰にも看取られず、一人無惨に死んでいった少女のために。
法の徒という訳ではなく、けれど彼は確かに己の中の正義によって立つ者だった。

死体をもう一度調べる。できていた傷は槍ではつかない形をしていた。
この少女を殺したのが先程出会った少女ではないであろうことに仄かに安堵し、しかし憤りは一切緩めず、今や物言わぬ躯へと告げる。

「…代アンタの無念はオレが晴らしてやる、必ずな」


虚空を見つめる少女の瞼をゆっくりと下ろして、彼はその場を後にした。


642 : 優しいだけじゃ守れないものがある ◆KbC2zbEtic :2019/08/17(土) 00:44:01 QodnA8Is0

▲ ▼


四条貴音は街灯の下で息を潜める様に休息をとっていた。
流れるような銀の長髪はいつもの通りだったが、その整ったかんばせからは普段の底知れぬ雰囲気と凛々しさは伺えない。
あの曲がり角の先には誰かが自分を殺さんと息を潜めているかもしれない。
先程自分が刺した二人組のもう一人が応報を果たさんと追ってきているかもしれない。
そんな疑心と不安に駆られ、その手の姉妹剣オオナヅチの片割れを握りしめる。


殺される前に殺さなければ、生き残ることはできない。
春香の様に。
脳裏にボロボロの人形の様にされた仲間の姿が蘇る。
春香はどんな時も笑顔で、誰かを傷つける事など考えたこともないような娘だ。
その春香が死んでいた。事故などではあり得ぬ悲惨な死にかたで。
人を冷酷に手にかけることができる人間が、少なくとも一人は存在するのだ。


「もっとも…私も人の事はとても言えないでしょうね……」

もう一度、プロデューサーに、友のみんなに会いたい。
その一心で手の短剣を鮮血に染めた。そして、これからもその手を汚す心づもりである。
仲間の…千早の名前を騙って。
名前を騙る事によって向けられる謂れのない憎悪が彼女に降りかかるかもしれないのは理解している。

「誠、罪深いですね……あなた様やみなにはとても見せられません」

だが、例え正道でなくとも。こと生存において善悪による優劣はない。
惜しげもなく過ちを重ね、あらゆる負債を積み上げてなお進むのだと、短剣に付着したザックスの血を見て意識を固めなおし、

…そこで、血が付いたままでは不味いのではないかという考えに至った。
確か、刀剣の中でも有数の切れ味を誇る日本刀でも血や油が付いたまま放置していれば途端に切れ味が落ちるという話を聞いたことがあった。
それに、万が一何某かにこの血の付いた短剣を見られれば―――、
そんな彼女の危惧は、直後に現実のものとなる。


「Hey!そこのアンタ、そこでStopだ!!」

貴音の肩がびくりと震える。さっき辺りを確認した時は誰もいなかったはずなのに。
咄嗟に懐に剣を隠し、声の方へ向き直った。

「これはまた…面妖な……」

振り向いたすぐ傍に居たのは、二本足で立つ青いハリネズミだった。
首輪を嵌めていることから、参加者であることは推察できる。

「オレはソニック、アンタは?」
「……如月、千早と申します」

ソニックと名乗ったハリネズミは腕組みをしたまま貴音を見つめてくる。
検めるような視線は居心地が悪かったが、動くなと言われた手前迂闊に動くわけにもいかない。

「単刀直入に言うぜ、アンタに二つ聞きたいことがある」
「…何でしょう?」
「さっきこの近くで倒れてたやつがいてな。アンタ、何か知らないか?」

ソニックが放ったその問いに貴音は流れる血の温度が二度は下がったような錯覚を覚えた。
倒れていた者というのは自分が刺したザックスの事だろうか。
だが、怪しまれるわけにはいかない。努めて平静を保ちつつ、彼女はシラを切った。


643 : 優しいだけじゃ守れないものがある ◆KbC2zbEtic :2019/08/17(土) 00:45:09 QodnA8Is0

「……申し訳ないですが、存じ上げません」
「そうか、じゃあ二つ目だ。アンタの着てる服の袖、ちょっとよく見せてくれ」

貴音は一瞬その問いの意図が分からなかった。
釣られるように袖に目を剥け、そして硬直する。
ザックスの血痕が付いていたのだ。彼女は己の失敗を悟った。
あの二人から逃げる際に血が付いていないかは確認した、しかし夜で暗く気も動転していたため完璧ではなかったのだ。
推理小説で追い詰められた犯人の心境とはこのようなものかと感じながら、仕方なく腕を上げて袖口をソニックに見せる。

「Uhh…血がついてるみたいだけど、どうしたんだ?」
「実は、ソニック殿と会う前に二人組の殿方に襲われまして、その折についたものかと」
「二人組、か」
「えぇ、急に襲われて、必死に抵抗して何とか逃げる事ができたのですが……」
「…………」

即興のカバーストーリーだったが、それなりに説得力を持たせられたらしい。
少しの間があったが、その後ソニックは同行を貴音に同行を提案してきた。
殺し合いに乗っている二人組がいるならば一人で行動するのは危険だという、至極当然の判断だ。
勿論、殺し合いには乗っていないという。

「…分かりました、此方としても独りでは心細く思っていた身。そのお誘いお受けしましょう」
「オーケー。それじゃまずその手の手当てをしないとな。確かオレの支給品に―――」

ソニックはそう言ってその背のバッグを下ろし中を漁り始める。
どうやら、貴音が腕をケガしていると考えたらしい。実際は真逆なのだが。
無防備にも背を向けてカバンを漁るソニックに貴音の鼓動が早まる。
元より彼女に二足歩行で人語を解す得体の知れないハリネズミと行動を共にするつもりは無く、殺すつもりだった。
ザックスと同じように刺すかと考えていたが、こんなに早くチャンスがやってくるとは。

冷静に辺りを見回して、周囲に誰もいないかを確認する。
その後、音もなく懐に隠したナイフを握りしめた。目標はまだ後ろを向いたまま。
それでいい。後ろを向いたままなら、ザックスの様に凄まじい視線を向けられる事はない。
ナイフを振り上げる。振り下ろせば刃が届くまでに一秒もかからないだろう。

(――――申し訳ありません)


街灯の光に反射して血刃が閃く。
その刃は夜の闇を裂いて突き進み、貴音は心中で殺害を確信する。
―――ソニックの姿が忽然と目の前から消えるまでは。


「え?」

穿つべき目標を失い短剣はバッグに突き刺さるが、それだけだ。
一体何処に行ったのか。戸惑いと同時に奇妙な音が彼女の耳朶を打つ。


ギュル 
    ギュル 
        ギュル

耳鳴りにも似た回転音。
しかし、何が回転しているのかまでは、彼女には終ぞ分からなかった。
その一秒後、彼女の視界を青一色の弾丸が音の速さで塗りつぶしたのだから。


644 : 優しいだけじゃ守れないものがある ◆KbC2zbEtic :2019/08/17(土) 00:46:55 QodnA8Is0

□ ■

「悪い予感に限ってあたるモンだな」

くるくると宙に舞った短剣をキャッチしてソニックは呟いた。
彼はそっと気を失った『千早』の傍によって、袖を確認する。
怪我は負っていなかった、つまりこれは返り血という事になる。
やはりか、と彼は腕を組んでそれを見つめた。


――彼が千早に出会って最初に意識したのは血が付いていないかどうかだ。
あの殺されていた少女の損傷が激しかった事から、剣などの凶器を使ったによ、
クッパの様に爪などで引き裂いたにせよ、下手人に返り血が付いている可能性は高いと踏んでいた。
それ故に、注視しなければ気づかなかっただろう血痕に気が付く事ができた。

―――噛み合わない。

その後、千早の二人組の暴漢の話を聞いたソニックがまず抱いたのはそんな感想だ。
あの少女が死んでいた部屋には争った形跡はなかった。つまり、少女を殺した犯人は一切の抵抗を許さず少女の命を奪ったのだ。
相当な手練れかつ容赦のない相手が、しかも二人組が強襲したという千早を取り逃がすだろうか。

(千早がパルテナやベヨネッタぐらい強いなら不思議じゃないが…いや、そもそもその二人があの子を殺したとも限らないか)

結論を言ってしまえば、彼は血痕や話から微妙な違和感を抱いたのだ。
普段のソニックなら見落としていた可能性の方が高かっただろう。
だが千早にとっては不運な事に、あの名も知れない少女の死体との邂逅が彼の警戒心を向上させていたのである。

そして何より、千早の雰囲気は似ていた。
悲壮な覚悟をして、取り返しのつかない過ちを犯そうとしていたマルティナに。

だからこそ彼は千早を試した。
わざと無防備な背中を晒し、彼女の反応を誘った。
至近距離から発射されたミサイルや機関銃の掃射すら目視で回避する理外の反応速度を誇るソニックだからこそ可能な離れ業だ。
『大乱闘』でもまず見せない全力だったが、本音を言えばこんな形で見せたくは無かった。
杞憂であってくれればいい――そんな彼の思いは残酷な形で裏切られる事となった。


645 : 優しいだけじゃ守れないものがある ◆KbC2zbEtic :2019/08/17(土) 00:49:54 QodnA8Is0

「後ろを向いてた時に仕掛けたってのは…やっぱりそう言う事か」

まだ出会ったときに剣を振り回されていたら錯乱していたのだと片づけられた。
しかし千早は此方が背を向けるまで剣を出さなかった、つまり冷静な判断力があったという事になる。

……まぁそれならば話もできるかと、ソニックは二つのバッグと千早の体を担ぐ。
だが、話をしたとしてどこまで彼女の話を信じるべきか。
また、彼女が殺し合いに乗っていた場合、どうするべきか。

マルティナの事もある。千早とマルティナならマルティナの方が危険度は高い。
前回戦った時はまだ彼女がソニックの速度に慣れておらず、精神的にも不安定だったため有利に戦えた。
だが、彼女が覚悟を完全に決めてしまった後に戦えば間違いなく難敵となるだろう。

故に急がなければならないが、千早を放っておくわけにもいかない。
まさか連れまわしてマルティナを止めるわけにもいかないし、縛ってどこかに置いていくのが一番リスクがなく早いが、
もしおいてきた場所が禁止エリアに選ばれたり危険人物に出会ったら彼女はそこでジエンドだ。

ともあれ、まずは話をしなければどうにもならない。
一先ず戦闘は避け、奇襲されにくい建物の中まで走り抜けることにする。
戦闘になった場合、自分はともかく気絶してる千早の身が危険だからだ。
例え誰かに狙らい撃ちされたとしても、自分のスピードなら逃げに徹すれば撒けるだろう。


「……気に入らないな」

何もかもが気に入らなかった。
自分を縛る首輪も、簡単に人を狂わせて殺し合わさせるこの世界も
この『大乱闘』にどこか似た殺し合いの全てが。
数年に一度、遠い世界で生まれた、出会うはずのなかった者たちが集い、
元の世界では殺し合った者相手でも一時水に流し腕を競い合い、
亜空から侵攻してきた侵略者に対しては力を合わせてこれにあたる。

共に戦い、
共に縁を結び、
共に強くなる。

その『大乱闘』が穢されたような不快さだった。
だから、気に食わない。絶対に破綻させる。
憤りと共に、ソニック・ザ・ヘッジホッグは再び走り出す。
気づけば、夜は明けつつあった。


―――人を一人担いでなお、その速度はやはり驚嘆に値するものだ。
彼は正しくこの地においても最速であると言っていいかもしれない。
しかし、それはあくまでソニックが一人でいる場合を仮定した話。
この会場に至る前にキーラの放ったビームに彼が敗北したように。
彼を縛る存在がいる時、ソニックは容易に最速の座から転落する。


彼の速さは、彼だけしか守ってはくれないのだから。


【D-2/市街地(南部)/一日目 早朝】

【四条貴音@THE IDOLM@STER】
[状態]:強い罪悪感、恐怖、不安、気絶
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。どんな手を使ってでも。
1.如月千早の名を驕り、参加者に紛れながら殺していく。
2.春香……!
3.ザックスが生きているかどうか不安

※如月千早と名乗っています。
※ルール説明の際に千早の姿を目撃しています。

【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康、苛立ち
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個) 、双剣オオナズチ(短剣)@MONSTER HUNTER X
基本支給品、双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?。
1.一先ず戦闘は避け、どこか建物の中で千早の話を聞く。
2.マルティナを見つけて彼女を止める。

※灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。



646 : ◆KbC2zbEtic :2019/08/17(土) 00:50:23 QodnA8Is0
投下終了です


647 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/18(日) 04:11:21 CFLxySxQ0
投下乙です!
書き手としての意見としては、貴音を理想に近い形で動かしてもらって嬉しいです。
読み手としての意見としては、ソニックの強さと速さが強調されていると感じました。

本気を出せば会場を一瞬で一周できる、機関銃を見てから回避できるなど、一目でやばいとわかる彼の速さはこのロワでも間違いなく最速でしょうね。
ですが、作中でも言及されているように貴音を背負っていることで予期せぬ障害に見舞われそうですね。
優しいソニックだからこそ心強さを感じると同時に、不穏さも感じてしまいます。

>彼の速さは、彼だけしか守ってはくれないのだから。

この最後の一言に尽きるんですよね……。


648 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:12:31 Sulsrhns0
投下します。


649 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:13:40 Sulsrhns0
「ねえシルビア。アナタ、元の世界のナカマを探すって言ってたわよね。」

ハテノ村の工務店の長、サクラダは傍らの男に問いかける。

「ええ、そうよ。」

対するシルビアは最初の会場で見た仲間、カミュの姿を想起していた。
ウルノーガの目的を想像する限りでは、呼ばれているのがカミュと自分だけであるはずがない。
シルビアのすぐ近くにはイシの村があったため、おそらく仲間の誰もが目指すであろうその場所を目的地として設定することはシルビアにとって自然なことであった。

「どうして北に迷わず向かっているのか、理由があれば教えてくれるかしら?」

しかし当然、サクラダにとってはそうではない。
サクラダに行きたい場所があるわけではないので、異論があるわけでもないのだが、ここは行く方向ひとつで命の危険に晒されるかどうかが変わりかねない舞台でもある。
理由があれば聞いておきたい程度の理由だ。

「北にはイシの村ってとこがあるでしょ?そこ、アタシの知ってる村なのよ。」

「アラ、それは幸運ね。」

シルビアの答えは、ある意味ではサクラダの期待以上だった。
ここでのサクラダの期待とは、殺し合いの場で隠れられる場所や敵の潜みそうな場所を把握出来るということは圧倒的なアドバンテージとなる……などということではない。

「建物は悪趣味なのかしら?」

サクラダにとって重要なのは、そこで大工としての腕を振るえるかどうかだけである。
これから建物を見に行くのに、あらかじめ改装の余地があるのかどうかをシルビアに聞けること、それを指して幸運と言ったのだった。

「そうねぇ……その村、前に悪いヤツらに滅ぼされちゃったのを復興したばかりなのよね。もしかしたら間に合わせの補修しかしてないかもしれないわね。」

シルビアの言葉を聞き、サクラダは腕を鳴らす。
自らの手で村ひとつを復興させるとなれば、サクラダ工務店創業以来の大仕事だ。
イチカラ村の復興に向かったエノキダも、正直羨ましいとさえ思っていたほどだ。ハテノ村での仕事が溜まっていなかったとしたら、サクラダは喜んでイチカラ村に飛んで行っただろう。
期待に胸を膨らませ、早く行きましょとシルビアの背中を押す。


650 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:14:40 Sulsrhns0
「ちょっと、押さないでよお。」

「いいからいいから♪」

シルビアから見てもサクラダは大工という仕事を心から楽しんでいることが分かる。いわゆる『天職』というものだろう。

(天職……ね……)

自分で思い浮かべた言葉ながら、シルビアは微妙な表情を浮かべる。
シルビアとしては、旅芸人という道は自分の天職であったと思っている。
だがそこには間違いなく、騎士としての道を勧める父への反論としての意味合いが少なからず含まれているのだ。
彼と和解した今となってもなお、それは変わらない。かつて大喧嘩した父への反抗心は心の底にずっと燻り続けている。

(と、らしくないわね。旅芸人は皆を笑顔にするのが生業なのに、アタシがこんなカオしてちゃあダメよね。)

「シルビア、どうしたのかしら?」

浮かない様子のシルビアを見て、サクラダが語りかける。

「ううん、なんでもないわ。」

そう言うとそのまま、2人はイシの村へと進み始める。

この世界でも皆を笑顔にする、それがシルビアの志す旅芸人としての方針だ。

そのためにも、サクラダのような者は必要なのだとシルビアは思う。建物を綺麗にして環境を整えることでこの殺し合いの雰囲気を打破する。魔物の脅威に晒され、暗い雰囲気に包まれる中で敢えて明るいパレードを開くことで笑顔を取り戻そうとした自分の行いとも重なる行いだ。
是非ともイシの村の再建に着手し、殺し合いの雰囲気さえ壊せるような環境を作ってほしい。

一方サクラダも、彼なりの決意がある。
サクラダのバックパックの中にある1本のハンマー。自らもよく知る、エノキダのハンマーだ。
こんな殺し合いに巻き込まれたことで彼と二度と会えないかもしれなくなったことは不本意だが、せめて彼のタマシイを胸に持とう。

少なくともこの時はまだ、そう思っていた。


651 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:15:48 Sulsrhns0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

魔王は、オトモの同行に対してどうするか考えを巡らせていた。

まずは認めよう。自分はオトモが猫であるという理由だけで殺すのを躊躇している。
自分がどこへ行こうとも寄ってくるその姿から、昔から可愛がっていた愛猫アラファトを想起させられるからだ。

だが目的がゲームの優勝である以上、どこかでオトモを殺す必要はある。それもまた事実として認めなくてはならない。

次に、これもまた認めよう。
これは危険な兆候であると。
相手が猫であるという理由だけで、自分は他者に情けをかけた『実績』が出来てしまった。
一度心に生じた迷いを次は覆せるという保証は無い。
次に出会う人物が、オトモと同じように戦意が無かった場合は尚更だ。

そして、これも認めなくてはならない。
自分は既に、グレン(カエル)との一騎打ちの地点で奴らに情けをかけた『実績』があるのだと。


『──今ここでやるか……?』


あの時自分は、死者であるクロノ、さらには彼の友人であるサイラスをも貶してグレンの怒りを煽った。
その効果は絶大だったらしく、質問の形をした簡単な挑発にもグレンは乗ってきた。
しかしあの質問に対してグレンが首を横に振っていた場合、自分はどう振る舞っていただろうか。

やもすれば、彼らの仲間として共にラヴォスと────

(──どの口が言うのだろうな、まったく)

有り得ない未来を振り払うように、魔王は首を横に振る。

つまり、だ。
圧倒的な魔力を持つ魔王として中世を恐怖で支配していたあの頃の自分は次第に薄れていっているのだ。
事実、あの決闘の場でグレンを殺すという発想は湧かなかった上に、ここでも問題の先送りと分かっていながらもオトモを殺せずにいる。

だとしたら、自分を変えたのは過去を改変し続けてきた彼らにほかならない。
自分が古代の時代で討たれたことも相まって、面白い皮肉だとすら思う。


652 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:17:38 Sulsrhns0
話を戻そう。
とりあえずオトモを殺せないのはまだ良い。
積極的に戦闘をしないオトモは生かしておいても毒にはならなさそうだ。

だがオトモの旦那様とやらを探すとなると話は別だ。
その者がオトモと同じく対主催のスタンスを取るのなら、オトモを殺す時も"旦那様"を殺す時も面倒なことになる。それどころか、オトモと"旦那様"を中心に対主催集団が形成されてもおかしくはない。そうなると最終的に優勝を狙う際に面倒なことになる。
また、仮に"旦那様"がステルスマーダーのスタンスであれば、オトモと仲間のフリをすることは容易なのだから、簡単に自分たちに紛れ込めるということだ。

つまり結論はひとつ。
遅くとも"旦那様"と出会う前にはオトモを殺し────

(──ん?)

ここでひとつ、魔王の脳裏に引っかかったことがある。

「オトモ、お前は言ったな。旦那様がこの殺し合いに巻き込まれているかもしれないと。」

「うん……最初の会場にそれらしい後ろ姿を見たのニャ。」

「最初の会場……」

魔王は最初の会場では、自分が生きていることに戸惑っており、周りの様子を深く観察してはいなかったため、知り合いの姿を見つけることは無かった。

(つまりこの殺し合いの参加者は、無作為に選ばれたのではなくある程度の関係者が呼ばれていることもあるということか……?)

そんなことを考えている時だった。オトモがいつの間にか装備している"それ"を目にしたのは。

「ちょっと待て、オトモ……。その胸に付けているそれは………」

「おっ気付いたかニャ?さっき魔王の旦那から隠れている時に不覚にも落としてしまったバッジニャ。今度は落とさないようにしっかり────」

「貸せッ!」

「ああっ!何するニャ!」

オトモが喋り終わる前にその「バッジ」を奪い取る。

(間違いない、これは────)

そこにあったのは、魔王もよく知るアイテムであった。


653 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:18:00 Sulsrhns0
話を戻そう。
とりあえずオトモを殺せないのはまだ良い。
積極的に戦闘をしないオトモは生かしておいても毒にはならなさそうだ。

だがオトモの旦那様とやらを探すとなると話は別だ。
その者がオトモと同じく対主催のスタンスを取るのなら、オトモを殺す時も"旦那様"を殺す時も面倒なことになる。それどころか、オトモと"旦那様"を中心に対主催集団が形成されてもおかしくはない。そうなると最終的に優勝を狙う際に面倒なことになる。
また、仮に"旦那様"がステルスマーダーのスタンスであれば、オトモと仲間のフリをすることは容易なのだから、簡単に自分たちに紛れ込めるということだ。

つまり結論はひとつ。
遅くとも"旦那様"と出会う前にはオトモを殺し────

(──ん?)

ここでひとつ、魔王の脳裏に引っかかったことがある。

「オトモ、お前は言ったな。旦那様がこの殺し合いに巻き込まれているかもしれないと。」

「うん……最初の会場にそれらしい後ろ姿を見たのニャ。」

「最初の会場……」

魔王は最初の会場では、自分が生きていることに戸惑っており、周りの様子を深く観察してはいなかったため、知り合いの姿を見つけることは無かった。

(つまりこの殺し合いの参加者は、無作為に選ばれたのではなくある程度の関係者が呼ばれていることもあるということか……?)

そんなことを考えている時だった。オトモがいつの間にか装備している"それ"を目にしたのは。

「ちょっと待て、オトモ……。その胸に付けているそれは………」

「おっ気付いたかニャ?さっき魔王の旦那から隠れている時に不覚にも落としてしまったバッジニャ。今度は落とさないようにしっかり────」

「貸せッ!」

「ああっ!何するニャ!」

オトモが喋り終わる前にその「バッジ」を奪い取る。

(間違いない、これは────)

そこにあったのは、魔王もよく知るアイテムであった。


654 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:22:46 Sulsrhns0
『勇者バッジ』

勇者に送られる、聖剣グランドリオンの性能を上げるバッジだ。
かつては自分が殺した男、サイラスが身につけていたものであるが、色々とあってサイラスの死後は聖剣と共にグレンが引き継いでいるはず。

何故これがこんなところに……?

その理由は想像出来る。
勇者バッジはグランドリオンとセットで初めて効果を発揮する。勇者バッジがあるのであればグランドリオンもどこかにあるのだろう。
そしてグランドリオンと勇者バッジを扱えるのは、少なくとも魔王が知る限り1人しかいない。

「アイツも………否、もしかしたらアイツらも………この世界に居るというのか………?」

魔王の脳内に過ぎった最悪の仮説。
自分だけではなく、グレンやその仲間たちも招かれているのではないか。

もしもこの仮説が正しいのだとしたら、優勝狙いという魔王のスタンスは危険だ。

彼らからクロノが欠けているからこそ自分は優勝してクロノを蘇らせようとしていた。
だがその優勝の条件にクロノの仲間たち全員を殺すのであれば本末転倒だ。
クロノには彼らをまとめあげられるだけのリーダーシップがある。決して、彼の強さは彼のみで成り立つものでは無いのだから。

また、グレンの装備が支給されているということは自分の装備品も誰かに支給されていてもおかしくはない。命よりも大切な、姉のくれた御守り。あれも他の誰かに支給されているかもしれないのだ。

誰が身につけているかも知らないサラのお守りを魔法で攻撃して破壊してしまったとしたら………

魔王はため息をつく。
この殺し合い、どうやらただ殺せばいいというものでもないらしい。
そして目の前のオトモに目を配った。
悔しいが、オトモの存在はためになったと言わざるを得ない。
自分以外の全員が敵であるはずの世界で、他者との情報交換によって得られるものがあるとは思っていなかった。

(何にせよ、情報が足りなさ過ぎる。まだ動くには危険、か……。)

マナは定時放送があると説明していた。
死者の名前を発表するとのことだったが、それはこの催しの参加者を知る手がかりとなる。

(せめて放送のときを待つか……。グレン、よもや貴様がすぐに死ぬとは思わんが、知る者の名が呼ばれる可能性はある……。)

「魔王の旦那ぁー、返してニャー!」

気が付くと足元で、勇者バッジを取り返そうとオトモがぴょんぴょん飛び跳ねている。

そんなオトモに対し、魔王は勇者バッジをオトモに届かないようにひょいと持ち上げる。

「ああっひどい、ひどいニャ魔王の旦那ァ!」

涙目になりながら魔王に対して文句を言うオトモ。
そんな彼を見下ろしながら、魔王は言う。

「まあ聞け、これは単体では役に立たん。用途を知っている私が持つ方が良いだろう。」

「えーと、それなら、確かに……?」

オトモはどこか不安な様子を隠せない。
魔王の理屈には納得していても、殺し合いの世界で貴重な支給品を失うことは不安なようだ。

「……これを使え。」

ため息と共に、魔王はバックパックの中から自分に支給された武器をオトモに渡す。

『七宝のナイフ』と言うらしいその武器は名前の通り短剣の形をしており、オトモの体のサイズでも充分扱える武器である。

「ま、魔王の旦那ァ……!」

「まあ、そのリーチの武器は私は苦手だからな。それに──」

「……それに、何にゃ?」

「いや、何でもない。」

それに、オトモには有力な情報を貰った。そう口にするのは癪だったため、その先は言わなかった。


655 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:24:16 Sulsrhns0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

奇妙な光景──魔王が次に見た光景を言い表すのなら、その一言に尽きるものであった。
真っ先に魔王は思う。立ち去りたい、と。

魔王の眼前では、大人の男2人があたかも子供の『電車ごっこ』を想起させるような振る舞いで早歩きしていたのだった。


(た、立ち去りたい……!)


心から、本当に心からそう思う。
だが当然そうもいかない。
オトモとの情報交換が思わず役に立ったのと同様に、有力な情報を誰が握っているのか分かったものではない。
また、サラのお守りをこの2人のどちらかが所持している可能性も捨てきれない。

深い溜め息と共に、魔王は2人の男の眼前に立ち塞がる。

「「あら。」」

魔王は未だ迷っていた。
オトモの持っていた勇者バッジからグレンがこの殺し合いに参加している可能性を見出した。それが真実か偽りかによって、この殺し合いに乗るべきかどうかに関わってくる。
まだ魔王のスタンスは完全には確定していないのである。


「……私の名前はジャキ。かつて魔王と呼ばれた男だ。」

仮にこの世界に魔王のことを知る者が呼ばれているのであれば、その者が生きていようが死んでいようが、安易に皆殺しのスタンスを貫くわけにはいかなくなる。
つまり対主催の立場に転じる場合は、自分の過去の行いを知る者がこの世界にいるということだ。
よって、魔王の2つ名も晒すことに決めた。
魔王の悪名は他人と協力関係を築く時に大きな障害となることは承知の上だが、グレン達と共にこの世界の脱出を目指す場合に悪名を隠していたことが発覚するのは困る。
自分の悪行を知る者が誰も呼ばれていないと分かった時というのは、つまり皆殺しを始める時なのだから悪名を知られていようがいまいが関係ない。せいぜい不意打ちがしにくくなる程度だ。

「魔王とはまた大層な名前が出てきたじゃない。アタシはシルビア。こっちはサクラダちゃんよ。それで、私たちとの接触の目的は何かしら?」

それを聞いた2人の内の1人、シルビアが気にするのは当然、魔王の名。かのウルノーガも名乗っていた称号であり第一印象は決して良くはない。

「情報が欲しいのだ。この殺し合いの舞台に知り合いが巻き込まれていることを危惧している。」

「ボクの旦那様を探してくれてるのニャ!」

オトモは魔王の真意も知らず、旦那様ことハンターを探してもらっていると勘違いしている。
だが猫(に見えなくもない生物)と行動を共にしており、知り合い探しに協力的になっているところを見るに、根っからの悪ではないのだろうとシルビアもサクラダも推察する。


656 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:25:16 Sulsrhns0
「とりあえず、ここに来る前の話も含めて全員で情報交換しない?きっと有意義になると思うのだけど。」

そう提案したのはサクラダだ。
彼はシルビアや魔王、さらにはオトモアイルーやニャンターとして大型モンスターの狩猟を行っているオトモとも違って戦いとは完全に無縁な日々を送っていた。
殺し合いの世界に送り込まれたことによる精神的な疲弊は他の2人と1匹よりも大きい。

そして彼は大工の頭領として一般成人男性以上の体力は兼ね備えているものの、つい先程家一軒を建て直すという肉体労働を終えたばかり。
普段であれば、仕事が終わればすぐ火の傍に座り込んで休息をとるが、この世界ではロクに休息も取っていない。

早い話が、サクラダは少し休む時間が欲しかったのである。冒険を経験していないサクラダは元の世界について語る量も少ないため、基本的に聞き手に回り続けることもできる。

「さ、さ、みんな座って座って。話は腰を下ろしてからよ。」

「……良いだろう。」

「それなら最初にジャキちゃん、喋ってもらえるかしら?」

唐突に、シルビアが提案する。
どの道全員が喋ることになるのなら順番など大した問題ではないはず。話の流れを作るため自分の最初を申し出ることは時にあるが、他人に──ましてや初対面の相手に押し付ける狙いは何なのか。サクラダもオトモも疑問符を浮かべているが、特に反対はしない。

(嘘を考える暇を与えない、か……。この男、食えん奴だ。)

一方、魔王だけはその目的を察する。シルビアは自分を相応に警戒しており、それを隠すつもりも無いようだ。

魔王の頭の回転の速さであれば特に考える時間は無くとも整合性の取れた嘘八百を考え付くことは出来るし、シルビアもその点について魔王を過小評価はしていない。
要するにシルビアの発言は、魔王のみに自分の警戒心を伝えるためのサインに過ぎないのである。

「いいだろう、話してやろう。偽り無く、な。」

シルビアの発言の意図を汲み取ったことを暗示しながらも、魔王は喋り始めた。
古代におけるラヴォスとの因縁。
流れ着いた中世での魔王としての悪行。
再び流れ着いた古代でグレンと決闘し、敗れて死んだこと。

ここまでの流れに嘘偽りはひとつも無い。
ただしクロノの死だけは黙っておいた。クロノの蘇生のために殺し合いに乗ろうとしていることを想像できる余地を残したくなかったためだ。

「私は既に死んだ身だ。ラヴォスの討伐や姉の救出は奴らに託した。今更生き返ろうとは思わないし、こんな催しに乗る気は無い。」

これも、ほとんどが真実である。
自身でラヴォスを討伐することに執着は無く、姉の救出も含めて彼らに任せられると思っている。ただしそれはクロノが生きていればの話だ。

つまりクロノの死という情報を提示しない限り、動機面から魔王の嘘を暴くことはできないのである。


657 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:26:01 Sulsrhns0
「なるほど、面白い情報を聞いたわ。じゃあ次はアタシが話すわね。」

魔王に最初に喋らせたこともあって、シルビアが2番目に喋り始める。

シルビアの話の中で全員を驚かせたのは、この殺し合いの主催者と元の世界からの関わりがあったということだった。

しかし魔王にとって重要な情報はそれだけではなかった。

「ところで最初の会場でマナに最初に反抗した子、いたでしょ?あの子、アタシの知り合いなの。」

「なっ……!」

オトモの旦那様とやらがいる可能性は既に示唆されていたが、それはまだ確定情報では無かった。
だがシルビアによって、この世界には元の世界の関係者も招かれ得るという事実がハッキリしたのだ。

(これは……本格的にグレン達と脱出のために動くことも考えなくてはならんな……。)

その後、サクラダが自分の世界について話した。
主にひとつの村しか行動範囲に無かったようなので情報の幅自体が狭かったのだが、この世界の地図にある『ハイラル城』がサクラダの世界にあったはずの場所であるという情報は心に留めておいた。

オトモの話も、旦那様の武勇伝を語られただけで特に新しい発見は見当たらない。

全員が話し終えたことで、ようやく魔王が動く。

「さて、ここでお前たちの支給品を見せてはもらえないだろうか?」

「いいケド……一応理由は聞くわ。」

「私の持っているこのバッジ。先ほど話したグレンという男の所有物だ。私は彼もこの殺し合いに参加しているのではないかと思っている。」

「えっ……ってことは……」

魔王の発言にサクラダが口を挟む。彼のバックパックには彼の弟子、エノキダのハンマーが入っていたからだ。

「エノキダもここに連れてこられているっていうの!?」

「……そういえば、その可能性は高いわね。」

その反応を見て、知り合いの持ち物が支給されていたのだろうと魔王は察する。

「それならハイラル城を目指すのはどうかしら。知っている場所がそこしか無いなら、もしかしたらエノキダちゃんもそこを目指すかもしれないわ。」

「それは嬉しいけど……イシの村は目指さなくていいの?」

「アタシの仲間は全員強いから急いで合流しなくても大丈夫よ。……ところで、支給品を見せるって話だったわね。」

シルビアは支給品は全て装備していたため、それらを魔王に見せる。サクラダはバックパックの中から支給品を取り出して見せた。

ただしその中に、魔王の知るものはひとつもなかった。

「感謝する。それでは。」

「待ちなさい、アナタも来るのよ。」

立ち去ろうとする魔王を引き止め、シルビアが言う。


658 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:27:25 Sulsrhns0
「……何故私がお前たちの仲間探しに付き合わねばならん?」

「アナタが何か隠しているかもしれないから……かしら?」

殺し合いに乗ろうとしていることがバレているのか、と魔王は案ずる。だがクロノの死を伝えていない以上、核心に迫ることは無いはずだ。

「馬鹿馬鹿しい。何なら力づくで我が道を決めてもいいのだぞ?」
「ええ、その場合も受けて立つわ。」

魔力を溜めて武力行使をチラつかせてもシルビアは引かない。
ピリピリとした雰囲気に、サクラダとオトモは後ずさりを始める。

「アタシ達はね、アンタ以上の"魔王"に一度騙されているの。その代償に失ったものは決して小さくなかったわ。」

シルビアは聖地ラムダで"再会"したベロニカのことを思い出す。
パーティー全員の心に深い傷を残し、みんなの笑顔に深い闇を落としたあの出来事を、二度と繰り返してはいけないとその時シルビアは思った。

魔王の話の中から決定的な嘘は見つからなかったが、魔王の話し方や様子から伺えるラヴォスと姉のサラに対する執着は決して小さくはなかった。

魔王を見逃した場合、誰かが犠牲になるかもしれない。
そして現在イシの村の近くにいることから、魔王はイシの村を目指しているであろう仲間と接触する可能性が高い。

「だからアナタはアタシが監視する。アナタは相当強そうだけども……アタシだって刺し違えるくらいの力はあるわ。黙ってついてくるのとここで戦うの、どっちが有益か考えてご覧なさい?」

暫しの間、空気が凍りついた。
確かに魔王としても、グレン達の居場所にアテがあるわけではない。強いて言うなら地図に書いてある『北の廃墟』が自分の世界の由来の地である可能性はあるが、固有名詞ではないため断定は出来ないし、ハイラル城を目指すのなら方角は同じである。

ここで戦うのとどちらが得か……そんなもの、考えるまでもなかった。

「……仕方ない、か。」

ため息と共に魔力を引っ込める。
過去の悪行を話した時からある程度の警戒を受ける覚悟は出来ていたが、ここまで自分の行動を遮るとは思っていなかった。

「魔王の旦那ー!何事も無く収まって良かったニャー!」

オトモが泣きながら魔王の足にしがみつく。どうやら、魔王の憂鬱はもう少し続きそうである。


659 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:28:39 Sulsrhns0
「シルビアちゃん……押しが強いのね、アタシ、関心しちゃった。」

「……イイコト教えてあげるわ。旅芸人ってのはね、脇役なの。主役は笑顔になる人々なのよ。彼らの笑顔を守るためなら、アタシは何でもするわ。」

ウルノーガとの戦いでも、シルビアは脇役に徹していた。
16年前にユグノア王国を巡るウルノーガとの戦いが始まっていたイレブン、マルティナ、ロウ。
家族や友人が大なり小なり危害を受けたカミュ、セーニャ、グレイグ。
彼らと比べ、自分とウルノーガに直接的な宿命は無い。
ただ人々を笑顔にするという自分の心情と衝突するからウルノーガと対立しているに過ぎない。

だからこそ、シルビアはムードメーカーになれたのだ。
自分の宿命が軽いからこそ、感情的になることなくパーティーを支えられる。

そしてそれはここでも同じだ。
主役の座など彼らに譲ろう。
自分はただ、主役への危険因子を人知れず遠ざけるだけの脇役で構わない。

それが、旅芸人シルビアの生き方なのだから。


660 : 魔王の葛藤 ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:34:33 Sulsrhns0
【B-1/一日目 黎明】 

【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】 
[状態]:健康 
[装備]:青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7 
[道具]:基本支給品、 
基本行動方針:ハイラル城を目指す
1.サクラダを守る 
2.ウルノーガを撃破する。
3.魔王を監視する

※魔王ウルノーガ撃破後、聖地ラムダで仲間と集まる前の参戦です。

【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】 
[状態]:健康
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品 チェーンソー@FF7 余った薪の束×3 
[思考・状況] 
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。

※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。

【魔王@クロノ・トリガー】 
[状態]:健康 
[装備]: 
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー
[思考・状況] 
基本行動方針:優勝し、クロノを生き返らせる……つもりなのだが…… 
1.グレン(カエル)も参加しているのか……?
2.シルビア……食えない男だ。

※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。 
※クロノ・トリガーの他キャラの参戦を把握していません。クロノは元の世界で死んだままであるかもしれないと思っています。

【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】 
[状態]:健康 
[装備]: 七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) 
[思考・状況] 
基本行動方針:魔王に着いていく。 
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ? 
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。

※人の話を聞かないタイプ

【支給品紹介】
【勇者バッジ@クロノ・トリガー】
グランドリオンのクリティカル率を上げるアクセサリー。元の世界でのカエルと魔王の一騎打ちの時も、カエルが装備していた。

【七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
英傑ウルボザの使っていたナイフ。生前のウルボザはこのナイフと七宝の盾を用いて、まるで踊るように戦っていたと言われている。


661 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/20(火) 18:36:05 Sulsrhns0
投下終了しました。
すみません、>>652>>653で同じ文章を2回繰り返してしまいました。


662 : 名無しさん :2019/08/20(火) 18:52:17 kDhxiQiE0
投下乙です
魔王は名簿後出しの罠をひとまず回避したか
旅芸人として脇役を務めるシルビアかっこいい


663 : 名無しさん :2019/08/21(水) 14:29:48 vVD0myAw0
投下乙です。
何か11勢セーニャ以外地味だな〜とか思ってたけど、シルビアもいい所見せてるね。
魔王は早くもスタンス変えそうだけど、まだ何かありそう。


664 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/21(水) 19:24:53 PVrFzdNU0
投下乙です!
全員ファンタジー系統の作品でありながら別の世界観を持った参加者同士の掛け合い、非常に面白いですね。
一般人に近いサクラダが精神的に余裕がない描写や、シルビアの年長者らしい振る舞いなどそれぞれのキャラが立っているように感じました。
鋭い推察力を持つ魔王と、その魔王に食えないと言わしめるシルビア。どちらも重要人物となりそうです。

一行の行き先であるハイラル城には魔王の目的であるクロノとシルビアの仲間のグレイグがいますが、果たして。
そして道中にはイレブンとベルもいますね。こう見るとドラクエキャラは人数が多い分、集まりやすいのかもしれません。
このグループは放送を聞いた後にどう行動するのか楽しみになりますね。


665 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/21(水) 23:34:30 PVrFzdNU0
クロノ、グレイグ、ゼルダで予約します。


666 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/23(金) 19:46:27 7k3fZRAw0
クラウド予約します。


667 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/24(土) 00:46:34 ePjAyx0Y0
投下します。


668 : 金と銀のカギ ◆vV5.jnbCYw :2019/08/24(土) 00:47:06 ePjAyx0Y0
八十神高校を去り、あてもなくクラウドが向かった先は、映画館だった。
誰かが中で待ち伏せしていないか、息をひそめて蛇のように静かに忍び込む。

命の気配は感じないが、自分と同じように、気配を消して出方を伺っているのかもしれない。
さらに辺りを見回して、本当に誰もいないことに気付くと、一呼吸付く。


(………。)
緊張がほぐれたのか、どっと疲れが出て、汗も噴き出てきた。

やがて、辺りの風景を見回す余裕が生まれてくる。
そこは、ミッドガルの映画館とはなんら変わりはなかった。

天井近くに置かれている数台のテレビ、スクリーン室への入り口、チケット売り場、ポップコーンボックス、映画のポスター。
どの映画館にもあるものだ。

唯一例外を除けば、入り口の横に趣味の悪い像がでんと構えていることくらい。

一通り脳に新しい情報をインプットし終えると、ふいに過去のことがフラッシュバックする。

レオナールの無念と困惑に満ちた表情
チェレンの悲しい目をしながら、焼き尽くされる姿
紅いカーディガンの少女の、命を使い果たし、血まみれになりながらも強い光にみちていた瞳。

(しっかりしろ……殺人くらい、平気でやってきたじゃないか。)

クラウドの殺人の初舞台はこの地ではない。
かつて仲間と冒険した時から、多くの犠牲を払った上で任務を果たしてきた。



ここで殺害を躊躇ってしまえば、魔晄炉侵入作戦の時に殺害した神羅の警備兵は、魔晄炉爆破で死んだミッドガルの市民はどうなんだということになる。

(……星の命のためだったんだ。 多少の犠牲は仕方なかった)
(多少? 多少ってなんやねんな? アンタにとっては多少でも 死んだ人にとっては、それが全部なんやで……)

いつかの仲間同士の会話
星の命を奪う魔晄炉を爆破していたバレットと、その魔晄炉を都市の開発に組み込んでいたケット・シー。
互いが互いの正義があり、その正義の上での犠牲があった。

あの時自分は反射的に二人の言い争いを止めたが、本当はどう思っていたのだろうか。

大きな目的を達成するためなら、多少の犠牲は必要だ。

それなのになぜ、こんなにも頭にちらつく?


669 : 金と銀のカギ ◆vV5.jnbCYw :2019/08/24(土) 00:48:55 ePjAyx0Y0


この映画館に、気配を消して隠れている者がいないかと探し回っていた所、売店のカウンター裏にポップコーンのボックスがあった。

食品サンプルかと思いきや、意外にもそれは本物のポップコーンだった。
毒であることも考慮したが、毒ならこんなに隠されたかのように置かれることはない。
『危険な食べ物ではないのでどうぞお取りください』というかのように、見えやすい場所に置いているだろう。


恐らく今の状況は、脳のエネルギーが足りないことも理由の一つだろう。
普段の冒険や神羅兵時代の任務中は、二連戦程度どうともなかった。
しかし、この世界での二度の戦いは、どちらも激闘だった。


自分の想像以上のカロリー消費によって、脳や筋肉が糖分を求めているのだろう。
ポップコーンを鷲掴みにし、口に放り込んでいく。

(誰がこんなものを置いたかは気になるが、意外と気の利くところあるじゃないか。)

口の中に、砂糖と蜂蜜の甘い味が広がる。
やはり短期間の2度の強敵との戦いによる体力の消耗は、予想以上だったようだ。

何度かポップコーンを口の中に詰め込んだ後、ザックから水を取り出して勢いよく飲む。

少し落ち着いた所で、今後の方針を立てる。
最初の放送の時間まで、もう30分もない。

ティファやエアリス、恐らく連れてこられるであろう他の仲間のことも知りたい。
知った所で、目的は変えようがないが。

問題はその先のことだ。
ゲームの経過時間に比例して、脱出を考案する対主催に該当する人々が、徒党を組む可能性が上がる。
だが、ゲームに乗った自分は、この先同盟を組める可能性は低い。

チェレンのように都合よく目的が一致する人に会えたとしても、常に反目を気にしながら戦うことになる。

だから、先回りして、人が集まりやすそうな場所に奇襲を仕掛けるのが妥当だ。

地図を見渡す。
しかし、異様なまでに施設が多く、その中で知ってる名前の施設はカームの町一つしかないので、どうにも的が絞れない。

放送が終われば、人が集まりそうな施設を虱潰しに探していくしかないだろう。


放送が始まるまでの短い時間、この映画館に何か残されていないか、探し回ってみる。

クラウドは今度は映画館の奥に一つだけあった、映写室に入る。


670 : 金と銀のカギ ◆vV5.jnbCYw :2019/08/24(土) 00:49:50 ePjAyx0Y0
ここも椅子があり、正面に大きなモニターが構えてある、普通の映写室だ。


しかし入ると、急に映画が始まる。


(!?)

映された場所は間違いない。最初に自分達が集められた建物。
もうその場所に参加者はいないが、真ん中にあの少女がいた。


「ラララララララ。天使は踊る。天使は踊るよ。ラララララララララ。」
くるくると回りながら、金髪の少女は意味不明な言葉を呟く。

急に、映像の中のマナと目が合う。

「ちょっと、こんな所でなにしてんのよ!!映画見てる暇があったら、さっさと参加者の一人でも殺してくれば?」

どういうからくりかは知らないが、マナが自分に語り掛けてきた。

「黙れ。」
そんなことを言われなくても、自分は優勝するつもりだ。
モニターを通してまで殺し合いを命令するくらいなら、こんな映画館など最初から建てるなと言いたくなる。

怒りの下に、グランドリオンで映写室の後ろのプロジェクターを粉砕する。
「何やってるの?そんなことしても無駄よ?早く殺しに行きなさいよこの馬鹿?殺せ!殺せ!コロセ………。」

少女特有の高い声から、少女とはとても思えない野太い声に変わる。
音声の不調だろうか。

ここにいても特に手掛かりはなさそうだし、何より不愉快だから早々に映写室を後にする。
映写室の扉を閉めると、あれほどうるさかった映像が急に途切れた。

恐らく、映写室の扉か、あるいはその入り口の床があの不愉快極まりない映像を映すスイッチになっているのだろう。

壊したプロジェクターはフェイク。
分かってしまえば、簡単な仕掛けだ。

近くにあるらしいスイッチを壊してみようかと思ったが、戻るのもバカバカしい。


671 : 金と銀のカギ ◆vV5.jnbCYw :2019/08/24(土) 00:50:11 ePjAyx0Y0

映画館の入り口付近に戻る。

その時、先程の像と目が合った。
よく見ると、それはもう一人の主催者、ウルノーガを模した像だった。

最初に入った時は、映画館にある物よりも、映画館に隠れている人の方が気になったため、何の像なのか気が付かなかったようだ。

(ん?)

クラウドが注目したのは、ウルノーガ像の杖の部分。
杖の先に付いている珠だけは、光り方からして、明らかに材質が違った。

クラウドが触れると、それは妙に簡単に取れた。

その珠からは、何か魔法の力を感じた。

マテリアかと思うが、どの色にも該当しない。
まあ、チェレンが自分の世界にいない魔物を従えていたし、違う色のマテリアがあってもおかしくはないのだが。

支給品と違って説明書がないため、どう使えばいいのか分からないが、ザックに仕舞っておく。

(なぜ、こんなに分かりやすい場所に置いた?)
そもそもこれを置くことを誰が許可したのか知らないのだが、隠すにしては誰でも見つけられる。
自分が見つけたのは、人が入った後がないことから、自分が一番にこの映画館に入ったからだろう。
自分が隠すなら、あの映写室。
マナの映像や音声に釘付けにした後、座席の下か中にでも隠していれば、見つけるのは難しいだろう。

あまり体力が回復した気はしないが、ここはどうにも落ち着けない場所なので、放送前だが出ることにした。










クラウドが手に取ったそれは、マテリアではない。
「オーブ」という、魔法を通り越した『何か』を創り出すもの。

言うならば彼の想い人エアリスが持っていた白マテリアや、彼の宿敵セフィロスが持っていた黒マテリアに近いか。


クラウドのザックでは、異なる二種類の色の宝珠が輝く。
一つは、いのちのたま。
もう一つは、シルバーオーブ。

それぞれがこの戦いにおける災いとなるか、それとも救いとなるか。


672 : 金と銀のカギ ◆vV5.jnbCYw :2019/08/24(土) 00:50:54 ePjAyx0Y0
【E-4/映画館入り口 /一日目 早朝(放送直前)】

【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:HP2/5  脇腹、肩に裂傷(治療済み) 所々に火傷
[装備]:グランドリオン@クロノトリガー 
[道具]:基本支給品、いのちのたま@ポケットモンスター ブラック・ホワイト シルバーオーブ@その他不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:エアリス以外の参加者全員を殺し、彼女を生き返らせる。
1.ティファ………

※参戦時期はエンディング後
※最初の会場でエアリスの姿を確認しました。


【支給品紹介】
【シルバーオーブ@DQ11】
命の大樹に近づくのに必要な6つのオーブの一つ。原作ではウルノーガに奪われた後、6軍王の一人であったホメロスに渡された。
また必殺技「シルバースパーク」を打つためのトリガーになる。

※他の5色のオーブがどこにあるか、誰に支給されているか、はたまた存在しないかは不明です。
※クラウドがシルバースパークを打てるかは次の書き手にお任せします。


673 : 金と銀のカギ ◆vV5.jnbCYw :2019/08/24(土) 00:51:09 ePjAyx0Y0
投下終了です。


674 : ◆2zEnKfaCDc :2019/08/25(日) 03:28:27 rJ/1o8PY0
ティファ・ロックハート、ロボ、カエル、鳴上悠、ピカチュウ 予約します


675 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 01:37:32 pICS17x60
投下乙です!
シルバーオーブ……私も出したかった代物です。
もしクラウドがシルバースパークを扱えたなら今以上の強力なマーダーとなり、厄介な存在になりそうですね。
オーブは脱出の鍵となりそうですし、後々にも大きく影響しそうです。
また彼がセフィロスと出会うのかどうか、それも楽しみですね。

そして映画館という施設を活かしたシーンに惹かれました。
ポップコーンがあったり、像があったり、映像を用意していたり中々凝っていますね。
他のオーブも同じくどこかの施設にあるのかどうか。それを探すのも醍醐味となりそう。


676 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:15:55 pICS17x60
投下します


677 : 時に囚われし者たち(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:16:52 pICS17x60

「……ん、……」
「目が覚めたか、気分はどうだ?」
「悪いな、こんな埃っぽい部屋で。休めそうな場所がここぐらいしかなくてさ」

ハイラル城のとある一室、簡素なベッドから身を起こす少女にグレイグとクロノが声をかける。
怪我を負った少女をこの部屋に運び込んですでに数十分。その間彼らはずっと少女の看護にあたっていた。
頭部や腕などに包帯を巻かれていることに気がついた少女はハッとしたように瞠目し、しかしすぐに俯く。
まだ状況が読み込めていないのだろうか。彼女の心情を考慮したクロノとグレイグは目配せを交わし、少女の言葉を待つことにした。

「あの、貴方達が私を助けてくれたのですか……?」
「ああ、さっき森の方で倒れてるのを見かけてな。そこのグレイグがここまで運んできたんだ」
「そうだったんですね……ありがとうございます」

控えめながら少女が頭を下げ、僅かに血が染み変色したブロンドの髪が揺れる。
感謝の言葉を述べてはいるもののその表情は暗い。命の危機に瀕した直後なのだから仕方ないが、かといって彼女から事情を聞かないわけにはいかない。
情報を欲するグレイグは険しい顔付きで片膝をつき、少女と視線を合わせた。

「いきなりですまない、幾つか質問したいのだが構わないか?」
「ええ、答えられる範囲であれば……」
「そうか、感謝する」
「まぁ待てよグレイグ。まだこの子の名前も知らないんだろ? ここは一つ、自己紹介でもしようぜ」

クロノからの思わぬ提案が入りグレイグがむ、と声を漏らす。
確かに状況が状況ゆえに忘れていたが自分たちは名乗りすら交わしていない。名前を知っていた方が情報交換もやりやすいだろう。
特に断る理由もないグレイグは押し黙ることで了承を示し、クロノがへらりと笑みを見せた。

「やぁ、お嬢さん。俺はクロノってんだ。君は?」
「……ゼルダです。改めて手当てしてくださり感謝します。クロノ」
「礼ならそこのオッサンに言いな。ああ、さっきも言ったけどこのオッサンは――」
「グレイグだ。悪かったな、老け顔で」

少女、ゼルダへと名乗りながらもグレイグの鋭い睥睨はクロノへと向けられている。
無言の圧力に苦い顔を浮かべたクロノは誤魔化すように頭を掻き、笑いながらタンスの残骸に腰掛けた。
それは暗にこれから本題に入るという合図となる。グレイグとゼルダもそれを察したようで両者の視線はクロノへと集中した。


678 : 時に囚われし者たち(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:18:00 pICS17x60

「なぁゼルダ。あそこで何があったんだ? あんなクレーターができる状況だ、普通じゃないぜ」
「……襲われたんです。突然、私の姿を見るやいなや攻撃されて……」
「ま、そんなことだろうと思ったよ。ちなみにその襲ってきたやつの特徴とかは?」
「茶色の短い髪の少女でした。背格好は私と同じくらいで、見慣れない緑色の服を着ていて……魔法のような攻撃を放っていました」
「魔法、のようなもの?」

それまで傍聴に徹していたグレイグが反応を示す。
魔法自体はよく知っているが、魔法”のようなもの”という言葉の濁し方がどうにも気になった。

「はい。少女の背後から人の形をした魔物が現れ、まるで操り人形のようにそれを従えていたのです。……魔物の剣技も凄烈でしたが、他にも冷気を放ち、巨大な手を生み出す魔法など……言葉にするだけで恐ろしい力の持ち主でした」
「……そりゃ恐ろしいな。でもアンタ、そんなやつに襲われてよく生きてられたな」

ゼルダを疑うわけでもなくクロノが投げかけた問いは当然といえば当然の疑問だ。
彼女の話す襲撃者は修羅場を潜り抜いてきたクロノやグレイグでも脅威と捉えるほどの力を持っている。そんな存在にゼルダが太刀打ちできるとは到底思えない。
記憶を辿るのに必死だったゼルダは予想だにしていなかったとばかりに口を噤み、やがて言いづらそうに口を開いた。

「私も、魔物を支給されていたんです」
「魔物を……?」
「ええ。ですが先ほどの戦いで力尽き……今はこの球に眠っています」
「ちょっと見せてくれ」

ゼルダが取り出した赤と白のボールにクロノは手を伸ばす。
中央にあるスイッチのようなものを押せば、中から瀕死状態のポケモン――キリキザンが現れた。
よほどのダメージを負っているのかぐったりと倒れ込んでおり鳴き声一つあげることはない。そんな彼の状態を見てゼルダは悲しげに眉尻を下げた。
納得したクロノはキリキザンをボールにしまう。

「なるほどな。だがそれなら、その襲ってきたやつも同じく魔物を持っていたのかもしれない」
「恐らくは。ですが私よりもずっと扱い慣れているように見えました」
「魔物使いということか? なんと奇妙な……」

魔物とは敵対するものという常識だったグレイグは面食らった顔で考え込む。
乗り物扱いする魔物や悪しき心を持たない魔物などは見てきたものの、ゼルダの話す魔物はそのどれにも当てはまらない。
知性を持っていて協力関係を築いているのか。そう判断しようにも情報が少なすぎる。
クロノは無駄な思考に浸るのを避けこの話を切り上げた。

「俺たちがゼルダを見つけた時には周囲にそれらしき人物はいなかった。気絶してる女の子なんて簡単に殺せるのに、だ。……殺しが目的ってわけじゃないのか?」
「……わかりません」
「ま、気絶してたんならそうだよな。とにかくまだ森の近くにいるかもしれないし、要注意だ」

ハイラル城に戻るまでの道のりでゼルダを襲った人物と出会わなかったのは幸か不幸か。
グレイグとクロノは全参加者の中でも指折りの実力者に入る。自分たちが出会っていればその少女の暴走を止められたのではないか、と考えても仕方のないことを考えてしまう。
結局、森には要注意人物がいるという結論を出す他なかった。

「ところでさ、ゼルダ」
「……? はい、なんでしょうか」
「アンタ、どっかの国の姫様だったりしないか?」
「! ……ええ」

姫という言葉を聞いてグレイグが喫驚したように肩を跳ねさせる。
デルカダールの騎士という王位を敬愛する身分だからこそ、そういった話には反応せざるを得なかったのだ。


679 : 時に囚われし者たち(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:18:23 pICS17x60

「やっぱりな。実は俺の仲間にもお姫様がいてな、その子と似た雰囲気があったからさ」
「お姫様が……クロノは顔が広いのですね」
「――先程のご無礼をお許しください、ゼルダ姫」

クロノとゼルダの間に割って入ったグレイグが片膝をつき、頭を下げる。
あまりに突然で無駄のない所作に二人は戸惑いを隠せない。当のグレイグはなんらおかしいことなどないとばかりにじっと頭を下げ続けていた。

「良いのです、グレイグ。こんな状況では身分などあってないようなものでしょう」
「いえ、そうは参りません。例え世界が違えど一国の姫君へは礼節を尽くすのが我がデルカダールの教えです。……必ずや、貴方をお守り致しましょう」
「それは、……ありがとうございます、グレイグ」

ようやく顔を上げたグレイグの顔はまるで死地に向かうかのように引き締まっていた。
怒りが湧いた。一国の姫であるゼルダを狙い凶行に走った少女に。そして何よりもゼルダをこの殺し合いの場に集めたマナとウルノーガに。
グレイグはこの殺し合いは自分への裁きだと思っていた。だがその認識を改めることとなる。
この殺し合いは裁きなどという崇高なものではない。
無差別に人を集め、血が流れる様を見ては嘲笑う悪趣味極まりない――決してあってはならない狂宴なのだ。
グレイグは確かな決意を生きる理由へと変えた。

「……少し、風に当たりに行きます」

と、ゼルダが声を上げる。
突拍子もなく危険な提案にグレイグはギョッとして、すぐに彼女を引き止めた。

「ならば私も同行します。一人では危険です、姫」
「心配はいりません、そう遠くに行くつもりはありませんから」
「ですが――」
「グレイグ」

食い下がるグレイグをクロノが呼びかける。
視線をそちらへと移せばクロノが緩やかに首を振っている姿があった。

「一人になりたいんだとさ。無理もない、あんなことがあった後じゃあな。気持ちの整理にだって時間がかかるはずだ」
「……そうか。ゼルダ姫、決して遠くへは行かないでください」
「ええ、承知しています。わがままを言ってしまってごめんなさい、グレイグ。クロノ」
「気にするな。……ああそれと、これ持っておきな」

クロノが手渡したのは自分の支給品であるアンティークダガー。
グレートアックスや白の約定のような性能はないものの取り回しやすい分ゼルダでも扱いやすいだろう。
感謝の言葉と共にそれを受け取ったゼルダは最後に二人へ流し目を寄越し、部屋の外へ出ていった。





680 : 時に囚われし者たち(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:19:04 pICS17x60


「遅いな」

そう切り出したのは意外にもゼルダの頼みを了承したクロノだった。
ゼルダが出ていってすでに二十分が経つ。ただ風に当たりに行くにしては長い時間だ。
傍のグレイグが唇の端を震わせ緊張の面持ちを見せる。クロノ自身も嫌な予感を覚え顔を強張らせていた。
探しに行こう。アイコンタクトで互いの気持ちが一致したまさにその瞬間、二人は思考を弾けさせることとなった。


『――いやああぁぁぁぁっ!』


悲鳴が響き渡る。間違いなくゼルダのものだ。
クロノとグレイグは一斉に部屋を飛び出す。飛び込んできたハイラル城の壮大な景観に舌打ちを鳴らした。
一度探索したからこそハイラル城の広さと複雑さは知っている。この中から一人の少女を探し出すとなると相当な労力が必要だ。
悲鳴は階下から、そしてこの部屋は三階。石階段を駆け下りながらクロノは指示を飛ばした。

「俺は一階を探す! グレイグは二階を頼む!」
「了解だ!」

グレイグは二階に続く扉へ入り、クロノはそのままに飛び移り一階へと直接飛び降りる。
崩れかけていた城壁の一部が崩れ落ちるのも意に介さず駆ける。壁や床に張り付いた怨念の沼を強引に切り払い、クロノたちはハイラル城を疾走した。





681 : 時に囚われし者たち(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:19:27 pICS17x60


やはりこの城は複雑だ、とクロノは思う。
ざっと一階を見て回ったが崩れた壁や怨念の沼などが原因で道を塞がれているのもあり、正式なルートを描くのが難しい。
実際自分が今どこを歩いているのか、どの道を歩けばどの場所につくかなどまるでわからない。
それでもなんとか内部一階を調べ終え、現在外部を捜索している状況だ。地図も持っていない今の状態では手当たりしだいに探すしかないという現実にクロノは軽い絶望感を覚える。

「――こんな場所があったんだな」

と、クロノが流れ着いたのは洞穴だった。
入り口周辺の夜光石が夜明けの近い空下で薄く輝く。なんとも不気味で胸騒ぎを覚える場所だ。
ゼルダがここに来ているとは思えない。そんな正常な思考とは裏腹にクロノはあるものを見つけ目を見張ることとなる。

「これは――っ!」

入り口に転がっていたのは一足の靴。クロノはそれにひどく見覚えがあった。
間違いない、ゼルダのものだ。この場所に靴が放置されている――それが何を示唆するか察するのに時間は要さない。
クロノは迷いなく洞穴の中を全速力で突き進んだ。

どうやらこの洞穴は牢屋の役割を果たしているらしい。
中に広がっていたのは見渡す限りの鉄製の檻と無機質な石畳、そして天井から漏れ出た水滴が点々と作り出す水溜りだけだった。
一応檻の中にも目を通しながら奥へ進んでいく。先程から嫌な予感が止まらない。
先程の靴のこともあるが、それ以外にもなにかあるような。世界を救った戦士としての勘がそう訴えかけてやまない。
この牢屋の一番奥にこの胸騒ぎの原因がある、そう確信したクロノの足取りに迷いはなかった。

「ゼルダ! いないのかっ!? 返事してくれ!」

水溜りを踏み、跳ねた水滴が服を汚すのも構わず走り続けて最奥へとたどり着いた。
広い円状のスペースとなっている部屋だ。およそ牢屋という施設には似つかわしくないその部屋にはゼルダの姿はない。

ガシャン、と厚い金属音が鳴り渡る。
まるでクロノの来訪を待っていたかのように入り口の檻が閉じられた。
動揺する間もなく不穏な雰囲気が辺りを覆う。見れば部屋の中央で眠るように散らばっていた巨大な骨の数々が意思を持つかのように集合し、魔物を形作った。

スタルヒノックス。
それはいわばこの牢屋の支配者に君臨する者。
肉体を失い、骨だけの亡者となりながらもクロノの前に立ち塞がるその魔物は衝動のままに巨大な腕骨を振り下ろす。
舌打ち混じりにひらりと身を躱すクロノは流れるように刀を引き抜き、スタルヒノックスの頭部めがけて勢いよく跳躍した。


「――邪魔、すんじゃねえええぇぇぇぇッ!!」


月の光も届かない薄暗い牢屋にて、白い閃撃が走った。





682 : 時に囚われし者たち(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:19:58 pICS17x60


(何が守る、だ……! 己の誓いすら守れず何が騎士だ!)

風化した廊下を走りながらグレイグは己の愚を悔いていた。
ゼルダが出ていった後、無理矢理にでも彼女に付いていけばこんなことにはならなかっただろう。
一人にしてやれと言ったのはクロノだ。だが責任は自分にある。騎士でないクロノにとって姫の扱いなど知っているはずもないのだから。
重役を買っている分、あそこではグレイグの判断力が問われたはずなのだ。

(ベロニカが死に、マルティナ姫が心を壊し、そして今ゼルダ姫が危機に陥っている……その原因である俺が言うのは烏滸がましいかもしれないが、必ず助け出してみせる……!)

重箱の隅をつつくまでもなく溢れ返る後悔の波に呑まれながらグレイグは足を動かす。
ネガティブな事を考える癖がついたのは随分と前の話だ。だがそれを抑え込むのは未だに慣れていない。
不器用な騎士ができることといえば、こうしてひたすら身体を動かすことだけだった。

そうしてグレイグはある部屋にたどり着いた。
展望室。ハイラル城でもっとも見渡しのいい場所であり原型を留めている数少ない部屋。
群青と橙の混じる空を見上げるバルコニーにて、長い金髪が揺れていた。

「ゼルダ姫っ!」

見覚えのある後ろ姿にグレイグは疑問よりも先に安堵する。
さっきの悲鳴の正体はなんだったのか。そんな質問をぶつけるよりも先にグレイグは無警戒に彼女へと近づいた。


「――百年。私は百年間、彼を待ち続けました」


しかしその歩みはゼルダの呟きに止められた。
バルコニーから外の景色を眺めながら独り言のように、それでいてグレイグに語りかけるようにゼルダは紡ぎ続ける。


683 : 時に囚われし者たち(前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:20:48 pICS17x60

「幼少の頃から周囲から期待を寄せられ、父からは祈りの修行を強要され……私は力量以上のことをしてきた。母は私を労ってくれていましたが、そんな母も急逝し私には何もなくなってしまった」
「……ゼルダ姫、なにを……」
「母を失ってからの父は一刻も早く私に封印の力を得させる為に厳しく当たりました。私は国の皆の期待に応えるため、何度も何度も祈りの修行をして……それでも成果が出せず、そのたびに己の才能の無さが牙を剥きました」

脈絡も繋がりもない語り手となったゼルダにグレイグは当惑を極める。
何を言うこともできず、何もすることもできず。それでも彼女の言葉を無視してはならないと本能で理解する。
口を挟むことをやめたグレイグは静かに聞き手に回った。

「私は力を持たないなりに、知識を深めようと遺物研究に手を回しました。けれど父はそれさえも禁止し、また修行を繰り返す日々を送って……それでも駄目で……周囲の人々から蔑まれて……私は、私は……!」

顔が見えないものの震える声からして涙を流しているのだろうとグレイグは悟る。
そんな彼の予想に答え合わせをするようにゼルダは手の甲で目を拭い、ようやくグレイグへ向き直った。

「母もなくし、父は王女としてしか私を見ておらず……そんな私にあったものは、彼だけだった」

顕となったゼルダの悲壮な顔つきにグレイグは言葉を失う。
蒼色の双眸には曇りが帯び、艷やかな唇は自嘲を含んでいる。年相応の少女が見せるにはあまりに悲痛なそれはグレイグに一人の女性を想起させた。
この少女はまるで――――

「無口な彼は何を考えているかわからなかったけど、信頼できた。こんな私を助けてくれた。そして自分と境遇が似ていることを知り、いつしか彼は私を姫としてではなくゼルダとして見てくれるようになりました」

けど、とゼルダが間を置く。

「ハイラル城が滅びたあの日、封印の力に目覚めた私は彼を救うために力を行使し――百年間、ガノンを封印し続けた。いつか彼が、リンクが助けに来てくれる。その信頼だけを生き甲斐に頑張れたのに……私はリンクを片時も忘れたことなどなかったのに……っ!」

ゼルダの震える手が背に伸ばされる。
指先が向かうのは彼女の背に下げられたオオワシの弓。持ち主に従うしかない道具はゼルダの指に馴染み、ギリと弦を引く音を鳴らした。
つがえられた矢の先に自分がいると理解したグレイグは当惑を隠すことなく息を呑んだ。


「――彼は、私のことを忘れていたっ!!」


三つの風切り音が響く。
弓の魔力により分裂した矢は無情にもグレイグへ忍び寄った。


684 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:21:23 pICS17x60





ハイラル城の一室に運び込まれた頃にはゼルダはとっくに意識を取り戻していた。
男性二人の会話が聞こえた時には恐怖を抱いた。自分はこれから殺されるのではないか、と。
しかしクロノとグレイグの会話の内容から彼らの方針を聞き出して、それが杞憂だったのだと思い知らされた。
しばらくはこのままクロノ達から情報を聞き出そう。そう思い狸寝入りを続けていたが彼らの会話の内容はゼルダの想像を絶するものだった。

「――とまぁ、こんな感じだな。中々ロマンチックだろ?」
「異なる時間を行き来して世界を救う、だと……信じ難いな……」
「そりゃお互い様だろ。一度世界が滅ぼされ、それでもそっちの世界の魔王を倒すなんてすごい話だ。……どうやらお互い、違う世界から連れてこられたみたいだな」

彼らの語る己の世界での出来事はおとぎ話のようだった。
厄災ガノンという異質な存在を目の当たりにしそれの退治に全力を尽くしてきたゼルダも十分現実離れしているが、彼らは度を越えている。
特にクロノに至っては過去や未来を行き来し世界を滅ぼす存在を打倒したという話だ。
リンクを百年治癒させたように時の流れを止める術は思い当たるものの、過去や未来に行くなどという芸当聞いたこともない。
思わず声を上げそうになりながら、ゼルダは一人思考に耽けていた。

(――もしも、私が過去に戻れたならば……)

ハイラル城陥落の原因の一つとして、ゼルダの研究したガーディアンや神獣がガノンに乗っ取られたことにある。
ゼルダ本人は無論ガノンに対抗すべく研究を進め、その起動に成功したときにはゼルダのみならず英傑たちもそれを喜び讃えた。
ガーディアンや神獣の破壊力ならばガノンに勝てる――そう思っていたのに。
復活した厄災はガーディアンや神獣を操り、英傑やハイラルの人々を圧倒的な力で惨殺した。
そしてリンクが眠りについた理由もガーディアンの大群から命を懸けて自分を守ったからだ。
考えないようにはしていたが、もしも過去に戻れたならば遺物研究などという”余計なこと”はしないだろう。

「……失われた時は戻らない。俺はそれで心を壊した人を知っている」
「それって……さっき言ってたマルティナって子の話か?」
「ああ。イレブンは世界樹崩壊を阻止すべく過去に戻ったが……俺たちはこの世界で生きている。世界は必ずしも一つではないのだ」
「……、……そりゃ俺にとっちゃ耳が痛い話だね。じゃあアンタは過去に戻りたいなんて思わないってのか?」

ゼルダは最初、この二人と行動を共にする予定だった。
グレイグとクロノは話を聞く限りリンクに匹敵するか、それ以上の力の持ち主だ。
無力な少女を演じればきっと守ってもらえるだろう。そして参加者が減ってきた頃に不意をついて殺せばいい。
そう思っていたが、

「――悔やむことはある。あのとき俺がこうしていれば、と己を恥じることなど常日頃からだ。しかし、俺が過去に戻ることで誰かが悲しむのならば……俺だけが何もかもが上手くいき、恵まれた世界に向かう権利などないだろう」

それを聞いてゼルダは確信する。
ああ、彼らと自分は分かり合えない――と。


「……ん、……」
「目が覚めたか、気分はどうだ?」
「悪いな、こんな埃っぽい部屋で。休めそうな場所がここぐらいしかなくてさ」


ゼルダは再び孤独の道を歩む算段を立てる。
自身が生まれ育ち、百年間ずっと暮らしていたハイラル城。その土地勘を活かし計画を企てることは容易だった。
さらに言えばゼルダが眠っていた部屋は他ならぬ彼女自身の私室。
――最高のスタート地点を手に入れたゼルダにとって、彼らを思い通りに動かすことなど造作もなかったのだ。

私室から牢屋の入り口へ向かい、スタルヒノックスと遭遇させるために片方の靴を落とす。
そして適当な場所で叫び声を上げ、グレイグとクロノをおびき寄せる。
その足で見晴らしがよく、弓を引くには十分のスペースを持った展望室へと向かう。
一連の流れに一切のムダはない、断言できるほどの最短。環境すべてを味方につけたゼルダは実力以上の力を発揮することができた。





685 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:21:51 pICS17x60


矢の速度とは素人の射ったそれでも簡単に見切れるものではない。
シャドウとの戦いを繰り返し修羅場を潜り抜けてきた千枝がゼルダの矢を躱せなかったように、その理はこの場でも通用するのだ。それが同時三本となればなおさらに困難となる。

そのはずなのに、ゼルダの予想は裏切られることとなった。

「……な、……!」

目の前のグレイグは同時三本の矢を対処してみせた。
頭を狙う矢は身を屈め、脇腹を狙う矢は盾で弾き、足元を狙う矢は斧で切り払う。
一本一本に対する対処ならばゼルダの知るリンクでも十分可能な域だ。しかしそれが同時三つとなると話が違う。
幾百の戦場にて無敗を誇るデルカダールの英雄の二つ名は伊達ではない――!

「ゼルダ姫。貴方は私では考え付かぬ苦難の道を歩んできたのかもしれません。貴方が私に矢を向けたのも、相応の事情あってのものなのでしょう」

重く踏み込むグレイグを見てゼルダは再び矢をつがえる。
しかしゼルダが弦から指を離すよりも早くグレイグは彼女の懐へ潜り込んだ。

「ですが……」
「あっ――!」

あっという間に組み伏せられたゼルダは勢いよく地面に衝突する。
その衝撃に悶える間もなくグレイグの荘厳な顔が視界を覆い、一切の抵抗を許されなかった。

「――貴方は、人を殺してはならない!」
「っ……!」

あまりの剣幕にゼルダは押し黙る。
そうして暫し睨み合い無言の時が流れ、優位に立っているグレイグが最初に切り出した。

「ゼルダ姫、貴方はなぜ殺し合いに乗ったのですか!」
「彼らの言う願いを叶えるという褒美……それを求めたのです。私には叶えるべき願いがあります」
「だからといって、己の欲望のために他者を殺すなどあってはならない! そんなことをせずとも他に道はあるはずです!」
「――貴方は強いからそんなことを言えるのです!!」
「っ……!」

ゼルダの反論にグレイグは厚い喉を震わせる。
知っているからだ。力を持つ自分を追い求め、魔物となった戦友ホメロスの存在を。
人間とはどうしても自分を中心に世界を見る生き物だ。将軍の名の通り猛威を振るった自分ではホメロスの気持ちを理解することはできなかったように。
それが原因でホメロスは――

「くッ……!?」

蘇る記憶に苛まれ力を緩めてしまった一瞬、ゼルダは辛うじて動く右手でアンティークダガーを握りグレイグの胸元へと振るう。
間一髪で身体を離し避けたものの拘束を解く形になってしまった。拘束から逃れたゼルダはすぐさま立ち上がりグレイグと見合う。
問題ない、弓は遠くへ弾いてある。加えてダガーも持ち手が素人な分対処に苦労はしない。
将軍としての冷静な洞察はしかし、次のゼルダの一手に崩されることとなる。


686 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:22:24 pICS17x60

「……やはりグレイグ、貴方は強いのですね。だからこそこんな殺し合いに縋ることしか出来ない人間の気持ちなど、理解できないのでしょう」

ダガーを握るゼルダの手が震える。
紡ぐ言葉にも恐怖が混じっているのがわかった。

「だから……」
「なっ、まさか――!?」

小刻みに揺れるダガーの行き先はグレイグではなくゼルダ自身の喉元だった。
その行為が何を意味するのか。最悪の結末を予想したグレイグは即座に駆け出した。

「こんな理不尽な世界、生きる意味などない」
「やめろっ!! ゼルダ――!」

手を伸ばす。もう目の前で命を失わせなどしない。
手を伸ばす。救える存在が救えぬなどあってはならない。
手を伸ばす。二度と同じ過ちを繰り返しはしない。


そうして伸ばした将軍の右手は――刃に貫かれた。


「……な」

右手首に深く突き刺さるダガー。
溢れる鮮血に次いで激痛がグレイグを支配する。
力の入らない右手はカランとグレートアックスを落とした。見上げれば、バルコニーから抜け出したゼルダが弓を拾い上げ矢をつがえている姿が映る。


687 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:23:12 pICS17x60

「無力な少女だと、油断していたのでしょう」

ヒュン、と聞き覚えのある風切り音と共にグレイグの身体に三本の矢が突き刺さる。
吐血と同時に枯れた息を漏らした。言葉を紡ごうにも喉から出てくるのは空気ばかりで、声にならない。

「相手は何も出来ない少女だ、負けるはずがない――そう考えていたのでしょう、グレイグ」

再び訪れる矢の雨にグレイグはついに膝をつく。
狙いが粗雑とはいえ肉を貫く感覚と痛みは将軍の意識を容赦なく白く染め上げる。
もはや言葉も届いていない。そう理解したゼルダは冷徹に第三の矢を放つ準備を整えた。

「――あなたに、私の気持ちは理解できない」

放たれた矢は面白いほどにグレイグの正中線を貫いた。
胸、腹、喉を潰されたグレイグはスローモーションのように倒れ込む。
その様は世界を救った英雄にしてはひどく無様で、呆気なくて、ゼルダは初めて人を殺した恐怖よりも先に、こんなものなのかという憐れみさえ湧いた。

いつクロノが来るかわからない。
現場を見られてしまえばお終いだ。ゼルダは慎重にグレイグの支給品を回収しようと踏み出し――歩みを止める。
瞠目するゼルダの瞳は、揺りかごのように揺らめいていた。

「な、なぜ……!」

ありえない。こんなこと、あってはならない。
手首を貫き、体中を矢で射抜かれたはずなのに。


「――なぜ、生きているのですかっ!?」


将軍、グレイグは立ち上がりゼルダを見据えていた。



□ □ □


688 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:23:29 pICS17x60



いつだっただろうか。
イレブンが過去に戻り数ヶ月が経った頃、魔物退治の旅の途中で俺たちはキャンプをしていた。
旅の中心だったイレブンがいなくなったことでパーティの雰囲気はどこか重く暗いものとなっていた。
無論、みな自覚などしていないだろう。俺だって自分が気づいていないだけで、雰囲気を悪くしている原因の一つなのかもしれない。

シルビアやロウ様が場を盛り上げ、カミュが茶化し、セーニャがそれを見て笑う。
前と変わらないように見えるが、それを見るたびに違和感を覚えてしまう。あいつが、イレブンがいないことに。
付き合いの浅い俺でもそう思うのだから、他の仲間たちはさらにひどいはずだ。
それでも表には出さないでいられる彼らがとても眩しく見えて、俺はいつしか彼らと距離を置くようになった。
彼らと俺は違う。俺に仲間面する資格などはない――それをせめてもの罰として、彼らに対する罪悪感を具現化していた。

皆が寝静まった頃、俺は不意に目を覚ました。胸に妙なざわつきを覚えたのだ。
水でも飲もうかと立ち上がった時、小岩に腰掛け海を眺めているマルティナ姫を目にした。

おそらく姫はイレブンを失って最も影響を受けた人物だろう。
姫はイレブンを想っていた。鈍い俺でもその程度のことは察していた。
イレブンが過去に戻った後、マルティナ姫は次第に心を閉ざしていった。仲間とも話さずただ一人で魔物を狩り続ける姿は、見ていて悲痛だった。

だからこそ、俺は彼女の傍に居たかった。
俺が仲間たちと距離を置いたもう一つの理由が姫と共にいる為だったのだから。
その甲斐もあってか滅多に口は開かないが、姫は俺だけは避けずにいてくれた。

『ねぇ、グレイグ』

壮観な海を眺めながら姫が呼びかける。
俺は静かに彼女の隣に移り、共に海に視線を寄越した。

『私たちの今いる世界って、なんなの?』

風に溶ける姫の言葉の意図を俺は掴むことが出来なかった。
世界がなにか、とはどういう意味だろうか。そうして答えあぐねている内に姫が言葉を続ける。

『イレブンは過去に戻って、きっと世界樹崩壊を食い止めたんでしょう。ベロニカも死なずに済んだんでしょうね。それ以外にも沢山死んだ人の死をなかったことにして、彼にとっても皆にとっても理想の世界となったはずよ』

早口で捲し立てる姫様の様子はいつにも増して異質だった。
不穏な予感が胸を打つ。聞いているだけで姫の境遇の片鱗が心に渦巻き、心を重くする。
俺はただ相槌を打ち、頷くことしか出来なかった。

『じゃあ、この世界はなに? 世界が滅び、ベロニカが死に、イレブンが過去に戻って……悪いことばかり。救われなかった世界ということ? そんなの不平等よ。きっとあっちの世界の私はこんな苦悩知らないで、イレブンと一緒にいられるのに……――この世界の私は、イレブンにとって本当の私じゃないの?』

言葉の節々に怒りと悲しみを交える姫に、俺は口を噤んだ。
答えられなかったのだ。感情を殺しつづけた姫がようやく吐き出した不安を俺は受け止めきれなかった。
違うと否定するべきなのかもしれない。それでも出てくる言葉はどれもがあまりに陳腐すぎて、軽すぎて、躊躇ってしまう。
言葉を探し続ける俺を見かねたように姫は溜め息を吐き、「忘れて」と寝床へと戻っていってしまった。

未だに後悔している。
悩みを打ち明けてくれた姫に答えられなかったことを。
救えたかもしれないのに姫の心を殺したままにしてしまったことを。

だからもし、”次”があるのならば――――



□ □ □


689 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:24:11 pICS17x60



白濁とした意識の中でグレイグは思う。
あの時で言った”次”とは、まさに今なのだと。

後悔だらけの人生だった。
何をするにしても空回り、救える存在に手を伸ばせなかった。
だが今の目の前にいる。自分が救えるかもしれない存在が。贖罪を果たすべき相手が。
グレイグは無意識に目の前の悲壮の少女をマルティナと重ねていた。

もし彼女の心を救えるのならば、こんな命くれてやろう。
だが今失うわけにはいかない。あの時の答えを告げるまでは、死ぬわけにはいかない。
でなければついぞこの生涯に意味はなく、後悔だけで終わってしまうからだ。

「こ、来ないでっ!!」

ズダダッとグレイグの身体が射抜かれる。
派手な血飛沫が舞い辛うじて保たれていたグレイグの意識がさらに遠のいた。
それでもグレイグは怯むことなく幽鬼のような足取りでゼルダの元へ進む。
不死身を思わせるグレイグへの恐怖に悲鳴を上げながら、ゼルダは最後の一本となった木の矢をつがえた。

「いや……いやぁっ!!」

狙いなどろくにつけていないそれだが、矢を放つには近すぎる距離感のおかげかすべてがグレイグに降り注いだ。
身を捻るような激痛はまともな思考さえ許してくれず、僅かだった寿命を半分以上削り取る。
それでもまだ生きていられるのは理屈で説明できるものではない。ただ、グレイグの信念がそうさせているのだ。

矢を失ったゼルダに抵抗の術はなく、恐怖で身を竦ませている為逃げることも出来ない。
ただゆっくりと近づくグレイグを前に自分の死をイメージすることしかできず、そのたびにリンクの顔がチラついた。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない、彼に愛されぬまま死ぬなんて嫌だ――!

恐怖を駆り立てる欲望とは裏腹に、グレイグはゼルダのすぐそこまで迫っていた。

「ひっ……!」

殺される――急激に寒さを帯びるゼルダの身体を、暖かな熱が包み込んだ。
その熱の正体を知ったゼルダは驚愕と困惑に声を漏らす。今まさに命の灯火を失いかけているグレイグが、ゼルダの小さな体を抱きしめていたのだ。
逃げるべきだと頭では理解していても身体が動かない。握られたダガーは音を立てて床へと転がった。

「――姫、よ……」

潰れた喉からグレイグは声を絞り出す。
そのたびに生ぬるい血反吐が込み上がり地獄のような苦しみを覚える。
それでも、いい。問題ない。一人の少女を救えるのだとしたら安すぎる代償だ。


690 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:24:36 pICS17x60

「あなたは、あなただ……世界にたった一人だけの……、……本当の自分は、常に自分の中に、いる……! もしも、この世界が望むべき、ものでなくとも……俺たちは、生きている……! 偽物などでは、ないのだ……!」

視界はすでに白く塗り潰されていて少女の顔を見ることすらできない。
少女を抱き締める腕の感覚すらなくなってきている。もう、数秒も生きられないのだろう。
恐怖はない。後悔もない。もしも神がいるのならば、ここまで寿命を引き伸ばしてくれたことに感謝しよう。
だがもう少しだけ、時間がほしい。たった一言だけ伝えなければならないことがある。


「――俺は、あなたの味方です……姫」


その言葉を最後に、微笑みを浮かべたグレイグはだらりと脱力する。
突如降りかかるグレイグの体重を支えきれずゼルダは背中から倒れ込む。
けたたましく打ち鳴らされる鼓動がグレイグの身体を伝い己に跳ね返る。その鼓動の中に、グレイグのものは含まれていなかった。

「あ、あ……あ……」

死んだ。今度こそグレイグは死んだ。
途端にゼルダの身体はガクガクと震え上がり、失いかかっているグレイグの体温に縋る。
これが人を殺すということなのだ。脳内を真っ黒に塗り潰されて狼狽することしかできない極限の状況にゼルダは追い詰められていた。

「私、は……! 私は……!」

数分の時が経ち、恐怖を取り戻したゼルダは冷たくなったグレイグの遺体を押しのけて己の体を抱きしめる。
グレイグの死の瞬間が頭の中で何度もフラッシュバックした。矢を何度も受けて、それでもなお己を抱き締め語りかけるグレイグの言葉が頭の中を満たす。

グレイグの言葉はゼルダにとっては的外れもいいところだった。
当然だ、グレイグはマルティナに対しての答えをゼルダに告げていたのだから。
結果、グレイグの言葉はゼルダには届かなかった。彼女を正しい道へ進ませることも、救うこともできなかったのだ。

それでも、なぜだろうか。
決意したはずなのに。自分の手を汚すことなど恐れていなかったのに。
殺人を犯した自分がひどく遠いものに感じて、恐ろしくて、逃げ出したかった。
”味方”だと言ってくれたグレイグが死体となり転がっているこの場所が、百年過ごしたはずなのにまるで別の場所に思えてくる。
自分は取り返しのつかないことをしてしまった――グレイグの優しい微笑みを見て、ゼルダはそれを実感する。

「グレイグ、グレイグ……!」

自らが殺したというのにグレイグを揺さぶるゼルダの声はひどく泣きそうだった。
もしかしたらまた立ち上がってくれるかもしれない。意識せずとも心の奥底でそう期待していた。
しかし現実は非情だ。グレイグは二度と起き上がることはなく、彼の温もりも永遠に戻ることはなかった。

「う、あぁぁぁ……! ああぁぁぁぁ……っ!」

原因不明の涙がゼルダの頬を伝い、どうしようもない絶望を表現する。
そうしてゼルダは泣いて、泣いて、泣き続けて――それでも蘇るグレイグの言葉とリンクの顔が衝動となり、彼女の体を突き動かした。





691 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:25:00 pICS17x60


不気味なほどに静かだった。
スタルヒノックスを打ち破り、再び城内を探るクロノは止まぬ胸騒ぎに危機感を抱く。
ゼルダはともかくとしてグレイグの声までが聞こえない。まるでこの城には自分ひとりしかいないのではないか、そう思ってしまうほど静かだ。

クロノの足は導かれるように展望室へと向かっていた。
壊れかけの扉を蹴破り中へと転がり込む。と、そこには見慣れた男の姿があった。
ただしそれは生きている姿としてではなく、無残な遺体として。

「――グレイグ」

重く、静かに名を呼ぶ。
グレイグは応えない。クロノはうつ伏せに倒れ込む彼の遺体を仰向けに直し、顔を顰めた。
右手首に深い刺し傷が刻まれ、体の至る箇所にはおびただしい数の矢が刺さっている。
あまりに惨たらしい傷跡を残しながらもグレイグの顔はどこかやりきったような笑みを浮かべていた。

「……はは、なんだよこれ。俺、なにやってたんだよ」

クロノは膝から崩れ落ちながら乾いた自嘲を漏らした。
ここで何があったのか想像するのは容易だ。なんと言ったってグレイグに刻まれた傷跡はゼルダの持つ武器と一致しているのだから。
頭の中で最悪の光景がイメージされる。ああ、そうか。まんまとハメられたわけだ。
ゼルダがグレイグを殺した。そう結論づいた瞬間この殺し合いで自分が行ってきたことすべてが茶番に思えてきた。

グレイグとともにガーディアンを殲滅したことで、ゼルダの行動範囲に自由を与えることになった。
ガーディアンとの戦いで傷ついたグレイグの手当てに時間を要したが、そのグレイグは死んでしまった。
倒れているゼルダを助け部屋に運び込んだことで、この悲劇が生み出されてしまった。

すべてが空回り。意味のないどころか悪い方向に運んでいる。
六時間という貴重な時間を無駄にしてクロノが得たものといえば、このどうしようもない虚無感だけだ。
時計を見ればもう放送が近い。今からゼルダを追う気にもなれず、クロノは半ばやけになったように座り込んだ。


――こんなはずじゃなかった。


クロノはこの殺し合いを壊し、英雄になるつもりだったのだ。
志を同じくしたグレイグという強力な仲間を連れ、ゼルダを助け、仲間を増やしていくつもりだった。
事実クロノは元の世界で仲間を増やし、人々を助け、そうして世界を救ったのだから。
けれど今はどうだろう。力を持ちながらそれを活かせず、なんの成果も得られないまま放送を迎える。
クロノの心に影が手を伸ばす。味わったことのないほど大きな挫折はクロノから器を削ぎ落とした。

「なぁ、グレイグ……アンタは一体、最期に何を見たんだ?」

苦悩する自分とは真逆に微笑むグレイグを見て、クロノは問いかける。
やはりグレイグは応えてくれない。クロノは再び自嘲を浮かべ、白く輝く刀を床に突き刺した。


【グレイグ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 死亡確認】
【残り61名】

※グレイグの遺体はハイラル城の展望室に放置されています。

【A-4/ハイラル城 展望室/一日目 早朝】
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康、虚無感
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 英雄として、殺し合いの世界の打破……?
1.放送を聞く。
2.こんなはずじゃなかったのに。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。






692 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:25:40 pICS17x60


グレイグの支給品を回収し、展望室から抜け出したゼルダはふらふらと森を歩いていた。
おぼつかない足取りは今にも転んでしまいそうなほど危なっかしくて、左手に構えた盾の重さで何度かバランスを崩しかけている。
そんな危ない状態でもなんとか前を歩けているのは一重にグレイグのおかげだった。

「……グレイグ、貴方の死は……なかったことになどさせません」

元々芯の強い性格だったゼルダはグレイグの死を経て、より決意を固めることとなった。
グレイグは言った、あなたはあなただ――と。その通り、ゼルダはゼルダに他ならない。封印の力しか価値のない女王などではない。
グレイグは認めてくれたのだ、ゼルダという存在を。リンクを百年前に戻すため自らの道を血に汚す自分を応援してくれたのだ。
ならばグレイグの遺志を引き継ぐ権利がある。

私室で話していたように彼は過去に戻ることや出来事をなかったことにすることに抵抗がある。
だから、彼の死はなかったことにはさせない。グレイグはグレイグとして死んだ。願いでそれをなかったことにするなど、彼の誇りを汚すようなものだ。
それはあってはならない。だからこそ願いはリンクのためにとっておく。
それがグレイグの遺言を間違って汲み取ってしまった姫が生み出したこの殺し合いにおいての自分の在り方だった。

皮肉なものだ。
殺しをやめさせるべくグレイグが遺した言葉が原因で、ゼルダはより人を殺す決意を固めたのだから。

しかし自分が参加者全員を殺し回れると思うほどゼルダは馬鹿ではない。
実際、グレイグへ全ての矢を消費してしまったのは痛かった。残っている武器はアンティークダガーと雷の矢が一本、そして自分が扱えないグレートアックスのみ。
こんな状態では千枝やグレイグ、クロノのような強者が相手ならば殺すどころか逃げ切ることすら怪しい。
せめてキリキザンを治療したいが、それよりも効率的な方法がある。

「私を、守ってくれる存在を探さないと……グレイグのような優しい人も、きっといるはずだから……」

当初考えていたステルスマーダーとして生き残る計画。
無力な自分が勝ち残るにはその道しかない。となれば、グレイグ達のように力を持った善良な人間を探さなければならない。
マーダーとの鉢合わせを避けるため、これからは幾分か慎重に動かなければならない。
靴が脱げ裸足となった右足を土で汚しながら森を歩くゼルダの姿は、誰が見ても無力なか弱い少女だろう。
正直に言えばそういった印象を抱かれることは好ましくないが、この際しかたない。
不思議なことにゼルダの心からは恐怖が消えていた。


時を刻む時計。
その時計の針は波乱を経て段々と狂い始める。
失った時を悔やみ己が責任を果たす者、過去の勇者を求める者、過去や未来の時を渡った者。
時に囚われし者たちの邂逅は、この殺し合いをどう乱すか――――


693 : 時に囚われし者たち(後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:26:01 pICS17x60


【A-4/ハイラル城外 森/一日目 早朝】
【ゼルダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、決意、右の靴が脱げている
[装備]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V、古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品×2、オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、雷の矢@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、モンスターボール(キリキザン)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、グレイグのランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 殺し合いに優勝し、リンクを100年前の状態に戻す。
1.誰かに守ってもらい、不意打ちを狙う。
2.私は、私……。
3.今のリンクは、騎士として認めたくない。
4.最初の会場でダルケルと目が合った気がするけど、そんなはずは……。

※ガノン討伐後からの参戦です。
※グレイグとクロノからそれぞれドラクエ、クロノ・トリガーの世界の情報を得ました。

【モンスター状態表】
【キリキザン ♂】
[状態]:ひんし
[特性]:まけんき
[持ち物]:なし
[わざ]:つじぎり、シザークロス、ストーンエッジ、メタルバースト
[思考・状況]
基本行動方針:主人に従う。
1.???


694 : ◆NYzTZnBoCI :2019/08/26(月) 12:26:23 pICS17x60
投下終了です。


695 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/27(火) 10:42:33 ARuZsebg0
投下乙です!!
やべー奴を味方に入れてしまったと思ったらまさかの……!!
これはグレイグにとっては勿論、クロノにとっても報われない結果になりましたね。
良かれと思って助けた人間に殺されるのは、パロロワの醍醐味の一つだとも思います。

段々と放送が近づいてきて、先がますます気になりますね。

では、ダルケル、レッド予約します。


696 : ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:44:43 wBtBXN3E0
投下します。


697 : ゴローン? ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:45:15 wBtBXN3E0
北の廃墟でイレブンと別れた後、ダルケルはハイラル城へと向かっていた。

(う〜ん。それにしてもさっきの兄ちゃんは何をしたかったのやら……)
襲ってきたゴーストを瞬く間に倒したかと思いきや、急に黙りこくってしまった。
どことなく面影がリンクに似ている少年は、今頃どうしているのだろう。


北の廃墟から森を抜け、さらに草原を暫く歩くと、ダルケルはある看板を見つけた。

『注意!!この辺りに野生のポケモンがうろついています!!
参加者のみんなはエサにならないようにね!!』

(なんだよ……「ポケモン」って……)
ダルケルには何のこっちゃの話だった。
支給品の説明欄に描かれていた「MP」といい、この戦いは自分の知らない用語が多い気がする。


看板の内容を無視して、ハイラル城へ向かうと、草むらから一匹の獣がダルケルの前に現れた。

(コイツが、ポケモンなのか?)
どことなく元の世界にいたヘイゲンキツネに似ている。

「ニャアアアア!!」
「うおわっ!?」

ダルケルが看板の忠告を思い出す前に、レパルダスは威嚇してきた。
彼には知らないことだが、あと一歩のところでレッドを逃してしまった挙句、石を投げられたレパルダスは、非常に気が立っていたのであった。


ヘイゲンキツネより凶暴なその生き物に驚くも、ダルケルはどうにか捕まえようとする。
自分より小柄で、すばしっこいレパルダスには、鉄塊を振り回しても意味ないと判断し、ザックの中に仕舞う。

「ニ“ィヤアアアアア!!」
レパルダスのみだれひっかきが襲い掛かるが、ダルケルは背中を向けてガードする。
この程度の攻撃なら、岩のように固いゴロンの背中を使えば、ダルケルの護りを使うまでもない。

それからダルケルは両手でレパルダスを捕まえようとするが、手がレパルダスに触れる寸前で、するりと抜ける。

レパルダスは敵意を察知し、ダルケルに再び攻撃を加えようとするも、難なく防御される。


「コイツ、すばしっこいな……。」

しかし、ダルケルも思うようにレパルダスを捕まえることが出来ず、悪戦苦闘する。


698 : ゴローン? ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:47:25 wBtBXN3E0
所変わって、ようやく洞窟から出てきたレッド。
(あいつは……もういないみたいだな。よっし!!新しいポケモン、探すか!!)

月夜の草原を歩き始めるレッド。いかにも何かが出てきそうな雰囲気だ。

ピカチュウも出しておき、様子を伺う。
しばらく西へ進むと、何かの声が聞こえてきた。

一つは、先程レッドを襲ったポケモンの鳴き声。
もう片方は聞き覚えがないが、また誰かを襲っているのだろうか。


(今度はさっきみたいにはいかねえぞ!!)
いくら力が強くても、人間ならカイリキーやリザードンに戦いで叶うわけがない。
だが、人間には統率力がある。
それを使って、人間とポケモンが協力すれば、どんなポケモンでも捕まえられるはずだ。

「行くぜ!!ピカ!!」
「ピッカア!!」

一人と一匹は、走り出す。
その姿は、新しい世界に好奇心を滾らせて飛び込む、子供のようだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



何度目か、レパルダスはダルケルに襲い掛かる。

だが、レパルダスの爪がダルケルを斬り裂く瞬間を、待っていた。

「よっしゃ!!捕まえたぜ!!」
「ニャアアアアア!?」

レパルダスの手の動きを先読みして、その両手を掴み、そのまま地面に押さえつける。

ダルケルとレパルダス。腕力の差は歴然だった。レパルダスは後ろ脚をじたばたさせるも、拘束を解くことは出来ない。


「へへへ、もう抵抗しても無駄だぜ。大人しく縄張りに帰りな。あるのか知らねえけどよ。」


しかし、それを一人の少年が見ていた。
その少年にとって、非常にシュールな光景だった

(岩っぽいポケモンが、さっき襲ってきたポケモンを拘束している!?
しかも、人間の言葉を使っている?)


699 : ゴローン? ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:47:46 wBtBXN3E0

状況はさっぱり分からないが、レッドの気分はこうだった。
あのポケモン二匹を、是非ゲットしたい。


片方は十中八九「あく」タイプだと分かるが、もう片方のタイプが分からない。
「いわ」タイプならまだいいが、「じめん」タイプならピカチュウにとって厄介な相手だ。

「いけ!!ピカ!!でんじは!!」
「ピィッカ!!」
まあ、戦ってみれば考えなくても分かるだろうと、ピカチュウを向かわせる。

岩っぽいポケモンは、まだこちらに気付いておらず、もう片方のポケモンを拘束することに夢中になっている。
噛み付き合うピジョットとパルシェンを同時に捕まえたトレーナーのようなチャンスだ。
そう判断して、ピカチュウの力で麻痺させようとする。




「おわ!!何だコイツ!!」
ダルケルが気が付いた時にはもう遅かった。

ダメージこそそれほど受けなかったが、体が痺れて動けない。
どうにか体を捻らせると、そこにはまた新しい生き物がいた。
それはハイラル平原のオダテリスに……あまり似ていない。

尻尾の形は全然違うし、何より体色が全く違う。

それ以上に問題なのは、ソイツのすぐ近くに人間がいること。
つまり、人間があの黄色い動物に自分達を襲わせた可能性が高い。


「チャンスだピカチュウ!次は紫のヤツに10万ボルト!!」
「ピカチュウウウウウ!!」


予想通りだ。あの黄色い奴は、人間に従って戦っている。
あの人間は、他の動物を悪用する危険人物だ。
ダルケルはそう思い始めた。

しかし、ダルケルの目の前でそれ以上に不可思議なことが起こった。

人間が袋から何かを取り出す。
生物に痺れさせた後、武器を出してトドメを刺しに来るかと思いきや、大声を出した。

「ああああああああ!!何だよこれ!!ボールないじゃん!!しまったああああああああああああ!!」

「は!?」

ダルケルはレッドの変わりぶりに、体が痺れているのも忘れて、見入ってしまう。

そんなことは気にせず、レッドは袋や服のポケットから何かを探し続ける。


700 : ゴローン? ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:48:18 wBtBXN3E0


「なあ、兄ちゃ……」
「今大切なところなんだ!!邪魔しないでくれ!!」

ダルケルの話も聞き流し、ザックから何かを探し続ける。

廃墟で出会った挙動不審な兄ちゃんといい、この戦いは変な人間しか参加していないのかとダルケルは疑問に思った。


「くっそ〜。やっぱりボールねえよ。ピカの無駄骨じゃん。」
「ピカァ……。」
「おい、兄ちゃん、ボールボールって言ってるけど、何のことだよ。」

体の痺れも治まってきたが、それ以上にレッドの意味不明な言動に興味がわいてしまう。

「そりゃあモンスターボールに決まってるだろ!?」
「何だよそれ!?」

またしてもダルケルにとって、意味不明の用語が出てくる。
「何って……ポケモンなのに、見たことないの?ほら、これのことだよ。」
そう言ってレッドは、ピカが入っていたボールを取り出す。

「なるほど……それがモンスターボール……って、オレはポケモンじゃねえ!!
ハイラルの英傑にしてゴロンの族長、ダルケルだ!!」

自分までいつの間にかポケモンにされてしまうとは。
ダルケルは驚愕を通り越して、あきれ果ててしまう。

「ゴローン!?キミはどっちかっていうと脚が生えてるし、ゴローニャに似てるような……。」

人間とポケモンしかいない世界からやってきたレッドにとって、ハイラルとは全く想像できない世界だった。
彼にとっては、ダルケルも岩タイプのポケモンの亜種でしかない。

「………。」
レッドの言っていることはサッパリだが、話は通じてないことをダルケルは認める。

「まあ、個体によって見た目が違うやつもいるし、『ゴローン(バトルロワイヤルのすがた)』みたいなものか?」

「だから、オレはゴローンじゃねえ。ゴロン族のダルケルだ!!」


しかし、互いが互いに夢中で、この戦いにいたもう一匹の存在に気付かなかった。
「シャアアア!!」

レパルダスが、さっきのお礼参りにと、ピカに飛び掛かる。
しかし、レッドの戦いを共に歩んでいた仲間の一匹。
指示がなくても、野生のポケモン一匹の攻撃を躱すなど、雑作もない。


701 : ゴローン? ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:48:35 wBtBXN3E0
「ピカチュウ!!」
小柄な体型を逆に利用し、レパルダスの爪の動きを避け、反対に十万ボルトを当てる。

「ニャアアアアア!!」
敵わないと判断したレパルダスは、すぐに逃げ出した。

「助けてくれてありがとな。アイツのこと、忘れてたぜ。」
ピカチュウに感謝を告げるレッド。

その姿は長年助け合ってきた戦友のようだとダルケルも感じた。
「なあ……兄ちゃん……。」

改めてダルケルが声をかけると、ようやくレッドも気付いた。

「もしかすると……ポケモンじゃなくて、この戦いの参加者?」
「まあ……そういうことになるな。」

ようやく自分のことを少しだけ分かってくれたとダルケルも安堵する。

「オレ、レッド。こっちはピカチュウのピカ。ポケモンだと思って攻撃して悪かったな。よろしく!!」
「おう……こちらこそ、よろしくな。」
「ピカァ!」

レッドの強さは、ポケモンを愛する性格だけではない。
新しい出会いがあれば、その人物と気持ちを簡単に共有し、いつの間にか打ち解けてしまう所もある。
それを知ったダルケルは、意外とレッドは悪い奴ではなかったと再認識させられる。

「ところでダルケル、モンスターボール、持ってないか?
これと同じデザインなんだけど……。」

レッドはピカをボールに戻しながら、ダルケルに聞く。
「オレはそんな不思議なボール持ってねえよ。誰か他を探すしかねえな。
これから向こうの城へ行くつもりだけどよ、兄ちゃんはどうする?」


「確かに、あんな大きい建物なら、モンスターボールも転がってるかもしれないな。
よし、行こうぜ!!」

「お、おう……。」

モンスターボールって転がってるものなのか?とダルケルは問いたくなるが、また知らない用語を出されても困るので、黙っておいた。
本人としては、モンスターボールを持っている人に会えるかもしれないという提案だったのだが。




どこか噛み合わない二人は、ハイラル城を目指す。

そのズレながらも平和な時間が続くとよいのだが。


702 : ゴローン? ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:48:52 wBtBXN3E0






「ところで、ゴローンって何なんだ?」
「ああ、こんな見た目のヤツ。」

レッドはポケモン図鑑をダルケルに見せた。
空きのモンスターボールはいつの間にやら無くなっていたが、これは無事だったようだ。

「全然似てねえじゃねえか!!」
「そうか?まあゴローニャの方が似てるけど……。」
「それもあんまり似てなくねえか?」


【C-3/草原 一日目 早朝】
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:疲労(中)、無数の切り傷 (応急処置済み)
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]  ダルケルとの未知の出会いによる喜び
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.まずはハイラル城へ向かい、空のモンスターボールを探す。
2.手に入れたら野生のポケモンを捕まえてみようかな。
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。

※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。
※B-3、C-4辺りにはやせいのポケモンが出現するようです。すべての場所に出現するか、すべてのポケモンが人を襲うのかは不明です。


【ダルケル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:HP1/2+α  ダルケルの護り消費(あと2回)
[装備]:鉄塊 @ドラッグオンドラグーン
[道具]:基本支給品 ミメットの野菜@FF7 エルフの飲み薬
[思考・状況]
基本行動方針:
1.リンク、ゼルダ、ついでに他の英傑も探す。
2.とりあえずハイラル城へ向かう
3.殺し合いには消極的だが、襲われれば戦う。
4.結局、ポケモンって何なんだ?


703 : ゴローン? ◆vV5.jnbCYw :2019/08/28(水) 19:49:04 wBtBXN3E0
投下終了です。


704 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:48:31 fa.EON6g0
投下します。


705 : We're tied with bonds, aren't we? ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:50:21 fa.EON6g0
「病院……か……。」

街を抜け、悠、ピカチュウ、ポカポカの3名は病院へと辿り着いていた。

「浮かない顔だな、悠……まあ、こんなとこで活き活きしてる方がオカシイけどさ。」

「ああ、病院にはあまりいい思い出がないもんでね。」

悠が思い出していたのは、生田目の病室での出来事だ。
マヨナカテレビに生田目の"本心"が映し出されたあの時、自分も仲間たちも皆、少なからず憤りが生まれていた。
誰が生田目をテレビに入れて殺していてもおかしくないと、そう言いきれる程度には。

しかしあの場で全員で冷静になれたことで真相に近付くことが出来たし、生田目は正当な法の審査を受けることが出来た。

冷静でいること、問題解決にはそれが不可欠であると悠は知っている。

「なあ、ピカチュウ……」

「どうした?」

「やっぱりこの世界では、殺して回ってる人もいるんだろうな。」

だからこそ、悠は不安を覚えている。
生田目を前に冷静でいられたのは『悪は法で裁かれるべきだ』とする社会的通念があったからに他ならない。
しかし、この世界の殺人は法では裁けない。言うまでもなくマナとウルノーガはそんな次元を超越した存在だからだ。


「……否定は出来ねえな。」


ピカチュウがこれまで出会った参加者はスネークと悠のみ。
積極的に殺し合いに乗っていた者とは未だ会っていないが、それでも大勢の参加者の誰もが殺し合いに消極的だと思えるほど楽観的ではない。


「もしかしたら、殺されるのは誰かの仲間かもしれない。そうしたらその誰かは憤りに任せてまた誰かを殺すかもしれない。」

「……ああ。」

「俺だって同じだ。また仲間が殺されたりしたら……怒りに身を任せることだってあるかもしれない。」

「……。」

マナに見せしめと言わんばかりに殺された完二の姿が悠の頭にチラつく。

自分が主催者を倒すと決意している理由には、前提に完二の意志を継ぎたいという想いが少なからずある。
だが他の参加者たちにはそんな前提は存在しない。
自分とて完二が殺されていなければ──すなわち継ぐ意志がなく、仲間もここに招かれていないと思っていれば──そんな場合に自分がどう動いていたかなんて分かったものではない。

「ホントやるせないよな。ここでの暴力は必ずしも悪じゃないんだ。」

ピカチュウが思い浮かべているのは、ティム・グッドマンと共に解決した事件の中で、薬によって無理やり凶暴化させられていたポケモン達である。
薬か恐怖か、支配の方法が異なるだけで暴力を強要させられているという点では大した違いは無い。

「でも俺は思うんだ。そんな中で悠みたいな男と出会えたこと、それが幸運なんじゃないか……ってな。」

「……そうか。そうだよな。俺もお前に会えて良かったよ、ピカチュウ、ポカポカ。」

「ポカ!ポカブー!」

悠に頭を撫でられたポカポカが嬉しそうに鳴く。

「そういうこった。さ、行こうぜ。俺たちは俺たちに出来ることをすりゃあいい。」

「……ああ!」


706 : We're tied with bonds, aren't we? ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:51:30 fa.EON6g0
ピカチュウの言うままに病院の内部へと歩みを進める悠。
胸の中の一抹の不安は完全には拭い去れないが、誰かが隣にいるということの温かさは伝わってくる。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「これはひでえな……実際に殺し合いが起こったのは間違いなさそうだ……。」

最初に悠とピカチュウが目にしたのは、2階の床が崩れ落ちて1階に瓦礫の山を作っている光景だった。
少なくともイザナギ以外のペルソナを使えない今の悠にはこのような芸当は出来ない。
これをやったのが殺し合いに乗る者かどうかは分からないが、これだけの破壊力を持つ者がいることは胸に留めておく必要がありそうだ。

「まだ誰かが潜んでいる可能性もある。慎重に行こう。」

「ポカー!」

「こら、静かにしろっての」

「ポカー……」

どこか呑気なポカポカをピカチュウが咎める。お前が言うなという誰かのツッコミが聞こえた気がした。
何はともあれ、悠たち3名は探索を始める。

最初に入った部屋は診察室のようだった。
しかし特にめぼしい道具も情報も見つからない。道具は彼らが訪れる前に、ルッカが回収しているからである。

「……次の部屋に行くか。」

「待て、悠。この部屋の電気をつけていくぞ。」

診察室を出ようとする悠にピカチュウが囁く。

「何故だ?」

「ヒトの場合、五感の中では視覚がいちばん優先されるからな。もしこの病院内に誰かが潜んでいるなら、俺たちの立てる微かな物音よりも明かりの方に反応するはずさ。つまり他の部屋の探索中に不意打ちを受ける可能性が下がるってことだ。」

なるほど、と頷き、悠は照明のスイッチを入れる。
戦闘はともかく、こういった局面でピカチュウはこの上なく頼りになる存在だ。
ふと、的確なナビゲートで索敵などの補助をしてくれていた久慈川りせのことを思い出した。


707 : We're tied with bonds, aren't we? (前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:52:47 fa.EON6g0
そして次に入った部屋では──悠は驚愕することとなった。


(ここは──生田目の病室!?)


もちろん生田目本人が居るわけではないのだが、ベッド、テレビの配置、サイズなど、どれを取っても瓜二つである。

地図には八十神高校があることから、悠の居た世界を模した施設の存在は元々認知していた。
だが病院という、固有名詞でないニュートラルな施設の、それも中の一室だけに自分の居た世界の面影が見えるとは思わなかった。

(だが、何故主催者はそんな面倒なことを……?)

病院の一室だけを悠のいた世界に纏わる形にする。殺し合いをさせるというコンセプトに沿っているとは思えない行動だ。
つまり、殺し合いとは別に何らかの意味があるかもしれない。

あるいはただのブラフであり、自分がこうして困惑していること自体がその意味であるという可能性も否定できないのだが。

(待てよ……もしかして……)

ここで悠はひとつの可能性に至る。
自称特別捜査隊の活動の鍵となったアイテムである、『テレビ』。
もしもここが生田目の病室を完全に再現しているのであれば、あの時生田目を落とすかどうかで散々揉めたテレビの中に入ることも出来るかもしれない。

その仮説を思い浮かべるや否や、悠はテレビへと近付き始める。
そしていつもテレビに入る時のように、ゆっくりとテレビに手を伸ばし──



「落ち着け!悠!」



──テレビの中に入れるかどうか確かめようとする、その行為はピカチュウの一喝によって止められることとなった。

病院に来る道中の情報交換によって、悠がテレビの中に入れることをピカチュウは知っている。よって悠の行動の意図はピカチュウにはすぐに伝わった。


「その先の世界は『禁止エリア』に抵触する可能性がある。その首輪に縛られている内は、その先を覗き込むのすら危険だ。……すまねえな、柄にもなく怒鳴っちまって。」

「いや……むしろ助かったよ、ありがとう。」

落ち着け──かつてこの病室で自分が陽介にかけた言葉。
まさか自分がかけられる側に回るとは思ってもいなかった。

テレビの中の世界からはクマがいないと戻ってこれないため、元々中に入るつもりは無かったのだが、入れるかどうかを確かめるだけであってもその危険性を度外視していたのは冷静さが足りなかったと言われても仕方がない。

「とりあえずここを出るぞ。誰かが病院内に潜んでいたら俺の声で気付かれた可能性がある。」

ピカチュウの言うままに、開け放しておいた病室のドアから廊下へと出る。


708 : We're tied with bonds, aren't we? (前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:54:44 fa.EON6g0
すると次の瞬間、機械的な音声が聞こえてきた。



「──シンニュウシャをハッケン。」


それは予期していた敵襲だった。


「ハイジョします。」


電気をつけておいた部屋から漏れた明かりが襲撃者──ロボの姿を映し出す。動くロボットだとは思っていなかったが、致命的な誤算には至らない。


「──ペルソナッ!!」


排除すると、目の前のロボットはそう言っていた。
言葉と行動が一致するのであればつまりはそういうことだ。このロボットは積極的に殺しにかかってくると見てよいだろう。

悠にとっていちばん厄介なのは、敵意がないフリをして近付いてくるステルスマーダーである。
悠はどちらかというと巻き込まれ体質だ。
基本的に相手の話は信じ、かつ相手の話には積極的に乗っかるタイプ。
嘘吐きにとっては騙しやすい人間と言える。

つまり相手が真っ先に敵意を言語化してくれるロボットであったことは、むしろ助かるほどだ。


「来い、イザナギ!」


悠の背後からあたかも番長のような佇まいの男が現れる。

「すげえ!ソイツが悠の言ってたペルソナって奴か!」

感心するピカチュウを他所目にロボは小手調べと言わんばかりのロケットパンチを放つ。

対する悠は物理技『スラッシュ』でロケットパンチを迎撃する。

ロケットパンチを撃ち落とし、ロボに攻撃を加えるために刀を構えてイザナギを前進させる。

再び『スラッシュ』を放つイザナギ。
対するロボはマシンガンパンチで応戦。1秒に6打もの連続パンチがイザナギの斬撃と衝突する。

「ぐっ……!?」

イザナギの攻撃はいとも容易くかき消される。
さらにイザナギの技では受け止めきれなかった衝撃がイザナギを、そしてペルソナの主である悠を襲う。

悠にとってイザナギは最も使い慣れたペルソナである。
繊細な剣技で相手を圧倒するのであれば、あるいは魔法の威力を調節するのであれば、イザナギ以上に適したペルソナはいないだろう。

だがイザナギは使えるスキルが基本的なものしかない。
物理火力は『スラッシュ』止まり。
ロボの単体最強火力『マシンガンパンチ』に力負けするのは自明の理であった。

「大丈夫か、悠!」

衝撃を受け、苦痛に顔を歪める悠。
イザナギで制圧して病院を脱出するのが理想ではあったが、どうやらそれは難しそうだと実感する。

それならば、策はひとつ。

「時間は稼ぐ……その間にポカポカを連れて病院を出てくれ、ピカチュウ。」

「っ……!」

このまま悠が負ければ全滅は必須。さらにピカチュウ自身は戦力外である。そうするのがベストな選択であることはピカチュウにも分かっていた。

ピカチュウには名探偵の名を背負うだけの気概がある。仮に戦力にならないとしても悠の戦いを見届けるために病院内に残り続けるだけの男気もある。
だが、今回ばかりは自分だけでなくポカポカの命までかかっている。


709 : We're tied with bonds, aren't we? (前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:55:29 fa.EON6g0
「分かった……だけど約束だ。お前もちゃんと後から来るんだ。」

「勿論だ。」

出口に向かうにはロボの真横を経由しなくてはならないため、悠の時間稼ぎは必須である。
先ほど悠が技と技の撃ち合いで負けたことから見ても、ピカチュウを逃がすだけでも楽な仕事ではないのは間違いない。

ましてや、その後に悠自身も逃げるとなるとさらに危険だ。

「走れ!ポカポカ!!」

「ポカッ!」

「俺が道を開く!」

それでもピカチュウは迷うことなくポカポカに乗って前進させる。
それは無謀でも蛮勇でもない。
他でもない悠が任せろと言ったのだ。
その言葉を信じるのが最適解だと名探偵を自称するだけの脳が、そして本能が告げていた。

「シンニュウシャの逃走ノ意志を確認。逃がしまセン。」

ロボのアイセンサーの光に、紫色の光が溜まる。その視線の先に捉えているのはポカポカでもピカチュウでもない。

対象はフィールド、すなわち無差別攻撃。
189キログラムという体重からは想像もつかない速度でロボの身体が回転を始める。それと同時にロボの眼から放たれるレーザーがサークルを描き、辺り一面を包み込む。

周囲を満たす、乾いた雑巾で廊下を擦るような耳障りなレーザーの駆動音。
その音に惑わされ、誰も悠がカードを割る音に気付かない。

「させないっ!」

回転レーザーがピカチュウとポカポカを包み込む寸前、その正面にイザナギが割って入り、その一身でレーザーを受け止める。悠本体は回転レーザーの射程外にいながらもなお完璧に調整されたその顕現場所は、悠がイザナギを使いこなしている証明に他ならない。

イザナギは闇属性を無効にする。異なる世界の用語を同じ概念に置き換えるのなら、冥属性であるロボの回転レーザーはイザナギには一切通用しない。
その場の誰にもダメージを与えられていないことを察したロボは真横を通るピカチュウたちへサークルボムを放たんと構える。

しかしイザナギはまだ顕現しただけである。悠が命じた技を発動していない。

悠がその手の女神の杖を掲げた瞬間、鋭い雷がロボを襲う。

ジオ──初期の雷魔法でしかないのだが、女神の杖で攻撃魔力の上がっている悠や、ロボが魔法防御方面に脆いことといった要因が重なり、ロボの動きを一瞬鈍らせることに成功する。よってサークルボムは不発に終了。ポカポカとピカチュウはロボの攻撃圏内からの離脱を成功させた。

(ひとまずは上手くいったか……さて、次は俺が逃げる番だが……。)

ギリギリのギリのピカチュウたちの脱出を通しながらも、悠は冷や汗をかく。

逃げるにはさっきのような死線をくぐり抜けなくてはならない。
しかしピカチュウたちの時に、範囲攻撃をことごとく退けてきたのをロボは認知している。
また、ピカチュウたちは2匹いたのに対してこちらは1人だ。範囲攻撃を使う理由が無い。

要は悠が病院を脱出するにはイザナギで防げないマシンガンパンチのような単体攻撃をくぐり抜ける必要があるということ。

「さて、どうしたものか……。」

悠の隣には誰もいない。
陽介も、千枝も、雪子も、完二も、クマも、りせも、直人も、そしてピカチュウも、誰一人としていない。

本当に独りで敵と対峙する恐ろしさを、悠はまだ知らない。

「ペルソナァ!!」

心の底の不安を押し殺すように、高らかに悠は叫んだ。


710 : We're tied with bonds, aren't we? (前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:56:39 fa.EON6g0
「ありがとう、助かった……。お前は確か……最初の会場でマナに反抗していた者か?」

「ティファ・ロックハート。ティファでいいわ。あの時見られてるなら話は早いわね。こんな殺し合い、ぶっ壊してやろうと思うの。」

狂人と化した聖女──セーニャに襲われていたカエルは、自分の命を救ってくれた女性に礼を述べた。
今や殺し合いに乗っているカエルだが、それは心からの礼であった。
カミュと、雷電と、セフィロスと、そしてセーニャと。
この世界に来てからというもの、強敵との戦いばかりだ。
そんな中、最初の会場も含めて目にした行動全てが殺し合いへの反逆であるティファの存在は、カエルとしては一時の癒しであった。

それでいて、自身の情けなさが顕になっているような気分もまた湧いてきた。
凡そ素手での戦闘という、かつての仲間エイラを想起させる戦闘スタイル。それでいてマールディアを想起させるような、おてんばさを兼ね備えた芯の強さ。

ティファの人物像から想起される2人の仲間はどちらもガルディア王家の人物であり、リーネ王妃直属の騎士である自分が護らなくてはいけない人物だ。

そんなティファに助けられることは、騎士としての名折れであると感じられた。

「……俺はグレン。そう呼んでくれ。」

だからこそ、カエルは自らの名をグレンと名乗る。
かつてクロノ達に名乗った時はカエルを名乗ったのに、だ。


──カエル

それはガルディアの騎士としての名。
友の意志を継ぎ、魔王との宿命を背負った勇者の名。
そして、時をかけて星を救う英雄の仲間の名。

この殺し合いに乗るというのは言うまでもなく不名誉である。
カエルの名をここで名乗り、ガルディアの、サイラスの、クロノの名誉までを穢すわけにはいかない。
不名誉を背負うのは、魔王に挑んでむざむざと生き延びて帰った愚かな男グレンの名、それひとつで充分だ。

元の世界に戻り魔王と再び対峙するまでは【グレン@クロノ・トリガー】でいい。


711 : We're tied with bonds, aren't we? (前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:57:31 fa.EON6g0

「グレン……名前は普通なのね。その外見には驚いたけれど……参加者に呪術を使う奴でも居たの?」

グレンの事情など知らないティファは、蛙のような風貌について尋ねる。

「この外見は元からだ。……だがそのせいで、最初に出会った奴に魔物に間違われてしまったようだがな。」

「最初に……?そう、もう誰かと出会ってたのね。」

「ああ。名前は知らないが、最初にマナに刃向かってた青髪の男だ。ちょうどお前が助けた男だったか。」

嘘をついた。
最初に出会ったカミュに戦闘を仕掛けたのはグレンである。

カミュはセフィロスから逃げ延びたと聞いたが、その時グレンは気絶していたためその方角は分からない。つまり逃げた方角によっては何なら今すぐにでも鉢合わせしかねないということ。そうなると向こうはこちらが殺し合いに乗っていると主張するだろう。

カミュもティファ同様、最初の会場でマナに反抗したことを参加者全員に認知されている1人である。カミュが殺し合いに乗っていることにするのは難しい。

よって、ティファの中ではあくまでもグレンを魔物と勘違いしたことで殺し合ったことにしてもらうことにした。
そうすると、仮にカミュとどちらが先に襲ったかの論争になっても『カミュは早とちりをしやすい』という印象を先にティファに植え付けている自分の方が有利になる。
いつの間にか首輪を付けられ武器を奪われていた状況でも真っ先にマナに向かって行ったことから見ても、元々先走りやすい性格ではあるのだろう。

「その人はどうしたの?まさか……殺してはいないわよね?」

「ああ。途中で色んな奴が乱入してきたからな。カミュは逃げ、俺は気絶し……乱入者の1人は殺された。」

「誰に?」

その時の言いようもない恐怖を思い出し、アオガエルのような顔色になったグレンにおそるおそる尋ねる。

「もう1人の乱入者──セフィロスという男に……!」

「何ですって!?」

その名を聞くや否や、ティファはグレンの両肩を揺すった。

「アイツが……アイツがここに来てるっていうの!?」

「知ってるのか!?奴はクラウドという男を探していたが……」

グレンの出した補足情報もティファの知るセフィロスと一致する。同名の他人ではないだろう。

「ごめん、グレン。私はセフィロスのもとへ向かうわ。」

「……お前の方が分かっていると思うが、奴は危険だ。人を集めた方がいいんじゃないか?」

「危険だからこそ、よ……。」

グレンの提案にもティファは譲らない。
ステルスマーダーのスタンスを取るグレンも、命の恩人がみすみす死地に向かうのを黙って見送るほど薄情ではない。
一方ティファも、セフィロスによって新たな犠牲者が出るかもしれないのを無視することは出来ない。

しばしの口論を止めさせたのは、その場に現れた第三者であった。


「誰か……誰か手を貸してくれ……!」

「誰だッ!」

「豚に乗った……ウサギ?」


病院でロボの襲撃から脱出したピカチュウたちは、助っ人を求めて病院の周辺を探し回っていた。そこに言い争う声が聞こえてきたため近付いてきたのであった。

言い争っている者たちの片方の姿を見たピカチュウは安堵した。それは最初の会場でマナに反抗していた数人の内の1人だったからだ。
この殺し合いの中ではかなり信頼出来る部類の人間だろう。

だから口論こそしているものの、少なくとも同行している以上もう片方の蛙人間も対主催の立場ではあるはずだ。そう推理──否、そう願って近付いたのである。

ピカチュウが冷静であれば、蛙人間だけが怪我を負っているから2人がまだ出会って間もないということを推理して、同行しているからといって2人のスタンスが一致しているとは限らないということも考えられていたかもしれない。しかし、一刻も早く悠の加勢に向かわなくてはならないピカチュウにその余裕は無かった。

「病院に……人を襲ってるロボットがいるんだ!俺たちは脱出できたが、中で悠がまだ戦ってる!どうか手を貸してくれないか?」

必死に懇願するピカチュウの様子からどれだけ切羽詰まっているのかが伝わってくる。

「……案内、してちょうだい。」

ティファもこの状況ではセフィロスのもとへ向かうのを優先出来なかったようだ。

「俺も向かう。」

グレンとしては悠とやらが死のうともどうでも良い。
だがここで同行しないのは不自然なためついて行くことにする。

(ロボット、か……。まさかな……)

グレンは数時間前まで旅路を共にしていた仲間の姿を思い浮かべていた。


712 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 01:58:43 fa.EON6g0
最初の方は(前編)をつけ忘れていましたが、前後編になります。

以下、(後編)を投下します。


713 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:00:52 fa.EON6g0
「うおおおおッ!!」

「……。」

声を張り上げて攻撃する悠と、発声による気合いという概念を持たないロボ。

「ジオ!!」

「……。」

小技を使いこなして適度に攻め続ける悠と、単発の威力で勝負を決めようとするロボ。

様々な点で彼らの戦闘スタイルは異なっていた。

悠はジオで一瞬動きが停止したロボの隙をついてマシンガンパンチを回避する。
イザナギのスラッシュで相殺できない以上、回避以外にロボの攻撃を防ぐ方法は無い。

小技を駆使して大技をやり過ごす。
そんなマジシャン顔負けの芸当がこなせるのは悠が使うペルソナがイザナギであるからだ。使用時期の長さや愛着が物差しであればイザナギに適うペルソナは無い。
反面、そんな芸当をこなさなくてはならないのもペルソナが初期ペルソナのイザナギであるからである。

普通のパンチと普通の斬撃であれば互角。
この地点で悠とロボの実力差はそれほど大きくないはずであった。

そしてロケットパンチとスラッシュであれば互角。
互いの小技を以てしても、その威力較べに影響は無い。

だが、今の悠はそのスラッシュが限界なのだ。
対するロボにはロケットパンチを超える大技はいくつもある。

よって消去法的に、悠がロボに対して優位を取るには、ロボに代用となる技の無い魔法攻撃が主となる。

もちろんロボも一方的に魔法攻撃を受け続けるわけにはいかないため、何とか悠との距離を詰めようと接近を試みる。

だがイザナギの剣技がそれを許さない。
マシンガンパンチで牽制すればイザナギを引かせることは出来る。だがMP消費の激しい技であるため、牽制に用いるには勿体無いと判断しているようだ。

「うおおッ!」

接近出来ないロボに対し魔法を放つ。
初期魔法ながらにそれなりの威力を持つ雷を前に魔法に弱いロボは一瞬怯み、悠が魔法を使った後の隙を突くことは出来ない。

しかし、それでもじわじわとロボは悠に接近していく。
ガシャン、ガシャンとロボが歩みを進める度に聞こえる廊下と金属の接触音は悠に的確に焦りを与えていく。

それに合わせて悠は後ずさりをするも、いずれ行き止まりがやってくる。
悠にとっての安全と危険のボーダーラインは、マシンガンパンチの射程距離から即座に離れられるかどうかだ。
行き止まりに達するまでその距離を保ちながら、ジオのみでロボを撃破できるのならそれが理想ではある。


714 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:01:29 fa.EON6g0
無言のまま、ゴリラか何かのようにロボは胸を叩く。可愛らしい所作だとは思うがその意味は全く可愛げがなく、ロケットパンチかマシンガンパンチか、そのどちらかが飛んでくるサインである。

だがどちらが来ても問題ない。
距離は充分に離れており、どちらが来ても目視で回避できる。

飛んできた拳は一撃のみ。
つまりはロケットパンチの方である。
1歩引いてその一撃を回避。
ロボはその腕を即座に引っ込め、再び悠に接近を始める。

距離を詰められればイザナギでも受けきれないマシンガンパンチの射程内。
接近されたのと同じ距離だけ後ずさりして、距離を保ちながらジオで攻撃する。

そして悠は、ロケットパンチを回避して下がりながらジオ。そんな攻防を3回繰り返した。
その間に悠は、未だ無傷ではあるものの壁際に追い詰められてしまった。

もう下がって避けることは出来ない。
ロボが中距離まで近付き、マシンガンパンチの構えを取る。

それに対し、逃げ道の無い悠は壁を蹴って駆け出した。

「接近ヲ確認。」

悠の新たな動きを認識し、無言だったロボにも反応の変化が見られた。同時に、お互いが接近を図ることでロボとの距離が一気に詰められる。

ところで3回に渡る同じような攻防では、ロケットパンチを回避する瞬間とロボが接近してくる瞬間に二度ずつ、悠の行動の余地があった。
前述の通りその内の片方はどれもジオに費やしたのだが、それでは残った3回の行動余地に悠は何をしていたのか。

実は、それぞれラクカジャ、タルンダ、タルカジャの3つの補助魔法を悠は使っていた。
それにより悠の攻撃力と防御力が上昇、そしてロボの防御力が低下している。

「斬り開く……『スラッシュ』!!」

悠の出せる最高打点を用いてロボのマシンガンパンチとぶつかり合う。
ロボに打ち勝つことこそ叶わないものの、見事にほぼ相殺の形に持ち込むことに成功した。

「道を……開けろおおおぉ!!!」

さらにロボは素早さが低く、次の行動に移るまでに時間がかかる。
その隙をついてジオを唱え、ロボの次の動作を更に遅らせる。
悠の叫びは実現し、ロボの真横を通り過ぎることに成功する。

ロボが次の攻撃を放てる頃には、既に悠とロボの位置関係は当初の逆となっていた。

前衛でも後衛でも無い、悪く言えば器用貧乏である悠に求められるのは、戦局に応じてどちらをカバーするかを決める咄嗟の判断力。
それは当然、独りでの戦いであっても武器となる。
ここではマシンガンパンチを放った直後の隙、その一点に着目してロボを出し抜いた。


715 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:03:09 fa.EON6g0
ところで、そんな判断力を武器にする悠の弱点とは何か。

──ロボは身を屈め、肩を前方に向ける。

それは判断のつかない『未知』、そして判断の暇を与えない『速度』である。

──次の瞬間、病院の床から最も激しい金属音が響き渡ると同時に、ロボの巨体が悠へ向かって突撃を始めた。

「!?…………速──」


ロボタックル。
マシンガンパンチほどの威力こそないものの、速度、そして接近に特化したロボの特技である。

やられた、と悠は思った。

ジオもスラッシュも……それどころか、イザナギを顕現させるためにカードを割る所作すら間に合わない。

ロボはAIであるため、その場その場の最善策と思われる行動を常に取り続ける。そう判断したのが悠の誤りだった。
自分が補助を最大まで掛けたスラッシュを切り札として持っていたのと同じように、接近のための切り札をロボも隠し持っていたのだ。

微かに、女神の杖を前方に構える。
突撃してくる鋼鉄の塊に対しての防御手段としては全くもって頼りない。
それでも致命傷だけはギリギリ避けながら、タックルを受けて吹き飛ぶ悠。

冷たい、無機質な床を転がり回って全身を打撲する。これでは素早い立ち回りは不可能だろう。

そしてロボは倒れた悠の所までゆっくりと歩みを進める。
悠は立ち上がるも、全身の痛みが邪魔をして離れられない。
イザナギを前方に押し出すが、マシンガンパンチを防ぐことは出来ないだろう。
ガシャン、ガシャンという足音が死までのカウントダウンにさえ思えてくる。

(アイツはまだ病院の外で待ってるんだろうな……。)

ふと、自分が逃がしたピカチュウのことを思い出した。

自分も後から逃げると息巻いておいてこのザマだ。
浮かんだ感情は自嘲とは違う。恐怖ともまた異なる。
言うなれば、虚無。

自らの死を看取る者もいない。
自らの生を語り継ぐ者もいない。
こんな場所でただ一人、静かに息を引き取ることへの虚無感。

隣で戦ってくれる者がいない戦いは、何て虚しいのだろう。


──虚無が、怖かった。


(完二が死んだ。他の仲間たちだって、どこにいるかも分からない。)


──孤独が、怖かった。


(どうせピカチュウもとっくに逃げ出して、次の相方を探してるに決まってるさ。)


──隣に誰もいないことが、怖かった。


(なあ、そうなんだろう?)


716 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:04:10 fa.EON6g0
そんな思考に陥っている、そんな時。


「………………う。」


微かに、されど確かに。
声が、聴こえた気がした。


「悠ーーーー!!」


「!!……ピカチュウ!どうして──! 」


「助けに来たに決まってんだろ!待ってろ!」


それは確かに、逃げたはずのピカチュウだった。


──仲間の居ない戦いが、怖かった。


そう、怖かったんだ。
だけど、もう怖くはない。


──俺は、もう独りじゃないのだから。


「ペルソナチェンジ!!」


悠を護るように立ち塞がっていた影が消える。

そして歴史上の武将を思わせる、武装や旗に身を包んだ影が新たに立ち塞がる。

影は、その名を『ネコショウグン』といった。ピカチュウと紡いだ新たな絆──『星のアルカナ』のチカラにより顕現された星の力を持つペルソナの一体である。

対するロボはペルソナが変わったことなど関係無しに、マシンガンパンチを放つ構えに移る。


「ジオンガ!!」


そんなロボを、悠の放ったジオよりも強力な電撃が包み込んだ。
イザナギの放つジオに比べて魔法の階級が上がっているというだけではない。
『電撃ブースタ』のスキルを持つネコショウグンは、雷魔法の威力自体が高いのである。

高火力の電気魔法を受け、ジオを受けた時以上の硬直を余儀なくされるロボ。
その間に、悠の下へ駆けつけたティファが悠を庇うように前に立つ。

「悠!無事か!?」

「ああ、平気だ……来てくれたんだな、ピカチュウ。」

「当たり前さ。だって──」

ポカポカに乗ったピカチュウが悠と握手を交わす。
この世界で生まれた確かな絆を悠は感じていた。

「俺たちは固い絆で繋がってる……そうだろ?悠。」

「……ああ!」


「新たなシンニュウシャ、確認しまシタ。」

さて、硬直が終わり、悠の前に立ち塞がるティファに向けてロボはマシンガンパンチを放つ。

「……はああああああ!!」

その全てに対してティファも拳で応戦する。
格闘戦ではラヴォスを倒したロボにも劣らないティファ。
ロボのマシンガンパンチを完全に無力化した。


717 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:05:14 fa.EON6g0
グレンには何が起こっているのか分からなかった。
ピカチュウの話によると、ロボットが参加者を襲っているとのことだった。
そして今助けられていた青年が、ピカチュウの言う『悠』なのは間違いないだろう。

だが悠を襲っていたロボットを、グレンは知っている。



「──ロボ!?」



気付いた時には声を上げていた。
幸いか不幸か、ロボの名前は固有名詞には聞こえなかったようで、ロボットと戦うことを分かった上で来ているピカチュウとティファが何を今さらと顔にクエスチョンマークを浮かべていた。

「ロボではナイ。私はプロメテス。アナタたちをハイジョします。」

ルッカにもロボと呼ばれたプロメテスは、ロボという単語を固有名詞であると認識している。

理由は分からないが、ロボはアトロポスを名乗り参加者の排除に回っている。数時間前まで共に旅をしていたはずの自分に気付いている様子もない。

かといってクロノたちと出会う前の時代から連れてこられたというわけでもないようだ。
元々使えなかったマシンガンパンチを修得して喜んでいたロボを自分は見たことがある。マシンガンパンチを放ってきた地点で自分との面識が無いのはおかしい。

魔王との決闘直前にこの世界に連れてこられたグレンはアトロポスの名を知らない。
そのため、ロボが参加者を排除している理由について推測の材料が無いのである。

そこの考察を諦めたカエルは、この場での立ち回りについて考え始める。

前衛に出てロボと戦うか?
論外だ。怪我を負っており、武器もない自分が今のロボに勝てるとは思えない。
これらの要因からグレンは自然と後衛の位置に立っており、今は悠にケアルガをかけている。

この場を放って逃げ出すか?
これもまた論外だ。ティファ達が生き残った時に信頼を損なうような真似は出来ない。ステルスマーダーの立場を貫くのに、信頼を持っておくことは必要不可欠。

それならば──その先を考えた瞬間、悪魔がそっとグレンに囁いた。


(──ここで『ウォータガ』を使えば一網打尽に出来るのでは……?)


ここは狭い病院の廊下──ウォータガの津波から逃げる場所は存在しない閉鎖空間。

命の恩人のティファを、過去の仲間のロボを葬るのは気が引けるが、どうせ優勝のためには避けて通れない道である。


──人道など、捨ててしまえ。

仲間のフリをし、ここぞという場面で裏切る。騎士として……否、騎士でなくとも外道の行いだ。
だからといってそれがどうしたというのだ。
人の道に縋ってはサイラスを蘇らせることなど出来ない。
サイラスの蘇生を決めたあの時から既に人としての生き方など棄てたのだ。


──グレンの名誉など、捨ててしまえ。

そんなもの、元より守るつもりもない。
失った友を取り戻すために悪へと走った愚かな男。しかしチカラが足りずこれまで3度にわたって敗北を重ねた男。
それがグレンの現状だ。
今さらその名を穢すことに躊躇などしない。


(そうさ、俺に戻る場所なんて無い。守りたいものなんてもう無いのさ……。)

何もかもかなぐり捨てたグレンは、腕に魔力を込める。
その場の全てを水泡に帰す、その時を待ちながら……。


718 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:10:26 fa.EON6g0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「さて、コイツだけど……人を襲うロボットならぶっ壊しちゃっても構わないわよね?」

ロボがグレンの仲間だと知らないティファは尋ねる。
ただしそれは合意を前提とした最終確認のようなものだ。

その返事を待つまでもなくロボはティファに攻撃し、ティファがそれをいなす攻防が繰り広げられる。

本来はロボとティファの間に決定的な実力差は無いのだろうが、ルッカのメガトンボムを受けた傷、悠のジオ系魔法を受け続けた傷が蓄積しており、もうMPもほとんど残っていないロボは既に戦闘能力が落ちている。
よってティファに有利な攻防となっているのである。

「ああ、壊すのは少し気が引けるが……仕方ないと思う。」

悠もティファの提案には反対しない。
様々な人物とコミュニティを築いてきた悠も、この状態のロボと仲良くなれるとは考えない。

ティファも悠も、ルッカの修理によって優しさが生まれたロボを知らないからこその思考である。だがグレンはロボについて伝えようとしない。

「俺もそう思う。人に害なす機械ならば致し方あるまい。」

グレンの目的は殺し合いの優勝。原因は不明だが、ロボがそれを阻む存在となってしまったのなら殺すのみだ。

「分かったわ。グレン、悠……怪我人たちは下がっててちょうだい。」

そういうとティファはロボと対峙する。
今度は、ロボを破壊するために。


「はああああああ……」


腰を落として構え、いったん目を閉じて集中力を高める。
その身から溢れる闘気を前にすれば、どんな獣も気圧されるだろう。


「いくわよっ!」


刹那、地を蹴りロボへと肉迫する。
瞬速の勢いで放たれた膝がロボの胴に命中する。

ロボは右ストレートで応戦しようとするも、間に合わない。
既にティファの姿はロボの背後にある。
そしてロボの巨体を抱え上げ、病院の床に叩き付ける。

重力を味方につけた攻撃により、ロボは多大なダメージを受ける。ポケモンの居る世界にも受け手の体重に比例してダメージが大きくなるワザがあるが、それと同じ理屈だ。

「これで…………」

ロボから手を離したティファは再び悠の前に降り立つ。
そして壁をバネに、ロボに向かって飛び掛かった。

「終わりよッ!!」

勢いのまま、蹴りを放つ。
当たれば致命傷を避けられない一撃がロボに迫る。


719 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:12:02 fa.EON6g0

──ガァン!!


鈍い音が聴こえた。
機械の身体に大きな衝撃が与えられた音とは微妙に異なる、鈍い音が。

ティファの身体は、ロボを攻撃した瞬間磁石が反発するかのように反対側へ投げ出されていた。

ロボを蹴ったはずの華麗な脚からは、血が吹き出している。

「何だ、どうした!?」

その事態に真っ先に気付いた悠は投げ出されたティファの身体を受け止める。

「わから……ない……何が……」

ロボがティファの攻撃を反射したその理由は、ロボの扱う武器、ベアークローにあった。
稀に物理攻撃を反射する特殊効果を持つ武器。
悠の居た世界に存在する武器ではあるが、悠自身が使う武器ではなかったため、悠もそれを把握していなかった。

ダメージを受けたのは主に攻撃に使った脚の周りだけだが、必殺の一撃を反射されたのもありダメージは大きい。
何より、脚の負傷で移動が困難になればロボの格好の狙いの的だ。

「一体何が……!」

ネコショウグンが扱える回復魔法、メディラマでティファの傷を治療する。ネコショウグンでは単体回復魔法を使えないためやむを得ずの全体回復魔法だが、悠自身の傷も深いのでむしろ都合は良いかもしれない。

それでも、この殺し合いの舞台そのものにかけられた回復制限のせいで治りが悪い。

「カエルショウグン!回復魔法か何か使えないか?」

まだ名前を聞いていないが、グレンに声をかける。
だが、どこか様子がおかしい。


「おい、どうしたカエル男?」


同じく心配するピカチュウに対し、グレンは返事を返す。



「ウォータガ!!」



魔法という、最悪の形の返事を。


720 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:12:52 fa.EON6g0
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

ウォータガ。
水の波動が周囲を包み込み、多くの敵を一掃できる水属性の魔法である。

ところで周囲を一掃できる水の波動がクロノたちを巻き込まない理由は何故か?
それは難しい理屈ではない。
ただ波動が押し寄せる範囲をグレン自身がコントロールしているからに過ぎないのだ。


「ウォータガ!!」


高らかにグレンは魔法名を叫ぶ。
その声を聞き、ティファは青ざめる。
魔法の名は体を表す。
グレンの叫んだ魔法名は聞いた事の無い名前であったが、名前から水の魔法──それもファイガやブリザガといった高等魔法に並ぶ魔法であることは容易に想像出来た。
ティファの世界とグレンの世界の魔法名は何の偶然かある程度一致している。
よってその脅威を共有するのに時間はかからなかった。


「悠、逃げて──」


しかし、暫しの時間が経ってもティファたちを水の波動が襲うことはなかった。

グレンは、水の波動が襲う範囲にティファたちを含めていなかった。



人道など、捨ててしまえ。
グレンの名誉など、捨ててしまえ。

勝利への渇望からそれらへの拘りを捨てたグレン。

だがそれでも、それでもだ。
どうしても超えられない一線が彼にはあった。
どうしても捨てられないものが彼にはあった。

グレンは、水の波動が襲う範囲にロボを含めていなかった。


「うおおおおッ!!」


ウォータガを放ったのは、ロボの背後の壁。
そして放つと同時に、ロボに向かって駆け出す。


721 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:16:12 fa.EON6g0
「我が名はカエル!!サイラスの意志を継ぐ勇者にして、英雄クロノの仲間なり!!」

人道を捨てても名誉を捨ててもなお、友との絆だけは捨てられなかった。
絶望の未来を変えるために共に戦い、疲れを癒すために共に休み、その果てに訪れたクロノの死を共に悲しんだ者たち。
ロボを含む彼らもまた、サイラスと同じくかけがえのない絆で結ばれた者たちだ。

壁に向けて放たれたウォータガは、跳ね返って真下に降り注ぐ。
対象の壁を攻撃したことで魔力が霧散し、魔法としての殺傷力を持たないただの水へと変わった水が、ロボとカエルの全身を濡らす。

「頭は冷えたか?さあ、お前の名前を言ってみろ!!」

「ワタシ……の……名……?」

「クロノから貰った仲間の証を……お前の名前を、言ってみろぉぉぉ!!!」

ああ、そうだ。
これが『カエル』だ。

『グレン』がサイラスを失った悲しみから立ち直れなくなっても。
聖剣グランドリオンが失われ、『グレン』がやる気を失っても。

『カエル』として、そしてアイツの戦友として戦っている内にそのような感情から立ち直ることが出来た。


「ワタシ……ワタシの名は……」


さあ、もう覚悟は決まった。
『カエル』として殺し合いをぶち壊して、ロボと共に元の世界に戻ってやる。

そして今度こそ、あの魔王と決着を──



「──ワタシの名前はプロメテス。アナタの敵デス。」

カエルの想いは、ロボには通じなかった。
ロボはカエルの胸ぐらをガシッと掴む。


「なっ……!おい、ロボ──ぐっぐああああああああああああああぁぁぁ!!!!!」


直後、カエルの身体に電流がほとばしった。

エレキアタック──皮肉にも自らの放った水を被っていたせいで、電流は瞬時に身体中に回る。

「ちく……しょ…………う…………」

元々傷だらけの身体に、カエルよりも後の時期からやってきたロボの大技は致命傷だった。



──ドサッ

終わった命を放り捨てるには、あまりにもか細い音が響く。
ロボがその手を離した時、カエルは既に息絶えていた。


722 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:17:23 fa.EON6g0
怪我人のティファも、彼女を介抱していた悠も、戦いのレベルについて行っていないピカチュウもポカポカも、その場の誰もが息を飲んでカエルの末路を看取ることしか出来なかった。

だけどただ一人、その惨状の中で声を発した者がいた。

「ワタシ……ワタシは……!カエル……ごめんなサイ……こんなハズでは……こんな……ハズ……では……!!」

それは確かに、先ほどまで戦っていたロボと同じ者であるはずだ。だがカエルの死体を前にして、何かが変わったようであった。

ロボはゆっくりと、悠たちの方へ向き直る。

「シンニュウシャ、ハイジョ……したくナイ……ガガ……ピー……ハイジョ、しマス……」

それはまるで、壊れたラジオのようであった。
支離滅裂な思考を、定まらない音声で吐き捨てる。

「なあ、俺たちは……アイツを殺すのか?」

たまらず口にしたピカチュウの問いかけに、悠もティファもYESとは答えられなかった。

「逃げよう。」

「……ええ。」

悠がそう言うのを待っていたかのように、2人と2匹は病院から出て行き始める。
悠の回復魔法で何とか早歩きができるくらいまでには回復したティファも、打撲が酷くてまだ全力疾走できるほど癒えていない悠も、それぞれの最高速度でロボの元を離れる。

ロボの中では、アトロポスとロボが戦っているのだろうか。
ロボは、彼らを追うことはなかった。

【カエル@クロノ・トリガー 死亡確認】


723 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:18:59 fa.EON6g0
【D-5/病院外(南側)/一日目 早朝】

【鳴上悠@ペルソナ4】 
[状態]:ダメージ(中) 全身打撲 SP消費(中)
[装備]:女神の杖@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 
[道具]:基本支給品、ルッカの工具箱@クロノ・トリガー 
[思考・状況] 
基本行動方針:リーダーとして相応しい行動をする。 
1.とりあえず放送を待つ
2.もし仲間がいるなら探したい。 
3.完二の意志を継ぐ。


※事件解決後、バスに乗り込んだ直後からの参戦です。 
※ピカチュウと絆を深めたことで"星"のペルソナを発現しました。『ネコショウグン』以外の星のペルソナを扱えるかどうかは以降の書き手さんにお任せします。
※誰とも特別な関係(恋人)ではありません。
※全ステータスMAXの状態です。


【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】 
[状態]:健康 
[装備]:モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜3個) 
[思考・状況] 
基本行動方針:殺し合いを止める。 
1.とりあえず放送を待つ 
2.ティムやポカブのパートナーを探す。


※本編終了後からの参戦です。 
※電気技は基本使えません。 


【ティファ・ロックハート@FF7】
[状態]:ダメージ(中) 脚に怪我(走るのが難しい程度) 疲労
[装備]: パワー手袋@クロノトリガー+マテリア・スピード(マテリアレベル3)@FF7 
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~1個)
[思考・状況] 
基本行動方針:マーダーから参加者を救う 
1.とりあえず放送を待つ
2.セフィロス@FF7の元へ向かいたい

※ED後からの参戦です。
※ティファ・ロックハートのコミュニティ属性は"戦車"です。

【支給モンスター状態表】
【ポカポカ(ポカブ ♂)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:たいあたり、しっぽをふる、ひのこ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルを探す
1.ピカチュウ達について行き、ベルを探す。
2.強くなってベルを喜ばせたい。


724 : We're tied with bonds, aren't we?(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:20:26 fa.EON6g0


「カエルのナカまは、逃げマシたか……?」

さて、ここでロボの現状を一度整理しよう。
このロボはクロノたちとの旅を経験し、ラヴォスを倒した後の世界からやってきている。

しかしこの世界に呼ばれた際、主催者たちによってプログラムを書き換えられ、行動方針が変えられたのである。
人類を滅亡させるロボットとして作られた、記憶の中の『アトロポス』の名前。それに加えて病院への侵入者を排除するという後天的な任務を行動方針としてプログラムされている。


「良かっタ……それデハ……次のシンニュウシャを、待たなくテハ………………」


ところで、だ。
主催者によって参加者排除の命令を受けた者は、ロボ以外にも存在する。

イウヴァルト、ネメシス-T型、そしてホメロス。
住む世界の異なる彼らだが、【ジョーカー】と呼ばれる彼らはこの世界において共通の扱いを受けている。

「エネルギー……チャージ開始……」

それは、特別優遇された支給品が配られているという点。

ロボに与えられた優遇支給品のひとつは、『たべのこし』
さすがにロボがもぐもぐリンゴの芯を食べることは無いが、体内に取り付けられたこのアイテムは無限にロボにHPを供給し続ける永久機関となる。


しかし、ガルディア王国歴2300年の技術が用いられたロボのプログラムを書き換えたり、その体内にたべのこしを応用した永久機関を取り付けたりといった芸当が、まともな教育も受けていない子供のマナに可能だろうか?
あるいは、魔法が文明を代用する世界に住むウルノーガに可能だろうか?

マナとウルノーガによって開かれたと思われているこの殺し合い。
だがその裏には、まだ見ぬ何者かが隠れているのかもしれない…………。

【D-5/病院/一日目 早朝】

【ロボ@クロノ・トリガー】 
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(大) 
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1個
[思考・状況] 
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する 
1.ワタシの名前はプロメテス。 
2.カエル、ごめンなサい。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。



【支給品紹介】
【たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
ロボに支給品された道具。
ポケモンに持たせると、毎ターンHPが最大の1/16回復するどうぐ。ロボはこれを体内に装備しており、HPを供給し続ける永久機関の動力源となっている。


725 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 02:20:44 fa.EON6g0
投下終了しました。


726 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/01(日) 02:57:23 veja7SEw0
皆様投下乙です!

>ゴローン?

重い話続きの中、心を和ませてくれる話ですね……。
ダルケルさんは放送まで誰とも会わないのではないかと危惧していたのですが、良い仲間(?)に恵まれたようでよかった。
そしてレッドくん、ポケモン図鑑は没収されていなかったんですね。これはBW世代のポケモンも登録してくれるんでしょうか?
どちらにせよ、ハイラル城に着くまではポケモン図鑑に載ってるポケモンをダルケルさんに紹介している光景が想像できます。
そして肝心のハイラル城は不穏な雰囲気ですが果たして……。

B-3、C-4辺りは野生のポケモンが出現するんですね。
リッカーと同じような扱いを受けそうではありますが、いいスパイスになりそうで楽しみです。

>We're tied with bonds, aren't we?

ボリュームたっぷりの前後編、読んでいてワクワクしました。
悠とロボの戦闘描写が熱いのは勿論、その戦闘の中でも異なる世界の特性が細かく描かれていて大満足でした。
闇属性と冥属性の共通、女神の杖でジオの威力が上がっている、魔法防御力が低いためジオで受けるダメージが大きいなど、学ばされました。

一撃必殺のロボとチクチクとした戦法の鳴上。
実力も戦い方も異なる戦闘だからこそ映え、予想できない展開になったのだと思います。

そして新たなペルソナに目覚めるシーン! これは熱い!
ゲーム版では見られなかった悠の心情や不安が描かれていたアニメ版を彷彿とさせる展開!
個人的に、新たなペルソナをどう目覚めさせようと頭を悩ませていたのですがこれが完璧な回答だと思います。

新戦力を得て、ティファ達も加勢し勝利は目前……と思わせての落差。
カエルの葛藤や外道になる決意が詳細に描かれていたからこそ衝撃が大きかったです……。
カミュや雷電、セフィロス、セーニャと三度の敗北を繰り返し、かつての仲間に屠られる彼の無念は相当のものだったでしょうね……。
今後ロボが元の心を取り戻せるのかどうか、期待と不安が織り混ざった気持ちです。


ただ一点、気になったのはカエルがカミュの名前を出していた点ですね。

>「ああ。途中で色んな奴が乱入してきたからな。カミュは逃げ、俺は気絶し……乱入者の1人は殺された。」

このセリフですね。
カミュの名前を知らないと言った直後にこの台詞が出たので、違和感を覚えてしまいました。


727 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/01(日) 03:13:43 fa.EON6g0
>>726
感想、ご指摘ありがとうございます。

該当部分の台詞に関しては

「ああ。途中で色んな奴が乱入してきたからな。青髪の男は逃げ、俺は気絶し……乱入者の1人は殺された。」

に変更します。


728 : 名無しさん :2019/09/01(日) 04:31:42 NttKBqvk0
投下乙です
悠とピカチュウの友情に熱くなって、カエルとロボの友情に切なくなった…
仲間が駆け付けて一人じゃないことへの心強さでペルソナチェンジする悠、ミツオ戦を彷彿とさせて熱かった


729 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/02(月) 01:21:28 q3.hZhac0
イレブン、ベル
予約します


730 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/02(月) 01:38:02 eIssghsk0
ホメロス、ミファー、花村陽介、予約します


731 : ◆RTn9vPakQY :2019/09/02(月) 05:45:34 2.Uat99M0
皆様投下乙です。
・優しいだけじゃ守れないものがある
>「これはまた…面妖な……」
「面妖な」頂きました!面妖判定される参加者は貴重だと思います。
ゲームでは浮世離れした描写をされることもある貴音ですが、今回は迂闊な面が目立ちますね。アイドルとはいえ年相応の少女でもある、ということでしょう。
貴音視点で、ソニックが貴音を気絶させるシーンが好きです。

・魔王の葛藤
アイルーのせいでスタンスが定まらなかった魔王が、アイルー(の支給品)のお陰で考察を深める。怪我の功名とはこのことでしょうか。
サクラダとシルビアという、どこか近寄りにくい二人組と接触できたのも、元をたどればアイルーのお陰ですね。
情報交換によって、スタンスを変える可能性もでてきた魔王。しかし魔王という名前で損しているのは否めませんね。
また、魔王を押しの一手で従わせたシルビアの人生哲学も面白いですね。

・金と銀のカギ
今までの死者の姿や、仲間の会話がフラッシュバックするという描写、覚悟を決めてもなお吹っ切れないクラウドの苦悩を感じさせて好きです。
それにしても、入口にウルノーガの像があったり、マナの用意した悪趣味な映像が流れたり、参加者は映画館には長居したがらなさそうですね。
協力相手を失ったクラウドにとって、手にしたオーブはどんな効果をもたらすのでしょう。

・時に囚われし者たち
ゼルダが姫だと分かった瞬間に態度を変えて、マナやウルノーガへの怒りを新たにするグレイグは、正しく騎士という感じがしますね。
ゼルダをマルティナと重ねてしまうのも、なるほどと思わされました。

そんなゼルダはハイラル城を駆使してクロノを罠に嵌めたり、グレイグの前で自決する素振りを見せて油断させたりといった、なりふり構わない様子が必死さを感じさせます。

>嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない、彼に愛されぬまま死ぬなんて嫌だ――!

殺し合いに乗った原因、愛されたいという気持ちに突き動かされて、一線を越えたゼルダの心情は見ていて辛いものがあります。

グレイグがゼルダに対して告げた最期の言葉には、“罪の意識”や“後悔”が込められているのだと思いますが、それがゼルダの決意を固める要因になるというのもやるせないですね。
さて、パーティーが二人しかいない序盤から、メンバーの死を前にしたクロノは、立ち直れるのでしょうか。

・ゴローン?
レパルダス再登場!巨漢のダルケルに威嚇するとは、なかなか気の強い性格ですね。
そんなダルケルを見て、ポケモンと誤解するレッド。即座にタイプを推測しているのは笑いました。
そして「ゴロン族」と聞いて「ゴローン」を想像する、というのも目から鱗でした。
レッドのトレーナーとしての経験や実力、それと対照的な子供っぽさ、無邪気さが共に描かれていて、印象的でした。

・We're tied with bonds, aren't we?
会話を重ねて、順調に絆を深めているピカチュウと悠。
ただの病院かと思いきや、自称特別捜査隊の面々にしか伝わらない病室を再現しているとは。作中でも言及されていましたが、意図があるか否か、気になるポイントですね。

戦闘シーンは、ロボも悠も実力をいかんなく発揮しており、二人の決着までの展開も白熱して面白かったです。
そこから、独りで死ぬことへの恐怖を描くことで、ピカチュウが駆けつけてペルソナチェンジ!という展開がさらに熱くなっていたと思います。

ティファとカエルが参戦してからも、最後までどういう展開になるか読めない戦闘でした。
ウォータガで一網打尽か……と思っていましたが、「カエル」としてロボたち仲間と紡いだ絆は捨てられず。
最終的には倒れてしまいますが、ロボへの影響は与えられたのではないでしょうか。
ピカチュウと悠、ロボとカエル。タイトルにもありますが、絆を意識させられる話でした。

>>709
些細なことですが、「直斗」が「直人」になっている部分があったので、収録時にでも修正すると良いかと思います。


732 : ◆RTn9vPakQY :2019/09/04(水) 16:05:40 fOJh9QNc0
リンク、ヨルハ二号B型、萩原雪歩 で予約させて頂きます。


733 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/08(日) 18:42:13 bHS3t1Ww0
すみません、急用で書く時間が取れなかったので、ホメロス、ミファー、花村陽介の予約を破棄します。


734 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:10:32 LVxzuF8s0
投下します。


735 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:11:11 LVxzuF8s0

パチパチと焚き火の燃える音が暁闇を支配する。
暗がりの森の中、開けた空間を照らす橙色の光は二人の人影を映し出していた。

「すぅ、すぅ……」
「…………」

揺らめく炎を前に木を背もたれ代わりに腰掛け寝息を立てるベル。
そのすぐ隣でちょこんと体育座りをしているのがイレブンだ。

イシの村を目指して歩き始めたはいいものの、疲労を訴えたベルの提案によりこうして休息を取る形にな

った。
当然だ。幼馴染と一緒にいざ旅を始めようと足を踏み出したところで殺し合えと言われ、男の死体という非

日常を見せ付けられたベルの精神的な負荷は計り知れない。
ランランやイレブンと出会えたことで幾らか落ち着けてはいたがそれでもベルは年相応の無垢な少女だ。
おまけにランランと競争し体力を消費していたのも響いて、ベルが浅い眠りにつくのにそう時間はかからな

かった。

「…………」

ようやくベルからの質問攻めから解放されたイレブンは彼女のものとはまた違った疲労の色を滲ませなが

ら一人思考に耽る。
ウルノーガはなぜ復活したのか。あのマナという少女は何者か。どうしてイシの村が地図にあるのか。
色々と考えてはいるが、それを覆い尽くしてしまう記憶が彼の心を瞬く間に蝕んでいく。


――はずかしい!


蘇るのはつい一時間ほど前のできごと。
よく燃えそうな木材をベルの支給品である鎌で集め、キャンプの準備に取り掛かっている最中だった。
鎌の抜群な切れ味もあってか十分な量の木材を集め終え、いざ焚き火を起こそうとイレブンはメラの呪文

を唱えた。
しかしMP切れを起こしていたことをすっかり忘れていたイレブンは、火花一つ起こさない木材へ手をかざし

たまま静止するという致命的なミスを犯してしまったのだ。
その時のはずかしさと言ったら、メラを使わなくとも火を起こせるのではないかというくらいに顔が熱くなっ

ていたのを鮮明に思い出せる。
結局はベルが笑いながらランランに着火を頼み、現在に至るのだが。


736 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:12:13 LVxzuF8s0
//すいません、メモそのままコピペして改行間違えたのでこちらに訂正します……


パチパチと焚き火の燃える音が暁闇を支配する。
暗がりの森の中、開けた空間を照らす橙色の光は二人の人影を映し出していた。

「すぅ、すぅ……」
「…………」

揺らめく炎を前に木を背もたれ代わりに腰掛け寝息を立てるベル。
そのすぐ隣でちょこんと体育座りをしているのがイレブンだ。

イシの村を目指して歩き始めたはいいものの、疲労を訴えたベルの提案によりこうして休息を取る形になった。
当然だ。幼馴染と一緒にいざ旅を始めようと足を踏み出したところで殺し合えと言われ、男の死体という非日常を見せ付けられたベルの精神的な負荷は計り知れない。
ランランやイレブンと出会えたことで幾らか落ち着けてはいたがそれでもベルは年相応の無垢な少女だ。
おまけにランランと競争し体力を消費していたのも響いて、ベルが浅い眠りにつくのにそう時間はかからなかった。

「…………」

ようやくベルからの質問攻めから解放されたイレブンは彼女のものとはまた違った疲労の色を滲ませながら一人思考に耽る。
ウルノーガはなぜ復活したのか。あのマナという少女は何者か。どうしてイシの村が地図にあるのか。
色々と考えてはいるが、それを覆い尽くしてしまう記憶が彼の心を瞬く間に蝕んでいく。


――はずかしい!


蘇るのはつい一時間ほど前のできごと。
よく燃えそうな木材をベルの支給品である鎌で集め、キャンプの準備に取り掛かっている最中だった。
鎌の抜群な切れ味もあってか十分な量の木材を集め終え、いざ焚き火を起こそうとイレブンはメラの呪文を唱えた。
しかしMP切れを起こしていたことをすっかり忘れていたイレブンは、火花一つ起こさない木材へ手をかざしたまま静止するという致命的なミスを犯してしまったのだ。
その時のはずかしさと言ったら、メラを使わなくとも火を起こせるのではないかというくらいに顔が熱くなっていたのを鮮明に思い出せる。
結局はベルが笑いながらランランに着火を頼み、現在に至るのだが。


737 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:12:39 LVxzuF8s0

おそらくこの記憶はかなり後にも引きずることになるだろう。
それが日常でも戦闘中でもお構いなしに奴は、はずかしいという感情は迫りくる。
自分がはずかしさで動けないことが原因でピンチに陥った場面は数え切れない。あの時は仲間がカバーしてくれたが、今戦えるのは自分ひとりだけだ。
こんな調子でベルを守れるのだろうか……ネガティブな自分をはずかしく思い、思考を切り替えるためにイレブンはデイパックに手を伸ばした。

「……これ、なんだろう……」

デイパックから取り出したのは鉄の箱のような物体。
確認したはいいものの、説明書も同梱されていないため使い方がわからずにいた。
下手に使い方を誤れば自分やベルに危険が及ぶかもしれない、という不安もあり迂闊に弄ることもできない。イレブンはしばらく箱とにらめっこをし、やがて降参とばかりに溜息をこぼした。

「だめだ、わからない……カミュならわかるかもしれないのに……」

こういった物の用途を見極めるスキルは盗賊であるカミュの専売特許だ。
きっと彼がいればすぐさま使い方を閃き正しく活用していただろう。仲間との旅に慣れてしまったせいかついついないものねだりをしてしまう。
そうだ、カミュは無事だろうか。あのマナという少女に反抗した彼の姿を思い出して不安が募る。

「カミュ……」

カミュとは仲間の中でも一番付き合いが長い。
出会い方は綺麗とは言えないし、第一印象もフードを被ったキザで変な人というよろしくないものだったが今となっては相棒と言っても過言ではない存在だ。
それになにかとはずかしがる自分に対しても嫌な顔ひとつせず接してくれて、人見知りで喋れない自分の通訳代わりになってくれることもあった。
面倒見が良くて頼り甲斐があり、一番信頼できる彼が……この殺し合いに巻き込まれている。

もしカミュが誰かに殺されたりしたら? ――考えるだけで泣きそうになった。

今の自分は運良く殺し合いに乗った相手とは出会っていない。せいぜい北の廃墟に魔物がいたくらいだ。
このまま誰も殺し合いになんか乗らずカミュを含めた全員で生き残れるのが理想だが、その理想が非現実的だということくらいイレブンにもわかる。
いや、一度世界が滅ぶ光景を見たイレブンだからこそより理解している。

「……殺し合いなんて、やりたくない」

それはこの殺し合いに呼び込まれた大多数が抱いている意見だ。
だがそれを口にする人間は少ない。呟いたところでこのゲームから解放されるわけではないとみんな知っているからだ。
よりにもよって全参加者の中でも指折りの実力者であるイレブンがその願望を口にするとは、なんとも皮肉なものだった。

殺し合いに乗った人物と鉢合わせた場合はどうするのが正解なのだろうか。
無力化して説得――できるだろうか? 些細なことではずかしがってしまう自分が、危険な思考を持った人物を前にして考えを変えさせる?
ハードルが高いにもほどがある。かといってベルに任せるとなると、それはそれで不安だ。
実力があり、口の上手い仲間を加えられるのが理想だ。例えるならばシルビアのような。

ようやく前向きな方針を抱き始めた頃、イレブンの肩に予期せぬ重りが乗せられた。
見れば静かな呼吸をいやにしっかりとするベルの寝顔が――イレブンの心臓が大きく跳ねた。


738 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:12:58 LVxzuF8s0

「――うひゃあっ!?」
「わあっ!? な、なになに!? どうしたのお?」

身を跳ね上げるイレブンに従って肩に乗っていたベルの頭がぐわんと揺らされる。
短い悲鳴と突然の振動はベルの意識を呼び戻すには十分すぎて、釣られるようにベルも声を上げた。

不安も希望もすべてが弾ける中、イレブンはカチッという音を聞いた。
あ――と声を漏らした時にはもう遅い。彼が握る箱状のなにかは駆動音を立て始め、変形しはじめる。
半ばパニックになったイレブンは再び情けない声を上げ箱を放り投げた。
と、地上へ落下するはずのそれは空中で制止する。変形を終えたそれは底面から足のようなパーツを垂らしながらイレブンへと近寄った。


『ポッド153、起動確認。所有者の上書き登録成功――おはようございます、イレブン』
「えっ、え……え――?」


喋った。
鉄の箱が、自分の名前を呼んだ。


739 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:13:21 LVxzuF8s0

予想の範疇を遥かに越えた事態に頭がついていかない。
不意を突かれたイレブンは辛うじて疑問を声を漏らすことしかできず、視線を箱からベルへと移して代弁を促した。
だが当のベルはベルで驚いた様子こそあるものの、未知なる遭遇へ目を輝かせている状態だった。
……これではイレブンの代弁は任せられそうにない。

「わー! きみ、ポケモンなのお? あ、私知ってるよ! コイルっていうポケモンの仲間でしょ?」
『否定:私はポケモンではない。参加者イレブンに支給された随行支援ユニット・ポッド153』
「……? 難しくてよくわかんないよお」
『疑問:参加者ベルの理解能力』

勝手に話を進めるベルと箱――ポッド153を尻目にイレブンはわたわたと両手を動かし、遅れて顔を覆う。

ああ、はずかしい。はずかしい。

間近に迫るベルの寝顔が、首を撫でる髪の感触が、肩に掛かる彼女の体重が鮮明に蘇る。
幼馴染のエマとも手を握ったことすらない彼にとってその体験はあまりにも刺激が強すぎた。
ポッドとベルが会話を交えている現状に比べて大分遅れた場所で取り残されているが、彼の性格を考慮した上で「話を聞け」と言うのはさすがに無理な相談だろう。

「ええっと……ポッドって呼べばいいのお?」
『それで構わない』
「じゃあポッド! イレブンにニックネームつけてもらわないとね」
『否定:私はポケモンではないため、ニックネームは不必要』
「えー? そうなのかなあ……そうだ! なら私がつけてあげる」
『理解不能』

結果ポッドは、主であるイレブンではなくベルと会話を続けるという不思議な行為を余儀なくされていた。
とはいえ会話というよりかはベルが一方的に言葉をぶつけているといったほうが正しいか。
9Sを遥かに凌駕するマイペースさを持つベル相手となるとさすがのポッドでも力不足のようで、徐々に返答に間を置くようになってきた。

「…………あの、……」

そんな中、ようやく我を取り戻したイレブンが口を挟む。
ベルとポッドが一斉に振り向く。その二人(?)分の視線に当てられて思わず口ごもるが、勇気を振り絞って声を出した。


740 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:13:49 LVxzuF8s0

「き、君は……なにが、できるの……?」
『射撃機能、及び指示などの戦闘支援。その他偵察やガイド、釣りなどの参加者のサポートが可能』

待ってましたとばかりに一秒の間も開けず返答するポッドにイレブンは面食らう。
最後の一つに関しては重要性が見いだせないものの、彼が聞き取れた言葉を繋ぎ合わせれば相当優秀なのだということは理解できた。
ベルとの二人旅では不安の残る戦闘はもちろん、ガイドまでこなしてくれるのは心強いことこの上ない。
しかしそんな小さな体で戦えるのだろうか――そう質問しようとして、イレブンは思い留まった。

人を見かけで判断するのはよくない。
子供の姿でありながら立派な戦力となっていたベロニカの姿を思い出す。
初めて会ったときはちんちくりんだと思っていたが、実際彼女の存在は心の支えになっていた。
容姿と不相応なほどに博識で、様々な魔法で魔物を薙ぎ払い、そして――命を懸けて、自分たちを守ってくれた。
今でもあの時の光景は鮮明に思い出せる。自分の手でなかったことにした彼女の英姿が。

はずかしい。
たった一瞬とはいえ、目の前のポッドを見た目で判断してしまったことが。
イレブンは再び顔を両手で覆う。ようやく会話が進むかと思われたがまた立ち止まることとなってしまった。
ベルもイレブンも個性が強すぎて会話がままならない。唯一の進行役が支給品であるポッドという状況は、おそらく運営ですら予想していなかっただろう。
己に掛かるベルの声とはずかしがるイレブンを無視し、ポッドは機械音声を鳴らした。

『報告:第一回放送まで残り三十分』
「放送? ……って、なに? いちごちゃん」
『主催者が行う定時放送。午前六時までの死者と禁止エリアを発表する。また、その際に――疑問:いちごちゃんというニックネームの該当者』
「えへへ、153だからいちごちゃんなんだよお。気に入ってもらえたかな?」
『参加者ベルが話を聞く方法について検索中』

検索結果は出なかったようで、ポッドは沈黙を貫く。
どうやらベルはルール説明もまともに聞けていなかったようで、放送というワードにすら首を傾げた。
イレブンは話を聞いてはいたもののそれを説明できる能力がない。
なるほどたしかに、このチームに必要なものは武器でも防具でもなく情報を共有できる存在だ。
ポッドは支給品の中でも当たりの部類だが、持ち手によって価値はだいぶ変わる。そしてこの二人にとっては大当たりもいいところ。
その分ポッドの苦労も大きくなるが……それは諦めてもらおう。

『推奨:放送内容を記録する為の準備』
「……じゅん、び……?」
『デイパック内に筆記用具が入っている。それの使用を推奨する』
「なるほど! 私も、チェレンから旅に出たらレポートをこまめに書けーって言われてたから、それみたいなものだよね」

気を取り直して話題は放送のものへ戻る。
ちらりと指の隙間からポッドを見やるイレブンは言われるがままにデイパックから筆記用具を引っ張り出した。


741 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:14:31 LVxzuF8s0

「……、……やっぱり名前、呼ばれるのかな」
『呼ばれない可能性は皆無に等しい』
「そう、だよね……」

メモにペンを添えながらイレブンは苦い表情を浮かべる。
あの短いやり取りの間でポッドが自分たちよりもずっと冷静に物事を判断できるということは痛いほど理解できた。
そんなポッドに疑問を投げたのだからどんな返答がくるかくらいは予想できる。そしてその予想は的中した。

セーニャやシルビアのような優しい人間ならばきっとこう言っただろう。
きっと殺し合いに乗る人なんていない。誰も殺されたりしていない――と。
けどそんなの、言った方も言われる方も心のどこかでありえないという答えを持っている。
下手に希望を与えられるよりかはこうしてきっぱりと答えてくれた方がイレブンとしても心構えを持つことができた。

「……? 名前って……死んじゃった人の名前のこと?」
『肯定』
「そんなの呼ばれるはずないよお! だって、私の周りはみんないい人だったもん!」

――けど、ベルは違う。

旅に出てプラズマ団という悪の組織を知る前の彼女は、悪人などと無縁な人生を歩んできた。
カノコタウンの住民は全員優しく温かい人ばかりだった。だからこそ想像できない。
人が人を殺すなんて絶対にない。人は善意の上で成り立っている――そう本気で信じている少女の瞳は、強く輝いていた。

『――――』

ポッドは何も言わない。
回答を破棄した、というわけではなく純粋に言葉に詰まっていた。
代わりに気のせいかもしれないが、無機質な息を呑む音がポッドから響く。
当然だ。ベルという少女は9Sや2B、A2とも全く当てはまらない人種だ。ヨルハ機体をサポートするようプログラムされたポッドに、人間であるベルへ対する答えは用意されていない。


742 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:15:08 LVxzuF8s0

「……ベル……」
「あれえ? 私、なにか変なこと言っちゃった……?」
「ううん……言ってないよ。……誰も、呼ばれなければいいよね……」

うん! とベルが力強くうなずく。
久々にイレブンから話を振ってくれたことがよほど嬉しいのかその表情には笑顔が灯っていた。
知っている。ベルの言葉は理想論だ。だが、そんな理想を抱くことを止める権利は誰にもない。
一人”理想”の世界へ旅立つ自分をみんなが見送ってくれたように、彼女の信じるものを否定することは誰にもできないのだ。


長い旅を終えて、当たり前のことを忘れていた。
自分も旅立つ前はすべてが理想通りに行くと思っていた。
勇者という肩書きを誇らしく思うと同時に、こんな自分に勇者が務まるのかという不安もあった。
けど心の底ではきっと自分には人を助け、災いを跳ね除ける力があると信じていた。

だがそんな少年の理想は旅立ちから間もなく裏切られることとなった。
何が何だか分からないまま牢に入れられ、悪魔の子と呼ばれた日から理想とはあくまで理想なのだと思い知った。
すべてが上手くいくことなんて絶対にない――そんなネガティブ思考が染み付いて以来、はずかしい呪いも症状が悪化したと感じていたのは気のせいではない。

「…………」
「イレブン? どうしたのお?」

きっとベルと自分は根本的に違うのだろう。
彼女もきっと辛い現実を目にすれば膝を折り、笑顔を消してしまうかもしれない。
そんなのはダメだ。一人の少女の夢を、殺し合いだなんて最悪の形で壊してはならない。
ならどうすればいいか――決まっている。自分が彼女の”理想”を手助けすればいい。自分にはそれを成し得る力があるはずなのだから。

「――ううん、なんでもないよ」

そう答える声は自分でも驚くほどに落ち着いていた。
安堵するベルを見てイレブンは無意識に目の前の少女をエマと重ねているのだと今更自覚した。
正直に言えばベルとエマはあまり似ていない。容姿の話ではなく性格の話をするならば、だが。
しかし共通点はある。心優しく元気な少女、というありきたりな共通点だ。
けれどそんな”ありきたり”はイレブンを前に進ませるには十分すぎて、もうはずかしいという感情は幾らか軽減されていた。

放送までおよそ二十分。
長いようで短く、短いようで長い微妙な時間。
イレブンはその時間の中で己を見つめ直し、ベルはランランの入ったモンスターボールに手を添えパートナーのポカブを心配する。
正確な時を刻むポッドは静かに宙を浮く。夜明けの空を反射する鉄の箱は何を考えているのか、果たして考えているのかどうかすら分からない。


743 : 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:16:46 LVxzuF8s0


イレブンとベルはあまり勘の鋭い人間ではない。
だからこそこうしてすんなりと放送開始までの時間を待つことを選んだのだろう。

なぜ突然こんな話をしたのか、それはポッドの失言にある。
いや、彼女には失言という意識すらないのだろう。指示された情報に基づいて発言しているに過ぎないのだから。
ポッドはベルに放送の内容を問われた際、こう答えた。

『主催者が行う定時放送。午前六時までの死者と禁止エリアを発表する。また、その際に――』

結局はベルのニックネームの件に妨害されたものの、それがなければ何を答えるつもりだったのか。
その際に――? きちんとルール説明を聞いていた参加者でも、放送の内容は死者と禁止エリアの発表としか把握していないのだろう。
当然だ、それしか説明されていないのだから。
つまりポッドはそれ以外の何かを知り得る存在となる。

そもそもの話、再起動の直後にイレブンとベルの名前を呼んだこと自体がおかしな話になる。
ポケモンや魔物、モンスター。様々な生き物が支給品として参加者の手に渡ったがみな参加者の情報など知らなかった。
ポカブがスネークに攻撃を仕掛けたように、だ。
それなのにポッドはまるで最初から予め参加者の情報を誰かにインプットされたかのように振る舞っている。

果たして彼女がどの程度情報を知っているのか。どの立場にいるのか。
それを知る者は――まだいない。



【A-3/森/一日目 早朝】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP残り僅か、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、ポッド153@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.放送後、イシの村へ向かう。
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。

【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中


【支給品紹介】
【絶望の鎌@クロノ・トリガー】
ベルに支給された武器。原作では魔王専用。
元々の攻撃力も高いが、特殊効果により死亡した仲間の人数によってダメージ量が上昇する。
仲間というのは行動を共にしている人物の事を指し、死亡とは仲間の死の瞬間や遺体を目にした場合を指す。

【ポッド153@NieR:Automata】
イレブンに支給された随行支援ユニット。原作では9Sをサポートしていた。
射撃や簡易ハッキング等の機能がある他、的確な指示などを行うヨルハ機体に必要不可欠の存在。
本ロワでは弾数は無限のままの代わりに射撃の威力が下がっており、さほどのダメージは期待できない。
また参加者の情報がインプットされている。どの程度情報を持っているのかは後の書き手さんにお任せします。


744 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/08(日) 20:17:49 LVxzuF8s0
投下終了です。
あまり時間が取れず短めになってしまいました。
最初に改行ミスをしてしまってすいません。


745 : 名無しさん :2019/09/10(火) 07:27:51 uuUuzv3k0
投下乙です
ベルちゃんかわいいからね、間近に迫られてドキドキしちゃうのは仕方ないね
…エマさんが怖い顔で睨んでそうだけどw

なかなか賑やかなチームになってきたが、ベルは放送の内容受け止められるのだろうか


746 : ◆RTn9vPakQY :2019/09/11(水) 15:10:23 QCSw7DPY0
投下します


747 : ささやかなふれあい ◆RTn9vPakQY :2019/09/11(水) 15:11:10 QCSw7DPY0
「は、速すぎます〜っ!」

バトルロワイアルが開始されて数時間。
会場の片隅で、とあるアイドルの絶叫が聞こえたとか、聞こえないとか。





リンクと2B、そして雪歩の三人は、石畳の道を歩いていた。
イシの村を出発してから一時間近く経過していたが、目的地への道のりはまだ半分というところだ。
空はまだ暗い。リンクがランタンを持って周囲を警戒しながら先行して、少し離れて2Bと雪歩が続く形だ。

「あの、2Bさん……」
「……どうした?」

そのせいか、2Bは雪歩から話しかけられることが増えた。
話の内容は、数千年後の地球のことやアンドロイドのことなど、質問ばかりだ。
質問をする理由は、純粋な好奇心だけではなく、気を紛らわせるためでもあるようで、雪歩は沈黙を恐れているようだった。
会話をしていると、周囲への警戒が疎かになりやすい。それでも、雪歩の質問に対して、2Bは淡々と返答していた。

「えっと、9Sさん?についても知りたいですぅ」
「9Sは諜報部隊に所属する、スキャナータイプのアンドロイドだ。
 ハッキングを得意としていて、知識が豊富だ。たまに余計な好奇心を見せることがある。
 ……まあ、それはいい。9Sが首輪を外せるかも、と言ったのは、膨大な知識があるからだ」
「へぇ……見た目はどんな感じなんですか?」
「人間の少年だ。そうだな……身長はこれくらいか」

これくらいと言いながら、2Bは手を自分の目線の高さに置いた。
2Bには、雪歩が9Sの見た目を知りたがる理由が分からなかったが、さらに情報を期待する視線を受けて、9Sの姿を詳細に説明した。

「ええと……髪の色や服装は私と似たようなもの。9Sは半ズボンだけど」
「ってことは、白髪(はくはつ)に黒服の男の子……ふふ」
「何か可笑しい?」
「い、いえ!ごめんなさい!
 ただ……話を聞くと、2Bさんと9Sさん、まるで姉弟みたいだなって」
「きょうだい……」

9Sと比べると知識の少ない2Bでも、その単語の意味は知っていた。
同一の母体から生まれた、遺伝情報を同じくする複数の個体のことだ。
しかし、アンドロイドには生物学的な性質は当てはまらない。
機械生命体の中には、親子や姉妹のような概念を持ち込んでいるものもいるが、あくまで自称しているだけだ。

「アンドロイドに血のつながりはない」
「もちろん、そうでしょうけど、つまり……それだけ親しそうってことですぅ」
「親しそう?……ある程度、類似性があるのは当然だ」

例えば、素体を同じくするアンドロイドは、見た目が似るのは当然のこと。
白髪や黒を基調とした服装も、ヨルハ部隊のメンバーのほとんどが当てはまる。
2Bや9Sが特別なわけではない、ということだ。

「親しそう、か……」

それでも、2Bは不思議な感覚を覚えた。
今まで他者から自己と9Sがどう見えているのか、などと考えたこともないからだろうか。
その不思議な感覚について、それ以上考えることを避けようとして、2Bはリンクに話しかけた。

「それよりリンク、そろそろ休憩しないか」
「ああ、そうしようか。雪歩も構わない?」
「は、はい……」

そのとき2Bは、雪歩がほっと息をついたのを見た。
一時間近く歩き続けていたので、人間であれば疲労が溜まるころだと判断したが、間違いではなかったようだ。
石畳の道を少し外れた木陰で、各自休息を取ることにした。


748 : ささやかなふれあい ◆RTn9vPakQY :2019/09/11(水) 15:11:36 QCSw7DPY0
「ここからだと山小屋が近いから、少し見てくる。二人は休憩していて」

すると、休憩を始めてから一分もしない内に、リンクがそう言い出した。
わずかほども疲れた様子を見せていないことから、体力的には余裕があるのだと分かる。

「リンクさん、一人で平気なんですか……?」
「武器が必要なら渡すけど」
「森には慣れているから平気だよ。武器も……」

リンクはきょろきょろと周囲の地面を見渡すと、一メートルくらいの枝を拾い上げた。
そして、それを数回振ると、満足したように頷いた。

「“これ”で充分だ」

そう言うが早いか、駆け出したリンク。
リンクが森の中に消えたあと、2Bと雪歩の間にはしばらく沈黙が流れた。

「すごいですね、リンクさん」
「騎士として訓練を積んでいるだけはある」
「はい……」
「……」
「あ、あの……」
「すみませんでした。私なんかのために」
「ん?」
「森を抜けるルートなら、もっと速く進めたかも……」
「……」

そこまで聞いた2Bは、雪歩の発言の意図を理解した。
765プロへ向かうにあたって、イシの村から南下して森を抜ける、という経路も考えられたが、結局はこうして石畳の道を選んだ。
その理由は、雪歩の服装にある。雪のように白いワンピースと可愛らしいスニーカーは、雪歩の可憐な雰囲気に良く似合うものだが、肌の露出している部分が多く、林道が整備されていない森を歩くのには適していない。
火山や雪原、砂漠など、その土地の環境に応じて適切な装備をすることが当たり前であるリンクが、そのことに気づいた。
その結果、舗装された安全な道を進むことにしたのだ。

「謝罪する必要はない。目的地までの距離はそう変わらない。
 それに、夜の森林は視界が悪いから、襲撃されたときの対処がしにくい」

謝罪を伝える雪歩に対して、2Bは冷静に返事をした。
その声色に雪歩への気遣いは感じられない。戦闘アンドロイドとしての現状分析を述べただけのようだ。

「で、でも……森に9Sさんがいたかもしれませんよ?」
「……それは可能性の話に過ぎない。どのルートを選んでも確率は変わらない」

そう言いながら、2Bは雪歩から視線を外した。
数秒後、2Bは思わず自分が拳をぐっと握りしめていたことに気づいて、その手を開いた。

「それはそうですけど……」
「気にしなくていい。今は、この先どうするかを考える方が重要」

なおも謝罪をしようとする雪歩に対して、2Bはそう断定した。
過去のことは変えられないのだから、それについて考えすぎても意味がない。
そう伝えると、申し訳なさそうな顔のままだが、ようやく雪歩も口を閉じた。
それからしばらく、二人の間には沈黙が流れ続けた。





749 : ささやかなふれあい ◆RTn9vPakQY :2019/09/11(水) 15:12:10 QCSw7DPY0


「誰もいない、か」

訪れた山小屋に参加者の姿は無く、リンクは肩を落とした。
この一時間近く、新たな情報を何も得られていないことが、リンクを焦らせていた。
せめて山小屋に人が居た形跡がないか、そう考えてくまなく調べている内に、あることに気がついた。

「この小屋……新しい?」

真新しい木のにおい、そして、衣服に継ぎを当てたように見える、色合いの異なる木。
そして山小屋の外には、切り倒された木の切り株や、ボロボロな木の残骸、おがくずなどが点在していた。
ここから想像されるのは、誰かが山小屋を修理したということ。
しかし、殺し合いが開始されてから、木を切り倒して山小屋を修理するような物好きがいるだろうか。
直感的に、リンクの頭には一人の男が浮かんでいた。

「まさか……サクラダ?」

サクラダ工務店の代表者であるサクラダ。
ハテノ村で出会った、とても独特な人物だ。
大工という仕事に誇りを持っているサクラダであれば、山小屋を見て修理をしたくなっても不思議ではない。

「いや、そんなまさか……」

山小屋の外観を眺めて、リンクは眉をひそめた。
自分の知り合いが殺し合いに巻き込まれている想像など、したくないものだ。
勘違いであることを期待して、山小屋を去ろうと決めたそのとき。
背後の茂みが、ガサガサと音を立てた。

「なんだ!?」

リンクは素早く枝を構えて振り向いた。
しかし、音の主も速度では負けていない。リンクが視界に捉える直前に、再び茂みを揺らして消えた。

「待て!」

即座に走り出すリンク。
新たな情報を得られるかもしれないチャンスを、逃すわけにはいかない。
暗闇の中、草木を薙ぎ払いながら影を追いかける。

「……見つけた!」

リンクは影を視界に捉えると、加速して距離を詰めていく。
そして、走るのを止めようとするために、走る影の前へと回り込む。
そうすれば、寸前で停止するだろうと予想しての行動だったが、リンクの予想は外れた。

「クエーッ!」
「うわっ!」

影は鳴き声を上げながら、勢いよくリンクと衝突した。
背中から倒れ込んだリンクが見たもの、それは名も知らぬ黄色い鳥――チョコボ――である。
その後、チョコボを乗り回して森から出て来たリンクに、2Bと雪歩が非常に驚かされたのは、言うまでもない。





750 : ささやかなふれあい ◆RTn9vPakQY :2019/09/11(水) 15:13:09 QCSw7DPY0

チョコボのお陰で、三人が道を進む速度は格段に上昇した。
雪歩はリンクが操るチョコボに乗り、2Bが持ち前の脚力で疾駆する。
そうして数分が経過したころ、石畳の道の左手に巨大な建造物が現れた。
その建造物の迫力に、雪歩は感嘆の声を漏らした。

「うわぁ……あれ、お城ですか?」
「地図にあった“Nの城”のようだ」

地図を出して確認する2B。リンクも地図を覗き込み、現在位置を確認する。
目的地の765プロがある市街地が、遠目に見え始めていた。

「765プロまで、もう一息ってところかな」
「そうですね、でも……」

雪歩は城を見上げた。城は荘厳にそびえている。
これだけ大きい城であれば、参加者がいる可能性は充分にある。探索する意義はありそうだ。
2Bとの会話を思い出す。どこに知り合いがいて、どこですれ違ってもおかしくない。
何を優先させるべきか、雪歩たちは選択に迫られている。


【C-1/道路/一日目 黎明】
【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、チョコボに騎乗中
[装備]:木の枝@現地調達 デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実
[思考・状況]
基本行動方針:
0.城を探索するか、765プロを優先するか。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。
3.ゼルダが連れてこられているかどうか情報を集めたい。

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。

【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:健康
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、モンスターボール(中身不明)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
0.城を探索するか、765プロを優先するか。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
3.遊園地廃墟で部品を探したい。
4.モンスターボール……ってなに?

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安、チョコボに騎乗中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:
0.城を探索するか、無視するか。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。
3.2Bさんやリンクさんと仲良くなれるかな……。

※B-1エリアの森には、チョコボ@FINAL FANTASY Ⅶが出現するようです。

【チョコボ@FINAL FANTASY Ⅶ】
基本的に黄色い体毛をした鳥。陸上を素早く走ることができる。
FFの世界では、主に乗用として利用されている。
このロワにおいては、何らかの手段で捕獲及びそれに準ずる行為をしない限り、一度チョコボから降りるとチョコボは去ってしまう。


751 : ◆RTn9vPakQY :2019/09/11(水) 15:14:02 QCSw7DPY0
投下終了です。誤字脱字等、指摘があればよろしくお願いします。


752 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/11(水) 21:29:47 qTIpt7Xs0
投下乙です!
この三人は一番最初に書いたキャラということもあって気になっていたので、こうしてリレーしてくださって嬉しいです……。
時間軸も世界観もバラバラな三人ですが、なんとか纏まっているようで安心しました。

雪歩に9Sと姉弟のようだと言われ思考に馳せる2Bや、チョコボを乗りこなすリンクなど原作では見られないものの容易に想像できるシーンが印象深いです。
2Bもリンクも人がよく戦力的にも頼り甲斐があるから、雪歩も安心できそうですね。

Nの城を探索するか765プロに向かうか、この二択で運命が大きく変わりそうですね。
今のところNの城には参加者はいませんが、765プロ方面はマルティナやミリーナ、ザックスや美津雄などがいますね。
この三人がどう転ぶのか、楽しみです。

リーバル、マール、ウィリアム、カミュ、ベロニカ、ハンターで予約します。


753 : 名無しさん :2019/09/11(水) 21:55:46 t/4Sxa2s0
投下乙です

死体転がる765は鬼門


754 : ◆vV5.jnbCYw :2019/09/12(木) 19:32:44 aSwp2TCI0
ウルボザ、遥、アリオーシュ、バレット、オセロット予約します。


755 : ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:48:18 Sivim8IY0
投下します。


756 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:51:17 Sivim8IY0
カイムを振り切った二人は、小高い丘の上に登っていた。

「一体全体どうなってんだい………この世界は……。」
二人組のうちの一人、ウルボザは丘からの景色の先を睨んでいた。

かなり遠くにあるため小さく見えるが、その先に見える建物の一つは、間違いなくハイラル城だった。

「あのお城、知ってるの?」
遥はウルボザの視線の先にある城を見つめる。

「知ってるも何も、私はそこの姫様を守る英傑の一人だったのさ。」
「エイケツ?」

知らない言葉で遥が首をひねる。
「難しく考える必要はないよ。国にとって大事な人を守る人、ぐらいに考えてればいいさ。」

「おじさん……みたいな?」

遥は答える。
彼女が言う桐生一馬は、国にとって重要な人物、というわけではない。
だが、守りたい者あれば命に代えてでも守ろうとする人物だった。

「へえ……おじさんって人も、誰かを守る英傑なのかい?」

遥は首を振る。
桐生は他のヤクザからも様々な呼ばれ方をしていたが、英傑という二つ名は聞いたことはなかった。

「とりあえず、強い人ってのは分かったよ。それでいいだろ?」
遥は黙って首を縦に振る。

「アンタも大事な人がいるじゃないか。その人の為にも、死んじゃダメだよ。」
遥は釈然としないような表情で、頷く。

(御ひい様より、もう少し小さいかねえ……)

ウルボザは感じ取った。
この少女も、どこか年不相応に感情を押し殺していると。
かつてのウルボザが守る相手と同じように。

(何があったか知らないけど、ヘンに背伸びしていても、いいことはないんだよ……。)

自分の出来ることと言えば、その相手をそっと見守るくらいだ。
それしかできないのなら、命続く限り、それを押し通そうとウルボザは決意する。


757 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:51:38 Sivim8IY0


「ところで遥、あんたはこの地図でどこか知ってる場所はあるかい?」
遥は地図の右下、『セレナ』と書かれた場所を指す。

「ここに、おじさんもいる……。」

そこは、遥にとって思い出の場所。
あの日『バッカス』で桐生に助けられてから、家代わりに使っていた場所。
桐生は常にいたわけではないが、同じようにセレナを拠点として使っていた。

その場所に行けば桐生にも会える。
いつもと同じように助けてくれる。
麗奈も同じように匿ってくれる。

そう心の中で信じていた。

「ちょっと遠くなりそうだね……まずはあっちに見える、船みたいな場所に着いたら休憩して、それから行こうか。」

ウルボザはハイラル城とは違う方向を指差して言った。
確かにここからでもセレナは見えないくらい遠いので、何も言わずにそうしようと遥も思う。


丘を降りて、北東へ進もうとする二人。
目指す先はE-3,偽装タンカー。

なぜ堂々と地図に「偽装」と書いてあるのか二人共謎に思うが、船の中なら隠れやすい場所があるかもしれない。


道をそのまま歩いていると、前方によたよたと歩く人の姿が見えた。

「ちょっと!!アンタ、大丈夫かい?」

ウルボザがその姿を近くから見ると、それは妙齢の美しい女性だった。
しかし、服には血がべっとりと付いていた。


歩き方のおぼつかなさから、恐らく悪質な参加者に襲われ、済んでの所で逃げてきたのだとウルボザは推理する。

「…………。」
女性は口をパクパクと動かし、何か言おうとしている。

「え!?」
「タベ………タ…………イ。」

「あんた、お腹空いてるのかい?私の食べ物をあげようか?」

ウルボザはザックを開き、パンを取り出す。

彼女は勘違いしていた。
些細な、しかしこの戦いの場ではとてつもなく致命的な勘違いを。


758 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:52:00 Sivim8IY0
美しい女性、アリオーシュの服についていた血は、彼女の物ではなく、彼女を襲ったゾンビのもの。

そして、彼女が食べたいと言っていたのは、決して支給品の食料などではなく……。



「え!?」

女の細腕とは思えない力で、いとも簡単にウルボザが押しのけられた。
地面に倒れはしなかったが、勢いでパンを落としてしまう。

「コドモ……タベタイ………。」

アリオーシュは目をギラギラと光らせ、遥に向かう。

「タベタイ………タベタイ!!」
「………!!」
その勢いに身がすくんで遥は動けなくなった。


歯をむき出しにして迫り来るアリオーシュ。
たまたま出会った女性が、子供を「捕食して守ろう」とする精神異常者だとどう想像しよう。
そしてその女性がT-ウイルスの影響で、異常さが加速しているなど、大層な妄想癖がある人物でもない限り、想像できまい。
いや、この世界では異常こそが正常であるのかもしれないが。

遥も、神室町にいた時から、誰かが殺される瞬間や、自分が死の危機に瀕したことはあった。
だが、自分を捕食しようとする人物に会ったことは一度としてなかった。


アリオーシュは遥の腕をガッチリ掴む。
手に、子供の柔らかくて弾力のある肉の感触が伝わる。

この感触を、守りたい。手だけではなく、口の中でも、体の中でも味わいたい。

アリオーシュは口を大きく開け、遥の肉を食いちぎろうとする。


「――はぁッ!」

しかし、落雷がその目的を阻害した。


「アアアアアアギャアアアあああ!!」

けたたましい悲鳴と共に、遥の拘束が解かれる。

「何ボサっとしてんだい!!早く逃げるんだよ!!」
ウルボザは遥に怒鳴る。

「え!?私………。」
「私のことは気にするんじゃない!!これを持って先に船の所へ逃げるんだよ!!」

ウルボザは武器以外の支給品を入れたザックを遥に投げる。
ザックの衝撃が体に伝わってようやく遥は逃げ始める。
今になって、遥の心の奥底から恐怖が湧き出てきた。


759 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:53:02 Sivim8IY0
食べたい?
あの女性が言ったことが、理解できなかった。
神室町にいた時は、命の危機にさらされたことは何度もあったけど、食い殺されそうになったことは一度もなかった。

食べられるってどんな感じだろう。
普通にご飯を食べていたけど、食べられる側のことは考えたことなかった。
きっと、銃なんかで撃たれるより、痛いんだろう。

そんなことを頭にめぐらせながら、遥は走る。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「コドモ………タベタイ……カエセ!!」
電撃の痺れから回復したアリオーシュは、バタフライエッジを抜き、ウルボザに敵意をむき出しにする。

「返せっつったって、アンタのモノじゃないだろ!!」
同様にウルボザもロアルドスクロウを抜き、アリオーシュにめがけて構える。


(コイツ……私の雷を食らったのに、ピンピンしてるなんて、どういうことだい?)

ウルボザが疑問に思ったのは、アリオーシュの生命力。
自分の雷を食らえば、人間は愚か、並みの魔物でも容易に戦意を喪失する。
だが、この女性からは全くそういったものが喪失した様子はない。

一時的痺れたのは確かだし、体のあちこちからまだ煙が出ているが、戦う気力は充分のようだ。

(まあいいさ、それなら容赦なく殺せるよ!!)
その点からウルボザは、アリオーシュを人間の姿をした魔物だと判断した。
魔物ならそれでいい。
人間同士の殺し合いはたとえ相手が殺す気でいたとしてもする気は憚られるが、魔物なら心配ない。
いつもの魔物退治のように、冷静に心を殺して戦うことが出来る。


実のところはアリオーシュは人間である。
強靭な生命力のタネは二体の魔物との契約、そしてリッカーを捕食した時に得たTウイルスの影響なのだが。


760 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:53:22 Sivim8IY0
アリオーシュが大剣を振り回し、ウルボザの首を掻っ切らんとする。

「そんなんで当たると思ってるのかい?」
ウルボザは素早く身を反らし、斬撃を紙一重で躱した。
大剣は誰も斬り裂かず、地面にめり込む。


その隙にアリオーシュに斬りかかろうとした瞬間。
地面から即座に二撃目が襲来した。
「!?」

「コドモ……殺シテ、取リニイかナイと………。」



咄嗟にロアルドスクロウで受け止め、鍔迫り合いに持ち込もうとするも、予想外の抵抗が両手に来た。

(なんて力だよ……モリブリンじゃああるまいし……。)

自分が力で押されるとは。
剣の大きさなら相手の方が上だが、それにしてもこの力は異常だと感じた。

「ちいっ!!」
「早ク……アのコ………タベタイ……。」


ウルボザもゲルドの族長として、生前は砂漠での過酷な訓練に明け暮れていた。
いくら魔物といえども、細腕相手に力で後れを取るとは予想していなかった。


再びアリオーシュが大剣を構えて、斬りかかる。
だが、その場所には誰もいなかった。

既にアリオーシュの真横に移動していたウルボザは、すかさず脇腹を蹴飛ばす。


「見せてやるよ。ゲルドの英傑の力を」
横から、アリオーシュの一撃が襲い来る。

確かにそれはウルボザを斬ったはずだった。
しかし風に飛ばされた木の葉のように身軽に舞うウルボザに、致命傷を与えたことにはならない。

その後も大剣が振り回されるも、一度も斬ることは出来ない。
ウルボザは踊り手のようにアリオーシュの周りを動きつつ、翻弄していく。



いくらウルボザに力があっても、力比べではゴロン族やヒノックスに勝つことは出来ない。
だが、彼女ら、ゲルド族には身のこなしがある。

ウルボザがゲルドの戦士として生きた時代より昔から存在していた戦い方。
蝶のように美しく舞い敵を翻弄させ、蜂のように刺す。


その美しさと激しさでは、他の部族で右に出る者はいない。


761 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:53:43 Sivim8IY0
(私のお気に入りの剣と盾が無いけど、上手くいったようだね。)

最初の狙いはアリオーシュの利き手。
首尾よく手の甲を斬り付けることに成功した。

剣を落とすかと思いきや、傷ついた手でまだ攻撃して来る。
相手は人間ではないと改めて実感しつつも、今度は姿勢を低くして左足を斬り付ける。

やはり反応は鈍い。
相手に痛覚というのが無くなっているのか。
それとも罠のようなものか?

ウルボザは相手の様々な手を予想する。

たとえ目的が食事や子孫繁栄のような、極めてシンプルなものしかなくても、罠を張って狡猾に戦ってくる魔物もいる。
集団で襲撃し、地形に隠れながら襲撃の時を待つリザルフォスが良い例だ。


言い表しようのない嫌な予感に恐れたウルボザは、早急に相手の急所を突こうとする。

「私の、子供ハどこォォぉ?」

アリオーシュの大剣がウルボザの胸に襲い掛かる。
しかし、ウルボザは空中でトンボを切って一回転。

「もらった!!」
そのまま、逆にアリオーシュの心臓にロアルドスクロウを突き刺した。

「アアアア!!」
アリオーシュの体は痙攣し、膝をつく。


(しかし、恐ろしい相手だったね………。)
先に逃がした遥を追わなければいけないが、相手はウルボザの予想を上回る力と生命力を持っていた。


一先ず落ち着こうと、息を大きく吸い込む。

「ふう………」
それを大きく吐き出す。

どうにか心を落ち着かせたウルボザは、再度息を吸って、遥を追いかけようとする……が、それが何故か出来なかった。


762 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:54:11 Sivim8IY0






アリオーシュが持っていたバタフライエッジが、ウルボザの心臓を貫いたから。


「………!!」
なぜ、と言おうとする前にウルボザの口から大量の血が出る

「ウフフフ………肉……にく……ニク…。」
そのままアリオーシュは剣を抜く。
ウルボザから体から大量の血が噴き出て、崩れ落ちた。


だが、さっき雷を打ってからとっくに1分は経っている。
せめて、もう一度。
この怪物を生かしたら、きっとまた誰かが犠牲になる。

その犠牲を、ここで止めねば。

(遥、あんたは生きなよ。)


血が行き渡らず、言うことを聞かない腕を無理やり上げ、技の体勢に入る。
その瞬間、雷が落ちた。



ウルボザの頭に、バタフライエッジという名の雷が、だが。
彼女はアリオーシュを、人の姿をした怪物だと思っていたが、心臓を失ってなお動ける怪物だとは思ってなかった。


それは、不注意だろうか。
否、不注意ではない。
なにしろアリオーシュが心臓を失っても動ける体になったのはつい先ほど。
彼女が捕食したリッカーから手に入れた、Tウイルスの感染が原因だからだ。

(運動しタからカしラ?お腹……空いタわネ………。)
アリオーシュは動かなくなったウルボザの身体にかじりつき、肉を食いちぎる。
Tウイルスは過剰に代謝の速度を上げるため、空腹も異常なペースで進行するのだ。


(やっぱり……美味シクナカッタわね…………。)
新鮮な肉なのでリッカーよりかは美味だが、やはり大人の肉は硬くて食べにくい。
それに、もうすぐ代えようのないご馳走にありつけるのだから、こんなもので満腹になるわけにもいかない。


あの子がやっぱり食べたい。
二口、三口もすればすぐにその肉塊を棄て、衝動に身を任せてそのまま歩き始めた。


763 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:54:39 Sivim8IY0

【E-3/草原 /一日目 黎明】
【アリオーシュ@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ中、T-ウイルス感染(進行中)
[装備]:バタフライエッジ@FINAL FANTASY Ⅶ  
[道具]:基本支給品、ランダム支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こどもたちをまもる。
1.遥を追いかけ、食べる。
2.さっきからお腹が空いてしょうがないわ……


※リッカーを食べたことによりT-ウイルスに感染しました。
現在でもクリーチャー化が進行中です。
それに伴って回復力と、食欲が増進しています。
また、クリーチャー化した場合脳を破壊され完全に活動を停止した段階で「死亡」と判断します。



【E-3/偽装タンカー前 /一日目 黎明】

【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3個)  ウルボザのランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針: 自分の命の価値を見つける。
1.ウルボザを待つ
2.ウルボザと合流して休憩した後は、セレナへ向かう。
3.おじさんと会いたい。

※本編終了後からの参戦です。



【ウルボザ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】
【残り59名】




「ふむ、怖気付いたのかね、バレット君。」
遠くの方で、最初に雷が落ちたのを見たのは、バレットだった。
もしや仲間が雷の魔法を使ったのではないかと気になり、その方角へ向かうことを提案する。

偽装タンカーへと向かう途中だが、回り道をすると、衝撃の光景が広がっていた。

一人の女性が、別の人間を食べていたのだ。


764 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:55:20 Sivim8IY0
すぐに食べるのをやめてどこかへ歩き出したが、それ以上に衝撃的だったのは、背中にぽっかりと穴が開いていた。

背中に穴が開いても何食わぬ顔して歩けることは、銃を心臓に打ち込んでも効果がない可能性が高い。
頭に打ち込んだり、首を切り落とせば殺せるかもしれないが、支給されている武器の使い方も分からない今は、勝てるかどうか分からない。


「うるせえ……どうするか考え中だ。」
自分は考え事は苦手だが、そう答えてしまう。

「君は銃弾(バレット)なのにすぐに飛んでいかないようだな」
「……。名前で遊ぶなっつってんだろ……。」

目の前の同行者さえ何者なのか分からない状態で、対処法もはっきりしないまま相手に戦いを挑みたくない。


しかし、相手が向かっているのは自分達が目指していた、タンカーの方角。
今戦わなくても、目的地を変えなければ、すぐに戦うことになる。

今すぐに戦いを挑むか、もう少し様子を見るか、はたまた進路を変えるか。



【E-3/草原 /一日目 黎明】

【バレット@FF7】
[状態]: 健康 アリオーシュに対し若干の恐怖
[装備]: 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.あの女性(アリオーシュ)をどうする?
2.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる
3.マテリアの使用法をオセロットに説明するとともに、怪しいので監視する

※ED後からの参戦です。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×6) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(???)@FF7 基本支給品 ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットとともにタンカーへ向かう。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。


765 : Heartless battle ◆vV5.jnbCYw :2019/09/13(金) 21:55:34 Sivim8IY0
投下終了です。


766 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/17(火) 20:25:37 FhPsTblA0
すみません、金曜日の0時まで延長させて頂きます。


767 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 15:58:01 iUhL8ITQ0
遅れながら投下乙です!

ウルボザさん、短命な予感はしていましたがやはりこの結果になってしまったか……。
遥は無事に逃げ切れましたが、結果的に一人になってしまいましたね。
果たして放送で桐生さんとウルボザさんの名前を聞いて耐えられるのか……。
境遇的に目の前で人が死ぬ光景を幾つも見てきた遥にとっては、自分の知らないところで人が死んでいた事を打ち明けられる方が辛そうですね。

バレットとオセロット、二人の実力と装備ならゾンビアリオーシュにも対抗できそうですが二人共慎重派なようですね。
オセロットの基本行動方針が不明な分、展開も予想できませんね。
バレットと同じく対主催なのか、ステルスマーダーなのか。ある意味一番読めない男でもあります。


投下します。


768 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:00:51 iUhL8ITQ0

「気づいているか? カミュ殿、ベロニカ殿」
「え?」

女神の城の庭園にて、眉を顰めるハンターがはばかるような低声をカミュとベロニカへ向ける。
彼の言葉の意図を掴みあぐねたベロニカは疑問の声を漏らし、カミュは息を吐きながらゆっくりとうなずく。

「西の方から人の気配がするな。……それも、穏やかなもんじゃなさそうだ」
「うむ。今までに嗅いだことのない異質な匂いだ。恐らく人がモンスターに襲われているのだろう」
「ちょ、ちょっと……勝手に話進めないでよ!」

カミュに付け加える形で憶測を立てるハンターは迷いなく背の太刀を引き抜き、西を見やる。
人の気配に敏感な盗賊という職業でも、自然を相手に五感を鍛え上げたハンターでもないベロニカは二人のやり取りにやや理解が遅れていた。
しかし尋常ならざる雰囲気を感じてか、ベロニカも背のデイパックから武器らしきものを構える。
武器「らしきもの」と表現したのはそれが本当に武器なのかどうかベロニカには判断がつかなかったからだ。しかしハンターが似たような武器を知っているということで、ひとまずそれを構えた。

ベロニカの右手で風を仰ぐのは派手な扇子。
必勝扇子の名を持つそれは武器としてかなりの性能を誇っている。
だがその価値を初見で気付ける人間はそういないだろう。むしろハズレの部類だと肩を落とす人間の方が多いはずだ。
シルビアが持ったら似合いそうだ、と感想を抱きつつベロニカは無手のカミュと向き直る。

「カミュ、アンタこれ使えば? 素手よりはマシでしょ」
「はぁ? まぁ確かに、武器はあるに越したことないが……どうやって使えばいいんだ? これ」
「さぁね。ハンターさんならわかるんじゃない?」

指名を受けたハンターは自信ありげに「それは双剣の類だ」と言っていたが、形状的にとても剣の一種とは思えない。
結局カミュは明確な使い方も分からないまま扇子を受け取り、西の方角を目指す。
荒れた石畳の上には幾つもの踏まれた花が転がっている。三人はそれを丁寧に避けながら、研究所へ向かった。





769 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:01:35 iUhL8ITQ0


「止まれ、それ以上近づいたら撃つよ。これは脅しじゃない」

明るみ始めた空色が窓から差し掛かる研究所内にて、冷淡な警告が響く。
その声の主であるリーバルは努めて冷静にボウガンの照準を目の前の怪物の眉間へと定めていた。
しかし怪物、ウィリアムは緩慢な歩みを止めない。肥大化した右腕のせいで時折バランスを崩しながらもリーバルとその隣で怯えるマールにギラついた殺意を打ち付ける。

「り、リーバル……!」
「チッ……警告はしたよ」

舌打ち混じりにリーバルが弾いた矢は吸い込まれるように怪物の眉間を貫いた。
矢は中ほどまで眉間に埋もれ、撒き散らされた粘液質な血が怪物のブロンドの髪を黒く染める。常人であれば間違いなく即死だ。
しかし当の怪物は一瞬足を止めただけでまたすぐさま歩みを再開する。ズシンズシンと響く重い足音はリーバルに焦燥と困惑を抱かせた。

「なっ……!?」
「リーバルッ! あの人、多分もう人間じゃないよ!」

そんなことわかってる、とリーバルは騒ぎ立てるマールへ内心愚痴る。
人間が魔物になる事例など聞いたことない。だが実際にこうして目の前でその光景を突きつけられてしまった。
ハイラルの常識を破棄したリーバルは立て続けに二本矢を放つ。怪物の額と心臓を正確に射抜いたそれは今度こそ役目を果たしてくれた、という希望すら与えてくれなかった。

「シェエェェ……リィィ……!」

歩みは止まらない。
リーバルの頬を汗が伝う。
自分が恐怖している、という現実を認めたくない彼はそれを誤魔化すように別の矢をつがえる。
炎の矢――名の通り、火炎属性を持つそれは木の矢を遥かに上回る性能を秘めている。
僅か十本しかないため極力使用は控えたかったが贅沢を言っている場合ではない。心の乱れを感じさせない動きでリーバルは怪物の口を射抜いた。

泡が破裂するような音に続いて怪物の口内から炎が上がり、やがてそれは全身へと行き渡る。
強靭な生命力を誇るG生物といえど熱は無視できない。ようやく歩みを止めた怪物は痛々しい悲鳴を上げながら身を悶えさせた。
だがリーバルの望んだほどの効果は得られなかった。恐らくすぐにまた何事もなかったかのように進軍を始めるだろう。
厄災ガノンを前にした時を上回る恐怖はリーバルに迅速な指令を与えた。

「撤退だ!」
「う、うん!」

今現在リーバル達がいる第四研究室はお世辞にも戦いに向いているとは言えない。
翼を活かせず距離を取る戦法も望めないほど狭いというのもあるが、なにより障害物が多い。
用途の分からない機械や机に椅子。乱雑に散らかされた荷物などが動きを阻害してくるし、なによりもそれらを怪物が武器にする可能性がある。
あんな腕でそんなものを振り回されたとなれば、リーバルもマールも命はないだろう。
限りない低空飛行で出口を目指すリーバルとその横を走るマール。彼らの背後で体勢を立て直したウィリアムが叫びを上げた。


770 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:02:02 iUhL8ITQ0

振り返りたくない。様子を見る時間すら惜しい。
扉の前へ辿り着いた二人は転がり込むように廊下へと飛び出す。もちろん扉を閉める事も忘れない。
金属製の扉の向こうから怪物の叫びと破壊音が響く。それだけで中の様子は容易に想像できた。

「広い場所に行こう、リーバル! 私の攻撃魔法も狭い場所じゃ使えないよ!」
「そのつもりだよ。幸いこの廊下の窓から外に出られそ――」


ガギィィ――――ッ!!


鳥肌が立つほど生理的に受け付けない金属音を扉が鳴らす。
振り返れば金属の扉から三本の爪が生えている光景が飛び込んできた。
まるで紙か何かのように引き裂かれた扉の奥に潜むソレを視認する前にリーバルはマールを脚で掴み廊下を滑空する。その際にマールが悲鳴を上げたが、無視だ。
窓から逃げるなんて悠長なことを許してくれる相手ではない。一刻もこの場を離れなければ。
幸い地図を暗記したおかげで行き止まりにぶつかることはないだろう。もしこの一本道でやつと正面から戦うとなれば結果は火を見るよりも明らかだ。

ヒュン、と滑空するリーバルの真横を何かが通過する。
いや、そんな生易しい音ではない。通過したそれは奥の曲がり角にぶち当たり無残にひしゃげている。
それが怪物の投げた机だと認識したリーバルは思わず頭を一瞬白く染める。もし直撃していたら、と考えるだけで身の毛がよだつ。

「またくるよ! リーバル!」
「ッ……!」

ウィリアムと向かい合う形でリーバルに掴まれているマールがそう叫ぶ。
耳鳴りの止んだ鼓膜を再び叩くその声に従い高度を上げる。と、先程まで自分が居た場所を身の丈ほどもある機械片が通った。
間一髪命の危機を救われたリーバルは限界速度で曲がり角へ突入し、減速もしないまま強引に曲がり切る。
翼の先が壁に擦れたが気にする時間はない。幸いにも怪物の速度は遅く追いつかれることはない。
しかし、廊下に置かれた機材や荷物を手当たりしだに投擲してくるため安心できる時間など一瞬たりともない。

そうして暫く鬼ごっこを続ける内、リーバルの首輪からアラームが鳴った。
高度は問題ない。となると地から足を離している時間が五分を過ぎたせいか。
だがここで床に足をつけるなどという愚行を行えば、瞬く間に鋼鉄の剛速球がリーバルとマールを射抜くだろう。
アラームが鳴り終わる前に無我夢中でリーバルは手近な部屋に転がり込む。すでに地図のことなど頭になかったリーバルは広がっていた光景に目を見開いた。


771 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:02:33 iUhL8ITQ0

「ここは……」

その部屋には何もなかった。
第四研究室にあったような機械も机も椅子も棚も。
ドーム状に広がる空間は一室と呼ぶには贅沢すぎるほどに広く、むしろ木々がない分外よりも翼を活かせるかもしれない。
何を用途に作られた部屋なのかもわからないが、まさにリーバルにとっては地獄に垂れ落ちた蜘蛛の糸。
即座にマールを降ろし部屋の中心辺りへ移動し、怪物を出迎える準備を整えた。

「リーバル、ここって……」
「地図によると第一研究室らしい。正直、研究室と呼ぶには殺風景すぎるけどね。好都合だ」
「うん、ここなら私の魔法も使えるよ!」

息切れを起こしながら紡ぐリーバルへマールが揚々と声を上げる。
追われる側だった立場はもう終わりだ。ここで決着をつける。
リーバルがボウガンを向ける扉がやがて悲鳴を上げ始める。と、瞬く間にそれはこじ開けられ奥から怪物の姿が現れた。

「くたばれ、怪物」

放たれた矢はまっすぐに怪物の右目を射抜く。瞬間怪物の顔面に炎が迸り地獄の業火のように肉を焦がしていく。
それだけでは終わらない。惜しむことなく立て続けに炎の矢を左目に放ち、怪物の視界を赤く染め上げた。
激痛と熱に怪物が何かを叫ぶ。言葉を喋っているようだが何を言っているのかまでは聞き取れない。
しかしそれを理解しようだなどという慈悲はリーバルは勿論マールも持ち合わせてはいない。詠唱を終え青白い光を手に宿したマールが魔法を放った。

「アイスガ!」

刹那、ドーム全体が青い光に包まれる。
マールの頭上に生成された巨大な氷塊が重力に逆らい、怪物の巨体へと突進した。
サイズで言えばウィリアムの身の丈を越えるそれの質量に抗えず、力負けした怪物は勢いよく廊下へと吹き飛ばされる。
衝突した廊下の壁に亀裂が走る。このままくたばってくれれば良かったのだが、やはり希望通りいかない展開にリーバルは舌を鳴らした。

「こいつ……不死身かよ」
「わかんない……でも、この調子なら私達が勝てるはずだよ!」
「だといいんだけどね」

希望的観測を唱えるマールにリーバルは苛立ち混じりに答える。
慢心や油断は得意分野だ。しかしその結果神獣の中に現れたカースガノンに屠られた失態を彼は抱えている。
一度死んでからもう二度と死への恐怖など味わうことはないだろうと思っていたが、今の状況がまさにそれだ。同じ失態は許されない。
この英傑リーバルが二度も死ぬことなど、彼のプライドが許さない。


772 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:02:59 iUhL8ITQ0

「っ……くるよ!」

熱の入る思考はマールの一声に冷やされる。
炎を掻き消した怪物はひしゃげた扉を持ち上げ、二人もろとも潰さんとそれを振り回した。
怪物の膂力に辟易しながらリーバルはマールを持ち上げ上空へと飛翔する。攻撃をかわすついでに怪物の足を木の矢で撃ち抜いてやった。

「お嬢ちゃん、この高さからでもさっきの魔法を撃てるかい?」
「もちろん! 待っててね――……アイスガ!」

滞空するリーバル達を見上げる怪物は扉を投げる予備動作を取っている。
が、それが成功するよりも先に氷塊が怪物の身体を押し潰した。血を吐き悶える怪物は反撃を許されない。

率直に言えばこの戦い、リーバルたちに負ける要因はなかった。
怪物自体は鈍重で冷静に距離を取れば十分に対処できる上、彼らには飛行という他にはない武器がある。
リーバルもマールも遠距離からの攻撃手段を持っているため一方的に嬲り殺すことができるのだ。
それにこの空間では怪物の武器も精々あの扉しかない。投擲の心配もないため、安心して飛行することができる。

それに、


773 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:03:16 iUhL8ITQ0




「――メラミ!」




今まさしくリーバルが矢を撃たんとした瞬間、怪物の身体が燃え上がった。
炎の矢を使ったわけではない。ならば、あの炎の出処は――

「嫌な気配はしてたが、まさかこんな化け物がいるなんてな」
「ああ。拙者もこのようなモンスターは見たことがない……油断はするな、二人共」
「ま、勝てない相手じゃないわ。それにこの人数だしね」

扉のなくなった入り口から三つの人影が現れる。
カミュ、ハンター、ベロニカ。全員が全員、ウィリアムへと敵意を向けていた。
緩やかな動作でマールと共に地に降りるリーバルは確信する。

「増援か……」
「そんなもんだ。手ぇ貸すぜ、あんたは悪い魔物じゃなさそうだしな」
「おいおい、僕が魔物だって? 天下のリト族も知らないなんて世間知らずもいいところだね」
「ちょっとリーバル、煽らないでよ! ……それに、まだ終わってないわ」

言い終えてマールはアイスガの詠唱に入る。リーバルもまたボウガンに矢を装填した。
ようやく炎から解放されたウェリアムは珍しく動きを止め、その場にいる全員を見回す。
リーバル、マール、カミュ、ベロニカ、ハンター。全員が全員特殊な能力を持った手練れだ。
既に理性など失っているウィリアムに彼らの危険度は認知できない。が、全員が己の敵だということは本能で理解した。
よってウィリアムはひしゃげた扉を右手に持ち、空を仰ぐ。


「シェエエエリィィィイイ――ッ!!」


ドームを木霊する怪物の叫びが五人の戦士を突き動かした。





774 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:03:41 iUhL8ITQ0


それはもはや一方的と言わざるを得なかった。
当然だ。地形の関係上元々マールとリーバルでも優勢に働いていた戦いがカミュらの介入によって更に傾いたのだから。

「バイキルト!」
「ヘイスト!」

後衛のベロニカとマールがそれぞれ支援魔法を前衛に掛ける。
攻撃力が倍増したハンターは怪物の肉体を深く刻み、素早さが上昇したカミュは目にも留まらぬスピードで怪物を翻弄する。
それで決着がついてもおかしくないがそこはさすがG生物。彼らがつけた傷は瞬く間に再生し重い反撃に移る。
しかし歴戦の戦士である二人にそんな攻撃は当たらない。それどころかお返しに身体の幾箇所を切り刻まれ悲鳴を上げた。
なおも乱暴に扉を振り回すGへ今度はメラミやアイスガが飛ぶ。物理的なダメージよりも効果があるようで炎が身を焦がし、氷塊が熱を奪うたびに動きを止めることに成功した。

「あなたの魔法、すごいね! ルッカみたい!」
「マールこそ中々やるじゃない。その支援魔法、セーニャといい勝負できるわよ」

五人という大人数での戦闘ゆえ余裕ができた為か、各々が自己紹介を交えて実力を讃える。
今こうしている間にもウィリアムは再生と破壊を続けるが、それを上回る猛攻が着実に怪物の息の根を止めんと降り注ぐ。
己の肉が削られ焦げることも構わず怪物は扉を振り回すが、標的であるハンターはバックステップでそれを躱し勝機を見出したとばかりにカッと目を見開いた。


775 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:04:08 iUhL8ITQ0


「――――参るッ!」


太刀を腰元へ納め居合の構えを取ったと思えば刹那、狩人の姿は掻き消え一筋の閃撃と共に怪物の背後へ回る。
数秒の時間差を経て怪物の左足が千切れ飛んだ。四人の刮目は瞠目へ変わる。
――桜花気刃斬。極僅かな狩人のみが習得できる極東の狩技は終幕の活路を開いた。


「うおぉぉぉぉッ!!」


失った左足の再生に務めるウィリアムへ雄叫びと共にカミュが飛び上がる。
と、空中で横に回転し遠心力を味方につけた彼は扇子を天井へと投げつけた。
光の粒子を帯び残光を描くそれは遥か上空で花火の如く弾け、刃の雨となり怪物の肉体に無数の風穴を空ける。
――シャインスコール。カミュはこの土壇場でこの武器の用途が自分の世界で言う”ブーメラン”なのだとようやく気がついた。

二度の大技を食らい怪物は言葉にならない絶叫を響かせる。
鼓膜を破る勢いに前衛の二人が怯んだ僅かな瞬間を狙い、ウィリアムは豪腕を振るう。
が、それは失敗に終わる。一筋の矢がウィリアムにとって唯一無二の弱点である右肩の目を射抜いていたからだ。


「ようやく分かったよ、お前の弱点。中々目を開けないから気付かなかったじゃないか」


ベロニカとマールの更に後方、矢の射程を熟知したリーバルはギリギリの間合いでニヒルな笑みを見せる。
予期せぬ弱点へのダメージは相当なもののようで反撃する様子も見せず右腕で身体を隠し防御の体勢に入った。が、そんなチャチなガードは意味を成さない。
今まさにトドメを刺さんと魔力を溜めるベロニカにとっては。


「みんなどいてっ! とびっきりのいくわよ!」


ベロニカの両手で抱え込まれるように生成される巨大な火球。
彼女自身の身の丈ほどもあるそれは距離を取ったハンターたちにも伝わるほどの熱を含み、恐らくこれが彼女の切り札なのだと悟った。




「――――メラゾーマッ!!」




風を切り裂き直線を進む火球は怪物の身体を瞬く間に飲み込む。
メラミとは比にならぬ膨大な熱はGの再生速度さえも追いつかず腐敗した肉はじゅうじゅうと音を立てて焼け落ちていく。
立ち昇る火柱は天井へ届くほどに高く。まるで一匹の生物の魂を天へ導くかのよう。
やがて火柱が止んだ頃には、炎に包まれた肉塊のみが転がっていた。


776 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:04:28 iUhL8ITQ0

「……終わった、か?」
「ああ、そうみたいだね」

扇子を構え直すカミュへリーバルが答える。
その言葉を皮切りに各々が安堵の表情を浮かべた。中でも特にベロニカはへらりと頬を緩ませる。
自分がトドメを刺したという実感に陶酔している、というのもほんの少しあるが本命は誰も死なずに済んだという理由だ。
ウルノーガの圧倒的な力を前に皆が死の危険に晒されたあの時とは違う。力を合わせ、こうして魔物を打倒した。その事実が嬉しい。
ようやくこれで落ち着いて話ができる。疲労と安堵からか座り込むベロニカはほうっと息を吐いた。

「みんな、ご苦労様。早速だけど、ちょっと情報交換しましょうよ」
「うむ。そちらの二人は拙者達以外の参加者には出会っていないのか?」
「ああ、それなら――」

協力して敵を倒した間柄というのもあり話は円滑に進んでいく。
リーバルとハンターを纏め役に五人は情報を交換した。その際リーバルたちはスーツ姿の男と敵対した事実を伝える。
最初こそウィリアムを殺した危険人物だと思っていたが、当の殺されたはずの人間の正体がアレだったのだから今となっては判別がつかない。
しかし実際にマールが撃たれたため要注意人物であることには変わりない、という結論に至った。

そして特に疲弊の大きいカミュが座り込みながらセフィロスについての事を話そうと口を開いた。
その時、らしくもなくそれまで押し黙っていたマールが絶叫交じりの声を響かせる。



「――ベロニカ、危ないっ!!」



どん、とベロニカの身体が押し飛ばされる。
ベロニカは勿論マール以外の誰もが状況を理解できず、反応が遅れた。
当然だ、理解できるはずもあるまい。今しがた確かに殺したはずの怪物が五体満足の姿で凄まじい速度で迫ってきていたのだから。
完全に殺したと確信していたためか、その場の誰もが肉塊から視線を外していた最悪のタイミングで――悲劇は起こる。

「え?」

間の抜けた声を漏らし唖然とするベロニカの顔に生温い液体が降りかかる。
自分が今さっきまで居た場所に視線を戻せば、そこにはさきほどとは比較にならぬほど醜悪な姿形を持つ怪物が。
そしてその肥大化した右手の爪は、金髪の少女を深々と貫き持ち上げていた。



□ ■ □


777 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:04:46 iUhL8ITQ0



正直に言えば、ずっと嫌な予感がしていた。
うまく言えないけどこのままだといけないっていう気持ちが心の奥底でへばりついて、不安だった。
多分、感覚としてはラヴォスにクロノが殺された時と似てるかもしれない。けどなんで今そんなこと思い出してるのかわからなかった。

でも、あの怪物を倒した時にその嫌な予感は一気に強くなった。
気のせいであってほしい、他のみんなを不安にさせちゃいけない。
そう思って誰にも何も言わなかったけど……だめだなぁ、私。そんなのよくないことなのに。

だから私はみんなが会話してる時も、あの怪物の死体に注意を向けていた。
確信はなかったけど、嫌な予感の原因はきっとあれだと思って。みんなで倒したのは私も見ていたけど、胸騒ぎは治まらなかったから安心しきれなかった。

そして、私は見た。
再生した怪物がベロニカへ走り出すのを。

私は何も考えないままベロニカを突き飛ばした。
だって、それしかできなかったから。私には武器もないし魔法も間に合わない。
ならこうやってベロニカを助けることしか出来ない。相変わらず無茶してるな、なんてクロノの声が聞こえた気がした。

あんなに素早く迫ってきてるはずの怪物がすごく遅く見えた。
スローモーション、っていうやつかな。今まで何度も危険な目には遭ってきたけどこんな体験は初めてだった。
けど、私自身が早く動けるわけじゃないから避けることはできない。だから私は怪物が攻撃するまでの少ない時間を全部思考に回した。


怖くないなんて言ったら嘘になる。
けど、後悔はしてない。だって目の前で人が死ぬ光景なんてもう二度と見たくないから。
クロノが死んじゃったあの時、私は頭が真っ白になって泣きじゃくった。本当に悲しかったし、自分に力がないことを心の底から呪った。
あんなに優しくて強いクロノがもういない。もう二度とクロノと話せない。そう思うたびに胸が張り裂けそうになった。
そしてそれは私だけじゃない。ルッカは弱音を吐かなかったけど、私より付き合いが長いからもっと辛かったはずなんだ。

そんなこと、もう二度と繰り返させない。
理不尽に誰かが殺されて、誰かが悲しむなんてあっちゃいけない。
世界は平和になったはずなんだから。もう、そんな危険に脅かされることなんてないはずなんだから。

無責任かな、クロノ。
私が死んだらきっと、ベロニカたちはすごく悲しむし苦しむよね。
色々と理由をつけたけど、結局は私……クロノの背中を追いかけたかっただけなのかもしれない。
だって私にとってクロノは一番の親友で、一番の憧れの人で、一番大切な結婚相手なんだから。

だから私、信じてる。
クロノならこんな殺し合い絶対止めれるって。
クロノのことだからきっと今も誰かを助けるために一生懸命になってるはずだから。
だからクロノ――――あとは、お願いね。



怪物の爪が私を貫いた。
とてつもない激痛に意識が飛びそうになる。
内蔵がズタズタにされて上手く声も出せない。ケアルガで治療もできなさそうだ。
涙が溢れる。その原因が痛みからじゃないっていうことにはすぐに気がついた。

薄れる意識の中で私は色んな記憶を思い出していた。
本当に色々あった。最初は千年祭に参加したくてお城から抜け出して、クロノに出会ったのがきっかけだったっけ。
それからルッカに出会って、時空を越えて、カエルやロボや他のみんなと出会って……そして、ラヴォスを倒して世界を救った。
そして一番最後に思い出したのはクロノとの結婚式。これから二人で平和に楽しく生きていくんだって、そう信じてた。


ああ、やっぱり。
後悔はないなんて言ったけど、私は――、




「――――しにたく、ない……なぁ……」




【マールディア@クロノ・トリガー 死亡確認】
【残り58名】



□ ■ □


778 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:05:11 iUhL8ITQ0



「あ、――あ、あ……!」

マールの死を間近に目にしたベロニカは動転を取り戻せず定まらない焦点で彼女の遺体を見る。
巨大すぎる爪に貫かれた胴体の大部分に風穴が空いていて一目で助からないと理解できた。
次に彼女が理解したのは目の前の少女は自分の責任で死なせてしまったということ。空白に染まる思考にその自責はしつこく絡みつく。
そしてベロニカは彼女のすぐ傍にいたため、不運にも彼女の遺言を耳にしてしまった。

――死にたくない。
最期に紡がれた彼女は何よりもベロニカの心を深く抉った。

物言わぬマールを怪物が投げ飛ばす。
べしゃり、トマトが潰れるような音を立ててマールだったものは白の床を鮮血で赤く染めた。
ベロニカに向き直る怪物は今しがたマールを殺した右腕を振り上げる。瞬間、一閃が怪物の右足に迸り巨体を揺るがせた。

「リーバル殿ぉッ!!」
「ちぃッ……わかってるよ!」

いち早くG生物と対峙しながらハンターがリーバルの名を呼ぶ。
呼び掛けに含まれた彼の意図を察したリーバルは速やかに翼を広げ、ベロニカの小柄な体躯を両足で掴み上げた。

「きゃっ!? な、なに――」
「うるさいよ、お喋りする暇なんてないって分からないのかい?」

表情こそ見えないものの発せられるリーバルの威圧的な声にベロニカは息を呑む。
普段ならば強気で言い返せていたかもしれない。が、今の彼女は精神的にひどく弱っていた。
ゆえに大した抵抗もできず、ベロニカはリーバルに連れられドームの上半分を覆うように展開された窓から飛び立った。
空は既に朝焼けに染まりつつある。暗雲に覆われた心と相対するような空を泳ぎながらベロニカは小さな嗚咽を零した。





779 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:05:29 iUhL8ITQ0


「無事、離れられたようだな……」

飛び立つリーバルらの姿を見送りハンターが安堵の息を溶かす。
続いてマールの遺体を見やり己の不甲斐なさを悔いた。よもや一度死んだモンスターが蘇るなど。
いや、心当たりはある。狂竜ウイルス――ゴア・マガラの翼から放出されるという正体不明の物質。
実際に目にしたことはないが、そのウイルスに感染したモンスターは狂竜化と呼ばれる状態に変化し一度命を落としてもより凶暴となって蘇るらしい。
あくまで噂程度と思っていたが、このモンスターは狂竜化に陥っていると言って間違いないだろう。

怪物、G生物の容姿はまるで別物へと変化していた。
首辺りから新たな顔が生まれ、膨張した筋肉が衣服を破り、人間の原型を留めていた下半身は皮が剥がれ色の悪い肉が顔を出している。
何よりも特筆すべきはその右腕。以前のものが可愛く思えてしまう程に凶悪な爪を見せつけるその腕は怪物の身の丈ほどもある。腕力で言えば恐らくあのティガレックスをも凌駕するだろう。

「最早容赦はせん。マール殿の仇、取らせてもらう」

円を描くように翳された切っ先はG生物へ。
彼なりの宣戦布告だ。片時も忘れることのなかった生物を殺すことで己を生かす感謝の気持ちはもうない。
今はただ、誰からの依頼でもなく己の感情に身を任せてこの怪物の命を奪おう。
そう決意するハンターの隣に、同じく瞳の奥を怒りに燃やすカミュが並ぶ。

「……俺はここに来る前に既に人を一人死なせちまってる。また目の前の人間を救えなかったんだ」

罪を告解するように震えた声を懸命に紡ぐ。
贖罪を聞き入れてくれる神父はここにはいない。が、隣には決意を示すべき人がいる。
カミュは皮肉屋を演じてはいるがその内に秘める正義感はこの場の誰にも負けていない。それを形にするべく、目の前の下手人へありったけの敵意を向けた。

「もう二度と俺の目の前で人は死なせねぇっ!!」

それを開戦の合図とばかりに三人は同時に駆け出す。
一人は仇討ちの為に。一人は犠牲を増やさないために。一人は衝動のままに。
三つの刃が火花を散らしたまさにその瞬間、放送までの残り時間五分を切った。


【A-5/研究所内/第一研究室/一日目 早朝(放送間近)】
【男ハンター@MONSTER HUNTER X】
[状態]:疲労(小)
[装備]:斬夜の太刀@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の討伐、または捕獲。
1.カミュと共にマールの仇を取る。
2.ベロニカ達とイシの村で落ち合う。
3.主催者の関係人物(イウヴァルト)を警戒する。

【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、MP消費(中)、決意、ベロニカとの会話のずれへの疑問
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、折れたコンバットナイフ@BIOHAZARD 2、ランダム支給品(1〜2個、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
1.目の前の怪物を殺す。
2.ベロニカ達とイシの村で落ち合う。
3.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
4.これ以上人は死なせない。

※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。

【ウィリアム・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:G生物第二形態、全身に裂傷と火傷(再生中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:本能に従い生きる。
1.目の前の二人を殺す。
2.シェエエェェリィィ……。

※身体にG-ウイルスを注射した直後からの参戦でした。現在は融合を続けています。

【全体備考】
※マールのデイパックは遺体の傍に放置されています。
※第四研究室内にウィリアムの支給品がありますが、倒れた機器の下敷きになっています。






780 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:05:51 iUhL8ITQ0


橋を渡るのを危険と判断したリーバルは海面スレスレを飛行し橋の向こうを渡る。
ハヤブサ並の飛行速度を持つリーバルならば研究所から五分以内で橋を渡ることなど造作もなかったが、ベロニカを抱えているためか到着すると同時にアラームが鳴り始めた。
急いでベロニカを橋の入口へ降ろし自身も翼を畳む。と、予想通りベロニカの幼い睥睨がリーバルを射抜いた。

「……なんでよ」
「なんで、というと?」
「とぼけんじゃないわよ。なんであの場から逃げたの!? マールが殺されたのよ!?」

涙を目尻に溜めて激昂するベロニカの心中は穏やかとは言えなかった。
当然だ。マールが自分を庇って死んだ上、仇討ちすら許されず無理やり逃走させられたのだから募る怒りは収まることを知らない。
一人ならば自分を叱責し詰めの甘さを嘆いていたかもしれないが、逃走を選択した相手が目の前にいるとなれば話は別だ。
とにかくこの現実を否定したいベロニカは烈火の如く怒りをリーバルへとぶつけた。

「……はぁ」

しかしあろうことかリーバルはその憤慨を溜息で受け流す。
心底呆れたような、馬鹿にしたようなそれにベロニカはかぁっと熱が入るのを感じた。

「なに溜息ついてんのよ……! はっきり答えなさいよ! この――」
「君さ、なんで僕に連れて行かれたのか分かってないのかい?」

予想外の反論にえ、と聞き返す。
今まさにその理由を聞いているのだから、分からないと答えるしかないのがベロニカの心境だ。
しかしここで素直に答えられるほどベロニカは大人ではない。ベロニカの沈黙を肯定と受け取ったリーバルは二度目の溜め息を吐き、ゆっくりと嘴を開いた。

「戦力外通告、ってやつだよ」
「せんりょく……え?」
「目の前であのお嬢ちゃんが殺されて、君は動揺して動けなかった。その結果一度殺されかけている。……自覚はあるだろう? 見たところ目の前で人が死ぬってことに慣れてないようだからね。あの後も冷静に戦えるかは分からない。現に今、怒りに任せて何をするか分からない状態に見えるよ」
「……だから、あそこから連れ出したってこと?」

そうなるね、とリーバルは素っ気なく返しボウガンの手入れを始める。
彼の言動はひどく気に食わないが反論できず言葉に詰まっているのも事実。
目の前でマールが殺されて、その遺言まで聞いてしまったベロニカは自分でもまともに戦える精神状態でないことは分かっていた。
きっと無理に突っ走って危険な橋を渡ろうとするだろう。マールに救われた命を無益に捨てる羽目になっていたかもしれない。
思考が冷静を帯び始めるにつれてあの時の情景が鮮明に蘇り始めて、がくりと膝から崩れ落ちた。


781 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:06:19 iUhL8ITQ0

「マール……なんで、なんでよ……!」

本来自分は死んだ身だ。だからこそ誰かの命を奪う権利なんてないし、仲間を守るためならこんな命惜しくないと思っていた。
それがどうだ。未来ある少女が死人の身代わりに命が奪われた――ベロニカにとって最悪の結末と言っても過言ではない。
交わした言葉も少なく、接した時間も短いがそんな限られた時の中でも彼女が心優しく気高い少女だということは知っていた。だからこそ、命を賭けて守らなければならなかったのに。

「……まぁ、その通告を受けたのは君だけじゃないけどね」

と、不意にかかる声にベロニカは涙ぐんだ顔を上げる。
そこには悔しげに歯を噛みしめるリーバルの姿があった。
そう、あの時ハンターがリーバルの名を呼んだのは何もベロニカを連れ出すことを指示しただけではない。リーバル自身もその場を離脱するよう呼び掛けたのだ。

「僕の矢は限られている上にあの怪物に対して効果は薄い。それにどうやらあの怪物も進化したらしい……だとしたら、矢を撃つだけ無駄だという可能性もあるだろう。悔しいけど、仕方ないさ。僕だって無駄に命を危険に晒すような馬鹿な真似はしたくない」
「……そう、……」

きっとリーバルも表に出さないだけで平常心など乱れきっているのだろう。
ベロニカには彼の言葉を肯定することも否定することも出来ず、ただ相槌を打つことしか出来なかった。
どんな言葉をかけても傷の舐め合いにしかならないのだから。下手な言葉はきっと彼のプライドを傷つけるだけだろう。
だからベロニカは何も言わずに立ち上がる。自分の意地を見せるために。

「おい、どこに行くつもりだい?」

リーバルの横を通り抜け、橋を渡ろうとするベロニカ。
だが当然ながらその行動はリーバルの一声に阻まれる。

「心配してくれてありがとう。それに、リーバルの言い分は正しいわ。けどね、私は元々死んだ身なの。マールの仇が取れるならこんな命惜しくないわ」
「……へぇ、なるほどね」
「そういうことだから……じゃあね」

意外にもリーバルからの制止はなかった。
無理矢理にでも振り切るつもりだったのですんなり承諾してくれてありがたい。そのままベロニカは彼に背を向け激闘の場へと足を運ぶ。
そうして二歩、三歩と靴を鳴らした刹那、ヒュンッという風切り音が彼女の頬を撫でた。

「えっ?」

何が起きたか分からない。
理解するよりも早く振り返る。と、そこにはボウガンを構えるリーバルの姿が。
まさか彼が撃ったのか。その事実は理解できても理由がわからないためベロニカは困窮に眉を下げた。


782 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:07:01 iUhL8ITQ0

「……勘違いするなよ。僕が君を心配してるだって? はっ、寝言は寝て言えよ。僕は君の安否なんて心底どうでもいいんだよ」
「なっ……なによそれ! じゃあなんで止めるのよ!?」
「自分勝手な君には一から説明しないと分からないようだね。僕は君をあの場から連れ出すよう頼まれたんだ。あのハンターって男にね。つまり、それが僕の役目だったというわけだ。……そんな僕が君をノコノコあの場まで向かわせてみろ。僕は言われたことも出来ない無能だと思われるだろうね」

リーバルから紡がれる言葉はひどく身勝手なものだった。
こっちの事情など知らない一方的な押し付け。しかしベロニカにとって盲点だった点が述べられている事実は揺るがない。


「――そんなの、僕のプライドが許さない」


言いながらリーバルは再びボウガンを構える。
その鳥顔の眉間には深くシワが寄り彼なりに荘厳な表情を浮かべているのだということが分かる。
それを見てベロニカは思い知らされる。ああ、自分は本当に人の気持ちを理解できていないな、と。

ベロニカに意地があるように、リーバルにもプライドがある。
ベロニカがマールの仇討ちをするという決意を持つように、リーバルもベロニカを危険に晒させないという使命を持っている。
とどのつまり結局は二人のわがままのぶつけ合いなのだ。そしてそれはどちらかが折れるまで続く。
暫し両者が睨み合う。数秒後、匙を投げたのはベロニカの方だった。


783 : TRIGGER ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:09:44 iUhL8ITQ0

「わかったわよ。あの場所には行かない。……それでいいんでしょ?」
「理解してくれて助かるよ」
「あなたに口で勝てる気がしないから。……それに、マールの仇討ちはカミュ達に任せるわ。あの二人、すごく強いもの」

カミュとハンターの実力はリーバルも知っている。
彼ら二人ならば勝てないことはあっても最悪殺されはしないだろう。
確かにバイキルトやヘイストなどの支援魔法が得られないことは大きいだろうが彼らは歴戦の戦士だ。ないものはないと割り切り、適切な行動を取る姿は容易に想像できる。

「僕は前に見た銃を持った男を探したい。あいつが悪党なのか真偽を確かめるというのもあるけど、見るからに危ないやつだったからね」
「なら、イシの村に向かいながら探しましょう。カミュたちとはそこで落ち合う予定になってるわ」

とりあえずの方針を決めた二人は研究所とは真逆の方向へ歩き出す。
相性が良くないためか向かう道中には沈黙が溢れていたが、不意にリーバルの方から声がかかった。

「そういえば君、さっき自分が死んだ身って言ってたよね」
「? ……そうだけど」
「あれ、どういう意味だい? まさか君も一度死んで蘇った、なんて言うつもりじゃないだろうね?」
「……信じられないだろうけど、そういうことよ。って、君も……って、まさか!?」

信じてもらえないだろう、と投げやりに答えるベロニカは逆に面食らうこととなる。
君も――まるで自分と同じく蘇った人間を知っているような口ぶりだ。というよりも、リーバルの態度を見ていると彼自身がその対象なのだと察せる。
疑問符を浮かべるベロニカをちらりと一瞥し、英傑は静かに見えぬ運営へと敵意を向けた。

「この殺し合い、僕たちの想像よりもずっと大きな力が働いているのかもしれない」

リーバルにしては珍しい弱気な言葉。
しかし、手段は不明であるがハイラル城という巨大な建物が転移され死者を蘇らせる技術を持っているのは事実だ。
二人の間に戦慄が走る。ウルノーガの脅威を知っているベロニカは余計にだった。
万能とも言える力を持つ相手に果たして勝てるのだろうかというベロニカの不安に反して、リーバルはただただ気に食わないという反抗心を膨らませる。
やがて二人が苦々しい顔で歩き出す頃には、放送開始を知らせるチャイムが孤島に鳴り響いた。


【B-5/橋付近/一日目 早朝(放送間近)】
【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、苛立ち
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×4、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:オオワシの弓を探す。
1.銃を持った男(錦山)を探しつつ、イシの村を目指す。
2.弓の持ち主を探す。
3.首輪を外せる者を探す。
4.ゼルダやリンク、他の英傑も参加しているかどうか知りたい。

※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。

【ベロニカ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP消費(中)、不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:ウルノーガを倒す。
1.リーバルと共にイシの村を目指し、カミュ達と落ち合う。
2.ごめんなさい、マール……。
3.自分の死後の出来事を知りたい。
4.カミュが言っていたことと自分が見たものが違うのはなぜ?

※本編死亡後の参戦です。
※仲間たちは、自身の死亡後にウルノーガに敗北したのだと思っています。


【支給品紹介】
【必勝扇子@ペルソナ4】
ベロニカに支給された扇子。元の持ち主は雪子。
魔法回避がやや上昇する効果を持っている。


784 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/18(水) 16:10:47 iUhL8ITQ0
投下終了です。


785 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:01:26 IELFUaLA0
かつて破棄した予約の分、ゲリラ投下します。


786 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:03:18 IELFUaLA0
「ホメロス、俺たちはどっちへ向かうんだ?」

ホメロスと花村陽介。
本来は永久に交わることの無かったであろう2人の人間は、殺し合いの舞台の中心地である公園に配置されていた。

中心にいるということは、つまるところどの施設に向かうことも出来るということだ。

西と東の施設に向かうには一面に広がる海によって渡れなくなっている。公園のある島は、北と南に設置されている橋でしか他の施設のある島と繋がっていない。
だがどこを目指すにしても、距離的に目指すのが困難な場所というのは存在しない。

北に行くか南に行くか、これはこの世界での自分たちの運命を左右する選択であると言えよう。

「南へ向かうぞ。」

それに対し、ホメロスは迷うことなくそう言った。
理由はシンプル。
北にイシの村が配置されてあるからだ。

この誰がどこにいるか分からない世界。イレブンをはじめとする元の世界での宿敵たちは、仲間との合流を図ってほぼ全員が目指す土地だろう。
南を目指す場合、彼らと出会うことを避けられる可能性が高い。

もちろん打倒ウルノーガのスタンスを貫くことにおいて、イレブンたちと協力する必要があることは理解している。
だが陽介と2人で彼らと会うことは危険だと判断した。


787 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:04:10 IELFUaLA0
故郷も第2の故郷も自分とウルノーガによって滅ぼされているイレブン。
警戒心が強く、協力するのが難しそうなカミュ。
その死に深く自分が関わっているベロニカと、彼女の死を最も深く悲しんでいたであろうセーニャ。
イマイチ掴みどころのないシルビア。
そして宿命の期間という意味では最も長いマルティナ。

グレイグはともかく、他の全員は陽介のように自分と冷静に話し合える相手だとは限らない。
自分の顔を見た途端に襲いかかって来てもおかしくはないだろう。そう言えるだけのことを自分はしてきたのだから。
また、ウルノーガと敵対するであろうことを考えると彼らもまた対主催集団を形成していてもおかしくはない。

では一触即発の相手と平和的交渉を成すための最たる手段とは何か──古来よりそれは武力であった。

向こうは向こうで集団を形成しているであろう中、こちらも同じように集団を作る。
そうして出会った時、自分と敵対すれば対主催集団同士のぶつかり合いというこの上ない不毛を招くというある種の『人質』を用いて協力を持ちかける。
勢力均衡による武力衝突の抑止──それがホメロスの狙いである。

「なあ、ホメロス。お前の話でひとつだけ気になった部分があるんだけどよ……。」

「どうした?」

ホメロスは陽介に自分の境遇を偽り無く話した。矛盾などは生まれるはずがない。

「お前……もしかして既に死んでるのか?」

「……ああ。ウルノーガの奴によって生き返ったらしいがな。」

そういうことか、とホメロスは面倒そうな顔をする。
そのプライドからかハッキリと『自分は死んだ』と口にしたわけではなかったが、陽介はその様子から直感的にそう感じ取った。

「まじかよぉ……。ウルノーガの奴、人の生き死にまで自由自在だってのかよ……」

凡そ人智を超えた何かの存在に陽介は悪寒を覚えた。仮にこれがペルソナについて知る前であれば、急激な尿意に襲われていたことだろう。

「奴が何だろうと関係ない。俺を蘇らせたことを後悔させてやるさ。」

対するホメロスは、陽介の中でウルノーガの株が上がったことに不服な様子を見せた。


788 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:05:14 IELFUaLA0
「死ぬのって……どんな感覚なんだ?」

「……馴れあうつもりはないと言っただろう。お前もいずれ分かる。それがこの世界でないことを祈っておけ。」

「ああ、そうかい。」

ホメロスの澄ました態度はどこか気に食わないところもあったが、陽介はそれ以上突っ込むのはやめておいた。
どこか深入りして欲しくない雰囲気を感じ取ったのもある。

そしてそれからはしばらく、無言の時が続いた。
ホメロスは馴れあうつもりはないと言うだけあって気にかけている様子は無さそうだったが、陽介は無言が辛い性格である。
どこか気まずくなり、 口を開こうとしたその瞬間であった。


(──ごめんね…………)


音にならない声と共に、一体の影が陽介の身体を引っ張った。

「うおっ!?」

襲撃者──ミファーの不意打ちに抗えず、陽介は橋から足を滑らせる。
橋に向けて伸ばした手は虚しく空を切り、陽介の身体はポチャンという心地良い水音と共に闇の中へと引きずり込まれて行った。

「おい、陽介!」

何が起こったかを即座に把握したホメロスが叫ぶ。

水からの奇襲、それは以前ダーハルーネでカミュを人質に取った際にもしてやられた手段である。
お前はウルノーガの配下だった頃から何も変わっていないと、何かしらの大きな存在に囁かれているような錯覚に襲われた。

(否……俺は、あの頃とは違うッ!)

内なる声を振り払い、目の前の現実に目を向ける。
陽介の救助に間に合うかどうか──恐らくは絶望的だ。
わざわざ海に落とすところを見るに、相手はマーマンなどの自然系の魔物か、そうでなくとも水中戦を得意とする者だろう。
陽介を助けるために自らも海に飛び込もうものなら相手の思うツボだ。

(ちっ……情けないものだ……他の参加者より優遇されておきながら、人間ひとり守れないとはな……)

ウルノーガの嘲笑う声が聞こえた気がした。
ウルノーガは自分の力を認めているなどと言いながら、子供の手を引く親のように自分の支給品に使えるものばかりを入れていた。
そのような待遇を受けておきながら、この体たらくである。
ホメロスのプライドなど、保たれるはずもない。

(待てよ……支給品……?)

そんな時、支給品の中のひとつの道具をホメロスは思い出した。


789 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:06:53 IELFUaLA0




(さて、まずは1人……)


陽介を水中に落としたミファーは、最も失敗しやすいこの奇襲の第一段階が成功したことにひとまず安堵する。
陽介を狙ったのに深い理由は無い。ただ陽介の方が位置的に狙いやすかった……陽介の運が無かったというだけだ。

水中に落としたのなら後は殺すだけ。陽介がどれほど戦いに精通している者だとしてもゾーラ族の中でもトップクラスの実力者である自分に水中で勝てるはずがない。

支給された短刀、龍神丸を手にする。心臓に一突き、それで勝負は決する。陸からはある程度の距離を取っているため、もう1人の男がこちらの邪魔をするのであれば向こうも海中に入ってこなくてはならない。そして海中に入って来るのであれば、それこそミファーの絶好の獲物だ。

ミファーは急速に接近し、龍神丸を振りかざす。

「ごめんね、貴方に罪はないけれど──」

ミファーは今から殺す陽介に目を向ける。
その顔からは、怯えていることが痛いほど伝わってきた。

そしてミファーはその顔を知っていた。
厄災ガノンに怯えるハイラルの人々も同じ顔をしていたからだ。
そんな人々を脅威から解放するために修行を積んできたはずなのに、今や自らが脅威と化している。

こんなはずではなかったと心は嘆く。
英傑としての正義感も倫理観も、殺しに走るミファーを止めようとする。

だけど、ミファーには止まれない理由がある。

「──これは、彼のためだから……」

この殺し合いにリンクが招かれている。
たった1人しか生き残れないのなら。
そしてその1人は本来何十人もの命を背負わないといけないのなら。


──私がすべて背負って、あなたの闇となる。


ミファーはそのまま、龍神丸を陽介の心臓に向けて突き出した。





790 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:07:35 IELFUaLA0

「──これは、彼のためだから……」

人を殺す決意を固めるための言葉を、陽介は聞いた。

それを聞いて、陽介は思った。

──勝てない、と。

彼のためと言っているところを見るに、この少女は"彼"を優勝させようとしているのだろう。"彼"とやらに生きていてほしいがために、"彼"を生かして死ぬつもりなのだろう。

それほどまでに、"彼"のことを想っているのだろう。

他人のために自らの命まで捧げる覚悟──陽介にはミファーが羨ましく、そして眩しく見えた。

──ドラマのような恋がしたかった。

人を心から好きになり、相手のためならば見返りを求めない、そんな恋愛。
誰もがそれを純愛だと讃えるような恋がしたかった。

先輩が殺されて、その手がかりがテレビの中にあると知った時は、先輩の仇を取りたいと言って迷うことなくテレビの中へと飛び込んだ。

だが自分のシャドウに本心を伝えられ、真っ向からそれを否定された。
自分は退屈な田舎暮らしに刺激が欲しかったに過ぎなかったのだ。

事実、小西先輩がテレビの世界で殺されてからもなお、自分の世界は大して変わることなく動き続けていた。
ただ心のトキメキを感じさせる事象のひとつが無くなったに過ぎなかった──否、むしろペルソナという新たなワクワクの扉を開いたことで充足感すら覚えていた。

陽介は、それが自分の持つ恋愛観だったのだと思い知った。

自分はこの少女のような決意は出来ない。
この少女に説き伏せるに足るだけの恋愛観を陽介は持っていない。

この少女に、自分は勝てない。


791 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:08:50 IELFUaLA0
(だけど……だけどよお……)


龍神丸の刃が陽介に迫る。


「だったらなおさら……死ぬ訳にはいかねえよなぁ!」

「なっ……!」

龍神丸が心臓に届く寸前。
陽介は震える両手を心臓の前方に構えた。
英傑としての腕力と龍神丸の殺傷力が相まって陽介の両手を貫くも、そこで止まる。陽介の心臓にはギリギリ届かない。

「ぐっ……離し……」

「離す……もんかよ……!」

ミファーは一旦龍神丸を陽介の手から引き抜こうとするも、陽介は龍神丸の刃を掴んで離さない。刃を握りこんだことでさらに陽介の手のひらから流れ出る血液が、闇のように暗い海を赤く染めていく。

陽介を突き動かしたもののひとつ、それは意地であった。
ミファーはかつて自分が憧れた恋を実践している、言わば眩しい女の子だ。対比的に自分が浅ましくすら思える。殺し合いに乗っていない自分は倫理的に見れば正しいはずなのに、だ。

"彼"──リンクのことを陽介は知らない。
だが"彼"とやらが、ミファーが命を張って築き上げた屍の山の上でミファーの屍に感謝しながら優勝者の特権を貪るような男であるのなら、そんな男はクズだ。ミファーのキラキラな恋心を向けられる資格などない。

"彼"がそんなクズでないのなら、ミファーの行いは自己満足にしかならない。少なくとも自分は小西先輩にこのような献身は求めていなかった。

ミファーの言葉からかつての自分の理想像を連想してしまったからこそ、ミファーの行いがどう転んでも悲劇に繋がるのを黙認など出来ない。
ここで易々と殺されるわけにはいかない。

だがいくら陽介がもがこうとも、海中で陽介がミファーに勝てる要素はない。そしてミファーは決して陽介に陸に上がる余裕を与えない。
陽介の抵抗は本来、死期を遅らせることにしか繋がらない。


「──ドルモーア!」


しかしそれは、陽介が独りの場合である。
乱入者にして第三者、ホメロスの唱えた闇の呪文がミファーを襲う。

闇とはすなわち、光をねじ曲げるほどの重力。ドルモーアの闇の力が攻撃対象のミファーを魔力の中心に引きずり込まんとする。

(もう1人の男の乱入……!?何にせよこのままでは……致命傷は免れない……!)

そう判断したミファーは仕方なく、未だ陽介が掴んで離さない龍神丸を諦めドルモーアの攻撃範囲から咄嗟に離れる。

そして得体の知れない呪文という水中での攻撃手段を持つホメロスを沈め、窒息死させようと計る。
陸地から離れた自分を、陽介を巻き込まずに正確に攻撃するには、ホメロスも水中に入っているのだろうとミファーは考えた。


792 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:09:47 IELFUaLA0
しかしその計画は、実行のためホメロスのいる方角を視認した瞬間に諦めることとなった。ホメロスは水の上に氷の足場を生成して立っていたのだ。
これで水中というミファーの強みは半ば失われたに等しい。

ここでのミファーの誤算はホメロスの持つ『シーカーストーン』を考慮に入れていなかったということ。ホメロスはシーカーストーンの持つ機能の一部、アイスメーカーの力を用いて海上に陸地を作りながら陽介の襲われている場所に辿り着いたのだった。
とはいえミファーの知る限りではシーカーストーンを使えるのはリンクだけであるし、アイスメーカーの機能もミファーのいた頃にはまだ開発されていなかった。そしてそもそもホメロスの持つシーカーストーンに気づいていなかったため考慮に入れること自体不可能だったのだが。

海に陸地を作る得体の知れない力を前に、これ以上戦うのは危険だとミファーは本能的に察する。
ホメロスに背を向けると、水底に潜っていって逃げ出した。

陽介に刺さった龍神丸を回収出来なかったのはこの先を考えると痛手ではあるが、言うまでもなく生き残る方が優先だ。
最悪凶器がなくとも、海の中に数分間沈めておけば人は殺せる。

ミファーは再び、闇の中へと沈んでいった。





「おい陽介、無事か!」

アイスメーカーで陽介の足場を確保して、ホメロスは陽介の元へと駆け寄る。

「無事じゃ……ねえ……。いてぇんだよこれ……!」

両手に刺さった龍神丸は、海水に浸かっていたこともあってまさに傷口に塩状態であった。

2人は同時に3つまでしか作れないアイスメーカーの足場を移動しながら生成し続け、元の橋の上に戻る。

「いってぇ……ったく……殺し合いなんて冗談じゃねえぞ……。」

「……命があるだけ幸運だったと思え。」

龍神丸を引き抜き、陽介に最低限の応急処置を施しながらホメロスは言う。最下級の回復呪文であるホイミくらいは最低限習得していたのだが、部下を捨て駒のように扱ってきたこれまでの戦闘ではほとんど扱ったことはなかった。

そのためホメロスは回復魔力があまり成長していない。
また、この世界では回復効果が制限されていることもあり、効力はかなり薄いようだった。
しかしそれでも最低限手を動かせるくらいまでには回復したようだ。


793 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:10:32 IELFUaLA0
「なあ、ホメロス。」

自分の回復呪文方面の疎さを考えてもなお、傷の治りが遅い。この世界は回復効果が鈍っているのか?
そんな考察をしているホメロスに、陽介は話しかける。

「俺って、生きているんだよな……。」

先の戦いで、痛みに耐えながらもミファーの繰り出した刃を掴んで離さなかった陽介を突き動かしたもののひとつが彼の意地であることは間違いなかった。

しかし、そんなものより強く、陽介を突き動かしたものがある。

「なあ……死ぬのってさ、怖いんだな……。」

それは死への恐怖、或いは生存本能とも呼ぶもの。
陽介がいま両の足で大地を踏みしめているのは奇跡などではなく、彼が生きようともがいたからに他ならない。

(死ぬのが怖い、か……。)

対するホメロスは思い出す。自らの最後の光景を。



(──お前こそが……俺の光だったんだ……。今の俺があるのはお前のおかげだ。ホメロス、何故それが分からぬ。)

(──グ…グレイグ……。)

全てに気付かされたあの時に強く、強く湧き出てきた感情。
もっと、言葉を発したかった。
もっと、何かを伝えたかった。
そのためにももう少しだけ──生きたかった。



「ああ、そうだな。」

ホメロスと陽介の生きる世界は全く異なる。
戦いの在り方も異なる。
善悪という区切りさえも異なる。

だけどその根底だけは、どこか繋がっている──馴れ合いなど真っ平御免だが、その時ホメロスはそう感じた。


794 : 生と死の境界 ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:11:13 IELFUaLA0
【D-4/橋/一日目 早朝】

【ホメロス@ドラゴンクエストXⅠ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]:虹@クロノ・トリガー
[道具]:シーカーストーン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド モンスターボール(ジャローダ)@ポケットモンスターブラック・ホワイト 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:打倒ウルノーガ
1.絶対に殺してやるぞ……!
2.自分の素性は隠さずに明かす


【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]:両手に怪我
[装備]:龍神丸@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と共に完二の仇をとる
1.とりあえずホメロスについていく
2.死ぬの、怖いな……
※参戦時期は少なくとも生田目の話を聞いて以降です
※魔術師コミュは9です(殴り合い前)


【D-4/海中/一日目 早朝】

【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、0〜2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させ、ハイラルを救う
1.海を移動し、不意打ちで参加者を殺して回る。
2.呼ばれたのは私とリンクだけ……?


※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。


795 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/18(水) 23:11:34 IELFUaLA0
投下終了しました。


796 : ◆vV5.jnbCYw :2019/09/21(土) 18:28:58 KfLA.E8o0
カイム、マルティナ、ミリーナ予約します。


797 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/21(土) 18:38:52 aMzIGc/I0
セフィロス、イウヴァルト、ソリッド・スネーク予約します


798 : ◆vV5.jnbCYw :2019/09/23(月) 01:14:36 xqrSQvJU0
すいません。796に追加でエアリス、ゲーチス予約します。


799 : 名無しさん :2019/09/24(火) 00:45:29 iV2/dqyc0
>> 輝け!月下の歌劇団☆
ザックスはバカなんじゃなくて、誰に対しても本気でぶつかってるんだろうなってところは感じた。
美津雄を守ってやると宣言してたけど、他者の凶行から美津雄を守るってだけじゃなくて、
美津雄にもう道を誤らせないって意味でも守ってくれてるんだよね。
貴音にガン飛ばしたのって、覚悟問うてるんだろうけど、全員の面倒見切れないから美津雄を優先したのかな。

貴音の不運なところは、765プロで春香の死体を見つけたところもあるんだろうけれど、
ザックスが二番目に出会ったところってのもあるんじゃないかと思ってしまう。
美津雄より先に会ってたら、ポジション入れ替わってたんじゃないかなあって。

かっこいいのはザックスなんだけど、応援したくなるのは美津雄なんだよなあ。
しっかり内面のどうしようもなさをここまで入念に書いてくれてるからこそ、
> 「――出来るわけ、ないだろ……!」
のところでにやにやできてしまう。

>> 親友と心の影(シャドウ)
ホメロスがグレイグへの劣等感も含めて律儀に経歴全部話してるとか、よく考えたらシュールだわ。
美津雄にはにやにやできるけど、ホメロスにもにやにやできるよね。
実は共通点多いんじゃないかと思えてしまう。
初手から相手を間違えたかも、というけれど、共感を持ってくれる相手と最初に会えたと考えると間違いではないよね。
ホメロス自身がそこそこ優秀で劣等感の塊なだけに、いきなり完璧超人に会うよりも気が楽だと思うぞ。

> 断じて善意からの行動ではない
これ、善意の有無は陽介の言うとおりだとして、
でもグレイグは善意100%でウルノーガ打倒に動くよねと考えると、このセリフやっぱり面白すぎるだろ。

>> 破壊という名の何か
タイトルはセーニャのことなんだろうけど、それよりカエルの惨めさが際立ってしまう……。
初登場時は一筋縄ではいかない曲者って感じだったのに、一気に転落したもんなあ。
殺戮衝動に身をゆだねたセーニャは怖いだろうけど、動き自体は単純そうに見えるし、
カミュと渡り合ったカエルなら絶対殺しきれる相手だったと思うんだわ。
となるとだいたいセフィロスのせいで、全然出番ないくせに存在感でかすぎる。


800 : 名無しさん :2019/09/24(火) 00:46:15 iV2/dqyc0
>>  Don't forget it is the Battle Royale
タイトルを自分で翻訳すると『お前らこれバトロワなんだぞそこんとこ覚えとけ』になった。
このタイミングでこのタイトル見ると大前提を再度提示されたような気分になってしまうw
起だけ、承だけ、転だけ、次は次の人に任せるスタイルの話は15年くらい前はよく見かけたよなあ。

シンプルで短めな話は、緩急って意味であると読みやすい。
ただ、出来事はシンプルだけどそこに至る描写はガッツリ描いてて、キャラ初見の人への親切さは抑えてるよね。

>> Danger Zone
このロワ、他人にコンプレックス持ってる人多くない?
最近の話でそういうキャラが立て続けに出たからそう思えるのか、本当にウルノーガがそういう人物を多めに呼び寄せたのか。
とはいえ、錦山は今のところ現実を認識した上で堅実に立ち回ってるって印象。胆力が高くてそれが存分に発揮されてるんだろうと思う。
あっさり切り抜けてるように見えるけど、これ判断間違ったら二回くらい死んでるだろうと思うもの。
G生物がヤバそうに見えるのは得体の知れなさのせいかなあ。
たとえばFF7キャラならこういうのと戦ってるから、違った印象受けるんだろうなあとか思ったりする。

>> その男、龍が如く
桐生がかっこよく書かれるのが確定されたようなタイトルだよね。
真正面からこういうのをどんと提示できるのは素直にすごいと思う。
生き残ったのはA2だけども、スペック差の勝利以外に言いようがなくて、殺し合い運びは桐生が完全に支配してたと思うんよ。
A2だって中途半端な覚悟で殺し合いに乗ったわけじゃなかろうに、それを初戦からいきなりばっきばきにへし折るのは魂の格を見せ付けてくれたなあって感じ。
でもさ、桐生かっけえの余韻をトウヤがぶち壊してしまったような……。
正直、この人間二人が規格外すぎて、A2が引き立て役に収まってしまった印象があるかも。

オタコンの判断って状況的にしょうがなさすぎるんだけど、シェリーに渡されたダイケンキを勝手に渡したのはイメージ悪いよな。
シェリーがモンスターボール持ってたら、トウヤとポケモンバトルして一方的にボコボコにされて強奪されてたんだろうが、
そっちのほうがマシだったろうなあと、すべて終わってからだとそう思う。
あと桐生死んで影響受けそうな人多すぎて、結果としては先行き不安ばかりが残っちゃってるよね。

>> 奪う者たち、そして守る者たち
話の流れがとてもロジカルで、こういう理由だからこう動いたってのがとても分かりやすい。
雪子が体を張って千早を守る理由とか、歌ってるだけの二人を襲撃する理由とか、チェレンがやけに好戦的な理由とか、
なんでこう動いたの? ってのがしっくり来る理由付けがされてると思う。
その上で四人ともしっかり存在感があるあたり、構成が上手なんだろうね。
クラウドが千早を見逃したのも、当初のスタンスからはずれるはずなのにしっくり来てしまう心の不思議。
ザックスが貴音に覚悟問うたのとちょっとリンクさせてるのかな? ちょうど向こうも千早名乗ってたしね。


801 : 名無しさん :2019/09/24(火) 00:46:48 iV2/dqyc0
>> 迷える者たちの邂逅
このロワの該当作品ってDQ11とクロノ以外未プレイなんだけどさ、
その立場から見ると錦山は自己評価低いだけで、しっかりとした任侠だと思うんだよなあ。
彼の見栄も臆病さも別に恥ずかしいものじゃなくて魅力のひとつに見えてしまうんだけどどうなんだろう。
千枝とシェリーの場所が入れ替わったとしても、少なくともこの会場では桐生と錦山に優劣はなさそうに思える。
きっちり自分の力量を知った言動ができてるのは、どちらかというと好感が持てるし、頼れそうだと思うのよ。
しかしここ、本当に邂逅だよね。
もう一方の組にしても、どっちも姫の立場の人間にかかわり持ってて、かつ行き場所がハイラル城ってのは、まあうまいこと分けたなあって思ってしまう。

>> Bullet & Revolver
オセロットのキャラが本当につかめない。ちょっと調べただけじゃさっぱりだ。
バレットが疑ってなかったら本当にただのガンマニアにしか見えないんだけど。
バレットの名前聞いて面白がるっていう約束されたような展開は笑ってしまう。

オセロットって何考えてるかは本気で分からないけど、バレットのことそんなに嫌いじゃなさそうに見えるかな。
バレットの素直な返答にオセロットが洒落の効いた返しをするのは読んでいて嫌いじゃない。

>>  6つの『B』
こういう複数の単語をキーにひとつの作品をつくれるって手腕はほんとすごいよね。
どこかで言われてたけど、場所も6Bなんでうまいと思う。
それぞれが異なる視点からイウヴァルトのウソを見破ったのはさすがだと思うけれど、
カイムがゲームに乗るだろうということも見越した上でウソをついたなら、イウヴァルトは相当な策士だと思う。ただ、
> まあ、どうでもいい。奴も『危険人物』にすればいいだけだからな。
の発言を見るにノープランっぽさはあるかなあ。
イウヴァルトはまだ大きなポカはないから、頭脳派になれるかなんちゃって策士になるかは次の動き次第か。

>> 命もないのに、殺し合う
すっごいウィットに富んだタイトルつけてくるなあ。とてもしっくりくる。
トウヤに人間味がないね。
A2のダイレクトアタック喰らいかけても微塵も動揺してないところとか、ダイケンキをただの道具扱いしてるところとか、
A2の死を看取った上でそれでもバトルへの期待を前面に押し出すところとか、自分も含めた命に興味なさそうなんだよね。
命のないはずのアンドロイドのほうが生き足掻いてるのがものすごい皮肉。
A2とトウヤで、人間とロボットのステレオタイプ的なイメージを逆転させて書いてるんだろうなあと思った。


802 : 名無しさん :2019/09/24(火) 00:47:18 iV2/dqyc0
>>  Day of the future
9sがアイデンティティで悩んでるけど、美樹が傍にいるのは大きな支えになりそうだね。
千早も春香もだけど、みんなに前に進む元気を与えるのがアイドルなら、彼女らの振る舞いはちゃんとアイドルやってるなって思うわ。
アンドロイドと人間に差はなさそうだって結論にも感性でたどり着いた感じがあるし、
理屈派っぽい9sとのバランスがうまく取れてるんじゃなかろうか。
しかしあの論、A2が戦闘面でも精神面でも人間とアンドロイドの差の小ささを提示してくれた直後なだけに、まったく正しいよね。


>> 優しいだけじゃ守れないものがある
バトルロワイアルについて、『大乱闘』を穢すって表現するところ、おおっ と思った。
ガワだけ似てる別物って解釈は言われればその通りだけど、目からウロコだわ。
彼の対主催ぶりは見てて気持ちいいからしっかり貫き通してほしいと思ってしまう。

アイマス出身者たちがアイドルやってるのに対して、貴音は一般人やってるなあ。
一番一般人離れしてそうな貴音が一番一般人っぽくなってる逆転現象。
ソニックは貴音を救えるのか、それとも零れ落ちてしまうのかは気になるところ。

>> 魔王の葛藤
魔王がギリギリで踏みとどまった感じだな。
一人殺してから、実はクロノが会場にいましたはシャレにならんもんね。
シルビアとサクラダに会ったときはどれだけ心労かかるんだろうと思ってたけど、思ったよりもシリアスさんが留まってた。
シルビアがマジメにやれば必然か。雰囲気がオネエなだけですごい頼れる人だしね。
ガワだけならイロモノ四人組だけども、思ったよりもバランス取れてそうなパーティになったなあ。
真剣な話、一番先行き不安なのってオトモな気もしてきた。現状を正しく認識してるかどうか怪しい。

>> 金と銀のカギ
ポップコーンをポリポリ食べて寸評するのがなんか癒しw
マナの出てる映画、多分リアルタイムで本人なんだろうな。そっちのほうが雰囲気出るからそう思っておきたい。
脱出のカギとしては分かりやすすぎるのが怖いね。
主催側に裏切り者でもいるのか、それとも罠なのか、あるいははじめに見つけた人のための戦力増強のギミックなのか、
今のところ判断つかないや。どっちでもいけそうよね。
オーブの技ってどれも強力でトリッキーなんで、手数広げる意味では有効そうなギミックだわ。


803 : 名無しさん :2019/09/24(火) 00:47:44 iV2/dqyc0
>> 時に囚われし者たち
グレイグってこんなやつだよなあ。
ぶっちゃけ人を見る目ないし人の気持ち察するの苦手だしウソに踊らされやすいし後悔に引きずられまくるけど、絶対真正面からぶつかっていくやつ。
ゼルダが姫と速攻で分かったとたんに臣下モードに入るの笑った。
ゼルダがゲームに乗ってても、彼女の心を不器用ながら彼なりに受け止めようとするのがらしいと思った。
ゼルダの偽装自殺に引っかかって逆に刺されるのは、グレイグなら仕方ないだろうなあと思った。
後悔にまみれて、贖罪のために、命を投げ打ってでも近しい人を救おうとするのは、最後の砦のときのグレイグの生き方に少し重なった。
ゼルダはグレイグを殺した重みに押しつぶされかけたんだけど、
錦山がいなかったら千枝がこの道をたどることになったのではと思うと、すごく綺麗に明暗分かれた感じがするし、
錦山の先見の眼すごいなって感じで彼の株が上がった気がしてしまう。
グレイグの遺言はマイナスに作用したけど、覚悟完了したゼルダはそれはそれで魅力的になった感じがあって好きだよ。

クロノは一人蚊帳の外、しかもこの状態でマールだのカエルだのといった仲間たちが呼ばれるとなっては心中察して余りある。
果たして再起できるんだろうか?

>> ゴローン?
頭空っぽにしてフィーリングで読めるから、すごく読みやすかった。
岩タイプっぽいのはなんとなく分かるけどさあ、ゴローンはねえだろw
オコリザルかダーテングのほうが見た目は近い気がするよ。
レッドは殴り飛ばされても仕方ないことやってるはずなのになんか打ち解けちゃってるのすごいな。
ダルケルのほうは完全に毒気抜かれてゴローン関係の抗議しかできてないのは笑える。
イレブン、レパルダス、レッドと話通じない相手ばかりで心労ひどそうw
レパルダスはレパルダスでまたしてもかませのチンピラみたいなポジションだし、こいつまさか次もそんなポジションにされるのでは?

>> We're tied with bonds, aren't we?
カエル、いいキャラしてたなあと思うんだよ。
初回の曲者感とか、ステルスマーダーやってるのに非情に徹しきれない甘さとか、人生うまくいかないを体現したような転落振りとか、独特の味がある感じ。
悠とピカチュウのここは俺に任せて先に行け→助けに来たぜ、もアツいんだけど、カエルに全部持っていかれた感じがあるの。
人道も名誉も捨ててしまえ、からのお前の名前を言ってみろは鳥肌立つくらいかっこいいと思うのよ。
バトロワでさえなかったら、ロボは正気を取り戻してる展開だよなあ。
結果的にはカエルは道化だったけど、最後にロボが正気を取り戻しかけたことだけが救いで、ここになんともいえない余韻があって好き。


804 : 名無しさん :2019/09/24(火) 00:48:18 iV2/dqyc0
>> 夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ
イレブン、書くの楽しいけど難しいんだろうなあ。彼の恥ずかしいバリエーションは結構考えるのホネでしょw
よくこんだけいろんな恥ずかしさを思いつくなあ。
ほんわかコンビではあるけれども、イレブンは現実を受け入れる覚悟はありそうだね。というか世界崩壊経験してそれがないわけないか。
すごくどうでもいいけど、イレブンは結婚してないのね。
いきなり結婚するのはやっぱり恥ずかしかったんだろうか。

>> ささやかなふれあい
リンクはチョコボの扱いも得意そうだなって思った。しっかり乗りこなすところが想像しやすいキャラだわ。
このチームは安定してるね。戦力も機動力も充実してるし、不安要素も少なそう。
雪歩が積極的に話しかけてるあたり、食事のころと比べても随分打ち解けたなあって印象。
Nの城で留まるにしろ、765プロに行くにしろ、今のところは大きな違いはなさそうかなあ。
他の参加者の動向次第って感じ。

>> Heartless battle
無情なる戦い/心臓ないヤツとのバトル
どう見てもゾンビです、胸に穴空いたまま動く人間がいるわけないだろw
シェリーとかクレアが見たら一発でゾンビ認定すると思うわ。
遥とアリオーシュの恐怖の追いかけっこになるのか、バレットが乱入して宝条戦みたいなバトルになるのか、
どっちにしろ面白そうな展開ではある。
しかし、またもバレットの名前で遊ぶオセロット、やっぱりこの人バレットの事気に入ってるよね?

>> TRIGGER
こっちでも一足先にG生物との追いかけっこが……。
第一研究所までの逃走劇は、倒せないボスから逃げ回るイベントみたいで情景を想像しやすいね。
アリオーシュも初見殺しだけど、こっちはそれ以上に初見殺し極まってんなあ。
腐った焼き肉がいきなり完全復活して第二形態に変身とか想像できるわけないだろう。

マールの殺害シーン、たまたまマールを狙いました、でも矛盾は起こらないんだけど、
マールの勘のよさに裏付けを与えてるあたりに、キャラの背景ひとつひとつを大事にしようとしている感じがあると思う。

あと、リーバルのキャラが面白い。
自分の弱みを知っている慢心キャラってあまり見かけないから新鮮に感じる。
攻めるべき時も引き際も弁えてるし、弁も立つし、生き残る力高そうで気になるキャラだわ。


805 : 名無しさん :2019/09/24(火) 00:50:06 iV2/dqyc0
>> 生と死の境界
ホメロスがしっかり軍師の考え方してるなあって思った。
一方で海中からの攻撃のことすっかり頭の隅に追いやってるポカさを見ると、ウルノーガが優遇してくれたのに説得力があってつらい。

ミファーのスタンスについての陽介の見解が、『勝てない』なのはかなり新鮮。
てめえの自己満だろとか、そんなことしても喜ばない、とかはよく見るんだけど、羨ましいとか眩しいってのは独自の立ち位置を築いてるなあって思ってしまう。
その上でミファーを説得するんじゃなくて自分が死なないことで彼女の過ちを結実させないようにつとめるってのも新しい観点だなあって思うよ。
死ぬのが怖いっていう思いに対するホメロスの見解、どうして怖いのかの根拠も違ってそうなんだけど、
それでもなんか通じあった感じがするところ、すごく読後感がいい。


806 : ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:52:00 WUpwpBKE0
全話感想ありがとうございます。楽しみに待ってました。
個人的に「あ、こういう感想書いて欲しかったぜ」みたいなことを書いてくれて嬉しかったです。
「6つの『B』」や「命もないのに、殺し合う」の部分とか特に。

では投下しますね。


807 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:52:42 WUpwpBKE0
キメラの翼を使ってソニックを振り切ったマルティナは、一人で空き家のボロ椅子に座り、ぼんやりと虚空を眺めていた。
そこは、カームの街の一軒家。
魔晄エネルギーをミッドガルから供給しているこの街は、空き家や外壁など、他の相手から隠れるのに適した場所だった。

別に戦いで疲れたわけではない。
あの戦いは明らかにソニックに殺すつもりがなかったし、前の世界でこれ以上に激しい戦いもざらに経験していた。

だが、あの時と違うことがあった。
自分が今行っている戦いが、正しいのかどうかということ。
かつての魔王軍との戦いは、一度も自分が間違ったことをしているとは思わずに戦えた。
魔族は自分達人間の敵で、そして私は人間の為に、長年ウルノーガに操られた父の為に、そして何より、イレブンの為に戦うことが出来た。


(――アンタの事情はよく知らないけど、ハッキリ言うぜマルティナ。
灰色の心じゃ、オレの速さにはついてこれない)

ソニックに言われた言葉。

彼女は分かっていた。
自分がこの世界で戦うのを彼は望んでいないことを。
だからといって、彼がその優しさ故に殺されることを、許さなかった。


(いいや違うね、無くしたくない物がまだあるんだろう?ならそのやり方じゃダメだ。アンタが分からないならそれでもいいさ、オレが教えてやる。だからこのゲームを一緒にぶっ壊しに行こう)


確かに、違うやり方もある。
だが、それはイレブンを捨てることにつながる可能性もある。
例えば自分が見逃した相手によって、彼が殺されれば、どうすればいいのか。
自分を汚すことで、彼が生き残れる可能性が数パーセントでも上がる方法があるなら、勿論その手段を選ぶ。

だから、決断しなければならなかった。
自分の使命を全うするか、ソニックの言われたことに従うか。
勿論、言われるまでもなく前者だ。
この世界で新たに会えた存在が、悩んでいる自分の前に代替案を出してくれたからといって、ゲームに乗るのをやめるなら、イレブンへの想いもその程度ということになってしまう。


光鱗の槍を握り締め、立ち上がる。
その槍の持ち主もまた、想い人の為に戦おうとしているのは何かの皮肉だろうか。


808 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:53:13 WUpwpBKE0
(……。)
丁度その時、街に足跡が響いた。
ザリ、ザリ、と石畳を引きずるような音が近くなる。
どうやら、新たに敵が現れたようだ。
誰かは分からないが、戦うしかないだろう。


(!?)
外へ出ると、巨大な剣が襲い掛かってきた。
体を捻らせ空中で一回転、迫り来る剣を躱す。

マルティナは一瞬剣が単独で襲って来たかのような錯覚に襲われた。
なぜならその剣、正宗はあまりに刀身が長かったからだ。
その長剣は誰も斬ることこそできなかったが、剣から生まれた風圧が、マルティナから離れた家の窓を割った。


先端から離れた先に、男が立っていた。
見た目はイレブンより少し年上で、グレイグよりかは若いといった印象。
だが、これほど巨大な剣を振り回せるとは、想像以上に手強い存在なのだろう。

2撃目が来る。
マルティナも負けるわけではない。
光鱗の槍で受け止めようとする。

(何なの!?この力……!!)

正宗を受け止めた瞬間、それだけで両腕に電流が流れたかと錯覚するほどの衝撃が走る。
そのまま抵抗も出来ずに、槍ごと壁に叩きつけられた。


正宗を持った男、カイムは何も言わずにゆっくりと歩み寄る。正宗の刃がマルティナまで届く距離になると、再び剣を振り始める。
今度は上からの一撃、これも辛くも避けるが、石畳の地面に大きく穴をあける。
剣によって飛んだ瓦礫が、彼女の視界を奪うが、問題にはならない。

マルティナは派手にバック転を三度決めて、カイムから離れた。
スピードは分があると彼女は自覚する。

それにあれほど巨大な剣。
イレブンやグレイグの、大剣を使った戦いを見ていた彼女には分かった。
ミドルレンジで攻撃するにはあれほど最適な武器はないが、間合いを詰められてしまえば反撃は難しい。
反対に、正宗が届かない距離まで離れるのもあり。
そうすれば、自分を攻撃する手段は空振りによって生じた石畳の欠片と、風圧のみだ。
そして、剣には勝てなくても、それ以外なら吹き飛ばすことが出来る。


「食らいなさい!!ピンクタイフーン!!」
桃色の竜巻がカイムに襲い掛かる。
しかし、予想外の方法でカイムはそれを回避した。


カイムが持っていた長剣に光が宿った瞬間、巨大な火球がマルティナのピンクタイフーンを一撃で吹き飛ばした。


809 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:53:42 WUpwpBKE0
(!?)
相手が巨大な剣での攻撃しか出来ないと思っていたマルティナにとって、驚きでしかなかった。
それはメラゾーマのような巨大な火球だ。
幸いなことに竜巻が弾き飛ばされただけで、マルティナ自身に直撃はしなかった。


だがそれ以上に彼女が驚いたことは、火球の着地地点から、爆発が起こったこと。
地面に落ちると火柱が立ち上るメラゾーマとは全く異なる魔法だということを、マルティナは認識した。
石畳には、半球状のクレーターが出来ている。

それはあらゆる生物を滅さんと迫り来る隕石。
それを成すことが出来たのは正宗のかつての持ち主の願望に、呼応したからだろうか。


カイムは元々魔法を手にした剣に纏わせ、剣のデザイン、宿る魔力、そして力に応じた技を使うことが可能だった。
強大な力を持った正宗に魔法を纏わせ、隕石(メテオ)を起こしたのも、昔から天性の戦闘センスによるものだ。


正宗の予想外の力に魅入られたカイムは、歓喜の表情を浮かべて、魔法を剣に注ぎ込む。
今度は4つの隕石が迫り来る。

まだコントロールには慣れていないようだが、辺りを所かまわず破壊し続ける。
まるで、災害だ。
相手は燃え盛る炎と、爆発の中で目を光らせて笑っている。
その恐怖をマルティナも感じた。
近づこうにも、爆発の影響で思うように近づけない。

最初の3発までは地面や建物を悪戯に破壊するのみだった。
それでも拡散する熱風や瓦礫が脅威になるのだが。
だが、4発目の隕石は、マルティナの方を狙ってきた。


地面に激突。これまでと同じように爆発が起こる。
だが、その爆発にマルティナは飲み込まれていなかった。

(!?)
カイムも驚く。
瞬く間にマルティナが屋根の上に移動していたことに。
そしてマルティナの肌や瞳の色が、先程までとは違っていたことに。

デビルモード。
消費魔力は多い代わりに、短期間の力や身の守り、素早さを大きく上げる技だ。
彼女が妖魔軍王ブギーの僕にされた際に、逆に身に着けた技。


そのまま彼女は槍を抱え、カイムに飛び掛かる。
カイムは正宗で切り伏せようとするが、さらにスピードが上がったマルティナを止めることは出来ない。

本当のことを言うと、彼女はこの世界で悪魔化することを恐れていた。
自分の意思でデビルモードを使った時に心を失ったことは一度もない。
しかし、この世界で殺し合いをするために使えば、そのまま身も心も悪魔となってしまうのではないか。
そういった恐怖が、ソニックとの戦いでも、この戦いでも付き纏っていた。


810 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:56:05 WUpwpBKE0
だが、そういった躊躇いがあっては、この男に勝つ見込みは万に一つもない。

カイムの心臓めがけて、銀の槍が雷光のごとき速さと鋭さで一閃。
しかし、命中率より攻撃力を重視した一撃は、心臓を貫くには至らず、身を掠めるだけだった。
しかし、まだ攻撃の手はある。
一たび懐に潜り込めば、あれほどの長い剣で反撃するのは難しい。

この密着状態であの火球を落とす攻撃をするわけにもいかないだろう。
なおも戦況はマルティナに有利だった。

「光速、爆裂脚!!」
7発の蹴技がカイムに襲い掛かる。
1発目は顔を逸らして躱されるが、2発目からはまともに入り始める。
3発、4発とボディーに連撃を加えていく。

(!?)

だが、それも5発目まで。
6発目に、カイムの右腕で止められる。
まるで大木でも蹴ったかのような反動を感じた。

負けじと7発目。
しかしそれがカイムの胸に命中する前に、カウンターの右ストレートが、マルティナのボディーにめり込む。
ぐしゃりと、腹の中で何かが壊れた嫌な音がした。


「ぐはっ……!!」
あの剣を振り回せるのも、納得の腕力だった。
剣と、そこから襲い来る火球ばかり注意を払っていた結果だ。

自分も、まだ修行が足りなかったとマルティナは痛感する。
相手はなおも笑みを絶やさない。


過去に失ったものを取り戻そうとするために殺しを行うことを決意したマルティナと、殺すことで先へ進もうとするカイム。

前を向いて生きている者と、後ろを向いて生きている者。
どちらが簡単に前へ進めるかと言えば、どう考えても前者だろう。

それに何より、精神的な土台がが違っていた。
マルティナは既に一度、ウルノーガを倒していたから簡単に負けることはないと僅かながら慢心があった。
一方でカイムは戦いの真っただ中でこの戦いに呼ばれたため、闘志は燃え盛っている。


811 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:56:26 WUpwpBKE0
「やられたわね、でも負けないわ。あなたのような殺人鬼に。」
槍を杖代わりにし立ち上がる。
この男を生かしたら、間違いなくイレブンにも牙を剥く。
だから命に代えても、ここで食い止めなけらばならない。

立ち上がると臓器の一部がひっくりかえされたかのような痛みが襲ってくる。


マルティナが痛みに顔を歪めた一方で、カイムは笑っている。
戦いと破壊の楽しさ、そして正宗の新たな発見を。

両腕を振り上げ、再びあの魔法を使おうとする。


「フォトン!!」
しかし、何者かが打った魔方陣がカイムの顔を包んだ。

魔方陣は収束し、中心で光を伴って爆ぜ、カイムの目をくらませる。
その程度の魔法で竜との契約を交わし、並みの人間を遥かに超えた生命力を持つカイムを倒すことはとてもできない。
だが、確かにカイムの魔法をキャンセルし、時間稼ぎには成功した。

(一体何が……。)
マルティナから見てもカイムから見ても、自分達の世界とは違う技だ。

「雪風!!」
しかし戸惑っている間に、氷の刃がカイムとその辺りに降り注ぐ。
火球の爆発で熱されていた空気が、それらの力で冷やされる。

しかし、カイムもさることながら、正宗の一振りで氷を打ち砕く。
丁度上を見ると、2階建ての建物の、先程カイムに割られた窓から、金髪の少女が顔を覗かせている。
周りには何のトリックか分からないが、鏡のようなものがくるくると回っている。

どちらを殺すか。
槍を持った女か、金髪か。


どちらに注意を払うべきか。
大剣の男か、それとも漁夫の利を狙っているかもしれない金髪か。


しかし、どちらもその選択を実行に移すことは出来なかった。

カイム自身が魔法で派手に破壊したことで、建物が倒壊を始めたからだ。
洒落にならない大きさの瓦礫が、次々に道にも降ってくる。
再び隕石を使って建物を破壊しようとは考えず、建物の下敷きにならない場所、街の入り口まで逃げる。


812 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:56:47 WUpwpBKE0



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




まだ火の手が上がっていない、街の奥の建物に避難する。
いつの間にか、先程の金髪の少女が追ってきた。



「助けてもらってありがたいわ。でもね。私………。」
「知ってるわ。あなたも殺し合いをしようとしている人でしょ?あの戦い方で分かるわ。」


どうやら、自分のやり方は見通しのようだ。

「いつから私のことを見ていたの?」
金髪の少女に、槍を向ける。
魔法を打つ動作を見せれば、その瞬間に刺し殺すつもりだった。

「あの大きな剣を持った人とあなたが戦いを始めてからずっと。
建物に隠れて待ち伏せするつもりだったけど、流石にあれは驚いたわ。」

待ち伏せ、という言葉から彼女は察した。
決して自分を助けてくれる存在ではなく、大剣の男と同様に、この少女も殺し合いに乗っているのだと。

「それからその槍を向けないでよ。私はあなたを殺すつもりはないわ。むしろ、協力してほしいの。」

なるほど、そっち側か。

最初は、自分と男を分断させて、一人ずつ不意打ちで殺す算段を打ったのだと予想していた。
だが、殺し合いの協力者として、私を助けたとは。


「私が断ったらどうす……「ファーストエイド」」
自分の言葉を遮るかのように、少女は回復魔法をかけ始めた。

効力は薄いが、腹の痛みが和らいだのを感じた。
「まだ協力するとは言ってないわよ。」
「協力する以外に方法はないわ。
私もあなたも一人ではどうしても倒せない相手がいる。さっきの戦いで感じたでしょ?」

悔しいが、今までの戦いは2回とも敗北している。
ソニックにはスピードで勝てず、カイムには力で及ばなかった。
スピードと力、自分の長所で敗れるというのがいかに危険なことか分からない程、戦闘経験は浅くない。

かつてそんな状況に陥った時、どうしたか。
その時は仲間の力を借りた。

シルビアやベロニカのように、自分の能力をさらに上げる魔法を使える者がいたし、セーニャやおじい様のように、自分の弱点をカバーしてくれる者もいた。


この少女は、恐らく戦いのスタイルからして、魔法が得意なのだろう。
自分の短所をカバーし、長所を活かすのには適しているパートナーかもしれない。

少なくともイレブンか他の仲間に会うまでは、一緒にいても悪くないだろう。

「分かった。そうするわ。私にはこの戦いでしなきゃいけないことがある。」
「奇遇ね。私もそうなの。」

「そう言ってくれて本当に嬉しいわ。互いの目的の為に、頑張ろうね。」
「言っておくけど、慣れ合うつもりはないわよ。」


813 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:58:44 WUpwpBKE0
一先ず、仲間を見つけた。
いや、いずれこの人とも殺し合わなきゃいけない以上は、仲間とは言えない。
せいぜい、「同盟」と言った程度か。
だが、何にせよ攻撃の手段が広がるのはありがたい。

だから私の大切な人に会うまで、戦ってもらおう。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



春香を殺した私は、東へ進み、カームの街へ入っていた。
小さな街だが、ひょっとしたら戦いに仕える道具や、倒さなきゃいけない参加者がいるかもしれない。

予想に反して、街はもぬけの殻で、めぼしい道具もタンスに引っかかっていた正体不明の薬ぐらいしか目ぼしいものはない。
丁度手の届かない所に置いてあったし、何の薬かも分からないから無視した。
ひとまず屋内に隠れて状況を伺っていたら、一人の女性と、少し経って大剣を担いだ男性がやってきた。


暫く戦っていたのを見て、弱った所で攻撃を仕掛けて、漁夫の利を得ようと思っていた。
しかし、それどころではないことに私は気付いた。

事の始まりは、大剣で作られた風圧が自分が隠れていた部屋の窓ガラスを割ったこと。
ガラスの破片で怪我をすることこそ避けられたし、その時はまだ剣の風圧が壁を壊したとは思っていなかった。

しかし、眺めていた二人の戦闘能力が、明らかに尋常ではないことに気付く。


自分の身長を優に凌ぐ長さの剣を振り回し、隕石を落とした男性。
突然魔物のような肌とオーラを身に纏い、目にもとまらぬ速さで格闘技を打つ女性。


勝てない。
あの二人は明らかに自分の上の次元で戦っていた。

最初に春香を殺した時は、それほど力がある人物ばかりが集められているのではないと勘違いしていた。
最初の場所でマナを押さえ込んだ二人組は別としても、そう簡単に自分より強い相手に会う可能性は低い。
だからこそ、自分も逃げるのが難しいこの街で獲物を待ち伏せしていた。



あの二人ならたとえ弱っていたうえで不意を突いても勝てる可能性は低い。
気付かれずに街から脱出するのも、この場所が外壁に囲まれている以上は難しい。

せめてどちらかが味方に付いてくれればいいのだが。
再びあの男が隕石を降らそうとしてくる。

あの魔法は所かまわず被害を及ぼしているため、下手をすると自分も建物ごと被害を受けるかもしれない。

気付かれるのを承知で、フォトンを男に打つ。
初級魔法で倒せる可能性は低いが、魔法をどうにかしてキャンセルできないか。

予想通り気付かれてしまったが、どうにか詠唱を止めることは出来たようだ。


814 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:59:06 WUpwpBKE0
しかし、突然街の入り口側の建物が崩壊を始めた。
男は街の外へ、女は街の奥へ避難していく。

下手をすると自分の建物も崩壊に巻き込まれるのではないかと、宿屋を脱出する。
勿論、攻撃に備えて、身の守りが上がるらしい「プロテクトメット」を付けておいて。
幸いなことに、女性と話をすることが出来た。
最初は警戒されたが、話し合えば意外にも簡単に協力することが出来た。



(待っててね。イクス。必ず、あなたを……)
本当のことを言うと、人殺しと交渉するのだから、怖くてたまらなかった。
強がって上からの態度で出たのも、逆に相手に良いようにあしらわれるのが怖かったからだ。
そんな時は、常に思う。
今は会うことが出来ない、彼のことを。
彼を思い出すだけで、勇気が湧いてくる。

君の為なら、闇など怖くない。
むしろその闇を乗り越え、光をつかみ取る。




【D-3/カームの街 武器屋内/一日目 早朝】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:健康 魔力若干消費 カイムへの若干の恐怖
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ  プロテクトメット
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、春香の不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す


※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。





【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)  腹部に打撲
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1〜0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間と出会った時は……どうしようかしら。


※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


【支給品紹介】

【プロテクトメット@クロノトリガー】

天海春香に支給されていた頭装備。古代王国ジールの魔法の力で作られた装備の一つで、元々の防御力に加えて、常に物理ダメージをカットするプロテクト状態になる。


※カームの街の入り口付近の建物が一部、倒壊しました。


815 : 殺意の三角形(前編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 16:59:34 WUpwpBKE0
前編投下終了です。これより後編に入ります。


816 : 殺意の三角形(後編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 17:00:44 WUpwpBKE0
その頃、カイムは街を脱出していた。


不意なアクシデントに見舞われたとはいえ、一度ならず二度までも殺し損ねるとは。
カイムは怒りのあまり壁を蹴飛ばした。
壁は簡単に壊れ、建物の中が露になる。

室内にあった時計を見ると、意外と放送まで近い。
誰かが死んだからといって、やり方を変えるつもりは更々ないが、一先ず休憩が欲しい所だ。
あの隕石を降らす魔法は、強力だが消費する魔力も桁違いらしい。

コントロールもまだ上手く出来ないし、慣れる必要がありそうだ。


(………。)
不意に、こんな考えが頭をよぎる。
もし、人を殺す以外に、マナの下へ行く方法があれば?
殺さなければ殺される。
そんなことは前にいた世界でも今でも同じこと。
自分は人殺しに抵抗を抱かないのに、なぜこんなことを思いつく?





「エアリスさん!!早くワタクシの城に行きましょう!!」

トウヤとの戦いの後、ゲーチスは何かから逃げるかのように、ひたすらに目的地を目指した。
途中、トウヤが歩いた方向から、何度か衝撃音のようなものや、物が壊れるような音が聞こえてくると、その足をゲーチスはさらに速めた。


橋の上は注意して進まないと危ないというエアリスの忠告も無視して、ゲーチスは逃げ続けた。
城へ行けば。自分の居城にさえ行けば。
行ったところでどうするか、何か解決策があるのかと言われれば答えられないが、今の状況よりかはマシになると思っていた。

橋ももう少しで終わりという所で、二人の目に衝撃的なものが映りこんだ。
街に降り注ぐ、火球。
しかも1発や2発じゃない。


817 : 殺意の三角形(後編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 17:01:22 WUpwpBKE0

「ダメよ!!誰かがいるかもしれない!!」
あの場所にあるのはカームの街。
エアリスもティファもこの世界で共通して知っている場所。

もしかすると、あそこで誰かが戦っているかもしれない。
そして、エアリスにはもう一つ疑問があった。

黒マテリア。
セフィロスが求めたマテリアで、究極黒魔法、メテオを呼び出し惑星一つを破壊し尽くしてしまう。
何らかの形でこの世界に転送されていたら、規模は違えど、メテオを扱うことも可能だろう。


「エアリスさん!!誰か来ますよ!!逃げましょう!!」
もう少しでカームの街にたどり着く頃。
ゲーチスはなおもエアリスを必死で止めようとする。

エアリスはそれを無視してカームへ行こうとするが、目の前に一人の男が現れた。

その姿を見た時、エアリスは衝撃を受けた。
相手が持っている武器は、自分達の宿敵、セフィロスが持っていた正宗だったから。


あの剣は、簡単に使えるものではない。恐らくあの男も、相当の手練れだと感じた。
同時に、刺すような視線が、二人に伝わってきた。


「あの……ワタクシたちは、この戦いを壊そうと思って……そして、仲間を集めて……こんなくだらないゲームを……。」

ゲーチスがしどろもどろになりながらも、返事はなかった。ただ、相手は自分達の殺戮を目指しているようだ。


「スリプル!!」
恐らくこの男に自分の攻撃は聞かないだろう。
素手での攻撃は論外だし、弓矢の攻撃も恐らく時間稼ぎにもならない。

だとすると、最初から無力化を狙う。

しかし、従来のものと契約による強靭な精神力は、睡眠魔法をも打ち払う。
カイムは正体不明の眠気に一瞬襲われるも、すぐに二人に斬りかかる。

横なぎに一閃。そのまま二人纏めて真っ二つにしてしまおうとする。

「ぬぅ!!」
しかし、正宗の攻撃を、ゲーチスのスコップが止めた。

精神的なダメージがあるが、ほとんど無傷なゲーチスに対し、カイムは先程の戦いで幾分かのダメージと、魔力の消耗による疲労がある。
加えて、カイムは正宗をまだ完全に使いこなしていないが、ゲーチスが持つシャベルは、頑丈さに加えて、素人でもある程度使いこなすことが出来る。

だが、正宗を止めたのも一瞬。
カイムの剛力が、ゲーチスとエアリスをいとも簡単に打ち飛ばす。

「きゃあ!!」
「ぐっ!!」

少し前の光鱗の槍と正宗のぶつかり合いと、同じ状況が起こる。
だが、その後の結果は違っていた。


818 : 殺意の三角形(後編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 17:01:52 WUpwpBKE0
カイムは再度正宗を構え、今度こそ二人を斬殺せんとする。
その瞬間、エアリスは王家の弓を構えた。

「邪気封印!!」
((!?))

王家の弓から、木の矢ではなく白い光の矢がカイムに飛んでいく。
そこからカイムを包む光に、カイムは勿論、ゲーチスも驚く。
気が付くと、カイムは剣を振り回す姿勢のまま、硬直していた。


「い、今何をしたのですか?」
その瞬間、暫く何も音が響かなかったが、ゲーチスが沈黙を破る。
「私のリミット技よ。邪気や殺意を持った相手の動きを止めるの。」

それを聞くと、すぐにゲーチスはシャベルをカイムの頭に叩きつけようとする。

「ダメッ!!」
それを制止するエアリス。

「ナゼですか!!ワタクシたちを殺そうとしたのですよ!!向こうの街の火事もきっとこの男のせいです!!」

エアリスがゲーチスの攻撃を制止したのは、スコップの殴打くらいでこの男は殺せないと思ったこと。そして……。


「何故かは言えないけど……きっと、この人もやりたいことがあったのだと思う。
ここで私達が、殺しちゃいけない気がする。」

何も言わずに斬りかかってきた瞬間を見て思いだした。
古代種の神殿で、セフィロスに操られ、殴りかかってきたクラウド。
彼も同じように、何かに憑りつかれたかのように破壊を続けている気がする。


「そんなのワタクシ達の知ったことじゃない!!アナタが殺さないなら、ワタクシが……。」
「止めなさい。それは誰も望んじゃいないわ。」

エアリスは王家の弓をゲーチスに向けた。
「私達はこの人も助ける。このゲームからも脱出する。あの二人に勝つ方法はそれだけよ。」
「…………。」


819 : 殺意の三角形(後編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 17:04:05 WUpwpBKE0
「ゲーチスさん、どうしたの?」
「いえ、何でもありません。そうしましょう。」

硬直状態になったカイムを二人は抱え、空き家に運び込む。
そのまま手足を室内のカーテンで縛り、動けなくした。
もうそろそろ硬直時間は終わる。
一番脅威となる武器は奪えたが、ひょっとすれば拘束を千切って襲い掛かってくるかもしれない。
二人は目の前で見張っていた。

「エアリスさん。アナタはこういったことに慣れているのですか?」
圧倒的な強さを見せつけたトウヤに対しても恐れや隷属の意思を示さなかった。
自分はかつての宿敵トウヤに、そして今目の前の男の強さに恐れおののいているだけだ。

もはや今の自分を七賢人の一人だと認めてくれる者はいないだろう。

「まあ、そういうことになるわね。あと、さっきは助けてくれてありがとう。」
「ああ、いや。ワタクシも危なかったので……。」

こんなザマでどうするのだ。
そして、恐らくこの男は人間ではない。ポケモンか、何か別の存在の力を借りた怪物。
エアリスは和解を目指しているらしいが、そんなこと出来るわけがない。
何か、何かこの状況を打破する何かを探さないと。


かつて七賢人の一人だった愚かな男は、そのようなことばかり考えていた。


820 : 殺意の三角形(後編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 17:04:31 WUpwpBKE0
【D-3/市街地/一日目 早朝】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ小、無力感、苛立ち
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.エアリスを利用し対主催を演じる。
2.早くNの城へ行きたい
3.スキを見て、カイムを殺害し、逆転の手段を練る

※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小 MP消費(小)
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、マテリア(ふうじる)@FINAL FANTASY Ⅶ 正宗@FINAL FANTASY Ⅶ
[思考・状況]
基本行動方針:ティファを探し、脱出の糸口を見つける。
1.カイムをどうにかして止める。
2.今はゲーチスに付いて行きティファを探す。もし危なくなったら……。
3.ゲーチスの態度に不信感。


※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた〜死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。


【カイム@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ(中)魔力消費(大) 両手両足拘束中、ストップ(もうじき解除)、沈黙状態
[装備]: なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、マナを殺す。
1.自分よりも弱い存在を狙い、殲滅する。
2.雷を操る者(ウルボザ)のような強者に注意する。
3.子供は殺したくない。

※フリアエがマナに心の中を暴かれ、自殺した直後からの参戦です。
※契約により声を失っています。
※正宗に自分の魔力を纏わせることで、魔法「コメテオ」が使用できます。


821 : 殺意の三角形(後編) ◆vV5.jnbCYw :2019/09/24(火) 17:04:44 WUpwpBKE0
投下終了です。


822 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:05:22 hyDxbHqc0
投下します。


823 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:06:54 hyDxbHqc0
そこは、永遠に思えるほどの静寂に包まれていた。
当然と言えば当然の話。
殺し合いの世界の森の中で音を立てることは、文字通り死に直結する行いであるからだ。

殺し合いを制する鍵は、相手の居場所を先に特定することだと言っても過言ではない。
少なくとも英雄、ソリッド・スネークの戦場ではその一点が全てであった。


(報告します。この先の森の木陰に1人、隠れている人間が居ます。キー!!)

(うむ、でかした。スカウター。)


そしてその一点において、スカウターという駒を持つジョーカー、イウヴァルトは大きなアドバンテージを持っていた。

スカウターは音もなく飛ぶ。
この暗闇も相まって視覚的にも聴覚的にも敵から発見されることは少ない。
つまりイウヴァルトは一方的に相手の位置を知ることが出来て、相手にはその事実に気付かれにくいということだ。

(さて、どう調理してやるか……。)

ブラックドラゴンと契約してカイムに挑んだ時のように、勝利を確信するイウヴァルト。瞳に赤い狂気を宿しているのも、あの時と同じだ。





(放送まで、残り1時間を切ったというところか……)


スカウターに居場所を特定された人間、ソリッド・スネークはピカチュウと別れてからもずっと森の中に隠れていた。

元の世界でも生死を分ける戦いをしていた彼にとって、殺し合いなどは恐れるに足りない。
支給品の中に武器の類は入っていなかったが、それらの現地調達も潜入捜査では茶飯事だ。

そんな彼がこの場で唯一恐れるものがあるとすれば、自身に嵌められた首輪である。


(──あなたの首輪、爆発させるね。)


最初の会場でマナとやらが言っていた言葉。その後に1人の男が爆発で殺されていたのを見るに、あれはフェイクでも何でもなく首輪は本当に爆発させることが出来るのだろう。

主催者への反抗を封じるにはこの上ない枷と言える。
だが反面、科学技術でこちらの反抗を防がれている現状に希望が無いわけではない。


824 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:08:26 hyDxbHqc0
ハル・エメリッヒ──またの名をオタコン。機械方面のスペシャリストであり、その人柄からこんな殺し合いには乗ることはないだろうと断言出来る人物だ。

参加者の全貌が明らかになっていない現状では彼がこの場に招かれているかどうかは定かではないが、自分がこの場に呼ばれた理由は何となく想像出来る。
自分は核兵器を巡る一連のテロ事件において英雄と呼ばれるだけの功績を残しており、常に中心人物の1人だった。要は目立ちすぎたために何らかの超常的な力を持つ者たち目をつけられたのだろう。

しかしそうなれば、いつも補佐を任せていたオタコンもまた招かれている可能性は充分にある。
ピカチュウのような頭脳派の非戦闘員が招かれていることから見ても、この殺し合いに招かれているのが単純な力比べが出来るメンツではないのは明らかだ。

そして仮に彼も招かれているとしたら首輪の解除のために奮闘しているに違いない。

(ちっ……。最初の会場でもう少し観察出来ていれば、参加者の情報も集められていたのだがな……。)

スネークは最初の会場で殺し合いを命じられるや否や、周囲の人間の観察を始めていた。
だがすぐ真後ろで眠っていた酔っ払いの男にガッシリとズボンの裾を掴まれていたため、ロクに移動が出来なかったのだ。

(とはいえ、知り合いがこんな催しに招かれていることを願うとは……なんとも冷たいものだ。)

などと考えながらも、放送の時を待つ。
願わくば、その放送で彼の名前が呼ばれることの無いように。

そしてスネークは、木陰に隠れたまま時が過ぎるのを待ち続けていた。


「──動くなよ。そのまま両手を上げて出て来い。」


だがそんな試みも虚しく、スネークに向けた声が森の中に響き渡った。


(くっ……早速ゲームオーバーか……?)

ホールドアップの要請。まだ相手の姿は見えないが、それを掛けるということはおそらく銃辺りの遠距離武器を持っているのだろう。


825 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:09:29 hyDxbHqc0
「分かった、要求に応じよう。だから撃つんじゃない。」

要求通り、スネークは両手を上げたまま木陰から出てイウヴァルトの前に立つ。


「撃つ……?ああ、弓矢でも突きつけられてると思ったのか。残念だったな、俺が突き付けているのは蝙蝠だよ。」

襲撃者である赤髪の男はそう言い放つ。
弓矢というよりは拳銃の方を警戒していたのだが、見上げると黄色い蝙蝠が大きな目の玉をこちらに向けている。

しかしスネークは得体の知れない蝙蝠の巨大な目よりも、イウヴァルトの狂気に染まった赤い眼の方がプレッシャーをかけてくるように感じた。
成程、ピカチュウのように穏やかな談笑ができるような相手では無さそうだ。

「……蝙蝠を突き付けるとは面白い謳い文句だ。そいつにどんな力があると?」

「電撃、だ。大人しくしていればそれを食らわせることは無いさ。」

電気を操る蝙蝠──突拍子も無い話だが自分は先ほど炎を吐く豚を見たばかりだ。この蝙蝠もポカブと同じく、モンスターボールとやらに入れられていた支給モンスターなのだろうし、男の言葉は信じるに足るだけの材料は頭の中にあった。

「……まあいいだろう。真偽を検証するつもりも無いしな。それで、何が目的だ?」

隠れている場所を特定していたのなら件の電撃とやらで不意打ちで自分を殺すことも出来たはず。しかし今、男はあえて自分との対話に取り掛かろうとしている。
この男が殺し合いに乗っているのかどうか、まだ判断がつかない。


826 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:10:20 hyDxbHqc0
「情報交換を要求する。」

「ほう、こんな大掛かりな真似をしておいて情報だけか。」

「簡単な話だ。俺もまだお前を信用していないということさ。森を通る者に不意打ちでも仕掛けようとしていたのではないか、とね。」

「つまりお前は殺し合いには乗っていないと?」

「ああ、俺は情報が欲しいのだ。先ほど知り合いがこのゲームに参加しているのを見たばかりなのでね。他の知り合いもいるかもしれん。」

イウヴァルトの言葉はスネークの関心を惹いた。
この場に知り合いが招かれている人間もいるということは、オタコンがここに呼ばれている可能性も現実的になってきたということだ。

「なるほど、お前との情報交換はさぞかし有意義なのだろうな。」

スネークの言葉に、イウヴァルトは内心ほくそ笑む。

「ならばお前から話すんだな。条件は情報の『交換』なのだろう?」

次にスネークが発したのは、イウヴァルトが先に情報を提示することだった。

「……面白い。この状態で条件を提示するか……まあいいだろう。」

イウヴァルトにとっては自分から話させてもらうのは悪い話ではない。
カイムやハンターを『危険人物』に仕立て上げるのに、どの道こちらの話を聞いてもらう必要はあるからだ。

嘘を吐くのなら自分から話し出すよりは相手の要請で話す方がより自然に映るだろう。

「とくと聞け。まずはこの世界で最初に出会った者……旧知の人間、カイムについて…………」


827 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:11:03 hyDxbHqc0





──気に入らない。

スネークはそう感じた。

イウヴァルトはどちらかというと直情的だったピカチュウと違い、腹の底が読みにくい。
何かを企んでいそうではあるが、決定的な尻尾を出さないからこそ沈黙する他ない。
そんな類の息苦しさを覚える相手だ。


──気に入らない。

一方のイウヴァルトもそう感じていた。

スカウターを突きつけられており、向こうにとっては絶望的であるはずのこの状況。それなのにどこか余裕すら見せている。
どんな状況でも諦めることなく最後まで抗う。
どこかあのカイムにも通じるその目が気に食わなかった。

(いっそ、殺してしまうか?)

スネークからは、ただ人間としての力のみで戦場を生き延びてきた者独特のオーラを感じる。
魔法のような超常的なものとは無縁に生きてきたはずだ。

先ほど出会ったハンターもそうだったが、こういう者は異様に鋭い部分があるものだ。だが、実力に人間の限界があるという弱点もある。
スカウターという人間の常識を超えたチカラと、自分自身のチカラを合わせれば難なく殺せるはずだ。

それでもイウヴァルトは、今はまだ動くときではないと自分に言い聞かせる。
この男には、カイムやハンターを殺すのに一役買ってもらわなくてはならないのだから。





828 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:12:38 hyDxbHqc0
「……と、これが俺が出会った者たちだ。」

スネークに両手を上げさせたまま、イウヴァルトはカイムとハンターについて語り終えた。
当然、その内容はイウヴァルトに都合のいいように歪められている。

「さて、俺の話は終わりだ。次はお前の番だぞ。」

目的のひとつであった、カイムについて話すことを終えたイウヴァルトはスネークの情報を催促する。

「いいだろう。……とはいえ俺は定時放送までここから動かないようにしていたのでな。誰とも出会っていないし、話せることはほとんど無い。」

まだイウヴァルトを信用しきっていないスネークは、情報交換と支給品の譲渡をしたピカチュウについては話さなかった。

「確かにここは他人に見つかりにくい。隠れておくには最適の場所だろうな。だが……なぜ放送までなのだ?」

イウヴァルトの質問に対し、正直に答えようかどうかスネークは少し迷う。

「……まだ参加者の情報が出揃っていないからな。俺は最初の放送の中で参加者の情報が与えられるのではないかと考えている。」

だが長く言葉に詰まるのも不自然であるし、結局この推理の真偽はどうせ間もなく明らかになるため、話しても構わないだろうと判断した。

「なるほど、まだ動き出す時ではないというわけか。確かに理にはかなっている。」

(コイツ、鋭いな……。)

イウヴァルトは素直に感心する。

『──この殺し合いにはね、あなたのライバルのカイムもいるのよ。本当は名簿を配るまで参加者にはナイショの話なんだけど、あなたには特別に教えてあげるわ。』

これはマナから直々にジョーカーとしての役割を与えられた時、取ってつけたように言われた言葉だ。
マナが言っていた名簿を配るというのがいつの話なのかは定かではないが、恐らくスネークの推理は的中しているのだろう。


829 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:14:04 hyDxbHqc0
「ではここに呼ばれていそうな者に心当たりはないか?」

呼ばれている人間に心当たりはある。例えば先ほど考えていたオタコンもその1人だ。
だが仮に目立った功績を残した人物が呼ばれているのなら、オタコン以上に呼ばれる可能性が高い人物をスネークは知っていた。

「……俺と同じ、スネークの名を持つ者がいる。」

何を考えているか分からない他者にオタコンの情報を与えるのは、危険人物の共有くらいはしておいた方がいいだろう。

「ソリダス・スネークとリキッド・スネーク。どちらも世界を揺るがす大事件の首謀者だ。」

特にリボルバー・オセロットは拷問嗜好の持ち主だ。この世界でも悪事の限りを尽くすのは容易に想像出来る。

「なるほど、何とも紛らわしい名だな。」

イウヴァルトは、スネークの情報についてあまり信用していない。自分がそうしているように、口伝の情報などいくらでも偽れるからだ。
しかしこちらから一方的に情報を与えるのは不自然だ。あくまでも『情報交換』の体は成しておかなくてはならない。

「──名簿が配られれば確認してみるか。」

「ほう──」

そんなことを考えながら発したイウヴァルトがその言葉を呟いた瞬間、スネークの目付きが変わる。




「──蛇め……尻尾を出したな。」





──キィーーーン!!



そしてその言葉の直後、耳をつんざくような音波が森中に響き渡った。

その音波に耐えきれず、音波に敏感なスカウターは気絶し地に落ちる。


「何だッ!?」


何が起こったか理解出来ず、咄嗟に耳を塞ぐイウヴァルト。
しかしその動作は大きな隙となる。

イウヴァルトが気付いた時には、スネークは180度回って逃げ出していた。


830 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:15:37 hyDxbHqc0




(確定ではないが、黒寄りのグレーといったところか……ここは逃げるのが賢明だろうな……。)

イウヴァルトは『名簿で名前を確認する』と漏らした。
確かにスネークは第一回放送の際に参加者の情報が開示されるかもしれないことは推理していた。
だがそれが名簿という形であることなど最初の会場での説明では一切言及されていなかっただはないか。

それを知っているということはつまり、イウヴァルトは主催者の手先である可能性が高いということだ。

もちろん勘違いや思い込みの余地があるため確定ではないのだが、一切信用しないと断ずるには充分な一言だった。

そして次の瞬間スネークは、あらかじめ地雷として靴底に仕込んでおいた【音爆弾】を思い切り踏み込んだ。夜の暗さも相まってスネークがずっと右足の踵を上げていたことにイウヴァルトは気づかなかった。
スカウターが電撃を放つより先に足の微妙な動きのみで地雷を作動することが可能だったのだ。

結果、イウヴァルトの用意していた脅迫材料が蝙蝠だったことも幸いし、スネークはイウヴァルトの元から逃げ出すことが出来たのである。


「勝敗は……準備の差だったな……。」

イウヴァルトを振り切ったスネークは、そう呟いた。

(──カイムは昔からの友人だ。ゲーム開始早々に出会えた俺たちは、主催者に反抗するという目的も一致した。今は別行動でそれぞれ仲間を集めているところだ。)

(──狩人のような男は……見たところ危険人物ではなさそうだったな。)

イウヴァルトはカイムやハンターについてこのように話していた。

(カイム、そして狩人の男、か……。とりあえず頭には留めておこう。)

イウヴァルトの言葉が嘘だとすると、その者たちも主催者の手先である可能性はある。
彼らにはいっそうの警戒を怠らないようにしておこう。

それにしてもピカチュウに譲ったポカブといい、音爆弾といい、どうしてこうも隠密行動に向かないものばかりが支給されているのか。
スネークは自分の運のなさをつくづく呪った。
本当に頼むから、静かにさせてくれ……。


831 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:16:48 hyDxbHqc0
さて、放送まで過ごす予定だった森から多少離れてしまったが……地図と照らし合わせる限りどうやらここは展望台のふもとのようだ。
音爆弾の音で周りにいた誰かが寄ってきているかもしれないし、森に戻るのは危険だろう。

仕方なく、ここで放送までの時間をやり過ごそうと方針を決めたその時だった。


──********


とても擬音では表現出来ないような、おぞましい破裂音が鳴り響いた。

「っ…………!?」

音爆弾の炸裂以上に衝撃を残したその音の音源を確認するため──ではなく、もはや反射的に振り返ろうとするスネーク。

刹那、生暖かい何かがスネークの全身に降り掛かった。
その正体を知るまでに、時間はかからなかった。

だがそれを知ってからも、理解が追いつくのには多少の時間を要した。それは、彼にとって有り得ない現実だった。


「何故…………」


スネークの目の前に現れたのは──


恐らくは、たった今展望台の頂上から落とされて。


そして恐らくは、その衝撃で四肢がもげて。


そして恐らくは、その衝撃で臓器という臓器が飛び出して。


そして恐らくは、展望台からこちらを見下ろす影によって殺された──


「何故お前が死んでいる…………雷電ッ!!!!」


──それは紛れもなく、戦友の姿であった。




【C-5/展望台真下/一日目 黎明】

【ソリッド・スネーク@ METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:手に軽い火傷 背中から全身にジャック返り血
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、音爆弾@MONSTER HUNTER X(2個)、不明支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
1.展望台に登るか、登らないか……?
2.オタコンが参加しているなら首輪も解除できるかもしれない
3.カイムと狩人の男に警戒心


832 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:17:31 hyDxbHqc0
「クックック……いい子だ。私の退屈を満たしにここまでやって来たのだろう……?」

何者かの気配を展望台の真下に感じ取ったセフィロスは、先の戦いで殺したジャックの死体をその何者かに向けて落としたのだった。

その行為自体は戦いの前のただの遊戯に過ぎない。しかし相手が戦意に燃える者であれば、この挑発にはきっと乗ってくるはず。

セフィロスにとって、興味があるのは強者のみだ。
死体に恐れをなして逃げ去るような弱者に興味は無い。
どこぞのカエルのように、去ってもらうだけだ。

さあ来るがいい、強き光よ。
私はそれを全て喰らい尽くす、永遠の闇となろう。

【C-5/展望台/一日目 早朝】

【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:右腕負傷(小)、毒
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。
1.展望台でクラウドを待つ。
2.因果かな、クラウド。


833 : 流星光底長蛇を逸す ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:18:17 hyDxbHqc0


「ふ……ふふ…………」


再び静寂を取り戻した森の中。
ひっそりとほくそ笑む1人の男がいた。

イウヴァルトは、カイムとハンターについてスネークにあえて『危険人物ではない』との情報を与えたのだ。

それからわざと失言をすることで、『イウヴァルトは対主催である』という前提をあたかもイウヴァルトの意図せぬ形のようにひっくり返す。

それによって、スネーク自身の頭で『カイムとハンターも危険人物なのではないか』という答えに誘導出来るという論法だ。
人は、他者から与えられた情報よりも自らの手で暴いた情報を優先的に信じ込む傾向がある。

その結果として自分自身も危険人物だと認定されることになるが、カイムとは違って自分は喋ることが出来る。
カイムとハンターが死んだ後にでも、『参加者の情報を伝える手段は何故か名簿だと思い込んでいただけだ。実際に自分はカイムとハンターの人物像をスネークに好意的に伝えているではないか』とでも弁解が出来るのだ。
あるいはスネークが死んだ後であれば、『スネークに嵌められたのだ』と主張することも出来るかもしれない。
契約で声帯を失ったカイムはつくづく憐れだなと、イウヴァルトは笑う。

確かに音爆弾を仕込んでいたことは予想外だったが、スカウターを破壊されなかっただけ儲けものだと考えよう。これからの戦いを勝ち抜くためには、たかだか電撃1発分のスカウターの魔力であっても、こんなところで支給品を消耗するわけにはいかない。


「勝敗は……準備の差だったな……。」

殺し合いを制する鍵は、相手の居場所を先に特定することだと言っても過言ではない──最初に提示したこの文言が全てであった。

イウヴァルトに言わせれば、殺し合いの世界だからといって獲物を積極的に狩っていくのは二流である。
真の強者は、相手を逃がした上で利用するのだ。


【C-6/森 /一日目 早朝】

【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(スカウター@クロノトリガー)、ランダム支給品(0~2個)、主催者によって優遇されている)
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンター)を殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。


834 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:18:45 hyDxbHqc0
投下終了しました。


835 : ◆2zEnKfaCDc :2019/09/25(水) 00:31:56 hyDxbHqc0
すみません、以下の情報を書き忘れていました。

【支給品紹介】

【音爆弾@MONSTER HUNTER X】
ソリッド・スネークの支給品。3個セットで支給された。
人間にはさして不快にならないが突然鳴ったら驚くくらいの音波を発し、音に敏感な魔物を一時的に気絶させる効果を持つ。
耳元で爆発すれば人間の鼓膜にも実害はあるかもしれない。

【支給モンスター状態表】

【スカウター@クロノ・トリガー】
[状態]:墜落時のダメージ(微小)
[持ち物]:なし
[わざ]:サンダー いちまんヘルツ
[思考・状況]
基本行動方針:イウヴァルトに従う


836 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/27(金) 13:58:22 F.et04eI0
遅れながら投下乙です!

>>死の境界

本編では詰めの甘さが目立ったホメロスですが、このロワでは死亡後ということもあって後の事をよく考えているようですね。
南に向かう判断材料もそうですが、とっさに支給品を正しく使える能力もすごい。
参加者を殺害する為に優遇され、支給されたであろう道具で参加者を助けるなんてウルノーガも予想外だったでしょうね。

今にも殺されそうな陽介がミファーに対して怒りや恨みではなく、羨望を抱いたのは驚くと同時に彼らしいと思わされました。

>"彼"とやらが、ミファーが命を張って築き上げた屍の山の上でミファーの屍に感謝しながら優勝者の特権を貪るような男であるのなら、そんな男はクズだ。

この一文はグッと来ましたね。
奉仕マーダーにはこれ以上ないほど突き刺さる言葉だと思います。
死の恐怖を、捉え方は違えど共感し合う二人。なんとなくいいコンビに見えますね。
ホメロス、今後陽介を守るために体を張ったりしそうだな……。

>>殺意の三角形

久々の前後編に分かれたボリューミーな話でしたね。
登場人物の五人中四人がマーダーでありながら、一人も死亡者が出なかったのは結果的に奇跡に近い……。

ミリーナも常人からすれば強者のはずですが、やはりマルティナやカイムと比べるとやや劣る様子。
まぁそれに説得力を与えすぎる戦いが繰り広げられてるのだから致し方ない……。
手数や技の豊富さで勝負するマルティナを純粋な腕力とコメテオで追い詰めるカイムは恐ろしすぎる。
今の状態ならアンヘルいなくともギョロアエと渡り合えるのでは、と思うほどに怖い……。

エアリスとゲーチス、絶体絶命かと思われましたが案外簡単にカイムを無力化出来ましたね。
問題はカイムが拘束を素手でぶち破らないかですね。純粋な腕力であればこのロワの中でも上位に食い込む彼ならできそうです。

あと、カームの街のタンスにあるラストエリクサーが再現されてて笑いました。

>>流星光底長蛇を逸す

前話に続いて濃いメンツが……。
戦場での駆け引きはスネークの得意分野ですが、イウヴァルトも切れ者の様子。
わざと口を滑らせて自分の思惑通りに情報を確定させるという手法は、結果はどうあれ高度な技術ですね。
ただやはり、ハンターとスネークは直情的ではないので是非対面したとなれば誤解を解かれ、逆にイウヴァルトの立場が危うくなりそうな予感……。

放送開始まで一時間を切ったというところでよりにもよってセフィロスと対面してしまうとは。
それも雷電の死体を目の前で見せ付けられるという挑発つき。
このスネークの参戦時期がどの辺りなのか分かりませんが、遺体を発見した時の台詞から彼の実力を信頼している時期からのようですね。

武器もなく、地の利もあちら。加えて指示を与えてくれる人間もいない。
そんな絶望的な状況ならばスネークは迷わず逃走を選びそうですが、どう転ぶか。
もう一つのランダム支給品がなんなのかで展開が大きく変わりそうですね。


837 : ◆NYzTZnBoCI :2019/09/30(月) 10:13:26 TjnJ6zrA0
リンク、2B、雪歩、トレバー、真島の兄さん

予約します。


838 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/01(火) 02:55:45 h/rFimPQ0
ソリダス・スネーク、クレア・レッドフィールド、ネメシス−T型 予約します


839 : ◆NYzTZnBoCI :2019/10/06(日) 16:25:04 IDtQXagI0
申し訳ありません、執筆中のメモが消えてしまったのでもう一週間延長させてください。


840 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/06(日) 17:45:06 bMkT4u6M0
里中千枝、錦山彰予約します。


841 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:42:36 SXMlGeDo0
投下します。


842 : RE:2(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:45:49 SXMlGeDo0
(ラクーンシティ……知らん名だ。)

ソリダス・スネークは資料室で見つけた資料を読みつつラクーン市警内部を探索する。
資料を見るに、ラクーンシティというこの町は合衆国に位置する町のようだ。

(とすると架空の町か……?しかしここまで綿密な資料まで偽造するとなると結構な手間だ。それにたびたび名前が登場する秘密結社アンブレラとやらも謎が残る。)

考察を重ねながら、ソリダスは警察署内を順調に進んでいく。ある廊下では、赤と青の石像を動かした。双方を所定の場所まで動かすと、カチリと音がするとともに中央の銅像から赤い宝石が零れ落ちた。

(それに、そもそも此処は警察署ではなかったのか?何なのだこの子供騙しの仕掛けは……?稚拙過ぎてセキュリティの機能すら果たしていないではないか!!)

それは無能な雑兵たちに見張りの大部分を一任してあるビッグ・シェルも同じようなものだがと、小さく呟く。

ただしソリダスがそう思うのも無理はないことだった。
例えばブルーカードキーによって解除できる電子扉はこの世界では初めから開いている。また、警察署に数匹配置されていたリッカーも今や先人アリオーシュの腹の中だ。

セキュリティを謎解きに一任しているかのように見えるこの施設は本当に警察署なのか、些かの疑問を残しつつもソリダスは突き進む。

ある部屋では、暖炉に火を灯すよう絵画のタイトルに暗示された。火元など持っていないソリダスは、絵を突き破って強引に中の宝石を取り出した。

(だがここの謎が解かれている様子が全く無いのを見るに、私が一番乗りだったようだな。)

その証拠に、ある程度のアイテムが分かりやすい場所に放置されていたにもかかわらず回収することが出来た。実際はアリオーシュが先に入っていたのだが、アイテムの回収は一切行わなかったため考慮には入らない。

資料や謎解きアイテム以外に、ここまでの経緯で回収したアイテムを思い返す。

まずは麻薬の類だろうか。目立つところに置いてあったいくつかのハーブを回収することが出来た。情報を得るために拷問という手段を選ぶ場合は相手を薬漬けにすることも可能かもしれない。……但し、あくまでこれが麻薬であるのならの話だが。

次にハンドガンやショットガン等のいくつかの銃の弾薬も手に入った。ただし肝心の銃が無いためにすぐに役に立つことは無さそうだ。

そして最後に本命として、武器として用いることも出来そうなプラスチック爆弾も入手した。
かつてこの警察署で使われた用途で言うのならこれも謎解きアイテムの一環なのだが、少なくともソリダスはそう判断しなかったようだ。


843 : RE:2(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:46:43 SXMlGeDo0
これだけのアイテムを揃えてもなお、不安は残り続ける。
というのも、殺し合いに巻き込まれた際に外装式強化服やスネークアーム等の、これまで自分の衰退した身体能力を補ってきた装備品を没収されているからだ。
それらのドーピングの無い自分は老化によって全盛期のような身体能力は発揮できない。

つまりソリダスにとって、戦力補強は何よりも優先すべき事柄であった。
他者の利用と武力の所持は切っても切り離せない。殺し合いの場では特に、武力と支配力は比例関係にあるのだ。

真っ先にラクーン市警に辿り着いたというアドバンテージを最大限活かし、この場のアイテムを回収し尽くす。そのためにも、何故か警察署の至る所に仕掛けられている謎解き要素を解明し、探索出来る場所を踏破する。
それがソリダスの暫くの行動方針である。





ソリダスが謎を解き始めて暫くした後、ラクーン市警を訪れた者が居た。クレア・レッドフィールド。この警察署を舞台としたかつてのバイオハザード事件の数少ない生存者の1人である。

よって彼女にとってこの舞台は既知の場であった。警察署に入るや否や、パソコンのある場所へ走って行き電子ロックが解除されていることを確認する。
解除されているということは、もっと奥に入り込めるということだ。ステージが入り組んでいればいるほど、この場における地の利はクレアにあるといえるため、行動範囲がエントランスに限られないことをまずは喜ぶ。


(謎が……現在進行形で解かれている……?)

エントランスホールの像に嵌められたユニコーンのメダル。
それに対し、以前降ろしたはずの廊下のシャッターは閉まっていなかった。このシャッターの電源装置はショートしてしまい、二度と開くことは出来なくなっていたはずだ。

これらを統合して考えると、自分がかつて攻略した警察署の仕掛けが巻き戻された上で、なお現在謎が解かれつつあるのだと推測できる。

しかしまだ、ゲーム開始から2時間も経過していない。そんな状態なのにもうスペードの鍵を回収しているというのは謎を解くのが速すぎる気がする。
これを解いている者は、相当の頭脳を持っているのか、あるいはすでにこの警察署のことを知っているのか──その思考に至った瞬間、謎の解き手にひとつの仮説が浮かぶ。

(──まさか……レオン?)

かつての事件に共に立ち向かった友人、レオン・S・ケネディ。
彼ならばこの警察署の謎を解くことがアイテム調達に繋がることを理解しており、殺し合い開始直後に警察署踏破に挑むのも頷ける。

彼ならばこんな催しに乗っているはずがない。頼もしい味方の存在に頼りなかったクレアの足取りも軽くなったように思えた。

嫌というほど見た廊下を駆け抜け、嫌というほど開いた不気味な扉をくぐり抜ける。先に彼かもしれない何者かを探したいと焦る気持ちはあるが、この舞台で無闇に他人と接触することはリスクが高い。

S.T.A.R.S.オフィスにある棚にはグレネードランチャーが入っていたはずだ。
交渉の前に戦力増強を──確かな冷静さと目的をもってクレアはオフィスへと入っていった。


──ちょうどその時、エントランスの扉が開き、3人目の来訪者が訪れたことに気付くものは居なかった。


844 : RE:2(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:47:41 SXMlGeDo0
オフィスの扉を開けるや否や、乱雑に置かれたダンボールや机・床に散乱した資料が視界に映る。相変わらずオフィスは散らかったままのようだ。

散らかった中を何度も何度も何度もさらに何度も根気強く探してみればフィルムのひとつでも見つかるかもしれないが、生憎毒にも薬にもならないようなものに興味は無かった。一直線に鍵のかかった棚へと向かい、持ち前のキーピック技術で棚を開く。

しかし中は空っぽだった。
誰かに先を越されたのか、それとも最初から用意されていないのか……。
クレアはふたつの仮説を立てるが、正解は後者である。

(オフィスには特に何も無いみたいね……。)

もっとも、参加者との接触の際に武力を示すだけであればクレアに支給されたP90だけで十二分に可能である。
それでも手持ちの駒を増やしておきたいのは、未知との遭遇への不安を先送りにしているに過ぎない。クレアは殺し合いに招かれる前の一連の事件においても、まだ見ぬ扉の先に行く前にはタイプライターにこれまでの探索を記録し、すでに探索した場所でも更に入念に探索をする慎重さを見せた。警察の死体にも億さず弾薬の探索を続けるほどのその執念は、ラクーンシティ脱出の鍵となってくれたものだ。

何も得ずに参加者と接触するのが不安だからか、クレアはそのままオフィスを出ずにクレアの兄、クリス・レッドフィールドのデスクへと向かっていく。
彼の趣味をそのまま投影したかのようなそのデスクにかつて置かれていたユニコーンのメダルはもう置かれていない。

(兄さん……私に、勇気を……。)

しかしクレアの目的は謎解きアイテムなどではなかった。
壁に掛かっている目的のもの──兄のコートを取り、そのまま背中から着込む。
男物であることもあってかなりぶかぶかではあったが、全身を包み込むようなそのサイズからどことなく安心感を覚える。

(それじゃあ……行ってくるわね。)

コートを深く羽織り直して、クレアはオフィスを後にした。





「ぐっ……こんなところで……この私が……!」

ソリダスは行き詰まっていた。
『イーグルストーン』『ジャガーストーン』『サーペントストーン』の3つの石版は見つけたのだが、それをはめる場所を見つけられずにいるのだ。

かつてのクレアは、ブライアン署長が不自然に居なくなったからこそ、その脱出経路を予測して署長室の絵の仕掛けを見つけることが出来た。
そのようなヒントを与えられていないソリダスが謎解きに難航するのは無理もないことだった。


845 : RE:2(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:48:26 SXMlGeDo0
(──私は何をしているのだろう。)

ふと素に戻るソリダス。
確かにソリダスは2時間というかなり短い時間でラクーン市警の謎のほぼ全容を解き明かした。
攻略者を苦しめたクリーチャーやリッカーが居なかったり、小さい子供がいないと行けない場所の仕掛けは簡略化されていたりと、クレアが通った道よりも楽な道ではあるのだが、それでもその速度はSランク級である。

しかし、だから何だと言うのか。
確かに警察署を攻略することで多少のアイテムは手に入った。
だがこうしている間にも自分の手駒となるべき人間は着々と殺されていることだろう。

「……出るか。」

多大な無駄足を踏んだことに苛立ちつつ、ソリダスは出口へ向かい始める。

興奮しつつも足音を立てて居場所を特定されぬようにすでに何度か往復した通路へと進む。

その時、目の前に参加者と思われる人物が現れた。
可憐な顔付きに似合わず、身の丈より幾分か大きなコートに身を包んだその女性は、ソリダスの姿を見るや否や慣れた手つきで銃口を向けた。

「動かないで。」

クレアはソリダスに静止を掛ける。ラクーン市警を攻略していた者の正体は残念ながらレオンではなかったらしい。奇しくも以前レオンと再会した場所でまた、一対の男女が顔を合わせている。以前とは異なり、女性は男性の元へと駆け寄ることなく銃口を向けているのだが。

面白くないことになった──ソリダスはクレアの持つ銃を眺めながらそう思った。
それはソリダスのよく知る愛用の銃、P90。その破壊力をもってすれば自分の胴体など即座に灰燼と化すであろう。

だが面白くないことというのは別にあった。この状況ですぐに撃たないことから、クレアが殺し合いに乗っていないことは容易に想像がつく。

「安心して、妙なことをしない限り私は撃たない。」

その言葉を聞いて、ソリダスは舌打ちする。対するクレアはその余裕ある態度を見ていっそう警戒心を増す。

「まずは貴方のスタンス、聞かせてくれないかしら?」

「……待て。落ち着け。」

スタンスを聞かれてもソリダスは喋らない。ソリダスは殺し合いには乗っていないのに焦りを浮かべている。

「私はクレア。クレア・レッドフィールド。」

「……ソリダス・スネークだ。それより──」

それ以上言うなとジェスチャーでストップサインを出したくても、P90を突き付けられながら下手に動くわけにはいかない。

「主催者を倒してこの殺し合いを打破するために動いてるわ。」

「……!このッ──」

ソリダスは内心途方に暮れる。
とうとうこの女は言ってはならぬことを言ってしまった。


「──馬鹿者がッ!!」


その気迫に押され、どちらが優位に立っているのかも忘れて戸惑うクレア。襲われでもしない限り最初から撃つつもりなど無かったため、P90から弾丸が撃たれることもない。


「……。」

「……?」


しばし、沈黙が流れた。


846 : RE:2(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:49:32 SXMlGeDo0
「まったく……。命拾いしたようだな。」

ソリダスは首輪を通じて自分たちの会話が盗聴されていると考えている。
そんな警戒もせず呑気に殺し合いの打破を唱えるクレアに馬鹿者と一喝したのであった。

だが主催者を倒すとまで宣言したクレアの首輪が爆発しないのを見るに、殺し合いへの反抗は黙認しているのだろうか?
おそらくはこの状況を覆せるはずがないとタカをくくっているのだろう。まさかこれだけ参加者を恐怖で支配しておいて盗聴機能が無いとは思えない。

とはいえ、主催者に配られた紙と筆記用具にも何かしらの仕掛けで向こうに情報が伝わるようになっているのかもしれない。
その辺りを疑っているとコミュニケーション自体が不可能だ。
向こうが反抗を黙認しているというのなら、反抗の具体的な計画を立てる時以外はコミュニケーションの自由を謳歌させてもらうとしよう。

「盗聴すら疑わない未熟者めが……!まあいい、ひとまず信用してやろうじゃないか。」

盗聴の2文字を聞いた瞬間、クレアは『あっ』と声を漏らして口を押さえる。
ソリダス基準でどこか間の抜けた所作が演技には見えなかったため、ソリダスはクレアを信用することにする。演技だとすれば、首輪が爆破されかねないことを口走るのは命懸けの綱渡りが過ぎる。

もっとも、クレアが盗聴を警戒していないのも無理はないことだった。
いくつもの死線を潜り抜けてきたとはいえ、クレアは本来普通の女子大生である。(銃を扱えてキーピックの技術まである女子大生がいるかというツッコミは受け付けない。)
そして彼女が戦ってきた相手は思考能力の無いゾンビであった。
そんな彼女にとって、盗聴の2文字などドラマの中の存在でしかない。

「ごめんなさい、迂闊だったわ……。」

「……どうやらやり取りは自由にさせてもらえるようだ。結果的にはそれが分かっただけ好都合だろう。」

クレアもまた、ソリダスの挙動の理由が分かったために銃を下ろす。

「改めて、私はソリダス・スネーク。見ての通り真っ当な人生は歩んでいない男だ。」

「改めて、クレア・レッドフィールドよ。この警察署の仕掛けは大体把握しているから、迷ったら何でも聞いて頂戴。」

「ほう。」

クレアの発言にソリダスは関心を抱く。マップに『偽装タンカー』の名前があったことから、このラクーン市警を知る者がいてもおかしくないとは思っていたが、まさかこうも簡単に出会えるとは。

「では聞くが……そもそもこの場所は一体何だ?」

「バイオテロの脅威に晒された街の警察署よ。街の住民全員がゾンビと化した悲劇……私はこの事件の生還者なの。」

そしてクレアはアンブレラ社によって引き起こされたラクーンシティの事件についてソリダスに語った。
ここまでで拾ってきた資料からこの場所の背景について大まかな推測は出来ていたが、クレアの話は人間離れした者への理解があるソリダスから見てもにわかには信じ難いものであった。


847 : RE:2(前編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:51:01 SXMlGeDo0
そう、クレアの話が本当ならばこの警察署のセキュリティも筋が通るのだ。
像を所定の位置に動かしたり、絵が暗示するように火をつけたりと、一般的に知能が無いと言われているゾンビには攻略不可能な謎だ。このような対ゾンビ特化の要塞を持っておきながらクリーチャー化した警察によって内部から崩壊とは、やはり国家の犬は無能であるなと、ソリダスは内心鼻で笑う。

実際のところラクーン市警の仕掛けは単に美術館時代の名残と署長の趣味でしかないのだが、とりあえずそういうことでソリダスは納得したようだ。

「私も最初は信じられなかったし無理もないと思うわ。そうね、作り話じゃない証明として……その石版の使い所、教えてあげましょうか。」

ソリダスの持つ3つの石版を指さす。
糞の役にも立たないプライドに傷が付きながらも、ソリダスは二つ返事で了承する。

「ついてきて。」

クレアは迷わず署長室へと向かい、ソリダスはそれについて行く。
その無駄のない移動経路だけでも充分クレアが嘘をついていないことの証明になる。

そして盗聴を疑っていなかったことから不安もあったが、元々は一般人ながらに足音を立てぬようにしながらの移動は心得ているようだ。ゾンビやリッカーなどの物音に反応するクリーチャー相手への対抗手段であればクレアの右に出るものはいないだろう。

2人が署長室へ向かった後、通路を更なる来訪者の影が通り過ぎる。

「S.T.A.R.S…」

影は、その巨体に『追跡者』の異名を持っていた。
微かに感じたS.T.A.R.S.メンバーの『匂い』を頼りに、2人の後を追い続ける。
対象を殺すまで、ひたすら追い続ける。


848 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:51:22 SXMlGeDo0
以下、後編投下します。


849 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:52:30 SXMlGeDo0
「また絵の裏か。盲点だったな……」

署長室の絵を横にスライドすると、3つの石版をはめろと言わんばかりの穴が現れた。
先ほどの絵と同じように突き破っていたら破損して石版がはめられなくなっていたかもしれない。

「この先にはエレベーターがあって、ここの署長の悪趣味な部屋に繋がっているわ。」

以前の通りに石版をはめ込むと、署長室に隠し扉が現れた。そしてこの時、ラクーン市警は2度目の攻略が果たされたこととなった。

「行きましょう。」

言うが早いか、隠し扉を開く。
すぐそこの地面に放置された資料を無視し、エレベーターの方へと目を移す。

「……!?」

そこで、クレアは驚きの光景を目にすることとなった。

そこにはあるはずのエレベーターが存在していなかったのだ。
エレベーターがあった場所には代わりに、紫色の球が置かれている。


「まだ謎解きゲームの続きがあるのか?」

その球を見て、バージンハート等と同列のものだと考えたソリダスが尋ねる。

「いいえ、本来この先は警察署地下に繋がっていたはずよ。」

「……結局、時間の無駄だったと言うわけか。クソッ!!」

ソリダスは不満を隠そうともせずに壁を蹴飛ばす。
結局謎を最後まで解き明かしても手に入れたのはよく分からない球だけだ。
主催者のお遊びに付き合わされただけのような気がしてならない。


850 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:53:44 SXMlGeDo0
対するクレアは球を手に取りまじまじと眺める。

「でもこの球、ただの球じゃない気がする。何か力を感じるというか……。」

「オカルトか?くだらん。そんなに力とやらが欲しければお友達とパワーストーンでも買いに行くんだな。」

半ば八つ当たり的にクレアに当たるソリダス。
2人の間にピリピリとした空気が流れ始める。

しかしその時、その空気を打破する声が聞こえてきた。



「S.T.A.R.S………」



背筋が凍りつくような声だった。とても人間とは思えない。
クレアもソリダスも、危険が迫ってきていることを察知する。

聞こえたところ声の出処は間もなく署長室に入ってくるだろう。
そうなれば一本道であるため、もはや逃げ場はない。

「道を作る!離れていろッ!」

ソリダスがクレア以上の決断の早さで、壁にプラスチック爆弾を仕掛ける。
爽快な爆発音と共に、壁にエントランスホールの2階に繋がる巨大な穴が空いた。

そしてその爆発音に気付いた声の主の足音が速まる。
どうやらすでに署長室まで入って来ているようだ。声の主──ネメシス-T型は言葉にならない叫びと共に2人を追う。

クレアとソリダスがエントランスホールに入った時、後方ではネメシスが隠し扉を叩き破っており、その姿が2人に晒される。

(あれは……G生物?いや、あるいはそれ以上の破壊力を……)

破壊という言葉を体現したかのようなその姿は、かつて戦ったウィリアム・バーキンの成れの果ての姿と重なった。

その姿を見て、人間では無いと確信すると同時にクレアはP90を構え、発砲する。その銃の一撃はリッカーを瞬時に黙らせ、かのメタルギアRAYすらも葬るソリダスのお気に入りだ。

だがその銃弾はネメシスに命中することは無かった。それも不自然に。まるで弾の方がネメシスを避けているかのような軌道を描いたのだ。

「馬鹿な……!?あれはまさか……!」

その光景にはソリダスも驚愕する。しかし彼はその現象を見たことがある。
自分が利用していたデッドセルの元リーダー、フォーチュンが魅せていた『奇跡』である。


851 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:54:49 SXMlGeDo0
本来この時のソリダスは、フォーチュンの『奇跡』が愛国者達の科学技術によって生み出された『電磁波兵器』であることを知らない。
だが、こうして見ず知らずの化け物が同じ現象を起こしているとなれば、何らかのタネがあるのではないかと疑いもする。

だがネメシスほどの化け物を前にしてそのタネを暴こうとする気概はソリダスには無い。

「奴に銃弾は効かん!逃げろ!」

簡潔な結論のみを提示し、クレアに逃走を優先させる。

「くっ……このままだと追いつかれる……!」

ネメシスの追跡者の異名は伊達ではない。
クレアが走れば難なく振り切れていた今までのクリーチャーとは違い、走っても走っても距離を引き離すことが出来ない。

こんな状況下ではハシゴを使って1階に降りることなど不可能だろう。降りる途中にハシゴごと振り落とされ、飛び降りて来て追い詰められる未来しか見えない。
また、ラクーン市警の2階は意外と高度があるため、飛び降りることも出来そうにない。

「階段を使いましょう。」

「当然だ。」

警察署から出るのであれば目的地はエントランスホールの1階。
ここでハシゴを使えないとなれば結構な遠回りになるが、そのようなことを言っている場合ではない。

警察署内の図書館に出る。狭い廊下から解放されてようやく広々としたスペースに出て来れたものの、その広さを謳歌する暇もなくただ出口まで一直線に駆け抜ける。
そんな中クレアはふと、後ろを振り返る。

「っ……!まさか……!」

その声に釣られてソリダスも振り返る。
そこに見たのは、エントランスホールの2階から1階への転落防止用の柵を千切り取って鋭利な突起物として構えるネメシスの姿。

「投げてくるぞ!!」

ソリダスが言い終わる前に、ネメシスはそれをクレアに向かって投擲した。

クレアは咄嗟にソリダスと反対側に逸れて避ける。
ただしそのせいで出口への最短ルートから大きく外れることとなった。
勿論それを見逃すネメシスでは無い。


852 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:55:36 SXMlGeDo0
図書館の出口に行き遅れたクレアに向けてネメシスが走る。
クレアは咄嗟にP90を数発発砲するも、ネメシスが身に纏った電磁波兵器がそれを全て逸らす。

「S.T.A.R.S.!!!」

ネメシスの叫び声に同調するように、ネメシスの身体から生える触手がクレアに向けて振るわれる。

辛うじて避けることで身体への命中は防いだものの、持っていたP90を落としてしまう。

一方ソリダスは、命を張ってクレアを助ける義理などない。
ただクレアが狙われていることで多少の行動の余裕はあるため、後に続くクレアがどう逃げてもドアを開ける動作をしなくていいように2枚ある扉の両方を開いておく。

落としたP90を諦め、何とか体制を立て直してソリダスが開け放しておいたままのドアへ向かう。もし1人だったらドアを開けている最中に捕まっていただろう。
走っている最中に後方から聞こえてきたバキリという音から察するに、P90は踏み潰されてしまったようだ。


「こっちだッ!!」


次の廊下に出ると、右側からソリダスの声が聞こえてきた。
確かに右側の通路を通れたら近道ではあるが、右側の扉は内側から打ち付けられていて通れなくなっていたはずだ。

「駄目!そっちは行き止まりよ!」

「いいから来い!」

よく見ると、何と頑丈に打ち付けられていたはずの扉に人が一人通れるくらいの隙間が出来ていた。さすがにこの短時間で破壊できるようなものではないはずなのに、だ。

ネメシスが投げるそこらの長椅子を回避し、右へ曲がる。
仮に左に逃げていたら右の通路をネメシスの破壊力で突破されて先回りされていたかもしれない。

人間サイズの扉の隙間から出て、下り階段のある廊下まで辿り着いた。

「どうやったの?」

「戦場の避難経路はあらかじめ確保しておくものだ。」

どうやらソリダスが1人で探索していた時に限界まで脆くしておいたらしい。地の利に胡座をかいていた自分は、既知の物事に囚われて新しい解決策というものが頭から抜けていたようだ。

人間より一回り大きいネメシスは隙間を潜ることが出来ず、一旦立ち止まってから破壊する。
そのおかげで多少距離を離すことが出来た。

そのアドバンテージもあり、1階に降りてからしばらくは追いつかれそうになることも投擲の射程に入ることもなく逃げることが出来た。


853 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:57:13 SXMlGeDo0
「なにッ……!?」

しかし、それは扉を開けた瞬間、唐突に起こった。

先に窓のある廊下へと飛び込んだソリダス目掛けて、天井からリッカーが飛びかかったのだ。
どうやらシャッターを閉じていなかったことで、外からリッカーが入り込んだらしい。

ソリダスは自らに馬乗りになったリッカーの頭を掴み、壁に叩き付ける。裸出した脳が破壊され、辺り一面が血の海と化す。
日頃の戦闘訓練の甲斐あって、身体機能を促進する装備品が無くともリッカー1匹の対処に手こずるようなソリダスではない。

だが、後方より迫るネメシスに対して見せた隙としては、それはあまりにも大きなものであった。

「ヴォオオオオオオオ!!!」

(くっ……ここまでか……!)

ネメシスの触手がしなりを付ける。
そして今にも、ソリダスに向けて振り下ろされんとしていた。

だが、触手がソリダスを叩き付けることは無かった。
"クレア"がネメシスに向けて体当たりを仕掛けたからだ。

「なっ……お前ッ……!」

勿論、華奢な身体の体当たりひとつなどでネメシスはびくともしない。
しかし目の前に現れた"クレア"へとネメシスの攻撃対象は変わる。

「S.T.A.R.S.!!!」

振るわれた触手が、"クレア"の胴を引き裂いた。

「ぐっ……!」

その光景を前にしても、ソリダスは好期を見逃さない。
即座に立ち上がりネメシスに背を向け、再び走り出す。

次の瞬間、ソリダスは今日一番の衝撃に襲われることとなる。

「はぁ……はぁ……」

たった今後方で殺されたはずのクレアが、何と前方で息を切らしながらも生きているのだ。

「な、何故……?」

「どうやら私、ファンタジー世界の住人になっちゃったみたいね……。」

その種は先ほどクレアが回収していた紫色の球にあった。

球は、その名を『パープルオーブ』といった。
ラクーン市警を踏破した者に贈られる、この会場の何処かに設置されている六つのオーブの内の一つである。

そしてそれぞれのオーブには特別な『特技』を使えるチカラが備わっている。
たった今クレアが使った特技は『パープルシャドウ』。自身の影を実体化させ、思い通りに動かす特技である。

ただし、魔力を持っていない者が使うとなればそれ相応のスタミナを奪われることとなる。
実際、クレアの走る速度はスタミナ減少によってDanger状態並に落ちている。ネメシスに追いつかれるのも時間の問題だ。


854 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:57:57 SXMlGeDo0
「……チッ!!」

ソリダスは舌打ちしながらクレアをその背に背負う。
クレアを囮にして助かるという手も勿論あったが、クレアの行いで自分の命が助かったのは確かだ。その前に2度も間接的にクレアを助けていたとはいえ、犠牲にするのは躊躇われた。

そして少し、ほんの少しだけ、ソリダスは思ってしまった。
もしも自分に娘がいたとしたら、クレアのように生意気ながらもどこか芯のあるような少女に育っていたのかもしれないと。

クレアを背負っているだけあって不安定ではあったが、エントランスホール1階まで辿り着くことが出来た。もう警察署の出口は目の前だ。

「ソリダス、ひとつ気付いたことがあるわ。」

その時、クレアが口を開いた。

「あの怪物、どうやら私を狙ってるみたい。」

「何だと?」

「正しくは、このコートの持ち主をね。」

近くでネメシスの声を何度か聞いたことで、クレアさその中身までもを聞き取ることが出来た。
S.T.A.R.S.の名を挙げて攻撃しているのを見るに、あの怪物は何かしらでS.T.A.R.S.との因縁があるのだろう。
だとするとS.T.A.R.S.の印章が入った兄のコートを着ている自分が優先的に狙われていると考えられる。

柵の投擲が自分であったのも、廊下で触手攻撃が自分の影に対して振るわれたのも、偶然では無かったのだ。

「それなら話は早い。もう一度だけあの分身を出せるか?」

「ええ、何とか。」

ソリダスはヴァンプやフォーチュンといった人外地味たチカラを持つ者たちを知っているので、そういったものへの理解は早い。
よってここでも、すでにパープルオーブのチカラを受け入れた上で作戦に組み込む柔軟さを持っている。

「まずはそのコートを脱げ。そしてお前の支給品を寄越せ。このままお前をおぶってたら追いつかれるのも時間の問題だ。」

「なるほど、分かったわ。」

クレアは言われた通り、ソリダスの背の上でコートを脱いで支給品を渡す。
そして同時に、ラクーン市警の出入口の扉が開かれる。
クレアとソリダスはようやく、ラクーン市警を出ることに成功した。

だがまだだ。
背後からネメシスが追ってくる限り脱出成功とは言えない。
ネメシスもまたラクーン市警を出た瞬間、クレアは気力を振り絞って自身の影を作り出す。

クレア・影はソリダスからコートを受け取り、それを羽織ってネメシスの方へと向かう。
ソリダスは背負ったクレアを下ろし、クレアから受け取った支給品のひとつを持ってクレア・影の後に続く。


「S.T.A.R.S.!!!」


S.T.A.R.S.隊員、クリス・レッドフィールドのコートを羽織った者を認識したネメシスは以前よりの命令に従って豪傑の腕輪によって強化された拳をクレア・影の胴体に叩き付ける。
クリスのコートは衝撃でバラバラに裂かれ、クレア・影は即死する。
しかし攻撃優先度の低いソリダスは、その間行動の猶予が与えられる。


855 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 02:58:52 SXMlGeDo0

「うおおおおッ!!」

そしてその猶予を利用して、ソリダスはクレアから受け取った支給品をネメシスに叩きつけた。
直接叩き込まなくては、銃弾をも弾く電磁波兵器によって躱されてしまう。だがソリダスの拳によって叩き込まれたことで、その支給品は効力を発揮した。

「ウグァ!?」

次の瞬間、ネメシスの身体がふわりと宙へ浮き上がる。
その後、爽快な音を立てて宙へと消えていった。

叩き付けた支給品の正体はキメラの翼。対象とした1人を会場の何処かへ移動させる道具である。
自分たちに使う場合は、クレアかソリダスのどちらか片方しか逃げられない。
よって、両者生還のためにはネメシスを対象に使うしか無かったのである。

「やった……のね……。」

「ああ、ひとまずは……だがな……。」

もちろんこれで安心できる訳では無い。
殺し合いはまだ始まったばかりだ。
だがネメシス-T型という強大な驚異を死者の1人も出さずに切り抜けたというのは、同行者や仲間の死を割り切りながら戦ってきたクレアとソリダスにとっては初めてであった。

「よか……た……。」

そう感じていた次の瞬間、クレアの意識が途絶えた。

「おい、どうしたッ!!」

慌ててソリダスが駆け寄るが、寝息を聞いてパープルオーブの使いすぎで疲れて眠っただけだと気付く。

「ちっ……時間は無駄にしたくないのだがな……」

このまま他の場所に向かうことは出来なさそうだ。
しばらくの間はこの場に留まるのが懸命だろう。

そう考え、クレアをエントランスホールで寝かせることにする。またネメシスみたいな敵が唐突に襲ってきてはたまらないので、ソリダスは警察署の前で見張りをすることにした。

こうしてクレアはラクーン市警からの2度目の脱出を果たした。

ただし本人は再び、ラクーン市警の中へと戻っているのだが……。

BIOHAZARD RE:2
To Be Continued…………


856 : RE:2(後編) ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 03:02:00 SXMlGeDo0
【F-3/ラクーン市警/一日目 早朝】

【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労 睡眠
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2 パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 失われし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:対主催
1.首輪を外す
2.警察署内で武器や道具を探す

※エンディング後からの参戦です。


【ソリダス・スネーク@ METAL GEAR SOLID 2
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:サバイバルナイフ@現実
[道具]:基本支給品、壊れたステルススーツ@METAL GEAR SOLID 2、グリーンハーブ3個@BIOHAZARD 2、ハンドガンの弾@BIOHAZARD 2
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの打破と主催の打倒
1.手勢を集める。殺し合いに乗った者は殺す
2.首輪を外す
3.主催者を愛国者達の配下だと思っています

※ビッグシェル制圧して声明を出した後からの参戦です。




「S.T.A.R.S………」

ネメシスはキメラの翼によって飛ばされたことで、『イシの村』へと辿り着いていた。
誰にとっての幸運か、周りにこの村を訪れた者は誰も居ない。

しかし居ないのであれば、ネメシス自らが探し求めに行くだろう。

追跡者──その名の示す恐怖を次に思い知るのは、一体誰なのか。


【A-1 イシの村/一日目 早朝】

【ネメシス-T型@BIOHAZARD 3】
[状態]:健康
[装備]:電磁波兵器@METAL GEAR SOLID 2 豪傑の腕輪+3@ドラゴンクエストXI 失われし時を求めて
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2個)
[思考・状況] 基本行動方針:皆殺し1.S.T.A.R.Sのメンバーが居れば最優先で殺す。


【支給品紹介】
【パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 失われし時を求めて】
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、『パープルシャドウ』を使うことが出来る。

※他のオーブも対応する特技を使用することが出来ます。
※他のオーブも会場内のどこかに隠されています。

【電磁波兵器@METAL GEAR SOLID 2】
ネメシス-T型の優遇支給品。
フォーチュンが身に纏っていた、愛国者達による科学技術の結晶。まるで神がかった幸運が味方しているかのように、銃弾が装備者を避けていく。


857 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/08(火) 03:02:20 SXMlGeDo0
投下完了しました。


858 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/11(金) 02:10:21 Hf5r1UtM0
ハル・エメリッヒ、シェリー・バーキンで予約します


859 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/12(土) 14:27:04 tA8Z2irQ0
投下します。


860 : 初心に振り返って ◆vV5.jnbCYw :2019/10/12(土) 14:27:35 tA8Z2irQ0
森の中を、二人の若い男女が行く。
この一文だけを読めば、デートか何かと推測できそうだ。
だが、二人の表情の強張りは、決してそんな華やかなものではないことを物語っている。


「ねえ、錦山さん。これからどこへ行くの?」
「どこへ行こうと勝手だ。」


簡単な問いかけを、男、錦山彰は突っぱねる。
その後女、里中千枝は話そうともせず、ただ森に二人の足音だけが響く。

本当のことが分からないまま、錦山が船を停泊させていた場所が見えてきた。





自分の前を歩いていた錦山さんが、急に立ち止まって、スーツのポケットから何かを取り出した。
一瞬、武器か何かかと思って、身構えるも、何の変哲もない煙草だった。

「俺が煙草を吸うのが、そんなに面白いか?」
「……ごめんなさい………。」

私が煙草を吸っている錦山さんを見たのは、面白いからというわけでは全くない。
鳴上君を思い出したからだ。

いつだったか、ふざけて悠君が菜々子ちゃんのお父さんの格好をマネして遊んでいた時のこと。
私が未成年だから煙草なんか吸っちゃだめじゃないと言ったら、これはチョコレートだって言われた。

今の目の前にある煙草は、煙の嫌な臭いがするから、本物のタバコだろうけど。


何故悠君がそんなことをしたのか、もう思い出せない。

そんなに前の出来事でもないのに、凄く、懐かしい思い出。


いけない。
うじうじ悩んじゃいけないと思ってるそばから、また悩み始めてる。
けれど、私はどうすればいい?


突然。ふいに思い付く。
悠君も、そしてあの子もこの戦いに参加させられているのではないかと。

誰一人知り合いがいないのなら、偶々貧乏くじを引いただけかもしれない。
だが、完二君がいて、自分もいたなら、他の知り合いも参加させられている気がする。
そして、地図の上には、自分達が通っていた八十神高等学校の名前が載ってある。

どうやら無作為に参加させられたわけではなく、知り合い同士纏めて参加させられているのかもしれない。


861 : 初心に振り返って ◆vV5.jnbCYw :2019/10/12(土) 14:27:53 tA8Z2irQ0

煙草の吸殻を無造作に捨て、錦山さんは船に乗り込み、私は後部座席に腰かけた。

「私……行きたい所があって………。」
「……どこか早く言え。」

黙って地図の上の八十神高校の場所を指さした。

無言で私達を乗せた船は走り出す。

丁度B-5とA-5をつなぐ橋の下を通り過ぎたあたりで、遠くの異変に気が付いた。
ここからでも見えるくらい高く、煙が上がっている。

地図から推測するに、研究所で何かが起こっているようだ。


昔の私なら、すぐに降ろしてもらって、許可を得なかったら、泳いででも向こうに行っていただろう。
だけど、死にたくないという恐怖、そして殺したくないという恐怖が、それを妨げる。
今の私には危険な場所に飛び込む勇気も、決断力もない。
ただ、心を落ち着かせる場所、落ち着かせてくれる人がいてほしかった。


それからは何もなく、ただ船のジェットの音と、波の音だけが聞こえてくる。

潮の匂いを嗅ぐと、あの時のことを思い出す。
みんなで、海へ行った日。
花村君が、私たちの水着姿に興奮して、冷たい目で見られていた。
あの時、悠君は何を言っていたか、もう思い出せない。

楽しかったけど、遠くへ行ってしまった思い出。


いや、遠くに「行ってしまった」思い出というのは間違いだろう。
そう思う原因はよくわかっている。

幼馴染のあの女の子でも、生田目でも、ましてやマナでも、ウルノーガでもない。
確かに外的要因はあったにしろ、私自身が、思い出から遠く離れた場所に行ってしまった。


まだ人殺しはしていないが、それは問題ではない。
人を殺そうとした、という事実が何より重く、深くのしかかる。
その事実でさえこれだけ私を変えてしまったのだから、きっと誰かを殺してしまったら、きっと私は壊れてしまう。

多分元の世界に無事に帰っても、きっと友達との関係は変わってしまうだろうし、その事実は、ずっと付き纏うと思う。
だからといって、無抵抗のまま誰かに殺されるのは、もっと嫌だ。


862 : 初心に振り返って ◆vV5.jnbCYw :2019/10/12(土) 14:28:18 tA8Z2irQ0
誰かを殺して、自分の身を守らなければならないのは、最初に襲われた時に思い知ったはず。


けれど、もしもの話。
悠君だったら、どうしていた?

また残された仲間を集めて、マナとウルノーガを倒し、この世界から脱出する計画を練り始めているかもしれない。
元の世界では上手くいかなかったが、この世界で彼との新しい関係を築くことが出来るかもしれない。

彼がこの戦いに参加しているかどうかは分からない。
そして、この世界の八十神高校にいるかどうかも分からない。
何より、会えても私の思い通りになるかどうかも分からない。


何もかも根拠のない推測だが、悠君がいなくても、八十神高校へ行ってみる価値はある。
悠君だけじゃない。花村君、りせちゃん、クマくん、直斗くん。そして、悠君と仲良しのあの子。
全員がいなくても、一人くらいはあそこにいてもおかしくない。

知っている誰かに会おう。そして、話し合おう。
放課後のジュネスみたいに、集まってどうするか決めよう。


「おい、誰かが俺達を狙ってないか、お前も気を配れよ。」
「あ、そうだよね。」

錦山さんに言われて、辺りを見回す。
海上は波一つないほど穏やかだが、陸地から狙撃されるかもしれない。
彼はボートを操縦しているし、いざという時に戦えるのは自分だ。


トモエのブフーラさえあれば、ある程度遠い場所の相手でも戦えるし、足場の悪さも補える。


幸いなことに、近くの陸地から私達を狙っている相手はいなさそうだ。


上がり始めた太陽が、水面を照らし、きらきら光っている。
こんな時じゃなかったら、その美しさに見惚れていただろう。


海はとても穏やかで、今の私と同じで平穏を求めて続けているようだった。
そして、突然荒波に変わることも同じだった。


863 : 初心に振り返って ◆vV5.jnbCYw :2019/10/12(土) 14:28:39 tA8Z2irQ0


(ガラにもねえこと、引き受けるもんじゃねえな……。)

俺はとりあえず、Jetmaxでの移動に決めた。
行ける場所が限られるが、反面敵からの襲撃方法も限定される。

遠距離から狙われても、銃で対抗すればいいだけだ。


それより問題は後ろのガキだ。
ただのガキならまだしも、情緒不安定でしかもよくわからねえ強い力を持っている。

今のガキの態度と、あの森の惨状が動かねえ証拠だ。
付いてくるのを許したはいいが、言ってしまえばいつどんな形で爆発するとも分からねえ爆弾を抱えちまったようなものだ。

少し前まで、最悪肉壁か鉄砲玉にすればいいと思っていた。
しかし今考えてみると、爆弾を盾にすれば自分もただではすまないし、鉄砲玉といっても撃った方に返ってくる鉄砲玉かもしれない。

どうも、自分と言うのは衝動的でいけねえなと反省する。
堂島宗平の射殺や、松重の殺害から見ても、どうにも衝動的すぎる面がある。

どうにかして、行ける所まで行けたら、距離を置くのが最適解だろう。

にしても、行きてえところがあるだあ?
人をタクシー代わりにするんじゃねえ。

まあ自分が行きたい場所があったワケでもねえから、別にいいんだが。
むしろ問題は着いた先にある。


ガキが行きたいっつってた、八十神高校。
この近くには、あのセレナもある。

俺が桐生だったら、真っ先にこの地図にあるセレナへ行き、そこを拠点代わりにする。
今のあいつが何を考えてるか分からんし、たまたま同じ名前の別の施設かもしれねえ。

だが向かいがてら、あいつに鉢合わせしてしまったら面倒なことになる。
どうにかしてガキと別れる口上を見つけるか……だな。
それとも今から、そっちに近づかないように説得するべきか?


丁度B-5とA-5を繋ぐ橋の下に近づいた辺りで、向こう側から煙が上がっているのが見えた。
大体の目測だが、あの研究室の辺り。
また何か乱闘騒ぎが起こったんじゃないかと疑問に思う。


まあ、どの道近づかないから自分には関係ないのだが。
一番警戒していたのは、ガキが警戒するんじゃないかと思っていたが、それは取り越し苦労だったようだ。
Jetmaxのハンドルを右に切り、右折する。

海は相も変わらず穏やかだ。
俺は今まで何度か死体を海に流したし、この世界でも必要があればするつもりだが、そんなことをしても海は顔色一つ変えねえだろうな。


864 : 初心に振り返って ◆vV5.jnbCYw :2019/10/12(土) 14:28:56 tA8Z2irQ0
太陽が顔を出し始め、もうすぐ放送が始まるということに気付く。
桐生のヤツがそう簡単に死ぬわけがねえから知り合いのことはいいとして、何人が死んじまうのかは気になる。

このガキをどうするかも、まだ情報が足りねえ。
結局、ここでも何かに合わせて行動するか、衝動に駆られるしか動けないという自分に少し苛立った。


【A-5→B-5/海上/一日目 早朝】


【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:鬼炎のドス@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、守りの護符@MONSTER HUNTER X、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺さないと殺される、けど今の私じゃ、殺す覚悟もない……
1.取りあえずは錦山さんと一緒に行動してみる。
2.八十神高校へ向かい、かつての仲間とこれからどうするか決める。
3.それからどうすればいいのか決める。
4. “自分らしさ”はどこにあるのか、探してみる
5.自分の存在意義を見つけるまでは、死にたくない
6.願いの内容はまだ決めていない

【錦山彰@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:マカロフ(残弾8発)@現実
[道具]:基本支給品、セブンスター@現実、閃光玉×2@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:人を殺してでも生き残り、元の場所に帰る。
1.なんだってこんなガキと俺が一緒に……
2. Jetmaxで八十神高校の近くまで移動する
3.そのあとこのガキはどうする?


865 : 初心に振り返って ◆vV5.jnbCYw :2019/10/12(土) 14:29:10 tA8Z2irQ0
投下終了です。


866 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/12(土) 17:41:12 pS.jlJ0c0
皆様投下乙です。

・夢は叶えるものだけど、叶わなくても夢は夢さ
はずかしい呪いによる言動のせいもあってか、このイレブンからはどこか幼い印象を受けますね。
「……殺し合いなんて、やりたくない」と言いつつも、頭では殺し合いを理解してしまっている。勇者の苦悩は続きそうです。

>「わー! きみ、ポケモンなのお? あ、私知ってるよ! コイルっていうポケモンの仲間でしょ?」
>『否定:私はポケモンではない。参加者イレブンに支給された随行支援ユニット・ポッド153』
>「……? 難しくてよくわかんないよお」
>『疑問:参加者ベルの理解能力』
あとはベルとポッドの会話がほほえましすぎて、もう…放送が待ち遠しいですね。

・Heartless battle
遥と会話する中で、遥にゼルダと似たところを見出すウルボザさんにしみじみとしました。
対アリオーシュでは英傑としての実力を発揮しましたが、相手の異常さを読み切れずに倒れてしまう結果に。
死の危機に瀕しても遥や他者を心配する姿はシンプルにカッコいいですね。
幼いながらも達観したところのある遥ですが、自分を守るだけの武力があるとは言えません。バレットとオセロットがどう介入するかが楽しみです。

・TRIGGER
前話で投げた話を、うまく昇華させていただけて嬉しいです!
G生物の恐ろしさは、単純な攻撃力もそうですが、何度も進化する点が大きいと個人的に思います。
全員が戦闘慣れしている五人の連携は、読んでいて爽快感すらありました。
そんな一方的な攻撃を受けてもなお死なず、進化を遂げてマールを殺害したG生物。ベロニカが動揺するのも当然のことで、そういった描写は現実的だと感じました。
リーバルが離脱を選んだことも、彼の判断能力とプライドを同時に感じさせて、とてもらしいと思いました。
カミュとハンターの二人がどう立ち回るのか、楽しみです。

・生と死の境界
“勇者一行はイシの村を目指すだろう”→“だから南に向かい武力を揃える”
このホメロス、智将ですね。勇者たちは自分と冷静に会話できないだろう、という予測を前提に行動するのは、とても慎重な印象です。けれど同時に、常にウルノーガの影を感じていることや、プライドの高さが危うい印象をもたらしますね。
一方の陽介はミファーと対面して、「勝てない」と痛感。恋愛観を解釈するのは面白いと思いました。
ミファーが悲劇の女性になるのを防ごうと意地を見せる陽介。こういうところは主人公っぽさもありますね。

・殺意の三角形
>「食らいなさい!!ピンクタイフーン!!」
ここちょっと笑ってしまったポイント。無言で迫るカイムはどんな気持ちだったんでしょう。
殺人への考え方・躊躇いの有無も異なるカイムとマルティナの対比は面白いですね。
そしてマルティナと共闘関係を組んだミリーナ。この選択が吉と出るか凶と出るかは…。

>「あの……ワタクシたちは、この戦いを壊そうと思って……そして、仲間を集めて……こんなくだらないゲームを……。」
ここちょっと笑ってしまったポイント2。情けなやゲーチス…。
エアリスの殺さない選択はマイナスに働く気しかしませんが、どうなることやら。

・流星光底長蛇を逸す
DODは未把握ですが、イウヴァルトへの印象が改まりました。
歴戦の英雄であるスネークに、結果としてカイムとハンターへの警戒心を抱かせるとは。
前の話でカミュ・ベロニカ・ハンターたちに策略がばれたことを受けて学習したのかな、なんて想像できます。
ただまあ、イウヴァルト自身も疑われているということに変わりはないので、その点がどう響くかですね。
そしてスネークは雷電との対面。胸中が気になります。

・RE:2
ソリダスが力任せに警察署のギミックを解いて行ったり、クレアが兄のコートを着たり。
こうしたキャラクターらしい行動は、読んでいて映像が浮かんでくるようでした。
二人が邂逅した後の、ネメシスからの逃走劇もドキドキしました。
フォーチュンの電磁波兵器により銃弾が届かないネメシス、現状の二人の装備ではとても太刀打ちできない!ああークレアがやられた!と思い込んでからのパープルオーブは、なるほどそういう使い方ができるのか!と膝を打ちました。
また、兄のコートを着たことが、囮作戦の伏線となっているのも上手いと思いました。
そしてネメシスの移動先は……とにかく不穏。

・初心に振り返って
この二人、はた目から見てどういう関係なのか想像ができなさそうですね…
不意に過去を回想して悩むあたりが、千枝の情緒が不安定なところを表しているような気がします。
文中にもありましたが、錦山は冷静に器用に行動しているようで衝動的な部分もあるんですよね。
行動方針がいまひとつ定まらないあたりも、桐生さんとは対照的なのかもしれません。


867 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/12(土) 19:00:06 pS.jlJ0c0
久保美津雄、ザックス・フェア で予約させて頂きます。


868 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/12(土) 20:52:07 m43ElxUw0
投下します。


869 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/12(土) 20:52:42 m43ElxUw0
生きなくてはならない。

たったそれだけのことに、わざわざ理由を求める必要なんて無かったはずだ。

だってそうだろう。
アダムとイブを創った神は一体誰に創られたのか、真剣に考えたことがあるかい?
余程の偏屈ものでも無い限り、『そういうものだ』と疑問に見切りを付けてそこで立ち止まるだろうね。
根拠も無く語られて、根拠も無く信じ込まれている。
神話とは得てしてそういうものだ。かくあるべしの真骨頂であり、疑いを挟むこと自体が野暮だとすら言えるのだろう。


──生きなくてはならない。

されば、この文言とて多くの者にとっては神話である。
人が死ぬのに理由はあっても、生きるのに理由は無い。ただ命は尊いと根拠無く信じているから生きるのだ。

だけどそんな神話に解の根拠を求めてしまった者たちがいた。

例えばビッグ・シェル占拠事件の黒幕、ソリダス・スネークはその1人だった。
彼は自らの生きる理由を、歴史の継承の中に見出した。生きる理由にしがみついたが故に、彼はあのビッグ・シェル占拠事件を起こした。

命は尊い、だから生きる。
愚かにもそんな短絡的な神話に満足出来なかった偏屈さが彼にはあったのだ。


870 : Must Survive ◆2zEnKfaCDc :2019/10/12(土) 20:54:06 m43ElxUw0
そして……かく言う僕も生きる理由にしがみつきたくなった偏屈ものらしい。

別にソリダスのようにテロリズムに走るつもりもないし、生きる理由が無いならば死すべしなどという過激思想に取り憑かれたわけでもない。

単に僕は、命が尊いという、かの神話の大前提はこの場においては一切通用しないと気づいてしまったのだ。
何故なら、この世界で生き残れるのはたった1人だから。この場においては、命というのは何十人分の尊い命と矛盾しながら存在している。命が尊いものであればあるほどひとつの命の尊さが損なわれてしまうという、ある種のパラドックスが生じているということになるのだ。

例えばほら、こうしてむざむざ生き残っている僕は他の命を背負っているじゃないか。
僕は僕の生と引き換えに仲間を切り捨てた。
もちろん桐生やダイケンキが死んでいるとは限らないのだけど、ここで見捨てれば死ぬと思った上で逃げたのだから同じことだ。


『──なんで……抵抗しなかったの?』

『──どうしてカズマとダイケンキを見捨てたの!?』


隣に座る少女──シェリーの言葉が頭の中で反芻される。
シェリーが沈黙しているため新しい情報を得られず過去の情報が僕を苛む。ましてや、無理な移動で2人とも座り込んでいるのだから尚更だ。

そして僕にとってはこの沈黙こそが何よりも痛い言葉のナイフだ。僕の心の臓をきっちりと捉えて、グサグサと何度も何度も刺し続ける。
そんな状況に嫌気が差した僕は、気が付けばその沈黙を打ち破るべく言葉を発していた。


871 : Must Survive ◆2zEnKfaCDc :2019/10/12(土) 20:54:46 m43ElxUw0
「僕にしか、出来ないかもしれないんだ。」


この時の僕は、何とか僕にのしかかる重圧をシェリーと分け合いたいと、そう思っていたのかもしれない。


「首輪を調べられるのは僕だけかもしれないから。」


震えた声で僕はそう言った。
そしてそれが、僕の見出した僕の生きる理由だった。

戦える参加者ならある程度いると僕は見立てている。
桐生がそうだったし、僕らを襲撃してきた奴も人知を超えた動きを見せていた。何なら銃やポケモンなどの支給品で腕力を補えばシェリーのような無力な参加者でもジャイアントキリングを狙えるだろう。

だけど、僕の持つ知力を支給品で補うことは難しい。
桐生のような実力者が例え100人集まったとしても、首輪で支配されている限りは主催者に反抗して生還することは有り得ないのだ。

だがこの首輪を解除する目処があるのなら──先の理論に法るならば、その者だけが他の命と矛盾せずに生きていられるのだ。その者だけが、命を尊い命であるままに出来るのだ。

そう、僕の命だけには価値がある。
僕だけには、生きる理由がある。

「だから僕は──生きなくてはならない。」

この時の僕は、冷静さがあまりにも欠けていたようだ。
その証拠に、そもそも自分で桐生に言った盗聴の可能性が頭からすっぽ抜けていたのだからね。


872 : Must Survive ◆2zEnKfaCDc :2019/10/12(土) 20:55:27 m43ElxUw0
「──そっか。」

そう、僕は本当に冷静さが欠けていたのだ。
これをシェリーに言うことが彼女にとってどういう意味を持つのか、考えられない僕ではなかっただろうに。

「『僕たちは』じゃないんだね。」

──僕の唱えた理屈は、知力を持っている側の理屈でしかなかった。

僕は自分の失言に気が付いた。
だけどもう、手遅れだった。

「オタコンのためなら、誰が死んでもいいってことなんだよね。」

この時、嘘でも違うと言えていたのなら何かが変わっていたのだろうか。それを確かめる手段は無い。僕はそれを否定出来なかったのだ。

「カズマもダイケンキも見捨てて…………次は、私の番かもしれないんだね……。」

そしてこの言葉を皮切りに、シェリーは再び喋らなくなった。
彼女の中で、僕という人間が完全に信頼出来る大人でなくなったのを感じた。

彼女はまだ幼い。命というものの尊さを盲信して然るべき年頃だ。彼女にとって、生とは在るべくして在るものであるし、生きる理由は無であるべきなのだ。そんな彼女に実質的に命の無価値を説いた僕は、彼女の世界から排斥されるのも当然と言えよう。

今度の沈黙は、先の沈黙よりも鋭く僕を突き刺した。
空っぽの心に吹き込む夜風が先程までも冷たく感じられた。

とにかくシェリーは僕を見限った。彼女が逃げ出さないのは、桐生と研究所での待ち合わせがあるからだろうか。それでも心の距離は、取り返せないほど遠く離れてしまったはずだ。

不安でいっぱいの時に隣に居る人に置いて行かれるのは、こんなにも心が痛むものなんだね。
E.E。僕が溺れる君を助けなかった時も、君はこんな気持ちだったのかな?


──ああ、ことごとく僕は無力だ。

守れるはずだったものすら、守れやしない。
だけどそれでも僕には、前に進む道しか残されていない。

涙ならもう、E.Eが死んだあの時に流し尽くした。
例え、それが非情な選択であっても。例え、それが非人道的な道であっても。
それでも僕は、生きなくてはならない。


873 : Must Survive ◆2zEnKfaCDc :2019/10/12(土) 20:55:57 m43ElxUw0
【E-4/南側/一日目 早朝】
【ハル・エメリッヒ@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:疲労(大)、無力感
[装備]:忍びシリーズ一式@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、765インカム@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本行動方針:首輪を外すために行動する。
1.首輪解除の手がかりを探すため、研究所へ向かう。
2.武器や戦える人材が欲しい。
3.もっと非情にならなければならないのかもしれない。
4.生きなくてはならない。


※本編終了後からの参戦です。


【シェリー・バーキン@BIOHAZARD 2】
[状態]:不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1.オタコンについていく。
2.カズマ……。
3.オタコンに強い怒り。


※本編終了後からの参戦です。


874 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/12(土) 20:56:21 m43ElxUw0
投下終了しました。


875 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/13(日) 18:58:02 WLBzERqI0
魔王、オトモ、サクラダ、シルビア、ネメシスT型予約します。


876 : ◆NYzTZnBoCI :2019/10/13(日) 20:15:42 vpKPHlQk0
すみません、昨日今日と全く執筆の時間が取れず、期限中に投下できそうにないので破棄させて頂きます……。
二週間もお待たせしてしまった結果、こんな形となってしまって申し訳ありません。
もし作品が書き終わりまだ予約が入っていないようでしたらその時に再投下させて頂きます。


877 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:45:02 ITCOy6RA0
投下します。


878 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:45:23 ITCOy6RA0
3人と1匹は山岳を下り、森を抜ける。
思いのほか時間がかかった。
辺りの見晴らしがよくなる頃には、既に太陽が顔を出し始めている。

「もうすぐ放送か……。」
時計を見て魔王が呟く。

「旦那、大丈夫かニャ……。」
オトモもつられたかのように呟いた。
彼の主人であるハンターもまた、この戦いに連れてこられている。
いくら強くても、それで生き残れるという保証はどこにもない。


「不安かしら?」
シルビアがオトモに声をかける。
「うん……旦那様はとっても強いんだけど、こんな戦いに巻き込まれてしまったら、無事か分からないニャ……。」


「アタシもね、とっても仲良かったコ達と、魔王に襲われて、離れ離れになっちゃったことがあったの。」

「その時はみんニャと会えたのかニャ?」
「……うん。皆とは無事再会できたわよ。オマケに、もっと頼もしい味方も増えた。
それから皆で力を合わせて、魔王を倒したのよ。」


シルビアの話に励まされたオトモの顔は明るくなる。

(ごめんね、ベロニカちゃん)
実はシルビアはウソをついていた。
確かにあの時、自分は仲間とは再会出来たし、グレイグや他のパレード仲間という、頼れる仲間を見つけたのも事実だ。
だが、彼女、ベロニカだけは助けることが出来なかった。
しかも、自分達が無事だったのは、そのベロニカの犠牲があってのものだった。
本当はオトモの不安を拭うためにした話だが、仕方のないことだと自分に言い聞かせる。


だからこそ、新しいナカマ達は守ろう。
騎士の誓いを胸に、シルビアはそう決意した。


「アンタもさあ、イケメンなんだから、そんなにムスっとしないでよ。
あと顔色悪いわよ。ちゃんとゴハン食べてる?」

仏頂面の魔王に、サクラダが声をかける。


879 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:45:43 ITCOy6RA0

「余計なお世話だ。」
キサマが顔色悪くしているんだろうが、と言いたい気持ちを堪えながら答えた。
「んもう、つれないわねえ。」

サクラダを無視し、魔王は繰り返し時計を見ながら、放送の時を待ちわびる。
恐らく特に放送を待っている参加者の一人であるだろう。



放送によって、行動方針を変えることになる可能性が高い。
自分だけではない。オトモやサクラダ、シルビアの知り合いが呼ばれても行動方針に影響するはずだ。




丁度【A-2】を横断する橋に差し掛かった時、先頭を歩いていたシルビアが声を上げた。


「な、何アレ……!!」

黒い、巨大な何かが、橋を渡ろうとしていた。

魔王は小さく舌打ちした。
ここで異形の存在に会ってしまった、タイミングの悪さに。

この状況、相手が進行方向にいる以上は逃げようにも逃げられない。
仮に目的地を変えて逃げようとすれば、シルビア達の信頼度は失われることになる。
おまけに放っておけば面倒になりそうなモンスターだ。
ひょっとすると、グレン達に被害が及ぶ可能性だってある。


相手が見かけだおしの敵かどうにかして懐柔できる存在であることも期待したが、それは都合が良すぎるだろう。


「S.T.A.R.S………」
飛ばされた先でも、ネメシスのやり方は変わらない。
目につく全てを抹殺する。

「止まりなさい!!アタシ達は敵じゃないわ!!」
見た目が怪物だろうと、話し合えば分かる者もいる。
メダル女学院のモンスターが良い例だ。
そう考えたシルビアが交渉に入ろうとする。


「S.T.A.R.S………」
勿論、ネメシスにそんな交渉は通用しない。
地面を殴りつけるような動作をし、こぶし大の石を掘り出し、シルビア達に投げつける。

まともに当たれば、シルビアの体はぐちゃぐちゃになっているだろう。


「させないわ……。バギマ!!」
シルビアが放った竜巻の魔法が、石の進行方向を変え、誰もいない方向に飛ばす。


880 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:46:12 ITCOy6RA0
「お見事だニャ!!シルビアの旦那!!」
「すごいわね。どういった仕掛けなの?」

オトモとサクラダが、異口同音に称賛を贈る。
魔王も口にこそ出さなかったが、見たことのない風の魔法を見て驚く。


「S.T.A.R.S!!」
しかし、投石が効かないと判断したネメシスが迫り来る。

「サクラダ!!余った薪の束、貸して!!」
「え!?いいけど……。」
「ありがと。それっ!!」
シルビアは薪の束を1つネメシスに向けて投げつける。


多数の木の棒が、ネメシスに向けて飛ぶ。

(どうする?)
その結果がどうなるか、魔王はじっと観察していた。
たかだか木材を投げつけた程度で、あの怪物を倒せるとは思えない。
木材ごとき凌ぐ手段ならいくらでもある。
だが、いくらでもあるからこそ、あの技をどう回避するかで、あの怪物の長所が分かる。

殴り飛ばせば、剛力。
躱せば反射神経と高スピード。
木材に異変が起これば、何らかの超能力を持っている。


だが、木材の行方は、魔王の斜め上を行くものだった。
薪の一本一本がネメシスを嫌うかのように、不自然な形で飛んで行ったのである。

まるで凄まじい幸運(フォーチュン)を身に着けた者が、多くの人間から投げられた石を全て回避したかのように。
ネメシスの体に埋め込まれた電磁波発生装置が、投擲物を全て跳ね返したのだ。


(シルビアのコントロールが乱れたようにも見えないし、打ち飛ばしたようにも見えない。
サイコキネシスのようなものか?)

しかし、サイコキネシスなら一度に一つの物しか動かせないし、それなら木材の一つ一つが異なる方向に飛んでいくのも納得できない。


「魔王ちゃん!!危ないわ!!」
サクラダが叫んだ時、既に長身の魔王を優に超す巨体が、近くに走り込んできていた。
戦いの最中に考え事なんてするものではない。

ネメシスの拳を、済んでの所で躱しながら、魔王はそう思う。
既にサクラダとオトモは、後ろに避難していた。


「悪い魔物ちゃんは、これでおしまいよ!!」
しかし、ネメシスが魔王に攻撃する隙を利用した、シルビアは背面に回り込んでいた。
そのまま空高くジャンプ。
ネメシスの首に青龍刀を突き刺した。


881 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:46:29 ITCOy6RA0
(!?)
シルビアはネメシスの筋肉の硬さに目を見張る。
刃が思ったより入らない。
タイラントがベースになった筋肉の強靭さは、並の魔物を遥かに超えていた


「ウガァ!!」
首にナイフを刺され、怒るネメシスは体を揺らし、シルビアを振り落とす。

「きゃっ!!」
空中で不安定な状態になったシルビアが地面に落ちる前に、その顔をネメシスが掴む。
シルビアは顔をゆがませ、どうにかして脱出しようとする。

「S.T.A.R.S……」

だが、そこで、ネメシスの肩から出た触手の槍が、シルビアを串刺しにしようとした。
「くっ!!このっ!!放しなさいよ!!」


その瞬間、暗い色をした爆発がネメシスの胸で起こり、シルビアは触手の犠牲になることなく、自由になる。


魔王が放った冥属性の魔法、ダークボムがネメシスを怯ませたのだ。

ネメシスがシルビアを離した瞬間、もう一発ダークボムを打ち、シルビアを怪物の両手のリーチを超える距離まで離した。


「無事か。」
「ありがと。ちょっと巻き添え食らったけど助かったわ。いいオトコね。」
「冗談は勝ってから言え。」


「ウオオオオオオ!!」
2発の爆発によって多少のダメージを受けたネメシスは、雄たけびを上げる。
躍動する筋肉が、首に刺さったままの青龍刀を吹き飛ばした。
ダークボムによって受けたダメージも、修復されようとしている。


「これは厄介だわね……リホイミでもかかっているっていうの?」
シルビアは敵の自然治癒力に苛立つ。


傷を回復し始めたネメシスは、胴回りに着いた布地から、巨大な筒のような物を取り出した。


今度の相手はラクーン市警で戦ったような、逃げるばかりではなく、抵抗もしてくる相手だと判断したネメシスは、新たな武器を用意する。
豪傑の腕輪、電磁波発生装置に次ぐ、第三の道具の名は、ソリッドバズーカ。


882 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:46:48 ITCOy6RA0

撃った際の衝撃が強く、相当の力がないとまともに使えないこの重火器は、ネメシスとの適合性が抜群だった。

「え?まさか、あれは……。」
シルビアは、かつてグラーゴン退治の時に使ったナギムナー村の大砲を思い出す。
同じ形状ではないが、ぞわりと背筋が冷たくなった。

「サクラダの旦那、あれは間違いなく危ない武器だニャ!!」
オトモが叫ぶも、時すでに遅し。
ドン、と爆音が響き、天空に炎の塊が放出される。
そのまま後方に待機していたサクラダ達の、更に後ろで爆発が起こった。
爆発といっても、先程のダークボムより数回り大きな爆発だ。


「キャーーーーッ!!イヤーーーーッ!!」
後方に下がっていたサクラダとオトモは、慌てて魔王達の方に近寄る。



(何だ……あの武器は……。)
魔王城に攻め込んできたグレンの仲間の一人、ルッカが持っていた武器に似ている。
だが、サイズも破壊力もその数倍、いや、十数倍はある。

再びネメシスがバズーカを発砲した。
一発目で使い方を学んだからか、多少角度を低めにしている。
今度は、誰かがタダではすまないだろう。


「アイスガ!!」
魔王の詠唱に合わせて、いくつもの氷塊が現れる。
バズーカの仕組みを学んだのはネメシスだけではない。
空中に氷の盾を作り、砲弾を被害の及ばない空中で爆発させる。


爆風の熱で多くの氷が融解した
残りはネメシスに襲い掛かるが、先程の木材のように、氷は明後日の方向に飛んでいく。

(やはり、どこかおかしいな……。)
最初にシルビアが投げた木材と同じだ。
自分も調子がどこか悪いわけでもないのに、何故か魔法が逸れていく。


しかし、考える暇を与えずに、ネメシスはバズーカを抱えたまま、突進してくる。
遠ざかればバズーカ、近づけば触手と拳の二段攻撃だ。


「クッ、散開するぞ!!」
魔王の合図に従って、魔王とサクラダがネメシスの右側に、シルビアとオトモが左側に避ける。
ネメシスの振り下ろした拳は誰にも当たらず、地面に穴をあけただけだった。
触手を鞭のように振り回す攻撃も空振りに終わる。

だが、次の攻撃は予想できなかった。
触手を躱し、そのまま反撃に出ようとするシルビアに、その攻撃は襲い掛かった。
ネメシスはバズーカを、片手で鈍器として振り回して攻撃したのだ。


883 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:47:08 ITCOy6RA0

「な!?」


極めて重量のあるバズーカは、例え重火器として使えても、バットのように使うことは人間には難しい。
だが元々人間離れした怪力を持ち、それを腕力増強の魔術を秘めた腕輪に後押しされたネメシスなら可能だ。
そして重すぎて振り回すことが不可能と思われたが、一たび振り回すことが可能になればその重さは、極めて強力な武器になる。

鈍い音をたてて、ホームランのように魔王は打ち飛ばされる。

「うそ!!?」
隙を見たネメシスは、今度はサクラダに迫りくる。


「こ、来ないでちょうだい!!真っ二つにするわよ!!」

ハンマーでは間違いなく敵わないと判断したサクラダはチェーンソーを取り出し、ネメシスに向ける。
刃は鋭く早く回転する。

しかし、バズーカのスイング一発で、刃は簡単に砕ける。

「やっぱりアタシムリぃぃぃぃ!!」
慌てて逃げ出すサクラダ。
ネメシスはチェーンソーの持ち手も踏みつぶし、サクラダを殺さんとする。


「ウガァ!?」
しかし、幸運なことが起こった。
チェーンソーが踏みつぶされた時に漏れた機械油が、ネメシスの足を滑らせたこと。
仰向けになったネメシスは、さらに悪いことに、全身油まみれになった。


「今がチャンス!!」
シルビアはネメシスに近寄り、火を吹く。
彼が吐いたのはあくまで見せものの火。
超人的な生命力を持つネメシスを倒すにはとても足りない。


しかし、チェーンソーの油に引火し始める。


(なるほど、そういうことか!!)
バズーカの強打を食らった後、戦線に復帰した魔王が、追加のファイガを打つ。
氷や木材といった固体ならなぜか当たらないが、炎のような気体なら遠くから打っても躱されることはないようだ。


「ウガアアアアアアアアアアア!!」


884 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:49:03 ITCOy6RA0
シルビアが珍しそうに、ネメシスが投げ捨てたバズーカを手に取る。
確かにナギムナ―村の老婆が持っていた大砲に似ているが、破壊力は桁違いだった。
「んまあ!!よく見たらアッカレ砦にあったものに似てるわ!!ワイルド〜。」
サクラダも同じようにその武器を見つめる。


(砦……か。)
やはり、砦などの拠点で使われる平気なのだろう。

「旦那様なら、使えるかもしれないニャ!!」

誰が持つかで、オトモが名乗りを上げる。
自分達で使えない以上は持っていても仕方がないが、誰かに奪われればまた厄介なことになりそうだから、そうしておくことにした。



敵を倒し、魔王達はハイラル城を目指す。

魔王がそれ以上に気になっていたのは放送のこと。
時計を見ると、残り5分もない。

ネメシスを倒すのに魔力を使ったのは、自分が殺人に加担していないことを証明することにもなる。
反面、これから殺人を行わなければならなくなった場合、魔力を消費した状態で始めなければならないということだ。


果たしてシルビア達を置いて逃げるべきだったか、協力して倒すべきだったか。
どちらが正しいかは、もうすぐ分かることになる。


885 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:50:03 ITCOy6RA0
巨体が炎に包まれる。
バズーカを投げ捨て、地面をゴロゴロと転がり、その火を消そうとする。

炎で焼かれ、着ている防護服の一部が燃焼しても、触手をさらに振り回し、もがき続ける。


だが、魔王も一撃を放つ準備は出来た。
これまでは範囲が広すぎてシルビア達を巻き添えにしたり、詠唱の間に逆に攻撃されたりする恐れがあったが、今こそ冥属性最強魔法の出番だ。
「求めずとも、消火してやろう。貴様の命の火ごとな!!ダークマター!!」


闇の三角形が太陽の光を、草原を、そして中心のネメシスを呑み込む。

「スタアアアアアズ!!」
闇に飲み込まれてなお、腕を伸ばし、殺すべき相手を叫ぶ。


空間が歪み、進展し、収束する。
爆音。広がる闇と対照的な白い光。
気が付けば地面にボロボロになったネメシスが転がっていた。


「魔王の旦那!!大丈夫かニャ!!」
オトモが心配して、駆け寄ってくる。

「気にするな。あの程度で死ぬほどヤワじゃない。」
確かに腹はまだ痛むが、致命傷ではない。
あの一撃が頭や胸ならまずかったが、それは幸運に感謝しよう。


「助かったわ!!アナタ、やっぱりイケメンね!!今度タダで家を建ててあげるわ!!」
サクラダも魔王の腕にしがみ付いて感謝を告げる。
「余計なお世話だ。早く行くぞ。」

「ねえ、この機械、何か分かる?」
シルビアが珍しそうに、ネメシスが投げ捨てたバズーカを手に取る。
確かにナギムナ―村の老婆が持っていた大砲に似ているが、破壊力は桁違いだった。
「んまあ!!よく見たらアッカレ砦にあったものに似てるわ!!ワイルド〜。」
サクラダも同じようにその武器を見つめる。


(砦……か。)
やはり、砦などの拠点で使われる平気なのだろう。

「旦那様なら、使えるかもしれないニャ!!」

誰が持つかで、オトモが名乗りを上げる。
自分達で使えない以上は持っていても仕方がないが、誰かに奪われればまた厄介なことになりそうだから、そうしておくことにした。



敵を倒し、魔王達はハイラル城を目指す。

魔王がそれ以上に気になっていたのは放送のこと。
時計を見ると、残り5分もない。

ネメシスを倒すのに魔力を使ったのは、自分が殺人に加担していないことを証明することにもなる。
反面、これから殺人を行わなければならなくなった場合、魔力を消費した状態で始めなければならないということだ。


果たしてシルビア達を置いて逃げるべきだったか、協力して倒すべきだったか。
どちらが正しいかは、もうすぐ分かることになる。


886 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:50:27 ITCOy6RA0
【A-2 橋上/一日目 早朝(放送直前)】


【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、
基本行動方針:ハイラル城を目指す
1.サクラダを守る
2.ウルノーガを撃破する。
3.魔王を監視する


※魔王ウルノーガ撃破後、聖地ラムダで仲間と集まる前の参戦です。


【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(中) MP消費(小)
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品  余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。


※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。


【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP1/3 腹部打撲 MP1/4
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、クロノを生き返らせる……つもりなのだが……
1.グレン(カエル)も参加しているのか……?
2.シルビア……食えない男だ。


※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。
※クロノ・トリガーの他キャラの参戦を把握していません。クロノは元の世界で死んだままであるかもしれないと思っています。


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(小)
[装備]: 七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ?
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。
※人の話を聞かないタイプ


【支給品紹介】
【ソリッドバズーカ@ファイナルファンタジー7】
ネメシスT型に支給された武器。原作ではバレットが義手に填めて使っているが、


887 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:50:46 ITCOy6RA0

「スTアアaaアズ……」

そして、魔王、ついでに他の者達がもうすぐわかるのは放送内容だけではない。
ネメシスは死んではいないということもだ。


それ以外の部分のダメージも著しいが、生体改造を施されたネメシスは簡単に死ぬことはない。
コートはボロボロだが、拘束が解けたことで、身体中の触手を振り回す。

追跡者の仕事が再び始まる。



【A-2 西側 /一日目 早朝(放送直前)】

【ネメシス-T型@BIOHAZARD 3】
[状態]:HP1/4 コート消失(第二形態の姿)
[装備]:電磁波兵器@METAL GEAR SOLID 2 豪傑の腕輪+3@ドラゴンクエストXI 失われし時を求めて 
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2個)
[思考・状況] 基本行動方針:皆殺し1.S.T.A.R.Sのメンバーが居れば最優先で殺す。


888 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 15:52:00 ITCOy6RA0
すいません。>>884で書いてない部分があったため、885で書き直しました。
投下終了です。


889 : 魔力と科学の真価 ◆vV5.jnbCYw :2019/10/14(月) 16:39:00 ITCOy6RA0
>>882

>触手を躱し、そのまま反撃に出ようとするシルビアに、その攻撃は襲い掛かった。
ここシルビアではなく魔王です。Wiki編集の時に直しておきます。


890 : 名無しさん :2019/10/15(火) 23:15:42 Gc4H6YAU0
ネメシス怖えよ。そして強いよ
こういうシンプルかつ強力なマーダーってのは厄介だなあ


891 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/17(木) 00:07:00 0QZnbngA0
>>890
感想ありがとうございます。
おっしゃる通り命令や欲望にひたすら忠実な巨人系マーダーって中々厄介ですよね。
デカくて生命力あって馬鹿力がある時点で一つの攻撃・防御手段にもなりますし。
初めて書いたキャラですが、怖さと強さが伝わってくれたようでよかったです。


892 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/19(土) 17:16:08 sTdl4j.A0
皆様投下乙です。
自分の久保とザックスの予約ですが、期限を今日の日付が変わるまでに延ばして頂きたいと思います。


893 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/19(土) 23:59:20 sTdl4j.A0
ギリギリですが投下します


894 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/20(日) 00:01:30 gdlugNi.0
ザックスが眠りについてから数分。
僕は膝から崩れ落ちた状態のまま動けずにいた。
涙はとうに乾いていたけど、頭がぼうっとしていて、動く気力が起きない。
脳内を取り留めのない思考が流れていく。

いつまでこの場所にいるんだ。
忘れてはいけない、今は殺し合いの最中だ。
如月千早のような人殺しが、また来るかもしれない。
もし、そうなったらどうする?
寝ているザックスを頼ることはできない。
となると、僕自身がなんとかするしかない。
なんとかするって、どうやって?
人殺しも銃口を向ければ怯むはずだ。
でも、きっと恐怖で身体がすくんで撃てないだろう。
それなら、戦う以外の方法を選ばないと。

「……そうか、そうだよ」

この場から離れればいいんだ。
どこか、身を隠せる場所を探そう。
運の良いことに、このエリアは建物が多く視界は開けていない。
そのあたりの民家で息を潜めていれば、襲われる確率はぐんと減る。
少なくとも、ここでじっとしているよりはマシだと思う。
一刻も早く離れよう。
まずはリュックに荷物を入れ直さないと。
辺りには支給品の水や食料、それに銃が転がっている。
それらを無造作にリュックにしまおうとして、はたと気がついた。

「……でも、そうしたらこいつが」

僕だけならすぐにこの場を離れられる。だけど、ザックスはどうなる?
このままここに置いていけば、そのうち誰か他の参加者に見つかるかもしれない。
そうしたら、運が良ければ助かるだろうけど、運が悪ければ殺される。
死ぬかもしれないと考えると、置いていくのはためらう。
とはいえ、巨大な岩の剣を振り回す筋肉バカを、僕が担いでどこかに運ぶなんて無理だ。
だから置いていくのは仕方がない。そうするしかない。
勝手に僕のことを守ろうとして、失敗したのが悪いんだ。
僕はそんな失敗をしない。

「オレは……生き残るんだ」

自分に言い聞かせるように、僕は言葉を発した。


――――生き残って、何ができる?


そのとき、また“あの声”が聞こえた。
頭がずきずきとして、僕は思わず頭を押さえてうずくまった。
僕自身の声が、僕自身に問いかけているかのような感覚だ。


――――僕には何も出来ない。
――――ここから逃げても、すぐに殺されて終わりだ。


「う……うるさい!」

僕は反射的に、声に反発していた。
自分でも分かるほど、弱弱しい声で。


――――僕には何もない。
――――怪我人を助ける知識も、人を殺す覚悟も。


「うるさいうるさいうるさい!!!」

手のひらで耳をふさいで、声を聞くまいとする。
それでも脳内に声は響き続ける。僕には何もない、何も出来ない。何もない、何も出来ない。

「勝手なこと言いやがって……!」

ふつふつと苛立ちが湧いてくる。
そのとき、僕はデジャヴを感じた。
僕のニセモノに、僕自身を否定されたときと同じだ。
あのときも勝手なことばかり言われて、僕は感情に任せて怒鳴り散らした。


895 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/20(日) 00:03:18 gdlugNi.0
だから、同じことをすればいい。
同じように、ニセモノを否定すれば。

「オレは何も出来ない人間じゃ――」

(頼りにしてるぜ、美津雄)

瞬間。声が聞こえた気がして、思わずザックスの方を見た。
相変わらず顔面蒼白で調子が悪そうだが、その顔はどこか微笑んでいるように見えた。
これまでに何度も話しかけてきたときの表情だ。
その顔を見て、僕は唇をかんだ。


――――僕には、何も出来ない。


「そんなこと……わかってんだよ!」

口から出たのは、自分でも意外な言葉だった。

僕とザックスを比べると、その力の差は明白だった。
体力に筋力、この異常事態への適応力や咄嗟の判断力。どれをとっても雲泥の差だ。
いくら脳筋のザックスでも、僕と一緒に行動していて気づいただろう。
それになにより僕自身が、差を痛感していた。

「……でも。ザックスは頼りにしてくれた」

僕のことを劣等生扱いして見下してきた奴らとは違う。
無視をして、居場所を奪おうとしてきた奴らとも違う。
頭ごなしに僕を否定し続けた教師とも違う。

「僕を無力だと分かっていても、僕を認めてくれたんだ」

「そんなこと、初めてだ……」

「ザックス……」

「死ぬなよ、ザックス!」

僕はまた泣いていた。
そして、いつの間にか声は止んでいた。
街路樹を風が揺らす。その風は、頭痛が治まった僕の頭を、いくらか冷やしてくれた。
ザックスを見下ろす僕は、その瞬間気が付いた。

「……そうだ、ザックスの支給品!」

今この瞬間まで、ザックスの支給品のことを忘れていた。
僕のリュックにはなかったけど、ザックスのリュックにはあるかもしれない。
ほんの僅かな望みを抱いて、街路樹の脇に落ちていたリュックを漁る。
それなのに、中から出てきたのは古びた分厚い本だけだ。それも五冊も。

「クソッ、こんなもの、いるかよっ!」

殺し合いで本をどう扱えというのか。僕は苛立ち、地面に本を叩きつけた。
叩きつけられた勢いで本はめくれていき、やがてあるページで止まる。
そのとき僕の目は、そこに書かれていた“ある文字”に吸い寄せられた。

「こ、これって……?」

本には“回復薬”や“解毒薬”といった文字が並んでいる。
まるでゲームみたいだと思いながら、僕は半信半疑でペラペラと本をめくった。





896 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/20(日) 00:06:01 gdlugNi.0

久保美津雄という少年は、沢山のゲームをプレイしてきた。
ゲームの世界は、自分の思い通りにならない現実世界とは異なる。
レベルを上げたり、キーアイテムを手に入れたり、といった攻略方法さえ見つければ、ゲームの世界は美津雄の思い通りだ。
モンスターを蹂躙して、宝物を手に入れて、ゲーム内の住人から賞賛される。
美津雄にとってのゲームは、自尊感情を大いに満たしてくれるものだった。
逆に言えば、それだけでしかなかった。

「回復薬は……薬草と、アオキノコを粉末状にして……」

今現在、美津雄が熱心に読んでいる分厚い本は、調合書と呼ばれる書物だ。
解毒薬から大タル爆弾まで、狩りに必要なありとあらゆる道具の調合法が記されている。
ザックスのリュックから見つけたそれには、当然のように回復薬という項目も存在している。
効能はもちろん体力回復。モンスターにどんな傷を食らっても、たちどころに体力が戻る代物だ。

「この回復薬が作れれば、ザックスは……!」

それは、ハンターではない普通の人間なら一笑に付す考えだろう。
レシピがあるとはいえ、材料も何もない状態で、回復薬を作ろうとするなど。
しかし、美津雄はこの場所に来てから、既に普通ではないものに触れていた。
いきなり開始したバトルロワイアル。現実味のない銃。巨大な岩の剣を振り回す、常人離れした人間。
まるでゲームのような状況下で手にしたのは、ゲームに出てきそうな古びた書物。
そして、何にも増してザックスに死んでほしくないという思いが、美津雄を動かした。

「薬草は……繁殖力が強く、広範囲で採集できる……」

藁にも縋る思いで、美津雄は回復薬のページを読んでいた。
ゲームに没頭する若者が、何事もゲーム的に捉えて考えることを、ゲーム脳と揶揄することがある。
多くの場合、その表現は現実が見えていないことに対して否定的な意味合いで用いられるが。
この場所においては、そのゲーム脳が前向きに働いたと言える。

「クソッ!こんなの上手くいくのかよっ!」

もちろん、だからといって回復薬が即座に調合できるわけではない。
ザックスを救うという決意が、美津雄を僅かに前に動かしただけ。
しかしそれでも、その一歩は少年にとって、大きな一歩であると言えた。



【D-2/市街地(西側)/一日目 早朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(中)、困惑、焦燥
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1〜2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して自分の力を証明する、つもりだったけど……。
1.ザックスを助けたい。
2.回復薬なんて作れるのかよ?

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:腹部に深い刺し傷、猛毒、睡眠中
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.Zzz……。
2.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。
3.千早(貴音)が気がかり。

※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【調合書セット@MONSTER HUNTER X】
ザックス・フェアに支給された書物。
モンスターハンターシリーズで初期から存在するアイテム。
所持することで、アイテム調合の成功率を上げる効果を得られる。
「入門編・初級編・中級編・上級編・達人編」の全5冊セットで支給。
このロワではオリジナル要素として、調合で作成可能なアイテムの詳細なレシピが記載されているものとする。


897 : ◆RTn9vPakQY :2019/10/20(日) 00:08:42 gdlugNi.0
短いですが投下終了です。
タイトルは「小さな一歩」でお願いします。


898 : ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:52:51 NKDB1p9g0
皆様投下乙です!
遅れながら感想投下します。

>>RE:2

こちらも原作再現度が高い作品でびっくりしました。
自分では覚えていないようなラクーン市警の細部の造形が描かれていて、ああそういえばこんな仕掛けだったなと情景が蘇りました。

ネメシスとの対峙、からの逃走劇の流れはまさしく『バイオハザード』という感じがしましたね。
そのネメシスも銃弾が効かない状態なのだから余計に手がつけられない……。
個人的にはP90無双で終わってほしくなかったのでこの采配は見事だと思いました。
環境や支給品、オーブをフル活用してなんとか逃げ延びる姿はロワの醍醐味ですね。

> 「どうやら私、ファンタジー世界の住人になっちゃったみたいね……。」

これ、レオンの台詞と重なっててなんというか、エモい……!
レオンは残念ながら序盤で死んでしまいましたが、クレアの方はソリダスが予想外に優しかったということもあってしぶとく生き延びれそうで安心しました。

>>初心に振り返って

錦山と千枝のコンビは個人的に好きなので、短いながらも二人のやりとりを描いてくれて嬉しいです。
この二人は今後どうなるかが一番予想できない二人でもあると思いますね。
互いにマーダーと呼ぶには定まりきっておらず、不安定だからどっちに転んでもおかしくない。
しかしその予測不能さがこの二人の魅力だと思っています。
八十神高校に行けば当然雪子の遺体が転がっているわけですが、果たして……。

>桐生のヤツがそう簡単に死ぬわけがねえから知り合いのことはいいとして、何人が死んじまうのかは気になる。

龍が如く勢全員が桐生さんに対してこの印象を抱いているのが悲しいですね……。

>>Must Survive

ソリダス初登場話のタイトルと真逆というおしゃれっぷり。
そしてオタコンもソリダスと重なる部分があり、クレアを守るという方針を定めたソリダスとは真逆で自分が生きる為の道を歩む決意をするオタコン。
オタコンとシェリー、ソリダスとクレア。どちらもメタルギアとバイオの参加者のグループというのも運命を感じますね。
オタコン、貴重な首輪解析枠だから実際にオタコンの言う「命の価値」があるのがいやらしい。

>>魔力と科学の真価

ネメシスの仕事が早い!
このロワの醍醐味である魔力と科学の戦いが見られて嬉しいです。
ネメシスの最後の優遇支給品、何かと思っていましたがまさかのソリッドバズーカとは……。
なんとか手放させたようですが、もしクレアたちの逃走中に使用されていたら逃げ切れなかったかもしれませんね。

シルビアさんと魔王ってどっちも参加者の中でも実力者の類なんですよね。
その二人ここまで追い詰められ、サクラダさんのナイスアシストのおかげでなんとか連携して勝てるくらいってネメシス強いなぁ。
豪傑の腕輪にバフが掛けられた腕力と中距離対応の触手があるから当然か……。

放送までなんとかマーダー化せずにいられた魔王様。
放送を聞き名簿を見てどう動くのか、気になりますね。

>>小さな一歩

この話の動きは本当に少ないながら美津雄の葛藤が描かれていて好きです。
ここに来て初めて美津雄が見せた本音。ザックスを死なせたくないという明確な思い。
本編では絶対に見られないような姿を見られるのもロワの醍醐味なんでしょうね。
薬草とアオキノコ、モンハン本編では割とあちこちに生えていますがこの会場ではどうなのかな。
市街地ということもあり探すのは難しそうですが……頑張れ、美津雄。

あと、細かいですが美津雄の一人称が見事に書き分けられていて嬉しかったです。


では、以前破棄した分の話を投下します。


899 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:55:12 NKDB1p9g0

「――それが、ポケモン?」
「ええ。貴方の持つボールの中に潜むその子のことよ」

Nの城内部、六階の中央部屋にて響く声は2Bと、もう一人の女性のもの。
2Bの持つモンスターボールを指差す女性は通称愛の女神、バーベナ。その隣で佇むのは平和の女神、ヘレナ。
彼女らはモンスターボールとは何かを知らない2Bにポケモンについての簡単な知識を植え付け、自分たちにはモンスターを回復させる力があるのだと語った。
勿論話を聞いていたのは2Bだけではない。2Bの両隣に座るリンクと雪歩も自分の世界にはない生命体の話に驚愕と興味を示していた。


Nの城か765プロか、リンク達は前者を選ぶこととなった。
遠目でも分かる大きな城だ。参加者の誰かが拠点にしていてもおかしくない。そうでなくともなにかしら有益な情報やアイテムが手に入る可能性は高い。
765プロに知り合いがいるという確信もないため、城内を探索してから向かうというリンクの案に二人は賛成した。

そうして探索を続けているうち、自分たちと同じく首輪をした二人の女性と出会った。それがバーベナとヘレナである。
最初こそ同じ参加者だと思い声をかけたが、彼女らは自らが運営側の立場であると説明した。
当然リンク達は警戒を示したが、バーベナ達と話をするにつれて彼女らがあくまで首輪により「強制的に」従わされているのだと知りこうして話を聞くこととなった。
その結果2Bはモンスターボールの使い方を知れたのだから確かな収穫はあったと言える。

「今、ここでポケモンを出していい?」
「構いません」
「お、襲ったりしませんよね……?」
「心配いりません。ボールの持ち主の指示に従うよう教育されています」

ヘレナの言葉を聞き雪歩は安堵したように胸を撫で下ろす。
許可を得た2Bはボールをアンダースローの要領で軽く投げ、地に弾むそれはぽんっと軽やかな音を立てて上下に開き閃光を走らせる。
形作られた白い光はやがてモンスターのシルエットと化し、そこに君臨する者の姿に三人は圧倒された。

「――――グオオォォォォ!!」

天高くいななく大口。橙色の鱗と大きな翼が特徴的なドラゴンじみた体躯。
咆哮の主、リザードンは鋭くも凛々しい双眸をトレーナーである2Bへ向けて指示を仰ぐように鼻を鳴らした。
なるほど確かに。リンクと2Bは目の前のポケモンから伝わる威圧感と実力を感じ取り確かな戦力であることを確信する。
とはいえどんな技を覚えているのかわからない。説明書が同梱されているはず、というバーベナの言葉に従い2Bはデイパックを漁り、それらしき紙を乱雑に取り出した。


900 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:56:22 NKDB1p9g0



リザードン ♂
特性:もうか

覚えているわざ
・エアスラッシュ
・フレアドライブ
・りゅうのはどう
・ブラストバーン



「……フレアドライブ?」
「りゅ、りゅうのはどうって……」

まず目についたのは覚えているわざの項目だ。
どれもこれもが大層で物騒な名前をしている。そういったことに疎い雪歩でさえもその文字列を見て震え上がった。
どんな技なのか試してみようという気持ちだったが名前からしてすでに危ない香りがする。軽い火遊びのつもりが城ごと爆破などというオチになりかねないのでひとまずボールに戻すことにした。
いざ出番だとばかりに飛び出したのにすぐ戻されるリザードンの寂しげな姿を不憫に思いながら雪歩はぼうっと赤白のボールを眺める。ここにきてから不思議なことばかりだ。
と、それの持ち主であるはずの2Bが何かを思いついたようにすたすたと雪歩の元へ歩み寄り、ボールの握られた右手を差し出した。

「……雪歩、これ」
「え? え、えぇっ!? ……私が持つんですかぁ!?」
「リンクと私は自分の身は守れるけど、雪歩は違う。万が一の時に備えてキミが持つべきだと思う」
「お、お気持ちは嬉しいですし、2Bさんの言ってることも正しいですけど……私なんかじゃ扱いきれませんよぉ……」

早く受け取れと言わんばかりに突きつけられるボールを雪歩はまるでヘビか何かのように恐れ慄き、ぶんぶんと両手と首を同時に振り拒絶した。
確かにリザードンは雪歩のような無力な参加者にとって頼みの綱だ。剣も銃も魔法も使えない雪歩にはもってこいの武器だろう。
だがそれはどんな支給品にも当てはまるが、あくまで扱えればの話だ。
当然だが雪歩はポケモンという生命体についての知識はまったくない。ポケモンバトルの経験もない初心者が己の実力に見合わない強力なポケモンを手にしても自滅が関の山だ。
友人の響ならば容易にリザードンを従えることも出来たかもしれないが、小型犬にさえ怖がるほど臆病な雪歩なのだから冷静に指示を下せるはずもない。

もっとも雪歩はそういった理屈を筋立てて拒絶したわけではないのだが。
彼女がリザードンを受け取ることを否定した理由は単に、自分が一匹の動物の命を預かれるような人間ではないというネガティブなものだった。

「雪歩、大丈夫。雪歩ならきっとなんとかなる」
「うぅ……絶対あんまり考えないで言ってるじゃないですか、リンクさん……」

対するリンクは相当ポジティブのようで雪歩の悩みを理解できないといった様子できっぱり言い切った。
当然だ。騎士としての神がかり的な才能と並々ならない修練によりリンクは自分の実力不足に悩むといった局面にはほとんど遭遇しなかった。
だからこそリンクは考える――諦めずにいればなんとかなる、と。


901 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:57:39 NKDB1p9g0

「わ、わかりましたよぉ……けど、この子を出さなきゃいけない状況になんてなりたくないです……」

結局、2Bとリンクの二人の無言の圧力に負けた雪歩は渋々ボールをバックのサイドポケットに入れた。
その様子を満足気に見届けたリンクは2Bに向き直り、改めてこれからの方針を語る。

「2B。放送までまだ時間があるけどここに留まる?」
「……私はどっちでもいい」
「雪歩はどう? 動き続けて疲れが溜まってるだろうから、ここで休んでもいいよ」
「え、えっと……それじゃあ、放送までここで休みたい……です」

決まりだ、と自ずとリーダーの役目を請け負ったリンクは放送までの方針を決定する。
一番の目標である他の参加者との交流は叶わなかったものの、裏を返せばここまで危険人物と一切出会わなかったということだ。
この殺し合いに呼ばれた参加者が何人ぐらいなのか、その中で殺し合いに乗った者の比率がどの程度なのかもわからないが、今こうして無事でいる自分たちは幸運なのだろう。
できればこのまま平穏が続いてほしいが、そんな希望は次の瞬間に否定された。


――ドォンッ、と凄まじい轟音が階下から鳴り響く。
あまりに突然で、気の緩んだ瞬間に襲いかかったそれは雪歩だけではなくリンクと2Bに脅威を与えるには十分すぎた。

「ひぃっ!? な、なななんですかっ!? 今の音っ!」
「――他の参加者がこの城にやってきたみたいね」

目尻に涙を溜めてわかりやすく狼狽する雪歩へ、それまで押し黙っていたバーベナが答える。
やはりか、とリンクと2Bは同時に予想が的中したことに嫌気が差した。
参加者といってもあんな轟音を鳴らすくらいなのだから友好的にはいかないだろう。さきほど言った危険人物の線が濃厚だ。
雪歩もその考えに至り震えはますます強くなる。と、自身の隣で佇むバーベナとヘレナが青い光に包まれていくのを見て目を見開いた。

「ば、バーベナさん!? ヘレナさん!?」
「……私達は所詮施設の一部に過ぎない。参加者同士の争いに介入しないよう、戦いの予兆が感じられればすぐさま別の場所へ”保護”されるようになっているわ」
「生きなさい、優しい人達」

それだけを言い残し収束する光の中に消える二人の女神。
しん、と静まり返る部屋の中。驚愕に言葉を失う雪歩と2Bに反し、似たような技術を知っているリンクは落ち着いた様子で彼女らのいた場所を眺めていた。
バーベナたちの言葉を信用していなかったわけではないが、実際に運営側の立場としての力をこの目に見せ付けられると改めて主催側の強大さを思い知らされる。
だがそれで志を挫くほどリンクは弱くない。得物である木の枝を握り締め、いち早く廊下への扉へ駆け出した。

「俺が見てくるよ。2Bは雪歩を守ってて」
「……了解」
「えぇ!? り、リンクさん一人でですか……? ダメです、危ないですよそんなの!」
「大丈夫、俺は強いから」

ぐっと親指を立て、あまりに自信満々な口調で言い放つリンクの微笑みに雪歩はそれ以上の論及を阻まれる。
リンクは確かに強い。ヨルハ部隊の戦闘用アンドロイドである2Bと渡り合う実力を兼ね備えており、一般人である雪歩とは別次元の力を持っている。たとえ相手が殺人鬼であろうと簡単に遅れは取らないだろう。

だが、それでも万が一リンクが殺されてしまったら。
自分に手作り料理を振る舞い、無口ながらも励ましてくれた人が死んでしまったなら。
きっと立ち直ることなどできない。想像するだけで心臓が凍りつきそうになり涙がとめどなく溢れてくる。

結局それ以上何も言えず、廊下へと飛び出すリンクの後ろ姿を眺めることしかできなかった。
人一人がいなくなったことで部屋の静寂はますます強くなる。どうしても頭を離れない最悪の結末を必死に拭いながら雪歩は2Bの腕にしがみついた。


902 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:57:51 NKDB1p9g0

「リンクさん、大丈夫ですよね……?」
「わからない」
「わ、わからないって……」
「絶対に大丈夫だなんて保証はない」
「それはそうですけど……でも、そのぉ……」

雪歩だってこの状況で「大丈夫」と答えることの無意味さは分かっている。きっと2Bがそう答えていたのならば自分に気を遣ってくれているんだろうと心から安心することは出来なかっただろう。
けれどあまりに客観的に、冷淡に答える2Bが少しだけ怖くて。自分たちの時代よりも遥か未来に作られたアンドロイドということもあり分かり合えないのではないかという不安がよぎる。

「けど」

と、一拍置いて2Bが艷やかな唇を動かした。

「彼に死んでほしくないのは事実」

その言葉を聞いて雪歩は目を丸め、思わず口角を緩めた。
どうやら分かり合えないという不安は杞憂に終わったらしい。
これまで全くと言っていいほど感情を表に出さなかった2Bが今、初めて自分の欲望を曝け出したのだ。
人間らしい――雪歩は心底そう思う。願望を口にしたことに僅かな羞恥を覚えたのかふいと顔を逸らす動作もまた、機械だとは到底思えない。

「……私も、そう思います」

気がつけば雪歩は寄り添うように体を2Bに預けていた。
体の震えは止まらない。イシの村の時とは違い確かな脅威がすぐ傍まで迫ってきているのだから恐怖だってある。
けれど今は一人じゃない。固く唇を結びしっかりと武器を握る彼女の存在が、そして彼女が垣間見せた欲求の欠片が、雪歩の涙を止めてくれた。





903 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:58:57 NKDB1p9g0


「なんやでっかい城やのぉ。ホンマにここに他の参加者がおるんか?」
「そう焦るなよマジマ。俺の鼻が確かに”居る”って言ってんだ。それとも、こんな冴えねぇハゲたおっさんが言うことは信用ならねぇって?」
「はっ、例えあんたがフッサフサのイケメンでも疑っとるわ。見たところ犬のようには見えんからのぉ」
「嬉しいねえ、人間扱いされるのは久々だぜ。けどこれはマジだ、俺の勘は当たるんだよ」

鼻じゃなかったんかい、と心中でトレバーにツッコミを入れつつ真島は目の前の巨城を見上げる。
Nの城、とマップ上で表記されていたのは知っていたがここまで大きな城だとは思っていなかった。どうみてもこんな殺し合いのためだけに用意されたとは思えない。
となると、元々は人の住んでいた城を再利用したのだろうか。それにしては立地が悪すぎるように思えるが。
五階から直接地面へと伸びる黒い階段に片足を乗せ、二人の狂人は上へ上へと登っていく。

「ま、もし参加者がおらんでもなんや役立ちそうなやつはありそうや。ほな入ろか」
「おっと待てマジマ。ただ入るだけじゃ面白くねぇ。こういうのは派手にやろうじゃねぇか。花火だってでけぇ方が人の目につきやすいだろ?」

呆れるほど長い階段を登り終え、いざ扉を開けようと肩を回す真島をトレバーが制止する。
水を差された真島は「どういうことや」と少々不機嫌気味に聞き返し、まるで新しいおもちゃを見つけたかのように目をキラキラと輝かせるトレバーを見て彼の思惑を察した。

「試すんかい、そのけったいなスーツ」
「ご名答!」

トレバーが身に纏っているそれはスーツと言っても決して紳士服の方ではない。
人工筋肉が浮き彫りになっていていかにもSF映画に出てきそうな見た目のそれの名はパワードスーツ。
名の通り装着者の身体能力を底上げし、生身でありながら重火器相手でも戦える戦力を得られるトンデモ装備である。

説明書を見たときはそんな都合のいいアイテムあってたまるかと真島は思ったが、よくよく考えてみれば身につけるだけで攻撃力があがる装備品などに心当たりがあったため一概に下らないとは言えなかった。
だがもしも真島にスーツが配られていたとしてもきっと身に着けなかっただろう。一方的な戦いなど、彼はこの殺し合いにおいて望んでいないのだから。


「――おらぁ!! トレバー・フィリップス様のお出ましだぞぉっ!!」


スーツの人工筋肉が膨張しトレバーが拳を振るうや否や、派手な音と共に扉の金具が外れ木製のドアは拳大の凹みを残し吹き飛んだ。
圧倒的な手応えは爽快感となりトレバーに麻薬じみた快楽を与える。些細な幸福を味わうかのように歓喜の呻きを上げる彼に真島はひゅう、と口笛を鳴らした。


904 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:59:15 NKDB1p9g0

「なんやどうせインチキや思うとったけど、モノホンのアイアンマンやんけ! 痺れるわぁ〜!」
「だろ!? だろっ!? いや、やばいぜコレ。ハマっちまいそうだ! こんなに人を殴りたくてたまらねぇって気分になったのは――あー、そんなに久しぶりでもないな」

トレバーも真島もどっちかというと現実世界に近しい住人だ。
魔法やモンスターなどとは当然縁もゆかりもなく、常軌を逸した科学兵器というのも見たことはない。そういったものは映画の世界だけだと思っていた。
しかしそれが実際に今目の前にある。ただでさえ狂っていて、それも戦闘狂という厄介な方面に拗れている二人に興奮するなという方が無理があるだろう。
だからこそ二人のおっさんは年甲斐もなくはしゃぎ、当の目的も忘れがら空きの入口の前で何分もロマンについて語り合っていた。

「……あ、そういやここに入るんやったな。すっかり忘れとったわ」
「あー? ……確かそうだったな。まだ酔いが抜けきれてねぇみたいで、物忘れが激しくてかなわん」

一度目的を思い出してしまえば二人の足並みは止まらない。
あれだけ引き延ばしておいてあっさりと城内へと踏み込んだ二人は辺りをきょろきょろと見渡し、その廊下の広さに呆れ返る。
ピカピカに磨かれた大理石の黒い床に目に悪い金の壁。こんな光景がずっと続くとなると視力が落ちることは必至だろう。ただでさえ片目しかない真島は思わず溜息をこぼした。

「こんな広いなんて聞いてへんで……こりゃ他の奴ら見つける前に足パンパンに腫れてまうわ」
「おいおいマジマ、つれないこと言うなよ。安心しろよ、こっから先は俺の加齢臭を嗅ぐ必要はないぜ」
「別行動、っちゅうわけか。ま、それが妥当やろな。ほんなら好き勝手やらせてもらうで」
「オーケー。お互い生きて出られることを祈ろうぜ」

別行動というよりも自由行動と言った方が正しいのかもしれない。
参加者と殺し合うのも逃げるのも、犯すのも強奪するのも全部自由だ。彼らの生き方がそうであるように、彼らを縛るものはこの場においても首輪という例外を除いて何一つないのだから。
そしてそれはお互いにも当てはまる。何があろうと互いの邪魔をしないこと――それを暗黙の了解に徒党を組んでいるのだから。

真逆の方向へ歩き出す真島とトレバー。
望まれない侵入者は獲物を求めて剥き出しの歯をギラつかせた。





905 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 18:59:49 NKDB1p9g0


六階から五階に繋がる階段を下り終え、代わり映えしない廊下を歩むリンク。
ところどころ何らかの部屋に繋がる扉はあるがどれも開かれた痕跡はない。きっとこの場に訪れたのは自分たちが初めてなのだろう。
そんな前人未踏の場所に訪れて間もなくこの歓迎だ。タイミングが悪い、というよりもむしろ出来すぎているとさえ感じる。
無論だからといって現実を受け入れることを放棄するほどリンクは弱くない。枝を握り締め、曲がり角に当たる度に死角からの攻撃を警戒した。

「――……ッ!」

リンクは足音や気配に敏感だ。視界の利かない夜の森での魔物との戦闘は日常茶飯事だったゆえに、五感の一つを失っても十分に戦えるほどのスキルを身に着けている。
それは何も森の中だけではない。この城の中というフィールドも例外ではないのだ。
そんなリンクが立ち止まり、急ぎ足で曲がり角に張り付く。それが意味することは例え戦闘に疎い雪歩でも勘付くだろう。

息を潜める。
研ぎ澄まされた聴覚があってはならない音を拾う。
規則正しく、まるで自身の存在を知らしめるかのように鳴り渡る靴音。
やがてそれとの距離が間合いほどまで詰められた刹那、リンクは疾風の如く角から飛び出し回転斬りの要領で棒を振るった。

「――せぇやッ!!」
「っとぉっ! 危ないやんけ!」

完璧な、少なくともリンクにそう思わせるほど綺麗な不意打ちはしかしこれまた綺麗なバク転に避けられる。
この一撃で決めるという甘い算段が崩壊したことにリンクは眉を顰めつつ、努めて冷静に追撃を放つ。
逆袈裟、袈裟斬り、横薙ぎ――目にも留まらぬ凄腕の剣技を侵入者の眼帯の男は刀の鎬地で受ける。息を呑む間もない連撃は男から余裕を奪った。
木の棒と高周波ブレード、言うまでもなく得物の質は後者の方が遥かに上だ。本来勝負になるはずもない。
しかしそれがこうして拮抗しているのはひとえに、リンクの騎士としての鍛錬の賜物と言えよう。
このまま押し切る――そんなリンクの願望じみた裁断は六撃目にして再び崩れることとなった。

「アマアマやぁっ!」

ガッ、とリンクの軸足に衝撃が走ったかと思えばそのまま驚くくらいあっさりと地を失い尻餅をつく。
足払い。転んで初めてそれに気が付いたくらいには剣戟に意識が向いていて完全に足元への注意が薄れていた。
煩わしい連撃から解放された眼帯男は狂気的な笑みを引き攣らせながらリンクへと刺突を繰り出す。慌てて後転し難を逃れたが、大理石の床に突き刺さる刃を見て全身の血が冷えるのを感じた。

「ヒヒヒッ! なんや兄ちゃん、出会い頭に殴りかかるなんて血気盛んやなぁ! ほんなら俺も楽しませてもらおかぁ!」
「……っ……」

床に刺さる刀を引き抜き、獲物を仕留められなかったにも関わらず微塵も無念を感じさせない笑みを張り付ける眼帯の男――真島吾朗。
傍から見ればイカれているとしか思えない格好だが、見る者が違えば只者ではないと知らしめる強者特有のオーラを惜しみなく放つ嶋野の狂犬。
並のヤクザやチンピラが例え百に群れようとも生き延び勝利を掴むであろう男を見てリンクは直感する。
この男は自分の苦手なタイプだ、と。


906 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:00:39 NKDB1p9g0

リンクが戦闘において苦手とする特徴は二つある。
一つは不規則で読みづらい相手。敵の行動を先読み出来なければ得意のジャスト回避やガードジャストも活かせない。
もう一つは知恵を持つ相手。野生の魔物とは違う、戦いの心得を身に着けた者ほど厄介な者はいないだろう。弓と近接武器を駆使し獲物を追い詰めるライネルがそうであるように。

そして目の前の男は。
真島吾朗という男は、そのどちらにも当てはまる。

「ヒィィヤァァッ!!」
「くっ……!」

真島が鋒を己に向け弓を射るかの如く腕を引いた瞬間、鋭い刺突がリンクの胸に放たれる。
咄嗟に盾で防御するもジャストガードには至らない。反撃を許さぬ勢いで踊るように剣戟と殴打を繰り出す真島に対してリンクは文字通り防戦一方の戦いを強いられていた。
盾の耐久値がゴリゴリと削られていくのが分かる。しかしそれにより焦って下手な行動を取れば即座に刀の餌食になるだろう。
狙うのならば一瞬――針の穴ほどの隙間を突くしか状況を打破する方法はない。

「もらったでぇ!」
「――っ!」

連撃の最中、真島が喜々として踏み込み縦の一閃を放つ。
なるほど、たしかに勝負を決めるにはこれ以上ないタイミングだ。リンクの後ろは壁――後退は許されない。
だがそれでいい。勝負を決めに掛かるこの時を待っていたのだから。

「――おっ!?」

共和刀の残光が描かれた先、そこにリンクの姿はなかった。
真島からは一瞬にしてリンクが掻き消えたように見えただろう。それも当然だ。
この土壇場でリンクが発揮した技――ジャスト回避。相手の攻撃をタイミングよく回避することで周囲がスローに見えるほど神経が研ぎ澄まされ、高速での行動が可能になる天からの贈り物。

連撃のフィニッシュにはどうしても数瞬のタイムラグがある。勿論常人では気付くことすら出来ない差だが、リンクはその刹那を見極めジャスト回避を成功させたのだ。
横っ飛びに回避したリンクはスロー空間の中を疾駆し、真島が振り返るよりも早くその懐へと潜り込む。
常識外の能力を前にした真島は防御の姿勢も取れぬまま彼の渾身の回転斬りを横っ腹に受けることとなった。

「せぇりゃぁッ!!」
「ぐほぉッ!?」

右の脇腹から全身を駆け巡る衝撃に顔を歪ませ、今度は真島の肉体が壁に叩き付けられることとなる。
ただの棒と侮るなかれ。リンクの技術の乗せられたそれは魔物すら屠る武器となるだろう。
しかし流石に今の一撃の反動に耐えられなかったようで、役目を果たした棒は根本からポッキリと折れてしまっている。
使い物にならなくなったそれを床に放り捨て、痛みから立ち直り体勢を立て直す真島を注視した。


907 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:01:07 NKDB1p9g0

「いっつぅ〜……ヒヒッ、なんや兄ちゃん。防御だけやのうて攻撃も一人前やんけ。ええスイングやっ! こりゃちぃっと油断しとったかもしれんなぁ〜」
「できればそのまま油断しててほしい」
「悪いがそうはいかへん。ほんで? 自慢の武器は無くなってしもうたようやけど……まさかこれで”詰み”っちゅうわけやあらへんやろな?」

値踏みするような、試すような視線を投げる真島にリンクは凛とした瞳を返す。
確かに唯一の武器はなくなってしまった。盾での防御が難しい上に一度反撃を食らい戦い方を学んだであろう真島に素手で勝てる道理はない。
ではどうするか――リンクは踵を返し走り出す。

逃げるためではなく、戦うために。


「――ほォ〜……?」


逆方向に駆け抜けるリンクは足を止めぬまま廊下に飾られた花瓶を手に取り、順手に持ち替える。
”武器”の調達を終えた戦士は臆することなく真島へと迫る。その気迫と言ったら、花瓶などという戦いの場で構えるにはふざけた得物であるにも関わらず、まるで職人の手によって打たれた業物を手にしているかのよう。
真島は笑う。それは決して馬鹿にしたものではなく目の前の青年への賛辞に近い笑いだ。
こんな男は神室町でも見たことがない――耳に届くのではないかというほど口角を釣り上げた真島は、伝説スタイルの型を取った。

「面白いやんけぇっ! 受けて立ったるわぁっ!」

しかし次の瞬間、真島を襲ったのは予想外の攻撃だった。
そのまま殴り掛かると踏んでいたリンクは真島の間合いに入る直前で急停止し、勢いよく花瓶を投げつけた。
迎撃の用意をしていたばかりに避けることは出来ない。予期せぬ投擲でありながらも即座に最適な対処法を導き出した真島はそれを左腕で叩き壊す。
破片が幾らか肌を傷付けるが構わない。もし刀で対処していたのならば大振りである分その隙を突かれる可能性が高い。ゆえに真島はこれを最適解と見出した。

だがその目論見はすぐさま霧散することとなる。


「――――なっ!? 桃白白かいなっ!?」


花瓶からリンクへと意識を戻せば、そこには空中で”盾に乗った”青年の姿があった。
幅跳びの如く跳躍し、前へ働く推進力によりそれはまるで見えない波を滑るかのように勢いよく真島へと突き進む。
幾千の敵を相手取ってきたさしもの真島といえどもこんな常識外な攻撃など見たことがない。
が、対処出来ないかと聞かれれば別だ。――驚嘆の顔を張り付かせながらも、真島は片足をやや後ろに置き迎撃に備える。


908 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:01:29 NKDB1p9g0

「……ッシャァっ!!」

疾呼。同時、真島の身体が地を離れる。
盾サーフィンが激突する寸前にて真島が放ったのはムーンサルトキック。
下から上へ、弧を描く脚撃は盾ごとリンクを打ち上げ放物線を描くように真島の後方へと投げ出された。

常識外の攻撃にあろうことか真島は常識外の反撃を繰り出し、競り勝ってみせた。
驚愕からか着地に失敗したリンクは瞬時に体勢を立て直すことが出来ず、止む無く膝を床に付けたまま顔を上げる。
と、そこには予想通りというべきか既に肉薄を終え、舌舐めずりを交え刺突を放つ真島が視界を覆っていた。

狙いはリンクの額。食らえば即死は免れない。
体勢を立て直せていない以上回避も間に合わない絶体絶命の状況だ。
しかし、それはあくまでリンクと真島のやり取りを傍から見ていたら抱くであろう第三者の意見に過ぎない。
床に転ばされ、刺突を向けられるこの状況をリンクは既に一度体験している。
そしてリンクに対して同じ技を使用するということは――これ以上ない悪手である。


パリィィ――ンッ!


「――あァン?」

勝利を確信する真島の右手に不意打ち気味の痺れと衝撃が襲う。
ガードジャスト――強制的に仰け反る形で体勢を崩す真島。その手から弾き飛ばされた共和刀は弧を描きながらリンクと真島の間を舞う。円形の残光を描き宙を舞うそれは二人の目を奪った。
リンクと真島は即座に体勢を立て直し、数瞬見合う。それだけで互いの思考を読み取った二人は弾かれるように跳躍した。

伸ばされた二本の腕は勿論、空を泳ぐ刀へ!
それを手にしたのは――!


909 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:02:21 NKDB1p9g0




「ヒィィィヤァッ!!」




狂犬、真島吾朗の一閃がリンクの胸上に浅い裂傷を刻む。
刀を手にしたのは真島の方だった。苦悶の声を上げ動揺を見せるリンクへ追撃の逆袈裟を放つ。
見切れない一撃ではなかったが、この殺し合いにおいて初めてまともに受けたダメージに平然としていられるほどリンクは機械じみてはいない。
咄嗟に盾を突き出し軌道をずらさんとするも、逆にその盾を弾き飛ばされ三度目の床に転ぶ形になった。
無手となり防御も攻撃も奪われたリンクは絶望よりも先に起き上がろうと疲弊する身体に鞭打つ。が、それは顔前へ突き出された刃により阻まれることとなった。

「終わりや、兄ちゃん。得物が違えば勝敗も違っとったかもしれんが、勝負の世界にもしもはない。……ま、中々楽しめたでぇ?」
「っ……!」

心底残念そうに、しかし心底愉しげに紡ぐ真島にリンクは息を呑む。
狂っている――人の狂気に触れる機会が多くなかったリンクだからこそ、この男の異常性は特段強く見えた。
喋り疲れたとばかりに真島は腕を引き、刀に反射する光がその鋭利さを主張する。
三度目ともなると見慣れるものだ。しかし盾がある状況とは違い一切の対処の術をリンクは持ち合わせていない。
迫りくる死の刃に無念と懺悔を抱きながら、リンクはゆっくりと目を閉じた。






910 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:02:42 NKDB1p9g0



「つ、2Bさん……! わた、私……私ぃ……!」
「静かにして、雪歩。ここもいつ探られるか分からない」

リンクが部屋を出て十分ほどだろうか、2Bと雪歩は自らに首をもたげる脅威を感じ取っていた。
いや、感じざるを得なかったという方が正しいか。無闇矢鱈に響く扉の破壊音が段々と近寄ってきているのだから。
たった今隣の隣の部屋の扉が破壊された。この部屋に来るのも確定だろう。
相手がどんな姿でどんな武器を持っているのか分からない以上迂闊に行動するわけにはいかない。が、行動せざるを得ない状況に迫られている。
2B一人の時ならば話は別だが今は雪歩がいる。だからこそ2Bはギリギリまで戦うか窓から逃走するか決めあぐねていた。

「――おぉ〜いっ! 出てきてくれよぉ〜! 折角のパーティーなんだから隠れることねぇだろぉ!?」

廊下を通じ部屋にまで渡る襲撃者の声に雪歩は肩を跳ね上げ2Bにしがみつく。
白く細い腕から伝わる震えと激しい脈拍が彼女の心理を訴えかける。緊迫の表情を見せる2Bは雪歩を落ち着かせる言葉を吐くことも出来ず、ただ来るべき時に備えていた。

「ここかなぁ!? ……あっちゃ〜! またハズレかよっ! 上手いこと隠れやがって!」

隣の部屋の扉が破壊された。
雪歩の震えはますます強くなり嗚咽の声が聞こえ始める。
不安に押し潰されそうなほど小さな身体を抱き寄せることはできない。そうしたら両手が塞がってしまうから。
この危機を打破するには、雪歩を守るにはどうすればいいか。お世辞にも理知的とは言えない2Bの思考回路はこの土壇場で決意を固めた。

ここで討たねばならない。
窓から逃走しても確実に逃げ切れる保証はないし、まだ城に残っているリンクに危険が及ぶ。
となればこの部屋で迎え撃ち、不安の根源を潰さなければならない。雪歩をここまで追い詰める顔も知らぬ侵入者への怒りと憎しみが2Bを感情的にさせた。


轟音、破壊される扉。
腕の中で雪歩が小さく悲鳴を上げる。
部屋の明かりに照らされる来訪者の顔はそれはそれは嬉しそうに歪んでいて。
不自然に隆起した人工筋肉は歓喜を顕にするように痙攣し、カサついた唇は衝動的に笑みを形どった。

「みぃ〜つけたぁ〜」

下卑た笑いが響く。
平穏を乱す混沌の知らせは、あまりにも唐突に。
今そこに”居る”という現実は雪歩から理性を奪い去った。


「――きゃあああああああああっ!!」


糸を切るような悲鳴は開戦の合図。
襲撃者トレバーと2Bは弾かれるように互いへと疾走した。





911 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:03:22 NKDB1p9g0



『――きゃあああああああああっ!!』


突如階上から響き渡る悲鳴に真島の凶刃がぴたりと止まる。

「……っ!?」
「なんや、今の悲鳴……」

真島が抱いたのは勝負の最中に水を差された苛立ちでもなく純粋な疑問だった。
それも当然だ。真島はこの城にいるのはリンク一人だと思っていたのだから。同行者の存在を知っていたはずもない。

「いっ……!? あ、ちょ待てやっ!」

未知なる悲鳴の正体に戸惑う真島の隙を突いたリンクはがむしゃらに彼の脛を蹴り、体勢を立て直したかと思えば一直線に上の階へと走り出す。
命綱である盾も拾わず階段を駆け上る姿は彼らしくもない。相当切羽詰まっているのだろうということは誰の目にも明らかだった。

やや遅れて放置された盾を回収しリンクの後を追う真島だが襲いかかる妙な胸騒ぎに眉を顰める。
真島は悲鳴というものを聞き慣れている。命の賭博を何度も行い戦火をくぐり抜けてきた彼の前には演技など通用しないだろう。
そんな真島だからこそ断言できる。今の悲鳴は真に命の危機が迫っている状況から発せられたものだと。
それも声の質から捉えるに年端も行かない少女のものだ。

(ちぃっ……ガキがおったなんて聞いとらんで……)

リンクの背中を見失わぬよう廊下を駆け抜け階段を駆け上がる真島はイレギュラーに思考を乱される。
悲鳴が上がる原因となったのは十中八九トレバーだろう。真島とは真逆の方角から階段を上がったのだからリンクと鉢合わせることなく上の階に上がれたのは当然だ。
問題は悲鳴の主。リンクが戦いを放棄してでも守らなければならない存在である、ということだ。
だとしたら、考えられるのは――――


912 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:03:54 NKDB1p9g0


「――2B! 雪歩!」

六階の廊下、中央部屋の手前で立ち止まり珍しく声を荒げるリンクに伴い真島も足を止める。
その時二人の目に飛び込んできたのは人影が凄まじい勢いで部屋から吹き飛ばされ、廊下の壁に無理やり受け止められている光景だった。
真島はその人影に見覚えがある。記憶に新しい……ついさっきまで共に行動していた人物だ。

「ぐぉお……パワフルすぎるぜ、あの女……っとぉ!?」
「はぁっ!!」

ひび割れた壁に手を付き立ち上がろうとする男、トレバー・フィリップスは目を丸めて横に転がる。
先程までトレバーがいた場所は同じく部屋から飛び出した2Bの追撃により縦一文字の剣戟が走った。
決して脆い素材ではない壁に走る裂傷とそこから覗かせる鏡のような断面が2Bの膂力と刀の切れ味を物語る。間一髪命の危機から逃れたトレバーは過度の興奮に息を荒げた。

「ハーッハァッ! おぉ真島ァ! 見ろよこの女、こいつは最高の獲物だぜ!」
「おーおー、女一人に追い詰められてなっさけないのぉトレバー。言っとくけど手は貸さんからな?」
「上等だぜ! その代わりこの女は好きにさせてもらうぜぇ!」

トレバーと向き合う2Bは真島とリンクの存在に気付きはしたものの気にかける余裕はない。
リンクという助っ人が現れたのは心強いが、その傍にいる真島の存在を見るに助太刀は期待できないだろう。
そうして張り詰められた緊張の糸を気遣ってはくれずリンクは最大の懸念を口にした。

「2B! 雪歩は無事!?」
「部屋の中にいる! 戦いが終わるまでは部屋に居るように伝えてある!」
「おいおい、敵の前でそんな情報喋っちまっていいのかぁ〜? っとぉ!」

案の定会話の合間を縫ってトレバーが銃撃を仕掛けた。
降り注ぐ散弾にサイドステップで反応するものの、狭い廊下ということもあり避けきれなかった幾つかの弾丸が皮膚を傷つける。
滴る血を気にも留めず2Bは舌打ちを鳴らしながらトレバーに肉薄し、一閃。斬撃だけは受けまいと床を転がるトレバーの腹に今度は強烈な蹴りがお見舞いされた。
吹き飛ぶトレバー。しかし手応えの薄さに違和感を覚えた2Bの顔色は芳しくない。
身体能力では2Bに軍配が上がるもののパワードスーツの衝撃吸収力は驚異的だ。本来ならば一万年以上もの文明の差があるというのに、それを感じさせない性能があのスーツには秘められている。
何事もなかったかのように立ち上がりショットガンを構えるトレバーに不穏さを覚えたリンクが割って入ろうと足を踏み出すが、真島が伸ばした刀に制止された。


913 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:04:26 NKDB1p9g0

「やめとけや兄ちゃん、これはあの二人の戦いや。それに丸腰のお前が行ったところで邪魔になるだけやで」
「……そう言われて、黙って引き下がれない」
「ヒヒッ、そうやろなぁ。せやったらさっきの続き……しよかぁ?」

言いながら盾と刀を構える真島。きっと自分がこう答えるつもりだったのもお見通しだったのだろう、とリンクは改めて目の前の男の脅威を突きつけられる。
丸腰――正確に言えばナベのフタしか持ち合わせていない自分ではこの男には勝てない。
雪歩が事実上囚われている状況で命を無為に捨てるほどリンクは馬鹿じゃない。形だけの構えは見せているが攻める姿勢は取らず、両者の睨み合いが続く。
実際には真島が攻撃を仕掛けた時点で一方的な戦いになるのだが、それをしない辺り真島も消化試合は好まないらしい。
結果としてリンクは真島を抑える、という表面上の役割を与えられた傍観者となることを強制させられた。

「おいおい、そんな情熱的なアピールするなよ。興奮しちまうじゃねぇか!」
「……っ、うるさい!」

真島とリンクからやや離れた場所にて2Bとトレバーの競り合いが繰り広げられる。
2Bの素早い攻撃に対応しきるのがやっとという傍から見れば防戦一方の立場であるはずなのに、トレバーの言動は2Bよりも余裕を見せている。
それほどまでにスーツの恩恵は大きい。斬撃だけに気を付けていれば打撃を食らっても問題ない上、その斬撃も上昇した身体能力により避けるのは難しくないのだから。
防戦一方はむしろトレバーにとって好ましい。残弾に限りがあるショットガンでは無駄な攻撃は一切許されないのだから、確実に反撃できるチャンスが訪れるまで待ち続ければいい。
例えスーツの力を持ってしても2Bに肉弾戦を挑むのは無謀だろう。両手に抱えるショットガンの残弾はいわば命のメーターだ。

「せぇっ!」

そして、トレバーの勝機は訪れる。
痺れを切らした2Bは威力よりも速度を重視した左のボディブローを放つ。
当然避けられない。スーツ越しの衝撃が来て初めて被弾したことに気が付いた。
トレバーはその攻撃を甘んじて受け入れる。必要以上に後方へと吹き飛んで無理やり距離を離した。
気持ちの悪い浮遊感に吐き気を覚えながらもトレバーは地に投げ出される前に、つまり吹き飛んだ状態のままで引き金を引いた。
追撃を仕掛けようと疾駆していた2Bは予想外の反撃を食らいくぐもった声を上げる。皮膚を貫く鉛玉に足を止めた瞬間を狙い、トレバーは仰向けの状態で銃口を2B――の真上へと向けた。

「おらよっ! プレゼントだぜ!」
「なっ……!?」

銃声が響き無数の弾丸が飛び出す。
パリン、パリンと何かが割れる音に誘われて2Bが上を向けば、そこには支えの鎖を破壊され落下するシャンデリアが視界を覆っていた。
降り注ぐガラス片が肌を切るのも厭わずに剣戟で対処する。真っ二つに切り分けられたシャンデリアは綺麗に2Bを避けて残骸をぶちまける。
なんとか脅威をやり過ごし視線を戻す2Bだが、そこには既にトレバーの姿はなかった。
一体どこへ――辺りを見渡す2Bはすぐにその答えを知る。


「――つ、2Bさん……!」


声がした。
この戦場であってはならない声が。


914 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:04:49 NKDB1p9g0

「あーあーあー、お前がだらしねぇからこの子に出てもらう事になっちまったじゃねぇか」

振り返る。と、中央部屋から現れたのは二つの人影。
灯りを失ったせいで薄暗さが増していてもはっきりと映る。雪歩を片腕に抱えその白い顎元に銃口をあてがうトレバーの姿が。
蒼白の顔面を大粒の涙で濡らす雪歩とは対照的に計画通りに事が運んだことに笑うトレバーの顔が嫌に強調された。

「……雪歩……ッ!」
「2B、さ……私、いや……! ごめん、なさい……っ!」
「ユキホ、ね。ってことはジャパニーズか。いいねぇ! 外国人でも俺はイけるぜ? 顔もレベル高いし、唆られるじゃねぇか!」

自分が絶対的優位に立ったことに余裕が生まれたのか饒舌だったトレバーの舌が更にご機嫌に回る。
対して2Bは己の不甲斐なさに歯噛みする。冷静に考えれば予想できなかったわけではないはずなのに、戦いの中でペースを乱された挙げ句手玉に取られてしまった。
いや、本音を言えば雪歩のことが頭になかったと言っても過言ではない。ただ目の前の敵を殲滅する――その戦いに慣れすぎてしまったがゆえに、守るべき対象を守れなかった。

「雪歩っ!」
「り、リンクさん……わた、し…………こわく、って……!」
「おっと、動くなよ? 俺は構わないが、動いた瞬間ユキホのかわいい顔がミンチになるぜ?」

見せ付けるように揺らされる銃口は無機質に、無慈悲に雪歩の顎から離れようとしない。
もはや己の役目を投げ棄て駆け寄ろうとするリンク。だが次なるトレバーの脅迫がその勇敢さを真っ向から打ち消した。
それは2Bも同じだ。壁を背にし、リンクと2Bの両者に気を配れる位置にいるトレバーに囮は通じない。
しんと静まり返る廊下。雪歩のすすり泣く声だけが響く中で不意にトレバーが吹き出し、大笑いを決めた。

「ハーッハッハァ! なんだよなんだよ、さっきまでの威勢はどうしたよ2Bちゃんよぉ! そんなにこの女が大事なら泣いて土下座でもしてみたらどうだ? 命だけは助けてやってもいいぜ?」
「……ふざけるなっ! 雪歩を離せ!」
「あぁ? 誰に向かって口利いてんだ? ……あーつまんねぇ、泣いて土下座でもしてみせろよ。どうか許してください〜ってなぁ! アーッハッハァ!」
「っ、クズが……!」

最悪の状況だ――2Bとトレバーのやり取りを見ながらリンクは思う。
トレバーは話の通じる相手ではない。いわば野生の獣、いやいつ爆発するか分からない爆弾だ。
そしてその爆発は雪歩を巻き込む。起爆剤となるのは――自分と2Bだ。

交渉? ダメだ、自分にも2Bにもそんな話術はない。
不意打ち? ダメだ、完全に見張られていて隙を突けない。
見捨てる? 論外だ。

そうしてリンクと2Bが打開策を見つけあぐねている内に、突然タイムリミットはやってきた。


915 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:05:42 NKDB1p9g0


「――あーあ、飽きたな。殺すわ、こいつ」
「えっ……!?」


そう、トレバー・フィリップスは爆弾だ。
いつ爆発するか分からない。処理方法も分からない。ロスサントスを代表する爆弾なのだ。
火を点けた覚えはないなんて言わせない。この男の導火線はふとしたことで火がつくスグレモノなのだから。
逆らわず、従わず、そうして無益に時間を潰す現状に飽きた。だから刺激がほしい――トレバーに殺しを決意させたのはただそれだけの理由だ。

「い、いや……! だれか、誰か助けてっ! おねがい、たすけて……!」
「可哀想になぁ。まだ若いのに、こんなおっさんに脳味噌ぶちまかれて死にたくなんかねぇよなぁ? けど決まったことなんだ、ごめんなぁ。恨むなら無能なお仲間さんを恨めよ?」
「ひっ……! いや、いやぁ! 死にたくないっ! 助けてっ! プロデューサーさん……っ!」

心底憐れむように語りかけるトレバー。その悲しげな表情はとても殺人鬼のものとは思えない。
しかしそれが一層雪歩の恐怖を煽り立てる。真っ白に染まる頭を駆け巡る記憶が現実とごちゃまぜになり、ここにいない名前を紡いでしまう。
名を呼ばれたわけでもないのに2Bとリンクの心に強い無力感が襲いかかる。雪歩を救えないという最悪の結末を予想してしまった2Bとリンクは咄嗟にトレバーへと駆け出した。
二人が行動を起こしたということが意味するものはすなわち、雪歩の死。
引き金に指を掛けたトレバーは先の表情とは打って変わった満面の笑顔を見せた。


「ざーんねんでしたぁ」
「やめろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――!!」











ヒュン、と風切り音が鳴る。
風の抵抗を意に介さず真っ直ぐ突き進むそれは吸い込まれるようにトレバーの持つ銃に突撃し、数メートル先へ弾き飛ばした。


916 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:06:12 NKDB1p9g0

え、という声は誰が漏らしたものか。
恐らく全員なのだろう。それをしでかした男以外の全員だ。
カラン、と音を立てて床に転がるショットガンとそれに付き添う形で寝転ぶ一本の刀。
雪歩よりも、リンクよりも、2Bよりも先に犯人を探し当てたトレバーは怒りの形相をその男へと向けた。

「――マジマぁ……!」

まるでダーツをするかのようなスマートな姿勢で口角を釣り上げる乱入者、真島吾朗。
幾多の曲者と出会ってきた桐生一馬を持ってしても読めないと言わしめた狂犬、真島吾朗。
そんな真島吾朗というとっておきの核爆弾は、トレバー・フィリップスでさえも手がつけられない。

「シラけることすんなやぁ〜……なぁ? トレバー」

ニヒルな笑みを浮かべながらも真島はその全身から滲む威圧感を隠そうとしない。
その威圧感に当てられてか、獲物を改めたのか、腕の中であんぐりと口を開ける雪歩を乱暴に突き飛ばしたトレバーは血走った瞳で真島を睨みつけた。

「雪歩! 怪我はない!?」
「ぅ、……は、はい……私、助かったん……ですか……?」
「ああ……もう大丈夫だよ」

雪歩を受け止めた2B。突然の事態に困窮を極めながらもその顔はひとえに雪歩が助かったことへ安堵していた。
駆け寄るリンクも同様に。しかし視線は雪歩から真島へと移される。
トレバーと同じく襲撃者という立場でありながら今まさにそのトレバーと対峙している存在。リンクは彼の真意を見抜けぬまま、思わず口を開いた。

「どうして……あいつの仲間じゃ?」
「そのつもりやったんけどな、あのアホのやり方が気に食わんのや。せやから邪魔した。それだけや」
「……騎士道精神?」
「アホ抜かせ、そんな高尚なもんとちゃうわ」

リンクは幾つか言葉を交わしても真島の考えの断片を読むことすらできない。
できないが、それでもなんとなくこの男は理屈で動いているわけではないのだと感じた。

「おうお前ら、こいつは俺が相手したるからその子連れて逃げや」
「……、……言われなくてもそうする」
「けっ、生意気な嬢ちゃんやなぁ。けどそういうの、俺は好きやでぇ?」
「そう。私は嫌い」

真島の言葉に即座に返事を返したのは2Bだった。
トレバー・フィリップスという敵は未知数だ。何を隠し持っていても不思議ではない。
それに雪歩を抱えた状態では自由に動けないし、この狭い廊下で乱戦になれば誰かが巻き添えを食らう恐れがある。
であればここは無理に攻め入るよりも真島一人に任せた方が得策だろう。そう判断して雪歩を抱えた2Bは離脱を試みた。
去り際に雪歩は2Bに抱えられながら何度か真島に礼を言おうとしていたが、未だ冷静さを取り戻せず言葉にならない嗚咽を上げるだけになりそれに気遣う形で真島が腕を上げて応え、遠ざかる2Bの背中を見送った。


917 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:06:55 NKDB1p9g0

「あ、ちょい待てや兄ちゃん」

後に続こうとしたリンクが呼び止められる。
一刻も早く彼女たちを追いたい気持ちがあったが、一応は恩人ということもありリンクは足を止め向き直った。

「ほれ、やるわ」
「! これって……!」

向き直るやいなやリンクへ向かい二つの物が投げ渡される。
一つは盾。階上へ上がる際に放置してしまったものだ。
もう一つは刀。恐らくは真島のもうひとつの獲物なのだろう。自身との戦闘の際に装備していたものよりも幾らか大振りだった。
それらを受け取り装備する。ただそれだけの事ながら、今この瞬間リンクの戦力は数十倍にも跳ね上がった。

「それがあれば本気出せるんやろ? ……次に会うたときは本気でやろうや」
「……出来ればもう会いたくない」
「ヒヒ、まぁそうやろなぁ。あー、それともう一つ。お前、名前は?」

まさかここに来て名前を聞かれるとは思っておらずリンクは言いよどむ。
しかしそれも数瞬。礼も兼ねて己の名を告げた。

「リンク」
「リンク、か。あの子のことしっかり守ったれや」

リンクの心構えとは裏腹に告げられた言葉は予想よりもずっと優しげなものだった。
言葉に迷う。もちろんと答えるべきか、お前が言うなと一喝すべきか。

「俺を殺そうとした人が言う台詞じゃない」

結果、リンクは後者に近い選択肢を取った。

「あァ? んな細かいこと一々気にすんなや! で、どうなんや?」
「……守るよ。命懸けで」
「よう言うた! ほなもう行けや、あの鬼さんもいつまでも待ってはくれへんやろうからなぁ」

真島に促される形で前者も答えることとなったリンクは、それでも嘘偽り無く答えたつもりだった。
第一この男に嘘など通用しないのだから。彼の答えを聞いた狂犬は満足げに頷き、もう一つの狂気に右目を向ける。
右手にショットガンを持ち、左手で共和刀を翳すその姿はある種芸術性さえ感じられる。その品性を損なうのはやはり醜く歪んだ顔面だろう。
トレバーの異常性を感じ取ったリンクは無言のまま、しかし密かに真島が生き残るよう祈りながらその場を後にした。





918 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:07:19 NKDB1p9g0


リンクが立ち去ったのを確認して真島は自嘲混じりの息を吐く。
随分と勝手なことを言ったものだ、とどこか自分の言動に呆れていた。
なぜあんな事を言ったのか。それは真島自身も気付いていたが、気付かないふりをしていた。

重ねてしまっていたのかもしれない。
殺し合いという最悪の状況に巻き込まれて、トレバーという災難に見舞われて。
黒い、黒い、どす黒い闇の中に放り出された雪歩という少女を――あの、マキムラマコトと。
無意識の内に抱いてしまったのかもしれない。あの少女を死なせてはならないという使命感を。
十七年前に見たあの光景を今、再び見たのだ。


「――さて、待たせたのぉ」


穏やかな、慈しむような真島の右目は再度狂犬のものに戻る。
神室町の誰よりも狂った睥睨を受けたトレバーは臆せず、それどころか濃密な狂気で返した。

「マジマぁ、俺はお前が正気とは思えねぇんだ。なんでお前が俺の前に立ってんだ?」
「はっ、一々説明せなアカンほど年食ってへんやろ? お前も言うたやろ、好き勝手暴れる……ってな」
「おいおい、限度があるじゃねぇか。俺たちには俺たちなりの暗黙のルールがある……そうだろ、ブラザー?」
「ルール? あー、すまんのぉ。俺、ルールって言葉から最も遠くにいる男なんや。てっきりトレバーもそういう類の人間や思うとったんやけどなぁ……どうやら買いかぶり過ぎてたみたいやわ」
「……オーケー。そんなに死にてぇなら殺してやるよマジマ。お前なら殺しても良心が傷まずに済みそうだぜ」

こうして問答が交わせていることが不思議なくらいにトレバーの内心は憤怒に満ちていた。
極上の獲物に逃げられ、同盟を組んだ男に裏切られ――元々常識という枠組みを外れているトレバーは真島を殺すことだけを考えていた。
雪歩たちを見逃したのも決して流儀などではなく、真島を殺すのに最適の場が整うための工程に過ぎない。むしろ奴らが勝手に消えてくれてありがたいと思うくらいだ。
そうしてついに場が整った。誰も邪魔の入らない、一対一の殺し合い。ロスサントスでは味わえなかった刺激が味わえる。
そのはずなのに、当の真島は緊張感の欠片も見せず退屈そうに溜息をこぼしていた。


919 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:08:05 NKDB1p9g0

「――俺はなトレバー、飽きてしもうたんや」
「あぁ?」

いざ殺そうと銃口を向けようとして、トレバーの手が止まる。
別に殺すのが躊躇われたわけじゃない。だが真島ほどの男が、この殺し合いという愉しい状況で飽きるなどどういった理由があるのか。
少しだけ興味が湧いただけだ。

「殺し合い言うくらいやから集められたんは俺やお前みたいなクズの戦闘狂ばっかりや思うとった。けどなぁ、さっきの娘はどっからどう見てもカタギやんけ。こないなとこにおっちゃいかん子や。……こないなもん殺し合いとちゃう、B級にも満たんようなくっだらんスプラッタや」
「……長々と語ってるがマジマ、てめぇは要するに何が言いたいんだ?」
「決まっとるやろ。殺し合いなんぞよりももーっと面白いことを考えついたんや」

待ってましたとばかりに真島は歯を剥き出しにして笑った。

「このゲームをぶっ壊すんや。どや? 楽しそうやろ」

飛び出した言葉は一種の宣戦布告だ。
盗聴されている可能性などとうに思いついている。その上でのこの発言。
なるほど確かに、この男はイカれているとトレバーは思う。ならばこの魅力的な提案に乗るか?
そんな迷いをコンマゼロ秒で切り捨て、トレバーは再び凝縮された殺意の塊を真島へとぶつけた。

「そいつは利口じゃねぇ。こんな面白いゲーム、そう簡単に終わらせるわけにはいかねぇなぁ」
「はっ、そう来ると思うとったわ。……ほな、御託は抜きにして喧嘩しよか」
「それはいいが、喧嘩って表現は頂けねぇな。俺様の一方的な殺戮ショーだ。……まさか、この武装を見て勝てるだなんて思ってねぇだろ? 戦車にバイクで突っ込むようなもんだぜ?」

トレバーがそう断言するのも当然のことだ。
真島とトレバーの武装の差は一目瞭然。
パワードスーツ、ショットガン、日本刀――それらがトレバーにあって真島にはない。
幾ら真島が達人であろうとこの差は決して埋められない。トレバー及び大多数の正常な人間がそう思うだろう。

「ああ。せやからこれで”イーブン”や」
「……あ? なんだそりゃ、不細工なアクセサリーだな」

だが、現実は違う。
真島が取り出し身につけた腕輪。
一見趣味の悪い装飾品に見えるそれの名は――ほしふる腕輪。
対象のスピードを跳ね上げるマジックアイテムの一種だ。真島がこれを今まで隠し持ち、出し渋っていたのにはわけがある。といってもそれはあまりにシンプルな理由だが。


920 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:08:34 NKDB1p9g0

「助かったでぇ。俺がこれ使うたら無双してまうから、そのくらい固めてくれんとな」

そう、真島吾朗という男は一方的な戦いを好まない――ただそれだけの理由だ。

「……なんだ、そりゃ……」
「はっ、言葉通りの意味や。もう一回言わなきゃあかんか?」
「そんなの、そんなの……!」

自分がコケにされていると理解したトレバーは肩を震わせる。
怒りに震えているのか。人の感情的な部分を見るのが好きな真島はもっと煽ってやろうと片側の筋肉を動かすように笑う。

「悲しいじゃねぇかぁ〜〜〜〜っ!!」
「は……!?」

しかし、顔を上げたトレバーは泣いていた。
まるで子供のように、恥も外聞もなくみっともなく大声を上げて泣きわめく。
決して演技ではない。トレバーは心の底から泣いて、いや――トレバーの数ある人格の一つが顔を出しその本性を顕にしていたのだ。
そうして呆気にとられている内に段々とトレバーは泣き止んでいく。子鹿のように震えていた身体はいつしかピタリと止まり、未だ目尻に涙を溜めながら燃えるような瞳で真島を射抜いた。

刹那、銃声が鳴り渡る。
数秒前まで大泣きしていたとは思えぬほど躊躇なく、冷徹に目の前へショットガンをぶっ放した。
それこそが、この狂気こそがトレバーの持ち味。そして大抵の者はそれに惑わされたままあの世へと運ばれていく。


921 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:08:57 NKDB1p9g0


「――どこ狙ってんのや、オッさん」


だが、真島吾朗にそれは通用しない。
銃弾が放たれる寸前、銃口が向けられた時点で動き出していた真島はトレバーの視界から掻き消え、あろうことかその背後に回っていた。
トレバーが反応するよりも早く脇腹に衝撃が走る。2Bのものと比べても遜色ないそれはトレバーを派手に壁に叩きつける。
戦塵を払い、立ち上がるトレバーの顔には驚きと歓喜が入り混じっていた。

「ハーッハッハッハァ!! マジかよ!? パワードスーツなんかよりよっぽどファンタジーだぜマジマぁ!」
「お褒めに預かり光栄や。……にしても随分タフやな、こりゃ手がかかりそうやで」

互いに互いの支給品の性能を思い知らされながらも笑みは絶えない。
そうでなくてはつまらない。常人とは違ったベクトルに捻じ曲がった思考を持ち、相容れない狂気を掲げながらも二人が抱いたのは全く同じ感想。
向き直る真島とトレバー。そこでふと今の衝撃で壁から落下した時計に目が移った。

「放送まであと十分ってとこか……ほんなら五分で片付たるわ!」
「奇遇だなマジマぁ! 俺もそう言おうと思ってたところだぜぇ!」

時計の長針がてっぺんに重なる。
放送まで残りジャスト十分。二人が戦闘に要するには長過ぎる時間。
だからこそ二人の目標は一致する。白く染まりだす空が向き合う二人の横顔を照らし、影を廊下に伸ばした。


【C-2/Nの城/六階廊下/一日目 早朝(放送直前)】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:脇腹に痛み(小)、疲労(小)、興奮
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.とりあえずはトレバーをぶっ飛ばす。
2.桐生チャンを探しに行こか。
3.雪歩が気がかり。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。

【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:興奮、愉悦、怒り、悲しみ、二日酔い
[装備]:パワードスーツ@METAL GEAR SOLID 2、共和刀@METAL GEAR SOLID 2、レミントンM1100-P(残弾数4)@BIOHAZARD 2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.マジマを殺す。
2.その後にユキホたちも殺す。
3.マイケル達もいるのか?

※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※ルール説明時のことをほとんど記憶していません。

【支給品紹介】
【ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
真島に支給された腕輪。
装着者のすばやさを+100する効果がある。
しかし制限として長距離などの移動の際には負担が大きくなる。

【パワードスーツ@METAL GEAR SOLID 2】
トレバーに支給された人工筋肉を採用した最新式の強化服。元の持ち主はソリダス。
スーツの表面や内部にはセンサーが神経のように張り巡らされており、センサーが衝撃を検知すると瞬時に人工筋肉が収縮し、ダメージを拡散させる仕組になっている。
また、着用者により任意に出力調整を行うことができ、高出力モードでは人工筋肉が大きく膨らむ(最大で三段階目まである)。
ネックガードが付いており、戦闘時にはシャッターが閉じて頚部や顔面を保護する。
足には加速装置が装備されており、高速で移動して敵を撹乱したり、突進して鋭い一撃を叩き込んだりすることができる。
スネークアームは付属していない。







922 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:09:31 NKDB1p9g0



Nの城を飛び出したリンクたちは城門前に停めていたチョコボに跨り、即座に765プロへと向かっていた。
過ぎたことは仕方がないが、恐らくはNの城に向かったことは間違いだったのだろう。
犠牲が出なかったのはあくまで真島の手が加わったからで雪歩が殺されてもおかしくなかった。
あの時素直に765プロへ向かっていれば――2Bとリンクの間で同じ後悔が生まれる。

「……!」

その時、リンクの背中を雪歩がぎゅっと掴んだ。
騎乗が安定していなかったのか。慌ててリンクはスピードを緩めるが、それでも雪歩はリンクの背中を掴んで離さない。
嫌だったわけではないがどこか落ち着かなくて、リンクは思わず雪歩に投げかけた。

「雪歩、どうしたの?」
「……ひっく、ぐす……っ、……う……」
「雪歩?」

しかし返ってくるのは掠れた嗚咽のみ。
並走する2Bも雰囲気の変化を察知してか雪歩に呼び掛ける。
そうして雪歩が言葉を紡げるようになるまで暫く、ようやく彼女から返事が返ってきた。

「わた、し……生きてるん、ですよね……。あの人に、殺されかけて……それでも、生きてる……、……!」

その言葉を聞いてリンクと2Bはハッとした。

そう、雪歩はあくまで一般人なのだ。
戦いとは無縁な生活を送り、魔物や機械生命体といった人を襲う存在とも出会ったことがないような平和な世界で生きてきた、ただの人間なのだ。
殺し合いという場に放り出されて、どうすればいいのかもわからず泣き叫んで怯えることしか出来ない。そんな無力で、弱くて、小さい存在なのだ。

そんな彼女が今、殺されかけた。
本物の銃弾を吐く本物の銃を突きつけられ、生きる権利を奪われかけた。
それがいかに雪歩の心を深くえぐり、恐怖と絶望を煽ったのか――生まれたときから戦いの場に身を置いてきた二人は察せなかった。

「わたし、すごく怖くて……! 死んじゃったらどうしようって、もうみんなに会えないって……! もう嫌、嫌なんですっ! 殺し合いなんて、もう……! こんな思い、したくないんですっ!」

彼女の訴えはある者が見れば我儘だと一喝できるような内容だった。
そんなのみんな同じだ、お前だけじゃない。誰だって死にたくない。誰だって嫌だ。
けれどそんな心無いことを言える人間はこの場にはいない。
重みが違うのだ。萩原雪歩という一般人が語る死にたくないという願いは。
ここに連れてこられる数時間前までは普通の生活を送れていた彼女だからこそ、元の世界に帰りたいという思いは誰よりも強い。


923 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:09:55 NKDB1p9g0

「――俺たちは」

だからこそリンクは口を開く。
彼女と同じ目線に立つことなんて出来ないけれど。気の利いたことなんて言えないけれど。
それでも反射的に、ぽつぽつと言葉を返していた。

「俺たちは、雪歩よりも強い。だから雪歩の怖さとか、痛みとか……全部をそのまま知ることは出来ない」
「う、ぅ……分かってます、そんなの……けど……!」
「うん。そう言われたって怖いものは怖いだろうし、嫌なものは嫌だよね」

雪歩だって分かっていた。
リンクも2Bも、自分とはまるで違った世界で戦ってきた。
自分よりもずっと立派で、遠い存在だ。
今回も自分が原因で二人まで巻き込んでしまった。リンクと2Bの強さを見る度に自分の無力さが刃となり、己の胸を抉る感覚に襲われる。
結局リザードンだって出す暇なんかなかった。仮に出せていたとしてもロクな指示など出来ず結果は同じだっただろう。
いつ見限られてもおかしくない。けれど一人になりたくない。そんなせめぎあいの中で雪歩の鼓膜は暖かな声を聞いた。

「だから、雪歩は俺が守るよ」

え、と思わず雪歩は聞き返す。
叱られると思っていた。呆れられると思っていた。
けれどリンクの声はひどく優しくて、しがみつく背中がより大きく見えた。

「戦える私達が戦えない雪歩を守る。それは当たり前のこと」
「2B……さん……」

やがてそれ以上のリンクの言葉を前借りするように2Bが語る。
理屈で言えばそうなのだろう。それが正解だ。
しかしそれがどんなに枷となり、負担となるのか。少なくとも無表情でそう言い切れるほど簡単なものではない。
二人分の善意を受け止めて、それでも小さな腕では受け止めきれなくて、思わず雪歩は声を荒げた。

「私、ダメダメで……何も出来なくて、泣き虫で……皆さんの足を引っ張ってしまうのに……なんで、なんでそんなに優しくしてくれるんですか!?」
「理由なんてないよ」
「答えになってません……!」
「守りたいから、じゃダメ?」
「ダメですっ!」

半ばヤケになった雪歩の勢いに押されてリンクは言葉に詰まる。
どうしたものかと逡巡を重ねて2Bの言葉を待ってみるも、ここはリンクが答える番だとばかりに無言を貫き通している。
リンクは困ったように眉を下げながら、雪歩からは見えない弱気な表情を浮かべた。


924 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:10:45 NKDB1p9g0

「俺も一つ、謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「え?」
「俺は雪歩とゼルダ姫を重ねてた。だから、守りたい理由はそれなのかもしれない」
「ゼルダ姫、って……」

突如のリンクの告白。雪歩はその中で聞き覚えのある名前を耳にする。
ゼルダ姫――ここに来てそう経たない内に情報交換の際にリンクの口から聞いた名前だ。
詳しくはないがゼルダ姫の身の上の話も聞いている。この会場にも存在しているハイラル城の姫であり、リンクは彼女の専属騎士なのだと。
それ以上の情報は雪歩も知らなかったのでなぜ今その名前が出たのか疑問を呈した。

「俺はゼルダ姫を守りきれなかった」
「え……!? リンクさん、が……?」
「ああ。なんとかお互いに生きてはいたけど、ね。けど死んでもおかしくなかった。今回のように」

語りながらリンクはあの時の記憶を想起する。
完全に覚えているわけではない。けれど、幾百のガーディアンに囲まれて自分がゼルダ姫を守りきれずに力尽きたことは覚えている。
とどのつまり、リンクは万能などではないのだ。もしそうならば真島に不覚を取ることもなかったし、雪歩を危険な目に遭わせることもなかっただろう。
初めて知ったリンクの過去に雪歩は戸惑いを隠せず、リンクが敗れる姿など想像できなくて言葉に迷った。

「あの時のような失敗は繰り返さない。もう目の前で人は死なせない。それが俺の贖罪なんだ」
「……リンクさん、……」

その一言は雪歩に様々なイメージをもたらした。
守るべき存在を守りきれず倒れてしまった無念というのはきっと想像を絶するものなのだろう。
今こうしてリンクが決意を固めている裏でもずっと後悔の念が付き纏い、不安が渦巻いているのだろう。
リンク本人が感じているものと比べたらずっと小さなそれを感じ取って、雪歩は少しだけリンクとの距離が縮まったような気がした。
物理的なものではなく、気持ち的に。手が届かないから手が届きそうになった程度の変化。
それでもこうしてリンクの弱さを知った雪歩は、大きな一歩を踏み出せたような気がしていた。


925 : ALRIGHT* ――大丈夫―― (後編) ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:11:04 NKDB1p9g0

「それに、約束もあるしね」
「約束、ですか?」
「……うん。ちょっと変な人との約束」

リンクの脳裏によぎるのは真新しい記憶。
結局あの眼帯男、真島は何者だったのか。今となっては確かめようもない。
胸の上に刻まれた傷がずくんと疼いたような気がする。覚悟を問うてるつもりなのだろうか。
リンクの気持ちは変わらない。言葉にはしないが、真島がつけた自身の唯一の傷跡を片手でなぞり、心中で宣言した。

「……リンクさん、2Bさん」
「ん?」
「これからも、迷惑を掛けますけど……私、ダメダメですけど……守って、くれますか?」

雪歩の声の震えの理由は恐怖ではない。
もっと熱い何かが、二人に対する思いが行き場を失って溢れかけているせいだ。
対する2Bとリンクの返答は、

「「当たり前だ」」

その言葉を聞いて雪歩はどっと堪えていた涙を溢れさせる。
恐怖や不安によるものではない、安堵と嬉しさによる生暖かい涙。
彼女の嗚咽を制止などしない。存分に泣いて、感情を吐き出すと良い。
人の気持ちに疎いながらも2Bとリンクの両名は互いに見合い、それ以上は何も語らずに前を向いた。


【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:胸上に浅い裂傷、決意、チョコボに騎乗中
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実
[思考・状況]
基本行動方針:守るために戦う。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.雪歩を守る。
3.首輪を外せる者を探す。
4.ゼルダが連れてこられているかどうか情報を集めたい。

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。

【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:両腕に銃創(行動に支障なし)、決意
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.雪歩を守る。
3.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
4.遊園地廃墟で部品を探したい。

※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
※ブレスオブザワイルド、アイマスの世界の情報を得ました。

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安、死への恐怖、チョコボに騎乗中
[装備]:モンスターボール(リザードン)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:自分の無力さを受け止め、生きる。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.2Bとリンクへの信頼。
3.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。

※ブレスオブザワイルド、ニーアオートマタの世界の情報を得ました。

【支給品紹介】
【リザードン@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
2Bに支給されたポケモン。元の持ち主はレッド。
特性はもうかで、覚えているわざはエアスラッシュ、フレアドライブ、りゅうのはどう、ブラストバーン。

【モンスター状態表】
【リザードン ♂】
[状態]:健康
[特性]:もうか
[持ち物]:なし
[わざ]:エアスラッシュ、フレアドライブ、りゅうのはどう、ブラストバーン
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.俺の出番はまだか?


926 : ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 19:11:23 NKDB1p9g0
投下終了です。


927 : 名無しさん :2019/10/27(日) 20:18:52 hocZ8Pew0
投下乙です!
木の枝一本で真島の兄さんに挑みたくねえよなあ
QTE再現とかもあって、見ごたえのあるバトルだった
そしてやっぱ、真島の兄さんはカタギの無抵抗の女をいたぶれるほどの外道じゃなかった
助けてくれるって、信じてたよ!


928 : ◆NYzTZnBoCI :2019/10/27(日) 20:25:59 NKDB1p9g0
すいません、リンクたちの状態表の前に現在位置を書き忘れたのでこちらを追加します。

【C-2/Nの城付近/一日目 早朝(放送直前)】


929 : 名無しさん :2019/10/27(日) 23:11:13 hocZ8Pew0
初見時にはよく見てなかったけど、トレバーの状態表の状態欄、感情がやかましすぎて笑ったw


930 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/29(火) 02:54:24 MhlOz7P60
バレット・ウォーレス、リボルバー・オセロット、アリオーシュ予約します。


931 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:03:34 E2x6Ya4s0
投下します。


932 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:04:57 E2x6Ya4s0
星を危機から救うため、反権力組織アバランチを結成して日々を弾丸と共に過ごしてきた男、バレット。

核開発に伴う武力衝突の中をいくつもの顔で渡り歩いてきた男、オセロット。

そして連合軍と帝国軍の戦いに巻き込まれて子を失った悲しみから狂気に囚われた契約者、アリオーシュ。

殺し合いをも茶飯事としてきた異なる世界の三者がここに集まっていた。
そして現状、バレットとオセロットはアリオーシュに気付かれないまま戦略を立てていた。

これが普段の戦場であったなら、100%危険人物と断言出来るアリオーシュに即座に飛び込んでバックアタックしていた場面であっただろう。
しかし今は、武器もマテリアも全て没収された上で見たことも無い武器を配分されているという、ユフィの盗み以上に容赦の無い状況だ。配分された武器も機械を用いて武器を右腕に合わせなければ使えそうにない。

「じいさん、アイツについて何か分かるか?」

アリオーシュに届かないくらいの声でオセロットに尋ねる。

「……彼女の名はアリオーシュ。既にある程度の傷を負っているようだな。……ただし、その程度しか情報はなさそうだ。」

「……ケッ。やっぱり使えねえじゃねえか。」

バレットがオセロットに相手の情報を求めた理由は、彼らがアリオーシュを発見するより数分前の会話にあった。


933 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:05:45 E2x6Ya4s0




「簡略に言えばマテリアとは魔晄の結晶だ。神羅産の人工マテリアも天然のマテリアもあるが……どちらにせよこれを使えば誰でも魔法やそれに準ずるものが使えるってわけだ。」

『バレットとその仲間の邪魔をしない』
その契約の代わりにバレットはオセロットにマテリアについて解説していた。

「とりあえずここまでで質問はあるか?」

答えを『いいえ』と見越した上で形式的に問う。バレットとしてはなるべく一般的な単語に咀嚼して話したつもりであったのだが、『魔晄』とは何か、『神羅』とは何か、と立て続けの質問を受けたことで、オセロットとは常識の規格がまったくもって異なることを思い知る。

「して、君の言うマテリアのことだが……」

だいたいの常識の差異の咀嚼を終えたらしいオセロットはマテリアの説明を聞き、バックパックからゴソゴソと何かを取り出し始めた。

「もしかしてこれのことかね?」

そう言うオセロットの左手には黄色い球が握られていた。
それは紛れもなく、バレットも知るマテリアそのものだった。

「……持ってたのかよ。」

「幾分、飴玉か何かに見えたものでね。毒入りなどと警戒していなければ今頃は私の腹の中だっただろうな。」

「ケッ!そのまま喉に詰まらせときゃよかったのによ!」

悪態をつくバレットとは裏腹に、オセロットは興味深そうに片目を閉じて黄色いマテリアを凝視していた。
玩具を眺める幼子のようなその様相に、またもやバレットは毒気を抜かれた気分になってしまう。

「……さて、黄色いマテリアはコマンドマテリアとも言う。腕とか目とか……とにかく身体のどこかの働きを補佐して特別な技能が修得出来る優れもんだ。使い方は簡単。武器や防具のマテリア穴に装着するだけだ。」

「ふむ、こうかね?」

オセロットは言われた通りにピースメーカーにマテリアを填める。

「……身体に変化があるだろ?」

バレットが声をかけた。
しかしオセロットはそれをスルーして、顎に手を当ててじっとバレットの顔を凝視し始めた。

「……何だよ。俺にそんな趣味はねえぞ。」

「それは良かった、私もだよ。……なるほど、これがマテリアか。助かったよ、"バレット・ウォーレス"君。」

「……あん?俺はあんたにフルネームを名乗った覚えは……」

訝しげにオセロットを睨むも、しばしの後に合点のいったバレットは面白くなさそうに悪態をついた。

「ケッ……『みやぶる』かよ。使えねえ……。」

黄色マテリアのひとつ、『みやぶる』は目に作用する。相手を見ただけで相手の名前と詳細なHP、そして弱点がある場合はそれが分かるというものだ。
しかし殺し合う時には名前が分かってもそれほど役に立つとは思えない。残りHPだって様子を見ればだいたい想像はつくし、弱点が分かっても対応する属性技を持ったマテリアが無ければそれを突くことも出来ない。

マテリアを奪われたことは、バレットにとってこの世界での立ち回りが大幅に制限されたことを意味する。そういった不安の中で見えた一筋の光がこれだ。
期待の分それが肩透かしだったことの失望が大きいのは仕方の無いことだった。

「これが魔晄か……?目にエネルギーが湧いてくるようだ……。ククク……マテリア、面白いではないか。」

「はぁ……。そいつは良かったな。ソルジャーになれるんじゃねえか?」

"魔晄"と"目"というキーワードから勝手に連想し、皮肉混じりに呟くバレット。それに対し、リボルバーは不服そうな顔つきで返した。

「Soldier "兵士"……?この私をかの雑兵と同列に扱うとは……やはり君は可笑しな男だ、バレット。」

マテリアという新たな文化に触れたことへの興奮からか、上機嫌な様子は隠せない。

そしてこのような会話をしている最中、唐突に東の空から雷が落ちた。アリオーシュと戦っているウルボザが放った雷だ。
それをバレットが発見し──状況は今に至る。


934 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:06:43 E2x6Ya4s0



さて、『みやぶる』で得られた情報も大して役に立たないであろう現状、こちらの武器はオセロットのピースメーカーのみ。
つまり戦闘における火力の大部分をオセロットに一任することとなる。

それではそもそもの話だが、何故アリオーシュが危険人物であれば排除しなくてはならないのか。
もちろん殺し合いに反抗する以上、説得すら通じそうにない化け物であればそれを排除することは必要だ。それに対しては神羅の人間を──必要であれば罪の無い人々までもを葬ってきたバレットに躊躇は無い。

だがこの局面で特段それを急いでいるのは、単に『危険人物を放っておくと仲間たちが心配だ』という気持ちが大きい。ティファがこの世界に呼ばれているのは既に分かっている事だし、他の仲間が呼ばれている可能性も否定できない。

だがその気持ちにすら疑問は沸く。彼らは自分が率先して護らなくてはならないほど弱いだろうか、と。
ティファの戦闘スタイルなら素手でも何ら問題は無いだろうし、他の仲間だって折り紙付きの実力者たちだ。むしろ片手が使えない状況では自分が護られるべき立場にあるのではないか。

だがそれでも自分はここまでの4時間ほどは全く傷を負っていない。
仮に仲間が他の戦闘で大なり小なり負傷していた場合は?そしてここでアリオーシュを逃がすことがそんな仲間たちへのトドメに繋がるとしたら?


…………やめよう。ここで見えない仲間について考えても堂々巡りだ。つまるところ、重要なのは闘う場合にも闘わない場合にもそれぞれに理があるということ。そしてそれ故にバレットは迷っているのである。


──だが、遅かれ早かれ自分が闘うしかないのではないか?こちらだけが無傷である今こそが最大のチャンスではないか?


迷っている中でふと、バレットの中にそんな思考が生まれた。

遅かれ早かれ自分が闘うしかない──確かにその通りだ。神羅のことが気に食わない人間なんてごまんといた。だが実際に革命を起こすに至ったのはアバランチのみだ。
人は率先して動くことなどほとんど無いことをバレットは知っている。逃げようと思えば逃げられる状況でアリオーシュと闘おうとする人物など、基本的には居ないと考えるべきだ。だとしたらここで逃がしたアリオーシュが仲間の元へ向かう可能性は高い。

この局面で自分が迷っているのはギミックアームの有無のせいに過ぎない。
しかし考え直せば、向こうは背中に穴。片やこちらは2人いて、片方の右腕が使えないというだけ。これをチャンスと捉えずしてどう捉えるか。


935 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:07:30 E2x6Ya4s0

「……闘うぞ。」

静かに、されど明確な意志をもって、バレットは同行者に告げる。

「随分と待たせてくれたな。……まあいい。」

オセロットは待っていたと言わんばかりにピースメーカーを手のひらで転がし、構える。攻撃手段を自らが担うことも分かっている男に、バックアタックの初撃を担う躊躇も無かった。
すぐさま鳴り響く、銃声。

「この右腕が……そしてこの銃が……血を吸わせろと疼いておったところだ。」

銃弾は正確にアリオーシュの後頭部へと突き刺さり、アリオーシュはこちらに気付くことも出来ずにその場に倒れ込んだ。

それはあれだけ迷っていたのが馬鹿らしくなるくらい一瞬の出来事だった。
その精密な軌道はバレットさえも目を奪われてしまう。このじいさんは敵には回したくないものだ。

「……そんな正確に頭狙えんなら先に言え!」

「尋ねられなかったものでね。」

「チョーシ狂うぜ……ったく……」

バレットはやれやれと言いながらアリオーシュの死体を確認しに行く。死亡確認もだが、支給品の回収という目的もあった。

だが、オセロットの射撃能力だけでなく、アリオーシュもまた『化け物』だった。
正確に後頭部を拳銃で撃たれたはずなのに、まるで何事も無かったかのように立ち上がる。

「お、おい……なんだありゃあ……! 」

バレットは横目でオセロットを見る。さすがのオセロットもこれには驚いた顔をしていた。
ただし、次の瞬間にはいつもの読めない顔に戻っていたが。

「ククク……そう来なくては面白くない……!」

「どコ?私ヲ攻撃シたワルイコは……。」

銃撃された方向から、アリオーシュは2人の位置を特定しくるりと振り返る。


936 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:08:18 E2x6Ya4s0
バレットはオセロットの前方の狙撃を阻害しない位置に立つ。
バレットの右腕の武器はまだ使えないが、左腕の防具であればまだ使える。オセロットの拳銃は防具になり得ないため、アリオーシュの持つ剣への対処手段があるのはバレットのみなのだ。
アリオーシュの接近に備え、バレットは構える。

「アナたたチね……うふフ……こっチに……オいデぇェェ!!」

だが、バレットの算段は早速崩れることとなる。
遠距離からアリオーシュが選んだ一手は接近ではなかったのだ。

アリオーシュがバタフライエッジを掲げると、天から数々の魔力弾──『精霊の血』が降り注いだ。

「ぐっ……!」

魔法攻撃が来るとは思っていなかったバレットは回避の必要に迫られても即座に動くことが出来ない。火と水の魔力弾が辺り一面を覆い尽くす。

「こどモ……食べサセてぇぇェ!!」

その威力に膝をついたバレットに、今度こそアリオーシュの斬撃が迫る。
アリオーシュが右手でバタフライエッジを振り上げた、次の瞬間、銃声が聴こえた。
1発の銃弾がアリオーシュの右手を撃ち抜いたのだ。

拳銃は防具になり得ない?
前言撤回だ。オセロットにかかれば拳銃は武器であり、防具でもある。
銃ひとつで戦場を支配するさまは、まさに『リボルバー』の名を冠するに相応しいものだった。

その衝撃でバタフライエッジをその場に落としてしまったアリオーシュはすぐさまそれを拾おうとして前屈みになる。

そこにさらに1発撃ち込まれた銃弾がバタフライエッジで跳ね返って正面からアリオーシュの眉間にヒットする。

跳弾をも自在に操る射撃の正確さと空間把握能力、それがリボルバー・オセロットの真髄である。銃弾の扱いにおいて彼の右に出るものはいない。リアルとファンタジーの交錯するこの世界であってもその実力は折り紙付きだ。

「オおオォぉ……!」

「……ほう、2発目も耐えるか。バケモノめ。」

だがこの一撃もクリーチャー化したアリオーシュを絶命させるには足りない。再びバタフライエッジを掴み、バレットに襲い掛かる。
対して、精霊の血での転倒から立ち直ったバレットは左腕に嵌められた神羅安式防具で受け止める。
ちょうどバレットにとっては仲間の武器が敵の防具で受け止められている構図であり、どことなく面白くない。


937 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:09:03 E2x6Ya4s0
「クソッタレ神羅の発明品なんかで防げちまう。アンタ、この武器使いこなすにゃあまだ早いぜ。」

バレットはアリオーシュの華奢な胴体に思い切り蹴りを入れる。ティファほどの格闘術までは持っていないバレットだが、その体格差も相まってアリオーシュを吹き飛ばすには充分。既に撃ち抜かれている右手から再びバタフライエッジが零れ落ちる。

そしてバレットは左手にバタフライエッジを掴む。
ようやく攻撃手段を手にしたバレットは、剣の扱いには不慣れながらも仰向けに倒れたアリオーシュへと歩み寄る。

対するアリオーシュは仰向けの姿勢のまま、右手を掲げていた。

「ドこ……私のコドも……」

(これはッ……!)

つい先ほど見た構えをもう一度目にし、咄嗟にアリオーシュから距離を取るバレット。

その危惧の通りに再度唱えられたのはやはり『精霊の血』。
サラマンダーとウンディーネが魔力を供給している時は無尽蔵に放てる魔法だが、それらがいないこの場においては一度放つと魔力回復におよそ1分間のタイムラグが生じるのである。

辺り一面に魔力弾が降り注ぐ。
但し、他の契約者の使う魔法に比べて威力に特化したこの魔法には、それなりの欠点もある。
それは魔力弾が降り注ぐ場所は無差別であるということだ。制御が効かない魔法だというわけではないのだが、狂気に蝕まれているアリオーシュにそのような繊細な真似など出来るはずもなく、精霊の血はバレットからもオセロットからも全てズレて着弾した。

だが自分の真上から降ってきても回避出来るよう準備をしていたバレットの注意は上方へと向いてしまっていた。
当然のことだ。空から降り注ぐ魔力弾の雨を前にして、一体誰が丸腰の女性の方に注意を払おうか。

「前だッ!バレット!」

オセロットの叫びが響き渡るも遅かった。バレットの注意から外されたアリオーシュは、シンプルにして、最も恐ろしい手段でバレットに噛み付いた。

それは比喩でも何でもなく。
その文字通り──その歯をバレットの肩に突き立てたのである。

「痛ッ!この──」

クリーチャー化したことで急激に高まった食欲。そして元のアリオーシュから見られる狂気にも即している行動方針。簡潔に言うならば食べるのは『大人でも良い』ということ。現にウルボザの遺体も食べられており、その上でまだアリオーシュの食欲は止まる気配を見せない。

しかも不運なことに、未だに降り注ぐ精霊の血が巻き起こす砂埃によって視界が塞がれており、オセロットでさえ迫るアリオーシュを狙撃することは出来なかった。

「離れろッ!」

左肩に食らいついて離さないアリオーシュを強引に振り払う。
その際に肩の肉を食いちぎられ、形容し難い痛みがバレットを襲った。血肉を失うその痛みと共に、バレットの脳裏にひとつの記憶がフラッシュバックする。


938 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:10:11 E2x6Ya4s0
──崖から落ちる友、ダインを助けようと手を伸ばしたその時、撃ち抜かれた右腕。崖の下へと消えていくダインの姿。

俺もダインも、あの時に何もかも失ってしまった。
だけど俺は、紆余曲折を経て何とか前を向くことが出来た。
対するアイツは世界を恨んで、ただの殺人鬼へと成り下がった。
俺にあって、アイツに無かったものは何だった?

決まってる。
燃え盛る村の焼け跡の中で。
燃え上がる神羅への憎悪の中で。
ずっと俺の傍にいてくれた存在がいたからだ。

ダインの娘であるマリン。
それが俺を俺でいさせてくれた唯一の存在だった。
信頼していた巨大権力から世界の醜さを知らしめられても、世界を憎まずにいられたのは、その世界の中にあの無垢な眼差しが包括されていたからだ。


幻想を振り払うように首を振る。すると武器を失ったアリオーシュがまた噛み付かんとバレットに迫る、目の前の現実が見えてきた。

「その目──」

左肩を負傷し、左腕が上手く動かない。それでもフライングエッジを振りかざし、微かな動作でアリオーシュの進路を阻む。
さらには後方からの的確な援護射撃によってアリオーシュの噛みつき攻撃は失敗に終わる。

「──アイツと同じ目だよ。」

ダインとはコレルプリズンで決着を付けた。あの時のダインはまだ話が通じる相手ではあったが──きっとあと数刻もすればあるいはアリオーシュのようになっていたのではないか。

型も何もあったものではない素人の剣さばきでありながら、その剣先は的確にアリオーシュの喉笛に命中した。

「■■■■──!!」

声帯を潰され、何かを叫びながらアリオーシュが地に伏す。

だが未だ終わっていない。
クリーチャーと化したアリオーシュは脳を破壊されるまでその活動を停止することはない。

そしてその瞬間、アリオーシュが2度目の『精霊の血』を使ってからちょうど1分が経過した。
すなわち、魔力のチャージは完了した。


939 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:10:53 E2x6Ya4s0
地に伏せながらもゆっくりと手を掲げるアリオーシュ。彼女の身体はT-ウイルスと適合しており、G生物としての『進化』が既に始まっている。よって顕現する魔力弾の質もこれまでより遥かに上昇しているのである。

火と氷──対になる2つの属性を掛け合わせた『メドローア』という呪文がとある世界に存在する。
それはアリオーシュの操る火と水でも再現可能である。
プラスとマイナス、反対方向に働くチカラのベクトルが零となった瞬間、それは消滅を伴う『無』のチカラへと変わる。

そして『無』のチカラの極限である魔法の名をバレットは知っていた。ヒュージマテリア争奪戦で北コレルの同郷の民を護りきって、自分なりの罪滅ぼしを終えた時に手に入れた、『アルテマ』のマテリア。

彼にとってそれは過去の精算と新しい未来を象徴する魔法だった。
だがその魔法が今になって自分に牙を剥いている。

アリオーシュという名のダインの亡霊が。
アルテマという名のコレルの民の怨嗟が。
バレットという罪に汚れた男をいつまでも、いつまでも責め立てる。

「結局……過去の罪は消えることはねえってことかよ……。」

悔しさ混じりに吐き捨てる。
天から感じたのは、極大消滅呪文の魔力。
空気がピリピリと震えるほど強大な魔力を前にして、バレットはその場にへたり込んだ。

そんな時、声が聞こえた。

「君は、ここで終わるのかね?」

このような絶望的な状況であっても、まったく意に介さない者が1人、そこにはいた。

「仕方が無い。それならば──」


そこで、一瞬言葉が途切れる。
同時に、アリオーシュも魔法の発動が完了する。


「──『奇跡』を見せてやろう。」


オセロットの言葉にクエスチョンマークを浮かべるバレット。

が、その言葉の意味など考えている暇もない。


天より幾つもの魔力弾が降り注いだ──


「お、おい……!何だ、コイツは……?」


940 : アリオーシュの奇【出題編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:11:35 E2x6Ya4s0
──その全てが、アリオーシュに向かって一直線に。



バレットにはその光景を呆然と眺めていることしか出来なかった。

G生物化して体内の魔力の受容量も増加したアリオーシュの放った精霊の血は、全てを1人の身体で受け止めるには強大すぎたようで、雨が止んだ後にアリオーシュの姿は残っていなかった。


「分からないかね?バレット君。」


この惨状を起こしたのは、彼の言葉の通りリボルバー・オセロット、この男なのだろう。
その評価は『まったく信用できない奴』から『得体の知れない奴』へと変わった。


「これが"奇跡"だよ。」





世界が無に包まれていく。
意識の中でも、それに合わせて虚無が広がっていく。

本当は分かっていた。
"あの子"はもう居ないって。

本当は私の傍にいてくれる、あの子の"代わり"を求めていたに過ぎないのだって。

でもそれを認めてしまったら──私の生きた意味なんて、この世界から消えてしまうでしょう?

この世界に自分の名を刻みたかった。
どこまでも悪へと醜く堕ちていく自分の名を、この憎い世界に永遠に刻んで壊してしまいたかった。


「──ん…………。」

その時、ずっと聞こえなかった声が聞こえた気がした。

「あ、さん………。」

「どこ……どこなの……?」

どこまでも無限に広がる『無』。
何も見えないその先に、我武者羅に手を伸ばす。


「──おかあさん……」


掴んだのは、とても温かい光。


「■■■■──!!」


最後に私は、声にもならない声で。"あの子"の名前を呼んでいた。


【アリオーシュ@ドラッグ・オン・ドラグーン 死亡確認】


941 : アリオーシュの奇【解答編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:14:53 E2x6Ya4s0
「おい、じいさん。」

「何だね?」

「支給された物を俺に全部見せな。」

「ふむ、いいだろう。」

わけがわからなかった。
アリオーシュが魔法を唱えたと思ったらその魔法はこちらを襲ってくることは無く、アリオーシュ自身に降り注いで消滅させたのだ。

「これで満足かね?」

オセロットはバックパックをひっくり返してバレットに開示する。
だがそこに新しいものなど見当たらない。
ヴィンセントが使っていたピースメーカー、そしてそれに嵌められた『みやぶる』のマテリア。そしてピースメーカーに装填できるハンドガンの弾(×12)のみだ。

「何か隠してるんじゃねえだろうな?」

「これで全部だよ。神に誓ってね。」

くつくつと笑いながら答えるオセロット。癪な話だが、コイツがそう言うのであれば本当にこれで全部なのだろうという気がする。

ではこれらの支給品でどうやって"奇跡"を起こした?
銃で弾道をねじ曲げられるような次元の魔法ではなかったし、みやぶるのマテリアなんて考えるまでもなく何も出来まい。

自分のフルネームやアリオーシュの名前(こちらは口からでまかせかもしれないが)が分かった以上マテリアの正体はみやぶるで確定であろう。また、ハンドガンの弾に特別な仕掛けが施されているようにはとても見えない。

(やっぱりコイツ、何か支給品を隠しているのか?)

やはりこちらの説の方が有力な気がする。
だがオセロットは『これで全部だ』と言った。

(いや、待てよ……。)

勝ち誇ったような顔でバレットはニヤリと笑う。

「分かったぜ、じいさん。『持っている物』を全部出しな。」

先ほど自分はオセロットに何と要請したか。
そう、『支給された物』を全部出せ、だ。
言語解釈の許す限りでは、『オセロットが支給された物』とも解釈できる範囲だ。

つまりあの闘いの最中にアリオーシュに殺されていた女性の支給品を拾いにでも行っていたとしたら、自分の要請に『これで全部だ』と答えることと、支給品を隠していることを両立できるのだ。
あるいは、自分と出会う前に誰か他の参加者から奪っていたのでもいい。
だが考えてみると、アリオーシュが精霊の血を放っていた時など、オセロットが全く銃を撃っていなかった期間もあった。その間に死んだ女性の支給品を取りに行っていたとしたら辻褄も合うのである。

「アンタに支給されたわけじゃない。このゲームが始まって以降手にした"何か"を使ってアンタは弾道を捻じ曲げた。これが答えだ。」


942 : アリオーシュの奇【解答編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:15:59 E2x6Ya4s0
「ふっ……なるほど……。」

オセロットはバレット以上のしたり顔でニヤリと笑った。

「ハズレだ。」

「あ?」

「私が持っているのは先ほど開示したこれらだけだよ。これもまた神に誓おう。」

「……。」

渾身の解答をバッサリと切り捨てられたバレットは沈黙するしかなかった。

ちなみに、ウルボザの武器以外の支給品はあの場には残っておらず、現在は澤村遥が持っている。

「じゃあ次の答えだ。『持っていた物』も全部教えな。アンタは何かしらの消費アイテムを用いて──」

「それもハズレだ。」

再び、バレットの解答は棄却される。それも、言い終わる前に。

「だーっ!!」

やっぱり考えるのは苦手だ。
相手が答えを持っていながら、自分が解答するのを一方的に楽しまれているのも癪である。
そんなモヤモヤを解消するかのようにバレットは叫ぶ。

こういったちまちました事は自分でなくとも頭のイイ奴らがやればいいことなのだ。
胸を張って言うことでもないが、自分はいつも誰かの示した道に合わせて闘ってきただけだ。

時には皆のリーダーのクラウドが。
時には知識を持っているブーゲンハーゲンが。
時には神羅の情報を掴んでいたケット・シーが。
自分たちの闘う目的を明確に示してくれたからこそ、自分は何も考えずに闘いに没頭することが出来たのだ。

(ん……ケット・シー?)

などと考えている内に、ひとつの仮説が思い浮かんだ。

(ケット・シー……つまりはリーブ……マテリア……。)

「ああっ!!」

その時、何もかもが頭の中で繋がった。
同時にバレットはオセロットを睨む。

「ほう、気付いたようだな。」

バレットの表情を見て、"奇跡"の正体に気付かれたことを察するオセロット。

「ああ、分かったぜ。何もかもな……。」

「して、答えは?」

なぞなぞにしても、ウミガメのスープ問題にしても言えることだが、クイズとは相手が答えられずに迷っている時もさることながら、相手が答えにたどり着いた時もまた愉悦に浸れるものである。
"奇跡"の出題者、オセロットも、バレットに解かれることは一興であった。


943 : アリオーシュの奇【解答編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:16:37 E2x6Ya4s0
「──『あやつる』だ。」

「何だね、それは。マテリアの知識に乏しい私に説明してくれたまえ。」

「とぼけんな!」

バレットはバタフライエッジの切っ先をオセロットに向ける。

「それしか説明がつかねえんだ。アリオーシュが自分を攻撃した理由、そしてアリオーシュが魔法を唱えるという、最大の隙を見せた時に限ってアンタが銃弾を撃たなかった理由としてはな。」

合計3回放たれたアリオーシュの『精霊の血』は、回数を重ねる度にその命中精度が落ちていった。それもオセロットが試行回数を重ねる度にコントロールの精度を上げていたのだと解釈すれば自然なことだ。

未だにニヤニヤと笑っているオセロットに対し、バレットは怒りの表情を見せる。

「しかしその仮説ならば私は君の命を救ったことになる。何故そんなに私を睨むのかね?」

道化地味たオセロットの物言いはまたバレットを刺激する。

「アンタの黄色マテリアは『みやぶる』なんかじゃなかったってコトだ。だとしたら疑問が残る。何故、アンタは俺のフルネームが分かったのか?」

その答えは、考えるのが苦手なバレットにも容易に想像がついた。
何故なら彼は、同じようなコトを既に体験しているのだから。


944 : アリオーシュの奇【解答編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:17:36 E2x6Ya4s0

「答えはひとつだ。アンタは俺たちの情報を最初から持ってる……つまり、主催者からの『スパイ』だな?」


「ク……ククク……クックック………」

「おい、何とか言ってみろよ!」


「──正解だよ。」


その言葉と同時に、バレットはバタフライエッジを振りかぶる。


「……。」


だがバレットは、急に思い直したかのようにそれ以上動けなかった。

「何故斬らない?」


「……分からねえからさ。」

バレットは知っている。
スパイにも何かしらの立場というものがあることを。
ケット・シーことリーブは神羅からのスパイでありながら、神羅の活動と自らの正義感の衝突の中で苦しんでいた。

オセロットがそういうタイプの人間だとは到底思えないが、主催側の人間でありながら自分に協力している、つまりゲームに単純に乗っているのではないのは紛れもない事実だ。そしてそこには何らかの理由があるはず。ここでオセロットを殺すとおそらく永遠に謎のままだ。

また、かのケット・シーも自分がスパイだと明かす時にはそれを明かしても問題無いと言えるだけの『切り札』を持っていた。
ケット・シーは、エアリスの母やマリンを人質として握っていたのだ。

そしてオセロットにも同じことが言える。オセロットも付けているとはいえ、自分たちに課せられた首輪は、言わば究極の人質だ。それをオセロットの意思一つでそれを即座に爆破できるとしたら。
また、自分が下手にオセロットに逆らうことで同じく首輪を付けているティファや他の仲間が危険に晒されるとしたら。

そう考えると、バレットは逆らえなかった。
構えていたバタフライエッジを下ろす。


945 : アリオーシュの奇【解答編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:19:20 E2x6Ya4s0
「君は何か勘違いしているようだが、私は主催者からの手先"ジョーカー"とは違う。支給品の優遇など受けてはいないし、もちろん首輪をどうこうする権利も持ち合わせてはいない。」

「……だとしたら、何で俺を助けた?あからさまに『あやつる』を使うことは俺にスパイだと教えているようなもんだろーが。」

「銃弾(バレット)無き拳銃(リボルバー)などただの鑑賞物に過ぎないだろう?」

「納得出来るか!白髪のじいさんなんざ鑑賞物にすらなりゃしねえぜ!」

どことなく小粋な返しにふっと笑みを零すオセロット。
しかし次の瞬間、その笑みは消え、真剣そうな表情に変わる。

「それでは──そうだな……私が犯した失敗の"償い"とでも思ってくれればいい。」

「失敗……?償い……?」

ふざけていたような先ほどとの温度差もあって言葉の咀嚼が追い付かない。
バレットは首を傾げる。

「まず君は、自分の意志でアリオーシュに挑んだと思っているだろう。」

「……当たり前だろ?あの時に闘うのを選んだのは俺だぜ。」

「ああ、もう少し長い時間が使えていれば君にも違和感が残っていただろうが、この世界では制限が厳しくてね……マテリアのチカラをもってしても1秒にも満たない──ほんの一瞬しか操れないのだよ。」

「……もしかして──」

「そう、私はその一瞬で、闘うか様子見かをおよそ50/50(フィフティーフィフティー)で悩んでいた君に刷り込んだのだ。『今闘うのが得だ』と考えるようにね。」

確かに違和感は無いわけではなかった。
自分は突っ走りがちな人間ではあるが、少なくとも無謀ではない。
武器もマテリアもなく、攻撃手段を目的も分からないじいさんに任せるほど無策で敵に突っ込む決断をするのが、自分にしては早すぎたような気はずっとしていたのだ。

だが『あやつる』はかなり繊細な技術を必要とするコマンド技だ。制限とやらで一瞬の時間しか無かったはずなのに、思考への介入、さらにアリオーシュの魔法の弾道コントロールを3回目の『あやつる』で完璧にこなすとは。このじいさんの実力がマテリアによるものだけでないのはバレットには──いや、マテリアへの理解が深いバレットだからこそ分かった。


946 : アリオーシュの奇【解答編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:20:41 E2x6Ya4s0
「だがそれは失敗だったようだ。本当は最初の後頭部への射撃で決めるつもりだったのだが……アリオーシュ側の感染(イレギュラー)を考慮出来なかった。一時的に君の目的に協力する、この契約を遂行できないのは私の美学に反するのでね。」

「……イレギュラー?どういう意味だよ。というか……今更だがこっちは偽装タンカーの方向じゃないだろ?」

今まではオセロットが考え事に夢中のバレットを先導する形で歩いていたため頭から抜けていたが、自分たちが向かっている方向は偽装タンカーではない。
地図を見るに、おそらくは『ラクーン市警』の方角だ。

「悪いがギミックアームの装着は後回しにしてもらうよ。君もゾンビにはなりたくないだろう?」

主催側の人物であるオセロットは異世界について理解している。
例えば、バレットのフルネームを呼んで黄色マテリアが『みやぶる』であるとの偽装が出来たのも、元々バレットの世界についての知識があったからに他ならない。

つまり、アリオーシュの異様な耐久力と行動原理についても、それがT-ウイルスの感染によるものだとオセロットは理解している。そして、背中に穴が空いていながらも動いている様を見た段階で『理解出来た』はずだったのだ。
しかしそれを見落としていたのは、オセロットの落ち度であると本人は考えている。

「おい、一体どういう……」

バレットが問い詰めようとするも、オセロットはそれを片手で制止する。

「ふむ、あと30秒といったところか……」

「おい、だからちゃんと説明を……」

「なあに、君にとっても興味深い話だろう。これまでの死者の名前、これから侵入不可能になる禁止エリア、そしてこの世界に呼ばれている者たちの載った名簿……それらの情報を開示する──」


そう、オセロットは理解している。
まだ参加者には開示されていない、『名簿』の存在──つまりはこの殺し合いの裏側についても。



「──放送の時間だ。」


947 : アリオーシュの奇【解答編】 ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:21:57 E2x6Ya4s0
【E-3/草原 /一日目 早朝】

【バレット@FF7】
[状態]: 左肩にダメージ(中) T-ウイルス感染(?)
[装備]: 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.リボルバー・オセロットを警戒
2.よく分からないがラクーン市警に向かうらしい
3.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる

※ED後からの参戦です。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(あやつる)@FF7 基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットのT-ウイルスを除去するため、ラクーン市警でハーブを入手する。


※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。

※主催者と何らかの繋がりがあり、他の世界の情報を持っています。


948 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:22:20 E2x6Ya4s0
投下終了しました。


949 : ◆2zEnKfaCDc :2019/10/30(水) 23:34:30 E2x6Ya4s0
すみません、以下の内容を載せ忘れていました。

【支給品紹介】

【マテリア(あやつる)@FINAL FANTASY VII】
リボルバー・オセロットに支給されたコマンドマテリア。対象とした相手を操って行動を強制できる。操っている間、本人は行動できない。
操れる時間は1秒に満たない。また、1度発動すると次の発動までに1分の時間を要するという制限がかけられている。


950 : ◆vV5.jnbCYw :2019/10/30(水) 23:44:04 k1YMzJ3o0
投下乙です
一言で言うと、この話、スゲエ。
DOD、FF、メタルギアの世界の3セット、アリオーシュの狂気、原作同様振り回されがちなバレット、
そして前回前々回と怪しさ全開だったオセロットの秘密。
3つのキャラの使い方にひたすら驚かされました。

ホメロスの登場話やクラウドVS天城雪子の戦い読んだ時から思ったけど、読者にミスリードを誘うテクニックに、改めて脱帽です。
しかしウイルスに感染したバレットと、衝撃の事実を明かしたオセロットのこの先が気になってしょうがない……。


951 : ◆NYzTZnBoCI :2019/10/31(木) 00:45:48 I3eDzL9Q0
投下乙です!
予想出来ない展開の嵐で思わず身震いしました。
今まで語られなかったアリオーシュの心理描写、そして今まで使われなかった魔法を拾いながらの戦闘。
それぞれの世界観を崩さず、それぞれの特徴を活かした名バトルでした。

しかしそれ以上に衝撃だったのがオセロットの正体ですね。
オセロットは基本行動方針も謎で、マテリアも謎で、全てが謎だらけでしたが……この話でそれらを一気に回収したのが凄すぎる。
目立たないキャラという印象があったオセロットがここに来て重要キャラに変化するというのはなんとも熱い!


952 : ◆NYzTZnBoCI :2019/10/31(木) 00:51:28 I3eDzL9Q0
そして、そろそろ第一回放送を投下してもいい頃合いかなと思いました。
まさかここまでこの企画が賑わうとは思いませんでした。このロワに関わって下さった皆様、本当にありがとうございます。
お恥ずかしいことに色々と準備不足でしたが……改めて、放送を予約させて頂きたいです。
もし放送までに動かしたいキャラがいるという場合は、11/7までに予約してください。
その日までに予約が来なければ放送を投下させてもらうつもりです。
改めて、ここまで来れたのもみなさんのお陰です。本当にありがとうございます。これからもゲームロワをよろしくお願いします。


953 : ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:03:13 V7zhc68U0
11/7に投下すると言いましたが、日付が変わる時間に投下できなさそうなので今投下してしまいます。
変わらず放送前の話の予約は日付が変わるまで受け付けていますのでご了承ください。

では、放送投下します。


954 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:04:28 V7zhc68U0

「そろそろ放送の時間ね。あーおもしろかった! 死んだ死んだ! いっぱい人が死んだ!」

薄暗い明かりに照らされながらご機嫌な声を上げる少女、マナ。
その視線は部屋に用意された大きなモニターに映し出された会場の地図に釘付けになっている。
地図の所々に浮かび上がっている丸。そしてその上に記載された参加者達の名前。
時が経つにつれ順調にその丸が消えていき、首輪から盗聴していた音がプツリと途切れるのは至上の快感だった。
自分の掌の上であんなに大勢の人間を踊らせて、命を奪う。これ以上の愉しみなどないとばかりにマナはこの六時間を満喫していた。

「ふん、人間とは醜いものだ。優勝の褒美に釣られる者、他者の為に殺戮に手を染める者、戦闘を愉しむ者……全く理解出来んな」

その傍らにて、別室から現れたウルノーガがすっかり丸の少なくなったモニターを見上げる。
どうやら放送の頃合いを見計らって来たようだ。彼はさほどこの殺し合い”自体”には興味はないらしい。
だがマナはそんなウルノーガが気に食わないようで、ギョロリと赤い双眸をそちらに向けた。

「あなただって昔はその醜い人間だったんでしょ?」
「……貴様、なぜそれを知っている」
「ふふ、うふふふ。わたし、心が読めるの。それに本当はこう思ってるんでしょ? 『ホメロスめ、折角蘇らせてやった上我自ら勧奨の言葉をかけてやったというのに、主に楯突くとはな……予想外だ。もし奴が大樹の子と共闘すれば――』」
「――下らん」

早口で捲し立てるマナはウルノーガの睥睨に背筋が凍る。
彼の放つ圧力により強制的に口を閉ざされたマナは不快そうに顔を歪め、八つ当たり気味に床へ唾を吐き捨てた。

「あのような使い捨ての駒が敵に回ったところで問題はない。あまり適当な事を抜かすなよ、小娘」
「ふふ、わかったわ。けど、わたしの部下のイウヴァルトはしっかり役目を果たしてくれてるみたい。どこかの誰かさんみたいに扱い下手じゃないからね」
「…………貴様」

ウルノーガの放つ威圧に魔力が混じる。地響きを起こすほどのそれにマナは冷や汗をかきながらもいびつな笑顔を浮かべていた。
実際ウルノーガはホメロスの謀反を予想していなかった。イレブン達やグレイグへの恨みから優秀なマーダーとして活躍することを期待していた故に支給した強力なアイテムの数々は今や主たるウルノーガ自身を打倒する為に刃を向けている。
無論可能性など無いに等しいが、もしホメロスがイレブン達と徒党を組み己と対峙することになれば……少々厄介な相手になることは事実。
そこまで読んでいたからこそマナは彼を挑発し、そして今こうして思い通り逆鱗に触れている。
その事実がおかしくてたまらなくて、マナは笑顔を崩すことが出来なかった。


955 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:05:00 V7zhc68U0




「その辺りにしておいたらどうだ、二人共」




剣呑な雰囲気を断ち切る声。
マナとウルノーガは視線を向けるまでもなくその正体に気付き、数秒ののちに魔力の衝突を切り上げた。

「……宝条か」
「無礼な真似をしてしまいましたかな、ウルノーガ様」
「良い。このような小娘、殺すだけ魔力の無駄だ」
「ええ、実にその通り。ウルノーガ様が聡明なお方で助かります」

くたびれた白衣に身を包む初老の男性、名は宝条。
今回の殺し合いの開催において彼は重要な立ち位置に当たる。
知識欲、研究欲の権化とも呼べる異常な思想。そしてそれを実現できる技術力を持ち合わせたマッド・サイエンティスト。
参加者に着用された首輪の開発は勿論、部屋に用意されたモニターやパソコン、放送機器などの機械関連は全て彼が管理している。
いや、厳密に言えば彼一人ではなく彼が連れてきた百人ほどの神羅兵とともに、だが。
現に今もモニターの向こうの部屋では神羅兵たちがパソコンと向かい合っている。流石に七十人ものデータを同時に管理するとなると宝条一人では厳しい、という理由だ。
今は放送前ということもありこうして宝条が抜けても問題ない程度には落ち着いているようだ。

「ふふ、宝条はわたしの味方してくれるの?」
「馬鹿を言え。私は自分の研究を邪魔されたくないだけだ。命を握られた者たちが互いの目的を掲げ殺し合い、奪い合う……そしてその中には私の息子もいる! 追い詰められた力を持つ者がどんな行動を取るか。どんな死に様を見せるのか! 科学者としてこれほど興奮することなどあるまい! ……それを貴様らの我儘で狂わされるなど、私が許さん!」

肩を震わせ、目を血走らせながら熱弁する宝条にマナは気圧される。
宝条が狂人であることは知っていたがよもやここまでとは。同じ狂人として親近感が湧く。
だからこそマナは宝条を気に入っていた。そもそも自分の世界にはない技術力を見せられた時点で手元に置いておきたいという欲望はあったのだが。


「そんなことどうでもいいからさ、早く放送始めなよ」


第三の声が掛かる。
マナは声の主の方向へと振り返り、宝条はふんと鼻を鳴らし興味を失ったとばかりに手頃な椅子に腰掛けた。


956 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:05:33 V7zhc68U0

「――足立」
「あのさぁ、放送まであと二分もないんだけど? 君達時計もロクに見れないわけ?」

腕を組み壁にもたれ掛かる声の主、足立透に促されて時計を見れば確かに放送の時間が迫ってきている。
彼の言い方は癪に障るが、運営という立場上そういったルールはきちんとしておかなければ示しがつかない。
マナは苛立ちを隠そうともせずに舌打ち混じりに宝条を呼び、放送機器の扱い方について簡単な説明を受けた。

「じゃあ始めるわ。あ、最初はなんて挨拶したほうがいいの?」
「さぁね。適当にご機嫌ようとか楽しんでるとか、そんな感じでいいんじゃない?」
「へぇ、じゃあそれにするわ。えーっと、これを押せば……よし、できた!」

スピーカー機材のスイッチを入れ、軽い耳鳴りじみた音が全体に響き渡るのを感じる。
初めて体験する未知なる技術の片鱗に酔いしれながら、マナは妖しく口角を釣り上げながら放送を開始した。


『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? こっちはすごーっく楽しませてもらってるわ! 声だけでしか分からないのが残念なくらいにね』


その可憐で無邪気な声に参加者は何を思い、何を抱くだろうか。
憤慨、憎悪、期待、不安――それぞれ違うものを抱きながらも、ほぼ全ての人間がその声に意識を傾けただろう。
マナはそんな参加者たちの心情など察するつもりもないまま、手元にあるルールの書かれた紙を見ながらつらつらと言葉を連ねていく。

『それと、大事なことを言っていなかったけど……この放送と同時に名簿が配られるの。他の人達の名前が書かれた紙よ。顔は載ってないから、偽名を使ってる人も心配ないわ。これでお友達がどれくらいいるのかとか、どれくらいの人が参加してるかとかも分かるでしょ?』

名簿、それを口にすると同時にマナはちらりと横目を投げる。
幼い一瞥を受けたウルノーガは無言のまま名簿の積まれた机の前へと向かい、杖を振るう。
と、青い光が名簿を包み込んだかと思えば、人数分の名簿がそれぞれ参加者のデイパック内へと配られた。

『ちゃんと確認した? これから死んだ人の名前を言っていくから、手に持っておいたほうが便利かもしれないわよ。ほら、名前を呼ばれた人を確認できるでしょ? 名簿を見て仲間の名前を見て、その人と会えるかもしれない――って思った直後にその人の名前が呼ばれた、なんてことがあっても泣かないでね!』

名簿後出しというルールはある種、最初から配る形式よりも残酷なものだった。
誰が参加しているかわからないことが理由で殺し合いに乗った者も少なからずいるだろう。
それにマナの言う通り、希望を与えた直後に絶望が降りかかる者も少なくないはずだ。
だからこそマナは期待する。放送を終えた後の参加者たちの反応を。
常人離れした感性の元に築かれた愉悦を声に乗せたまま、ゆっくりと唇を開いた。

『それじゃあ、死者の名前を発表するわ』






957 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:06:13 V7zhc68U0



――天海春香
この子の歌声、とっても好きだったわ。まぁもう二度と聞けないんだけどね。

――天城雪子
自分の命を捨てて人を守るなんて素敵。でもその人、本当に命を懸けて守る価値なんてあったの?

――アリオーシュ
この人、自分の子供を殺されて狂っちゃったらしいわ。全ての子供を守りたいっていう高潔な願いを持ってたのに、誰にも伝わらなかったみたい。

――ウルボザ
厄介な子供に付き纏われて災難な目に遭っちゃったみたいね。こんな状況で子供なんか守ろうとするからよ。

――カエル
お仲間に殺されるなんて可哀想。この結果が騎士道っていうやつなの?

――桐生一馬
最初の時にわたしに逆らった男ね。死んで清々したわ!

――グレイグ
本人は満足げに死んだつもりでも、誰も救われてないわよ。一人で空回って、馬鹿なやつ。

――ジャック
雷電、って呼んだほうが馴染みあるかしら? 相手が悪かったわね。

――マールディア
この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって! これから楽しい事が待ってるはずだったのに、こんな形で終わっちゃってかわいそう。

――ヨルハA型二号
逃げれば生き延びられたはずなのに、なんでわざわざ戦うことを選んだのかしら。意地っていうの? 人の心なんかないはずなのにね。

――レオナール
守ろうとした相手に背後から刺されるなんて間抜けよね。みんなも気を付けなさい。

――レオン・S・ケネディ
魔法を知らない人間が魔法に殺される瞬間って結構面白いのね。思わず笑っちゃったわ!


以上の十二名よ。
残り人数は五十八人。かなりの勢いで死んだわね!
期待通りに動いてくれて嬉しいわ。次は何十人死ぬのかしら?
これからもわたしたちを楽しませてね!






958 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:06:55 V7zhc68U0


死者の発表を終えたマナはふうっと満足気に息を吐く。
十二人――それほどの人間がたった六時間の内に死んでいった。
その中には名のある強者もいたし、戦いとは無縁の人間もいた。しかしそんな立場や事情など関係なく次々と人が死んでいった事実がおかしくてたまらなかった。

『ふふふ、ふふふふ! あははは! はははははは!』

放送中だということも忘れてマナは哄笑を響かせる。
思い出してしまったのだ。死を間際にした参加者たちが残した言葉を。
ある者は立ち向かい、ある者は敗北し、ある者は抵抗も出来ぬまま――姿が見えない分、想像力が掻き立てられる。
自分の思い描いた想像の世界の中で無様に命を落としていく者たちの姿を思い出してしまったがゆえに、マナが我を取り戻すのに少しだけ時間がかかった。

『ふふふ、お腹痛い……あ、そうそう禁止エリアの発表ね。えーっと、一時間後にF-1、三時間後にC-1、それと……五時間後にC-5が禁止エリアになるみたい。今そこにいる人達は時間までに違う場所に行ってね。あ、自殺したいっていう人がいるなら好きにすれば?』

それはちょっと面白くないけど、とマナが付け足す。
主催者という立場から見て参加者が自分から死を望み、命を絶つ行為ほど面白くないものはない。
足掻き、藻掻き、苦しむ姿が見たいのだから当然だ。もっともウルノーガは結果だけを求めているためその限りではないが。

『ああそれと、Nの城っていう場所に行けば手持ちの支給モンスターを回復してくれるわよ。一部の人はすっごく重宝するんじゃない? それじゃあみんな、頑張ってね。健闘を祈ってるわ!』

プツリ、呆気ない音とともに放送は終わりを告げる。
時間にして数分にも満たない短い時間だが、これにより参加者に与えた影響は大きいだろう。
死者の名前、禁止エリア、そして名簿の配布。手探りだった参加者たちはこれでより殺し合いへの意識を強めることになるはずだ。

「お前たち……自分が何をしているのかわかっておるのか!?」

放送を終えた頃、不意にマナの耳に怒号が掛かる。
視線を向ければ紫色の衣服を身に纏い、白いひげを蓄えた老人の姿が映った。

「それはこっちのセリフよ。自分の状況が分かっていないみたいね」

男の名はガッシュ。理の賢者と呼ばれる存在。
時を渡る船シルバードを創り上げた張本人であり、クロノたちが世界を救うのにもっとも貢献した人物と言っても過言ではないだろう。
本来ならば既に亡くなっているはずだが、クロノたちの活躍により滅びの未来が無くなったために生き永らえていた。
そんな彼がここにいる――一体なぜ、という疑問は彼の体を縛るロープが物語っているだろう。


959 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:07:27 V7zhc68U0

ガッシュの技術力はかの宝条さえも凌駕していた。
時を渡り、過去と未来を行き来する技術など宝条だけでなく彼を知らない者からすれば夢物語だと思っていただろう。
そういった魔法があるのならば納得できるが、ガッシュはそれをただ純粋な技術力で成し遂げた。
それを利用した結果がこの異なる世界の人間を集めた殺し合い――ガッシュ本人は己の力がこんな形で使われるなど屈辱でしかなかった。

「後悔するぞ……貴様らは必ず破滅を迎える!」
「はいはい、ちょっと黙ってなさい」
「ぐっ……!?」

鋭い睥睨を向けるガッシュへマナが手をかざしたかと思えば瞬間、ガッシュは深い眠りに誘われる。
がくんと項垂れ意識を手放した彼を見下すように目を細めれば、すぐさまマナは喜色を顕しながらウルノーガたちの方向へと顔を向けた。

「ねぇ、誰が優勝すると思う?」

それはある種の余興だ。
たった六時間という短い時間ながらこの殺し合いは大きく動きを見せた。

「わたしはカイムね! 彼の暴れっぷり、知ってるでしょ?」
「何言ってんの。結局捕まっちゃったじゃない、彼。それにイウヴァルトってやつはどうしたのさ」
「イウヴァルトはあくまでゲームを面白くさせるためにいるんだもの。優勝できるとは思ってないわ」

かわいそうに、と心にもない台詞を吐き足立はイウヴァルトへ同情を向ける。
確かにカイムは強力なマーダーだが、エアリス達に拘束されている現状から察しても優勝への道が近いとは思えない。
恐らく自分の世界の住人という贔屓目が入っているのだろう。と、足立は適当に片付けた。

「宝条は誰だと思ってるの?」
「聞くまでもないだろう。無論、セフィロス――私の息子だ!」

彼の言葉に異論を唱える者はいなかった。
セフィロスの実力は音声でも伝わってくる。恐らく全参加者の中でもダントツの力を持っているだろう。力だけで言えばウルノーガにも匹敵するほどだ。
しかし彼自身はクラウドとの決着に固執しており、殺し合い自体には積極的ではない。
だからこその禁止エリアだ。展望台のあるC-5を禁止エリアにしたのはは宝条の提案によるものだった。
さしものセフィロスといえど禁止エリアになるとなれば移動を強いられるだろう。その際になにかアクションがあれば殺し合いを加速させてくれるはずだ。

いわばセフィロスは、単騎で禁止エリアの場所を左右させる程脅威的な存在だった。
これは宝条が自分の世界の住人だから、自分の息子だからという贔屓目などでは決してないと断言できるほどに揺るぎようのない事実なのだ。


960 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:07:56 V7zhc68U0

「僕はトウヤってガキが気になるね。実質彼のためにNの城について言い添えたんだろう?」

無言を貫く場に足立が口を挟む。
彼に対してもまた異論はなかった。

トウヤ――二度の戦闘を潜り抜けながらも未だ傷一つついていない少年。
それはひとえにポケモン自身の性能と、それを駆使する能力にある。
彼のバッグで眠っているバイバニラを回復させればその戦力は何倍にも膨れ上がるだろう。
彼自身は殺しに対して積極的ではないようだが、もし今のペースでポケモンを集め続ければセフィロスに次ぐ脅威になるのは間違いない。
それを期待して、マナは回復スポットであるNの城について付け加えた。

「へぇ、みんなバラバラなんだ。……ウルノーガは?」
「誰が勝ち残ろうが興味ない。全ての世界の人間が死に絶える、その結果が得られれば良いのだ」
「なにそれ、つまんない」
「私達は過程を楽しみ、ウルノーガ様は結果を求める。そういうことなのだろう」

会話に参加しようとせず、ただ窓の外から景色を眺めるウルノーガにマナは不機嫌そうな視線を向ける。
続けざまに紡がれた宝条の言葉に納得したわけではないが、ウルノーガにこういった話題を振る方が間違いだったとマナは舌打ちを鳴らした。


「――案外、優勝者なんて出ないのかもね」


瞬間、艷やかな声色がマナたちの鼓膜を揺らす。
全員分の視線を浴びながらも余裕を崩さず、ヒールの音を規則的に鳴らす黒髪の女性。

「どういう意味だ、エイダよ」

名をエイダ・ウォン。
レオンやクレア達と同じ世界の住人であり、素性や目的など全てが謎に包まれている工作員。
それはこの場においても言えるようで、誰一人――心を読むことができるマナでさえ彼女の心中を掴めずにいた。


961 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:08:17 V7zhc68U0

「七十人もの人間が揃っているのだから、どんなアクシデントが起きても不思議ではないということよ」
「ふん、私の技術力を疑っているのか?」
「そういった可能性もゼロではない、ということよ」

それだけを言い残し、踵を返したエイダは階下へと続く薄暗い階段へ姿を消していく。

「……なによあいつ、気に入らない」
「小娘が。私の力を舐めおって……まぁいい。続きを楽しむとしよう」

全員が全員冷たい視線でそれを見送りつつも、水をかけられたように場が落ち着いたことで宝条は持ち場に戻り、マナはモニターの前へと移動した。
唯一ウルノーガのみが無言でエイダの向かった先に視線を投げていたが、暫くすると闇に包まれ姿を消した。

「あーあ、場がシラけちゃったよ。僕も散歩にでも行ってこようかな」

取り残された足立は飄々とした様子でエイダと同じく階下へと下りる。
後に残されたのはモニターの前でニタリと口角を釣り上げるマナと、深い眠りに落ちるガッシュだけだった。





962 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:09:14 V7zhc68U0


カツ、カツ、カツ――

灯りも満足に用意されていない階段を下るエイダ。
背後から何者かの気配を感じればすぐさま振り返り、浅い笑みを溢した。

「君、なんでさっきあんな事を言ったんだい?」

足立はエイダへと神妙な顔つきで問いかける。
それは純粋な疑問だ。足立は彼女の本当の目的を知っているからこそ、疑問が残る。
わざわざウルノーガ達の不信を買うような真似は傍から見ていても得策とは言えなかった。

「あの発言によって彼らの懐疑は私へ向けられた。けれど私は何もしない、ということよ」
「はぁ? ……なにそれ、どういうことだよ」
「いえ、『これ以上は』何もしないと言ったほうが正しいかしら」
「あのさ、そういうのははっきり言ってくれない? 性格悪いよ、キミ」

不敵な笑みを崩さぬエイダに足立は段々と苛立ちを募らせる。
そう、足立透とエイダ・ウォン――この二人は主催側にして、このゲームを破壊する為に動いていた。
もっとも一番露骨に反感の意思を見せていたガッシュにはそれは伝えていないが、今伝えたところで計画の邪魔になる予感しかしない。
そういった危惧もあり、エイダの計画に足立が協力するという形になっている。

「ジョーカー、という存在を知っているかしら?」
「ジョーカー? ……ああ、まぁね。このゲームで言うイウヴァルトとかネメシスとかだろう?」
「ええ。いわば殺し合いを円滑に進めるための駒。その役割を与えられた全員の名前を言ってみて」
「なんだい、急に。……さっき言ったイウヴァルトとネメシス、それとホメロスもだっけ。確かそれだけじゃなかった?」

予想通りの反応を示す足立にエイダは思わず肩を竦める。
一々癪に障る仕草に足立は頬を吊り上げながらエイダの言葉を待った。


963 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:09:56 V7zhc68U0

「いいえ、もう一人居るわ」
「もう一人? そんなやつ……って、まさか――」

ようやく勘付いた足立はハッと顔を上げる。
そんな表情の変化を察してかエイダは答え合わせとばかりに彼の思考をなぞった。


「そう、私が用意したジョーカー――リボルバー・オセロット」


疑念が確信に変わったその瞬間、足立は息を呑んだ。
足立の視点からしてもリボルバー・オセロットという人物は謎が多い上、他の参加者と比べて目立たなかったからあまり注意していなかった。
まさかここでその名前が出てくるとは、と足立はほんの少し興奮を覚える。


ホメロス、イウヴァルト、ネメシスが殺し合いを円滑に進めるジョーカーならばオセロットはその逆。殺し合いを阻止、破壊するために参加者に紛れ込んだジョーカーだ。
リボルバー・オセロットは支給品の優遇は受けていない。しかし確かな”補助”は受けている。
全参加者、それぞれの世界についての情報はもちろんのこと、一番恩恵を受けているのは別だろう。

彼の首輪には特別なジャミング装置が仕掛けられている。
運営にとって不都合な掻き消し、別の音声を流しカモフラージュできるすぐれものだ。
これは彼だけではなく彼の周囲の首輪にも適用され、これにより堂々とジョーカーにしか知り得ない内容を話そうとも一見自然な会話が成り立っているように見せられる。
おまけに神羅兵の何人かを買収しているため、早々勘付かれることはないだろう。
無論限界はあるため、それまでにゲームを破壊してくれることに期待するしかない。

そういった説明を受けた足立はなるほどと頷き、改めて目の前の女性の用意周到さに舌を巻いた。


964 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:10:21 V7zhc68U0

「もちろん、これを知っているのは私と貴方だけよ。他の主催側は彼をただの一参加者だと思っているでしょうね」
「へぇ、そりゃいい。けどそれって上手くいくのかい? 宝条とかウルノーガならまだしも、マナってガキは心が読めるんだろう?」
「思考を読まれて困るほど単純な人間じゃないわ。それに、貴方もそういうタイプみたいじゃない?」

さも当然のように答え、あろうことか同意を求めるエイダに足立はくく、と低い笑みを漏らす。
ああ、確かにそうだ。あんなガキに理解できるほど自分の思考は浅くない。
足立透という人間は正常とは程遠い位置にいるのだから。
そうでなければ”こんなところ”に連れてこられなどしないだろう。

「それにしても意外ね。貴方が協力してくれるなんて」
「え? ……ああ」

恐らく要件は伝え終えたのだろう。
エイダの淡々とした口調に興味が乗り、流れる視線は理由を求めるように絡まる。
暫く間を置いて、足立はどこか空虚な表情で己の右手を見やった。

「気に入らないだろう? 僕にゲームで勝った彼らが、こんな下らないゲームで命を落とすなんてさ」

足立透という男を知らない人間からすれば理解できないであろう発言。
しかしそれは彼にとって紛れもない本音であり、彼を反逆に走らせる唯一の動機。
自分を打ち負かし、世界を救った彼らがこんなクソみたいな殺し合いで終わるなど――彼のプライドが許さない。
たったそれだけのシンプルな理由だ。

「……そう」

エイダは少しだけ驚いたように瞠目するもそれも一瞬。
また普段通りの不敵な表情に戻り、階段を下り始めた。

「そういう君はどうなんだい? なぜ殺し合いを壊そうと思ったの?」

遠ざかる赤い背中に足立の声が投げられる。
それを受けたエイダは二、三歩後に足を止め、黒髪をなびかせながら振り返った。


「――秘密よ」


965 : 第一回放送 ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:10:41 V7zhc68U0



【???/一日目 早朝】
【ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???

※消滅後からの登場です。

【マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:愉悦
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを見届ける。
1.放送後の反応が楽しみ。
2.カイム、イウヴァルトへの期待。

※Aルートからの登場です。

【宝条@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:興奮、大きな興味
[装備]:なし
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを管理する。
1.今は仕事に専念する。
2.首輪への絶対的な自信。
3.セフィロス、我が息子よ――

※死亡前からの登場です。

【ガッシュ@クロノ・トリガー】
[状態]:気絶中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
0.気絶中

※ラヴォス撃破後からの登場です。

【足立透@ペルソナ4】
[状態]:苛立ち
[装備]:ニューナンブM60(残弾数5)@ペルソナ4
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.エイダと共にゲームを終わらせる。
2.リボルバー・オセロットへの期待。

※本編終了から数カ月後からの登場です。

【エイダ・ウォン@BIOHAZARD 2】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.足立と共にゲームを終わらせる。
2.リボルバー・オセロットへの期待。

※本編終了後からの登場です。


966 : ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:13:35 V7zhc68U0
以上で放送終了です。
放送前、放送後の予約は共に今からでも大丈夫です。
改めて皆様、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


967 : ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 12:17:45 V7zhc68U0
すみません、状態表の時刻を

【???/一日目 早朝】

から

【???/一日目 朝】

に訂正します。


968 : ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 12:36:59 ywcOrS2w0
放送投下お疲れ様です!
殺し合いの裏側の動きも結構明らかに……物語が動き始めていて、ある程度初期から関わっていた身としては感慨深いです。前回の話で最後のひと押しは保留しておいたオセロットもこんな胸熱シーンで回収してくれて嬉しい。これからの動きが楽しみですね。

足立さんは道化師コミュ進めた後であればプライド以外の何かも反抗の理由に関わってそう……ただゲームロワの参戦作品はあくまで【ペルソナ4】だからそこ深く言及するのは野暮なのかな?

改めて、投下お疲れ様です。そしてゲームロワ第1回放送到達おめでとうございます。

それでは、セーニャ、イウヴァルトで予約します。


969 : ◆NYzTZnBoCI :2019/11/06(水) 13:19:14 V7zhc68U0
度々ごめんなさい、チェレンの名前を入れ忘れたので死者放送の内容をこちらに変更します……。


――天海春香
この子の歌声、とっても好きだったわ。まぁもう二度と聞けないんだけどね。

――天城雪子
自分の命を捨てて人を守るなんて素敵。でもその人、本当に命を懸けて守る価値なんてあったの?

――アリオーシュ
この人、自分の子供を殺されて狂っちゃったらしいわ。全ての子供を守りたいっていう高潔な願いを持ってたのに、誰にも伝わらなかったみたい。

――ウルボザ
厄介な子供に付き纏われて災難な目に遭っちゃったみたいね。こんな状況で子供なんか守ろうとするからよ。

――カエル
お仲間に殺されるなんて可哀想。この結果が騎士道っていうやつなの?

――桐生一馬
最初の時にわたしに逆らった男ね。死んで清々したわ!

――グレイグ
本人は満足げに死んだつもりでも、誰も救われてないわよ。一人で空回って、馬鹿なやつ。

――ジャック
雷電、って呼んだほうが馴染みあるかしら? 相手が悪かったわね。

――チェレン
一人じゃ何もできない癖にやけに自信満々だったわよね、こいつ。そういうやつは早死にするって教えてくれたのね。

――マールディア
この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって! これから楽しい事が待ってるはずだったのに、こんな形で終わっちゃってかわいそう。

――ヨルハA型二号
逃げれば生き延びられたはずなのに、なんでわざわざ戦うことを選んだのかしら。意地っていうの? 人の心なんかないはずなのにね。

――レオナール
守ろうとした相手に背後から刺されるなんて間抜けよね。みんなも気を付けなさい。

――レオン・S・ケネディ
魔法を知らない人間が魔法に殺される瞬間って結構面白いのね。思わず笑っちゃったわ!


以上の十二名よ。
残り人数は五十八人。かなりの勢いで死んだわね!
期待通りに動いてくれて嬉しいわ。次は何十人死ぬのかしら?
これからもわたしたちを楽しませてね!






970 : ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:20:09 ywcOrS2w0
投下します。


971 : 黒の引き金 ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:21:06 ywcOrS2w0
「ふひっ……ふひひひひひひっ……奏でましょう、あくまの調べを……」

狂気。
それを体現するかのような笑みを顔に貼り付けて、聖女だった存在は地に落ちた『破壊対象』に向けて何度も、何度もその手の槍を突き刺す。

「歌いましょう、貴方に贈るゴスペルソングを……」

「ギ……ギギィ……」

破壊対象、スカウターが苦悶の声を上げるたびに、聖女の顔はまるで好物のダーハルーネ産スイーツを食している時のようにいっそう晴れやかに染まっていく。
幾度となく繰り出された刺突によって、スカウターが動かなくなるまでに大して時間は要さなかった。
そして今しがた生きていた者の死を前にして、聖女セーニャの顔は再び曇りを帯びるのであった。



【スカウター@クロノ・トリガー 死亡確認】



それは、まったくの偶然であった。
スカウターの索敵能力の高さは、その身体の小ささや他者の会話を完全暗記して伝達できる頭脳もさることながら、大部分は音もなく空を飛べることに由来する。特に人間であれば、上空への警戒というのは前後左右に比べてどうしても薄くなりがちである。確かにセーニャはこの世界の多くの参加者の中でも実力者の部類に入る。しかしそんなセーニャであっても、自身に忍び寄るスカウターを発見できる道理などないはずであった。

しかしルッカにロボ、そしてカエルとの立て続けの戦闘で疲弊していたセーニャは先程まで気絶していたのである──ちょうど、仰向けの姿勢で。そして差し込む朝日や聞こえてきた定時放送によってふと目を開けた瞬間、偶然にもスカウターの姿が目に入ったのだった。ここまで同じ世界の者と立て続けに出会い続けているとなると、彼女らが出会うのももはや必然だったのかもしれない。


972 : 黒の引き金 ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:22:04 ywcOrS2w0
そして両者は激突する。
破壊の対象を見つけたセーニャと、セーニャを振り切って命令を遂行せんとするスカウターと──この衝突がスカウターの敗北という結末に終わることはすでに語った通りである。

まずセーニャは、黒の衝動に導かれるままに即座に魔力を練り上げメラゾーマを放った。雷属性以外の属性攻撃の通じないスカウターはそれを吸収する。
呪文が通じないと解ると同時に槍での攻撃に切り替えるセーニャ。対するスカウターは、魔法へのカウンター特技『超放電』を放つも、セーニャの着ている星屑のケープに備わる魔法防御力によって、その程度では足止めにすらならなかった。

攻撃が通用しないと分かり、迎撃よりも撤退を優先すべきと判断して急いで飛び立とうとするスカウター。ただしそれを許すセーニャではない。黒の倨傲によって片方の翼を一突きで貫く。翼を貫かれたスカウターは飛行能力を失ったために地に落ちた。

天と地の戦いは、相手の土俵へと落ちたその地点でもはや完全に決したも同然だった。


「……つまらない。もう壊れてしまいましたわ。」

さて、心ゆくまでスカウターの破壊を楽しんだセーニャだったが、スカウターが動かなくなるとどこか悲しげな表情を見せた。
あれだけ渇望していた破壊とは、終わってみれば何と虚しいものなのか。
言うなれば壊れた玩具を放り捨てる時のような感傷。破壊にしか快楽を見いだせないのなら、その時は必然的に到来する。


973 : 黒の引き金 ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:22:44 ywcOrS2w0
破壊とは無に向かう行いである。何かを破壊することで、もうそれを再び破壊することは出来なくなる。引いてしまったトリガーはもう戻せないのだ。
そして破壊の果てに待っているのは、もう何も破壊出来ない、究極的な無でしかない。

だが、破壊したものを破壊する前に戻せるのなら──それはまさに永遠の娯楽。
だからセーニャはこの殺し合いに優勝した時は時間の巻き戻しを願うのだ。そこに黒の衝動に巻き込まれる前に抱いていた願いが大きく影響しているのは間違いない。
助けるために殺す、から壊すために殺す、へのシフト。
黒の衝動に取り憑かれる前よりもその本質は筋が通っているように見えるのもまた何かの皮肉か。

「きっと壊しに行きますわ。だから貴方は、私を失望させないでくださいね……。」

嗚呼、世界樹崩壊前の世界への巻き戻しが待ち遠しい。
世界中に崩壊の影を落としたあの大破壊を、ウルノーガとホメロスを破壊した上で今度は自らの手で行なってみせよう。


そして今度こそ、この手で──


どれほど根強い狂気に苛まれてもなお、あの人を見つけて安息を覚えた直後に絶望のどん底に叩き落とされた、あの時の記憶は消えない。

あの人が命を懸けて私たちを守ってくれたように、私もあの人を守りたかった。
あの人が私にくれたものを、私もあの人に届けたかった。

もう二度と、あの時のような悲しみを背負わなくていいように。


──あの人を……お姉様を、破壊しよう。今まで味わった中でも何にも変え難い最大の虚無感。それは破壊が終わった後の虚無感もは違う類の悲しさだった。
でも、それならばきっと、それを与えてくれるものの破壊はどこまでも、どこまでも快楽に溢れるものであるはずだから。

【D-5 草原 /一日目 朝】

[状態]:HP1/7、腹に打撲 MP消費(大) 『黒い衝動』 状態
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1〜2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。

※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※回復呪文には制限が掛けられていますが、破壊衝動のためにMPを回復呪文のために使おうとしません。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。


974 : 黒の引き金 ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:23:25 ywcOrS2w0
「……戻ってこないな。殺られたか?」

一方、スカウターを偵察に送ったイウヴァルトは、予定の時間より数分経ってもスカウターが戻ってこないことで見えない敵の存在を察する。便りが無いことが結果的にスカウターの最後の便りとなった。

隠密行動のエキスパートであるスカウターの居場所を特定して問答無用で殺したとなれば、かなりの実力者かつマーダーのスタンスであろう。
居場所の特定が偶然であったことを除けば、その推測はさしずめ間違っていない。

だが、ここでスカウターを失ったのはイウヴァルトにとってはかなりの痛手だった。
ハンターを要警戒対象だと認識できたのもスネークを騙し抜いたのも、どちらもスカウター無しでは成し得なかったことだ。

今しがた放送で名前を呼ばれていないということは、まだカイムは生きているということ。
カイムがどれだけ消耗しているのかは分からないが、自分の手札はなるべく温存しておきたいところだ。
ハンターやスネークと戦わなかったのも、スカウターの魔力を消費したくなかったというのが大きい。他のところで、それもできることなら、カイムや他の強敵と相討ちで死んでほしいところだ。
さもないと──

「……うっ……うああ……!」

嫌な記憶が頭を掠め、イウヴァルトは両目を抑える。

天空で激戦を繰り広げた時の、レッドドラゴンを操るカイムの姿が、死んだ後である今も目に焼き付いて離れない。
あの時、自分は自分の全てを投げ打って挑んだ上で敗北した。
自分はカイムにはもう勝てないと、嫌でも実感してしまった。

そしてカイムが一言も喋らなかったことが、何よりも辛かった。
一言でも良かった。
一言でもカイムの苦悶の声が聞こえていたならば。
一言でもカイムが俺を人間として責め立ててくれていたのなら。こんなにも奴を遠い存在だと思わなくて済んだかもしれなかったのに────


975 : 黒の引き金 ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:24:57 ywcOrS2w0
「……ぐっ!!はぁ……はぁ……」


嫌な記憶を振り払うように大地を踏みしめる。
大丈夫だ、慎重に立ち回ればカイムになど負ける余地は無いと、幾度となく自分に言い聞かせながら。

スカウターが使えないと分かったイウヴァルトはバックパックの中から1本の剣を手に取る。その剣の名は『アルテマウェポン』。宿敵カイムが今持っている剣と、ちょうど対立する形となる武器である。

そしてその剣を手に取るだけで、ブラックドラゴンと契約した時のように特別な魔力が身体に宿るのを感じられる。
それはその剣に装着された『マテリア』によるもの。そのマテリアについては、マナの手書きの紙媒体が付属していた。


『アナタにはやっぱり黒が似合うわ。違う世界の技術を無理に組み合わせちゃったせいで1回しか使えないから注意しなさいよ。』


余計なお世話だと言いたくなる注意書きの後に、歪な文字でこう書かれている。

『召喚マテリア(ブラックドラゴン)』

殺し合いの開始直後、その紙を確認したイウヴァルトは、全く聞き覚えの無い単語と聞き覚えのある名詞が羅列されていることに首を傾げた。

ブラックドラゴンを召喚?
こんな小さな珠に契約の竜を使役するチカラが込められているとでも言うのか?
その真偽を確かめようにも、1回しか使えないと書かれている以上は使うわけにはいかない。


976 : 黒の引き金 ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:27:39 ywcOrS2w0
その一度きりのトリガーは来るかもしれない時に備えて温存しておかなくてはならない。
カイムを他の奴らに殺させる計画が100%上手くいくとは思っていない。カイムの実力は自分が最もよく知っている。
だが他の奴らを捨て駒としてどんどんカイムにぶつけ続ければ、少なくともカイムの戦力は削がれていく。
そして万が一カイムと自分が衝突することになったら、その時こそ自分の全戦力を解放する時だ。
お互いに全力をもってえた場合の結末はあの天空戦で分かっている。だが、こちらだけが全力を出せる場合は勝機は充分にあると言えよう。
もちろん、カイムが死んだ場合も戦力を温存しておくことは残党の殲滅に使えるため、無駄になることはまず有り得ない。

ジョーカーとして支給品を優遇してもらっている地点でカイムよりは有利な立場に立っていたはずだ。今やスカウターは失ってしまったが、これ以上の戦力を失うわけにはいかない。

しかしスカウターを失ったのは戦力温存という視点から見てもかなりの痛手だった。スカウターは戦闘を避けるにはこの上ない偵察要員だったからだ。
これからは手探りで進まなくてはならない以上、どうしても必要な戦闘というのは出てくるだろう。
必要な戦闘はなるべく剣だけで──それも体力を減らしてアルテマウェポンの威力を落とさないようにできる限り避けつつ──来たる戦いに備えて生き延びねばならない。

さて、この先にはスカウターを殺したであろう正体不明の敵がいる。やはり見つかるのは避けたいところだ。

スカウターを送り込んだ経路からなるべく離れつつ回っていかなくてはならない。その過程で病院辺りを経由するとちょうどいいだろう。もし武器か何かが残っているのであれば、更なる戦力増強にも繋がるかもしれないのもある。

次の進路を決めたイウヴァルトは、脳裏に浮かぶカイムの影と戦いながらも病院へ向かう。
ただしそこは、イウヴァルトと同じく『ジョーカー』の位を持つ者の護る戦場なのであった……。


977 : 黒の引き金 ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:28:55 ywcOrS2w0
【D-6/草原/一日目 朝】


【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康
[装備]:アルテマウェポン@FF7、召喚マテリア(ブラックドラゴン@DQ11)
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンター)を殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。
3.カイムと戦うこととなった時のために戦力はなるべく温存しておく。

※召喚マテリアの中身を【ブラックドラゴン@ドラッグ・オン・ドラグーン】と勘違いしています。
※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。

【支給品紹介】

【アルテマウェポン@FF7】
クラウドの最強武器。
マテリア穴は6つ。内連結部分は3。体力が多いほど威力が上がるという特殊効果がある。

【召喚マテリア(ブラックドラゴン@DQ11)】
アルテマウェポンに装着された召喚マテリア。使用するとブラックドラゴン@DQ11が現れ、一定時間共に戦うことが出来るが、1度使用すると使えなくなる。『テールスイング』『噛みつき』『おたけび』『はげしいほのお』の特技を使用する。ちなみにデルカダール地下水路に出現する個体。


978 : ◆2zEnKfaCDc :2019/11/06(水) 14:29:15 ywcOrS2w0
投下終了しました。


979 : ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:50:58 AOhELUKI0
第一放送、そして放送直後の投下乙です!!

>第一回放送
何か悪役大集合って感じでこんな雰囲気好きです。その連中が一枚岩じゃないのもまた一興。
それから死者の放送方法も中々面白い。
生き残りの参加者たちがどう感じるかも考察が捗りますね。

>黒の引き金
読んでいきなり鼻先にストレートパンチを受けた気分。
開始数行でジョーカーの部下が殺害されるの、ザッツパロロワって感じで好きです。
ブラックドラゴンというと、DODのブラックドラゴンをイウヴァルトと読者に想像させといて、DQのブラックドラゴンというネタは中々好きです。

では私もゲリラ投下しますね。


980 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:51:28 AOhELUKI0
なんだよこれ。
どうなってんだよ。




グレイグのおっさんが呼ばれることは、もう分っていた。



でもさ、大切な仲間達がこの戦い呼ばれていたなんて。
そして、その何人かが既に死んでいたなんて。
オマケにそのうち一人が、結婚を申し込もうとした、最愛の人だなんてどういうことだよ。
何が「マールに似合う男になる」だ。俺。

彼女を助けに行くことすら出来なかった最低のヤツじゃないか。


そんなことも知らずに、のうのうとこの戦いを止めて、英雄になるんだなんて大見得切って。
そんなことをしてた結果が、仲間を死なせて、挙句ゲームに乗った人間を助けたなんてねえ。

マナの放った呪いの言霊が、再びクロノを苛む。



(この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって! これから楽しい事が待ってるはずだったのに、こんな形で終わっちゃってかわいそう。)


そうだよな。
俺もアイツと結ばれるのを楽しみにしていたけど、アイツはもっと楽しみにしていたハズだったよな。
俺がマールを守るって約束したのに。
生き返らせてくれたんだから、今度こそ守るって。そう誓ったのに。
俺がグレイグやゼルダを無視して、マール一人を探し回っていれば会えたかもしれないのに。


(お仲間に殺されるなんて可哀想。この結果が騎士道っていうやつなの?)
なあ。一体アンタは誰に殺されたんだ?
頭が良くて機転が利いて、剣も魔法も使えるアンタが死ぬのだとしたら、仲間を庇ったか裏切られたかだと思う。


でも、仲間って、ルッカかロボのことじゃないよな?
この世界で新しく作った仲間なんだよな?


でも、冷静に考えてみたら、おかしいわけじゃない。
ルッカは時を移動してさえ出来なかった母親の脚を治してあげたいって言ってたし、
ロボはマザーブレインに操られたアトロポスを救うことが出来なかった。
かつての冒険で叶えることの出来なかった願いを、叶えるために戦いに乗ったのかもしれない。


(死ぬなら年の順だぜ。)

俺が生き返らせてもらった時に時の最果てでカエルが言ってきた言葉。
だからって、本当に死んでどうすんだよ。


981 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:51:57 AOhELUKI0

あーあ。
もう知らねえよ。

ははは。



ふと足元を見ると、近くに宝箱があった。
さっきまで、こんなものはなかったハズなのに。


興味本位で開けてみると、そこには盾が入っていた。
丁寧な装飾を施された、立派な盾だ。
よく見ればこの城でよく見られる、三角形を連ねたマークが彫られていることから、国宝の一つなのかもしれない。
俺や俺の仲間で盾を使うヤツはいなかったけど、それでも凄い盾だと分かる。

でも、グレイグのおっさんと一緒にガーディアンを壊していた時は、確かにこんな宝箱はなかったはず。


宝箱の中に、盾と一緒に一枚の紙があった。
『怪物を討伐し、試練を乗り越えし英雄に、かつて勇者が使いし盾を捧げる。』


もしや、怪物ってのはあの骨の巨人のことか?
良く分からねえけど、まだオレのことを英雄だと認めてくれるヤツがいるらしい。
俺は盾の使い方はサッパリだけど、これはお守り替わりに持っていくことにするよ。



よし、ヘコむの終わり!!

グレイグのおっさん、カエル、そしてマール。
待っててくれよ。
すぐにこの戦いを開いたクソ共を、そっちに送ってやるから。


まだルッカも生きている。ロボも生きている。
それなのに自分だけ諦めるなんて、スジが通ってねえよな?


どっちかがゲームに乗ってるかもしれねえが、関係ない。
マナが俺を動揺させるためについたウソかもしれないし、もし本当なら殴って改心させてやる。


それに、俺はまだやらなきゃいけないことがある。
ゼルダが言っていた、『短い茶色の髪で、緑色の服の少女』
誰なのか分からねえが、ルッカやロボ以上に助けねえとマズい。


ゼルダが危険人物呼ばわりしていたが、恐らくそのゼルダの危険性をいち早く察知して、殺そうとして失敗したのだろう。
そして殺されることを恐れたゼルダが、俺達にソイツが危険人物だという情報を吹き込んだんだとすると、納得できる。


待ってろよ。皆。
随分無駄足踏んじまったけど、ここからだ。
ここから遅れた分取り返せばいい。

俺は何一つ出来なかった。
何一つ出来ないまま、仲間達を死なせてしまった。
けれど、それがどうした?


かつてラヴォスを倒した冒険だって、限りなく勝てる可能性の低い戦いだった。
それでも俺達は勝った。
何もかもが上手くいったわけじゃないけど。
とりあえず、やれることをやるしかねえよ。
後悔するのは、マナとウルノーガを倒して、殺し合いを潰してからでも遅くないだろ?


それに、マールもカエルも、自分のことは気にしないで、生きている人達を救ってっていうようなヤツだ。

まだ五体満足な俺が、勝手に諦めるには早すぎるよなあ?


982 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:52:30 AOhELUKI0
「それじゃ……グレイグ、行ってくるぜ!!」





城を駆け下り、城門の所に出た所で、髭を生やしたいかつい風体の男がいた。
人間のようには思えないし、何より敵なのか味方なのか分からないが、訪ねてみることにする。

「なあ、ゼルダって金髪の……。」
「オマエだな。姫さんに危機を及ぼす赤髪ってのは。」


男の口から、自分が予想もしていない言葉が出た。
いや、実は俺が悪人扱いされることを恐れるあまり、考えているのを止めていたのかもしれない。


983 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:52:53 AOhELUKI0

★       ★        ★




森を進み、さらに歩いた場所でゼルダは、かつての知り合いと再会を果たしていた。


「ダルケル。無事で何よりです。」
「姫さんこそ無事でいてくれてこの上ねえ。ウルボザのヤツが呼ばれた時どうしようかと思ったが、もう大丈夫だ。
オレが絶対に姫さんを守るぜ!!」


ウルボザの訃報を聞いた直後だからこそ、余計に再開を喜ぶ二人。
最も、ダルケルは純粋に仲間の死を、ゼルダは守ってくれる可能性の高い盾の死を悔やんでいるのだが。


「あ、その人、ダルケルの知り合い?なあ、モンスターボール持ってない?」
そんな状況に一人蚊帳の外のレッドが声をかける。

「そんなもん姫さんが持ってるワケねえだろ……。」
「これのことでしょうか?」


ゼルダはキリキザンの入ったモンスターボールを取り出す。
「それだ!!中にはポケモンはいるか?」
「ポケモンというのですね。いるのですが……。」
(仮にも姫さんに対して慣れ慣れし過ぎないか?)

モンスターボールのスイッチを押すと、中から瀕死のキリキザンが現れる。


「うわ……これはひどいな……。
見たことないポケモンだけど、生きているのが不思議なくらいだ。
治療しないととても戦えないよ。」

キリキザンの体を見回しただけで容態が分かるレッド。
この魔物に関して信頼できる知識を持っているようだと、ゼルダは推測する。


「私を守って、こんなことになってしまったのです。」

この二人はどうやらゲームに乗っているわけではないが、とりあえず自分の盾になってくれる可能性は高そうだ。

「ダルケル、薬持ってない?」
「薬なら、ないワケじゃないんだが……。キズぐすりじゃねえみてえだ。」
「じゃあ、ここへ行こう。マナが言ったことだから本当かどうか分からないけど、ポケモンが治療できるみたいだし。」

レッドは地図の「Nの城」を指す。
先程の放送によると、ここへ行けばポケモンを治療してくれるらしい。


「この魔物の知識はあなたの方がありそうなので、渡しておきます。
それより早くここから逃げましょう!!」

まだ殺してないクロノの報復を恐れたゼルダは、この場所から早々に離れることを提案する。

「姫さん、逃げるって……。」

ゼルダの警告で、二人の顔は強張る。
ダルケルもレッドも、殺し合いに乗った参加者に一度も会ったことはない。
だからこそ、殺し合いに乗る人物がいたという言葉はこの世界への認識を変えさせた。

「そうです。ハイラル城で隠れていた所、クロノという赤髪の太刀を持った男に襲われました。
どうにか逃げましたが、まだ追ってくると思います。」

「靴が片方ないのも、逃げた時に?」
「はい。」


984 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:54:47 AOhELUKI0

「オレに任せろ!!英傑の名にかけて、ソイツをとっちめてやるぜ!!」
ダルケルが敵の討伐に名乗りを上げた。
「ですが、ダルケルさん……。」
「心配いらねえ!!姫さんとレッドは逃げろ!!」

今は逃げたいというゼルダの希望を押し切り、ダルケルは追手の討伐を優先する。
確かに、自分のことを知っている相手として、クロノは厄介な存在である。
出来るなら倒すか、無力化しておくに越したことはない。

「大丈夫だよ。オレとピカが守る。」
「ピィカ!!」

レッドは元気に答える。
見た目は少年のようだが、隣の魔物を使って戦うのだろうか。

「オレの心配はいらねえ!!Nの城で落ち合おうぜ!!」
「ご武運を。ダルケル。それとお守り替わりと言えばなんですが……。」

ゼルダはグレイグが持っていた盾を、ダルケルに渡す。
自分が持っていても重くてまともに使えないし、誰かに渡してしまうのがてっとり早い。


ダルケルという信頼できる盾を手放すのは気が引けるが、クロノの存在も気になる。
もし3人で戦えば、優先して自分を殺しに来る可能性が高い。
だから、第三者に任せて自分は姿をくらますのがベターだろう。


「これって……スゲエ!!ロベリー博士の発明品、しかも昔のヤツよりグレードアップしてるじゃねえか!!
ちょっと小さいが、百人力だぜ!!」

ダルケルは二人を後にして、ハイラル城へ向かう。
「それと、ヒメサン……だっけ?靴が片方ないみたいだけど、俺の古い奴でよかったら……。」
「オイ、ちょっと待てよ!!仮にも姫さんにそんなボロい靴……。」
「いいえ、ありがとうございます。」

ゼルダはレッドがランニングシューズに履き替える前の靴を履く。
このような状況で物の貴賤に拘るなど、愚の骨頂だろう。


「レッド!!姫さんをしっかり守ってくれよ!!」
「おう。任せろ!!」


レッド達とダルケルは別れ、別々の方向に向かう。


レッドとしても、ダルケルと協力して戦いたいし、どうにかしてゼルダを襲った相手を改心させたい。
だが、ゼルダも守らないといけないし、どうにしかしてキリキザンの治療を行いたい。
そこでポケモンの治療も本当に出来るのか知らないが、行ってみる価値はあるだろう。

そして、もう一つ気になったのはゼルダのこと。
彼女の眼は、ただ逃げ惑う人のものではない。


例えば目的の為なら何でもする、サカキのような何かに徹する眼をしている。
でも、ダルケルは元の世界で彼女の護衛をしていたようだし、殺し合いに乗ってはいないと思う。


985 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:56:06 AOhELUKI0
★       ★        ★



「待ってくれ!!俺は……。」
「姫さんを守る英傑として、オマエは許さねえ!!」

やられた、とクロノは痛感する。
ゼルダが、この大男に自分が危険人物だと吹き込んだたことに、ようやく気付く。

「くそ……やめろ!!サンダー!!」

ダルケルが振った鉄塊を躱し、雷魔法を撃つ。
クロノが無力化させようと打った雷は、ダルケルの持っていた盾によって無効化される。
(あの盾は……。)
左手にある盾がグレイグが持っていた盾だった。
大方、ゼルダが渡したのだろう。


自分の行いをまたも後悔する。
グレイグの死を気にせず、すぐにゼルダを追いかけるべきだった。
なぜ別の人物がゼルダによって危険人物にされているのに、自分はされないと思っていたのか?

どうにかすればこの大男を倒すことは恐らく可能だ。
しかし、本当にこの男を殺すべきなのか?



夜は開け、夢見る時間は終わりを告げる。
それでも、皆どこかで信じているのだ。

自分の夢が、目的が、願望が思い通りになってくれることを。
その気持ちは、それまで上手くいかなかった者ほど強くなる。



【A-4/ハイラル城 入口一日目 早朝】
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康、焦り
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 英雄として、殺し合いの世界の打破……?
1.この大男(ダルケル)をどうする?
2. ゼルダを止める
3. ルッカ、ロボ、里中千枝(名前は知らない)を助ける。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。


※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。



【ダルケル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:HP1/2+α  ダルケルの護り消費(あと2回)
[装備]:鉄塊 @ドラッグオンドラグーン
[道具]:基本支給品 ミメットの野菜@FF7 エルフの飲み薬
[思考・状況] クロノを危険人物だと認識。
基本行動方針:
1.クロノの撃破、あるいは無力化
2.その後ゼルダ、レッドとNの城で合流。
3.他の英傑やリンクも探す。
4.殺し合いには消極的だが、襲われれば戦う。


986 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:56:33 AOhELUKI0
【A-4/ハイラル城外 森/一日目 早朝】
【ゼルダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、決意、右の靴が脱げている
[装備]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V レッドの靴@
[道具]:基本支給品×2、オオワシの弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、雷の矢@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、グレイグのランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 殺し合いに優勝し、リンクを100年前の状態に戻す。
1.誰かに守ってもらい、不意打ちを狙う。
2.私は、私……。
3.今のリンクは、騎士として認めたくない。
4.レッドと共に、Nの城に避難する。
5.9時にダルケルと合流。来なかった場合は見捨てる。
6.レッドはどうするか?


※ガノン討伐後からの参戦です。
※グレイグとクロノからそれぞれドラクエ、クロノ・トリガーの世界の情報を得ました。


【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:疲労(中)、無数の切り傷 (応急処置済み)  
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(キリキザン)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品
[思考・状況]   ゼルダに対する疑念
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.キリキザンを治すために、ゼルダと共にNの城へ避難する。
2.9時にダルケルと合流し、そこから病院へ向かう
3.どうにかしてキリキザンを治療する
4.カラのモンスターボールを手に入れ、野生のポケモンを捕まえる。
[備考] 支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。


※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。
※B-3、C-4辺りにはやせいのポケモンが出現するようです。すべての場所に出現するか、すべてのポケモンが人を襲うのかは不明です。


【モンスター状態表】


【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:健康
[特性]:せいでんき
[持ち物]:なし
[わざ]:ボルテッカ、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん。
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.ゼルダに若干の疑い

【キリキザン ♂】
[状態]:ひんし
[特性]:まけんき
[持ち物]:なし
[わざ]:つじぎり、シザークロス、ストーンエッジ、メタルバースト
[思考・状況]
基本行動方針:主人に従う。
1.???


【支給品紹介】
【ハイリアの盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
勇者が手にしたという伝説と共に古よりハイラル王家に受け継がれてきた盾 他を寄せ付けない 圧倒的な防御力と耐久性を誇る。
原作同様、スタルヒノックスを倒したことで手に入った。
炎や雷、ビームといった大半の属性を打ち返し、強力な攻撃を何度も受けない限り決して壊れない。


987 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 20:56:45 AOhELUKI0
投下終了です。


988 : 夢の終わりし時 ◆vV5.jnbCYw :2019/11/06(水) 22:12:45 AOhELUKI0
すいません。レッド、ゼルダの状態表に不備がありました。


ゼルダの状態表・誤
5.9時にダルケルと合流。来なかった場合は見捨てる。
6.レッドはどうするか?

ゼルダの状態表・正

5.Nの城でダルケルと合流、来なかった場合は見捨てる。
6.レッドをどうするか?

レッドの状態表・誤

2.9時にダルケルと合流し、そこから病院へ向かう
3.どうにかしてキリキザンを治療する

レッドの状態表・正

2.どうにかしてキリキザンを治療する。
3.ダルケルと合流する


989 : ◆OmtW54r7Tc :2019/11/07(木) 12:08:06 8KOgiN1c0
投下乙です!

>黒の引き金
しょっばなからセーニャやばい
スカウターさん南無

>夢の終わりし時
グレイグ死なせてマール死んで闇堕ち不可避かと思ったが、想像以上にクロノのメンタル強かったか
受難は続いてるけど


では自分もトウヤで予約します


990 : ◆GyLbXZsSPw :2019/11/07(木) 14:58:58 TrYlIFSs0
宝条予約させてもらいます


991 : ◆OmtW54r7Tc :2019/11/07(木) 21:05:41 oVMaiVAw0
投下します


992 : 新たなる好敵手 ◆OmtW54r7Tc :2019/11/07(木) 21:06:53 oVMaiVAw0
「チェレン…」

放送が終わり、トウヤは一人の少年の名を呟く。
チェレン。幼馴染の少年だ。
そんな彼が、たった今放送で死亡者として名前を呼ばれてしまった。

「…正直驚いていますよ。あなたが死んで……これほど何も感じないなんて」

チェレンの死を知ってトウヤが胸に抱いたものは、驚きだった。
しかしそれは、チェレンが死んだことに対してではない。
彼の死に、何の感慨も感じない自分に対してだ。
正直、自分はもう少し情のある人間だと思っていた。
チェレンとはもう既にライバルと呼べるような関係性ではなくなってしまったが、それでも同じ町で過ごした友であるし、身近な人間が死ねばさすがに悲しみは湧いてくるだろうと、そう思っていた。
しかし、トウヤの胸に宿ったのは「死んだのか」という事実認識だけであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。

「まあ、死んだ人間をいつまでも気にしても仕方ありません。それよりも…」

チェレンのことをあっさりと頭の隅に追いやったトウヤは、改めて名簿を見る。
死亡者の発表がされる前にざっと目を通した時、気になる名前があったのだ。
ベルやゲーチスというどうでもいい名前を流し読みしつつ、トウヤはその名前を見つける。

「レッド…まさか、あの伝説のトレーナー?」

強いトレーナーを求めるトウヤは、他の地方のトレーナーについてもリサーチしていた。
その中で、カントー地方のマサラタウン出身のトレーナー、レッドの存在を見つけた。
幼馴染と同時に旅立ち、カントーの各地のジムを制覇する傍らで、ロケット団と呼ばれるマフィア組織を潰していき、最終的に解散に追い込んだというその経歴は、どことなく自分と重なった。
とはいえレッドについては行方が知れず、詳しいこともあまり調べられなかった。
しかしそんな情報の少ない中で、ある噂がトウヤの興味を引いた。
それは…彼のエースポケモンがピカチュウだというのだ。
その噂を聞いたとき、トウヤはまさかと思った。
伝説とまで呼ばれるトレーナーのエースが、ライチュウに進化させてないピカチュウなど、ポケモンの育成のセオリーからすればあり得なかった。

ポケモンは基本的に、進化させたほうが強いし成長の幅も大きくなる。
初心者でも分かる常識だ。
もっとも、技を覚えるのが遅くなるというデメリットがあり、特にピカチュウのような石で進化するポケモンは進化させてしまうとほとんど技を覚えないのでタイミングを見極める必要はあるが。
しかし、噂のレッドのピカチュウが技を覚えきらないほど育ってないとは思えない。
もし噂通りエースなのだとしたら、なぜレッドは進化させないのだろうか。

「進化といえば…そういえば以前ベルと話をしたことがあったな」


993 : 新たなる好敵手 ◆OmtW54r7Tc :2019/11/07(木) 21:07:48 oVMaiVAw0
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

それは、4番道路にてベルとバトルをした後のこと。
バトルを終えたトウヤとベルは、雑談に花を咲かせていた。

「ベルのミジュマル、フタチマルに進化したんだね。おめでとう」
「うん…ありがとう…」

バトルの中でベルのパートナー、ミジュマルが進化したことを知ったトウヤは、ベルを祝福する。
しかし、ベルの方はというと少し元気がなかった。

「どうしたの?進化して嬉しくないの?」
「そんなことはないよ…ラッコくん(ニックネーム)が成長してくれて、かっこよくなってくれたのは嬉しいよ…でも」
「でも?」
「…ねえトウヤ、君はツタージャが進化した時、寂しいって思わなかった?」
「寂しい?」

ベルの言葉にトウヤは首をかしげる。
ベルよりも先に、トウヤはツタージャをジャノビーに進化させていた。
進化をした時は、単純に嬉しさしかなかったものだが。

「あたしはね…寂しいなって、ちょっと思ったんだ。最初から一緒にいて、愛着のある子が、ある日突然姿を変えて…」
「…ごめん、よく分からないや」
「そっか…」
「…でもさ、成長するっていうのは、そういうものなんじゃないかな?」
「え?」
「ベル、僕はね、成長するってのは、変わることだって思うんだ。ポケモンも人間も…いつまでも同じじゃいられないし、子供のままじゃいられない」
「子供のままじゃ…いられない」
「だけど、どれだけ成長したってベルはベルだし、フタチマル…いや、ラッコくんはラッコくんだよ」
「…ありがとう、トウヤ。そうだよね…変わることを怖がってちゃ…だめだよね」

「ちなみにトウヤ、あたしが成長したら、どんな風になってると思う?」
「え、ベルが?うーん…眼鏡をかけた知的美人、だったりして」
「えぇ!?そんなの全然想像つかないよぉ」


994 : 新たなる好敵手 ◆OmtW54r7Tc :2019/11/07(木) 21:08:42 oVMaiVAw0
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

「愛着、か…」

昔のことを思い出しながら、トウヤはベルがあの時言っていた「愛着」という言葉に着目した。
レッドも、愛着があってピカチュウを進化させないのだろうか。

「いや、まさか…ね」

しかしトウヤは、一瞬浮かんだその考えを切り捨てた。
伝説のトレーナーとも呼ばれる強者が、そんなセンチメンタルな理由で進化を拒むとも思えない。
そんなベルみたいな考えで進化させていないのだとしたら、興ざめもいいとこだ。

「レッドも気になりますが、彼のパートナーも気になりますね…」

未進化でエースを張るピカチュウ。
その強さがどれほどのものか、興味があった。
名簿のレッドがあのレッドなら、彼のポケモンも支給品に紛れていたりしないだろうか。
欲を言えばそのピカチュウを進化させてみたいとこだが、残念ながら手元にかみなりの石はない。
そこは妥協するしかないだろう。

「まあ、いるかどうかもはっきりしないトレーナーやポケモンについていつまでも考えていても仕方ありませんね」

そういうとトウヤは、レッドやピカチュウへの思考を打ち切った。
ともかく今は、Nの城へ向かう必要がある。
戦闘不能のバイバニラを、回復させなければならないからだ。

「N…彼ともまた戦ってみたいですね」

伝説のポケモンと共に飛び立った青年を思い出す。
自分の世界に閉じこもっていた彼は、伝説のポケモンと共に外へと旅立った。
外の世界を知った彼は、きっとまだまだ強くなるだろう。
チェレンやゲーチスにはない伸びしろを、感じるのだ。
次に会うときはもっと強くなっている…そんな確信が、トウヤにはあった。

「N…レッド。あなたたちとのバトル、楽しみにしています。どうか生きていてくださいね」

N、レッド、ピカチュウ。
強き者たちとの邂逅の可能性に、虚無に包まれた彼の心は、ほんの少し晴れていた。


【E-3/草原/一日目 朝】

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト  カラのモンスターボール カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、 煙草@METAL GEAR SOLID 2 スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させる。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。


※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。



【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP3/5
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。


【バイバニラ ♂】
[状態]:ひんし、左の顔の左目失明
[特性]:アイスボディ
[持ち物]:なし
[わざ]:ふぶき、ラスターカノン、とける、ひかりのかべ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.……。


995 : ◆OmtW54r7Tc :2019/11/07(木) 21:09:19 oVMaiVAw0
投下終了です


996 : ◆2zEnKfaCDc :2019/11/07(木) 21:23:41 K.kHj55Y0
投下お疲れ様です。

>>夢の終わりし時
放送からのクロノへの追い打ちがえげつない……
ダルケルがゼルダの言うことを信じるのも分かるし、レッドが多少の違和感を覚えてるのもすごくキャラの有り様が浮き彫りになっているというか……。
そして冤罪かけられるのには慣れてる(?)クロノだけど、それで処刑を免れられるとは限らないのがパロロワ。マーダーがいないのに殺し合うというある意味不毛な戦い、どうなるのか楽しみです。

>>新たなる好敵手
レッドの次にトウヤ、怒涛のポケ廃ラッシュ。
タイトル、好敵手と書いて"ライバル"と読ませてるのなら、チェレンが『もうライバルとは呼べなくなってしまった』と評されているのがどこか悲しい。そして過去のベルとの会話と『どうでもいい名前』と吐き捨てる今の違いも浮き彫りになってて、トウヤが変わってしまったんだなあと思わざるを得ない。チェレンの死を『事実認識』と表現してるとことか、トウヤの冷たさを表す語彙力も見習いたいです。


997 : ◆OmtW54r7Tc :2019/11/08(金) 17:22:39 aDNBRLqE0
すみません、昨日のトウヤの話ですが、レッドのピカチュウの話題で名簿のピカチュウに触れないのは少し不自然と思われるので、>>994の本文とトウヤの状態表を修正します

◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

「愛着、か…」

昔のことを思い出しながら、トウヤはベルがあの時言っていた「愛着」という言葉に着目した。
レッドも、愛着があってピカチュウを進化させないのだろうか。

「いや、まさか…ね」

しかしトウヤは、一瞬浮かんだその考えを切り捨てた。
伝説のトレーナーとも呼ばれる強者が、そんなセンチメンタルな理由で進化を拒むとも思えない。
そんなベルみたいな考えで進化させていないのだとしたら、興ざめもいいとこだ。

「レッドも気になりますが、彼のパートナーも気になりますね…」

未進化でエースを張るピカチュウ。
その強さがどれほどのものか、興味があった。
名簿のレッドがあのレッドなら、彼のポケモンも支給品に紛れていたりしないだろうか。
欲を言えばそのピカチュウを進化させてみたいとこだが、残念ながら手元にかみなりの石はない。
そこは妥協するしかないだろう。

「あるいは、支給品ではないのかもしれませんね」

そういってトウヤは再び名簿に目を通す。
そこにはピカチュウの名があった。
オノノクスやバイバニラ、ダイケンキが参加者ではなく支給品として配られているのに、彼らと同じポケモンでありながら名簿に名前があるのだ。
もしもこのピカチュウがレッドのピカチュウだとすると、やはり彼のピカチュウは普通のピカチュウとは違う強さを持った、他のポケモンにはないような特別な力を持った存在なのかもしれない。

「まあ、いるかどうかもはっきりしないトレーナーやポケモンについていつまでも考えていても仕方ありませんね」

そういうとトウヤは、レッドやピカチュウへの思考を打ち切った。
ともかく今は、Nの城へ向かう必要がある。
戦闘不能のバイバニラを、回復させなければならないからだ。

「N…彼ともまた戦ってみたいですね」

伝説のポケモンと共に飛び立った青年を思い出す。
自分の世界に閉じこもっていた彼は、伝説のポケモンと共に外へと旅立った。
外の世界を知った彼は、きっとまだまだ強くなるだろう。
チェレンやゲーチスにはない伸びしろを、感じるのだ。
次に会うときはもっと強くなっている…そんな確信が、トウヤにはあった。

「N…レッド。あなたたちとのバトル、楽しみにしています。どうか生きていてくださいね」

N、レッド、ピカチュウ。
強き者たちとの邂逅の可能性に、虚無に包まれた彼の心は、ほんの少し晴れていた。


【E-3/草原/一日目 朝】

【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト  カラのモンスターボール カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、 煙草@METAL GEAR SOLID 2 スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させる。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。


※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


998 : ◆RTn9vPakQY :2019/11/09(土) 00:35:46 YI9MZD4M0
遅ればせながら、第一回放送突破、おめでとうございます。
そして皆様投下乙です。放送前も含めて感想をば。

・Must Survive
オタコンは賢い上に性格も穏やかなので、こういう場所では悩み抜いてしまいそう。
首輪の解除の為に生きなければと思うのは、桐生さんを見捨てた自分を正当化したい気持ちもあるのでしょうか。
オタコンの冷静で合理的な面が、悪い方向に作用してしまうのは皮肉ですね。
幼い同行者との心の距離は開いてしまいましたが、さてどうなることか。

・魔力と科学の真価
ネメシス二度目の戦闘。シルビアと魔王という戦闘慣れした二人をしても、殺しきれないのが恐ろしい。
シルビアと魔王はどちらも機転が利くタイプのようですね。シルビアが即座に火を吹いて、その意図に魔王が気づくシーンが好きです。
>「無事か。」
>「ありがと。ちょっと巻き添え食らったけど助かったわ。いいオトコね。」
>「冗談は勝ってから言え。」
あとこの会話も好き。

・ALRIGHT* ――大丈夫――
真島が予約されていたこともあり、轟音が鳴り響いたときには龍が如くのとあるイベントを思い出しました。
実際はそれ以上に恐ろしいアイアンマンだったわけですが…トレバーと真島はマジで読めないですね。
リンクVS真島も、2B VSトレバーも白熱していて読みごたえがありました。
そして雪歩の描写も良かったです。
臆病で自分に自信がなく、この殺し合いにおいて完全に無力な少女。それが殺されかけて、恐怖や不安といったストレスを感じない筈もなく…それが溢れる最後のシーンは、グッときました。
異なる世界の三人が、少しでも心の距離を近づけられたのなら、それはとても凄いことですよね。

・アリオーシュの奇(出題編)&(解答編)
アリオーシュVS拳銃と銃弾のコンビはいいですね。バタフライエッジに跳弾させるオセロット強すぎる。
助けられたとはいえ、“奇跡”だなんだとオセロットに翻弄されるバレットはなんとなく不憫。
それにしても、主催者側のスパイという設定には驚かされました。
自分は奇跡の内容を「みやぶる」ではなくマスターコマンドのマテリア?なんて予想していましたが、それは流石に強すぎますよね。
バレットは噛まれているのが不穏…警察署には彼もいることですし、一波乱ありそうです。

・第一回放送
いよいよ初の放送。マナは楽しそうだし、ウルノーガは煽られてキレてて草が生えます。
それにしても、宝条は技術者枠として、エイダは工作員として主催者側に呼ばれるのも分かりますが、足立は…?
>「気に入らないだろう? 僕にゲームで勝った彼らが、こんな下らないゲームで命を落とすなんてさ」
この発言は含みがあってとても好きです。
主催陣営は一枚岩ではない上に、現時点でもう裏切り者がいるので、今後の展開が読めなくて面白いですね。

・黒の引き金
スカウター南無三!
セーニャは壊れた状態のまま、どこまで行くのか気になりますね。
イウヴァルトの慎重な立ち回り方は応援したくなりますが、しかし目的地が不穏な空気。
頭に染み付いているカイムへの感情の表現が、とてもイイですね。

・夢の終わりし時
仲間のカエルとマールが放送で呼ばれ、精神的ダメージはかなり大きいのでしょうが、そこを乗り越えるのが英雄の強さというもの。
流石は冒険をくぐり抜けてきた男、これは復活だ…と思いきや、ダルケルさん!
ゼルダのことを疑うって発想は無さそうなので、こうなるのも仕方ない。
クロノはまだまだ思い通りに動けないのでしょうか。

・新たなる好敵手
チェレンの死を知っても、ベルやゲーチスの名を見ても、何も感じないあたり完全に人間性がマヒしているようで。
過去の回想シーンではベルと普通に話しているので、余計に変化を感じますね。
そんなトウヤも、レッドやNという強者の存在には感じるところがある、というのが面白いです。


999 : ◆EPyDv9DKJs :2019/11/09(土) 20:41:12 yNK1yR9Q0
スネーク、セフィロスで予約します


1000 : ◆EPyDv9DKJs :2019/11/09(土) 20:42:15 yNK1yR9Q0
あ、間違えた……ソリッド・スネーク、セフィロスで予約します
失礼


"
"

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■