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真実の……バトルロワイアル

1 : ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 21:58:12 pINgLFX20
参加者一覧

10/10【鬼滅の刃】
◯竈門炭治郎/◯竈門禰豆子/◯吾妻善逸/◯煉獄杏寿郎/◯冨岡義勇/◯胡蝶しのぶ/◯累/◯猗窩座/◯童磨/◯鬼舞辻無惨

9/9【Fate/Grand Order】
◯藤丸立香/◯マシュ・キリエライト/◯宮本武蔵 /◯源頼光/◯酒呑童子/◯清姫/◯エドモン・ダンテス/◯フローレンス・ナイチンゲール/◯メルトリリス

6/6【ラブデスター】
◯若殿ミクニ/◯皇城ジウ/◯愛月シノ/◯神居クロオ/◯姐切ななせ/◯猛田トシオ

6/6【五等分の花嫁】
◯上杉風太郎/◯中野一花/◯中野二乃/◯中野三玖/◯中野四葉/◯中野五月

5/5【仮面ライダーアマゾンズ】
◯水澤悠/◯鷹山仁/◯千翼/◯クラゲアマゾン/◯イユ

5/5【HiGH&LOW】
◯コブラ/◯村山良樹/◯スモーキー/◯雨宮雅貴/◯雨宮広斗

5/5【衛府の七忍】
◯波裸羅/◯猛丸/◯犬飼幻ノ介/◯宮本武蔵/◯沖田総司

4/4【彼岸島 48日後……】
◯宮本明/◯鮫島/◯山本勝次/◯雅

3/3【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
◯白銀御行/◯四宮かぐや/◯石上優

3/3【刀語】
◯鑢七花/◯とがめ/◯鑢七実

3/3【仮面ライダー龍騎】
◯城戸真司/◯秋山蓮/◯浅倉威

3/3【ナノハザード 】
◯円城周兎/◯前園甲士/◯今之川権三

3/3【めだかボックス】
◯黒神めだか/◯人吉善吉/◯球磨川禊

2/2【TRICK】
◯山田奈緒子/◯上田次郎

2/2【亜人】
◯永井圭/◯佐藤

1/1【心霊怪奇ファイル コワすぎっ!】
◯工藤仁

70/70


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2 : ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 21:59:59 pINgLFX20
【基本ルール】
・最後の一名になるまで殺しあう。
・優勝者はどんな願いでも叶えることができる。(「巨万の富」「恋の成就」など)

【首輪】
・参加者の首に着けられている。
・いくつか設けられているルールを破ると爆発する
・この首輪による爆発を受ければ、どれだけ生命力や再生能力が高いものであっても、基本的に即死する。
・禁止エリアに入ると、まず三十秒ほどアラームが鳴る。それでも禁止エリアから出なかった場合、起爆する。
・会場である孤島から一定距離離れれば爆発する。地図に描かれている範囲内であれば、海上にいても爆発しない。
・強い衝撃を加えると爆破する。その衝撃が破壊を目的としたものであっても、偶然の事故によるものであっても関係ない。

【禁止エリア】
・立ち入りが禁止されているエリア。もし這入れば、上記の通り爆発する。
・放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
・禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送】
・零時、六時、十二時、十八時に放送される。
・死者と新たな禁止エリアみっつ、残り人数が発表される。

【支給品】
・背負えるサイズのリュックサックに収納されている。
・内容物は食料品、飲料水、地図、参加者名簿、ルールブック。そして1〜3つのランダム支給品。
・ランダム支給品は参加作品、バトロワ原作、現実のものから支給可能。

【予約】
・期限は七日。

【wiki】
ttps://www65.atwiki.jp/truexxxx/pages/1.html


3 : ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:04:31 pINgLFX20
【地図】
ttps://www65.atwiki.jp/truexxxx/pages/10.html

・研究施設
 色々な実験器具や研究資料がある施設。

・灯台
 バトロワの台所。

・東都ドーム@彼岸島48日後……
最強の吸血鬼を決める武闘会の会場だった場所。何千体もの吸血鬼を収容できるほどの広さを持つ。

・自衛隊入間基地@亜人
 軍事施設。戦闘機が並んでいるが、燃料が詰まれていないので、それに乗って脱出するのは不可能である。

・箱庭病院@めだかボックス
 黒神めだか達にとって様々な思い出が詰まっている施設。普通の病院と同じく医療品や薬品が置いてあるので、怪我をした時には向かってみるといいかもしれない。

・尾張城
 鑢七花の旅の終わりにして、歪んだ歴史の修正点となった場所。天下を取った将軍が住まう城なだけあって、立派な見た目をしている。ちぇりおでもしない限り壊れることはあるまい。

・美術館
 古今東西様々な美術品が展示されている施設。

・沼@心霊怪奇ファイル コワすぎっ!
 大きな水たまり。河童が出てきそうな不気味な雰囲気が漂っている。

・那田蜘蛛山@鬼滅の刃
 鬼の一家が住まうと噂されている山。

・TEA 花鶏@仮面ライダー龍騎
 紅茶専門の喫茶店。一休みしたいときは立ち寄って、ゆっくりするのもいいかもしれない。

・砂漠
 砂漠。暑くて乾燥している。

・教会
 キリスト教式の教会。世間的には結婚式の会場としてのイメージが強いだろうか。

・秀知院学園@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜
 かつて貴族や士族を教育する機関として創立されたという、由緒正しき私立一貫校。そんな歴史を抱えるだけあって、富豪名池の生徒が多く在籍しており、設備も充実している。

・PENTAGON@五等分の花嫁
 お金持ち向けの高層マンション。

・ハートとリンゴの生命の木@ナノハザード
 再現された南駅前に立つ、文字通りのモニュメント。縁結びと長寿のオブジェ。

・ふれあい動物パーク@仮面ライダーアマゾンズ
 の跡地。施設だけがあってどうぶつはいないのでふれあえない。

・無名街@HIGH&LOW
 一般社会に居場所のない人々が流れ着く無法の町。工場の跡地のような景観をしている。

・豪華客船@ラブデスター
 キスデスターの舞台になった豪華な客船。内装も豪華絢爛であり、リッチなクルーズにピッタリである。船自体は動かないので、これに乗って脱出することはできない。


4 : ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:05:46 pINgLFX20
オープニングを投下します。


5 : 拝啓、桜舞い散るこの日に ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:09:00 pINgLFX20

 若殿ミクニが目を覚ました時、彼の視界を埋め尽くしていたのは、ぼんやりとした暗闇であった。
次第に目が慣れてくる……その時になってようやく、彼は自分が木々に囲まれた森に寝転がっていることに気が付いた。自由気ままに伸びた枝葉によって、空から降り注ぐ日光が遮られているのかと思ったが、木漏れ日すらもないことから、どうやら現在時刻は深夜らしい。

──ここは、どこだ……?

上半身を起こし、地べたに座った姿勢で思考する。どうして自分はこんな場所にいるのかを。
ミクニは月を舞台にした、真実の愛を求める大規模な実験『ラブデスター』に参加させられていた筈だ。

──じゃあ、ここも試験都市の一部なのか?

あるいは、他の試験都市に転送させられたのではないか? とある経緯から空間転送をしたことがあるミクニは、その経験からそんなことを考えた。
しかし、それならおかしい。
まずミクニに転送された瞬間の記憶はない。目覚める前で一番新しい記憶は、足元から何か得体の知れない暗闇に引きずり込まれたかのような、気味の悪い感覚だけだ。
それに、もしこれがラブデスター試験官のファウストたちによるものであれば、転送する前、あるいはミクニが目覚めた後に、なんらかのアナウンスが入る筈である。だが、それもない。どころか、周囲に誰かがいる気配すら感じられない。
つまるところ、ここが何処なのかも、自分が何故ここに居るのかも不明。分からないことづくしなのである。

「あ゛ァ〜ッ! ここでウジウジ考えてもしょうがねえッ! とりあえず森を出るぜッッ」

ミクニは起き上がるべく、手を地面に着けようとした。が、彼の手に触れたのは、ひんやりと冷たい地面ではなく、小さなリュックであった。

「ん? なんだこりゃ……」

己の手に伝わった異物感を確認すべく、目を向ける──その時だった。 ミクニの目が驚愕の色に染められたのは。

「! なッ……ないッ!?」

リュックに触れた手に──左手首にあるはずの装置が、ない。
装置。それは、ラブデスターという実験を最悪のデスゲームたらしめている要素の一つである──実験内で男女が告白する際に、互いの腕に装着された装置をくっつける。こうすることで、装置は彼らが相思相愛であるかを判定するのだ。
それだけなら巷のジョークグッズにありそうな相性測定器である。
しかし、違う。
ラブデスターにおける、この装置の機能は、それだけではない。
装置によって告白が成立したカップルはゲームクリアとなり、実験からの帰還ができる。だが、不成立となった場合、告白した側は、その場で『爆死(クラッシュ)』することになるのだ。 どころか、別に告白が不成立にならずとも、試験官の裁量次第でいつでも『爆死(クラッシュ)』を起こすことができるのである。めちゃくちゃだ。
そういうわけで、ラブデスター被験者にとって、腕に着けられた装置は、死の象徴に等しかった。
それが外れているなど、到底信じられないことである。
もし外すことが可能ならば、とっくにしていたはずだ。ミクニが知る者の中には、生きながら装置を外すのに成功した人物がひとりいたが、それも片腕を失うという多大なる犠牲を払って為されたことである。とてもではないが、五体満足の状態で外せるような代物ではない。
絶対に外れるはずがない装置が消えている──そんな異常事態を目にして、平静でいられるほど、ミクニのメンタルは図太くなかった。


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6 : 拝啓、桜舞い散るこの日に ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:10:07 pINgLFX20
 そして、瞠目すべき事態はまだ続くことになる。

『あーあー、テステス。マイクのテスト中……みなさん聞こえていますかー?』

 突如、若い女の声がミクニの聴覚に飛び込んできた。咄嗟に辺りを見回す。しかし、彼の周囲にあるのは、先程確認したときと変わらず木、木、木ばかりであった。人どころかイキモノの気配すら感じられない。
 ならば幻聴か? あり得ないことを立て続けに経験したことによるショックが、ミクニに聴こえるはずのない声を聴かせたのだろうか。

『あはははは! 幻聴(バーチャル)? そんなわけありません! これはれっきとした肉声(リアル)ですよ。アナタたちの聴覚をハッキングして伝えているので、たとえ水中にいようが地下にいようがバッチリ届く、BBちゃんのキュートな肉声です』
 
 しかし、声の主はそんな推測を見透かしていたかのように、否定の言葉を口にした。
 あなたたち? ハッキング? BB?
 聞き手の困惑を置いてきぼりにして、声は続く。

『これからみなさんにお届けするのは、絶海の孤島からのアポカリプティックサウンド! 大人しく視聴する準備はできましたか? 鑑賞のお供の菓子(スナック)の準備はオッケー? できてない? かまいません! それでも無理矢理に始まるのが『この番組』ですから! ……それではいきましょう! せ〜のっ!』

 BB〜〜、チャンネル〜〜!
 ミクニの心情とは真逆の、陽気で軽いことこの上ない調子で、女の声はそう言った。


X   X   X   X   X


7 : 拝啓、桜舞い散るこの日に ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:11:54 pINgLFX20

 高校生活最大のイベントと言っても過言ではない修学旅行の真っ最中だったはずなのに、気が付けば見知らぬ場所に居た中野二乃の視界は、『BBチャンネル』なる単語を聞いた途端、まるでテレビのノイズ画面のような『なにか』に塗りつぶされた。
 ノイズの中央には桜の花弁のようなアイコンがクルクルと回っており、その下方には『now hacking……』という文章がある。
 次第にノイズは薄くなり、五秒も経てば花弁アイコンの回転は終わった。花弁アイコンと入れ違いに『OK!』の表示が出る。そして次の瞬間、視界はまたもや変わった。
 軽快ではあるが聞くものを不安定な気持ちにさせる音楽をBGMに、桜の花びらが舞う。似たような映像が何カットか続いた後で、女のシルエットが登場し、それに被さるようにド派手なピンクの配色をされた文字が現れた。それが先ほどの声が言った『BBチャンネル』のタイトルロゴであることに気づくまで、そう時間はかからなかった。

──いったい何なのよこれは……っ!

 二乃は思考する。
 というより、思考しかできない。
 視覚と聴覚が奇妙な映像音楽に支配されている今、彼女にそれら以外の感覚は無かった。口を開いて発声することさえ叶わない。
 どころか、彼女の視覚内には、自分の手すら映っていなかった……まるで肉体が目と耳だけ残してこの世から消え去ってしまったみたいだ。
 人より物を知らないことをこれまでの人生で何度も思い知らされてきた二乃であるが、確かに分かることがひとつある。こんな、人の視覚と聴覚を乗っ取るような技術はあり得ないということだ。VRヘッドセットを付けているならまだしも、それもない状態でこのような幻覚じみたものを見せるのは、不可思議極まりないことである。もっとも、そんな確信を得たところで、彼女の現状が好転することは無いのだが。
 おそらくここまでは『BBチャンネル』のオープニングのようなものだったのだろう。タイトルロゴが消えると、ニュース番組のようなセットが映される。そして、拍手や歓声と共に、画面の端からひとりの女が現れた。
 黒衣を身に纏い、赤いリボンと紫色の長髪が印象的な女だった。

『グッドモーニング! ……いえ、この場合はバッドナイトが適切ですか? モニターの前のみなさん、こんばんは。これから役立つ情報目白押しの注目必至コンテンツ、『BBチャンネル』の時間です。司会進行は月の支配者にして、本バトルロワイアルの主催であるBBちゃん。視聴者は哀れにも参加者に選ばれてしまったみなさんとなります』

──バトルロワイアル……。

 BBが悪意というものをキャンディーやマシュマロと一緒に煮詰めたような声で口にした言葉を、二乃は心の中で反復する。
 その言葉の意味を、彼女は知っている。それをテーマにした漫画や映像作品が溢れている世の中に生きていて、知らない方がおかしいからだ──なんなら、今現在二乃たちがしている、一人の異性を巡っての恋愛争奪戦も、広義ではバトルロワイアルと言えなくもないだろう。
 しかし、BBが今しがた口にした『バトルロワイアル』は二乃たちがやっているようなものではなく、むしろ世間一般のイメージに近い、フィクションの中で見られる方の……。

『早速ですが、本題に入らせてもらいましょう』

 前置きもそこそこに、BBは言った。

『これからみなさんには、殺し合いをしてもらいます』


X   X   X   X   X


8 : 拝啓、桜舞い散るこの日に ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:13:20 pINgLFX20

 殺し合い。
 文字通りのグルーサムな意味を持つその言葉を聞いた瞬間、超天才売れっ子マジシャン(自称)である山田奈緒子は、ズガンッ! と頭を殴られた。
 かのようなショックを受けた。
 かつて、霊能力者同士による命を懸けた化かし合いの渦中に身を投じた経験がある彼女だからこそ分かる──バトルロワイアルの恐ろしさが。
 命を懸けて戦うことの、恐ろしさが。
 またあのような……否、『殺し合い』という言葉を直接使っている分、あの時以上に凄惨であろうバトルロワイアルが、開催されるのか?

『そうです。デスデス。殺し合いDeath……いいですよねぇ、殺し合い。特に、『コ』で始まって『イ』で終わっているのが、とってもロマンチックです』

 冗談めかした口調で言いながら、BBは続ける。

『これからみなさんには、殺し合いをしてもらいます……が、もちろんタダでとは言いません。あくまでBBちゃんは小悪魔であって、無償労働を強いるほど悪魔ではありませんので。殺し合いの末に最後の一人になった方は、元の世界に返してあげます。そして〜〜……!』

 視聴者の期待を煽るような溜めをたっぷりした後、BBは次のように言った。

『なんと! 『どんな願いでも一つだけ叶えられる権利』も与えちゃいます!』

 イエーーーイ!! とスタジオは沸いた。紙吹雪のオマケつきである。
 その歓声は奈緒子のものでなければ、おそらく他の視聴者(さんかしゃ)のものでもあるまい。バラエティ番組でよくある笑い声SEの歓声版のようなものだろう。

『どんな願いでも叶う……素敵ですね。まるで『聖杯』みたいです。みなさんならどんな願いを叶えてもらいますか? 巨万の富? 恋の成就? 死者の蘇生? オールオッケー! このバトルロワイアルで優勝さえすれば、今アナタが頭に浮かべた願いは必ず叶います!』

 ばんなそかな。
 
『もちろん、慎ましいサイズをしているおっぱいを、BBちゃん級まで大きくしたいという願いも、叶えられますよ!』

──殺し合いに参加までして、誰がそんなこと願うかっ!

 頭の中でそう突っ込んだ奈緒子であるが、かつてどんな願いでも叶えるという触れ込みの『神の象の像』に『巨乳になりたい』と願ったことがある彼女が、『そんなこと』を願わない可能性は怪しいものであった。

『続いてはルールを簡単に説明しますね……首輪を付けられていることには、もう気づきましたか?』

 言われて奈緒子は気づく。『BBチャンネル』が流れる前に感じていた、自分の首周りにあった違和感は、首輪が原因であったことに。

『それはみなさんを縛る枷のようなもの。殺し合いに乗り気じゃないワンちゃんも、ルールに歯向かおうとするニャンちゃんも、みんなまとめて従順(ペット)にできちゃう、素晴らしいアイテムなんですよ──具体的にいうと、そうですね』

 バトルロワイアルの会場から逃げ出そうとしたり、這入ってはいけないエリアに這入ったりすると、それは爆発します──と。
 BBが説明した首輪の機能は、信じがたいものであった。

──ば……くは、つ……?

 時には危険なマジックにチャレンジすることもある奈緒子は、間近で爆発を見たことが何度かある。だが、爆発が首元で起きた事は一度もない。そんな目に遭っていれば、頭と胴体が離れ離れになって、とっくに死んでいるからだ。

『おやおや? どうやら、首輪が爆弾だということをブラフだと思っている人が何人かいるようですね……え〜ん! 信じてもらえなくて悲しいBBちゃんなのです』
 
 どんなに騙されやすいひとでも一瞬でまるっとお見通しできるほどに、バレバレな泣き真似をするBB。
 
『だったら、そうですねぇ……』

 嘘泣きで両目を覆っていた手を外し、伏せていた顔を上げる。
 その時の彼女の両目は。
 真っ赤に。
 染まっていた。
 
『ここで実際に、サンプルを見せてあげましょうか』


X   X   X   X   X


9 : 拝啓、桜舞い散るこの日に ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:14:36 pINgLFX20

 ナノマシンを取り込んだ影響により、実年齢74歳でありながら青年のような若々しい外見を獲得した超人、今之川権三は、腹を立てていた。
 死んだかと思ったら、こんな辺鄙な場所に拉致されていただけでも憤慨ものだというのに、自分より遥かに年下の女が挑発するようなふざけた口調で話しているのだ。敬老概念を何よりも重視する権三にとって、これは屈辱以外の何物でもなかった。
 もしこの映像が視覚と聴覚をハッキングしたものでなく、BBが目の前に直接居れば、権三は怒りに任せて拳を振るい、彼女の上半身を消し飛ばしていただろう。
 しかし現在、彼の脳中には、煮えたぎるマグマのような怒りと一緒に、現状を観察する冷静さもあった。
 
──わしの力なら、たとえダイナマイトの爆発をゼロ距離で受けてもダメージを負うことは無いはずぞい。だが……。

 傲慢になりそうな思考を抑える権三。
 BBを名乗る女は、首輪を付けたのだと自信満々に言ったのだ。ならばそれに見合うだけの性能が、首輪にあるはず……いや、なければならない。

──それがどれほどのものなのか、これから見せてもらうぞい。

 画面に意識を戻す。
 『サンプルを見せる』と言ったBBは手に持っていた指示棒を振るった。
 すると、それが合図であったかのように、何もない空間からボン! とカラフルな煙が噴出する。
 時間が経つにつれて、水を加えた色水のように煙は薄くなっていく。
 やがて煙が完全に晴れると、そこにはひとりの少女が立っていた。
 着ている服は、どこぞの学校の制服だろうか。ウェーブのかかった桃色の髪をしており、頭に着けられた大きなリボンが、激しい自己主張をおこなっている──見た目からして、高校生くらいの年齢だろう。
 自分のような上級国民には程遠い、アホみたいな見た目の女だな、と権三は心中で毒づいた。

『というわけで、参加者のひとりである彼女を特別にスタジオへ招待しました!』

 なんと、彼女のような一般人も殺し合いの参加者のひとりらしい。たしかに、よく見てみると、その首元には冷たい銀色の輝きを放つ首輪が装着されていた。
 ということは、リボンの少女はどこかからスタジオに、煙と同時に現れたことになるのだが……まぁ、BBは権三を東栗原からこんな辺鄙な所まで連れて来られた奴なのだ。女子ひとりをスタジオまでワープさせられたとしても、ダブルスタンダードは生じまい。
 突然スタジオにやって来たことで混乱しているのが表情から簡単に見て取れる少女に対し、そして画面の向こう側にいる視聴者に対し、BBは言った。

『爆弾が本物だと証明してあげますから、よぅく見ていてくださいね! カウントダウンスタート! 3……2……1……』

 ゼロ。
 その瞬間だった、ボンッ! と先ほどと同じ軽い音がして、リボンの少女の首が吹き飛んだのは。
 長髪を振り回しながら飛び上がる生首。噴き出す鮮血──あまりにもリアルで不可逆な死が、そこにはあった。


10 : 拝啓、桜舞い散るこの日に ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:15:45 pINgLFX20

『──と、まぁ、こんな風に爆発します。ちなみにアナタたちの中には力自慢のかたが何人かいるかもしれませんけれど、首輪を壊そうとするのはオススメしません。その場合も爆発するように仕掛けられていますから』

 つまり、権三が持ち前の怪力で首輪の破壊を試みても、それより先に起爆することになるわけだ。
 BBは指示棒を再び振るった。すると、故・リボンの少女の肉体は、まるで最初からそこに無かったかのように消え失せた。

『さて、次の説明をしますね。みなさんが目覚めた時、近くにリュックサックがありましたよね?』 

 そういえば……と、権三は自分の近くに小さなリュックがあったのを思い出した。何が入っているのか確認しようと手を伸ばしたタイミングで、『BBチャンネル』が始まったのである。

『それの中には食料品や飲料水、地図に名簿、ルールブック……そして、ひとつからみっつのアイテムがランダムで入っています。武器に便利グッズ、あるいは全く役に立たないガラクタか……どんなアイテムが入っているのかは、開けてからのお楽しみです』

 悪戯っぽいウインクをするBB。
 徒手空拳の戦闘スタイルを主とする権三にとって、武器は無用の長物だ。
 けれども、自分以外の『参加者』が、BBから支給された武器を持っているかもしれないということを知れたのは大きかった。
 拳銃や刀剣のような武器が相手なら負けるつもりは無い。だが、たとえば権三の生前の敗因となった、対テロリスト用のラバー銃が相手なら、話は別である。
 そのような予想外の武器の存在も、念頭に置かなくてはならない。
 なぜなら、このバトルロワイアルの主催は、既知の範囲を十分に逸脱しており、そんな彼女が開くイベントに、予想通りの展開があるとは到底思えないからだ。

『最後は放送の説明です』

 BBは最後のルール説明に入った。

『放送というと、今みなさんが観ている『BBチャンネル』ですね。これから六時間ごとに放送があって、それまでの間に発生した死者や禁止エリア、その他諸々が発表されます。……とはいえ、これはバトルロワイアルの放送──もしかしたら放送中に戦っている、なんてことがあるかもしれません。そんな時に視覚がハッキングされるわけにはいきませんよね? ですがご安心を! 今後される放送は音声だけのもの、言うならば『BBチャンネル・ラジオ版』になります。お楽しみに!』

 相変わらず真意が読めない口調で、BBは説明を締めくくった。
 
『これで説明は終わりです。細かい説明はリュックにあるルールブックで分かるので、読んでおいてくださいね。──それじゃあゲームを始めましょう』


X   X   X   X   X


11 : 拝啓、桜舞い散るこの日に ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:16:31 pINgLFX20
 こうして彼ら彼女らの視界は、悪趣味な番組から各々の現在位置に戻った。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 死亡】


12 : ◆3nT5BAosPA :2019/04/26(金) 22:17:25 pINgLFX20
オープニング投下終了です。予約は明日の零時から可能になります。


13 : ◆3nT5BAosPA :2019/04/27(土) 00:00:03 t64DdZXQ0
猗窩座、鬼舞辻無惨、源頼光で予約します


14 : ◆7WJp/yel/Y :2019/04/27(土) 01:19:02 BVyPqgy.0
吾妻善逸、千翼、中野五月で予約します


15 : ◆OLR6O6xahk :2019/04/27(土) 07:27:57 rZA3KmO.0
中野一花、竈門炭治郎、予約します


16 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/04/27(土) 08:25:55 RgosMGUc0
酒呑童子、村山良樹、マシュ・キリエライトで予約します。


17 : ◆MCsmYVWHxQ :2019/04/27(土) 14:14:25 cTjX3Jqo0
藤丸立香、中野三玖 予約します


18 : ◆2lsK9hNTNE :2019/04/28(日) 01:32:50 cqXJm08M0
石上優、永井圭、予約します


19 : ◆PxtkrnEdFo :2019/04/28(日) 20:36:06 irY3sESA0
皇城ジウ、中野四葉予約します


20 : ◆HH8lFDSMqU :2019/04/28(日) 23:00:47 HL1pDLKk0
鷹山仁、予約します


21 : ◆HH8lFDSMqU :2019/04/29(月) 03:26:41 J/6V/GJE0
短い話になりますが投下します。


22 : Anfang ◆HH8lFDSMqU :2019/04/29(月) 03:27:33 J/6V/GJE0

 美術館に一人の壮年の男がいる。
 黒い髪に金のメッシュが入り、無精髭を生やしている。
 傍から見れば不審人物のおっさん程度にしか見えない。

 男は周囲を見渡す。
 その周りには多くの芸術品が展示されている。
 それを男は眺めるように見る。

 だが、男が分かるのは辛うじて展示物の色と形程度。
 故にその芸術品が本物(オリジナル)なのか、偽物(レプリカ)なのか分からない。
 そして、それらからは人間特有の匂いも何もしない。
 
 次に近くにあったリュックサックの中身を確認する。
 入っているのはあの女(BB)が言っていた食料品や飲料水が入っていた。
 
 今は腹は空いていないのでこれらは別にいいだろう。
 そして、ルールブックらしきものもあった。

 それを見て、男はぼやいた。
  



「……やっぱ、読みづれぇ……」




 …………文字だってぼやける視界の悪さ。
 その男には視力がほぼない状態なのであるから仕方ない。
 それがルールブックらしきものであることは分かったが、それまでだった。

 あと名簿と地図も入っていた。
 が、同上の理由で自分の名前があるのかどうかすら分からない。
 場所もここが美術館のようなところであることは分かる。
 しかし、この地図上に美術館があるのかも……分からない。 

 そして、あと一つ入っていたのが――自身の馴染みのベルト――『アマゾンズドライバー』


23 : Anfang ◆HH8lFDSMqU :2019/04/29(月) 03:28:08 J/6V/GJE0

 そのベルトが視えた時。
 男がここでやるべきことは変わらないことに気付いた。
 

「……………………そっかぁ……」


 ――――「お前ら全部殺さないと、俺もゆっくり死ねないんだよ」――――



 『全てのアマゾンを狩る』
 『人間を守る』
 
 
 己の信条・行動理念は絶対に曲げない。
 いや、曲げることなど最初から出来ない。
 自分の不始末の自分の手でケリを付けなければならないのだから。

 その為にこんなところで死ぬわけにはいかない。
 だからこそ、男はさっさとこの『殺し合い』からの脱出することを選択した。
 
 ここにアマゾンがいるなら狩る。
 いないなら脱出のすべを探す。

 
 そして、その男――『鷹山仁』はフラフラと歩き出す。
 その先に何があり、その行きつく先は狩りなのか。
 はたまた、人間の守護なのかは……このヒモには分からない。

 
【C-6・美術館内/1日目・深夜】
【鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:盲目に近い状態
[装備]:仁のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:全ての『アマゾン』を狩る、『人間』を守る
1.殺し合いからの脱出
[備考]
※参戦時期は2期7話の千翼達との邂逅前。
※盲目に近い状態なので文字を読むことなどはかなり厳しいです。


24 : ◆HH8lFDSMqU :2019/04/29(月) 03:28:46 J/6V/GJE0
投下終了です。


25 : 名無しさん :2019/04/29(月) 10:34:38 V..D/dbU0
投下乙です
流石は伝説のヒモ。殺し合いの場でも全くブレない。


26 : ◆2lsK9hNTNE :2019/04/30(火) 00:36:15 JTG0CmHI0
投下乙です
視力がほぼないとはキツい状態での参戦ですね
地図すらまともに見れないとあってはこのままじゃあそのうち禁止エリアに入って死んじゃいそうです


自分も投下します


27 : 殺し合いの利点 ◆2lsK9hNTNE :2019/04/30(火) 00:37:51 JTG0CmHI0
 静かな林の中、BBという女の説明が終わった後も石上優は動けずにいた 

(嘘だろ……? 藤原先輩が?)

 見せしめのように首輪を爆破された少女、彼女は石上の知り合いだった。石上の通う秀知院学園の先輩であり、同じ生徒会に働く仲間だった。常識知らずで腹黒くて恥の欠落した人だったが、決して悪い人間では無かったし、間違ってもあんな無残に殺されていい人間ではなかった。
 
(いや……だけどあの映像は本物だったのか?)
 
 突然得体の知れないなにかに引きずり込まれり、テレパシーみたいに声と映像が送られてきたり。
 異常な出来事が続いているのだ。あの映像だって幻覚で、本当の藤原先輩は生きているのかもしれない。

(そうだ。あんなおかしな奴のやったこと、素直に真に受けるほうがどうかしてる!)

 そう考えて石上は自分を持ち直す。それは逃避ではあったが、自分を保つ手段として悪いことではなかった。
 と、その時近くからガサリと音が聞こえた。

「だ、誰だ!」

 石上はとっさに近くにあったリュックに手を突っ込み、掴んだ物を取り出した。拳銃だった。両手で持ってもなお軽くない重量が、これが玩具などではなく本物であることを主張している。
 自分で出した物体に自分で慄いた。手が震える。それでも石上は銃を音のした方向へと向けた。
 木の陰から両手を上げながら男が出てきた。

「撃つな。僕は殺し合いに乗るつもりはない」

 あまり特徴のない男だった。歳は石上と大きく離れてはなさそうだ。高校生だろうか? しかし服装はどこかの警備員かなにかのようにも見える。

「口ではなんとでも言えるだろ、そんなの!」
「わかってる! だから証明としていまからリュックをそっちに投げる。動くけど撃つなよ」

 男はそう言って、背負っていたリュックサックを外した。勢いをつけるため前後に揺らす。妙な動きが無いか、男を観察することに石上の全神経が注がれた。
 リュックが投げられ石上の近くに落ちる。なにも起こらない。男は動かずに立ち止まま言った。

「君が殺し合いに乗ってないなら近づいて話し合いたい。承諾するなら銃を下ろしてくれ」

 石上の頭に先程の映像が過る。動かなくなった藤原千花。まだあの光景を信じたわけではないが、自分がああなってもおかしくない状況に置かれているのは間違いないことだった。
 目の前の男は本当に殺し合いに乗っていないのか? リュックを投げたのも僕を油断させるための罠じゃないのか?
 疑念は際限なく湧いてくる。確かなのはここであの男を撃てば自分が殺されることはないだろうということ。引き金に掛けた指が揺れた。だが、

「……わかった。承諾する」

 石上は撃たないことを選んだ。決めてになったのも先ほどの藤原千花の姿だ。人をあんな状態にするような覚悟は石上には無かった。




 男は工藤仁と名乗った。石上と同じようになにかに引きずり込まれたような感覚がして、気がついたらここにいたという。高校三年生らしいが、肝が座っているというか、いやに落ち着いている。まだ事実とは認めていないが、知人の死を見せられた直後の石上からすれば癪に障るくらい冷静だった。
 実際に「どうしてそんな冷静でいられるんですか」とつい口に出してしまったが、

「昔からそういう質なんだ。妹にもよく冷たいって言われる」

 そう自嘲するように言った。

「いえ、すいません。八つ当たりみたいなこと言って」

 不快に感じてはしまったが、その冷静さは間違いなく頼りになるし、石上が幾分か落ち着きを取り戻せたのも彼の論理的な語り口のおかげでもある。

「まあ多少イラつくくらいはしょうがないよ。ただでさえ混乱することだらけだっていうのに、殺し合いと真偽不明の知人の殺害、おまけに参加者の中に佐藤みたいな奴までいるっていうんだから」
「佐藤?」

 知らない名前で聞き返すと、工藤は意外そうにした。

「名簿に載ってただろ。ほとんどの参加者はフルネームで書かれてるのに、佐藤とだけ書かれてるってことは、たぶん亜人の佐藤のことだろ?」

 名簿、そういえばBBがそんなことを言っていた気がする。直前の爆破映像のせいでろくに頭に入っていなかった。

「ちょっと待ってください。いま確認します」

 リュックを漁ってそれらしき物を取り出す。佐藤の名前を探すが、見つける前に別の名前に石上の目は止まった


28 : 殺し合いの利点 ◆2lsK9hNTNE :2019/04/30(火) 00:40:04 JTG0CmHI0
「会長……四宮先輩……」
「知り合いの名前でもあった?」
「はい……僕の通ってる高校の会長と副会長の名前が……僕、生徒会の会計をやってるんです」

 またしても先程の爆破映像が浮かぶ。もしかしたらいまこうしている間にも会長と四宮先輩が死んでしまうかもしれない。石上はいますぐ走り出して、ふたりを探したい衝動に駆られた。だが首を振ってその誘惑を断ち切る。

「すいません、とりあえず支給品の確認だけさせてください」
「……いいの?」
「はい、焦って動いても仕方ないですから」

 ここで考え無しに動いてもふたりを助けられるわけがない。重要なのは自分の状況をしっかりと確認すること。そしてその後にどう行動するかしっかりと考えることだ。
 石上は自分のリュックの中を確認した。それから工藤の支給品を教えてもらったり、会長と四宮先輩の特徴を教えたり、情報交換を行った。
 そして話はもっとも重要なポイント、これからどうするかという段階に至った。
 地面に広げた地図を指さしながら石上は言った。

「僕は秀知院学園に行きたいと思っています。僕たちが通っている学園なので、もしかしたら会長たちがそこに向かってるかも」
「良い考えとは言えないな。その人たちが石上の言う通りに向かっているとしても、タイミングが合わなければすれ違いになる。仮に合流できたとしても、強力な武器を持った危険な参加者と遭遇したらまとめて殺されるかもしれない」
「……じゃあ工藤さんはどこに向かうのがいいと思うんですか?」
「自衛隊入間基地だ」

 工藤は秀知院学園の反対方向にある施設を指さした。

「自衛隊の基地なら、身を守るための武器や、治療器具、予備の水や食料なんかもあるはずだ。もちろん名前や外観だけでなく内装もちゃんと再現されてればだけど。銃まで支給して殺し合わせようって奴だ、武器くらいは期待できる。懸念は同じようなことを考えた危険な参加者も集まりそうってことだけど、幸い僕たちの位置は入間基地と近いから着くまでに時間は掛からない」

 全く反論のしようがない提案に石上は舌を巻いた。会長たちを助けるという観点に置いても、わずかな可能性に賭けて秀知院学園に行くより、会った時に備えて入念な準備をしておくほうがずっと建設的だ。

「わかりました。入間基地に行きましょう」

 石上が頷くと、時間は無駄にできないとばかりに工藤は立ち上がった。石上も後に続きながら、ふと気になったことを尋ねた。。

「そういえば亜人の佐藤っていうのはなんなんですか?」
「……ニュースで報道された凶悪犯だよ。聞いたことない?」
「いえ、あんまりニュースとか見ないんで」
「そっか。それなら仕方ないね」


X   X   X   X   X


(んなわけないだろ!)

 工藤は胸中で叫んだ。
 ニュースを見てないから佐藤を知らない? そんなわけはない。あの佐藤だぞ。ネットで顔出しの犯行声明出しまくって、都心の高層ビルに飛行機まで落としたあの佐藤。避けようとしたって嫌でも耳に入る。ニュースを見ない程度で知らないはずがない。
 テレビすらないようなよっぽどのど田舎の人間ならありえるかもしれないが、石上の立ち振る舞いからそうではないことはわかる。かといって嘘をついているようにも見えないし、そもそもこんな嘘をつく意味もない。それに石上は佐藤どころか亜人という言葉にも馴染みがないようだった。
 亜人。十七年前にアフリカで初めて発見された不死身の新人種。基本的には普通の人間と変わらず、怪我だってするが、死ぬとそれまで受けた傷も全て治癒して蘇生する人間。
 工藤が物心ついた時にはすでに常識として世界中に知れ渡っていた。田舎どころか未開の部族でもなければ知らないなんてありえない。BBが引き起こす現象の数々よりも、亜人をそっちのほうがよっぽど不可解だ。

(ひょっとして他の参加者もこんな感じなのか? 偽名を名乗るべきじゃなかったか?)

 そう。なにを隠そう工藤仁という名前は名簿を見て決めた嘘の名前だ。本名は永井圭という。永井自身が亜人であり、佐藤ほどではないがその名前は世界中に知られている。しかも同じ亜人の犯罪者である佐藤の仲間だと世間では考えられている。実際は逆に敵対しているのだが。
 バカ正直に本名を名乗っても無駄に警戒されるだけだ。わざわざ名簿で自分と佐藤の名前が並んでいることから、関係のある人間の名前が近くに載ると推理し、知り合いが参加してなさそうな、名簿の最後――佐藤に次に名を連ねる工藤仁の名前を選択したのだが。余計な心配だったかもしれない。

(まあでも、なんで石上が知らないかなんてすぐに考えなくてもいい。どの道情報が少なすぎてわかんないし)


29 : 殺し合いの利点 ◆2lsK9hNTNE :2019/04/30(火) 00:41:49 JTG0CmHI0

 少なくとも石上優という男は話が通じないような人間ではないし、理屈で感情を抑えられるだけの知能もある。知り合いの首と胴が離れる映像を見せられた直後という点も加味すれば、なかなかに使えそうな人間だ。
 石上のことを見つけた時、彼が酷く動揺していることはひと目でわかった。わざと物音を立てて、反応を伺ったが、銃の持ち方は明らかな素人。丸腰でも対処できる相手と判断して、姿を見せて、リュックを投げた。話し合いに持ち込んで、当初からの目的地である入間基地への同行者を得ることに成功した。
 永井には使える人間と武器が必要だった。
 BBは言った。バトルロワイアルは最後にひとりになるまで続けられると。しかし不死身の亜人がふたり以上参加している時点で、それは達成不可能だ。
 石上と同じように亜人の存在を知らなかったのかもしれない。達成できない条件を達成しようと右往左往する参加者たちを嘲笑っているだけかもしれない。だが永井の中ではもうひとつ別の可能性が浮かんでいた。

(もしかしたら、亜人の再生能力が抑制されているのかもしれない)

 現在の研究では、亜人は寿命以外のあらゆる死から蘇生できるとされている。周りを海に囲まれた島だろうと溺死と蘇生を繰り返せば脱出は可能だ。人の人格を司る頭が切り離されれば元の人格は死んでしまうので、首輪で牽制はできるか(佐藤は気にしないが)、一度首輪が爆発したら終わりだ。簡単にバトルロワイアルから抜け出せる。
 あの趣味の悪そうな女がそんなことを許すとは思えない。現代の常識を外れた現象をすでにいくつも起こしているのだ。亜人の能力にさえも干渉できると考えたほうが妥当だろう。

(そしてだとしたら)

 永井は少し前に、仲間と協力して行った佐藤打倒の作戦を打ち破られたばかりだった。どうやったら佐藤を倒せるのか。もはやなにひとつとして方法は思いつかない。それでも戦うために永井は仲間たちと合流した。ここに連れてこられたのはそのすぐ後のことだった。

(倒せるかもしれない。佐藤を)

 それはこの最低最悪のバトルロワイアルにおいての数少ない参加するメリットだ。
 

【C-4・林/1日目・深夜】
【石上優@かぐや様は告らせたい】
[状態]:
[装備]:拳銃(詳細は後続の書き手にお任せします)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:会長や四宮先輩と一緒に生き残る
1.自衛隊入間基地に向かう
2:会長と四宮先輩を探す
[備考]
※文化祭終了後からの参戦
※永井圭の名前を工藤仁だと思っています
※永井の支給品を教えてもらいましたが、どこまで本当のことを教えられたかわかりません


【永井圭@亜人】
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.自衛隊入間基地に向かう
2:使える武器や人員の確保
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※工藤仁と名乗っています
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています


30 : ◆2lsK9hNTNE :2019/04/30(火) 00:42:34 JTG0CmHI0
投下終了です


31 : 名無しさん :2019/04/30(火) 23:27:57 LFn5ZnwA0
久しぶりに見たら新ロワだ

>拝啓、桜舞い散るこの日に
いろんなキャラ視点で見れて楽しいですね
このOPだけ見たら、うーんBBちゃんとかいうクソって感じだけどはたして
それにしても、ファウストさんが気になるところ

>Anfang
うーむ、この名簿っぽい一話だ
人間と人間ではないモノの作品が多いだけに、今後『アマゾン』と『人間』の基準がどのように設定されるか、気になりますね

>殺し合いの利点
パッと見すんなり組んだチームだが、実際には「OPイマイチ信じられん」だったり「佐藤を知らないとかありえねーだろ」だったりするのがおもしろい
しかし亜人の制限次第では、もしかしたらBBちゃんに感謝をすることになるかもしれないいっていうのは、なんとも不思議な気持ちになりますね


32 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/01(水) 00:01:49 8fpqAE8U0
上田次郎、沖田総司、中野二乃、予約します。


33 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/01(水) 00:26:41 up2Pav7w0
煉獄杏寿郎、雅、人吉善吉を予約します


34 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/01(水) 13:30:29 4A3GvrL.0
若殿ミクニ、猛田トシオ、予約します


35 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:37:20 Anbgji860
投下します。


36 : 時代を貫いてひびくもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:38:03 Anbgji860
 ◇ ◇ ◇


【0】

「修学旅行。行き先は京都。ここで決着をつけてやるわ」


 ◇ ◇ ◇


37 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:39:39 Anbgji860
 
 
【1】

 ひとりだ、と。
 見知らぬ民家の一室で床にへたり込んだまま、制服の少女・中野二乃はそう思った。
 修学旅行の最中にこの場所に呼び出されてから、何度も、何度も、同じことを思っていた。

 制服の上から羽織っているカーディガンのポケットに手を伸ばし、愛用のスマートフォンを取り出す。この行動もまた、二乃はこの部屋で何度も繰り返している。
 うさぎの耳を模したカバーをつけたスマートフォンは、ロックを解除した途端に灯りをつけていない部屋を仄かに照らす。
 その画面には、彼女と彼女の姉妹たちを映し出している。

 画面のなかの自分はひとりではない。
 同じリボンを左右につけて、同じ制服を着ていながら――五人だった。

 その事実を確認して、また彼女は現在の自分がひとりきりであることを実感した。
 はたして誰から隠そうとしているのか、涙が溢れそうになるのを隠すように二乃は俯いて目を瞑る。

「(なんで……どうしてこんな……っ)」

 視界を閉ざすと蘇ってくるのは、先ほど強制的に見させられた映像である。
 美少女とバイオレンス。さながら深夜放送のテレビ映画じみた荒唐無稽な代物だった。
 白昼夢でも見たのだと思い込みたいし、現在知らない民家にいるのもまだ夢から覚めていないのだと信じたい。

 しかしながら、二乃にはどうしても自分を騙すことができなかった。
 再びこの民家に戻ってきてから現在まで、まったく目が覚める気配がない。
 見させられた映像に出てきたリュックサックが、いつの間にか傍らにあるのも気づいてしまった。
 ずっと圏外を示しているスマートフォンには、すっかり忘れかけていた写真やSNSのログまで入っている。
 震える手で恐る恐る頬をつねってみるとちゃんと痛いのかもしれないが、それを確かめてしまう勇気は二乃にはなかった。

「(みんなは、どうしているのかしら……)」

 ひとりでいるせいか、二乃の脳裏を過るのは悪い可能性ばかりだ。
 この場所に呼び出されるまで一緒にいた四人の姉妹と、同級生にして家庭教師の少年。
 彼女たちと彼までもこの悪趣味な企画に参加させられていたらと考えて、二乃はひと際大きく震えてから顔を上げた。

「(怖い。怖いわ。怖い……。とても、怖い)」

 怖い。そうだ。ずっと怖かった。
 ここに至ってようやく、二乃は現在の自分が抱いている感情をはっきりと言語化する。
 自分がこの状況に置かれているだけでも震えて動けなかったが、彼女の大切な存在が巻き込まれている可能性のほうがずっと恐ろしかった。


38 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:40:11 Anbgji860
 
 その可能性を否定するには、名簿を確認しなければならない。
 それはすなわち現状を夢だと思い込むのを諦め、現実であると受け入れるということだ。
 二乃にとって極力避けたかった、ずっと目を背け続けていた行動である。

 けれど、二乃はもう避けるのをやめる決意をした。
 自分が殺し合いに巻き込まれている現実を受け入れた上で、大切な存在が巻き込まれているのか否かを確認したかった。

「(思うように動いてくれないわね……なんなのよ、この手は。震えてないでちゃんとしなさいよ)」

 固めた決意通りに身体が動いてくれるかというと話は別だったが、それでも時間をかければリュックサックを手元に持ってくるなど容易かった。
 スマートフォンの背面ライトを起動して照らしながら、二乃はリュックサックを引っくり返して中身を床に広げる。
 中身を一つずつ取り出すなんて、震える手では器用にこなせる気がしなかったのだ。

 水。
 食料。
 地図。
 冊子。
 ランタン。
 そして、細かく文字が記された一枚の紙。

 リュックサックのサイズに対して中身の体積が大きい気もするが、そんなことは二乃にとってどうでもよかった。
 おそらく名簿であろう紙に手を伸ばそうとしたとき、引っくり返したままのリュックサックから――今度は見るからに体積の大きい代物が飛び出した。
 ごとんと予期せぬ音を立てて床に落ちたのは、一振りの日本刀であった。

「きゃあ…………ッ!」

 自分の口から出た声に驚いてから、二乃は口元を抑えて無理やりに呑み込む。
 呑み込んだとはいえ、自らの上げかけた悲鳴で冷静になったのだ。完全に塞ぐのが遅かったという自覚があった。
 それを証明するように、外から足音が近づいてくるのが聞こえた。なにやら重い物を引きずるような音もしている。

「――――っ」

 二乃は縮こまって息を潜めるが、早鐘を打つ心臓がうるさくて実際に上手く行っているのか定かではない。
 ただ、わざとらしく立てられた足音が少しずつ近づいてくるのはわかった。
 どうするべきなのか考えても、まったく頭が回らない。
 ついには目まで回ってきた錯覚を二乃が覚えたころ、戸を蹴破ったかのような明らかに玄関からの侵入ではない音が轟く。

「いやァな催し物ですよねえ」

 しばらくしてから響き渡った軽薄そうな声を受けて、二乃は知らず立ち上がっていた。
 先ほどまでずっと震えていてリュックサックを開けるだけでも苦労していたというのに、咄嗟に動いた身体に彼女自身が驚いていた。
 初めて持つ日本刀は話に聞く通りたしかに重かったが、米袋のほうがずっと重い気がする。
 そんなことを考えている場合ではないと、二乃は遅れて自らを叱責した。


 ◇ ◇ ◇


39 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:41:38 Anbgji860
 
 
【2】

 やはりあえて聞こえるようにか、侵入者は足音を必要以上に立てて接近してくる。

「当方、多少難儀していまして……。お互い巻き込まれた同士、ご助力を願いたい」

 逃げるか、隠れるか、言葉を返すか。考えはまとまらない。
 一向にまとまる気配がないことだけが、二乃には妙にはっきりとわかった。
 だったらいっそわからないほうがよかったと、例のごとく余計な方面にばかり妙に頭が回った。

「微かに光が漏れていたのでもしやと近くまで来てみましたが、まー、これも一つ縁とゆーか」

 ポケットに入れたスマートフォンが、二乃の脳裏を掠める。
 カーテンは一応確認したはずだったが、完全に閉め切れてはいなかったらしい。
 先ほど上げてしまってから慌てて呑み込んだ悲鳴と同じだ。後から気づいてももう遅い。

 どうせなら一階に留まらず、二階に移動すればよかったかもしれない。
 いや、二階ではいざというときに逃げられないので、むしろ一階にいて正解だったのだろうか。

「(どちらにせよ、逃げられてないんだから同じじゃない! というか最初にいた場所から、一歩も動いてないし!)」

 実際には動いていないのではなく動けなかったのだが、それを自らに指摘することは二乃にはできなかった。
 ついに、侵入者が彼女のいる部屋まで到達したのである。

「ここにいました、か……」

 侵入者は着流しを纏った細身の男で、長く伸ばした髪をうしろで結っていた。
 現代の日本ではあまり見かけぬ衣服や髪形よりも、その体躯のほうがよほど二乃の目を引いた。
 細い。
 あまりにも細い。
 着流しから覗き見える胸は肋骨の隆起が見て取れるほどで、奇妙に痩せすぎている――二乃にとってまったく羨ましくない細さだった。

「…………すいません。ずいぶん洒落たモン召してたんで、少し驚いて。沖田総司といいます」
「(この制服のどこがよ!)」

 しばし呆気に取られていた侵入者の言葉に、痩躯に目を奪われていた二乃は我に返る。
 ダサい制服とは言わないし、決してみっともない着こなしもしていないが、洒落ていると称されるほどの代物でもない。
 あまりに過剰な評価に、浮かべている軽薄そうな笑み。二乃の日本刀を握る力が僅かに強くなる。
 そんな様子に、沖田と名乗った侵入者はしばらく首を傾げてから大きく頷く。

「いきなり名乗って困惑させたみたいで……。
 わたし、『二回目』なので。これが一番早いことを知っていまして」

 笑みを浮かべたままで、沖田は照れくさそうに頭をかく。
 勝手に納得したみたいだが、二乃にはまったく言っていることがわからない。
 まったくわからないなかで、わかることが一つだけあった。

「(き、気持ち悪い……! 怖い……!)」

 格好も。
 薄笑いも。
 二回目という発言も。
 オーバーに頷いて、一人で納得してるのも。
 沖田総司などという、ふざけているとしか思えない名乗りも。

 変人だ。
 狂人だ。
 変質者だ。
 通報ものだ。
 どこに? 圏外であることなんて、とっくに思い知っているというのに。


40 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:42:28 Anbgji860
 
「こ、来ないで!!」

 そこから先の動きは、二乃本人でも意外なほどに早かった。
 ほとんど杖のようにして床に重みを逃がしていた刀を持ち上げて、しどろもどろになりつつも鞘から抜く。
 またしても大げさに目を見開いて驚いている沖田に、二乃は震える手で刃を向ける。
 手元では僅かな震えであるはずなのに、刀の切っ先は大きくぐらぐらと揺れてしまっている。

「それ以上近づいたら……どうなるかわからないわよ!!」

 本当だった。
 本当にわからなかった。
 誰にとってもなにも、二乃自身にとってわからなかった。

 二乃は中野家の料理担当だ。包丁は使い慣れている。肉を切ったことは数え切れないほどある。
 率先して情報を集めようとしなくても、テレビやスマートフォンからは人が死んだニュースが毎日のように流れてくる。
 それに、ついさっき、本当なのかどうかわからない映像を見せられた。自分とそう年が変わらない少女が、呆気なく殺される映像を。

 だけど――それでも、わからなかった。

 もしも沖田が逃げてくれなかったらどうなるのか。
 もしも恐れずに襲い掛かってきたらどうなるのか。
 もしも刀が身体に触れてしまったらどうなるのか。

 中野二乃にはわからない。
 わからないし、わかりたくない。
 ただ、刀を恐れて沖田が離れてくれるのを祈るばかりだった。

「『沖田総司を前にしたら目瞬きするな』――なんて、ね。
 それでは駄目です。炎天下のなか、いきなり目隠しを外された鬼じゃないんだから。目を瞑っていては駄目です。駄目ですね。駄目」

 目隠し鬼懐かしいなあと、沖田はさらに続ける。
 指摘されてから、二乃は自分が目を閉じてしまっていることをようやく自覚する。

「かような鬼退治であれば、剣術なんぞよりもずっと慣れたものなのですが」

 とん――と。
 床を蹴るような音がした。
 反射的に二乃はそちらに刀を伸ばすが、なんの感触もない。
 感触がなかったことに二乃がむしろ安心したのと、伸ばし切った腕を掴まれたのはほとんど同時であった。

「――はっ! やはり菊一文字! おのれ!
 ともに時空を超えた唯一つの同胞め! どのツラ下げて、我が手を離れて斯様な乙女のもとに!」

 二乃がいつの間にか閉じてしまっていた目を慌てて開くと、視界が少しずつ明瞭になっていく。
 沖田は言葉に反して嬉しそうに白い歯を見せており、これまで浮かべていた軽薄なものとはまったく異なる獰猛な笑顔に、背筋を冷たいものが走り抜ける。
 その瞬間を狙ったかのように手首を軽く捻られ、刀をやさしく奪い取られてしまう。
 二乃があっと声を上げるよりも先に、沖田は奪い取った刀を手が届かない距離まで放り投げる。


41 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:42:46 Anbgji860
 
「……ぁ、い、いや……離して…………お願」
「それはできない」

 懇願を言い終えるよりも早い沖田の即答に、二乃は一度開いた目を再び閉じた。
 涙が溢れて、頬を伝っていくのがわかった。流れる涙が妙に熱く感じる。

 今度はわかった。
 今度はよくわかった。
 これからどうなるのか――今度は二乃にもわかった。

「悲鳴を上げる乙女を捨て置くワケにはいかない。
 都の治安を守護(まも)るのが、わたしたちの任務だったんだ」

 わからなくなった。
 また、わからなくなった。
 これからどうなるのか――また、二乃にはわからなくなった。

「それに最初に言ったように、わたしには貴方のご助力が必要なのです」

 言って、沖田は腰が抜けてへたり込む二乃を支えながら、別の部屋へとつれていく。
 到着したのは和室で、その惨状からして、やはり聞こえていた音の通りに雨戸ごと障子を破って侵入してきたらしい。

「やっぱり強引に入ってきたんだ……」
「…………他の場所は入り方がどーにもわからず」

 いやどう考えても窓を壊すほうがよっぽど簡単だろうと思う二乃をよそに、沖田はバツが悪そうに頬をかいて庭を指さす。

「あちらです」

 そこにはあった。

 沖田総司が命ぜられた殺し合いに乗り気ではないと示す証拠が。
 そして、沖田総司がずっと他人の助けを必要としていたその理由が。

 間違いなくあった。

 というか――いた。

 寝ていた。
 倒れていた。
 横たわっていた。

 沖田よりもずっと長身で、沖田よりもずっと鍛えているのがスーツの上からでもわかる身体で――白目を剥いていた。

「(あっ、あの、途中で消えた物を引きずる音ってそういう…………)」


 ◇ ◇ ◇


42 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:43:59 Anbgji860
 
 
【3】

 悲鳴を上げてしまってから、慌てて口を押さえても。
 光を外に漏らしてしまってから、カーテンがちゃんと閉まってなかったことに気づいても。
 そして結構な時間が経ってから、大切な人たちが揃ってこのような悪趣味な企画に巻き込まれていると知っても。

 ――もう遅い。何事も、あとになってから悔やんでももう遅いのだ。

 この短い期間で、二乃はすっかり思い知ったはずだった。
 最初に出会った沖田が信用できる人間で助かったが、今後は気を付けなければならないと、そう強く誓ったはずだった。

 だというのに、またしても二乃は頭を抱えていた。
 後悔先に立たずってこういうことかと、またしても思い知らされていた。

「(安心しすぎたせいよ……普段はもうちょっとブレーキちゃんとしてるもの。そうよ。ブレーキが利かなかったのは安心しすぎたせい)」

 安心しすぎた。
 そう、安心しすぎていた。
 安心して、気づいたときには喋りすぎていた。話しすぎていた。
 完全に余計なところまで言ってしまった気がする。気がするっていうか、言ってしまっていた。

「(いやでも、そりゃするでしょ。安心するでしょ。誰でもするでしょ。
  ねっ、するわよね。する。するに決まっている。する。しないはずがないわ。
  一花でもする。三玖でもする。四葉でもする。五月でもする。だから私もする。
  はい、だからこのやっちゃった感も五等分! ぜーんぶ五等分! セーフ! それが私たち五つ子だもの! もう口止めもしたし!
  逆に安心しない人の意見を聞きたいくらいよ。あの状況でも沖田さんを疑える人間がいるのなら、そっちを逆に責めたい。どうかしてるわね)」

 うむうむと、一人で大きく頷く二乃。
 その大げさな動作は、少し前まで気味悪がっていた沖田のそれによく似ていたが、指摘するものは誰一人としていない。

「(だから仕方ない。仕方ないのよ。仕方ないじゃない。
  私から話しちゃったんだから、沖田さんが上田さんに全部喋っちゃっても。
  上田さんはずっと失神してて怯えていたんだもの。あの映像を見たときから記憶がないそうだもの。安心させるために話すのは仕方ないわよ。
  うん、仕方ない。仕方ないじゃない……。それに、別に隠してるワケじゃないし……。あの子たちにも、フー君にも、隠すつもりとかなかったし)」

 最後によりいっそう大きく頷いて、二乃は上田次郎と名乗った男に向き直る。

「修学旅行で告白? なんとバカバカしい。
 恋と呼ばれるアレは、学業から最もかけ離れた愚かな行為だ。
 したいヤツはすればいい……だが、そのような輩の人生のピークは学生時代となるだろうね」
「…………」

 驚きすぎたせいか、二乃にさほど怒りは湧かなかった。
 負い目とかはないのかなと、ただ素直にそう思うばかりだ。

 この上田次郎という男は、なんでも最初に映像を見せられた時点で失神し、そのまま寝ていたところを沖田に拾われたそうだ。
 たまたま通りがかったのが沖田だから助かっただけであり、もしも悪意ある人間であればそのまま寝ている間にすべて終わっていたのだ。
 にもかかわらず布団の上で目覚めて、未だ怯えているところに経緯を説明されて、回収してもらっていたリュックサックまで手渡されて、その上でこの態度である。

 二乃は手元の名刺を眺める。
 そこには、『日本科学技術大学理工学部教授・上田次郎』と書かれている。
 正直疑わしいと思わなくもなかったが、たしかについさっきまで失神していた彼が偽造名刺を用意できるとも考えづらい。


43 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:44:23 Anbgji860
 
「…………なんなの? 頭いいヤツって、みんなこういうところあるの? 将来が不安に」

 なるわね、と。たった残り四文字を、二乃は言い切ることができなかった
 こんな殺し合いに巻き込まれてしまった自分に、彼に、みんなに――将来なんて存在するのだろうか。

「いいんじゃないんですか、言っても」
「…………えっ?」
「奪い取られるのを恐れて口を閉ざすしかないなんて、そんなのは間違ってるんだ」

 響いた沖田の声があまりにも冷たく、二乃は思わず沖田のほうを振り返る。
 手渡した刀を抱き締めるように持つ、その手に強い力が入ったのが見て取れた。
 思わず、息を呑んでしまう。

 ――沖田総司。

 一年前の時点ならばともかく、どうにかこうにか日本史の赤点ラインを少し超えた現在の二乃には、その名が示す意味がわかる。
 沖田自身からも話を聞いた。名簿にもその名は載っていた。
 二乃とて、未だに沖田の本性を疑っているワケではない。信用できる人間なのはわかっている。

 それでも、やはり到底信じられない。
 信じられないが、たしかに沖田から時おり奇妙な凄味を感じるのは間違いなかった。
 刀を手にしたときに沖田が浮かべた普段とは異なる笑みが、二乃の脳裏に蘇ってくる。

「だから言うべきです。将来が不安になると。口に出して。是非」

 ゴホンと一つ咳をして上げた沖田の顔は、いつもの軽薄な笑みを浮かべたものに戻っていた。

 そのことに安心してから、二乃はやっと気づく。
 なにやら、ずいぶんとはずかしいことを口走ってしまっていたことに。
 どうやら、その内容を逃すことなく全部聞かれてしまっていたことに。
 そして、またしても、沖田からあっさりとバラされてしまったことに。

「えっ、はっ!? っちょ、別にそんな……そういうワケじゃ」
「将来のためには、まず高校卒業後の進路を明確にしたほうがいいな。
 君はいったいなにになりたいのか。夢はあるのか。進学か、就職か。家庭の経済状況も関わってくるだろう。
 なにより卒業するのが一番大事だが、それが不安になるような学力ではないだろう? まさか卒業も危ぶまれる立場で、修学旅行だの告白だのにうつつを……」
「あーーーーもう! なんなのよ、頭いいヤツのこういうところ! こういうところよ!」


 ◇ ◇ ◇


44 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:44:43 Anbgji860
 
 
【4】

 土方さん。
 さすがに『二度目』ともなると驚きは少ないです。慣れたもんです。
 ウソです。驚きました。だいぶ驚きました。かなり。総司、ドン引き。

 二乃さん曰く、慶応四年から百五十年ほど後とのことで。
 なんの想像もつきません。街並みもすっかり変わっていますし。
 本当は聞きたいことはいくらでもあるはずなのですが、はたして、いったいなにから聞けばいいのやら……。
 正直聞いたところで、って気がしないかというとウソになりますしね。そうなると、なおさらなにを聞くべきか。
 二百七十年遡ったのに比べれば、百五十年先へ来たのなんて、数字の上では変化が少ないはずなのにおかしいですね。

 ともあれ、朗報です。
 後世には賊軍として悪評しか残らぬものと思っていましたが、なにやら新選組、けっこーな人気者みたいです。
 あまりくわしくは知らないけど、という前置きもありましたが、それでも新選組にはもったいないくらいでしょう。

 そして、都。
 懐かしの、凄春(せいしゅん)の、京の風が吹く、あの都です。
 百五十年後には、決着をつける舞台……いや、この言い方ではあのころと変わりませんね。
 『男女の決着をつける』舞台として、多くが集まり日々賑わっているとのことです。
 喜ばしいことじゃありませんか。
 人に話したくてたまらないなァ。口止めされちゃったんスけどね。
 屯所に引っ張ってきた連中と違って、自分からいくらでも吐けそうだ。誰か引っ張ってくれないかなァ、なんて。

 いやはや。
 安心して、すべてが終わったのち二百七十年前に戻れるというものです。
 『びぃびぃ』と名乗る鬼を討ってこの催し物が終わった後、柳生さんを待たせた江戸に鬼退治をしに。

 いやあ……ねえ、土方さん。
 あの都ですよ。
 総司たちが血で汚したあの都ですよ。

 あの都が――なんですよ。

 ねえ、土方さん。
 あの都がねえ。

 百五十年先には。
 あの都がねえ。

 はは。
 やっぱり、これ聞いちゃったら他のこととか聞けないなァ。


45 : 時代を貫いて響くもの ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:44:59 Anbgji860
 
 
 
【F-5・民家/1日目・深夜】

【上田次郎@TRICK】
[状態]:健康(ついさっきまで失神してたのを健康と呼ぶのであれば)
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:ついさっきまで失神してたのでわからん。
1:ついさっきまで失神してたのでわからん。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。


【沖田総司@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:着流し、菊一文字則宗@衛府の七忍
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:『びぃびぃ』と名乗る鬼を討った後、元和に戻って鬼退治。
1:己の『誠』を信じて突く。
[備考]
※第三十五話以降からの参戦。


【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:大切な人たちに会いたい。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。



【支給品紹介】

【菊一文字則宗@衛府の七忍】
中野二乃に支給された。
日本刀。
菊一文字則宗とは、備前国の刀工・菊一文字則宗が制作した日本刀の総称で、この菊一文字はそのうちの一振り。
鎌倉時代に打たれたのち、奇縁にて新選組一番隊組長・沖田総司の元に渡り、その後沖田とともに鬼を斬るべく時空を超えた。


46 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/02(木) 04:46:15 Anbgji860
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

1レス目だけタイトル違いますが、タイトルは2レス目以降の「時代を貫いて響くもの」でお願いします。


47 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:08:42 zfF0gOa60
投下おつです!
沖田さんの最後の語り、すごく良いなぁ……!
感慨深く、京都と自分たちの未来での扱いについて噛みしめるような、あるいは飲み込めていないような。
そんな想いがこもった繰り返し。
こちらの胸にも響かせるものがある……衛府に限らず、この感じは新撰組の持ち味だなぁ……
上田先生はここからだから……教授の出番はここからだから……
でも、二乃が上田先生の普段の虚勢でとフータローくんの変わり者っぷりを連想するところはなんだか微笑ましいな
改めて、投下お疲れ様でした!

そして、千翼、善逸、五月の予約分を投下します


48 : 空腹の音 ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:11:04 zfF0gOa60



どうすればいいと言うんだ。



誰も。
誰も、千翼の将来を夢見てくれない。
誰かと一緒になって幸せになったり、何かを成し遂げて世界に貢献したりするような。
誰かの役に立ったり、一生に一人でいいから誰かを守り抜いて幸せにするような
そんな当たり前のことを、誰も望んではくれない。
生まれてきたことが誤りだったと、過去も、現在も、未来も、否定される。
なんのために生まれてきたのかわからなくなる。
だから、拉致をされて殺し合いなどと言われて行動を強制されても、それは普段の日常となんら変わらない。
千翼は生きているだけで人間の生命と尊厳を害する存在であり、人間は生きているだけで千翼を殺そうとする存在だからだ。
殺したり殺されたりするのは、普段の延長線上にしかない。
だからこそ。
千翼は自分の立ち位置を見失っていた。
人を害するために処分されることが運命づけられた自分と、その運命を理解しながらも抗いがたい生への執着、いや、願望。
そして、自らの食欲を刺激しなかった唯一の少女、イユの存在。
自らは人間だという気持ちが強くあり、そのままに生きることを許してくれるような存在。
イユが生きている限り、人間らしく生きられるのではないだろうか。

(だけど、イユも死んでしまうかもしれない……)

そんな自分勝手な想いと同時に、単純にイユの身を案じる自分もいる。
共に行きたい。
だが、それが叶わないのならば、一人だけでしか生きられないならば。
その時は。

(……っ!)

その瞬間、千翼の脳裏によぎるのは一人の女性の姿。
誰よりも愛していた、自身の母親の存在。
そして、その母親を食い殺してしまったかもしれないと感じていた恐怖。
だからこそ、千翼の心に芽生えるはずのない、自己犠牲の心も浮かび上がる。
自分が生きられないならば、せめてイユだけでも。
自分だけが生きたいと思う心も、自分を犠牲にしてイユを生かしたいと思う心も、同時に湧いてくるのも確かだった。
この体に流れる血は揺蕩う炎のようで、鮮やかにこの身を焦がしていくのを感じる。

「……よっ! ………っ!」
「だから……っ!」

そんな千翼の思考に、大声が割って入る。
千翼は自身が思考に意識を割きすぎて油断していた事実に気づき、ハッとする。
ゆっくりと、その声の方角へと向かっていく。
それは肉食動物のような捕食者の動きではなく、草食動物のような被食者の動きだった。
果たして、果たして。
その先に居たのは、なんと。


49 : 空腹の音 ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:12:22 zfF0gOa60


「頼むよ、頼む! 一生のお願いだ! 俺と結婚してくれ!
 死ぬ前に誰かと一緒になりたいんだ!」
「だから、離してください!」


ピンと一本だけ毛先が跳ねた長髪の可愛らしい女の子の足にしがみつく、派手派手しい雷のように金色に光った髪の男だった。
派手な金髪とは裏腹に、女の子を襲いかかっているのかと勘違いすることも出来ないような情けのない男だった。
あっけに取られる千翼。
その隠れている千翼に気づかずに、金髪の男はアホ毛の女の子に縋り付くことをやめない。

「だって君は俺のことを心配してくれたじゃないか!」
「男の人を心配しただけで結婚しなきゃいけないなら、私は人生で何回結婚をしなきゃいけないんですか!」

信じられない。
どうやら、この状況で金髪の男はアホ毛の女の子に結婚を申し込んでいるようだ。
頭がおかしいのか?

「死ぬ前に結婚してくれよ、俺は死んじゃうんだぜ!
 君が俺と結婚してくれれば俺は少しだけ救われるんだよ!
 だから、頼む!
 俺と夫婦になってください!」
「返してください!
 私の初めてのプロポーズをこんなことで消費した私のロマンスの夢を返してください!」

しかも、二人は初対面のようだ。
死ぬのが怖いから結婚してくれと、みっともなく求婚しているのだ。
それがどうしようもなくみっともなくて。
あるいは、自分はそんなみっともなさをさらけ出せないのに簡単に見せている男が恨めしくて。
千翼は気づけば無音で、男女にとって死角から男の側に立っていた。

「やめろよ」

ぐっと首元を引っ張って、女の子の細い足にすがりつく金髪の男を引き離す。
突然現れた千翼にビクリと女の子は体を震わせる。
対象的に金髪の男はそれほど驚いたようにもせず、恨めしそうに千翼を睨みつけて、枯れきった叫びをあげる。

「いきなり現れていきなり口を挟むなよ! なんなんだよ、お前!」
「俺は千翼だ」
「そうかい、千翼! 俺は善逸だよ、よろしくね! そして、じゃあね!」
「そっちは?」
「あ、私は中野五月です」
「無視すんなよっ!!!!」

善逸の訴えを無視してと五月の名前を聞き出した千翼。
その千翼へとやはり耳障りとも言えるほどの大きな声で自身の存在を訴えかける。
いちいち気に障る性格をしており、千翼の短すぎる人生でここまでみっともなさすぎる人物は見たことがない。

「こんなことやるなよ、善逸」
「こんなこと!? こんなことだって!?」
「五月は嫌がってるだろ、なんでこんなみっともないことしてるんだよ。
 生きていて恥ずかしくないのか?
 そもそも、生きていて恥ずかしい善逸はなんで生きてるんだ?」
「言い方がひどくない!?」

千翼の侮蔑を多くに含んだ言葉に涙を流しながら叫びを上げる善逸。
そして、なぜか胸を張って情けないことを語りだした。


50 : 空腹の音 ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:13:15 zfF0gOa60

「はっ、お前を俺を買いかぶってるんだよ!
 舐めるなよ、俺は弱いんだ!
 千翼に五月ちゃん、お前と君が今想像したその倍は弱いんだぜ!」

本当に胸を張るようなことではなかった。
そして、善逸は眼球を飛び出さんばかりに目を見開いて、虚空へと向かって指さした。

「あっ!!!」

思わずといった様子で千翼と五月は指さされた方向へと視線をやった。
だが、そこには何もないとわかり、訝しげに善逸へと視線を戻した。
そこにはなぜか『してやったり』と誇らしげに顔を笑みに浮かべた善逸がいる。

「いいか、今、お前が視線を離して視線を戻した瞬間だ!
 俺はその一瞬の間に死んでる自信があるぐらいだぜ!
 むしろ今生きているのが奇跡なぐらいなんだ!
 だから、俺は五月ちゃんと結婚しなきゃいけないんだよ!」
「何が『だから』なんですか!」

我慢が出来ずに、五月が大きな声で言葉を挟む。
その言葉に対して、五月よりもさらに大きな声、いや、叫びで善逸は答える。

「死ぬの怖いんだよおおおおおおおおお!!!
 いや、生きてるのも怖いこといっぱいだから怖いんだけど、死ぬのもそれはそれで怖いんだよねっ!
 だからさ、死ぬならその前に一度ぐらい幸せな気持ちになりたいじゃないっ!」

完全に錯乱していた。
千翼は戸惑っていた。
千翼は確かに若すぎると言ってもいいほどの年齢だが、善逸ほどのおかしな人間は見たことがなかった。

「死ぬ前に一回でいいから女の子と結婚したいんだよ!
 独身のまま一人で死ぬなんて絶対に嫌だね!」

そしてまた、千翼の影で五月も驚いていた。
五月は、丁寧な言葉づかいから勘違いされることもあるが、あまり頭が良くない。
嘘をついた。
五月は頭がすごく良くない。
それでも、善逸のような自分の倍は頭が悪いであろう人間には出会ったことがなかった。

「俺には見えるぜ!
 あの桃色の髪をしたかわいい女の子みたいに、俺は首と胴体がお別れして死ぬんだ!
 やだ、鬼殺の剣士なのに鬼みたいに死んじゃう!
 いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「うるさいっ!」

甲高く汚い叫びを上げる善逸の腹部を、ドンッ、と軽く叩く千翼。
うぇぇっ、と呻きながら、ドスン、と善逸は地面に倒れ込む。
その体を抱えあげながら、五月へと顔を向ける。

「とりあえず、ここから離れよう」
「あっ、はい」

馬鹿騒ぎをしすぎた、悪意が近づいてくるかもしれない。
なんだか、馬鹿を見ていると馬鹿らしくなってきた。


51 : 空腹の音 ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:14:21 zfF0gOa60






うん、俺ちょっと動揺しすぎてたわ。



善逸は千翼から差し出された饅頭を頬張りながら、自己反省を行っていた。
動揺しすぎていたとはいえ、初対面の女の子に求婚する。
罪悪感を覚える。
それは五月に対してではなく、『竈門禰豆子』に対してだ。
禰豆子と出会い、心を奪われてからそんなことはなくなったというのに。
断っておくが、禰豆子は『とある事情』で知能を大きく退化させており、善逸の想いに気づくどころか会話すらも叶わない存在。
決して善逸と禰豆子の関係は恋人といったようなものではない。
一方的に善逸が禰豆子へと想いを寄せているだけだ。
なのに、五月へと求婚をしたことに禰豆子を裏切ったようで善逸の小さな良心がギスギスと痛む。
五月に対しては無自覚に迷惑をかけたなどと思っていない辺り、善逸の性格の問題点が伺える。

「へー、五月ちゃんは姉妹がいて、その末っ子なんだ」
「はい、世界で五人だけの姉妹です」
「大家族だね、話に聞く炭治郎んとこみたいだ。
 五月ちゃんの姉妹ならみんな美人なんだろうなぁ」

五月もまた千翼から受け取った饅頭を頬張っている。
ただ、ペースは善逸の倍は早い。
善逸はそれを見て女性らしくないと蔑むことはしない。
よく食べることは良いことだと思うし、幸せそうに物を食べる女の子は可愛らしい。
しかし、五月は千翼から差し出されたこの饅頭が毒入りだとは思わなかったのだろうか。

(千翼から『殺意の音』は聞こえないから俺は食べたけど、五月ちゃんもなにか根拠があるのかな?)

千翼はひどくぶっきらぼうで、無愛想で、言葉もきつくて、いきなり殴りかかってくるやつだ。
そんな粗暴者の千翼だが、泣きわめく善逸と不安がる五月に食料を分けてくれた。
腹が満たされれば人間は落ち着く。
事実、善逸は先程の恐怖がわずかに収まり、こうしてまともな思考が働いていた。


52 : 空腹の音 ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:15:33 zfF0gOa60

(ああ、そうか。そういうことなのか)

千翼がぶっきらぼうで、無愛想で言葉もきつくて、いきなり殴りかかる理由が善逸はストンと腑に落ちた。
千翼は『腹が減っている』のだ。
だから、ずっとイライラしているのだ。
しかし、善逸の理屈はおかしい。
腹を減っている千翼がなぜ饅頭をよこしてきたというのだろうか。
それに対しても善逸は自分なりの根拠があった。

(こいつ、不思議な音なんだよな。
 『鬼』とよく似てるけど、ちょっとだけ違う。
 怖い音なのは間違いないけど)

生き物には、それぞれ独特の音がある。
たくさんの音があって、それはそれはたくさんの音がある。
善逸は耳がすごく良いから、それを注意深く聞けば、いろんな事がわかる。
例えば、千翼が『人間』じゃないことも。

(人間じゃないのは間違いないけど、でも、人間でも鬼でもないってどんなんだ?
 でも、どちらかというと『鬼』に近いのは間違いないな)

千翼は『人』を食う。
それは確信に近い想いで善逸は感じ取っていた。
だけど、善逸は千翼を恐れず、むしろ、その事実こそを信用の一因にしていた。

(禰豆子ちゃんと同じだ。
 人を食いたくてたまらないのに、人を食わない。
 千翼はきっと我慢強くて、優しいんだ。
 本当はもっと優しい奴なんだろうけど、お腹が空いてるからずっと優しくいられないんだろうな)

善逸は、信じたい人間を信じる。
例えそれが人間でなくとも。

(それに、哀しい音がするんだよな……こんなことを言うと怒られるかもしれないけど)

なんだか、自分によく似てる。
孤独に苦しむ音だ。
誰も自分に思いを寄せてくれないと悲しんでいる音だ。
善逸が四六時中自分の中から聞いていた、そんな音だ。
夢を見るにも栄養が必要なんだ。
それが満タンになる人が幸せになれる人で、そして、それを満タンにしてくれる人が運命の相手なんだ。
でも、みんながみんなその栄養を取れるわけじゃない。
だから、千翼や善逸の心から響く音は。
幸せという栄養を取りたくて鳴いている、心の空腹に苦しむ音なんだ。


53 : 空腹の音 ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:16:39 zfF0gOa60





困りました。


中野五月の脳裏にはその言葉しか浮かばなかった。
これほどに困ったことは人生で一切ないと言っても良い。
考えれば考えるほど泥沼に沈み込んでしまうような、そんな状況だった。
そんな状況だったからだからこそ、善逸の常軌を逸した突然の初対面プロポーズにも救われたかもしれない。
ひたすらに善逸への不快感が勝り、その困惑も吹き飛んでしまったのだから。
自分を助けてくれた優しい少年にも出会えたし、落ち着いた善逸からも『さっきのことは忘れて欲しい』と謝られたこともプラスになっている。
無愛想な少年と情けのない少年に挟まれたこの状況。
女性ならば貞操の安全を覚えるべきだろうが、しかし、そんな心配をすることが馬鹿らしいような状況だ。
人が死んでいる。
ぶるり、と体が震えていた。
グロテスクな映像が流れ出して、自分はどこともしれぬ場所をフラフラとさまよっている。
それを悪い夢と考えることもできるが、五月は確かな恐怖によってそんな現実逃避すらも出来なかった。

(ああ、しかし、どうしましょう。なにをすれば良いのか……)

四個目の饅頭に手を伸ばしながら、五月は脳の大半をこれからのことに対する思考に割いていく。
しかし、わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからないことだらけの中で、五月はひとつだけわかることがあった。

「提案なんですが……」

横を歩く善逸は五月に視線を移し、先を歩く千翼は立ち止まってこちらを振り返った。
五月は一つ提案を行った。
一つだけわかった、確かな事実を伝えるために。

「ゴハンを食べに行きませんか?」

五月のお腹は満たされていなかった。



【D-6/1日目・深夜】

【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:まだ食うつもりなのか。
2:五月に対して僅かな苛立ち、善逸に対して侮蔑に近い感情。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。


【吾妻善逸@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:よく食べる五月ちゃんも可愛いな。
[備考]
※禰豆子との出会い以降からの参戦。
※千翼が人間でないことに『音』で気づいています。


【中野五月@五等分の花嫁】
[状態]:健康、空腹
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:お腹が空きました。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。



【支給品紹介】

【マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order】
千翼に支給された。
キャラクター饅頭。
デフォルメした英雄、偉人、人類最後のマスターの絵が描かれている。


54 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 09:16:57 zfF0gOa60
投下終了です


55 : 名無しさん :2019/05/02(木) 09:26:54 hcsOXZn60
投下乙です
千翼は結婚どころかキスすら許されないんだよな


56 : 名無しさん :2019/05/02(木) 09:57:40 EVaMiLVA0
投下乙です

>Anfang
実家のような安心感
やはりブレないキャラというものは良いものです。
視界の都合上、ほかキャラと合流してからが色々と本番になりそうですが、
アマゾン以外に対する対処も気になりますよね。

>殺し合いの利点
両作品とも原作を知らないのですが、よくキャラがわかるように書かれていたと思います。
特異な存在があるがゆえの行動方針、
そして殺し合いに巻き込まれての冷静な行動方針と原作キャラが〜というよりも
バトルロワイアルとしての行動〜での楽しみ方をさせていただきました。


>時代を貫いて響くもの
色々好きなんですけど、やはりいちばん最後の「あの都」を繰り返すのが
何よりも雄弁に沖田総司の色々を物語っていて大好きです。

>空腹の音
初登場時の善逸のくだりを3人で再現しながら、
善逸が千翼の音を聞く描写、そして最後の食事へと行く全てへと最終的に纏めていく感じが好きです。
誰よりも満たされない千翼が悲しい。


57 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 11:56:10 UOet2yD20
投下お疲れ様です。

なんという力作揃い……!
では私も酒呑童子、村山良樹、マシュ・キリエライト投下します。


58 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 11:57:03 UOet2yD20
「夏の時といい、けったいな企画ばあっかり考えるもんやねぇ」

 モニュメントが特徴的な駅前広場で異形の少女が嘆息しながら呟いた。
 肩を肌蹴る様に着崩した着物をはじめ月光に生える白い肌を惜しげもなく晒した煽情的な格好は、幼さの残る少女の顔とミスマッチした妖艶さを放っている。
 だが、人目につく出で立ちよりも目につくのは額部分から生える一対の角だろう。それが彼女が人ならざる魔性の存在であることを、何よりも如実に証明していた。

 大江山を統べる鬼。
 アサシンのサーヴァント。
 日の本にその名を轟かす大化生。

 その名を、酒呑童子。

 カルデアのサーヴァントとして召喚されていた筈の彼女であったが、気づけば見知らぬ街に呼び出され、殺し合いを強制される事態へと陥ってしまっていた。
 溜息と共に出た気怠げな呟きからは焦燥や危機感といった感情を察することは出来ない。
 呆れと面倒くささの混じった表情は、殺し合いに呼び出された今の状況にそぐわぬものだ。というのも、この催し物の主催が顔見知りの可能性がある事が大きいだろう。
 
 BB。いつの間にか彼女のいるカルデアにて召喚されていた出自不明のサーヴァント。
 夏に異世界の邪神と同調しハワイを舞台に騒動を巻き起こしたことは酒呑童子の記憶にも新しい。
 知己である茨木童子が巻き込まれていたこともあって、彼女らのマスターである藤丸立香からことの顛末は一通り聞かされていた。
 その時のトラブルの張本人がまたもこの様な騒動を起こした。巻き込まれた身からすれば気勢が殺がれるのも無理はない話だろう。

「余所の神さんがまぁだ憑いてたのか、それともカルデアのとは別の霊基のBBはんなのか、なんにしてもエラい迷惑やねぇ。折角小僧と酒でも呑もか思てたんにその酒まで取り上げるなんて無粋にも程があるわ」

 不満げに口を尖らせながら、彼女の右手がいつも瓢箪を腰に提げていた場所に触れる。
 酒呑童子の宝具にして死因である神鞭鬼毒酒は今彼女の手元に存在しない。愛用の刀剣もである。
 こちらへの強制転移の際、首輪をつけられるついでに没収されたのであろう。それもまた、彼女のモチベーションの低下に拍車をかけていた。
 そうして溜息をもう一つ吐くと、その首がぐるんと物陰の方へと向けられた。

「なあ、あんたはんかて迷惑やと思わへん?」

 喜色に満ちた視線が物陰に浮かんだ人影へと向けられる。
 ステレオタイプな不良といった様相の少年が異形の少女に向かってゆっくりと歩いてくる。


59 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 11:57:41 UOet2yD20
「なにアンタ、角なんか生えてるけど何かのコスプレ?」
「”こすぷれ”……、ああ黒髭の旦那がなんやら言いはってた当世風の仮装のことやったやろか。生憎とそんなんちゃうよ」
「ふーん」

 少年が歩きながら世間話でもするような調子で酒呑童子の容姿の特異性、二本の角について尋ねる。もっとも角が無かったとしても現代社会の一般的なセンスからすれば特殊と呼べる服装からして、彼が尋ねたように何らかのコスプレと取られても仕方のないものであったが。
 酒呑童子の返事にどうでも良さそうな反応を見せながら男は一歩一歩確実に酒呑童子へと近づいていく。その表情に油断はない。
少年の名は村山良樹。SWORDの”O”、鬼邪高校の番長を務める男。
 その憮然とした表情からは、彼が今どういう感情を持っているのか伺い知ることは出来ない。
 少女と少年が向かい合う。身長は村山の方が上、酒呑童子が彼を見上げる形だ。
 
「で、さっきの声の女のこと知ってんの?」
「知っとるとも言えるし、知らんとも言えるなぁ」

 挨拶すらない不躾な質問。その内容からして、先ほどの酒呑童子の独り言の内容が耳に入っていたのだろう。
 村山の視点であれば、ともすれば殺し合いを命じた人物に加担している可能性がある人間だ。その言葉尻や態度には攻撃的な色が見え隠れしている。
 対して酒呑童子は、その失礼とも言える態度に激することなく、そして威圧的な態度に臆することもなく、口元に人差し指を軽く当てながら意味深長な笑みを浮かべて応えた。村山の眉間に微かに皺が寄る。

 だが、言い方はどうあれ酒呑童子の返事は真実である。
サーヴァントとはあくまでかつて存在した英雄・反英雄の影法師。召喚される時と場所が異なるのであれば同じ名・同じ肉体・同じ意識を持っていたとしてもそれは別の存在である。
 彼女らに殺し合いを命じたBBがカルデアのBBであるという保証はどこにもないのだ。
 故に”知っているとも言えれば知らないとも言える”という返答をしたのだが、無論のこと魔術師でもない村山にとって煙に撒くような虚言としか取れない内容である。
 もっとも、酒呑童子本人に目の前の人間をおちょくろうという意志があったことも一つの事実ではあるのだが。


60 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 11:58:15 UOet2yD20

「嘗めてんのか?」
「ああん、そんな怖ぁい顔せんの。イケメンのお顔が台無しやわぁ」

 声にドスを利かせ、村山が酒呑童子を睨みつけた。
人を食ったような酒呑童子の態度は、ただでさえ殺し合いなどという場に勝手に拉致されて不機嫌になっていた彼の神経を逆撫でしていく。
 気の弱い人間であればすくみ上るだろうが、相手は人を脅かし戦かせることを本領とする鬼の首魁である。ケラケラと笑いながらその視線を、見下ろす村山の視線に合わせた。
 重なる視線が周囲に不穏な気配を生じさせていく。

「あんたはん、ええ目しとりはりますなぁ。小僧とも旦那はんとも違うて、ギィラギラした光が綺麗やわぁ」
「だから嘗めてんのか、って聞いてんだけど?」
「せやねぇ、嘗めてるつもりはないんやけど、舐めてみたくはあるかなぁ」
「は? 何言って――!」

恫喝めいた質問にも答えず勝手に話を始める酒呑童子に、村山の元々短かった堪忍袋の緒が切れかけようとしたその時。不意に彼の背を悪寒が走りに抜けた。
数々の修羅場を潜り抜けた第六感に従うように、瞬時に後ずさる彼の視界を肌色の風が吹き抜けた。
先ほどまで彼の顔があった場所、正確に言えば目のあった位置を酒呑童子の右手が薙いだのだ。

「テメェ……!」
「よう避けたなぁ。あんたはんの目、道中に舐める飴玉代わりにしよかと思ったんやけども。フフ、お上手お上手」

振るった右腕をヒラヒラとさせながら剣呑な笑みを浮かべる酒呑童子に対し、村山が拳を構えた。
得体のしれない怖気を感じ彼の頬を冷たい汗が一筋垂れる。
ここまでは目の前の少女が敵か味方かも分からない不審人物といった認識であったが、今や完全に村山にとって彼女は敵だ。

「逃げてもええよ? 鬼ごっこも嫌いやないし」
「……ラアッ!」

 拳を固めた村山が距離を詰め、酒呑童子に殴りかかる。
 彼女の挑発染みた物言いに触発されたという訳ではない。
 守勢に入る、逃げに回れば活路はないと判断しての行動だ。
 酒呑童子の整った顔に目がけ振りかぶった拳を迷いなく、そして勢いよく振り下ろす。
 引き絞った弓矢の如き鋭さで放たれたパンチだが、それは彼女の顔に到達する前に左手に受け止められた。

「怖い怖い、女性の顔殴ろうやなんて、こらお仕置きが必要やねぇ」

 クスクスと笑う酒呑童子の姿に危ういものを感じ村山は打ち放った拳を引き離そうとするが、まるで瞬間接着剤で貼りつけられでもしたかのように拳が彼女の左手から離れない。
 このままでは不味い。焦燥が村山の心を支配する。
 蹴り飛ばしてでも強引に手を剥がそうとした、その瞬間。村山の視界が反転し、背中に強い衝撃が走った。
 肺の空気を強制的に吐き出させられ、村山がゲホッとせき込む。
揺れる視界に映ったのは、自分の拳を握った状態で腕を降ろした酒呑童子、そして真上に見える夜空と月。
視界に映る光景で、握られた拳を支点に自身の体が振り回され地面に叩きつけられたのだと認識した。
 そしてその瞬間に彼の視界は再び瞬転し、再びその身に衝撃が襲い掛かる。
 衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。
その身を何度も叩きつけられる激痛の中、村山良樹は自分が対峙した存在が人の理の範疇にある化け物であることをようやく理解することが出来たのだった。


61 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 12:00:00 UOet2yD20

「ほいっ、ほいっ、ほいっと」

 軽い調子の掛け声に連動して酒呑童子が左腕を振り回す度に大の男が何度も地面に叩きつけられていく。
 恐るべきは鬼の膂力。その細腕のどこにその様な力があるのか。
圧倒的な暴力に晒された村山はさながら癇癪を起した子供に振り回されるぬいぐるみといったところだ。もっとも飛び出すの綿ではなく赤い液体であるのだが。
 そうして何度か村山を地面に打ちすえた末にようやく酒呑が村山の拳を離した。
 地面に転がる村山の衣服は所々破け、そしていたるところから青痣を除かせている。

「いかんなぁ、やり過ぎてしもたやろか。旦那はんに叱られてまうかねぇ」

 興が乗り過ぎた己に反省しているかのような口ぶりであるが、嬉々とした表情が示す通りに無論口だけの反省である
 ピクリとも動かず仰向けに倒れる村山。
 その痛ましい姿を気にも留めず彼をこの様な姿にした主は本来彼にしようとしていた行為。即ち目玉をくり貫こうとして屈み込んだ。
 鋭い爪の生えた右手が村山の右目へと伸びる。その爪が瞼を貫き眼窩から目玉を抉り出されるのはもはや時間の問題だと思われた。
 そこで一つの番狂わせが起こる。
 不意に、気絶し閉じられていたと思われていた村山の両目がカッと見開かれたのだ。

「っ!?」

 既に勝負は決していたと思っていた酒呑童子はその不意打ちじみた反応に気を取られ対応できなくなる。
時間にして数秒にも満たない一瞬。だが、その一瞬の隙を狙いすましていたかのように横合いからの衝撃が酒呑童子を襲う。
 先ほどまでだらんと力なく垂れていた村山の右腕がしなるように動き、小気味のいい音と共に酒呑童子の左顔面に吸い込まれたのだ。
 鬼の体勢がぐらりと揺らぐ。
 倒れるまでは行かない。それでも確実に、人間からの一撃を受けその体勢は揺らいだのだ。
 鋭い視線が自身の頬を殴りつけた相手へと向けられる。
 再び男と女の視線が重なった。

「やられっぱなし、ってのは、性にあわねえんだよな」

予想外の一撃を受け、呆気に取られた酒呑童子を見て、満足そうに村山が笑う。
何度も人外の膂力で叩きつけられてもなお一撃を繰り出せる程の化け物染みた頑健さ。
鬼邪高校の不良達による100発の攻撃を受けきり、あまつさえその全員を返り討ちにした村山の打ち立てた伝説など、当然ながら酒呑童子は知る由もない。
酒呑童子が殺す気で村山を攻撃していなかったというのはあるだろう。
しかしその上であっても村山のもつ出鱈目なまでのタフネスと精神力がなければ起こしえなかった奇跡である。

「さあ、ケジメ、つけ、よ……」

 だが、奇跡はそこで打ち止めだった。
 村山の意識が急激に闇に呑まれていき、一撃を入れた右腕が力なく地に落ちる。
 人並み外れたタフネスであっても一撃を入れるだけで限界だったのだ。
 気力だけで持たせていた肉体は、ようやく一撃を入れられた事による達成感で緊張の糸が切れたかの様に力を失っていく。

 “まだだ、これからが本番だ。”

 そんな思考も空しく、村山の視界は閉じられた。


62 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 12:00:37 UOet2yD20

「もう、いけずな小僧やねぇ」

 今度こそ完全に気を失った村山を見て、酒呑童子が呟く。
 左頬に指を添える。ジンジンとした殴られた感覚。
 鬼でありながら年端もいかぬ少年にいっぱい食らわされたという事実。
 これが彼女の友である茨木童子であれば屈辱と怒りに燃え暴れ狂っていただろう。
 だが、酒呑童子は。
 容の整った鬼の顔に半月が浮かぶ。

「人をその気にさせといて勝手に寝てまうなんて、これじゃあ生殺しやわ」

 嗤っていた。
 楽しげに、愛しげに、酒呑童子は嗤っていた。
 その笑みは妖艶で、無邪気で、そして凄惨だ。
 ツゥっと細い指が気絶した村山の頬を撫でる。
 
「興が乗ってきたところやったんよ? ウチどうやってこの昂りを沈めればええと思うてはるん?」

 村山が答えない。
 酒呑童子は構わない。
 もとより、返答を期待しての問いかけではないのだから。

「まだ、息はあるようやけど、せやねえ。腕の一本、目ぇの一個取ったくらいじゃ死なへんよねぇ? あかんやろか?」

 村山の顔を覗き込みながら酒呑が語り掛ける。
 同時に、彼女の右腕が伸びるのは村山の左腕。
 剣呑な物言いを実行するつもりなのだ。
 そうすれば、村山は恐らく死ぬだろう。
 それは彼女のマスターである藤丸立香が良しとしない行いだろう。
 それでも、酒呑童子は止まらない、止まれない。そうであるが故に、彼女は”鬼”という存在であるのだから。
 村山の腕を握った右腕に力を込めようとする。

 が、村山の左腕が潰されることはなかった。
 一発の銃声が成り響き、酒呑童子の近くの地面を舗装していいたアスファルトがはじけ飛ぶ。
 酒呑童子は右腕に込めていた力を抜き、視線だけを銃声の響いた方向へと向ける。
 その先にいたのは、銃を構えた緊張した面持ちの桃色髪をした少女の姿だった。


63 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 12:06:37 UOet2yD20

「先に宣言しておきますが、これは他のサーヴァントが使用していた銃器です。貴方にも効果はありますのでおかしな真似はしないでください」
「同じカルデアの仲間なのに酷いなぁマシュはん。ウチ泣いてまいそうやわ」

 村山の腕を離しながらも悪びれぬ調子で応える酒呑童子の態度に、マシュ・キリエライトの表情は厳しくなる。
 僅かに、彼女の銃、トンプソン・コンテンダーを握る手に力が入る。

「あなたは、カルデアの酒呑童子さんなんですね」
「そうやよ? 旦那はんのこともあんたはんのこともよぉく知っとる、カルデアの酒呑童子さんや」
「なら何故、そのようなことをしているんです! 納得のいく説明を求めます!」

 激昂した調子でマシュが酒呑を問い詰める。
 よもやカルデアに所属する仲間がサーヴァントでもなさそうな一般人を痛めつけているなどという状況は彼女にとって信じられないことであり、許せぬことだったのだろう。
 酒呑童子を見る目が一層険しくなる。

「納得のいく説明ぃ言われてもなぁ。売り言葉に買い言葉で後は……興が乗ってしもたってところかなぁ」
「なっ……!? それだけでそこの方をそこまで痛めつけたんですか!」
「それだけって、それでそこまで出来るのがウチら鬼やないの」

 酒呑からの返事に目を向くマシュに対し、酒呑童子が意地の悪い笑顔を浮かべる。
 マシュとて酒呑童子、引いては鬼と呼ばれる種族の危険性と不安定さは金時を初めとした鬼の存在を知る仲間から何度も聞かされてきた。
 しかし、それが実際にどのような危うさであるかを実感したのは今回が初めてである。
 人理修復に協力してくらたからといってその存在が必ずしも善性のものである訳がない。そんな当たり前のことをここにおいてマシュは改めて痛感していた。
 どうすれば、酒呑童子の凶行を止められるか、倒れた少年を助けられるか。
 本来であれば持っている盾もなく、支給されたアサシンのエミヤが所持していた銃を片手にマシュは答えの見えない思考の渦に呑まれていく。

「まあええわ、あんたはんのお陰でええ感じに興も殺がれてしもたし、この辺にしとこかな」

 そんな思考の海に沈みかけていたマシュを引き上げたのは事態の張本人たる酒呑童子であった。
 銃を構えたマシュなど気にも留めずに立ち上がり、パンパンと脛についた汚れを払い、いずこかへと向かう為に踵を返す。

「待ってください!まだ話は……!」
「お説教は勘弁やわぁ。追ってきてもええけどそしたらそこの小僧はボロボロの状態でここに置いてけぼりやねぇ、どうするん?」

 慌ててて引き留めようとするマシュに対し、首だけで振り返り二つの選択肢を投げかける酒呑童子。
 マシュの眉間に皺が寄る。
 酒呑童子を追わなければまた騒動が起きるかもしれない、だからといってこの殺し合いの場でボロボロになった人間を見捨てることが出来るのか。
 答えは否だ。これまでの旅で培った人間性は彼女に非情な決断をとらせる事を拒否させる。


64 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 12:07:08 UOet2yD20

「ふふ、旦那はんと同じでええ子ちゃんやもんねぇ。せやろねぇ」

 苦渋に満ちた表情で銃を降ろしたマシュに対し、酒呑はにんまりとした笑みを浮かべる。
 カルデアで共に戦う仲間である以上、この状況で彼女がそういう行動を取らざるをえないことなど、熟知しているのだ。

「あ、そうそう。そこの小僧が目ぇ覚ましたら“強くなったらまたおいで” って伝えておいてな。ほな、あんじょうよろしゅう」

 それだけを伝えると、酒呑童子は駅前広場のビル群の影に消えていく。
 数秒もしない内に酒呑童子の姿は見えなくなる。残ったのは力なく項垂れるマシュと傷だらけの姿で横たわる村山の二人だけだ。
 銃を腰のホルスターに納め、マシュが村山へと近づき脈拍を取る。
 打撲が酷いが息はある、これならば支給品にあった救急箱の薬品や包帯で治療が可能かもしれない。
 傷だらけの村山を背負いあげ、周囲を見回す。
 何にしろどこか身を休められるところでなければ治療も整理もままならない。

 何故、BBがこんなことをしでかしたのか。
 そもそもBBはカルデアのBB本人か。
 殺し合いを脱出する方法はあるのか。
 酒呑童子をどうすれば止められるのか。

 藤丸立香は果たして無事でいるのか。

 何も、何も彼女は分からない
 どうしてと悩むことしか、どうかと祈ることしか今の彼女にできることはない。
 その背中は人理の守護者と形容するにはあまりにも小さく、頼りなく見えた。


65 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 12:07:55 UOet2yD20

【F-2/1日目・深夜】

【村山良樹@HiGH&LOW】
[状態]:全身打撲、気絶
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:気絶中
2:ケジメはつける
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます


【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、ランダム支給品0〜1、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:少年(村山)を治療する
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。


66 : 鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 12:11:13 UOet2yD20

 鼻歌交じりにビルがそびえる路地裏を酒呑童子が歩く。

「面白い小僧と会えたんは幸先がええわぁ、ああいう子が仰山いてはるんなら、旦那はんには悪いけども祭に乗るんも悪ないわなぁ。鬼は鬼らしゅう楽しんでみよか」

 脳裏に浮かぶのは先ほど彼女が痛めつけた村山良樹のこと。
 彼が加えた窮鼠が猫を噛んだ様な一撃は鮮烈に彼女の記憶に残った。
 鬼が人に一撃を食らわされたというのも勿論ではあるが、何よりもその時の村山の表情が強く記憶に焼き付いていた。

 “ケジメをつけよう”と掠れた声で呟いた時の、村山の表情。
 口許からは血を垂らし、地面に叩き続けられてボロボロの状態であったのにも関わらず、村山良樹は笑っていた。

 牙を向き。
 目を光らせ。
 楽しそうに。
 鬼の様に。

 確かに、村山良樹は嗤っていたのだ。


【F-2/1日目・深夜】

【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、左頬に打撲
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:小僧(村山)と会って強くなってたら再戦する
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません

【支給品紹介】

【トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order】
マシュ・キリエライトに支給。
アサシンのエミヤが宝具時などに使用しているもの
起源弾は入っていない。

【救急箱@現実】
マシュ・キリエライトに支給。
包帯を初め市販の医療薬品詰め合わせ。


67 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/02(木) 12:12:40 UOet2yD20
以上で投下を終了します。

宝具没収など勝手に書いてしまいましたが、もし問題があるようでしたら修正いたします。


68 : 名無しさん :2019/05/02(木) 14:14:25 Anbgji860
投下乙でーす

>空腹の音
うわははは、いいですね
パッと見原作初登場時のイメージ通りクズの、というか作中でやっていることはほぼ錯乱したクズの善逸が、しかし千翼と五月を落ち着かせるキーになってるのがおもしろい
「どうすればいいんだ」とひとり悩んでいた千翼に、「なんで生きてるんだ。はずかしくないのか」と言わせたのは、実はものすごいことなんだよ
五月だって描かれていないだけで本当はそうで。ひとりだったらいろいろ悪いほうに考えていたはずなのに、錯乱した善逸と出会って、千翼が割って入って、善逸が正気に戻ったからこそ、なんだ
あっさり動揺するだけでなんならすぐに正気に戻れる善逸が、本来は落ち着くまで時間をかかるはずの二人をあっさり落ち着けたの、いやぁおもしろいですね

>鬼が嗤う
酒呑童子さん、素敵〜
もうね、普通に話していたはずなのにあっさり目を取りに来たところから、完全に好きなヤツでしたよね
名簿的に『鬼』はカギになりそうなので、こういう鬼ムーブ見せられるとグッときちゃうなあ。FGOで彼女がよく言っている『ついさっきまで愛でていたものを殺す』っていう。
予期せぬ反撃に驚くのは驚くけど、それが効くかどうかは話が別なのもたまりませんね。鬼は強いのだ
『カルデアの酒呑童子』で出した上で危うい鬼やらせるの難しいかなあと思ってたので、それやった上でおもしろいのを出してるのはアガっちゃいますね。ぞくぞくするぜ


69 : ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/02(木) 17:59:52 HPWILaFE0
 皆様、投下お疲れ様です。
 拙いながらも感想をば……。

>>Anfang
 ほぼ盲目の状態での参戦とはこれまたキツいものがありますね。
 でもこの状況でも一切ブレない辺り、流石というべきかなんというべきか。
 アマゾンではないにしろおっかない人畜有害な奴らがたくさんいる名簿なので、その辺りのキャラと関わるのが今から楽しみ……。

>>殺し合いの利点
 バトルロワイアルを宿敵を殺せる数少ない好機として捉える思考が面白いですね。
 あくまでも佐藤打倒優先の永井と同行する羽目になってしまった石上くん、前途多難な予感。
 ただ偽名でよりにもよってな人選をしてしまってる辺りが後で響いてきたりするのだろうか……w

>>時代を貫いて響くもの
 二乃の言動が実にらしくて可愛い。個人的にこういうところでそのキャラらしさを出せるのは凄く尊敬。
 それはそうと、「あの都が――なんですよ」の下りがいいですね……凄く風情があって好きです。
 そりゃ動乱にまみれた血腥い時代しか知らない人間が現在の都の話を聞かされたらこうなるよなあ。

>>空腹の音
 何だか大分昔のことに思える善逸のお決まりムーブとそれに対する五月の反応が微笑ましい。
 そして善逸の千翼に対する評、あまりにも良さが深い……。両作品、両キャラクターへの理解の深さが窺えました。
 千翼という約束された不穏を抱えながら進むことになる三人ですが、果たしてこの先どうなるのか。

>>鬼が嗤う
 酒呑童子の描写が素晴らしい。英霊剣豪七番勝負で見られたのともまた違う鬼の本来の側面がおぞましくってとても素敵です。
 更にそれに結果はどうあれ一歩も退かず怖気づかず向かっていく村山のかっ飛び具合も圧巻ですね。
 ぐだも居ない、カルデアと通信も出来ない状況のマシュがこんな状況に出くわしたらそりゃ悩み込んじゃうよなあ。

 というわけで、自分も投下させていただきます。


70 : 月と太陽 ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/02(木) 18:01:19 HPWILaFE0


 ───何が何だか分からない。それが、五つ子姉妹の三女である中野三玖が最初に零した台詞だった。


 今、自分は悪い夢でも見ているのだろうか?
 彼女がそんなホラー映画の主人公のテンプレートのような思考に陥ってしまうのはしかし、まこと詮無きことであった。
 何から何までが突然過ぎる、突飛過ぎる。前置きも、伏線も、フラグも、何もない。
 ふと目を覚ました瞬間には、三玖は見知らぬ山の只中に放り出されていた。地図に依れば此処は那田蜘蛛山と呼称されているらしかったが、そんなことはこの際どうでもいい。
 では何が重要なのかと言えば、言わずもがな件の『BBチャンネル』についてであろう。より正確に言うならば、あの巫山戯ているとしか思えない放送の中で告知された、『バトルロワイアル』について、か。

「殺し合い……」

 意外にも、言葉に出してみても現実感は湧いてこなかった。
 端的に言って荒唐無稽、それに尽きる。そもそもバトルロワイアルという単語だって、あのBBなる少女が口にするよりも遥か以前からこの世に存在していた筈だ。
 三玖はその単語が社会に知れ渡り、多くのジャンルに影響を与えるに至った大元の文学作品に目を通したことはなかったが、それでもその概要くらいは知っている。だが、改めて語る必要はないだろう。その本の内容は、あの放送にてBBが語ったものと殆ど同一のそれであるのだから。
 即ち、殺し合う。最後の一人になるまで殺し合い、生き残りを選定する。
 生存者たちの首には爆弾付きの首輪を結び付けることで反乱を抑制し、常に恐怖という枷で縛り、疑心暗鬼と混乱を招いて殺人の誘発を狙う……こんな思考をすること自体不謹慎に過ぎるが、実によく出来た趣向だ。
 こと人の弱さを暴走させて惨事を引き起こそうと思うなら、これ以上のやり口はまず存在すまい。

 そして今。中野三玖という何ら変哲のない少女を載せて、確たる現実のものとして『バトルロワイアル』という箱舟が航行している。
 三玖は頭がくらくらする思いだった。何だこれは、どうなっている。なんで自分が───いや。

「なんで"私達"が、こんなことに───」

 そう。三玖はあの放送が終わるや否や、すぐにBBによって配布されていた参加者名簿に目を通した。
 双子として生まれた兄弟姉妹は、理屈では説明することの出来ない奇妙なつながりを持っているとよく言われる。
 その真偽は兎も角として、その時三玖が目には見えない何かに突き動かされていたのは確かだった。
 猛烈に、嫌な予感がしたのだ。更に言うなら名簿を取り出そうとしているその時点で、三玖はその予感が恐らく当たっているだろうことについても確信していた。
 それについては、根拠もある。何故なら自分達は、この世に生まれて産声をあげてからというもの、ずっと五人一緒だったから。何をするにも五人で一人。その"いつも通り"が崩れ始めたのは、ほんのつい最近のことで……

「……、……っ」

 故に当たり前のように、名簿には三玖と同じ『中野』の姓を持つ四人の少女の名前が記されていた。
 中野一花。中野二乃。中野四葉。中野五月。そして自分こと、中野三玖。これにて、中野家五姉妹勢揃い。
 生まれてからずっと一つ屋根の下で暮らしてきた姉妹が皆揃って、たった一人しか生き延びることの許されない地獄の船に乗せられている。
 その事実も三玖にとっては十分にショッキングなものだったが、しかし一方で、予想通りであったことは否めない。自分が居るなら他の四人も居るだろうと、そう確信していたことは否定出来ない。
 にも関わらず、何故彼女は息を呑んだのか。『やっぱり』と神妙な顔で独りごちるのではなく、戦慄したように顔を青褪めさせて。心の臓まで凍り付いたとばかりに唇を震わせているのか。

 その答えは───姉妹五人と一緒に名簿に載せられていた、とある特別な名前の存在だ。

「フータロー……」

 中野家五姉妹は、いつも一緒だった。
 ずっとそうあるものだと皆心の何処かでそう思っていたし、三玖だってその例外ではない。
 けれど。今は、少しだけ事情が違う。五人の姉妹の傍にはいつもどこかに、彼が居る。
 上杉風太郎。その名前を呼ぶ三玖の声は震えていた。何よりも直視したくない現実を目の当たりにして、肺腑に至るまで凍え切る思いだった。


71 : 月と太陽 ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/02(木) 18:02:20 HPWILaFE0

 ───『恋』。口数少なく、人付き合いのあまり得意ではない三玖にとって、その感情は生まれて初めてのものだった。
 中野三玖は上杉風太郎に恋をしている。その想いは未だ伝えられていないし、事をうまく進められているとも言い難い。
 自分が奥手過ぎることも、それが言い訳にならないことも頭では分かっている。だけど少しずつ頑張って行こうと決めて、いつもと少し変わった毎日を過ごしていく……筈だった。でも。世界は、三玖の知らないところで刻々と変化を続けていたのだ。
 『恋』も。そして、もっと大きくて抗いようのない『運命』も。そのことを三玖はこの短い時間で二度、立て続けに思い知らされた。一度目が信頼していた姉との断絶で。二度目が、このバトルロワイアル。
 そして今。三玖は、もはや逃れることの出来ないような『運命』のうねりの中に、抱いた『恋』と共に放り込まれている。

「フータロー……っ」

 空は墨で塗り付けたような漆黒と鉛色の雲に覆われ、星の灯りすら確認することは出来ない。
 曇天の夜空はさも出口のないこの袋小路を暗喩しているようで、三玖は山の切り立った丘の上に体育座りの姿勢で座り込みながら、じっとそれを見上げることしか出来ずにいた。

 嫌だ───嫌だ。死にたくないし、死なせたくないし、なくしたくない。私は、何も失いたくない。
 或いはこの考えが、そもそも甘えなのだろう。何かを勝ち取ろうと思うなら、何かを蹴落とさなければならない。
 自分の歩調に合わせてなんて生温いことを言っている時点で、何かを失う敗者になることは必定なのだ。
 それでも、三玖にこの状況で一歩を踏み出すことは出来なかった。恐怖と絶望と、それらを凌駕するほどの混乱。数多の感情でごちゃごちゃになったその心は、ともすれば彼女の見上げる曇天の空よりも昏く淀んでいる。

 と、そんな時だった。
 取り敢えず夜が明けるまではじっとしているのが堅実だろうと考えていた三玖の耳朶を、見知らぬ少女の声が叩いたのは。

「───あれ、そこに誰か居るの!?」

 びくん、と心臓が跳ねる。比喩でも何でもなく、そのまま勢いよく口から飛び出してしまうのではないかと思った。
 「だ、誰……?」なんて間抜けな質問を口にしながら恐る恐る振り返った先で三玖が見たのは、恐らく同年代であろう、白を基調とした衣服に身を包んだ少女であった。
 髪の色は奇しくも三玖や姉妹達の髪色に近い橙系。色としては四女・四葉のものに近いだろうか。あれをもう少し濃くした具合の色合いだ。

「えっと、この『バトルロワイアル』の参加者です。……って、今更当たり前か。あはは……」

 明らかに怯え切っている様子の三玖に対し、少女はそう言ってぽりぽりと頭を掻いた。
 一見すると何気ないごく普通の言動でしかないが、そこからはなるだけ刺激しないようにしてあげよう、という心遣いが感じ取れる。
 そんな彼女の首にはやはり、三玖のものと同じ『首輪』が装着されていた。バトルロワイアルの参加者という自己紹介に偽りはないようだ。もっともそれはよくよく考えれば、相手を安心させる理由としては全く成立していないのだったが───それはさておき。

「大丈夫、私はこの殺し合いには乗ってないよ。むしろその逆で、どうにかしてこれを止めてやろうって思ってる」

 少女はそんなことを口にして一歩を踏み出し、一度頷いて微笑んでみせた。
 その表情に怯えや動揺の色合いは全く見られず、既にこの極限状況に適応を果たしているように見える。
 殺し合いを、止める? どうやって。爆弾入りの首輪なんてものまで繋がれているのに、何をどうしたらそんな発想に───疑問符をその脳内で躍らせる三玖に対して、少女は微笑んだまま右手を差し伸べた。

「私は、『藤丸立香』。あなたは?」

 その手付きが、表情が、あまりにも怖れとは無縁の堂々としたものであったから。
 三玖もおずおずと手を差し出して彼女……立香のそれを掴み、口を開いていた。

「三玖……中野、三玖」


72 : 月と太陽 ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/02(木) 18:03:12 HPWILaFE0
◆◆


「地図にルールブック……こんな手の混んだことしといて、こういうところはアナログなんだ」

 驚いたのは、立香がこの状況に何ら動揺していないことだった。
 誤解を恐れず言うならば、まるで"こんなことには慣れている"と言わんばかりの面持ちなのだ。
 各参加者に配布された道具の諸々を三玖と共に検分し、上記のような緊張感の欠片もない台詞までこぼしてみせる。
 だから思わず、三玖は彼女に対してこう問うた。
 
「立香は……こういう状況、もしかして初めてじゃないの?」

 口にしてみて、我ながらおかしな質問だったなと自戒する。
 こういう状況に慣れている人間など、それこそフィクションの世界以外には実在を許され得まい。一生に一度の経験としても最悪の一言で形容出来る範疇を過ぎてしまうそれだというのに。
 だが、三玖のそんな考えとは裏腹に。立香は少し考えるような素振りを見せた後、「まあ、ね」と苦笑しながら頷いた。

「詳しく話すととてつもなく長くなっちゃうんだけど───わたし、ここ二年くらいで色々あってね。
 こういう突拍子もないような状況には、ちょっとだけ……うん。ほんのちょっとだけ慣れてるんです」

 一体どんな"色々"を経験すれば、この状況でそんな台詞を口に出来るようになるのかは三玖には皆目見当も付かなかったが、取り敢えず彼女が常人ではないらしいという彼女の見立ては的中していたようだった。
 あまりに彼女の手際と段取りがいい為に、ほとんど口を挟む余地もなく頷きばかりを返す羽目となる三玖。
 そんな状況とは打って変わって、彼女が自ら言葉を発して伝えねばならない状況が回ってきたのは、立香の手が無数の人名を記した一枚の紙へと伸びてからのことだった。

「そうだ。三玖は、その……知り合いとか、呼ばれてた?」
「……うん。姉妹と───友達が」
「そっか……それは、きついね」

 一瞬、"彼"についてはどう呼称したものか迷ったが、結局これが一番正しいだろうという結論へ至った。
 友達。そう、今は多分こう呼ぶのが正しい。これからどうなるかは、まだ分からない。
 そんなことを考えている場合ではないというのに、頭の中へと垂れ込めてくる鉛のような暗雲。それからなんとか目を背けながら、三玖は名簿に記された五つの名前を次々に示していく。
 すると、やはりというべきかなんというべきか。立香の目が驚きに少しだけ見開かれた。

「えっ……もしかしてだけど、五つ子!? すご……って、ごめんごめん。今はそんなこと言ってる場合じゃなかったね」
「ううん、大丈夫……やっぱり珍しいよね、五つ子なんて」
「少なくともわたしは初めて見たかな。五人も姉妹が居たら、賑やかそうでいいね」

 ……おそらく、立香としては何気なく口にした言葉だったのだろう。
 実際、それはごくごく普通の台詞だ。五つ子の一人なんて奇矯な人物が目の前に居たなら、口にする言葉としては大分テンプレートめいている。

 そうだ。確かに、中野家はいつだって賑やかだった。
 そしてこれからもそうあるべきだと、三玖は思っている。
 ───けれど。今は彼女たちの顔を思い浮かべると、早く会いたいと思うのと同時に、棘が刺さるような痛みをも感じてしまうのだ。 
 修学旅行。楽しいものに始まり、楽しいものに終わるとばかり思っていた。けれど三玖にはそこで人よりも頑張らなければいけない理由があって、でもその頑張りは三玖の凡そ予期せぬ形で吹き飛ばされて。
 そうして、そんな出来事と向き合う間もなく三玖はこの場に呼び出されている。あのBBなる、悪魔のような少女によって。

「……三玖?」
「っ」

 まずい、と三玖は呼びかけられてようやくハッとする。
 どうやら、頭の中の考えが顔に出てしまっていたらしい。更に言うなら、沈黙という形でも外部へ出力してしまっていた。沈黙に勝る弁はなし、とはよく言ったものである。
 機嫌を損ねたと思われただろうか。慌てて「ごめん、なんでもないよ」と取り繕うと、幸い立香は「そっか」と笑みを見せてくれた。
 そしてそのまま、彼女はおもむろに口を開き───話し始める。


73 : 月と太陽 ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/02(木) 18:04:13 HPWILaFE0

「───実はさ。わたしね、BB……この『バトルロワイアル』を仕組んだ子と面識があるの」
「え……?」

 藪から棒にこんなことを言われて、驚くなという方が無理な話だろう。
 BB。この殺し合いを主催し、運営している諸悪の根源たる悪魔のような女。
 現に彼女の所為で既に最低でもひとりの少女の命が奪われており、これからもきっと、犠牲者の数は増え続ける。そんな悪鬼羅刹と並べ称しても何ら差し支えないだろう女と、あろうことか旧知の仲にあると、立香は宣ったのだ。

「友達……ってのはちょっと違うかな。けど、わたし達は確かに同じ目的のために戦ってた。少なくとも、わたしはそのつもりだったんだけど」

 けれどそんな悪逆無道の魔女について語る立香の顔は、困ったような笑顔を浮かべていた。
 何をおちゃらけているんだ、とは思わない。彼女自身、未だそのことに分別が付いていないのだろうと三玖は思った。
 何に対して、なのかは定かではないが、とにかく藤丸立香という少女はあのBBと協力関係……仲間と言ってもいい間柄にあって。なのにも関わらずその信頼は裏切られ、仇となって返ってきた。自分以外の六十九の命を載せた箱舟が、在りし日の思い出の腐乱死体。

「……立香は、BBに会いたいの?」

 その言葉は半ば反射的に口をついて出たものだった。
 あまり人の心の機微には聡くない三玖でも分かるくらい、彼女の表情や態度から、その願望は滲み出ていた。
 それに対し、彼女はやはり困ったような顔のまま頷きをひとつ返す。
 
「BBはまあ、ぶっちゃけて言うとこういうことを笑いながら仕出かすタイプだったんだけどね」

 ───三玖は知る由もないことだが、立香の頭の中には既に幾つかの可能性が浮かび上がっている。大きく分ければ、ざっと三つほどだ。
 立香もよく知る"カルデアのBB"が自ら望んでこの悪夢めいた催しを企てたのか。
 それとも立香と関わったことのない、或いは関わる前の時間軸からやって来たBBであるのか。
 はたまた、月の全能者であるBBでさえも上回る権能を持った"何者か"が、あの上級AIを傀儡として利用しているのか。
 その正確なところは、正直なところ自分の頭ではまず解き明かせないだろうと諦めていた。
 けれど、諦めるのはあくまでも"理解する"ことだけだ。それ以外のことは何ひとつ、譲った覚えはない。

「それでも、やっぱり素直には割り切れない。
 だからわたしは、会いに行くつもり。
 彼女が何を考えてこんなことをしたのか、させられているのか。
 まずはこの『バトルロワイアル』をどうにかした後で、強引にでも乗り込んでやろうかなって」

 端的に言うとこの女は、こういう人間である。
 その行動原理は基本的に不合理で、理性ではなく感情で動くタイプ。
 殺し合いはどうにかする。でも、BBのことも投げ出すつもりはない。
 それはもしかすると自分の知らない別な彼女かもしれないけれど───それでも。
 一度主(マスター)となったからには、無関係だと投げ出すなんて出来っこないから。

「……いきなり変なこと言ってごめんね。でも、一緒に行動するなら最初に言っとかなくちゃって思って」

 一歩間違えれば、主催者の肩を持つ気なのかと逆上されてもおかしくないような文言。
 それを面と向かって告白してくる誠実さといい、何から何まで、彼女は同年代の少女とは思えなかった。
 明るい橙色と、暗い橙色。
 正反対だ。明るくて、前向きで、行動力があって───まるで鏡に写したように、三玖とは似つかない娘だった。

 だから、だろうか。その姿があまりに眩しくて、三玖は意味もなく質問を投げ掛けてしまう。
 まるで照りつける太陽の光をカーテンで遮ろうとするように。
 なんて浅ましいことだろうと自分でも思うが、少しでも彼女の弱いところが見たくて。

「……怖くは───ないの?
 だって、その───友達とか、家族とか。死んじゃうかもしれないのに」
「怖いよ。怖いけど」

 けれど、ああ。
 どこまでも、この少女はただただ眩しくて───

「でも、何もしない方がもっと怖いんだ。
 全部を助けるなんてわたしにはきっと出来ないけど……せめて手を伸ばして死ぬ気で頑張るくらいは、出来る筈だから」

 今の三玖にはその輝きが、あまりにも痛かった。
 何かを得るために手を伸ばして、死ぬ気で頑張って。
 そうして駆け抜けることの出来る彼女のことが───あまりにも、羨ましかった。


74 : 月と太陽 ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/02(木) 18:04:57 HPWILaFE0
◆◆


 きっと彼女は、何かに悩んでいるんだろう。
 少なくとも藤丸立香の目には、中野三玖という少女はそう写った。

 姉妹の話になった時もそうだし、全体的にどことなく、彼女からはただの恐怖以外の感情が伝わってきた。
 別に立香は心理カウンセラーではない。これはただの経験。これまで、多くのサーヴァント達と関わって旅をしてきた経験から判断しているだけに過ぎない。
 その生涯を以って人類史の礎石となった影法師───サーヴァント。
 立香はこれまで、あまりにも多くの英霊を自分の剣として従えてきた。その手腕たるや、他ならぬ英霊自身の口からも人類史上最もサーヴァントに詳しい人間だと称された程。
 それだけの数を従えていれば当然、問題やら確執やら、そういうものに向き合う場面も多くなってくるわけで。
 必然、他人の感情の機微にはちょっとばかし敏感になる。その敏感に育った感性が、三玖に悩みの色を見た。

 けれど、会ったばかりの相手のデリケートな部分にそうズケズケと踏み入っていくほど立香は無神経ではない。
 今はあくまで、ただ認識しただけ。出来ればどうにかしてあげたいと思うが、この手の事柄は急いだってロクなことにならないことも経験上分かっている。───今はとりあえず、彼女を守ることに専念しよう。立香は、そう思った。

(……兎にも角にも、まずは他の戦える誰かと合流しないと。
 おんぶにだっこになるつもりはないけど、わたしじゃ三玖をどこまで守れるか分からない)

 魔術師としての立香は、はっきり言って平凡以下だ。
 ちょっとした強化の魔術ですら使えない。唯一のアドバンテージといえば、今着用している魔術礼装くらいのものだ。
 こと戦闘においては、遥か離れたカルデアに待機させている英霊達の影を呼び出して交戦したりは一応出来る。だがそれも、とてもではないが歴戦の英霊達と切った張った出来るような代物ではない。
 だからこそ立香たちふたりに必要なものはシンプルに力だった。自分だけでは対応出来る状況に限界がある。そうなればあっさり殺されてしまうかもしれないし、三玖を取り零してしまうかもしれない。
 
 ……考えれば考えるほど大変な状況だ。
 さっきは偉そうなことを言ったけれど、やっぱり怖いものは怖い。
 肺腑は張り付くように痛いし、胸の鼓動も煩いくらいだ。
 死と隣り合わせなんて状況、確かにこれまで何度となく経験してきたが───"慣れている"から、まったく"平気"というわけではないのだ。
 藤丸立香は世界を救った実績の持ち主でこそあれど、決して雄々しく煌めく英雄などではないのだから。

 それでも、守るべき者/ものがあるから諦めることは出来ない。
 震えを押し殺して立ち上がろう、拳から血を垂らしてでも握り締めよう。
 そうすることしか、自分には出来ないのだから。



「あ。そういえば、わたしの知ってる人達のことを教えてなかったね。
 えぇと、マシュ・キリエライトでしょ、宮本武蔵ちゃんでしょ。後は頼光さんに酒呑童子、清姫にエドモ───」



 ………………この後、隣の少女から不審者を見るような目で見られたのは、無論言うまでもない。



【E-4/那田蜘蛛山/1日目・深夜】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖を守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。


【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的疲労
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:死にたくないし、殺したくもない。
1:立香への劣等感。自己嫌悪。
2:フータローたちとは───
3:この子は何を言ってるんだろう……
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。


75 : ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/02(木) 18:05:36 HPWILaFE0
以上で投下終了です。


76 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:07:28 1hq.zqEM0
投下お疲れ様です
自分も投下します


77 : 最初に生まれてくるということ ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:09:30 1hq.zqEM0

酷い夢だ。
それが中野家の押しも押されもせぬ長女、中野一花が目を覚まして最初に思った事だった。
同時に、視界に違和感を覚える。
三年になる新学期の少し前から自分は実家のマンションのベッドではなく、
貸アパートの屋根の下で寝起きしているはずなのだが。

考えながら伸びをして、首に違和感があることに気づく。
まさか、と夢の中で見た悪夢が脳裏を過った。
妙に片づけられた、汚部屋のはずの自室を飛び出して家の外を見る。
そこに見慣れた風景はなく、知らない夜の景色が広がっていた。
血相を変えて今度はベランダから洗面台に向かう。
そのまま感覚だけで蛇口をひねり、冷水で顔を洗いながら電気をつけた。
明るくなった鏡に映っていたのは紛れもなく、冷たい首輪を付けた一花自身の姿だった。


「はは…」


首輪をそっとなでると、ピンクの髪の女の子が爆弾で吹き飛ばされるシーンが蘇ってくる。
知らない風景。眠っている間に取り付けられた爆弾付きの首輪。
どうやら、悪い夢は続いていたようだ。
一花は自分が出演していたホラー映画のシナリオを想起する。


「ッ、そうだ!」


我に返り、姉妹や自分が思いを寄せている男の事を思い出した。
彼と妹たちは何処にいるのだろう。嫌な予感がする。
連絡を取ろうと自分のスマホを探す。しかしポケットには入っていなかった。
部屋に踵を返して枕もとを探しても、やはり見当たらない。
今度からもっと整理整頓しようと心掛けても見つからない。
代わりにあったのは見覚えのないリュックサックが一つきり。
中をひっくり返してみると、食料や水、地図などがドサドサと零れ落ちてくる。


78 : 最初に生まれてくるということ ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:12:01 1hq.zqEM0

「二乃、三玖、四葉、五月ちゃんにフータローくんまで……」


リュックから出てきた三つの物に一花は興味を惹かれた。
まず一つ目は姉妹と上杉風太郎の名前が載った名簿。
そしてもう一つは、


(これ、本物だ……ていうか、どうやって入ってたんだろ)


恐る恐る検分するのは、明らかにリュックの大きさを超えた漆黒の刀だった。
刃物などカッターや包丁以外に持ったことのない彼女も、これが真剣であること分かった。
当然、こんなものを人に振るえばケガでは済まないだろう。
今の奇妙な状況と冷たい黒塗りの刃が、不吉な予感を持たせてくる。
これが夢やドッキリの類ならばいい。しかしこの刀で姉妹や風太郎が斬られるところが浮かんでしまった。

こうしてはいられない。

手早くリュックに出てきた荷物を入れなおす。
日本刀も少し考えてリュックの中に入れなおした。
自分では扱えないだろうし、余計な危険を招きかねない。
そして、最後に興味を持った玩具の様なカードケース…『ベルデのデッキ』というそれを上着のポケットに入れる。
これを使えば仮面ライダーベルデに変身できると説明書には書いてあった。
どう考えても眉唾物だが、お守り代わりにはなるだろう。
中々固いので何かあった時には石のように投げつけても良い。


よし、準備OK
殺し合いとか現実感ないけど、とりあえず二乃達やフータローくんと合流しよう。
そうしよーー



「今の刀を譲ってください!!」


79 : 最初に生まれてくるということ ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:13:50 1hq.zqEM0





「で、タンジロー君も気が付いたら此処にいて、私以外の誰にも会ってない、と」
「そうです、どうかお願いします!」


私、中野一花が出会った少年、竈門炭治郎君を一言でいうなら変わった子だった。
格好も、言動も。
いきなり現れて「刀を譲ってほしい」と今も嘆願しているのだから。
何でも鬼…とにかく危険な人たちが少なくともここには四人いて、その人たちと戦うのに必要な物なんだとか。
にわかには信じがたい話だったが、その様は真摯を通り越して必死だ。
女優を目指している私から見ても演技ではないのは分かる必死さだった。


「いやー、お姉さんも本当は渡したいんだけどねー、危ないし」
「それは俺の刀なので心配には及びません。妹や大切な人たちを守るために必要なんです…!」
「妹?」


聞けば、タンジロー君の妹のねづこちゃんという子も此処にいるらしい。
礼儀正しいし、悪い子ではないようだが初対面の人間に危険な刃物を渡すのは万が一を考えると怖い。
私は少し考えて、


「よし、じゃあこれからお姉さんと一緒にお互いの知り合い探しをして、
その時タンジロー君が必要になったら返すよ」


半ば渡すのを了承した上で、そう答えた。
もし炭治郎が危ない子なら、両手までついて譲ってほしいと頼まないだろう。
私が彼に気づいていないときに強引にひったくって行くこともできたはずだ。
それをしなかったのは彼が義理堅く、約束を守る性格だからだと思う。
だから、フータロー君たちを探す手伝いをしてもらう口実を取り付けさせてもらった。
元より私は刀なんて扱えないので、いつ手放しても惜しくはない。


「わかりました、勿論中野さんの姉妹探しは手伝わせてもらいます」
「一花でいいよ、中野じゃ他に四人いるし。
それじゃお姉さんと一緒に頑張ろうか、お兄さんやお姉さんは下の子を守るものだもんね」


素直な子だと思った。
フータロー君にもこの素直さを少し分けて貰いたいほどだ。
と、感心しているとタンジローくんはごそごそとリュックを漁って、


「その前に譲ってもらう刀の分、俺も何か……」
「いや、いいよ。今渡すわけじゃないし。
少しだけ知り合い探しを手伝ってくれるだけで充分―――」
「そうはいきません!少し待ってください何か出しますから」
「あっはい」


前言撤回。
素直で義理堅いのも丁度いい程度があるな、うん。


「ではこれを」
「却下」


炭治郎君が出したのはオレンジ色のボディースーツだった。
……ボディラインがはっきり出る扇情的なデザインの。
こんな服着てるところをフータロー君に見られた日にはどんな顔すればいいか分らない。
タンジロー君の顔に下心は感じないため、純粋な善意だけで言ってるんだろうけど猶更性質が悪い。


80 : 最初に生まれてくるということ ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:15:15 1hq.zqEM0


「それよりも、私は『そっち』のほうがいいかな」
「これですか?役に立ちそうにないですけど……」
「いいのいいの、ていうかそれ私の何だよね」


私が選んだのは、服を出す前に取り出されていたヘッドフォンとウィッグだ。
間違いなく、妹三玖の変装セットである。
何故こんなものが支給されてるのかはわからないけど、何かしら貰っておかなければ炭治郎君は納得しそうにない。
この場で役に立つかはわからないけど、貰っておくことにした。


「さて、そろそろ行こうか。
タンジロー君の妹さんも探さないといけないしね」
「はい!」


四葉のように元気な返事を受けながら、移動を開始。
物珍しそうにあたりを見回す炭治郎君を尻目に、私は最後にもう一度実家の景色を一瞥した。

かつての日常の象徴で、けれど姉妹の誰もいない、どこか寒々しい部屋。
しかし、私がこの異常な状況で落ち着いて炭治郎君に対応できたのはこの場所だったからだと思う。
だが、他の姉妹は大丈夫だろうか。怖い思いをしていないだろうか。
特に内向的な三玖は心配だ。

早く合流してあげなければ。
私の居場所はこの誰もいない家ではなく、四人そろった妹達の隣なのだから。
何時だってそうだった。
喜びは五倍に、悲しみは五等分にして分かち合ってきた。

今だによく分からない事に巻き込まれたと思うけれど、最後はフータロー君と、妹たちと一緒に。
全員そろってただいまと言えるはずだと信じる。
明日も、明後日も、いずれ大人になってそれぞれ違う道を進むその日まで。

【E-7/1日目・深夜】

【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:健康
[装備]:制服。
[道具]:基本支給品一式、炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:姉妹と風太郎に会いたい。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


81 : 最初に生まれてくるということ ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:16:47 1hq.zqEM0


(最初に会えた一花さんがいい人で良かった)


心の底からそう思った。
自分の日輪刀を持っていたのもそうだが、殺し合いに乗っていない妹想いの姉に会えたことが竈門炭治郎には嬉しかった。
殺意の匂いも全く感じない。少なくとも今のところは。


(……でも、ここは血の匂いに満ちてる。嫌な感じだ。
集中していないと重要な匂いに気づかないかもしれない)


血の匂いは何時も幸せを壊す。
まだ目覚めてからそう時間はたっていないはずなのに、この地には血の匂いが満ちている。


(……くそ、やっぱり禰豆子の匂いも辿れないか)


会場に満ちた血の匂いのせいで、鼻の利く炭治郎でも妹の禰豆子の居場所は分からない。
早く見つけてやらねばならないのに。
たった一人生き残った妹禰豆子は唯一の太陽を克服した鬼だ。
そのお陰で太陽の下でも命の心配はなくなった。

しかし、この地にはあの男がいる。
鬼舞辻無惨。炭治郎にとって仇敵である鬼畜。
鬼を生み出し、炭治郎の家族を手にかけ、多くの災厄をばら撒いた男。
その無惨が太陽を克服するために禰豆子を狙っている。
無惨とその配下の鬼が禰豆子と出会う前に何としても再会しなければならない。
柱である胡蝶しのぶや富岡義勇ともだ。
善逸は……今頃恐怖から求婚でもしているのではないだろうか。
伊之助にいたっては此処にいない。喜ばしいことではあるが。


(とにかく、禰豆子と一花さんの姉妹を見つけて守る。そして……)


禰豆子の次に炭治郎の思考を捉えて離さない物がある。
それは、


(微かだし、やっぱり居場所は分からないけど、煉獄さんの匂いだ。間違いない)


奇しくも炭治郎のスタート地点が高層マンションであるペンタゴンだったからこそ嗅ぎ取れた、忘れるはずのない匂い。
炭治郎を守り通し没した煉獄杏寿郎の匂いだ。
居場所までは分からない、しかし自分がこのにおいを間違えるはずがない。
燦々と輝く陽光の様な、静かに燃える焔のような暖かな匂いを。

初めは気のせいかと思った。しかし名簿にも煉獄の名前が刻まれている。
喪った命は戻らないし、回帰しない。
けれど、もし彼が本当にここにいるのなら……、


82 : 最初に生まれてくるということ ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:17:30 1hq.zqEM0


――――煉獄さん。俺は、貴方のおかげであの頃より強くなれました。

ヒノカミ神楽を使えるようになりました。

上弦の鬼との戦いでも生き残れるようになりました。

柱の人達からも認めてもらえました。

禰豆子が、また陽の下で立っている所を見ることができました。

全て貴方と、俺の周りにいた人たちのおかげです。

だから。もし、貴方が此処にいるのなら。

今度は守られるのではなく、煉獄さんと肩を並べて戦いたい。

【E-7/1日目・深夜】

【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
カルデア戦闘服@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:一花さんの姉妹も探す。
[備考]
強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。


83 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 18:17:50 1hq.zqEM0
投下終了です


84 : ◆Akt6fX8OUk :2019/05/02(木) 19:30:54 D1Dplh3g0
宮本武蔵、宮本武蔵 予約します


85 : ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 22:59:47 fmiEClCY0
四宮かぐや、予約します


86 : 名無しさん :2019/05/02(木) 23:01:34 hcsOXZn60
投下乙です
ベルデは最期まで主人公の身を案じていた程のぐう聖だから
妹想いの一花にぴったりだね


87 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/02(木) 23:09:14 1hq.zqEM0
宮本明、クラゲアマゾン予約します


88 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/02(木) 23:26:46 56YECEuo0
累 神居クロオ予約します


89 : ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 23:29:31 fmiEClCY0
投下します


90 : 心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 23:31:50 fmiEClCY0



 恋をした。
 誰よりも幸せな恋をした。
 けれど私は灰かぶり姫なんかじゃなくて───

 ハッピーエンドは失われた。





   ▼  ▼  ▼


91 : 心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 23:32:37 fmiEClCY0





 人の悪意には慣れている。
 生まれが生まれだ。嫉妬や羨望の的にされるのなんて日常茶飯事だし、謂れなき誹謗中傷を受けた数だって数えきれない。

 人との別離には慣れている。
 というよりも、最初から何も感じない。この世に良い人なんて誰もいなくて、誰もが打算だけで動いていて、だったらそんな他人なんかに感情を動かすほうがどうかしているのだ。
 少なくとも、ほんの少し前までの自分はそう考えていた。

 だから、本当なら、あんなものを見せられてもどうってことはないのだ。
 氷に閉ざされていた私の心は、そんなものでは動かなかった。
 そのはずなのに。

「藤原さん……」

 ふとした瞬間にリフレインする。その情景が脳裏にこびり付いて離れない。
 乾いた空疎な爆発音、いっそ冗談めいて噴き出る鮮血、くるくると回る首。
 綺麗に整えられた桃色の髪はざんばらに飛び散って、もう生前の可愛らしさなんてどこにもなく。

 ───信じない。

 ぽとりと落ちた首が転がる。光を失った虚ろな目が、こちらを見る。

 ───それでも信じない。

 この子に驚かされるのは、いつものことだから。
 きっと今回だってそうだ。自分が声をかけたら藤原さんは何でもないことのように起き上がって、「なーに本気にしてるんですかー」なんて間の抜けた顔で笑うに決まっている。それで私が安心して少し泣きそうになると、「あれあれ泣いてるんですかー?」なんてからかうに決まっている。
 人の姿をした家畜……プライドがなく他人を貶めるしか能のない地球の癌。ああ、考えるだにおぞましい。
 だなんて私が怒り、石上くんが困り、会長が静かに嗜める。そして皆で笑うのだ。これまでずっと繰り返されてきた日常が、明日からもきっと続く。
 そうなんでしょう? これもきっと、あなたの悪戯なんでしょう?
 TG部で色々遊んでいるあなたのことだもの、私の知らない最新鋭のゲームだとか、VRだとか、とにかくそういうものを用意してドッキリでも仕掛けているのでしょう?
 ねえ、藤原さん。
 藤原さん───


92 : 心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 23:33:41 fmiEClCY0











 泣き叫ぶ少女の声が、夜の森に響いた。
 エリアC-7、街の外れにある小さな森の中。木漏れ日となって降り注ぐ月の光に照らされて、四宮かぐやは常の気高さとはかけ離れた姿を見せていた。
 すすり泣くような声とは違う。声を殺して泣くのとも違う。子供がするようにあらん限りの声を張り上げた絶叫。世の悪意に立ち向かえる強さを持たない幼児のような泣き叫ぶ声は、森の闇に溶け消えて、残響となって木々の葉を揺らすのみ。

 殺し合いを宣言された場で無防備に大声を出す危険性を理解できないほど、四宮かぐやは愚かではない。
 しかし、これは賢明とは愚かしいとかそういう問題ではないのだ。

 今でも気を抜けば脳裏に浮かぶ。一面に鮮血が飛び散り、そこで起こった惨劇を生々しく想起させる。泣き別れの首と胴体、あらぬ方向に投げ出される手足。吹き飛んだ頭部はおかしな形に陥没し、下顎の無くなった光のない目がこちらをじっと睨めつけている。
 それでも理解できない。
 何故、藤原千花が死ななければならなかったのか。

 そう、藤原千花は死んだ。それは変えようのない事実だ。
 遠隔で網膜に投射するVR映像? あるいは都合の良い夢を見せる催眠療法の発展系?
 あり得ない、そんなものが現実に存在するものか。仮にそんな技術があったとして、それを一学生に過ぎない千花が用意できるか? できたとして、それで見せるのが彼女らしくもない血生臭い悪趣味なスプラッタであるのか?

 ひぅ、と捩じれた息を呑みこむ。過呼吸気味に酷使された肺が悲鳴を上げ、生理現象としての咳がこみ上げて激しく咽込む。
 信じられなかった。藤原千花が殺されたことも、自分や生徒会の面々が殺し合いなんてものに巻き込まれたことも。
 そして───

「私、なんで、こんな……」

 藤原千花の死に、四宮かぐやがこれほどまでの悲しみを抱いてしまっていることも。

「あなたは、勝手なんですよ……いつも騒動事を巻き起こして、いつも私のことをからかって、私を怒らせてばかりで、素直に礼も言わせてくれなかった……本当はいつもあなたに感謝してた。あなたのことを頼りに思っていた……私の傍にいてくれてありがとうって、これからもずっと一緒にいてねって……いつかそれを伝えようって、会長ほどじゃないですけど、そう思っていたんですよ……?」


93 : 心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 23:34:15 fmiEClCY0

 言葉が途切れる。
 思考が霞む。
 血濡れた情景しか映さなかった脳髄が、唐突に過去の情景を描いていく。
 生徒会の記憶、そこで過ごした日々。くだらなく低レベルで、四宮の人間としてこんなことでいいんだろうかと自問自答することもあったけど、でも確かに楽しかった日常の記憶。
 笑顔。
 藤原千花は、四宮かぐやの記憶の中で、ずっと笑顔を浮かべていた。
 それを見て、かぐやもまた、ずっと笑顔でいられた。

 そのことを自覚して、かぐやは泣き濡れた顔のまま笑い、

「……ああ、そっか」

 何もない虚空を掻き抱き、自らの腕に顔を埋めて。

「私は、あなたを、親友だと思っていたんですね」

 響き渡る慟哭の声。
 見守る者はなく、見咎める者もなく、その声はただ夜半の風を揺らすばかりで、ただ虚空へと消えていくのみだった。








94 : 心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 23:34:51 fmiEClCY0





 結局のところ、かぐやにできることとは、一体何なのだろうか。
 少し考えて、答えは出なくて、もう考えること自体に嫌気がさしてしまう。
 考えてみよう。今からかぐやたちは凄まじい豪運を発揮して、なんと誰も死ぬことなく殺し合いから脱出することができました。
 自分も、会長も、あと石上くんも、特に大きな怪我もなくPTSDとかの後遺症とかもなく、なんか平穏に、嘘のように、元の日常に帰ることができました。
 めでたしめでたし───なんてことになるわけがない。
 だって、藤原千花は死んでいるのだ。
 もうどうしようもなく、救いようがないほどに、死んでいるのだ。
 どうやったって元の日常は戻ってこない。
 5人揃ったあの生徒会は、二度と元には戻らない。
 完全無欠のハッピーエンドは既に失われている。今からどう足掻こうとも、かぐやたちは不可逆のマイナスを常に背負っていかなければならない。


 ならば優勝を目指すべきか?
 優勝して、元の日常を返してくださいと、そう願えばいいのか?
 ───本当に?
 会長を、白銀御行を一度殺害した上で、そう言えと言うのか。

 ……結局のところ、答えなんか出るはずもなかった。
 闘えばいいのか、逃げればいいのか、それとも仁愛とか正義とかを掲げて仲良しこよしで群れたらいいのか。どれが正解なのか分からない。
 けれど、それでも湧き上がってくる感情はある。

「会長……」

 会いたいです、今すぐに。
 情けない姿を見られても構わない。本当はそんなところあなたに見せたくはないのだけど、でもこんな時くらいはいいでしょう、だなんて。
 ねえ、会長。
 こんな汚い私とは違うあなたなら。
 私の見る景色を変えてくれたあなたなら。
 きっと強く立ち上がってくれてるだなんて、強く正しく私たちを導いてくれるだなんて。
 そんなことを期待している私は、やっぱりあの頃と変わらない、打算と利己しかない氷のままなんでしょうか。
 ねえ、会長。
 私は卑しい、人間、ですか?


95 : 心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE :2019/05/02(木) 23:35:17 fmiEClCY0



 四宮かぐやは、白く輝く月を見上げ、歩みを進める。
 静寂が支配する世界にあって、ただ見上げる。そうすることしかできない。今だけは顔を上げておきたかった。
 俯けば───
 きっと、涙が落ちてしまうから。



【C-7・森/1日目・深夜】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:憔悴、混乱、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:決めかねている。
1:会長たちと合流したい。
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます


96 : 名無しさん :2019/05/02(木) 23:36:01 fmiEClCY0
投下を終了します


97 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/02(木) 23:39:36 5YIl35s60
鑢七実、イユ予約します


98 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/02(木) 23:59:55 zfF0gOa60
竈門禰豆子、愛月シノ、前園甲士で予約します


99 : ◆reiwaHv0O6 :2019/05/03(金) 00:17:33 Y/8t36jg0
城戸真司、秋山蓮
両名予約しまーす。


100 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/03(金) 00:30:05 VQYxZdMI0
投下します


101 : 共闘 ◆2lsK9hNTNE :2019/05/03(金) 00:31:40 VQYxZdMI0
 空を覆う木々によって月の光さえ遮られた森の中。若殿ミクニは、岩や木の根だらけの歩きにくい地面の上を覚束ない足取りで歩いていた。
 あのBBという女は何者なのか、目的はなんなのか、このバトルロワイアルはラブデスター実験の一貫なのか、疑問はいくらでもある。爆弾の威力を見せつけるためだけに人を殺したあの所業を思い出すと、身体が怒りで震えてくる。
 だがミクニは立ち止まらずにとにかく動くこと選んだ。名簿に載る幼い頃からずっと一緒にいる友達や、共にラブデスター実験を乗り越えようと頑張る仲間たちの名。一刻も早くあいつらと合流しなければ。
 こんな暗い森にいては人探しのしようもない。ミクニは森から出るため、ただ一心に足を動かしていた。

「うおっと!」

 木の根に足を引っ掛け転びそうになる。反対の足でどうにか耐えた。危なかった。こんな荒れた地面の上で転んだら、打ちどころによってはただでは済まない。

「こんなところでウダウダやってる暇なんてねえ。早く皆と合流しねえと」
「その皆っていうのには俺も含まれてるのかな?」
「誰だ!」

 突如として背後からかけられた声にミクニは振り返り、驚愕した。

「オメェは!?」
 
 わずかに空いた木々の隙間から入る月明かりに中、そこに立つのはここにいるはずのない男だった。
 髪を七三分けにし、六角形のメガネをかけた、その男の名は……

「猛田!?」

 猛田トシオ。ミクニと同じ月代中学校の生徒。それはつまり全校生徒を巻き込んだラブデスター実験の被害者という意味でもある。
 だが、彼は『測定器』と呼ばれる相性の良い異性を調べられるアイテムを手に入れると、それを使って他の生徒たちを支配しようとした。
 生徒会として場を仕切っていたミクニたちを失脚させ、『測定器』で皆を騙し、自分だけのハーレムを築こうとした。
 しかし、その野望はミクニたちの作戦によって白日のもとに晒された。猛田は逃げ出し、後に人知れず死亡したことが判明した……はずだった。

「どうしてここに。オメェは死んだはずじゃ!?」
「それは俺にもわからない。自分の身体が弾ける感覚を確かに味わったはずなのに、気づいたらここにいたのさ。
さっきの女はバトルロワイアルで優勝すれば死者の蘇生すら叶うと言っていたが、ひょっとしたらそういうことなのかもな」
「生き返ったっていうのか……?」

 確かにあの女はそう言っていたが、本当に死者の復活なんて芸当ができるのか?。
 にわかには信じがたい。名簿で猛田トシオの名前も見ても同姓同名の別人だとばかり思っていた。

「それで? どうなんだよ。おまえが言うみんなには俺も含まれてるのか?」

 猛田は自分の身勝手な欲望のために大勢の利用し、傷つけた。その中にはミクニの幼馴染のシノも含まれている。簡単に許せるような相手ではない。だが――

「ああ! もちろんだ。さっき言った時はオメェは死んでるんだと思ってたけどよ、生きてんなら当然含むぜ!」

 簡単に許せるような相手ではない。だが猛田もラブデスター実験の被害者だ。あんな状況にさえならなければ、あんな暴挙に出ることもなかったはずだ。

「お人好しだなぁ。俺が優勝を狙ってるとは考えないのか?」
「考えねえわけじゃねえさ。でも狙ってるとしたって、オメェはそれを素直に言うようなやつじゃねえだろ?」
「そうだな、おまえ相手に取り繕っても仕方ないから白状するが、優勝を狙っていてもいなくても俺のやることは変わらない。おまえに近づいて信用を得ようとする」
「俺も同じだ。オメェが優勝を狙ってねえならオメェと協力するし、狙ってんならぶん殴ってでも目を覚まさせる。どっちにしても一緒に行動することには変わりねえ」
「なら、一先ずはよろしくってことでいいのかな?」
「ああ、よろしく頼むぜ」

 ミクニが右手を差し出す。猛田がその手を握った。
 友情を感じているわけでもない。信用しているわけでもない。それでもふたりの共闘はいまこの握手によって確かに結ばれた。


102 : 共闘 ◆2lsK9hNTNE :2019/05/03(金) 00:32:10 VQYxZdMI0





(クククッ、さすがに簡単には信用されないか)

 固く結ばれた手を見ながら猛田は笑う。
 無論、猛田にはミクニと協力する気など毛頭ない。測定器の力でハーレムを築くという野望はミクニのせいで破綻したのだ。誰が協力などするものか。むしろ復讐すべき相手だ。
 だが無闇に殺すようなことはしない。生前(というのも奇妙な言い方だが)の猛田の失敗は測定器の力を過信し、ミクニたち生徒会を侮って敵に回したことだ。
 どんな便利な道具も使えなければ意味がない。一度は得た生徒たちの支持も、測定器を奪われたせいでミクニに逆転されてしまった。

(こいつらのような、ある程度の能力を持つ連中は迂闊に敵にしないほうがいい。ますは徹底的に利用して、敵に回す時は確実に始末する!)

 猛田は一度した失敗は繰り返さない。優勝賞品の『どんな願いでも一つだけ叶えられる権利』は自分のものだ。
 そのためには六十九人もの人間を死に追いやらなければならないが、猛田はすでに恋人を殺しているのだ。いまさら興味のない人間が何人死のうがどうでもいい。
 
(楽しみだよミクニ。俺に利用されたと知った時、おまえがどんな顔で死んでいくのか)

 その時のことを想像し、猛田は心の中でほくそ笑んだ。
 互いに相反する想いを抱きながらふたりは握手を解いた。ミクニが言う。

「そういえばよ。生きてたんならオメェに伝えなきゃいけねえことがあったんだ」
「伝えなきゃいけないこと?」
「オメェ、遊川に運命の相手は武道だって教えたんだろ?」
「それがどうかしたか?」
「オメェがいなくなったすぐ後、あいつら告白を成功させて地球に帰ったぜ」
「なんだと?」

 測定器に遊川と相性の良い相手として武道が表示されたのは事実だが、本当はあの時他にもふたり女が表示されていた。しかしそのふたりは猛田のハーレムに加えるに相応しい中の上以上の女だったため、遊川には相手は武道しかいないと嘘をついたのだ。
 武道は表示された女の中で一番遊川と合わなそうな女だった。いくら測定器の判断とはいえこのふたりはさすがにないだろうと猛田は思っていたのだが。

「そうか。あのふたり、帰ったのか」

 ……まあどうでもいい話だ。







【D-5・/1日目・深夜】
【若殿ミクニ@ラブデスター】
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:バトルロワイアルからの脱出
1.森を出て皆を探す
[備考]
※敬王から帰還以降からの参戦。詳しい時期は後続の書き手にお任せします



【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる
1.若殿ミクニを利用する
[備考]
※死後からの参戦


103 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/03(金) 00:32:36 VQYxZdMI0
投下終了です


104 : ◆Nj3eaywxHw :2019/05/03(金) 00:48:53 fqPcvvR.0
皇城ジウ、波裸羅を予約させていただきます


105 : ◆Nj3eaywxHw :2019/05/03(金) 00:50:33 fqPcvvR.0
すみません、ジウ既に予約されていたようですので予約を取り消させていただきます。


106 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:28:24 grCYDbkQ0
愛月シノ、竈門禰豆子、前園甲士、投下します


107 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:29:03 grCYDbkQ0

愛月シノ、十四歳。
いわゆる、『デスゲーム』に巻き込まれるのは二度目だ。
一度目は『ラブデスター実験』、真実の愛を証明するためにモルモットの生命を消費する恐るべき証明実験。
いや、正確に言うならば一度目というのは語弊があるかもしれない。
シノはラブデスター実験の実験体として観察経過中だったからだ。
『ラブデスター実験』の最中に、この二度目のデスゲームとなる『バトル・ロワイアル』に巻き込まれたのだ。
シノが生まれる前か生まれた直後か、それと同時に社会現象にまでなり国会でも話題となった作品。
中学生の少年少女が政府の命令で殺し合う、そんなバイオレンス小説だ。
このデスゲームはそれに酷似している。
シノは二度目のデスゲームの最中なのだ。
当初は、緊張で顔をしかめていた。

「禰豆子ちゃんは可愛いねぇ」

なのに、今となっては顔をだらしなく緩めて、一人の童女に夢中になっていた。
スリスリと頬ずりをしながら、眠たげに目を細めている童女に語りかける。
その少女の名前は竈門禰豆子。
竹筒で口枷をしていた、美しい顔立ちをした童女で、大きくなれば大層な美女になるだろうと予感される童女だった。
多くの少女の例にもれず、シノもまた『可愛い』が大好きだ。
手足の短く、ツヤツヤとした禰豆子自身の身長ほどもある長い黒髪。
クリクリとした瞳で見つめられるだけでシノの心は魅了されてしまう。

「ハハッ、愛月さんは禰豆子ちゃんに夢中ですね」
「だって、可愛いですから。前園さんもそう思わないですか?」

そう語りかけるのは前園甲士。
優しげで爽やかな、清潔さのある人物だった。
また、挙動の一つ一つが落ち着いている。
未だ女子中学生で未成熟なシノとは違う、いわゆる知的な大人と言った印象を与える男であった。

シノが禰豆子と前園に出会ったのは、先程のことだった。
禰豆子を抱きかかえている前園を偶然発見したシノ。
支給品であった拳銃を無意識に構えるシノに対して、前園は真剣な表情で殺し合いに乗っていない意思を伝えてきた。

『待ってくれ、私は殺し合いには乗っていない!』

そして、自身の背中で眠っている童女の禰豆子の存在。
こんな生命の奪い合いというおぞましい会場で、なお、他者のことを気にかける。
そんな在り方に、シノは自身の幼馴染を幻視した。
衝動的と言ってもいいほどに、シノは前園を信用した。
銃をおろし、すぐ近くの民家へと入るよう提案した。
それから、禰豆子が目を覚ます。
そこで名前を聞こうとしたが、禰豆子はどうやら言葉が話せないようだった。
困ったところで名簿を見せる。
しかし、童女に漢字などわからないだろうと思ったが、不思議なことに竈門禰豆子という名前を指さした。
ひょっとすると見当違いの名前かもしれないが、ひとまず、シノと前園は彼女のことを禰豆子と呼ぶことにしたのだ。
そこから、禰豆子も目覚めたし、なにかを食べようかという話になったのだ。
そこからのシノは禰豆子に夢中だった。

「なんで竹筒なんて加えていたのかな? こんなにも可愛い顔が台無しだよ」
「………………恐らく」

その当然の疑問に対して、前園は先程のにこやかな笑みを潜める。
同時に少し俯き、逆光に輝くメガネで瞳が見えなくなる。


108 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:30:31 grCYDbkQ0

「虐待でしょう」
「虐待……?」
「お仕置きと称して、禰豆子ちゃんに竹筒を加えさせる。
 きっと、食事中の行儀が悪かったか、または食べてはいけないものを飲み込んでしまったからか……」
「そんな……」
「ひどいことです……その最中にあのBBなる人物に拉致されたのでしょう」

前園の怒りは本物のように見えた。
もしも、これが演技ならば前園は十年でも二十年でも人を騙し通せるほどの役者だろう。

「許されることじゃない……子供は、子供は自由に生きなければいけないっ!」
「前園さん……」
「禰豆子ちゃん」

そう言って前園は禰豆子と視線を合わせるために膝を地面につけた。
優しげな笑みを浮かべて、禰豆子のまぁるい瞳と視線をまじ合わせる。

「いっぱい食べなさい、私も愛月さんも叱りはしない。
 ハンバーグ、ごちそうだよ?」

「こうするんだよ、禰豆子ちゃん。
 はい、いただきます」

食材となった生命に感謝を込めて。
手と手を合わせて、いただきます。
禰豆子はシノの見よう見まねで手と手を合わせ、そして、ナイフとフォークを持つ。
そこにはハンバーグと刻まれたキャベツが乗っているだけの食事。
それでも、ソースのかかったハンバーグは非常に食欲をそそるものだった。

「いいんですかね、こんな時にこんなごちそう……」
「愛月さん、食べれる時に食べていてください。次はいつ食べれるかもわからないかもしれませんからね」
「あっ、そ、そうですね! えっと、前園さんは?」

その言葉に、前園さんは眼鏡のズレを直す。
そして、やはり笑顔でこちらを向いて答えた。

「……私は、少し見回りした後に食べますよ。お先にどうぞ」
「でも、悪いですよ」
「いえいえ、それに愛月さんが食べないと禰豆子ちゃんも食べれませんよ」
「そ、そうですね! じゃあ、いただきます!」
「んっ!」

そう言って、シノはナイフをハンバーグに食い込ませる。
まるで豆腐のようにハンバーグは切れる。
なんて柔らかいお肉なんだろう。
ソースとは異なるお汁、すなわち肉汁がお皿に広がる。
ゴクリ、と思わず唾を飲んでしまう。

禰豆子もグー握りのまま、シノを真似でナイフを切り取る。
そんな微笑ましい様子と美味しそうな料理に囲まれて、場違いにも楽しい気持ちになってしまうシノ。
罪悪感と同時に、じっとこちらを眺めてくる禰豆子に、自分が食べなければ禰豆子も食べないだろうということに気づく。
虐待という言葉がよぎる。
恐らく、親が食べるまで自分が食べることは許されなかったのだろう。
いたたまれない気持ちになりながら、しかし、気持ちを切り替えてフォークを切り分けたハンバーグに突き刺す。
同じように、グー握りのフォークで禰豆子がハンバーグにフォークを突き刺した。

「はい、あーん……!」

シノがそのまま口元に肉を持っていくと、禰豆子もまたフォークを口元へと持っていく。
笑みを維持したまま、シノは。


「パクリッ!」


その言葉と同時に、禰豆子と共に肉を口に含み、飲み込んだ。


109 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:31:39 grCYDbkQ0

「禰豆子ちゃん、美味し……………っ!?」

突然、シノはうずくまる。
突如として、本当に突如としか言い切れないタイミングで、シノは底知れない嫌悪感に襲われたのだ。
世界がゆがむ、視界が定まらない。
ハァハァ、と苦しさを整えるために荒い呼吸を繰り返すが、それは逆効果にしかならない。
息をすればするほど、酸素を取り入れれば取り入れるほどに苦しみが増す。
可憐な少女がするはずのない切迫した表情のまま、可憐な少女がするはずのない激しさで倒れ込んだ地面をのたうち回る。


「ふん、やっと食べたか」


そんな時だった。
前園が、先程までの爽やかな雰囲気など一切存在しない様子で、むしろ下卑た笑顔を浮かべながらシノの前に現れた。
そして、時計を見ながら、テーブルの上にある料理を見る。
その料理がしっかりと食べられていることを確認して、さらにその下品な笑みを深くした。

「俺も食べないか、だと?
 ハハッ、食べるわけないに決まってるじゃないか」

前園は嘲笑った。
嘲笑だというのに、どこか爽やかな笑みだった。

「人肉のハンバーグだよ、こいつは。人間の俺がこんなものを食べられるわけがないだろう?
 道徳や倫理は学校で習わなかったのかな?」

シノの顔が絶望に染まる。
人の肉を、食った。
体の苦しみと、心の苦しみが同時に襲いかかっているのだ。

「俺の信頼を勝ち取るために生かしておいても良かったが、女子供なんて所詮はお荷物だ。
 同じお荷物ならお前ら二人のデイパックの方が担ぎたいからな」

前園はそう言った。
前園の支給品は人肉ハンバーグと青酸カリの毒殺セットで二枠が埋まっている。
青酸カリは強力な武器ではあるが、もっと多様性に優れた武器を欲するのは当然の思考だった。

「銃、こいつが欲しかったんだよ」

そう、銃というシノに与えられた支給品を欲したのだ。
ベレッタM92、オーソドックスな拳銃だ。
より強力な武器を欲するのは、この殺し合いで生きるためには当然のことと言える。

「じゃあな、そこでしっかり最後の一秒まで苦しむんだな」

その言葉と同時に、激しい音が響き、同時にシノは意識が散漫となった。
だから、気づかなかった。


――――同じく毒入りの、『人肉ハンバーグ』を食べた禰豆子が、血走った目で立ち上がったことに。


.


110 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:33:00 grCYDbkQ0





――――なんだ?


前園は目の前の出来事をうまく飲み込むことが出来ない。
前園がシノと禰豆子を殺すために使った毒薬は青酸カリ、シアン化カリウムだ。
致死量は300mg。
300gではない、300mgだ。
それをしっかりと濃いめのソースに混ぜて食べさせた。
独特の香りが感じただろうが、それでも食べたのだ。
それを目視で確認した。

「ぐるるるるぅ…………!!」

なのに、なぜ、この子供は生きて犬歯を向いている。
いや、犬歯なんて話ではない。
牙だ。
皮膚の上から肉を貪るために存在する牙が生えている。
退化した人間は持ちえない牙を生やしている。

「なにが、起こっている……?」

それだけでは終わらない。
禰豆子の童女らしい短い手足が急激に長くなり、肉付きもよくなる。
対象的にその胴は絞られ、女性らしい凹凸が生まれる。
丸い顔は魅力的な細面に変化していく。
そう、童女から突然に成人女性へと成長したのだ。
起こるわけがない、謎すぎる現象。

「この、化物めっ!」

しかし、それでも前園の反応は早かった。
二発。
パンパンと銃を撃ち、その銃弾は禰豆子の膝を的確に破壊する。

「うぅっ!」

禰豆子はうめき声を上げるが、それだけだ。
長くなった二本の脚でしっかりとその大地を踏みしめている。
当然だ。
禰豆子は、『鬼』なのだ。
鬼には拳銃の銃弾を膝に食らった程度で倒れない。
鬼には毒などで死に至らない。
鬼は、生命体として人間を始めとする動物を大きく凌駕しているのだ。
まずい。
前園は死の予感を感じ取り、恥も外聞もなく銃を握りしめたまま、振り返って走り出す。

「があぁぁぁっ!!!」

だが、『鬼』である禰豆子の方が段違いに速い。
『走る』のではなく、『跳んで』前園の前方へと降り立った。
傷が、消えている。
再生しているのだ。
そのまま前園はデイパックに手を突っ込み、何かを確かめることもなく、その掴んだ物体を禰豆子へと投げつけようとする。
だが、それよりも速く禰豆子は前園へとのしかかり、肩を抑えて体を固定させる。


111 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:33:40 grCYDbkQ0

「クソがっ!」

前園は完全に腕の動きを拘束される前に、破れかぶれといった様子でその握った冷たい鉄片らしきものを禰豆子の脚へと刺しつける。
銃で脚を破壊されても化物にこんなものが役に立つとは思えないが、それでもどうしても行ってしまう生理的な防衛反応だった。

「ぐぅぅぅぅ!!!」

前園の想定とは裏腹に、禰豆子は苦しげにうめき声を上げた。
効いている。
理由はわからないが、この鉄片、いや、苦無は化物に有効なようだ。
ならば、この苦無で仕留めようとするが。

「がああああああああああっ!!!」

ウォークライ、咆哮を上げる禰豆子に対してビクリと体が震える。
効いている、効いているが……どこまで効いているかがわからない。
この苦無は禰豆子を殺し得る獲物かもしれないが、同時に数秒だけ動きを止めるだけのものかもしれない。
前園はのしかかる禰豆子の腹部を思い切り蹴り上げる。

「ぅっ!」

禰豆子の体が僅かに浮き、弱まった拘束を振りほどいて逃げ出す。
ここは逃げるに限る。
眼の前の化物は、明らかに知性が低い。
自身の毒殺が漏れる可能性は低い。
ならば、この化物を殺し得る者――――例えば、ナノマシンによって異能を得た円城周兎のようなものと出会うしかない。

「おっと……!」

だが、同時にデイパックを回収するのを忘れない。
自身のデイパック、シノのデイパック、禰豆子のデイパック。
三つのデイパックを抱え、苦しんでいる禰豆子へと全力で遠ざかっていく。
前園甲士の立ち上がりは散々なものだった。

「だが、俺は生き残る……自分の命よりも大事なものなんて存在しない……!」

眼鏡の奥で貪欲に欲望の炎を燃やしながら、前園は夜の闇の中を駆けていった。


112 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:34:58 grCYDbkQ0





『駄目よ、禰豆子。それだけは駄目』

声がする。
朦朧とした、眠ったような意識の中で、はっきりと声がする。

『姉ちゃん、やめてくれよ。そんなことしないでくれよ』

声がする。
懐かしい、泣きたくなるような、泣きそうな声がする。

『やめてくれよ、姉ちゃん! お願いだよっ!』
『お姉ちゃん、それだけは食べちゃいけないよ!』

声がする。
ああ、どこで聞いたのだっけ。

『お姉ちゃん、なんでも食べるから! もう、好き嫌いしないから、それは食べないでよぉ!』

声がする。
そうか、私は何かを食べていて、これは食べてはいけないものなのか。

『……すまないな。気づかぬうちに、いつもいつも、お姉ちゃんだからと我慢を強いていたんだな』

声がする。
ああ、ああ、でもね。

『でもね、それだけは駄目なんだよ……禰豆子』


――――こんな美味しいもの、初めて食べたんだ。


.


113 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:35:39 grCYDbkQ0





苦しい。
痒い。
気持ち悪い。
シノはぼんやりとする気持ちを抱え込んだまま、そのまま嘔吐を続ける。
それはシアン化カリウムの
青白い顔のまま、一人の少年の顔が思い浮かんだ。

「ミク……ちゃん……」

若殿ミクニ、大事な幼馴染。
ある時期から自分に対して冷たくなった、この世に三人だけの大事な大事な幼馴染。
それが、気づけば幼馴染というだけでは抱かない感情を抱くようになったのは何時だっただろうか。
愛している。
愛月シノは若殿ミクニに夢中なのだ。
恋をしていた。
二人で幸せになりたいと、そう願っていた。
だから、忘れたのだ。
幸せが壊れるのは、いつだって急のことなんだ。
でも、思えば共通点があった気がする。
幸せが壊れるときには、そうだ。

「ぅぅぅるるる……」

獣のうめき声が聞こえる。
それが何なのかもわからない。
腹部になにかぼんやりとした感覚が走るが、それがなにかもわからない。
もはや、シノは痛みもわからないのだ。
だから、気づかない。
禰豆子が鬼になってしまったことも。
人肉の味を覚えてしまい、傷を追った禰豆子が我慢できなくなっていることも。
禰豆子が、自身を、食べていることにも気づかないのだ。


ああ、そうだ、幸せが壊れるときには何時だって。


「じゅるっ……ぅるるる……はむっ……んっ!」


――――血の匂いがするんだ。



【愛月シノ@ラブデスター 死亡】


114 : 獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:36:17 grCYDbkQ0

【C-1・民家/1日目・深夜】

【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:不明。
1:眼前の肉を食べる。
[備考]
※人肉を食いました。


【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜6、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
    人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:この場から離れる。
2:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。



【支給品紹介】

【ベレッタM92F@現実】
愛月シノに支給された。
オーソドックスなスライド式の拳銃。

【青酸カリ@現実】
前園甲士に支給された。
シアン化カリウム、猛毒。
致死量は150〜300mgで摂取すれば十五分以内には死ぬ。
運が良ければ十五分ほどは持ちこたえる。

【人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ】
前園甲士に支給された。
カニアマゾンが経営していたレストランで振る舞われていた人肉で作られたハンバーグ。

【藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃】
音柱・宇髄天元の嫁の一人である雛鶴が使用していた苦無。
鬼にとって唯一の毒である藤の花で作られた毒が塗られている。
この苦無を使うことで、鬼を殺すことは叶わずとも動きを制限することが出来る。


115 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/03(金) 01:36:29 grCYDbkQ0
投下終了です


116 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:16:16 C3Opufhk0
投下乙です!
前園さん、特に意識はしていないところで色んなものを台無しにしていますね。
作戦的に人肉ハンバーグである必要がなかったのに、結果として謎に多大な影響力を出したのでは……
(あとこれ、支給品の相性的に油断してたらシノにヘッドショット食らっただろうに、そのことに気づいて居ないのも前園さんらしいキュートさだなと思いました)

こちらも投下します。


117 : 廻るピングドラム ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:17:03 C3Opufhk0

父が、嫌いだった。

漂ってくるアルコールの匂い、散乱するゴミ屑や煙草の吸い殻、乱れた衣装、そして──その中に倒れ臥すあの人。
母さん。
あの人は父に蹴られていた。殴られていた。
その度に肉が跳ねる嫌な音がして、後から見るとたまに赤黒い何かが床にこびりついているんだ。

知ってる?
フローリングについた血という奴は厄介なもので、一回乾いてしまうとなかなか取れない。
お湯をかけると凝固してさらに取れなくなるし、洗剤でゴシゴシやろうものなら床が傷つくしで、何かと面倒なんだ。
だが、なぜか血はコーラで磨くと落ちるんだよ。
母がたまに実践していた生活の知恵って奴で、服とかにも応用できる。俺も今でもたまに使わせてもらってる。

ともあれ母に父はよく殴られて、それで母は泣きじゃくって、
そして母が殴られる理由はだいたいのところ──俺自身にあった。
あの家は、広々としているのに窒息するほどひどく息苦しかった。

ただ別に、そんなことは重要ではなかった。
もともとあの父は、本物の父ではなかったし(これは変に感情的な意味がある訳ではなく、本当の意味で義父という意味)振り返ると、俺があの人に疎まれる理由もわかるからね。

俺は父のことが嫌いで、
父は他人の、そして気味の悪い子供であった俺のことが嫌いだった。
ただそれだけの話に過ぎないだろう。

でもね──母さんは、どうだったんだろうね?

俺は、母さんのことが好きだったのかな?
母さんは、俺のことが好きだったのかな?

もうその答えは誰だって教えてはくれないだろう。
あの酔狂な異星人の愛情測定器だって、死んでしまった人の愛までは教えてくれないのだから。

母さんを殴る父を俺が殺し、
父を殺す俺を見て、母は自殺した。

そして、残された俺も──死んじゃったんだけどね。





118 : 廻るピングドラム ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:17:40 C3Opufhk0


無名街、と呼ばれるその場所は、スラムと百人が聞いて百人が思い浮かべるであろうイメージを具現化したかのような街であった。

アスファルトの舗装は剥げ、窓ガラスが割れ放題。
錆びついた臭いのする風が吹き、積み重なった瓦礫が土煙を立てて崩れている。
街のジオラマを一度完成させた後、一度天地をひっくり返して何もかもメチャクチャにしたのち、元に戻してから野に五年放置でもしないとこうはならないだろう。

そんな街に、神居クロオはいた。
十代の少年であり、小綺麗な学生服を身につけている彼は、スラムにはいささかなそぐわない身なりである。
が、その頭部にぐるぐるに巻かれた包帯は奇妙としかいいようがなく、そんな奇妙があるがゆえ、この街に溶け込んでいるようにも見えた。
実際、彼は普通の学生ではないし、ある意味、この乾いた街にそぐう人間性を備えているのだった。

ラブデスター実験。
突如襲来した異星人に拉致された中学生による、「愛」を巡る奇怪なデスゲーム。
クロオはどういうわけかそんなものに参加させられている。
否、正確には参加させられていた、と過去形になるだろう。
ラブデスター実験においては彼はすでに脱落──死亡し、その後にたらい回しにするかのようにまた別のゲームに参加させられているのだから。

「ふふふ……」

そして──彼は再びまた、殺されようとしていた。

「…………」

きらり、と闇夜にきらめくものがあった。
それは糸であった。
極限まで細く、刃物のような鋭さをたたえた糸がクロオを捕らえていた。
学生服に食い込んだ無数の糸が彼を掴んで離さない。切り裂かれた衣服からは血が滲んでおり、その糸に込められた明確な殺意を表している。

「お前」

闇に溶け込むようにして、もう一体、何かがいた。
鬼であり、蜘蛛であり、子どもである。
和装に身に纏う彼の顔には不気味な斑点が浮かんでおり、そのずっとするほど白い髪や、赤い眼が、明らかに彼が人間でないことを示して居た。

「お前──人間?」

人間でない鬼は、どこか不思議そうに首をかしげていた。
そんな鬼に対し、クロオは困ったように肩をすくめて、

「さて、ね。正直、よくわからないな」

そう言った。

「はぐらかすな」
「違う。ちょっと本当に自信がないんだ。死んで、また蘇るなんて」
「でもお前は人間だ。鬼じゃない」
「……久々だな」

クロオの視線は逸らしていた。鬼は訝しげに、

「どこを見ている?」
「月だ。月が、きれいだな。そう思って。久しぶりなんだ、外からちゃんと月を見るの」

ぐっ、と糸が強められ、クロオは苦悶の声を漏らす。
鬼の苛立ちが糸越しに伝わってくるようだった。

「おかしいな。なんで裂けない」
「痛いよ。拷問としては一級品だ」
「拷問する気なんてないよ。殺す気でやっている。
 でも、なぜかお前は妙に硬い」

淡々と、そして不思議そうに鬼は語る。
クロオの身体を裂けないことが、ひどく不思議そうに。


119 : 廻るピングドラム ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:18:16 C3Opufhk0

「おかしいな。なんで裂けない」
「痛いよ。拷問としては一級品だ」
「拷問する気なんてないよ。殺す気でやっている。
 でも、なぜかお前は妙に硬い」

淡々と、そして不思議そうに鬼は語る。
クロオの身体を裂けないことが、ひどく不思議そうに。

──夜が始まって直後に、クロオはこの鬼に行き遭った。

そして出会い頭に糸で拘束され、殺されそうになった。
そこに一切の対話の余地はなかった。鬼に遭ったから殺される。
きっとこの舞台がデスゲームなどでなかったとしても、結果は同じことだっただろう。

だがクロオはそれでも死んではいなかった。

「ちょっと良いアイテムを持っていてね」

クロオはそう言ってどこか自嘲的な笑みを浮かべる。
そんな彼の笑みに、一瞬、雷の光が重なった。
それは彼の胸元に刺さっている短刀に発せられていた。

悪刀『鐚』。
完成形変体刀が一本にして、12本のうち最も凶悪とも称される一振りである。
その帯電した刃を自身に突き刺すことで、所有者は肉体を活性化させ無理矢理にも生かされる。
死んで、どういうわけか生き返った彼に支給されていたのは、そんな物騒なアイテムであった。

そんな刀を身につけていたことが──幸か不幸か──クロオの命を救うことになっていた。

「まぁ、いいよ。本当にただの人間みたいだし、ちょっと頑丈なだけみたいだ」

鬼はつまらなさそうに言う。
彼の言葉通りだった。悪刀は所有者の身を活性化させるが、別に不死身にさせる訳ではない。
このまま彼が無慈悲に糸を振るえば、そのままクロオはその身を散らすだろう。
要するに、出会って5秒で死ぬはずだったものが、5分に伸びた程度の違いにすぎない。

──まぁ別に、いいのかな。

ただクロオは、そうとも考えていた。
実際、彼は死んだ身だ。
ラブデスター実験の終盤にて、皇城ジウとの血で血を洗う死闘の末、自分は敗れた。
そのことに思うことがないとは言わないが──再び、執着するほどのものもない。

──……と、思ってたんだけどね。

糸に締め付けられ、1秒ずつ死へと向かっていく最中、クロオの脳裏には一つの名前が浮かんでいた。
同じくデスゲームに参加させられている者のなかには、いくつか知っている名があった。
とはいえもうそれはどうでもよかった。
自身を殺した皇城ジウの名さえも、クロオにとっては執着するものにはならない。

──でも、あの名前があった。

まったく名簿なんて、律儀にあんなもの観るんじゃなかった。
今のクロオにとって、この世で意味のある名前は二つしかない。
そのうち、一つが載ってしまっていた。


120 : 廻るピングドラム ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:18:53 C3Opufhk0

彼がここにいること、そして今度のゲームにはこんな鬼が徘徊していること、着実に死に向かう意識の中、それらの事実を噛み締めたクロオの思考が急速に回転し出す。

「一つ、提案があるんだ」

だから──彼は、鬼に向かって口を開いていた。

「命乞い? どうでもいいよ」
「俺を生かしてくれれば、こういうアイテムを君にあげるよ」
「要らない。殺して、奪い取ればいい」
「それは無理だ。奪われないよう、さっき隠してしまったから」
「駆け引きにもなっていないよ」

絡みとられた糸がどんどん強まっていく。痛みが思考を乱す中、それでもクロオは言葉を続ける。

「じゃあ、こういうのはどうだ?
 俺は君の奴隷になろう。
 君の手となり、足となり、弾除けとなる。
 君はこのゲームを優勝したいんだろう? その優勝の権利は譲るから、それまで俺を使って欲しい」
「要らない」
「さぁ? それは自信過剰だろう。
 君は俺を瞬殺できるつもりだったみたいだが、できなかった。
 この場所にはどうやら君の知らない技術のアイテムやらがいっぱいあるみたいだね」

そう言って、クロオは、ニッ、と微笑みを浮かべた。
澄んだ、一片の曇りのない、最高級の出来栄えの仮面のような微笑みだった。

「そんな場所で──一人で戦うのは難しいと思うよ?」

その微笑みが効いた──という訳ではないだろう。
ただ、一人で戦う、という言葉に少し思うところがあったのか、一瞬だけ糸が緩んだことがわかった。
クロオはその瞬間──仮面の微笑みの奥で、別の感情を宿らせた。

「俺はこう見えて、一個前のゲームではかなり終盤まで残ってたんだよ。
 いろいろノウハウはあるつもりだし、結構手助けできると思うよ」
「二回目、とでもいうのか。この奇怪な催しが」
「ああ、俺が前にいたのは、ちょっとルールが違ったけどね。
 でも何にせよ、一人で戦うよりは、二人で、なんならそれ以上の集団で動いた方が、いいんじゃないかな?」

クロオは微笑む。
彼が持てうる最高のカードをここで切りながら、この鬼に対して言葉を告げていた。
その間も糸が彼の肌を引き裂き、激痛をもたらして居たが、それでも微笑みを崩すことはなかった。

そうして──どれほどの時が経ったか。

二人は無言で向き合っていた。
鬼は一切の感情を見せることなく、クロオは鉄面皮を崩すことなく。


121 : 廻るピングドラム ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:19:26 C3Opufhk0

不意に──

「いいよ」

──不意に、どさりとクロオの身体が落ちた。
糸が解かれ、解放されたクロオはその勢いのまま倒れ、はぁ、はぁ、と息荒く漏らしている。
その身を悪刀の雷が音を立てて走る。
致命傷をはるかに超える打撃を受けながらも、悪刀によってクロオは無理やりに生かされていた。

「どうやらお前を殺すのは時間がかかりそうだし、まぁ、いいかなって気がしてきた」

それを無感動な口調で、鬼は言う。
その瞳に一切の慈悲や躊躇といったものはなかった。
対するクロオはそれを見上げながら、ふっと口角を上げた。

「どうせどこか僕の寝首をかこうとか、頃合いを見て逃げ出そうとか考えてるんだろうけど、いいよ」
「……やだな。俺は別に、そんなこと考えないよ」
「ただし」

そこで鬼は表情を一切変えず、すっ、とクロオに手を差し伸べてきた。
それはあたかもの傷つくクロオを慮るような優しげな手つきであったが、表情は何ら変わらない、無慈悲なものである。

「お前は僕の奴隷じゃない」

そして大真面目な口調で、こんなことを言うのだった。

「家族だ」

と。









累、という鬼がいた。
それは鬼舞辻無惨がこの世に生み出した鬼において、「十二鬼月」の「下弦の伍」という位を持つ、高位の鬼な訳だったが、一つ、奇妙な習性があった。

「お前は今から、僕の父になってもらう」

累は死を告げるのと何ら変わらない口調で言った。

「本当の絆で結ばれた、僕の本当の家族になってもらう」

累と呼ばれる鬼は、家族を作ろうとするのだった。
徒党を組めない性質のある鬼において、非常に例外的なことに、それは複数の鬼を束ねる形で活動をしていた。
累は己の力を他の鬼に分け与え、家族の一員へと加える。
元が何であるかは関係がない。たとえそれが幼子の姿の鬼であろうとも、空きがあるのならば、それを母という役割に押し込めてきた。

それゆえに、累はクロオに対し、そんな奇妙な申し出を行っていた。


122 : 廻るピングドラム ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:19:49 C3Opufhk0

「うん、わかった。家族になればいいんだね」

対するクロオは、笑顔でそれを受け止めた。
彼は、なぜ家族に、などと尋ねはしなかった。

「いいよ。ただそうだな、父はできればやめて欲しい」

そう告げた瞬間、糸が闇夜を走り、クロオの身を穿った。
口答えをしたことに対する、反射的な動きであり、悪刀の力がなければ、十分致命傷になりうる一打であった。

「……別に家族になるのが嫌な訳じゃないんだ。
 ただ父さんは正直ちょっとやり方がわからない。
 でも兄なら結構自信があるよ。だから僕を君の兄にして欲しい」

血を飛び散らせながらも、クロオは笑って言う。
そんな彼を累はじっと見つめたのち、

「まぁいいよ。どのみち、全部作らなければならないんだ。
 兄も、父も、母も、姉も。
 ならいいだろう。お前は今から僕の兄だ」
「わかった。よろしく、弟」
「お前はぼくの兄だ。そのためにまず顔を変えろ。僕の兄らしい顔にしろ」
「わかった。どうにかしてみよう」
「服も変えろ」
「いいよ。和服、あるといいね」
「思考も変えろ。お前は鬼であり、僕の兄である」
「わかった」

クロオがそう答えた瞬間、びしゅん、と音が甲高い音が夜の無名街に走った。
またしても反射的な一撃だった。

「お前は僕の兄だ。
 兄というものは弟の命令に黙々と付き従うようなものではない。
 今のお前の態度は奴隷そのものだ。兄をやる気があるのか?」

累はやはり淡々とそう告げる。
言葉を返そうにも、応じようにも死の一撃を振り回す理不尽な言動であったが、クロオはしかし、

「いや、それは違うと思うな」

やはり微笑みを浮かべて言うのだった。

「何がだ」
「君の言う兄像がだよ。
 お兄さんというものは、可愛い妹や弟がこうして正面から物を頼んできたときはね、なんだって聞いてあげたいと思うものなんだ」

彼はきっぱりと断言するように言う。
その言葉の響きにはあまりにも強い確信が込められているようでもあった。
累は、しばし無言でクロオを見つめたのち、

「…………」
「兄の俺がそう言うんだ。信じてくれよ、弟よ。
 たった二人の兄弟だろう?」
「これから増やす。二人ではない」
「でも今はまだ二人だ。この殺し合いの中で一緒に家族を作っていこう」

そこでクロオはかがみこみ、塁に視線を合わせて言う。
兄が──弟に対して、諭すような口ぶりであった。

二人はしばらくそのまま視線を交わしていた。
荒れ果てた街のなか、月明かりに照らされた二人は、そうして家族になった。


「とびっきりの──真実の愛で結ばれた家族をさ」



【G-3・無名街/1日目・深夜】

【累@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父、母、姉を作る
2:家族にならなそうな人間は殺害
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:別に優勝する気は特にないが、ミクニ君以外は流れ次第で殺してしまってもいいかなと思っている
[備考]
※参戦時期は死亡後


123 : 廻るピングドラム ◆7ediZa7/Ag :2019/05/03(金) 03:20:12 C3Opufhk0
投下終了です


124 : ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/03(金) 05:09:07 4ECUxGpA0
童磨、フローレンス・ナイチンゲール 予約します


125 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/03(金) 10:37:22 69Kp9F860
短いですが投下します


126 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/03(金) 10:40:11 69Kp9F860

深夜の教会。
静謐と神秘的な雰囲気に包まれた空間に、一人の男が立っていた。
ハンチング帽をかぶり、笑みを浮かべる初老の男性。
その穏やかな物腰は、法衣を着ていれば彼が神父と錯覚するかもしれない、そんな印象を抱かせる。
本名サミュエル・T・オーウェン。通称・佐藤。
佐藤は教会の窓の前である物を持ち立っていた。
それは一個のカードケース。
彼が目覚めたときに脇にあったリュックに入っていた支給品だ。
それをゆっくりと掲げ、宣言する。


「変身」


次の瞬間、佐藤の姿が変貌する。
緑の下地に上半身を覆う装甲。
宣言の通り、彼は『仮面ライダーゾルダ』へと変身を果たしていた。
仮面ライダーの身体能力の強化により全身に力が満ちるのを感じる。
自身が操る『IBM』よりも今の佐藤の身体能力は上かもしれない。
次いで教会の長いすを腰に据えられたマグナバイザーで試射してみると、その威力に佐藤は仮面の下で満足げに目を細めた。
ベルトから出してみたカードの種類から察するに、この仮面ライダーゾルダという強化服は重火器や大砲をメインに扱うらしい。
それは佐藤にとってこれ以上なく好都合な事だった。


「さて、変身ヒーロー気分も味わった所で。もう一つ実験をしてみよう」


バックルからカードを引き抜き、姿がゾルダから元の佐藤の物へと戻る。
大事そうにゾルダのデッキをポケットにしまうと、今度はリュックから日本刀を取り出す。
鞘を抜き、凶器と化したその刃を他ならない自身へと向けた。
そして佐藤は穏やかな笑顔のまま、日本刀を自分の頭へと突き刺した。
白刃は佐藤の眼窩から真っすぐと突き進み、脳漿へと突き刺さり、頭蓋骨にあたって止まった。
疑いようもなく人間なら即死する傷だ。
そう、人間ならば。


127 : 不死身の怪物 ◆OLR6O6xahk :2019/05/03(金) 10:43:52 69Kp9F860

「あいたた…でも。やはりこの程度では死にそうもない、と」


日本刀が引き抜かれ、傷は一瞬で再生し、佐藤は元の穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
次に心臓に向かって突き刺すが、やはり結果は同じだ。
亜人。
例え粉みじんにされたところで決して死ぬことのない人の姿をした超越者。
それが佐藤の正体だった。


「うーん、転送も試してみたいんだけど、破砕機は此処にはなさそうだし、
あのBBという少女が何か細工してるかもしれないなぁ」


転送とは亜人の『死亡した際に最も大きい肉片を軸に再生』するという性質を利用した方法だ。
予め目標の地点に自分の肉片を置いて本体が粉砕されればある種の瞬間移動のようなことすら可能になる。
しかし、どうせ再生すると分かっていてもそれが躊躇なくできる者は少ないだろう。
想像を絶する痛苦を味わう上、手首以外の元の人格は確実に死んでしまうのだから。
しかし、佐藤はそれを簡単にできる。
故にこそ、人というよりは怪物と形容した方が相応しい存在。


「私はここでも『いつもの通り』やるつもりだが…
永井君、ここまで勝ち越しだった私を君は倒せるかな?」


名簿にあった同じ亜人の同胞であり、仇敵である永井圭の名前を想起しながら呟きを漏らす。
佐藤には使命がある。人間社会における亜人の立場の確立という使命が。
そのためにはこの場にいる全員を殺しつくしても帰還しなければならない。
しかしそれはあくまで建前でしかない。
佐藤は極論戦えれば何でもいいのだ。それが彼の性格であり性癖であり、性分なのだった。
このバトルロワイアルという催しは、その点彼にとってうってつけだ。
まるでお気に入りのゲームの、まだ発見されていない隠しステージを見つけた子供のような高揚感が佐藤を支配していた。
佐藤は機械のように、あるいは無邪気な少年のように戦いに身をゆだねる。


「さぁ、ブチかまそう」


意気揚々と、彼は殺し合いに乗り出した。


【E-3/教会/1日目・深夜】
【佐藤@亜人】
[状態]:健康
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、日本刀@現実
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.他にも銃を手に入れる
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。


128 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/03(金) 10:45:51 69Kp9F860
投下終了です、予約分は後程


129 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/03(金) 11:40:56 hT93Rquw0
白銀御行、メルトリリス 予約します


130 : 名無しさん :2019/05/03(金) 13:32:33 MIQ7om3g0
ざっと予約状況等をまとめてみる

【未予約キャラ一覧】

2/10【鬼滅の刃】
◯冨岡義勇/◯胡蝶しのぶ

2/9【Fate/Grand Order】
◯清姫/◯エドモン・ダンテス

1/6【ラブデスター】
◯姐切ななせ

1/6【五等分の花嫁】
◯上杉風太郎

2/5【仮面ライダーアマゾンズ】
◯水澤悠/◯イユ

4/5【HiGH&LOW】
◯コブラ/◯スモーキー/◯雨宮雅貴/◯雨宮広斗

3/5【衛府の七忍】
◯波裸羅/◯猛丸/◯犬飼幻ノ介

2/4【彼岸島 48日後……】
◯鮫島/◯山本勝次

0/3【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】

3/3【刀語】
◯鑢七花/◯とがめ/◯鑢七実

1/3【仮面ライダー龍騎】
◯浅倉威

2/3【ナノハザード 】
◯円城周兎/◯今之川権三

2/3【めだかボックス】
◯黒神めだか/◯球磨川禊

1/2【TRICK】
◯山田奈緒子

0/2【亜人】

1/1【心霊怪奇ファイル コワすぎっ!】
◯工藤仁

27/70

【現在の予約】
>>13
猗窩座、鬼舞辻無惨、源頼光

>>19
皇城ジウ、中野四葉

>>33
煉獄杏寿郎、雅、人吉善吉

>>84
宮本武蔵、宮本武蔵

>>87
宮本明、クラゲアマゾン

>>97
鑢七実、イユ

>>99
城戸真司、秋山蓮

>>124
童磨、フローレンス・ナイチンゲール

>>129
白銀御行、メルトリリス


131 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/03(金) 19:29:45 VQYxZdMI0
皆さん投下乙です

>時代を貫いてひびくもの
 とにかくキャラが全員魅力的。気絶してて出番少なめの上田以外原作未読なのに、そう感じました。
 一般人である二乃の思考も可愛いし、他の人も言ってますがほんとに沖田の独白が良い。
 >賊軍として悪評しか残らぬものと思っていましたが、なにやら新選組、けっこーな人気者みたいです。
 >あの都がねえ。
 ほんとに好きです。衛府の七忍買いました。

>空腹の音
 千翼の暗い思考から善逸登場によって一気に空気が変わるのが面白いですね。
 そうしてバカを繰り広げた後の善逸らしい優しい心情、というか全体的にこのSSの雰囲気が優しい。
 タイトル通りに空腹をテーマに書かれて心情はみんな魅力的でした。

>鬼が嗤う
 このロワ最初のバトル展開。
 多少剣呑ではあってもまだゆったりしていた空気から突然目を狙う酒呑童子はいかにも人外らしい。
 そんな酒呑童子に圧倒されながらも一矢報いる村山はかっこいい。
 そして知り合いの凶行を目撃し、主催者まで顔見知り? のマシュはいったいこれからどうするのでしょうか。

>月と太陽
 異常事態に慣れた人間が一緒にいる。頼りになることですが劣等感を感じてしまうのは辛いですね。
 三玖は精神的にもあまりよろしくない時期から呼び出された様子。
 互いに殺し合いには乗っていないし、本心を打ち明けあってるコンビですが、先のまだ不安があるのような気もします

>最初に生まれてくるということ
 五等分を読んでなくても長女のやらかしは耳に入ってますが、とりあえずは妹たちを心配する善良な姉である様子。そのままでいるのか、あるいは炭治郎が切れるようなことをやらかすのか。
 やらかすなら支給品的に三玖が被害を被ることになりそう。
 そして煉獄さんを思う炭治郎。ふたりが生きて出逢うことができるのか、気になります。
 一花にライダーベルト支給は「三玖を止めるため私は嘘つきを演じ続ける」のイメージからだろうか。

>心、わたしの胸のどこに
 一話使って書かれる藤原の死に悲しむかぐや、痛々しいですね。「OP嘘なんじゃね?」で簡単に石上を立ち直らせたのが申し訳なくなってきます。
 でも実際に藤原書記は死んでいるわけでかぐや思う通り、無事全員で殺し合いを脱出できても元の日常は帰ってこない。
 これから先いったい彼女はどういう道を選択するんでしょうか。

>獣が嗤うこの街で
 はいはいはい来たよ来ましたよこの展開。正直予約見た時点で期待してました。
 人を食ってしまった禰豆子、参戦時期にもよりますが参加者の鬼殺隊士全員に刺さりそうな案件。特に炭治郎は妹を殺して腹を切るを実践するのかどうなのか。
 そして初の死亡者シノ、ジウはこれを知った時正気を保っていられるのか、そもそも正気の状態で参戦するのかもわかりませんが。
 ミクニも大きなダメージを受けるのは間違いない。猛田が側にいる今どうなってしまうのか。
 前園甲士、本人は禰豆子にボコられて冴えない感じだったが、残した傷跡がデカイ。

>廻るピングドラム
 家族との絆を求める累と母との絆あったのかわからないクロオ、良いですね。
 最初のコーラの件がクロオくんの生活を想像させます。最後のセリフも素晴らしい。
 個人的に非常に先行きが気になるコンビです。
 思い返してみるとクロオくんの最後は鬼滅っぽい気がする。

>不死身の怪物
 改めて見ると神父っぽい本名の佐藤。教会にいるのが様になってますね。
 圭が制限疑ってるだけの立ち止まる中、速攻に実験する佐藤は流石ですね。下手をすればそのまま死ぬっていうのに。
 そしてやばい奴にやばい支給品が渡りました。北岡さんがやるエンドオブワールドと佐藤がやるエンドオブワールドじゃ危険度が全然違いますよ。
 
抜けはないはず


132 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:01:19 JI1/CLuU0
 投下する前に、説明し忘れていたことがあるのでしておきます。
 時間表記ですが、他のロワでもよく見る感じの奴にします。ゼロ時スタートです。
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24


133 : ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:09:03 sHEQAOzQ0
皆様投下お疲れ様です。

>>最初に生まれてくるということ
長男長女コンビだ! 一花はいろいろやらかす前からの参戦というのも面白い。
炭治郎はこういう状況でもいつも通りだなあ、煉獄さんへのモノローグも凄く良くて素敵です。
とはいえ、禰豆子がとんでもないことになってしまっているので、これから先大変なのは確実というのがまた……。

>>心、わたしの胸のどこに
あまりにも丁寧な心理描写で紡がれるかぐやさんの述懐がとても胸に刺さる、素晴らしい。
彼女が今はもういない藤原書記への心情を吐露するところが特に好きです。こういうのに弱い……
今はまさに天秤が揺れ動いている状態の彼女ですが、これからどう転ぶのか……最初に会える人物次第でもありそうでハラハラします。

>>共闘
死亡後参戦が許されるパロロワ系二次創作ならではのお話、好き!!
猛田とミクニの共闘という原作ではまず考えられなかった状況ですが、ミクニなら確かにすんなり受け入れるよなぁ、となりました。
一番好きなのは最後の武道さんの下りです。猛田にとってはどうでもいいことでも、あの二人が生還したのは測定器のおかげ……

>>獣が嗤うこの街で
え、えぐい……! あらゆる意味でえぐい……!
あの前園さんと炭治郎の居ない状態の禰豆子に一般人のしのが予約された時点で嫌な予感はしていましたが、その遥か上を行かれました。
死にかけとはいえ人を食べてしまったことはあまりにも重い。禰豆子が此処からどう動くにしろ、炭治郎が曇りまくる結果になりそう……。

>>廻るピングドラム
終始ピリピリと張り詰めた空気の中で行われる交渉(?)話、実に読み応えがありました。
累が家族を作る目的で動くのは予想通りでしたが、クロオくんをそこにあてがうというセンスが凄い。
下弦とはいえ十二鬼月である累にクロオくんの頭が加わったことで、とんでもなく怖い危険人物コンビになりましたね……。

>>不死身の怪物
佐藤という文字通り"不死身の怪物"の底知れなさや恐ろしさが伝わってくるお話でした。
自分の不死性を確かめるために躊躇なく自傷ってレベルじゃない事をする辺り本当に怪物じみているなあと。
元のスペックを支給品で更に補強して満を持して送り出される強マーダー、あまりに怖い。


それでは私も投下します。


134 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:10:11 sHEQAOzQ0

「いやあ、はっはっは。
 これはまた凄いことになったねぇ……俺や猗窩座殿だけならばまだしも、あのお方までもこのような座興に巻き込まれようとは。
 鳴女ちゃんとどちらが凄いかな? 技比べをさせてみたいものだ」

 尾張城───かつてどこかの世界で隆盛を誇った尾張幕府の居城に、しかし将軍たる為政者の姿はなく。
 その最上階にてけらけらと場違いなほど明るい笑い声をあげて愉快愉快と身体を揺らしているのは、ひとりの異様な風体の男だった。
 血を被ったような紋様の浮かんだ髪。虹を切り取って閉じ込めたように美しい、宝石と見紛うその瞳。
 どれを取っても浮き世離れした、まるで空想の産物のような彼。

「どうせなら黒死牟殿も呼んであげればよかったのに。ひとりだけ仲間外れでは寂しかろうよ。
 猗窩座殿は彼を殺すと豪語していたし、そういう意味でもちょうどいい機会だったのになあ」

 朗らかに大笑する彼の総身からは、噎せ返るような血の匂いがしていた。
 血と、臓物と、肉の匂い。人の中身を片っ端から掻き出して人の形に再形成したようなおぞましさ。
 なまじ見た目が綺羅びやかで美しいことが災いして、余計にそれが際立ってしまっている。

 ああ、故にこれが人間などである筈もない。虹の双眸に浮かんだ『上弦』の文字と、数字の『弐』がその証拠だ。

「とはいえ、無惨様はさぞかしお怒りだろう。ああぁ、一刻も早く馳せ参じて差し上げなければ!
 手土産のひとつふたつ持参していった方がいいかな? そうだ、今は亡き玉壺殿に倣って壺に生首を活けて持って行こうか。
 あのお方がそんな子供騙しでお喜びになるとは正直思えないが、その時は俺の躰で存分にお怒りを発散していただくのも一興だろう」

 さも聖人か神かのように偉大なもののおわすべき場所に座する彼は───"鬼"である。
 鬼。地獄の獄卒としてよく語られる、金棒をぶら下げた暴力装置ではない。
 鬼ヶ島に居を構え、宝物を独り占めしては人に横暴の限りを働く賊でもない。それらよりも尚悪い。
 彼は、彼らは人を喰う。その魂までもを陵辱し、悲しみと怒りの連鎖を末代までも引き起こす。絶対的なまでの、人類の敵。
 『人喰い鬼』。成る程確かに、殺し合いを恙なく押し進めるための促進剤としてはおあつらえ向きの人選であると言えた。

 そしてこの鬼の名は、童磨という。
 十二鬼月のひとり。階級は、上弦の弐。
 教祖として万世に渡る極楽を標榜しながら、その実は歪んだ愛情で数多の人間を喰らってきた正真の邪悪である。

 しかしながら、そんな悪鬼の首にも今は金属製のチープな首輪が場違いに巻き付いている状況だ。
 鬼である彼らを殺そうと思うならば、その身体に直に日光を浴びせかけるか、日輪刀と呼ばれる特殊な刀で首を刎ねなければならない。
 故に、どんな精密な仕掛けを用立てようが、この首輪で鬼である童磨は殺せない。
 本来は、その筈であるのだが───しかし童磨はこの煩わしい戒めを引き千切る気にはどうもなれなかった。

「まあ、万一ということもあるよな」

 童磨は、この状況を仕組んだBBという人物のことを心の底から高く評価している。一切の誇張抜きでだ。
 自分や猗窩座のような上弦の鬼を引き寄せるだけならばいざ知らず、日々あれだけ涙ぐましい努力を重ねている鬼殺隊ひいては産屋敷にすら居場所を一切掴ませていない無惨ですらもが、BBの手によって呆気なく攫われた。
 無惨への忠誠心が篤い鬼ならば、憤死もかくやと言うほどの情動を覚える状況だろう。
 童磨も無論その手の心意気は備えていたが、彼の場合は何から何まで複雑怪奇にねじれ狂ってしまっているため、例に当て嵌めるには不適当だ。


135 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:11:05 sHEQAOzQ0

 閑話休題。
 鬼舞辻無惨という闇夜の主をも駒のひとつに数えられるような女が、自分達の生命的性質を理解していないとは童磨には思えなかった。
 もしもそうだとしたらまこと信じ難い話ではあるが、この首輪に内蔵された爆弾が、鬼をも滅ぼす未知の威力を秘めているとしたら。
 ルールに背くという短慮を冒した瞬間、たちまち無様に尽きる末路を晒すこととなるに違いない。

「それに、あんな可愛らしい女の子が一生懸命考えたお遊びなんだ。せっかくだから興じてあげようじゃないか」

 こうして、彼の中での答えは出た。
 予定調和のようなその回答は、殺し合いへ乗るというもの。
 とはいえ、本来のルール通りに優勝を目指すつもりまではない。
 無惨と、猗窩座。後は累という名前にも覚えがある。今は解体されて久しい、下弦の月に属していた鬼だった筈だ。

 そもそも下弦が解体されるに至ったきっかけが、件の累が鬼殺隊に殺されたことだったという話だったが───
 その辺りの事柄については、考えてもまず答えは出るまいと潔く諦める。
 主君である無惨様と、大事な仲間と、これまた大事な後輩。
 彼らのみを残し、後の役者はすべてBBの望み通りに喰らってやろうと、童磨は慈心のままにそう決めた。

 さあさあ、決めたからには善は急げだ。
 これほど沢山の人々を苦しみから解き放てるなんて、教祖冥利に尽きるというもの。
 わくわくと心をときめかせながら、童磨は鼻歌すら歌いながら城下の景色をうっとり眺める。

 ああ、いい感じに楽しくなってきた。きっと他の皆も同じ気持ちだろうなあ。
 猗窩座殿は何人殺せるだろうか。下弦の累は過去の汚名を返上出来るだろうか。
 この小さな島には無限の可能性が満ちている。これを、どうして祝福せずにいられよう。 

 喜色満面に殺し合いという凶事を祝福する狂った聖人であったが───そんな中のことである。
 彼の鼻孔を、数百年にも渡る長い生涯の内ただの一度も嗅いだことのないような……奇妙な匂いが擽ったのは。


◆◆


 その男からは、血の匂いがした。
 血だけではない。
 臓物と、弾けた肉と、脳漿と、腐った骨と。
 生涯に渡り幾度となく、鼻が麻痺するほど嗅ぎ分けたありとあらゆる痛みの匂いがした。
 それに顔を顰めるでもなく、鉄面皮と形容するに相応しい仏頂面のまま、女は教祖(かれ)の前に立つ。
 尾張城最上階。眼下に島の景色を一望出来る貴きもののおわす場所には、しかし凝縮された血肉の塊が座していた。

「やあやあ、待っていたよ。
 早速だけど君、いい匂いだねえ」

 霊体ではない。
 確かな実体を保った上で彼は女の目の前に存在していたが、だからこそ尚更質が悪かった。
 悪逆を積んだ英霊ならばいざ知らず。こんなものが、よもや生きとし生けるものとしてこの地上に存在していようとは。
 認めたくはないが、BBの見る目は成る程確かなようだと言わざるを得ない。
 人間達の群れの中にこいつをひとり混ぜたなら、数分と保たずに屍山血河の出来上がりだろう。
 そういう意味では、この悪ふざけ……『バトルロワイアル』の役者としてはいっとう適している。


136 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:11:44 sHEQAOzQ0

「『稀血』の子は結構喰べて来たんだけど、君からはそのどれとも違った匂いがするんだ。
 見たところ異人のようだが、もしかしてあのBBという子、海の向こうの国からも人を集めているのかな?
 う〜ん、でも異人も喰べたことあるしなぁ。なんで君だけなんだろう、よかったら一緒に考えてくれないかい?」

 だが───。
 女にとって、それらの恐ろしげな事実の数々は二の次でしかなかった。
 朱い瞳が虹の瞳を真っ向から見据え、その耳は彼の吐く戯言を一言一句聞き逃さない。
 一方で、そんな様子の彼女に鬼は「おっと、いけない」と何かを思い出したように己の口元へと手をやった。

「そうだそうだ、自己紹介がまだだったね。
 俺は童磨っていうんだ。普段は宗教の教祖なんかをやってるよ」

 彼の言葉はいつだとて真剣味に欠けていてどこか夢見心地。
 しかしだからこそ、衆生と隔絶された超常性のようなものを彼と相対する人間が勝手に見出してしまうのも詮無きことであった。
 虹の瞳に整った身なり。そして、絶望という言葉を母の胎に置いてきたかのような底抜けの明るさ。
 或いは世に語られる高名な聖人も、彼のように奇人めいた人格をしていたのかもしれない。

「おーい。お〜〜い? まさかとは思うんだが、もしかして俺は今君に無視されていないかな?」

 聞こえているか確認するように女の前で手をひらひらと振ってみせる、人喰いの救世主。
 そんな彼に対して、事ここに至ってようやく朱い瞳の女が口を開いた。
 鋼鉄のように硬い貌をわずかに動かしながら開いた口から放たれた言葉は、しかし童磨の望んでいたものではなく。

「───貴方は病気です。可及的速やかな治療が必要であると判断します」
「は?」

 まったく要領を得ない、突拍子にも程があるような一言だった。
 一応自分の名前はちゃんと聞いてくれていたことに一抹の嬉しさを覚えはしたが、それにしたって意味が分からない。
 童磨の下を尋ねてきた信者達にはいろいろな人間が居た。
 恋人に逃げられた者、借金を背負った者、余命幾許もない者、獄門間違いなしの悪人、精神を病んだ狂人───皆、涙が出るほど可哀想な連中であるということだけは共通していたが。

 そんな輩を星の数ほど相手してきた童磨も、流石に面と向かってこんな台詞を曰われた経験はなかった。
 はて、この子は何を言っているんだろうか。思わず首を傾げてしまうが、すぐにぱあっとまたいつも通りの笑顔を浮かべてみせる。

「可愛いなあ、心配をしてくれているんだね。
 でも大丈夫だ、俺はどんな病気にも罹らないし、何年生きたって皺ひとつ出来やしないんだよ」
「自覚はあるのですね、ならば話が早い」
「いや、何も早くないだろう。もう少し俺の話をちゃんと聞いて欲しいんだけど……」

 童磨には皆目、この女の言いたいことが分からなかった。
 病。それは鬼となった童磨にとっては、この世で最も無縁な事柄のひとつである。
 巷を騒がす流行り病も、それどころかほんのちょっとの風邪ですら、鬼にとっては生涯無縁の概念だ。
 だというのに、病んでいる? 俺が? 今すぐに医者に罹らなければならないような病人だって? よくわからない。
 彼が無数の疑問符を浮かべ、らしくもなく困惑してしまうのも無理のない話であろう。

「とにかく。安心していいんだよ、心配性なお嬢さん。
 俺は永遠なんだ、死なない存在なんだから。
 君の目に俺がどう写っているのか知らないが、それはすべて杞憂なんだよ。
 だから力を抜いて、両手を広げてごらん。そうすればすぐにでも、俺は君を救って───」

 けれど、結論は出た。
 結局のところいつもと同じだ。
 彼女の言っていることは分からないけれど、それも含めて愛してあげよう。慈しんで、尊重して。解き放ってあげようじゃないか。
 まるで本物の聖者のようにつらつらと救いの文句を口にしながら笑う童磨に、女はやはり表情ひとつ動かすことなく、小さく唇を開いて。


137 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:12:15 sHEQAOzQ0

「診断結果は既に告げました。此処からは、為すべきことを為させていただきます」

 次の瞬間───彼女の姿は、童磨の懐にまで侵入を果たしていた。
 まさか、と彼の虹色に輝く瞳がカッと見開かれる。
 言うまでもない驚き。そこで童磨はようやく、彼女から何故異様な匂いがするのかを突き止めた。
 結局のところ、その答えはごくごく単純。 
 言葉を尽くして己の身体が如何に強いかを語っていた童磨だったが、今となっては彼女が何故微塵たりともそこに驚きを見せなかったのか分かる。

 ───要するに、この女も同じなのだ。
 病まず、老いず。人間の脆弱から解放された、人の形をした怪物。

 スローモーションにさえ感じられる時間の中で、童磨は驚きのままに言葉を紡ぐ。
 如何に彼が恐るべき鬼であると言えども、この須臾の猶予の中にあっては、ただ一言を紡ぎ出すのが限界だった。

「……君、一体何者なんだい?」

 それに対して、女は……鋼鉄の如き者は、これまたたった一言。

「フローレンス・ナイチンゲール。ただの、しがない看護師です」


◆◆


 診察結果───この男は病んでいる。
 そう踏んだナイチンゲールが手始めに行ったのは鎮静処置だった。
 心の裡に病を飼う者はしばしばよく暴れる。
 まずはその暴れぶりを抑え込んで、治療を行える状態に持っていかなければならない。

 とはいえ鎮静剤なんて気の利いたものは此処にはないし、生きながらにして人であることを辞めた彼にはそもそも効かないだろう。
 故にナイチンゲールが選択したのは両手足の切断による全動作の強制断絶。
 瞬く間に鬼の懐まで踏み入るなり、両手にそれぞれ二本ずつメスを形成。
 持ち前の観察眼で以って最も効率よく機能を停滞させられる痛点を見出し、腕を振るうことで悪鬼の四肢へ処置を施した。
 此処まで、時間にして一秒もない。驚くべきはフローレンス・ナイチンゲール、白衣の天使と謳われた女の手腕よ。

 ……されど。ナイチンゲールが傑物であるならば、彼女が特段の病みを見出した彼もまた恐るべき存在であり。

「あぁ、びっくりした。驚かせてくれるじゃないか」

 ナイチンゲールの"処置"が完了してから、これまた一秒もせぬ内に。
 童磨の手足はすっかり元通りの状態にまで再生し、彼はまたしてもあの朗らかな笑みを零していた。
 その様子を無言で見つめるナイチンゲール。"再生"は想定していた展開のひとつだったが───その速度は完全に彼女の想定を超えていた。
 再生されることは織り込み済み。だからこそ腱を切るのではなく完全に手足を切断し、少しでも長く動きを鈍らせようという魂胆だったのだ。
 にも関わらず、そもそも動きが鈍らない。その前に再生が追い付いてしまい、結果、彼女の決死の処置は何の結果にも繋がらない。

「悪くない動きだったよ。でもそれじゃあ駄目だ。手足を落として動きを封じようなんてのは、俺達鬼には通じない手さ。
 看護婦さんなんだっけ。じゃあ人間の身体以外は診たことないんだね。うんうん、仕方ない仕方ない!」

 からからと嗤いながら、本人には一切の悪意なく、嘲弄の言葉を吐き散らす悪鬼。
 彼は臆面もなくナイチンゲールに知恵を授ける。
 いつも通りに。自分を殺すのだと鼻息荒く現れた可哀想な者へそうするのと、一切変わらない調子でだ。


138 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:12:45 sHEQAOzQ0

「俺達の急所は此処だよ、此処。殺すなら、此処を狙わなくちゃあいけない」

 そう言って童磨が示すのは、首輪によって戒められた自身の首元。
 もっとも、日輪刀を携えていない彼女ではどの道自分を殺し切るのは難しいだろうが、それも含めて童磨は彼女を慈しんでいた。
 兄か父親がそうするように言葉を紡ぎ、教授する。何故そんなことをするのかなど、決まっている。
 彼にとってこの世のすべては、施してやらなくちゃ生きられない可哀想な者達でしかないからだ。
 それに対して、ナイチンゲールは。

「勘違いをなさらぬよう。私は、貴方を殺したいのではありません」
「またそれか……君も分からない子だねぇ。俺はこんなに正常だっていうのに」
「───いいえ、貴方のすべては膿んでいる。心も、身体も。そして私には、貴方という患者を治療し快方へ導く義務がある」

 そう言って、鋼の女は勇ましく駆けた。
 刹那にしてその徒手空拳が、童磨の頭蓋の右半分を潰れた柘榴のように吹き飛ばす。
 その返り血と脳漿に塗れながら、彼女は言った。

「殺してでも。貴方のことを癒やしましょう、虚飾の聖者よ」

 一撃でなど止めはしない。
 とてもではないがその動きは、人を癒やすと、救うと宣う者のそれではなかった。
 童磨とはまた別のベクトルで、彼女もまた狂っている。
 単純な頭部破壊程度では死に至らないと知るや否や、頭蓋に人中、こめかみに顎部、とどめに心臓。
 あまねく急所を容赦なくラッシュの如き徒手で叩き、砕き、打ち据えていく。
 その上で手刀を構え───振るう。しかしここで、最早出来の粗い挽肉のようになった童磨が漸く動いた。

 彼が抜いた武器は双銃。
 その銃身で以ってナイチンゲールの手刀を受け止める。
 次の瞬間、ナイチンゲールが勢いよくその場から飛び退いた。
 それとほぼ同時に炸裂する銃弾……否。件の得物が『炎刀』の名を持つことを鑑みれば、剣戟とでも呼ぶべきなのか。

 兎角それが勢いよく火を噴いて、つい先ほどまで彼女の頭があった場所を通過していく。
 そうしてその間にも、原型を留めないほどに破壊されきっていた童磨の身体はすっかり元通りに復元されていた。

「……ああ、そうか。そうなんだね、君は……」

 しかし、次に訝しむのはナイチンゲールの番であった。
 何故か。元通りの身体を取り戻した童磨が、その虹色の瞳から一筋の涙を垂らしていたからだ。
 まるでよく出来た物語を読んで心を打たれ、落涙しているような。
 嘘偽りのない情動に依る悲しみを満面に浮かべて、鬼は嘆いていた。

「辛かっただろう、悲しかっただろう。
 そうなるまでに一体どれだけ救えなかったのか、俺には想像も出来ないよ」

 ───童磨の根源は『憐れみ』だ。
 彼は新興宗教を営む両親の元に生まれ、神の子と崇められ、数多の愚かな人間を見てきた。
 ありもしない極楽を夢見、地獄を恐れ、年端も行かない自分をありとあらゆる美辞麗句を尽くして褒めそやす可哀想な人々。
 弱いから、頭が悪いから。たったそれだけのことで、彼らはとても可哀想なものに成り果ててしまった。
 
 殺してでも、救う。
 この言い草が破綻しているのは誰の目から見ても明らかだろう。
 人を救けたいという思いの丈は痛いほど伝わってくるだけに、尚更痛ましくて仕方がなかった。
 彼女は壊れている。狂っている。悲劇を見すぎて壊れたんだろう、命を取り零しすぎて狂ったんだろう。
 人生で一度としてそんな境地に至ったことはないから童磨にその気持ちは分からないが、それでも同情することは出来る。


139 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:13:10 JI1/CLuU0
次に参加者の制限ですが。
【鬼滅の刃】
鬼は日輪刀以外での攻撃も効く。首を切らずとも、急所が潰されれば死ぬ。

【Fate/Grand Order】
サーヴァントの霊体化不可。神秘がこもっていない攻撃も効く。

【仮面ライダー龍騎】
ミラーワールドへの侵入不可。

【亜人】
不死は制限なし(不死なのがメイン能力みたいなキャラだからです)。でも首輪の爆弾は効くよ、ぐらいの感じで。

自分が考えているのはこんな感じですが、朝起きて冷静になったら『この制限も必要じゃん!』『この作品からこんな支給品出されたら困るな』となる可能性や、他の方から見て明らかにおかしい部分もあると思いますので、その時は書き込んでくれると助かります。


140 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:13:14 sHEQAOzQ0

「でも、もういいんだ。俺が許してあげよう。
 君は弱くて大勢を死なせてしまったんだろうけど、それを気負うことはないんだよ。
 俺とひとつになってゆっくり休むといい。そうすれば君はもう二度と───」

 心胆からの慈悲を込めての言葉は、しかしまたしても最後までは紡がれなかった。
 言葉を遮るように、彼女が抜き放ったピストル。そこから放たれた、メスの弾丸。
 それが童磨の声帯部分を的確に撃ち抜いて、どくどくと血の雫を滴らせる。

「確かに私は、大勢を死なせてきました。
 救えなかった彼らの苦しみ、嘆き。私は一時とて忘れたことはありません」

 童磨は確かに教祖として信者を慈しみ、御言葉を授け、思いのままに救ってきた。
 だがそれはあくまでも独り善がりな、彼の歪んだ憐憫に基づくスタンドプレーでしかない。
 故にこそこの時も、彼の言葉は的を外していた。

「それでも。私は、この重さを永劫背負うと決めたのです。
 貴方のような都合のいい救いなど、私は少しも欲しくはない」

 彼女という人物を知る者ならば皆笑ったろう。
 フローレンス・ナイチンゲールが赦しを欲する。
 永遠の安息なんて聞こえがいいだけの文句に心を傾がせる。
 そんなこと、たとえ天地がひっくり返っても有り得ない事態であるというのに。

「この自我(エゴ)が在る限り、私は世界のすべてを救い続ける。世界のすべてを、壊してでも」

 鳴り響く銃声、五度。
 童磨の両眼と喉笛、そして両腕の腱部分にそれぞれ一発ずつ。
 彼の再生能力は確かに脅威的な速度であるが、それでもやはり少しばかりの時間はある。
 ナイチンゲールは甘えない。たとえそれが一秒を更に何等分かしたような刹那だとしても、鋼の女はこじ開ける。

「血鬼術───蓮葉氷」

 防御の為に生じさせたのだろうか。
 蓮の花を模した氷がぶわっと勢いよく広がって、ナイチンゲールの道を阻まんとするが、彼女はそれすら踏破する。
 あまりの冷気に肌が、髪が凍る。それでも彼女は一顧だにしない。
 叩き込む拳の一撃が彼の心臓を粉砕し、胴を串刺しにするが───その時だった。
 ナイチンゲールの目が見開かれる。周囲へ満ちた底冷えするような冷気が認識出来なくなるのではないかという程激しい激痛によって。

 空気が漏れるような嫌な音をあげながら、ナイチンゲールが喀血した。
 それを見ながら童磨は、再生したばかりの声帯で語りかける。
 やはり、笑顔を浮かべながら。子を慈しむ親のように。

「駄目だよ、これ以上暴れたら苦しむだけだ。
 今君が吸い込んだのは、俺の凍った血液だから」
「……ぅ、ぐ───ッ」

 童磨の血鬼術のひとつ、『蓮葉氷』。
 氷の蓮は生まれると同時に、産声代わりに霧状になった凍った血液を散布する。
 肌に触れれば忽ち凍傷を引き起こすような極低温の血を、ナイチンゲールはあろうことか無防備にも吸い込んでしまった。
 その応報とばかりに、今彼女の肺腑は痛々しく張り裂け、壊死していた。
 あまりに一瞬の致命傷。喀血を繰り返すナイチンゲールの声は、今にも擦り切れてなくなりそうなほど掠れ果てている。

「今までにも、君のような子を無数に見てきたよ。
 鬼狩りの柱……って言っても分からないか。彼らも皆痛々しかった。きっとさぞかしたくさん取り零してきたんだろうねぇ。
 君達は皆、擦り切れかけた布切れのようだ。俺は優しいから、見ていられなくなる」


141 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:13:47 sHEQAOzQ0

 言いながら、童磨は自分の吐いた血と返り血で赤く染まった天使へ優しく一歩を踏み出す。
 彼は今まで、こうして死んでいく戦士を山ほど葬り、喰らってきた。
 けれどそんな皆は今、あらゆる苦しみから解き放たれて自分の中で永遠という名の極楽に溶けている。
 この哀れな女もそうしてやろう。童磨はそうして、肺腑の裂けた彼女の頭へ手を伸ばした。

 ───だが。


「▅▆▂▅▆▇▇▇▆▆▂!!!!」


 生粋の鬼であり、恐れなど知らない童磨ですらもが、一瞬動きを止めてしまう程の激しい咆哮が、ナイチンゲールの口から炸裂する。
 それは天使の叫び。聞く者の魂を奮起させ、生存にかける想いを本能レベルで著しく高めあげる鬨の声。
 紛れもなく死に瀕しかけていた肉体は、その瞬間に損傷はそのままで元の活力を取り戻す。
 嘘だろ、と童磨が呟いた。その刹那、彼の身体はまるで蹴り飛ばされた鞠のように勢いよく、柱にめり込む程の勢いで宙を舞った。

「幸い、貴方に"死"はないようだ。ならば、このまま処置を続行します。覚悟はいいですね、童磨」
「は───はははははは! 凄いなあ! 君、まるで鬼のようじゃないか!!」

 総身血に塗れ、明らかに致死の傷を負い。
 それでも狂おしいほどの熱だけを原動力に歩みを進めてくる、狂った女。
 その姿は確かに童磨の知る誰よりも広義の意味での"鬼"に近い。
 救ってみせると吐きながら、そのためにまずは壊すと剛腕を振るう彼女はまさしく狂人だった。

 永遠の安息を与えるため、救うために喰らう童磨と近いようで決定的に遠い在り方。
 おぞましいまでの執念を滲ませながら、彼女は不死の怪物と最短距離で攻防を繰り広げる。
 拳で砕き。銃弾を受け。メスで切り裂き。腹を抉られ。
 殺し、殺され、殺し、殺されのやり取りを、幾度となく繰り返す。
 既に童磨が背にしている柱は大きく陥没し、ひび割れ、惨憺たる有様を晒していた。
 
 ───ナイチンゲールが死ぬか、彼女の言う"処置"が完了するか。
 
 その根比べの次元にまで単純化された人外/狂人両者の邂逅はしかし、唐突に終わりを迎えることと相成った。

 最短距離での攻防により歪み、割れ、軋んだ柱。
 衝撃はそこから更に周辺の壁にまでも伝播し、英霊の膂力を黙して受け続けた柱のみならず、ふたりが戦いを繰り広げるこの"尾張城の最上階"そのものの立地を著しく不安定なものに追いやっていった。
 となれば、どうなるか。答えは、あまりにも単純明快である。


 崩落───だ。
 肉を穿く銃声と、はたまた肉を砕く轟音。
 そのふたつがまったく同時に響き渡ったのを合図に、尾張城の最上階が八割方、音を立てて倒壊した。


142 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:14:23 sHEQAOzQ0
◆◆


 ───墜ちていく。墜ちていく。
 自由落下特有の、骨の髄まで浮き上がるような感覚。
 これを味わったのは一体いつ以来だろうかと、童磨はすっかり再生し終えた身体で思考していた。
 そのまま彼が着地したのは、城が聳えていた切り立った丘の遥か下。
 つい数十秒前まではあの城の高みに立っていたというのに、あっという間に谷底も同然の場所にまで追いやられてしまった。

 こりゃ参ったなと、童磨は頭をポリポリ掻く。
 身体には若干の疲労感があった。
 これもまた、上弦の弐である彼にとっては久しく味わっていなかった感覚であった。
 
「彼女は……ううん、全然別な場所に墜ちてしまったようだなあ。せっかくだから、ちゃんと救ってあげたかったのだが」

 困ったなあと呟きながら、童磨は首を鳴らして腕を組む。
 しかし、それにしてもだ。
 思い返せば思い返すほど、強く雄々しい女性だった。
 童磨はあれほどの狂気というものを目にしたことがない。
 周りに狂人の類は山のように揃っていたが、それでも彼女は間違いなく頭ひとつ抜けていた。
 もしも彼女のような人物が鬼になったのなら───きっと無惨様も頷くような、素晴らしい個体になるだろう。

 童磨はそう独りごちながら、おもむろに、自分の身体に付着していたナイチンゲールの血を指で掬い取る。
 そんじょそこらの稀血とは比べ物にならない、否そもそも比べる分野からして違うような、芳醇な香りの血液。
 それをゆっくりと口へ運べば、童磨は「なるほど、なるほど!」と柏手を打った。

「うん、これで決まりだな。
 この会場には、俺達とはまた違った人外の者が彷徨いている」

 この味は、人間のものでもなければ、鬼のものでもない。
 今まで全く味わった覚えのない、よく熟成された銘酒のような味わい。
 更には身体の疲労感が癒えてくるような、そんな心地までしてくるくらいだ。
 これはいい手土産が出来た。これならば、あの御方に……無惨様に献上するだけの価値がある。

「或いは。無惨様の悲願を達成する上で、何かしらのきざはしになるかもしれんしな」

 つくづく愉快だ。
 世界はこんなにも喜びで満ちている。
 だからこそ、こんな世界で悲しみ続ける人々は可哀想で仕方がない。
 
 救ってやらねば、一人残らず。

 万世に渡る極楽を僭称する悪鬼羅刹(せいじん)は、ひとり悠然とこの地獄篇を闊歩する。


【D-2/1日目・深夜】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、炎刀『銃』@刀語
[思考・状況]
基本方針:いつも通り。救うために喰う。
1:"普通ではない血"の持ち主に興味。
2:無惨様、猗窩座殿、下弦の彼……はてさて誰に会えるかな?
[備考]
※参戦時期は少なくともしのぶ戦前。
※不死性が弱体化しています。日輪刀を使わずとも、頸を斬れれば殺せるでしょう。


143 : 「救う」ということ ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:14:49 sHEQAOzQ0
◆◆


 胸の内側、破れて壊死した肺腑へと、魔力で形成された糸が潜り込んでいく。
 既に薬品を投与して症状の進行を抑えた患部を、ナイチンゲールは不条理と呼ぶに相応しい現実離れした医術で補う。
 破けた部分を繋ぎ、最低限活動を続行可能な程度にまで修復。
 ひとまず命を失わないように出来たのを確認してから傷口を閉じ、てきぱきと糸で繋ぎ、縫合。
 見れば、既に彼女の足元には童磨の炎刀から貰った弾丸が数発、体内から抜き出されて転がっていた。

 肺以外の内臓は破壊されていないのが不幸中の幸いだった。
 これ以上内部の損傷が激しければ、必然処置に掛かる時間も長くなる。
 それはナイチンゲールにとって、非常に困る事態だった。
 何故ならそうしている間にも傷病者は生まれ続け、治療の必要な患者が苦しみに喘いでいるかもしれない。
 そう考えるだけで、鋼の看護婦は気が狂いそうになる。
 救わねば。足が張り裂けてでも駆け付けて、すぐにでも命を繋いでやらなくては───たとえ、殺してでも。

「……恒常的な食人行為を必要とし、猶且つ人間の自我を破壊的に歪める病。
 彼の言う通りですね。私はあまりにも弱い。だから、いつも救えない命を生み出してしまう」

 ナイチンゲールにとって、先ほど矛を交えた人喰い鬼は憎むべき敵でも、死者を増やす害悪でもない。
 彼は明らかに、病んでいた。心も身体も、誰もが匙を投げると断言出来るほどに膿んでしまっていた。
 だからこそ、ナイチンゲールだけは彼を見捨てない。
 たとえそれがどれだけ困難な道であろうとも、必ず救ってみせる、治してみせると女は断言する。
 その一方で───ナイチンゲールは、とある恐るべき可能性をもその脳髄に浮かび上がらせていた。

(……死徒。話に聞いただけの存在ですが、彼の症状はそれに非常に近かったように思える)
 
 無論、これが杞憂である可能性も往々にしてある。
 たまたま、童磨という人外が放り込まれただけなのかもしれない。
 或いは彼を含んだ幾つかの個体が同時に放り込まれ、暴れているだけなのかもしれない。

 ……それでも、ナイチンゲールは危ぶまずにはいられなかった。
 
(───感染源が、居る可能性がありますね)

 感染源。病原。保菌者。───真祖。
 俗にそう呼ばれるような存在が、もしも童磨と共にこの場を彷徨いているのなら。
 もしもそんな事があるのなら、事態の深刻さは誇張抜きに数段は深まることになろう。
 なればこそ、やはり、立ち止まってなどいられない。
 錆びのようにも見える、乾いた血の跡を全身に貼り付けながら。
 かつて天使と呼ばれ、悪鬼は鬼と呼んだ女は、歩いていく。

 
 すべての命を、殺してでも、救うために。



【C-3/1日目・深夜】

【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
[状態]:軽傷(処置済)、肺に裂傷及び壊死(処置済)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:救う。殺してでも。
1:傷病者を探し、癒やす。
2:童磨は次に会ったなら必ず治療する。
3:『鬼化』を振り撒く元凶が、もし居るのなら───
[備考]
※参戦時期はカルデア召喚後です。
※宝具使用時の魔力消費量が大きく増加しています。


※C-2・尾張城の最上階が八割方崩落しました。


144 : ◆MCsmYVWHxQ :2019/05/04(土) 00:15:16 sHEQAOzQ0
以上で投下終了です。


145 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:19:39 JI1/CLuU0
 投下ありがとうございます。途中で挟まってしまってすみません。感想は明日か明後日か明々後日にちゃんと書きます。
 自分も投下します。


146 : 鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:22:49 JI1/CLuU0
 島の中央に聳え立つ那田蜘蛛山。
 その麓に広がる樹海を、人影が走っていた。
 音に匹敵する速度で夜の闇を駆け抜けるそれを視認することは、余人には不可能だろう。その姿、まるで弩から放たれた矢の如し。
 矢の名前は猗窩座。鬼と呼ばれる異形の上位に君臨するものである。
 強さを求めて闘いの日々を送っている彼にとって、殺し合いの催しは相性が良かった。もっとも、それをあのようなふざけた女から強要されるのは癪に障ったし、自分の上に位置する鬼舞辻無惨が参加者にいることを知って驚いたが、島の各地に点在しているであろう強者との邂逅を想像するだけで、彼の血が沸き肉が躍ったのも、また事実だった。
 猗窩座は速度を一切緩めることなく、木々の隙間を通過した──その時である。

「!──」

 暗闇に紛れて右方から高速で飛来してきた何かを、彼が片手で捕まえたのは。
 体が反応した後で、視線を向ける。握られていたのは、矢であった。

「あらあら──今の一射で仕留めたと思いましたが、掴みましたか」

 矢が飛んできた方角から声がした。
 顔も見えない声に対して、猗窩座は言う。

「遠方からの不意打ちとは無粋だな。それは卑怯者や弱者がすることだ。お前のような強者には相応しくない」

 猗窩座は矢を放り捨て、声がした方向に足を進めた──彼は、まだ声しか見せていない襲撃者を強者だと断定したのである。
 当たり前だ。何せ、鬼の機動力をもって走っていた猗窩座の頭部目掛けて矢を放てたのだ。その時点で、相手が尋常ならざる実力の持ち主であることは疑いようもない。
 それに、猗窩座の視界には相手の体から漏れ出ている闘気がはっきりと映っている。まだ姿も碌に見せていないのに、これほどまでの闘気が見えるとは──至高の領域に達していないのが不思議なほどであった。

──闘気に混ざって、血のような赤黒い澱みが見える…… もしや、それが原因で、至高の領域へと到達できていないのか?

 鬼の肉体が鬼舞辻無惨の血を取り込むことで変質するかのように、まるで精神や気そのものを無理矢理に変質させたかのような──そんな、強くありながら奇妙な闘気を、襲撃者は放出している。


147 : 鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:25:38 JI1/CLuU0
「惜しいな」
「? どういう意味です?」
「二重の意味でだ。一目で分かるほど歪に濁った闘気……いったい何が起きてそうなっているのか見当もつかないが、実に惜しい。もし純粋なままに練り上げられていれば、お前は至高の領域に至れていただろうに」

 心の底から嘆くような口調で言って、猗窩座は続けた。

「もうひとつ惜しいと思ったのは、俺とお前が出会った『場』だ。たったひとりの生存しか許されていないこの場において、俺は未完成なお前を完成させるために、鬼になるよう誘うことさえできない。これがなんとつらいことか!」
「……ふふっ、ははははは!」

 猗窩座の言葉に対し、笑い声が暗闇に響いた。凡人が聞けば竦みあがるような、凄惨な笑い声だった。

「はははっ、『鬼になる』ですか。よりにもよって私にそのような誘いを持ちかけるつもりだったとは。ふふふっ、ああ可笑しい」
「? なにが可笑しい?」
「これが笑わずにいられましょうか。なにせ、この身は既に鬼に堕ちたも同然……あなたの誘いを受けるまでもないんですよ」

 猗窩座は訝し気に眉を顰めた。
 鬼とは鬼舞辻無惨を頂点として構成されている集団である。無惨の血を有していない鬼などいない。しかし今しがた、無惨の血の気配を微塵も感じさせぬ声の主は、自分は鬼に堕ちたも同然だと言ったのだ。その言葉が意味するのは、はたして──?
ガサリ、と草葉が揺れる音がした。
 暗闇に潜んでいた襲撃者が、宵闇と木陰から姿を現した音である。
 出てきたのは、意外なことに女だった。烏の濡れ羽のような黒髪で、長身の女である。とても、鬼であるようには見えない。
 女の手には、先ほどの射撃で用いたのであろう弓が握られていた。

「それに──」

と言って、女は弓を握った手を鞄に突っ込んだ。どう見ても弓は鞄よりも大きいはずなのに、抵抗なく収納される。不思議である。
鞄から引き抜かれた手には、弓の代わりに何かが握られていた。
 それは──刀だった。
 五尺ほどの長さをしている、切刃造の直刀である。

「──『この場』において、これ以上の会話は不要でしょう。……いえ、名乗ることくらいなら許されますか」

 女は刀を下段に構えた。空から降り注ぐ月光を反射している刀は、妖しい光を纏っていた。

「私は源頼光……ああ、これは骸の真名ですね。刃が与えられし忌み名も名乗らせていただきましょうか──ライダー・黒縄地獄」
「俺は猗窩座だ」


148 : 鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:28:48 JI1/CLuU0
それが開戦の合図となった。
 黒縄地獄は真下から切り上げるようにして、刀を振るう。
 彼女と猗窩座の距離はかなりある。故に、その一太刀は空振りで終わるはずだった──だが。
 おお! 見るがいい! 斬撃に煽られた地面が、捲れ上がっていく光景を!
 森の地面をひっくり返しながら、斬撃は猗窩座目掛けて突進している!
 まるで地上で荒波が発生したかの如き光景を見て、猗窩座は口元に三日月を浮かべた。
 その表情に驚愕の色は無く、その姿勢に怯懦の様子はない。
 迫りくる斬撃に対し、彼がとった行動は、その場で地面を踏みしめること。ただそれだけだった──震脚。
 その途端、猗窩座の足元に、雪の結晶のような陣が出現した。
これぞ彼が有する鬼の異能『破壊殺・羅針』である。
起きた現象はそれだけではない。彼を中心として、大地が震え、地表に罅割れが生じたのだ。いったいどれほどの強さで踏みしめれば、斯様な光景を生み出せるのか。 
刀の斬撃と震脚の衝撃が、両者の中間地点で衝突する。
その瞬間、まるで大量の火薬が爆ぜたかのような轟音が鳴り響いた。
人外のものどもの武がぶつかり合ったことで、土煙が舞い上がる。
その一瞬後、土煙の向こうから、金属の塊が突進してきた。刀の突きである。
黒縄地獄が持つ切刃造の直刀は、その形状から斬るよりも突くことに向いている刀だ(もっとも、彼女の腕力で振るわれれば、斬っても突いても相手に与える破壊が致命的なものになることは変わりないのだが。おそらく峰打ちでも、イキモノを殺すのには十分だろう)。
だから彼女は猗窩座まで接近し、一点集中の突きを放った。
それは見事なものだった。元から土煙という遮蔽物があったものの、黒縄地獄はそれを不必要に動かして気流から己の位置を感知されるようなことが無いように、繊細かつ迅速に移動したのだ。戦いというものになれていなければ、このような身のこなしはできまい。
だが、猗窩座は反応した。不可視にして回避不能であるはずの突きを、まるで知っていたかのように対応してみせたのだ。
半身の姿勢で軽く一歩横に飛び、突きを避ける。だけでなく、片脚を地面とほぼ垂直になるまで高く上げた。そのまま、先程まで猗窩座が居た位置を突いている刀目掛けて、脚を振り下ろす。このまま踏みつけられれば、刀は地面に衝突し、握り手である黒縄地獄の姿勢は大きく前屈みに崩されてしまうだろう。その隙をついて、猗窩座は彼女に致命的な一撃を与えるつもりだった。
しかし、そのような結末には至れなかった。なぜなら、黒縄地獄は猗窩座の俊敏な回避を視認した瞬間、突きをその場で中断し、猗窩座が振り上げた脚へと刃を走らせたからだ。あり得ない絶技である。全力での突きを途中でやめ、別の技に移行するなど、人の身では到底不可能なことだ。
 振り下ろされる脚と振り上げられた刃が交差する。ガッと鈍い音が響くだけだった。
 相打ちに終わり、両者は互いに一歩分距離を置く。

「なんだその身のこなしは! 素晴らしい! 鬼だと言われても納得してしまいそうな動きだ!」

 称賛を浴びせながら、猗窩座は構え直し、拳の乱れ撃ちを放った。
 一方、黒縄地獄は再び刀を振るう。雷のような直角の軌道が目立つ、奇妙な斬撃だった。

「雷の呼吸……に近いようで、違うな。不思議な剣技だ。その勢いでもっと俺にお前の強さを見せてくれ! 黒縄地獄よ!」

 猗窩座はその場から消えた。気配に気づいた黒縄地獄が見上げる。そこには、彼女の頭上を越えるように飛び上がっている猗窩座がいた。
 
「破壊殺・空式!」

 宙に浮かぶ猗窩座の姿が、彼の拳で消え失せる。
 何もない空中で撃たれた攻撃は、一瞬にも満たない速度で黒縄地獄の元までやって来た。それら全てを刃ひとつで対処すると、黒縄地獄は刀に雷を纏わせ、空中にいる猗窩座目掛けて撃った。地から天という通常とは異なる方向に向かう、幻想的な雷だった。
 猗窩座は周囲の木々の中から自分の真上にまで伸びていた枝を蹴ることで、斜め方向に急激に落下。寸での所で雷撃を回避することに成功する。


149 : 鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:32:08 JI1/CLuU0
大砲が着弾したかのような音を鳴らしながら着地した彼に、黒縄地獄は上段から大きく振りかぶる。けれども、彼女の一刀が猗窩座の頭を斬ることは無かった。
その寸前で、彼が両の掌で挟むようにして刀を止めたからである。白刃取りだ。
 そこから猗窩座が何をしようとするかなど、明らかだった。刀を折る以外にあり得まい。
 しかし──

「…………?」

 折れない。力をどれだけ込めても、折れない。
 莫迦な。下等な鬼ならまだしも、上弦の力をもってしても折れない刀など、この世に存在するわけが──あり得ざる現象を体験し、意識に僅かな空白が生じた猗窩座であったが、黒縄地獄から先ほどと同じ放電の闘気を感じた瞬間、彼は刀を手放して離れた。

「頑丈な刀だな。これまで数えきれないほどの剣士と戦い、刀を見てきたが、そのような刀は初めて見たぞ」
「ええ、私も初めて見ました。付属していた説明書きによれば、頑丈さに主眼を置いて作られた刀で、どんな扱い方をしようと永久に折れも曲がりも、刃こぼれ一つもせず永遠に使用できるらしいですよ──その名を、絶刀・鉋。振るったことが無い刀なので、やや扱いが慣れませんが、どれだけ乱暴に扱っても壊れないというのは良いですね。羽目を外しがちな今の私にとっては、特にです」

 二体の鬼は再び戦闘の構えに入った。
絶対に壊れない刀──その説明が真であれば、瞠目すべき性質である。しかし、猗窩座はそれが要因で自分が敗北するとは微塵も思っていない。どれだけ刀が頑丈だろうと、持ち主もそうだとは限らないからだ。
 猗窩座は拳を握り、黒縄地獄は切っ先を相手に向ける。
場の緊張感が最高潮に達した、その瞬間。
ふたりは駆け出し──
──猗窩座は跪いた。

「!?」

 予想していなかった行動に、黒縄地獄は驚き、足を止めた。
 次の瞬間、遠くからやって来た何者かの気配に気づく。猗窩座はあれに反応し、跪いたのだろうか──猗窩座に似た、いや猗窩座よりも『濃い』気配が、そこにはあった。
 気配がする方に首を向ける。そこには、ひとりの男がいた。波のように巻きがかかった髪型をしている、洋装の男である。端正な顔をしているが、それは怒りの感情で歪んでおり、見るものに畏怖を感じさせるものになっていた。
 拙い──黒縄地獄は考える。
 気配が似ていることから、猗窩座とこの男が見知った間柄であることは間違いない。つまり、ここから先はふたりを相手に戦うことになるのだ。
 黒縄地獄に、猗窩座と洋装の男を同時に相手取っても勝てる自信はある──が、殺し合いが始まった序盤も序盤で、手痛い消耗をするのは避けたいところであった。
 そう考えてからは早い。黒縄地獄はその場から撤退した。


150 : 鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:34:33 JI1/CLuU0
猗窩座は、彼女を追いはしなかった。まるで気配を遮断した暗殺者のようにその場から消えた黒縄地獄を追うのは難しい──それを抜きにしても、猗窩座が立ち上がって黒縄地獄を追うことはあり得なかった。
 跪いた状態から猗窩座は動かない。跪かずにいられようか。それほどまでに、今しがた登場したのは、猗窩座にとって絶対的な存在だった──その名を鬼舞辻無惨という。
いつのまにか、無惨の気配は猗窩座の正面にあった。

「猗窩座」

 元々跪いている猗窩座が更に身を屈めてしまうほどに圧力の籠った声で、無惨は言った。

「今の戦いはなんだ。それが上弦の参の戦いか? 本当なら配下のお前を真っ先に殺すところを、有象無象の始末のために暫く生かしてやるつもりだったが、お前はその役割すら無理だというのか」

 増す、増す、圧力が増していく。
 鬼舞辻無惨は、自分が殺し合いに放り込まれた現状に強い怒りを抱いていた。
 別に人を殺すことは問題ない。日頃からは多くの命を奪って生きている無惨に、殺害への拒否感は皆無だ。
だが、罪人のように首輪を嵌められ、殺し合いを強制されるのは、彼にとって屈辱だった。

「それに名簿を見てみろ。不愉快な鬼殺隊だけでなく、かつてお前が殺したと得意げに報告した柱の名前まであるじゃないか。これはどういうことだ猗窩座。元からお前には期待していなかったが、まさかここまで私を失望させてくれるとはな」

 期待の光というものが全くない、失望の暗闇で出来た目で、無惨は猗窩座を見下した。

「幸いに、ここには童磨もいるらしい。お前なんかよりはいい働きを期待できるだろう」

 その言葉に猗窩座はピクリと動いた。反応はそれだけだった。猗窩座がそれ以上無惨から許可されていない行動を取れば、彼の頭は粉微塵になっているだろう。
無惨の圧力を受け、全身の彼方此方の骨と肉が細かく砕けた状態で、猗窩座はただ無言で無惨の言葉を聞くだけだった。 
それからしばらくして、無惨の気配は消えた。顔を上げると、そこに姿はない。
あのまま殺されなかったのが不思議なくらいだった。いつでも殺せる相手を今ここで殺す労力すら、無駄だと思ったのだろうか。その真意は分からない。
猗窩座は全身に負った負傷を回復させながら、ゆっくりと立ち上がった。
身体から滴り落ちた赤い体液が、草葉を濡らした。


151 : 鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:40:08 JI1/CLuU0
【D-3/那田蜘蛛山の麓/1日目・深夜】
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1. 無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康。強い怒り。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針: 怒りのままに動いています。
1. この状況が気に食わない
2.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
[備考]
※猗窩座が煉獄さんを殺した以降からの参戦です。

【源頼光@Fate/Grand Order】
[状態]:健康。多少の疲労。
[装備]:絶刀・鉋@刀語
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. 鬼を二体確認したが、今戦うのは難しい。
[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。

絶刀・鉋@刀語
 絶対に折れず、曲がらず、錆びず、朽ちない刀。像が踏んでも壊れず、鬼の力でも壊れない。


152 : 鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:41:24 JI1/CLuU0
投下終了です。上杉風太郎と球磨川禊で予約します。


153 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/04(土) 00:56:11 kTFOtNCg0
すいません。源頼光の装備に弓矢を入れるのを忘れてました。wiki収録の際に訂正しておきます


154 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/04(土) 00:58:38 gTSFNd9M0
みなさん投下乙です!
なんだ、この盛況っぷりは……!
外出中ゆえ読めていないのですがめっちゃ楽しみにしつつ、予約だけさせてください!

波裸羅、山本勝次、予約します。


155 : ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:18:58 6uLG55WM0
清姫、鮫島、水澤悠で予約・投下します


156 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:20:14 6uLG55WM0


「どうしましょうか……」

月の光も朧な森の中、物憂げに佇む少女が一人。
野外には似つかわしくない典雅な着物に身を包む、その少女の名は清姫といった。
少女は夜闇を恐れる素振りもなく、口元に手を当てて思案する。
どこからともなく取り出した扇子をひらと振り開き、その先端にふっと息を吹きかけた。ぼう、と火が灯り、闇を押し流す。即席の照明。視界の確保。

「ねえ、どうしたら良いと思います?」

つい、と視線をやった木陰に言葉を投げる。そこは灯りに照らされ、まるで悪魔のように大きな影が伸びていた。
一見して線の細い、無害な少女に見えて清姫は人間ではない。
サーヴァントと呼ばれる魔術師の使い魔。かつて存在した英霊の影。人間を遥かに超越した力の塊。そういった存在だ。
感覚も常人よりは鋭い。

「なんだ、バレてたのか。まあこの図体じゃ隠れんぼは向いてねえわな」

清姫の問いかけに、木陰から答えが返る。
ぬっ、と進み出てきたのは小柄な清姫でなくとも目いっぱい見上げるほどの大男だった。
それこそ清姫の倍はあろう大男は、ハァ、ハァと荒い息を吐き清姫へと歩み寄る。

「怖がらせちまったなら悪いな。俺も初めて見つけたのがお嬢ちゃんだから警戒しててよ」
「左様でございますか。ええ、このような状況ですもの、警戒なさるのは無理もない事ですわ」

清姫はバーサーカー、狂戦士のクラスとして召喚されている。狂戦士、といっても例外のように理性はあり、意思疎通も可能である。
故に、清姫はいまが異常事態であることを把握していたし、何をすべきかも理解していた。

「わたくしは清姫と申します。あなたは……?」
「俺か、俺は鮫島ってんだ。ええとだな、俺はお嬢ちゃんに聞きたいことがあってな」

火の灯った扇子をじっと見つめ、右目を眼帯で覆い軍服を着た大男――鮫島が清姫の眼前に立つ。
息が荒い。清姫は嘆息し、扇子からぱっと手を離した。
扇子が地面に落ちるより早く飛び退る。

「ふんっ!」

清姫の髪の一房が宙に舞い散る。
鮫島の振るった剣――炎が波打つような刀身、中心が空洞になり二つの柄となる石の刀が清姫の眼前を行き過ぎた。
石刀はそのまま横手の木に衝突、しかし勢いは止まらず真っ二つにへし折った。枝ではない、清姫の両手でようやく抱えきれるかという太さの幹である。
メキメキと音を立てて倒れてくる木が清姫と鮫島を分かつ。再び目が合った時、清姫はそこに明確な敵意を見た。


157 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:21:44 6uLG55WM0

「一応、聞いておきましょうか。どういうおつもりで?」
「どうもこうもねえ、化物め。ガキみてえな姿したって俺は騙されねえぞ。その角、飾りってわけじゃねえんだろ」

倒木を乗り越え、石の刀を地に突き立てて鮫島が言う。
鮫島が手にする石の刀は、清姫が見たところ宝具ではない。真名を開放する以前に魔力や神秘というものが感じられない。
しかし、受けられない。そう直感したからこそ清姫は退いた。
通常時の清姫は肉弾戦を得意とするタイプではないが、それを差し引いても受ければ死ぬという直感が確かなものとしてある。
意識してみると、霊体化もできなくなっている。サーヴァントが受肉したという訳でもなかろうが、とにかく今の清姫は単純に殴られただけでもダメージを負うようだ。
容姿相応に頑強さに乏しい清姫の身体はあの巨大な石刀の一撃で容易く弾け飛ぶ。
しかし、真に恐るべきは石刀そのものではなく、それを振るった鮫島の容姿相応の剛力だ。
石刀に刃はなく、先の一撃は斬撃ではなく打撃である。それが苦もなく樹木を砕き得たのは、その常軌を逸した重量故だ。
鮫島が突き立てた石刀の先端は地面に沈み込んでいる。僅かずつ、しかし着実にいまも。
放っておけば刀身の半ばまでめり込んでいくのでないか。それを押し留めているのは鮫島の血管が浮き出た太い腕だ。
ともすれば持ち主より重いかもしれない武器を、この巨漢はその豪腕で以って振り回すことができる。
サーヴァントである清姫にとっても十分な脅威であることは間違いない。

「はあ、化物……わたくしが人間でないのは仰るとおり、間違いではありませんが」

清姫は側頭部から生えた左右四本の角を撫でる。
火の息を吐きかけるところを見られたか。あるいはそれ以外の何かを以って察したか。
外見こそ人間に近くとも、サーヴァントは魔力の塊だ。多少勘が鋭い者や魔術の心得がある者になら見破られて当然。
いかにも蛮族めいた軍服の男にさほどの教養があるとも見えず、清姫はしばしの間を置いて得心した。
ぽん、と軽く手を打つ。

「ああ、あなたも人間ではございませんのね」

人にあらざる者故の感覚がサーヴァントの異質さを嗅ぎ取ったか。
清姫としてはごく軽い確認の言だが、それが引き出した鮫島の反応は劇的だった。

「黙れっ!」

元々険しかった鮫島の形相が、まさに鬼のそれへと変貌した。
ぶうん、と唸りを上げて石刀が振り回され、清姫へと殺到する。
なにやら清姫の一言は逆鱗に触れたようだ。人を化生呼ばわりして、そのくせ自分もそうだと指摘されると激昂するとは。
取り繕うことを止め、敵意をむき出しにした鮫島からは清姫の知る人間とは別の臭いがした。鮫島も清姫に嗅ぎ取ったであろう、濃い化生の臭い。

「俺はお前らのような化物とは違う!」
「なぜ否定するのです? そうでないことはあなたが一番わかっているようですが」
「俺は人間だ! 人間を食ったりはしねえ!」
「わたくしも別に食べたりしませんが……ああ、丸呑みにすることはあるかもしれませんね」


158 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:23:15 6uLG55WM0

返答が招いたのはさらなる猛攻、そして決定的な断絶だった。
枝生い茂る森の中にあって、鮫島の連撃は止まらない。凄まじい重量の石刀が縦横無尽に振るわれ、木々を薙ぎ倒し砕き散らす。
回避に徹していた清姫だが、徐々にその余地は削り取られていく。
筋力、耐久力といったサーヴァントの能力を示す数値が最低である清姫は、鮫島の攻撃をかわすだけでも大仕事だ。
軽く息が上がる。マスターからの魔力供給がない現状、清姫を駆動させるのは彼女自身の魔力しかない。
そしてそれは有限ではない。人間の体力と同じく。
鮫島が撒き散らした太い木の枝に躓き、清姫は転倒した。

「もう逃げられねえぞ」

ハァ、ハァと荒く息を吐く鮫島は、血に酔ったように嗤う。
清姫は地面に落ちてなお辺りを照らし続ける扇子に目をやった。
逃がしてくれそうにはなく、説得が通じるとも思えない。清姫はここに来て、決めかねていた方針を決することにした。
こういう輩がいるのならば、この地は死鬼が跋扈する地獄の底に相違なく。
生かしておけばそれだけ主に危険が迫る。
清姫がただ一人命を預けるに値すると信ずる主、すなわち彼女の最愛のマスターに。
もちろん、それ抜きにしても清姫の前で己を偽ったこの男を――嘘をついたこの男を――生かしておく理由は何一つなかったが。

「残念です。ええ、残念です。ですが先に手を出したのはあなたなのですから」
「何をごちゃごちゃと、」
「フッ――!」

鮫島が振り上げた石刀が清姫の頭蓋を粉砕する、その直前に。
清姫の吹き出した息は業火となり、鮫島の巨躯を呑み込んだ。

「が……ガアアアアアアア! ハガアアアアアアア!」

覆い被さるような態勢が仇となり、鮫島の全身は余すところなく炎熱の洗礼を受ける。
火だるまになり悶え苦しむ鮫島に憐憫の視線を向け、清姫は立ち上がる。

「正当防衛とはいえ、苦しいでしょうね。楽にしてさしあげます」

拾い上げた扇子が炎に包まれ、さながら鳳凰の翼のごとく燃え広がる。
森を焼き払わないようかなり加減した先ほどの息と違い、骨まで炭化しかねないほどの超高熱。

「それでは……っ!?」

それを鮫島に叩きつけようとした清姫は、寸前に腕を後ろへと振り抜いた。
手加減抜きの炎熱の翼。化生やサーヴァントすらも焼き払うその攻撃を。

「――アマゾンッ!」


159 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:23:52 6uLG55WM0

聞き覚えのない男の声が、炎の奥から響いてきた。それが聞こえたと思った瞬間、森は炎に包まれた。

「なっ」

清姫の炎によって、ではない。別の何かが放射した熱波が、木々や木の葉に発火したのだ。
そしてその何かは、清姫の放った炎を正面から突き抜けてすぐ傍にいた。
小柄な清姫よりずっと低い位置。だが小さいのではない。身を沈めている。
獣が獲物を狙うがごとく。赤く輝くその複眼が、清姫の白い首筋を見据えている――!

「――ハァッ!」

鋭利な刃が生えた四肢。金属とは違う、しかし高い硬度を感じさせる緑の皮膚。肉を喰らい骨を噛み砕く牙。それはまさに獣だった。
鋭い呼気とともに、獣の腕が跳ね上がってくる。

「あぅっ!」

間一髪、全力で身を反らした清姫は刃から逃れることに成功した。しかしほぼ同時に腹部に叩き込まれた重い衝撃、獣の蹴りまでは避けられなかった。
身体が胴から真っ二つになるのではないかという衝撃に耐え、清姫は何とか立ち上がろうとする。
そのとき既に獣は踏み込んでいた。清姫の首を落とすべく、鋭い鎌を振り上げて。

「――シャアアアッ!」

清姫は躊躇なくサーヴァントの切り札を開放する。その身を火竜に変貌させ、敵を焼き払う清姫の宝具――転身火生三昧。
鮫島に人ならざる臭いを感じたように、この獣には自身の最大火力を以って当たらねば喰われると直感したのだった。
炎と化した清姫を獣の腕が薙ぐ。が、炎を斬ることはできない。
赤い庭園と化した森に一際大きい炎が、炎で構成された大蛇が首をもたげる。
獣めがけ、大きく吸い込んだ息を放つ。城壁すら焼き溶かす火竜の吐息を、全力で。
指向性を持った火焔が地を舐め、木々を焼却し、獣へと迫る。

「ゥルル……!」

かすかな唸り声を上げ、獣は鎌を放り出し飛び退った。そして後退しつつほとんど炭化し終わった鮫島を引っ掴み、跳躍する。
その後を追うように火竜は息を吐き続けるが、ジグザグに飛び跳ねる獣の動きには追いつけない。
追えば追いつくかもしれないが、清姫はそうしなかった。


160 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:24:40 6uLG55WM0

「サーヴァントではなさそうですが、ああいう手合いもいるのですね」

転身を解き、再び少女の姿に戻った清姫は蹴られた腹部に手をやり痛みに顔をしかめる。
鮫島、そして獣。この悪趣味な遊戯が始まってすぐ、清姫は敵対存在と立て続けに遭遇した。
同じくカルデアのサーヴァントであるBBが何を思ってこんな所業に至ったのかはわからない。
しかし清姫には、BBの思惑を解き明かすより重要な使命がある。

「ますたぁを、探さなければ……」

名簿を見るまでもなく、マスターとサーヴァントの間にある繋がりゆえ、清姫の最愛のマスターはこの地にいると感じられる。
清姫のマスター、藤丸立香は数多のサーヴァントを率い数々の死地を潜り抜けた歴戦の勇者だ。
だがその強さは指揮者、司令塔としてのそれであり、単体の強さではない。
獣は言うまでもなく、常人を超越した膂力の持ち主である鮫島もマスターにとっては重大な脅威である。
マスターを探し出し、護る。それが清姫の何よりも優先させるべき指針。BBにどう対処するかはマスターの指示を仰げばいいことだ。

「わたくしが、守らなければ」

善良なマスターは、清姫が人を殺せば悲しむだろう。
しかし攻撃されて黙っているつもりはないし、そういった輩を排除することは間接的にマスターの安全を確保することにも繋がる。
次も好戦的な人物と行き当たるとは限らない。もしかしたら対話を望むかもしれない。清姫は頷き、炎上する森から離れるべく歩み出した。
バーサーカーといえど清姫は言葉を解する。であれば平和的に接触することもできるはずだ。
その相手が、嘘をつかない限りは。


【B-2・森/1日目・深夜】

【清姫@Fate/Grand Order】
[状態]:腹部にダメージ(小)
[装備]:双刀「鎚」(ソウトウ・カナヅチ)@刀語
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:藤丸立香を探し、守る。
1:とりあえずは平和的に交渉してみる。
2:嘘は許さない。
[備考]


双刀「鎚」(ソウトウ・カナヅチ)@刀語
 天才刀鍛冶四季崎記紀が生涯で作った十二本の「完成形変体刀」の一つ。
 重さに重点を置いた刀。すさまじい質量のかたまりであり、常人には持ち上げることさえ満足に敵わない。


161 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:26:06 6uLG55WM0

「明……すまねえ、明……」

うわ言のように誰かの名を呟く巨漢から伝わる鼓動は弱々しい。
炎を操る少女から男を助け出した獣――アマゾンオメガは、安全な場所に着いたと判断して男、鮫島を横たえた。
メタリックグリーンの輝きが瞬時に失せ、そこに立っていたのは若い男。水澤悠という青年だ。
悠は下ろした男の様子をざっと観察し、唇を噛んだ。全身に重度の熱傷だ。もう助からない。

「明……」

煌々と輝く炎を目印に駆け付けた悠が見たのは、この男が少女に炎を浴びせかけられる光景だった。
見た目こそ少女であれ、あれは人間ではない。自らも人間とは違う、人を喰らう人工の生命体――アマゾンである悠にはわかる。
かといってアマゾンでもない。その臭いはしなかった。人間でもアマゾンでもない存在がいる。そして、人間を殺そうとする。
人間の味方というには語弊があるが、目の前で奪われる命を放ってはおけない。
守りたいものを守る。それが、悠が唯一己に課したルールだからだ。
しかし、とっさに介入した悠だが、手遅れだったのは明らかだ。何とか撤退してきたものの、鮫島の命はもうすぐ尽きる。
悠は男の手を握ってやった。肌が黒く炭化し、剥き出しの筋肉が焦げる手を。

「明という人に、なにか伝えることが?」
「あ……」

溶けた眼球にはもう何も映ってはいないだろう。だが握った手の感触が、声が、鮫島に最後の意思を与えた。
悠の手を強く握り返してくる。死に瀕しているとは思えない、強い力で。

「清姫……人を喰う化物……!」
「さっきの女の子の名前?」
「そうだ……明に……伝えてくれ」
「わかりました。あなたの名前は?」
「鮫島……頼む。明に……俺達の希望に……!」

悠の手を握り潰さんばかりに、鮫島は魂を振り絞るように囁いた。

「化物どもを……皆殺しにしてくれ、明ぁ……!」

言い終えると、ふっと握り締めてきた力が緩み、なくなった。
悠は慎重に鮫島の指を剥がし、目蓋を閉じてやった。

「伝えます。必ず」


162 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:26:49 6uLG55WM0

名簿を開き、鮫島という名に線を引く。そして、宮本明という名を丸で囲った。
人を喰う化物を皆殺しにする。
そんなことを頼むからには、明という人物は悠の知るアマゾン狩りの死神――鷹山仁――に近い存在なのかもしれない。
自らもその化物の内の一つである悠はずっしりと肩にのしかかる重さを感じていた。
悠にはやらなければならないことがある。名簿に再び目を落とす。

鷹山仁。
千翼。
イユ。
クラゲアマゾン。

悠が警戒していたアマゾン――千翼をめぐる関係者が勢揃いしているのは何の皮肉か。
鷹山仁は人を守るためにアマゾンを狩る存在だ。そして、千翼という少年の父でもある。
千翼は仁の息子であり、アマゾンであり、爆発的な感染力を示す溶原性細胞の保菌者――オリジナル。
イユという少女は悠がかつて殺したアマゾンの娘であり、彼女もその際死亡していたが遺体を蘇生させられアマゾンとして使役されている。
そして最後のクラゲアマゾン、もう一体のオリジナルであるその正体はおそらく――。

悠は急ぎ千翼、イユ、そしてクラゲアマゾンの三人を見つけ出し、殺す。そう決意していた。
彼らがこの地でどう行動するにせよ、溶原性細胞は危険過ぎる。もしかしたら人間全てがアマゾン化してもおかしくはないのだ。
イユについては、死を迎えてもなお利用され続ける彼女を解き放ってやりたいと、そう思っている。

「仁さんより早く……」

千翼とクラゲアマゾンを仁に会わせてはいけない。その前に殺さなければ。
もちろん、先ほどの少女のようにアマゾンではないが人を殺す者も放ってはおけない。
人を殺す者を殺す。人を喰うアマゾンも殺す。そうしていけば最後に何が残るか。
化物を皆殺しにするそのカウントに、自らも数えるのか。明という人物に会って、自分も化物だと告げられるのか。
今の悠に答えは出せなかった。


【鮫島@彼岸島 48日後…… 死亡】


【A-2・平原/1日目・深夜】

【水澤悠@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:やや空腹
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:明という人物に鮫島の最後を伝える
[備考]
・鮫島の名前は知りません。


悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
 アマゾン細胞を変質させ、より戦闘に特化した姿へと変化するベルト型ツール。
 右側のハンドルを引き抜くことで数種類の武器を形成する。


163 : BEAST INSIDE ◆ykxSdgXaYc :2019/05/04(土) 01:27:50 6uLG55WM0
投下終了です。悠の状態表の
>・鮫島の名前は知りません。
は消しミスです、すみません


164 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/04(土) 08:31:37 GJ2RW3Z.0
コブラ、スモーキーで予約します


165 : ◆rjD2cwIMXU :2019/05/04(土) 12:27:24 0CJ8vqGg0
エドモン・ダンテス、四宮かぐや 予約します


166 : 名無しさん :2019/05/04(土) 17:40:40 MhfoUG560
投下乙でした
戦闘を素早く発見出来る嗅覚といい、不利と見るや負傷者を連れて即撤退を実行する判断能力の高さといい
水澤ストライクフリーダム悠は最高傑作のアマゾンの名に相応しい安定した対主催ぶりですね


167 : 名無しさん :2019/05/04(土) 21:33:50 hre2CB9I0
目を離したらめっちゃ増えてるので、急いでいまのうちに

>月と太陽
『なにもしないほうが怖い』立香が、理由をつけて先延ばしにしていた三玖に刺さる
実のところ他の姉妹(前に投下されている二人)も、殺し合いの場で誰かに出会うまですぐに動けていたワケではないのだけど、そんなこと知る由もない
自分の弱さを改めて叩きつけられた修学旅行中からの参戦というのも、あまりにタイミングが悪かったのですが、はたして――
人類最後のマスターは早く絆レベル上げてあげてね

>最初に生まれてくるということ
さすがに三玖が「だって相手はあの一花だもん」とダウナーになるだけあり、動き出すのは(これまで投下されているうち)姉妹で一番早いですね……
そこに具体的にどう動くのかという考え自体はないっていうのも、反射でやってしまいがちな彼女らしい
しかしドタバタしつつもいろいろ考えている炭治郎いいですね。善逸といい、彼らはちゃんとしている。煉獄さんへのモノローグはグッときちゃいますよ
……それにしてもカルデア戦闘服のオーダーチェンジって、ゲーム内はともかく実際はどうなってるんでしょうね、アレ。ゴレイヌさんみたいな使い方したら怒られるかな

>心、わたしの胸のどこに
藤原書記が死んでいる時点で、もうどうなっても完全無欠のハッピーエンドはありえない。うむ。まさしく
普段のかぐや様らしからぬ号泣っぷりは、あまりに最低で、あまりに悪趣味で、あまりに藤原書記すぎるとしても、藤原書記にテッテレーをBGMに「ドッキリ大成功」の札を持って出てきてほしくなる
会長頼むよマジで、と、同じくらいにはショックを受けているはずの会長に託す他なし

>共闘
悟空とフリーザ、月とL、ジョナサンとディオ、キン肉マンと悪魔将軍、七原と桐山――その他もろもろ、無限に浮かぶ夢タッグ
若殿ミクニと猛田トシオのコンビは、間違いなくラブデスターという作品におけるナンバーワン夢タッグでしょう
「その皆っていうのには俺も含まれてるのかな?」が本当に最高で、「ももこを死なせた以上こうするしかねえ!」で暴走した彼がミクニくんにそれを叩きつけるのはたまりませんよ
ミクニくんの返答はラブデスター読者が全員わかっているものなのですが、それを言い切れるのが彼ですよ
意図せず生んだ幸せな帰還組に対する反応もね、いいですよね。同作キャラコンビを無意識で考えないクセがあるだけに、完全にやられましたね

>獣が嗤うこの街で
やりやがった!! 前園さんがやりやがった!! あの前園さんが前園さんをやりやがった!!
そりゃあもちろん予約の時点である程度予想できていたし、みんなそうでしょて感じなのですが、それをきっちり一話でやりやがった!!!!
禰豆子とシノの二人どころか、炭治郎や富岡さんらをごっそり持っていきやがった! ゆ、許されない!!
別に人肉ハンバーグとか毒殺に必須だったワケじゃないのも、銃器奪うのもシノ完全に死んでからじゃないとワンチャン銃器マスターシノにやられてたのも、前園さんって感じだ……
何気に的確に膝を撃ち抜いてるところとか、やらかしの陰に隠れてるけど超好きです

>廻るピングドラム
最初のパートの「死んじゃったんだけどね」で、もう完全に掴まれた
月で死んでもう戻れなかった彼が月を眺めるシーンも、いやぁたまらないっすよ
別に見なくてもよかったはずの名簿を見てしまったせいで、死んでもよかったはずなのに考えが変わったのも素敵
家族作りをやり直す二人の鬼コンビ、幸せになってほしいなあ。なってほしいけどねえ。でもなってほしいなあ
「真実の愛」ってワードを明確に口で出した最初のコンビがここなのも、相当キますよね。キます

>不死身の怪物
ぎゃあ! ちゃんと殺せそうなゾルダだ!
BBちゃんが北岡さんを呼ばないからこんなことに……BBちゃんは恐ろしい女ですね……
実際問題、危険人物とゾルダの相性は激ヤバなので困った話だ。浅倉どうにかしてよ〜って、そいつもゴリゴリの危険人物だった

>「救う」ということ
もう、童磨さんの初登場位置が尾張城の時点で勝ってますよね。絵になる。絵が浮かぶ
「黒死牟殿も呼んであげればよかったのに」のセリフもサイコーですよ、サイコー
そんな童磨さんに、人の話を聞かないバーサーカーをぶつけるのもね、笑っちゃいますよね。これが見たかったぜって問答で
途中で中断されるバトルもおもしろーだし、死徒を重ねるナイチンゲールさんもいいし、なによりナイチンゲールさんを見た結果やる気が上がった童磨さんへの期待がスゲーですね


168 : 名無しさん :2019/05/04(土) 21:34:10 hre2CB9I0
感想続き

>鬼と鬼と鬼
黒縄地獄として参戦の源頼光さんVS猗窩座さん
強者の戦術ではない不意打ちや、英霊剣豪に堕ちた様を残念がる猗窩座さんが、本誌での彼を見ているとあまりにも悲しい
あの御方が来てしまったので一瞬で終わってしまいましたが、その一瞬の攻防のなかに彼と彼女の圧倒的技量が含まれていて楽しいですね。楽しい
登場してパワハラかましてどっか行く無残様は、まさしく僕らの無残様という感じ
煉獄さんをつれてきたBBちゃんのせいで、猗窩座さんは余計な説教をされちゃったよ……BBちゃん謝って……

>BEAST INSIDE
嘘はいけないことなので「丸呑みはあるかも」を言っちゃう清姫さん。あらまあ
割って入ってくる悠も、すぐさま宝具というカードを切る清姫さんも、咄嗟の判断自体は正確なのでどうしようもない
人類の希望・明さんの名が別作品キャラにも伝わっていくのは、なんていうか、こう、痺れるものがありますね
結果的に危うい面がある二人が残ってしまった……と思ったが、鮫島さんもよう考えたら普通に危なかった
死んじゃったけど、双刀をガンガンに振り回す辺り、クロスオーバーって感じでよかったなあ。ほかにいろんな武器使うところ見たかったな、って思っちゃったもん


169 : 名無しさん :2019/05/04(土) 23:10:30 m7acgRBQ0
投下乙です。
悠の自分を含む化物判断が今後どうなっていくか気になりますね。
明さんに伝わるのか。しかし明さんに自分が化物だと伝えることになるとやばそう


170 : ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:12:45 Jft2sUaY0
宮本武蔵、宮本武蔵 投下します


171 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:13:50 Jft2sUaY0

  ハナ
 “刃鳴”が――散る。

  ハネ
 “刃音”が――舞う。

  ハガネ     ハカイ
 “刃金”が煌き、“刃戒”を謳う。


「……」

 宵の森山に吹き荒れる剣風。銀閃が走り、甲高い金属音が鳴る。
 斬る――と。その意思を込めた切っ先が互いの鎬を削る。鎬を削り、清廉な剣戟の音を奏でる。
 円舞の如く二つの影は衝突し、そして立ち位置を変えてまた向かい合う。
 踏み込み、幾度と繰り返されるそれは、正に剣の聖域とも言える空間であった。

 迫るは刃。防ぐも刃。
 来るは刃。弾くも刃。――唸り合う計四つの斬撃。
 石火の寸暇に数多の火花が散る。膝丈の草が夜風になびくその間、十重二十重に剣雨は吹き荒れる。
 そして、ひときわ高い音と共に間合いが取られた。
 吐息を絞り、向かい合うは二人の男女……左右の両手に刀を握った二人の男女である。

 ……否。
 余人には銀の豪風としか映らぬそれらは、もはや、人でなく剣であった。
 そう。それらは真実、二振りの刀、であった。

 苛烈なるその二本の一刀、銘を宮本武蔵。
 月代を剃らぬ膨髪を一本にくくり、瓢悍たる身を簡素な袴姿で覆った男。
 ――――言うなれば虎。豪傑無比の剣士なり。

 対するは花。
 鮮やかなるその二本の一刀、銘を宮本武蔵。
 たなびく銀の髪を闇に冴えさせ、当世風の振り袖とすら言えぬ艶やかな踊り子衣装で足を運ぶ女。
 ――――言うなれば天元の花。天衣無縫の剣鬼なり。

「……」

 太刀とは、“断ち”に通ず。
 故に繰り出されるそれは必殺でなければならない。いや、彼らの繰り出す剣は、事実として常に必殺である。
 だが、死なぬ。だが、斬れぬ。
 永劫と続くまぐあいの如く、互いの放つ一刀が互いの肌を切ることもない。
 豪力の軍配は武蔵――男に。
 剣技の軍配は武蔵――女に。
 残すところの疾剣の冴えと気勢の冴えは、揺れ動く天秤の如く足場や環境によって移り変わっていた。

 結果、ついぞ互いが互いを仕留めることも叶わない。
 
 一枚の岩じみた膠着とは裏腹、対峙する二人の剣士は対照的に――――片や野侍の如き野卑な男、片や花魁めいた美女と異なる色彩で立ち振る舞っている。太刀を振り舞っている。
 だが、おお、見るがいい。
 量るように睨み合う彼らが共に握りしは二刀。
 二本の大刀をその両手に握り、挟むように相手の両目へ切っ先を向ける。
 これぞ、中段の構え。二天一流の中段の構え。
 すなわち、それを互いに向け合えば……これまさに二天一流対二天一流であった。

 舞台は屍山血河。吹くは血風。唸るは剣風。
 柳生か、新免か。一体どちらが上なのか。そんな仮定こそ無益である。
 これなるは、宮本武蔵対宮本武蔵であった。


172 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:14:30 Jft2sUaY0

 ◆◆◆


 武蔵、出逢う!


 ◆◆◆


173 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:15:25 Jft2sUaY0

 男、武蔵。兵法者、武蔵。
 草を揺らしてのそりと身を動かし、立つは辺りに木々の満ちし野山……蜘蛛山であった。
 夜の天蓋を陰らせるような枝葉の下、武蔵は静かに思考する。
 肌を刺す空気から知れる。不吉の気配めいて闇に覆われた四方八方は、関ヶ原にも劣らぬ殺し合いの場であろう。
 “びぃびぃ”なる女の言葉は理解に及ばなかったが、武蔵、知恵を捨てられるということは知恵を持つ。
 故に獣の天稟じみた感覚で、“びぃびぃ”の言葉に込められた意図を理解した。

 此度の戦いにて得られるもの、合戦にて名を挙げることと同じである。
 すわ徳川方に大砲を打ち込まれた大阪城の如くに吹き飛びし頭の主であった少女は民草であろうが、民草、武芸者構わず死ぬのが合戦の場。
 その死もまた、ある種の道理であった。
 合戦は、死は、民や士を選ばぬものである。
 しかし、

(武蔵、犬コロにあらず)

 合戦、結構。
 果たし合い、結構。
 だが、外せぬと銘打たれてつけられた首輪なぞ、武蔵、今にも引きちぎらんとする思いでいっぱいになった。
 牢人でもこのような扱いを受けるものか。
 戦う前から、奴婢同然の始末である。

 枷者に配られる具足以下の道具を腰に差し、武蔵、一息に力を込める。
 怒気と殺気が膨れ上がる。剣を握らずとも、武蔵、剣気を放つ。
 首輪がみしりと音を立て、その一間で――――武蔵に死が降り掛かった。

 唸るは抜刀。
 瞬き一間のその暇に吹き荒ぶ剣風を、武蔵の剣が迎撃する。
 迎撃、二つ。十字が二つ。
 風が、嗤った。
 華が、嗤った。

「……へえ。決着前に“かどわかし”なんて、なんて無粋なこともあったかと思いましたが――……いいでしょう、いいでしょう。なるほどなるほど。この豪腕、おまけに二刀流が相手とは。……面白い仕掛けね」
「……」
「とは言っても、今ばっかりは“仕掛け”たのは私の方になるか……なるわねこの場合。なりましょうとも。うん……しまったな。今更やめよう、って言うのもなんか……」

 間合いをとって、剣を担いで華のような女が苦笑する。
 二刀にて斬りかかった女は、応じる武蔵の剣気に苦々しい笑いを漏らした。
 一方、武蔵、半ば驚愕。
 立ち振る舞いこそ飄々とし、如何なる動きもできるように腰を据えぬ女であったが、武蔵の迎撃を受け流したのである。
 武蔵の豪剣を、流したのである。

(上の上……いや、それ以上)

 腕力(かいなぢから)で勝つは武蔵であるが、女、それでも剣を落とさず。
 大の男の打ち掛かりすらも迎撃のその太刀のまま、相手の剣を弾き返して顔を砕き屠るほどの武蔵の豪剣。
 女、見目からは想像もつかぬ腕力と言えよう。或いは、技術か。
 ……いや。技術――その技術というのが最も奇妙であった。
 二刀を自在に扱うことこそ、奇妙であった。

 だが、女の目から感じる戦と死の気配。兵法者の気配へ、武蔵はまだ好意的だった。
 むしろ、僅かに天っ晴れと思う気さえある。あった。
 あったのだ。このときまでは。


174 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:16:22 Jft2sUaY0

「……女、名は?」
「武蔵。新免武蔵守藤原玄信とは長いので――宮本武蔵!」
「……なに?」

 武蔵、沈黙。
 からりと笑う女の名乗った名は、伊達や酔狂で名乗れるものではない。
 むっつりと、武蔵、呟いた。

「武蔵、冗談は好かぬ」
「私も冗談で言ってるんじゃないんだけどねー……って、ええと、あの……………………武蔵!? 武蔵って!? もしかして貴方のこと!? ……ええと、その、出身と父親は?」
「異なことを申す。武蔵の生まれは、作州大原が宮本村。父は宮本無二」
「…………あー、あー、あー、そう。そっかそっか。彼が言ってた男の私かぁ。……凄まじい剣気だからてっきり英霊剣豪かと思ったんだけど、ううんそうか、そうかー……こっち? の私ね。これまた何たる奇遇というか、自分に逢うのは初めてかしら?」

 刀を剥き出しにぼんやりと頷く女の様子に、奇っ怪さはあれど虚言を弄する気配なし。
 魔眼や浄眼のようなその蒼き瞳に、詐術の様子なし。正気あり。
 武蔵、驚愕。半ばなどでなく驚愕。内心、ガチ驚愕でござった。

「男になるとこうなるのかぁ。こうかぁ。そうかぁ……んー、こうなっちゃうかぁ……。いやでも、これでもっとずっと若い頃ならまぁ結構イケそうかも……イケるか……うーん……どうせならもっと若い内に会えていればと残念です」

 首を捻り、なにやら判らぬ女の言葉。眉間に皺を寄せた女を前に、武蔵、ただ剣の握りを強めた。

(女、武蔵を名乗るか。戦に狂へる女か)

 ぐう、と武蔵の体の重さが増した。いや、気配の重さが強まった。握る二刀に気勢と剣気が静かに砥がれる。
 女、武蔵を名乗るか。
 武蔵を、名乗るか。
 ならば、武蔵がすべきはただの一つ。

 踏み込み、打つ――電光石火の一歩。

 二天一流。或いは、二刀流。
 その流派、いや剣位に特徴あり。一刀にない特徴あり。
 片手で握るというその特性上、半身のままに踏み出すが故に遠間に伸びる。敵に晒す己の面を削りつつ、踏み込みと共に繰り出されるその打ち込みは一刀の比にあらじ。
 ましてや、武蔵の豪力。
 風を唸らせて繰り出される切っ先は、もはや、嚆矢であった。

 だが、防がれる。
 否、流される。
 否――――なんと、返したのだ。
 武蔵の切っ先を女の左が払い、続く右の刺突が喉を狙い来る。咄嗟に武蔵、女の剣を阻み止めた。
 何たることか。
 女が繰り出した技は紛れもなく二天一流。互いの間を阻む刀身を叩き下げ、空いた体の正面――喉を穿つ鎧殺しの技である。

「……やるな女。狂い女には思えぬ。どこで習うた」
「習ったというか編み出したというか……ええ、ほら、これでも二天一流の開祖なので」
「……開祖と。武蔵以外が、開祖を名乗るか」
「いやあ、だからさっきも言ったけど……私も宮本武蔵なのよね。この通り……って言っても判らないか。判らない……んだろうなぁ。弱ったな」
「剣はともかく、冗談は好かぬぞ」
「冗談ではありませんので」

 鍔迫り合いを脱し、間合いを切る。
 二人のそんな間で、ひゅうと吹く風が凪いだ。
 互いに向き合い、気配を量る。気勢を量る。断じて狂い女とは呼べぬものである。
 そんな女が、瑞々しい唇を開いた。

「一応聞くけど……さっきのあれ、貴方はどう思った? 可愛らしい女の子があんな目に遭わされてたんだけど」
「万物の望みが叶うとあらば合戦。そして、民草や武芸者を問わぬのが合戦のならい……女、お前はどう思った?」
「ええ、まぁ、そりゃあそうなんだろうけど……。――そうか。こっちの私は、あれを習いと言えるのね。言えてしまうのね。――そう、ならいいでしょう」

 びりと、殺気が肌を刺す。
 この意気は余人にあらじ。女もまた、剣士である――。
 いや……ただの剣士にあらじ。その気、魔剣豪と称される域まで至る。断じて狂へる女とは呼べぬ。ならば真実、この女は武蔵を名乗ったのか。
 故に、武蔵は決めた。
 斬らねばならぬとその心が決めたのだ。

「……」

 はたして、武蔵、剣をとる。
 女もまた、剣をとる。
 互いの思考は同じ――――目の前の存在の脳天に、剣を叩き込むべし。
 二刀を掲げ、武蔵と武蔵は踏み出した。


175 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:17:27 Jft2sUaY0


 ◆◆◆


 “刃鳴”が――散る。

 “刃音”が――舞う。

 “刃金”が煌き、“刃戒”を謳う。

 きぃんと、涼やかな音が鳴る。
 左から女の繰り出す一刀へ左刀で応じ、抑え、遅れるように袈裟に薙ぐ右刀。
 それを女の剣が抑えた。左剣で抑え、その手の右剣が巻き払い――鍔で武蔵の鎬を滑らせつつ体の内側へと切っ先を捩じ込み抜けてくる。
 他方、武蔵。あえて押し込み、迎え撃ち――滑らされる刀の鍔で女の鍔へ激突する。

 鍔迫り合い。

 足を払わんとすれば、女は額を繰り出した。
 首を躱し、武蔵、後ろに倒れる。倒れつつも膝を鳩尾に繰り出さんとすれば、女もまた膝で武蔵の股間を狙った。
 咄嗟、膝を割り込ませて体を捻る。女も捻った。
 右と左に、それぞれの身体が転がった。

「鬼ほどじゃないけど、すごい力ね。……ただその剣、空位には遠いと言わせて貰いましょうか」

 また間合いを開けた女が切っ先を向けて不敵に笑う。武蔵は低く唸った。
 都合、幾合に及ぼうか。
 果ての見えぬ剣戟に、汗を流す武蔵は知った。
 否が応でも解った…………いや、解っているからこそ、女を斬らんとしたのだ。斬らねばならぬのだ。
 まさしくその剣、二天一流に相違えなし。合戦の作法に違えなし。
 であるからこそ、

(鬼か、幻か。……斬るか武蔵、二天一流を斬るか)

 武蔵はまた己を奮い立たせた。
 二天一流を斬り、己の二天一流こそが唯一無二と示す――――ためではない。
 剣の高みに至る、或いは剣名を轟かせる――――ためではない。

(斬るか武蔵、二天一流を斬るか。鬼を斬るか)

 そう、鬼だ。女が口にした、正に鬼だ。
 鬼とは、世のかけがえない花を散らす者。命を喰み、死を与え、生を狂わす魑魅異形の怪物。
 女の二天一流に違えなし。
 ならば、武蔵の出した推論は女が鬼であるということ。
 不死身とは思えぬ。だが、この世に二つとない二天一流を武蔵と同等に扱えるこれを、なんと呼べばいいのか。
 その奇っ怪。鬼なる異形の、異技なのか。
 
 いや、そも、女にはなにかの渇望があった。
 飢えに等しい剣への渇望があった。剣名のためでなく、剣のために剣を振るう渇望があった。
 鬼は鬼でも剣鬼――――少なくともそれは間違いない。故に、武蔵、剣鬼へと刃を向ける。

「……」

 同じく、女の宮本武蔵も――斬り合うべしと決めていた。
 己と同じ二天一流の使い手である異なる世界の宮本武蔵。
 それと斬り合えることへの歓びもあったが、やはり、それ以上のものもあった。
 正義の剣客を気取るわけでなく、我欲もある。
 それでも正義の剣客ではないが故に解る。あれを合戦のならいと言えてしまう男は、やはり、剣鬼に等しい。
 見逃すべきかと考え、諸般の事情で見逃さぬ方が良いかもしれないと結論付けた。故に彼女もまた死合に興じたのである。


176 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:19:19 Jft2sUaY0

 さて、しかし、この豪力を如何とするか。
 そう考え、剣を取り直したときである。

「あ」

 ぺきりと、音が上がった。
 音が上がったというか、音を上げたというか。
 使い手よりも先に、刀の方が戦いを手放していた。

 彼女の支給品は、竃門炭治郎の刀。
 余談であるがこの炭治郎、使った刀の数が多い。
 まずは最終選別で用いた刀。これは師である鱗滝左近次の刀である。
 それから手に入れた日輪刀。これは正にこの蜘蛛山にての戦いの折に折れている。
 それから更に手に入れた日輪刀。これは鬼の身体に投げつけ紛失。その後折られている。
 また新たに手に入れた日輪刀。この刃は上弦の鬼との戦いで刃が欠けている。
 そしてまた、上弦の肆との戦いで別の刀を使い――これは折れていないが結局そのあと別の刀を手に入れた。

 そう、つまり。
 つまりというか、なんの因果というか。
 竃門炭治郎の日輪刀という支給品は複数があり得、彼女はその内の二本が支給され、

「……………………」

 BBのちょっとした茶目っ気なのか。
 それとも三十七歳独身の刀鍛冶に対する嫌がらせなのか。宮本武蔵への嫌がらせなのか。主に三十七歳独身の刀鍛冶に対する多大な嫌がらせなのか。
 宮本武蔵に渡された支給品は、折れる刀だった。
 正しくは、折れる寸前の刀だった。

「……………………」

 冷や汗を流す女の武蔵と、一方、思わぬ勝機にギラリと目を輝かせる男の武蔵。

「ちょっちょっちょ、ちょっとタンマぁ! 見てこれ! ほら! 折れちゃってるでしょう!」
「……」
「いやほら、刀に文句をつける訳ではないですけど! ないでしょうけど! やっぱりこう、剣士としての立ち会いをするなら、お互いに万全の方がいいんじゃないかしら! いいと思う! 武士の情けというかなんというか!」

 慌ただしく手のひらを武蔵を前に、武蔵、引かぬ。
 彼とて知っている。宮本武蔵ならば――二天一流ならば、この程度、なんのさわりにはなりはせぬと。
 刀に頼むが二天一流にあらじ。二天一流とは、すなわち、合戦の作法である。

「……」

 ……いや。
 認めよう。否、もう既に認めている。他ならぬ宮本武蔵が、この相手は宮本武蔵だと――剣が認めていた。
 己が逆に動揺するほど、剣は女が宮本武蔵であることを自然と呑み込んだ。

 そして宮本武蔵は、そんな宮本武蔵の隙を見逃さない。
 武蔵、折れた刀を投げつけられる。荷物袋を投げつけられる。
 咄嗟に弾けば、その隙に女は大きく距離を開けた。さしもの武蔵も一歩では飛び込めぬ間合い。飛び込めば、死に体目掛けて死を突きつけられる間合い。
 互いに測り合うような、睨み合うような静止ののちに、 
 
「という訳で――御免! また会いましょう! 会いたくないけど! 会いたいような……いや、会うなら万全で! またの機会に!」

 脱兎の如く、女怪は背を向けて闇に消えていった。
 零れんばかりの白瓜の如き乳房を震わせて、全力疾走であった。
 武蔵を虎と呼ぶなら、その乳は牛と言えよう。
 奇っ怪な髪色と日ノ本女子離れをした得体。
 すごい揺れていた。乳が。乳が――揺れていた。揺れていたのだ。乳が。瓜のような乳が。冗談ではあるまい。冗談乳ではあるまい。
 そして残り香の如き剣気が薄れるのに合わせて、武蔵は構えをおろしてただ呟く。

「……武蔵、再び鬼とまみえるか」


177 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:20:22 Jft2sUaY0

 己以外の、己と言える、信じられぬ剣士。剣豪。
 己を宮本武蔵と言うならば――否、己は宮本武蔵に他ならない――ならばあれはなんだ。
 幻か。夢か。
 いや、武蔵の今の道理に合うものを呼ぶなら――鬼か。

 死人はかつて、死人だった。
 だが今の武蔵は知る。世に鬼あり。神州無敵の吉備津彦命や平安武家の棟梁の源頼光の伝説に偽りなし……と。
 あの女、鬼か。牛鬼か。乳牛鬼か。
 ……或いはそれをも超える存在かと思案した。
 眉唾ものとは言うまい。かつて己が見ていたものとかつて己が見たもの。道理が道理に限らぬとは、武蔵、知っている。

 いずれにせよ……

「鋸のような刃よな」

 両手の得物を見て、武蔵は呟いた。
 拡張具足なく、武蔵拵えの刀なく、神童殺しなく鬼に向かい合うのは不足というより……合戦にて存分に打ち掛け合いたるようなこの刃は、奇怪であった。
 奇怪であり、道理であった。

 武蔵の知る鬼とて斬られた四肢を繋げ、穿たれた胴を塞ぐ怪物である。
 ならば、鋸の刃の如き荒れた刃にて【削ぎ取る】というのは正しい――――鬼を滅するのに正しい。正しい刀だ。
 しかし、武蔵は同時に驚嘆していた。
 荒れた刃にて物を斬らんとすれば、その刃の方こそ折れかねない。余計な抵抗が、刃金を殺す。刃筋が立たねば、刃道が違えられれば剣は容易く砕け散る。
 そう、この剣に必要なのは、剛力というより卓越した“肌感覚”である。

 それなるほどの剣士が使う剣。獣の牙めいた剣。そこに刻まれしは【惡鬼滅殺】の四文字。

 そうだ。鬼はいる。
 人を喰らい、嘆きを喰らい、喜びを喰らい、世の闇に潜む悪鬼はいる。その証明こそ、この刀である。
 故に、斬るべし。
 鬼を斬るべし。鬼を哭かせ、鬼を誅するために斬るべし。



【C-5・那田蜘蛛山・西/1日目・深夜】

【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:健康、疲労(小)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0��3、嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:剣に慣れる
2:事情通の者に出会う
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。


【支給品紹介】

【嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃】
宮本武蔵(衛府の七忍)に支給された。
打ち立てホヤホヤの刀の刃をわざわざ石でぐっちゃぐちゃに欠けさせている。
刀鍛冶はキレた。


178 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:21:43 Jft2sUaY0


 ◆◆◆


 野山を飛び駆ける武蔵は、その手の欠けた刃を見て顔を顰める。
 武蔵とて常人離れをしているが、あの宮本武蔵の豪力は輪をかけて凄まじい。

(虎ねアレ。虎。剣士じゃなくて虎じゃない。どう育てばああなるのかしら。やっぱりこっちの世界でも無二斎は無二斎ってこと? やんなるなぁ……)

 邂逅した男の宮本武蔵――。
 異なる世界の完全なる同一人物というより、その剣の至る境地に違いがあるように思えてならなかったが、ひとかどの剣士である。
 ならば試してみたくなってしまうのも、道理といえ――

(……こんなんじゃ、但馬の爺様を笑えないわね)

 ……いや、言い改めよう。
 宮本武蔵――或いは新免武蔵守藤原玄信。
 彼女は善性なれど善人にあらじ。その根底、まさに剣士。善を好く知りとて、己が本分が人斬り包丁と知れり。
 彼女の知る彼女は、今まさに敵が牙城に飛び込み、剣神に至るほどの腕前を持つ剣客と切り合っていた――その筈だった。
 柳生新陰流・柳生但馬守宗矩。セイバー・エンピレオ。
 まさに無双。まさに無量。その神域に通ずるほどの剣の腕を前に、武蔵にも確信があった。
 そう。己の“空”へと手が届くという確信が――――。

 ……否。ついぞ、それは叶わなかった。
 あと一歩というところで、この凄惨な虐殺の場への転移――或いは召喚である。
 故に、武蔵は怒った。
 剣士にとって剣の高みに至ることというのは至上の命題とも言える。掴みかけていたのだ。空腹で目の前にした握り飯にも等しいそれを、あと一歩で奪われた怒りは余人の想像を超える。
 そして、BBにより無辜なる民へと行われた邪悪なる虐殺の光景であり、そこにあの宮本武蔵が重なった。
 なればこそ、仕掛けた。不意を討つように仕掛けた。
 既に死合の場に登っていた武蔵にとって、あの武蔵の漂わせる獣に等しき剣気は、戦相手と応じても仕方のないものだった。

 ひょっとするとあの美しき――「ンン――――――怪物には怪物! 宮本武蔵には宮本武蔵! 拙僧、その戦いには涙を禁じえませんなぁ!」――なんというかアレな奴の死に汚いなにか術式かと、思っていたのも……まぁ、ある。

 ……いや、或いは。
 仕掛けざるを得なかったのだろうか。
 佐々木小次郎が宮本武蔵の宿敵であると同様に、宮本武蔵という剣名は歴史に一人。
 宮本武蔵は宮本武蔵に応じずにはいられないのだろうか。

 ……しかし、故の、この顛末。
 頭を冷やして逃走に転じられたのは、日頃の行いの賜物と言えよう。
 藪を飛び抜け、森からの脱出を目指す。
 流石に一刀だけであの宮本武蔵に挑みかかるのは、如何に武蔵とて無謀であろう。
 ムサシのムはムボウのムではないのだ。そもそも漢字も全く違う。閑話休題。

 裾をなびかせる武蔵の脳裏によぎるのは、

(……また変なことに巻き込まれたとも思ったし、よりにもよってここで……と思いもしたけど……。この場なら、私も、剣位の高みに到れる――?)

 そう、剣士であるが故に浮かんでしまう命題。
 否。
 違う。違うのだと武蔵は首を振った。少なくとも今は、違わねばならない。 

(よし、切り替えましょう! 切り替えていこう! まずは立香君と合流――できるかできないかは置いておいて、できると信じましょう! できると!)

 目指すは、己と共に異変を解決しようとしていたマスター。
 彼といるその時は正義の剣客の真似事をできるというのもあるし、あの武蔵の言ではないがここは合戦場。
 如何に数多の特異点をくぐり抜けたカルデアのマスターでも、一人ではきっと……おそらく限界がある。
 故に武蔵は決めた。

 一つ、藤丸立香との合流。
 一つ、折れない刀の入手。
 一つ――これが一番大事だが――投げつけてしまった食べ物に変わる食べ物。

 腹が減っては戦はできぬとは、古来から語られる通り。
 うむと頷き、武蔵は走る。ここは止まる場ではないが故に走るのだ。
 だが、

(……それにしても。男の私がここにいるってことは、彼も彼女になってたりして――)

 なんの因果か、この場の藤丸立香はこの宮本武蔵の知る藤丸立香とは異なる。
 それが何を意味するのか。
 答えるものはなく、ただ、武蔵は駆けるのみであった。


179 : 武蔵、出逢う! ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:22:13 Jft2sUaY0

【C-5・那田蜘蛛山・東/1日目・深夜】

【新免武蔵守藤原玄信@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、疲労(小)
[道具]:竃門炭治郎の刀の内の一つ@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:無空の高みに至る。藤丸立香と合流する。
1:新しい武器を手に入れる。
2:手放した支給品に替わるもの(主にご飯。ご飯大事)を手に入れる
3:強者との戦いで、あと一歩の剣の『なにか』を掴む
[備考]
※参戦時期、セイバー・エンピレオ戦の最中。空位に至る前。
※彼女が知っている藤丸立香は、というより何故かこの宮本武蔵は、『男の藤丸立香』を知る宮本武蔵である。


【竃門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃】
宮本武蔵(Fate/Grand Order)に支給された。
炭治郎が多く使った刀の内の一つ。
わざわざBBが折れる寸前のものを支給した。
刀が折れると三十七歳刀鍛冶の怨念の声が聞こえるらしい。

【竃門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃】
同、宮本武蔵(Fate/Grand Order)に支給された。
炭治郎が多く使った刀の内の一つ。
わざわざBBが折れる寸前のものを支給した。
この刀は折れたので三十七歳刀鍛冶の怨念の声が聞こえると思う。多分。


180 : ◆Akt6fX8OUk :2019/05/04(土) 23:22:33 Jft2sUaY0
投下終了します


181 : 名無しさん :2019/05/04(土) 23:29:57 m7acgRBQ0
投下乙です。
予約からして一波乱ありそうだったダブル武蔵いいですね。
両者の武蔵の闘い方にまた違いがあって楽しいし再会したら楽しみです。


182 : ◆Wott.eaRjU :2019/05/04(土) 23:34:15 m7acgRBQ0
ライダー・黒縄地獄、清姫、浅倉威予約します。


183 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/04(土) 23:47:50 WhgPtzxM0
前園甲士、姐切ななせ、工藤仁
予約します。


184 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/05(日) 00:46:20 cvNTRviE0
>>97を投下します


185 : やがてのあしたに星がふる ◆FTrPA9Zlak :2019/05/05(日) 00:47:43 cvNTRviE0
夜闇の道路を、一人の女が静かに歩いている。

顔色はまるで死人のように青白く、もし常人がこの場でその姿を見れば、薄汚れた着物姿も相まって幽霊とも見たかもしれない。

実際に、女自身も自分のことを幽霊ではないかと思っていた。

「生きている様子ですね、足もありますし」

女、鑢七実はここに来るまでの記憶を回想する。
土佐・清涼院護剣寺で、弟・七花との決闘に破れ死んだはずだ。
最後の言葉を噛んでしまったこともはっきり覚えている。

ともすれば、ここはあの世かとも思ったが、完治したはずの体を蝕む病魔は何故か未だに体内に巣食っている。
果たして死後の世界にこのような苦しみは存在するのだろうか。

せっかく悲願が叶い弟の手で彼岸に行けたというのに。

「とっても不愉快なものですね」

びぃびぃと名乗った女を七実は見たはずなのに、何故か彼女に対して何も分からなかった。
まるで彼女を見る上で、何かしらの妨害でもかけられたような感覚だった。

分からないことだらけだが、今分かっていることは一つ。

この場には弟である鑢七花がいるということだ。

「七花、少しは成長してるのかしら」

自分を殺した七花が、一体どんな刀になっているのか。
それを見て、あわよくばもう一度戦い果てることができればいい。

弟の所有者であるとがめに関しては、出会った時に考えればいいだろう。

そんなことを考えながら歩いていると、ふと視界の隅に一つの影が見えた。
普段ならば別に誰かがそこにいたとしてもこちらに触れるなどしない限りは気にもとめないはずだったが。

その時見えたそれに対しては、思わず意識を割いていた。
今の七実自身の状況もあってだろうか。

もしこの場に第三者がいたとすれば、傍から見てこう語っただろう。
死人のような女が二人いる、と。


186 : やがてのあしたに星がふる ◆FTrPA9Zlak :2019/05/05(日) 00:48:12 cvNTRviE0




「私、鑢七実と申します」
「………」
「あなたのお名前は?」
「イユ」

舗装された道の端。
鑢七実と、その隣に座りこんでいる真っ黒な服を着た少女は、互いの名を名乗り合う。

「一つお伺いしてもいいでしょうか。
 イユさん、でしたかしら。あなた、ずいぶん変わった体をされているようですが」

遠慮もなく直球で問いかける七実。
イユはその問に機嫌を悪くしたでもなく、ただ沈黙を続ける。

七実はこの問いかけを投げた時点で、こんな言い方の質問でも問題ない存在だというところまでは認識していた。
ついでに言えば、こちらの問いかけには答えるがそうでなければ会話として続かない様子だ。
問題はどこまで答えてくれるかだが。

「どうしてそんな体をしているのですか?」
「―――――」

口は開いた。しかし言葉が出てこない様子。
何があったのか自分が認識していない、知らないという辺りか。

七実は話している最中、ずっとイユを見ている。
駆け引きを行う、嘘を言おうとしているという様子はない。

問いかけを変えることにした。

「この名簿に書いてある名前ですが、あなたの知人はいますか?」

机の上の明かりをつけ、名簿を渡す七実。
イユの瞳が動き、その文字をなぞっていく。

すると、ある一つの名前を口にした。

「千翼」
「お知り合いですか?」
「千翼は、アマゾン。だけど、殺したらダメなアマゾン」
「あまぞん、とは?」
「――――」
「知らないようですね、まあいいでしょう。
 その千翼という方があなたの知り合いと」
「千翼は―――私の痛みになってくれるって、言ってた」

一瞬だが、そう答えたイユの口調の中にほんの微かにだが、これまでの答えるだけだった彼女ではない、親愛に近いものが混じっているような気がした。

「千翼、探さないと」

そう言って立ち上がったイユ。おそらくは目的ができたことで移動することができるようになったのだろう。
七実に目もくれることなく、静かに道を歩いていく。

会話というか問いかけだらけだったが、この場に来て最初に出会った人物だ、こちらの探し人を知っていることもないだろう。

「そうですか。お話、ありがとうございます。さようなら」

別にここで別れたところで何でもない。
七実もまた、別れの挨拶を告げた後、イユの体を抜き手で貫いた。




187 : やがてのあしたに星がふる ◆FTrPA9Zlak :2019/05/05(日) 00:48:41 cvNTRviE0


鑢七実。
刀を持たぬ剣術・虚刀流の家に生まれ、しかしその技を継承されることがなかった者。

ある世界の日本において日本最強と言っても過言ではないと称された存在。
「人間一人に到底収まりきれぬ」とも言われたその天才性から生まれた瞳、見稽古はあらゆる技術、能力を自身のものとして習得することができるものである。
それをもって七実はイユの体の状態を見て、ある程度の理解をしていた。

彼女が生きていないこと。死体のまま、何らかの術で動かされているということを。
新手の忍術なのか、それとも変体刀のような未知の技術なのか。そこまではまだ分からなかったが。

同時に彼女としては珍しく、その肉体に興味も湧いていた。
死体ならば、果たしてこの手で貫けばどうなるのだろうか。
その興味のままに、イユの腹に手を突っ込んでいた。

「―――アマゾン」

瞬時の判断で七実は腕を引き抜き、その体を蹴り後ろに一気に下がる。
七実の体が飛び出すと同時に、周囲を熱と衝撃波が覆った。

直後に、七実を追う形で全身を黒い羽で包んだ異形が飛び出す。

「なるほど、それがあまぞんというものですか」

その姿を見て、死体の原理を理解し、目の前にいる存在を把握した。

カラスアマゾン。それはイユがアマゾンを狩るために与えられた姿。
イユの戦うべき相手はあくまでもアマゾン。
そうでなければC4――自身の所属するチームのメンバーの指示なくしては戦うことはない。

この場合。
自分の体を貫いた女が敵対者であり、同時に安々と自分の体を貫ける者に対して変身する必要があると認識。
アマゾンではないにしても例外的に応戦の必要があると判断し、装着された腕輪、アマゾンレジスターを起動させたのだ。


カラスアマゾンへと変身したイユは、敵対者、七実に対して腕を振るう。

それをこともなげに身を反らして避け、その胸部に掌底を打ち込む。
その衝撃に後ろに下がるカラスアマゾン、しかしすぐに態勢を立て直して舞うように飛び蹴りを放つ。

(怯まない、やはり死体だから痛みもないということですか)

足を受け持ち上げて、逆に振り回して地面に叩きつけながら七実は思考する。
先の掌底は虚刀流奥義・鏡花水月。並の人間であれば胴体を粉砕されているだろうものだ。

確かに並の人間よりは頑丈な体をしてはいるが、強い手応えはあった。
これが頑丈さゆえなのか、それとも本当に痛手を与えていないのか。


188 : やがてのあしたに星がふる ◆FTrPA9Zlak :2019/05/05(日) 00:49:33 cvNTRviE0

地面に叩きつけられたカラスアマゾンは、それでも怯むことなく足を振り回して七実の体を宙に舞わせる。
態勢を整える間も与えず、舞い上がった七実の体に撃ち込まれる肘打ち。
しかし七実は真庭忍法、足軽を使用し自身の体重を失わせることで触れられる直前に風圧に体を任せて回避。
同時に大きく吹き飛ばされながらも地に足をつける七実の体へ更に腕が振り抜かれる。

重さがなくなった体でまるで風に揺られる羽毛のように受け流したところで追い打ちのように足が振るわれ。
七実はその瞬間、足払いをかけてその体を宙に浮かし、拳を叩き込んだ。

虚刀流五の奥義・飛花落葉。
鎧を纏っていようとも内部の肉体に衝撃を与えることができる鎧通しの技。
それは頑丈な皮膚を縫ってカラスアマゾンの内部へと強い衝撃を与えた。

間髪入れずに七実がその体を蹴り飛ばすと、カラスアマゾンは倒れ込み黒い血液をゴボリと吐き出した。
変身が解除され生身へと変化するイユの体。

腹には穴が空いており、その奥からは飛花落葉によりぐしゃぐしゃに潰れた内臓が見える。
流れる血はドス黒く、生きた人間が流す赤いものとは異なる異常さを感じさせる。

しかし、それだけの損傷を負いながらもイユは立ち上がった。

それを感情のない瞳で見る七実は、今度こそトドメを刺そうとゆっくりとした歩幅で歩み寄り。

イユの体がガクリ、と足から崩れ落ちる。

「………」

七実はその様子をじっと見ていた。
内臓が破裂したことで体の均衡軸が崩れうまく歩けない様子だ。
いや、そもそも生きていれば歩くこともできないはずだ。

歩み方を覚えた赤子よりも拙い歩を進めるイユに、七実は一気に距離を詰めた。

回し蹴り、打突、手刀。あらゆる打撃技を打ち込まれ、そのたびにイユの肉体は砕けていく。
肩は吹き飛び、顔の片方は潰れ、吹き飛んだ臓物が周囲に鉄の臭いを漂わせる。

だというのに、目の前の少女はまだ動いていた。
這いつくばるように前に進み、こちらへと進んでくる。

どうしてそこまでして動くのだろう。
違う。自分の意志で動いているのではない。
”これ”は動かされているのだと、七実は察する。
びぃびぃの手によるものか、あるいは別の何者かによるものか。
それはまるで操り人形のように。


同時にアマゾンの体を見て理解した七実はふと思ってしまった。
もしも自分が死んだ後にも、安らぎを与えられずこんな風に無理やり動かされ続けたらどうなるのか。

悪刀・鐚のように無理やり生かすのではなく、既に死んだものを無理やり動かす。

いや、もしかして、今の自分は。
既にこれと同じなのではないか。

(私をこんな不快な気分にさせたものは、ありませんでしたね)

あまりにも嫌な可能性を脳裏に過ぎらせたことで、不快感を顕に顔をしかめる七実。
共感したわけではない。ただ、自分がこうなっていたらという想像から生まれたもの。


189 : やがてのあしたに星がふる ◆FTrPA9Zlak :2019/05/05(日) 00:50:07 cvNTRviE0
その苛立ちをぶつけるように、七実はイユのボロボロの体を持ち上げた。

目の前のそれを完全に消すために。

「……がて――しが…る、ほ…がふる…ぉ」
「……?」

ふと、その口が何か言葉を発していることに気付き、その口を耳元に寄せた。

「こ、ころ、ときめいて、ときめいて、くる」

それは歌だった。
何かの衝撃で生きていた頃を回想しているのか、それともそういう行動を取るように決められているのか。

歌う死体。多くの人はおぞましいと感じただろう。
その静かに歌う死体を前に、七実はその歌だけを聞き入っていた。
もう反撃してくることもないだろうその死体の歌を、持ち上げたまま聞き。

歌が終わった辺りで、その体に七花八裂を叩き込んで粉々に粉砕した。




だいぶ体が汚れてしまったと感じた七実は、とりあえず肌についたものだけでもと鞄に入っていた水で洗い流した。
服についたものに関しては、今は我慢するしかないだろう。

地面に転がったイユのバッグも拾い中身を確認し、見て、服の代わりになりそうなものがないことに少し落胆する。

とりあえずこれからはどうしたらいいか。
自分の中にあれに埋め込まれていたものと同種のものがあるのかどうかは分からない。何しろ体内はあらゆる病巣で溢れかえっている。一つ増えたところで気付けない。

それでも、あれと同じものが自分の中にある可能性は否定したかったし、その存在にも嫌悪感があった。


改めて名簿に目を通す七実。
現状聞いているのは千翼というものがあまぞんであり。
名簿を見る限りだとクラゲアマゾンなるものもいるらしい。
自分の名前の場所とそれらの位置から見るに、この名簿が知り合いで纏められているものだと考えられる。
イユの下に並んだコブラという名前もあまぞんなのか、上にいくと見える水澤悠、鷹山仁という者もあまぞんかその関係者なのか、その上にずらりと並んだ中野という名を持つ者たちはどうなのか。

「その辺りは会ってみれば分かりますか」

一旦判断は保留としつつも、一つの方針は固めた。
そのアマゾンという雑草は毟っておいた方が精神衛生上いいだろう。

実際のところは分からないし、ただの八つ当たりのようなものかもしれないが。

そうしてイユが行くはずだった道の先に七実は歩みを進めていった。


七実が去った後。
周囲に飛び散った黒い血や肉片。

その中でひときわ大きな血溜まりとなった場所に転がった機械の腕輪。

イユが装着していたアマゾンレジスターは、暗闇の中灯していた光を静かに消した。


【イユ@仮面ライダーアマゾンズ 消滅】

【E-6/1日目・深夜】
【鑢七実@刀語】
[状態]:疲労(大)、若干不機嫌
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品2〜6(確認済み、衣類系は無し)
[思考・状況]
基本方針:適当にぶらつく。細かいところをどうするかはその時々で判断。
1:七花を探す。とがめに関しては保留。
2:アマゾンに不快感。見つけたら毟りたい
[備考]
※参戦時期は死亡後ですが、体の状態は悪刀・鐚を使用する前の病弱状態です。
※自分が生きているのはアマゾン細胞によるものではないかという可能性を考えています。
 また、その想像に対して強い不快感を感じています。


190 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/05(日) 00:50:22 cvNTRviE0
投下終了です


191 : ◆rjD2cwIMXU :2019/05/05(日) 01:01:07 eAfbU84M0
皆さん投下乙です。
こちらも四宮かぐや、エドモン・ダンテス 投下します。


192 : 素直じゃない私を ◆rjD2cwIMXU :2019/05/05(日) 01:01:57 eAfbU84M0

「死にたいのか、女」

かぐやが歩みを始めたほんの十秒後のことである。
まるで狙い澄ましたかのように彼女は声をかけられた。

森の闇が具現化したような男だった。

深い緑のコートを纏い、枝のように髪を伸ばし、大木に身を任せる姿はどうにも様になっている。
瞳をまじまじと見つめてしまえば、果てのない暗闇の奥深くに吸い込まれ二度と戻っては来れないような錯覚を得る。
何故か、よく燃えそうという感想が浮かんだ。

唐突に現れたそんな男は、礼も何も持ち合わせていない傲岸不遜さでいきなり四宮かぐやを詰ったのだった。

「ようやく泣き止んだかと思えば、武器も持たず、目的地も定めず」

謎の男の登場に面食らっていたかぐやの顔が数瞬遅れてさっと紅潮した。
言葉を額面通り受け取るならば、彼はかなり前からかぐやを見ていたことになる。
泣いている姿を観察されるなど破廉恥な、と思うし、恥ずかしい、とも思ってしまう。
更に遅れて、確かにかぐやは何の準備も出来ていないことに気付く。
支給されたリュックの中身をロクに検めてもいないし、そもそもここがどこなのかもわかっていない。
いつもの四宮かぐやならばあり得ない失態。観察されていたことに加えて二重の意味で赤面してしまう。
もっとも、藤原を喪ったことによるショックでかぐやの脳内が「アホ」寄りになってしまっていた、というのが原因の一つでもあるのだが。
親友を失ってすぐに平常に、ましてや氷のかぐや姫と呼ばれていた中学時代のようにはなれないというのが「生徒会での幸せな日々を送った四宮かぐや」である。

「したいこと、成すべきことも定まらず、覚悟もなければ決意もないと来ている」

この殺し合いで何がしたいのか。何を成すべきか。
したいことは決まっている。
会長に会いたい。


193 : 素直じゃない私を ◆rjD2cwIMXU :2019/05/05(日) 01:02:28 eAfbU84M0
だが、そのために何を成すべきなのか。
友人を失ってから未だ10分も経っていないかぐやには荷が重すぎる設問。
悲しみは心を凍てつかせ、考えようという意志そのものを封じ込めていた。
だから彼女は今まで、心の中にぽっかりと空いた穴を見つめながら、まるで初めて見るタイプの心理テストを前にしたように途方に暮れるしかなかった。
もしも自分一人でこのまま彷徨い続けていたならば、一向に穴は埋められず、もしかしたらその穴に吸い込まれるように死んでしまっていたかもしれない。

「もう一度問おう」

「死にたいのか、女」

「覚悟もなく、決意もなく」

「目的も果たせないまま、何も成せずに死んでいくのか?」

だけど、今。
大切な彼女が抜け落ちた傷穴に、確かに怒りは注がれた。
出会ったばかりの自分を侮辱する眼前の男に対する怒りが。
萎び切っていた心の芯とも言うべき部分に熱が灯っていく。
熱は心を覆っていた氷を溶かし、天才の脳を活性化させていく。
四宮かぐやらしさを取り戻していく。
思考せよ。行動せよ。この場における最適解を弾き出せ。

「死にたくもありませんし、女などと呼ばれるのも我慢なりません」

最初の問いにようやく答えを返す。
二つ目の問いは、まだ保留。
それよりも先に、行うべきことがあった。

「私は、四宮かぐやと申します」

四宮かぐやは過たない。
既に調子を取り戻し始めた彼女は「アホ」ではあらず。
どれだけ相手に怒りを覚えようとも、自分がこの瞬間成すべきことを優先し、選択する。
まずは自己紹介。続けて。


194 : 素直じゃない私を ◆rjD2cwIMXU :2019/05/05(日) 01:02:57 eAfbU84M0

「貴方との同行を希望します。お名前を伺っても?」

目の前の男は殺し合いには乗っていないと推測できる。
かぐやを殺すつもりならばとっくのとうに行動に移していただろう。
それこそ自分が泣いている間に近づくことなど、一切の気配をかぐやに気取らせなかったこの男には容易に見えた。
だが、ようやく歩き始めたかぐやに対してもコイツは芝居がかった口調で話しかけてくるばかりで、手を出してくる様子は見受けられない。
代わりに出してくるのは口。つまりは説教だ。
その内容も、まあ頑張って解釈すればギリギリ「檄を飛ばしている」内容と言えないこともない。
……そういうことにしておく。

つまり。

「貴方も協力相手を求めていたのではありませんか?」

なんてことはない。
この男が自分に声をかけたのはそういうことだ。
その割にコイツの言葉はあまりにも鋭く、しかも要領を得ない話の運び方だったわけだが。
なんというか、石上君みたいに誤解を受けやすい性格をしていそうだと思った。
もっと素直に言えばいいのに。全くもって男という生き物は面倒くさいプライドの塊だ。

そんな風に溜息をついたかぐやを完全に無視して、遂に彼は名乗りを上げる。

「巌窟王」

名簿にはない名を、それでも男は息のように、毒のように、この世界に浸透させるように吐き出した。
名乗りは自嘲であり、決意であり、規定でもあった。
エドモン・ダンテスという名は名乗らない。
復讐の果てに幸福を掴んだ彼の名は『復讐者』たり続ける己には相応しくないと思うが故に。
殺し合いという監獄から逃れるべきは自分ではなく他の誰かだと思うが故に。
この霊基はそのためにこの場に存在するのだと思うが故に。


195 : 素直じゃない私を ◆rjD2cwIMXU :2019/05/05(日) 01:03:26 eAfbU84M0
「俺のことはそう呼べ、シノミヤ」

四宮家の教育は多岐にわたり、国内のみならず国外の文化を学ぶこともその一つである。
その一環として海外の蔵書にもある程度触れているかぐやは、即座に一つの小説を脳裏に浮かべた。
巌窟王。『モンテ・クリスト伯』
かの大文豪、アレクサンドル・デュマの作品の登場人物。
物語の中で1800年代に生き、それから200年以上経った現在、とっくのとうに死んだはずの男の名前を聞いて。
死者の復活、というワードが続けて浮かんで。

『どんな願いでも叶う……素敵ですね。まるで『聖杯』みたいです。
みなさんならどんな願いを叶えてもらいますか? 巨万の富? 恋の成就? 死者の蘇生? 
オールオッケー! このバトルロワイアルで優勝さえすれば、今アナタが頭に浮かべた願いは必ず叶います!』

たった一人の友人を殺した憎い憎い相手の言葉が、耳元で小さく反響した気がした。



【C-7/1日目・深夜】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:憔悴(小)悲しみ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:決めかねている
1:会長たちと合流したい
2:そのために巌窟王と協力する
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます

【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1: 巌窟王として行動する
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます


196 : ◆rjD2cwIMXU :2019/05/05(日) 01:19:27 eAfbU84M0
投下終了します


197 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:32:55 gS4p5T620
投下します


198 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:34:10 gS4p5T620

ぺたぺた。
ちょんちょん。
もちもち。
ぐにーーーー!

「うぅ……痛い、です……」

ぐにぐにと自分の体を手を伸ばしてこねくり回す。
中野四葉はそれだけの所作を一度では足りないと言わんばかりにしきりに繰り返していた。
悪い夢なら覚めてほしいと願いを込めて、それに比例するだけ力も籠めて。
体中に手を伸ばして、そこにあるのを確かめて。
さっきまで右を見ても左を見ても、胴体を見てもスカートをはためかせても、そこにあるのは訳の分からないスタジオだった。
目を閉じても耳を塞いでも景色は変わらなかった。そして景色の切り替わった今でも最後の惨劇は目と耳にこびりついている。
花火のようなボン、という爆発音に、女の子なら定期的に見る赤黒い液体。どちらか単独ならまだ馴染んだものでも組み合わさると恐怖をもたらす非日常になる。
非現実的な出来事に足元が崩されたように感じて、今ここにいる自分も怪しく思えて。
体はホントにここにある?首と胴は繋がってる?心臓は動いてる?夢?現実?
……体はある。首もある。よかった、私はここで生きている。
……頬が痛い。首輪がある。ああ、夢じゃあないんだ。

それを確かめるためだけに、どれだけの時間が経ったのだろう。
早鐘を打つ心臓はまだ自分が生きていることに加えて時間が刻一刻と過ぎていることも教えてくれる。
まるでテストのタイムリミットのよう。
テストの、リミット。
だったら。
一分一秒も惜しまなきゃいけないということは先生に散々教わっている。

頭が良くはないと自他ともに認める中野四葉ではあるが、さすがにこれ以上不毛な現実逃避はしていられないと頬の痛みに目を白黒させながらも周りに目をやり始めた。

「ここ……どこでしょう?」

暗くてぼんやりとしか見えないが室内だということは分かる。

「えーとスマホ、スマホ」

ポケットを漁って探し出したそれの画面をつけて視界を照らすが、目に入るのは知らない天井ばかり。
アプリで地図を見られないかと試みても圏外で。

地図はディパックの中にあるとあの女の子が言っていたっけ、と思い出しそこから続けて名簿やルールブックなどの存在にも続けて思い至る。
見たくないなぁ、という気持ちが半分……いやそれ以上。赤点覚悟の答案を初めて受け取った時以上に目を背けたい気持ちでいっぱいだ。
でもそこには知らないといけないことがたくさん書いてあるはずで、見ないという選択をするほどバカにはなれなかった。

スマホの明かりを頼りに近くに置かれたディパックを探し、仄暗い視界でごそごそと中を漁る。
それらしいものを見つけることはできたが、やはりスマホの明かりだけでは見づらくてかなわない。
光源もありそうなものだが、そもそもこのままではそれを見つけるのにも一苦労しそうだ。

(明かり……ありますよね)

大概は部屋を入ってすぐの壁にあるものだし、スマホ程度の光源でも何となくの手探りでたどり着けるだろう。
明かりをつけていいものか、と悩みはする。
でも足はそちらに伸びていた。
心細さ、から来たものだろうか。もしかして、という期待と、こんなところにいないでほしいという願い。
暗い部屋の明かりに手を伸ばしたらひょっとしたらまたみんなと会えるんじゃないか、会えてしまうんじゃいかと足を運ぶ。



ガチャリ、とドアの開く音。
気配も足音もなく入り込んでくる影。
そこにいたのは姉妹ではなくて、明かりに手は届かなかったけども。
暗闇の中で人と会うのは林間学校の時と同じだ、と懐かしく目の前の光景を冷静に見ている自分がどこかにはいた。


199 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:34:58 gS4p5T620

◇ ◇ ◇


「それじゃあ皇城さんはこういうの初めてじゃないんですかー」
「うん、まあ。複雑な気分だけど奇妙な出来事に巻き込まれるのには慣れてきてしまったかな」

皇城ジウと中野四葉の二人は、今は部屋の中央でランタンの火を囲って話している。
こうなるまでにも些かの時間は要したが。
まず遭遇時に慌てた四葉をなだめるのに数分。
明かりを点けようとする四葉を制して、外に光が漏れないようにしたのちにランタンに灯をともすのにまた数分。
明かりがついたからまだ名簿などを見ていないという四葉がそれらに目を通すの待ってみれば、家族と友達がいることを見て平静を失ってまたしばらく。
吐き出すものを吐き出して、ようやく落ち着いたのが現状だ。

「懐中電灯とかじゃなくてランタンの火というのは助かったかもね。火を眺めていると落ち着くのは元来狩猟民族である僕たちの本能のようなものだったはずだから」

そんなことを言いながら笑顔で話を聞いてくれたジウには感謝しかない。
それで表層的には静かになったが内心は当然荒れ狂ったままだ。
自分のせいで、みんなが巻き込まれたなんて考えまで浮かんでしまう。
姉妹のみんなは自分だけが落第したのについて来てくれた。その先で上杉さんと出会って、親しくなった。それはとても嬉しいことだけども。
皆が着いてこなければここにいるのは私だけだったのでは。私たちと出会ってなければ上杉さんはここにいずに済んだのでは。
そんなネガティブになろうと思えばどこまでも沈んでいけそうな思考になっている四葉の視界に、ふと自分のバッグを漁っているジウが入る。

「これ、僕の支給品だ。食べるといい、少しは落ち着くはずだ」

そう言ってジウが取り出したのは、なんと救急用のキットが入ったバッグだった。
中の鎮静剤でも服用しろということだろうか。それにしては食べるという表現は奇妙だと四葉が反応に困っていると、ジウがその支給品の説明書らしいものを確かめ渡してくる。

「どこまで本気なのかは分からないけれども、フローレンス・ナイチンゲールが用意した救急キットと、非常食用のチョコレートらしいよ」
「ナイチンゲール、って……」

学のない四葉でも知っている。看護婦さんだ。それもなんか歴史上有名な。
受け取った説明書に軽く目を通すとたしかにナイチンゲールと書いてある。
え、冗談じゃないんですか?

「名簿にフローレンス・ナイチンゲールという名前は書いてあったし、他にも宮本武蔵だとか気になるのはあるけれど……それは置いておこう。物の効能は古今東西変わりない。
チョコレートというのは栄養価が高く、携帯性や保存性にも優れている。薬効成分も多く含んでいるから鎮静作用もあって体にいい。軍用レーションに採用されたこともあるんだ」

続けてそんな蘊蓄を披露しながらキットとは明らかに別個に用意されていた包みを手に取って、これもまた四葉へと渡す。
ラッピングの外からでもわかる甘い香りに流されるように包みを丁寧に解くと

「わ。凄いですねこれ」

中から現れたのはきらきらと水晶のように輝くチョコレートだった。
ひんやりと冷たい感触と仄かに香る蜂蜜に食欲をつんつんと刺激されて、知らず口内に湧き上がるつばを飲み込む。
危うく涎になる直前で慌てたせいでごくんと思った以上に大きな音がした気がして、はしたなさに少し頬の赤みを増してジウの様子をこっそりうかがう。
ジウはというと特に気付いた様子もなく救急キットの中身を確かめていた。

「ナイチンゲール……19世紀の看護師が選んだものじゃないな。抗生物質は彼女の時代には未発見のはず。観光地でよくやる有名人にあやかった土産の類かな」

などなど独りごちているのが四葉の耳にも届く。


200 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:35:47 gS4p5T620

(もー。女の子といるのにそれは減点ものですよ)

と考えはするもののおいしそうなチョコレートに喉を鳴らしていたなんて気付いてほしくはないのだから今回は許してあげよう、と結論付けて。
小さく笑いが漏れて、自分が落ち着きを取り戻しつつあるのを自覚する。
甘い匂いに食欲を刺激されて日常を思い出した……それもあるだろう。
じつのところそれ以上に目の前の男性、皇城ジウの態度が大きい気がしている。
初対面なのにこちらを警戒とかしないで道具に夢中だし。
直接気遣う言葉よりも難しいマメ知識を語って聞かせてくれるような、頭がいいんだけど女の子への気遣いが一歩足りないところとか、見た目は全然違うけどなんとなく上杉さんみたいだなって。あの人が傍にいてくれるみたいで、こんな状況なのに何だか嬉しくて。
そんなことを考えながら手にしたチョコレートを齧る。
冷たいアイスウエハースの層を超え、チョコに歯が食い込むと、とろりと奥から甘い蜜が溢れ出る。
今まで食べたことのないような甘味に思わず叫んでしまいそうになる。
声は抑えたが四葉の息は荒く全身で喜びを表現していた。

『ほっぺたが落ちちゃうんじゃないかってくらい美味しいですよー。中の蜂蜜、これはレモンとよくセットになってる、疲労回復にいいというあれですね!だから救急キットに!』

そんな風にこんどはこちらがマメ知識と感想を伝えよう、とするが。

ひゅーひゅーと口笛を鳴らすような音が響くばかりで言葉が意味を結ばない。
おかしいな、と疑問に思ってさらにもう一つ。
さんざん引っ張ったせいでまだ僅かにだが痛んでいた頬の痛みが消えている。
それもまた何だかおかしいな、と思って口元に手を伸ばす。
だが、その手が空振る……頬や顎のあるべき場所に何も、ない。
疑問の声を呟こうと四葉の体は活動したが、今度もまた声にならない吐息未満のものが喉元から吐き出される。

皇城ジウは、それを冷め切った眼で見つめていた。

「メルトウイルスなんて聞いたことなかったから半信半疑だったけれども。なるほど、どこまで本気かは分からないが少なくともこれは本物らしいね」

そして口にした言葉もまた、四葉の食べたチョコなど及ばないほどに冷たかった。
たしかな殺意と無関心がそこにあった。

けれどももう、四葉にそれを気にするような余裕はない。

痺れるような、甘い甘い感覚が蜜のように口から躰へと広がっていく。
恋のような痛みに、愛のような甘さに、犯され、溶かされていく。
まさしくこの世のものとは思えぬほどの甘美な快楽……それが中野四葉が最期に噛みしめた『死』の味だった。


【中野四葉@五等分の花嫁 死亡】


201 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:36:32 gS4p5T620

あおむけに倒れた四葉の亡骸をジウは軽く観察する。
チョコを齧った口腔部分、頬や顎にかけては完全に溶けてなくなり、美しかったかんばせの下半分は欠損して二目と見れたものではない。身元の判別にも苦労しそうだ。
そして蜜を飲み下した喉から胃の腑にかけても無事ではない。
首が内側から溶けて、四葉であった液体がつけられた首輪を汚している。
さらにチョコを飲み下し、滞留したであろう食道から胃にかけて……女性的魅力に満ちていた胸の峰も溶融し、中にあった肺や心臓の溶けた液の溜まる湖へ転じていた。間違いなく致命的だ。

それだけ即座に確かめると救急キットから取り出した三角巾で口と鼻を覆い、キットの説明書やランタンなどを四葉のディパックに放り込む。
そうして自分のものと合わせて二つのディパックを手に急いでジウはその場を離れるべく動いた。
扉を乱暴に開けて閉めて、駆け足で距離をとり事前に位置を確かめていたトイレに駆け込んでさらに扉を隔てる。

(紙のラッピングとチョコで包んだだけだったんだし、飛沫感染ということはないだろうけど警戒に越したことはない。なにせ未知のウイルスだ)

とはいえもしメルトウイルスというのがエボラのような感染力ならマズいが、そんな自滅の可能性が高いものを粗雑に支給はしないだろう。
氷で包んでいたのももしかしたらウイルスの活動・保存のためだったのかもしれない。
ともあれこれ以上の警戒は無用だろう、と口元を覆う布を外し一息つく。
その布は改めてキットの中へ。こっそりと手の内に忍ばせていたシリンジの大きな針も同様にしてしまう。
そして懐――誰にも見られないよう忍ばせていた――にしまっていたカードを三枚、改めて取り出す。
それは救急キットに付属していたものと合わせて四つの説明書……バレンタインのメッセージカードだった。


🌸   🌸   🌸

月代中学校で一番のモテモテボーイ、主人公力334の皇城さんにはヒロイン力53万のBBちゃんからチョコレートのプレゼント♡
これを使いこなせば主人公力416までアップ間違いなし!ご賞味あ〜れ♡

🌸   🌸   🌸



一枚はこのバトルロワイアルの主催を自称するBBという女からの役に立たないメッセージ。支給品の内容と意図を悪意たっぷりに説明したもの。
残りの三枚は名簿に名前の書かれた、本来の送り主に当てたであろうメッセージにBBが注釈を加えたもの。
製作者の名前は三分の二は知っていて、三つ全てが名簿に載っているものだった。
フローレンス・ナイチンゲールの救急キット。キットの中身についての説明が付属していた。
メルトリリスのメルティ・ハート。本来の制作者が知るしたであろうチョコレートの解説に加えて、メルトウイルスという人を溶かす毒が混入していることがBBに注釈されていた。
そして最後の一つ。


202 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:37:36 gS4p5T620

(酒呑童子の、ネクタール・ボンボン……)

神便鬼毒酒が入ったボンボンだと書かれている。
あまりにもふざけていてどこから指摘すればいいのかジウには分からない。

(だが、根も葉もないただの菓子ということは恐らくないだろう)

メルトウイルスとやらが本当に効果を発揮するのか……救急キット付属のチョコと見せかけて試してみれば、人を殺すには十二分な性能を発揮して見せた。
名簿に描かれたいくつかの名前……酒呑童子やナイチンゲールに加えて源頼光、宮本武蔵、沖田総司、エドモン・ダンテスや清姫など歴史や物語で聞いた名前がいくつかある。
そして猛田トシオという、見知った故人の名前も。さらに皇城ジウはレイディという死んだはずの人物(?)が蘇ったのを目の当たりにしている。
……BBも言っていた、死者の蘇生はあながち夢物語ではない。
清姫や酒呑童子が実在したかはともかく、沖田総司や宮本武蔵を蘇らせたと言われればジウはそれを大いにあり得ることだと考える。

(死者の蘇生という非現実的な可能性の実例を名簿を通して知らしめている、というところだろうか。なら名簿の酒呑童子も、それを殺した神便鬼毒酒にも真実味は出てくる)

非常食ではない、何らかの鬼札にはなるだろうとジウはそれを武器として認識することに決めた。
そう決めたら、手札は伏せておくに越したことはない。
救急キットの説明書を除くすべてのメッセージカードをビリビリと破り捨ててトイレに流す。
あとはラッピングされたネクタール・ボンボンを救急キットのセットに見えるように括りつけて

(よし。これで一つの支給品に見えるはずだ)

いささかミスマッチだが元からこうだったと強弁できなくはない。
というか実際元からこんなものだと、本来付属していたチョコを尻目に考える。
それから続けて四葉のディパックを漁り、支給品を取り出――――

「うわっと……!」

表れたのは大量の刀だった。
それもなぜ地図などを漁っていたのにこれに気付かないのか、というほどに大量の。

その刀、銘を千刀・『鎩』という。
千本で一本と称される、全く同性能の刀が千本存在する多さに主眼を置いた刀だ。

(さすがに本当に千本は入ってない……よな?)

数えている余裕はないし、今はその必要もないだろうと一つを腰に下げて他はしまう。

(だがこれも助かるな)

どこまでが千刀なのか、知っていなければ区別はできない。
木を隠すなら森の中、支給品を隠すなら支給品の中だ。
これなら手持ちの支給品が誰かを殺して奪ったようには見えないだろう、とほくそ笑み。
支給品を奪ったディパックは彼女の死体のある部屋の前にぶちまけておくことにする。
もしメルトウイルスに感染性があれば、中の死体に気付いて首輪を気にかける者がいれば――犬童のように――トラップになってくれるかもしれない。契機は増やしておいた方がいいだろうから。

(さて、これでここにもう用はない)

最後に証拠隠滅のために救急キットについていたチョコレートを片づけることにする。
まあ食べてしまうのが無難だろう。

(ん……)

こうしてチョコレートを齧るとファウストの企画したイベントをいやでも思い出す。
それほどまでにラブデスター試験が脳内で占める割合は大きい。
細川ひさこの仮想空間で体感で数年過ごしたせいで思い出補正でもかかっているのか。
あの時とは周りの環境も、心理状態が全く違うからか。
実際にそうなのかは分からないが

(姐切にもらったチョコの方が美味しかった気がするな)

口にしたチョコの味はなんだかとても苦々しく思えた。


203 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:38:19 gS4p5T620

【E-6 民家/一日目・深夜】

【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:健康
[装備]:千刀・『鎩』@刀語
[道具]:基本支給品一式、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜2(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)
[思考・状況]
基本方針:しのを生き残らせる
0:(ガツガツガツガツとチョコを食べている)
1:しのを優勝させるために皆殺す
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。


【全体備考】
※E-6民家内に中野四葉の死体(メルトウイルスで損壊)があります。その部屋の前にディパックの中の基本支給品一式がぶちまけられています。



【支給品紹介】
メルティ・ハート@Fate/Grand Order
メルトリリスからのバレンタインチョコ。
きらきらと水晶のように輝くチョコ。
硬いチョコ岩盤を切り裂いて作ったもの。
深夜の厨房では
「いくわよ、いくわよ、いくわよ・・・・・・!」
妙に興奮した体でチョコ岩盤に踵を振うメルトリリスの姿があったとか。
口にいれるととても冷たく、注意して噛まないと口の中を傷つける。
チョコの中の蜂蜜は身も心も溶かすメルトの毒、メルトウイルス。


救急キット@Fate/Grand Order
ナイチンゲールからのバレンタインの救急キット。
救急キットの常備は必須です。
常日頃より携帯しておくように。
チョコレート?
ああ、そうですね。確かに。
非常用食料も添えておきましたがそれがなにか。


ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order
酒呑童子からのバレンタインチョコ。
きつぅい酒が入っとるさかい、気ぃつけてや?
酔い潰れるくらいならまだいい方。
猛り狂っておかしゅうなってしまうかもやけど、まぁ、堪忍え。ふふ。
中身は彼女の宝具、神便器毒酒。

千刀・『鎩』(セントウ・ツルギ)@刀語
「いくらでも替えが利く、恐るべき消耗品としての刀」
多さに主眼を置いた刀。
「千本で一本」と称されていて、全く同じ性能の刀が千本存在する。
その実態は一本のオリジナルさえ残っていれば無限に生産が可能というもの。
刀としては十二本の中で一番「普通の名刀」。


204 : ◆PxtkrnEdFo :2019/05/05(日) 01:41:47 gS4p5T620
タイトルは『メルティ・スイートハートとビターステップ』で

それから本日5月5日は中野家の姉妹の誕生日です
一花、二乃、三玖、五月、それから四葉へ。ハッピーバースデー

投下終了です。指摘等あればお願いします


205 : ◆HQRzDweJVY :2019/05/05(日) 02:09:30 jcc9l4ns0
雨宮雅貴、雨宮広斗、胡蝶しのぶ予約します。


206 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 13:59:08 yCFOpgbM0
みなさん投下乙です!
こちらも投下いたします


207 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 13:59:57 yCFOpgbM0



鬼。
それは日本に古くから伝わる妖怪だと考えられている。

(女性ナレーション・ゆっくり、落ち着いたトーンで)

(鬼のイラストを表示。おどろおどろしいタッチの大男の鬼)
※1

頭には一本あるいは二本の角。
赤や青の皮膚。
口に生えた鋭い牙。
手には突起のある棍棒を持っている。

ただし定まった姿は持っていないとされ、美男美女の姿で描かれることもある。

(イラスト切り替え。
 今度はイケメン風の鬼のイラスト)
※1

悪い物・恐ろしい物の代名詞として、
各地に伝承が残る山も少なくない。
また地獄にて死者を責める獄卒として描かれることもある。

(山の写真をフラッシュバック)
※2

特に平安時代に描かれる鬼の多くは
恐ろしい化け物として描かれる。
京都につたわる酒呑童子や茨城童子といった妖怪が特に有名な鬼だ。

(イラスト切り替え。
 恐ろしい大男が京都の街を荒らしているイラスト)
※1

その正体は
北方の異民族を妖怪になぞらえたもの
金属に携わる事業の人々の俗称
海賊して上陸した白人のこと
異星人

と多種にわたるが、
やはり「人を喰らう恐ろしい化け物」というイメージは根強い……


208 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:00:32 yCFOpgbM0


── 投稿映像   ──



それは民家にて、和やかな食事を写した動画のようだった。

「禰豆子ちゃんは可愛いねぇ」

(隠し撮りされたかのような構図の、質の悪い映像。
 ところどころノイズが走っている上、変な角度でカメラが置かれているためか、詳しい状況が掴みづらい)

「ハハッ、愛月さんは禰豆子ちゃんに夢中ですね」
「だって、可愛いですから。前園さんもそう思わないですか?」
「────」

落ち着いた男性の声と、楽しげに声を弾ませる少女の声が記録されている。
さらにそこにもう一人、いたいけな女児の言葉にならない声が紛れており、どうやら三人で食卓を囲んでいるらしかった。
明るいリビングにて行われる食事の雰囲気は穏やかなもので、ともすればホームビデオにさえ見えるものであった。

(ザザッとノイズが走り、一瞬映像が飛んでしまう。
 撮影の構図自体は変わっていない)

「いっぱい食べなさい、私も愛月さんも叱りはしない。 ハンバーグ、ごちそうだよ?」
「こうするんだよ、禰豆子ちゃん。 はい、いただきます」

変わらない雰囲気のまま、三人で手を合わせハンバーグを食べようとしている。
男性も、少女も、そして女児もまた険悪な雰囲気は一切ない。
そしていくつかの言葉を交わしたのち、少女と、そして女児がハンバーグを咀嚼した。

(再び場合ノイズ)

「GrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrRRR!!」

その瞬間、耳をつんざくような獣の咆哮が映像の中を走る。
それまでの和やかな雰囲気を根本から破壊するような、獰猛かつ異様な叫び声であった。

「なにが、起こっている……?」
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

困惑する男性の声と、画面内を飛び跳ねる異様な影。
「この化け物め!」という声に重なるように二発の銃声が響き渡る。
だが画面の影はなおも健在であった。

「GaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

およその人の理性を感じさせない獣の咆哮が世界を震わせる。
男性の困惑の声がが入り、そして次の瞬間、カメラが持ち上げられたのか、画面が、ぐい、と引っ張り上げられる。
そしてブチリ、と映像は途切れるのだった。



──  REPLAY ──



(動画が巻き戻しされ、再び食卓が破壊されるその瞬間の映像が開始される)

「GrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrRRR!!」

獣の咆哮をあげる異様な影。
画面がそこで静止し、ゆっくりとアップになっていく。

(怪奇的なBGM)
※2

そこには血走った瞳で睨みつける異形の女性の映像が確かに映っていた。
映像が荒いためわかりづらいが、どうやらその見た目は先ほどの女児に酷似している。

(テロップ「平和な食卓のなか、突如として豹変を遂げた子ども」)

(テロップ「果たしてこの未確認生物の正体とは…」?)



※1 要イラストレーター発注
※2 ここはフリー素材を使用


209 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:01:04 yCFOpgbM0




(タイトル演出)

真・戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」






210 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:01:25 yCFOpgbM0


「……どうでしょうか?」

映像を一通り見せたのち、動画投稿者である男、前園甲士は神妙な面持ちで問いかけてきた
それに対し、「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」のスタッフである工藤仁は口を開く。

「ええと、前園さん。この映像がアンタがついさっき遭遇したっていう」
「はい。私が先ほど遭遇した化け物です。
 拉致された私は、状況に困惑しつつも子供を保護するべく彼らと食事を取っていました」

前園という男は、怜悧な雰囲気を醸し出す人間であった。
整えられたスーツや七三に分けられた頭髪は官公庁に務める役人と言われても通じそうだ。
その話し方も明晰でわかりやすく、多くの者に良い第一印象を与えるに違いない。

ただそんな彼の表情には、それでもなお隠せない恐怖が残っているように工藤には見えた。
そしてそのスーツの肩には不自然なシワがあり、そのシワは異様な力で掴まれたようにも見えた。

前園はシワがついた肩に触れ、今しがたの場面を思い出すように語り始める。

「映像にもあったように、途中までは、その、和やかな雰囲気だったんです。
 ただそれが……ハンバーグを食べた途端、突然女の子が、こう……」

それまでの明瞭な口調から一変し、口を濁す前園に対し工藤はその機微を察する。
自分が遭遇した場面に対して、自分自身信じることができないのだろう。
「コワすぎ!」の取材にて、多くの投稿者が恐怖と困惑がない混ぜになった態度を見せていた。
工藤は当然、そうした投稿者と多く関わってきた。

「女の子が突然、キ■■■になってアンタを襲ったってことか」
「ええ! ですが、本物の映像なんです。加工など、していませんし」

前園はパッと顔を上げて言う。

今しがた見た映像は確かに衝撃なものであった。
最後の少女の豹変ぶりなど、それこそ加工を疑ってしまうようなものだ。
このまま世に出したところで多くのものは前園を信じはしないだろう。

だが、工藤は違った。
「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」。
視聴者からの投稿映像を基に、怪奇現象を調査するホラービデオであり、彼はそのディレクターだった。
これまでも口裂け女、スカイツリーの幽霊、河童、トイレの花子さん、お岩と様々な怪異に文字通りその 拳で立ち回っていた彼にしてみれば、今しがた見せられた映像は全く別の意味合いを持つ。

──これは売れるぞ。

と。
彼は前園からの投稿映像に対し、考えていた。
すでに彼の頭の中ではどういった映像の構成にするか、イラストの発注やテロップの作成といった事柄まで自然と思考が伸びている。
長年何かに取り憑かれるように「コワすぎ!」を作ってきた男は、殺し合いという異様な局面においてさえ、そんな考えをしてしまう。
否、しなくてはならないとさえ考えている節が、彼にはあった。


211 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:01:52 yCFOpgbM0

「でもよ前園さん、この映像はどうやって撮ってたんだ?」
「はい。実は、さっき映っていた女の子がこんなものを支給されていまして」

そう言って前園はバッグから何か大きな機械を取り出した。
バスケットボールほどの大きさの機械で、その中心にはレンズがはめ込まれている。

「これは?」
「ドローンです。ステルスドローンと言って、私の職場でも使われていました。
 支給されていた女の子が、よく分からずに触って起動させてしまっていたようです」

どうやらそれは高性能なカメラであるようだった。
ドローンとして単独稼働し、一度起動すればこちらを自動で追尾しつつ映像を撮ってくれるらしかった。
実際の額面はわからないが、カメラマンを雇う人件費より安いだろうか、と概要を聞いた工藤は思わず頭で試算していた。

「なるほどね。それで、アンタが回収したら、こんな映像が撮れてたって訳か」
「はい、私も半狂乱になってはなんとかバッグだけでも持ってきたんです。
 そして……」
「おい、アンタ」

その言葉は工藤のものではなかった。
映像を見て声を失っていたもう一人の人間が、前園に対して口を開いていた。
彼女は前園に詰め寄り、その襟元を掴んで叫びをあげた。

「おいアンタ。愛月をどうしやがった!」

工藤の同行者であった少女、姐切ななせはキッと前園を睨みつけた。
彼女は──動画に写っていた少女の一人、愛月しのの友人であった。






(全く、危ないところだったな。
 こんなに近くにあの女の知り合いがいるとは)

襟元を掴まれながらも、前園は冷徹に思考を回転させる。
愛月しのを殺害し、禰豆子から逃走を計っていた前園は、すぐに別の人間と出会うことができた。

工藤仁と姐切ななせというらしい二人もまたこの異様な殺し合いに巻き込まれ、ひとまず行動を共にしていたらしかった。
工藤は髭をたたえた中年男性であり、そのギラついた眼差しは人を威圧することに慣れているにも見える。
もしかすると本当にそうした暴力関係の人間かと思ったが、(その言を信じるのならば)映像制作のディレクターだという。

「おい、姐切ィ! 何してたんだ」
「うるさい工藤! なんだこの映像は! コイツは愛月を見捨てて逃げてきたんだぞ」
「んなこと言って首掴んでたら、この人もなんも喋れねえだろうが!」
「アンタは引っ込んでろクソ中年親父。さっきから手つきが下品なんだよ」
「あん? てめえこそ、こんな場所で女子供一人でやってけると思うのかよ?
 俺はな? お前を仕方ねえから守ってんだぞ? 大人としてな?」

一方の姐切の方も顔立ちこそ整った少女であったが、口や態度の悪さでは工藤にも引けを取らない。
お互いこのぐらいはジャブと言わんばかりに罵倒を投げつている。

(まぁ工藤はまだしも、姐切の方は動画を見て感情的になってるんだろうが)

前園は冷静に考えつつ、今しがた見せた映像のことを考えた。
先ほど映像が撮れたのは、実のところ本当に偶然であった。
禰豆子に支給されていたステルスドローンが、彼女が適当に触ったことで起動してしまっていたらしい。


212 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:02:34 yCFOpgbM0

奪い取った支給品を確認した前園は、己の殺人の証拠にもなりうるこの映像を真っ先に消去しようとしたが、ふと思い立った。

(禰豆子とかいうあの化け物と「超人」をぶつけるために、この映像は使える)

ひどく不鮮明な映像であったことが幸いした。
彼は犯行の決定的な場面のみカットすることで「化け物に襲われた被害者」としての映像となった。
動画は勝手知ったるステルスドローンである。複雑な編集ならいざ知らず、動画の部分的な消去程度であればすぐにできた。

(姐切が愛月の知り合いだったことには驚いたが、この程度は切り抜けられる)

「……姐切さん、申し訳ございませんでした。確かに私は逃げ出してしまった……」
「御託はいいんだ。愛月はどうしたんだ?」

詰め寄る姐切に対して、前園はあえて何も口にはせず、視線をわずかに下げた。
力なくうな垂れるように、罪悪感に打ちひしがれるように、殊勝という概念を煮詰めたかのような態度を前園は出す。
そんな前園に対し、掴みかかってきた姐切の手の力がわずかに緩んだのがわかった。

(まったく簡単なものだ)

思わずニッコリと笑いたくなるのをこらえながら、前園は「申し訳ございません」と再度謝罪の言葉を口にする。
多くを語る必要はない。
その態度によって、化け物を前に愛月しのを救おうとしつつもどうしようもなかった無力感、を言外に示すことができる。

しばらくの沈黙ののち、姐切は舌打ちをし、前園の襟元を離した。

「……アンタを責めてもしょうがないってことぐらい、アタイにだってわかるよ」

ぐっと拳を震わせながら姐切は言った。
ぶつけようのない己の感情を必死に整理している様子を、前園は無感動に眺めた。

「でもな、さっきの映像だと、まだ愛月が本当に死んだのかわからなかった。
 だから……」
「わかっています。愛月を助けられないか、戻ってみるつもりです」

前園はそこでもう一度顔をうつむかせたのち、

「ただ……情けない話ですが、私には化け物をどうすることもできません。
 銃を持っていても、まったく聞かなかった。
 本当にあれは──化け物だった」

恐怖をにじませた態度で前園はいう。
その言葉自体は実のところ、全くの真実である。
真実であるがゆえに、一定の説得力を持ったに違いない。
まぁあの化け物の存在はあまりにも非現実すぎて、受け入れられない可能性もあったが──

「前園さん、俺はアンタ、信じるよ」

そこで工藤は、前園の肩を叩き、そう言った。
その口調は、意外にも──こちらのことを慮るような、重みと共感に似た何かが滲んでいた。

「あの化け物? 鬼? あれを倒さないと救えないんだろ? あの女の子を」
「……はい。ですが、我々には」
「俺たちには化け物は倒せない。だからよう、こう考えんだよ」

工藤は言った。

「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」

と。


213 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:03:02 yCFOpgbM0

「はぁ? 工藤、アンタ何言って」
「わっかんねえのか?姐切。
 この殺し合いにはな! さっきのビデオみてえなやべえバケモンがいっぱいいるんだよ」
「どこにその保証があんだよ、あん?」
「俺の勘がそう言ってんだ。
 俺のな? こういう勘はまず当たんだよ。
 だからこの会場にいる別のバケモンを捕獲して、さっきの鬼とマッチアップすんだよ。
 そいつらが勝手に潰しあってる間に、その愛月って女を助けりゃそれでいいだろうが」

工藤はそこで、いつの間にか勝手に起動していたステルスドローンに向かって言う。

「すごくない? バケモンとバケモン、驚異の異種格闘技戦だよ?
 これ見てるみんなも楽しみだろ?
 コワすぎ・プロレス篇の開幕だ。どっちが勝つのか!いっちょ盛り上げてやろうじゃねえか!」
「これ見てるみんなって、アンタ撮ってんのか?」
「うるせえ、姐切ィ! こんな状況に巻き込まれたんだ、撮れるもんは撮っとかねえとやられ損だろオイ」

口論を始め出す二人を前に、前園は黙っていた。
黙って、ほくそ笑んでいた。
すでに前園自身への関心は薄れつつあり、黙っていれば先ほどの彼の言動が既成事実になるだろう。
そして、愛月しのを救うため、未確認生物・禰豆子にぶつける別の怪物を見つける流れになりそうだ。

(人間よりも強い『超人』をアレにぶつける作戦に、こいつらも付き合ってもらおうか)

前園はそのメガネの奥で、一人、冷徹な感情を宿していた。


【C-1・民家/1日目・黎明】

【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、ステルスドローン@ナノハザード、口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:脱出はするが、「コワすぎ」も撮るに決まってんだろ
1:化け物(禰豆子)にマッチアップする別の化け物を探す
2:ステルスドローンを回して撮影する
[備考]
※参戦時期は「コワすぎ! 史上最恐の劇場版」開始前。タタリ村へ乗り込む準備中

【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜4、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
    人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:この場から離れる。
2:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
3:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。

【姐切ななせ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:脱出する
1:この場から離れる。
2:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
[備考]
※参戦時期は少なくともキスデスター編より後


214 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:03:30 yCFOpgbM0



そうして合流した三人であったが、前園甲士が彼らにもたらしたものはそれだけではなかった。

回収した支給品のなかに、工藤もよく知る品があったのだ。
前園としてはさして価値があるものとは思えなかったため、それは工藤の手に渡ることとなった。


それは──かつて工藤が出会った、口裂け女の髪であった。

その髪こそ、工藤仁がこれまで幾多もの怪異と渡り合ってきた必殺の呪具である。

偶然禰豆子に支給されていたそれを、前園がたまたま漏らさず拾い、運良くであった工藤のもとに渡ってきた。
ある種の必然──否、運命さえも感じさせる出来事であったのだが、前園も、工藤も、その因果をさして重要視はしていなかった。

だが──少しずつ事態は前に進んでいた。



【口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
「コワすぎ!」スタッフが最初に遭遇した怪異「口裂け女」の頭髪と思しきもの。
「口裂け女」を捕獲しようとするも失敗したスタッフは、代わりに部屋に残されたこの髪を入手。
以来工藤はこの髪を拳に巻きつけ「幽霊」や「河童」を殴りつけることで、それらを撃退しようとしてきた。
(口裂け女の呪いが勝つのか、他の怪異が勝つのか、実験的な対処法である)

この髪は「劇場版:序章」にて登場した強化後のもの。
呪術師犬井の自殺による儀式の結果、口裂け女の呪術がさらに増大。
それまでビニール袋に入れていた髪を、犬井が作った袋に入れることでより強力なものとなったのである。

袋の中には犬井の遺書も含まれており、内容としては以下になる。

一、これは「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」というビデオのディレクターである工藤に送ること
二、「コワすぎ! ファイル04」を見てこの世界に起こりつつあることを悟った。工藤に希望を託す
三、遺した袋には私の命と引き換えにある呪術を施した。
  この袋に口裂けの女の髪を入れると呪術が増大し、必殺の呪具となる。
  袋の中にあるうちは、口裂けの女の呪いが外に漏れることもない。



四、工藤よ、やるべきことをやれ、救うべきものを救え


215 : FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 14:03:40 yCFOpgbM0
投下終了です。


216 : 名無しさん :2019/05/05(日) 15:03:43 iCfg9lXE0
盛況ですね


【未予約キャラ一覧】

1/10【鬼滅の刃】
◯冨岡義勇

0/9【Fate/Grand Order】

0/6【ラブデスター】

0/6【五等分の花嫁】

0/5【仮面ライダーアマゾンズ】

0/5【HiGH&LOW】

2/5【衛府の七忍】
◯猛丸/◯犬飼幻ノ介

0/4【彼岸島 48日後……】

0/3【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】

2/3【刀語】
◯鑢七花/◯とがめ

0/3【仮面ライダー龍騎】

2/3【ナノハザード 】
◯円城周兎/◯今之川権三

1/3【めだかボックス】
◯黒神めだか

1/2【TRICK】
◯山田奈緒子

0/2【亜人】

0/0【心霊怪奇ファイル コワすぎっ!】

9/70

【現在の予約】
>>33
煉獄杏寿郎、雅、人吉善吉

>>87
宮本明、クラゲアマゾン

>>99
城戸真司、秋山蓮

>>129
白銀御行、メルトリリス

>>152
上杉風太郎、球磨川禊

>>154
波裸羅、山本勝次

>>164
コブラ、スモーキー

>>182
ライダー・黒縄地獄、清姫、浅倉威

>>205
雨宮雅貴、雨宮広斗、胡蝶しのぶ


217 : ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/05(日) 15:49:55 GHd52KUY0
今之川権三、鬼舞辻無惨、予約します


218 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/05(日) 16:12:59 yCFOpgbM0
鑢七花、とがめ、エドモン・ダンテス、四宮かぐや
予約します


219 : ◆rCn09xUgFM :2019/05/05(日) 19:41:52 5dFjGBRE0
童磨、黒神めだかで予約します


220 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/05(日) 23:27:40 CYzAnHE.0
猛丸、山田奈緒子 予約します


221 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:49:04 n2eB1dm20
投下します。


222 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:49:40 n2eB1dm20



──深く、深く、沈み込んだ真っ黒な闇の中に、その法廷はあった。

静かな場所である。
音はなく、声もなく、自らの他に誰一人としていない。
そこは己の奥深く。崖っぷちから突き落とされた先に待っている、自分自身の世界。

──開廷

放たれた宣言とともに、比較にスポットライトが当たる。
一筋の明かりに照らされた先にいたのは──幼気な少女であった。

「────」

その等身、驚異の三等身。
この世のすべてのことを忘却したかのような、イノセントな表情。
極限までデフォルメを突き詰めた先に、煩悩や懊悩や消し飛ばされ、純粋無垢の化身としてその身を結んでいる。

【被告人:四宮かぐや(ちゃん)】

パチン、と音がして、また別のスポットライトが照らされる。
闇法廷において、被告人を追い詰めるもの。
流れるような黒髪と、艶のない漆黒の瞳、冷たい表情。
等身は当然のごとく四宮かぐや(ちゃん)の2倍強はあり、多少はリアルである。

【検察官:氷のかぐや姫】

もう一つ、スポットライトが灯った。
その先に立っているのはヘラヘラと笑みを浮かべる楽しげな、悪く言えば知性を感じさせない少女である。
髪は綺麗に結われており、瞳にはキラキラとした光が灯っている。

【弁護人:四宮かぐや(アホ)】

「揃ったようだな」

そして、その中央に一番大きな光が現れる。
その先に立っているのはまた別のかぐや──ではなく、異様に顔の整った男である。
身にまとったコートを炎のように揺らめかせながら、透き通るほど白い瞳と、それに相反するような力強い眼差しで法廷に現れた。

「クハハ!」

【裁判長:巌窟王(世界の果ての塔より特別ゲスト)】

ちなみに等身は検索感・弁護人のかぐやよりもさらに高い。
デフォルメとは対極にある、妙な色気のある佇まいにて、彼はこの法廷の長として君臨していた。

「それでは頭脳(内)戦、開廷だ!」

【頭脳(内)戦──開廷】

「自らの希望さえ見失ったお前たちに告げる!」

裁判長たる男は被告人へ──四宮かぐやが背負うべき罪を突きつけた。

「お前が求めるのは血に塗れた復讐か、それともその身捧げる奉仕か。
 貴様の生存戦略! 罪をこの場で告解するがいい」





223 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:50:16 n2eB1dm20



夜、二人の男女が、身を寄せ合いながら語り合っている。

「なぁ、とがめ。結局俺たちはどうすればいいんだよ」
「まぁ待て。今この私がとっておきの奇策を考えておる。そのためにこうして地図とにらめっこしておるのではないか」
「でもよ、とがめ、正直この状況、考えてどうにかなるとも思えないぜ」
「ちぇりお!」

そこで少女──と一見見まごう、白髪の女性が男の腹を拳で叩いた。
ぽん、と音がする。
男の鍛えられた腹筋に女の打撃は全く効いていないだろう。
が、それでいいのだ。ちぇりお、とはあくまで気合いを入れるための掛け声にすぎない。

実のところ、本来の意味合いとは全く違う行いなのだが──まぁ、彼女、とがめにとっては“そう”なのである。

「だから待てと言っておろうが。
 私とて困っておるのだ。運良くお主が近くにいたから良いものの、こんな奇体な事態、私も理解が及ばん」
「さっきの変な女とかあれは何だよ? あれも忍法って奴なのか?」
「おそらくそれは違う、はずだ。
 いかにまにわに共の忍法といえど、あそこまで意味のわからないことはできない……筈だ」

「うーむ」とがめはそこで再び唸り声を上げる。
理解を進めようとしたが、やはりどうにも考えがまとまらない。
よくわからないが拉致され、殺しあうことを強制されていることはかろうじてわかるのだが、
ここがどこなのか、何故こんな催しに巻き込まれたのか、そもそもあの女は誰なのか、何一つ理解できない。

「あーもう! こんなこと、報告書に書けないではないか!
 突然こんな展開が挟まれれば、読者であるお上も困惑必死!
 私がトチ狂ったと思われ旅も打ち切りだ」
「打ち切りねえ」
「うむ、打ち切りだ」

そう言って彼女はしかめっ面で頷いた。

とがめ。
奇策士とがめ。
尾張幕府直轄預奉所軍所総監督という長々しい肩書きを持つ彼女は、四季崎記紀の作った12本の完成形変体刀──刀を集める旅をしていた。

「じゃあとっとここから出ないといけないって訳だな」

そしてその隣に立つ半裸の大男こそ、鑢七花。
刀を使わない剣士。虚刀流七代目当主であり、彼もまたとがめと共に刀集めを続けている──否、続けていた。
一応順調に刀を集めている最中に、このような奇妙な催しに巻き込まれたのであった。

「あーもうわからぬ。流石に情報が足りん。
 このるーるぶっくとやらも、読んでも読んでもロクに理解できん」
「まぁいいよ」

唸りを上げるとがめに対し、七花は苦笑しながら言った。

「俺はアンタに惚れてるんだ。言われた通りに動くよ。それはここでも変わらない」

そう言ってのける七花に対し、とがめはしばし沈黙を挟んだのち、

「……そうだな、お主は私を愛しておるのだ」
「ああ」
「私への愛のために戦っておるのだ」
「ああ」

あの島で出会った時と変わらぬ七花とのやり取りの末、とがめは息を吐いた。
ともあれ、この「刀」とサクッと合流できたことは僥倖といえるだろう。
これで取れる策が格段に増えたといえる。
そのうえで、では、今後の方針だが──


224 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:50:46 n2eB1dm20

「ところで近くに誰かがいるみたいだけど、あれはいいのか?」
「何!? 何でそういうことを先に言わぬか」
「いや、だって見えてるのかと思って」
「私はこの暗がりに奇怪なランタン片手に必死に本を読んでおるのだぞ? 気づけるはずもなかろうが」
「わかった、わかった、で、どうするんだ」

面倒臭そうに語る七花に対し、とがめは「うむむむ」と唸りつつも、七花に示された先を見た。

「うん?子供か」
「ちっちゃい女の子が一人、とがめ、俺はどうすればいい?」

視線の先には、森の中を一人進んでいる影がある。
暗がりでよくは見えないが、周りに誰の影もなく、ただふらついた足取りで彼女は森の中を歩いている。

「うむ」

とがめは一瞬考えたのち、

「とりあえずアレを捕まえて話を聞くとするか」
「なるほど、話を聞いてから捕まえるんじゃなく、捕まえてから話を聞くんだな」
「ああ、何しろあの女、格好が変だ。とてつもなく妙だ。
 またどこぞの忍やもしれぬし、とりあえず捕まえてから考えるとしよう。
 多少乱暴な真似をしても構わん。とっ捕まえてきてくれ」

言われた七花は「了解」とすぐさま答えを返した。

「勘違いするなよ、俺はアンタに惚れてるからやるんだ」

そう、今まで何も変わらない調子で、人の形をした“刀”は言うのだった。
“刀”の言葉はどこまでも澄んでいる。そこには駆け引きも打算もなく、そして──






225 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:51:17 n2eB1dm20


【頭脳(内)戦】

「被告人は親友・藤原書記の死に対し多大なショックを受け茫然自失。
 親友を喪ったことにより自殺願望を発露させました。
 これは脳内法第二百三十九条、自・自殺教唆に該当します。親友を喪ったことで取り乱しました」

検察官、かぐや(氷)は淡々と被告人の罪を読み上げていく。

「そして何よりも──自らを犠牲にして、白銀御言だけは生き残らせようと画策しています。
 これは脳内法第二百四十九条、奉仕マーダー罪に該当。
 よって──死刑を求刑します!
 死んで死んで死んでもらいます!」

その言葉が出た瞬間、被告人であるかぐや(ちゃん)は大きく口を明けた。
現段階ではまだイノセントな存在である彼女にとって、語られる罪はあくまで未来の、これから背負うものではある。
自分自身が語られる罪──その発想に被告人・かぐや(ちゃん)は戸惑いに身を震わせる。

「異議あり!」

対するは弁護人としてこの場にいるのは、かぐや(アホ)。
彼女は手を大きくブンブンあげ、

「自殺願望が罪だというのに、罰が死刑っておかしいよ!
 そういう検察官こそ、親友・親友・親友と連呼して、一番死にたがってるじゃない!」

かぐや(アホ)は名前に反して思いのほか筋の通ったことを言い、

「私たちは生きないと!
 あの子の分まで生きて生きて生きないと!
 みんな生きてないと……だから!」

かぐや(アホ)はかぐや(氷)と比較して感情豊かであった。
身振り手振りその思いを伝えようとして、そして、

「みんなで生きるために! 会長に優勝してもらわないと!
 会長、優勝してもらって、願いを叶えてもらって、それで生きるの!
 蘇ってみんなで生きるべきよ!」

被告人・かぐや(ちゃん)は何を言っているんだと言う瞳で己の弁護人・かぐやを見る。

「弁護人、それこそ言っていることがおかしい。
 それは──結局、私と同じでしょう。
 あなたは生きるというのなら、会長が奉仕させればいい。
 バトロワは奉仕させた方が勝ち──生きたいのならそうしてしまった方がいいのでは?」
「異議あり! そんなこと言って、あなただって会長に──するなんて、できないでしょう」

その言葉にその場すべての四宮かぐやが二の句が継げなくなる。
被告人・検察官・弁護人、すべてにとって、その発想は埒外だった。

「私は死んでしまいたい。すべてを私を捧げてあの人に生きてもらいたい」
「私は生きていたい。でもあの人を捧げるぐらいなら死んだ方がいい」

弁護人・検察官、ともに言葉が乱れだす。
衝動も理性もともに反発し、世界は奇妙な方向へと動き出す。
法廷は決着がつかないまま、このまま沈んでいき──

「静粛に」

カーン、というハンマーの音と共に、場が一度リセットされる。
それは中心に座る青年、裁判長・岩窟王(特別ゲスト)によるものであった。

「貴様たちの罪はわかった。
 あくまで復讐は望むところではない。そんなものはこの二人は当に諦めている。
 代わりに犠牲による奉仕、自らを捨てることで他者に報いることを望んでいる。
 それで!」

裁判長(特別ゲスト)はそこで哄笑する。
こののちの問いかけこそが肝要だと言わんばかりに、未だイノセントな被告人へと告げるのである。

「被告人!
 貴様の、貴様自身の告解を俺は求める。
 さぁお前は──一体何を諦める?」

被告人・かぐや(ちゃん)は言葉に詰まる。
弁護人と検察官の言葉に板挟みになるなか、この裁判官はあくまで答えを彼女に求めている。

「ほら、時間はないぞ? 刻限は近づいている」


226 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:51:41 n2eB1dm20






七花にしてみれば、一瞬で終わるような作業になるはずだった。

少女に近づいてみて、彼女がすでに憔悴しており──というか意識すら定かでないような状況であった。
多少乱暴にしてもいい、ということだったが、この分ではむしろ保護するような形になるだろう。

とはいえそれでも七花は足を止めることはない。
夜の森の中を駆け抜け、少女の身に触れ──

「おっと」

その手が何者かに弾かれたことに気づいた七花はすぐさま後ろへ跳んでいた。

少女から視線を外し、周りへと視線を向ける。
暗い森の中は静かそのもので、一切の気配が感じられない。
だが──七花は、そのなかに潜む“何か”を鋭敏な感覚を持って嗅ぎ取っていた。

そして感覚を研ぎ澄ませ──待ち構えた。

「やっぱりか」

ゆえに今度は見逃さなかった。
一陣の風に紛れ、嵐のような苛烈さで襲いかかる──一人の魔人の存在を。
白い髪をした様相の男、七花と彼の拳が交わる。
が、それも一瞬のこと。
次の瞬間には、かの魔人は姿を再び姿を消していた。

「速いな、アンタ」

森の陰に消えた魔人に対し、七花は告げる。
魔人から答えが返ってくることはない。
再び森は静まり返り、魔人の姿形はどこにもない。

だが確実にまだいる。そのことを七花は感じ取りながら、少女を見た。

「────」

少女は顔をうつむかせ、言葉にならない声を漏らしている。
意識があるのかも怪しかった。彼女は逃げも隠れもしないだろうと七花は判断する。

「アンタを守ろうとしているみたいだな」

七花は少女と、そして森のどこかに潜んでいるいる魔人へと語りかけた。
だが当然どちらからも反応はなかった。
とはいえ七花とて返答を期待をしていた訳でもない。

ただ感覚を研ぎ澄ませたまま、向こうの出方を見る。
今の動き、魔人がこの少女を守ろうと動いていることは明白だった。
近づけば瞬く間にやってきて拳を落とし、気がつけばその姿は消えている。

少女を連れて返るという指示は、どうやら思ってたよりもずっと骨が折れそうなものだった。

「──どこから来る」

ゆえに七花は待ち構えることを選んだ。
この魔人はとにかく動きが速い。
こちらから先にしかければ、むしろカウンターの隙を与えることになるだけだろう。
ならば待ち構え、襲ってきたところを迎撃する。

そう、七花が判断を下した、その時であった。

「──私は……」

──この局面の中心に座しながら、その戦闘力については全く考えられていなかった少女が、動き出していた。

その手には鈍い光沢を放つ奇妙な機械があった。
彼女はそれを両手で構え、まっすぐに七花へと向けている。

その武器のことを、七花は知らなかった。
知らなかったが──実のところ因縁のあるものであった。

それは、銃、と呼ばれる、七花がいずれ旅の果てに相対するはずのものであった。

「私は……──を諦めない」





227 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:52:02 n2eB1dm20


【頭脳(内)戦】

被告人・四宮かぐやは裁判官・巌窟王に選択を突きつけられていた。
生きたいのか、死にたいのか、二つの想いの間で、ただ一人潔白なる少女は選ぶことを迫られる。

検察官であるかぐやと、弁護人であるかぐやとの視線が集中する。
彼女らの瞳に浮かんでいるのは恐怖である。
闇に包まれた法廷──彼女の深層、被告人どんな罪を選ぶのか。

「私は──諦めない」

そして四宮かぐやは顔を上げた。
その眼差しはすでに──イノセントで幼気な少女のものではなかった。
自らの罪を明確に見つめ、己が世界へと告げる。

「あの人を好きだと思うこと。
 あの人と一緒に生きたいと思うこと。
 私はその想いを諦めたりはしないわ」

検察官も、弁護人も、被告人の言葉に息を呑む。
その言葉が──自らから発せられたという事実が、何よりも力強く世界に響き渡る。

「クハハハハ!」

その答え、四宮かぐやが選んだ罪を聞いた裁判長は声をあげて笑う。
その笑いは嘲笑か、祝福か、四宮かぐやにはわからない。
だが──

「さ、裁判長。これは」

検察官のかぐやが取り乱したように言う。
理性<ブレーキ>でもある彼女は、その選択さの難しさを理解している。
だが、裁判長は、ニィ、と笑ったまま、

「いいだろう。
 お前はその身を捧げる気はない。
 かといって、別の誰かを捧げることも選ばない」

その言葉を受け、被告人・四宮かぐやは頷いた。

「その傲慢さこそが罪!
 この法廷にて裁かれるに等しい大罪だ!
 その大罪を──この俺が承認してみせよう」

その言葉とともに──闇に沈む法廷が亀裂が入っていく。
世界を包み込んでいた闇が一斉に砕け散り──少女の世界は革命される。


【頭脳(内)戦──承認】






228 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:52:30 n2eB1dm20

「私は──スキを諦めない」

その言葉とともに少女は銃を、機関銃を構えていた。
小型な、しかし彼女が持つにはいささかな大きな銃。
しかし彼女は決意を込めた眼差しで顔を上げ──迫り来る脅威、七花を見据えていた。

七花は銃というものを知らない。
それゆえに彼女が何をしようとしているのか、理解できなかった。
それゆえ反応は遅れてしまい──

「うお」

──当然のように外れた。

四宮かぐやに、銃火器を暑かった経験などありはしない。
つい先ほどまで憔悴し、意識を失っていたような彼女が、すぐさま銃を撃てるはずはなかった。
しかも銃は拳銃ではなく、短機関銃。
反動で彼女の身体は吹き飛んでしまう。

「まったく、手がかかる女だ」

そこを──駆け抜けた風が受け止めていた。
どこぞより現れた白い影、端正な顔立ちをした魔人が少女を身体を受け止めている。

「そんなものでは当たるものも当たらん。
 姿勢を前傾にして、ここで固定し、左肩を少し前にしろ」

現れた魔人は少女を身体を受け止めるばかりか、銃の撃ち方をレクチャーまでし出している。
その手を重ね、敵である七花を退けるべく銃口を向ける。

七花は未だ事態のすべてを飲み込めているわけではないが、先ほどの一撃で、銃というものがどういった性質の武器であるかを直感的に理解していた。
それゆえ、一気に距離を詰めて払い落とそうとする──だが。

「撃て」

再び森に銃声が轟いた。
ぱららら、とばら撒かれた弾丸は──またしても外れていった。
その場ですぐ的に当てるようになるほど、簡単なものではない、ということか。

「惜しいな。だが筋はいい。筋力も十分ある。
 こうして試していけば、確実に使い物になるだろう」

あらぬところへと着弾していた初撃よりも明らかに精度が上がっていた。
少女の弾丸は、もしかすると次には──彼を捉えうるかもしれなかった。

「なるほどな」

七花は相対する少女を、その瞬間初めて脅威だと感じた。
それまではただの障害物のようなものだった。
だが魔人と、その硝煙を上げる銃口を前に、七花はある判断を下した。

「────」

それは──撤退であった。
七花は地面を蹴り飛ばし、その場から一気に離れていく。

鑢七花。
奇策士とがめの“刀”である彼には、現在、三つの制約がかけられている。

一つ、収集目標である刀を傷つけるな。

二つ、とがめを守れ。かすり傷一つつけてはならない。

三つ、己自身を守れ

それが旅をするうえで、とがめが七花にかけた制約であった。
魔人と、少女が使う銃を前に「己を守れ」という制約を守り切れない可能性があったため、七花はその場で撤退を選んでいた。
ひとまずは状況をとがめに告げる。
その想いを胸に、彼は猛然と暗い森を駆け抜けていった。





229 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:52:48 n2eB1dm20


私のなかの頭脳戦は、そうして幕を閉じた。
そして気がつけば、また世界は暗転していて、そして──







──そして四宮かぐやが意識を覚醒させた時、空は僅かに白み始めていた。

そしてぼおっとその空をしばし眺めてていた。
森の中で寝そべってしまっていたことで身体が少し湿ってしまっている。
ふと寒気を感じて、デイパッグの中に何かないか漁り始めた、その時、

「はっ!」

五分ほど遅れて、彼女は意識が途切れていることに気が付いた。
それだけならばまだいい。その手には自分の支給品であった機関銃が握られており、近くには弾痕があった。

じっとその弾痕を見つめ、次に自分の手に握られた銃を見て、四宮かぐやは愕然とした表情を浮かべる。
勢い余って殺っちまったのか──でも誰を? アレ? もう手遅れなことやってない?
さまざまな考えたが脳裏に猛然と流れる中、彼女はそこではっと顔を上げる。

「あ! そういえば! が、岩窟王とかいうの!」

そうだ確か──そんな風に名乗った男と出会っていた筈だった。
巌窟王。古典文学の主人公を名乗る頭のおかしい外人と遭遇したところまでは覚えている。
そして──同行してくれたことに安心して、疲れのまま、意識を喪ってしまったことも。

「ええと、あれ? でも……」

だが今一度目を覚ましてみると、近くにはそんな外人はどこにもいない。
当然のように彼女は一人となっていた。
寝ている間にどこかにいってしまったのだろうか。

──はっ!

その瞬間、四宮かぐやの脳裏に一つの可能性が舞い降りた。

──もしかして、全部私の妄想では……?

彼女の親友、藤原千花がすでにこの世にいないことは厳然たる現実である。
そのことは──死ぬほどつらいし、胸がぎゅっとなるほどキツイ。
とはいえ受け止めなければならないことだと考えている。

だが──あの自分を巌窟王と名乗る外人が、本当に実在したかと言われると。

──じ、自信がない……

よくみると名簿にもそんな名前はないし、出会ったタイミング的にも、疲れがピークに達していた時である。
なんか挨拶したような記憶もあるが、だがそこも含めて妄想だったのような……

──まさか私、助けを求めるあまり架空のイケメンを想像してしまって。

巌窟王とかいう訳のわからない名も含めて、その存在は非常にフィクション度が高い存在である。
考えれば考えるほど、先ほどの出会いが非実在青少年だったのような気がしてならない。
え? 本当? そんな「今日あま」(※少女漫画)にハマってた頃ならまだしも──そんな。

──…………

とりあえずいないものはしょうがない。
この島を脱出するべく行動するとして──まぁ、さっきの外人のことは誰にも言わないでおこうと、四宮かぐやは誓うのだった。







──そんな彼女から離れること少し。

木に寄りかかるようにコートを身に纏った青年が佇んでいる。
そして四宮かぐやが起き上がり、何かを決心した様子を見て、満足げに微笑むのだった。

当然、彼女が歩き出した時、彼もまた同じ道を──陰ながら進んでいた。


230 : LOVE BULLET KAGUYA SAMA ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:53:06 n2eB1dm20


【C-7/1日目・黎明】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:疲れ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:私はスキを諦めない
1:会長たちと合流したい
2:あの巌窟王……って人、私の妄想では……?
3:なんだか銃の使い方がわかった気がする
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます

【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1:巌窟王として行動する
2:何のかんの言いつつ、かぐやに陰ながら同行し、そのピンチには駆けつける(?)
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます


【H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ】
4Cにて使用されていた短機関銃。
主に美月などが使用していた




「よいよい、そのような状況ならば、寧ろ退いてくれた方が助かる」

目標を達せられずに帰ってきた七花を、とがめはさして気にした様子なく迎えていた。

「そう言ってくれるのはありがたいけどよ、でもあれ正直俺はどう立ち回ればいいのかわからなかったぜ。
 あの、火と弾が出る変な武器。あれも四季崎記紀の変体刀の一つなのか?」
「まさか。流石に火と弾が出る変な武器が変体刀の一つなんてことはあるまい。
 幾ら何でも刀の範疇を超えすぎているだろう」
「だよな、さすがの俺もアレは違うかなって思ったよ」
「そうだそうだ。そんなものが出てきたら、当初の『刀集め』という題目は何だったのだという話になるだろう」

……と、いささか前振り染みた会話をしたのち、二人は息を吐いた。

当初の目的は確かに達せられなかったが、しかし実りのは十分にあった、ととがめは静かに考えていた。
やはりこの島には──こちらの知らない不可思議な技術が使われている。
配られたアイテムから何まで、とがめの知らないものがあまりにも多すぎる。

だからこそ、とがめは慎重に動くつもりであったし、今しがたの七花の言を持って確信をした。
この島の脱出は、そうそう容易いものではない、と。

「でさ、とがめ、このあとどうするんだ?」
「もちろん島を出る。私に任せておれ、とっておきの奇策を思いついてやろう」

そう語りながら、とがめは己の長く長く伸びた白い髪に触れていた。
その色彩こそ──彼女のの復讐を象徴する色であった。

奇策士とがめ。
その本当の名前こそは、容赦姫。
かつて彼女は父を、家族を殺された──亡国の姫であった。

刀集め旅も──所詮はその復讐のための旅に過ぎない。
すべてを奪った者たちへ復讐をなすべく、彼女は必ずこの島から脱出しなくてはならなかった。

「……まぁ、何であれ、俺はとがめについていくよ。俺はアンタに惚れてるんだからな」
「ああ、その通り!
 お主は愛のために動く男だ!」

そう言いつつも、とがめは──こうも思っていた。

その愛すらもきっと──利用して、これからも自分は生きていくのだろう、と。
とがめはその名に刻んだ復讐を決して諦めはしないだろう。
代わりに──この愛を、諦めるときが来るのかもしれなかった。


【鑢七花@刀語】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:とがめに従う
1:とがめに従う
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前

【とがめ@刀語】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:なんとしてでも生き残る
1:七花を、その他すべてを利用してでも生き残る
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前


231 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/06(月) 01:53:27 n2eB1dm20
投下終了です。


232 : 名無しさん :2019/05/06(月) 02:48:11 nyYS1mFQ0
投下おつ!
かぐや様が別番組してるかと思いきや意識覚醒後に告らせたいしていてすげえ……
このかぐやがちゃんとアホかわいいのをまさか見れるとは……
そして思わぬところで未来先取りしつつも復讐や恋繋がりしてる刀語勢がいてなるほどってなった
諦めないの選んだ傍らで諦めるのを視野に入れてて、しかも五話より前ってことは七花は七花で自覚前だし……
刀勢の結末考えるとそれもまた今のかぐやの対比ともいえ因果なものだなー


233 : ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:43:24 XfE7UTAY0
皆さん乙です。
投下します。


234 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:45:16 XfE7UTAY0
 まず、怒りがあった。
 それから怒りがあり、屈辱があり、怒りがあった。
 鬼舞辻無惨という悪鬼の中には、果てしない憤怒が渦巻いていた。

 罪人のように首輪を嵌められ、全てを嘲笑するかのような態度の小娘に殺し合いを強制される。
 ふざけるな。自分に命令を出していい存在などこの世にひとりとして居りはしない。
 自分は限りなく完全に近い生命体だ。
 限りなく不死に近く、不老であり、強大な力を持ち、いつだって慎重に事に当たって来た。

 殺し合いだと?
 そんなものは無意味だ。時間の無駄だ。
 鬼舞辻無惨を殺せる者など、あの忌々しい太陽以外には存在しないのだから。
 勝者は自分だ。そんなことは最初からわかりきっている。
 わかりきっていることをどうしてわざわざ実行する必要がある?
 殺し合いなどというものは愚か者のすることだ。
 優劣をつけずにはいられない畜生のすることだ。
 自分のすることは常に正しい。自分は間違えない。自分だけが常に正しい。
 己の進むべき道のために害虫を払うことはすれど、殺し合いなどという無益なものに態々精を出す気などさらさらない。

 そんな完璧な存在であるはずの自分が、しかし首輪によって戒められている。
 怒りのあまり衝動的に首輪を破壊しようとした無惨だが、万が一を考えてそれはやめておいた。
 万が一だ。万が一ということがある。
 例え鬼殺隊の日輪刀で頸を刎ねられても死なない無惨だが、それでも太陽の光は未だに克服できていない。
 限りなく不死に近い存在であっても、今はまだ完全な不死ではない。
 万が一、この首輪が無惨を殺害可能なものだとしたら?
 怒りに身を任せて愚かに死ぬなど御免だ。
 まずは適当な誰か……配下の鬼でもいい。首輪を外す実験を行ってから。話はそれからだ。
 だから、今すぐ暴れ回って全てを壊したいという衝動に必死に蓋をした。
 燃え上がるような怒りに、はらわたが踊り狂いそうだった。
 いくつかの懸念があったから、どうにかすんでのところで激情を抑えていられた。

 首輪のこともそうだが……あのBBを名乗る謎の女。
 気付いた時には、無惨は首輪を嵌められた状態で会場に転送されていた。
 いかなる鬼血術であれ、あるいは鬼舞辻無惨本人ですら、このような所業は不可能だろう。
 どうやら幻覚の類でもないらしい。先ほどあの無能な鬼の全身を砕いた感触は、確かに本物だった。
 即ち、これは極めて業腹なことではあるが――――主催者だというあの女は、なにか無惨の及び知らぬ『技』を持っているということ。
 無惨が首輪を強引に外さなかった理由はこの予測に基づく部分が大きい。
 鬼とも鬼殺隊の剣士とも違う、謎の力。それが無惨を殺害可能なものでないという証拠がどこにある?
 目的もわからない。単独だという確証も無い。複数人による計画である可能性は十分にある。その方が、まだ現実的だ。
 『勝者の願いを叶える』だと? それが真実であれば、無惨が千年追い求めていた完全なる不死が手に入るのか?
 馬鹿馬鹿しい。そんなわけがない。そのように簡単に手に入るものなら、無惨はとっくに太陽を克服している。
 なにもかもがわからない。意味がわからない。その事実が無惨に怒りの炎をくべていく。


235 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:47:00 XfE7UTAY0

 だいたいなんなのだ、この名簿は。
 無惨、鬼、鬼殺隊。
 知った名前が並んでいる。これはまだわかる。
 主催者の目的はわからないが、近しい者を集めようという意図はわかる。
 今まで鬼殺隊との接触を避けてきた無惨からすれば、否が応でも鬼殺隊と事を構えざるを得ない状況は極めて業腹だが、理解できる。
 あの有象無象どもめ、嬉々として無惨の首を狙いに来るだろう。
 物理的に手が届く距離にいたからといって、本当に無惨の首が獲れるとでもいるのか。忌々しい。あまりに忌々しい。

 ともあれそれ以上に問題なのは――――『死んだはずの者の名前』が名簿に並んでいることだ。
 死んだはずの炎柱。
 猗窩座が仕留め損なったのか? どこまでも使えない無能だ。忌々しい。

 だが、累はどうだ?
 アレは違う。アレは死んだはずだ。滅びたはずだ。
 忌々しくも鬼殺隊の剣士に頸を斬られ、死んだはずではないか。
 無惨は己の血を分け与えた鬼たちのことを知覚できる。
 至近距離ならば心までも手に取るようにわかるし、遠くにいても位置は掴める。生死となればなおのこと。
 その無惨が、累の死を確かに認識していたのだ。
 だというのに、どうして累の名が名簿にある?
 この会場にある累の気配は本物だった。今は島の南端の方にいるようだ。いいや場所などどうでもいい。

 ――――――――累が、鬼舞辻無惨が血を与えて鬼とした下弦の伍が、十二鬼月が一鬼(いっき)が、『蘇っている』。

 不死の鬼とて、一度滅ぼされれば蘇ることは適わない。
 当たり前の話だ。だというのに、なぜ累が蘇っている?
 主催者は命を操ることができるのか。死者を蘇らせることができるのか。
 できるのだとすれば――――もしや本当に、無惨の望む不死すら思うままなのか?
 浮かぶ考えを、無惨は心中で微塵に引き裂いた。
 忌々しい。無惨の千年の探究を虚仮にしているのか。実にふざけている。屈辱だ。

 しかし、『死者の蘇生』……それを裏付ける名前が、他にもあった。
 宮本武蔵、源頼光、沖田総司。その他歴史に名を遺した者どもの名。 
 平安の時分より俗世に交じって暮らしてきた無惨だ。その名は当時にも、後世にも聞き及んでいる。
 なぜ宮本武蔵の名が二つあるのか、など疑問は尽きなかったが……もしも、彼らが本当に『蘇った死者』だとしたら?
 不死の生物がいるのだ。蘇る死者がいてもおかしくはないではないか。

 あるいは、無惨の他に鬼がいるのか?
 無惨が知らないだけで、歴史の影では鬼と化した者どもが栄光を食い荒らしていたのか?
 そも、無惨とて薬によって鬼となった人間である。
 であるならば、原初の鬼が無惨だけとは限らない。そんな保証はどこにもない。
 他に鬼がいるのか。それとも、鬼ですらない魔性の者がいるのか。

 見知らぬ名前が無数にある。
 これはどういう基準で選ばれている?
 忌々しい。なぜ自分はこのようなことで心を煩わせている。
 無惨の心中で無限とも思える怒りがのたうちまわる。

 だから、無惨の中にはまず怒りがあった。
 それから怒りがあり、屈辱があり、怒りがあった。

 そんな無惨の前に現れた――――これはなんだ?


236 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:48:24 XfE7UTAY0



「む! 急に意味不明な場所に放り出されてイラついているところに丁度いいジュースが歩いてきたぞい……」


 筋骨隆々とした大男。
 背丈は、見たところ六尺はあるだろうか。
 なにやらアルファベットの書かれた薄手の肌着を盛り上げる胸筋。同じく上腕二頭筋。
 腕の筋肉は丸太のようで、僧帽筋は御山のようで、脚絆の下の大腿筋は獅子のようで。
 のっしと歩けば熊のよう。にぃと嗤えば悪魔のよう。
 体のつくりは羅漢のようで、邪悪な形相は鬼のよう。
 黒の長髪を振り乱し、ぎらつく美貌から壮絶な怖気を放ちながら、森から出てきたその大男はばったりと無惨と出くわした。

「そっちから歩いてくるとは優秀な自動販売機だな!
 難聴は治らんがこうして若返ることもできたし、死んだかと思えば蘇れたし……わしって本当についてるぞい!
 きっと庶民どもに身分の差をわからせてやるために神様がわしにこの力をくれたんじゃぞい!
 あのムカつく小娘をブチ殺す前に燃料補給としゃれこむぞいーーーーッ!」

 大男が、そのたくましい腕を振りかぶる。
 男からは、血の匂いがした。
 明確な殺気。捕食者の笑み。
 無惨は線の細い青年だ。そのような姿だ。
 与しやすいと判断したのか。殺せると思ったのか。
 鬼舞辻無惨を、殺せると思ったのか。
 弱いと思ったのか。死にそうだと思ったのか。
 鬼舞辻無惨が、『死にそうに見える』のか。


 ぷつん、と。


 無惨の中で、何かが切れる音が――――――――しなかった。


 鬼舞辻無惨には、怒りがあった。


237 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:50:10 XfE7UTAY0



「が、っは――――――――!?」

 気付けば、大男――――今之川権三は全身を打ち据えられ、数本の木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいた。
 巨木に背をぶつける。巨木がへし折れ、それでようやく止まった。
 ずん、と木々が大地に倒れ伏す振動。
 一体何が起きた?
 僅かに遅れて権三の全身を激痛が襲った。
 攻撃の瞬間、脳裏を迸った悪寒に従って全身を硬質化させたために致命傷は避けたのは幸いか。
 硬質化した彼の肉体はダイヤモンドよりも硬い。だというのに、なぜダメージを受けている?

「(何が起こったのか全然わからなかったぞい! あの『女王様』の時と同じじゃ! こいつも能力者なのか?)」

 困惑。
 しかし激痛により、権三の意識はどうにか現実へと引き戻される。
 彼の脳に根を張るナノロボが、必死に肉体の再生を行い始めた。
 視線の先では、無惨がゆらりと歩を進めている。幽鬼の如く。

「――――――――なぜ、死なない?」

 鬼舞辻無惨は怒っていた。
 確かに全身を打ち据えたはずなのに、この無礼な男が死んでいない。
 鋼のような感触。鋼よりもなお硬い手応え。
 加減を誤った。骨肉を砕くつもりで攻撃してしまった。
 そして当然、人間が鋼よりも頑丈であるはずがない。
 鬼殺隊の剣士とも、鬼の血鬼術とも違う力。
 彼が鬼ではないということは気配でわかった。
 同時に、『近い』ということもわかった。
 鬼ではない。かといって、人でもない。
 この男は何者だ?

「お前は人間ではあるまい。その力はなんだ?
 なぜ死んでいない。私が殺すつもりで撫でてやったのだから、お前は死んでいなくてはならないはずだ」

 この男を今すぐ殺したい衝動があった。
 この男の正体を確かめたい衝動があった。
 ふたつの衝動は激しくせめぎあい、怒りへと昇華されている。

「答えろ。お前は何者だ?」
「お、おのれ〜……!」

 対する権三もまた、怒っていた。
 前向きにあのBBとかいうムカつく小娘を含め全殺しをしてやろうと考えていた権三だったが、その根源は怒りだ。
 理不尽な状況への怒り。不可解への怒り。
 それは世界への怒りであり、世間への怒りでもあった。
 だというのに、この状況はなんだ?
 手始めに生意気そうな書生風の男をブチ殺してやろうと思えば、攻撃を受けている。
 激しい怒りがあり、しかし彼は冷静に状況を観察していた。
 あの男は格上だ。理性と本能が警鐘を鳴らしている。
 逃げるにせよ攻めるにせよ、隙を作らなくてはならない。
 まずは会話に乗って再生の時間を確保しなければ。


238 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:51:56 XfE7UTAY0

「わ、わしだって昨日急にこんな力に目覚めたからさっぱりじゃぞい!
 せっかく若返ったのに難聴は治らんしクソガキに殺されるし最悪じゃ!
 74年も生きてて税金もたくさん払ってるのに――――」
「私はそんな話を聞きたいわけでは無い」

 ゆらりと幽鬼の如く歩いていた無惨が――――気付けば権三の耳元で、冷たく言葉を放っていた。
 驚く間もなく、再度攻撃。
 今度は権三にも知覚できた。醜く巨大に変質した無惨の右腕が、権三に叩きつけられたのだ。
 権三の巨体がゴミのように地面を転がっている。
 加減をした。しっかりと加減をした。
 今すぐこの男を殺したいとも思うが、その正体を確かめなければ気が済まなかった。

「うぐっ……」
「74年だと……?
 いたずらに年を重ねただけでそうも思い上がっているのか? その程度で?
 ならば千年を生きる私は神か? 馬鹿馬鹿しい。お前は醜く老いているだけだ」
「せ、千年だとぉ……!?」

 そんな馬鹿な。
 ……と、権三は切り捨てることができなかった。
 なにせ実例がいる。
 僅か数分で74歳の老人から20代の美青年にまで若返った、権三自身という実例が。
 もしこの男が自分と同じような能力者で、千年を生き永らえていたとしたら?
 それはあながち荒唐無稽な想像ではあるまい。
 権三は己の能力が脳に寄生したナノロボによるものだということを知らなかった。
 だからこそ鬼への理解が早かった。
 己より圧倒的に格上の、強大な能力者――――理解は、それで十分だ。

「わ、わかった! わしの能力について話すぞい!
 わしは若返る力に目覚めたんじゃ! つい昨日から!
 腰痛もリウマチも治ったし歯も生え変わった!
 なぜか難聴とか老眼とかは治らんが怪我も再生する! あと体を鉄みたいに頑丈にできるんだぞい!
 人間の血を飲んで鉄分を補給すると調子がいいから多分それがエネルギー源じゃ!」

 許しを乞うように、必死にまくし立てる。
 屈辱だった。それでも媚びへつらった。最終的な勝利のために必要ならば安いものだった。
 並行してナノロボによる再生が行われている。
 鉄分が欲しい。血が飲みたい。肉体が再生に必要な栄養を求めているのがわかる。
 しかし今はそれどころではない。
 死が権三に迫っている。二度目の死。あるいは三度目か?
 アドレナリンが分泌され、脳が激しく回転する。生き延びるための方策を必死で導き出そうとしている。
 動き始めた腕で必死に静止を求めながら。
 無惨はやはり、ゆらりと歩み寄る。

「お前のような存在は他にもいるのか?」
「いる! それぞれ能力が違うらしい……声で人間を操る奴とか、骨を弾丸みたいに飛ばす奴とかがおったぞい!」
「………………………」

 鬼舞辻無惨には怒りがあった。
 この期に及んでもやはり怒りがあった。
 なんだそれは。
 なんだその力は。
 そんなもの――――――――鬼と同じではないか。


239 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:53:11 XfE7UTAY0

 人の血を糧とし、不死の肉体を持ち、骨肉を自在に変化させて操り、個体によっては独自の術を操る。
 それは鬼だ。
 鬼舞辻無惨の生み出す鬼だ。

 難聴などは治らないと言うあたり、厳密には違うのだろう。
 厳密には、鬼の方が優れた生物なのだろう。
 その事実がかろうじて無惨の心を慰めた。
 そうでなければ、この大男を既に十度は縊り殺していただろう。
 己より優れた者などいてはならない。
 だからこそ腹立たしい。この似て非なる鬼の存在が腹立たしい。
 無惨の与り知らぬところで、無惨の生み出す鬼とは異なる鬼が誕生している?
 その事実が、どうしても腹立たしく思えた。

「なにかを感染させて能力者を増やす奴もいたから力はウィルスみたいなものなのかもしれん!
 昼間っから他人にキスするハレンチな小娘だったがかなり強かったし奴が大本の可能性も――――」
「もういい。もうお前にはなにも――――――――待て」

 そんな彼の胸中も知らずにまくし立てる権三に腹を立て、無惨は始末をつけようとして――――止まった。
 聞き捨てならない台詞があった。
 この男が、鬼であると言うのならば。
 いやまさか。そんなはずはない。
 だがもしや。
 確かめなければ。
 ありえない。
 しかし――――――――――――



「――――――――――――まさかお前、太陽の下を歩けるのか?」



 『昼間から』、と。
 権三は言った。間違いなく。
 言葉のあやか?
 昼間の、屋内の話か?
 ならばいい。それでいい。そういうこともある。

 だが――――鬼は、太陽の下を歩けない。
 鬼舞辻無惨がそうであるように、鬼とは誰しもが『そうでなくてはならない』。
 絶対の法則。
 いずれ無惨が克服しなければならない悲願。

 もし、この男がそうでないのなら?
 もしもこの男が……この『鬼とは似て非なる鬼』が、『太陽を克服した鬼』だとしたら?
 だから確認した。
 万が一。万が一ということもあるから確認した。


240 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:54:47 XfE7UTAY0


 権三が、不思議そうに首を捻った。



「は……? なに言っとるんじゃ。吸血鬼でもないし当然じゃぞい」



 ――――この鬼は、『太陽を恐れない』。

「――――――――――――――――――――――――」

 まるで、電撃が全身を駆け抜けていくようだった。
 歓喜。困惑。驚愕。
 複雑な感情が浮かんでは混ざっていく。
 太陽を克服した鬼。
 十二鬼月の中にも存在しない特性。
 そんな鬼はこの世に存在しないと思っていたが、よもやこんなところで!
 いやまて、しかしだ。
 慌てるな。この鬼は無惨が生み出した鬼ではない。
 同じものとは限らない。同じで無いからこそ太陽に焼かれないだけかもしれない。
 陽光の下を歩く人間を喰らって太陽が克服できるなら、とっくに無惨は太陽を克服している。
 だとすればそれは屈辱だ。
 無惨が千年の時で骨を折って求めてきた平穏を、この畜生は既に身に着けているということだ。
 ……だがそれでも、鬼と似た力を持つ存在が太陽を恐れないのであれば。
 であれば、無惨が太陽を克服する方法も。
 永く追い求めてきた、あの存在すらあやふやな青い彼岸花以外にも。
 あるかもしれない。
 増やしたくもない鬼を増やして探し続けてきた、真の意味で完全な生命体になる方法が――――!


 ――――――――――――そうして降って湧いた奇跡に興奮する無惨は、気付けなかった。


 隙を晒した。
 思考に夢中で、権三から意識を逸らしてしまった。
 その隙を、権三は求めていたのだ。
 食らいつかぬはずがない。
 その一瞬の隙から、目を離すはずがない。

「よくわからんが隙ありッ!! くらえッ!!!」

 前に突き出した手から――――指先から、鉄の弾丸を放つ。
 権三が戦いの中で会得した奥の手。
 指から鉄の塊を弾丸として射出する、権三式『骨銃(ボーン・ガン)』。

 弾丸が鋭く宙を裂く。
 鬼舞辻無惨の脳天めがけ――――そして、無惨は軽く首を捻ってそれをかわした。
 一瞬油断したが、なんということはない。
 この程度の攻撃を受けると思われているのなら、不快ですらある。
 苛立たしさが再びかま首を持ち上げた。
 意識を現実に引き戻す。
 まずはこの男を生け捕りにして、それから――――――――


241 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:56:36 XfE7UTAY0

 ――――――――そう思った時には、既に権三の姿は無かった。
 ……逃げられた。木々が風に揺れていた。
 図体の割に逃げ足が速い。
 苛立たしい。しかし晴れがましい。
 希望が見えた。あの大男には逃げられたが、この分だと他に似たような例があるかもしれない。
 自分以外に自分の知らぬ不死者がいるという事実は無惨を苛立たせた。
 が、それによって太陽を避けて暮らす屈辱から解放される可能性があるのならば耐えられる。
 しかし、万が一ということもある。
 万が一、それらが鬼にとって毒となる性質を持っていては敵わない。
 となれば、まずは実験をしなくては。

 権三を追おうという考えはまったくなかった。
 悲願への可能性ではあるが、しかし急ぐ事柄でもない。
 なにせ忌々しくも無惨たちはこの島に閉じ込められ、殺し合いを強いられている。
 腹立たしいことではあるが、今だけはそのことを褒めてやってもいい。
 奴らは誰も逃げられない。幸いにして、配下の鬼どももこの場に呼ばれている。
 手駒を増やしてもいいが、ともあれあの役立たずどもがようやく務めを果たす時が来た。
 他の参加者を殺し、調べ、実験を繰り返す――――そうだ。鬼どもは、こんな時のために作っていたのではあるまいか。
 実際に殺し合いなどをするのは鬼どもでいい。
 命令するまでもなく、連中は勝手にそうするだろう。
 そうでなくては、なんのためにあの醜い鬼どもを増やしたのかわからない。

 さぁ、まずは色々と試さねばならない。
 支給品などという背嚢すら、無惨はまだ開けてはいないのだ。
 こんなもの誰が開けるものか。馬鹿馬鹿しい。
 自分を憐れんで物を恵むなどという態度が腹立たしいし、罠の可能性もある。
 しかし何か役に立つものが入っているかもしれない。鬼どもに代わりに開けさせるとしよう。
 まったく役立たずの鬼どもはなにをしているのか。
 十二鬼月に名を連ねながら主が必要とする時に真っ先に馳せ参じないとは、度し難いほどに無能だ。
 しかし今だけはそれを許そう。
 無能であれ、今は役に立ってもらわなくては困る。

「――――ク、クク、ハハハハハ……!」

 鬼舞辻には、怒りがあった。
 そして同時に――――歓喜が、彼の中にはあった。










【D-3/那田蜘蛛山の麓/1日目・深夜】
【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康。極度の興奮。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
1.この状況は気に食わないが、好機でもある。
2.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
3.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。


242 : 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:59:04 XfE7UTAY0

「はぁ、はぁ、はぁ――――ここまで来れば安全か……」

 一方、木々を跳び移ってまんまと逃げおおせた権三は、周囲を見渡しつつひと息ついた。
 恐ろしい相手だった。まさしく怪物だった。
 千年を生きる不死者?
 あまりにも途方もない数字で実感が湧かなかった。
 しかし、権三を軽くあしらった実力は本物だ。
 ナノロボは肉体の再生を行っているが、僅かに残る痛みが恐怖を想起させる。

「クソ〜〜あの男、わしのことを無視してバカにしおって……メチャムカつくぞい!
 なにが千年じゃ! 絶対わしの方が税金を多く払ってやってるぞい! 顔が貧乏くさいから多分間違いないぞい!」

 言いがかりである。
 日頃から若者に対して『目上を敬え』と怒鳴り散らしていた権三だったが、それは単純に傲慢な自尊心と支配欲によるものである。
 ムカつくやつは全員自分に土下座してひれ伏すべきである――――それだけだ。
 故に、千年を生きる『目上』である無惨に対する敬意などひとかけらも持ち合わせてはいなかった。

「しかしあの男は相当ヤバイ……女王様の時以上にヤバイと感じたぞい。
 まずはどこかで鉄分を補給するとして……作戦を練るか」

 かといって、能力者としての格の違いを理解していないほど愚かなわけでもない。
 なにせ権三はつい昨日『脳力』に目覚めたばかりなのだ。
 千年生きたという無惨の言葉が真実であれば、その年季には雲泥の差がある。
 無惨に対する敬意はなくとも、実力についての分析は冷静だった。
 あの男を殺すためにはなにかしらの作戦を練らなければならない。
 あるいは、成長を。
 宿主の意志と危機に応じて成長するナノロボは、今この瞬間も成長の可能性がある。

「それにしても……」

 ――――そして、もうひとつ。

「あいつが千年も生きていたということは、わしもそのぐらい生きられるってことだな!
 あのツンツン頭のクソガキに殺されなければわしも不老不死だったんじゃ!
 わしのことをナメてコケにしたクソ庶民どもを皆殺しにして、わしの帝国を作るぞい!」

 権三の存在が無惨にとって福音であったように、権三にとっての無惨の存在もまた、福音であった。
 実際には権三と無惨の能力はまったく違うものだが、権三はそれに気づかない。
 しかし実際、医療用ナノマシンの暴走によって若返りの脳力を得た権三には、不老不死へと至る可能性が十分にあった。
 希望が無限に湧き上がる。
 まずはこの会場の連中とあのBBとかいう小娘をブチ殺して、自分だけの千年帝国を作るのだ。



「待ってろよ市民ども……この今之川権三様のキングダム……ZOI帝国の誕生じゃぞい!!」



 権三には、怒りがあった。
 それと同時に、いやそれ以上に――――輝かしい可能性の未来が、彼の中にはあった。
















【D-3/那田蜘蛛山の麓/1日目・深夜】
【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:全身に負傷。再生はほとんど完了。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
1.基本的に出会った奴は全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。一旦逃げて作戦を練らなければ……
3.とりあえず鉄分を補給したいぞい。ジュースはどこだ?
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。


243 : ◆uL1TgWrWZ. :2019/05/06(月) 05:59:48 XfE7UTAY0
投下は以上ですぞい


244 : ◆Akt6fX8OUk :2019/05/06(月) 12:48:59 wG/qh9aA0
冨岡義勇、予約・投下します


245 : 泥の水面 ◆Akt6fX8OUk :2019/05/06(月) 12:50:47 wG/qh9aA0

 失う痛みは、泥に似ている。
 沼に肩までまんべんなく沈んだように手足が重く、息が苦しい。
 重くへばりつく吐き気が腹の中で渦巻き、何度も何度もこみ上げてくる。
 そして胸の内から後悔と慚愧が絶え間なく押し寄せるのだ。喉と胸が焼け付くように熱い。
 目も熱い。

 腹から喉を通り、頭に抜け、どろどろと零れ落ちる。

 ああ、いったい、どうすればいいのだろう。
 どうすればよかったのだろう。
 誰も答えてくれない。
 誰も教えてくれない。

 だから、

「藤原さん……」

 そんな嘆きを聞いたときに。
 冨岡義勇は、ここでもそうか……と思った。


 ◆◆◆


246 : 泥の水面 ◆Akt6fX8OUk :2019/05/06(月) 12:52:41 wG/qh9aA0


 刃を握るものにできることは二つだ。

 敵を斬るか。
 己を切るか。

 それ以外のことは、刀を握ってできることではない。
 刀はただ切ることしかできない。
 刀を振るっていた人間も切ることしかできない。
 動かせる二本の足は立ち上がるためだけで、他にできると言えば踏みつけることだけだ。

 だから――――。

 手を握ってやることも。
 背中を撫でてやることも。
 抱きしめてやることも。

 刃を握るものにはできない。
 できるのは、きっと、どうしようもなく消せないぐらいに心の底に優しさの泉が湧いている者だけなのだろう。


 俯き嘆く少女のその痛みは、義勇が抱える痛みだった。
 炭治郎が抱える痛みだった。
 しのぶが抱える痛みだった。
 鬼殺隊が抱える痛みだった。

 人が抱える痛みだった。

 どうして自分が――と思ってしまうほど深く暗い穴で、でも決して自分だけではないぐらいに多く広く空いた穴だ。
 世に、あまりに、多く空いた穴だ。
 どんな場所にも空いた穴だ。

 だからそれを見ると、いつも、義勇は心が重くなる。
 わかるよ。
 その痛みはわかる。義勇だって立ち止まりそうになって、立ち止まりたくなってしまうから。
 見ているだけで辛いものだから。思い出されてならないから。

 本当の意味で立ち上がれるかはわからない。立てないかもしれない。歩けないかもしれない。
 うずくまって泣き出したくなる。
 そのまま涙と共に自分が悲しみの泥に溶けてしまえばいいと思うぐらい、辛くて苦しい。
 どうしようもなく苦しい。

 わかる。
 大切なものに置いていかれることは、失ってしまうことは、苦くて苦しい。
 心の手足が萎えてしまうのも、わかる。

 だけど、きっと立たなくてはならない。
 立って、歩かねばならない。

 そうすれば死んだ人だって安心してくれるとか、いつかは悲しみが癒えるからではない。
 悲しみは癒えない。
 痛みはなくならない。

 だけど――。

 だけどそんな穴を掘るやつは、悲しみに嘆く時間を与えてはくれない。時間は悲しみや苦しみに寄り添ってくれない。
 ずっと穴は掘られていて、その泥の中に沈められてしまう。
 惨めったらしく泣いていたって誰も助けてはくれない。そのまま、泥の中に沈められてしまう。
 だから、立ち上がらなければならなくて、

「私は四宮かぐやと申します。貴方との同行を希望します。お名前を伺っても?」

 少女がそう立ち上がったときに、外套の男へ言葉を向けたときに義勇は心の中で安堵の溜め息を漏らした。
 彼女はきっと強い。強くなれる。
 人は失う悲しみに、絶望に足を止めてしまう。
 だけれどもそこから立ち上がれたなら、そのまま前に進めるのだから。

 自分の役目は、なかった。
 外套の男の発破で立ち上がれた彼女に、自分は必要なかった。
 それでいい、と思った。
 義勇はあまり得意ではないのだ。誰かを激することも慰めることも得意ではない。

 しばらく見守ったが、男と少女は歩き出した。男に不審そうなところは、立ち振る舞い以外は、そうなかった。
 だから、義勇は踵を返した。

 師が今の自分を見たら、判断が遅いと言うだろうか。

 ふとそう思いながら、義勇は走り出していた。


247 : 泥の水面 ◆Akt6fX8OUk :2019/05/06(月) 12:55:29 wG/qh9aA0


 ◆◆◆


 いくらか走りながら見回ったところで、義勇はいくつかを結論付けた。

 一つ。
 この首輪なるものは、義勇では外す手段を持たないということだ。
 剣で爆風を相殺させるならばともかく、首という至近距離に設けられてしまっていてはそれも叶わない。
 呼吸の妨げにはならないため、ひとまずは置いておくしかない。

 二つ。
 あのBBという女の言葉には、少なくともできることには、嘘がないということだ。
 名簿を見たときに驚愕があった。

 ――煉獄杏寿郎。

 鬼との戦いで死んだ筈だった。
 死んだ筈なのに名前が乗っているということは、死人と殺し合いをすることができない以上、生きているということか。
 或いはそれが何かの血鬼術で再現されているのかはわからない。血鬼術とすれば、あの視界を乗っ取る術もあり、不明だ。
 ただ、何某かの意味を込められているのは確かだ。

 そして、

(鬼舞辻……無惨……!)

 三つ目――――。
 討たねばならない怨敵が、その名簿には記されていたのだ。
 鬼の源。
 悲しみの源。
 闇に潜み人を喰らう悪鬼の頂点の名が、そこにはあった。

 故に、義勇の胸に訪れるのは焦りだった。
 この場にいる柱は、二人だけだ。胡蝶しのぶと煉獄杏寿郎だけだ。
 彼らだけで鬼舞辻無惨を打倒できるのか。遥か昔から生き続け、幾度と鬼殺隊を壊滅に近付けていたというあの男を。

 いや、違う。それだけではない。
 無数に並んだ名簿の名前はすべて人だ。そして今、日は落ちた。
 日暮れにより跋扈するのが鬼であるなら――この時間帯はまさに、奴らにとっての狩りの時間だ。

 それが、不味い。

 そして、

「……!」

 傍目からは無表情に見える顔で、義勇は内心で眉を上げた。
 何かの弾ける音。銃声。
 それが連なったものが聞こえたのは、さきほど義勇が少女と別れた――出逢ってもないが――方角であった。

 彼女が撃ったのか。
 彼女以外が撃ったのか。

 それは判らないが、鬼のいるこの場でのそれの意味は、あまりにも大きかった。
 ひゅうううぅぅぅぅっと、音が鳴る。逆巻く風の音が鳴る。
 息吹が巡る。血が巡る。鼓動が巡り、拍動が巡る。
 力が、巡る。

 ――“水の呼吸”。

 取り込む空気が、膨らむ肺が、走る血が、起きる肉が義勇に力を与える。
 人の身を鬼の域まで引き上げる。
 常に続けている“全集中の呼吸”をひときわ強め、冨岡義勇は地を蹴った。

 風になるとは、相応しくない例えだ。
 草も揺れぬ。
 地も揺れぬ。
 花も揺れぬ。
 影一つ足音一つ足跡一つ残さずに駆けるその姿は、その景色は――――それは波紋一つない湖面にも似ていた。


248 : 泥の水面 ◆Akt6fX8OUk :2019/05/06(月) 12:58:39 wG/qh9aA0

 ◆◆◆


 そして結論からいえば、義勇は間に合わなかった。
 ただ、今度は、血の匂いはしなかった。

 硝煙を漂わせる見慣れぬ銃を抱えて慌てるような様子の少女に傷はなく、争いの跡もほとんどない。
 おそらく身を守るために発砲をし、そして彼女を狙う襲撃者は身の危険に合わせて退いたのだろう。
 そのことには、安堵と驚愕があった。

 無事であったなら、それはよかった。
 彼女は立ち上がって、そして生殺与奪を他人に預けることなく己の身を守った。
 それだけできっと、称賛されるに値するだろう。
 そして、襲撃者は鬼ではない。
 鬼なら銃を意に介さない。鬼でないのに人を襲うものがいたと言うことだ。

 ……無論、義勇とて知っている。人は争うものだ。
 鬼に限らず、人は争う。だからそれも、不思議ではないのだろう。
 少女もそのことを存じていたのか、それからしばらくし気を取り直したのか動き出す。
 その背中を見ながら、義勇はふと考えていた。

 鍛錬を積み、努力を載せ、誰よりも柱らしい柱の煉獄杏寿郎なら彼女を褒め称え、そして守ると誓うかもしれない。
 或いは、胡蝶しのぶ。
 鬼の首を斬れない非力ながら、鬼を殺す毒を作り、人を癒やす力を蓄えた柱らしい柱の彼女なら少女を安らがせたかもしれない。

 だけれども、義勇にはできない。
 義勇はただ刀を振るい、鬼の首を落とすことしかできない。
 煉獄のように心を燃やして敵と戦うことも、胡蝶のように常ににこやかな笑みを浮かべ続けることもできない。
 ただ、無心のように鬼と戦うことしかできない。首を切ることしかできない。

 或いは、竈門炭治郎なら――彼なら。
 上弦を二つも打った彼なら、自分よりも水柱に近い彼なら、剣を持ったままでも手を伸ばせるかもしれない。
 人の嘆きを逃さず、人の悲しみを逃さず、人のために正しく怒れる彼なら寄り添って歩めたかもしれない。

 それとも、錆兎なら――。
 共に鱗滝左近次の元で育てられた錆兎なら、彼なら――。

(……)

 ああ、と義勇は思った。
 この場は似ているのだ。そうだ。似ているのだ。
 義勇と錆兎が共に望んだ鬼殺隊の最終選別。
 鬼の蔓延る山に入れられ、双方ともに逃げることもできず、七日間生き残らなければならないというあの場に。

 錆兎ならきっと、ここでも人を守るために動く。
 すべての人を守るために動く。
 叱咤し、立ち上がらせ、前を向かせるために動く。
 そして誰も取り零すこともなく、守り抜いて、戦い抜いて、きっと首輪も外して、あのBBに戦いを挑む。

 でも、自分はそうはなれない。きっとそうできない。

 そうしている内に、また少女は歩き出した。
 あの同行者だった筈の男が失せているというのに、彼女は一人で、決意を新たに歩き出した。
 不意を打たれても己の生殺与奪を与えずに応じられる技量を持ちながら、この後すぐに動き出すとしても、義勇は、僅かにその背中を眺めとどまっていた。

 水面のように。
 水滴のように。


【C-7/1日目・黎明】

【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1��3
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
1:…………。
2:少女に声をかけるか否か。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。


249 : ◆Akt6fX8OUk :2019/05/06(月) 12:59:08 wG/qh9aA0
投下を終了します


250 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/06(月) 13:01:51 M5u32ulY0
犬飼幻之介、予約します


251 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/06(月) 13:17:26 lkW5NLh.0
皆様投下お疲れ様です。どれも面白い……!
円城周兎、フローレンス・ナイチンゲールで予約します


252 : ◆dxxIOVQOvU :2019/05/06(月) 14:14:47 Xi/O/dbU0
鬼滅の味方勢はやっぱりみんな共感性が高いな…


253 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/06(月) 22:26:02 t1hIk/bw0
猛丸、山田奈緒子 予約します


254 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/06(月) 22:27:41 t1hIk/bw0
すみません、>>253は操作ミスです。予約はしています。失礼しました。


255 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:04:58 YfMZ./xo0
これより投下します


256 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:05:54 YfMZ./xo0



自分は生まれながらの天才じゃない。
国を将来背負うような秀才天才が集まる秀知院学園で生徒会長になった。
それはそうなって当然の結果などではなく、死にものぐるいで続けた努力の賜物だ。
なにせ自分にはそれしかない。それぐらいしか『彼女』に並び立てるだけのものがない。
スポーツや芸能で際立った成果を残すには天禀が必要だが、勉学は時間と数で補える。とにかく頭に詰め込めばなんとかなるし、実際なった。睡眠不足とカフェイン中毒ぐらい安い代償だ。
家系を支えるバイトも含めると時間は圧縮されるので自然、スケジュールに無駄がなくなる。
余分は削ぎ落とされ、行動は練磨され模範的となり、誰もが畏怖と尊敬を抱く生徒会長の出来上がりというわけだ。

知識と教養は選択肢の幅を広げる。
常に思考を回す事は能の活性化に繋がるし、予測と計算を常日頃重ねておけばいざという時に対応できる。
日常も、学生生活も、恋愛も、ままならぬ事は往々にしてあり、シュミレーションを重ねてこそ瞬間的な閃きは生まれるというものだろう。



つまりは何が言いたいというと―――長々と説明してる時点でとっくに混乱してる証拠だが―――
この俺白銀御行は、予想も想像も、覚悟だってしたこともない悪夢のような事態に、千切れたように思考が追いついていなかった。





 ◆


257 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:06:28 YfMZ./xo0






椅子に深くもたれかかって、視線は電気の消えた天井を呆としたまま見つめる。
何を見ているわけでもない。瞼を開けていて眼球が視界範囲の映像を脳に投射しているというだけの、意味のない生態反応。
明かりを点けないのは外から所在を知らされないように配慮してわけではない。単に始めから電灯が消えていた部屋で目を覚まし、そこから一歩も動いていないだけのこと。

白銀が目覚めたのはとある一室だ。恐らく自宅以外で白銀が最も長い間を過ごしている部屋。
秀知院学園・生徒会室。生徒会員としての役職をこなす場にして、一世一代の恋愛劇の舞台。
その会長席に腰がけた状態のままで、白銀は殺し合いの会場に飛ばされていた。

殺し合い―――果たして本当にそうだろうか?
勝手知ったる生徒会室だ。月明かりしか頼るもののない暗がりでも、ここが本物の秀知院とまるで遜色ない造りであることはわかる。
ならやはりここは秀知院なのだろうか?こんな夜更けまで仕事をした記憶は白銀にはない。来る文化祭の奉心祭の準備でも教師がまず許すまい。

「まさか……拉致か?家で寝ていた俺をとっ捕まえてここまで連れて来た……?
 さっきのからして藤原書記が一枚噛んでるのは違いないとして、彼女一人で達成するには荷が重い。TG部との共謀か。なんにせよ随分と大それたものだな。ていうか普通に犯罪だよなこれ」

遅まきながらに白銀の思考が答えを求めて回転を始める。

虚ろなままぶつぶつと続けられるうわ言。

壊れたテープレコーダーほどの意味のない言葉の羅列。

何故ならば彼は、最も大事な面に目を向けていない。
あるいはそれは、瓦解しかけた理性を少しでも正常に戻すための回復作業であったのか。
どれだけ馬鹿げた理論でも記憶は騙せる。脳を溶かして、心を砕けば、どんな現実も幸福に包まれた世界に早変わりする。


「となるとそろそろネタばらしの頃合いか。
 さっきの映像もCGやVRとかでも使ったのか。技術の進化は怖いくらいだな。
 そういや映像の女の子もちょっと藤原っぽかったな。胸とか緩い言動とか割と似ていて――――――」









「―――――――馬鹿か俺は!」


長年の勉学漬けで染み付いた白銀の理性が、身が腐るほど甘い逃避をねじ伏せた。


258 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:07:34 YfMZ./xo0


「あいつがあんなふざけた悪趣味なものか。いや持ってたところで俺達を巻き込むわけがあるか。
 あれが、偽物なわけがっ…………!」

こみ上げた激情は椅子が転げ倒れさせ机に拳を叩きつけるだけに留まらず、胃の底から消化物ごと吐き出させようと蠕動させる。

「うっ、げ、ぇ…………!」

喉元までせり上がりそうになった吐き気を、白銀は必死で堪えた。
慣れ親しんだ生徒会室に吐瀉物をぶちまけるのに抵抗を感じたのもあっただろう。
それにここで全てを吐き出してしまうと、一生ここから立ち上がれなくなるような恐怖があった。

「かは――――――は――――――――――――あ―――」

ひとまず収まっても、気持ちの悪さは一向に抜けてくれない。
空想を破った代償とでもいうように、脳裏に飛び込んでくるのは数分前の『死』の映像。
玩具じみた勢いで吹き飛ぶ頭部。糸の切れた人形みたいに力なく地面に投げ出される肢体。
最悪な記憶ほど衝撃が強く残る。忘却を許してくれない。
今まで白銀が直視を避けていたものはこれだった。すぐさま泣き叫んでいた方が楽だったのかは、この先になってもきっとわからない。


「なんでだ……」


藤原千花は白銀が会長になった時期の生徒会の書記だ。
秀知院の生徒らしく才色兼備であるがそうとは思えないほど割と抜けていて、見かけより子供っぽく、見当違いの推理を披露して自爆したり、こちらが熾烈な頭脳戦を展開してる間に空気を読まずに突っ込んだり、ちょっとついていけないぐらいテンション上げたり、テーブルゲームでせこいイカサマを使って即バレたり、何考えてるかわからない奇行を起こしたりする、生徒会という檻に閉じ込められた奇天烈な珍獣の困った奴だ。





けれど。



生徒会の大事な仲間だった。

白銀の大切な友人だった。

誰からも好かれる天真爛漫さを持っていた、苦手克服の特訓にも根気よく付き合ってくれた。恋心でなくても好感はあった。


259 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:08:53 YfMZ./xo0


「なんで、あいつが死ななくちゃならない……。しかも俺だけじゃなく、二人までなんて……」

その藤原千花が、死んだ。
芝居でも冗談でもない。そんなもので誤魔化されるほど短い付き合いじゃない。
始めからそんな事はわかっていた。わかって、いたのだ。
けど認めてしまえば、残る二つの事実も現実だと認めてしまわなければならない。
今自分がBBと名乗る少女の手によって、正真の殺し合いの参加者に選ばれてしまった事。
そしてその殺し合いに、自分以外の生徒会のメンバー――――――四宮かぐやと石上優も連れてこられてるという事を。
恋い焦がれている相手と、もう一人の友人。近しい人が死んだだけでも許容量を超えてるのに、二人までも危機に陥っている。
けれどもう、限界だ。目を背けてはいられない。起こった事実は取り消せない。
嗚咽と慟哭、胃酸の味と涙の感触を以て、白銀はその事実を受け入れるしかなかった。



カツン、と。



受け入れたからってどうしろというのかと疑問に悩む間も与えられず、白銀は廊下の外から響く音を聞いた。

「――――――ッ」

殺し合いという状況に敏感になった身を強張らせる。
相当踵の高いハイヒールでも履いてるのか、音は甲高く反響している。
さながらステージで自身を誇示し衆目を集めんとするダンサーのよう。
規則正しく鳴らす足音は白銀のいる生徒会室の前で止まり、足で蹴り飛ばされたか如く勢いよく開かれた。


身を隠さなければ、と思いこそすれ、体の準備が間に合わなかった白銀は、その姿を見た。
暗い部屋で、唯一の明かりとなる月光の差した空間に影が躍り出る。
それは―――年若い女の格好をしていた。

起伏の少ないしなやかな流線型の体。露わな肌は真珠の輝きで、細く華奢な体つきは庇護欲をくすぐらせる。
こちらを射抜く思慮深く理性的、かつ嗜虐的なアイスブルーの瞳。
片側を結んだ長髪は清流の水を思わせる。

それらの可憐なイメージにそぐわない、膝から下の物々しい具足は、しかし不格好に印象を損ねない。
どころか触れる全てを切り裂く鋭利な脚部は、少女の性質を引き立てるパーツとして完成していた。
人というよりも彫刻の人工物的な美しさ。それを卑下せず人ならぬ姿を至とするかのような満ち溢れる自信。
月に住まうのがかぐや姫であるなら。月そのものを象徴する、女神と形容するに相応しい。

そこまでして、白銀は大きく目を見張った。
白銀の前に顕現した、恐らくはこのバトルロワイアルの参加者である月の姫ならぬ月の女神は、


260 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:09:25 YfMZ./xo0















はいてなかった。













へその下から、膝より上。そこに無ければならないものが着いてなかった。丸見えだ。丸出しだ。
いちおう最重要局部(ポイント)はビキニでガードされてるが、かなりギリだ。ハイレグ、いやヒモ同然だ。

殺し合いという極限状況、緊迫を強いられる場所で突如現れた露出強(誤字ではない)に、


「痴女だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


あらん限りの力を込めて、白銀は絶叫した。

  






 ◆


261 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:11:08 YfMZ./xo0






「―――品が無いわね。出会い頭に人を指さしてレディを痴女呼ばわりなんて。女の口説き方も知らないのかしら」

誰が童貞か。
等という反射的なツッコミは胸に留め、開口一番白銀は少女に罵倒される。
第一、一般常識を欠いてる相手に礼儀をどうこう言われたくはない。

「……下半身に下着以外何も着けずに外を出るのを露出癖と言わずなんと言えばいいんだ」

社会的知識に基づいた、尤もとすら言えた白銀の指摘に、少女は世界の真理に疑問を投げかけられたかのような表情をした。

「何を言ってるのかしら。これ以上ないぐらい隠してるじゃない。人間の美的感覚はこれだから……。
 いい?これは露出しているのではないの。貞淑に―――隠してるのよ」


胸を張り、外套を広げ、堂々と曝け出してそう言った。


なるほど。よくよく見れば―――年相応の下心などではなく、あくまで少女の言葉を確かめるための凝視でしかない―――
際どいラインはしているが、逆に言うなら見えてはいけない部分は完全にガードされている。
いわゆる『もう少しで見えそうなのに決して見えない』のを絶対領域と表するが、少女のそれはまさしく絶対。
ならば禁断の乙女領域のシルバーラインを構築したる少女は、露出癖とは真逆の存在ではないか。


「ってそんなわけあるか――――――」


謎の性癖の理論に納得しそうになったのを抑え反論しようとして――――――白銀の首筋に冷気が伝わる。
錯覚などではない生の感触。偽物ではない本物の刃の感触。
いつの間にか距離を詰めていた少女が机に足を乗り上げ、膝の具足に着いた鋭利な棘を白銀の喉元に突きつけていた。

「貴方たち人間の基準で考えないでくれる?第一このまま続けていいのかしら?貴方の最期の言葉、下着談義で終わるわよ」

露出した少女が神聖な生徒会室で会長席に足を乗せ迫る姿――――――
まるで少女漫画にでも載っていそうなシチュエーションだが、色めき立つ空気は絶無である。
肌に触れている凶器が本物であれば、少女の目も疑いなく本物だ。
あくまで平然で冷静なままの顔からは、人一人を死に至らしめ得る行為に躊躇いというものが全く見えない。
『コレ』は人ではない。
人の姿をしていても、人として生まれなかったなにかだ。
必要と感じれば、何の感慨も湧かさずに白銀の首に孔を穿つと、生物的な本能で理解させられた。

「余計なお喋りする時間は無いの。これ以上無駄口を叩くなら、一度その口を融かしてから癒着させてしまうわよ」

そしてここまで近づかれて白銀は気づいた。
奪われた視界で軽快に跳ね回る小悪魔、バトルロワイアルの司会役を名乗る少女と、目の前の少女が非常に似通った顔立ちをしていることに。


262 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:11:59 YfMZ./xo0


「BB……ッ?」
「あら、記憶力は正常ね。変態の上馬鹿だなんて目も当てられない無能じゃなくてよかったわ。
そんなのドレインしたくもないもの」

髪や瞳の色、細部こそ違えど、確かに少女はBBと瓜二つだった。
白銀の言葉に少し気を良くしたようだったが、刃は尚も引く気配がない。

「ええそうよ。私はBBの分身。彼女の肥大化した感情を切り離して作られた別人格を基に、複数の女神のエッセンスを取り込んだハイ・サーヴァント。
 意味が分からないって顔ね。いいわよ分からなくて。説明も手間だし。私はBBから生まれ、BBに反逆した。それさえ理解できていれば十分」

反逆、と。殺し合いの主催であるBBに逆らうと彼女は言った。
どうやらBBの手先というわけではないらしい。どこまで真実かわかったものじゃないが。

「反逆……どうしてだ?」
「簡単よ。私は人間は嫌いだけど、BBはもっと嫌いなの。
 そもそもBBから分かれた時点で私はもう独自の個体として成立してる。BBに従う義理はないわ」

少女の言う通り、会話の半分も理解できていなかった。
重要なことは言われてる気がするが知識の前提が違いすぎる。あまりに畑違いな専門知識でも聞かせれてる気分だ。

僅かに膝に力が込められる。
黙るのも目を背ける事も許さないと脅しをかけて、少女は聞いてきた。

「さて、私の説明はこれぐらいでいいでしょう。それじゃああなたの番ね、ちっぽけな人間さん。まずは名前を聞かせてもらえる?」
「……白銀御行だ」
「そう。ではミユキ、ここで問題です。私はあなたをすぐにでも殺せます。この足を少し前に押すだけで花の菊のようにあなたの首は落ちる。
 この施設に他に参加者はいないし、頼みの綱の支給品も手が届かない。
 そんな状況であなたが私にするべき行動はなんだと思う?」


生きたい?
死にたい?
それとも―――殺したい?


「みっともなく這いつくばって何でもするから助けて欲しいって希う?いいわよ、お望み通り斬(け)り殺してあげる。
 もうどうでもいいから殺してくださいって首を差し出す?いやよ、荷物だけ取り上げて裸で蹴り出してあげる。
 大事な人を蘇らせたい、恋しい人を守る為に全員を殺す?素敵ね、そういう気概持ちなら身も心もドロドロに融かして私のものにしてあげる」

垂らされるのは救いの糸か。はたまた蟲を誘う食中花(はな)の蜜か。
選択肢を吊り下げられた白銀は暫し呆然とする。
ああ、そうか。そんな考えもあったのか。
藤原千花の死という衝撃が強すぎて、そこから先を考える余裕なんて無かった。


生きたいのか死にたくないのか。
死にたいのか殺して欲しいのか。
殺したいのか殺すべきなのか。
そこにはきっと雲泥の差がある。二度と引き返せない境界線になるだろう。
ではこうして死と同時に向き合わせられる今に、己はどう答えるべきなのか。


263 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:12:41 YfMZ./xo0






「……う」
「?なに?」
「どれも違うと言ったんだ」

そんなもの。
答えなんて、出るわけない。
今だって頭の中はグチャグチャだ。立ち直れたなんてまったく言えない。
忙しなく、かけがえのない、後になって青春だったと述懐できる日々は死んでしまった。
事故のような、悪い夢でも見てるような唐突さで終わってしまった。
例え奇跡的に生還できたとしても、今後生涯この傷は残っていく。何度だって後悔する。叫びたくなる日が来る。
そんな状態で、殺すかどうかなんて考えていられるものか。

「俺は―――まだ何も、捨ててしまえる事なんてできない」

考えられるのなんて、ひとつだけ。
四宮かぐや。白銀御行の恋する人。
彼女もここにいる。まだ生きていて、すぐに死んでしまうかもしれない彼女。
とにかく会いたかった。無事を確かめたかった。
奥底にずっと眠らせたままで埃被っているこの気持ちを、置き場所のないままに終わらせたくなかった。
彼女にとっても藤原千花は友人だった。喪失の衝撃は軽くはないはずだ。
表では冷静冷血を装っているが、そこに温かいものが流れてる事を知っている。
会って何ができるでもない。慰めてやれるかもわからない。単に自分が慰められたいだけかもしれない。
けれど、白銀御行にとって、今一番大事なものはそれしかなかった。心臓の鼓動は恋でしか動かなかった。

「だからまず、お前と話がしたい」

初対面の相手に恋心をぶちまけるのは憚られた。代わりに試みるのは少女の姿をした怪物と対話。
今までの会話の積み重ねで感じた違和感。そこに光明を見出し思考を走らせる。

「……正気かしら、アルターエゴに交渉だなんて。何も分からなくても、私が人間とは程遠い怪物だって事ぐらいはもう理解できているでしょう?」
「ならどうして殺さない。いつでもそうするチャンスはあったのに。
 さっきの問いかけといい、他に人がいないか探していたのといい―――何か俺にして欲しくて、お前にはできない事があるんじゃないのか?」

殺さないのなら、理由がある。
BBに反逆したと彼女は言った。それが嘘でなく、同じ参加者として会場にいるなら反逆に失敗したという事になる。
ではその後に取る行動は、仲間を募り、逆襲の機会を整える事ではないのか。

「―――生意気」

つぷ、と。喉に異物が入り込む。
まだほんの数ミリ。皮膚も破ってない。なのに途轍もない痛みが走る。感覚を何倍も敏感にされたようだった。

「私と貴方が対等の関係だなんて思ってるのかしら。
 貴方は私なしじゃ生きられないけど、私には貴方の代わりなんて幾らでもいるのよ」

泣き叫びたいくらいの痛みを必死に堪える。
ここで折れれば殺される。そうでなくても喉を動かすだけで血管を突き破る。
見栄なのか意地なのか愛の力なのか、よくわからないまま食いしばって耐える。


潤む目が少女を捉える。
少女はそれを恍惚と見る。
秒針の刻みは引き伸ばされ、永遠にも思える時間が流れ―――


264 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:14:41 YfMZ./xo0



「ああ――――――でも、いいわ。その震える顔。生まれたばかりの仔鹿よりも無力な癖に口先だけでなんとかできると思ってる浅慮ぶり。
 そんな相手を間近でいつでも蹂躙できるだなんて、たまらないわ」

初めて少女が身を引き、棘が引き抜かれた。
倒れ込み、動きを止めていた喉が酸素を求めて激しく上下する。
そんな白銀を尻目にして、少女は上機嫌で、机の上に足を組んで座った。

「そうよ。私はBBには従わない。あの女の目論見には全力で嫌がらせをするって決めてるの。
 それに見境なく殺して回るなんて、優美(エレガント)じゃないもの。
 別に他人なんかどうでもいいし、邪魔者は蹴散らしてしまえばいいのだけれど、それで本命に辿り着く前に消耗したら元も子もない。
 私はこの通り人間嫌いだから、他人に足並みを揃える気なんてこれっぽっちも無いの。
 だからちょうどいい使い魔(サーヴァント)が欲しかった。
 ロスは少なくするべきでしょう。無駄な贅肉も脂肪も削ぎ落としてこそが至高よ」

使い魔という不穏な呼び方は置いといて、やはり白銀に求められる役は。

「つまり、交渉役か」

参加者とのパイプ。軋轢を緩和するストッパー役。
確かに、今までのやり取りではこの先出会う参加者と穏当な接触になるとは思いづらい。
会う度衝突しては要らぬ苦労を背負い込む事になる。巡り巡って、かぐや達との合流も遠のくかも。
そこを円滑に進められてスムーズにできれば、あるいは……だ。
それに脱出にせよ打倒にせよ、彼女が主催と関っているのは確実。上手く扱えば打開のカードになる希望がある。

デメリットは、ある。
少女の証言を裏付けるまだ要素はない。本当は今でもBBと通じていて、自分は体よく利用されてしまうかもという点。
あとこれからこの露出過多を連れて歩く以上、初対面での心証低下は免れない事。まあだから中継ぎを要請されてるわけだが。
もし首尾よくかぐや達と合流できたとて、彼女を見たらどう思うだろう。引くだろうな。ものすごい顔するのがありありと見える。

……選ぶ余地はないか。
拒否しても殺される。よくて放置。だったら極小でも手綱を握れるチャンスがある方がいいに決まってる。

「……わかった。請け負おう。これでも生徒会長だ。ディベートには少しくらい自信がある」
「生徒会……?ああ、そういうことね。……ふん、あっちもあっちで些細な嫌がらせが好きなこと」

なぜだか、僅かに眉をひそめている。生徒会に嫌な思い出でもあったのだろうか。学生だったとは思えないが。

「……まあ、今さら文句は言ってられないし。ギリギリ合格点ね。
 言っとくけど、あくまで貴方は私の小間使い。指示するのは私だし、優先するのも私の都合。
 少しでも逃げようとすれば、後ろから容赦なく串刺しにしてやるから。
 大人しくしてれば用済みになったら処理する、なんてしないわ。ちゃんとこなせたなら―――そうね。
 貴方と貴方の知り合いくらいは、片手間に助けてあげる」

引き出した提案に、無言で頷く。元手がゼロなところから始まったのに比べれば妥協できるラインだ。後はここから枠を広げていけるかだ。

しかし―――同行を頼むのにああまで回りくどい真似をするなんて、不器用というか、人に頼る事を知らないというか。
別に似てないし、恋しいわけじゃないが。少し昔の四宮かぐやを見ているようだ。


265 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:16:00 YfMZ./xo0


「それじゃあ、少しの間だがよろしく頼む」

あらぬ妄想を拭いさって、手を前に差し出す。
単なる社交辞令。生徒会活動で身についた処世に過ぎなかった、のだが。
少女は暫し見つめて、振り返って背中を見せた。

「……親愛の証なんて不要よ。私達は信頼し合う関係じゃない。所詮は打算と利益に濡れた関係。いつ破綻するかもしれない薄氷の上。
 弱みを先に見せた方が負け―――恋も戦いもそこは同じよ」
「―――――――――そうだな。同感だ」

本当に同感だった。同感すぎてちょっと違和感を覚えたくらいだ。
まさかドSの権化みたいな子から、恋だなんて甘い台詞を聞くとは。

「―――今、失礼なこと考えてないかしら。女の子が恋を語って悪い?
 少なくとも貴方なんかよりはよっぽど経験あるから、私」

マジか!?
衝撃だった。殺し合いとは別方面での爆弾発言だった。

「ははははは。それは失礼したな。だが自慢じゃないが俺もこれでモテる方でね。
 まあ今はうつつを抜かす暇もないから断っているんだが、経験豊富とは羨ましい限りだ」
「あら、好意を寄せられてる自覚だけあるから自分から攻める手が無いのね。そんなだからいつまでも本命を射止められないのよ、童貞」

よせばいいのに対抗して、すぐさま打ち返された。白銀、開いた口が塞がらない。
というか思いっきり弱み露出してないか今。さっきまでのクールビューティーはなんだったのか。

「さて。時間もないし、まずは名前だけでも教えてあげる。
 一度しか言わないから、しっかり聞きなさい」

沈黙した白銀をいいことに、ひとり満足した少女は話を勝手に進ませた。
たん、と跳ねて、月光の当たる場所に軽やかに足を着ける。
流麗な着地。装いは黒くとも、その舞は湖に降り立つ白鳥にも似て。
氷上の主役(プリマ)は、優美な仕草で観客に向けて礼をした。

「快楽のアルターエゴ・メルトリリス。
 心底イヤだけど貴方に協力してあげる。光栄に思いなさい?」







 ◆


266 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:18:50 YfMZ./xo0






……

………………

…………………………



『―――というわけで、貴方には新たにこの舞台でバトルロワイアルの参加者として動いてもらいます』

『その体もあらかた修復していますが、元通りとはいきません。両手もそのままですし、連続して戦い続ければ破損も広がっていきます。
 代わりにパラメーターに下方修正は加えてません。他の参加者との兼ね合いのハンデと思ってください』

『ご安心を。私から特別なミッションを与えたりはしません。支給品も情報も優遇はなしです。
 あくまで公平に、無情、無縛、無差別に殺し合ってもらうのがここのルールですから』

『……え、まだ言ってないことがあるって?もー!安易なネタバレ、露骨な伏線、フラグ撒きは厳禁です!だってBBちゃん、そういうの大好きですから!』

『―――それじゃあ、転送しますけど。何か言っておきたい事はありますか?
 どうせ後でこのログも徹底削除しますし、今なら誰にも聞こえませんよ?』





―――いいえ、何も。

―――残す言葉は何もありません、BB。

―――私たちのやることは変わらない。

―――ここに『彼』がいても、いないとしても。

―――この鼓動が続く限り、羽撃いていける。

―――例えこの体が砕け散っても。何度繰り返す事になっても。

―――繋いだ心だけは、離れないから。



…………………………

………………

……






 ◆


267 : その鼓動は恋のように ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:20:47 YfMZ./xo0

【E-5・秀知院学園生徒会室/1日目・深夜】

【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:まだ何も、捨ててしまえる事なんてできない
1:かぐや達との合流。
2:メルトリリスに同行。交渉を担当して衝突を避ける。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。

【メルトリリス@Fate/Grand Order】
[状態]:損傷(両手)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:繋いだ心は、今も離れない
1:藤丸立香との合流
2:白銀御行に同行。邪魔をしなければ知り合いも助けてやってもいい。
[備考]
※『深海電脳楽土 SE.RA.PH』のメルトリリスです。
※損傷は修復されてますが完全ではありません。休み無く戦い続ければ破損していくでしょう。
※出逢っているのは『男の藤丸立香』です。


268 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/06(月) 23:21:11 YfMZ./xo0
投下を終了します


269 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/07(火) 00:04:17 2y5.fVdQ0
アァアアア感想がァ!! 感想が溜まっている!!
 というわけで感想です。

>Anfang
 目で見て楽しむ芸術品が多く並ぶ美術館が、目がほとんど見えない状態の鷹山さんのスタート地点になったというのは、なんとも皮肉。地図も名簿も見えない鷹山さんに、バトルロワイアルは厳しそうで不安です。
鷹山さんの狩りの対象であるアマゾンは勿論のこと、アマゾン以外の人ならざるものがこのロワには何体かいますが、彼がそんな異形共と遭遇したときにどうするかが楽しみになります。そんな、今後が気になる登場話でした。
鷹山さんの登場話にして本企画一番最初の本編となる話のタイトルが『A』で始まっているというのもニヤリとさせられますね。投下ありがとうございました。

>殺し合いの利点
 銃まで向けた状態で、人を殺す覚悟が足りず引き金を引けなかった石上くんが、本来なら血生臭いイベントとは無縁の一般人という感じでいいですね。一方偽名を名乗っている偽工藤くんはこういう荒事には慣れている感があって好き。
 さっくりトントントンと組まれた同盟ですが、((佐藤を知らないなんて)んなわけないだろ!)となっていて面白いですね。ここの永井くんの顔は原作画風でサクッとイメージできました。
首輪を着けられ、佐藤を殺せる参加者や支給品があるかもしれないバトルロワイアルの環境に感謝するときがあるかもしれないというのは面白い発想。まさに永井くんならではですね。しかし佐藤を殺せるかもしれないということは永井くんも殺される可能性があるというわけで……いやはや、バトルロワイアルとは恐ろしいものですな。投下ありがとうございます。

>時代を貫いて響くもの
 二乃の出典作である『五等分の花嫁』はヒロインが五人いる分かわいさも五倍なのが売りの作品ですが、本作は登場キャラ三人が『五等分の花嫁』に負けないくらいの可愛さを見せてくれていましたね。二乃は言わずもがな、気絶していた上田先生は勿論、自分の刀を見て上機嫌になっている沖田さんはとっても、三キャラ全員の可愛さと魅力がこれでもかと描かれている素敵な話でした。
 私が特に好きなのは最後の沖田さんの語りですね。言いたくてたまらない気持ちが伝わってくる『誰か引っ張ってくれないかなァ』や繰り返される『あの都がねえ』が好き。読み終わりの余韻がとっても素敵なものにしてくれていると思います。うーん、もっと言葉を尽くして褒めたいのに上手く言い表せない……。投下ありがとうございました。


270 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/07(火) 00:05:36 2y5.fVdQ0
>空腹の音
 初登場時のダメダメな感じマックスかと思いきや、頭の中ではちゃんと色々と考えている善逸が良いですね。勿論ダメダメな所も好きですが。『あっ!』と言ってから自分はこの瞬間に死んでるくらい駄目な奴なんだと熱弁するくだりが原作にありそうなくらいダメダメで本当に好き。ダメダメが良いって矛盾した言い方になってる気がしますね。
 善逸と五月ちゃんの食事の仕方だけで二人のキャラが分かるようになっているのが巧いですね。その最中に善逸が千翼の孤独な空腹の音に気付くのも素晴らしい。原作では最期まで生き切った千翼が、この企画ではどうなるのかが今から楽しみです。投下ありがとうございました。

>鬼が嗤う
 名簿を見ればわかる通りこの企画には人外系のキャラクターが数多く参戦しているのですが、その中でも群を抜いての人外である鬼、酒呑童子の登場話にピッタリな話でしたね。何せ彼女は鬼なのだから、その行動を人間のアタマで予想できるはずがない。殺すかと思ったら生かしたり、かと思えば喰らってくる。ここまでスタンスが読めないキャラクターが果たしていましょうか。しかし、本作ではそんな読めない彼女をしっかりと書いている。これはすごいことですね。今後彼女がどう引っ掻き回してくるのかが楽しみです。
鬼にボコパンされてもしぶとく立ち上がってくる村山さんが本当にかっこいい。気絶した彼の今後が不安ですが……まあ、番長決定の伝説的に、次の回でケロッと復活していてもおかしくないでしょう。村山さんなので。投下ありがとうございました。

>月と太陽
 こういう状況でメンタルがやられてしまいそうだった三玖ちゃんと、こういう状況には慣れているため前を向いて少しでも頑張ろうとするぐだ子の対比が良い。怖いけど、ここで動かない方がもっと怖いからと勇気を振り絞るぐだ子の姿が、文章中で言われている通り眩しいですね。あー、タイトルの『月と太陽』ってそういうこと? こういう頼れる相方が出来てくれると、読んでるこっちまで安心しちゃいますね。
最後のぐだ子の知り合い紹介に不審者を見るような目を向ける三玖も好き。普通の人でもそうなるのに、歴史好きな彼女なら尚のことそうなりますよねって感じ。投下ありがとうございました。
 
>最初に生まれてくるということ
 原作の方で今ノリに乗ってる長女とアニメがノリに乗ってる長男の登場話ですね。正直に真正面から長女に刀を譲ってくれるよう頼みこむ長男のまっすぐさがいいですね。自分はケーキ屋での撮影でアホみたいな格好でアホみたいな演技をしている時の長女が大好きなので、カルデア戦闘服を着ている彼女にも期待したいのですが却下されてしまったようで残念。まあ、恥ずかしい格好だし仕方ないよね。
 この話で一番好きなのが最後の長男の煉獄さんへの想いの部分ですね。『今度は守られるのではなく、煉獄さんと肩を並べて戦いたい』に泣かされる。そういう展開が来るといいですね。投下ありがとうございました。


271 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/07(火) 00:06:02 2y5.fVdQ0
>心、わたしの胸のどこに
 書記の死で最初からハッピーエンドの道を閉ざされてしまったかぐや様の話。彼女をここまで悲しませるなんて、BBは許せませんね!
 心に湧いた悲しみから書記のことを親友だと思っていたことに気づき、最終的湧きあがってきた想いが『会長に会いたい』なのが、実に美しい心情の流れを描いていて素晴らしいです。最後の涙が落ちないように月を見上げるかぐや様の姿が悲しく、そして美しい。投下ありがとうございます。

>共闘
 ヴィランと主人公が手を組むというのは二次創作ならでは展開ですね。しかもそれがラブデスターの二大人気キャラである猛田とミクニのタッグというのだからアツすぎる。このなー、完全に信用はされていないけれど、それでも仲間として手を組むってやつがなー。こんなん好きじゃないオタクいる? いないでしょ? 
猛田の登場時点での『その皆っていうのには俺も含まれてるのかな?』というセリフも、実に彼らしい。最後の生還カップルの話も、周りにトラブルばかり与えていた彼が残せた数少ない成功カップルだったので、そこに触れているのも好き。なんやかんやあったけど、あの騒動が無ければ彼らは成立しなかったんだしね。投下ありがとうございます。

>獣が嗤うこの街で
 前園さんがやりやがった。
 人を喰わないよう我慢し続けていた禰豆子が人肉を口にしてしまうという展開は、憤慨する原作ファンが出かねないように思えますが、しかし下手人が前園さんなので「まあ前園さんなら仕方ないかな……」とぼんやり納得させますね。キャラが持つパワーという感じで好きです(もっとも、前園さんにはそれをやらかした自覚はないようですが)。
 彼が持つぼんやり固有結界で忘れそうになってしまいますけど、しのが毒殺されているんですよね。登場話で一人殺し、鬼を目覚めさせるとは……前園さんは恐ろしい人です。他のマーダーにはぜひ彼を見習ってほしいですね。いや、見習うな。投下ありがとうございます。
 

 とりあえず10作。
全作品ちゃんと読んではいるんですけど、GW終わりの疲れからか感想をサクッと書ける力が欠如してるので、残りの感想はもう少しお待ちください。


272 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:41:38 VG2LMWks0
皆さん、投下お疲れ様です!
予約をしていたコブラ、スモーキー投下させていただきます。


273 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:44:36 VG2LMWks0


五つの凶悪グループが不干渉を決め込んで、逆に秩序を保っている日本有数の治安が悪い地区があった。


地元商店街の青年団が喧嘩に明け暮れている山王街二代目喧嘩屋、『山王連合会』。

スカウト集団が夜の街と女たちの安寧を守る誘惑の白き悪魔、『WHITE RASCALS』。

ヤクザの育成所とまで呼ばれる全国の荒くれ者どもが集まる漆黒の凶悪高校、『鬼邪高校』。

社会から捨てられた者たちが集まる治外法権の『無名街』を護る無慈悲なる街の亡霊、『RUDE BOYS』。

ヤクザや他のグループからもはみ出されても目的を達成するまで達磨のように何度でも立ち上がる復讐の壊し屋一家、『達磨一家』。



―――その五つの凶悪グループの頭文字を取って呼ばれる、その名も『SWORD地区』。



SWORD地区は、日本最大の暴力グループや海外マフィアからも狙われている。
その驚異に対応するために、『山王連合会』のリーダーであるコブラが提案した協定。
それこそが争っていた五つのグループが手を結ぶ、『SWORD協定』である。

「コブラ」

SWORD協定を提案し、それが未だに締結されない状態。
それでも未来のことを考えて、他のグループへと足を運んでいた日々。
そんな日々の中で、コブラはRUDE BOYSのリーダー代表のような立場となっているタケシと話をしていた。

「スモーキーはSWROD協定には乗らない、これは変わらない考えだ」
「……また来る」
「変わらないよ、スモーキーも変えられるやつなんて居ない」

折れないコブラに対して、タケシは諦めたようにつぶやく。
だが、コブラの中の炎は消える様子を見せない。

「……コブラ」
「なんだ?」
「ここ、座れよ」

そんなコブラに対して、タケシは汚れたベンチに腰掛ける。
そして、ポンポンと隣を叩き、コブラも座るように促した。
コブラは何も言わずにタケシの隣に腰掛けた。


274 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:46:09 VG2LMWks0

「俺はな、ガキの頃から音楽を聴くと何が楽しいのか常にビートを刻んでたんだよ」
「あん?」
「俺もよく覚えてないけどな……それを見て面白がった大人が、俺のことを『タケシ』って呼ぶようになったんだ」
「…………………まさか、ビートたけしか?」
「そうだよ」

俺はテレビ見たことないから知らないけどな。
タケシはそう簡単に言った。
笑い話なのかとも思ったが、タケシの表情は真剣そのものだ。
恐らく、タケシはそれが『笑い話になる』ということもわからないのだ。
ビートたけしというお笑い芸人の存在も知らないのだから。

「ピーのやつはいつもピーピーないてたから、周りが『ピー』って呼ぶようになった」
「……」
「スモーキーはな、そんな大人から見てもスモーキーだったんだよ。
 煙みたいに、どこか高い場所へとどんどん登っていくやつだったんだ」

スモーキー。
確かに、コブラの眼から見ても特別な存在だった。
そこにいるだけで強烈な存在感を示す。
身長などコブラと対して変わらないのに、思わず見上げてしまうような、そんな雰囲気を持った人物だった。

「俺は……正直、SWORD協定を結んでもいいと思っている」
「なに?」
「コブラ、俺は怖いんだよ」

タケシは俯き、声が震えていた。

「スモーキーは誰よりも高く飛ぶから、誰よりも空高く飛んでいくから」

それは恐怖だった。
コブラでさえ気圧されてしまうようなスモーキーだ、身近で共に暮らしているタケシからすれば、神様のような存在だろう。

「いつか、俺たちを置いていってしまいそうで、本当に空の上まで行っちまいそうで、俺は怖いんだ」

だからこそ、恐ろしかった。
タケシは、いつかスモーキーが消えてしまうのではないかと。
自分では到底届かない高みへと消えていくのではないかと。
恐ろしくてたまらなかったのだ。

「俺じゃ無理だけど、お前やロッキーや村山や日向なら、なんとか出来るんじゃないかと思っちまうんだよな」

忘れてくれ。
タケシはそう言って、無名街の奥へと去っていった。
タケシはSWORD協定が結ばれることを望んでいる。
だが、スモーキーは頷かない。
スモーキーが頷かない限り、RUDE BOYSはSWORD協定に参加しない。
コブラは、空を眺めた。
この無名街の一番高い鉄塔に、スモーキーが立っていた。
無名街を見守るように、あるいは、見下ろすように。
スモーキーがそこに立っていた。


275 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:46:49 VG2LMWks0

「やっぱりお前か、スモーキー」
「……コブラか」

そんなことを思い出していたからだろう。
コブラがこの殺し合いの場で最初に出会ったのは、他ならぬスモーキーだった。
自衛隊入間基地と称される、恐らくは単なる模倣であろう空間。
その場の最も高い位置に、まるで煙のように登っていたのがスモーキーだ。
よっ、と声を出しながら、ある建物の屋上に踏み入れる。

「コブラ、確認がしたい」
「なんだ?」
「俺の家族の名前はあるか?」

そう言って、スモーキーは背中を丸めながら名簿を差し出してきた。
スモーキーも読んだようだったのに、なぜそんなことを聞くのかと不思議に思った。
だが、すぐに気づいた。
スモーキーは漢字が完全には読めないのだ。
もちろん、カタカナなら読めるし、簡単な漢字ならばわかる。
無名街の大人が気が向いたように子どもたちに勉強を教えるからだ。

「スモーキー、俺は無名街の奴らの名前を全員知ってるわけじゃないぞ」
「全員読んでくれ、音ならわかるんだ」

スモーキーは空を眺めながら、目をつぶった。
コブラはため息をつき、それでも名簿を読み上げていく。
元々頭の良くないコブラでは、いくつか読めない字があったが、誤魔化すように『恐らく』と言った言葉で当てはめていく。
全て読み上げると、スモーキーは立ち上がった。

「……そうか。俺の家族は居ないか」
「俺の知ってるやつは雨宮兄弟と、鬼邪高の村山と、スモーキー、お前だけだ」
「ああ、俺もそれだけだ」

スモーキーは振り返った。
ボロボロのモッズコートが翻り、痩せぎすの身体が病魔によってさらにやせ細った身体がコブラへと向き直る。
ゾクゾク、と。
身体に悪寒が走る。

「だからな、コブラ。俺は決心がついたよ」

そう言って、ゆっくりと前傾姿勢になった。
コブラは理解する。
理解したが、信じたくはなかった。

「俺は、この会場にいる誰よりも高く飛ぶ」


――――スモーキーが、殺し合いに『乗った』という事実を。


「スモーキー、テメエ……!」

コブラの言葉よりも早く、スモーキーは動き出す。
地を這うような低い動きで、コブラへと襲いかかり、しかし、攻撃の打点は高い。
コブラの頭部を狙うハイキック。
鋭く、速い。
そこらのチンピラはもちろん、格闘技の経験者でも一撃で沈むであろう一撃。


276 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:47:41 VG2LMWks0

「つまり…………ぶっ殺されてえんだな?」

しかし、その蹴りをコブラは容易く捕まえる。
コブラはかつて、伝説のチーム『MUGEN』の幹部であり、現在ではスモーキーと同じく『SWORD』のリーダーの一人だ。
同じくMUGENというグループの幹部であったヤマトを圧倒していたスモーキー。
だが、ヤマトは優しい男だ。
明確な敵意を持っていない戦闘で、全力を出せるような男ではない。
コブラもまた優しい男ではあるが、タイプが違う。
戦うと決めたならば、数瞬の間に覚悟を決める。
つまり、相手を容赦なく叩き潰すという覚悟を。

「ふっ!」
「ッ!?」

スモーキーは掴まれた脚を解こうとはせず、むしろ、コブラに掴ませたまま、もう片方の両足を宙へと浮かせる。
そのまま、身体を大きく動かし、コブラの頭上へと高く飛び上がったのだ。
コブラが掴んでいたスモーキーの右足は、その動きで激しく動く。
ただでさえボロボロで砂などまみれてザラザラとしていたズボンによってコブラの拘束は解ける。
スモーキーは両足を折り曲げ、膝でコブラの首を締めるように動く。
そのまま、後ろへと倒れ込むように動き、逆立ちをするような態勢で地面に両手をつき、そのまま脚に巻き付けたコブラの頭部を地面へと叩きつけようとする。

(フ、フランケンシュタイナー!? こいつ、俺の土俵<<プロレス技>>で……!)

いや、地面には叩きつけようとしていない。
ここは屋上。
しかも、立ち入り禁止であるために、柵は低い。
ならば、どこに叩きつけられる。
どこに?
どこに?

「おっ……!?」

決まっている。
地面だ。
『地上四階から地上一階』の地面へと叩きつけようとしているのだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?!?!?」

コブラは浮遊する身体で、必死に腕を伸ばす。
樹木に指がかかるが、しかし、指に激痛が走るだけだ。
恐らく、折れてはいない。
しかし、かなりの激痛だ。
それでもコブラは腕を伸ばす。
太い枝をつかめ、しかし、その枝が折れ、コブラの身体は地面に激突した。
いや、正確にはふさふさと生い茂った垣根に受け止められた。
ズキズキと身体に鈍い痛みと鋭い痛みが同時に走る。
ハァハァと荒い息が漏れる。
ゆっくりと、コブラは身体を起こした。


277 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:48:20 VG2LMWks0

「………クソがっ」

ゆっくりと、コブラはポケットの中から一枚のスカーフを取り出す。
痛めた指を固定するつもりだろうか。
いや、違う。
コブラは口元にそのスカーフを巻き付けた。
防塵マスクのように巻きつけられそのスカーフには、コブラが率いる山王連合会のエンブレムが刻まれている。

「ぶっ殺す……!」
「俺はお前を殺すつもりだ、コブラ」

建物から降りてきたスモーキーは、コブラの言葉に答える。
コブラは、ボキボキと音を立てながら痛めた指を動かして拳を作る。
コブラとスモーキーが向かい合い、互いに姿勢を低くする。

「シッ!」

二人の太ももの筋肉が圧縮されきったのはちょうど同時だった。
弾かれたように二人は走り出す。
コブラが狙うのは脚だ。
恐らく繰り出されるだろうスモーキーの強烈な前蹴りを更に低いスライディングで駆け抜け、そのまま軸足を取り、回転しながら立ち上がる。
ドラゴンスクリューと呼ばれるプロレス技。
コブラの疾走の勢いをそのままにスモーキーの身体を回転させるその技で拘束し、そのまま絞め技に移る。

「なっ!?」

しかし、コブラがスライディングを開始すると同時に、スモーキーは前蹴りを放たずに空中前転でコブラの身体を飛び越えていく。
コブラはすぐに立ち上がり、くるりと振り返る。

「ガッ!?」

恐らく、着地音から察するに立ち上がった瞬間はコブラとスモーキーは同時だったはずだ。
だが、コブラよりも一呼吸早く、スモーキーのハイキックがコブラの首元に直撃した。
何故か。
答えは簡単だ。
スモーキーは錐揉み回転をしながら空中でコブラを飛び越えたのだ。
スモーキーは着地の時点ですでにコブラへと向き直っていたのだ。
自然と、コブラが背中を向けながら立ち上がった時には攻撃の行動に移れる。

「ナメんなッ!」
「っ!?」

だが、コブラも山王連合会のトップ。
ましてや、スモーキーは病魔に身体を侵されており、全力の状態ではない。
スモーキーが万全の状態ならば、この蹴りで意識を失っていたかもしれない。
だが、現実は違う。
コブラはスモーキーの脚を掴み、そのままスモーキーの身体を掴んでいく。
スモーキーの足の付根へと手をかけ、そのまま身体を持ち上げる。
高い位置、ちょうど地面と垂直の位置まで持っていくと。

「オラァっ!!!」

そのまま、地面へと叩きつけた。
パワーボムだ。

「っ!!!!!」

スモーキーの肺の中の空気が全て吐き出される。
追撃のチャンスだ。
コブラは拳を振りかぶり、スモーキーの腹部へと叩き落とそうとする。
しかし、地面に転がったスモーキーのがむしゃらな蹴りが腹部に突き刺さる。
威力こそないが、強く押されるような蹴りで、コブラは体勢を崩す。
そのまま、スモーキーは這うような動きでコブラから距離をとった。
スモーキーが視線を移す。
そこには、鏡があった。
地面にうずくまるスモーキーと、立ち上がってゆっくりと迫ろうとするコブラが映っていた。


278 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:48:58 VG2LMWks0

「コブラ……」

それに何かを感じたのか。
スモーキーは、言葉を発した。
コブラは、歩みを止めた。

「ある場所に、ある男が居た……その男は、何一つとして成し遂げることが出来なかった。
 何も、出来なかった。
 何かを残すこともなく死んでいった。
 一方で、ある男が居た……その男は、素晴らしい男だった。
 あらゆる全てを残していった。
 世界の幸福に……その男は最も貢献して死んでいった。
 その二人に、違いはあるか?」

スモーキーは蹲りながら、コブラへと尋ねた。
真剣な目だった。
コブラは、考える。
何も残すことが出来なかった人間と、何もかもを残すことが出来た人間。
その二人に、違いはあるか。

「違いはある」

確信を持って、コブラは答えた。
コブラの脳裏によぎったのは、一人の男。
幼馴染である、ノボルという男。
ノボルはコブラと違い、賢かった。
弁護士となって、この世の悪を正したいという、立派な夢を持っていた。
同じ場所で生まれたのにそんな立派な夢を持っているノボルが妬ましくて、羨ましくて、それ以上に眩かった。
ゴミみたいな世界でも価値のある人間というのは本当に存在するのだと、コブラはノボルを見て初めて知ったのだ。
だからこそ、ノボルが、多くの男に乱暴をされた恋人の復讐に犯罪を犯した時。
大きな絶望に襲われた。
ノボルの夢は、コブラの夢であることを、コブラはその時、初めて思い知った。

「人間と人間に……価値の差はある。
 ゴミみたいな人間と、まともな人間は、生命の価値が違う」

だから、あそこで罪を負うべきだったのはコブラ達であるべきだった。
どれだけの怒りに支配されても、その怒りで未来を潰すべきではなかった。
今でも、夢で見る。
ゴミの吹き溜まりのような街で生まれたコブラ達もまたゴミそのもので。
だから、そんな吹き溜まりから出るような発想すらなかった。
でも、ノボルだけは、幼馴染だけは違った。
ノボルはコブラの希望だった。
この街で生まれた者がこの街から出て、社会的に成功する。
そんな存在がいるだけで、まるでコブラまで救われたような気持ちになれた。
だから、未来が台無しになるのならば、コブラであるべきだった。
ノボルの未来に比べれば、コブラの未来など、正しくゴミのようなものだと今でも思っている。


279 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:49:43 VG2LMWks0

「――――ああ、そうか」

だが、その言葉こそがスモーキーの逆鱗に触れた。
僅かに残っていた、無名街の外の住民であるはずのコブラに対する、友好の念。
それが、その言葉で消えた。
コブラの言葉はあくまで自分を価値のない人間としての言葉。
しかし、しかし。
無名街という、世界から捨てられた街の住民であるスモーキーにとって。
山王街という低所得世帯の街で生まれ育ったコブラでさえ『恵まれた立場』の人間なのだ。
そのコブラから漏れ出た言葉は、まさしく世界が無名街を否定する言葉であった。
だから、スモーキーの胸からコブラへの友好の想いが消えた。

「だったら、お前は助からない――――!」

モッズコートのポケットの中から、スモーキーは一つのカードデッキを取り出した。
茶色のデッキケースに、金色のエンブレムが描かれたデッキだった。
そのデッキが鏡に映ると同時に、スモーキーの腰へとどこからか現れたベルトが巻かれていく。


「―――『変身』ッ!!」


その言葉とともに、カードデッキをバックルへと差し込む。
すると、不可思議なことが起こった。
スモーキーのボロボロの服装が、足元から首筋まで、プロテクターに全身が覆われていく。
そして、ガゼルを模したねじれた角をついた仮面の奥へとその顔が消えていく。
仮面ライダーインペラー。

「なんだ……?」

それが単なるコスプレ衣装とは思わない。
なにか、言葉には出来ない物を感じる。
威圧感というべきなのだろう、ゾワゾワと背筋を襲うほどのものだ。
コブラは腰を落とし、変身をしたスモーキーへと向かおうとする。
対して、スモーキーは膝を折る。
すると、膝下のアンクレットが開き、そこへと一枚のカードを差し込んだ。

―― AD VENT ――

機械音声が響き渡る。
ゆっくりと、スモーキーが歩き出す。
スモーキーが前へと踏み出すたびに、異様としか言いようのない怪物が現れる。

「なんだ!?」

スモーキーの背後に付き従うように、上空から降り立ってくる大きな角を持った怪人。
ゆっくりと歩くスモーキーの背後から降り立ち、そして、スモーキーを追い抜いてコブラへと襲いかかる。
握りしめた拳で、怪人――――ミラーモンスター・ギガゼールを代表とするレイヨウ型モンスターを迎え撃つ。


280 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:50:25 VG2LMWks0

「オラァっ!」

ギガゼールの凄まじい圧を感じさせる攻撃を掻い潜り、顎先へとその拳を叩き込む。
そのまま、ギガゼールは仰向けに倒れ込んだ。
ミラーモンスター、本物の怪物だがコブラの一撃は確かに怪物へと通じている。

「ッ!?」

しかし、多勢に無勢。
ギガゼールを打ち倒すには全力を出し切る必要があった。
そして、全力の行動の際には、それだけ生まれる隙も大きい。
いつの間にか背後を取っていたオメガゼールに羽交い締めにされ、そのまま腹部へとネガゼールの強烈な膝蹴りが叩き込まれる。

「ぐぉっぉっ……!」

そのまま、コブラは倒れ込む。
内臓の芯にまで響く、強烈な攻撃だった。
うめき声を上げながら、膝をついてしまった。
ゴブッ、と口元に熱く苦味のある液体が広がる。
血だ。
ただ膝の一撃の直撃で、内臓が損傷して吐血してしまったのだ。
山王連合会のスカーフが血に汚れる。
そのまま追撃を受ければ、コブラは一巻の終わりだが、不思議なことにゼール種のミラーモンスターは離れていく。

「コブラ」

代わりに、仮面ライダーインペラーと変身したスモーキーが近づいている。
目と鼻の先、スモーキーのつま先が見える。
そのまま、視線を上げていく。

「俺は誰よりも高く飛ぶ……」

仮面に隠れているが、その目が冷たく染まっていることはよくわかった。
その時、コブラはある言葉が脳裏をよぎった。

『コブラ、俺は怖いんだよ』

地面に這いつくばりながら、近づいてくるスモーキーの足音を聴きながら、脳裏には過去の出来事を思い返していた。
それは無名街の住民、RUDE BOYSのメンバーであるタケシとピーの言葉だった。

『スモーキーは誰よりも高く飛ぶからさ。俺達じゃ行けないところに煙みたいに上っていくからさ』

珍しくタケシは余所者であるコブラに弱音を漏らしていた。
その言葉を思い返しながら、コブラの首をスモーキーが掴む。
凄まじい力でコブラの身体が持ち上げられ、スモーキーはコブラの身体の向きを手の中で変え、襟元を掴む。

『いつか、俺たちを置いていってしまいそうで、本当に空の上まで行っちまいそうで、俺は怖いんだ』

ああ、わかる。
ここで全員を殺したスモーキーを、無名街に帰すわけにはいかない。
だって、それは違うからだ。
スモーキーの戦いは、RUDE BOYSの戦いは常に守るための戦いだった。
亡霊の守護者であるRUDE BOYSは、外敵からの侵略に対して戦う存在だった。
だが、今のこれは違う。
これは侵略であり、蹂躙だ。
他者の尊厳と生命を奪う、征服なのだ。


281 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:53:47 VG2LMWks0

「スモーキー……!」

一緒だ。
コブラも、スモーキーも一緒なのだ。
コブラは山王街を、スモーキーを無名街を。
ただ、街を守りたいだけ。
だが、護るためにそれをしてしまえば、スモーキーはタケシやピーと共に居られなくなる。
いや、違う。
タケシとピーがスモーキーと共に居られなくなるんだ。
自分たちのために罪を背負ったスモーキーと同じ場所に、タケシやピーが行けないんだ。
だから、スモーキーを止めなければいけない。
だって、スモーキーは。

「SWORDは……仲間を見捨てねえ……!」

――――スモーキーは、仲間だからだ。

コブラはもう、二度と後悔したくない。
仲間が手を汚して、元の場所に戻れなくなる。
そんな場面を、絶対に見たくない。
その痛みの先には、なにもないんだ。
ボロボロの身体を動かしながら、仮面ライダーインペラーへと変身したスモーキーの腕を掴む。
口元を覆ったスカーフは、破損した内蔵によって逆流した血で汚れている。
動けるはずのない身体で、視線に意思を込めてマスク越しのスモーキーをにらみつける。

「コブラ」

だが、その言葉はスモーキーに届かない。

「俺に仲間は居ない」

掴まれた腕をそのままコブラの喉元へと持っていく。
睨みつけてくる視線を受け止めたまま、スモーキーは言葉とともに力を込める。

「俺にいるのは、家族だけだ」

ゴキリ、と。
コブラの喉の奥から声ならぬ音が響いた。


【コブラ(緋野盾兵)@HiGH & LOW 死亡】


282 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:54:13 VG2LMWks0

「ハァ……ハァ……!」

荒い息を吐きながら、スモーキーは変身を解除した。
すると、ゼール種のミラーモンスターが消えていく。
そのまま、自身が首を折ったコブラの死体の側へと座り込んだ。
死体がある。
だが、スモーキーは何も思わなかった。
無名街では、当然のことだった。
ある日、どうしようもなく身体が弱って。
気づいたら、朝に目覚めたら家族が死んでいる。
それは、何も珍しいことではない。
コブラでは決してわからない感覚。
コブラが憎いわけではない。
だが、その感覚がわからない人間は、スモーキーの家族ではない。
コブラはスモーキーの仲間になりえても、スモーキーの家族にはなり得なかったのだ。

「……帰るか」

ぼんやりとした頭と身体で、スモーキーはゆっくりと脚を動かす。
目指す場所は、無名街。
家族が待つ、無名街。
殺し合いの場に作られた、偽りの無名街。
スモーキーが生きたところで、何も世界は変わらない。
スモーキーが死んだところで、何も世界は変わらない。
だが、スモーキーは生まれてきた。
たとえ、世界を救う人物でも。
たとえ、世界に何も出来ない人物でも。
そこに何の違いもありはしない。
だから、スモーキーは帰る。
だから、スモーキーは生きる。

たとえ、何を犠牲にしたとしても。
たとえ、他者を犠牲にした先にあるものが何もなくても。

家族とともに生きるために――――スモーキーは、無名街へと帰る。


【B-4・自衛隊入間基地/1日目・深夜】

【スモーキー@HiGH & LOW】
[状態]:胴部に激しい鈍痛、病気
[道具]:基本支給品一式、仮面ライダーインペラーのデッキ、不明支給品0〜4
[思考・状況]
基本方針:全員を殺して、無名街へと、家族の下へと帰る。
1:MAP上の無名街に向かう。


283 : あの日に見た明日を捨てきれない ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:54:25 VG2LMWks0

【仮面ライダーインペラーのデッキ@仮面ライダー龍騎】
スモーキーに支給。
鏡に向かってかざすことで、仮面ライダーインペラーへと変身できる。

[仮面ライダーインペラーの能力]
[インペラーの召喚機ガゼルバイザー]
右足の脛にセットされているアンクレットタイプの召喚機。
右足を上げた状態から中にアドベントカードを装填することで、そのカードの能力を使用できる。
[アドベントカード]
・アドベント
ギガゼールとの契約カード。使用した際には他の同種モンスターも一斉に現われる。
レイヨウ型モンスター。
50mのジャンプ力が特徴のギガゼールのほかオメガゼールやマガゼールなどがおり、いずれも優れたジャンプ力を持つ。
二又の刃が先端についた杖を武器としている。
・スピンベント
『ガゼルスタッブ』。
ギガゼールの角を模した2連ドリルで、右腕に装着して使用する。巨大な岩をも粉砕する程の威力がある。
・ファイナルベント
『ドライブディバイダー』。
ギガゼール種のモンスターたちに一斉に相手を襲わせ、最後にインペラー自身が左足で飛び膝蹴りを決めてとどめを刺す。


284 : ◆7WJp/yel/Y :2019/05/07(火) 02:54:36 VG2LMWks0
投下終了です


285 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:26:49 7VXxfJYw0
皆様投下お疲れ様です
自分も投下させていただきます


286 : Open Your Eyes For The Next AMAZONZ ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:31:59 7VXxfJYw0

ハァ… ハァ… ハァ…

月光が刺す喫茶店で男が一人、支給された名簿を睨んでいた。
猛禽のような鋭い眼と無精髭、斜め一文字に刻まれた傷が印象的な男。
男の名は宮本明。
彼はこの殺し合いに巻き込まれてなお、至極冷静だった。
いや、むしろその表情は喜色に歪み、息も荒くなっている。
何故なら、


「妙な事に巻き込まれたと思ったが、お前が此処にいるなら逆に僥倖だ。
幾らでも殺し合ってやるよ、雅」


彼の人生の全てを奪った、殺すと決めた男が此処にいるのだから。

多くの吸血鬼たちの王にして、国連軍の爆撃から逃げ回り行方知れずだった宿敵である雅。
ヤツが自分と一緒に、このそう広くはない島に閉じ込められている。
その上、爆発すれば確実に奴を殺せる首輪付きで。
この千載一遇の好機を逃す手はない。
二度と奴に日本本土の土を踏ませるわけにはいかないのだ。
自分を悪趣味な殺し合いに招いたBBだったが、明はその一点においては感謝すらしていた。
全ての吸血鬼の殲滅、冷えた鋼のように冷たく固い決意を固めて男は殺し合いに乗り出すことを決めた。その時だった。


…………
……


「いるな、何か」


彼の戦士として研ぎ澄まされた第六感が近くに誰かが…否、ナニカがいる事を察知した。
間違いない。明は半ば確信を持って窓の外を睥睨し…そして外に首輪だけが浮いているのを発見した。
首輪だけが浮遊していることなどありえない。
目を凝らしよく見ると、半透明の正体不明の何かが首輪を付けて浮いているのだと気づいた。


287 : Open Your Eyes For The Next AMAZONZ ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:33:22 7VXxfJYw0

「―――ッ!!」


気づいた瞬間明の脳内に不吉な警鐘が鳴り響き、素早くリュックの中に片手を突っ込む。
右手の義手を外している時間はもうないと判断したためだ。
そして、その判断は間違っていない。
半透明な正体不明物体(アンノウン)は明が発見すると同時に停止し、細く鋭い触手を目にも止まらぬスピードで射出してきたのはその直後の事だったのだから。
喫茶店の壁をぶち破り侵入してくる触手。
常人ならば間違いなく臓腑を貫かれていたであろう攻撃。


ザ ン ッ


しかして宮本明は『常人』ではない。
少なくとも、怪物退治において彼は百戦錬磨だ。
デイパックから取り出した大太刀と斬馬刀を合体させた様な二対の刀―――音柱・宇髄天元の日輪刀を片手に伸びてきた触手全てを斬りおとす。
すると、半透明の正体不明飛行体の輪郭がぶれる。


「ハ、随分と神々しい邪鬼じゃないか。首輪をつけてるって事はお前も参加者みたいだな」


現れたのはクラゲの様な、女性の様な、或いは天使のような、そんな怪物だった。
その姿は明が彼岸島や日本で戦い続けてきた吸血鬼の変異体、邪鬼に酷似している。
故に邪鬼であると推測したのだが…それは半分正解だったが、不正解でもあった。
現れた生物の名は邪鬼ではなく、アマゾン。
その中でもクラゲアマゾンという個体であったが、当然彼には知る由もない。
だが邪鬼もアマゾンも人に敵意を持ち、人を食らう怪物であるという点においては共通している。
ならば、宮本明のなすべきことは唯一つ。
低い声で、明はこれから自分がしようとしている事を宣言する。


288 : Open Your Eyes For The Next AMAZONZ ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:34:44 7VXxfJYw0



「たたっ斬る」


戦端は開かれ、壊れた外壁から飛び出すとクラゲアマゾンの元へ明は駆けた。
クラゲアマゾンもそれに呼応するように迎撃の触手を伸ばす。


ザンッ  ザンッ ザンッ


しかし、止められない。
凄まじい重さの宇髄天元の日輪刀を鎖の部分を掴むことで振り回し、その度に触手は紙の様に切り裂かれていく。
それだけでは終わらない。
宇髄天元の二刀流の太刀は食らって生き延びた者がいないため原理は不明だが、爆発を起こすことができるのだ。
斬撃の後には必ず爆轟が響き、クラゲアマゾンの黒い細かな血を吹き飛ばして蒸発させる。


ザンッ ザンッ ザンッ


圧倒。

撃ち払い。切り落とし、いなし、叩き斬る。
その様はまるで小型の竜巻。人間の範疇を飛び越えている。
そう、サーヴァントや鬼が人間を超えた者とするなら、
宮本明は、人間の限界を無限に高みへ更新し続ける者なのだ。

下段から伸びてきた最後の迎撃の触手を切り払い、遂に明は斬撃の射程距離に入った。
触手で攻撃するには距離が近すぎるため、クラゲアマゾンに僅かな間だが隙が生まれた。
その一瞬を突いて、明は右手の義手のカバーを外す。
支給された刀は強力だが、やはり彼が真に信頼を寄せるのは自身の義手刀なのだ。
先端がL字になった刃が露になり、クラゲアマゾンへと迫る。
殺った。明は確信する。しかし――――、


289 : Open Your Eyes For The Next AMAZONZ ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:36:13 7VXxfJYw0


「くッ、こいつ硬ェ!」


ザンッというクラゲアマゾンを両断する音は響かない。
明にとって想定外の事が起きたためだ。
それは柔らかそうな見た目と反してクラゲアマゾンの体が想定以上に堅かった事。
その硬度はまるで障壁を張っていたかのよう。
彼は斬撃ではなく、刺突を選ぶべきだった。


(不味いッ!!)


斬撃は逸らされ、今度は明が無防備な態勢になってしまう。
空気を切る音が鼓膜に響き、背後から触手が迫っているのを感じた。
このままでは待っているのはモズの早贄の様に串刺しにされた未来だ。


「う、おおおおお!!!」


咆哮を上げ足元の天元の日輪刀を全力で蹴り上げた。
蹴り上げられた日輪刀は猛スピードで跳ね上がり―――触手とコンマ数秒の差でクラゲアマゾンと接触、爆発した。
クラゲアマゾンだけではなく明も至近距離で爆風を浴び、ごろごろと転がる。
ダメージは負ったが火急の危機は脱した、仕切り直しだ。次で仕留める。
ヨロ、ヨロと立ち上がり武器を構えるが……既に斬るべき敵の姿はなかった。


「去ったか…」


自分が爆風で転がっている間に先程の透明化を使い離脱したのだろう、
首輪がまた浮いていないか辺りを確認するが見当たらなかった。
相手は透明で首輪しか見えないとなれば、夜の闇の中で一度隠れられれば見つけれるのは困難だ。


「……仕方がない。この近辺を探して見つからなければ雅を優先するか」


あの邪鬼は危険だし勿論始末するが、それよりも更に危険度が高いのは雅だろう。
優先度を間違えるわけにはいかない。
そう結論付け、古ぼけたコートをしっかり着なおし、自分のリュックを背負う。
そこで近くにもう一つリュックが落ちているのに気が付いた。
タイミング的にあの邪鬼の物だろう、首輪が嵌められて参加者としてカウントされていた以上、支給品が与えられていてもおかしくはない。
もっともそれを使いこなすほどの知性はなかったようだが。


「まぁいい。これも貰って行くとするか。……ん?」


明はリュックの下部に『クラゲアマゾン』と銘打たれていることに気が付いた。
丁度、自分のリュックに『宮本明』と銘打たれている所だ。
これがあの邪鬼の名前なのだろうか?クラゲは外見から分かるがアマゾンとはなんだ?
それが妙に引っかかった。
邪鬼と思って戦っていたが、その感覚もいつもとは少し違っていた気がする。
もしかしたら、吸血鬼以外にも人食いの怪物がいるのか?


(そうだとしても、結局やる事は変わらんがな)


290 : Open Your Eyes For The Next AMAZONZ ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:37:49 7VXxfJYw0

人に仇為すクソ化け物共は一匹の残らず皆殺しにする。
今はもういない仲間たちとそう誓ったのだから。
それしか、自分の人生にはもう残されてはいないのだから。
自分を信じて散っていった仲間たちを思えば、それ以外の生き方など自分には許されてはいないのだ。
そう、考えて。


―――どんな願いでも叶う……素敵ですね。まるで『聖杯』みたいです。みなさんならどんな願いを叶えてもらいますか?


不意に、あのBBという少女の言葉が浮かび上がる。
仮に、もし、何でも願いを叶えられる願望器があったとするならば、
やり直せるのかと、ふと、思ってしまった。
それほどまでに明の住む日本は既に詰んでいる。
雅の手によって吸血鬼が跳梁跋扈し、国連軍の爆撃により国土は荒廃状態。
雅を倒したところで復興など、それこそ奇跡でも起きない限りは夢のまた夢。
だがもし、そんな奇跡があるなら。
夢も、故郷も、家族も、片腕も、仲間も喪って。
手に入れたものは人を超えた強さと、救世主(やくたたず)という肩書だけの伽藍洞な自分でも。
日本を吸血鬼の手から取り戻し、ただの、不出来な弟である宮本明に戻れるのか……?


―――まったく、未練がましいな。

数だけで言えば此処にいる数十人と日本本土の一億人、天秤にかけるまでもないだろう。
しかし、胡散臭いBBという少女が願いを本当に叶えるのか、
そもそもそんな都合のいい奇跡が本当にあるのか、信用はできない。
その上ここにいるのは自分と雅だけではないのだ。
鮫島と勝っちゃんという本土でできた仲間がいる。
自分の過去と後悔を帳消しにするために彼らも斬る事ができるほど、明は外道にはなれなかった。
だが、もし…彼らも死んでしまったら。


「―――とにかく、鮫島と勝っちゃん探し。そして雅が最優先だ
ヤツだけは、何としてもここで殺す」


思考を強引に打ち切って、明はまた進み始める。
だが、その背中は人類の救世主というには不釣り合いなほど小さく揺れていた。
まだ二十にもならない、孤独な青年の背中だった。

【D-7・半壊したTEA花鶏前/1日目・深夜】
【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(小)
[道具]:基本支給品一式、宇髄天元の日輪刀@鬼滅の刃、不明支給品0〜4
[思考・状況]
基本方針:雅を殺す。
1:雅を殺す。その後の事は雅を殺した後に考える。
2:鮫島、勝っちゃんとの合流。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。


291 : Open Your Eyes For The Next AMAZONZ ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:39:41 7VXxfJYw0

一戦交えてなお、変わらぬ穏やかな表情でかつて泉七羽と呼ばれていたオリジナルアマゾン…クラゲアマゾンは夜の道を行く。
人としての理性や思考はとうの昔に朧げになっているというのに、それでも止まることはない。
何かに強烈に引き寄せられるように、ただ進み続ける。
見る者がいればまるで愛する者を探す妻、或いは我が子を求める母の様だと思っていたかもしれない。


―――■翼。
―――■。

殺し合いに巻きこまれてなお、恐怖も、怯えもなく。何もかもが些事だと言う様に。
天使のような慈悲の微笑を浮かべて、彼女は進み続ける。
アマゾンの本能がずっと訴えているからだ。
求めている者が近くにいると。
だがしかし。
彼女が求めている者と出会えたとして、その再会の物語にタイトルを付けるのならば、
それはきっと――――、

【D-7/1日目・深夜】
【クラゲアマゾン@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(小)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本方針:――千■、■
1:邪魔する者は攻撃する。
[備考]
※九話より参戦です。


292 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/07(火) 10:40:03 7VXxfJYw0
投下終了です


293 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:31:44 8p9RZHBg0
投下乙です

明さんの鬼神のような強さを見せ付けた後の独白が切ない。

>手に入れたものは人を超えた強さと、救世主(やくたたず)という肩書だけの伽藍洞な自分でも。
>日本を吸血鬼の手から取り戻し、ただの、不出来な弟である宮本明に戻れるのか……?

そうだよな、明さんまだ三十路にも達してないのに人生がハードすぎるんだよ...ハゲが散ったことを知った時の反応を考えると辛い。

投下します


294 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:32:41 8p9RZHBg0
俺はお父さんのことを知らない。

俺を育てるために家事に仕事に懸命なお母さんの背中を見て育ってきた。

聞けばお父さんは凡庸な人間だったという。

その凡庸さゆえに非凡なお母さんに恋をして、そしてその凡庸さゆえに非凡なお母さんから逃げ出したそうだ。

でもそれを聞かされても俺はお父さんを恨む気にはなれなかった。

なんだったら大好きなお母さんと二人きりにしてくれた彼の現在のご多幸をお祈り申し上げるくらいだった。

だけどそんな凡庸なお父さんを思うとき、凡庸な我が身を省みていつも誓うんだ。

―――俺は俺の凡庸を、誰かの非凡のせいにはしない

―――非凡な奴らから、凡庸な俺から、俺は決して逃げないぞ


295 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:33:42 8p9RZHBg0





生徒会庶務・人吉善吉は普通の人間だった。

生徒会会長・黒神めだかのように全てを完成させられる『異常(アブノーマル)』ではなく。
元柔道部の王子こと、生徒会書記・阿久根高貴のようになんでも完璧にこなせたり、元水泳部のエースであり生徒会会計の喜界島もがなのように才能ある『特別(スペシャル)』ではなく。
生徒会副会長球磨川禊のように人を堕落させ共に堕ちるのが好きな『過負荷(マイナス)』でもなく。

特に優れた/劣った個性を有しているわけではない彼は、普遍的に言うならば『凡人』の類だ。

だから彼は強くなりたかった。そして強くなった。少なくとも、黒神めだかの側にいることを許される程度には。
いつだって現実に打ちのめされながら。諦めながら。挫折しながら。
それでも奮起し立ち上がり己をたたき上げてきた。

その過程には普通に過ごしていては経験できないようなこともあった。
動物の捜索に美術のモデルなど、生徒会として引き受けた依頼の数々。
風紀委員長・雲仙冥利による比喩表現なしの文字通りの爆撃。
『異常(アブノーマル)』都城王土率いる『十三組の十三人(サーティーン・パーティ)』との壮絶な戦い。
『過負荷(マイナス)』球磨川禊率いる『マイナス十三組』と生徒会の権利を賭けた生徒会戦挙。

そんなこんなで幾多もの死線を潜り抜けてきた彼でも、知り合いから見も知らぬ者たちと殺しあうというバトルロワイアルというこの状況には流石に恐怖を覚えずに入られなかった。

めだかちゃんに勝つための、安心院さんによる『主人公』の育成計画の一環かと一瞬は思ったが、しかし、確実に死者が出るようなプログラムを課すとは思えない。
むしろ、彼女が関与していればその時点で彼女との同盟は破棄だ。
他者を殺してまでめだかちゃんに勝とう等とは到底思えない。

そう、殺人など、枷があるとはいえ好き好んでしたいものではない。
自分はそうであるし、他の皆もそうであってほしい。
仮に殺し合いに賛同してしまうとしても、それが恐怖などであれば理解できるしどうにか止めて助けてやりたいとも思えるからだ。

だから、彼は死にたくないと思いながらも殺し合いには反目するつもりだった。
まだ方法こそは思いついていないが、犠牲者無くこの殺し合いを壊すつもりだった。
それは、この殺し合いに黒神めだかが参加させられていなくとも変わらなかっただろう。

...もっとも、この名簿上の知り合いである黒神めだかと球磨川禊こそが彼の不安の種であるのだが。

黒神めだかは性格上、殺人を好むような女の子ではない。が、己と対等の者を好むきらいがある。それも、敵対する者であればなおさらだ。
殺し合いを肯定することはないだろうが、やはりそういった背景を考えると不安はよぎる。
球磨川禊は、流石に人は殺さないだろうとは思うが...いや、どうだろう。あの人なら気が変わって人類裸エプロン化計画とか銘打って優勝を目指す可能性もなくはない、かもしれない。わからない。やっぱり不安だ。

とにかく、万が一の可能性も考え、彼らとの合流は急ぐべきだ。


296 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:34:12 8p9RZHBg0

そう結論付け決意しほどなくしてだ。

ザッ、ザッ、と遥か彼方より足音が響き渡った。

誰か向かってきている―――!

善吉は暗闇に目を凝らし、警戒心を抱きつつ来訪者を待ち構えた。

やがて、ヌッ、と姿を現したのは、男だった。
白髪に一昔前のヴィジュアルバンドを思わせる衣装を身に纏った奇妙な男だった。

その男の姿を認めた時、善吉は動けなかった。
彼は男の放つ威圧感に圧されたのだ。

前述した通り、彼は幾多の死線を潜ってきた男だ。
その彼が気圧されるほど、白髪の男は異様だった。
強いかどうか、異常か過負荷だの以前に、そもそもの土台が違う。そんな得体のしれない気配を漂わせていた。

「小僧、貴様なにをそんなに怯えている?」

男の言葉に、善吉の心臓がドキリと跳ね上がる。

(クソッ、落ち着け人吉善吉!お前はいつまで甘えたの坊ちゃんでいるつもりだよ!)

心中で己を鼓舞し、どうにか心を持ち直す。
何のために自分は強くなった。
何のために自分はこれから強くなろうとした。
俺はめだかちゃんを守れる奴になりたかったんじゃないのか。めだかちゃんに勝ちたいんじゃなかったのか!
そう何度も言い聞かせ、己を奮い立たせた。


297 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:34:50 8p9RZHBg0

「...カッ、生憎俺は善良な一般市民なんでね。そういうあんたはどうなんだよ」

笑みを浮かべるが虚勢だ。
一皮剥けば容易く剥がれ落ちる程度の脆い作り物だ。

「私か?私は胸が高鳴っているよ」
「あ?」
「こんなに刺激的な催しはそうそう体験できるものではない。それにこの会場には宮本明もいるというじゃないか」

嬉々として語る男に、善吉は更に困惑を募らせる。
中々体験できるものじゃないからなんなのだ。宮本明とかいう男がいるからなんなのだ。
まさかというべきかやはりというべきか、眼前の男もめだか同様、いやそれ以上に好戦的な男だというのか。

善吉は与えられた能力『欲視力(パラサイトシーイング)』を行使し、男の視界を覗き視ようとする。
が、見えない。普段ならどんなに相手の視界に気持ち悪い世界が広がっていようが視ることはできた。
だがいまはそれができない。
なぜかはわからないが、とにかくいまは相手の言動を見て判断するしかないだろう。

「...結局、あんたはなにが言いてえんだ?まさかあのBBちゃんの言うことを真に受けるんじゃねえだろうな」
「ふむ、それも一興だが、奴が約束を守る保障がない以上、素直に従うのは得策ではないだろうな」

予想外の言葉に善吉は拍子抜けする。
主催のB.Bが約束を守らない可能性があるから乗らない。
多少物騒な単語はあれど、彼の考えは実に理にかなっている。
ひょっとして先ほどまで感じていた妙な気配は気のせいだったのだろうか。

「故に私は戦力を集めるつもりでいる。私の大嫌いな人間を殺しつつな」

善吉の背筋は凍りついた。
前言撤回。やはりこの男はかけねなくヤバイ奴だ。
正直に言って関わりたくないが、自分が止めなければ他の参加者が危ないかもしれない。

「...カッ、俺の前でそう宣言するってことはそういうことでいいんだな!?」

受けて立つ、と拳を握り締め右足を微かに後ろに下げる。
『サバット』。蹴り技を主体とし外靴での戦闘を前提とした格闘技。
人吉善吉の基本的な戦闘スタイルである。


298 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:35:25 8p9RZHBg0

彼の構えを見た男は、鼻で笑い笑みを深める。

「ほう。臆せず構えをとるか。ではその無謀さを評して先手はくれてやろう」

男はまるで警戒心を抱かず、ゆったりと善吉へと歩み寄る。

善吉はその様をかえって不審に思う。彼は知っているからだ。
カウンター型の過負荷(マイナス)、蝶ヶ崎我ヶ丸の『不慮の事故(エンカウンター)』を。

(こいつが蝶ヶ崎みたいな力を持ってたらここで手を出すわけにはいかねえ。とにかく観察して...)

分析している間にも、男との距離は着々と詰められていく。

「どうした?なにを遠慮している」

気がつけば、善吉との距離はもう目と鼻の先にまで迫っていた。

(こ、こいつは本当に俺に蹴らせるつもりだったのか!?それともカウンター型なのか!?)
「先手はいらないか。ならば―――」
「う、うわああああああっ!!」

男の手が善吉の首元へと伸ばされた瞬間、善吉はほぼ反射的に蹴りを繰出していた。
経験と生存本能が警鐘を鳴らしたのだ。この男に触れられるのはマズイと。

打撃音と共に男の身体が後方へと吹き飛び、2メートルほど後退する。
男は、ニイと笑みを深めた。

「悪くない蹴りだ。だが遠慮することはないのだぞ?」

笑み、再び男はゆったりと歩き出す。
善吉は再び蹴りを繰出し、男を吹き飛ばす。
男は笑みを絶やさず歩み寄る。善吉が再び後方へ蹴り出す。

善吉には幾度も繰り返されるこの光景が酷く気味悪く思えて仕方が無かった。

何度蹴られても笑みを絶やさず、よろめきもしない。
全てを『無かった』ことにする球磨川禊とはまた別の気持ち悪さだ。


299 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:35:55 8p9RZHBg0

(俺の蹴りは確かに効いている。なのに、終わらせられる気がしない!こいつを倒せる気がしない!)

「ふん、もう飽きた」

終わりは唐突に訪れた。
先ほどまでされるがままだった男は、善吉の突き出された脚を掴み、乱暴に振るった。
技術も糞もない、力任せの投げ。
だが、善吉の身体はそれだけで宙を舞い、凄まじい速さで木にぶつけられた。

「がはっ!」

背中から走る痛みに思わず呻き声をあげる。
だが、この程度ならいままでの戦いで何度も経験したものだ。
すぐに立ち上がり、再び雅と向き合う。

「ハッ、しぶとさだけは中々だ。だが、いまのでわかっただろう。貴様では私には敵わぬことが」

男の言うとおり、善吉は既に彼との戦力差を理解していた。
ほぼ確実に、自分では男には勝てない。
今までにも宗像先輩やめだかちゃん(改)のような一見勝ち目の無い戦いはあった。
だが、彼らには心があり和解の道もあった。
この男にはそんなものはない。純粋な悪意をもって遊び、蹂躙する。
如何ともし難い実力差がある以上、形勢が崩れることは無い。

(だからって、ここで諦めてどうすんだよ!)

けれども、確実に他者へと害を為す男を目前にして、放っておけば確実に人を殺すような男を目の前にして、放っておくことなどできない。
自暴自棄なわけではない。命が惜しくないわけでもない。
それでも、彼は男を止める為に、その膝を折ることはしない。


300 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:36:19 8p9RZHBg0

「ほう。この期に及んで悪くない眼光だ。ならばその闘志を評して素晴らしいプレゼントをしてやろう」

タンッ、と、先ほどとはうって変わって男は軽やかに跳躍した。
オリンピック顔負けの跳躍力で、男は善吉の後ろに回り込もうとする。
だがその程度で善吉はうろたえない。
背後にまわってくるというなら簡単だ。身体の軸を回し、後ろ回し蹴りを放ち迎え撃つ。

が、しかし、それが男の胴体を捉えることはなく。
男は善吉の脚を掴みながら、ズイ、と顔を首元に寄せた。

マズイ、と直感するも、脚を掴まれているため距離をとることすらできない。

「味わえ。至極の快楽と恐怖を」

男の口が大きく開き、その鋭い牙が善吉へと襲い掛かる。

「炎の呼吸、壱の型―――不知火」

刹那―――善吉の視界に、一筋の炎が奔った、気がした。


301 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:36:52 8p9RZHBg0



俺は死んだ。

やるべきことも果たすべきことも全うして悔いなく死んだ。

しかしどういうわけか俺はこうして生き返っている。

これが本当に現実ならば、あの列車で食べた美味い弁当もまた食べられるのだろう。
家に帰れば父上や千寿郎ともまた会えるのだろう。
もしも再会できれば、竈門少年や猪頭少年、黄色い少年らの成長した姿に感動することもできるだろう。

老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだと言ったが、やはり己の生が此処にあるというのはとても嬉しいことだと思い知らされた。

本来ならばあのBBという少女に感謝し頼みごとを聞くのが筋なのだろう。

だが、彼女は人を殺した。必要に迫られてではなく、どうしようもなく動揺してではなく、鬼よりも無邪気に玩具で遊ぶかのような軽薄さで少女を殺した。

悪いが、そんな彼女の願いを聞き入れられるほど俺は寛容ではない。

だから俺のやるべきことは変わらない。

たとえ恩知らずだのなんだのと罵られようとも、いまこの場で即刻首を飛ばされようとも構わない。

弱き人を、罪なき人を助ける。

それが俺の責務だ。信念だ。生き方だ。

だから、俺が刀を振るう理由に嘘偽りなど必要ない。


302 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:37:29 8p9RZHBg0





一瞬だった。

白髪の男がなにかを感じ取り一歩退いたかと思えば、一筋の炎が降り注ぎ、白髪の男の腕を切断していた。
その炎が、金髪の先が朱色に染まった髪の男であり、本当に炎が出ていた訳ではないと善吉が気づいたのは、尻餅をついてしまった数秒後だった。

「立てるか少年!」

男は、チラ、と微かに視線を向けて問いかけた。大声で。

「あ、あんたは?」
「俺は煉獄杏寿郎という者だ!きみを助けに来た!」
「助けに来てくれたのか。誰だか知らないが、礼を言うぜ。ありがとう」
「気にするな!それが俺の責務だからな!」

―――いや、イチイチ声がデケエよ!男塾塾長かあんたは!?

そうツッこみたくなる善吉だが、しかし相手は初対面な上に助けてくれた恩人だ。
だから、箱庭学園では平然と口にしただろうツッコミも、今回は心中で留めておいた。

「...さて、もう一度聞こう。立てるか少年」

先ほどとはうって変わって、煉獄の声は静かなものとなり、空気も引き締まったものとなる。

「あ、ああ」
「それはよかった。ならば、ここから離れるんだ。できるだけ急いでな」
「それってどういう...」

「煉獄杏寿郎と言ったか」

右腕を斬られた筈の男は、以前変わらぬ笑みを携えたまま、煉獄を見据える。


303 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:37:55 8p9RZHBg0

「素晴らしい剣技だった。もう少し気付くのが遅ければ片腕だけでは済まなかっただろう」
「褒められるのは嬉しいが、きみのやろうとしていたことは看過できない。なぜこの少年を殺そうとした。きみの名前も合わせて聞かせてもらおう」
「私の名は雅。そこのガキを殺そうとしたのは、私が人間が嫌いだからだよ」
「それはつまり、この少年だけでなく巻き込まれた人々を殺戮していくということだな」
「正確にいえば、私が気に入らない者だけだがな」
「ならばきみを放置するわけにはいかない」

スッ、と煉獄の顔に影が差した瞬間、弾けるように駆け出した。
炎の呼吸、壱の型『不知火』。
善吉を助けた時にも披露した、高速で突進し敵を切り裂く技である。

煉獄の刀が雅に届くその寸前、彼もまたデイバックから鋼鉄のブーメランを取り出した。

キンッ、という金属音と共に刀とブーメランが交差し、弾き合い、両者の剣の打ち合いが始まる。

(す...スゲェ!)

今まで、黒髪めだかと始めとする超人集団の戦いを幾度も見てきた。
だが、眼前の彼らの戦いは、凄まじい剣捌きを披露する煉獄も、それを片腕で捌ききる雅も、どちらも人外染みていた。
速さ、剣戟の鋭さ、力強さ、激しさ。
どれをとっても、箱庭学園の超人(もさ)共に勝るとも劣らず、善吉にとっては辛うじて目で追えるほどのものだった。

幾多も交わされる剣戟。
打ち合った数が数え切れなくなったところで、その均衡は崩れた。


304 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:38:31 8p9RZHBg0

ザッ。

煉獄の刀が雅の防御を掻い潜り、額を切りつけたのだ。

(―――浅い)

刃が届いたのは確かだが、薄皮を一枚切った程度だ。
煉獄は追撃の刃を振るおうとするが、しかし、雅は宙返りをしながら後方へと大きく跳躍し距離をとった。

「見事だ煉獄杏寿郎。私とここまでやりあえた者など数えるほどしかいないぞ。一層お前に興味が湧いてきた」

曲がりなりにも斬られたというのに、笑みが崩れぬ雅を観察する煉獄。
そして、彼は気がついた。雅の額の出血が、既に収まっていることに。

「そうか。きみもまた異形の者か。道理で血の匂いが染み付いているはずだ」
「如何にも。私は吸血鬼だ」
「吸血鬼?」

聞きなれない単語に煉獄は微かに眉を潜める―――が、それはどうでもいいことだ。
重要なのは、この男が人を脅かし、食らう悪鬼であることだ。

「...吸血鬼がなにかはわからないが、きみが人々を脅かす以上、俺のやることは変わらない」
「強がるな煉獄。お前もわかっているだろう、このまま戦い続ければ死ぬのはお前だとな」
「カッ、なに言ってやがる!さっき斬られたのはお前のほうじゃねーか!それに比べて煉獄さんはまだ傷一つ負ってねえ!」
「少年」

吼える善吉を諌めるように煉獄が呟いたのと同時、雅の腕の切断面が突如蠢き始めた。

「な、なんだ...ッ!」

善吉は思わず目を見張った。
先ほど切り落とされた腕の切断面同士を合わせた途端、肉片同士が蠢きあい、繋がったではないか。


305 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:38:54 8p9RZHBg0

「やはりきみも鬼のように再生するようだな」
「これでわかっただろう?お前がいくらその刀で私を斬りつけようが、こんなに簡単に戻ってしまう。お前ではこうはいくまい」

そう。いくら煉獄が強くとも、彼はあくまでも人間だ。
怪我を負えば動きは鈍るし、年をとれば剣術のキレもなくなっていく。手足が無くなればそれっきりだ。
実力がほとんど拮抗していれば、不利なのはやはり人間である煉獄である。

「煉獄よ。お前をここで死なせるのは惜しい。どうだ。私の僕にならないか?」

だからこそ雅は手を差し伸べる。
人の身でありながらここまで練り上げた強く有望な者を欲するが故に。
かつて、自分に土をつけた宮本篤にそうしたように。

「吸血鬼になれば、身体能力があがり、私ほどではないが、少々の怪我ならものともしなくなる。人間など及ばぬ更なる高みへ登りつめることができるのだぞ?」

雅の勧誘に、煉獄は目を細める。
疑っているわけではない。ただ、少し可笑しく思えたのだ。
こんな偶然があるものなのだなと。

「きみの前に戦った鬼にも似たようなことを言われたよ。鬼になれば更に強くなれる。自分のように強さを高め続けようと」
「ほう。それで貴様はなんと答えたのだ」

雅の問いに、煉獄は微笑む。
変わらぬ己の信念を突きつける為、微塵の揺らぎもなく、堂々と宣言する。
雅にも、そして自分が守る対象である善吉にも。


306 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:39:49 8p9RZHBg0

「俺は如何なる理由があろうとも鬼にはならない。今もこれからも、俺は俺の責務を全うするだけだ」

その凛とした煉獄の背中に、善吉は重ねずにはいられなかった。
今まで見てきたあの少女の背中を。ずっと傍で見続けてきた黒神めだかの背中を。

「それはつまり私の誘いを断ると言うのだな」

勧誘を蹴られた雅だが、しかしそこに怒りはない。むしろ、愉悦の笑みを浮かべている。

「いいぞ、そうでなければ面白くない。篤の時もそうだったが、望んでいない者を吸血鬼にする方が楽しめるというものだ」
「...やはり君と俺とは価値観が違うようだな。どうあっても仲間にはなれそうにない」
「お前が望もうが望むまいが変わらんさ。私の血は死体にも感染しその者を吸血鬼にする。つまり、死ねば私のものになるも同然というわけだ」
「なるほど、おいそれと死ぬ訳にもいかないな」

煉獄は静かに息を吸い、小さく吐きながら言葉を乗せた。

「竈門炭治郎」

乗せるのは、名前。

「竈門禰豆子、吾妻善逸、冨岡義勇、胡蝶しのぶ」

己が信を置く、鬼殺隊の同胞たちのもの。

「彼らは必ず力になってくれる筈だ。彼らを探せ。俺がこの男を食い止めているその間に」

煉獄が善吉に離れろというのはこれで二度目だ。
彼とて善吉を雅から守りきる自信が無いわけじゃない。
ただ、多くの鬼を葬ってきた猛者であるからこそわかるのだ。
先の殺り取りなど参考にならぬ雅の力の程を。
自分を殺した猗窩座ほどの派手さはないが、彼と同等かそれ以上の実力を雅が有していることに。


307 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:40:43 8p9RZHBg0

「...そうだな。あんたの言うとおり、あんたの仲間を探しに行くのが最良の選択って奴なんでしょうよ」

そして善吉もわかっている。
煉獄も雅も自分よりも格が上であり、且つ煉獄が必ず勝てるという保証もないことを。

だから、ここで善吉がこの場を離れるのは決して恥ずべきことではない。
善吉が煉獄の仲間を見つけここに戻ってくるまで煉獄が生きていれば、あるいは雅を倒していればそれでよし。
煉獄が倒されたとしても、善吉が深手も負わず味方と合流できればそれは煉獄の勝ちであるのだから。

「―――でも、断る」

だからこそ、善吉は一歩を踏み出し、煉獄の隣に並び立った。

「少年?」
「...俺の大好きな女の子のモットーがさ、『見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた』なんですよ。
俺は最初はそんなあいつが好きで、なんやかんや文句言いつつもカッコイイと思ってて、正しいと思ってた。
けど、情けないとこ見せてあいつに三行半つけられて、色んな奴らに助けてもらって、自分の気持ちに向き合ってようやくわかった。
俺はあいつに正しすぎる人間であって欲しくなかった。あいつという人間自身を蔑ろにしてほしくなかったんだ。...事の発端は俺にあるってのに」

キョトンとした表情で耳を傾ける煉獄に、善吉は照れ隠しのように頬を掻きながら話を続ける。

「あー...まあ、なにが言いたいかっていうと、『まだ赤の他人の俺を生かす為に死ぬ』ようなことをして欲しくないんですよ。
あんたにだってあんたのやりたいことが見つかるかもしれないんだから」

言っていて、善吉は恥ずかしさで頭を抱えそうになった。
偉そうなことばかり言って、自分は何様だ。善意で助太刀してくれた向こうからしてみれば、なんとも恩知らずな奴に見えてるんじゃないかと。

けれど逃げるわけにはいかなかった。
また自分が原因で、黒神めだかのような人間を増やしたくなかったからだ。

そんな善吉の言葉を聞いて、煉獄は微笑む。
ああ、彼は優しい少年なんだなと。
彼の方こそ、赤の他人を気遣って死地に残るというのだから。
だからこそ。優しい彼にこそ、言っておかねばならないことがある。


308 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:42:24 8p9RZHBg0

「...少年、名前は?」
「人吉善吉っス」
「人吉少年、俺を気遣ってくれたことは嬉しい。感謝する。だがそれは杞憂というものだ」
「え?」
「確かに俺の道は示されたものだ。俺が敬愛し誇りに想う人が授けてくれた使命だ。だが、もしもその使命が納得いかないものであれば俺は断っていたよ。
今の俺があるのは、俺が納得しこうありたいと願ったからだ。俺の信念は、生き方は、俺の心の炎が選んだものだよ。だから俺のことは気にするな。ここから早く離れるんだ」

善吉には、先ほどまではめだかと重なっていた煉獄の背中が、彼女よりも大きく映っていた。
煉獄はめだかとは違う。彼は、めだかのように人の為に生きるのが目的ではなく、そう在りたいと願っているから命を懸けて人の為に力を振るえるのだ。
なんという恥ずかしい勘違いをしてしまったものだ。
これまで散々イロモノ共に振り回されてきた善吉だが、自分はまだ青い学生だと思い知らされずにはいられなかった。

だからといって大人の意見を全て聞き入れられるわけでもないが。

「...俺の思い違いで侮辱してしまったのは謝ります。けど、そんなあんただからこそますます逃げ出すわけにはいかなくなった!」
「いや離れてくれ。怪物退治は鬼殺隊の生業だ」
「いいや離れませんね。怪物なら箱庭学園で大勢見てきましたし、なにより根性と頑固さが売りな俺を納得させる理屈には程遠いぜ」

煉獄を死なせたくない善吉と善吉を死なせたくない煉獄。
二人の願望は対立しており、煉獄が善吉を気絶させることもできない以上、共闘する他ない。

「きみが離れないなら、俺ときみ、どちらかが死んでも二人の負けを意味するのを覚悟しているのか」
「カッ、上等!自慢じゃねーが、俺は安心院さんから筋金入りのパートナー体質と太鼓判を押された男。俺が主役ならさっきの有様だが、あんたの引き立てにまわれば百人力だぜ。いやホント自慢できねーが」


309 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:42:59 8p9RZHBg0

共に並び戦闘体勢をとる二人を見て、雅は顔を曇らせる。

気に入らない。あの善吉という男がひどく気に入らない。

雅は人間が嫌いだ。

女や、煉獄や宮本明・篤のような猛者は別だが、大半の人間の存在自体が大嫌いだ。

弱く、醜く、愚かで、成長せず、その割には愛だの絆だのとくだらないものに現を抜かす。

本来なら奇人変人に好かれやすい善吉も、雅にとってはただの『普通』の『人間』にすぎない。

そんな『人間』がいるからこそ、強者たちは脚を引っ張られるハメになるのだ。

(煉獄よ。私にはお前がそいつを庇い敗北する未来しか見えんよ)

宮本篤が明が枷となり雅の血を浴びる嵌めになったように。婚約者の存在で雅への忠誠を誓わざるを得ない状況に陥ったように。

(煉獄、やはり貴様は吸血鬼になれ。そうすれば弱者に捉われることなく真に有能な部下になる)

雅が口元を隠すようにブーメランをかざす共に、善吉と煉獄の二人は口元を噤み眼光も鋭くなる。
直感したのだ。雅もまた先ほどまでのように遊び半分では戦わないと。

吸血鬼の長にして正真正銘の不死身の『怪物』。
誇りにいき、誇りを剣に乗せて振るう鬼殺隊の『柱』。
非凡に食らいつき続け、非凡な少女に恋する平凡な『人間』。

張り詰める空気の中―――地を蹴り、本当の戦いが始まった。


310 : 「俺のやることは変わらない」 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:44:37 8p9RZHBg0

【D-4/1日目・深夜】


【雅@彼岸島 48日後……】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス
[思考・状況]
基本方針:好きにやる。
0:面白そうな駒を勧誘し、最終的にBBと遊ぶ(殺しあう)
1:煉獄に強い興味。部下にしたい。
2:明と出会えれば遊ぶ。
[備考]
※参戦時期は精二を食べた後です。
※死体に血を捲いて復活させるのは制限により不可能ですが、雅はそのことに気がついていない可能性が高いです。


【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 日本刀@彼岸島
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:いまは人吉少年を守り、雅を倒す。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す
4:日輪刀が欲しい。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。


【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(中)、全身にダメージ(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:煉獄に協力し、雅をどうにかする。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。

[備考]
※参戦時期はめだかとの敵対後から後継者編完結までの間。
※欲視力(パラサイトシーイング)は制限されています


311 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/07(火) 13:45:07 8p9RZHBg0
投下終了です


312 : ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:22:58 uLX0gtF.0
投下します。


313 : ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:23:29 uLX0gtF.0
◆ ◆ ◆

 俺さぁ…… 昨日からずっと、考えてて…… それでも、わかんなくて……
 でも、さっき思った…… やっぱり、ミラーワールドなんか閉じたい……!
 戦いを、止めたいって…… きっと…… すげぇつらい思いしたり……
 させたり、すると思うけど…… それでも…… 止めたい……!
 それが…… 正しいかどうかじゃなくて…… 俺も、ライダーの1人として……
 叶えたい願いが、それなんだ……


「蓮…… お前はなるべく、生きろ……」


◆ ◆ ◆

 一体なにが起こっているのだろうか。と、城戸真司は思ってはみたものの、よくよく振り返るとライダーバトルも相当おかしなことだったなと思う。
 ミラーワールド、その世界から現われた怪物、そして仮面ライダー同士の戦い。無関係な人々も大勢巻き込まれた、悪夢としか表現しようがない状況。
 そんな状況であっても、最後には城戸真司も願いを見つけることが出来た。戦いを止めたいということを。

 最後。

 そう、最後なのである。城戸真司ですらその最後の瞬間を覚えているのだから、彼のろくに働かない脳味噌がさらに空回りしてしまうのだ。
 死ぬほど痛いことを味わって、辛いけれどなんとか蓮に告げて、力が抜けてそのまま目を閉じた。
 なぜか意識が戻ってきたと思えば、まず声が聞こえて、次はこの世の終わりのような雰囲気を醸し出した女が視界に映っていた。
 そいつはあの神崎士郎と似たようなことやれと指図してきて、挙げ句なにかサンプルを見せると言ったら女の子の首が吹き飛んで、最後に鞄だとかなんとかと口にしたと思ったら、でかい船の目の前にいて……
 理解が追いつかない。これは例えあのスーパー弁護士である北岡秀一や、自力でライダーシステムを解明した香川英行であっても、現状を把握できないだろう。
 ライダーバトルと似たようなことをしろ、ということは辛うじてわかる。
 しかしなぜ自分は五体満足なのだろうか? 死んだ後のことなど誰も知らないが、あの状況で自分が無事であったなどとは到底思えない。
 それなのに、致命傷を受けた場所には傷跡すら見つからない。
 奇跡なのか、それとも悪意なのか。わからない。もしかしたら、ここは考えてもしょうがないことなのだろうか。
 わかることは、自分は蘇って、再びライダーバトルのようなことをしろ。それ以外にはなにもない。
 だったら、今回もまた、やることは変わらない。

 戦いを止めたい。

 これが例えば北岡秀一であったなら、体を治してくれたお礼代わりに、あの神崎士郎に似た、この世の終わりみたいな雰囲気を醸し出した女の言うことに従っていたかも知れない(女の子を殺したことで弁護することを諦めるかも知れないが)。
 しかしながら、城戸真司はそうではないのだ。皮肉にも、再び願いを叶えるチャンスが来てしまったのだ。幸運にもあんな奴の言うことを真面目に聞かずとも、叶えられる願いを。
 だったら叶えるしかないだろう。


314 : 第五十一話 ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:24:05 uLX0gtF.0
 そうまとめた城戸真司は、この海岸沿いにあった、大きめの街灯で照らされているベンチに座り込んで、支給品の鞄とやらを漁る。
 真っ先に手に取ったのは地図。果たして現在位置がこんな紙切れで把握できるのかどうかと不安であったが、大きな船という目印があったため、簡単に判明できた。
 その次に取り出したのは飲食料。喉は渇いていない。腹も減っていない。しかし飲料水はともかく、食べ物はあまり美味しそうなものとは思えなかった。こんな状況で無ければ、自分で作りたいくらいものだ。
 さらに漁ると今度は名簿が出てきた。もしかしたら自分の両親や学生時代の友人、OREジャーナルのみんなが巻き込まれているかも知れない。そうしたら真っ先に助けにいきたい。
 確認してみる。運が良いことなのか、知らない人間ばかり。見知った名前は、唾棄すべき最悪な犯罪者、浅倉威の名前。そして、ライダーバトルを最初から最後まで一緒に行動した、秋山蓮の名前。

「蓮……」
 自然と彼の名前が口から漏れ出ていた。秋山蓮との関係性は、安易には振り返ることが出来ない。
 時には命を賭けて戦ったこともあった、共に戦ったこともある。時間にしたらたった一年間ほどの出来事。しかしそれでも、秋山蓮とすごした時間はかけがえのないものであった。
 だからこそ、不安であった。秋山蓮はライダーバトルに従おうとしたように、今回もまた、悩んでいるのではないかと。
 それだけは、それだけはやって欲しくなかった。秋山蓮にも叶えたい夢があった。自分のようなイメージ的なモノではない。恋人とまた一緒の時を過ごすという、明確なものが。それが秋山蓮の全てであった。
 改めてこういう状況に陥って城戸真司は考えてしまう。
 例えばあの最初に理不尽な目にあってしまった女の子。もし自分があの子の友人であったら? 家族であったら? 恋人であったら?
 おそらく、それは秋山蓮よりも激しく、願いを、奇跡を求めてしまうだろう。それがマッチポンプであったとしても。これもまた、答えの出ないことなのだろう。だから名簿を閉じることにした。
 また鞄漁りに戻ってみる。やはり出てきた武器らしきモノ。しかしながら、一体なにをどうやって使えばいいのか全くわからないものが出てきてしまった。一応、解説書らしきものが入ってはいるものの、読んだ所で疑問は増えるばかりだ。
 まさかライダーのデッキより意味不明なものが入っているとは。手に持って移動するのにも不便であるから、再び鞄の中に戻すしかない。これの詳しい使い方を知っている人間と、出会ってみたいものだ。
 こうして、城戸真司は現状把握をひとまず完了した。戦う手段は実に冴えない。仲間もいない。それでも、城戸真司はやるしかない。
 立ち上がってから、さてどちらの方角へ行くかと悩む。あの船の中に入るのも良いかもしれない。それとも人がいそうな場所に行くべきか。あるいは明るくなってから行動すべきか? いや、時間は惜しい。こうしている内に、浅倉威のようなのが、殺し回っているかも知れない。


315 : 第五十一話 ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:24:51 uLX0gtF.0
 城戸真司がどちらの方向へ移動するか迷っている時、その人物は現れた。
 ライダーバトルを経験したことによって、感覚が鋭くなったのだろうか。それ以前であれば気がつかなかっただろう。闇夜の空間から、黒に包まれた男が城戸真司に近づいてくる。
 その姿を、城戸真司はもちろん知っている。そしてこちらに向かってくる男も、また城戸真司を知っている。

「蓮……?」

 この日二度目の発言が、同じ内容であったのは偶然か。それとも、ライダー同士は惹かれ合う運命からか。
 城戸真司の目の前に、秋山蓮が現れた。コートをなびかせ、城戸真司の方へ向かって歩いているその雰囲気は、幾度となく見た光景である。
 そうして秋山蓮は、街灯の光が所までやってきた。顔は変わらない。見知った姿である。しかし城戸真司の緊張感は説かれない。なぜなら秋山蓮なのだから。
 こんな場所でも、やはり戦わなければならないのか。
 すっと、秋山蓮はコートのポケットからあるモノを、城戸真司に見せつけるように取り出していた。

「デッキ……」
 それは見慣れたくなくても、見慣れてしまったモノ。
 ライダーバトルを行うために、あの神崎士郎から渡されたモノ。
 カードデッキだ。それも、よりにもよって城戸真司が使っていた、龍騎のデッキ。
 やはり秋山蓮はまたしても願いのために戦ってしまうのか。果たしてあの理解しがたい武器で、仮面ライダー相手に立ち回れるのか。無理だろうが、やるしかない。
 城戸真司は鞄を前に回して、秋山蓮の変身に備える。光源強い海岸の街灯、そのガラスには二人の姿を映し出していた。
 
 秋山蓮は、持っていたカードデッキを、まるでフリスビーのように、城戸真司に投げつけてきた。

「は?」
 あまりにも予想外の行動に、城戸真司は唖然としながらも、投げつけられたカードデッキを慌ただしくも落とさずに掴むことが出来た。
 これはなんだいったい。

「じゃあな」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやちょちょちょちょちょちょちょちょっと!?」
 ようやく秋山蓮が口を開いたと思ったら、その一言だけを告げて城戸真司に背中を向けた。もちろん、それで納得できるはずがない城戸真司は、鞄とカードデッキをしっかりと握りながら、秋山蓮の前に立ち塞がった。

「蓮? 蓮だよな? 本当に蓮だよな? 蓮? 蓮。 蓮だ!」
 ご主人様が帰ってきて興奮するような犬のように、肩やら腕やらを触っていく城戸真司。
「何度も言わなくても聞こえている。あと勝手に触るな」
「蓮だ…… 蓮だよ! 蓮だ! うわあ! 蓮だ!!」
「やかましい」
 流石の秋山蓮の表情も面倒くさそうな顔になっていく。そんなこともお構いなしにはしゃぐ城戸真司。


316 : 第五十一話 ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:25:13 uLX0gtF.0
「あ、そうだ! 蓮 !これ、どういうことだよ!」
 蓮という言葉を幾度となく繰り返した後、やっと城戸真司は今の事柄にたいして蓮に問いただした。
 これとはもちろんカードデッキのことである。なぜこれを持っているのかはだいたいわかる。しかしなぜこれを渡してきたのか、それがわからない。

「それはお前のモノだろ」
「あ、お、おう」
 秋山蓮は冷静にその理由を教えたのだから、城戸真司も一瞬納得してしまった。が、やはりこれはおかしい。

「いや、そうじゃなくて、蓮に渡されたモノなんだから、やっぱり蓮が持っておくべきなんじゃないか?」
「そうかもな。だがこれはお前のだ」
「そうかもなって…… この場所に浅倉だっているんだぞ! それに浅倉以外にも…… 危ない奴だっているかもしれないし……」
 その危ない連中の一人に、秋山蓮を含んでいたことを城戸真司は少しだけ恥じてか、声がどんどんと小さくなっていった。城戸真司が押し黙ってしまっているのを見ても、秋山蓮は平然としていた。その姿には余裕があった
「蓮。お前は、どうなんだ」
 だからこそ、蓮の顔を見て、城戸真司は秋山蓮に改めて問いただした。今回もまた願いのために、奇跡のために戦おうとするのか。
「……フッ」
 そんな深刻な表情の城戸真司を見て、秋山蓮は小馬鹿にするように鼻で笑っていた。城戸真司はそうされても表情は変えられない。
「やっぱりお前は馬鹿だな」
「ば、馬鹿ってなんだよ馬鹿って!」
 こんな夜には相応しくないほどに、秋山蓮は笑顔を浮かべていた。それを見て城戸真司も抗議をしながらも、その表情は柔らかかった。
「俺がこの殺し合いに乗っていたら、お前にそれを渡すわけがないだろ」
「そうだけど…… いやだからそれがおかしいんだって!」
 結局、話は元に戻っていった。それがおかしいから、城戸真司の表情は豊かになっているのだ。
 どうせここでお前のモノだからと返答した所で堂々巡りだろう。秋山蓮は少しだけ間を空けて、口を開いた。
「そうだな……、お前に借りを作りたくないから、とかでいいだろう」
「借りって、こんな状況で借りるもなにも……」
「なら、お前のがすぐに見つかった、ってことは俺のも簡単に見つかるかも知れない」
「ああ〜。確かにライダー同士は惹かれ合うもんなあ…… って、そんなの無茶苦茶じゃんか! やっぱりこれは蓮が持っておくべきだって! 大丈夫だから、俺の鞄にもなんだかよくわからない武器入ってたから!」
 やっぱり納得できない。秋山蓮がここまでしてこのカードデッキを渡したい理由が城戸真司にはわからない。


317 : 第五十一話 ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:25:39 uLX0gtF.0
「蓮。お前はなるべく。生きろ」
「え……?」
 カードデッキを押し付けようとした城戸真司の動きが、止まった。
 それは、自分が言った覚えのある言葉。それを秋山蓮が口にした。

「俺はもう願いを叶えた」
 秋山蓮の独白を、城戸真司は黙って聞く。蓮の彼女、小川恵理は助かったのだろう。だから、蓮はこんなにも堂々としていたのか。
「だから、今の俺には、お前の夢に付き合う余裕がある」
「俺の…… 願い……」
「そうだ、城戸。お前の願いだ」

 何故ライダーバトルをやるのか、なんのために戦うのか。その答えは、最後の最後で見つけることが出来た。
 それを知っている人間は、この世に二人しかいない。自分自身と、秋山蓮の二人だけ。

「だがな、城戸。今回は前のようには行かんぞ」
 言葉を繋げる秋山蓮。黙って聞き入れる城戸真司。
「ここはモンスターだけじゃない。浅倉に似たような奴が何人もいるかもしれん」
「……」
「あるいは、お前と会わなかったような『俺』が、確実にいるだろう。あの殺された子どもの家族や知り合いはそうなっていてもおかしくない」
 自分の欲望のために大勢を巻き込むようなことをする人間。何かに取り憑かれたように生きるような人間。そういった人間達は、間違いなく戦うだろう。
 今にして思えば、ライダー同士の決着で済ませていた神崎士郎は、まだましなのかもしれない。
「そいつらは俺とは違って、お前の話に一切耳を傾けないかもしれない。そうなった時、お前は生身で対抗できるか? 殺しにかかってくる人間を相手に出来るのか?」
「それは……」
「少なくとも、それがあれば戦って追い払うことは出来る。誰かを守ることも出来るだろう。だけどな、だからこそ俺はお前と一緒に行動する気は無かった。お前は何度も俺に殺しはやめろと言っていた。だけど、今回ばかりは不可能だ」
「っ……」
 唇を噛みしめるのは城戸真司。そうだ。今回ばかりはそうは言ってられない。ライダーバトルと似たようなモノであっても、これはライダーバトルではないのだ。
「お前には出来るか? 人を殺すことを」
 秋山蓮は城戸真司の相貌を見つめる。まるで、心の奥底を覗き込むように。
「俺は……」
 だから、城戸真司が返答にかける時間は短い。
「俺は…… 俺には多分、出来ないと思う」
「……、そうか」
「だけど…… それをしないとこの戦いを止められないのなら…… 俺が躊躇って、あの女の子のような犠牲者を出すことになるのなら…… 俺は…… やらなきゃいけないんだと思う」
「それがあの女の子の知り合いであってもか」
「出来れば…… 出来ることなら止めたい。あの子は絶対にそんなことは望んでいないって伝えたい。だけど、それが出来ないなら……」
 戦わなければならないのだろう。
 城戸真司はそれを口に出すことはやはり出来なかった。浅倉やモンスターのような人の死をなんとも思ってもいない存在以外と戦わなければならないのは、自分は出来ないのだろう。
 やはり、甘いだろうか。自分自身が少し嫌になってくる。


318 : 第五十一話 ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:26:29 uLX0gtF.0
「それでいい。それでこそお前だ」
「えっ……?」
 だがしかし、秋山蓮は否定はしなかった。それどころか城戸真司を肯定している。
「ここでお前が戦うとか殺すとか言っていたら、俺は間違いなく『こいつ』を使ってまたお前を後ろから斬りつけていた」
「……うえっ!?」
 緊張感の塊であった空間が弛緩した。秋山蓮がもう一度ポケットに手を入れた先から出てきたモノがそうさせたのだ。
「ななナナナ、ええっ!? えええ!? それお前のデッキじゃんか!?」
「そうだ。だからお前のデッキが無くても戦える」
「そ、そんなのありかよ!? てかなんだよ俺の鞄には意味わからないモノしか入ってなかったのに、なんで蓮の鞄には二つもデッキが入っているんだよ!?」
「さあな。日頃の行いの差じゃないか?」
 結局、城戸真司は最初から秋山蓮に遊ばれていたということなのだろう。文句を言おうにも、デッキが二つ支給されてないとは誰も言ってはいないし、書いてもいない。城戸真司が勝手にそう思っていただけである。
「だけどな城戸。死んだ人間を蘇らせるようなのが相手だ。これくらいのことが無きゃ、到底お前の願いは叶えられんぞ」
「あー、ああ…… だよなあ。はあ…… 蓮以外全部浅倉かモンスターだったりしないかなあ……」
「それは無いだろう。だいたい浅倉が二人もいるのは考えたくない」
「だよなあ…… はあ…… どーすりゃ良いんだよ……」
「らしくないな、お前も俺も一度死んだ身なんだから、もう少し気楽に考えれば良い」
「まあ、そうなんだろうけども…… って、はあ!? 蓮も死んだの!?」
「たぶんな。だが恵理が無事なら、俺はそれでいい」
「いやいやいやいや…… 駄目でしょ。絶対駄目でしょ。帰らなきゃ。絶対帰らなきゃ駄目だって。てかやっぱり俺死んだんだ…… そうか…… まじか…… まじかあ……」
 まさか蓮も死んだとは思ってもいなかった。というか実際自分自身がやっぱり死んでいたということを聞かされると、どう反応していいのか困る。改めて死んで生き返るということが理解不能なことである。
「ほんと、なんなんだろうなあここ……」
 城戸真司は最早ギブアップ寸前である。何をするべきなのか、何が正しいことなのか、死ぬ前に決めたことを全て無に帰す、死んだ後の世界。もしかしたらこの場所には死んだ人間しかいないのだろうか。それすらもわからない。
「さあな。まあここがなんであれ、俺たちはまた戦うしかない」
 これを持っている限りはな、そう言ってから秋山蓮はカードデッキを構える。秋山蓮に合わせるかのように、城戸真司も龍騎のデッキを構えてみる。鏡面があれば変身が出来るだろう。
しかし今はする必要性が全くない。だから秋山蓮は構えをやめて、カードデッキをしまう。
「……しゃあ!」
 城戸真司は、吠えた。吠えるしか無かった。これ以上へこたれていても仕方のないことであったから。そうして固くカードデッキを握った後にしまう。
「なんどライダーバトルをやることになっても、俺は変えない。今度こそは、絶対に戦いを止めてみせる!」
 その城戸真司の姿は、正義に満ちていた。
「だからさ、蓮。少しだけ、手伝ってくれないかな……?」
 秋山蓮の表情もまた、満ち足りていたものになっていた。
「言っただろ。俺にはお前の夢に付き合う余裕がある」
「そっか。……ありがとな」
「礼が早いな。全てが終わってからでいい」
 
 城戸真司は最後まで自分を貫いた。故に最後の最後で願いを見つけることが出来た。
 秋山蓮は最後に向かうまでに変わっていった。故に願いを叶えることが出来た。
 だから、城戸真司は戦いを止めようとする。それが変わらぬ願いであったから。
 だから、秋山蓮はそんな城戸真司に付き合うことにする。それが変化してきた理由だから。
 死んだ人間は蘇らない。現実的にはこの運命が起こりるはずはなかった。しかしながら、起きてしまった。天国でも地獄でもない空間で。
 城戸真司は思う。本当に戦いを止めることが出来るのか。わからない。だけど、やるしかない。
 秋山蓮は思う。本当に城戸真司に付き合うべきなのか。わからない。だけど、それを拒む理由も無い。


319 : 第五十一話 ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:27:32 uLX0gtF.0


「そういえばさあ、蓮、ちょっとこれ見てよこれ」
「……なんだこりゃあ、すごいな……」
「ほんとにさあ、なんで蓮にはデッキが二つで、俺はこれなんだよ〜!」
「ま、日頃の行いの差だろうな」

 二人は和やかな雰囲気で歩く。とりあえず誰かしらと合流しなければ。珍しく意見が一致したのだから、会話が進むのも当然であろう。


 こうして二人の物語は続いていく。
 ここは終わらなかった世界だろうか。それとも終わった後の世界なのだろうか。
 ただ、どんな世界であろうとも、動き出した物語は、終わりが来るまで、終わらない。

 第五十二話へ続く……

【F-7/南端/1日目・深夜】
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[状態]:健康 
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、、不明支給品1(本人確認済み、武器)龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎。
[思考・状況]
基本方針:今度こそ願いを叶える。
1.戦いを止める。
[備考]
※秋山蓮に生きろと告げて目を閉じた後からの参戦です。

【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式 ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎。
[思考・状況]
基本方針:城戸真司の願いに付き合う。
1.戦いを止める。
[備考]
※最終話、病室で目を閉じた後からの参戦です。

【支給品紹介】
・龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎。
 仮面ライダー龍騎に変身できるデッキ。
詳細は多ジャンルロワ((h ttps://www44.atwiki.jp/tarowa))とかライダーロワ((h ttps://www65.atwiki.jp/sentairowa/pages/1.html))とかロワロワ((h ttps://www43.atwiki.jp/rowarowa/))とかでもたくさん書かれているので省略。

・ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎。
 仮面ライダーナイトに変身できるデッキ。
以下同文。


320 : ◆reiwaHv0O6 :2019/05/07(火) 16:27:51 uLX0gtF.0
投下終了です。


321 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/07(火) 18:39:49 xEU9Oobc0
白銀御行、メルトリリス、藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオ予約します


322 : ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:19:43 ECBRFVxE0
投下します。


323 : わずかな未練だけが不意に来る ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:20:13 ECBRFVxE0

鬼滅隊が一人、"蟲柱"胡蝶しのぶは暗い夜道を駆けていた。
明かりの殆どない夜道だと言うのに、その足取りは迷いがなく、そして疾い。
そんな彼女の脳裏に浮かぶのは、先程の惨劇だ。

あの少女は死の直前まで、自分の置かれた状況を理解していなかった。
そんな幼気な少女の命を、あの"びぃびぃ"という女は奪ったのだ。
映像越しだったため、"びぃびぃ"が鬼なのかどうかはわからない。
――だが命を踏みにじる悪鬼の類であることは間違いない。
内から湧き出る怒りを糧に、胡蝶しのぶは思考を回す。
その思考が向けられる先は、持たされた鞄の中に入っていた名簿らしきものについて。

まずしのぶが考えるのはそこに乗っていたあるはずのない名前についてだ。
――煉獄杏寿郎。
しのぶと同じ鬼殺隊の柱の一人で炎柱だった男の名前。
……そう、"だった"。
彼女の知る杏寿郎は任務中に襲撃してきた上弦の鬼と戦闘の末、列車内の乗客、そして一般隊士三名全てを守りきるも命を落としている。
そして遺体は鬼滅隊が回収したため、鬼になった可能性もない。

"死者は蘇らない"。
それは太陽が東の空から昇るように絶対的な法則であり、それが覆ることはありえない。あってはならない。
……そんなことは誰だって、とりわけ鬼殺隊隊士なら痛いほどにわかっている。

「――ッ!」

唇を噛み、一瞬脳裏に浮かんだ姉の面影を振り払う。
炎柱のことは、考えても仕方がないのでひとまず置いておく。
それよりも名簿には、もっと重要な名前が載っていた。


324 : わずかな未練だけが不意に来る ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:21:36 ECBRFVxE0
――鬼舞辻無惨。

始まりの鬼にして鬼殺隊の宿敵。
究極的に言えば鬼殺隊は彼を殺すために何百年も存続してきた組織とも言える。
しかしそんな執念じみた鬼殺隊の組織力を持ってしても、長年その所在すらつかめなかったのだ。
だから普段ならば戯言を、と切り捨てていただろう。
だがしのぶたちをこともなげに拉致し、空中に幻影を投影するなど、"びぃびぃ"はしのぶの常識を超えた力を持っている。
ならば本当に無惨もここにいるのかもしれない。

――だとしたら、これは鬼舞辻無惨を討つ千載一遇の好機。

そう、しのぶは考えた。
だが、

(……だとしても戦力が足りませんね)

鬼を統べる以上、その実力は相当なものだろう。
故に鬼舞辻無惨に立ち向かうために必要な条件は最低二つ。

一つ、他の鬼殺隊隊士との合流。
一つ、自身の日輪刀の入手。

名簿に乗っていた炎柱以外の鬼殺隊隊士の名前は3つ。
竈門炭治郎、吾妻善逸、冨岡義勇。そこに炭治郎の妹・禰豆子も入れれば四人だ。
この中で一番優先して合流するべき人物を考えたとき、しのぶの脳裏に浮かんだのは無愛想な男の顔だった。

――"水柱"冨岡義勇。
実力は同じ柱の中でも指折りなのだが、とにかく天然で言葉が足りない。
他人と接触すれば高確率で誤解を招き、余計ないざこざを生むだろう。
疑心暗鬼に陥る人が多いであろうこの場所ではなおさらだ。

……そしてもう一つの問題にもこの男が関わってくる。
しのぶたち鬼殺の剣士が実力を発揮するためには、専用の日輪刀が必要だ。
だがここに連れてこられる際に没収されたのか、しのぶの手にそれはない。
代わりに刀身が青く無骨な作りの刀が持たされている。
……そう、幾度となく見たことのある冨岡義勇の日輪刀である。

「……なんでこんな場所まで来て、あの人に振り回されなきゃいけないんでしょうね……?」

そんなぶつけどころのない苛立ちを感じつつ、闇夜をひた走った彼女がたどり着いたのはとある街だった。


325 : わずかな未練だけが不意に来る ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:22:31 ECBRFVxE0


――そこは、何とも奇妙な街だった。
基本的な作りはしのぶの知る都会の町並みによく似ている。
だがガス灯は妙に明るい白い光を放っているし、それに照らされる道路に至っては黒い何かで塗りつぶされている。
それは立ち並ぶ家々も同様で、似てはいるが建材などが微妙に異なる奇妙な建物ばかりだ。
そんな奇怪な街の中、ある建物から音と光が漏れていることに気づいたしのぶは足音を殺し、警戒しながら建物の中を覗き込む。
その建物は他の建物と違い、壁が金属板で作られており、土間のように床がない。
中はよくわからない鉄の塊で溢れかえっており、おそらく何らかの倉庫なのだろう、と当たりをつける。

(それにこれは――油の匂い……ですか)

明かりに使う油とは違う、独特の臭みに顔をしかめる。
その臭いの中心に一人の青年がいた。
気配からして人間のようだが、何かよくわからない鉄の固まりを前に作業をしているようだ。

「あの――すみません」

しのぶの言葉に振り返った青年は自分よりも少し年上ぐらいか。
だが端正な顔に浮かぶ表情は、友好的なものではない。
怒っているわけではないだろうが、どこか不機嫌ともとれる表情を向けている。

「……なんだお前」
「はじめまして、胡蝶しのぶと申します」

いきなり投げかけられた不躾な言葉にも、しのぶは満面の笑みで返す。
この程度の無礼は同僚相手で慣れている。
……ええ、ええ、慣れていますとも。

「貴方もここに連れてこられたのでしょう? 少しお話を聞かせてもらっても良いですか?」

無害であることを訴えかけつつ、青年を観察する。
上下黒の奇妙な服装だが、立ち姿から何らかの戦闘術を身に着けていることがわかる。
安全な距離を確保したまま、しのぶは言葉を続ける。

「まず確認させてもらいたいのですが、あなたはあの"びぃびぃ"とやらの口車に乗った口で?」

青年の眉間に刻まれたしわがより一層深くなる。

「なるほど。このくだらない企みに乗っていないようで安心しました」
「……だったらどうだってんだ」
「いえ、もしそうであれば……あなたを動けなくしなければならないところでしたので」

人を捕らえ、罰するのは鬼殺隊の仕事ではない。
しかし無法であるこの地においては、少なくとも動けなくするぐらいはやらねばならないだろう。


326 : わずかな未練だけが不意に来る ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:22:57 ECBRFVxE0

「……てめぇにそれができんのかよ」

だがその言葉は目の前の青年の何かに触れたようで、ゆっくりと拳を構える。
対するしのぶも挑発的に口の端を釣り上げ、刀に手をかける。
自身の日輪刀がないとは言え、その鬼殺の剣士は常人を遥かに超える身体能力を持っている。
体格で遥かに勝る男相手だとしても負けるつもりは毛頭ない。
二つの視線が正面からぶつかり合い、倉庫の中の空気が一気に張り詰める。
だが青年は一度構えた拳を、ゆっくりと下げ、構えを解いた。

「おや、やらないんですか? 私は一向に構いませんが……」
「……女相手に振るう拳はねぇ」
「――それはあの"びぃびぃ"とかいう輩に対してもですか?」

しのぶは笑顔を絶やさぬまま問いかける。

「おそらくはあの女が諸悪の根源でしょう。
 それを目の前にしてもその無意味な矜持を持ち続けるので?」

しのぶの挑発じみた言葉に、一度緩みかけた空気が再び張り詰める。

「……てめぇには関係ねえだろ」

だが青年は拳を構えることなく、しのぶに背を向けた。
そこにあるのは拒絶であり断絶。関わりを断とうとする意志だ。
しのぶのほうもため息を付き、これ以上の会話は無理だと判断し、背を向けようとした。
――だからその言葉を投げかけたのは、返答を期待してのことではなった。

「ああ――後もう一つ聞いておきたいのですが……貴方は、死人が生き返るということがあると思いますか?」

だが、その言葉に青年は、再び振り返った。

「……ええ、おかしな話で名簿とやらに、死んだ知人の名が記されていたのです。
 普通ならそんなことはありえませんが、あの女は『何でも願いを叶える』と豪語した。
 更には私も貴方もいつの間にかここに連れられてきた。
 そんな超常の力があるならば、もしかして……そう、考えたりはしませんでしたか?」

これは何の意味のない問いかけだ。
彼が企みに乗ってないことはわかりきっていることなのだから。
それでもそんな問いかけをしてしまったのは、振り返った青年の表情を見てしまったからだ。
何かが欠けてしまった、そんな表情を。


327 : わずかな未練だけが不意に来る ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:23:23 ECBRFVxE0
倉庫に再び沈黙が落ちる。
だがその沈黙は先程のようにピリピリとしたものではなく、どこか重く、深く、静かなものだった。

「……死んだやつが生き返ることはない。……だから残されたやつは……強く、強く生きなきゃならねえんだ」

言葉の端々に滲む、後悔と悲しみの色。
それを聞いてしのぶは、ああ、と納得する。
この青年もかつて眼の前で大切な誰を失ったのだ。
――そう、かつての自分のように。

「……試すような物言いをしてすみませんでした。どうやら私もあの女の毒気に当てられていたみたいです」

深々と頭を下げる。
相手の態度が多少悪かったからと言って、挑発して怒らせるなど悪手もいいところだ。
どうやら想定以上に自分も混乱していたらしい。これではあの同僚のことを笑えない。

「……いや、いい。こっちも悪かった」

その素直な態度に毒気を抜かれたのか、青年も素直に返答する。

「ありがとうございます。それで提案なのですが……暫くの間、行動を共にしませんか?
 その方が色々と都合もいいでしょうし、互いに話すことで気づくこともあるでしょう」

――それに鬼と遭遇したならば鬼殺隊として守らねばなりませんし。

最後の言葉は飲み込み、普段どおりの笑顔でしのぶは提案する。
その提案に対し、青年は少し考えて、そして鉄の塊にまたがった。

「……乗れ」
「はあ……?」
「いいからバイクの後ろに乗れって言ってんだ」

首を傾げながらとりあえず言われたままに"ばいく"と呼ばれた鉄の塊に跨る。

「歩くよりこっちのほうが速いだろ」
「あの、あなた一体何を――」

しのぶの言葉を遮ったのは、自分が跨る鉄の塊から放たれた爆音と振動だった。

「――しっかり捕まってろよ」

そして次の瞬間、しのぶが感じたのは自分の意志と関係なく景色が後ろへ飛んでいく感覚だった。

「――ッ!?」

かろうじて小娘のような悲鳴をあげるのだけは避けた。
だが未知の感覚に混乱したしのぶは、青年の服を握りしめるしかなかった。
こうして二人を載せたバイクは、爆音を上げながら闇夜の中に走り出していった。

【D-7・町中/1日目・深夜】
【雨宮広斗@HiGH&LOW】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、シャドウスラッシャー400
[思考・状況]
基本方針:???
1:???
[備考]
※少なくともREDRAIN後からの参戦です。

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[状態]:健康。やや混乱
[装備]:冨岡義勇の日輪刀
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:鬼殺隊の同僚と合流する。
1:!?!?!?
2:自分の日輪刀を探す
[備考]
※9巻以降からの参戦

シャドウスラッシャー400@仮面ライダー龍騎
秋山蓮が日常的に乗り回していたバイク。
かっこいい名前だが単なる一般販売されているバイクである。
カスタムハーレーを乗りこなす広斗にはちょっと物足りないかもしれない。


義勇の日輪刀@鬼滅の刃
冨岡義勇の日輪刀。
柱の証である"悪鬼滅殺"の文字が刻まれている。


328 : わずかな未練だけが不意に来る ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:23:52 ECBRFVxE0


「広斗ォ!? しかも女連れ!? ちょっと待てお前! あ、くそ速っ! いやこっちに気づけって! おい! おーい!」







【D-7・町中/1日目・深夜】
【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:不明
1:広斗!?
2:しかも女連れ!?
3:つーか俺のバイクどこ!!?
[備考]
※残念ながら二人(雨宮広斗、胡蝶しのぶ)には気づかれていません。


329 : ◆HQRzDweJVY :2019/05/07(火) 22:24:55 ECBRFVxE0
投下を終了です。


330 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/07(火) 23:06:49 lhatV.vM0
投下乙です!
こちらも
千翼、吾妻善逸、中野五月、鑢七実、皇城ジウ、鷹山仁
予約します


331 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/07(火) 23:08:23 IwpB8IhQ0
投下乙です!
私も投下します


332 : 光り無し ◆2lsK9hNTNE :2019/05/07(火) 23:08:52 IwpB8IhQ0
 眼前に広がる海は、真後ろの灯台によって照らされていた。
 眺めるは左腕無き隻腕の男、犬養幻之介。豊臣軍最強と名高い御馬廻七頭七手組の武士である。
 彼の生きる元和元年には、これほどに強く大きな人口的な明かりは存在しない。いったいどのようにすればこれほどの明かりを生み出せるのか、幻之助には見当もつかない。
 だが、足りぬと思った。
 もっと海を照らせと、もっと海を見せろと。
 どんな身分の者も等しき価値の命を持つ地、ニライカナイ。その実在を信じさせてくれたあの日のような狂おしく蒼い海をもっとよく見せてくれと。

(俺には過ぎた景色だということか、そんなものは)

 幻之助はあの海を共に見た男を、こんな己を友を定めてくれた男を。主君の犬へと貶めた。
 それは男を救うためではあったが、そのせいで男は屈辱と苦しみに満ちた日々を過ごした後に、惨たらしい死を迎えることとなった。
 そんなお前がニライカナイを夢見るなどおこがましいと。ここで意味も志も何もない殺戮に興じ、あの女の慰みとなるのがお似合いだと、そういうことか。
 だとしたなら受け入れよう。己はそうなるに相応しいことをやったのだ。しかし、

(タケル……)

 幻之助を友と定めてくれた男、心に身分という檻を持たぬ男。幻之助が犬へと貶めた男。
 名簿にはその名も記されていた。優勝すれば死者の蘇生すら叶う。このタケルはあのタケルが甦ったのだと。幻之助は不思議と確信していた。あるいはそう思いたかっただけかもしれない。だが幻之助は己の確信を信じた。

(タケルッ……)

 己は良い。だがなぜタケルまでいるのか。
 あんまりではないか。犬として飼われ、獣との殺し合いを見世物にされ、男共の下らぬ競い合いの道具とされ、全身を引きちぎられて死んだタケルがなぜ、生き返ってまでなおその生命を弄ばれねばならないのか。

(タケルッ……!)

 ここで朽ち果てようとも、地獄を見せられようとも己は構わない。だがタケルが死ぬなど二度とあってはならならぬことだ。

(ならば俺がタケルを生かそう)

 幻之助はリュックから支給品を取り出した。カードデッキという名のそれを、己が姿を映す水面へと突き出す。幻之助の腰にベルトが現れた。

「変身」

 バックルについた挿入口にカードデッキを入れる。
 一瞬に内に幻之助の全身が黒き鎧に覆われた。鎧の名をオルタナティブ・ゼロ。かつてある男が、鏡の中に住まう化物や、それを操る者たちと戦うために生み出した人工の力。
 幻之助はバックルに収まったデッキからカードを引き、頭上へと投げる。そして右腕を天へと伸ばした。落ちるカードは右腕についたカードリーダーの中を通る。

『ソードベント』

 機械の声が響き、幻之助の腕には剣が握られた。剣といっても刃があるのは先端の三割程、それ以外の部分は左右に棘の生えた鈍器という方が近い。
 幻之助はそれを振り向きざまに灯台へと叩きつけた。

「きやああああああああああ!!!!」

 横一閃。灯台下部が一瞬にして砕け散り、残った上部が達磨落としのようの落ち、倒れる。
 地面に激突してバラバラに砕け転がり、その灯りは黒き海の中へと飲まれていった。

『ニライカナイ?』
『くぬ海ん彼方にある、王も奴婢も命ぬ値打ちが等しい国さ。ゲンノスキありえなーとか思ってるば』
『まるでお伽噺だが、この狂おしく蒼い海を眺めているとなぜか真実(まこと)に思えてくる』

 あの日、幻之助は確かに実在を夢想した。だがもうよい。ニライカナイにゆけずともよい。

(我が命はここで散よう。だがタケル、主は生きてニライカナイへゆけ)

 
 



【A-8・崖上/1日目・深夜】
【犬養幻之助@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:オルタナティブ・ゼロのカードデッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:タケルを生かす。
1.殺す。
[備考]
※タケル死亡後、豊臣秀頼たちの前に行く前からの参戦。


333 : 光り無し ◆2lsK9hNTNE :2019/05/07(火) 23:09:15 IwpB8IhQ0
短いですが投下終了です


334 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/07(火) 23:36:04 IwpB8IhQ0
すいません、支給品紹介を書くの忘れてました。


【オルタナティブ・ゼロのカードデッキ@仮面ライダー龍騎】
反射するものにかざすことでオルタナティブ・ゼロに変身できる
デッキの中のカードを使うことで様々な効果を発揮する。
[オルタナティブ・ゼローの能力]
【召喚機スラッシュバイザー】
右腕に装着されているカードリーダー状の装身具型召喚機。スリット部分にカードのコードを通すことでそのカードの能力を使える。カードは使用後に青い炎を上げて消滅する。

[所有カード]
[アドベントカード]

 オルタナティブ・ゼロの力の元であるモンスター、サイコローグを召喚する。

【サイコローグ】
コオロギ型の二足歩行モンスター。素早い動きと高い跳躍力を誇り、超硬質の金属アーメタルでできた顔面のサイコプレートの穴からミサイル弾を放つ。

[ソードベント]
スラッシュダガーという大型剣を召喚される。超振動波を発して触れる物全てを粉砕する剣として用いるほか、青い炎状の破壊エネルギーを放って相手を攻撃する。

[アクセルベント]
一時的に超加速して攻撃する特殊カード。

[ホイールベント]
サイコローグをサイコローダーというバイクに変形させる。

[ファイナルベント]
サイコローダーに搭乗し、コマのように高速回転しながら相手に突撃する。オルタナティブ・ゼロの必殺技で技名はデッドエンド


あとオルタナティブ・ゼロのカードをスライドさせる向き、本当は逆なんですが、隻腕の幻之助ように調整されたってことで多めに見てください。


335 : ◆HH8lFDSMqU :2019/05/08(水) 19:52:35 YbvYFmQE0
雨宮雅貴、予約・投下します


336 : Louder ◆HH8lFDSMqU :2019/05/08(水) 19:53:52 YbvYFmQE0

 雨宮雅貴は結局、弟・広斗と見知らぬ女とバイクを見失った。
 
「……お兄ちゃん、こんな場所でも邪険に扱われちまったよ……」

 雨宮雅貴。職業・運び屋。
 安心じゃないし、安全じゃない。
 しかし、必ず荷物は届ける。運送料はむっちゃ高いけどな!

 この場において彼が一番に優先したのが弟・広斗の合流。
 二人揃えば、全盛期の伝説のチームMUGENとも互角に渡り合える。
 
 そして、今しがた広斗を見つけたのだがバイクでどこかに走り去ってしまった。
 広斗が兄である雅貴の存在に気付いてたのかどうか分からない。
 ……そういえば、前にもこんなことがあったな、と少しばかり思った。
 その時も自身にはある事情でバイクはなかった。

 そして、今手元にあるのは……


「カップ麺! それも1ケース分も!」


 某有名企業の某商品。
 それも期間限定の商品だった。
 前に兄弟二人でとある教会に運んだこともあるシロモノだ。
 その時の運送料も中々に良かったのだ。


 あの日は確か大雪だった。


 雨宮雅貴は雨が嫌いだ。
 いつだってつらい思い出は雨の日だった。


 彼は別の理由で雪も嫌いだ。
 雪でバイクがスリップするから嫌いだ。

 それは置いといて一先ず、そのカップ麺を食べようと思った。
 そのカップ麺を見ていたら、広斗に無視されたことも相まって無性に腹が空いてきた。

 だが、しかし……

「……お湯と箸がねぇ!!」

 地味にひどい嫌がれせである。
 沸かしてあるお湯もなければ、箸も付いていない。
 幸い、ここは町中、適当に歩いていけばお湯も箸も見つかるだろう。

 そんな考えを持ち、雨宮雅貴は街を散し始めたのであった。


337 : Louder ◆HH8lFDSMqU :2019/05/08(水) 19:54:26 YbvYFmQE0

【D-7・町中/1日目・深夜】
【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:健康(ちょっと傷心)
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×1ケース@現実、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:不明
1:広斗との合流
2:しかし、その前に腹ごしらえ
[備考]
ランダム支給品にバイクは入っていませんでした。

【カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×1ケース@現実】
「カップヌードル ミルクシーフードヌードル」は、"シーフードヌードルをホットミルクで作るとおいしい" というインターネット上の口コミに着目し開発された商品。
スープにも具材にも "北海道" の素材を使用した「カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル」として発売された。
北海道産の粉乳を使用した甘みとコクのあるクリーミーなスープに、北海道産のほくほくのポテトを入っている。
パッケージは、北海道の形を背景に "SEAFOO道" のロゴを配した、遊び心のあるデザインに仕上がった商品。


338 : ◆HH8lFDSMqU :2019/05/08(水) 19:54:52 YbvYFmQE0
投下終了です。


339 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/10(金) 00:55:03 BdWH7bsM0
前回からの続きの感想です


>「救う」ということ
 尾張城が舞台というのが雰囲気あっていいですね。
 鬼滅は単行本で追っているので、童磨の再現度などはちゃんとはわからないのですが、しかしこの頭の壊れた好きです。
 その相手をナイチンゲールもまた壊れていますね。『鬼』を病気と見たようですが、別作品の人外たちをどう診断するのかも気になります。

>鬼と鬼と鬼
 猗窩座も単行本だけだとまだ詳細がわかりませんが、こちらは煉獄さんとの戦いで見せた戦闘狂的な面が書かれていますね。
 戦闘描写が非常に良い。文章媒体での迫力を重視してる感じの戦闘描写って分かりづらく感じてしまうことが多いんですが、バランスが良かったのかこの話が読みやすかったです。
 そして障害を排除しようと頑張っている部下を止めてまでパワハラを優先する無惨様からは、この状況への怒りの程が伝わってきますね。
 あとだからどうってわけじゃないけど、あと戦闘描写が所々SEKIROっぽい

>BEAST INSIDE
 戦闘より死亡者は出たものの意外とマーダー的なスタンスの人は誰もいない話でしたね。
 今回先に手を出したのは鮫島のほうですが、清姫の嘘をつかないという特性は争いの元になりかねませんね。
 アマゾン以外にも人を食う者や人外やこの場所で悠はどういうふうになるんでしょうね。

>武蔵、出逢う!
 衛府の七忍の武蔵編を読み切ってから読もうと思っているのでまだ読んでません。
 後日改めて感想を書きます。

>やがてのあしたに星がふる
 七実はとりあえずマーダーではないようですが、間違いなく危険人物ですね。
 ロワに死人が生き返るのはよくあることですが、アマゾン細胞によるものではないかと、そこに理屈を求めるのは当事者としては当然のことですよね。その考察があんまり良くない方向に作用しそうですが。
 容赦なくイユを殺した彼女ですが、最後の歌にだけは聞き入るシーンが良かったですね。

>素直じゃない私を
 消沈していたかぐやですが、巌窟王との接触でとりあえずは立ち直ったようですね。
 そのきっかけとなった感情が怒りというのはらしくて好きですね。さすが意中の男との時間よりもムカつくおっさんをぎゃふんと言わせることを優先した女。
 その後の相手の考えを予測する姿は天才の名に相応しいものでしたね。
 最後にBBの言葉を思い出すのは不穏な気配がありますが……その編はもう次にの話が書かれてますね。

>メルティ・スイートハートとビターステップ
 しのの死を知るのを待つこと無くジウくんはマーダーですね。
 戦闘能力こそはこのロワでは高いほうではありませんが、かなり考えて動いていてなかなか厄介な存在になりそうですね。
 自分の支給品を数を誤魔化す工夫も地味ですが、頭の良さが感じられます。
 四葉はジウくん相手に安心してきたところでこれは辛いですね。しかも結構グロい死に方だし。
 現代ラブコメ作品の五等分キャラは死への耐性もあまり無いでしょうし、他の参加者は全員知り合い。しかもひとり覗いて身内。
 四葉の死伝われば波紋が起きそうですね。

>FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」
 おそらくコワすぎ!の再現をしてるんだろうけどわからない……
 内容的な面倒奴らと組んでしまった姐切さんって感じですね。いや前園さんは面倒というか普通に危険人物なんだけど。
 工藤はバケモンにバケモンをぶつける作戦、実際に地図を見ると近辺にバケモンといえる奴らが多いので、ある程度現実的かもしれない。禰豆子よりよっぽどやばい奴だったりもしますが。
 というか禰豆子はこのまま倒されるだけの鬼になってしまうのだろうか……

> LOVE BULLET KAGUYA SAMA
 かつて知り合いの見せしめで殺されどうすればいいのか悩むという話を、ここまで笑えるノリで書いた話があったのだろうが。いや、やってる内容は真面目なんですが。
 一度は自殺すら視野に入れたかぐやが、白銀と一緒に生きたいという想いで立ち上がるシーンなんて感動的ですよ。
 そしてエドモンに助けられながら銃を使って七花を撃退。登場話でひとり悲しみにくれるだけでしたが、かぐやは色んな繋がりに助けられているんですね。もっともエドモンのことは妄想かもと思ってますが。
 七花ととがめ、こちらは原作から繋がりがある組み合わせ。
 脳内裁判のようにインパクトがある感じじゃないけどこっちも会話が面白い。
 しかし繋がりで前を向いたかぐやとは逆に、自分のために七花との繋がりすら手放しても構わないというとがめは不穏だし、悲しいですね。
 にしてもほんといいなこの話。


340 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/10(金) 00:56:36 BdWH7bsM0
>鬼は泥を見た。鬼は星を見た。
 まず冒頭からキレまくってる無惨様がひたすら面白い。首輪を外す実験を思いついたのが今で良かった。
 少し前なら猗窩座さんがいきなり下らない死に方をするところだった。累くんを生き返ったと認識してるんなら煉獄さんもそう考えてやれよ。
 そして相対する権三も無惨様に負けないクソっぷり。
 >「む! 急に意味不明な場所に放り出されてイラついているところに丁度いいジュースが歩いてきたぞい……」
 もうこのセリフだけでクソさが伝わってくる。
 無惨様はある意味超越したクソっていうか人間離れしたクソさなのに対して、権三は人間として純度の高いクソって感じですね。
 千年を生きる男に税金でマウントを取る思考は意味不明だけど。
 無惨様や佐藤なんかならまだしも、こいつに好きなキャラが殺されたら絶望感がすごいでしょうね。
 クソ同士の戦いですが権三が無惨様にやられる場面はちょっとスカッとします。

>泥の水面
 いいから話しかけろよ! いや話しかけても失敗するかもしれませんが。
 それなり文章量の話なのに結局なにもしてない冨岡さんが面白い。
 自分には少女になにもできないって言ってるけど、でも炭治郎に相手にはやるべきことをしっかりやってましたよね。
 人の心に敏感な炭治郎だから上手くいっただけかもしれませんが、冨岡さん自信が思ってるよりはもっと自信を持っていいと思うんですけどね。

>その鼓動は恋のように
 かぐや登場話と同じく、心締め付けられるような白銀の姿、そしてそこから痴女だあの原作らしいギャグへの以降が素晴らしい。
 しかしそのままギャグで終わるわけではなく、殺し合いには乗っていないが過激ではあるメルトリリスとの駆け引き、こちらもかぐやと同じく天才の名に恥じないですね。
 そして最後にBBとメルトリリスの謎の会話が書かますが、どっちのキャラも知らない私にとっては本当に謎。

>あの日に見た明日を捨てきれない
 いやもうすごいですね。HiGH&LOW知らないのにこのSSだけで完全に話が成立してますよ。
 セリフは一々かっこいいし、流れるような戦闘描写も良い。ふたりのすれ違いも悲しく、ほんといきなりこれを読んでも不足がない。
 良すぎて逆に感想書きづらいですが、ともかく素晴らしいSSでした。

>Open Your Eyes For The Next
 バトルロワイアルを宿敵を倒す僥倖と捉える姿勢は圭とも似ていますね。
 しかしこちらは優勝狙いにちょっと揺れている様子。ここで明がどんな目にあってきたのか説明してくれてるので、未読の自分でも感情移入ができてありがたいです。
 仲間二人のうち鮫島はもう死んじゃってますし、今後がどうなるやら。
 あと明ってまだ十代だったんですね。画像が見たことありますがてっきりおっさんだと思ってました。

>「俺のやることは変わらない」
 ひねりのストーリーを全力でぶつけてくる感じ、良いですね。
 頼りにある年上の煉獄とそれを見て奮起する人吉。そして恐ろしい強敵の雅。少年漫画って感じです。
 特に好きなのは生き返った煉獄さんの心情。
 >老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだと言ったが、やはり己の生が此処にあるというのはとても嬉しいことだと思い知らされた。
 死ぬことは受け入れている。それでもやっぱり生きていられるのは嬉しい。
 正直続き書きたいですが雅が書けないし、今から彼岸島把握は巻数的にキツい……

>第五十一話
 おバカ真司とそれをからかう蓮、ふたりのやりとりはいつも通り。まずこの再現度がすごいんですが、しかし本編でのいつものふたりではない。
 真司は戦いを止める覚悟を決めており、蓮もまた真司の願いに付き合うことを決めている。
 迷いは無く、意見の一致した二人は、もしかしたら今まで一番穏やかな気持ちで話しているのかもしれませんね。

>わずかな未練だけが不意に来る
 しのぶさんが可愛い。
 そして過去の時代の人間が多いこのロワですが、現代を文明に触れる描写があまり書かれてこなかったのでまずそこが良いですね。
 挑発的な会話姿勢が登場書記のころを思わせますね。
 最後の部分はおそらく原作再現なんでしょうね。
 シンプルな話ですがその分単純に作者の実力の高さを感じます。

>Louder
 前話で置いてかれたほうの続き。
 バトルロワイアルの中でのちょっと和める話でしたね。
 ただギャグとして書かれた置いていかれるという出来事が致命的な事象を起こしかねないのもロワの怖いところ。
 二人が生きて合流できるのか心配ですね。
 あとこのカップ麺の話ってもしかしてパトラッシュのやつ?

皆さん数々の力作投下乙でした


341 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:49:16 ubt8N/sY0
みなさん投下乙です。スゲー楽しく読んでます。

それでは、自分も投下します。


342 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:49:51 ubt8N/sY0
 ◇ ◇ ◇



【零】

◯吉備津彦命/◯猛丸/◯犬飼幻ノ介/◯宮本武蔵/◯沖田総司



 ◇ ◇ ◇


343 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:50:33 ubt8N/sY0
 
 
【壱】

 山本勝次は、星を見ていた。
 壁に背中を預けて座り込みながら、ただぼんやりと星を見ていた。

 ここが地図でいうところのどの地点であるのか、小学四年生の彼にはよくわからない。もたれかかっているやけに巨大な建造物の正体もわからない。
 ただ、海が近いことだけは明らかだ。
 なんてことはない。すぐそこに海が見えているし、波の音も絶えず聞こえているのだ。誰でもわかる。
 海のほうへと吹く陸風がやけにうるさく、建物が壁になって実際には風を受けていないのに反射的に少し震えてから、逆向きのキャップを深くかぶり直して上着の袖を掴む。

「(あのお姉ちゃん、殺されちゃったんだよな……)」

 いかなる技術によってか先ほど強制的に見させられた映像自体は、頭にこびりついて離れていない。
 にもかかわらず震えたきっかけが恐怖や嫌悪感ではなく、音を立てて吹いている陸風だという事実が、勝次に妙に深く突き刺さっていた。

 人が死んだ。呆気なく殺された。
 決して許されることではないが、それでもあっさり殺されるだけマシかもしれない。
 そんな風に思ってしまった自分自身に、勝次はショックを受けていた。そんな自分になっている自覚はなかった。
 けれど、辺りを我が物顔で歩く吸血鬼に怯えることもなく、また死臭があらゆる場所に漂ってもいない。そんな現状が懐かしくて、どこか安心してしまっているのも本当だ。

「(母ちゃん……)」

 自己嫌悪に陥ったとき、いつも蘇ってくるのは母の最期だ。
 頑張ると、強く生きると、寂しくなったら星を見ると、そう伝えたのは他ならぬ勝次である。
 自我を失いつつありながらも、残った理性で見せてくれた母の笑顔が浮かぶと、勝次は自然に拳を握っていた。
 ゆっくりと立ち上がって、ズボンについた汚れをはたく。いつだって力をくれるのは、あの日の母の笑顔とあの日の自分だ。

「まずは明やハゲを探さないとな!」

 宮本明に鮫島。
 吸血鬼の国と化した日本本土にて救世主と称される二人の名は、名簿に並んで記されていた。
 ひとまず頼れる二人と合流しようと、大きさの割に異様に軽いリュックサックを背負ったとき、勝次は――見る。

 星よりも眩い輝きを。

 それは男であった。
 鍛え抜かれた肉体に、ところどころに桃の意匠が施された鮮やかな和服を纏った男だった。
 頭頂部はきれいに剃り上げ、残った側頭部と後頭部の髪をまとめて後ろに髷を結っている。
 間違いなく初対面であるというのに、男が腰に刀を携えていないのがあまりにも不自然だ。

 その男を勝次は知っていた。
 その男が救世主であることを、勝次はよく知っていた。
 その男が救世主であることを、老若男女が知っているということを――勝次はとうに知っていた。

「も、桃太郎……!」

 思わず漏れた呟きを肯定するように、男は深く、重く、大きく頷いた。

 桃太郎――孝霊天皇皇子・吉備津彦命。

 日本本土を吸血鬼が支配する遥かにむかしより、幼いころから誰もがよく知り、我が子へと語り継いできた――鬼退治を成し遂げた救世主であった。


344 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:51:09 ubt8N/sY0
 
 
 ◇ ◇ ◇


【弐】

 吉備津彦命は歩みを止めると、勝次が先ほどまでもたれかかっていた壁を睨み、考え込むように眉間にしわを寄せた。

「あっ! あの! 桃太郎! これなんだけどよ……」

 勝次がリュックサックから慌てて取り出したのは、自身に支給されていた奇妙な日本刀である。
 薄刀『針』というらしいそれは気味が悪いほどに軽く、小学四年生の身体でも容易に持ち上げられるほどだ。
 それゆえに扱いが難しいことなど、勝次でさえ付属していた説明書を読まずとも簡単に想像がつく。

「――ふむ」

 吉備津彦命は薄刀を鞘から抜いて、そのまま流れるように刀を掲げる。
 ただ抜刀して掲げただけにもかかわらず、剣術について露ほどの知識もない勝次が見とれるほどに淀みなく滑らかな動作だ。たった一つの挙動に珠玉の技が宿っている。
 薄刀の刀身はあまりにも薄く、空の星が透けて見えるほどだ。角度によっては鍔から先が存在しないのではないかと、あり得ぬ錯覚を起こすほどである。
 しばし刃越しに夜空を見上げたのち、なにかをたしかめるように薄刀を持つ手を上下左右に微かに動かす。

「成る程。不思議な代物を打つ刀鍛冶もいるものよ」

 小さく呟いて、吉備津彦命は刀を数回振るった。
 数回振るったのだと、勝次が理解したのは遅れて壁に切れ目が入ったからだ。断じて動作自体を目で追えてはない。
 壁そのものが斬られたことをあとから自覚したかのように、ややあってから刻まれた切れ目に従って大きな穴が開く。
 そのなかを見て、勝次はようやくこの建物が地図に『研究施設』と書かれているものらしいと気づいた。

 人が通るのには大きすぎるほどの入口を通って、吉備津彦命はそのなかに入っていく。
 侵入者である負い目など欠片も見せず、当然のように進んでいく彼を追いかけ、勝次は鍛え抜かれたその背中に声をかける。

「あっ、あのさ! 桃太郎、あの、別にお礼がほしいってワケじゃないんだけど、その、吉備団子を」
「やめておけ」

 桃太郎から、その腰につけた吉備団子を授かる。
 すべての男児の夢であろう。我慢できずに口にした勝次をはたして誰が責められよう。
 希望をぴしゃりと切り捨てられ、見てわかるほど露骨に落胆する勝次に、吉備津彦命は続ける。

「麻呂の吉備団子を受け取るとは、すなわち衛府との戦いに身を捧ぐ覚悟の証明ぞ」

 民草の子には荷が重かろう――そう言い切って、吉備津彦命は懐に忍ばせていた大きな握り飯を取り出す。
 言葉の意味はわからずとも、勝次にとっては桃太郎からものをもらったという、その事実がただただ嬉しかった。


 ◇ ◇ ◇


345 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:51:44 ubt8N/sY0
 
 
【伍拾】

 逢う魔が時。
 陽は沈みかけ、一度は晴れた闇がまた広がろうとしている。
 もうじきに、この殺し合いの舞台における二度目の夜がやってくる。

 飢えた鬼の吐息が四方から届く。静かな夜には程遠い。
 生々しい血肉の匂いが鼻を衝く。穏やかな夜には程遠い。

「どう見る」
「多いな。少なくはない」

 吉備津彦命が尋ねると、背後の男は短く答える。
 そのあまりにもあるがままの内容に、吉備津彦命もまた短く頷きを返す。
 他の連中にも訊いてみたところ、どうやら彼も彼女も特に変わらぬ意見であるらしい。
 簡潔が過ぎる返答ではあるものの、それをむしろ頼もしいと判断することにした。

 この殺し合いの舞台にて、ふさわしい魔剣士を集めて作り上げた鬼哭隊。
 なかには「鬼を哭かせるつもりはない、殺すだけだ」と鬼殺隊という名を譲ろうとしないものもいるが、なかなかの逸材が集まったと言えよう。

「『屠蘇』とは悪鬼を屠る、という意味じゃ」

 真っ赤な漆器製の銚子から、同じく真っ赤な盃に順番に屠蘇酒を注ぐ。
 集った魔剣士たちの反応は薄かったが、意図自体は伝わっているらしい。
 各々が順番に盃を煽っていき、最後に吉備津彦命が残った屠蘇酒を飲み干す。
 飛鳥の世より千年を生きる軍神は、確認するまでもなくこの場における最年長者であった。


 ◇ ◇ ◇


【佰】

 きりきりと音を立てて引き絞られた弦から放たれた矢は、一条の光となりて殺し合いを命じた少女を貫く。
 反射的に声をあげることも、驚愕に目を見開くことさえも許されず、一瞬にして少女は物言わぬ石と成り果てた。

「女狐、討ち取ったり」

 これにて、此度の鬼退治伝説は終幕と相成る。
 めでたしめでたし。
 そんなお決まりの文句がつけられ、神州無敵・桃太郎の物語はまた語り継がれていくことだろう。

 これでよい。
 これでよいのだ。
 絶対的な悪(おに)がいて、たった一人の英雄が立ち向かう。
 悪(おに)を倒せばすべてが上手く片付き、人々の笑顔が戻ってくる。
 絶対的な強者たる無敵の英雄は率いる戦力を必要としても、ともに肩を並べる存在など必要としない。
 これ以上ないほどに、これでよい。


346 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:52:05 ubt8N/sY0
 
 
 ◇ ◇ ◇


【0】

 ――以上で、シミュレーションは終了。

 もしも彼が殺し合いの参加者であったのなら、もしも彼にとってすべて思惑通りに盤面が動いたとしたら、はたしてなにが起こるのか。
 どのような揺らぎが生み出され、どのような過程を経てどのような変化を遂げた末に、最終的にどのような結果がもたらされるというのか。
 幾度目かになる予測が――終わった。

「…………いくらこれでよくても、これじゃあよくないですよねえ?」

 響くのは、冷え切った声。
 飽き飽きとしたような、そんな声。
 その尋常ならざる演算機能からもたらされた結論は、望んでいたものとは完全に異なっていた。

 もとより、程遠い存在ではあった。
 たった一人で完成し、戦力として以外に他者を求めない。
 ついには妻さえ必要とせず、単独にて子を拵える――覇府の刃。
 永遠に続く凪を当たり前のように守ることのできる存在であれば、嵐を起こし得る可能性なぞ欠片も観測されないのは当然であろう。
 その実力や鬼殺しという属性、また千年を生きるという点が、他の参加者との繋がりによって盤面を加速させ得ると、そんな期待を抱いただけに過ぎない。

 その結果がこれである。
 何度繰り返したところで、彼はまったく変わらない。
 いかなる状況であろうと、なにも変わらない。変化をしない。揺らがない。
 ただ鬼殺しの英雄として他者の影響なぞ一つも受けることなく、半ばで倒れるか、あるいは目的を成し遂げる。
 他の可能性自体が存在しないのだ。揺らがぬ以上、実際に試す価値などない。わかりきっている以上、もはやオファーをかけないだけの話である。

 ならばと、次のシミュレーションを開始する。
 決して揺らがぬ覇府の刃の対極だとすれば、いったいどうなるのであろうか。
 同じくたった一人で完成された強さを持ちながら、永遠を否定する決して安定しない放蕩な現人鬼(あらひとおに)であれば、揺らぎは――



【吉備津彦命@衛府の七忍 不参加】



 ◇ ◇ ◇


347 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:52:40 ubt8N/sY0
 
 
【1】

 山本勝次は、星を見ていた。
 壁に背中を預けて座り込みながら、ただぼんやりと星を見ていた。

「まずは明やハゲを探さないとな!」

 しばらく星を眺めてから、勝次は立ち上がってズボンについた汚れをはたく。
 どうしていいのかわからなくなったとき、いつだって力をくれるのはあの日の母の笑顔とあの日の自分だ。
 ひとまず頼れる二人と合流しようと、大きさの割に異様に軽いリュックサックを背負ったとき、勝次は――見る。

 夜空よりも暗い闇を。

 それは男であった。
 そして、女であった。
 獣の皮を継ぎ接ぎにしたような派手な袴から覗き見える脚も、襟だけに真紅の薔薇が描かれた白い羽織から見える上半身も、紛れもない男のものである。
 その身体は彫刻のように均整が取れていて美しく、一目で積み重ねられた鍛錬が伺えるほどであり、余計な脂肪など一切ついていない。
 ただ一つ――いや、たった二つ。
 両の胸についている豊かな乳房を除いては。

 異形の存在を勝次は知っていた。
 人間の部位同士を、あるいは人間に動物の部位を繋ぎ合わせたような異形を、勝次はよく知っていた。

「オ、邪鬼(オニ)……!」

 つい口走ってしまったものの、勝次のなかにたしかな疑問があった。
 彼の知る邪鬼や亡者が醸し出す、この世にいること自体への違和感がないのだ。
 さながら当然であるかのように、もとよりそういう生物であるかのように、彼/彼女は存在している。
 断じて理性を失ってなどおらず、ましてや出来損ないなどではない。まるで、そう主張しているかのように。
 だがしばし間を置いてから、哄笑とともに返ってきたのは思わぬ答えであった。

「ほう。この現人鬼・波裸羅を知っておるか。
 もしや志摩の童(わらし)か? はたまた志摩の近隣の藩か? どれ。毛が生え揃っておるか、手ずから確かめてくれようか」

 勝次から思わず漏れた呟きを肯定するように、彼/彼女はその口角を吊り上げた。


 ◇ ◇ ◇


348 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:54:36 ubt8N/sY0
 
 
【2】

 志摩の現人鬼にして、第四の怨身忍者・霞鬼(げき)たる波裸羅は、この殺し合いにさほど乗り気ではなかった。

 殺すのはよい。
 七十人程度殺すのは別によい。
 別によいというか、どうでもよい。思うところなどない。
 人であろうと、人ならざるものであろうと、波裸羅にとっては熟した瓜と大差なし。
 力を籠めずとも、いつでもたやすく潰せてしまえるのだ。そこに感傷など生まれようはずもない。
 知らぬ間に首輪をつけた技量は心から賞賛したいし、狂おしいほど愉快な催し物ならば望むところである。
 ただ小娘一人殺して見せて殺しを強制する戯れに、単純にあくびが出ただけである。
 ひとえに、愉快ではなかった。狂おしくもなかった。なにも惹かれなかった。

 時機が悪かったとも言えよう。
 桃太郎卿に、真田幸村の隠し姫。
 それぞれから誘いを受け、より愉快なほうを選んだ直後である。
 よもや、最もそそられぬ第三の選択肢を強制的に選ばされるとは。乗った興も冷えるというものだ。

「挙句、近くに配置したのがこのような!」

 叫ぶ。胸の内で思うのではなく、わざと苛立たしさを口に出す。
 なにやら尻尾を巻いて逃げ出した勝次に向けたものではなく、興が冷めたことへの怒りだ。
 たった一度地面を蹴るだけで追いついてみせ、あっさりと驚く勝次の首を掴んで組み伏せる。

「小僧、なぜ逃げる。波裸羅に言うてみよ。その本心、包み隠さず訊かせてみい」

 意味のない問いかけであった。
 波裸羅を知っていようと知っていなかろうと、誰もが逃げ出すような言葉を狙って投げつけたのだ。
 もしも本当に引き止めたかったのであれば、軽くひと睨みしてやれば足が竦んで動けなくなったことであろう。
 あくまで鬱憤を晴らしているだけに過ぎない。それもタチの悪いことに、到底晴れようがないと重々承知の上で、だ。

 ゆえにこそ、波裸羅にとって、次に勝次が取った行動は許し難いものであった。
 両腕が動く程度の自由を許してやっていたばかりに、勝次は上着の胸元に手を伸ばして、紐で結ばれた六連の銭貨を取り出したのだ。

 ――真田の六文銭! 六文銭とは三途の川の渡し賃! その意味は命を顧みぬ共闘の要請!

「貴様ッ!」

 怒りを露わに、波裸羅は首を掴む力を微かに強くする。
 力加減には気を付けている。ほんの僅かでも力を籠めすぎてしまえば、晩秋まで収穫を逃れたアケビの如く弾けて終いだ。
 それこそ許し難い。ともに地獄に行く覚悟もなく、ただ怯えから許しを請うて六文銭を差し出したのだ。ましてや、他ならぬ波裸羅に。
 その意味を多少なりともわからせる必要があった。
 あえて口を利けるようにと、しばらく力を強くしたのちに今度は力を緩めてやる。
 はたしてどのように許しを請うのか、困惑を口にするのか、そんな波裸羅の予想は覆されることになる。

「……母ちゃん、俺、オニなんかに負けないよ…………」

 首にかかる力を緩めたと同時に、勝次は顔を上げて笑ったのである。
 さらにはその瞳が映しているのは、己を組み伏せる波裸羅ではなく、さらにその上空にある星であった。
 再び波裸羅の口角が吊り上がる。ただし先ほどのものとは異なり、意図したものではない。
 作らされてしまったのだ。波裸羅が! この、なんの力も持たぬただの小僧に! 意図せぬ笑みを!

「名乗るがよい、小僧。呑むぞ」

 波裸羅は勝次の拘束を解くと、自身に支給されていた漆器製の真紅の銚子を取り出す。
 困惑を隠せぬ勝次の前に盃を置き、溢れんばかりの勢いで注いでゆく。いや、とっくに溢れている。
 邪気を払う縁起物とされる屠蘇酒らしからぬ振る舞われ方だが、振る舞っているのがまさしく鬼であるのだ。式法など踏襲されるはずもない。


349 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:55:07 ubt8N/sY0
 
 
 ◇ ◇ ◇


【3】

 思っていたよりもよく喋るというのが、波裸羅が勝次に改めて抱いた印象であった。
 たしかに切り出したのは波裸羅のほうとはいえ、問答無用で組み伏せてきた相手に対してとは思えぬほどに饒舌だ。
 無論、なにか隠して言い淀むそぶりなど見つけようものなら、意地悪く突いてやるつもりであったので正しい動きではあるのだが。

「えっ、まあ、明やハゲとの出会いも最悪だったしなァ……。
 それにオニみたいに強いヤツがいても、いまさら驚くことじゃないし……」

 波裸羅がついに指摘してやると、勝次はバツが悪そうに頭をかく。
 明やハゲとは、名簿にそれぞれ『宮本明』『鮫島』と書かれている人物であるという。
 国を埋め尽くす吸血鬼から人々を守る救世主として、周囲からは称えられているとのことだ。
 吸血鬼と呼ばれる化物が国を埋め尽くすというのは俄かに信じ難いが、ありもしない出まかせを吐いている気配はない。

「(美味そうじゃの)」

 言葉には出さず、波裸羅は内心で舌なめずりをする。
 おぞましき民草が吸血鬼とやらに蹂躙されようと知ったことではないが、踏み躙られる民草を支配者と化した吸血鬼から守る救世主のほうは、どうにも興味深い。
 また、民草どもを蹂躙した吸血鬼の支配者・雅のほうも同じくだ。はたしてなにを求めてそのような行為に及んだのか、勝次に聞いたところではっきりとしたことは定かではない。

「して、勝次よ」

 勝次の事情をあらかた把握したところで、ゆっくりと切り出す。
 波裸羅の瞳の中で、波裸羅自身にしか見えぬ龍神が業火を纏って身を焦がす。

「話を聞いて笑うたわ。貴様、明とやらに出逢って以降、助けられるばかりではないか。
 己より強い男に頼り切るばかりで、一人で生きていけるなどとよく胸を張って大言吐いたものだ」
「…………っ、そ、そりゃあ……」
「鉄の鎚たった一つで吸血鬼を相手取ろうとした貴様は、いったいどこに行ったというのだ」
「う、ぐ……だけど…………」
「わからんな。波裸羅は産まれし日より強い」

 勝次より反論はない。
 目を背けていただけで、とっくに自覚をしていたのだろう。
 予想していた通りの反応を受けて、波裸羅は二種類の支給品を取り出す。

「波裸羅には不要なものよ。片方をくれてやるから選ぶがよい。俸禄とでも思うて構わんぞ」

 道具とともに渡した二つの手引書に目を通していくにつれて、勝次の息が荒くなっていく。
 ハァハァ――と、そんな熱を帯びた音が波裸羅の耳に届くほどだ。

「なっ、なァ! これがあれば、俺も明やハゲみたいに……」
「運がよければの。運が悪ければ、派手に死に花を咲かせることになるだけじゃ」
「…………っ。明、ハゲ、俺は……」
「はっ! 恐れをなしたのならもう片方を選べばよいわ。たとえ虚構であろうと、なにも恐れるもののない世界を生きられよう」

 端麗(きらぎら)とな――と続けた波裸羅が歯を軋ませたことに、勝次が気づくそぶりはない。
 急に差し出された二つの道具を順番に片方ずつ見ては、頭を抱えるばかりである。

 迷っているのは、波裸羅にも見て取れた。
 それでよい、それでこそよい、と思うだけであった。
 話を聞いた限りでは、明と鮫島という二人がいればきっと止めるのだろう。
 そういう類の輩であるのだろうということくらい、実際に会ったことがなくとも容易に推測できる。


350 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:57:21 ubt8N/sY0
 
 だが、波裸羅は違った。
 力がないがゆえに母を失う口惜しさを知っているのは、断じて勝次だけではないのだ。
 波裸羅は産まれし日より強いが――産まれる以前は、あまりに脆弱で、誰よりも腑甲斐なかった。
 誰よりも。
 そう、誰よりも。
 身分のある誰よりも、ずっと。

「さぁ、選ぶがよい。
 苦しみのない常世国(とこよのくに)にて、菩薩の慈愛に包まれるか。あるいは――」

 屠蘇酒なんぞでは抑え切れぬとばかりに、鬼が微かに外界へと漏れ出す。瞳の中の龍神が纏う炎が強くなる。
 勝次の回答を見守る瞳に力が宿り、その赤い髪が蝶の群れのようにうごめき、身体の輪郭がゆらめいて曖昧になっていく。
 そうして周囲を包み込みかけた目に見えぬ圧力は、波裸羅自身によって払われることになる。

「――――ふふふ」

 勝次が再び六文銭を差し出してきたので、またしても意図せぬ笑みを作らされることになってしまったのだ。
 つい先ほど、波裸羅自らその意味を教えてやった六文銭である。
 今度は意味を知った上で、理解した上で、再び差し出してきたのだ。

「俺、やるよ。一人でも強く生きていける俺になるんだ」

 勝次は宣言して、選ばなかったほうの道具、虚構の世界を作り出す道具『ホログラム』を波裸羅に返す。
 はたして鬼の気配にあてられた影響があるのかは定かではないが、たしかに自ら選択をした。
 それにこそ意味があり、他に意味などありえない。
 確信して頷く波裸羅の前で、勝次は注射器を腕に突き刺し――程なくして、そのまま頭が爆ぜた。
 宿主として適合をしなかったのだと、『ナノロボ入り注射器』を支給された張本人である波裸羅にはわかる。
 一拍ののち、支えを失った身体はゆっくりと力なく倒れ込む。
 まだぴくぴくと末端が震えるように動いているが、もはや死体であることは明白であった。

「ハハハハハ! 掴めずとも最後に一花咲かせたな、勝次よ!」

 波裸羅は大きく声をあげて笑いながら、手刀を作って自身の胸を貫く。
 溢れ出る血を亡骸に浴びせると、血は青白い炎となって瞬く間に全身を包み込む。
 怨身忍法『伐斬羅閃血』――怨身忍者の血・伐斬羅(ばざら)を燃焼させる技である。
 波裸羅の技ではなく一度見たきりの零鬼の技であるが、やむを得ぬ事情により借りねばならなくなってしまった。

 炎が収まってみると、そこに残っているものはなにもない。
 炭化した肉体はおろか骨一つ、さらにはその身を縛り付けていた首輪さえ存在しない。

「波裸羅は、その選択を決して忘れぬぞ」

 もうこの場にいない少年に声をかけて、波裸羅は一振りの刀を取り出す。
 薄刀『針』という奇妙な日本刀は、勝次に支給されていた逸品だ。
 どう使えばいいのかわからないなどとボヤいていた。どちらかといえばもっと武骨で強固な刃物に憧れると、聞いてもいないことを話していた。

 鞘から抜いた薄刀を放り投げると、その薄い刀身は闇夜に溶け込んでしまい、まるで鍔から先だけが宙を舞っているようだ。
 自らが投げた刀に遅れて跳躍してみせると、波裸羅はあっさりと宙を舞う硝子細工じみた刀に追いついて、そのまま黙視するのも難しい刀身を蹴り砕く。
 きらきらと地上に舞い散る破片は、さながら夜空に散りばめられた星が僅かな時間だけ地上に降り注いでいるかのようだ。

「アハハハ――!」

 とても抑え切れぬ哄笑を響かせながら、波裸羅は再び夜の街を歩みだす。
 勝次のリュックサックに手を付けることはしない。彼から受け取るものなど、六文銭だけで充分であった。



【山本勝次@彼岸島 48日後…… 死亡】


351 : 最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合 ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:58:01 ubt8N/sY0
 
 
 
【A-3・研究所周辺/1日目・深夜】

【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、真田の六文銭@衛府の七忍、ナノロボ入り注射器×2@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、少し愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:彼岸島勢に興味。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。



【支給品紹介】

【薄刀「針」@刀語】
山本勝次に支給された。
刀鍛冶・四季崎記紀が作成した十二本の完成形変体刀のうちの一振り。
日本刀。日本で作られた武器である以上、たとえどんな代物であろうと日本刀であろう――的な意味ではなく、きちんと日本刀。
薄く、軽く、脆い。

【真田の六文銭@衛府の七忍】
山本勝次に支給された。
中心の穴に紐を通した六連の永楽銭。
六文銭とは三途の川の渡し賃! その意味は命を顧みぬ共闘の要請!

【屠蘇酒@衛府の七忍】
波裸羅に支給された。
屠蘇とは鬼を屠るという意味である。

【ナノロボ入り注射器×3@ナノハザード】
波裸羅に支給された。
注射器に入った状態で支給された微小なナノロボット。
もともと開発段階では医療用だったらしい。そうなんだ。
適合したら人間の域を超えた能力を持つ『脳力者』となる。適合しなかったら死ぬ。
目覚める能力は適合者の資質次第であり、適合するまでどのような能力に目覚めるかはわからない。適合しなかったら死ぬ。
繰り返すが、医療用ナノロボットを開発しようとしていたらできたらしい。そうなんだ。

【ホログラム@ラブデスター】
波裸羅に支給された。
ホログラムではなく、使い手の理想の仮想空間を作り出し、対象に選んだ相手を巻き込む道具。
仮想空間と現実は時の流れが違うため、仮想空間で何年を過ごそうとも現実では大した時間は経過していない。
使えるのは一人一回きりで、使い手が死ねば仮想空間は解除される。
制限とかがあるかは不明。後続の書き手に任せます。
ホログラムではない。



[備考]
※山本勝次の死体は、一片たりとも残すところなく焼かれました。首輪も残っていません。
※A-3研究所周辺に、山本勝次のリュックサック(基本支給品一式、ランダム支給品0〜1)、『屠蘇酒@衛府の七忍』の銚子と盃が放置されています。
※『薄刀「針」@刀語』の刀身は粉砕されましたが、刀身以外は残って山本勝次のリュックサックとともに放置されています。


352 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/10(金) 01:58:34 ubt8N/sY0
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。


353 : 名無しさん :2019/05/10(金) 02:14:17 VTloz.aM0
投下乙です
冒頭の名簿表記からして掴みがうまく、参加していないキャラでありながらすごく楽しく読めました
それでいて本参加者の波裸羅との対比になるのも上手い
薄刀は、運が悪かったというか、むしろシミュレーションでもちゃんと扱われただけ幸せだったか
シミュレーション結果の後にホログラムが出てくるのも面白い
勝次は桃太郎や波裸羅へのリアクションが結構いい感じだったから他の奴らと会う姿も見たかったが、男を見せて死んだのも確か
俺も忘れんよ


354 : 名無しさん :2019/05/10(金) 09:27:06 Pxz929Qo0
またしても仲間を失った明さんが更なる修羅道に堕ちそう…


355 : ◆rjD2cwIMXU :2019/05/10(金) 21:39:46 SwNIugjQ0
永井圭、石上優、今之川権三 予約します


356 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:41:18 3J8p6JHM0
投下します。


357 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:43:24 3J8p6JHM0
「たっ、大変だ! 病院に連れて行かないと!」

 そう言った後で、上杉風太郎は自分がいかにこの場にそぐわない発言をしたのかに気が付いた。
 現在彼が居る場所は砂漠だ──バトルロワイアルの最中の砂漠である。
 そんな、人の死を回避するどころか、人の死が推奨されるような場所で『病院に連れて行かないと』と叫ぶとは……場違い極まりない。
 しかし、殺し合いなどという非日常とは無縁な一般人である風太郎が、そんなことを言ってしまうのも仕方ないことなのかもしれなかった。
 何せ、彼の視線の先に転がっているのは、全身が焼け焦げていて、五指は跡形もなく消えており、関節が妙な方向に折れ曲がっている人間なのだから。
 明らかな重傷者だ。
 風太郎がこんなペイシェントに遭遇するまでに、どんな経緯があったのだろうか? ──それを説明するには、時を数分前まで巻き戻す必要がある。


358 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:46:40 3J8p6JHM0
BBチャンネルが終了し、風太郎の視界に再び映ったのは、見渡す限りの砂漠だった。人工的な建造物によって形成されている光景は、地平線付近にちょっぴり見えるくらいしかない。
 とりあえず夜間で冷える砂漠から脱出し、人工物の温かみに触れようと歩きだした彼は、足を進めながら思考を巡らせた。
 上杉風太郎は学業の方面で言えば、人よりも遥かに多くを知っている秀才である。しかし、そんな彼がどれだけ頭を捻っても、先ほど視界に映った悪趣味な番組がどのような原理で放送されたのか全く分からなかった。幻覚の類だと思いたくなったが、網膜に焼き付いている少女が爆死した瞬間の映像が、そんな現実逃避を許さない。
 見ず知らずの環境に放り込まれ、スナッフフィルム宛らのグロテスクな映像を見せられ、殺し合いを強要されるという異常事態の連続で、流石にこれ以上驚かされることは無いだろうと思っていた彼だが、支給品にあった名簿を見た瞬間、その予想は儚く崩れ去ることになった。

「一花……二乃、三玖、四葉、それに五月……! なんであいつらまでここにいるんだ!?」

 名簿に記されている自分の名前。その後ろには、彼がよく知る五つ子の名前がはっきりと書かれていた。見間違えるはずもない。風太郎は、これまで家庭教師の小テストやプリントの名前欄で、彼女たちの名前を何度も目にしてきたのだから。
 まさかこんな状況においても『五人は常に一緒』の法則が適用されるとでも言うのか? このバトルロワイアルでは、最後のひとりしか生き残ることを許されないのに?
 名簿という、言ってしまえば殺し合う相手の名前が書かれたリストに、よく知る相手の名前があったことで、これまでに無いくらいの動揺を見せる風太郎。

──……いや、俺以上にあいつらの方が動揺しているはずだ。一花は長女として場の状況を把握できる目を持っている分、このバトルロワイアルの恐ろしさをより理解していそうだし、姉妹愛が人一倍強い二乃が、姉妹を巻き込んでの殺し合いにどう反応するかなんて見なくてもわかる。三玖は気が弱いからな……今頃一人で泣きそうになっているかもしれん。いくら元気が取り柄の四葉でも、こんな状況でも元気いっぱいな訳がない。五月のような真面目な奴は殺し合いなんて催しとは相性が最悪だ。

だったら。

──ここは俺がしっかりするしかないだろ……!

 そんな使命感にも似た考えから、パニックになりそうな思考を正常に戻す風太郎。彼の頭にこの殺し合いから脱する算段は未だに無いが、彼はとりあえず知り合いである五つ子との合流を目的とすることに決めた。
 名簿の他に入っていた地図を開くと、砂漠からそう遠くはない位置に、かつて風太郎が家庭教師として毎日のように通っていた、五人姉妹が住まうマンションと同名の建物が確認できた。
 この島の何処かにいる彼女たちも地図を見ていれば、この建物に注目するのは間違いないだろう。他の姉妹がいる事を期待して、あるいはバトルロワイアルという非日常に紛れ込んだ日常の残滓を懐かしんで、訪れる者がいるかもしれない。ならば風太郎が、ここを目的地として動くのは十分にアリだ。
 今後の予定が決定し、砂漠を踏み進める速度が上昇する。
 次はBBが言っていたランダムアイテムの確認をしようかと、風太郎はリュックサックに手を突っ込んだ──その時になって、彼は視界の先で動く何かを発見した。
 人影だ。人がいる。
 その人物は黒い服を着ていて、夜の暗闇に溶け込んでいるので、風太郎はこれまでその存在に気づけなかったのだ。
 黒服はその場でしゃがみこみ、支給されたリュックサックを漁っていた。

「…………」
 
 閉じていた口を更に閉め、息を殺す。こんな場所で会う人間など、殺し合いの参加者以外にあり得まい。体格を見たところ、風太郎と同年代の男子らしい。尋ね人である五つ子の誰かという可能性もなかった。
 
 黒服と風太郎の距離はかなりあるし、向こうが風太郎に気づいた様子も見られない。だが用心に越したことは無いだろう。風太郎はその場から一歩、二歩と後退し、黒服から距離をあけた。相手が銃のような遠距離の武器を持っていたらこの程度の距離は意味がないが、離れないよりはマシである。
 彼が十歩目の後退をした、その瞬間──


359 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:49:38 3J8p6JHM0
「あれ? ……手元が、光っ──?」

 ──閃光。轟音。衝撃。
 リュックサックを漁っていた黒服の手元が光った途端、そこを中心として大きな爆発が起きた。
 砂漠の砂が吹き飛ばされ、クレーターを形成する。
 風太郎は爆発の直撃こそ受けなかったものの、尻餅をつくように倒れた。

──なんで急に爆発が? あいつの首輪が作動したのか? いや、それにしては放送より威力が強すぎるだろ。オーバーキルってレベルじゃねえ!

 まともに受けてしまえば首どころか全身にダメージが及ぶに違いない爆発を見て、腰を抜かす風太郎。
 爆発から少し遅れて、ひゅるるる、ずどん、と何かが砂上に落下する音がした。彼のすぐ傍から聞こえた音だ。
 目を向けるとそこには人間の体があった。
 全身が焼け焦げていて、五指は跡形もなく消えており、関節が妙な方向に折れ曲がっている、重傷の体だった。
 時系列は今に戻る。
 どう考えても爆発でここまで飛んできた黒服の成れの果てである重傷者を目にして、場にそぐわない発言をしてしまった風太郎は、焦げ臭い臭いがするそれから、微かに呼吸音が聞こえることに気が付いた。
 よく見てみると、黒服の首輪は爆発しておらず、頭と胴体はくっついたままである。

──じゃあ、さっきの爆発は何だったんだ?

 頭を傾げる風太郎。ついでによく観察してみれば、男が来ている黒服は学ランだった。やはり、風太郎と同年代なのだろうか。 
 見た目から即死したのかと思ったが、呼吸音から考えるに、どうやら彼はまだ生きているらしい。もっとも、たとえ生きているとしても、これだけの怪我を負ってしまっては、あと数分も持たないように思われるが。
 目の前で消えようとしている命に何もできないことに、風太郎は無力感を抱く。
 しかしその時、彼の鼓膜に声が響いた。
 それは、学ランの男の方から聞こえた声だった。

『「大嘘憑き(オールフィクション)」』

 風太郎の鼓膜が受けた振動が電気信号に変換され、脳の聴覚野に届いた頃にはすべてが終わっていた。
 いや。
 すべてが『戻って』いた。

「嘘、だろ……?」

 バトルロワイアルに参加させられたと知った時以上に、参加者に五つ子たちがいると把握した時以上に、そして目の前で爆発が起きた時以上に、風太郎は動揺する。
 そんなリアクションをとってしまうのも、仕方あるまい。何せ、彼の目の前で死体同然の姿を晒していた学ランの男が、一瞬のうちに傷一つない健康体になっていたのだから。
 まるで、先ほどの惨状が嘘だったかのような戻り方だ。

『嘘じゃないよ。大嘘さ──爆発で負ったダメージを、なかったことにした』

 嘘っぽくて作りものみたいな口調で、学ランの男は──球磨川禊は、起き上がりながらそう言った。

X   X   X   X   X


360 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:51:57 3J8p6JHM0
『あはははは、まさか支給されたアイテムの中に爆弾があって、鞄を漁っている最中にうっかり起爆させてしまったとはね』

 自分が死にかけた経緯をあっけらかんと説明する球磨川に、風太郎は頬を引きつらせた。
 二人は今、風太郎の当初の目的地であった砂漠沿いの住宅地に向かって並んで歩いている。

『あんな危険アイテムを支給品として渡すなんて、どうやらBBちゃんは相当性格が悪いらしい。安心院さんほどじゃあないけどね』
「俺にはそんな危険アイテムをうっかりで起爆できるお前が危険人物のように思えるが……とんだ災難だったな」
『本当に災難だったよ。まあ、そのおかげで僕は心配して駆けつけてくれるほどに親切な上杉くんと衝撃的な出会いを果たせたんだけどさ』

 衝撃的って。
 文字通りの意味だな。
 そう考えながら、風太郎は横を歩く球磨川に目を向ける。
 目を向けたくないが、『向けなければ』という意志を持って、無理矢理に目を向ける──そうでもしないと目を逸らしてしまいそうなほどに、球磨川の存在は醜悪だった。
 別に、容姿が醜いというわけではない。普通の顔だ。寧ろ、球磨川と風太郎で容姿を比べれば、目つきが悪い風太郎の方が低評価を受けそうだ。
 しかし、それでも球磨川に対して汚泥を捏ねて作り上げた人形を見るような不快感を抱いてしまうのは事実だった。まだ原型が残っていなかった分、先ほどの死にかけの状態の方が見るに堪えられたくらいである。

──こんな状況で疑心暗鬼になっているから、そう思ってしまうのか?

 心中に渦巻いているマイナスな感情をそう分析しつつ、風太郎は球磨川を観察した。
 黒い学ランを更に黒く焦がしていた火傷は消え失せ、吹き飛んでいた五指は綺麗に生え揃って方向に折れ曲がっていた関節も生物学的に正しい曲がり方に戻っている。薄皮一枚から髪の毛一本に至るまで、損傷らしい損傷は残っていない。重傷から程遠い肉体だ。

「なあ球磨川、単刀直入に聞かせてもらうけど、お前がさっき言った『大嘘憑き(オールフィクション)』って何なんだ? 俺にはそれが怪我を回復させるキーワードだったように思えたが」

 戦いの場において自分の手の内をそう簡単に教えてくれないことは重々承知した上でそう質問した風太郎だが、球磨川は隠すそぶりも見せずに答えた。

『スキルの名前だね。「大嘘憑き(オールフィクション)」──「現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする」スキルだよ。回復(ヒール)よりは消去(リセット)の方が概念的に近いかな』
「……?」

 言っている意味が分からない。いや、意味自体なら分かる。すべてをなかったことにする能力で、爆発のダメージをなかったことにした。実に分かりやすい使い方だ。だが、そんなスキルを持っている人間がいるのか? 信じがたい能力だが、目の前で実演された以上、信じるしかなかった。

「……ここに来てから非現実的なものを目撃しっぱなしだな。これまで学んできた人類の叡智を疑いそうになってきたぜ」
『知らないのも無理はないさ。僕らがいるインフレ上等シュール系能力バトルの世界とは無縁って感じだもんねえ、上杉くんは』
「それにしても『すべてをなかったことにする』か……それが本当なら、死を『なかったこと』にして、死人を蘇らせることも出来るのか?」

 BBチャンネル中で爆死した少女と、そしてこれからのバトルロワイアルで生まれるであろう死人のことを思いながら、風太郎は言った。
 しかし、球磨川は残念そうに首を横に振った。


361 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:54:43 3J8p6JHM0
『さっき「大嘘憑き(オールフィクション)」と言ったけど、実は今の僕が使っているスキルはそれっぽい紛い物でね、正確には「劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)」というんだ。これが「強い思いが込められたもの」はなかったことにできないという制限がかかっているスキルでさあ……どうやらそういうスキルとしての脆弱性を、BBちゃんから突かれたらしい。今では元からあった制限以外にも色々とロックがかかっているよ』
「だから死を『なかったこと』にはできないと」
『そういうことだね。ついでに言うと、「このバトルロワイアル自体をなかったこと」にもできない』
「試してみたのか?」
『試してはいないよ。だけど、僕のスキルなんだし、かかっている制限は僕自身がよく分かっているのさ』

 そういうものなのだろうか。スキルを持っていないどころか、その存在すら知らなかった風太郎には分からない感覚だ。

『ともあれ、支給品の中に僕が愛用している螺子があったのは喜ばしいね。まったく、僕に対して不親切なのか親切なのか……そういうところも含めて安心院さんみたいだぜ』

 球磨川はどこからともなく螺子を取り出した。それも、普通の螺子ではない。片手全体を使ってようやく掴めるくらいに大きいサイズをしている螺子である。服の中に仕舞えるような大きさではない。いったい、どこから取り出したのだろうか。

『螺子がない僕なんて『スタープラチナがない空条承太郎』や『銃を持っていない冴羽獠』みたいなものだからね。支給されていて助かったよ』
「もしかして、それで戦うのか?」
『え? そうだけど?』
「……………」
『あっ、そうそう、支給品と言えばあと一つランダムアイテムを確認し忘れていたんだよね。ついでだし、今確認しちゃおうか』
「……また爆弾だったってオチは勘弁してくれよ?」
『あははは、流石にそんな展開はないって』

 そんな展開があり得るのが、球磨川という幸運とは真逆の概念が学ランを着た男なのだが……それはさておき。
 歩きながら鞄を開き、中身を確認した球磨川であったが、幸いなことに、彼の第三のランダムアイテムが第二の爆弾だったという最悪の展開はなかった。

『んー? 刀?』
「の柄と鍔だけだな。刃はない」

 奇妙な物体を取り出した球磨川。その時、一緒に紙片が鞄から落ちた。気づいた風太郎が拾って見てみると、それは説明書だった。

「『誠刀・銓──誠実さに主眼を置いて作られた刀であり、人を斬るのではなく、持ち主の価値を測る』……らしい。これにそう書いてある。どこまで本当かは分からないけどな」
『へー、そうなん』
 
 だ。
 と言った瞬間、誠刀は、木っ端微塵に砕け散った。球磨川が力を込めた様子はない。勝手に壊れたのだ。まるで、持ち主が有する不誠実の重みに耐えきれなくなった刀が自殺したかのようだった。


362 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:57:42 3J8p6JHM0
『そういえば上杉くんはこの後の予定ってある?』

 何事もなかったかのように球磨川は話題を変えた。
 まるで、放課後のスケジュールを尋ねる同級生みたいに気軽な言い方だった。

「地図にPENTAGONって建物があるだろ? ひとまずはそこを目指してみようかと思っている」

 そう答える風太郎だったが、一時間にも満たない砂漠横断ですら疲労を訴えてきている自分の足が、はたして目的地までもつか不安になっていた。

「球磨川。そう言うお前はどうなんだ?」
『残念ながら上杉くんとは別れることになっちゃうね。僕は真逆の方向に目的地があるんだ』
「ん? そうなのか」

 目的地どころか目的を持って生きているのかすら怪しい言動をしている球磨川がそんなことを言ったので、風太郎は彼が何処に向かうのか気になった。
 だから質問した。何処に行くのかを。
 球磨川は次のように答えた。

『病院に行くのさ。箱庭総合病院へ──僕が勝ちたくて勝ちたくてたまらない相手と、僕のかわいいかわいい後輩が行く可能性は、そこが一番高いからね』


363 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 00:59:24 3J8p6JHM0
【C-8・砂漠/1日目・深夜】

【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:病院を目指す。
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。

【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:自分と知り合いのためにも、しっかりしなくては。
1:一花、二乃、三玖、四葉、五月との合流。
2:PENTAGONを目指す。
[備考]

爆弾@ラブデスター
皇城ジウが神居クロオの殺害に使用した爆弾。スイッチ式なので、間違えて押すと本作のような展開になる。

螺子@めだかボックス
球磨川禊のメインウェポン。これをもって対戦相手を螺子伏せる。

誠刀・銓@刀語
誠実さに主眼を置いて作られた刀。人ではなく、持ち主の価値を測る。戦闘には役に立たない。木っ端微塵に砕け散った破片が砂漠に置き去りにされている。


364 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/11(土) 01:02:39 3J8p6JHM0
投下終了です。タイトルは『劣等分の過負荷』です。予約はちょっと今の予約状況を一旦寝た後で確認してからやります。感想はもう少しお待ちください。


365 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/11(土) 01:05:07 wq.mR5TM0
投下乙です、球磨川の再現度いいですね!
詳しい感想はまた後日。
累、クロオ、予約します


366 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/11(土) 01:18:21 roUpDaoA0
上杉風太郎、球磨川禊、予約します。


367 : ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 14:59:29 qUJ7Ax8Q0
投下乙です。
目の前でこの力を見せられたら納得するしかなさすぎる。
大嘘憑きの描写がわかりやすくていいですね。

予約していたライダー・黒縄地獄、清姫、浅倉威投下します


368 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:01:00 qUJ7Ax8Q0
ピリピリとした風が空を裂く。
灼熱から生まれ出たその風は触れるもの全てを焼かんとしていた。
炎の奔流。英霊の座に刻まれた存在が振るう魔力を基とするもの。
常人は言うに及ばず、人の理を外れた存在でさえ灼くことは容易であろう。
その炎はただ一振りにより薙ぎ払われ、刀をつたい塵となって空へ消えた。

「あらあらまあまあ——虫と思えばはぐれサーヴァントでしたか」

炎を裂き、顔を浮かばせるは平安の日本にて、幾多の怪異を討ち滅ぼした英雄こと源頼光。
ただし、そこに居るのはその源頼光の骸。一切塵殺の宿業を埋め込まれた、“英霊剣豪”が一騎——ライダー・黒縄地獄。
黒縄地獄は眼前の敵、薄緑色の長髪をなびかせる少女に対して笑う。
少女は黒縄地獄と同じく、人智を超えた存在であり、先程の炎を生み出したサーヴァント。
真名を清姫といった。

「わたくし、これでも気を遣ったのですが——ええ、まあわたくしとしてはなんですが」

清姫には黒縄地獄のような戦場の逸話は持たない。
一人の男性を恋い焦がれ、恋い焦がれ、ただ恋い焦がれた。
しかし、男性はその恋に答えることはなく、彼女を遠ざけた。
一つの嘘。男性にとってはきっと大事とは捉えていなかったであろう言葉。
彼女はそれを信じて、裏切られて、悲観に暮れて、そして追った。
ただ、追って追って追って追って。
その先に手に入れたものは男性の心ではなく、総てを焼くための炎と醜い異形。

「やっぱり面倒なので、焼き払わせてくださいね。頼光さんでしたか……まあ、なんでもいいですけど。ますたぁさえいればいいのですから」
「ええ。しっかりと焼くことをすすめましょう。せいぜい、あなたのマスターがこの刀で斬り捨てられる前に」

炎をまとう清姫が笑い、黒縄地獄は刀の構えにより応えた。





369 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:01:53 qUJ7Ax8Q0
エリアC-3の一画でライダー・黒縄地獄と清姫は出会った。その出会いに作為はなく、ただの偶然であった。
それでもサーヴァントの存在である二人は、瞬時にお互いが自身と同様のものであると悟った。
清姫にとってマスターの無事が第一の目的であり、戦闘は避けられるものであれば避けたいと考えていた。
しかし、黒縄地獄の考えは違った。彼女はサーヴァントであるだけでなく、英霊剣豪の一騎。
黒縄地獄は英霊剣豪の装置として、この場に居る存在の殲滅が目的としている。
先刻は猗窩座ともう一人、新たな存在が現れ、消耗を増やさないために場を引いただけに過ぎない。
話を持ち掛けようとする清姫に対し、黒縄地獄は雷を纏った矢で返答し、現在に至った。

「ああ、なんて下品な炎でしょうか」

黒縄地獄が刀を握り、前方へ踏み込む。その踏み込みは地を滑空するが如く軽やかに黒縄地獄の身体を跳ばした。
草木の揺れが踏み込みの速さを物語るかと思えば、握りしめた刀より無数の風が吹き荒れる。
目にも止まらぬ剣の切っ先の震えが炎を揺らし切り裂く。
生前に鳴らした、類まれな剣術の業に英霊剣豪の力が重なり剣の威力を生んだ。
清姫の放った炎が瞬く間に四散し、黒縄地獄はその体の勢いを殺さずに炎に飛び込む。
苦痛にゆがむ表情など見せることなく、ただ目の前の敵との距離を縮める。
しかし、そこには在るべき存在は見当たらない。

「あら。あなたの雷こそ、ばちばちと……とても耳障りです」

見上げる黒縄地獄の視線の先に清姫の姿が見えた。
清姫はふわりと風に吹かれるような跳躍により、後方へ体を飛ばした。
サーヴァントの力の源を利用した魔力は、生前武芸に関しては一般の域を超えぬ清姫の身体を羽ばたくように動かせる。
そして清姫を囲むように四つの青白い炎が小さく灯り、一瞬のうちに彼女の頭程度の大きさに膨れた。
清姫は手に握った扇を口元に寄せ、舞う様に華奢な体をねじらせ、廻る。
四つの炎は一瞬清姫と同じように動き、やがて彼女の体を離れ飛んでいく。
向かう先は天ではなく、地上。黒縄地獄の双眸に吸い込まれるように空を切った。


370 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:02:53 qUJ7Ax8Q0
「気が合わないようですね。いえ、これはこれで——」

前方へ踏み込んだ体にいともたやすく静止をかけ、斜め上方へ黒縄地獄が跳ぶ。
静止は一瞬。常人には予想も出来ないほどの軌道で動く。
見る者にとって身体にかかる負担は予測も出来ないが、黒縄地獄に一切の怯みはなく、ただ風を切る音を捨て疾駆する。
刀を振るう。害にもならない羽虫を払うように、握った刀で清姫の炎を斬り捨てる。
そして宙に浮いた黒縄地獄の身体は地面に向かうことなく、そのまま清姫へ向かう。
英霊剣豪の強靭な身体能力はたとえ主催者により手が加えられていたとしても、人の常識には余る代物。
清姫の表情には少しの驚きの色が見て取れた。
そんな清姫を嘲笑うかのように黒縄地獄の身体は、清姫を越え漆黒の天を背負う。
両手に握りしは刀。決して折れぬ、一振りの絶刀で上段の構えを取る。

「そちらも目障りですよ——醜い羽虫が」

強烈な一撃が清姫を襲うが、彼女は瞬時に扇で対抗する。
ただの扇ではなく、サーヴァントの魔力で構成された扇の性能は言うに及ばず。
しかし、相対する相手もまたサーヴァントであり、更には英霊剣豪の一騎。
ライダー・黒縄地獄——源頼朝の雷鳴とも言える一撃は生半可なものではない。
一撃の力が増す。徐々にではなく、息もつかぬ一瞬に。
増大した力の一端が清姫の視界を走り、彼女の全身をなぞるようにほとばしる。

「ッ——!」
「さぁ、無様に散りなさい。その汚い魔力は、精々拾って上げましょう」

雷が爆発する。放出する魔力が轟雷となり、絶刀の刀身に帯びる。
先刻まで刀を受けていた清姫の扇は文字通り弾き飛ばされ、宙に舞った。
清姫は苦悶の表情を浮かべ、溜まらずに下方へ落ちていく。
そんな清姫を黒縄地獄は冷たい目で見降ろし——否、彼女の眼前に今まさに迫っている。
身体をしなやかに回し、両腕に握った刀を振りかぶり、清姫の身体に横殴りに叩き込む。
言いようのない音と嗚咽が響く。同時に、清姫の体は草林の中へ飛び込むように吸い込まれた。





371 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:04:09 qUJ7Ax8Q0
「まったく……敵であれば邪魔なこと、この上ないですね」

衝撃にとばされそうになった意識を辿り、体を起こしながら清姫は思考する。
鋭く睨むはライダー・黒縄地獄と名前だけは名乗った、にっくき敵。
清姫にとって同じカルデアに所属するサーヴァントであり、特に親交があるわけではない。
互いに存在を認知はしている程度。それでもあちらは自身について特別反応を示さない。
おそらくは自身を知らない源頼光であり、彼女にとっての自分もそうなのであろう。
何故、ライダー・黒縄地獄という聞き覚えのない名前を名乗っているかはわからないが——いいや、違う。
理解が出来ないわけではない。
そう、ただ単に、そんなことに興味はないのだから。

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔…ますたぁの元に行くためには邪魔ですよ」

想うは自分を召還した、カルデアの魔術師、藤丸立香の事。
“ますたぁ”である彼の無事こそが最優先の目的であり、他は些細な事でしかない。
ああ、でもますたぁは違う考えなのだろう。
カルデアに呼ばれたサーヴァントを一人でも欠けないように救おうとするに違いない。
やさしいますたぁ。嘘はぜったいにつかないますたぁ。わたしのますたぁ。
でも、でも、でもたとえばそう、この清姫が無事に切り抜けるためならば。
愛するますたぁのサーヴァントが一騎、無惨に焼き尽くされても、きっとわかってくれるはずだから。

「だから、さっさと燃えちゃってくださいね」

清姫が翻すは再度浮かばせた扇。
扇の一振りにより生まれた赤白い炎を一直線に飛ばす。
狙いは黒縄地獄。細い両目がかすかに見開くように動いたのを清姫は自らの炎越しに見た。
黒縄地獄は離脱も、刀での切り払いも間に合わず、瞬く間に炎に包まれていく。

「……さすがはサーヴァントとでも言いましょうか」


372 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:04:54 qUJ7Ax8Q0
黒縄地獄に油断があったわけではない。
先刻の一撃には確かに手ごたえがあったが、サーヴァントの頑強な身体はやはり侮れない。
たとえ甲冑に身を包もうとも容易に切り捨てられる雑兵とは違うのだろう。
加えて清姫の魔力を伴った炎の速度もまた計り知れないものだった。
黒縄地獄といえども、放っておけば骨の髄まで焼き尽くされてしまう炎の勢いは今も健在。
刀で受けた炎を再度切り払い、次なる攻撃を加えようとする清姫の先手を取ろうとする。
その瞬間だった。この場で初めて感じた感覚。
先刻死合った鬼とはまた違う存在を黒縄地獄は感じ、清姫も同時に知覚した。

「——なんだ。楽しそうじゃねぇか」

派手な洋装のシャツを羽織り、茶色に染めた男が嗤う。
黒縄地獄と清姫に向かって、悠然と歩いている。
黒縄地獄は男の歩みを止めようとはしなかった。
恐れを抱いたわけではない。ただ、目の前の存在が一体なんであるかが気になった。
サーヴァントではない。独特の魔力反応を感じない。
程度はあれども下総の国で散々と切り捨てた雑兵のような、使命に殉ずる想いもない。
言葉では飾れない、もっと本能的な何かが。
男から感じるものは、そこにあるものは、ただ純粋な願い。
そこまで思考を走らせ、ああ、なるほどと黒縄地獄は得心した。


これは——ただの獣なのだと。


「俺も混ぜろ……変身!」


剣閃が走る。





373 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:05:48 qUJ7Ax8Q0
黒縄地獄に執拗に斬りかかるは紫色の装甲に身を包んだ男。男の名は浅倉威といった。
神崎士郎により、ライダーデッキを渡された浅倉は本能の赴くままに闘い続けた。
浅倉にとってこの殺し合いも変わりはない。
参加者が70名に増え、主催者が変わっただけに過ぎない。
ただ、自身の苛立ちを殺せるような、闘いが出来ればなんでもいいのだから。
浅倉は会場に放置されていた鏡に身を映し、仮面ライダー王蛇に姿を変えた。
大蛇の牙をかたどった、ベノサーベルの禍々しい刀身を黒縄地獄の身体に突き立てんとする勢いで振りかぶる。

「——大振りなっ」

しかし、黒縄地獄の身体にベノサーベルは届かない。
最小の身の動きで黒縄地獄は王蛇の剣をかいくぐり、彼との距離を詰める。
予想以上の黒縄地獄の俊敏さに王蛇は一瞬動きを止めてしまう。
好機を逃す黒縄地獄ではない。剣による突きを一度、二度三度と一瞬の内に無数の剣撃を放つ。
王蛇は後方へ身体を揺らすが、彼の動きよりも黒縄地獄の方が一手以上は速い。

「がっ!」

だが、黒縄地獄が感じた手ごたえは浅いの一言。
後方へ吹き飛ばされる王蛇の装甲を貫き、無数の血しぶきが散るものの致命傷とは程遠い。
おそらくは目で見えていたわけではないのだろう。
例えるなら危険を察知した獣が本能的に体を動かしたようなもの。
そこに理屈はない。しかし、余計な迷いもなく合理的とも言える。
黒縄地獄は自身の目の前にいる男ならばと確信に近い見立てがあった。
思わず笑みが零れる。ああ、なんて可笑しいのだろうか。
すぐに体勢を立て直した男が視界に入り——彼もまた嗤っていた。

「いいな……てめぇは闘いがいがある」
「あらあら、随分とお気に召したようで」

吼える。男が——いや餓えた獣が。
きっと誰の称賛も必要としない。ただ己のためだけに闘う一匹の獣が。
たとえ鎧に身を包み、姿は変えても、在り方そのものにはなんら変わりがない一匹の獣を。
同じく獣になりさがった獣である、自身が討ち滅ぼさんとする。
獣同士の闘いとはなんて醜く、浅ましい。しかし、これほどまでに自身に相応しい事はない。
これが可笑しいと思える自分もまた壊れているのだろう。


374 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:07:24 qUJ7Ax8Q0
「ちょっと、わたくしもいることをお忘れなく」

しかし、次なる剣閃を振るわんとする黒縄地獄は瞬時に横へ飛び退く。
王蛇の側方から清姫が魔力により生成した炎による衝撃波を放っていた。
身体を跳ばした黒縄地獄はすでに刀は手に取っておらず、代わりに一本の弓を持っている。
黒縄地獄が地に足をついた時には彼女の弓からは無数の矢が放たれている。
矢が進むは前方。ベノサーベルを持ち、悠然と構える王蛇と、こちらに向かう清姫に対して。
だが、無数の矢が王蛇、清姫を共に撃ち貫くことはなかった。

「そんなもの、子供騙しにすぎませんよ」

王蛇の頭上をふわりと飛び越え、清姫が息を吹いた。
ただの息ではない。青白い、サーヴァントの魔力で生成された超高熱の炎であった。
黒縄地獄の矢は清姫が吹き出した炎に触れた瞬間に燃え尽きていた。
黒縄地獄は苦虫を潰したような表情をかすかに浮かべる。
おそらくは武芸に秀でたものではないにせよ、相手はサーヴァント。
未だ真名も把握していない相手であり、他に隠し手があっても不思議ではない。
黒縄地獄は再度、地を蹴り飛ばし後方へ跳ぶ。

「なんだ、お前は?」
「うるさいですねぇ……名前であれば知りたいなら、あとで教えてあげます」

サーヴァントが持つ絶大な威力ともいえる宝具は逸話が具現化したもの。
真名を伝えるという事は自身の手の内を開かせることとにも等しい。
ただ、清姫は奇しくも黒縄地獄と同じく目の前の王蛇をサーヴァントとは異なる存在と認識した。
魔力反応の類を全く感知させないことが大きな理由の一つ。
鏡に身を映したかと思うと奇妙な鏡像をまとい、一瞬の内に姿を変える力には一抹の危険を覚えたが。
清姫はこの場で一番の危険因子と判断した、黒縄地獄の排除に繋がる手段を選択した。
黒縄地獄はマスターをも斬り捨てると宣言しており、放置は出来ない。
加えて黒縄地獄の力は何らかの制限がかかっているようだが強大である。
一人で劣るとは決して思わないが、それでも一人よりも二人の方が手傷は少ないだろう。


375 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:08:34 qUJ7Ax8Q0
そのため、この場ではなによりも手数がほしい。
また、目の前の男はまず真っ先に黒縄地獄に斬りかかった。
言葉が通じないわけでもなく、助けに対してそれなりの反応も得られた。
ならばこの男は、きっとわざわざ孤立を招くような真似はしないだろう。
もし、裏切るような素振りがあれば、真っ先に自身が燃やし尽くしてしまえばいい

「だから、今はわたくしに手をかしなさい。あいつを放っておくことは危険——」


自分であれば出来るはずだと、清姫はそう考えていた。


「邪魔だ」

清姫の言葉が言い終わる前に、彼女の胸にはベノサーベルが深々と突き刺さる。
嗚咽と共に見開かれた清姫の目には偽りの仮面に隠れた浅倉の表情は見ることが出来ない。
この男は何を——と一瞬思うが、清姫は自身の誤りに気付く。
この男には何もない。数の有利を考える頭がないわけではない。ただ、必要ないのだろう。
薄れゆく意識の清姫を尻目に王蛇は右足を使い、ベノサーベルを清姫の身体から強引に引き抜く。
蹴り跳ばされる清姫から血しぶきを浴びながら王蛇は首を回し、仮面の口を腕で拭う。


「楽しいな。やはりライダーの力はいい」


376 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:10:16 qUJ7Ax8Q0
王蛇はベノサーベルを投げ捨て、代わりに蛇の形を模した紫色の杖を構える。
ベノバイザー——王蛇の力の源であり、幾多のライダーを葬った必殺の一撃をもたらすもの。
ベノバイザーの頭部部分が上方へスライドする。
手慣れた動作で王者はカードデッキからカードを引き抜く。
しかし、王蛇の手がふいに止まる。

「そろそろ……お遊びはおしまいにしましょう」

黒縄地獄が再び刀を携え、構えをとっている。その構えから王蛇は本能で理解した。
今までとは違う一撃がくるのだと。奥の手ともいえるものなのだろう。
そして王蛇の感覚に痛いほど呼びかけてくる気配がもう一つあった。


「さすがのわたくしも……ここまでやられて黙っていられません——転身火生三味!」


ふらりと立ち上がった清姫が自身の宝具を開放し、その姿を一匹の大蛇に変えていた。
青白い炎の大蛇が王蛇、黒縄地獄の前に現れ、今にも跳びかからんとしている。
前方の黒縄地獄と後方の清姫に挟まれる形となった王蛇に退路はない。
だが、当の王蛇は黒縄地獄と清姫に軽く一瞥をくれたあとに——口を開く。


「ハーッハッハッハハァ—!面白い……これでこそ退屈しない!ライダーになった甲斐があるもんだ!!」


377 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:11:19 qUJ7Ax8Q0
王蛇は、浅倉はただただ歓喜した。
何物にも満たされず、常に心をかき乱す苛立ちがどうしようもなく我慢できなかった。
己の中で常に力が暴発し、人間社会の籠は浅倉にとってあまりにも窮屈になっていた。
だが、神崎士郎によりカードデッキを与えられ、仮面ライダーとなったことで変わった。
抑えきれなかった彼の暴力がいかんなく奮えるようになったことで浅倉を囲む世界の色は変わった。
そしてそれはこの殺し合いでも変わらない。
たとえ人智を越えた存在であるサーヴァント2騎の、宝具開放に囲まれる形となっても浅倉に恐怖という感情は微塵もなかった。
だからこそ、浅倉は、王蛇は迷いなく切ることが出来る。
一度は止めた手が動き、一枚のカードをベノバイザーに入れた

——FINAL VENT——

ベノバイザーから電子音声が流れ、王蛇の背後に紫色の大蛇、ベノスネーカーが出現する。
同時に体勢をかがめ、前方へ疾走する王者のあとを追う様にベノスネーカーが走る。
ベノスネーカーの背後からは大蛇に姿を変えた清姫もまた追いつつ、口元に溜めた炎を吐き出す。
魔力によって高められた、超高熱の灼熱がベノスネーカーごと王蛇を襲う。


「——天網恢恢!」

更に前方からは黒縄地獄が刀身から雷鳴を轟かせながら、雷の魔力を解き放つ。
本来は自身の分身と共に放つ宝具ではあるものの、威力は絶大そのもの。


378 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:12:53 qUJ7Ax8Q0

「ハッ!」

しかし、王蛇は止まらない。
後方へ跳躍し、ベノスネーカーの顔の前で宙を返る。
既にベノスネーカーは清姫の炎によって身体のほとんどが燃えつくされており、辛うじて形を保っているに過ぎない。
だが、王蛇は自身の契約モンスターが朽ちることをまだ許してはいない。
何故なら楽しみはこれからなのだから。
ベノスネーカーの口元から毒燐が放出されると同時に、清姫の炎がベノスネーカーだけでなく王蛇にも回り始める。


「ハアアアアアアァァ!!」


ベノスネーカーの毒燐による加速、そして清姫の炎をその身に受けながら王蛇は自身のファイナルベントを放つ。
相対する天網恢恢の雷を両足により文字通り蹴り裂きながら進む王蛇。
裂かれながらも雷は確実に王蛇の装甲だけでなく、後方のベノスネーカーと清姫の身体をも食い破っていく。
それでも、王蛇は止まらない。
餓えた獣を満たすには純粋な闘いしかなく、それこそが——浅倉の果てなき希望。


「まさか、これほどとは——」


絶刀で受け止める黒縄地獄を衝撃が襲った。





379 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:14:28 qUJ7Ax8Q0
「少し魔力を使いましたか。これからは用心しましょう」


エリアC-3東部を走る黒縄地獄が一人思う。
支給された絶刀を使い、王蛇のファイナルベントの威力を抑え、致命傷は避けたが消耗はあった。
先刻出会った鬼のこともあり、サーヴァント以外の存在も侮れない者は多いと黒縄地獄は改めて認識する。
まだ殺し合いは始まったばかりであり、宝具の最大開放は元より考えてはいなく、一部のみの開放に留めていた。
自身は英霊剣豪としての宿業を全うするために存在している。
一切塵殺を遂行するための装置でしかない。

しかし、ふと思う。
清姫と名乗ったサーヴァントはマスターを探している様子だった。
十中八九カルデアのマスターのことであり、清姫はカルデアに召還されたサーヴァントだろう。
人理を守るために己の力を奮うことが許された存在。
うらやましいとさえも思う。しかし、一切塵殺を担う英霊剣豪は違う。
そもそも清姫と自身を比べてしまうことすらもおかしい。
英霊剣豪はものの道理を弁える機能はついていなく、己の在り方について考えることもない。
英霊となる前から壊れている自分は、きっと英霊剣豪としても壊れてしまっているのだろう。

「あの子が居れば、私をすぐにでも殺してくれるのでしょうね……」

いつも心配をさせる愛しいわが子の存在がこの場には居ないことが悔やんでしまうのだから。




380 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:15:22 qUJ7Ax8Q0
「どうやら……これまで、みたいですわね」

地面に横たわる清姫の身体は少しずつ金色の粒子が漏れていた。
それはサーヴァントとしての現世での現界が近い時が間際に迫る合図。
短時間での宝具の連続使用、そして連戦による身体部位の損傷、黒縄地獄の宝具そして王蛇による一撃。
すでに清姫に魔力は残されていなかった。

「おい」

不意に声をかけられ、目をやると全身が焼けただれた男が視界に入った。
おそらくは自分の宝具と黒縄地獄の攻撃による負傷なのだろう。
軽くはない痛手を与えたようであれば、少しは気が晴れるかもしれない。
だが、自分とますたぁの出会いはこの男によりもう叶いそうにもない。
もう一撃くらいはくれてやってもいいがきっとその前に止めを刺されるのだろう。
清姫は半ば覚悟を決め、両目を閉じようとする。

「——お前、名前を教えると言っただろう。言ってみろ」

一瞬、清姫は浅倉が何を言っているかはわからなかった。
だが、清姫はすぐに理解する。
先刻、即座に剣を突き立てられたことも理解出来た。
この男には自分など眼中にもなく、きっとあの黒縄地獄自体にも興味はない。
男にとってきっと、闘えることが全てなのだろう。
だからこそ他者に対する罪悪を感じることもなく、この期に及んで名前などの話を蒸し返すことが出来る。
怒りを通り越して呆れすらも覚えるが、一つ好ましいと思えることがあった。
それは浅倉の行動には嘘はなかったことに尽きる。
言ってしまえば彼は闘い、名前を教えると言われたのでただその権利を行使しようとしているだけだ。
その行動に他者を省みることはなく、ひどく独善的ではあるが、清姫はそこを責める気にはならなかった。
彼女も自身とますたぁ以外にこの世界に興味はなく、その二つのためにならばどんなことでも出来ると考えるのだから。


381 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:16:49 qUJ7Ax8Q0
(ああ、ますたぁ……今度こそ、あなたを守りたかったのに……)


意識は少しずつ消えていく一方で、最愛の人への想いは燃え盛るように募っていく。
一度は惚れた相手を憎んで、恨んで、そして怒りで焼き尽くした自分。
まるで言うなれば獣。狂うように闘ったこの男とあのサーヴァントのように。
獣の本性を見せることが怖かった。嫌われてしまうのではないか。
また、嘘をつかれて嫌われてしまうのではないか。
また、私は醜い竜の姿で、愛する人を殺してしまうのではないか。
だけども、あの人は、ますたぁはそんな自分を見て言ってくれた。
——格好いい、頼もしい、と。
なんてひどい。乙女に向けたものとして褒められた言葉ではないのに。
だけども、そのますたぁの言葉には嘘はなかった。
あの時も、自分のことを見捨てないと強く言い放ったますたぁ。
ああ、それなのに。
あなたのためならば、大嫌いな嘘でさえも自らのものに出来ると思えたのに。
今はもう、この唇を重ねられないなんて——

黄金色の粒子が天に登り、そこには何もなくなった。





382 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:18:15 qUJ7Ax8Q0
先刻の闘いは浅倉にとって悪いものではなかった。
ライダーとはまた違い、カードの力を使わずに雷や炎の力をあそこまで奮う存在は面白い。
雷の女はまだ余力も残していたようであり、また会うこともあれば楽しめるだろう。
だが、それでも浅倉の表情は険しい。

「……なんだってんだ」

名前を教えると言った、炎の女はたった今姿を消した。
特別、女の名前が知りたかったわけではない。
ただ、もらえるものであればもらっておこうと思っただけだ。
だからこそ、女がたとえ死のうが浅倉にとっては闘える相手が減ったという事実に過ぎない。
しかし、自分を無視して消えたことは気に食わなかった。

「イライラするんだよ……!」

苛立ちながら浅倉はその場をあとにする。
他者の存在を傷つけ、壊し、殺すことはたやすいのに。
満たされない己の心を抱えながら、浅倉は次の闘いを求めていく。




【清姫@Fate/Grand Order 死亡】


383 : 獣達の夢 ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:19:32 qUJ7Ax8Q0
【C-3/東部/1日目・深夜】
【源頼光@Fate/Grand Order】
[状態]:健康。中度の疲労。
[装備]:絶刀・鉋@刀語、弓矢@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. 鬼を二体確認したが、今戦うのは難しい。

[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。


【C-3/南部/1日目・深夜】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[状態]:全身に火傷
[装備]:王蛇のカードデッキ 
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針: いつも通りに闘う
1. 移動する
[備考]
※メタルゲラス、エビルダイバーと契約後の参戦


384 : ◆Wott.eaRjU :2019/05/11(土) 15:20:30 qUJ7Ax8Q0
投下終了しました。


385 : ◆dxxIOVQOvU :2019/05/11(土) 18:06:39 qZS0S2MI0
あー!アツいね!カッコイイー!(小学生並みの感想)
いや実際夢の対決って感じで良かった…(中学生並みの感想)
清姫の心に感動しました(高校生並みの感想)
尊い…(大学生並みの感想)


386 : 名無しさん :2019/05/11(土) 18:37:13 rR9GHl9.0
投下乙です
ライダーが乱入してきたと思ったらバーサーカーだった


387 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 18:58:17 plL/DDQw0
投下乙です!
バトル・脱落者が起こり始め本格的にロワが動いてきたように思います。
こちらも投下いたします


388 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 18:59:20 plL/DDQw0


「どいてくれないかしら? 私はそこの草を毟りたいだけなのですけれど」

その時、善逸はこれほどまでに冷たい音がこの世にあるのかと、驚きに似た感情を抱いていた。

善逸は耳が良い。とてつもなく良い。
かつて寝てる間に人が話していたかを言い当て、気味悪がられたことさえある。

生き物すべてには音がある。
呼吸音。
心音。
血の巡る音。

常人には区別のつかないであろう、それらの音。
善逸にはそれらの音をどういう訳か聞き分けることができた。
そして、それを注意深く聞けば、わかるのだ。

相手が何を考えているのか。
相手が何を想っているのか。
相手が──どういう人間なのか。

「私、とても疲れているから、本当は休んでいたかったんですけれど、でも、どうしても抜いておかないといけない草があったら寝付けないでしょう?
 ほら、こういうの、放っておくとどんどん増えていくものですし」

そう言って、その女はうっすらと笑みを浮かべて見せた。
古風で品の良い和装を身に纏った女人だった。
長く伸びた髪にその細い身体を包む彼女からは、どこか儚げな雰囲気が漂ってくる。

だが──その時の善逸はその女のことを、心の底から恐れていた。

彼はひどく耳が良い。
だからこそ──その女の音だってよくわかる。

その音はおよその人間のものではない。
かといって鬼の音などでもない。
それは──刀の音だ。
そこに苛烈な感情はなく、善悪といった酒落臭い楔もない。
一たび振るわれればただ命を刈り取るだけの、澄んだ殺意が伝わってくる。

この女の音は──ただひたすらに恐ろしかった。
鬼の音ならばよかった。そんなものは聞き慣れている。
だがこの女の音は、今までに聞いたことのない冷たく、理解の及ばない音であった。

「く、草むしりって、何をする気だよ」

思わず善逸は前に出て、そう言っていた。
その手には刀──ではなく、野球のバットが握られている。
当然、本当は刀が欲しかった。こんな奇怪な場所で、己の相棒たる日輪刀がないことはもちろん不安だった。

だがそんなものでもないよりはマシだった。
善逸は耳が良い。だからその女の恐ろしさも、見た目に反して恐ろしいほど強いことも悟っていた。
それでも彼は前に出て、問いかけていた。
だってその女の言う“草”が、何を意味するのか、彼はわかってしまったから。

「千翼に何をする気だ!」

後ろに立つ五月も、当の千翼さえもまだピンと来ていない様子だった。
見た目だけならば、この女は華奢で見た目麗しい女性にしか見えないだろう。
だが善逸だけは違った。彼だけは会った瞬間、最大の警戒を持って女と相対していた。

「あら、やっぱり間違ってなかったのですね」

善逸の言葉に、女は満足げに頷いた。
同時、ちひろ、とその音を確かめるように舌で転がしている。

「そこの不快な草から“あまぞん”の臭いがするから、抜いておかないと──そう思って声をかけて、本当によかったです。
 私、草むしりが趣味なので、そういうのは耐えられない性分なの」

女が微笑んだ、その瞬間、善逸の視界は反転していた。
最大限、警戒していた。油断など全くしてなかった。

だが善逸のぐるりと世界が一回りするのを感じたのち、鈍い音とともに叩きつけられていた。





389 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:00:04 plL/DDQw0


乱雑に積まれた瓦礫に、善逸はその身を吹き飛ばされている。

「善逸君!?」

音を立てて沈んでいく善逸に対し、五月が困惑の声を上げるのが見えた。

薄暗がりの廃工場には四人の男女が集っている。
善逸、千翼、五月。
そして紆余曲折ありつつも行動を共にすることを選んだ三人の前にふらりと現れた女。

彼女が善逸を問答無用で吹き飛ばした──というのが、今目の前で起こった出来事のはずである。

鑢七実、という名を当然三人は誰一人として知らない。
その儚げな佇まいと──善逸を一瞬で放り投げたその力が、まったく結びつかない。

「え? え? 何が起こったんです?」

五月の声が後ろから聞こえた気がする。
だから五月はまだその時点においても、今何が起こっているのか──自らがとてつもない何かに強襲されているという事実を飲み込めてはいないのだろう。

だが千翼はわかっていた。
目の前の女が純粋な殺意を持って襲いにきていると言うこと。
だからこそ彼はすぐにベルトを装着しようとするが──

「私、疲れているから、すぐ終わらせたいの」

七実は無感動な、それでいて千翼に対する不快感を滲ませた声で呟いた。

「虚刀流『蒲公英』」

その瞬間──今度は千翼の身体が吹き飛ばされていた。
虚刀流の技術と、彼女が会得していた凍空一族の怪力の組み合わせ。
腹部に走った衝撃。逆流する胃液。その勢いのまま──その身は吹き飛ばされ、地を這っていた。
ベルトもまた地面を擦るように転がっていく。

千翼は悔しげに顔を歪め、ぐぅ、と腹部を抑えながらも顔を上げる。
常人ならば致命傷にもなりかねない一撃であったが、アマゾン細胞による驚異的な生命力を持つ千翼は生き延びていた。
鈍痛が視界を揺らすが、ここで意識を手放すわけにはいかない──それは死を意味する。

「生きているのね。本当、しぶとさだけなら一級品なのかしら」

和装が風に揺れる中、冷たい嫌悪の眼差しで女人が千翼を見下ろしていた。
花のような儚い美しさすら感じられる彼女が、月光を背中に受けながら、彼女はそう語る。

「“あまぞん”……とても厭な草ね。抜いてしまわないと」

アマゾン、とこの女は明確に言っている。
不思議なイントネーションだが、彼女はアマゾンという存在をひどく嫌悪し、同時に千翼がアマゾンであると見抜いているようだった。
くそ、と千翼は内心悪態を吐く。
ここでも──こんなところでも、自分は追われる身なのか。

「あーもう!何!何!何だこの女!」

ドッと瓦礫を押しのけて少年、善逸が飛び出してきた。
「わっ」と後ろで五月の声がする。彼女は未だ状況にはついていけないようだった。
戦闘も何も知らない人間にしてみれば、その反応も仕方がないだろう。
だが善逸の方は違った。女の打撃をその身で受けていながらも、すでにバットを構え直し、すぐさま戦闘に戻ろうとしている。

「腹ぶち抜かれるかと思った!
 死んだ!死んでた!修行してなかったら俺確実に死んでた!」

とはいえ痛くない訳ではないらしい。
彼は腹を本当に痛そうに抑えつつも喚いている。
一瞬心配したが、これだけ大声で騒げるのならば命に別状はないだろう。

「あら。ちゃんと生きているのですね。
 いい呼吸だわ。しっかり訓練してるのがわかります」
「くっ! こんな状況なのに褒められて結構嬉しい!」
「でも剣はふざけているのね。でもまぁ、変体刀の中にそういうお遊び染みたのも紛れてるのかしら」
「俺だってバットなんか振りたくないけど! でもないんだからしょうがないだろ!」

きいいい、と騒ぎ立ててつつも善逸は確かな足取りで千翼の隣、いや、少しだけ前へ立つ。
その様子は──千翼を守ろうとするかのようであった。
千翼はその姿に意外なほど驚きを感じていた。そのまっすぐな姿と、初めて会った時の彼の情けない姿が結びつかない。


390 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:00:26 plL/DDQw0

「お前……」
「わかってるよ! この女の方が、俺より強いことくらい!」

誰に問われる訳でもなく、善逸は口を開いていた。

「でもこの女が、千翼を殺そうとしていることだってわかる。
 それに五月ちゃんだっている。
 だったら俺がやらないと! ここには伊之助も、炭治郎もいないんだから!」

そう面と向かって啖呵を切る善逸の手は、震えてはいなかった。
初めて会った時のあの臆病な様子が演技であったとは思えない。
だから本心では恐れているのかもしれない。
だが、ここに立つ善逸は、それを決して周りには見せなかった。

「…………」

無言で千翼は立ち上がり、一歩前に出た。

その手にはベルト、アマゾンズドライバーがある。
それだけで善逸は察してくれたようだった。
一緒に──この女を退ける。
単体では強大な力を持つ女だが、連携をすれば切り抜けられるかもしれない。

「いくぞぉ!千翼!」

善逸が声をあげる。それはまるで己自身を鼓舞するかのような声で、千翼は、その声に不思議な感覚を覚えていた。

本当に久々に思える──隣に、味方が立っているなんて。

その事実を噛み締めながら、千翼は善逸と共に地面を蹴る──

「UWAAAAAAAAAAA」

──直前、廃工場の壁が音を立ててぶち抜かれていた。
それはスマートとは全く言い難い乱入の仕方だった。
錆びついた鉄板を力任せにぶち抜き──その赤い獣は突如として現れていた。

「AAA..AAAAAA....探したよ」

千翼も、善逸も、七実でさえも、その闖入者に目を奪われた。
装甲のごとく硬質に活性化した赤い肌。理性の感じれらない白い眼。漏れ出る声には、強烈な戦意を滲ませている。

赤いアマゾン。
アマゾンアルファ

その乱入者は、周りをきょろきょろと見渡している。
この獣は目が見えていないのだ。そのことを暗に示すような動きであった。
だがその獣はたとえ見えてなくとも──己が追い求めるものはハッキリとその意識で掴んでいるようだった。

「探したよ──お前が、千翼だな」

だから、獣はその名を呼んだ。
千翼。
この獣もまた、七実と同様に明確な敵意を持ってその名を告げていた。

「…………」

そんな獣に対して、千翼はただ一言、短く返す。
父さん、と。





391 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:01:03 plL/DDQw0


突然の乱入者、アマゾンアルファ、鷹山仁に対して善逸が声をあげていた。

「は? 父さん? この化け物が?
 ええ!? じゃあ味方なの──」
「AAAAAAAAAAA!」

その言葉がいい終わるよりも早く──仁は雄叫びをあげそのクローを振り払う。
ろくに視界も見えていないであろうで、気配を直感で感じ取って放ってだろう乱雑な一振り。
だが獣のごとき嗅覚によるものか、仁は千翼と善逸を捉え、猛然と襲いかかってくる。

「千翼──俺は」

一撃一撃を咄嗟の反応で避けながら、千翼は仁と相対する。
鷹山仁。この男がなぜここに来たのか。このあと彼が何を言おうとしているのか、千翼にはすでにわかっていた。

「俺は──お前を殺しに来た」

千翼にとって、仁とは紛れもなく血をわけた家族であり、親子である。
だが──いや、だからこそ、この父親は千翼を殺そうとまっすぐに向かってくるのだ。
そんなことはわかっている。だが──

「はぁ!? お前! 千翼の親父なんだろ?
 なんでそんなこと言ってんの!? そんなこと、あるか!」

同じく攻撃を避けていた善逸が、バットを構えながら声を上げる。

「AAAAAAAA」

だが仁は彼の声など無視し、千翼に向かってその鋭利なクローを乱打する。
殺意を滲ませた雄叫びをあげ、命を刈り取らんと断続的な攻撃を放つ。
それを千翼はそれを必死に避けながら、必死に変身できる隙ができないかを伺う。
だがそれも簡単なことではない──自分の敵は、この男だけではないのだから。

「あら、また“あまぞん”? 本当、この島にはよく生えているのね。この草が」

月明かりの中、音もなく七実がやってきていた。
千翼と仁の戦いに割り込むように現れた彼女は無手であったが、しかしその怪力は先ほど身を以て体感している。
ここで集中的に狙われていると、それこそ致命打になる。
千翼はそのことに気づき何とか対応しようとするが──

「お父さん、ね。
 親が子を殺すなんて──まぁ」

幸か、不幸か。
もう一人の敵──鑢七実が狙っていたのは千翼だけではない。
彼女は“あまぞん”。その名を持つ者すべてを狙っている。
その中には当然、鷹山仁自体も含まれている。

「虚刀流“蒲公英”」

彼女が放ったのは単純な、しかしそれ故に強大な打撃であった。仁は瓦礫にその身を投げ、音を立てて沈み込んでいく。
彼女は己が吹き飛ばした仁を一瞬だけ見下ろし、次に、ずい、と千翼に顔を近づけて来た。

「自分の子どもを殺そうとする父親……“あまぞん”の世界にもそのようなことはあるのですね。
 それなりによくある話だと思いますが、まぁ頑張ってください」

その淡々と語られる彼女に対し、千翼は苛立たしげに声を上げ手で彼女を振り払おうとする。
だが当然のようにその手は避けられ、いつの間にか数メートルの距離が取られている。

「そのような境遇自体に対しては応援はしてあげますが、それはあくまで貴方の境遇に対してだけなので、くれぐれもお間違いのないよう。
 不快な“あまぞん”である貴方は、私はここで抜いてしまおうかと思います。
 ですから──」
「AAAAAAAAA!」

と、そこで彼女の言葉を遮るように獣の咆哮が廃工場を揺らす。
仁がその身を起こしていた。
七実の一撃をまともに食らったはずであるが、しかし彼がその程度で止まるはずがない。
その白い眼で辺りを茫洋とうかがないながら──それでも千翼を追い求める意思だけはまったぐ揺らいでいないことがわかった。

「 “あまぞん”本当に気持ちの悪い草ね。早く抜いてしまわないと」

侮蔑と軽蔑、そして嫌悪を滲ませた声で、彼女は仁に告げる。
だが当の仁は七実にはさして興味がないようで、雄叫びを上げ、千翼へと向かってくる。
それに応じるかのように、すっ、と七実はその瞳を細め、

「忍法“爪合わせ”」

その爪を一気に成長させ、刃のごとく鋭利な武器として展開していた。
アマゾンアルファのクローに対し、爪には爪を、ということなのか、当たり前のように彼女はそんなことをやってのける。
それでも彼女はただの人間──なのだろうか。


392 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:01:51 plL/DDQw0

「なっなんだよ! お前ら! 何でそんな!」

その様を見ていた善逸が、理解できない、というように声を上げる。
バットを構える彼は、この場で一人無力な五月を守るように立ちながら、

「何でそんな!そこまで千翼を殺そうとできるんだよ!
 片方は初めて会った奴で! 片方は実の父親なんだろ!
 なのに!なんでそんな、絶対に殺してやろうって、そんなに深く思えるんだ!」

そう言って彼はバットを振り払い、七実、そして仁の下へと果敢に挑んでいく。
その言葉にはこの場に立つ者、五月と──何より千翼を守ろうとする強い意思が感じられた。

「千翼! お前は逃げろ! 俺がこいつらを何とかするから、その間にずっと遠くに──」

その彼が言い放った、その瞬間だった。


轟音。


とてつもない音が、世界を揺らしていた。
その爆音は獣の叫びすらも覆い隠すほどのあまりにも巨大な音であり、つまるところそれは爆発音であった。

「な? これ、ばくだ──」

善逸の声は途中までしか聞こえなかった。
工場の奥から強大な爆発が起こり、千翼を、仁を、七実を、善逸を、五月をすべてを飲み込むように破壊の嵐が押し寄せて来た。







「やった──かな?」

炎上する廃工場を見上げ、皇城ジウは冷静な口調で呟いた。

その手元には四葉の支給アイテムである爆弾の起爆スイッチがある。
かつて無名街という街を盛大に爆破するために用意されたものらしいが、その出自はどうでもいいが、強力な武器であることには間違いなかった。
千刀といい、あの四葉は非常に強力なアイテムを引いていたようだった。
まぁどちらも彼女は使う気はなかったようだが。

「これでまとめて片付けられたんなら楽だけど、どうかな」

状況をジウは淡々と分析する。
もともと彼はあの工場へ入り込む三人組を見かけ、手に入れた爆弾によって一斉に処理してしまおうと考えてた。
表向きは友好的に近づく──という線ももちろん考えたが、それもそれで面倒だ。
爆弾で一斉に処理できるのならばそれに越したことはないだろう。

そう思ってのことだったが、あの三人の加えて何人かの参加者が工場へと入っていくのみえた。
それを見た時──ジウは自らがツキに巡られていることを感じていた。
より多くの参加者を巻き込めれば、それだけ愛月しのを生き残らせるという、彼の目的に近づくのだから。

──まったく、今回のゲームはついてるよ。なんだって、前はあんな……

ジウは爆煙を見上げながら、デイパックを引き上げ歩き出す。
その腰には千刀の一本が釣られている。
あの仮想空間で再現された幕末で数年の月日を過ごした彼にしてみれば、その重さは安堵を形作るものだ。

──逃げ延びた死に損ないがいれば、トドメを刺しておこう。

直接の対決すら相手に許さず、一方的に相手を屠る。
非情とも言える行いだが、幕末の京都では日常的に行われていた行為だ。
学生という本来の身分としてはもちろん、皇城ジウの剣士としての部分も、この行いに対して何ら抵抗を抱いてはいなかった

だから暗い森を抜け、燃え盛る工場の近くまで赴き、そこに血まみれで倒れている人間達を見たときも、何ら感傷を抱きはしなかった。

「うぅ……」

黒い和装を身にまとった少年と、長い髪の少女が重なるように倒れ伏している。
少女の方は擦り傷等はあっても出血は見られなかったが、頭でも打ったのか呻き声を漏らしている。
一方で少年の方は重傷だった。頭から血を流し、ガラスの破片などが全身に刺さっている。
状況を見るに、爆発の瞬間に少女を庇ったのだろうか。

「ふうん、生きているのか」

ジウはそんな彼らに対し、冷たい声を漏らした。
戦闘があったこともあり、爆弾の設置位置は彼らから離れた部分になってしまった。
それ故生き残る余地もできてしまったのだろう。
今度仕掛ける際はもう少し爆弾の使い方を考えなければな、とジウは冷静に考えていた。

──でもまぁ、これで二人は確実に殺れる。

淡々とそう考えながら、ジウは無言で抜刀する。
その淀みない動作は長年の幕末生活での研鑽の賜物であった。


393 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:02:17 plL/DDQw0

「……お前か」

そうして二人の命を屠ろうとしたその時、少年がすっと立ち上がっていた。
少年──善逸は痛みで意識が明晰でないのか瞳を閉じている。

「お前がやったのか」

しかしどういう訳だろうか。
その口調はハッキリとしていおり、見えていないだろうに、まっすぐとジウへと向けて語りかけている。

「バット、か。どうやらそちらはツキに恵まれなかったようだね」
「お前からは──ひどく投げやりな音がする」
「何?」

ロクな獲物もなく、自身は大怪我を負っていて、目の前には万全の状態の剣士がいる。
そんな状況だというのに、彼の語気には怯えは感じれなれなかった。

「お前がひどい目にあったのはわかる。そんなつらい音をしているんだ。
 この世のすべてを恨むほど、どうしようもないことがあったんだろう。
 でも──今のお前はただ投げやりになってるだけだ」

代わりにあるのは──静かな怒りだった。

「自分がされて嫌だったことは、人にしちゃいけない」

そう語りながら彼、善逸はバットで構えを取る。
その姿に対しジウは嘲笑をする。ロクな剣も手に入れることができなかったらしい彼が、あまりにも無様な姿に見えたからだ。

「そうかいじゃあ──」

ここで死んでもらう──その言葉を、ジウは言い切ることができなかったからだ。
ドン、と力強く地を蹴る音がして、次の瞬間にはジウの視界はぐるりと一回りしていた。

「なっ……!」

何が起こったのか、ジウには全くわからなかった。
ただ何故か自分が吹き飛ばされ、地面に倒れ伏している。一方善逸がいつの間にか、自分の後ろに立っているのだ。

──斬られたのか、この僕が。

状況から彼は何が起こったかをすぐに類推する。
正確には斬られたのではない。善逸が持っていたのはバットであり、人を斬ることはできない。
だが腹部に走る鈍痛から、あれが真剣であれば間違いなく自分は死んでいたであろうことを確信する。

「────」

夜、月を背景に善逸の和装が風に吹かれ静かに揺れる。
今しがた彼がみせたのは、ジウが全く知らない剣術であった。

雷の呼吸 壱ノ型──霹靂一閃

それは人と戦うための剣術ではない。
人を超越した怪──鬼を討つために長年継承されてきた鬼殺の剣術。
善逸が持つ、唯一にして最強の剣であった。

「──はぁ、はぁ」

血にまみれた善逸は、そこでようやく瞳を開けていた。
ジウは何とか身を起こそうとするが、しかしまともに一撃を食らったことで力が入らなかった。

「い、五月ちゃん。それに、千翼──!」

そうこうしているうちに、はっと顔を上げた善逸が仲間と思しき者たちの名を挙げる。
血にまみれ、ボロボロになりながらも、彼らを助けようとする意思がそこには感じれられた。

「あら、生きていたのね」

だが──返ってきた答えは、冷たいものであった。

青き月光に照らされる中、その陶器のような肌は恐ろしいほどの美しさがあった。
その衣装にわずかに煤や綻びこそあれど、彼女のその身には傷一つ見られない。

鑢七実。
同じく爆発に巻き込まれていたはずの彼女が、当然のようにその場に現れていた。


394 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:02:40 plL/DDQw0

「忍法“足軽”。
 重さを奪い、重力を無視した動きを可能にする忍法。
 本当に便利で助かります」

「無傷、なのか──?」と倒れ臥すジウは思わず声を漏らしていた。
重さを奪う? 忍法? 一笑に付してしまいたいシュールな言葉の数々だったが、ラブデスター星人が見せた技術の数々を思えば、認めるしかない。
この女は爆風に対して、自らの重さを消すことで風に乗り、やり過ごして見せた、ということか。

──クソっ、ヤバい状況だ。

襲撃に失敗した上に反撃に合い、しかも一人は完全に無傷な状況。
狩る側だったはずの自分が、一転して危機的な立場に置かれてしまっている。

「あの“あまぞん”はいないみたいだけれど、どこに行ったのかしら?
 雑草というものは、きちんと抜いておかないといくらでもポコポコと生えてくるものだから、ちゃんと死んだことを確認しないといけないわ」
「千翼は」

満身創痍の善逸は、それでもなお戦意を揺らぐことはなかった。
武器というのにはあまりにも心もとないバットを構え、善逸は七実に対して啖呵を切っていた。

「千翼はやらせない」
「あら、でも」

そんな善逸に対し、不思議そうに七実は言う。

「でもあの草……“あまぞん”は人間じゃないみたいですけれど、それでもいいのかしら?」








千翼もまた、爆発を生き延びていた。
活性化したアマゾン細胞がもたらす驚異的な生命力によって、千翼はその命を永らえていた。

「う……」

しかし痛みがないわけではない。
運悪く倒れた瓦礫に巻き込まれた千翼は、断続的な鈍痛に苦しみながらも意識を必死に繋ぎ止める。
それから数分かけて瓦礫をその腕で強引に押しのけ、彼は立ち上がった。

変身はすでに解けている。
額についた玉のような汗をぬぐいながら、千翼はあたりを確認する。

「……父さんは」

あの和装の女やアマゾンアルファ、鷹山仁。
彼らの狙いは明らかに千翼だった。アマゾンである自分を、その存在を許さないとでも言うように襲いかかってきた。

──こんなところでも、俺は。

誰も彼もが命を奪うべく襲ってくる。
このゲームに呼ばれる前から続く、千翼が置かれた苦難の状況であった。

彼は単なるアマゾンではない。
アマゾンは本能的に食人を好む異形であるが、千翼はその中でも特に忌むべき存在として狙われてきた。
溶原性細胞。
それは人をアマゾンへと変貌させてしまう危険な細胞であり、その“オリジナル”こそ千翼であった。
放っておけば、人を次々とアマゾンへと変えてしまいかねない。実際、その細胞を悪用される形でアマゾンが世に溢れてしまっていた。

だからこそ狙われていた。
千翼はこのゲームに呼ばれる前──父が、かつての同僚が、そしてただ一人の想い人が、すべてが彼を狙って襲いかかってきた。

「…………」

その時、廃工場には千翼以外の人間の姿は見えなかった。
炎は燃え盛り、爆破によって崩れた瓦礫が散乱しているが、そこに動くものは存在しない。
彼の敵はもちろん、同行者であった善逸や五月の姿も見えなかった。

──このまま、逃げてしまおうか。

そんな考えが、ふと千翼の脳裏に過った。
姿が見えないとはいえ、この辺りにまだ敵が残っている可能性は高い。
特に父、鷹山仁があの程度で死ぬとは到底思えなかった。


395 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:03:12 plL/DDQw0

それに善逸たちだって、ここで会ったばかりの人間にすぎなかった。
千翼がアマゾン──危険な怪物であると知れば、彼らもまた敵になるのかもしれなかった。

そんなことを考えてしまった。
だからこそ千翼は一瞬動きを止めたが、

「うああああああああ」

遠くで叫び声が聞こえ、千翼ははっと声をあげた。

それは善逸の声であった。
その雄叫びは己を奮い立たせるときに発するものだ。
彼は戦っている。同じく生き延びたらしい彼は、すぐ近くで戦っているのだ。

「…………」

その声を聞き、彼は己のベルト、アマゾンズドライバーを握りしめ、葛藤の表情を浮かべた。
だがそれもわずかな間のことだった。
「クソ」と吐き捨てるように言い、彼は駆け出していた。

「アマゾンッ!」

千翼は支給されていたベルト、ネオアマゾンズドライバーにインジェクターを装填する。
そして──爆裂。
猛然と吹き上がる水しぶき。空気を揺らす高熱の衝撃波。全身の細胞が暴れ出し、その形を変えていく。
白靄のようなヴェールを経て──千翼は変身する。

──あの声、まだ近くにいるはず。

ヴェールが晴れた先に現れた青い影。
ベルトによってアマゾン細胞を活性化させた、千翼のもう一つの姿。
アマゾンズネオへと変身を遂げた彼は、猛然と戦場へ、善逸たちが戦っている場所へと向かうのだった。

そこでは──

「知ってるよ! アイツが、人間じゃないことぐらい!」







そこでは──血塗れの善逸が、七実に対して声を張り上げていた。

「そんなことは最初からわかってる!
 アイツが人間じゃないってことぐらい!会った瞬間にはもうわかってる。
 だって人間はあんな音はしないから」

息はひどく荒く、頭から血を垂らしている。
今にも倒れしまいそうな満身創痍の身体で、それでも彼は確かな戦意で敵と相対していた。

「アイツ、会った時からずっと腹が減ってたんだ。俺にはわかる。
 本当は──ずっと腹が減ってるんだ、アイツ。俺たちを食べたいって、ずっと心の底では思ってたんだ」

戻ってきた千翼に気がついている様子はない。
それでも彼は語っている。
力強く、まっすぐと。

「それでもアイツは我慢していた。
 きっとこれまで、ずっとひどい目に遭ってきたんだろう。痛い目に遭わされてきたんだろう。
 そんな音が──つらい音がアイツからはするんだ。
 この世のすべてを憎んで、投げやりになってもおかしくないのに──でも、アイツは俺たちを食べようとしなかった!」

そう善逸は、目の前に立つ美しも強大な敵に言い放つのだった。

「そう、いい耳をしているのですね、貴方」
「そうだ──」

その言葉と同時に、善逸はバットを振りかぶる。

「──だから、お前は引っ込んでいろ!」

そしてその言葉と同時に彼は必死に七実へと向かっていく。
彼は逃走を選ばないのは千翼のためだけではない。その後ろに、五月がいるからだろう。
彼女を抱えて逃げることは叶わない。だから、ここで彼女と相対する。
だからこそ彼は突撃を選んだし、七実もまた、それを静かに迎え撃つことを選んだ。

「──善逸!」

その瞬間を見ていたからこそ、千翼はその名を呼んでいた。
同時に千翼もまた駆け出している。腕部のブレードを展開し、声をあげてそこに突進していく。


396 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:03:41 plL/DDQw0

「虚刀流奥義“鏡花水月”」

──だが間に合わなかった。

千翼が全力で駆け抜けてなお、そこには厳然たる距離があり、二人の攻防はあまりにも速かった。
虚刀流最速の技である鏡花水月を放ち、そしてそれを正面から受けた善逸は当然のごとく血の海に沈んでいた。
月明かりの中、赤い赤い血が花のように咲いた。
一目で致死量とわかるおびただしい量の血をぶちまけながら、善逸はその身を枯らした。

「────」

千翼は言葉にならない叫びを上げ、ブレードをきらめかせながら突進する。

「あら、そんなところにいたの」
「ああああああ!」

返り血に濡れた七実は、横から現れた千翼に対し平坦な口調で言った。

「獣のような太刀筋、とても剣士とは呼べないわ」
「うるさい!」

どれだけ千翼が力任せに刃を振るっても当たらない。
まるでブレードの方が七実を避けているかのような感覚さえ覚える。

七実の向こう側に、善逸の死体が見える。
つい先ほどまで生きていたはずの彼は、もはやもうただの肉塊と化している。
その言葉を噛みしめるように想いながら、千翼に必死に己がやるべきことを考えた。

「うわぁああ!」

その叫びとともに千翼はブレードを振り払う。
大振りな一撃。当たるはずもなく、七実は当然のようにそれを避けていた。

だが、距離はできていた。
そのことを確認した瞬間、千翼は思考を切り替える。
地を蹴り──地面に倒れる少女、五月をかつぎあげる。

──俺は、生きないと。

善逸が守った彼女の重さを感じつつ、千翼は必死にくらい森の中を駆け抜けた。
あの女から逃げて、そうして生き残る。
その想いを胸に彼は必死に駆け出していた。


【吾妻善逸@鬼滅の刃 死亡】






「……私としたことが、逃してしまったわ」

猛然と疾駆していく青い獣の背中を眺めながら、七実は一人声を漏らした。
彼女に見逃す・追わない、というつもりはなかった。
もちろん逃げゆく獣を追い詰め“狩って”しまおうと考えていたが、

「やっぱり、休んだ方がよかったようね」

七実はそこで──ガクリ、と膝をつく。
彼女は決して追わなかったのではない。追えなかったのだ。

鑢七実。
虚刀流七代目当主である鑢七花の姉にして、“例外的に強い”存在。
虚刀流の修行を許されなかった身でありながら、その誰よりも強かったイレギュラー。
“例外”であったが故に、彼女もまた、実の父に殺しにきたことがある。

「…………」

七実は額の汗を拭う。
彼女の唯一の弱点、それはその虚弱な身体にあった。
過剰なほどの生命力を持つアマゾンとは対照的に、七実自身の身体は弱く、体力・持久力は明確な弱点だった。
かつてはそれを変体刀が一つ、悪刀『鐚』にて補っていたが、それを失った今、彼女は長く戦うことはできない。

事実、先ほどの戦闘も千翼や善逸、仁がまとめて敵となっていれば、倒れているのは七実の方かもしれなかった。

「でも変わらないわ……あの“あまぞん”とかいう不快な草はどうせ抜いてしまうんだから」

逃げゆく青い獣に対し、七実は確かな殺意を滲ませながら、そう呟いた。


397 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:04:00 plL/DDQw0





戦場からもう一人、息荒く逃げようとしている少年がいた。

「ハァ、ハァ、ハァ……なんだ、なんだアレは」

皇城ジウ。
善逸に一撃で伏されていた彼は、千翼と七実の戦闘の陰に隠れる形で必死に逃げていた。

爆弾を仕掛け、参加者を一網打尽にする。
その作戦は完全にうまく行っていたはずだった。
にも関わらず彼は今惨めな敗走に甘んじている。

「クソ。迂闊だった、ここはラブデスター実験とは違うんだ」

先のゲームにおいて、基本的に物理的な暴力は“抜け道”のようなものだった。
あくまでラブデスター実験は、あの異星人が愛を計るための実験であったが、このゲームは違う。
より直接的な殺し合いなのだ。

──参加者の中にファウストやレイディみたいな奴らがいるのか……クソ、戦略をまた考えないと。

爆弾を使っても無傷で生き残るようなのが参加者に当たり前のようにいる。
その事実を噛み締めながら、ジウはもう一つの懸案事項を考える。

──あの顔、四葉の姉妹か。

先ほどの襲撃で出会った少女の顔にジウは覚えがあった。
他でもない数時間前に彼が殺害した少女、中野四葉と瓜二つの顔をしていたからだ。
五つ子、と彼女は言っていたし、同じ顔の参加者がいること自体はさして驚くべきことではない。
ただ、こんな近くにいるとは思っていなかったが。

──顔を見られたか? 意識を失っていたようだし、忘れてくれているといいんだが。

ジウとしては、場合によっては集団に潜り込み、毒を使って参加者を殺害するプランも考えていた。
その際、ゲームに積極的なことを周りに知られてしまうことはマズイ。

──あの女と、青い奴だけは殺さないと。

問題はあの少女が中野姉妹の誰であったかジウには判別がつかないことだが──とにかく優先して殺すべきなのは間違いない。
その想いを胸に、ジウは必死に森を駆け抜けていた。






廃工場に、ひゅううううう、と風が吹いていた。
爆弾による炎が散発的に残る中、ガラス片、錆びついた鉄板、破壊された重機などが散乱している。

千翼も、五月も、七実も、善逸も、ここに集ったものはすでに姿を消している。
誰もが去ったその場所で──

「ちひろぉ」

──瓦礫の山の中に、赤い腕が生えていた。

「ふふふ、ははははははは!」

赤い獣は、ゆっくりと身を起こす。
獣のごとき、理性の感じられない笑い声をあげながら、アマゾンアルファ、鷹山仁は立ち上がっていた。
爆発に巻き込まれ、身動きが一時的に取れなくなっていた仁だが、千翼同様、アマゾンはその程度で倒れるような存在ではない。

「あーあ、千翼、本当に……お前は」

久方ぶりに再開した己の息子。あの顔を思い出しながら、彼はとあることに気づいていた。

「お前からは──七羽さんの匂いがする」

その事実が何を意味するのか。
仁はわかっていたし、それ故に絶対に成し遂げるべきこともあった。

「千翼──お前は俺が殺す」

そう茫洋と呟きながら、仁は歩き出す。
ただ一人、ふらついた足取りで。


398 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:04:12 plL/DDQw0


【D-6/一日目・黎明】
※【「超」世界のバット@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】がどこかに転がっています

【鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:盲目に近い状態
[装備]:仁のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:全ての『アマゾン』を狩る、『人間』を守る
1.千翼を殺す
2.殺し合いからの脱出
[備考]
※参戦時期は2期7話の千翼達との邂逅前。
※盲目に近い状態なので文字を読むことなどはかなり厳しいです。

【鑢七実@刀語】
[状態]:疲労(大)、割と不機嫌、返り血
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品2〜8(確認済み、衣類系は無し)
[思考・状況]
基本方針:適当にぶらつく。細かいところをどうするかはその時々で判断。
1:七花を探す。とがめに関しては保留。
2:アマゾンに不快感。さっきの少年(千翼)は殺す
[備考]
※参戦時期は死亡後ですが、体の状態は悪刀・鐚を使用する前の病弱状態です。
※自分が生きているのはアマゾン細胞によるものではないかという可能性を考えています。
 また、その想像に対して強い不快感を感じています。
※見稽古によって善逸の耳の良さ・呼吸法を会得しています

【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:健康
[装備]:千刀・『�綮』@刀語
[道具]:基本支給品一式、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜2(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)
[思考・状況]
基本方針:しのを生き残らせる
1:しのを優勝させるために皆殺す
2:さっきの青い獣(千翼)は殺す
3:顔を見られたかもしれない四葉と同じ顔の女(中野姉妹)を殺す
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。


399 : どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:04:25 plL/DDQw0


……そうして千翼は逃げた。

七実や仁がいた場所から、必死に彼は逃げた。
森を抜け、いつしか周りがアスファルトで舗装された街になっても、彼は駆け続け──そして倒れた。

「……うぅ」

と膝をつき、額の汗を拭う。
背中には少女、五月の身体がある。
千翼は彼女の身体を背負って全力疾走してきたが、そのこと自体はさして苦ではなかった。
アマゾンの体力を持ってしてみれば、少女一人を背負うことは問題ない。
問題なのは──

「──お腹が、空いた」

空腹であった。
それは細胞すべてが叫びを上げている、
食え、食らえ、食べてしまえ、と千翼の身を飢えが貫いている。

その衝動を必死に押さえ込むように、千翼は腹を抑えていた。
幸い、あの女が追ってくる様子はなかった。生きているだろう仁の姿も見えない。
逃げることはできた──だが、これからどうするべきか。

絶望的な気持ちが胸を支配しそうになったその時、視界の隅に何かが引っかかった。

「……え?」

千翼は思わず声を漏らしていた。

それは、間違っても生きているものなどではなかった。
引き裂かれ、血を撒き散らし、ただの肉塊へと堕した何か。

今まで何度も見てきた光景だった。
善逸だって──こうなってしまった。

「あ──」

だが──それでも、千翼は目の前の存在が信じることができなかった。
目が見開かれ、視界がぐるりと回る。喉奥から食欲以外の何かが溢れてくる。

千翼は、震える指先で、つい先ほど命だった筈のものに触れた。

「──イユ」

その先には、彼のよく知る少女の──残骸があった。


【E-6(イユの死体の前)/1日目・深夜】

【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:──
1:──
[備考]
※参戦時期は10話「JUNGLE LAW」

【中野五月@五等分の花嫁】
[状態]:全身に軽傷、気を失っている
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:意識不明
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。


400 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 19:04:41 plL/DDQw0
投下終了です


401 : 名無しさん :2019/05/11(土) 19:28:03 rR9GHl9.0
投下乙です
一番会いたかったイユが死亡してて千翼可哀想
でもよく考えたらイユは元々死んでたね


402 : ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:53:18 NQhgL8JM0
皆さん投下お疲れ様です。熱い戦いが続きますね。
こちらも永井圭 石上優 今之川権三を投下します


403 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/11(土) 20:53:19 plL/DDQw0
すいません。
一部状態表などの記載に間違いがあったので修正いたします
(収録時また直しておきます)

内容は下記になります。

●ジウくんの支給品解説
●千翼の状態表の参戦時期、および時間帯

【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:健康
[装備]:千刀・『�綮』@刀語
[道具]:基本支給品一式、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW、ランダム支給品0〜1(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)
[思考・状況]
基本方針:しのを生き残らせる
1:しのを優勝させるために皆殺す
2:さっきの青い獣(千翼)は殺す
3:顔を見られたかもしれない四葉と同じ顔の女(中野姉妹)を殺す
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。

【無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW】
ジウに支給された爆弾。
一つの起爆装置で複数の爆弾を爆破させることができる。
爆弾は支給されており、まだ残りがある様子。

【E-6(イユの死体の前)/1日目・黎明】

【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:──
1:──
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」


404 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:54:09 NQhgL8JM0
自衛隊の基地を目指す。
永井圭の立てた方針は一切間違っていなかった。
殺し合いに巻き込まれたとなれば、誰だって武器は欲しい。出来れば遠くから一方的に攻撃できる銃器が。
70人という大多数で殺し合うならば当然そう簡単には決着はつかないわけで。そうなると食料も水も欲しい。
怪我をした時に備えて治療器具、施設も欲しい。そんな都合の良い建物などそうはないだろう。
ここまで条件がそろってくると、全ての条件を満たす自衛隊の基地を目指さないなど逆にあり得ないとさえ思ってしまう。
だから、やはり彼の方針は間違っていなかったのだ。

問題はたった一つ。

それらの条件を求めているのは自分たちだけではなく。


「コラー!貴様ら待たんか! 我がZOI帝国の礎となれい!」


殺し合いに乗った人物が同じ理由で自衛隊の基地を目指していたということだった。
更に言うなら、運が悪いことに永井圭と石上優はそんなヤツとバッタリと遭遇してしまったことだった。


(にしても……運が悪いな)


想定していた状況の一つではあったが、それでも舌打ちの一つもしたくなる。
本来はもっと早く基地につく予定だったのだ。
そうだったなら今頃自分たちを追い回している筋肉野郎を蜂の巣に出来ていたかもしれないのに。


「もしかしたらあの高台からスナイパーが狙ってるかも……僕そういうゲームやったことあるんで分かるんですよ……」


なんて石上のビビリ丸出しの発想で迂回に迂回を重ねてきたのが仇になった。
林を抜け市街地に入り、基地まであと少しというところで数百メートル先からこちらに爆進してくる大男に捕捉されてしまったのだ。
あからさまにヤバい男だと、遠目からでも分かった。
意味の分からないことを叫びながら、力を誇示するかのように近くの大木を薙ぎ倒す。
それを見た時点で交流する気も交渉する気も失せた。なにあの馬鹿力。本当に人間か?


(亜人である俺や佐藤が名簿にいる時点で、普通じゃないやつらがいることは想定してたが……)


こうも分かりやすい超人とはな。
こちらが必死こいて這い上ったフェンスをひとっ飛びで飛び越える様には眩暈がする。
一瞬、自分のような亜人が操る影、IBMなのではないかとも思ったが、ヤツが近づけば近づくほど、どう見ても大柄な人間にしか見えない。


(さて、どうする。時間はない)


最初は豆粒くらいの大きさに見えていた男が、今や目鼻立ちまで見えつつある。
距離が詰まっている。単純な速さで向こうがこちらを上回っているのだ。
曲がり角をジグザグに進み相手に「カーブの際に減速する」ということを強いていなければ、最高速度で劣る圭たちはとっくに追いつかれていただろう。
しかしそれも限界。タイムリミットは残り数分といったところか。


405 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:54:39 NQhgL8JM0
それまでにするべきことを決めねばならない。


立ち止まり迎え撃つ、という選択肢は出来れば取りたくなかった。


理由は単純。ヤツの能力に関してまだ分かっていないことがあるかもしれないからだ。
亜人のような再生力があるかもしれない。
何か飛び道具を持っているかもしれない。
それこそ、IBMのような力で異形を操れる可能性だってある。
これが自分と同じ亜人であったなら圭にもやりようはあっただろう。
もしくは、鍛えられているとはいえ人間の範疇に収まる存在ならば、何度もやりあったことがある。
しかし、素手で大木を折り、一度に5メートルはジャンプし、更に能力の全容がつかめていない男を相手取るには、今の圭はあまりにも無力だった。
亜人は死なない。
その再生力を応用していくつもの裏技じみた行為は行えるし、IBMという影のような偉業を扱える者もいる。
だがそれで、それだけで超人に絶対勝てるという確信も、自信も、圭は持ち合わせていない。
亜人は死なない。だけど、死なないだけなのだ。
身体能力は普通の人間と変わらないし、今は『どこまで死なないか』も分かっていない。
頼みの綱のIBMも、圭の言うことを全然聞いてくれない不良品だ。

それに、よしんばそれでも勝利したとして、間違いなく同行者である石上には圭が亜人であることが分かってしまうだろう。
そんな時、今まで自分と普通に話していた人間が『死なない存在』であると知った時。
普通の人間がどんな反応をしていかなる行動をとるのか、圭は嫌なくらいに知っていた。
そして、残念ながら圭の目から見た石上は、普通の人間でしかなかったのだ。


「石上」


だから、ただ運が悪かったのだ。
もっと石上と圭が親交を深める時間があれば。
もしくは、亜人であると明かすべき適したタイミングがあったなら。
全ては可能性の話でしかない。可能性を夢見て現実から逃避し死ぬなど、まっぴらごめんだ。
あったかもしれない甘美な夢を振り切りながら、圭は現実を鑑みて最もリスクの少ない道を選んだ。


「アイツをかく乱するために、ここからは二手に分かれよう」


命の価値はTPOで変わる。
この場面においても、もしも圭が家族やそれに近しい間柄の人間と一緒だったならこの選択肢は取らなかっただろう。
なんとか全員で助かる方法を考え、自分が亜人であると明かして襲撃者に戦いを挑んでいたかもしれない。
だが石上はそうではなかった。
ついさっき知り合ったばかりの他人でしかなかった。
そして圭も、恐らくは完全なる不死ではなかった。
圭だって、死にたくなかった。
赤の他人の命の重さと自分の命の重さが、天秤にかけられる。
どちらも同じ天秤に乗せることは出来ない。


406 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:55:01 NQhgL8JM0


(それでも……運が良ければどちらも助かる)


もしも男が圭を追って来たならば。
石上も誰も見ていないところで亜人の力をフル活用して、なんとか勝てるように努力するだろう。
それで勝てたならば自衛隊基地で石上と合流して全てが丸く収まる。
ハッピーエンドの可能性は潰えてはいない。
だから、二分の一だ。石上もそれなら文句はないだろう。
僕は石上のために命を賭けて戦う気なんてないが、自分が助かるためなら戦える。
その時が来る瞬間まで、圭は自分を納得させるための言い訳を脳内で並べ立てた。


「じゃあ次の曲がり角、僕は右な」


「……分かりました。それでは、基地で会いましょう」


石上との別れはとてもあっさりしていた。
漫画のように感傷に浸る時間などなかった。
少しでも足を止めればすぐそこまで迫りくる大男に追いつかれ、殺されるかもしれないのだ。
今は死に物狂いで走り続け、少しでもこの場から遠ざかることこそが重要だった。
それに、今は余計なことなど考えたくなかった。


走って、走って。
自衛隊の基地が目前まで見えて来て。
ようやく後ろを振り返った時、圭は一人だった。
大男は圭を追いかけてきていなかった。
当然、石上もいなかった。
その意味が分からぬほど、圭は愚かではなかった。
都合の良いハッピーエンドに至るための最初の二分の一を外した。
それだけの話だ。


圭は、引き返さなかった。



「逃げて、何が悪い」


407 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:55:25 NQhgL8JM0







「ばっ……ばけものっ……」


「ワハハハハッ!それで終わりか、若僧?」


追いかけっこの果て、ついにお目当ての逃亡者を追いつめた先で。
もうやるしかないと決死の覚悟を決めた少年の表情が絶望に染まっていくのを見て。
彼の放った銃弾を鋼鉄化した皮膚でバコンと跳ね返しながら、今之川権三は笑った。
今、コイツは人を殺す咎を背負うつもりで拳銃を権三に向けたのだろう。
その想いを、ゴミのように踏みにじる。そう、貴様はワシにとって道端に落ちているジュースの缶にすぎん。
2対1だったにもかかわらず逃げ惑うということは、自分たちにはロクに力がないと公言しているに等しい。
そう考えれば、あとは楽しい狩りの時間に過ぎなかった。最終的に二手に分かれたのは面倒だったが。


「奥の手もなしとはつまらんぞい!つまらんぞい!」


そう言いながらも権三は喜色を隠そうともしない。
どうとでも出来る圧倒的格下を前にした全能感が権三の心を満たしていく。
権三が即座に少年を殺さないのは、先ほど出会った恐るべき男にしてやられた鬱憤を晴らすためでしかない。
このジュースを飲み干して鉄分を補給する前にちょいと缶蹴りをしてやるか、という気まぐれでしかなかった。

青ざめていく少年の顔を観察しながらわざとのっそりのっそり近づいて、まずは拳銃を彼の手から無理やりむしり取る。
ひょっろこいモヤシ男の抵抗など、今の権三にとっては赤ん坊と綱引きをするようなものだった。
彼の目の前で拳銃を紙細工のようにぐしゃりと潰した時の表情もまた溜まらない。
ついに少年はその場にへたり込み、小便を漏らし始めた。

楽しくて楽しくてたまらなかった。

生前、人を超えたこの力で今まで自分をバカにした連中を嬲っていくのは気持ちよかった。
はじめて会った人間も、誰よりも税金を納めている自分を敬っていない時点で同罪だ。
特に学校に通っているガキなど、権三の税金で授業を受けさせていただいているようなもの。
ならば、この今之川権三の娯楽として使い潰されるのも当然と言える。
74歳独身にして新たに得たこの娯楽は、止められない止まらない麻薬のような中毒性があった。


「さて、お前を殺すのは簡単ぞい。だが、それじゃ面白くないよなァ?」

 
権三はゴソゴソと自分のデイパックを漁り一つの支給品を取り出す。
『あーあーテステス……よし』
そして、涙と鼻水できったないツラを晒した少年の足元にそれを放った。


408 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:55:44 NQhgL8JM0


支給品の名を拡声器という。


機械を通して声のボリュームを上げるためのもの。
聴衆に対しての演説も出来る。軍勢に対しての指令も出せる。
それに。


「これを使って、お前のツレを連れ戻すぞい!」


遠くに逃げた「おかわり」に対しての呼びかけにも使える代物だった。


「命乞いをしても良い。素直に助けを求めても良い。
もしもお前の熱演を聞いて、逃げたヤツが戻って来たら……」


お前は逃がしてやってもいいぞい。権三は悪戯っ子の表情を作る。




嘘である。




そんなつもりはさらさらなかった。
ジュースを買って、当たりが出たらもう一本。
「これ」はその程度の遊びでしかなかった。

泣き叫びながら仲間に助けを乞う哀れな少年を見るのは楽しい。
彼を救うために正義の味方面して戻ってきた仲間を叩き潰すのも楽しい。
もしくは、仲間に見放され恨み言を吐き出しながら死んでいく少年を嘲うのも楽しいだろう。

権三にとってはどう転んでも楽しくなるショータイム。
ワクワクしながらその始まりを待つ権三の前で。
少年は拡声器を拾い、息を吸い、吐いて。少し吐きそうになるのを堪えて。

絞り出すように声を出した。





『う…………』






「う?」






『うるせえ バァカ!!』


409 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:56:13 NQhgL8JM0




石上優には特技がある。
瞳を見ればその人の本性の5%を理解できるのだ。
だから、目の前の大男がとんでもなくゲスであることは理解していた。
5%どころか100%クソヤロウだと確信できた。
石上を見逃してやるなど真っ赤な嘘であることも、自分はもう助からないことも理解出来た。
出来てしまっていた。

それはそうと死にたくもなかった。
はいそーですかと潔く自死してやるつもりもなかった。
10代半ばで生を終えることも認めたくなかった。
やりたいゲームは無数にあるし、大好きな先輩に告白も出来ていない。
僕は変わるんだ。少しずつでも変わっていくんだ。
最近、ようやく決意したばかりだった。
人生を諦めたくなど、なかった。

ならば。

石上が取るべき行為は、ひとまずは男に従い生き延びるチャンスをうかがうことだったのだろう。

情けなく命乞いをし、必死に声を張り、逃げ出した工藤に助けを乞い、一分でも一秒でも一瞬でも長く生きる努力をするべきだったのだろう。
自分の命を握っている、いつでも握りつぶせる目の前の男のご機嫌伺いをすることこそが長生きの秘訣だと分かってはいた。


だけど。


「これを使って、逃げたお前の仲間を連れ戻すぞい!」

それでも石上は許せなかったのだ。


自分が助かるための交渉材料として身内を売ること。


それは、石上の最も許せない行為だった。
それは、石上の中学時代を暗黒に染め上げた憎むべき男の行為だった。

『良い和解案があるんだけど』『お前、京子のこと好きなんだろ?』『今日、うち来いよ』

自分の彼女を売ったかつての怨敵と。

『僕は工藤さんを信じてます!』『助けてください!』『どうか戻ってきてください!!』

涙ながらに工藤を死地に誘う石上自身が脳内で被る。


410 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:56:41 NQhgL8JM0


ふざけるな。


そんな幻想を、石上は拳で思いっきり打ち据える。
それだけは、死んでも出来なかった。死んだ方がマシだった。

もちろん、死ぬのは怖い。怖いのは嫌だ。
足はずっとガクガク震えてるし、股座はビショビショだ。
心臓はバクバクうるさくて、歯はカタカタ鳴りっぱなしだ。
腰は抜けて立ち上がることさえできない。
こんな状態で目の前の超人に立ち向かうなど、夢のまた夢だ。


でも、そんな石上にも出来ることがあった。
渡された拡声器を震える手で拾う。決して手放さないよう、痛いくらい指に力を籠める。
ただ声を遠くに届けるための道具こそが、今の石上に残された最後の武器だ。


ああ、そうだ。


今こそ。僕は。



怖くても戦えるやつになるんだ。



すぅ、と息を吸う。


おかしなことをしているぞ、と僕の中の僕が言う。僕を生かそうと、生存本能が言う。
ここが最終防衛ラインだ、超えると引き返すことはできないんだぞ、と必死に引き留める。


だから僕は思い出した。


僕自身よりも、よっぽど信頼できる人を。
敬愛している一学年上の友達。
尊敬すべき我が秀知院学園生徒会の上役。
僕をどん底の底から掬い上げてくれた人。
僕を救ってくれた人。


『お前はおかしくなんてない』


こんな僕を信じてくれた、白銀御行生徒会長の言葉を。


『だとしたら、お前の書くべき反省文はこうだろう!』


だとしたら、僕の告げるべき言葉は決まっていた。






『 『うるせえ バァカ!!』 』


411 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:57:52 NQhgL8JM0






『なにそのヘッタクソな嘘!小学生でも見破れるわ!』



『身体は大人なのに頭脳は幼稚園児なんですかぁ!?頭んなかまで筋肉ミッチリですかぁ!?』



『てか、ぞいってなに!?なにその語尾!?キャラクター立ててますアピール!?』



『さっぶ!!!うわ、さっぶ!!!!藤原先輩でもそこまではしませんよ!!!!』




『あ、言いすぎましたねぞい!!!ごめんなさいぞい!!!ぞいぞいぞぞい!!!!』








『工藤さん』






『逃げろ』






『………………』



『…………』



『……』


412 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:58:13 NQhgL8JM0


もう石上の叫び声は聞こえなかった。
煽りも罵りも嘲りも、二度と聞くことは出来なかった。
それは、彼が既に物言わぬ骸になり果てている何よりの証明だった。

だけど、石上は最後まで命乞いも、助けを呼ぶこともしなかった。
臆病で、口が悪くて、デリカシーがなくて、陰キャで。
でも、決して己の善性を見失わなかった男が。
己を貫き通したということだった。


石上優が今之川権三に屈することは終ぞなかった。





だから。







【本日の勝敗】







【石上の勝利】









最後に。


『石上』


『よく耐えたな』


あの人が頭を撫でてくれた気がした。




そして、石上優は目を閉じた。




【石上優@かぐや様は告らせたい 死亡】


413 : 石上優は叫びたい ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:58:26 NQhgL8JM0
【C-4・市街地/1日目・黎明】

【永井圭@亜人】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.???????
2.自衛隊入間基地に向かう
3:使える武器や人員の確保
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※工藤仁と名乗っています
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています
※石上優の拡声器越しの叫びを聞きました。どう反応するかは後続の書き手にお任せします


【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:健康 。ブチギレ。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2 、拡声器
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
1.このクソガキ〜!!!!
2.基本的に出会った奴は全員ブチ殺すぞい。
3.しかしあの千年男はヤバイぞい。一旦逃げて作戦を練らなければ……
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。
※近くに石上優の支給品(ランダム支給品1~2)が落ちています


414 : ◆rjD2cwIMXU :2019/05/11(土) 20:58:39 NQhgL8JM0
投下終了しました


415 : ◆dxxIOVQOvU :2019/05/11(土) 22:03:52 qZS0S2MI0
い…石上〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
やっぱり衆知院学園出身は伊達ではなかった…石上…


416 : ◆aptFsfXzZw :2019/05/11(土) 22:15:23 zU/gVIWI0
皆様投下お疲れ様です!
千翼、中野五月で予約します。


417 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/12(日) 03:26:38 0aQl7xbU0
盛況なようで何よりですね。
現在の予約状況は抜けがなければ
>>219
童麿、黒神めだか

>>220
猛丸、山田奈緒子

>>251
円城周兎、フローレンス・ナイチンゲール

>>321
白銀御行、メルトリリス、藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオ

>>365
累、クロオ

>>366
上杉風太郎、球磨川禊

>>416
千翼、中野五月

です。そしてここに自分の予約である「とがめ、鑢七花、クラゲアマゾン」が新たに加わります。


418 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/12(日) 17:22:19 l1WA7Fz20
投下&wiki編集&予約まとめ、乙です。

自作の文章が変だったところちょっと(ほんとにちょっとだけ)直したんですけど、自分で修正入れたのでご安心を。
以上、報告です。


419 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:49:18 GJ8df8Vs0
皆様投下お疲れ様です。
円城周兎、フローレンス・ナイチンゲールを投下します。


420 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:50:47 GJ8df8Vs0
 爆発音と共に少女の首が吹き飛んだ。

 悪意に満ちた声を合図に命が理不尽に奪われる。
 想起したのは彼の父。
 正義感溢れる父もまた、一人の悪意によってその命を、信念を踏みにじられ死んでいった。

 地面に落ち、ごろりと転がった少女の生首と視線が合う。
 想起したのは彼の母。
 口煩くも暖かった母もまた、一人の悪意によってその命を、尊厳を踏みにじられ死んでいった。

 ギリ、という音を鋭敏な聴覚が拾い上げてから、その出所が自身の歯軋りであることに気付く。
 暗い記憶のフラッシュバックを経て、その瞳に宿るのは憎悪の黒と憤怒の赤。燃え盛る二色の光。

 こんな真似をする奴を許してたまるか。

 ビジョンが消え視界が殺し合いの会場に戻ってもなお、円城周兎は激情を隠さぬ表情のまま虚空を睨み付けていた。


421 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:51:29 GJ8df8Vs0

◆◇◆

「前園……! あのクズ野郎もここにいるのか!」

 デイパックに収められていた参加者名簿、自身の名の次に記載されていた"前園甲士"という因縁の男の名前を目にし、周兎は怒りを露にする。
 彼と彼の家族を滅茶苦茶にし、直接的に父を、間接的に母を殺害した諸悪の根元。
 それが今、この殺し合いの場に自分と同じ様に首輪をつけて存在しているというのだ。
 名簿を持つ手に自然と力が入り、用紙にくしゃりと皺ができる。
 あの男を生かしておく訳にはいかない。
 つい先ほど、ここに呼び出される前に亡き母の作ったピーマンの肉詰めを涙ながらに食べていた事を思い出す。
 よもやこんなにも早くに復讐の機会が訪れるとは思っていなかった彼の瞳に、殺意を伴った剣呑な光が灯る。
 だがその感情は次に記載されていた名前を見て驚愕へと切り替わる。

「なんで死んだ筈の権三の名前が載ってやがるんだ?」

 今之川権三。周兎同様にナノロボに適合した結果、脳力を身につけた元老人にして特級の危険人物。
 だが、権三は先の前園によって殺された筈である。それが何故、ここにいるのか。
 あの時、権三の死を確認したのは誰あろう周兎本人である。
 ナノロボの核を抜き取ったという前園の発言、そもそもの前園の目的からして偽装死というのは考えづらい。
 で、あるならばこの名簿に書かれた権三は一体何者だというのか

 先ほどのBBからの悪趣味な開始宣言を思い出す。
 曰く、"どんな願いでも叶う"。
 曰く、"死者の蘇生"。
 もしも、彼女の言った内容が真実であったとしたならば? 聖杯とやらで先だって権三を蘇生させたと言うのならば?

「まさか、死んだ人間が甦ったっていうのかよ……!」

 あまりにも荒唐無稽な仮説。
 だが、虎内らと共に自宅にいた自分を一瞬の内にこの島へと拉致し、知らぬ間に首輪を装着するといった芸当をやってのけた相手である。何が起きても不思議ではない。

「そう言えば宮本武蔵だの沖田総司だのテレビや本で見た名前もあるな……まさか、こいつらも本物なのか?」

 伝説の武芸者、幕末の剣豪、近代看護師の祖、そして小説や伝承に語られる存在まで名簿には名前が載っている。無論だが現代ではとうに故人になっている者ばかりだ。
 前園らの名を見る前に彼ら彼女らの名を確認していた周兎は同姓同名の人物と判断していたが、もしもこれが本人であるとしたら?
 本当に、死んだ人間が生き返るのだとしたら?

 殺され、生首になった母の姿が脳裏を過る。
 母を生き返らせられることが可能だとしたら?
 ナノロボの流失から起こった一連の事件を無かった事に出来るのだとしたら?
 そもそも父が前園に殺されたことを未然に防ぐことが出来るのだとしたら?

 あり得たかもしれない今よりも幸福なIFの数々。
 それが、この殺し合いで勝ち抜くことが出来れば可能かもしれない。

 ならば。

 この手を汚すだけで、それすらも全てチャラに出来るのだとすれば。
 ドッ、ドッ、と早鐘の様に鼓動が速く短く音を刻む。
 寒くも暑くもないというのに湧き出た一筋の汗が頬を伝う。

 願いを叶えるに足るだけの動機はある。
 人を殺すだけの力は持っている。
 人の命を奪う経験など疾うに済ませている。

 ならば。

 ならば。

 奇跡に縋るだけの動機も、実力も、経験も自身に備わっているのならば。

「俺は……」

 黒い灯が男の目に灯る。


422 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:51:58 GJ8df8Vs0





『たのもしいな。周兎が大人になったら父さんと 一緒に悪者を捕まえよう』

『よしよし、たくさん食べて大きくなれ〜〜〜〜♪』


423 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:52:48 GJ8df8Vs0

「俺は、父さんや母さんを殺した奴らと同じになんてならねえ。人を殺すことを何とも思わねえ悪党どもは、一人残らず俺の手でぶっ潰してやる……!」

 ありし日の父と母の姿を思い浮かび、怒り混じりの気勢を吐く。
 瞳に灯った憎悪の火が向かう相手は、この殺し合いを開催したBBと、彼女の口車に乗り人を殺すことに決めたまだ見ぬ殺人者に向けられたもの。
 父との約束が、理不尽に家族を奪われた悲しき記憶がある限り、周兎の心の芯が揺らぐことなどない。

 そう、己の方針を口にし、決意表明をしたまさにその時だった。
 周兎の視界に写っていた和風の城、その天守閣にあたる部分が勢いよく爆ぜたのだ。

「なにィ〜〜〜〜っ!?」

 突然の事態に混乱しながらも視界を天守閣へと合わせ、聴覚を研ぎ澄ます。
 何が起こったのかは不明だが、天守閣がひとりでに吹き飛ぶなどということはあり得ない。
 つまりそれが意味することは、彼が目の当たりにした光景は何者かによって人為的に引き起こされたものであるということだ。
 人間技とは思えぬ大破壊に、思わず権三の顔が思い浮かぶ。
 桁外れの膂力を手にした権三ならあの程度の芸当が行えても不思議ではない。
 仮に権三の仕業でないのならば、権三に並ぶ実力を持った人間がいるということでもあり、警戒しなければならないだろう。

「クソっ! 流石に遠すぎて細かな音までは拾えねえか!」

 これが視認しやすい距離であれば単一指向性を持つ進化した聴力によって、よりピンポイントな音源――例えば天守閣を吹き飛ばした主――を拾い上げることが出来ただろう。
 だが、遠目に見える城、加えて細かく目印になるような物は見当たらないという状況では音を拾い上げる対象範囲は拡大せざるを得ず、結果として彼の耳に入ってくるのは崩落する城の轟音や破砕音ばかりで本命の音はかき消されてしまった。
 毒づきながらも周兎の足は城へと向かっていく。
 果たして間に合うか。彼が到着する頃には全てが手遅れになっているかもしれない。だからといってそれが見過ごしていい理由になるだろうか? 彼の中では答えは否だ。
 一縷の望みを賭けて周兎は走る。
 走って、走って、走ったその先に、1つの人影が見えた。

 一人の女性の姿があった。
 いたる所が乾いてドス黒くなった血に染まり所々すり切れた服、誇りと煤に塗れた髪や肌。
 本来ならばそれは見るものに痛々しいイメージを与える姿である。
 だが、周兎は、否、周兎でなくても彼女の姿を見た者は真っ先に抱くイメージはそれではないだろう。
 その表情に弱々しさはなく、歩みはあまりにも堂々としており、そしてその瞳には狂気的とも形容出来るであろうギラリとした強固な意思の光。
 鬼気迫るその姿は他者に大小の差こそあれ恐怖を抱かせる。
 故に周兎は思わず骨銃の銃口、即ち構えた人差し指を向けていた。


424 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:53:23 GJ8df8Vs0

◆◇◆

「つまり、人体に入り込んだ医療用ナノマシンによる副作用。先ほど私に向けて射出した貴方の右第二指部の未節骨はそれに由来するものと?」
「はい」
「俄かには信じがたい話ですが、貴方の右第二指がリアルタイムで再生する様をこの目で確認した以上、疑いようがありませんね」

 げんなりした様子の周兎を気にも留めず先ほど彼が対峙していた女性、フローレンス・ナイチンゲールは掴んだ周兎の右腕の先端、言い換えれば右手人差し指をしげしげと眺めながら淡々とした口調で会話を打ち切った。
 何が起こったのか? 顛末はこうだ。

 尋常ではない気配を纏いこちらへと猛進するナイチンゲールに向けて、周兎は一度止まる様に言った。だが、ナイチンゲールはそれを拒否し「私には止まっている暇などない」と進む足を止めなかった。
 その姿勢に対し警告を兼ね牽制の骨銃をナイチンゲールの足元に射出した周兎。彼の目論見通りにナイチンゲールは足を止めた。しかし、そこから先の展開は周兎が予想できるものではなかった。
 足を止めたナイチンゲールの視線が足元を穿った銃弾から、その射出元へと移る。骨を射出し肉と皮のみでペラペラになった右人差し指へと。
 瞬間、怒号が響く。

「貴方は! 自分の体を傷つけて何をしているのですか!」

周兎からの停止命令を拒絶した時の淡々とした調子とは180度真逆の剣幕でナイチンゲールが叱りつける。呆気に取られた周兎だが彼女はそんな彼の態度を無視し、早期治療が必要であると告げながら足早に周兎の元まで詰め寄っていく。
 同時に彼女の人となりを図る為に聴覚をナイチンゲールの心音や脈拍を拾い上げる様ロックオンしていたことで、周兎は”自身の体を傷つけるという行為に激昂した”こと、そして“自分の骨銃を撃った後の指を治療しようとしている”ことに対して彼女が至極本気であると読み取った。
 これにより、ナイチンゲールを警戒する理由を失った周兎であったが、その代償として今度は骨銃を撃ったばかりの右人差し指を切除しようとするナイチンゲールを説き伏せて”治療行為”を阻止する必要に駆られ、そして現在に至るという訳である。

(人の話を全然聞かねー人だったが、これで一応なにがあったか聞くことが……)
「ですが、射出した直後に傷口から細菌が入り込み感染症を招く可能性もあります。自衛手段とはいえこのような場所で安易な使用は控える様に。では私はこれで」
「ええっ!?」

 どうにか執成すことが出来、内心で胸を撫で下ろす周兎。
天守閣から落下したにしては負傷の度合いが軽くは見えるがそれでも汚れ具合などから見て彼は目の前の女性が先の騒動に居合わせた人物だとふんでいた。もし違ったとしても彼女をボロボロの姿に変えた何者かがいる筈である。”悪党を許さない”という彼のスタンスとしても危険人物がいるのであれば情報は把握しておきたい。ようやくその為の会話の準備が終わったと、そう認識していた。
 だが、肝心のナイチンゲールは検診を終えた医師の様な台詞を告げたかと思えば、一人どこかへと去ろうとする。その自由振りに思わず驚愕の声が周兎から漏れた。


425 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:54:19 GJ8df8Vs0
 
「まだ何か? 先ほど伝えた通り私には最優先でやらねばならないことがありますので、あまり時間を取りたくはないのですが」
「俺にだって用はあるんだよ。アンタさっきまであの城の近くにいなかったか? 俺はさっき天守閣が吹き飛んだのを見て様子を見に来たんだ。もし何か知ってることがあれば教えてくれよ」

 顔だけを振り向いて周兎の反応に対応するナイチンゲールであったが、周兎の用を聞くと思案する様に微かに俯く。そこから顔を上げるまでに要する時間は短かった。
 ナイチンゲールが体の向きを周兎の向き合うものに変える。それは、周兎と会話するつもりであるという意志の表れだ。

「いいでしょう。あれの感染症が貴方にも移る可能性はあります。では、私の体験の一部始終を貴方に伝えます」

 ナイチンゲールは語る。周兎が目撃した天守閣の崩壊、またその原因となった鬼との邂逅を。
 童磨と名乗る人より生じた人食いの怪物の存在とその戦闘能力。
 ともすればその童磨を怪物の身へと変じさせた存在がこの地に呼び出されている可能性。
 まるで漫画や映画のような荒唐無稽な話を聞かされ、周兎は唖然とした顔になる。
 ナノロボに感染して僅か2日の間にごく一般的で平穏な日常とは異なる経験をした周兎であったが、そんな彼であっても冗談にしか聞こえない内容であった。
 だが、ナイチンゲールが嘘をついていないことは彼女の心音から理解できてしまう。これにより残った可能性は彼女が狂人でありそのような妄想を信じ切っているか、全てが真実であるかの二択だ。

「鬼、というよりもその特性は吸血鬼に近いでしょう。私の同僚にも数名ですが鬼がいます。そして吸血鬼も。あの出鱈目な再生力はどちらかといえば後者に寄っています」
「いや、どんな職場だよ」
「もっとも頸を落とせば死亡するという話をしていましたので伝承にある吸血鬼とも異なる別種の症状と言えるでしょうが」
(本当に人の話を聞かねーな! いや、あんたが嘘を言ってないっていうのは分かってるけどさ!)

 鬼や吸血鬼が同僚にいるという非現実的な台詞に周兎が思わずツッコミをいれるが、それに反応も返事を見せる素振りもなく、一方的にナイチンゲールの話は続いていく。
 その様に閉口する周兎。
 先ほどの釈明こそ聞いてくれたが、それはあくまで彼女の言葉に対する返答であったからだろう。基本的に目の前の女性は人の話を聞かない、そう改めて周兎は認識した。

「ですので、貴方も十分に注意を。虹の瞳に赤い髪をした成人男性です。もし遭遇したのであれば直ちに逃走をするように。他の方に出会った場合もこの情報は最優先で共有をお願いします」
「気をつけなきゃいけない奴は分かった、それで、あんたはこれからどうするんだよ?」
「助けられる命を助け、救うべき命を救います。具体的には傷病者の救護活動を主眼とし医療施設に向かう予定でした。私の力だけで傷病者を癒すのは限界がありますし、医療品は確保出来るだけ確保しておきたいので」
「なら、東にある病院か。あんたヤケに医療関係に詳しそうだけど医者か何かなのか?」
「看護師です」
「看護師……」

 周兎の脳裏にナース服姿のナイチンゲールが浮かぶ。
 白衣の天使、というには彼女の狂戦士めいた一面を見ているためか「似合わない」という感想が口から出てきそうになるが、それをすんでのところで飲み込んだ


426 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:55:02 GJ8df8Vs0

「それでは私はこれで、当分は病院にいますのでもし負傷者がいれば直ちに向かう様に情報提供をしていただければ助かります」
「いや、俺もあんたに着いていくぜ」
「はい?」

 周兎の声にナイチンゲールが怪訝な表情を浮かべる。
 遭遇してから初めてその鉄面皮が崩れたことに、周兎は他の表情も出来たのかと内心驚きつつも言葉を紡ぐ。

「俺は殺し合いに乗った悪党どもを叩き潰そうとは思ってたが正直行く宛てはなかったしな。人助けをしたいって言ってるあんたは多分いい人なんだと思う。折角殺し合いに乗ってない同士でもあるし俺にも何か手伝わせてくれよ」

 それは周兎の本心だった。
 基本的に彼は善性の人間である。多少突き放したところこそあれど亡き父の影響か正義感は強い。
 「悪党どもを叩き潰す」という漠然とした目的しか持っていなかった周兎であったが、”人助け”というシンプルな目的は彼にとって分かりやすくかつ受け入れ易いものだった。
 人助けをする。そのうえで悪党は叩き潰す。
脳力を使っての戦闘以外にこの状況の打開方法を持たない周兎に取れる最善の行動だ。
 後は、ナイチンゲールの了承を待つばかりである。

「そういうことであれば、手を貸していただきます。医療物資の輸送であればより多くの人出があった方が効率的ですから」

 そこまで淡々と言い切るナイチンゲール。
 終始堅い調子を崩さない彼女に対し周兎は内心で苦笑を浮かべる
 だが、そんなナイチンゲールの表情が不意に、ほんの僅かに綻んだ。

「この様な場ですし、個々人で優先すべき事情というものがあります。ですので私だけで事を為そうかと考えていました。感謝しますミスター。貴方の善意は必ずこの地で救いを待つ全ての病める人の救いとなるでしょう」

 微かに微笑み、柔らかい表情を浮かべたナイチンゲール。
 だが、それも一瞬だけだ。周兎が言葉を失っていたほんの数秒の間に、ナイチンゲールの表情はまたいつもの鉄面皮に戻る。
 まるで、先ほどの数秒かの光景が彼の見た幻であったかのように。

「そ、そう言えば自己紹介もしてなかったな。俺は円城周兎って言うんだ。あんたは?」
「フローレンス・ナイチンゲールと言います。それでは改めてよろしく、ミスター円城」
「え?」

 ナイチンゲールの自己紹介に間の抜けた声で答えてしまう周兎。
 数十分前に目を通していた名簿を思い出す。権三が蘇生した可能性を考察していた際に紐づいて覚えていた名前の一つ。それがフローレンス・ナイチンゲールだ。
 近代看護師の祖である歴史上の偉人。そして目の前のフローレンス・ナイチンゲールを名乗る女性も自称看護師。偶然の一致、としては出来過ぎた話だろう。

「フローレンス・ナイチンゲールってあの?」
「指示語が不明瞭ですが、貴方が想定しているものが歴史上の特定人物を指しているのだと仮定するのであればそのフローレンス・ナイチンゲールです」
「……マジかよ」
「色々と特殊な事情がありますがそれについては道すがら説明しましょう。私同様にここに拉致された知人もいますし彼ら彼女らについても共有すべきでしょうね。代わりに貴方の知人がいた場合は共有をお願いします」

 再び周兎は閉口することになる。
 脈拍にも心音にも変化はない。つまり、彼女は同姓同名などではなく歴史上のフローレンス・ナイチンゲールであることは真実だ。

 この後、彼は宮本武蔵や沖田総司といった名簿に載っている歴史上の偉人が全て彼女の同僚であるという説明を受け頭を抱えることになるのだが、それはまた、別のお話しのことである。


427 : ハザード&レスキュー ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:56:30 GJ8df8Vs0

【C-3/1日目・深夜】

【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
[状態]:軽傷(処置済)、肺に裂傷及び壊死(処置済)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:救う。殺してでも。
1:傷病者を探し、癒やす。 その準備の為にも病院に向かう
2:童磨は次に会ったなら必ず治療する。
3:ミスター円城と情報交換をする。
4:『鬼化』を振り撒く元凶が、もし居るのなら───
[備考]
※参戦時期はカルデア召喚後です。
※宝具使用時の魔力消費量が大きく増加しています。
※円城周兎からナノロボについて簡単な説明を受けました。

【円城周兎@ナノハザード】
[状態]:健康、ナノタブレットを1錠服用済
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:悪党は叩き潰す
1:ナイチンゲールを手伝い、病院に向かう。
2:ナイチンゲールと情報交換をする。
3:前園、権三に最大限警戒する。また、前園は殺す。
[備考]
※原作22話終了後、母親が死亡してピーマンの肉詰めを食べた後からの参戦
※あと数時間の内にナノタブレットを3錠以上服用すると頭が爆発して死亡する可能性があります。
※ナイチンゲールから童磨、および鬼滅の刃出典の鬼についての情報を入手しました。


428 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 18:57:11 GJ8df8Vs0
以上で投下を終了します。


429 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/12(日) 19:23:34 GJ8df8Vs0
すいません、ナイチンゲールの備考に以下の記載を忘れていました。

※沖田総司をカルデアに召喚された沖田総司であると認識しています。


430 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/12(日) 21:24:15 wWDpA0/w0
みなさん投下乙です
禰豆子、悠、予約します


431 : 名無しさん :2019/05/12(日) 22:28:08 l1WA7Fz20
>武蔵、出逢う!
予約の時点ですごい自信を感じたダブル武蔵、期待通りで最高ですね。
名簿を見たときに誰もが一瞬考える武蔵同士の邂逅を、期待通りにやってくれるのでたまらん
一番好きなのは、「タンマ!」と待ったをかける武蔵ちゃんに「二天一流のクセにそんなワケないだろ」と武蔵が警戒を緩めずにいたら、当然そんなワケなかったので荷物を投げて距離を取る武蔵ちゃんのところ
その後の「飛び込めぬ距離」「飛び込んでこないなら逃げるわ」のやりとりといい、お互いさすがに宮本武蔵の把握度が高い

>やがてのあしたに星がふる
七実さん死後参戦というのを読んで、すわ病気抜きかと思ったらちゃんと病気は残っているとすぐに明言されて一安心
そんな死後参戦なので無敵のトキみたいなのがまさかと、謎の恐怖を抱いてしまった
さておきそんな死後参戦が話のキーになっていておもしろい
動く死体への嫌悪感、ならば満足して死にゆくはずだったのにこの場にいる自分はなんのか。だって嫌じゃないですか、あんなのと一緒だなんて。酷いがなるほど

>素直じゃない私を
ずっと見ていた巌窟王、さすがに声をかけるの巻
結果、かぐや様を多少落ち着かせたので正解というか、口調がアレなだけでやってることはいい人というか……
それを軽く察されている辺り、恋愛頭脳戦に慣れているかぐや様は違うなというか、あんなのに慣れる前に早く付き合えばというか

>メルティ・スイートハートとビターステップ
ジウくんといえばその参戦時期によって、ロワで取るであろうスタンスがかなりがっつり変わってくるキャラクターで
はたしてどの時期からの登場で、どうするつもりなのだろうと思っている間に、四葉が溶けていた
…………あれ? と思う間に明かされる種明かしに死亡表記。作中の四葉のような気分で読んでしまった
参戦時期は新選組以降。奪う側となった皇城ジウ、手にかけたのがなにも奪うことのない少女であり、その行動はしのを殺した前園さんと同じことであるなどと、知る由もない

>FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」
などとジウくんが毒殺したことに奇妙な因果を感じていたら、すぐに前園さんが出てきた
前園さん登場話では「こっここまで前園さんをやっていいのか!」と驚いたのですが、今回は「ここまでコワすぎやっていいのか!」と驚くことになった
ステルスの理想みたいなムーブをやる前園さんに、鬼映像に相当テンション上がってどこぞのVS映画みたいなことを言い出す工藤。こ、このコンビだけ、パロロワじゃなくてパロコワすぎルートに……!
しかし前園さんと工藤に挟まれてる姐切さん、相当不憫なはずなんですけど、このポジションがメチャクチャ似合うのはなんなんでしょうね……

>LOVE BULLET KAGUYA SAMA
【裁判長:巌窟王(世界の果ての塔より特別ゲスト)】に「???」となっていたら、思いのほかノリノリでさらに「??????」になるとんでもない掴み
言われてみればそれくらいのことは彼ならばできるが、言われてみなければ思いつくはずもない
七花ととがめの刀語コンビはさすがに安定感あるけど、かぐや様と巌窟王のコンビは原作コンビだけど不安定だなあみたいな不思議な気持ちになる
そもそも原作コンビじゃないのに、そういえば巌窟王はかぐや様にもいたな……いてもおかしくないよな……と、そんな奇妙な浸食を食らっている。いや、いなかった。原作にはいなかった。いなかった、はず……きっと……

>鬼は泥を見た。鬼は星を見た。
数レスに渡ってひたすらキレる無惨様からの、「丁度いいジュースが歩いてきたぞい」はそりゃ笑いますよね
とにかくキレるラスボスであるところの無惨様なんですけど、こんなにそりゃキレるでしょって存在もなかなかいない
「優秀な自動販売機」だなんて誉めてくれて嬉しい、とはならない
挙句、そんなものに希望を見出してしまったので、本当になんていうか、こう、こんなに納得がいく無惨様ブチギレも珍しいというか……
とりあえず優勝はする前提で帝国を作ろうとしている権三さんは、お元気そうでなによりです


432 : 名無しさん :2019/05/12(日) 22:28:36 l1WA7Fz20
>泥の水面
あまりにも危ういかぐや様見ていたので我慢できずに介入しにいった巌窟王――をさらに見ていた人
勝手にこれで大丈夫だろうと安心し、銃声を聞いて戻ってきたときにはすべて終わってたので、また安心をした人
介入するタイミングを逃し、助けるタイミングも逃し、なのに彼女は強いので大丈夫だろうと大いに安心をしている人
話しかけろよ! と思うが、これが冨岡義勇であることを我々は知っている。これが彼の背負う悲しさであることを知っていいる
その上で言おう。いや、話しかけろよ!!

>その鼓動は恋のように
余計なことを考える→これは悪ふざけか→馬鹿か俺は! と、自分で答えに到達してしまう会長がいいですね
逃げていたほうが楽なのに、どうしたって答えを導きだしてしまう。自分以外の二人もいるとなれば、さらに逃げられない
たった一人で答えを出し、そして現れたメルトリリスからの問いにもきちんと答えを出す会長、いいですね。いい
BBちゃんはBBちゃんでなにかある様子ですが、『このメルトリリス』をチョイスしたのは……?

>あの日に見た明日を捨てきれない
ハイロー未把握なんですけど、最初の勢力の説明がクソーッこの並びバカみたいで好きだぜーッと興奮する
スモーキーが名簿を読んでもらうところもいいですね。たぶん鬼滅勢はめっちゃ雑に読まれてる
自分に刻まれた過去から出た「人間には価値の差がある」が、決定的な亀裂になってしまうのは悲しい
それにしても「だったら、お前は助からない――――!」「―――『変身』ッ!!」がメチャクチャ決まってて素敵

>Open Your Eyes For The Next AMAZONZ
雅がいることについては好都合と解釈する明さん、まさしく48日後……の明さんという感じ
初めて使う武器で『ザンッ』を繰り返して、さらには武器自体の特性を理解して事態を切り抜けて、こんなに納得できる人もいない
『人間の限界を無限に高みへ更新し続ける者』っていう地の分がメチャクチャハマってていいですね……。アカザさんなんかにも会ってほしいな
そんな限界を更新し続ける男もまだ未成年という事実、すっかり忘れてたのでびっくりしてしまう

>「俺のやることは変わらない」
雅がいるなら好都合と判断した明さんと同じく、明がいるならおもしろそうだとなっている雅様が素敵
勝手に蚊とかいう鬼みたいな一手を打っておいて、明さんと戦ってた頃はおもしろかったのにな……ってなってましたからね、雅様
かつてと同じく誘いを断る煉獄さんもかっこいいけど、予約メンツの時点で予想してた展開を断る善吉がいいですね
「俺が主役ならさっきの有様だが、あんたの引き立てにまわれば百人力だぜ」がもうほんとたまらんセリフですね

>第五十一話
うおー、おもしろい。城戸真司と秋山蓮をこうしてくるのはおもしろいな
真司自身では『イメージ的なもの』としか認識していない夢が、連のなかにたしかに刺さっていたのがすごくいいですね。グッときちゃう
デッキだけ渡してあっさりと立ち去ろうとした蓮と、それを許してくれない真司も素敵だ
いろんな可能性を考えた結果「全員が浅倉やモンスターならいいのにな」に至る真司が最高に城戸真司で、これを言える男であることに蓮は納得をしていそうだ

>わずかな未練だけが不意に来る
ここにアイツがいるなら殺せるじゃねえか〜勢の印象が強いだけに、冷静に戦力が足りないに至るしのぶさんが妙に新鮮。そりゃそうだった
広斗さんとの問答も素敵。死者の蘇りについて、素直にやってくれるマジメな二人で好感が持てる
バイクにびっくりするしのぶさんカワイイで終わっても納得なのに、そっからさらにオチがあるのは不意打ちで笑っちゃいました
それにしてもこんなの持たされても困ると冨岡さんの刀を眺めるしのぶさんは、まさかあの人が話しかけもしないで女の子を眺めて頷いているとは思わないでしょう


433 : 名無しさん :2019/05/12(日) 22:29:40 l1WA7Fz20
>光り無し
うーむ、あの幻之介が奉仕マーダーになるのは、不思議な感慨深さがありますね
衛府の七忍では真っ当に武士として生き、身分の檻から解かれ、そして奉仕マーダーとなる
あの藤木源之助を考えると、あまりにもそうか、そうなるか……と

>Louder
ハイローは未把握ですが、あのCMは知ってます
「お前の名前はアキラじゃねえ。今日からアキラメネエだ!」とかやる日が今後来るのでしょうか
弟には置いて行かれ、お湯がないので食事も取れずとさんざんなはずなのですが、なんとなく元気でいいですね。元気なのはよいことだ

>劣等分の過負荷
明らかにおかしなことを言っている風太郎くんからの掴み、笑っちゃいましたね
五つ子全員分の心配をしたところで爆死を目にするの、およそ最悪のスタートという感じで素晴らしい
黙って立ち去ろうとしていた風太郎くんとこんなに普通に会話するには、もしかしたらあの出会いしかなかったのかもしれないけど、しかし球磨川くんはそんなことを考えてはいなそうだ
オールフィクション制限されちゃってさあってへらへら言えるのは、彼の魅力ですね

>獣達の夢
カルデアで会ったサーヴァントだが今回の召喚ではどうも違うらしい――的なのは置いといて、そんなの考えなくても邪魔なのでの清姫さんが素敵
それにしても、サーヴァント同士の戦いに当然のように「俺も混ぜろ……変身!」の浅倉がたまりませんね……
真司と蓮がなんとも2019年まで来たのでって感じの登場話だったのに対し、浅倉はあのころと変わらぬ浅倉で魅せてくれる
嘘がないところに好感を持ちながらも名前を教えずに帰る清姫さんに、突き刺しておいて名前教えなかったこと苛ついてる浅倉のおかげで、人理を守るマスターに召喚されたサーヴァントを羨む黒縄地獄さんが一番まともみたいになってるの、なんともおもしろい現象だ

>どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる
1レス目どころか、1行目のセリフでもうヤバいことがわかる恐るべき切り出し
共闘からのアマゾンアルファ乱入も本当に考え得る最悪で、そこからの爆発も最悪で、たまたま逃げた先にあったモノがあまりにも最悪。最悪の底がない
「自分がされて嫌だったことは、人にしちゃいけない」も「知ってるよ! アイツが、人間じゃないことぐらい!」も本当にたまらないセリフで、だからこそ彼が落ちてしまったのがあまりにも悲しい
かつては悲惨な目に遭う立場だったジウくんが奪う立場を選び、千翼というかつてのジウくんばりに悲惨な目に遭い続ける男を追い詰めているのも残酷だ
それにしても最初の七実さんの「ほら、こういうの、放っておくとどんどん増えていくものですし」が、いろんな意味でなんともいやぁなセリフですね

>石上優は叫びたい
さらば石上会計
たぶんこのあと石上会計は石上ドリンクバーとなるんですけど、しかしだとしても勝っていたのは揺らがないぞ
嘘なことくらいわかっていてもね、それでも一人で死ぬのなんて嫌なはずなんですよ。それでもこれができるなら、もう虚勢ではないよね
そしてこれをやっても全然問題ない今之川権三ってマーダーはズルいな……。このクソ野郎〜〜〜ってなっても問題ないもんな、こいつは……

>ハザード&レスキュー
めっちゃスムーズに死者蘇生の可能性に至る円城くんが、まさしく円城くんって感じで笑ってしまった
撃ったことではなく、骨を射出したことを怒るナイチンゲールさんもいいですね。こういうの好きです
なんとなく口調は頭よくなさそうなのに、割とすんなり物事を受け入れて対処を考える円城くん、やっぱりおもしろいですね
前園さんなら「デスゲームやクロスオーバーの才能がありますね」と言っている


434 : ◆rCn09xUgFM :2019/05/12(日) 22:37:14 AI98igYI0
投下いたします


435 : ◆rCn09xUgFM :2019/05/12(日) 22:41:05 AI98igYI0
申し訳ありません。NGワードが含まれていて投下出来ない様なので、確認の時間を下さい


436 : ◆rCn09xUgFM :2019/05/12(日) 23:03:25 AI98igYI0
よくわからなかったので諦めてwikiの方へ直接編集させていただきました。
何か問題ありましたらよろしくお願いいたします

また、ほかの方への感想は後日書かせていただきます


437 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:05:48 bcpNnxKY0
皆様投下乙です。
自分も投下します。


438 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:09:58 bcpNnxKY0

 ここは浅草花やしき。
 ノイズ交じりのBGMが流れる舞台上に、一人の女性がいる。
 そして舞台袖には、不安そうに舞台を見守っている支配人の姿がある。

(私の名前は山田奈緒子)

 髪を後ろで結び、チャイナドレスを着た奈緒子は、祈るように両手でボールを抱えている。
 その表情は艶やかで、余裕たっぷりといった様子だ。

(マジック界の歴史に名を遺すレベルの、天才マジシャンである)

 奈緒子が手に念を込めるような仕草をすると、手を離してもボールは空中に浮いている。
 いわゆる「ゾンビボール」と呼ばれるマジックだ。
 ゆっくりとした動作で、浮遊したボールを右半身側から左半身側へと移動させる。

(実力と美貌を兼ね備えているため、いつも会場は満員御礼)

 BGMが終わり、マジックも無事に成功した。
 奈緒子は笑顔で観客席を見るが、人の姿はほとんどない。
 笑顔は渋面へと変化した。

(――とはいかない。現実は非常である)

 観客席には、こっくりこっくり舟を漕ぐ老人と、その隣にいる仏頂面の少年。そして、黄色いニワトリのおもちゃを持つ男だけ。
 男は拍手の代わりなのだろうか、おもちゃを「アオォーウ」と鳴らしている。
 熱狂的なファンの奇行に、奈緒子は眉をひそめた。
 視線を向けられて興奮したのか、連続で「アオアオアオォーウ!」と鳴らす男。

「うるさい!」

 思わず口が出る奈緒子。男はビクッとしたものの、止める気配はない。
 奈緒子はいそいそと舞台袖に戻り、お決まりのようにクビを言い渡された。

「はぁ……」

 帰路の途中で家族連れに笑われつつ、アパート「池田荘」の付近まで到着した奈緒子。
 しかし、すぐには階段に向かわず、曲がり角からアパート前の様子をうかがう。
 というのも、アパート前から、はしゃいでいる声が聞こえてきたからだ。

「ハルさん、ほら、アーン!」
「ん〜!ありがとジャーミー!ほら、ジャーミーも食べて!」

 ハットグを食べながら自撮りし合っているのは、「池田荘」の大家の池田ハルと、その夫のジャーミーだ。
 二人は和気あいあいとした様子だが、今現在、家賃を滞納している奈緒子にとっては、会いたくない相手だった。

「ハルさん、インテルバエしてるヨ〜!」
「あら、そう?ほら、ジャーミーも一緒に撮りましょう〜!」
「若いつもりかっ!」

 反射的にツッコミを入れてしまう奈緒子。

「ん?山田の声がしたねぇ……」
(ヤバい!)

 今、ハルに捕まると、家賃の滞納を言い逃れできない。
 そう考えて逃げようとした奈緒子だったが、振り向きざまに何かにぶつかった。

「にゃっ!」
「やあ、相変わらず貧相な表情と胸だな」

 奈緒子が顔を上げると、そこにいたのは長身の男――上田次郎だった。
 手には黄色いニワトリのおもちゃを持っている。


439 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:10:59 bcpNnxKY0
「上田!なんでここに?」
「尺の都合だ。話は早い方がいいだろう?」

 困惑する奈緒子をよそに、上田はニワトリを鳴らした。

「面白いだろう、これ」
「流行なのか?……いや、それより、話ってなんです?」

 奈緒子は怪訝な表情を上田に向けた。
 今まで何度も、上田が話を持ちかけてきたことで、事件に巻き込まれてきたのだ。
 不信を抱かないはずもない。

「……単刀直入に話そう。鬼を見たことはあるか?」
「は?オニ?桃太郎とか、金太郎とか、浦島太郎に出てくるやつですか?」
「浦島太郎に鬼は出ない」

 呆れたように訂正する上田。
 それから少しだけ躊躇うそぶりを見せて、話し始めた。

「先日、刃取(はとる)島の呂和井有(ろわいある)村の村長の娘が、研究室を尋ねてきてね」
「はとる島の、ろわいある村……?」
「なんでも、その村には言い伝えがあるらしい。
 数年に一度、鬼が現れて、手あたり次第に住民を食らうそうだ。
 被害者は一人だけのときもあれば、数十人のときもあったという」
「ちょちょ、待ってください」

 神妙な顔つきで話す上田を、奈緒子が遮る。

「死人が出ているなら、警察の仕事じゃないですか?」
「もちろん、警察も事件を認知しているそうだ。
 だが、鬼が現れ出してから十五年以上、警察は鬼を捕まえられていない。
 しかも、警察を含めて誰も、肝心の鬼の姿を見ていない。
 警察が通報を受けて向かうと、あるのは鬼に食い殺された死体だけ。
 捜査はされるものの、目撃者の類もおらず、結果として迷宮入りしてしまうそうだ」
「……」
「な?奇妙だろう?」

 微笑んで、ニワトリを鳴らす上田。
 その笑顔がどことなくぎこちないことを、奈緒子は見抜いていた。

「そんな状況に堪りかねた村長の娘さんが、鬼退治と称して霊能力者を呼ぶことにしたそうだ」
「霊能力者を?」
「ああ。だが、霊能力者を呼ぶのもタダではないらしくてね。
 インチキ霊能力者に騙されたくないから、真贋を見分けて欲しいと頼まれたんだ。
 大人気『どんとこい!超常現象』シリーズの著者であり、ノーベル賞受賞を嘱望されるこの私にね」

 例によって著書を取り出し、自慢げに語る上田。
 何十回、何百回と見たドヤ顔である。

「どうだ。霊能力者を見破る手伝いをしたくないか?」
「要するに、鬼が怖いから一緒に来てくれってことですよね」

 一瞬の沈黙。

「ハハハ、何を馬鹿な。私は鬼なんて信じていない」
「とにかく、お断りします。わざわざ危険な目に遭いたくありません」
「待てっ!」

 上田は勢いよく制止した。
 そして懐から紙を取り出すと、奈緒子の目の前に突き出した。
 奈緒子は出された紙に書いてある文字を読んで、それを即座に理解した。

「上田……」
「先々月の家賃までは支払い済みだ。先月の分を出して欲しければ、大人しくついてくることだな」
「汚いぞ!上田!」

 その後、ギャーギャーと何やら言い合いながら、二人は上田号に乗り込む。
 ある意味では“いつも通り”の風景。
 しかし、その風景が壊れることになるとは、この時点では二人とも予想していなかった。






440 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:12:35 bcpNnxKY0


「たしかそんな夢を見ていて、気がついたらこの島に……」

 殺し合いが開始して数十分が経過した頃。
 自称“天才マジシャン”の山田奈緒子は、豪華客船の一室にいた。
 支給品の地図や名簿を見て、アイテムを確認したのち、ここに来るまでのことを思い出していたのだ。

「いや、あれは夢じゃなくて現実?うーん……。
 あ、夢と言えば……あのBBって女、どんなトリックを使ったんだ?」

 奈緒子は思考を切り替えて、殺し合いの主催者について考え始めた。
 つい先程、主催者を名乗るBBは、奈緒子たち参加者に向けて、視覚や聴覚を“ハッキング”したと話していた。
 冷静に考えて、他人の感覚を操作することが、現実に出来るわけがない。
 つまり、何らかのトリックを用いた可能性が高い。
 しかし、マジックに精通した奈緒子でも、そのトリックは見当もつかなかった。

「殺し合いなんて乗るもんか。そのトリック……絶対に暴いてみせる!」

 宣言と同時、奈緒子は虚空に向けてビシッ!と指を突き付けた。
 ジッチャンの名にかけて!はどうにか耐えた。

(考えても仕方ない。とりあえず、上田さんを探すか)

 名簿によると、奈緒子の知人は上田次郎だけだった。
 唯一の知人がデカイだけの男なのはシャクだが、そもそも友人が少ないのだから、いるだけマシだと考えることにした。
 もちろん、上田次郎がBBのトリックを暴くことなんて微塵も期待していない。
 ただ、空手が強いから、ボディーガードになりそうだと考えたまでだ。
 脳内でそんな言い訳をしながら、奈緒子は外に出た。

「それにしても、ずいぶん大きい船だな……ん?」

 廊下を歩き、甲板に出てすぐ、奈緒子は眉をひそめた。
 リュックサックが放置されていたのだ。形状も色も、奈緒子に与えられたものと同じリュックサックだ。
 それはつまり、殺し合いの参加者の誰かが、ここにリュックを放置したということである。

 周囲に人の気配がないことを確かめて、奈緒子はリュックを検めた。
 リュックには“猛丸”と名前が書いてある。確かに名簿にある名前だ。

 中身を漁ると、地図などの支給品一式、そしてランダムに配られたアイテムが出てきた。
 奈緒子の手品道具。魔術協会制服。そして、複数の手榴弾。以上の三種類だ。
 手品道具はさておき、手榴弾はいざというときに使えそうである。
 しかし、魔術協会制服は、「回復魔術が使える」という説明書の記述からして、眉唾ものと言える。

(コスプレか?……って、それよりも)

 これら三種類のアイテムは、取り出された形跡がない。
 つまり、このリュックの持ち主“猛丸”は、中身に手を付けないまま放置したという事実が明らかになったのだ。
 全く手を付けないまま放置されていたリュック、そして周囲には広がる海。

「まさか……」

 自殺という言葉が、奈緒子の頭をよぎる。
 この殺し合いに巻き込まれたことを苦にしてか、あるいは状況に混乱してか。
 支給品を確認するよりも早く、絶望に呑まれてしまい、船から身を投げる参加者。
 そんな想像は、容易にできる。できてしまう。

 奈緒子は甲板の端に行き、海を見下ろした。暗い海はどこまでも広がっている。
 もしかしたら、人間が浮いているかもしれない。
 そんな最悪の想像をしながら海を見渡すが、いかんせん暗いため判然としない。

(くっ、懐中電灯でも探すか?)

 奈緒子の頭に新たな案が浮かんだそのとき。

――ガギン!


441 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:17:56 bcpNnxKY0
 何か、金属同士がぶつかる音が響いた。
 波音とは異なる音。奈緒子は、その音がした方向、船の舳先に視線を向けて、耳を澄ませる。

――ガギン、ガギン、ガギン……。

 すると、鈍い金属音が連続して聞こえてくる。
 しかも、音は段々と近づいてきている。

(なんだ、この音!?)

 殺し合いの最中、一人きりの甲板で、いきなり謎の音がし始める。
 この島に居る一般人であれば、誰でも恐怖するだろう。
 某教授なら、マジで失神する五秒前だ。
 そして、天才マジシャンも例外ではなく、若干のパニック状態に陥る。

――ガギンガギンガギン……!

 テンポを上げて鳴り響く音に、奈緒子の脚はすっかり竦んだ。
 緊張のあまりその場から動けず、視線も外せない。
 鈍い金属音は、数秒後に止んだ。
 その一瞬の沈黙の後。
 ビュン、と風を切る音と共に“何か”が跳躍し――奈緒子の目の前に着地した。

「わぁーっ!?」

 思わず叫んで、頭の前で両腕を交差させて防御姿勢を取る奈緒子。
 完全に目を閉じた状態で、「わぁーっ」と連呼する。
 出てきたのは猛獣か、それとも妖怪か。
 確認するのも恐ろしい。

「んー?」

 しかし、そうした予想に反して、どこか幼い声が甲板に響いた。
 おそるおそる目を開いた奈緒子の視界には、身体の各所に入れ墨のようなものを施した、褐色の少年がいた。







 殺し合いが開始した直後、褐色の少年、猛丸は船の甲板に居た。
 視界に急に現れた少女には少なからず驚かされたが、猛丸とて常人ならざる身。
 霹鬼(ヒャッキー)の力に目覚めた日から、“ぶっとんだこと”には耐性がついている。
 まだ童(ワラバー)と呼ばれる年齢だが、異常事態への順応は早い。

「俺(ワー)は戻る」

 その猛丸の碧眼は、まっすぐと海を見据えていた。
 ニライカナイの戦士の子孫であり、また獅子(シーサー)御獄の按司である猛丸には、使命がある。
 首狩森(チブルムィー)の九十九城(グスク)で暮らす人々を守る使命が。
 しかし、ここは首狩森ではなく、琉球でもない。
 どことも知れない島である。

「絶対に戻るさー」

 それでも戻る。琉球に。首狩森に。九十九城に。
 全てを包含した意志を猛丸は口にした。
 その行為には、意志の確認ともう一つ、自らを奮い立たせる目的が含まれていた。

(怖えーよ、くぬ島……バケモンだらけだ)

 猛丸は北西の方角を見て、身震いした。
 動物的な本能か、それとも全身に流れる伐斬羅の血か。
 どちらにせよ、身体が感じているのだ。この島に居る圧倒的な力の存在を。


442 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:18:45 bcpNnxKY0
(ゲンノスキ……どこにいるん?)

 そして、名簿を見るまでもなく、運命の兄弟がいることも確信していた。
 犬養幻之介。猛丸にとって、口噛酒を交わした間柄であり、唯一霹鬼の姿を見せた相手でもある。
 合流が出来れば、これほど心強い相手もいない。
 しかし、幻之介を探すということは、島に居る強者(チューバ)と出会うかもしれないということだ。
 その可能性が、猛丸の心を迷わせていた。

(ん、潜るか)

 思い付いたら即行動。猛丸は甲板から勢いよく跳んだ。
 いつも琉球の海でそうしているように、空中でアクロバットな動きをしながらザブンと潜る。
 伐斬羅の血が流れる猛丸の肉体は、錨のごとく海底に潜っていく。

(……くぬ海……?)

 潜り始めて数秒。猛丸は得も言われぬ雰囲気を感じ取る。
 そのまま海底にたどり着くと、あぐらをかき、座禅にも似た姿勢で目を閉じた。
 海はとても静かであり――生命を感じない。
 猛丸は首を傾げた。

(いつもなら、海ん底に座ると見える……んれー?)

 どれくらい後か、猛丸はいよいよ諦めた。
 己の知る琉球の海と、この海は異なると確信したのだ。
 それゆえに、自分自身を見つめ直すことはできなかったが、迷いはすっかり消えていた。

(やっぱ、琉球ぬ海に戻りてー)

 故郷に戻る。
 その、ただ一つの純粋な思いを胸に、獅子童は動く。







 つまり、ガギンという鈍い金属音は、硬質化した伐斬羅の血を船体に突き立てる音だったというわけだ。

 そんなことはつゆ知らない奈緒子が、猛丸と対面して五分。
 この場は膠着状態にあった。
 もの珍しげに奈緒子を眺める猛丸と、その視線を警戒する奈緒子、という構図だ。

(――とにかく、話さないことには始まらない!)

 どうやらお互いに危害を加えるつもりはないらしい。
 そう判断した奈緒子は、猛丸に対しておっかなびっくりだが話しかけた。

「あ、あのー……」
「お前(ヤー)、石曼子(シマンズ)ぬ女か?」
「……はい?」

 訛りの強い猛丸の問いに、困惑する奈緒子。
 相手が首を傾げていることから、どうにか質問されたことは理解する。

「私は山田奈緒子……美人天才マジシャン、です」
「ナオコ……石曼子ぬ話し方あらんな。大和人か?」
「ヤマトンチュ?なんだそれ?……それより、もしかして沖縄の人?」

 質問は分からずとも、その独特な訛りは、忘れようとしても忘れられない。
 過去に沖縄県の「黒門島」を訪れた経験が活きて、奈緒子は猛丸の出身を言い当てる。
 しかし惜しいことに、猛丸にとって沖縄の名称は馴染みがないものだった。

「俺(ワー)は猛丸。琉球ぬ九十九城を守るヤナワラバーさー」
「琉球?いつの時代?」

 一方の奈緒子にしてみれば、琉球は歴史上の名称。
 これが仮にも大学教授の上田であれば、琉球の知識も多分にあっただろうが、奈緒子にそれは望むべくもない。
 どうやら、異文化コミュニケーションは難航しそうである。


443 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:19:28 bcpNnxKY0
【G-7 豪華客船の甲板/1日目・深夜】

【山田奈緒子@TRICK】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、奈緒子の手品道具@TRICK、魔術協会制服@Fate/Grand Order、手榴弾×3
[思考・状況]
基本方針:元の生活に帰る。
1:褐色の少年(猛丸)と話す。いつの時代の人だ?
2:上田さんを探す。
[備考]
※参戦時期は第3シリーズ以降です。
※自分の支給品は確認済みです。

【猛丸@衛府の七忍】
[状態]:健康
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:琉球に戻る。
1:長髪の女性(奈緒子)と話す。大和人か?
2:ゲンノスキ(幻之介)を探す。
[備考]
※参戦時期は原作3巻終了時点です。
※自分の支給品を把握していません。


【奈緒子の手品道具@TRICK】
猛丸に支給された。
大人気天才マジシャン、山田奈緒子の商売道具一式。
作中で奈緒子が披露したマジックの道具が、いくつかセットになっている。例えば、ゾンビボールやトランプなど。
奈緒子の金銭事情を反映して、どれも安く手に入るものである。


【魔術協会制服@Fate/Grand Order】
猛丸に支給された。
魔術協会の時計塔が優秀と認めた生徒に送られる魔術礼装。
スキルは「全体回復」・「霊子譲渡」・「コマンドシャッフル」の3つ。
どのように使用できるかは不明。

【手榴弾@現実】
猛丸に支給された。
3個セット。取り扱いには注意されたし。


444 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/12(日) 23:24:30 bcpNnxKY0
投下終了です。タイトルは「時を超えた遭遇」です。
誤字脱字等、訂正がありましたらよろしくお願いいたします。
特に猛丸の口調は不安な点なので、確認して頂ければと思います。


445 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/12(日) 23:35:03 wWDpA0/w0
投下乙です
トリック再現度すごい。こちらも投下します


446 : 禰豆子/業苦 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/12(日) 23:35:37 wWDpA0/w0



誰もいない街が、月光に沈んでいる。
コンクリートで塗り固められた冷たい街は、青と白の狭間で揺れている。

この島の片隅、そこには東都ドームと呼ばれる建築物を中心に街がある。
だがその街に人間は、誰一人としていなかった。
住民は去ったのか、はたまた最初からそんなものはいなかったのか、がらんとしたゴーストタウンがそこにはある。

だが代わりに──鬼がいた。

和装を身にまとった幼い少女が、一人で蹲っている。
彼女、竈門禰豆子は見た目こそ年増もいかない少女であったが、人間と呼べる存在ではなかった。

「……──」

その時、彼女は肉を貪っていた。
その手に握りしめたハンバーグを、彼女は食べていた。
食べては捨てようとし、その度に抗いがたい衝動に駆られて手が止まり、それを堪えるようにふらふらと歩き、またうずくまり──ひとかじり、肉を食べてしまう。

そんなことを繰り返しているうち、禰豆子は気づけば島の端まで来てしまっていたのだった。
口元には汚らしく肉やソースが付着し、表情はつらそうに歪んでいた。

だがそれでも──彼女は肉を貪ってしまった。

「────」

その口から、言葉にならない呻き声が漏れる。
それは嗚咽でもあり、獣のような唸り声でもあり、喜悦の声でもあった。

これは食べてはダメなものなのだ。
先ほどの男、前園は風態こそ慇懃で丁寧であったが、その本性は悪質としか言いようがないものだった。
あの人間が与えてきた肉など、決して良きものであるはずがない。

なのに──目の前の肉が美味しくて堪らないのだ。

人肉のハンバーグと前園は言っていた。
それが何を意味するのか、禰豆子は十分理解していたし、食べてはいけないものだということもわかっている。
だがそれでも禰豆子は食べてしまう。
ひとかじり、またひとかじり、渡された肉を食べてしまっている。

ああ、肉はもうあと少ししかない。
では、じゃあその次は──

「……君は」

──背後から声をかけられたことに気づき、禰豆子はビクリと肩をあげた。
見られてはマズイ、と奇妙な後ろめたさがその身を貫いた。
今更──どうしようもないというのに。

肉を背中に隠し、禰豆子は声の主へと振り返った。
そこにいたのは線の細い、整った顔立ちをした青年だった。

「その肉……そうか」

ああ、案の定──というべきか、青年は禰豆子が何を隠してのかわかってしまったらしい。
禰豆子はふるふると首を横に振る。
違う、という感情。生きないと、という感情。終わらせてほしい、という感情。
矛盾する想いがぐちゃぐちゃに入り乱れる。
その最中においてさえ、腹の奥底から湧き上がる食欲が収まることはなく、彼女の心中をより混沌としたものにさせていく。

それでも──仮に青年が禰豆子を攻撃してきた場合、それでも彼女は身を守るために反撃しただろう。
どれほど死にたいと思っても、その命を誰かに渡してしまうことは、ダメだとわかっていたから。

「君は人を食べたの?」

その声は静かなものだった。
静かに、そして鋭い口調で彼は禰豆子に問いかける。

禰豆子はその問いに己の汚れた手のひらを見て、顔を歪ませたのち、頷いた。


447 : 禰豆子/業苦 ◆7ediZa7/Ag :2019/05/12(日) 23:35:59 wWDpA0/w0

「じゃあ君は──人を殺したの?」

先と似て非なる問いかけ。
悠の口調は決して変わっていない。
だが禰豆子は、その問いかけこそが、この身の分水嶺になるだと直感していた。

禰豆子はただ──首を振った。
それは事実であったし、願望でもあった。
その身の奥底から溢れ出てくる感覚にいやいやとするように、彼女は目を瞑り、首を横に振っていた。

「──そう」

その様子を見て、悠は何かを察したようだった。
街が静まり返る。人間が誰もいない夜の街の中、月明かりに照らされた二人の異形はただ静かに視線を交わした。

「わかった。じゃあ落ち着いて」

そこで青年は、ふっと口調を緩め、手を差し伸べてきた。
禰豆子はしばしその瞳を揺らしていたが、迷った末にその手を取ろうとする。
だが血と肉に汚れた己に掌に逡巡したのだろう。

「大丈夫」

青年──水澤悠はそう穏やかに告げて、彼女の手を掴み取った。







──アマゾン、ではないみたいだ。

悠は一人考え柄、誰もいなくなった街をバイクで疾駆する。
獣のごとき駆動音をあげる漆黒のハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】。
高性能なハーレーを手塩にかけてカスタムしたであろうことがわかる一台であり、これならば多少の悪路も無視してこの島を駆け回ることができるだろう。
このマシンを使い、千翼やイユ、仁たちが互いに出会う前に駆けつけなければならない。
そう強い想いで悠はハンドルグリップを握り込んだ。

加えて、まだ考えるべきことがある。

──この島にはアマゾン以外の異形がいる。

先ほど交戦した清姫や、今背中に乗せている禰豆子。
共にアマゾンではなかった。だが、人間でもない。
場合によっては、それが人を喰らうものになるという意味では、アマゾンに近しい存在であることは間違いなかった。

「──……」

その背中には少女、禰豆子が身を寄せるように眠っている。
いや、眠ろうとしている。眠ることで衝動を抑えてようとしているらしいが、なかなか寝付けないでいるらしかった。
時折もぞもぞと身体を動かす彼女に対し、あえて悠は何も言いはしなかった。

悠は彼女が何を喰らっていたか一目見た瞬間には見抜いていたし、彼女がその結果湧き出る“ある衝動”に必死に抗っていることもわかっていた。
そして──その抵抗が、長くは続きはしないことも。
生きる限り、その衝動に抗うことはできない。この5年間戦いに身を投じてきた悠は、そのどうしようもない事実を何度も目の当たりにしていた。

──いずれ彼女は我慢できなくなる

彼女は今、必死に人であろうとしている。
彼女のの内なる戦いが続く限り、悠は彼女を守るつもりだった。
だが──彼女が衝動に敗けたその瞬間、悠はその命を刈り取る。

「──……ぅ」

寝付けない禰豆子の苦しげな呻き声が聞こえる。
きっと──決定的な瞬間がそう遠く内に訪れるだろうと、悠は確信していた。


【B-1・街/1日目・黎明】

【水澤悠@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:やや空腹
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:明という人物に鮫島の最後を伝える
4:禰豆子が衝動に敗けたその瞬間、その命を刈り取る
[備考]

【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:不明。
1:ねたい。でもねれない。ただ、たべたい
[備考]
※人肉を食いました。

※ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW
悠に支給
雨宮兄弟の弟、広斗が使っていたバイクで、映画ではこれで縦横無尽のアクションを繰り広げた
カスタム費用を合わせて1000万円ほどだとか。


448 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/12(日) 23:36:17 wWDpA0/w0
短いですが投下終了です


449 : ◆dxxIOVQOvU :2019/05/13(月) 17:04:28 JdrQVK0A0
ねずこちゃん…そっちの一線は超えてなかったんか…


450 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:10:57 UU8greMw0
>>321分を投下します


451 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/13(月) 22:11:52 Vt49YoM60
冨岡義勇&巌窟王予約します


452 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:13:45 UU8greMw0
一通りの情報交換を終えた三玖と立香は、地図上で最も近い施設であった秀知院学園へ向けて足を進めていた。

立香としては一旦落ち着ける場所で情報を整理したいと思っていた。
流石に夜道の道路で女の子二人がライトの明かりを頼りに鞄の中をひっくり返している絵はよろしくないだろう。


(うーん、やっぱり距離があるかなぁ)

そんな中、立香は、元気がない三玖を見ながらどうしたものかと考えていた。

色々と話してはいるのだが、どうにも距離があるように感じられる。
自分がおかしいのだろうか。それともカルデアにいる間に女子高生も色々と変わってしまったのだろうか。


ちなみにだが、知り合いの名前を言って引かれた件。
あれについては、焦りながらもこう言っておいた。

『あはは、実はこの辺の人たちの名前っていわゆる芸名みたいなものでね、歴史上の有名人のものを借りてるんだよ!
 私達ちょっと劇団系のサークルみたいなのやっててね!』

三玖は納得したようでちょっと納得できてなさそうな表情を浮かべた後で「そうなんだ…」と返してそれ以上会話を広げることはなかった。

まあ、劇団と言っても全く知識がないわけではない。
セイレムの時のことを思い出せばある程度は話として成立させられるだろうと思っていた。
結局そこから話が広がらなくて無駄な心配になってしまったようだが。

「そういえば、三玖さんって五つ子の姉妹って言ってたけど、どんな子なの?」

とりあえず思いついたままに無理に話題を引っ張り出す。

「一花は――――」

と、ポツポツと話し始めた三玖。
曰く、五姉妹は皆同じ顔で、髪型を変えると区別がつかないくらいそっくりで。
各々の特徴を聞いているうちに、どうにも三玖は自分が強いコンプレックスを持っているようにも思えた。

そして、姉妹とは別の知り合いとしてこの場にいる、上杉風太郎という人の話になった時に彼女の話す様子が変わることも見逃していない。
友達、と言っていた存在だが、顔は少し赤く上気してるし、話す口調の節々にはその人物の人となりをよく見ているところも見受けられるし。

(これは、もしかして恋の予感――っ)

立香とてもしマスターとなることがなければ未だ学生だったであろう年頃の娘。そういう話には興味を持ってしまうものだ。
それにここから話を広げて会話を続けていけば、三玖との距離も縮められるかもしれない。

「そういえば立香の知り合いってどんな人なの?」
(あ、話終わっちゃった)

とりあえず立香は、差し障りのない程度に後輩とサーヴァント達のことを話しておいた。
何故か宮本武蔵についてだけ、妙に会話への食いつきがよかった気がした。





453 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:14:29 UU8greMw0
メルトリリスとの一時的な協力関係を築いた白銀。

その後彼が最初にしたことは―――


「よし、これでいい」

秀知院学園の教室や廊下の明かりを灯すことだった。

学園内を走り回ったことで額に吹き出た汗を拭いながら、生徒会室に戻る。
そこには呆れたような表情のメルトリリスが佇んでいた。

「何をしてるのよ、一体」
「学園内に明かりをつけてきたところだ。
 まあ流石に全部の部屋を、とはいかなかったがこれくらいあれば大丈夫だろう」
「そうじゃなくて、その行為になんの意味があるのかって聞いてるのよ」

話が終わって学園内の様子を問いかけてきた白銀に対して答えると、唐突に説明もなく走って部屋を出ていった。
そこにいきなり置いてきぼりをくらったメルトリリスは若干不機嫌な様子だった。

「簡単な話だ。
 もしこの夜の学園内で、一室だけ明かりがついている部屋があればそこに誰かがいるということが一目で分かるだろう。
 友好的な相手ならいいが、もしヤバいやつだったら危険だ。
 幸いこっちには地の利がある。少しは対応しやすくしておいた方がいいだろう」

もし生徒会メンバーがここにきたのなら生徒会室に来る可能性は高い。生徒会室にいれば合流できるだろう。
そうでなければ自分達の存在を知られているかどうかで情報的アドバンテージが取れる。相手が危険な者だった時、この差は大きい。

「そう。人間の想像力で考えられるくらいの想定はしてるみたいだけど。
 一つ警告しておいてあげるわ。私のいた世界ってね、これくらいの建物なら本気を出せば一撃で吹き飛ばせるような力を持ったやつが結構いた場所なの」
「え、何それ怖い」
「だから最悪、私達がこの建物内にいるってバレた時点で危ない可能性もあるってことよ。
 もしかしたら次の瞬間には建物ごと消し飛んでるかもしれないわね」

絶句して額から冷や汗をかいている白銀。
その顔にからかうように口元で笑みを浮かべながらもメルトリリスは言葉を続ける。

「とはいえ、危機管理能力があるところは褒めてあげる。
 実際にはそんな建物を壊すような攻撃をするよりも明かりがついた部屋に爆弾でも投げ込んだ方がコストはいいし。
 そんなものが飛んできそうになったらまず私が気付くし」

常識を砕かれた上に自分の行動が無意味である可能性を投げつけられ凹みかけている白銀に飴と鞭のように評価の言葉を投げるメルトリリス。

ともあれやがて立ち直った白銀は、バッグの中から地図を取り出した。

「現在地はここ、地図でいうとE-5の辺りか…。
 もし二人が来るとしたらこの場所で待っていた方がいいんだろうが…」 

他に四ノ宮と石上の二人が向かいそうな場所は地図上では心当たりがない。

しかし二人の位置が分からないことにはなんとも言えない。
例えば北東の灯台などが開始位置だった場合、ここに来るまでには非常に時間がかかる。

四ノ宮ならどうするか。それを思考しようとしてもいくつもの要素が出てきてまとまらない。
もしも誰かに襲われていたら。
もしも何者かに囚われて別の場所に連れて行かれたら。

そんな想像が過ぎればどこに向かうかなど絞ることはできない。


454 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:15:14 UU8greMw0

バシャリ、と頭にペットボトルの水がかけられた。

「冷たっ!」
「何一人で考え込んでいるのよ。あなたは私の小間使いって言ったでしょう。
 ならこっちの都合をまず考慮して考えなさい」
「あ、ああ。そうだな。すまない。
 そういえばそっちのことを聞いていなかったな。お前の知り合いはいないのか?」

メルトリリス側の都合を無視して思考していたことに気付いた白銀は、名簿をメルトリリスの方に寄せる。
まだ見ていなかったのだろう。上から順にさっと目を通していく。
ある一点で、一瞬彼女の目の色が変わったように見えた。

「私の知り合いはいないわ。
 だけど私と同じ世界……場所から連れてこられたんじゃないかって名前は分かるわ」

と、示した名前は藤丸立香から自身の名前、メルトリリスまでの間。

「なるほど、藤丸立香、マシュ・キリエライト、宮本武蔵、源頼光、酒呑童子、清姫、エドモン・ダンテス、フローレンス・ナイチンゲールか。
 ………なあ、一ついいか」

最初の二つ以外の名前。
学生の身分である自分の知識でも知っているような名が幾つもあり、いずれも歴史上の有名人か物語の中の人物のものだ。

というかよく見たら下の方にも沖田総司なんて名前やもう一つ宮本武蔵の名前などがある。

「下の方は知らないわ。たぶん私達とは別の存在なんじゃないかしら。
 こっちの方は例えるなら、過去の英雄を模して作り出したアバターみたいなものって認識しておけばいい。
 ただし誰がどんなやつかまでは知らない。最悪全員殺し合わないといけないような相手かもしれないってことは考えておいた方がいいわ」
「なるほどな。じゃあ」
「マシュ・キリエライトも知らない。ただ間に挟まれているから同じ世界じゃないかって思っただけ。
 藤丸立香は、名前だけは知ってる。それだけよ」

こっちが問うより速く答えたメルトリリス。
なるほど、と納得しながらそれ以上追求はしなかった。

メルトリリスの口から小さく、「彼がここにいるはずがないもの」という呟きが漏れたのを耳にしてしまったから。




立香と三玖の二人がその二人に出会ったのは、学園の明かりが視界に入るようになった頃だった。
入り口を探してぐるぐる回っていた時に、山の方向から降りてきた二人の中学生男子と遭遇した。

「あんたも参加者だな!」
「うん、…ちょっと声が響くね。少しボリューム下げてもらっていいかな」
「ああ悪い。俺は若殿ミクニ」
「俺は猛田トシオだ」

軽く名前を言い合った4人。
ふとミクニが問いかけた。

「ところで、二人は学生なのかな。何か制服を着てるみたいだけど」
「ああ、三玖さんは高校生だね。私は…うーん、学校に通ってたら高校生かなぁ…」
「へぇー、じゃあ俺達より年上か。それにしても、二人とも美人ですなぁ」
「おいトシオ、今は大概にしておけ」
「あはは、お世辞が上手だね。ちょっと中に入ってから話さない?」

と、学校の中に入っていく4人。
もし校内が暗いままだったら抵抗がある人もいたかもしれないが、幸いポツポツと明かりがついており、暗さはあまり感じなかった。

ある程度広さのある教室を探して歩いていく。
ふと、トシオが呟いた。

「夜の学校か。そういえば昔学校の七不思議なんてものもあったよねぇ。
 夜の廊下を歩くと向こう側から下半身だけの女が歩いてくる、なんてのとか」
「それは聞いたことなかったなぁ。せいぜいトイレの花子さんとか、それくらいだったし」


455 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:15:57 UU8greMw0

空気を和らげようとしているのか怪談を振るトシオの話を笑って流す立香。
三玖も特に気にしている様子はない。

「じゃあもしおばけよりもっと怖いものがいたらどうするのかしら?」
「はは、そんなものがいたなら俺がお二人のことを守って―――?!」

ふと振り返る4人。
聞こえてきた声は、立香、三玖、ミクニ、トシオの誰のものでもなかった。

しかし後ろには誰もおらず。
聞き間違いかと思いながら振り向き直したところに。

「あらあら、勇ましいナイトがいるようね。だけどどうしてかしら。あなた、今一番逃げ出したいって顔をしてるわよ?」

上半身をコートのような服に包んで、下半身には下着ほどしか隠していない格好の女がいた。

露出狂。

ある意味では、幽霊よりも怖いものを見たような顔をする3人。

「それに外に居た時から思ってたけど、声が大きすぎるのよ。不用心すぎないかしら」


しかし一人、その顔を見て抱きつかんと飛びかかった者がいた。

「?!ちょっと、あんた何のつもり―――」
「よかった、無事だったんだねメルトリリス!」
「は、何で私の名前を」
「何でって、私だよ、カルデアのマスターの」

「藤丸立香だよ!!」

「―――は?」





(……何があったメルトリリス)

生徒会室、会長席に座る白銀の隣で得も言われぬオーラを放っているメルトリリス。




「俺は若殿ミクニ。こっちは俺と同じ学校の猛田トシオだ」
「藤丸立香です」
「中野三玖」
「白銀御行だ」

面子が増えたこともあって改めての各々の軽い自己紹介が終わり、流れるように互いの持つ情報交換に移行、

「さて、皆の知っていることを話してほしいんだが――」
「その前にちょっと待って!」

と、立ち上がったのは立香だった。
きっとメルトリリスの件を話す気なのだろう。
個人的な要件になりそうなら後回しにもしたかったが、このオーラを放つメルトリリスに当てられ続けるよりはマシかと彼女の話を許可した。


「メルトリリス、本当に私のこと知らないの?」
「しつこいわね。知らないって言ってるでしょ」
「藤丸立香。そういえば名前だけ知ってるって言っていたな。メルトリリス」
「ちょっとあんた黙ってて」


456 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:16:51 UU8greMw0
今度は逆にメルトリリスが問いかけた。

「それより、私のことを知っていた件だけど。
 私があなたのカルデアにいるっていうのは本当なのかしら」
「うん。私の召喚に応じてくれて、特異点の修復とかにも力を貸してくれてたんだよ」
「………そう」

少し思案するように視線を下げたメルトリリス。
やがて周囲に撒いていたオーラが和らいでいくのを、隣の白銀は感じ取った。

「私は”藤丸立香”のことは知っている。だけどそれはあなたのことじゃないわ。
 同時にあなたのそのカルデアに行ったことはないし、あなたの知るメルトリリスでもない」
「そっか…」

少しがっかりしたように呟いてそれ以上話を続けることはなかった。

立香にしてみれば珍しいことではない。
特異点や異聞帯にはその土地に召喚されたり魔神柱や聖杯、クリプターに力を貸して敵対したサーヴァントもいた。

つまりメルトリリスも、自分のいるカルデアとは別の形で召喚されたものだということなのだろう。
平行世界のカルデアのマスターの存在はある時アメリカにレイシフトした時の戦いで見ている。そこまで驚きはなかった。

まだ引っ掛かるものはないわけではないが一旦の納得をした立香は話の進行を促した。



「ラブデスター?」
「ああ、俺たちの中学生が巻き込まれていたデスゲームだ」

続いてミクニとトシオの番となった時に他の一同にとっても驚く情報が飛び出した。

曰く、ファウストという宇宙人が仕組んだ人の真実の愛を確かめるゲームであり。
二人はそのゲームを行っている途中で連れてこられたのだということ。
正確にはトシオはゲームに失敗して死んだということらしいが。

「奴らの中にも派閥があるのか、別の、敬王って学校でやってるラブデスターに巻き込まれたことがあったが、その時はファウストの手も借りて脱出したんだが。
 ただこの場所に来てからはファウストからの連絡はないんだ。外からの救援は難しいのかもしれない」

白銀と三玖はにわかには信じがたい事実に困惑し。
一方で立香は真剣に話を聞き、メルトリリスも聞き耳だけは立てていた。

「あのBBという女はファウストの仲間って可能性は」
「それはないと思う……んだけどどうだろう…?
 BB、確かに夏に邪神と目を合わせてハワイに異界生み出したりとかしてたし…。
 そういうのに影響されて…ってのも否定できないしなぁ…」
「あの女一体何やってるのよ」

思わずぼやいてしまったメルトリリス。

「まあいい。それで、君たちはそのデスゲームの中にいたと」
「ああ、俺は告白以外の道でそんなふざけたゲームからの帰り方を探していた」
「で、俺もそんなこいつに力を貸して「で、こいつはそんな中でファウストから与えられた道具を使って好き勝手していたんだ」

それまでゲーム自体の説明であったことで口を噤んでいたトシオが自分のことを説明する段階になったと見て口を開こうとし。
そこに割り込んで、ミクニがトシオのことを話した。

生徒を騙して操ったり、女子生徒を自殺に追い込んだり。
自分達のいる生徒会を乗っ取って独裁者になろうとしたり。

彼のしたことを、知っている限りで全て。


457 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:17:35 UU8greMw0
ミクニとしては彼の所業を隠させるつもりはなかった。
元々生きているならば償いはさせる気だったのだ。
これで彼に対し疑いを持つものも増えるだろうが、やむを得ないことだと思っていた。

当然、場にはトシオに対する強い警戒と不信感が流れる。

「最低」

三玖は彼に対し拒絶の意志を示すように短く呟く。

「…若殿君、君はどうしてそんなやつと一緒にいられるんだ?
 彼はまた君を裏切り利用するとは思わなかったのか?」

白銀も三玖ほどではないが、トシオに対して警戒心を発している。
だがそれと同時に、そんな男と共にいるミクニもまた奇妙な存在に思えた。

「こいつは確かに間違いを犯した、だけどそれはラブデスターなんて腐ったゲームのせいだ。
 狂った場所にいたせいでおかしくなっただけなんだ。
 それに、俺は同じ学校のやつみんなを仲間だと思ってる。それにはこいつも含まれているんだ。だから――」
「話にならないわね」

一瞬だった。
白銀の隣にいたメルトリリスが、ミクニの隣にいたトシオの前まで迫ったのは。

「待て!」「止めて!」

行動を察した白銀と立香の声が響く。

メルトリリスの体は、その鋭い足先をトシオの眼前に突きつけて止まっていた。

「ひ…」

目前に迫った死の気配に、思わず腰を抜かしそうになるトシオ。

「おっと動かない方がいいわよ。ちょっとでも動いたら、気まぐれで止めてる足がズレてあなたを貫くかもしれないわ」
「おい止めろ!あんた、このゲームに反対してるんじゃないのかよ!?」
「ええ、確かに私はBBの言葉に乗せられて動く気はないわ。
 だけどね、私は元々人間が嫌いなの。それがほんの気まぐれで殺すのを待ってあげてるだけ。
 何で人間が嫌いか、分かるかしら?単純な話。醜いからよ」

メルトリリスの表情には笑みも怒りも蔑みも見ることができない。
やろうと思えば、虫を殺すようにこの棘を前に押し出すだろう。

立ち上がった白銀も、そのメルトリリスの様子に身動きが取れないでいた。

「ゲームのせいで狂った?違うわよ、この男は元々そういうふうに他人を利用するようなやつだったってこと。
 それが命がかけられたゲームの中で表出してきただけ」
「…っ、あんたにこいつの何が分かるんだよ?!」
「こいつのことは知らないわ。私に言えるのは唯一つ。こいつを生かしておいたら、きっといつか私にも、あんた達にも傷をつけるでしょうね。
 ならそうなる前に終わらせて上げたほうが綺麗だと思わないかしら?」

殺気が一気に膨れ上がったのを部屋にいた皆が感じ取った。

「止めろぉ!」

抑え込もうと飛びかかったミクニの体を払い飛ばすメルトリリス。
体が飛ばされ、生徒会室の壁に叩きつけられる。

態勢を立て直して舞うようにその足をトシオの体へと迫らせた。

「メルトリリス!!」


458 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:19:55 UU8greMw0
叫ぶ白銀の声。
直後に広がるだろう光景を想像し目を閉じる三玖。

その足がトシオを貫かんと迫って。

「―――!」

トシオと自分の間に割り込んだ立香の姿を見て、再度止まることになる

足は立香の目の数センチ先で止まっている。先程のトシオ以上に、少しでも動けば立香が串刺しとなるだろう。
だが、立香はそんなメルトリリスの殺気を強い視線で受け止めている。

「どきなさい」
「ダメ」

メルトリリスの言葉にも立香は動かない。

「言ったでしょう。そういう男は生きていてもどうにもならない。
 後顧の憂いはここで断っておくべきでしょ」
「確かにこの人は許されないことをしたのかもしれないし、人間として最低なのかもしれない。
 だけどね、メルトリリス。いくら最低で、悪い人だったとしても」

「死んでいい人なんて、いないんだよ」

そう言って立香は、悲しそうな表情を浮かべて微笑む。

「――――――」

その瞳を見て。
メルトリリスの瞳が揺れた。


数秒の沈黙の後、メルトリリスは足を下げた。

「そこの人間、彼女に感謝することね」
「ひ、は、はい!」

泡を吹きながら気絶しかけていたところで意識を取り戻したトシオは、そう慌てて返事をした。



同じ名前をした、見知らぬ存在。

別の自分と契約した、カルデアのマスター。

あの時、ただ消え去るだけだった自分を助けた存在。
きっと彼は、それが”私”じゃなくても、どんな人でも助けたのだろう。

全くの別人で、決して自分の知る”彼”ではないけど。

彼女は間違いなく、”彼”と同じ形の魂を持っていた。





459 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:20:26 UU8greMw0
その後、メルトリリスは風に当たると言って外に出ていき。

情報交換と互いの支給品の整理をしている状態だった。


そんな中で、話についていけずハブられている気がした三玖は一人ため息をついていた。

(…私、何をやってるんだろう)

探したい人がいるのに主張することもできず。
流されるままに立香についてきて、この場所でも何もできていない。

若殿ミクニや猛田トシオのようなデスゲームの経験もなければ。
白銀御行のように人を纏め、仕切るようなこともできない。
立香のような強い心も持っていない。


いっそ居なくなってしまっても気付かれないのかもしれない。

(フータローは、みんなはどう思うんだろう…)

みんな、きっと自分がいなくなれば悲しむだろう。

だけどフータローは他の姉妹が居なくなった時も、きっと同じ反応を返すだけなのだろう。
それがどうしても嫌だった。

もし期末試験で一花に勝って告白していれば、そうはならなかったかもしれないのに。


ソファの上で、体育座りになって膝を抱え込み頭を埋める三玖。
思考だけが回り、周囲の音も聞こえなくなってくる。


不意に、頬に冷たいものが触れた。

「ひゃあっ」
「気が付いたか。いや、名前を読んでも気が付かれなかったみたいだったからな」

ふと見上げると、クマのついた鋭い目つきが見えた。
差し出された手元には抹茶ソーダの缶があった。

「白銀さん…」
「えーと、中野さんだったか」
「三玖でいいです。中野だとみんなと被りますから…」
「分かった、じゃあ三玖さん。
 いや、用ってわけじゃないんだが、どうもずっと塞ぎ込んでいるみたいだったから気になってな。
 あ、この飲み物どうだ?あまり口に合わなかったからみんなに分けてたんだが、受け取りを拒否されてるところなんだが」
「………もらう」

抹茶ソーダの缶を受け取りながら、

元々社交的な質ではなかった三玖だが、今はどうしてもこのもやもやした気持ちをどこかに吐露したかった。
あったばかりの知らない人なら、少しくらいはいいのかなと、心中にあったものを吐き出した。

「なんだかここにいるみんな、すごいなって思っちゃって。
 私が持ってないものをいっぱい持ってるような気がして。でも私には何もなくて。
 なんの取り柄も、みんなの役に立つような経験もない私なんて、いなくてもいいんじゃないかって」
「ふむ、なるほどな」

自分にとっては目の前の人も強く見えた。
情報交換をする中で皆を仕切っていたし、あの気難しそうな変な格好の女の子、メルトリリスも彼が協力を取り付けたのだという。

「まあ、俺にとっても色々めちゃくちゃだよ。ただの、ちょっと偏差値が高い学校の生徒会長でしかなかったのに、いきなり殺し合いだのデスゲームだの言われて」

「今の状況が、怖くはないの?」
「当然、怖いさ。ここには怪獣みたいなやつがうようよいるかもしれないって、メルトリリスは言うしな。
 だけど」

と、白銀は空を見上げて呟く。

「藤原書記を、仲間を殺されてるからな」
「えっ」
「最初に首を飛ばされた女の子がいただろう。彼女はうちの生徒会のメンバーだったんだ」


460 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:20:40 UU8greMw0

思い出すのは、最初に首を飛ばされた女の子。
突然のことに動揺したまま、わけも分からぬ様子のまま殺された子。

その告白に思わず言葉を失ってしまう三玖。

「だからどんな現実でも受け入れなきゃいけないし、逃げられない。
 それに、四ノ宮…うちの生徒会副会長の方が付き合いは長かったんだ、きっとあいつの方が辛いに決まってる。
 俺が弱音なんて吐いてる暇は、ないからな」

そうどこか遠くを見ているように語る白銀。
その姿は、さっきまで見ていた纏め役として頼もしくも見えた背よりも、だいぶ小さく見えた。

そしてもう一つ。
四ノ宮。四ノ宮かぐや。女の子の名前だ。

「好きな子なの?」
「…………、まあ、言ってしまってもいいか。
 そうだな。俺は四ノ宮のことが好きだ。だがまだ告白を済ませていない」
「そうなの」

何だか三玖はシンパシーを感じていた。

「私も好きな人がいるんだけど、勇気が出なくて好きって言えてなくて」
「そうか、はは、一緒だな。
 そうだな、なら一つアドバイスだ。昔俺が自分に自信が持てなくて卑屈な態度を取ってた時に、言われたことがあったんだ。
 『虚勢の一つも張れねえのか』なんて」
「…虚勢?」
「まああれだ。とにかく、もっと元気を出せって、そう言いたかっただけだ」
「ふふっ」

漏れた笑いは、たぶん愛想笑いだったんだと思う。
だけど、笑みをこぼすことができるくらいは安定したんだと。

「ううん、ちょっとは安心できた。
 ずっと、私も自分の常識が分からなくなってたくらいだったから、私だけがおかしいのかってなってたみたいで」
「それはよかった。お互い、頑張ろうじゃないか」

心の重しが取れ軽くなった三玖の口からは笑みがこぼれた。
釣られるように、白銀も笑った。

(そうだ、やっぱり私は)

その心中で、一つの思いが生まれる。

(またこんなふうに、フータローと笑いたい)




「なあ、メルトリリス」
「何よ」
「良かったのか?
 あの藤丸立香って子と一緒にいなくて」
「あの子なら大丈夫よ。一応自分でもどうにかできる力があるって言ってたでしょ」


白銀とメルトリリスは学園を出発し、赤いバイクに乗って移動していた。
もちろんバイクの免許など持たない白銀には運転はできず、乗れると自己申告したメルトリリスが動かしているのだが。
なおその手はコートの裾に隠れたままだし足もあの棘がついたままと、安全に運転できるような格好ではなさそうなのだが、不思議とうまく動いている様子だ。

ちなみにこのバイク、ジャングレイダーは元々白銀の支給品であった。
それをメルトリリスに謙譲する代わりにその後ろに乗せて移動に同行させてもらうという、等価交換になっているのかどうか分からない取引をさせられたわけだが。

あの後メルトリリスは出かけ際に、選別だと言って立香に白い箱のようなものを投げ渡して出ていった。
気にかけていたのは何となく分かるのだが、どうして一緒にいないのだろうか。


(そういえば、さっきメルトリリスが呟いた時は――)

藤丸立香のことを、彼、と言っていた気がした。

あまりにも事情が複雑そうであり、それ以上首を突っ込むのは彼女の機嫌を損ねてしまう可能性がある。
無闇に触れるのは避けておいた方がいいかもしれない。

気を見るか、彼女自身が話すまでは。



「今は私自身の目的がないもの。だからあなたのやりたいことに付き合ってあげてもいいわ。
 早く行き先を言いなさい」
「ああ、それじゃあ―――」


461 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:21:02 UU8greMw0



私の知る彼に、とても似ているあなた。
きっとあの人もまた別の私と違う道を共に歩んで、成し遂げた末にあの人のところに羽ばたいていったのでしょう。

だからこそ、私が彼女の隣に立つべきではない。
私は彼女のアルターエゴ(別の自分)で、彼女は彼のアルターエゴ(別の自分)。
そんな関係は嫌だったから。

成し遂げた彼女の隣にいるべきは、まだ飛び立っていない私ではないのだから。

だから、さようなら。
”私”が出逢わなかったあなた。

それでも、もしも。
こんな翼でもいつか必要になる時が来るなら。
きっと飛んでいくでしょうから。


【E-5/1日目・深夜】

【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済み)、抹茶ソーダ(残り4本)@五等分の花嫁
[思考・状況]
基本方針:まだ何も、捨ててしまえる事なんてできない
1:かぐや達との合流。
2:メルトリリスに同行。交渉を担当して衝突を避ける。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。

【メルトリリス@Fate/Grand Order】
[状態]:損傷(両手)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済み)、ジャングレイダー@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:繋いだ心は、今も離れない
1:とりあえずしばらく白銀御行の方針に従う。
2:白銀御行に同行。邪魔をしなければ知り合いも助けてやってもいい。
3:この殺し合いにいる藤丸立香とは共には行けない。だけど再び道が交わることがあれば力を貸すくらいはいい。
[備考]
※『深海電脳楽土 SE.RA.PH』のメルトリリスです。
※損傷は修復されてますが完全ではありません。休み無く戦い続ければ破損していくでしょう。
※出逢っているのは『男の藤丸立香』です。
※『女の藤丸立香』については、彼とは別の存在であると認識していますが、同時にその魂の形がよく似ているとも感じています。


※二人の進行方向は次の書き手にお任せします。
※藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオと情報交換をしました。




二人の出発に合わせて、残った4人も学園を出ることとなった。

メルトリリスと同行できなかったことには立香は残念がっていたが、無理を言っても仕方ないと諦め他の3人の保護を立香は請け負うこととなった。

行く先については、三玖の「PENTAGONに向かいたい。そこに自分の知り合いが集まる可能性がある」という意見を飲み東へと足を進める。


462 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:21:30 UU8greMw0
そんな中で一人。

(クソッ、あの変態女…、あいつのせいでせっかく生き返ったのに寿命が縮んだと思ったぜ…!)

心中で愚痴をこぼしているのはトシオだった。

(ミクニ、こいつもこいつだ…、一から全部ペラペラ喋りやがって、もう少し言葉を選びやがれ…!)

メルトリリスとミクニに対し、逆恨み混じりに恨み言を述べ続ける。
当然、それを表情に出すことはしないが。


(だが、一応は仲間を得られたんだ、今はこいつらの信用を得るところから開始だ…)

トシオの思っているように、同行者の中でも三玖の距離が遠い。やはり警戒されてしまっている。
しばらくはどうにか会心したと思わせるようにして、最終的に利用しやすい状況を作り出すようにしなければならない。

と、ふと視線が前を歩く藤丸立香へと向かう。

(こいつは、あの三玖って女と比べたら特に警戒しているようには見えないな)

警戒心がにじみ出ている三玖に対して、彼女はあくまでも自然にこっちに接しているように見える。

(そういや、こいつ何で俺をあの時助けたんだ?もしかしたら自分が死ぬかもしれないって状況だったのに)

近付きすぎた死の恐怖に意識が飛びかけていたトシオは、あの時の記憶があやふやだった。
だからメルトリリスと立香の会話を覚えていない。

ただ、彼女が自分の前に出て助けてくれたことだけは覚えていた。


猛田トシオ。
彼がいたデスゲームは元々男女間の愛を見ることを目的として行われていたもの。
彼自身のゲームの進め方はお世辞にも賢いとは言えず、むしろ愛とは言えない行動に走っていたのも事実だが。
ただそれでも、死の直前までいたゲームの感覚はトシオの中からも完全に抜けきっているわけではなかった。

(はっ―――、もしかして)

まあ、要するに何が言いたいのかと言うと。

(この女、俺に気がある―――?!)

猛田トシオは、ここにきて盛大な勘違いを始めた。


【E-5/1日目・深夜】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。

【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的疲労
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:フータローとまた笑いあいたい
1:PENTAGONを目指す
2:フータローや他の姉妹を探す
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。


【若殿ミクニ@ラブデスター】
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:バトルロワイアルからの脱出
1.皆を探す
[備考]
※敬王から帰還以降からの参戦。詳しい時期は後続の書き手にお任せします



【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる
1.若殿ミクニ達他のやつらを利用する
2.まずは信用されるように動き、利用しやすくなるように動く
3.藤丸立香は俺に気がある?
[備考]
※死後からの参戦



※白銀御行、メルトリリスと情報交換をしました。


463 : センチメンタルクライシス ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:21:42 UU8greMw0
【ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎】
鏡にかざすことで仮面ライダーファムに変身することができる


【ジャングレイダー@仮面ライダーアマゾンズ】
水澤悠(アマゾンオメガ)の所有するバイク。

【抹茶ソーダ@五等分の花嫁】
6本セット、炭酸が抜けないように保冷されている。


464 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/13(月) 22:21:57 UU8greMw0
投下終了です


465 : ◆dxxIOVQOvU :2019/05/14(火) 08:53:05 VJftpfmg0
立花ちゃん、美人だからこんな感じで勘違い男を量産してたと考えると味わい深い


466 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/14(火) 19:51:13 e.Vsks360
>>451
念の為 四宮かぐやを追加予約します


467 : ◆Plv593M0e2 :2019/05/14(火) 22:22:15 9RB.4zoE0
藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオを予約します


468 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/14(火) 22:25:55 fnAXziXY0
投下します


469 : Kでつながる僕ときみ ◆2lsK9hNTNE :2019/05/14(火) 22:28:29 fnAXziXY0
 白く細い糸が闇夜の中に刻まれる。建物と岩礁の間、岩礁と岸の間、糸と糸の間。
 海上に引かれた無数の糸の上を鬼が走り、飛ぶ。瞬く間に海を超え陸地へと到達し、片腕に持っていた人間を投げ落とした。

「着いたよ」

 クロオはその声を芝生の上に転がりながら聞いた。
 本島に行こう。そう提案したのはクロオだ。クロオと累の目的は人探しだ。無名街とかいう寂れた街しかない小島にいたって誰もやって来ない。移動するのは当然の選択だった。
 予想外だったのは移動の仕方だ。「どっちの橋を渡る?」と尋ねるクロオに累は「必要ない」と答えた。襟を掴んでクロオを持ち上げると、そのまま本当に橋を渡らずに強引に海を超えてしまった。
 
(まさか鬼の力とやらがこれほどとはね)

 身体中の痛みに耐えながら上半身を起こす。
 鬼。”あの方”とやらによって作り変えられた、人を喰らい、陽の光を避け、闇に棲む生き物。説明は受けていたがここまで人間離れしているとは。

「参加者の中にあの方もいた。お前は僕の家族だ。僕の家族なら僕と同じようにあの方に鬼にしてもらえ」

 彼はそうも言っていた。鬼になることに特に抵抗はない。
 人食いを忌避するようなまともな倫理観は持ち合わせていないし、せっかくの二度目の生を得たのだから別の生物になってみるのも悪くない。
 してもらう、ではなく、してもらえ、という言い方には、『鬼にしてもらえるかどうかはあの方しだい』、というニュアンスは感じたが。
 とにかく、あの方と、それから”家族“、この二つを探すためにクロオと累は本島にやってきたわけだ。が、

「ねえ、行動に移る前にまずは食事にしないかい?」

 早々と行こうとする累をクロオは呼び止めた。先程投げられた時に足を痛めたようなのだ。重症ではないが、少し休む時間が欲しい。
 食事をしたいというのも本心だ。実のところクロオはさっきからずっと腹が減っていた。何せ一度死んで生き返った身だ。腹の中も空っぽになっているのだろう。
 振り向いた累の顔には怒りが浮かんでいたが、何かしてくる前にクロオは重ねて言った。

「一緒に食事を取るのは”家族”の絆を深めるためにも大事なことだと思うよ?」
「……わかった。食事にしよう」

 そう言ってクロオの前に腰を下ろした。
 月明かりを頼りにリュックから食料を取り出す。主催者が用意した食料、何の変哲もない食パンだ。一口齧るが、パサパサとして、味も上手くない。
 大勢の参加者の最後の食事になるかもしれない物としては、お粗末も良いところだった。
 一方、対面に座る弟が取り出したのはパンではなく肉だった。人肉なのだろうが、一見しただけでは牛や豚の肉と区別はつかなかった。
 人間なら一旦切り分けるサイズだが、累は歯でガジガジと噛んで口に入れていく。
 
「人の肉って美味しいのかい?」

 なんとなく尋ねると、よほど意外な質問だったようで累は目を丸くしたが、すぐにいつもと虚無と苛立ちの宿った目に戻った。

「味なんて気にしたことはない。人間なんて食えればそれでいい」
「そうかな、食事の美味しさは生きる上で大事な潤いの一つだと思うけれど」
「違う。食事は単なる栄養を取るための手段だ。味なんて気にする必要はない。弟の僕がそう言ってるんだ。お前もそう思え」
「わかった。そう思うことにするよ」

 どうやら食べ物の話はお気に召さないらしい。
 まずは当たり障りのない会話から少し内面を探っていくつもりだったが、これでは埒が明かなそうだ。別のやり方にしよう。

「ねえ、僕たちもっとお互いのことを知るべきだと思わないかい?」

 また糸が飛んだ。クロオの身体に傷が増える。


470 : Kでつながる僕ときみ ◆2lsK9hNTNE :2019/05/14(火) 22:29:15 fnAXziXY0
「僕たちは兄弟だ。互いのことは何でも知っている。新たに知らなきゃいけないことなんて何もない」
「そんなことはないさ。後から生まれる弟と違って、兄には弟がいない年月がある。僕は可愛い弟に君と出逢う前の話をしてあげたいんだよ」
「……」

 その言い分には理があると思ったのか、累は沈黙した。クロオをそれを了承と受け取った。

「実は僕は昔、僕らの両親とは別の人に育てられていたことがあってね……」

 それはクロオの本物の母親と本物ではない父親の話だ。
 それは現在のクロオを形作る根幹のひとつであり、以前はこんなに簡単には人に話せなかった。
 だが一度死ぬことで吹っ切れたのか、あるいは死ぬ前に起こった出来事で吹っ切れたのか。不思議と言葉は軽かった。
 累の”家族”へのこだわりから本物の家族と何かあったことは間違いない。
 彼の方が何も語らずとも、こちらが家族の話を語ればその反応で彼の内面を探れるだろう。
 累は黙って話を聞いているが、心がざわついているのをクロオは感じた。
 特にざわつきが大きくなったのは、クロオが父親に耳を切られて殺した話。
 同情、共感、あるいは労りだろうか。ほんのわずかにだがこちらに理解を示すような感情が覗いていた。彼が”家族”にこだわる理由がおおよそ察しがついた。





 話が終わると、累は「そろそろ行くよ」とだけ言って、立ち上がった。
 足は十分に回復している。クロオも立ち上がって言う。

「当面の目的は”家族”とあの方を探すことでいいんだよね」
「そうだ」
「探すあては何かあるの?」
「無い。お前も方法を考えろ」
「わかった」

 といってもあの方については何の情報も貰っていないので、考えられるのは家族の方だけだが。
 手当たり次第に会った参加者を家族にしていくという手もあるが、それでは無策と同じだ。
 クロオはいちど目を通して覚えた参加者名簿の内容を頭に浮かべた。この中で良き家族になりそうな者。
 浮かんだのは愛月しのの顔だった。
 愛月しのはクロオと同じラブデスター実験の被験者だ。クロオは彼女のに対して好意を持っている演技をして接していた。
 あくまでも演技だ。耳の形は好みだったが(クロオは耳フェチだ)、それ以上の特別な感情は持っていない。近づいたのも彼女の幼馴染の若殿ミクニと皇城ジウを揺さぶるためだ。
 だが彼女は、嘘を見破ったわけでもないのに、クロオの語る愛の言葉が心からのものではないと見抜いた。
 それどころか、あの時点ではクロオ自身すら気づいていなかったクロオの本当の想いさえ指摘して見せた。
 彼女は聡く、そして強い。クロオが思っているよりも。そして彼女の幼馴染の二人が思っているよりも。
 彼女が”家族”になったならきっと、子供や兄弟を思いやる良き母か姉になるだろう。

(……無意味な仮定だな)

 彼女が家族になったら? 自分の妄想のありえなさに笑ってしまう。
 彼女のような暖かな日の当たる世界を生きる人間は”家族”になどならない。愛してくれる家族がすでにいるのだから。
 ”家族”を求めるのは家族の愛を知らない者だけだ。知らない者だけが愛を求めて身を寄せ合う。
 だが愛の記憶を持たない者がいくら集まったところでそこに愛は生まれない。なぜなら誰も愛がわからないのだから。
 もしくは単に暴力に屈して”家族”になる者も場合もあるが――どのみち真実の愛で結ばれた”家族”とは程遠い。でも……


471 : Kでつながる僕ときみ ◆2lsK9hNTNE :2019/05/14(火) 22:30:38 fnAXziXY0
『好きよ。クロウ』
 
 あの時クロオの中に確かにあった感情。
 家族が愛された記憶がなくても。
 側に愛してくれる人がいなくても。
 一度でも誰かに愛されたという記憶があるのなら、他の誰かに愛を注ぐこともできるのではないだろうか。

(ミクニくん、君は今どうしているのだろう)

 家族に愛されずとも親友と共に生きようとした彼は、その親友に殺されてクロオのように生き返った彼は。
 今も愛を信じているのだろうか。


【F-3・岸辺/1日目・深夜】

【累@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉と無惨様を探す
2:家族にならなそうな人間は殺害
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉とあの方を探す
2:ミクニに会いたい
[備考]
※参戦時期は死亡後


472 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/14(火) 22:30:59 fnAXziXY0
投下終了です


473 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/14(火) 23:35:09 KjgOwi8o0
村山良樹、マシュ・キリエライト予約します


474 : ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:38:53 QSE0.igQ0
投下お疲れ様です!
前話に引き続き無事に累の兄をやっているクロオくん流石。
しのが母や姉であれば良い家族になるだろう、と思いながらも、無意味な仮定だという妄想が本当にもう実現不可能な妄想なのは少し寂しい。
遠因としては縛りのせいで累くんも名前を呼べないあの方のせいなのがなおのこと。
果たして彼らは真実の愛で繋がった家族を見つけられるのか。黒縄地獄さんとかと会ったらどうなるんでしょうねほんと。

では私も>>416の予約分を投下します!


475 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:39:30 QSE0.igQ0






 ――――おかあさん。
 ――――どうして、いなくなっちゃったの?






 ……おなかが、すいた。






 変わった夢を見ていました。

 ……基本的に悪趣味なのは、多分、一花の出演している映画を見た影響からだと思います。
 怖いものは嫌いなのに、家族の晴れ姿だからって、ホラー映画を頑張って見たのが、きっと思った以上のストレスだったんでしょう。
 生まれてからずっと目にしてきた同じ顔、同じ姿形の姉妹が、非現実的なシチュエーションにいる光景で、認識が惑わされてしまうぐらいに。

 突然、知らないところに放り出されて。かと思うと、目に映る景色が変わって、見たこともない女の子から、悪魔みたいな陽気さでコロシアイを命じられて。
 目の前で人を殺した首輪を取り付けられて、そして、初対面の男の子から結婚を申し込まれました。

 ……はい、突拍子もありません。でも仕方ないじゃないですか、夢なんですから。
 でも、そんなに都合の良い夢じゃありません! 本当です! 別に、知り合いに似ているとか、相手が格好良いとか全然なくて……それにとても情けなく、勝手なことを言っていて。
 ……夢の中では、はっきり夢だとわからなかったんです。だから、私の初めてのプロポーズがこんなのって、嫌で嫌で。
 それで私も言い返していたら、また知らない無愛想な男の子が出てきて、ちょっと乱暴にですけど情けない金髪の子を落ち着かせて、可愛いおまんじゅうも分けてくれて。

 そしたら、綺麗な女の人に襲われて。それからはもう、映画みたいな大騒ぎで。私、全然ついていけませんでした。
 なんだか気持ち悪い怪物まで出てきて、千翼君――えっと、無愛想な方の男の子がお父さんって呼んだら、その怪物は千翼君を殺しに来たって言って。
 途中から、大きな音と一緒にいよいよ何も見えなくなって。
 なのに、耳は聞こえたんですよ。情けなかった方の男の子、善逸君が急に凛々しくなったかと思うと、千翼君が人間じゃないのは知ってたとか、私達を食べたいのを我慢しているとか……まるで、ゾンビみたいに言ってて。
 そんな、ゾンビみたいな千翼君を守るとか、調子のいいこと言うんです。可哀想なまま死ぬのは嫌だから結婚して、なんて私に言い寄ってきたのに。それで、場面が変わったら今度は……

 ……無茶苦茶な話ですよね。こんな、変な夢を見るなんて――やっぱりわたし、つかれちゃってたのかな。

 あのね。おかあさんがいなかったあいだ、わたし、がんばったんだよ。
 あんまりかしこい子じゃなかったかもしれないけど、みんなのためにおかあさんの代わりになるんだって、いっぱいいっぱいがんばったんだ。

 ……だから、おやすみしててもいいよね?

 また、こわいゆめみちゃいやだから……いつもみたいに……そのままおてて、ぎゅっとしててね。

 あっ、でも、やっぱり…………




 ……おなかが、すいた。

 おにく、たべたいなぁ。





「なんで……」

 遠くで、掠れた声が聞こえた気がした。


476 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:40:45 QSE0.igQ0

 それが己の口から漏れ出ているものだと、千翼は認識できていなかった。
 いつの間にか、五月を背から落としてしまっていたことも。その目から涙が溢れていることも。

「――っ、ヒィイイイイイイイイイイイヤァアアアアア!?」

 頭を打ったことで軽く目を覚ました五月が、この世のものとは思えない甲高い悲鳴を上げて、それから再び昏倒したのも。
 今の彼に、そんなものを気にする余裕は存在しなかったから。

「なんでだよっ……」

 あってはならないものが、彼の瞳に映っていたから。

「イユ……ッ!」

 それは、希望の潰えた痕。

 目に入るヒト、アマゾン、その全てが強烈に食欲を促して来る、気の狂いそうな世界の中で。
 たった一人、食べたいと感じなかった女の子。
 消し去れない本能に触れないからこそ、何より欲しいと望んだ他者。

 その、事切れた残骸。

「なんで……!」

 死の淵からアマゾンとして蘇生され、命令に従うだけの道具のように扱われながら。
 ……あの時一度は笑ってくれた、恋しい彼女。

 イユのためなら。千翼のことををアマゾン扱いし、何度も何度も苦痛を伴う実験を重ねた挙げ句、他のアマゾンと殺し合わせた4Cに戻るのも――奴らに標本として殺されるのだって、受け入れようとできたのに。
 それでも彼女と引き裂かれたくない一心から、遂にはあんなにも忌避した本能まで解き放ってしまったというのに。

 千翼を人間だと思わせてくれた少女は。
 いつか、千翼が寄り添えるかもしれないヒトとして、呪われていた将来への希望そのものだったイユは。

 もはや動く死体ですらなく、元に戻る見込みのない、バラバラの肉片に成り果てて――今度こそこの世を、去った。

 あの日の母と同じように。千翼を、置いて。

「……なんでぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 黎明の夜を震わす咆哮を境に。千翼は、異形と化した。
 細胞の異常な活動で生じた発熱、それによって生まれた蒸気の影から顕れたその蒼い姿は、つい先程善逸と肩を並べて戦ったアマゾンネオの装甲された姿とも違っていた。

 そこにあったのは剥き出しとなった無数の触手、大樹の根のように太く逞しい複腕、筋繊維が膨張した肉体、棘だらけの頭部で怪しく輝く赫い両眼。
 そして、獰猛な牙がずらりと並んだ大きな口腔。

 それこそは、人の業が産み落とした災厄の獣。
 人の手に余る生命の創造、その細胞と人間が掛け合わされた半人半獣の怪物。
 故に、完全にならんとヒトとアマゾンのいずれをも我が身に取り込まんとする暴食の本能に突き動かされ、同時に橋渡しとしてヒトをアマゾンへと創り替えていく最悪の生物的汚染源。

 溶原性細胞のオリジナル、アマゾンネオ素体。

 人類という食物を史上最も愛した生きた災害は、しかしこの瞬間だけは、その食欲さえも忘れていた。


477 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:41:17 QSE0.igQ0

 獣は、ただ慟哭していた。

 悲しみに打ち震え、感情の唸りのまま四方八方に伸びた触手が、未だ目を開けぬ五月を掠めそうになるのも構わず。

 ……いや、もはや、そこに五月が居ることすら、今の千翼には理解できてないのだろう。
 そこに存在するのは、人としての理性を完全に喪った、アマゾンという獣そのものだったのだから。

 失われたものを憐れむのではなく、ただ大切なものを喪った己が悲しいから嘆く、浅ましき獣そのもの。
 腹が減れば喰い、叫びたくなれば吠え、暴れたくなれば壊すだけの存在に過ぎない。

 怪物自身にも制御できずに吹き荒れる嵐へと、理性という枷を掛けられるものがあるとすれば、それは。

「……ッ!」

 不意に怪物が、言葉にならない叫びを止めた。
 癇癪のまま、辺り一面を切り刻もうとしていた触手が一斉に動きを止めると、緩慢に――何かを恐れるように、ゆっくりと本体の方へ戻り始めた。
 同時に再びその体から蒸気が昇り、やがて晴れた時には、怪物の巨体は萎んでいた。

「イユ……ごめん……っ!」

 怯えたような声音で告げ、よろよろと歩を進めながら、最後は距離を測り損ねたようにして千翼は倒れ込んだ。
 その手で挟み込むようにした先には、イユの頭部が転がっていた。

 死者の頬には、先程見た時にはなかった新しい傷が刻まれていた。

「ごめ、ん……っ! 俺、おまえを……っ!」

 制御できなかった暴虐の爪痕に、千翼はヒトの物に戻った目からまたも涙を流していた。
 イユは死んだ。惨たらしく殺された。二度も。
 なのに、今度も穏やかに眠らせてあげられないなんて。

 悔しくて、悲しくて、腹が立って。千翼の頭の中は混沌としていた。
 それでも、少しずつ、少しずつ撹拌されていた感情の泥が沈殿して、頭が冴え渡っていくのに連れて。

 嫌いな音が聞こえていることに、気がついた。

「っ!?」

 ぎょっとしながら、千翼は己の腹を見た。
 ドライバーを介しての変身と、感情の昂ぶりによる暴走とで。アマゾン細胞を著しく活性化させた代償が出た。
 アマゾン細胞が、エネルギー源となるタンパク質の補充を求めていたのだ。

(こんな時でも、腹は減るのか……!)

 イユが死んでも、俺は、まだ生きたいのか――っ!!

 不意に、強烈な憎悪が沸き上がった。同時に、どうしようもないほどの無力感も。
 相反する二つの感情のまま、千翼は自分の腹を殴った。何度も、何度も。
 空っぽの腹から、嘔吐感が込み上げてきても。

 だが、それを吐き出すほどの体力も千翼には残っていなかった。力尽きたように崩折れた千翼の耳に、また腹の鳴る音が聞こえた。

 ……今度は、少し離れたところから。


478 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:42:17 QSE0.igQ0

 ゆっくりと振り返ると、そこにはすっかり忘れていた人物が横たわっていた。

 中野五月。
 吾妻善逸が命と引き換えに守った、千翼ともう一人。

 ……さっきあんなにたくさん食べていたくせに、まだまだ食い足りないという様子だったとんでもない女。

 気を失っている今でさえも、呑気に腹を鳴らしている。

 その存在を認識した途端、悲しみに浸っていた千翼の中に、強い感情が幾つも沸いてきた。
 それは五月の腹の音が呼び起こした嫉妬であり、何も知らないと言わんばかりに穏やかな寝顔に催された苛立ちであり、
 そして鼻腔をくすぐる血臭が齎した、抗えぬ飢餓感の増進であった。

「そうだ……」

 不意に、喉が鳴った。
 肉付きの良い、まだ生きている少女を前にしてのそれが、期待に寄るものであることを――――千翼はもう、否定しなかった。

「俺は、もう……!」

 立ち上がる時、興奮でこめかみの辺りの血流の音が聞こえる気がした。
 鎖骨の辺りから、頬を通って上る、人にはないはずの太い血管の脈拍も。

 だって、当然だ。
 この体が、悦ばないはずがない。
 本当は、それ以外食べられないような大好物を前に、もう耐える必要がなくなったのだから。

「俺は、今度こそ……!」

 今更を躊躇う理由がどこにある。
 人として一緒に生きたかったイユはもう、どこにも居ない。
 それでもお腹が、空くのだから。

 ……千翼は柔らかな手触りの、美味しそうな手を取って。その獲物に逃げられないように、ぎゅっと握りしめた。

「もう、我慢シなくてもいいんだ――っ!」
「……おかあさん」

 目一杯口を開いて、齧り付こうとしたその瞬間だった。
 捕まえた女の唇から、そんな単語が漏れたのは。

「……そのままおてて、ぎゅっとしててね」
「――ッ!!」

 何の力もない、これから喰われるだけの上質な肉が漏らした、他愛のない寝言。

 たったそれだけの物が、強大な本能に支配されつつあった千翼の理性を辛うじて呼び覚ました。

 ―――それこそが、彼が食人を忌避した最大の理由と通じていたから。

 五月の夢の中の頼みを振り切るように、千翼は思わず手を払った。
 その勢いで尻餅をついたまま、五月からイユのところにまで後ろ向きに這って飛び退る。

 興奮が、急速に冷めていくのがわかった。
 目まぐるしい感情の変化に千翼自身も追いつけず、どうしようもなく疲れを覚える。


479 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:43:45 QSE0.igQ0

 そんな中でも、視線を逸らせばもう一度映るイユの残骸を前にして、本能よりも勢力を増した思考が駆けるのをやめられなかった。

 母のこと。イユのこと。
 そして、善逸のことを。

 チームX(キス)のメンバーだった長瀬裕樹以来、二人目の。人間のくせに、千翼を助けてくれた少年のことを。



    アイツ、会った時からずっと腹が減ってたんだ。俺にはわかる。
    本当は──ずっと腹が減ってるんだ、アイツ。俺たちを食べたいって、ずっと心の底では思ってたんだ。



 出会ったばかりの彼は……千翼の本心を、物の見事に言い当てていた。
 そんな彼は、なんと続けていただろうか?



    それでもアイツは我慢していた。
    きっとこれまで、ずっとひどい目に遭ってきたんだろう。痛い目に遭わされてきたんだろう。
    そんな音が──つらい音がアイツからはするんだ。
    この世のすべてを憎んで、投げやりになってもおかしくないのに──でも、アイツは俺たちを食べようとしなかった!



 今まさに、投げやりになってしまいかけたけど。
 ……どうして、これまでの千翼は我慢してきたのだろう?

 人を喰うことが怖い。自分がもう人食いなのだと認めてしまえば、それがきっと、母が居なくなった真相と結びついてしまうから。
 アマゾンに対する苛烈な敵意も、元を正せば真実から目を背けようとする、その後ろめたさをぶつけていたからなのだろう。

 でも……それだけだと。
 ここに連れて来られる前に、街中で人を食べずに我慢できた理由が出て来ない。
 イユのことさえ欲しくなった己の本質が人食いだと遂に折れ、そのイユが死んで何もかもがどうでも良くなった、今更になっても。五月の零した寝言一つで思い留まれるのも、わからない。

 なんで……どうして、俺は。

「……そっか」

 そうして必死に過去の記憶を過ぎらせて、千翼はもう一度、イユのことを振り返った。彼女への想いを確かめた。
 彼女の傍に居たいと思った最初の理由と、彼女を初めて欲しいと思ったあの時の気持ちと一緒に、もう二度と、笑うことのない寝顔を見つめて。

「……俺は。母さんの育ててくれた俺として……ちゃんと、生きたかったんだ……」

 そんな、極当たり前のような願いを、嗚咽とともに吐き出した。

 千翼は、自分を人間だと思いたかった。だから食欲の湧かないことを最初の理由に、イユに興味を持った。

 だけれど、なぜ自分を人間だと思いたかったのか。なぜ自分を、アマゾンだと思いたくなかったのか。

 ――傍に居る人を、傷つけたくなかったからだ。

 そうすることでしか生きられないという己の宿命に、絶対に屈したくなかったからだ。

 だから、食べたいと思わないイユの傍に居たくて。
 好きになっても、その分食べたいと思わずに済む相手ができたことで、やっと少し気持ちが落ち着いて。
 実の父に食い殺されるという悪夢を最後の記憶として抱えたまま、そこからどんなに傷が増えても気づけない、死体だから何も変えられないイユが可哀想で、なんとかしてあげたいと……母と別れて以来に、そんな人間らしいことを思うことができて。


480 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:44:23 QSE0.igQ0

「イユが居たから……俺は、なりたい俺にも少しだけ、変われたんだ……」

 逆に、イユへの執着が惨劇を巻き起こし、自身も他者も傷つけ追い詰めてしまう原因ともなったが、それでも。

 イユと出会わなければ、母を喪った千翼はずっと孤独なままだった。

 裕樹とも、きっとあんなには話し合えなかった。
 もしかすると、善逸の声を聞いても、そのまま自分の命だけを惜しんで逃げ出していたかもしれない。

 そうなっても何もおかしくなかった、所詮はアマゾンの身である自分を、それでも『千翼』として繋ぎ止めてくれたのが、母の愛と、イユへの恋だった。

 二人が居なくなったのだとしても。人を食べてしまうのは、彼女らに感じた想いへの裏切りに他ならない。

 手を握っていてくれる母親を夢見る五月を――――母に手を握られ、安心して眠っていた紛れもない人間だった頃の己を、食い殺してしまうなんてことは。

 まして。命を狙って来る父しかいない自分とは違い、彼女には数多くの肉親が居ると言うのだから、なおさらだ。
 本当は…………自分がされて嫌なことを、誰にも味わって欲しくないのに。

 ――そんな、欲張りな願いを許さないとばかりに。

 首へと冷たい感触を主張する金属の塊へと、千翼はそっと手を添えた。

 この殺し合いで千翼たちを駒とするために、この腕のアマゾンズレジスターと同じく、有無を言わさずに付けられた物。
 けれど。千翼はアマゾンズレジスターを付けられたからと言って、4Cに従ったわけではなかった。

 そうだ――結局は、それだけなのだ。
 どんな時でも。どんな状況でも。己の生き方は、ちゃんと己で選びたい。

 アマゾンを狩る道具でもなく、アマゾンとして狩られる害獣でもなく。忌むべき食人の本能を抱えながらでも、千翼という一個の人格として。
 嫌でも抱えざるを得ないものに、災厄の細胞が加わったのだとしても。本当はとっくに、この身では背負えきれない重みなのだとしても。
 無気力に受け入れて、そんな運命なんてものに、この心を流されたくない。

 あの情けなかった善逸でさえ、頑張ったのだから。彼の信頼や……イユと。一緒に幸せになりたいと願った己の想いまで、嘘にしたくはない。

「ごめん……ごめん、イユ……俺、自分のことばっかりで」

 千翼は結局、イユに何もしてあげられなかった。
 彼女を利用するばかりで、彼女を本当に好きになっても、何かを始めることもできないほどに手遅れで。

「でも、俺はほんとに……おまえと、生きたかった」

 ただ、自身の孤独を埋めるだけでなく。
 哀しい傷を負い続けながら、その痛みを癒すどころか感じることすらできない永遠を歩む彼女を、少しでも幸せにしたかった。

「だから」

 どんなに、もう何もかもを投げ出したくなってしまっても。
 この痛みこそが……イユのために背負う痛みなのだとしたら。
 千翼はあの言葉を、嘘にしたくない。

「だから……おまえと、生きられる俺であり続ける。今更でも、いつかおまえに……ちゃんと、笑って貰えるような俺として、生きるよ」

 そんな――――決別の言葉とともに。千翼は、笑顔を作った。
 自分が笑いたくて、笑ったわけではなく。
 見えているはずのないイユに、それでも安心して欲しいという決意を表すために。


481 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:45:03 QSE0.igQ0

 しかし……これから歩むことを決めた道、その待ち受ける痛みを前に、作られた笑顔は間もなく崩れて。
 何度目かもわからない涙とともに崩れた、情けない表情をイユから隠そうと、千翼は面を下げた。

「……きっと、大丈夫ですよ」

 そうして肩を震わせる千翼の耳に、不意に。穏やかな声が潜り込んだ。

「あなたならきっと、大丈夫です」

 まるで、在りし日の母のように暖かく。いつの間にか目を覚ましていた五月がそっと、千翼の背中を撫でていた。

「…………っ!!」

 その優しい手の感触に、込み上げて来る衝動を必死に抑えながら。
 己のどうしようもない身勝手さを自覚しながら、もう一度だけ千翼は、言葉にならない声を出して泣いていた。







 ……五月が意識を取り戻したのは、千翼に声を掛ける少し前だった。
 夢の中で、母に手を握って貰っていたはずが。急に体を伝った衝撃に感覚を乱されて、改めて目を覚ました。

 そうして自身が地べたに、乱雑に投げ捨てられたような姿勢で伏せていることに気づいたのと――未だ夜闇の濃い視界の先に、二度目の失神の前に視たモノを再び発見したことで、今の今まで夢と現を逆転して認識していたことを察した。
 それと同時か、あるいはその前に。五月は、声にならない悲鳴をあげた。

 大の怖がりである五月には――黒い血に染まった、同年代の少女の生首は、刺激が強すぎたのだ。
 それこそ一目で気絶して、夢の中で母親に助けを求めるほどに。
 ……その母だって、もうとっくに死んでいると言うのに。

 とはいえ、流石に二度目は精神にも若干の耐性が付いたのか、またすぐに気絶することはなかった。
 それで、ひと仕切り驚いたあと。見るも無残な遺体の散乱現場の、中心に倒れ込んでいた千翼の独白を聞けるまでには落ち着いて。

 ……彼の語る想いが何故か、五月の胸にも痛いほど響いてしまって。
 イユ、と呼ばれているこの亡骸の少女に対して、千翼が抱いていた特別な感情も理解できて。

 気がつけば、五月は彼の苦しみを放っては置けなくなっていた。
 出会って間もない少年に対しては、どこか歳上過ぎるような、やもすれば失礼な調子になりながらも。何故か、そうするのがちょうど良いように思えて。

 やがて、千翼に拒絶された頃になって。素直に引き下がった五月は、せめて死者が安らかに眠れるように弔うことにした。
 とはいえ、埋葬できるわけでもなく。きちんと整えずに燃やすのも以ての外ながら、流石に五月は飛び散った肉片に直接手を伸ばすこともできず。
 結局は、五月が支給品から取り出した大きな布の中に、千翼が欠片の一つ一つを丁寧に包むのを、隣で少しだけ手伝っていた。

「五月」

 その程度で、あまり、力になれたとは言い難いが。

「……ありがとう」

 無愛想なまま、それでも千翼は感謝を示してくれた。

 ……おそらくは今も、例えば姉たちが、上杉風太郎を喪ってしまったような苦しみの中に違いないのに。

 ああ、きっと。そんなに親しいわけでもないのに、千翼に強いシンパシーを抱いてしまう理由の一つがそれなのだろう。
 彼にとって、より良い自分に変わるために何より必要だった大切な存在が、このイユという少女だったのだろうから。

 もう二度と逢えない彼女との思い出を抱えて、なお進もうとする彼の姿が。その痛みを、ほんの一部でも想像できてしまえる五月には、妙に眩しく思えていた。


482 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:45:56 QSE0.igQ0

(母さんの育ててくれた自分として――ちゃんと生きる、か……)

 ……母を亡くした五つ子が、変われる手助けをしてくれる人。
 彼と出会って、自分たち五つ子も、少しずつ変わり始めたけれど。
 果たして自分は。育ててくれた母のように、皆を教え導くちゃんとした人間になりたいのか。それとも……

 それすらきちんと見据えられていない五月にとっては、大切な出会いを確かに糧とした千翼の決意は、ただの他人事として流せる物ではなかったのだ。

(……とはいえ、いつまでも物思いに耽っている場合ではありませんでした)

 残された僅かな学生生活の中で、将来のことを考えすぎる、ということは本来あり得ないが。

 あり得ないが、今自分たちが置かれているこの環境こそがあり得ないものであることを改めて意識した五月は……このまま避けては通れない課題へ取り組む覚悟を決めた。

「千翼君。ところで――」

 イユを包んだ布をディパックに。唯一残された、彼とお揃いの腕輪を自身に装着したことで一段落した千翼の精神が、明らかな疲労から幾ばくか回復した様子を目にして。
 五月は自身が意識を取り戻してから、未だ確かめられていなかった事柄について、触れて行くことにした。

「善逸君が居ないのは、どこかで別れたから……ですか?」
「善逸は…………」

 千翼がどこか、口にし辛そうに言い淀むのを見て――五月は静かに息を呑んで、衝撃に備えることにした。

「……善逸は、死んだよ」
「…………っ」

 繰り出される覚悟をした上でも、その言葉は重すぎた。

「俺と、五月を守るために。あの女に殺された」
「……やっぱり、そうなのですね」

 あって欲しくなかった事実を、五月は自分でも意外なほど冷静に認められた。
 もしも先に、ここで遺体を見ていなければ。千翼の深い悲しみを見て、逆に心が落ち着いていなければ。きっと、予想することすら忌避しただろうけど。
 まだ、はっきりとした実感が伴ってはいないとはいえ。変に目を背けることなく、五月はその喪失を受け入れることができた。

「私……彼に、何のお礼も言えませんでした」
「……俺もだ」

 五月の故人を惜しむ声に、千翼も同調した。

 最初は、生まれて初めて見るぐらいみっともなくて、頭の悪い人間だと思っていたけれど。
 夢の中で、夢だと思っていた善逸の姿や声。五月を背に庇って果敢に敵へと立ち向かい――千翼の父であるという怪物や、恐ろしい和服の女性から千翼を逃がそうとした、その勇ましく立派な顔もまた、真実の彼だったのだ。

 本当に、何の縁もない。殺し合うために集められ、出会ったばかりの自分たちのために、文字通り命を懸けた。
 そんな彼の頑張りを、何一つ労うこともできないまま、その機会は永遠に失われてしまった。

「だから……せめて善逸が守った五月には、あいつが恥ずかしいやつなんかじゃなかったって、ちゃんと伝えたかった」
「……はい。よく伝わりました」

 不器用ながらも、義理堅い千翼の優しさに応えるように。彼を守った善逸の意志が、間違いなどではなかったことを、認めるように。五月は丁重に頷いた。
 その様を見て、千翼も肩の荷が下りたように、深く深く息を吐いた。

「よかった」

 腹の底から安心したようにして、千翼が呟いた。


483 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:46:59 QSE0.igQ0

「だけど………………俺は今から、その善逸を裏切ることになる」

 その感情を噛みしめるように目を閉じていた少年は、しかし再び瞼を開いた時には、それまでとは違う輝きを、その瞳の中に宿していた。

「―――えっ?」
「……ごめん」

 事態の推移について行けず、五月が呆けた声を漏らした時には。
 千翼の腰には、先の争いでも取り出していた、奇妙な機械が巻かれていた。

「アマゾン」

 その言葉を合図に――機械を操作した千翼の体から、強烈な水蒸気が放たれた。

「――っ!?」

 それは、爆風となって五月の体を吹き飛ばし――――夜の湿気た土の上に、何度目かになる尻餅を付かせた。
 驚愕と痛みに閉じた目を見開いた時。そこに居たのは、無愛想ながらも整った顔立ちをした少年ではなく――彼の父だと言われていた怪物にも似た雰囲気の、機械製の装甲で全身を包み、仮面にその素顔を隠した蒼い怪人で。
 映画や何かのように。千翼の変身した姿だと直感できたそいつが、腕から剣を生やしながら、こちらに向けて歩み出す姿だった。

「ちっ……千翼君、何のつもりですか……っ!?」

 動揺と、混乱と、そして恐怖に足がもつれて、立ち上がれないまま。五月は声を引きつらせながらも、何とか詰問を繰り出した。
 それと同時。先程まで見ていた夢の中で、夢だと思っていたことこそが現実であったことを思い出し――二重の意味で考えたくない可能性を、それでも五月は口走ってしまった。

「まさか……まさか、私を、食べ――」
「食べない。絶対に」

 五月の恐怖を否定したのは、静かな声だった。
 だが、五月にも、誰にも有無を言わさないだけの決意が、そこには込められていた。

「俺は、人は喰わない。人を食べたら俺はもう、イユと一緒に居たいと思った俺じゃなくなる」

 人間ではない、ヒトを喰らう存在であることを隠そうともせず、しかし千翼はその生き方を否定した。

「じゃあ――」

 だが。では。善逸を裏切るという言葉の意味は。
 五月への謝罪と、明らかに戦うための形態へと変身したその理由は、果たして――

「だから……ただ、殺すだけだ」

 微かに声を震わせながらも、明瞭に。千翼は戸惑う五月へとそう告げた。

 殺す、と。

 無愛想でも優しいはずの千翼の口から、食べて生きるためですらなく、ただ殺すだけだと。

 なぜ、どうして――そんな疑問が、瞬時に五月の頭を埋め尽くす。
 だが、いくら頭の悪い五月でも。何が彼をそこまで追い詰めたのか、すぐに察することができた。

「……俺は生きたい。イユと一緒に! だから戦う……戦って、イユを生き返らせる! 今度こそ、あいつと一緒に笑えるように!」

 血を吐くような勢いで、千翼は願いを叫んだ。
 その姿へ痛ましい物を覚える五月と同じように、傷を堪えるように肩を震わせて、彼は続ける。

「だから、俺はこの殺し合いで優勝する。食べたいからじゃない! イユを生き返らせるために、善逸の友達も……俺の、父さんも……」

 己の欲望で人を傷つけるという選択の痛みに、声を揺らしながらも。
 遂に千翼は、表情を隠す仮面の奥からその名を言い放った。

 その肉体を囚え続けるアマゾンの本能ではなく――他ならぬ『千翼』自身の、理性に従って。



「……五月、おまえも――みんな、俺が殺す」



 狩りではなく――殺人が、開始された。


484 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:47:37 QSE0.igQ0

【E-6/1日目・黎明】


【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷、心身ともに疲労(中)、仮面ライダーアマゾンネオに変身中、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。


【中野五月@五等分の花嫁】
[状態]:空腹、全身に軽傷、ダメージ(小)、リアルに生首を見て失神しながらなお肉を食べたくなる鋼のメンタル
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
0:千翼君……っ!
1:殺されたくない。
[備考]
※参戦時期、未定。下田さんと出会った後のようでもありますが、詳しくは後続に任せます。


【支給品紹介】
万能布ハッサン@Fate/Grand Order
呪腕のハサンからのバレンタインのお返し。
マントにも毛布にもカーテンにもローブにもなる、
ハサンが愛用している万能布。
新品なのでとても綺麗。スマホも磨ける。


ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ
アマゾンズレジスターと同じく、アマゾンの本能を抑制する薬液が充填された腕輪。 鳥の顔のような形状をしている。
嘴状の部分がスイッチになっており、押すことでアマゾン細胞を活性化させる簡易版アマゾンズドライバーのような機能も持つ。
また、イユの物にはいざという時に彼女を破壊する廃棄システムが仕込まれている。千翼は右腕に装着中。


485 : 慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw :2019/05/14(火) 23:48:25 QSE0.igQ0
以上で投下を完了します。


486 : 名無しさん :2019/05/14(火) 23:54:14 bN.lwiag0
投下乙です
何も殺さずには、生きられない


487 : 名無しさん :2019/05/15(水) 00:05:24 34J7zJ8U0
投下乙です
イユがバラバラになったのは七実のせいだけど
イユが死んだのは仁さんと千翼のせいだからね


488 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/15(水) 00:28:56 Lod/elQ60
投下乙です
そうか、母親、そういうところに共通点があったか
だけどその果てに千翼はそういう方向に向かってしまった。とても悲しい決意を

それとすみません、予約を変更させてください
>>473を破棄して
千翼、中野五月、中野一花、竈門炭治郎、城戸真司、秋山蓮予約させてください


489 : ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:12:26 5x8Uxc8g0
投下します


490 : CLOVER FIELD ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:14:50 5x8Uxc8g0

 白銀御行とメルトリリスと別れて数刻、深夜の住宅街を東に向かって歩く藤丸立香たち。目下の目標はこの先にあるタワーマンション『PENTAGON』だった。
 視線のずっと先、遠く離れた闇の中でもPENTAGONはその巨大なシルエットを浮かび上がらせ航空障害灯の赤い光を明滅させていた。
 それはあたかもこのデスゲームの参加者を誘き寄せる誘蛾灯のような不吉さを醸し出している。
 
「……目立ちすぎるな」

 先頭を歩く立香の隣にいた猛田トシオが呟いた。
 
「猛田くんもそう思う?」
「あ、ああ……立香さんも?」
「うん、私はこういうのあまり詳しくはないけど……行くあてのない、周辺の地理にも疎い人間が目的地を決めようとしたら――」
「きっと意識無意識関わらず目立つランドマークを目指そうとするでしょうね。特にあのペンタゴンというタワマンはどこからでも見えるほどの高さだ」


「じゃあ猛田くんに意地悪な質問していい? 一度はゲームに乗った君ならどう思う――?」
「ッ――!」
「あ、ごめん。ちょっとデリカシーが無さ過ぎた」
「別に……いいですよ。理由はどうあれ俺がラブデスター実験でやったことは事実ですし」

 猛田トシオが犯した罪を若殿ミクニは洗いざらい口にした。そのおかげで中野三玖には露骨に嫌悪感を露わにされたしメルトリリスにも殺されかけた。
 まったく余計なことをしてくれる。しかしその罪を露わにされることでミクニの信用を得られるのであれば安いものだ。
 が、こうしてそのことを突かれるのはいい気分ではなかった。
 
 どうして――?
 理由はどうあれ全ての凶行の始まり――三卜ももこを死に追いやったことはトシオの心に深い影を落としていた。
 月代中学を混乱に追い落としたトシオはその報いを受け失脚しても、それを赦そうと差し伸ばされたミクニの手を取る機会はあった。
 だが――
 
 『ももこを殺った時点で俺はもう引き返せねぇんだ!』
 
 慟哭と共にその手を振り払ってしまったのは三卜ももこへの罪悪感だったのかもしれない。
 だからこそ、立香の優しい瞳でその罪を自覚させられると捨てたと思っている良心が疼く。
 
「少なくとも――十分に人を殺せる力があるなら絶好の狩場、ですかね。少なくとも夜はマズい。目指すのであればせめて昼間のうちじゃないと」
「だよね……」

 きっと他の姉妹もそこに向かうだろうと三玖の提案により目指すことになったPENTAGON、協力者を得られると同時にそれを狙う者たちにとっても分かりやすい目標となり得る諸刃の剣。

 このままPENTAGONを目指すべきか、それとも夜が明けてから改めて向かうべきか。逡巡する立香にトシオは話しかける。

「立香さんは俺をどう思ってるんですか?」
「どうって?」
「そのままの意味ですよ。かつてゲームに乗った俺を信用してるのかって。ミクニはああいうやつだ。俺を無条件に信用してる。三玖さんは俺を警戒してる、当然だ。でも貴方は――」

 どうしてあの女から俺を庇おうとしたのか――、と口に出そうとして気恥ずかしくなった。

「最初から疑ってかかったら何もできないからね。ミクニくんはわたし達に警戒されることを承知のことで君の罪を喋った。そうしてまで君への信頼を得ようとしてくれたんだから。まあメルトの時は考えるより先に身体が動いちゃったんだけど」
「お人好しにもほどがありますね。一歩間違えば俺ごとあの女の足に貫かれていたのに……」
「よく言われる。それにね、わたしの知り合いワケありの人たち結構いるから。後めたいことがあってもまずは話を聞いてあげなくちゃ」

 一体この女は何者なんだ。こんな状況でも場慣れしてる空気を醸し出してるし、見ず知らずの人間を身を呈して庇おうとした。あまりに度胸が据わっている。それに訳ありの人間と多く交流があると来た。

(ヤクザの娘か何かか……?)

 着物に身を包み強面の男たちを冷たい瞳で従える立香の姿を想像しトシオは背筋が寒くなる。トシオは盛大に勘違いしているものの、強面の男たちを従えている点はある意味間違ってはいないのだが。


491 : CLOVER FIELD ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:17:54 5x8Uxc8g0

「ちょっと待って」

不意に立香が声を上げて立ち止まった。

「ちょっとわたしだけ早く歩きすぎたみたい。三玖が遅れてる」

 振り返るととぼとぼと歩く三玖の姿があり彼女に付き添うようにミクニが歩いてるのが見えた。

「……立香さん結構体力あるんですね」
「うん、まあ……よくスパルタの王様のトレーニングに付き合ったりしてたからね。この前はアメリカを西海岸から東海岸まで横断したっけ」
「は?」
「あー、いやいやこっちの話、てへへ」

 ますますこの藤丸立香という女がわからないトシオ。でも彼女に対する興味は尽きないのも確かであった。



 ◼️



(はぁ……立香はなんであんなやつと話してるんだろ……)

 少し前を歩く立香とトシオを三玖は頬を膨らませ嫉妬めいた視線で見つめていた。
 ミクニから聞かされたトシオの罪、ミクニとしては彼を受け入れてもらうための禊として語ったのだろう。
 それでも彼の所業は女の敵、そう簡単に受け入れられるものではない。
 メルトリリスに殺されそうになった時は内心ざまあみろとさえ思った。
 
 でも彼女は――藤丸立香は赦されざる罪を犯したトシオの前に躍り出てメルトリリスから庇った。
 ごく自然に、ただ当たり前のように、自分も死ぬかもしれないということも考えずに。
 
「三玖さん、あいつのことに対して差し出がましいことをしたとは思ってる。それでもあいつは――トシオは自分の罪と向き合わないといけねえんだ」

 三玖の表情を察したのか隣を歩いていたミクニが口を開く。
 
「……ミクニはどうしてそこまであいつを――猛田を信用できるの?」
「……俺はあいつを助けてやりたかった。確かにあいつは俺たちの友達を傷つけた。だからと言って死んでいいヤツじゃあなかった。ただそれだけだったんだ」

 ミクニの言によるとその後トシオは人知れず死んだ。なのに別のデスゲームに参加させられるために生き返った。
 それはトシオ本人も認めていることである。
 死人が生き返る――三玖の脳裏に母親の姿がふとよぎった。
 
「そういうの、ちょっと傲慢」
「かもしれねェな。だけどもう一度出会えたのならあいつを救ってやりたい。それは俺の嘘偽りない本心だ。それに……」
「それに?」
「もし俺がトシオのことを黙ったままで、もし後からあいつのやったことを知ってしまったら三玖さんはどう思う?」
「……きっと猛田はもちろんミクニも信用できなくなってたかも」
「だろ? あいつを赦してやれとは言わねえ。せめて俺と一緒にいるうちは受け入れてやってほしい」
「ん……考えとく」
「ああ、今はその言葉だけで十分だぜ」

 ミクニは真っすぐな人間だ。こんな状況でも自分を見失わないでいられるのは立香と似ている。
 二人とも太陽のような人間でキラキラと輝いている。
 でも――二つの太陽は眩しすぎる。その間に置かれた冷たい月はその光に灼かれるしかない。
 
 視線を前に向けるとさらに立香との距離が開いていた。
 背筋を張ってスタスタと歩く立香に半歩遅れて付いてくるトシオ。
 それに引き換え三玖はうつむき加減で足取りも悪い。そんな自分の歩調に合わせて歩いてくれてるミクニ。

 元々自己評価が高くなく引っ込み思案な三玖であったが姉妹五人で一緒にいるうちはそれぞれから分かたれた個性のようなものだと思うこともあった。
 でも、今ここに仲の良い姉妹はいない。風太郎ですらない出会ったばかりの他人たち。
 否が応でも自身と比較して劣等感に苛まれてしまう。
 
 白銀御行に言われた通り虚勢のひとつでも張ってやりたいがやはりそう上手くいくものでもない。
 はぁ、とため息を付いてすぐに足元に行きがちな目線を前に向けると立ち止まり手を振っている立香の姿があった。
 
 ほら――また足手まといになってる。
 じくりと心が騒めいた。


492 : CLOVER FIELD ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:18:14 5x8Uxc8g0

「ちょっと待って」

不意に立香が声を上げて立ち止まった。

「ちょっとわたしだけ早く歩きすぎたみたい。三玖が遅れてる」

 振り返るととぼとぼと歩く三玖の姿があり彼女に付き添うようにミクニが歩いてるのが見えた。

「……立香さん結構体力あるんですね」
「うん、まあ……よくスパルタの王様のトレーニングに付き合ったりしてたからね。この前はアメリカを西海岸から東海岸まで横断したっけ」
「は?」
「あー、いやいやこっちの話、てへへ」

 ますますこの藤丸立香という女がわからないトシオ。でも彼女に対する興味は尽きないのも確かであった。



 ◼️



(はぁ……立香はなんであんなやつと話してるんだろ……)

 少し前を歩く立香とトシオを三玖は頬を膨らませ嫉妬めいた視線で見つめていた。
 ミクニから聞かされたトシオの罪、ミクニとしては彼を受け入れてもらうための禊として語ったのだろう。
 それでも彼の所業は女の敵、そう簡単に受け入れられるものではない。
 メルトリリスに殺されそうになった時は内心ざまあみろとさえ思った。
 
 でも彼女は――藤丸立香は赦されざる罪を犯したトシオの前に躍り出てメルトリリスから庇った。
 ごく自然に、ただ当たり前のように、自分も死ぬかもしれないということも考えずに。
 
「三玖さん、あいつのことに対して差し出がましいことをしたとは思ってる。それでもあいつは――トシオは自分の罪と向き合わないといけねえんだ」

 三玖の表情を察したのか隣を歩いていたミクニが口を開く。
 
「……ミクニはどうしてそこまであいつを――猛田を信用できるの?」
「……俺はあいつを助けてやりたかった。確かにあいつは俺たちの友達を傷つけた。だからと言って死んでいいヤツじゃあなかった。ただそれだけだったんだ」

 ミクニの言によるとその後トシオは人知れず死んだ。なのに別のデスゲームに参加させられるために生き返った。
 それはトシオ本人も認めていることである。
 死人が生き返る――三玖の脳裏に母親の姿がふとよぎった。
 
「そういうの、ちょっと傲慢」
「かもしれねェな。だけどもう一度出会えたのならあいつを救ってやりたい。それは俺の嘘偽りない本心だ。それに……」
「それに?」
「もし俺がトシオのことを黙ったままで、もし後からあいつのやったことを知ってしまったら三玖さんはどう思う?」
「……きっと猛田はもちろんミクニも信用できなくなってたかも」
「だろ? あいつを赦してやれとは言わねえ。せめて俺と一緒にいるうちは受け入れてやってほしい」
「ん……考えとく」
「ああ、今はその言葉だけで十分だぜ」

 ミクニは真っすぐな人間だ。こんな状況でも自分を見失わないでいられるのは立香と似ている。
 二人とも太陽のような人間でキラキラと輝いている。
 でも――二つの太陽は眩しすぎる。その間に置かれた冷たい月はその光に灼かれるしかない。
 
 視線を前に向けるとさらに立香との距離が開いていた。
 背筋を張ってスタスタと歩く立香に半歩遅れて付いてくるトシオ。
 それに引き換え三玖はうつむき加減で足取りも悪い。そんな自分の歩調に合わせて歩いてくれてるミクニ。

 元々自己評価が高くなく引っ込み思案な三玖であったが姉妹五人で一緒にいるうちはそれぞれから分かたれた個性のようなものだと思うこともあった。
 でも、今ここに仲の良い姉妹はいない。風太郎ですらない出会ったばかりの他人たち。
 否が応でも自身と比較して劣等感に苛まれてしまう。
 
 白銀御行に言われた通り虚勢のひとつでも張ってやりたいがやはりそう上手くいくものでもない。
 はぁ、とため息を付いてすぐに足元に行きがちな目線を前に向けると立ち止まり手を振っている立香の姿があった。
 
 ほら――また足手まといになってる。
 じくりと心が騒めいた。


493 : CLOVER FIELD ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:19:39 5x8Uxc8g0
 
 
 
  ■
  
  
「そういうわけで――どこかの民家で夜を明かすべきかなって」

 夜明けまではまだ数時間を残す深夜。見通しの悪い夜に目立つ建物に向かうのはリスクが高すぎる。
 どうでも急ぐ必要がないのであれば休息も兼ねてどこかの民家で身を潜めよう。
 さすがにゲームに乗った者もこの住宅街の中に潜む自分たちをピンポイントで見つけるのは難しいだろうと、立香は提案した。
 同じことを思っていたトシオは彼女に同意し、ミクニも三玖を一瞥するも休息は必要だろうと判断し賛成した。
 
「私も……いいよ。どこかで休もう」

 立香たちのいう今すぐPENTAGONに向かうことのリスクと同じぐらい彼女は三玖の体調を気遣ってくれている。
 極限状態の中、見通しの悪い闇で神経を尖らせながら歩くのはそれだけで体力を消耗する。
 言葉には出さないものの三玖の表情からは疲労が色濃く出ていた。
 カルデアで様々な英霊との鍛錬に付き合ってきたことで体力にはそれなりに自信がある立香に対して三玖の体力はお世辞にも――同じ姉妹と比較しても特に低い。
 
 大丈夫、私はまだまだいけるよ。と喉元まで出かかったがそれこそただの虚勢だし、どう考えてもそんな虚勢が立香に通用するとは思えない。
 彼女は口には出さないものの三玖の反応を機敏に感じ取っている。三玖が大丈夫と言えばそれを汲んでそのままPENTAGONに向かおうと言うだろう。
 
 それはたまらなく嫌だ。自分の虚勢に忖度されることほど惨めなことはない。
 少なくとも立香の前ではできる限り本心を出すようにしよう。嘘をついて彼女の同情だけは誘われたくない。嘘をついて彼女に本心を探られ気を遣われたくない。
 そうされるとたまらなく惨めな気持ちになってくる。
 だから正直に朝まで休憩しようと同意した。
 
(……やっぱり立香は何も言わないんだね)

 この発言すらも立香は三玖の意を汲もうとしているのだろうか。
 彼女のことは決して嫌いではない。自分にはない色んなものを持ってて頼りにしてる。
 でも眩しすぎるのだ。彼女が持つ光が強ければ強いほど三玖は自身の陰を、浅ましさを強く意識させられる。
 
 陰鬱な気分が堂々巡りになっているところにミクニが口を開いた。
 
「それじゃあどこで休憩するか三玖さんに決めてもらおうぜ。こんなに家があるんだ俺はどこでもいいけどかえって決められねえ。トシオはどうだ?」
「ああ、俺もそれでいいと思う」
「わたしも賛成ーっ。ここは三玖のセンスを信じるねっ! 寝心地のいいところを頼むよー」
「えっ、あ……私なんかが決めてもいいの?」
「ああ、頼むぜ!」
「それじゃあ……えっとどれにしようかな……」

 似たような民家が立ち並ぶ住宅街。どの家も大きく変わらない佇まいをしてる。
 それこそ適当だ。適当に指を差しながら選んでいく。
 
「じゃあ――ここ――……」

 
 
 ぞわりと全身が総毛だった。まるで背中から差し込まれた手が直接心臓を掴むような不快感。
 指差したのは何の変哲のない普通の民家なのに。


494 : CLOVER FIELD ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:22:00 5x8Uxc8g0
 
 
 行ってはいけない/行かなくてはならない。
 目を逸らせ/目を逸らすな
 
 
 二律背反の衝動が全身を駆け巡る。
 気持ち悪い。
 気持ち悪い。
 あそこに――何が、あるの?
 
「どうしたの三玖? ぼーっとして」

 一瞬のうちに膨大な情報を叩きつけられハングアップした思考を立香が呼び戻す。
 今の感覚、一体何?
 
「ううん、何でもない。あそこにしよ」

 指差した民家に行こうと促す三玖。何か胸騒ぎがする。だけどその不安を立香に悟られたくない。
 だからそんな不安は一旦胸にしまい込んで。
 三玖たちは休息のためその民家に上がり込んだ。
 
 
 玄関の扉を開けてすぐにその家の異常性は明らかだった。
 新しめの家が醸し出す壁紙の匂いに混じる濃密な塩と鉄の臭気。
 一部の泉質の温泉ではこれに近い臭いがするだろうが、もちろんごく普通の民家に温泉が湧いているはずもない。
 もっと身近でこの臭いを例えるならばそれは――血液。
 その臭いの正体に真っ先に気づいたのは立香だった。人理修復を巡る旅で何度も嗅いだ臭い。何度嗅いでも慣れない血の臭い。
 
 こうも濃密に漂う死の臭い、ミクニやトシオはもちろん三玖ですらもこの臭気の正体を察し青ざめた顔をしている。
 
「わたしが先頭になるから。三玖、ダメなら玄関で待ってて」
「う、ううん……私も行く」
「わかった。ミクニくんは三玖のそばに……! トシオくんはわたしの後ろをお願い。最悪わたしに何かあってもすぐに逃げられるように」
「あ、ああ……」

 とは言えサーヴァントクラスの存在に襲撃された場合、特に何も魔術的な才能を持たない立香では時間稼ぎにもならないだろう。
 魔術礼装として着用してるカルデア一般制服では使役するサーヴァントの補助的な役割しかできない。
 せめてカルデア戦闘服であれば数秒でも確実に時間稼ぎができるがそれを着ていないのでどうすることもできない。
 
(でもわたしがみんなを守らないと――!)

 先頭の立香に半歩遅れてトシオ、さらに数歩後に三玖とミクニが続く。
 臭いの元は廊下の奥、おそらくリビングと思われる部屋だろう。
 一歩一歩床を踏みしめて、そのたびに床のフローリングの板が耳障りな軋みを上げる。
 
 そして意を決して立香とトシオは先にリビングに体を滑り込ませる。
 
「――っ……!」
「ひ、ひぃ……!」

 情けない声をあげて慄くトシオ。ラブデスター実験でもこんな凄惨な光景は見たことないから当然だろう。
 リビングの床にかつて人だったものが仰向けて横たわっていた。


495 : CLOVER FIELD ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:24:17 5x8Uxc8g0
  
 生を感じられることのないどろりと濁った瞳。
 ウサギの耳を思わせる可愛らしいリボンをした少女の亡骸。
 その顔の上半分は――生気の無い瞳を除いては生前と何も変わらない端正な顔立ちをした美少女だ。
 しかし下半分は赤黒い液体に塗れているだけで何もなかった。
 
「なんでっ……こんなっ……どうやってっ」

 弱弱しい声を上げるトシオ。
 こんな凄惨な遺体は見たことはない。
 少女の顔は下顎から喉、そして胸のあたりまで見るも無残に溶け落ちていたのだから――
 
 
 駄目だ。
 駄目だ。
 駄目だ。
 
 この死体は駄目だ。
 見てはいけない。
 見せてはいけない。
 
 ――だって同じ顔をして同じ学校の制服を着た女の子がわたしの後ろにいるんだから。
 
 「立香――?」
 「三玖!ダメ!!!」
 「へ――――――?」
 
  振り向いた立香の目の前に横たわる死体と同じ顔がある。
  三玖は立香の肩越しに横たわる物を見てしまう。
  
  
  自分と同じ顔を。
  誰よりもよく知る同じ顔。
  ウサギの耳のような子供っぽいリボン。
  血を分けた唯一の姉妹を誰が見間違えるものか。
  
  それがどんな姿に変わり果てたとしても――
  
  
 「四葉――」
 
 
 
  その視線の先にあるものは床一面に赤黒い花を咲かせて横たわる中野四葉だったものの残骸だった

 
 
 
 
【E-6 民家/1日目・黎明】


496 : CLOVER FIELD ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:25:42 5x8Uxc8g0

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。

【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的疲労
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:──
1:──

[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。


【若殿ミクニ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:バトルロワイアルからの脱出
1.皆を探す
[備考]
※敬王から帰還以降からの参戦。詳しい時期は後続の書き手にお任せします



【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる
1.若殿ミクニ達他のやつらを利用する
2.まずは信用されるように動き、利用しやすくなるように動く
3.藤丸立香は俺に気がある?
[備考]
※死後からの参戦


497 : ◆Plv593M0e2 :2019/05/15(水) 18:26:16 5x8Uxc8g0
投下終了しました


498 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/15(水) 19:24:25 1t6d1n1s0
投下乙です!
やっぱり自分が書いたキャラがリレーされてくのって良いなあ
永井圭、今之川権三、宮本武蔵(男)、予約します


499 : 名無しさん :2019/05/15(水) 20:04:37 6nB5pDHw0
よっしゃ追い付いた、投下乙です。
そうだよな、普通であることが負い目に繋がる所ある子だもん、良くも悪くもクセの塊な集団ならこうなるよなー、
会長からのフォロー思ってたよりもクリティカルだったのなー、って思ってたらラストの……


500 : ◆Wott.eaRjU :2019/05/15(水) 23:08:37 fBl5Xwc20
投下乙です。
ここで引きとか続きが気になりすぎます
三玖がぐだ子とミクニのことで劣等感を感じる描写が好きですね

犬飼幻ノ介予約します。


501 : ◆ldjkweYF9s :2019/05/16(木) 17:34:47 FJ649Mjs0
白銀御行、メルトリリス、佐藤、猗窩座、鬼舞辻無惨で予約します


502 : ◆b4gtoiVfJE :2019/05/16(木) 20:08:58 8BYT.FdA0
竈門禰豆子、水澤悠、浅倉威で予約します


503 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:45:46 vdnI8mJ.0
投下します。


504 : たりないふたり ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:47:29 vdnI8mJ.0
 ◇ ◇ ◇


 いったい、俺はなにをしているんだろう。
 そう思わざるを得ない。思い続けざるを得ない。ことあるごとに思ってしまうのを止められない。
 夜中に徒歩で砂漠横断なんぞやっているのがよりにもよって上杉風太郎であると、俺自身でさえなかなか受け入れ難い。もしかして別の誰かなんじゃないのか。
 運動能力は切り捨てた。勉強以外に取り柄がない。体力勝負なんてもってのほか。賄いが出ないのならば、肉体労働なんて誰がやるものか。身体なんか動かさないほうがエネルギー消費が抑えられて、差し引きプラス。
 それが俺のはずだ。

 言わずと知れたことだが、やはり砂漠などいきなり歩くものではない。
 正しい身体の動かし方を理解した上で、前もって念入りに準備をして、それから初めて挑戦するべきだ。
 支給されていたバイクさえ、いまとなっては恨めしい。
 かつて必要に駆られて二輪免許を取ったものの、砂漠の上など走れる自信はない。
 とはいえ砂漠を抜けさえすればバイクで移動できるというのは、たしかな希望になっている。

 そんなことより、なによりも最悪なのは靴だ。
 学校指定のローファーはただでさえ運動用に作られていないし、砂上を歩くためにも作られていない。
 どうしようもない。
 本当にどうしようもない。
 一歩進もうとするだけで足が沈み、砂を前に役割を果たせない厚くて硬い靴底(いやだいぶすり減っているが)が無様に安定性を失う。
 はっきり言って、毎歩毎歩(こんな熟語存在するのか?)転びそうになっている始末だ。体力は余計に消耗するし、その割に進行ペースはあまりに悪い。
 挙句、靴の隙間どころか履き口からもろに砂が入ってくる。
 気持ちが悪い。気味が悪い。
 生理的な嫌悪とは、まさしくこれを指すのだろう。
 不快感が湧き上がってくるものの、いちいち靴から砂を出してやる気にもならない。
 それこそ無駄だ。どんなに念入りに行ったところで、次の一歩でたちまち砂まみれになるのは目に見えている。
 …………というか砂はあとで出すとして、靴自体のダメージは大丈夫なのか?
 おいおいカンベンしてくれよ。どういう理屈なのか、学校指定のローファーはやたら高いんだぜ……。
 だいたい、修学旅行中に靴をなくしたヤツなんて聞いたことがない。
 学校から上限を定められた微かな所持金でわざわざ靴を買うなんて、そんな伝説は残したくない。
 そんな伝説は残したくないし――それどころではない。

 なのに、なぜ、その上にこんな目に遭っているんだ。
 どうして、こんな状況でわざわざ砂漠から急いで出ようとしているんだ。

「…………はっ」

 思わず笑ってしまったせいで、ただでさえ乱れていた呼吸が完全に乱れた。
 ちょうど大きな岩が転がっている地点だったのは、まだ都合がよかった。
 岩に背中を預けて目を閉じ、呼吸を整えることに専念する。

 みっともない。
 絶対に人に見せられない。
 ましてや、アイツらには到底。
 分かり切った問題を前に延々唸っている姿なんて、あの厄介な生徒たちにはとてもじゃないが。


505 : たりないふたり ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:47:51 vdnI8mJ.0
 
 ああ、それにしても――
 夜の砂漠はむしろ寒いと話では聞いていたし、実際に少し肌寒かったが、身体を動かしていたせいか少し汗ばんできている。
 そりゃそうだよな。
 動いていれば、身体は温まるだろう。当然、汗もかくだろうよ。
 考えるまでもないことだ。
 だから、考えたことがなかった。
 なので、いまのいままで知らなかった。

『あれ?』『上杉くん、久しぶり!』

 ローファーのなかの砂が一気に増えたような、そんな錯覚を覚えた。

『おいおい、そんなにびっくりするなよ』『こっちこそびっくりしてるんだぜ? あの流れで一人で行くんだから』『まさかなんにも言わずお別れなんて』

 声をかけられた。それはいい。
 聞き覚えのある声だ。それもいい。
 ただ、あまりにも気配がない。なさすぎる。

『おかしいなあ。さっきまでの笑顔はどこに行ったんだい?』『……なんだよ、見られたって顔すんなよ』
『見せたのは君のほうで』『こっちは見させられた側なんだぜ?』『喩えるなら君がBBで、僕が七十人だろ』

 足音がしなかったのはいい。
 アスファルトやタイルの上と比べて、砂上は足音があまり響かないことくらいさすがに理解している。
 情けないことに、そこまで注意深く聞き耳を立てていた自信もない。余計なことを考えていたのは間違いない。
 それはいい。
 そんなことはいい。
 問題なのは、その距離だ。

『だから僕は悪くない』

 おそるおそる目を開けてみると、声の通りにほんの目と鼻の先にいた。
 先ほど別れたときと変わらない学ランと縁起の悪さを纏って――球磨川禊はこちらに悟られることなく、すぐそこまで来ていたのだ。

『あは! この喩えなら、上杉くんの笑顔に当てはまるのはスプラッタ映像になっちゃうけどね!』

 へらりと笑う球磨川に、俺は笑えなかった。


 ◇ ◇ ◇


506 : たりないふたり ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:48:13 vdnI8mJ.0
 
 
『なんだ、そんなことか』『簡単なことだよ』『僕はむかし【僕の気配】を【なかったことにした】ことがあるんだ』

 とりあえず尋ねてみると、球磨川はあっさりと違和感の正体を教えてくれた。
 やはり、わからない問題に当たったときは素直に訊くに限る。

「なるほど。ということは、お前の……あの、例のアレは、一度『なかったことにした』ものは戻せないのか」
『まさしくそうだね』『いやぁ、上杉くんは呑み込みが早い』『スキルなんて知らない世界の住人なんて思えないよ』
「…………よせよ。そんなことない。お前が気づいてないだけで、こっちは相当混乱して」
『言われるまでもないや。だから来たんだからね』

 こちらが言い終えるのを待たず、球磨川はポケットから巨大な螺子を取り出す。
 一度見たことがあるとはいえ、五百ミリのペットボトルほどのサイズの螺子を目の当たりにすると、どうしてもぎょっとしてしまう。
 いったいなにを固定するための代物で、はたしてなんのために取り出したのだろうか。

『こうするためだよ』

 こちらの疑問に答えるように、球磨川は軽く手首のスナップだけで螺子を投げてみせた。
 そうか、こうやって使う武器だったのか。初めて見た。
 なんて暢気なことを思うよりもずっと早く、俺の右足の甲を突き刺さった螺子は、そのまま足裏まで貫通した。

「いッて――――」
『はいはい、大嘘憑き』『悲鳴をなかったことにした』『おっと、あと足の怪我も』
「やたら高いローファーが!!」
『はいはい、じゃあそれもじゃあそれも』
「なかったことにする順番、完全に逆だろ!!」
『上杉くんこそ完全に逆だった気がするけどね』

 勝手に人の足を貫いておいて、球磨川は決して笑顔を絶やさない。
 腹立たしかったがそれどころではないと、慌てて足元に視線を向けると、傷一つ、血痕一つ残っていない。

「よかった……。冷や汗かいたぜ。まだどれだけ歩かなきゃいけないと――」

 いや待て。
 なに、上から見ただけで満足しているんだ。
 本当は靴を脱いだ上できちんと確認したいくらいだ。
 そんな風に自分自身に指摘しようとしたところで、球磨川の呆れ声が浴びせられる。

『それくらいにしようぜ、上杉くん』『君、自分で思っている以上に混乱してるぜ』
『最初の、慌てて病院につれていこうとするところまではよかったけど』『ここまで来たら興覚めだ』
『言っちゃあ悪いけど』『空条承太郎にならともかく、球磨川禊に呆れられているようじゃもう終わりだぜ』
「…………は?」

 なんてそんな間の抜けた声を上げながらだが、俺はようやく理解した。
 間違っていた。なにもかも。
 いきなり襲われたのだから、足の回復を確認するよりも先に逃げるべきだった。
 いやそもそも――
 超常的な能力の持ち主が殺し合いに乗り気でないのならば、同行を頼むべきだった。
 目的地が違うのなら仕方がない、ではない。目的地が違うとしても頭を下げるべきだった。
 そんな簡単なことさえもわからなかった。
 自然にならば仕方ないと納得し、極めて普通に別れてしまった。
 なにも自然ではなく、なにも普通ではない判断だ。

 俺がしっかりしないといけないと、そう誓ったはずの俺がしっかりしていなかった。


507 : たりないふたり ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:48:50 vdnI8mJ.0
 
 混乱していた。
 混乱、していた。自覚していた以上に。
 これが試験であれば、とても取り返しがつかないほどに。
 いや、そもそもこんな喩えが出てくる時点で、未だに混乱している。
 試験ではない。そんなものではない。そんなものでありえるはずがない。
 最悪死に繋がる殺し合いなんて、試験などで喩えられるような事態ではない。

 それでもまだ遅いということはないはずだ。 
 砂漠からの脱出さえままならない俺をわざわざ追いかけて、せっかく忠告しに来てくれたのだ。
 正直に言えば印象はよくない。
 だが、あの日からあのバイトを始める日まで、家族以外の人間関係をすべて断ち切ってきた俺だ。
 初対面なのに馴れ馴れしいヤツに意図せず悪印象を抱いてしまう程度のこと、とっくに自分の悪癖として理解している。
 まずは、球磨川に頭を下げて、感謝を示そう。
 そうしてから同行を依頼しよう。
 球磨川の目的地をわかった上で、それでもこちらについてきてほしいと。

「……悪かった、球磨川。ありがとう」
『…………?』

 歩み寄って右手を差し出すと、球磨川はきょとんと眼を丸くする。
 予期せぬリアクションに混乱し、こちらが読み取った意図を口に出して確認してみる。

『えっ? 全然違うけど? 心配? 同行? ないない』

 返ってきたのは、赤点宣告だった。
 ここに来て、まさか試験の喩えを再開するハメになるとは思ってもみない。

『上杉くん、僕はね』『この【ゲーム】が気に食わないだけなんだよ』『だってそうじゃない』『こんなルール――』

 球磨川がずっと浮かべていた軽薄な笑みが消え、暗い瞳がさらに光度を落としたように感じた。

『――――強いヤツが勝つに決まってる』

 同年代の男子どころか女子よりも体力的に弱い俺からすると、まったくその通りとしか言いようがない。
 もとより殺し合えという言葉に従うつもりはないが、にしたって俺のような無力な人間は強者に打つ手などない。

「それは……そうだ。俺も同意見だ」
『だよね、やってらんないよね』『だから考えてたんだよ』『この、強者が弱者を踏み台にして勝つゲームを台無しにする方法を』
『いまの落ち着いた上杉くんならわかるんじゃないかな』『このゲーム、誰も来ないようなところで縮こまって微動だにしないのが一番だって』

 球磨川は話す合間によそ見をしながら螺子を飛ばし、それでも当然俺には避けられない。気づいたときには刺さっていた。
 螺子はリュックサックや制服のたわんだ部分だけを的確に貫き、俺は背中を預けていた岩にそのまま縫い付けられる形となった。

『だからこうするのさ』『これで動ける強いヤツから死ぬ』

 まずい。
 動けない。
 完全に固定されている。
 服やリュックを破る勢いで力を籠めればと考えたものの、足場が砂で靴はローファーだ。
 少し踏み込もうとしただけで足が砂に沈んでしまい、とてもじゃないが力の籠めようがない。

『じゃあね、上杉くん』『砂漠の岩陰なんか、わざわざ誰も探しに来ないだろーぜ』
「まっ、待て! おい! 球磨川! 外せ! なに考えてんだ!」
『おかしなこと言うなよ。全部話してあげたのに』
「冗談じゃない……! こんなところで動けなくなってる場合じゃないぞ……!」
『冗談じゃないからね』


508 : たりないふたり ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:49:20 vdnI8mJ.0
 
 いつの間にやら蘇っていた軽薄な笑みを見せつけてから、球磨川はこちらに背を向けた。
 バイバイと自由をひけらかすように右手を大きく振りながらも、一切振り返ることなく歩みを進めている。
 砂上ではさして響かないはずの足音をわざとらしく鳴らして、同じくわざとらしく妙にゆっくり歩いているが、たしかにその背は少しずつ小さくなっていく。

「いい加減にしてくれ! お前がなにをしたいかなんて関係ない! 俺には行きたいところがあるって言っただろう!」
『それだぜ、上杉くん』
「…………なに?」
『なにがおかしいって、それがおかしいんだよ』

 おかしい。
 おかしい?
 おかしい……?
 いや、なにも――おかしくはない。
 球磨川がなにを言っているのか、よりいっそうわからなくなった。

『君は見当違いなことを言っていたけれどね』
『逃げずに貫かれた足の確認をしたのも』『目的地が違うなら仕方ないと納得したのも』『不思議な力を持ってる僕を仲間にしなかったのも』
『そんなの全然普通だよ』『予期せぬ事態に巻き込まれた人が陥る範疇から、なにもはみ出していない』『なんにも』『なんにも』『なんにもさ』
『特に普通なのが、僕を仲間にしなかったってヤツだね!』『それこそ普通』『普通も、異常も、特別も、みんな揃って僕なんか仲間にしない。するはずがない』
『そんな物好き、まあ一人くらいしか知らない』『おっと、まあそれはいいとして』『閑話休題』『…………って、わざわざ口に出して言うヤツくらい珍しいってことさ』

 話が見えない。
 あまりにも激しく、話が脱線している気がする。

「そんなことより――」
『そんなことじゃないぜ』

 ようやく振り返って、球磨川はおどけるように手を広げてみせた。
 顔面に張り付いているのはへらへらとした軽薄な笑顔ではなく、こちらを射抜くような酷薄な笑顔。

『そんなことじゃあない』『そんなこと、じゃあないんだぜ』
『僕がずっとおかしいって言ってるのは、他のことを【そんなこと】に追いやるくらい、君がどうしてもある場所に行きたがっていることのほうさ』
『だいたいなんだい、PENTAGONって?』『四次元殺法コンビになら会いたいけど』『地図を見たけどただのマンションじゃない』『無理して行くほどのところじゃあない』

『ましてや君にとって――弱みであり弱点なんだったら、なおいっそうこだわる理由がわからない』

『僕が箱庭総合病院を目指すのは、強い子が来るかもしれないからだけど』『君のほうはわからない』
『あれ? 言ってなかったっけ?』『僕はとても弱い人間だからね』『弱さを知り尽くした人間だからね』
『人の弱みくらい』『人の弱点くらい』『突かれたくない箇所くらい』『ちょっと話していれば、自然にわかるのさ』

 寒い。
 背筋を冷たいものが走り抜ける。
 歯の根が揺れて、奇妙な音を奏でる。
 抗うことができずに、ぶるりと身体が震えた。
 岩に縫い付けられてしまっているせいで確認できないが、おそらく鳥肌が立っていることだろう。

 球磨川の率直な意見があまりにも真っ当に正解で、俺の心を先ほどの螺子のように貫いてしまったから――――ではない。

 断じて違う。
 そうではない。
 完全なる不正解だ。
 あまりに間違えている。
 だったらどうすればいい?
 なにもわかっていないヤツに。
 完全に間違ってしまっているヤツに。
 俺が知っていることをまだ知らないヤツに、俺はどうしたらいい?


509 : たりないふたり ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:51:45 vdnI8mJ.0
 
「教えてやるよ、球磨川」

 俺は知っている。
 俺は――教わっている。

「夜の砂漠はむしろ寒いって、そんな話はよく聞くけどな。
 身体を動かすと当然温まって汗ばんでくるし、その状態で止まってしばらく動かないと今度は汗をかいた分だけ冷えるんだぜ。震えるくらいにな」
『…………?』『上杉くん、そんなことじゃなくて――』
「そんなことじゃない。俺があそこを目指すのはこれが理由だ。これをアイツらに教えてやるんだ」

 球磨川が大げさに首を傾げる。
 しかしその演技がかった所作の寸前、僅かに目を見開いたのを見逃していない。

「知った気になってたことってあるよな。なんにも知らないクセに、情報だけ仕入れてよ。
 アイツらに勉強を教える一方で、俺は知った気になっていたんだってことを教わっていたんだよ」

 実際のところ、なにも考えていなかった。
 アイツらに会ってどうするのかなんて、なにひとつ考えていなかった。

「だから俺はあそこに行く。早く拘束を外せ。
 アイツらは弱みでも弱点でもないし、百歩譲ってこの殺し合いにおいてだけはそうなんだとしても、でも行くんだよ」

 混乱していたのは事実だ。
 死にたくはないし、誰も死んでほしくない。
 殺し合いはしたくないし、誰にも殺されたくはない。
 あのBBとかいう女を止めようにも、どうしたらいいのか皆目見当がつかない。
 運動はできないし、頭がいいと言っても学生レベルに過ぎないし、球磨川のような奇妙な能力も持っていない。
 だとしても――弱いからといって、磔にされる謂れはない。

『…………まいったね』『こうなってくると、計画が変わってくる』
『強い子が来るかもしれない病院よりも』『君みたいなヤツが、全部承知でそれでも動こうとするほうが気になってくるぜ』
『どうしても、ね』『まったく嫌な性分だよ』『……となると、結局こういうことになるのかな』『こう言うことになるのかな』

 球磨川が頷くと同時に、身体を固定していた螺子が消える。

『――――また、勝てなかった』

 へらりと笑う球磨川に、俺は笑い返してやった。


510 : たりないふたり ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:52:44 vdnI8mJ.0



【C-8・砂漠/1日目・黎明】

【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:学ラン、螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:『とりあえず上杉くんについていこうかな』
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。


【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:一花、二乃、三玖、四葉、五月との合流。
2:PENTAGONを目指す。砂漠から出てバイクによる移動計画中。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。


【支給品紹介】

【CBR400R@現実】
上杉風太郎に支給された。
バイク。自動二輪。世界のホンダ。
400ccなので普通二輪免許で乗れる。
たかが400cc、そう思ってないですか?



 ◇ ◇ ◇


「というか、だ。
 お前の弱いヤツを誰も来ないところで動けなくする計画だけどな、アレ、根本的な欠陥があるだろ。
 俺みたいな人間を砂漠に放置して、そのまま朝が来て、それでも誰も来ないまま昼になってみろ。それこそ死んでたぞ。
 誰も来ないところで微動だにしないほうが生き残るなんて、そんな話じゃない。誰も来ないところで微動だにしないまま死ぬとこだったぜ」

『――ほんとだね!』『こいつはびっくりだ!』

「お前なりに思うところはあったんだろうが、やっぱりアレはどう考えても無理がある計画だろうよ」

『そうだね、上杉くん!』『いや、本当に!』『僕は、いま心から驚いているんだ!』『まさかそんな指摘を受けるとは!』

「…………んん? いや、そこまで言うほどのことか?」

『おいおい謙遜するんじゃあねーぜ、上杉くん!』『君くらいしかいないぜ、この僕にこのセリフを言わせるヤツなんて!』『胸を張ってくれよな!』
『いや、本当に!』『言われるのならまだしも言う機会なんて、これまでの僕の人生で一度としてなかったんだ!』『すごいなあ、上杉くんは』『すごい!』『すごいよ!』

「言うってなにをだよ」

『それはね、このセリフだよ』『上杉くん、デリカシーなーーーい』


511 : ◆hqLsjDR84w :2019/05/17(金) 22:53:23 vdnI8mJ.0
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。


512 : ◆Wott.eaRjU :2019/05/18(土) 23:40:41 3gTxhkgg0
投下乙です。
めだかボックス読んでないのが悔やむほど球磨川がいきいきしてる。
PENTAGON行きに持っていく風太郎がすごい

予約していた犬飼幻之助投下します


513 : 求めしもの ◆Wott.eaRjU :2019/05/18(土) 23:42:13 3gTxhkgg0
既に日が落ちた暗闇の中を一つの影が闊歩する。
その影は周囲の景色に溶け込むように漆黒をまとっていた。
オルタナティブ・ゼロと呼ばれる鎧に身を包むものは、かの豊臣家に使える隻腕の武士。
豊臣軍最強と名高い御馬廻七頭七手組の武士、犬養幻之助その者であった。

(……いまだ一人として出会わぬとは)

幻之助にはこの殺し合いで殺生を取り合う用意があった。
だが、幻之助はここに至るまでに自身以外の参加者と接触できずにいた。
死合う覚悟はあれども相手が見つからなければ意味はない。
時間は無限ではなく限りあり。自然と足が急ぐのは幻之助の願いによるもの。
自身がかつて犬として貶め、無惨にも純粋な命を散らした男を救う。
そのためには、たとえ悪鬼に身をついやしてでも歩みを止めるつもりはない。

(タケル……どうか無事でいてくれ)

たった一人で薩摩のぼっけ者達から愛する民達を守り続けていた猛丸。
猛丸はまさに千人に値する戦士であり、彼がそうそう遅れを取るとは思えない。
だが、猛丸とて数で押しつぶされてしまうことはある。
それに付け加えて大阪の陣を凌ぐともいえるほどの異質なこの殺し合いの場では何が起きるかはわからない。
こうしている間にも猛丸の身に危機が迫っているかもしれない。
幻之助の歩みはさらに早くなっていく。

(それにしても、見れば見るほどに奇な)


514 : 求めしもの ◆Wott.eaRjU :2019/05/18(土) 23:43:13 3gTxhkgg0
思うは先ほど、水面に映した自身の姿。
オルタナティブ・ゼロ。一人の大学教授が鏡像の世界を閉じるために造りし鎧。
カードデッキと共に同封された簡素なマニュアルの内容は幻之介にとって理解しがたいものだった。
ただ、オルタナティブ・ゼロが力になることは明白だった。
武器であれば刀と鎧と同じ。自身の手足になるべくただ使えばいい。
オルタナティブ・ゼロの外装を自身の肉体になじませることでいくつか発見があった。
力の使用。すなわち“変身”は永劫行えるわけではなく、何らかの時間的な制約はあるとのこと。
また、変身中は平時に比べて疲労の度合いが大きいということを幻之助は身をもって体感した。
無闇な変身は避けるべきなのだろう。それでも幻ノ助は少しでも自身の力とするためにも、今この時はその姿を変えていた。
その行動にはやはり、彼の焦りが一因となっているに違いない。

(かような力といえども……この腕が戻ることはないか)

うずく。以前、確かに自分の一部があった場所がうずいている。
たとえオルタナティブ・ゼロと呼ばれる異形の力によっても、身を変えたとしても戻ることはない。
隻腕となった武士など最早死に場所を見失った亡霊にしか過ぎない。
戦場に出る事すら叶わず、己の刀を腐らせた者の末路には相応しい。
それでも考えたことはあった。
自分が、御馬廻七頭七手組が戦場に出て入れば何かが変わったのだろうか、と。
たとえば薩摩のぼっけ者達が言うように、真田毛利軍と力を合わせればあるいは。
あの強大な徳川をも打ち破る力をも産めたのだろうか、と。

しかし、それはやはりただの夢物語りに過ぎないことを幻之助は知っている。
自身の主君があの場で、自らの護衛を外してでも自分達を戦場に向かわせることはない。
何故なら主君はかの豊臣の血を受け継ぐものなのだから。
身分に勝るものはなく、幻之助自身もそれが誤っているとは思わない。
誰しもの心に根付く身分の檻。猛丸は、幻之助が知る唯一その心の檻を持たない人間だった。

(ニライカナイ。腕だけでも俺にはすぎたもの)


515 : 求めしもの ◆Wott.eaRjU :2019/05/18(土) 23:44:40 3gTxhkgg0
かつて猛丸が語ったニライカナイ。王も奴婢も等しく命の価値は同じと謳われる国。
まるでおとぎ話にも等しいような話しであっても、幻之助には真実に思えた。
猛丸を今度こそ救い、夢を馳せたニライカナイの景色をその眼に映す。
その隣に肩を並べるのは彼が愛した人間だけが居ればいい。
自分のような、友を狂犬達に売るような人間に資格はないのだから。

「タケル……今度は俺が犬となろうぞ」

視界に通り過ぎるは病院と書かれた施設。
得体のしれない施設に用はない。たとえ籠城を決めた者がいようとも、その行動をとった時点で知れている。
知らぬ内に淘汰されるであろう存在に手間をかける義理もない。
幻之助は狙う。今しがた彼が吐き捨てた犬のように。
猛丸の害となるべき強大なものを斬り捨てるためにも、
幻之助の覚悟はすでに完了し、必要なものは相対だけであった。
たとえかような存在であっても。
相対すれば、彼は力を奮うだけである。

ただ、運命の兄弟のために。




【B-7 病院周辺/1日目・黎明】
【犬養幻之助@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:オルタナティブ・ゼロのカードデッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:タケルを生かす。
1.殺す。
2.タケルの害になるものを効率的に殺す
[備考]
※タケル死亡後、豊臣秀頼たちの前に行く前からの参戦。


516 : ◆Wott.eaRjU :2019/05/18(土) 23:46:20 3gTxhkgg0
投下終了です。
犬養幻之介です。誤字ですみません。


517 : 名無しさん :2019/05/19(日) 22:27:10 suqWZme60

現在の未投下予約、>>1氏がもう期限切れですね…


◆3nT5BAosPA氏 2019/05/19(日) 03:26:38
とがめ、鑢七花、クラゲアマゾン

◆0zvBiGoI0k氏 2019/05/20(月) 22:11:52
冨岡義勇&巌窟王、四宮かぐや

◆FTrPA9Zlak氏 2019/05/22(水) 00:28:56
千翼、中野五月、中野一花、竈門炭治郎、城戸真司、秋山蓮

◆2lsK9hNTNE氏 2019/05/22(水) 19:24:25
永井圭、今之川権三、宮本武蔵(男)

◆ldjkweYF9s氏 2019/05/23(木) 17:34:47
白銀御行、メルトリリス、佐藤、猗窩座、鬼舞辻無惨

◆b4gtoiVfJE氏 2019/05/23(木) 20:08:58
竈門禰豆子、水澤悠、浅倉威


518 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/19(日) 22:36:51 yNizxfbE0
すみません。ちょっと色々あって投下が遅れそうです。企画主として恥ずべき遅刻ですね


519 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:43:34 cVvZ/Ek.0
企画主様お疲れ様です
ではこちらは投下します


520 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:47:02 cVvZ/Ek.0

「―――女の慟哭と悲嘆を存分に聞いた気分はどうだ?」

闇からの声が、行動に出ようとする義勇を呼び止める。


誰かがいた、という事には驚きはない。
ひょこひょこと歩く名も知らぬ少女―――四宮かぐやの前方以外の周囲に人がいないのは既に確認してある。
銃を撃つかぐやを襲った、何者かの存在を念頭に置けば当然の対応だ。
遠ざかる足音も近づく気配もない森で、それでも声は義勇の索敵をすり抜けた。ならば答えはひとつ。
背中という死角に慌ただしく動じることなく、義勇は声のした方を振り向いた。

遠巻きに義勇が聞いていた、憶えのある声。
かぐやを叱咤し立ち上がらせ、同行を許諾した男。
そこにいたのは、義勇が立ち去るまでかぐやと共にいた外套の男―――巌窟王を名乗る復讐者、エドモン・ダンテスに他ならない。

「奇妙なものだな。
 森の木々に隠れ少女を窺う。隙だらけの背から襲うでも近づき交友を誘うでもなくただ覗き見るのみ。
 立ち去ったかと思えば銃声を聞きつけて舞い戻り、また座視に回る。
 影に潜みし騎士の真似か?ならばやめておけ。お前には向いていまい」

義勇の今までの行動を把握されていたと思しき言葉。
太い木の枝―――義勇が瞬間に切り込める間合いより外―――に立つ、西洋式の外套と帽子に身を包んだ青年。

病的なほど白い肌。
闇に炯々と灯る赫眼。
義勇が切り捨ててきた数多の鬼より鬼らしい風体。ともすれば見聞にある外見通りの鬼舞辻無惨であると錯覚しかけてしまうほど。

「……やはり鬼ではないのか」

だが同時に義勇の経験則と直感は、目の前の人物を鬼ではないと判断していた。
かといって完全な人でもない。全身を覆う炎とも雷とも言い難い禍々しさは、人の範疇を逸脱している。

サーヴァント、英霊という概念を義勇は知らない。だが力は知っていた。柱の力。十二鬼月の力。
直接腕を交えずとも、男の力はそれらに劣らぬものを保有してると見抜けた。
あれは道を極めた先、力のひとつの極地に到達してると、知識も概要もないままに理解していた。

「鬼か。東洋でいうデーモンだったか?
 だが――――――クク。鬼ではない、か。違うな、間違ってるぞ」

義勇の呟きを耳聡く聞きとがめた男は訂正した。
愉しそうに。愉快な勘違いだと。


521 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:48:40 cVvZ/Ek.0
「お前が思い浮かべる鬼と俺とは違うのだろう。だが察しの通り俺はとうに人ではない。
 この世の地獄に貶められた男が、人の身のままで脱獄できるはずがない。地獄から這い出るは亡者のみ。
 俺は復讐の鬼だ。この世界にあまねく理不尽と悪意を憎悪するモノ。お前達人間の象徴そのものだとも」

復讐者。悪逆の報いを与えんとする者。
その概念を義勇は理解している。痛いほどに、よくわかる。
鬼殺隊の大半は、鬼の犠牲者だ。
家族を鬼に食われた者。家族を鬼にされた者。
鬼によって奪われ、喪い、傷つき、けれど立ち止まる事なく歩んだ先には必ず鬼殺隊に行き着く。

男の背後に見え隠れする、黒炎の幻覚。血鬼術にも似たそれは報復を完遂するという証なのか。
だがそれは理解したが、それ以外はわからぬままだ。忌み名の巌窟王も、名簿にあるエドモンも知らぬままだ。

「鬼殺隊、冨岡義勇だ」

なのでひとまず、自分から名乗る事にした。
不器用かつ、口下手であると自認する義勇にとって、自己紹介は数少ない交流手段である。
実を結んだ成果は、いまひとつであるが。


「……」
「……」
「……」
「……」
「……クク」


暫し、沈黙。
義勇は語らず、巌窟王も語らず。
義勇と対照的に饒舌なきらいのある復讐者だが、義勇のペースに合わせるには調子が些か狂うものがあった。
とはいえ難解な言葉のわからぬ幼子や、話を無視して拘束しようとしてくる鋼の人ほどではない。

結局は、崩す事なく貫徹するに限る。
この男に接触したそもそもの理由。益のない監視者を罰する事こそが、彼の役割である。


「話を戻すとしよう。お前も見ただろう嘆きの話だ」

前方でゆっくりと歩いているかぐやを横目に見る。
彼我の距離は離れてる。姿は木々に隠れ、声も届きはしない。
だが超人的な速力を誇る巌窟王には、同じく義勇にもすぐに追いつく事ができる。


522 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:50:01 cVvZ/Ek.0

「俺は恩讐を司るものだ。悪逆と不平等に正統なる報復を求める者を肯定する。
 故に、この地で目覚めて初めて会った、あの女の罪の行く末を見届ける」
「罪――――――彼女のか」

この時、初めて義勇は巌窟王を見た。聞き逃がせない言葉に明確な意志を乗せて問うた。

「罪だとも。親しきものを理不尽に奪われながら、愛しきものの為に身を捧げるのをよしとせず、他者に犠牲を強いる事もない。
 愛も生も望むものを全て手にせんとする、紛れもない『傲慢』の罪だ」

開幕式で死した少女を悼み悲しむ。
巻き込まれた大切な人の無事を祈るのを罪悪と、笑みを浮かばせて。

「裁定の時は遠からず訪れるだろう。手に余る願望は己が身を焼くは必定。たとえ万能の願望器があろうともそれは変わらぬ。
 ただ燃える範囲が周囲に伝播するばかりで、本人が救われる事は決してない」

「なら――――――お前は俺の敵になる」

凪いだ心に波紋が起こる。
提げていた鞄が落ち、戦意と共に一本の抜き身の刃が露わになる。
名を無毀なる湖光。星の意志によって生み出された聖剣。
人類史に刻まれしまたとなき名剣であるが、只人である義勇にはその真価は発揮できない。むしろ愛刀と異なる重さは枷になりうる。

だが義勇に退く気はない。
少女の破滅を見越しながら傍観を決める復讐鬼を、このまま返すわけにはいかなかった。
悲劇に見舞われた人が、折れず立ち向かうのを望む義勇だが、手を血に染めて欲しいわけではないのだから。

「何を言う、お前達とてそうだろう。
 鬼殺隊、鬼を殺すものか。名前だけでも分かるぞ。俺には分かるのだ。
 お前達が刻まれた罪業を。奪った者への狂おしき激情の念を」

奥底を見通すような鋭い眼光は的を射ている。
鬼殺隊の中で、鬼に激しい憎しみを持つ者は稀有ではない。
鬼と戦っていけば、誰であれ大なり小なり鬼の所業に憤る。
悪鬼滅殺を掲げ、この世から鬼が消えてなくなるまで、鬼舞辻無惨を討つ日まで戦い続ける。
だから鬼殺隊という枠組みは、確かに復讐者という呼び名をかけるのも間違ってはいないのだろう。


523 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:52:33 cVvZ/Ek.0


「……俺は彼らとは違う」

常に穏やかな笑顔の表情を張り付かせていながら、姉を惨殺された鬼への激情を内に滾らせる胡蝶とは違う。
家族を殺され、妹を鬼に変えられながら、鬼に残った人の部分に慈悲を与えて鬼を討つ炭治郎とは違う。

鬼を許せぬ気持ちは無論ある。
けれどそれを猛々しく露わにする事も、堂々と宣言する資格も、義勇にはない。
運命の最終選別。抱いていたはずの憎しみを鬼に叩きつける事すらできず鬼殺の剣士になった義勇には。

だから義勇は此処にいる。
『柱』に相応しくないと認めながら、『柱』を降りずに戦っている。
本来その座を担うはずだった男が救っていただろう命を、少しでも掬おうと。

「鬼を斬り、人を守る。それが鬼殺隊の、俺の役目だ」

鬼への憎悪ではない。人々の安寧を鬼に奪わせない為に、冨岡義勇は刃を握るのだ。


「――――――――フ。
 見物両代わりには上々といえるか」

僅かに、険の取れた声。
いつの間にか悪意の波動のようなものは露と消えていた。

「安心しろ。俺は彼女にとっての、かの人を貶めたる三賢人になる気はない。
 同じ復讐者に堕ちるならいざ知らず、あらゆる救いを断たれたこのバトルロワイアルに於いて、しかして希望し、生還を真に望むのならば―――」

導かれなければならないのだ。

風に乗って消える淡い音は、確かにそう口にしていた。

……どうやら、試されたのは此方の方だったらしい。
はじめから、義勇の本音を引き出すのを目的に接触を図ったのだろう。まんまと芝居に付き合わされたらしい。
不器用な男だ。自分を棚に置いて義勇はそう思った。

疑念は、とりあえずは晴れた。
不穏な面はあるが、この男は彼女を貶めるような真似はしまい。安心して任せてられる。


524 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:53:38 cVvZ/Ek.0

「竈門炭治郎、竈門禰豆子、吾妻善逸、煉獄杏寿郎、胡蝶しのぶ」

名を連ねて伝える鬼狩りの面々。
後に贈れるものは情報だ。必ずやこの催しに抵抗する者達。心身共に鍛えられた鬼滅の刃。

「彼女と話す機会があれば伝えろ。力になるはずだ」
「お前自身が出向けば済む話ではないのか?」
「夜が明ければ、俺は離れる」

鬼は陽の光を浴びれば即座に燃え尽きる。
逆に言えば夜は完全な鬼の領域だ。雑魚鬼や『下弦』までならともかく、『上弦』の領域は抑えるもののない暴威と化す。
最低でも一体、その上弦がここにはいる。それ知るからこそ義勇はかぐやの後を追っていた。
夜明けを迎える、最低でも森を抜けるまでは離れるわけにはいかなかった。
なら顔を見せてかぐやにそう言えばいいものなのだが、それをしないのが義勇という男の厄介な性分だった。

だがその懸念も消えた。任せられる護衛がいる以上いつまでも留まる事はない。
そうして義勇は再び踵を返す。結局、一度もかぐやに顔を見せる事なく去り行く。



「そうか。
 しかし、夜はお前を待ってはくれないようだぞ?」


その、直前。
数度の叫びが、夜の静寂を震わせた。


『――――――――!――――――――!」


耳を澄まし出処を探す。
距離は近くはない。地図で区切られた区間でいえばふたつほど離れてるだろう。
肉声とは違う、何かの機械で増幅されたような加工された音響。
鍛えられた聴覚には叫びの内容はともかく、性別の違いと、どのような色を帯びているかぐらいは判別がつく。
まして、先行して既に森の遮りを抜けている少女には。


「さあ、第二の試練の始まりだ。四宮かぐや。傲慢を抱く罪人よ。
 お前は知らねばならない。此処が如何様な地獄であるか。
 お前は選ばねばならない。無数に枝分かれした選択肢を。
 そしてお前は――――――その時いったい、どうする?」







 ◆


525 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:54:41 cVvZ/Ek.0




―――さっきから、誰かに見られているような気がする……。


ひたすら歩き始めて幾分か。
目を覚まして以来、かぐやの胸中にはそんな不安がずっと渦巻いていた。

当然、かぐや以外には誰もいない。
立ち止まっても、咄嗟に振り向いてみても、あるのはかぐやが通ってきた道の暗闇だけだ。
何もないが、『出て』来そうな雰囲気はある。そんな感じだった。

夜の闇、葉の擦れ合い、枝の揺れに人は幽霊を見出したという。
科学が進歩してない時代にありがちな悲しい勘違いだ。現代人であるかぐやはそんな哀れな妄想には振り回されない。
……けど殺し合いという今の状況を思うと、ちょっと自信がなくなる。
先に死んだ藤原千花の幽霊が自分に会いに来たのでは、なんて考えも浮かんでしまいそうになる。
煩悩の塊みたいな子だ、さぞかし未練は残っていただろう。
その一部に自分も含まれていたら……だなんて思いたくもなるのだ。

巌窟王とかいう妄想(仮)も、幾ら呼べども出てこない。
妄想なら自分の都合のいいように出てきてもいいようなものなのだけど、妄想も上手くはいかないらしい。自分の知性の高さが少し恨めしい。
いないものはいないでしょうがない。縋りつくようになったらそれこそ取り返しがつかない。


―――とりあえず森を出よう。


木ばっかりな場所だからこんなに気になってしまうのだ。街に出れば少しは気も和らぐだろう。
森なんて地区、隠れるならまだしも他の参加者がそうそう寄って来る場所ではない。
正しい文明人であれば、街の光にこそ安心感を抱く。生徒会の皆だって、そう思ってるはずだ。

慣れない森林に足と気力を取られながらも、漸くかぐやは森を抜けた。
土と葉の香りが薄らぎ、コンクリートで敷かれた道路がやけに新鮮に感じる。
とりあえず手近な電柱の下の腰かけに座り、デイバッグから出した地図を広げる。

地図上での位置ではかぐやがいるのはC-6。
本当は南のD-7に生きたかったのだが、やはり森の中で方位を狂わせられてしまったのが痛い。
会長なら星を見て方角を割り出せたのかしら……と、思いを馳せらせたところで我に返って地図に視線を戻す。
近場にある施設では美術館があるが、かぐやが目指す場所はそこではない。

秀知院学園。かぐやと、白銀御行と石上優も在籍する学園。
真っ先に二人が目指す目星がつく施設。何か事情があって後回しにするとしても、合流できる可能性が最も高いのはここしかない。


―――少し休んで……それから行こう。


今すぐにでも向かいたいところだが、今まであった出来事で心身の疲労は溜まっていた。
同時に、会長達に会いたい焦りも大きくなってくる。居場所もわからず闇雲に探し回る愚を犯したくないからこそセーブが効いていた。
せめて息が整うまではここにいよう。そう妥協して深呼吸して流行る気を落ち着ける。


526 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:55:47 cVvZ/Ek.0





『――――――――!――――――――!」





「え?」

そうして、かぐやはその音を聞いた。
拡声器でも使った、加工された大音響。
距離は少し離れてる。地図でいうならおおよそ2ブロックほどだろうか。
ノイズが走ってるのもあって、言葉の内容はよく聞き取れない。なにか叫んでるのまではわかるがかえってそれで聞こえにくくなってる。

他の人が聞いても、ただの雑音にしか聞こえなかっただろう。
他の人の声だったら、聞こえても理解できなかっただろう。

なのにかぐやは、その声を聞き取れた。
精確に、一言一句違わずに内容を理解できた。
なぜなら、



「――――――石上君?」



それはかぐやがよく知っている、聞き慣れた後輩の声だったから。


527 : 見守る柱、見届ける鬼 ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:56:52 cVvZ/Ek.0
【C-7/1日目・黎明】

【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、無毀なる湖光、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
1:…………。
2:少女に声をかけるか否か。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。
※かぐやにすぐに駆けつけられる距離から見つめています。

【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1:巌窟王として行動する
2:何のかんの言いつつ、かぐやに陰ながら同行し、そのピンチには駆けつける(?)
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます
※かぐやにすぐに駆けつけられる距離から見つめています。


【C-6/1日目・黎明】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:疲れ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:私はスキを諦めない
1:今の声―――石上君?
2:会長たちと合流したい
3:あの巌窟王……って人、私の妄想では……?
4:なんだか銃の使い方がわかった気がする
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます


【無毀なる湖光@Fate/Grand Order】
アロンダイト。
冨岡義勇に支給。円卓の騎士、ランスロット卿の愛剣である神造兵装。
決して刃毀れせず、険を抜いた間に全ての能力を上昇させ、ST判定において成功率が2倍になる。
……が、魔力を持たない義勇さんがこの能力を発揮できるかは怪しい。
さらに本来なら光の斬撃として飛ばす魔力を、斬りつけた相手の傷から解放する裏技も存在するが、魔力なんか持たない義勇さんには使用できない。

竜退治の逸話を持つため、竜属性を持つ相手に対して追加ダメージを負わせる。
こっちは使い手が義勇さんでも大丈夫。


528 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/19(日) 22:57:41 cVvZ/Ek.0
投下を終了します


529 : 名無しさん :2019/05/19(日) 23:27:57 jY6mK/jE0
投下乙です!短文ですが感想をば。

>たりないふたり
球磨川の長い台詞を『』で区切る表現、漫画のフキダシみたいで面白いと思いました。
風太郎の「アイツらは弱みでも弱点でもないし、百歩譲ってこの殺し合いにおいてだけはそうなんだとしても、でも行くんだよ」が好きです。

>求めしもの
どんどん覚悟を強めていく幻之介。淡々とした文章が、単純な強さを感じさせます。
原作では隻腕ということを感じさせない強さでしたが、今作ではいつ発揮されることやら。

>見守る柱、見届ける鬼
巌窟王の「―――女の慟哭と悲嘆を存分に聞いた気分はどうだ?」という台詞、めちゃくちゃ訳知り顔で言ってそうで面白いです。
石上の最期の声を聞いてしまったかぐや様、向かうのか否か…。


530 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:49:28 g6vDp2QA0
投下します


531 : 時すでに始まりを刻む ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:50:28 g6vDp2QA0
 鑢七花ととがめのふたり、あるいは、ひとりの人間と一本の刀は、自分たちに支給されたアイテムの確認をしていた。
 彼らの戦いに武器は必要ない。虚刀流の使い手である七花に刀を振るう才は無いし、肉体ではなく頭を使った奇策を得意とするとがめも、武器の扱いに長けているとは言い難いからだ。たとえ彼らにどれだけチートじみた性能の武器が支給されていたとしても、無用の長物である。確認するだけ時間の無駄かもしれない。
 しかしながら、その場にあるものを十全に活用してこその奇策だ。もしかすれば、武器ではなく、この島からの脱出に役立つアイテムが入っているかもしれない。
 そういうわけで、とがめたちが次にとる行動に『自分たちに渡された支給品を確認しない』という選択肢はなかった。
 
「なあ、とがめ。見てみろよ」

 そう言いながら七花が取り出したのは、一本の刀だった。
 鉄ではなく、木でできた刀である。

「おれに刀を支給するどころか、真剣ですらない木刀を渡すなんて、びぃびぃは性格が悪いやつだよな。戦わせる気があるのか知れないぜ」
「それを言うなら、こんな催しを開いている時点で、あやつの性格は最悪だろう」

 言って、とがめは七花から木刀を受け取った。
 いくら普通の木刀に見えるとはいえ、忍法以上に摩訶不思議な術を見せてきた女から支給された物品である。何か特殊な細工が施されているかもしれない。そんな可能性を考慮して、とがめは受け取った木刀をまじまじと見つめた。

「うーむ、普通の木刀だな。強いて特徴を挙げるなら、綺麗な木刀だ。握るだけで心が洗われて清くなる……そんな感覚があるくらいには綺麗な木刀だ」
「だったら、そのままとがめが持ち続けていたらどうだ? 握ってそんな感想が出てくるような刀は、こんな息が詰まりそうな状況じゃ結構便利な道具に思えるぜ」
「ちぇりお!」

 海外で別れの際に用いられる言葉を叫びながら、とがめは木刀を握っていない方の手で、七花の腹を叩いた。

「わたしを誰だと思っている! 奇策士だぞ! 奇策士とがめだ! 相手の考えの裏をかき、企みならぬ悪巧みを趣味とするわたしが、握るだけで聖人君子のような気分になってしまう刀を握り続けたら、奇策士の看板を下すことになってしまうではないか! キャラ崩壊も甚だしいわ!」

 とがめは握っていた木刀を投げ捨てた。湧きあがりそうになっていた清廉潔白な心とまとめて捨て去るような動作だった。

「それにしても、握るだけで心が洗われるほどに綺麗な木刀か。それも中々に不思議な刀だよな。もしかして四季崎記紀の変体刀なんじゃないか?」
「刀の形をしている分、お主が先ほど見たという火と弾が飛び出る武器よりはそれっぽいかもしれぬ……だが考えてみろ七花。かの刀鍛冶四季崎記紀が作りし変体刀は、一本あるだけで戦況を左右してきたほどに凄まじい力を持っている刀なのだぞ? この『ばとるろわいある』で言えば、持っているだけで優勝がほぼ確実になるくらいの性能だ──それほどまでの力が、持ち主が清らかな気分になる程度の性能しかない刀にあると思えるか? しかも、刀は刀でも木刀だぞ?」
「うーん……そう言われると違う気がしてきた」

 納得する七花。
ちなみに、彼がその木刀──『王刀・鋸』を四季崎記紀の変体刀だと思ったのは、それが持つ不思議な性質は勿論のこと、七花が有する変体刀への共感覚が理由だったのだが、未だ刀として『未完成』の状態である彼が、とがめの弁舌を前にその感覚を確信するのは難しかった。
 以上のような会話を経て、木刀はその場に置いて行かれることになった。握るどころか、鞄に入れて携行することすら避ける徹底ぶりである。奇策士は己の悪辣さを守るのに必死なようだ。
持てば清らかな気分になるとはいえ木刀は木刀なので、他の参加者に拾われることが無いよう破壊しておこうかと思った七花だが、その必要はないととがめは言った。

「なにせ、持ち主から戦闘意欲のような邪な感情を奪ってしまいそうなほどに清い刀だ、他の参加者が拾ったところで、わたしらに害はなかろう。むしろ、破壊の為にお主がそれに触れてしまう方を避けたい」

 清らかさで己の刀の切れ味が落ちる可能性を危惧している辺り、先ほど王刀に触れたばかりとはいえ、とがめの奇策士としての頭脳の切れは落ちていないようである。
 十数分後、ふたりの支給品の確認は終わった。


532 : 時すでに始まりを刻む ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:51:32 g6vDp2QA0
「でさ、とがめ、これからどこに向かうんだ? 島からの脱出が目的なんだから、やっぱ海がある方か?」
「そうしたいところだが、この首輪がある限り脱出はできん。島から離れれば爆発するらしいからな」

 いかなる理屈の絡繰を用いればそのような機能が付属している首輪を作れるのか、とがめにはさっぱり分からないが、ここは『るーるぶっく』に書かれていることを信じた方が賢明だろう。ルールを疑って破った結果、頭と胴体が泣き別れになれば、笑いごとでは済まされない。

「だからまずは、島を回って他の参加者と接触し、情報を集めようと思う。さきほどの少女にしようとしたのと、似たようなことだな。殺し合いに乗り気ではない、あるいは話が通じる相手であれば、わたしが交渉しよう。逆に、そうでない相手がいれば……」
「おれの出番ってわけだな」

 頭脳担当と荒事担当。バトルロワイアルが始まってまだ数時間しか経ってないとは思えないほどに、役割分担がはっきりしているコンビが、ここにあった。
 次に、とがめは地図を再び広げた。片手に持ったランタンで、それを照らす。紙上に描かれた島の全体像の中には、点在している施設の名前が書かれていた。その中でも特にとがめの関心を引く施設がひとつあった。
 その名も尾張城──尾張幕府の将軍の住処であるはずの城は、しかし、なぜかこの島にもあった。
 まあ、BBは刀集めの最中であったとがめたちを呼び寄せられたのだ、動かぬ城ひとつを動かせても、おかしくは無い。
 己にとっての仇が住まう場所と同名の施設があることを知り、とがめは心中で薄く笑った。いつかその頂点まで上りつめてやると思っていた城が、こんな場所にあることに数奇な運命を感じたからである。
 そのような運命的な繋がりがなくとも、分からないことだらけの島に、自分が知っている施設があるというのはありがたい。
出来ることなら、七花を連れて向かいたいところだ──しかし。
遠い。
遠すぎる。
周囲の地形を地図と照らし合わせて見てみると、現在とがめたちがいるのは、那田蜘蛛山を挟んで尾張城真逆に位置する場所だった。知っているからという理由だけで向かうには、厳しい位置関係である。
とりあえずは近くの、出来るだけ人が集まりそうな施設に向かうべきか?
 とがめが目的地について考えを巡らせた──その時である。
 ふっ、とランタンの灯りが消えた。
 油が切れたのかと思ったが、そうではない。見てみると、ランタンに大きな空洞がぽっかりと開いていた。これではいくら油を足したところで灯りは点かないだろう。
 唐突に発生した異常事態に、とがめは周囲への警戒を強める──しかし、遅かった。
 ざくっ。
 ざくっ。
彼女の体に、何かを貫く音と衝撃が響いた──腹部からだ。
目を向けると、そこには穴が二つ開いていた。

「……え?」

 腹を貫いていたのは、海月のような触手だった。
目と腹の距離でなければ気づけないくらいに、透明度の高い触手である。
 触手が引き抜かれると同時に、空いた穴から血が零れ、とがめは膝を崩して倒れた。
 奇しくもその傷は、彼女がこの殺し合いに招かれることなく旅を続けていた場合の、数か月後の未来で負うことになる銃創と、似た位置にあった。

「と──とがめ!」
 
 絶叫をあげる七花。
その近くでは、透明な襲撃者──クラゲアマゾンが漂っていた。

■   ■


533 : 時すでに始まりを刻む ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:52:22 g6vDp2QA0
 七花はとがめの元まで駆け寄り、しゃがみ込んだ。とがめの傷口からは、彼女の白い髪とは真逆の色をしている血が、どくどくと溢れている。
 
「急に、いったい何が──」

 前方から何かがやって来た気配を感じた七花は、顔を上げた。
 そこには何もいない。宵闇と木々以外何も見えない──普通の人間には、そう見えるだろう。
 しかし、七花は違う。
 つい先日、刀身が透けている薄刀と戦った経験があり、透明なものに目が多少慣れている七花は、辛うじてそれを認識することができた。
 輪郭がぼやけた状態で浮かび上がっているそれは、人間と海月を足して二で割ったような姿をしている。
 透明な襲撃者から、風を切る音がした。奇策士の体に風穴を開けたのと同じ、触手の刺突である。
 このままでは七花ととがめは、ふたりまとめて串刺しだ。

「虚刀流──『女郎花』!」

 七花は眼前に迫りつつあった数本の触手目掛けて腕を振った。
 女郎花──虚刀流の返し技であり、折った刀を相手に返す技。
 七花はその応用として、触手を折り、逆にクラゲアマゾンに刺そうとしたのだ。これがもし人間として成長し、刀として完成した時系列の彼であったら、こうはならなかっただろう。とがめが晒している惨状にひどく狼狽し、動くことさえできなかったはずだ。
 派手な音を立てて折れた触手は、進行方向を七花からクラゲアマゾンへと変更し、殺到する。
 しかし、それらがクラゲアマゾンの体を串刺しにすることは無かった。体表面に触れる寸前に、見えない障壁に阻まれたかのように弾かれたからである。
 硬い──透明な体の、さらにその上から透明な鎧でも着ているのだろうか?
 そんな推察をしつつ、触手を折ったことで生じた僅かな隙間を利用してクラゲアマゾンの懐に這入り込んだ七花は、構えを取った。
 虚刀流四の構え『朝顔』。
 足を横に並べ、拳をつくった上半身を思いっきりねじ切った形にする構え。
 それから繰り出される技は──

「虚刀流──『柳緑花紅』!」

 柳緑花紅──相手の防御や妨害を無視し、好きな位置に衝撃を与えられる、鎧通しの技だ。
当然、透明な障壁であっても貫通する。
 虚刀流が奥義のひとつの直撃をモロに受けたクラゲアマゾンの体は、くの字に折れ曲がり、後方に吹っ飛んでいった。木々が吹き飛ばされる音と共に、その神々しい姿は暗闇の中へと小さくなっていく──かなりのダメージを与えられたはずだ。死んだ、とは断言しがたいが、あれでは暫く起き上がれまい。


534 : 時すでに始まりを刻む ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:52:47 g6vDp2QA0
そう確信した七花が次にとった行動は、とがめを背負い、その場から撤退することだった。
 
「とがめ! おい!」

負傷したとがめが耐えられる範囲で最高の速度で走りながら、七花は叫んだ。
 
「とがめ!」
「そう騒がずとも聞こえておるよ。……それにしても、透明な体躯をした異形とは、随分と常識から外れた存在がいたものだな。まにわににすらあんな芸当が可能な忍者はいなかった気がするぞ──わたしたちとは住む世界が違っているようにしか思えん」

 腹に穴が二つ開いているとは思えないほどに冷静な口調で、とがめは言った。

「まさか殺し合いが始まって数刻で死ぬことになるとはな。この傷は手遅れだ……と言いたくなるが、この島には怪我や病を治すための施設があるらしい。地図に付属されていた説明書きに、そう書かれていた。ここに来てから訳の分からないものを見てばかりなのだから、もしかすれば、そこにこの傷を治せるだけの物があるかもしれぬ」
「だったらそこに行けば……!」
「幸いにも、わたしたちがいる場所からそう遠くないところにあるらしい。行くだけの価値はあるな」
 
 とがめが指した、『箱庭総合病院』がある方角は、幸いにも、先ほどクラゲアマゾンが吹っ飛んでいった方角とは重なっていなかった。
 確定した目的地へと、七花は進行方向を修正する。

「ああ、それにしても──」

 透明な襲撃者に腹を貫かれたことで決めかねていた目的地が定まるとは、何とも皮肉な話だな──と。
 その思考を最後に、とがめは気絶した。
 腹の内で暴れまわる激痛に、ついに意識が耐えられなくなったのである。
 閉じ行く彼女の視界には、愛する女の為に必死で走る男の背中が映っていた。
 ──彼女が、己の体で起きた、『腹の風穴が人間の治癒力を超えた速度で回復している』という異常事態に気づくのは、まだ先の話である。


535 : 時すでに始まりを刻む ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:53:14 g6vDp2QA0
【C-7/1日目・黎明】
【鑢七花@刀語】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済)
[思考・状況]
基本方針:とがめに従う
1:とがめに従う
2:とがめの傷を治す
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前

【とがめ@刀語】
[状態]:気絶。重傷→回復中。溶原性細胞感染。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3 (確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんとしてでも生き残る
1:七花を、その他すべてを利用してでも生き残る
2:───。
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前
※クラゲアマゾンの触手が折れた際にまき散らされた体液が傷口に付着したことで溶原性細胞に感染しました。覚醒まで時間がかかると思います。

王刀・鋸@刀語
人を正し、心を正す、精神的王道を歩ます、教導的な解毒の刀。
毒気のなさに主眼を置いた刀。武器としてはただの木刀である。C-7のどこかに置き去りにされている。


536 : 時すでに始まりを刻む ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:53:43 g6vDp2QA0
■   ■

 体の内部に甚大なダメージを受けたはずのクラゲアマゾンは、何事もなかったかのように起き上がっていた。
 オリジナルとして並外れた回復力を持っている彼女に、この程度のダメージは意味を為さない。それこそ八つ裂きにでもしなければ、滅殺することは不可能だろう。
 クラゲアマゾンは移動を再開する。
 ゆらりゆらりと。
 空間を漂うように。
 何かに引き寄せられるように。
 彼女はどこかへと向かっていく。
 余人が見ても、その意図は分からないだろう。本人(人?)だって、分かっていないかもしれない。
 ただひとつだけ確実に、はっきりと、断言できることがあるとすれば、それは。
彼女が撒いた悲劇の種は、ゆっくりと芽吹きつつある──それだけだった。

【クラゲアマゾン@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(大)→回復済
[道具]:無し
[思考・状況]
基本方針:――千■、■
1:邪魔する者は攻撃する。
[備考]
※九話より参戦です。


537 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/20(月) 01:54:32 g6vDp2QA0
投下終了です。遅れちゃってすみません。溜まってる感想も近いうちに投げられたらいいですね。


538 : 名無しさん :2019/05/20(月) 10:36:50 vTAwQvEY0
投下乙です
頑張ってる七花を応援したい
でもとがめがアマゾンになったら
意味ねーんじゃねーか


539 : ◆b4gtoiVfJE :2019/05/20(月) 20:12:04 UlHHurHg0
申し訳ありません、支給品がかぶったので>>502の予約を破棄します


540 : 名無しさん :2019/05/20(月) 20:20:06 9UNiRxtM0
バーサーカーとセイバーで一本ずつ用意できるのでは……?


541 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:12:54 Ql2/ixmY0
投下します


542 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:14:06 Ql2/ixmY0
それは一花と炭治郎がマンション・PENTAGONを出る少し前のこと。

「一花さん、何をしてるんですか?」
「あーうん、ちょっとね、他のみんなが来た時のために、念の為、ね」

PENTAGONのロビーにて、一花が何かを書いた紙を貼り付けている。

見ると「長女」という文字と今の時間を書いている。
その横にはbと楷書体で文字を書いたりしている。

「この文字は?」
「何かこれ、私だって言っても信じてもらえないかもしれないなーって。
 そういえば勉強してた時に私の文字にこう書くクセがあるって風太郎君に言われたから、一応自分だって証明にならないかなって」

もしかしたらこの場所に他の姉妹も来るかもしれない。
この時間に自分達はここにいたという痕跡を残しておくくらいはしておいた方がいいだろうと考えてのことらしい。


「よし、これで大丈夫」
「それにしても、姉妹で五つ子ってすごいと思いますよ」
「うん、まあ、みんな驚くよ。珍しいって。
 私が一番上だけど、同じ日に生まれるとそんなに気にしないから」
「早く、見つけてあげないといけませんね」
「炭治郎くんは、禰豆子ちゃんだっけ。妹がいるんだよね?」
「ええ、はい。たった一人の、大切な妹です」

その言葉を言った炭治郎の瞳が少し遠くを見ているような気がした。
少し訳ありだったのかなと迂闊に触れたことを反省する一花。

「どんな方たちなんですか。その妹さん達って」

そんな一花の心中を他所に、会話は進む。

「私達五人って、同じ顔をしてるんだけどね。
 最近は結構髪型変えたりしてるけど、ちょっと前は髪型も好みもおんなじで、見間違えられてばっかりだったし」

ちょっと心の中に感じた罪悪感から、少し口が回ってしまっていた。
ただまあ、目の前の少年は悪い子ではないだろうし大丈夫だろう。

「だいぶ好みも変わってきたかなぁなんて思ってたら、好きな男の子の好みとか最近被ってたりしてさ。
 血は争えないっていうか、ねぇ」
「あははは。仲がいいんですね、一花さん達姉妹は」
「うん」

「みんな、大事な家族だよ」





543 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:14:45 Ql2/ixmY0


振り下ろされた刃を、慌てて横に転がって避ける五月。

地面を斬りつけたアマゾンネオの刃は、コンクリート製の地面に深々と突き刺さっていた。

(千翼君……本気で…)

納得もできていない。
言いたいこともいっぱいあった。

目を覚まさせたい、そんな気持ちは心の中に燻っている。

だけど、今の自分にはできない。
言葉が届く前に、殺される。

五月は、アマゾンネオが刃を引き抜くまでの間を見てアマゾンネオに背を向け一気に走り出した。

空腹であることも忘れ、おそらくこれまでの人生になかったくらいの力を足に込めて。

アマゾンネオはそんな五月を追う。
アマゾン生命体とただの人間、それも運動はそう得意でない者の脚力。
全力で走っていてもその差は歴然であり、刻一刻と距離が詰められている。


全力で走り続けたことで足がもつれて転がってしまう。

振り返ったところで、すぐ目の前で手の剣を振りかざすアマゾンネオの姿。

「千翼君っ!!」

名前を呼びかけるが止まる気配はない。
思わず目を閉じた。


キィン


544 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:15:07 Ql2/ixmY0

振り下ろされた剣が体に触れると思った瞬間に、金属音が響いた。
まるで剣と剣がぶつかり合うかのような。

目を開ける。
闇夜の月光の下で、一人の少年が立っていた。

黒い詰襟を着て、黒と緑の市松文様の上着を羽織っている。
その手には黒い刀が携えられており、アマゾンネオの刃を受け止めている。

「大丈夫ですか?!」
「俺は竈門炭治郎!向こうに中野一花さんが居ます!早く逃げてください!」
「…!一花が…!」
「俺は大丈夫だから!早く!!」

その刀を構えた小さな体が、先程まで共に行動していた少年の姿と被って。
同時にその名前が、彼が語っていた仲間のものだと気付く。

だが、今の五月には説明することができない。それに説明している場合でもない。

立ち上がった五月は、炭治郎が示した方に向けて走り出した。



五月が遠ざかったのを見て、剣を弾く炭治郎。
残ったその場所で二人は睨み合った。

(不思議な匂いだ、鬼じゃないけど、人間でもない。
 血の匂いはするけど、鬼のように彼が殺したって感じでもなさそうだ)

相手の動きを伺いつつ、目の前の相手から感じる匂いを分析する炭治郎。

(それに、この匂いは…)
「炭治郎…、善逸の仲間か」
「善逸…!やっぱりあいつが。今どこにいるんだ?!」
「あいつは、死んだよ」
「…っ!」

その言葉に動揺する炭治郎。
そこへ隙をつくかのように一気に距離を詰めるアマゾンネオ。

思考より先に体が動き、突き付けられた剣を受ける。

善逸は死んだのか。君は何者なのか。
聞きたいことはたくさんあった。だが、この相手の放つ殺意はこれ以上の会話を拒絶している。

(やらないと…、今この後ろには、一花さん達が…!!)

思考を引き締め、炭治郎は刀を振るった。





545 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:15:28 Ql2/ixmY0

「炭治郎君、どうしたんだろう…?」

PENTAGONを出て少し歩いた辺りで一人佇んでいる一花。

今から数分前のこと。
隣を歩いていた炭治郎の顔が突如険しくなった。

「炭治郎君?」
「一花さん、刀を渡してください」
「えっ、どうして?」
「誰かが近づいています。
 一人は、一花さんの部屋に住んでいた、たぶん妹さんの誰かです。
 それともう一人。人間じゃない何かがその人に近付いています」
「ちょっと待って、どうしてそんなことが分かるの―――」
「早く!これ以上は危険だ!」

言ってることが突然すぎて信じられなかったが、鬼気迫る表情が嘘を言っているようにも見えなかった。
バッグから出した刀を渡すと、目にも留まらぬ速さで走り出した。
四葉よりも遥かに速そうだと感じるほどの速度で。

「もし妹さんと合流したら来た道を戻って、さっきの建物まで引き返してください!」

一瞬振り向いてそう叫び、炭治郎の姿が見えなくなった。

困惑し続ける一花の元に、やがて一つの影が見えてくる。

長い髪に星型の髪留めをつけているその少女は。

「五月ちゃん!?」
「い、一花…」

息を切らせながら走る五月に駆け寄り、その体を抱きとめる一花。

「どうしたの、大丈夫?!」
「はぁ、はぁ……、千翼くんが、炭治郎くんで、善逸くんが…」
「よし、まず落ち着こう!そうだ、これ」

言っていることが途切れ途切れで容量を得ない。
と、一花のバッグから差し出されたパンの包み。食料品として入っていたものだ。

それを見た五月は、ひったくるように袋を奪い、開いてガツガツと貪った。
10秒後、空になった袋を一花に渡しながら、焦る気持ちはそのままに口を開く。

「ち、千翼君が私を殺すって襲いかかってきて…、そしたら、炭治郎君が来て…」
「そっか…。怖かったよね…」

背中をトントンと叩き落ち着くように宥める一花。

「違うんです…、千翼君は殺人鬼とかじゃなくて、好きな人が死んで、悲しんでて、だから生き返らせるためにって…」
「その、まずPENTAGONに一旦戻ろ。そこならたぶん落ち着くだろうし、話はそこで聞くから」

少なくとも来た道を戻るのであればまだ危険な可能性は低いだろう。

震える体を支えながら、一花は来た道を引き返し始めた。





546 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:15:52 Ql2/ixmY0

「なあ蓮、PENTAGONってどういう意味だっけ」
「確かアメリカの国防省のことだったとかな気がするな。
 あとは意味だけなら五角形だ。それぐらいは知っておけ、記者だろ」
「ちげーよ!それくらい知ってるよ!
 ただ何か特徴的な名前なのにこうやって来てみたら、ただのでっかいマンションだからさ」
「マンションの名前ならそんな深い意味はないんだろ」
「そっかー」

などという会話をしながら、PENTAGONにやってきた真司と蓮。

最初の場所から近い位置にあった施設はふれあい動物パークとPENTAGON。
そのうち名前だけだとその実態がつかみにくいPENTAGONへと進路を取っていた。

入ったマンションのロビーは大理石で作られた広い空間。

「うわ、広っ。ホテルみたいだな。
 やっぱこういうところに住むのも憧れるよなぁ」
「言ってる場合か」

無論、軽口を叩きながらも真司も周囲に気を配っている。
誰かがいる気配はない。

「これやっぱ上に上がらないと分かんないんじゃないかって思うんだけどな」
「さっき外から見たが、俺が見た限りだと部屋の明かりは見えなかったぞ」
「でも夜だし、寝てるってこともあるんじゃないの?」
「こんな場所に連れてこられてか?」
「…だよなぁ」

ここに人はいないと見た二人は、PENTAGONを出て別の場所に移動しようと歩を進めようとして。

その時、外からこのマンションに向けて歩を進めてくる者の存在に気が付いた。

「誰かくるぞ蓮」
「しっ、静かにしろ。安全なやつだとは限らないだろ」

声を潜めてマンションの植え込み付近に身を隠す真司と蓮。
迫る気配が視界に入る位置まで迫った。

少女が二人。
息を切らせて服に泥をつけた髪の長い子を、もう一方の短めの髪の子が支えながら早足気味に歩いている。

蓮から見ても周囲に気を配っている様子もない。自分達のことで精一杯という風に見える。
少なくともライダーのような存在には見えなかった。

そう冷静に分析する蓮の横で、真司は二人を見た瞬間、飛び出していた。

「二人共、大丈夫!?」
(そうだな、こいつはそういうやつだったな…)

いろいろ考えて警戒していた自分が馬鹿らしく感じるほどバカ正直に走り寄っていく真司に続いて後を追う蓮。


突如現れた男に驚く少女二人。
怯えの表情も見え、やはり戦いに慣れた存在にも見えない。
おそらくこのゲームに巻き込まれたただの一般人だろうと見て、蓮は警戒を解いた。

「あ、大丈夫大丈夫。俺たちは君たちの味方だから。
 ほら、別に危ないものなんて持ってないし」
「ほ、本当ですか…?」


547 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:16:19 Ql2/ixmY0

安心するように座り込む髪の長い方の少女。

「俺は城戸真司、こっちは秋山蓮。
 何があったんだ。もしかして誰かに襲われて?」
「その、五月ちゃん…妹が襲われたらしくて…、今炭治郎君って子が行ったんだけど、まだ帰ってきてなくて…」

まだ落ち着いている様子ではない襲われた少女に代わり、付き添っていた子が説明する。

よく耳を澄ますと、金属音のぶつかる音が夜闇の静寂に混じって聞こえ、しかも少しずつこちらに迫ってきている。

「城戸、お前はこの子達の様子を見てろ。俺はあっちの様子を見てくる」
「ああ、分かった。気を付けろよ、蓮」

と、蓮はマンションの入り口のガラスにカードデッキをかざす。
どこからともなく現れたベルトがその腰に装着される。

「変身!」

掛け声と共にカードデッキを挿入。
その姿が西洋の騎士を思わせる銀の装甲と黒いスーツを纏った姿へと変わる。

「あっ…」

それを見て、短髪の少女が呟き声を漏らす。

そのまま二人の来た道を駆けていく蓮、仮面ライダーナイト。

「あいつは大丈夫だから。
 何があったのか、教えてくれないか?」

残った真司は、少女へと優しく呼びかけながらマンションの玄関ホールへと足を進めていく。

「…ちょっと、その、水と食べ物を…」
「え、あ、うん。はい、これ」

と真司の出すパンと水をガツガツと口にする五月。
すると少しは気分が落ち着いたのか、荒れていた呼吸が整ってきた。

「その、聞いてほしいんです…。千翼くんに何があったのか…」

そうして、五月はそれまでに何があったのかをポツポツと話し始めた。




548 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:16:52 Ql2/ixmY0

アマゾンネオと戦う炭治郎だったが、その戦況は芳しいものではなかった。

相手の技術は精錬されたものではない。これまで戦ってきた数々の鬼たちのそれと比べれば大したものではない。
しかし、その力はかなりのもの。幾つか打撃を受けたが、それは中位クラスの鬼の攻撃であれば防ぐほどの防御力を持つ隊服を着ていて尚も体に強い衝撃を与えている。
体の表皮も硬く、日輪刀で斬りつけたものの大きなダメージが届いているようにも見えない。

だが、それでも決して戦えない相手ではなかった。

この相手以上に力の強い鬼はいた。
刃の通らぬ硬い皮膚を持った鬼とも戦った。
そして、柱の人でも苦戦するような高い技量を持った鬼との戦いにも生き残ってきた。

だというのに、この相手の動きに対応しきれていない。

鬼のようにも思う身体能力を持っていながら、一切の慢心を感じず。
むしろこちらに食らいつく獣のごとく攻め立ててくる。

血鬼術のような能力を持っていれば、逆にその攻撃の隙を見極め突くことができただろうが。




―――いや、全ては言い訳だろう。

刃を弾き体を斬りつける。脇腹に切り傷がつき血が吹き出すが、数秒の後傷は再生し。
その再生する間にも痛みなど感じていないかのように右の剣と左腕の鰭のような刃を振り向けてくる。

炭治郎の心には戸惑いがあった。


『善逸は、死んだ』

鬼殺隊となって長い間、伊之助も交えて共に行動してきた仲間。
それが死んだという事実。

動揺で呼吸が乱れ、いつもの調子が出せていない。加えてこの獣のような連撃。
刃は鋭く危険だが、それだけが武器ではない。間合いが詰まれば膝蹴りや肘打ちなどの打撃が襲いかかる。
致命打ではないが、体に与える衝撃は小さくない。

だがここで引くわけにもいかない。
目の前の敵は、攻め立てながら確実に一歩ずつ前進してきている。

ただ少しだけ、呼吸を整える隙がほしかった。
炭治郎の力量であればいずれその隙を作ることは叶っただろうが、その時はそれよりも早く来た。

突如窓ガラスから飛び出した黒い影。
それまで全く匂いを感じなかったこともあり突然の襲来者に意識を割かれる炭治郎。
だが黒い影に襲いかかられたアマゾンネオは驚きだけではすまず、体を弾き飛ばされる。

そこには、コウモリを思わせる巨大な翼を持った異形の獣がいた。

そして、それを追って背後から迫る者の気配も感じた。

「炭治郎という名は、お前でいいのか?」

自分の前に現れた、特徴的な甲冑を纏った男。
手には剣を構え、今しがたコウモリが吹き飛ばしたアマゾンネオを牽制している。


549 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:18:12 Ql2/ixmY0
「ああ、俺が炭治郎だ」
「そうか。少し手を貸しにきた。
 五月という女の子を追う殺人者というのはアレで合っているか?」
「五月さん…、そうか、よかった。
 少しだけ手こずっていたんだ、手を貸してくれるなら助かります」

起き上がるアマゾンネオ。


その姿を見て、一瞬仮面の下で蓮の目が細まった。

(この姿、デッキは持っていないようだが、ライダーにそっくりだな)

カードデッキこそないが腰に巻かれたベルト。
胴体や腕を覆う鎧。
その姿が自分が戦ってきた者たちに酷似しているようにも感じられていた。

だが。

「だからこそ、やりやすいか」

迫るアマゾンネオの剣を弾き、その胸をダークバイザーで突く。
火花が散りうめき声を上げるアマゾンネオ。しかし体は引くことなく、左手の鰭をこちらの首めがけて振り付ける。
咄嗟に剣を引きその腕を受け止めるナイト。

(…っ、こいつの力、強い…!)

思った以上の腕力に押し負けそうになるナイト。
そこへ炭治郎の声が響く。

「退けて!」
「!」

言葉に合わせて腕と体から力を抜く蓮。
体はアマゾンネオの力に押されて倒れ込み。

「――水の呼吸、漆ノ型・雫波紋突き!!」

がら空きになったアマゾンネオの体に、炭治郎の突き出した刀が突き付けられた。

不意の衝撃に後退するアマゾンネオの体。
しかし下がりながらもその体は迫った炭治郎の体を蹴り上げんと脚を振りかざす。
それを交わしながら、足運びを攻撃に転じて一気にアマゾンネオの体に迫り。

「参ノ型・流流舞い!!」

流れるように体を斬りつける。

腹部が鋭く斬り裂かれ、後退するアマゾンネオ。
そこに追撃をするように迫ったナイトの剣が体を突いた。


550 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:18:32 Ql2/ixmY0

しかし。

「何?!」

アマゾンネオはその剣を握り締めていた。
腹の傷もあり動けるはずがないと踏んでの追撃だったが、まるで痛みを意に介していないかのようにその手の力は揺るがない。

剣を手放し後退しようとする蓮より早く、アマゾンネオはナイトの首を掴み上げた。
体を蹴り飛ばし抵抗しようとするが、手の力はびくともしない。

もう一方の手の刃がナイトの体を斬り裂かんと振るわれ。


「漆ノ型・雫波紋突き!!」

横から高速で放たれた突きが、腕を弾き軌道を変えた。

(く、やっぱりこれじゃあ力が…)

腕を貫くつもりで放った一撃だったが、力が足りず弾くのみに終わってしまう。
しかし軌道を変えることには成功。
更に振り返り再度攻撃に転じようとした炭治郎に、ナイトの体が放られた。

二つの体がぶつかり、地面を転がる。

「ぐっ、大丈夫か?」
「ええ、俺は問題ありません。それより彼は」

と、周囲に目をやる二人。
しかしアマゾンネオの姿はどこにもない。

「…!まさか…!」

炭治郎は慌てて駆け出す。
同時に蓮もその後を追って走り出した。

その匂いの行き先は、蓮が来た方向、PENTAGONがある方に続いていた。



体の痛みを無視して走る千翼。
ただ真っ直ぐに、あの少女の元へと駆け抜けていった。

理由は一つ。

中野五月。
彼女だけはこの手で殺さなければならないと。

さっき思わず炭治郎の前で善逸の名を呟いた時、胸に鋭い痛みが走った。
まるでまだ人を殺すことに罪悪感を持っているかのような感覚。

ギリギリのところでまだ何かが残っている。

だから、その思いを切り払うために彼女を殺さなければならない。

この胸の痛みだけは消すために。

一瞬でも”母”を重ねたあの子を殺すことで、これ以上この痛みが感じなくなるように。

あの二人は、きっとそれから戦った方が、勝てそうな気がしたから。




551 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:19:01 Ql2/ixmY0

「…そんなことが…」

PENTAGONで五月の話を聞いた真司。

それまでにあったこと。
謎の女や父親に命を狙われる千翼という少年。
自分と千翼を守って命を落とした善逸という少年。
そして、千翼が好きだった相手の死体を発見し、彼女を蘇らせるために皆を殺す決意をしたこと。

「その子のこと、他に何か分かるかな?」
「えっと、命が狙われるのは、”アマゾン”だからだって、そう言ってました。
 人を食べなければいけないって」
「人を食べるって、そんなスプラッタ映画みたいな…、あ、ごめん」

思わず呟いた一花の一言に、鋭く睨む五月。

「彼、たぶん苦しんでるんです…。
 会ったばかりで彼の事情は断片的にしか分からないですけど、だけどきっと…」
「分かった。話してくれてありがとう。
 とにかく、今は蓮達を待ってからここを離れよう。
 あいつなら大丈夫だ、きっと帰ってくるから」

よし、と立ち上がってマンションの入り口を見る城戸。

そこへ、ふと一花が話しかける。

「あの、ちょっといいですか?」

呼びかけながら、一花は上着のポケットから四角いカードケースを取り出した。

「これ…ライダーのデッキじゃないか?!」
「私の支給品に入っていたんですけど、もしかしてこれっておもちゃじゃなくて本物なんですか?」

似た形のものを使っていた蓮の姿を見て、これもそうなのではないかと気付いた一花。

「やっぱり他にもライダーのデッキ他の人に配られてるのか…。
 それは確かに使えばライダーに変身できる。だけど、君は使っちゃダメだ。
 そいつはとても危険なんだ。俺たちはそれを使って、互いにずっと最後の一人になるまで殺し合う戦いをやらされていたんだ」
「……」

じっと、カードデッキを見つめる一花。
ここで無理を言ってでもそれを取り上げるべきなのかどうか、一瞬迷いが生じ。
しかしその迷いに答えが出されることはなかった。

マンションの入り口が、鋭い音と共に切り刻まれる。

扉が蹴り飛ばされる音を聞き、三人が視線を向けた先にいたのは、青を基調とした体に鼠色の鎧を纏った異形。

「千翼君…っ」

呼びかける五月。
真司は二人の体を後ろに下げ前に進み出る。

五月の姿を見たアマゾンネオ、千翼は手の剣を翳して三人の元に襲いかかり。


552 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:19:24 Ql2/ixmY0


GAAAAAAAAAAAAAAAAAA

ロビーに備え付けられた鏡から、赤い龍が咆哮を上げながら飛び出し突撃、その進行を阻んだ。


「君、千翼っていうんだよな」
「―――」

話すことはないと言わんばかりにそのうめきながら起き上がって。

しかしその後ろから迫る二つの足音が迫ってくる気配に振り返って剣を構えた。

炭治郎とナイトの斬撃を受け止めた千翼。

二人はそのまま、二人の姉妹を守るように真司の横に並ぶ。

「…悪い、止めきれなかった」
「まあ、いいよ。俺もこの子と話がしてみたかったから」

と、真司は千翼に向かい合う。

生身を晒す真司に不安を覚えた蓮が前に出ようとするのを制する蓮。

「聞いたよ、五月ちゃんから。君は好きな子を生き返らせるためにみんなを殺そうとしたんだって」
「……」

真司の言葉に沈黙で返す千翼。

「まあ、正直人は生き返らない、なんてことは言えないわな、俺たち。
 何かこうして生き返っちゃってるわけだし」
「フン」

蓮と顔を見合わせる真司。
その言葉に千翼が顔を上げる。

「炭治郎君だっけ。君の友達のことは聞いてるよ。だけどその子を殺したのは」
「分かってます。彼からは善逸の匂いはあったけど血の匂いは感じなかったですから」

彼が殺し合いに乗ったのは今の話からするについさっきのことだという。
ならば、善逸はどうして死んだのか。おおよその予想は付く。きっと彼を守って死んだのだろう。

そんな彼に人殺しをしてほしくはなかった。

「俺たちは人を食う鬼と戦ってきた。
 彼らは人から鬼へと変えられて人を食い、多くの罪を重ねて人の心を失っていった。
 君ももそんな風になりたいのか?!」
「違う!俺は、生きたいんだ!イユと一緒に!」

炭治郎の言葉に慟哭の叫びを上げる千翼。

「ずっと、人が食べたくて仕方なかった…。でも、ずっと我慢してきた…。
 だけどイユは、俺が初めて食べたいと思わなかった子だったんだ…」

「俺が、世界で一人、人間らしくいられる場所を作ってくれたのが、イユだったんだ…!
 だから、俺はイユと一緒にまた歩みたいんだ!」

その言葉に、蓮は思わず視線を下げる。
かつて恋人のために戦いを決意した男にとって、その姿はある点では己に被っても見えた。

そして、炭治郎もまたその言葉に思うところがあった。
もし禰豆子が鬼になってしまったあの日富岡に会わなければ。
禰豆子は彼と同じような立場にあったかもしれない。


553 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:19:42 Ql2/ixmY0


「そっか、やっぱり君も”ライダー”だったんだな」

その時ポツリ、と真司が言った。

「ライダー…?」
「ああ、時には何かを犠牲にしてでも自分の願いを叶えたいって思う、それが俺たち人間で。
 そんなことに命がかけられちゃう俺たちみたいなバカが、ライダーっていうんだ」
「人間…?俺が…?」

驚いたように真司を見る千翼。

「ああ、俺もライダーだ。
 君の願いで犠牲になる人を減らしたいって願いで戦う、傲慢な願いで人の願いを踏みつけようとしてる、人間だ。
 君と何も変わらない」

かつてライダーバトルを戦い、その果てに答えを導き出した真司。
その言葉の中には、かつてのような迷いはなかった。

「…は、ははははははははは!!」

千翼は、あまりにもおかしくて笑い出す。
あまりにも今更すぎた言葉、だけどそれがどうしようもなく嬉しくて。

「初めてだよ…。俺を、人間扱いしてくれた人は」

4Cも、父も、友達だった長瀬でさえも自分のことはアマゾンとして見ていた。
それでも長瀬はマシとはいえ、4Cではどれだけ声高に人間だと叫んでも、実験動物のような扱いは止まらなかった。

「もっと早く、あんたみたいな人に会いたかったな」

だが、千翼はもう止まれない。

あまりにも今更だったから。もしイユが生きている時に会えたなら、また違う道が進めたかもしれない言葉だった。

決意は揺らがない。
刃を構える。

「ああ、なら、俺も全力で君のことを止めるよ」

真司はガラスにデッキを翳し。

「変身!」

腰のベルトにそれを挿入。
その体を己の戦うための姿へと変えた。

仮面ライダー龍騎。
赤いスーツと銀の装甲を纏った、戦士の姿へと。


「炭治郎君、君は大丈夫か?」

ライダーでもない生身に刀を持った少年に気遣って声をかける。

「ええ、善逸のこともありますし、彼を止めたいって思う気持ちは同じです」


龍騎の隣に並んだナイト、炭治郎。
その正面に立つアマゾンネオ。


554 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:20:08 Ql2/ixmY0

咆哮を上げながら駆け出す千翼に、真司達も五月達から彼を離すように走る。

振りかざされた剣を受け止めるナイト、そこへ真司が拳を叩きつける。
手応えはあったがしかし堪えた様子を見せずに剣を構え直して龍騎の胸へと斬りつける。
衝撃で身を引く龍騎、更にもう片腕の鰭をナイトの体に叩きつける。
装甲から火花を上げて体を下げるナイト。

「壱ノ型・水面斬り!!」

そこに、ナイトの後ろから飛びかかった炭治郎の横薙ぎの斬撃が炸裂。
アマゾンネオの胸の装甲を斬り裂き、火花を上げる。

SWORD VENT

アマゾンネオが身を引いた隙にカードをベントインした龍騎とナイト。
龍騎の手には巨大な青龍刀が、ナイトの手には黒いランスが出現する。

龍騎の剣がアマゾンネオの体を切り、ナイトの槍が続いてその体を突く。
しかし更に返した斬撃は腕を受け止められ体を放り投げられる。

直後に身を低くして斬りかかってきた炭治郎の体も膝蹴りにして弾き飛ばす。

地面を転がりながらすぐさま立ち上がった炭治郎は、転がった勢いのままに地を蹴りすかさず斬りかかる。
斬り裂かれた装甲の隙間を狙っての一撃。

しかし。

(――!硬い…!)

血を流していたはずの場所は既に血が止まり再生を始めていた。
力加減が足りず、斬りつけた一撃はその身に再度傷をつけるも動きを止めるには至っていない。

距離を取りながら、炭治郎は考える。
やはり、鬼と同じように首のような急所を斬らねばならないのか。

その再生能力、生命力は鬼のそれに近く、動きを止めるための戦いは困難だった。


GUARD VENT

思案する炭治郎の後ろから、態勢を立て直したナイトが槍を構えて詰め寄る。
その背には黒いマントを背負っている。

槍を突き付け振り抜くナイト、しかしアマゾンネオに接近戦を挑む武器としては少し重すぎた。
振り回した槍を身を屈め避け、直後に突き付けられたそれを脇に挟んで受け止めた。
動きを抑えられたナイトに開いた手の鋭い鰭が向けられ、首を狙う。
ナイトはすかさずマントを振るい、その腕の軌道の先に割り込ませた。
布状の盾に腕の勢いを殺され、そのまま腕を絡め取られる。

「はあっ!」

そこにナイトの横から現れた龍騎の剣がアマゾンネオの体を突いた。
一歩下がるアマゾンネオ。

――クロー・ローディング

武器を構える龍騎とナイトの前で、インジェクターを操作しその手の剣をフック状の腕へと変化させる。

腕は二人の後ろの天井付近まで伸び、地を蹴り飛び上がって振り子のように二人の元に腕や脚の鰭を向けて斬りかかる。
横に避けた二人の間を通ってアマゾンネオはフックを飛ばした天井付近へと脚をつけ。

そのまま天井を蹴り、腕の鰭でその身を切り裂こうと迫った。

ADVENT

咄嗟にカードをバイザーに挿入、直後に龍騎の周囲を守るように鏡から赤き龍、ドラグレッダーが姿を現す。
龍騎の周囲をその身を守るように旋回、迫るアマゾンネオの体を弾き飛ばした。

「!――すみません、その体ちょっとお借りします!」


555 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:20:52 Ql2/ixmY0
弾かれ宙を舞うアマゾンネオ。
そこへ、炭治郎がドラグレッダーの体を足場に駆け上がり。
アマゾンネオの頭上から刀を振り上げて迫る。

「捌ノ型・滝壷!!」

そのまま上段から勢いよく刀を振り下ろす。
刀はアマゾンネオの頭に命中しつつ地面へと叩きつけられる。

炭治郎は着地し、千翼も割れた地面の上で立ち上がる。

「フゥッ、フウゥ…!」

その仮面は割れ、左半分の顔面が露出している。
幼さの残る顔立ちが現れているが、その目には未だ闘志が燃え続けている。
瞳の周囲の肌には、青い線がその闘志に合わせるかのように走っている。

「ウゥッ!!」

呻くようにクローを再度射出。
今度はクローそのものを攻撃に使うように打ち出す。

狙われた龍騎はそれを剣で弾き飛ばす。

しかし弾いたクローは勢いをそのままに龍騎達のずっと背後まで飛び、その壁に突き刺さる。

「――!!」

その位置に気付いた三人が駆け寄る。
最も近かった龍騎、高速の足運びで迫った炭治郎がその進行を阻止しようと動く。
しかしアマゾンネオは脚を振るい迫った二人の体を逆に弾き返した。

「二人とも、危ない!!」

転がりながら叫ぶ城戸。

そのアマゾンネオの進行先は、一花と五月が身を隠している場所だった。





ロビーの物陰に身を隠す一花と五月。
一花が五月の体を抱くようにしながら身を潜めている。

近くでは、自分達を守ろうとする三人が、五月の命を狙っていた異形と戦っている。

「五月、大丈夫だから。絶対に」
「………」

五月を抱き締める一花。
だが、この場で体が、手が震えているのは自分だという自覚もあった。

一花にしてみればわけの分からない状況だった。
いきなり殺し合えなんて言われて、妹の命が狙われて。
すぐそばでは自分でも想像の及ばない、まるで映画の中のような戦いが繰り広げられている。

夢だと思いたかったが、どれだけ音が耳を叩いても目が覚める気配はない。


556 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:21:25 Ql2/ixmY0

「…一花、怖いんですか…?」
「……あはは、誤魔化したかったんだけど、無理だねこれ」

一花の胸の中で震えを感じ取った五月の問いかけに、作り笑いをしながら答える一花。
そんな一花の手をぎゅっと握る五月。

最初に逃げればよかったのに、この場に残ってしまったせいでこのざまだ。
すぐ傍で繰り広げられる戦い、そして他にもあんな人がいるのかという恐怖で足が動かない。


「五月は、怖くないの?」
「怖いですよ当然…。だけど…」

五月の目が龍騎やナイトに拳を振るい続ける青い影を映す。

「彼、泣いているように見えるから…」

一花には自分達に襲いかかる恐ろしい怪物にしか見えないアマゾンネオ。
その姿が、五月には悲しみにくれながらも戦い続けるしかない子にしか見えなかった。


後ろでキン、と何かを弾く音が聞こえ。

「――!二人共、危ない!」

伸びたロープ状の先端が二人の潜んだ付近の壁に刺さった。
狙いをつけたクローを弾き飛ばしたが、その軌道が変わった先が二人のすぐ傍に着弾してしまった。

それが千翼が狙ってのものだったのか偶然だったのかは他の皆には判断できなかったが。

ロープが巻き取られアマゾンネオの体が二人の眼前に現れる。

全身がボロボロで傷だらけになりながらもその体は再生を繰り返し続け。
割れた仮面の奥では目の周囲を不気味な青い線の走った肌が見える。

一花はその姿に怯え、金縛りにあったかのように動けなくなる。

そんな一花達に向けて、腕の鰭を構えて迫るアマゾンネオ。

走る三人だが、アマゾンネオと二人の距離があまりにも近く、間に合わない。

「一花っ!」

自分を抱きしめていた姉の体を押し飛ばす五月。

刃を振りかざす千翼の前に、押し出した一花を守るかのように両手を広げて立つ五月。

振り下ろされた刃は真っ直ぐにその首へと向かい。

「い、五月ちゃんっ!!」

首の皮にわずかに刺さった位置で、その刃は止まっていた。
震える手は、あと少しでも動けば五月の首を切り裂くだろう。

「…千翼君、もう、止めましょう?」

その手に感じる迷いに掛けて、目の前の少年の凶行を止めようと呼びかける五月。
アマゾンネオの頬に触れる五月の手。




その時だった。

千翼の体から蒸気が発生し。
その、割れた仮面の下の顔が赤い瞳と鋭い牙、青い肌を持つより異形の姿へと形を変えたのは。

そして。

炭治郎の高速の突きが千翼の体を弾き飛ばすより早く。
その腕の刃は、五月の肩から胸にかけてを深く切り裂いていた。

吹き出した鮮血が、傍にいた炭治郎と一花の顔を濡らす。


557 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:21:39 Ql2/ixmY0

突き飛ばされ壁に叩きつけられるアマゾンネオ。

「蓮!」

真司は蓮を呼びかけながらカードをベントインする。

NASTY VENT
STRIKE VENT

龍騎の右手に龍頭の手甲・ドラグクローが装着され。
千翼の元に鏡から姿を表したダークウィングが接近。
その体から放たれた超音波が千翼の動きを止め。
更にそこへ龍騎の構えたドラグクローとその背後から現れたドラグレッダーの口から放たれた火炎が着弾。

壁を破壊しながらその体を吹き飛ばした。




「五月ちゃんっ!しっかりして!五月ちゃんっ!」

声が聞こえた。

体を動かそうとするが、力が入らない。
呼吸するのも辛かった。

目を開くと、顔を血に汚した一花と炭治郎の顔が映る。

「わ…たし……」

口から血が漏れる。
言葉を発することすら辛かった。
だけど、どうしても言わなければいけないことがあった。


あの時、どうして自分が斬られたのか。

まだ千翼は引き返すことができると思っていた。

だけど、あの時、割れた仮面の奥で顔が変わった時。
その顔を見て、怖い、と思ってしまった。
それが、顔に出てしまった。

「千翼君の、…こと、怖いって……、止めたいって思ったのに、怖いって思っちゃって…!」

自分が、彼が引き返す最後の道を奪ってしまった。

「ごめん…、なさい……!」

最後の引き金を引かせてしまったことを千翼。
守ってくれようとしたのにこうして命を落としてしまったことを善逸や守ろうとしてくれた三人。
そして目の前でこんな姿を見せてしまった一花。

その全てに謝るように呟き、五月の体は動かなくなっていった。


【中野五月@五等分の花嫁 死亡】




558 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:21:56 Ql2/ixmY0

昇竜突破の炎の直撃を受けマンションから投げ出された千翼の体はアマゾンネオのものから解除されていた。

「はぁ…はぁ……、くっ……」

血に塗れた手を見ながら心を殺す。

まだ一人。
だがその一人を殺すだけでもこれだけの消耗を強いられた。

アマゾンネオの体は確かにスペックはあの三人を圧倒しているものだった。
だが、三人はそれを補って余りある戦闘経験を持っている。
ライダーバトルを戦い抜いた仮面ライダーと、高い実力を持つ鬼との戦いを生き抜いてきた鬼殺隊の男。
それは戦いを始めてから日が浅い千翼には手の余る相手だった。

(やっぱり、あの姿を使わないといけないのか…?!)

それでも自分の持つ本当の姿、アマゾンとしての姿を解放すれば勝てるかもしれない。
だがその姿は自分でも制御が叶うかが分からない。ともすれば、暴走したまま人の肉を食らってしまうかもしれない。

(それだけは…ダメだ…!)


(力が欲しい…、人を殺す力が…、俺の中の飢えを制御するだけの、力が…!
 俺がもっと人を殺せるだけの、力が…!)


力への強い渇望。

ドクリ、と心臓の鼓動がなった。

「え…っ」

何かが呼びかけているようだった。
それは自分のバッグの中から感じる。

開くと、その鼓動はある支給品に触れた時に強まった。
あまりにも自分には合わない形をしたそれ。扱えないし運ぶことも難しいと思ってバッグの奥に閉じ込めていたそれ。

その巨体が、”自分を使え”、そう呼びかけていた。

(こいつなら…俺は人を食わずに人を殺せる…!)

それを装備した千翼は、その中で、大きく吠えた。
やがて千翼の体は変化、膨張し異形の姿へと変える。

その姿を、新たな仮面の中に隠し。

まだ生きている者たちのいる空間に走った。




559 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:22:27 Ql2/ixmY0

五月を呼びかけ続ける一花。
だが少女は謝罪の言葉を最後にこと切れていた。

泣き崩れる少女に、沈痛な表情を浮かべる三人。

「彼は……」
「今はどこにいるのか―――あれ?臭いが薄い…?」

さっきまでは感じていた千翼の臭いを炭治郎の嗅覚は捉えていない。
走り去ったにしてはその急な臭いの消え方はおかしかった。
まるで千翼が臭いを届かせない別の場所に行ったかのような。


周囲を警戒する炭治郎と蓮。

その時、千翼を吹き飛ばした時に空いた穴から少し離れた位置にある壁が、大砲の弾を受けたかのように爆発した。

その奥から猛烈な勢いで迫る巨体。

真司と蓮は咄嗟に避け、炭治郎も一花と五月の亡骸を抱えて飛び退く。

それは正面の壁にぶつかって静止した。



グルルルルル

獣の呻くような声と共にその巨体が顕になる。
2メートルを優に超えようかというほどのその巨体は全身を銀色の甲冑で覆われている。

炭治郎は、そこからほんの僅かに漏れ出す空気が、千翼から感じていた異形の臭いを更に濃くしたものであることに気付いた。

千翼・アマゾン態。
しかしその身を覆うのはアマゾンとしての体でもそれを制御するためのレジスターによって与えられた肉体でもない。

ある世界においてそれだけで一つの戦乱の戦況を左右するとも語られた日本刀。
完成形変体刀12本の一つ。
賊刀・鎧。


それが、千翼が新たに得た人を殺すための力であり。
己の食人を抑えるための拘束具であり。
そして、己の姿を隠すための、仮面だった。

「千翼…なのか?」

その鎧を纏っていても隠しきれていない異様な気配に呼びかける炭治郎。

次の瞬間、獣のような咆哮を上げて千翼は龍騎の元へと突撃をかけた。


560 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:22:45 Ql2/ixmY0

「っ!」
GUARD VENT

カードをベントインし、龍騎の手にドラグレッダーの腹部を模した盾が出現する。
突撃を受け止めるつもりで構える龍騎。

体当たりが炸裂し、龍騎の体は吹き飛ばされた。

「…!何だよこのパワーは…?!」

手元を見ると、構えた盾はズタズタに切り刻まれ半壊している。

起き上がろうとする彼の元に迫った巨体は、その腕で龍騎の頭を掴み持ち上げる。

「城戸!!」

すかさずナイトが龍騎を救わんとウィングランサーを突きつける。
しかしその突きは鎧に傷一つつけることなく止まっている。

持ち上げた龍騎の体をナイトに向けて叩きつけぶつけながら、千翼は追撃に腕を振るう。
火花を上げて吹き飛ぶ二人の体。

「城戸さん、秋山さん!」

二人を救わんと駆け出す炭治郎。

「ヒノカミ神楽―――」

消耗の激しい技であり可能な限り放つ機会は見極めたいものだったが、今の目の前の相手には出し惜しみをしている暇はない。

「―――碧羅の天!!」

炎を纏った日輪刀を、回転斬りの要領で叩きつける。

ヒノカミ神楽の呼吸。
激しい消耗の代わりにその威力は水の呼吸の舞を越える威力を叩き出す。

しかし、全力で放った一撃は。
鎧の表面で止まっている。

「…っ!」

刺さらない。そう判断して瞬時に地を蹴り後退する炭治郎。
しかしそんな炭治郎を追うかのように飛びかかる千翼。

その突撃で炭治郎の体が大きく吹き飛び入り口の扉を突き破ってマンションの外に投げ出される。

「ぐあっ……」


561 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:23:04 Ql2/ixmY0

鎧、そしてその中に詰まった質量の想像以上の重さに受け身を取れず地面を転がる。

固い地面を転がり、血を吐きながらも体を起こす。
体を見ると、鬼の攻撃にも耐えることができるはずの隊服がズタズタに切り刻まれている。

(これは…あの鎧、刃物か何かが仕込まれている…?)

あの質量の体当たりに謎の斬撃が加わり、その威力は隊服の耐久力を越えていた。

攻撃力と鎧の耐久力、刀での剣戟とはあまりに相性が悪い。

「城戸!合わせろ!」
「分かってるよ!」

息を切らしながら千翼の前で起き上がった真司と蓮は、共にデッキからカードを引き抜く。

FINAL VENT

二つの電子音が響き、鏡からドラグレッダーとダークウィングがその姿を現す。

そのただならぬ気配に、千翼もまたそれを迎え撃たんと構える。
纏った鎧から蒸気が噴出。

飛翔斬。
ナイトの背にダークウィングが装着されマントと化し、高く飛び上がって槍を軸にドリルのようにマントを回転させて急降下する。

ドラゴンライダーキック。
腰を回し腕を抱えるような態勢から、周囲を舞うドラグレッダーの間を飛び上がり吐き出された炎と共に飛び蹴りを放つ。

対する千翼は、大きく咆哮を上げて、空より飛びかかる二者に正面から全力の突撃をかける。
ただの体当たりでしかないが、その攻撃は鎧の継承者が受け継いできた限定奥義・刀賊鴎と遜色ないものだった。

空を舞う二人、地を走る一人。
三者は玄関ホールの中心でぶつかり合った。

「うおおおおおおおおお!!!」
「ガァァァァァ!!」

叫び声を上げる三者。
地面に衝撃が走り、大理石でできた床がひび割れ地煙を巻き上げ。
マンションの外に投げ出された炭治郎の元へまでその衝撃を響かせた。

鎧の胴体に放たれた二人のライダーの必殺技。
しかし。

「…っ、効いていない?!」

攻撃の手応えは鎧に弾かれている感覚があり、こちらが逆に押し返されている。

やがて力を失った二人の体は、鎧の勢いに負け吹き飛ばされる。

「ぐあっ!!」

壁に叩きつけられる龍騎とナイト。

その勝利に雄叫びを上げながら、千翼は再度地面を蹴り駆け出す―――





562 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:23:38 Ql2/ixmY0

一花は、一人動かなくなった五月の前に佇んでいた。

思考がまとまらない。
目の前の現実を受け入れたくない。

悪い夢なら、早く覚めて欲しい。
だけど、温もりが消えていく妹の手の冷たさはリアルだった。

どうして、こんなことになってしまったんだろう。
五月はとてもいい子だった。
こんな風に命を奪われる筋合いはなかった。

どうして。

ぐるぐると思考を続ける一花の元に地を揺らし周囲の空気を震わせる衝撃が届く。

目の前では、城戸さんと秋山さんが巨大な鎧と戦っている。

あいつだ。
あいつのせいだ。
あいつのせいで、五月は命を落としたんだ。

回り続けていた思考は、ある一定の方向に目的を得た。

その手には、上着に入っていたカードデッキが握られている。

そうだ、使い方は見ている。
今の私はあそこに混じって戦うことができると思う。

「……赦さない」

鏡の前にデッキをかざすと、鏡面ごしにベルトが腰へと装着された。

そうだ、五月の仇を。
この手で討つんだ。



FINAL VENT

その電子音は、地面に倒れた龍騎に更に追撃をかけんと千翼が駆け出したところで響き渡った。

思わず周囲を見回す真司と蓮。

「うああああああああああっ!!」

次の瞬間、緑の影が鎧の巨体の足元に向かって猛スピードで衝突した。

その巨体を持ち上げんと逆さまの態勢で脚を掴み後ろへと引き上げ宙へと持ち上げようとするその影。
しかしその見た目以上の重量を持った鎧とその内側の相手を、持ち上げることはできず。
手を離してしまい勢いが切れるまで地面を転がる影。
同時に、その動作に駆け出そうとしていた千翼もまた脚を取られて地面に倒れ込む。

起き上がった緑の影。それはカメレオンを思わせる緑の鎧を纏った仮面ライダー。
その腰に挿入されているベルトの紋様を、真司は知っている。

「まさか…一花ちゃん?!」
「よくも…よくも五月ちゃんを…!!」

涙まじりの枯れた声で、怒りの声を上げる一花。

目の前の千翼は、今の一撃による転倒でダメージを受けたようでうめきながらよろよろと起き上がる。

「ああああああああっ!!」

今にも泣き出しそうな声で叫び、デッキから引き抜いたカードを腰のホルダーに挿入する。

COPY VENT


563 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:24:15 Ql2/ixmY0

起き上がった千翼に鏡のような影が重なり、ベルデに合わさってその姿を変化させる。
賊刀・鎧のそれと同じ姿へと、ベルデが変わる。

その巨体で千翼の元へと駆け出し殴りかかる。
頭部に叩きつけられた拳の衝撃で地面が僅かに揺れる。

だが、千翼自身は揺らぎもしなかった。

コピーベントでその鎧の姿を、装備を映し取り模造した一花。
しかし模造した力は、千翼に比べて圧倒的に体重が、質量が足りず。
そしてただの女子高生でしかなかった彼女には、それを補うだけの技術もなかった。

至近距離からの体当たりで、その体は吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
さらに壁に体を押し込みその体に押しつぶすように衝撃を続けざまに与える。

「あ…ぁっ」

賊刀・鎧への変異が、そしてベルデへの変身が溶けて気絶した一花が地面に座り込んだ。

「一花ちゃんっ!」

焦る真司と蓮。
自分達ライダーはともかく、生身の人間があの突撃を食らったらひとたまりもない。

駆け出そうとする真司だが、間に合わない。

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

その時、マンションの入り口から何かが飛び込む。
鈍い音を立てながら、突撃しようと地から離していた片足に激突。
千翼は足を取られ、バランスを崩して転倒する。

地面を滑った、その激突した物体、平たい円状の黒いそれは現代人であれば誰もが目にしているどこにでもあるもの。
マンホールの葢だった。

地面が揺れた衝撃で僅かにズレた、マンションの外にあったマンホールの葢を全力で炭治郎が投げつけたのだ。
同時に一花の前に飛び込む炭治郎。

「やっぱり…、弱点は足か…!!」

刃を通さず、真司と蓮の放つ同時攻撃にもびくともしなかった頑強な鎧。
しかし二人の攻撃を受けている時、その衝撃の中心がその足に通じていること、そして一花が足を奪い転倒させた時に確かにダメージが入ったことを、炭治郎は見抜いた。

それでもあの巨体と重量の体を持ち上げ衝撃を与えることは容易ではない。
マンホールの葢を投げたのは、他に通用しそうな武器がなかったからにすぎない。
それでもその重量は呼吸法を用いて力を込めねばできないほどのものだったが。

「ぐっ…」

そして受けた傷を無視してのその無茶は、炭治郎の体に障っていた。
一花を抱き上げて退こうとする炭治郎の足が縺れる。

受け身を取り立ち上がるが、その一瞬で目の前の鎧は立ち上がっていた。

だが同時に。

「うおおおおおおっ!!」

真司と蓮の二人が態勢を立て直す時間もまた稼いでいた。

千翼の体を抑える真司と蓮。

拳を力いっぱい振り付ける真司だったが、こちらの拳に衝撃が返ってくるのみでびくともしている様子がない。
ウィングランサーを打ち付ける蓮だったが、振るった槍は相手の体にぶつかったところでそれまでのダメージも加えて限界を迎えたのか砕け散った。


564 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:24:46 Ql2/ixmY0

体が鎧と接触するたびに刃で斬られているかのような衝撃が走る。

「おりゃああああああああああ!!」

それでも、残りの力を振り絞るかのように龍騎は全力でその体を押し返す。

巨体が後ろに下がる。
これまでのダメージがある程度は通っているのか、相手も息が荒いように見える。
うめき声を上げながら、そのダメージを回復させようとしているかのようにこちらの様子を伺ってる。

一方でこちらももうカードがない。こちらの鎧にも今の押し出し斬られたのか大きな切れ込みが入っている。
このままではジリ貧どころか消耗の末に負けるだけだ。

だが、傷を追った炭治郎と気絶した一花。
二人を逃しながら戦うことができるだろうか。

(どうすれば…)

千翼のことも止めたかったが、二人のことを考えれば退くしかなかった。

「城戸」
「何だよ」
「お前の考えてることは分かる。こいつを使え」

と、蓮が差し出したのはダークウィングのアドベントカード。
先ほど一花を襲う千翼を止めようとした時に引き出したものだ。

「何だよ残ってたのかよ!もっと早く出せばよかったのに」
「くだらないこと行ってないで、二人の手を取ってそのカードを入れろ」
「…?あ、ああ」

急かす蓮に、どうして自分で使わないのかという疑問を飲み込んで。

炭治郎から一花の体を受け取り、炭治郎の手を取り。
ドラグバイザーにアドベントカードを差し込んだ。

鏡の中から現れたダークウィングが、龍騎の背を掴み、飛び上がった。


565 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:25:28 Ql2/ixmY0

蓮を残して。

「な?!おい、蓮!!」
「秋山さん?!」

マンションを飛び出していくダークウィング。
振り返った先では、契約のカードを失ったナイトの体が色を失い漆黒からグレーへと変化していく。

「待てよ、おい!何で蓮を置いていくんだよ!!」

ダークウィングに呼びかける真司、しかしダークウィングは戻らない。
まるで蓮がそうすることを望んでいて、その意図を汲もうとしているかのように飛び続けた。


一瞬チラリとこちらを振り返ったナイト。

その時、聞こえるはずのない声が確かに耳に届いた気がした。


―――城戸、お前は生きろ

「れぇぇぇぇぇん!!!」

叫ぶ真司を連れて、ダークウィングは主を振り返ることもなく闇夜を飛び続けた。



(ああ、俺はもう願いは叶えたからな)

契約カードを失いブランク体となったナイトは、一人千翼の前に立ちはだかる。

あのカードで4人逃げるのは流石に無理だろうし、皆で逃げれば追ってくる可能性も高い。
一人くらいは殿が残った方が、逃げられる可能性は高まるだろう。

(それに、二度もお前の死ぬところなんて見たくないしな)

色を失った剣状のバイザーを構える。

もし悔いがあるとすれば、生き返った恵里の笑顔が見れなかったことだろうか。

だけど、こういうのも悪くない気がした。
こういうことが、案外自分が本当にやりたかったことなのかもしれない。

誰かの、大事な人の力になって戦うことが。

(だから、お前は、生きろ)

あの少年もきっと力になってくれる。
他にも城戸のようなお人好しに手を貸してくれるものはいるはずだ。
俺が居なくても、きっと大丈夫だろうから。

走り迫る銀色の巨体に、色を失った剣状のバイザーを構え。

(生きて、お前自身の願いを叶えろ。城戸)

吠えながら蓮は、正面から駆け出した。





566 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:25:44 Ql2/ixmY0

砕け散ったナイトのデッキと、全身を切り刻まれながら壁に叩きつけられた秋山蓮の死骸の前で、鎧は座り込む。

その頭部が外れ、中から人の姿へと戻った千翼が出てくる。
長い戦いにアマゾン態への変身によりかなりの疲労が体に溜まっている。

「はぁ…はぁ…」

周囲には誰もいない。
壁に穴が幾つも空き、ガラスはほぼ全てが割れているか亀裂が入り、床は爆撃でも受けたのかと言わんばかりにボロボロだ。

そして、そこに死体は二つ。

鎧をバッグに仕舞った後、そのうちの一つ、中野五月の亡骸に寄る千翼。
あの時、一瞬姿を変えたのはそれまでの闘争本能もあったが、自分の意志も確かに混じっていた。

もしその瞳を見続けていると、決意が揺らいでしまう気がしたから。
自分を人間扱いしてくれた男。その言葉は自身が思っている以上に心に喜びを与えていた。
だからあの姿を見せて、化物を見る五月の怯えの瞳を見て、その迷いを断ち切った。

亡骸の瞳に残っていた雫を拭う千翼。
立ち上がって歩み始めた己の瞳にも一筋の雫が流れていることに、千翼は気付かなかった。

【秋山蓮@仮面ライダー龍騎 死亡】


【E-7/1日目・黎明】
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、、不明支給品1(本人確認済み、武器)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、ダークウィングのアドベントカード@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:今度こそ願いを叶える。
1.戦いを止める。
2.千翼のことを止めたいが…
3.蓮…!!
[備考]
※秋山蓮に生きろと告げて目を閉じた後からの参戦です。

【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、胸と腹に切り傷
[道具]:基本支給品一式、炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜1、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:一花さんの姉妹も探す。
[備考]
強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。


【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、精神的ショック、気絶
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:―――――
1.姉妹と風太郎に会いたい。
2.千翼に対する強い怒り。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


※三人の進行方向は次書き手にお任せします。


567 : 悲しみは仮面の下に ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:25:59 Ql2/ixmY0

【E-7/PENTAGON付近/1日目・黎明】
【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷、心身ともに疲労(中)、ダメージ(中)、体に打撲、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、賊刀・鎧@刀語、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
4:アマゾン態になる時はできるかぎり鎧を纏うことで人を食う可能性を減らす。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
※賊刀・鎧の所有者として刀に認められました。その影響でアマゾン化した時の体型が鎧に適合する大きさに変化しています。
 人間状態時は特に身長に変化は起こっていません。


賊刀・鎧@刀語
防御力に主眼を置いた刀。どう見ても鎧だが日本で作られた刀なので日本刀である。
人の身長ほどもある大剣での斬りつけにもびくともしない頑丈さと、足を通して地面に衝撃を逃がす機能により変体刀の中でも絶対的な防御力を持つ。
またその関節や隙間には刃が仕込まれており、ただの体当たりでも相手の体を切り刻むことができる。
一方で装着者は鎧の体格にあった巨体である必要がある。参考までに、原作の正式所有者の身長は七尺五寸=285cm。


568 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/20(月) 21:26:10 Ql2/ixmY0
投下終了です


569 : 名無しさん :2019/05/20(月) 22:22:09 qjwLH7e60
乙です
これもう千翼はひたすら堕ちて行くだけみたいですね…(悲しみ)


570 : 名無しさん :2019/05/20(月) 23:13:07 mVxmMSF.0
第52話


571 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/20(月) 23:18:55 DaUGZVOA0
千翼、予約します


572 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/21(火) 00:02:05 EOVufdXM0
スモーキー、宮本武蔵(女)で予約します。


573 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/21(火) 00:20:04 SfwP00UI0
上田次郎、沖田総司、中野二乃、酒呑童子 予約します


574 : 名無しさん :2019/05/21(火) 11:57:44 YvU1kCMk0
投下乙です

>時すでに始まりを刻む
来たよキタキタ。溶源性細胞の恐怖が。
どのタイミングで覚醒するのかを考えるだけでも恐ろしい。
「その時」が来たら七花はどんな選択をするのだろうか。

>悲しみは仮面の下に
最初のレス時点でもう嫌な予感しかしなかったが、五月…
死亡後参戦だからこそ迷い無く自分の願いを言う真司がかっこよく、炭治郎との共闘も見応えあっただけにこの結末は悲しい
マンホールの蓋はどうしてもジオウを連想させ、笑ってしまう


575 : 名無しさん :2019/05/21(火) 20:06:56 AZVgEwuU0
すいません、指摘を
映像を見る限りアマゾンネオ素体の身長はどう見ても280cmもない(デザインモチーフ的にはむしろ仮面ライダー時より低身長の可能性もある)ので、素体になって大きくなったから鎧が着れるというのは理由として変かな、と思います。
素体になる前から三人と渡り合える強さから言って支給品で底上げしなくとも普通に触手の手数で押し切れそうですし、それが難しいなら鎧を装備できる何か別の理由を用意した方が良いかと思うので、細かいですけどご参考にして頂けると幸いです。


576 : 名無しさん :2019/05/21(火) 20:24:09 95NPW9eM0
便乗するようですけどもう一点
ナイトのアドベントカードを龍騎に渡したのでナイトがブランク体になったと描写されていますが、アドベントは契約(コントラクト)カードがモンスターと契約することで変化したものです
ですのでナイトがブランク体になるにはアドベントカードが破棄される・あるいはミラーモンスターが消滅するのどちらかのケースに限られるものであり、龍騎が所持しているだけではナイトがブランク体になることはあり得ないと思います
そしてナイトが死亡した場合も契約は破棄されたことになるので、龍騎がダークウイングのアドベントカードを所持し続けることは不可能です。その場合、王蛇のように別のコントラクトカードで新たに契約し直さないとなりません


577 : 名無しさん :2019/05/21(火) 20:29:10 Mb8Ny5MA0
こんなめんどい指摘破棄しろつってるようなもんじゃん


578 : 名無しさん :2019/05/21(火) 21:05:17 L3bRlUT.0
俺ロワだし企画主の方が通しと言ったら通しなんですけどね


579 : 名無しさん :2019/05/21(火) 21:15:10 6Pu4smVk0
投下した書き手と1の対応待ちでいいよ
感想なりフォローする案なり出すならともかく、余計に噛みついてどうする


580 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/21(火) 21:25:05 LwAG.jJc0
とりあえず>>575については文章を少し修正します
>>576については確認中なので明確な返答ができませんが、ブランク体については
仮面ライダー龍騎16話においてガイにカードを奪われた龍騎がブランク体になっているので今回の場合蓮の意志で譲渡したことでブランク体になるのではと考えています


581 : 名無しさん :2019/05/21(火) 22:15:28 95NPW9eM0
ご返答ありがとうございます。今すぐに該当話を見られる環境にないのですが、事実としてそういう描写があったなら誤っていたのはこちらです。申し訳ございません
>>576の指摘は取り下げさせていただきます


582 : 名無しさん :2019/05/21(火) 23:08:23 6Pu4smVk0
書き手さん対応おつー


583 : ◆JOKER/0r3g :2019/05/22(水) 00:22:45 jN2GV.FM0
お初にお目に掛かります。
鷹山仁 予約いたします。


584 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/22(水) 13:14:39 oylELqAs0
すいません予約期限の時間には遅れそうです
遅くても明日の朝までには投下するので許してください


585 : ◆JOKER/0r3g :2019/05/22(水) 16:34:46 jN2GV.FM0
投下します。


586 : COME RAIN OR SHINE ◆JOKER/0r3g :2019/05/22(水) 16:35:38 jN2GV.FM0

一番最初に“それ”を目にしたとき抱いた感情は、確かに喜びだったと思う。




長年大学の研究室内で変わり者と誹りを受けて、それでも諦めず自分に出来る研究を続けた末に得た、確かな成果。
顕微鏡越しにでも命の躍動が聞こえてきそうな程逞しく、そして果敢に“生きよう”とするそれらを見て、今までの自分は間違っていなかったのだと、そう感じた。

――アマゾン細胞。
勿論それはこの細胞を作った偉大な俺の名前などではなく、務めていた会社の名前をローマ字にして逆読みしただけの、簡素でチンケな名前。
新たな種族を生み出した、なんて言うと神様気取りのようで気にくわないが、それでもその時だけはそんな大逸れた夢見心地に浸ったのを覚えている。

無理もない。あらゆる生物を超える凄まじいスピードで分裂し、成長する人工生命体。
研究の進歩次第では人間のあらゆる難病を治しうる最高の治療薬にも、迫り来る食料危機への対抗策にもなり得る夢のような新たな細胞を、俺はこの手で作り上げたのである。
だが、これまでの常識を覆す画期的な細胞として大々的に発表されるはずだったその名はしかし、ごく一部の人間にしか知らされなかった。

理由?……考えるまでもない。そいつが、“失敗作”だって判断されたからだ。
少なくとも、作り出した俺でさえそう判断せざるを得ないような“欠点”が、一つ確かに存在していた。
その欠点とは――アマゾンが、人を食らうということ。

顕微鏡越しに蠢く無数の細胞は、その細胞分裂の凄まじい速さ故に多くのタンパク質を望んだ。
それも、ただのタンパク質ではない、人のものだけを、選り好みしたように積極的に“食い”、自らを満たしていった。
その時に芽生えた失意は、どれほどのものだったのか、正直もう覚えていない。

この手で生み出したアマゾン細胞は、我が子にも等しい。
だがそのアマゾン細胞が人を食らうのなら……それは、許されてはならない研究に相違ない。
この世で最も繁栄している生物を食らわねば生きられない、哀れな我が子達。

なればそんな存在をこの現世に解き放つというのは、余りにも残酷なことではないか。
アマゾンが幾ら人を食らうとしても、彼らが今から人に成り代われるはずもない。
人はそんな存在に対する準備を微塵もしていないし、これからすることもないだろう。

だが一方で、それでいい……とも思う。
細胞学は所詮、自然の摂理に反する学問だ。
神が作り上げたこの世界で頂点に立ったのが人間という種なら、それを脅かす人工生命体など、きっと生まれるべきではないのだ。

そうして俺は自分の研究をある意味で言えばあっさりと闇に消し去ろうとして――結局、それは出来なかった。
恨めしいことに俺の研究に金を出していた製薬会社のお偉いさんが、この人食い細胞に目を付けてしまったのである。

『これは紛れもなく、新たな種族である』

お偉いさんが宣った理屈だのご高説だのは一切合切耳を通り抜けていったが、そんな狂った主張だけは何故か覚えている。
食物連鎖の頂点に人間が立つ時代は終わったのだと、そう言っていた。
これからはこの新生物、アマゾンが世界の常識を一新するのだと。

だが俺は、その言葉に揺り動かされることなど一切なかった。
アマゾンを実用化すれば、それはいずれ人を食らう化け物になる。
軍事目的だろうが何だろうが、人を食う知的生命体が確かに生まれてしまうことになる。

そんなものが溢れる世界を、そいつら以外の世界は……いや、恐らくは上で高みの見物をしているそいつらでさえも、想像すら出来ていなかった。
俺はいつしか、そんな風に軽々しく扱われる我が子とも言うべき細胞の研究を、最早笑顔で見届けることが出来なくなった。

――金だとか、下らない名誉だとか、そんな身勝手な人間の都合で、俺の子供たちを弄ばないでくれ。
結局はアマゾンに襲われるどこかの誰かには勿論、高みの見物を決め込んでいるお前らにも、そして彼ら自身にも、『生まれるべきじゃなかった』と憎まれることになるのだから。
頼むから、こいつらをそっとしておいてくれ――。


587 : COME RAIN OR SHINE ◆JOKER/0r3g :2019/05/22(水) 16:35:56 jN2GV.FM0

――そんな俺の懇願は、結局叶わなかった。
あの日、会社で爆発が起きたあの日。
逃げていくアマゾンたちと、燃えさかる自分の研究成果をその瞳に宿しながら、きっと“人間”としての鷹山仁は死んだ。

恐れていたことが現実になったという実感と、そしてそれ以上にいよいよ持って愛すべき我が子達が人間から疎み嫌われる存在になってしまったというやりきれなさと。
人間として生きているだけでは、いつまで経ってもこの責任は取りきれないのだという確信にも近い絶望を抱いて。
あの炎の中で俺は確かに一度死に……そしてそれからもう一度立ち上がったときには、一つの決意を固めていた。

――自分自身もアマゾンになって、せめてこの手で我が子達を地獄に送り届けてやろう。

人は、アマゾンを……自分たちを食い、飼い慣らすことも出来ない新種を、どこまでいってもきっと受け入れられない。
もし自分もそうだと言うのなら、自分だけは彼らと同じ地獄に行こう。
人を守る為に人をやめる道を選び、文字通り自身の研究と心中してやろうではないか。

人間が彼らを恨み、そして彼らもまた有象無象の人間を……そして誰ともしれない産みの親を憎み続けるというくらいなら。
紛れもない産みの親である自分だけを、彼らは憎めば良いのだ。
その為にも……アマゾンは一匹残らず俺が殺す。

慈悲も見せず、躊躇もなく、ただ一方的に俺が奴らを全員殺す。
それがアマゾンという、我が子同然の種に対するただ一つ自分に許される愛情表現であると思うし――そして同時にきっと、それがただ一つ許される自分の贖罪に違いない。
だから俺は人を守る。人が、決して未来に『アマゾン』という許されぬ存在を覚えていかないように。人が頂点でいられる世界を、守る為に。

そして同時に他の人間は、アマゾンに触れさせやしない。
人がアマゾンと共存できるなどと言う夢見事を、少しでも信じさせないために。アマゾンが俺以外の人間を恨みながら逝くようなことが、ないように。
ああ、だからそう俺は。
愛すべき我が子を……アマゾンを、一人残らずこの手で殺すのだ。





「――ッ」

不意に何かに躓いて、仁は勢いよくその場に倒れた。
この目になってから、もう何年経っただろう。
霞んだ視界はとっくのとうに慣れたとばかり思っていても、見知らぬ土地がこうも続いては、どうにも足下が頼りない。

ある意味で言えばすっかり慣れた、しかしいつまで経っても不味い土の味を噛みしめながら、彼は仰向けに寝転がった。

「はぁ、考えながら散歩もマトモに出来ないか」

ぼやきながら眺めた空は、最初に比べればほんの少し明るみを増してきてこそいるが、それでも盲目に近い今の仁には暗すぎる。
ほぼ何も見えない中で感覚だけを頼りに歩いていると、どうしてもさっきのような考え事をしてしまう。
なんで自分が歩き続けなくてはいけないのかだとか、その先で何故戦い続けなくてはいけないのかだとか、そういう取り留めもないことが、自分の思考を支配するのだ。

その度に歩行が疎かになり、何かに躓いてからようやく、自分はしっかりと生きて自分の意思で歩いているのだと、痛みと共に実感する。
まるでゾンビのような今の自分でも、しっかりと痛みは感じるのだというのは皮肉という以外に他ない。
流れゆく雲さえまともに捉えられない視界の中、響くような全身の痛みを感じながら、仁は先ほどの戦いで吐かれた自分への言葉を思い返していた。

――『はぁ!? お前! 千翼の親父なんだろ?なんでそんなこと言ってんの!? そんなこと、あるか!』

――『お父さん、ね。親が子を殺すなんて──まぁ』

それは、名も顔も知らぬ者たちの、自分に対する抗議や侮蔑の声。
父親が子供を殺す。
常日頃どんな世界とは言え恐らく最大級の禁忌として考えられているのだろうそれに対する、本能的な忌避感。
だがそんな悲痛な声のどれにも、最早仁の心は微塵も揺るがなかった。


588 : COME RAIN OR SHINE ◆JOKER/0r3g :2019/05/22(水) 16:36:12 jN2GV.FM0

(どいつもこいつも、どこかの誰かさんに似て目の前の物事に簡単に揺り動かされやがる)

幾度となく戦った、守りたい者はなんであろうと――あまつさえこの自分さえも――守ろうとする忌々しい青年の顔を思い出す。
七羽がアマゾンを産んだと知ってなおそれを逃がし、殺す以外の解決策を自分に提案してきた愚か者。
――そんなもの、決して存在しないというのに。

人間がアマゾンを受け入れる準備を出来ていない以上、彼らに与えられる慈悲は死、だけだ。
そしてその咎を背負うべきは……彼らを生み出した自分だけであるべきなのだ。

「自分の子供なんざ……こっちはもう飽きるほど殺してるんだよ」

子供殺しの汚名など、自分はとうに背負っている。
あぁ、だからそう、あいつに……千翼に対して一つだけ、自分が初めてだと言えることがあるとするのなら。

「でも、七羽さんの子供を殺すのは……初めてだなあ」

――彼が、愛した女との間に産まれた子供であると言うこと。
彼女と出会って、もうどれくらい経つのだろう。
その匂いも、声も、感触も、その全てを細胞が覚えるほどに愛した、生涯ただ一人の女。

俺の隣に彼女がいない時間よりも、俺の隣に彼女がいる時間の方が、最早ずっと長かったように感じるほど、その全てを愛した。
だが、そんなに愛する思いを募らせても……ただ一つ、生物として彼女と結ばれることだけは、自分には許されなかった。
そうすれば自分は絶対に、彼女を悲しませてしまうに違いないから。

甲斐性が無いからって?……まぁそれもあるけどな。
それ以上に俺は……どれだけの愛の下に産まれてきた我が子であろうと、アマゾンなら殺さなくちゃならないからだ。
そんな思いを、彼女には絶対にさせたくない。子供殺しの罪を、七羽まで背負うべきじゃない。

そんな、彼女にこれ以上の重荷は背負わせないという強い理性は、しかしあの時、あの雨の日自分に流し込まれた泥で押し潰された。
次に気付いた時にはもう彼女は取り返しのつかない状態になっていて……そして同時に、彼女はもう、自分の中に芽生えた命を捨てないという覚悟を決めていた。
しかし彼女は、俺もまた絶対に信念を曲げないことを知っていて……結局そのまま、姿を消した。

それからずっと、俺は彼女と離れ離れだ。
どこにいるのかは勿論、生きているのかも分かりはしない。
千翼なら、何かを知っているのだろうか。それとも、彼が一人でいるということはやはり自分の危惧したとおりに千翼もまた――。

「まぁどっちにしろ、直接聞くほかないわな」

思考を終えた仁は、そのままゆったりとした動作で地面に二の足を突き立てた。
どっちが上でどっちが下かさえ覚束ない身体を、感覚だけで立ち上がらせる。
ぼやける視界の中で、ろくな匂いも、人の気配さえも感じない薄暗い道を、彼はまた再び歩み始める。

どこに向かうのかも、どこに向かうべきかもわからない。
だがそれでも、足を止めることは決してしない。
全ては、自分の責任を果たすため。

アマゾンが生まれたのも、千翼が産まれたのも、人がアマゾンに食われたのも、アマゾンが人を食ってしまったのも。
子が親に殺される絶望を知らなければいけなくなったのも、そして或いは……愛した女が、自分の子供に食い殺されてしまったのも。
全部自分の責任なのだ。

足なんて、止めていられる時間があるものか。
自分が生み出した怪物は、全部全部自分が刈り尽くす。
それこそがきっと自分に与えられた責務であり、課せられた使命だと思うから。


589 : COME RAIN OR SHINE ◆JOKER/0r3g :2019/05/22(水) 16:36:29 jN2GV.FM0

だから――。





「――お前らは、全部俺が殺してやる」


【?-?/一日目・黎明】

【鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:盲目に近い状態
[装備]:仁のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:全ての『アマゾン』を狩る、『人間』を守る
1.千翼を殺す
2.殺し合いからの脱出
3.次に千翼と会ったら七羽さんについて聞いてみる。
[備考]
※参戦時期は2期7話の千翼達との邂逅前。
※盲目に近い状態なので文字を読むことなどはかなり厳しいです。
※現在位置は不明です。体調の関係でD-6エリアからさほど遠くには行っていないと思われます。


590 : ◆JOKER/0r3g :2019/05/22(水) 16:38:34 jN2GV.FM0
以上で投下終了です。
短い上に話全然進んでなくてごめんなさい。
何か指摘など(場所の指定は絶対であるとか)あればお願いします。


591 : 名無しさん :2019/05/22(水) 16:57:02 /bYWAnGM0
乙です
ヒモだのゴムしろだの言われてるけど、仁さんだって辛い思いしてるんすね
やっぱり野座間の会長は害悪。


592 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:22:06 EwH/rK.Q0
昨日投下した自作について、加筆修正を加えました
少し修正量が多いのでこっちで全体を再投下させていただきます


593 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:24:14 EwH/rK.Q0
PENTAGONから出た一花と炭治郎は、道中でちょっとした雑談に花を咲かせていた。

「それにしても、姉妹で五つ子ってすごいと思いますよ」
「うん、まあ、みんな驚くよ。珍しいって。
 私が一番上だけど、同じ日に生まれるとそんなに気にしないから」
「早く、見つけてあげないといけませんね」
「炭治郎くんは、禰豆子ちゃんだっけ。妹がいるんだよね?」
「ええ、はい。たった一人の、大切な妹です」

その言葉を言った炭治郎の瞳が少し遠くを見ているような気がした。
少し訳ありだったのかなと迂闊に触れたことを反省する一花。

「どんな方たちなんですか。その妹さん達って」

そんな一花の心中を他所に、会話は進む。

「私達五人って、同じ顔をしてるんだけどね。
 最近は結構髪型変えたりしてるけど、ちょっと前は髪型も好みもおんなじで、見間違えられてばっかりだったし」

ちょっと心の中に感じた罪悪感から、少し口が回ってしまっていた。
ただまあ、目の前の少年は悪い子ではないだろうし大丈夫だろう。

「だいぶ好みも変わってきたかなぁなんて思ってたら、好きな男の子の好みとか最近被ってたりしてさ。
 血は争えないっていうか、ねぇ」
「あははは。仲がいいんですね、一花さん達姉妹は」
「うん」

「みんな、大事な家族だよ」




振り下ろされた刃を、慌てて横に転がって避ける五月。

地面を斬りつけたアマゾンネオの刃は、コンクリート製の地面に深々と突き刺さっていた。

(千翼君……本気で…)

納得もできていない。
言いたいこともいっぱいあった。

目を覚まさせたい、そんな気持ちは心の中に燻っている。

だけど、今の自分にはできない。
言葉が届く前に、殺される。

五月は、アマゾンネオが刃を引き抜くまでの間を見てアマゾンネオに背を向け一気に走り出した。

空腹であることも忘れ、おそらくこれまでの人生になかったくらいの力を足に込めて。

アマゾンネオはそんな五月を追う。
アマゾン生命体とただの人間、それも運動はそう得意でない者の脚力。
全力で走っていてもその差は歴然であり、刻一刻と距離が詰められている。


全力で走り続けたことで足がもつれて転がってしまう。

振り返ったところで、すぐ目の前で手の剣を振りかざすアマゾンネオの姿。

「千翼君っ!!」

名前を呼びかけるが止まる気配はない。
思わず目を閉じた。


594 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:24:29 EwH/rK.Q0


キィン

振り下ろされた剣が体に触れると思った瞬間に、金属音が響いた。
まるで剣と剣がぶつかり合うかのような。

目を開ける。
闇夜の月光の下で、一人の少年が立っていた。

黒い詰襟を着て、黒と緑の市松文様の上着を羽織っている。
その手には黒い刀が携えられており、アマゾンネオの刃を受け止めている。

「大丈夫ですか?!」
「俺は竈門炭治郎!向こうに中野一花さんが居ます!早く逃げてください!」
「…!一花が…!」
「俺は大丈夫だから!早く!!」

その刀を構えた小さな体が、先程まで共に行動していた少年の姿と被って。
同時にその名前が、彼が語っていた仲間のものだと気付く。

だが、今の五月には説明することができない。それに説明している場合でもない。

立ち上がった五月は、炭治郎が示した方に向けて走り出した。



五月が遠ざかったのを見て、剣を弾く炭治郎。
残ったその場所で二人は睨み合った。

(不思議な匂いだ、鬼じゃないけど、人間でもない。
 血の匂いはするけど、鬼のように彼が殺したって感じでもなさそうだ)

相手の動きを伺いつつ、目の前の相手から感じる匂いを分析する炭治郎。

(それに、この匂いは…)
「炭治郎…、善逸の仲間か」
「善逸…!やっぱりあいつが。今どこにいるんだ?!」
「あいつは、死んだよ」
「…っ!」

その言葉に動揺する炭治郎。
そこへ隙をつくかのように一気に距離を詰めるアマゾンネオ。

思考より先に体が動き、突き付けられた剣を受ける。

善逸は死んだのか。君は何者なのか。
聞きたいことはたくさんあった。だが、この相手の放つ殺意はこれ以上の会話を拒絶している。

(やらないと…、今この後ろには、一花さん達が…!!)

思考を引き締め、炭治郎は刀を振るった。




「炭治郎君、どうしたんだろう…?」

PENTAGONを出て少し歩いた辺りで一人佇んでいる一花。

今から数分前のこと。
隣を歩いていた炭治郎の顔が突如険しくなった。

「炭治郎君?」
「一花さん、刀を渡してください」
「えっ、どうして?」
「誰かが近づいています。
 一人は、一花さんの部屋に住んでいた、たぶん妹さんの誰かです。
 それともう一人。人間じゃない何かがその人に近付いています」
「ちょっと待って、どうしてそんなことが分かるの―――」
「早く!これ以上は危険だ!」

言ってることが突然すぎて信じられなかったが、鬼気迫る表情が嘘を言っているようにも見えなかった。
バッグから出した刀を渡すと、目にも留まらぬ速さで走り出した。
四葉よりも遥かに速そうだと感じるほどの速度で。

「もし妹さんと合流したら来た道を戻って、さっきの建物まで引き返してください!」

一瞬振り向いてそう叫び、炭治郎の姿が見えなくなった。


595 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:24:45 EwH/rK.Q0

困惑し続ける一花の元に、やがて一つの影が見えてくる。

長い髪に星型の髪留めをつけているその少女は。

「五月ちゃん!?」
「い、一花…」

息を切らせながら走る五月に駆け寄り、その体を抱きとめる一花。

「どうしたの、大丈夫?!」
「はぁ、はぁ……、千翼くんが、炭治郎くんで、善逸くんが…」
「よし、まず落ち着こう!そうだ、これ」

言っていることが途切れ途切れで容量を得ない。
と、一花のバッグから差し出されたパンの包み。食料品として入っていたものだ。

それを見た五月は、ひったくるように袋を奪い、開いてガツガツと貪った。
10秒後、空になった袋を一花に渡しながら、焦る気持ちはそのままに口を開く。

「ち、千翼君が私を殺すって襲いかかってきて…、そしたら、炭治郎君が来て…」
「そっか…。怖かったよね…」

背中をトントンと叩き落ち着くように宥める一花。

「違うんです…、千翼君は殺人鬼とかじゃなくて、好きな人が死んで、悲しんでて、だから生き返らせるためにって…」
「その、まずPENTAGONに一旦戻ろ。そこならたぶん落ち着くだろうし、話はそこで聞くから」

少なくとも来た道を戻るのであればまだ危険な可能性は低いだろう。

震える体を支えながら、一花は来た道を引き返し始めた。




「なあ蓮、PENTAGONってどういう意味だっけ」
「確かアメリカの国防省のことだったとかな気がするな。
 あとは意味だけなら五角形だ。それぐらいは知っておけ、記者だろ」
「ちげーよ!それくらい知ってるよ!
 ただ何か特徴的な名前なのにこうやって来てみたら、ただのでっかいマンションだからさ」
「マンションの名前ならそんな深い意味はないんだろ」
「そっかー」

などという会話をしながら、PENTAGONにやってきた真司と蓮。

最初の場所から近い位置にあった施設はふれあい動物パークとPENTAGON。
そのうち名前だけだとその実態がつかみにくいPENTAGONへと進路を取っていた。

入ったマンションのロビーは大理石で作られた広い空間。

「うわ、広っ。ホテルみたいだな。
 やっぱこういうところに住むのも憧れるよなぁ」
「言ってる場合か」

無論、軽口を叩きながらも真司も周囲に気を配っている。
誰かがいる気配はない。

「これやっぱ上に上がらないと分かんないんじゃないかって思うんだけどな」
「さっき外から見たが、俺が見た限りだと部屋の明かりは見えなかったぞ」
「でも夜だし、寝てるってこともあるんじゃないの?」
「こんな場所に連れてこられてか?」
「…だよなぁ」

ここに人はいないと見た二人は、PENTAGONを出て別の場所に移動しようと歩を進めようとして。

その時、外からこのマンションに向けて歩を進めてくる者の存在に気が付いた。

「誰かくるぞ蓮」
「しっ、静かにしろ。安全なやつだとは限らないだろ」

声を潜めてマンションの植え込み付近に身を隠す真司と蓮。
迫る気配が視界に入る位置まで迫った。


596 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:24:59 EwH/rK.Q0

少女が二人。
息を切らせて服に泥をつけた髪の長い子を、もう一方の短めの髪の子が支えながら早足気味に歩いている。

蓮から見ても周囲に気を配っている様子もない。自分達のことで精一杯という風に見える。
少なくともライダーのような存在には見えなかった。

そう冷静に分析する蓮の横で、真司は二人を見た瞬間、飛び出していた。

「二人共、大丈夫!?」
(そうだな、こいつはそういうやつだったな…)

いろいろ考えて警戒していた自分が馬鹿らしく感じるほどバカ正直に走り寄っていく真司に続いて後を追う蓮。


突如現れた男に驚く少女二人。
怯えの表情も見え、やはり戦いに慣れた存在にも見えない。
おそらくこのゲームに巻き込まれたただの一般人だろうと見て、蓮は警戒を解いた。

「あ、大丈夫大丈夫。俺たちは君たちの味方だから。
 ほら、別に危ないものなんて持ってないし」
「ほ、本当ですか…?」

安心するように座り込む髪の長い方の少女。

「俺は城戸真司、こっちは秋山蓮。
 何があったんだ。もしかして誰かに襲われて?」
「その、五月ちゃん…妹が襲われたらしくて…、今炭治郎君って子が行ったんだけど、まだ帰ってきてなくて…」

まだ落ち着いている様子ではない襲われた少女に代わり、付き添っていた子が説明する。

よく耳を澄ますと、金属音のぶつかる音が夜闇の静寂に混じって聞こえ、しかも少しずつこちらに迫ってきている。

「城戸、お前はこの子達の様子を見てろ。俺はあっちの様子を見てくる」
「ああ、分かった。気を付けろよ、蓮」

と、蓮はマンションの入り口のガラスにカードデッキをかざす。
どこからともなく現れたベルトがその腰に装着される。

「変身!」

掛け声と共にカードデッキを挿入。
その姿が西洋の騎士を思わせる銀の装甲と黒いスーツを纏った姿へと変わる。

「あっ…」

それを見て、短髪の少女が呟き声を漏らす。

そのまま二人の来た道を駆けていく蓮、仮面ライダーナイト。

「あいつは大丈夫だから。
 何があったのか、教えてくれないか?」

残った真司は、少女へと優しく呼びかけながらマンションの玄関ホールへと足を進めていく。

「…ちょっと、その、水と食べ物を…」
「え、あ、うん。はい、これ」

と真司の出すパンと水をガツガツと口にする五月。
すると少しは気分が落ち着いたのか、荒れていた呼吸が整ってきた。

「その、聞いてほしいんです…。千翼くんに何があったのか…」

そうして、五月はそれまでに何があったのかをポツポツと話し始めた。



アマゾンネオと戦う炭治郎だったが、その戦況は芳しいものではなかった。

相手の技術は精錬されたものではない。これまで戦ってきた数々の鬼たちのそれと比べれば大したものではない。
しかし、その力はかなりのもの。幾つか打撃を受けたが、それは中位クラスの鬼の攻撃であれば防ぐほどの防御力を持つ隊服を着ていて尚も体に強い衝撃を与えている。
体の表皮も硬く、日輪刀で斬りつけたものの大きなダメージが届いているようにも見えない。

だが、それでも決して戦えない相手ではなかった。

この相手以上に力の強い鬼はいた。
刃の通らぬ硬い皮膚を持った鬼とも戦った。
そして、柱の人でも苦戦するような高い技量を持った鬼との戦いにも生き残ってきた。

だというのに、この相手の動きに対応しきれていない。


597 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:25:12 EwH/rK.Q0

鬼のようにも思う身体能力を持っていながら、一切の慢心を感じず。
むしろこちらに食らいつく獣のごとく攻め立ててくる。

血鬼術のような能力を持っていれば、逆にその攻撃の隙を見極め突くことができただろうが。




―――いや、全ては言い訳だろう。

刃を弾き体を斬りつける。脇腹に切り傷がつき血が吹き出すが、数秒の後傷は再生し。
その再生する間にも痛みなど感じていないかのように右の剣と左腕の鰭のような刃を振り向けてくる。

炭治郎の心には戸惑いがあった。


『善逸は、死んだ』

鬼殺隊となって長い間、伊之助も交えて共に行動してきた仲間。
それが死んだという事実。

動揺で呼吸が乱れ、いつもの調子が出せていない。加えてこの獣のような連撃。
刃は鋭く危険だが、それだけが武器ではない。間合いが詰まれば膝蹴りや肘打ちなどの打撃が襲いかかる。
致命打ではないが、体に与える衝撃は小さくない。

だがここで引くわけにもいかない。
目の前の敵は、攻め立てながら確実に一歩ずつ前進してきている。

ただ少しだけ、呼吸を整える隙がほしかった。
炭治郎の力量であればいずれその隙を作ることは叶っただろうが、その時はそれよりも早く来た。

突如窓ガラスから飛び出した黒い影。
それまで全く匂いを感じなかったこともあり突然の襲来者に意識を割かれる炭治郎。
だが黒い影に襲いかかられたアマゾンネオは驚きだけではすまず、体を弾き飛ばされる。

そこには、コウモリを思わせる巨大な翼を持った異形の獣がいた。

そして、それを追って背後から迫る者の気配も感じた。

「炭治郎という名は、お前でいいのか?」

自分の前に現れた、特徴的な甲冑を纏った男。
手には剣を構え、今しがたコウモリが吹き飛ばしたアマゾンネオを牽制している。

「ああ、俺が炭治郎だ」
「そうか。少し手を貸しにきた。
 五月という女の子を追う殺人者というのはアレで合っているか?」
「五月さん…、そうか、よかった。
 少しだけ手こずっていたんだ、手を貸してくれるなら助かります」

起き上がるアマゾンネオ。


その姿を見て、一瞬仮面の下で蓮の目が細まった。

(この姿、デッキは持っていないようだが、ライダーにそっくりだな)

カードデッキこそないが腰に巻かれたベルト。
胴体や腕を覆う鎧。
その姿が自分が戦ってきた者たちに酷似しているようにも感じられていた。

だが。

「だからこそ、やりやすいか」

迫るアマゾンネオの剣を弾き、その胸をダークバイザーで突く。
火花が散りうめき声を上げるアマゾンネオ。しかし体は引くことなく、左手の鰭をこちらの首めがけて振り付ける。
咄嗟に剣を引きその腕を受け止めるナイト。

(…っ、こいつの力、強い…!)

思った以上の腕力に押し負けそうになるナイト。
そこへ炭治郎の声が響く。

「退けて!」
「!」

言葉に合わせて腕と体から力を抜く蓮。
体はアマゾンネオの力に押されて倒れ込み。

「――水の呼吸、漆ノ型・雫波紋突き!!」

がら空きになったアマゾンネオの体に、炭治郎の突き出した刀が突き付けられた。

不意の衝撃に後退するアマゾンネオの体。
しかし下がりながらもその体は迫った炭治郎の体を蹴り上げんと脚を振りかざす。
それを交わしながら、足運びを攻撃に転じて一気にアマゾンネオの体に迫り。


598 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:25:26 EwH/rK.Q0

「参ノ型・流流舞い!!」

流れるように体を斬りつける。

腹部が鋭く斬り裂かれ、後退するアマゾンネオ。
そこに追撃をするように迫ったナイトの剣が体を突いた。

しかし。

「何?!」

アマゾンネオはその剣を握り締めていた。
腹の傷もあり動けるはずがないと踏んでの追撃だったが、まるで痛みを意に介していないかのようにその手の力は揺るがない。

剣を手放し後退しようとする蓮より早く、アマゾンネオはナイトの首を掴み上げた。
体を蹴り飛ばし抵抗しようとするが、手の力はびくともしない。

もう一方の手の刃がナイトの体を斬り裂かんと振るわれ。


「漆ノ型・雫波紋突き!!」

横から高速で放たれた突きが、腕を弾き軌道を変えた。

(く、やっぱりこれじゃあ力が…)

腕を貫くつもりで放った一撃だったが、力が足りず弾くのみに終わってしまう。
しかし軌道を変えることには成功。
更に振り返り再度攻撃に転じようとした炭治郎に、ナイトの体が放られた。

二つの体がぶつかり、地面を転がる。

「ぐっ、大丈夫か?」
「ええ、俺は問題ありません。それより彼は」

と、周囲に目をやる二人。
しかしアマゾンネオの姿はどこにもない。

「…!まさか…!」

炭治郎は慌てて駆け出す。
同時に蓮もその後を追って走り出した。

その匂いの行き先は、蓮が来た方向、PENTAGONがある方に続いていた。



体の痛みを無視して走る千翼。
ただ真っ直ぐに、あの少女の元へと駆け抜けていった。

理由は一つ。

中野五月。
彼女だけはこの手で殺さなければならないと。

さっき思わず炭治郎の前で善逸の名を呟いた時、胸に鋭い痛みが走った。
まるでまだ人を殺すことに罪悪感を持っているかのような感覚。

ギリギリのところでまだ何かが残っている。

だから、その思いを切り払うために彼女を殺さなければならない。

この胸の痛みだけは消すために。

一瞬でも母を求めたあの姿に自分を重ねたあの子を殺すことで、これ以上この痛みが感じなくなるように。

あの二人は、きっとそれから戦った方が、勝てそうな気がしたから。




599 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:25:55 EwH/rK.Q0

「…そんなことが…」

PENTAGONで五月の話を聞いた真司。

それまでにあったこと。
謎の女や父親に命を狙われる千翼という少年。
自分と千翼を守って命を落とした善逸という少年。
そして、千翼が好きだった相手の死体を発見し、彼女を蘇らせるために皆を殺す決意をしたこと。

「その子のこと、他に何か分かるかな?」
「えっと、命が狙われるのは、”アマゾン”だからだって、そう言ってました。
 人を食べなければいけないって」
「人を食べるって、そんなスプラッタ映画みたいな…、あ、ごめん」

思わず呟いた一花の一言に、鋭く睨む五月。

「彼、たぶん苦しんでるんです…。
 会ったばかりで彼の事情は断片的にしか分からないですけど、だけどきっと…」
「分かった。話してくれてありがとう。
 とにかく、今は蓮達を待ってからここを離れよう。
 あいつなら大丈夫だ、きっと帰ってくるから」

よし、と立ち上がってマンションの入り口に近寄る城戸。
仲間の帰還を信じるように様子を伺っている。


「ねえ、五月ちゃん。話聞いてて思ったんだけど。
 もしかして五月ちゃん、その子にちょっと入れ込んでない?」
「え…、どうしてそう思うんですか?」
「だって、その子、お父さんに殺されそうって、酷い目に合わされそうなんだって…。
 それってもしかして、私達の―――」
「そ、そんなことはないですよ!千翼君と私達だと事情が全然違いますし」
「そっか、そうだよね…。五月ちゃん、あの頃からずっとその辺に敏感になってる気がしたから。
 うん、分かってるならお姉さん安心だ!」

言いながらも、五月の声色に嘘が混じっているのを見逃していない。
やはり五月は、未だに母親と、ずっと昔にいなくなった父親のことを引きずっている。

そして、もしもの時にその心の取っ掛かりに火がついてしまったら。
ましてや今は殺人鬼に狙われている状況なのだ。

一花は、上着のカードデッキに触れる。

「ちょっと、城戸さんと話をしてくるから、ここで待ってて」


そうして外の様子を伺い続ける城戸に近寄った一花が話しかける。

「あの、ちょっといいですか?」

呼びかけながら、一花は上着のポケットから四角いカードケースを取り出した。

「これ…ライダーのデッキじゃないか?!」
「私の支給品に入っていたんですけど、もしかしてこれっておもちゃじゃなくて本物なんですか?」

似た形のものを使っていた蓮の姿を見て、これもそうなのではないかと気付いた一花。

「やっぱり他にもライダーのデッキ他の人に配られてるのか…。
 それは確かに使えばライダーに変身できる。だけど、君は使っちゃダメだ。
 そいつはとても危険なんだ。俺たちはそれを使って、互いにずっと最後の一人になるまで殺し合う戦いをやらされていたんだ」
「……」
「何なら、俺が預かろうか?」
「…いえ、もしもの時、私が五月ちゃんを守らないといけないかもしれないですし、私が持ってます」

今は実際に五月が追われているところだ。
もしもの時は自分が守らなければならない。

そんな想いを語る一花からデッキを取り上げるのは、真司にも躊躇われた。

その時、マンション前の通路に足音が響いた。
近寄る速さは人間のものとは思えず、真司からすると蓮の足音とも違うように聞こえた。

「下がってて一花ちゃん、五月ちゃんの近くにいて」


600 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:26:08 EwH/rK.Q0

入り口から離れつつ一花を後ろに下がらせる真司。

やがて足音がマンションの前までたどり着いた時、その入り口が鋭い音と共に切り刻まれる。

扉が蹴り飛ばされる音を聞き、三人が視線を向けた先にいたのは、青を基調とした体に鼠色の鎧を纏った異形。

「千翼君…っ」

呼びかける五月。
真司は二人の体を後ろに下げ前に進み出る。

五月の姿を見たアマゾンネオ、千翼は手の剣を翳して三人の元に襲いかかり。


GAAAAAAAAAAAAAAAAAA

ロビーに備え付けられた鏡から、赤い龍が咆哮を上げながら飛び出し突撃、その進行を阻んだ。


「君、千翼っていうんだよな」
「―――」

話すことはないと言わんばかりにそのうめきながら起き上がって。

しかしその後ろから迫る二つの足音が迫ってくる気配に振り返って剣を構えた。

炭治郎とナイトの斬撃を受け止めた千翼。

二人はそのまま、二人の姉妹を守るように真司の横に並ぶ。

「…悪い、止めきれなかった」
「まあ、いいよ。俺もこの子と話がしてみたかったから」

と、真司は千翼に向かい合う。

生身を晒す真司に不安を覚えた蓮が前に出ようとするのを制する蓮。

「聞いたよ、五月ちゃんから。君は好きな子を生き返らせるためにみんなを殺そうとしたんだって」
「……」

真司の言葉に沈黙で返す千翼。

「まあ、正直人は生き返らない、なんてことは言えないわな、俺たち。
 何かこうして生き返っちゃってるわけだし」
「フン」

蓮と顔を見合わせる真司。
その言葉に千翼が顔を上げる。

「炭治郎君だっけ。君の友達のことは聞いてるよ。だけどその子を殺したのは」
「分かってます。彼からは善逸の匂いはあったけど血の匂いは感じなかったですから」

彼が殺し合いに乗ったのは今の話からするについさっきのことだという。
ならば、善逸はどうして死んだのか。おおよその予想は付く。きっと彼を守って死んだのだろう。

そんな彼に人殺しをしてほしくはなかった。

「俺たちは人を食う鬼と戦ってきた。
 彼らは人から鬼へと変えられて人を食い、多くの罪を重ねて人の心を失っていった。
 君ももそんな風になりたいのか?!」
「違う!俺は、生きたいんだ!イユと一緒に!」

炭治郎の言葉に慟哭の叫びを上げる千翼。


601 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:26:20 EwH/rK.Q0

「ずっと、人が食べたくて仕方なかった…。でも、ずっと我慢してきた…。
 だけどイユは、俺が初めて食べたいと思わなかった子だったんだ…」

「俺が、世界で一人、人間らしくいられる場所を作ってくれたのが、イユだったんだ…!
 だから、俺はイユと一緒にまた歩みたいんだ!」

その言葉に、蓮は思わず視線を下げる。
かつて恋人のために戦いを決意した男にとって、その姿はある点では己に被っても見えた。

そして、炭治郎もまたその言葉に思うところがあった。
もし禰豆子が鬼になってしまったあの日富岡に会わなければ。
禰豆子は彼と同じような立場にあったかもしれない。



「そっか、やっぱり君も”ライダー”だったんだな」

その時ポツリ、と真司が言った。

「ライダー…?」
「ああ、時には何かを犠牲にしてでも自分の願いを叶えたいって思う、それが俺たち人間で。
 そんなことに命がかけられちゃう俺たちみたいなバカが、ライダーっていうんだ」
「人間…?俺が…?」

驚いたように真司を見る千翼。

「ああ、俺もライダーだ。
 君の願いで犠牲になる人を減らしたいって願いで戦う、傲慢な願いで人の願いを踏みつけようとしてる、人間だ。
 君と何も変わらない」

かつてライダーバトルを戦い、その果てに答えを導き出した真司。
その言葉の中には、かつてのような迷いはなかった。

「…は、ははははははははは!!」

千翼は、あまりにもおかしくて笑い出す。
あまりにも今更すぎた言葉、だけどそれがどうしようもなく嬉しくて。

「初めてだよ…。俺を、人間扱いしてくれた人は」

4Cも、父も、友達だった長瀬でさえも自分のことはアマゾンとして見ていた。
それでも長瀬はマシとはいえ、4Cではどれだけ声高に人間だと叫んでも、実験動物のような扱いは止まらなかった。

「もっと早く、あんたみたいな人に会いたかったな」

だが、千翼はもう止まれない。

あまりにも今更だったから。もしイユが生きている時に会えたなら、また違う道が進めたかもしれない言葉だった。

決意は揺らがない。
刃を構える。

「ああ、なら、俺も全力で君のことを止めるよ」

真司はガラスにデッキを翳し。

「変身!」

腰のベルトにそれを挿入。
その体を己の戦うための姿へと変えた。

仮面ライダー龍騎。
赤いスーツと銀の装甲を纏った、戦士の姿へと。


「炭治郎君、君は大丈夫か?」

ライダーでもない生身に刀を持った少年に気遣って声をかける。

「ええ、善逸のこともありますし、彼を止めたいって思う気持ちは同じです」


龍騎の隣に並んだナイト、炭治郎。
その正面に立つアマゾンネオ。

アマゾンネオはバッグから巨大な剣を取り出し、右手の備え付けの剣と合わせて二刀として構える。

勢いよく走り出すアマゾンネオ。
龍騎は右手の剣をかわしつつその体に拳を叩きつけアマゾンネオの体を退かせる。

しかし一歩下がりながらも左手の剣を振るい龍騎に叩きつける。
大きく装甲が火花を上げ吹き飛ばされる龍騎の体。

「…っ!」


602 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:26:31 EwH/rK.Q0

そんな龍騎を庇うようにナイトが前に出て、炭治郎もまた刀を振るう。

起き上がった龍騎が体を見ると、装甲が大きく斬り裂かれている。
かつてのライダーバトルでもここまで大きくやられたことなどなかった。

左手の剣の威力に驚きながらも、ナイトは牽制する。しかしその剣を受け止めた炭治郎は疑問を持つ。
自分が受け止めた一撃は同じくらいの力が入ったもの、だがそこまで高い斬撃を放っていそうではなかった。

左手の剣の名を、魔剣グラム。
それは悪竜ファフニールを討った伝説の英雄、シグルドの持つ竜殺しの剣。
その竜殺しの特性は、無双龍ドラグレッダーの力を宿した龍騎に対して高い威力を発揮するものだった。

やがて三人への攻撃の中で龍騎だけに特に高い威力を見せると悟った四人は、動きが変わり始めた。
ナイトと炭治郎は龍騎への決定打を避けるように庇う動きとなり、逆にアマゾンネオは龍騎を優先して狙い始めた。

数の上では有利な状態でありながら、三人は攻めきれない状態に陥る。

だが、それでも龍騎は決して退くことなく果敢に攻め続ける。

GUARD VENT
SWORD VENT

両肩に装着された盾が、切り落とされる運命にありながらも一瞬だけグラムの軌道を受け止める。
その間にその手の剣、ドラグセイバーを斬りつける。

右腕の剣で受け止め競り合いになるが、二刀の片腕ずつで武器を持つアマゾンネオは押し切ることができない。

後ろに下がったアマゾンネオは、咄嗟にインジェクターを操作。

――クロー・ローディング

追うように斬りかかる龍騎の前で、腕をフック状に切り替え、その腕を天井に伸ばして飛び上がる。
そのまま天井を蹴って地の龍騎に向けて魔剣グラムを振り下ろし。

ADVENT

咄嗟にカードをバイザーに挿入、直後に龍騎の周囲を守るように鏡から赤き龍、ドラグレッダーが姿を現す。
アマゾンネオの背後からその体を弾きバランスを崩させる。

「!――すみません、その体ちょっとお借りします!」

弾かれ宙を舞うアマゾンネオ。
そこへ、炭治郎がドラグレッダーの体を足場に駆け上がり。
アマゾンネオの頭上から刀を振り上げて迫り。

「ヒノカミ神楽・火車!!」

そのまま上段から炎を纏わせ振り下ろした。
アマゾンネオは崩した態勢のまま魔剣グラムを構えて受け止める。
しかし重力の勢いも合わさった振り下ろしを受けきれず、グラムに亀裂を走らせながら、アマゾンネオの体は地面に叩きつけられた。


炭治郎は着地し、千翼も割れた地面の上で立ち上がる。

「フゥッ、フウゥ…!」

その仮面は亀裂が入り、黒い血のような液体が流れている。
魔剣グラムは砕け散って地面に散らばっており、その手には右腕のクローのみ。


「ウゥッ!!」

呻くようにそのクローを再度射出。
今度はクローそのものを攻撃に使うように打ち出す。

狙われた龍騎はそれを剣で弾き飛ばす。

しかし弾いたクローは勢いをそのままに龍騎達のずっと背後まで飛び、その壁に突き刺さる。

「――!!」

その位置に気付いた三人が駆け寄る。
最も近かった龍騎、高速の足運びで迫った炭治郎がその進行を阻止しようと動く。
しかしアマゾンネオは脚を振るい迫った二人の体を逆に弾き返した。

「二人とも、危ない!!」

転がりながら叫ぶ城戸。

そのアマゾンネオの進行先は、一花と五月が身を隠している場所だった。






603 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:27:15 EwH/rK.Q0


ロビーの物陰に身を隠す一花と五月。
一花が五月の体を抱くようにしながら身を潜めている。

近くでは、自分達を守ろうとする三人が、五月の命を狙っていた異形と戦っている。

「五月、大丈夫だから。絶対に」
「………」

五月を抱き締める一花。
だが、この場で体が、手が震えているのは自分だという自覚もあった。

自分が守ると言ったはずだった。
なのに、目の前の戦いを見たら体が動かなくなってしまった。
すぐそばでは行われている、自分でも想像の及ばないまるで映画の中のような戦いを目の当たりにすると。


「…一花、怖いんですか…?」
「……あはは、誤魔化したかったんだけど、無理だねこれ。
 何で怖がりのはずの五月ちゃんより私の方が怖がってんだろう…」

一花の胸の中で震えを感じ取った五月の問いかけに、作り笑いをしながら答える一花。
そんな一花の手をぎゅっと握る五月。


「五月は、怖くないの?」
「怖いですよ当然…。だけど…」

五月の目が龍騎やナイトに拳を振るい続ける青い影を映す。

「彼、泣いているように見えるから…」
「五月ちゃん…」

一花は五月を諌める意味も込めて、強く抱き締める。
今この手を離すと、どこか遠くに行ってしまうような気がしたから。

まるで、あの日の母のように。
自分が変わり始めたきっかけとなったあの日のように。





後ろでキン、と何かを弾く音が聞こえ。

「――!二人共、危ない!」

伸びたロープ状の先端が二人の潜んだ付近の壁に刺さった。
狙いをつけたクローを弾き飛ばしたが、その軌道が変わった先が二人のすぐ傍に着弾してしまった。

それが千翼が狙ってのものだったのか偶然だったのかは他の皆には判断できなかったが。

ロープが巻き取られアマゾンネオの体が二人の眼前に現れる。

全身がボロボロで傷だらけになりながらもその体は再生を繰り返し続け。
ひび割れた仮面はまるで生身の体が傷ついたように血のような液体を流している。

怯えている場合ではないとカードデッキを取り出そうとする一花。しかし間に合わない。距離が近すぎた。

腕の鰭を構えて迫るアマゾンネオ。

走る炭治郎達三人だが、間に合わない。

「一花っ!」

自分を抱きしめていた姉の体を押し飛ばす五月。

刃を振りかざす千翼の前に、押し出した一花を守るかのように両手を広げて立つ五月。

振り下ろされた刃は真っ直ぐにその首へと向かい。

「い、五月ちゃんっ!!」

首の皮にわずかに刺さった位置で、その刃は止まっていた。
震える手は、あと少しでも動けば五月の首を切り裂くだろう。

「…千翼君、もう、止めましょう?」

その手に感じる迷いに掛けて、目の前の少年の凶行を止めようと呼びかける五月。
アマゾンネオの頬に触れる五月の手。

ダメだと叫びたかった。
その子は、私達とは違う。似ているかもしれないけど違う。

逃げてと叫びたかった。
五月にとってその子が放っておけない子だったとしても、自分にとっても五月はたった一人の、五つ子の姉妹の一人なのだから。

しかし、そんな声が出るより早く、その時は訪れてしまった。

千翼の体から蒸気が発生し。
その、割れた仮面の下の顔が赤い瞳と鋭い牙、青い肌を持つより異形の姿へと形を変えたのは。

そして。

炭治郎の高速の突きが千翼の体を弾き飛ばすより早く。
その腕の刃は、五月の肩から胸にかけてを深く切り裂いていた。

吹き出した鮮血が、傍にいた炭治郎と一花の顔を濡らす。


604 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:27:28 EwH/rK.Q0


突き飛ばされ壁に叩きつけられるアマゾンネオ。

「蓮!」

真司は蓮を呼びかけながらカードをベントインする。

NASTY VENT
STRIKE VENT

龍騎の右手に龍頭の手甲・ドラグクローが装着され。
千翼の元に鏡から姿を表したダークウィングが接近。
その体から放たれた超音波が千翼の動きを止め。
更にそこへ龍騎の構えたドラグクローとその背後から現れたドラグレッダーの口から放たれた火炎が着弾。

壁を破壊しながらその体を吹き飛ばした。




「五月ちゃんっ!しっかりして!五月ちゃんっ!」

声が聞こえた。

体を動かそうとするが、力が入らない。
呼吸するのも辛かった。

目を開くと、顔を血に汚した一花と炭治郎の顔が映る。

「わ…たし……」

口から血が漏れる。
言葉を発することすら辛かった。
だけど、どうしても言わなければいけないことがあった。


あの時、どうして自分が斬られたのか。

まだ千翼は引き返すことができると思っていた。

だけど、あの時、割れた仮面の奥で顔が変わった時。
その顔を見て、怖い、と思ってしまった。
それが、顔に出てしまった。

(千翼君の、…こと、怖いって……、止めたいって思ったのに、怖いって思っちゃって…)

自分が、彼が引き返す最後の道を奪ってしまった。

「ごめん…、なさい……!」

最後の引き金を引かせてしまったことを千翼。
守ってくれようとしたのにこうして命を落としてしまったことを善逸や守ろうとしてくれた三人。
そして目の前でこんな姿を見せてしまった一花。

その全てに謝るように呟き、五月の体は動かなくなっていった。


【中野五月@五等分の花嫁 死亡】



昇竜突破の炎の直撃を受けマンションから投げ出された千翼の体はアマゾンネオのものから解除されていた。

「はぁ…はぁ……、くっ……」

血に塗れた手を見ながら心を殺す。

まだ一人。
だがその一人を殺すだけでもこれだけの消耗を強いられた。

アマゾンネオの体は確かにスペックはあの三人を圧倒しているものだった。
だが、三人はそれを補って余りある戦闘経験を持っている。
ライダーバトルを戦い抜いた仮面ライダーと、高い実力を持つ鬼との戦いを生き抜いてきた鬼殺隊の男。
それは戦いを始めてから日が浅い千翼には手の余る相手だった。

(やっぱり、あの姿を使わないといけないのか…?!)

それでも自分の持つ本当の姿、アマゾンとしての姿を解放すれば勝てるかもしれない。
だがその姿は自分でも制御が叶うかが分からない。ともすれば、暴走したまま人の肉を食らってしまうかもしれない。

(それだけは…ダメだ…!)


605 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:27:43 EwH/rK.Q0


(力が欲しい…、人を殺す力が…、俺の中の飢えを制御するだけの、力が…!
 俺がもっと人を殺せるだけの、力が…!)


力への強い渇望。

ドクリ、と心臓の鼓動がなった。

「え…っ」

何かが呼びかけているようだった。
それは自分のバッグの中から感じる。

開くと、その鼓動はある支給品に触れた時に強まった。
あまりにも自分には合わない形をしたそれ。扱えないし運ぶことも難しいと思ってバッグの奥に閉じ込めていたそれ。

その巨体が、”自分を使え”、そう呼びかけていた。

(こいつなら…俺は人を食わずに人を殺せる…!)

それを装備した千翼は、その中で、大きく吠えた。
やがて千翼の体は変化、膨張し異形の姿へと変える。
それでも体を動かすにはまだ大きいと思ったが、装着した時に全身の細胞が蠢き触手となって隙間を埋め尽くした。
これで動かすにも一切の不自由はない。

その姿を、新たな仮面の中に隠し。

まだ生きている者たちのいる空間に走った。



五月を呼びかけ続ける一花。
だが少女は謝罪の言葉を最後にこと切れていた。

泣き崩れる少女に、沈痛な表情を浮かべる三人。

「彼は……」
「今はどこにいるのか―――あれ?臭いが薄い…?」

さっきまでは感じていた千翼の臭いを炭治郎の嗅覚は捉えていない。
走り去ったにしてはその急な臭いの消え方はおかしかった。
まるで千翼が臭いを届かせない別の場所に行ったかのような。


周囲を警戒する炭治郎と蓮。

その時、千翼を吹き飛ばした時に空いた穴から少し離れた位置にある壁が、大砲の弾を受けたかのように爆発した。

その奥から猛烈な勢いで迫る巨体。

真司と蓮は咄嗟に避け、炭治郎も一花と五月の亡骸を抱えて飛び退く。

それは正面の壁にぶつかって静止した。



グルルルルル

獣の呻くような声と共にその巨体が顕になる。
2メートルを優に超えようかというほどのその巨体は全身を銀色の甲冑で覆われている。

炭治郎は、そこからほんの僅かに漏れ出す空気が、千翼から感じていた異形の臭いを更に濃くしたものであることに気付いた。

千翼・アマゾン態。
しかしその身を覆うのはアマゾンとしての体でもそれを制御するためのレジスターによって与えられた肉体でもない。

ある世界においてそれだけで一つの戦乱の戦況を左右するとも語られた日本刀。
完成形変体刀12本の一つ。
賊刀・鎧。


それが、千翼が新たに得た人を殺すための力であり。
己の食人を抑えるための拘束具であり。
そして、己の姿を隠すための、仮面だった。

「千翼…なのか?」

その鎧を纏っていても隠しきれていない異様な気配に呼びかける炭治郎。

次の瞬間、獣のような咆哮を上げて千翼は龍騎の元へと突撃をかけた。

「っ!」


606 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:28:15 EwH/rK.Q0


肩に装着されたドラグシールドのうち、無事な方を手に取る。
突撃を受け止めるつもりで構える龍騎。

体当たりが炸裂し、龍騎の体は吹き飛ばされた。

「…!何だよこのパワーは…?!」

手元を見ると、構えた盾はズタズタに切り刻まれ半壊している。

起き上がろうとする彼の元に迫った巨体は、その腕で龍騎の頭を掴み持ち上げる。

「城戸!!」

すかさずナイトが龍騎を救わんとウィングランサーを突きつける。
しかしその突きは鎧に傷一つつけることなく止まっている。

持ち上げた龍騎の体をナイトに向けて叩きつけぶつけながら、千翼は追撃に腕を振るう。
火花を上げて吹き飛ぶ二人の体。

「城戸さん、秋山さん!」

二人を救わんと駆け出す炭治郎。

「ヒノカミ神楽―――」

「―――碧羅の天!!」

炎を纏った日輪刀を、回転斬りの要領で叩きつける。

ヒノカミ神楽の呼吸。
激しい消耗の代わりにその威力は水の呼吸の舞を越える威力を叩き出す。

しかし、全力で放った一撃は。
鎧の表面で止まっている。

「…っ!」

刺さらない。そう判断して瞬時に地を蹴り後退する炭治郎。
しかしそんな炭治郎を追うかのように飛びかかる千翼。

その突撃で炭治郎の体が大きく吹き飛び入り口の扉を突き破ってマンションの外に投げ出される。

「ぐあっ……」

鎧、そしてその中に詰まった質量の想像以上の重さに受け身を取れず地面を転がる。

固い地面を転がり、血を吐きながらも体を起こす。
体を見ると、鬼の攻撃にも耐えることができるはずの隊服がズタズタに切り刻まれている。

(これは…あの鎧、刃物か何かが仕込まれている…?)

あの質量の体当たりに謎の斬撃が加わり、その威力は隊服の耐久力を越えていた。

攻撃力と鎧の耐久力、刀での剣戟とはあまりに相性が悪い。

「城戸!合わせろ!」
「分かってるよ!」

息を切らしながら千翼の前で起き上がった真司と蓮は、共にデッキからカードを引き抜く。

FINAL VENT

二つの電子音が響き、鏡からドラグレッダーとダークウィングがその姿を現す。

そのただならぬ気配に、千翼もまたそれを迎え撃たんと構える。
纏った鎧から蒸気が噴出。

飛翔斬。
ナイトの背にダークウィングが装着されマントと化し、高く飛び上がって槍を軸にドリルのようにマントを回転させて急降下する。

ドラゴンライダーキック。
腰を回し腕を抱えるような態勢から、周囲を舞うドラグレッダーの間を飛び上がり吐き出された炎と共に飛び蹴りを放つ。

対する千翼は、大きく咆哮を上げて、空より飛びかかる二者に正面から全力の突撃をかける。
ただの体当たりでしかないが、その攻撃は鎧の継承者が受け継いできた限定奥義・刀賊鴎と遜色ないものだった。

空を舞う二人、地を走る一人。
三者は玄関ホールの中心でぶつかり合った。

「うおおおおおおおおお!!!」
「ガァァァァァ!!」

叫び声を上げる三者。
地面に衝撃が走り、大理石でできた床がひび割れ地煙を巻き上げ。
マンションの外に投げ出された炭治郎の元へまでその衝撃を響かせた。


607 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:28:28 EwH/rK.Q0

鎧の胴体に放たれた二人のライダーの必殺技。
しかし。

「…っ、効いていない?!」

攻撃の手応えは鎧に弾かれている感覚があり、こちらが逆に押し返されている。

やがて力を失った二人の体は、鎧の勢いに負け吹き飛ばされる。

「ぐあっ!!」

壁に叩きつけられる龍騎とナイト。

その勝利に雄叫びを上げながら、千翼は再度地面を蹴り駆け出す―――




一花は、一人動かなくなった五月の前に佇んでいた。

思考がまとまらない。
目の前の現実を受け入れたくない。

悪い夢なら、早く覚めて欲しい。
だけど、温もりが消えていく妹の手の冷たさはリアルだった。

どうして、こんなことになってしまったんだろう。
五月はとてもいい子だった。
こんな風に命を奪われる筋合いはなかった。

どうして。

ぐるぐると思考を続ける一花の元に地を揺らし周囲の空気を震わせる衝撃が届く。

目の前では、城戸さんと秋山さんが巨大な鎧と戦っている。

あいつだ。
あいつのせいだ。
あいつのせいで、五月は命を落としたんだ。

五月はずっと気にかけていた。力がないながらも助けようと手を差し伸べていた。
なのに、あいつはその想いを踏みにじったのだ。

回り続けていた思考は、ある一定の方向に目的を得た。

その手には、上着に入っていたカードデッキが握られている。

今の私はあそこに混じって戦うことができると思う。

「……赦さない」

鏡の前にデッキをかざすと、鏡面ごしにベルトが腰へと装着された。

そうだ、五月の仇を。
この手で討つんだ。



FINAL VENT

その電子音は、地面に倒れた龍騎に更に追撃をかけんと千翼が駆け出したところで響き渡った。

思わず周囲を見回す真司と蓮。

「うああああああああああっ!!」

次の瞬間、緑の影が鎧の巨体の足元に向かって猛スピードで衝突した。

その巨体を持ち上げんと逆さまの態勢で脚を掴み後ろへと引き上げ宙へと持ち上げようとするその影。
しかしその見た目以上の重量を持った鎧とその内側の相手を、持ち上げることはできず。
手を離してしまい勢いが切れるまで地面を転がる影。
同時に、その動作に駆け出そうとしていた千翼もまた脚を取られて地面に倒れ込む。

起き上がった緑の影。それはカメレオンを思わせる緑の鎧を纏った仮面ライダー。
その腰に挿入されているベルトの紋様を、真司は知っている。


608 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:28:44 EwH/rK.Q0

「まさか…一花ちゃん?!」
「よくも…よくも五月ちゃんを…!!」

涙まじりの枯れた声で、怒りの声を上げる一花。

目の前の千翼は、今の一撃による転倒でダメージを受けたようでうめきながらよろよろと起き上がる。

「ああああああああっ!!」

今にも泣き出しそうな声で叫び、デッキから引き抜いたカードを腰のホルダーに挿入する。

COPY VENT

起き上がった千翼に鏡のような影が重なり、ベルデに合わさってその姿を変化させる。
賊刀・鎧のそれと同じ姿へと、ベルデが変わる。

その巨体で千翼の元へと駆け出し殴りかかる。
頭部に叩きつけられた拳の衝撃で地面が僅かに揺れる。

だが、千翼自身は揺らぎもしなかった。

コピーベントでその鎧の姿を、装備を映し取り模造した一花。
しかし模造した力は、千翼に比べて圧倒的に体重が、質量が足りず。
そしてただの女子高生でしかなかった彼女には、それを補うだけの技術もなかった。

至近距離からの体当たりで、その体は吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
さらに壁に体を押し込みその体に押しつぶすように衝撃を続けざまに与える。

賊刀・鎧への変異が解け、ベルデの姿へと戻る。

巨体から見れば小柄な体を掴み上げる千翼。
そして、その頭を掴み、力いっぱい壁に叩きつけた。

「ぁ…はっ」

土煙の中にその姿は沈み、晴れた時にそこには頭と目から血を流して倒れている生身の一花の姿があった。

「一花ちゃんっ!」

焦る真司と蓮。
生身の人間がまた攻撃をを食らったらひとたまりもない。


「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

その時、マンション外に投げ出されていた炭治郎が叫びながら鎧へと迫り。

「ヒノカミ神楽・円舞一閃!!」

目にも止まらぬ高速の斬撃が、その鎧へと振るわれる。

かつて上弦の鬼の首すらも断ち切った一閃。
しかしそれをもってしても鎧はびくともせず。

千翼はそのまま、胴体に叩き込まれた刀に膝と肘を上下から叩きつけた。
バキリ、とへし折れる日輪刀。

驚愕する炭治郎に、そのまま突撃をかけ壁に体を叩きつけた。
咄嗟に一花を庇うように構えたが、衝撃と共に全身を襲う斬撃に体を斬りつけられる。
膝をつきながら後ろをみると、攻撃を防ぎきれなかったようで一花の額から頬にかけて切り傷がついている。

TRICK VENT

その時、鎧の後ろを斬りつける影が炭治郎の目に映った。

見ると、4人のナイトが鎧に向けて槍を振り続けている。

「城戸!二人を連れて逃げろ!」

ADVENT

カードのベントインと共に、鏡からダークウィングが現れ龍騎の肩を掴む。

「蓮?!お前は!」
「すぐに後を追う!お前は負傷した二人を連れてけ!」

言っている間にも、千翼の気を反らし続けるナイトの影は2人が消滅している。

ダークウィングに掴まれた龍騎が急ぎ飛んで一花の体を抱え炭治郎の手を取り。
そのまま急上昇しマンションのガラスを割って離脱。

同時に、トリックベントにより生み出された影も全て消滅した。

「追う、か…、この状況で…」

撤退するには千翼の前を通り入り口に向かう必要がある。
しかし、その方向は真司達が逃げた場所。そして自分が逃げれば間違いなく追ってくる。

「なら、少しはこの場で足止めしておいた方が、あいつが生きる可能性は上がるな」

冷静に考えて、出した結論がそれだった。


609 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:28:58 EwH/rK.Q0


(ああ、俺はもう願いは叶えたからな)

ナイトはダークバイザーを構え、一人千翼の前に立ちはだかる。
サバイブもなく、カードはほぼ使い切っている。武器も通用しない。
詰み状態に近く、目の前には死が立ちはだかっているように見えたが恐怖はなかった。

(それに、二度もお前の死ぬところなんて見たくないしな)

もし悔いがあるとすれば、生き返った恵里の笑顔が見れなかったことだろうか。

だけど、こういうのも悪くない気がした。
こういうことが、案外自分が本当にやりたかったことなのかもしれない。

誰かの、大事な人の力になって戦うことが。

(だから、お前は、生きろ)

あの少年もきっと力になってくれる。
他にも城戸のようなお人好しに手を貸してくれるものはいるはずだ。
俺が居なくても、きっと大丈夫だろうから。


(生きて、お前自身の願いを叶えろ。城戸)

吠えながら蓮は、迫る巨体に向け正面から駆け出した。



しばらく飛んだ辺りで、現実世界での活動限界が来たダークウィングは鏡へと帰っていく。
そのタイミングで、龍騎は地に足をつけた。

「はぁ…はぁ…」

変身が解除される真司の体。
起き上がる炭治郎は、一花の体を抱えながら周囲を伺う。

「ここは…」
「場所までは、分からない。今はまず傷の手当ができる場所を、探そう…」

ふらつきながらも歩き出す一行。

(蓮…、大丈夫、なんだよな…?)

真司は、別れ際の相棒の姿に言いようのない不安と嫌な予感を感じながらも、足を進めた。





砕け散ったナイトのデッキと、全身を切り刻まれながら壁に叩きつけられた秋山蓮の死骸の前で、鎧は座り込む。

その頭部が外れ、中から人の姿へと戻った千翼が出てくる。
長い戦いにアマゾン態への変身によりかなりの疲労が体に溜まっている。

「はぁ…はぁ…」

周囲には誰もいない。
壁に穴が幾つも空き、ガラスはほぼ全てが割れているか亀裂が入り、床は爆撃でも受けたのかと言わんばかりにボロボロだ。

そして、そこに死体は二つ。

鎧をバッグに仕舞った後、そのうちの一つ、中野五月の亡骸に寄る千翼。
あの時、一瞬姿を変えたのはそれまでの闘争本能もあったが、自分の意志も確かに混じっていた。

もしその瞳を見続けていると、決意が揺らいでしまう気がしたから。
自分を人間扱いしてくれた男。その言葉は自身が思っている以上に心に喜びを与えていた。
だからあの姿を見せて、化物を見る五月の怯えの瞳を見て、その迷いを断ち切った。

亡骸の瞳に残っていた雫を拭う千翼。
立ち上がって歩み始めた己の瞳にも一筋の雫が流れていることに、千翼は気付かなかった。



千翼が秋山蓮に背を向けた数秒後、蓮の傍にあったガラス片に黒い影が映る。

真司を連れて逃げる役目を終えて戻ってきたダークウィング。

動かぬ契約主と、砕けたカードデッキを見比べ。

小さく悲しそうに鳴き声を上げた後、蓮から離れていく、彼を殺した相手である千翼に目を向け。

その背を追うように、ガラスの向こうの景色から姿を消した。


【秋山蓮@仮面ライダー龍騎 死亡】


610 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:29:12 EwH/rK.Q0


【???/1日目・黎明】
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、、不明支給品1(本人確認済み、武器)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:今度こそ願いを叶える。
1.戦いを止める。
2.千翼のことを止めたいが…
3.蓮…!!
[備考]
※秋山蓮に生きろと告げて目を閉じた後からの参戦です。

【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切り傷と打撲
[道具]:基本支給品一式、折れた日輪刀@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜1、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:一花さんの姉妹も探す。
[備考]
強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。


【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷、精神的ショック、気絶
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:―――――
1.姉妹と風太郎に会いたい。
2.千翼に対する強い怒り。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


※三人のいるエリアは次書き手にお任せします。E-7の周囲一マス以内のどこかにいると思われます。


【E-7/PENTAGON付近/1日目・黎明】
【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷、心身ともに疲労(中)、ダメージ(中)、体に打撲、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、賊刀・鎧@刀語、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
4:アマゾン態になる時はできるかぎり鎧を纏うことで人を食う可能性を減らす。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
※賊刀・鎧をアマゾン態で装着時は若干サイズが小さくフィットしませんが、隙間を触手で埋めることで補っています。
※魔剣グラムは破壊されました。
※ダークウィングが蓮の仇として鏡の中から追跡しています。


魔剣グラム@Fate/Grand Order
星光の聖剣と対を成すと比肩された、シグルドの持つ竜殺しの剣。


賊刀・鎧@刀語
防御力に主眼を置いた刀。どう見ても鎧だが日本で作られた刀なので日本刀である。
人の身長ほどもある大剣での斬りつけにもびくともしない頑丈さと、足を通して地面に衝撃を逃がす機能により変体刀の中でも絶対的な防御力を持つ。
またその関節や隙間には刃が仕込まれており、ただの体当たりでも相手の体を切り刻むことができる。
一方で装着者は鎧の体格にあった巨体である必要がある。参考までに、原作の正式所有者の身長は七尺五寸=285cm。


611 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/22(水) 21:30:38 EwH/rK.Q0
修正版投下終了です
鎧と千翼アマゾン態のサイズ差に関しては、「千翼の体から作り出した触手で補った」という形にしました
また、ダークウィング周りは展開を変えて対応しています


612 : 名無しさん :2019/05/22(水) 21:47:25 /bYWAnGM0
修正乙っす
後は>>575さんの応答待ちかな?


613 : ◆aptFsfXzZw :2019/05/22(水) 21:47:47 HNw7HXxI0
◆FTrPA9Zlak氏、修正版の投下お疲れ様です。
鎧やダークウィングの扱いはもう問題ないと思います!
また、新たに描き下ろされた五月が千翼に入れ込む様子、それに対して親に対するスタンスの重さの違いからあくまで五つ子であることを大事に思う一花の描写等は大変素晴らしいものでした。読めて本当に良かったです。
実は、初投下時は正直強すぎるような……という印象だったアマゾンネオVS三人の描写も、龍殺しの魔剣グラムの有無で一気に展開の説得力が増していて、全般的に今回の加筆はご苦労された分以上の価値があると勝手ながら信じております。
二度に渡る投下、本当にお疲れ様でした。


614 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/22(水) 22:49:34 C9gIyfbs0
修正投下乙です。追加描写でより完成度と一花と五月の悲壮感が増しています。
短いですが、予約していた千翼を投下します


615 : PHANTOM PAIN ◆0zvBiGoI0k :2019/05/22(水) 22:54:02 C9gIyfbs0
……

…………

………………




『……お前の願いが愚かだとは思わない。
 大切な人を救う。その為に他人を殺す。それを否定なんかはしない』


大昔の朽ちた鎧甲冑にも見える姿で、それはそう言った。


『俺も、かつてはお前と同じような願いを持っていて、そしてそれを叶えた。
 あいつの言った通り、お前もライダーの一人だ。その願いを叶える資格がある』


鎧の全身が罅割れ、誰が見ても満身創痍。
息も絶え絶えになり風前の灯の命でありながら、声だけは明瞭だった。
思考が働かなくても言うべき事が淀み無く出てくる、実感からくる言葉だった。


『だから、ひとつだけ覚えておけ。
 俺と同じで、もう決定的に違ってしまったお前に言っておく』


砕けた仮面から生身の瞳が覗く。
その眼に怒りはなく、憎悪もなく、羨むように、哀れむようにこちらを見ていた。


『ひとつでも命を奪ったら……お前はもう、後戻り出来なくなる』




………………

………

……


616 : PHANTOM PAIN ◆0zvBiGoI0k :2019/05/22(水) 22:55:32 C9gIyfbs0






「ハァッ……ハッ…………」

獣のような荒い息遣いが耳に入る。
肩が揺れて姿勢が項垂れる。
正体不明の痛みが、歩みを止まらせる。

傷は治癒に向かっている。
受けた傷に重大なものはなく、通常の再生速度で十分間に合う程度だ。
けれど、千翼の息は上がっていた。体の痛みは治まらなかった。

「……ぐっ」

耐えかねて壁に身を寄せる。
そあれからどこまで歩いたのか振り返って、さっきまでいたマンションの高く伸びた全高を見上げる。
そうしてまだマンションを出てから、大して離れてもいないのに気づく。遅々として禄に進んじゃいなかった。

「変だ、どうして……」

こんなにも体が重いのか。
縛られてもいないのに、中身の神経が混線してるみたいに自由が利かない。
正体がなんなのか見当もつかない千翼は理由を捻り出そうとして、自分が戦い殺した、黒い騎士を思い浮かべる。


強い相手だった。
苦戦したわけじゃない。一対一なら負けない相手だった。
ただその対価に支払ったのは、三人の行方を見失ってしまった事だ。
アマゾンでもない黒い蝙蝠は、マンションを突き抜けたきり立ち止まる事無く夜の闇に飛翔していった。
追いかけるにも、鎧を着た姿で空を飛ぶ相手に追いつくだけの機動力は千翼にはない。さらに前には騎士も立ち塞がっていた。

この先を通さない。
命に換えても守り抜く。

C4に追われる立場になり、イユに殺されそうになった時。実の父に殺されそうになった時。
二度も身を挺して庇ってくれた長瀬裕樹の姿が脳裏に浮かぶ。
かつて千翼を救ってくれた思いに、千翼の動きも阻まれた。

「…………ああ、そうか」

裕樹との記憶を思い出して、千翼はようやくわかった。この痛みが何なのか。
体の何処にも見えない、千翼だけにある場所より生じる傷。


617 : PHANTOM PAIN ◆0zvBiGoI0k :2019/05/22(水) 22:58:42 C9gIyfbs0

「…………ああ、そうか」

裕樹との記憶を思い出して、千翼はようやくわかった。この痛みが何なのか。
体の何処にも見えない、千翼だけにある場所より生じる傷。


千翼を守ってくれた人への裏切りだ。
千翼に手を差し伸ばそうとしてくれた人への裏切りだ。


善逸の思いを踏み躙って、五月を殺した事で軋み上げる人格(こころ)の痛みだった。


チームXで、C4の命令で、多くのアマゾンを狩ってきた。
自分が生きる為に、襲い来る父とも戦った。
イユの為になら―――彼女を生かす為になら、ただの人であっても殺す事に抵抗はなかっただろう。

五月に刃を向けた時から感じていた痛み。
彼女を殺せばその痛みを振り切れると思っていた。人を殺す躊躇を捨てられると思っていた。
なのに五月をこの手にかけた今も痛みが離れず、それが始めから勘違いなのだと気づいた。

仮面に触れた震える手。
涙に濡れた懇願する瞳。
恐怖で溺れそうになりながら、必死に繕ってみせた笑顔。

痛みを無くしたいのならあの手は振り払うべきではなく。
殺すと決めたなら、どんな痛みを負うものと了解してなければいけなかった。

アマゾンの自分の顔なんてわざわざ鏡で見もしないが、悍ましい形相だったに違いない。
心からの慈悲で優しく受け止めてくれれば止まっていたなんて、虫のいい事は言わない。
怖がって当たり前だ。イユの時のように悲鳴を上げたくて仕方なかったはずだ。
なのに彼女は必死で耐えて、堪えて、千翼に寄り添おうとしてくれた。
善逸が心を奮い立たせて戦ったように、五月も自分の心と戦っていた。

どうして、二人共、そんなに自分を庇ってくれたのだろう。
見ず知らずで会ったばかりなのに、人喰いだと知った上で。
怖がられた理由はわかるけど、逆にその理由は終にわからないままだった。
母からの愛、裕樹との不思議な情を感じてはいても、乏しい経験の中からでは探る事もできない。
知っていたら―――あんな顔で別れてしまう事も、なかったのか。


……例えば。
この殺し合いに裕樹がいたとして、自分は同じようにイユを生き返らそうと裕樹を殺す事が出来ただろうか?
ありもしない仮定だ。裕樹はここにおらず、二人は裕樹のような関係にはなれなかった。
けど、時間があれば……場所が違っていれば……そうなれたかもしれない。

夢を見る。
イユがいて、裕樹がいて、善逸と五月がいて、みんなの家族が一緒に揃っていて。
その環の中に、千翼もちゃんと入っている。
千翼が生まれてきた事は、無意味なんかじゃなく、災いなんかじゃなくて。
好きな人と、生きたいように生きられる。
そんな、幸せな夢を。

「でも……これは、俺の痛みだから」

それは千翼に人の心が残っている証だけれど。
千翼の心を救ってくれるものではなかった。


618 : PHANTOM PAIN ◆0zvBiGoI0k :2019/05/22(水) 23:00:33 C9gIyfbs0

瞼を開け、身を起こす。
立ち止まってる内に痛みは和らいでいた。
一度自覚してしまえば苦しくはなかった。見える痛みは、ただの傷だから。

あの時取り逃がしたうちの二人。
善逸の友達である、炭治郎。その仲間。
五月の家族である、一花。その姉妹。

もう一度彼らと殺す時、同じ痛みが走ったとしても、もう自分は躊躇わないだろう。
痛みが感じられなくなった時、千翼はただの怪物(アマゾン)に堕ちる。殺すだけの鬼になる。

だから忘れるな、この痛みを。
消すものか、この思いを。


『ひとつでも命を奪ったら、お前はもう後戻り出来なくなる』


ついさっき、投げかけられた台詞が胸中に木霊する。

「戻るところなんて、はじめからない。
 ここから……始めるんだよ、俺達は」

星も降らない空の下で、再び歩き始める。
この先出会う誰彼を、この手で引き裂く事を胸に秘め。
ただ存在するだけの生ではない、人として活きていける生を手に入れる為に。


それはこの世に生まれた事こそが罪と断じられた少年が、自らの意志で罪を重ねて刻み付ける。
……慟哭と痛みが生み出した、物語の始点。


【E-7/PENTAGON付近/1日目・黎明】
【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷、心身ともに疲労(中)、ダメージ(中)、体に打撲、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪 、痛み
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、賊刀・鎧@刀語、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
4:アマゾン態になる時はできるかぎり鎧を纏うことで人を食う可能性を減らす。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
※賊刀・鎧をアマゾン態で装着時は若干サイズが小さくフィットしませんが、隙間を触手で埋めることで補っています。
※魔剣グラムは破壊されました。
※ダークウィングが蓮の仇として鏡の中から追跡しています。


619 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/22(水) 23:05:44 C9gIyfbs0
以上で投下を終了します。修正投下と状況に変化はない内容なので投下しましたが、もし不適切であれば申し訳ありません

続けて、藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオ、中野一花、竈門炭治郎、城戸真司で予約します


620 : 名無しさん :2019/05/22(水) 23:06:46 oW1RHeOY0
投下乙です
ダークウィングくん千翼を捕食しようとしたら逆に捕食されちゃうぞ


621 : ◆HH8lFDSMqU :2019/05/22(水) 23:44:08 YsHFqcU60
浅倉威 予約します


622 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:44:14 lK3CvkPo0
遅くなりました。投下します


623 : 鬼殺しの戦い ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:44:52 lK3CvkPo0
『 『うるせえ バァカ!!』 』

『なにそのヘッタクソな嘘!小学生でも見破れるわ!』

『身体は大人なのに頭脳は幼稚園児なんですかぁ!?頭んなかまで筋肉ミッチリですかぁ!?』

『てか、ぞいってなに!?なにその語尾!?キャラクター立ててますアピール!?』

『さっぶ!!!うわ、さっぶ!!!!藤原先輩でもそこまではしませんよ!!!!』

『あ、言いすぎましたねぞい!!!ごめんなさいぞい!!!ぞいぞいぞぞい!!!!』

『工藤さん』

『逃げろ』

『………………』

『…………』

『……』



 もう石上の叫び声は聞こえなかった。
 煽りも罵りも嘲りも、二度と聞くことは出来なかった。
 それは、彼が既に物言わぬ骸になり果てている何よりの証明だった。
 永井圭は思った。

(死んじゃったんじゃあどうしようもないな)

 強がりでも自分への慰めでも何でもなく、普通にそう思った。
 これがもし、圭を誘き出すために拷問でもされて悲鳴をあげているとかなら、助けに戻る選択肢もないではないが、死んでしまったのなら助けようもない。

(たぶん拡声器かなにか使ったんだろうけど、音の感じからするとそんなに遠くじゃなさそうだな。急いで離れないと)

 圭は振り返るさえせず、歩みを再開した。


624 : 鬼殺しの戦い ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:45:13 lK3CvkPo0





『 『うるせえ バァカ!!』 』

『なにそのヘッタクソな嘘!小学生でも見破れるわ!』

『身体は大人なのに頭脳は幼稚園児なんですかぁ!?頭んなかまで筋肉ミッチリですかぁ!?』

『てか、ぞいってなに!?なにその語尾!?キャラクター立ててますアピール!?』

『さっぶ!!!うわ、さっぶ!!!!藤原先輩でもそこまではしませんよ!!!!』

『あ、言いすぎましたねぞい!!!ごめんなさいぞい!!!ぞいぞいぞぞい!!!!』

『工藤さん』

『逃げろ』

『………………』

『…………』

『……』



 男にはなぜそんな声が響いてきたのかわからない。
 誰が言ったのかも知らないし、意味すらわからない単語も多かった。
 それでも、声の主がどのような想いでその言葉は発したのかは感じ取った。
 男は思った。

「見事」


625 : 鬼殺しの戦い ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:45:39 lK3CvkPo0





「このクソガキがぁ! わしの頭脳が幼稚園児だとぉ! 語尾がさぶいだとぉ!」

 石上優の頭を潰しても、権三の怒りは全く収まらなかった。
 
「わしは年長者なんだぞぉ! たんまり税金を払っとるんじゃぞぉ! お前のような社会に何の貢献もしてない若者は、わしのために日本目のジュースを用意するのが当然じゃろがい!」

 湧き上がる衝動に任せて権三は死体を踏みつけたる。人間離れした力で踏まれ、死体は潰れ、千切れるが、それでも収まらず権三は何度も何度も踏み続けた。
 もはや死体にとも呼べないグチャグチャの肉の塊を見て、権三はやっと冷静さを取り戻した。

「ハァ……ハァ……クソッ。しまったぞい」

 権三がこのガキを殺したそもそもの目的はエネルギーとなる鉄分――血を頂くためだったが、これだけグチャグチャにしてしまったら血なんて全部地面に撒き散らされている。

「このわしに地面についたジュースを舐めろとッ……」

 耐え難い屈辱だ。しかしあの千年男のような強大な力を持つ者の存在を考えると、できる限り補給はしておきたい。権三はしばしの葛藤する。
 その時、権三は自分に向けられる強烈な殺気を感じた。

「!?」
 

 振り向く。男がいた。着物に袴、左右の手に一刀ずつ刀を持った侍のような出で立ちの男。
 いつもの権三は時代錯誤の格好をコスプレか何かかと思い、笑いものにしただろう。だが男から醸し出される威圧感はこの男は本当の侍であると権三に訴えてきていた。

「……誰ぞい、お前は」

 問いかける。男は答えた。

「宮本武蔵」
「あ? 武蔵?」
「二つと無き尊き花を散らす鬼を斬りに来た」

 男は構える。こちらを向いた二つの刀が、斬るべき鬼とは権三のことであると言葉よりも雄弁に語っていた。

「フン」

 権三は鼻で笑う。

「可笑しことを言うぞい。二つと無き尊き花とはわしそのもの。わしがわしを……」

 刹那、権三は駆けた。

「散らすわけがないぞい!」

 正面から突っ込む権三、対する男は迎撃の構え、名乗りは宮本武蔵。
 自分という蘇りがいる以上、この男が生き返ったあの宮本武蔵である可能性もゼロではない。歴史にその名を残す剣豪だ。実力は想像に難くない。
 だが所詮は時代遅れの刀なぞの武器にする男。銃弾さえ跳ね返す権三の敵ではない。

「死ねえ!」

 権三の鍛え抜かれた(鍛えたわけではないが)左手が拳の形を作り繰り出される。
 武蔵は滑るように横にまわり、腕を切断すべく一本の太刀を二の腕目掛け振り下ろす。が、腰の下まで落とすつもりだった武蔵のイメージに反し、刀は二の腕表面を僅かに傷をつけただけで動きを止めた。
 武蔵の顔が驚愕に染まる。そしてそれは権三も同じだった。

(わしの身体に刀を傷をつけただと!)

 権三の肉体は材質こそ鉄だがダイヤモンドすら超える硬度を持つ。刀で斬りかかったならそちらの方が折れるのが自然なのだ。
 にも関わらず刀は折れるどころか、皮一枚に満たないほどだが権三の身体に傷を刻んでいる。
 互いにありえない現象にほんの一時動きが止まる。先に動いたのは百戦錬磨の宮本武蔵。
 権三も一歩遅れて後ろに引こうとするが、遅い。武蔵の二の太刀が閃いて、権三の左腕を肘関節から両断した。

「があああああああああああ!」

 悲鳴をあげる権三。体内のナノロボが断面を止血する。武蔵は追い打ちを掛けるべく踏み込んだ。
 しかしここでおとなしく追撃を喰らうほど権三も甘くはない。右腕の人差し指を武蔵に向ける。指先を鉄と変え発射。
 咄嗟に撃ったろくに狙いも定まってない一撃だ。まともに当たる筈もない。しかし鉄砲もない場での突然の銃撃に、武蔵、弾道を見切るため、攻撃の手を一瞬止める。権三はすかさず後ろに飛び退いた。
 ナノロボで強化された権三の身体能力は人体の限界を軽く凌駕している。一度の跳躍で二人の間には常人なら数十歩は係る距離が空いた。


626 : 鬼殺しの戦い ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:47:11 lK3CvkPo0

(こいつ、あの一瞬でわしの弱点を見抜いてくるとは……恐ろしく戦いなれてるぞい)

 どれだけ身体を頑強にできようとも関節だけは動かすために硬くできない。甲冑と同じ理屈だ。
 弱点を見抜かれたのは初めてではないが、身体を頑丈さを知った直後についてきたのはこの男だけだった。
 武蔵は先程見せた骨銃(ボーン・ガン)を警戒してか寄ってこない。しかし権三の方もこの距離では攻撃できなかった。
 ボーン・ガンには指の数という弾数制限がある。ナノロボの力ならば簡単に回復できることではあるが、エネルギーとするためのジュースをここに来てから未だ一度も摂取できていない。
 なのより権三は御歳七十四歳。肉体こそは若返ったが難聴や老眼は治っていない。いくら飛び道具があろうとも遠くにいる相手を狙うのは難しい。 
 
(ここは逃げるか?)

 それもありだ。権三は己を絶対的存在であると確信しているが、己の能力を実情以上に過信はしない。
 目の前の男はナノロボ感染者のような特殊能力こそ見せないが、身体能力や戦闘技術は人間の域ではない。まともに戦って無事で済む保証はない。
 一度退いて、先程のガキたちのような弱い者からジュースを補給するべきか。
 権三がそう考え始めた時、またしても武蔵は権三よりも先に動いた。右手に持った刀をリュックにしまい、側に落ちている権三左腕の手首を掴んで持ち上げたのだ。

(まさか……)

 そのまさかである。武蔵は権三の左腕を盾として正面から突っ込んきた。
 腕は切り離された時と同じ最高硬度の状態だ。ボーン・ガンを撃っても貫くことはできない。
 それだけではない。身体と同じ硬さのあれを武器として使われてたら、いくら鉄の肉体でも砕かれうる。
 普通に撃っても防がれるだけ。権三は右足を地面につけたまま、親指だけを武蔵に向け、そこからボーン・ガンを撃った。
 足元に向かって飛ぶ弾丸を武蔵は防ぐことすらせず、宙へ跳んだ。
 権三の頭上へと舞い上がった武蔵は、その手に持った左腕を脳天目掛けて振り落ろす。同等の硬度に落下の勢いと武蔵の怪力まで乗った一撃。
 それを権三は頭に受けた。
 グニャリと――権三の頭が鉄の腕を受け止めた。

「!」

 武蔵は予想外の感触に瞠目し。権三はニヤリと笑う。
 これぞ権三の新たな技。その名もラバーモード。
 ナノロボは宿主の強い想いによって新たな力を発言させる。鉄の身体も円城周兎に傷つけられた際の強い感情によって芽生えたものだ。
 しかしいくら身体を丈夫にしようと、千年男や円城周兎の上腕骨ボーン・ガンのようにそれを上回る攻撃は存在する。
 そこで編み出したのがこのラバーモードだ。皮膚を強い弾性を持つゴムに変えることで衝撃を無力化する。
 前に権三が死ぬ原因の一つであったラバー銃にヒントを得て作った技だ。

(あの千年男との再戦用に考えた技だったが、こんなところで役に立つとはな)

 空中で自由に動けない武蔵に、権三は拳を繰り出す。
 もし権三の頭が硬いままであったら、たとえダメージを与えられなかったとしても、武蔵は頭を起点にして翻り、拳をかわせただろう。
 しかし弾力のあるゴムではまるで起点にできず、やむなく武蔵は左の刀で受けるが、それでもなお受けきれず吹っ飛んで、民家の塀を破壊した。

 「ぬう……」

 起き上がった武蔵が手に持つ刀は刃が根本より折れていた。

(いける!)

 権三は確信する。いま奴が持っているのは権三の左腕だけ。このまま刀を取り出す暇を与えず攻め続ければ勝てる。
 権三は武蔵に向かって駆け出す。その時、武蔵が謎の行動に出た。権三の左腕を地面に落とし、両手で耳を塞いだのだ。
 まさか諦めたのか? 訝しむ権三、刹那。

「”止まれ“!」

 ”声“が響いた。
 権三の身体が動きを止めた。


627 : 鬼殺しの戦い ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:48:38 lK3CvkPo0
 ◇


 それは石上優の最後の叫びを気にせず、圭を進んで少しした時のことだった。

「があああああああああああ!」

 悲鳴が聞こえた。さっきの大男の声だ。石上が使った拡声器が大男の声を拾ったのだろう。
 それは明らかに自分に降り掛かった痛みに対する悲鳴だった。恐怖とかショックとかそういうものに対する声じゃない。
 石上の声が殺し合いに積極的な者や、正義感の強い者を引き寄せるのは予想していたことだった。大男がその場からすぐに動かなかったなら、遭遇して戦闘になることは十分にありえる。圭はそうなったとしても大男に呆気なく殺される可能性が高いと思っていたのだが。

(戦えてるのか、あいつと)

 だとしたらそれはどの程度のレベルなのか。互角なのか、圧倒しているのか、辛うじてやりあえているだけなのか。
 圧倒しているなら良いが、そうでないならこのまま放っておいても大男は死なない可能性がある。

(戻るか)

 死んだ石上のために戻ることには意味がない。あの男を殺すためなら意味がある。殺せるのならあいつはここで殺す。
 大男がどの程度のダメージを受けているのかはわからないし、相手の参加者がどんな人物かもわからない。だがどのみちどこかでリスクは冒さなければならない。ならいま冒す。
 決断するやいなや、圭はすぐさま引き返した。
 戻ってきた圭が見たのは大男に侍風の男が殴られたところだった。

「”止まれ”!」

 大男に向かって叫ぶ。亜人には蘇生とIBMの他にもうひとつ能力がある。特殊な声を発することで、相手の動きを蛇に睨まえれ蛙のように止めることができるのだ。
 同じ亜人には通じないが、大男の能力は亜人とは別物だ。物は試しで圭は叫んだ。が、大男は止まらずに走り出す。
 やはり通じないのか、そう思った圭の目に落ちている拡声器が目に入った。
 ちょうど塀を突っ込んだタイミングで叫んだので、侍風の男の身体も止まった様子はない。圭は彼に耳を塞ぐようにジェスチャーする。
 拡声器を手に取り、もう一度叫んだ。
  

 ◇


 圭は知らないことだが、権三はかつて砂村という男の、声で催眠術をかける能力を難聴によって防いだことがあった。
 砂村の声に含まれる人を催眠状態にする特殊な周波数が、権三の耳には拾えなかったのだ。
 一度目の亜人の声が効かなかったのも難聴ゆえ、耳に入らなかったからだ。しかしいくら難聴でも拡声器で増幅された声までは防ぐことはできない。
 亜人の声を聞いた権三は今度こそ動きを止めた。

(なんじゃっ、これはぁ!)

 権三の脳内で叫けんだ。好機で訪れた謎の現象、混乱の極みだった。
 動かない身体を無理やり動かそうとするが、全身が金縛りにでもあったかのようにいうことをきかない。
 それでもナノロボで強化された肉体の力か、首だけを辛うじて動かし、権三は声のした方を見た。そこにあったのは先程取り逃がしたガキが拡声器らしき物を持って立っている姿だった。

(どうしてあのガキがここに。それにこの力は。わしから逃げることしかできない無力なガギじゃなかったのか!?)

 いや、それよりも武蔵の方はどうなった。あいつの動きも止まったのか?
 首を戻した権三が見たのは、すで刀を出し終え目前にまで迫った武蔵の姿だった。刀が右腕の付け根へ疾る。
 権三は関節を含めた全身を鉄へと変える。動かせない身体でも鉄に変えることはできた。どのみち動かない関鉄なら鉄にしない理由はない。
 刃を弾き、直後に身体が動くようになった。もう一度あの声を喰らうとやばい。右腕をガキに向ける。遠い、まともに狙える距離ではない。権三五本の指先全てを一斉に放った。
 四発は掠りもせずに飛んでいく。だが残った一発が拡声器に直撃した。


628 : 鬼殺しの戦い ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:49:21 lK3CvkPo0


「ぐっ!」

 ガキの目の前で拡声器が砕ける。しかし権三はそれを見ていなかった。目の前では脇腹を狙って鉄の腕を振るう。
 脇腹をラバー化して防御。即座に右腕で左腕を掴む。指先が無いので力は弱いが指を鉄化して固定。お返しとばかりに武蔵の腹を蹴った。浅い。直撃の前に自分で後ろに飛んでいたのだろう。大したダメージは受けていないようだった。だが距離は空けられた。
 突然の乱入者にも動じた様子はなく真っ直ぐにこちらだけを睨んでいる。つまり二対一の状況だ。
 逃げるべきだと思った。
 敵は能力の全容が知れないガキと、特殊な力こそないがナノロボ感染者と渡り合える身体能力の侍。このまま戦うのは危険だ。
 だが下手に背中を見せようものならその隙を突かれる。逃げるためにも何か一手必要だ。

(……どうやって逃げる?)



 圭はこいつはここで仕留めたいと思っていた。
 だが拡声器は破壊されてもう声は通じず、おまけにその時の破片で右目を負傷した。見えているのは左目だけだ。いつもなら死んで治すが今はそれができるのかもわからない。
 IBMもあるが、あれはコントロールが効かない。迂闊に使えば最悪、侍風の男に攻撃して向こうにまで敵と認識されるかもしれない。
 

(……どうやって仕留める?)



 武蔵は最初からずっとこの鬼を斬りたいと思っている。
 されど鉄の腕で殴りかかれど柔く受けられ、さらの奪い返され。弱点と思っていた関節への斬撃も弾かれた。
 かつて戦った鬼やレジイナとも違う不可思議な技。この鬼を斬る方法を武蔵は未だつかめずにいた

(……いかにして斬る?)



 三者三様に動きが止まる。最初に動いたのは。
 ――今之川権三だった。

「フンッ!」

 権三は斜め前方の地面を鉄の右足で突き刺した。足は貫通した地面の下に埋まる。普通に考えれば無意味な行動――どころか自分の動きを阻害するだけの行動だ。

「体銃(ボディ・ガン)」

 叫ぶ。次の瞬間、権三の右足首から上が勢いよく射出された。
 右足を地面に固定し、指先を撃つ技の応用しての全身の発射。これが権三が考え出した逃げの一手だ。
 鉄の肉体で途中の建物を貫きながら権三は飛んでいく。やがて落下し、鉄の固まりに降ってこられた地面が割れた。
 
(左腕や指は今はいい。右足の再生を最優先)

 権三は全再生力を右足に集中。足首から先を即座に修復した。両足で全速力で走りその場から離脱した。


 ◇


 地面の割れで、ここが落下地点であることはすぐにわかった。しかし圭たちが駆けつけた時にはすでに大男の姿は無かった。
 右足を無くしたはずなのに血の跡すら続いていない。完全に見失った。

(クソッ、結局取り逃した)

 確実に息の根を止めるためにわざわざ引き返したのにとんだ失敗だ。
 だがいつまでも悔しがってもいられない。取り組まなくてはいけない次の問題がある。
 圭は一緒にここまで来た侍風の男を見た。成り行き上共闘していたこの男。まだどのような人間かは不明だ。ことここに至っても襲ってこないということは乗り気な参加者ではなさそうだ。
 圭の声の力を目の当たりにしても恐れる様子もない。それは大男と渡り合う力を持っていることから予測はしていたが。


629 : 鬼殺しの戦い ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:49:54 lK3CvkPo0
「さっきの僕、もしかしてお邪魔だったりしました?」

 男はあまりにも侍っぽすぎて、「男の決闘に横槍など無用」、とか言い出しそうだったなので先んじて尋ねる。

「鬼退治は決闘ではない。退治さえできれば武蔵、手段など問わん」

 武蔵という名を聞いて圭は『出たよ!』と思った。
 名簿にやたらと載っていた歴史上の人物たち、いくつか推測はしていた。
 1、偽名として偉人の名を使うグループ参加している。
 2、死者の蘇生という言葉に説得力を与えるための偽情報。
 3、本人。

 彼を見る限り一番ありえないと思っていた3が正しいと考えて良さそうだった。
 げんなりする圭に今度は武蔵のほうが尋ねる。

「お主はもしや先程の声が言っていた工藤なる者か?」
「いえ違います。僕はたまたまさっきの声を聞いてやって来た永井圭です」

 いつの時代の人間が参加しているわからないような状況なら、自分の名前が知られている可能性のリスクよりも、偽名の名乗るリスクの方が高いと圭は判断した。

「色々と話したいことはあるんですが、とりあえず場所を変えませんか?」

 ここに居てはまた石上の聞いた誰かがやって来て面倒が起きるかもしれない。

「いいだろう」

 同意を得られたので圭はすぐに移動を開始した。


 ◇


 周囲に誰もいないことを確認し、権三はリュックの中に入っているありったけの水と食料を飲み込んだ。
 身体にエネルギーが得たことにより指が再生する。左腕を断面に合わせるとそちらもすぐに繋がった。
 
「どうにかダメージは回復しきれたぞい」

 だが水と食料が完全になくなってしまった。他の参加者の支給品を奪わないと、これから先権三は食う物にすら困ることになる。
 あのクソガキの血をさっさと飲んでいれば。そうすればここまでしなくても傷は回復できた。
 いやそもそもクソガキの死体蹴りなどしなければ、先程の戦闘自体せずに済んだはずだ。
 クソガキの権三の堪忍袋を一瞬で切らせた言葉の数々、あれのせいで歯車が狂ってしまった。
 だが今の権三は全ての責任をあの言葉に押し付けない。権三自身の浅慮も原因の一つだ。
 自分や千年男のような人知を超えた力を持つ者はごく一部の例外で、大抵の参加者が補給用のジュースに過ぎないと思っていた。
 だがそうではなかったのだ。この島には常人の域を外れた力を持つ者たちがおそらく大勢いる。
 慎重さが必要だ。あの女王たちと会った時のように、衝動に任せて力を振るうのではない慎重が必要だ。
 そのことを権三は強く理解した。

【C-4・市街地/1日目・黎明】

【永井圭@亜人】
[状態]: 健康 、右目負傷
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.移動して武蔵と話す。
2.自衛隊入間基地に向かう
3:使える武器や人員の確保
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています

【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3、嘴平伊之助の日輪刀×1、折れた嘴平伊之助の日輪刀×1@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:移動のこの永井圭と話す
2:事情通の者に出会う
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。

【D-5・那田蜘蛛山/1日目・黎明】

【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:健康 。ブチギレ。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。一旦逃げて作戦を練らなければ……
3.他にヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。



※C-4・市街地に石上優の支給品(ランダム支給品1~2)及びグチャグチャの石上優の死体が残っています。


630 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 01:50:32 lK3CvkPo0
投下終了です。期限超過申し訳ありません


631 : ◆2lsK9hNTNE :2019/05/23(木) 02:10:03 lK3CvkPo0
最後の状態表を一部修正し忘れました。
ただしくはこちらです

【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:飲食物を除いだ基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。一旦逃げて作戦を練らなければ……
3.他にもヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。


632 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/23(木) 10:50:45 ovRzQu4Q0
球磨川禊、上杉風太郎、宮本明を予約します


633 : ◆HH8lFDSMqU :2019/05/23(木) 10:54:14 I022hu4Q0
投下します


634 : NEXT HUNT ◆HH8lFDSMqU :2019/05/23(木) 10:54:57 I022hu4Q0









 
 一方その頃、C-3エリアの浅倉威は隣のエリア向けて着実にその足を進めていた……。







 
 ……少々、時は遡る。
 清姫殺害後の浅倉威の足取りを辿る。
 やはりというかなんというか、浅倉威はイラついていた。

 全身に火傷を負いながらも歩く。
 傍目から見ればその姿はまるで一体の怪物のようだった。
 
 イラつきながらも新たな戦いを求めてぶらりと歩いていく。
 その道中に一つの放置されたリュックサックを発見した。
 恐らくはあの殺害した女の物と考えていいだろう。
 で、なければこんなところに放置などされていないだろう。

 浅倉はイライラしながらも中身を確認する。
 腹が減っていたのもある。
 
 人間ではないと評されている彼ではあるが、普通に腹は空く。
 流石に人間は食べたことはないが、泥を食っていたこともある。

「おっ、鯖があるじゃねぇか」

 リュックサックに入っていたのは一匹の生魚だった。
 一先ずかじりつく。


 ――――美味い、鯖は生で食べるに限る。


 洗わず、腸も取り除かず。
 小骨も気にすることなく。
 ガリガリと奥歯で砕くように食べる。
 さすがに太い骨は今はやめておく。

 程よく脂がのったその身はまさに美味と称しても差し支えない一品であった。
 スーパー弁護士・北岡秀一が高級レストランで食べていそうなくらいのものであった。

 その魚が半分ほど……いや、4分の3ほどになった時に浅倉は気付いた。
 もうほとんど骨と食べずらい箇所しか残っていないが気付いた。


「……これ、サバじゃねぇ……!」


 そのことに気付き、無造作にその骨だけになった魚(鮭)を地面に叩きつける。
 骨だけになった魚(鮭)は地面と衝突し、骨が砕け散った。
 浅倉の腹は満たされたが、イラつきが増した。
 
 食欲は満たされた。
 だが、まだまだ欲は満たされない。
 いや、決して満ちることはないのかもしれない。


635 : NEXT HUNT ◆HH8lFDSMqU :2019/05/23(木) 10:55:27 I022hu4Q0

 その時であった。
 丁度、浅倉のいる場所の東の方から何やら大声が聞こえてきた。


「……誰かいやがるな」


 浅倉威は狂人である。
 しかし、ただの狂人ではない。
 今の声の方に向かえば確実に誰かいる。
 または今の声の方に誰か向かってくるかもしれない。
 そう感揚げるのも彼のごく自然な考えであった。

 故に進行方向は決まった。
 己が本能のまま生きる。
 そして、いつも通りに闘う。

 浅倉はゆったりとした足取りで……
 まるで獲物を狩る野生の獣のように歩いていった。


【C-3/南部/1日目・黎明】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[状態]:全身に火傷
[装備]:王蛇のカードデッキ 
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:いつも通りに闘う
1. 声のした方に移動する
[備考]
※メタルゲラス、エビルダイバーと契約後の参戦


智慧の魚@Fate/Grand Order

清姫に支給された。

『鮭を食べたまえ、頭が良くなる。

 無論、無限の叡智が授かったりはするまいよ。それは虹色に輝く鱗を持った鮭だけだ。
 しかし、鮭の脂には集中力を高めるという物質が多く含有されているのだそうだから、あながち無駄でもないだろう。
 強さだけでも、美しさだけでもいけない。きみは賢くありたまえ。
 何かにつまづき、失敗した時に……我が身を振り返られるだけの賢さを持つといい。

 ん?

 智慧があって賢いなら、そもそも失敗しないように振る舞えばいい───と?
 フフ、確かに、それが理想ではあるね!
 けれど人は、あやまちを犯すものだ。いつも正しい道ばかりを選べるとは限らないさ。

 だから、ほら。きみも鮭を食べたまえ。』byフィオナ騎士団団長

……要するに鮭である。


636 : ◆HH8lFDSMqU :2019/05/23(木) 10:55:55 I022hu4Q0
投下終了です


637 : 名無しさん :2019/05/23(木) 12:00:07 bnYOq0tQ0
投下乙
唐突なシャンゼリオンネタで草


638 : 名無しさん :2019/05/23(木) 12:15:30 3GMY8eBY0
遅くなってしまいましたが>>575の指摘を行なったものです。
◆FTrPA9Zlak氏、修正投下お疲れ様です。私としてはもう問題はないと思います。


639 : ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 14:53:21 75XCk5Bc0
すいません、夕方に投下するのは少し難しそうです。今夜中には投下します。


640 : ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:09:53 KRKUkdoM0
若干遅くなりましたが、投下します


641 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:10:57 KRKUkdoM0
 


真っ赤なバイクが、未だ暗い夜の道を飛ばしている。
メルトリリスと白銀御行を乗せたそれは、那田蜘蛛山を右手に見ながら通れそうな道を選び走り続けていた。
四宮かぐやと石上優の二人と合流したいと考えている白銀だが、しかし秀知院学園以外に三人にとって目印になりそうな場所は心当たりがない。
よって、とにかくしらみつぶしに探すか、はたまた待機するかの二択を迫られたわけだが──自分がいるという情報を託した立花たちがペンタゴンを目指す、即ち反時計回りに動くらしいということは分かった。
となれば、自分たちは反対に時計回りで巡れば、単純に会える可能性は高いだろう、というわけだ。
立花たちには「自衛隊入間基地に向かっている」と伝えてあるし、秀知院学園にもその旨は書き残しておいたので、少しでも再会できる確率は上がったはずだ。
そんなわけで、一路バイクを飛ばしている二人であったが。

「……それで?改めて弁解は?」
「……すまなかった。本当に反省している」

当の二人の空気は、若干、剣呑としたものであった。
メルトリリスは呆れと蔑みがないまぜになった表情で後部の白銀を睨み、その白銀はといえばばつの悪そうな表情で支給品である抹茶ソーダをちびちびと飲んでいた。

彼らがどうしてこうなったのかというのは──端的に言えば、白銀御行が爆睡した。

白銀御行という男の一日は、生徒会の執務とバイト、そして何より十時間を超える勉強で構成されている。
そんな生活であるから、勿論のこと睡眠時間は常日頃から病的なまでに少なく、彼の目つきが常日頃から悪いことについてもこれが原因の大半を占めている。
そんな既に人間の活動限界を見誤ったくらいの稼働を続けている彼が、絶対に欠かしてはいけないもの──それが、カフェイン入りの珈琲だった。
齢十七にして重度のカフェイン中毒と化した彼は、三時間ごとにこれを摂取しなければいとも容易く爆睡してしまうのだ。
そして、このバトルロワイアルの会場において、ただでさえ常日頃とは同じ環境で精神を擦り減らしていたところに、メルトリリスとの遭遇や藤丸たちとの会話などが重なった結果──彼自身、そのことをすっかり忘れていたのである。

結果として。
二人がバイクを走らせ始めてから彼が爆睡するまで、そう時間はかからなかった。

当然、真後ろでそこまで思いっきり爆睡されると、単純にメルトリリスとしても対処はせねばなるまい。
単に気を詰めていたから、というのであれば休ませるのも悪くはなかったが、しかしこの移動中というのは非常時に振り落とされかねないし、事情を聴いた今だとそういう訳ですらなかったのであるからいただけない。
幸い、抹茶ソーダの成分表を確認したところ──何故か、というべきかどうかは微妙なラインだが──本来の抹茶と同様にしっかりカフェインが入っていた為、今後は味の微妙さに顔を顰めつつもそれをちびちびと飲んでいくことにした、のだが。


642 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:16:29 KRKUkdoM0
  
「そんなに身体を壊すくらいなら、日頃の行いには気を付けるべきではなくて?こんな状況──は予想できないかもしれないけど、完全に身体を壊すのなら愚かとしか言いようがないわ」

結果として、メルトリリスにこう言われてしまうのも仕方のないことではあった。
ぐ、と言葉に詰まる白銀だったが、やがて俯きつつ、それでも力の籠った声で呟いた。

「……それは、できない」

運転中である為に白銀の顔こそ見れないメルトリリスだったが、それでもそこに静かな、けれど確かな意志があることは感じられた。

「俺は、四宮と対等であり続ける為に──この努力をやめる訳にはいかないんだ」

そうして、ぽつぽつと、白銀は語り始める。
四宮かぐやに恋をしていること。天才の彼女に認識してもらう為に、自分も天才を演じなければならないこと。そして、それを維持する為には尋常じゃない努力が必要だということ。
流石に細かいイベントなどまでは話さなかったが、それでもそれを聞いただけでメルトリリスにも大体の事情が把握できた。

「だから、俺はただひたすらに頑張って──その末に、四宮に告(もとめ)られる。そうでなければ」

付き合うことなどできない──対等には、なれない。
そう締めくくった白銀に、メルトリリスは小さくため息をついた。

「………己が壊れようと、隣に居続ける為に……ね」

困ったものだ、とメルトリリスは思う。
この男を自分の近くに配置したBBは、一体何を考えていたのか。だが、よりにもよってこんなことを言う輩を配置したからには、どうせろくでもないことを考えていたのだろう。

「どうした」
「いえ、別に?それならそれでいいわ」

そう、それでいい。
それで、いいのだ。

「水面下で幾ら醜く必死に足を動かしていても、その美しさは白鳥のものであるように。血反吐を吐く努力をしなければ得られない主演という役柄を、それでも演じて輝くのは女優自身であるように」

より正確に言うのであれば。
メルトリリス自身が、「そうあってほしい」と願った。
ただ、それだけのこと。

「眩しく焦がれたモノの為に、瞬く銀色に輝こうとするのなら、それは──ええ、きっと。善きものであってほしいと、私はそう思います」

初めて聞くメルトリリスの敬語に、白銀は思わず息を呑む。
その言葉に込められた想いに、彼女自身ただならぬ想いを込めているということは、理解できたから。

「……残念だけど、話はもう終わりみたいよ」

だが、その感情への返答の言葉を紡ぐより先に、メルトリリスが盛大にハンドルを切る。
そして、その直後──彼等の傍らで、轟音が鳴り響いた。
一体何事だ、とうろたえる白銀の前で彼女が睨むのは、目の前に迫った教会。その屋上。
そこに、巨大な重火器を抱えた覆面の男が立っていた。
全身を包むのは緑のボディスーツ。上半身には鎧のようなパーツが付随し、覆面と合わせてどこか重装歩兵を思わせるデザインになっている。


643 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:18:50 KRKUkdoM0
 
「誤射だ、って言い張るなら場合によっては逃がしてあげなくもないわよ?」

バイクから降りつつ、メルトリリスがそう言い放つ。
言葉による返答はなく──代わりに再び放たれた弾丸が、無言の返答だった。

「下がりなさい、ミユキ」

呼びかけながら、襲い掛かる弾丸に獰猛な笑みを浮かべる。
振るわれるのはジゼルの踵。流麗に煌めく足の一閃が、砲弾を盛大に蹴り飛ばす。
そのまま地を蹴ったメルトリリスの身体が教会の屋上へと跳ね上がり、緑の男の前へと瞬時に躍り出る。
一瞬意表を突かれたような、否、感心するような仕草を見せた男だったが、しかしその対応は落ち着いたものだった。
突っ込んできたメルトリリスへ持っていた巨砲を放り、右手にハンドガンを構えなおす。
砲台を叩き落としたメルトリリスへ、ハンドガンを連射。踊るような仕草でそれを躱すも、その間に後ろへと下がって適切な距離を保とうとする。
弓兵として、接近戦は不味いと考えたか。元より屋上からの狙い撃ちを仕掛けていた以上、此方がいとも容易く同じ土俵へ立つこと自体想定外だったのだろう。
だが、そう。その土俵で戦おうとするのが、今の男が犯した間違いだ。
屋根を踏み切り、猛然と加速する。敏捷ステータスがAランクオーバーのメルトリリスの加速は、銃弾の再装填よりも速く男の懐へと潜り込む。
そこから足を一閃し、首を斬る──それを狙ったメルトリリスだったが、しかしここで

至近距離で猛然と振るわれる踵を落ち着いて銃で受け流しつつ、間隙を縫って確実に一発ずつ打ち込んでくる。
そうして数度の競り合いの中で、踵と腕、銃弾が飛び交うこと数度。高速のヒットアンドアウェイに持ち込みたいメルトリリスに対し、緑の男は牽制と突撃を繰り返すことで痛打を避けていた。

「へえ、やるじゃない──」

上手い。
技量は相当のもの、戦場を生き延びてきたもののそれだ。それに加えて、純粋なパワー・スピード共に自分に追いすがる程度には備えている。
近距離戦で本領を発揮できていないであろう今はともかく、弓兵として振舞えばそこらのサーヴァントに勝るとも劣らない程度の実力はあるだろう。

だが。
センチネルでこそなくなったとはいえ、今のメルトリリスは身体の損傷を癒した本調子の状態。加えて、前述の通り既に近接戦へと持ち込んだ。
そんな状態で、並大抵の攻撃で撃ち落とせるほど、この白鳥は甘くはない。

身を屈め、それまでより一層鋭く、深く切り込む。
月面宙返りの要領で繰り出された鋭い一撃が、銃を持たない左手を吹き飛ばす。
更に、これでは終わらない。一瞬空いたその隙を突いて、メルトリリスは大きく屋根を蹴る。
腕を失った男が振り向くが、遅い。その時には既に彼女の身体は、教会の最上部、そこに備える十字架の上へと到達しており。

突き出すのは右脚。
十字架が砕けんばかりの勢いで蹴りだされた彼女の身体が、脚が、一直線に男へと迫る。
男は残った右腕を腰から胸の前に回しでそれを受け止め──しかし、それを上回る勢いでの一撃は、腕の防御ごと胸を貫く。
衝撃で教会の天井が突き破られ、一気に落下を始める。
メルトリリスにとって、それは些細な問題にすぎなかった。
既に胸に突き刺した
だからこそ、この戦闘はもう終わり──喧嘩を売ってきたにしては大したことはない相手だった、と、そう結論付けようとしていた。



<──Shoot vent──>

突如として、目の前の男の肩に大砲が出現するまでは。

「──な」

いきなり何故、と、思う暇もなかった。
膝蹴りに対して防御の構えを取る前に男が腰に手を回していたことが、この為の布石だったとは、ライダーと初めて出会う彼女が理解できていたはずもなく。
放たれた巨砲が、至近距離から彼女を焼き潰そうと迫る。
辛うじて身を逸らすも、突き刺さった右足を瞬時に抜くことはできず──仰け反った反動で剥き出しとなった太腿へと、砲弾が直撃する。

「──ぐ、ぅ」

罅割れていた頃とそう大差ない程のダメージを受け、メルトリリスの口から苦悶の声が響く。
油断した。最期の足掻きか。
今はまだ、甚大なダメージというだけで済む。暫く移動がバイク頼りになり、戦闘行動にも暫くは参加できない可能性もあるが、再起不能になるにはまだ猶予がある。
だが、このままいけば、落ちるまでの僅かな時間でも右脚が泣き別れになりかねない。そうなれば完全に致命的だ。
最悪の想像をしつつ、それでもなんとか身を捩り続けることで少しでも被害を減らそうとして、



──壁を突き破って現れた男が、膝を突き刺した男の肉体を反対側の壁の外へと吹き飛ばした。


644 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:19:31 KRKUkdoM0
 



教会の中に駆け込んだ白銀が見たのは、片膝をついて座り込むメルトリリス。
そして、今しがた教会に飛び込んだと思わしき、新たな男だった。
桃の髪色に白い肌。一目見ただけで化外の化け物だと分かる、異様な男。

「メルトリリス──」

駆け寄ろうとするが、しかし一歩を踏み出そうとしてようやく足が動かないことに気付く。
見下ろせば、足が竦んで震えている。そして、そこでようやく白銀は自覚する。
──ここから先に踏み込めば、死ぬ。
それはメルトリリスが白銀に向けた警告の意思の視線、そして、白い男から出てくる異様な威圧感から来るものであった。
僅かな静寂。
白銀が立ち尽くす前で、メルトリリスと白い男が睨みあい──

「貴様といい、先の輩といい──女の皮を被った獣は、幾らかいるようだが」

先に口を開いたのは、白い男の方だった。
白銀でわなく、座り込むメルトリリスへの言葉。だが、その目に籠っているのは──明らかな、侮蔑の視線だった。

「しかし貴様は、弱いな。やはり所詮は女か。この猗窩座の手で殺すまでもない」

そう断じられれば、メルトリリスも不機嫌さを露わにするしかない。
サディズム            マゾヒズム
加虐体質を持つ彼女だったが、生憎と被虐性癖まで備えているわけではなかった。

「あら、女は怖いし舐めちゃ駄目よ?恋する乙女は強いって言うでしょう?」
「戯言だ。女は弱い。柱になるような女も偶にはいるが、しかし大部分は男だ。生まれからして守られねば生きていけないような奴をわざわざ殺すなど、俺の手が鈍る」

メルトリリスの言葉に、しかし猗窩座はどこ吹く風だ。
猗窩座は女は殺さない。
より厳密に言うのであれば、彼は「生まれつき弱い生き物」である、という点で女を殺さないのだ。
どれだけ努力しようと、所詮は守られなければ生きてはいけない生き物。
弱者を見下し、蔑視する彼だが、「弱くしかあれない」ようなものは蔑視するよりもむしろ憐みの対象、という訳だ。
勿論それを脱するような、柱になるような例外もいるし。

「先の女は、まだ守られなければ生きていけぬような軟弱ではなかった。化け物として飼われ、化け物を殺す為に歪められた、人の域を外れたものだった」

例えば、先に彼が戦った、源頼光も。
アレも、丑御前としての側面も併せ持つ、怪物としての側面を持ち合わせたそれを、更に英霊剣豪という概念で煮詰めた完全なる化生のモノだ。
最早女性という皮を捨てているであろうそれは、先にも告げたように猗窩座自身が至高の領域に達すると見込むだけのものだった。

「今の貴様が、か?再生もしないその足で?」

だが、今のメルトリリスは。
右脚に痛打を受け、立ち上がれず、彼の目の前で跪くしかない彼女は。
猗窩座にとっては、殺す対象にすら入らなかった──という、ことだった。

「随分と舐めてくれるじゃない。でもそういうことはリップに言って貰わないと──生憎、私はそれじゃあノれないわよ?」

それが舐められているということだと認識しつつも、立ち上がるのも困難な現状メルトリリスに出来ることはない。
無論諦めてなどおらず、どうにかして立ち上がれないかと力を込めているが──彼女が負っている傷は、それを許してくれるほど生易しいものではなかった。
仮面ライダーゾルダのギガキャノンは、本来ならば150t相当の破壊力を持つ代物だ。制限を考慮して尚、数発喰らってその程度の傷で済んでいるメルトリリスも、アルターエゴとして十分にスペックが図抜けていると言えるだろう。
それでも口から出た憎まれ口に、猗窩座は最早返答をすることすらしない。
猗窩座からすれば、それは弱者の戯言だ。最早歯牙にもかける必要がない──彼はそう断じたのだ。

「まあいい。そういう訳だ、貴様は見逃してやる。──そして」

そう言いながら、猗窩座は徐に白銀へと向き直る。

「貴様は喰わせてもらおうか。男に生まれながら軟弱な人間、せめて俺の中で糧となるがいい」

──その瞬間に、再び白銀の生存本能に全力の警鐘が鳴り響く。
殺される。
そんな思考が、先刻よりも明確に頭の頂点から爪先まで余すところなく行き渡る。
それでもせめてワンチャンスを狙おうと、無意識に袋へ手を伸ばして──



「た、たすけっ、助けてください!」

──白銀の背後、空いていた扉からその場に現れた第四者の言葉と、同時に頭上から響いたコンクリートの破砕音にそれは中断させられた。


645 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:21:05 KRKUkdoM0
 




現れた人間は、男だった。
ハンチング帽を目深に被り、白いシャツには血が垂れている。しゃがれた声から、老人のようだというのが最も近くにいた白銀には分かった。

そして、コンクリートを砕いて入ってきたのは──漆黒の、謎の化け物。
全身を黒一色に染め上げたそれは、獣のような唸り声を上げながら、最も手近にいた猗窩座へと視線を定めた。

「──ほう、まだ面白みのありそうな奴が来たな」

そして、それと向き合うように怪物の側を見上げた白鬼が、愉快そうに口元を歪めた。
白銀に向けていた殺気をそちらに向けなおし、力を籠めるように身を沈める。

「暫く奴と戯れるが──貴様一人ならともかく、あの男たちを逃がそうとしたなら、貴様のもう一本の足も折れると思え」

それが脅しでないことは、言われた当人であるメルトリリスにもわかっていた。
あの影の強さは分からないが、白鬼の強さは先述の通りセンチネル級、ともすればそれ以上という可能性すらある。
手負いでなくとも、自分も相手をするのが難しいような相手だ。一般人などそれこそ片手間で殺せるだろうし、手負いの自分も何処まで持たせられるか分かったものでは無い。

そして、猗窩座は力強く教会の床を蹴り上げた。
同時に、黒い影も窓の穴から飛び降りる。
果たして──衝突。
伽藍とした教会に轟音が響き渡り──その中心地点からおおよそ球形の範囲内で、連続して破壊音が響き始めた。

「──あんた、こっちだ!」

そんな、一度巻き込まれれば致命傷は免れないような戦いに巻き込まれないように大回りしながら、白銀は男を引き寄せる。
幸運も手伝いどうにか戦闘地帯から離れつつ、再びメルトリリスの背後へと到達した。
メルトリリスもこの隙に、ガラス窓にそこそこ近い壁へと移動していた。隙があればそこから逃げる、ということだろう。

「全く、この状態でそんな人間を保護するなんて──」
「仕方ないだろ、大丈夫か爺さん──うっ」

その顔を覗き込んだ白銀は、思わず息を呑んだ。
その顔面は無惨に引っ掻かれ、血に塗れていた。この分だと片眼が潰れているかもしれない。
なんらかの治療器具があるところに連れていかなければ不味いかもしれない、という思考が頭をよぎるが、しかし背後から聞こえてくる剣呑な音はそもそも脱出すら困難であると伝えてくる。
とにかく最優先すべきは、この状況をどう打開したものか。
目の前の光景は、白銀には到底信じられないものが広がっていた。
黒い影の行動は、白銀から見ても以上
だが、そんな黒い影を圧倒していたのが、あの白い男だった。
超高速、目で追えないくらいの連打が、黒い影を何度も打ちのめす。
やはりそこから何事もなかったかのように影が立ち上がるが、しかし

「どうやら何処ぞの柱と似たような力の出し方をするようだが──呼吸もせずにこの猗窩座に挑むとは笑止!だがその鬼にも引けを取らない不死性は興味深いぞ!」

倒されても何度でも復活する黒い影を、まるでサンドバッグのように扱う男に、白銀の背筋が改めて冷えた。
確かにアレならば、再生するまでの間隙に自分や老人を殺すことなど造作もないだろう。そもそも、あのサンドバッグ殴りを何時飽きるかも分からない。
やはり、何らかの策を練らねば不味い。それも、出来るだけ早急に。

「……どうやって脱出する?」
「さあ──一先ずアレの用意はしておきなさい。隙を見て叩き込めれば、多分一番楽に脱出できると思うけれど」

ああ、と思いながら、袋の中にあるそれへと意識を向ける。
使えば恐らくは両者ともに吹き飛ばせるが、しかし問題はどうやって当てるかだ。
片や、人知を超えた超高速での蹂躙をしている白鬼。
片や、今しがた顔面を砕かれ、しかし黒一色の首元から再び再生を試みる影。
ただでさえ白銀の視点では化け物であるアレを、果たしてどうしたものかと考え、



──待て。黒一色の、首元?


646 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:23:17 KRKUkdoM0
 

思わず二度見するが、間違いない。
その影の化け物が再生する際、首元を注視したが──その首元は、黒一色だ。
それはつまり、あるはずのものがないということを意味していた。

首輪。
本来ならどんな参加者でも着けている筈のそれが、黒い人間には存在しなかった、というだけ。
だが、それを見た白銀御行の、秀知院学園一の頭脳はすぐに回転した。

「何故首輪が存在しない?」
「もう外した?違う。メルトリリスに聞いたBBという人間がする下手としては合致しない」
「ならば、もしや──参加者ではない?」

そう。
殺し合いに参加しているという時点で無意識にアレが参加者だと思い込んでいた。
だが、そもそも参加者ではないとするなら。
アレは、なんだ?

「ではなんだ?支給品か、それとも参加者とは別に投入された獣か」
「どの可能性もあるだろう。だが全てを並列で考えろ白銀御行」
「問題は、それらと同時に考えるべきは、」


「もし、これが、意図的なものであった場合」
「この人形の出現で、得をした、人間は──?」


あくまで、可能性の一つでしかなかった。
外にいる誰かが操っている可能性も、無作為に暴れまわっている可能性も到底否定はできない。
だが、確認はしておかなければいけないと、そう思った。
外れているなら良い。ただちょっと疑われるだけで済む。
だが、当たっている可能性がある以上──それが的中していれば、危険は今にも自分たちを喰らうだろう。
そうして、振り返った先で。

保護した、顔面を血に包んでいた男が、鏡に右手を向けながら光に包まれていた。

白銀の方が近かったから、分かる。
今にも収まろうとしている中で、先程と同じ緑の装束に身を包んだ老人。
その老人が、やはり先程と同じように、銃を持っていること。
そしてその銃を、メルトリリスへと剥けていること。

メルトリリスは、一手遅れていた。
光の気配に気付いて振り返ってはいたが、今から飛ぶにしても、今の足を怪我した彼女では間に合わない。



だから。

──だから?

だから、己の命を投げ出すのか。
白銀御行は、そんなに大層な、誰かを守るような人間であったか?
三分もしないくらい前に、命の危険を感じて凍り付いたようなお前が、そんな勇ましいことを出来るのか?



──眩しく焦がれたモノの為に、瞬く銀色に輝こうとするのなら、それは──ええ、きっと。善きものであってほしいと、私はそう思います



(その通りだよ)
(それが、白銀御行のなりたい、白銀御行だ)

そうして、白銀御行は躊躇なく、メルトリリスの前に身を躍らせた。


647 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:24:31 KRKUkdoM0
 

メルトリリスが気づいた時には、すべてが後の祭りだった。
光の中から出てきた、殺したはずの男。再び放たれた、今度は急所を正確に狙った銃弾。咄嗟に動かすには遅すぎた足。
そして──隣から飛び出して、己を庇った青年の姿。

「──ミユキ!」

保護した老体の男が、先程戦っていた緑の装束へと姿を変えていた。
先程確かに貫いた筈の胸の穴は跡形もなく、別人であることすら匂わせたが、しかしその気配はまず間違いなく先程戦っていた男と同じもの。
瞬時にまだ動く左脚を振るう、が、それをする前から既に男は目の前から飛びのいていた。
再び腰から何かを引き抜いた男が、着地と同時にそれをハンドガンへと差し込んだ。



<──Advent──>



そして、着地と同時、現れたのは緑の巨兵。
それがこれまでの何よりも危険なものであることは、二人にも理解できた。
止めなければならない。しかし、それには手が、否、足が足りない。
激痛に未だ身を捩り続ける白銀に、片足に貰った痛打のせいで未だ立ち上がれないメルトリリス。
辛うじて可能性があるのは片足を使って飛んでいくくらいだが、格好の的にしかならない。
猗窩座と名乗る先程の男は──そう思って振り返るが、しかし先程とは打って変わって黒い人影に押さえつけられていた。
抵抗の様子もなく、何かに取り付かれたかのように白銀をじっと見ている。
その事実にうすら寒いものを感じないではなかったが、しかしそこまでの気を彼に払っている余裕は二人ともなかった。

どうする。
メルトリリスの脳内を幾つもの選択肢が巡るが、結局は狙われることを覚悟で突っ込むしかないか。
そう考え、せめて左脚に全力を込めようとしたところで──彼女の動かない腕に、正確にはその周辺の感覚に、何かが押し付けられる感触がした。

そう。
白銀御行には、まだ、打つ手はあった。
あの支給品。メルトリリス自身が手の不自由さの為に使えないこと、そして白銀が使うには彼女の得手である接近戦のサポートとしては扱いづらいことから、元よりメルトリリスが苦戦した時の保険として用意していたもの。
懸念は二つある。
一つは、今いる屋内で万全に機能するかどうかということ。これに関しては、今移動するのが難しい自分たちが出来ることは何もない。故に成功を祈るしかない。
そして、もう一つは、ここからだとあの男への距離が遠すぎること。
だったら──

そうして白銀は、己の持っていたデイバッグを押し付け。
何を、と驚愕の表情を浮かべる彼女へ、直前まで突っ込んでいた右手を──その手に握ったものを、思い切り振り抜いた。

「な──」

それが何を意味しているかを知っているメルトリリスの表情が凍り、そして次の刹那、彼女はその表情ごと凄まじい速度で空へと打ち出される。

──可楽の羽団扇。
上弦の肆、半天狗の分身の一体が持つその団扇は、人間一人なら軽く吹き飛ばす程の爆風を一瞬にして巻き起こす。
本来なら、状況が不利になった時に吹き飛ばすのは敵だけの予定だった。
だが、今佐藤がいるのは教会の外。ただでさえ距離がある上に、壁や長椅子の残骸、瓦礫などの邪魔が「風」という力を大きく減衰させる。
だから、白銀はメルトリリスを狙った。
確実に射程から逃がすには、それしかなかったから。
人間とは異なる足がかなり重いであろうことを考えると飛ばない可能性もあったのが唯一の心配だったが、どうやら上手くいったようだ。

そして、その代償として。
白銀御行はもう、立ち上がることも、逃げることもできなかった。
腹部から流れ出る血と共に、己の命も流れ出ていくようで。

「……しの、みや…………」

どうだろう。
気張ってみた結果がこれだ。

ああ、そうだ。
四宮を最初に見た時のことを、思い出す。
誰かの為に、泥塗れ、ならぬ血塗れになれる男。
もし仮に、その姿が、美しいものであるのなら。

俺は、美しいものになれただろうか。
俺は、四宮の隣に立てる俺に、なれていただろうか。

そんな、愚にもつかないことばかりが、ずっと思考を巡っていた。



そして。


「それじゃあ、派手にいってみようか」


<──Final Advent──>


絶望の音が、響き渡った。


648 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:27:51 KRKUkdoM0
 



発射と同時に背後の壁を蹴り壊し、掃射によって倒壊しつつある教会から脱出する。
このまま全身を押し潰されてもよかったが、死の制限は何があるか分からない。どうせなら避けられる死は避けておいた方がいいだろう。
自己保存本能ではなく、初めてプレイするゲームの残機を気にするような感覚で、佐藤は死から逃れることにした。

最初に変身を続けた状態で戦っていたのは、単に身体能力が増強される、または武器を自由に呼び出せるなどの仮面ライダーゾルダの力だけが理由ではなかった。
佐藤にとってもう一つ重要だったのは、この変身によって己の顔が隠れることだ。
国に潜む亜人や国民そのものへのメッセージを送る生放送で、自分の顔、そして「自分が亜人であること」は大々的に知れ渡っている。
故に、顔を晒せば自分が亜人であるという前提を晒した上での戦闘になる。
勿論それはいつもと変わらないし、そのくらいの方が刺激になるという考えもある。だが、折角ならばこの事実を有効活用するのも悪くない。……活かしきる為にIBMで顔面を傷つけたせいで今は片目が見えないが、まあしばらくはそれでもいいだろう
極論、どっちでも良いのだ。策を弄してくる相手と正面からぶつかるのも、そもそも策を用意させず倒すのも。
それがどちらも闘争である以上、えり好みせずにただ楽しむ……それが、佐藤という男の性だった。
──尤も、三人が亜人のことなど知らない別の世界の住人だった以上、不死という観点を隠すために顔を覆う、というのは元より的はずれな狙いではあったのだが。

ついでに言うなら、今使った必殺技の予備動作の長さを知ることができたのも幸運だった。
今回は初めて使った故に勝手が分からなかったが、召喚というフェイズを挟む上で絶大な威力に比例するような待機時間の長さが生まれるのは若干のネックだ。
今回はIBMと併用したが、そう何度も使える手ではない。今後はこれを使う時はその時間を稼ぐ方法も考えた上で使用しないといけないだろう。

「しかし、派手で良いからねえこれ。花火みたいだね」

そして、そんなことを考えつつも、彼はまるで見た目通りの温和な性格であるかのように、崩れていく教会を振り返る。
自分が起こしたその崩壊も、まるで日常の一部であるかのように見なして。
それは、言うなれば彼にとって戦闘と日常の境界線が極めて低い──いや、ほぼ同一であることの現れなのだろう。
彼にとっての闘争とは、残機の限り戦い続けるゲームとそう変わらないのだから。

「たーまやー」

そんなことを一人呟きながら、佐藤は再び歩き始める。
その先でもきっと、彼のやることは変わらないだろう。
今背後で倒れていく教会のように、彼の周囲は、どんな時も彼自身が引き起こす戦乱によって燃え続けるのだから。


【E-3・教会跡付近/1日目・黎明】

【佐藤@亜人】
[状態]:顔面に引っ掻き傷
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、日本刀@現実
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.いやあ、いいねえこれ。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。


649 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:28:29 KRKUkdoM0
 


吹き飛ばされた彼女は、立ち上がるや否や全力で駆け戻っていた。
脚はまだ治っていなかったが、先程まで使っていたバイクが律義に袋の中に入っていたのは僥倖だった。
故に、全力でそれを飛ばした。
元は彼女がいた方角から、ひときわ大きな爆音が聞こえてきたとわかっていても──それでも、ただ走って。

そして、舞い戻ったそこに、白銀御行の姿はなかった。
反対にあったのは、辛うじてうず高く盛られた瓦礫の山で。
勿論、白銀御行が生きていた痕跡すらも、そこには何一つ残っていなかった。

「……なによ」

別に、そこまで思い入れがあるわけじゃない。
まだ三時間しか行動を共にしていない人間に、アルターエゴである自分がそこまでの思い入れを抱くことはない。

ただ。

──あのマスターさん、本当に最後まで貴女を庇ったわ!

思い出しただけだ。
同じように目の前で散った、一人の青年のことを。

勿論、比較なんてするつもりはない。
白銀御行は白銀御行であり、そして彼は彼だ。
たった三時間しか触れてない白銀と、私を見つけて、手を引いてくれた、あの輝かしき思い出の中の人と混同するなんてちゃんちゃらおかしい。

それでも。

「──水面下で足を動かす白鳥は、まだ歌なんて歌う気はないのに」

自分を庇ってくれた人間を、悼むくらいはしたい、と。

「…………それでも。ありがとう、ミユキ。そして、ごめんなさい」

彼の隣にいて、彼の隣に舞い戻る為に羽ばたいたこの心は、それを望むのだから。
それくらいは、しようと思った。




【E-3・教会跡前(佐藤が去ったあと)/1日目・黎明】

【メルトリリス@Fate/Grand Order】
[状態]:損傷(両手)、右足損傷(大、満足な行動不可)
[道具]:基本支給品一式×2(自分のものと白銀のもの)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、ジャングレイダー@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:繋いだ心は、今も離れない
1:……………
2:この殺し合いにいる藤丸立香とは共には行けない。だけど再び道が交わることがあれば力を貸すくらいはいい。
[備考]
※『深海電脳楽土 SE.RA.PH』のメルトリリスです。
※損傷は修復されてますが完全ではありません。休み無く戦い続ければ破損していくでしょう。
※出逢っているのは『男の藤丸立香』です。
※『女の藤丸立香』については、彼とは別の存在であると認識していますが、同時にその魂の形がよく似ているとも感じています。
※藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオと情報交換をしました。


650 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:29:10 KRKUkdoM0





「そうだよ、白銀御行」

「お前は十分頑張った。泥の中に真っ先に飛び込める、あの時の■■のようになれただろう」


「だから、もういいんだよ、白銀御行」


「お前の努力は報いられるべきだ。お前の存在は認められるべきだ。お前の愛は受け入れられるべきだ」






「だから、お前には、その努力に見合った力を与えてやろう」






「お前を報いない存在など、踏み躙ってしまえばいい」
「お前を認めない存在など、思い知らせてやればいい」
「お前を愛さない存在など、拒絶してしまえばいい」



「そうして、お前は立つんだ。お前に報いてくれる、認めてくれる、受け容れてくれる■■の隣に」
「今のお前なら、努力に見合った力を与えられたお前なら、対等──いや、それどころか上回っていると言ってもいいだろう」

「だから、安心しろ。安心して」


     告白しよ
「そして、喰らおう」






651 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:29:56 KRKUkdoM0
 

まず最初に何をするべきか、鬼舞辻無惨は考えた。
やるべきことは少なくない。
BBと名乗るアレを殺す方法。鬼よりは下等だが、日光を克服した生物である先程のアレの解析。この忌まわしい首輪についての考察。それに、日中の行動を如何するか。
考えれば考える程、やらなければならないことが多い。
その全てを──元からいる配下の鬼があるとはいえ──己がこんな場所でやらされているのかと思えばまた沸々と怒りが沸いてくるが、突如として降って沸いた日光への希望はそんな憤怒を幾らか抑えてくれる程には喜ばしいものだった。

そんな中で、無惨が一先ず優先するべきだと判断したのは、話を聞けばすぐに分かるものからだった。
ヒントは多ければ多いほど良い。特に、無くなる確率がより高いものならば尚更。

累。
死んだ筈の鬼。
鬼殺隊の柱によって殺された下弦の鬼。
まずは奴の検分をして、どのように生き返ったかを調べるべきだろう。
奴は下弦だ。只の人間ならばすぐに殺せるだろうが、柱や上弦、それに猗窩座と一応は渡り合ったあの女などが犇めいているというのなら、果たしてどの程度生き延びることが出来るか分かったものではない。

ならば、まずは奴から情報を聞き出すべきだろう。
そんなことを考えながら、無惨は累のいる南方へと歩を進めていた。
最初からこっちに降りてくれば良かった。猗窩座がいる方向とわざわざ反対に向かったのが間違いだったが、そのおかげであの忌々しくも可能性を示唆する木偶に会えたことを考えれば一応──本当に一応──採算は取れているだろう。
そうしてゆっくりと歩を進めていると、その先に、煙の上がる建造物が見えた。
先程まで猗窩座がいた場所だろうから、奴の戦闘の跡か。猗窩座自身は既に東へ向かっているようだが。
そんなことを考えた無惨の鼻腔に、ふと。、嗅ぎ慣れた匂いが漂ってくる。
濃厚な、人の血の匂いだった。

「ふむ」

どうやら、先程と同じように無様な闘いぶりを晒し、一人も殺せていない、なんてことはなかったらしい。まさかとは思うが、流石に今回もしくじったようなら処遇を考えねばなるまい。
本当に猗窩座が殺した訳ではないという事実を知らない無惨が、そう考えつつ匂いの下を辿ると。

「なるほど」

果たして、そこには一人の男が倒れていた。
年齢は十代の半ば程か。制服を着ていることから書生だろうか。
腹から漏れ出た血や、瓦礫に所々押し潰された身体が、それでもまだ僅かな命が残っていることを物語るように弱弱しく上下する。
もう少し瓦礫が多ければ完全に押し潰されていたであろうが、彼は本来倒壊している建物からはかなり離れており、瓦礫もまばらだった。何らかの偶然に助けられ、ここまで吹き飛んだか。
だがどちらにしろ、もう少しで息絶えるし、無惨がここに来た以上生きていても何も関係はなかった。
人肉があるのなら、と、いつものように喰らおうとして──ふと、それを取りやめる。
ここで喰らって血肉にする、なるほどそれはいつものことだ。
だが、まだこの袋をはじめとして、他の下等な人間たちの駆除といった、この無惨が行う程でもない雑事が残っている。
無論、配下の鬼も上弦が二体に下弦が一体はいるが、どいつもこいつも動きが鈍い。上弦の参である猗窩座でさえこの人間一人以外に誰を殺せたか怪しいものだ。
鬼と似た生物を始めとする実験体を早くかき集め、それ以外を食料として処理しなければならないのに、柱などがいつまでものさばっているようならおちおち潜伏場所すら決められない。


652 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:31:12 KRKUkdoM0
 
ならば。
左手を少し高く上げ、その付け根を逆の手で軽く引き裂く。
途端に溢れ出す血を、そっと死にかけの男の上へと垂らす。
びくり。
男の身体が震えたかと思うと、呻き声と共に男がゆっくりと動き出す。
巨大な傷口が塞がったかと思うと、段々とその身体が生気を取り戻していき──やがて、ゆっくりと立ち上がった。
これで良い。
本来ならみだりに鬼を増やすことは願い下げだが、状況が状況だ。太陽克服の為ならばまだ許せる。

やがて、血を与えられた人間──いや、鬼が、小さく唸りを上げ始める。
己の権能に制限が与えられていないことに、無惨の怒りは少しなりを潜める。
だが、その唸りは収まらず、傷の修復も中々進まない。
権能の問題ではない。己の権能がそんなに脆弱であるわけがない。ただでさえ飢えている上に、傷が大きすぎたというそれだけの理由だろう。
本来ならこの鞄を開けさせる予定だったが、復活までは長くかかりそうだ。
思い通りにならないことに再び怒りがこみ上げるが、せっかく血を分けた存在を使い潰すことはそれはそれで業腹だった。
日光が差し込むまでには再生も終わるだろうことから、此奴はこのまま放置することにした。その後、蜘蛛山の中腹に潜伏することくらいは訳もないだろう。
後は適当に誰かを喰らうのを待ち、最終的には実験体に使ってやるとしよう。

そうして、鬼舞辻無惨は再び歩き出す。
彼の隣には、誰も居ない。誰も要らない。
彼は、限りなく完璧に近い生物なのだから。


【E-3・教会以南/1日目・黎明】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
1.この状況は気に食わないが、好機でもある。
2.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
3.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。







蜘蛛山、南西のふもとにて。
猗窩座は、己が吹き飛んできた方向へと今一度舞い戻ろうとしていた。
理由の一つとしては、袋を落としてしまったらしいこと。尤もらしい道具などはともかく、人肉なども入っていたので失うには惜しい。
それに、先の男──鬼ではないようだったが、不死性を持っていた可能性のある──と再び戦うのも悪くない。状況が状況だったが故にこうして離脱したが、日が昇るまで奴と殴りあうのも一興だろう。
そんなことを考え歩を進めつつも、しかし。
猗窩座は、己の胸を焦がす苛立ちが隠せないでいた。

あの時。
緑の巨獣が現れた時点で立ち尽くしていた自分を、黒い影が取り押さえていた状況。
再び振り払ってやろうとしたが、しかし何らかの理由で力が上がっていた為に今度は容易ではなかった。恐らくは本体なのであろう男が珍妙な恰好に変身していたのを見るに、それに付随した強化だったのだろう。
そこから猗窩座が解放された時には、あの巨大な獣による銃火器の乱射が始まっていた。
壊れ行く教会とその瓦礫の中をすり抜けてなお飛んでくる異様な量の弾薬は、そこから一人で凌ぐにはあまりに膨大すぎた。
如何に鬼の身体と言えど、これを全て受けきるのは再生にも時間がかかりすぎる、と判断した猗窩座が瞬時に導いた最適解。
それは、男が持っていた半天狗の扇を使うことだった。
本来の持ち主でもなかったし、自分に向けて扇ぐ、というのは半天狗であろうとやっていなかっただろうので、成功するかは駆けだったが、どうやら上手くいったらしい。
どこまで飛ぶかも分からなかったが、少なくとも逃げるにはちょうど良い距離を稼げた。
──その行動が結果的に白銀をも吹き飛ばし、彼の肉体の保護に繋がったことを、彼は知る由はない。

「あの鬼といい、最初の輩といい──鬼殺の柱以外にも、随分と手練れが多いらしい」

そう呟きつつも、その表情は晴れてはいなかった。
原因は分かり切っている。

──何故だ。
──何故、あの時俺は立ち尽くしていた?

自分があの時立ち尽くしたのは、
そしてそうすれば、あの半天狗の道具に頼るような
それが出来なかったのは、あの弱い男に目を奪われていたからだ。

奴は弱かった。
五体満足であるにも関わらず、左足に重傷を負ったあの女よりも弱そうに見える程には。
鬼である自分が軽く腕を振るえば、それだけで首が飛ぶような、弱弱しい存在。ただそれだけでしか、なかったはずだ。


653 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:32:47 KRKUkdoM0
 
だが。
そんな奴が、己が死ぬことが分かっていながら、女を庇い。
そして最後には、そんな相手を、命の限り逃がした。

──なんだ?
──何故そのようなことが、こんなにも気に障る?

弱くてちっぽけで、つまらない存在。
鬼狩りの剣士ですらない、ただの人間。
そんな奴がしていた、あの、いかにも誰かを守れて嬉しかったと言わんばかりの表情が、どうしようもなく彼の気に障った。

そうだ、あの表情だ。
あの表情が、何よりも己の胸中を掻き回す。
どうしても原因が掴めない、そんな

「──誰だ?」

そんなことを考えている最中でも、気配を感じるだけの余裕はあった。
だが、その気配は人間ではなく、さっきの女達や仮面の男などと同じ謎の気配でもない。
その気配は──間違いなく、同族のもの。

「……貴様、は」

果たして、そこから出てきたのは自分と同じ鬼。
いや。そうなのだが、そうではない。その飢えきった表情を見ればわかる。

──こいつは今さっき、同じ鬼へと成った存在。

先程から怒りを募らせていた、己が一瞬殴るのを躊躇ったその男が、鬼として今自分の目の前にいた。





──俺は、強くなった。

肉を喰らって取り戻した理性で最初に思ったことは、それだった。
人間だった頃とは比べ物にならないくらい、自分の身体に力が満ちているのが分かる。

鬼としての意識を得た時には、再生の苦しみと飢えで発狂するかと思った。
動ける程度に回復してから、飢えにかまけて少しでも人肉の匂いがする方を辿ってくれば、そこには自分以外の鬼が落とした袋があった。
それを破り、人肉を喰らうことで、理性を取り戻していたところに──先程見た、あの鬼がやってきた。

「──多少、理性を取り戻したか」

そう呟く鬼の、自分とは到底異なる覇気に、思わず跪く。

「あのお方が血を分けた、というのであれば、貴様もまたこの場にいる人間どもを滅ぼせと仰せつかったか」

同じ存在になった今なら分かる。
目の前にいるのは、自分より強い鬼だ。
上弦の参。あのお方が作った鬼の内、三番目に強いという証明。

──ああ、気にくわない。

どうせこいつも、強いからって俺を見下しているのだろう。
ああ、そうだ。
誰も彼も、何も持っていない人間は見下す。何かを持っていなければ、そもそも路傍の石としか思わない。何もかも、

ああ。
だが、自分も、遂に力を得る機会に恵まれた。

人を喰らえば、自分は強くなれる。
分かるのだ。この新しい肉体が、そう告げている。
人を喰らい、取り込むことで、ようやく己自身が強くなることが出来る。
虚飾で取り繕うことのない、ありのままの自分が強くなる機会に、ようやく恵まれたのだ。

そうだ。
だから、喰らえ。
喰らうことで、そうして強くなることで、誰からも認められる己になれ。

そうすれば。
俺は認められるのだろう。
俺は■■の隣に立てるのだろう。
俺は──きっと、愛されるのだろう。


654 : 貴方の隣に立ちたくて ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:33:33 KRKUkdoM0
 
そんなことを考えていた時だった。

『うるせえ バァカ!!』

それは、北の方角から聞こえてきた。
本来なら遠すぎて聞こえなかったであろう、だが鬼の聴覚だからこそ聞き取れた、なんらかの道具で拡大された人の叫び。
見れば、目の前の鬼もまた、それを聞き取っていたようだった。

「……人が、集まりそうだな」

呟く。
鬼になったからといって、彼のクレバーさそのものが失われたわけではない。
この場で拡声器などという代物を使えばどうなるか、元秀知院学園最高の頭脳は簡単に答えを導くことができた。
勿論、弱い人間が応援を呼ぶような、馬鹿が集まるような放送ではない。逃げろという警告から察するに殺人鬼がいることを示唆する内容であるから、保身に走るような人間はむしろ来ないだろう。
だが、反対に義憤に駆られた参加者や、そんな殺人鬼であろうと己の敵ではないという──自分たちのような──人間は寄ってくるだろうから、人を喰らうには格好の場所なのには変わらない。
そうでなくとも、その近辺から逃げ出した奴の肉も食えるだろうし、後は恐らくは死んだであろう声の主のの肉も忘れずに食っておきたい。
今はえり好みせず、ひたすら肉を食うことが強くなるための近道だ。そのための努力は惜しむまい。
無論、そのくらいは猗窩座にも理解できた。

「あのお方に貢献できそうだ。行くぞ」

目の前の男がそう言って駆け出すのに、当然のようについていく。
かつて白銀御行だった存在は、今やその愛も、愛を求める心すらも歪ませて。
聞こえてきた声が、かつてその手で助けた後輩であることにすら気づかないまま──怪なる鬼と化していた。




そうして、鬼がふたり、夜を往く。
片や、最早狂い果てた外道の所業を以て、歪みきった愛情で己への愛を求めようとする鬼。
片や、守れなかった愛を既に何処かへと置き去りにして、ただ狂気に皮を被せただけの鬼。

共に花火を見ていたはずの、隣りあうものの顔も忘れた、鬼がふたり。
隣りあって、夜を往く。




【D-4・那田蜘蛛山の麓/1日目・黎明】
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1. 無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.声の方へ向かう。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。



【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:鬼化、軽い飢餓
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:声の方へ向かう。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。


【可楽の羽団扇@鬼滅の刃】
十二鬼月の上弦の肆・半天狗の分裂体である可楽が持っている団扇。扇ぐことで人間程度なら簡単に吹き飛ばせる程の強風を起こすことができる。


655 : ◆ldjkweYF9s :2019/05/23(木) 18:34:13 KRKUkdoM0
投下終了です。
また、作中の描写で「白銀が藤丸たちに仲間に対して『自衛隊入間基地に向かう』という伝言を伝えている」という描写を挿入してしまったので、現在当該組を予約している◆0zvBiGoI0k氏におかれましては、この旨を記載していただけると有り難いです。


656 : ◆VSfUPSuq9M :2019/05/23(木) 19:18:14 YSP1NU9E0
煉獄杏寿郎、人吉善吉、雅で予約します


657 : 名無しさん :2019/05/23(木) 19:29:51 L9U.M7l.0
投下乙です
亜人の不死性にゾルダの火力、これ以上相性のいい組み合わせがあるだろうかッ!
序盤から見応え満点なバトルでした、佐藤さんがエンドオブワールドを派手な花火って言ってるのは微笑ましいですが

そして会長…進路先には石上会計の無残な死体があるわけで、次の展開に戦々恐々


658 : # ◆gjh.UKiEyw :2019/05/23(木) 19:46:49 feAZxJwY0
村山良樹、マシュ・キリエライト予約します


659 : ◆gjh.UKiEyw :2019/05/23(木) 19:47:27 feAZxJwY0
すみませんトリップミスです
改めて村山良樹、マシュ・キリエライト予約します


660 : ◆FGOhDqA5no :2019/05/23(木) 19:52:52 feAZxJwY0
テステス


661 : ◆FGOhDqA5no :2019/05/23(木) 19:53:18 feAZxJwY0
何度もすみません、このトリップで>>659予約です


662 : 名無しさん :2019/05/23(木) 21:48:55 oOE5MU6U0
皆様投下乙です。短文ですが感想をば。
>時すでに始まりを刻む
参戦時期ゆえに未知の王刀を絡めた会話、とても七花ととがめらしいなと思わされました。
アマゾンズは未把握なのですが、透明化&七花の攻撃に耐えられる耐久力だけでも恐ろしいと感じます。
溶原性細胞感染・・・何が始まるんです?

>悲しみは仮面の下に
修正乙でした。千翼VS炭治郎&ライダー二人のバトルは見応えがあります。
千翼の(力が欲しい…、人を殺す力が…、俺の中の飢えを制御するだけの、力が…!俺がもっと人を殺せるだけの、力が…!)という台詞、
アマゾンズ勢の業の深さを感じずにはいられません。
一花は目の前で五月を喪うことになり、精神的にどうなるか心配ですね。

>COME RAIN OR SHINE
アマゾンズ未把握の身としては、仁さんの背景を知ることができたのは良かったです。
愛すべき我が子を殺すという覚悟、アマゾンズ勢の業の深さを感じずにはいられません(二回目)

>PHANTOM PAIN
罪の痛みを背負うと決めて歩き始めた千翼、覚悟完了といったところでしょうか。
幸せな夢を見ながらも、それに心は救われない、という描写がとても印象的です。

>鬼殺しの戦い
宮本武蔵と渡り合う(元)老人、この絵面だけで笑えてきます。
「可笑しことを言うぞい。二つと無き尊き花とはわしそのもの」と言ってのける権三、これで実際強いのが面白いですね。
まだまだ強くなりそうな権三の今後が楽しみです。

>NEXT HUNT
鯖(鮭)を生で食べてツッコむというシンプルな話も、悪食で有名な浅倉を知っていると面白いですね。
地味にイライラが増しているので、次に浅倉に遭う参加者は鯖(鮭)のせいで苛立ちをぶつけられるかと思うと笑えます。

>貴方の隣に立ちたくて
最初のメルトVSゾルダ佐藤から、もう見応えがありました。
さらにアカザさんの乱入や佐藤の狡猾な策、無惨様の今後を見据えた行動など、多くの人の思惑が混沌を作り出していて面白かったです。
か、会長・・・!鬼になってもなお、大切な想いは残るのか・・・?楽しみです。
作品にケチをつける意図はまったくありませんが、個人的な意見として、

>643
そこから足を一閃し、首を斬る――それを狙ったメルトリリスだったが、しかしここで

このように、途切れている文が複数見られたので、wiki収録後にでも修正されると良いかと思います。


663 : ◆USARVARnn2 :2019/05/24(金) 00:57:09 iBN.dOFUO
エドモン、冨岡、かぐや、幻之介、予約


664 : 名無しさん :2019/05/24(金) 01:52:39 ???0
投下お疲れさまです
鑢七花、とがめ、鑢七実 予約します


665 : 名無しさん :2019/05/24(金) 10:03:47 QEMPlP7k0
>>664
トリップ付け忘れ?


666 : 名無しさん :2019/05/24(金) 22:47:56 ???0
失礼いたしました。>>664です。
キャップの都合上トリップが打てなかったようです。
近日中にトリップ付け直しますので、もしお許しいただけるのならしばらくお待ち頂けたら幸いです。


667 : ◆TyYO48RGw2 :2019/05/25(土) 00:20:00 ???0
失礼いたしました。
改めまして、鑢七花、とがめ、鑢七実 予約します。


668 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/25(土) 15:00:00 aorfMAQk0
浅倉威、円城周兎、フローレンス・ナイチンゲール、予約します


669 : 名無しさん :2019/05/26(日) 07:37:45 tNi7a5.s0
今日でスレ立てから一ヶ月、既に50話超えてるのはすごいwww
この勢いがどこまで続くのか楽しみ!


670 : 名無しさん :2019/05/26(日) 08:26:20 pJkoo6oE0
草生やさなくていいから(正論)


671 : ◆dxxIOVQOvU :2019/05/26(日) 20:33:10 94HJErG.0
草は焼却しましょうねぇ〜〜〜


672 : 名無しさん :2019/05/26(日) 20:58:04 NiE4osn60
感染しないようにアマゾン細胞も焼いて消毒しなきゃ


673 : 名無しさん :2019/05/26(日) 23:57:51 wQ4wbBSU0
焼いただけで済むんですかね・・・(疑念)


674 : ◆TyYO48RGw2 :2019/05/27(月) 03:50:49 ???0
投下します


675 : ◆TyYO48RGw2 :2019/05/27(月) 03:51:21 ???0



  ■   ■



「七花。どいてなさい。わたしはそこの草を毟りたいだけなのよ」

 本人たちの知るよしもないことだが、いわゆるお約束である。
 現代でいうところの天丼芸というやつだ。
 むろんのこと、本人たちに漫才をする意思は毛頭なく、結果として同じ言葉を吐くことになった――ただそれだけの話であり、やはりこれは漫才ではなく、真剣勝負。
 比喩でなく、刀と刀との鍔迫り合い。剣呑な雰囲気が三人――あるいは二人の間を取り巻いていた。

「姉ちゃん、邪魔するなよ。おれはとがめを病院とやらに送らなきゃいけないんだ」

 一人は、走った影響か、ぼさぼさ頭をさらに乱した長身の男、虚刀流七代目当主・鑢七花である。
 鍛え上げられた肉体に偽りはなく、小柄とはいえ人を背負い走っていたにも関わらず息を切らした様子もない。
 かの剣聖、前日本最強であるところの錆白兵を打ち破った――すなわち現日本最強の男だと思えば、むべなるかな。
 ただし、そんな七花をして額に汗がたらりと落ちた。
 疲労による汗ではなく、恐るべきものを前にして流れる冷や汗。これほどまでに背筋が凍ることもなかったな、と七花は顧みる。

「病院? ――ああ、あの。いいですか、七花。このような果し合いの舞台に医者がいるわけないでしょう」

 七花と対するは、女であった。
 簡素な着物に身を包んだ女からはどこか儚げな印象を受ける。
 いかにも死にそうな――むしろ死んでいるのに動いているような――死体のような雰囲気さえ漂っていた。
 七花が咄嗟に身構えた一方で、女は構えるどころか両手をぶら下げたまま、一歩、また一歩と七花へと無遠慮に近づいていく。
 七花は知っている。構えないのではない。女にとって構えなど不要であることを。
 女にいわく、虚刀流、零の型『無花果』。
 そして女とは当然、鑢家家長・鑢七実のことであった。

「それでもとがめを放っておくことなんて出来るかよ」

 この場に居合わせるは残り一人。
 白く染められた総髪の女――尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督こと、奇策士とがめだ。
 七花の背に身体を預けたまま、依然として気を失っている。
 回復を待つように、解放を待つように。さながら蛹のように、眠っていた。
 七実の視線がとがめへと走る。
 じっくりと、見る――視る――観る――看る――診る。
 たっぷりと、聞く――聴く――訊く――効く――利く。
 目を使い、耳を扱い、とがめの『容態』を窺う。
 果てに、七実から漏れ出たのは浅い溜息だ。物思いの似合う女である。

「ふう。七花。もう一度だけ言ってあげる。それをわたしに毟らせなさい。――不愉快だわ」

 七実が直情的に不快感を露わにするのに珍しさを覚えながらも、七花は首を横に振る。
 七花がとがめに立てた誓いが一つ、『とがめを守る』。開幕にして早々破られてしまった約束を、これ以上違えるわけにもいかない。
 なにより、姉ちゃんがとがめだけを狙う理由が、一切掴めなかった。七花にとって衝撃は殊の外大きい。

「なあ、姉ちゃんはおれより頭いいんだし、覚えてるだろ? 睦月のころおれたちの島に来たとがめだよ」
「たわごとも休み休みにしなさい。当然、とがめさんのことは覚えていますし、あなたが惚れたのなんのと島を出ていったのも覚えています」

 二人の距離がある程度狭まった頃、七実はぴたりと歩みを止める。
 とがめが命じるならば姉であろうと、たとえ大きく実力が劣っていようとも斬りかかる気概は持ち合わせているつもりだ。
 されど、取り立てて斬りつける理由もない以上――殺し合いという場においても、七花の成すべき行動が変わるわけもなく――浅くも、しかし肩を上下させるように呼吸をする七実の看病もしてあげたい気持ちもある。
 行動に移せないのは、ひとえに七実の剣幕に原因があった。さしもの七花であってもただならぬ剣幕であることは理解できる。
 
「この場が殺し合いだからか? だったらまずおれと勝負するのが筋だろう。言っちゃ悪いがとがめは姉ちゃんと比べ物にならないぐらい弱いぜ」
「のん気なことね。……ですが、ええ、当然事が済めば七花、あなたとも殺し合うつもりよ。
「なら……!」
「にしたって何事にも順番というものがあるでしょう」
「それが……とがめを殺すということなのか?」


676 : ◆TyYO48RGw2 :2019/05/27(月) 03:52:07 ???0

 大きくつばを飲み込んで、七実に問い掛ける。
 七花の拙い記憶力が確かならば、とがめと七実との仲は良好とまでは言えなくとも、積極的に殺し合うような中ではなかったはずだ。
 姉ちゃんは一体何がしたいんだ、七花なりに頭を働かせるも、答えらしい答えは見つからなかった。
 問われて、僅かがあった後、七実は諭すようにして七花に語る。

「……。ああ、もしかして七花。後生大事そうに背負っているそれが何か、勘違いしているのね。でしたら良いことを――いえ、悪いことなのかしら。まあどちらでも構わないのだけれど……教えてあげる。それはもう、ただの草よ」

 ふふ、と可笑しそうに――犯しそうに七実は笑い飛ばす。
 ようやくあの子のやりたいことが把握できた、さもそう言いたげな表情だ。
 対する七花の動きは、ぴたりと止まる。姉ちゃんは今、触れてはいけないものに触れた――鋭くねめつける瞳に決意が宿る。

「今、とがめを草って言ったな。姉ちゃん」
「雑草に雑草と言ったまでです」
「同じことだ! 姉ちゃんは今、とがめを雑草だと吐き捨ててるんだ!」

 語気を荒げ、七花は吼えたてた。七実が動じるそぶりはまったく見受けられなかったが、叫ばずにはいられない。
 近くの木陰にとがめの姿を置いて、七花は今一度――構える。
 足を平行に前後へと配置し、膝を落とし、腰を曲げ、上半身を軽く前傾させる――両手は貫手の形で、肘を直角の角度に、これもまた平行に前後に配置する。
 体重は前方にかけられているようで、若干、前のめりの体勢だ。
 虚刀流七の構え『杜若』。一の構え『鈴蘭』や二の構え『水仙』と対を成す動の構え。変幻自在の足運びを可能とする、攻めの構えである。
 激昂とは裏腹に、構えに淀みはなく、定められた型に収まる。長年七花が築き上げてきた鍛錬の賜物と表現しても過言ではない。

「聞き分けのない子ね。いいわ。やる気であるというのなら、殺す気でかかってきなさい。――もっとも今の七花にはそこまで期待はできそうにないけれど」

 確かに、確かに鑢七実は虚弱である。
 唯一にして最大の弱点と言ってもいいだろう――健康とは程遠い、病魔に蝕まれた身体だ。
 儚い存在――人の見る夢のように脆く、人が夢見ると思えないほどに脆い。
 しかるに連続した戦闘は叶わない。
 七実はここまで何度か戦闘――あれらを戦闘というのならばだが――を繰り広げている。
 七花が心配するほどに弱っていたのは間違いなく事実であり、ほかならぬ七実自身、理解していた。
 そのうえで。
 そのうえで、七花に勝つのは容易いと、宣戦布告している。
 見稽古。
 見る。
 見切り。
 見抜き。
 見定め。
 見通し。
 見極め。
 見取る。
 七花が描く刀身を観察するように――診察する。
 はっきりと、くっきりと、きっかりと、きっちりと、くまなく視線を照射して。
 診断結果を、七花に告げた。

「七花――あなた、ずいぶんと弱くなったのね」
「なめるのも大概にしろっ!!」

 先制を仕掛けたのは七花から。
 牽制を交えた足運びで七実に肉薄する。
 構えのない構え『無花果』を前にして――そもそも七実の眼を前にして牽制にどれほど意味があるのか。
 しかし、身体は自然と動く。型に嵌った動き、かつて父に習った基礎に基づく足捌きに抜かりはなく。
 剣聖の称号を欲しいままにした錆白兵を打破しただけの慢心ならぬ自負が、七花にあった。
 地を一段と強く蹴り上げ、一気に距離を零へと詰める。

「虚刀流奥義『七花八裂』!」

 七花の拳が、七実の身体を打ち上げんと押し寄せる。
 迅雷がごとく素早さを極めた一撃は避けるに難し――受けるに難し。
 この四か月、遊んでいたわけではない。
 何も知らない七実に弱くなったなどと突きつけられる筋合いなど、一切なかった。 
 事実、七花が織りなす手刀は今の実力を知らしめるには十分なほどの斬れ味を誇っている。
 ただしここまで語ったことは七花の視点から――という話に過ぎない。
 再度溜息を落とす七実は、平静な口調を保ったまま邀撃する。

「とがめさんの居ない今の七花に見せても無駄よね。なら適当にあしらってあげる」

 七花の足蹴を無下にいなし、引き寄せる。
 体勢を崩した七花の胸元に吸い込まれるように貫手を放ち。

「虚刀流――『蒲公英』」

 勝負はあっけなく終わってしまった。


677 : ◆TyYO48RGw2 :2019/05/27(月) 03:52:30 ???0



  ■   ■


 お約束――。
 予想された結末、約束された顛末はこの世にある。
 であれば、この決着も必然であろう。

「これであなたは一回死んでるわ」

 鑢七花がとがめと過ごした四か月が無駄でないというのであれば――。
 当然、『本来』七実と決するはずであった文月までの残り三か月が無駄であるわけがない。
 実力としては、白兵に勝る強者こそいなかったものの、確かな経験値を、あの三か月の間で積んでいる――積むはずだった。

「…………」
「忍法足軽応用編――これをあなたにもう一度見せなければならないわたしの気苦労も知ってほしいものね」

 ふわりと。
 七実は七花の胸元から拳を離す。
 一蹴――これがここまで似合う場面も早々ないほどにあしらわれた七花は言葉を失う。
 姉ちゃんが本気で打ち込んでいたら、間違いなく死んでいた。
 七花とて剣士だからおのずと理解させられる。死を覚悟する一撃だった。――情けをかけられた。そして、

「見ればわかるけれど、つくづく弱く……なったわね、七花。ええ、今のあなたには殺されてあげられないわ」

 情けをかけられるのが、当然と思えるほどに、実力差があった。
 戦慄のあまり背筋が凍る。睨まれていた時とは比べほどにならないほど、冷え冷えと。
 腰が抜ける。ぺたりと尻をついたとき、まざまざと実感させられる。剣士としてものの見事に敗北し、刀として完膚なきまでに叩き折られたことを。
 七実は七花から離れ、近くに転がっていたとがめの首根っこを掴みあげる。

「姉ちゃん! やめろ!」
「やめないわよ。負けて折れたあなたが口を出すんじゃありません」

 折れた――そうはいってもとがめに惚れた気持ちを忘れたわけではない。
 無意識のうちに立ち上がり、腰が抜けた状態におかされてなお、とがめに駆けつけんと歩を進める。
 むろんのこと『杜若』と比べるまでもなくよろけた足取りを七実が見切れぬ道理はなく――近寄ってきた七花の顔を力づくで握り差し止めた。

「凍空一族の怪力……といっても七花には分からないかもしれないわね。まあ安心なさい。気が変わりました」
「…………?」
「この雑草……とがめさんでしたか。これはひとまずわたしが預かります」

 みしりと音が鳴るほど、とがめの首を力強く握り込む。
 手放すものか、七花に見せつけるように。
 『耳』を澄ますこともなく七花の心を容易に逆撫でする様は、惚れ惚れするほどに姉然としていた。

「何をふざけたことを!」
「ですから――ですから七花、強くなりなさい。どうやらこの場には、あなたの鍛錬に相応しそうな方がいると思うわ」

 不愉快な雑草はさておくとしても、先に行き会った棍棒を持った男。
 いずれにせよ『それなり』の域を抜けないだろうが、あれは本来、もっと戦える人間だったはずだ。
 うらやましいほどに、努力に努力を重ねて、鍛錬に鍛錬を積んで、高みに至ったはずだ。
 得物の影響か、他の要因か、知る術もないし――どうでもいいのだけれど、きっとこの場にはああいった手合いがごろごろ転がっている。
 であれば話は簡単だ。
 刀集めなんて迂遠な方法じゃなくとも七花を育て上げることは――できる。

「そして、わたしから力ずくでこれを取り返してみせなさい」

 どの道、今のこの雑草、否、――とがめさんだったか――に七花を預けることは心もとない。
 七実にしてみれば、一石二鳥の方案であった。 

「七花、気を抜いていると死んでしまうわよ。とがめさんはもちろん、あなたも」

 不安があるとするならば、七花が何某かに殺されてしまうことだろうけれど。
 まあ。
 そのときは――そのときだ。
 そんなことにはならないだろうけど。
 自然と過信してしまうあたり、弟を溺愛しているには違いないのだろう。

「それじゃあね、七花。うまくやりなさい。――そして、わたしをきっと、殺してみせてね」

 今度こそ。
 安らぎを。
 雑草を見て、不愉快な気持ちを抱くこともないように。
 願いを込めて、七実は七花を力に任せてぶん投げる。
 気絶でもしたのか、壁にぶつかった七花が起きる様子はなく、七実もそそくさと立ち去るのであった。
 当然、白き髪の雑草を引きずりまわすようにして。


【C-7/1日目・黎明】
【鑢七花@刀語】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済)
[思考・状況]
基本方針:不明
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前


678 : ◆TyYO48RGw2 :2019/05/27(月) 03:53:10 ???0



  ■   ■

 

「それにしても、七花ったら。別に医者に診てもらうほどの傷なんてないじゃない」

 見る――聞く――。
 とがめの傷は、七花の言葉に反して然したるものではなかった。
 しかし、七花の嘘ぐらいは容易く見抜ける。七花の慌てっぷりは本心そのものであったし、きっとそれなりのことがあったのだろう。
 とがめは障子紙より破れやすい女だ。
 傷を負うぐらいするのだろうけれど――。

「いえ……だとすると、『治った』と見るべきかしら」

 見る――聞く――。
 とがめの傷から胎動する呼吸を。
 傷口が治る。いろいろな意味で、見覚えのある現象だった。
 細胞が、じゃれつくように犇めいている。

「――本当に雑草みたいに生えてくるものなの」

 見る――聞く――。
 とがめの傷を、深淵を、覗きこむようにして。
 蠢いている。
 聴覚そのものは、確かに睦月――あるいは文月のころは今ほどのものではなかった。
 それでも、確かな異変は見て取れる。
 ああ。
 まったくもって。

「……ふう」

 不愉快だ。
 一億の病魔を身体に埋め込まれた女は、溜息を交えながらつぶやく。
 鑢七実、溜息の似合う女である。



【C-7/1日目・黎明】

【鑢七実@刀語】
[状態]:疲労(大)、割と不機嫌、返り血
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品2〜8(確認済み、衣類系は無し)
[思考・状況]
基本方針:適当にぶらつく。細かいところをどうするかはその時々で判断。
1:七花が開花したならば殺されたい
2:アマゾンに不快感。さっきの少年(千翼)は殺す
3:とがめは起きてから処遇を考える
[備考]
※参戦時期は死亡後ですが、体の状態は悪刀・鐚を使用する前の病弱状態です。
※自分が生きているのはアマゾン細胞によるものではないかという可能性を考えています。
 また、その想像に対して強い不快感を感じています。
※見稽古によって善逸の耳の良さ・呼吸法を会得しています

【とがめ@刀語】
[状態]:気絶。重傷→回復中。溶原性細胞感染。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3 (確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんとしてでも生き残る
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前
※クラゲアマゾンの触手が折れた際にまき散らされた体液が傷口に付着したことで溶原性細胞に感染しました。覚醒まで時間がかかると思います。


679 : ◆TyYO48RGw2 :2019/05/27(月) 03:53:33 ???0
投下終了です。
指摘感想があればよろしくお願いいたします。

タイトルは「姉弟」で。


680 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/05/27(月) 07:31:02 wug.9Bqk0
投下乙です
やはりお姉ちゃんは強かった…。アマゾンのあれこれに巻き込まれた七花が可哀想

鑢七実、とがめ予約します


681 : 名無しさん :2019/05/27(月) 12:32:52 2svvpecE0
刀勢、姉とアマゾンを軸に話がまとまっててきれいなリレーを感じる


682 : ◆FTrPA9Zlak :2019/05/27(月) 20:38:32 wug.9Bqk0
すみません、トリップを間違えていました。こっちのトリップで鑢七実、とがめを予約させてください

それともう一つ
自作「悲しみは仮面の下に」において、千翼の状態表の不明支給品を消すのを忘れていたためwikiにて修正しておきました
ただ、話の内容には影響ないとはいえリレー済みであるためもし◆0zvBiGoI0k氏がいらっしゃれば「PHANTOM PAIN」においてそこを修正しておいていただければと思います


683 : ◆7ediZa7/Ag :2019/05/27(月) 23:21:55 Xqvag0vA0
波裸羅様、予約します


684 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:46:11 jTcLNtV.0
皆様投下お疲れ様です。
こちらも宮本武蔵(女)とスモーキー、透過します。


685 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:48:16 jTcLNtV.0
 一組の男女が対峙する。
 薄汚れ、ボロボロな服と不健康そうな痩身の色褪せた男。
 きらびやかな服装と艶めかしい肉体美を惜し気もなく晒す彩色鮮やかな女。
 自衛隊基地のゲート入り口を挟む様にして向かい合う対極な二人。

「こんばんわ、お互い災難ね」
「……そうだな」

 女が人好きのする笑顔で挨拶をする。
 男は陰気さと儚さを漂わせる仏頂面を変えることなく、ぶっきらぼうに返す。

「ちょっと貴方の後ろにある建物に用があるんだけれども、中に入って探し物とかしたかしら? ほら、あなたが物色済みだった所に入ったら私の骨折り損じゃない?」
「勝手に探せ、俺は中の物なんて興味はない。……入り口なら空いていたから好きにしろ」

 遠目に見える営舎を指差す女に釣られるように男が微かに振り返る。
 が、すぐに顔の向きを戻してつっけんどんに返答した。
 お互いに一歩たりとも前に進もうとしない。やり取りに不穏さはないというのに奇妙な緊張が漂っていた。

「ご親切にどうも、それじゃあ私も1つばかり親切のお返しを」
「……」

 その発言を皮切りに場の空気が緊張から剣呑なものへと推移していく。
 笑顔を浮かべたまま、女の手が腰に差していた刀へと伸びた。
 仏頂面を浮かべたまま、男の手がデイパックを無造作に後方へ放り投げながら懐から茶色のカードを取り出した。
 示し合わせたように、理解し合っていたかのように、互いが互いに武器を構える。
 ゲート入り口に備え付けられた受付所のガラスが二人の姿を映し出す。
 女・宮本武蔵の青く透き通った瞳と男・スモーキーの黒々とした瞳が交差する。
 スモーキーの周囲から耳障りな高音が響く一方で、武蔵が手に持った刀の鯉口をチャキリと鳴らした。

「そんなに殺気が明け透けじゃあ、気付く人にはすぐ気付かれるわよ?」
「そうか。――変身!」

 刀を抜き放ち一跳びに駆ける武蔵を、無数の鏡像が折り重なる様にして仮面ライダーインペラーへと変身を遂げたスモーキーが迎え撃つ。
 先手を打ったは武蔵、受けるはスモーキー。
 インペラーの変身動作に要した時間。ほんの数秒程度であるが、武蔵であれば一息に距離を詰めるに足るだけの時間。それがスモーキーにとっては致命的なタイムラグとなった。
 低く屈む様な疾走のフォームのまま剣撃の間合いに入り込み、右斜め下に構えた刀を横一文字に振り払う。
 直後、響くのは耳障りな金属音。武蔵の視界に膝を折り曲げた状態で右腿を振り上げ、アンクレットで刀の一撃をいなしたインペラーの姿が映る。

(手応えが硬い! 脛当で弾かれた!)

 武蔵の瞬撃が神業であれば後手に回ったとはいえスモーキーが咄嗟にその攻撃に反応し、脚部の装甲の中でも頑強なガゼルバイザーによって斬撃を受け流したこともまた神業であると言えるだろう。
 勢いを乗せた攻撃を凌がれ踏み込んだ体勢で隙を晒す武蔵であったが、武蔵の斬撃を完全に受け止めきれず衝撃を受け流す様に左回転をしながら後方に跳躍して体勢を建て直したスモーキーにも、攻撃に転じるだけの余裕は無かった。
 両腕をだらりと垂らしたスモーキーと日輪刀を正眼に構えた武蔵が再び対峙する。

「穏やかじゃないわね。君、女子供も容赦なく殺せる手合い?」
「女子供を残して勝ち残ったとして、俺を含めた全員が帰れると思うか?」
「無理でしょうね」
「そういうことだ」

 互いにじりじりと動きながら距離を測っていく。
 動の攻防から一転、静の攻防へと二人がシフトした形だ。
 隙1つ見せない武蔵の立ち振舞いをマスクのバイザー越しから覗くスモーキーの表情に微かに渋いものが混ざる。
 先程のコブラとの戦闘で認識していたことではあるが、インペラーに変身しているだけで体力を消耗しているのだ。それはいつ病という爆弾が爆発してもおかしくない彼にとって著しいデメリットと言えるだろう。
 速やかに決着をつけたいところではあったが、迂闊に攻め込めば刀による迎撃が目に見えている。
 無名街の番人として始末してきた外敵の中には当然武器を持った者も存在していた。だが、そんなチンピラ達と目の前の女性では格が違うのは体感したばかりである。先の一撃は運良く対応することが出来たが、それが何度も通用する相手で無いことは理解していた。
 また、攻撃を凌いだとはいえ全くの無傷という訳でもない。
 斬撃をいなした右膝は微かに痺れる様な痛みを伝えている。斬られることこそ防いだとはいえ高速で打ち払われた金属片を叩きつけられているのだ。軽減出来たとはいえ相応のダメージは受けている。
 腕や足の装甲で斬撃を防げたとしても何度も受け続けてしまえば装甲に守られた生身の方が使い物にならなくなってしまうことは明白だろう。


686 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:49:24 jTcLNtV.0

 攻めるに難しといった状況ではあるが打開策はある。インペラーの所持する三枚のカードの内、従僕の怪物を召喚するアドベントだ。質で優れる相手ならば量をもって押し潰せばいい。
 だが、問題はこの一息に詰められる距離でカードをガゼルバイザーに差し込めるかである。相手は変身完了の僅かな時間で斬撃を決められる武蔵なのだ。
 バイザーを開ける・カードを取り出す・カードを差し込む・怪物が召喚される。この四工程の最中にスモーキーの首が宙を舞う可能性は十分にありえるだろう。

 だが、それを理解している上でスモーキーは屈むように足を折り曲げ、ガゼルバイザーを開封した。

「むざむざ見過ごすと思ってるのかしら!」

 再び武蔵が姿勢を低くしながら距離を詰める。次はガゼルバイザーで受け流されぬ様に、右斜め下から斬り上げる腹積もりだ。
 先の攻防で自身の力量を理解したと思っていたスモーキーの取った行動に疑念はあったが、だからといって相手の一手を見逃す愚を犯すわけにもいかない。
 猫科の肉食獣を連想させるしなやかなバネをもって肉薄する武蔵。

「思ってないさ」

 日輪刀を振り上げる直前に、マスク越しのくぐもった呟きを武蔵の耳が聞き取った。
 視線を合わせ、日輪刀を振り払う。極度の集中状態に入った武蔵の視界に徐々に入り込んでくる銀色の閃きは狙い過たず褐色の甲冑の主を逆袈裟に斬り上げる軌道を描いている。
 瞬間、その甲冑が宙に浮いた。先程までインペラーのいた空間には既に何物も存在しない。無人の空間を必殺の刃が虚しく通り抜けていく。

「でも、こうすればお前は必ず斬りかかってくれると思っていた」

 上方から響く声。反射的に顔を上げればそこに映ったのは武蔵を見下ろす様に宙を舞うインペラーの姿。バイザー越しの視線と彼女の視線がぶつかる。
 カードを挿入する動作で武蔵の攻撃を誘い、インペラーの超人的な脚力を持って武蔵の斬撃に合わせる様に跳躍したのだ。
 武蔵が斬り上げの動作から体勢を戻し振り返る頃には跳躍したスモーキーは一回転をしながら入場ゲートの先、最初に武蔵が立っていた
であろう位置付近に着地する直前であった。
 着地の間際に折り曲げた右膝のガゼルバイザーに一枚のカードが滑り込み、着地と同時にバイザーが閉まる。

――ADVENT――

 電子音声が響くと同時に変化はすぐに訪れた。
 ゆっくりと立ち上がり武蔵へと振り向くスモーキーに呼応する様に、彼の背後から紫の体色をした二本の角の異形、レイヨウ型ミラーモンスターであるギガゼールが姿を現し、甲高い嘶き声を上げながらスモーキーの傍らに立つ。
 だが、それだけでは終わらない。ギガゼールに率いられる様に姿を見せる無数の影。同一種のギガゼールや色違い個体のメガゼール、水牛の様な角をしたオメガゼールにネガゼール、羊の様な角をしたマガゼール、リング状の角をしたベガゼールや山羊の様な角をしたイガゼール。
 多種多様なレイヨウ型ミラーモンスターが、ある者はスモーキーとギガゼールの横を通りすぎ、またある者はゲートや受付所といった建築物を驚異的な跳躍で飛び越しながら武蔵とスモーキーを遮る様に展開していく。

「ちょ、ちょっと! 流石にそれって容赦無さすぎじゃない!?」
「やれ」

 思わず飛び出した武蔵の非難など気にも留めず、無スモーキーがギガゼール、そしてギガゼールが率いるミラーモンスター達に無慈悲な指示を飛ばす。
 数体のゼール種が武蔵を飛び越す形で跳躍し周囲を包囲する形で彼女の逃走経路を塞ぎ、続いて正面より残ったゼール種が腕部のガゼルカッターを展開しながら武蔵を両断すべく殺到していく。


687 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:50:51 jTcLNtV.0

(鹿人間? 羊人間? 牛人間? どこかの世界の雪国で異国の鹿人間なら斬った記憶はあるけど全然モノが違うわね!)

 先陣をきって猛進してくるメガゼールの横薙ぎを紙一重で躱しながら、通り抜けざまを狙って胴部に日輪刀を滑らせる。
 悲鳴じみた泣き声を上げながら横向きに一回転しながら転倒するメガゼール。だが、武蔵の手に伝わった手応えは浅い。

(皮が硬い!? 仕留めそこなった!)

 小さく舌打ちをしながら続いて飛びかかってきたマガゼール、オメガゼール、ネガゼールの波状攻撃を刀でいなしていく。
 その間に倒れていたメガゼールがむくりと起き上がった。武蔵の見立て通り怪人の表皮に完全には刃が通らず殺害にまでは至らなかったのだろう。
 ステップを多用しながら攻撃をいなし、どうにか包囲を抜けられないか試みる武蔵ではあったが、連携に優れたゼール達はその都度に陣形を巧妙に変え包囲を崩さずに彼女を追い込んでいく。
 一太刀では仕留めきれぬ装甲に加えて多勢に無勢、そして退路を断たれたこの状況。
 それをゼール種の輪の外から眺めるスモーキーは自身の勝利を確信した。
 このまま持久戦に持ち込めば武蔵は確実に仕留められる。だが、そうすれば変身による消耗で持病が発生する可能性も高まってしまうだろう。
 ならば、ここで勝負を決めてしまう必要がある。

「げっ、しまった……!」

 不幸にも建物の壁を背にする位置に逃げ込んでしまった武蔵。背にした壁はかなりの高さがあり、飛び越えて逃げることも不可能だろう。カバーする方向が少なくなったことでゼール達の包囲の層が厚くなる。
 ここが絶好の機会と判断したスモーキーがギガゼールに勝負を決める様に指示を出す。その指示を電気信号で仲間に通達したギガゼールによりイガゼールとべガゼールが仕掛けた。
 地を駆けるべガゼールと跳躍するイガゼールの同時攻撃、二匹四本の死の刃が武蔵へと迫りくる。

 だが、その刃が哀れな犠牲者の命を刈り取ることは叶わなかった。
 黒色の閃きが走り抜ける。べガゼールの体を音もなく通り抜けた刃が翻ると同時にずるりとべガゼールの腰から上が滑り落ちて地に落ち爆発する。
 交差するようにべガゼールを斬り抜け爆発の範囲からは辛うじて外れていた武蔵は、重力にしたがって背後に着地するイガゼールと向き直り、振り向く暇さえ与えずに頭から唐竹割の要領で刃を振り下ろす。左右に分かれたイガゼールだったものが、ドサリと音を立てて地に倒れ間を置いて爆発した。
 爆炎がその身を焼く前に退がっていた武蔵が爆発をバックにスモーキーへと向き直る。
 爆風に煽られた前髪がふぁさ、と揺れた。


688 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:51:24 jTcLNtV.0

「侮っていた訳ではないですけれど、普通にやっても斬れないと分かったので斬れるところを斬らせて貰ったわ。それより爆発するって何なのよ! 危ないじゃない!」

 得意げな笑顔を浮かべたかと思えば烈火の如く怒り出す武蔵。
 想定外の事態にスモーキーはマスクの裏で驚きながらもギガゼールに指示を出し、今度はマガゼール・ネガゼール・オメガゼールの三体を同時に向かわせる。
 嘶き飛び交う三つの影と迎え撃つ一つの影。武蔵の青く澄んだ瞳がキュウッと絞まり、刃が三度閃いた。
 刃を交差させることすら叶わずに一太刀で切り伏せられたゼール達が爆発するが、既に爆発の範囲を見切り飛び退った武蔵に影響はない。
 天眼。無数にある未来の中から“対象を斬る”という結果にたいして最適解の斬撃を繰り出すことの出来る、彼女の保有する特殊な魔眼。それを用いて頑健な表皮を持つゼール種を切り伏せるに最適な斬撃を繰り出したのだ。

「さあ、かかってくるなら来なさいな。生憎と多勢に無勢の戦いは吉岡殿のところで経験済みです。そうそう後れを取るなんて思わないことね」

 そう言って壁を背に不敵に笑う武蔵。
 聳える壁は武蔵の移動を封じているが、それと同時にゼール達の攻撃経路も封鎖している。これでは仕掛けるルートが減少し、その分だけ武蔵への各方面からの攻撃に対する警戒で発生する負担も減少することになるだろう。追い込んだ筈が、全周囲を包囲していた先ほどまでと異なりスモーキーの優位が下がった形だ。

「わざとここに逃げたな、追い詰められたフリまでしやがって」
「あら、バレちゃった?」

 不愉快げなスモーキーの問いかけに対し、武蔵が悪戯っぽく笑う。
 ここに来てスモーキーは彼女が追い込まれてこの位置まで来たのではなく、追い込まれたフリをしてこの位置まで移動してきたのだという事に気がついたのだ。
 元より迎撃をするつもりで立ち回っていたというのであれば退路の一つが封じられたというデメリットは敵の攻撃経路を一つ封じたというメリットに反転する。
 無論、この状況、この戦力差において全て迎撃出来るという常人から見れば無理難題としか言えない前提の理屈があってこその策ではあるが、武蔵はその無理難題を己の技量をもってすれば実行可能であると判断してここまで手を進めてきたのだ。

 スモーキーが指示を飛ばしゼールの群れを殺到させる。
 単身で攻め入ることは論外として、ゼール種に混じって攻撃を仕掛けようにも切り伏せられたゼール種の爆発のせいで行動が制限されては自身も武蔵の餌食になる可能性が上がってしまう以上、指示を飛ばすことに徹して物量によって強引に武蔵を攻め落とす。それ以外に打てる筋は存在しない。
 スモーキーの視界に武蔵に切り捨てられては次々と爆散していく己の配下の姿が映し出されていく。
 夜の闇の下で煌々とした光に照らされて舞うように戦う武蔵の姿は見る物が見れば美しさを感じるだろうがスモーキーにはそんな余裕はない。

 目減りしていく戦力を前にどうにかして打開策を浮かべようと思考を巡らすスモーキー。
 その体を不意に激痛が襲った。

「……ッ! ゴフッ!」

 肺を締め付ける様な感覚に反射的にプロテクターの胸部へ手をあて、込み上げる嘔吐感から堪えきれずに咳き込む。マスクに付着した吐瀉物から酸化した鉄を思わせる匂いが鼻孔を刺激する。
 嗅ぎなれた匂い。血の匂い。
 自身のタイムリミットを宣告する忌まわしき匂い。


689 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:51:49 jTcLNtV.0

(こんな、時にか)

 肩で息をしながら武蔵へと視線を向ける。迫り来るゼール種の群れを斬ることに集中している彼女がスモーキーの身を蝕む不調に気付いた様子はない。
 悠長に相手の体力切れを狙う手はこの時点でもう不可能となってしまた。どう贔屓目に見てもこの状況で先に音をあげるのは自身の体であることは明白だ。
 ここでスモーキーに逃走という選択肢が脳裏を過る。今召喚しているゼール種を捨て駒にし、インペラーの脚力を駆使すれば撤退は容易だろう。
 だが、その一方でここで武蔵を生かしておくことの危険性も理解してた。彼女が他の参加者に自分が殺し合いに乗ったことを告げられれば警戒されることは必至である。そのうえもしも村山や雨宮兄弟の耳にまで話が入ればどうなるか。彼らは自分の病気についても知っている。
 身体的なハンデがある以上、勝ち抜くための手札はそれほど多くない。不利な状況とはいえもう1つの切り札を考えれば武蔵を倒す機がない訳ではないのだ。その葛藤がスモーキーの判断を鈍らせる。

 そんな時、甲高い済んだ音が響いた。

「あーっ!?」

 すっとんきょうな武蔵の声と共に1/3程折れた日輪刀の先端が宙を舞う。なにやらどす黒い怨念の様なものが立ち上ったかもしれないが、それはすぐに霧散して消えた。
 ガゼルバイザーへの一撃とメガゼールへの一太刀目で更に寿命を縮めていた日輪刀が度重なる斬撃の衝撃に耐えきれずとうとう折れてしまったのだ。
 これを好機と見たかゼールの群れが飛びかかるも、武蔵は器用にも折れた刀を使って全て切り捨てて見せた。しかし、刀が破損する前に比べれば動きに余裕は無くなったのは端から見ているスモーキーの目にも明らかだ。

 機が、向こうからやってきた。
 武蔵の刀の事情など知る由もないが望外の幸運が転がり込んできたスモーキーがギガゼールに指示を出し最低限のゼールを武蔵の包囲に向かわせて自らの元へと呼び寄せる。
 武蔵が敵の動きに変化が出た事に気付き、攻撃をいなしながらスモーキーへと視線を向ける。だが、今の武蔵に包囲を突破するだけの余裕は見られない。
 右足を折り曲げガゼルバイザーを開きながら一枚のカードを取り出す。どういったカードなのかは漠然とながら理解はしていた。
 視線を正面の武蔵へと向ける。


690 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:52:51 jTcLNtV.0

「お前は強い」

 称賛の言葉は本心だ。
 SWORDの一角、RUDE BOYSのリーダーとして腕にものを言わせていた自分が、この不可思議なプロテクターを装着しなければ勝負にすらならなかったであろう相手である。
 味方であったならば心強かったであろう。
 敵であったからここまで追い込まれたのだろう。
 あまりにも強力で絶対的な実力差。
 いつだってスモーキーの行く手を阻んできた理不尽という名の高く厚く聳える壁が、今回は人間の女性の姿を借りて顕現した様にも思える程だった。

「だけど、俺はお前よりも高く飛ぶ」

 それでも、だからといってその壁を飛び越えることを諦めていい道理など存在しない。
 いつだってスモーキーは理不尽の壁を飛び越えてきた。
 時には飛び越えきれずにぶち当たり、傷つき地面を転げ回ることもあった。だが、それでも飛び越えようとする事を諦めることだけはしなかった。
 だから、今回だって飛び越えて見せる。そんな決意を胸の裡に燃やしながら、スモーキーは最後の切り札をガゼルバイザーに滑り込ませる。

 ――FINAL VENT――

 電子音声が鳴り響くと共にその場にいる全てのゼール種が武蔵目がけて飛びかかる。形容するのであればゼール種の奔流といった所だろうか。
 両腕のブレードを展開させながら疾駆するゼールの群れが武蔵を飲み込む。武蔵を直接狙うというよりも、その動きは武蔵の行動を制限することに主眼が置かれていた。
 それも当然だろう、この攻撃の本質は無数のゼール種の攪乱によって動きを止めた相手に向けてインペラーの必殺の一撃を当てるためのものだからだ。
 スモーキーが駆ける。足に込めたエネルギーを迸らせながら向かうは宮本武蔵ただ一人。
 足止めを担当したゼール達の活躍により無事にゼールの波に武蔵を巻き込む事が出来た。もはやこの攻撃から逃げることなど能わない。

 紙一重で顔を逸らした武蔵の前髪が僅かにブレードで裂かれて宙を舞う。
 武蔵はただ黙して迫りくる獣の群れを睨み据える。
 
 避け損ねた武蔵の頬に一筋の赤い線が刻まれる。
 武蔵は動じず、ただ刀を構え正面を見据え続ける。

 左肩の皮を薄く切られ鮮血が舞う。
 武蔵は顔を僅かに顰めるがそれでもまだ視線を正面から離さない。
 
 避けきれず受けた刀が破片を散らす。
 武蔵の視線が僅かに刀に向かう。残ったのは元の長さの1/2だろうか、もはや武器として使い続けることは不可能なほどに破壊された。

 これで決める。そう決意しスモーキーが両足に力を込める。
 不意に、武蔵が動いた。

 眼前で跳躍しようとしたギガゼールに向けて目にも留まらぬ速さで刀を突き出す。
 ゾブリとギガゼールの胴体の中心突き刺さる半壊した刃。甲高い悲鳴を上げギガゼールが絶命する。
 瞬間、スモーキーの体を、正確には装着しているプロテクター装甲越しに急激に力が抜けていく感覚が襲う。


691 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:53:27 jTcLNtV.0

(何が……!?)

 突然の事態に困惑しながらも疾走を続けるスモーキーの視界に映るインペラーのプロテクターに異変が発生していた。
 腕部や手の甲を覆う褐色のアーマー部分が塵の様な粒子となって灰色の装甲を露出させていく。それと比例するように重くなる体。
 スモーキーは気付く。今目の前で殺害されたギガゼールがアドベントと同時に真っ先に現れた個体であることを、常に彼が他のゼール種を動かす時に指示を出していた個体だということを。
 
 ミラーモンスターと契約を前提した仮面ライダー達の弱点の一つに契約したミラーモンスターを殺害するという物がある。
 契約したモンスターを殺されたライダーはその力を失いブランク体という極度に弱体化した形態となってしまう。
 無数のゼール種を従えるインペラーであるが契約しているのはギガゼールの一匹だけであり、それ以外は契約したギガゼールが呼び出した眷属である。
 とどのつまり、無数のギガゼールの中から契約した一体だけを殺害出来ればインペラーは大幅に弱体することなり、今まさに殺害されたギガゼールこそがその契約した個体であったのだ。

 武蔵がその事実を知っていた訳ではない。ただ、スモーキーがゼール種の群れを召喚してから司令塔となっていた一頭をずっと気に留めていたのだ。
 連携してくる敵の厄介さは十分に熟知している。故に武蔵は是が非でも司令塔らしきギガゼールを仕留めたかったのだが、スモーキーの傍らに侍るギガゼールは無数のゼール種に行く手を阻まれその機会は得られない。
 だが、スモーキーのファイナルベントにより全てのゼール種が攻撃体勢に入ったことで予期せぬ好機が舞い降りたのだった。
 スモーキーがどんな技を仕掛けるのか見当はついていなくとも、大軍の要、将と例えても遜色のない怪人を仕留めることが出来れば相手の戦力の低下には繋がるだろうと直感した武蔵は、ただ一頭のギガゼールを仕留めることだけに全力を傾けたのだ。

 果たして武蔵はギガゼールを討った。
 その一突きがこの勝負の趨勢を決めるに足る一撃であったということは彼女も、そしてスモーキーも予想していなかったことだろうが。

 それでもなおスモーキーは駆ける。駆ける以外の道などもう存在しない。
 その身が覆う装甲が茶褐色から灰色に変わっていく様はまるで燃え尽きて灰になってしまうかのようだ。
 そんなスモーキーの行く手を無慈悲にも遮る様な形で、武蔵は突き刺した刀を抜きざまにギガゼールの死体を蹴りだした。死体とスモーキーが重なる刹那、ギガゼールの爆炎がスモーキーの体を包んだ。

「司令塔っぽいのを落とせばなんとかなりそうとは読んだけれども、ここまで効果的だったとはね」

 爆炎を尻目に武蔵が周囲を見渡せば、困惑を隠す事無く狼狽えるゼール達が何処かへと消滅していくのが見える。
 契約していたギガゼールを仲介して召喚されていた以上、仲介役が消えたことでアドベントの効果は失われ彼らが元々存在するミラーワールドへと強制送還されてしまったのだ。
 この場にいるのは武蔵、そして爆炎に呑まれたスモーキーだけとなった。


692 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:54:03 jTcLNtV.0

「このままあの子が倒れてくれていればありがたいけど、まあそこまで上手い話しもないわよね」

 爆炎が消え、煙が晴れていく。
 ギガゼールを突き刺した事でとうとう刀としての寿命を完全に使い果たした日輪刀を握りながら状況を見守っていた武蔵の視界にゆらりと一つの影が立つ。
 完全にグレーと黒のツートンカラーとなったインペラーがだらりと下がった左腕を抑えながら立っていた。
 見るも痛々しい姿ではあったがバイザー越しに光る瞳はまだ死んでなどいない。

 ここから先は徒手空拳かと身構える武蔵の前に一歩スモーキーが足を踏み出す。
 直後、スモーキーの体がビクリと跳ねた。

「……ガッ! ゲフッ、ゴホッ! ガハッ!」

 踏み出した足から崩れ落ちる様にして蹲ったスモーキーが激しくせき込む。
 胸を押さえ、体を震わせ、何度も何度も苦し気な咳を出す。
 タイムリミットがやってきたのだ。最早スモーキーの体は戦闘もインペラーへの変視認も耐える事が出来なくっていた。震える指がVバックルへと伸び、変身を解除する。

 人の姿へと戻ったスモーキーが口許を赤い血で汚しながら地に転がった。
 仰向けに転がり、胸で息をするスモーキーに影が差し込む。武蔵が、スモーキーを見下ろす。
 こうして二人の戦いはなんとも呆気ない幕切れを迎えることとなった

「まさか、病人だったなんてね。その様子だと肺かしら」
「さあな」

 武蔵が話しかける。
 スモーキーが答える。
 どうにか体を動かそうするスモーキーだが、体がいう事を聞いてくれない。
 武蔵はそれを黙ってみているだけで妨害をする素振りすら見せない。それが無駄な試みだと分かっていたからだ。

「俺は、帰らなくちゃならないんだ……、俺の家族の下に」

 それでもなお、スモーキーは足掻き続ける。
 彼の帰りを待っている家族がいる。
 あの無名街で自分に大切なものをくれた家族たちが自分の帰り待っている。
 だから、足掻く。
 足掻く。
 足掻き続ける。

 それでも、体は動いてなどくれなかった。

「そう、それが君が人を殺そうとした理由なのね」

 その様を見下ろしながら、武蔵が呟く。
 スモーキーは答えない。ただ無言で武蔵と視線を合わせる。

 武蔵が屈み込み、徐々に日輪刀だったものを持った腕を上へ向ける。破損したとはいえ、そのボロボロの刃先を突き刺せば人一人の命など十分に奪えるだろう。
 スモーキーは抵抗できない。罵倒すらせずにただ武蔵を見つめている。
 互いに無言。後は武蔵が振り上げた腕を下ろすだけで全ては終わるだろう。

「ごめんな、皆」

 スモーキーの口から謝罪の言葉が零れる。
 果たしてその”皆”とは誰の事を指しているのか。
 果たしてその謝罪はいったい何を指しているのか。
 武蔵には分かる筈もない。
 
 そして、武蔵は無言で腕を振り下ろした。


693 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:54:49 jTcLNtV.0



「いやーなんというか、悪運が強いというか」

 戦闘の跡地で武蔵は神妙な顔をしながら一振りの刀を眺めていた。
 スモーキーの放り投げたデイパックに何か使える物がないかと漁っていた彼女は幸運にも探し求めていた武器を見つけたのだ。
 ……もっとも、当初もっていた最後の一振りを完全に破壊してしまった以上、彼女はもう一振り刀が必要になった訳であるのが。

「しかし、この刀がねぇ。あれ? でもあいつが使ってるのって長船の方じゃなかったかしら。まあいいか」

 付属の説明書を見ながら眉根を寄せる。その支給品は彼女にとってもある意味では縁の深いものであったからだ。
 五尺あまりはあろうかという長刀。本来であれば彼女のライバルと称される剣士が使っていた刀を感慨深げに武蔵は見つめる。
 備中青江、俗称を物干し竿。説明書にサーヴァントの佐々木小次郎が使用している愛刀と記載されたそれは武蔵に奇妙な運命じみたものを感じさせた。

「一先ず得物は確保出来て、食料も、うん。何とかできそう。後は……」

 物干し竿を背負いながら、地面に転がっている物体へと視界を向ける。
 それは大の字に倒れ伏すスモーキー。その身体に傷らしい傷は頭に出来たこぶ一つといったところだろうか。
 そう、スモーキーは生きている。武蔵が振り下ろしたのは日輪刀の柄の部分であり、彼は昏倒しているだけにすぎなかったのだ。

「はあ、甘いなぁ私も」

 厄介事を背負ったことを自覚している武蔵はため息を吐きながら夜空を見上げてぼやく。
 殺すことも出来た。
 躊躇なく殺そうとしてきた以上は殺されても文句は言えない。武蔵はそう思っている。
 例えどんな理由があろうとも人の命を奪おうとするのであれば奪われたとて文句はいえないし、あまつさえここには彼女の知り合いがいる。普段の彼女であれば累が及ぶことを危惧して刃の部分を振り下ろしていただろう。

「でも、きっとあの子ならそうしたでしょうしね」

 そう呟きながら思い出すのは、ここに呼ばれるまでともにいたカルデアのマスター、藤丸立香のことだった。
 命を奪おうとした直前に武蔵は思ってしまった。”藤丸立香ならこの男をどうするだろう”と。
 悲しむだろう。怒るだろう。
 だが、それでも。それでも最終的にきっと彼はこの青年を助け一緒に脱出しようと説得するのだろう。
 無論、宮本武蔵は藤丸立香ではない。必要があれば卑怯な振る舞いもするし躊躇なく人の命を奪うことだってやってのける。
 それでも、彼と共にある時は弱きを助け強きをくじく正義の剣士であろうとした。
 今この島のどこかには彼がいる。そんな一時の相棒のことを思い浮かべてしまった武蔵は気がつけば柄の方でスモーキーを殴り飛ばしていた。

「諭すっていうのは得意じゃないけれど、一先ずはこの子が目覚めるまでゆっくりしてますか。流石に疲れちゃったし」

 そうして武蔵は気絶したスモーキーを背負い自衛隊の営舎へと入っていく。
 時に一人の勇敢な少年が命を散らす前のことであった。


694 : もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:55:32 jTcLNtV.0
【B-5・自衛隊入間基地/1日目・黎明】

【新免武蔵守藤原玄信@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、疲労(中)、頬や肩に軽度の裂傷
[道具]:物干し竿@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:無空の高みに至る。藤丸立香と合流する。
1:基地で休憩する
2:この子(スモーキー)が目を覚ましたら一応説得してみる
3:強者との戦いで、あと一歩の剣の『なにか』を掴む
[備考]
※参戦時期、セイバー・エンピレオ戦の最中。空位に至る前。
※彼女が知っている藤丸立香は、というより何故かこの宮本武蔵は、『男の藤丸立香』を知る宮本武蔵である。

【スモーキー@HiGH & LOW】
[状態]:体力消耗(大)、気絶、病気
[道具]:基本支給品一式、仮面ライダーインペラー(ブランク体)のデッキ、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:全員を殺して、無名街へと、家族の下へと帰る。
1:??????
2:MAP上の無名街に向かう
[備考]
※契約していたギガゼールが死亡したことにより仮面ライダーインペラーに変身するとブランク体になります。コントラクトカードでミラーモンスターの再契約しない限りはこの状態が継続します。

【物干し竿@Fate/Grand Order】
佐々木小次郎の愛刀。五尺余りの長刀で備中青江。
特に特殊能力とかはない


695 : ◆5A9Zb3fLQo :2019/05/27(月) 23:56:09 jTcLNtV.0
以上で投下を終了します。


696 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 00:13:31 R4hLJa4A0
皆様投下乙です。
自分の予約ですが、申し訳ないのですが投下が遅れます。
遅くとも朝までには投下します。


697 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:15:02 R4hLJa4A0
大変遅くなりましたが投下します。


698 : 上田次郎のどんと来い、鬼退治 ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:16:04 R4hLJa4A0
(これから、どうする?)

 部屋のソファに座る中野二乃は、焦りを感じていた。
 殺し合いに否定的な参加者たちと出会い、安心感から恋愛事情を吐露した十数分後。
 冷静さを取り戻すにつれて、自分たちの現状について再認識し始めた。
 すると、大切な人たちが今どこでどうしているのか、無性に気になり出したのだ。

(私みたいに、安全な人に会えるとは限らないのよね)

 もし、危険な人物に襲われたとき、彼ら彼女らは逃げることができるのか。
 それぞれの顔と、林間学校でのスキーの腕前などを思い出しながら、二乃なりに考える。
 五姉妹の中で運動神経が良いのは四葉だが、それでも女子高校生の範囲は超えない。
 そして、一花や五月、二乃の運動能力はいたって平均。
 三玖と風太郎は、運動音痴のカテゴリに入る。

(そう、例えば上田さんみたいな男の人に襲われたら……)

 同じ部屋にいる上田次郎をちらりと見る。その体格は風太郎よりも良い。
 本人曰く「通信教育で空手を学んだ」らしく、その発言にも納得できるガタイの良さだ。
 二乃は冷静に、逃げられないと判断した。
 何しろ自分が襲われたと仮定しても、逃げられる気がしないのだ。
 他の姉妹も風太郎も、逃げられるイメージは浮かばなかった。
 可能性があるとすれば四葉だが、単純でお人好しなので、簡単に騙されそうだと判断した。

(みんな大丈夫かしら……)

 そんな焦りはつゆ知らず、上田は鏡台に自分の首元を映してしげしげと眺めている。
 沖田が外へ見回りに出てから、もう十五分以上そうしていた。
 二乃は呆れながらも、上田に声をかけた。

「上田さん、これから――」
「まず考えるべきは、この首輪を外す方法を考えることだろう」
「えっ、コレ外せるの?」

 食い気味な上田の言葉に、二乃は驚いた。
 BBに嵌められた首輪。これが有るのと無いのとでは、状況が大きく異なる。
 まさかと思いつつ、反応する声にも、自然と期待が込められる。

「もちろん。私はマサチューセッツ工科大学の研究機関にいたこともある。
 専門は物理だが、なに、仕組みが分かって適切な工具があれば、簡単に外せる」

 口角を上げて、どや顔をする上田。

「で、仕組みは分かるの?」
「……」
「……工具は?」
「……」

 二乃の期待は、あっさりとしぼんだ。
 上田は気を取り直したように話を再開する。

「そう、仕組みは外から観察するだけでは限界がある。
 この首輪の設計図か……あるいは、そう、サンプルが欲しいところだな」
「サンプルって、どう……」

 二乃は続く問いを呑み込んだ。
 首輪を手に入れる方法。それは簡単に想像できたが、口にするのは憚られた。

「……BBは、ゲーム感覚で殺し合いをさせる異常者だ。
 何かの気まぐれで設計図を支給している可能性もあるだろう。
 個人的には、このA-3エリアにある“研究所”が気になるが……」

 上田も明言するつもりはないようで、お茶を濁すような言い方をした。
 しかし、それよりも二乃は上田の発言で気になる点があった。

「じゃあ、上田さんは研究所に行くの?私、PENTAGONに行きたいんだけど」
「君の住んでいるマンションか……ふむ」

 行きたい理由は、姉妹がいる可能性が高いから。
 単純な発想だが、それ以外に姉妹と会う方法は考えついていない。
 そんな問いかけに、上田は腕を組んで難色を示した。
 現在地点を考えると、PENTAGONと研究所とは方向が大きく異なるのだから当然だ。


699 : 上田次郎のどんと来い、鬼退治 ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:17:42 R4hLJa4A0
「行かせてあげるべきでしょう。上田さん」

 そこに現れたのは、新選組の沖田総司。
 三十分ほど前、上田が沖田に外の偵察を頼んでいたのだが、ちょうど帰ってきたようだ。

「おお沖田くん。外の様子はどうだった?」
「生憎と誰にも会えませんでした。ただ……」

 コホコホと咳をしてから、沖田は壁に背を付けた。
 痩せた身体で咳をするものだから、どうしても心配になる。
 二乃がそれを伝えると、沖田は「よく言われます」と微笑んだ。

「ただ?」
「わずかですが血と火薬の臭いがします。京を思い出しますね」
「京か。ハハハ、流石は新選組だ」

 沖田の表情は真剣そのものだった。
 二乃はそんな沖田の言葉に、不吉なものを感じた。





(京を思い出すだと?どうやら、本気で沖田総司を演じているらしいな。
 “こりん星”とか“ちぇるちぇるランド”のようなものか?まったく、理解に苦しむ)

 上田次郎は笑いながら、内心では沖田のことを訝しんでいた。
 そもそも、上田はこの現状を“テレビ番組の企画”だと考えていた。
 バラエティ番組においては、“ドッキリ”という表現手法が長年使用されてきた。
 最近では、単純に驚かせるだけではなく、長時間の観察をおこなう手法も多い。
 この殺し合いも、それに類似した壮大な企画に違いない、という考察である。

(何の説明もなしに参加させるとは非常識だが、まあそれはいい。)

 上田はまた、参加者それぞれに役割があることをも看破した。
 中野二乃を含めた五姉妹のように、無力であり、踊らされる役割。
 自分を沖田総司だと思い込んでいる一般人のように、舞台を混乱させる役割。
 そして、殺し合いという企画を進めるためには、他者を襲う役割もいると予想できる。
 それでは、上田自身が考える、上田の役割とは何か。

(この世界一の天才がするべきことは、この島からの華麗なる脱出だ!)

 上田次郎は天才物理学者である。
 つまり、明晰な頭脳を期待されて、企画の参加者に選ばれたのである。
 ならば、首輪を解除し、不可能と告げられた脱出を成功させるのは当然のこと。
 加えて、偉大なる先達として、迷える者たちを導くことも欠かせない。
 上田は迷える者たちを横目で見た。

「ねぇ、血と火薬ってどういうこと?」
「ここから少し離れたところで、爆発か何かが起きたようです。
 死人が出たかどうかは分かりませんけど。少なくとも怪我人はいますね」
「そんな……」

 平然と告げる沖田に、目に見えて動揺する二乃。
 姉妹や想い人が巻き込まれている可能性があるのだから無理もない。
 ここは上田が、安心するような言葉をかけるべきだろう。
 そう、落ち着きを取り戻させるために。

「心配しなくても――」
「ですから、上田さん。早く移動するべきだ。
 二乃さんの大事な人たちを、一刻も早く探さなければ」

 考え出した言葉は遮られた。

「……うむ」

 上田は躊躇いを抱いていた。
 もちろん、今のところ安全なこの場所から動きたくない、という理由ではない。
 危険な人物がいるかもしれない場所に行くのが怖いという、臆病な発想ではない。
 たった独りで行動することへの不安感など、全く存在しない。
 決して、そんな理由ではないのだ。

「私はPENTAGONに行きたいんだけど、沖田さんはどうするの?」
「特に目的地はありませんし、二乃さんの護衛をしますよ」
「ホント!?」


700 : 上田次郎のどんと来い、鬼退治 ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:18:58 R4hLJa4A0
 自分がいなくなると、この二人は心細く感じるかもしれない。
 年長者として、まだ若い二人を導く必要があるのではないか。
 そんな思考から、上田は躊躇うのだ。

「ただ、大砲か銃か分かりませんが、武器を持った人もいますから、行動は慎重に。
 基本的にわたしが先行して、安全を確かめてから、二乃さんが付いてくる形にしましょう」
「え、ええ……わかったわ」

 しかし、躊躇う間にも時間は過ぎていく。
 なんなら上田抜きで話が進んでいる。
 上田は沖田と二乃の間に割り込んで言った。

「それと、姉妹の皆さんの特徴を――」
「よし。私は先程も言ったが“研究所”に興味がある。二手に分かれることにしよう」

 上田は研究所まで単身で行動をすることを決断した。
 これは勇気ある決断である、と上田は内心で自分を褒めた。

 ――もし、このとき上田が既に“鬼”や“亜人”のような異形の存在を目にしていたら、この殺し合いをテレビの企画と勘違いせず、同じ行動を取ることが出来ただろうか。

「では、行きましょうか」
「ええ」

 そうして、ようやく上田たちは外に出た。
 外はまだ暗い。暗闇は恐怖の対象である。
 上田は自分を奮い立たせるために、あの言葉を呟こうと決めた。

「なぜベストを――」
「しっ!静かに」

 沖田が鋭い声を発したのは、そのときだった。





(蹄の音――!)

 西の方角を見ながら、沖田総司は警戒心を強めた。
 舗装された道の向こうから聞こえてくるのは、馬の蹄の音だ。

「へぇ、イケメンの男二人に、可愛らしい子やないの」

 人気の無い暗闇から、その姿はいきなり現れたかに見えた。
 見事な白馬にまたがる、着物の少女だ。
 少女は沖田たちを見つけると、馬からひょいと降りて近づいてきた。

「そこの人はおっきぃなぁ。背ぇもやし、コッチも……」
「どぅわっ!?や、止めなさい!」

 近くにいた上田の下半身をまさぐる少女。上田は制止の声を出すが、抵抗は弱い。
 やたらと露出の高い服に、年不相応な色香。
 これだけでも奇妙な存在だが、それより沖田が注目したのは、一対の角である。

「……あんた、鬼ですか?」

 鬼へと向ける感情は人より何倍も強い沖田。
 おのずと少女に向ける視線は鋭く、語気は強くなる。

「なぁに?不躾やわぁ。
 人にものを尋ねるときは、自分から名乗るべきと違う?」

 不満そうな声を出し、殺意を隠そうともしない少女。
 剣呑な雰囲気に、上田は冷や汗を流し、二乃は身震いをした。


701 : 上田次郎のどんと来い、鬼退治 ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:19:57 R4hLJa4A0
「……新選組一番隊組長、沖田総司」

 沖田は静かに名乗りを上げた。
 すると、少女は一瞬きょとんとして、それから納得したように頷いた。

「へぇ……ウチの知ってる沖田総司は、女子(おなご)やったけどなぁ」
「……?」

 沖田総司が女子?そんな疑問符を浮かべつつ、相手は鬼なのだから、まともに相手をするのは間違いなのかもしれないと思い、思考から排除する。

「そんなことより、わたしは名前を名乗りましたけど」

 沖田は、愛刀の切っ先を少女に向けた。
 少女は嘆息してから、挨拶をし始めた。

「せやったね――ウチは酒呑童子。
 あんたはんの想像通り、こんななりでも鬼どす。あんじょう、よろしゅう」
「しゅてんどうじ?」
「京都の大江山にいたとされる、伝説の鬼の名前だ」

 首を傾げる二乃と、解説を入れる上田。
 その名前は沖田もいつか聞いた覚えがある。かの名将、源頼光らが討伐したとされる鬼の頭領だ。
 しかし、知名度はさして重要ではない。

「そうですか。そんなナリでも鬼なんすね」

 重要なのは、相手が“鬼”であり。
 沖田総司の使命が“鬼退治”であるということだ。

「うふふ、そないに殺気を出されると、ウチも昂るわぁ」

 沖田は鞘を投げ捨てた。





 剣筋が閃く。
 目にも留まらぬ沖田の突きが、酒呑童子の胸に迫る。

 対する酒呑童子は、後方に跳ぶことでそれを回避する。
 そのまま民家の壁面に足をつけると、常人離れした脚力で以て、自らの身体を射出した。
 酒呑童子の身体は軽いとはいえ、当たれば重い一撃となる。

 間一髪、沖田は斜め前に倒れるように身を屈めて、事なきを得る。
 同時に刃で腕を切り裂かんとしたが、かすった程度の感触しか得られない。
 すぐさま立ち上がり振り向くと、酒呑童子も同様に立ち上がるところだった。

 再び相対する二人。
 一方は顔をしかめており、もう一方は満面の笑みを浮かべている。

 沖田は手元の愛刀・菊一文字を見た。
 菊一文字の刀身には、所有者でなければ気づかない程度の小さなひびが入っていた。

 酒呑童子はにこにこしながら、自分の手を見た。
 左手の爪が割れて、血が滲んでいた。

「爪が汚れてしもうたわ。どうしてくれるん?」
「真っ赤に塗り直すってのはどうです?」
「それはええ考えやね」
「どーも」

 お互いに軽口をたたきながら、視線は相手から逸らさない。

 沖田は考える。
 彼我の距離は、沖田の剣なら一足飛びで貫ける。
 爪が削れたのだから、特に皮膚が堅いということもない。
 赤い血液が流れるのだから、殺せないということもない。
 喉と心臓と鳩尾。急所を速く、正確に突けば終いなのだ。
 もし殺せなければ、次の手を考えるまで。

 酒呑童子は嗤う。
 相手の剣は達人級。油断すれば首が飛ぶ。
 先の先、速さではまず敵わない。ならば後の先、待ちの姿勢か。
 神速の突きを躱すことさえできれば、あとは痩躯を砕くだけだ。
 ああ、そんなことよりも。
 久方ぶりの、この命のやり取りがたまらない。


702 : 上田次郎のどんと来い、鬼退治 ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:21:02 R4hLJa4A0
「!」

 再び沖田が仕掛ける。
 前後左右に移動しながら、牽制のように突きを繰り出していく。
 当たれば即死の突きの連続を前に、酒呑童子は身じろぎひとつしない。
 牽制と理解した上で、間合に入られた瞬間に返すつもりだ。

「しゃあっ!」

 気合と同時に、沖田はこれまでより深く踏み込む。
 酒呑童子の視界から、一瞬沖田の姿が掻き消える。
 刀は右手。それゆえに、酒呑童子は反射的に、沖田の右半身側に避ける。

「うぅんっ!」

 結果的に、その選択は失敗であった。
 酒呑童子の太ももには浅からぬ傷ができ、血が滲んでいる。
 沖田の選択は、得意手の突きではなく、駆け抜けてすれ違いざまに脚を狙う一撃。
 それなりに広い場所であるからこそ可能な技だ。
 痛みを受けて座り込む酒呑童子。

(とった!)

 振り向きざまに刀を中段に構え直し、酒呑童子の状態を見て、即座に斬りかかる。
 上段から振り下ろされる刀は、鬼の少女の首を刎ね飛ばす――

「待ちなさい!」

 ――ことはなかった。





 勝利の感触を得た沖田。反対に敗北を感じた酒呑童子。
 しかし、ここで誰も予想していなかった闖入者が現れた。
 沖田の刀と酒呑童子の間に割って入ったその男は、誰であろう上田だった。

「ここは互いに矛を収めて、ね?」
「上田さん、どういうつもりです」

 震えながら、沖田のことをなだめすかそうとする上田。
 さて、極度の臆病者である上田が、こんなことができるだろうか。いや、普通はできない。
 このとき、上田がこうした行動に至った要因は、三つある。

 まず、「上田は殺し合いをテレビの企画だと勘違いしている」こと。
 上田は、沖田や酒呑童子は、クオリティの高い芝居と殺陣をしていたと思い込んでいる。
 そのため、間に入り込んでも命の危険はない、という誤解が生まれた。

 次に、「上田は自分が期待されていると勘違いしている」こと。
 上田は殺し合いをテレビの企画と勘違いした上で、自分の役割を考えていた。
 そして、沖田が酒呑童子と争い始めたのを見て、年長者としてこの争いを上手く治めるべきだという考えに至ってしまった。

 最後に、「上田は酒呑童子の酒気にあてられている」こと。
 ほんの数分前、上田は酒呑童子の声色や吐息を、至近距離で感じていた。
 そのため、思考を半分近く蕩かされて、つまりは、魅力に酔わされていた。
 酔うと気が大きくなる人間は多い。この点については、上田ばかりを責められないだろう。

 とにもかくにも、上田は酒呑童子を庇う形となった。
 沖田の問には答えずに、上田は座り込んだ酒呑童子の前に屈んで、声をかけた。

「酒呑童子さん。貴女は鬼だそうだが、人を殺すつもりはあるんですか?」
「どうやろなぁ。ウチは楽しみたいときに楽しむだけやさかい」

 上田の質問に、酒呑童子は迂遠な答え方をした。
 しかし、その返答を聞いた上田は、頷いて沖田の方に振り向いた。

「聞いたか、沖田くん。
 酒呑童子さんは、少なくとも殺人自体を楽しむ性質(たち)ではない」
「え?」
「は?」

 その瞬間、沖田はおろか酒呑童子さえも、疑問符を浮かべた。
 二人の理解が追いつく前に、上田は言葉を重ねる。

「酒呑童子さんのことは、私に任せてくれたまえ」
「な……」
「ちょっと、それ平気なの?」

 絶句する沖田と、心配する二乃。
 再び酒呑童子の方に向き直り、声をかける上田。

「傷は平気ですか?」
「うふふ、鬼を庇う人やなんて、珍しいなぁ」
「我々は協力してこの島から脱出するんです。貴女にもぜひ協力していただきたい」
「ふぅん……?」


703 : 上田次郎のどんと来い、鬼退治 ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:22:28 R4hLJa4A0
 酒呑童子は上田に興味を抱いたようで、しげしげと上田を見ている。
 その上田は、完全に勢いに任せて話していた。

「その力、正しいことに使えば、多くの人の役に立つはずです。
 天才の頭脳と鬼の力が合わされば、まさしく鬼に金棒、鬼にマチェット、鬼にミサイル!」

 沈黙した酒呑童子に対して、上田はさらにまくしたてる。
 二乃と沖田も反論せず、状況をただ見守っていた。
 この選択が正しいのかどうかは、上田自身にすら分かっていない。

「ええよ」
「……え?」

 選択の答えは、酒呑童子の微笑みだった。
 思わず問いかける上田に、もう一度、甘い声がかかる。

「ええよ、協力したっても」
「それはありがたい!さあ、ご唱和ください」

 遠巻きに上田たちを眺める二乃も。
 愛刀の納めどころを失った沖田も。
 交渉が成功し混乱している上田も。
 相変わらず笑みを浮かべる酒呑も。

「せーの!」

 この場において、状況を正しく理解できていた者はいない。
 ただひとつ、明らかなことがある。

「どーんとこーい!」

 この場に居た誰もが、上田に毒気を抜かれていたということだ。





 その後、上田が酒呑童子の脚を手当てすることになり、二人は民家に戻った。
 沖田は鬼との協力に最後まで難色を示していたが、なし崩し的に上田に押し切られた。
 なにより酒呑童子が上田に従う様子を見せていたことが、沖田の反論を消したのだ。
 結果、二乃と沖田はPENTAGONに向かい動き出した。

「さて、そろそろ我々も行きましょう」
「せやね」

 上田が促すと、酒呑童子はつまらなさそうに呟いた。
 その理由は、自身の能力が削がれていることを感じたからである。

(まったくBBはんも、余計なことしてくれはるわぁ)

 酒呑童子のスキル「果実の酒気」は珍しいスキルだ。
 普段ならば、骨をも蕩かす声色や吐息で、たいていの人間は籠絡できる。
 しかし、この場においてはその効果が弱まっているらしい。
 そう判断したのは、上田が泥酔しきっていないからである。
 沖田や先刻の喧嘩小僧のように、意気で以て抵抗してくる者はまだしも、上田のような平凡な人間に抵抗する力があるとは考えにくい。

(つまり、ウチが弱体化させられてる……つまらんことしてくれるわ)

 もちろん、スキルが上田に全く効いていないわけではない。
 むしろ中途半端に効果が出ているからこそ、危険な戦闘に割り込んで、かつ鬼を庇うような奇行に走ったのだと酒呑童子は考えていた。
 そもそも、効きが弱いこと自体は問題ない。
 それよりも、自分という存在に制限がかけられている、という事実が不満なのだ。

「さて、研究所に行くには……山越えは危険だな。
 馬で山を迂回しながら進むことになりますが、平気ですか?」
「ヘーキどす」
(ま、とにかく少しは大人しくしときましょ。
 上田はんのお陰様で、命拾いしたわけやし。それに……)

 酒呑童子は上田に感謝こそすれ、全面的に従うつもりはない。
 力関係を考えれば、鬼が人間に従うことなど、そうそうないのだから。
 極論を言えば、恩を返さずに喰い殺しても構わない。
 しかし、今はまだそうしないことに決めた。
 その理由は単純明快。

(上田はん、眼鏡を外したらええ感じやと思うし。
 美味しいかどうか、見極めさせてもらうのもありやわ)

 そう、酒呑童子はイケメンが好きなのである。
 鬼らしく楽しむ、その生き方を忘れる酒呑童子ではない。


704 : 上田次郎のどんと来い、鬼退治 ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:23:31 R4hLJa4A0
(それに、沖田はんも――また会えるとえぇなぁ)

 家を出る酒呑童子の口元には、再び笑みが浮かんでいた。


【F-5 民家付近/黎明】
【上田次郎@TRICK】
[状態]:健康、若干の酔い
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:この島からの華麗なる脱出。
1:酒呑童子と行動する。
2:研究所に向かいたい。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
※殺し合いをテレビの企画だと考えています。

【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、左頬に打撲
[装備]:普段の服、白馬@TRICK
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:ひとまず上田と行動する。
2:小僧(村山)と会って強くなってたら再戦する
3:沖田総司とも再戦したい。
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
※スキル「果実の酒気」は多少制限されています。


【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:大切な人たちに会いたい。
2:PENTAGONに向かう。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

【沖田総司@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:着流し、菊一文字則宗@衛府の七忍
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:『びぃびぃ』と名乗る鬼を討った後、元和に戻って鬼退治。
1:己の『誠』を信じて突く。
2:二乃さんを護衛する。
3:酒呑童子については保留。
[備考]
※第三十五話以降からの参戦。


【白馬@TRICK】
酒呑童子に支給された。
劇場版3に登場した。人を乗せる訓練を受けている以外は普通の馬。
奈緒子や上田を乗せたことはないので、二人を覚えていることもないだろう。


705 : ◆ZUJmXB0CS. :2019/05/28(火) 08:24:40 R4hLJa4A0
投下終了です。
誤字脱字等、訂正がありましたらよろしくお願いいたします。


706 : 名無しさん :2019/05/28(火) 16:19:08 d18SkTuo0
投下乙です
酒呑に巨根を弄られ二人っきりになる上田教授羨ま恐ろしい


707 : ◆VSfUPSuq9M :2019/05/28(火) 19:33:15 JN/y6fss0
申し訳ありません。>>656の予約を破棄します。


708 : ◆OLR6O6xahk :2019/05/28(火) 19:40:48 I.I1f62U0
予約に源頼光を追加します


709 : ◆FGOhDqA5no :2019/05/28(火) 21:06:11 pxQl7SR.0
村山とマシュの予約分ができたので投下します


710 : 慕う者たち ◆FGOhDqA5no :2019/05/28(火) 21:07:29 pxQl7SR.0
勝てねえ相手だってのは分かってたけどよぉ。

でもやっぱ、舐められっぱなしってのは性に合わねえんだよなぁ。

もしそんな相手に会ったらさ、やっぱ逃げるべきなのかねぇ。

なあ、コブラちゃん。

コブラちゃん?



「…んあ?」

ふと目が覚めた村山。
起き上がろうとすると、体のあちこちに痛みが走った。

「…っえ。えーっと、何してたんだっけ?」

寝る前の記憶を呼び起こす。

確か、いきなり変な女の放送が目に入って。
目の前に鬼のような角を生やした小さな女がいて。

舐められてると思ったからガンを飛ばして。
喧嘩になって。

「負けたんだっけ、俺」

回想して体の痛みを自覚しながらぼーっと宙を見上げる。

どこかの見覚えのない民家の中だ。自分の家でも、慣れ親しんだあの校舎でもない。
ふと体を見ると、殴られた体に包帯やガーゼが貼られていた。

「…誰だ?」

この場所に移動したことといい、誰かに拾われたのだろうか。

起き上がり、体の痛みに耐えながら歩を進める。

「あ、目が覚めましたか」

眼鏡の女の子が、キッチンで何かをしていた。




711 : 慕う者たち ◆FGOhDqA5no :2019/05/28(火) 21:08:05 pxQl7SR.0

「えーっと、マシュちゃんだっけ」
「はい。マシュ・キリエライトです」
「あー、ありがとな。俺をここまで運んでくれたんでしょ?」

キッチンのテーブルで出されたお茶をすすりながら自己紹介をした二人。

「いえ、その、身内の不手際でしたもので…、せめてもの罪滅ぼしにと…」
「え、身内って何?
 あ、もしかしてあの鬼っ子の知り合いだったり?」
「ええ、彼女は酒呑童子といって、カルデア―――私達の施設の同僚なんです」

へー、と関心しながら、マシュを見る村山。
華奢な体は(やる気はないが)もし殴れば吹き飛んでしまいそうにも見える。
さっきの酒呑童子といった女もそう体躯は大きな方ではなかったが、纏っている空気もあれとは別の穏やかなものだ。

「それと、…BBさん、彼女も私達の知人ではあるんです。
 どうしてこんな真似をしているのかは検討もつかないし、それに私の知るBBさんなのかどうかすら怪しいんですが…。
 …すみません、何言ってるか分からないですよね」

うまく説明ができないのか、申し訳なさそうに顔を伏せながら謝るマシュ。

「うん、ま、いいよ」

その様子を見て、言えないことは多そうだが嘘を言おうとしている風にも見えないと直感で判断した村山はさっとマシュを受け入れた。

「すみません、先輩がいれば、彼女もこんなことはしないと思うんですが…」
「先輩?何?学校とかサークルか何かの先輩ってこと?」
「いえ、名前は藤丸立香という人で、ここの名簿にも書かれているんですが。
 あ、そうだ、名簿って見られてますか?」
「しまったー、見てねえな、ちょっと見せてくれ」

名簿を受け取り目を通す村山。
やがてある一角に載った5人の名前を指さした。

「コブラにスモーキー、雨宮兄弟。こいつらが知り合いだな」

SWORDの頭が三人と雨宮兄弟。
鬼邪高校の仲間がいないことには胸を撫で下ろしつつ、マシュに説明を続ける。

「お友達の方たちですか?」
「べっつに友達とかじゃねえよ。なんつーか、知り合い以上友達未満的な?」

SWORD間にあるこの因縁をどう説明したらいいのか迷った末に村山が口にしたのがそれだった。

「って言ってもコブラちゃんとは一応合流しといた方がいい気はするけど、スモーキーのやつは分かんねえし。
 雨宮兄弟も会えればめっちゃ頼もしいんだけど、そこまで会いたいかって言われるとそうでもねぇし。
 マシュちゃんはどうなの。さっきの鬼っ子以外の知り合いって誰よ」
「私ですか。私の知り合いは………。
 冗談と思われるかもしれないですが、藤丸立香、宮本武蔵、源頼光、酒呑童子、清姫、エドモン・ダンテス、フローレンス・ナイチンゲール、メルトリリスさんですね。
 知り合いは纏まっているみたいなので、この人たちで全部だと思います」
「へー。多いんだな。
 何だっけ、宮本武蔵とナイチンゲールってアレでしょ。巌流島のやつと天使とか言われてた看護師って人でしょ?
 すげーな。有名人と同じ名前なんだな」
「あ、あはは」(それで納得されちゃうんですね)

細かいところをどう説明したものかと考えていたマシュだったが杞憂に終わったことに安堵しつつ。

情報交換も一通り終わったところで出発しようとして、まだ村山の傷が痛む様子であることを案じたマシュがもう少しこの場で彼と共に休むこととなった。


「別に気にしなくてもいいのに。これくらいすぐ治るし、それにマシュちゃんもあの鬼っ子追いかけたりとか先輩さんとか探しに行きたいんじゃないの?」
「いえ、身内の不手際で被害を受けた人を放っておくことはできないです!
 それに、先輩だったらどんな些細なことでも、決して人を見捨てたりはしないですから」
「ふ〜ん。あんた、いい子だな」

二杯目のお茶をすすりながら、ポツリと呟く村山。


712 : 慕う者たち ◆FGOhDqA5no :2019/05/28(火) 21:08:19 pxQl7SR.0
「そういえば村山さん、確か学生の方なんですよね。
 普段どんな生活をなされているんですか?」
「ん?どうしたの急に。
 まあ話してもいいけど、別に面白くはないよ?」
「その、私、今まで研究所住まい…みたいなもので、学校とか外の世界とか、実際にあまり見たことはなかったもので、どうしても興味が湧いてしまって。
 あ、いえ、話されたくなければいいですが!」
「まあいいよ。ただ、あんまり参考にはならないよ?」

そう念を推して、村山は自分の通う高校、鬼邪高校についてを語り始めた。



「え、ええっと、村山さんの通う高校は『フダツキのワル』さんが通う場所で…。
 何年も留年されている方が多くて、日々喧嘩に明け暮れていて…」
「そうなんだよなぁ。ほんと、バカばっかりで俺も嫌んなってくるくらいでさぁ」

村山の話と自分の想像のあまりの乖離に、マシュは混乱していた。

「しかも変な決まりがあってよぉ。100発殴られるのに耐えられたら学校の頭になれるなんてのがあってよ」
「ひゃ、100発ですか…?!」
「おう、それに耐えた最初の男が、俺ってわけ」
「はえー…、道理で酒呑さんの攻撃にも…」

体の傷と先の酒呑童子を思い出して納得するマシュ。

「でも、どうしてそんな場所に行こうなんて思ったんですか?」
「んー、何か俺、勉強とかスポーツとかやってもパッとしなくてよ、ただ喧嘩だけは自信があって、行けば何かが変わるかなぁなんて思ってたんだよな」

村山は語りながら遠い目をして昔を思い出していく。

「で、俺強えとか粋がってたんだけどよ、他のチームのやつらと色々あって決闘になって、負けちまったんだよな。
 その時の相手が、さっき言ったコブラってやつでさ」
「その人もそんなに強い方だったんですか?」
「そうなんだよな、あの時の俺、何で負けたのか全然分からなくてよ。
 ずーっと考えてるうちに何したいのかも分からなくなってきて、そんな時に俺に挑んできたやつがいたんだよ。
 そいつ昔の俺みたいなやつでさ、別にやる気なんてなかったんだけど、まあ仲間ボコられて頭に来てよ。
 その時に分かったんだよ、俺とコブラの違い、俺の居場所とかそういうやつが」

「一緒にバカやりあうような仲間がいて、居場所があって、そいつらと見る景色がいいんだってな」

「なんて、ちょっと喋りすぎたか」
「そこが、村山さんにとっての大切なものだったんですね」

語っていた時の村山の微笑みを思い出しながらマシュも笑みを返した。

「って、俺の話ばっかじゃずるいでしょ。マシュちゃんの話も聞かせてよ。
 マシュちゃんのところって、あの鬼っ子みたいな強い子いっぱいいるの?」
「ええっと、まあ、はい。
 みんな強い人ばかりです。その方たちを纏めてるのが、先輩なんです」
「ほえー。じゃあその先輩ってすごく強かったりするの?」

身を乗り出して好奇心を隠すことなく問う村山。
強い者に興味を持つのはやはり拳に自信がある男としての宿命なのだろう。

「いえ、そんなことは。そもそも先輩は女性ですし。
 でもそうですね、強いかっていうと強いんだと思います。力じゃなくて、心が。
 どんな人にも優しくて、やると決めたら絶対に諦めない、そんな人なんです。先輩は」
「あーなるほどね。何か分かる気がするわ、そういうのにつえー奴らが従ってくれるっていうの」


713 : 慕う者たち ◆FGOhDqA5no :2019/05/28(火) 21:08:45 pxQl7SR.0
力ではない方法で心から他人を従える力を持っている人。
それは自分が持っていない強さを持っているということだ。

村山にはそれが少し羨ましく感じて。
少しだけマシュに意地悪をしてみたくなってしまった。

「ちなみにその子って学校とか行ってんの?」
「元々は学生だったとは聞いていますが、あまりその辺りの話は聞いたことないですね」
「それじゃあ、案外分かんねえかもよ。おとなしそうな顔して、もしかしたら学校じゃ番長…いや、女ならスケバンかな。
 そういうので男纏めてたりなんてしてたとか、そういうこともあったりするかもよ」

意地悪っぽく笑ってそう村山が言うと、マシュが慌て始めた。

「せ、先輩がですか?!」

困惑するマシュの脳裏にあるイメージが湧き上がった。






私立カルデア高校(仮)。多くの強者達を集める強豪校。
その戦闘に経っているのは、セーラー服に一本の日本刀を携えた少女、藤丸立香。

向かい合う先にいるのは敵対校である魔神柱学園(仮)の生徒たち。

睨み合う二つの軍勢。
一陣の風が吹き。

「てめえらしっかり心臓(タマ)取ってこいやぁあああああ!!!!」

ウォォォォォォォ

少女の激励、歓声と共に駆け出す両者。

敵生徒の爆風で吹き飛ばされる学ランの生徒たち。
その中を、刃物と共に走り抜け。

先陣を切って、その太刀を振り下ろした――――








(あわわ、あわわわわわ…、まさか先輩にそんな過去が…)
「なーんて、冗談だよ冗談。
 ……マシュちゃん?おーい?」
「は、はい!大丈夫です!」

元々学園生活というものの知識がなかったこともあり鬼邪高校の話の刺激が強すぎた故か、変な映像が見えてしまったマシュ。
気を取り直して残ったお茶を飲み干した辺りで、村山は立ち上がった。

「おーし、だいぶ楽になってきたな」

痛みが引いたというよりは痛みに慣れたというべきところだろうか。

もうこれ以上留まる理由はないだろう。
立ち上がったところで、あ、そういや、と村山は座り直した。

「今のうちに道具確かめとかねえと」

遠足に行く前にも準備は必要だしな、と、マシュの前でバッグの中身を広げていく。
すると、一つの道具を出した時にマシュの顔色が変わった。

「それは…!」
「ん?これ?」

と、マシュが声を上げた時に手元に出てきたのは机のような巨大な板と装甲のような服だった。
見た感じその服は女物のように見える。

「それを譲ってくれませんか?!」
「んー、まあ別に渡すのはいいけど、タダでってのもなー。
 ちょっとマシュちゃん何か持ってない?」

と、村山が取引を持ちかけると自分のバッグを出し始めるマシュ。

言ったはいいが、元々命の恩人であるし、せびるような真似をするのもみっともないし。
もしくれるなら食料とか水でも貰おうかと思っていたところで、マシュの取り出したそれが目に入った。


714 : 慕う者たち ◆FGOhDqA5no :2019/05/28(火) 21:09:09 pxQl7SR.0

「それ」
「え、これですか?」

マシュの手にあったのは金の装飾が付いた、銀色のガントレットだった。

「それと交換しよう。何か気に入った」
「分かりました。これで良ければ」

衣類、霊基外骨格(オルテナウス)をマシュに渡し。
村山はガントレット、ホーリーナックルを受け取った。

腕に装着してシャドーボクシングを振るってみる村山。
あまり違和感は感じず、かなり扱いやすいように感じた。

本来の流儀であればこういう武器は好まないのだが。
しかしこんな殺し合いの場。SWORDの喧嘩の勝手が通じる場所とは思えない。刃物や銃器を相手にすることもあるし酒呑童子のような人知を超えた敵もいるだろう。
そういう時にでも拳で戦えるのは有難かった。

「よし、じゃあ出ますか。
 まずマシュちゃんの先輩とかお友達を探すってことで」
「はい。え、でも村山さんはいいんですか?」
「いやいいんだって。どうせそのうち会えるだろうし。
 コブラも雨宮兄弟もちょっとやそっとのことじゃ死にゃしねえよ」

そういって建物を出た時だった。

激しい爆発音が周囲に響き渡ったのは。

「?!」

驚く二人。

周囲を見回すと、自分達のいる位置から北東に位置する辺りに炎があがり闇を赤く染めていた。

「村山さん!私、あそこに向かいます!」

もしかすると誰かが助けを求めているかもしれない。
駆け出したマシュの後ろを見ながら。

「まあ、放っておけねえよな」

村山もその背を追って走り出した。



【F-2/1日目・黎明】

【村山良樹@HiGH&LOW】
[状態]:全身打撲(処置済み)
[道具]:基本支給品一式、ホーリーナックル@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:とりあえず帰り方を探す
1:マシュに同行して彼女の仲間を探す
2:酒呑童子とはいずれけじめをつける
3:コブラや雨宮兄弟は会った方がいいと思うが取り立てて優先はしない
[備考]
※参戦時期は少なくともシーズン2の8話以降です。


【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、霊基外骨格@Fate/Grand Order、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:爆発の元(教会)へ向かい助けを求める人を探す
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
※霊基外骨格は霊衣として取り込んだため、以降自分の意志で着脱可能です。


ホーリーナックル@Fate/Grand Order
マルタ(裁)の絆礼装。銀色のガントレット。
聖人であるマルタの持ち物であるため何か聖なる加護があるかもしれないしそんなことはないかもしれない。

霊基外骨格@Fate/Grand Order
デミ・サーヴァントを補強するための外部補助装甲。支給されたのはマシュ専用であるため盾付き。
パイルバンカーやローラーダッシュなど様々な機能を備えている。


715 : 名無しさん :2019/05/28(火) 21:09:26 pxQl7SR.0
投下終了です


716 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:44:42 QrCzd1sw0
皆様投下乙です

私も投下します


717 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:48:56 QrCzd1sw0


上杉風太郎の受難






時折、学生が一人で食事をとることをボッチ飯と揶揄するのを耳にする。
なんでも、食事は皆で食べるから楽しい、相席する人がいない奴は友達もいないという価値観かららしい。

だが、俺は一人の食事は嫌いじゃない。むしろ好きだ。
というのも、食事の本来の意味とは空腹を満たし栄養を補給することだ。
だらだらと意味のないお喋りに興じ箸が進まないのも、周囲の顔色を伺って縮こまり食事で得る栄養を浪費するのは無駄といえるだろう。
では食事で摂取したエネルギーはどう消費するか。
俺の場合は勉強だ。食事の傍らでテストの復習を兼ねれば純粋に実力に繋がり、現状維持(100点満点中100点)にも繋がる。
複数人で食事をすることを否定するつもりはないが、有意義にさえ使えば一人飯も素晴らしいものなのだ。

少なくとも。

『ねえ明ちゃんは女の子のパンツは何色派?』『黒は王道でエロティックさが』『白は清純さと純粋さのハーモニーが』
『赤は燃える情欲を掻き立てられるよね』『紫はとめどない性欲かな』
『僕は色そのものよりも女の子自身が悩み選んだものを恥じらいと共に見せ付ける様が好みだけれども』
「......」
『アレッ、睨まれちゃった』『どうにも僕は嫌われちゃったみたいだね』
『上杉くん』『君からもなにか話しかけてみてくれよ』『なに』『僕は口下手だから中々心を開いてくれないけれど』
『頭のいい上杉君なら明ちゃんもきっと打ち解けてくれるはずさ!』


一人であれば、こんな無茶振りをさせられることもないのは確かだ。


718 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:49:45 QrCzd1sw0



―――時は数刻前に遡る。

『ねえ上杉君』『さっき砂漠の夜が冷え込むのは掻いた汗が冷えるからだって言ったよね』
『なら汗さえなければ寒さもなかったことに出来るはずじゃないかな』
「正確にはそれも要因のひとつだ。砂漠自体、水分が少ないせいでどうしても昼と夜の温度差は激しくなるんだよ」
『ああなるほど』『つまり僕らにできることはないわけだ』

俺達は砂漠の夜風に煽られ身を震わせていた。
初めての砂漠だが、汗云々を抜いても普通に寒い。
これで、大学の入試で砂漠が寒い理由について出題されても間違えようがないな。
中野姉妹(あいつら)にもスムーズかつ説得力ある教え方ができるだろう。よかったな、俺。

それにしても、ここまで同行している男、球磨川禊を観察してみてわかったことがある。

球磨川は自分を『弱い』と自虐していた。
初めはこいつなりの謙遜かあるいは特定の誰かと比べて弱いという意味合いなのかと思い流していた。
だが、それは本当だった。戦い慣れているかどうかはまだわからないが、少なくとも体力に関してはかなり低い。
俺も体力に関しては相当劣っているが、こいつはそれ以上だ。
たった数分の移動だけで、この俺にすら気がつけば置いていかれかねないほど息を乱し汗をかいていた。
下手に動きを止めればそれこそ凍死するのではないかと心配になるほどだ。
『ひょっとしてこいつは『大嘘憑き(オールフィクション)』が無ければ相当の雑魚なんじゃないか―――って顔をしてるぜ上杉君』

俺の思考を勝手に読むな。...まあ、あながち的外れでもないが。

『それには心配及ばないさ』『僕は確かに脆弱で惰弱だけれど』『最強の日本人江田島平八とは真逆の地球上で最も弱い生物だけれど』
『戦闘において『大嘘憑き(オールフィクション)』みたいな面白手品を当てにしたことは実はそんなにないんだぜ』

球磨川は相変わらずの笑みを浮かべながらそう言ってきた。
まあ、確かに『大嘘憑き(オールフィクション)』を抜きにしても、俺を一瞬で固定した手際からして、少なくとも素人の俺よりは戦闘面で頼れる奴なのは疑いようがない。

「...けど『大嘘憑き(オールフィクション)』がなかったら俺と出会った時にあの爆発でもう死んでたよな」
『うわっ上杉君ほんとデリカシーないね』『せっかく僕が括弧つけたんだから正論で否定するよりも拍手の一つでも送ってくれよ』
「あー、悪かった。次からは気をつける」

あと球磨川の扱い方もなんとなくわかってきた。
こいつとはマトモに接するよりも、それなりに適当に接する方がやりやすい。

こんな会話を交わしつつ、俺と球磨川の虚弱コンビがようやく砂漠を抜けられそうになったその時だ。


719 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:50:31 QrCzd1sw0

オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ

そんな轟音と共に、一際強い風が吹き、舞い上がる砂塵が俺達の視界を塞ぐ。
風はほどなく収まり、砂塵もあっという間に消え俺達の視界も晴れる。

その先で。

ズズッ、ズズッ、となにかを引きずるような音と共にこちらに向かってくる影が一つ。

速度は大したことはなく、俺達が歩いている速さとあまり変わらないが、それがかえって緊張感を誘う。
見たところ、足を引きずっているようだが、怪我人だろうか。

程なくして、月光に照らされ影の正体も露になる。

その正体は男だった。

無精ひげを生やし、冷たく鋭い目つき、そして隠しようのない額から斜め一文字に走った傷跡が特徴の男だった。

「聞きたいことがある」

男が徐に口を開くと同時、俺の身体は反射的にビクリと震え身構えてしまう。
男が発する威圧感に圧されたのだろう。
そんな俺に反して、球磨川は変わらぬヘラヘラ笑顔のままだ。

『おいおい』『聞きたいことがあるならまずは名乗れって少年ジャンプで習わなかったかい?』
『自分の名前も教えず欲しいものだけ貰おうなんて礼儀知らずにも程があるだろ』

重ねてそんな挑発的なことまで言ってのける。
正論ではあるがお前が言うな球磨川禊。


720 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:51:04 QrCzd1sw0

「...宮本明だ」
「俺は上杉風太郎です」
『僕は名簿に載ってる球磨川禊の弟・球磨川雪(そそぎ)だよ』
「は?」
「......」
『...球磨川禊でーす』『よろしくっ』

宮本明と名乗った男にスルーされたのがこたえたのか、自分のついた適当な嘘をなかったかのように扱う球磨川。
...案外、こいつは相手にされないのが苦手なんだろうか。

「雅という男、そして鮫島という大男と山本勝治という小学生を探している。彼らに見覚えはないか」

そう切り出してきた明の言葉に、俺と球磨川は互いの顔を見合わせる。
俺達二人が出会うまでに誰かに出会ったか―――答えはNoだ。
OPが始まってすぐに、球磨川が自分の支給品を確認している最中に暴発し死に掛け、俺はその現場に居合わせたのだから。
その反応で察した明は、そうかと呟くなり、再び歩みを進め、なにをするでもなく俺達の横を通り過ぎていく。

「待ってくれ」

俺は振り向き慌てて呼び止めた。明には聞きたいことがあったからだ。

「ここには俺達の知り合いも巻き込まれている。あんたは―――」
「悪いが、俺が出会ったのはクラゲみたいな格好をした妙な怪物だけだ。人探しなら他をあたれ」
「そ、そうか...」

明が俺達の知り合いに会っていなかったという事実に俺は落胆してしまう。
が、しかし話はまだ終わっていない。
この広い会場でいきなり目撃情報が手に入る確立は低いので、本命はそちらじゃない。

「宮本さん。人を探しているなら俺達と協力しませんか?」

本命は明と協定を結ぶことだ。
明は探し人がいる上に、俺達みたいなまさに一般人な奴らをスルーしようとした。
つまり、この殺し合いに乗り気ではないということだ。
生憎、実戦経験のない俺では明の実力の程はわからないが、少なくとも俺達二人よりは強いはず。
共に行動するにせよ分かれるにせよ、この男と手を組めれば中野姉妹や球磨川の知り合い含む俺達の生存率は上がる。
故に、この機を逃す訳にはいかないが...


721 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:51:51 QrCzd1sw0

「すまんが人助けには興味がない。鮫島も勝っちゃんも強い奴らだ。そう易々とは死にはしない」

振り向きもせず、歩みを止めることもしない明に、俺は思わず言葉を詰まらせてしまう。
当然だ。明からしてみれば、俺達はただの弱そうな一般人。
手を組むメリットなどほとんどないだろう。

ならばメリットを提示してやればいい―――だが、どうやって?

この殺し合いから抜け出す術を知っているとでも言うか?
いや、まだなにも掴んでいないこの状況で、証拠を見せろと問われ、嘘だと判明すればそれこそ最悪だ。
明からの心象は悪化し、最悪、二度と俺達に協力しなくなる。

それともしがみついてでも助けを請うか?
いや、それこそ足手まといだと切り捨てられてもおかしくない。

...そうだ。下手に足掻けばそれだけ明からの心象は悪くなり、変に関係を拗らせるだけじゃないのか?
ならば、明に俺達の知り合いの名前だけを告げ、明があいつらに出会えたとき、自分達があいつらを探していることを伝えてもらうだけに留めるのが吉なんじゃないのか?

そうこう考えている間に、明の背中はゆっくりと遠ざかっていく。
仕方がない。せめてあいつらの名前だけでも伝えておこう。
俺が内心でそう決めたその時だ。

『あーあ』『取り付くシマもなかったね』
『なら』『僕達は腹いせに明ちゃんの言ってた奴らを虐めてみようかな』

この過負荷がそんなことを俺に囁き出したのは。


722 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:52:34 QrCzd1sw0

ピタリ、と明の足が止まるのにも関わらず、球磨川はペラペラと言葉を紡ぎだす。

『うん』『こうも相手にされないんじゃ仕方ないよ』『僕らは僕らにできることを』
『眼前の僕らを無視するなんて前時代的な虐めを仕掛けてくる明ちゃんの目を引ける為にベストを尽くすとしよう!』
「お、おい球磨川?」
『なに呆けた顔をしてるのさ上杉君』『これは君たちの為の提案でもあるんだぜ』
『明ちゃんの言ってた奴らはきっと僕らより強いんだろう』『弱い僕らからしてみれば大変な脅威になってしまう』
『ならそんな強そーなのは残しておくべきじゃない』『万が一の時のことを考えればね』
『だから』

その先は紡がれなかった。
10メートルは離れていたであろう距離をひとっ跳びで詰めた明が球磨川の襟を掴み、己の方へと振り向かせ胸倉を掴みあげたからだ。

「どういうつもりだ」

明のただでさえ鋭かった目付きは更に鋭さを増し、素人でも感じ取れるほどの敵意と殺気が滲み出てきた。

『どういうつもりもなにも』『明ちゃんが僕らを無視するからこうなったんだろう』
『僕みたいな弱い奴を』『僕のような過負荷(マイナス)を野放しにするっていうのはこういうことなんだぜ』

だが球磨川は笑みを崩さない。相も変わらずヘラヘラとしている。

『きみさえ僕に冷たくしなければ』『きみさえ僕に少しでも向き合ってくれれば』
『僕はこんなことを思いつきもしなかっただろう』
『だから』

『僕は悪くない』

そして極めつけのこの言葉。

明も俺も目を見開いた。
明は怒りに。俺は奴の言葉への理解に。


723 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:53:09 QrCzd1sw0

明は球磨川の胸倉を掴んだまま、空いた左拳で球磨川の顔面を殴打した。
たった一発で球磨川はぐるぐると目を回し、あっさりとK.Oしてしまった。
明はそんな球磨川に気づいてか気づいていないのか、再び拳を握り締めた。
俺は慌てて明の腕を掴み静止の声を挙げた。

「落ち着いて宮本さん。殴りたくなる気持ちは痛いほどわかるがそこまでにしてやってください」
「......」

ジロリ、と俺にも敵意の篭った眼差しを向けられるが、ここで引くわけにはいかない。
これは俺達に、ひいては明の今後にも影響を及ぼしてくるかもしれないからだ。

「さっきの跳躍から見て、宮本さんがかなりの実力者であり、さっきの対応は俺達との関わりを断つことで余計な荷物を減らそうとしたのは察せます」
「けど、俺達が巻き込まれているのは『殺し合い』です。それも、大多数が知り合いですらない奴らとの」
「そんな中でのさっきのあなたの行動は危険すぎるんです。もしも俺達じゃなくて、俺達みたいな弱者のフリをした狡猾な奴らだったら、球磨川の言ってたことも実現してしまうかもしれない」
「時間が惜しいのはわかります。けれど、いま目の前にいる人間は本当に信用できるかどうか。自分が情報を渡しても大丈夫な奴らかをあなたがあなたの目で見て判断しなければいけないんです」

俺は球磨川の言動に隠された考えを必死に明に伝えた。
球磨川本人がどこまで考えていたかはわからないが、大きく外れていることはないだろう。頼むからそうあってほしい。

「......」

明が俺を睨みつけ、無言の空気が流れ始める。
俺の鼓動がドキドキと波打ち、ハァハァと息は荒くなり、緊張感は更に増していく。
頭が痛い。胃が締め付けられる。吐きそうだ。
でも、目を逸らすわけにはいかない。

経過したのは秒か分か時間か。それすらもわからない沈黙の果て、明はふぅ、と小さく息を吐いた。

「お前の言うとおりだ。俺の考えが甘かったようだ。まずは相手を見ながらしっかりと情報を共有しよう」

球磨川を解放した明を見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。
一時はどうなるかと思ったが、ひとまずは丸くおさまったようだ。
後は明が俺達を信用してくれるかどうかだが、俺は明を信用していいと思っている。
それは、明が見せ付けた強さなんかじゃない。
球磨川が仲間を傷つけると言った時のあの鬼気迫る表情を見てだ。

明の本音を引き出したという点では、球磨川に感謝するべきで、悪役を押し付けてしまったことに謝罪すべきなのかもしれない。

『はっはっはっはっ』『どうやらこれで一件落着だね』
『これでこの殺し合いに反する仲間が増えた訳だし』『僕らの仲間もより安全になったわけだ』
『いやあ』『嫌われ役冥利に尽きるよ』
『さあ!僕と固く熱い握手を結ぶとしよう明ちゃん!』『本音でぶつかりあった僕らはもう友達さ!!』

前言撤回。こいつはあと2・3発殴られて然るべきだ。


724 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:53:33 QrCzd1sw0



そして冒頭の食事を兼ねての情報交換に至る。

信頼関係を築くのは俺の苦手な分野だ。
長期的に見てならまだやりようがあるが、こんな状況且つ短時間ならなおさらだ。
そのせいか、明が情報を明かしながらも俺達に心を許さずこちらを警戒しているのは手に取るようにわかった。

ただ、それでも彼が雅という男を心底憎んでいるのはよくわかった。
しかも信じられないが、その雅という男は吸血鬼とかいう不死身の怪物だそうだ。
けど...

『明ちゃん漫画の影響を受けすぎじゃない?』『今どき吸血鬼なんて僕達インフレ上等シュール系能力バトル漫画でも見かけないよ』

本当に言いづらいことを平気でツッこんでくるなこいつは。
ただ、現代社会の都会において暮らしている俺が、日本のほとんどを支配したという吸血鬼を知らないというのもおかしな話だ。
明の目を見るに、妄想に陶酔している類の話とも思えないが...

明はそんな俺達に驚いたような表情を見せるが、すぐに眼を閉じ立ち上がった。

「俺の持ってる情報はこれだけだ。信じないのはお前達の勝手だがな」
『いや信じるよ。こんな状況で意味のない嘘を憑くような男じゃないと僕は信じているからね』
「さっき突っ込んだのはどこのどいつだよ...まあ、俺も同じ意見ですよ宮本さん」

明の話が嘘であれ真であれ、雅がとんでもなく強く危険な男であるのは間違いないようだ。
そんな奴に絡まれた日には命が幾つあっても足りないだろう。できるだけ遭遇は避けるのが吉だ。

まあそれはひとまずおいておいてだ。

「...それで、明さんはどうします?俺達はこれからPENTAGONを目指す予定ですけど」

個人的には明には同行してもらいたい。
この会場に雅のような輩があと何人いるかわかったものじゃない。
それに、殺し合いから抜け出すというのなら、当然、主催であるBBとの衝突もあるだろう。
その際に明が傍にいればなんと心強いことか。

ただ、明の同行が全て吉に傾くかといえばそういうわけじゃない。
俺たちはもともとPENTAGONにはバイクで向かうつもりだった。
が、バイクの定員は二人。俺以外の二人が妹のらいはくらい小さければ、少々危険を冒せば三人いけるかもしれないが、男三人ではどう頑張っても無理だ。
つまり徒歩での移動を余儀なくされる。

戦力か、移動時間の短縮か。

そこを決めるのは俺じゃない。

「俺は―――」

明の出した答えは...


725 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:54:39 QrCzd1sw0




宮本明の懐疑



上杉と球磨川との情報交換で俺は違和感を抱いた。

二人はれっきとした日本人でありながら、雅の名前はおろか吸血鬼の存在すら知らなかった。
あの日本全土を恐怖と混乱に陥れている吸血鬼をだ。

確かに吸血鬼ウイルスがばら撒かれてまだ1年と経過していないが、それでも吸血鬼は誰もが存在を認知している。
そんなことがありえるのか?

...そういえば、映画や小説なんかではよくパラレルワールドという題材が扱われる。

自分の世界とは別にもう一つの現実が並行して存在しているという説だ。

例えば俺は今でこそ吸血鬼を殺せる力を身につけたが、別の世界の俺は虫一匹殺せないただの小説家かもしれないし、あるいは大学にでも行ってまだ学生を続けているかもしれない。
それこそ、上杉たちと俺が住んでいる世界が違うとしたら、彼らの世界には吸血鬼という概念そのものがないのかもしれない。

...もしかしたら、BBの言っていた願いを叶える方法とは並行世界を使うということじゃないのか?

俺が優勝し、兄貴を生き返らせてほしいと願ったとしよう。
だが、その兄貴は本当に俺がこの身で戦い、この手で殺した兄貴なのだろうか。
吸血鬼が存在しておらず、ケンちゃんや西山たちが誰も欠けていない世界の、なんの変哲もない兄貴なんじゃないだろうか。
そんな兄貴が今の俺を見たらどう思うのか―――いや、そんなことはどうでもいい。
たとえ役立たずの救世主でも、失ったものは数知れずとも、師匠や冷たち彼岸島のみんな、新田親子にヨネさんたち大阪の連中、鮫島と勝っちゃん達との出会いまで否定したくはない。

とにかくだ。
BBの言っていたなんでも願いを叶える方法とやらはますます胡散臭くなってきた。
だが、この可能性を徒に広める必要はないだろう。
並行世界の可能性があるということは、逆に言えば参加者間でもその可能性があるということ。
並行世界の人間だから殺しても構わないと考える人間が出る可能性は出来るだけ摘み取っておくべきだ。
そんな輩は必ず雅に利用され俺の邪魔をするからだ。

...さて。並行世界のことはひとまずおいておくとしよう。
いまの俺に与えられた選択肢は、上杉と球磨川と同行するかどうかだ。
ハッキリ言ってこの二人に戦闘力は期待していない。
おおよそ平和な世界を生きてきた連中だ。
自分が危機に陥ったところで、勝っちゃん達のように自衛のために戦えるかも疑わしい。
こと戦闘においては足手まといもいいところだろう。
単純に人探しの効率化も考えれば、別れて行動するべきだ。


726 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:54:58 QrCzd1sw0

が、上杉はともかく球磨川は放置しておくには危険だ。
俺は笑顔を常に浮かべる人間は信用しないが、それだけじゃない。
上杉は球磨川の発言を、俺を釣るための嘘だと思っていたようだが、それは半分だけだ。
あいつは半分は本気でやるつもりだった。奴の目を見ていてわかった。
無論、勝っちゃんも鮫島も球磨川に負けるとは思えないが、それでも球磨川からは危険な匂いがした。
弱いはずなのに、敵に回すと厄介なことになる。俺はそう直感した。

本来ならばたたっ斬ってやりたいが、それでも球磨川は『人間』だ。
吸血鬼や先のクラゲのような人食いの化け物ではない。

人間である以上は、実際に害を出さない限りは斬らないつもりでいる。
自分の行動の都合上、見捨てることはあれど、気に入らないからと言って殺せばそれはもう雅と同じだ。

人間が嫌いだからと全てを滅ぼそうとする、思春期のまま孤立してしまった俺と同じだ。
そこは決して超えてはいけない線引きなのだ。

それを踏まえたうえで、俺は決めなければならない。

このまま一人で雅を探すか、球磨川を監視するために同行するか。

「俺は―――」


727 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:56:10 QrCzd1sw0



『球磨川禊は歓迎する』




『さて』
『ここまでの流れを誰かが見ていたら僕の行動を不思議に思うだろう』
『僕が明ちゃんになんでここまで構うのかをね』

『いや僕自身もいまはまだわからないんだよ』
『明ちゃんは普遍的に考えれば僕の嫌いなエリート側だ』
『優れた身体能力』
『修羅場を潜り抜けてきた幸運と努力で培った実力』
『まだ見てないけれど人望の厚さ』
『何れも過負荷(ぼく)が持っていない能力だ』

『でもね』
『これから先』『明ちゃんのことを知る機会があれば僕も理解できるだろう』
『彼は過負荷(ぼく)寄りだ』『いまでさえ隠し切れないほど全身から過負荷(ふこう)の気配が漂っている』

『友達が出来た傍から全てを失っていく』
『努力できるのになにも報われない』
『勝利してるのになにも手に入れられない』
『そんな他人も巻き込んだ過負荷(ふこう)の寄せ厚めだ』

『いやあ凄いよ!』
『安心院さんは最後に勝つのは能力がある奴だというのが現実だと言っていたのに』
『明ちゃんは能力があるのに負け続けているんだもの』

『だからだろうね』
『可愛い女子でもない彼に』『パンツを見せられたところで嬉しくもない男に』『弱いという単語が似つかわしくない彼に』
『いくら冷たくされても』『いくら敵意を向けられても』
『僕が彼にここまで構おうとするのはさ』

『だから大丈夫だよ明ちゃん』
『いまは僕を嫌いでも』『過負荷(じぶん)を直視するのがイヤでも』
『過負荷(ぼく)を隣人のように受け入れられればきっと今よりも楽になれる』
『僕らはきっといい過負荷(ともだち)になれるよ明ちゃん!』


『うん?過負荷を増やせばめだかちゃん達に怒られる?殺し合いの最中にやられちゃたまったものじゃない?』
『はっはっはっ』『きみもわかっていないね』
『たとえ改心しようがボスキャラから味方側のキャラにジョブチェンジしようが僕は球磨川禊だ』
『球磨川禊は何時いかなる時でも過負荷の味方で』『見方によってはあっさり正義の敵にも成るのさ』
『つまり明ちゃんが過負荷を望めばそれに応えるのが僕で』『全ての人を+(しあわせ)にしようとする会長(めだかちゃん)の対抗勢力である副会長(ぼく)なのさ』

『だから』
『僕は悪くない』


728 : なんやかんやで第一印象は結構大事 ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:56:40 QrCzd1sw0


【D-7・砂漠付近/1日目・黎明】


【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(小)球磨川への不快感及び嫌悪感
[道具]:基本支給品一式、宇髄天元の日輪刀@鬼滅の刃、不明支給品0〜4
[思考・状況]
基本方針:雅を殺す。
0:球磨川と上杉と共に行動するか一人で行動するか...
1:雅を殺す。その後の事は雅を殺した後に考える。
2:鮫島、勝っちゃんとの合流。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。


【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:学ラン、螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:『とりあえず上杉くんについていこうかな』
3:『明ちゃんとはいい過負荷(ともだち)になれそうだなぁ』
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。


【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:一花、二乃、三玖、四葉、五月との合流。
2:PENTAGONを目指す。砂漠から出てバイクによる移動計画中。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。


729 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/05/28(火) 21:57:07 QrCzd1sw0
投下終了です


730 : 名無しさん :2019/05/28(火) 22:55:15 d18SkTuo0
確かに明さんって雅を倒しても得られるものも返って来るものも何一つないんだよな
仮に生還できても元世界の仲間は役立たずのネズミだし


731 : 名無しさん :2019/05/28(火) 22:56:38 I.I1f62U0
加藤がいるだろ!と思ったけどやっぱ役立たずだった


732 : 名無しさん :2019/05/29(水) 13:53:37 iY.WsrIg0
投下乙です

>姉弟
4話時点の七花じゃ七実に勝てるはずがない。
刀勢は三人とも危い状態だな。やっぱりアマゾン作った仁さんが悪い。

>もがき続けてCrazy.Crazy.Crazy
変身した状態とはいえ鯖と渡り合うとは流石RUDE BOYSのリーダー。
武蔵ちゃんは説得する気みたいだが、既にコブラを殺したスモーキーに言葉が届くのだろうか。

>上田次郎のどんと来い、鬼退治
上田先生が争いを止めた…だと…!?ドッキリだと勘違いしたままだと余計ないざこざにも発展しそうだが…
沖田さんは安定の強さ。二乃が姉妹の死を知った時支えになって欲しい。

>慕う者たち
女番長ぐだ子があんまり違和感無くて草。「カルデアの祭りは藤丸通せや」とか言いそう
村山さんは再起するきっかけになったコブラの死をどう受け止めるんだろう…

>なんやかんやで第一印象は結構大事
クマーがいつも通り過ぎてフータローの胃が心配になってくる。彼岸島に居た頃ならともかく、48日後の明さんは一般人にも素っ気無いからなぁ
先生ェの作風のせいでギャグ漫画になってるけど、「友情、努力、勝利」が空しく響く主人公はそういない


733 : ◆CByzAdkqrc :2019/05/29(水) 16:47:36 AJGybgFc0
雅様、煉獄さん、人吉庶務を予約します


734 : 名無しさん :2019/05/29(水) 22:32:48 kreGkmaU0
>>732
「カルデアの祭りは藤丸通せや」で草
カルデアと達磨一家、似たようなものだし仕方ないね


735 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:02:36 hjgf68mM0
>>619に、中野二乃、沖田総司を追加して投下します


736 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:05:40 hjgf68mM0



【一】



私達五つ子は、全員見た目が一緒だ。
一花、二乃、四葉、五月、そして私、三玖。
体重も、体型もきっかり五等分。
ほんとは嘘。体重と胸囲はそれぞれ一人抜け駆けしてる。誰かは言わないでおく。
でもそれ以外はみんな同じ。髪型を揃えると家族以外には見分けがつかない。
ある日を境に、見た目や性格にそれぞれ個性が分かれてきたけれど。
度々入れ替わっても気づかれないくらいに、私達はそっくりだ。


でもいま目の前で横たわる四葉は、私達とは似ても似つかない姿をしていた。


まるで人の形をしたプリンをスプーンでひと掬いしたみたいな、不出来な造形。
そんな出来の悪い、かつ趣味の悪い壊れたモノに、私は目を逸らすことができない。


だって―――これは四葉だ。
見違えるような顔でも、どんなに変わり果てても、ずっと過ごしてきた家族を見間違えるはずがない。
五つ子の中で一番元気で、いつも自分以外に気を配って、そのせいで損ばかりしてきた子。
初めて覚えた恋の感情に、臆病になっていた背を優しく押してくれた人。
違うものとして見ることなんか、していいはずがない。


ああ。でも、だからって。
これはあまりにも違い過ぎる。
あまりにも私達から、人の姿から外れ過ぎている。

光の失せた瞳は、姉妹の誰にも映ったことのない濁りに染まっている。
顎の下から胸はまるごと抉り取られて、腹の底まで見えている。
髪と眼以外の、人を判別するパーツの大半がどこかに消え失せてしまった。

これじゃあ五つ子だなんて言っても誰にもわからない。同じ人と認識すらしてもらえない。
知らなかった。知りたくなかった。
自分の一部みたいに思えた大好きな姉妹が、尊厳なんてものを尽く奪われたカタチにされたら―――こんなにも■く見えるなんて。


……それとも、とふと思う。
よく見ていなかっただけで、中野四葉という人物ははじめからああいう姿をしていたのか。
恐る恐る、自分の指を首の下へと触れる。
そこには、四葉にはない部位の、肉と骨の感触がした。
そのまま下に向けて這わす。柔い肉、深い隆起。
どれもあの四葉にはないものだ。


737 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:06:15 hjgf68mM0


四葉と私は五つ子の姉妹で、見た目は他人に区別がつかないくらいそっくりで。
だから、四葉にないのなら、私にもあっちゃいけないものだ。
さっきまで当たり前に自分に張り付いていたものが、急に悍ましいものに感じる。引き剥がしたくて仕方がない。
けど摘んでも、引っ掻いても、不要な肉は完全に癒着して離れない。
まるで、それが生まれた頃からあった私の体だとでもいうように。
私は我慢ならず、四葉と同じになる為に、首に爪を立てて思い切り―――――――――




「三玖!!」




立香に呼び止められて、浮遊していた意識は地の着いた現実に引き戻された。

「……立、香?」

……鮮烈な痛みに目がくらむ。
立香が掴んでる、爪が真っ赤に染まった自分の手。
首から滴り落ちる水で濡れた、赤い染みが目に映る。
そこで漸く、自分の爪で自分の首を掻き毟っていたのに遅まきに理解した。

「落ち着いて、三玖。とにかく傷を手当てするからこっちに……」

立香が何かを言っているけど、よく聞こえない。
考えがまとまらない。傷は熱を伴ったみたいで、痛みで思考が攪拌されてる。
ミクニも、猛田も、全てが等しくどうでもよく思える。
ただ今は、四葉に近づきたい。
霞がかった頭でふらふらと足を前に進めようとして、それを、手を掴んだままだった立香が引き留めた。

「離して」
「三玖」
「お願いだから離して、立香」
「だめ、行かせられない」
「離して、よ……!」

無理やり振り払おうと力を込めたが、拘束は解かれない。
大きさも重さも大差はないのに、抜けようと足掻いても立香の体はびくともしない。
それどころか空いた方の手で体を抑えられて身動きが取れなくなった。

「そこにいるの。だって。四葉。そこに。いるの、に―――」


738 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:07:39 hjgf68mM0


唯一自由な手だけが虚しく宙を上下する。
言ってることはなにもかもめちゃくちゃで。進んで、そこでどうするかすら浮かばないのに。
意味もないまま前に進もうとあがき続ける。

「よつばぁ……!」

掴まり一向に前に行かない足が何度も地面を踏み鳴らす。
そんな微かな振動だけで、


元々皮一枚で繋がっていた四葉の首がくず折れて、もう何の色も宿っていない眼球が、ぐるりと私の方を見た。





「―――――――――――――――――――――ぁ」





ぶつりと、支えていた糸が切れる。
体も、心も、そこで限界だった。
臨界を越えて溢れる波に意識が呑み込まれる。
自由放棄。崩折れて床に倒れる全身は、自分以外に受け止められた。


「っ!ふたりとも、救急箱探してきて!なければ綺麗な布でもいいから!」
「ああ!」
「わ、わかった……!」


焦りながら指示する声。
ばたばたと慌ただしく駆ける足音。
めまぐるしく変わっていく光景を、まるで他人事みたいに虚ろな目が映している。


「あったぞ、救急箱!」
「でかした!猛田!」
「ありがと!じゃあ手当ての間誰か外を見ていて―――」


やがて、とうとう視界も落ちる。
耳も聞こえなくなり、肌も触れたかわからない。
世界との繋がりが断線されていく。
……ドロドロに融けて半端に固まった、出来損ないのチョコレート。
意識が落ちる最後の瞬間まで、ずっと胸の奥にへばりついていたのは、そんな感情だった。


739 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:08:22 hjgf68mM0






【ニ】




「城戸さん、立てますか?」

ボロボロの姿で膝をつく真司に、さらにボロボロの炭治郎は気絶した一花を抱えながら手を差し出した。

「君の方こそ傷だらけで大丈夫かい?俺は変身してたから平気だけど……」
「痛みますけど、動けます。鬼と戦えるよう鍛えてますから」

額に血の跡を残しながら、きっぱりと炭治郎は言った。
ライダーという鎧があった真司と違って生身で戦った炭治郎を心配するが、二人の生身での頑健さでは大きく開きがある。
一回りほど年齢の差があるのに変身した真司達の戦いに入り込めていたのは、今でも信じられない気持ちだ。

「なら、その子は俺が抱えるよ」
「いえ、俺は刀が折れてしまったから戦えないので、城戸さんは周りへの警戒をお願いします。
 いざという時の為に一花さんだけでも逃がせるようにしないと……」
「子供がそんな無理しなくていいよ。今だって辛いんだろ?」
「いえ、大丈夫です!」
「やせ我慢しないでってほら!」
「いえ!本当に!無理してませんので!」

お人好しと頑固が合わさった、俺が俺がの堂々巡り。
結局花が不快そうにうなされているので真司が諦めて炭治郎に託すことにした。

確かに炭治郎は疲れている。
体には戦いの熱がまだ残ってる。
息は荒く、呼吸は乱れてる。
斬られ、裂かれた全身の痛みは引いていない。出血が止まってない箇所もある。

それでも今、ここで立ち止まる訳にはいかなかった。
一花を安全な場所まで運び、手当てをしなければならない。
五月を殺し、これからも人を殺し続ける千翼を止めなければならない。
遠く、険しい道程に足が重くなる。挫けるわけにはいかない。


「――――――ッ」


ひゅう、と身を抜けた風に目をしかめる。
傷に触れたからじゃない。
風に乗って流れ匂いを、鼻が感じ取ってしまった。
この匂いを炭治郎は知っている。何度も感じ、慣れる事のない匂いは。


740 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:10:15 hjgf68mM0


「蓮のやつ、ちゃんと逃げ切れたかな」
「蓮、さんは……」
「ん?」

何気ない真司の言葉が炭治郎に突き刺さる。
伝えなくてはいけない。
教えなくてはいけない。
隠しいていも意味はないし、壊滅的に炭治郎は嘘が下手だ。
それになにより。蓮の友人である真司に嘘をつくことは出来ない。

「さっき……匂いがしました。蓮さんの匂い。致命的な量の、血の匂いが」
「…………そっか」

溢れる声は、静かで素っ気ない。
炭治郎は何も言わない。
感じているからだ。言葉に出ずとも、言葉にならない、悲しみの匂いを。

「俺に死ぬなって言ったくせに……。
 俺だって、お前に生きろって言ったのにさ……」

顔を上げて空を睨む真司。
拳を固く握りしめる後ろ姿に、炭治郎の心は曇りに囚われた。
どうしようもない無力感に歯を軋らせる。
折れるな、挫けるなと自分を叱咤する。


「おい!さっき空を飛んできたのってアンタ達か!」

そこに飛び込んできた、第三者の声。
三玖を立香に任せ、玄関前に立って外を見張っていたミクニだ。
空を一直線に横切る黒い影―――真司を抱えたダークウイングを追ってここまで追ってきたのだ。

無警戒に近づいてくる、加えて敵意の匂いのしないミクニに警戒を解き、炭治郎は受け答えた。

「はい。飛んできたのは俺達です。正確には大きな蝙蝠に掴まれてですけど……あれ、そういやどこ行った?」
「そうか。ん?その子……え!?三玖さん!?」
「え?」

炭治郎が抱える一花を見て、ミクニは素っ頓狂な声を上げた。
それもそのはず。卒倒し立香が看ているはずの女の子と瓜二つの顔が、初対面の少年に抱えられていたのだから。

「この匂い……一花さんの姉妹と会ってるんですね!」

炭治郎はミクニの傍から彼以外の、一花と似た匂いから直感的に解答にたどり着いた。
それも比較的濃い。今までずっと行動していた証だ。
匂いの元にある、ミクニが来た方に視線を向ける。
そこにいたのは少女―――ではなく。
眼鏡をかけた少年が、余裕を持った風に歩いてきた。


741 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:11:11 hjgf68mM0


「やあ、初めまして。まずは落ち着いて話を聞いて欲しい。先に自己紹介していいかな。俺は猛田トシオという。
 ああ安心して欲しい。俺は君達に危害を加えるつもりなんてないよ。もしそのつもりなら何も言わず後ろから不意打ちをした方が遥かに効率的だからね。
 そして俺が君達を危険人物だと思わなかったのにも根拠がある。気絶した女の子なんて殺し合いではお荷物にしかならない。まして傷だらけの状態でも抱えて行動してるって事は、ある程度君達には信頼関係が成立してると判断したんだ」

(うわあ。凄いなこの人、嘘を言う匂いにまみれてる。初対面で申し訳ないけど)

炭治郎でなくても胡散臭く感じる事請け合いの印象だ。
余裕を見せているのも虚勢で、ここまで見え透いていると逆に安心さえもする。
危害を加える意思は感じないし、いま来た少年と一緒に来たなら大丈夫だろう。
炭治郎はひとりそう納得した。

「俺は竈門炭治郎です」
「おう、俺は若殿ミクニだ」
「俺は城戸真司。よろしく、ミクニくん」

ベラベラとまくし立てる猛田を尻目に、残り三人は早々に名乗り合って友好を結んでいた。
全員が言葉の駆け引きより真っ直ぐな付き合いをする性格なのが幸いしたといえるだろう。
ひとり場違いに取り残される格好になった猛田だが、友好的なら越したことはないと切り替える事にした。
ミクニがひとり突っ走って、自分の所業を知る女二人の場所に留まってるのが居心地が悪かったわけでは、ない。

「三玖って、一花ちゃんの妹が君達と一緒にいるの?」
「ああ、三玖さんは今あっちの―――」
「馬鹿がミクニ!あそこには……!」

猛田の叱責にミクニも意味を察し、バツの悪い顔で止まってしまう。
しかし最早それは悪運を招き寄せる逆効果にしかならない。

「三玖ちゃんに……なにか、あったのか?」

五月を守れずに失ったばかりの真司にとって、それは禁忌の問いかけだった。
いま一花が気絶していたのは、ある意味幸運なのか。それとも。

「……確かに三玖さんは俺達が保護してます。話も聞きたいし、戻って合流すべきだと思う」

ここまで来たからには引き返せない。
観念したミクニは包み隠さず話す決意を固めた。

「けど……脅すわけじゃないが、覚悟はしておいたほうがいいです。
 特に、一花さんには」

待ち受ける未来を想像して、苦悩に顔を歪ませながら伝えた。


742 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:11:45 hjgf68mM0





【三】




見覚えのない天井が、瞼を開けた目に入った。

「あ、起きた三玖?」

隣からは椅子に座って様子を見ている立香。
上半身を起こして、周りを見渡す。
記憶にない家具と模様。
どうやら、私はベッドで眠っていたらしい。

「あれ……私……」

頭がうまく働かない。
脈絡の無さについていけない。
もしかしたら今まで質の悪い夢でも見ていたのかと想像するけど、そうすると立香がいるのも、私がここにいるのも説明がつかない。
だから、これは単にあれから気絶しただけだと容易に理解して―――

「――――――っ」

どこからかの視線に、身を震わす。
寒気。怖気。
思い出したくもないのに、刻まれた光景は傷になって脳裏から離れてくれない。
そしてずっと見ている。
今も生きてる私を逃さないと、死んだ目で恨めしそうに睨めつけてるのだ……。

「辛いなら、まだ寝ててもいいよ」
「……平気。むしろもう寝れない」

体は怠さは抜けずに休息を求めてるが、寝ていたくないのは本当だった。
今眠ってしまえば、夢の中でも追い詰められそうな気がしたから。

「私、どれくらい寝てた?」
「そんなに長くないよ。もう少しで夜明けってぐらいかな」

カーテンで遮られてる窓からは、僅かに電気の落ちた部屋よりも明るさが漏れている。
あと数時間もあれば日も昇り、外の光も強くなるのだろう。

不意に、放送、という単語が頭によぎる。
あと数時間。それぐらいの時に流れると彼女は言っていた。
色々な情報の他に、死した人の名も挙げられると。


「……ごめんなさい」
「え?」

漏れた謝罪は、何に対してのものなのか。
誰に向けてのものだったのか。


743 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:12:30 hjgf68mM0


「三玖が謝ることじゃないよ。あなたは何も―――」
「何もしてない」

立香より先に、立香が言おうとした意味とは別の意味で口にした。

「私が何もしてないから、四葉が死んじゃった。
 何もできなかった。何も、してあげられなかった」

投げやりだが、本当には違いない。
こんな空間に連れてこられて、今まで何をしてきただろうか。
手を伸ばされて、気を配られて、歩いていただけだ。それだけでも疲れる始末。
私が何もしてない間に、四葉は死んでいた。
想像もつかない残酷なやり口で、あんまりにも酷すぎるカタチにされて。

始めから助ける力なんて持ってないし、探す当てなんかも見つけられない。
役に立つというなら姉妹で一番動けて、誰かの手助けをしてる四葉の方がずっとで、なのにひとりぼっちで幕を閉じていた。

どうして。
私は守られて、四葉は守られなかった。
何故差が生まれたのか。そこにどんな違いがあるのか。
あの子に死ななくてはならない理由があったというのか。
そんな理不尽が許せなくて、この感情をぶつけるべき相手もいない。
矛先を失った拳は自分自身に向かい、ひたすら虐める他なかった。

「違うよ」

深く沈み込む心を、短い一言が掬い上げる。

「それは違う。あの子が、四葉が死んだのが三玖の責任だなんて絶対にない。
 私は四葉の事は殆ど知らないけど、それだけは言い切れる」
「そんなの……」

強いあなたにはわからない―――

最低な言葉を吐こうとしたのを、すんでのところで飲み込んだ。
自己嫌悪で埋まりたくなる。自分を守ってくれてる人に対して何様のつもりなのか。

けど実際言葉にしてみても、立香は優しく受け止めてくれるんだろう。
彼女は優しくて、私のような人にも嫌な顔ひとつせず真摯に向き合ってくれる。
とても嬉しいのに。救われてるのに。感謝してるのに。
向けられた優しさの分だけ、自分への嫌悪が積もっていくんだ。


744 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:13:36 hjgf68mM0



「―――うん、でもちょっとだけ三玖がダメなところもあるかな」


だから、立香からそんな指摘をされたのは本当に意外だった。

「何……が?」
「自分が四葉に何もしてあげられないってとこ」

何を?
わからなかった。
どういう意味なのかわからなかった。

死んでしまった人に、もういない四葉に、私がなにをしてあげられるのか。
四葉に対して、私は何を残しているのか。


「だって三玖――――――泣いてないよ」


「――――――――――――」

答え合わせの言葉に、その時私は言葉を失った。
意外でもなんでもない当たり前を突きつけられたのに、体の芯が痺れるような衝撃が走っていた。

「いなくなってしまった人を思うのは、生きてる人にしかできないんだよ」

立香の目は、もう届かない、あり得ないほど遠い場所を見つめているようだった。
そのまま見ている場所に飛んで消えてしまいそうな、儚くて、弱々しい笑顔。

それだけで分かってしまった。
強い人。どんな困難にも立ち上がり、前を向く人。
折れることなんて知らない印象ばかりだった立香が、そうなってしまうまでに見てきた、取り戻しのつかない離別を。

「死んだ人の気持ちなんか普通はわからないし。
 勝手に私がそう思ってるだけかもしれなくても。
 痛いからって、その人との記憶を忘れてしまうのは悲しい事だって、私はもう知ってるから」
「悲しい――――――記憶――――――――?」

大切な人との別れ。
昨日までいた人が、もう世界のどこにもいなくなる。
その悲しみは、知っている。
平凡な人生で誰もが一度は出遭うそれを、私達姉妹は少しだけ早く経験した。
悲しみは癒えたけれど、何もかも忘れたわけじゃない。


745 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:13:57 hjgf68mM0



仄暗い脳裏に潜む闇を幻視する。
私の知る四葉は、私を恨んでるだろうか?
生きてる人を羨んで、呪いを残していくだろうか?

そんなわけがない。
それだけは必死に否定する。
ずっと一緒に育ってきた姉妹だ。考えなくたってわかる。
皆が皆、大好きに決まってる。
そう思ってるし、思われてた。
自惚れでなく、確信できる繋がりがあった。

「私は――――――そっか、私は…………」

四葉の死を思う。
胸を掻き毟る痛みは、あの時と同じだ。
家族を失った痛み。
大好きな人と永遠に会えなくなる悲しみ。
その感情を、私は、皆は、どうやって溢れさせていただろうか。


「……さっきミクニ君達が戻ってきてね、一花を見つけたんだって」

こちらが少し落ち着いたのを見計らって、立香はそう切り出してきた。

「一花が……?」
「ちょっと怪我してて、今は別の部屋で休んでる。
 治療はしたしすぐに起きると思う」

探し求めていた家族との再会。
本当なら喜ぶべきだけど―――ここで会う意味がわからないほど馬鹿じゃない。

一花とは、あれ以来ギクシャクした関係のままだ。
同じ男の人を好きになった同士での、公平な競い合い。
修学旅行での恋愛戦は、すれ違いの連続で姉妹の絆が引き裂かれる事態にまで発展してしまった。
なにを言うのにも気まずくて、顔も合わせるのも忌避していたかもしれない。……さっきまでなら。

「隠せるものじゃないから、四葉の事は話すつもり。
 キツいと思うけど私の方からなんとか―――」
「立香、お願いがあるの」

半身をベッドから起こす。
頭は正直ふわふわで、心の中はごちゃごちゃになっている。
そんなだから逆に、いつものウジウジした気分は霞んで、やりたいことだけがやけにハッキリ頭に残っていた。

「少し、他の人を家から出して」


746 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:15:02 hjgf68mM0




【四】




「一花。起きて、一花」
「ん……五月ちゃ……?―――っ!」

呼びかける声に目をこする。
無意識の習慣で自分の口から漏れた名前の違和感に、顔に冷や水をかけられたみたいに飛び起きた。

「……三玖?」
「おはよう」
「お、おはよ……え。あれ、ここ……」

目を開けてみれば、いつの間にかベッドに寝かせられていて、隣には探していた姉妹の一人。
混乱だ。混乱の連続だ。
寝ぼけていたのも併せて、喜びより困惑の方が勝っていた。

「……これ、三玖がやってくれたの?」

溢れて止まらない疑問を少しでも解消しようと、頭に手厚く巻かれていた包帯について訊いてみる。

「ううん、立香がやってくれた。
治療用の礼装とか、よくわからないけど手当てしたって言ってたけど、痛くない?」
「ん?……うん、もうあんまり痛みはないかな」
「よかった」

安心して胸を撫で下ろす三玖。
その華奢な首には、白い布が首輪に当たらないよう器用に巻かれていた。

「三玖、それ……」
「これは平気。ちょっと失敗しただけ」

指で擦って三玖はそう言う。
本人が言うには大丈夫、なのだろう。きっと。

「その子も立香……くん?いやそれともちゃんかな?えっと、どっちとも取れそうな名前だなあ」
「立香は女子」
「そっか、その立香ちゃんがやってくれたんだ。後でお礼言わないとね」
「うん、そうして」

何気ない会話。
気心知れた姉妹同士。
それでも、どこか気まずい。気持ちが落ち着かなかった。
そうなる理由は知ってる。他ならぬ私がその原因だ。
三玖の姿を騙ってフータロー君を待ち伏せする前に鉢合わせした。
私がやろうとしているのはそういうことだし、仕方ないとも思う。

けれど、こんな危険な場所で会えたんだから、もっと喜びたかった。
安堵して抱きしめたい気持ちも本当なのに、体が上手く動かない。
おかしいな。なんでこんなことになってるんだろう。
私はただフータロー君が好きで、フータロー君に好きになってほしくてああしたのに――――。


747 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:15:51 hjgf68mM0



「一花。五月に会ったの?」

三玖が口にした言葉が、右往左往していた私の心を釘付けにした。

「な……なんで……?」
「寝ている間、五月の名前を呼んでた。うなされながら」
「―――!」

聞かれていた。
聞かせてしまった。
会ってないって言っても、信じられそうもない。

じゃあ言うの?
五月ちゃんがどんな目に遭って、どうなったかを。
三玖に、私が?

嫌だ。
そんなのは耐えられない。
自分自身の気持ちをどう処理したらいいのかもわからないのに、この上三玖まで苦しめてしまうなんてことは。
だったらどうする?
どうするなんて、そんなの――――――


「うん。会ったよ。五月ちゃんに。
 でもその後二手に別れたんだ。ほら、一緒にいるだけじゃ皆を探せないからさ」


口ぶりからして、三玖はまだタンジロー君達とまともに話していない。
私を看ているだけの今の時間が唯一のチャンスだ。

こんな気持ちを知るのは―――私だって辛いけど―――私だけでいいから。
三玖を守る為に、私は嘘をつき続ける。

「五月ちゃんの方にも頼りになりそうな人がいたし、その方が効率がいいかなって。
 まあそれで私達も怖い人に襲われてこんな目に遭ってるんだけど……あはは、失敗したかな……」

深刻さは見せずに。
わざとらしく明るくならないように。
大丈夫。映画でサスペンスなシーンの経験はある。というか死体役だったこともある。
撮影の時より必死になって自然体を演じる。

あ、でもこれだとタンジロー君や城戸さん達にも口止めしないといけないのかな。
そもそも放送ってのがあるんだっけ。それで呼ばれちゃったら、もうダメなんじゃ?
でももう言っちゃったし、取り消すことなんかできない。
こうしなくちゃ、こうすることでしか、私は、三玖に―――――――――


748 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:17:13 hjgf68mM0





「嘘、だよね」




繕った世界は、たった一言で粉砕された。
三玖は真っ直ぐに私を見ている。
逸らしたくていっぱいなのに、金縛りにあったみたいに動かない。

「嘘じゃないよ……信じて……」
「五月と会ったのは本当だと思う。でもそこから先は違う。一花は大事な事を隠してる」

……怖い。
自分と同じ色の瞳に見られるのが怖い。
嘘がバレたことhrの焦りよりも濃い感情。
三玖のことが怖く思ったなんて、初めてかもしれない。

「たぶん、一花がさっきまでの私と同じ表情(かお)をしてるから、わかるんだと思う」
「え―――?」
「ついてきて」

有無を言わさずに、手を引かれる。
個室を出て、離れた別の個室へ。
そう大きくない民家、電気を消して歩幅が短くても十歩分あれば着く距離。
床を踏みしめてる度に、鼓動が早まる。
甘酸っぱい気配なんて微塵もない。あるのはただ、幸福が壊れる前触れの、濃い血の匂い。


血が滲んで汚れたシーツの下にある、人間大の膨らみ。
匂いの源泉である嫌なものなのは百も承知で、ここに三玖が連れてきた意味がわかってしまって。わかりたくなくて。

立ち尽くす私を放って前に進む三玖。
手を伸ばしても届かない。やめて。
シーツからはみ出たリボンの前で屈んで。見せないで。

「四、葉……………………」


取り払われて見せるのは、見慣れた妹の、見たこともない姿だった。


蘇ってしまう。
どうしたって結びついてしまう。
胸を裂かれた五月ちゃんの記憶の上に、「死」のイメージが二重に貼り付けられる。

寒い。寒い。寒い。
こみ上げる強烈な不快感に膝が折れて跪く。
震えが止まらない。吹き出た汗に、全身の熱が奪われる。


749 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:18:08 hjgf68mM0


「なんで、なんでこんな―――五月ちゃんだけじゃなく」

瓦解した精神からすり抜けて漏れる本音。
口を塞ぐけど遅かった。出てきてしまった言葉はもう、取り消しが利かない。

「そう、やっぱり五月もなんだ」
「三玖……?」

聞こえたはずの三玖の反応は、あまりにも静かなものだった。
四葉の前にしゃがみこんで、そのまま動かない。糸の切れた人形みたいに。

四葉が死んで、五月ちゃんの死も知ったのに。
ありえないぐらいに微動だにしない三玖の様子に、遂に私の体は前に出た。

「三玖!」
「あ……」

両肩を掴みかかる。
三玖が何処かに行ってしまわないように。
このまま四葉達のところに飛んで行ってしまいそうな気がして。


頬からは、流れる一筋。
振り返った三玖の表情に、私は息を呑んだ。


「よかった。まだ、残ってたんだ」

それを指で掬い上げ、三玖は愛おしいものを見るように顔を綻ばせた。

「一花。私さっき、泣けなかった。
 四葉を見ても、涙が出なかったの」

四葉の死の光景。
それはどんな衝撃だったのだろう。
それ以外の反応が凍りついて、痛み過ぎた心が無意識に麻痺を選んでいても、おかしくない。
そうやってせき止めないと、自分の心が砕けてしまうと怖がって必死に蓋をしていた。

「こんなになった四葉を四葉だと思えないんじゃないかって、怖かった。
 でもそうじゃなかった。そうじゃなかったの。だってこんなにも痛くて、苦しいんだもの」

止まらない涙に嗚咽を上げながら、三玖は思いを吐露する。

「私は四葉に、ちゃんと泣いてあげなきゃいけなかったんだ……」

当たり前の自己防衛。けれどそれは悲しいと。
大事な人の死に、向き合わず、乗り越える事もせず、忘れたように処理してしまうことを放っておかなかった。

それは本当に悲しくて。
同時にとても綺麗な、輝く星の雫にも見えた。


750 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:19:36 hjgf68mM0



「一花、答えて。
 五月は――――――死んだの?」

もう騙せなかった。
三玖も、私自身も。

「…………………………………………うん」
「一花は、その時ちゃんと泣けた?」

涙。
私は、あそこでどんな表情をしていたか。

「わたし、そんな―――私が泣いたら」

私は長女なんだから、しっかりしないと。
姉の威厳なんてこれっぽっちもない今に否定しても、説得力なんてなかった。

「どうして?家族なんだよ。世界で五人だけの姉妹なんだよ。お母さんの時とは違うんだよ?」


「私達が一番、二人の事を思わないで誰が思ってあげるの……?」



少し血に汚れた星の欠片が、ぽつんと足元に転がっていた。タンジロー君と城戸さん秋山さんが戦ってる中で。
どんどん冷たくなる五月ちゃんを抱いて、私は呆然としているだけだった。
何もできない。
何もわからない。
体が千切れたみたいな痛みに、生きてる理由までバラバラになって散っていく。

せめて敵を、殺した人を精一杯恨んでいかないと自分すら保てなかった。
その黒い感情も嘘じゃない、嘘じゃないけど。
もっと大事にしないといけないものを、あそこで置き去りにしてしまっていたんだ。

……後ずさった足が、何かに当たるった感触に目線を下げる。
ポケットか服のどこかに挟まっていたのか。
それともあの子が自分で忍ばせておいたのか。
姉妹の区別の証みたいだった、片側だけの髪飾。

「ぁ―――――あぁ――――――――――」

気づいてしまうと、もう駄目だった。
仮面は割れて、残った素顔の枯れていた両目から、溢れてくるのを止められない。

「あああぁぁぁぁぁぁぁ…………!」

悲しみに泣いた。
声を張らして鳴いた。
亡いものを思って、ただひたすらに哭いた。


751 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:20:45 hjgf68mM0


「五月ちゃん……!ごめん、ごめんね……!」

守れなくてごめん。
放って置いちゃってごめん。
泣いてあげることしかできなくて、ごめんなさい。

泣きじゃくりながら、三玖と互いに抱きしめ合って体温を確かめる。
座ってる場所も無くなった断崖で、生きてる温かさを感じ合う。

溢れてしまった命の重みは、一人じゃとうてい背負いきれなくて、一歩も前に進めない。
三玖がいても、胸に空いた傷を埋めるには手が足りなかった。

喜びや悲しみを分かち合える家族達は減ってしまった。
五つに分けていた重みを、三等分して負担していかなくちゃいけない。
ただでさえひとりじゃ五分の一人前だったのに、補い合えるものさえ欠けてしまった。

「会いたいよ……二乃にも、フータロー君にも……」
「私も、会いたい。二人に」

生きている人。生きていてほしいひとの名前を呼ぶ。
わがままかな。
迷惑に思うかな。
なるべく私が負担して、それでできればフータロー君に、ちょっとだけ肩とか、貸してもらえたりしないかな。
押し付けがましいかもしれないけど、それぐらいには関係ができてるって自惚れても、いいのかな。




「一花!三玖!今の声なに!?大丈夫!?」

どたどたと近づく足音。

誰かなんて考える暇もなく。
聞き憶えのある声で。
見慣れたままたの顔で。
なんてことのない、ごく当たり前の日常の延長線上に。
そこにはいつも通りの二乃が立っていた。

「なによそんなに二人して泣いて―――ってちょっ!?」
『二乃ぉ……!』

三玖とほぼ同時に、思い切り抱きつく。
二人分の体重を支えきれなかった二乃が私達ごと後ろに倒れる。

「なに!?いきなりなんなの!?」

疑問はごもっともだけど、答えられる余裕はない。
ごめん、色んなことをちゃんと謝るから。

「泣いてばっかいないで、なんか言いなさいよもう!
 そんなに泣かれたら、こっちだって―――泣きたくなるじゃないのよぉ……!」

これで蟠りがぜんぶ解けるなんて思わないけど。
今だけはこうしていても許してくれる……よね?


752 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:26:03 hjgf68mM0





【五】



そこから先の話をするのは、少し疲れる。
だって大泣きだもの。大泣き。大号泣よ。
目はそれは赤く腫れ上がってるに違いない。
おんなじ顔が三人で、顔面ぐしゃぐしゃになって泣き喚いちゃうなんて、恥ずかしいに決まってるでしょ。

……でも、これでもまだ抑えられた方だと思う。
上田さんと別れた後に歩いて暫くして沖田さんが人の集まる気配を感じたって言って玄関前にたむろしてる人達に挨拶したら、なぜだかみんな後ろにいる私の方に目がいって、その辺りで察しがついて静止も聞かずに家の中に踏み込んでら、一花と三玖に突然泣きつかれて、その後四葉と五月が死んだって聞かされて。

何もかもいきなり過ぎて、理解が追いつかない。
理解したからって落ち着ける話じゃないんだけど……立ち直りが早かったのは、きっと二人がいてくれたおかげなんだろう。
四葉を見つけた三玖。五月に会った一花。
何も知らない私は、フラットに事態を受け入れる準備ができてきていた。
二人に抱きしめられて泣いた分少しだけ、本当に少しだけ痛みが和らいだ。

ごめん嘘。
立ち直れてなんかない。
二人がいるからって、やっぱり無理。泣く。

当然よ。もう私達には三人しかいない。
まだ三人もなんかじゃない。もう三人しか、いないんだ。
変わっていく姉妹を受け入れられない自分を振り切ったといっても、こんな変わり方を望んだわけない。


最悪だ。
誰にも知られずに四葉をこんな目に遭わせたヤツも。
五月の恩を仇で返したヤツも。
百回殴ったって気は晴れない。絶対ゆるしてなんかやるものか。
……でもなによりこんな状況で、姉妹以外のことを考えてる私が最悪だった。

アイツの、せいだ。
アイツのせいで、私はこんなに薄情なヤツになっちゃった。
愛しい家族を失っても、恋しいあの人を想うことをやめられない。

じゃあ恋なんてしなければよかったなんていうと、これが少しも思わない。
変わってしまった私を、私は後悔なんてしなかった。

たからはやく、その、セキニンをとってもらわなくちゃ困る。
もうこういうのは義務だと思う。
慰めてほしい。
抱きしめてほしい。
思いの丈をぜんぶ受け止めて、甘えさせてほしかった。

「あは、二乃らしい爆走ノーブレーキっぷりだ」
「うん。私もフータローと一緒にいたい」

心を読むな。エスパーか。
姉妹だからってプライバシーってものがあるでしょうが。
まあここに限っては、どうやら皆の考えてることはわかってるけど。


「好きな人に、会いたい」
「好きな人と、傍にいたい」
「好きな人へ、伝えたい」



まだ残ってる宝物へ。
輪っかの外から来た厄介者だったのに、今ではかけがえの無い隣人。それ以上を求めてる相手。

一花には色々あるけれど、今は言わないでおいてあげよう。
因縁は後回し。まずは目の前の問題から。
抜け駆けも心中も禁止。とにかく全員見つけて、全員無事に還ってくる。
譲れないこの想いを抱えて、私達は進んでいこう。




でもやっぱり、寂しいなあ。
やだなあ。
もっと一緒にいたかったなあ。

ここまで歩き通しで疲れたんだから、少しだけ時間をちょうだいよ。
起きたら頑張るから。
スキを諦めないから。
だから、さ。


夢の中でくらいは、一緒にいさせてよね……?


753 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:33:31 hjgf68mM0




【六】



「あの三人、会わせて平気だったのか……?」
「止める方が逆効果な勢いだったしな……」

再びの玄関前に戻っていたミクニと猛田。
大それたことをしたわけでもないが、怒涛の勢いで続けざまに来る人の往来に疲れ気味だった。

道中見つけた炭治郎達を連れて来て一段落したかと思った矢先に、次の来客。
今度は沖田総司を名乗る怪しげな剣客風の男。
しかも中野姉妹の次女、二乃までいるときた。
元から悪意ある目的でないのもあって友好的に交流できていたが、一花と三玖が家にいると聞くや否や有無を言わさず中に入っていってしまった。

閉じた扉からも漏れ聞こえる涙声。
姉妹のうち三人が再会できたと思ったら、残る二人の死も知ることになるのだ。
中で何が起きてるかは想像に難くない。
良からぬ想像を、最悪の結末を恐れる猛田の不安を、炭治郎は柔らかく否定した。

「大丈夫。立てます。悲しみの匂いは消えてないけど……優しさも消えてないから」

傷を負っていた体には応急的な処置が施されている。
立香の治癒、正確には来ているカルデア礼装にある治癒術式は先に一花に使われている。
礼装は一度使うと再使用に時間がある制約があり、説明を炭治郎は真っ先に一花の治療を優先した。
死に至るまでの傷はないし、我慢すれば耐えられる。それより第一に欲するのは武器だ。
千翼に折られた日輪刀、上弦の肆・半天狗との戦いで途中まで使っていたものだ。
半天狗に止めを与えた決定的な斬撃は、さる訓練用の絡繰り人形から出てきて、刀鍛冶の鋼塚に鍛えられたものだ。
あの刀が一番手応えのあった一撃を放てた実感が残っている。
その刀がここにもあるかはわからないが、そうでなくとも代用の刀が戦うには必要だった。


「―――駄目だなぁわたしは。いつだって間に合わない。いつだって届かない。
 行きたいところに行けず、逝けるところに逝けないんだ」

体力の回復に努めていた炭治郎の隣に。
そう悔恨を零して、痩身の男は座り込んだ。、
大正時代の人間の炭治郎も浮いてるが、この青年も一際時代錯誤な雰囲気を纏っていた。

新選組一番隊組長・沖田総司。
その有名を知る者は多いといえど、その本人ですと言われて素直に信じられるのがどれほどいるか。
その歴史上の人間と出会う機会が最も多い立香も、彼女が知るカルデアの沖田総司とは性別レベルでの差異があったが、
「まあ、そういうこともあるよね」で流してしまったのは、豪胆なのか天然なのか。

「あなたは……」
「竈門君、教えてくれよ。
 二乃さんの妹御を斬った鬼のことを」

そう乞う沖田の感情を、炭治郎の嗅覚は正確に捉える。
守護(まも)るべき少女の願いを守れなかった己への不甲斐なさ。
血に煙りながら輝きを失わぬ獣の眼光。

「鬼の喉笛を裂くのは壬生狼(おおかみ)の牙だ」

心の誠を掲げ、心からの本音(まこと)だ。



「えっと、みんないいかな。ちょっと話したいことがあるんだけど」

開いた扉からひょっこりと立香が顔を出して、そう提案した。

「いきなり人も増えてきたし、一度話をまとめていきたいと思うんだけど、構わない?」

一挙に民家に集まった九人。
鬼や英霊といった敵にも遅れを取らぬ面々。
しかし同時に戦えぬ者も多く、さらに大人数は動きが鈍る弱所もある。
何組かに分かれるにせよ、身を固めるにせよ、今後の方針を決めるのに情報の共有は必需だ。
異を唱える者もおらず、ひとまず家に上がっていく。

「それはいいけど、一花ちゃん達は……平気なのかい?」

真司への問いに、立香は微笑んで返した。

「うん。ちょっと泣き疲れちゃっただけだから」


754 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:37:23 hjgf68mM0



【休】


とある個室で、三人の姉妹が眠っていた。

右側は星の飾りを。
左は赤いリボンを。
間は両方の手を握って。

失った欠けを埋め合うように。
寒さで身を震わせないように、互いに身を寄せ合って。


何を得たわけでも、進展したわけでもない。
今後立ち上がれるとも限らない。
会いたい人に会えるかもわからない。
涙の機会は何度だって訪れるだろう。
未来は変わらず暗雲が立ち込め、これからも生きていける保証はどこもない。


血の繋がった家族が失ったものを認めること。
泣きたい者の為に泣き、その喪失に悼み涙を流しただけ。

これはただ、それだけの話。
その為にだけ描かれた、恋に至る物語の詩編。


755 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:39:01 hjgf68mM0



【E-6 民家/1日目・早朝】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:今後の方針を寝る。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。

【若殿ミクニ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:バトルロワイアルからの脱出
1.皆を探す
[備考]
※敬王から帰還以降からの参戦。詳しい時期は後続の書き手にお任せします

【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる
1.若殿ミクニ達他のやつらを利用する
2.まずは信用されるように動き、利用しやすくなるように動く
3.藤丸立香は俺に気がある?
[備考]
※死後からの参戦


756 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:39:52 hjgf68mM0



【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、、不明支給品1(本人確認済み、武器)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:今度こそ願いを叶える。
1.戦いを止める。
2.千翼のことを止めたいが…
3.蓮…!!
[備考]
※秋山蓮に生きろと告げて目を閉じた後からの参戦です。

【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切り傷と打撲(簡易処置済み)
[道具]:基本支給品一式、折れた日輪刀@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜1、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:刀が欲しい。
[備考]
※強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。
※折れた日輪刀は半天狗戦で緑壱零式の刀を使う前のでした。

【沖田総司@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:着流し、菊一文字則宗@衛府の七忍
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:『びぃびぃ』と名乗る鬼を討った後、元和に戻って鬼退治。
1:己の『誠』を信じて突く。
2:二乃さんを護衛する。
3:酒呑童子については保留。
4:二乃さんの妹御を斬った鬼(千翼)を斬る。
[備考]
※第三十五話以降からの参戦。


757 : 割れた星のTRIANGLE ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:40:46 hjgf68mM0
【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック、睡眠中
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
1.―――――――――
2.千翼に対する強い怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック、睡眠中
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
1:―――――――――
2:PENTAGONに向かう。
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック、睡眠中
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ、伝えたい
1:―――――――――
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。


758 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/29(水) 23:41:23 hjgf68mM0
投下終了です。意見指摘あればお願いします


759 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/30(木) 06:49:38 MCXof7vQ0
一夜明けて、状態表に誤記やミスが目立つため再投下します



【E-6 民家/1日目・早朝】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:今後の方針を練る。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。

【若殿ミクニ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:バトルロワイアルからの脱出
1.皆を探す
[備考]
※敬王から帰還以降からの参戦。詳しい時期は後続の書き手にお任せします

【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる
1.若殿ミクニ達他のやつらを利用する
2.まずは信用されるように動き、利用しやすくなるように動く
3.藤丸立香は俺に気がある?
[備考]
※死後からの参戦


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、、不明支給品1(本人確認済み、武器)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:今度こそ願いを叶える。
1.戦いを止める。
2.千翼のことを止めたいが…
3.蓮…!!
[備考]
※秋山蓮に生きろと告げて目を閉じた後からの参戦です。

【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切り傷と打撲(簡易処置済み)
[道具]:基本支給品一式、折れた日輪刀@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜1、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:刀が欲しい。
[備考]
※強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。
※折れた日輪刀は半天狗戦で緑壱零式の刀を使う前のものでした。

【沖田総司@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:着流し、菊一文字則宗@衛府の七忍
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:『びぃびぃ』と名乗る鬼を討った後、元和に戻って鬼退治。
1:己の『誠』を信じて突く。
2:二乃さんを護衛する。
3:酒呑童子については保留。
4:二乃さんの妹御を斬った鬼(千翼)を斬る。
[備考]
※第三十五話以降からの参戦。


760 : ◆0zvBiGoI0k :2019/05/30(木) 06:50:45 MCXof7vQ0


【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック、睡眠中
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
1.―――――――――
2.千翼に対する強い怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック、睡眠中
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
1:―――――――――
2:PENTAGONに向かう。
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:首筋に引っ掻き傷(処置済み)、精神的ショック、睡眠中
[道具]:基本支給品一式、四葉のリボン、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ伝えたい
1:―――――――――
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。


761 : 名無しさん :2019/05/30(木) 15:31:27 HuZIQ2FM0
乙です
もう姉妹五人が揃う事はないと改めて実感させられて悲しい


762 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/30(木) 21:25:38 0AgHFI/c0
おおお!! おもしろい話が投下されてくるぞい!!
というわけで感想です。久しぶりですね。

>廻るピングドラム
「あー、たしかにこのふたりはこういう繋げ方があるな!」と感心させられた作品。そんなふたりが身寄りのない人々が集まって家族として暮らしている無名街で出会うのもまたニヤリとさせられる始め方ですね。最後の台詞もこの企画のタイトルに絡んだものですし、全体的にキメ所が散見される素晴らしい作品だったと思います。
投下ありがとうございました。

>不死身の怪物
タイトル通りの存在である佐藤さんの登場話。最初から自分の不死性を躊躇なく実験する彼はさすがですね。よりにもよってゾルダのデッキが支給されるとは恐ろしい。佐藤さんが使うエンドオブワールドは本当に凶悪なものになりそうですね(と思っていたら、後の話で本当に凶悪な仕様になってましたね)。新しいゲームを始めるのと変わらない調子で殺し合いの場に乗り出すのは、実に佐藤さんらしいです。
投下ありがとうございました。

>「救う」ということ
まさか一話目にして尾張城が(一部)崩落するとは。同じ「救うもの」でありながら、その在り方が決定的に違うふたりの戦いが実に読み応えがある話でしたね。童磨の「猗窩座殿は彼を殺すと豪語していたし、そういう意味でもちょうどいい機会だったのになあ」という台詞で笑いました。『氷』使いの彼に支給されたのが『炎』刀というのも、なんとも歪でおもしろい。
投下ありがとうございました。

>BEAST INSIDE
双刀を使う鮫島という発想に「そうかその手があったか!」と膝を打ちました。たしかにハゲなら余裕で振り回せそうですね。発想の敗北を認めるしかない……。特に好きなシーンは悠の登場シーンでして、清姫の炎を上塗りするような変身の仕方が実にカッコいい。小説を脳内で映像に変換するタイプの読み方をしてる私にとってはかなり印象深いシーンでした。アマゾンである悠が明さんと会った時どうなるのか、楽しみですね。
投下ありがとうございました。

>武蔵、出逢う!
名簿を見れば誰もが一度は想像するであろう武蔵と武蔵の邂逅を登場話初っ端から予約するとは大した自信だなと思ってましたが、期待以上の話を出されてびっくりしました。とにかく文章がかっこいい。一行単位でかっこよすぎる。まさしく刀のような文章だ。同じ武蔵であるからこそ、お互いの行動がよくわかっていて、そして違う武蔵であるからこそ、戦い方が違うふたりが良いですね。
投下ありがとうございました。


763 : ◆3nT5BAosPA :2019/05/30(木) 21:26:30 0AgHFI/c0
>やがてのあしたに星がふる
七実の危険性がよく分かる話。死後参戦である彼女だから「もしかしたら自分もアマゾン細胞で生き返ったのでは?」という考察をして、それに不快感を抱いたのはおもしろい話運びですね。容赦なく攻撃し、殺害した彼女が、イユの最期の歌に聞き入るシーンがとても好き。
投下ありがとうございました。

>素直じゃない私を
友を殺された少女の元に現れるのが復讐鬼というのが素晴らしい。登場して早々いつも通りのテンションで話してる巌窟王に対し、かぐや様が怒りから心の熱を取り戻すのが好き。ふたりの今後が気になる出会いの話でしたね。最後の部分がやや不穏ではありますが……はたしてどうなることやら?
投下ありがとうございました。

>メルティ・スイートハートとビターステップ
最初の四葉が可愛い、だけに彼女の凄惨な死に方が辛い……。参戦時期でスタンスがガラリと変わるジウくんですが、それを考えうる限り最もヤバい時期から出せば、そりゃそうなるよなあと思わされる死亡話でした。四葉ちゃん……南無。戦闘能力がそんなに高くない分、謀略と知略を持って人間の中に入り込めそうなのは脅威ですね。彼が今後この会場にどんな惨劇をもたらすのか考えるだけで恐ろしくなる話でした。
投下ありがとうございました。

>FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」
開幕からコワすぎの再現をしていて笑う。読んだ瞬間にこちらの敗北を確信させられる話でした。前園さんと工藤なんてどちらかひとりと組むだけでもかなり面倒なことになりそうなことになりそうなのに、よりにもよってそんなふたりと組むことになった姐切さんの明日はどっちだ。そして工藤のバケモンにはバケモンをぶつける作戦が、禰豆子と違ったり、あるいは禰豆子よりトンデモないバケモンがうじゃうじゃいる会場でどうなるかが楽しみですね。
投下ありがとうございました。

>LOVE BULLET KAGUYA SAMA
かぐや様の脳内法廷と巌窟王の能力をこう絡めてくるとは! と感心させられた話でした。そりゃ彼ならこのくらいできそうですよね。本人たちはいたって真面目にやってるつもりなのに、読んでる側からすると笑ってしまいそうになる雰囲気は、どことなくかぐや様っぽい。そう考えると、巌窟王はかぐや様原作にいた気がしなくもないですね。そして七花ととがめの刀語コンビは、開幕早々会えたようで安心。続きが気になる2組のコンビが出てきて、たいへんおもしろかったです。
投下ありがとうございました。

感想の続きはまた今度。


764 : ◆USARVARnn2 :2019/05/31(金) 01:35:54 nHg0aoSYO
遅れましてすみません
投下します


765 : “ぞわり” ◆USARVARnn2 :2019/05/31(金) 01:38:28 nHg0aoSYO
二者択一。
一つ、馴染み深い声の方に向かう。二つ、叫びの意図を汲んで遠ざかる。
存在しない二つの道が確かに眼前に存在し、突として岐路に立たされている。
ナビゲーターの不在や、それぞれの道の先が見渡せない事よりも、真なる問題がある。
形こそ二つに一つであれ、必ずしも一つが正解であるとは限らず、どちらを選ぼうと何処にも辿り着かないやもしれない。
他人事のように客観的に思ったのは四宮かぐやであり、主観的に考えるまでに大いに時間を要したのが四宮かぐやであった。
「石上君、じゃないわよね……?」
零れ落ちたのは疑問ではなく、確認でもなく、自身すら騙せぬ欺瞞。
捉えた振動は鼓膜を揺らし、彼女の優れた脳は正しく認識を済ませている。
信じたくはないが信じる他に無く、聞こえなかった事にしようにも聞き取れている。
勝敗で言えば敗北だ。
裁判の機会すら与えられずに、聞こえてしまった時点で負けている。
「本当にバカ……賢くないというか……、得の無い事をしたがる子というか……」
止まらないようでいて、言葉となって口から出ているのは実は僅かで。
言葉の体を成さずに巡り廻っている思いこそ、頭の中で止まる気配が見られない。
一学年下で生徒会会計の石上優は、口を開けば可愛くない事を言う後輩で、故に可愛い後輩だった。
斜に構えて内に秘めたモノに蓋をしているようで、その蓋は至る所が隙間だらけで碌に塞ぎ切れていなかった。
そんな有様に気付いてしまったからであろう。同学年で書記の藤原千花がシビアな態度を取る一方で、かぐやが優を見る目は少しずつ柔らかくなっていった。
いやきっとと、かぐやは今ならば思う。きっと理解した上で、お互いに烈しく接していたのだろう。
彼女はそういう接し方が出来る子だから。自分のように内外の二つに一つではないのだから。

嗚呼、だからこそ―――四宮かぐやは叫びたい。

後輩は震える声で“逃げろ”と叫んだ。
先輩として、“またなの”と叫び返したい。
可愛い後輩には、一人で負債を抱え込む癖がある。最早、悪癖と呼んで差し支え無いだろう。
己の不利益ばかりを鑑みるのが必ずしも正しいと、氷解した現時点のかぐやは断固として思わない。
それでも、時たま軽く刺すくらいはしておくべきだったかもしれない。
何故見過ごしていたのかなど、今更考えるまでも無い。
やはり、どうしても、そんなどうしようもない彼が、やはり、どうしても、どうしようもなく可愛い後輩であったからだ。
「何で素直に可愛い後輩やってるのよ、石上君」
叫びには程遠い静かな声音。
声量は違えど、後輩と同じく震えている。
「悪いけど、私は貴方みたいに素直ではないので。それに大事な事を忘れてるわ、石上君。貴方のそんな叫び、会長が聴いたらきっと……」
多少休む心積もりであったが、そうも言っていられなくなった。
落ち着く気配が一向に見えない鼓動を感じつつ、かぐやは可愛い後輩の声が聞こえてきた方角を見据える。
踏み出した一歩は小さく、綿の上でも歩いているかの如き不安定感と共にあったが、断じてそのような内面を見せず強く振る舞う。
それが石上優の前での四宮かぐやであった。

     *

こうして、少女は前を向く。
されど彼女を見守る男達は、その険しい表情を崩さない。


766 : “ぞわり” ◆USARVARnn2 :2019/05/31(金) 01:40:18 nHg0aoSYO
     *

「よもや……っ!」
犬養幻之介が漏らした呟きに、かぐやが凄まじい速度で振り返る。
豊臣家御馬廻が一人としてはあるまじき失態には、已むに已まれぬ理由がある。
姿を捉えて距離を詰めている段階で華奢だとは思っていたが、女人だとは思いもよらなかった。
確かに名簿には到底男児であるとは思い難い名前もあったが、分かっていながら考慮から外してしまっていた。
戦に女子供が巻き込まれる事への違和感など、大坂の役を知る幻之介にはない。
女子供は斬れないなどと与太を扱くつもりもない。その手を手を女子供の血で汚した経験、今更数えるまでもない。
にもかかわらず猛丸のために女を殺す、その可能性を考慮していなかったのだ。
―――甘いな。否、甘くなったのか。
幻之介は自嘲する。
もしも猛丸と出逢う以前に仕える殿の為に皆殺しに挑んでいたのであれば、決して悟られる事なく隙を衝いていた。
かつての自身は、間違いなく殿の為であれば女子供を殺すのは当然と認識していた。
それでいながら、今、猛丸の為に女子供を殺すという発想を抱いてすらいなかった事実に、我が事ながら驚愕する。
―――だが、俺は犬だ。檻の中の犬が餌を選り好みするものか。
決意を新たに、幻之介は視線を強くする。
それだけでかぐやを支配するには事足りる。
手に木剣を携えた幻之介が歩み寄ってくるというのに、その瞳から目を離す事も敵わない。
「ちょ、ちょっと……!?」
幻之介が飛ばしたのは圧であり、剣気であり、殺意である。
この木剣にて首を落とす。慣れない“変身”を使うまでもない。木製も隻腕も不足に非ず。骨肉を断つに足りる。
その想い一つでかぐやの呼吸は乱れ、心臓は早鐘の様相と化す。銃器の存在は思考から飛んだ。
動かねばならない正しい結論に至っていようと、逸る気持ちに反して体は僅かに後退りするばかり。詰まっていく距離を広げる事は叶わない。
「すまぬ。許せ」
零れた謝罪はやはり意図せぬ代物で、幻之介は妙な感傷を抱いている自身を呪う。
士の幻之介が戦場で女を切り伏せるにおいて、何故口惜しさに打ちひしがれる必要があろうか。
しかしながら戦場に不要なこの感傷こそが、如何にも猛丸が幻之介に埋め込んだ杭であり宝だという自覚もある。
結局殆ど動けなかったかぐやは、とうに木剣の間合いの内にいる。
猛丸より授かった宝を胸に、幻之介が彼女に齎せる救いは一思いに死に至らしめる事だけである。
幻之介が腰の木剣に手をかけたと同時に、響く大地を蹴る音。
瞬間、寸前まで隠匿されていた強者の気配が、あからさまに膨れ上がる。
あえて悟らせたとしか思えぬ鼻に衝く程の殺意は、強烈な砲音を幻之介の脳裏に蘇らせた。
大坂の役の折に大坂城を滅多打ちならぬ滅多撃ちにし、幻之介の左腕を持って行った覇府の砲。
「――――――ッ」
幻之介の判断は早かった。
覇府の砲に狙われた日とは違い、何かを守らねばならない戦いではない。ただ飛び退いて避けるだけである。
同時に背負っていた荷物を隻腕を滑らせるようにして下ろし、殺害体勢から交戦体勢へと移行する。
完全に身を潜めていながら殺人の瞬間に気配を露わにして登場し、少女を守るように立ち塞がった剣士は、およそ戦わずに殺害できる力量に留まっていない。
羽織の内に秘めた絵札箱を手触りで確認しつつも、その目線を決して剣士から離しはしない。

     *

かくして、復讐鬼は一人残された。
唐繰の如き白い顔を歪ませ、笑みを隠すように手で顔を押さえる。


767 : “ぞわり” ◆USARVARnn2 :2019/05/31(金) 01:42:59 nHg0aoSYO
     *

「俺が受け持つ。行け」
かぐやの前に不意に現れた剣士は、人並外れた簡潔さを持ち合わせていた。
不意に現れたという点でも、完結が過ぎるという点でも、剣士という点でも、二人の男を区別する事は出来ない。
全く以て問題は無い。
“許せ”の隻腕木剣武士も、“行け”の左右別色羽織剣士も、両者共に簡潔が過ぎていた。
「あ、貴方、何時から……」
殺意に当てられ、“水”に殺意を祓われ、揺蕩う小舟を思わせる浮遊感の中で、かぐやは抱いた疑問をそのまま口にしてしまう。
らしからぬ、或いはらしいアホさである。
そんな問答をしている場合か否かを見極める氷じみた冷静な判断力は、浮遊感に浸る現時点のかぐやから失われていた。
だが、すぐに取り戻す事となる。
「初めからだ」
瞬間、“ぞわり”がかぐやの体躯を走った。
「言うなれば、お前が譫言のように“藤原”の名を呼んでいた頃からだ」
瞬間、“ぞわり”がかぐやの体躯を駆け抜けていった。
「お前は俺とは違う。行け」
瞬間、“ぞわり”の第二レースが始まり、またしても恐るべき速度で風を切っていった。
「そうですか……ありがとうございます……」
感謝の念はあった。紛れも無く存在していた。死を覚悟した場面で助けてくれた人間を恩人と認識させないほど、四宮家の教育は歪んではいない。
その感謝の念を下地にしたその上で、かぐやは少しばかり引いているだけだ。少しなのでドン引きではない。恩人にドン引きするような教育は受けていない。
ぺこりとお辞儀をして、向かうべき方角へと走っていく。
いくら銃器を持っていようとここにいれば邪魔になると、冷静な判断力から導き出した結論である。
氷の判断力の賜物であって、未だ背筋に残り続ける“ぞわり”が原因である筈が無い。少なくともかぐやはそう信じている。

「……何故、彼女を追わなかった」
「……」
冨岡義勇は無回答には慣れているので、然したる驚きは抱かない。剣術と会話、両方において経験が彼を強くした。
妙に喧しく他愛も無い話をしたがる鬼は少なくないが、義勇は元より戦闘中に会話を弾ませる趣味も持ち合わせていない。
ただ単に疑問を投げかけただけだ。
こちらも慣れぬ西洋剣であるが、相手は隻腕に木剣である。
このような戦力差になった際、逃げる一般人を狙うかのように振る舞って遁走するのが、鬼であった場合のセオリーだ。
にもかかわずそれをしない。“不足ではない”のか、“上乗せする物がある”のか。
「返答無しか。慣れている」
これは完全に余計な一言であったが、彼なりに言葉の少なさを指摘された無数の経験に思うところはあるのだ。
結果として余計であり、その余計な一言を最後に静寂が場を支配する。
仕掛けたのは幻之介で、驚いたのは義勇である。
―――バカな。“遠い”。“遠すぎ”る。
木剣を担ぐようにして構えていた幻之介が、明らかに木剣の間合いから外れた箇所で始動した。
咄嗟に義勇が背後に跳んで距離を取ったのは、血鬼術なる特異な能力を持つ鬼との戦いの経験故である。
初見では見抜く術のない力と戦い続けた積み重ねが無ければ、この一閃で以って義勇は頸動脈を断たれていたであろう。
―――奇妙な握りだ。
文字通りにもう一寸のところで死を回避しながら、義勇は冷静に幻之介の技術を見抜く。
間合いの外から放たれた横凪の一閃。放たれた時点で幻之介が掴んでいたのは鍔元の縁であったが、木剣を振るい切った時点でその手は鍔尻の頭にあった。
振るう最中に握力を緩めて、刀を手の中で流れるように横滑りさせたのであろう。成る程、間合いの外に届き得る筈である。
「虎眼流が太刀を担いだら用心しろとは、よく言ったものだな」
幻之介の技を見極めるべく距離を取ろうとしていた義勇が、仰々しく演技じみている低い声に眉根を寄せる。
「何故いる」
「フ、言うな。すぐに追いつく。だがな、奴のような男を見れば声をかけずにはいられまいよ。仇討の物語……正当なる仇討が正当である故の結末に至る物語から、生まれいずる英霊を前にしてはな」
くつくつと笑って、巌窟王はその歪み切った笑顔を幻之介に向ける。

「なァ、そうだろう――――――藤木源之助」

瞬間、“ぞわり”が幻之介の身体を走った。


768 : “ぞわり” ◆USARVARnn2 :2019/05/31(金) 01:44:13 nHg0aoSYO
【C-6/1日目・黎明】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:疲れ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:私はスキを諦めない
1:石上君の声がした方角に向かう。
2:会長たちと合流したい
3:あの巌窟王……って人、私の妄想では……?
4:なんだか銃の使い方がわかった気がする
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます

【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1:巌窟王として行動する
2:何のかんの言いつつ、かぐやに陰ながら同行し、そのピンチには駆けつける(?)
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます
※かぐやにすぐに駆けつけられる距離から見つめています。

【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、無毀なる湖光、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
1:交戦。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。
※かぐやにすぐに駆けつけられる距離から見つめています。

【犬養幻之介@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:オルタナティブ・ゼロのカードデッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1、木剣@現実
[思考・状況]
基本方針:タケルを生かす。
1.殺す。
2.タケルの害になるものを効率的に殺す。
[備考]
※タケル死亡後、豊臣秀頼たちの前に行く前からの参戦。

【支給品紹介】
【木剣@現実】
日本刀を模した木製品。
剣士ともなれば、木剣で顎を砕き、指を落とし、首を刎ねる事とて可能。


769 : ◆USARVARnn2 :2019/05/31(金) 01:45:00 nHg0aoSYO
以上です
期限超過申し訳ないです


770 : 名無しさん :2019/05/31(金) 06:40:22 IhwINhzQ0
投下乙!
冨岡さん、言葉が足りな過ぎて守ろうとしていた相手から不審がられてる…
こんな(面白くも)悲しいことがあるだろうか。
藤木源之助ってシグルイのキャラらしいけど、幻之介と似てるとかそういうことなの?


771 : ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:25:47 nzoKo9Ok0
投下します


772 : ARMOUR ZONE ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:28:13 nzoKo9Ok0

拡声器によって増幅されたその声は、人間離れした聴覚を持つ円城周兎にはよく届いた。
ぞいと語尾に着ける怪人物を煽るだけ煽り立て、最後には同行者に逃げろと逃走を促す声。
その内容を理解して、周兎が想起するのは唯一人だ。


「――――権三、あいつか…!」


前園甲士と並ぶ生粋の下種にして危険人物、今之川権三。
自分のようなナノロボ感染者とは違い、もし普通の人間があいつと出会ってしまったのなら余りにも危険だ。


「ナイチンゲールさん!」
「えぇ、要救護者がいるとみて間違いはないでしょう。ではお先に」


「なぁッ」という周兎の声も置き去りにして、ナイチンゲールはスプリンターが如き疾走を開始する。
声は既に止んでいる。今之川権三が同行者である周兎の伝聞通りの人物なら声の主が生きている可能性は限りなく低いだろう。
しかしそれでもナイチンゲールは行く。行かなくてはならない。
全ての命を救うという狂的なまでの信念が、それ以外の選択を許さない。
走るスピードは既に自動車並みの速度に到達し、このままいけば後数分もしないうちに目標の場所へと到達するだろう。
しかし―――、


「……女か」


そんな彼女の進軍を阻むように、前に新たな『治療対象』が現れる。
蛇柄のジャケットに身を包み、体の至る所に火傷を負った男。
火傷はまだ負って新しい物だ。だというのに、男はまるでそれを気にしていないかのように立っている。
その顔に、獰猛な殺意と闘志漲らせて。


「……道を開けては頂けないでしょうか。私はその先に用がありますので。
その後、貴方の治療も約束しましょう」


患者の負傷度によって治療の優先順位を決めるトリアージ、という医療用語がある。
目の前の男とあの叫びを発した声の主、より優先すべきは後者であるとナイチンゲールは判断した。
しかし、目の前の男も決して捨て置ける存在ではない。
火傷だけではなく、恐らくもっと根幹に近いところで男は病んでいる。
それも、先程戦った童磨という男にひけをとらないレベルでだ。


「つれないこと言うなよ。こっちはイライラしてんだ…変身!!」


773 : ARMOUR ZONE ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:29:06 nzoKo9Ok0

男はそう言うと何かを民家の窓ガラスへ向け、その直後その姿が光に包まれる。
ナイチンゲールはその瞬間を以て、男が敵対存在であると決断した。
魔力で作成したペーパーボックスピストルを引き抜き、男へ向け発砲する。
しかし、既に変身を終えた男は――浅倉威/仮面ライダー王蛇は動じない。
紫色の装甲に着弾し奔る火花を気にもせず、バックルからカードをセットする。



―――SWARD VENT―――


機械音が鳴り響くと同時に王蛇の手の中に大蛇の牙を模したサーベルが現れ、それによって弾丸を一発残らず叩き落す。
その光景を目にしたナイチンゲールは即座にピストルを投げ捨て、王蛇の方へと疾走を介する。
本来ならば拡声器を使った少年の救助を先に片づけたかったが最早是非もなし。
迅速に、正確に、鎧の男を制圧し適切な処置を行った後、改めて向かうほかない。

ピストルの弾丸は装甲に阻まれ決定打になり得ない、メスを用いた斬撃も同様だろう。
そこでナイチンゲールが選んだのは拳を用いた格闘戦だった。
蛇の鎧を纏った獣のサーベルと、鋼鉄の白衣を纏った女の拳が衝突する。
それも一度では終わらない。
二度、三度と交錯は続き、お互いの吐息を感じる距離でのインファイトへと状況は移行する。


「ハハハハハッ!いいぜぇ、ここは面白い女が多い!!」


――迅い。そして重い攻撃だ。
太刀筋も何もあったものではない雑な連打だが、獣の如き勘の良さと怒涛の攻めがそれを補っている。
魔力反応を感じない所からサーヴァントではないようだが、鎧の男の実力はサーヴァントにも比肩しうるだろう。


「――ですが、甘い」


戦闘開始から五秒、王蛇の攻勢が鈍り始める。
嵐のような怒涛の攻めを冷静に見極めていたナイチンゲールが反撃に移ったからだ。
恐るべきは彼女のスキルである『人体理解』。
積み上げられ、スキルとして昇華されるにまで至った経験と勘は常に最も効率的な人の壊し方を彼女に伝え続ける。
―――十秒。
ここで遂に均衡が崩れ、ナイチンゲールの拳が王蛇を捉えた。
鳩尾に痛烈な一撃が突き刺さり、王蛇は堪らず吹き飛んでいく。

だが、彼女はここで手を緩める愚は犯さない。
ダメ押しの一撃を叩き込み、脅威を完全に沈黙させるべく一足飛びで地を駆ける。
男は何とか立ち上がろうとしているようだが、無駄だ。数分は立ち上がれない。
その様にナイチンゲールは攻撃を加えたのだから。
それでも何とか抵抗を試みようとその手に掴んでいたサーベルを投げつけてくるが、その程度で彼女の足が止まることは、当然なく。


「無駄です」


到達するや否や、降下中のハヤブサも目を剥く速度でマウントを取り関節を極める。
如何に堅牢な装甲を有していようと、こうなれば抵抗は不可能。
かくして会敵から僅か三十秒足らず。
いともあっさりと、決着はついた。
再び出現させたピストルを後頭部に突きつけ、彼女は口を開く。


「さて、手早く行きましょう。私はフローレンス・ナイチンゲール。看護婦です。
診断結果をお話する前に先ずは貴方の名前を教えていただけますでしょうか?」


後頭部のピストルの存在を誇示し、有無を言わさず言葉を促す。
どう見てもその行為は看護婦のそれではなかったが、彼女はこの方法が最も効率的であると判断。
そして、その狙い通り這いつくばる鎧の男の口から浅倉威という返答を引き出した。


「ではミスター浅倉。これより貴方を拘束し、別件を終えた後にしかるべき治療を受けてもらいます」
「異常なほどの攻撃衝動…衝動性障害の症状が貴方には見受けられます。
即刻貴方は私の処置を受けるべきだ」
「大丈夫、安心なさい。貴方の命を奪ってでも、私は貴方を救いましょう」


矢継ぎ早に、しかし言い聞かせるように浅倉へナイチンゲールは言葉を紡ぐ。
返答は求めていない。
既に話した内容は彼女にとって決定事項なのだから。
言葉の結びと同時に手刀を作り振り上げる。
計算されつくした軌道で空気を裂き、一撃で以て浅倉の意識を刈り取る一撃だった。


774 : ARMOUR ZONE ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:30:54 nzoKo9Ok0

「――――やってみろ。できるもんならな」


振り下ろした手刀が届く直前、ナイチンゲールの右方から凄まじい衝撃が走る。
まるで、大型トラックに猛スピードで衝突したかのような威力。
吹き飛ばされながら振り向けば紫の体表を持つ大蛇が突如として現れ、咢を開いていた。
その双眸に、主人と同じ凶暴な殺意を秘めて。

浅倉の取った作戦は、依然警察に拘束された際に取った同一のものだ。
ベノサーベルを投げつけたときに、予めアドベントカードを抜いておく。
その後、密かに忍ばせておいたガラス片からモンスターを強襲させるという、
相手にカードを使いトリッキーな戦闘を行うライダーの知識がない事を利用した策だった。

彼の狙い通り、完全に不意を打たれたナイチンゲールの対応に一手遅れが出る。
そんな彼女の一瞬の隙に食い込むように、既に狙いを定めていた大蛇は容赦なく――業火を吐いた。



「―――――ッ!?」



サーヴァントの肌すら焼き払う青き炎。
ただの炎ではない。あらゆる物に纏わりつき溶かした後に内側から焼き尽くすナパーム弾と同じ粘性の炎だ。
それを直に受けたナイチンゲールは声なき叫びをあげた。



「ハハハハハハハハ!!!」


狂笑を上げながら立つ事すら覚束なかったはずの王蛇が立ち上がる。
此処でもし他のライダー、城戸真司や秋山蓮がこの光景を見れば違和感を抱いたかもしれない。
まず、英霊の痛打を受けてなお立ち上がる王蛇の異常な耐久力。
人間離れしたタフネスと執念深さを誇る浅倉だが、当然ながら限界はある。
筋力Aの神話の大英雄に匹敵する膂力を有するナイチンゲールの拳はその限界に足る筈の物だ。

第二にベノスネーカーが吐き出した炎。
ベノスネーカーーは確かに消化液を吐き出しモンスターやライダーを攻撃するが、あくまで消化液であり、此処まで凄まじい熱線を吐くことはない。
そもそも、ベノスネーカーは先程の戦闘で二体のサーヴァントの宝具を受け半死半生のダメージを負っていたはずである。
にも拘わらず、王蛇はブランク体となることはなく健在である。これは何故か。

その答えは先程彼が戦ったバーサーカーのサーヴァント、清姫にあった。
浅倉が狂気に身を任せて戦い、その果てに苛立ちを募らせていた裏でベノスネーカーは文字通り朽ち果てかけていた。
しかし、生死の境目でベノスネーカーはミラーモンスター似た強大なエネルギーを感じ取る。
それこそが王蛇が倒したサーヴァント、清姫の霧散しかかった魔力だ。
ライダーでもミラーモンスターでもないそのエネルギーを口にするのはベノスネーカーにとっても賭けであった。
しかし、炎と雷に焼かれ死にかけていた怪物にそれ以外の選択肢はなく。

かくして最後の力を振り絞り、天へと昇っていく清姫だった光の粒子を一つ残らず食らったのである。
そして、ベノスネーカーは賭けに勝利した。
人類史に刻まれたサーヴァントの魂は人間やミラーモンスターとは桁違いに上質であり、負った火傷を治癒するのみではなく更なる力を与えた。
これは食されたサーヴァント、清姫の竜種としての側面がベノスネーカーに近しい物だったことも起因するだろう。




「シャアアアアアッ!!」


怪気炎を上げてベノスネーカーがナイチンゲールに襲い掛かる。
直感的に怪物は理解していた、目の前の獲物が先程食らった極上のものと同一の存在であることを。
消し炭にはしない。
今度は弱らせた獲物を丸のみにして、直接柔らかそうな肢体を味わ―――、


「―――このような場所に動物とは、何たる不衛生……!!」


一言でいうならば、ベノスネーカーは油断していた。
目の前のフローレンス・ナイチンゲールという女傑に対して。
全身のあちこちが焼けているにも関わらず、ナイチンゲールの全力の拳は6メートルを優に超えるベノスネーカーを一撃で打ち抜いていた。
清姫の魂を喰らってパワーアップしていなければそれで決着がついてもおかしくはなかった拳を受け、遥か彼方まで吹き飛んでいく。


775 : ARMOUR ZONE ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:32:18 nzoKo9Ok0


――――FINAL VENT――――



自身のモンスターが吹き飛ばされたのにも関わらず、王蛇は動じない。
彼にとって、ベノスネーカーもカードの一枚に過ぎないのだから。
炎渦巻く戦場に機械的な電子音が響く。


「看護婦だか何だか知らんが…ウザいな。戦えればそれでいいんだよ、俺は」


その言葉は短いながら圧倒的な断絶を現していて。
この世の誰もが浅倉威を必要としていないように、浅倉威も誰一人として必要としてはいないのだ。
彼に治療受けるつもりなどさらさら無かった。



一匹の獣は新たに呼び出したエイ型のモンスター、エビルダイバー背に飛び乗り、ファイナルベントであるハイドベノンを放つ。
すかさずナイチンゲールも迎撃の体制を取るが、血の塊を吐いて体勢を崩してしまう。
全身を焼かれた時に吸い込んだ黒煙が肺にダメージを与え、童磨との戦いで負った傷が開いたのだ。
その影響は、突進してくる王蛇を前に致命的な隙を生む。
いかにサーヴァントといえど、火だるまになり内臓を損傷した状態でファイナルベントの直撃を受ければ命はない。


「ガァッ…!?何だ…」


その時だった。
王蛇の足元に高速で何かが飛来し、その衝撃を受けてエビルダイバーから勢いよく落下。
ファイナルベントも不発に終わってしまった。
ナイチンゲールが飛来物の方向を見れば、見覚えのある少年が紙の様に薄くなった人差し指を向けている。


「間一髪、だな…さっさと一人で行くなんて酷いぜ。ナイチンゲールさん」


円城周兎。ナイチンゲールを救ったのはこの地に来て二番目に出会ったナノロボ感染者の少年だった。
骨銃(ボーン・ガン)という彼の放ったダイヤモンドよりも硬い弾丸が、王蛇を撃ち落としたのだ。


「今のうちに一旦引こう。幾ら何でもその傷であいつの相手をするのは危険だ」


駆け寄りながら周兎は左手の他の指で骨銃を撃ち、王蛇を牽制する。
着弾のたびに王蛇の装甲に火花が散り、行動を阻害していた。
しかし、その光景にナイチンゲールが抱いたのは安堵よりも危機感。
骨銃は確かに優秀な飛び道具だが、それは彼女の使うピストルも同じこと。
それだけで王蛇が身動きできないほど封じ込められるとは思えなかった。
そして彼女の危惧は直後に現実のものとなる。


776 : ARMOUR ZONE ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:33:33 nzoKo9Ok0

―――FINAL VENT―――


再び無機質な機械音性が大気に木霊する。
骨銃の妨害を受けながらも王蛇が引き抜いたカードをその手のベノバイザーにセットしたのだ。
すると、今度はサイ型の怪物――メタルゲラスが王蛇の背後に姿を現す。
このモンスターとの複数契約から為るカードの豊富さこそが王蛇最大のアドバンテージだった。
サイに騎乗する王蛇の姿を目にした瞬間、周兎に肌が泡立つような悪寒が奔る。


「う、おおおおおッ!!」


ドンッドンッドンッ!!
残った右手の指を指向し息つかせぬ三連射。
隣を見ればナイチンゲールもピストルを発砲している。
だが既に加速している王蛇の勢いを止めることはできない。
周兎はどれだけ優秀なハンターでも、真正面からヒグマと相対するのは避けるという話を想起した。
時速数十キロで突進してくるヒグマはライフルのヘッドショットでも止められないのだ。


(くそっ!タブレットさえあれば)


それでもタブレットで強化した自分の骨銃なら止められたかもしれない。
このままでは二人とも串刺しにされておしまいだ。
助けに入っておきながら、何と情けない結末だろう。
間合いが一瞬でゼロになるのを感じながら、周兎はナイチンゲールに詫びる様に一瞥した。


―――全ての毒あるもの、害あるものを断ち。


しかして彼の目に移ったフローレンス・ナイチンゲールは、
かつて小陸軍省と謳われた鉄の女には、
窮地にありながらいまだ一片さえ諦観の色はなく。


――――我が力の限り、人々の幸福を導かん…!


全身を焼かれ、肺の裂傷が開いてなお。
その両足は台地を踏みしめ、真紅の瞳は未来だけを見据える。


突っ込んでくる怪人の事も忘れ、周兎は貴婦人の背後に現れた人影に目を奪われる。
ナイチンゲールの背後に並び立つ、長大な剣を持った白衣の女神。

効果範囲内のあらゆる毒性と攻撃性は無視され強制的に作り出される絶対安全圏。
彼女の生涯の秘奥である宝具の開帳―――!



―――我は全ての毒あるもの、害あるものを断つ(ナイチンゲール・プレッジ)!


777 : ARMOUR ZONE ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:34:59 nzoKo9Ok0




「チッ、どういうことだ…!」


自分の放ったファイナルベント、ヘビープレッシャーは確かに着弾したはずだった。
だと言うのに看護婦の女もつんつん頭のガキも傷一つない。
その不可解な現象に、王蛇は歯噛みした。


「すげぇ…これナイチンゲールさんが?」


周兎は今しがた起きた現象に驚嘆の声を漏らす。
先程確かにサイに乗った蛇男の突進を受けたはずのなのに、体には傷一つなく。
骨銃で消費した骨も全て元通りに再生している。
ナイチンゲール本人を見ればさっきまであった全身を包む火傷は消え失せ元通り瑞々しく美しい顔が戻っていた。
その表情は先程までの鉄面皮より更に厳しいものになっていたが。



「ミスター円城、救援感謝します。そして、早急な避難を」
「アンタを置いていけるわけないじゃないですか。あの野郎を野放しにしておけない。俺とナイチンゲールさんの二人なら」
「罹患者は彼だけではありません」


ナイチンゲールの短い返答と同時に、周兎の異常発達した聴覚が遠来の音を捉える。
雷雲など夜空には見られないというのに―――



「あらあら、休息を終えて来てみれば、見た顔もいらっしゃるようですね。
まぁ、まず先に斬り捨てるべきはカルデアのサーヴァントでしょうが」


その時、周兎の聡明な頭脳は何故ナイチンゲールが逃げろと言っていたのかを理解する。
彼女はサーヴァント言う歴史に刻まれた存在で、宝具と呼ばれる強力な切り札をそれぞれ有しているという。
きっと先程の現象もその宝具を使ったのだろう。
そしてその時発生した魔力を辿ってここへ来る者もいるはずだ。
もとより、この周辺は拡声器の音に惹かれて人が集まりやすくなっている。
あれだけ派手にやれば気が付かない方がおかしい。

姿を現したのはナイチンゲールに勝るとも劣らぬ美しき女性。
黒髪は流麗に背中を流れ、その胸は豊満であった。
ともすれば周兎も一瞬見惚れそうになったかもしれない。
彼女が、全身を冷酷な殺気で満たしていなければ。
たおやかな手に握られた長刀は時折雷霆を疾らせ、先程自分が聴いた音の正体を周兎は戦慄と共に理解した。


「我が忌み名、ライダー・黒縄地獄。
覚えるかどうかはご自由に。覚えた所で待ち受ける先には鏖殺以外にないのですから」



夜明けは、いまだ遠い。


778 : ARMOUR ZONE ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:36:10 nzoKo9Ok0
【C-3/東部/1日目・黎明】

【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(大)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:救う。殺してでも。
1:目の前の病に侵された者たちを治療する。
2:傷病者を探し、救助する。今は拡声器の少年の生死を確認したい。
3:童磨は次に会ったなら必ず治療する。
4:『鬼化』を振り撒く元凶が、もし居るのなら───
[備考]
※参戦時期はカルデア召喚後です。
※宝具使用時の魔力消費量が大きく増加しています。
※円城周兎からナノロボについて簡単な説明を受けました。
※沖田総司をカルデアに召喚された沖田総司であると認識しています。
※情報交換により前園、権三の情報を得ました。

【円城周兎@ナノハザード】
[状態]:健康、ナノタブレットを1錠服用済
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:悪党は叩き潰す
1:目の前の敵を退け、拡声器の声の主の救助を行う。
2:ナイチンゲールを手伝い、病院を目指す。
3:前園、権三に最大限警戒する。また、前園は殺す。
[備考]
※原作22話終了後、母親が死亡してピーマンの肉詰めを食べた後からの参戦
※あと数時間の内にナノタブレットを3錠以上服用すると頭が爆発して死亡する可能性があります。
※ナイチンゲールから童磨、および鬼滅の刃出典の鬼についての情報を入手しました。
※サーヴァントについて基本的な情報を得ました。

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[状態]:全身に火傷、腹部にダメージ(小)、王蛇に変身中
[装備]:王蛇のカードデッキ 
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:いつも通りに闘う
1. 目の前の獲物を殺す。
[備考]
※メタルゲラス、エビルダイバーと契約後の参戦
※清姫の霊核を食べたことによりベノスネーカーが清姫の能力の一部を得ています。
※それを受けて王蛇のスペックも向上しています。


【源頼光@Fate/Grand Order】
[状態]:健康。中度の疲労。
[装備]:絶刀・鉋@刀語、弓矢@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. カルデアのサーヴァントを排除する。
2.もう一体の鬼については状況を見て判断。

[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。


779 : ◆OLR6O6xahk :2019/06/01(土) 14:37:05 nzoKo9Ok0
投下終了です


780 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/02(日) 01:16:03 iIsWRsX60
投下乙です。
遅くなりましたが溜まってた感想になります

>武蔵、出逢う!
 名簿を見た誰もが想像したであろう武蔵対武蔵。自分には絶対書けないタイプの戦闘描写で読み応えがありますね。
 どちらの武蔵もスタンスは対主催ですが、どちらも物騒すぎる。
 奇しくも共に日輪刀を使っての戦いですが、結果は片方の破損による中断。結果は出ませんでしたね。

>最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合
 桃太郎卿書きてぇー! というのがこのSSを読んで最初に浮かんだ感想ですね。
 鬼がこれだけいるロワでなぜ桃太郎がいないのか。まあいたらいたで問題はありそうですが。
 そして当然桃太郎卿だけでなく予約の二人もいいですね。波裸羅が本当にらしい振る舞いですが、
 >波裸羅は産まれし日より強いが――産まれる以前は、あまりに脆弱で、誰よりも腑甲斐なかった。
 の一文から人間らしさも感じられます。勝次も結果は残念でしたが男を見せました。
 最後の薄刀を破壊するシーンが桃太郎卿の場合との違いを感じられて好きです。
 しかしこの話し自体は割と爽やかな感じに終わりましたが、仲間が全員死んでしまった明さんがどうなるのか不安ですね。


>劣等分の過負荷
 ストーリーとして風太郎と球磨川が会話をするだけですが、面白いキャラがちゃんと面白く書かれていてそれだけで話も面白いですね。持つだけで誠刀が壊れる球磨川には笑いました。その後の起こったことを無視して話す球磨川にも
 あと球磨川の螺子って持ち運ばなきゃいけないもんだったんですっけね。なんか勝手に自分で生み出してるイメージを持ってました。

>獣達の夢
 サーヴァント同士の派手な戦いに速攻で混ざる浅倉は流石。
 清姫はそんな浅倉を利害で組める相手だと思ったのが運の尽きでしたね。
 まあ、浅倉のニュース記者を騙して弟を殺すような一面知らずに、戦いに対する嘘の無さに好感を持って死ねたのはせめてもの救いだったかも。

>どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる
 うわぁ善逸……善逸ここで死ぬかあ……
 もう初っ端七実のだけでもヤバイのにそこから仁の乱入にジウくんによる爆破と怒涛の展開。
 そしてそこからの善逸のセリフがずっとキレッキレ。引用するとキリがない。全部名言。
 序盤のビビりながらバット構えてる姿も容易に原作絵で想像できるし、ほんと善逸が良い。他のキャラもいいけど善逸が良すぎる。
 それだけでにここで死んでしまうのかぁ……と、善逸の死が本当に悲しい。

>石上優は叫びたい
 タイトルからして嫌な予感はしていましたが、石上死亡回。好きなキャラが立て続けに死んでしまった…
 しかし力及ばず敗れてしまった善逸とは違い、力はなくとも勝利しての死亡。悲しさではない読後感がありました。
 自分が書いたキャラの初リレーで期待と半分で読んだんですが、良い死亡話でした。
 本当なら即予約したいくらいだったんですが、他の作品執筆中、ナノハザードを把握しきれてない、というふたつの理由で後回しになってしまいましたが、無事に自分で続きを書けて良かったです。
 
>ハザード&レスキュー
 名簿を見ての反応や優勝を狙うか否かの葛藤といった登場話のお約束要素が、スピーディーにしっかりと書かれていていいですね。
 天守閣が壊れたことに驚いたりしてるのも、円城周兎が本来は一般人であることを思い出させますね。
 いきなりナイチンゲールを怒らせてはしまいましたが、童磨のときとは違い、今回は無事に話し合いができて一安心です。

>救う者たち
 めだかちゃん、精神的に良くない時期からの参戦だけど童磨と戦うために立ち直りましたね。童磨の君は間違ってないという言葉を跳ね除けるのが格好いい。
 あっさり鬼の力まで手に入れる無体さも流石。というか鬼の力も使えるなら結構いろんなキャラの力を手に入れられそうだ。
 童磨の力はコミックス勢で全然知らないのでどちらの勝算が上が全くわからない。続きが気になりますね


781 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/02(日) 01:19:45 iIsWRsX60
>悲しみは仮面の下に
 ここで蓮と五月脱落かぁ。ここまでのふたりが良かっただけに残念
 特に五月は彼女が死んだことで優しかった千翼を語れる人間が誰も(原作キャラに語れる人もいるのかもしれないけど)いなくなってしまったのがキツい。
 千翼はいったいこれからどうなってしまうのか。

>COME RAIN OR SHINE
 仁さんの行動方針は最初から書かれていましたが、その動機を丁寧に描写する回ですね。割と原作でも語られていること説明している面も強いですが、文章の上手さが全然退屈じゃない。
 同作品キャラへの想いを改めて語ることで今後来るかもしれない遭遇への期待も高まりました。
 >「自分の子供なんざ……こっちはもう飽きるほど殺してるんだよ」
 仁から見れば覚悟を表したセリフ、しかし彼が殺そうとするアマゾンの中で、親に殺されるという苦痛を味わっているのは千翼が初めてなのではないだろうか。二期は見てないし、一期も結構忘れてるので見当違いかもしれませんが。

>PHANTOM PAIN
 千翼の夢、死んだ人も皆いて幸せに過ごす内容が、小説版龍騎の真司の夢を思い起こします。自分の痛みを理解しながら進む姿が辛いなぁ。
 「戻るところなんて、はじめからない。
 ここから……始めるんだよ、俺達は」
 このセリフがここまで彼がどんな人生を生きてきたのかを想像させます。
 ここまで千翼と行動を共にしてきた人前回までで皆死んでしまいましたし、まさしくここが新たな千翼の物語の始点ですね。

>NEXT HUNT
 勝手に鯖だと勘違いして鮭だとわかって苛ついてるお前はなんなんだ浅倉。しかも食ってる時はかなり味を褒めたのに。いいじゃないか鯖でも鮭でも美味いんなら。
 それはそれとして浅倉は声の方に向かうようですね。誰かと戦うことを望んでいる彼からすれば当然の選択ですが、かぐやのようなマーダーではない声の方い向かっている人物にとっては厄介な存在になりそうですね。

>貴方の隣に立ちたくて
 ロワではめんどくさそうなカフェイン設定を入れてるの細かくて好き
 メルトリリスは佐藤相手の一度は有利に運ぶも殺した後の隙きを点かれてしまいましたね。というか変身中だと死んで生き返ったことも相手からはわからないのか、IBMまで強化されるみたいだしほんとずるいな佐藤。ずるい。
 自分の正体が知られないようにするのは圭もやったことですが、そのために顔面破壊する佐藤さんは常に圭の上を行っていますね。
 そして会長。そうか、そうなっちゃうかぁ。
 鬼になった会長の心理描写がもう辛い。強くなりたいという思いはそのままに歪んでしまっている感じがまさに鬼滅っぽい。
 石上が会長に頭を撫でてもらった気がしてる時に会長本人はまさかこんなことになっていたとは。
 そして猗窩座とのコンビ結成、何か繋がりがあるコンビっぽいけど単行本だけじゃわかんねぇ〜。早く続きを読みたい。
 あとロワではめんどくさそうなカフェイン設定を出した話の最後に、カフェインが無くても平気そうな身体にするの、気配りが感じられます。

>姉弟
 アマゾン化しているとがめに一緒にいる七花やばいと思ったら、むしろとがめのほうがやばくなった。いや一応殺さないって言ってるけど。ぶっちゃけこのロワのキャラで現状七実が一番怖いと感じている。
 七実もここまでずっと必ずアマゾンと関わってますね。これで間接的なものを含めれば悠以外も全アマゾン勢と関わったのか。
 容赦なくアマゾンを狩ろうとする姿は本当に恐ろしい。今回は七花のために猶予を与えましたが、その七花は参戦時期のせいでまるで歯が立ってませんね。 原作のように成長してリベンジすることはできるのは、そうはならずに再戦するのか、それともその前にどちらかが死んでしまうのか。
 >鑢七実、溜息の似合う女である。
 なんかこれすごいしっくりきました。

>もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy
 登場話の戦いを征したスモーキーも流石に武蔵が相手が悪かったですね。
 初っ端から殺気を見抜かれてますし、その後も数で攻めるも集団相手も経験済みの武蔵には及びませんでしたね。病気がなければもう少し違ってたかもしれませんが。
 しかしどうにか死ぬことは免れた様子。契約モンスターも倒されて弱体化した状態で、今後スモーキーと武蔵がどのように動くのか気になりますね。


782 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/02(日) 01:20:43 iIsWRsX60
>時を超えた遭遇
 まずトリックの再現度がすごい。冒頭のシーンが原作の映像で脳内再生余裕。
 トリックを見ているものの山田を上田を書くことにハードルの高さを感じている自分からすれば、いっそ羨ましいくらいです。
 猛丸も口調も文句なし。海に潜るのもいいですね。
 そして幻之介の存在も感じ取った様子、猛丸は心強い相手と思っているけど幻之介は今猛丸のためにマーダーになってるんだよなあ。
 
>禰豆子/業苦
 禰豆子、躊躇なく人肉食うまで堕ちてはいなかった…良かった。
 それでも一度味を知ってしまったからには我慢するの生半可ではない。いくら食ってもまた生えてきそう参加者が割といるのでそこで凌げれいいんですけどね。
 それに一度でも人を食ってしまったことを知ったら炭治郎や、冨岡さん、しのぶさんがどんな反応をするのか。
 悠もいまは保護してくれてるけどその時が来たら刈り取るつもりのようだし、禰豆子はこれからに明るい未来が見えない。

>センチメンタルクライシス
 対主催同士の接触ですか、罪のある猛田と、過激なメルトリリスの存在で穏便には終わりませんでしたね。
 立香のおかげでその場は収まりましたが、それがこの先どんな結果をもたらすのか。
 会長と三玖の会話は親しくない人間と話し合うことで少し楽になった様子。
 そして会長とメルトリリスは猛田たちとは別行動になりましたね。確かにバイクを持ってるなら一緒に行動しても動きが遅くなりますもんね

>慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ
 良いなあこの話。
 アマゾンズは二期は見てないけど千翼の絶望が痛切に伝わる。絶望した千翼が五月を食おうとするも些細な寝言からそれをやめる。こういうの好き。
 五月も殺し合い夢とする描写も良いし、起きて最初に千翼の背中を撫でる姿が優しい。
 そして善逸の話しをして、ふたりでその死を悼んで――からのあれですよ。辛い。怖い。
 そしてこんな良い話を書いたあとに状態表で笑わせに来るのもすごい。

>CLOVER FIELD
 猛田いいキャラしてるなぁ! 立香とのやり取り良い!
 良心が疼く展開は、ラブデスターの狂行に及んでる連中の中で唯一実験の中で狂った可能性が示唆されている猛田ならでは。
 ミクニと三玖の会話は良いし、あの登場話を書いた甲斐があります。
 三玖は会長との会話では少し前向きになれましたが、まだ登場話からの劣等感は全然解消されておらず、むしろ同行者が増えたのもあって悪化してる感じすらありますね。良いですよねこういうの。
 しかもそんな状態での四葉の死体との対面。中野家大体近くにいたんで、いつか誰かはこうなるんじゃないかとは思っていましたが、三玖がなりましたか。しかも三玖自身の選択によって。
 弱ってるん状態でさらにダメージ喰らう形ですが、どうにかまわりのケアに期待したいところ。

>たりないふたり
 こういう地形に苦戦する描写って良いですよね。自分は情景描写苦手なんでその辺に雑になっちゃうんですが、こういう描写があるとぐっとリアリティが増しますね。
 そして相変わらず再現度が高い。hqLsjDR84wさんは本当に毎回キャラを魅力的に書きますね。
 「やたら高いローファーが!!」ってセリフ貧乏人っぽくて好き。
 
>求めしもの
 >(……いまだ一人として出会わぬとは)
 この文章を見て、端っこに配置してごめんね、という気持ちになりましたがそれは置いておいて。
 幻之介の生い立ちや思考がしっかりと書かれてていいですね。登場話でかなりかっ飛ばし気味に書いてしまったので。
 オルタナティブ・ゼロへの考察なども書かれていて、今後本格的に動く前の丁寧な繋ぎになってますね。
 >必要なものは相対だけであった。
 相対という言い方、素直に格好よくて好きです。
 
>見守る柱、見届ける鬼 
 冨岡さんとエドモン、当人たちは真面目に話してるんだろうけど、あれな会話運びやかぐやの陰で話し合ってる構図を想像すると笑える。
 それでもちゃんとお互いがどういう人間なのかはある程度理解しあった様子。問題なのはかぐやの方で石上の声届いちゃったかぁ。
 そっち行くと石上のグロ死体はあるし、やばい奴らも向かってるし、肉体はまだしも精神は確実に無事で済まなそうだけど、男共はしっかり働いてくれるんだろうか。

>時すでに始まりを刻む
 クラゲアマゾン、こんなに強かったのか。登場話では明さんに結構簡単にいなされてたから、戦闘力はほどほどだと思ってました。
 溶原性細胞に感染ってアマゾンかするってこどでいいんですよね? とがめは他人のために自分の食欲を我慢するってタイプでもなさそうだし、結構な危険人物になりそう。
 特に近くにいる七花はどうなるのか。登場話で七花を見捨てることを考慮してるし危なそうだなぁ、っと思ったら後の話で別行動になったし、危なくなったのはとがめだった。


783 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/02(日) 01:21:51 iIsWRsX60
>上田次郎のどんと来い、鬼退治
 お、上田のやつ意外とちゃんと頭を働かせているな、って思ったらそういうことかよ!自分のことドッキリの主人公かのように勘違いするとかまさに上田だ。
 まあでもその勘違いのおかげで活躍できてるんですよね。現実に気づいていたら絶対あんなに積極的に動けなかったでしょうし。
 そして酒呑童子との遭遇。
 >「そうですか。そんなナリでも鬼なんすね」
  重要なのは、相手が“鬼”であり。
  沖田総司の使命が“鬼退治”であるということだ。
  「うふふ、そないに殺気を出されると、ウチも昂るわぁ」
  沖田は鞘を投げ捨てた。
 名乗りあったら速攻で戦闘開始するこのスピーディさが心地良い。
 戦いもスピーディに攻め合い、スピーディに決着する。素晴らしいテンポです。
 戦闘終了後の周りを置き去りにする上田も良いし、上田酒呑童子コンビも先が気になります。
 
>慕う者たち
 殺し合いの元凶と知り合いって言われても「うん、ま、いいよ」で済ます村山良いなぁ。バカっぽいけどそこが、そこが細かいことを気にしないおおらかさにもなっていて魅力的ですね。
 非ぬ想像をして慌てるマシュも可愛いし、どちらも原作未把握ですが、会話をしているだけで魅力を感じられました。
 最初にキッチンで容易したお茶を飲むのも、殺伐としたロワの中での癒やしを感じられていいですね。

>なんやかんやで第一印象は結構大事
 >「すまんが人助けには興味がない。鮫島も勝っちゃんも強い奴らだ。そう易々とは死にはしない」
 明さん……。原作を読んでなくても球磨川の言う過負荷寄りの人間というのが理解できる。球磨川が構おうとするのも納得。
 今の所は危険人物ではない明さんですが、登場話では優勝狙いにシフトする可能性も示唆されてるけど、そうなっても球磨川は味方するんだろうか? まあでも今回の平行世界考察からするとそうなる可能性も減ったのかな?
 そして風太郎たちと同行するのかどうか。してくれたら頼もしいと風太郎は思ってるけど球磨川もセットと考えるとなんだか余計な苦労も背負い込みそうですね。

>割れた星のTRIANGLE
 それぞれに姉妹の死に直面した一花と三玖の合流、辛い話になると思っていましたが、それ以上に温かい話でした。
 辛さも悲しみも三人で分かち合う。黒い感情に囚われずに前を向く。そして殺し合いの最中でありながら好きな人に会いたいというところに行き着くのが、恋愛漫画である原作にしっかりと向き合っていていいですね。
 冒頭の三玖のダークな描写もそれはそれで良いですし、それに姉妹だけでなく他のキャラクターしっかりと個性を出しているのがお見事です。
 >「あったぞ、救急箱!」
  「でかした!猛田!」
 こことか真面目な場面の中なのに笑える。

>“ぞわり”
 かぐやの石上への想い良いなぁ。そりゃあもちろん一番好きなのは会長だけど、石上のことも大切に思っていることが伝わってくる。
 そして現れた幻之介、ここで文章のノリが変わるのが雰囲気でてますね。
 >しかしながら戦場に不要なこの感傷こそが、如何にも猛丸が幻之介に埋め込んだ杭であり宝だという自覚もある
 この一文は幻之介の猛丸への想いの強さが感じられます。
 冨岡さんは間一髪でかぐやを助けますがその後のセリフのせいで、引かれてる笑う。まあそのおかげでかぐやがすぐに離れた面もあるかもしれませんが。
 ここで一度ギャグとして回収されたタイトルが、最後にもう一度シリアスな意味で使われる構成が上手いですね。
 しかし藤木源之助って誰や。いや調べたけど。
  
> ARMOUR ZONE
 声が聞くやいなや円城を置いて一人で走り出すナイチンゲール、信念の強さがすごい。
 しかし前に立ちふさがる浅倉。一度は追い詰めるもまさか清姫食ってパワーアップしているとは……このロワやばいマーダーがさらに強化されることが多い。
 円城の助けと宝具の力で凌ぐも源頼光まで狙ってくるとは。こうなってくると浅倉がそんなことを気にせず全員に攻撃してくる奴なのが幸いか。
 あと円城、お前タブレットに頼るのやめろ。

すいません、ミスって順番がちょっとおかしくなりました


784 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/02(日) 09:50:49 5YNJdLqg0
雨宮広斗、胡蝶しのぶで予約します


785 : 名無しさん :2019/06/02(日) 14:46:24 Ywj28c320
投下&感想乙です。
ここ最近wiki編集をしてる者(≠wiki作成者)です。

◆FTrPA9Zlak氏の「悲しみは仮面の下に」
◆0zvBiGoI0k氏の「割れた星のTRIANGLE」
以上2作品が長編なため、分割して収録したいと考えています。(前者は収録済みですが、改めて分割したいです)
つきましては、作者の方には、分割する点を提示していただきたいです。
◆FTrPA9Zlak氏は執筆中で申し訳ありませんが、ぜひお願いします。


786 : ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:53:20 IH6JDuno0
>>785
自作「悲しみは仮面の下に」の分割箇所ですが、
>>604の五月死亡表記が入るまでを前編、以降を後編という形に分けさせてください

それと自分の予約分が完成したので投下します


787 : 食物語・とがめアマゾン ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:54:23 IH6JDuno0
『幸せと成功は別物』
『成功したければ幸せになることは諦めなければならない』
『成功をしたいなら誰かと幸せな絆を結ぼうなんて思わないこと』

それはかつて、まだ己の父親が生きていた頃。まだこの髪が白くなるより前の頃。
まだ飛騨に城があり、そこで姫と呼ばれていた頃。

地下牢に捕らえられていた女と語り合った言葉だった。

正直なところ、語り合ったことはほぼ覚えてはいない。今こうしてそれを語っているのは、これが夢の中、私の深層心理を見ているからだろう。
きっと、目が覚めればまた忘れると思う。

あの言葉は未だに心の奥底に刻み込まれている。

私自身の人生に目的ができたのは、この髪が白く染まった日。
国に対する反乱を起こした父が、隠れた自分の目の前で鑢六枝に処刑されるところを目にした時からだった。

国家に対して仇を成したから。大乱を起こし泰平の天下を乱したから。
裁きは当然の結果だろう。

知ったことではなかった。
大事な家族だったのだから。

幕府に対する復讐のために、あらゆる手段を尽くしてきた。
そして、宵越しの銭は持たぬとばかりに、あらゆる絆を切り捨ててきた。

思えば真庭忍軍や錆白兵が刀収集で裏切ったのも当然だったのかもしれない。
彼らに対しても親愛な繋がりなど持たず、利用することしかしてこなかった。いつか切り捨てられるという懸念を彼らは感じたのだろう。

だから親愛な繋がり、愛によって駒となってくれる者に目をつけた。

鑢七花。
虚刀流の現当主であり――――――――父の仇の息子。
元々はその父であり仇そのものである六枝に目をつけていたが。

利用することに抵抗がなかったか?蟠りはなかったのか?
あるに決まっているだろう。

だが、刀収集のためにはもう他の手はなかった。

私は自分の感情も、そして相手からの愛をも利用して、刀集めを成し遂げる。
その褒美として、御側人として将軍の元に近付く最後の機会を得るために。

目的を果たした後はどうなるかなど分かりきっている。

だが、こんな生き方しかできない。

全てを利用しようとも、その結果全てに嫌われようとも。


絆を切り捨て、人との繋がりを、人そのものをも切り捨てても。

私は止まることはできないのだから。





788 : 食物語・とがめアマゾン ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:54:49 IH6JDuno0

体が肩に吊り下げられているような態勢となっているのを感じてとがめは目を覚ます。

「ん…む……?」

いくらなんでもこの抱え方は雑すぎるだろういつものように背負うか前に抱きかかえるかで運ばぬかと抗議しようとして。

「おや、目が覚めましたか」
「ん…?んん???
 お前は、鑢七実か?」
「ええ、お久しぶりです」

ニコリと笑顔を浮かべる七実に困惑するとがめ。

何故七実がここにいるのか。
七花はどこへ行ったのか。
そもそも何故七実に連れられているのか。

「目が覚められたなら降ろしても構いませんか?」
「あ、ああ。自分の足でちゃんと歩けるぞ」
「そういえば支給品の中に入っていたものですが、この菓子を食べますか?
 『ちぇりお』という氷菓子のようです。とがめさんが目を覚ますまでに一つ頂いたのですがけっこう美味しいものでしたので」
「うむ、戴こう。名前がとても気に入った」

七実から渡された袋を破り中のアイスを口にするとがめ。

「ほう、これは食べたことのない味だな。
 この白いのは牛の乳を凍らせたものか?それにこの茶色いものは砂糖とは異なる、不思議な味をしている。 
 うむ、これは美味いぞ」
「もう1本食べますか?」
「………む?」

アイスを齧り終えたとがめは手元に残った棒きれを見ながら首を傾げた。

「どうかなさいました?毒でも入っていました?」
「不思議だ。これは美味いと思う。美味い菓子だ。
 なのに、また食いたいとは思わないのだ。
 何というか、まるで腹いっぱいの時に飯を勧められた時のような…」
「………」
「って違ーーーーーーーーーーーう!!
 何故私はそなたに渡された菓子の感想などを述べておるのだ!今はそれどころではないだろう!」

棒を地面に叩きつけながら、とがめは七実へと向き直った。

「そうですね。順を追って話しましょう。
 とがめさん、名簿は見られていますか?」
「名簿?」
「この包みに入っているはずですが」
「お、おう!当然だろう!見ている、見ているとも!ちゃんと私達とそなたと、私の知る者の名があるのは見ていたとも!」
「見られていなかったのですね」

内心で溜息をつく七実。

「まあそういうわけです。あなた達とこの私がこの場に呼ばれていまして。
 七花とは先程再会したのですが、あの子があまりにも不甲斐ないもので、私が代わりに預かってきた次第です」
「七花からだと?いや、それはおかしいぞ。あいつには私を守れとそう言っているはずだ。揉めなかったのか?」
「揉めましたとも。ですから少し強引な手を使わせていただきました」
「う、うむ…?」

強引な手。よく知る姉ならではの七花の弱点でもついたというのだろうか。
それでも病弱な七実が七花から逃げられるとも思えなかったが。
とりあえずそう一旦とがめは結論づけた。

「ところでとがめさん。今の月は何でしたっけ」
「何をとぼけておるのだ。卯月に決まっているだろう」
「卯月。なるほど、七花が錆白兵を倒して日本最強となった頃ですか」
「そうだ。不承島までその評は届いておるのか。すごいな」
「……」

少し手を顎に当てて考え込む姿勢を取った後、再度問いかけた。

「とがめさん。ここに来てから何があったのか、教えていただいても?」
「何があった、と言ってもな」


789 : 食物語・とがめアマゾン ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:55:37 IH6JDuno0
この場に連れてこられて以降のことを話し始めるとがめ。

そして、謎の触手を操る化物のことに触れた時思わず顔を上げた。

「そうだ!私はあの時確かに腹を貫かれたはず…」

とがめは腹部に目をやる。
しかしそこには跡こそ見えるが傷そのものはほとんど治っている状態だった。
襲われたことが確かな事実は、服に空いている穴が証明しているというのに。

「とがめさん」

七実が呼びかけた時、ヒュンと風が吹いたような音がとがめの耳に届いた。
目の前にいる女の爪が伸び、目にも止まらぬ速度で振るわれたことに気付くこともなく。

ふと見下ろすと、左手の着物が斬り裂かれ、手の甲から腕にかけての皮に切り傷ができていた。

「な、七実、今何をした」
「何でも構わないでしょう。よく見てください、その傷を」

とがめが腕に滲んだ血を拭う。
すると、そこにあったはずの傷はどこにもなかった。

「とがめさん、これから私の話すことをちゃんと聞いてください」

七実は語った。
死体を動かす謎の技術を使われた『あまぞん』という存在。
そしてその本当の姿、人を食べる化物という本性。

その存在のおぞましさを。

「あまりにもおぞましいものだったのでこちらで排除しておこうと思いましてね」
「排除…、そなたがか?」
「私も虚刀流ですよ、とがめさん。
 さて、ここまで言えば私の言いたいこと、分かりますね」

治癒された傷と、先程差し出した菓子の棒を指差しながら七実は言う。
言葉の意味が分からぬほどとがめは愚かではなかった。

「そのあまぞんなるものが、私の中にいるというのだろう。
 この体に、病のように巣食っているというのであろう?」
「ご察しが良くて助かりました。
 さて、ここからは私がどうするかという話ですが」

と、七実はとがめの首に指を当てる。
ただの指ではない。人のものとは思えぬほどに伸びた、鋭い爪が生えた指。
もう少し動かせばこれはとがめの首を貫くだろう。

「私は一刻も早くあなたを斬ってしまいたいと思っています。
 しかし今は七花に言った後です。とがめさんを取り返したければもっと強くなって来なさいと。
 今あなたを殺せば、七花はそれこそ折れてしまうかもしれない。
 なのであの子のために少し猶予を与えてみたいと思うのです。
 で、その前に確認したいのですが。とがめさん、これからどうするおつもりですか?」

じっととがめを見つめる七実。
その目を見て、答え次第では自分は殺されるということを理解する。

だがどう返答するかなど既に決まっている。

「答える前に聞かせてほしい。
 もし私がそれに感染しきった時、私はどうなる?」
「私の見立てでは、自我をほとんど失い人食いの化物となるでしょうね」
「そうなるまで、あとどれくらいの時間がある?」
「一日、は保たないでしょうね」
「そうか」


790 : 食物語・とがめアマゾン ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:55:55 IH6JDuno0
首を動かさぬまま、目を閉じるとがめ。

「うーむ。正直詰み状態に近いな。
 想定外の出来事に上乗せして、まさか化物になってしまうとはな」

二秒の沈黙。
そして目を開く。

「だが、私はまだ諦めきれてはおらぬのでな」

その左目には十字の紋様が浮かんでいた。

「あと一日か、ならその時間を足掻いてみせよう。
 七実よ、さっきから気になっていたが、お主には私の中のあまぞんなる力を診ることができるのか?」
「そうですね。医学的な知識は現状持ち合わせていないので分からないことは多いですが」
「ならばこれについて更に情報を持っている者を探せばいいのだろう?
 そこにお主のその診察眼を合わせてこれをどうにかする術を探すのだ」
「それでも見つかるとは限りませんよ?」
「かもしれぬ。しかしやる前から諦めてその運命に呑まれるなど奇策師の名折れだ」

七実をその十字の瞳で見ながら、とがめは乞う。

「だからこそ力を貸せ、鑢七実よ。
 私が化物となるまでに元に戻ることができる術を探すために」
「随分と図々しいことを言うのですね」

言う間も言われている間も、七実の指はとがめを指したままだ。
それでもとがめは七実の視線を真っ向から受け止めている。

「先に言っておきます。
 私はあなたのことが嫌いです」

ずい、と額がぶつかりそうな距離でとがめを見ながら言う。

「理由はまあ色々ありますが、とりあえずその髪が長いところはかなりの減点箇所ですね。
 もう、さっさと切り落としてしまいたいくらい」
「真っ先にそこなのか」
「加えて今は視るのもおぞましい化物を宿しているのですから。本当、草のように毟りたくて仕方ありません。
 本当、どうしてこんなに草なんでしょうね」

酷く怨念が籠もっているようにも思う呟きだった。

「しかしいいでしょう。七花のためでもあります。付き合ってあげましょう」

指を収める七実。ほっと一息入れるとがめ。

「ですが」

しかし近付けた顔はそのままに七実は告げる。

「もしも、もしもの話、七花が情けなくもどこかで命を落とすようなことがあれば、分かっていますね」
「分かっておる。その時は好きにしろ。七花と刀を集める旅に出ると決めたときから、あいつとは一蓮托生だ。
 だが私はあいつを信じている。そう簡単に死ぬことはないとな」

それはとがめ自身が覚悟していたことだ。
七花との旅が元々最後の機会であり、これにしくじれば次はもうないだろうと。
だからその時の覚悟はとうに済ませている。

その様子に、七実は一息嘆息して言った。

「こんなところだけは意見が一致するのですね、さて、では草さん、どこに向かうか、宛はありますか?」
「待て待て待て、誰が草だ誰が!」
「失礼しました、では雑草さんと」
「違う!私の名前はとがめだ!!」
「とがめ草さん、もし無いのであれば私としては考えていることが二つあるのですが」
「草から離れろーーーーーー!!!」




791 : 食物語・とがめアマゾン ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:56:08 IH6JDuno0

七実の考えは二つ。

ここから西に向かうか東部に戻るかだ。

東には少なくとも3匹のアマゾンがいることが確認されている。
千翼というアマゾン。
その父親。
とがめに傷を負わせたアマゾン。
これを毟っておきたいという気持ちがあるし、アマゾンについても何か情報を持っている者がいるかもしれない。
しかし東には七花がいる。
強くなって取り返しに来いと言っておきながら早速顔を合わせてしまっては様にならない。

一方の西。
とがめが眠っていた間、何者かが大声で揉めているような音が響いた。
あれに引かれて寄ってくる者は多いだろう。
もしかすると七花の相手にうってつけの者が厳選できるかもしれない。
だが、アマゾンについての情報を持っている者がいる可能性は低いだろう。

どちらを選んだものか。


(それにしても、あれが日本最強の剣士に勝った七花だったなんてね)

七実は弱くなった、と称したが、もしかすると技量としては三ヶ月後の七花とそう変わっていないのかもしれない。
もし違いがあるとすれば。

あの時自分と相対した七花は、随分と人間らしくなっていたと感じていた。
自分を殺したくないという七花。凍空一族への仕打ちに対して憤りをぶつけた七花。
刀に不要なはずの感情を、ずいぶんと持つようになったと。それを刀として錆びついたと七実は称した。
一方であの七花からはまだ刀らしさを強く感じていた。

(人間らしくなって錆びついたと思っていたけど、刀のままだったあの子がまさかあそこまで鈍らだったとは思わなかったわ)

もしかすると人間に近付くこともまた虚刀流の完成に必要なものだったのかもしれない。だとすると自分に虚刀流の資格がなかったのも納得するものだ。
問題は今の七花があの自分を殺した七花にどれだけ近付けるか、だが。

(本来はそこまで持ってきたのが、とがめさんなのでしょうね)

七実がとがめを嫌っているのは事実だ。
しかし、一方で七実にとってもとがめはとても稀少な存在でもあった。

思い出すのは、護剣寺での七花との決闘の時のこと。
初めてのことだった。
まさか自分が見蕩れてしまうような策に嵌められてしまったのは。

この目を掻い潜って自分を策に落とした相手だ。評価しないはずがない。
他人をそこまで評するのは七実にとっても稀有なことだった。

(―――ですが、今はとがめさん自身も)

アマゾンの件を抜きにしても、あの時の彼女と比べてもまだ足りていないように見えた。
何があったかは知る由もないが。

七花を任せるべき相手として、あの時と比べて。
何かが欠けていた。





792 : 食物語・とがめアマゾン ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:58:30 IH6JDuno0


(全く、何故このようなことになったのだろうな)

とがめの心中は穏やかでこそないが、そこは奇策師。頭をひたすら回転させて如何に対応すべきかを模索していた。
七花といた時のように悠長にしている場合でもなくなったのは確かなのだから。

七花に一刻も早く会いに行くべきかと思っていたが、どうやらその前にやらねばならないことができてしまった。
完全に自分というものが無くなってしまうまでにどうにかしないといけない。

それが、とがめが当面の目的として考えていることだった。

一方で、その先を見据えたとがめの脳はまた別のことを考えていた。

体を蝕んでいるアマゾンなる病原菌のようなもの。

これの情報を得ることはとがめにとって必要であった。

その病への対処としてそれを求めることは当然であろう。

しかしその裏で、とがめが考えていることもまた。

(もしこれを詳しく調べ、私にとっての武器とできるのならば)
(いや、あるいはもっとこれらよりも異質な力が、技術が存在するのならば)

(―――私の復讐にも、使うことが――――――)

決して人に悟らせはしない、禁断の思考が、確かに存在した。


【C-6/1日目・黎明】

【鑢七実@刀語】
[状態]:疲労(中)、割と不機嫌、返り血
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜7(確認済み、衣類系は無し) 、チェリオ(残り3)@現実
[思考・状況]
基本方針:適当にぶらつく。細かいところをどうするかはその時々で判断。
1:七花が開花したならば殺されたい
2:とがめに同行。アマゾンについての情報を集めたい。ただしとがめが完全な手遅れになるか万一七花が死んだ場合は斬る。
3:アマゾンに不快感。さっきの少年(千翼)は殺す(ただし一応は情報優先)
4:東に留まってアマゾンを狩りつつとがめのために情報を集めるか、西に動いて七花とぶつけられそうな強者を探し七花の元に誘導するか。
[備考]
※参戦時期は死亡後ですが、体の状態は悪刀・鐚を使用する前の病弱状態です。
※自分が生きているのはアマゾン細胞によるものではないかという可能性を考えています。
 また、その想像に対して強い不快感を感じています。
※見稽古によって善逸の耳の良さ・呼吸法を会得しています
※石上の声を聞いています。それにより人が集まる可能性を考えています。

【とがめ@刀語】
[状態]:腹部に軽症(治癒中)、溶原性細胞感染。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3 (確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんとしてでも生き残る
1:アマゾンに侵された体を治す術を探す。
2:1を成すまでは七実と共に行動、利用する。
3:体の治癒が叶えば七花と合流したい。
4:できれば帰った時のためにアマゾンやその他未知の力への情報を集めておきたい
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前
※クラゲアマゾンの触手が折れた際にまき散らされた体液が傷口に付着したことで溶原性細胞に感染しました。覚醒まで時間がかかると思います。
※完全にアマゾンとなるまでは七実の見立てでは一日保たないと言われています。実際にはもっと時間は無いかもしれません。
 ただし外的要因により時間が上下する可能性はあります。
※七実の実力を把握していません。


チェリオ@現実
森○乳業の販売するアイス。真ん中に板チョコが入っていて、さらに周囲のバニラをチョココーティングされている。
5本セットの箱。なお袋を開封するまではアイス自身の冷温は保たれているため溶けることはないもよう。

ちなみにイユの支給品である。


793 : ◆FTrPA9Zlak :2019/06/02(日) 15:58:49 IH6JDuno0
投下終了です


794 : ◆0zvBiGoI0k :2019/06/02(日) 18:25:26 2D3EO3Gk0
>>785
編集作業ありがとうございます。
では拙作「割れた星のTRIANGLE」の分割は>>745までが(前編)、>>746からが(後編)でお願いします。


795 : 名無しさん :2019/06/02(日) 20:10:35 W3hyhJOc0
乙です
とがめよ、アマゾンを利用しようなんざ最高傑作と伝説のヒモが黙ってないぞ


796 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/02(日) 23:51:51 J6lw0Jtc0
投下します


797 : ロストルームなのか? ◆7ediZa7/Ag :2019/06/02(日) 23:52:35 J6lw0Jtc0


──じゃあ次は、こ_ういうのはどうでしょう。


【壱】

鬼はすべての元凶であり、この世の悪のすべてであり、生きとし生けるものに対する脅威。
そんな鬼と人間の戦いが、この国ではずっと存在していた。
それは日本各地に残る鬼殺の伝承が証明してくれる。

とはいえ、そう、その事実はあくまで最初に一歩にすぎない。
大事なのは昔から人間は鬼と戦い続けていて、その結果得られた数少ない「功」として鬼に関する技術があったということ。
それは武器だったり、道具だったり、あるいは呪術的なものでもあった。
鬼は悪しきものであるが、それによって得られたテクノロジーを否定する必要はない。
例を挙げれば日輪刀という特殊な日本刀がある。あれも、鬼との戦いのなかで研鑽されたテクノロジーだ。

そしてその技術を鬼殺以外にも使おうとした人が──ここは詳しい時期をあえて書くと──1940年代ぐらいになって現れ出した。
いやもう少し前だったかもしれないけど、実際に記録としてで始めたのはそのあたりだった。
その時この国は戦争まっさかり。
鬼神兵計画。
そう名前づけられた大日本帝国軍の一つの計画があった。
それはもうすごい計画で、資料自体はかなり散逸しているが、鬼によって得られた技術を当時の最新技術にて「人間」に与えるとか、そんなコンセプトだったのだろう。
鬼の神の兵、とすごい名前を書くだけあって、鬼も神もついでに人間も恐れない計画で、それによってなんだろう?戦争に勝とうとしたんだろうか。

とはいえ知っての通りそんなものは世には出ていないから、結果はわかるだろう。
鬼なんてものを材料に使うから、出来上がるものもロクなものではなく、計画はロクな方向には向かわず、最終的には鬼神兵など関係ないところで大日本帝国は敗北した。

──というどうしようもない未来があった訳なんだけど、実は、この未来を観測していた人間が、戦国の世の段階でいた。
このまま鬼と戦い続けると、たとえ鬼を討ち滅ぼすことができたとしても、やっぱりこの国は滅びる。

そんな未来を、とある刀鍛冶がどういうわけか視てしまった。

それから鬼と人間の戦いの影で、未来と現在の戦争まで始まり出していた。
「そちら側」に未来がいくのを止めたい一心でその刀鍛冶は頑張っていて、そのためには未来の技術をふんだんに使った刀を生産する始末。
大正期に一つのピークを迎えていた鬼殺の技術や、その後の大戦期の鬼神の呪術まで反映した刀まで出回っていたという。

その頑張りもあって、歴史はうまくズレ始めていたんだが──そうは問屋が許さなかった。

人類史を変な方向に向かわせた結果、また別の勢力の目に止まってしまった。
時間警察的なもの、というと乱暴だが、人理継続保障機関カルデアと呼ばれる機関の介入によって、歴史と歴史の戦いはさらなる局面へ突入。
その特異点となったその時代では、鬼殺、鬼神、剣士達、刀鍛冶が集結し、各々の思惑で動き始めていた。
加えてそこには端麗人と呼ばれる、時代を超える者の影が──


798 : ロストルームなのか? ◆7ediZa7/Ag :2019/06/02(日) 23:52:59 J6lw0Jtc0




うーん、ダメ。
バトロワからの脱線、そのまた脱線を重ねすぎて、意味不明になっています。





【肆】

西暦201X年。
この地球に突如として異星人が襲来した。
彼らはラブデスター星人を名乗る彼らが、第一次接触に際して求めたものは「愛」であった。

彼らがどのような思考回路を取っていたのか、部外者であった私には判別することができない。
それでも一人のジャーナリストとして、この問題に切り込んでいきたい。

このところ起こっていた「学園丸ごとを拉致する」という奇怪な、そして陰惨な事件が彼らによって引き起こされたものであることは確かだった。
拉致された学園は全国各地に散らばっており、そのレベルも市井の一般項から、エリートたちが集う名門校、創立100年を超えるマンモス校まで多岐に渡る。
一切関連性のない学生たち数多く集められ、彼らはその中である「実験」をさせられていた。

その実験とは、「恋」を求める異星人たちは、学生間の間で恋愛が成立すれば生還、失敗すれば死亡、という奇妙なものだった。
地球人である我々には、彼らが何を求めていたか理解はできない。
とはいえ異星人たちの思想──および異星人から「返礼」として持たさられた技術──については、生還した学生たちから得られた意見を基に、すでに多くのメディアで語られている。

故に私はここであえて、2000年代に東京で起きたとある怪事件との関連性についても触れたいと思う。
正義のない戦い。あれも奇怪なルールのもと、常識を超越した技術を基に殺し合いが起きていた。
あの事件と、今回の異星人とのファーストコンタクトの間に、実は何か関連性があるということはないだろうか。

(原稿はここで止まっている。代わりに殴り書きの乱暴な筆致でこんな口が書かれている)

……どっかで買ってくれねえかなぁ。無理だよなぁ、今日日OREジャーナルみたいなのが流行る時代でもないし。あーあ






バトロワという形には近いですが、まだまだすべてを語り切るには遠いような。
うーん……





799 : ロストルームなのか? ◆7ediZa7/Ag :2019/06/02(日) 23:53:33 J6lw0Jtc0

【参拾参】


かつて、ムゲンという伝説のチームがこの一帯を支配していた。
その圧倒的な勢力により、かえってその一帯は統率がとれていた。

だが、そんなムゲンの支配に唯一、屈することなく、たった2人で互角に渡り合った兄弟がいた。

──雨宮兄弟。

決着がつかないまま、ある事件をきっかけに突如ムゲンは解散し、雨宮兄弟も姿を消した。
そして、その地区に5つの組織が頭角を現した。
各チームの頭文字をとってSWORD地区と呼ばれ、そこにいるギャングたちはこう呼ばれている──G-SWORD。

そんな危うい均衡の下に成り立つSWORD地区。
その一角、無名街に一人の少女が迷い込んだことから、事態は一気に動き出していく。
少女を追っていたのは、九龍グループ。裏社会の支配者、9組の極道組織からなる極道連合組織。

──この地下にあるんです。

無名街の地下、そこには国内トップレベルの製薬企業、野座間製薬の旧研究施設があった。
そこに一体何が研究されていたのか、何故その秘密をこんな少女が知っているのか、野座間の、そして九龍の思惑は一体何なのか。

幾重に謎が散らばるなか、SWORD地区にアマゾン・亜人といった異形たちまで集結する。
鍵となる少女が元総理大臣の娘と判明。その誘拐を目論む亜人種や野座間製薬、九龍グループの影。
そうした驚異の中、G-SWORDたちはSWORDすべてを、そして国をも揺るがす大事件に直面することとなる。

一方、マイティウォーリアーズは湾岸地区にて着実に勢力を伸ばしつつあった……





チェンジ





【弐拾参萬陸千弐佰七拾壱】


──遥かな神代、人がまだ、神の庇護下にあったとされる時代。
生命の木の下に、最小<ナノ>の叡智がもたらされた。
だが忘れてはならない。智慧と災厄は表裏一体であることを。

それは存在するはずのない、「ほんとうのはじまり」であり、このバトルロワイアルさえも──





疲れてきたのでシミュレーション中断します。





800 : ロストルームなのか? ◆7ediZa7/Ag :2019/06/02(日) 23:53:52 J6lw0Jtc0


この奇怪な催しが始まり、一人の幼子と出会い、そしてそれも死んだ。
波裸羅がこの島にて遭遇したのはその幼子のみであった。

「──ふむ」

波裸羅は顎をそっと撫でる。
肌艶の良い麗しい肌が、ぱちぱちと明滅する照明に照らされ妖しく光る。

──波裸羅はその時、研究所と呼ばれる施設に足を踏み入れていた。

この混沌とした殺し合いの片隅に位置するこの施設には、当然のように波裸羅以外の何者もいなかった。
島の外れもいいところだ。
今後も何か特別な意図がなければ、他の参加者が足を踏み入れることはないだろう。
波裸羅とて、たまたま最初に立っていたのが目の前でなければ無視していたに間違いない。

だが波裸羅は目を開けた時、研究所の前に立っていた。
ここに立つ参加者が誰であったにせよ、こんな場所に誘われれば、目の前に意味ありげに立つこの施設を調べることは自然だろう。
その「研究所を間違いなく最初に調べるだろう」参加者が波裸羅であったという、それだけの話である。

──それが偶然であるか、必然であるかは置くにせよ。

「意味がわからぬな」

言いながらも、その口角は僅かに、僅かにであるが吊り上っており、存外、その機嫌が良いことを示していた。

今目の前に広がっているのは艶艶と白く塗られた部屋であり、そこには無数の資料が置かれている。
波裸羅からすればそれも奇妙なものであったが、そんなものはどうでもよかった。
波裸羅の興味を引いたのはこの光景ではない。その直前である。

──施設の一室に足を踏み入れた途端、波裸羅は視せられた。

まず最初は、波裸羅もよく知る別の鬼との時代を超える戦いであった。
その中で見知らぬ刀、見知らぬ兵器、見知らぬ時代も視えた。

かと思うと一転、次はあの月や鏡を舞台にした奇妙な遊戯とも遭遇した。
意識は次々と明滅し、変わっていく。曖昧でありながら明瞭な視界は、次に人食いの異形たちの姿も見せた。
勝次の言っていた光景に近しいものも、その中にはあった。

「あの桃太郎卿、端麗人の姿も見えたが」

視覚的な感覚が、純然たる情報として意識に流れ込んでくるという奇怪な現象だった。
時間にしてどれほどのものだったか。一瞬だったのか、あるいは悠久に等しい刻であったかもしれない。
どちらであれ、その間に無数の“何か”を視せられた波裸羅は、少しだけ愉しげであった。

「果たしてな」

この施設が何であるかは無論何一つわからなかったが、おそらく、最も大切な事象は先の光景だろう。
そんな確信があったからこそ、波裸羅は部屋を後にする。

明かりが消えた部屋は再び静寂に包まれる。
静かにただ次の来訪者を待ち望むように──


【A-3・研究所/1日目・黎明】
※研究所には各種資料が転がっています

紙だったり、データだったり、ホログラム的な何かだったりと保存方法は多岐に渡ります。
それぞれにはなんだかとても重要そうなことが記されていますが、置いてある資料同士で大きく矛盾してしまっています。

ただもしかすると、この中には、真実の……


【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、真田の六文銭@衛府の七忍、ナノロボ入り注射器×2@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:彼岸島勢に興味。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。


801 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/02(日) 23:54:05 J6lw0Jtc0
投下終了です


802 : 名無しさん :2019/06/03(月) 03:31:57 YDMyB8Jo0
と、投下が多くて感想が追っつかない……!
感想書けてないのがまだ数話ありますが、今回は途中までで……!


>救う者たち
このマッチメイクは完全に考えていなかったんですけど、いやあいいですねえ!
同じく相手を大いに肯定する二人なんですが、大人になったら『完成』させたスキルの大半を失うと明言されているめだかちゃんと、何年経とうと決して変わらぬ鬼の童磨さんってのはおもしろい
思えば童磨さんが登場話でぶつかったナイチンゲールさんは英霊である以上どうしても在り方を変えられぬ存在なワケで、童磨さんは二話二戦にしていろんなパターンに会っていますね
まったく考えていなかったカードなのに、いざ読んでみるとこれしかないっていうこの感じ、とても楽しいです

>時を超えた遭遇
冒頭のTRICKパートが完成度高くて思わず笑ってしまった
そうそうこれだよTRICKの導入はこれだよ〜から入って、薄々「そういや誰も使ってないな」と思ってた豪華客船で話が展開されるの、めっちゃ気持ちいいですね
海に潜ってここは琉球じゃないとなっていたり、強者や幻之介の存在を察知していたり、猛丸パートも素敵だ

>禰豆子/業苦
話を跨いで前園さんが登場しない話になると、よりいっそうあの人とんでもねえことしてくれたなと実感できて笑ってしまう。いや笑い事ではない
保護しながらもいずれ我慢できなくなると確信している悠の予想は、はたして今後覆されるのか、あるいは
悠の『その瞬間に刈り取る』がガチなのは分かり切っているだけに、なんとも緊張感がすごいコンビだ

>センチメンタルクライシス
『彼』ではない藤丸立香とメルトリリスの遭遇として最高〜! 違う存在だとしても同じものを見てしまって刃を収める流れ、めっちゃ好きです
ラブデスター実験での猛田の所業をサクッとバラすミクニくんも、まさしく後先とかは考えていないがゲームを止めたいミクニくんって感じでらしいですね
三玖と会長のやり取りもよかったですね。『虚勢』の意味が伝わらずに言い直すハメになってる会長が特に好き

>Kでつながる僕ときみ
組んだときから好きなコンビが、その持ち味のままに繋がれるの嬉しいですね
累くんよりも家族の在り方に詳しいクロオくんですが、彼の知る家族がああなので、兄弟で食卓を囲む描写さえもが物悲しい
もとより陽の当たる場所の住人ではない自覚もあって、鬼になること自体に躊躇がないのもいいですね。その上で二人だけ残る未練もたまらない

>慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ
うーむ、すごいパワー
捨て鉢になって食欲に負けかけた千翼が、寝言一つで本当にやりたかったことを自覚する流れがたまらんですね
そこから食欲という本能に抗えず呑み込まれたがゆえなく、理性ゆえにマーダーに反転する流れが美しすぎる
結果的にマーダー転向の後押しをした五月も、他の誰にもできない彼女の持ち味活かしてていいなあ
そして、改めて善逸の脱落が寂しくなってしまったよ

>CLOVER FIELD
猛田がおいしい位置についてるのがおもしろすぎる
『前のゲーム』で『乗った』『二度目』の参加者って川田みたいですもんね! いや、これは川田に失礼か
でも、三話目にして「ももこをやった時点で――」の原作セリフを持ってくるのはいいですよね。彼も引き返せなくなった中学生という点でジウくんと同じ。いや、これはジウくんに失礼か
――とまあ誰と境遇が近いと言っても相手に対して失礼になってしまう猛田なんですが、現在の立ち位置は登場話でミクニくんと組んでしまった結果って感じでほんとおもしろいですね
猛田立香ペアの会話もいいけど、ミクニ三玖ペアの会話もおもしろいですね。傲慢と指摘してしまう三玖も、かもしれないと返すミクニもいいなあ

>求めしもの
必要なのは相対だけ、の一文が最高にクール
隻腕ライダーオルタナティブ・ゼロも、絶対にかっこいいヴィジュアルでぞくぞくしてしまう
霹鬼である猛丸は強者の存在を感知しているのに、幻之介は猛丸はその力自体は他の参加者に後れを取ることはないだろうと考えてるのもおもしろい

>見守る柱、見届ける鬼
見ている二人の、よく喋るほうとあまり喋らないほうの邂逅
かっこいいやり取りのに上から映像で見たらと想像すると笑ってしまう
結局のところお互いに彼女に害なす存在か否かを確認しただけなのが、読み終わってからじわじわ効いてくる
…………それにしても、彼女に本当に必要なのは実は見ている人ではなく、横に並んでくれる人なのでは……


803 : 名無しさん :2019/06/03(月) 03:33:31 YDMyB8Jo0
>時すでに始まりを刻む
うわははは、ある種ついに始まったって感じですね。アマゾン化、鬼化、吸血鬼化、怨身忍者化――名簿を見た時点で浮かぶいろいろが、ついに!
これを1の人が先陣切って書いてくれるっていうのは、なんとも安心できます
内容のほうも、刀語原作コンビの会話パートから急襲、戦闘自体は七花の圧勝で撤退に成功したが……っていう、上げ下げが効いてて刺激的
しかし透明なアマゾンってマジで厄介だな……となったところで、全然今回の話に出ていないのにクラゲアマゾンを登場話で一蹴した明さんの株が上がる不思議な体験も味わえました

>悲しみは仮面の下に
冒頭の炭治郎の「たった一人の大切な妹です」がすでに重く、そして予約メンツを知っている我々にはあまりにも不穏で、この時点ですでにううううとなってしまう
パンを渡して落ち着かせる一花も、ガツガツ食べてから事情を説明する五月も、なんなんだこの絵面はなのにこの尋常ならざる絵面から混乱が伝わり、誰だ彼女らをロワに出したヤツはよぉ……って気持ちになる。許せないぜ
謝ってしまった五月も、謝らせてしまった千翼も、ただただああもう……って感じで辛いぜ
あとですね。本能に敗北したゆえではなく、理性から答えを導いてゲームに乗った千翼に龍騎ライダーぶつけるのには、だよなあ! それそれ! 俺もそれやりたかった! ちくしょー! やられたぜ! ってなりましたね

>COME RAIN OR SHINE
アマゾン殺すマンであるところしか書かれてこなかった仁さんの補完話で、彼は彼なりにってところがあとから描かれるのは楽しいですね
「飽きるほど殺してるんだよ」のセリフがキレキレでいいっすね
現状の千翼がもはや仁さんの知る段階にはいないだけに、彼らの邂逅も今後の楽しみだ

>PHANTOM PAIN
千翼と龍騎ライダーぶつけるよなあ、そうだよなあ、俺もやりたかった、やられたぜ、とか悔しがっていたら、なんとこの話でも同じことを思うハメになった
だよなあ、そうだよなあ、蓮と千翼だもんなあ、そうするよなあ、俺もなあ、俺もそれやりたかったんだよなあ、ちくしょー! とまたしてもなった
本当にほっとんどまったく同じ流れの話を描いていて、それだよ! それだよ! となった
俺が考えていた話を別の人が高クオリティで書いてくれるのはとても嬉しいけど、でもやっぱりどうしても悔しいな、挑みたかったなという、そういえばこの気持ちがリレーだった気がする
完全に内容の感想じゃなくてごめんなさい。出来がいいだけに、もう悔しくて悔しくて。この辺、予約被り請負人みたいになってたのもあって……すみません、すみません……

>鬼殺しの戦い
権三が怒りのあまり死体を踏み躙ってジュースとして飲めなくしてしまったの、本当に石上会計の勝利で素晴らしい
武蔵との『二つとなき花』のやり取りも傲慢な返しをしていておもしろい一方、その思考は妙に冷静でスタンド使いや念能力者的なのが持ち味出してていいっすねえ
能力の応用やら躊躇なしの逃亡やら、実は一番厄介なマーダーの一角であるのかもしれない
圭くんは圭くんで、鬼退治である以上いかなる手段も使う覚悟のある武蔵と出逢えたのは、次の一手さえ上手く行けば最高においしいかもしれない。頑張れ

>NEXT HUNT
処理をせずに生の魚を食らう……こ、虎眼先生! ごゆるりと……
サバじゃねえ! と言いつつ、大半を食べ切っていてほぼほぼ腹を満たしてるのがズルいですね
もう鮭でいいやと言ってあげてほしい

>貴方の隣に立ちたくて
バイクの二人乗りしててうしろで寝るヤツちょっとマジで迷惑だな……と暢気に読んでいたら、それどころじゃない展開になってあっあっと思っているうちに事態がどんどん悪い方向に流れていく
予約メンツを知っていれば、亜人のことだって知っている以上、こういう風になるのはわかっているはずなのに、その上で「あっあっそんな、それはまずい、あっあっ、あっ」させられるのは掌の上に乗せられている感じだ。クソーッ! でも心地よい!
かくして鬼となった会長。会長を鬼にする発想はなかったので、マジでびっくりしちゃいました。こういう自分の発想の外にあるのが読めるのは楽しいなあ。そしてあまりにも書き手さんの掌の上だなあ
あと、こないだのジャンプで出てきた猗窩座さんの『女は殺さない』設定の補完もGJですね! よかった!

>姉弟
名簿見たときにちょっと浮いてるなと思っていた刀語勢が、アマゾンズのほうと登場話からこっとずっと綺麗に絡んでておもしろい
雑草呼ばわりされたことで始まった姉と弟の勝負は、当然の勝敗に当然に至り、はたして横に奇策士のいない七花はどうするのか
それにしても、前話での七実さんの「きちんと抜かないと生えてくる」があっさりと回収されてしまったの、あまりにも怖いですね


804 : 名無しさん :2019/06/03(月) 03:33:51 YDMyB8Jo0
>もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy
これこそ、相手が悪かったという感じ
宮本武蔵(男)は二天一流が取るような行動は当然把握できていたが、宮本武蔵ならぬスモーキーにはさすがに厳しい
それでもファイナルベントまで持ち込んだが、同じ宮本武蔵でもより人外相手慣れしてるほうの武蔵ちゃんだったのも、あまりに運がない
しかしそんな人外相手慣れしている世界を跳べても戻れない武蔵ちゃんであるがゆえに、スモーキーが零してしまった「帰らなくちゃ」が刺さるのがグッときますね

>上田次郎のどんと来い、鬼退治
さっそく首輪解除を提案する上田さん、実は今回の対主催で一番判断が速いのでは……? さっきまで失神してたので、起きた途端に首輪解除に至っているワケで……
と、そんな頼れる上田さんに痺れていたら嘘でしょ……まさか、そんな……勘違いを……
挙句、沖田総司と酒呑童子という日本のビッグネーム同士の戦いに割って入ることができるなんて、もはや聖杯で作られた理想の上田次郎、上田次郎[オルタ]と呼ぶべきかもしれない
実際には聖杯を必要とせず、勘違いと酔いだけでこうなっているので恐ろしい。上田さん早く正気に戻ってと言いたいところだが、正気に戻ったら戻ったでダメかもしれない。なんて言えばいいんだ……

>慕う者たち
村山さん、おもしろいなこの人……!
いろんなことを「ん、いーよ」程度で返すのが、なんだか妙におもしろい
本人の言う通り頭よくなさそうなんだけど、でも考えなしって感じでもなくて、一応きちんと考えた上で出した結論が「ん、いーよ」っぽいのが魅力的なのかな……

>なんやかんやで第一印象は結構大事
初対面の自己紹介でボケるっていう一番めんどくさいことやる球磨川くんが、実に球磨川くんって感じで笑ってしまった
明さんには『そんな態度じゃこう返されれても仕方ないぜ』って教えてやるべき面もまああるんですが、でもそりゃ殴られるよね
平行世界の可能性に気付く明さんは小説家志望だったころを思い出させて物悲しくなるし、なによりも『願いを叶えたところで意味がないのでは?』という至らないほうがよほど幸せそうな答えに至ってしまう明さんが切ない
球磨川禊はグッドルーザーだが、勝利してもなにも掴めない宮本明はなんなんだ? というラストパートがあまりにも空しく響く

>割れた星のTRIANGLE
すごい。名作だ
本当のことを言えば、五つ子を合流させるのは予想外だったんですよ。もっとバラバラのままやりたいこと、見たいことがあったんですよ。でもその上で心からの「あーいいもん読んだなー」が湧いてくるので、これはもう名作なんですよ
五つ子以外もね、いいんですよ
気遣いあってる真司と炭治郎はまさしくこの二人って感じで、蓮の死を伝えるほうも聞くほうもあまりにも『らしい』
迂闊な発言を指摘する猛田も、その指摘ですべてを察して隠さない決意をするミクニくんも、お互いがお互いにコンビとして魅力的で
三玖と友達みたいな距離感で接する立香も女主人公で出た甲斐があって、「生きてる人にしかできない」は彼女にしか言えないセリフだし
ラスト周辺でようやく出てきたのに沖田さんの印象は強烈で――触れ始めたら、もうみんないくらでも触れられてしまう
でも今回はラストパートで言われているように、彼女たちが泣くべきときに泣く話なのでそっちに触れよう
立香の言葉を受けてなにが好きかという答えに至って、「自分がやるから任せて」を言える三玖がもう素敵。ベイマックスもう大丈夫だよって気分になりますね
そして自分でも今後どうするのかわからない嘘を吐く一花も、その嘘を指摘できる三玖も、めっちゃいいんですよね。これ、嘘を察した上であえて騙されるルートも全然ありえたのが、立香とのやりとりで答えに至ったので――っていうのがうむと唸る他なし
んでもって、「なにをするべきなのかわからなくて泣けなかった」二人のあとに、遅れて登場した二乃が「いやそりゃ泣くでしょ」とばかりに即泣くのが最高ですね
そして三人ともに彼のことを考えるっていうのもね、いいですよね、いい
あとみんなで示し合わせたように「単行本になってねーとか知るかよ! 一番おいしい時期だろうが!」と可能な限り修学旅行中で合わせに行った甲斐があったというか、なんというか、いやそれも嬉しいよね
うーむ、これはですね、長々喋りましたが、一言で言えばですね――――いい話でした!

>“ぞわり”
うむ
うむ
……うむ!
なにを言っても、『これから』のことに触れてしまいそうなので、次レスの一行をもって感想とさせていただきたい


805 : ◆hqLsjDR84w :2019/06/03(月) 03:34:32 YDMyB8Jo0
犬養幻之介、エドモン・ダンテス、四宮かぐや、冨岡義勇、予約します。


806 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/03(月) 12:49:18 /axzv8bU0
竈門禰豆子、水澤悠、雨宮雅貴で予約します


807 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/03(月) 23:39:06 .wmaHUYE0
村山良樹、マシュ、累、神居クロオ
予約します


808 : ◆PVWD2bdQT. :2019/06/04(火) 18:49:38 i6A4Rox20
鬼舞辻無惨を予約、投下します


809 : 始まりと終わりどっちが強いのか実験だよ実験 ◆PVWD2bdQT. :2019/06/04(火) 18:50:30 i6A4Rox20
鬼舞辻無惨の足を止めたのは、困惑だった。

「なんだ……?」

始まりの鬼たる鬼舞辻無惨が持つ鬼としての力は強大であり、制限という名の枷をはめられた今でも彼は多くの能力を扱うことが出来る。
一撃でダイヤモンドよりも硬い男を遙か遠くまで吹き飛ばせる、人の身を大きく超えた膂力。
頸を斬られようとも、身体が木っ端微塵となろうとも死なない再生力。
白銀御行をそうしたように、血を分け与えることによって人を鬼にする力も健在だ。
だから、配下の鬼のおおまかな位置情報を把握できる能力に関しても十全に発揮し、今も死んだはずの下弦の伍、累の元へ向かっている最中であった。

「なんだ、この気配は」

だから、鬼舞辻無惨は困惑する。
上弦の弐、童磨の近くで『沸いた』としか思えない鬼の気配に、眉を顰める。
いや、恐らくは以前から存在はしていたのだ。だが、今の今まで気付くことが出来なかった。
それが制限のせいなのか、それとも別の何かがったのかは分からない。
だが、一度気付くと無視できないおかしさがその気配にはあった。
最初は童磨が何かしでかしたか、ならば仕置きをせねばなるまいと早とちりしそうになったが。

「鬼だが……人でもある、だと?」

混じっている、とでも言えば良いのか。
鬼の部分を感じることはできるが、かといって鬼そのものであるわけでもない。だから今まで気付けなかったのかもしれない。
しかも、鬼の部分が膨れ上がったかと思えば萎み、また膨れ上がり、と、まるで鬼であることを自らの意思で制御しているかのような心地である。
自分が直接鬼にしたモノではない、ということを差し引いても、その気配は無惨が初めて感じる類のものであった。
鬼を感じる。強く感じる。弱弱しくなる。消える。また感じる。強くなる、弱くなる、強くなる。
常に変化を繰り返し、その場その場における最適な姿に『成っている』ような有様である。


そうだ、それは変化し続けていた。
鬼であるにも関わらず、誰よりも自由であるように振る舞っていた。

この鬼舞辻無惨よりも。


それは、女どもの群れの中に一人だけ女装した男が混じっているかのような違和感だった。
それは、並べられた人間の肉の中に一切れだけ猿の肉が混じっているかのような異物感だった。
それは、無惨の居城たる無限城の中に一室だけあの産屋敷の部屋があるかのような…………


「不愉快だ」


この瞬間芽生えた気持ちに、無惨は不快感という名を付ける。

無惨はイレギュラーを好まない。特に変化というものを殊更に好まない。
鬼という存在はすべからくが自分の元で管理されるべきであり、それはこの地においても変わらない。
変わってはいけないのである。鬼舞辻無惨のように。

だから無惨は踵を返し、北へ向かった。
歩きは早足となり、ついには疾走にまで至る。
あの鬼舞辻無惨が、走らされている。

彼を突き動かす原動力は怒りだろうか。焦りだろうか。


それとも――――恐れか?


分からない。無惨自身にも分からない。そのことにまた腹が立った。


そうして鬼舞辻無惨は気配の元へと辿り着く。
始まりの鬼は出会う。
終わり(ジ・エンド)の鬼に、出会う。

限りなく完璧に近い存在が。


完璧な存在に出会ってしまう時が来た。

【D-2・童磨と黒神めだかの戦っているすぐ傍/1日目・黎明】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
1.不快な気配と接触する
2.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
3.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。


810 : ◆PVWD2bdQT. :2019/06/04(火) 18:50:50 i6A4Rox20
投下終了します


811 : ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:07:59 jVxfM4/Y0
めだかちゃんにもビビる無惨様、本当に無惨様。
善吉、雅、煉獄投下します


812 : ORDER CHANGE ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:13:16 jVxfM4/Y0

――いざいざルチフェロなりしサタンの名のもとに、

――出でよ、血華咲き誇る我らが極地、

――敗北に堕ちし者、その魂喰らうは、

――屍山血河の死合舞台(バトル・ロワイアル)。


――英霊悪鬼一本勝負。


いざ、
いざ、
いざ尋常に――――オーダーチェンジ。


◆◆◆


813 : ORDER CHANGE ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:14:41 jVxfM4/Y0

「オラァ!」

威勢のいい掛け声と共に人吉善吉が突進する。
彼が乗っているのは支給品に与えられた、何の変哲もない家庭用自転車である。
いわゆるママチャリ。
何の変哲もない、平凡極まりない自転車で、善吉は人ならざる吸血鬼に突進をかける。
対する吸血鬼、雅は巨大ブーメランで自転車諸共両断しようとするが――、

「愚かな……ぐわ!」

善吉は一瞬、前輪を浮かせたかと思うと、地を滑るように車体をドリフトさせる。
ブーメラン斬撃をくぐるようにして雅の側面に回り込んだ。
自転車を地面とほぼ並行に寝かせたまま、天を突くような蹴りを顎に叩き込む。
トリッキーな小手先戦法は凡人の得意とするところだ。
もちろん、それだけで有効打にはならない。
すかさず煉獄の追撃だ。

「炎の呼吸、壱ノ型! 不知火!!」

鬼殺隊の隊士は、特殊な呼吸法によって、人間の限界を越えた膂力を肉体から絞り出す。
常人ならば斬撃はおろか、突進する煉獄の身体すら見ることはかなわない。
それほどの速度で繰り出された炎の様な紅い斬撃は、雅の肩口から脇腹にかけてを深く深く切り裂いた。
おびただしい血が吹き出す。
人間ならば、これで間違いなく致命傷だ。
だが。

「グアアア!」
「弐ノ型、昇り炎天――!」

斬られながら、なお反撃しようとする死なずの吸血鬼。
煉獄はそれも折り込み済みであった。
カウンターで合わせた跳ね上げるような一撃が、ブーメランごと雅の腕を見事に断つ。

「おのれ!」

雅は片腕を失っても少しも怯む様子がない。
バクンと耳まで裂けた口を大きく拡げ、身体ごと煉獄に組み付こうとする。
その咥内から覗くサメの様なノコギリ歯は、人間の骨肉に食い込めば、たちまちミンチにしてしまうだろう。
だが煉獄は、煉獄杏寿郎という男はそんなものに怯まない。


814 : ORDER CHANGE ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:16:52 jVxfM4/Y0
「炎の呼吸――伍ノ型、炎虎!!」

血に飢えた鮫の様に喰らいつこうとする雅の顔面に、炎の虎が真っ向から噛み付いた。
正面衝突で、雅は身体ごと吹き飛ばされ、背後の大木に背中を打ち付ける。
あとはとどめを刺すのみだ。
強い。
圧倒的に強い。
煉獄が最後の一撃を叩き込むために、一歩踏み出す。
だが雅もいまだ――、

「させねえよ!」
「があっ!?」

善吉のもう一つの支給品、コルトガバメントの弾丸が、雅の動きを封じる。
人間に撃ち込めば致命傷間違いなしの一撃だが、善吉もここまで何度も雅の不死身ぶりを目の当たりにしていた。
それゆえに弾き金を握る指に迷いはない。
雅を大木に磔にするように追撃の弾丸を放つ。

「今だ、煉獄さん!」
「応!!」

煉獄が力強く応える。
迷い無く踏み込み、必殺の斬撃を叩き込まんとする。
最早、雅に抵抗の手段は無いと思われたが――、

「ぐぉぉぉぉおお!!」

おぞましい血飛沫が、雅の胸から噴水の様に吹き出した。
煉獄の視界が血色の闇に染まる。

「煉獄さん!」

善吉が叫ぶ。
煉獄は咄嗟に後退を選択した。
それは鬼殺隊としての経験故だった。
煉獄達が追う鬼は、血鬼術という特殊な能力を持つ。
その能力には個体差があり、受けてみるまで分からない。
受けた瞬間に死ぬ可能性もあるのだから、鬼の血というものは最大限警戒して然るべきであった。
雅は特殊な実験を受けた吸血鬼であり、厳密には鬼ではないが、結果的に煉獄の行動は正解だった。


815 : ORDER CHANGE ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:18:48 jVxfM4/Y0
「フ、フフフ、強いな貴様等。面白いぞ」
「煉獄さん、こいつ……」
「人吉少年、油断するな。俺も君も生き残らねば負けだ。忘れるな」

明らかに圧倒的不利だが、雅は余裕を崩していない。
まだ何かがあるのだと煉獄は言っている。
善吉もそれを理解し、その上で完封してみせると気を引き締め直した。

「ヨユーだな。悪あがきしたいならさっさとやれよ。その上で――」
「そこの小僧。貴様はもう戦えん」
「……なに?」
「私の血は傷口から感染する。お前の頬から美味そうな血が垂れているぞ」

雅の言葉を受けて、善吉が自分の頬を触ると、ぬるりとした手触りと、かすかな痛みが走った。
――最初にブーメランの斬撃をかわした時か、と善吉は悟る。
完全にはかわせず、僅かに傷を受けてしまったのだ。

「これから私は徹底的にお前を狙う。そうすれば煉獄はお前を庇いながら戦わねばならん。フハハ、私の予想通りだな煉獄よ。人間は弱い。強い人間も弱い人間を庇って死ぬ」
「ぐっ……!」

そう言っている間にも雅の傷は回復している。
すぐさま攻撃続行したいところだが、判断の難しい局面であることも確かだ。
どちらかが吸血鬼に感染すれば負け。
雅もそれを承知で、長々とお喋りで時間を稼いでいる。
――どうする?
――どうする?


――運命の分かれ目となり得る局面、ここでさらなる混沌が投下された。




『『うるせぇバァーーーーーーカ!!!!』』




◆◆◆


816 : ORDER CHANGE ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:20:49 jVxfM4/Y0
突然響いた謎の罵声。
それは最後に、逃げろという言葉と共に途絶えた。
黒神めだかのような、煉獄杏寿郎のような人間なら、迷わず助けに行くべき声だ。
だからそれを支えるサポート役である人吉善吉は一瞬で判断し、即座に動いた。


「ここはあんたに任せて俺が行く!」
「ここは俺に任せて行け、少年!」


善吉と煉獄が叫んだのは同時だった。
二人の視線が合う。
二人とも、一瞬の驚きと納得の笑み。
既に二人の判断は一致していた。

「煉獄さん!あんたがやられる事が最悪の敗北だ!だから絶対やられるなよ!倒せなくても、逃げてでも絶対に!」

そう言って、善吉は自分の最後の支給品の短刀を煉獄に投げ付けた。
それを受けて煉獄も力強く返答する。

「応とも!」

善吉は黎明の山道をママチャリで器用に踏破していき、僅かな時間で見えなくなった。
それを見届け、残った煉獄は雅に向き直る。

「傷は癒えたか、雅」
「フフフ、大きく出たな煉獄。やられるなとは、この私を相手に無傷で勝つということだぞ」
「そうか……そうだな。だが丁度良い。それができなければ、俺を殺した鬼も、その上に立つ鬼も、どのみち倒すことは叶わんだろうよ」

煉獄は己の血が燃え上がるのを感じていた。
今、たった今、この瞬間に強くなる。
煉獄杏寿郎にはそうしなければならない理由がある。
それを明確に理解した。
炎の闘気が悪鬼を前にして燃え上がる。
まるで紅蓮の華のように。


◆◆◆


817 : ORDER CHANGE ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:22:24 jVxfM4/Y0
――いざいざルチフェロなりしサタンの名のもとに、

――出でよ、血華咲き誇る我らが極地、

――敗北に堕ちし者、その魂喰らうは、

――屍山血河の死合舞台(バトル・ロワイアル)。


――剣士(セイバー)

――煉獄(プルガトリオ)

――煉獄杏寿郎。


――悪殺鬼(アサシン)

――彼岸(ニルヴァーナ)

――雅。


――英霊悪鬼一本勝負。


いざ、
いざ、
いざ尋常に――――勝負!


◆◆◆


818 : ORDER CHANGE ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:23:52 jVxfM4/Y0
【D-4/1日目・黎明】


【雅@彼岸島 48日後……】 
[状態]:健康 
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス 
[思考・状況] 
基本方針:好きにやる。 
0:面白そうな駒を勧誘し、最終的にBBと遊ぶ(殺しあう) 
1:煉獄に強い興味。部下にしたい。 
2:明と出会えれば遊ぶ。 
[備考] 
※参戦時期は精二を食べた後です。 
※死体に血を捲いて復活させるのは制限により不可能ですが、雅はそのことに気がついていない可能性が高いです。



【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】 
[状態]:健康 
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 日本刀@彼岸島、涼司の懐刀 
[思考・状況] 
基本方針:力なき多くの人を守る。 
1:雅を倒す。 
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流 
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す 
4:日輪刀が欲しい。 
[備考] 
※参戦時期は死亡寸前からです。



【人吉善吉@めだかボックス】 
[状態]:精神的疲労(中)、全身にダメージ(中) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況] 
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。 
1:声の方(石上)に向かう。 
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。


[備考] 
※参戦時期はめだかとの敵対後から後継者編完結までの間。 
※欲視力(パラサイトシーイング)は制限されています

【御行のママチャリ@かぐや様は告らせたい】
生徒会長白銀御行愛用のママチャリ。
毎日片道15kmの通学にも耐える頑丈かつスタンダードな一品。

【佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)@亜人】
M1911A1。装弾数は7+1発(2発仕様済)。
研究所襲撃の際に使われた佐藤の武装のひとつ。

【涼介の懐刀@彼岸島】
明の仲間だった涼介の持っていた懐刀。
すまない、ただちょっと母乳が欲しくて……


819 : ◆CByzAdkqrc :2019/06/05(水) 16:24:33 jVxfM4/Y0
投下終了です


820 : 名無しさん :2019/06/05(水) 16:49:32 pKbGDCQg0
投下乙です
サポートに回れば善吉くんほんと優秀っすね
吸血鬼の血が入れば感染するという先生ェが忘れてそうな設定を活用するとは凄ぇ!でかした!


821 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/06(木) 00:32:12 9YX0h.Wk0
ジウくん予約します


822 : ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 16:14:15 ZBtt/CCA0
煉獄さんと雅様予約します


823 : ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 17:54:57 ZBtt/CCA0
投下します


824 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 17:57:09 ZBtt/CCA0


 剣閃が音速を遥か超越して捻り飛ぶ。
 剛撃が空を引き裂き震撼する。
 剣理と理外、戦術と暴虐、気迫と鬼迫。その全てが三つ巴の車輪となって回転し、交錯と激突を繰り返す。

 煉獄杏寿郎と雅が本格的な戦闘を開始して既に半刻。戦場となる夜闇の山間は嵐の直撃を受けたかの如き凄惨な損壊状況を呈している。
 刃が激突する毎に生じる衝撃の余波は、疾風さえも凌駕して常人の立つ余地さえ与えぬ領域にあった。仮にこの場に人吉善吉の目があったならば、先刻より尚も加速を果たす戦闘の様相に呆れと驚愕の念を零していただろう。
 一合ごとに地面は抉れ、木々は裂かれ、中空に舞う木の葉さえ幾度と斬られ貫かれる暴威の嵐にあって、しかし両雄の身は全くの健在。共に纏う衣服と羽織に傷はあれど肉体に損傷は見られない。
 それは単に、両者の持つ性質が故のことであった。
 煉獄杏寿郎は人である。当然ながら傷を負えば動きに支障が出るし、怪我は簡単には治らない。戦闘中の負傷とはすなわち死に直結するものであるからして、彼はその身に傷を負うことを避けながら戦闘を行っているのだ。
 口で言うのは簡単だが、それを実行するということがどれほど困難なものであるかは語るまでもない。すなわち彼は、必殺の攻撃を繰り出し合いながらも神業に等しい防御を並立させているのだ。如何に敵を倒し己のみは生存するかという極限の背理を、彼らは苦も無く実行していた。
 対する雅は純粋な不死性が故に無傷の状態を維持している。
 彼は人を超えたる吸血鬼の中にあって、更に不条理そのものとさえ言える能力を保持している。斬首されようが平然と動き回り、自らの頭部を捕食して腹部より生やすなどといった芸当さえも可能とする、およそ生物の枠組みから逸脱した存在なのだ。
 彼は今に至るまで、無数の斬撃を食らっている。にも関わらず、時には胴体を両断する域の致命打までを食らって、しかし次の瞬間には傷痕すら残らぬ再生力によって復元を果たしているのだ。

 両者、放つ攻撃は怒涛にして間断なく。
 距離、僅か一メートル圏内という超至近距離において。
 周囲、無数の斬痕を刻み付けながら。
 まるで終わらぬ舞踏であるかのように、彼らは極限の死闘を繰り広げているのだ。


825 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 17:57:38 ZBtt/CCA0


 風を巻いて馳せる迅雷の太刀筋───雅が放つ一撃が遥か上段より煉獄へと迫る。
 速い。炎火の羽織纏う煉獄が鉄塊の切っ先に掛り、携える日本刀諸共両断されるまで余す時間はあと一秒の半の半々、有るか無きかというところ。
 つまりは充分。鋭利な錐が薄紙一枚貫く時を費やして、煉獄の斬閃が技の間隙に入り殺意の閃光を打ち弾く。

 ───炎の呼吸・弐ノ型 昇り炎天

 煉獄の頭蓋を叩き潰さんと迫る鉄製ブーメランの一撃を、日輪の如き斬り上げによって押し返す。
 人に非ざる吸血鬼の膂力、人の身では容易に扱えぬであろう鉄塊、それらを以てしても砕き得ぬ生物は果たしてどれほどいるだろうか。
 尋常ではない所業である。しかし対敵たる雅に驚愕の色はなし。接敵より既に数刻、煉獄が吸血鬼とさえ渡り合える人間であることは周知の事実であるし、弐ノ型も既知の技に過ぎない。
 だがしかし───鬼殺の剣士の本領は、型と技だけに留まらざると知れ。

「おおおォォッ!!」

 気合裂帛、僅かな逡巡もなく左足を踏み込む。
 膨大な質量が一点に集約され、足の裏で山間の硬い地面が沈んだ。
 鉄杭の如く足場を食い締める下肢、これを軸に旋回。腕を弾かれ無防備となった雅の水月を右肘で突く。
 進駆の勢威を乗せた打撃、それがもたらす荷重は悪鬼一体を五間ほども転がすに足りた。
 水切りの石のように跳ねて飛び、落ち、水を纏めてまき散らすに等しい喀血が雅の口より溢れ出る。
 そして雅の肉体が中空に弾かれたその瞬間には、次なる踏込を完了した煉獄の斬撃が既に雅の首へと押し迫っていた。

 ───炎の呼吸・壱ノ型 不知火

 不知火の神髄は歩法にある。すなわち遠間からの間合いを詰める踏み込みの技術。対敵に防御も回避も許さぬ縮地の業だ。
 速い、目では追えない。生身の体では避けられまい。それが例え、人の身を超えた悪鬼羅刹の類であろうとも。
 しかし。

「やはり強いな、煉獄」

 あり得ぬ不可思議。斬首を待つだけの虜囚であったはずの雅は、しかし戯画的な身の捻りと共に攻勢へと転身を完了する。
 防御も回避も許さぬ神速の斬撃、されど雅が選んだのはそのどちらにも非ず、更なる攻撃の踏込だった。
 神速をも超える超速によって上段より振り下ろされしはブーメランの一撃。あたかも綱を切られたギロチンの落下。油断していたつもりは全くないが、重さと速さを備えたその一撃を避けるために与えられた余裕はごく少なかった。
 右脚を蹴り、体勢を半身にしつつ退避。刃風に体毛を撫でられつつ、数歩の距離を滑って止まり、向き直る。


826 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 17:58:05 ZBtt/CCA0

 弾き飛ばされたはずの雅の姿勢は崩れてなどいなかった。絶死の状況であろうとも見の姿勢を失わず、煉獄の一挙一動をつぶさに観察していたのだ。
 現に今も、空振りしたブーメランを素早く取り直し再度の突進を期している。およそ人の身ではあり得ぬ不条理そのものの挙動。

「やはりお前は吸血鬼となれ。その力、その強さ、お前が積み上げた修練の多寡は人などという羽虫として散らせるには惜しい」

 恐るべきは人外の妙、永き生きるその積み上げにあると言うべきか。
 事実として、煉獄はこの世に生を授かってより二十ほどの時しか経ておらず、しかし対する鬼は悠久の時を生き永らえているのだろう。
 無論、鍛え抜いた修練の密度において遅れを取るとは微塵も思ってはいないが……しかし鬼が持つ老獪さは時として侮りがたい詭計をもたらす。
 戦闘において、時間は常に経験に勝る者を、手札の多い者を利する。それは世の道理であり、一介の戦闘者たる煉獄にとっても常識であった。
 時を切り詰め、策を弄する余裕を奪わねばならない。
 旨とすべきは短兵急。
 すなわち───これまでと変わらぬ、全力を以ての相対。

「一手馳走」
「来るがいい!」

 身を沈めて駆ける。
 右脚を蹴って首を落とし、左足を蹴って背を屈む。地を這う長虫のように砂を舐める心地で、我が頭を敵手の足元へと投げ入れる。
 月光と己を敵影が遮る。影の中で体躯を起こし、太刀を送り。
 斬り上げ───

「フッ!」

 その先を制して。
 待ち構えていた、正中を抜ける一閃。
 悪鬼の振るう鉄塊の一撃は正確に煉獄の頭頂を狙撃した。

 ───予測通り。

 不知火の踏込からの昇り炎天の斬撃と見せかけた剣を手元に引き込み、かち上げる。ブーメランの打ち込みとそれは激突し、反発し、最終的には受け流した。
 方向を逸らされた刃が流れ、肩を掠めて行き過ぐ。
 而して煉獄の眼前には、雅の脇腹が無防備に晒されて在り。
 己が頭頂に敵の斬撃を誘い、受けて流してその隙を打つ呼吸外しの術。
 据え物も同然の隙所を、狙い澄ました太刀にて割り切る。
 はずだったのだが。


827 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 17:58:34 ZBtt/CCA0

「───ッ!」
「中々の速さ。篤とてこう容易くはいくまいな。
 だが、足りん」

 存分に胴を薙ぐはずの刃先は、翻った鉄塊によって阻まれていた。
 ───速すぎる。
 渾身の一撃を受け切られた直後にしてこの仕様、反応にせよ運剣にせよ鬼の身体能力を加味しても常軌を逸している。
 それが意味するのは、つまり。

「なるほど、読み合いで上を行かれたか!」

 今の一合を反芻する。
 こちらの頭頂を狙った敵手の一撃、あれを受け流した際の手応えは奇妙なほどに軽かった。鋭くこそあったものの。
 煉獄の誘いの意図を察知して、腕の力を抜き、太刀筋の変転に備えていたということか。

「貴様、今年で幾つになる」
「母上より生を受け二十余年だ!」
「私が生きた年月は貴様の二十倍だ。貴様の父祖が洟垂れの頃より磨き続けた我が力、見縊ってもらっては困るな」
「承知、以後は心しよう!」

 至近距離の不敵な笑みに、視線で首肯を返す。
 噛み合った刃と刃が酷烈な音響を立てていた。並みの力では傷の一つもつかない鋼同士が互いを削り、白い金屑をまき散らす。
 太刀を支える両腕には恐ろしいほどの重圧。
 皮と肉の下で煉獄の骨が軋みを上げていた。こちらとしても力勝負は本分、岩柱と音柱を除けば柱の中でも負けるつもりは毛頭なく、盛風力には事欠かぬ身だが。それで尚、この敵は容易に圧倒しかねた。
 全集中の呼吸を以てしても支えきれぬ膂力、鬼であることを差し引いても常軌を逸したこの強剛、やはりと言うべきかこの雅という男、少なくとも下弦など及びもつかぬ領域に在ることは間違いない。
 一瞬ごとに僅差の優劣を覆しつつ、競り合う。

(埒が明かん……いや、このままでは負けるか)

 耐久力と持久力において、人は鬼に決して叶わない。
 一時の膂力が釣り合おうとも、その均衡を維持すれば先に倒れるのは煉獄である。
 しかし。

(退いてはならぬ)

 退けば死ぬ。
 敵の得物を引き外して飛び下がりつつ斬撃───などと小賢しいことを夢想している間に突き倒され、押し斬られるだろう。
 押せば死ぬ、退けば死ぬ。よって現状、打つ手なし。
 見せかけの拮抗は決壊寸前。このままでは紛れもなく、煉獄杏寿郎は敗北する。

 だがしかし───それが一体何だという。
 
 人が鬼に叶わぬなどと、それは当たり前の事実だ。鬼殺の剣士はその道理をこじ開けて、条理を破壊してきた者たちの名だ。
 命運尽きたか。それがどうした。
 然らばあとは命を燃やし尽くすだけだろう。例えこの身が微塵となろうとも、我が赫き炎刀は敵手の首を抉り穿つ。


828 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 17:59:13 ZBtt/CCA0










『煉獄さん!あんたがやられる事が最悪の敗北だ!だから絶対やられるなよ!倒せなくても、逃げてでも絶対に!』










「────────────」

 ───鬼を殺す手段は限られている。
 鬼とは半不死であり、斬ろうが潰そうが致命傷にはならず、例え五体を粉砕しようとも数刻とかからず再生してしまう。
 鬼を殺す方法は二つ。日輪刀で首を落とすか、太陽の光に晒すのみ。
 しかしこの身に日輪刀はなく、この夜空に太陽はない。
 あるいはこの吸血鬼を自称する男に対しては、全く異なる術理が働いているのやもしれんが、それを知る術さえ今の煉獄には存在しない。

 仮に。
 仮の話として、今この殺し合いの場にいるのが煉獄の他に鬼しかいなかったとするならば。
 退くという選択肢を彼は持たなかっただろう。それこそ己が肉体を微塵と散らそうとも、その身に日輪の斬撃を放つこと叶わずとも、最期の瞬間まで戦い抜き命を散らせただろう。
 しかし現実はそうではない。この場には人吉少年のような無辜の人間たちがおり、鬼殺の剣士たちがおり、そして煉獄の知る鬼とは違う悪鬼までもが存在する。
 ならばこの一戦に拘り無為に命を削る意味はどこにあろうや。
 それに何より、煉獄は託されたのだ。
 死ぬなと、生きろと。
 信じると言われたならば、それに応えねば男ではないだろう。

(しかしな人吉少年。それでも俺は、この場を退くわけにはいかぬのだ)


829 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 17:59:50 ZBtt/CCA0

 この吸血鬼を放置すれば、それこそ多くの命が食い散らされるだろう。
 敵手は紛うことなき悪逆の徒であり、上弦にも届かん域の強者である。万全の煉獄が命を賭して挑み、それでも打ち倒せるかどうかという難敵だ。
 放ってはおけない。されど、人吉少年の言葉もまた真なり。
 ならばどうする。何ができる。
 他にどんな手がある。この悪鬼を墜とすために。
 今の我が身が放てる極限の一刀を以てしても打ち勝てぬ相手。如何なる一手が。
 奇跡など求められない。鬼の首を落とすはいつ如何なる時も鋼と骨肉のみ。
 思考する。この状況を覆す奇策を、詭計を、起死回生の一手を。
 思考する。一秒を百分割し、その百分の一を更に千分割し、砂時計の一粒よりも尚細かい塵のような一個の時間ごとに大脳を全周する。
 攫うのは記憶の一片一片。思い返すは己の知る強き者たち。
 冨岡義勇のような無拍子を繰り出すか?
 胡蝶しのぶのように毒を用いるか?
 宇髄天元のように戦闘計算式を編み出すか?
 甘露寺蜜璃や伊黒小芭内のように変幻自在の軌道を以て隙を突くか?
 時透無一郎のように歩法を以て敵を撹乱するか?
 彼らが持つその強さ。
 彼らが放つその一刀。
 彼らと鍛えたその刃。
 その全てが十分な鬼殺方法。鬼の首を討つには申し分もなく。しかし正答があるとすればただ一つ。
 この場この敵この一戦のための剣は必然唯一、従って他の全ては贋作なのだ。
 一つを選びださねばならぬ。正しきその一剣を。

 それは───やはり、これしかないのだ!

「───おおおおおおオオオオオオオオオォォォッ!!」

 最も下策。
 最も愚策。
 すなわち考えもなしの強行突破、渾身の力を以ての一撃。
 この刹那において、煉獄はそれを選択した。
 どんな術を仕掛けても無駄なのだ。
 どんな罠を仕組んでも無力なのだ。
 元より煉獄はそうした物を得意とはしない。
 この身は所詮無才無学、愚直に突き進むことしか知らぬ故に。
 小手先の奇術に頼った時点で敗北する。王道を歩む者は、いつ如何なる時も顔を上げて進まねばならぬのだから。
 不落の城を落としめる手があるとすればただ一つ、同等以上の質量を叩きつける他になし。
 雅に不死の御業があり、不退の剛力があるのなら、その双方を纏めて粉砕するに如かず。
 それだけが唯一手!


830 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 18:00:23 ZBtt/CCA0

「煉獄……貴様、何を……!」

 練り上げられる気の爆轟を察してか雅が困惑の声を上げるか、しかし遅い。
 この一刀にて斬り断てば───敵手に如何なる異能があろうとも意味はない。
 煉獄の炎は地獄道に堕ちた悪鬼羅刹さえ燃やし尽くす。
 そして煉獄杏寿郎の至極精砕の太刀こそは、他の何物よりも完璧にその呪わしき一芸を成し遂げる!

「今の俺に君を殺すことはできない。だが」

 赫の瞳が、雅を貫く。

「その総身を抉り抜く!」

 ───炎の呼吸・玖ノ型 煉獄

 瞬間、雅は"炎"を見た。
 それは立ち昇る気炎だ。煉獄の背から、腕から、剣から、激発する赫炎の波濤であった。
 そして次瞬、雅の視界は赤と黒で染め上げられた。

 炎の呼吸・奥義、煉獄。
 それは各技を瞬時に、どのような体勢からでも放てるほどに鍛え上げた杏寿郎が『脚を停めて気を最大限に練り上げ』、『両腕を含めた全身を捻った構え』を取った時のみに放つことができる唯一無二の奥秘である。
 踏み込みの震脚が放たれた一帯が蜘蛛の巣状に大きく罅割れ、瀑布にも似た轟爆が周囲の空間そのものを鳴動させた瞬間には、既に二人の姿は消え去り陽炎のように揺れる大気だけが名残として遺された。
 それは周囲の木々さえも一直線に抉り取りながら、雅の肉体の一片までをも砕き蒸発させる至高の一打。遥か上空からこの戦場を見下ろしたならば、夜闇を切り裂く朱き一条の閃光が白蝋の男を斬滅し、周辺地形諸共破壊する様を見ることができただろう。

 悪鬼、最微塵(クォーク)と化す!
 しかし、煉獄の攻撃はこれで終わりではない。

「落ちてもらうぞ、谷の底に!」

 ───炎の呼吸・漆ノ型 盛炎のうねり

 腰の捻りと斬撃の回転によって周囲の空気ごとを叩き落とす。その先にあるのは、蜘蛛山の麓にあって夜に尚昏き亀裂を晒す峡谷の淵!
 猛烈な風の塊と化した一撃が、微塵となった雅を目視の叶わぬ闇の底へと送り込む。煉獄は返す刃で更なる構えを取り、渾身の力で以て足元の地面に刃を叩きつけた。

 ───炎の呼吸・伍ノ型 炎虎

 それは周囲一帯の地形ごとを打ち砕き、峡谷の淵にあって甚大な亀裂を刻み込む。
 結果として起こるのは、大規模な土石流だ。
 自然災害を彷彿とさせる轟音と共に大量の土砂が谷底へと落下していく。
 やがて大気のうねりが落ち着きを取り戻した頃、その場に動く者は誰もいなかった。


831 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 18:00:53 ZBtt/CCA0





   ▼  ▼  ▼





「よもや敵に背を向け遁走することになろうとは! よもやよもやだ!」

 戦場を後にし、煉獄は山道を無心で駆けていた。
 向かう先は不可解な大声の元、すなわち人吉少年が向かったであろう場所である。
 彼と別れてから既に短くない時間が過ぎていた。彼は強い少年だが、しかし煉獄が守るべき無辜の民である。それに彼一人で鬼のような存在と出会ってしまえば、流石に状況は厳しいと言わざるを得ないだろう。

「柱として不甲斐なし! 穴があったら入りたい!」

 とてもそうには見えない自信と気迫に満ちた顔。しかし煉獄の言葉は本心のままだ。
 煉獄は雅を斃し切ることができなかった。
 細かく斬撃を刻み谷底へと落とし、無数の土砂で以て生き埋めにすることで多少の時間は稼げたが、それもどこまで保つものか。

(彼は自分を吸血鬼と言った。更には血液感染する性質、しかし上弦や鬼舞辻無惨とも由来を別とする存在らしい)

 煉獄の知る鬼は日輪刀での斬首か日光によって倒すことができる。
 しかし仮に雅を吸血鬼という全くの別種とするならば、その手段で殺し切ることができるとは断言できない。

(だが、真に不死身とはいくまい。鬼がそうである以上、吸血鬼にもまた……)

 この場が殺し合いの体裁を取っている以上、どう足掻いても殺すことのできない存在はあり得まい。
 日輪刀のような特殊な武器か、あるいは日光のような弱点があるのだと考えられる。
 ならば煉獄がすべきことは一つ。その手段を探り、彼の悪鬼を完全に討滅すること。

「む……!」

 ふと、不意の眩しさが煉獄の目を射抜いた。
 見れば東の果てより朝焼けが顔を出していた。日の出は近いらしい。

「陽が出たか。これで少なくとも、鬼共の魔の手が及ぶことはなくなった。
 しかし落ち着いてはいられぬな! 一刻も早く人吉少年のもとに往かねば!」

 日中に鬼が出没することはないが、何度も言った通りこの会場には鬼ではない怪異も多く存在することは間違いない。
 それに人間にも───己が生存を優先したり、あるいは願いの成就を狙って殺人に手を染める者がいてもおかしくはないのだ。
 ならば煉獄は止まらない。止まること許されない。
 その身は人々を守るために、尽きせぬ意思と共に走り続けるのだ。

「それにどうにも先程から体が軽い! 傷を負わなかったとはいえそれなりに疲れて然るべきはずなのだがな!
 なんだか知らんがとにかくよし! 待っているがいい人吉少年よ!」


832 : 紅蓮の華よ咲き誇れ ◆GO82qGZUNE :2019/06/06(木) 18:01:29 ZBtt/CCA0


【D-4/1日目・黎明(夜明け近い)】


【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 日本刀@彼岸島、涼司の懐刀
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:人吉少年が向かった「声がした方向」に向かう。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す
4:日輪刀が欲しい。
5:雅のような鬼ではない存在の討滅手段を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。





   ▼  ▼  ▼





(フフフ、まさか私をここまで追い詰めるとは)

 光も差さぬ谷の底、今や無謬の静寂だけが包む闇の中に雅は生きていた。
 全身を打ち砕かれ、大質量の土砂を被せられたため暫くは満足に動けそうにないが、しかし雅の持つ不死性はそのような状況での生存さえも確約する。

(煉獄杏寿郎、面白い男だ。明を除けば私をここまで楽しませたのはお前が初めてだよ)

 顔なき体で、声なき声で雅は笑う。肉片よりも尚細かい塵と成り果てて、しかし彼の胸中を満たすのは享楽だった。
 雅は死なない。故に、殺し合いの舞台であろうがその存在を脅かされることはない。
 だからこそ、彼が重視するのはそこだった。自らを楽しませる人間たち、まだ見ぬ未知の存在、それらは長く退屈に沈んでいた雅の心を震わせるに十分な代物だった。

(明、煉獄……それに煉獄の同胞に"鬼"か)

 この会場には自分の見知らぬものがある。強き者たちがいる。
 それらは自分をどこまで楽しませてくれるだろう。
 それらは悠久の時を生きる我が生にどこまで華をもたらしてくれるだろう。

 声響かぬ闇の底で、尚も尽きせぬ悪意の塊が嗤い続けていた。


【D-4・谷底/1日目・黎明(夜明けが近い)】

【雅@彼岸島 48日後……】
[状態]:全身崩壊、土砂の底に埋まっている(再生中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス
[思考・状況]
基本方針:好きにやる。
0:面白そうな駒を勧誘し、最終的にBBと遊ぶ(殺しあう)
1:煉獄に強い興味。部下にしたい。
2:明と出会えれば遊ぶ。
[備考]
※参戦時期は精二を食べた後です。
※死体に血を捲いて復活させるのは制限により不可能ですが、雅はそのことに気がついていない可能性が高いです。
※現在谷底に埋まってます。そこそこ時間はかかりますが普通に再生して普通に脱出できるでしょう。


833 : 名無しさん :2019/06/06(木) 18:02:03 ZBtt/CCA0
投下を終了します


834 : ◆dxxIOVQOvU :2019/06/06(木) 18:07:17 qSv1hbxA0
最後の「埋まってます」って注訳にやはりこいつ雅…!ってなってしまう


835 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/06(木) 22:49:15 XwebFHVo0
投下乙です
煉獄さん雅を圧倒するとはスゲェ!彼岸島の面々が見たらワ ア ア ァ ァって歓声があがりそう。
自分は真っ向勝負、それだけでいいと突っ込み且つ目的を果たすとはすげぇや兄貴!
そして雅様、ほぼ粉々になっても怒らず未だに楽しみ、煉獄さんのことも賞賛するとは器がでかい。
流石は単行本68冊ぶんラスボスを張ってる男だ。

>「貴様、今年で幾つになる」
>「母上より生を受け二十余年だ!」
>「私が生きた年月は貴様の二十倍だ。貴様の父祖が洟垂れの頃より磨き続けた我が力、見縊ってもらっては困るな」
>「承知、以後は心しよう!」
この一連の会話が凄く鬼滅っぽくて好きです。


黒神めだか、童磨、無惨、今之川権三、雅を予約します


836 : ◆OLR6O6xahk :2019/06/06(木) 23:05:18 cyWF7f7Y0
佐藤を予約します


837 : ◆UdKZwyICZM :2019/06/08(土) 00:08:07 wEk6G6s.0
初めまして
鑢七花を予約します


838 : ◆HH8lFDSMqU :2019/06/09(日) 04:30:34 K1fldLPQ0
上田次郎、酒吞童子 予約します


839 : ◆HH8lFDSMqU :2019/06/09(日) 07:30:58 Z8XcM3I60
投下します


840 : UNSTOPPABLE ◆HH8lFDSMqU :2019/06/09(日) 07:31:56 Z8XcM3I60

 MAP中央の山を迂回するルートでA-3にある研究施設を目指す上田と酒呑童子。
 進み方としては二通り、山の西側を通り、山の北から廻るルート。
 山の南を通り、東側を通過するルートの二つ。

 彼らが選択したのは後者の方だった。
 
 まずは目印になりそうな場所を経由して、研究施設を目指す。
 基本はオリエンテーリングと同じ要領だ。
 となると、その目印になりそうな場所は――『教会』となる。
 
「上田はんは偉い博識やなぁ」
「ハッハッハッ、この程度のこと歴史的天才の上田次郎に掛かれば簡単なことです」
(……皮肉のつもりやったんやけどなぁ)

 白馬の手綱を握るのは上田。
 酒吞童子はその上田の背中に捕まるように白馬に乗る。
 抱きついてロマンチック? 否、背後を常に取っているのだ。
 やろうと思えば、その爪で上田の背中から心の臓を一気に貫くこともできる。 
 
 だが、酒吞童子はやらない。
 勿論、興が乗ればやるだろう。
 しかし、今はやらなくてもいいだろう。
 
「……で、この『ゆーえすびー』やったっけ?」
「はい、そうです」

 酒吞童子の手には何やら頑丈そうなケースに入ったものが握られている。
 そのケース内には一つのユニバーサル・シリアル・バス・メモリ。
 ……所謂、「USBメモリ」が収納されていた。

「ふぅん、そないモンをわざわざウチに?」
「それは酒吞童子さんだからです」
「なんで?」
「貴女は強い。だからこそ、そんな貴女からそのUSBを手に入れるのは容易ではない。
 しかも、貴女はその名前も使い方を分からないでいる」
「ほうほう……確かにウチはこないモン興味ないわぁ……」
「つまり、そのUSBの中に恐らくは重要なデータが入っていると私は考えている!」

 酒吞童子の強さは先程の沖田との戦いを見ていたので分かる。
 免許皆伝レベルの通信空手や柔道や相撲を嗜んでいる上田では到底太刀打ちなどできない。
 そんな強い彼女にこの頑強そうなケースに入った『USBメモリ』。

 そこで上田次郎の灰色の脳細胞がエンジンが掛かった。
 
 本来ならば『倒すかどうにかしなければならない存在』である鬼の酒吞童子。
 その鬼が持っているアイテムが脱出するのに重要なものに違いない。
 酒吞童子当人には恐らくはこのことを伝えられていない。
 この殺し合いというドッキリ企画にリアリティを出すために鬼役の役者にそういう指示が出されているのだろう。
 そう、上田次郎は確信した。
 
(しかし、残念だったな、BB。
 この世界一の天才になんの相談もなく、こういうことをしてしまうからだ!)


841 : UNSTOPPABLE ◆HH8lFDSMqU :2019/06/09(日) 07:34:01 Z8XcM3I60

 さらに上田は考えた。
 テレビ的にこの名簿の人数なら2時間番組なら何か大きなアクションを起こさなければダイジェスト映像で流される可能性がある。
 そういう尺を考えるとならば、自分の活躍は本来ならクライマックスであろう。
 そこで先に首輪を解析するシーンを取ってしまい、あとは編集でどうにもできるであろう。
 砂金のテレビの撮影技術やドッキリの仕掛け方も進化しているから、それくらい可能であろう、と。

 その上田の根拠のない自信はどこから湧いてくるのだろうか?
 
 その自信の根拠。
 これも上田次郎がこの殺し合いがドッキリ企画だと勘違いしているからである。
 さらに酒に酔っているので、その思考はより飛躍的にナルシスト的になっている。

 酒という燃料でさらにアクセルが入る。
 完全に上田次郎の思考は完全にフルスロットル状態。
 
 もう、止まらない。
 なんか脳内のブレーキか何かが壊れてるんじゃないの?

(BBよ、何故ベストを尽くさないのか!!)

 遂にこの殺し合いの主催であるBBにすら脳内でダメ出しする上田であった。
 もっとも上田にとってBBはこの殺し合いのディレクターかプロデューサー役のアイドルか何か程度としか認識していなかった。
 だから、仕方ないのだ。

 そんな上田次郎を見て、酒吞童子は嗤う。
 このようなタイプの人間。流石に見たことがなかった。 

 若干だが、上田次郎という人間に興味が湧いてきた。
 興味と言ってもほんの僅かなものでる。

 一緒にいて、退屈はしないな程度の、ほんの些細なもの。







 ま、その程度の興味などは塵芥の如く、ふぅっと一息で吹き飛ぶんですけどね。

 



 ――――上田の背中に酒吞童子は爪を鋭く突き立てていた。

 
 あと少し力を入れればさっくりと上田の身体を貫通していただろう。 
 
 しかし、酒吞童子はやらなかった。


842 : UNSTOPPABLE ◆HH8lFDSMqU :2019/06/09(日) 07:34:27 Z8XcM3I60

 ほんの僅かだが、上田に期待みたいなものがあった。
 もしかしたら本当にこの首輪を解除してしまうのではなかろうか。
 と、そんな期待をもの凄く低く見積もっていた。
 当たればラッキー程度のくじ引きを引く程度の期待値を。

(ウチの力を抑えてるのは……じゃまくさい首輪か。
 はたまたこの土地そのものにそういう力が働いているのどっちかやなぁ……) 

 酒吞童子として、そのどちらでも良かった。
 もし前者で上田が本当に外してしまうことならそれこそ儲けものである。
 
 そんなことを考えていると、彼女の背中に何かあったけぇものを感じた。
 ふと、振り返ると、そこには……空が紅黄色に染まっていた。

 所謂、朝焼け。

 夜が終わり、朝が始まる。
 
 ――――そんな時間があと少しで来る。


【E-4 道中/早朝】

【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、左頬に打撲
[装備]:普段の服、白馬@TRICK、USBメモリ@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:ひとまず上田と行動する。
2:小僧(村山)と会って強くなってたら再戦する
3:沖田総司とも再戦したい。
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
※スキル「果実の酒気」は多少制限されています。

【上田次郎@TRICK】
[状態]:背中に本人も気付かない程度の出血、若干の酔い
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:この島からの華麗なる脱出。
1:酒呑童子と行動する。
2:研究所に向かいたい。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
※殺し合いをテレビの企画だと考えています。


USBメモリ@HiGH&LOW
酒吞童子に支給
HiGH&LOW本編では九龍グループが隠す機密データの入ったUSBメモリ。
このUSBメモリを巡り、RED RAINやTHE MOVIE2では雨宮兄弟と九龍グループで激しい争奪戦が行われた。
このロワ内では中身に何のデータが入っているかは不明。


843 : ◆HH8lFDSMqU :2019/06/09(日) 07:34:56 Z8XcM3I60
投下終了です。


844 : 名無しさん :2019/06/09(日) 08:29:05 Q.0XoOZQ0
投下乙です。
上田先生が好調で嬉しい限りです。
>ま、その程度の興味などは塵芥の如く、ふぅっと一息で吹き飛ぶんですけどね。
上田先生の全ての発言や考察、命までもがコレで表されていて笑う。

一つ気になったのですが、
>>840
進み方としては二通り、山の西側を通り、山の北から廻るルート。
山の南を通り、東側を通過するルートの二つ。
彼らが選択したのは後者の方だった。

教会を目指すルートなら、山の西側を通過するのでは?と思いましたが、どうでしょうか。


845 : ◆HH8lFDSMqU :2019/06/09(日) 08:54:12 16DfmOYc0
>>844
感想&ご指摘ありがとうございます。
wiki収録時に修正させていただきます。


846 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/09(日) 08:54:20 94jQ1S5o0
みなさんお疲れ様です。投下します。


847 : それは遠雷のように ◆3nT5BAosPA :2019/06/09(日) 08:56:35 94jQ1S5o0
「無理無理無理ですよ。もうこれ以上は無理」

 吾妻善逸がそう言ったのは、蝶屋敷で全集中・常中の特訓をしている最中のことだったと、胡蝶しのぶは記憶している。
 顔中に汗を浮かべ、衣服が擦り切れている彼は、死人と区別がつかないくらい生気が失われた目をしていた。

「俺は昔からダメな奴なんですよ。努力が苦手で、頑張ることなんて絶対できない。そんな俺に、こんな特訓は不可能なんですよ」

始めたての頃は「しのぶさんの応援があれば、常中なんてすぐに覚えてみせますよ! ハイ!」と、随分なやる気を見せていたが、どうやら特訓の疲労でそれが摩耗してしまったらしい。『努力が苦手』という本人の言葉通り、諦めの早い性格である。彼の育手は相当苦労しただろう。
そのまま放っておけば額が地面に接するんじゃないかと思ってしまうほどに頭を項垂れている善逸に対し、しのぶは朗らかな笑顔で、

「そんなことはありません。善逸君、君ならきっとやれます。そう信じていますよ」

 と言った。
 それだけである。
 たったそれだけで、善逸の顔は火のついたように赤くなり、体温は著しく上昇した。どれだけ激しい呼吸をしてもこうはならないくらいに、凄まじい体調の変化である。

「ハッ、ハハハハッハハハハイ!!」

 極度の興奮で笑い声と区別がつかない返事をする善逸。彼が見せた急激な変化に、近くで特訓をしていた炭治郎と伊之助は呆然としていた。

「オオオオオオッ! 俺ならやれるっ! 誰よりも応援され、信じられている俺なら!」

 そう叫びながら、善逸は特訓に戻って行った。伊之助に勝るとも劣らない猪突猛進ぶりである。特訓で失われたやる気の再充填は完了したらしい。あれだけの活力があれば、しばらくは頑張れるだろう。
 しのぶの期待通り善逸たちが全集中・常中を会得したのは、それから七日後のことだった。




848 : それは遠雷のように ◆3nT5BAosPA :2019/06/09(日) 08:58:08 94jQ1S5o0

 そんなことを思い出したのは、共に戦う鬼殺隊の仲間を求めて探し回っている現状の所為だろうか。それとも、しのぶが跨っている、人どころか馬さえ凌駕するほどの速度で大地を駆けている鉄の塊の姿から、善逸が扱う俊足の剣法を連想したからか。
 
「鉄の塊じゃねえ、バイクだ」
「ばいく……? ああ、さっきもそう言っていましたね。聞いたことがない言葉なので、そう呼ぶのを忘れていました」
「バイクを聞いたことがない? 江戸時代の人間か、てめえは」
「いえ、今は大正時代ですが」
「……?」

 なんて、イマイチかみ合わない会話をする広斗としのぶの二人を乗せて、バイクは夜道を走って行く。
 前方をライトで照らし、轟音を鳴らしながら車輪を回すバイクは、しのぶが知る柱のひとり、音柱・宇髄天元が見れば喜びそうなほどに派手な乗り物だ。こんなものが静かな宵闇を突っ切れば、近くにいる者は間違いなくその存在に気づくだろう。鬼殺隊の仲間を探索中のしのぶにとって、それは歓迎すべきことであるのだが、一方で鬼のような好ましくない存在までも引き寄せてしまうのではないかという懸念もある。鬼を討つ使命を背負っているしのぶにとって、鬼との遭遇は必須の事態であるのだが、己の日輪刀も無ければ仲間の剣士もいない現状では心もとないというのはれっきとした事実であった。
 しのぶは、自分に支給された日輪刀の本来の持ち主である冨岡義勇に思いを馳せた。彼は柱なだけあって確かな実力を備えているが、彼の刀はしのぶの手元に渡ってしまっている。しかし、そんなことは彼の人付き合いが致命的に不得手な性格に比べれば些細な問題だろう。

──あの人は今、どこで何をしているんでしょうかねえ。いつも通り誰かから誤解を受けていなければいいのですが。

 同胞の心配をするしのぶ。
一方その頃、彼女から遠く離れた何処かの木陰で少女を見守っている最中の冨岡は、小さなくしゃみをし、己の両腕を抱きかかえるようにして体を温めていた。
 
「そういえば、先ほども言ったように、この殺し合いには私の知り合いが何人かいるんですけど、貴方のお知り合いは居るんですか?」 しのぶは自分の知り合いのことから連想した疑問を口にした。
「……地元の知り合いが何人か。それと、俺の兄貴がいる」

 兄貴──身内が殺し合いにいるという広斗の言葉。それは、しのぶにとってみれば、姉と共に殺し合いに放り込まれているようなものである。そう考えてみると、この殺し合いを開催したBBに対する怒りがますます燃え上がらんというものであった。
しのぶの中で、この殺し合いを止めてみせるという思いがより一層強固なものになる──その時だった、遥か遠くから、何かが爆発したかのような大きな音が鳴り響いたのは。

「!?」
「!?」

 雷鳴のような轟音がした方向に視線を向ける二人。その先には、夜空を背景に明るい爆炎を噴き出しながら、もうもうと煙を上げている廃工場があった。どうやら、しのぶの決意とは裏腹に、バトルロワイアルは着々と進んでいるらしい。

「向かうぞ」
「ええ、お願いします」
 
 ふたりの短い会話を経て、バイクは進行方向を廃工場の方へと修正する。いったい何が原因で爆発が起きたのか、そしてそこに誰がいるのかを確認するために、廃工場へと向かうのだ。
 その先にあるだろう血生臭い気配に、しのぶが腰に提げた義勇の日輪刀に向ける意識はより強くなるのであった。




849 : それは遠雷のように ◆3nT5BAosPA :2019/06/09(日) 08:58:54 94jQ1S5o0

 廃工場を素材に作られた瓦礫の山のそばでバイクを停めたしのぶたちを迎えたのは、血の匂いだった。嗅覚に優れている竈門炭治郎でなくとも気が付くほどに、濃い血の匂いである。
 それはつまり、この場で大量の血が流れたということの証左であった。

──こんなに濃い匂いがするほどに血を流したということはおそらく、その人はもう……。 
 
 そう考えながら、しのぶは瓦礫を崩さないよう慎重に工場跡へ這入り、匂いの発生源を探す。
程なくしてそれは──『彼』は見つかった。
 血の匂いを漂わせていたのは、見覚えのある金髪の少年だった。

「善逸、君……」

 医学の心得があるしのぶが一目で致死量だと分かる量の血で出来た水たまり。
そこに沈んでいる人物の名を、彼女の口は紡いだ。
 後ろから遅れてやってきた広斗も、惨憺たる光景を目にして息を呑む。しのぶが見せた反応から、広斗は彼女と金髪の少年の関係を察した。
しのぶが知る善逸は諦めがちで弱虫ですぐ泣く少年だった。しかし、決して弱くはなかった。これまで何度も鬼を退治し、十二鬼月との戦いすら生き延びてきたのだ。
そんな彼が、まさかこんなところで死ぬとは……目の前の光景を否定したくなるが、鼻を刺激する鉄の匂いと網膜に焼き付いた映像が、そんな現実逃避を許さない。
しのぶは善逸の死体の近くでしゃがみこんだ。
彼の胴体にある傷は、爆発が原因で出来たものではなかった。人を超えた鬼のような力で殴らない限り、こんな傷にはならないだろう。つまり、爆発とは別にこの場を襲った何者かが居たわけだ。
善逸の手元に日輪刀は無く、代わりに棍棒のようなものが傍に転がっていた。おそらく、しのぶと同じように日輪刀を奪われ、代わりに棍棒のようなものを支給された彼は、敵を相手に、これを握って戦っていたのだろう。
殺し合いの場において慣れた得物が手元になく、目の前に超常の存在がいようとも、善逸は逃げずに戦ったのだ。
剣がなくとも、剣士として──戦ったのだ。

「……頑張ったんですね、善逸君」

 ポツリと労いと弔いの言葉を口にする。
しかし、善逸はもう赤面しないし、返事をすることも無い。
どうしようもなく終わり切ってしまった命を見て、しのぶは自分の中に新たな怒りが蓄積されたのを感じながら、唇を噛み、肩を震わせた。


850 : それは遠雷のように ◆3nT5BAosPA :2019/06/09(日) 08:59:29 94jQ1S5o0
【D-6/一日目・黎明】
【雨宮広斗@HiGH&LOW】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、シャドウスラッシャー400
[思考・状況]
基本方針:???
1:???
[備考]
※少なくともREDRAIN後からの参戦です。

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[状態]:健康。精神的ショック。
[装備]:冨岡義勇の日輪刀
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:鬼殺隊の同僚と合流する。
1: 自分の日輪刀を探す
[備考]
※9巻以降からの参戦


851 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/09(日) 08:59:52 94jQ1S5o0
投下終了です。


852 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:29:46 DcL0fG.20
投下乙です。
こちらも投下いたします


853 : 母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:34:52 DcL0fG.20


マシュと共に駆ける村山は思う。
この殺し合いの島、闇夜に上がった火の手を見て真っ先に駆け出したこの少女は、やはり何かがおかしい。

──いや、やっぱ変でしょ。

と、村山は自分のことを棚に上げて思っていた。
村山としては別にあの場所に向かうことに異論がある訳ではないし、マシュが言い出さずとも向かっていたような気がする。

まぁ実際、SWORDならこの局面でノータイムで危険地帯に突っ込む奴も結構いるだろう。
だがそれはSWORDの荒くれ者だからであり、こんな華奢な少女とは違う人種だ。
いや、苺美瑠狂<いちごミルク>の連中ならそうでもないのか。
とはいえぱっと見、このマシュという少女と、あの苺美瑠狂もまた違う人種な気がするし、やっぱり変だ。

そういえば比喩でなく、本当に顔立ちも外国人っぽくて、人種が違う気がする。
流暢な日本語を話すせいでなんとなく流していたが、村山は今更そんなことに気づいた。
日本に居ついているマイティの奴らでさえ訛りがあるのに、勉強熱心な外人さんだと思う。大学を出ているのかもしれない。

「あの炎、爆弾でしょうか? 見えた炎の規模からしてエリア一つ分ほどの距離があると推定します。
 ならここからだと──」

加えてマシュはどっかのメガネかけた転校生と違って、己の力を過信し向こう見ずに突っ込んでいるようにも見えない。
事を冷静に分析する様は苺美瑠狂の三倍はIQがありそうだ。何ならそれでも足らないかもしれない。

村山も相当な場数をくぐってきたつもりだが、この少女は少女で村山の知らない世界を知っているのだろう。
こんなゴツい装備をためらいもなく使うくらいだから、戦場に近しい場所にいたことは、村山はなんとなく察することができた。
とすると、やはり近いのはマイティか。あの連中、元傭兵とかいるらしいし。
もしかすると外国では戦場を経験するのは当たり前なんだろうか。銃社会って言うしな。やべえすごい。

──まぁだから、わかるよ。強いんでしょ。

村山はマシュのことを、素直にそう認めていた。
明言こそしていなかったが、要するにマシュはあの“鬼”から村山を助けたのだ。
同僚とか言っていたし、二人の関係はまでは掴めないが、村山が一方的に打ちのめされた相手と対等に付き合える関係らしい。

少女に守られるような形になってしまったことに情けないと思う気持ちもなくはない。
だが結局、それは負けた自分、弱かった自分が悪いのだ。
だから、マシュを女だからとかそんな理由で止める気はなかった。

──別に、拳が強けりゃ何かできるって訳でもねーんだけどさ。






854 : 母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:42:49 DcL0fG.20



マシュと村山がその少年を見つけたのは、それからしばらくしてからだった。
彼はズタボロ、という表現がよく似合う状態であり、身にまとう学生服は裂け、顔には生々しい傷跡が見えた。
自分で応急手当てをしたのか顔には包帯がぐるぐると巻かれているが、あまり意味があるようには見えない。
「う……」と顔はうめき少年はあげ、悲痛に顔をしかめていた。

「大丈夫ですか!」

マシュがざっと彼に駆け寄り、その身を抱き上げる。

「どうしたんですか? ここで何があったんですか?」
「……ああ、うん。ちょっと、襲われてね」
「襲われた? それはさっきの爆発と何か関係があるのですか?」

傷が痛むのか顔を歪めながら、途切れ途切れの口調で少年はマシュの問いかけに答えようとする。

「あれは、そうだな──鬼、だったんじゃ、ないかな」
「それは……」

マシュがはっと息を呑むのがわかった。
同時に村山もまた目を細め、一人で声を漏らしていた。

「鬼、ね」

村山はその単語を反芻し、ぐっ、と拳を握り込んでいた。
彼にとって、その名を持つ者は因縁深い存在であった。

「鬼? もしかして、酒呑さんがまた!? 位置的にはありえますが……」
「見た目は……小さな、子供、だったよ。和服を着てた、かな」
「それは──その鬼は今どこに?」
「あっち、だよ」

荒い息を吐きながら少年は指を指す。
火の手が上がった方向であった。暗く沈んだ森が、彼の指差した先にはある。

「頼む。俺の弟が、あっちにいるんだ。あの森に……」
「弟さんが!?」
「……ああ、うん、ここで会えた、弟が、まだ……」
「なーるほど」

村山はそこでかがみこみ、包帯の少年の顔を覗き込んだ。

「いいよ。俺ガキ嫌いだけどさ、お前の弟とやら助けに、いっちょ鬼退治行ってくるわ」
「村山さん?」
「鬼ってのがさっきの奴かまだわかんないけどさ、まぁさっそくリベンジマッチしよっかなって」

すっと村山は立ち上がる。
ポケットに手を突っ込み、首をコキコキと鳴らし、おもむろに少年が指をさした方向へと歩き始める。
一見して気だるげな様子であったが、その瞳には明瞭な戦意が宿っていた。

「あ! 村山さん、ちょっと待ってください」
「行かないでくれ」

歩き出した村山を追おうとしたマシュに、少年の手が絡みつく。
震える手つきで握られた掌をマシュは無下に振りほどくことはできない。
実際彼をこのまま放っておくわけにはいかない。
本来は安全な場所まで彼を移動させたいが、先に行ってしまった村山を援護する必要もある。

「立てますか? 肩を貸します」

そう冷静に分析をしたマシュは少年に声をかける。
見たところ彼は傷を負っているが、命に関わるほどの重傷でもないようだった。
そう判断し、マシュは彼を守りながら戦うことを選んでいた。
「ありがとう」と少年は言って、マシュに支えられる形で立ち上がった。

「大丈夫ですか? 無理はしないでくださいね。弟さんは、私たちが助けますから」
「────」
「ところでさっきおっしゃっていた鬼について、お聞きしてもいいですか?
ええと、その、角のようなものが生えていたとか、京言葉を使っていたとか──」

と、少年に問いかける最中はマシュは不意に奇妙な視線を感じた。
少年だった。彼はマシュの問いかけに答えることなく、マシュの顔を──正確に言うならばその耳をじっと見つめている。

吐息が、耳にかかった。

そこに滲んだ異様な欲望を察したマシュは目を見開く。
これまでの経験から彼女の身体が動き出していた。武装を展開し、そして──

「まぁまぁだね」

淡々と告げられたその言葉に鼓膜が震える。
と、同時にマシュの首筋に何かがブスリと突き立てられていた。そして訪れる鋭い痛みと──


855 : 母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:43:48 DcL0fG.20






ほの暗い森の中は、青白い月光に照らされていた。
時間的にはもう少しで夜が明けるだろう。
湿り気を含んだこの空気が、すでに日の出の予兆を感じさせていた。

だが、まだ夜は明けていない。
夜というものは、夜が明ける直前が一番暗く、恐ろしいものだ。
そう、例えば今この瞬間のような。

「ふうん、なんか出そうじゃん」

そんな場所で、村山は気だるげにぼやいた。
手はポケットに突っ込まれたまま、さして力を入れているようには見えない。
見えないが──その実、村山は相応の緊張感と警戒心をその胸に宿していた。
今まで培っていた喧嘩の経験、修羅場の記憶が、この森に流れる暗く澱んだ殺気を教えてくれた。

「出てこいって。ガキは帰る時間だ」

気の抜けた、冗談のような口調で村山はこの森にいるという“弟”に対して呼びかける。
無論、その行為は──鬼を呼び寄せる可能性もある、ということも、村山はわかっていた。

──そして、それは一切の警告なしにやってきた。

暗い森の中、きらり、と何かが光った気がした。
鋭く、一瞬の明滅であったが、村山はある種本能的な直感に従い身をそらした。

「へえ、気づいたんだ」

闇の中より平坦な口調で声が響く。
それは存外に高い声で、少年のものに相違になかった。

「少し意外だ。別にそう訓練している訳でもなさそうなのに」

村山は声を聞きながら己の�茲に触れる。
つう、と赤い血が流れていた。鋭利な刃物によって切り裂かれたような感触だった。
そのことが何をするのか、村山は論理でなく直観で判断していた。
よくわからないがナイフみたいなもんが飛んでるらしい。なら、受けて耐えるという手段は取らない方がいい。

その判断は正しかったし、実際初撃を躱してみせたことが彼の命を救ったとも言えた。
だが。

「でも意味ないね。所詮は人間だ」

だが──村山の身体は次の瞬間には、見えない何かの力で、ぐい、と引っ張られた。
足元だった。絡みついた鋭利な何かが、村山を地に這わせられる。
突然の事態に苦悶の声が漏れる。

「んだよ……!」

村山は声をあげ、即座に反撃に転じようとするが、強烈な力で押さえつけられ動けなくなっていた。
糸、あるいはロープによって全身が縛られ、拘束されているようだった。

「……よかった、生きているみたいだね」

ざ、ざ、と足音がして、その鬼は姿を現した。
和装を身にまとった、線の細い少年であった。森の中だというのに靴も履かず、茫洋とした眼差しで村山を見下ろしている。

──鬼だ。

村山は直観的にそう確信していた。
ゲーム開始当初に出会った女の鬼とは全く装いは違う。
だが纏う雰囲気、殺気に──人から外れた者に共通する何かがあることを、村山は察知していた。


856 : 母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:45:57 DcL0fG.20

「加減し過ぎたね。
 でも糸をあんな風にちぎるなんて、馬鹿みたいだ」

──再び止まった。

村山の身体に強烈な締め付けが走り、その身体が動かなくなる。

鬼は泰然とそんなことを言ってのけた。
�茲を抑え、顔をしかめてはいる。
だがその身体が吹き飛ぶこともなく、再び糸を展開しているようだった。

──ガキの癖に、重さがおかしいだろ。

鬼、と言う言葉が再び脳裏をよぎる。
このゲームで初遭遇した鬼と同じ、自分たちと違う生物であるという直観。

「……もういいだろう兄さん。人間を捕らえると言っても、とりあえず一人いれば十分だ」
「そうだね、彼、生かしておくのも危なそうだしね」

そんな会話をしながら、鬼は村山ににじり寄ってくる。
鬼は殴られた�茲を抑えているが、活動にさして問題はないようだった。
どういう理由だかは理解できないが、今までこの鬼はこちらを生け捕りにしようとしてたらしかった。

だからこそ糸も弱められていたが、抵抗したことでそうも行かなったという訳か。
次は間違いなく──致命的な一撃がくる。

「ばいばい」

そう言ったのは包帯の少年の方だった。
和装の鬼の方は、表情を変えずないまま村山の命を刈り取ろうと──

「てめえ──」

──そして村山は次の瞬間、視界を暗転させた。





857 : 母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:46:42 DcL0fG.20





村山はその時、決して戦意を失った訳ではなかった。
心が折れた訳でもなければ、痛みに屈した訳でもない。
ただ生き残る意思だけは強く抱いていた。だからこそ村山は直観的に動いていた。

「あああああああああああああ!」

村山はその時、森の外にいた。
鬼も、少年も、マシュもいない。たった一人で彼は叫びをあげていた。

「んだよ! んだよ!」

苛立ちと自身への怒りのまま、村山はその拳で地面を叩きつける。
その拳を叩きつける度にさらなる痛みが走ったが、そんなことはもはや些細なことだった。

──村山の拳には今、ホーリーナックルと呼ばれる武装がついている。
そしてその手首にはもう一つ、別のものが巻き付いていた。

それは転送機であった。
ラブデスター実験において、運営であるラブデスター星人が「餌」として用意していた、ボーナスアイテム。
マシュとの支給品確認を通じて、今は彼がそれを装備していた。
それを本能的に使うことにより、村山はあの絶体絶命の状況から逃げ出すことができた。

だがそんな出自などどうでもよかった。
鬼に敗れ、マシュを置いたまま、おめおめと彼は生きている。
その事実こそがすべてであり、村山の知る現実であった。

村山は叩きつけた拳を握りしめる。
この島に来てから、“鬼”と呼ばれる存在に敗れ続けている。
その事実を噛み締めているうちに、いつしか夜が明けようとしていた。

この屈辱に満ちた夜明けを、決して忘れることはないだろう。
村山はギラついた瞳でもう一度地面を殴りつけた。


【F-2/1日目・黎明】

【村山良樹@HiGH&LOW】
[状態]:全身打撲・切り傷 右腕から失血
[道具]:基本支給品一式、ホーリーナックル@Fate/Grand Order、転送機(3時間使用不可)@ラブデスター、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:とりあえず帰り方を探す
1:マシュは絶対助け出す
2:鬼共とはいずれケジメをつける
3:コブラや雨宮兄弟は会った方がいいと思うが取り立てて優先はしない
[備考]
※参戦時期は少なくともシーズン2の8話以降です。

【転送機@ラブデスター】
敬王にてペア試験の報酬として用意されていた腕輪型のもの。
便利なもののためか最高得点と設定されていた。
さすがにどこでも行き放題という訳ではなく、
このゲームにおいては「3時間に1度」「同じエリア内のみ」という制限付き


858 : 母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:47:10 DcL0fG.20


マシュはまどろむ視界の中、自分の前で誰かが話していることに気づいた。

「なんだ、あれは」
「逃してしまったみたいだね。俺はあのアイテム、知っているかもしれないよ。
 多分前のゲームで見た奴と一緒なら、さっきの彼はどこかに転送された筈だ」
「以前にもあったという、これに酷似した催しのことか」

どうやら二人とも少年のようだった。
ぼんやりした意識の中、マシュはここは一体どこで、彼らは誰なのだろうと思った。
だが声を上げるまではいかなかった。身体は非常に重く、意識もまだ覚醒とは程遠い状態だった。

「追うか、兄さん。あれの拳についていた妙な武器も少し気になる」
「いや、どうだろうね? そろそろ夜も明けるだろうし、そうなると君も困るだろう?」
「…………」
「とりあえず陽の光を遮られる場所を探そう。他にもあの火の手を見た参加者が来るかもしれないし」
「しかし、意外だったな。お前がここにいることが」
「あんまり兄を舐めないでくれよ、こう見えて、この手のゲームは経験者なんだ」
「違う」

そこで一人の少年がきっぱりと言った。

「僕はてっきり、お前は逃げ出す気だと考えていた。
 お前は人間だ。自分を餌にするなど適当なことを言って、僕から逃げる気なんだと」
「嫌だな、大切な弟を置いてどこかに行くなんて、そんな不届きな兄がいるものか」
「薄っぺらなことを言うな。お前はそのぐらいは気が回るだろう。わかっていたからこそ、お前を追い詰め“恐怖”で繋いでやろうと思ったのに」
「信用がないね、家族なんだよ、俺たちは。互いを信じ、想い合うってことをやっていかないと」

意味不明な会話であったが、そんなものでも聞き取ろうとして行くうちに徐々に意識がはっきりとしていた。
そして──マシュが己が縛られていることに気がついた。
途端、一気に意識が覚醒する。
薬を盛られ、縛られていた──その事実を認識し、即座に武装を展開しようとするが。

「ああ、起きたんだ」

そこで少年──意識を失う直前まであっていた筈の包帯の少年が、表面上はにこやかに声をかけてきた。
状況的に彼が薬を盛ったのだろう。それはわかるが、だが身体は動かなかった。

「無駄だよ。流石にさっきみたいなヘマはもうしない」

マシュは今、糸で身体をぴっちりと縛られているようだった。
和装の少年の言う通り、そう簡単には破れそうもない。少なくとも、薬の痺れが残っているうちは。

「貴方たちは私に何を……!」
「さて、と。そういえば名前を聞いてなかったね」

と、そこで包帯の少年がマシュに語りかけて来た。

「ねえ、君。お父さんとか、お母さんって、詳しい?」
「は?」

少年は至って真面目な顔で言う。

「俺たちのお母さんか、俺たちのお姉さん、どっちかを君にやってもらいたいんだ」


【F-2/1日目・黎明】

【累@鬼滅の刃】
[状態]:殴られた�茲が妙に痛い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉と無惨様を探す
2:家族にならなそうな人間は殺害
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉とあの方を探す
2:ミクニに会いたい
[備考]
※参戦時期は死亡後

【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、霊基外骨格@Fate/Grand Order、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:は?
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
※霊基外骨格は霊衣として取り込んだため、以降自分の意志で着脱可能です。

【二乃の睡眠薬@五等分の花嫁】
二乃が風太郎に盛った睡眠薬
盛られた風太郎は口に含んだ瞬間に昏倒した


859 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:47:45 DcL0fG.20
投下終了です。回線が重くなり投下に時間がかかり失礼いたしました


860 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 20:49:13 DcL0fG.20
あと何故か「�茲」という字が化けているのが、収録時に直しておきます


861 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 21:23:23 DcL0fG.20
…ちょっとすいません、どうやら途中1レス抜けていたみたいで申し訳ないです


862 : ◆7ediZa7/Ag :2019/06/09(日) 21:24:15 DcL0fG.20
>>855>>866の間に以下の挟まります。


村山は直観的にそう確信していた。
ゲーム開始当初に出会った女の鬼とは全く装いは違う。
だが纏う雰囲気、殺気に──人から外れた者に共通する何かがあることを、村山は察知していた。

「力加減を間違えて殺してしまいたくはなかったんだ。だって君たちはひどく脆い」

月明かりを背景に少年の鬼は淡々と語る。
そんな彼に対して、村山は戦意の滾りを衰えさせることなく睨みつける。
だが当の鬼の方は、村山の方にはさして興味もないのか視線を逸らし、

「あの派手な火に向かって来た人間を誘き寄せて、生け捕りにする。
 兄さんの作戦が存外上手く行ったが、あちらはうまくやっているかな」
「問題なかったよ」

と、そこで別の声が響いた。

「ちょっと想像していたより、大分強そうな娘だったけど。
 今の俺はまだ普通の中学生だからね。変に警戒もされなかったんだと思うよ」
「強いのか、その女は」
「ああ、何せこんな分厚い装備を着込んでるんだ。
 それに思いのほか良い耳をしていて、マジマジと見ちゃった。危なかった、もう少し良い耳だったらやられてたかも」
「…………」

縛られた村山はわずかにしその身を動かすことができない。
それでもなんとか首の向きを変え──そして、包帯の少年と、ぐったりと項垂れるマシュを見た。
村山は目を見開く。
マシュは意識を失っているのか、指先一つ動かそうともしない。
そんな彼女を抱えているのは、先ほど倒れていた包帯の少年だった。

「それで、そいつは母か姉に向いているのか? 兄さん」
「うーん、どうだろうね。まぁ頼んだらやってくれるのかな? そっちこそ、そこの彼は?」
「興味がない。人間など同じだろう」
「父さん……にはちょっと若すぎる気もするけど、俺たちよりは年上だね
 うーん、そこだけ本当にちょっとわからないんだよね、俺。
 この娘に聞いたらなんか教えてくれるかな」
「なんでもいい。顔も、性格も、身体、名前も、変えてしまえば同じだ」
「さて、そういう押し付けはよくないと思うけどね、弟よ」

少年たちは淡々とした口調で会話を続けている。
理解からは程遠い内容の会話だったが、だが包帯の少年が、鬼のことを弟と呼んでいるのはわかった。
それだけで村山は事態を理解する。
先ほど言っていたのは弟というのはつまり──

「さて、起きろ」

ぐい、と再び村山の身体が引っ張り上げられた。
地に這っていた村山は強制的に立ち上がり、二人の少年と向かい合うような形になる。
その間も村山はぐっと力を入れる。腕に血が滲むのも構わず、その腕を動かそうとする。

「やめろ、殺さないように加減するのも面倒だ」
「……っ、お前ら」
「そうだよ。そんなにカッカしないで。
 こっちは殺す気なんてないんだ」

包帯の少年は、ニッコリと笑みを浮かべて言う。

「たださ、ちょっと家族になってもらいたいんだ。俺たちとさ、君と、この娘も交えて」
「鬼にもなってもらう」
「そうそう、そうすれば命は取らない。うん、悪くない話じゃない?」

空虚に笑う包帯の少年と、一切の感情を滲ませない和装の少年。
対照的であったが、どちらも空々しいという意味では共通していた。

その間にもマシュは包帯の少年に抱えられたまま、ピクリとも動かない。
その姿に村山は胸から頭に強烈な苛立ちがこみ上げる。
だがそこで激昂はしなかった。ただ低く戦意を込めた声で、少年たちに言う。

「お断りだよ」

吐き捨てるように村山は言い切った。

そして──カッ、と目を見開いた。
血が飛び散る。それは身を縛る糸を無理やり引きちぎった結果だった。
腕に激烈な痛みが走るが、そんなものはアドレリンがわすれさせてくれた。

「……っ」

少年の鬼が目をひそめたのがわかった。
糸を破られたのが意外だったのか、その瞬間に他の糸が緩む。
村山はその瞬間に飛び出し、力任せにその拳を振るってみせた。

「────」

鬼の�茲に村山の拳がめり込む。
確かな感触。つけていたメリケンサックも敵の顎骨を捉えたのがわかった。
その勢いまま、二発目につなげようとして──


863 : ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:18:59 1w4NRXZU0
うわ、また何作も来てる。すごい!

ひとまず、予約分を投下します。


864 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:19:36 1w4NRXZU0
 ◇ ◇ ◇



【0】

 武士道は死狂ひなり。
 一人の殺害を数十人して仕かぬるもの。



 ◇ ◇ ◇


865 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:20:07 1w4NRXZU0
 
 
【1】

 間合いの外で腰を低く落とす冨岡義勇に細心の注意を払いつつ、犬養幻之介は立ち去った男のことを考える。
 巌窟王を名乗る人形の如き白い顔の男は、少し言葉を交わすとなにやら一人で納得したように深く頷き、哄笑を残して少女を追う一陣の風となった。
 剣士同士の戦いに割って入っておいてすぐに消えた男が発した内容は、幻之介にとってあまりに不明瞭で意図の掴み難いものであった。
 虎眼流なる流派も、濃尾無双と謳われる師も、流れる星の名を冠する奥義も、星を堕とす魔技も、正当なる仇討も――まったく心当たりがない。
 こちらの事情をすべて知っているかのような口振りであったが、生まれついての武士である幻之介の人生に、それらの物事が絡んできたことなどない。
 ただ、握力の加減にて間合いの外に刃を到達させる『流れ』という技術と、太刀を担ぐ構えがすべての起点となっている事実は、たしかに間違っていなかったが。

 単純に、思い違いをしているのだろう。
 幻之介は一度として、藤木源之助などと名乗ったことはない。
 おそらくは、藤木源之助という――『流れ』と太刀を担ぐ構えを操る隻腕の士(さむらい)が、また別にいるだけの話であろう。

 結論は出た。わかりやすい答えだ。他の答えなど存在し得ない。
 にもかかわらず去り際の巌窟王の腑に落ちたような言葉が、幻之介の思考にへばりついて離れない。

「――――オルタナティブ、か」

 合点がいったかのように口角を吊り上げて呟き、そうして巌窟王は姿を消した。
 その単語が指す意味を幻之介は知っている。正しくはこの地にて初めて知った。
 羽織の内に隠したカードデッキなる絵札箱、その手引書にご丁寧に意味が記されていたのだ。

 オルタナティブ――代替品。

 犬養幻之介が藤木源之助なる存じぬ男の代替品、とでも言うのであろうか。
 口内に響いた軋むような音で、幻之介は自身が歯を噛み締めていたことを自覚する。
 勝手に代替品であることを押し付けられた困惑ゆえではない。そのような意識自体はとうにあったゆえの歯噛みである。
 会ったことがなかろうと、心当たりがなかろうと、関係なぞなかろうと――
 だとしても藤木源之助が士であるならば、犬養幻之介はそのオルタナティブ足りえるであろう。

 代替品。代替の品。代替が利く品。
 まさしく士である。
 士の命は士の命ならず。
 主君のものなれば、主君のために死場所を得ることこそ武門の誉れ。
 これが代替が利く品でなくて、いったい他のなにであろうか。士は士である以上、士の代替品足りえるのだ。
 代替が利かぬのは猛丸(タケル)のような身分の檻がない男であり、身分の檻に縛られる士は代替が利く存在でしかありえない。

「(なれば、俺にこの絵札箱を支給する意図も窺い知れようぞ)」

 BBなる少女の趣意を見出し、幻之介は自嘲気味に息を吐く。
 指差して揶揄されているかのような悪意を感じずにはいられないが、それでも頼らざるを得ないのが実状である。

 冨岡義勇は間合いの外、無論『流れ』の射程を考慮に入れた上での間合いの外で、やはり微動だにせず腰を落としている。
 出方を待っているのは明白である。木剣と西洋剣という得物の差を理解して、自ら無理に仕掛けず迎え撃つ心積もりなのだろう。
 初見にて初見殺しの『流れ』から逃れるほどの男である。おそらくは幻之介が動くまで、たとえ四半刻でも半刻でも一刻でも待ち続けるはずだ。
 であればと、幻之介はついに動く。
 太刀を担ぐようにして構えると、義勇の眉間に刻まれたシワが深くなる。
 幻之介の読み通りである。太刀を担ぐ構えを警戒せよと告げられており、また『流れ』という間合いの外に刃を到達させる技術を見ているのだ。
 なにかあると判断するのは当然であり、ゆえに幻之介の次の行動が得物を投げつけるという呆れたものであろうと、どうしても『受け』に徹する他にない。
 義勇は意図が読めぬという表情で、凄まじい速度で左胸に迫り来る木剣を西洋剣にて払う。
 それこそが幻之介の目的であった。
 振るわれた西洋剣の刀身に映るのは、胸元に隠した絵札箱をかざした幻之介の姿だ。
 あるはずの右腕がなく、ないはずの左腕が存在する。
 桶に水を張って水面に自らを映すことで失った腕をあるものと思い込み、幻肢痛を癒した過去が蘇る。

「変身」

 オルタナティブ・ゼロ――代替品の名を持つ鎧を纏いながら、幻之介はもとより代替が利く存在である身で、どこが別の身に変わっているというのかと内心で吐き捨てた。


866 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:21:14 1w4NRXZU0
 
 
 ◇ ◇ ◇


【2】

 四宮かぐやは、やはりまだそう遠くまで離れていなかった。
 彼女なりに急いでいるのは見て取れるが、どうしても疲労が隠せていない。
 いやしかし、と巌窟王は頬を緩める。
 精神的な消耗は明らかだ。なにも取り繕えていない。見るからに疲れている。
 だとしても、いやだからこそ、それでもという決断には結末を見届ける価値がある。見届けねばならない。

 高速にて風を切っていた巌窟王は、目標を視界に捉えたためにその速度を落とす。
 身体より溢れ出ていた蒼い炎は減速に伴って落ち着き、ついには完全に消えてしまう。
 加速中は身体を完全に炎に覆われていたというのに、巌窟王の纏う外套に一切の影響を及ぼしていない。
 当然であろう。彼の恩讐の炎は彼自身をこそ常時焼くものであって、断じてその衣服を焦がすものではないのだ。

 とにもかくにも追いついた。
 ここまで距離を詰めれば、もはや問題はないだろう。
 彼女に悟られぬ、それでいていつでも割って入ることのできる距離を保つだけだ。

「(ともあれ、先のオルタナティブ――)」

 巌窟王の脳裏を掠めるのは、いましがた別れた隻腕の士。
 あの技、あの構え、あの隻腕、そして『ゲンノスケ』という名。
 仮に虎眼流を知らずとも、仮に正しく生まれついての士であろうと、根幹を藤木源之助と同じくすることは疑いようもない。

 駿河城御前試合・第一試合『無明逆流れ』。
 それが正当なる仇討の物語であり、迎えるのが正当なる仇討であるがゆえの結末であるのなら――
 たとえ日本出身の英霊が知らなかろうと、たとえ作家としての功績が認められて座に登録された英霊が知らなかろうと、巌窟王だけは知らぬ道理がない。

 だが、違う。
 根幹が藤木源之助と同じであろうと、完全に異なっている。
 正しく生まれついての士であり、剣鬼ならぬ師のもとで剣術を学び、豊臣に仕えて大坂の役にて片腕を失った。
 犬養幻之介の語った経歴が正しいのであれば、あの藤木源之助と同じ結末など迎えない。迎えようがないのである。

 ゆえにオルタナティブ――反転存在/別側面。

 はたして、なにが藤木源之助と犬養幻之介の最大の違いであるのか。
 物語のどこに重きを置くかによって、この答えは変わってくるであろう。
 巌窟王は仇討の物語と見ており、であれば本当の意味で正しく武士の家に生まれたという点をこそ、最大の分岐点と認識している。

「(――――ハ、違うな)」

 殺し合いに乗っている理由までは、犬養幻之介は問うても話さなかった。
 藤木源之助であれば、決して隠しはしなかったであろう。
 すなわち正しく武士の家に生まれながらも、御家を守るために決断をしたワケではないということだ。
 であれば、幻之介が殺し合いに乗った理由こそが、犬養幻之介をオルタナティブたらしめるモノであるのだろう。

 その行く末もまた興味深いがと考えて、巌窟王は眼前の少女を見据える。
 読みかけのままに次に手をつけるつもりはないし、なにより導かねばならないのは彼女のほうである。
 分かり切っていた結論を改めて出したのち、「ああ、しかし、それにしても」と誰もいない虚空へと切り出す。

「藤木源之助ならぬ犬養幻之介、エドモン・ダンテスならぬこの俺。わざわざ選りすぐった結果がこれとは、なにを――」

 返ってくる気配のない答えに、巌窟王はその白い顔を一切歪めることなく短く笑った。


867 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:21:45 1w4NRXZU0
 
 
 
【C-6/1日目・早朝】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:疲れ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:私はスキを諦めない
1:石上君の声がした方角に向かう。
2:会長たちと合流したい
3:あの巌窟王……って人、私の妄想では……?
4:なんだか銃の使い方がわかった気がする
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます


【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1:巌窟王として行動する
2:何のかんの言いつつ、かぐやに陰ながら同行し、そのピンチには駆けつける(?)
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます
※かぐやにすぐに駆けつけられる距離から見つめています。


 ◇ ◇ ◇


868 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:23:49 1w4NRXZU0
 
 
【3】

 『ソードベント』という第三者の声とともに、犬養幻之介の手元に出現した漆黒の両刃剣。
 その七支刀の如き枝刃を八本持つ奇妙な刀身が、冨岡義勇に凄まじい速度で振り下ろされるのは、もうこれで何度目であろうか。

「――――ッ」

 義勇は鋭く息を吐き、アロンダイトという名の西洋剣を振るう。
 刃同士がぶつかり合う聞き慣れた音が大きく響き、またしても幻之介が間合いを取るべく離れた。
 先ほどからこの繰り返しである。
 攻撃、迎撃、離脱の流れが再演されるばかりで、一向に打ち合いの形にはならない。
 戦闘を動かしているのは仕掛けてくる幻之介で、義勇はあくまで対応に徹するハメになっている。
 幻之介は間合いを取る際、たった一度大地を蹴るだけで、距離にして十間は軽く跳んでいよう。
 これほどの身体能力を誇る相手であれば、義勇のほうから距離を詰めるのは避けたい。
 ましてや念のためにか、幻之介は間合いを取るその都度その都度、わざわざ街頭に生え揃う街路樹の一本に飛び乗り、高さの優位を保ち続けているのだ。

「(鬼ではない。纏っているだけだ)」

 変身の掛け声とともに外見が変わり、身体能力が見るからに向上した時点では、幻之介を鬼と認識しかねなかった。
 その一撃の重さ、飛び退く速度、合間なく次を仕掛ける疲労の見えなさは、あまりにも鬼じみている。
 だが、違う。
 身体自体が変わった様子はないし、鬼特有の気配も醸し出されていない。
 なにより、先ほどアロンダイトの刃が僅かに届き、微かに表面を切り裂くことができて露わになった箇所から見えるのは、他ならぬ鍛え抜かれた人の身である。

 そう、アロンダイトの刃は一度だけとはいえ、たしかに届いた。
 幻之介の振るう奇妙な形状の両刃剣には、未だ薄皮一枚すら捉えられていないのに、である。
 にもかかわらず、義勇はこれを己の優位と判断しなかった。

 刃が届いた際に放ったのは、水の呼吸・拾壱ノ型『凪』。
 神速にて縦横無尽に刀を振るうことで、間合いに入ったすべての存在を無に帰す――義勇の編み出した義勇だけの技。
 凄まじい速度で間合いに入ってきた幻之介に対して、剣を持つ腕をだらりと垂らした自然体から無拍子にて繰り出したのだ。
 『凪』を複数回受けた敵など、義勇の記憶には存在しない。そして『凪』は義勇だけが扱える技である。
 必ず殺せる。必ず死に至る。
 それが『凪』だというのに、表面を切り裂くに終わってしまった。

「(所詮、俺は二流だ。真の柱でもない)」

 幻之介の攻撃を迎撃し、距離を取る相手を睨みつつ、義勇は自戒する。
 得物が違うことなど、とうにわかっていた。
 異なる長さにも、異なる重さにも、慣れたつもりであった。
 それこそが思い違いである。
 身体に染みついた愛用の得物に合わせた動きが、戦闘を一度もこなさずに書き換えられるはずもない。
 アロンダイト――説明書曰く、『竜殺しの聖剣』『精霊より授かった宝剣』『神造兵装』『魔剣にもなり得る』。
 記されている内容は正直なところよくわからないが、それでもただならぬ名剣であることは十二分に見て取れる。
 その紛れもない名剣はしかし慣れ親しんだ日輪刀より重く、ゆえに『凪』――完全に静まり返った無風の海面を作り出すことは叶わなかった。

 距離を取ったのち、今度は間髪入れず仕掛けてきた幻之介の両刃剣を受ける。
 横凪の一閃をアロンダイトの刀身で受けると、幻之介はやはり間合い外に出て行ったが、ついにその工程で枝刃が義勇の頬を掠めた。
 あくまで掠めただけだ。傷は浅い。ただ、与えられた衝撃は大きい。

「(ああ。俺と違い、一流の剣士だ。
  もしもこれほどの剣士が隻腕でなければ、俺などとうに――)」


869 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:24:42 1w4NRXZU0
 
 幻之介が振るう両刃剣は、あまりにも奇妙な形状をしている。
 義勇が思うままに振るえずにいるアロンダイトよりも、さらに見慣れぬ得物である。
 そんな代物に相手が対応しつつあるという事実は、義勇とは異なり奇妙な得物を操る真の柱たちを思い起こさせた。
 真の柱のなかには、仮に鬼に奪われてしまったところで、容易に使いこなせないであろう日輪刀を使うものが多数いるのだ。
 もとより奇妙な両刃剣に慣れている使い手ならばともかく、幻之介は明らかにそうではないという結論に、どうしても至ってしまう。
 鎧を纏って以降、身体能力こそ格段に向上しているものの、技術のほうは完全に劣化している――その事実を義勇は見逃してなかったのだ。

 鍔元の縁を持った状態で剣を振るい、握力の調整で手の中で得物を横滑りさせ、間合いの外に刃を到達させる『流れ』。
 その『伸び』が、木剣にて放たれたときよりも遥かに少なくなっているのである。
 何度も受けている義勇にはわかる。わかってしまう。
 木剣の際には握っている箇所が柄尻の頭にまで移動していたが、鎧を纏って以降は柄のだいぶ半ばまでしか移動していない。
 握力の変化ゆえに調整が利かないのか、慣れぬ得物ゆえに判断が鈍っているのか、限界まで横滑りさせ切れていないのである。

 結論――幻之介もまた慣れぬ得物で戦っている。

 であれば、条件は同じだ。
 同じ条件のなかで、義勇は『凪』の不発を引きずり、一方の幻之介は得物に適応しようとしている。
 剣に落ち度はない。落ち度があるとすれば自分のほうだ。
 疑う余地のない名剣に申し訳が立たず、義勇の気持ちは底のない沼に沈み込んでいくばかりだ。



「(なんという恐るべき剣士。紛れもない一流よ)」

 義勇がなにを思っているかなど知る由もなく、間合いを取った幻之介は街路樹の上で嘆息する。
 互いに慣れぬ得物で死合っていることなど、彼のほうもとうに理解していた。
 慣れぬ得物で放たれた『凪』は表皮と言えどもたしかに身体に届き、さらには義勇は襲撃のことごとくをすべて迎撃し続けている。
 たしかに『オルタナティブ・ゼロ』での初戦であり、身体能力と得物に慣れねばならないという試しの意図自体はあったものの、幻之介にしてみれば戦慄せざるを得ない。

 相対する剣士の実力に思わず唸ってから、幻之介は得物を持つ右手を見やる。
 『流れ』の『伸び』が足りていないという事実は、まさしく義勇が見抜いた通りであった。
 ただ、握力と得物の変化をこそ義勇は重視していたが、実際に技を放つ幻之介にとってはそれ以上に重要な変化があった。
 変身によって全身に漆黒のライダースーツを纏った結果、剣士の生命線である指先の感覚があまりにも変わってしまっている。
 常人なれば気にも留めぬ微細な変化かもしれないが、剣の道に生きてきた幻之介にとっては微細な変化などとは到底言えなかった。

「(必然、戦い方は変わってくる)」

 これまで繰り返し『流れ』を放ってきた幻之介は、ついに長年頼りにしてきた技を切り捨てる決意を固めた。
 同時に、義勇の凄まじい力量に、またしても剣士として尊敬の念を抱かずにはいられない。
 義勇の放った『凪』が本来の威力に届いていなかったこと程度、その表情を見れば一目でわかった。
 見せてしまったのを失敗と判断しているかもしれないが、技自体の完成度には息を巻くしかない。
 慣れぬ得物で威力が衰えていようとも、充分に実用に足る技である。切り捨てる必要はないだろう。
 編み出したのか習得したのかの判別は、幻之介にはつくはずもない。
 だとしても、どちらにせよ、どれほどの研鑽を積んだ末に到達した領域だというのか。

「(奇妙な羽織で隠した類稀なる実力……未だ手の内、見えておらぬ。
  斯様な殺し合いではなく、高め合う勝負の場でこそ手合わせ願いたかった)」

 慣れ親しんだ技との別れは済ませた。もはや試しは終わりである。
 先ほどは間髪入れず、今回はあえて少し間を空けた上で、幻之介は義勇へと飛びかかっていく。
 このような小細工が効く相手であるとはもはや思っていないものの、僅かでも影響があるとすれば儲けものである。

「おおおお――――ッ!!」


870 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:25:46 1w4NRXZU0
 
 咆哮とともに、向上した身体能力に任せた上段。
 握りは『流れ』を放つ際の緩さではなく、柄を決して離さぬ意思を籠めた強固さ。
 こんなものは、最小の斬撃で倒す犬養幻之介の剣ではない。
 急所を三寸切り込めば人は死ぬという事実から目を背けており、叫びもあって薩摩の武家者(ぼっけもん)の自顕流じみている。
 だがそれでよい。
 この向上した身体能力、慣れぬ形状の得物、生命線である指先の感覚の死。
 すべてを考慮に入れた結果、これこそが最善である。
 猛丸を生かすべく、猛丸の身体を素手にて剛力のみで『ひえもんとり』を行った――薩摩の自顕流じみた一手を幻之介は選んだのだ。

「…………くっ」

 可能な限り刃で受けたかったのだろう。
 一瞬にも満たない逡巡ののち、義勇は振り下ろされた両刃剣を受けずに身をよじって回避する。
 咄嗟の回避で体勢を崩した腹に、幻之介の蹴りが入る。これもまた、断じて犬養幻之介の戦い方ではない。
 ぐ――と、くぐもった声が義勇の口から洩れる。
 それでも増幅された身体能力から放たれた蹴りを受けて、大地を踏み締めたまま足を離さなかった。呼吸と経験の賜物だ。
 とはいえ、幻之介にとっての好機であることに変わりない。
 義勇が呼吸を整えんとする間に、上段から振り下ろした剣を返して逆袈裟に斬り上げる。
 両刃剣なので刃を返す必要などないと幻之介が気づいたのは、咄嗟に義勇が得物の刀身で受けた後であった。
 互いに大地を踏み締め、得物に力を籠める。すなわち鍔迫り合いの形となる。
 鍔迫り。これは、これこそは、ここにきてようやく、まさしく犬養幻之介の剣であった。
 そしてこの純粋な力勝負には、同じ幻之介の剣でも『流れ』とは異なり、身体能力の向上が『乗る』。

 冨岡義勇は奇妙なものを見た。
 呼吸が整い切らぬままに始まった鍔迫り合いに、歯噛みしながらその力をアロンダイトに籠めるなかで――見た。
 幻之介が纏う漆黒の鎧、その背が奇妙に蠢いているのである。
 まるで内部になにか小動物でも潜んでいるかのごとく蠢いて、漆黒の鎧を押し上げている。
 まさか、と。
 よもや、と。
 浮かんでしまった可能性に義勇は目を見開き、それでも他に答えなどありえず、そして正解であった。

 オルタナティブ・ゼロの背部装甲を内部より押し上げているのは、他ならぬ――――装着者たる犬養幻之介自身の背筋であった。

 もとより鍛え抜かれていた鋼の肉体ではあった。
 しかし大坂の役にて放たれし覇府の砲で左腕を失って以降、幻之介は左腕の不足を充足に変えるべく、かつて以上の鍛錬を積み重ねた。
 その果てに得たのが、この異様な盛り上がりを見せる背筋である。鋼の肉体は超鋼の肉体となった。
 義勇は自身の勘違いを自覚させられてしまう。
 隻腕でなければではなく、隻腕であるがゆえに――なのだ。
 思い知らされずにいられない。幻之介の背面の隆り、腕一本分の働きを十二分にやってのけようぞ。

 喪失を強みに変えている剣士の存在に、義勇は思わず身を引いた。引かされた。
 その隙を逃す幻之介ではない。崩れた相手を仕留めるべく肉薄しようとして、すぐさま飛び退いた。
 次の瞬間、義勇の間合い内に無数の斬撃が繰り出される。
 『凪』である。
 身を引いてしまったのは事実だが、崩れてしまったワケではない。
 鍔迫り合いが続けば、劣勢の一途を辿ることが見えていた。あえて崩しての『凪』による対処を考えたのだ。
 それも読まれてしまったようだがと、義勇は内心で吐き捨て、これまで以上に遥か彼方まで距離を取った幻之介に視線を飛ばす。

 視線の先にて、幻之介はオルタナティブ・ゼロの強みをまた一つ理解する
 劣化してしまう技術があれば、進化する技術もある。
 向上した身体能力についても、認識を改める必要があるだろう。
 これまでのように制御できる範囲で動くことを考慮せず、咄嗟に飛び退けば刀どころか火縄の有効射程からすら一気に脱出できるとは、さすがに驚いた。

 そして逆に――オルタナティブ・ゼロには、間合いの外から一気に内に入る術もある。


871 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:26:09 1w4NRXZU0
 
 幻之介はいったん両刃剣を地面に突き刺し、腰に巻き付いたベルトのバックルより一枚の絵札を取り出す。
 その絵札を右腕に通すと、絵札箱より『アクセルベント』という声が響く。
 オルタナティブ・ゼロの移動速度が、常人の捉えられる領域を超越した合図である。
 突き刺した両刃剣を抜き取ると、太刀を担ぐようにして構えを取ったのち、彼方にて立ち尽くしている義勇を目指して思い切り駆け抜けた。

 ――――結論から言って、この一手が勝敗を分けた。

 冨岡義勇は目にも止まらぬ速さの敵を知っており、犬養幻之介は目にも止まらぬ速さの自身を知らなかった。
 加速して、ただ剣を振るう。幻之介にはそれしかできない。
 本来ならば十分だ。その刃は、正確に義勇の頸を落とさんと振るわれていた。寸分の狂いもない。
 初めて体感する常人が黙視できる限界を半歩超えた速度のなか、始動を誤らず完璧な一閃を放てる技術は申し分ない。

 申し分ない――が、柱には足りない。

 当たれば確実に死に至る一撃を放つ鬼を。
 初めて目覚めた力を思うまま振るう鬼を。
 詳細を誰一人知らない鬼血術を使う鬼を。
 はたして、これまでに何体斬ってきたであろう。

 幻之介が『アクセルベント』を選んだのに対し、義勇が選んだのは水の呼吸・参ノ型『流流舞い』。
 頸とまでは特定できずとも、致命傷となり得る急所を狙ってくるのは、加速する相手を見たと同時にわかっていた。
 二流の剣士ならば到底狙いをつけることなど不可能な速度のなかで、しかし一流の剣士である幻之介は間違いなく狙いすましてくると確信していた。
 ゆえにこそ『参ノ型・流流舞い』。流麗な足運びにて致命の一撃を回避し、交差する瞬間に加速し切ったオルタナティブ・ゼロの腰に一撃を浴びせた。
 一撃と言っても、アロンダイトで斬りつけることができたワケではない。
 それさえできれば話が早かったのだが、剣を向けているところに凄まじい速度で突っ込んできて勝手に貫かれるなど、呆れた結末を迎えてくれるような相手とは思えなかった。
 剣を上げて下ろす隙などなく、ただ交差する瞬間に僅かに手に力を籠め、腰目がけて左肘を入れただけだ。
 凄まじい速度で加速する相手に合わせたせいで、羽織からは焼け焦げたような臭いがしているが、十分以上の成果が出た。
 常人の黙視限界を超えた速度は、ただの肘鉄を弾丸に変えたのだ。
 オルタナティブ・ゼロのバックルはベルトから弾け飛び、一瞬にして漆黒の装甲を失った幻之介に加速による強烈な圧力がかかる。
 加速していた勢いそのままに、地面を滑るようにして飛んでいく。それでも宙を舞ったライダーデッキを掴めたのは、もう二度となにも手放さぬという決意の表れか。

 とはいえ、生まれた隙を逃す水柱ではない。
 またとない好機を逃すまいと、少しずつ減速していく幻之介を追いかける。
 ようやく止まったころにはとうに肉薄しており、その頸を落とさんとアロンダイトを振るっていた。
 幻之介は咄嗟にしゃがみ込み、聖剣の切っ先は頸ではなく額を僅かに切り裂くに終わった。

「変身」

 二度目の変身。
 オルタナティブ・ゼロの装甲を纏い、幻之介は跳躍にて距離を取る。
 だが――

「(二戦目などない。もう終わりだ)」

 確信をするのは義勇だけではない。幻之介のほうもだ。
 刻まれた額から溢れた血は止まらずに流れ、オルタナティブ・ゼロを纏う幻之介の視界を塞ぎ始めている。
 漆黒の装甲を纏っている以上はもちろん拭うこともできないし、変身を解除するだけの隙を作ることもできない。
 なんてことはない。見えていないのである。隙の有無の判断自体できるはずがあるまい。

 少しばかり移動して、義勇はわざとらしく足音を立てた。
 足音に向かって突っ込んでいき、刃を振るうオルタナティブゼロ。その有様こそが証明していた。
 彼には見えていないのだ。義勇の間に君臨している、樹齢何年になるかわからぬ一際大きな街路樹の存在など。
 幻之介が振るった両刃剣の刀身は、相対する剣士の身体に到達することなく、街路樹の幹に根元まで埋まって動かなくなった。


 ◇ ◇ ◇


872 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:27:04 1w4NRXZU0
 
 
【4】

 幻之介は闇のなかで、己の失態を痛感していた。
 なにも見えぬままに、標的を誤ったことだけはわかった。
 刃が大樹の幹に根元まで埋まり、ぴくりとも動かないのだ。
 さらに言えば、よりにもよって八本の枝刃が噛み合ってさらに強固になっている。

 この隙を逃す男ではない。
 おそらく数秒の猶予すら許されていないだろう。
 近くにいるのはわかる。気配があるし、衣服が焼け焦げたような臭いもしている。

「(変身を解除して血を拭う……不可能だ。その隙はない。ならば……!)」

 幻之介の導き出した結論――このまま剣を振り抜いて、得物を取り出す他にない。

 歯を強く噛み締める。
 鉄の味が口内に広がる。
 息を止めながら低く唸る。
 手にかける力を激しくする。
 背筋が蠢いているのがわかる。
 歯の軋む音が頭の中でうるさい。
 額からも血が流れる感覚を覚える。
 みしりみしりと上半身が捻じれる音。
 筋肉のみならず、骨まで悲鳴を上げる。

 変身による身体能力向上の恩恵か、鍛え抜いた背筋がもたらした当然の成果か。
 大樹に埋め込まれて微動だにしなかった刀身は、その状態から無理やりに大樹を伐採することで引き抜かれた。

「な……ッ! バカな…………ッ!」

 閉ざされた視界のなか、幻之介は驚愕に染まった義勇の声を初めて聴いた。
 続いて足音を隠そうともせずに、間合いから離れていくのが音だけでわかった。

 幻之介には微かな手ごたえがあった。斬り込めてはいない。
 僅かに、羽織のたわんだ部分を少しばかり斬りつけたような感覚。
 だが、それよりも、そんなことよりも、遥かに意識するべき事実が存在した。

 幹より引き抜いた両刃剣が、ひとまず引き抜ければよいとさえ考えていた両刃剣が――思いもよらぬ速さで走ったのだ。
 根元まで刀身が埋まった大樹の幹を発射台として、そこより放った一閃は蓄えた力を余すところなくすべて乗せた魔の一閃となった。
 この一閃であれば仮に見えずとも、気配を察知してから剣を振るったとて、己は斬られぬままに相手を斬り伏せることができるであろう。
 まさしく魔技。
 巌窟王の語っていた星を堕とす魔剣という言葉が、幻之介の脳内に不意に蘇る。

「(だが……ない……)」

 魔技に到達してなお、幻之介は冷静であった。
 大樹を一度発射台として用いてしまった以上、肝心の発射台がもはや存在しない。
 変身した幻之介の膂力に耐えた上で刃を呑み込み、力を蓄えて魔技を放つ発射台足りえる存在など、あの大樹以外にもはや存在しない。


873 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:27:29 1w4NRXZU0
 
「(いや……! ある! あるではないか! いつだって! どこにだって……!)」

 冷静であるがゆえに、答えに到達する。
 なによりも強固で、なによりも不動の発射台、それを踏み締めるのが剣術の基礎である。

 ――――大地である。

 幻之介は両刃剣を大地に突き刺し、その柄を右手で握り締める。
 右手に強烈な力を籠めつつ、より強大な力を籠めるべく身体を捻る。
 オルタナティブ・ゼロの背部装甲が、これまで以上に内部から押し上げられていく。
 盲人が杖をついているかの如き構えは、しかしながら杖をつく盲人には到底出しえぬ殺気に満ち溢れている。

 いつでも放てる状態を保ちつつ、幻之介は義勇が間合いに入ってくるのを待つ。
 少女を逃がすだけの時間を稼いだのは間違いないが、この状態で魔技を恐れて遁走するような剣士であるとは思えない。
 この機会をものにしなければ、いずれ視界を塞いでいる血を拭った万全の状態で再び相対することになるのだ。その発想に至れぬ男ではあるまい。
 幻之介の確信に応えるように、義勇の気配が膨れ上がる。
 気配だけではない。まだ残っていることを訴えるかのように、音を立てて歩み寄ってくる。
 そうして、互いの間合いから数歩前でその足を止めた。羽織の焼け焦げた臭いが鼻を衝く。

 この死合いの前半は、幻之介が間合いに入り義勇が迎撃するというものであったが、ここに至って真逆の様相となった。
 間合いに入ってくれば、すぐさま魔技にて斬り伏せる。
 魔技の一撃さえ入れば義勇が、命中しなければ幻之介が、地に伏せることになる。

 まだか、まだか――と。
 幻之介の焦れる思いは、前触れなく終わりを迎える。
 凄まじい速度で迫る焦げた羽織の匂い、頸を正確に狙い澄ました刃が風を斬る音。
 窮地にて到達した魔技は必然的に後手となるが仔細なく、両刃剣が大地という発射台から放たれるや否や、蓄えた力をすべて乗せたその速度は義勇の『凪』をすら超越する。
 雷のごとき速度から放たれた魔技の一閃は、先に始動したアロンダイトの刃を遅れて繰り出されたにもかかわらずたやすく払い、肘が少しだけ焦げた羽織を真っ二つにせしめた。

 そうして――――身体のバネすべてを酷使して魔技を放った幻之介の左胸に、羽織とアロンダイトを投げつけた義勇は、先ほど回収したばかりの木剣を突き立てた。

 水の呼吸・漆ノ型『雫波紋突き』。
 義勇の持つ最速の技であるが、決め手ととして用いることはほとんどない。
 頸を落とさねば死ぬことのない鬼に対しては、せいぜい牽制にしかならない。
 しかしながら、人間相手とあれば話は別だ。
 急所を三寸切り込めば人は死に、急所を三寸貫けば人は死ぬのだ。


 ◇ ◇ ◇


874 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:28:14 1w4NRXZU0
 
 
【5】

 いったい、なにが起こったというのか。
 なんらかの理由で魔技は命中せず、逆に義勇によって仕留められたのだ。
 幻之介は急速に力が抜けていく身体に疑問を抱き、すぐさま答えに到達した。
 どちらが倒れて、どちらか生き残る。もとより分かり切っていた他にない結末である。
 足元が覚束ない。魔技の発射台とした大地を踏み締めることができずに、そのまま倒れてしまう。
 変身が解除されていくのを皮膚の感覚で実感するが、もはや視界を妨げる血を拭う力すら残っていない。
 問題はない。いまさら視覚を取り戻して答え合わせをしたところで、そこになんの意味があるというのか。

「(すまぬ、猛丸……。お前を生かすべくなんの成果も上げられぬばかりか、俺は――)」

 恥を知らぬにもほどがあると、幻之介は死にゆく自身が抱く思いに呆れた。
 間違いなく殺し合いに乗るつもりであった。
 真実かもわからぬ報酬を信じ込み、猛丸一人を生還させようとしていた。
 事実として、もしもあそこで義勇が割って入ってこなければ、幻之介はとっくに一人の少女を殺害していた。

 にもかかわらず。
 たまたま機会を逃しただけだというのに。
 猛丸のために殺さなくてよかったなどと、義勇のような一流の剣士が止めてくれてよかったなどと、幻之介はそんなことを考えてしまっているのだ。

「(はっ。どのツラを下げているのか、俺は)」

 みっともないにも程度というものがあるだろう。
 あの少女や義勇に知られたらと思うと、情けなさのあまり腹を斬りたくなってしまう。
 そんなことになった日には、たとえあの世にいようとも素手でもって割腹するのは間違いない。

 だが、それでも――紛れもない本心であった。

 あの夜。
 島津義弘が軍勢を率いて、殿である豊臣秀頼の迎えに来た夜。
 猛丸を犬と貶めることで猛丸だけを生かし、彼以外の首狩森の住民をすべて『片付け』た。
 あの日の選択を悔いていながら、またこのたび奇跡的に得た二度目の機会においても、また同じことをしようとしていたのだ。

 そんなことを望む男ではないと、とっくに思い知っていたというのに。

 いや、違う。
 百も承知であった。
 そんなことを理解した上で、犬養幻之介は一人のために自分を含む六十九を殺す決意をしたのだ。

 オルタナティブ――代替品。代替の品。代替が利く品。
 士とはすなわち代替が利く品であり、この地においても猛丸の代わりに六十九を殺す心積もりであった。
 主君が異なるだけで、これまでと変わらぬ士の生き方である。それでよいと思っていた。

「(だが、猛丸と会って、俺は――)」

 意識が薄れてゆくなかで、ようやく思い違いを自覚した。
 猛丸は身分の檻がない男であり、幻之介もそのように彼のことを称していた。
 そこに間違いはないが、それだけの男ではなかったのだ。

 知行返上つかまつる――と。
 この地にさえ呼ばれていなければ、殿のもとに走って言い放つつもりであった。
 しかしそんな必要はなかったのだ。
 殿に、豊臣秀頼なぞに認められずとも、とっくに身分の檻から解かれていたのだから。


875 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:29:02 1w4NRXZU0
 
 猛丸は身分の檻がない男というだけではなく、己以外の身分の檻さえ解き放つ男であったのだ。

 気づくのが遅かった。
 あまりにも遅すぎた。
 最初に気づけてさえいれば――

 士/代替品/オルタナティブであろうなどと、もはや檻から解かれていた自身に到底成し遂げられぬ生き方など選ばなかったろうに。

 ああ――と。
 もはや皮膚の感覚すらないが、それでもこれだけは言っておかねばならない。
 とてもじゃないが知られたくない内心がある一方で、どうにかまだ近くにいるであろう義勇に伝えておきたい言葉があった。

「俺は……俺は、オルタナティブに非ず……」

 巌窟王まで伝わるであろうか。
 そもそも義勇の耳に届いたであろうか。
 答えは定かではないし、もはや知る手段などない。
 最後の気力を振り絞って言葉を残していながら、幻之介はそれでもよいかと笑った。
 表情を動かすことなどできないが、それでもたしかに笑ったのだ。
 たとえ誰に届かずとも、どうしても口に出して言っておきたかっただけだ。

 猛丸と出逢って、変わってしまった。
 犬養幻之介は、変えられてしまった。
 士/代替品/オルタナティブとしてではなく、ただの犬養幻之介とただの猛丸としてありたい――と。
 そんなことを思ってしまったのだ。

 狂っている。
 狂わされている。

 ただの犬養幻之介など、ただの猛丸など、この世に存在し得ない。
 武士の世を支配しているのは身分の檻であり、それがない世界なぞあるはずもない。

 だが気づいてしまったのだ。
 自覚をして、武士の道から外れた。
 あの琉球での日々のなかで、身分の檻に支配された世こそが、死/士に狂っているのだと。

「(正気にては大業はならず。なればこそ、大業はならずとも、正気に戻れたことを誇りに思おう)」

 見える。彼方まで広がる狂おしく蒼い海。
 聞こえる。弦楽器にて奏でられるカチャーシー。
 死にゆくものが最期に見る夢のような錯覚か、あるいは――

 ただ一つ言えるのは、どうやら聞いていた通りにずいぶん懐の広い地であるらしい。
 先に来ていたらしい左腕を撫でてやり、その鍛錬の足りなさに幻之介は子どものように白い歯を露わにして笑った。



【犬養幻之介@衛府の七忍 死亡】


876 : シグルイ・オルタナティブ ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:29:35 1w4NRXZU0
 
 
 
 ◇ ◇ ◇


【6】

 幻之介の呼吸が止まった瞬間、冨岡義勇の気持ちの糸は切れた。
 水の呼吸を極めた水柱らしからぬほどに、その呼吸は乱れ切っていた。
 血まみれの木剣を杖としてどうにか立っているが、放っておけば倒れ込んでしまうかもしれない。
 さりとてさほど大きな怪我を負ったワケでもなければ、肉体的な疲労が激しいのではない。
 鬼との戦いは、夕方から明け方までの半日に及ぶことも少なくない。大した疲労をするはずがない。
 そんなことはわかっているというのに、たしかに義勇は疲れ切ってしまっていた。
 鬼ではなく人を斬ったからではない。

 さながら赤子を殺したような、そんな感覚が手に残ってからである。

 幻之介が到達した魔技は、無限の可能性を秘めてこの世に生を受けたばかりであった。
 いずれ空を流れる星をすら堕とし得る。それだけの潜在力は、間違いなく内に秘めていた。

 義勇が取った戦法は――その未だ産声を上げる赤子の口元を押さえて、やさしく蓋をするような代物であった。

 犬養幻之介は左腕の不足を充足に変え、さらには視覚の喪失を充足に変えんとしていた。
 まさしく喪失を強みに変える力を持った剣士であり、喪失を抱え続けている自身の正反対であると義勇は分析する。
 どちらが本物であるのかと問えば、すべての人間が幻之介と答えることであろう。わざわざ聞くまでもない。
 視覚を失っているうちに殺す他に、勝つ道などなかったであろう。義勇は自らの出した結論に身震いする。

「俺は……俺は、オルタナティブに非ず……」

 幻之介が最期に零した言葉が蘇る。
 オルタナティブ。その意味を義勇はつい先ほどまで知らなかった。
 とても足を動かして移動できそうにないので、転がっている道具を回収した際に、幻之介の得物の手引書を発見したのだ。
 それを読んで、なるほどと合点が行った。
 幻之介ほどの一流の剣士が、何者かの代替品であるはずがない。
 その上で、オルタナティブの意味と幻之介の言葉を踏まえた上で、義勇は遠い目で白み始めた空を見上げた。

「俺は、せめて、錆兎のオルタナティブ(代替品)足り得る存在でありたい」

 まだまだ足りないが――と。
 そんな続きは音となって外界に出ることはなく、義勇のなかだけに浮かんで消えた。



【C-6/1日目・早朝】

【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(肉体的なものではない)
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0〜3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
1:少し休んでから行動。かぐやを追うかどうか。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。


877 : ◆hqLsjDR84w :2019/06/09(日) 22:32:44 1w4NRXZU0
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

――――

名簿に犬養幻之介を入れたくれた>>1さんに。
これまでの三話、犬養幻之介を書いてきた全員に。
特にオルタナティブ・ゼロを支給して奉仕マーダーにしてくれた◆2lsK9hNTNE氏に。
心から感謝をします。


878 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/10(月) 19:23:31 CVPcPc3I0
連絡が遅れてすみません、日付が変わる前には投下します。期限を越えているのは承知していますが、もう少しだけ時間をいただきたく…申し訳ありません


879 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/10(月) 23:28:10 9xnxe19o0
うおおおおお、昨日と投下どっちもめっちゃ面白い
とりあえず自分も投下します


880 : 皇城ジウは知らない ◆2lsK9hNTNE :2019/06/10(月) 23:31:46 9xnxe19o0
 PENTAGONの前には中野四葉と同じ顔の少女が死体となっていた。
 中野姉妹がPENTAGONで暮らしていたという話は四葉から聞いていた。殺しそこねた姉妹の誰かがここに行くのではないかと思いやってきたが。髪型や服装からしてこの少女で間違いない無そうだ。
 遠目に罠の類が無さそうなことを確認し、ジウは死体に近づいた。肩から胸にかけてが大きく裂けている。死因は明らかにこれだろう。よく見ると傷跡が何本かに別れており、刀剣などではなく指で裂いた傷のように見える。
 これだけの傷を素手で追わせた者がいるということだろうか。ありえる話だ。実際、刀すら持てなそうな細身の女が素手で人を殺す現場をジウは目撃していた。

(でも、これをやったのはあの女じゃないな)

 あの女の身のこなしからはジウには想像も及ばないほどに研ぎ澄まされた”技”があった。創られたものではあるが幕末の世界で数年間、新選組として過ごした身だ。それくらいのことはわかる。
 だがこの死体の傷にはそれが無い。もっと強引に力任せにつけられたものだ。

(向こうの男を殺したのも同じやつか?)

 すぐそばにPENTAGONの壁に叩きつけれている男の死体もあるが、あちらもかなりの力技を感じさせる。
 技にせよ力にせよ手強いで相手であることは間違いない。まともに戦うことになれば勝つのは難しいだろう。
 ジウは仰向けに倒れている死体をひっくり返して、リュックサックの中身を調べる。男の方には食料や名簿などの基本的な支給品しか入っていなかった。こちらもどうせそうだろうと思ったが、予想に反し、使えそうな物が出てきた。
 麻酔銃だ。ハンドガンサイズで、付属している説明書には発射音も小さく、当てれば大の男でもすぐに眠らせると書いてある。
 殺す覚悟の無い人間からすれば下手に威力の高い武器よりも当たりの支給品だが、使われた形跡はない。使う暇もなく殺されたのだろうか。特殊な経験の無い一般人ならいざという時に頭から抜けていたとしてもおかしくないが。
 少女を殺した犯人が回収しなかったのは、必要無いという自身か、人を殺したことに動揺してそこまで気が回らなかったのか。
 さらに中を漁るが流石にもう残っていないようだった。腕を引き抜こうとして袖はファスナーに引っかかった。リュックサックが引っ張られて僅かに持ち上がる。そのとき死体の背中に何か赤い物が付いているのが目に入った。

(今のは……!)

 ジウは死体から肩ベルトを片方だけ外しリュックサックを背中からどけた。
 リュックサックの下、少女の背中側に、手のような形の血の後が付いていた。自然に触ることはない位置だ。誰かが死にゆく少女の身体を抱き上げたのだろう。
 それはジウにとっては大きな意味があることだった。その人物が少女から、ジウが殺し合いに乗っていることを聞いているかもしれないからだ。
 少女の身体の上には、向こうの男が壁に叩きつけられた時に飛んだと思しき破片が乗っていた。あの大きさの破片なら抱き上げられたら落ちるはずだ。つまりまだ戦いが続いている最中に抱き上げられたということだ。たかが数時間前に知り合った人物ならそこまではしないだろう。やったのは少女の元からの知り合い――姉妹の誰かか、上杉風太郎だ。

(そいつはどこに行った?)

 死んでいる男は二十歳は越えているだろうから、高校生の上杉風太郎ではない。
 少女と男を殺したはずの殺人者の死体もないから、そいつ、またはそいつらは逃げたか撃退したかしたはずだ。
 逃げたのなら手がかりはないが、撃退したのならまだ生きている知り合いを中野家の部屋で待っている可能性がある。その場合そいつまたはそいつらはこの死体を作った殺人者を凌ぐ力を持っているということだ。
 近づくのは危険、だが放っておいたらジウの悪評がどんどん広まるかもしれない。生かしておく訳にはいかない。
 ジウはPENTAGONに入った。こういったマンションは本来出入り口がオートロックドアになっていて、中から開けてもらわないと入れないが、ドアは開けっ放しになっていた。
 部屋番号までは聞いていないが、受付などを調べればそれくらいはわかる。中野家の部屋は三十階にあるらしい。
 階段で登るには体力の消耗が馬鹿にならない階数だが、エレベーターを使えば自分の居場所がばれるリスクがある。
 ジウはひとつのエレベーターを無人のまま三十階へ向かわせ、自分は別のエレベーターに乗り込んだ。ドアの真横、外からの死角に身を潜める。
 三十階に到着してドアが開き、刀を触れる耐性ですぐさま飛び出した。が、誰もいない。ジウは息をついた。

(用心しすぎだったみたいだな)


881 : 皇城ジウは知らない ◆2lsK9hNTNE :2019/06/10(月) 23:32:53 9xnxe19o0
 こんな状況では警戒を解くわけにはいかないが、あまり気を張り詰めすぎるのも身がもたなくなりそうだ。
 ジウな中野姉妹の部屋へと歩く。下からだと角度の問題で気づかなかったが、周りの部屋は全て電灯が消えているのにこの部屋だけは明るかった。
 再び警戒を強め中に入る。玄関を通りリビングへ。テーブルに備え付けられた椅子の数は五つ。私室らしき扉の数も五つ。洗面所へ行けば歯ブラシも五つあった。
 やはりこのPENTAGONは名前だけではなく、中野姉妹が暮らしたマンションを正確に再現した物のようだ。
 ラブデスター実験の舞台もジウたちが通う学校を再現した物だった。この一件の首謀者はファウストたちと並ぶ技術力を持っているということか。あるいはホログラムのような物を使えば、本人に特別な技術なんて何もなくてもこの状況を作り出すことは可能だ。もっとも歯向かう気の無いジウにとっては首謀者の力がどの程度だろうとあまり関係ないが。
 探索を続けるが結局ひとの気配はまるでなかった。誰かが一度来たというだけだったのだろう。

(まあいい。それならそれで色々と調達させてもらおう)
 
 当初ジウは、支給品の数を少なく見せて信用を得やすくすることを狙っていたが、人間離れした能力を持つ奴が何人もいるとあってはそんなこともいってられない。
 救急箱や工具など使えそうな物をリュックサックに入れていく。どれも新品同然の状態だ。そんなところまで本物を再現はしなかったようだ。
 自分や他の参加者のリュックサックを漁っている内に気づいたが、これには外観の質量以上の物をしまえる機能の他に、探している物が自動的に見つかる機能もあるようだった。中野四葉が地図や名簿を探した時に大量の刀に気づかなかったのもそれが原因だろう。何を入れたのかさえちゃんと覚えていれば、どれだけ大量に詰め込んでも探すのに手間取ることはない。
 一通り詰め終わりジウは立ち上がる。これでENTAGONでやるべきことは終わった。
 殺す効率を考えたらまだやっておきたいはある。ここは複数の参加者に縁があり、遠目に目立つ建物だ。今後も誰かやって来るかもしれない。回収した品を使って爆弾を自動で起爆するタイプに改造して設置すれば、何人か殺せるかも知れない
 だが駄目だ。それではしのが引っかかてしまうかもしれない。たまたまジウがここに爆弾を仕掛けたあと、たまたま起爆前にしのがやって来て死んでしまうなんて可能性としてはかなり低いだろう。悲惨なことばかりだったラブデスター試験の時でもそこまでの悲運には見舞われていない。
 だがゼロではない。ならばできない。トラップの類は駄目だ。
 ジウは外に出る。朝日が視界に入り目を細めた。最初の放送の時間が近づいていた。



【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:健康
[装備]:千刀・『鎩』@刀語
[道具]:基本支給品一式、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW、麻酔銃@亜人、ランダム支給品0〜1(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)
[思考・状況]
基本方針:しのを生き残らせる
1:しのを優勝させるために皆殺す
2:さっきの青い獣(千翼)は殺す
3:中野姉妹と上杉風太郎を殺す
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。


882 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/10(月) 23:33:40 9xnxe19o0
投下終了です


883 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/10(月) 23:58:22 nIPgd6eM0
遅れてすみません、投下します


884 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/10(月) 23:59:44 nIPgd6eM0


雨は、嫌いだ。辛い記憶を思い出すから。

大好きだった父と母が突然いなくなった日――そして、強かった兄が、目の前で死んだ日のことを。






「はーっ……ついに俺もコソ泥の真似事をするようになったかぁ」

不気味なほどに人気のない夜の街。その一角にある小さな喫茶店の中に、雨宮雅貴はいる。
ぼやきながら食べ終えたばかりのカップ麺の容器を放り捨てた。
その数は二つ。健康な成人男性たるもの、こんなカップ麺一つではおやつにもならない。
もう一個食うか、とデイパックに伸ばしかけた手を、いや待て、と思い留まる。この状況がどれだけ続くか不明な以上は節約するべきだ。

「つーかなんで人いねぇの?」

腹が満ちれば思考する余裕も生まれる。雅貴は改めて今いる喫茶店を見渡した。
深夜なので営業していないのは当然として、この喫茶店だけでなく屋外にも人の気配はまったくない。
寝ているから、という訳ではないだろうと雅貴は思う。煌々と深夜営業を行っているコンビニにも立ち寄ってみたが、トイレにもバックヤードにも誰もいなかった。
殺し合いをさせるために余計な人間を関わらせないため、といえば筋は通る。
しかし、電気や水は通っている。食料も一通り陳列されてはいたのだが、そちらには雅貴は手を付けなかった。
わざわざ個別に食料を支給しておいて、こういった現地調達が容易に行えるというのを怪しんだからだ。衛生的に安全な食料か知れたものではない。
現在所持している食料を使い切れば話は別だが、現状では記憶に留めるだけにしておき、雅貴は人目を引くであろうコンビニを離れた。
そして、喫茶店へ。鍵はかかっていなかった。念のため隅々まで捜索してみたが、誰も発見できず。
雅貴は開き直って喫茶店の設備を勝手に借用し、沸かしたお湯でカップ麺を貪った。

「広斗に、コブラ。スモーキーに、鬼邪高の村山か」

次に名簿を広げ、知り合いの名があるか確認することにした。
雅貴の弟である雨宮広斗の存在は既に確認している。女を乗せてバイクで走り去ったのを目撃した。
自分は! 一人で! カップ麺なのに! 広斗は! バイクで! 女連れで! 俺に気付かず行っちまった!
その事実は兄のプライドを大いに、大いに傷つけた。特に女連れの部分が。

「あの女、激マブだったしよ……なんで俺じゃねえんだ。なんでいっつも広斗ばっか」

ブツブツと不満をこぼし、知り合い以外の名前を追う。
宮本武蔵、沖田総司、ナイチンゲールといった偉人の名もあるが、宮本武蔵が二人いた時点でまあそういう名前を付けられた人なんだろうと判断した。宮本明という名もある。
今流行りのキラキラネームに比べりゃ全然マシじゃん。クラゲアマゾンとかコブラとか、マジか? って名前もあるしな。いや知り合いだけど。
お、このマシュ・キリエライトってのは外人さんか。女かな。女だな。綺麗な感じの響きだし。絶対可愛い系の娘だな。
かぐや、これも絶対女だ。名字も四宮! 上品な感じするしいいとこのお嬢さんだな、間違いない。うーんお近づきになりたいぜ。
そんな調子で読み進める雅貴の目を特に引いたのが、竃門、中野、鑢といった姓だった。


885 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:01:59 baCq0LMk0

「竃門、中野、なんて読むんだっけこれ……やすり? 鑢か」

名簿で同じ名字を持つ人物は四組いた。竃門、中野、鑢、そして雨宮。雅貴と広斗を含む四組だ。
宮本は三人いるが、離れた場所に名前があるのでおそらく関連はない。血縁関係、あるいは家族関係にあるのは四組と考えて間違いないと雅貴は推測する。

「竃門は兄貴と妹か。ええと、ねずこでいいのかな。中野さんとこは名前からして五つ子、しかも全員女だな! おっ、七実と七花! 鑢家も姉妹だな!」

まだ見ぬ兄妹姉妹たちに思いを馳せる。全員男なのは雅貴と広斗だけだ。こんな状況に巻き込まれ、さぞ不安がっているだろう。
これはなんとしても雅貴が颯爽と駆け付け、カッコいいところを見せて、あわよくば――

「――って、そんな場合じゃねえわな。早いとこ見つけてやらねえと」

スッと憑き物が落ちたように気分を切り替える。雅貴はかつて無名街を訪れた時のことを思い出した。
スモーキーの妹は広斗の目の前で連れ去られたらしい。やったのは極悪スカウトチームのDOUBTだが、この場にいるのはその程度の危険で収まる奴らかどうか。
広斗は腕が立つ。多少の危険は自分で切り抜ける男だ。だが、全員が女の姉妹となればそうはいかない。中野家の姉妹も鑢家の姉妹も、どちらも不安の只中にいるだろう。
最優先は広斗との合流に変わりないが、その途中で出来るだけ中野家と鑢家の女達も保護する。
方針を決め、荷物をまとめて雅貴は席を立った。探せば包丁の類もあるだろうが、刃物は雅貴の流儀ではない。拳で戦えという兄の教えに反する。
とはいえ、武器がないではないが。先ほど拾ったものをデイバッグに突っ込み、店を出る。
まだ薄暗い闇の中、さてどこに行くべきかと思案する雅貴の耳に、聞き慣れた排気音が飛び込んできた。
自分の――ではなく、広斗のバイクのエキゾーストノイズ。入念にカスタムされた車体が吐き出す、獣の咆哮が如き荒々しいサウンド。
少し前に見かけた広斗は違うバイクに乗っていたため、広斗ではない。それでも雅貴は音を頼りに駆け出した。広斗のバイクなら取り戻さねばならない。
数十秒も走り、接触は間近というところで雅貴は物陰に身を隠す。誰が乗っているかもわからないバイクだ。最悪、立ち塞がったらそのまま轢き殺されるかもしれない。
かといって見送る線もない。弟のバイクに他人が乗っているのは気に入らないし、何なら雅貴が広斗を探すのにもこれ以上に有用なものはない。
雅貴がわかったように、広斗だって自分のバイクの排気音を聞けばすぐにあれだとわかるからだ。

「怪我しても恨まないでくれよ」


886 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:02:17 baCq0LMk0

呟く。己がそれをやれるという確信はある。だが当然、相手にとっては予想できないことを起こすのだ。
場合によってはそのまま逃走する選択肢も当然用意しておかなければならない。
やがて、バイクが傍を通過するというタイミングで雅貴は路上に躍り出た。

「くっ!?」

ライトで見えなかったが、バイクのライダーは雅貴を轢かないようとっさにハンドルを切る。
やべっ、こいつ良い奴かも。そう頭をよぎるが、身体はもう動き出していた。
ライダーの手の上からブレーキを握り込む。バランスを崩し、バイクが傾斜する。
しかし転倒はさせない。雅貴は絶妙な力加減でブレーキを操作し、車体をその位置でスピンさせていく。雅貴を中心に、コンパスで円を描くように。
回転の中、バイクに乗っていたライダー――若い男は雅貴を一瞥する。雅貴は空いた手を平手で顔の前に立て、申し訳程度の謝罪の意思を示した。
男は無言のまま、ハンドルから手を離す。そして跳躍――雅貴は目を疑った。激しく旋回する倒れかけたバイクから、そいつは何の淀みもなく宙に身を投げ出したのだ。
その跳躍の最中、伸ばされた手はバイクの後ろに乗っていた何かを掴む。それは人、幼い子どものように見えた。
驚きながらも雅貴は空いたハンドルに手をかける。暴れ馬を乗りこなすように強引にシートに飛び乗って、ブレーキをリリース。
車体を立て直し、同時にアクセルを回す。停止することなくバイクは加速。二十メートルほど走ったところで減速し、ターン。
果たして、雅貴の視線の先にはライダーの男が立っていた。普通に、立っていた。
あの態勢から高速で飛び出しておいて、転倒することなく見事に着地してのけたのだ。
だがさすがに険しい顔をしていた。あわや大怪我をする寸前だったから当たり前であるが、雅貴もさすがに申し訳なさを覚える。

「ごめん! 今のは俺が悪い! でも事情あってさ、このバイク俺の弟のやつなんだよ、だからね?」
「逃げてください! 早く!」

謝罪の言葉を並べ立てようとした雅貴を遮ったのは、誰でもなく被害者のライダーの男だった。
そいつは雅貴を見てもいない。見ていたのは自分の背後。
小学生くらいの小柄な女の子。 俯いていたその女の子が顔を上げる。角? 角があった。頭部に一本の鋭い角。
猫のように縦に開いた瞳孔の、赤く血走った瞳が、まっすぐに雅貴へ向けられていた。


887 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:02:57 baCq0LMk0
  ◆


時間がない。バイクを走らせる水澤悠の全身にその予感はひたひたとまとわりつく。
悠は運転しながらも背で時おり呻く存在に意識を集中させていた。
竃門禰豆子。少女は名簿でその名を指差した。自分の名前と。言葉を発することはできずとも、しっかとした自我はある。今はまだ。
だが、少女は人間ではない。人食いだ。悠らアマゾンとは違うようだが、それでも人ではない。
禰豆子は人を食った。そして、アマゾンのように、内から沸き起こる衝動と戦っている。もっと食べたい、という衝動と。
まだ完全に本能に呑み込まれたわけではない。人の要素が半分ある悠に襲いかからないのもそれが理由だ。
あるいは、自分と同じような存在ということを本能的に理解しているのか。これを食っても満たされはしない、と。

何にせよ、禰豆子の限界は近い。時間が経つごとにそのリミットは近づいてくる。
故に、悠は出来るだけ人との接触を避けるようにバイクを走らせていた。
本当は他の参加者との接触を行うべきなのだが、今の禰豆子が人間を前にしては、猛獣に餌を差し出すのと変わらない。
禰豆子と会った場所は、禰豆子が嫌がるためすぐに離れた。おそらく彼女を騙した人間がまだ近くにいるのだろうと悠は推測する。

かといって、北の研究所方面にもいけない。北には悠が看取った鮫島の死体があり、焼け焦げているため強烈な臭いを発している。間違いなく禰豆子の食欲を刺激するものだ。
本音を言えば首輪を何とかするために研究施設は押さえておきたいのだが、工学知識がない悠が確保したところで現状ではさほど意味は無い。
南は大きな戦闘が行われたと思しき痕跡を見て取ったため断念。よって悠はバイクを東に向けていた。
とりあえずの目的地は灯台だ。地図の端にあるため、好んで訪れる者は少ないだろう。そこでなら禰豆子も多少落ち着ける。

(落ち着いてどうするっていうんだ。時間が経てばそれだけ事態は悪化するのに)

禰豆子がどこにたどり着くのか、結果はわかりきっている。それでも悠は、答えを出すことを避けた。禰豆子が抗っている内は、まだ。
やがてバイクは自衛隊基地に差し掛かった。警戒して走っている分、回り道や待機も多くなり、遅々とした進行になる。
人の気配はない。速度を上げ、通過しようとしたとき。

「ウウぅ……!」

突然、禰豆子が悠の背を蹴って跳んだ。そして一直線に駆けていく。悠は反射的にアクセルを開き後を追った。
バイクはすぐに禰豆子に追い付いた。禰豆子は立ち止まっていたからだ。禰豆子の前には死体があった。

「――駄目だ、禰豆子ちゃん!」

バイクから飛び降り、悠は叫んだ。転がっていた死体に――口の周りに何かのエンブレムが入ったスカーフを巻きつけた若い金髪の男の――齧り付こうとした禰豆子がビクリと震えた。

「禰豆子ちゃん。それをしたら……その人を食べたら、君はもう本当に戻れなくなってしまう。決定的に、道を選んでしまう。それでいいの?」

静かに、だが同時に鋼の如き冷たさも纏った悠の声が禰豆子を切りつける。
これを避けたかった。たとえ死体であっても、今の禰豆子にはご馳走に見えるのだろう。
生きていれば悠の感覚で避けて進むこともできた。鮫島のように死体が強い臭いを発していればやはり避けた。
だが、男の死体は首を折られて間もないようだった。異臭もまだ立っていない、気配のない存在。悠も気付けなかった。
悠はゆっくりと禰豆子と死体の間に立つ。冷えた覚悟が総身を覆っていくのを感じる。いつでもアマゾンの力を解き放てるように。それができるように、悠は選んでしまっている。
水槽の外に飛び出してから五年の間に、何度もこういう事態に直面した。言葉を交わしたアマゾンが、内なる衝動に負けて理性を失う瞬間に。
その度に悠は命を刈り取ってきた。内心がどうであれ、感情と行動を切り離して行えるようになってしまった。
故に、禰豆子がここで内なる獣に屈するならば、悠は躊躇わずその命を狩る。


888 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:04:58 baCq0LMk0
「君が人を食べたとき、それは君の意思じゃなかった。でも今は違う。この人を食べることは、君自身が選んで行うことだ」

残酷なことを言っているのは悠にもわかっていた。アマゾンにしろ禰豆子にしろ、生きるために人を食べる。
であれば本来それは責められることではないかもしれない。誰だって何かを殺し、食べている。
だがそれは人間たちのルールにはそぐわない。受け入れられるものではない。人間とともに生きようとするならば。

「竃門炭治郎。君の家族だね?」

その名を口にした途端、禰豆子が震えた。名簿にあった禰豆子と同じ名字の名前。父か兄かはわからないが。
おそらくはその存在が、禰豆子をギリギリで繋ぎ止めている最後の希望だ。
強く悔やんでいる禰豆子の様子を見るに、本来の彼女は人を食わずに生きていられた存在だ。種族として人を食らう純粋なアマゾンではあり得ないケース。悠のような・
ということは、その家族もおそらく人を食わないか、あるいは人間か。鷹山仁のように後天的にアマゾンになった、それに類する存在という可能性もある。

「僕には炭治郎さんがどんな人かはわからない。でも君が人を食べるのなら、君は炭治郎さんとも道を分かつことになるよ」
「うう……!」

推測混じりだが、効果は絶大だった。竃門炭治郎と離れることになる。
そう聞いた禰豆子の瞳からぼろぼろと涙が溢れだし、いやいやをするように首を振る。そして死体から一歩後ずさる。
禰豆子は竹筒を噛み締め、必死に衝動に抗っていた。
まだ完全に本能に呑み込まれてはいない。危ういところで拮抗している。
悠は禰豆子の手を引き、バイクに乗せた。今のうちにここを離れなければならない。

「……すみません。あなたの名前も知ることはできない」

できれば死体は埋めてやりたかったが、そんな余裕はない。悠は男の口元から血濡れたスカーフを外し、目を閉じてやった。
発進。どんどん死体から遠ざかる。禰豆子は何とか耐え切った。
スピードを上げ、自衛隊基地を走る。ここでも戦闘痕を確認したが、じっくり調べてもいられない。
バイクは基地を抜け、流星のように街を駆け抜けていく。甲高い排気音は誰かに察知されてしまうかもしれないが、もう一刻の猶予もなかったため無視した。
灯台に行って禰豆子を隔離し、彼女の枷となれるであろう竃門炭治郎を探す。それができる余裕があとどれだけあるか。
禰豆子の呻き声に歯軋りが交じる。悠の背中に爪が突き立てられる。抑えられなくなりつつある。

悠も焦っていた。だから、突然バイクの前に飛び出してきた人影に事前に気づくことができなかった。
影は蛇めいてバイクに手を伸ばす。ブレーキレバーが握り込まれる。車体が悠の制御を離れて踊り出す。
このとき悠は目前の襲撃者よりも、背中の禰豆子に意識を割いていた。
謎の人物。男。生きた人間。新鮮な肉。おいしそうなにおい。
回る視界の中、禰豆子の気配が爆発的に広がるのを感じた。溢れ出す寸前だったコップの水面に、最後の一押しがされてしまった。
禰豆子の口に嵌められていた竹筒が、噛み砕かれた。

「ガアアアアアアアッ!」

至近距離にいる男の頭蓋を砕くべく繰り出された禰豆子の爪は、寸前で彼女を抱きかかえて跳んだ悠によって空を切った。
空中にあり、悠の胸を蹴って禰豆子は着地。獣のように四肢を地に突き立て、ぼたぼたと涎をこぼす。
悠は男と禰豆子を隔てるように立った。腰には既にアマゾンズドライバーを巻いていた。

「ごめん! 今のは俺が悪い! でも事情あってさ、このバイク俺の弟のやつなんだよ、だからさ」
「逃げてください! 早く!」

男が何か言っていたが、一体何が目的か、そんなことを確かめられる状況ではない。
基地での食事を逃してギリギリまで高まっていた禰豆子の食人衝動は、唐突に現れた生きた人間を前にしてどうしようもなく激発した。
それがもう肌でわかる。涙に濡れていた禰豆子の瞳は真っ赤に充血し、眼尻が裂けるほどに大きく見開かれている。
悠の言葉はもう届かないだろう。男を隠す悠に向けられる視線には敵意と殺意が山盛りに載せられている。
こうなってはもう、禰豆子は選ぶも選ばないもない。本能が理性を完全に食い潰してしまっては。
だからこそ、ここで選ぶのは悠だった。

「……アマゾン……!」

竃門禰豆子の命を刈り取ることを。
水澤悠は選択した。


889 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:06:32 baCq0LMk0
  ◆


雨宮雅貴の眼前で行われているのは、雅貴がこれまで乗り越えてきた戦いと同じにできるものではなかった。
幼女が瞬間、長い手足の女に成長し、若い男に至っては緑色の怪人に変化して。
叩き付けられるような熱風から顔を守ったときには、女と怪人は激突していた。
女――“鬼”、竃門禰豆子。
怪人――“アマゾンオメガ”、水澤悠。
当然二者の名前を知ることのない雅貴は彼らがどういった存在かも知らず、ただ繰り広げられる獣同士の殺し合いに目を奪われる。

「君が誰かを食べる前に、君を狩るよ」
「シャアアアッ!」

弛めたバネのように地面と平行に跳ぶ禰豆子の足刀がアマゾンオメガに迫る。
アマゾンオメガは両の足を地面から離さず、掲げた両腕を交差させて鬼の蹴りを受け止めた。
ビシビシ! と異音。アマゾンオメガの足裏が地面の舗装に亀裂を走らせた音だ。硬い路面を突き破るほどの衝撃が、アマゾンオメガの身体を通じて禰豆子から叩き込まれた。
だが、アマゾンオメガは揺らがない。その程度の衝撃は予想の範囲内だと告げるように、交差した腕を解き禰豆子の足を掴む。
禰豆子が行動に出るより早く、アマゾンオメガは掴んだ足を振り回した。

「ガッ……!」

そして、地面に叩きつけた。
トラックに正面衝突されたかと雅貴が錯覚するほどの激突音。禰豆子の蹴りのときとは比較にもならない大穴が地面に空いた。
人体など一瞬で挽肉に変わるほどの衝撃が禰豆子の身体を突き抜ける。
その頭目掛けてアマゾンオメガは足を落とした。とっさに禰豆子は反応し、転がって回避――間に合わない。
アマゾンオメガの槌めいた踏み下ろしが禰豆子の左腕を襲う。骨が砕け肉がすり潰され、肘から先が鮮血を撒き散らし宙を舞った。

「ウ、アア、アア――!」

激痛に苦悶の呻きを上げる禰豆子を、しかしアマゾンオメガは追撃しない。
アマゾンオメガは地面のマンホールの蓋を蹴りつけ、反動で舞い上げ、掴み、一閃。豪風が、撒き散らされた禰豆子の血を吹き散らした。

「は? 今の……俺を庇ったの?」

その行動は雅貴には理解できない。ただ事実として、飛んできた禰豆子の血が雅貴に付着することはなかった。
雅貴には知る由もないが、悠は禰豆子の血を千翼のそれと同程度の危険と見積もっていた。すなわち、アマゾン化を無差別に誘発する溶原性細胞と。
もちろん両者は違うものであるが、いらぬ危険は排除するに越したことはない。実際はどうであれ。
雅貴の疑問に当然アマゾンオメガは答えたりせず、禰豆子へと歩を進めた。
数瞬の余裕があったため禰豆子も態勢を立て直している。未だ血を噴出させる腕を睨み、唸ること数秒。肘の断面から骨が飛び出し肉が盛り上がり、一瞬で元通りになった。
目を疑う雅貴の前で、金属蓋を捨てたアマゾンオメガ――水澤悠がぼそりと呟く。

「……アマゾン以上の再生速度だ。筋力も同じくらいか」
「あ、喋れるんだ」

あまりの光景にやや現実逃避じみた心地になった雅貴とは対照的に、悠は極めて冷静に禰豆子の力を見積もった。
最初の蹴りを避けることは容易かったが、あえて受けた。予想以上の威力に驚きはしたものの、手に負えないほどではない。
弾丸のように向かってくる禰豆子が両の拳を繰り出す。それもまた一発一発が砲弾並の威力を内包する危険球ばかり。
しかし一発の被弾もアマゾンオメガは許さない。
アマゾンオメガが身体の前に盾めいてかざした両腕が、禰豆子の打撃をことごとく打ち落とす。
顔面を狙う拳を横から叩いて逸らす。跳ね上がりかけた爪先は加速する前に足の甲を踏みつけた。
胸をブチ抜きに来た貫手は腕部のヒレ状の切断器官・アームカッターで受ける。
アマゾンオメガは一つ一つの攻撃を丁寧に、しかし迅速に捌く。次第に禰豆子は反動で崩れた態勢での攻撃を強制され、それも繰り返し防がれて、どんどんとバランスを失っていく。
傍から見ている雅貴も息を呑む。禰豆子の攻撃は速い。目にも止まらないほどに速い。無尽蔵のスタミナを思わせる連撃。
だが、直線的だ。組み立ても悪い。次の攻撃に繋げるための攻撃ではなく、その瞬間瞬間に繰り出せる全力の攻撃を反復しているだけだ。


890 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:07:17 baCq0LMk0

雅貴の見立てを補強するように、禰豆子は大きく距離を取り、疾走を始めた。助走からやがて跳躍し、建物の壁を蹴ってボールのように跳ね回る。
その移動線の中心にいるのはアマゾンオメガだ。どの方向から襲いかかるか、惑わせ、撹乱している。
激しい禰豆子の動きとは逆に、アマゾンオメガはゆっくりと視線を巡らせる。禰豆子がどれだけ大きく動いても、アマゾンオメガはその場所から動くことはない。
雅貴はそれが自分を護るためだと気づいた。もしも禰豆子が狙いを自分に切り替えたとしても、その瞬間にアマゾンオメガは禰豆子の背後を取れるという位置取りをしている。
それを察しているのか、禰豆子は視線を雅貴に遣りながらも飛びかかることができない。一瞬でもアマゾンオメガから集中を逸らせば死ぬからだ。
攻めているのは禰豆子だが、追い込まれているのも禰豆子だった。

「ヴ、ウウッ!」

しびれを切らし、禰豆子は遂にアマゾンオメガへと仕掛ける。
跳躍反動の加速を存分に乗せ、さらに縦方向に自ら回転することで遠心力を得た踵落とし。
断頭台めいたその踵は、今までの蹴りとは段違いの速さ鋭さでアマゾンオメガに放たれる。空気との摩擦で禰豆子の足が赤く発火した。
ヤバい、あれは受けられねえ、と雅貴が直感する死神の鎌に、アマゾンオメガはその場で軽くお辞儀した。
アマゾンオメガの頭部が下がる。禰豆子の踵が空を薙ぐ。上半身を折り曲げたアマゾンオメガの足は既に地を蹴っている。
空中より躍りかかった禰豆子の視界のさらに上から、痛撃が来た。

「――ッ!?」

それはアマゾンオメガの踵だった。アマゾンオメガはお辞儀ではなく、その場で前方宙返りを打ったのだ。
禰豆子の踵を避け、同時に己の踵を振り上げて禰豆子の頭上から浴びせかけた。
鮮血が吹き出す。禰豆子の右半身――右腕右足胴体の半分――が、ずるり、と滑り落ちる。
禰豆子のそれと違い、アマゾンオメガの脚部には鋭い刃が生えている。腕のアームカッターと同じフットカッターだ。
隆起させていないためその刃は小さいが、遠心力を乗せた振り下ろしなら威力は十分。禰豆子の身を真っ二つにすることは造作もない。

「ぎ――ギイイイヴウウウ……!」

さすがに失った領域が多すぎると生やすことは難しいのか、禰豆子の身体の断面から噴出する血が一瞬のうちに固形化し、落ちたパーツを引き寄せていく。
なんだありゃ、と雅貴は瞠目するが、アマゾンオメガは遅滞なくさらに踏み込む。
固めた拳を禰豆子の顔面に叩き込み、連打、連打。再生する暇を与えまいと一気に攻める。
禰豆子もただ打たれ続けるわけはない。アマゾンオメガの背後から、血で接続された禰豆子の右半身が地を蹴り爪を突き込みに来た。
アマゾンオメガには見えていない。だが悠は禰豆子の目を見ていた。攻撃意志を容易く映し出す、嘘も掛け引きも何もないその瞳を。
アマゾンオメガは拳を開き、禰豆子の頭部を鷲掴んで瞬時に振り返る。
禰豆子の爪は禰豆子自身の頭部を貫いた。

「……ヴッ……ガ、アアアアッ!!!」

半身を分かたれ、奇襲さえも通じず、あまつさえ利用される。禰豆子の心中にいかなる変化があったかは、見ていただけの雅貴にはわからない。
だが屈辱を感じているのは間違いない。歪んだ表情、歯をギリギリと鳴らし、吠えた。
と――禰豆子の全身を濡らす禰豆子自身の血が、爆ぜた。

「アアアアアアアアア!」

至近にいたアマゾンオメガもまた炎に包まれる。血がガソリンのように燃えている。
さすがにこれはダメージになるのか、アマゾンオメガは禰豆子を手放して距離を取った。

「……そんなこともできるんだね」

悠は再度アマゾンズドライバーのグリップを回す。するとアマゾンオメガの全身からも炎が――熱波が放たれ、禰豆子の炎を吹き飛ばした。
アマゾン細胞活性化の際に生まれる熱の排出。温度的には禰豆子の炎には及ばないが、噴射の爆風はこうした用途にも適用できた。
そして、禰豆子はこの僅かな時間の間にもう再生を終えている。何度目かの突進。繰り広げられる光景も、何度目かわからないものになった。


891 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:10:42 baCq0LMk0

「フッ――!」
「ガ、ウッ!」

がむしゃらな禰豆子の攻撃に時おり差し込まれるアマゾンオメガの反撃。手数にして十倍近くの差があるにもかかわらず、その一撃は確実に禰豆子の身を削る。
だが禰豆子の攻撃は変わらず直撃しない。禰豆子が攻撃し始めたときには既に、アマゾンオメガは迎撃の動きを終えている。
拳で打とうとすればその軌道を逸らす。蹴りはそもそも放たせないか、掴んで手痛い投げを見舞う。
雅貴が見る限り、反応速度の差ではない。それは経験の差だ。洞察力と言ってもいい。禰豆子が繰り出すあらゆる手は、アマゾンオメガに読み切られていた。

アマゾンオメガの動きは、一口で言えば洗練されていた。格闘技経験者のように、冷静に敵の動きを見極めて先を読む。
禰豆子にできること、できないことを計算し、何十パターンもの対応手を常に用意している。
野生の獣の如き禰豆子の動きそのものは人間の雅貴には追い切れない。が、同等の反応速度をアマゾンオメガが持っているなら、そこからモノを言うのは経験と技術だ。
禰豆子の性能がいかに高くとも、戦闘経験という数字だけはどうしたって水澤悠には及ばない。

ことに悠は、世に出てからほぼすべての時間、アマゾンそして鷹山仁という男と戦い続けてきた。
鷹山仁。アマゾンにとっての死神。アマゾンの身体能力に人間の頭脳と技術を溶け合わせて戦う男。
悠の戦闘技術は仁との死闘の中で磨き上げられたものだ。アマゾンの身体が持つ性能を活かしきり、なおかつそれに寄り掛かることなく理性を以って乗りこなす。
禰豆子はいわば過去の悠自身だ。湧き上がる本能に翻弄され、ただ走り回らせていた頃の自分と同じ。
つまり禰豆子には、アマゾンオメガに勝てる道理は何一つなかった。

「一方的すぎんだろ……」

どれだけの速度で再生し、どれだけ矢継ぎ早に攻撃を繰り出そうとも、アマゾンオメガはそのすべての上を行った。
こう何度も叩きのめされては野生の獣とて理解する。この相手には勝てない、と。
ただの獣ならばそこで逃げるだろう。命の危機と釣り合うほどの食欲は獣にはない。
だが禰豆子は鬼だった。人の肉の味を覚えた鬼だ。痛みや恐怖より、怒りと食欲が勝る。だから、退けない。退かない。
何度打ち倒されても立ち上がっては向かってくる禰豆子を見て、アマゾンオメガは、その内の悠は息を吐いた。
もう戻れない。止まれない。ならば。

「……終わりにするよ、禰豆子ちゃん。炭治郎さんに会えたら君のことを伝えておく」

炭治郎。その言葉を聞き、禰豆子の瞳が揺れる。加熱した本能が圧倒的な暴力に打ち据えられ、幾許かの冷静さを取り戻したか。
しかし悠はもう構わずアマゾンズドライバーのグリップを捻る。するとアマゾンオメガの腕のアームカッターが蠢動し――寒気がするほどに巨大な刃へと膨張した。
それで雅貴にもわかった。アマゾンオメガはあれでも手加減していたのだ。殴り蹴り投げるだけでは禰豆子は死なない。
だがあの刃で真っ二つにされれば、首を刎ねられれば。生きていられるはずがない。


892 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:11:38 baCq0LMk0

アマゾンオメガが放つ極低温の殺意に晒され、恐怖を忘れたはずの禰豆子が震える。それもまた、本能がもたらすもの。
腰を落とし、力を溜め、アマゾンオメガは禰豆子を待ち受けた。向かってこようと逃げようと、矢のように放たれるアマゾンオメガの一撃が速い。
それがわかるのか、禰豆子は動けない。アマゾンオメガは動く。
力を解き放ち、飛び出す――瞬間を狙って、雅貴も動いた。

「オラァッ!」

想定外の衝撃がアマゾンオメガに襲いかかった。
前方の禰豆子に意識を集中させていたため、後頭部に走った衝撃を理解できず困惑する悠。
必殺の一撃を邪魔され、揺れる視界の中でアマゾンオメガは金属の板を見た。マンホールの蓋だ。先刻、アマゾンオメガ自身が使用したもの。
それをバイクを奪った人間が振り回してきた、と理解が追い付いたときには既に、その人間はアマゾンオメガの間合いの中に踏み込んできている。
息がかかるほどの超至近距離。雨宮雅貴は折り畳んだ腕を小さい円の動きで打ち出す。加速の乗った肘はアマゾンオメガの顎先を掠めるように過ぎていく。
脳が揺れる。アマゾン化していても、身体の構造は人間と大差ない。そこからの復帰は早くとも、一瞬だけ悠の意識が切れる。

雅貴はするりとアマゾンオメガの背後に回る。そのまま膝裏を蹴りつけた。体重を支えていた足が崩れ、悠は思わず膝をつく。
雅貴の両手がアマゾンオメガの頭部を掴み、捻ろうとする。反射的にアマゾンオメガは逆方向に踏ん張るように力を込める。
するとふっと頭にかかっていた力が抜け、逆方向、すなわち悠が踏ん張っていた方向に捻りが加えられた。悠の対応を予測し、同調する動き。
結果、アマゾンオメガは自分自身の力で過度な力を自分に与え、膝立ちの姿勢から転倒した。
何とか立ち上がろうと視線を巡らせるアマゾンオメガが見たものは、眼前まで迫った雅貴の靴底だった。

「ごめん! ほんとごめん! 怒るなよ、な! そんな効いてないだろ? だからマジ怒らないでね? 頼むよ?」

顔面を蹴り飛ばされ、今度こそアマゾンオメガは無様に吹き飛んだ。
アマゾンオメガの体重は90キロを優に超えるが、SWORD地区に生きる男ならばトン超えの車を蹴って動かすことなど朝飯前。
そんな攻撃を叩き込みながらも雅貴は両手を合わせ、アマゾンオメガにアピールする。悪気はないからさ!
実際、アマゾンオメガにダメージなどない。どれだけの技巧でアマゾンを翻弄したとしても、人間の拳ではアマゾンに重いダメージは与えられない。


893 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:13:33 baCq0LMk0

「何なんですか、あなたは!?」
「事情はよくわからねえけどさ、あの子、禰豆子ちゃんって言うんだろ」

雅貴と悠の数秒の攻防の間に、禰豆子も回復を終えて立ち上がっていた。
だが今度は、雅貴の前にアマゾンオメガはいない。禰豆子は一飛びで雅貴の喉笛に食らいつける。
濃密な殺気に冷たい汗が流れるのを感じながらも、雅貴は退かなかった。

「下がってください! あの子はもう話が通じる相手じゃない!」
「そんなことやってみなきゃわからねえだろ!」

叫ぶアマゾンオメガに倍する声で雅貴は怒鳴り返した。
アマゾンオメガが雅貴を護ろうとしているのは雅貴自身にもわかっている。
禰豆子が雅貴を殺そうと、食おうとしているのも、これまでの様子で薄々と察している。
それでもなお、雅貴がアマゾンオメガを阻止して禰豆子の前に立ったのは。

「禰豆子ちゃん。なあ、おまえさ、炭治郎ってやつの妹だろ」

名簿を見て広斗の次に関心を持っていた名が雅貴にはある。中野、鑢、そして竃門。家族、兄弟、姉妹、そんな関係の者たちを。
竃門炭治郎。竃門禰豆子。おそらく兄妹。親子ではない、と雅貴は勝手に確信していた。
先ほどと同じく、炭治郎の名に禰豆子はビクリと震える。親にいたずらが見つかった子どものように。
言葉が通じることを確認し、雅貴は腹に一層の力を込めた。

「やっぱな。わかるぜ。俺にも兄貴がいるし、弟もいるからな」

雅貴の手には武器がある。兄の教えには反するが、さすがにこんな戦いに素手では割って入れない。
その武器の握りを確かめながら、雅貴は飛び出そうとするアマゾンオメガの動きを牽制する。
手振りと視線で、ここは俺に任せろ、と告げる。

「なあ、禰豆子ちゃんよ。俺には君がどうしてそうなったかはわからねえけど、訊いておきたいことがあんだよ」

すう、と雅貴は息を吸い込んだ。喧嘩の時にもここまでの緊張感を覚えたことはあまりない。
読み違えていれば雅貴は死ぬだろう。だが確信があった。
雨宮雅貴は雨宮尊龍の弟であり、雨宮広斗の兄であるがゆえに。

「君さ……その顔で炭治郎お兄ちゃんの前に立てるのか? そんな……鬼みたいな顔で、よ」

静かに語られた雅貴の言葉は、あるいはアマゾンオメガのどんな攻撃よりも強く深く、禰豆子という存在の核を貫いた。
禰豆子の瞳孔が極限まで開く。アマゾンオメガも息を呑む。雅貴の目が細まる――

「ガアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

禰豆子は炸裂した。
アマゾンオメガの反応速度すら追いつけない、まさに神速の跳び出し。
禰豆子をこれ以上なく傷つけた雨宮雅貴の喉笛を食い千切るべく、全細胞の意志が一致した。
アマゾンオメガは間に合わない。今から動き出しても遅い。雅貴は死ぬ――悠はそう感覚した。思考すら追いつかない一瞬の間。


894 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:14:47 baCq0LMk0

「ッシャアッ、ビンゴだ!」

だが、雅貴は死ななかった。
持っていた武器を、街中で拾った何の変哲もない木刀を――王刀“鋸”という銘の刀を――噛み付いてくる禰豆子の口に押し込んだ。
先ほどまでそこにあった竹筒のように、禰豆子は反射的に木刀を噛み砕こうとする。
瞬間、禰豆子の瞳が揺れる。靄を払うように赤い瞳が薄くなり、瞬時にまた赤くなり、また白くなる。
勢いが弱まった。雅貴そのは一瞬の停滞を逃さず、木刀を捻って禰豆子の身体ごと地面に叩きつけた。

「おい! 手伝え!」
「え……え?」
「ボサッとしてんな! この子の手を押さえろ! 早くして!」

牙は防げても爪までは木刀ではカバーしきれない。雅貴の声で悠は、アマゾンオメガは慌てて禰豆子に馬乗りになって両手を押さえつけた。
雅貴はアマゾンオメガの対面に屈み込んで、禰豆子の口を木刀で押さえつけながらその瞳を覗き込む。
暴れ藻掻く禰豆子だが、アマゾンオメガを振り払えない。力を込めようにも何故かうまくいかないのだ。まるで身体のどこかに空いた穴から力が抜けていくように。

「これでようやく落ち着いて話ができるな、禰豆子ちゃん」
「話って、あなたは一体何をするつもりなんです!?」
「あ? 決まってんだろ、兄弟の、兄妹の話だよ」

汗をかきながらも雅貴は壮絶に笑う。先ほどの反応から見て、どれほど変わり果てようと竃門禰豆子は“妹”なのだ。
ならば、雅貴がすべきことは。

「なあ、禰豆子ちゃん。俺は君の兄貴の炭治郎くんに会ったことはねえけどよ。それでも一つ、絶対だって言えることがあるぜ」

かつて兄が、雨宮尊龍がしてくれたように。兄弟たちの絆を固く繋いでくれたように。
思い出させることだ。
竃門禰豆子と。竃門炭治郎の。二人の兄妹の、何者にも負けない最強で最高の絆の強さを。
震える禰豆子の目を真っ向から睨みつけ、雨宮雅貴は吠えた。




「どんなに変わっちまったってなぁ! おまえの兄貴は絶対に、絶対に、絶対にッ! 絶対におまえを見捨てたりなんかしねえぞ――ッ!」


895 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:15:49 baCq0LMk0

  ◆


ずっと怖かった。
それは、人間に殺されるからではない。兄と同じ鬼殺しの剣士に狙われるからではない。
鬼になったことで、人を食ったことで、兄を、たった一人残った最後の家族を裏切ることが。

いや。

兄に見捨てられることが、怖かった。




禰豆子が人を食えば、炭治郎が禰豆子を殺す。その後、炭治郎も腹を切る。そう定められている。
自分のせいで兄が死ぬ、それは嫌だ。
自分が殺されるのはいい。兄の手に依って裁かれるのならばそれは仕方ない。受け入れられる。
だが――そのとき兄はどんな顔をしているだろうか。
禰豆子のせいで自分も死ぬのだと、何てことをしてくれたんだと、そう怒っているだろうか。失望しているだろうか。


――おまえなんて俺の妹じゃない。鬼め。悪鬼め!


どこからか響いてくる言葉が何よりも深く禰豆子を傷つける。
それだけの罪を犯したのだ、死んで償え、いや死すら生ぬるい、死んで許されるはずがあるものか。
兄の口から放たれるすべての言葉が呪詛となり禰豆子を苛む。


――そうだ、禰豆子。それがおまえだ。おまえはもう人ではない。鬼として生きるしかないのだ


いつしか、兄の言葉にかぶさるようにもう一つの声が響いてきた。
闇の中から現れたのは、緩やかに波打つ髪の長身の男。
兄が一度だけすれ違ったという、この世すべての邪悪を煮詰めて形にしたようなドス黒い――


――何も悲観することはない。人間など肉に過ぎん。我らの糧となるしか価値のないただの餌だ。何を悲しむことがある


その声はひどく心地よく禰豆子を誘う。
肉。そうだ、あの肉は美味かったではないか。血の甘さ、骨の歯ごたえ、肉の柔らかさ。どれを取っても文句などない。
禰豆子はもう鬼なのだから。人を食べても仕方ない。兄に見捨てられても鬼として生きていけばいい、それだけのこと。


――そうだ禰豆子、おまえは鬼だ。鬼として生きろ。おまえの兄もどうせおまえのことなど救ってはくれはしない


闇が禰豆子に手を伸ばす。
禰豆子は、その手を――


896 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:16:44 baCq0LMk0

「何度だって言ってやる! 炭治郎はおまえを見捨てねえ! 兄貴は絶対に妹や弟を見捨てたりはしねえッ!」

世界が揺れる。
落雷の如き光と衝撃を伴ったその叫びは、禰豆子の閉じ籠もる世界そのものをこじ開けてくる。
闇を、光が斬り裂いていく。

「なのにおまえは諦めんのか? 戦いもしねえで、おまえが兄貴を見捨てるのか!?」

知らない男の声だ。
知らない男のはずだ。
なのに、その声に込められた意志は、驚くほど熱く、泣きたくなるほどに温かい。

「負けるな! 戦え! もう一度兄貴と会うまで、生きることを諦めんな!」

叫びの一つ一つが光の刃となり、黒を白に染めていく。
いつしかその声は、憎しみに満ちた言葉を吐き捨てていた兄の声に重なっていく。
闇もまた光を掻き消さんと禰豆子に指を伸ばす。

――け……るな……
――食え! 禰豆子! 餌の戯れ言に耳を貸すな! おまえはもう鬼なのだぞ!
――負けるな、禰豆子
――黙れ黙れ黙れ! 禰豆子! 食え! すべて食い殺すのだ!
――禰豆子ッ! 負けるな!
――だま……
――禰豆子! 負けるな! 俺はおまえを見捨てない!たった一人の妹を見捨てたりなんかしない! だから禰豆子、おまえも頑張れ! 負けるな禰豆子!
――ね
――頑張れ頑張れ禰豆子! 俺はいつだっておまえを見てるぞ! おまえは強い子だ! 俺の自慢の妹だ! 大切な妹だ! 禰豆子! 頑張れ! おまえが間違ってしまったのなら俺も一緒に謝る!許しても
らえないかもしれない、殴られるかもしれない、でもそれは俺も一緒だ! おまえが裁かれるなら俺も一緒に裁かれる! 地獄にだって一緒に行く! だから禰豆子、諦めないでくれ!おまえが諦めない限り、俺もおま
えを諦めない! おまえがどこに行ったって必ず探し出して手を握る! 禰豆子! 負けるな! 禰豆子!

光が闇を打ちのめした。
これはしょせん、禰豆子がこうであればいいと願う炭治郎の幻影にすぎない。禰豆子の中にある炭治郎の記憶を元にした、都合のいい幻。
だがその声は絶え間ない。炭治郎の声に重なって、ずっと禰豆子を励ます声が聞こえている。

「生きろ、禰豆子ちゃん! 拳は大事なものを護るために使うもんだ……おまえにはいるんだろ! 大好きな兄貴がよ!」
「禰豆子ちゃん……そうだ、まだ君が君でいられるのなら、大事な人がいるのなら、君は人として生きるべきだ!」

いつしか声は二つ。その声に導かれるように、兄の幻の隣に、どこかで見た金髪の少年が現れた。
少年は両手に扇子を持って激しく踊っている。

――頑張れ頑張れ禰、豆、子! 負けるな負けるな禰、豆、子!

兄の必死の、終わりなき叫びに合わせるように、少年の動きもどんどん加速していく。
それは決してふざけているわけではない。禰豆子を鼓舞しているのだとわかる。
禰豆子と視線を合わせた少年は、寂しそうに微笑み――そして笑った。
扇子を放り捨て、腰の刀を握り締め、前傾し。



――シィィィィ……!


897 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:18:34 baCq0LMk0

深く鋭い呼吸音。そして光が――雷が弾けた。
雷の龍が奔り、禰豆子を呑み込まんとしていた闇を、憎むべき悪鬼を消し飛ばす。

――生きろ禰豆子! 生きてくれ、命を投げ出さないでくれ!
「生きろ禰豆子ちゃん! 妹や弟が自分より早く死ぬなんてのはな、兄貴にとっちゃ死ぬより辛いことなんだ!」
「禰豆子ちゃん! 君が人として生きたいのなら、どれだけ辛い道でも僕はその隣りにいる! 君と一緒に戦う! だから!」

兄の声と、覚えのない、しかし不思議と心地いい声が唱和した。
雷の龍が天に登る。瞬間――世界は光に満ちていく。
日の光。太陽の光。鬼にとって憎むべき必滅の光。
だがその温かさは禰豆子を優しく包み込む。
あ、と禰豆子は声を漏らす。懐かしい匂い。お日様の匂い。兄の匂い。




――待ってろ、禰豆子
「強く」



――兄ちゃんが必ず
「強く、」



――おまえを見つけるから!
「強く!」



――――絶対に見捨てないからな!
「強く生きろ――――ッ!」






「――アア、ア……あ、ああ……わああああああああああああああっ!!!!」


898 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:19:26 baCq0LMk0

  ◆


雅貴と悠は地を這っている。押さえつけていた禰豆子が、抵抗もできないほどの莫大な力で二人を弾き飛ばしたからだ。
いつ暴走するか神経をすり減らしながら全身の膂力を総動員して暴れる禰豆子を押さえつけていたため、二人とも体力の消耗が激しい。
声は届かなかったのか。立ち上がる禰豆子に対処すべく、アマゾンオメガが構える。

「待て! 何かおかしいぞ」

雅貴が悠を制する。彼らの視線の先では、禰豆子が向かってくるでもなく立ち尽くしている。
禰豆子の手が持ち上がり、拳を握り――違った。
禰豆子が握り締めたのは、自らの額に生えた角だった。

「フーッ、フウウッ……グ」

血走った目。赤く染まった瞳。そこには確かに意志の光があった。
人を食えと吠え立てる本能。噛み締める清めの刀。思い出した兄の声。禰豆子を見ている二人の男。

生きる。
鬼ではなく、人として。
大好きな兄とともに、これからも。
そのために“これ”が邪魔だ。
たとえ完全に失くすことはできなくても、もう二度と屈しはしないと、来るなら来いと、どこかにいる災禍の元凶に叩きつけるために。

「あ――うううう、あああ……!」

悪鬼滅殺。鬼殺の剣士の刀に刻まれるただ一つの信念。
己の内に潜む影を。
自分の中の自分を。
悪を成せと嗤う獣を捩じ伏せる!




揺るがぬ心を刃に換えて、悪鬼を滅殺せよ!




「うああああああああああああっ――――――!」



万感の思いを込めて、禰豆子は自らの角を――鬼の証を――握り潰した。
それが、戦いの終焉だった。


899 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:20:42 baCq0LMk0

  ◆


「それじゃあ、気をつけて」
「お互いにな。死ぬなよ、水澤くん」

数時間前に休息をとった喫茶店のすぐ側で、雅貴はバイクのキーを回す。
懐かしい排気音。広斗のバイク。緊急時だしあいつも許してくれるだろ、と雅貴は笑う。

「悪いね、いろいろもらっちゃって。このバイクは弟が手塩にかけて仕上げたもんだからさ」
「いえ、ここに来れただけで十分助かりました。雅貴さんが使う方が役立つでしょう」

広斗のバイク、ハーレー・ダビッドソン VRSCDXに跨るのは、悠ではなく雅貴だった。この後も弟を探すという雅貴に悠が譲ると申し出たのだ。

「僕もアマゾンになればバイクくらいの速さで走れますから、気にしないでください」
「マジ!? ああ、まあ、マジだろうね……いやほんとごめんね? さっき蹴っちゃってさ。怒ってないよね? 恨んでないよね?」
「ちょっと根には持ってます」
「おおう。さ、さっきのカップ麺で相殺ってことにしといてくんない?」
「仕方ないですね。それで手を打ちます」
「ほっ」

出会いは(ほぼ雅貴のせいで)最悪だったものの、その後の共闘を経て、二人は打ち解けていた。

「拳は大事なものを護るために使う……僕にも妹がいるから、雅貴さんの言ったことはわかります。僕もそうあれたらいいんですが」

悠がそう言うと雅貴はたいそう機嫌を良くして、じゃあこれ食おうぜ! とカップ麺を出して二人で食べた。
細い見た目にそぐわない悠の底なしの食欲に雅貴は軽く引いたのだが、体力回復に必要と言われたらそりゃ仕方ないと納得して。

「禰豆子ちゃんのことは任せたぜ。俺も炭治郎くんを探してみるからよ」
「お願いします。僕も広斗さんに会ったら雅貴さんのことを伝えますから」

戦いの後、自らの角を砕いた禰豆子はその場で気を失った。死んだわけではない。だが死んだように深い眠りに落ちている。
二人は禰豆子をこの喫茶店へ運び込み、情報交換がてら休養を取ることにしたのだ。
悠はその間にアームカッターで、禰豆子を押さえつけていた雅貴の木刀を短く分割した。
雅貴が拾ったこの木刀は、詳しい原理は不明ながらも持てばイライラした気持ちがすーっと抜けていく不思議なものだった。
血に酔っていた禰豆子が瞬間的にその支配から逃れられたのも、木刀の効果あってこそ。
雅貴はそこまで意図していたわけではなく、もしかしたらいけんじゃね? くらいの気持ちだったと白状し、悠を呆れさせたりもしたが。
ともあれ。小分けされた王刀“鋸”は束ねられ紐を通され、新たな枷として禰豆子の口に嵌められている。

「これで解決したと思う?」
「いえ……無理でしょう。角を折ったと言っても、それだけで本能を消し去れるとは思えない。この木刀の効果も認めますが、時間を引き伸ばせるだけです」

衝動を抑え込んだとはいえ、禰豆子が人間に戻ったわけではない。額の出血がすぐに止まったことや、成人女性の体格から幼女並みに戻ったことからも明らかだ。
だが禰豆子は眠っている。数時間前までと違い、眠れている。内なる食人衝動がひとまず抑制されている証拠だった。
このまま刺激を与えなければもう少しは保つ。その間に竃門炭治郎を、禰豆子を本当の意味で安心させてやれる兄を見つけなければ。
禰豆子の戦いは己の身を省みない、誰かの援護があってようやく成り立つ自棄的なものだった。それが彼女の兄とするなら、やはり二人は出会うべきなのだ。
それでこそ開ける道もあると、悠は信じることにした。


900 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:22:50 baCq0LMk0

「しかし、ポン刀か。あんま良い思い出ないんだけどなぁ」
「でも強い力を感じます。多分、僕や禰豆子ちゃんのような存在にも通じる力を」

悠は自分の持っていた最後の支給品を雅貴に譲った。
それは刀。何か得体の知れない力を感じる、ご丁寧に妖刀という注意書きのされた業物の刀だった。
銘を、明神切村正。宿業を断ち切る、魔境の域に至った一振り。
悠には特に必要がないが、単独で動く雅貴にはまあ有用なものであると言えなくもない。
二人が同行するのはできないことだ。落ち着いたとはいえ、人間の雅貴が禰豆子の側にいるリスクは高い。雅貴側にも広斗を探したいという事情がある。
そして何より――

「じゃあ、まずは自衛隊基地に行ってみるわ。知らない仲でもねえしな……」

雅貴には目的地があった。
悠が持っていたスカーフ。雅貴もよく知っているSWORDの一角、山王連合会のエンブレムが入ったもの。
それを、悠は金髪の男の遺体から拝借したと言った。まず間違いなく、その金髪は雅貴とも縁の深い男で間違いはない。
山王連合会のヘッド、コブラ。ムゲン時代から数えればかなりの長い付き合いだ。
そんなコブラが死んだとなれば、確かめないわけにもいかない。本当にコブラが死んだのなら、墓の一つでも作ってやらなければ。
雅貴は拳を突き出した。悠は意図を理解できずきょとんとする。

「締まらねえな。ほら、拳出して」

雅貴に倣い悠が拳を握ると、雅貴は自分の拳をごつんと打ち付けた。

「俺ら、もうダチじゃん?」
「……ええ、そうですね。ありがとう、ございます」

アマゾンの自分にも屈託なく笑いかけてくる雅貴に、悠はやや驚き――笑った。雅貴と同じように。
根拠はない。それでも、悠は確かに希望を感じていた。
ガチャリと二人の背後でドアを開く音がした。

「お、禰豆子ちゃん。起きたのか」

小さくなった禰豆子が、とてとてと走ってくる。少なくとも今はもう暴走してはいない。
禰豆子は小さな拳を作り、雅貴に向ける。

「う!」
「ははは、もちろん禰豆子ちゃんも俺のダチだよ。ほら」

悠のときと同じように拳を打ち合わせる雅貴と禰豆子。雅貴にもすっかり懐いていた。
だが一緒にはいられないともわかっている。禰豆子はすっと悠の隣に下がり、雅貴へと手を振る。

「必ず、また会おうぜ。悠、禰豆子ちゃん。次は弟も連れてくっからさ」
「無事の再会を祈ります、雅貴さん」
「うーう!」

バイクはゆっくりと動き出し――そして、柔らかな朝の光の中を進んでいく。
悠と禰豆子は、去りゆく雅貴の背中を見送っていた。ずっと。ずっと。





「あの、雅貴さん! 言おうかどうか迷ったんですけど」
「んー? 何よ」
「そのバイクの後部シート、ちょっと……その、色が合ってないんじゃないかって」
「ぶふっ! くく……だよな! だよな! 俺もそう思うわ! 言っとくよ! 最高にイカしてるよなーってさ!」


901 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:24:02 baCq0LMk0

【C-7・街/1日目・早朝(日が差し始めている)】

【水澤悠@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:やや疲労
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式×2
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:明という人物に鮫島の最後を伝える
4:禰豆子が衝動に敗けたその瞬間、その命を刈り取る
[備考]
※雨宮雅貴と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。

【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼
[装備]:王刀・鋸(小分けにして束ねて口枷にしてある)@刀語
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:人として生きたい。
1:兄を探す。
[備考]
※人肉を食いました。
※王刀の効果で一時的に食人衝動が抑え込まれています。
※太陽を克服しました。


【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する。
1:広斗との合流。
2:コブラの生死を確認する。
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す。
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな。
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※鑢七花を女性だと確信しています。

・明神切村正@Fate/Grand Order
水澤悠に支給。
鍛冶師にしてセイバーのサーヴァント・千子村正の手になる、宿命・宿業を断ち切る妖刀。
刀身に神気を宿し、人ならざるモノ、何度殺せど死なずの化生をも斬り滅ぼす大業物である。


902 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/11(火) 00:26:23 baCq0LMk0
投下終了です。この度はご迷惑をお掛けしました……
タイトルは「Determination Symphony」でお願いします


903 : ◆FTrPA9Zlak :2019/06/11(火) 01:09:05 u90ZTlaQ0
お二方投下乙です
◆Yd1CemYSRs氏のSSはまだ読めていないのですが、◆2lsK9hNTNE氏のSSで少し指摘が。
一応関係話を書いた者としてトリップをつけておきます
>>880の部分ですが
>よく見ると傷跡が何本かに別れており、刀剣などではなく指で裂いた傷のように見える。
こちらは少し細かい指摘になりますが、切り傷はアマゾンネオの腕の鰭でつけたため指で斬ったような分かれた傷はつかないのではないかと思います

それと、支給品ですが状態表の方で五月の支給品は一花に回収させたため残っている不明支給品はないつもりでした
ただこちらに関しては回収漏れという解釈は可能だとは思います


904 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/11(火) 01:40:12 lZhAodlA0
指摘ありがとうございます
どうやら腕の刃というので無意識に爪を想像してしまっていたみたいです。アマゾンズをしっかりと把握していないのに詳しい描写をしたのだ軽率でした。もうしわけありません
支給品に関しても状態表の確認を怠っていました。今回の話の中では特に無くても構わない要素なので、麻酔銃のくだりはカットします。
せっかく書き手の方直々の指摘なのでひとつだけ質問したいのですが、五月の支給品は中身だけ持っていったのでしょうか。リュックサックごと持っていったのでしょうか。
修正文を書くのは朝以降になるのですぐでなくてもいいのですが、それによって修正内容が変わるのでお答えいただけるとありがたいです。


905 : 名無しさん :2019/06/11(火) 03:55:40 cDLzhC.k0
投下乙です!
冒頭のカップ麺から戦闘、兄弟と兄妹の話、夜明けの余韻が残る別れ、すべてがハイレベルにまとまっていて最高に面白かったです
悠も東側にきて今後どうなるのかーー!


906 : ◆FTrPA9Zlak :2019/06/11(火) 19:19:29 u90ZTlaQ0
>>904
バッグを持っていったかどうかについてはこっちが細かく書かなかったこともありどちらでもいいと思いますが
もしこちらで決めた方がいいのであれば、バッグごと持っていった形の方が自然かなと思います


907 : ◆UdKZwyICZM :2019/06/11(火) 20:21:20 6m60ZbMs0
皆さま投下乙です
こちらも投下します


908 : 禁断の華を手折るのならば ◆UdKZwyICZM :2019/06/11(火) 20:22:52 6m60ZbMs0
動けなかった。
いや、動かなかった。
思いっきり叩きつけられて大きく息を吐き出しこそしたが、その程度で気を失うような鍛え方はしていない。
だから動こうと思えばすぐに動けたんだろうけれど、おれは立ち上がろうだなんて思えなかった。
みっともなく言い訳をしてしまうと、おれは姉ちゃんが怖かった。
だってあんなに怒った姉ちゃんは初めて見る。
だけど、それ以上におれは姉ちゃんがわからなかった。
姉ちゃんがそんなふうに怒ることが。
姉ちゃんがなんで怒っているのか。
姉ちゃんが何に怒っているのか。
姉ちゃんが言っていることが。
姉ちゃんに言われたことが。
おれにはてんでわからなかった。
姉ちゃんだって怒るときは怒る。
幼い頃受けた拷問、じゃなかった、躾を思い出してしまい身震いする。
その躾のときもそうだったけど、姉ちゃんが怒るときはなんというか、静かに怒るんだ。
さっきみたいに力まかせに捩じ伏せようとしたことは一度もなかった。
そもそも姉ちゃんにそんな力はなかった。
それがわからなくて。
それもわからなくて。
わからないことだらけの頭の中で姉ちゃんの言葉だけが残り続けてる。

「弱くなった」
「もう一度」
「今のあなた」

なんだよ。
まるで一度目があったみたいじゃないか。
強いおれに殺されたとでも言いたげじゃないか。
そんなこと、できるわけがないのに。
強くなることはできても、おれに姉ちゃんを殺せるはずがない。
姉ちゃんの強さはおれが一番よく知っている。
戦い続けられないという弱点なんて、反撃されても死なないやつしか突けない意味のない弱点だ。
そんなやついるわけがない。
もしそんなやつがいたら──いたら、どうしよう?
……やめだ、苦手なことをいつまでもやるもんじゃない。
いくら考えたところでおれにわかるわけがないのだ。
ただでさえ頭の悪いおれがこんなわからないことだらけの中で結論にたどり着けるはずもない。
だったら、いつまでも意味のないことをするわけにもいかないよな。
よし。
考えるのはやめだ。


909 : 禁断の華を手折るのならば ◆UdKZwyICZM :2019/06/11(火) 20:23:47 6m60ZbMs0
  ■   ■


姉ちゃんのことを考えるのはやめたとはいえ、とがめをどうやって取り戻すかは考えないといけない。
手っ取り早いのは姉ちゃんに言われた通りに強くなって正攻法で力ずく──できるのか、そんなこと?
錆白兵を倒すのだって島を出て4ヶ月もかかったというのに。
それもおれ一人の力だけじゃなくとがめの奇策あってやっと勝てた相手だ。
姉ちゃんに勝つにはとがめの奇策は絶対だ。
でもとがめの奇策を実行するには姉ちゃんからとがめを取り戻さないといけない。
仮にとがめが奇策を思いついていたところで姉ちゃんに気づかれずおれにだけ伝えるとか、無理だ。
つまり不可能ってことだ。
闇雲に姉ちゃんを追いかけたところで、今度こそおれが殺されておしまいだろう。
それくらいはおれにだってわかる。
となると、おれにできることは一つしかない。

おれを使う誰かを探す。
おれはとがめ以外の誰かに使われる。
とがめのために、とがめではない誰かに使われる。

とがめ以外がおれを十全に使えるなんて思っちゃいない。
おれを使いこなすことができるのはとがめだけ、そう信じてる。
だけど、こんな奇っ怪な催しに集められたからには多少はおれを使えるやつもいるんだろう。
例えば、おれの袋の中に入っていた「たぶれっと」とかいう光る板。
真っ暗闇の中では光りすぎて目立つから周りが明るくなってから確かめよう、と二人で決めたそれ。
おれには使い方の検討もつかないそれを、簡単に使いこなせるやつがいるんだろうな。
まあ、道具というのは使われてやっと価値を発揮できるものだ。
それはおれも同じことで、人を斬れない刀に存在価値などないように。
結局のところ、誰でもいいから誰かと出会わなければ状況は進展しないのだ。
獲物として切るにしても、得物として振るってもらうにしても。
んじゃまあそんなところでこんなところだ。
日も出てきたし、いいかげんどこかに向かう頃合いだろう。
山の方と病院とやらの方と、遠くからでも目を引くやたら高い塔と。
ざっくり三方向に候補をまとめたけど、どこに向かったところでおれにとっては大した違いはない。
色々御託は並べたが、正直なところ戦闘になってくれた方が楽だと思ってるくらいだ。
交渉なんて頭を使うこと、おれにできるはずないのに。
もしもそうなってしまったら、と思うとつい口にしてしまった。

「めんどうだ」

と。


【C-7/1日目・早朝】
【鑢七花@刀語】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、アンデルセンのタブレット@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜1(確認済)
[思考・状況]
基本方針:姉ちゃんからとがめを取り戻す。姉ちゃんから。あの姉ちゃんから……
1:おれの持ち主を探す。とがめ以外の、持ち主を。
2:山と病院と高い塔、どこに向かおう。
3:いっぱい考えて、疲れた。
4:姉ちゃん……
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前


【支給品紹介】

【アンデルセンのタブレット@Fate/Grand Order】
本人いわく「俺も物書きの端くれ、きっちり流行りものは押さえておくのさ」とのこと。
執筆用なので謎の光弾が出たりはしない。
何かしらのアプリはインストールされているようだが詳細は不明。


910 : ◆UdKZwyICZM :2019/06/11(火) 20:24:52 6m60ZbMs0
投下終了です
指摘感想等何かありましたらお願いします


911 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/11(火) 23:58:42 lZhAodlA0
投下乙です
>>906
返答ありがとうございます
修正した>>808の分を投下します


912 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/12(水) 00:00:52 FN26Tm2Q0
 PENTAGONの前には中野四葉と同じ顔の少女が死体となっていた。
 中野姉妹がPENTAGONで暮らしていたという話は四葉から聞いていた。殺しそこねた姉妹の誰かがここに行くのではないかと思いやってきたが。髪型や服装からしてこの少女で間違いない無そうだ。
 遠目に罠の類が無さそうなことを確認し、ジウは死体に近づいた。肩から胸にかけてが大きく裂けている。死因は明らかにこれだろう。
 かなり力任せに斬られている。刀の類では無い。刀であればこれだけ乱暴な振り方ではここまでは斬れない。創られた幕末で世界で新選組で過ごした数年間、斬殺死体は嫌というほど見てきたし、作ってもきた。それくらいのことはわかる。
 
(向こうの男を殺したのも同じやつか?)

 PENTAGONの壁に叩きつけれていた男の死体、傷の形は違うが力任せな感じは共通している。死体や周囲の血の乾き具合を見ても二人の死んだ時間にさほど差は無い。同じ人物に殺されたと見て間違いはないだろう。
 少女の死体の腰の辺りに僅かい赤い物が見える。ジウは仰向けに倒れていた死体をひっくり返した。
 予想通りだ。背中と腰の二箇所、地面に置かれたせいで掠れてはいるが血の跡が残っている。この位置と形は誰かが血の付いた両手で少女の身体を抱き上げた時に付くものだ。
 この少女はジウが殺し合いに乗ったことを知っている可能性がある。もしかしたら少女を抱き上げた誰かにもそのことを伝えているかもしれない。
 少女の身体の上には、向こうの男が壁に叩きつけられた時に飛んだと思しき破片が乗っていた。あの大きさの破片なら抱き上げられたなら落ちるはずだ。つまりまだ戦いが続いている最中に抱き上げられたということになる。たかが数時間前に知り合った人物ならそこまではしないだろう。やったのは少女の元からの知り合い――姉妹の誰かか、上杉風太郎だ。

(そいつはどこに行った?)

 死んでいる男は二十歳は越えているだろうから、高校生の上杉風太郎ではない。
 少女と男を殺したはずの殺人者の死体もないから、そいつ、またはそいつらは逃げたか撃退したかしたはずだ。
 逃げたのなら手がかりはないが、撃退したのならまだ生きている知り合いを中野家の部屋で待っている可能性がある。その場合そいつまたはそいつらはこの死体を作った殺人者を凌ぐ力を持っているということだ。
 近づくのは危険、だが放っておいたらジウの悪評が広まるかもしれない。生かしておく訳にはいかない。
 ジウはPENTAGONに入った。こういったマンションは本来出入り口がオートロックドアになっていて、中から開けてもらわないと入れないが、ドアは開けっ放しになっていた。
 部屋番号までは聞いていないが、受付などを調べればそれくらいはわかる。中野家の部屋は三十階にあるらしい。
 階段で登るには体力の消耗が馬鹿にならない階数だが、エレベーターを使えば自分の居場所がばれるリスクがある。
 ジウはひとつのエレベーターを無人のまま三十階へ向かわせ、自分は別のエレベーターに乗り込んだ。ドアの真横、外からの死角に身を潜める。
 三十階に到着してドアが開き、刀を触れる耐性ですぐさま飛び出した。が、誰もいない。ジウは息をついた。

(用心しすぎだったみたいだな)


913 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/12(水) 00:03:00 FN26Tm2Q0
それと修正版の状態表と書き忘れていた現在地です

【E-7/PENTAGON/1日目・早朝】

【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:健康
[装備]:千刀・『鎩』@刀語
[道具]:基本支給品一式、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW、ランダム支給品0〜1(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)
[思考・状況]
基本方針:しのを生き残らせる
1:しのを優勝させるために皆殺す
2:さっきの青い獣(千翼)は殺す
3:中野姉妹と上杉風太郎を殺す
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。


914 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/12(水) 10:59:32 ILr2qU5M0
すいません、>>835の予約から雅を外します


915 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:14:11 b3rbFPaY0
投下します


916 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:15:16 b3rbFPaY0

「ふむ、こんなところか」

今之川権三は、足元の穴倉を見ながらぽつりとひとりごちた。
宮本武蔵との交戦後、彼はひたすらに歩き回っていた。
あてもなく、というよりは拠点とすべき場所を探し回っていたのだ。
またあの千年男のような輩と出会った時、避難する場所があるのとないとではまるで違うからだ。
うろうろと探し回ること三十分ほどだろうか。

こじんまりとした洞穴を見つけた権三は中を検分。
異常がないと見るや、掌を地面に叩きつけた。

武蔵に斬られた八つ当たりではない。
権三は五指を立て、その先端から鉄の塊を発射する。
勢いをもったそれは、ある程度までは地面を削り停止した。
権三は構わず次弾を発射。
その弾は、先に削り停止していた弾に当たり、更に地面を掘り進めた。

「これだけ掘れれば...よっと」

権三は掌の下にある土くれを持ち上げひとつの穴を作り上げた。

「祭りのカタ抜きみたいだぞい。では...ぬんっ」

穴に向かって放つ拳。
大木すらもへし折るそのパワーで殴りつけられた土は容易く崩れ、穴は更に深さを増した。

「深さは3メートル弱...まあこんなものだぞい」

土をかきわけ入り口を広げ、出来た穴に権三は入り込む。
そして今度は足元ではなく胸板の高さに向けて拳を放った。

「地面が脆くてどんどん掘れる。楽チン楽チン」

ある程度掘れたところで、今度はトン、トン、と小さく跳躍。そして。

「フンッ!!」

膝を折り曲げ全力で跳びあがった。
常人ならばただ天井にぶつかって終わりだ。
だが、彼には鋼化の技がある。
鋼鉄と化した彼の身体が猛スピードでぶつかれば、砕けるのは天井の方だ。


917 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:15:57 b3rbFPaY0

天井を砕き、地盤を粉砕し、権三の頭が地上に出る。
キョロキョロと周囲を見回し誰もいないことを確認した権三は、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

「これぞ今之川式簡易防空壕...非常口もある親切設計だぞい」

我ながら頭がいいと権三は自賛する。

この洞穴ならば身を隠すことが出来るし、万が一の時はいま作った穴から脱出することもできる。
中が暗めというのもいい。まず外部から不意打ちされないし、中を伺う暢気な参加者に不意打ちをかますこともできる。
こんなものを1時間もしない内に作ってしまうなどやはり自分は偉大だと再び自賛した。

さて、再びジュースを探しに行こうかと穴からよじ登り地上へと出たその時だ。

ズドン。

突如、飛来した何かが権三の頭上を通り過ぎ、地面を抉り砂埃を巻き上げた。
権三は目を凝らす。落ちてきたものの正体を確かめるために。

―――ゾワリ

権三の背筋に怖気が走った。

(こ、これは...!?)

この感覚に権三は覚えがある。
忘れもしない。忘れることはできない。自尊心の塊である彼ですら認めざるをえない格上から発せられる威圧感だ。
では、落ちてきたモノの正体は―――

砂埃の先でゆらり、と影が蠢くのを合図にするかのように、権三は思わず口にした。

「せっ、千年男!!」


918 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:17:17 b3rbFPaY0

酷似していた。
あの男から発せられた不気味さに。恐ろしさに。
だから権三は咄嗟に臨戦態勢に入った。
が、敵からの攻撃はなく。

「いやはや驚いた。しっかり身体能力も向上しているとはね」

煙が晴れたその先にいたのは、千年男とは似ても似つかぬ風貌の、笑顔が特徴の優男だった。

「き、貴様だれぞい!」
「ん?きみも参加者かい?殴り飛ばされた先にいるなんてなんて偶然だろう。俺の名は童磨。君の名は?」
「ワ、ワシは今之川権三...いやそれよりも!貴様なぜあの千年男のような気配をしておる!?」
「千年男?そんなヤツ知り合いにいたかなぁ」

童磨は顎に手をやり数秒だけう〜んと唸ると、突如己のこめかみに指を突き刺した。
当てたのではない。頭蓋骨を貫通し、脳髄を弄くっているのだ。

「これでもないあれでもない...悪いね、俺は記憶力がいい方なんだけど、君の言う千年男とやらは見当たらなかったよ。俺はとても興味が湧いてきた。どんなヤツなのか教えてくれるかな?」

相も変らぬ笑みであっけらかんと喋る童磨に今之川権三は背筋が凍った。
脳髄とは生物における重要器官である。
如何に身体を強靭に鍛え上げようと、ここを破壊されれば間違いなく死に至る。
驚異的な再生能力と人智を超えた力を有す今之川権三がそうだったのだから間違いない。

だというのにこの男は、自ら平然と己の脳髄を掻き乱したのだ。
権三のように再生能力に自信があるとしてもだ。たかだか記憶を探るためだけに、己の身体に枷が嵌められているこの状況でなぜそんなことが出来る。
いや、そもそもそんなことで記憶を引きずり出せるのか?

(わからん...不気味すぎるぞい)

童磨の異様さに権三が呑まれかけていたその時だ。

ズンッ、と地響きが鳴り、第二の砂埃が舞い上がったのは。

「逃がさんぞ童磨。とはいえ殴り飛ばしたのは私だがな」

砂煙が晴れ、現れたのは女だった。
凛とした佇まいに長い黒髪、そして服からはち切れんばかりの豊満な胸部が特徴的な女だった。


919 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:18:24 b3rbFPaY0

「次から次へとなんだ貴様ら!」
「ん、参加者か。一刻も早くここから...いや、その服の返り血...なるほど。貴様は離れる必要は無いな。童磨共々考えを改めさせてやろう」
「ああん?なぜ貴様にそんなことを...っ!?」

権三は気がついた。
女の漂わせる気配に。
この女も、千年男に近い異様さを放っていることに。

(どういうことじゃ...あの千年男、こんなに子沢山だったのか?)

息子と娘にしては似ていないなとか、子供同士ならそもそもなぜ戦っているのかとか。
気になることは山ほどあったが、千年も生きていれば子供の一人や二人はいるだろうし、あの貧乏くさいツラからして教育現場もロクなものじゃないだろうという考えに至り、追求するのは止めた。
いまの彼にとって重要なのは、自分がこの状況でどう立ち回るかだ。

そんな権三を捨て置き、童磨と女は再び向かい合う。

「めだかちゃん。きみは凄いよ。今まで多くの人間を救ってきたけど、誰の手も借りず鬼に成る子は一人としていなかった。けれど、だからこそわかるだろう。この戦いが如何に不毛かは」
「不毛なことか。私の拳が、想いが、貴様の心に届けばそれでいい。それだけでも意味はある」
「う〜ん、イマイチ話が噛み合わないなぁ。もう少し続けてみるかい?」
「当然だ」

一瞬の沈黙―――そして。
パンッ、と空気が弾ける音がした。
かと思えば、童磨とめだかが正面から衝突し、拳を打ち付け合っていた。
繰出し交わされる拳の雨、蹴撃の嵐。
その速度は、超人たる権三をもってしても目で追うのがやっとだった。

(それだけではない...攻撃が部位を破壊するたびに互いに再生しあっておる。化け物じゃ)

くだけた拳も。裂かれた顎も。噴出す鮮血と臓物も。
互いが互いの攻撃を瞬時に再生し、その傍から破壊しあっている。
常人からしてみればこの異常で異様で凄惨な光景も、しかし権三は別の角度から見ていた。


920 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:19:24 b3rbFPaY0

(なるほど。あのドーマとかいうのの言う通り、確かに不毛じゃ)

どちらが強いか弱いか以前に、同じ能力と再生力を有しているならそもそも決着が着き様がない。
ただ、どちらが優勢かと問われれば―――

「うんうん。やはり先ほどまでとはレベルが違う。だいぶ力をモノにしてきたようだね」
(ドーマの方じゃな)

めだかは確かに『鬼』を観察し新たな力『鬼神モード』を手に入れた。
が、そもそも鬼とは人を食らうことで力を増していく。
いくら『鬼』を完成させたところで、その前提は変わらない。
人を大勢食らった童磨の『鬼』とめだかの『鬼』ではどうしても力の差が出てきてしまうのだ。

なにより、童磨はまだ力の全てを披露していない。
『血鬼術』―――鬼の本領を発揮する業を。


「『黒神スキップロープ』」

その血鬼術を、めだかは使用した。
めだかが腕を振るうのに僅かに遅れて、氷の蔦が背後から現れたのだ。
さしもの童磨もこれには驚き、動きが止まった隙を突かれ、蔦で顔面を叩かれた。

揺れる視界の中、童磨は思う。

やはり彼女は面白い、と。
ただ相手の模倣をするのではなく、その上で相手の能力を己のモノにする。
いまの血鬼術がいい例だ。
童磨はめだかとの戦いで血鬼術はまだ『蓮葉氷』しか見せていない。
しかし、彼女はその応用技をなんの前振りもなく使ってみせた。
ただの模倣では到底できない業だ。

(きみみたいな子は本当に初めてだ。改めて興味が湧いてきたよ)

ぐるん、と反れた上体を起こした童磨は笑う。
救う前に、もっと彼女を観察したい。彼女の限界を知り、己の糧にしたいと。


921 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:21:08 b3rbFPaY0


「めだかちゃん、俺は嬉しいよ!まさか俺の血鬼術まで自分のモノにするなんてさ!俺の術の使い心地はどうだい?気に入ってもらえたかな?」
「血鬼術。それがこの能力の名前か。ウム、応用はいくらでもきくし、中々どうして使い心地は悪くない。お姉さまの『凍る火柱(アイスファイア)』とてここまで氷の形を自在には操れんだろう」
「それはよかった。せっかく俺の能力を手に入れたのに肝心の血鬼術が馴染まなければ申し訳ないからね。そんなきみに俺からご褒美だ」

童磨が両掌に冷気を集め、己の前方に翳す。
するとどうだろうか。
童磨の姿かたちをした小さな氷像が出来上がったではないか。
それも一体ではない。五体もの氷像が童磨の前に並び立つ。

「血鬼術『結晶ノ御子』。この子は俺と同じくらいの強さの技出せるんだ。さ、遊んでおいで」

童磨の号令と共に、氷像たちは一斉に手の扇を振るい蓮葉氷を放つ。
めだかは両腕で目元だけは隠さぬように顔面を覆い、氷像たちを見据えつつ冷気に耐える。

「なるほど。確かに一体一体が貴様の攻撃となんら遜色がない。こういった手合いは分裂すれば弱体化するはずなのだがな。ならばこちらも」

めだかは冷気を吸い込まぬよう息を止め、目を瞑り呟く。



「『光化静翔(テーマソング) めだかスタイル』」



瞬間。
めだかが文字通り5体に増幅し、各々結晶ノ御子へと飛び掛る。

『光化静翔(テーマソング)』―――箱庭学園の英雄、日之影空洞の異常性『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』を不知火半袖が『正喰者(リアルイーター)』で喰い改めたスキル。
その性質は目にも映らぬ速さで光速の如く動き、且つ己はその衝撃を受けないというスピードに特化したスキルである。
めだかは、このスキルを観察しておきながら奥の手であるアコースティックバージョンを使うことができず。
光化静翔を参考にし、高速で突撃する『黒神ファントム』に取り入れるのが限度だった。
正史における獅子目言彦との戦いでも、アコースティックバージョンを使用する素振りさえみせなかったことから、光化静翔の使用難易度の高さが伺いしれるだろう。

では、光化静翔を使いこなしていた日之影空洞と完成させても使い切ることのできなかった黒神めだかとの違いは何か。

―――頑強さ。
サイズか。筋肉の質か。具体的なことはわからないが、違いがあるとすればそこだろう。
光化静翔により己への衝撃を無くすまでの負荷に耐え得る頑強さがあればこそ、日之影空洞は自由自在に光速で動けていたのだろう。

そんないまのめだかは、鬼神モードにより不死性のほかに身体能力及び頑強さも増している。
つまり。増幅したその全てが実体となるアコースティックバージョンにも耐え得る身体になったのだ。


922 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:22:14 b3rbFPaY0


「「「「「はああああああ!!」」」」」

結晶ノ御子の放つ冷気を突破し殴りかかる五人のめだか。
そのめだかを迎え撃つ結晶ノ御子たち。
それを見ていた権三は思った。
こいつらはわしの手には負えそうにないと。

再び、鬼と鬼の食らい合いが始まる。
先ほどの焼き直しか―――否。

(なるほど。どうやら彼女はなにもかもを模倣できるわけではないみたいだね)

殴りあうめだか達やこそこそと離れていく気配を他所に、本体の童磨は戦況を観察していた。


(彼女の能力の本質は"観察"だ。対象の技を観察し、その能力を昇華させる...所謂完成に近づける。だが、それにも制限がある)

童磨がそう判断したのは、結晶ノ御子に対して光化静翔で迎え撃ったことからだ。

(俺が産み出したものに対して、血鬼術まで使ってみせた彼女は己を分身させて迎え撃った。どう考えても非効率だ。
つまり彼女は結晶ノ御子を使えない。それが能力が故か性格が故かはわからないけれどね)

童磨の見解は的を得ていた。
めだかは例え結晶ノ御子までも完成させたとて、それを使うことはできないだろう。
黒神めだかは何事においてもまずは己の身を前線に置くことを考える。そんな彼女が、童磨のように分身を戦わせて自分は後ろで待機するなどできるはずもない。

(とはいえ、後々まで残しておくと大変なことになりそうだ)

童磨の危惧は、めだかをここで逃がすことで主へ負担をかけてしまう可能性だ。
彼女の能力を加味しても、己が負ける要素は現状はない。
だが、もうすぐ朝日が昇る頃合いだ。
もしも彼女を仕留め切れなければ、童磨はイヤでも退く他ない。
そうなれば他の参加者とめだかが遭遇を重ね、多種多様な能力を完成させることだろう。
そんな彼女と主が遭遇すればいらぬ手間をかけてしまう。

(そんなことになれば叱られてしまうからなあ。それ自体は構わないが、あの方が不機嫌になるのは申し訳が立たない。名残惜しいけど、ここまでかな)

黒神めだかへの興味は未だ尽きていない。
けれど、ここが殺し合いの場である以上、時間は有限だ。
黒神めだかの脱落は絶対ではあるが、主と自分はともかくとして、他の面子、特に女を殺せない猗窩座ではどれだけ相手をできることやら。
めだかの観察はまだ足りていないが、童磨はいまここでめだかを救うと決めた。

結晶ノ御子の相手をする一体のめだかに、童磨は飛び掛る。
どれが本物か、などは考えない。全てが実体である以上判別は難しく、悩むだけ時間が削がれてしまうからだ。
ならば全てに攻撃するだけだ。

童磨の掌がめだかの頭部に迫る。


923 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:23:42 b3rbFPaY0

「「隙だらけ」」「だぞい!!」

誰かと声が重なったと思った瞬間、童磨の足が掴まれ、力付くで後方へと投げ飛ばされた。
完全に虚を突かれた童磨は成す術もなく吹き飛ばされてしまった。
下手人は今之川権三。めだかと童磨が戦いながら移動してくるより前にこの場にいた男である。

(いくぞい、ここが正念場じゃ)

始めは、眼前の戦いの熾烈さから、ここは人知れずこっそりと退こうかと権三は考えていた。
しかしだ。
仮にここで逃げたとして、もし再び彼らのどちらかにでも遭遇すればどうなるか。
間違いなく戦う羽目になり、殺されてしまうことだろう。
権三は己の強さを自負しているが、しかし眼前の彼らに無策で勝てるとは思ってもいない。

ならば今後を見据え、ここで片方でも排除しておくべきだ。
そして排除するべきなのはというと。

(間違いなくドーマじゃ。この状況を見た限り、厄介なのは、千年男の気配が濃いコイツの方じゃ!ならばこそこやつはここで排除する!)

「小娘ぇ!」

権三が叫び、めだかは結晶ノ御子の相手をしながら耳を傾ける。

「その人形を全力で足止めせよ!あいつはわしがどうにかしてやる!」

めだかの同意を得る暇もなく、権三は駆け出す。童磨を投げ飛ばした穴倉へと。

「ま、待て...くっ」

めだかは権三を止めようとするも、結晶ノ御子の攻撃は未だ苛烈。
五人全員のめだかは、それぞれの相手を振り払えずにいた。

そして、権三が穴倉へと入った数十秒後だった。

地を鳴らすほどの爆発が起きたのは。


924 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:24:39 b3rbFPaY0



「いやはや参ったなぁ」

童磨は暗闇の中、一人ごちた。

「まさかあの彼にしてやられるとは」


それはほんの数分前の出来事だった。

穴倉へと投げられ、そういえば彼もいたなあと童磨が思ったその瞬間。

「喰らうがいい!」

入り口まで駆けつけた権三が、鞄から小さな球を取り出し地面にばら撒いたかと思えば、指先からなにかを発射し―――爆発は起きた。
童磨が観察する暇も無いあっという間の出来事だった。



その結果、童磨は閉じ込められた。
岩石や土砂で出口は崩れ、地面に空いていた穴でその身は埋れ。
現状、童磨は身体こそは治っているものの、身動きの取れない状態に陥っていた。

「あれが彼の術なのかな?それとも支給品かな?どちらにせよ興味深い」

ほとほと面白い催しだと童磨は思う。
めだかといいあの男といい、不可思議な能力は今後の戦いの参考にもなる。
そうしてどんどん腕を磨いていけば、主もきっと喜ぶだろう。

「しかしどうしたものかな。もうじき日が昇るころだし無理に出る必要はないけれども」

閉じ込められたといっても、鬼たる童磨にとっては大した問題ではない。
出口さえ開ければいいのだから、少しばかり時間をかければ脱出は容易だ。

ただ、出ようとしたところで日光を浴びて消滅などという目も当てられない結末には陥りたくはない。
とはいえ日が沈むまでここで待機というのもなんとも味がない。

はてさてどうしようか。わざとらしく顎に手をやりつつ、童磨は考え始めた。

程なくして、彼は顔を上げた。


「あれ?この気配...」


925 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:25:25 b3rbFPaY0




「ぶはあっ。中々スリリングだったぞい」

地面から顔を出した権三は、持ち前の筋力で残る土砂ごと跳び出し地上へと降り立った。
権三の戦略は至ってシンプルだ。
童磨が凄まじい再生能力を有しているなら、身動きをとれなくしてしまえばいい。
そのために、彼は1時間ほどかけてこつこつと作った穴倉を犠牲に童磨を閉じ込めた。
不利な状況で千年男(無惨)と出会った時の予行演習も兼ねてだ。

そしてその方法も至ってシンプル。
炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』を骨銃で撃ち抜き、その爆発で土砂と岩石で入り口を塞ぐというものだ。
ちなみに傍にいた権三が無事でいられたのは、爆発する寸前に緊急避難用の穴に飛び込んだからである。

(爆弾なぞジュースが飲めなくなるから邪魔だと思っていたが、こういった使い道ならアリだぞい)
「無事だったか、ええと...」

満足げに己の成果を眺める権三の背後にめだかは立ち、問いかける。
結晶ノ御子は、爆発の余波たる熱風で溶けたのか、既にその姿はなかった。

「わしの名前は今之川権三じゃ」
「権三か。貴様の助力には感謝しよう。だが、その服の血はどういうことか説明してもらおうか」

―――せっかく助けてやったのになんじゃその生意気な上から目線は!もっとわしを敬え!媚びへつらえ!へりくだれ!

そんな激情をぐっと堪え、権三は身体を震わせた。
ぷるぷると、まるで子犬のように。


926 : WORLD IS MINE ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:25:52 b3rbFPaY0

「う、うぅ...わしだって...あんなことはしたくなかったんじゃ...」

鼻をすする音とともに、権三の目には涙がたまり始める。
めだかは表情一つ変えず、権三の言葉に耳を傾ける。

「けど...あいつが...わしを殺そうとしたから仕方なく...うぅ...」

勿論演技であり嘘である。
彼がわざわざ危険を冒してまで童磨とめだかを引き剥がしたのは、彼女を味方に引き入れるためだ。
強さもそうなのだが、なにより彼女の再生能力に権三は目をつけた。
この殺し合いにおいて、権三が出会った一般人はセレモニーで爆死した少女を除けば石上ただ一人。
一般人だと思っていた工藤(永井)ですら、妙な能力を有していた。
他に出会った連中は皆、剣豪や千年生きた男に分身やら氷撃やらとなんでもありな荒唐無稽な面子だ。
もしも参加者の内に超人の割合が大きければ、それだけ権三のエネルギー源であるジュース...つまり血液を補給するにも手間がかかってしまう。
その為、できればジュースは大量にストックしておきたいと考えるのは自然の流れ。
そんな折に超速再生を有するめだかと出会えたのだ。
彼女を手なづければ、ジュースは確保できるし千年男のような猛者への盾にもできる。
つまりこの殺し合いにおいて優勝に最も近づけるということだ。

権三はチラ、とめだかへと視線を向ける。

―――どうじゃわしの懇親の演技は。同情しろ。感動しろ。そしてわしの僕となれ

そんな権三の期待に応え、めだかは―――遥か彼方を見据えていた。
懇親の演技を聞き流されたか。いや違う。
ただ聞き流している割には表情は硬く、冷や汗すら掻いていた。

「ああーん?」

めだかの視線が気になった権三は、彼女の視線を追った。

―――ソイツはじっと見据えていた。

その双眸は何者よりも冷たく。

暗い、暗い林の中から、じぃっと見据えていた。

ソイツの名は。

その邪悪の名は。

「せっ、千年男!!」

―――鬼舞辻無惨。


927 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:26:41 b3rbFPaY0



サク、サク、と枯葉を踏みしめる音が鳴る。

鬼舞辻無惨が、ゆったりとめだか達のもとへと歩み寄っているのだ。

権三はすぐに臨戦態勢をとる―――が、めだかは構わず。彼女もまた歩き出す。

さく、さく、さく。

互いの足が土を踏みしめる度に距離が近づいていく。

そんな彼らを、権三は固唾を飲み込み見つめて―――否、魅入っていた。

目を離してはならないと全細胞が告げる。そして彼らの間に割って入ってはならないと。

そして二人はピタリと足を止める。

その距離は、手を伸ばせば届くほどに。

二人は無言のまま互いに視線を交わらせる。


彼は思った/彼女は思った。

鬼と人の混ざった匂いがする/童磨以上に濃厚な血と死の匂いがする。

鬼でありながら澄んだ眼をしている/今まで会った誰よりも冷たく濁りきった眼をしている。

なぜこんなものがいる。ふざけるな!

鬼ならばなぜこの鬼舞辻無惨の下にいない/鬼だからとてここまで人の死を弄んでいい筈がない。

鬼は統べからく私に支配されていなければならない/貴様いったい何様だ。

こんな存在を許してはならない。故に。

貴様は、私が

消してやる/正してやる。


―――日が昇るまであと数分。

二人の間に交わす言葉は在らず。交わる道など在らず。

刹那。

暴風が、吹き荒れた。


928 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:27:28 b3rbFPaY0




勝負は一瞬だった。

先手を打ったのは、めだか。

拳を突き出し、無惨の腹部を狙う。

ドズリ、と鈍い音と共に無惨の腹にめだかの拳が刺さる。

瞬間。

無惨の爪がめだかの頬を裂き、肉を抉る。

めだかの頬に激痛が走るも、彼女の力は一切緩まず。

再び拳を突き出す。

が、無惨はその拳を掴み、グシャリと潰した。

飛び散る鮮血と肉片に、突き出した骨。
そのグロテスクな様相に微塵も怯まぬまま、めだかは頭部を逸らす。

頭突き。高速で放たれるソレが無惨の頭部目掛けて振り下ろされる。

が、寸前、腹部の衝撃と共に、めだかの身体が空へと打ち上げられる。

無惨の蹴り上げだ。

ごぽり、とめだかの口から大量の血が零れ落ちる。

その血液を浴びた無惨のこめかみに青筋が走る。

「私に穢れた血を浴びせるな。贋作が」

落ちてきためだかを掴み、二の腕がはち切れんほど筋肉が増大し、遥か彼方へとめだかを投げた。

木々をへし折り、岩石を砕き、未だ止まる気配なし。


929 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:28:04 b3rbFPaY0

(...時間だ)

飛ばされるめだかのもとに日光が照り始める。

鬼であるならば消える。それが宿命だ。無惨ですら抗えぬ宿命だ。
くるり、と踵を返し、元のルートへと引き返す。

(全くもって無駄足だった。妙な気配を感じたが、所詮は贋作。この程度か)

よくよく考えてみればだ。突如発生した珍種とはいえ、童磨に苦戦する程度の存在が、この鬼舞辻無惨を脅かすはずもない。
模倣品が本物を越えるはずもなし。
あんな出来損ないよりもいまは。

無惨はギョロリ、と権三へと視線を移す。

(運のイイ奴め。あと数歩前に出ていれば生け捕りにしてやったというのに)

権三の立つ場所には既に日光が差し込んでいる。何者よりも強い無惨が唯一適わぬ陽の光が。
権三がこちらへ来るのを期待しても無駄だろう。あの男は無惨の強さと恐ろしさを既に知り、現に一挙一動を必死に見逃さぬよう顔も強張り冷や汗も掻いている。
あの木偶に手出しが出来ないという状況に苛立ちが募るが、しかしだからといって我を忘れるほどの怒りではない。
無礼な贋作も始末したのだ。当面の目的は果たしたといってもいいだろう。

ああ、そういえば童磨のことを忘れていた。
気配が消えていないことから、死んでいないのはわかる。おそらく、あの土砂にでも埋もれているのだろう。
あんな木偶と贋作如きにしてやられたというのか。恥さらしめ。
どう折檻してやろうかと思ったが、しかし猗窩座と違い徒に構えばヘラヘラと笑みを零す男だ。
奴が出てくるのを待つのも時間が勿体無い。放置しておくのが一番の躾になるだろう。

無惨は、日光から逃れるため、暗い竹林へと足を早めた。


930 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:28:42 b3rbFPaY0








「―――黒神ファントム、鬼乙女版!!!」






世界が逆に回転した。

瞬きよりも一瞬だった。

衝撃と共に無惨の身体が吹き飛ばされた。

なにが起きたのか理解できなかった。当然だ。見ていないのだから。

だから、無惨が知りえたのは結果だけ。

「何故だ」

無惨が立っていた場所の周囲が荒れ果てていたこと。

「何故貴様がそこに立っている」

砂塵舞うその中心に凛とした影があったこと。

「答えろ紛い物!!」


その影の正体が、消滅したはずの黒神めだかであったこと。


931 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:29:13 b3rbFPaY0



「......」

めだかは竹林の先を見据えていた。
吹き飛ばされた無惨はそのまま姿を消した。
あの黒神ファントムとてトドメを刺せた訳ではないのはわかる。
それでも彼が出てこない理由もわかる。

鬼という生物は陽のもとを歩けない。

鬼と化しためだかは、太陽のもとに晒された瞬間、全身の細胞が太陽から逃げ出そうと拒絶するのを感じ取った。
ここに留まれば消えてしまうと。
めだかは細胞に従い逃げ出そうとする身体を押さえ込んだ。観察する為に。変化する為に。
そしてその上で細胞を体内で観察し、消えゆく細胞を消えない細胞に変容させた。
その結果、多少身体は溶けたものの、鬼でありながら陽のもとを歩ける身体を手に入れることができたのだ。

無論、これは全てを完成させるスキル『完成(ジ・エンド)』を有していれば誰でもできることではない。
反射神経の無いめだかだからこそできた荒業である。

そして、その荒業が祟り、めだかはガクリと膝をついた。
鬼神モードも解除され、本来の黒神めだかへと姿が戻る。

時間切れだ。重なる激戦で、疲労はピークに達したのだ。

(本来は鬼というものは疲労を感じない性質なのもわかるが...これも制限のひとつか)

できればあの男を追いたいし、ここで埋まっている童磨の救いも正したい。
だが、これ以上の戦闘は厳しいものがある。
一旦は身体を休めなければなるまい。


932 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:30:18 b3rbFPaY0

「小娘」

めだかの背後に立った権三が、見下ろしながら呼びかけた。

「貴様には話したいことがある。一旦ここを離れるぞい」
「...わかった」

権三はひょいとめだかを担ぎ、無惨とは逆の方角へと足を進めた。

(紛い物、か)

無惨の叫びがめだかの耳に木霊する。

(私は誰かの...人間の真似事ばかりしてきた。憧れるように。羨むように)

他人の役に立つ為に生まれてきた。
なるほど確かに聞こえのいい言葉だろう。
けれども。
その為に化け物は仲間を切り捨てた。人の役に立つために。
まるで擦り寄るように。媚を売るように。
そこまでして仲間に入れてほしいのか。そこまでして他人に好かれたいのか。

(自分を偽りご機嫌取りに媚びへつらう...そんな輩が好かれる筈も無い、か)

黒神めだかは人間が好きだ。それは今でも変わらない。
けれど。
鬼の真似事までして思い知らされる。
たとえなにを完成(おわ)らせようとも。
これまでの自分はどこまで行っても紛い物でしかないのだと。
人に憧れるだけの空しい化け物だと。

(だからかな...鬼になったというのに、こうも人を欲してしまうのは)

沈んだ気持ちとは裏腹に、ぐうぅ、とめだかの腹の音が暢気に鳴った。


933 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:30:52 b3rbFPaY0



(ウケケケケケ!棚から牡丹餅とはこのことだぞい!)

権三は内心で小躍りするほど歓喜していた。
めだかの強さはわかっていたつもりだった。
だが、まさかあの千年男を吹き飛ばせるほどの力を有していたとは。
千年男ともやりあえる強さにいくらでも戻れる再生能力。
自販機としてはこれ以上なく優秀な存在であろう。
不要になれば、首輪を爆発させるなり強者と相打ちさせるなりで消してしまえば良い。

そしてなによりあの千年男。
あの男は恐らく生きているのだろうが、まだ万全に近い自分ならばいざ知らず、こんな状態のめだかを殺すことなく去っていった。
慈悲からか?否、そんなものがあの男にないのは以前の戦闘でわかっている。
理由は、日光。
権三もめだかも、既に陽の光に晒されていた。
恐らくあの男は日光が苦手。前回、女王様のことをぼやかして話した時、太陽の下を歩けるのかと問いかけてきたのもそうだ。
手出しができなかったのは日光が原因だとしか思えなかった。

加えて、童磨のように氷を操るような技を見せなかったことから、恐らくあの男は遠距離攻撃が出来ない。
その点を考えれば、実力は童磨よりも上なのだろうが、厄介さは童磨の方が上だとも考えられる。

あれほど恐ろしい千年男にも弱点はある。
それが判明したのだから、もう気分は上々だった。

あとは、先ほどの演技を続け、話術で言いくるめ、めだかを味方に引き入れることが出来ればもう言う事はなしだ。

(追い風はわしに吹いておる。ZOI帝国誕生まであと少しだぞい!!)


934 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:31:26 b3rbFPaY0

【D-3/1日目・早朝】


【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]:疲労(絶大)、空腹。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:見知らぬ誰かの役に立つ、それは揺るがない。
1:まずは権三と話し見極める。
2:お腹がすいた
[備考]
※参戦時期は後継者編で善吉に敗れた直後。
※本当に鬼になったのかは不明ですが、それに類する不死性を獲得しています。
※いくつかのスキルに制限が加えられているようです。
※『光化静翔(テーマソング)』はアコースティックバージョン(5人まで)含め鬼神モードの時にのみ使用できますが、現状は時間切れで使用できません。
※鬼神モードを使用するとお腹が空くようです。


【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:疲労(小)気分は上々
[装備]:
[道具]:飲食物を除いだ基本支給品一式、炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』×20(残り10)
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。ひとまずは小娘を味方につける。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。でも日光が弱点くさいということは...チャンスだぞい!
3.他にもヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。


935 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:32:05 b3rbFPaY0



鬼舞辻無惨には怒りがあった。

黒神ファントムで負った怪我は既にほとんど再生している。
陽の光からは既に離れ、晒される危険性もほとんどない。

それでも尚、消えぬ怒りがあった。

気に入らない。
累のいる場所へのルートを曲げられてまでここまで歩かされたこと。
塁のいる場所へ向かうとすれば、これから山の中を迂回して南下しなければならないこと。
童磨が無様を晒していたこと。
以前逃げられた木偶に手出しができなかったこと。
満身創痍のめだかにトドメを刺せなかったこと。

それら全てが吹き飛ぶほどに、気に入らなかった。

―――何故、紛い物如きが太陽を克服する。

(私が産み出した鬼が見出したならばわかる。あの木偶のようにもとから鬼ではない者ならばわかる。だが、なぜ。なぜあんな紛い物が!)

例えばだが。
血鬼術が望んだものでなくとも、その鬼が新たに太陽を克服する方法を見出せば、それは望んだ答えだろう。
今之川権三を検分、あるいは取り込んだことで太陽を克服できればそれは鬼の進化ともいえるだろう。

だが。だがあの紛い物は。あろうことか鬼をそのまま模倣し、己の中で完結させ太陽を克服してみせた。

それは無惨が千年追い求めた結果のはずだった。
待ち望んでいた答えのはずだった。


936 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:33:25 b3rbFPaY0

なのに気に入らない。気に入るはずも無い。

だってそうだろう。

無惨の千年をかけた過程が。
鬼舞辻無惨という千年間が。

全くもって無意味だったと断ぜられたようなものなのだから。

(私が間違っていたのか、私はそんなことにも気づかず千年もさ迷い続けた阿呆か。違う違う違う違う、私は限りなく完璧に近い生物だ。私の言うことは全て正しい。私は何も間違えない)

そう思えば思うほど、己の所業が滑稽に映り、黒神めだかという『答え』が色濃く浮かび上がってくる。


―――こんな逸話がある。

かつて黒神めだかの父の友人だという数学者が相談を持ちかけた。

それを聞いた彼女は張り切って彼の抱える問題を解いてあげた。

その直後、彼は己の努力と必死の頑張りの無意味さに打ちのめされ、勤め先に辞表を出したという。

数学者のことだけではない。黒神めだかという存在は、多くの大人の人生を挫折させ終わらせてきた。




鬼舞辻無惨。この異端溢れる会場においても長寿である彼は、初めて生の意味という壁に晒されていた。


【D-4/山中/1日目・早朝】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮 完成者への苛立ちと怒り
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。ひとまずは塁と接触したい。
3.黒神めだかへの絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。


937 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:34:09 b3rbFPaY0


「悲しいなあ。俺はずっとここにいたのに誰も相手にしてくれないなんて」

土砂から脱した彼は、辺りをキョロキョロと見回し周囲の気配を探ったが誰の気配も見つからない。
そんな童磨の顔は、悲しいと言いつつもあいも変わらずの笑顔だった。

「いやはや、しかし久しぶりに太陽を見るなあ。前回見たのは何時だったかな」

童磨は空を見上げながら呟いた。
そう。彼は鬼でありながらも太陽の下を歩いていた。

何故か。その答えは、彼の身を纏う氷の鎧だった。

結晶ノ御子に土砂をどかさせ出口を作っている間、彼は考えていた。
出口を作ったとしてどうしようかと。
太陽は既に昇っている頃合だ。いまここを開けてしまえば陽の光は容赦なく差し込むだろう。
ならば太陽が沈むまで待つか?しかしそれでは時間も勿体無い。

「ああ、そうだ。いいことを思いついた」

ポン、と両手を叩いた。

「おーい、みんなおいで」

あと少しで出口が開ける段階で、結晶ノ御子たちにそう合図し、己の身体に纏わりつかせる。

ピキピキと御子たちはその身を氷に変え、童磨の身を覆っていく。

氷が身を包み終わるのを見届け、童磨は最後の一押しで土砂を押した。

差し込む光。晒される童磨の腕。

消滅は―――しなかった。


938 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:34:31 b3rbFPaY0

童磨は考えた。
鬼は太陽の光に当たってはならない。
ならば。
光が身体に当たらなければいい。

思いついたキッカケは、めだかの光化静翔だった。
本当の光ではない。だが、彼女は光速で動きながらも、その動作はあくまでも直線だった。
光は直線。
それを認識した童磨は、氷の表面を利用することで光を屈折させ、光が己の身体に届くのを防いだのだ。

無論、長時間の維持はできないが、数十秒程度あれば土砂から脱出し、日陰に避難することは容易い。

(やっぱり情報はいいね。あればあるだけ応用を利かせられる)

童磨は弱者に対しては、すぐに決着を着けるのではなく、なるべく時間を割くようにしている。
それは上弦の鬼であるが故の自尊心だけではない。
可能な限り相手の技や戦い方を引き出し、情報を入手し今後の戦いの糧にするためだ。

そして今回の脱出方法もそう。
土くれを氷でつけ、それを身に纏うことで太陽光を遮断する方法も考えてはいた。
しかし、これから先も似たような場面に晒されたとき、都合よく土くれのようなものがあるとは限らない。
そんな時頼れるのは、やはり己の技である氷だ。

その為、ある程度のリスクを承知で、彼は氷による光の屈折を試したのだ。

飄々と振舞いながらも根底では合理的。それが童磨という上弦の弐だった。

「せっかく近くにいらっしゃるのだから、無惨様のもとに馳せ参じたいが、失態を晒してしまった俺を見て機嫌を損ねられてしまわれるのは申し訳が立たない。
やはりなにか手土産を持っていくべきだろう。となればやはりめだかちゃんかな。しかし彼女がどこに向かったかもわからないかならなあ、どうしたものか」

足跡を追おうにも、ここまで荒れ果てては足跡はさっぱり掴めない。

とにかくもうすぐ流れるという放送でも聞こうか。

童磨は、近場の影に身を隠し、もたらされる情報へと耳を傾けた。


939 : WORLD IS MINE(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:35:33 b3rbFPaY0

【D-3/蜘蛛山の麓/1日目・早朝】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、炎刀『銃』@刀語
[思考・状況]
基本方針:いつも通り。救うために喰う。
0:さて、俺はどうしようか
1:無残様がいらっしゃったのかな?声をかけてくださればよかったのに。
2:"普通ではない血"の持ち主に興味。
3:猗窩座殿、下弦の彼……はてさて誰に会えるかな?
[備考]
※参戦時期は少なくともしのぶ戦前。
※不死性が弱体化しています。日輪刀を使わずとも、頸を斬れれば殺せるでしょう。
※氷のスーツを纏い、一時的に太陽から逃れる術を見出しました。長時間の移動は不可能です。
※結晶ノ御子は現状は5体が限界です。


940 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/13(木) 00:36:00 b3rbFPaY0
投下終了です


941 : ◆7WJp/yel/Y :2019/06/13(木) 03:54:44 swCDC8mA0
投下お疲れ様です。
ひとまずは予約を失礼します。
姐切ななせ、前園甲士、工藤仁で予約します。


942 : ◆Yd1CemYSRs :2019/06/13(木) 20:37:39 vKq.gpYU0
投下乙です。まさかのめだかちゃんと権三のタッグ。そんな軽いノリで組んで良い相手じゃないんだよなぁ(生徒会長が)
上司の無惨様より厄介とされた童磨、上司の基本方針が「太陽を克服する」なのに部下が克服してるの見たら理不尽にキレそうですね…

それとご連絡、トリップが変わっていますが>>156の◆ykxSdgXaYcです
現在地確認用の地図を作りましたので宜しければお試しください
ttp://linoit.com/users/martian2173/canvases/%E7%9C%9F%E5%AE%9F%E3%83%AD%E3%83%AF
一応投下があれば2,3日中には更新するようにしています


943 : ◆OLR6O6xahk :2019/06/13(木) 20:51:59 tUOFxrII0
◆Yd1CemYSRs氏お疲れ様です
自分も投下します


944 : 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? ◆OLR6O6xahk :2019/06/13(木) 20:54:59 tUOFxrII0

教会での戦闘後、一度死亡し血を拭った後、再びゾルダに変身した佐藤はIBMと共に会場を歩いていた。


(やっぱり変身してる時に出す黒い幽霊はいつものより量も濃さも違うねぇ)


身体能力が大幅に強化された自分にもぴったりとついてくる、黒い幽鬼を確認して佐藤は確信めいた思いを抱く。
彼が黒い幽霊と呼ぶ物質――IBMは通常一日に二体ほど、それも十分余りしか出すことができない。
しかし、佐藤がこの会場に来てからIBMを出すのはこれで三度を数え、既に出現から12分が経過している。

一度目は教会での戦闘、二度目と三度目はこの数時間のうちに実験的に出現させた。
先の戦いを受け、佐藤はライダーに変身しているときはIBMも強化の恩恵を受けられるのでは、という仮説を立てたためだ。
そして実験の結果、仮説は見事に証明された。

変身中に出現したIBMの粒子は濃度も量も圧倒的に違う。
一時的とはいえその上昇ぶりは亜人の中でも例外とされ、一日に十体近くのIBMの出現が可能な永井圭に迫るほどだ。
もしかすれば、フラッド現象とかいう現象が変身時には起きているのかもしれない。
亜人に関わる要人を暗殺していた頃に目にした資料の一文を思い出しながら(と言っても内容は殆ど覚えていないが)佐藤は一人で勝手に納得する。


結果的に成功したが、もしこの仮説が外れていれば切り札を空手で失う所だったのにも関わらず佐藤に躊躇はなかった。
彼にとってIBMがたとえ使えなくなっても多少ゲーム難易度が上がるだけ。
それほどまでに佐藤の戦闘力は亜人の中でも群を抜いているのだから。
温和な見た目に隠された狡猾さ、戦闘の経験値、殺戮に対する躊躇のなさ、どれをとっても佐藤に並ぶ亜人は存在しない。


「ここには亜人以外にも人間離れした人がいるみたいだし…暫くは退屈を忘れられそうだね」


佐藤は自他ともに認める冷めやすい性格だ。
だからきっと、この場にいるのが唯の人間だけならばデッキを捨てていただろう。
余りにも実力差が付きすぎて、ゲームからただの作業に変わってしまうためだ。
それはスリルを求める佐藤にとって一番つまらない事態だった。

だが、ここには亜人以外にも人を超越した存在がいる。
あのバレリーナの少女も、全身に入れ墨をした男も、IBMすら遥かに超える能力を有していた。
あの二人だけではなくきっとまだ他にも彼らの様な強者がいるのだろう。
そうでなくてはつまらない。


「おっ…ははぁ、あれが地図に載ってるPENTAGONかな?
成程、名前負けしない立派なマンションだ」


地図と彼方に聳え立つマンションを見比べて、得心が言ったように佐藤は頷く。
同時に、浮かんでくるのは一つの考え。
自分の持つ打ち上げ花火を、あのマンションに向けて撃てばどうなるだろうか。
教会を破壊しつくし瓦礫の山へと変えた異能の火力は果たしてあのマンションに通じるのか。
ビルを破壊すること事態はグラント製薬の本社ビルで経験済みだし、自身の計画する日本政府転覆の最終フェーズは更にスケールの大きい物だが、この殺し合いでもやってみようと思い立った。


945 : 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? ◆OLR6O6xahk :2019/06/13(木) 20:55:39 tUOFxrII0


「うん、いいね。あれだけ目立つ建物に向けて撃てばきっと大勢人がやってくるだろう
それならさっき聞こえてきた声の場所に行くより面白くなりそうだ」


想起するのはしばし前、実験のためライダーに変身しIBMを再び出現させていた頃に聞こえてきた何某かの人物の叫び声だ。
拡声器でも使ったのだろう、そうでなければいくらライダーの聴覚強化といえど山向こうから人の声が聞こえてくるはずがない。
一度は声に釣られて集まってくるであろう者たちと戦うために其方へ向かおうかと思った佐藤だが、結局は山一つ隔てた距離の前に断念した。

予想される声の発生した地点と彼の位置は前述の通り山一つ隔てており、向かうには登山するか長い距離を迂回するしかない。
整備されていない山道ではライダーの身体能力の補助を加味しても進軍速度は落ちるため、着いた時には何もかも終わっている可能性すらあった。
故に地図上でペンタゴンという一見しただけでは何の施設かわからない場所に興味を惹かれ目指したのだが、その選択は正しかったらしい。


「お祭りに乗るよりお祭りを起こす方が性に合ってるからねぇ……ん?」


そうして撃ち込むならどの地点がいいかと微笑みながらペンタゴンを見上げていると、その方角から何かが飛んで来るのが見えた。
ライダーの視力補助と丁度PENTAGONを注視していた偶然がなければ気が付かなかっただろう。


(あれは…彼もライダー…なのかな?)


仮面の下の目を凝らし、こちらの方角へ飛んで来る飛行物体を検分する。
蝙蝠の様な輪郭を持った怪物に掴まれて飛行する自分と似た赤の鎧は夜の空にもよく見てとれた。
そのライダーと思わしき人物のみならず、他にも何人かいるようだ。
そこまで把握したところで蝙蝠の怪物は急速に降下していき、佐藤の視界から消える。
おおまかな降下地点までの距離は丸々1エリア分といった所か。
変身を解除しながら、少し一考する。

「…もう一度打ち上げ花火のデリバリーをしてからいくのも悪くないかな。まぁのんびり行こう」


仕事前にふと見つけた喫茶店に寄ろうとするサラリーマンの様な気まぐれを胸に抱きながら、再び不死身の怪物は歩き出す。
新たな戦乱、新たな闘争への期待に胸を膨らませて。
まだまだこの世界は、彼を飽きさせることはない。


(…そういえば、あれだけ立派なマンションなら住んでる人も此処にいるかもしれないね)


いればいいな、と独り言ちる。
誰かにとっての日常の象徴を、是非自分の持つ花火で明るく彩ってあげよう。
世界の終わりの名を冠した、紅蓮の花火で。

佐藤は背後で追従する黒い幽霊を一瞥し、言葉を駆ける。
それに呼応して、消えながら幽霊も言葉を返した。


「いくぜ、タブス」
「ああ、ソニー」


「PENTAGON爆破セレモニーだ」

【E-5/1日目・黎明】

【佐藤@亜人】
[状態]:健康
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、日本刀@現実
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.PENTAGONが勝つか、花火が勝つか、実験だよ実験。
2. 飛んでいたライダーに興味。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。
※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。
※飛行中の龍騎の姿を確認しました。


946 : ◆OLR6O6xahk :2019/06/13(木) 20:56:51 tUOFxrII0
投下終了です


947 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/17(月) 23:13:30 JuK9T0Bo0
メルトリリス、上田次郎、酒呑童子で予約します。感想はもう少しお待ちください。


948 : ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:05:05 p84tq6tE0
投下させていただきます


949 : FILE02「海面観測!巨大な人影」 ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:05:48 p84tq6tE0


『鬼』の語源は『隠』である。


すなわち、この世から隠れた不可思議な存在を指す。
ふと、背中がぞわぞわして振り返ってみるが、そこにはなにもない。
確かな不快感だけが残されるその空間は、すなわち鬼が通った後なのだ。
そこにあるはずのないのに、そこにあるもの。
此方と彼方の狭間に隠れている異形、それこそが鬼。
光の中では見つめることが出来ない存在だ。
実際に、漢字の本家本元である中国では、現代でも『鬼』を直訳するならば、『幽霊』というニュアンスに近くなる。
ゴーストタウンのことを中国で『鬼城』と呼ぶことを考えると、イメージしやすいだろう。

さて、そんな『鬼』がなぜ人を喰う凶悪で残忍な怪物、北欧で伝承される『オーガ』とよく近いイメージへと変換したのだろうか。
答えは簡単だ。

――――鬼は、実際に存在したからだ。

幽霊でもない。
勘違いでもない。
人を喰らい、嘲笑い、踏みにじる恐ろしく憎むべき鬼が実際に存在したからだ。
それは、かの英傑である四道将軍の一、日の本一の兵、飛鳥の世の軍神、吉備津彦命の時代よりも、後のこと。
かの軍神の時代においても鬼とは、現在のオーガによく似たニュアンスを持つ言葉ではなかった。
恐るべき悪鬼、その真実の根幹。
それは平安の世のこと、ある一人の男が『鬼』として新生したからだ。
遡るのだ。
まるでその男とその派生のような恐るべき鬼の悪行が、それ以前の悪しき存在に『鬼』と呼ばれるようになったのだ。
そう、時間とは不可逆的なものではない。
海に巣立った鮭が、やがて川を昇るように。
未来とは、時間とは遡って過去に影響を与えるのだ。

鬼舞辻無惨。

人を犯す病原体。
歴史を犯す蹂躙者。
闇を犯す寄生虫。
闇の奥に鬼がいるのではない、陽の陰に鬼がいるのだ。
人を安らぎの眠りに誘っていた闇を、鬼舞辻無惨は犯したのだ。
その男の誕生から、闇とは人を包み込むものではなく、呑み込むものへと変貌したのだ。


950 : FILE02「海面観測!巨大な人影」 ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:06:48 p84tq6tE0

「鬼ってのはなぁ、そら、昔から日本のそこら中にいるんだよ」

そんな鬼舞辻無惨の悍ましい影響が、三人の道中にも大きく影響していた。
工藤仁。
前園甲士。
姐切ななせ。
背格好も社会的地位もまるで交わらない三人が、なんの因果か道を共にしていた。
工藤の言葉が続く。

「桃太郎にだって鬼が出てくるし、平安時代だって鬼退治のエピソードがいっぱいだ。
 江戸時代にゃ人を喰う『鬼』が怪談として溢れかえってた」
「今だって鬼が溢れてますね。子供を殺す鬼、部下を殺す鬼、老いた親を殺す鬼……人の所業は恐ろしいというべきですかね」
「おいおい、前園さんよぉ……そういう『鬼』を混ぜるんじゃねえよ!」

前園の、ニュースに溢れかえる悲惨で恐ろしい人間の事件を『鬼』と例えた言葉に、工藤は鋭い言葉で否定する。
そういう意図ではないのだ。
それは比喩表現としての鬼だ。
工藤が言いたいのは、そういうことではない。

「俺たちコワすぎスタッフが『鬼』って言ったらなぁ、マジモンの『鬼』なんだよ!
 そこに『たとえ話の鬼』を混ぜたら視聴者が混乱するんだ!」
「はぁ……」
「アンタ、信じてねえなぁ!?」

前園のあっけに取られたような顔に対して、工藤はさらにヒートアップする。
世間にはドッキリとかギャグみたいな心霊番組があるが、と前置きをして、言葉が続いた。

「俺たち、『戦慄怪奇ファイル・コワすぎ』の映像だけはなぁ、『ガチ』なんだよ!
 『ガチ』の映像を売ってんだ!
 嘘だけはつかねえ、それがポリシーだ!
 『ガチ』の映像だから、視聴者は俺達の作品を買ってくれ……って、おい!」

そんななか、工藤はふと視界に映った姐切へと声を投げかける。
正確には、ステルスドローンを手持ち無沙汰に、しかし、焦ったように軽く小突いている姐切を。

「おら、姐切! カメラ回してんだぞ!」
「うるさいねぇ! 回してたらなんか問題あんのかよ!」
「んだとぉ!? てめえ、今の状況がわかってんのか!」

売り言葉に買い言葉というのだろうか。
ただでさえ、愛月しのの生死がはっきりとしない中で、なんとか『理屈』によって押し留めている『感情』が刺激されたのだ。
その言葉に、工藤はまた声を荒げる。

「謎の女に強制される殺し合いで、そこに現れた『鬼』!
 馬鹿みたいで作り物みたいな話だけどなぁ、今はマジの現実だ!
 俺はこいつを撮ると決めた!
 『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!SPECIAL FILE:恐怖・人食い鬼の恐怖!(仮)』だ!」
「恐怖が二重になってますね」
「作品名は後から考えるから仮だ、仮!」

こいつは売れるぞぉ、と口元を歪める。
その姿を見た姐切は、カッ、と頭に血が昇った。
妙に性能の良いステルスドローンは、強烈な反応を見せた姐切へとカメラを向ける。
ドローンが姐切の顔にカメラを映した瞬間、姐切は工藤へと殴りかかった。


951 : FILE02「海面観測!巨大な人影」 ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:07:10 p84tq6tE0

「おい、おっさん、ふざけてんじゃないよ!」
「んだ、クソガキぃ!」
「人が死んでんだぞ! おまけに、こっちは友達が今にも死んじまうかもしれない状況なんだ!
 それを言うにことかいて、『売れる』だぁ?」

プルプルと拳を震わせる。
怒りが姐切を支配していた。

「ああ、アタイが教えてやるよ!
 テメエみたいなやつをなぁ、『鬼』っていうんだよ!
 このクソ野郎が!
 テメエも鬼なら、さっさとそこのメガネの言う鬼と殺し合ってきやがれ!」

激情のままだった。
強く拳を握りしめたまま、工藤と向き合っている姐切。
工藤もまた怒りに顔を染めていたが、その言葉に、すっと視線を落とした。

「ちっ……うっせえ、ちょっと言い方が悪かっただけだ」
「そんな言葉で済まされると――――!」
「『映像』ってのはなぁ!」

今度は、工藤が激情を示す番だった。
工藤の中にある強い何かが、姐切に誤解されることを我慢出来なかったのだ。

「『映像』ってのはなぁ、『証拠』なんだよ!
 その光景がそこにあったっていう『証拠』なんだ!
 俺たちはガチだ、合成なんてしねえ!
 だから、俺が関わったカメラに映る『光景』は、全部が『本物』なんだ!
 それが『証拠』になる時が来る、何かの『証拠』になるんだ!
 俺は……そりゃ売りたい! 生活だってあるし、誰もが金を払ってでも見たい映像ってのを作りたい!
 それでもな、こんなことがあったんだっていう『証拠』になるんだ!
 知らなかったことを知るための『証拠』なんだ!」

だから、撮る。
工藤はそう言った。
その映像に映ったものが、誰かのためになるときがあるかもしれない、と。
姐切は怒りが収まったわけではないが、この最低の人間にはそれでも人間性というものがあることを知った。
不承不承、姐切は握りしめた拳を開く。
カメラが動き、今度は工藤の顔へと向けられる。
そこには頬が腫れている工藤が映っていた。

「でも、一発は一発だ」
「ってぇ!?」

工藤の拳骨が姐切の頭頂部に降ろされる。
姐切は再び怒りに顔を染めるが、しかし、今度は強く睨むだけで終わった。


952 : FILE02「海面観測!巨大な人影」 ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:07:35 p84tq6tE0

(……くだらない)

その光景を間近で見ていた前園は、心の中でため息をついた。
前園の中での二人の評価は、『騒がしいだけの中年とガキ』に過ぎない。

――――存在しないものは存在しない。

当然の理論だ。
そこに対して情熱を向けるのは非常に馬鹿らしく無駄の極み。
そして、確かにこの映像は非常に衝撃的だ。
金儲けに結びつけるのはそれほどおかしなことではない。
人が死亡する映像に嫌悪感があるのは理解できるが、それでも考えてもおかしくはないことだと、少なくとも前園は思う。
そこに対して強い不快感と怒りをぶつけるのは、なんともまあお上品なことでと言ったところか。
しかし、利用価値はある。

「ただ歩いているだけではあまり成果を得られそうではないですね」
「まあ……誰にも会えてないからな」

そう、ゆっくりとではあるが歩き続けてみても、それらしい『超人』は愚か人っ子一人見当たらない状況だ。
何をするにしても、何のきっかけもないため、何も出来ない。

「おい、姐切、変なの見かけたらすぐに言えよ」
「変なやつもなにも、人が居ないんじゃ話にならないよ」
「変な『モノ』でもいいから見つけろ。
 変なものはネタになるんだよ。
 一年中彼岸花が咲く島ってのを知ってるか?」
「はぁ?」
「その島は一年中彼岸花が咲く島なんだよ。年がら年中、あの花が咲いてんだ」
「彼岸花が一年中咲くわけがないだろ」

頭にお花畑が咲いてんのかい?
明らかに馬鹿にしたような言葉を口にする姐切だが、工藤の目は真剣そのものだ。

「おかしなことってのはどっかにあるんだよ。
 それが人為的なものかどうか、あるいは、怪異かどうか。
 そんなのは後からわかる、俺たちに大事なのはなぁ、見逃せねえことだよ!」

彼岸花とは秋の彼岸、すなわち秋分の日の時期に短く咲き誇る花。
古くは中国より渡ってきた、水田などのあぜ道に植え付けてネズミなどの害獣、害虫を殺すための有毒性の強い花だ。
また、その咲き誇る姿の妖しさから、『あの世』と『この世』の彼岸に咲く花とも称される。

(……なるほど、いかにもオカルトマニアの好きそうなネタだ)

すなわち、一年中彼岸花の咲く島は、さながらこの世に顕現してしまった地獄。
あの世と繋がってしまった場所のことなのだろう。

(しかし、火のないところに煙は立たない……)

公安である前園には理解できた。
彼岸花はなにかの副産物。
そこで妖しい実験をしていたものがある。
あやふやでふわふわした憶測だが、そういうこともあると考える。
すなわち、『人の手が加わっていた異常』が、オカルトとして捉えられたという結論だ。


953 : FILE02「海面観測!巨大な人影」 ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:08:25 p84tq6tE0

「……ん?」

前園は、ふと気になった。
海に面した民家の並びから、その奥に見えるもの。
闇の中でよく見えなかったが、うっすらと、本当にうっすらとだが。
なにか、人の姿のようなものが見えた。

いや、それは見間違いだろう。
だって、もしもそれが人影だとしたら。
いくら、周りに対象となるものがなくとも。

それは、『おおよそ数十メートルを超える巨人』の影となる。

だから、見間違いに決まっている。
だが、前園はこうも考えていた。
存在しないものは、存在しない。
じゃあ、もしも。
存在しないものを、認識してしまったのなら。

『鬼』がいる。
明確と存在する『鬼』に隠れた、『隠』がそこにいる。
少なくとも、巨人の人影を認識してしまった前園がいる。
それは、『世界の隙間』になる。
ここに存在しないものが介入しえる隙間になってしまうのだ。

『鬼神兵』。

それは窓。
それは扉。
ここではないどこにつながる、人の形をした門。
それに関わっていた工藤がいる。
工藤は、覚えているだろうか。
震える幽霊。
『先生』と呼ばれる謎の怪人物と関わっていた、真野夕子という女のことを。
旧陸軍が、国に強さをもたらすために彼岸島の雅を生み出したように。
この世のものではないものを呼び出すための恐るべき霊的侵略兵器。

その事件の前に関わった、今、まさに工藤が持つ髪の束の元の主のことを。

口裂け女。
怪談として、ギリシャ神話における怪物ゴルゴーン三姉妹と酷似した逸話を持つ現代の妖怪。
その女は何者だっただろうか。
はっきりしていることは、いくつかある。
呪術師である犬井の弟と深い仲であったこと。
その弟が不審死を遂げたこと。
口裂け女もまた、鬼神兵と同じく異界に通じる存在であったこと。
すなわち、この世界ではないどこかに通じるものであること。
関わってはいけないものが、関わってはいけないものと、関わっていること。


――――そして、我々が知っていることが正しいとは、限らないこと。


それだけが、はっきりとしている。


954 : FILE02「海面観測!巨大な人影」 ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:08:40 p84tq6tE0


【D-1・民家/1日目・早朝】

【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、ステルスドローン@ナノハザード、口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:脱出はするが、「コワすぎ」も撮るに決まってんだろ
1:化け物(禰豆子)にマッチアップする別の化け物を探す
2:ステルスドローンを回して撮影する
[備考]
※参戦時期は「コワすぎ! 史上最恐の劇場版」開始前。タタリ村へ乗り込む準備中

【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜4、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
    人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
2:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。

【姐切ななせ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:脱出する
1:とりあえずは工藤・前園と行動する
[備考]
※参戦時期は少なくともキスデスター編より後


955 : ◆7WJp/yel/Y :2019/06/19(水) 04:08:53 p84tq6tE0
投下終了です


956 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/20(木) 15:33:07 M2bEc9Y20
感想です

>鬼は泥を見た。鬼は星を見た。
怒りまくってるけど怒りに任せての迂闊な行動はせず、状況を慎重に把握している無惨様の臆病者ポイントが高い。とはいえ、流石に権蔵から出会い頭に自販機扱いされればそりゃブチギレますよね。その後は権蔵を力で圧倒するあたり、流石鬼の頂点といったところでしょうか。日の光を恐れる必要がない異能に興味を持っているけど、それのせいで世界は滅んでいるんですよ、無惨様……。
投下ありがとうございました。

>泥の水面
かぐや様を後ろから眺めている冨岡さんの姿が完全に不審者で笑ってしまう。しかし本人にとっては大真面目でやってることなのだからなんだかタチが悪いっすね。それにしても巌窟王に冨岡さんという参加者の中でも屈指の実力者がそばにいるかぐや様は幸運ですね。いや、友達が最初に死んでる時点でそうとも言えないのですが。
投下ありがとうございました。

>その鼓動は恋のように
とにかく文章が美しいというのが真っ先に浮かんでくる感想でして、そんな文章で描かれるふたりの出会いのシーンが印象的。あるいは運命的とも言えましょう。序盤はめちゃめちゃシリアスな雰囲気だったのにメルトの格好にツッコミが入り出してからかぐや様のギャグ回のノリになっていて笑わされますね。そしてメルトは何やら抱えている事情があるようですが、はたして……? 今後が気になりますね。
投下ありがとうございました。

>あの日に見た明日を捨てきれない
ハイローの原作再現がパーペキな格好良さ。同じswordの頭でありながら原作のように手を組むことなく対立してしまうことになったふたりが悲しい。この話で特に好きなのがスモーキーの変身シーンでして、「だったら、お前は助からない――――!」「―――『変身』ッ!!」の格好良さは異常ですね。平成ライダーにこんな決め台詞のキャラクターがいた気がするぐらいです。
投下ありがとうございました。

>Open Your Eyes For The Next AMAZONZ
アマゾンズ本編の方では多くのキャラクターに苦戦を強いたクラゲアマゾンですが、そんなモンスターにも劣ることなく戦える明さんはすげェと言ったところでしょうか。さすが「人間の限界を無限に高みへ更新し続ける者」ですね(この表現好きだし、いつかどっかでまた使いたいなあ)。対主催の希望のような明さんですが、「もし優勝で奇跡を掴めたら」とマーダー化のフラグも張られているのが、彼の強さを目の当たりにしたばかりだけに恐ろしい。
投下ありがとうございました。

>「俺のやることは変わらない」
少年漫画みたいな王道の熱さをストレートにぶつけてきたって感じで好きです。あの煉獄さんとサポーターの善吉を前にしても少しも劣る気がしないあたり、雅様の格の高さはすごい。「俺が主役ならさっきの有様だが、あんたの引き立てにまわれば百人力だぜ。いやホント自慢できねーが」が特に好きです。
投下ありがとうございました。


957 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/20(木) 15:34:19 M2bEc9Y20
>第五十一話
タイトル通り50話の続きになる話でして、まずそのセンスの時点でニヤリとさせられますね。ふたりのちょっとコメディチックな会話には微笑ましい気分にさせられます。ライダーバトルから別の殺し合いへと移り、同じ目標に向かって進んでいくふたりが続く52話はどんなものになるのでしょうか、気になりますね。
投下ありがとうございました。

>わずかな未練だけが不意に来る
大切な人を失ってしまったふたりの出会いの話だからこそのタイトルにして、内容ですね。それにしてもバイクに驚くしのぶさんが可愛い。これが萌えというものでしょうか。そしてシリアスな空気を最後に全部持っていくお兄ちゃんで笑う。いや原作再現だけれども!!
投下ありがとうございました。

>光り無し
幻之介がタケルのために奉仕マーダーになることを決意するまでの文章が好きでして、変身からの灯台破壊に彼の実力と決意の強さが現れていて良いですね。
投下ありがとうございました。

>Louder
雨宮雅貴@HiGH&LOWかと思ったら雨宮雅貴@カップヌードルでもあった。千翼に会って「お前の名前は千翼じゃねえ、生きろだ!」とか言って欲しいですね。絵面はギャグなのに泣いちゃいそう。
投下ありがとうございました。

>最初の試験が神州無敵の場合/最初の試験が現人鬼の場合
初っ端から目を引かれる違和感がありまして「おや? 勝手に名簿を改造するストロングスタイルな書き手か?」と思いましたが、その後の章番号の加速に更に驚かされ(メイドインヘヴンの最中にあるような気分でした)、ネタバラシパートで「そういうことか!」と納得させられました。まさかBBちゃんがシミュレーションをもって参加者を決めていたとは……名簿を決めたわたしも知らなかったことなので驚きです。そんなわけで参加枠のひとつが絶対不変の信州無敵から現人鬼に変わったわけですが、まさか勝っちゃんが死ぬことになるとは……。第一放送前に仲間たちがこんなに死んだら明さんがますます修羅になりそうで怖いですね。
投下ありがとうございました。

続きはまた今度!!


958 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/21(金) 00:57:54 bmQvxKsc0
七花、千翼、予約します


959 : ◆0zvBiGoI0k :2019/06/24(月) 23:22:13 oPRt6PpY0
胡蝶しのぶ、雨宮広斗 予約します


960 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/24(月) 23:27:23 YWUcNKuE0
すいません、少し遅れます。朝までには投下できたらいいなあと思っています


961 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:12:21 CDfGeQHg0
遅れてすみません。投下します


962 : 君の知らないものばかり ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:16:50 CDfGeQHg0
 夜明けが近い──上田次郎は明るくなっていく視界と、背後から感じる太陽の温もりから、そのことを察していた。
 夜が明けるのは良いことだ。
暗い道より明るい道の方が馬を走らせ易いし、日光で周囲が照らされれば、他の参加者を見つけやすくなるからだ──そして何より。

「(この私の、聡明さが外見に十二分に表れている美貌が、よりはっきり見えるようになるのだからね!)」

 天然のスポットライトに照らされている自分の姿は、さぞかし映像映えしているだろう──どこに隠されているかも分からないカメラを意識しながら、上田はそんなことを考えた。
 どうやら彼が抱いている『この殺し合いはドッキリの企画だ』という盛大な勘違いは未だに継続中らしい。そんな誤解に加えて酒気で酔っているので、彼の思考は暴走状態になっていた。もしここに警察がいれば、飲酒運転を咎められ、馬から降ろされることは間違いあるまい。
 曲がりなりにも学者の地位を持っているものが陥っていい精神状態ではないのだが、それを指摘するものはこの場にいなかった。
上田の相棒である山田奈緒子がこの場に居れば、喝のひとつでも入れて正気に戻していたかもしれないが、彼の後ろに現在座っているのは、胸のサイズ以外山田と似ても似つかない酒呑童子である。そもそも、上田がこんな精神状態になった原因は彼女のスキルにあるのだ。その彼女がこの現状を愉しんで見ている以上、上田のテンションが元に戻る可能性は期待できまい。
そんなわけで、当面の目的地である『教会』に辿り着くまで、この暴走機関車が止まることは無いように思われた──が。

「……ん?」

 バイクが、ある──真っ赤に染まった車体で、激しい自己主張をしているバイクが、民家の傍に停められているのだ。
 そんな、どうしても目を引く存在を視界の端に捉えた上田は、全速力で走らせていた馬の速度を落とし、そちらの方に向かって行った。
 
「見てください、酒呑童子さん。痕です。タイヤの痕がありますよ」

 上田が指摘する通り、バイクからはタイヤ痕が伸びていた。しかも、それは上田たちが向かっている『教会』方面に続いている。つまり、このバイクは『教会』の方からやって来たということだ。
しかし、肝心の運転手の姿が見当たらない。ここに乗り捨てて、何処かに去って行ってしまったのだろうか? 

「いや、そうでもないみたいやね」

 上田の背中に摑まっている酒呑童子は、その考察を否定した。
 サーヴァントである彼女には分かるのだ。すぐ傍に、他のサーヴァントの気配があるのが。
 
「隠れてないで大人しゅう出てきたらどない? ふふ、怖がらんでも、出てきたところを取って食ろうたりはせえへんよ。まあ、出てこなかった場合はどうなるか分からんけど」

 気配が感じられる方向に声をかける。もっとも、彼女の気分がコロッと変われば、今しがた口にした言葉を反故にして、呼びかけに油断して出てきた相手を頭から食べることもあるのだが──それもまた一興。
 鬼の首魁の台詞が終わり、沈黙が場を支配した。しかし、しばらくするとバイクの傍の物陰から、カツンッとハイヒールで歩くときに響くような音が聞こえた。


963 : 君の知らないものばかり ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:18:27 CDfGeQHg0
それと同時に、人影が現れる──そこにいたのは、ひとりの少女だった。
 少女の姿を認めた酒呑童子は、何か得心したような表情を浮かべた。

「そういえばあんたはんの名前も名簿にあったねえ。メルト……ええと」
「……リリス──メルトリリスよ」
「ああ、そうそう。かんにんしてなあ──溶解(メルト)の部分は、ちゃーんと覚えとったんよ。うちもどろどろに蕩かすのが専売特許みたいなもんやしね」

 だから『メルト』の部分は印象に残っていたとでも言うのだろうか──どこまで本気か分からない冗談を言いながら、酒呑童子は口元を歪めた。
 少女──メルトリリスの心中には警戒が渦巻いていた。
 目の前の鬼のような恰好をしている女は、様子からして自分のことを知っているようである。しかし自分は彼女のことを知らない。その認識の不一致が、メルトリリスを悩ませていた……頭から角を生やした娘に見覚えがないわけではないのだが、己の記録にあるそれと、目の前の鬼は、角という共通点以外は全くの別人だ。
 それもそのはず。酒呑童子はメルトリリスたちがカルデアに召喚されて以降という、メルトリリスにとって未来の時系列から、このバトルロワイアルに召致されているからだ。一方的な認知が生じるのも当然だった。

「たしか、あんたはんはBBと知り合いやろ? 今回のことで、何か知っていることでもないん?」
「仮に知っているとして、出会ったばかりの貴女に教えると思う?」
「……いけずやなぁ。口の堅い子は嫌われるで?」

 ふたりの間に剣呑な空気が流れる。

「言っておくけど、今の私はかなり不機嫌なの。だから貴女みたいな怪しい輩を見ると、蹴り倒したくなるわ」
「へえ、そうなん。うちは一向にかまへんで? カルデアであんたはんと手合わせすることなんてなかったから、これはいい機会やし。……それに、ほら。あんたはんの体ってとろとろの液体なんやろ? 杯に容れたらいい酒になりそうやわあって前から思ってたんよ──だから」

 酒呑童子は目を細め、弧を描いていた口の周りを舌なめずりした。
 それは、見るものをぞっとさせる──鬼の顔だった。

「これを機に試してみるのも、いいかもしれんどすなあ」

 場の緊迫が最大まで高まった。
 あとほんの少しのきっかけでもあれば、彼女たちが殺し合いを開始するのに十分な合図となるだろう。
 世界の全てが二体の人外の動向を見守るように静まり返っていた──だが。


964 : 君の知らないものばかり ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:19:30 CDfGeQHg0
「待ちなさい!」

 上田は本日二度目の制止の声を張り上げた。
 
「誰もが認める天才物理学者、上田次郎の頭脳と観察眼を用いれば、酒呑童子さんとメルトリリスさんが顔見知りの関係であることはよく分かります」
「違うわ」

鬼のような少女の名が大江山の首魁である『酒呑童子』であることすら今知ったばかりであるメルトリリスは抗議の声を挙げたが、自分と酒に酔っている自称天才の耳には届かなかった。

「狭い島内で強制される殺し合い(という設定のテレビの企画)において、貴女たちがすべきなのは、いがみ合うことではなく、互いに手を取り合って協力することです。違いますか?」

 上田は心の中でガッツポーズをした。
危うい空気が流れているふたりの間に入り、仲を取り持つ自分の姿が魅力的に映っていることを確信する。どころか、「(あまり目立ちすぎると私の独壇場になって良くないかもしれないな)」などという無用な心配までする始末だ。
知り合い同士の仲裁をするという行為から、自分の知り合いである山田もこの企画にいることを、ふと思い出した。あの貧乳は今どこで何をしているのだろう。少なくとも豪華客船にはいないな。彼女みたいな万年金欠の人間が足を踏み入れるには、これ以上なく相応しくない場所だし。あと胸のサイズ的に山との縁が絶無なので、島中央の那田蜘蛛山にも居ないだろう。

「……なんなのよこいつ。せっかくの昂ぶりが冷めたわ」
「同感やね。まあ、こないなとこが旦那はんの面白いところでもあるんやけど」

 言って、メルトリリスと酒呑童子は臨戦態勢を解いた。限り限りまで緊迫していた空気は一気に弛緩する

「メルトリリスさん、私たちは今、この島から脱出するための手段を探しています」
「脱出するための手段って……そんなのあるわけがないじゃない」
「それが見つかるかもしれないんですよ。『研究所』を調査したり、『USB』を調べたりすればね──酒呑童子さん、お願いします」
「はいはい、ちょっと待ってなあ」

 酒呑童子は応じて、自身のバッグから上田が求めたものを取り出した。出てきたのは厳重なカバーが施されたUSBだった。

「見てくださいよこのUSB! いかにも怪しいでしょう!? 何か重要な秘密が隠されていると見るべきだ、いや、隠されていなくてはならない! 企画的に!」
「…………」

 上田が提示した脱出プランを聞き、沈思黙考するメルトリリス。
 この会場から脱出するのが不可能なことを、彼女はよく知っている。だから、たかだかUSB一本に収まっている情報如きに脱出の糸口が見出せるわけがないと判断した──しかし。
 しかし上田たちが言う通り、支給品に入っていたUSBが怪しいのも事実だ。
 このバトルロワイアルの殆どはBBの管理下にある。参加者の命も、会場の設備も、そして支給品のアイテムもだ。ならば、そこに紛れ込んでいるUSBにも、何らかの意図があると考えるのが普通ではないか? 脱出手段ではなくとも、メッセージくらいならあるかもしれない。それに島の隅にあっても強い存在感を放っている『研究所』が気になるというのも事実であった。勿論、あの腹黒のことだから、USBや『研究所』の正体が意味深に置かれているだけの無意味なスカの可能性も十分にあるのだが……。 

「たしかメルトリリスはプログラムとかに関係があるんよねえ? だったら、USBの解析にも役立ってくれそうな気がするけど、どうなん?」

カルデアで誰かから聞いた覚えのあるメルトリリスのプロフィールを思い出しながら、酒呑童子は口を挟んだ。この殺し合いの主催であるBBとの繋がりが深いメルトリリスを手元に置いておけば、今後愉快な展開を招くことは間違いないので、酒呑童子はメルトリリスを仲間に引き入れることに異論はない。故に出した追加情報であった。

「おお、そうなんですか!? だったら心強い!! どうです? 私たちと一緒に行動しませんか?」
「……貴方たち──特にシュテンのことは信用も信頼もしていないけれど、研究所やUSBが怪しいというのは認めるわ。調査が終わるまでなら、一緒に行動してあげる。もしかすれば、あの女への嫌がらせに繋がるかもしれないし」

 そう言うメルトリリスだが、自分の情報を知っている怪しいサーヴァントを野放しにしておけないという理由ももちろんあった。
 彼女の返答を聞き、上田は安堵する。


965 : 君の知らないものばかり ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:20:17 CDfGeQHg0
「(それにしても……)」 

 上田はメルトリリスを改めて観察する──彼は彼女に出会ってからずっと、驚愕していた。
 メルトリリスの顔は、このバトルロワイアルの主催であるBBにそっくりだ──そして、それ以上に上田を驚かせていたのは、彼女の服装である。
 穿いて、いない。
スカートとかパンツとかショーツとか、本来ならば下半身に位置しておくべき衣類を、メルトリリスは装備していなかった。
一応局部に金属製のビキニのようなものを穿いているが。それも細いし小さいしで、実に頼りないものである。
目撃した青少年の何かが危うくなりそうなファッションだ。
 露出狂。痴女。変態──そんなアダルトなワードが上田の脳内を錯綜する。
彼が跨っている白馬は、己の首の後ろに触れている何か硬くて大きいものに不快感を示すように「ブルルッ」と短く鳴いた。

「酒呑童子さんもそうだが、メルトリリスさんみたいな格好の参加者までいるなんて……放送コード的に大丈夫なのか? それとも深夜帯の番組なのか?」

 興奮半分呆れ半分といった口調で呟く上田。
 その言葉に反応したのは、先ほどまで彼と会話していたメルトリリスだった。

「さっきの『企画的に』もおかしかったけれど、今の『放送コード』や『深夜帯の番組』といい、貴方何を言っているのかしら?」
「あ」

 自分の口からうっかり漏れ出ていた言葉を思い出し、上田はバツが悪そうな顔をする。
 彼は声のトーンを下げ、小声で囁いた。

「リアリティを損ねるようなことを言ってしまって申し訳ありません。今の発言はあとでスタッフに頼んでカットしてもらうことにしましょう。しかしだねぇ、貴女も地上波のテレビ番組に映るのならそれ相応の格好というものを……」
「……は?」

 ポーンと、どこかから軽い音が鳴ったような気がした。
 上田の言葉があまりにも予想外で、すぐに理解できなかったのか、メルトリリスはそれからしばらく黙っていた。
 しかし数秒後、言葉の咀嚼が完了した彼女は、突然脚を高く上げた。
脚の具足の膝に付いている棘の切っ先は、馬に跨る上田の首元にまで届いている。

「どぅわ!?」

 突然凶器を向けられた上田は素っ頓狂な叫び声を挙げた。
 対するメルトリリスは静かな、しかし確かな怒気が感じられる声で語る。

「自分がいる状況を『舞台の上のお芝居(トゥルーマン・ショー)』か何かだと思っているなんて、消費文化で堕落した頭もここまでおめでたいと笑えてくるわね。笑った拍子にうっかり首を刎ねてしまいそうだわ」

 この殺し合いが、大衆娯楽で、バラエティで、お遊びで、フィクションだと?
 ふざけるな。
 そんなわけがない。
そうであってほしいが、そうではないのだ。
 この殺し合いの前に『彼』が死んだことも。
 この殺し合いの最中に白銀御行が死んだことも。
 全部、れっきとした事実なのだ。
 だというのに、この男は──!

「いい? 次またそういうふざけた認識を口にしてみなさい。そんな考えをしている奴はどうせ長く生きられないでしょうし、私が直々に殺してやるわ。それとも今すぐ死んでみる?」

 棘の切っ先が、日光を浴びて鋭く光る。
 呼吸と血流の重要部位の真横に迫っている凶器への怖れから声も出ないのか、上田は顔を必死に横に振ることで己の意見を明示した。その態度は実に、苛立ちと嗜虐心を刺激するものだった。


966 : 君の知らないものばかり ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:20:44 CDfGeQHg0
しばらく不快感に歪んだ表情で上田を睨みつけていたメルトリリスだったが、その顔が『別の要因』で歪んだ瞬間、彼女が上げていた脚は崩れるようにして下ろされた。

「(……へえ)」

 後ろから一部始終を眺めていた酒呑童子は気が付く。メルトリリスが右足に大きな傷を抱えており、その痛みが原因で、彼女は脚を下したのだと。
カバーを施すことで外からは異常がないように見えるが、そうであると意識して見ていると、彼女が右足を気遣って動いているのは明らかだった。
 おそらく、メルトリリスは以前何処かで戦闘に巻き込まれ、その際に右足を負傷したのだろう。けれども何とか生き延びてここまでやってきて、回復に専念していた。そして酒呑童子たちが訪れ、今に至るという経緯になるのだろうか。

「(どうしてこないなとこにいるんか不思議やったけど、そないな理由があったんやねえ。やちゅうにあんな気丈にふるまって……ふふ、いじらしいわあ)」

 そして、もう一つ気が付いたことがある。鬼の気配がメルトリリスの右足の傷から感じられることだ。こちらは鬼の首魁である酒呑童子でなければ気が付けないものである。しかし、彼女が感じたことのない気配でもあった。鬼ではあるが、酒呑童子が知る鬼ではない──そんな気配である。
 メルトリリスはその身のこなしを見るに、中々の手練れだ。そんな彼女に傷を負わせた鬼は、果たして──?

「(出来ることなら会ってみたいわあ)」

 未知の鬼の存在に、人知れず笑みを浮かべる酒呑童子。彼女の考えを、鬼の考えを、余人が知ることなど、不可能なのだ。もしかすれば、彼女自身すら、自分の考えを分かっていないのかもしれない。そうであっても不思議ではない。鬼とはそういうイキモノなのだから。
 上田は己の身に起きた事を処理するので精一杯だった。史上最高の頭脳を持つ彼でも処理に手古摺るほどに、今しがた起きた事は衝撃的な事だったのである。
 メルトリリスが上田に向けた凶器は本物だった。そして、彼女が言った「殺してやる」も脅しやハッタリではない凄みが込められたものだった。インチキ霊能力者と戦ってきたこれまでの経験で、いくつもの殺意を目にしてきた上田だからこそ分かる。あれは演技では出せない本気の言葉だった。
 ということはつまり──

「(もしかして、この殺し合いは──真剣(マジ)の……バトルロワイアルなのか?)」

 バトルロワイアルが開幕して六時間が経ってようやく現状をマトモに認識し始めた上田は、こうしてあまりにも遅いスタートを切ったのであった。


967 : 君の知らないものばかり ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:21:24 CDfGeQHg0
【E-4 道中/早朝】

【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、左頬に打撲
[装備]:普段の服、白馬@TRICK、USBメモリ@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:ひとまず上田と行動する。
2:小僧(村山)と会って強くなってたら再戦する
3:沖田総司とも再戦したい。
4:メルトリリスに傷を付けた鬼も面白そうだ。
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
※スキル「果実の酒気」は多少制限されています。


【上田次郎@TRICK】
[状態]:背中に本人も気付かない程度の出血、若干の酔い、混乱
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:この島からの華麗なる脱出。
1:酒呑童子、メルトリリスと行動する。
2:研究所に向かいたい。
3:USBの確認
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
※殺し合いをテレビの企画だと考えています。←メルトから受けた説教でその考えが揺らいでいます。「あれ、もしかしてマジなんじゃね?」みたいな感じです。

【メルトリリス@Fate/Grand Order】
[状態]:損傷(両手)、右足損傷(大、満足な行動不可)←休憩で僅かに回復 、苛立ち
[道具]:基本支給品一式×2(自分のものと白銀のもの)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、ジャングレイダー@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:繋いだ心は、今も離れない
1:研究所とUSBを調べる。
2:…………。
3:この殺し合いにいる藤丸立香とは共には行けない。だけど再び道が交わることがあれば力を貸すくらいはいい。
[備考]
※『深海電脳楽土 SE.RA.PH』のメルトリリスです。
※損傷は修復されていますが完全ではありません。休み無く戦い続ければ破損していくでしょう。
※出逢っているのは『男の藤丸立香』です。
※『女の藤丸立香』については、彼とは別の存在であると認識していますが、同時にその魂の形がよく似ているとも感じています。
※藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオと情報交換をしました。


968 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/25(火) 06:21:56 CDfGeQHg0
投下終了です。


969 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/06/27(木) 16:29:45 YappkCD60
投下乙です

ようやく現実を認識(?)した上田先生。
しかし参加者の中で曲がりなりにも真っ先に首輪の対策を考えていたのを省みると、彼の場合はかえって認識させない方がイイ働きをするのかもしれない...w


参加者紹介動画になります
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm35320647


970 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/28(金) 00:42:49 OwQCA.7U0
動画ありがとうございます!
曲に合わせて画像を載せるシンプルな構成ですが、曲と画像のチョイスが良くて見入りました!
もしよろしければ衛府の七忍とナノハザードのところの曲名を教えていただけないでしょうか。

ギリギリになりましたが投下します。


971 : それを知らず ◆2lsK9hNTNE :2019/06/28(金) 00:46:02 OwQCA.7U0
 木々のひしめく森の中、鈍色の光りを放つのは伝説の刀鍛冶四季崎記紀が作りし完成形変体刀十二本の一つ、賊刀『鎧』。纏うのは人を人を喰らう生命体――アマゾンへと変貌させる溶原性細胞を内に秘める『オリジナル』のアマゾン、千翼。
 まるで壁のような急勾配の坂を挟み、下で構えるのは剣を使わない剣法、虚刀流の七代目当主、無刀の剣士、鑢七花。
 千翼が『鎧』を着るのは誰かを殺すための他に無く、七花の構えるも殺人剣術虚刀流を持って相対する相手を屠るために他ならない。
 彼らがどのようにしてこのような状況に至ったのか、時間は少し巻き戻る。
 PENTAGONでの激闘を終えた千翼は箱庭病院を目的地に定め歩いていた。 
 人を絶対に食べない決意を固める千翼だが当然腹は減るし体力も消耗する。リュックサックに入っている普通の食料は身体が受け付けないが、病院ならそれ以外の栄養源があるのではないかと考えたのだ。
 後ろにそびえるPENTAGONを目印にすれば道を間違えることもなく進むことができた。それは鬱蒼とした森の中に入っても変わらない。もう少し暗ければそうはいかなかったかもしれないが、今は日に照らされたPENTAGONの威容が、振り向けば嫌でも目に入る。
 七花を見つけたのはそうやって歩いて急勾配の坂を前に足を止めた時、坂の下を歩く彼の姿を発見したのだ。
 山と病院と高い塔、どこか向かう悩んだ末に七花は塔――PENTAGONを選択したのだった。理由は見えていたからというただそれだけの理由だ。
 しかし向かう途中で登るのが大変そうな坂にぶつかり、どこか他の道はないかと探しているのだった。
 PENTAGONを背にして進む千翼とPENTAGONに目指す七花……出会うのは必然だったかもしれない。
 千翼にとって幸運だったのは、その出会いが坂を挟んでのものだったことだ。坂の上にいた千翼は一方的に七花を見つけることができ、うつ伏せになって身を潜めた。
 ここで千翼には二つの選択肢があった。
 このままやり過ごすか。
 それともここで七花を殺すか。
 イユを生き返らせるためには全ての参加者を殺さなければいけないが、先程の戦いのダメージもまだ癒えていない。病院までは戦いを避けて進むのも一つの手だった。
 しかし千翼が選んだのは前者であった。
 理屈ではない。五月を殺した痛みが、重みが、千翼に人殺しから逃げる選択肢を許さなかった。
 そうなるとまた別の二択が千翼の前に現れる。
 賊刀『鎧』を着て戦うか、着ないで戦うかだ。
 PENTAGONでの時のように戦闘中に着れる機会なんてそうそう無いだろう。着るなら戦闘を始める前だ。
 しかし『鎧』を使うためにはあの姿――アマゾン態にならなければいけない。『鎧』で抑えているとはいえ制御の難しいあの姿にはできればなりたくない。
 消耗しているとはいえ普通の人間相手ならアマゾンネオでも十分に圧倒できる。だが千翼はこの島に来てから何人も普通じゃない人間を何人も見てきた。むしろ普通の人間とほとんど会っていない。戦う力が全く無かったのは五月くらいのものだった。
 千翼は前者を選ぶことにした。リュックサックを下ろし、なるべく音を立てないように『鎧』を着込む。ちょうど全て着け終えたところで七花が気づき、坂の上を見上げた。

「あんたは?」
「千翼」

 七花の質問はいきなり現れた鎧姿に自然とこぼれただけで、具体的に訊きたいことがあったわけではない。それでも千翼は答えた。

「イユを生き返らせるために俺はお前を殺す」

 自分への決意の言葉であったし、死ぬ前に理由くらいは教えておこうというせめてもの手向けでもあった。
 人によってはここでイユという名が名簿に載っていたことを思い出し、その死を察することもできただろう。あいにく七花にそこまでの記憶力は無い。それでもイユというのが目の前の男にとって大切な存在だったということくらいはわかる。
 この男は大切な存在を蘇らせるために戦っている。話し合いの余地は無い。もとより襲ってくる相手を説得できるような会話力など持っていない。

「そうか、おれは鑢七花だ」


972 : それを知らず ◆2lsK9hNTNE :2019/06/28(金) 00:46:37 OwQCA.7U0
 七花は構える。
 かくして話は冒頭に戻る。
 にらみ合う二人。千翼が鎧の中で吠えた。その姿をアマゾン態へと変え、触手が鎧の隅々まで行き渡る。
 賊刀『鎧』を纏う『オリジナル』の千翼、虚刀流七代目当主七花。戦いの幕が今ここに落とされた。
 足が地を叩き重い鎧が中へ跳ぶ。
 ここで少し補足をしておきたいのだが、賊刀『鎧』には詳しい使い方の書かれた説明書きのような物は付いていなかった。いや、付いているには付いていたのだが、名前や鎧の着方などが書かれていた程度でその詳しい構造までは書いていなかった。
 『鎧』のその圧倒的防御力の秘密は”受けた衝撃を他へと逃がす”という性質にある。
 『鎧』そのものは特別頑丈でなくとも、衝撃を受けないことで無敵となる。どんな衝撃にも耐えるではなく、むしろどんな衝撃にも耐えないからこその絶対防御――それが賊刀『鎧』だ。
 しかしその性質も良いことばかりではなく弱点も持っている。衝撃を逃がす地面や壁と鎧が接していないと――例えば歩いて降りるのが困難な坂を下るために跳んだ千翼のように空中にいると――逃がす先を失った衝撃が逆に内部で爆発して装着者に生身で受けるよりも強いダメージを与えるのだ。
 ようするに何が言いたいかと言うと。
 千翼は敗北した。一撃で。
 歴戦のライダーや鬼殺隊の剣士相手に圧倒した千翼は、鑢七花のたった一発の攻撃に倒れた。
 アマゾン態が解除され、身体が地面を転がり仰向けになる。守るはずだった『鎧』からもたらされた衝撃に身体中が肉は裂け、骨は砕けた。人間ではあるば確実に死ぬところをこの程度で済んだのはさすがといったところか。
 『鎧』の特性を知らない千翼には何が起きたのかさっぱりわからなかった。ただこれだけはわかった。
 殺される。
 このままだと自分は殺される。イユを生き返らせなければいけないのに。そのために五月まで殺したというのに。
 呆気なく簡単に何も成せなかったまま、死を振りまいただけで死んでいく。何も始まらずに、ただ死んでいく。嫌だ。そんなのは嫌だ。生きたい。俺は生きたい。
 立ち上がれない身体で千翼は這ってでも七花から逃げようとする。しかしぼろぼろの身体に『鎧』の重さまで枷となってうつ伏せになることすら叶わない。 
 一歩一歩する。七花の足音。死の足音。前に出て、彼は千翼の顔を見下ろして止まり――しゃがみこんで目の前に黒い板を見せてきた。

「あんたこれの使い方わかるか?」
「え?」

 それはタブレットだった。千翼にタブレットを扱った経験はないが、長瀬たちが似たような物は使っていたし使い方は何となく知っていた。

「……わかるけど」

 あまりに予想外の質問に千翼は何も考えずに正直に答えた。遅れてこれが自分の生死を分かつ質問かもしれないと気づいたが、時はすでに遅しだ。もっとも今回の場合は千翼の答えで正解だった。

「あんたおれの使ってくれないか?」
「は?」
「おれは本当もとがめに使われたいんだけどさ、さっき姉ちゃんにさらわれちまったんだ。どうにか取り戻さなきゃいけないんだけど姉ちゃんは強いし、おれは考えるのは苦手だからさ。取り戻すまでの間の仮の持ち主を探してたんだ」

 いきなりと思える七花の言葉だが、一応彼なりの論理はある。
 そもそも七花はとがめの代わりの持ち主を探すために動いていたのだ。千翼に対しても向こうからに敵意が無ければそのための話し合いをするつもりだった。
 聞く耳持たなそうだったので応戦したが。しかし七花が殺す気で放った攻撃を受けながらも千翼は死ななかった。
 襲ってくる相手を説得できるような会話力は七花にはない。だが叩きのめして身動きできない相手と話すくらいの会話力はある。
 七花はとがめすら使い方を知らなかったタブレットを見せることで、千翼の頭脳を測った。タブレットの知識があるからといって、必ずしも頭がいいとは限らないことは七花にもわかっている。しかしとがめすら知らない知識を持っているということは、とがめに思いつけないことも思い点ける可能性があるということだ。とがめより自分を上手く扱える人間がありえない以上、それは大きな点だった。
 もちろんどんなに自分を上手く扱えても危ない奴とは一緒にいられないが、七花から見た千翼は一撃で倒せた雑魚だ。死ななかったことには驚いたが体力だけいくらあったところで驚異ではない。
 実際のところは倒せたのは完全に偶然であり、地面に接して『鎧』の特性が十全に発揮している今、とどめを刺すことすら一筋縄ではいかないのだが、そのことに七花は気づいていない。
 断れば死ぬのだから絶対に断らないだろうという計算もあった。七花にさえできる簡単な計算だ。当然千翼にもできる。だが、


973 : それを知らず ◆2lsK9hNTNE :2019/06/28(金) 00:47:19 OwQCA.7U0
 
「なんで――自分を物みたいに言うんだ」

 七花の言い方は千翼の癇に障るものだった。

「なんで――俺に使ってくれなんて言えるんだ。俺は皆を殺そうとしてるんだぞ!」
「うーん上手く言えないんだけどさ、ようするに俺は刀なんだよ。刀は一々斬る相手を選んだりしないだろ。そりゃもちろんとがめを殺せとか言われたら流石に断るけどさ」

 生きているのに人であるにも関わらず、自分は刀であると、そう七花は言った
 イユは周りから物として扱われていた。死んで生き返った時に感情を忘れたから。二度と感情を取り戻すことのない動く死体だと。そう扱われた。
 でもこの男は違う。感情はあるし、死体でもない。常人離れこそしているが生きた人間だ。なのにこいつは自分が刀だと主張する。イユは自分で主張することすらできないというのに。
 イライラした。計算なんて関係ない。どんな利益があるとしてもこんな男となんて一緒にいたくない。
 だが千翼は善逸を裏切った。五月を殺した。仲間を逃がすために一人残ったあの男も殺した。今更手段を選り好みするなんて、そんなことが許されるわけがない。

「……お前に指示をするのは構わない。でも持ち主にはならない。お前は人間として俺に協力するんだ」

 だからこれが妥協点。物として扱わない。人として一緒にいてもらう。

「よくわかんないけど、それで別にいいぜ。それで俺は何をすればいいんだ?」

 七花は深く考えずに適当に同意する。それもまた千翼には不快であったがこれ以上言い聞かせることは諦めた。

「……鎧を外すのを手伝ってくれ」

 『鎧』は内部からしか開けることができない仕組みだが、今の千翼の力では外しても持ち上げることができない。
 七花は言われた通りに、外した部位からリュックサックに片していく。全て片し終わったところでまた言った

「次は何をすればいいんだ?」
「俺をかついで病院に連れて行ってくれ」
「病院か。傷の手当をするんだな?」
「違う。栄養を取れる物を探すんだ。それがあれば傷は治せる」

 七花の見立てではとても自然に治りそうな傷には見えなかった。
 しかし七花は真庭蝙蝠のように理屈を無視しているとしか思えない忍法を使う者を知っているし、ここに来てからは火と弾が出る未知の武器や、とがめを襲ったどうみても人外の存在と接触している。本人がそういうならそうなんだろうと思うことにした。

「栄養が欲しいなら『たぶれっと』もあるぞ」
「タブレットなんかでどうやって栄養を取るんだ」
「ああ、いや、さっきの『たぶれっと』じゃなくて。俺の支給品にこんな物もあったんだよ」

 そういって七花がリュックサックから取り出したのは、ビンに入った食べる方のタブレット。

「本来のは『なのろぼ』ってもんの栄養源として作られたらしいんだけどな、人間が飲んでも効果はあるらしいぜ。ただ一日が三つが限度で四つ飲むと頭が爆発するらしいけどな」

 とがめは「そんな怪しい物飲めるか!」と言っていたが、千翼が飲むかどうかは本人が判断することだ。
 タブレットの存在を知っている千翼からみてもそれは怪しいし、飲みたくない代物だったが、これ以上栄養が足らなくなるといよいよ人を食うことも我慢できなくなりそうだ。病院まで無事に辿り着ける保証もない。
 千翼は意を決することにした。


974 : それを知らず ◆2lsK9hNTNE :2019/06/28(金) 00:47:53 OwQCA.7U0
「口に入れてくれ」
「わかった」

 七花はタブレットを取り出そうとして、しかし蓋の開け方がわからず、千翼は回して開けるんだと教えた。  
 効果はすぐに現れた。自分の中でエネルギーが増えていくのを明確に感じる。傷の治りも目に見えて治っていく。空腹もいくらマシになったようだった。
 扱いに注意は必要だし怖い代物だが、これは食事すらまともに取れない千翼にはこれ以上無い支給品かもしれない。

「すげえな。本当に治ってる」

 七花も無邪気に感心している。
 二人は知らない。このタブレットがとある世界のとある歴史において、史上最悪の厄災をもたらす原因の一つであったことを。
 思えばこの二人はいつも知らないでいた。千翼は母が生きていたことを知らず、自分が溶原性細胞を振りまく存在であると知らず、鑢七花もまた英雄視していた父親がやったことの本当の意味をとがめと出逢うまで知らず、そして自分がどのような意味を持つ存在なのかも知らないでいた。

【C-7/1日目・早朝】

【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ある程度の空腹、ダメージ再生中、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪 、痛み
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、賊刀・鎧@刀語 、ナノロボ用タブレットの瓶詰め@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
4:アマゾン態になる時はできるかぎり鎧を纏うことで人を食う可能性を減らす。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
※賊刀・鎧をアマゾン態で装着時は若干サイズが小さくフィットしませんが、隙間を触手で埋めることで補っています。
※魔剣グラムは破壊されました。
※ダークウィングが蓮の仇として鏡の中から追跡しています。



【鑢七花@刀語】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、アンデルセンのタブレット@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:姉ちゃんからとがめを取り戻す。姉ちゃんから。あの姉ちゃんから……
1:姉ちゃんからとがめを助ける。
2:ひとまず千翼に従う。
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前

【ナノロボ用タブレットの瓶詰め@ナノハザード】
 名前の通りナノロボ用のタブレットだが、ナノロボは普段人間が取っているような栄養も有効なので逆もOK、そういうことにしておく。
 どうやらアマゾンとは相性が良いらしく、特に効果が高い。


975 : ◆2lsK9hNTNE :2019/06/28(金) 00:48:34 OwQCA.7U0
投下終了です


976 : 名無しさん :2019/06/29(土) 07:50:04 5/usSJl60
乙です
自覚前の七花はどこか欠けてるからね、千翼が苛立つのも止む無し。


977 : ◆3nT5BAosPA :2019/06/30(日) 23:57:07 62QQj3h20
佐藤を予約します


978 : ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:04:43 IDvHLc1E0
投下します


979 : 姉は祈り、弟は乗る ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:06:21 IDvHLc1E0
半乾きした血の海に沈む冷たくなった善逸の頭を、しのぶは優しく撫でた。

「……頑張ったんですね、善逸君」

剣士の義務を貫いた労いの言葉と共に、鮮やかな金色の髪に触れる。
普段ならそれだけで顔を真赤に染め上げ、喜び勇み飛び起きそうな全身は、物言わぬ骸のまま変わらない。
どうしようもなく、それは変化することのない死体だった。
生気の消え失せた、開かれた瞳を瞼で閉ざして形だけでも静かな眠りに就かせる。



善逸はとても臆病な子だった。
鍛錬では常に弱音を吐き、任務に向かう度駄々をこね蝶屋敷の子をよく困らせていた。
それでいて女の子が関わると積極的になり、褒めてあげると溌剌と張り切って勤しむ調子の良い子でもあった。

そして、優しい子だった。
生来の耳の良さに起因するのか、どれだけ怖がっても他人を見捨てる事だけはしない。
命のかかった土壇場の状況では、誰かのために力を振るえる勇気を持った子だった。

適切な得物もない中で、恐らくは知り合って間もない誰かを背に負って。
ここでも善逸はそうしたのだろう。
殺される恐怖を噛み殺し、逃げてはならない状況で逃げず、勇気を振り絞った。

それは当たり前に出来て、とても大変なこと。
鬼殺隊員でも容易に持ち得ない利他の精神。
例え一秒も満たぬ先に落ちて消えるとしても、一条の稲妻と化して疾走したのだ。


頭に触れた手を別の箇所にやる。
遺体を起こして、致命傷になった部位を検める。
殺した相手は、鬼ではないのだろう。
強き剣士の血肉は栄養源であり、使用する血鬼術の証拠にもなる。
夜明けが近くもない時分に、仕留めた剣士をむざむざ放置したりはしまい。
鬼にとっても不測であろう殺し合いの場で栄養補給を怠るほどの間抜けに、善逸が討たれるとは思えない。

かといって遺体に負わされた斬撃は、ただの人が不意を打ったには鋭すぎ、深すぎる。
傷の起点は胴。防いだ形跡はなく正面から打ち据えられてる。
力の隆起と技の冴え。双方が融合して初めて成される絶技。
上位の鬼や柱に並ぶ破壊力であることを残された痕は物語っている。
つまりこの下手人は。
鬼でなく、万全でないとはいえ善逸の俊足を真っ向から打ち破った人間だという事だ。


980 : 姉は祈り、弟は乗る ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:07:49 IDvHLc1E0



薄情な思考をしていると今更な自己嫌悪を抱く。
しかし残された情報を拾い集め対策を巡らせなければ仇討ちもままならない。
ただでさえしのぶは柱の中でも体が弱い。補える知識と手段を蓄えておかなくては、二の轍を踏む事になりかねない。
叩きつける相手がいない限り怒りは留め置くべきであり、逝った者が浮かばれるよう継いでいく事こそが柱の役目。

それにこれも慣れたものだ。
鬼殺隊の歴史で、柱を務める前も後も、何度も見てきた終わりだ。
剣士であれば常に味わう別離が、ここでも起きただけ。
ああけれどこの感情は身を焼き充満する怒りは和らいだりは――――――



「知り合いか」

しのぶが落ち着くまでは踏み込まずにいたという気遣いか。
後ろから呼ばれた広斗の声で、しのぶは意識を現実に引き戻した。

「同じ組織の仲間でした。上司と部下、のようなものでしょうか」
「……お前と変わらないガキじゃねえか」

見た目で判断しているわけではない。広斗とて社会の闇の側に身を置く者。
年端もいかない子供が同じ世界に身を投じる様を見るのも珍しくは無い。
事実広斗の目から見るしのぶは只の少女の領分にないほど鍛えられ、研ぎ澄まされてある。

「みな似たり寄ったりですよ、私達の組織は。
 この身で命を張るのも、若くして命を落とすのも、不思議ではありません」

体の数箇所に触れていた手を離して、立ち上がる。
善逸に背を向けて行くしのぶを広斗は再び制した。
仲間と呼ぶ間柄の亡骸を、このまま野ざらしに放置するのかと。

「置いていくのか」
「弔ってあげたいのは山々ですが、時間が惜しいです。
 彼が守った人も見つけてあげなければいけません」
「わかんのか」
「はい。彼はそういう子ですから」

死を前にしても善逸が戦いを選んだというのであれば、それは守るべき存在がいた時だと考えている。
逃げおおせても再び襲撃者に追われてるかもしれない。死者の安寧より、生者の保護の方こそを優先すべきだ。

それに―――情けない話なので口に出したりはしないが、しのぶでは人一人分の穴を掘るのも重労働だ。
見つけた鬼に食い荒らされない利もなくはないが、時間がかかりすぎる。
こういう自分の無力さにはたまに嫌気がさす。制限され、少ない選択肢を選ぶのには臍を噛む他なかった。


981 : 姉は祈り、弟は乗る ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:11:00 IDvHLc1E0



「……?」

そう諦観するしのぶを尻目に、広斗は伏せる善逸の前まで身を屈ませた。
そうして何をするかと思えば、遺体を忌避する素振りも見せず軽々と持ち上げ何処か運ぼうと歩き出した。

「あの、何を――――」
「二人でやれば大した時間もかからねえだろ」


そう、無愛想に告げた言葉に、しのぶを閉口したままで暫し呆然とした。


「―――――――――」

この舞台で初めて会った相手というだけの、短すぎるほどに短い付き合い。
所詮互いの素性も禄にわからないままの、成り行き上の関係だ。
兄の雅貴であればこれ幸いとちょっかいをかけてくるだろうが、広斗は寡黙な性を好む。
たが広斗の心とて木石ではない。知己の亡骸と対面して悲しむ女に何の情も見せないほど人でなしになった覚えもない。

むざむざ死にたいわけもないが、元々ここで定まった目的など持っていないのだ。
せいぜいが兄との合流ぐらい。殺し合いは俄然犯行の姿勢だがこれといった方針があるでもなし。
ならばこうして、同行する相手に手を貸すのにも特に理由を求めたりはしなかった。

―――それとも。
なにか、気づかぬ内に彼女を気にする理由を見つけたというのか。


「どうした。やらねえのか」

そこでしのぶもはっとする。
男手を借りれば時間が短縮するのも確か。ここは厚意に甘えてもらうとしよう。

「あ、いえ。お手伝いします。
 ありがとうございます、ええと―――」

そこまでして、しのぶはまだ同行者の名を聞いてなかったのを思い出した。
初体験のバイクに面食らって頭から抜け落ちてたわけではない。まったくない。
名乗ってないの気にしていたのは同じなのか、広斗もばつが悪そうに顔を歪めた。

「……雨宮広斗だ」
「はい。ありがとうございますね、広斗さん」
「行きずりだ、気にすんな」

今更な互いの自己紹介に微笑し、しのぶは広い背中の後を追った。








982 : 姉は祈り、弟は乗る ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:13:19 IDvHLc1E0






土で被せて、石で置いただけの簡易な墓の前で、しのぶは手を合わせた。
墓石の上には金色羽織をかけてある。名前も刻まれない墓に眠る死者の、数少ない証だ。
広斗も目だけは伏せ、殺し合いの最中にあって長い沈黙の時間が流れていた。

その祈りもやがて終え、両者は瞼を開ける。
清算を済ました瞳はもう揺れ動かない。悲しいかな二人共、引きずるには少し死を見過ぎていた。

「で、これからどうする気だ」
「やはりここで巻き込まれた子を捜したいです。それが叶わなければ、病院か研究施設に向かおうと思ってます」
「……こいつか?」

自分の首に巻きつけられた装置を指で叩く広斗。
参加者に等しく嵌められた枷。これの解除について当たりがついてるのかと。

「いいえ。生憎機械についての知識は持ち合わせてはいません。
 私が修めてるのは薬学医学の方面です。支給品に、少し利用できそうな毒がありまして」

支給品の詰まったバッグを揺らしてみせる。
そこに向ける眼を僅かに細める広斗。どの言葉に反応したかは、まあ予想がつく。

「毒か」
「ええ、毒です」

毒薬。毒物。大概の人間は良い印象を持たない道具だろう。
殊に広斗は、雨宮兄弟は武器に頼らず己の拳で戦うスタイルこそを信条としている。
その誓いを破ってしまったのもまた兄弟である。大事なものを守るための手を、家族の仇を取るために汚してしまった。

「気分を害されたのなら申し訳ありません。ですがこうしたものを駆使でもしなければ倒せないものを私達は相手にしています。
 どれだけ斬っても死なず、どれだけ時が経っても朽ちない、不死と暴虐の怪物を」
「鬼かなんかか、そいつらは」
「ええ、鬼ですよ」

正解ですよと、まさかの返しに広斗も鼻白む。
暴力も殺傷も日常の沙汰に生き、人を人とも思わぬ、生き血を啜るが如き人間を幾度も目にし、因縁を生じさせてきた広斗達だが、本物の怪奇にまで遭遇した機会はなかった。

「信じる信じないは自由ですが、鬼はいます。
 比喩ではなく、字義通りに人を喰らう悪鬼は現として存在します。私達はその鬼を斬る者達。
 そしてこの会場にはどうやらその首魁もいるようなのです。装備は、出来るだけ用意しておきたい」


983 : 姉は祈り、弟は乗る ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:16:28 IDvHLc1E0


冗談でも放言の気配もない。彼女は本気で言っていると広斗も理解した。
ならば、いるのだろう。自分達が会ってないだけで、鬼という存在が。あるいは、いたのか。
いちいち否定してかかってはきりがない。とりあえずは受け入れる事にした。

「……私ばかり喋ってしまっていますけど、広斗さんも何か方針はあるのですか?」
「兄貴を見つけるぐらいだ。他は、俺が気にする必要もねえだろ」

揃って馴れ合いを好まない我の強い連中だ。道中で見かけたならともかく率先して会ってやる事もないだろう。

「わかりました。ではご同行宜しくお願いします。
 道中はご自分の安全を優先してくださいね。危険がありましたらお守りしますので」
「いらねえよ。自分の身ぐらい自分で守れる」

しのぶに実力があるのは疑ってないが、それと身を任せるかは別問題だ。
語る鬼がどれだけの驚異なのかは知れないが関係はない。
これは力量云々でなく男の挟持の話だった。

「ああそれと、鬼は陽の光が大敵です。ですのでひとまず夜明けが来るまで堪えれば、お兄さんやお仲間の危険も減るでしょう」

そんなぶっきらぼうな広斗の態度に、微笑ましいものを見るような目を向けてくるしのぶが、少しばかり癪に障る。
なんというか、そう。
年上相手に姉のように年長者ぶってる様子が、少しばかりむず痒く感じたのだ。
そんな胸中はおくびに出さずバイクに乗り込み、しのぶも後部座席に跨るように座った。

「ちゃんと座れ。そんなんじゃ落ちるぞ」
「大丈夫です、もう慣れましたので。今度は立ったままでも乗れますよ」
「……危ねえから絶対するなよ。さっきみたいにビビっても知らねえぞ」
「いえ?別に少し驚いただけですよ?なにせ初めて乗るものでしたから、ええ。はい」

二人を乗せた二輪は夜を駆ける。
亡き長子への思い。血が繋がならずとも実の兄妹にも等しい思い。
共通する思いに気づかぬままに、男と女は廃工場を跡にする。
先に待つのは鬼か蛇か。それともそれをも凌ぐ、魔物なのか。


984 : 姉は祈り、弟は乗る ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:17:02 IDvHLc1E0





【D-6/一日目・黎明】
【雨宮広斗@HiGH&LOW】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、シャドウスラッシャー400
[思考・状況]
基本方針:???
1:雅貴を探す。
2:とりあえずはしのぶと行動。
[備考]
※少なくともREDRAIN後からの参戦です。
※鬼滅世界に鬼について認識しました。

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[状態]:健康。
[装備]:冨岡義勇の日輪刀
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(毒に類する品)
[思考・状況]
基本方針:鬼殺隊の同僚と合流する。
1: 自分の日輪刀を探す
2:病院、研究施設に向かいたい。
[備考]
※9巻以降からの参戦





「ところで」
「はい?」
「……背中に頭をつけろ。それなら聞こえるだろ」
「ああ、振動で聞くんですね。はい、それで?」
「前から言おうとしてたんだが……お前いつの時代の人間だ?バイクを知らなかったり軍人みたいな服着てたり」
「いつと言われましても……今は大正時代では?」
「今は平成だ」
「……?」





「年号が…………変わってますね…………………………?」


985 : ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:17:20 IDvHLc1E0
投下終了です


986 : ◆0zvBiGoI0k :2019/07/01(月) 23:26:28 IDvHLc1E0
申し訳ありません。上記の時刻を
【D-6/一日目・早朝】
に変更します


987 : 名無しさん :2019/07/03(水) 01:29:11 s8KGmr.20
乙です
雨宮兄弟はどっちもかっこいいね


988 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/07/04(木) 18:34:48 OOwWjkq60
>>970
感想ありがとうございます
ナノハザードのところはSUM41の「Sick Of Everyone」
衛府の七忍のところはLUNKHEADの「闇を暴け」です

>それを知らず
千翼とナノマシン用のタブレット、今にも人類を滅ぼしそうな組み合わせである。
七花という刀を手に入れた千翼は立ちはだかるであろう追手たちを凌ぐことはできるのだろうか。
...それにしてもこの二人、気が合いそうにないし終始険悪な関係に収まりそう。

>姉は祈り、弟は乗る
しのぶさん、修羅場は潜っているとはいえまだ二十歳にもなってないんだよね。
.そこのところを察してしのぶさんの心に寄り添う広斗のさり気ない優しさが光る。
>「いえ?別に少し驚いただけですよ?なにせ初めて乗るものでしたから、ええ。はい」
ここのちょっと強気になるところが富岡さんとのやり取りを彷彿とさせて和むなあ。

猗窩座、白銀御行を予約します


989 : ◆3nT5BAosPA :2019/07/08(月) 03:20:06 i1Yw3mWo0
少し遅れてすみません。投下します。


990 : マジでXXする五秒前 ◆3nT5BAosPA :2019/07/08(月) 03:20:53 i1Yw3mWo0
不死というのは、最も分かりやすい化物の特徴だろう。
たとえば、鬼──鬼舞辻無惨をはじまりとする禍々しき異形の者どもは、片腕を失おうが、内臓まで至る傷を負おうが、毒を浴びようが、人間ならば戦闘の続行が不可能になる負傷をしても、瞬時に回復する。しかし、首を切られるか日の光を浴びれば肉体が崩壊するので、完全な不死とは言えない。
たとえば、怨身忍者──彼らは、一度死に、そして身分の檻を破壊する使命を背負い、乱世に蘇った衛府の戦士である。その身体能力は人間のそれではなく、まさに物語で語られる鬼のようだ。しかし、大きな傷を負えば回復に長い時間を要するし、彼らを切り殺した剣豪の例もあるため、完全な不死とは言えない。
たとえば、吸血鬼──特殊なウイルスに感染した元人間は、老いと無縁の肉体であり、致命傷を受けても死ぬことが無い。しかし、頭を斬り落とされたり、潰されたりすれば死ぬ。唯一の例外である雅は、その限りではない。だが、そんな雅も、あるワクチンを打たれれば、弱体化を免れられない。故に、完全な不死とは言えない。
たとえば、サーヴァント──人類史に名を刻み、座に登録され、死後も使い魔として現世に現れる彼らは、ある意味では不死身と言えるだろう。なにせ、彼らは既に死んだ身で、霊基をもってこの世に出現するのだから。ある時は聖杯戦争、ある時は特異点、召喚の条件さえ整えば、彼らは何度だって活動する。とはいえ、これは若干無理矢理な見方をして言っているので、やはり完全な不死とは言えない。
たとえば、アマゾン──人食い細胞から生まれた怪物が持つ回復能力は、人間から見れば不死身も同然である。それに、アマゾンの中には死体を材料にして、人工的に作られたタイプも存在するのだ。それもまた、見様によっては不死身と言えなくもないだろう。しかし、結局はどれだけしぶとい生命力をしていても、死なずの体というわけではないので、完全な不死とは言えない。
たとえば、ナノホスト──医療用ナノロボが脳に寄生した結果異能を使うようになった脳力者たちは、エネルギーさえあれば、失った腕を生やしたり、傷を治したりすることができる。しかし重大なダメージを負ったり、脳を破壊されたりすれば、その限りではない。だから、完全な不死とは言えない。
たとえば、スキルホルダー──異常な才能や特異な負荷を抱える少年少女たちの一部には、殺しても死なないようなものや、死そのものをなかったことにできるもの、宇宙創生の遥か前から生きていたものなど、不死身と言えるものたちがいる。しかしながら、その力の殆どは、大人になれば失われてしまうし、どれだけ強力なスキルでも強大なる不可逆な破壊を前には手も足も出ないので、完全な不死とは言えない。
たとえば、悪刀・鐚──戦国時代を手中に収めた刀鍛冶である四季崎記紀の作りし完成形変体刀が一本は、『活性力』に主眼を置かれており、所有者の死さえ許さず、無理矢理に人を生かし続ける凶悪な刀だ。ところが、この刀の力はあくまで所有者の命の残機を増やすだけであり、つまり、その限界を超える回数殺されれば、刀は破壊されてしまう。これでは完全な不死とは言えない。
そして、亜人──人間の姿をした、人間とは別種のイキモノは、何があっても死なない。
殴っても、刺しても、撃っても、潰しても、焼いても、爆ぜさせても、落としても、埋めても、沈めても、抉っても、轢いても、絞めても、投薬しても──何があっても。
絶対に、絶対に、絶対に、死なない。
完全な不死と言える。
鳥が空を飛ぶように、あるいは魚が水を泳ぐように、亜人にとって、死なないことは当たり前に備えている特性なのだ。
そのようなイキモノを殺し合いの舞台に招来するなど、正気の沙汰ではない。
なにせ、亜人は『死んだら負け』という殺し合いの大前提にして基本中の基本のルールから外れた存在なのだから──しかし。
しかし、この島で開かれるのは普通の殺し合いではない。
普通ではない殺し合いだ。
数多の異能と異形が犇めくこの地において『亜人は死なない』という常識が揺らがないままでいられるという保証は、どこにもない。
亜人を殺せる戦士や能力、道具がすぐそこにあっても、おかしくないのだ。
そんな情報を聞けば、亜人の少年である永井圭は、自分の命を脅かす存在の可能性に眉をひそめるだろう。
一方、亜人のテロリストである佐藤が聞けば、普段と変わらぬ快活な笑顔を見せるに違いない。
見たことのない敵や未知の力を前に、『どうやって攻略しようか』や『どう利用できるか』と、まるで新しく買ったゲームを楽しんでプレイするように考えるのだ。
佐藤はそういう亜人である。

X X X X X


991 : マジでXXする五秒前 ◆3nT5BAosPA :2019/07/08(月) 03:21:31 i1Yw3mWo0
佐藤は現在、E-6エリアをとっくに抜けて、E-7エリアに突入していた。
向かう先には高層マンション『PENTAGON』が天を貫かんとばかりに聳え立っている。
E-6エリアを通る際に、先ほど見かけたライダーをついでに軽く探したのだが、見つからなかった。
着地した後で他のエリアに移動したのかもしれない。
あるいは、E-6エリアにある施設のいずれかに入ったのだろうか。
周囲に散見される民家を一軒一軒捜査してみてもよかったが、そんな確実性の低いことをするより、PENTAGONに盛大な花火をブチかます方が佐藤にとって優先度が高かった。

「PENTAGONを爆破したら、何処かに行っちゃったライダーくん達が驚いて現れてくれればいいんだけどねぇ」

 建造物の破壊を他人を誘き寄せる材料程度にしか考えていない佐藤は、散歩でもするようなのんびりとした足取りで進む。

「ああ、でも」と思い出したように続ける。「永井君みたいな子は、逆に隠れちゃうかな」

 永井君──永井圭。
 名簿に名前が載っていた、佐藤とは別の亜人。
 彼は慎重に慎重を重ね、確実な策で戦うタイプだ。何度も戦ったことがある佐藤はその事をよく知っている──例えば、先ほど北の方角から聞こえてきた声。
 永井がもしアレを聞いていても、声がした方向には絶対に近づかないだろう。彼は危うきに近寄らない君子なのだから。「あそこから声がしたな。なら近づかないでおこう」で済ませるはずだ。
 そんな永井が、高層マンションの爆破という異常事態を目にすればどう動くだろうか。

「不用意には近づかないだろう──だが」

 だが、PENTAGONの崩壊に佐藤が関わっていると知れば、どうするか?
 いや、別に知る必要はない。
「もしかしたらアレは佐藤の仕業なのでは?」──少しでも、そう考えるだけでいい。
佐藤は永井を遊び相手にしているが、永井は佐藤を排除すべき対象と見ている。当然この殺し合いにおいても、そのスタンスは変わらないだろう。ならば、佐藤が関与しているとみられる事態を無視することはできないはずだ。

「こんな見ず知らずの孤島に集められたメンバーの中で唯一の顔見知りなんだ、どうせなら一緒に遊びたいね」

 朗らかな口調でそう呟く佐藤の表情には、獰猛の色が混ざっていた。
X X X X X


992 : マジでXXする五秒前 ◆3nT5BAosPA :2019/07/08(月) 03:22:19 i1Yw3mWo0

 暫くして。
 佐藤は目的地であるPENTAGONに辿り着いた。東の空がだいぶ明るくなってきた。BBが言っていた『放送』が始まるまであともう少しだろう。ついでとは言えライダーを探しながらここまで来たせいで、結構時間がかかったようだ。
 顔を上げる。遠目から見てかなり大きな建物だと分かっていたが、こうして実際に近づいてみると、よりはっきりと分かる。周囲の住宅に比べて異様なほどに高い建物だ。ただの住居でありながら地図にその名前がわざわざ記載されていたのも納得がいく。そのくらい目立つ。ひょっとすれば、佐藤が以前旅客機で爆破したグラント製薬本社ビルや、永井と攻防戦を繰り広げたフォージ安全ビルよりも階数があるかもしれない。
 だが、それは佐藤を臆させる材料とは成り得ない。そもそもこの男が臆する場面など存在しないのだ。目の前に立ちはだかる壁が高いほど、彼は昂る性質(タチ)なのである。

「ははは、派手にやってくれた先客がいたんだねえ」

加えて、エントランスに在る男女ふたりの死体が、佐藤をますます昂らせた。
 目の前に転がるさっきまで命だったものを、物怖じせず見下ろす。
 女の死体は、胸元が大きく裂けていた。まるで肉食獣が爪を立てたかのような傷跡に、佐藤は亜人のIBMを想起する。
 壁に叩きつけられていた男の死体にも目を向ける。局地的な台風でも起きたのかと思うほどに蹂躙しつくされた肉体になっていた。この力任せな破壊手段からして、ふたりを殺ったのは同一犯と見て間違いないだろう。

「開幕早々ふたりも一気に殺すなんて随分血気盛んだね。気が合いそうだ」

 いつか会えたらいいな──そんな展望を抱く。もっとも、会ったところで待っているのは、殺し合いしかありえないのだが。それを含めて佐藤の望みなのである。 
 その後数分かけて、建物を外見から観察し、どの部分を狙って撃てばより派手な壊し方が出来るのか、大体の見当をつけることができた。
 
「さて、それじゃあ早速セレモニーの開幕と行こうか」

 祭りの開始を執行すべく、佐藤はPENTAGONから少し離れ、爆撃で狙うのにちょうどいい位置まで移動する。
 移動を終えると、彼は懐からカードケースを取り出した。まだ出会ってから六時間くらいしか経っていないが、既に手に馴染みつつあるそれを握り締め、銃撃と爆撃の戦士に変身しようとする──その時だった。
 PENTAGONのエントランスから、何者かが現れた。
 学生服に身を包んだ少年だ。遠目から見ても美少年であるとすぐに分かるほどに、顔が整った美少年である。
 少年を見て、佐藤は一瞬「エントランスの惨劇を作ったのは彼なのでは?」と思った。いや、もし少年が人をふたりも力任せで乱暴な手段で殺していれば、彼の服装はもっと血に塗れて汚れていてしかるべきだから、違うのか? いやいや、亜人のIBMのような力を使えば、あるいは……。
 ……どちらでもいいか。どうせ、建物ごと撃つことに、変わりはないんだし。
 そう結論付けて、佐藤はゾルダのデッキを改めて構えた。
 その瞬間、まるでタイミングを見計らったかのように『放送』が始まった。


993 : マジでXXする五秒前 ◆3nT5BAosPA :2019/07/08(月) 03:23:26 i1Yw3mWo0
【E-7  PENTAGON /1日目・早朝】

【佐藤@亜人】
[状態]:健康
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、日本刀@現実
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.PENTAGONが勝つか、花火が勝つか、実験だよ実験。
2. 飛んでいたライダーに興味。
3. PENTAGONの前でふたりの参加者を殺した犯人に興味。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。
※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。
※飛行中の龍騎の姿を確認しました。
※ゾルダに変身しようとするタイミングで放送が始まりました。


994 : ◆3nT5BAosPA :2019/07/08(月) 03:23:46 i1Yw3mWo0
投下終了です。


995 : ◆2lsK9hNTNE :2019/07/08(月) 19:36:54 UD0eB6vQ0
>>988
返事と感想ありがとうございます。3nT5BAosPAさんも投下乙です
これまでの話の感想投下します。
一部すでに投下されている続きの投下前に感想を書いた話がありますが、そこはまあ気にせず見てください

>食物語・とがめアマゾン
 とがめと七実はどうなることかと思っていたけどひとまず穏便な形に落ち着いた様子。
 とがめはアマゾン化はそのままだし、七実を状況次第では殺すつもりなので全然安心はできませんが。
 とがめはただアマゾン化を治すだけではなく、その力にも興味を持っているようでこれからが気になりますね

>ロストルームなのか?
 面白い! 面白いのだがこれがどういう話なのか理解イマイチ理解しきれずにいる。それでもやっぱり面白い!
 どの設定も普通にそれ単独の話でみたいレベルですが特にお気に入りなのは壱。刀鍛冶の目的とかが違和感なくて好き
 波裸羅は重要な情報を得たのは間違い無さそうだけど、全然行動が読めないし今後どのようにその情報を活かしていくのか。

>始まりと終わりどっちが強いのか実験だよ実験
 無惨様は行先を変えるだけの短い話なんですが、その行き先は面白くなること間違いなしの方向、つまりこの話も面白い。
 なんせ無惨様が怒ってますからね。この時点で怒ってるんだから次の話でさらに怒るのは確定、そして無惨様は怒るということはそれだけで面白い。
 >始まりの鬼は出会う。
  終わり(ジ・エンド)の鬼に、出会う。
  限りなく完璧に近い存在が。
  完璧な存在に出会ってしまう時が来た。
 この締めの文章の対比も良いですね

>ORDER CHANGE
 盛り上がったまま終わりを迎えた話の続きだけあって、その勢いを全く落とさないスタートですね
 ママチャリで突っ込む善吉はちょっとおかしくもありつつも、ドリフトで攻撃を躱し蹴りを浴びせる姿は格好良く、そこからも煉獄さんと怒涛の連携が熱い。
 石上の声が聞こえた後も
 >「ここはあんたに任せて俺が行く!」
  「ここは俺に任せて行け、少年!」
 ほんと会ったばかりとは思えない程の息の合いっぷり。
 原作では死ぬまで戦い抜いた煉獄さんに逃げてでも生きろと言うのも良い!

>紅蓮の華よ咲き誇れ
 小技や連携の効いた前回とは打って変わってのインフレバトル、正直原作だとここまで強いか? という気はしますが戦闘描写は迫力満点。
 バトルだけでなく、善吉の言葉で生きる道を選ぶ煉獄さんの描写も良い。
 雅も煉獄に負けない強敵っぷり。初めて雅を見たのは「なんだここは滑るぞ」の画像でなのですが、あれとは全然違う印象
 このクオリティを予約後二時間もしない内に投下できるのはすごい!

>UNSTOPPABLE
 上田、本当に結果として有能な感じになってるなぁ。USBという重要そうなアイテムも手に入れたし、マジで対主催の要になる可能性もあるかも。
 しかし未だドッキリと勘違いしたままなので、それが違うとわかった時にどうなるのか。取り乱したら酒呑童子からも切り捨てられそう。
 酒も入ってることだしいっそこのまま突っ走ってくれた方が、周りのためにも本人のためにも良さそう。

>それは遠雷のように
 最初の回想や雷鳴のような轟音という文章から示唆はされていましたが、仲間である善逸の死体との対面話ですね。
 場の状況から、訓練の時にはサボろうとしていた善逸が慣れない獲物で何をしたのか察しての「頑張ったんですね」。良いですね。
 鬼殺の剣士にとっては仲間の死は珍しいことでもなく、しのぶさんのリアクションも大きなものではないですが、しっかりと善逸への労りが感じられます。
 特別大きな出来事があったわけではありませんが、全体的に雰囲気の良い話でした。
 
>母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ。
 マシュと村山を上手いこと操るクロオくんですが、何気の嘘は一度もついてないのが笑えますね。
 累との会話も独特の雰囲気で良い。他人に家族を強要してきた累ですが最初から、ここまで家族をやってくれる相手はおそらく初めてでしょうね。
 やっぱりこのコンビ大好ききです。マシュも家族に誘って二人の行き先が本当に気になります。
 二人だけでなく冒頭の村山の独白も良い。マシュもですが、セリフや思考の言い回しからそのキャラの魅力が伝わってくる話でした。


996 : ◆2lsK9hNTNE :2019/07/08(月) 19:39:22 UD0eB6vQ0
>シグルイ・オルタナティブ
 確実にシグルイを読んでいた方が面白い話、しかし読んでなくても面白い!
 互いに慣れない獲物での戦いは初戦ならではで見応えたっぷり。互いの心理と思考の入り乱れながらの戦闘は文章の強みですね。
 >冨岡義勇は目にも止まらぬ速さの敵を知っており、犬養幻之介は目にも止まらぬ速さの自身を知らなかった。
  当たれば確実に死に至る一撃を放つ鬼を。
  初めて目覚めた力を思うまま振るう鬼を。
  詳細を誰一人知らない鬼血術を使う鬼を。
  はたして、これまでに何体斬ってきたであろう。
 これが勝敗を分けたきっかけになったのも上手い。説得力がすごい。
 最後の幻之介の技も元ネタがあるっぽいけど、樹に埋まった剣を無理やり振り抜いての異常な加速、からの
 >――――大地である。
 元ネタ知らなくても熱い。
 戦いが終わった後の幻之介の描写も切なくも清々しくて、登場話を書いた人間としては退場は残念ですが、文句なしの面白さでした。
 >特にオルタナティブ・ゼロを支給して奉仕マーダーにしてくれた◆2lsK9hNTNE氏に。
  心から感謝をします。
 ここまで深い意図があったわけではないので持ったないお言葉です。こちらこそこんなに良い退場話をありがとうございました。

>Determination Symphony
 この話、予約を見た時は位置の離れた二組だしお互いの心理描写とかを対比する程度の話からなと思ったんですが、そんなことは無くめちゃくちゃ熱い話だった。
 特に雅貴がすごい好き。冒頭の一人でいるシーンなどの愉快なシーンも良いんですが、禰豆子と悠の戦闘に割り込むところが格好いい!
 普通の人間の範疇だろうに短時間とはアマゾンを圧倒できるのはできるのが凄い。そしてそれを納得できるだけの戦闘描写も。
 でもなんといっても一番は王刀“鋸”を口に突っ込むシーン。ほんとそう来たか! ってなりました。
 炭治郎や、悠と雅貴も呼びかけ、しかもそこにそこに善逸まで現れて本当に熱い!
 楽しませていただきました。
 
>禁断の華を手折るのならば
 七実からとがめを取り戻すための仮の持ち主を探すことにした七花。
 ネガティブな雰囲気で書かれる七花の思考が良いですね。
 最初に読んだ時は誰と組むことになるんだろうという、わくわく感がありました。
 こういう次の人に選択を任せるタイプの話は、自分で書くのは苦手なのですがいつか自分でもやってみたいですね。

>WORLD IS MINE
 別に改心したわけでは全然ないのに味方キャラみたいな動きする権三に笑う。
 より厄介な相手を倒すために善人のフリをするって、そんな変なことではないのに権三がすると妙な可笑しさがある。
 無惨様は戦ってる間は一撃もらってもそれなりに威厳を保ててたのに、終わった途端に見苦しい感じになりますね。黒神めだかがその才能で多くの大人を挫折させたのは原作でも書かれていたことですが、仮にも別作品のラスボスにそれをするのは無惨様のようなキャラじゃなければ難しかったでしょうね。
 童磨がその場凌ぎだけど太陽に対策できたに、無惨様は逃げるしか無く権三に弱点ばれるし、終わってみれば感情に任せて暴れて失敗するいつもの無惨様でしたね。


997 : ◆2lsK9hNTNE :2019/07/08(月) 19:39:56 UD0eB6vQ0
>打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
 メタ的に考えるとIBMが一日に二体くらいしか出せないのは書きづらいので、そこを出せるようにするのは書きやすくなって良いですね。
 PENTAGON周辺は参加者集まっている場所なので佐藤が行ったらいったいどうなるか…
 PENTAGONほどのビルを壊すのは流石にエンドオブワールドでも難しそうだけど、でも北岡さんではなく佐藤ならもしかするかも。

>FILE02「海面観測!巨大な人影
 バトロワのはずなのにこの三人だけ伝奇空間になっている…最初の鬼の件とか本当に和風伝奇ホラーって感じですね。
 三人の組み合わせもバトロワではなく伝奇ホラーとしてバランスが良い。
 ここまえ独自の雰囲気を出されると普通とは違う感じの意味でこの先彼らがどうなるのか予測がつかない。いったい最初に接触する相手は誰なのか、どんな話になるのか。

>君の知らないものばかり
 上田ついに知ってしまったか。ずっとそのままでいれば良かったのに。
 メルトリリスも怒る気持ちはわかるけどそいつはそのままにしておいた方がいいよ…
 もう今までほどの活躍は見込めないでしょうが、直前に酒呑童子とメルトリリスの争いは止められましたね。どっちも結構な面倒なタイプっぽいので一先ず場を収めただけでも功績としては大きそう。まあ面倒な二人と正気に戻った状態で行動しなきゃいけないということでもあるんですが。
 これまでの考察も消えたわけじゃないし、それに非常事態に全く活躍できないわけでもないので、どうにか上田には今後も活躍してほしいところ。

>姉は祈り、弟は乗る
 やっぱりこういう死者を悼む話はロワの醍醐味のひとつですよね。
 中野姉妹の方は状況を切迫具合や死体の無残なありさま、死に慣れていないことなどもあって生きている姉妹の支え合いがメインでしたが、こちらはそれよりも善逸の死そのものの割合が幾分強い気がします。
 しのぶさんと広斗の雰囲気も良いですね。まだ出会って短い二人ですが確かに情が湧いてきていますね。
 そしてついに出てきた年号ネタ。鬼滅勢、現代人と接触してる人は時代の違いで今まで誰も気づいてませんでしたからね。

>マジでXXする五秒前
 最初の多数の作品の不死を語るところ良いですね。最後が亜人の完璧な不死性につながることが読めていてもワクワクします。再生能力の類を持っている参加者はいっぱい居ますが、ホント亜人の死ななさは別格ですからね。
 佐藤はPENTAGONに到着、このままだとジウくん爆発だけどどうなるんだ…
 放送がこの状況にどういう影響を及ぼすのか。放送後の話が早く読みたい!


998 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/07/09(火) 01:57:18 jL1k6Ur60
>>988

すいません、予約を破棄します


999 : ◆0zvBiGoI0k :2019/07/10(水) 23:14:04 Phr26yt.0
スレ立て乙です
ではこちらで フローレンス・ナイチンゲール、円城周兎、浅倉威、源頼光 予約します


1000 : ◆3nT5BAosPA :2019/07/15(月) 22:01:05 w8S6PStY0
猗窩座、白銀御行、永井圭、宮本武蔵(男)、人吉善吉、波裸羅で予約します


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