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Fate/Fessenden's World-箱庭聖杯戦争- Part2

1 : ◆aptFsfXzZw :2016/12/22(木) 21:39:43 YMVreksw0



当企画はTYPE-MOON原作の『Fate』シリーズの設定をモチーフとした、様々な版権キャラによる聖杯戦争を行うリレー小説企画です。
本編には殺人、流血、暴力、性的表現といった過激な描写や鬱展開、異種作品のクロスオーバーが含まれています。閲覧の際には充分にご注意ください。



※現在、参戦マスター&サーヴァントの登場話候補作を募集中です。
 ご興味のある方は、奮ってご参加ください。



まとめwiki:ttp://www65.atwiki.jp/ffwm

前スレ:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1479825994/l50


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2 : ルール説明 ◆aptFsfXzZw :2016/12/22(木) 21:41:23 YMVreksw0

【基本ルール】

※形式:15組のマスターとサーヴァントによる、スノーフィールドで再現された聖杯戦争
※勝利条件:ムーンセルの中枢『熾天の檻』へのアクセス権、つまりは聖杯の使用権を最初に獲得するサーヴァントとそのマスターになること

 なお、『熾天の檻』にアクセスする方法は『Fate/EXTRA』本編と異なり、殺し合いを勝ち残るのみならず当聖杯戦争における『小聖杯』を必要数確保する必要があります。
『小聖杯』に関する詳細については、参加者決定時に併せて公開する形式とさせて貰います。あしからずご了承ください。


 1.再現された聖杯戦争について

・ここでいう聖杯戦争はムーンセル・オートマトンが記録に値する人間の魂を選出するために執り行う儀式のことを指します。目的を果たすのに最も優れた観察様式として、地上で行われていた『聖杯戦争』という形式が選ばれた結果、地上のそれを再現しているという設定です。
・今回の主なモデルとして選ばれたのは、『Fate/strange Fake』本編で描かれた『偽りの聖杯戦争』となります。ただし、当企画においては真偽の別はなく、実際に召喚されるサーヴァントの数も更に二騎増加しています。
・聖杯獲得条件の全貌は前述の通り、現時点では公開されておりません。運営用NPCは詳細を把握していますが、予選期間中は参加者に公開する権限を与えられていません。
・地上における聖杯戦争の再現率を向上させるため、当聖杯戦争では神秘の秘匿(行為の再現)が重要視されており、市民用NPCとは別に地上における状況を再現するための運営用NPCが用意されています。
 監督役を筆頭とする運営用NPCは『Fate/EXTRA』本編におけるNPCに近い役割で、聖杯戦争の円滑な運営や神秘の秘匿のために参加者の補助を行いますが、放置することで神秘の漏洩が不可避となった場合には該当する主従を地上の監督役に可能なレベルで再現された能力と権限で処罰します。
 そのため、仮に市民全員の魂食いやスノーフィールドの消滅を齎しても神秘の秘匿さえできていれば問題となりませんし、逆に虫一匹傷つけていなくとも神秘の漏洩が不可避である事態を招けば処罰対象となり、違反した主従は討伐令を発令されるなどのペナルティを負う可能性があります。


 2.NPCについて
・NPCは大まかに分類すると、市民用NPCと運営用NPCの二種類が用意されています。
 前者はスノーフィールド市民の役割を与えられた元マスター候補、つまり本戦出場のマスター達同様、並行世界から連れて来られた生身の人間となります。そのため「魂食い」の対象とすることが可能です。
 後者はムーンセルが元来有するNPCで、聖杯戦争の管理・監督を行っている意識体のことです。本来はシステム関連の重要な管理を担っている人工知能ですが、今回は敢えて管理AIとしての機能の大部分を没収して、地上における管理者(魔術協会、聖堂教会から派遣された関係者)が持ち得るレベルの能力・権限しか与えられていません。
・市民用NPCはムーンセルによって、超常的能力の封印および与えられた役割のロールプレイから逸脱した行為を抑制する刷り込みがされています。
 また、各マスターと関わりのある並行世界上の同一人物、あるいはその当人が存在する可能性もあります。
・舞台となるのは電脳世界ですが、現実世界から招かれたマスター、及び市民用NPCは肉体ごと量子情報化されて取り込まれており、基本的には死亡しても遺体は消去されずその場に残ります。


3 : ルール説明 ◆aptFsfXzZw :2016/12/22(木) 21:41:47 YMVreksw0

 3.舞台、及びその場におけるマスターの立ち位置について
・『Fate/strange Fake』の舞台となったアメリカ大陸西部の架空都市スノーフィールド。当聖杯戦争においても、ムーンセルによって電脳空間に再現されたこの街を舞台としています。
・時代設定も『Fate/strange Fake』同様で、『Fate/stay night』の数年後という時代背景でスノーフィールドが再現されています。
・マスターは、基本的に最初は「スノーフィールドの市民」という役割の市民用NPCを演じています。もちろん旅行者として一時的に滞在しているだけなど、市民ではない立ち位置になる可能性もあります。
 記憶を取り戻すことで令呪が宿り、マスター権を獲得します。その後、予選終了まで主従揃って生き残ったマスターが本戦出場者となります。
・公用語は英語ですが、読み書きや日常会話に不自由しない程度の言語能力、及び時代背景等の一般常識の知識はあらかじめ各マスターに与えられています。
・スノーフィールドは都市を中心に、北には広大な渓谷、西には森、東には湖沼地帯、南には砂漠地帯が広がり異様なバランスをとっている、という大まかなイメージが原作で語られていますが、詳しくは現状不明です。
 当企画においては、原作よりも住民の中の割合として諸外国からの移住者、ホームステイ等による国際体験生活者、及び周囲の大自然を目当てとした観光客等が存在し、違法移民と合わせて原作で語られているよりも遥かに多様な人種の坩堝と化している、という独自の設定を追加しています。
 その他、書き手さんの裁量で、SSの都合に合わせて設定を修整しても構いません。
 また、地区のイメージに合わせた施設(参戦作品の原作施設含む)を追加することも許可します。


 4.『白紙のトランプ』について
・『白紙のトランプ』は当企画内におけるムーンセル・オートマトンが時空を越え接続した無数の並行世界に、無作為にばら撒いた偽りのスノーフィールドへの招待券です。場所を問わず至る所に出現している可能性があります。
・マスターがNPCとして生活している間は、それぞれの『白紙のトランプ』は没収されていますが、記憶を取り戻し令呪を宿すと同時に再び支給されます。
 この『白紙のトランプ』を核にサーヴァントが召喚されますが、それに要する時間には個体差があります。具体的には書き手さんの裁量にお任せします。


 5.その他マスターとサーヴァントについて
・召喚されたサーヴァントの設定については原作Fateシリーズの設定に則るものとします。ただし『偽りの聖杯戦争』をモデルとしたため、本来ならムーンセルに記録されても英霊の座には存在し得ないような者までサーヴァントの規格に当て嵌めて召喚される可能性があります。
・地上における聖杯戦争の再現率を向上させるため、従来のムーンセルにおける聖杯戦争とは異なり、マスターはサーヴァントが敗退しても消滅することはありません。ただしスノーフィールドから脱出できる者は原則『熾天の檻』に到達する一人だけとなります。
・同様の理由から、令呪の全消費=マスターの死亡ではありません。しかし令呪の喪失にはサーヴァントへの命令権を失う他にも一つ、あるいは幾つか不利となる要素が設けられる予定です。
・マスターが死亡した場合は、サーヴァントは消滅を免れません。しかし、消滅するまでの猶予中に他マスターと契約を交わせば、これを免れます。
 なおムーンセルにおけるサーヴァントはマスターのIDに関連付けられているため、一人のマスターが現界している複数のサーヴァントと同時に契約を持つことはシステム上不可能となります。
 但し契約を解消し、新たな主従を結成することは可能です。



【登場話候補の募集について】
 15騎が出揃った状態で日付変更を迎えるまで行われる、聖杯戦争本戦に向けた予選期間中の各主従の描写、という設定での登場話候補作を募集します。
 なお当選したサーヴァントのステータスについては、場合によっては>>1が修正をお願いすることがあります。あしからずご了承ください。


 現状ではまだ、明確な期限は設けていません。
 最終締め切りは、どんなに遅くとも、三日前には通達させていただきます。
 他の版権聖杯戦争企画からの流用も、同トリップからの投下なら構いません。

 その他細かいルールや質問がある際には可能な範囲では随時対応し、最終的なルールは『小聖杯』や令呪の件と合わせて参加者決定時に決めようと思います。
 よろしくお願いいたします。


4 : ◆aptFsfXzZw :2016/12/22(木) 21:43:23 YMVreksw0
少し早いですが、2スレ目を用意させて頂きました。
前スレが埋まるか、前スレで収まるか怪しい場合、ご利用ください。
感想は遅れています。毎度ながら不甲斐ないとは存じますが、どうかご了承くださいますようお願い申し上げます。


5 : ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:37:56 JevbiWg.0
投下します。


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6 : 拝啓ラピスラズリ ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:39:02 JevbiWg.0
最初の感想は、歳にしては殺風景な部屋だと思った。
物は少ない。
冷蔵庫など生活に最低限の物は確保してあるようだが、それにしても人が住むには物が少なかった。
…いや、自分に散らかし癖があるのは理解しているが、それを考慮しても物が少ない。
しかし、その分手入れが行き届いている。
扉には油が刺してあるのか、歴史を感じさせる―――悪く言えば古く、要所要所にガタが来ていてもおかしくはないこの部屋の扉も、開ける際に何の苦労も必要なかった。
少女の顔もそれなりに化粧を施され整えられている。
―――なるほど。陽気なだけの馬鹿じゃないらしい。
殺風景な部屋の壁に背を預ける女性。
サーヴァント、『キャスター』はそう結論を下した。
部屋というのは、その人物を表す。
『自室』というプライベートスペースは、言わば他人の眼に触れることがない―――世界から隔離された個人空間だ。
『誰にも見られない』という理論の元、油断した心の内が流れ出し部屋を埋める。
その流れが、部屋を綺麗に洗い流すか物を巻き込み散乱させるかは、持ち主の心次第ということだ。
そして、周りを見る限り此処は前者だ。
余程己をコントロールできる人物らしい。

「コーラでいいっすかー?」

部屋の奥から、少女の声が響く。
最初は何の確認かと思ったが、『飲み物を出すがコーラでいいか』という確認だということはすぐに理解できた。
残念ながら好き嫌いが多くてね、良ければ珈琲で頼むよ、と返答を返すと間の抜けた伸びた言葉が帰って来た。
インスタントならあるっすよー、と。

「じゃあそれでお願いするよ」
「りょーかーい」

カチャカチャ、と食器を揺らす音が耳に届く。
しばらく立つと、少女がカップに注がれた珈琲を持って、とてとてと帰って来た。

「えっと、何処まで話したっけ…」
「君の此処に来る前の最期の記憶が心臓を刺し貫かれた瞬間であること。そして、君が……信じられない話だが、魔法少女とやらであることだ」
「そう!そうっすよ!」

バンっ!と勢いよく立ち上がる。
質素なテーブルがカタカタ揺れ、カップの中の珈琲が黒い表面を揺らがせる。
少女は、此処に来る前も生死を賭けたデスゲームに巻き込まれていたらしい。
魔法少女が、三日間ごとに巻き込まれる悪夢。
多くの人が死に、その屍を乗り越えて進んだ現実。
そして。
多くの魔法少女をその手で翳した者を、倒せなかった後悔。

「まあ結局はあたしも死んじゃったんすけど」
「…笑いながら話すようなことかね」
「まあ、此処で怒っても仕方ないですし?…許せないことはまだ確かにあるけど、それはそれ、これはこれっす。
聖杯戦争とやらに持ち込んでも仕方ないことっすよ」

……変なところで物分かりの良い少女だ、とキャスターは思う。
まだまだ未熟な部分もある。
が、しかし何処か物事を仕方なしと判断する気丈さも持ち合わせている。

("こんなモノ(聖杯戦争)"に巻き込まれなければ、さぞかし大成しただろうに)

いや、既に死んでいたのだったな、と。
キャスターは脳内でそう呟く。

「えーっと、それで聖杯せんそーとやらは一つの聖杯を勝ち取る為に争う……?」
「そうだ。
最期に残った者には万能の願望器―――『聖杯』を手にする権利が与えられる。勝ち残った者にはそれを与えられるだけの価値がある」


7 : 拝啓ラピスラズリ ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:39:39 JevbiWg.0
ずず、と珈琲を啜る。
美味いか不味いかで言えば、普通だ。
特になんら変鉄のないインスタント。
ほっと息を吐きつつ、告げる。

「―――勿論、『万能』と謳うぐらいなんだ。
大抵の願いは叶えられるぐらいの性能"スペック"はある。
…無論、それが死者蘇生であろうとね」

ピクリ、と。
少女の肩が動いた。
キャスターはそれを見逃さない。その反応を待っていた。
仕方なしとある意味達観していた少女が見せた、聖杯への欲求。

「君が言うデスゲームの死者を蘇らせることも可能だ。
―――君の手が届かなかった。守れなかった。救えなかった。助けたかった。
そんな"誰か"を、この世に呼び戻すこともできる。ああ、一人だけとは言わないよ。
苛酷なゲームを生き残るんだ。生き返らせるのが二人だろうと三人だろうと、聖杯にとっては誤差に過ぎないだろう。
なんなら十人でも二十人でも構わない」

少女の手が揺れたのを、見た。
『許せないことはまだ確かにある』。
そう語った少女の瞳に浮かんでいたのは、大人びた達観ではない。
―――諦観だ。
少女は、失われてしまったモノに対し『既に起きてしまったこと』と悟り、諦めている。
……その根底には、まだ怒りが燻っている。
仲間。友達。家族。
どのような間柄だったかは知らないが、奪われた者への悲しみと、奪った者への怒りがまだ少女の底で火種を作っている。
其処に、火を灯す。
薪を焼べる。
油を注ぐ。
その燻っている小さな火種を煽り、大火とする。
喪われたモノに、まだ手が届くぞと。
『奪われる側』のままでいいのかと。
歪んだ世界に、搾取されるだけの存在でいいのかと。
少女の瞳が、下を向く。
キャスターの口角が不気味に吊り上がる。
飢えた人間の前に、毒物が添えられた食物を差し出すように。
馬の前に、人参を垂らすように。
奪われ続けた少女の怒りを、悪辣な願望器で掬い上げる。

「―――そうっすね」

来た。
釣り上げた。
キャスターはそう確信した。

「きっと、みんなが生き返ったら楽しいんだろうなって、思う。
またカラオケ行ったり。美味しいモノ食べたり。…未来を熱く語ったり、体験したことのないことを一緒に体験できると思うと、きっと、それ以上のことはないんだろうなって思うっす」

少女が、ゆっくりと立ち上がる。
瞳は前髪に隠れてその表情は読み取れない。
キャスターを見下ろす形で、少女は目の前に座るキャスターを見据える。

「でも」
「でも」
「でも」
「それと同じくらい、駄目だって思う」


8 : 拝啓ラピスラズリ ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:40:30 JevbiWg.0
少女の顔は、笑っていた。
絶望から諦めた顔ではない。
悪辣な奇跡に縋る顔ではない。
その顔は。
キャスターの見たことがない、人間の尊厳に満ちた顔で。

「ベルっちも、みんなも、きっともう会えないけど。
みんな、精一杯生きて、それで眠ってるんす。
あたしの都合で、こんな理不尽なゲームの賞品で叩き起こしたら、怒られちゃうっすよ」

違う。
それは本心ではない。
心はまだ、再開を望んでいる。
理不尽に奪われた未来の続きを望んでいる。
キャスターは職業柄、読心術に長けている。
年端もいかない少女の心など、手に取るようにわかる。
だからこそ、理解できた。
少女はまだ―――奪われたモノに対する心の整理など、ついていない。
だが。

「…そうか」

そう言うのならば、"そういうことにしておこう"。
この聖杯戦争を生き残るならば、嫌が応でも己の心と向き合わねばならない。
その頃に―――少女が底無しの願望に沈むように、誘導してやればいい。
キャスターは、そう結論付けた。

「それに」
「それに?」
「よし、決めた!キャスっちさんにだけ見せてあげるっすよー。
変・身っ!」

質素な部屋に似合わない、何処から取り出したのかわからかい青い宝石を掲げ、まるで少女アニメの主役の様に叫ぶ。
……見たところ少女はもう高校生を越えているだろう。
恥ずかしくないのかい―――と、口に出そうとした、瞬間。
閃光が、走った。

「うおまぶし」

口に出した言葉は、そんな短絡的な反射の言語だった。
眼を細める。
閃光の眩さに慣れた頃には―――少女の姿は、完全に変貌していた。
艶やかな黒髪。虎の尻尾。民族衣装のような、青い宝石が装飾された服装。
目の下の泣き黒子―――これは変わっていない。
が。
明らかに、完全に、姿を変えていた。
…なるほど確かにこれは変身だ。

「それで、何の手品だいこれは」
「戦場に舞う青い煌めき!」
「聞いてるか?」

ビシッ!と、まるで戦隊もののような、熱いポーズを決める。
残念ながらキャスターは"そっち側"の趣味はないため、テンションは上がらないが。
少女のテンションは上がっていた。

「その名も!」

「魔法少女…ラピス・ラズリーヌ!」

「―――である!」

…お茶の間に静かな空気が走り抜けた。
うむ。
これは確かに魔法少女である。
さて、どう反応を返すべきか―――


9 : 拝啓ラピスラズリ ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:41:13 JevbiWg.0
● ○

「ごげ」

潰れた蛙のような声を挙げる。
鮮血が飛び散る。
散った血液は口内に飛んだ。
―――ああ、美味い。
素直に、そう思った。

「あさ、あ、あさささあさ、アサシン―――」

その肩から飛び出た刃は、正確に『アサシン』と呼ばれた存在の霊核を貫いた。
紛れもなく、即死だ。
キャスターが追撃する必要性もない。
二秒とかからぬ間に、アサシンと呼ばれたその身体は塵と化した。

「よわ」「雑魚やね」「ケハハ」「エトしゃん!」

刺し貫いた、その下手人。
小さな身体から飛び出た幾つもの触手が口を作り、舌を作り、独りでに喋り出す。
異形の怪物。
赫く染まったその右目が、異物性を主張する。

「うわ、え、いや」

アサシンの、マスターだったもの。
その男が、後退りする。
完全に腰が抜けている。
その二つの脚は完全に意味を失い、力なく垂れている。

「助け、おれはもう、マスターじゃな」
「それで?」

ザシュリ。
キャスターの触手から飛んだ弾丸が、男の顔半分を吹き飛ばす。
ごへ、と無様な断末魔と共に飛び散った脳髄が地面を揺らす。

「あらあらあらあら」
「勿体無い」

その脳髄を両手で掬い上げ、口へと運ぶ。
食感は大福のようで、味はまるで何年も寝かされた味噌のように濃厚だ。
……味噌の味など知らないが、比喩的表現として。
今のキャスターは、単独行動だ。
高い単独行動スキルにより戦闘も可能としている。
……しかし、失った魔力は補充せねばならない。
だからこうして、ディナーと洒落込み補充している訳だ。

「……つまらんねえ」

己のマスターを思い浮かべ、そう呟く。
あれは、駄目だ。
奪われる側のままでいる彼女は、使えない。
……いや、そうではない。
はっきりと言ってしまおう。
奪われる側のままでいることを良しとしている、あの性根が気に喰わない。
だから。
遊んでやろう、と思った。


10 : 拝啓ラピスラズリ ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:41:50 JevbiWg.0
彼女のその心が折れるまで。
彼女のその理想が堕ち、悪辣な奇跡に手を伸ばすまで。
ひたすらに、扱き下ろしてやろう。
マスターである少女には、己はしがない作家である、大した宝具も持たない三流キャスターである―――そう告げている。
勿論、長く遊ぶためだ。
自分の魔力が人殺しに使われていたと知ったとき、あの魔法少女はどんな顔をするだろうか。
…何処まで、"魔法少女"でいられるだろうか。

「さあさ私のかわいい脊髄ちゃん。
踊って見せなよ、そう、中身が溢れるぐらい激しくね―――」

うふふ。
あはは。
闇夜に、人喰い作家の詩が響く―――


11 : 拝啓ラピスラズリ ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:42:35 JevbiWg.0
【出展】東京喰種:re
【CLASS】キャスター
【真名】芳村愛支
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力D(A) 耐久D(A) 俊敏C(B) 魔力C 幸運D 宝具C

【クラス別スキル】
道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
彼女の場合、人体改造。
後述の「隻眼の骨」スキルに由来する。

陣地作成:E-
魔術師として自分に有利な陣地を作り上げる。
彼女の場合、魔術師ではなく作家であり、このランクの低さのため陣地すら作成できない。

【保有スキル】
隻眼の喰種:A
右の眼を赫く染める、人外。
この眼を見たものに精神的恐慌状態を与え、筋力と俊敏の値を一時的にダウンさせる。
精神耐性スキルで軽減可能、Bランクで無効化できる。
また、人肉を喰すことで霊基の回復速度を上げ一時的な火力増強を施し、同ランクまでの単独行動スキルとしても働く。
キャスターは人と喰種の間に生まれた「天然の半喰種」であるため、ランクが高い。
もし隻眼の王と名乗る者ならば―――その者は、規格外のEXを有しているだろう。

逃亡:A
 名称通り戦闘から離脱する為の能力。喰種としての上等手段。
 同ランクまでの仕切り直しと戦闘続行を得る。
半身を切断されようとも逃げ延び、生き延びるスキル。

無力の殻(偽):A
芳村愛支は、大成した作家である。
またの名を『高槻泉』。
自ら愛支の名を名乗るか宝具の解放の『瞬間(解放した後は構わない)』を視認された場合以外の者に対してサーヴァントの能力やステータスを偽装し、そして作家という殻を使い無力さを演出する。

隻眼の骨:A
観察眼と人体改造の複合スキル。
作家として物事の顛末を見通す眼を持っており、そのお眼鏡に叶ったものは『骨』と呼ばれるものを移植され超回復と変化を繰り返す化物になる。

【宝具】

『燦々と煌めく赫梟(ワンアイズ・オウル)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:0

液状の筋肉とも呼ばれる喰種の捕食器官『赫子』を全身に纏った姿。
その姿は巨大な化物そのものであり、その外見から『隻眼の梟』と恐れられた。
ステータスを()内にまで上昇させ、人間に対する特攻能力を得て、人間に対する攻撃に有利な判定を得る。
肩部から背中にまで生えたブレード、首回りに生えた突起物を高速で弾幕のように射出する。
射出は『羽赫』の基本攻撃。
赫子を道具作成スキルと認識し、それによって身体を包む赫者のためキャスターとして具現化した。
肉の壁に覆われている本体が深い傷や苛立ちを負った時、戦闘の一時的な間にのみ狂化:Bを得て更に強化される。
また、部分的展開も可能であり、その場合は肩周りから鋭い触手や弾丸を放つ。

『名無きに贈る世界への物語(ノーネーム・ビレイグ)』
ランク:C 種別:対世間宝具 レンジ:-- 最大補足:--

これは、芳村愛支ではなく高槻泉としての宝具。
彼女が今まで、書いてきた作品。
彼女が最期に、この世に “生まれ間違え” 血肉を貪る孤独な同胞のために書いた作品。
それら全てを、彼女―――『高槻泉』としての逸話として、この宝具に昇華させた。
一冊の本のような造形をしており、彼女が続きを書くことで能力を発揮する。
具体的には、書かれた内容通りに世間の、世界の下準備が整っていく。
―――これは。
彼女が死した後の世界を任せたいと思うような逸材に出会った時のみ、筆は進むだろう。


12 : 拝啓ラピスラズリ ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:47:12 JevbiWg.0
【人物背景】
職業は小説家であり、ミステリーを中心に執筆しており、高い人気を持つ若手小説家。
巧みな表現や洗練な文体、緻密な心理描写と過激な残虐描写が特徴的で彼女の作品にはファンも多い。
黄緑色の髪が特徴的な小柄な女性。
非常に整った容姿をしており、作品より彼女個人のファンもいるという。
性格は明るくよう気に加え、飄々したどこか掴み所がない変わり者。
プライベートは結構だらしなく自宅は割りと散らかっている。
非常に優れた洞察眼を誇る。
幼少期は「施設の子供」と自称していたものの、実態はストリートチルドレンに近く、カネになると判断し作品を編集者へと持ち込み、16歳の頃には人気小説家になっていた。

その正体は喰種組織『アオギリの樹』の創設者『隻眼の梟』エト
アオギリを率いるリーダー『隻眼の王』とCCG上層部からみなされている最強の喰種。
人間と喰種の間で産まれ落ちた天然の半人半喰種のハーフ。
高槻泉は彼女の表の顔にすぎず、名前も偽名で所謂ペンネームである。
本名は芳村エト(愛支)、名には「多くの愛がこの子を支えてくれますように」という願いが込められている。
上記の飄々した性格はあくまでも彼女の一面にすぎず、その内面には他者の心の傷を執拗に抉り玩具のように弄ぶのを好む悪辣な本性を隠し持つ。
真っ直ぐ正義感溢れる者を「だからこそ折れた時が見物」と評し、暇潰しのような感覚で複数の人間や喰種の人生を壊している。
その本性を知った人物からは「救いようがないゴミ」と侮蔑されている。
一方で作戦で戦死した仲間達を想う言葉を口にしたり、古くからのマネージャーである塩野には恩人として感謝の念がある事が見受けてられ、残酷なだけではない複雑な一面を見せている。
父である芳村は危険に巻き込まれないように彼女が赤ん坊の時に、
24区の知り合いノロイ(後のアオギリ幹部ノロ)に預けた為に両親の事は芳村が残した母の手帳でしか知らず、親の顔を知らないまま育つ。
その後、14歳の頃に各地のCCG捜査局を襲撃し多数の喰種捜査官を殺害し続けた。
数度に渡る襲撃により、真戸暁の母やウリエの父などを含む多くの捜査官を殺害し多大な被害を齎したが、
遂に後の特等捜査官である黒磐によって赫包に致命傷を負い窮地に陥るが自身に成りすました父の助けによって辛くも延命、以後姿を晦ました。
敗北によって個の限界を悟り、組織の力を持つ為に時期は不明だがアオギリの樹を設立し、表向きは包帯で全身を隠した謎の幹部エトとしてタタラ、ノロイと共に行動をしている。
その傍らで自筆の小説を作成し、人気小説家・高槻泉としての顔を作り上げてきた。
アオギリの構成員はエト=隻眼の梟という事は一部のメンバーにしか知らず、部下にも正体を隠しており、
CCG上層部もアオギリ幹部エト=隻眼の梟ということは掴めていないものの、その強大な力から事実上アオギリを率いる『隻眼の王』を『隻眼の梟』と見て捜査している。
歪んだ経緯から生まれた内面は彼女の小説にも現れており、短編以外の作品の主人公或いは大事な人は必ず死亡するという共通点がある。
この点を気づいた人物は彼女の内面には「正体不明の哀しみ、怒り、空虚、暗い感情を抱え、何にも期待せず、全てに絶望し、あらゆるものに対する強い破壊衝動が渦巻いているのでないか」と分析している。

【サーヴァントとしての願い】
全ては終わったことなので、良し。
……だが。聖杯とやらが本物ならば、手っ取り早くこの"歪んだ鳥籠"をぶっ潰してやるのも良いか。

【出展】
 魔法少女育成計画restart

【マスター】
 ラピス・ラズリーヌ

【参戦方法】
 自宅周辺、人助けの際にお礼にと頂いた模様。

【人物背景】
つややかな切り揃えられた黒髪に虎をモチーフとした民族衣装のような衣を纏った少女。
外見だけ見ると、神秘的な雰囲気を持っているが、実際はノリが良くおちゃらけた性格。「〜っすね」といった軽い口調で喋り、決め台詞や決めポーズをノリノリで連発したり、周囲曰く喋ると台無しなタイプ。
能天気な言動が目立つが、聡明さも備えており、ふとした時に核心を突くこともある。
先代ラピス・ラズリーヌから名前を受け継いで技術を学んだため、戦闘技術・罠を見抜く洞察能力は高い。
彼女が呼ばれたデスゲーム。
血を血で洗った、暗殺者を探せ。
彼女は、その死亡直前より参戦した。

【weapon】
・魔法少女の肉体
・宝石

【能力・技能】
・『宝石を使ってテレポートできるよ』
魔法用に定めている宝石の座標まで瞬時に移動できる能力。仲間に持たせておけば、即座に合流することができ、宝石を投擲などすることで、通常では移動不可能な場所までテレポートできる。応用で高速移動なども可能。


【マスターとしての願い】
特に、なし?

【方針】
とりあえず他のマスターと話し合いたい。


13 : ◆DpgFZhamPE :2016/12/25(日) 00:47:42 JevbiWg.0
投下終了です


14 : ◆Jnb5qDKD06 :2016/12/25(日) 04:46:15 3Gm5uj4c0
皆様投下お疲れ様です。
投下します


15 : アカネと不愉快な魔法使い ◆Jnb5qDKD06 :2016/12/25(日) 04:47:37 3Gm5uj4c0

 茜は駆ける。不破茜は駆け抜ける。魔法少女『アカネ』は駆けていく。
 道場を抜けた少女は次の瞬間別の姿に変身していた。
 剣道部の部活を途中で抜け出し、人気のないところで変身したアカネは建物から建物へ跳躍して寺へ向かう。
 魔法少女は一般人に見られたら困る。ならば見えない速度で駆け抜ければいい。
 幸いアカネは身体能力に恵まれていた。普通の人からはただの黒い影にしか見えないはずだ。
 駆け抜ける身体以上にアカネの脳内には一つの想いが駆け巡っていた。


 ────家族が前代未聞のイカサマをしようとしている。


                                                   多くの人の希望を踏みにじって。


 ────それを許すわけにはいかない。


                                                   それこそが責任であるのだから。


「いた!」

 寺には母と姉と妹がいた──魔法少女の。
 寺では女性限定の徒競走「花競争」が行われようとしていた。札を受け取り、一番最初に本堂へ札を納めた人の願いが叶うといわれ全国から人が集まるイベントである。

 駄目だ。あれは駄目だ。
 遠くから来た人。この日のために鍛えてきた人。大小長短含めて色々な思いがこの場にある。それを魔法少女の身体能力で踏み潰していいはずがない。

 母が好きだ。
 姉が好きだ。
 妹が好きだ。
 だからこそ、四人がそういった行動を取るのを見過ごすわけにはいかないのだ。

 四人の持つ札を切り落とすため鯉口を切り、札を目視し────それが白紙のトランプであることを認識した瞬間、世界が流転した。


       *       *       *


 まず感じたのは粘性。

 流動する水銀が宇宙を構成し、その鱗の一つ一つが宇宙である。

 その水銀の蛇がゆっくりと鎌首をもたげ、口を開き、アカネを吞み込んだ。



 時空が歪む。



 時系列が捻じれる。



 未来から過去へ



 アカネが死んだ瞬間を見た。



 アカネが狂った姿を見た。



 アカネが壊れた原因を見た。



 アカネが戦う時間を見た。



 不破茜が魔法少女になる光景を見た。



 不破茜が生まれた日を知った。



「問おう、君が私のマスターかね」



 そしてその果てにサーヴァントがいた。


       *       *       *


16 : アカネと不愉快な魔法使い ◆Jnb5qDKD06 :2016/12/25(日) 04:47:58 3Gm5uj4c0

 目が覚めた時、アカネは廃墟にいた。
 周りを見回すとどうやら自分は長椅子の上にいるらしい。
 身体を起こすと教壇と十字架があり、ここが教会であることを知った。
 火事でもあったのだろうか。教壇や長椅子には炭化しているものが多々あり、積もった埃は長年人が出入りしていないことを意味する。
 そして、教団の上、まるで司祭か教祖のごとくサーヴァントがそこにいた。加えてサーヴァントを認識したとき、アカネの中に聖杯戦争の知識が流れ込み状況を理解した。
 色々聞きたいことがあるが、まず聞くべきことは1つしかない。

「今のは……幻?」
「全て事実だよ。私と魔力のパスが繋がった時点でどうやら魔力が逆流し、君に過去の光景を見せてしまったようだ」
「あれが……過去?」
「君にとっては未来だがね。だが紛れもなく過去に起きたことであり、未来に必ず起きることだ」

 つまりはこれから先に起きることを見たということなのだろう。
 男の言うことは難しいが、何となく意味するところを体感したことで理解した。
 ならば、あの未来は────

「絶対に変えることはできないの」
「可能だとも。君にはその資格があり、それを為すための奇蹟がここにある。
 此処は偽りの聖杯戦争の戦場。他の敵を殲滅し、その魂を散華させ、聖杯に納めることで如何なる願いをも叶える魔術式が起動する。
 無論、最後には私を殺す必要があるがね」

 平然と自分を殺せという男の貌はせせら笑っていた。
 殺れるものなら殺ってみろという意味か。それともその前にアカネが敗北すると決めつけているのか。どちらにせよ無性に腹が立った。

「令呪で自害させろってこと?」
「いや、私の召喚は特殊でね。君が最後の一人になった時点で令呪を使い切れば自動的に消滅する故、何も問題はない。
 私のステータスは見えるかね」
「ええ、見えているよ『キャスター』」
「重畳。では、改めて問おう。君は聖杯を求めるのかね?
 流血を忌み、殺戮を嫌うその性情で。己が狂い、壊れた所業に再び手を染めると?」

「聖杯は欲しいけど、貴方の言うそれとは少し違う」
「ほう、如何に違うのかな」
「私は戦わない人を殺さない。逃げ出す人も」
「それでは聖杯戦争の勝利者にはなれぬよ」
「サーヴァントだけを倒せばいい。貴方にはそのための宝具がある」

 キャスターの宝具は敵を打ち負かすものでも天変地異を引き起こすものでもない。
 人を改造する宝具。人を人でなしにする宝具。

「私の宝具の効果を知ってそれを言っているならお嬢さん、君は覚悟があると見ていいかね。
 古今東西に雷鳴を打ち立てた英雄勇者。
 凄惨な殺戮、陰湿な魔道によって名が知れ渡った魔術師に殺人鬼。
 さらには人外の者、魔性の者、魔獣神獣……そういったものに”直接”相対する勇気があると?
 老婆心ながら忠告させてもらうとコレは遊びではないのだよ?」

 それは神の宣告か、あるいは責任を一切負わないぞという悪魔の誓約書か。
 味方であるはずのサーヴァントは酷薄な笑みを浮かべたままアカネに問う。
 だが、アカネの答えはあの未来の光景を見た瞬間に決まっていた。

「当たり前だ。私もアレを見て知っている。だから言える」
「何をかね?」
「私は諦めない。責任を果たすまで、勝つまで百万回でもやってみせる」

 その返答に英霊は笑みを深め、悪魔の契約をここに果たす。
 内容はアカネの更なる魔人化。代償はその後の運命全て。
 無論、クーリングオフなどあるわけない魔人への片道切符である。

「よろしい。君の覚悟を認め魔名を授けよう『復讐者(ニードヘグル)』
 今この時より我が宝具『芝居の幕開け、黎明の刻来たれり』(モルゲンデンメルング)は発動する」

 キャスターの右手がアカネの頭の上に置かれる。
 不意にアカネの全身に激痛と熱が走り、耳には鼓膜を破りそうなほど大きな耳鳴りがし始める。
 頭の中で火花が散り、胸に強烈な飢餓感が押し寄せてあまりの苦しさに胸を抑えた。

 組み替えられる。組み込まれる。生き変えさせられる。
 この日、アカネは魔法少女でも、人間でもない別の生き物へと変成したのだ。
 そして────数秒とも数時間とも数日とも数週間とも感じる苦痛の時を超えて


「さぁ、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう」


 聖杯戦争は始まった。


17 : アカネと不愉快な魔法使い ◆Jnb5qDKD06 :2016/12/25(日) 04:48:20 3Gm5uj4c0
する。

千里眼:???
 過去・未来・現在を見通す眼を持つ……らしい。

奇蹟:A+++
 時に不可能を可能とするスキル。
 「星の開拓者」に近しいスキルであるが、適用される事物が異なる。

【宝具】
『芝居の幕開け、黎明の刻来たれり』(モルゲンデンメルング)
 ランク:E〜A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:一人
 マスターに魔名を授け、霊基や魔力のパスをを弄り、魂を燃料として戦う外法を授ける。
 この対象となったマスターは令呪で自身の強化を行うことができる。
 早い話が人間の英霊化であるが、英霊と異なり魂を食らう際は殺さなくてはならない。
 また人を殺して強くなるかはマスター次第。ただキャスターはその行く末を眺めるのみ。

【weapon】
なし。強いて言えば舌

【人物背景】
Dies iraeより多分螢ルートだけやれば把握できる人。
放浪者(アハスヴェール)と呼ばれる古代からの放浪者。
サン・ジェルマン、パラケルスス、トリスメギストス、カリオストロ、カール・エルンスト・クラフトと数多の名前で呼ばれた最悪の詐欺師であり魔術師。
時に世を乱し、時に何かを試しながら未知を求めたという。

その正体は■■であり、サーヴァントは現身どころか切れ端の一部程度のスペックにすぎない。
またこの本体はセファールの白い巨人や神霊の分霊化とは異なり現世に召喚もしくは直接的な影響を及ぼせない。


【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いはない。しいて言えば未知を見せてほしい。


18 : アカネと不愉快な魔法使い ◆Jnb5qDKD06 :2016/12/25(日) 04:48:40 3Gm5uj4c0

【マスター】
アカネ@魔法少女育成計画episodes

【マスターとしての願い】
”あの試験”で家族が死なない結果を作る

【weapon】
魔法の刀:
 太刀一振り、脇差二振り

【能力・技能】
『見えているものならなんでも斬れるよ』
 刀を振れば視界内の任意の座標に同時に斬撃を発生させる魔法 。
 遠近法によっては遥かに巨大なものも切断し、斬撃は硬度を無視して斬る。

エイヴィヒカイト:
 キャスターより授けられた魔道。一言でいうと超人化であり、聖杯戦争ではマスターの英霊化という形で具現している。
 霊基的にも性能的にも英霊と戦うことができる。また殺して魂を吸うほど強くなる。
 初期パラメーターは以下の通り
 
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:E 幸運:D
 対魔力:E、心眼(真):C、戦闘続行:E++


【人物背景】
 魔法少女育成計画episodesより試験前のアカネ。
 責任感が強く、行動する人がいなければ積極的に自ら行動を行う委員長タイプ。
 剣道の全国大会準優勝の腕前。少しでも強さがほしくて魔法少女になったものの「あ、これ強すぎ」ということで自重した。
 勝負事に燃え上がり、熱くなりやすいため文字通りの猪武者になる可能性が極めて高い。


 水銀と契約したことにより彼女は時系列を無視して自らの未来を知ってしまった。同時に己の成れの果て、無残な最期さえも。
 しかしながら彼女はまだ絶望を知らないため諦めない──それこそが今、ここで聖杯を獲得できる機会を得た責任なのだから。


【方針】
 戦わない者、敗北した者、逃げ出した者は追わないし止めも刺さない。
 ただ敵対する者には容赦しない。


19 : 名無しさん :2016/12/25(日) 04:49:03 3Gm5uj4c0
投下終了です


20 : ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:51:01 pYGP9ODY0
投下します。


21 : Macbeth ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:51:40 pYGP9ODY0





Sleep no more!
眠ってなんかいられない!


Magical-daisy does muddier sleep!
マジカルデイジーは目を覚ました!


Sleep no more!
もう眠ってなんかいられないよ!


Underdog murdered sleep!
普通の女の子の居眠りはもう終わりだ!


Magical-daisy shall sleep no more!
マジカルデイジーは眠ってなんかいられない!






◆◆◆◆


22 : Macbeth ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:52:26 pYGP9ODY0



ミラクルロジカルシニカルマジカルデイジー!
花の国からやってきた戦うお姫様!
風を切り裂くデイジーパンチ!
岩をも砕くよデイジーキック!


月夜の路地裏にて。
気が付けば、懐かしい歌を口ずさんでいた。
魔法少女マジカルデイジー。
あのアニメの放映からもう何年も経つ。
こうして戦っていると、まるで現役時代に戻ったかのような気持ちになる。
こんな戦いは何時ぶりだろう。
まだまだ現役バリバリだったあの頃を思い出す。
昔はこうやってヤクザとか相手取ってたなあ。
デイジーパンチやデイジーキックで悪い人達をやっつけたなあ。
刹那の間に、マジカルデイジーは思い出に浸る。

鉄拳を振るい、剛脚を振るい、黒い怪物を薙ぎ払う。
怪物達は壁に叩き付けられる、地面を転がるなどして吹き飛ばされ、そのまま消滅していく。
恐らく彼らはサーヴァントやマスターの使い魔だろうとマジカルデイジーは見当をつける。
悪――――あるいは■■■■――――と戦う為に身体を虐め抜いて鍛え上げてきたのだ。
この程度の雑魚に遅れを取る道理は無い。

マジカルデイジーは既に聖杯戦争のことを認知している。
聖杯という奇跡の願望器を巡る戦い。
白紙のトランプのカードを手にした者が参加資格を得る。
参加者はサーヴァントと呼ばれる従者を従え、互いに争う。
それが聖杯戦争だ。当然、命懸けの戦いだ。
聖杯戦争を許容するつもりはない。
それは詰まる所、殺し合いなのだから。
正義の魔法少女として活動していたマジカルデイジーには到底看過できるものではない。
それ故に彼女は人助けや悪人退治にのみ力を使っている。
未だにサーヴァントの姿は見えないが、じきに現れてくれるのだろうと信じている。
むしろ来てくれなかったら困るのだが。
ともあれ、正義の活動の中で存在を察知されたのか。
マジカルデイジーはこうして、敵の使い魔に襲撃されている。
命を懸けた殺し合い。
マフィアや犯罪者のような人間相手とは違う。
本当に殺されるかもしれない、真の闘争だ。




だというのに。
何故だか、清々しい気持ちになる。
懐かしい感覚を覚える。




思えば、寂しい毎日だった。
かつては華々しい活躍を見せていたマジカルデイジーだったが、それはもう昔の話。
アニメの放映は終わり、大きな犯罪組織も粗方片付け、相棒であったマスコットキャラクターとも別れた。
魔法少女としての青春を終えた彼女を待っていたのは、寂しい日常。
友情。恋愛。お洒落。社会経験。
普通の少女なら当たり前のように送るであろう青春の大半を犠牲にし、魔法少女として活動してきた。
そんなマジカルデイジーが魔法少女としての峠を越えた。
超えてしまったのだ。
その結果が、今だ。


23 : Macbeth ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:53:07 pYGP9ODY0
今の彼女はボロアパート暮らしの大学生でしかない。
平々凡々な大学に通い、さしたる友人もおらず、将来に役立つ資格や免許等も持っている訳ではない。
マジカルデイジーとしての活動を優先してしまったことでバイトもしていない。
誰から感謝される訳でもなく、常に無償の愛で活動することしか出来ない。
魔法少女なのだからそれでいいと思っていた。思い込もうとしていた。
しかし、本当にこれでいいのか。
目の前の現実から目を逸らしていいのか。
魔法少女なんかより、普通の大学生『八雲 菊』として頑張るべきではないのか。
そんな思いが幾度と無く彼女の心中に渦巻き続けた。
理想を超えた果ての現実に、彼女は苦しみ続けてきた。

だけど、今は違う。
敵がいる。
戦いがある。
魔法少女マジカルデイジーとして戦える――――――――――敵がいる。

次々と現れる黒い怪物を、薙ぎ払い続ける。
正面から迫る怪物は拳骨を振り下ろして叩き潰し。
背後から襲い来る怪物は勢いよく放った回し蹴りによって壁へと叩き付け。
横から飛び掛かってくる怪物は肘鉄を叩き付けて側面へと吹き飛ばす。
圧倒的な暴力によって、次々と怪物を撃破していく。
今のマジカルデイジーはまさに主役。
悪と戦う変身ヒロイン。
気が付けば、口元に仄かな微笑が浮かび上がっていた。
彼女自身、そのことに気が付いていた。

マジカルデイジーは花の国のお姫様。
世のため人のために戦う魔法少女。
必殺のデイジービームで悪人を退治する正義の味方。
わかってる。
うん、わかってるよ。
私がこういうこと考えちゃうのは駄目だってわかる。
道徳とか、ファンの夢とか、そういうの壊しちゃうんだろうなぁとは思ってる。


でも。
でもさ。
やっぱ楽しいじゃん、戦うってさ。
叩いたり蹴ったりして敵を蹴散らすのって、なんだかんだスカッとするじゃん。
悪いやつを退治して、反社会的団体に喧嘩売って、沢山のファンが応援してくれた。
あの頃は、今の退屈な毎日より、よっぽど楽しかったじゃん……。


何の為に生まれて、何をして喜ぶ。
解らないまま終わる、そんなのは嫌だ。
誰もが知ってるヒーローだってそんなことを言ってる。
マジカルデイジーには何も無かった。
魔法少女としての峠を越えた先は真っ暗闇だった。
将来何になるかなんてわからない。
どこで働くとか、どう生きるかとか、そんな未来のビジョンには霧が掛かっている。
才能や職歴なんてものもない。
青春や生活の大半は魔法少女としての使命に捧げてしまったのだから。
そんなマジカルデイジーが再び魔法少女として活躍できる場を設けられれば、当然昂揚する。
かつての栄光に思いを馳せ、嬉々として『正義の戦い』に身を投じるのだ。


そんな高揚感に身を任せていたからなのか。
背後からの殺意に、一瞬だけ反応が遅れた。
咄嗟に振り返って両腕をクロスさせる。
しかしその衝撃を受け止め切れず、マジカルデイジーの身体が吹き飛ぶ。


24 : Macbeth ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:53:44 pYGP9ODY0


「ぐっ……あ………!」


地面をサッカーボールのようにごろごろと転がり、突き当たりの壁へと衝突。
俯せに倒れ、何度も咳き込みながら下手人の姿を確認した。
そこに立っていたのは、禍々しい気迫を放つ狂人。
その右手には棍棒らしきものを握り締めている。


「■■■■■■―――――――――――」


狂人は血走った目でマジカルデイジーを見据える。
まるで獣のような唸り声を上げ、地を蹴って掛け出す。
無論、目指す先は――――倒れ込んだマジカルデイジー。

バーサーカーのサーヴァント。理性を奪われた狂戦士の英霊。
マジカルデイジーは聖杯戦争の知識から即座にそう判断する。
狂化込みでも然程ステータスは高くないことに加え、魔法少女としての身体能力によって何とか一度だけ攻撃を凌ぐことは出来た。
されど、それでも尚『奇跡的に防げた』と言っていい。
まともにやり合えばバーサーカーが圧倒的に有利。
数々の戦いの経験――――同じ■■■■とも殺り合った―――――を持つマジカルデイジーは、すぐにそう認識したのだ。
同時に、彼女の心の奥底から黒い感情が込み上げてくる。



「―――――――――あ」



身体が微かに震えている。
これは、恐怖だ。
何故だか懐かしく思える、怯えの感情だった。



「■■■■■■■■■■■―――――――ッッ!!!!!!」


目の前より迫り来る死――――バーサーカーに、彼女は恐れを抱いていたのだ。
何とか立ち上がろうとするも、先程の一撃のダメージが身に響いている。
起き上がるよりも先にバーサーカーが攻撃を成立させるだろう。
つまり、マジカルデイジーは殺される。



(終わり、なのかな)



不思議なものだった。
死を目前にして冷静に状況を判断できているのに、当たり前のように恐怖を抱いている。
これがある種の諦観なのか、ベテランとしての経験によるものなのか。
あるいは自分の中に込み上げた異常なのか、マジカルデイジーには判断できない。
永遠に等しい数秒間の中で、これまでの人生が脳裏を過る。
過去はキラキラと輝いていた。
今は煤けた色でくすんでいた。
そんな人生。それが八雲菊としての、マジカルデイジーとしての生き様。
かつての栄光から緩やかに滅びていった少女の末路。



ああ、でも。
『八雲 菊』として眠り続けるよりは、いいのかな。
せめて最後に、『マジカルデイジー』として戦えたんだから――――――――




 Voilà!
「ご覧頂こう!」



空から、『漆黒』が降り立った。
現れたのは黒衣の怪人。
マジカルデイジーを庇うように立ちはだかり。
鋭い剣撃で、迫り来る狂戦士の首を吹き飛ばした。


25 : Macbeth ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:54:32 pYGP9ODY0


怪人の足下に、狂戦士の屍が転がる。
そのまま死骸は魔力へと戻り、霧のように霧散していく。
それを見届けた怪人が、ゆっくりと振り返った。
笑い顔の仮面が、マジカルデイジーの瞳に映る。
黒いマントを翻しながら、怪人は彼女へと向き直る。
そして怪人は、両腕を広げ――――――――言葉を並べ立てる。



 In view, a humble vaudevillian veteran, cast vicariously as both victim and villain by the vicissitudes of Fate.
「見ての通り、私の姿は道化師。時に弱き者を、また、時に悪しき者を演じることも」

 This visage, no mere veneer of vanity, is a vestige of the vox populi, now vacant, vanished!
「仮面はただの虚飾にあらず。もはや素顔をさらして歩ける世界ではないからだ!」

 However, this valorous visitation of a by-gone vexation,
 stands vivified and has vowed to vanquish these venal and virulent vermin vanguarding vice and vouchsafing the violently vicious and voracious violation of volition.
「されど、この厄介者が再び姿を現したのは、世の悪を正すため、この腐った世界にうごめくウジ虫を掃除する、そのために」



マジカルデイジーは、言葉を出せなかった。
目の前の仮面の怪人の口上を、ただ黙って聞くことしか出来なかった。
まるでオペラに出演する役者のように。
サーカスに登場する道化師のように。
目の前の男は意味のわからない言葉を次々と並べ立てる。

怖い、と思った。
理解には程遠い狂人に、寒気がした。
だというのに、どこかほっとしていたのは命を救われたからなのか。
あるいは。



 The only verdict is vengeance a vendetta!
「そう、これは『血の復讐(ヴェンデッタ)』だ!」

 Held as a votive, not in vain, for the value and veracity of such shall one day vindicate the vigilant and the virtuous.
「復讐の誓いは今も生きている。悪を断ち切り、自由をもたらすために」




戦いの臭いがしたから、なのか。
目の前の怪人から、『聖戦の臭い』を感じたからなのか。
怪人は、悪を絶つ為に戦うと宣言した。
彼は弱き者を演じ、時に悪しき者を演じ、されど正義の鉄槌を振るう存在なのだと、そう言っているのだ。
マジカルデイジーの心中に潜んでいた八雲 菊の姿が、次第にぼやけていく。
ただの腑抜けだった無様な負け犬としての日常が、徐々に消え失せていく。



 Verily, this vichyssoise of verbiage veers most verbose,
「長々とした自己紹介になってしまったようだ」


 so let me simply add that it's my very good honor to meet you and you may call me V.
「私の名は“V”、そう簡潔に呼んでいただければ結構だ」



あれは、眠るだけの毎日だった。
本当の生き甲斐を見失い、夢の中をぼんやりするだけの毎日だった。
それはそれで、安らぎの一時だったのかもしれない。
だけど。
こうして、『正義の味方』としての戦いを味わってしまったマジカルデイジーにとっては。
それは余りにも悲しく、余りにも退屈で。
そして、余りにも絶望的な時間だった。
あのまま腐り続けて、訳も解らず生きる日々はもう嫌だ。
その思いは、この怪人―――――Vと出会ったことである種の確信へと変わる。



「さあ、お嬢さん―――――――」



嗚呼、嗚呼。
マジカルデイジーの眠りは此処に死んだ。
マジカルデイジーはもう、眠っていられない――――――――。




「悪しき杯へ『正義の鉄拳』を下そう」




『復讐者』が、手を差し伸べた。
『魔法少女』は恐る恐る、その手を掴んだ。


26 : Macbeth ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:55:00 pYGP9ODY0

【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
V@Vフォー・ヴェンデッタ(映画版)

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷C+ 魔力D 幸運A 宝具B

【クラススキル】
復讐者:A
「その者、数々の悪事を纏いし者なり。血糊の付いた太刀を持ち、高々と振りかぶる。
 殊勝な振る舞いで、己の悪魔を覆い隠すは人の常」
狂気的なテロリスト。あるいは血の復讐者。それがVである。
王族や為政者など国家の統治に関わった者に対して自身のステータスが上昇し、更に対象の判定にマイナス補正を与える。

【保有スキル】
心眼(真):D+
修行・鍛錬に酔って培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す。

精神汚染:A+
同ランク以下の精神干渉をシャットアウトする。
サーヴァントとして召還された彼は「強大な権力に立ち向かい、国家を転覆させた復讐者」としての側面が膨張されている。
それ故に聖杯をも『叛逆すべき対象』として認識し、生前と同じように復讐を遂行する。

反抗の使徒:A
圧政に苦しむ者達にとって彼の姿は反抗の象徴として映った。
人々は皆『V』と同化し、国家の転覆を見届けた。
精神干渉の成功率が上昇し、自らの言動・行動によって他者に影響を与え易くなる。
彼に心より魅入られた者はやがて深淵へと突き進む。

【宝具】
『仮面は虚飾に非ず、素顔で歩くことは叶わず(ヴィー・フォー・ヴェンデッタ)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
彼は怪物。血の復讐に囚われし狂人。
仮面の下にある理念は決して死なない。
アヴェンジャーがガイ・フォークスの仮面を被り、Vとして行動している限り自動で発動し続ける宝具。
あらゆる判定の成功率が上昇し、更にAランク相当の単独行動スキル・気配遮断スキルを獲得する。
行動や気配を悟られることなく、文字通り神出鬼没の『怪人』と化す。
また致命傷を受けた際に一度だけ自身にガッツ効果が付加。
例え霊核に損傷を受けたとしても最大15ターンの現界が可能となる。

【武器】
複数本の短剣。
時限爆弾など生前に利用した道具を魔力で生成することも可能。

【人物背景】
第三次世界大戦を経て全体主義国家と化したイングランドに現れた怪人。
常にガイ・フォークスの仮面を被り、国家の転覆を目論み数々のテロ行為を働く。

彼の復讐は既に終わりを告げている。
されど今の彼は『国家を転覆した復讐者』として召還された姿。
それ故に彼は生前と同じように『血の復讐』を果たさんとする。

【サーヴァントとしての願い】
殺し合いを強いる聖杯への復讐。

【方針】
マジカルデイジーと共に戦う。
悪と聖杯に正義の鉄槌を。


27 : Macbeth ◆DdYPP2qvSs :2016/12/25(日) 15:55:34 pYGP9ODY0


【マスター】
マジカルデイジー(八雲 菊)@魔法少女育成計画restart

【武器】
マジカルビームを始めとする魔法少女としての能力。

【能力】
『魔法少女』
魔法少女としての力。
変身することで常人を凌駕する身体能力と肉体強度を獲得し、更にそれぞれ固有の能力となる魔法を使える。
また魔力を扱う存在であるため魔術師と同等以上の魔力量を備える。
マジカルデイジーは数々の反社会組織と戦ってきたベテランの魔法少女おり、体術も相当に練り上げられている。

『必殺のデイジービームを撃てるよ』
マジカルデイジー固有の魔法。
指先あるいは掌からあらゆる物質を瞬時に分解する光線を放つ。
命中した箇所は分子単位で結合が解け、砂と化して崩れ落ちる。
極めて高い威力を持つが、魔法の国によって生命体への使用を禁じられている。
魔力で構成された肉体を持つサーヴァントに対しては効果が弱いが、使い魔程度なら本来の威力と然程変わらないダメージを与えられる。

【人物背景】
普段はごく普通の女の子。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。
彼女の正体は花の世界から留学してきたお姫様なのです!
ピンチになると魔法少女『マジカルデイジー』に華麗に変身っ★
マスコットキャラクターのパレットといっしょに今日も反社会的団体を蹴散らすよ!
「それじゃいくよおっ!デイジービィーム!」

……という設定でアニメ化されたこともあったベテラン魔法少女。
「花の世界から留学してきたお姫様」という設定を除けば事実を概ね再現していた。
今では反社会的団体との戦いも概ね片付き、パレットとも別れ、すっかり落ちぶれている。
魔法少女としての活動で青春を犠牲にしたことで遊びやお洒落、バイトにもろくに手をつけられず。
現状と将来に不安を感じながら、寂しい大学生活を送っている。
参戦時期はrestart前巻のプロローグ時、『魔法少女育成計画』からのメールを確認する直前。

【マスターとしての願い】
なし?

【方針】
人助けや悪人退治。そして、戦いたい。


28 : 名無しさん :2016/12/25(日) 15:55:47 pYGP9ODY0
投下終了です


29 : ◆Jnb5qDKD06 :2016/12/25(日) 16:34:08 3Gm5uj4c0
すいません。キャスターのステータスミスってました。下記になります。

【サーヴァント】
【クラス】
キャスター

【真名】
水銀、メリクリウスなど

【属性】
混沌・悪

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A++ 幸運:C 宝具:E〜A++

【クラススキル】
陣地作成:E+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
水銀の場合は会話しやすいように土地に結界を張る程度。それ以上のことはしないし、魔力消費の面からもできない。

道具作成:-
道具作成スキルは、宝具『芝居の幕開け、黎明の刻来たれり』によって失われている。

【保有スキル】
影法師:EX
自己保存とは似て非なるキャスターの固有スキル。
マスターが無事な限り如何なる手段をもってしてもキャスターを倒す術は存在しない。ただし、本人は全然戦わない。というよりできない。
彼自身はマスターの影であり、彼への攻撃は影を殴るのと同義でありそして同時に彼からも攻撃ができない。
マスターが死ぬ、もしくはマスターのみが残っている状態で令呪をすべて消費すると自動的に消滅する。

千里眼:???
 過去・未来・現在を見通す眼を持つ……らしい。

奇蹟:A+++
 時に不可能を可能とするスキル。
 「星の開拓者」に近しいスキルであるが、適用される事物が異なる。

【宝具】
『芝居の幕開け、黎明の刻来たれり』(モルゲンデンメルング)
 ランク:E〜A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:一人
 マスターに魔名を授け、霊基や魔力のパスをを弄り、魂を燃料として戦う外法を授ける。
 この対象となったマスターは令呪で自身の強化を行うことができる。
 早い話が人間の英霊化であるが、英霊と異なり魂を食らう際は殺さなくてはならない。
 また人を殺して強くなるかはマスター次第。ただキャスターはその行く末を眺めるのみ。

【weapon】
なし。強いて言えば舌

【人物背景】
Dies iraeより多分螢ルートだけやれば把握できる人。
放浪者(アハスヴェール)と呼ばれる古代からの放浪者。
サン・ジェルマン、パラケルスス、トリスメギストス、カリオストロ、カール・エルンスト・クラフトと数多の名前で呼ばれた最悪の詐欺師であり魔術師。
時に世を乱し、時に何かを試しながら未知を求めたという。

その正体は■■であり、サーヴァントは現身どころか切れ端の一部程度のスペックにすぎない。
またこの本体はセファールの白い巨人や神霊の分霊化とは異なり現世に召喚もしくは直接的な影響を及ぼせない。


【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いはない。しいて言えば未知を見せてほしい。


30 : ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/28(水) 02:03:39 KnUvZwdg0

皆さま投下お疲れ様です。
Wikiにて以下の修正を行いました。


拙作『紅い拳の』、一文字隼人のステータスシートに修正を加えました(『心眼(真):B』を追加)。

拙作『勲は全て我に在り』、斧手のモーガンのステータスシートに修正を加えました(耐久をA→Bに)。

拙作『Fakers/Straight faith』、一か所脱字修正しました。

拙作『Welcome back,MADMAN』、二重投稿のミスを修正しました。
また、収録がバーサーカーの枠になっていたため、アサシンの枠に収録しなおしました。


31 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 14:51:25 5a/FxOpM0
投下します


32 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 14:53:58 5a/FxOpM0
西住みほは困惑していた。身の回りの全てに、この世界の全てに。
学校に行き、授業を受け、友人と他愛もない会話を交わし、家に帰る。なんの変哲もないこの日常。
いつかの彼女がずっと望んでいたこの生活。あまりにも平凡なこの世界の中に、ただ一つだけ、ぽっかり空いた穴のように足りないものがあった。
「戦車……どこかで乗れないかなあ」
そう、この世界には戦車が足りない。それもM1エイブラムスや10式のような現用の主力戦車ではなく、シャーマンやティーガー、Ⅳ号戦車のような第二次世界大戦で活躍したような古き良き戦車たちが。
彼女にとって戦車とは日常の一部であり、極端に言ってしまうなら靴や鞄のような、日常的に着用する道具と同じくらい当たり前に存在するはずの物であった。それが、この世界には無い。
戦車とは女性が乗るものであり、戦車道は乙女の嗜み。彼女の居た世界ではそれが常識だった。
戦車道とは武芸の一つである。第二次世界大戦の時代までに制作された戦車に乗り込み、部隊を組んで勝利を競い合う。試合には実弾を用いるが、戦車の車内は特殊なカーボンに保護されているので危険性は全くない。
彼女はこの戦車道で多くの敵を打ち倒し、そして友情を築いてきた。いわば彼女の青春の象徴でもあるのだ。単に趣味の一つを失ったという程度の落胆では済まされない。
どうして仲良くなったのかもわからない友人と別れ、西住みほはひっそりとため息を吐いた。懐からスマートフォンを取り出し、戦車というワードを検索する。
99999999980件のウェブページが見つかりましたという表示に彼女はむしろ表情を曇らせた。この世界にも戦車は存在している。ただ、今の私と同じように、『私』とはかけ離れたどこかへ行ってしまっただけなのだ。
西住みほは聖杯戦争の参加者である。彼女はこちらの世界に呼び出されてから、僅か一日足らずで予選を突破した。戦車の無い世界は彼女にとって空が桃色であるような、海が黄色であるような、大地が虹色であるような、そんな違和感に溢れた世界であった。
彼女は懐から白紙のトランプを取り出した。元々これはⅣ号戦車の車内で見つけたものだ。大学選抜との試合の数日後、自動車部から整備が終わったからⅣ号の確認をしておいてくれと頼まれ、通信手席の影からこれを見つけた。
そして気付いた時にはこのスノーフィールドの地で、至って平凡な女子高生としての生活を送っていたのだ。
「聖杯戦争。万能の観測機、ムーンセルオートマトンの支配権を争う、魔術師たちの命を懸けた戦い……」
声に出して確認してみてもやはり実感が湧かない。聖杯もムーンセルも魔術師も戦いも、耳慣れない言葉ばかりだ。別に、自分には聖杯に望む願いなんてものはない。それも敵を、ヒトを殺してまで叶えたい願いなんてものは……。
「あわっ!?」考え事をしながら歩いていた為か、なにかにぶつかってしまったようだ。感触からして人じゃないみたいだけど……と、彼女は顔を上げた。
予想に反して、目の前にいたのは確かに人間だった。彼女が頭をぶつけたのはスーツを着た人間の胴体部分であった。西住みほがもう少しだけ目線を上げようとした瞬間、ソレは彼女の眼前に現れた。
「……えっ?」


33 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 14:58:59 5a/FxOpM0
彼女の視界が赤く染まる。目の前には赤く脈打つ何かがあり、木の枝のようなものがソレをしっかり掴んでいる。
どうやら木の枝は人間で言う手と同じ役割を持つ器官で、赤い何かが紛れもなくヒトの心臓であると彼女が理解したその時、耳を裂くような甲高い鳴き声がして、心臓は真っ赤な血を飛び散らせながら破裂した。

「きゃああああああああああ!」
「■■■■■■■■■■■■!」

顔中にこびり付いた血液を拭うこともせず、西住みほは駆け出し、理解した。
これが聖杯戦争なのだと。自分には相手を殺す理由がなくとも、相手には自分を殺す理由があるのだと。
彼女は脇目も振らず逃げていく。元来た方向はダメだ。あっちには学校があり、仮初とは言え友達がいる。
幸いにもこのあたりは人通りも少ない。森の方向に逃げれば、木の陰に隠れてなんとか逃げ延びれるかもしれない……!
怪物――鴉を人間大にして羽毛を全て取り除いたようなその生物は、どうにも注意が散漫であるようだ。先程の死体から得た部位を啄んだり、両手で弄びながら自分をゆっくりと追いかけてくる。
彼女は様々な理由から込み上げる吐き気に耐えながら必死に走り続け、なんとか郊外の森までたどり着いた。
森に着いた彼女はできるだけ木が多く、草の茂っている方向に向かう。足跡を残さないよう、柔らかい腐葉土ではなく木の葉の上を走る。
元の世界において、彼女は幼い頃から戦う術を叩き込まれ、誇りを賭けた戦いを何度も勝ち抜いてきた。一度覚悟さえしてしまえば恐怖を感じることもなくなる。この異常事態において、西住みほは驚くほどに冷静だった。
大きな茂みを抜ける。今なら怪物の方からこちらの動きを見ることは出来ない。彼女は近くの草むらの下にうずくまり口を抑えた。
怪物の耳障りな鳴き声が近付く。心臓が高鳴ると同時に、否応なしに先程の惨状が思い出される。涙が溢れそうになるのを必死で堪えながら、彼女は決して怪物の動向から眼を離さなかった。
怪物が動く。
木の葉がひらりと舞って西住みほの目の前に落ちる。
怪物はそれを一瞥し、木の葉に向き直し不気味な足取りで歩を進める。彼女はそれを見ることしか出来ない。
怪物は身を屈め木の葉を拾った。
それをしげしげと見つめ、針のような指先で切り刻んだ後、聞くだけで脳を掻き乱されるような怪笑を上げながら森の入口へと戻っていった。
彼女はほっと胸をなでおろし、怪物の姿が見えないのを確認して茂みから這い出た。
体に付いた木の葉を振り払い、自分が無事に生きていることを再認し、そして、鋭く縦に切り付けられた自分のふくらはぎを確認した。

「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――!」
突然、森そのものが狂ったような笑い声。西住みほは半狂乱になりながら、もう一度辺りを見渡した。
木という木、草という草、茂みという茂み全てが、例の怪物の声で笑っている。
後ろを見ると、先程まで隠れていた茂みは肉塊のようなモノに変貌し、醜悪な笑みを浮かべながら彼女の脚に鋭い爪を立てていた。
「あ、ああ、あ、……なんで」これは初めからそういう狩りだったのだ。善良な一般市民を見つけ、この森まで追い込み、集団で襲い魔力を効率よく抽出する。
それが美しい女であれば尚の事いい。女の悲鳴は彼らにとってなによりも甘い慰みになる。
彼らはここまで、何の狂いもなく完璧な計画を遂行してきた。
彼らの算段に誤りがあるとすればそれは――――――

「正義の味方って奴も中々難儀なものだ。マスターのピンチにこうも遅れて駆けつけることしか出来ないなんて」

――――――彼らの見定めた、無力で蹂躙されるだけの獲物が、自分たちと同じ人外を従える存在であったことか。


34 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 15:03:34 5a/FxOpM0
彼らは突如現れ、そして己の分身を軽々と消滅せしめたその存在を、まずはゆっくりと観察した。
赤い外套を身に纏ったソイツは、どうやら自分たちではどうしようもないほど強大な力を持った存在らしい。両手に携えた双剣は鋭く、同朋は一刀の下に両断された。
しかし。怪物は一斉に下卑た笑みを浮かべる。コイツの武器はただのこれだけ。己らが同時に襲いかかればそのうち対応できなくなる。
一撃でも浴びせればそこから加速度的に動作は鈍っていくはずだ。
それに――新たに現れたコイツも、どうやらとびきり美しい女であるらしい。

「■■■■、■■■■■■■■」
怪物は一斉に標的に向かって飛びかかる。赤い外套の少女は舞うように動き、それらを切り刻む。
右、左、前、後。四方から襲い来る怪物を少女は一点の狂いもない動作で切り捨てる。
西住みほはそれを見つめることしか出来なかった。恐怖に怯えて動けなかったのではない。
赤い外套の少女、自身のサーヴァントである彼女は自分を守るように立ち回っており、下手に逃げようとすればそれは、西住みほの所持する唯一の戦力の消耗を早めることになると気付いていたからだ。
サーヴァントはそれを察し、身動き一つ取らない自分のマスターを見てふと笑った。
彼女は完全な一般人であり、戦闘能力は全く期待できないだろう。しかし。決して悪くはない。自分の分を弁えるということは、何においても重要だ。

「そろそろかな」サーヴァントは呟く。僅かにだが、自分の動作に乱れが生じている。
怪物はそれを察知したのか、徐々に分身の数を増やして彼女を圧し潰そうと動き始めた。
「しっかり掴まってて、マスター」彼女は西住みほを抱きかかえ、そして跳躍した。
「あの、えっと、ありがとうございます」西住みほはぺこりと首だけを動かし、自らのサーヴァントに頭を下げた。
「いや、感謝される筋合いは無いと思う。私があなたを助けるのは当たり前のことだし、何より間に合ってないから」
サーヴァントは西住みほの傷口を見て目を伏せた。「話は後にしよう」
彼らの数メートル下では怪物たちがひしめき、宙に舞う二人を指差してケタケタと嘲笑している。追い詰められて跳躍するとは愚の骨頂。空中では方向転換もできず、そのまま落下するしかない。
しかし、サーヴァントはそれを承知の上でこの行動を選択した。
彼女は目を閉じ、記憶の奥底を潜るように辿る。
メモリの海の中からおぼろげな記憶が浮かび上がってくる。
桃色の髪に青い着物、狐の耳に麗しい美貌。どこか別の世界で彼女と共に戦った相棒――

「――――――来て、キャスター!」

瞬間、彼女の姿が変わった。しなやかな体躯は女性らしい豊満なシルエットに。白黒の双剣は消えてなくなり、代わりに握るのは数枚の札。
彼女がそれを投げつけると札から白氷が生じ、怪物たちの動きを封じるように絡みつく。
そして彼女が怪物たちの中央に着地した時、彼女の装いはまたも変化していた。
赤いドレス。お姫様が着るようなふわりとしたスカート。しかしその手には、華美な装いに不似合いな、真紅の大剣が握られていた。

「てえええええいっ!」
鋭い一閃。マスターを小脇に抱えたまま、彼女は片手のみで怪物の群れを文字通り切り抜けた。
そしてもう一度怪物の側に向き直る。多数の同朋を失った彼らは怒りの咆哮を上げ、もぞもぞと身を寄せ合っていた。肉体が溶け合い、一つの塊となっていく。
本来の姿に戻って一気に決着を付けるつもりだろう。
好都合だ。彼女はもう一度、赤き外套を纏った姿に変化した。


35 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 15:06:23 5a/FxOpM0
――体は剣で出来ている


                                     彼女は呟いた。


血潮は硝子で、心は鋼


                                瞼を閉じ、精神を集中させる。


幾度の戦場を越えて不敗


                             水の中に落ちた小石を拾うように、


ただの一度も敗走はなく ただの一度も停滞はない


                  彼女は自分と、自分に最も近い誰かの在り方を見つめ直す。


彼の者は友と二人 熾天の座で未来(ゆめ)を想う


                     人の十倍はあるだろうか、巨躯の生物が彼女を睨む。


故に その道程に答えなど求めず


                      怪物の鋭い爪が彼女へ振り下ろされる、その寸前


心が折れようとも、剣は常に手の中に在る


            枯れ木の森は一瞬にして、朽ち果てた剣の点在する荒野に成り果てていた。




『無名・固有結界』


36 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 15:15:05 5a/FxOpM0
彼女はいつからか手に握った双剣で爪を防ぎ、攻撃の勢いを利用して怪物の背中へと回り込み白刃を突き立てる。

「■■■■■■■――――――!」

怪物が苦悶の声を上げるのを意に介さず、彼女は白刃を蹴り、更に深く捻り込みながら跳躍する。
空に浮かぶ歯車を蹴り、彼女は高度を上げていく。
彼方には青白い月。月光に照らされて、宙に舞う彼女がその手に握るのは――


「――投影開始、永久に遥か黄金の剣(トレースオン、イマージュライナー)」


星の聖剣が怪物を焼き尽くす。この輝きの前ではいかなる悪もカタチを保てない。怪物は声を上げる時間すら無く消滅した。
「……ふう」そうして彼女が着地した時には既に、荒れ果てた荒野は元の薄暗い森に戻っていた。
彼女の服装はまたも別のものに変化している。今回のソレは赤い外套でも、奥ゆかしい着物でも、豪奢なドレスでもない。
薄茶色の、何の変哲もない学生服だった。彼女はへたり込む自らのマスターに手を差し伸べ、柔和な笑顔を浮かべて言った。

「サーヴァントキャスター。真名は岸波白野。これからよろしく、私のマスター」





「あの、本当にありがとうございました!」
西住みほは自分の手を取り、何度も頭を下げる。数えているだけで、みほの土下座に近いお辞儀はこれでもう六度目だ。
いや、こっちこそ本当にお礼はもういいから! それよりも怪我は大丈夫かと、私はみほのふくらはぎに視線を向けた。
コードキャストの効果で既に傷は塞がっているが、なにしろみほは生身の人間だ。
この世界も電脳空間である以上、効力は以前のものとなんら変わりないはずだがそれでも心配になる。
マスターを守りきれなかった不甲斐なさから顔を伏せる私に、彼女は困ったような表情を浮かべ、手をひらひらと振りながら言った。
「うん、もう大丈夫です。全然平気です。えっと……キャスター、さん?」
気軽に白野と呼んでくれていい。一応これが真名だけど、知られたところでどうなるものでもない。
むしろ私の場合、キャスターというクラス名を隠しておくほうが戦略上重要だ。
「戦略上……」先の戦いを想起させるその言葉に、みほは表情を曇らせた。
……気持ちは痛いほどわかる。彼女はおそらく、命のやり取りなんてものとは無縁の生活を送っていたのだろう。
それが何かの間違いでこんなところに来て、現状を咀嚼しきれないままに戦闘に巻き込まれた。あちらのムーンセルでさえ聖杯戦争の参加自体は自由意志だったと言うのに、全くふざけた話だ。
私は深く息を吐いた。すると彼女はその意味を勘違いしたのか、びくりと肩を震わせて、潤んだ瞳でこちらの顔色を伺っている。
先程の戦闘中、狂笑に囲まれながらも眉一つ動かさなかった姿とは似ても似つかないこの怯えよう。一体どちらが本当の西住みほなのだろうか?
「あの、えっと、さっきの、その、生き物はどうなったんでしょうか」
怯えながらも彼女は現状把握に努めようと必死だ。
敬語は使わなくていい、おそらくみほと私は同じくらいの年齢――はい、コールドスリープ中の時間経過なんてノーカウントです。気持ちはまだまだ十代だから!――みたいだし、と伝えてから、
私は少し考えを巡らせた。

みほの話から推察するに、あいつらはかなりこの「狩り」に手慣れていたようだ。
おそらく何度も似たような凶行を繰り返していたのだろう。となると少なからず目撃者もいるはずだし、神秘の秘匿に重きを置いているらしいこちらのムーンセルが黙ってはいないだろう。
おそらくだが、今夜日付が変わる頃には、あの怪物のマスター共々監督役に始末されているのではないだろうか?

「……やっぱり、本当に死んじゃうんだ」
みほ?

「私は……私には願いなんてないけど、生きるためには殺さなきゃいけないなんて、こんなの絶対におかしいよ。
なんで人を傷つけなきゃいけないの? どうして人を殺さなきゃいけないの? きっと、これから会う人達だって、さっきみたいに殺すことをなんとも思わない人しかいないんだ。
そんな人達が望むような、命を潰してまで叶える願いに価値なんてあるわけがない……!」


37 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 15:15:46 5a/FxOpM0
彼女は大粒の涙を流しながら、口から自分だけを傷付ける刃を吐き出している、それは止め処なく、余りにも痛々しい。
自分たちが手を下さなくともいずれ死ぬ運命だったと慰めたところで、彼女はきっと自分を責め続けるのだろう。
ああ、やっぱりこのマスターは私に似ている。自分が傷つけられることもそうだけど、なにより覚悟のない自分が、自分以外を傷つけることをなによりも心配している。

……でも、だけど一つだけ、訂正しなければならない箇所がある。


「西住みほ。あなたが生きたいと祈るのと同じくらい、あなたが人を殺したくないと思うよりもよっぽど強く、人を殺してでも何かを成し遂げたいと願う人たちを私は何人も見てきた。
彼らには倫理を放棄してでも、良心を押し殺してでも、友人の命を乗り越えてでも、それでも成し遂げたいと願う望みが在った。
それを――誇りがないと、あなたは笑うのか」


初めは覚悟も何もない、遊び半分みたいな戦いだった。
友達を失い、これが本当に戦争なのだとようやく気づいた。
海の底から空を目指すにつれて、私はいろんなものを打ち倒し、踏みにじり、乗り越えてきた。
私が戦った/殺した相手はみんな、それぞれ譲れない信念を胸に抱いていた。
命を賭けた戦いの中で、自分の持っていない何か、岸波白野の知り得ない何か持った人たちを、私はただ生きたいという理由で全部潰してしまった。
――それが、間違いだったとは思わない。彼らの望みと同じくらいに、私の叫びも意味があるものだったはずだ。
だけど、だからこそ、彼らの望みを価値のないモノのように扱わないでほしい。
聖杯戦争なんてカタチじゃなければずっと友達でいられたかもしれない、あの人たちの夢を笑わないでほしい。
みほは押し黙って、自分の言うべき言葉を探している。うん、その姿勢だけで私はもう何も言うことはない。
別に私の考えが絶対的に正しいわけじゃない。他者を犠牲にしてまで叶える願いに価値がないという思想も、それはまたきっと別の正解なのだろう。
ただ、さっきのような殺戮を楽しんでいるやつとは別に、覚悟を持って戦う人もいると言いたかっただけなのだ。
「……うん、本当にありがとう。沙織さ……じゃなかった白野さん!」
七回目のお辞儀。沙織さんって誰だ? と一瞬思ったけどそれはまあ、追求しないでおこう。
何しろここまで来て初めて見たみほの笑顔だ。無粋な茶々入れでこれを曇らせるのはあまりにも野暮というもの。
最弱のマスターとサーヴァントの旅路の、せめて門出くらいは笑顔で迎えよう。




――ねえ、アーチャー。あなたと同じ霊基(カラダ)になって、ようやくあの時のあなたの気持ちが少しわかった気がする。
きっと今の私のように、大きな不安と、少しばかりの期待で胸が張り裂けそうだったのだろう。
……大丈夫、あなたのように、きっと私も、上手く彼女を導いてみせるから。


38 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 15:20:19 5a/FxOpM0
【マスター】西住みほ
【出典】ガールズアンドパンツァー
【人物背景】
大洗女子学園に通う女子高生であり戦車道の名門「西住流」の娘。人が傷つくのを見るのが苦手な、至って普通な優しい女の子。
元は黒森峰女学園という戦車道の名門校で副隊長を努めていたが、自身の行動が全国大会での敗因となり戦車道を引退。翌年には大洗女子学園に逃げるように転校した。
戦車道のない高校に転校したことで、もう戦車に乗らなくて済むことに安堵するみほだったが、ひょんなことから復活した大洗女子学園戦車道に半ば強制的に加入。隊長としてほぼ全員が素人の部隊を指揮することになる。

【能力・技能】
普段は至って普通の女子高生だが、試合(戦闘)時には人が変わったように冷静になり、大抵のことには動じなくなる。
どんな時でも勝利を諦めない精神力が取り柄。
また、幼いころからの修練によって培われた戦術眼と天性の直感はまさしく西住流の名に恥じない物であり、特に多数対多数の大規模な戦闘においてその指揮能力を遺憾なく発揮する。

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。

【方針】
他者を傷つけること無く聖杯戦争を生き残る。
当面の目的は同盟を組んでくれそうな相手を探すこと。


【出典】fate/extra(CCC)
【CLASS】キャスター
【真名】岸波白野
【属性】中立・善
【ステータス】筋力E 耐久EX 敏捷E 魔力D 幸運D宝具EX
【クラス別スキル】
陣地作成:D  魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
岸波白野の場合、元から存在する屋内の敷地をマイルームと呼ばれる空間に作り変えることが可能。
元がどんなに荒れ果てた場所であろうともゆったりくつろげるようになる素敵なスキル。もちろん戦闘では役に立たない。

道具作成:E 魔力を帯びた器具を作成できる。
岸波白野の場合、観葉植物や写真立てなど、マイルームに飾るための小物のみ作成可能。
殺伐とした聖杯戦争に癒しをもたらすニクいやつ。もちろん戦闘では役に立たない。

【保有スキル】
専科百般:EX ここではないどこか、今ではないいつかに行われた月の聖杯戦争。その優勝者としての権能。
平行世界におけるムーンセルのデータベースを参照することができるほか、自分の所持していないスキルでもランクC以上の習熟度で使用できる。
ただし一度に使用できるスキルは一つだけであり、英霊固有のスキル、もしくは怪力などの直接肉体に作用するスキルは使用できない。
また、宝具発動中にはこのスキルの使用自体が不可能となる。
ムーンセルは平行世界も含めた全ての事象、人物を記録しているため、データ閲覧の権能は即ち真名看破も内包する筈だが、こちらの世界のムーンセルの妨害により、
聖杯戦争優勝の段階で岸波白野が存在を知り得ないサーヴァントの情報は閲覧不可となっている。
「全てを知っている」のではなく、あくまでも「多くを知ることができる」状態。
今はどの知識が必要か、また、得た知識をどのように活用するかは岸波白野が選択すべき領分である。

カリスマ:EX サーヴァントの心を掴む才能、あるいはイケ魂A+++
ある世界では薔薇の暴君を骨抜きにし、ある世界では抑止力の父性を引き出し、またある世界では日本三大化生が一角をみこっと一目惚れさせた。
稀代のサーヴァントたらし、狙った獲物は逃さない、百発百中のジゴロ。
悪属性以外のサーヴァントに対して幸運判定を行い、成功した場合は岸波白野とそのマスターに対しての戦闘行動を一度だけ躊躇させる。
マスターが行動を促すか、ある程度の意志力さえあればサーヴァントは即座に行動を再開できるが、初撃の行動を完了するまでの間対象のステータスは1ランク低下する。
理性の無いバーサーカーや、善人であろうとも強い決意を抱いた者に対しては効果がない。
また、話術判定や交渉においても有利な補正が付加されるが、この効果はマスターが相手の場合でも適用される。

沈着冷静:A  永劫の責め苦に耐えた者、終わりの見えぬ放浪を終えた者にのみ与えられるスキル。
ランクB+以下の精神に干渉する宝具、スキルを全て無効化し、ランクA以上の効果でも大幅に影響を軽減させることができる。
仄暗い闇の中。心身を押し潰すような圧力に耐えながら、仲間の諦観を耳にしながら、しかし彼女は前に進むことを決して辞めなかった。
今はまだ終わりではない、ここはまだ結末ではない。心の奥底から湧き上がる、意志の力だけが彼女を動かした。


39 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 15:22:56 5a/FxOpM0
魔術:C 魔術を一通り習得したことを示すスキル。
岸波白野の場合、神秘が枯渇した世界の電子魔術、コードキャストを操る。
ステータスを一時的に上昇させるgain_str, gain_con, gain_mgi、傷を癒すhealなどの基礎的なコードキャストが使用可能。

不屈の意志:EX あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意志
肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を保たない。
一例を挙げると「落とし穴に嵌まる」ことへのダメージには耐性があるが、「幻影で落とし穴を地面に見せかける」ということには耐性がついていない。

【宝具】
『超越すべき夢幻の運命(fate/extra)』
月の聖杯戦争優勝者としての能力。
彼女が越えてきたあらゆる命、彼女が摘み取ったあらゆる願い、彼女が刈り取ったあらゆる可能性を、ムーンセルは彼女を媒体として発現させる。
ムーンセルの権能を用いて自身にサーヴァントの霊基データをダウンロードし、霊基を無理やりそのサーヴァントのものに変化させる。
彼女のサーヴァントであった無銘のアーチャー、または平行世界で契約を結んだセイバーのネロ・クラウディウス、キャスター玉藻の前の武装、ステータス、スキル、戦闘技術を再現できる。
また、専科百般以外の岸波白野のスキルも変身後に受け継ぐことができる。
しかし平行世界へデータを送信する都合上、データの劣化は免れないため、全ステータスとスキルのランクは1ランク低下、宝具の真名開放も不可能となる。
ただし、岸波白野が自ら契約したサーヴァントである無銘のアーチャーに変化する際のみ、劣化したデータを岸波白野自身の記憶(おもいで)で補うことができ、この能力低下は発生しない。

『無名・固有結界』
岸波白野とアーチャーの絆の象徴。完成された「正義の味方」の心象風景に影響を与えられるほど、無銘という男が彼女に心を許した証。
厳密には宝具ではなく、魔術として完成された無限の剣製に岸波白野が入り込んでいるだけであり、彼女自身が固有結界という魔術を行使できるわけではない。
固有結界内では投影魔術の精度が飛躍的に上昇し、ランクこそ落ちるがエクスカリバーなど神造兵器の投影すら可能となる。
一応、アーチャー変身時以外でもこの固有結界は使用できるが、そもそもアーチャーの姿以外では投影魔術の行使自体が不可能であるため無駄に魔力を消費するだけで終わる。

【weapon】
宝具使用時には姿に応じた様々な戦法を使用する反面、本来の姿では武器を持って戦うことはまず無い。
一応攻撃用のコードキャストも習得しているが、せいぜい使い魔の撃退に使用する程度で、英霊相手にはほとんど効果がないため使用する場面はまず見られない。
肉体的にも生身の人間と変わりなく、常時コードキャストを使用することでなんとか身体能力がサーヴァント基準でのEに到達するかといったところ。
ただし、精神的な耐久力だけは並のサーヴァントを凌駕する。聖杯戦争で培った精神力が彼女の唯一の、または最強の武器であると言える

【サーヴァントとしての願い】
みほの成長を導き、彼女が元の世界に帰る手助けをする。

【人物背景】
別の世界で行われた月の聖杯戦争の優勝者。
元は一般NPCがなんらかの要因から自我を獲得しただけの存在であり、元となった人物は世界の何処かで病による昏睡状態に陥っている。
トワイスを打ち破りムーンセル中枢に侵入した後、彼女の存在が消滅するその刹那の瞬間にムーンセルから取引を持ちかけられ、これを受諾。
万能の観測機は岸波白野に英霊としての器を与え、スノーフィールドへ送り出した。
ムーンセルの要求は事象選定の障害となる別世界のムーンセルの排除。
報酬は今回の聖杯戦争で失われたすべての命の救済、及び次回聖杯戦争のシステム改定。
元から存在しない、失われてすらいない「彼女」自身はどうあっても消滅し、岸波白野の元になった人間だけが残る定めである。

【方針】
聖杯戦争に優勝するため、善良そうなマスターかサーヴァントを見つけて同盟を持ちかける。
トーナメント制ではない、つまり必ずしも殺し合わなければいけないわけではないこの聖杯戦争の形式に少し安堵している。


40 : ◆W9/vTj7sAM :2016/12/28(水) 15:23:33 5a/FxOpM0
投下終了しました。


41 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:31:44 6uAHSiVU0
投下します


42 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:32:15 6uAHSiVU0
滅んだ世界。異なる世界より現れ、世界を覆い尽くす森。只退屈しか存在しない森の中。無限に続くかと思われた日々は、ある日訪れた猿共により終わりを告げる。
猿共の世界に赴き、取るに足らない迎撃を蹴散らし、破壊と蹂躙を満喫した。
失った栄華を持つ猿共の世界を壊し、滅ぼし尽くしてやろうと思った。
敗北した弱者を潰すのは勝利者の権利。強さの証。
しかし猿共は小細工と数とでひたすらに立ち向かってきた。
脆弱とはいえ己と戦うことが出来る猿共もいた。
流石に消耗した為に、一旦仕切り直して力を蓄え、今度こそ蹂躙しようとした時、たまたま落ちていた“ソレ”を踏んで─────。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



スノーフィールドに最近流れる一つの噂、“紅い怪物を連れた人影”の噂。

曰く、黒髪の美少女が赤唐辛子みたいな異形を連れて歩いていた。

曰く、腰が直角に曲がった老人が赤唐辛子みたいな異形を連れて歩いていた。

曰く、輝く鎧を身につけ長槍を持った偉丈夫が赤唐辛子みたいな異形を連れて歩いていた。

曰く、十にも満たぬ幼子が赤唐辛子みたいな異形を連れて歩いていた。

曰く、やたら露出の高い美女が赤唐辛子みたいな異形を連れて歩いていた。



全てに共通するのは赤唐辛子みたいな異形。
異形と共に居るものが毎回姿を変えているのは、異形に拐われたのか異形の印象が強すぎて覚えられていないのか。
最初は唯のネット上の与太話と扱われていたそれが、ネットどころか現実でも話題となり、目撃者が百人を越え、単なる噂が“信憑性を帯びた目撃情報”となるにはそう長い時間は掛からなかった。

そして、“ある事柄”に関わる者達は、異形についての明確な答えを持ち、異形の姿を求めて街を探索した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


43 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:32:57 6uAHSiVU0
スノーフィールドの西部に広がる森。そこは今戦場と化していた。
日付も変わろうかという時間に、紅い異形を引き連れた老婆が森へと入って行くのを、噂を聞いて街の探索を行っていたマスターとサーヴァントが偶然見つけて追跡。そこで待ち伏せを受けたのだ。

「離れるなマスター!!」

長剣を振るってマスターに伸びる腕を斬り飛ばし、叫ぶセイバー。
紅い異形も老婆の姿も見えぬまま、二人は屍と幽鬼の群れに囲まれていた。
夜の森は無数の死者が徘徊する魔境と化していたのだ。
サーヴァントにとってはどうということも無い存在でも、マスターにとっては充分に脅威。セイバーは敵マスターと思しき少女を探しにも行けず、マスターの側で只々剣を振るい続ける。

「幾ら何でも数が多すぎる!!」

相当数の骸と死霊を斬り散らしてなお減らぬ数。セイバーは森に入ったスノーフィールドの住民以外にも数多くの街の住民が殺され、アンデッドにされていることを理解した。
毒蛇と毒虫が蠢く場所に誘い込まれたことを悟り、離脱を考えるセイバーに、紅い異形が襲い掛かる。
頭部と両肩から角を生やし、濃密な魔力を纏った其奴は、明らかに人のものでは無い言語で喚きながら、手にした錫杖の様な剣を連続して繰り出してくる。
遥か高所から落下してきた巨岩を思わせる上段からの斬撃。
音よりも速く飛来し、受けた腕に砲撃の如き威力を伝えてきた中段への突き。
地面を斬り砕きながら振り抜かれた下段からの斬り上げ。
全てが確かな経験と武練に裏付けられた、人知を越えた威力の攻撃だった。

「マスター!此奴のステータスはどうなっている!?」

剣撃の暴風雨を凌ぎながら叫ぶセイバーに、マスターの困惑と恐怖と困惑に彩られた叫びが返ってくる。

「違う!此奴はサーヴァントじゃ無い!!」

その言葉の意味をセイバーが理解したと同時、マスターの胸から漆黒の刃が現れた。
セイバーの耳に、肉の裂ける音がはっきりと聞こえた。

「え……?」

何が起こったのかわからない。そういった風情で胸から現れた剣身を見たマスターの身体から、そのまま力が抜け落ちた。

「マスター!!」

叫んで馳せ寄ろうとするセイバーに黒い刃が迫る。切っ先にマスターの身体をぶら下げたまま。
セイバーはサイドステップして攻撃を回避、マスターの身体を避けて後ろにいる剣の持ち主─────百を越えていてもおかしくない老婆の首を切り飛ばした─────筈だった。
刃は首を確かに薙いだ筈なのに傷は即座に塞がり、空間そのものを斬り裂く様な斬撃を老婆は送り返してくる。
辛くも飛び退いて躱したセイバーの背中に、紅い異形が剣を送る。
背中を斬り裂かれ仰け反ったセイバーの胸を、漆黒の大剣が貫いた

「ガハッ……?」

胸を貫かれた痛みよりも、血が流れ出る喪失感よりも、気力を根こそぎ刈り取られた様な虚脱感と魂が砕かれたかの様な虚無感により暗くなりゆく視界で、必死に剣を握り、老婆の心臓目掛けて渾身の突きを繰り出した。
心臓を確かに貫いた─────同時にセイバーの身体は縦に両断された。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


44 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:33:27 6uAHSiVU0
「所詮下等な猿。まるで相手にならん!」

戦闘が終わった後、紅い異形は自分以外の生者が居らぬ森の一角で哄笑していた。
異形の他には、その傍らで佇む十代前半の少女が一人。
長い髪を一糸も纏わぬ裸身に妖しく絡みつかせ、血の気の無い白い肌を月光に晒すその姿のなんと妖美に満ちていることか。
白い白い裸身で唯一血の色を湛える唇の可憐さよ。
夜闇よりなお黒く、光さえ吸い込みそうな黒瞳に映るのは己のみで良いと、幼女趣味の無い男でも思わずにはいられまい。
しかし、誰しもが陶然とした後で、この少女の異質さに気づく事だろう。
全身から立ち昇る瘴気。周囲を圧する存在感。その双眸に浮かぶ邪気。
この少女は魔性、そう呼ばれるモノだった。

この少女こそサーヴァント。紅い異形の従僕たる超越の存在。セイバーを屠った老婆の姿は仮初めの姿。

「貴様が余計な真似をせずとも、あの程度仕留めてのけたというのに」

人とは異なる風貌の異形の表情は判然としないが、盲人にもはっきりと判る怒気を少女へと放射していた。
此の異形もまた魔性の存在。少女の放つ圧に劣らぬその存在感。その様は正しく超越者と呼べる。

「魔神を召喚して失った魔力を回復するのに丁度良かったものでな」

異形に対する畏れも敬意も無く、平然と返答する少女。その様に怒りを露わにした異形は、太陽を思わせる灼熱の火球を放つ。
これを少女は、何時の間にか影が変化した装甲に覆われた左手で受け止める。
火球が爆ぜ、紅蓮の炎が夜空を照らす。広がる炎幕の後ろで奇怪な発音の言葉を少女が呟くと無色無音の爆発が周囲にに有るものを一掃した。
雄叫びを残して弾き飛ばされる紅い異形。その姿がゲル状に変じて消え、秒の間も置かずに少女の眼前に現れると、手にした剣で袈裟懸けに少女の身体を斬り裂き、喉を貫いた。

「気は済んだか」

身体に剣を埋めたまま、妖艶な微笑を浮かべて訊ねる少女に、紅い異形は不機嫌に唸るだけだった。

「先刻の者は魔神を出すまでもなかったがな。だが、英雄というものは、侮れぬぞ」

「猿などに負けるものか…だがサーヴァントは未知数だ……貴様の様な者がいるかもしれん」

異形はこのサーヴァントが現れた時に、試しに戦った事を思い出していた。
あの時サーヴァントは焼かれ切り刻まれ遥か高所から落とされて平然と笑い、手にした漆黒の大剣で猛然と反撃、剣が僅かに掠っただけで激しく気力が萎えて、
己が不利になった事を異形は悟り、戦闘を打ち切ったのだった。
以来、異形の自負は全く揺らぐことは無いが、サーヴァントを侮ることはしていない。
英霊などといったところで、所詮猿に毛が生えた程度。そう思っていたのが、己のサーヴァントの様に、猿共とは全く異なる存在も居ることを異形は理解したのだった。
だからこそ、戦力を整えるということや、誘き出しなどといった性に合わない事をやっていたのだ。
本来の異形の性分ならば、思うままに力を振るい、破壊と殺戮を欲しいままにしているというのに。
だが、異形が暴れ狂った方がスノーフィールドという地には幸いだっただろう。
裁定者が見逃す筈も無く、何より他のマスターとサーヴァントが動く。一晩と経たずに異形は脱落しただろう。
だが、慎重策を採った、異形と少女が戦力を整える為に、かなりの数の住民がゾンビに変えられ、一部の者は鏡像魔神(ドッペルゲンガー)と入れ替わられた。
異形と少女が居る森の奥には、召喚された魔神達がその牙を研いでいる。

だが、それもそろそろ終わる。戦力が整い、神秘の秘匿とやらに抵触しない戦場を用意できれば後は好きなだけ暴れられる。
そして聖杯とやらを手に入れ、さらなる力を得るのだ。自分達オーヴァーロードの“王”の様な力を。

「心するのだな。お前が死ぬのは構わんが、それでは我も消えるからな」

抑えきれぬ戦意を立ち上らせる異形に、少女は嘲笑混じりの警告をしたのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


45 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:33:48 6uAHSiVU0
異なる世界の者共に住んでいた世界から引き離され、引き離した者共の世界で、意のままに使われ、挙句幽閉されて長い長い歳月が過ぎた。
力を求める愚かな男により魂を入れる器を得て解き放たれ、眷属を率いて異なる世界の者共全てを死に絶えさせようと思った。
優れた能力を持ち、知られざるうちに事を進めた為に、最初のうちは上手く進んだ。
そして人間達の反撃が始まった。
眷属は次々と斃され、拡げた版図を全て失って、封じられていた迷宮に押し戻された。
そして七人の人間と戦い、一人の女に剣を奪われ、剣を手にした男に斬られて滅びた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


異形は退屈の果てに滅ぼす対象を知った。少女を器とするものは滅ぼす対象を滅せずに散った。
異世界より人の世に訪れた超越者(オーヴァーロード)達は、未だに本懐を遂げていない。
人界を死の世界に変え、人理を焼き尽くすという本懐を果たせていない。
超越者達の前に道は開かれた。本懐を遂げる術は示された。
独力で人の世を滅ぼせる超越者達が、聖杯を求めて動きだす。
この異界の者共を止められなければ、人の歴史は終わりを迎える。


46 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:34:49 6uAHSiVU0
【クラス】
デーモン

【真名】
魔神王@ロードス島伝説

【ステータス】
筋力:A+ 耐久:C 敏捷:A 幸運:D 魔力:A++ 宝具:A++

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

対人:A
『人』に属する者に対して大幅に有利な補正を得る。
ステータスには影響せず、攻撃時に与えるダメージや被撃時のダメージ判定に影響を及ぼす。
このランクでは敵対した者の攻防の最終的なダメージ判定を三割にまで減少させる。
人以外の血を引くもの、人で無い身体の者も、人で有る部分の寡多に相応して補正が掛かる。
この効果は神性や魔性、退魔系スキルで軽減できる
魔王やそれに類するモノを滅ぼした逸話を持つ英雄には効果を発揮しない。


【保有スキル】

魔神:A+
異界の住人である魔神としての格を示すスキル。
ランク相応の精神異常、精神耐性、怪力、天性の魔の効果を発揮する複合スキル。


不死身:A+++
通常の武具では斬るとほぼ同時に傷が塞がり傷つける事が出来ず、高い聖性や神性を帯びた武具で漸く傷つけられる。
それでも傷付いた部位は極短期間で再生する為に、ダメージを与えることが極めて困難。
四肢を切り離しても短期間で生えてくる。
少女の身体は仮初めのものでしか無い為、肉体を消し去っても斃す事は出来ない。


変化:B
姿を変え別人の姿になることが可能。
自身の肉体を変化させる事で、ステータスを変化させることが可能。


記憶解析:B
対象の脳を食べる。若しくは一時間程観察することで記憶を読み取ることが可能。
真名看破と同じ効能を持つ。


対魔力:A++
A+以下の魔術は全てキャンセル。魔術ではデーモンに傷を与えられない。
生前にいかなる魔術師も魔術を以って傷つけることが出来なかった。
魔神達の王であり、長い歳月を生きた魔神王の神秘は破格である。
神の権能に対しても精神力を奮い起こすことで対抗可能。


魔術:A+
多種多様な魔術を自在に使いこなす。
異界の言語で唱えられる魔術は一節でも絶大な威力を持つ。


47 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:35:18 6uAHSiVU0
【宝具】
魂砕き(ソウルクラッシュ)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1-3 最大補足:3人

デーモンの持つ漆黒の大剣。この剣で傷つけられた者は、精神と魂を打ち砕かれる。
この剣で斬られて死ねば霊核を確実に破壊され、不死の存在や蘇生効果を持つスキルや宝具を有しているサーヴァントでも効果を発揮せず消滅する。
掠っただけでも気力を大きく消耗し、行動することが困難になるほど。
上位精霊や神に匹敵する魂を持つ古竜ですらこの剣の魔力を無効化する事は出来ない。
破格の精神力や精神耐性を以ってしても無效化は出来ず、効果に耐えることが出来るというだけ。
また、精神異常、精神汚染、狂化といったスキルのランクを3つ下げる。
持ち主の老化を遅らせ、斬った者の精神力を奪うという能力を持ち、聖杯戦争では所有者の魔術行使以外の魔力の消費を十分の1に抑え、斬った相手に対し判定を行い、判定結果に応じた分の魔力を徴収する。

デーモンの死後、この剣を所有した暗黒皇帝ベルドを狂わせたと言われ、英雄戦争において嘗ての盟友である聖騎士王ファーンを斬った逸話及び、
ベルドの死後にこの剣を所有した漂流王アシュラムが竜殺し成し遂げた逸話により
騎士の英雄や竜の因子を持つ英雄に特攻の効果を持ち、デーモン以外の者が所有した場合、Dランクの狂化を付加する。
『魔神王の剣』と、所有者が変わっても言われ続けた事から、デーモンの手から離れた後の逸話による効果でも発揮する事ができる。



魔神戦争(デモンズ・ウォー)
ランク:B+++ 種別:対人宝具 レンジ:スノーフィールド全域 最大補足:スノーフィールド全域

生前にデーモンが率いたロードスに恐怖と戦乱を撒き散らした魔神の軍勢を召喚する。
魔神将、上級魔神、下級魔神という階級があり、下位のもの程召喚に魔力を必要としない。
魔神将ともなれば、本来ならサーヴァントにも引けを取らないが、聖杯戦争の枠組み上、召喚される際には使い魔と堕しており、大幅に劣化する。



最も深き迷宮(ディープ・ラビリントス)
ランク:A++ 種別:迷宮宝具 レンジ:0 最大補足:500人

魔神王が封じられていた場所。最も深き迷宮を再現する。
固有結界に近い大魔術であり、地下に構築される。
全十層からなる迷宮は致死性のトラップと凶悪な魔物や魔神がひしめいている。
死後に英霊として座に登録される英雄を多数含む500人の精鋭を投入しても、そのほぼ全てが死に絶えた程の堅牢強固な守りを突破することは困難を極める。
デーモンが解除するか、デーモンを斃すかしない限りこの迷宮は消滅しない。
この中ではデーモンは最高ランクの護国の鬼将スキルと同等のステータス上昇効果を得る。
地脈を汲み上げられる位置に設置すれば維持に必要な魔力を減らすことが出来る。


48 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:35:42 6uAHSiVU0
【weapon】
魂砕き、口から吐き出す瘴気。毒を帯び、瘴気に変わる血液。無尽蔵の再生能力。

【人物背景】
古代魔法王国の時代に、ロードスの地に召喚され、古の魔術師達に従僕として扱き使われた者達の王。
元居た魔界と、召喚された先の物質界の狭間に長い期間幽閉されるが、スカード王ブルークの手により復活。ブルークの血の繋がらぬ娘リィーナの身体を器として復活。
ドワーフの“石の王国”を攻め滅ぼし、スカードの全住民をゾンビに変える。
その後もロードス各地に手を伸ばし、 後に“魔神戦争”と呼ばれる戦いを起こす。
人間達を分断し団結させない奸策と魔神達の戦力とで、ロードスを席巻するかに見えたが、スカードの王子ナシェルを中心とする、ロードス中から集った勇者達や、各国に連合軍に敗れ、封じられていた“最も深き迷宮”に押し込まれる。
そして勇者達が身を呈して道を開き、魔神王の元へと送り届けた七人の英雄達との戦闘となる。
そして七人のうちの一人に己の剣を奪われ、その剣に依り滅ぼされた。
魔神王と戦い、勝った者達は“六英雄”と讃えられた。


【方針】
召喚した魔神を放って情報集めと誘引を行わせる。
誘い込まれた奴を数の暴力で潰す。

【聖杯にかける願い】
復活


49 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:36:05 6uAHSiVU0
【マスター】
デムシュ@仮面ライダー鎧武

【能力・技能】
ゲル化や竜巻状になっての高速移動。敵を追尾し、任意で動かせる火球。バリヤーの展開。重力を無視した奇怪な移動。
身体能力も極めて高く。白兵戦の技量にも長ける。

【weapon】
シェイム
杖の様な形の剣。

【ロール】
スノーフィールドで最近語られ出した都市伝説

【人物背景】
ヘルヘイムの森に侵食され、滅んだ文明の生き残り。
自らを“フェムシンム”と称するが、地球人には“オーヴァーロード”と呼ばれる。
好戦的かつ獰猛な性格で、地球人を“猿”と呼ぶ。
既に自分達が失った文明を、地球人が謳歌しているのが許せずに無差別攻撃をする横暴さを持つ。
弱者を嬲るのは強者の権利であるとし、その事に喜びを覚える性格。


【令呪の形・位置】
林檎にシェイムと魂砕きが突き刺さった紋様が右肩にある。

【聖杯にかける願い】
更なる力を

【方針】
面白そうな奴を見つけて戦う。

【参戦時期】
32話。地下でヘルヘイム実を食った時に『白紙のトランプ』を踏んだ


参考資料
魔神王
ロードス島伝説五巻と四巻の“伝説の彼方へ”を読めば戦闘描写と最低限のキャラは解る。
召喚する魔神達の能力を知るのなら全五巻読了する事。

デムシュ
仮面ライダー鎧武23話~32話視聴。


50 : 異邦の君主達(エイリアン・オーヴァーロード) ◆v1W2ZBJUFE :2016/12/29(木) 20:37:00 6uAHSiVU0
投下を終了します


51 : ◆NIKUcB1AGw :2016/12/30(金) 14:58:48 OsJWk6f60
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます


52 : 寺坂龍馬&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2016/12/30(金) 15:00:19 OsJWk6f60
時刻は夜。空を見上げれば、鮮やかに光る満月が浮かんでいる。
そう、満月だ。
もう、見られなくなったはずなのに。


◆ ◆ ◆


「まったく、何だってんだよ……。
 あのタコが学校に来ただけでも異常事態だってのに、今度は妙な場所に拉致られてつぶし合いだぁ?」

自室の窓から夜空を眺めつつ、少年は毒づいた。
実年齢の割には大柄な体格の彼は、寺坂龍馬。
本来は私立椚ヶ丘学園に通う、中学3年生である。

ほんの数ヶ月前まで、彼はただの一般人だった。
だがある日、日常は崩れ去った。
彼のクラスの担任として、タコのような外見の奇妙な生物が現れたのだ。
そしてその怪生物は、日本政府から100億円の懸賞がかけられた賞金首だった。
その日から、彼のクラスは「暗殺教室」となった。
落ちこぼれだった生徒達が暗殺を通じて成長していく中、彼だけはその流れに取り残されていた。

「だが考えようによっちゃ、これはチャンスかもな……」

窓から離れ、寺坂は呟く。

「聖杯ってのは、どんな願いでも叶えてくれるんだろ?
 なら、あのタコをぶっ殺すことだってできるよなあ?
 そうすりゃ賞金独り占め……。一生遊んで暮らせるぜ」

寺坂の顔に、下卑た笑みが浮かぶ。
成長を受け入れない今の彼では、聖杯戦争に対してそんな考えしか浮かばないのだ。

「お?」

そうこうしているうちに、異変が起きた。
どこからともなく出現した白紙のトランプが、光を放ち始めたのだ。

「サーヴァントってやつのお出ましか……。なるべく強いのを頼むぜ」

期待を込めて見つめる寺坂の前で、光の中からサーヴァントが出現する。
それは黒い帽子と黒いスーツに身を包んだ、細身の男だ。


53 : 寺坂龍馬&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2016/12/30(金) 15:00:54 OsJWk6f60

「てめえが俺のサーヴァントか。せいぜい役に立って……」

寺坂の言葉は、発砲音に遮られた。
召喚されたサーヴァントが、手にした銃を発砲したのだ。
弾丸は寺坂の頬をギリギリかすめ、壁にめり込む。

「やれやれ、CHAOSだな……。こんななまいきな子供がマスターなら、あっちの姿で召喚されそうなものだが……。
 何かアサシンの触媒になるようなものでも持ってたのか、こいつ」
「銃弾ぶっ放しておいて独り言ぬかし始めるんじゃねえよ!」

サーヴァントの態度に、寺坂は怒りをあらわにする。

「こっちにはあれだ……令呪があるんだぜ。これがありゃ、サーヴァントってのはマスターに逆らえないはずだろ!
 おとなしく言うことを……」
「わかってねえみてえだな」
「あ? 何をだよ!」
「俺ならお前が令呪を使う前に、お前の頭に銃弾を撃ち込める」

サーヴァントは、真顔でもう一度銃を構える。
その行為で、寺坂は理解した。先ほどとは違い、今度は本気で自分を殺す気だと。
サーヴァントから放たれる殺気が、まさに彼が「殺す気」であることを何よりも雄弁に語っていた。

「…………」
「理解できたみてえだな。完全なバカってわけじゃなさそうだ。
 まあこっちも、そう簡単にマスターを殺すつもりはねえ。
 よっぽどバカなことをしなけりゃ、ちゃんと面倒見てやるよ」
「この野郎、見下しやがって……!」
「見下されるのがいやなら、強くなるんだな。
 なに、俺がついてるんだから心配するな。出来の悪い生徒を指導するのは慣れてるからな」

「生徒」に「指導」。
その言葉が、寺坂にサーヴァントと例の怪物を重ねさせる。

「なんなんだよ、てめえは……! いったい何者だ!」
「俺はアサシンのサーヴァント……。殺し屋で家庭教師(かてきょー)だ」

銃をしまい、アサシンのサーヴァントはニヒルに笑う。

「さあ、マスター。始業のベルを鳴らそうぜ」


54 : 寺坂龍馬&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2016/12/30(金) 15:01:55 OsJWk6f60

【クラス】アサシン
【真名】リボーン
【出典】家庭教師ヒットマンREBORN!
【性別】男
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】筋力:D 耐久:C 敏捷:B 魔力:C 幸運:B 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:B
自身の気配を消す能力。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
射撃:A
銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

道具作成(偽):C
魔力を帯びた器具を作成する。
アサシンは魔術師ではないが、相棒のレオンの能力により銃弾などを生成できる。

かてきょー:C
人を教え導く才能。
もう一つの姿で召喚されればAランクだが、今の姿は殺し屋としての彼を強調した側面であるためランクダウンしている。


【宝具】
『理欺く混沌の弾丸(カオスショット)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:5人
変幻自在の魔弾。
あるときは分裂して複数の敵を襲い、あるときは地面に潜り足下から敵の急所を貫く。


【weapon】
「Cz75・1ST」
チェコ製の拳銃。

「レオン」
リボーンのペットである、形状記憶カメレオン。
自分と同程度のサイズで、一度見たことがあるものであれば自在に変身できる。
またその体内では、特殊な弾丸や防具などを生成できる。
ただしそれには相応の体力を消費するため、一度に作れる量には限度がある。


【人物背景】
かつて、最強の殺し屋として恐れられた男。
あるとき「その時代最強の7人」に選ばれ、「呪われた赤子(アルコバレーノ)」へと変えられてしまう。
その後は長い時をかけて変化を受け入れ、優秀なマフィアを育てる家庭教師となった。
今回は最強の殺し屋としての姿で召喚されている。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの性根を鍛え直す

【基本戦術、方針、運用法】
銃が武器ということで、アサシンでありながらアーチャーに近い運用になる。
気配遮断からの狙撃は、他のサーヴァントに対して十分な脅威となるだろう。
まあそもそも、聖杯を狙うつもりがあるのかどうかが曖昧なのだが。


55 : 寺坂龍馬&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2016/12/30(金) 15:03:06 OsJWk6f60

【マスター】寺坂龍馬
【出典】暗殺教室
【性別】男
【令呪】おしゃぶりのような形

【マスターとしての願い】
タコ(殺せんせー)を殺す

【weapon】
なし

【能力・技能】
体力は同年代の中では高い方。
暗殺者としての訓練を受けているが、まだ不真面目だった頃からの参戦であるため練度は低い。

【ロール】
中学生

【人物背景】
私立椚ヶ丘学園3年E組の生徒。
体がでかくて声もでかい、典型的なガキ大将タイプ。
小学生の頃は成績もそこそこよかったため名門の椚ヶ丘に進学するが、授業についていけず落ちこぼれる。
E組でお山の大将に収まることで自尊心を保っていたが、殺せんせーの登場でそれも崩れ去ることになる。
周囲が前向きになっていくことに耐えられず反抗的な態度を貫いていたが、
悪い大人にだまされてクラスメイトを危険にさらしてしまったことがきっかけで考えを変化させていく。
しかし今回の彼は、それより前から聖杯戦争に招かれている。

【方針】
聖杯狙い


56 : ◆NIKUcB1AGw :2016/12/30(金) 15:03:33 OsJWk6f60
投下終了です


57 : ◆lkOcs49yLc :2016/12/31(土) 16:53:46 cB8NPFtc0
投下します。


58 : 橘朔也&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/12/31(土) 16:55:42 cB8NPFtc0


◆  ◆  ◆



人間の死というのは、自由への道において行われる最高のフェスティバルである。
―ディートリッヒ・ボンヘッファーより



◆  ◆  ◆






アメリカ、スノーフィールド中央区にある生物研究所。
其処で行われている研究とは、ある未知の古代生物についての解析だった。
今まで誰も行った試しの無い極秘研究で、スノーフィールドと言う目立たない街に研究所を置いたのも、恐らく秘密を隠し通すためであろう。
しかし創設者が資本家なだけあって設備は充実しており、人々が通りかかるこの廊下にはホコリ一つ付いていない。

「済まないな、デートは、また今度にしてくれ。」

研究所の中にある、一つの研究室。
机に本棚、そして幾つかの引き出しと、何処にでも有る平凡かつ清潔な部屋。
其処の角に突っ立った一人の青年が、スマートフォン越しに電話を掛けている。

『また、研究?』

電話のスピーカーからは、面白がっている様な口調な女性の声が聴こえる。
青年はその声を聞き、更に申し訳無さそうな表情を浮かべる。

「ああ、そうなんだ。まだ俺の研究は進んでいない……君ともまた会いたいけれど、どうしても、この研究を終わらせなければならない気がするんだ。」
『……そっか、頑張ってね、研究。私、橘君の事応援しているから。』
「ああ、有難う、そちらこそ、開業医、頑張ってくれ、小夜子。」
『うん、あ、患者さんが来たから、私行かなきゃ、じゃね。』

プツンと、電話が切れる音が出る。
青年、橘朔也はそれを確認した後、スマートフォンの電源ボタンを一押しし、ポケットに仕舞い込んで一息付いた後、机の椅子にドサリと座り込む。

先程まで橘が電話をした相手の名は、深沢小夜子。
大学時代の同期で、スノーフィールドで開業医をやっている女性だ。
共に生物関係の学部を専攻したこともあり、今でもこうして関係が続いている。
スノーフィールドに共に渡ったのも、多分このことが関係している。
しかし、橘にはどうにも心に何か引っかかったものがあった。
これまで橘は、何度も研究を優先して小夜子とのデートを断ってきていた。
その事を度々後悔はしているのだが、何故、自分は後悔を振り切ってまで研究を優先しているのか、それが全く分からなかった。

(何故そうしてまで、俺はこの研究を……?)

橘が行っている研究とは、とある古代生物の解析。
嘗て、この研究所が発見した、幾つもの古代遺跡の中に、カードが挟まった結晶があったそうだ。
そして分かったことは、その13枚のカードが生物に密接に関係している……いや、もしかしたら、進化論すら覆すほどの存在に成りかねないと言う事である。
若年研究者である橘に白羽の矢を立てたのは、そのカードの力をエネルギー源に出来ないかと考えている日本人の科学者だった。
どういう事情があったのかは、橘の知るところではないが。

橘はその科学者の助手では有るが、研究は任されている立場にある。
それ程に己が信頼されている、ということになるのだろう、大変誇らしい話だ。
そう考え、橘は机の引き出しを開き、中にあるボタンを押す。

それと同時に研究室の壁の一部が突然開き、カードの束が入ったケースが出現する。
これは謂わば「隠し扉」だ。
外部の人間に持ち出されないようにと、上司が考えた入れ場所である。
橘は机を立つとケースに向かい、カードの束を取り出す。

カードを全て取り出し、橘はもう一度ケースを閉じようと机に戻ろうとする。
だが、机の椅子に座ろうとした瞬間、橘は、何故か壁から、引き出しが自動的に開くように別の隠し扉が出て来るのを見た。

「どういう事だ!?」

有り得ない。
この研究室に来た時に説明された隠し扉は、一つだけ。
況してや、何もしていないのに開くとなれば、尚更だ。
橘はもう一度机から立ち上がり、其処の壁に向かう。

ケースを覗き込む。
入っているのは、カードケースらしき何かが入った銀色の箱。

「何なんだ、これは……。」

だが、橘はこの道具を知っていた。
これまで、何度触れてきたか分からない代物。
何度腰に付けてきたか分からない「ベルト」。
橘はそれを恐る恐る、振るえた左手で掴み取る。

(そう言えば、何故、小夜子が彼処に……)

不意に頭の中に浮かんだ違和感が、余波の如く橘を襲う。
橘は知っていた。
小夜子が、死んでいたことを。


59 : 橘朔也&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/12/31(土) 17:01:52 cB8NPFtc0

「はっ……そうか、俺は……。」

こうして橘は、記憶を取り戻した。


◆  ◆  ◆


「そうか、俺は確か……。」

自室の机で橘は、これまでの経緯を回想する、
52体のアンデッドが封印されて数年。
自分は、アンデッド研究の傍ら、烏丸と共にアンデッドとBOARDの一連の事件の事後処理に取り掛かっていた。
それは、橘が残ったコモンブランクの回収に取り掛かっていた時の事だった。
其処で手にしたのは、見たこともない白いカード。
それが、橘の最後の記憶だった。

「聖杯戦争、か。」

それは橘にも知り得ない物だった。
いや、とても常識的には考えられないものでも有るのだが。
まさか願いが叶う聖遺物が、この月に存在する等。
アンデッドという存在が明かされ、進化論が覆されている事を知っている今なら、少し飲み込める気はするのだが。

「まさか、本当に此奴が役に立つ時が来るとはな。」

橘は、机に置いてあるギャレンバックルを手に取る。
嘗てはアンデッドの研究を兼ねて修復した物だが、実験に使ったことは殆ど無い。
そもそもが、ブレイバックルを研究に使う気になれなかったために修復したと言うことには、橘も気づけない。

不意に、机に有るカードが光る。
橘はそれに感づき、眼を細める。

「来たか。」

カードの光は更に更に増していき、遂にはピカッと閃光弾が炸裂したかのように部屋が真っ白に包まれる。
その輝きに橘も、手で目を覆う。
光が消え去った時に見えたのは、一人の女性。
朱槍を手にし、黒い髪を伸ばした女性は、その美貌と朱い眼を橘に向ける。

「問おう、貴様が私のマスターか。」


◆  ◆  ◆


橘は、この女性と話して分かった事が幾つかあった。
彼女は橘に与えられたサーヴァントであり、クラスはランサー。
ステータスは見たところ申し分ない、当たりだ。
真名はスカサハ。
ケルト神話に登場する影の女王。

「それで、貴様はこれからどうするつもりだ?」

机に両肘を立てている橘に視線を合わせ、ランサー…スカサハは問いただす。

「戦うつもりだ。俺にだって、叶えたい願いは有る。」

橘には、叶えたい願いが有る。
後輩である、剣崎一真を人間に戻すと言う願いが。
これまで橘は、剣崎の身体を元に戻す為に、何度もアンデッドの身体を知ろうと研究を重ねてきた。
そんな時に参戦することになった、この聖杯戦争。
逃す手はない、参戦して、自分の願いを叶えるまでだ。

「ほう、そうか、それは、例え死を覚悟してでも、叶えたい願いか?」

スカサハは、やや試すような口調で、橘に問う。

「死ぬ覚悟くらいなら出来ているさ、これまで何度も死地を潜り抜けてきたからな。」

そう言って、橘はギャレンバックルを手に取る。
しかし、スカサハが二度に言う言葉は突拍子も無い物だった。

「そうか、ならば一度目の戦いは貴様一人でやってもらう事にするか。」
「……どういう事だ。」

サーヴァントは、サーヴァントで対処すべき物。
ともなれば、マスターはサーヴァントのサポートとして後手に廻るのが当然。
だからこそ、ランサーが言った事は大変驚くべき物である。

「決まっている、言ったな貴様は。これまで何度も死地を潜り抜けてきたと。
ならばその経験を見せつけろと言っただけの話だ。
一度戦ってみろ、戦ってみせろ、それで私のマスターに相応しいか否かが証明される。」
「……。」

これには流石に橘も押し黙る。
橘には、サーヴァントと言う存在がどの様な物かは未だに分からない。
それに一人で戦い、証明してみせろと。
スカサハはそう言っているのだ。
だが、だからといって戦いません、と言う選択肢は通用しない。
もう選択肢は残されていないのだ。


60 : 橘朔也&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/12/31(土) 17:02:21 cB8NPFtc0

「分かった、戦ってみよう、俺の出来る限りの力で。」

橘はそう言って、ギャレンバックルとカードの束をポケットに仕舞い込む。
何時サーヴァントが来ようとも、臨戦態勢に入り込めるようにと。

「分かった、それでは見せてもらうぞ、お前の力を。」

ランサーはそう言って霊体化し、姿を消した。
橘はフゥと一息つき、ギャレンバックルを一旦机に置く。
彼とて、好き好んで戦う質ではない。
だが、もう踏みとどまることは許されない。

「許してくれ、剣崎。」

人間を辞めて何処かへと去ってしまった後輩の名前を、一度呟く。
もし、剣崎が人間に戻ったら、確実に怒りを示すだろう。
彼はそう言う人だ、一度決めたら最後まで貫く性質だ。
だが、自分や仲間達のように、それを快く思わない人達は沢山いる。
何より、あの時自分が倒れていなければ、あの時自分が変身できていればと言う後悔もある。
だからこそ、自分は戦わなければならない。
それが例え、自分の我儘だとしても。



◆  ◆  ◆


その日の夜、橘は夢を見た。
夢に出てきたのは、昼間に橘が契約したランサーだった。
彼女は殺した。
戦士も、魔物も、神さえも。
殺し続けていく内に、ランサーもまた、魔物に近い物を持ち始め―
遂には、影の国に幽閉されてしまった。
彼女は、死ぬことが出来なくなってしまったのだった。


橘は知っている。
果てしない戦いの末に、人間であることを捨て去ってしまった仲間を。
死ぬことさえ出来ない身体で、運命と戦い続けている彼を。

(剣崎……お前は今、何処にいる……)


61 : 橘朔也&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/12/31(土) 17:02:39 cB8NPFtc0








【クラス名】ランサー
【出典】Fate/Grand Order
【性別】女
【真名】スカサハ
【属性】中立・善
【パラメータ】筋力B 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A+


【クラス別スキル】

対魔力:A
魔力に対する耐性。
現代の魔術師では凡そ傷を付けられない。


【保有スキル】

魔境の智憲:A+
人を超え、神を殺し、世界の外側に身を置くが故に得た深淵の知恵。
英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、B〜Aランクの習熟度で発揮可能。
また、彼女が真に英雄と認めた相手にのみ、スキルを授けることもできる。
戦闘時によく彼女が使用するスキルは「千里眼」による戦闘状況の予知。


原初のルーン:A
ケルトに伝わりしルーン魔術。
その原点たる魔術を彼女は習得している。
大量の英霊の力を借りて戦うなど、その力は計り知れない。


神殺し:B
元よりは魔女でありながら、神霊をも殺す力を手に入れた証。
神性スキルを持つサーヴァントに対し補正が掛かる。


【宝具】

「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティヴ)」

ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:5〜40 最大捕捉:50人

ランサーが生み出した呪いの朱槍、ゲイ・ボルク。
この槍は大英雄クーフーリンが操った事で知られているが、この槍はその同型にして一段階前の物。
ゲイ・ボルグは対象を刺し穿つ事で因果を捻じ曲げる死棘の槍となり、突き穿つことで恐ろしいほどの火力を放つ投擲槍となる。
この宝具は、その2つの絶技を同時に放つ攻撃で、その一撃を回避できるものなど到底存在しないだろう。
また、ランサーはこの槍を複数召喚することが可能で、刺し穿ち、突き穿つ2つの絶技を二本の槍でこなせる他、上空に複数の槍を召喚し敵にぶつけることも可能。



「死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)」

ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜50 最大捕捉:200人

世界とは断絶された魔境にして異境。
世界の外側たる「影の国」へと通じる巨大な「門」を一時的に召喚。
自らの支配領域である「影の国」へ、効果範囲内に存在するあらゆる生物を吸い込んでしまう。
魔力と幸運判定に失敗すると即死。スカサハが認めない者は「影の国」へと命を有したまま立ち入ることができない。


【人物背景】

ケルト神話に登場する、影の国の女王。
大英雄クーフーリンを一流の戦士にまで育て上げた張本人で、彼女自身も恐るべき武技を誇る。
クーフーリンからは「遠坂凛も裸足で逃げ出すほど」のスパルタとして恐れられているが、諦めずに頑張って指導を受ければ誰だって一流の戦士。
人の才能を見抜く優れた洞察力の持ち主で、一度素質を見極めた人間を鍛えずにはいられない気質で、面倒見も良い。
クールな印象を受けるが、やはり他のケルト人と同様にサイヤ人気質の戦闘狂。
彼女自身は英霊の座には至っておらず、未だ影の国で誰かに殺してもらうことを望み続けている。
しかしこの特例の聖杯戦争においては死んだ英霊として扱われ、サーヴァントとして現界することが許されている。

【聖杯にかける願い】

存分に力を振るい、他者の力を知り、そして死ぬ。


62 : 橘朔也&ランサー ◆lkOcs49yLc :2016/12/31(土) 17:03:03 cB8NPFtc0



【マスター名】橘朔也
【出典】仮面ライダー剣
【性別】男

【参戦経緯】

アンデッド一連の事件の事後処理の最中にトランプを手にした。


【Weapon】

「ギャレンバックル」
人類基盤史研究所「BOARD」が開発したライダーシステム第一号。
アンデッドの力を封じた「ラウズカード」の力を引き出すためのツール。
カテゴリーAをスロットに装填し、腰に当てることでオリハルコンエレメントと呼ばれるカード型のベルトが巻き付く。
グリップを引けば、バックル内に分解されている「ギャレンアーマー」を纏うことが可能となる。
ラウズカード自体は神秘の塊だが、ギャレンアーマーは科学の産物なのでラウズカードの力を纏わなければ霊核にダメージを与えられない。
バックルは一度カテゴリーKとの戦いで破損したはずだが、アンデッドの研究のついでに一度修復している。

「醒銃ギャレンラウザー」
ギャレンアーマーに付属する拳銃型アイテム。
ラウズカードのホルダーの役割も兼ねており、取り出したカードをリーダーにスライドすることで「ラウズ」することが可能。
ギャレンアーマーにラウズカードの力を宿せば、ギャレンは神秘を纏う。

「ラウズカード」
一万年前に封印された52の始祖、アンデッド、それらが封印されたトランプ状のカード。
その中でも「ダイヤスート」に位置する13枚のアンデッドのカードを橘は所持している。

「ラウズアブゾーバー」
カテゴリーQの吸収力を媒介にして、アーマーにラウズカードの力を融合させることを目的としたガントレット。
カテゴリーQを装填することで起動、ラウズカードをラウズすることでそのカードの力を吸収し、そのアンデッドの力を最大限にまで引き出すことが可能となる。
因みに橘は宿敵、ピーコックアンデッドの飛翔能力と融合係数上昇能力を有した「ジャックフォーム」に変身することに使うのが主。
現在はカテゴリーKのカードも有るため、キングフォームになることも出来る。



【能力・技能】

BOARDの研究者としての技能を持っており、アンデッドの研究を行っていることも有り生物学には人一倍詳しい。
ライダーとして戦闘訓練を受けており、時速150kmで飛んでくるボールに書かれている数字を読むことが出来る。
訓練と長い経験によりCランク相当の「心眼(真)」を有しており、本気を出せばノーマル形態で上級アンデッドと互角に渡り合うほどの爆発力を見せつける。


【人物背景】

人類基盤史研究所「BOARD」の若き研究員。
ある日広瀬義人が引き起こした事故によりアンデッドが復活し、その際烏丸啓が提唱したライダーシステムの第一資格者となる。
戦闘時においての優れた判断力に関しては後輩ライダーの剣崎一真に「やっぱ一流だよな」と尊敬されるほどである。
しかし、戦いへの恐怖心に煽られ身体に異常をきたし、「ライダーシステムの不備のせいだ」と考えBOARDを本当に裏切る。
カードを封印しまくれば恐怖心が抑えられるとか考えてカード集めに必死になっていた時、カテゴリーJこと伊坂と出会う。
そして彼が隠し持っていた「シュトルケスナ―藻」とかという大昔の麻薬モズクに手をつけ、実質的に伊坂の傀儡になる。
しかし、大学時代の同期である深沢小夜子との別れを切っ掛けに恐怖心を克服、彼女との思い出についてブツクサ言いながら伊坂に怒りのキックをぶつける。
その後はバックルを捨て戦線を離脱するが、先輩研究員である桐生豪の暴走を切っ掛けにまた復活。
それからは剣崎達とともにアンデッド退治に専念していく中で、アンデッドは徐々に数を減らしていく。
しかし、その中で明かされたのは、仲間であった相川始が滅びのキーであったこと。
だが橘は、カテゴリーKとの戦いでバックルと仮面を破壊され水落、烏丸に助けられる。
そして滅びは始まり、ジョーカーは暴走していく。
滅びは止まったが、代わりに剣崎は皆の元から姿を消した。
橘は、剣崎を人間に戻すべく、今も尚研究を続けている。

クールかつ生真面目で文武両道、なのだが、どうしようもなく頼りない。
恐怖心を克服したかと思えば力を証明するとか言って暴れ出すわ、素質で後輩に負けて無意識に負の感情を覚えるわで情けない立ち回りが目立つ。
上城睦月にライダーシステムの基礎訓練をレクチャーした際、戦い方にケチを付けた所を逃げ出され結果的に彼の暴走の一端を担ったりしている。
しかし、いざという時の爆発力は恐ろしいもので、剣崎や始が苦戦した相手を基本形態で倒したりとやる時はやる人。
天然な一面も有り、上述の伊坂や広瀬義人に騙されている他、劇場版でも信用しちゃいけない人を信用している。


【聖杯にかける願い】

剣崎を人間に戻す。


【方針】

参戦派だが、マスターを殺めることには躊躇が有る。
スカサハは橘の実力を初戦で見極める、と言っていましたが、その結果に関しては各書き手様にお任せします。


63 : ◆lkOcs49yLc :2016/12/31(土) 17:03:37 cB8NPFtc0
投下終了です、追記修正は後程行います。
それでは、良いお年を。


64 : ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:35:40 VohW50860
投下します。


65 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:39:19 VohW50860

 ――――少女は、逃げていた。
 息せき切って、少女は走る。
 黒髪の、巫女姿の少女。美少女と言っていいだろう少女。
 表情は乏しいが、それでもなお必死さを感じさせる形相で。
 少女は逃げていた。走っていた。
 スノーフィールドの街を、ただひたすらに。
 運動が得意なわけではなく、走るのに適した服装でもないが、それでも。
 できるだけ人目の多い繁華街を走るように心がけていたが、いつからか周辺に人の姿はない。
 なんらかの結界――――人払いが行われている。
 そのことに気づいてからは、入り組んだ路地へと足を向ける。
 追いつかれてはならない。
 追いつかれてはいけない。
 追いつかれてしまえば殺されるから―――――――――“ではない”。
 逆だ。
 おかしなことに、それはまるっきり逆の話で。
 少女は――――姫神秋沙は、“相手を殺さないために”逃げるのだ。

「(――――そう。私は。忘れていた)」

 月の聖杯に奪われていた記憶。
 灰の山と吹雪に囲まれ、ただ一人佇んでいた忌むべき映像。
 思い出した。
 思い出してしまった。
 自分の前に現れた、あの“吸血鬼”を見て思い出した。
 自らの五体に流れる血――――『吸血殺し(ディープブラッド)』の存在を。
 嗚呼、記憶を奪われ、ただの人として生活することのなんと甘美だったことか。
 いつまでもそのぬるま湯に浸かっていたいほど、その日々は魅力的で……どうしようもなく、崩れ去る他ないのに。
 たとえ忘れていても、自らの血は変わらずそこにあった。
 吸血鬼を呼び寄せ、誘惑し、“一滴でも吸えば吸血鬼を灰に還す”超能力は、変わらずそこにあったのに。
 つまり、姫神は呼び寄せてしまったのだ。
 この街に潜む、吸血鬼を。

「(逃げないと。死んでしまう。あの吸血鬼が)」

 追いつかれれば、あの吸血鬼は姫神の血を吸うだろう。
 そうすれば、彼は灰に還る。一切の慈悲なく、この世から痕跡を失う。
 それが、姫神にとってはあまりにも恐ろしい。
 あの吸血鬼のことを、姫神は何度かこの偽りの街で見かけたことがあった。
 普通の人だった。
 友人がいて、誰かと笑いあえるような、ごく普通の、人間と何も変わらない人。
 死なせたくないと思う。
 例え彼らが人の血を主食とする怪物であっても――――誰かを思いやり、傷つくこともある、普通の人でもあるのだ。
 彼らをただの怪物に引きずりおろす自らの超能力が憎い。
 だから逃げなくてはならない。
 他ならぬ加害者を殺さないために、姫神秋沙は逃げなくてはないらない。


66 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:40:56 VohW50860

「…………っ!」

 ――――それでもやはり、彼我の運動能力の差は歴然で。

「……もう、ダメなんだ」

 吸血鬼は――――――その男性は、ゆっくりと歩み寄ってくる。
 姫神は後ずさった。背中が壁にぶつかる。
 つまるところ、行き止まり。
 土地勘のない場所で逃げ回れば、いつかは起こり得ること。

「我慢ができない。キミの血が毒だということは理解できるのに、それでも」
「だめ。来ないで」
「……我慢が、できないんだよ」

 一歩、また一歩。
 姫神は決死の表情で警棒を抜いた。
 スタンガン機能付きの電磁警棒――――吸血鬼相手に素人が振るって、どれほど役に立つのやら。
 それでも、姫神はその“魔法のステッキ”を構えた。

「(――――ああ。私が。魔法使いだったらよかったのに)」

 なんでもありの、万能の舞台装置。
 絵本に出てくるような魔法使いだったら、こんなことは起こらないのに。
 そんなことを考えながら、姫神は吸血鬼の無力化を試みようとして―――――ふと、地面に落ちた白いトランプに気付いた。
 電磁警棒を取り出す時、一緒になって落ちたのか。
 そう――――確か、あのトランプを三沢塾で見つけたのが、この甘い夢の始まりだったか。
 記憶の変換と共に刷り込まれた知識によれば、それはサーヴァントを召喚するチケットであり――――

「血を、吸わせろォ!」

 ――――――吸血鬼が踊りかかり。

「だめ……っ!」

 ――――――我に返った姫神が泣きそうな顔をして。



「――――――――――――――――――アイアンファイアッ!」



 ――――――白いトランプから飛び出た黒い悪魔が、爆炎で吸血鬼を吹き飛ばした。


67 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:42:52 VohW50860
 


「っ!?」

 それは絵に描いたような悪魔。
 吸血鬼とは違う、もっと恐ろしい怪物のカタチ。
 黒い鉄のような装甲に覆われた肉体は、およそ4m前後はあるだろうか。
 見上げるほどの、常人の倍はあろう巨体。
 アンバランスに大きな頭から生えた、これまた巨大な黒鉄の角が悪魔らしさを醸し出している。
 腕からは炎と煙を吐き出しているが、奇妙なことに胸と背には氷が張り付いている。
 背の氷がまるでもげた翼のようで、ともすれば翼を失い飛翔能力を失った悪魔なのかとすら思う。
 肉食動物のような黄色い瞳が、横目で姫神を見た。
 悪魔は姫神に背を向け、彼女の前に立っている。吸血鬼との間に立つように。

「……大丈夫か?」

 気遣う言葉。
 姫神は理解した。
 聖杯戦争の知識と、今起きた事象から理解した。
 この悪魔は――――この恐ろしい悪魔は、姫神の味方だ。
 白いトランプから召喚されたサーヴァント。
 願望機を巡る戦いにおける、唯一無二のパートナー。
 濁流のように纏まらない思考から、姫神はどうにか言葉を絞り出す。

「……うん。私は。平気」

 それから、一歩悪魔へと近寄ろうとして……

「ゥ、ァア……」
「ッ! まだ下がってろ!」

 悪魔の向こう側で、吸血鬼が起き上がった。
 流石の生命力、と言ったところか。
 胸部が焼け焦げ抉れているが、絶命には至っていないらしい。
 悪魔が再び手から炎を噴き出させ、吸血鬼と対峙し――――


「――――――殺さないで!」


「っ!?」

 姫神はとっさに叫んだ。
 あの吸血鬼は被害者だ。
 姫神に流れる忌むべき血に誘われた、被害者に過ぎない。
 殺さないでほしい。心からそう思い、とっさに叫んだ。

「血を、寄越せェ……ッ!」
「いや、こいつどう考えてもヤバい怪物……」
「吸血鬼」
「は?」
「殺さないで。お願い」
「……………………」

 よたよたと吸血鬼が体制を立て直すまでのわずかな時間。
 悪魔と姫神は視線を交差させた。
 悪魔は困惑の表情。
 姫神は、不安げに。懇願するように。
 すぐに悪魔は視線を切り、両手を開いて腰を落とし、構えた。


68 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:44:03 VohW50860

「手加減とか、あんまりやったことないけど……やってみるッ!」
「ウォァッ!」

 吸血鬼が飛びかかってくる。
 悪魔は右手を突き上げるように吸血鬼めがけ振るった。
 爆発――――は、しない。
 今度は純粋な鉄の手の打撃が吸血鬼の顔面をとらえ、そのまま地面へと叩きつけられる。
 それだけで人体など容易に破壊されてしまいそうなものだ。
 が、悪魔は宣言通り加減したのか、吸血鬼はダメージこそ受けているものの死んではいない。
 そして悪魔の左手が赤熱し……どろり、と溶け始める。
 あまりの熱量に、鉄の装甲が溶けている。
 しかし悪魔はそれを気にすることなく、どころか溶けた鉄を吸血鬼の腹部に垂らそうとして。
 焼ける、と姫神が思った瞬間。
 冷たい冷気が悪魔の手から発せられ、鉄が凝固した。
 そして左手がその凝固した鉄を打ち……

「よし! これで動けないだろ!」

 要するにそれは――――ホッチキスで止めるように、鉤型の金属パーツを生み出して吸血鬼を地面に縫いとめた。
 こうなってしまえば簡単には抜けだせないだろう。
 吸血鬼がもがいているのを尻目に、悪魔は再度鉄器生成。
 今度は時間をかけ、もっと小さな輪のようなものを作り、吸血鬼の口に突っ込んで噛ませる。
 輪は吸血鬼の口から後頭部に伸び、そして後頭部で両端を溶接。
 即席の猿轡が完成し、吸血鬼はその吸血能力を封印されたのであった。

「〜〜ッ! 〜〜〜〜ッ!」
「なんて言ってんのかわかんねーよ! 吸血鬼なんだから、自分で時間かけて外せよな」

 それっきり、悪魔は吸血鬼から興味を失ったかのように視線を切り、今度は姫神の方へと視線を向ける。
 悪魔のようだと思う。
 怪物のようだと思う。
 だが、姫神を守り、堂々と立つその姿は――――まるで、騎士のようで。

「えーっと……」
「……………………」

 ……騎士のようだったのだが、悪魔は困ったように頭を掻いた。言葉を探しているようだ。
 姫神は無表情にそれを見つめて、姫神も少し言葉を考えて。
 それから、姫神は頭を下げた。

「ありがとう。助かった。私も。そこの人も」
「え、あ、おう!」

 礼を言われたのが意外だったのか、悪魔は困惑した様子を見せた。
 それが少し可愛いな、と姫神はぼんやりと思った。なんだか子供みたいなのだ。
 ともあれ、いくつか確認しなければならないことがあるから、何から聞いたものか。
 そう姫神が考えていると―――――悪魔は、どろりと溶け始めた。

「!?」

 否、違う。
 悪魔の外装が溶け――――――――――中から、小さな少年が出てきた。
 パーカーを着た、茶髪の活発そうな少年。
 小学生か中学生か、少なくとも姫神よりは年下だろう。
 まるで鎧を脱ぐように、悪魔の中から出てきた少年を見て、姫神は――――


「―――――――――――ゆるキャラ?」
「何が!?」
  

 ちょっとピントのズレたコメントをした。


69 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:45:08 VohW50860



  ◇  ◆  ◇



「ふーん、なるほどな。つまり、その血がキューケツキを呼び寄せちゃうのか」

 それから、とりあえず適当に吸血鬼の意識を奪ってから、姫神たちは場所を移した。
 あの吸血鬼には悪いことをしたと少し思う。
 鉄の猿轡を噛まされた状態では、人前に出ることはできないだろう。
 まぁ頑張れば外せると思うが、どれだけ手間取るやら……
 ……ともあれ、なぜ自分が襲われていたのか。
 その、自分の能力の秘密を姫神は話した。

「そう。私の能力『吸血殺し(ディープブラッド)』は。吸血鬼を誘って殺してしまう」
「……でもさ、吸血鬼って人の血を吸う悪い奴だろ? さっきだって殺されそうだったのに、なんで殺しちゃだめなんだ?」

 それは子供らしい、純粋な心からの問いかけ。
 自分の血を吸いに来る怪物を殺して、なにが悪いのか、と。
 あるいは、姫神自身こんな能力を持っていなければそう思っていたのかもしれない事。
 姫神は少し俯き、答えた。

「……吸血鬼は。怪物じゃない。普通の人と何も変わらない」

 それこそ、人間を上回る能力を持っているだけで。

「もちろん悪い人もいる。けれど。誰かを思いやったり。笑いあったりできる」

 その本質は、人となんら変わりないもので。

「私の能力は。その善悪を無視して相手を殺してしまう。……そんなことは許されない」

 だからこの能力は呪いであり、罪なのだ。
 例えば、たいていの人は暴力衝動を持っている。
 そう難しい話ではない。パンチングマシンで思いっきりパンチを繰り出せば、誰だって気持ちがいいはずだ。
 だが、同時にたいていの人はその暴力衝動を抑えている。
 無暗に暴力を振るうことは悪であり、罪であり、社会活動を行う上で害悪であると理解しているためである。
 吸血鬼の吸血衝動とは、いわばそれと似たようなもので――――その衝動を強制的に引き出すからこそ、呪いなのだ。

「だから。もし聖杯が手に入ったなら。私は」
「……その能力をなくしたい」
「…………そういうこと」

 もしも、聖杯が真に万能の願望機であるというのなら。
 この超能力を封印し、消し去る程度はワケないはずだ。
 かつて学園都市を目指した時、考えていたこと。
 かつてアウレオルスの誘いに乗ったとき、願ったこと。
 ――――――この『吸血殺し(ディープブラッド)』を、消し去ってしまいたい。

「だから。あなた……ええと」
「ん? ああ。俺は鉄兵……じゃなくてセイバー、だっけ?」
「……私に聞かれても困る」
「えーっと、セイバーのサーヴァント、丑鎮鉄兵! だ!」


70 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:46:07 VohW50860

 セイバー……剣兵のサーヴァント。
 先ほどの戦いでは、彼が剣を扱うところは見なかったが。
 ともあれ、その実力が確かだということは姫神にもわかる。
 だから、姫神はもう一度頭を下げた。

「――――セイバー。聖杯を手に入れるために。私と一緒に戦ってほしい」

 聖杯戦争を勝ち抜くためには、サーヴァントとの協力が不可欠である。
 超常の存在であるサーヴァントは、サーヴァントでなくては打倒し得ないためだ。
 無論、敵が吸血鬼であれば『吸血殺し(ディープブラッド)』が効果を発揮するだろうが……敵が全て吸血鬼であるはずもない。
 だからこそ姫神は改めてセイバーに頭を下げた。
 それを受けて、セイバーは年相応に笑って見せた。
 
「いいよ! あ、でも悪いことしたり、いい人殺すのはナシだからな!」
「……サーヴァントは……幽霊だからセーフ?」
「うーん、まぁサーヴァントはセーフ!」
「なら。それで大丈夫」

 あの悪魔のような姿からは想像もできないほど……この少年は、年相応だ。
 悪魔の姿。怪物の姿。怪物の力。
 とても恐ろしいそれらを、この少年はどのように得て、どのような生涯を送ってきたのだろう。
 殺す、という行動を自然に取れるようだった。
 戦う、という行動が自然に行えるようだった。
 ――――聖杯戦争の知識が、“サーヴァントは原則全盛期の姿で現界する”と教えてくれた。
 ならばこの少年の全盛期は、この小学生か中学生程度の年齢の時、ということで。
 どれほど過酷な人生だったのか、姫神には想像することもできない。
 できないが――――彼もやはり、“普通の人”だと姫神は思う。
 つい、少しだけ頬が緩んだ。

「がんばろう。セイバー」

 彼は希望。
 姫神秋沙にとっての、今はただ一つの希望。
 悲願を果たすため、悲劇を克服するための、希望の輝き。

「おう! ……あ、そういえばそっちの名前……」
「……忘れてた」

 胸に手を当て、姫神は自分の名を名乗る。

「私。姫神秋沙。よろしく」 
「――――――――ひめ、がみ…………」
「……? どうかした?」

 その名を聞いて、セイバーはぽかんと呆けたような表情をして。

「あっ、いや、ちがくてっ」

 それから慌てて、少し顔を赤くして首を振って。

「よ、よろしくっ、秋沙ちゃん!」

 また、年相応に笑った。



 ――――――――鉄血の騎士の物語が、また始まる。








「…………もしかして。好きな子と私の名前が似てるとか」
「ばっ、ちっ、ちげーし! 翼ちゃんは全然そんなんじゃねーし!」
「……語るに落ちてる」


71 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:48:04 VohW50860

【CLASS】セイバー

【真名】丑鎮鉄兵@アイアンナイト

【属性】中立・善

【ステータス】
筋力B+ 耐久A- 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具C

【クラススキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:D-
 クラス補正による最低限レベルの騎乗能力。
 所詮は小学生であり、変身後は体重のバランスの問題もあり、騎乗には適さない。

【保有スキル】
悪魔の末裔:B
 ゴブリン。
 強い意志を保たねば理性無き悪鬼へと堕す、怪物性の発露。
 セイバーは鉄の外殻に覆われた角付きの怪物への変身能力を有する。

混沌の炎:EX
 セイバーの胸中にある、全てを焼き尽くす熱量。
 炎として万物を燃やし溶かすが、乱用すればセイバー自身が崩壊してしまう。
 主に爆破攻撃や、武器に熱を纏わせての溶断などに用いられる。
 原初の炎とも呼ばれる、魔力放出(炎)と似て非なるスキル。

鋳造:C+
 自らの鉄の肉体をあえて溶かすことで、道具を作成するスキル。
 セイバーの外殻は極めて頑強であり、素材として非常に有用。
 後述する宝具の能力により、戦闘中でも瞬時の道具生成を可能とする。

鉄血の騎士:A+
 誰かのために戦う時、一時的に攻撃力を上昇させる。
 セイバーは「誰かの想い」を手に立ち上がり、希望となって戦う英雄である。
 背負った想いは燃料となり、彼に無限の出力を与える。

【宝具】
『雪の翼(ナイトシーカー)』
ランク:C- 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 セイバーの胸中に眠る、もうひとつの力。もうひとりの力。
 混沌の炎を鎮めることに特化した冷却能力。
 これを利用することでセイバーは混沌の炎のオーバーヒートを制御することができる。
 逆に溶かした肉体・金属を瞬時に冷やして固めることで、即座の道具生成なども行える。
 単純に冷却攻撃として用いることもできるが、セイバーの炎を鎮めることに特化したものなので威力はさほど高くはない。

【weapon】
『鉄剣・鉄盾』
 手に持つ鉄の剣と鉄の盾。
 セイバーの基本装備で、鋳造スキルでも主にこれらが作成される。
 その形状は時と場合により様々。巨大なこともあれば、細く鋭いことも。
 もちろん創意工夫によってその状況に適した武器を使うケースも多々ある。

【人物背景】
 丑鎮鉄兵(うしずめ・てっぺい)。別名アイアンナイト。
 ごく普通の小学生であったが、“覚醒の日”に異形の怪物ゴブリンとして覚醒。
 世界にゴブリンがあふれ、街は破壊され、人々は殺され、地獄が顕現する。
 自らも怪物へと堕したことで正気を失いかけるが、広場の黒板に書かれた人々の願いを背負い騎士として立ち上がる。
 どんなに苦しくても、どんなに痛くても、死ぬまでみんなを守るヒーローであると誓った。
 そして数多の戦いと苦しみと絶望を乗り越え、最後には不死の敵と対峙。
 死闘の果てに街中の土と金属を溶かし、敵をその下に封じ込めると共に自らも魂を燃やし尽くし果てた。
 最初から最後まで、誰かのために戦った鉄血の騎士。

 ―――それから、ひとつの伝説。
 街中の土と金属を溶かして固まってできた、溶鋼山のお話。
 その頂上にある悪魔の彫像は、魔物が街を襲うと動き出して戦うのだという。
 悪魔には愛し合ったお姫様がいて、お姫様が会いに来た時だけは、少しの間悪魔は人間に戻れたのだという。
 どこまでほんとかわからない。
 どこまで嘘かもわからない。
 溶鋼山の頂上で静かに朽ちる、悪魔の伝説。
 
【サーヴァントとしての願い】
 願いはない。自分は誰かを守る騎士だから、そうする。
 マスターを守る。誰かを守る。みんなを守る。


72 : Iron Blood,Deep Blood ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:48:42 VohW50860

【マスター】
 姫神秋沙@とある魔術の禁書目録

【能力・技能】
『吸血殺し(ディープブラッド)』
 姫神秋沙が生まれつき保有する能力。
 「吸血鬼を甘い香りで誘い、その血を吸った吸血鬼を灰にして殺す」という対吸血鬼特化能力。
 本人に制御することはできず、少なくとも村一つ分の範囲に効果が作用する。
 要するに血液が吸血鬼にとって猛毒……ということなのだが、それがわかっていてなお吸血せずにはいられない誘惑作用を併せ持つ。
 一滴でもその血を吸えば灰に還る、食虫植物めいた超能力。

 また、副産物としてか自他問わず血液の流れに敏感で、応急処置などが得意。

【weapon】
『魔法のステッキ』
 別に全然魔法でもなんでもなくスタンガン機能付きの電磁警棒。

【人物背景】
 姫神秋沙(ひめがみ・あいさ)。能力名『吸血殺し(ディープブラッド)』。
 京都の山村で生まれた、生まれついての超能力者。
 まだ5、6歳程度の時、灰の山の中で一人佇んでいるところを保護された。
 その真相は「村の人間が全て吸血鬼となって血を啜りに来るが、その全てが即座に灰になって死ぬ」という地獄。
 姫神の血に引き寄せられ、その毒を知りながら誘惑に抗えなかった吸血鬼が、戦力を集めるために村の住民を吸血鬼にし……
 ……その全てが姫神秋沙の血を吸って全滅した、ただそれだけの事件。
 友人や家族が泣いて謝りながら自らの血を吸って死んでいく光景を見て、姫神は自らの能力を消し去ることを決意。
 その手掛かりを求め、超能力の研究を行う学園都市を訪れるが、結局能力を封印する手段など無く。
 どころか稀少な能力に目をつけられ、科学カルト団体三沢塾に監禁・利用される。
 やがて『吸血殺し』の能力を求めて錬金術師アウレオルスが三沢塾を占拠し、能力を封じる方法を知る彼と同盟関係になった。
 さらにその後、一人の不幸な少年との出会いが彼女の運命をさらに変えるのだが……今回は、その直前からの参戦である。

 三沢塾の巫女役だったために巫女服を着ているが、巫女ではない。
 魔法使いに憧れているために魔法使いを自称するが、魔法使いではない。
 吸血鬼を殺す能力を持っているが、吸血鬼を殺したくない。
 ただそれだけの、優しい少女。

【令呪の形・位置】
 右手に角付きの悪魔のような三画。

【聖杯にかける願い】
 自分の能力を消し去りたい。


73 : ◆uL1TgWrWZ. :2016/12/31(土) 18:49:04 VohW50860
投下終了です。
みなさまよいお年を!


74 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:21:59 wqIbnL3o0
新年あけましておめでとうございます。
投下させていただきます。


75 : 古明地こいし&ディアボロ ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:22:41 wqIbnL3o0
 考えごとをしながら部屋の片付けを続けていたら、いつの間にか終わっていた。自分自身がきちんと片付けを終わらせたという実感はなかったが、しかし、部屋に散らばっていた衣類や小物はすべて所定の位置へと収納されている。部屋は誰がどう見ても、整然と片付いている状態であった。
 ひとつひとつの作業を取り立てて意識することもなく、なんとなく続けていたという認識は、我ながらあった。ならば無意識のうちに掃除を終わらせたのだろうかと思わないでもないが、それにしたって早過ぎる。片付けをはじめてから、まだ一時間も経過していない。この短時間で部屋の片付けをすべて終わらせたとは、考えにくい。

「なあ、アーチャー。俺って今、なにしてたっけ」
「はて。部屋の片付けをしていたはずでは」

 弓兵が背後に姿を現した。平時は魔力消費を抑えるために、霊体化させている。

「いや。それが、もう終わってるんだけど」
「はあ。ならばそれは、マスターが終わらせたということでは」

 此方の発言の意図が読み取れず、弓兵は眉をひそめる。困惑の様子はありありと伝わってくる。
 霊体化しながらも、ずっと傍でマスターの動向を眺めていたアーチャーがそう言うのであれば、本当に自分がひとりで、無意識のうちに掃除を終わらせたということなのだろう。どうにも釈然としない気持ちは心中にわだかまってはいるものの、考えても詮無いことだろうと、思考を中断した。軽く買い物にでも出掛けようと思い、テーブルに放置していたスマートフォンに手を伸ばした時、スマートフォンは聞き覚えのない着信音を奏ではじめた。
 ジリリリリ、と。高音で響く呼び鈴の音が、断続的に流れ続けている。随分と昔、携帯電話が普及するよりも以前に使用されていた、所謂『黒電話』と呼ばれるもののベル音だ。スマホに手を伸ばす。画面には非通知設定、と表示されていた。

「えっ……」

 気味が悪い、というのが正直な感想だった。
 まず第一に、黒電話のベル音を着信音に設定した覚えはない。見知ったスマホが、見知らぬ相手から着信を受けて、見知らぬ着信音を響かせている。こんな経験ははじめてだった。
 はじめは無視していればそのうち切れるだろう、と思いもしたが、しかし、いくら待ってもベル音は鳴り止まない。コールが二分を越えたあたりから、次第に苛立ちが込み上げてきた。ちらとアーチャーに目配せして、液晶に表示されていた応答ボタンに人差し指で触れ、耳に当てる。

「私、メリーさん。今、お部屋の片付けを手伝っていたの」

 冷たい湖面を思わせる、澄んだ少女の声だった。
 声の意味を悟った瞬間、言い知れぬ気味の悪さに襲われた。服の中に直接冷水を流し込まれたような心地だった。背筋がぞっとして、背中から腕にかけてさっと鳥肌が立つ。徐々に鼓動が早まって、数秒後には不快な動悸に苛まれる。
 スマホに目を向けるが、既に通話は切れていた。慌てて室内を見渡すが、この部屋には自分とアーチャーを除いて、他には誰もいない。サーヴァントであるアーチャーが認識していない時点で、ここに第三者がいるとは考えにくい。


76 : 古明地こいし&ディアボロ ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:23:29 wqIbnL3o0
 
「どうしました、マスター」
「い、いや……悪戯、かな」
「悪戯、ですか」
「ああ。いや、まあいいや。ちょっと出かけてくる」
「ふむ……ならば私もお供しましょう」

 アーチャーの姿が、金の粒子を散らしながらかき消える。霊体となって、そばに寄り添うつもりだ。歴史に名を刻んだ英雄がそばに付いてくれるならば、不安も幾らかは薄れる。
 憮然としながらもスマホと財布をポケットに押し込んで、玄関口へと向かった。外の空気でも吸って、早いうちに忘れてしまおうと思った。
 鍵を手に取って、外に出る。既に胸の動悸は収まりつつあったが、しかし、あの少女の凛とした声は、未だに脳裏を離れない。とっとと考えを切り替えたいと願うものの、内心は穏やかではない。不気味さが、本能的な恐怖を掻き立てている。

「あれ」

 部屋から出て、玄関を背にして、鍵をポケットにしまいこんだところで、言い知れぬ違和感に襲われた。自分が今、この瞬間、なにをしていたのかが思い出せなかった。
 数歩引き返して、ドアノブをひねる。ドアは開かない。鍵は既に閉まっていた。

「俺、今、なにしてた」
「は。鍵を閉めていたのでは」

 アーチャーにそう言われれば、そうだったような気がしないでもない。
 無意識のうちに、鍵を閉めていたような、漠然とした認識はある。だが、確かな意識はそこにはない。不気味な電話と見知らぬ少女の声に気を取られてはいたものの、こうも記憶が抜け落ちるのは、奇妙だ。まるで時間が数秒飛んだような錯覚すらいだく。
 ふいに、スマホが鳴った。

「うひぃぇァ!」

 頓狂な声を上げて、その場で固まる。非通知からの着信。設定した覚えのない、黒電話のベル音だった。
 二度目は待たなかった。胸に沸き起こる恐怖心を払拭するため、そして、ひとかけらの好奇心に突き動かされて、スマホの応答ボタンを押す。

「私、メリーさん。今、一緒に部屋を出たわ」
「おい、おまッ」

 電話は既に途切れていた。ごく短い通話時間が、画面には表示されている。
 周囲を見渡すが、マンションの廊下には、自分以外誰もいない。アーチャーですら、霊体化して不可視となっている。
 どこかに自分を見張っているやつがいるはずだ、瞬時にそう思い至った。例えば、自分と同じ聖杯戦争の参加者が、虎視眈々と機会を見張りつつ、戦闘前に精神的な動揺を誘うために電話をかけてきている、という考えができないこともない。しかし、そうだとして、どこから。人が隠れられそうな視覚はない。或いは、アーチャーのように不可視の状態からことに及んでいる可能性もある。ともかく、ここにはいたくない。アーチャーを伴って、足早に歩き出した。


77 : 古明地こいし&ディアボロ ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:24:08 wqIbnL3o0
 
 部屋を出た時点ではまだ、日が沈む直前だった。赤くなった西の空に背を向けて、極力人気のないところへと心掛けて移動する。時たま走りながら、後方に追跡者がいないかどうかを確認する。怪しい者はいない。だが、同時に、街ゆく人々の群れすべてが妖しく思えてくる。誰も信用できない。じりじりと沸いて起こる焦燥に追い立てられるように街を駆けて、スノーフィールドの外れの広場に到達する頃には、既に日は沈み切っていた。薄暗闇の中、この広場に自分以外に誰もいないことを確認する。
 黒電話の音が、夜の静寂の中けたたましく鳴り響いた。
 意を決して通話に応答する。

「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」
「アーチャー!」

 霊体化していたアーチャーが、自らの宝具たる弓を携え、瞬時に姿を現した。
 勢い良く後方へと振り返るが、誰もいない。夜の闇の中、そよ風に枝を揺らす木々の他に、取り立てて意識するべきものはない。だが、油断する気にはなれない。警戒心をむき出しにして、油断なく周囲に気を配る。ふと、スマホに目を向けると、まだ通話は繋がっていた。もう一度スマホを耳に当てる。

「おい、おまえ、なんのつもりでこんなことやってる」

 電話口の少女は、なにも言わなかった。その代わり、スマホから、自分の声が反響して帰ってくる。相手側の受話器が、自分の声を拾っている。それだけ近くにいる、ということだ。

「いったいなんのつもりで」
「私、メリーさん。今、あなたの目の前にいるの」
「え」

 怒気すら孕んだ声を遮って、少女の冷たい嘲りが聞こえた。
 目の前に、少女が立っていた。黄色のシャツに、緑のスカート。薄く緑色を含んだ銀髪をそよ風に靡かせて、少女は胸元の球体から管の伸びた電話の受話器を耳に当てて、笑っている。笑っているといっても、口元だけだ。大きく見開かれたまま瞬きすらしない瞳に、笑みは感じられない。
 瞬時にアーチャーが少女へと弓を向ける。

「アーチャー、頼む!」

 頼みの綱のアーチャーが、両の膝を地べたについた。胴に大穴を開けて、血をまき散らしている。アーチャーは常に視界の中にいたが、アーチャーがやられる瞬間を意識することは出来なかった。
 無意識のうちに。或いは、時間が飛んだかのように。
 どちらにせよ、マスターにすら認識されぬうちに、アーチャーは討たれていた。

「キング・クリムゾンッ……時間を五秒ほど消し飛ばした。貴様は……自らの敗北の瞬間にすら気づけない……すべては『無意識』のうちに終わったのだッ!」

 全身のほとんどを真紅で塗り潰した怪人が、アーチャーの血液で濡れた血を振り払って、蛇のような瞳を向ける。額にもうひとつ顔がついている。その背後に、ほぼ包み隠さずに上半身を晒した男が立っていた。ピンク色の長い髪の毛には、ヒョウ柄を意識したのであろう緑のカラーが入っている。
 いったいいつの間にこの男に接近されたのかはわからない。なにが起こったのかもまるでわからないが、しかし、自分が既に聖杯戦争に敗北していることは、理解できた。


78 : 古明地こいし&ディアボロ ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:24:50 wqIbnL3o0
 


 何度も何度もくだらない理由で死んでは蘇生し、自分の死が幾度目であるか、数えることすら億劫になりはじめた頃、ディアボロの目の前にひとりの少女が現れた。その直前は、マフィアの抗争に巻き込まれて、チンピラのような下っ端の銃弾に撃たれて死んだことは覚えている。今度は眼前の少女に殺されて終わるのだと、直感的に思った。
 尻もちをついたまま後退る。街灯の灯りに群がる虫が、白熱灯の光に吸い寄せられて、ジジジ、と羽音を立てる。薄暗がりの中、少女は街灯の光の真下まで歩み出て、喜色満面の微笑みを見せた。その笑みが、ディアボロは恐ろしかった。
 可能であれば、逃げ出したい。今度こそ、死の運命から逃れたい。新たな状況に落とし込まれるたびに、ディアボロは最低限抗ってはいた。今度こそ、という思いは、やはり、あった。
 ディアボロは大きく首をひねって、逃走経路を確認する。今目前にいるのは少女ひとりで、往来に他の人間はいない。車の通りもない。街の喧騒は、随分と遠いところから微かに聞こえる程度だった。
 逃げられるかもしれない、と。そう思った。

「あなたが私のサーヴァントね」

 ディアボロの手を、少女が取っていた。

「――、なにィッ!?」

 一瞬。ほんの一瞬、少女の存在を意識の外に置いた。それだけなのに、まるで時間が飛んだかのように、無意識のうちに少女はディアボロの手を取っていた。頭皮から、額から、一気に脂汗が滲み出る。冷たい風に冷まされて、冷や汗となったそれがディアボロの頬を伝って落ちる。
 時間が、飛んだ。或いは、完全なる無意識のうちに、手を取られていた。
 ディアボロにとって、それは無視するにはあまりにも大きすぎる問題であった。

「小娘ッ、貴様! オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ!!」

 ディアボロの身体から、真紅の分身――キング・クリムゾンが浮かび上がる。真紅のスタンドが、その豪腕を振り上げて、少女へと殴りかかる。少女は、歳相応の少女とは比べるべくもない跳躍力でもって大きく飛び退いた。

「はーい、ごめんなさい。だけどね、近寄ろうと意識して近寄ったわけじゃないわ。気付いたら近寄っていたの。無意識のうちにね」

 少女の言葉の意味が理解できない。エピタフを発動しても、肝心の少女の行動は読めない。数秒先まで予知したところで、自分の死は訪れないことは理解したが、少女の行動だけは、どうにも意識のそとにあるようで、それを認識することができない。
 この時点で異常だった。ディアボロが繰り返した死の中で、スタンドを発動できた試しなどない。未来予知などしたところで、すぐに死ぬのだから関係はない。そもそも予知するべき自分の未来がなかった。
 だが、今回は違う。すぐには死なない。それを理解し、急速に冷静さを取り戻す。

「名を名乗れ、小娘……貴様はいったい、なんなのだ」
「私の名前は古明地こいし。閉じた恋の瞳」

 またたきをしたら、目前にいた筈の少女の姿はかき消えていた。

「もしもーし。今は、あなたの後ろにいまーす」

 申告の通り、ディアボロの背後でこいしは笑っていた。
 ほんの一瞬でも古明地こいしを意識の外に逃せば、なにをされるかわからない。エピタフでも、古明地こいしを意識的に捉えることは不可能だった。

「古明地こいしといったな……貴様の目的はなんだ」
「うーん。あなた、メリーさんって知ってる?」

 ディアボロははじめ質問の意味を理解しかねて、眉をひそめた。
 メリーさんという単語に、心当たりはない。そもそも、ディアボロの質問に対する返答とも思えなかった。


79 : 古明地こいし&ディアボロ ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:25:42 wqIbnL3o0
 
「ここの人たち、みんな携帯電話を持ってるみたい。幻想郷じゃ、そもそも携帯電話を持ってる人がいないから、だーれも怖がってくれないのよね」

 ディアボロは、少ないやりとりのうちに、こいしが時たま飛躍した返答をする少女であることは理解した。

「人を怖がらせるのが……貴様の目的だというのか」
「別にそういう訳でもないけど。聖杯戦争ってね、勝ち残るといいことがあるみたい。ねえ、あなた。あなたはなにがしたい?」
「わたしの願い、だと」
「うん。サーヴァントってね、なにか願いがあるから召喚されるのよ。ここに来たってことは、なにか叶えたい願いがあるんでしょ?」

 少しずつ、ディアボロの中で、ことの概要が輪郭を持ち始めた。
 この異常な状況が、聖杯戦争と呼ばれる催しによるイレギュラーであるなら、ディアボロの願いはひとつだ。

「……生きたい」
「変なの。あなた、もう生きてるじゃない」
「違うッ! もう死に続けるのはまっぴらだッ! オレは、生きてッ……生きて、元の世界に帰りたい!」

 こいしはにこりと相好を崩した。
 此方の状況がこいしに的確に伝わっているとは思えない。だが、それはこいしにとってはさしたる問題ではないらしい。

「ふーん。じゃあ、メリーさんは私に任せて。あなたは聖杯戦争。そうと決まったなら、一緒に頑張りましょー」

 右手を振り上げて、こいしははしゃぐ。
 幾度となくディアボロを苦しめた死の運命は、今は鳴りを潜めている。少なくとも、周囲には以前、ディアボロを殺す要素は確認できない。久々に得られた「生」の実感と、徐々に認識し始めた「生きている」ことへの安心感を噛みしめるように、ディアボロは深く息を吐いた。
 

【出展】ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風
【CLASS】ディアボロ
【真名】ディアボロ
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷C 魔力C+ 幸運D 宝具A

筋力A 耐久C 敏捷B 魔力C+ 幸運D 宝具A
(宝具『真紅の帝王』のステータス)

【クラススキル】
単独行動:A
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Aランクならば一週間は現界可能である。

気配遮断:B (EX)
 サーヴァントとしての気配を断つ。平時はB相当。
 宝具発動中は、時間の流れそのものを認識させない。

レクイエム:A
 幾度となく繰り返される死の運命。致命傷を受けても、すぐに死ぬことは叶わない。
 また、戦闘から離脱・不利な状況のリセットが可能。離脱した場合は、バッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
 要は「戦闘続行」と「仕切り直し」の複合スキルである。


80 : 古明地こいし&ディアボロ ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:26:19 wqIbnL3o0
 
【保有スキル】
情報抹消:A
 ディアボロは、自分の正体に至るあらゆる痕跡を抹消し続けてきた。
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

単独顕現:A
 ディアボロは本来、どのような未来においても死亡することができず、永久に死亡し続ける運命を背負っている。そのため、ディアボロがまともな英霊として召喚されることはない。
 度重なる死の末に自力でこのスキルを獲得したディアボロは「死んではいないが生きてもいない」という状況を逆手に取って、擬似的な英霊として召喚されている。

【宝具】
『真紅の帝王(キング・クリムゾン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
破壊力-A スピード-A 射程距離-E 持続力-E 精密動作性-? 成長性-?
 時を「消し飛ばす」能力を持った近距離パワー型スタンド。消された時間の中では全ての物がその間の動きを認識せず、記憶もできない。ディアボロだけが消した時間を理解し行動できる。他者からすれば、数秒未来へ時間が飛んだ、という認識となる。
 時を飛ばしている間、ディアボロはこの時間に「存在していない」という扱いを受けるため、あらゆる攻撃・物体はディアボロをすり抜ける。同時に、ディアボロ自身も時飛ばしの最中に攻撃を仕掛けることはできない。恐るべきは、時飛ばし解除と同時に必殺の攻撃を仕掛け、時間が消し飛んだことに困惑する相手を仕留める戦闘スタイルである。
 また、後述の宝具によって未来を予知し、それが自分にとってよくない未来であれば、その出来事が起こる瞬間に時飛ばしを発動することで、自分自身をその時間軸に「存在しなかった」ことにし、回避することも可能。

『墓碑銘(エピタフ)』
 ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
 数秒から数十秒先の未来を予知する能力。その精度は絶対的で、確定した運命を見通すエピタフによる未来予知が外れることはない。
 また、時間が消し飛んだ世界でさらにエピタフを使い、自分の能力が発動した場合の未来をみることも出来る。


【人物背景】
 ジョジョの奇妙な冒険 第5部におけるラスボス。
 巨大ギャング組織「パッショーネ」の元・ボス。33歳。現在はジョルノ・ジョバァーナの『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』を受けたことで、「死んだ」という結果にすら辿り着けなくなり、永遠に続く死と再生を繰り返している。
 性格は冷酷非常かつ用心深く慎重で、自身の情報は過去も含め一切外部に漏らさず、詮索しようとした者は誰であろうと容赦なく始末するスタンス。生前は絶対的な支配力をもって、恐怖によって組織を纏めあげていた。
 また、生前はドッピオという人格も有しており、二重人格で活動していたが、ジョルノたちとの戦闘によってドッピオは死亡。現在はディアボロひとりである。

【サーヴァントとしての願い】
 生きたい。もう死ぬのは嫌だ。

【基本戦術、方針、運用法】
 ディアボロの能力と、こいしの能力。
 この二つをフルに利用した奇襲が肝である。


81 : 古明地こいし&ディアボロ ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:26:49 wqIbnL3o0
 
【出展】東方Project(東方深秘録)
【マスター】古明地こいし
【参加方法】
 覚えていない。無意識のうちにトランプを手に入れていた。

【人物背景】
 本来は心を読む覚り妖怪。しかし、その力のせいで周りから嫌われることを恐れ、読心を司る第三の目を閉じて能力を封じた。心を読む能力は失ったが、代わりに「無意識を操る程度の能力」を手に入れた。この能力により、無意識で行動できるようになったこいしはあちこちをフラフラと放浪するだけの妖怪となってしまった。
 上記の能力によって、他者がこいしを意識的に認識することは難しくなっている。

 東方深秘録では、自身が触れた都市伝説である「メリーさん」がどこまで通用するか興味を持ち、「メリーさん」にまつわる「今、貴方の後ろに居るの」というセリフを言ってみたいという想いもあって様々な人々を訪ねる。が、どういうわけか人々には「メリーさん」の恐怖をなかなか理解してもらえず、こいしは首を傾げることとなる。魔理沙からは『幻想郷の住人には電話というものがよく分からないだけだ』とたしなめられた。

【能力・技能】
 無意識を司る能力。こいしの行動は、意識的に認識することは難しい。他者の読心能力もこいしには通用しない。
 また、弾幕・格闘における戦闘能力もそれなり。
 
【マスターとしての願い】
 聖杯戦争自体にはそれほど取り立てて強い興味はない。
 携帯電話が普及しているこの世界で、メリーさんがどこまで通用するのか確かめたい。

【令呪】
 左手の甲に、ディアボロのタトゥーに似た令呪が三画。


82 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/02(月) 07:33:38 wqIbnL3o0
投下終了です。
また、拙作「フランドール&バーサーカー」を再度修正いたしましたので、ここに報告いたします。
使用不可だった各アームズモンスターを、武器としては使用可能という形に変更いたしました。


83 : ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:32:54 0c5kz.9Q0
投下します。


84 : 沈黙の最中よ ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:37:25 0c5kz.9Q0







その日は良く晴れていた。











水面のように透き通る蒼空に、薄く伸びた白雲がゆっくりと泳ぐ。
降り注ぐ午後の陽光は遮られることなく、万物へと平等に降り注ぎ照らし出す。
スノーフィールド辺境にある小さな町にも、その光は届いていた。


静謐に澄んだ午後の天の下、音が鳴る。
多くの音だ。石造りの歩道を叩く足音。
人の、動物の、それは生活の音、生きる存在の奏でる音色だ。


例えば、農作業を終え家に帰る男は横断歩道を渡っていた。
主婦は病気の子供ために果物屋を訪れていた。
学校を抜け出した少年が一人、路地の入口で足を止めていた。
黒い野良猫が漁っていたゴミ箱から降り、石造りの歩道に着地した。


彼ら全てに、届いていた。
降り注ぐ午後の陽光と同じように平等に、届く彼ら自身の足音。





そしてそれに混じる、小さな、音が。


85 : 沈黙の最中よ ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:39:42 0c5kz.9Q0




「紅い 夜」



男は横断歩道の中ほどまで気づかなかった。
聞こえていたことに、聴いていたことに、それが目の前に来るまで。
顔を上げて前を見、話かけようと思った時、それで終わった。


「  鳥 眠る 」


主婦は最後まで気づかなかった。
新鮮な果物を選び終え、財布を取りだした時、やっと聞こえていたモノの正体が分かった。
発生源に向かって振り返り、背後に立っていたそれを見、そこで終わった。


「夢の    窓 」


少年は気づくのが早すぎた。
偶然にも道路越しに果物屋の方向を眺めていたからだ。
手品のように消える主婦の姿を見て、聞こえていたモノとその隣に居るモノを結び付け、
総身に走る寒気に任せ全力で逃げようと試み、その時点で終わった。


「青空 うつ す  」


黒猫は最初から気づいていた。
血粉となった少年の、隣に立っているその少女を俯瞰して、ひと鳴き。
そうして空を斬る音と共に、血粉となった。


「わらべ うた 口ずさ み」


街の足音が、減っていく。
生きる音が、減っていく。



「漫ろ 行く 草原を 」



減っていくほどに、鮮明に聞こえ始めるモノがある。
徐々に冷たくなっていく町中で、その少女は、歌を口ずさんでいた。


「祈 りは貴方の 面影 やどし 」


長く編んだ金髪をくるりと揺らし、赤いワンピースドレスから伸びる白いしなやかな四肢を振り。
ただ一人、優雅に、ワルツを踊るように。
少女は――キャロル・マールス・ディーンハイムは――死に逝く街を闊歩する。


「魂いろど る  」


否、少女こそが、街を、殺していた。


「 想いを   はこぶ 」


86 : 沈黙の最中よ ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:41:58 0c5kz.9Q0


少女が口ずさむ歌には、血が流れている。
流れた血に融かされるように、歌に触れた者はそこで終わる。
横断歩道ですれ違った人、窓から姿を見た人、ただ聴いただけの人。

全員平等に切り裂かれ、全身から血粉を散らしながら息絶える。
男、女、子供、老人、人種、人格、何一つの区別は無く。
町中が溺れるように静かに絶えていった。

歩む少女の声は冷たく大気に沈殿する。
すれ違う全てを飲み込んでいく存在に、誰も気づかない。
自分の順番が巡ってくるまで、誰一人。


「翼を生や し  愛から 逃げて」
「(輪廻の 中を 愛を 知らず)」


歌声に、その声が重なったのは、街の半分が血に沈んだ頃合いだった。
少女の歩みに、旋律に、或は少女の傍らを流れていく斬撃に乗せるような低調波(サブハーモニック)。
それこそが少女にとっての、此度の従者(ダンスパートナー)となるべき存在だった。


「 天使が割った 奇妙な 皿の 上で燃えて 」
「(天使となった あなたの光  踊る 機械)」



無情に無感動に抉るように凍るように。
少女の紡ぐ氷を砕くような声と、周囲を旋回する斬風に乗せられた声の、二重歌(デュエット)が街を撫でる。
街から、新鮮な生命を掬い取る。






「 尽きる 」
「(尽きる)」






そう、尽きていく。
尽きていく、尽きていく、何もかもが――







「 尽きる 」
「(尽きる)」








もう、街に足音は聞こえない。






###


87 : 沈黙の最中よ ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:44:17 0c5kz.9Q0

ワルツの終わり。
町はずれの小高い丘の上で、キャロルは漸く足を止めた。

「その雑音を消せ、ライダー」

目を閉じ、呟いた言葉は既に歌の詩では無く。
それが証拠に今までの冷たく透き通る声とは一転して、鋭く圧のある口調だった。

「おや、原初のウタウタイとのハーモニクスはキミのお気に召さなかったか」

キャロルが開いた瞳で声のした方を見れば、そこには真っ赤な女が立っていた。
霊体化を解いたばかりの全身から滴り落ちる返り血が、女の足元の草木に沈殿して濁った水溜りを作っている。
頭からつま先まで血の海に沈んでいたような出で立ち、それは決して比喩でない。
事実として女は今しがた、一つの街を血の海に変えてきたばかりなのだから。

気だるげなジェスチャーを送る右手には、街の人間を殺しつくした剣が握られている。
左腕は二の腕辺りまでが黒く、無骨な義手であるようだった。
真っ白な服を鮮血で染めた女の、右眼がある筈の空洞からは、薄紅色の花が咲いていた。
花を起点にした白と赤のコントラスト、それが女を表現する全てだった。

「これでも歌には自信があったんだけどな。
 それを取り上げられたら得意な事はもうぶっ殺すことと、
 ぶっ殺すことと、ぶっ殺すこと……あとは、ぶっ殺すことしか残らない」
「そっちの話はしていない。オレが言いたいのは――」

轟音と共に大質量が落下する。

「ゼロの取柄はそれだけじゃないよ! それだけじゃないよ!」

衝撃で削り上げられた丘の表面が弾け、周囲に泥が降り注ぐ。
今しがた地表を抉り抜いた巨大な爪。
羽ばたく銀の翼、鋼の鱗、そして――牙。
血濡れの女の傍らに降り立ったのは、幻想種の中でも頂点に位置するモノ。
竜(ドラゴン)と、呼ばれる存在だった。

「あのね!あのね!マスター! ゼロはね、乱暴で乱暴で乱暴だけど、優しいところもあるんだ!
 腐った肉を食べさせてくれたりとか! 腐った肉を食べさせてくれたりとか!
 後は……後はぁ〜……うーん……あ、たまに撫でてくれるんだよ!
 ほんっとたまにだけどね! それとボクはミハイル! よろしくねマスター!」

無邪気に血濡れの女――ゼロ――にじゃれつく竜を一瞥し、キャロルは嘆息する。

「お前の隣で喚くデカブツついて、だ」

その言葉を受けてゼロは、ミハイルと名乗る竜に笑いかけながら剣にこびり付いた血糊を払う。
すると一瞬にして白刃の煌きが戻ってくる。

「だとさクソドラゴン」
「え、どいういうこと? ゼロ」
「我らがマスターはキミの泥と汚物と獣の混ざったような悪臭に耐えられないと仰っている」
「え〜! ひどいよ! ひどいよ!」

剣だけでなく、いつの間にか服装の白色も戻っている。
ゼロの全身を染め上げていた返り血は瞬く間に消えていた。
まるで右目に咲く花の養分となったかのように。

「オレは羽ばたきが五月蠅いと言っている。
 まあいい、たった今この土地のレイラインの流れは特定できた。
 街に来た一番の目的は達せられた。工房に戻るぞ」

ミハイルによって抉られた土を拾い上げ、指ですり潰すように落しながら、キャロルは目を細める。
ほんの一瞬だけ、年相応の少女のように微笑んで。

「これで計画は、開始される」

次の瞬間には酷薄の哄笑に変質させた。

「万象黙示録の完成……世界の分解、父の残した命題を、オレは今度こそ―――」

それはたどり着いた異端の極地。
朽ちかけた原初の想いを燃やし、理由すら最早思い出すこと能わず、それでも良いと。
決して振り返ることなど無いと、改めることなど無いと誓い、歩んだ数百年にも及ぶ妄執。


88 : 沈黙の最中よ ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:46:00 0c5kz.9Q0

「仕上げだ、一切合切を飲んでみせろ。ライダー」

言わずとも分かるだろう、と。
視線を向けられたゼロが意図を取り違える事はなかった。

「はいはい、おーいクソドラゴン。最後の仕事が残ってるってさ」
「……ねぇゼロ、やっぱりやめようよ、街の人達かわいそうだよ、かわいそうだよ!」
「いいえ、お残しはゆるしません。あと2回言わなくていい」

ゼロに睨み付けられ、渋々といった様子でミハイルは丘から街へと向き直る。

「僕は反対だなあ〜戦争なんて、みんなで話し合えばきっと分かりあえるよ。
 聖杯ってみんなで半分コとか、できないの?」
「あのな、次にそういう発言したら、マスターは令呪一画つかって
 キミの口を縫い付けると言いたげな目線を送っています。はやくしましょう」
「う〜っ、ごめんなさ〜い〜!」

そして竜は飛び立つと、大きく息を吸い込んだ。
牙で編まれた格子からチロチロと赤い光が明滅し、次の瞬間、吐き出される火炎のブレス。
如何なる存在も焼き尽くす竜の息吹が街を飲み込み、
道、建造物、死体、そしてもしかしたら居たかもしれない生存者、
その全てを包み、舐め尽くし、死に絶えた街を火葬する。

全てを灰に煤に、元よりなにもなかったかのように、消していく光景。
あまりにも乱暴な神秘の秘匿を為しながら。
燃え盛る街並みを見下ろしながら、ここに外道の主従は向かい合う。

「一つだけ聞いておく」

キャロルは問う。
紅蓮の陽光を浴びながら、燃える町のどこかに、在りし日の記憶を探すように見つめて。
無意識に目からこぼす滴の意味も、矛先も、今はもう見えぬ、分からぬ、そのままで。

「オレの目的は告げた通りだ。
 その為ならば如何なるモノも使いつぶす、オレの記憶と共に焼却する。
 ならば、さあ、お前の理由を聞かせてもらおうか」

誰にでも平等に齎される快晴の下、誰にでも平等に襲い掛かる紅蓮の火。魂喰らい。
斬り裂き、喰らい、燃やした、一つの街の人口全ての生命力が、ここに収束し吸収される。
竜の肉体の一部となり、進化を促す。

「私は私の妹達(ウタウタイ)を殺す、全員、殺す。
 並行世界だろうが何だろうが、生きてる可能性の全てを摘む」

ゼロはまるで、花でも摘むかのように簡単に。

「今のところ思い浮かぶのは、結局これだけだ。
 自分のケツは最後まで、自分で拭くって決めていたからな。
 その為に殺す人数が少し増えたって言うんなら、しょうがないんじゃないか?」

短く答え、街を焼き続ける竜の背中に視線を戻した。

「今回は特別だ。乗ってやるよマスター。私は面倒くさいことは嫌いだからな。
 だから考える仕事は全部任せる。
 どうせ最後には全員殺すんだ。さっさと全員殺して、さっさと全部終わらせよう」

竜を見つめる左目の薄紅色。
それだけは、他に向けたモノとは違い。
どこか、穏やかな光を湛えたままで。



###


89 : 沈黙の最中よ ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:46:36 0c5kz.9Q0




暗き工房の玉座で少女は瞳を閉じている。

「さあ、今こそ記そう。黙示録を」

座するは孤高の錬金術師。
キャロル・マールス・ディーンハイムはここに参戦を表明する。
予備の身体は既に無い。
オートスコアラーも全て壊された。
今この時、残された手駒は三つ。

竜を従える花の騎兵。
白銀のドラゴン。
そして己自身。

世界を知れと少女の父は言い残した。
だから今も彼女はその願いを追い続けている。
喩え長すぎる時の中で歪に捻じ曲がり変貌し、方法と手段が入れ替わっていたとしても。
世界を暴く。世界を殺す。世界をバラバラに解き明かす。それは彼女にとっての絶対だ。
故に、何するものぞ、異世界の魔術師。何するものぞ、サーヴァント。

「何するものぞ、聖杯戦争――――!!」

聖杯、万能の願望器。
奇跡の結晶。
奇跡、奇跡、奇跡、上等だとも、それこそを殺すと、誓いこの日まで生きてきた。

故に負けられぬ。
必ず勝たねばならぬと決意する。
奇跡を求め、奇跡に縋り、この地に集う全ての奇跡の信望者達よ、知るがいい。
我は奇跡の殺戮者。
その全てを踏みにじり、握り潰し、万象黙示録完成の手段に堕とそう。
奇跡など、この世界に欠片も存在しないのだと、証明してみせるのだ。

玉座に響くは血の刃鳴、竜の呻き。
それらはまだ、何処にも届く事はない。
だが、もう間もなくだ、もうすぐ開演の時刻となる。
今はまだ、沈黙の最中、なれど。




「遍く万象、聴くがいい」






ここに、世界を壊す、歌がある。


90 : キャロル・マールス・ディーンハイム&ライダー ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:48:19 0c5kz.9Q0

【出展】ドラッグオンドラグーン3
【CLASS】ライダー
【真名】ゼロ
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力B+ 耐久C 敏捷A+ 魔力D 幸運D 宝具A(EX)

【クラス別スキル】
 対魔力:C
 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

 騎乗:A++
 乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
 A++ランクは竜種を含む全ての乗り物を乗りこなす。


【保有スキル】

 使徒作成:C-
 ウタの力で動物を変性させ、ウタウタイの下僕となる存在を作りだすスキル。
 花由来の力であるが、ゼロ自身にかなりやる気が無いためランクダウンしている。

 ウェポンストーリー:B
 剣、槍、格闘武器、戦輪、4種数多の所持武器を瞬時に切り替え使い分ける。
 武器種により戦闘スタイルは勿論、ステータスに若干の変動が発生し、
 それぞれのスキルがウェポンストーリーに置き換わる。

 鮮血歌姫:A+
 ウタウタイとしての能力。
 返り血を浴びる事でステータス強化を獲得する。
 より多くの血飛沫を吸収することで効果は上昇。後述する宝具の威力を底上げする。
 


【宝具】


『心優しき転生の白竜よ(ミハイル)』
 ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:100
 幻想種で最上に位置する竜の一種。
 ミハイルはまだ未熟な竜であるため竜種では低いランクに留まっているが、
 ウタ、魔素、等のチカラを喰らう事で進化し、強力な姿に変貌する。
 現在の状態でも、吐き出す火炎のブレスは大軍を一瞬にして焼き尽くす脅威的な威力を誇る。


『狂い咲く醜美(モード・ウタウタイ)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:10
 戦闘中、高揚が最高潮に達したゼロのウタ。
 歌唱によりウタのチカラを解放し、ウタウタイモードに突入する。
 この状態では一時的に全ステータスのランクを2段階上昇させ、
 全武器への適性(スキル:ウェポンストーリー)を失い、己が手足のみを攻撃手段とした超高速戦闘のみを可能とする。


『最後の歌(クロイウタ)』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 ゼロの肉体に巣くう世界を終わらせる花。
 これがある限り原則として物理的にゼロを滅する事は出来ず、
 如何なる損傷からも強制的に再生する(損傷を受けないわけではない)。
 唯一、「竜属性」を持つ攻撃によって負ったダメージに限り、再生する事は出来ない。



『D-END』
 ランク:EX 種別:対花宝具 レンジ:? 最大補足:?



本当に、本当にありがとうございました!




【weapon】

「ゼロの剣」
 ドラゴンの牙を素材にして作られている。
 ウタウタイを殺すことが可能な武器。
 その他さまざまな武器を装備可能。


【人物背景】
「ウタウタイ」と呼ばれる特殊能力者で人間とは思えない程の膂力と剣戟能力を持つ。
 性に開放的で多数の男性と関係を持つことに何の躊躇もしていない。
 面倒くさがりやで乱暴な性格。相棒であるミハイルへの態度は厳しく暴言が絶えないが、本質的には好意的である。
 右目に生えた花が成長し続ける不思議な体を持つ。
 「ウタウタイ」の能力により返り血を浴びていくに比例して戦闘能力が増していく。
 「ウタウタイを全て殺すこと」を目的としている。


【サーヴァントとしての願い】
 とりあえずウタウタイを全員殺すってことにする。

【基本戦術、運用法、方針】
 面倒くさいので敵マスターは全員殺すし、邪魔する奴も全員殺す。
 考えるのも面倒くさいし適当にキャロルの計略に乗っかる。


91 : キャロル・マールス・ディーンハイム&ライダー ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:50:15 0c5kz.9Q0

【マスター】
 キャロル・マールス・ディーンハイム@戦姫絶唱シンフォギアGX

【参加方法】
 聖遺物管理特区「深淵の竜宮」にて『白紙のトランプ』を取得。


【人物背景】
 欧州の深淵より来たりて、世界解剖計画「万象黙示録」完遂するべく自動人形を率いシンフォギア装者達に敵対する錬金術師。
「奇跡」という言葉に対して激しいまでの憎悪を向け、それを殺すと豪語する。
 策謀に長け、見た目こそ幼い少女そのものだが、錬金術の奥義にて精製したホムンクルスにオリジナルの
 キャロル・マールス・ディーンハイムの記憶を転写・複製するというフィーネのリインカーネイションにも似た手法で
 数百年にも及ぶ長き時を生きており、膨大な時間を錬金術の統括・習得と、自らの計画遂行の為の暗躍に費やしてきた。

【weapon】
 ファウストローブ:ダウルダブラ
 ケルト神話に於けるダーナ神族の最高神、ダグザの振るいし金の竪琴の聖遺物。
 他のシンフォギアと同様に欠片として現存していたものをキャロルが入手し、ファウストローブとしたもの。
 通常は琴の形を成しているが、これを錬成する事により全身に纏うプロテクターとして変換される。
 ファウストローブは錬金術によって聖遺物をプロテクターに変換する、シンフォギアに近しい存在であるが、
 想い出の焼却を行う事で歌を用いるまでもなく圧倒的な戦闘力を行使する事ができる。
 加えて、ダインスレイフの呪われた旋律を用い世界を壊す歌を口ずさめば、出力は70億の絶唱すら凌駕する程に上昇する。
 此度の聖杯戦争における使用の可否は不明

【能力・技能】
 錬金術。
 火・風・土・水という四大元素のエネルギーを使いこなすことで破壊を生み出す。
 莫大な破壊エネルギーであるが、錬金術である以上代償が伴う。
 キャロルの場合は「想い出」、つまり記憶を燃やし尽くしエネルギーに変換する事が求められる。
 その他、キャロルは錬金術を応用したアイテムやホムンクルスの生成にも非常にも長け、単独で「工房」相当の陣地形成が可能。
 キャスターの役割をある程度こなす事が出来るだろう。

【マスターとしての願い】
 聖杯を奪い、奇跡として縋るのではなく、
 あくまで自分の方法で叶える万象黙示録完成の手段として使い潰す。

【方針】
 聖杯戦争に勝利する。


92 : ◆7ajsW0xJOg :2017/01/03(火) 01:51:13 0c5kz.9Q0
投下終了です。


93 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:33:25 hOGx2OMk0

皆様、新年明けましておめでとうございます。
すっかり間が空いてしまって大変申し訳ありませんが、変わらずたくさんのご投下をありがとうございます。



>>ガーディアンズ◆cjEEG5KiDY

感想が遅れている間に急増し始めたまほいく産マスター、その嚆矢はヴェス・ウィンタープリズン!魔法少女に変身している間しかサーヴァントに魔力供給はできない、なるほどありそうな設定。特に一般人に混ざれそうなファッションのヴェス・ウィンタープリズンはその設定を活かしながら動かしやすく面白いですね。
愛する奈々の姿をしていればニセモノの敵だとわかっていても傷つけられない、ましてや平行世界の本人である可能性があるなら見捨てられるはずがない。雫らしい、難儀な性格が伺えます。
そんな彼女のサーヴァントはランサー、声優繋がりのエルキドゥ……ではなく、ヘクトールおじさん。件の天の鎖ほどではなくともあのアキレウスと渡り合った強力な英霊で、下手なサーヴァントに匹敵しかねないスペックの魔法少女から見ても格上の相手として威厳を保てそうです。
方や思い人、方や愚弟(や、そっくりの先輩世代船長)のために無謀な戦いにも臨んだ守護者二人には通じ合うものもあるのでしょうね。だからこその、人生の先輩としてのヘクトールの忠告が放たれることにも説得力があります。
それを素直に受け入れられる土壌のある雫とのコンビ、雫の一度死してなお色褪せない若さがある意味では不安ですが、強い意志と能力、充分な経験持ちの二人ならかなり頑張ってくれそうですね。
◆cjEEG5KiDY氏、執筆お疲れ様です。設定的にもキャラクター的にも面白い組み合わせの作品をありがとうございました!



>>巴マミ&アーチャー

連続する魔法少女マスター&ギリシャ出身サーヴァント。ただしこちらはファヴのプロデュースした魔法少女ではなく、インキュベーター製の魔法少女。
ということでまどマギのマミさんと、最優のサーヴァントの呼び声も高いケイローン先生の主従。なるほど弟子を持った経験のあるマミさんからすれば本当に尊敬すべき大先輩ですね。
そして、彼女と彼を結ぶ縁はそれだけではなく。二人には、両親との繋がりを喪ったという共通点がありました。なるほどこれは唸らされる。
魔法少女として多大なストレスを受け止めて、それを抱えるしかなかったマミさんがつい零してしまった弱音。それが侮辱にもなりかねないものなのに、紳士に受け止めるケイローン先生は流石パーフェクト紳士。やはりあの魔法少女達に必要だったのは、悩みを打ち明け、受け止め、時に導きを授けて貰える大人だったのだろうと確信できます。どうして本編には先輩止まりで、先生がいてくれなかったのかなぁ……許すまじQB。
肉親への未練はある。けれどそれ以上に魔法少女として、教師として、果たすべき務めを選べる清らかさがある二人。経験も豊富な有望主従ですね。
◆HOMU.DM5Ns氏、執筆お疲れ様です。等身大に悩む少女と、それを導く教師の魅力。答えを選んだ二人がどちらも存分に描かれた作品をありがとうございました!



>>レミリア・スカーレット&セイバー

「あなたは、今まで食べたパンの枚数を覚えているの?」――いきなりのジョジョパロ、しかし発言者の少女も吸血鬼とくれば極めて自然なやり取りで戦闘が開始される候補作。
偽りであろうと、紅魔館の主は依然、変わることなくレミリア・スカーレット。そんな夜の女王と契約したサーヴァントは――夜の魔皇とでも呼ぶべき存在、ファンガイアのキング! 実にハイセンスな、故にファンであれば忘れ難い真名を持つ過去編キングが満を持しての登場です。
真の姿が強いのは当然、変身前でも強い歴代最強キングの名に恥じぬ戦闘力が見事に演出された危なげない試合運び。当然それは、最強形態であるダークキバへの変身後は一層苛烈に。
インチキ臭い紋章が宝具ですらなくスキルである点も原作のインチキ臭さを再現していますが、他の魔族を尽く滅ぼした実績からの神秘殺しは痺れるセンス。ステータス設定の練り上げ具合も素晴らしいです。これが最後は女運で破滅しちゃったのか……恐ろしい……
とはいえ今回の相方は女とはいえ、そんな情で結びついたわけではなく、ただ頂点に立つ者としての共通見解で優勝を狙うレミリア。全盛期のキングと共に、他主従の絶滅を開始することでしょう。恐るべきコンビですが、それだけに浪漫を感じます。
◆DIOmGZNoiw氏、執筆お疲れ様です。悪のカリスマというものを見事に描写した作品をありがとうございました!


94 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:34:16 hOGx2OMk0



>>フランドール・スカーレット&バーサーカー

スーパー◆DIOmGZNoiw氏タイム。レミリア&過去キンの次はフラン&紅渡!
記憶を取り戻すまでの、ただの哀れな人間の子供になってしまったフランの感じる疎外感。自分の内面と世界の間に存在する壁を感じる、自分自身を制御できないもどかしさが我が事のように伝わってくる圧巻の描写です。
そして、渡もまたフランと同じように、かつて自身と世界との間に壁を作ってしまっていた吸血鬼のハーフ。歪な翼を持った王者の弟と妹。縁召喚されるのも当然と思える組み合わせですね。相変わらず設定面も魅力的。
しかし、渡の言葉はフランにはまだ届かない。渡にはキバットや静のように、壁を越えて来てくれる誰かが既にいましたが、フランにはとってそれは渡が初めての相手だから。すぐには、簡単には変われません。
そんなフランのやつあたりのような悪意で、暴走する暴力装置に変身させられてしまった渡ですが、それでも正気の範囲では当初の目的を忘れない強さを持っています。これが兄をも救った渡の強さなのですよね。
すぐには、簡単には変わらないのだとしても。少しずつ彼女も変わっていってくれるのだろうということが、最後のやり取りで信じられました。願わくば、それがこれ以上誰かを、そしてフラン自身を傷つける前に叶いますように。
◆DIOmGZNoiw氏、執筆お疲れ様です。ぐいぐい感情移入させられて、最後に少し暖かくなれる希望ある作品をありがとうございました!



>>ディオ・ブランドー&キャスター

トリップがDIOの書き手さんの次にディオが来た(驚愕)。失礼かもしれませんができすぎた偶然。反応、せずにはいられないっ!
お見苦しいところをお見せいたしました。ということで吸血鬼達のあとに人間ディオが登場しましたが、サーヴァントはなんとバビディ。他人の力を利用してでも世界の頂点を取る、という姿勢が縁となったのでしょうか。
とはいえ、まぁ、バビディと地球人が真っ当な主従関係を築けるはずもありません。開幕マスター洗脳勢のキャスターでした。あぁディオ様の額にダッサいM字が……
自分のマスターにも有効な洗脳術は他のマスターにも有効で、令呪を使わせ他主従の抹殺というシンプルながら強力な戦法で連戦連勝。恐るべしバビディ。
しかし、それを黙って受け入れるディオではない! 強靭な精神力で自我と怒りだけは保ち、背面服従で叛逆の時を待っていた! さすがディオ! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!
戦法こそ恐ろしいですが、明らかに付け入る隙のある主従ですね。直接戦闘力にも現状は乏しいので、ヘイトを集めそうな分もどのような結末を迎えるのか楽しみです。
◆4IAcK93k6k氏、執筆お疲れ様です。ディオ様の魅力を再確認して応援したくなるような作品をありがとうございました!



>>惨剣槍鬼

復讐するは我にあり、なブチギレディルムッドの参戦。
正直あの場でキレてストレス発散した後はまた普通に楽しくやっている姿がFGOで日々確認できているので、ムーンセルの召喚でもこの状態の彼を出すことはできないだろうと思っていたら、トランプで導かれたのがサーヴァントの方だったという方法で登場させるとは! 思いもしない発想でした、凄いです。
いやでも、こんな状態のディルムッドに付き合ってくれるマスターなんて……と思えば案の定。大好きな魔法少女(※プリズマコーズ参照)とは縁を結べず、狂人とも呼ぶべき剣鬼・武田赤音がマスターに。
まったく躊躇のない性格で、ディルムッドが嫌がるからできないとされている彼の性能をフルに活かした外道殺法を繰り出します。ハメ殺し性能などのスペック以上に性格面が恐ろしい主従ですね。
果たして赤音の剣が完成するのか、ディルムッドの為の敵は見つかるのか……そして誰が、彼らを止められるのか。
◆v1W2ZBJUFE氏、執筆お疲れ様です。人生を費やす、武が生む狂気を見事に演出した作品をありがとうございました!


95 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:34:52 hOGx2OMk0



>>臓物(ハラワタ)をブチ撒けろ!

スーパー◆v1W2ZBJUFE氏タイム。
古手梨花と暴君ネロ@デモンベイン。なるほどループの中で死に続ける幼女コンビ。主従が顔を合わせないままのエントリーは珍しいですね。
とはいえ、主に邪神のせいでお互いの抱える憎悪、それが生んだ狂気の前では些細な問題。追い詰められている二人は目的のために互いを利用し合うのでしょう。
ネロの宝具は破格のランクですが、単独の魔力炉としての効果も併せ持った優秀な代物。梨花が仮に適正がないとしても充分その力を揮えそうですね。
何を考えているのかわからない邪神の思惑どおりに事が運んでしまうのか、先が気になります。
◆v1W2ZBJUFE氏、執筆お疲れ様です。邪神の気侭にされている、冒涜的な雰囲気の作品をありがとうございました!




>>エレンディラ・ザ・クリムゾンネイル&アサシン

GUNG-HO-GUNSの一員、エレンディラにも知覚できない戦闘を行うサーヴァント・アサシン。
いったいどんな怪物かと思えば、その正体はなんと仮面ライダーコーカサス・黒崎一誠! なるほど、ハイパークロックアップを知覚できる存在は確かに限られてしまいますね。
そんなチート中のチートの一つであるハイパークロックアップですが、サーヴァントである以上劣化して当然。しかし原作においてヘラクスを瞬殺した圧倒的な風格も再現可能と見事な調整です。
連発こそ叶いませんが、元よりエレンディラは真人間ですので多用はできないでしょう。宝具名もアサシンエミヤにかけていてとてもエレガント。果たして再び最強に返り咲けるか。
真人間、ということでサーヴァントには――――今は、抗し得ないでしょうがエレンディラも驚異的な戦闘力を誇るGUNG-HO-GUNSの一員。恐るべき地雷もあるので他のマスターからは充分脅威でしょう。そのくせ表向きはコスメショップの経営者兼凄腕ビューティーアドバイザーとか人を呼びそうな役割なのが性質が悪いw
強さと美しさのためなら世界の破滅すら意に介さない願いを持つ二人。魔力の問題さえ解決すれば恐るべき強豪として聖杯戦争を脅かしそうですね。
◆WZmE.HBPA6氏、執筆お疲れ様です。美学を伺わせる強者の邂逅を描いた作品をありがとうございました!



>>シスターナナ&セイバー

まほいく産マスター二人目。恋人に連鎖召喚されたかのようにシスターナナの参戦です。
様子を見ると、この奈々は雫とは同棲していないのか、NPC=別人だと思っているのかでしょうが、もしもヘクトールを召喚した雫と同棲している奈々であれば……
彼女が召喚したデオンくんちゃんが、奈々的に理想の王子様像にかなりフィットしているのがいけません。別の修羅場が始まってしま(ry
さておき、割と歪んでいるのがシスターナナです。果たしてデオンはその歪みに気づけるのか……? ……気づけなさそうな気がするのが与太イベントに毒され過ぎですかね。
協力者を得て聖杯戦争を止めたい、というのが方針ですが、実際に主従として並べればバフデバフのコンビなので協力者がいてくれれば一気に化けそうです。
デオンの代わりに奈々の本質に気づいて止めてくれる人とか必要ですしね。この二人に限ったことではありませんが、最初に誰と出会えるかが重要そうです。
◆3SNKkWKBjc氏、執筆お疲れ様です。淡々とした中に奈々の歪みを感じさせる見事な演出の作品をありがとうございました!


96 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:35:20 hOGx2OMk0



>>雷電姫&欠陥電気(レディオノイズ)

アイスクリームを食べる双子の姉妹。本来の御坂美琴にとって忘れられない記憶の一つですが、そこにオープニングで存在が確定している双子を起用するセンスが素晴らしい。
思えばイリヤとクロも、作った側を始めとする大人の都合の末に生まれた擬似的な姉妹。御坂の妹達とも重なる要素のある存在で、見事な繋げ方だとただただ感心するしかありません。
さらにさらに、自動販売機を通して上条さんへの認識喪失を悟ったことで記憶を取り戻す演出、契約を通じて繋がったから共鳴し、木山戦のように記憶を見てしまう――と、原作の要素の活かし方まで巧み。
そうして彼女が喚んだサーヴァントはフランケンシュタイン。これまた妹達を思わせる、人造の欠陥電気(レディオノイズ)。
その過去と願いを垣間見たことで、逆に御坂は引けなくなってしまった。原作でたどり着く結論が、許されるはずがないという幻想に。
ならもう、この機会は逃せない。聖杯戦争に乗るしかない――そこに至るまでの過程が、本当に見事に描写されていました。
◆7fqukHNUPM氏、執筆お疲れ様です。感服するほど見事に悲壮感と、一抹の美しさを演出した作品をありがとうございました!



>>うちはサスケ&バーサーカー

少年の心を蝕む、「天照」の頭蓋骨を持つ「蛇」。
一族と組織の再興を願いとし、これまた繋がりが見事な組み合わせとして、うちはサスケと再生地獄大使の登場です。バーサーカーは縁召喚が特性なのか。
サスケがまだ真っ当な少年期とはいえ、仮にも忍を手玉に取る話術。こんな狡猾なバーサーカーがいるか! と唱える気が起きないのは歴戦の悪の幹部の貫禄ですね。
レボリューションとか言いそうにない時期のサスケでは、青すぎて対抗できそうにありません。このままいいように利用されてしまうのでしょうか……
しかも地獄大使の脅威はその頭脳によるもの。宝具を発動すれば単純なステータス型のバーサーカーなので、サスケは覚悟を決めたところで詰んでしまいかねません。
呪印という、自らに巣食う蛇の毒すら制御のままならぬ時期。将来的に最強の忍者となる少年のポテンシャルに期待したいところですが、所詮は子供。ヒーローが駆けつけてくれることを祈るしかありません。
◆NIKUcB1AGw氏、執筆お疲れ様でした。子供を脅かす巨悪という、原典に立ち返ったようなテーマを丁寧に描いた作品をありがとうございました!


>>炎の記憶

圧巻の描写力で綴られるボーイ・ミーツ・ガール。その離別の痛み。
自らを焼く炎のような記憶を胸に、少年は少女の救済を夢見る――そして彼女を救いたいと願う渇望の強さが、欲望の王を呼び寄せた。
ということで、天樹錬とアンクが主従で参戦。しかしサーヴァントとはいえ、グリードが他者に従うはずはない。それならそもそも、『王』に造反するはずがないのだから。
しかし欲望にまみれたわけではなく、しかしフィアに命をあげられる世界が欲しいという、錬の願いに興味を示すのは当然であると、彼の最期を知る者は思ってしまいますよね。
かつて人間から命を貰った王の記憶に何より強く焼き付いただろう、火野映司の存在を思えば。
愛する少女の命のために、己がかつて燃やした命のために、足並みを揃えて闘う二人。生半な覚悟で達成できることではありませんが、錬とアンク、二人の道行きを応援せずにはいられません。
◆87GyKNhZiA氏、執筆お疲れ様です。二人の繋いだ暖かい手の行く末が気になる作品をありがとうございました!


97 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:35:48 hOGx2OMk0

>>少佐&キャスター

ストリップバーでいきなり戦争が好きだとか言い出すクールなデブ。そうです我らの少佐殿です。
そんな戦争狂の少佐殿が喚び出したサーヴァントは久々にサーヴァント側のまほいく産魔法少女。少佐が召喚するとしたらそうですよねカラミティ・メアリさん(じゅうななさい)。
少佐以上にキレッキレですが、耳元を打たれた程度で揺るがないのが格好良いデブ。サーヴァントからの殺害宣言にもまるで揺らがない恐ろしいお方です。
他企画様の話となりますが、少佐と言えばサーヴァント側なら最後の大隊を固有結界とするイメージが強いからか、カラミティ・メアリが固有結界持ちであることにくすりとしてしまいますね。
凄まじくデンジャラスな、それ故に成り立っている主従。討伐令の危険すら意に介さず、スノーフィールドに戦争惨禍を持ち込んできそうですね。活躍に期待です。
◆Jnb5qDKD06氏、執筆お疲れ様です。危険人物達の狂気が存分に表現された作品をありがとうございました!



>>遠坂凛&キャスター

何度目だトーサカ。
とはいえ今回はSNの凛ではなく、EXTRA版。その遠坂凛が召喚したのは……版権キャラではなく、完全に史実の人物を元に一から構築されたサーヴァントですね。
それもスリーピー・ホロウやジェフ・ザ・キラーのような戦闘力を保証されたサーヴァントではなく、結核で亡くなられた文才溢れるだけの少女。戦闘力を望むべくもなく、設定しようもありません。
しかし死に負けまいとする心を綴られた『薔薇は生きてる』だからこそ、負けず嫌いのEXTRA凛と引き合ったのでしょうね。
とはいえ、いくら負けず嫌いでも本当に何の能力も持たないキャスターで勝ち残ることは凛でもまず不可能でしょう。何か奇跡でも起きないことには……
凛が悪いとも彌千枝女史が悪いとも言えないので、薔薇が死んでしまうことにならないような、何かしらの救いが欲しいところです。
◆9KkGeT6I6s氏、執筆お疲れ様でした。新鮮な着眼点から丁寧に仕上げた作品をありがとうございました!



>>■■少年育成計画

『こんにちは。ラ・ピュセル』(エロい声で)
まほいく産マスター。少女じゃない魔法少女の中でもそもそも女性ですらない、ファンの業の深さが有名なラ・ピュセルくんの登場です。
しかし彼自身は(男の子だけど)真っ当な魔法少女であらんとする善良な少年。己のサーヴァントの確認すらできていない状況からでも、見ず知らずのNPCのためにバーサーカーに立ち向かう覚悟を決める。
それはきっと、奪われた記憶の向こうにいる魔法少女の影もあったから。
そうして伸ばした彼の右手に、重なる人ならざる者の異形の手。それこそが彼のランサー、悪なる右手、ポルシオン。
既に敗北した魔法少女が、それでももう一度、今度は後悔する前にあるべき務めを選び続けるなら。それは聖杯戦争に脅かされる者達にとって救いとなる、美しいものになりそうですね。
◆5/xkzIw9lE氏、執筆お疲れ様でした。応援したくなるまっすぐな少年(魔法少女だけど)の魅力が見事に描かれた作品をありがとうございました!






今回の感想はここまでとなります。
引き続きお待たせしている皆様には大変申し訳ございませんが、ご了承いただければと思います。
それでは私も投下します。


98 : アラクネ・ゴーゴン&ランサー ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:36:54 hOGx2OMk0






 かつて男は、蜘蛛に憧れた。

 世界から阻害されていた己を唯一人、見つけてくれた相手。友達だと言って、助けてくれた初めての人間。
 しかし人気者である彼にとってのそれは、自らを英雄として演出するための一手間に過ぎないまやかしであったのだと後ほど判明した――少なくとも、男はそのように認識した。
 孤独から解放され、世界に祝福されているようなあの喜びを、不誠実な裏切りによって否定され、

 やがて男は、蜘蛛を憎んだ。













 スノーフィールド東部、湖沼地帯。
 都市の四方に広がる土地の中では比較的ながら開発が進み、別荘地の点在する区画。
 知る者こそ少ないが、その中の一際巨大な別荘は、つい昨日。本来の所有者から、街の有力者である一人の女性の手に売り渡されていた。

 表向きは、スノーフィールドでも最大手の民間調査機関代表を務める彼女が、急に新たな別荘を購入した理由。資産家の突発的な不動産売買など、特に大規模でなければさして衆目を集めることでもなく、故にまだ誰も真意を探ろうとしていないそれは、黒と灰色を貴重としたゴシックなデザインを気に入ったわけでもなく、そこから見られる澄んだ湖の群れに心惹かれたわけでもなく。
 その地下に、隠蔽された広大な空間――工房となる土地が存在することを突き止めたからであった。






 その、屋敷に存在する件の地下室。
 暗闇に満たされたその中に、巨大な蜘蛛の巣が張っていた。
 巨大な蜘蛛の巣、という言葉だけで素直に連想できる大きさではなく。天井から床までゆうに届く、角度も加味すれば直径十メートルを越えかねない、異常な代物だった。

 巣の中心には、優美な人影が一つ。
 それは艶やかな黒髪を丁寧に結い上げ、どことなく蜘蛛を思わせる衣装の同じく黒いドレスに身を包んだ、妙齢の美女。
 優雅に腰掛けるようにして蜘蛛の巣に座する麗人は、怪物に囚われた贄というよりも、むしろ――その巣の主であると思う方が、自然と思える馴染み方をしていた。

 その女は、巣の上で微睡んでいるかのように、長い睫毛の影を重ね、その瞼を閉じていた。
 ……しかしそれは、彼女が無害な眠り姫であるという意味ではなく。
 今この瞬間も、黒い羽毛で飾り整えたドレスの袖口、はたまた大胆に露出した背中や、長く暗いスカートの中から……黒い影が少しずつ滲み出て、白い糸の上を這って行く。

 ――影の正体は、小さな蜘蛛の群れだった。
 子蜘蛛達は、意志を持った雲霞のようにして一斉に地上への階段を目指し、逆しまの波濤として流れていく。
 地上階に出れば、給仕のための使用人達が居た。彼らは皆、神秘を知らぬNPC。
 しかし、特に蜘蛛を嫌悪しないとしても、生理的に怖気を齎すような黒い軍勢の勢いに、彼らは眉の一つも動かさない。
 認識すらしていないようなNPC達の狭間を抜け、そして夜風に誘われるようにして、子蜘蛛達は続々と、館から外へとその身を放出し、そしてスノーフィールドへと拡散して行く――すぐに、自然の蜘蛛と区別できない濃度に落ち着きながら。


99 : アラクネ・ゴーゴン&ランサー ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:37:32 hOGx2OMk0

 そんな異常な光景を生み出す巣上の魔女こそが、この館の新たな住人にして所有者。
 民間調査機関代表は表の顔。そこで得た情報に基づいた麻薬や銃器等の密売で莫大な利益を上げ、『このスノーフィールド』の黒社会においても最大勢力として君臨する犯罪組織、『アラクノフォビア』の首魁。
 その二つの顔をこの街における役割(ロール)として与えられた、聖杯戦争に臨むマスターの一人。

 その名を蜘蛛の魔女、アラクネ・ゴーゴンと言った。

「……終わったか」

 瞼の下。複眼のような網目状の煌めきを宿す瞳を顕にしたアラクネは、黒塗りの扇子で隠した裏でそんなことを口にした。
 何が終わったのかといえば、以前より街に散らばらせておいた彼女の目が監視していた事象、その顛末についての感想だった。
 先程、彼女の身から散らされた蜘蛛の子達。アラクネ自身の分身であるそれらは、蜘蛛の魔女が誇る情報網を形成するための使い魔、その追加分。
 そうして少しずつ、少しずつ、街を監視する目を夜な夜な増やして行く……転居以前から繰り返していた下準備と、その成果の整理を彼女は今も続けていたのだ。

 この屋敷も、そのようにして得た成果の一つ。
 おそらくここは、ムーンセルが観測した聖杯戦争の時点で、参戦を試みた魔術師の用意した拠点だったのだろう。
 しかし、その構造だけを再現しても――住人までもは、再現できてはいなかったらしい。アラクネの子蜘蛛が発見したこの館にいるのは、聖杯戦争への参加資格を持たないNPCだけであった。

 工房として利用できる拠点を欲していたアラクネからすれば、実に好都合な物件。得意の精神干渉の魔法――月の魔術体系に基づけば魔術と呼ぶべきそれを活用し、早々に、しかし怪しまれないように手続きを済ませ、やっと引っ越したばかりであった。
 職務上の側近やこの屋敷の給仕などは既に、アラクネの得意とする精神干渉を重ね、ある意味正気を喪っている状態の手駒だ。
 この状態に持って行くまで時間はかかったが、これでもう、彼らの前なら多少の神秘を行使しても騒ぎにはならない。他の主従はもちろん、監督役に目をつけられることもなく、情報戦において優位に立てるだろう。
 ――今は、まだ。

「まったく、堪え性のない子だこと……とはいえ、ならばなおのこと今は機嫌よく過ごして貰う方が良い……か」

 嘆息を一つ、アラクネは零す。
 己の身辺で働くNPCは既に正気を壊した状態で精神支配しているが、そこまで仕立てるには相応に手間が掛かる。
 ここから何人も、このような状態の手駒を増やすのは効率が悪いと考え、後は与えられた通りの上下関係で済ませるつもりだった。
 とはいえ、どうにも本来の『アラクノフォビア』と比べれば、NPCであった間のアラクネの支配は手緩かったらしい。
 となれば以前よりも、造反者が現れる確率は高くなる。
 聖杯戦争に向けた準備――彼らからすれば詳細不明の何かへと、アラクネの意識が向いた隙を突いたつもりなのだろう。

 それ自体は別に構わない、とアラクネは考える。
 たかがNPCの役割に沿った叛逆など、それこそ役割の範囲で安全に潰してしまえる範囲だ。ましてや、本来の自己を取り戻した魔女からすれば、その程度は造作もない。
 しかし己の召喚したサーヴァントが、それを許しはしなかった。
 人の扱いに一家言持つつもりのアラクネからすれば、とても扱いやすい部類のサーヴァントではあるのだが、彼はどうにも激情しやすい。
 慎重に事を進めたいアラクネにとっては、それがいつか優位を崩すきっかけとなりはしまいかと、幾ばくかの悩みの種となっていた。
 とはいえ、だ――

「手綱を握るのがマスターの器量ですもの、ね」

 ならばなおのこと、その心をより深くまで支配してしまえば良いのだと。
 帰還の予兆を察知したアラクネは、従者に向けての見えない仮面を付ける心構えを整えた。













「……見ていただろうが、裏切者を始末してきた」

 夜半。
 アラクネ・ゴーゴンが購入した屋敷の地下室に、異様な風体の男が訪れていた。
 いや――禿頭の人間に近い形をしているが、その男は既に人間ではない。
 体全体が透き通る青色に染まっており、血管や、何より体内を巡る強烈な電気の流れが透けて見える人間など、いるはずがない。

 彼こそはその異形故に、ランサーのクラスを以って現界したサーヴァントだった。


100 : アラクネ・ゴーゴン&ランサー ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:38:18 hOGx2OMk0

「ご苦労様。流石に早いわね、ランサー……いえ、マックス」

 労いの言葉をかける対象を、女主人はクラス名からそのように言い改めた。
 曲りなりにも、ムーンセルに上位存在として記録する価値があると見做された魔人としての真名ですらなく。既に諦念が手放させたはずの、人間としての名で。

「優秀な子は好きよ……とはいえ、ごめんなさいねマックス。私(わたくし)の役割(ロール)の手伝いなど、あなたには無縁なことなのに」
「気にするな。それで足元を掬われる方が馬鹿げている。ならサーヴァントはマスターの役に立つように振る舞うさ」

 申し訳なさそうに述べるアラクネに、ランサーは気取って笑みを返した。
 しかしその言葉は、気取っただけではなく本心だ。
 NPCのロールとして、強大な組織の指揮権を与えられたことは恩恵となる一方、このような組織管理の手間まで余計に背負うこととなる。
 そんなマスターの負担を減らそうと、ランサーはむしろ自発的に、彼女に対する裏切者の制裁役を申し出ていた。

「ありがとう、マックス。必要以上に力を使わせてしまったようだけれど、せめて彼らの魂が慰めにはなったかしら?」
「いや、全く。あんたの手料理とは比べるのも失礼なぐらいの味だったからな」

 魂喰いに関するランサーの感想に、アラクネは上品に扇子で口元を隠し笑って応える。
 ――褒め言葉を喜んで貰えたらしい、と悟ったランサーは飛び上がってしまいそうなテンションを必死に抑えて、努めてクールに相手の出方を伺った。

「お上手ですこと。よくってよ。ならお礼に、また今度御馳走して差し上げましょうか」
「ああ、楽しみだ! ……とはいえ、本当に大丈夫だったのか? ついカッとなって、やり過ぎてしまったが……」

 上がり調子だった気分が、ふとした気づきに水を注される。
 ランサーとて、サーヴァントとなってから、生前より更に強化された能力を制御しきれていないわけではない。
 しかしNPCとして、決められた役割どおりに振る舞っているのだとしても。アラクネの悩みの種となる輩が許せず、明らかに過剰な力を揮ってしまった。

 己の力。かつて神権そのものであり、星の開拓者とも言うべき天才によって地上に降ろされたもの。
 それそのものと一体化した、魔人の操る雷電の槍。宝具として昇華されたそれは人間の生命活動を停止させるだけでは飽き足らず、破壊の余波を周辺に撒き散らしてしまった。

 もしや、かえってアラクネの迷惑になりはしないか――そんな不安を見透かしたように、アラクネは慈母の表情で語りかけてきた。

「大丈夫。私があなたの代わりの目と耳になってあげますから。何も心配しなくていいのよ」

 ――君は僕の目と耳になってよ。

 アラクネの紡いだ言葉が、ふと。そんな、忘れ去りたい黒い記憶を呼び覚ます。

「ああ。俺はスパイダーマンと違って、自分の目と耳を信じ、忘れない」
「……そうね。あなたはそういうヒトですもの、マックス。そして」

 ランサーの内心の変化に、アラクネは目聡く気づいた様子だった。
 ランサーの過去を偲ぶような表情に、庇護欲を掻き立てられたかのような色を交えて、問いかけてくる。

「同じ蜘蛛でも、私はあなたを裏切った小僧とは違いますわ。そうでしょう?」
「ああ、そうだ……あんただけが俺の拠り所だ」

 あの日。ランサーことエレクトロ――かつてマックス・ディロンであった男は、全ての拠り所を喪った。
 挙句、裏切者の蜘蛛の手に掛かり、命を落とすこととなってしまった。
 ――己を必要だと言ってくれた男も、使うばかりで救いには来なかった。


101 : アラクネ・ゴーゴン&ランサー ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:38:48 hOGx2OMk0

「仕事にも、家族にも、友人にも裏切られてきた。誰も俺を見ていない、覚えてもいない。それで傷つく俺のことを、あいつらは気にも止めずに笑ってやがる」
「ああ、可哀想なマックス。でも、本当にもう大丈夫よ。だって私には、あなたが必要なんですもの!」

 何もかもを喪って、マックスは現世を去り、そして遠い世界の月の眼に記録されていた。
 そこから召喚されたランサーを、このマスターは必要としてくれた。

「私ももう、あなたなしには生きていけないわ。せっかく築いた組織から引き離されて、突然見知らぬ土地に連れて来られて、しかも殺し合いを強制されるなんて。とっても心細かった」

 優しい言葉だけではない。暖かな手料理の味も、柔らかい肌の温もりも。仲間としての信頼の誇らしさと、気遣いの安らぎも。
 ――二人きりの時には、こうして人としての名前で呼んでくれさえもする。

 かつてのマックス・ディロンが欲した何もかもを、アラクネは笑顔で施してくれた。
 そんな彼女のか細い震え声に、芯を取り戻させたのは――

「私の味方はあなただけ。私にはあなたが必要なのよ、マックス」

 ――そう、己(おれ)なのだと。魅力的な美声が耳朶を打ち、エーテルで構成された仮初の脳に染み込んでくる。
 麻薬のような、依存性の強い多幸感に包まれるランサーに、アラクネが微笑を浮かべて小首を傾げた。

「なら、私があなたを裏切るはずがないでしょう?」
「ああ――そうだ。だから俺の味方も、あんただけだ」

 何もなかったマックス・ディロンの半生。誰もわかってくれないと思った苦しみの全てを、黙って聞き入れて、そして癒やしてくれたのがこの魔女だ。
 元より我らはマスターとサーヴァント。聖杯戦争を勝ち抜くための一蓮托生。
 たまたま目についたから利用してきただけの男どもと、彼女は違う。確かな契約で結ばれた、裏切ることのないランサーの女神なのだ。

「二人で乗り越えましょう、この試練を。……そうして育まれた絆はこれからも、ずぅっと続いていくわ」

 そんな認識を肯定するように。そして、輝く未来を示唆するように。熟れた甘い声で、アラクネは続ける。

「だから……これからも私が愛して差し上げる。親からも、友からも、世間からも愛されなかった分も、この私が」

 そして抗い難く蠱惑的な笑顔で、アラクネは両手を広げた。

「さぁ、いらっしゃい。マックス」

 母から得られなかった慈愛。仲間から得られなかった親愛。想い人から得られなかった恋慕。
 その全てを満たしたような姿に、ランサーはあの夜以来の感電するような衝撃に打たれた。

 ――ああ、ここにあった。
 俺が得られなかったものは、やはり全て、ここにあったのだ。
 それに、やっと、出逢えた――



 ――――よもや。死後になってようやく現れたこの救いの主すら、結局はただ扱いやすい『駒』としか己を認識していないなどとは、つゆと思わないまま。



 感動に思考を麻痺させたランサーは、魔女に誘われるままに一歩、一歩と、糸に吊るされた操り人形の如く緩慢に歩み寄り、次いで自らの能力で彼女の巣へと舞い上がり、

 そして男は、蜘蛛に溺れた。


102 : アラクネ・ゴーゴン&ランサー ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:39:22 hOGx2OMk0

【出展】アメイジング・スパイダーマン2
【CLASS】ランサー
【真名】エレクトロ
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷A+++ 魔力D 幸運E 宝具B

【クラス別スキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【保有スキル】
ガルバニズム:A-
 生体電流と電力の自在な変換、および蓄積。
 魔光、魔風、魔弾など実体のない攻撃を瞬時に電気へ変換し、蓄電することで自らの魔力を補給する。ただし自らの放出した電気を再利用することはできない。
 なお、生前の逸話より、許容限界を越えた電量を吸収した場合には霊器が耐えきれず、崩壊してしまう。
 このスキルとマスターから魔力を供給されるサーヴァントの性質から、ランサーは生前持ち得ていなかった自家発電能力を獲得した。

騎乗:EX
 あらゆる乗り物を乗りこなすのではなく、電流として伝導体と同化し、移動する能力を示すスキル。
 通常時の敏捷性はAランク相当だが、このスキル発動時のみランサーは文字通り雷の速さで移動することができる。

変転の魔:E-
 英雄や神が生前に魔として変じたことを示す。
 過去に於ける事実を強調することでサーヴァントとしての能力を著しく強化させるスキル。
 ランサーの場合は、変転以前は英雄には遠く及ばない存在であったためにスキルランクは著しく低いが、人の身では絶対に不可能な敏捷に限定条件ながら到達している。


【宝具】

『雷霆と化し魔人(ケラウノス・レプリカ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:400人

 ヒトから電撃魔人へと変貌してしまったランサーの肉体そのもの。文字通りの雷電へと己を変換する常時発動型の宝具。
 かつて星の開拓者であるニコラ・テスラが地上に降ろした雷電。それそのものと化した彼の肉体は、英霊化によって数多の神話において神々の揮った神権の象徴である雷霆や王笏、即ち神の槍の再現としての性質を帯びることとなった。
 故に彼はアーチャーではなく、ランサーのクラスを以って現界しており、その出力を生前より向上させている。

 この宝具によりランサーは自在に電流を操り、放出や吸収を可能とし、さらには飛行能力にも繋がる電磁力の操作や、伝導体を介した雷速移動を可能とする。


【weapon】

 ランサーだが、物理的な武器は持たない。
 宝具により雷電と化した肉体とそこから放たれる電撃が主な武器となる。


103 : アラクネ・ゴーゴン&ランサー ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:40:03 hOGx2OMk0

【人物背景】

 かつてニューヨークを震撼させた、現代に顕れし魔人の一柱。
 その名を電撃魔人エレクトロ。人であった頃の名はマックス・ディロンという。

 元々はニューヨークのオズコープ社に努める電気技師で、市内の電気をつかさどる発電施設を設計するなど優秀な腕前の持ち主だったが、周囲からは全くと言っていいほどに評価されておらず、雑用の使い走りのような扱いを受けるなど鬱屈した日々を過ごしていた。
 しかしある時、「ニューヨークの親愛なる隣人」、蜘蛛の力を持つ超人スパイダーマンの手で車の下敷きになりそうになったところを助けられる。
 妻に逃げられ、職場では名前を呼ばれることすらなく、母にまで忘れられていたマックスは、「何故自分なんかをあのスパイダーマンが助けてくれたのか」と動揺するが、「君が必要だ。僕の目と耳になって街を見守って欲しい」と諭されたことにより満たされることのなかった承認欲求を暴走させ、ある種狂信的なまでのスパイダーマンのファンと化した。

 しかし自らの誕生日に残業を言い渡され、一人配線の修理をしていたところ感電事故に遭遇し、さらに遺伝子操作を受けていた電気ウナギに咬みつかれたことで電気を発生させることが可能な特異体質へと変貌してしまう。
 その後、自らの体質の変化に戸惑うままに街を彷徨い騒ぎを起こした彼はスパイダーマンと再会。変わり果てたマックスの正体をすぐに言い当てられないまでも、説得しようとしたスパイダーマンの制止を無視した警察官に狙撃されたことと、周囲の野次馬が自分と戦うスパイダーマンを応援しているのを見て、結局は自分を利用しているだけだと思い込んで逆上。大暴れを開始し、以降は一転してスパイダーマンを憎悪の対象とするようになる。

 最初の戦いでは持ち前の高圧電流でスパイダーマンを圧倒するが、自らの変化に馴染みきっていない隙に彼の咄嗟の気転により敗北し、そのまま刑務所に収監される。
 その後はオズコープ社で人体実験を受けるなど非道な扱いを受けていたが、ハリー・オズボーンに唆されて彼の計画に加担し、刑務所から脱走。
 自らが開発した発電施設を襲撃して一時的に使用不能に陥らせ、都市機能を麻痺させた。その後、駆けつけたスパイダーマンと再び戦闘になり、彼を追い詰めるも、最終的に体内へ許容量を上回る電流を一気に流しこまれたことで限界を迎え爆発。文明の灯火という秩序を破壊し、闇という狂気を齎す神として世界に自らを知らしめようとした彼は呆気なく、その生涯を終えた。

 単身でニューヨークを都市レベルで壊滅寸前まで追い詰めるという、同時期に現れた怪人達の中でも破格の性能及び、生物としての変異ではなく電気への変身という神秘をその身に纏って変転した彼は、現代において希少な人智を超えた新種の反英霊としてムーンセルに保存されていた。


【サーヴァントとしての願い】
 アラクネとともに聖杯戦争を制し、世界中から認められる存在となりたい


【基本戦術、方針、運用法】

 ランサーだが、肉体そのものを槍とみなし、武器を持たない特殊なサーヴァント。
 そのため電流による飛び道具を持ち、マスターであるアラクネの持つ情報網と組み合わせることで、配線を通じて文字通り電撃的に敵陣に奇襲を仕掛け、また高速で撤退する神出鬼没な暗殺者の如き戦法も市内であれば可能(ただし、実際には個人宅の特定の配線など、細かな目的地へ過たずに到着するのは困難)など、極めて変則的な性能を持つ。
 能力の特性上は、超速移動経路となる伝導体や魔力補給源となる電気に満ちた市街戦でこそ強大な力を発揮できるため、できる限り郊外では戦わない方が無難。
 とはいえ、幸い燃費に難があるとしてもマスターは強大な魔女であるアラクネ・ゴーゴンであり、市街地外でも一般的なサーヴァント並の継戦能力は確保できている。
 ランサーながらに近接戦を得意とは言い難いが、ガルバニズムと飛行能力を併用することである程度は敵の攻撃を封殺することも可能であり、精神面以外は変則的ながらに三騎士相応に優秀なサーヴァントと言える。

 なお、電気攻撃に攻撃手段のほぼ全てを依存しているため、ガルバニズムを保有する他のサーヴァントは真っ先に挙げられる天敵となるだろう。


104 : アラクネ・ゴーゴン&ランサー ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:41:06 hOGx2OMk0

【出展】ソウルイーター
【マスター】アラクネ・ゴーゴン
【参加方法】
 復活しアラクノフォビアに合流した直後、献上品に紛れていた『白紙のトランプ』により聖杯戦争に招かれた。

【人物背景】

 規律の旧支配者たる死神と、自由を求める魔女たちが抗争を続ける世界において、異端者とされた強大な魔女。性格は気品に満ちあふれていながら、冷徹で高慢。
 八百年前、変身能力をもつ魔女の魂を利用し、ソウルをはじめとする魔武器と呼ばれる武器変身能力者をこの世に生み出した張本人。そのため『魔武器の母』とも呼ばれる。
 その同族と魂を冒涜するような行為から、魔女たちからも死神様からも追われることになる。
 八百年ものあいだ、魂をゴーレムに移して部下に管理させ、肉体を蜘蛛として世界中にばら撒き、死神と魔女の両陣営に対抗する一大勢力『アラクノ・フォビア』を結成する。
 全ては死神の敷いた秩序を破壊し、狂気で満たした世界において鬼神をも取り込んだ頂点――絶対の母となるために。


【weapon】
・鉄扇
 魔女の血を引く魔武器の一閃を受け止めて傷一つ負わない強度を誇るが、戦闘で常用するわけではない。

【能力・技能】
 魔女の中でも特に強大な能力を誇るとされており、その魔力から、身体能力そのものも常人の数倍以上に達していると思われるが、魔力を用いた攻撃についてはそこまで得意ではない。
 彼女が得意とするのは専ら精神攻撃の魔法で、相手を狂気に墜として行動を停止させたり、弱った精神につけ込んでの支配を得意とする。
 ただし対魔力どころか意志の強さ、魔力の強さなどで跳ね除けられるため、サーヴァントにはまず通用せず、NPCはともかくムーンセルの予選を突破したマスターにも魔術のみでの支配は難しい。
 肉体を捨て、更に強力な精神攻撃を実行することも可能だが、その場合も霊体であるサーヴァントには一方的に斃され捕食されてしまうことになるため特に使うことはないと思われる。
 魔女に共通のソウルプロテクトという魂の波長を隠す術を習得しており、優れた感知能力を持つ者でなければ魔女であるとは見破れない。

【マスターとしての願い】
 己が全ての生命の母となる、狂気で満たされた世界


【令呪】
 背中に現れた、胴体と左右の足の三画で形成される蜘蛛の痣


【方針】
 ランサーを引き続き懐柔・制御すると同時、自らの情報網、組織力を用いて立ち回り、極力消耗を抑えて勝利を狙う。


105 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/03(火) 23:41:45 hOGx2OMk0
以上で投下完了です。

最後になりますが、皆様、本年も当企画をよろしくお願いいたします。


106 : ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:12:41 C5VehgBw0
投下乙です
私も投下します


107 : ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:13:29 C5VehgBw0



「アマテラス!」

黒い長髪の少女が呼び出した虚像が淡い光を放ち、彼女と三人の仲間の傷をたちどころに癒やしていく。
自分が何度攻撃を叩き込んでもすぐこれだ。ふざけるな。



「吼えろ、スサノオ!」

ジュネスの息子が放った暴風の塊が強かに自分を打ちつける。
戦い始めた最初の頃はさして痛くもない攻撃だったが今ではその一発がボディブローのように効いてくる。
しかも合間を見ては他の仲間たちに補助を行い素早さで翻弄してくる始末。ふざけるな。



「スズカゴンゲン!」

短髪の少女が呼んだ虚像から放たれた特大の拳が迫る。
避けようとしても避けきれず、たまらず吹っ飛ばされた。いつも肉ばかり食ってるくせにふざけるな。



「はぁ、はぁ……」

おかしい。何故こんなことになった。
自分はこのテレビの世界と同調し、万能の力に目覚めたはずではなかったか。
それなのにどうして、何の間違いがあってこんなガキどもに追い詰められている。
仲間だ絆だとほざきながら、その実群れなければ何も出来ないだけの高校生に、どうして。


「うっし今だ!決めろ鳴上!」
「イザナギ!」

気がつけば正面に、銀髪の少年がいた。
側には自分のペルソナに酷似した虚像、イザナギと呼ばれたものが在った。
多くの仲間と共に立つ彼と何の間違いがあったかこうして地に這いつくばる自分のどこに違いがあったのか。
同じ力を持っているのに、どうして。


108 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:14:35 C5VehgBw0


「自分の罪を認めろ……」


イザナギが力を溜めていくのが見て取れる。
だが今の自分にはそれを阻むほどの余力は残されていない。
尻餅をついて後ずさっていると、手が何かに触れる感触がした。


「………現実と向き合え!!」


大太刀を構えたイザナギがまっすぐに、吸い込まれるように向かってくる。
駄目だ、やられる。そう確信した時、手に触れた物体が白く輝きだした。
その光が何なのかを理解するより前に、意識は途絶えた。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








「うぁあっ!?」

意識が覚醒すると同時に飛び起きた。
慌てて部屋を見渡して、ほっと胸をなでおろした。

「またあの夢かよ。くそっ…」

すっかり目が覚めてしまい、寝直す気になれず冷蔵庫に向かった。
水の入ったペットボトルを取り出すと一気にそれを呷った。

「はあ…何で夢にまで出てくるんだよあのガキども。
現実と向き合えってお前が六股してる自分の罪を認めて現実と向き合えよバーカ。知ってんだぞ俺は」

本音を言えば酒に逃げたい気分だが今は不味い。
何しろ現在進行系で命を賭けたゲームに参加中の身なので、迂闊に酔っ払うわけにもいかない。
何時どこから刺客がやって来るかわからない状況で酒を飲めるほど足立透という男の精神は図太くはなかった。


足立透はスノーフィールドを模した世界で行われている聖杯戦争のプレイヤーの一人だ。
ある時モデルガンの雑誌を読んでいると唐突に記憶が蘇り、そこでこの世界に来る直前に触れた物体が白紙のカードだと悟った。
そしてサーヴァント・バーサーカーを召喚して今日で五日経過、今に至る。


現状を認識し、サーヴァントのステータスを確認した足立が取った方針は一言で言えばバーサーカーへの丸投げだった。
何せバーサーカーは強い。まともに姿を見ただけでペルソナという力を持つ自分が竦み上がるほどに。
索敵も全自動で勝手に済ませて敵を潰してくれるという便利さだ。
これでは足立がマスターらしく敵を探して回る方がよっぽど危険で割に合わないというもの。
ここが日本なら職業を活かす手もあるが生憎ここでの足立は単なる旅行者の身分だ。

なので足立は滞在しているホテルで日がな一日ゴロゴロしながらバーサーカーの戦果を待つことにした。
何も単に怠けたいからという理由ではない。考えた結果、そしてバーサーカーへ魔力を提供する中でこれが一番効率が良いと気づいたのだ。
どうも魔力というものは体力に置き換えられるものらしい。生命力とも言えるか。


109 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:15:15 C5VehgBw0
バーサーカーが戦闘に使う魔力を提供してやると疲れるような感覚を覚えた。
ならばなるべく体力を消費する行動を控えてバーサーカーにリソースを分けてやるのが賢いやり方というものだろう。


第一バーサーカーと一緒にいるところを見られたらどうなるかわかったものではない。
マスターやサーヴァントが徒党を組んで自分を狙ってきたら不味い。あの高校生たちとの戦いを振り返ればわかる。
足立から見て彼らの一人一人はてんで大したことのない、リーダーにおんぶに抱っこの連中だった。
唯一そこそこ自分に拮抗する力を持っていたリーダーの少年を除けば、一対一の勝負をすればまず勝てるぐらいには実力差があった。
その彼にしてもしばらくペルソナの魔法を使っていればすぐに息切れして道具に頼る有り様。
本当に、対等で公正な勝負なら負けるはずがなかったのに。思い出してまた腹が立つ。

「なーにが絆だよ、仲間だよ。ただのリンチの言い訳じゃねえか」

その点バーサーカーは良い、ワーワー群れなければ何も出来ない高校生どもとは違う。
たった一人で完結した強さがあるし、何よりこちらに干渉してこないことが有り難かった。
マスターとサーヴァント、運命共同体といっても結局は聖杯を手に入れるまでの一時的な同盟に過ぎない。
それなら互いに干渉せず、それでいて利害関係からはずれないようにする。
……それで良いじゃないか。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







スノーフィールド中心部にある高級ホテル、その最上階を丸ごと借りきった男がいた。
男は他のマスター同様期せずして白いカードに触れ聖杯戦争に身を投じることになった。
聖杯戦争。耳にしたことはあったがまさか自分自身が参加する羽目になろうとは。


「マスター、工房の敷設が完了しました。
ですが本当に此処を拠点として使われるのですか?」


自身の身長ほどもある杖を持った神官のような装いの青年が現れた。
彼こそはムーンセルから配されたキャスターのサーヴァントだ。
資産家の設定を持つ男はキャスターの持つスキルを知るやこの場所に魔術工房を敷くよう指示を出していた。

「いやいや、ここが良いのさ。
スノーフィールドの経済の中心で、人も物も金もよく動くここがね」
「ですが神秘の秘匿に反することになれば監督役から如何なる罰が下されることか…。
何故自ら不利を被るような場所に拠点を構えるのですか?」


110 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:15:53 C5VehgBw0
「もうちょっと頭を柔らかくして考えなって。
神秘の秘匿とやらを守らなきゃいけないのは他のマスターだって同じだ。
大勢の人間が宿泊してるこのホテルを、魔術がバレないように攻めるには嫌でも正面から来るしかない。
つまりは君の独壇場だ。あちらは強力な対軍宝具とやらも迂闊に使えやしない」


男の考えた戦略とは神秘の秘匿という、プレイヤーたちの過激な行動を抑制するルールを逆利用するものだった。
防衛戦に優れたキャスターの実力を遺憾なく引き出すため、敵が男の意図を理解していても正面から乗り込むしかない状況を作り出した。
何しろ下手な真似をすれば神秘の漏洩に繋がり処罰される。
それを避けるには異界と化したキャスターの工房を、一つ一つ丁寧に攻略する以外に手立てはないのだ。

とはいえ外部からアーチャーの狙撃などで最上階を直接攻撃される可能性もないではない。
そういった事態に備えて工房外壁は余人の目には見えない強化が施されており、さらに万一に備えてこの最上階からの脱出の手筈も準備させてある。
無論この策がいつまでも通用する保証はないが、とりあえず足元を固めることは出来たと考えて良いだろう。

「さて、次は情報を集めないとな。
このゲーム、乗るにせよ乗らないにせよ今は判断材料が少なすぎる。
乗るのであれば監督役やその上役が信用できる者だという確証が、乗らないなら無事脱出できる要素が欲しい」


男の思索は既に次のステージに移っていた。
男はとにかく確実に生還したかった。他のマスターやNPCとして連れてこられた人々への罪悪感がないではないが正直彼らに気を遣う余裕がない。
そう簡単に逃げられるデスゲームとは思えないが、かといって馬鹿正直に乗って優勝した結果主催側に騙され殺される可能性もないではない。
この先の方針を決めるには何を置いても有益な情報が必要不可欠だ。

「マスター、サーヴァントの姿を捉えました!」


考え事をしていた時、キャスターの監視網が接近するサーヴァントを捉えた。

「こっちに近づいてきてるのか?」
「はい、念のため迎撃の準備を行います」
「わかった、餅は餅屋だ。戦闘は君に任せるよ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




黒を基調とした、四本角の戦士が夜の街を駆ける。
足立透の従僕として召喚されし狂戦士の英霊、バーサーカー。
本来はグロンギの暴虐からリントの生命と笑顔を守る心優しき戦士クウガ。
されど今のクウガは心を闇に染め上げた時現れる禁忌の姿の側面のみを切り取られて現界した生物兵器、空我である。


111 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:17:01 C5VehgBw0

その暗く濁った双眸が映し出すものは滅ぼすべき敵の姿のみ。
建造物や魔術などで視界を遮られていようともバーサーカーの目にははっきりとサーヴァントの姿が映し出されている。
すなわち、この街で最も高いホテルの最上階に布陣するキャスターとそのマスターの姿が。


ホテルを見渡せるとあるビルの屋上に着地。
即座に有効な攻撃手段の検索を開始した。
ボウガンによる狙撃…不可。目標の存在する最上階は魔術による強化が施されておりペガサスボウガンの威力では突破できない。
ライダーキックによる襲撃…不可。威力に問題はないがキャスターを捉えきれる保証はなく、こちらが隙だらけになる。
発火能力による発破…有効。しかし最上階部分は魔術による強化で発火能力の通りが悪い。
建物全てを同時に発火させる方法が最も効率が良い。


攻撃手段、検索終了。
バーサーカーがホテルへ右手を向けると次の瞬間、ホテル全体が業火に包まれた。
いいや、正確に言い表すならばホテル全体の組成を分子単位で組み替えて炎にした。
そこにどれほど大勢の人間がいるかなど、バーサーカーは斟酌しない。
人の理と利は同じ人間にしか通用しない、まして凶獣が解する道理など存在しない。

まるで世界を彩るキャンドルのようにして、スノーフィールド一の威容を誇っていたホテルが燃え上がる。
あまりに現実離れして美しく、そして凄惨な光景を多くの人間が目撃した。
ある者はただただ呆然とし、ある者は恐怖に駆られて逃げ出した。
だからだろう、燃え上がり中にいた宿泊客諸共炭化し崩れ行くホテルの中から二つの点が夜空へと消えていったことに誰一人気づかなかったのは。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




何だこれは。何だあれは。
キャスターのマスターは聖杯戦争というおよそ非現実的なゲームに参加する者ではある。
しかし今の彼は背後の非現実的極まる光景を目の当たりにして、現実感を持てずにいた。
燃えている。つい今しがたまで自分たちがいたホテルが、残らず全て炎になっている。

何故だ、何故こんな真似が平然とできる?
論理的に考えても、倫理的に考えても有り得ない、破綻している。
キャスターの陣地が辛うじて下手人の攻撃を食い止めていなければ今頃は自分たちも単なる燃えカスになっていたに違いない。

「マスター、口を閉じて!今はとにかく生き抜くことだけを考えて下さい!」

飛行の魔術を唱えたキャスターに抱きかかえられた男は蒼白な顔でコクコクと頷いた。
その時、キャスターが出現させていた魔法陣に何かが立て続けに衝突した。
サーヴァントたるキャスターの眼はその攻撃を仕掛けた者の姿を克明に映していた。


112 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:17:37 C5VehgBw0

「やはり追撃してくるか…!ならば!」


地上からビル群を足場にしながら追いすがる四本角のサーヴァントへ向け大威力の魔砲を放つ。
こんな後先考えない真似をしでかすサーヴァントなどバーサーカー以外有り得ぬだろう。
バーサーカーならば対魔力スキルを持たないはずであり、必然キャスターたる己が比較的優位に立ち回れる相手だ。
十五の光条がバーサーカーという狼藉者へ一点に集中する。
全てがAランクの威力、さらには標的を追尾する概念をも付与してある。
三騎士でもない限り、生半に凌げるものではない。

だが、バーサーカーは一瞬足を止め右の拳に力を込め魔力を集中させると迫る魔術光弾へ渾身の右ストレートをぶつけた。
言葉にすればたったそれだけ。ただの拳圧で以ってキャスターが必殺を期した魔力砲は呆気無く砕け霧散した。
伝説の武具から解放された逸話の具現でもなければ生涯を掛けて到達した武技の極地でもない。
キャスターから見ても否定・反証のしようがないほどの、勢いをつけただけのただのパンチだった。

「冗談じゃない!」


あれは、駄目だ。
およそ英雄と呼べる存在でも到底太刀打ちできるものではない。
念のために転移術式を準備しておいて良かった。
急拵えの術式のためさほど遠くに転移はできないが不意を突く程度はできるはずだ。
猛スピードで迫り来るバーサーカーを尻目にキャスターとそのマスターは無事転移を果たした──────────



「えっ」




──────────果たした直後、キャスターが見たのは空中から脚部に夥しい魔力を纏わせながら飛び蹴りを行ったバーサーカーの姿だった。
そんな馬鹿な、とキャスターが思ったのも無理からぬことだ。
バーサーカーの蹴りは一ミリの狂いもなくキャスターの転移地点へと向いていたからだ。
キャスターといえど詠唱なしに魔術を発動することはできない。

直撃、爆砕。
辞世の句を唱えることも叶わず、キャスター主従の夢と希望は怪物によって塵へと消えた。
サーヴァントを討ち果たしたバーサーカーの瞳には何の変化も感慨もない。不要なものだからだ。
災厄を人型に凝縮したかの如き悪鬼の破壊は全ての敵を滅ぼすまで止まることはない。


────────聖なる泉枯れ果てし時 凄まじき戦士雷の如く出で 太陽は闇に葬られん


113 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:18:40 C5VehgBw0



【クラス】
バーサーカー

【真名】
凄まじき戦士@仮面ライダークウガ

【属性】
秩序・狂

【ステータス】
筋力A++ 耐久A++ 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A

【クラススキル】
狂化:EX
特殊な狂化タイプ。戦うためだけの生物兵器。
バーサーカーはその在り方から狂化の影響下にあっても一切戦闘技術が損なわれない。
ただし常に敵を破壊するために動こうとするため、マスター側にも一定以上の制御技術が求められる。

【保有スキル】
超越肉体:A
凄まじき戦士の強固な生体甲冑は生半な攻撃を受け付けず、傷を負ったとしても瞬時に回復する。 その膂力と耐久力は人間には絶対に到達不可能な領域にある。
Aランク未満のダメージに対しては常時スーパーアーマー状態となる。
Aランク相当の頑健及び自己再生を内包する複合スキル。

超越感覚:A
凄まじき戦士の極めて鋭敏な五感は半径数キロ以上先のごく小さな音、小さな物体であろうとも正確に捕捉する。
ランクにしてB+相当の千里眼とA相当の気配感知及び見切りスキルを内包する複合スキル。
凄まじき戦士はこのスキルにより敵の技や攻撃に対し驚異的な反応と学習能力を発揮する。
またこのスキルの性質上「特定の条件を満たさなければ視認・認識ができない」タイプの能力を突破することができる。
マスターとサーヴァントを繋ぐレイラインも視認できるため「サーヴァント特有の存在感を消す・偽装する」タイプの能力も実質的に無効化する。

物質変換:EX
モーフィングパワー。物質を一度原子分解し、再構成する能力。
凄まじき戦士は触媒を必要とせず無から専用武器を生み出すことができる域にある。
宝具ではなく、且つ格の低い武装であればサーヴァントの武装であってもこのスキルで干渉できる。
後述の超自然発火の源ともいえるスキル。

超自然発火:A-
物質の原子や分子を操りプラズマ化させ、範囲内の標的を体内から発火させる。厳密には対象の肉体を炎にする能力。
サーヴァントにも有効だが神秘の塊である英霊相手では完全な威力を発揮し難い。ダメージ数値は対象のステータス値ではなく神秘の深さ、霊格の高さによって算出される。
年代が古く、霊基の質が高いほど与えるダメージが減少し、場合によっては無効化される。少なくとも西暦以前の神代出身のサーヴァントは全く発火させることができない。
逆に近現代に近い、ないし霊格の低い英雄ほど大きなダメージを被り、最大限度に効果が発揮された場合は最高ランクの戦闘続行スキルによるカバーすら無効にする。
また神性など霊格の高さを保障するスキルや、超高ランクの頑健や信仰の加護といった肉体の絶対性を保障するスキルによってもダメージが削減される。
反対に自己改造や破壊工作といった自らの霊格を落とすスキルを持つ者に対してはより強力なダメージを与える。
マスター、及び生者のままサーヴァント化した者に対しては出自を問わず必ず最大値のダメージを与える。
相手を内部から発火させるという性質上単純な盾や鎧といった装具による護りを透過し、前述の超越感覚による見切りがあるため凄まじき戦士より圧倒的に速いという程度では到底この能力から逃れることはできない。
この能力が宝具ではなくスキルに留まっているのは、凄まじき戦士にとってはモーフィングパワーを活かした牽制レベルの通常攻撃の一環に過ぎないため。


114 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:19:16 C5VehgBw0



【宝具】
『霊石の装具(アークル)』
ランク:A 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
古代種族リントが敵対種族グロンギの暴虐に対抗すべく作りだされた、戦士の力。
願いを叶えるとされる神秘の霊石アマダムを内部に格納しており、身に付けたものをクウガへと変身させる。
グロンギに対抗できる力を与える善性の面の宝具であるが、同時にグロンギと同じ存在になる悪性の面も内封している宝具でもある。
バーサーカーとしてのクウガはクウガの資格者を触媒にして「凄まじき戦士」としての側面が呼び出された姿である。
狂化による恩恵も併せてステータスと霊基数値を超高ランクに押し上げ数々の専用スキルを得るが代償に英雄性を失い怪物の属性が付与される。
全身から封印エネルギーを放出しており、超自然発火を除く全ての攻撃手段に対魔性特攻効果が付与されている。
この宝具そのものが魔力炉としても機能し、マスターの負担を大幅に軽減した上でマスター不在でもある程度までの戦闘行動が可能となる。
クウガに超古代の神秘からなる絶大な力を与える源泉であるが、クウガという存在を成立させる基点であるがための急所をも意味する。
アークルが破壊された場合、クウガが消滅する第三の霊核でもある。

【weapon】
ライジングタイタンソード、ライジングドラゴンロッド、ライジングペガサスボウガン
凄まじき戦士の各種専用武器。

この他肩部のショルダークラッシャーや手足に生えた伸縮自在のエルボースパイクなど、全身が凶器そのものである。

【人物背景】
凄まじき戦士を呼び出すための触媒として利用されたクウガの資格者。
その正体は古代においてグロンギを封印した古代の戦士。
しかしいずれにせよ凄まじき戦士として召喚された時点で人間としての人格は塗り潰されているため、その人間性は聖杯戦争に何ら関与することはないだろう。

【サーヴァントとしての願い】
全ての敵を討ち滅ぼす。

【戦術・方針・運用法】
端的に言って徹底的に格下殺しに長けたサーヴァント。
アサシンの気配遮断を筆頭とした数多の搦め手を拒否して正面対決を強制する超越感覚と、三騎士すら磨り潰すほどの絶大なパワーとタフネスを有する。
超自然発火がフルに発揮される近現代の英雄に至ってはその強さに関わらず凄まじき戦士との勝負の土俵に上がることすら不可能。
武装面でもセイバー、ランサー、アーチャーの特性を全て網羅しているといっても過言ではなく、物質変換スキルによる応用も利くなど凶悪なまでの汎用性を誇る。
弱点はアークルの存在による弱点部位の多さと高威力の宝具への耐性のなさ。
運命干渉など超越感覚で対処できない能力で凄まじき戦士の対応をすり抜けて霊核、またはアークルを破壊する手段を使えば存外あっさり沈められる。
また耐久力そのものは非常に高いがさすがに神造兵装クラスの宝具の真名解放に耐えられるほどではない。
このため凄まじき戦士が回避不可能な状況を作り出し、強力な宝具を直撃させれば正面からでも十分に倒し得る。
また対魔力スキルを持たないので一応キャスタークラスによる魔術攻撃も(当てることができれば)有効となる。
基本的に攻撃目標の優先順位はサーヴァント>マスターだが、マスターが積極的に攻撃を仕掛けた場合はこの限りではない。
バーサーカーらしく神秘の秘匿や周辺への被害には無頓着なので制御できないとあっという間に討伐令を出される羽目になるだろう。


115 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:19:55 C5VehgBw0


【マスター】
足立透@ペルソナ4(原作ゲーム版)

【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れて自称特別捜査隊に復讐する

【能力・技能】
ペルソナ・マガツイザナギ
足立が操るペルソナ。主人公の初期ペルソナ「イザナギ」に酷似しているが、全身が赤黒く、全能力が桁外れに高い。光・闇属性無効。
ペルソナ使い共通の特徴として装備しているペルソナの能力値に応じて術者の身体能力と耐久力が上昇する。
本来ペルソナは一体につき八つまでしかスキルを保有できないが、足立は十数種類のスキルを使用可能。以下はその内訳である

・空間殺法…広範囲への大ダメージ物理攻撃

・木っ端微塵斬り…広範囲への中ダメージ物理攻撃。低確率で「恐慌」のバッドステータスを付与

・チャージ…次回の物理攻撃の威力を大幅に上昇させる

・ジオダイン…電撃属性の大ダメージ攻撃

・マハジオダイン…広範囲に電撃属性の大ダメージ攻撃

・マハガルダイン…広範囲に疾風属性の大ダメージ攻撃

・メギドラ…広範囲に万能属性の中ダメージ攻撃。対魔力を透過する

・淀んだ空気…一定時間周囲のバッドステータス付着率が上昇

・デビルスマイル…敵全体に中確率で「恐慌」のバッドステータスを付与する

・亡者の嘆き…「恐慌」のバッドステータスにかかった敵全体を瀕死状態にする。サーヴァントには原則無効

・ムドオン…敵一体に闇属性の攻撃を行い、抵抗判定に失敗した場合瀕死状態にする。サーヴァントには原則無効

・デクンダ…味方全体のデバフ状態を解除。ただしサーヴァント相手の場合は魔術などの一時的なデバフしか解除できない

・デカジャ…敵全体のバフ状態を解除。ただしサーヴァント相手の場合は魔術などの一時的なバフしか解除できない。

・ヒートライザ…任意の味方一体に一定時間与ダメージ上昇・被ダメージ減少・命中、回避率上昇の効果を付与する


116 : 足立透&バーサーカー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/05(木) 21:20:34 C5VehgBw0

この他通常のペルソナ使いの数倍以上の耐久力を持ち、各種スキル使用に伴うHP、SPのコスト消費が発生しない。ゲーム的に言うと原作でのボス戦時の再現。
純粋な魔力保有量も高くバーサーカーを十分に維持・使役できるが魔術師として卓越した技量を持っているわけではないため行動を十分に制御できているとは言い難い。

【人物背景】
本庁より春から赴任し、稲羽署に勤務している若い刑事。遼太郎の部下兼相棒で、共に連続殺人事件を追っている。
元エリートであるが、捜査内容を主人公達に漏らしたり、高校生に気迫負けしたりするなど、口が軽く間の抜けたうだつのあがらない性格。
「署内一の頭脳派」と自負するなど、お調子者の面も伺える。
特捜隊のメンバーからは基本的に舐められており、陽介からは「ヘタレ刑事」、クマからは「ズッコケデカ」と呼ばれてしまっている。
実は一連の事件のうちの最初の2件の殺人事件の真犯人であり、主人公と同じく「テレビの中に入れる能力」の持ち主でもある。
エリートコースから脱落し、田舎に左遷されたことで鬱屈しており、犯行を通じて世の中の理不尽さに対する不満を憂さ晴らししていた。
本性はかなり切れ者で能力的にも優れているが、非常に利己的で傲慢かつ我が侭と、幼稚で身勝手な人物である。
警察になったのも公務員志望であったことと合法的に銃を所持できるという興味からで、純粋な正義感によるものではない。
最初の犠牲者2人をテレビの中に落として結果的に死に至らしめ、その後も生田目を誘拐するように唆した。
主人公に協力するふりを装いつつも内心では主人公らと生田目のいたちごっこを嘲笑っていた。
さらには事件の解決を拒み、模倣犯として自首してきた久保をテレビに落とした。
真相発覚後、追手を逃れるため、初めてテレビの世界へ入ったことでペルソナ能力に目覚めた。
テレビの中の世界と同調しており、生成された領域「禍津稲羽市」を操ることができる。
その性格のため大抵の他者を見下しているが、堂島親子のことは本心で気遣っており、菜々子が誘拐されるという想定外の事態が起きた際は主人公たちの手助けを行い、逮捕された後も堂島たちのことは気に掛けていた。
また、主人公へは見下しや嫉妬を抱きつつも本当に心が通じていた点もあり、敗北後は主人公からの投降に応じた。
テレビの世界で特捜隊と戦闘している最中、特捜隊の連携に追い詰められた際に偶然手にした白紙のカードによって聖杯戦争に招かれた。

【方針】
バーサーカーに丸投げ。しかし袋叩きだけは二度とごめんだ。


117 : 名無しさん :2017/01/05(木) 21:21:30 C5VehgBw0
以上で投下を終了します。
足立透については『第二次二次キャラ聖杯戦争』様の◆zOP8kJd6Ys氏が投下された登場話より人物背景を参考とさせていただきました
またバーサーカー・凄まじき戦士については『Maxwell's equations』様の登場話コンペより◆V5/BJPQv6Y氏が投下された『ケイネス&バーサーカー』のバーサーカーのステータスを参考とさせていただきましたことをここに明記致します


118 : ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:27:41 WS18aFU.0
投下します


119 : 思考と変換 ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:29:47 WS18aFU.0
肉を焼いた薫りが辺りを漂う。
鳥を丸々オーブンの高温で炙り、旨味を閉じ込めた薫りが鼻腔を満たす。
食塩、胡椒でシンプルに味付けされたそれは焦げ模様でさえ食欲をそそる。
ナイフが皮の表面を切る度にパリパリと小気味の良い音を立て、閉じ込められた肉汁と旨味が音を立て流れ出す。
フォークを突き刺し、試しに一口。
口に運んでみると、無駄に手を加えてないが故に、肉の旨味が引き立てられている。
鳥の柔らかく優しい舌触りに、パリパリとした皮が食感にまたアクセントを加える。
ただ塩と胡椒を振りかけただけではこうも香ばしい味わいは出まい。
入念に準備された、職人の業だ。
―――美味い。
今まで食したローストチキンの中でも、一二を争うだろう。
食というものは奥深い。
良いものを食べれば食べるだけ見識が深まり、自然と笑みが溢れる。
テーブルに並べられたものは、殆どが肉類だ。
ステーキにローストビーフ。
ハンバーグにウインナーの炙り。
箸休めにサンドイッチも用意してある。
試しにサンドイッチを一つ掴んでみると、パンの柔らかさに驚かされた。
ふにふにと指で押すごとにパンの中に指先が沈み、挟まれたレタスの感触が伝わる。
口に運ばなくともシャキシャキとしたレタスの歯応えが伝わるようだ。
間に挟まれたのは……卵、だろうか。
食べることは得意だが、生憎と作る側には縁がなかったためよくわからない。
挟まれたハムとレタスを彩る黄の紋様が美しい。
一口かじると、肉汁で満たされた口内を一新するかのように、爽やかな感触が素敵だ。
肉の油に口が馴れていた為、たまにはこういった食物も良いものだ。
そしてまた肉を口に運ぶ。
口内の肉の油がサンドイッチでリセットされた為か、また一から肉の味わいを楽しめる。

「それ、あまりがっつくと喉に詰まらせるぞ。肉は逃げない、落ち着いて食べると良い」

まるで中世の騎士のような風貌をした少女が告げる。
剣の英霊、セイバーである。
ナイフとフォークを巧みに扱うその姿は、育ちの良さを思わせる。
そして、話しかけられた少女―――継ぎ接ぎのドレスを纏った乙女は、素手で肉を掴むのを止め、顔色を伺うようにセイバーを見る。
するとセイバーは微笑み、

「何、食べるなと言っている訳ではない。こんなにも沢山あるのだ。
二人でこの食事を楽しもう」

まるで、親に褒められた子供のように。
ぱあっと華開いた少女の笑顔は、とても眩しい。
その顔を見ていると、セイバーも微笑ましくなる。
やがて食事は進み、テーブルを彩っていた食事は綺麗さっぱり二人の胃袋へと導かれた。
グラスに注がれたワインで口内を充たす。
食後のデザートのようなものだ。
この身体にアルコールは作用しないが、それでも味は感じ取れる。

「いやはや、早急にこのようなモノを食せるとは思わなかった。
これは紛うこと無き一流の腕だろう。誇って良いぞ」

手元に用意されたペーパーナプキンで口元を拭う。
すると、向かいに座っていた少女も、満腹感を得て幸せなのかにまにまと笑っている。
口元に付けた食事の跡も相まって、大層と可愛らしい。

「口元が汚れているぞ」

ペーパーナプキンで少女の口元を拭いてやる。
セイバーにされるがままに吹かれている少女はまるでペットのよう。
綺麗になった、と頭を撫でてやると少女は気持ち良さそうに目を細めた。

「こ、これで良いですか…?」


120 : 思考と変換 ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:30:39 WS18aFU.0
部屋の隅。
まるで少年のように、大の大人が縮こまっている。
その身体はガタガタと震え、顔は冷や汗で濡れ、みっともないことこの上ない。
その瞳は恐怖の一色で染まっている。

「ふむ。此度の料理もまた美味だった。
何より我輩とソニアの口に合った。十分に賛辞に値する腕前だ。
褒美を与えよう」

一瞥すらせず。
男に瞳を向けることすらなく、セイバーはそう告げる。
ソニアと呼ばれた少女もまた、男のことは眼中にない。
ソニアの瞳の中には、セイバーしか映っていない。

「じゃ、じゃあ―――」

助けてくれるのか、と。
男が続けようとした言葉は、紡がれることはなかった。
一閃。
目で追うことすら不可能。
反応するなど以ての外。
避けることなど、到底敵わない。
ごとん、と。
サッカーボールほどの頭蓋が、地面に落ちる。
その表情は、己の首が落とされたことにすら気づいていない。

「疾く消えよ。それが褒美である」

血液が飛び散る前に。
ソニアが手を伸ばす。
頸動脈から溢れた血液は、ソニアの掌に触れた瞬間―――黒いクズと化し、残った肉体すら消える。

「さすがはソニア。仕事が速いな」

男は、アサシンと呼ばれたサーヴァントのマスターであった。
しかし、所詮は暗殺者。
マスター殺ししか脳のないサーヴァントなど、セイバーの前では取るに足らぬ塵以下である。
一刀の元に斬り伏せ、残るはマスターの男だけだった。
しかしみっともなく命だけはと乞うたので、貴様の価値を見せてみよと告げたところ、料理人だと言うので腹ごしらえに使ったまで。
この部屋も、その男の自室だ。
今後の為に生かしておくという手もあったが、食物などこの御時世何処でも確保できる。
部屋の端で喚かれる方が喧しいため、首を落としておいた。
雉も鳴かずば撃たれまい、とは何処の国の言葉だったか。

「殺す必要、あったんですか」

すると。
背後から、声が聞こえた。

「あの人はサーヴァントももういなかった!殺す必要、なかったじゃないですか!」

声を荒げている。
女の声だ。
語気が荒ぶると同時に、長い髪が乱れる。

「こんな簡単に、人を殺すなんて……!」

光夏海。
それが、この女の名だった。
セイバーからすれば、最初に名前を聞いただけで、自分でもよく覚えていたものだと感心する。

「これ以上、殺すのは―――」
「―――四度目」
「……え?」


121 : 思考と変換 ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:31:49 WS18aFU.0
突如放たれたセイバーの言葉は、夏海の言葉を断ち切る。
答えが返ってくるなど思っていなかったため、素っ頓狂な声をあげる。
返された言葉は、酷く冷ややかで。
刃そのものだと勘違いするほどに、冷たかった。

「お前がマスターでなければ、この刃で首を落としていた回数だ」

差し出された手は、四本の指を立たせ、『四』という数字を強調させている。

「お前は大人しく魔力のみを提供しておれば良い。
何、外を出歩く自由ぐらいはくれてやる。
魔力源として必要な限りは守ってやる。
奴隷としては破格の待遇であろう?」

その言葉は、有無を言わせぬ迫力があった。
これは、殺気、か。
空気自体が凍ったような錯覚を覚える。
肺に流れる空気が、針のように尖っている感覚が襲う。
何も言い返せなかった。
バンっ!と。
扉を叩きつけるように開き、夏海は外に飛び出ていく。
セイバーは止めもせず、目すら向けない。

「全く、食事の後の余韻さえ味わさせてくれぬとは、騒がしいマスターだ」

ソニアは、首を傾げセイバーを見る。
あの奴隷のことだ、気にするなと再び頭を撫でてやると気持ち良さそうに、目を細めた。
その姿がとても愛らしくセイバーはまた微笑む。

「このようなつまらぬ些事に我輩が繰り出されたのも遺憾だったが―――ソニアとまた会えたのは、僥倖だな」

セイバー。
剣の英霊、中世の騎士。
魔法少女『プキン』は、そう告げた。




○ ○




町の中を、ずんずんと進んでいく。
その顔は怒りと、少しの恐怖が現れている。

(あんなの酷いです、あんまりです……!!)

サーヴァントという存在を使った戦争。
聖杯を求める戦争というのはわかった。
だが、無駄に命を奪うのは許されることではない。
夏海としても、それだけは譲る気はなかった。
いざというときは、令呪―――この刻まれた絶対命令権で従わせることも吝かではない。
だが。
だが、しかし。

(……無理です)


122 : 思考と変換 ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:32:38 WS18aFU.0
セイバーの目が届く距離で令呪を使っても、命令を告げる前に首を落とされるだろう。
かと言って、近くにいなければ凶行を止めることもできない。
『将軍でも閣下でも好きに呼ぶが良い』と初対面時に告げられた時は、意外といい人なのかな、と思ったがそんなことはなかった。
まるで、抜き身の剣だ。
不用意に触れれば切り裂かれ。
あの少女―――ソニアという鞘がなければ、あらゆるモノを殺し尽くすだろう。

(此処には、士くんもいない。
ユウスケもいない。
私が、私がなんとかしなきゃ)

大した力も持っていない。
変身もできない。
士たちを待っていることしかできない。

だが、それでも。
此処には自分しかいないのだ。
ならば、自分がやらねばならない。

セイバーを止める。
凶行を止める。
彼女は、スノーフィールドの地にて、決意を固めた。


123 : 思考と変換 ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:38:01 WS18aFU.0
【出展】魔法少女育成計画limited
【CLASS】セイバー
【真名】プキン
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力B 耐久B 俊敏A++ 魔力C 幸運D 宝具C

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
魔法少女(旧式):C
清く正しく、人のため世のためにその魔法を使う、少女達の憧れ。
その旧式。
人体を遥かに超えた能力を持つが魔力とは別に、食物を必要とする。
しかし、数々の拷問・冤罪が発覚し監獄に捕らえられた彼女はランクが下がっている。

拷問技術:B
 卓越した拷問技術。拷問器具を使ったダメージにプラス補正がかかる。
彼女の場合、剣を利用したため剣に関してのダメージプラス。

将軍の鑑識:A
人間観察の技術。
細かな表情、動き、目線などから相手の自覚していない心すら見極める。

悪辣な教育:A
―――『悪いことをするとプキンとソニアがくるよ』。
ある地方にて、残虐を極めた二人の言い伝えが伝承として残り、言うことを聞かない子供を叱る際に使われた言葉。
その言葉を聞いた子供は恐れ、泣き、親の言うことを聞いたという。
プキンの周囲1kmに対する探査能力。
世間から見て『悪いこと』を行っている人間への自動探知能力。
生前所持していない能力だが、後世の伝承により獲得した。

【宝具】

『添い遂げよ継ぎ接ぎ乙女(マジカル・フォー・ソニア)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:0

『降れたものをボロボロにする』魔法を持つ少女の召喚。
常時発動宝具であり、サーヴァント『ソニア』を召喚する。
プキンの在るところソニア在り、ソニア在るところプキン在り。
プキンにはソニアが必要であり、ソニアにはプキンが必要なのだ。
存在そのものが彼女の精神を安定させる要因であり―――彼女が消失すれば、プキンを支える支柱は消え、プキンに狂化:E相当のスキルを与える。
サーヴァントと同じであるため、霊核を破壊されれば消失する。

『将軍振るいし思考変換(シンキング・チェンジ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:2 最大補足:2

彼女の持つレイピアで傷つけた相手の『考え』を改竄する。
同士討ちや幻覚を見せ付けるなど、大抵の事は何でも出来る恐るべき能力。
かつてはこの能力で相手にデタラメな罪状をやったと認識させ冤罪にしてきた。
更に能力の対象には自分も指定可能。
自分に能力を掛けてダメージを誤魔化し、頭部を半分吹き飛ばされても胴体を切断されても無理やり戦える状態に持っていくという荒業を披露している。
しかし、能力の対象は1人のみ。
別の人物に能力を発動すると、直前まで能力に掛かっていた人物は効果が切れて認識は正常に戻る。


124 : 思考と変換 ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:39:16 WS18aFU.0
【人物背景】
百三十余年前に優秀な監査役として数々の魔法犯罪者を取り締まり「将軍」と讃えられていたが、余興のためだけに自身の魔法により多数の冤罪を生み出した事が後に判明し魔法刑務所内で封印刑に処され、以後も「汚れ仕事」がある毎に封印解除されては駆り出され、解決したら再び封印される人生を送っていた。
ピティ・フレデリカの手により封印を解除され脱獄、彼女との取引で行動を共にする。
今の技術が確立する前の旧型の魔法少女であり、現行の魔法少女違い食事が必要で大食漢。
残虐でドSな性格。
残酷な拷問が趣味というとんでもない趣向の持ち主で、多数の冤罪も全て趣味として行ってきたものだった。相手を痛めつけるのが大好きで、特に妖精を拷問に掛けるのが一番楽しかったという。
男装の麗人のような中性的で貴族風味な喋り方をする。
一人称は「我輩」。活躍した時代と場所からか教養が高く、立ち振る舞いも気品が感じられる。
また、敵であっても尊敬するに値すると感じた相手には敬意を表する騎士道精神も持つ。
しかし礼を知らぬ相手には特に言葉をかけることもなく首を落とすなど、残虐。
借りは必ず返す。
旅の途中で出会い見出したソニア・ビーンの事を非常に大切に思っている。
本来は英語しか喋られないが、召喚に辺り知識を与えられているため他の言葉も話すことができる。

【サーヴァントとしての願い】
ソニアと共に現世に甦るのも良い。
とりあえず、この場を好きに生きる。

【出展】
 仮面ライダーディケイド

【マスター】
 光夏海

【参戦方法】
 写真館にトランプが紛れ込んでいた模様。

【人物背景】
光写真館で受付係をしている女性。
20歳。一人称は「私」。「夏海の世界」出身。誰に対しても敬語で話し、他人の首筋にある「笑いのツボ」を押すことで相手を否応無しに大笑いさせる光家秘伝の特技を持つ。
士からは「ナツミカン」とも呼ばれる。
大勢の仮面ライダーがディケイドに倒される夢をよく見ており、士が変身したディケイドにも警戒心を抱いていた。
士が世界を旅する様告げられたことを知り、前述の夢に対する不安からその旅に同行する。
度々鳴滝から接触を受けディケイドの危険性を訴えられているが、自身は士の優しさを信じており、あらゆる世界から迫害を受ける士の「帰る場所」になりたいと願う様になる。
少なくとも最終回以前より参戦。

【weapon】
なし

【能力・技能】
・笑いのツボ
他人の首筋を押すことで笑いを止まらなくさせる。

【マスターとしての願い】
 ない―――が、その前にセイバーを止めなければと思う。

【方針】
セイバーを止めたい。


125 : ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:39:41 WS18aFU.0
投下終了です


126 : ◆DpgFZhamPE :2017/01/06(金) 00:43:24 WS18aFU.0
『思考と変換』の宝具の『添い遂げよ継ぎ接ぎ乙女』を修正します
正しくはこちらです

『添い遂げよ継ぎ接ぎ乙女(マジカル・フォー・ソニア・ビーン)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:0

『降れたものをボロボロにする』魔法を持つ少女の召喚。
常時発動宝具であり、サーヴァント『ソニア・ビーン』を召喚する。
プキンの在るところソニア在り、ソニア在るところプキン在り。
プキンにはソニアが必要であり、ソニアにはプキンが必要なのだ。
存在そのものが彼女の精神を安定させる要因であり―――彼女が消失すれば、プキンを支える支柱は消え、プキンに狂化:E相当のスキルを与える。
サーヴァントと同じであるため、霊核を破壊されれば消失する。


127 : ◆NIKUcB1AGw :2017/01/06(金) 23:21:59 .Zh06Jo.0
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます


128 : バーバラ&ライダー ◆NIKUcB1AGw :2017/01/06(金) 23:22:41 .Zh06Jo.0
記憶を取り戻すのは、さほど難しくはなかった。
この世界は、彼女のいた世界とはまったく異なる文化を発展させていたから。
あるいは、彼女の秘める膨大な魔力がムーンセルの細工を打ち破ったのかもしれない。

「聖杯戦争、か……」

鮮やかな色の髪を揺らしながら、少女は呟く。
彼女の名は、バーバラ。偉大なる魔女の力を継承する者。


◇ ◇ ◇


「お姉さんが僕のマスターだね? 僕は戦部ワタル!
 クラスは、えーと……。あ、そうそう! ライダー!
 よろしくね!」

バーバラの元に召喚されたサーヴァントは、まだ幼さの残る……というか、どう見ても幼い少年だった。
剣や防具を身につけてはいるが、とても英霊という立場にふさわしい戦士には見えない。

「あっ、その表情……。お姉さん、僕の強さを疑ってるね?」
「えっ、あー、うん」
「そうあっさり認められると、それはそれで悲しいなあ……」

素直にうなずくバーバラに、ワタルはがっくりとうなだれる。

「まあ、間違ってはいないんだけどね。僕だけじゃ、サーヴァントとしてはそんなに強くない。
 けど、僕はライダーだからね。宝具に乗ったときが本領発揮だよ」
「ライダーっていうのは、乗り物に乗って戦うんだよね?
 強い乗り物ってことは……船?」

バーバラの世界にあった乗り物で、戦闘に使えそうな乗り物といえばそのくらいしか思い浮かばない。
さすがに、じゅうたんやベッドが恐るべき戦闘力を発揮するというのはあり得ないだろう。

「ハズレ! 俺が乗るのは魔神っていうんだ。
 ロボットみたいなものっていえば、わかりやすいかな」
「ロボットっていうと、からくり人形みたいなやつ?
 そんな魔物もいたなあ、そういえば。
 でも、人が乗れるような仕組みにはなってなかったと思うけど……。
 ワタルくんの宝具は、乗れるようになってるんだ」
「まあね。龍神丸っていって、すげえかっこいいんだぜ!
 ちょっと強すぎるんで、宝具として呼び出したときには少しパワーダウンしてるみたいだけど……」
「へえ……」

楽しげに語るワタルの姿が、バーバラの好奇心を刺激する。


129 : バーバラ&ライダー ◆NIKUcB1AGw :2017/01/06(金) 23:23:32 .Zh06Jo.0

「私も見てみたくなったな、その龍神丸っていうの。
 ねえ、今出せる?」
「え? 出せることは出せるけど……。
 こんなところで出したら、部屋が吹っ飛ぶよ?」
「あ、そうか……。人が乗れるってことは、それだけ大きいってことだもんね……」

おのれの想像力を欠いた発言を反省し、バーバラは気まずそうに顔を歪める。

「ん? ちょっと待って?
 そんなに大きいなら……。それ呼び出したら、すごく目立つことにならない?」
「え……? あー、そう言われればそうか。
 今まで魔神が当たり前の世界でしか戦ってこなかったから、その辺考えたことなかったよ」
「おーい! 大丈夫なの、そんなんで!」
「まあ、なんとかなるって!」

屈託なく笑うワタルを見て、バーバラはそれ以上追求する気が失せてしまった。

「というかさあ。そもそもお姉さん、積極的に聖杯狙うつもりなの?
 この聖杯戦争って、本人の考えに関係なく参加させられてるって聞いたんだけど」
「ああ、そうか。まずはそこをはっきりさせないといけないよね」

バーバラの表情が引き締まる。

「叶えたい願いはあるよ。会いたいけど、絶対に会えない人がいる。
 なんでも願いが叶うっていうなら、その人に会いたい。
 けど、そのために罪もない人と戦うのは……ちょっと辛いかな……」
「そっか、その気持ちはわかるよ。
 俺もサーヴァントとして召喚されはしたけど、悪いやつ以外とは戦いたくないから」
「ん。わかってくれてありがと」

ワタルから返ってきた言葉に、バーバラは表情を緩める。

「けど、戦う気がないわけじゃないよ。
 本当に聖杯がどんな願いでも叶えてくれるのかはわからないけど……。
 もし本当なら、絶対に悪いやつには渡しちゃいけない。
 それを阻止するためには、戦わなきゃいけないと思う」
「もちろんだよ! 任せて、お姉さん。
 悪いやつは、必ず僕がやっつけてみせる。この、救世主ワタルがね!」

力強く宣言し、屈託のない笑みを浮かべるワタル。
バーバラはそこに、慕い続ける「彼」と同じ輝きを見た気がした。

「――――」

バーバラが思わず呟いた彼の名は、ワタルの耳に届かぬほどかすかなものだった。


130 : バーバラ&ライダー ◆NIKUcB1AGw :2017/01/06(金) 23:24:41 .Zh06Jo.0

【クラス】ライダー
【真名】戦部ワタル
【出典】魔神英雄伝ワタルシリーズ
【性別】男
【属性】秩序・善

【パラメーター】筋力:D 耐久:E 敏捷:C+ 魔力:C 幸運:A 宝具:EX

【クラススキル】
騎乗:A++
乗り物を乗りこなす能力。
竜種すら乗りこなすことができる。

対魔力:B
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Bランクでは、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい

【保有スキル】
心眼(偽):C
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

勇猛:B
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。


【宝具】
『勇者の剣』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0-1 最大捕捉:1人
救世主の証であり、龍神丸を召喚するためのキーにもなっている剣。
刃がないため、本来の殺傷力は低い。
しかし神々の世界の産物であるがゆえに強い神秘が宿っており、サーヴァント相手には高い攻撃力を発揮する。
逆に言えば神秘性に乏しい一般人や物質に対しては、ランクにふさわしい攻撃力は持ち合わせない。

『龍神丸』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:30人
ワタルが作った粘土細工を基に、七龍神の一体である金龍が姿を変えた魔神。
いわゆる巨大ロボだがおのれの意志を持ち、言語によるコミュニケーションが可能。
ワタルが搭乗しなくても活動することは可能だが、その場合は戦闘力が大幅に低下する。
主な攻撃手段として肩に装備された爪形の武器を飛ばす「龍牙拳」、火の玉を飛ばす「炎龍拳」、
光の鎖を射出する「飛龍拳」、肩から電撃を放つ「雷龍拳」、そして相手を両断する決め技「登龍剣」などがある。
異世界の存在であるとはいえ「龍」であり「神」である龍神丸は宝具としてであってもなお聖杯戦争の枠に収まりきらない神秘を秘めており、
その神秘をギリギリまで劣化させることでなんとか現界を果たしている。
それ故に龍王丸、新星龍神丸、龍星丸などの強化形態へ変身することはできなくなっている。

【weapon】
本来なら様々な武器やアイテムを持っているが、龍神丸にリソースをあらかた持っていかれているため現在使えるのは以下の装備のみ。

「勇者の装束」
ワタルが身につけている鎧や冠。
身体能力を向上させる効果があり、防御力もそれなりに高い。

「万能ハイカラ靴」
かかとを打ち合わせることでローラースケートに変形する靴。

【人物背景】
かつて神々の世界・神部界を救った救世主「わたる」の生まれ変わりとされる小学生。
金龍によって神部界に招かれ、その中心地である創界山を占拠していた魔界の者・ドアクダーとその一味を打ち破った。
その後も幾度となく創界山の危機を救ったとされているが、それぞれの逸話の間には矛盾が存在するものもあるため
平行世界の逸話が混入している可能性が高いとされている。
今回召喚されたワタルはドアクダーとの戦いの時の彼をベースとし、他の逸話の記憶もおぼろげながら所持しているという状態である。

性格は明るくお調子者。スポーツは得意だが勉強は苦手な、典型的な腕白少年タイプである。

【サーヴァントとしての願い】
救世主として人助け

【基本戦術、方針、運用法】
勇者の剣は当たれば強力だが、基礎能力の低さは否めない。
やはり戦闘においては龍神丸が必須となるだろう。
しかし小型の部類に入るとはいえ、曲がりなりにも巨大ロボ。
神秘の秘匿という条件を守って使用するのは、非常に難しいといえる。
その点をカバーする手段を見つけなければ、苦しい戦いとなるだろう。


131 : バーバラ&ライダー ◆NIKUcB1AGw :2017/01/06(金) 23:25:46 .Zh06Jo.0

【マスター】バーバラ
【出典】ドラゴンクエストVI 幻の大地
【性別】女
【令呪】龍の顔と、2本の角

【マスターとしての願い】
「彼」にまた会いたい

【weapon】
冒険を終えた後からの参戦であるため、装備は全て手放してしまっている。

【能力・技能】
「呪文・特技」
転職により「魔法使い」「僧侶」「遊び人」「踊り子」「賢者」「スーパースター」をマスターしている。
修得している全ての呪文・特技を並べると膨大な量になってしまうため、ここでは割愛する。
なお「ザオリク」や「精霊の歌」など蘇生効果を持つ呪文・特技は、この世界では使えない。

「マダンテ」
カルベローナの長に代々継承されてきた、究極呪文。
おのれの全ての魔力を解き放ち、壮絶な爆発を起こす。
しかし聖杯戦争において、マスターが魔力を使い果たすということはサーヴァントを維持できなくなるということに等しい。
すなわち、文字通りの最後の切り札である。

【ロール】
高校生

【人物背景】
記憶と肉体を失い、精神体で世界を放浪していた少女。
月鏡の塔という場所である青年と出会い、彼の旅に同行することになる。
その正体は魔王に封印された魔法都市・カルベローナの住人で、次の長となるべき存在。
封印された際に街からはじき出され、記憶を失っていたことが後に明らかとなる。
すでに戻るべき肉体を失っているため大魔王が倒され夢と現実の境界が修復された後は夢の世界でしか生きることができず、
現実世界で暮らす仲間たちとは別れることとなる。

今回はエンディング後より参戦している。

【方針】
聖杯を狙うかは保留。
ただし、悪人に聖杯が渡ることだけは避ける。


132 : ◆NIKUcB1AGw :2017/01/06(金) 23:27:00 .Zh06Jo.0
投下終了です


133 : ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:07:11 YxP75/hI0
投下します


134 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:08:37 YxP75/hI0





 託したいものがあった。それは彼女の腕を掴めなかった手に握られた、掛け替えのない小さな希望。





 失ったものがあった。守れなかったものがあった。
 全ての始まりとなったあの日、あの時。たった一人生き残ったとばかり思っていた俺に残された最後の希望。それがコヨミだった。
 大切な人だったと、今ならば臆面もなく断言できる。彼女と過ごした時間は瞬きのように短く過ぎ去っていったけど、彼女を思い出させるものは数えきれないくらいあった。

「俺は、希望の魔法使いだ」

 ……この手は無限に届きはせず、掬える砂も一握が限界。運命という言葉は、そうした人の無力の限界点を可視化する測量値と言えるのかもしれない。
 俺は負けた。失った。伸ばした腕は届かず、無様に地を這わされた。そこが俺の限界だった。
 そうして彼女を失って、残された願いに縋りつき、心のどこかに迷いを抱いていた。

 それは事実だ。けれど。

「俺の希望が溢れる世界で、俺が負けるはずないんだよ」

 それがどうした。俺は負けたが負け犬じゃない。コヨミを想うこの気持ちは、コヨミと過ごした思い出は、今もこの胸に変わらず刻み込まれている。
 たとえ何があっても、どんな悲劇が訪れようと、忘れない。忘れない。何も見えず聞こえなくなっても、それだけは忘れない。

 剣を握る指に力を込める。全ての気力を振り絞り、燃え盛る炎として魔力を放出する。
 今この時に、この場所で、俺を倒せる者など誰一人として存在しない!

「さあ―――フィナーレだ」

 振り抜かれた炎の刃が、最後の亡霊(ファントム)を打ち砕いた。

 ………。

 ……。

 …。


135 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:09:06 YxP75/hI0





 晴人は目を開いた。
 モノクロに染まったいつかの記憶。
 騒がしくも輝かしい、みんなのいるいつもの面影堂がそこにはあった。

 ゆっくりと、噛みしめるように。晴人は奥に向かって歩き出す。
 そして、彼女の前で立ち止まり。

「……コヨミ」
「晴人?」

 最早聞くことなどありえなかったはずの懐かしい声が、晴人の鼓膜を震わせた。
 記憶の中にある彼女の姿そのままに、コヨミは視線を投げかける。その光景に、切なさとも愛しさともつかない何かが胸の中でぐるぐると渦巻き、感情が涙となって溢れ出そうになるのをぐっと堪えて言葉を続けた。

「これ、預かってて」

 撫ぜるようにコヨミの手を取り、持っていた指輪をはめる。コヨミは困ったような、驚いたような、けれど決して不快ではない感情と共に、晴人を見遣った。

「いいけど……何?」
「俺の希望」

 たった一言。それだけの言葉に、晴人が抱いた全てが込められていた。
 それ以上の言葉は必要なかった。全ては、コヨミにこのリングを託された瞬間に結実していたのだから。

「分かった……大事に持ってる」

 言ってコヨミはたおやかな笑みを浮かべ、その指に填められた"希望"を見遣った。
 それを見た晴人は静かに踵を返し、何かと決別するかのように背を向けて歩き出す。
 二度と触れ合うことのない手のひらから、それでも暖かなものが伝わってくるような感触と共に。
 晴人は、笑った。

 コヨミ。
 俺は、戦うよ。





   ▼  ▼  ▼


136 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:09:42 YxP75/hI0





 願ったものがあった。それは失われた陽だまりで託された、取るに足らない小さな祈り。




「許さない、認めない、消えてなるものか―――時よ止まれ」

 俺には為さなければならない使命があった。全てを失い、奪い尽くされ、残照と知りながらも光(せつな)の残骸をかき集めてでも遂げなければならないことが。
 このまま放っておけば波旬の理が宇宙を覆い尽くす。滅尽滅相―――あらゆる生命が死に絶える唯我の理。俺はどうしても、それを完成させるわけにはいかなかった。
 それが覇道の太極に至った者の果たすべき責任というもの。己の意志で、人を世界を、宇宙ごと塗り潰せる力の意味とその重さ、軽いはずがないだろう。
 だから俺は座を握らないし、波旬にも握らせない。ただそれだけを誓い、ひたすらに生き延びてきた。

 別に人類の恒久的世界平和などという、出鱈目なことまで言いはしない。
 ただ、生まれては消えていく命の連続性を絶やさぬこと。次があるという最低限の、希望と可能性を残すこと。
 俺の太極はそれが甚だしく極小で、波旬に至っては完全皆無だ。総ての理とその歴史が、そこで断絶してしまう。
 だから、俺は―――

「真実はたった一つ。亡くしてはならない光(せつな)があるから」

 俺は次代を選ばないといけなくて。
 それが生まれる余地を維持しないといけなくて。
 波旬の座を完成させるわけにはどうしてもいかなかったから。

「ここに生き恥晒してんだよ。もう誰もいなくなってしまったこの宇宙でな!」

 それこそが――

「俺の女神に捧ぐ愛だ!」

 俺に遺された、たった一つの譲れない思いで―――

「他は何も見えない。聞こえない。ただ忘れないだけだ。俺は彼女を愛している!」

 たとえ何があっても、どんな悲劇が訪れようと、忘れない。忘れない。何も見えず聞こえなくなっても、それだけは忘れない。
 拳を握り、地を踏みしめる。全ては今、この時のために。


137 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:10:29 YxP75/hI0

「息絶えろ、薄汚い波旬の細胞! この地は絶対に渡さない!」

 いや、もういい。もう無間神無月は必要ない。

 だから見せてくれ。お前の為したい夢の形というものを。奴に打ち勝てるのだという証明を。
 俺達の黄昏に負けないほどの、輝く命の可能性というものを。

「仲間の魂に懸け、俺は負けない」
「はッ……それなら俺も負けてねえよ!」

 それを目の前の男―――新鋭は烈しく言い返す。振るわれる億の剣閃、星を裁断する時空の断裂すら押し返し、秒間毎に臓腑を抉られながらも咆哮した。

「何考えてんのか分かんねえ、どうしようもないあんちくしょうども。そして我らが総大将久雅竜胆に―――ぶっちぎりで格好良いこの俺様、坂上覇吐!」

 致命傷を無限に食らいながらも死にはせず、どころか太刀を振りかざし猛る様はこの男をよく表している。
 生きると誓っているのだ。万象滅ぼす波旬の宇宙と繋がりながら。それでも、未来を形作る可能性を身に宿している。

「てめえらを討つという目的の下、一つに集まった益荒男共で」

 ああ、それは―――
 なんて眩しい、求め焦れたもので―――

「俺の仲間だ! 全員いなきゃつまんねえ!」



「―――」



 その時生じた感情を、口では上手く説明できそうになかったから。

「それがお前の答えか」

 千の言葉の代わりに、天から巨神の腕を打ち下ろした。
 押し潰して視界を覆ってしまわねば、きっとこの男に自分の表情が見えてしまうと思ったから。

「―――行くぞ、坂上覇吐! 久雅竜胆!
 これこそ俺の全身全霊、至大至高の一閃だ!」

 巨大神が歓喜の咆哮をあげる。
 溢れんばかりの哄笑が轟く。

 よく言ってくれた、それでいい。
 見たか波旬、第六天。これこそ貴様を討ち滅ぼす新たな光に他ならない。
 だから。

「これがどういうものなのか、忘れることは許さない。
 全てこの刹那に焼き付けろ、覇道の本質を理解しろ。
 お前たちが後の創世を望むなら、胸裏に刻み込んでおけ!」

 ―――俺達の戦いは無駄じゃなかった。
 今は素直に、それを信じることができた。

「魂の輝きを謳った言葉、今こそ此処に証明しろ!」

 そして、全てを消滅させんとする爆光が、天空と共に墜落して。

 ………。

 ……。

 …。



「……そうだ、それでいい」
「お前の、勝ちだよ」

 全ての足掻きが此処に結実したのだと、万感の思いと共に確信して。
 天魔と呼ばれた一人の男の生涯に幕が下ろされたのだった。





   ▼  ▼  ▼


138 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:11:31 YxP75/hI0





「晴人、か。お前はそう言うのか」

 その名を、異形の姿をしたサーヴァントが反芻する。何かを得心したかのような態度だ。それを、晴人は釈然としない表情で答えた。

「なんだ。何か気にかかることでもあったのか?」
「名は体を表すとはよく言ったものだと思ってな。察するに、お前の渇望も"そういうもの"なのだろう」

 そう口にするサーヴァント、夜刀と名乗った異形の男は、晴人に鋭い視線を向けた。
 朱い―――彼を一言で評すれば、そのようなものになるだろうか。文字通り血のように朱い髪の下、鮮血が如き赤眼が覗いている。黒い肌は憎悪が如き濁った感情を思わせて、纏った白い衣に付き従う双蛇が人と然程変わらない姿を邪神めいたものに歪めている。
 人間の定義に当て嵌めることはできないが、それでもかつては端整であったことを窺い知れる様相はしている。しかしその威容は一見すれば悪鬼羅刹と見紛うほどで、なるほど確かに、復讐者(アヴェンジャー)というクラス名にも頷けるというものであった。

「ご明察、ってところかな。それはやっぱり夢の中で?」
「ああ。双方向に流れ込むものだ、お前のほうも多かれ少なかれ知り得ているとは思うが」
「まあね」

 聖杯戦争において、マスターとサーヴァントにはある種の共鳴夢とも言える現象が発生する場合がある。魔力を供給するパスを繋いでいる関係か、時に全く別のものまでもが流れ込んでしまうのだ。
 とはいえ、晴人も夜刀も、特に気にするようなことではなかった。やましいことなど何もなく、この期に及んで隠し立てするようなことでもなかった。

「それにしても、聖杯ね……」

 言って、晴人は夜明け前の薄らいだ靄のかかる空を見上げた。反芻するのは数日前の記憶だ。
 笛木奏とファントムに纏わる一連の騒動が解決した後、晴人はとある目的のために世界中を旅してまわっていた。各国の様々な場所に首を突っ込み、必然としてそれなりの頻度で厄介事に遭遇した晴人は、その信条から事態の解決に乗りだし"魔法"の力を行使することも少なくなかった。
 すると礼の一つや二つを受け取る、なんていうことも珍しくなく、件の数日前においては子供たちとトランプ遊びをした後、旅のお供にと手渡されるということがあった。
 それ自体はどうということはなく、むしろ晴人としても楽しい時間を過ごせたのだが、どうにも受け取ったトランプに余分な一枚が含まれていたらしい。ジョーカーを含めた54枚のトランプに、更に一枚含まれていた「白紙」のカード。日本に帰ったあとも持ち歩いていたそれのおかげか、そのせいか、晴人はこんな世界に飛ばされる羽目になったというわけだ。

 肌に刺さる寒気と、まばらに降る小さな雪が印象的な灰色の街。アメリカ合衆国、スノーフィールド。
 聞いたことのない街だった。自分の中にある知識と照らし合わせても、アメリカにそんな街があるということは初耳だった。とはいえ、主要な都市ならともかく細々とした地理などは最初から晴人の知識範囲とは噛み合わってないのだが。

「何でも願いが叶うなんて眉唾だけど、やっぱりアヴェンジャーは欲しいわけ?」

 聖杯についての知識は、最も新しい記憶となって晴人の脳内に叩き込まれている。
 これも聖杯とやらの恩恵なのか、それとも何かしらの調整なのか。分からないが、何とも親切なことだと思う。そんなところに気を配るくらいなら、そもそも参加者の選定に気を配れという話ではあるが。

 だから、とりあえずとして晴人はそんな疑問をぶつけたのだった。サーヴァントとは聖杯に願いを託す存在だという概論めいた知識もまた、晴人の脳内にあったからだ。
 しかし。


139 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:12:11 YxP75/hI0

「いや」

 対するアヴェンジャーの答えは至極短い、そして知識にあるサーヴァント像とはかけ離れたものだった。

「おっとこれは予想外。訳を聞いても?」
「別に大したことじゃない。俺の願いは既に俺以外の奴に託している。そしてそれは、こうして俺が召喚されたという時点で"果たされた"と確信できた」

 そう口にする夜刀の顔と声音には決然としたものがあったが、同時に何かをやり遂げたような誇らしげな感情も含まれていた。

「お前はどうだ、マスター。お前はこの聖杯戦争で一体何を求め、何を為す」

 逆に夜刀が問うてきた。
 その口調には厳粛な響きがあったが、慮るような響きもまた聞こえてくる。なんとも不器用な性格なんだなと、晴人は口には出さず内心のみで思った。

「……なあ、アヴェンジャー。一つ聞いてもいいかな」

 ぽつり、と。
 晴人が呟いた。それは質問の答えではなかったが、その疑問符には彼の持つ"答え"が関わっているのだということが言外に分かった。
 故に夜刀は言葉なく疑問の続きを待って、晴人は静かに言葉を繋げた。

「仮に神さまとやらが人の願いを叶える存在だとして。けど俺達人間はそんなもの必要ないって言ったとして。
 それでも人の願いを叶えようとする聖杯(かみさま)は一体なんなんだろうな」
「決まっている」

 夜刀は間髪入れることなく、苦々しささえ交えた口調で答えた。

「人はそれを悪魔と呼ぶんだ」
「……そっか」

 そこで晴人は吹っ切れたような、そうだよなとでも言わんばかりに薄く笑みを浮かべ。

「俺さ、ずっと迷ってたんだ。コヨミの指輪を手放したくないって、心のどっかで思ってた。
 立ち止まっても何にもならないって、知ってたはずなのにな」

 思い出は大事だ。それは前に進むための力となる。けれど、それにばかり縋っていては重しとなって人の足を止めてしまう。
 あの時の自分がそうだった。思い出ばかりを背負って、未練がましく後ろを振り返るしか能がない。
 仮にあの時の自分がここに呼ばれていたならば、あるいはコヨミのためと取り繕って聖杯を目指した可能性も、一概には否定できなかっただろう。
 それほどまでに、晴人の内に降り積もった思い出は、重かった。

「……忘れられないもんだよな、過去ってのは」

 忘れられないから苦しむ。いつまでも。あるいはそれが、人の持つ弱さというやつなのかもしれない。
 けれど、いいやだからこそ。


140 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:12:49 YxP75/hI0

「だから決めた。俺はもう迷わない。コヨミのことも背負っていく。けど……
 もう二度と、俺は立ち止まったりしない」

 過ぎた過去は戻らない。失ってしまったものは帰らない。だから人は、思い出を手のひらに包むように抱えて生きていく。
 それを教えてくれた恩人らの想いと選択を抱きしめて、怒りも悲しみも超越した彼に迷いなどない。他ならぬ自分自身のアンダーワールドへと潜り、そこにホープリングを託した時の想いも、在りし日の形で胸にある。

「聖杯には何も望まない。そんなものを目指すなんてのは、あの指輪のことで迷っていた時の俺と何も変わらない」
「それが、お前の選択か」
「ああ。それに早いとこ帰らないと、うるさいのが待ってるしな」

 言って、晴人は不意に手を翳した。
 眩い光が飛び込んできたのだ。空を見上げれば、いつの間にか朝日が昇っていた。
 それはいつかの黄昏にも劣らぬほどの輝きに満ちた、夜明けの姿であった。

「……何度でも言ってやるさ」

 ―――操真晴人が自らの迷いを断ち切るに至った出来事。自身のアンダーワールドへ"希望"を託したという行為に、実際的な意味はないのかもしれない。
 それは決して現実ではなく、既に失われた彼女の影に想いを馳せたに過ぎない。
 自己満足と言われたならば、完璧な反論などできるはずもない。

 しかし。

 それでも、操真晴人がやったことに意味はある。
 ゆっくりと、そして駆け足で。
 確かに歩んだ道がある。
 ささやかな、けれど決して消えない意味がある。
 例え在りし日の残影であろうとも、そこに感じた想いは現実に他ならない。
 ―――だから。

「俺が、最後の希望だ」

 大見得で切った啖呵が、偽りの冬空を震わせた。絶望の渦巻くこの世界を吹き払う祝いの神風であるかのように、ただ真っ直ぐに。

 ―――伸ばした手はきっと、あの青空へ届くだろう。


141 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:13:17 YxP75/hI0


【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
天魔・夜刀@神咒神威神楽

【ステータス】
筋力B 耐久A++ 敏捷A 魔力EX 幸運- 宝具-

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
復讐者:B
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

忘却補正:EX
忘れ去られたまつろわぬ旧世界の異物。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。例え全てを奪い尽くされ、永劫にも等しい時間が過ぎ去ろうとも、決して。

魔力回復(自己):-
復讐が果たされるまでその魔力は尽きることなく湧き続ける。そう、全ては大欲界に支配された座が塗り替えられるその日まで。

【保有スキル】
鋼鉄の決意:EX
鋼に例えられる、アヴェンジャーの不撓不屈の精神。
全宇宙を覆い尽くす滅尽滅相の理に真っ向から立ち向かい、拮抗など到底不可能であった大欲界天狗道の流出を数千年に渡りたった一人で堰き止め続けたという事実、
そして次代を担う者たちへ希望を託すため、決して世界を終わらせないという意思を摩耗させることなく悠久の時を戦い抜いたアヴェンジャーのスキルランクは規格外のそれを誇る。
本来ならば同ランクの精神耐性・勇猛等を複合する特殊スキルとなるが、アヴェンジャーの場合はこれに加えてその強固な精神性を己の攻撃にも反映させることが可能。
直接的な攻撃の威力に大幅な補正を与える他、彼の放つ攻撃はあらゆるスキル・宝具の耐性を貫通しダメージを与えることができる。
その効果は奇しくも、彼が遥か昔に失ってしまった黄昏の女神の恩寵にも酷似している。

神性:EX
神霊適性を持つかどうか。
セファールの白い巨人や物理法則の具象化たる神霊とは異なる特異な存在であり、本来的な神霊適性とは意味合いを異とするためスキルランクは測定外のそれとなる。
膨れ上がる神気の奔流は荘重にして厳麗。およそ邪気と評せる要素は微塵も有しておらず、ただ圧倒的に、容赦なく、己が波動を流れださせる神格である。

無窮の武練:A+++
ひとつの座の歴史において無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
精神的な影響下は当然の事、地形的な影響、固有結界に代表される異界法則の内部においてすらその戦闘力が劣化する事はない。
超高次元空間である座の深奥や、大欲界天狗道に犯された滅尽滅相の宇宙ですら、彼の武勇が損なわれることはなかった。

反存在:-
かつての戦いで疲弊し消耗した存在であると同時に、既に消え去った旧世界の残滓であるために現世界から存在を拒絶される異物であることを指す。
召喚時の基礎能力に大幅な低下補正がかかり、僅かな残滓程度の力しか揮うことができない。また単独行動時の魔力消費が増大し、幸運判定におけるファンブル率を極限まで増大させる。


142 : 輝く世界の希望 ◆GO82qGZUNE :2017/01/07(土) 10:14:10 YxP75/hI0

【宝具】
『刹那残影・無間大紅蓮地獄』
ランク:■■■ 種別:■■■■ レンジ:■ 最大捕捉:■
新世界へと捧げた超越の物語。時間と空間を凍結させ星天の運行すら静止させる極大域の神威。彼の悔恨、罪業、喪失の象徴にして愛しきものを守護するための理である。
現状、この神威は渇望の残滓を辛うじて残すのみに留まり、一切の力を失っている。この舞台が聖杯戦争という形を取る限り、幾画の令呪を使おうと、例え聖杯の恩寵そのものを用いたとしても決して完全な形で発動することはできない。

【weapon】
ない。かつて手にした女神の刃を、彼が再び身に宿すことはない。

【人物背景】
神州において不可侵の領域と化した穢土に君臨する大天魔「夜都賀波岐」の一柱にしてその主柱。
自身の力の一端により、現世界から一年のうち黄昏の季節である秋の盛りを概念ごと奪い取り、穢土を常に黄昏で満ちた異世界へと変化させている張本人。
無間衆合により新生した姿ではなく、かつての戦いにより極限まで疲弊した姿での現界。

その正体は、旧世界において黄昏の女神を守護せし者の残骸。
全ての宇宙を終わらせる正真正銘の邪神を前に奮起し、たった一人悠久の時間をかけて邪神の理に浸食された世界と戦い続けた、全ての生きとし生ける者たちの恩人にして世界最後の希望だった者。
永劫に失われた想い人への祈りのため、そして彼女が愛した世界を守るために憎悪の泥を纏ってまで生き恥を晒し、仲間たちと笑いあったかつての情景を胸に抱きながら、次代を担う新鋭に全てを託し散っていった一人の男。

【サーヴァントとしての願い】
全ての決着はあの新鋭が成し遂げた。ならば自身に為すべきことは何もなく、ただマスターの「希望」に付き合うのみである。




【マスター】
操真晴人@仮面ライダーウィザード

【マスターとしての願い】
ない。喪失の過去は既に自分の中で決着がついている。
だが、強いて彼の願いを述べるならば―――誰かにとっての最後の希望となる。その指針だけは、決して揺らぐことはない。

【weapon】
・ウィザードライバー
晴人がウィザードへの変身やエレメント変化、各種の魔法を使用するカギとなるアイテム。
ベルト中央の手のひら状のパーツ「ハンドオーサー」に、ウィザードリングをはめた手をかざして使用するシステムとなっている。
従来の魔法使いに当てはめるなら『魔法の杖』といったところか。
右手用の指輪は必殺技の発動や巨大化に分身、専用武器の《ウィザーソードガン》や《ウィザードラゴン》の召喚等の魔法発動に使い、左手用の指輪は変身やスタイルチェンジに用いる。

・ウィザーソードガン
銃と剣が一体化したウィザードの基本武器。銃としても剣としても使える他、変身前でも使用可能。

・ウィザードリング
各スタイルへと変身するため、あるいは各種魔法を行使するために必要な魔法使いの指輪。
基本的なものは大抵揃っているが、ただ一つ「インフィニティウィザードリング」だけは彼の手に存在しない。

【能力・技能】
指輪の魔法使いであり、身に宿す魔力は極めて潤沢。ただし魔法使いと称されてはいるが意味合いとしてはあくまで魔術師の域を出るものではない。
ウィザードライバー及びウィザードリングを使用することで各種スタイルへの変身及び魔法(魔術)の行使が可能。
戦闘能力や特質は変身するスタイルによって大きく左右されるが、オールドラゴンを初めとした極めて強力なスタイルになることも可能である。
しかしそれら能力の行使には当然だが相応の魔力消費が必要となり、サーヴァントを使役しながらの変身には細心の注意が必要となる。

【人物背景】
サバトと呼ばれる生贄の儀式の生き残りとなった青年。
過去に両親を交通事故で失っており、その間際に両親が遺した「晴人は私達の最後の希望」という言葉を胸に刻みつけている。
表面的には飄々とした余裕のある態度を崩さない好青年だが、実際には負の面を人に見せないよう取り繕っているに過ぎない。
自分にとって大事なものを見出し、それを失うまいと足掻き、それでも手を掴むことのできなかった少女が遺した最期の願いを聞き入れ、全てに決着をつけるため戦い続けた男。
本編終了後、「約束の場所」終盤においてアンダーワールドから帰還する直前からの参戦。

【方針】
この聖杯戦争が一体何を意味し、何を目的としているのかは知らない。だが、例えどのような場所であろうとも自分がすべきことは変わらない。
―――最後の希望となる。それだけは、決して譲らない。


143 : 名無しさん :2017/01/07(土) 10:14:39 YxP75/hI0
投下を終了します


144 : ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/07(土) 11:45:33 nWyPENt20
皆様投下お疲れ様です。
拙作「アカネと不愉快な魔法使い」ですが、誤字があったためWikiの方で修正させていただきました。


145 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:33:34 x2Z8ojqE0
投下します。


146 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:34:25 x2Z8ojqE0





 ――エンジェロイドは、夢を見ない。





 ただの兵器として生まれた、否、創られた彼女に、そんな機能は必要とされなかった。
 ならば彼女は、いかなる苦楽も実感することなく無感情に力を振るうだけの機械として役目を終えたのか。
 全く以てその通りだ、となるはずだった。あの日、遥か天空から堕ちた先で、彼と巡り会わなければ。

 もしも彼女が兵器であったならば嫌だ。その言葉は、彼女に真実を告げることへの恐怖を知らせた。
 やっぱり彼女が兵器であって良かった。その言葉は、奪う以外に用途の無いと思われた彼女の武装に新たな意味を与えた。

 己が只の道具でしかないことの証明だった首輪と鎖は、いつしか彼女にとって自らと彼とを繋ぎとめる象徴となった。
 自由になれ。そんな簡素な命令で鎖を断ち切られたことに、胸の中を引き裂かれるような何かを感じられたほどに。

 彼の姿を見つめる度、彼が己以外の異性と中睦ましく触れ合う様を目に入れる度、生じるのは原因不明の動力炉の異常。
 その正体がただの痛苦ではないと、彼女は永い時の果てにやっと気付けた。
 言葉にすれば、ああ、なんて簡単なこと。

 貴方に拾われてから、毎日が、一分一秒が幸せでした。
 貴方が私に感情を教えてくれました。
 貴方のお蔭で、笑えました。

 愛してます、マスター。

 ずっと、貴方のそばにいさせてください。
















「はああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜? 馬っっっっ鹿じゃねぇのォお前? 人間にこき使われるアンドロイドの分際で、なーにが『愛してます』だこのダホが!」






147 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:35:43 x2Z8ojqE0



 見下ろす先にいるのは十代も半ばと思われる少年と、彼にとっての姉あるいは母と思しき女性であった。
 ぐったりと倒れ伏す女性の身体を揺すり、必死の形相で呼びかける少年の姿を見つめ続ける内、アーチャーの胸中に軋みが生じるのに気付いた。
 それは、他者の生を切に願う少年の姿が、あの日憧れた彼の姿にどこか重なって見えたのとほぼ同時であった。
 だから、この地にいるわけのない、最早遠い日の記憶の中にしかいない彼に、心の中で呼びかけてしまったのだ。
 マスター、と。

「ようしアーチャー、次の命令だ」

 その直後。まるでこちらの心の機微を見計らったかのようなタイミングで。
 “今の”アーチャーのマスターである男が、ぬっと醜悪に歪んだ顔を寄せてきて。
 耳元で、愉しそうに囁いた。

「この糞餓鬼をお前のその手でぶっ殺せ。おおっと、一思いになんて殺してやっちゃあいけねえ。ゆっくりじっくり、嬲っていたぶって殺すんだよ。オーケー?」

 マスターがアーチャーへと告げたのは、人の尊厳を踏み躙る道具であれとの命令。
 大切に想う誰かを守るためではなく、誰かを大切な誰か諸共奪うためだけに、アーチャーに兵器であれと要求する。
 そこに、慈愛など一片たりとも存在しない。

「もう一度言うぞ。てめえのかけがえのないご主人サマ、このジェイク・マルチネスからの、ご・め・い・れ・い……だって言ってんだよ」

 思わず首を小さく横に振ったアーチャーを見、不機嫌さを露骨に示しながら、ジェイクと名乗った男は顎でくいと少年を見るよう命じた。
 右手の甲に刻まれた、環状の蛇(ウロボロス)を彷彿とさせる形状の令呪を輝かせることは無い。その代わりとばかりに、一条の鎖をじゃらりと掴んでアーチャーの眼前へと突き付ける。
 その鈍色の鎖は、アーチャーの首元から伸び、ジェイクの右手首へと巻き付いていた。
 アーチャーとジェイクとの関係を示す、絶対服従の象徴であった。

「…………はい、マスター」

 それだけで、アーチャーの心から反抗の意思が弱まっていく。
 従いたくないと思ったはずの命令をあっさりと首肯し、忠実に実行するために自らの両手を伸ばす。
 エンジェロイドとはそういうものだから。アーチャーというサーヴァントは、そのように定義されて創り出されてしまったから。
 少年の四肢を、力任せに一本ずつもぎ取ることも。
 激痛に泣き叫ぶ声を抑制させるために彼の顎を引き千切ることも。
 アーチャーの手で既に虫の息となっていた女性の心臓をこれ見よがしに抉り出すことも。
 声にならない声を上げながら地を這う少年が最期の瞬間まで亡き女性を見つめるのを、黙って見届けることも。
 ただ「マスターの御命令だから」の理由だけで、全て出来てしまった。
 そんなアーチャー自身を茫然と眺めるアーチャーがいることを、同時に自覚した。

「よーーしよしよしよく出来ましたっ!! それでこそ戦略兵器ってもんだなあオイ!!」

 ぱちぱちぱちぱちと鳴り響く拍手。けらけらけらけらと嗤う声。
 アーチャーが人命を奪った事実がさも立派な功績であるかのように、ジェイクは愉快そうに褒め称える。
 どうして少年達を殺す必要があったのか、なんてことを今更聞く気も起きない。
 ジェイク・マルチネスは、こういう男なのだ。
 人間を排することに良心の呵責など無く、そもそも良心と呼べる物があるのかどうかも分からない。
 悪逆への欲求と選民思想の塊。そんな相手に、わざわざ理由など求める方が徒労だ。
 だから、聞くべきことは他にある。

「……なぜ」
「はあ?」
「なぜ、私に手を下させる必要があったのですか」

 ジェイクは人間ではない。彼の言葉を借りれば人類の進化体、NEXTである。
 ただの人間では持ち得ない一種の超能力を携えてこの世に生まれた彼は、彼等の世界の定義で言えば「新人類」に該当する。
 その彼の能力を持ってすれば、か弱い子供の二人くらい自力で死なせることなど容易かったはずだ。一瞬の内に破裂させ、数十数百の肉片に加工する程度わけないはずだった。
 それにも関わらず、ジェイクはわざわざアーチャーの手を使って命を奪うこととした。アーチャーに、奪わせた。


148 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:36:34 x2Z8ojqE0

「糞滓の人間共をぶっ殺すための機械人形として創造され、破壊と殺戮しか知らなかった哀れな天使様。そんな彼女は、ちんけなガキ一人に絆されて感情とか愛情とかナントカを学び、ラブに溢れた平穏な日常を手に入れました。めでたしめでたしハッピーエンド。ちゃんちゃん」

 何の抑揚も無い声でぱっと語ったのは、一つの御伽話。
 それが単なる夢物語ではなく、紛れも無いアーチャーの辿り着いた幸福の時間であったことを知っている。
 ……エンジェロイドではない生物は、夢を見ることが出来る。この男もまた、夢を介してアーチャーの過去を盗み見たといったところだろうか。
 アーチャーの眉が顰められるのと同時、ジェイクがぐにゃりと破顔した。

「うーわ、くっだらねえ!! 脳味噌蕩けてんじゃねーの? お前は愛玩用じゃなくて戦略用なんだって忘れたのか。つまんねー思い出に浸ってる暇あったら血祭りの一つや二つ開幕しろってーの」

 そう言ってアーチャーの頭髪をぐいと乱暴に引っ張り、足元の血溜まりを、胸の膨らみの白肌を染めた返り血を視界に収めさせる。

「なぁ、これぇ! 見ろよこれぇ! なぁこの無残な姿よォ、なぁ、オイ」

 無垢な命が尊厳を余すことなく踏み躙られた、その残り滓。今この瞬間にアーチャーの犯した所業の表れだった。
 しかしそれは、マスターに命じられたからであって。

「マスターに命じられたから、とか甘えてんじゃねえよ。最後の決断を自分で下しといて嫌になったら『本当は殺したくなかったんですぅ〜〜』とか卑怯者だなお前。紛れもなくてめーのせい、そして、これがてめーの“本質”なんだよ」

 心を読んだかのように、マスターの言葉がアーチャーの逃げ道を塞ぐ。そして心に影が差すのすら見透かしたかのように重ねられる嘲笑。
 これほどまでに侮られ貶められて尚、アーチャーはマスターに抗う気力を持てずにいた。
 真に親愛するマスターのために命を燃やし、時には彼の命を守護するためにその命令に抗うことすら叶ったのに。
 結局、彼がいなければ。導かれる指針となる彼の心がそばに感じられなければ、アーチャーの意志など容易く萎んでしまう程度のものなのか。

「……マスター」

 ほら、また気付けば彼を呼ぶ。
 今の仮初のマスターでは無い、唯一人認めた主の少年を思い浮かべ、届かぬ言葉を紡ぐために唇が動こうとする。
 しかし、それは叶わない。

「そら、よっ」
「……………………ん。んん、むっ!?」

 一瞬の内に、アーチャーの唇は物理的に塞がれていた。
 塞いでいる物もまた、ジェイクの分厚い唇であった。

「んぷぁっ、嫌ぁ」
「おいおいおい、暴れんなよ暴れんな」
「んむぅっ!」

 唇を引き離そうともがく頭を無理矢理に引き寄せられ、再びの接吻を余儀なくされる。
 唇を重ねるのは、互いに心を許した間柄の二人にのみ許されるべき神聖な行いであるとアーチャーは知っている。
 ……この唇は、彼だけのものであるはずだった。こんな、獣欲を満たすことだけに囚われている男に、己の肉体の大切な部位を捧げて良いわけが無かった。
 視界を潤ませ、現実であって良いはずがないと逃避を図るアーチャーの意識は、しかしおぞましさを伴う確かな現実感が許さない。
 蛇の如く歯茎に、舌にぬちゃぬちゃと絡みつき口内を蹂躙する舌。
 喉を伝うと共にむせ返り咳き込みたくなる衝動を引き起こす生臭い口臭。
 逃げ場を塞ぐためにアーチャーの肢体を翼ごと抱き寄せる左腕。押し付けられる胸板。
 たっぷり三十秒は厚みと味を堪能し離れていく二人の唇の間を、いつまで経っても繋がったまま保たれ、今になってやっと切れたクリア色の糸。
 自らの拳で力任せに、削ぎ落とさんばかりに唇を擦る様を見て、またジェイクは豪快に笑った。

「あーあーあ! 大事なオンナの清純が俺なんかに穢されちまったってのに、お前の大事な大事なマスター様は助けに来ないんだもんなー! とっくの昔に死んじまったんだもんなー! ま、しょうがないよなー!」

 嗚咽を漏らしながらも、両の瞳に明確な憎悪の炎を宿してジェイクを視線で射抜く。しかし、ジェイクはまるで意に介さない。
 アーチャーに抵抗の意思を最後まで貫く度胸が無いことを見通しているとしか思えなかった。
 何の危害を加えようとしないアーチャーを見て、初めて唇をへの字に曲げた。


149 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:37:09 x2Z8ojqE0

「……NEXTでもねえ蟲共が作った機械人形の分際で、馬鹿力だの兵装だの一丁前に揃えやがって。この世界がNEXTに支配されなきゃいけねえのに、てめえの存在自体が邪魔くせえんだよ」

 そんな瞬間など無かったように、いつもの喜悦の表情をまた浮かべる。

「つーことで、このジェイク様がお前の脳味噌のピンク一色な気色悪い勘違いをしっかり正してやろうってわけだ。お前が所詮、人殺しの兵器でしかないってちゃんと自覚できるようになあ? ま、聖杯獲るついでってーことで」
「……私は、」
「で、返事は? そんなお前は、俺にとっての何なんだ」

 酷く醜悪な笑みを浮かべた男。今も心に宿る彼とは正反対の、唾棄すべき屑。
 頭で理解していながら、なのに。アーチャーの口からは信じられない言葉が、震えた声色で、そして諦念を纏って発せられた。

「はい。マスター。私は、あなたの……」

 もう、どうしようもない。
 だったら、もうそれでいい。

「……玩具(サーヴァント)です」

 アーチャーが自ら唱えた隷属の宣誓。
 それを聞いたジェイクは、一際楽しそうな表情を見せつけた。

「良く言えました。いやー良かった」

 続いた言葉は、あの日の彼がアーチャーに存在意義を与えた言葉と同じであった。

「『お前が兵器で良かった』って、本当に思うわ」






150 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:38:13 x2Z8ojqE0



 アーチャーのサーヴァント、その名をエンジェロイド・タイプα『イカロス』。
 悪辣な性根のジェイクに叛逆する意思を持つことも無く己の心を殺す彼女は、果たして何を願っているのか。
 彼女が真に慕うマスター――桜井智樹との再会。
 否。既に生涯を遂げた彼を犠牲によって呼び戻すことが他ならぬ彼の望まないことであると、イカロスとて理解している。
 犠牲を強いる聖杯戦争の打破。
 否。平穏を愛し、それ故に非道を許さない桜井智樹ならば確かに望むことだろうが、それはあくまで桜井智樹の考えであり、イカロス自身の考えとイコールではない。

 イカロスが己の意思を奮い立たせるのは、何時だって桜井智樹のため、桜井智樹がそばにいる時である。
 言い換えれば、桜井智樹がそばにいないためにイカロスはジェイクに立ち向かえない。桜井智樹が励ましてくれなければ、独りになった少女は勇気の一つも振り絞れない。
 ならば、桜井智樹と同じく自らの人造の生命を終え、既に永遠の眠りについた彼女の願いとは何か。

 桜井智樹と完全に断絶された状況の中に在ることを、たとえ一秒であっても望んでいなかったイカロス。
 英霊の座とも呼ばれる寝床で、「夢のような毎日を送る少女」として意識を目覚めさせないはずだったイカロス。
 もう、兵器である必要の無いはずだったイカロス。
 そんな彼女の願いなど、あまりにもささやかなもの。



 サーヴァントとして召喚されないこと。
 「夢」から、永遠に目覚めないこと。



 聖杯戦争に招かれてしまった時点で、イカロスの願いは叶えられることが無くなった。
 桜井智樹が決して許さない悪行を自ら犯した記憶が刻まれた時点で、ハッピーエンドは汚された。最早、ジェイクを殺した所で意味が無い。
 そんな彼女が、再びの安息の時を得られるとしたら。それは、再び英霊の座へと戻り、忌まわしい記憶の全てを忘れ去る時以外に無いのだろう。

 皮肉にも、それはジェイクと共に聖杯戦争を勝ち抜くことによってでも達成されるのだ。
 最強のエンジェロイドの取るべき道としては最善策とも言えるそれを選んでいるも同然なのは、もしかしたらイカロスもまた自覚があるためか。
 ……或いは、今度こそ永遠の眠りを永遠に確約するために、かの『石版(ルール)』の奇跡の再現をも可能とする聖杯の恩寵を求めているのだろうか。
 心を閉ざしたイカロスは、きっと何も語りはしない。
 ジェイク・マルチネスならば超常の能力によって彼女の本心を読み取れるのかもしれないが、尊重するつもりが微塵も無いのだから結局は無意味なこと。

 こうしてイカロスは、ジェイク・マルチネスを新たなマスターと認証し、再び破壊兵器としての本分を全うすることとなる。
 あの夢のような毎日を取り戻すために。
 絶望に満ちた現実を、全ては白昼夢(なかったこと)であったのだと書き換えるために。

 桜井智樹以外の人間は、何者もイカロスの救世主たり得ない。
 桜井智樹のいない空の下、イカロスは希望へ飛び立てない。
 もう一つの結末など、イカロスは夢想しない。





 ――エンジェロイドは、夢を見ない。




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151 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:39:23 x2Z8ojqE0

【クラス】
アーチャー

【真名】
イカロス@そらのおとしもの

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具A+

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
・対魔力:A+
現代の魔術はおろか神代の魔術を用いてもアーチャーを傷つけるのはほぼ不可能である。
人類の有史以前、遥か数千万年前に建造された破壊兵器であるために最高級のランクを誇る。

・単独行動:D
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクDならば、マスターを失っても半日間現界可能。
主に付き従うことを本懐とするエンジェロイドであるために、クラススキルでありながらランクが低い。

【保有スキル】
・エンジェロイド:B
天上世界シナプスの民によって製造された、天使に酷似した外見の生体兵器。
動力部にあたる核(コア)を動力炉、即ち霊核として活動する。
潤沢なエネルギーに裏打ちされた戦闘能力を武器に、アーチャーは破壊の限りを尽くす。
同ランクの「怪力」「戦闘続行」のスキルを内包し、また自己修復機能も備えている。
また、地上に舞い降りては旧人類を幾度となく虐殺し尽くしたという過去から、人類及びその類族との戦闘で有利な判定を得られる。
アーチャーは第一世代のエンジェロイドであり、後に後継機となる第二世代エンジェロイドから見れば旧式である。
そのため、エンジェロイドとしての規格それ自体は頂点に位置しないことからスキルランクも最高位でなくなっている。

エンジェロイドは、マスターとして契約した他者に付き従うことを本質とする。
そのため召喚されると共に、聖杯戦争におけるマスターとの間にインプリンティングが実施される。
そして、アーチャーは令呪を行使されるまでもなく“マスターからの命令を絶対とする”。

・空の女王:A
ウラヌス・クイーン。
かつてシナプスをも壊滅寸前に追いやった暴虐的な破壊力は、最高級の戦略エンジェロイドとしての証。
反対に言えば、通常時の碧眼の彼女はその力を発揮することなく日常の中を過ごしている。
スキル非発動時のアーチャーは、スペックを本来よりある程度抑えた状態で活動する。
その際の魔力消費量は著しく軽減され、それは戦闘行動に入った場合でも同様である。
瞳を紅色に染めた時、即ちスキル発動時にアーチャーは己の本領を完全に発揮する。
このスキルを発動していない、手加減した状態でのサーヴァントとの交戦は当然ながら推奨されない。
しかし、NPCへ危害を加える等の場面では全性能を発揮しない状態でも十分だろう。

スキル発動中、アーチャーと対峙する者に対して精神判定を行う。
判定に失敗した者は恐怖心により以降の行動でのファンブル率を上昇させてしまう。
アーチャーと比較して戦闘能力に劣る者であるほど、判定の成功率が下がる。
この効果は精神耐性系のスキルで対抗可能。
アーチャーに並び立つ強さを持つ英雄にも有効だが、むしろ戦う術を十全に持たない地蟲(ダウナー)相手に効果的なスキル。

・魔力放出:B
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、 魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。

・永遠の私の鳥籠:-
エターナルマイマスター。
幾千万の時の中、アーチャーが兵器ではなく一人の少女として抱いた一人の少年への想い。最初で最後の「大スキ」。
それは、エンジェロイドでありながら『マスター』からの命令に背いてでも己の意志を遂げることすら可能とする力を与え得る。
……『マスター』との再会が叶わないスノーフィールドの空の下で、このスキルはきっと、永遠に機能しないのだろう。


152 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:39:50 x2Z8ojqE0

【宝具】
・『夢想灼く神弓(APOLLON)』
ランク:A+ 種別:対人・対軍・対城・対国宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
アーチャーが持つ黒色の弓矢型の兵器。最高クラスの威力を誇ることから『弓兵』の象徴として宝具化した。
一条に凝縮したエネルギーを射出し、着弾と同時に大規模な爆発を引き起こす。
あまりの衝撃ゆえに、場合によってはアーチャー自身を「aegis」で防御する必要がある。
その威力は破格であり、たとえば日本のような小国ならばその全土を残らず焦土に変えるほどと言い伝えられている。
尤もサーヴァントの宝具となった時点で性能の大幅な劣化を余儀なくされている。
それでも、今なお一撃で半径数キロメートルを焼き払う程度の威力を誇る。

・『超進化の匣(Pandora)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
アーチャーの体内に内蔵された自己進化プログラム。
召喚された時点でのアーチャーは『Pandora』起動前の状態を再現された状態である。
この宝具は、アーチャーやマスターが自らの意思で解放=起動することは出来ない。
アーチャーが霊核(コア)の損傷またはそれと同等の甚大なダメージを受けた時、自己修復と同時に自動的に解放される。
アーチャーはそれまでに負ったダメージを全快すると共に、二対の翼を羽ばたかせる第二の戦闘形態「バージョンⅡ」へと進化する。
全パラメーターが上方修正され、武装も上位互換の代物へと改良される。
なお、一度解放されて以後で解放前の状態に戻ることは不可能となる。

【weapon】
アーチャー自身の肉体、及び搭載した多数の兵装。
永久追尾空対空弾「Artemis」、絶対防御圏「aegis」、超々高熱体圧縮対艦砲「Hephaistos」など。

【人物背景】
戦略エンジェロイド・タイプα。
一介の兵器として創り出された彼女は、とある人間の少年と出会い感情を学んだ。
愛した人の側にいられる、幸せな、夢のような時間を得たのだ。

【サーヴァントとしての願い】
幸せな夢を、永遠に見続けていたかった。


153 : エヴリデイドリーム ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/07(土) 21:40:13 x2Z8ojqE0



【マスター】
ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY

【マスターとしての願い】
NEXTによる世界の支配。

【weapon】
特に無し。NEXT能力で戦う。

【能力・技能】
進化した人類NEXTとしての能力、通称NEXT能力。
特異な能力を備えるNEXTの中でも更に異質な存在。
通常ならば一人に一つが原則であるNEXT能力を二つ備えている。
NEXT能力の詳細は以下の通り。

・バリア
球状のバリアを展開する能力。
物理攻撃・魔術攻撃などのあらゆる攻撃判定に対する鉄壁の防御として機能する。
更にバリアをビーム状に変え、指を打ち鳴らすことで高威力の飛び道具として放つことも可能。

・読心
他者の心を読む能力。
レンジ内に存在する者の思考や念話を無条件に聞き取ることが出来る。
読心の対象は任意に指定可能。

【人物背景】
犯罪組織ウロボロスの一員。
元傭兵のNEXTであり、通常ならば一人一つしか持たないNEXT能力を二つ備える。自称「神に選ばれし者」。
残虐非道かつ気まぐれなヴィランであり、自らが支配するNEXTの国を作り上げることを目的とする。
強盗、殺人など多数の罪に問われ250年の懲役刑に服していたが、ジェイクを信奉する部下の手引きにより脱獄。
その後、部下の起こしたテロ活動に乗じ、余興の名目でシュテルンビルトの存亡を懸けてヒーロー達にセブンマッチを挑む。

ワイルドタイガーを倒した後、バーナビーとの対決を待つ間に偶然『白いトランプ』を手にしたことでスノーフィールドを訪れることとなった。

【方針】
愉しく面白く勝ち残る。方法は選ばない。
アーチャーは心底気に食わないので、苛め抜きつつ使い潰していく。


154 : 名無しさん :2017/01/07(土) 21:42:55 x2Z8ojqE0
投下終了します。
なお、ステータスシート作成の際にGotham Chalice様より◆1k3rE2vUCM氏の作品「スケアクロウ&アーチャー」から
一部引用させてもらいましたことを報告します。


155 : 想いを胸に、誇りにかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/07(土) 22:55:06 6xCoJ.vg0
投下します


156 : 想いを胸に、誇りにかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/07(土) 22:55:59 6xCoJ.vg0
豪奢な調度品が、部屋の主の優れた美的感覚に則り配列されている広い部屋。
その中に置かれたテーブルを挟んで座るのは、この部屋の中で最も美しい存在だと断言できる二人の美少女。
金の髪に翠がかかった碧眼の美少女と、銀の髪に紫水晶(アメジスト)の色の瞳の美少女は、ティーセットを配したテーブルを間に互いの顔を瞳に写していた。

「伺いますが、貴女はこの件にどう臨むおつもりですの」

最初に口を開いたのは銀髪の少女。嘘や誤魔化しを決して許さぬという意思を込めて、真っ直ぐに金髪の少女を見つめる。
外見上は自分とそう変わらぬ年の頃に見える銀髪の少女の目線に、何故か自分よりも遥かに永い時を生きたかの様な凄みを感じ、僅かに気圧されるも、怒りも露わに告げる。

「イキナリ人を拉致しておいて殺しあえだなんて、死ぬほど気に入らなくてよ。相応の報いを受けさせなければ気が済みませんわ」

銀髪の少女の眼差しが鋭さを増した。男でも目を逸らしそうな視線を向けて、金髪の少女に再度の問い。

「それでは、聖杯を破壊すると?」

「ウィ(ええ)」

間髪入れずに、眦を決して宣言する金髪の少女に、銀髪の少女は口元を吊り上げた。
その右手が霞むと、少女の白く美しい繊手には酷く不釣り合いな無骨な拳銃が握られていた。
驚愕に目を見開く金髪の少女の眉間に、銃口は不動の直線を引いている。

「超越存在である英霊が、只人の使い魔などに身をやつす訳をご存知かしら」

怒気も殺気も見せぬ問いかけ、然し答えを誤れば確実に死を与える。そんな確信を抱かせる問いかけ。

「生前に果たせなかった願いを果たし、残した未練を晴らす為……」

眼前に形として突きつけられた、明確な『死』を見ても、金髪の少女は怯まない。

「私が乗り気だったら、貴女は此処で生き残る為の命綱を、自ら手放すに─────どころか自らの死を望むに等しい発言ですわね」

艶やかに言ってのける銀髪の少女に、金髪の少女は怒りの籠った視線を向ける。

「けれどその率直さは気に入りましてよ。私は貴女のサーヴァントとして力を貸しましょう」

いきなりの宣言に、金髪の少女─────マスターはキョトンとした顔になった。

「アナタには…叶えたい願いは有りませんの?」

「そうですわね……無い、と言えば…嘘になりますわ」


157 : 想いを胸に、誇りにかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/07(土) 22:56:28 6xCoJ.vg0
銀髪のサーヴァントの願いが有るならば其れは唯一つ。『人としての生』。
少女が超越の存在となるに至った始まりの一歩。その時に力を得る代償として受けた呪いにより奪われた“人としての限り有る生”。
願いとしては至極真っ当なものだろうとは思う。決して願う事は無いが。
“人としての限り有る生”を失い、老いる事も死ぬことも無いまま、妖の様な存在として妖達に恐れられ続けた時間。
親しい人間全てを見送り、その子や孫までも見送って尚、不変のまま在り続けた自分。
妖と妖に関わる者達に、畏怖と共にその名を語られながら在り続けた時間。
悔いが無かったわけでもない。終わりたいと思ったことも有る。
だが、それでも、奇跡を願って自分の得たものを無くしてしまおうとは思わない。
力を得なければ、呪いを受けなければ、少女は人としての生どころか、人として過ごす時間すら得られなかったのだから。
古の世より黄泉帰った鬼と戦うことすら出来ぬ。古の世より黄泉帰った鬼に殺されて死んで終わる。そんな結末は人でなくなって永劫を過ごすよりも嫌だった。
それに、人で無くなる以前から人としては外れていた自分を受け入れてくれた者達もいた。
身も心も人で無くなった自分の思いを受け止めてくれた少年も居た。
『人としての生』を失ったが、『人としての時間』を満足しすぎるほどに少女は過ごしたのだ。
そこには何の未練も無い。想いを寄せた少年が大切にした日常を護れた力を得た事に悔いなど抱き様が無い。
それに─────。

「私は私……ですわ」

妖となって砕けそうな己を引き止めてくれた少年の言葉を思い出す。彼は『万能の願望機』なんてモノを餌にした殺し合いなんて絶対に許さない。
ならば己もそうするだけ、彼に胸を張って、“私は道を外さずに生きている”と言い切る為に。

遠くを見て呟く己がサーヴァントに、金髪の少女は訝しげな目線を向ける。

「願いなどというものは、自分の力で叶えるものでしてよ……それで、マスターに願い事は有りませんの?」

「フン!あたくしの願いはあたくしの力で叶えてみせますわ!それに……」

─────願いを餌に殺し合わせるなんて、あの人が知ったら絶対に止めようとするでしょうし。

そう、少女が想いを寄せる少年は、己の願いや信念の為に戦う事を否定はしないだろうが、その為に他者を踏み躙る事は許容するまい。
ましてや餌をぶら下げて殺し合わせるなどということには、ハッキリと否を唱えるだろう。
自分だってそんな事は気に入らない。だから反旗を翻す。少年への想いと己への自負に賭けて。

「さっきも言いましたわ!イキナリ人を拉致しておいて殺しあえだなんて、死ぬほど気に入らなくてよ。相応の報いを受けさせなければ気が済みませんわ」

キャスターは大きく被りを振って、答えに満足した事を示した

「では短い間ですが、手を携えて戦う者同士、ここで名乗っておきましょう」

言って、サーヴァントは胸を反らす。豊かな双丘が勢い良く揺れる。

「私の名は神宮寺くえす。キャスタークラスのサーヴァントとしてアナタと共に戦う者ですわ。私に万事任せておけば何も心配はいりませんわ」

マスターもまた胸を反らす。キャスターのそれより大きな年齢不相応なものが派手に揺れる。

「あたくしは亀鶴城メアリ。短い間ですが宜しくオネガイしますね。あたくしがいれば何も問題有りませんわ。マスターをサッサと撃破して差し上げましてよ」

そして二人は反っくり返って笑い出す。
ともに気位が高く、己が優れていると自負して止まない美少女二人は、共に同じ目的の為に魔戦に臨む。
自負にかけて勝利を目指し、想いにかけて聖杯戦争の打破を目指す、二人の行く手に待ち受けるものとは─────。


158 : 想いを胸に、誇りにかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/07(土) 22:56:51 6xCoJ.vg0
【クラス】
キャスター

【真名】
神宮寺くえす@おまもりひまり

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:C 幸運:C 魔力:A++ 宝具:EX

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】

陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
街一つを異界とすることも可能。

道具作成:D
魔術的な道具を作成する技能。


【保有スキル】


対魔性:A
魔に属するものと戦い、撃ち倒し続けた。
魔族、魔性といったものと戦う際、戦闘判定が大幅に有利になる。


加虐体質:C
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
プラススキルのように思われがちだが、キャスターは戦闘が長引けば長引くほど戦いを喜び、冷静さを欠いていく。


千里眼:B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
さらに高いランクでは、未来視さえ可能とする。


無窮の叡智:A
キャスターが生前読み解いた『真実の書』より獲得した知識。
Aランクの魔術。高速神言。A+ランクの蔵知の司書の効果を発揮する。
また、 英雄が独自に所有するものを除いた大抵のスキルを、C〜Bランクの習熟度で発揮可能。
このスキルを得る為には、耐える事など到底出来ぬ真実の書の膨大な情報量を受け止め、己が物とすることが必要な為、最高ランクの精神耐性の効果を常時発揮する。


対魔力:A
現代の魔術師ではキャスターに傷を付けられない。
『真実の書』そのもので有り、永い時を生きたキャスターの神秘は現代の魔術師の及ぶものではない。


159 : 想いを胸に、誇りにかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/07(土) 22:57:27 6xCoJ.vg0
【宝具】
第二の真実の書(神宮寺くえす)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

キャスターの存在そのもの。
キャスター生前読み解いた『真実の書』に秘められた呪い。
並の魔術師ならその片鱗に触れただけで絶命する膨大な情報量を持つ魔書を記した狂った賢者が、己の存在した証を永遠に残す為に、書に施した呪いそのもの。
膨大な情報量が齎す負荷に耐え、書を読み解く者は、己と同じ領域に立つ己の存在証明となる第二の己そのもの。
書を読み解く事が出来る、賢者と同じ領域に立つ者を、第二の『真実の書』として永遠に保全する為に、書を読み解いた者を不老不死とする。
この呪いによりキャスターは、限界に魔力を必要としない。
例え総身を消滅させられても、マスターから膨大な魔力を徴収して復活する。魔力が無かった場合は消滅する。





魔剣再現(ソード・ゴースト・リプロダクション)
ランク:B~A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人

古の魔剣を魔力を用いて再現する。
ムーンセルが観測した再現魔剣は二つ。


閃雷魔剣(カラドボルグ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2~3 最大補足:1人

アルスターの英雄フェルグス・マクローイの剣を再現する。
オリジナルの様に剣身が伸びることは無いが、強度自体はオリジナルと遜色無い。


害為す裏切りの魔杖(レーヴァテイン)
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人


北欧神話に語られる炎の魔剣を再現する。膨大な熱量を帯びた閃光は呑み込んだ物総てを焼き尽くす。



【weapon】
スチェッキン:
ロシア製の大型自動拳銃。装弾数20発。少女の手には余るサイズだが、キャスターは簡単に使いこなす。
弾丸は魔力で幾らでも精製可能。あらかじめ術式を施した弾を用意しておくことも出来る。

スタンガン:
改造されていて、常人なら一撃で気絶する。

【人物背景】
鬼斬り役十二家の末席神宮寺家の跡取り娘。
ロンドンに留学して魔術を学んだ際、無窮の叡智と力を持つ『真実の書』を読み解き、強大な力を得る。
帰国後、復活した酒呑童子と戦い相討ちとなる。その時に『真実の書』の呪いが発動し、以後は不老不死の存在として永い時を生きる事となる。
許嫁という関係を越えて思いを寄せた少年との幸福な時間を得ることができたのは幸いだった。



【方針】
聖杯戦争の打破。

【聖杯にかける願い】
無い。


160 : 想いを胸に、誇りにかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/07(土) 22:57:50 6xCoJ.vg0
【マスター】
亀鶴城メアリ@武装少女マキャヴェリズム

【能力・技能】
フェンシングの達者で、しなるレイピアを用いて戦う。刺突主体のスタイルで閉所においては無類の強さを誇る。

【weapon】
レイピア

【ロール】
女子高生

【人物背景】
剣の遣い手で構成される愛知共生学園“天下五剣”の一人。五剣の中で最もスタイルが良い。フランス出身の日仏ハーフ。
フェンシングの達者で、閉所では無類の強さを誇る。
五剣一のぶりっ子と呼ばれているが、その実態は逆さ吊りにした対象者を回しながら竹棒で「ぶーりぶり!」と掛け声をかけつつ殴打する拷問を好むことから着いた呼び名。
寮の地下に専用の拷問部屋を有している。
日本語が不自由で常に辞書を持ち歩く。興奮すると日本語が飛ぶ。
フェンシングのルールに忠実で、戦闘時には常に左手を空けて辞書を持っているが、それでも充分に強い。

【令呪の形・位置】
左手の甲に三角。

【聖杯にかける願い】
無い。

【方針】
聖杯戦争の打破

【参戦時期】
眠目さとり戦の後。ウーチョカのウィッグを探している時に『白紙のトランプ』を拾った。

【運用】
一ぷキャスターは近接戦闘も下手なセイバー並みに熟せる。油断して近寄って来た相手をカモることが出来るだろう。
マスターに魔力が残っている限り死ぬことは無いので強気に攻めていける。
しかしマスターは魔力を持っていないので、慢心は禁物。


161 : 想いを胸に、誇りにかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/07(土) 22:58:36 6xCoJ.vg0
投下を終了します


162 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:11:35 GXo8LcLA0
これより投下します


163 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:12:45 GXo8LcLA0



"彼"は、決してこの聖杯戦争には呼び出されない存在の筈だった。



個人的な願いが、ないわけでもない。"彼"にも積年の後悔、取り戻したいと思う存在がある。
だがそれが許されるものでないのは理解しているし、抱く望みがより上位の命令系統に塗り潰されてしまうものだという事も分かっていた。
戦う理由はあっても、そこに"彼"の意志は介在しないでいた。

それは"彼"が生み出された目的であり、本能であり、運命として始めから定められていたもの。
文明は壊さず、命だけを粉砕する。万物が抱く死滅願望の体現という設計思想。
その運命を、かつての"彼"は否定し、拒絶し、抗い続け。それでもなおも縛りは解けず、苦悩を刻み……。
多くの仲間からの力を借り受けて、最後には解き放たれる事が出来た。
ある一人の人間―――"彼"にとってはまぎれもなく―――との、永遠の離別を代償に。



地上(いま)の自分が生きている時代の視点よりも遥かな上。
次元を超えた座(ばしょ)で、"彼"は月に浮く揺り籠を俯瞰する。


聖杯戦争。
バトルロワイアル。
選ばれたただ一人を決める戦い。
運命を変えられるほどの報酬。
"彼"はかつて、それと酷似した争いに身を投じた数々の命の一つだった。


その世界には、不死の生命がいる。
生物には、その種の最初の一となった存在が必ずいる。
それらが生まれて初めて未来の扉は開かれ、無限の繰り返しの先にある繁栄を手にする。
参戦したのはそんな、地球にひしめく数多の種族の始祖。
始まりが故に終わりを持たない不死者たち。逆説的に種の代表という責務を背負った戦士。
自らの後に続く、未来の覇権を懸けて、太古の原種達は熾烈な生存競争を繰り広げた。
生き残った種族に与えられるのは、己が種の存続と繁栄。全ての命の取捨を自由にできる権利。
闘争の名をバトルファイト。
一万年後の地球を統べる事になる、ヒトという生命体が勝利者となった儀式だ。

"彼"が認識した聖杯戦争は、その闘争と酷く似通っている。
世界の垣根を超えても奪い合いは不変の法則なのか。胸に残された心に、棘の痛みが刺さる。

太古の神話の再編は、まさに原始の時代の理に立ち返った形で行われる。
競わせる。争わせる。殺し合わせる。
弱肉強食。表せばこの四文字に全てが集約されている。
過去から変わらない、物言わぬ野生の生命は知っている。
強き者。優秀な者。賢しき者。恐るべき者。弱き者。愚かな者。臆病者。
ただの要素(パラメーター)を比べるのみでは、種族の可能性は測れない。
熾烈な争奪と食らい合いの後に残るものは、個体の能力値に関わらず『生き延びること』に優れたものだと。

歴史の旅路に脈々と紡がれていく命の河。それを絶やさない事こそ生物の絶対の使命。
多くに分かれ自意識が固有化し、同胞と相争う人間達でさえ、そこにあるのは自分達を残すという純粋な思いだ。
本能と呼ばれる、生命体の第一義。
"彼"にはその、『生きる』という真っ当な機能が最初から欠けていた。


164 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:13:18 GXo8LcLA0




"彼"は、英雄でもなければ悪霊でもない。
かといって、何一つ業績のない無辜の民ですらもない。
"彼"は選ばれなかったもの。
残されなかったもの。許されないもの。呪われしもの。あってはいけないもの。
……だが世界にとって必要なもの。
星という巨大な生命が枝分かれする選択肢の一つとして備えられた、滅びという名の機構(システム)。

"彼"は系統樹なき虚無(ゼロ)の不死者(アンデッド)。
秩序と混沌の輪廻を繋ぐ星の自浄作用。
それは矛盾でありながら、全ての生命が持つ最低限の権限。
"彼"が選ばれたならば星は「その時」が来たと判断し、全ての命を収穫して無に還す。
苦しみに喘ぐ事なく速やかに滅び去るのもまた命の生業。
真の自由とは生ではなく、死にこそあると、天の星々は理解している。

そんな"彼"が仮にも英霊の座に置かれているのは、規模こそ違えど、その在り方は神霊種と同様であるからだ。
不死であり生命の始祖である彼らは発生した時点で高位の存在だ。
こうして"彼"が外で眺めている今も、地上の自分は現実での穏やかな生活を過ごしているのだろう。



だから"彼"は、戦わない。
かつての友のように、己を封殺して世界を守り続ける。
何故ならば意味がない。例え勝利しても、"彼"に与えられる報酬ははない。
戦いの果てに"彼"がたった一人生き残るという事実。それそのものが破滅の引き金となる。
全ての種をリセットさせる滅びの現象。"彼"が何を望もうが望むまいが、それは恙なく実行される。
何せその為に生み出された。"彼"の在り方が、そのまま一つの願いとして成立してしまっている。
下手をすれば、多世界にまで及ぶ破滅が起こりかねない可能性も孕んでいる。

優勝すれば自動的に全人類、全生命を刈り取る死神の化身。
そんな無差別な破壊兵器を求めるマスターなどまず存在しまい。いたとしても、己は決して受け入れはしない。
この箱庭の中で行われる異端の聖杯戦争にも、"彼"が顕れる事は無い。
死神は眠り、破滅は訪れない。願いが永遠に叶わない事に"彼"は安堵し、微睡みの内に観測(しせん)を閉じようとして。
視界の片隅で、流されるように夢遊する影が目に入った。




"―――――――――――――――――――――"




何かを追いかけるように、あるいは何かに追われるようにあてもなく歩く一人の少女。
風に吹かれれば消えてしまうほど淡く、儚い姿だ。
これより殺し合いが始まろうとしている戦場にはあまりにそぐわない。
彼女に焦点を合わせた瞬間、次元を越えた境界での認識力は、少女の経歴を余すことなく伝えてきた。


165 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:13:58 GXo8LcLA0



赤く染まった空を舞う鉄の鳥。
黒焦げた家を踏み潰す鋼の馬。
……無色の白い部屋で度重なって続く、実験(じごく)、実験(じごく)、実験(じごく)。


ただ、素質があるというだけで生かされ続ける。
利用されるだけ利用され、何の救いもなく、痛みだけの中で潰えてしまった人生。
体が息を止め、現実を追い出された精神は電脳に迷い込んだ。
彼女の物語は、とうに幕を閉じていた。
今見えている少女はただの夢。孤独に漂う、命の残滓に過ぎなかった。

そして今、少女はまた争いに巻き込まれようとしている。
戦う意思はおろか、戦うという行為自体も理解できていない幼い心で、凄惨な殺し合いに身を投じてしまっている。
人の悪意に解体された少女は、夢の中でさえも戦火と悪意から逃れられない。
それこそが、彼女が何よりも逃げたかったものなのに。



何故こんなにも彼女には救いがないのか。
この末路は、運が悪いだけのものだと認めてしまっていいのか。
そして気づいた自分は。このまま黙って終わりを見ているだけで―――それでいいのか?



数々の疑問と感情が生まれ、答えが出されるよりも速く。
"彼"は"俺"となり、何もない場を駆けだしていた。



これは許されない想いだ。
分かっている。俺では彼女は救えない。
この呪われた運命の体は勝ち残る事は許されず、帰る場所のない少女は残る魂を焼き尽くして消えるのが確定している。
運命を変える月に願うという最低限の救済すら、自分達には与えられない。

ならせめて。
最後まで、傍らにいよう。
もう二度と、誰にも看取られず一人きりで消えるような、悲しい終わりを迎えないように。
死神の忌み名を、その為に今こそ再び受け止めよう。あらゆる脅威から彼女を守り抜こう。
たとえ仮初でも、彼女の寂しさを埋め合わせる為に。
戦わなければ生き残れない世界だというのなら、その罪は俺が背負う。
甘い夢から覚め、砂糖菓子のような体が砕け散る時が来るまで。
彼女の手を取り、涙を流してくれるような友人を見つける。
そんな、小さな奇跡が起こるのを願いながら。



だから箱庭よ、俺を招け。彼女の許に連れていけ。
余分な権能(ちから)は捨ててやる。元から不要なものだ。
削ぎ落すだけ削ぎ落として、無理やりにでも規格に当てはめろ。
それが何を失う事になろうとも。手放してはいけないものだけが残りさえすれば構わない。
どれだけ厳しい罰が待ち受けようが足を止める理由にはならない。必ず勝ってみせる。


166 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:15:02 GXo8LcLA0






運命と戦う事を、俺は決して恐れない。





 ■          ■





運命と戦う事を、俺は決して恐れない。





 ■          ■


167 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:15:44 GXo8LcLA0





「……あら?」

突如として巻き起こった突風。
夜に星が落ちてきたと思えるほどの眩い閃光がスノーフィールドの一角を満たす。
マスターとして認識されてしまった少女の前に表れたサーヴァントは、恐怖の塊のような姿だった。

黒い全身に通う血は、怪物の証の緑色。
頭蓋骨をそのまま嵌め込んだような顔は、苦悶を食いしばった表情のまま固まっている。
それはまさしく死神(グリムリーパー)。目にした者に運命を告げる冥府の導き手。
人らしい理性など一欠けらも感じさせない、狂戦士のクラスに相応しい容貌だ。

「あなたはだあれ?ありすのお友達になってくれるの?」

そんな人ならざる異形を目にしてなお、マスターたる少女は怯えの様子を一切見せずに語りかけた。
スカートが大きく膨らんだ、白く甘いデザインのドレス。陶器のようにつややかな肌。
"ありす"という、名前だけが残った少女に、聖杯戦争に参加したという自覚はない。
ただ果てのない道を歩き回ってる途中で落ちていた『白紙のトランプ』を拾い上げて、気づけばこの街に辿り着いただけだ。
しかし自覚はなくとも少女はマスターであり、目の前のサーヴァントとは互いを認識する契約で繋がっている。
そこから拙く情報を取得した少女は、この怪物が自分に危害を加える者ではないと理解していた。

「…………」

怪物……バーサーカーは答えない。
その名の通り理性の喪失を対価に能力を底上げする基本スキルを持つサーヴァントは、対話の能力が失われている。
言わんとする事は理解できていても、実際に声を交わし合う事はこの二人には叶わない。

「そっか、お喋りできないのね。つまんないの。
 それにしてもこわい顔。まるでジャバウォックみたい。それともバンダースナッチかな?」

少女はやや不満そうに頬を膨らませる。子供は言葉の並べ合いに楽しみを見出す年頃だ。
心が通じ合えば言葉は不要、などという合理的思考には動かされない。

「…………」

無言のバーサーカーは無言でありすに腕を差し出した。
棘だらけの凶器で出来た指には、束になった紙の札が握られている。

「……?これ、くれるの?ありがとう」

興味を惹かれた少女は無警戒に怪物の手を取って紙札を広げた。
五十二枚の色とりどりの絵札。一枚一枚に異なる模様が入っており見る目を飽きさせない。
どれも統一して、何かの生き物を象っているもののようだ。

「わあ、すてきなトランプ!おもしろい絵がいっぱいあるわ。
 トランプ兵を操ってるあなたは、ひょっとして女王さま?」

娯楽、遊戯に飢えていた少女はすぐさま札遊びに夢中になった。
同じ絵柄を合わせたり、並べて役を組んだり。即興の遊戯に没頭する。


168 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:16:04 GXo8LcLA0


「あなたは、ありすといっしょに遊んでくれるのね?ありすのお友達をさがすのを手伝ってくれるのね?」

バーサーカーは何も反応せずに、遊ぶありすを不動のまま見下ろしている。
だがそれでもよかった。少なくとも今、自分は一人ではない。その事実だけで、少女は一時の幸福の中にいた。
スノーフィールドに入ってからもありすは孤独のままだった。
大勢の人達は自分の姿に気づきもせず、風のように通り過ぎるだけ。
他者がいる分、自分が疎外されてるという気持ちは強くなる。無意識に忘れようとしていた痛みの記憶を思い出してしまう。
既に不安の気持ちはない。言葉が通じ合わなくても、"彼"は自分を見て、一緒にいてくれているのだから。

「さっきね、あそこでいろんなひとたちが集まってたの。あたしだけじゃ不安だったけど、あなたがいればへっちゃらね。
 あたしね、みんなでトランプ遊びがしたいな!みんなで兵隊をうばいあって、さいごにババ(ハズレ)を持ってたひとを引っこ抜くの!
 楽しいわ、きっと。あなたもそう思うでしょ?」

少女は歌う。くるくると、狂狂と。
誰かと一緒に、時間を忘れるぐらいに遊び続ける、人生では手に入らなかった思い出。
夢に見た念願が、遂に叶うのだと喜んで。
ありすの遊びは断れない。頷けばかくれんぼ、横に振れば鬼ごっこに変わるだけ。
ネバーランドにオトナはいらない。エイエンのこどもの国から逃げ出そうとすれば、ハサミで首を切り落とされ、遊びに飽きたら棄てられてしまう。
蝶の羽を毟る気軽さで殺し合いに臨む。その実感は少女にない。彼女はただ、寂しさを埋めたくて遊びに誘うだけ。
子供とは、玩具の扱いに杜撰なのが昔から続くお決まりだ。


無邪気にはしゃいで駆けていく姿を、バーサーカーは黙して追う。
自意識を喪ったサーヴァントは、残った一心のみを果たすだけの機械に等しい。
ソレは自身のマスターを全ての害悪から退ける守護者。
他のマスターやサーヴァントを屠る死神。
殺し屋であり、怪物であり、災厄であり、正体不明であり、ジャバウォックであり、バンダースナッチであり、人である。



何者でもない怪物―――ジョーカーアンデッドは夜を往く。
少女の夢を、悪夢で終わらせない為に。


169 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:17:06 GXo8LcLA0







【出展】仮面ライダー剣
【CLASS】バーサーカー
【真名】ジョーカーアンデッド
【ステータス】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C+ 魔力D+ 幸運E+ 宝具D+

【属性】
混沌・狂

【クラス別スキル】
狂化:A
 パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
 ……皮肉にも、人の心を得たが故に「理性と引き替えに力を増幅する」狂化スキルの恩恵を得てしまっている。

【保有スキル】
原初の一:A
 アンデッド。星の集合意志(ガイア)が神代以前の原初に一体ずつ産み落とした、各生物種の始祖たる怪物。
 最初の産声を上げた星の胤子たち。始まりが故に終わりを持たぬ不死存在。
 あくまでサーヴァントのために劣化しているとはいえ、生命そのものを直接対象とした呪い・概念干渉を弾く高い頑強性を持つ。
 HPが0になった際、必要な魔力が供給されていれば幸運判定で復活の機会を得ることができる。
 また、自らの意志や令呪による強制・補助を以ってしても自害、及びそれに繋がる行為ができない。

無貌の切札:A
 ワイルド。
 いかなる生物の系統樹でもないという、ジョーカーのみの特性。
 特定の種族に適用する効果を一律無効化する。また自身の攻撃もそれらの効果に阻害される事がない。
 Aランク相当の変化スキルも有しているが、狂化のため使用不能。

軍勢生成:―
 眷属であるダークローチを生み出すスキル。
 通常時にはまったく機能しない。
 この能力が発動するのは、戦いの場で彼が最後の一人となった時。即ち、聖杯戦争の勝者となった場合のみである。

守護の誓約:D+
 最後に残ったヒトの心(スピリット)。
 種族ではなく、愛する者の為の守護。理性が吹き飛んでもその誓いは破れない。
 他者を守る際に防御値のプラス効果が働く。
 このスキルの存在が、破壊者でしかないジョーカーをギリギリ英霊に留めさせている。
 狂化の影響で現在はランクダウンしている。元の形に戻るとしたらそれは―――

【宝具】
『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』
ランク:D 種別:対生宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 命を刈り取る形をした手持ち式の鎌。
 地球上の全生命を死滅させるという、ジョーカーの攻撃本能が結晶化したもの。
 斬り付けた対象の、生物としての純粋度、完成度に応じて追加ダメージが加算される。追加分が一定値を超えると即死判定が働く。
 対象外となるのは、地球上の生物でないもの、生物の版図を越えてしまったもの、そもそも生物でないもの。
 (人外の魔物や機械系サーヴァント、高ランクの神性スキル保有者が対象となる)
 
 本人の霊格が落ちているのと、ジョーカー本人がこの宝具を望まないため、ランクも下がっている。
 本来のランクはEX。地球全土にまで殺害範囲が増大する。
 生命を滅ぼしながら星を傷つける事の無い、星の自浄作用であり自壊衝動の一つ。

【weapon】
『寂滅を廻せ、運命の死札』
基本武器。手に持って斬りつける他ブーメランの要領で投げつける。
『ラウズカード』
 五十二体の生物の始祖の不死者が封じられたカード。
 今は主にありすの遊び道具として使われてる。というよりその為に無理やり持ち込んだ。
 解析すれば魔術の代替えに使える……かもしれない。


170 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:18:09 GXo8LcLA0

【人物背景】
 生物の生存本能が結集し、生き残った最後の一匹が地球上の生命を思いのままに操れる「万能の力」を手に入れられる戦い、バトルファイト。
 全ての生物の始祖たる不死者―――アンデッドが集う中、ただ一体何者の始祖でもないイレギュラーな存在、それがジョーカーである。
 始祖がいない、系統樹がいないこの個体がバトルファイトに勝ち残ると、生物を残す必要がないと受理され、地球の全生命が死滅する仕掛けが施されている。
 ジョーカー自身もその本能に従い暴れ回り、唯一自力でアンデッドを封印できる能力があるため、全てのアンデッド、全ての生命体から忌み嫌われるべき存在である。
 
 しかし、次代のバトルファイトが行われた現代で目覚めたジョーカーは、前回の勝利者として生き残っていたヒトの始祖、ヒューマンアンデッドを封印した際、
 内部からその心に働きかけられることで自身の運命に疑問を持つ。
 アンデッドとの戦いに巻き込まれ命を落とした男が、最後まで家族を思い自分に写真を託した事で疑問は更に表面化。
 人間(ヒューマンアンデッド)の姿に擬態し、疑問の答えを得るため男の家族の許へと身を寄せることになる。

 男の妻と娘、「仮面ライダー」という、アンデッドの力を使い人を護る戦士達。
 多くの交流の中でジョーカーは人としての心を育んでいく。
 だがどれだけ感情を取得してもその本質はアンデッド。それも愛する者さえ手にかける事になる最悪の死神。
 苦悩し、多くの仲間の協力を受け運命に抗おうとするが、遂にジョーカーが最後のアンデッドとなり、世界の滅びが始まってしまう。
 最大の友となった人間に自分を倒すよう願うジョーカー。友はしかし、それを拒絶する。
 掴んだ選択は誰も失わない方法。自らもヒトとしての体を捨てアンデッドとなる事で、友を運命から救ったのだ。
 ……ヒトの生と、永遠の孤独を代償にして。

 不死であるアンデッドだが、生物の始祖という強大な神秘は発生した時点で英霊の座に登録されている。
 このサーヴァントはそこから召喚に応じた存在であり、英霊の本体と分身のサーヴァントとの関係のようなもの。
 現実の世界では、彼は今も人間として生き続けている。

【サーヴァントとしての願い】
 孤独となった友を救いたいという願いはあるが、ジョーカーの存在意義である「命を刈り取る」という本能はそれを許さない。
 優勝した瞬間、聖杯は生命絶滅という機能を真っ先に願いとして受理されてしまうからだ。
 最悪、『白紙のトランプ』により接続された全地球の生物が死滅するという次元級の災厄も起こり得る可能性を秘めている。
 ジョーカーもまたそれをよしとせず、ただ箱庭を傍観するのみでいた。

 だが箱庭に迷い込んだ少女、ありすを見つけ、彼女を守るべく多くの無理を通してサーヴァントとして召喚される。
 最たるものはバーサーカーのクラスになった事による、人の心の喪失だろう。これにより、人間としての姿と相川始の名は消失している。
 月に来たアルクェイドや尾を切り離した玉藻の前を想像すると、どういう状態なのかが分かりやすいだろう。

 奪われた理性、削られたヒトの心で願うのは、ありすの救済だ。
 自分は決して勝ち残ってはいけないサーヴァントであり、ありすにもまた救われる術が、否、そもそも既に救えない「終わった命」だ。
 聖杯戦争に参戦しながら、この組には優勝する望みがまったくない。
 なら最後に消えるその瞬間まで、彼女の傍らに寄り添いその孤独を癒そう。
 その思い出が涙に滲まぬように、彼女の望みを叶え続けよう。
 砂糖菓子のように脆く儚いとしても、その最期に一筋の、暖かな光が差すことを信じて。

 運命に勝つ。
 それこそが、このサーヴァントの戦う意義である。

【基本戦術、方針、運用法】
 バーサーカーらしく、その戦法は暴れ回るしかない。ありすの指示に従うか、ありすに危機が迫った時のみ行動する。
 色々と制約がついて回ってるものの、その能力値は上級サーヴァントと遜色ない。 
 「無貌の切札」で概念系や干渉を限定する相手にも耐性があるため、正面切っての戦いではそうそう遅れを取らないだろう。
 宝具は対純粋生物特化というべきで、相手によっては確殺もあり得る。大半が人間のマスターの方が危険。 
 マスターはマスターとしては規格外であるものの生存力という点では疑いなく最弱。攻めあぐねてるならそちらを狙うのもいい。
 だがその戦法はこのサーヴァントに火に油を注ぐ行為。
 一度でも狙いを向ければ、これ以上なく凄まじい形相でムッコロされること必至だろう。


171 : ありす&バーサーカー ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:19:06 GXo8LcLA0



【出展】Fate/EXTRA
【マスター】ありす(本名不明)
【参加方法】
電脳空間を彷徨っている最中に箱庭に辿り着いた。
あるいはデータ上の『白紙のトランプ』に触れていたのかもしれない。

【人物背景】
 白と水色の衣装を身に纏った、八歳ほどの少女。イギリス出身。
 第二次大戦末期に空襲で重傷を負い余命幾ばくもなかったが、その身に魔術回路があったことから実験体として無理やり延命させられる。
 数年の後肉体は死亡するが、精神は繋げられたネットに残り続け、電脳空間という夢の世界に旅立つことになる。
 命を奪う行為の重さも、殺し合いの残酷さも理解しないまま。
 "知らない人たちがいっぱいあつまって、たのしそうだったから" という理由だけで、聖杯戦争に参加してしまう。
 ありす自身、自分の状態については朧げながら理解しており、この夢が永遠でないことは分かっている。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 空間転移、固有結界級の魔術を複数長期に渡って展開できる規格外の魔力を汲み上げられる。
 そのタネは、実体のないネットゴーストであるがゆえに肉体(脳)のリミッターが存在しないため。
 だがそれは回路が焼き切れるまでエンジンを回せるといっているようなもの。いずれは魂が燃え尽きる運命である。

【マスターとしての願い】
 なし。強いて言うのなら、友達を作って遊びたい。

【令呪】
ハートとカマキリ(全身と両の鎌)で三分割された形。
ラウズカード「チェンジマンティス(ハートのカテゴリーエース)」を想像すると分かりやすい。

【方針】
 ジャバウォック(バーサーカー)をお供にして友達探しの探検。見つけた人と一緒に遊びたい。
 鬼ごっこ、隠れんぼ、ババ抜き、遊びの種類は無限に尽きない。永遠に終わらない。
 
 余談だが、『鏡』『モンスター』の点から龍騎系ライダーとも相性がいい。


172 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/08(日) 17:20:46 GXo8LcLA0
以上で投下終了です
拙作の編集にあたり、◆aptFsfXzZw氏の「レクス・ゴドウィン&セイバー(剣崎一真)」のステータスを一部流用させて頂きました


173 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/01/08(日) 19:12:36 FtH5IB.20
wikiの方にて自作3作品の修正をしたため報告します。
修正点は複数ありますが、根本的な変更となるほどの修正点は無いです。


174 : ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:38:57 KuaoMvZM0
投下します


175 : 怪物親子 ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:42:11 KuaoMvZM0

しゃきん。
しゃきん。
しゃきん。

金属同士が滑らかに擦り合う音が、殆ど明かりのない空間に響き渡る。
息を切らせて女が走る。
脇目もふらず、どこへ向かっているのかも分からず、ただがむしゃらに軋む廊下を駆けていく。
恐怖と混乱が渦を巻く頭の中で、"なぜ、どうして"を繰り返す。

聖杯戦争のマスターとして覚醒した彼女はトランプから呼び出されたセイバーを伴い、一人の女性を追っていた。
スノーフィールドに拠点を置く、環境保護団体エーテル財団の代表・ルザミーネ。
ひょんな事からルザミーネが聖杯戦争の参加者である可能性を見つけた彼女による調査の結果、この街で起きた何件かの失踪事件に彼女が関わった痕跡があった。
ルザミーネが危険人物であると当たりをつけた彼女は、市街地から離れた廃ビルへとルザミーネが単身で向かった事を使い魔から伝えられるとセイバーを伴い接触する為に後を追い、ルザミーネが入ったという廃ビルに潜入したのだ。

それがルザミーネの仕掛けた罠であることに気付けていれば、今のような事態には陥る事はなかったろう。
廃ビルに潜入し、ルザミーネがどこにいるかを探している最中に建物が鳴動した。
何事かと周囲を見回し、彼女は目を見張る。
廃ビルの内装が別の物に侵食されていく。
コンクリートの壁が木目に。
床にはいつの間にか絨毯がしかれ、殺風景だった空間には高級そうな調度品の数々が姿を現す。
異変を察知したセイバーが直ちに実体化し、彼女の横に並び立つ。その顔には隠しようのない緊張が浮かんでいた。

部屋を出る為に扉を開けると、そこはビルではなく洋館を連想させる廊下が広がっている。
固有結界、あるいはそれに類するものか。何にしろ彼女はルザミーネのサーヴァントの城へとまんまと誘い込まれてしまった事を自覚せざるを得なかった。
手段は検討もつかないが一刻も早くこの建物から逃げ出さねばならない。
そう判断し、廊下へと踏み出そうとした彼女の背を衝撃が襲い、不意を突かれまともな反応をとることも出来ずに廊下へと倒れこむ。
何が起こったのか、後ろにいたのはセイバーだけ。ならばセイバーが自身を突き飛ばしたのか。
事態を把握する為に起き上がりながら振り返り、彼女は息を呑んだ。


176 : 怪物親子 ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:42:55 KuaoMvZM0

そこにいたのは突き飛ばした体勢のままのセイバーの姿。そして、その胸の中心から突き出た鋭く尖った金属の板。それは剣ではなく、閉じた鋏の形をしていた。
霊核を貫いたであろう刃がセイバーの体に沈む。正確に言えば、背後からセイバーの体へこの鋏を突き刺した主によって引き抜かれていく。
口と胸から血を溢れさせながら倒れるセイバーの背後に一つの影。
少年、そう呼んで差し障りのない背格好の男は赤く塗れる巨大な鋏を両手で持ちながら立っていた。
木乃伊の様な顔を喜悦に歪ませながら少年、彼女の視界を通して得られたクラス名・アサシンのサーヴァントはしゃきんしゃきんと鋏を擦り合わせる。
視線が重なり悪意に満ちた眼差しが彼女を捉え、咄嗟に彼女は指先からガンドを放つがいとも容易く避けられた。
無駄な抵抗をあざ笑うかの様に奇声をあげ、アサシンは一歩一歩、彼女ににじり寄ってくる。
すぐに殺せるというのに嗜虐に満ちた笑顔を浮かべる様は、アサシンが哀れな獲物をいたぶる魂胆であることを証明していた。
だからこそ、アサシンは文字通り足元を掬われる事となったのであろう。
彼女にだけ注視をしていたアサシンの右足に不意に手が伸びた。
手の主はセイバー、戦闘続行スキルにより彼はまだ死んではいなかったのだ。
バランスを崩し床へ強かに体を打ち付けたアサシンの胴体に、倒れたままの体勢でセイバーは空いた手に持った自身の剣を深々と突き刺す。アサシンの絶叫が響き、その身体から血が流れ出る。

セイバー、と口にする彼女に対し、セイバーは力なくほほ笑んだ。その身からは黄金の粒子が散り始めている。最早助からない事は明白だった。
ここから離れろ、ルザミーネを見つけろとセイバーは告げて塵と消える。アサシンが倒れ、この空間が元に戻ったとしてもルザミーネが脱落する訳ではない。
この危険なサーヴァントを使役していたルザミーネを仕留める事でこの一連の戦いは本当の意味で集結する。それを理解した彼女は駆けだした。
一刻も早くルザミーネを見つけなければならない、セイバーの犠牲を無駄にしてはならないのだと。
そうして走り始めて数分、彼女は異変に気付く。
今いる場所は変異した洋館の中、元いた廃ビルに戻る気配は一向にない。
それはおかしな事だ。
アサシンはセイバーによって倒された。胴体を串刺しにされたのであれば、セイバーの様に戦闘続行スキルを持っていたとしても長くはないだろう。で、あるならばこの洋館は消失し元の廃ビルに戻らなければならない筈なのだ。
で、あるならば。彼女の脳裏に最悪の状況が想起され、それを振り払おうとしたその時。

しゃきん、と鳴り響いた金属音が、彼女の想起したものが真であることを証明した。

それから彼女は逃げ続けている。
何故死んでいないのかという疑問も今は彼方。恐怖に心を折られた彼女はただひたすらに逃げまどい、そして今、一つの納屋に辿り着いた。
その目に映ったのは一台の車とその車の鍵らしき物体。
車があるということは板で塞がれた出入り口の先は外に続いているのだろう。
車に乗って逃げる事が出来れば、走って逃げるよりも助かる確率は上がるかもしれない。
混乱と恐怖に呑まれた頭はより速く、より遠くへ逃げる事が出来るであろう可能性を選択していく。
鍵を取り、車の扉に差し込む。
ガチャリという音と共に車の鍵が開く音。
これで逃げられるという喜びで彼女の心音が高まっていく。
車に乗り込み運転席へと座り、鍵を差し込んだ。
バックミラーを見上げる。後ろに人影はない。
早く、早く、とエンジンをかけようと鍵を回す手がぴたりと止まった。
視界がバックミラーに映る光景に固定される。
誰もいなかった筈の後部座席から、ぬっと、鈍く光りを放つ金属が姿を現した。
左右に大きく開かれた金属が徐々に交差していき、しゃきん、と音を鳴らす。
甲高い笑い声と共に後部座席から姿を現した鉄鋏が何度も何度も刃を交差させる。
車内に絶叫が響き渡った。


177 : 怪物親子 ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:43:23 KuaoMvZM0

しゃきん。
しゃきん。
しゃきしゃきしゃしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃししゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃき。


じゃきん。


178 : 怪物親子 ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:43:59 KuaoMvZM0



古びた洋館から元いた廃ビルへと戻っていくのを、ルザミーネは黙って見上げていた。
体力の消耗もなくなっている。つまり、彼女のサーヴァントであるアサシンの狩りが終わったという事だった。
万が一の護身として出していた彼女の使い魔――ポケットモンスター、縮めてポケモン――のピクシーを手に持っていたボールに戻して一息をつく。
ほどなくして、哀れな犠牲者を血祭りにあげたアサシンが帰ってきた。

「おかえりなさい、アサシン」

異形としか呼べないおぞましい姿をした子供に対し、ルザミーネは愛する家族に向けるような暖かな笑顔を持って接する。
ルザミーネにとって、対象の美醜などというものは評価点として下位に位置するものだ。
重要なのは、自分の命令を忠実に聞く都合のいい存在であるかどうか。
その点、アサシンは時折やり過ぎるきらいはあるとはいえ、目的の為なら容赦も油断もなく、忠実に与えられた指示を遂行する理想的な駒だと言えた。
自分に忠実であればあるほど、有能であればあるほど、ルザミーネは惜しみなく愛情を注ぎ込む。

彼女の近辺をかぎ回るマスターらしき人物にルザミーネはとうに気づいていた。
だからこそ、そのマスターをアサシンが宝具を展開した建物の中に誘き寄せ、サーヴァント諸ともに始末する策に出たのだ。
アサシンは宝具の中であれば特定の条件を満たさない限り不死身の怪物であり、負ける要素は殆どないといっていいだろう。
死骸はアサシンの宝具によって作られた洋館へと丸ごと飲み込まれ、魂食いの要領で魔力として補填されている。
単なる失踪事件として扱われるのであれば、聖杯戦争の期間中に捜査の腕が伸びることもそうそうないだろう。
無論、その為の鼻薬もルザミーネは充分に嗅がせていた。財団の代表という元の世界と同様のロールはこういう事に役に立つ。
自身の身長の半分はあろうかという大鋏を手に、キャッキャッと嬉しそうに跳ねるアサシンを見て満足そうに目を細めながら、ルザミーネは建物の出口へと歩を進め始める。
聖杯、万能の願望器。
それさえあれば、親不孝者に連れられて逃げ出したアレを捕らえずとも、彼女の目的を達成する事ができる。
ウルトラビースト。異なる次元に住まう異質のモンスター。
ルザミーネが一心に愛を注ぐ彼らを一刻も早くアローラに、本来の彼女の世界に呼び出さなければならない。
例えそれが、何者かに植え付けられ、ねじ曲がり暴走した意思だったとしても、それが今の彼女の全てである事は変わらない。
ルザミーネの顔に酷薄な笑みが刻まれる。

カツカツと歩いていくルザミーネをアサシンは黙って見つめていた。
アサシン、シザーマンの瞳に宿る剣呑な光が、マスターである彼女にも向けられている事を彼女は夢にも思っていないだろう。
アサシンには大それた望みなど存在しない。
あるのはただ、手当たり次第に残酷に、凄惨に殺して回りたいという嗜虐的な欲望だけだ。
マスターに忠実であることは、単にそうしなければ現界して欲望を満たすことが出来ないことを理解しているだけに過ぎない。
令呪がなければ、マスターに頼らずとも現界する手段さえ確保できれば。
アサシンの象徴たる禍々しい光を放つ太刀鋏は一切の躊躇も慈悲もなく、自分を縛るルザミーネへと向けられるだろう。
忠犬の皮を被りながら、アサシンはただ時を待つ。
暗い望みを胸に秘め、アサシンは霊体へと姿を変えていく。

ルザミーネは気づかない。
あの時も、そして今回も。
彼女にとっての一番の障害は、彼女の最も身近にいるのだという事を。


179 : 怪物親子 ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:44:35 KuaoMvZM0

【クラス】
アサシン

【真名】
シザーマン(ボビィ・バロウズ)@クロックタワー

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力:D 耐久:EX 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

邪神の加護:A
邪神の加護を受けた信徒の証。
同ランクの精神汚染と加虐体質、戦闘続行スキルを得る。
偉大なる父と呼ばれる邪神の使徒として産み落とされたアサシンは高ランクの加護を得ている。この邪神の信徒は凶暴な性質となり、高い不死性を得る。

拷問技術:B
卓越した拷問技術。
拷問全般のダメージにプラス補正がかかる。アサシンの場合は鋏を用いた攻撃に対してこのスキルの効果が適用される。

【宝具】
『時刻まぬ惨劇の館(クロックタワー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:最低1(宝具発動時の建物の規模に依存) 最大捕捉:最低1(宝具発動中の建物内であれば制限なし)
アサシンのいる建物を外観をそのままに内部だけを彼の生家であり、彼が惨劇を繰り広げ続けたバロウズ邸へと置き換える。
バロウズ邸と化した建物の中ではアサシンは不死身の存在となり、建物内限定でいかなる場所へも物理法則を無視して移動が可能。
無敵のクリーチャーと化すアサシンだが、宝具発動と同時に建物のどこかから必ず繋がっている時計塔の時計を起動されるとアサシンは止まっていた時が動きだし衰弱死する。
なお、バロウズ邸内に惨劇に荷担したアサシンの親族は召喚されない。

【weapon】
太刀鋏


180 : 怪物親子 ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:45:04 KuaoMvZM0

【人物背景】
代々邪神を信仰していたノルウェーの貴族、バロウズ家の次男。
偉大なる父と呼ばれる邪神の使途として生まれた異形の者。
本来であれば器官の未発達によって3日と持たない命であったが、母親がバロウズ邸の時計塔を止めて彼の時の流れを止める事で9年もの歳月を生きながらえてきた。
正確は残虐かつ狡猾で、人間や動物を殺す事を好む。
母親が連れてきた孤児の少女達を殺害しようとするが最後の一人だけは抵抗にあい失敗。
バロウズ邸の時計塔を起動された事によって彼の止まっていた時は再び流れ出し、苦しみに悶えながら時計塔から落下して死亡した。

【サーヴァントとしての願い】
思うままに手あたり次第殺して回りたい。マスターもその対象であり、単独現界さえ出来るようになれば不要とみて殺害する。

【マスター】ルザミーネ@ポケットモンスター サン/ムーン

【weapon】
使い魔として以下のポケモンを所持。(サーヴァント相手にはほぼ無力)
・ピクシー
・ドレディア
・ムウマージ
・ミロカロス
・キテルグマ

【能力・技能】
なし。
■■■■■の神経毒によって肉体の潜在能力が極限まで引き出されているため、身体能力は高いものと思われる

【人物背景】
ポケモン保護団体エーテル財団の代表を務める40代の女性。
母性に溢れた性格で人望に厚い一方でその母性が行き過ぎて独善的な面も多々見受けられる。
その裏に隠された素顔は極度に自己中心的で傲慢。思い通りにならなければすぐに癇癪を起す。
もっともこれは■■■■■に■■された結果である可能性があり、本性とは言えないのかもしれないが、この場に呼ばれた彼女は■■後であるためそれを語ったところでどうしようもない話である。

【マスターとしての願い】
ウルトラホールを自分の世界に開通させ、ウルトラビーストを呼び込む。


181 : ◆cjEEG5KiDY :2017/01/09(月) 16:45:37 KuaoMvZM0
以上で投下を終了いたします。


182 : おさんとん係 :2017/01/09(月) 17:09:05 rs0B9jho0
投下します


183 : おさんとん係 :2017/01/09(月) 17:30:30 rs0B9jho0
風鳴弦十郎は最も危険な種類の悪党を相手にしていた。
「これ美味いな、ちょっとッ!あと六人前くれ」
「あいよッ!」
「おいッ!人の聞いているのかッ!?」
 完璧な莫迦野郎を……。
「あの霊体《状態》に好きになれなくてな…」
「魔力なんて腹の足しにもならねぇし、ここ本当に米は無いのか?」
「無いッ!たぁっく…そんなこまい身体で一体どこに入っていく?」
そろそろ自分の体積を超えそう何だが…。
「だが、しかし…お前が──あの──」
「いや、違う」
「は?」
「まだだ。だが、名は継ぐ。この聖杯戦争《戦い》に勝ってな…」
「それまでは虎って喚べばいいよ。喚んだ行くから」
「虎だとぉ?そんなぁ…狗か猫じゃ、あるまいし…」
飯を食いながらアサシンは弦十郎の左手の刻印を睨みつける。


184 : おさんとん係 :2017/01/09(月) 17:33:13 rs0B9jho0
「何だ?また令呪《コレ》か?」
「俺は…」
「その結果がコレだ。莫迦も休み休み言え」
人差し指で令呪を指差す。
召喚早々に令呪の行使で既に一画減っている。こりゃ後でどやされるぞ……。
「お前のパンチのせいでまだ腕が痺れてる。アサシン」
「もう英霊の身に成った俺の目から見てもおっさんは十分化物《こっち》側の人間だぜ」
「たぁけた事を。冗談じゃない」
「意外と謙虚なんだな」
「それにオッサンじゃないッ!まだ俺は23だッ!」
「俺がサーヴァントに成ったとしても、令呪《そんなもの》の助けは要らない。さっさと飯代にでも替えてくれ。出来るだろ?」
「なん…だとッ!?」
「心配はいらぬ。例え勝負に負けても戦には勝たせる。安心しろ」
「はいお待ちッ!ヤキソバ六人前、大盛、具沢山、ソースだくッ!」
会話を遮った店員。
「ちょっと待てッ!店員ッ!俺の頼んだ分は!?」
「来た来た、頂きま…ぬ?」
「どうした?アサ──」
次の瞬間、
き…消えたッ!
宙に浮かぶ箸が床に落ちた。
「話の途中なのに霊体化して、どこ行きやがったアイツ?」
彼の頭上で鳴り響く、
「銃声ッ!?」
天井をぶち抜いて上から人が降ってくる。店員も客たちも逃げ出した。
「おい。上の階に居たこいつ、知り合いか?」
「これは米国政府の…」
「乱波…のようだが。それに──…伏せろッ!」


185 : おさんとん係 :2017/01/09(月) 17:34:38 rs0B9jho0
「乱波…のようだが。それに──…伏せろッ!」
店の外から、撃ちこまれ銃弾。更にトレーラー数台、停車と同時にテールゲートから黒ずくめが蟻のように出て来る。更に銃弾を浴びせ始める。
こればっかしはアサシン改め、虎の警告なしでも良かったが、幸いにも卓が頑丈で助かる。
「まだ始まってもいないんだろ?それを白昼堂々と…この鉄砲とは」
虎は床に転がる銀の盆を弦十郎の盾にしようとするが、その盆は手の中で銃弾に食いちぎられた。
「おかげで飯代が浮いたッ!有り難いッ!」
「おいおいおい…」流石にこれには虎も舌を巻いた。
銃撃が止む。
「弾切れか?」虎は聞く。
「いや、違うな」マズいな…。
『Mr.風鳴ッ!大人しく令呪を渡してくれれば、アナタのライフは保証シマショウ。デテキテクダサイッ!』
「どうした?困ってるか?弦十郎?」
この銃口睨む、十字放火の四面楚歌に俺は自分がまた撃たれるまで、ただ見ているしかない。
「お前この状況を楽しんでいるな?」
「俺も少し、怒ってる。風鳴、安心しろ死なせはせぬ」
三度、アサシンのいや、虎は姿を霊体に移した。
「Kill the master ahead !」
「──俺がいる限りはッ!」
部隊の背後に現出するアサシン。


186 : おさんとん係 :2017/01/09(月) 17:35:38 rs0B9jho0
「遅いッ!」
──四人。最初に首が頸部から千切れ飛んだ。四つの生首はそのままそれぞれ別々の人間の腹部に直撃した。
「what!?」
紛れもない動揺が男たちを振り向かせた。
風鳴を狙う銃弾は自分の仲間を誤射した。いや、そうさせたのか。
「我は風鳴弦十郎を守護する鬼なり、命のいらぬ者はかかって参れッ!」
消失と顕現を繰り返し、ことごとく滅する。ハチャメチャな、まるで台風だ。

「ははは。段々、霊体化《これ》が楽しくなってきたぞ…風鳴ッ!」
実体化・霊体化の切り替え《スイッチ》の間隔が短くなっていく、 灯りが明滅するがごとく、速度を上げていき、デタラメな残像がとうとう姿を消して、消えた。実体化・霊体化。それは現世と幽世を往き来するに等しい。そんなに迅くは絶対に不可能だ。どんなサーヴァントでも…。さもなくば霊基が不安定になってサーヴァントは自壊する。はずだった…。

見えない何かに人が打ちのめされていく。
暴力の嵐の背後で、鬼の姿が浮かび上がった。

しかし、魔術に最低限の知識しかない弦十郎の眼には彼は只、迅《はや》いだけでしかない。彼が驚いたのはそこではない。
この武は何だ?
この身を剣《つるぎ》と鍛えた身だ。しかし、あれは…。
寒気がした…あの業は何だ…
自分の顔に流れ弾が掠めても動じない。弦十郎はとうとう戦場に身を乗りだしてしまった。
迅いッ!これが人の身で辿り着いた業《わざ》だとッ!?
これが──…


187 : おさんとん係 :2017/01/09(月) 17:36:40 rs0B9jho0
──武道の本質は〝人殺しの業〟だ。
──■■圓明流。それは武術界に伏在する伝説。
その無手の業を以て、宮本武蔵に勝っただの、新撰組の土方を倒しただの、千年不敗を誇るというが真実かどうかは定かではない。だがもし…それが真実なら、武術の祖に相違ない。アサシンとして彼が現界したのも頷ける。

「──どうした?おっさん。笑ってるのか?」
アサシンの人相が変わって乱波のその返り血で顔を真紅に染め上げる。

「これが…真実《まこと》の鬼の力。これが…修羅の血かよッ!?」
「おい、おっさん。だから何で笑ってるんだ?」
「笑ってる?」俺がか?そんなはずはない。
「おっさん。いい加減に人の芝居《ふり》はやめろ。あんたの中には居る。確かだ」
「居る…だと…?」
「俺とおんなじ奴《鬼》が居る」
「まだ気づいてないのか?」
「俺の本当に戦うべき相手は…」虎は笑っている。
『これも運命《さだめ》と呼ぶのか?……なぁ、信長?』
「お前だ。風鳴弦十郎」




【CLASS】アサシン
【出典】修羅の門・修羅の刻
【真名】■■(仮名:虎)
【身長】167㎝【体重】65㌔
【性別】男性 【属性】中立・悪
【ステータス】筋力C+ 耐久C 敏捷A
 魔力E 幸運B 宝具EX
【クラススキル】
気配遮断:B(-)
自身の気配を消す能力。
だが、彼の場合、戦闘態勢に入るとたちまち闘気が放出して他のサーヴァントにも存在を察知される。要するに彼の戦い方は悪目立ちするのだ。観るだけなら問題ない。観るだけなら。
【保有スキル】
心眼(真):B+
戦闘続行:A
勇猛:A+
鬼神(修羅):B
この発動には条件が幾つか存在するが詳細は不明。これが発動すると全てのパロメーターを2ランク上昇させる。更に単独行動:Bランク相当などを付与。この状態に戦闘中移行すると、誰の言うことも聞き入れないため、彼との意思の疎通は不可能。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。相手か彼自身どちらかが手折れるまで戦い続ける。

【宝具】
『■■圓明流』
ランク:EX 種別:対人魔業
 レンジ:1〜250 最大補足:1000
正確には宝具ではない。一子相伝・門外不出。人の身とは思えぬその絶技の数々。それは多対一や対剣術のみならず、対銃器の状況をも想定されている謎の活人。その千年不敗の伝説は誇張はあっても出鱈目ではない。その名は──
『?』
ランク:? 種別:不明 レンジ:-最大補足:-
詳細不明。
【人物背景】
──天正九年、本能寺にて第六天魔王は討滅された。
この時、彼もそこに居合わせた者と思われる。
彼は何を想い、何故座についたのかも定かではない。
彼に名前はまだない。この戦いで名を継ぐのだ。
只…往く…修羅の道を…どこまでも…。
【サーヴァントとしての願い】
彼の目的は無手の勝利、ただそれだけだ。故に──

【出展】 戦姫絶唄シンフォギア
【マスター】風鳴 弦十郎
【性別】男性【属性】秩序・中庸
【参戦方法】 政府からの支給
【人物背景】極東の暗部〝風鳴機関〟所属し、諜報活動に従事。そして護国の系譜、風鳴一族の防人。風鳴家・現当主、父・風鳴訃堂の名にて、聖杯の獲得を命じられ馳せ参じた。風の噂では風鳴家はかつて外法に手を伸ばし、その家の者は今尚その身に悪鬼血潮が流れていると聞く。
年齢は23歳と若干本編より、若いし、青臭い。
【weapon】
・己の肉体
研鑽された肉体はまさに剣《つるぎ》と呼ぶに相応しい。
・銃器
主に使用する火器はベレッタM92FS、 レミントンM700
他にはA-10、ブローニングM2重機関銃など
断じて彼自身の趣味ではない。
【能力・技能】
・諜報活動
・変装
・格闘術などなど
【マスターとしての願い】
なし。それが仕事ですから。
【方針】
聖杯の回収


188 : おさんとん係 :2017/01/09(月) 17:37:05 rs0B9jho0
投下終わり


189 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:37:42 zNI8DVZM0
皆様、ご投下ありがとうございます!
さて、早速ですが『おさんとん係』を投下頂いたID:rs0B9jho0氏、トリップをお忘れですので、できればIDが変わらない本日中にトリップ付きでの書き込みをお願いできればと思います。
それと、私も候補話を投下したいと思いますのでよろしくお願いいたします。


190 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:39:08 zNI8DVZM0






 ……だって、キミは言っただろう。

 大地に足をついて生きたい、生きて何かを残したい、と。



 世界を救い、微笑みを残して消えていったおまえの未来を、
 ■■はまだ夢見ている。



 旅はまだ終わらない。
                            少なくともキミの旅は。



 まだ駆けるべき草原の夢が残っている。













 ――今の己の状態に、何かが違う、という感覚が張り付いたのはいつからだっただろうか。

 きっかけは、記憶するにも及ばぬ些細なものだったのだろうと、ティーネ・チェルクは述懐する。

「ティーネ様。例の件、手配完了いたしました」

 近代化の波に飲まれてしまった現代にあっても、先祖代々の大地を守護せんとする土地守りの一族。
 その族長である亡き父の跡を継ぎ、総代として仲間を束ねる立場にある彼女は、齢十と少しを数えたばかりの幼童であった。

 古くより大地と穏やかに共生してきた部族であったが、二度目の世界大戦と前後して、『スノーフィールド』という名の新興都市に伝来の土地を塗り潰されてしまってからは、その奪還に向けて水面下で闘争を続ける羽目となっていた。
 そして一族の悲願を背負った先代の族長、すなわちティーネの父が志半ばで息絶えてしまってからは、その重荷はティーネの肩に載ることとなっていた。

 一族の者からは大切に扱って貰っているとはいえ、そのような……将来を著しく縛られた立場に、今の己が在ること。そのこと自体は、何の違和感もなく受け入れられる現状認識だ。
 しかし――

「……よくやってくれました」
「いいえ、大したことではありませんとも。あちらの代表とは我らの総代であるチェルク家の者が直接交渉に当たる必要がありますが、心配は無用です」

 自身に代わって政治交渉を担当していた、立場上は部下となる男の報告に、ティーネは無感動な労いの言葉をかける。
 感情の篭もらぬその声に、しかし以前よりの付き合いですっかり馴染んだ彼は気を悪くすることもなく、安心させるように穏やかな語調を続けた。

「あなたはその場に居てくれるだけで結構です。後は全て、我々に任せておいて頂ければ」

 何気ないその宣告に。自身は、こんなにも無力でよかったのだろうかと、不意にティーネは思う。


191 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:41:00 zNI8DVZM0

 無論、肩書ばかりは当代の族長といえど、所詮ティーネは幼い孤児に過ぎない。
 部族の中でも、親類に当たる者が家政婦としての役目を果たす程度で、基本的には一人、家で過ごすばかりがティーネの日常だ。
 一族としての集会や、あるいは協力者足り得る者達との会談の席に、象徴として呼ばれる程度で、族長として背負わなければならないような責務も決断も、全て誰かが肩代わりしてくれていた。

 所詮子供である今のティーネに、彼らの真似事ができるわけではない。それは幼いながらにも理解している。
 だからこそこうして、日々族長として必要な学びを重ね、将来に備えているわけなのだが……
 だが。



 自分はここまで、こうも不自由/自由であっただろうか?



 そんな疑問がまず、一つ。

 そしてもう一つ。何か大きなものとの繋がりを断たれたような違和感が、ティーネの裡で伽藍となって吹き抜けていた。
 目に見えない、大きな何かとの繋がり。
 その何かが、あるいはティーネが喪ったと感じる自由/不自由と密接に結びついた要素であったのではないかと、ふと思考が過ぎる。

 その欠落が在るから、ティーネは本来の在り方と今の状態とに、齟齬を感じているのではないか?

 己が感情を発露させないのは、両親を亡くしたことに塞ぎ込んでいるからではなく――もっと異なる要因で。
 なのにそれを忘れているから、こうも違和感があるのだ。
 でも、ならば何故忘れているのだろうか。
 そしてそれは、何なのだろうか。

 ……そんな考えが浮かんでは、気づけば泡沫のように消えて行く。
 所詮は焦りだ。考え過ぎだ。肉親を亡くしたショックから目を背けるために、今の己の状況に別の要因があると思いたがっているのだと、内なる声が言い聞かせてきて。
 その声に抗うことができず、結局はこの違和感が、記憶するにも及ばないものだとティーネは誤認し続ける。

 ――そうして幾度となく浮かび上がっては沈んでいく引っかかりが、最後は沈むことなく残ることになったきっかけは、偶然目にしたテレビ番組の中にあった。

 テレビで特集されていたのは、アメリカ合衆国という国(侵略者)の歴史。
 珍しくもないような企画だが、初回放送であるそれはつまるところ最も新しい時代の知見で再編された情報だ。
 敵を知り己を知れば百戦危うからず、という言葉から、ティーネは敵情視察のつもりでその番組を視聴していた。
 その一分野として語られた第一次産業。ちょうど、先祖がこの土地を奪われた頃の記録映像が流された。

 草原と見紛うほど、広大な土地に青々と生い茂る農作物の上を、科学技術によって大型化した収穫機(ハーヴェスター)が駆け抜けて行く。
 冷淡な数字で効率化した機械の刃の上には、共生していた大地から無感情に引き抜かれた命が並んでいて。
 それがまさに、共生していた大地から機械的に切り離された己と重なって――――



 ――そこで思い出した。



 そうだ。そうだった。
 彼女の故郷を奪ったはずのこの街は、しかし真実のスノーフィールドではなく。
 共生し、そこに満ちる力を貸し与えてくれる大地から切り離されてしまったからこそ、幼くして一族でも優れた魔術使いであった己がこうも無力でしかなく。
 昼間に顔を見せた彼も、他の大勢も。同じ土地に生きてきた、真実の朋輩ではなく。

 ここは全てが偽りの、箱庭――――

 その真実を、取り戻した直後。
 ちょうどティーネが家に一人であることを見計らったかのように、眩い閃光を放つカードが即座に一枚、現出し。

 次の瞬間、更なる輝きが爆発した。


192 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:42:18 zNI8DVZM0

 同時。強烈な風が、室内で吹き荒れる。閃光から目を庇ったティーネの髪が乱暴に梳かれ、顔を庇うように交差した両腕の後ろにはためき。

 そして。

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」

 中からの突風で窓の開放された室内に、"それ"は姿を表した。













「問おう。おまえが私の、マスターか?」

 鈴の鳴るような声で、冷徹に思えるほど朴訥と尋ねてきたのは、ティーネと同じく褐色の肌の上に、幾何学的な文様を刻んだ女性だった。
 その短い銀髪の長さを見誤らせるのは、花嫁を思わせる純白のヴェール。ティーネたちとは異なる民族の衣装に身を包んだその年若い女性は、感情を覗かせない緋色の瞳で、じっとティーネを眺めていた。

 サーヴァント。マスター。
 そして、聖杯戦争。

 それらの単語の意味するところを、ティーネは月に招かれる以前より知っていた。
 何故なら自ら調べ上げ、参入しようと画策していた殺し合いであるからだ。
 その聖杯戦争こそが、ティーネらの土地が奪われた元凶であったから。

 しかしそれは、月ではなく、地上において行われるはずだった聖杯戦争のこと。
 故に、とうに決めていたはずの覚悟は、不測の事態に揺るがされていた。
 それでも、何故己が感情を殺していたのか、その理由を取り戻したティーネはもう一度。心を冷たく固めて、目の前に立つ剣姫へと口を開いた。

「……我が名はティーネ・チェルク。月ではなく、地上においてスノーフィールドという名に穢された土地に生きる、一族の娘です」
「そうか」

 感情を殺したままのティーネの返答を認めると、沈黙の間、無機質にこちらを観察していたセイバーも淡々と名乗りを返した――まるで、機械のように。

「我が真名はアルテラ。匈奴(フンヌ)の末たる軍神の戦士だ」

 覚えのない名前だった。
 アルテラという名の女英雄は、ティーネの記憶の中に存在しない。
 ならば異世界の英霊だろうかと、思考が逸れかけたところで。聖杯戦争に向けて積していた英雄譚の知識が、続いた単語に引っかかった。
 史実において、女性であったという記録こそないが……それらのキーワードに該当する、近しい響きの英雄の名を、ティーネは知っていたからだ。

 その者こそは、匈奴の末裔たる戦士の一人。そして軍神(マルス)の剣を武器に大帝国を成し、暴力によって他の文明を蹂躙した恐怖の大王。

「……恐れながら、貴方様はフン族の大王にあらせられますか」
「如何にも、そうだが」

 セイバーは鷹揚に頷き、ティーネの推察を肯定した。

 アルテラと名乗るセイバーの正体――それこそは、アッティラ・ザ・フン。
 西アジアからロシア・東欧・ガリアにまで及ぶ、広大な版図を制した五世紀の大英雄。

「御身と拝謁が叶うとは、身に余る栄誉にございます」

 彼女もまた王である、ということを知ると同時、ティーネは跪き、頭を垂れていた。
 カテゴリーにおいては使い魔である、縁遠い異郷の英霊とはいえど――同じ星に生きた祖霊への礼節と、これより縋るべき力の化身への敬意を、心より込めて。


193 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:43:20 zNI8DVZM0

 本来臨むはずであった聖杯戦争で、ティーネが全てを懸けようと目していた黄金の弓兵。その猛威を伝え聞くかの英雄王には及ばぬとしても――この大王もまた、人類史でも指折りの征服欲を持つであろう強大な英霊。
 我欲によって簒奪された一族の土地を取り戻すためならば、それを越える力、つまりは侵略者にも勝る強欲を胸に抱き、彼奴らこそを蹂躙しなければならないと――そのように、本来のティーネは教育されてきた。

 だからこそ、月はこの戦闘王を自らに与えたのだと――ティーネにはそのように理解した。

「我が望みは、祖先より続く土地を蹂躙する侵略者(魔術師)達を退けること。そのために……」

 そこで、微かに言葉が詰まった。
 だが、とうに覚悟は済ませているはずだと、ティーネは自らを叱責する。

「……どうか、大王の御力添えを願いたく」
「征服者であるこの私に、解放のための戦いを望むのか」

 無感動にセイバーが答えた。
 そのとおりだ。たとえどんな暴君であろうとも、故郷を蹂躙した外敵を更なる蹂躙を以って排除できるのならばそれで良い。
 祖先から受け継いだ土地を取り戻し浄化するために、ティーネは感情を廃し、力ある暴君に己の全てを贄として差し出すつもりだった。
 だが。征服者側であった当人からすれば、快いばかりとは限らない頼られ方だ。

 ティーネにとっても、同胞すら奪われたこの偽りのスノーフィールドにおいては、唯一縋れる存在がセイバーだ。
 他の選択肢がないとしても、仮に彼女の機嫌を損ねてしまえば、何も為せず、何も残せず終わってしまう。
 心を捨てたはずの少女でも。そんな結末には、拭い難い忌避感を覚えていた。

「いいだろう」

 しかしそのような懸念は、セイバーのあっさりした返答で霧散した。

「契約は成った。これより我が力、おまえに預ける」

 そう言って背中を見せるセイバーに、ティーネは思わず面を上げ、問いかけていた。

「よろしいのですか?」
「私は闘う者、殺戮の機械だ。おまえが、私を使いこなせ」

 あまりにも呆気なく、セイバーはティーネに全権を委任した。
 譲歩ですらなく。我の強いはずの英霊が、魔術師風情、それもティーネの如き若輩に、こうも易々と従うというのだ。
 胸を撫で下ろす心境だが、しかし疑念は尽きない。

 セイバーの様子に、ティーネの言動に感じ入る物があったから、という気配は微塵もない。
 それは人間として信頼しているというよりも、もっと別の理由。
 戦闘行為に全機能を注いだ機械が、思考するソフトウェアを外部に委託しているような、そういった呆気なさだ。

「……私はただ殺すだけだ。物言わぬ機械のように、物思わぬ機械のように。考えることも、感じることも、おまえに任せる」

 そんな予想を裏付けるように――あるいは念を押すように。殺戮兵器(セイバー)は、背中越しに心を捨てた少女(ティーネ)に告げる。

 それは、ある意味都合の良いことだが……一方で、彼女が何を考えているのか窺い知れないということでもある。
 即ち、この大英雄の力は信用に値しても、信頼することはできないのだと、ティーネは己に言い聞かせた。


194 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:43:49 zNI8DVZM0

 ……結局のところ。故郷を追われた今の己はひとりきり。
 それでも一族の悲願のためには、肚の知れぬ破壊の大王をこの手で制御し、誰にも頼れないまま戦い抜かなければならないのだ、などと。

 自らに無関心な契約者の白い姿を目にしながら、少女はそのように考えていた。

 ――その時は、まだ。












 ――この両足が月の大地を踏みしめるのは、おそらくは初めてのことだ。
 強大な英霊でありながらも、彼女はそのデータベースからSE.RA.PHに喚ばれることがなかったから。

 その事実に、感慨を挟み立ち止まるわけでもなく。己の起源すら忘れた殺戮の機械として、破壊の化身として、ただ闘うのみ。
 そんな、生前の在り方を無意識にトレースする己を認識しながらも。願望機を巡る争い、その真の参戦権を初めて与えられた機会に、セイバーの胸は密かに高鳴っていた。

 ……生前の己は、出処も知れぬ破壊衝動に突き動かされ続け、他の何かを考えることもなかった。
 そんな人生を後悔するわけではない。自身を大王と奉じ、同胞として受け入れてくれた者達に報いることができた戦士としての生涯は、決して悪いものではなかったから。

 けれど、今はこうも思ってしまう。

 人々から本来の性別すら忘れ去られた戦士ではなく、平凡な、しかし自由な普通の女であったなら――自分の人生は、どんな旅路になったのだろうと。

 死した亡者、英霊の身でありながら。あれだけ大勢率いた同胞の、誰一人として大切な記憶の中にいない空虚を知った、今更に。

 あれだけ溢れていた衝動は、今は随分と弱々しい残滓へと変貌している。
 経緯を知る由もないが、あるいは。この世界では、その衝動の源泉であった"本体"と、本当の意味で切り離されてしまっているのではないかと――セイバーは、そのように推察した。

 己の起源(ルーツ)を知ることもないまま、その本体が消えてしまったのだとしたら。これまで朧ながらに感じていた巨(おお)いなるものとの繋がりを断たれた喪失感に、寂寥を覚えないわけではない。

 しかし、そうであるというのなら、せめて。破壊しかできなかったこの手にも――万象を記録する器、万能の願望機たる聖杯を、壊すことなく掴める可能性が生まれたのではないか。

 そんな期待を込めた朱い視線で、セイバーは戦場となる街の明かりを睥睨する。
 弱ったとはいえ、条件反射のように疼き出す本能を、ささやかな夢を実現する機会を潰さぬように留めながら。

「――戦いは、まだか」

 外目には、機械のように冷淡な態度を保つ中。抑えきれぬ衝動を漏らすように、セイバーは呟きを零していた。


195 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:44:53 zNI8DVZM0

【出典】
 Fate/Grand Order

【CLASS】
 セイバー

【真名】
 アルテラ

【属性】
 混沌・善

【ステータス】
 筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運A 宝具A+

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術に対する抵抗力。
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A
 乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。


【保有スキル】
神性:B
 神霊適性を持つかどうか。
 セイバーは神霊との血縁関係を有していないが、「神の懲罰」「神の鞭」と呼ばれ畏怖された逸話――――あるいは、彼女が手にする軍神の剣により獲得したスキル。

軍略:B
 多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。

天性の肉体:EX
 生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。
 このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。
 更に、どれだけカロリーを摂取しても基本デザイン(体型)は変化しない。
 ……規格外、にランクされるのは、それが「この星」の規格からは本来外れる代物であるから、とも。

星の紋章:EX
 体に刻まれた独特の紋様。
 紋を通じて魔力を消費する事で、瞬間的に任意の身体部位の能力を向上させることが可能。
 魔力放出スキルほどの爆発的な上昇値はないが、魔力消費が少なく燃費がいい。 更に、直感スキルの効果も兼ね備えた特殊スキルでもある。
 ……実は、本来の名称から一文字欠けた、スケールダウンしている状態にあるスキル。

文明侵食:EX
 無自覚に発動しているスキル。手にしたものを自分にとって最高の属性に変質させてしまう。
 ここでいう最高とは優劣ではなく、マイブーム的な意味。
 セイバーの場合は、彼女を「剣を揮う者」として定義させている因子である、下記の宝具の所有権を示すスキルとなる。


【宝具】
『軍神の剣(フォトン・レイ) 』
ランク:A  種別:対軍宝具  レンジ:1〜30 最大補足:200人

「神の懲罰」、「神の鞭」と畏怖された武勇と恐怖が、軍神マルスの剣を得たとの逸話と合わさって生まれたと思われる宝具。
 長剣の剣状をしていながらどこか未来的な意匠を思わせる三色の光で構成された「刀身」は、本来地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得るという。
「刀身」を鞭のようにしならせる他、真名解放を行うことで「刀身」は虹の如き魔力光を放ち、流星の如き突進で敵陣を殲滅する。

 ただし現在発揮できているのは制限された力であり、本来の性能はセイバー自身が抱えた歪みにより行使できなくなっている。
 真の力を発揮すればランクと種別が向上し、地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得る光を「落涙」のように降らせる、「世界を焼く大宝具」と化すとされている。


196 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:45:32 zNI8DVZM0

【weapon】
『軍神の剣』


【人物背景】
 大帝国を成した大王。アッティラ・ザ・フン。
 匈奴(フンヌ)の末裔、フン族の戦士にして王。軍神(マルス)の戦士。
 西アジアからロシア・東欧・ガリアにまで及ぶ広大な版図を制した五世紀の大英雄。 東西ローマ帝国の滅亡を招いたとも言われる。
 戦場の武勲とは対称的に統治には成功せず、自身の死の後に帝国は急速に瓦解し消え果てたが、畏怖と恐怖を示す「アッティラ」の名は、近代、現代に至るまで人々に記憶されている。

 誇り高く理性的な戦士だが、どこか無機質な「空虚」を感じさせ、また自身を「文明を滅ぼすもの」と定義しており、一部からは「人類の天敵」指定されてしまっている。
「この星」の生命の第一原則は生存と繁栄だが、彼女の根底に刻まれた厳守は「破壊」であり、進んで人間を殺害したくないが壊したいという矛盾を抱えている。
 一方で自分を文明を滅ぼすのための装置だと割り切っているようで、その言動は冷静を通り越して自動的に動く機械のようですらある。

 ここに召喚されたのは、同族の繁栄を願う己の祈りとも、得体の知れない衝動ともつかぬもので戦い続け、そして大地に還った、草原の少女から続くサーヴァントである。






 ――――事実として。彼女の正体は、上記に語られているとおりではない。
 それはムーンセルにとっても最大級の禁忌であり、脅威であるもの。
 故に本来、セイバーはムーンセルにおいてはその記録を厳重に封印された、召喚されるはずのないサーヴァントであった。



 しかし、先代のムーンセルの王に、その電脳体を構成する三要素が分裂するという事件が起きる。
 独立してしまった三つ意志の再統合、その混乱の中。粉雪のように消える仮初の心が願ったのは、世界を救った少女が在ることを許される未来。
 先王の死に際に託された幾つかの願いの一つ、ムーンセルの更新に際し、異なる目的を持ったその自我が混入した結果。「この世界」においては本来、月が封印していたはずの記録が解禁される運びとなった。

 それは先王が願った少女そのものではなく、彼女の視た夢。
 同じ名を持ち、同じ顔と姿をして、「本体」から独立しながらも起源を等しくする、地上の英雄に関する記録だった。
 このセイバーはそこから召喚された存在であり、既に滅びた「本体」とは始まりを同じくしながらも、既に別の存在として確立されたひとりのサーヴァントである。

 それでも。

 仮令、夢の残滓だけでも――この世界の彼女はもう一度、草原を駆ける眺めの続きを与えられたのだった。


【サーヴァントとしての願い】
「戦士ではない人生を生きてみる」こと。
 決して戦士である自分を嫌悪していた訳ではないが、もしも戦士ではなかったら自分はどのように生きるのか、と興味を抱いている。


【基本戦術、方針、運用法】
 直感力に優れ、あらゆる事態に際しても理性を放棄せず立ち向かい、無慈悲な殺戮を遂行する戦闘機械と化す純然たる『戦闘王』。
 最優のクラスに相応しい、非常に高く纏まって穴のないステータスと優秀なスキルを併せ持つセイバーであり、トップランクに座するサーヴァントの一角。
 マスターがその能力を支える魔力を十全に供給できる以上、その力を正面から揮うことが最良の戦術となり得るだろう。

 ただし、本人の知り得ぬ理由――月に巣食っていた巨神本体の消失――により、生前も縛られ続けた破壊という厳守が著しく弱くなっており、自らの在り方にエラーを起こしている状態が深刻化している。
 今は生前の振る舞いを再現できている――あるいはそれしかできないとしても。新たに生まれた戸惑いが、盤石であるはずの大王にどんな変化を齎すのか……それはまだ、誰にもわかることではない。

 一つだけ言えることがあるとすれば、文明を破壊したいという衝動が弱まっていることで、討伐令を受ける可能性が本来よりも著しく低くなっているということだろう。


197 : ティーネ・チェルク&セイバー ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:46:47 zNI8DVZM0



【出典】
 Fate/strange Fake

【マスター】
 ティーネ・チェルク

【マスターとしての願い】
 一族の悲願である故郷の奪還

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 彼女の一族はスノーフィールドと呼ばれている土地と共生関係にあり、その領域内にある限りは無音にまで圧縮された高密度詠唱により、非常に高度な魔術を瞬時に、魔術師相手にすら気取られず行使することができる。
 土地を一歩でも離れれば力を失い、一般人程度の存在となってしまうが、ティーネは月に再現された偽りのスノーフィールドにおいてもその魔術行使を可能としている、大地と魔力を共有する魔術師である。
 ただし、ムーンセルが再現したスノーフィールドには異物も数多含まれているため、完全に地上と同様の魔術行使が可能なわけではなく、わずかながら劣化している。
 使い魔としては情報収集用の目としてコンドルを飼っており、それらの個体はムーンセルにも持ち込まれている。
 また、この偽りのスノーフィールドでも土地守の一族の長として、父祖の地の奪還を目指す彼らを統括する立場にあるが、地上とは異なり、一族は皆魔術と縁がない一般人となっており、聖杯戦争への協力の取り付けには注意を要している。


【人物背景】
 スノーフィールドの原住民である、土地守の一族の長。
 ティーネの部族は千年前から霊脈の地と共生し、ヨーロッパ大陸からの侵略者すらも退けて一族と土地を守り抜いてきた。
 しかし、この土地を偽りの聖杯戦争の舞台として利用せんと企む魔術師の一派がアメリカ政府と組んで襲来、七十年のうちに一族の地は蹂躙され、「スノーフィールド」という街へと作り変えられてしまう。
 父の跡を継ぎ部族の総代となったティーネは、聖杯戦争の参加者としてこの地を奪還するという一族の悲願を背負っていた。
 本来の偽りの聖杯戦争ならばその後、英雄王のマスターとなった魔術師から令呪を強奪しマスターとして参戦していたが、この世界線ではそれ以前に、地上の偽りの聖杯戦争を模した月の偽りの聖杯戦争に召喚される。
 そして魔術師より強奪した英雄王ではなく、月より宛てがわれた戦闘王の傍らで、この偽りでしかない聖杯戦争を己という偽らざる真実に塗り替えるために。

 ――それが真実己の願いなのか、運命の濁流にただ押し流された結果なのかも、わからないまま。
 一族の大地に帰り、そして続く子孫たちへと誇りを残すために。幼き長は、全てを懸けた戦いに望む。


【方針】
 部族の情報網を活かして聖杯戦争の敵を探り、セイバーの力で勝ち進む。


198 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/09(月) 20:48:01 zNI8DVZM0
以上で候補話の投下を完了します。
本日は候補話の投下のみということで、感想をお待ちの方には申し訳ございませんがご了承頂ければと思います。
よろしくお願いします。


199 : 名無しさん :2017/01/09(月) 21:23:36 1a8geBIc0
投下乙
投下される度にインフレが加速する気が……


200 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:06:37 cxYOTF7A0
投下します。


201 : 九条貴利矢&キャスター ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:09:18 cxYOTF7A0
 人を信じるということは、ひどく浅はかで愚かしい行為である、と九条貴利矢は常々考えている。人間社会とは、自らの利益のために他者を欺き、邪魔な人間を蹴落として、自己の地位の安寧を確立してきた者が常にトップに立つようにできている。その構図そのものに不満はない。それが人間社会のルールというのなら、貴利矢はただ、そのルールにノるだけだ。
 このスノーフィールドに訪れてからも、貴利矢の思想は変わらない。他者を蹴落としてたったひとりの勝者を決めるのが聖杯戦争というなら。

「――だったら自分は聖杯戦争にノるよ。そりゃ当然でしょ、黙ってやられるほど自分は甘くないっての」

 ただ、騙して、蹴落として、頂点を目指す。
 でなければ死ぬ。しかし、勝ち残れば願いが叶う。人として、聖杯戦争に乗って生き残りたいと願うのは当然の欲求だ。貴利矢は思い浮かんだ言葉を、よく動く舌に任せてそのまま口にした。なにも間違ったことは言っていない、そういう自負があった。

「そのために、あなたは奪う側の人間になる、というのですね」

 貴利矢が召喚したキャスターのサーヴァントが、八帖にも満たないアパートの一室に備えられたテーブルひとつ隔てて、静かに目を伏せた。
 目の前のテーブルには、キャスターが作った料理が並んでいる。米を主食に、豆腐が浮かんだ味噌汁と、あとはなにやら緑色のおかずが三品ほど。貴利矢は深く腰掛けたまま、目についた野菜を適当に箸で掴んで口に運んだ。
 精進料理、というらしいが、貴利矢にしてみれば、肉が足りないことは大きな不満であった。だがそれはそれとして、帰宅すれば既に出来上がった料理が用意されているというのは嬉しいことである。召喚初日にくだらないことで自らのサーヴァントと仲違いするのも馬鹿馬鹿しいので、貴利矢はあえてなにも文句は言わなかった。
 キャスターが作ったほうれん草のおひたしを咀嚼しながら、飲み込むよりも先に、貴利矢はキャスターに視線を向ける。

「いやいや、そういう言い方やめてよ。なんか自分が悪人みたいじゃん」
「いえ、あなたの言うことは尤もです。あなたのサーヴァントとして、私にはあなたを守り、聖杯を獲得するまでともに戦う義務がある。その私が、ただ生きたいと願うマスターの考えを否定することなどできるはずもない」

 キャスターの表情には貴利矢に対する敵意も、責めるような気配も感じられない。貴利矢には、キャスターがなにを考えているのか、なにを言いたいのかがわからなかった。

「それって、自分と一緒にゲームにノってくれるってことでいいの」
「ええ、あなたが私にそうあれと望むなら。……ただし、その前に」
「その前に?」

 キャスターが、箸を置いた。その大きな瞳で、じっと貴利矢を見据える。

「あなたの願いを、教えてもらえますか」

 貴利矢の願い。他者を蹴落としてでも、叶えたいと願う望み。
 絶えず笑みを浮かべていた貴利矢の口元から、虚を突かれたように笑みが消えた。


202 : 九条貴利矢&キャスター ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:10:22 cxYOTF7A0
 
「この戦争に乗るというからには、他者を蹴落としてでも叶えたい願いがある、ということなのでしょう。あなたがいったいなにを望むのか……私は興味があります」
「ああー、そこ興味持っちゃう? まあ当然か。聖杯戦争が終わるまでは、曲がりなりにもあんたと自分は相棒同士だもんな」

 真実を語るべきか、適当な嘘で納得させるべきか。思考に割いた時間は一瞬だった。

「自分のせいで死んだ友達がいる。あいつの死をなかったことにできるなら、自分はそのために戦う……それだけよ」
「あなたにとって、大切なご友人だったのですね」
「まあ、自分のせいで死んだってのは、目覚めが悪すぎるでしょ」

 なんでもないようにけらけらと笑い飛ばすが、キャスターは同じようには笑わない。少し、苦しそうな笑みを僅かに浮かべるだけだった。そうやって苦笑いする表情も、美しい。キャスターが相当な美人であることは、貴利矢も認めるところだった。
 その美しい顔に、陰がさした。

「ですが、そのご友人は……自分が生き返るために、友であるあなたが、他者を蹴落とし、奪い尽くすことを……善しとするでしょうか。それで本当に、ご友人は喜んでくれるのでしょうか」
「はあ、なに言ってんだか。そんなの、死んだままよりはいいに決まってるっしょ。自分が死なずに済んで、喜ばないやつはいないって」
「私は……自己のために他者を蹴落とす、その姿勢を否定はできません。しかし、殺すとなれば話は別です。自己のために他者を殺し、奪い、蹂躙して……それでもなにも感じない人間がいるのだとすれば……私はそれを、ひどく哀れに思います」

 今度は、貴利矢の顔から、笑みが消え去った。

「わっかんねーなあ……あんた、いったいなにが言いたいワケ。自分と一緒にゲームにノるんじゃねえの」
「あなたは、自己のために、人を騙し、奪うのは当たり前のことだと言った。ええ、確かに……それも間違っているとは思いませんわ。かくいう私も、そうあれと願ってはいても、絶対に誰にも嘘をつかないというのは……難しいことでしょうから」
「ああそう、わかってんじゃん。嘘を吐かねー人間なんていねーってこと」

 吐き出すように、貴利矢は笑った。逆に、キャスターは神妙な面持ちを浮かべた。
 深く腰掛け嘲笑を浮かべる貴利矢と、背筋を伸ばして、膝の上に両手を置いて語るキャスターの姿は、対照的だった。

「では、逆に問いましょう。マスター……あなたは今まで、なにを信じて生きてきたのですか」
「はあ? 言ったろ、この世は他人を騙して、蹴落としたもん勝ちだって。自分は他人のことなんて信用した試しがない」
「人を信じたことのない人間が、誰かのために戦うことなどできますか」
「っ」

 キャスターの真っ直ぐな眼差しと言葉を受けて、貴利矢はここへ来てはじめて、言葉を詰まらせた。
 上っ面の言葉で切り抜けることには慣れている。だけれども、それすらも見透かされる人間が相手となると、話は別だ。貴利矢は途端に返すべき言葉を見失った。


203 : 九条貴利矢&キャスター ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:11:34 cxYOTF7A0
 
「私はあなたのサーヴァントだから、わかるのよ」
「なにが」
「人を信じることでしか得られないものがあることを、その尊さを。あなたが既に知っている、ということを」

 瞬間、貴利矢はひとりの男の笑顔を思い出した。
 最後の最後に、貴利矢が信じ、世界の運命を託した男。
 困難は多いだろうが、あの男ならば、いつか必ず真実に辿り着ける。掛け値なしにそう信じられる相手が、貴利矢にはいる。何度も騙してきたのに、それでも最後は貴利矢を「信じる」と言ってくれた――友達がいる。

「今あなたが考えているのは、さっき話していたご友人のことかしら。それとも」
「っるせぇなあ、あんたには関係ないっしょ」

 キャスターが、くすりと微笑んだ。

「認めましたね、人を信じたことがある、と」
「あっ、なに、カマかけたってワケ? いやいや今のはズルいっしょ」

 合わせた両手を頬に添えて、キャスターは微かに首を傾げた。その仕草には、些細な問題なら許しても問題ないのではないか、そう思わせるだけの魔力があった。すっかり毒気を抜かれた貴利矢は、内面まで見透かされたような心地のまま、この相手に強がることほど意味のないこともない、と感じ始めていた。

「ったく、あんたが相手じゃ、どうにも調子が狂っちまうよ」
「あら、それは褒められているのかしら」
「別に褒めてはいねぇっての。っていうか、さっきの、サーヴァントだからわかるっての、アレは」
「ああ。アレね、嘘よ」

 今度はちろりと舌先を見せて、微笑んだ。
 貴利矢は思い切り天を仰いて嘆いた。

「とんだ食わせ物だな、あんた!」
「ふふ、ごめんなさいね。でも、全部が全部嘘ではないのよ。半分は本当。あなたが本当は優しい人だっていうことは、私が召喚された時点で、ある程度はわかっていたわ」
「あっそ……」

 最早キャスターに対してなにも言う気にはなれなかった。主従の繋がり、というものがあるのかもしれないが、貴利矢はその分野に関しては詳しくはない。
 いつの間にか、キャスターの言葉から敬語がなくなっていることに気づいた。気分は悪くはない。貴利矢が纏っていた暑い殻を、キャスターが取り払って、ぐっと距離を縮められたような心地だった。
 不思議と安心感を覚えている。母と話す時のような気楽さを、貴利矢は今、感じている。その事実に一瞬遅れて貴利矢は驚いた。

「で、キャスター。あんたの願いは」
「私の願い?」
「あるんだろ、聖杯に託す願いが」

 胸元に寄せた左手で、右手の肘を支えながら、キャスターは右の掌を頬に添えて、ううんと唸る。

「あなたと同じように、もう一度会いたい人なら、いるわ」
「友達、それとも恋人とか? いや、恋人はないか、尼さんだもんな、あんた」
「……弟よ。死んでしまったの……もうずっと昔の話だけれど」

 遠い過去を懐かしむように、キャスターは瞳を閉じた。
 まるで恋人を思う生娘のように、儚く、なまめかしい表情で、キャスターは思考を巡らせている。キャスターにとって、死んだ弟がどれほど大きな存在であるのかを、貴利矢は察した。

「でもさ、あんた、さっきの口ぶりを聞くに、その弟さんのために聖杯戦争に乗る気なんてないんだろ」
「それは、まあ……ううん、どうでしょう」
「はあ? まさかあんた、あんだけ説法たれといて」
「生きていられることに勝る喜びなんてない……それはあなたの言う通りだと、私も思います。そのために多くの血を流すことを、彼は……命蓮は喜ばないかもしれない。だけど、それでも生きていてくれるなら……私は、うれしい」
「おいおい、いいのかよ、尼さんがそんなこと言っちゃって。問題発言だろ、今の」


204 : 九条貴利矢&キャスター ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:12:12 cxYOTF7A0
 
 キャスター――博愛と慈しみを兼ね備えた完璧な尼公である聖白蓮の口からそういう言葉が出たことが、貴利矢にしてみれば面白かった。生き別れた弟の生存の可能性を考えるだけで、少女のように初初しい表情を浮かべるキャスターが、新鮮で面白かった。だけれども、そう思うのもつかの間。キャスターがそういう顔をしている時間は、そう長くはなかった。

「だけど、結論から言うなら……私は、聖杯戦争に乗る気は、ないわ」
「へえ、そりゃまたどうして」
「愛する者が死ぬことは、確かに哀しいことです。だけど、その死をなかったことにはできない。その後の時間の積み重ねを、そこで出会った人々の思いを、なかったことになんてできるわけがない。ましてや、人を殺して、だなんて」
「じゃああんた、自分の願いは諦めるってワケ」
「今の私の願いは、人も、妖も、神も、仏も。みなが平等に、手を取り合える世界を作ること……、だけど、それは聖杯に願うことではないわ」

 貴利矢は、キャスターの言わんとすることが読めず、眉をひそめる。
 両手を胸元に添えたキャスターは、楽しい日々を思い出すように、語り出した。
 
「私と接することで、少しずつでも、変わり始めた人や妖怪たちがいるのよ。もちろん、私の教えが広まるのなら、宗教戦争だろうがなんだろうが、利用できるものは利用するわ。だけど、聖杯に願って世界の在り方を歪めて、無理矢理平等な世界を創ったって……それは、虚しいだけだわ」
「なるほどね……まあ、いいんじゃない、そういうのも」
「……でも、あなたは友達のために聖杯戦争に乗るのでしょう」
「ああ。アレね、嘘よ、嘘」
「は?」

 キャスターの驚いた顔を、貴利矢ははじめて見た。驚いた顔も、やはり美しい。ふんわりと柔らかなキャスターの雰囲気が、無防備に晒されている。それだけで、してやった、という気持ちとともに、笑みが溢れる。

「お生憎様、願えばなんでも叶う願望機、なんつー話、自分はそう簡単には信じちゃいない。まあ、叶えたい願いっつーか、突き止めたい真実は、あるっちゃああるが、それはもう、アイツに託してきた」

 懐から、ゲーマドライバーを取り出し、並べられた料理の脇に置いた。永夢に託した筈のゲーマドライバーがなぜ、今もここにあるのかは分からないが、考えても仕方のないことは、この際どうだってよかった。利用できるものは利用する。それが貴利矢の考えだ。
 友を死へと追いやったバグスターウイルス誕生の真相は、知りたいと言えば知りたい。その願望があるのは、事実だ。だが、その貴利矢の思いは、必ずあの男が継いでくれる。あの男ならば、いつか必ずやつらの野望を打ち砕いてくれると、無条件に信じられる。
 だから貴利矢は、笑顔で言える。

「思い遺したことは、そりゃあるよ。けどな、あっちの世界のことは、もう、あいつに任せたのよ。自分は、あの世界の運命を、アイツに懸けたんだ」
「信頼しているのね、その人のこと」

 どこか嬉しそうに、キャスターが微笑んだ。面映い心地はあったが、今更この女を前に恥ずかしがるのもどうかと思われたので、貴利矢はあえて、不敵に笑った。

「まあね。そんじゃあ自分は、こっちでできることをするまで。とりあえずは、聖杯っての? その胡散臭い願望機について調べる……話はそれからだ」
「そういうことなら、私もあなたに力を貸しましょう。あなたとなら、上手くやっていける気がするわ」

 室内に、ふたり分の笑い声が生まれる。差し出された貴利矢の手を、キャスターが握った。

「精々うまく乗りこなしてくれよな、自分のこと」

 ゲーマドライバーにちらと視線を注ぐ。貴利矢には、乗り手となる相棒が必要不可欠だ。なにを想像したのか、キャスターの頬に一瞬朱がさした。小首を傾げる貴利矢と視線が合う。キャスターは、思い浮かんだなんらかの懊悩を振りきって、力強く頷いた。
 交わされる握手の下、キャスターが用意した料理はすっかり冷め切っていた。それに気付いたキャスターが、慌てて手を離して、ごめんなさい、と頭を下げる。別に責める気にはなれなかった。貴利矢はなにも言わず、冷め切った料理を口へと運び、咀嚼する。絶妙な味付けでこしらえられた精進料理の数々は、冷めてなお、当初思っていたよりも、ずっと美味しかった。


205 : 九条貴利矢&キャスター ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:12:36 cxYOTF7A0
 

【出展】東方Project(東方深秘録)
【CLASS】キャスター
【真名】聖白蓮
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力B 耐久C+ 敏捷B+ 魔力A+ 幸運A 宝具A

【クラス別スキル】
陣地作成:C
魔術師として自らに有利な陣地な陣地、小規模な「工房」を作成可能。
キャスターの場合は「命蓮寺」を形成する。

道具作成:B+
魔力を帯びた器具を作成可能。
キャスターの場合、ヴァジュラ(金剛杵、独鈷杵など)や、数珠を作成する。

【保有スキル】
カリスマ:C
 人も、妖怪も、神も、仏も、みな平等である。
 キャスターの場合、国家を運営することは出来ないが、彼女に近づけば近づくほど、人はその理想と、彼女の魅力に惹き付けられる。

天性の肉体:B
 キャスターの肉体は生物として完成されている。脱いだらすごい。脱がなくてもすごい。
 一種の魅了スキルとしても機能するが、キャスターの場合、その最たる効果は一時的に筋力のパラメータをアップさせることにある。
 また、鍛えなくても完璧な肉体を保てるため、どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。

魔力放出:A+++
 ガンガン行く僧侶。
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
 自身の身体強化に特化したキャスターの場合、打撃・防御・移動などあらゆる面で高い性能を発揮している。

【宝具】
『濁世を越えて、祈り駆けるは三千大千世界(コズミック・マジック・ファンタスティカ)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:1人
 膨大な魔力を秘めた一種の魔力炉。魔界に存在する材質で造られた、「魔人経巻」と呼ばれる七色の光の文様浮かぶ巻物をフル活用した戦闘スタイル。
 キャスターの戦闘には、常に魔力放出による身体強化が伴うため、魔力消費が激しく燃費が悪い。だが、この宝具がキャスターが消費する魔力を大幅に肩代わりしてくれるため、非常にキャスターの戦闘スタイルに合った宝具といえる。

『大魔法・魔神復誦(アーンギラサヴェーダ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1〜30人
 弾幕をもすり抜ける超高速突進で相手を叩きのめしながら弾き飛ばしたのち、後背より展開した蓮の葉を浮かべた光翼から四本の極太レーザーを放出し、集中照射で焼き払う。照射の方向はキャスターの意思次第で融通が効くため、集中照射だけでなく複数の対象に同時に照射することも可能。
 状況に応じて、レーザーの代わりに大量の弾幕をバラ撒いて攻撃するなど、応用も効く。

『走死走愛・白銀疾走(シルバースカイウェイ・ターボエアターン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1〜10人
 身体強化を施した突進で相手を叩きのめしながら弾き飛ばしたのち、召喚したバイクに乗ってUターン。バイクごと魔力で自身を強化し、時速にして百を越える超スピードで空を駆け、対象へ向けて突撃する。一度で対象を仕留められなければ、何度でもUターンを繰り返して、対象を轢き殺すまでバイクで突撃を繰り返す。
 それでも仕留め切れなかった場合、疾走しながら魔力の刃を展開させた大量の独鈷杵をバラ撒いて突撃する。バイクを回避すれば、今度は空から降り注ぐビームサーベルの雨を回避し、次のバイク突進に備えなければならないのである。

 なにがなんでも「空飛ぶバイクによって人身事故を引き起こす」という、仏僧による物騒な宝具である。

 本来ライダーで召喚されなければ(キャスターの魔力突撃に耐えられるバイクを召喚できないため)使用できない宝具であるが、今回はマスターである九条貴利矢が変身する『仮面ライダーレーザー バイクゲーマーレベル2』を専用バイクとして代用することで、擬似的にこの宝具の再現が可能となっている。
 また、宝具使用の瞬間、キャスターが纏う衣服は自動的に胸元が大きく開いたライダースーツに変化する。別名「ターボババァ」。


206 : おさんとん係 ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/10(火) 00:13:20 kO3UtSYQ0
おさんとん係ですけどこれでいいでしょうか?


207 : 九条貴利矢&キャスター ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:14:54 cxYOTF7A0
 
【Weapon】
『魔人経巻』
 前述の宝具の肝とも言える魔力炉、七色に光輝く巻物。
 呪文がそのまま巻物となって形成されているため、紙でできたものよりも軽くて扱いやすく、また、内包する呪文の容量は無限大。
 魔人経巻は、それそのものが意思を持っているためキャスター以外には扱えない。また、呪文の詠唱をカットして術を発動できる「オートモード」が搭載されており、巻物を振りかざすだけでその呪文を行使することも可能。
 
『スペルカード』
 キャスターの技の数々を内包したスペルカード。
 発動の宣言とともにスペルカードに内包された技を発動する。
 
『ヴァジュラ』
 金剛杵、独鈷杵。密教やチベット仏教における法具である。
 インド神話におけるインドラ(帝釈天)の武器。キャスターの場合、ヴァジュラに魔力を流して刃を形成して用いる。つまり、ビームサーベルである。
 
【サーヴァントとしての願い】
 なし。さしあたっては、聖杯について調べる。
 ゲームに乗ったものが相手ならば戦うつもりである。

 
 
【出展】仮面ライダーエグゼイド
【マスター】九条貴利矢
【参加方法】
 死亡後、気付いた時にはスノーフィールドに流れ着いていた。

【マスターとしての願い】
 あっちの世界の運命は、友である宝生永夢に託した。
 自分は、この世界で真実を求めて動くだけである。

【人物背景】
 仮面ライダーレーザーの変身者であり、監察医務院に所属する監察医。優れた洞察力を有しており、自分の目的のため、必要であれば他者を騙し、利用する狡猾さをもつ。
 三年前、バグスターウイルスに感染した友人に、その病状を正直に伝えてしまったことにより、パニックに陥った友人は交通事故に遭い、命を落とした。その事実を、九条貴利矢は今も悔やんでおり、死んだ友人へのせめてもの償いとして、バグスターウイルス誕生の真相を究明しようとしている。
 真実をいかなる手段を用いてでも解明する、という事柄に対して、人一倍熱意を持っている。

【能力・技能】
 仮面ライダーレーザーへの変身能力。
 バイクゲーマーレベル1――両腕のタイヤ型の射撃武器を用いて戦う。
 バイクゲーマーレベル2――バイクへと変形する。単体での走行も可能だが、乗り手がいなければ十分に速度を出しきれない。
 チャンバラバイクゲーマーレベル3――ギリギリチャンバラガシャットを使用して召喚したチャンバラゲーマと合体することで、人型へと変身する。

【令呪】
 左の手の甲に、蓮の花と葉を連想させる令呪が三画。

【ロール】
 監察医。だが、要請がなければ特に仕事はない。
 平時はスノーフィールドに用意されたアパートで一人暮らしをしている。

【方針】
 黙ってやられる気はないが、大人しくゲームにノる気もない。
 まずは聖杯について調べる。解明する。


208 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 00:16:50 cxYOTF7A0
投下終了です。


209 : ◆7ajsW0xJOg :2017/01/10(火) 02:17:29 PF/IlYxg0
皆さま投下お疲れ様です。

拙作『海色に溶けても』について、
wikiにてクラススキルの内容加筆、及び宝具名称の一部修正を行いました。


210 : ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:46:14 wQs6M.ao0
投下します


211 : 立ち向かうもの ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:47:02 wQs6M.ao0

◇ ◇ ◇


「君は神を信じるかね?」

仕事の話、ということで呼び出されてみれば第一声がこれだ。
些か面食らうのも仕方なかろう。
目の前の金髪に若干の肥満体の男が偽物ではないだろうか、などという疑念を挟みつつだが。
その答えに深く首肯する。

「うむ。そう答えると思った。しかし、わたしの……我々の信じる神と君の信じる神は違う。
 ああ、批判するつもりはさらさらない。君が我々の神に関心を抱かないようように、わたしも君の信仰などどうでもいい。
 しかしだ、だからこそ都合がいいということもある」

そう言いながらすっと懐から取り出した布切れを渡してくる。
受け取った折りたたまれた上にちょっとした刺繡細工がしてあるようで、簡単には開かないようになっていた。

「そのハンカチには一枚のトランプ……白紙のカードが挟まれている。
 おっと、取り出すんじゃないぞ。触れてはその時点で運命が決まってしまう」

中身を確かめようとすると、それを妨げられる。
気に障る物言いといい、何がしたいのか。

「君に依頼した任務は聖人の遺体の回収だが、もう一つ当たってもらうことになるかもしれない。
 万一遺体奪還の任務に失敗し、瀕死の状態となったらハンカチを開き、白紙のトランプを手にしたまえ。
 運が良ければ助かるだろう。もし助かったならば、君の任務は新たな段階に移行する」

ようやく本題に入ったらしい。
ハンカチをしまいながら耳を傾ける。

「聖なる遺体ではなく、聖なる杯を君には手にしてもらいたい」

新たに告げられた任務。
それの重要性など知る由もないが……
自分のような新参に任せていいような内容には聞こえないのだが、大丈夫なのか。

「確かにわたしと君の関係は、金銭による契約でしかない。信用など全くないが、君が我々の信じる神に何の興味もないだろうという点は信用を通り越して確信している。
 だからこそ、遺体よりも杯よりもわたしとの契約を優先してくれるだろう、とね。
 他の者ではそうはいかない、あのお方の尊さに目が眩み、持ち逃げを考えようとするものが出るかもしれない。
 君にそれはない。わたしの部下の誰よりも安心して聖杯戦争に送り出すことができるというものだ」

疑問を口に出すと、説得のような答えが返された。
なるほど。
信頼など微塵もしていないのはこちらも同じだが

「だからこそ、ある意味で君にしか任せられないと言える」

よろしく頼まれてくれたまえ、という言葉を背中に受けて席を立つことになった。

そしてその万一は的中し。
わたしは聖杯戦争に挑むことになった。
彼からの皆無に等しい信頼を裏切る形で。


◇ ◇ ◇


212 : 立ち向かうもの ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:47:42 wQs6M.ao0

「どうしたニイちゃん、買うのかい?買わねェのかい?」
「……っと、悪いな。少し考え事をしてしまった」

にぎわう街中、その路肩に止まった車の前で男は正気に立ち戻った。
空腹を覚えたタイミングでホットドッグの移動販売車を見つけ、ふらりと立ち寄り、財布を開いて数十秒。
その沈黙を不審に思った若い売り子に急かされ、手持ちの予算と、ホットドックのサイズやオプション、腹の虫と相談する。
そして、不慣れな手つきで財布の中に詰まった札束から数枚を選別し――

横合いを甲高いバイクのエンジン音が駆けた。
そのあとにはドップラー効果と、僅かな札だけを手にした男の姿が残った。
男は唖然とする売り子の前に札を置いて

「一番でかいヤツを二つ頼む。釣りはいらん」
「お、おう。それはいいが、ニイちゃん……」

目の前で財布をひったくられるという事件が起きて、パニック気味の売り子をよそに客の方は落ち着いている。
警察に連絡すべきかおろおろしていると

「追いかけたいから急いでくれ」
「え?あ、ああオーケー」

客に急かされ注文のホットドックを渡す。
習慣的に釣銭も出そうとするが

「急いでいるのでな」

それを制するようにして、ひったくりのバイクの方を見る。
もうかなりの距離を走っていて、ナンバーも見えはしない。

「け、警察に連絡は……」
「必要ない」

ふ、と売り子の視界から客の男が消えた。
後には3つのものを残していっただけ。
受け取らなかった釣り、バイクが駆け抜けたかのような疾風、それに飛ばされた顔を隠すように目深にかぶっていた帽子。
物音一つなく、静かに、柔らかく、しかしすさまじい速さで男は走っていった。
その速さに驚き、またその走り方に驚く。
交通標識、信号機、ビルの看板……街中のあらゆるものを足場として駆けていく。
サーカス芸人も顔負けのフリーラン。
それを披露し、即座に背中が見えなくなる距離を踏破していった。



そんなことを知る由もないひったくりはのうのうとバイクで走る。
万に一つも追い縋られることのないよう、確実に巻けるよう道を幾度も曲がり……
それが災いした。
ひったくり犯の前に黒い影が舞い降りた。
曲がるたびに落ちる速度、余計なカーブなどなく最短距離を走るフリーラン、何より人並み外れた瞬発力によって、徒歩でバイクに追いすがることを可能としたのだ。
咄嗟に躱そうとハンドルを切る。
そこへ凄まじい衝撃が走る。
バイクを右殴りにするように、数十メートルの高さから物が落ちたような衝撃が大きな音を立てて叩きつけられ転倒してしまう。
ぐう、と潰れたカエルのような悲鳴を上げるひったくりを何でもないように扱い、男は盗られた財布の中身を確かめるのを優先していた。

「よし、もう行っていいぞ。警察沙汰は面倒だ」

無事に財布がもどれば後はどうでもいいらしい。
バイクから落ちた相手に心配の声をかけることもせず、警察に突き出すこともしないその態度に苛立ちを覚え、立ち上がろうとする。
瞬間、腕を何者かに掴まれた。
振り返ると、いつの間にかもう一つ黒い影が現れていた。
正中線上に描かれた白い直線状の紋様とインディアン風の民族衣装は特徴的だが、体格は平均的な成人男性とそう変わりない。
それでもつかむ力は尋常ではなく、そのまま手を引かれる。
立ち上がらせてくれるのか、と思いきや、直立するに十分な高さになってもまだ腕を引き続け、片腕で男を宙づりにしてしまった。
そのまま肉屋にぶら下がった生肉を観察するように、ひったくり犯の全身を一通り眺める。

「特に致命的な傷はない。ああ、行って大丈夫だ」

それだけ言ってぱっと手を放す。
ひったくり犯は地面に足が着くと同時に脱兎のように駆け出す。
それをまるで関心なさげに二人して見送る。


213 : 立ち向かうもの ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:48:41 wQs6M.ao0

「ホットドック、あなたもどうだ?」
「ああ、初めて食べるなそれは。いただこう」

購入したばかりのまだ暖かいホットドックを揃って頬張る。
いけるな、悪くないなどと感想を述べながら二人して食べていると、彼らにゆっくりと近づく二人組の姿があった。
そのうちの片方、もう一人を引っ張るようにしていた少女が話しかける。

「失礼します。もしかして、サンドマンじゃありませんか?」

映画のパンフレットを持って興奮した口調で話す少女。前に回り込み、顔を見て、確信した様子だ。
話しかけられた男…サンドマンは頭に手をやり、先ほど走ったせいで帽子が飛んでしまったことに遅れて気付いた。

「サンドマンって?」
「知らないんですか!?スノーフィールドのシンデレラボーイとして超有名ですよ!?
 はじめはパルクールのパフォーマーで日銭稼ぎだったのが、映画監督の目に留まってデビュー。
 アスリート顔負けの身体能力に、ノーワイヤーでとんでもないアクションをするスタントマンとしてその道で知らないものはいないといっても過言ではないでしょう!」
「へー、どんな映画に――」
「『Shark/Stay night』!
 深海から襲ってきたサメに噛まれて、深海で進化したウイルスに感染した漁師が夜な夜な村人に噛みついて、噛まれた人もウイルスに感染して、ネズミ算式に感染者が増えていくパニックアクションホラーがもうすぐ公開です。
 予告映像だけでも、30階のビルの屋上で100メートルくらいの助走を10秒足らずで駆け抜けて、そこからへりに飛び移るのを命綱もCGもなしでやってるのが超すごいんですよ!」
「……お前の好みを忘れていたよ」

ようするにB級映画マニアの間では有名な人ね、というセリフを連れられた男は胸中にとどめ。
関係ない映画のパンフレットにサインをねだる少女のことを申し訳ないと思いつつも、心底嬉しそうな彼女を止めることもできず。
不慣れな様子でサインをしてくれたサンドマンにお礼を言って、二人は立ち去って行った。

「なかなかの人気ものじゃあないか。撮影も終わって、ああいうのが増えるのかな?
 ……しかし、いいのかマスターよ」
「いいのか、とはなにがだ」
「サンドマン、と呼ばれることがさ」

静かな調子で、サンドマンを気遣うような問いを投げる。

「ああ、構わないんだよ。キャスター、いやゴヤスレイ。これはあなたと同じなんだ」

穏やかな言葉で問われ、サンドマンも同じように穏やかに答える。

「あなたは白人にジェロニモと呼ばれ、そして以降そう名乗っている。
 敵を威嚇するために、味方を鼓舞するために、『欠伸をする者(ゴヤスレイ)』ではなく『獅子のように戦う聖人(ジェロニモ)』と名乗り続けた。
 その名に敬意を払わないものはわたしたちの部族にはまずいない。もちろん、このわたしも含めて」

音を奏でる者が、実姉にしか向けないような澄んだ目をジェロニモに向ける。
少年のような憧憬の籠もった眼で、サンドマンはそこから言葉をつなげた。

「わたしは『音を奏でる者(サウンドマン)』。白人はこれをサンドマンと聞き違え、故郷の皆もわたしを侮蔑してそう呼ぶ。
 白人の文化にかぶれたお前には白人の名がお似合いだと。
 確かに白人どもにサンドマンと言われるのは些か苛立つものがなくはないが……」

名に込められた意味も誇りも読み取れない奴らがその名を口にするのは癇に障らないといえばうそになる。
しかし故郷のみんななら。
本当の名を知る彼らには呼ばれても構わないとも思える名なのだ。

「サンド……白人どもの言葉で砂、砂漠を意味する言葉。
 わたしたちの先祖から受け継いだ土地は多くが『砂漠(サンド)』だ。故郷をこの名には背負っているんだ。
 サンドマン…『砂漠を取り戻す者(サンドマン)』なんだ。あなたがジェロニモであるように、わたしもサンドマンなんだ」

姉にしか明かしたことない、自分の名前に持つちっぽけな誇り。
尊敬する戦士にあやかった、故郷を背負う覚悟をその戦士に語る少年のような姿がそこにあった。


214 : 立ち向かうもの ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:49:14 wQs6M.ao0

「取り戻す、か」
「取り戻す。なんとしても。わたしたちはまだ負けていない」

決意と熱意に満ちた目でサンドマンはそう答える。
しかしその一時の感情に流されはしない。
目の前に立つ偉大な戦士の敗北からも学ばなければ。

「だが力づくでは勝てない。あなたでできなかったことが、わたしにできるはずがない」
「だから取り戻すのはあくまで白人どものルールに従って、か。私も買われたものだ。
 しかし、惜しい。君のような戦士が私と共に戦ってくれていれば……」

かつての戦いを思い返すようにジェロニモは目を細め――

「白人どもをもう2000は仕留められただろうに」

冗談めかしてそう呟いた。

「勝てない、か」
「ああ、勝てない。私たちの魔術、悪魔の手のひらに呪われたスタンドという力、そうした奴らにはない強みはあったとして数の不利を覆す兵器にはなりえない。
 それこそ本場インドのトップ・サーヴァントでも連れてこなければ」

ジェロニモには立ち止まった者としてある種の諦観があった。それもまた運命、と堪えるつもりだった。
しかし19世紀の人間でありながら、進んだ価値観を持つサンドマンは諦めなどなく立ち向かい続ける。

「だからこそ金が要る。こんな端金じゃあない、あの広大な大地を丸ごと買える膨大な一財産が必要なんだ」

スノーフィールドに来てから購入した頑丈な爬虫類の革製の財布と、仮住まいの家には数カ月生活するには困らないだけの貯えがある。
先日撮影を終えて、十分な報酬として与えられたものだ。
しかしそれでもサンドマンの願いを兼ねるにはあまりにも不足していた。
故に彼は目先の小金でなく、かなたの願望器をただ睨む。
それをまるで凄腕の狩人のようだ、とジェロニモは思った。狩人に欠かせない獰猛さと冷静さを兼ね備えた戦士に敬意を覚える。
……同胞の願いには感じ入るものがあった。

「君はじつに柔軟な思考をしている。そして何より勤勉だ。
 白人どもの言語や文化を学び、糧としているのはもちろん、今も努力を続けようとは心底尊敬するよ」

歩く二人は市内の小規模な図書館を目的地としていた。
サンドマンが目的としたのは基本的な数学のテキストで勉強すること。

「土地を買ったところで、それだけでは維持できない。今、この時代を肌で感じてはっきり分かった。
 変わっていく時代に対応し、故郷を守り抜くための知識が必要だ」

100年程度で大幅な発展・変化を遂げたというスノーフィールドでわずかとはいえ過ごし、サンドマンの生きた時代との差異に瞠目させられた。
白人は敵だが、その敵の知識は間違いなく武器になる。

「必要な知識を得るのも聖杯に託す願いだ。わたしに聖杯戦争の知識を刻むことができたように、法や経済の知識をもたらすこともできるだろう。
 なにも全知全能になろうというわけでもなし。そこまでのものを望むのは貪欲なコヨーテでもしない。
 だが、聖杯戦争の知識を与えられただけでは埋めようのない違和感があった。
 キャスター、あなたに改めて説明され、時間をおいて咀嚼することでようやく払拭できたんだ。
 基盤となる教養がなければ、知識を十全に使いこなすことはできない。聖杯戦争が本格化するまでのほんの少しの間だけでも、学んでおきたい」

そう口にしながらもサンドマンの目線はテキストを走っている。
狩人どころか肉食獣の目だな、とジェロニモは思う。
マスターの邪魔をしてはいけない、そもそも自分がいても役に立つことはないと席を立つ。


215 : 立ち向かうもの ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:49:32 wQs6M.ao0

「少し外す。周囲の警戒はしておくから安心してくれ」

それだけ告げて、ジェロニモもまた本棚へと向かい、目当てのものを探す。
その途中で精霊の声に耳を傾けつつ。

(この大地を闊歩する精霊よ。ゴヤスレイの真名においてその力を貸し給う)

スノーフィールドという故郷近くの土地ならば、様々な精霊の声と力を貸してもらえる。
月に再現された地ではあるが、それでもホームさながらの能力を発揮できる。
山の精霊の声を聴き、現在周囲に敵の気配がないことを確認。
安心して調べものに専念できる。
手に取った本は、歴史書……というほど高尚なものでもない。
ただかつてのアメリカ大統領の名を調べたかっただけ。
第23代アメリカ大統領の名を。
初の黒人大統領だとか、奴隷解放の英雄だとか惹かれる名前もあるが……

(ファニー・ヴァレンタイン。莫大な経済効果をもたらした大陸横断レースの功労者。様々な国からの勲章を受け、国民の支持も厚かった大統領か)

マスターから聞いた名前と時代に一致する。
その功績についても、また。しかし……

(そうだったか?アメリカの体制について詳しいわけではない。ワシントンくらい有名な英霊なら間違いないと言い切れるが……)

1890年といえばジェロニモもまた生きた時代だった。
囚われていたとはいえ、敵の首魁の名くらいは耳にはさんでいる。

(グロバー、とかそんな名前だったか。少なくともヴァレンタインという名にも、大陸横断レースという話にも覚えがない)

異なる歴史、知らない人物。
つまりは

(剪定事象、というやつか。いずれ儚く消える歴史。
 あるいは大統領の違いやレースの有無くらいは修正の狭間で消える程度の誤差なのか)

英霊、世界の仕組みの内側の存在となって初めて得た知識と照らし合わせる。
外法なりといえど魔術師、思考は進む。
アメリカが大地を手にする、というよりそれ以降の20世紀におけるアメリカの発展まではまず間違いなく人理定礎に刻まれている。
月にまで足を伸ばす巨大国家の存在は間違いなく未来を可能性で満たすだろう。

(だが実際どうなのだろうな。アメリカが歴史において勝利することは大地の記録に刻まれているとして。
 マスターのそれは人倫、いや人理にもとる願いかと思った。だが、彼の歴史がいずれ消えるうたかたの夢ならば……叶えるのもよしか)

眺めていた本を棚に戻す。
その際に近くの棚にあった本が二冊視界に入る。
トーマス・アルバ・エジソンの伝記と、ライオンが表紙の動物図鑑。
奇妙な取り合わせのその二つを認識すると、なにやら胸のうちに生じるものがあった。

(……サンドマンは私のような異なる時代からの干渉者ではない。
 あの時代を生きる彼が、変転するアメリカで大地主となるのは編纂事象を変えるほどの出来事となるかは……微妙なところだ)

胸の内に生じたもやを打ち消すように、頼れるマスターを肯定するように心中で言葉を紡ぐ。

(彼の願いは尊い。そして私のそれよりも賢明だ。血を流さず、白人どもの道義で奪い返す。
 それが叶えば歴史は変わってしまうかもしれない。だが、彼は私たちの流した血からその合理的な願いを得たという。
 ……私たちの流した血が無為に終わらず、同胞の手に故郷が取り戻されるならば)

欠伸などはしていられない。
マスターのために、何より我らの一族のために、この地の敵を振り払う血塗れの悪魔として目覚めよう。
そう、迷いない決意を固めた。


216 : 立ち向かうもの ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:50:52 wQs6M.ao0

【クラス】
キャスター
【真名】
欠伸をする者@Fate/Grand Order
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力B+ 幸運C 宝具B
【属性】
中立・善
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
閉鎖的な工房ではなく、地の利を活かした即席の野営地を作り上げる。
全員の戦闘力にボーナス。

道具作成:C
魔力を帯びた道具を作成できる。
精霊に祝福を与えられた武器などを作成する。

【保有スキル】
血塗れの悪魔:B
キャスターにあるまじき武勇伝を誇る。
弓、槍、ナイフなどどれを取っても熟練の腕前。近接戦闘力に大きなボーナス。

シャーマニズム:B
アパッチに伝わる精霊との対話。
契約により彼らの力を借りることができる。

守護の獣:B
ジェロニモと共にいるコヨーテの精霊。
少々悪戯好きなところが玉に瑕。

【宝具】
『大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:100人
アパッチ族に伝わる巨大な《コヨーテ》を召喚する。
召喚されるなり、彼に煙草を奪われた《太陽》が彼を追いかけ始め、結果的に広範囲に渡って強烈な陽光によるダメージを与える。
と同時に、守護者であるコヨーテによって味方側の力を増幅させる。
アパッチ族の伝承を小規模ながら実現する大魔術。

【weapon】
ナイフ

【人物背景】
ジェロニモは北米先住民族の一つ、アパッチ族の戦士である。
「欠伸をする」というのんびりした名前であった彼の人生が一変したのは、二十歳のときである。
母親、妻、三人の子供をメキシコ兵に惨殺された彼は、演説をぶち上げて戦士としてメキシコ軍へ報復を行った。
優れた戦士であり、何より復讐の念に燃えていた彼は槍が折れ矢が尽きても、自身と相手の血で真っ赤になりながら、ナイフ一つでメキシコ兵と戦い抜いたという。
恐慌をきたしたメキシコ兵が「ジェロニモだ!」(聖ジェローム。獅子のように戦うことで名を馳せた聖人)と叫んで以降、彼の名はジェロニモへと変わった。

ジェロニモは決して野蛮で残忍なだけの人間ではなかった。
冷静であり慎重、降伏も辞さないが、誇りは決して捨てない。
ジェロニモと彼の率いるアパッチ族三十五人を捕らえるためにアメリカ政府は五千の兵を動員したという。
アメリカとメキシコ、二つの軍と戦ったジェロニモは四度降伏した。
最後の降服の際、二年経てばアリゾナに戻してくれると約束したが、それは反故にされ結局アリゾナに帰ることはできなかった。
以後、ジェロニモは生涯米軍の虜囚として扱われた。その間、1904年のセントルイス万国博覧会などで人間動物園として展示されるなどした。
生まれ故郷のメキシコ国境へ帰りたいというジェロニモの願いは叶えられず、オクラホマのシル砦でその一生を閉じた。

【サーヴァントの願い】
編纂される歴史において、故郷の土地がこれ以上奪われないように。
……剪定される歴史の中に一族の青年が栄える未来があってもいいのではと思い始めてもいる。


217 : 立ち向かうもの ◆yy7mpGr1KA :2017/01/10(火) 15:51:11 wQs6M.ao0

【マスター】
音をかなでる者@Steel Ball Run

【参加方法】
ヴァレンタイン大統領から白紙のトランプを預けられていた。

【マスターとしての願い】
故郷の土地を全て白人から買い戻せる以上の巨万の富。
そしてそれをまた奪われないための法、経済の知識。

【weapon】
後述の能力を主武装とする。
なお狩猟の訓練を積んでおり、ナイフ一本でうめき声ひとつ立てさせずに人を殺すこともできる。
他の同族の振る舞いを見るに、馬、槍、弓矢、手斧などを扱いこなす可能性あり。

【能力・技能】
『イン・ア・サイレント・ウェイ』
いわゆる超能力者、スタンド使い。
スタンドのパラメータは【破壊力-C/スピード-C/射程距離-D(2m)/持続力-A/精密動作性-D/成長性-B】
霊体に近似する存在であるスタンドの在り方はサーヴァントと相性がよく、そのエネルギーを魔力の代替とする。
持続力は高いため、優秀なマスターとなる。
物が発する音(擬音)を形にし、その性質を具現化する能力を持つ。
切る音、燃える音、刻む音など体感したことは全て現実のものとなり、切った音なら触れたものをズタズタに切り刻み、燃える音なら高熱で焼かれダメージを受ける。
作中ではナイフを振るった音で風音の文字を発生させ、攻撃の軌道を逸らさせる用法も見せた。
文字となっても音としての性質は保持しており、水中では空気中より速く伝わる、交差して増幅すれば破壊力を増す、固いものに当たれば反射するなどの特徴を作中では披露している。

スタンド抜きでも優れた身体能力を持つ。
一瞬ならば馬と渡り合う瞬発力(時速45kmは出ているらしい)、10m近い岩山を装備なしに駆けあがる技術など。
サンドマンはスノーフィールドでの生活と学習によりこれをさらに磨き上げ、独自のパルクールとして昇華させている。
学習能力にも優れ、師もなく独学で英語を学び、新聞を読めるようになる、短距離の走法を習得しさらに部族の経験と合わせて独自のフォームに至るなど多才。

【人物背景】
アメリカ・インディアンの青年。
常に己の信じることを正義とし、本来敵対関係にあるはずの白人の文化を学んでいたため、部族内では村八分の状態になっていた。
本人もそのことはまったく気にしていなかったが、唯一の肉親である姉だけには頭の上がらない一面も。
白人に奪われた土地を金で買い戻すために、6000万ドルの賞金が出るアメリカ大陸横断レースSteel Ball Runに己の足のみで参加。
他の参加者が馬や車など乗騎を用いるなか、トップグループに混ざる活躍に様々な方向から注目を浴びる。
レースの黒幕であるアメリカ大統領、ファニー・ヴァレンタインもサンドマンの実力に目をつけ、取引を持ち掛ける。
聖人の遺体を回収すれば、レースの賞金に合わせて土地を買い戻すのに十分な報酬を払うと。
サンドマンはこれに応じ、遺体の保持者に戦いを挑み奪おうとするが、敗北。
命を落とす刹那に遺体とは異なる聖遺物、聖杯へのアプローチを手渡されていたことが幸いし、スノーフィールドにたどり着く。

目的を達成するために最も効率の良い合理的な手法を選択するため、状況に応じて敵にも味方にもなりうる存在。
そのため協調性は欠片もないと言えるが、借りはきちんと返す主義でもあり、敵に対しても情報くらいは提供することもある。

【方針】
聖杯狙い。
同盟なども合理的に、柔軟に視野に入れて。
なお金銭によって大統領に雇われた経歴のあるサンドマンも、聖杯によって知識を獲得するという明確に聖杯に託さなければならない願いがある以上方針を翻すことはそうはないだろう。
もちろん大統領に金で雇われはしたが、自分たちの願いをかなえることに聖杯は使わせてもらうため、渡すつもりはない。トランプを与えてくれた借りは何らかの形で返すが。


218 : 名無しさん :2017/01/10(火) 15:51:40 wQs6M.ao0
投下終了です


219 : ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:29:02 JROCNhLk0
投下します


220 : ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:29:59 JROCNhLk0
ざらざらと。
小さな部屋にて、己の感情を整理する。
生きてる。生きてる。生きてる。
この場―――スノーフィールドの地は知らないが、だが、生きている。
それだけが、彼女にとっての真実だった。

「……生きてる」

己を自己暗示して、精神を整理する。
何故生きているのかはわからない。
何故この場にいるのかもわからない。
聖杯戦争という知識だけが、残っている。
殺し合い。
願いを叶えるための、殺戮戦争。
……それは、なんて、恐ろしい。
考えるだけで手が震える。
楽しい気持ちになど、なれるはずがない。
……でも。
でも。
自分は、チャンスを手に入れたのかもしれない。
窓を開け、部屋を飛び出し、夜の町を駆けていく。
目指す場所は、ただ一つ。





○ ●

「貴方、サーヴァントですよね」

槍の英霊、ランサーは初めてその時―――背骨が丸ごと冷凍保存されたような、脊髄を冷やされたような、感覚をを抱いた。
初めてだった。
このような感覚を抱いたことは、彼の栄光ある生涯として一度となかった。
その槍は魔物を倒し。
その両腕は、あらゆる存在を締め上げた。
その、己が。
身体深くまで刃物を入れられたような―――恐怖を感じている。

「そうだが、何か」

だが、しかし。
初めてだったが故に、彼はその感情の意味を理解し得なかった。
いつも通り、生前何度も行っていたように、名乗りを挙げた。
彼は、気づかない。
恐怖とは身体を守る重要なサインであり、彼は此処で背中を見せ不様に逃走すべきだった。

「そうですか」

だが。
槍を構えて、しまった。

「じゃあ―――」
「座に、帰って貰います」


221 : 狂う死 ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:31:39 JROCNhLk0
白スーツの男。
眼帯に歯茎が露出したような覆面を装着した男は、そう語った。
見るからに恐ろしい風貌だ。
クラスはバーサーカーか。それともキャスターか。
何にせよ、三騎士の敵ではない―――そう判断した、瞬間。
眼帯の男の姿が、『消えた』。

「―――ッ!?」

槍を構える。
周囲に視界を巡らせる。
しかし、何もない。
『何処にもいない』。
眼帯の男は、一瞬にして視界から消え、気配を消したのだ。

「では」
「まずその槍、貰います」

背後から、声が聞こえた。
酷く落ち着いた、まるでティータイムにでも興じているかのような声。
反応は早かった。
振り返り、槍を振るう。
数々の魔物を殺した槍は、背後の眼帯を貫こうと―――

「Non non non」

しかし。
其処にいたのは―――眼帯では、なかった。
右腕に巻き付くような剣を肩から生やした異形。
顔の鼻から上を隠したマスク。
しかし何処か気品を感じさせる、その佇まい。
誰、と疑問を口に出す暇もない。
油断すれば押し切られてしまいそうなその男の筋力の前に、槍は止められた。

「貴様は―――」
「余所見していいのかい?
我らが『キング』の前で」

ふと、目の端に。
影が、映った。
剣の男を弾き、即座にそちらの方角へ反応する。
ランサーの反応は迅速だった。
何よりも素早く、その判断は歴戦の勘によるものだ。
戦士の勘というものは、ある状況下において専門家の分析というものより正しい。
それだけ積み重ねられてきた、命のやり取りを行ってきた上で鍛えられてきたもの故、一瞬の判断を求められる状況も多い。
しかし。
この時は、間違いだった。

背後には、兎がいた。

性格には、兎の仮面が。

「遅ェよ、槍野郎」

兎マスクの肩から、弾丸が掃射される。
弾くので精一杯だった。
この者たちは、身体の至るところから武器を生成する。
その異形さに、判断が遅れるのだ。
数発、身体に受ける。
銃創よりも深く大きい穴を身体に開けられ、呻くが、まだ倒れない。


222 : 狂う死 ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:32:43 JROCNhLk0
「この、マスク集団が」

悪態を吐いたと同時に、触手が伸びた。
兎マスクでも剣の男でもない。
今度こそ―――眼帯の男だ。
槍を手元で回し、突く。
点の攻撃は面へ。
素早い『点』の攻撃は、『壁』になる。
避けられない。
数多もの戦士を葬ってきたランサーの技術。
しかし。
それらは届くことなく。
全てを回避され、その槍は空を切る。

(何処だ)
(何処だ)
(ど)
(こ)

素早い眼帯の男の動きに、視界が付いていかず、その姿を見失う。
眼を見開き、周囲を探すが気配すら読み取れない。
そうした後の彼の末路は、早かった。
自慢の槍を叩き折られ。
防衛を失った槍兵は、成す術なく。
背後から剣の男に、心臓を貫かれた。

「ぁ―――ぎ」

口内をせりあがってきた血液が満たす。
折れた槍を地面に突き、倒れることだけは阻止する。
頭を垂れたランサーに、影が射す。
……眼帯の男と、その背後に並ぶ兎マスクと剣の男。

ああ、確か、聖杯から渡された情報にて、その名があった。
多くの異形を引き連れ、その頂点に立つ王。
人を喰らう悪鬼を統率し、人類との和解を目指した王。
最強の名を欲しいがままにし、死神を葬った百足。
その結末は闇に葬られ、どうなったかは定かではないが。
名前だけは、知っている。

「そう、か、おまえ、は」

もう数秒と身体を保てない。
末端から身体が消滅していく。
敗北したこの身が、座へと帰っていく。
その、動く最期の口で。
ランサーは、その名を紡いだ。

「"隻眼の王"―――か」

―――宵闇の中。
あらゆる生物が眠る、その闇の中で。
爛々と煌めく赫い左目が、その存在を主張していた。





○ ●


223 : 狂う死 ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:33:25 JROCNhLk0
「月山さん、ありがとうございました。
アヤトくんも、助かったよ。暫くの間ですが、休んで」

眼帯のその言葉を聞き遂げてか。
月山と呼ばれた男は「ウィ、キング」と一言残し、アヤトと呼ばれた男は何も言わずに粒子と消えた。

「……」

残されたのは、眼帯一人。
サーヴァントを一人仕留めた達成感と、次の行動について思案を巡らせる。
すると。
ぽふり、と何かが着地する音が、聞こえた。

「やっと見つけました」

猫耳のヘッドキャップにメイドのような衣装。
控えめに作られているように見えて、所々主張する非日常。
まるで、例えるならば―――魔法少女、だろうか。

「…貴方が私のサーヴァント、ですね」
「…"違う"。って言ったら?」
「いいえ、違いません」

はっきりと、告げる。
現れた少女の左手には、三画の絶対命令権―――令呪が刻まれていた。
それを通じて、目の前のサーヴァントに魔力が流れ出しているのがわかる。
しかし、根拠はそれだけ。
目の前のサーヴァントが、マスターである彼女を殺して座へと帰る道を選ぶ可能性も十分ある。
それを少女も理解しているのか―――足はカタカタと震え、顔は冷や汗に濡れていた。
それでも。
それでも彼女は、一歩を踏み出した。

「貴方が私のサーヴァントなら、お願いがあるんです」
「……お願い?」
「私を、元の世界に帰らせてください。
聖杯も、あげます。だから…だから、」

眼帯のマスクは、見るものに恐怖を与える。
少女とて例外ではない。
見ているだけで腰が抜けそうになるし、叶うことなら今すぐこの場から逃げ出したい。
左目だけ露出したその眼は、とても恐ろしい。

「帰らなきゃ、いけないんです。
何で私が此所にいるのかもわからない。
……最後は、死んだ記憶しかありません。
でも…でも、生きているのなら、帰らなきゃ。
だって、だって、お母さんが、一人になっちゃうから―――」

その言葉は段々と涙が混じる。
立っているのもようやくというほどに足は震え、身体は縮こまっている。
だが。
それでも、元の世界に一人残した母親のために、帰らなければならないと。
やっと得たチャンスを無駄には出来ないと。
そう、告げるようだった。

(ああ)

『ぼくも大きくなったら』
『おかあさんみたいに、誰かを助けてあげられるかなぁ』

―――それは。
在りし日の、己を見ているようで。


224 : 狂う死 ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:34:27 JROCNhLk0
眼帯は、ふと口を開く。

「君の名前は?」
「え?えっと……のっこちゃん、です」
「のっこちゃん、か。いい名前だね」

そう告げると、眼帯はそのマスクを外す。
外気に晒されたその顔は、酷く、優しげだった。

「僕は、アサシン。
……いいよ、わかった。君を、お母さんのところにまで返すよ」

のっこちゃんの目線に合わせるように。
眼帯―――アサシンは、ゆっくりと腰を下ろす。
『この子は、僕と同じだ』。
アサシンが抱いたのは、それだった。
この子は、自分が愛したものを守ろうと悲劇の中で必死にもがいている。
必死に抗っている。
不様に。
でも、懸命に。
奪われたくないと。
自分はどうなっても、一つだけは守り抜きたいものがあると。
……ああ、それは。
なんて、儚い―――






夜空の下で、一つの主従が誕生する。
彼らを主役に物語を書くならば。
それはきっと―――『悲劇』だ。

だが。
だが、絶対に。
『悲劇』だけでは、終わらせない。
歪んだ世界で、彼らは一つだけを、守り抜く。


225 : 狂う死 ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:35:47 JROCNhLk0
【出展】東京喰種:re
【CLASS】アサシン
【真名】"隻眼の王"(金木研)
【属性】秩序・悪
【ステータス】
筋力B 耐久B 俊敏A++ 魔力C 幸運D 宝具C

【クラス別スキル】
気配遮断:B
クラススキル。サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。が、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
しかし、後述のスキルによりそれをカバーしている。

【保有スキル】
隻眼の喰種:EX
左の眼を赫く染める、人外。
この眼を見たものに精神的恐慌状態を与え、筋力と俊敏の値を一時的にダウンさせる。
精神耐性スキルで軽減可能、Bランクで無効化できる。
また、人肉を喰すことで霊基の回復速度を上げ一時的な火力増強を施し、同ランクまでの単独行動スキルとしても働く。
このスキルにより、アサシンは三騎士相当の戦闘力を得ている。
また、喰種とは地下に暮らし人々の生活に紛れるモノという特徴から、戦闘に移っても気配遮断のランクは下がらない。
ランサーは元は人間ではあるが、隻眼の王となったことによりEXに。

文武の叡智:C
文字通り、文武のスキル。
偉人などの情報に長けており、また本を読んだとき・相手の動きを見たとき、それを高い熟練度で手に入れることができる。

眼帯覆面:A
彼が持つ、眼帯型の覆面。
これを見たものは精神恐慌に陥る。
精神耐性スキルで和らげることも可能。

戦闘続行:A+
文字通り、戦闘を続行するスキル。
致命傷を受けても尚、彼の場合は駆動する。

【宝具】

『黒山羊の雛(ゴート・オブ・チック)』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:100

生前、彼が率いた組織『黒山羊』の召喚。
一人ずつでの召喚も可能で、そのため魔力消費も調節できる。
『オウル』、SSレート『ラビット』『魔猿』『黒狗』から、他にも『美食家』『ヨツメ』『白スーツ軍団』などなども召喚可能。
戦力が高いものほど魔力消費は大きくなる。
特に功績も持たない白スーツの喰種なら、ほとんど魔力を消費しない。

『蠕動せし百足眼帯(センティピード・アイパッチ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:20

彼の持つ『赫包』から作られる、無数の触手。
あるときは腕のよう。あるときは鞭のよう。あるときは百足のよう。
様々に形を変化させ、敵を貫く。
何度でも再生化であり、千切られた腕や脚の代わりにもなる便利。
本気を出せば身体を包むように、鎧のように宝具を展開する。
本来宝具になり得ないただの補食器官だが、喰種として頂点『隻眼の王』に立ったため喰種の概念が集中、宝具となった。
そして彼が恐れられた『眼帯』『ムカデ』『HS特別指定犯』との別名も混ざっており、敵をよく知ることで掟破りの『宝具破壊』を行うことができる。


226 : 狂う死 ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:37:11 JROCNhLk0
【人物背景】
もし仮に僕を主役にひとつ作品を書くとすれば ―――それはきっと、“悲劇”だ。

だけど。
"悲劇だけ"では、終わらせない。

先代隻眼の王の意思を継ぎ、人間との和解を目標に掲げた頃の側面が強調されて召喚されている。


【サーヴァントとしての願い】
…聖杯というものが本物ならば、僕は―――

【出展】
 魔法少女育成計画restart

【マスター】
 のっこちゃん(野々原紀子)

【参戦方法】
 死後参戦故に不明。
だが、キークの電脳空間とムーンセルが繋がっていた可能性がある。

【人物背景】
魔法少女育成計画restartにてデスゲームに巻き込まれた魔法少女の一人。
メイドさんのような衣装を着た幼い少女。
箒を武器として戦うこともできるが、戦闘力は低く非戦闘員に分類される。
リアルでも小学四年生と幼く、庇護欲を沸かせるあどけなさがあるが、年に似合わず芯はしっかりしている。
魔法少女になったのは四歳である為、魔法少女歴は長い(名前が「のっこちゃん」なのも、四歳児の時に深く考えず自分の名前を答えてしまった経緯によるもの)。
母親が難病で入院している為、学校生活から家事、魔法少女活動までを全て一人でこなすという多忙な日々を送っている。
自立した性格はそうした背景によるものであり、ゲームに参加している理由は母親の治療費を稼ぐためでもある。
また、後述の魔法を使用する条件もあって、自身の感情をコントロールする術に長けている。

彼女を主役として物語を描くならば、それはきっと、悲劇だ。
だが。
それでも彼女は、夢見てる。
待ってくれているたった一人の母のもとへ、帰りたい―――

【weapon】
魔法少女としての肉体

【能力・技能】
・『まわりの人の気分を変えられるよ』
自分の感情を周囲の人に伝播することができる魔法。
他者の気持ちを変えることができる魔法だが、あくまでのっこちゃんの感情を起点としている。
周囲の雰囲気を和らげる為には、自分が楽しい気持ちにならなくてはいけないし、仲間を鼓舞する為には、自分が勇気を奮い起こさなくてはならない為、場合によっては自己欺瞞を必要とする。

【マスターとしての願い】
 帰りたい。

【方針】
帰る。


227 : ◆DpgFZhamPE :2017/01/10(火) 17:37:42 JROCNhLk0
投下終了です


228 : ◆DdYPP2qvSs :2017/01/10(火) 18:19:59 /scTAXMA0
拙作「ザ・グレイト・リーダー・フー・イズ・アゴナイズド」を一部修正しました。
内容は以下の通りです。

・セイバーの宝具「デモリション・ニンジャ」の解説を加筆修正
・weapon欄に「デモリション・ニンジャ」における七つのニンジャソウルについての解説を追加


229 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/10(火) 18:37:16 tTZIrQ3w0
先程、「佐渡島方治&アサシン」「橘朔也&ランサー」を修正させていただきました。


230 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:31:00 cxYOTF7A0
皆様投下乙です。
私も投下します。


231 : ジャック・ザ・リッパー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:32:07 cxYOTF7A0
 アスファルトの道路に、年若い少女がひとり、横たわっている。見開かれた瞳は傍らに佇む咲夜をじっと見据えてはいるものの、もうその瞳が光を捉えてはいないだろうことは明白だった。深く裂かれた少女の首筋から溢れた血が、みるみるうちに水溜りを作っていく。血だまりを踏んで足跡を残すような下手は打ちたくなかったので、咲夜は己の革靴が少女の体液を踏む前に、一歩身を引いた。
 鼠色の重たい夜霧が、周囲を取り囲んでいる。一歩離れただけで、咲夜の瞳に映る無残な亡骸の輪郭はおぼろげになった。咲夜に仕留められるまで、今はもう霧に紛れてしまったあの亡骸は、まだ美しい容貌をしていた。ぱっちりと大きな瞳に、愛嬌のある微笑みをたたえた、誰からも好かれる可憐な女の子。それが咲夜が仕留めた、敵のマスターの日中の素顔だ。
 ナイフに纏わり付いた少女の血液を振り払って、咲夜は狂気を左足の太もものホルスターへと仕舞う。さしあたっては、誰かに見られる前にとっとと立ち去ることが先決だと思われた。咲夜は踵を返した。

「ねえ、おかあさん(マスター)」

 幼い少女の声が、夜霧の中から咲夜を呼び止める。
 足を止め、振り返る。咲夜と同じ銀髪の少女が、そこにはいた。咲夜と同じように、諸刃のナイフを左手に握り込んでいる。纏ったローブの隙間から、すらりと細い太腿がちらと見える。咲夜と同じように、左足の太腿にはナイフ用のホルスターを装着していた。
 銀髪の少女は、左足のホルスターにナイフをしまいながら、歩み寄ってくる。咲夜よりも年齢は幼く見えるが、歩み寄るその少女は、咲夜とよく似ている。透き通るような銀の髪も、人を仕留めることに慣れたその瞳も、均整のとれたからだつきまで。その少女は、ある意味では咲夜自身であるともいえた。
 咲夜の要請に従って、敵のサーヴァントを仕留めて来たのであろう、もうひとりの自分へと、咲夜は微笑みかける。

「やったのね、アサシン」
「うん。殺してきたよ、おかあさん」

 期待通りの回答を得て、咲夜は満足気に頷いた。
 夜霧に包まれた深夜に、少女がナイフで殺される――それはまさしく、ジャック・ザ・リッパーによる犯行といえよう。明日の朝、目覚める頃には、現代に蘇った殺人鬼ジャック・ザ・リッパーだとか、そういったセンセーショナルな見出しのニュースが街を騒がせることになるのだろう。いつの時代も人間はそういうネタを好む傾向にある。

「帰りましょう、アサシン。私達の屋敷へ」
「うん、いっしょにかえろ」

 徐々に霧が薄れている。アサシンの宝具で展開した霧が完全に消え始める前に、咲夜は歩き出した。その隣にアサシンも並ぶ。
 咲夜に与えられた役割は、とある富豪の屋敷に務めるメイドだった。日中は他のメイドに指示を出して、炊事洗濯の一切を取り仕切る有能なメイド長。しかし、夜になると、どうにも衝動が抑えられなくなる。この世界に来てからというもの、夜な夜なナイフの斬れ味を確かめたくて仕方がない。じっとしていると、誰かの――できれば、少女の首を斬り落としてみたくなるのだ。ナイフが乾く頃には、次の血を吸いたくてたまらなくなる。それはまさしく、ジャック・ザ・リッパーと呼ぶに相応しい凶行だった。
 昼間はメイド、夜中は夜霧の殺人鬼。つまるところ、それがこの世界で咲夜に与えられた役割なのだ。しかし、それを理解したところで、この情報社会でみだりに人殺しをするのは憚られる。十九世紀のイギリスとは、話が違うのだ。
 咲夜は、敵性のサーヴァントとマスターに標的を絞って、殺人を繰り返すことにした。これは聖杯戦争だから仕方がないのだと、そういう正当性を盾に、咲夜は夜霧の連続殺人鬼となった。

「ねえ、おかあさん」

 アサシンの大きな瞳が、咲夜を見上げている。咲夜は歩を止めず、アサシンを見下ろした。


232 : ジャック・ザ・リッパー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:32:39 cxYOTF7A0
 
「なに、アサシン」
「おかあさんは、ジャックなの」

 咲夜は、回答に窮した。
 アサシンの表情には、およそ人が浮かべる「色」が見られない。咲夜は、アサシンがいかなる情報を求めてその質問を繰り出したのかはかりかねた。一瞬の逡巡ののち、咲夜が選んだのは、無難な回答だった。

「そうともいえるし、違うともいえるわ」
「それって、どういうこと。わたしたちとは、ちがうの」
「ええ。今の私は、ジャック・ザ・リッパーである前に、十六夜咲夜だから」
「ふうん……わたしたちとは、ちがうんだ」
「大切な人に貰った名前なのよ」

 紅魔館の主から与えられたたったひとつの名前。自分自身の運命に最も合致した名前。たとえ自分にジャック・ザ・リッパーとしての役割が与えられていたとしても、それは愛しい主から授けられた名前よりも優先して名乗るべき名称ではないと、咲夜は判断した。
 咲夜の目的は、この聖杯戦争に可能な限り早急に優勝し、今も咲夜の帰りを待っているのであろう主の元へ帰ることだ。あの吸血鬼の主は、強がっているように見えて、自分ひとりではろくに家事もできない。放っておけば、きっと爛れた生活を送るに違いない。
 聖杯戦争を迅速に終わらせるためには、アサシンとともに、積極的に殺して回るほかない。それまでは、アサシンと咲夜は、運命共同体ともいえる。ゆえに、咲夜はアサシンとの関係をできるかぎり良好に保ちたいと考えていた。

「安心して。聖杯戦争が終わるまでは、私があなたのおかあさんでもあるのだから」
「うーん、じゃあ、聖杯戦争が終わったら?」
「その時は、あなたが望んだ場所へ還りなさい。私も、私のいるべき場所へ帰るわ」

 アサシンが、僅かに視線を落とした。

「うん、わかった。じゃあ、それまでがんばるよ」
「ええ、一緒に頑張りましょう」

 咲夜の細くしなやかな指が、アサシンの銀の髪を撫で梳いた。アサシンは心地よさそうに頬を緩めた。
 いつの間にか、霧が晴れていた。一定間隔で設置された街灯が、ふたりを照らしている。夜中に死体の近くをうろついている、そういう姿を見られるのはまずい。そう考えた矢先、後方から悲鳴が上がった。
 咄嗟に振り返る。咲夜が殺した少女の死体から十メートルほど離れた場所に、口を塞いで佇む者がいる。幸いにも、それは、若い女だった。

「おかあさん」
「大丈夫よ、心配しないで」

 殺意に満ちた剣呑な表情で左足のホルスターに指をかけたアサシンを、咲夜は微笑みで制する。咲夜のために、アサシンはあの女を殺すつもりでいる。だけれども、既にアサシンの宝具による霧は晴れている。アサシンによる完璧な奇襲は、最早成立しない。咲夜の中に、この局面をアサシンに任せる、という選択肢は既になかった。
 アサシンが二の句を継ぐよりも先に、この世のあらゆる時間が停止した。


233 : ジャック・ザ・リッパー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:33:16 cxYOTF7A0
 
 幻世「ザ・ワールド」

 咲夜の宣言したスペル名は、自分以外のすべての時を止める、ザ・ワールドだった。
 なにもかもが静止した静寂の世界の中、行動を許された咲夜だけが、目撃者へと歩を進める。標的の女も、咲夜のサーヴァントすらも、それを認識できてはいない。
 歩を進めながら、左足の太腿から、衣服のあちこちから、大量のナイフを取り出した咲夜は、それを両手で扇状に広げた。それを、勢い良く周囲にバラ撒いた。咲夜の手元から離れたすべてのナイフが、咲夜を取り巻く衛星のように、ぴたりと静止する。

 幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」

 咲夜をジャック・ザ・リッパーたらしめるスペルの宣言に次いで、バラ撒かれたナイフたちが、真紅の妖気を纏った。すべての切っ先が、目撃者の女に向けられる。咲夜が、軽く左手を振り上げた。殺人の号令に従って、咲夜のナイフが一斉に女に向けて放たれた。
 左手を軽く掲げて、人差し指を一本立てる。

「いち」

 艶やかな声で、咲夜は数える。
 人差し指を、折りたたんだ。

「ぜろ」

 そして時は動き出す。時間が正常の流れに戻ると同時に、咲夜が放った大量のナイフが、一斉に目撃者の女を穿った。自分になにが起こっているのかを理解する余裕もなく、女は膝を地について、その場に倒れ伏した。
 アスファルトには、血の花が咲いていた。

「帰るわよ、アサシン」
「えっ、……う、うん!」

 一瞬遅れて、アサシンは咲夜による殺人を認識した。小走りで咲夜の隣まで駆け寄って、そのままふたり、帰路につく。朝を迎える前に屋敷に戻って、この世界での仮初めの「お嬢様」のため、食事の用意をしなければならない。咲夜の足は自然と早まる。
 咲夜がバラ撒いたナイフは、スペルの宣言終了と同時に、すべて跡形もなく消滅していた。


234 : ジャック・ザ・リッパー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:33:55 cxYOTF7A0
 

【出展】Fate/Grand Order.
【CLASS】アサシン
【真名】ジャック・ザ・リッパー
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具C

【クラススキル】
気配遮断:A+
 自身の気配を消す能力。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
 ジャックの場合、この欠点は「霧夜の殺人」によって補われ、「完璧な奇襲」が可能になる。

【保有スキル】
夜霧の殺人:A
 暗殺者ではなく殺人鬼という特性上、加害者の彼女は被害者の相手に対して常に先手を取れる。ただし、無条件で先手を取れるのは夜のみ。昼の場合は幸運判定が必要。

情報抹消:C
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から彼女の能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。

外科手術:E
 血まみれのメスを使用してマスターおよび自己の治療が可能。見た目は保証されないが、とりあえずなんとかなる。

精神汚染:C
 精神干渉系の魔術を中確率で遮断する。


【宝具】
『暗黒霧都(ザ・ミスト)』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1〜10 最大補足:50人
 ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害を再現する結界宝具。
 魔術師ならばダメージを受け続け、一般人ならば数ターン以内に死亡する。英霊ならばダメージを受けないが、敏捷がワンランク低下する。

『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』
ランク:D〜B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1人
 通常はDランクのナイフだが、「時間帯が夜」「対象が女性(または雌)」「霧が出ている」の三つの条件を満たすと対象を問答無用で解体された死体にする。この内、霧に関してはもう一つの宝具『暗黒霧都(ザ・ミスト)』によるものでも可能なため、実質無いに等しい。
 使えば相手を確実に絶命させるため「一撃必殺」。
 標的がどれだけ逃げようとも霧の中にいれば確実に命中するため「回避不能」。
 守りを固め耐えようとしても物理攻撃ではなく極大の呪いであるため「防御不能」。
 更に「情報抹消」によって事前に対策を立てることが出来ないため「対処不能」。
 と、女性限定ながら最高性能の暗殺宝具である。
 この効果を防ぐには物理的な防御力ではなく、最高ランクの「呪い」への耐性が必要となる。


235 : ジャック・ザ・リッパー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:34:24 cxYOTF7A0
 

【人物背景】
 まさに幼子そのものといったあどけない少女。一人称は「わたしたち」。
 生まれる前に堕胎された存在であるため、無邪気で正悪の倫理観に乏しい。ただし彼女たちの殺人行為は、生きるための糧であり手段であり回帰衝動であるだけで、嗜好ではない。
 女だろうが男だろうが、人の形を成していればマスターを「おかあさん」と呼ぶ。
 これには理由があり、彼女たちが初めて外に出るときは「堕胎」によるものなので、出産する「おかあさん」という概念はあるが、「おとうさん」と言う概念は存在しない。なので、彼女たちにとってはマスターの性別など関係はなく、自分を甘やかし、愛してくれる人こそが「おかあさん」なのだ。

【サーヴァントとしての願い】
 おかあさんの胎内に還る。


【基本戦術、方針、運用法】
 マスターである十六夜咲夜の持つ時間停止能力と合わせて、極めて協力な暗殺チーム。
 アサシンの宝具によって奇襲を仕掛け、サーヴァントをアサシンが狩り、同時にマスターを咲夜が狩る、というのが主な戦術となるだろう。
 問題は、アサシンの宝具が封じられた場合である。咲夜の時間停止能力は、アサシンと一緒に発動することはできない。両者それぞれ敵に奇襲をかける上では優秀といえるが、両者のチームワークが要求される局面では、互いに咬み合わない能力でどう切り抜けるかが肝である。


【出店】東方Project(東方輝針城)
【マスター】十六夜咲夜
【参加方法】
 天邪鬼異変の最中、付喪神化したトランプのカードを拾った。
 正確には東方輝針城Aルートからの参戦。

【人物背景】
 銀髪のメイド。
 紅魔館の主であるレミリア・スカーレットに仕えるメイドで、紅魔館唯一の人間。
 実質的に紅魔館の一切を取り仕切っているので、咲夜がいなければ今の紅魔館は成り立たない。
 その仕事の内容は危険な事柄まで含まれており、地下へ幽閉されているフランドールにもケーキと紅茶を届けたりしている。また、吸血鬼の紅茶とケーキの素材は主に人間らしい。
 
 また、十九世紀のロンドンを震撼させたジャック・ザ・リッパーとはなんらかの関係があるとされている。
 スペルカード名にジャック・ザ・リッパーを連想させるものがやたらと多い点や、ナイフを使った技を多用する点、また、左の太腿にナイフのホルスターを装着している。ジャック・ザ・リッパーは被害者の切創から、左利きとされている。
 いずれにせよ、キャラクター造形にジャック・ザ・リッパーが深く関わっていることは間違いない。

【能力・技能】
『時間を操る程度の能力』
 字面通りの能力である。
 また、ナイフの扱いにも長けており、主に戦闘はナイフを用いて行われる。
 時間停止能力をふんだんに利用した手品も得意。

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争に優勝し、レミリアの待つ幻想郷へ帰る。
 咲夜がいなければ紅魔館は回らないし、レミリアは今頃食事にも困っているはずだ。

【ロール】
 昼の顔は富豪の家に住み込みで働くメイド長。
 夜の顔は、夜霧の連続殺人鬼、ジャック・ザ・リッパー。

【方針】
 奇襲を仕掛けて勝利する。
 それを繰り返して優勝する。


236 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:34:50 cxYOTF7A0
投下終了です。


237 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/10(火) 19:42:54 cxYOTF7A0
すみません、執筆中なにかを勘違いしていて、ジャックが左足にナイフを装着しているといった描写をしてしまいましたが、
投下後に絵を見なおしてみると別にそんなことはなかったので、Wiki収録後、該当箇所を修正しておきます。


238 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:43:47 yIoSrVQA0
投下します。


239 : 側にいるだけで ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:49:23 yIoSrVQA0

 ――――――――あんた、エンペドクレスって知ってるか?

 ハッ、まぁ知らねぇよな。俺だって詳しくはねぇよ。
 古代ギリシャの自然哲学者で……自然哲学ってなんだよって?
 まぁ簡単に言えばスゲェ昔の自然科学のことさ。
 自然界がどうやってできてんのかっつー学問でな。
 このエンペドクレスって奴はその自然哲学者の中でも結構有名な奴なんだが……
 じゃあお前、アリストテレスなら知ってるよな?

 は?
 アルティミット・ワン?
 死徒二十七祖第五位? ORT?
 ……何言ってんだお前。

 流石にこっちはジョーシキだろ。哲学者のアリストテレスだよ。
 ほら、アレキサンダー大王の家庭教師やってたって男さ。
 で、なんでこんな昔のオッサンどもの話をしてるかっつーと……こいつらが“四大元素説”の提唱者でな。
 ゲームとかでよく見るだろ? 火、水、風、土の四元素が世界を作ってるって考えだ。
 実際にはもっと色々細かい話があるんだが、今回は割愛させてもらうぜ。
 重要なのはな。こいつらが言うには、世界はこれら四つの元素でできている。
 四種類の元素は“愛”によって結びつき、“争い”によって分解されてモノを作るんだとさ。
 わかるか?
 ――――愛は引力!
 ってわけだ! シャレてるじゃねぇか!

 ああ、そう、それで結論なんだが、つまり――――――――


  ◇  ◇  ◇


「よぉ、お嬢ちゃん。暇か?」
「えっ」

 ――――――ナンパである。

「いや、暇そうにしてたからよ。お茶でもどうだ?」
「え、その……」

 ―――――――――紛うことなきナンパである。
 ターゲットはどこか大人しそうな雰囲気の少女。
 様々な人種が集まるこのスノーフィールドでは珍しくもないが、日系人特有の黒髪黒目と顔立ち。
 セーラー服を着た女子高生。その胸は平坦だったが、美少女と言っていい部類だ。


240 : 側にいるだけで ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:50:43 yIoSrVQA0

「それともドライブがいいか? どこまででも連れてってやるぜ?」

 ナンパ男が、自分が跨るバイクを軽く叩いた。
 メタリックシルバーに赤いライン。流線型のフォルムが美しい二輪自動車。

「いや、その……こ、困ります……」
「そう言うなって!
 別に取って食おうってわけじゃねぇんだ。取るのはあんたの手ぐらいさ。
 ドライブにせよなんにせよ、可愛い女の子と一緒の方がいいだろ?」

 控えめに身を引く少女に、ナンパ男はなおも食い下がった。
 気弱だから押し切ることができると思っているのか、引き下がる様子はない。
 バイクに跨っているから余計にそう見えるのだが……男は背丈も高く、体つきがしっかりしている。
 なにか格闘技でもやっているのか、よく鍛えられた肉体だ。
 必然、その威圧感も相当なものがある。
 少女が思わず何歩か後ずされば、あっという間に壁に背がついてしまった。
 しまった、と思った時にはもう遅い。既に逃げ道はなくたった。
 怯えを孕んだ瞳でナンパ男の目を躊躇いがちに見れば―――――しかし、その瞳はどこか空虚で、少女がぶるりと震え上がった。
 この男は、なんのかんのと言いつつも自分のことを見ていない――――――――

 ――――――そして次の瞬間、一瞬だけ影が差したかと思えば、男が“少女から目をそらさぬままに素早く右手を後ろに回した”。
 パシッ、と何かを手に取る音。
 同時に男が首を傾ける――――向こう側から、何かの液体が飛んできて少女の顔を濡らした。

「きゃっ!?」
「おっと……悪いな。“思わず”かわしちまった」

 そして何が起こったのかを自分でもわかっていないかのように、男が手に取ったものを確認する。
 缶ジュース……続いて視線を後ろへ。複数人の少年たち。
 いかにもチンピラ、というファッションの不良グループだ。
 おそらく、彼らが缶ジュースをナンパ男めがけて投げつけたのだろう。
 そう言うと、少女を助けたかのようにも見えるが――――違う。ニヤけた彼らの表情がそれを物語っている。

「おーっ、すげぇじゃん。あいつ見ないでキャッチしたぜ」
「たまたまだろ? つかあの子にかかっちゃってんじゃん」
「ギャハッ! じゃあちゃんと後でふき取ってあげなきゃな!」
「お前それめっちゃ変態っぽいな!」

 知能の低そうな会話。
 要するに、獲物を掻っ攫いに来たハイエナか。
 複数人でナンパ男を囲んで倒して、少女を奪おうという魂胆だろう。
 ナンパ男は愉快なものを見た、という風に体を少年たちの方へ向け、ひょいとバイクから降りた。
 ヘルメットを脱ぐ。その下から、ドレッドヘアが零れ落ちる。

「オイあんた、俺らに痛めつけられたくなかったらさっさと帰んなよ」
「そうそう! あんたもちょっとは鍛えてるみたいだけど、このエディには勝てないぜ!」
「なにせエディはボクシングにレスリング、ジュードーとカラテとテコンドーも極めた格闘技のスペシャリスト!」
「ほーう」

 やんややんやと囃し立てる少年たちを前に、男はコキコキと肩を鳴らした。
 すると、ピロピロと電子音がバイクから発せられる。まるで男を気遣うように。
 男はそれを一瞥して、また笑った。

「なんだ、心配かよシールダー? 安心しろって、俺は負けねぇよ」
「あ?」

 バイクに向けて話しかける男に対し、これを挑発と見た少年たちの態度が変わった。
 軽薄なものから、怒気を孕んだそれへ。
 一人の少年が独特の構えをとった。一人の少年がナイフを抜き放った。
 そのようにして少年たちが臨戦態勢をとる。それでも男は自然体に。


241 : 側にいるだけで ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:51:39 yIoSrVQA0

「色々格闘技やってるんだって? なるほど、そいつは『特別(スペシャル)』だな」

 ニヤけた顔で、天地がひっくり返っても自分が負けることはないと確信した顔で。
 ……けれど、僅かな期待を滲ませた、どこか空虚な顔で。

「――――だが、『特別(スペシャル)』じゃ『異常(アブノーマル)』には勝てねぇ」

 それは化物の顔だ。
 特別なのでなく天才なのでなく英雄なのでなく。
 異常で過剰で無常で非情で非常な、人の範疇を超えてしまった者の顔だ。

 ……その異様な雰囲気を警戒してか、少年たちがごくりと唾をのんだ。
 それを見て、男が挑発する。

「来いよ、“手動操縦(マニュアル)”共。
 鼻歌交じりで相手してやる――――――『自動操縦(オートパイロット)』でな!」

 言わせておけば、と少年たちが突撃した。
 勝敗が決した。


  ◆  ◆  ◆


「ひっ……」

 少女がガタガタと震えている。
 男は立っている。
 その周りで、少年たちが呻き倒れている。

「あー……」

 勝負は一方的だった。
 どこまでも自動的に/非常識に男が全ての攻撃を回避し、対処し、カウンターを叩きこんで終わった。
 当然の帰結だ。男はそういう風にできている。
 期待外れもいいところだ、と言わんばかりに男はため息をつき、少女に目もくれず手を振った。

「気分が萎えちまった。帰ってくれていいぜ。悪かったな」
「は、はひっ……!」

 言葉を受けて、少女が走り去っていく。
 これで、この場に立っているのは男と……それから、男のバイクぐらい。

「まぁ……こんなもんだよな」
「――――――」
「俺は『自動操縦(オートパイロット)』だ。
 “手動操縦(マニュアル)”共が必死こいて操縦考えてる間に、相手を倒せちまう」
「――――――」
「……なんだよ、慰めてくれるのか?」

 ピロピロピロ、とバイクが電子音を発した。
 男は――――箱庭学園『十三組の十三人(サーティーンパーティ)』の一角、高千穂仕種は、苦笑を返した。

「聖杯戦争開始前の、ちょっとした慣らし運転だよ。ハナから期待しちゃいない。
 戦争が始まれば、もっと『異常(アブノーマル)』な連中がいるんだろうしな」


242 : 側にいるだけで ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:52:32 yIoSrVQA0

 高千穂仕種は、白いトランプに導かれて聖杯戦争に参加したマスターである。
 フラスコ計画に従事しての研究中、ふと見つけた白いトランプを手に取れば、気づけば記憶を奪われてスノーフィールドにいた。
 それからしばらくは、無辜の一般人として暮らしていたが――――
 ――――工事中のビルから落下した鉄骨を“無意識に”回避した時、全てを思い出した。

 結局のところ、『異常(アブノーマル)』な怪物が『普通(ノーマル)』を装って生きるなど無理な話なのだ。
 自分は異常に優秀すぎる。
 だから、普通には生きられない。

 それを自覚して、偽りの自宅に帰ってみれば、ガレージにいたのがこのバイクだった。
 帰ってきた記憶と同時に流れ込んできた知識や、マスターとしての能力を駆使して確認してみると、このバイクが自らの従僕であるという。
 『盾持ち(シールダー)』のサーヴァント、その名をオートバジン。
 どこぞの企業が開発した、対怪物用の戦闘兵器……ということを、高千穂仕種は知らない。
 なにせ会話ができないのだから、知りようがない。
 理解できたのはクラス、真名、ステータス、スキル、それから宝具だ。

 注目すべきは、第二宝具『その疾走は燃え尽きるまで(ファイズ・ドライバー)』。
 四種のデバイスからなる強化変身キットで……要するに、マスターを変身ヒーローにする宝具。
 一流のサーヴァントに対しては一枚なり二枚なり劣るシールダーの戦闘能力を、マスターが補佐しろということらしい。
 ――――シールダーの製造目的からすれば、むしろ逆なのだが――――高千穂仕種は歓喜した。
 巻き込まれた普通の一般人や、普通の魔術師であれば扱いに困っただろう。
 格闘能力が無ければその性能を十全に生かしきれないし、そもそもマスターがサーヴァントと戦闘するなどもってのほか。
 いくらスーツによって身体能力が強化されるとはいえ、接近戦で歴史に名を遺した英霊と打ち合うのは困難だろう。

 だが――――『自動操縦(オートパイロット)』の異常を持つ、高千穂仕種であれば。
 異常で過剰な反射神経を保有する彼であれば、あるいはシールダーとの共闘であればサーヴァントに食らいつくことも可能かもしれない。
 彼の異常は格闘戦において破格の能力だ。
 思考より速く行動するそれは、相手の先を取ることに関して他の追随を許さない。

 ならば、あるいはサーヴァントとも多少はやりあえるかもしれないし――むしろ、高千穂仕種は“やりあえないこと”をどこかで望んでいる。
 英霊域に至る戦士であれば――――自分と“触れ合える”かもしれない。
 普通の人間の喧嘩みたいに、殴ったり殴られたりできるかもしれない。
 それなら―――――――この聖杯戦争には、大いに意味がある。

「聖杯ってのに至れば、フラスコ計画は大幅ショートカットができるし……」

 加えて、万能の願望機があれば、自分を殴れるような人間を作る計画も一足飛びに達成可能だ。
 もはや、高千穂仕種がこの戦争に参加しないなどという選択肢は存在せず。

「――――――」
「――おう、そうだな。改めてドライブと行くか!」

 高千穂仕種はシールダーに跨り、そのハンドルを握りしめた。
 シールダーは喋らない。
 彼に意志は存在しない。
 ただの機械で、兵器だ。
 だが、聖杯戦争における高千穂仕種のパートナーだ。
 それを思えば、なぜだか古くからの友人であるかのようにも感じられる。
 ともすれば、目的は同じであっても決して仲間とは言い難かった『十三組の十三人(サーティーンパーティ)』とは異なり――
 ――――共に肩を並べて戦う存在がいることが、嬉しいのかもしれない。
 シールダーのエンジンが、歓喜の如き咆哮(エグゾースト)を上げた。
 一人と一機は、その時確かに触れ合っていた。


243 : 側にいるだけで ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:52:48 yIoSrVQA0


  ◇  ◇  ◇


 ―――――――つまり、そう、結論は。
 俺たちは結局、誰かと触れ合わないと生きていけないってことさ。
 俺もそうだし……きっとシールダーもそうなんだろう。

 何かのため、誰かのために作られた兵器。
 あいつは上に人を乗せて動くこともできるが、本質的に『自動操縦(オートパイロット)』だ。
 自分で勝手に走れるし、なんなら人型ロボットに変形だってできる。
 あいつは乗り手を必要としない機械だ。
 だからこそ、あいつはきっと“誰かのため”じゃないと存在できない奴だ。

 自動で生きていけるなら、触れ合う他者は必要ない。
 だが、必要ないからで全部切り捨てたんじゃ生まれて来た甲斐が無い。
 全部が全部自動っていうのは、スゲェ孤独なことなのさ。

 その孤独に耐えきれなくて―――――俺たちは、触れ合える相手を探している。触れ合ってくれる相手を探している。

 ――――お互い良いパートナーになれるといいな、シールダーさんよ?
 ――――――――少なくとも、この疾走(ドライブ)が終わるまではなぁ!


244 : 側にいるだけで ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:53:14 yIoSrVQA0

【CLASS】シールダー

【真名】オートバジン@仮面ライダー555

【属性】中立・中庸

【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具B

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:-
 シールダーは自身が乗騎そのものであるため、騎乗能力を有さない。

【保有スキル】
無我:A+
 シールダーは機械であり、精神がそもそも存在しない。
 そのため精神干渉の類が一切通じない。

守護騎士:C+
 誰かを守るために戦うとき、一時的に防御力を上昇させるスキル。
 シールダーは主人を守るために作られた兵器であり、そのようにプログラムされている。
 マスターを守護する場合は効果が向上する。

変容(偽):C
 変形機構。
 胸のスイッチを押すか、あるいは自己判断に基づいてふたつの形態を使い分ける。
 バイク型のビークルモードを基本とし、人型のバトルモードに変形した場合筋力と敏捷のステータスが逆転する。

【宝具】
『駆け抜けし夢守の記憶(ファイズ・メモリ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
 高性能CPUと大容量HDDに裏打ちされた、シールダーの学習機能。
 シールダーは戦闘データの蓄積から学習を行い、常に自らをアップデートし続ける。
 結果としてシールダーの戦闘は加速度的に最適化され、的確な判断を下すことができるようになる。
 ただそれだけの宝具――――なのだが、最適化を繰り返す自動学習が戦争の中でもたらす効果は計り知れない。

『その疾走は燃え尽きるまで(ファイズ・ドライバー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
 流体エネルギー・フォトンブラッドをその身に宿す仮面の戦士、『仮面ライダーファイズ』への変身を可能とするベルト。
 厳密には、変身ベルト『ファイズドライバー』、携帯電話型トランスジェネレーター『ファイズフォン』、
 ポインティングマーカー『ファイズポインター』、そして各種デバイスの起動に必要な『ミッションメモリー』の四点セット。
 他のデバイスや、強化形態に換装するための追加パーツなどは保有していない。
 本来であれば進化人類オルフェノクでなければ変身できないのだが、
 “オートバジンの主はファイズである”というある種の因果逆転によってマスターに限り人間でも変身が可能となる。

【weapon】
『バスターホイール』
 ビークルモードでは前輪部分に相当するパーツ。
 バトルモードでは腕部に装着するシールドとなり、内蔵された16門のガトリングマズルによる射撃も行える。
 シールダーの主武装であり、シールダーがシールダーたる所以となった武器。

『SB-555 H ファイズエッジ』
 ビークルモードでは左ハンドルに相当するパーツ。
 流体エネルギー・フォトンブラッドを発する片手剣となる。
 ただしこれは操縦者が使う武装であり、シールダー自身は使用しない。

『SB-555 V オートバジン』
 シールダーそのものである可変バイク。
 バイク型のビークルモードは最高時速380km/h、450馬力の出力を保有。
 人型のバトルモードはホバーによる移動や飛行を行う。最高高度30m。最高時速70km/h。
 バトルモードの最高出力は2500馬力にも達し、純粋な格闘の出力で言えば主であるファイズをも上回る。
 搭載されたAIにより自立行動を行うことも可能。

【人物背景】
 スマートブレイン社が開発した、対オルフェノク用戦闘強化スーツ着用者を補佐する可変型バリアブルビークル。
 厳密には、開発はスマートブレイン社の子会社であるスマートブレイン・モーターズ。
 バイク型のビークルモードと人型のバトルモードを使い分け、登録者の戦闘を支援する。
 生前はファイズベルトの登録者である乾巧の愛機・相棒として活動した。
 当初は巧ごとガトリングの掃射を浴びせるような真似もしたが、自己学習機能により徐々に成長。
 最終的には阿吽の呼吸でのサポートを行うまでに成長し、名実ともに乾巧の相棒となった。
 巧の最後の戦闘において、巧の窮地を救うために果敢に支援を行うもオルフェノクの王の攻撃を受け爆散。
 それでも破壊される直前に巧に強化パーツ・ファイズブラスターを投げ渡し、その役目を終えた。

【サーヴァントとしての願い】
 特になし。
 兵器として、自らの使命を果たす。


245 : 側にいるだけで ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:53:38 yIoSrVQA0

【マスター】
 高千穂仕種@めだかボックス

【能力・技能】
『自動操縦(オートパイロット)』
 高千穂仕種が保有する『異常(アブノーマル)』。
 過剰で異常な反射神経に基づく、思考より速く行動する能力。
 危険察知による回避はもちろんのこと、反撃なども“反射的に”行う。
 本人が思考するよりも早く行動するために初速が段違いに速く、相手は完全に虚を突かれてしまう。
 ただし、結局のところ動くのは高千穂自身であるため、そもそも回避不可能な攻撃は当然回避できない。

 それ以外に、格闘能力としてキックボクシングを習得済み。
 頭脳面も極めて優秀。担当は戦闘科学。

【weapon】
 とくになし。

【人物背景】
 箱庭学園十三組に在籍する生徒。
 フラスコ計画の中枢を担う『十三組の十三人(サーティーンパーティ)』の一人。
 験体名『棘毛布(ハードラッピング)』。単純な格闘力で言えば十三組の十三人最強の男。
 幼少期はその異常な反射神経を誇らしく思っていたが、12歳の時に家族とのドライブ中に交通事故が発生。
 ただ一人反射的に生き残り、両親と妹の血を浴びながら、自分が化物であると自覚した。
 その後、「自分と“触れ合える”人間を作る」ためにフラスコ計画に参加。
 やがて彼は完成された異常を以て自らと“触れ合える”存在と巡り合うのだが、今回はその直前からの参戦。

【令呪の形・位置】
 右手の甲にギリシャ文字の『φ』のような三画。

【聖杯にかける願い】
 自分と“触れ合える”存在を作る。
 その途中、自分と“触れ合える”奴がいればなおよし。


246 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/10(火) 23:53:58 yIoSrVQA0
投下を終了します。


247 : ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:07:11 ngG1UjqE0
投下します。


248 : Break My Fate/Break Your Fate ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:08:00 ngG1UjqE0
.






俺達は道具なんかじゃない。
運命に縛られた奴隷でもない。
俺達は、俺達の意志で歩くだけだ。







◆◆◆◆


249 : Break My Fate/Break Your Fate ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:09:20 ngG1UjqE0



冬が始まり、町に吹く空気も冷え込み出した。
ブラインドの隙間から外を覗くと、服を着込み始めた住民達が行き交う様が視界に入る。
誰もが安穏とした日常を過ごし、ごく当たり前のように平穏を享受している。
大戦を経て復興しつつある『あの町』とは、余りにも違う。
ここにはかの大企業も、復興に尽力する組織も無い。
それはつまり、異形の銃頭を持つ『彼』にとっての常識が存在しないことを意味する。
慣れぬ日常を少しばかり眺め、現状の異常性を改めて認識する。
やはり、落ち着かないものだ。
得体の知れない場所に放り出されれば、百戦錬磨の彼とて少しは動揺を覚える。


ポケットをガサガサと漁り、煙草の箱を取り出す。
愛用の煙草は数箱程『持ち込めている』。
そのことに幾許かの安心感を覚えつつ、同時に僅かな不安を抱く。
この煙草は手放せない。
嗜好品としても、己の肉体を制御する為の道具としても。
しかし、数に限りがあることも確かだ。
世界の常識が根本から異なる以上、この世界で『この煙草』の補充は出来ないだろう。
詰まる所、節約を強いられている。


(煙草はお控えなさいってか、神サマよ)


それでも、喫煙そのものは止められない。
酒と女は男を狂わせるが、煙草は男の頭を冴え渡らせる。
彼は一本の煙草に火をつけ、無骨な口に銜える。
ほろ苦い煙の味が喉を通り、身体中の神経を駆け巡る。
やはり、この味が自分の性に合っている。
口から硝煙を思わせる白煙を吐きながら、彼は思う。

戦争を経験した。
数多の出会いと別れを体験した。
戦争を終えてからも、様々な厄介事に首を突っ込んだ。
それでも、これほどの案件に巡り会ったことは無い。
聖杯戦争――――――――あらゆる願いを叶える願望器を巡る争いに、巻き込まれるなど。

奇跡に縋るだけの祈りなど、とうの昔に捨てている。
神様にお祈りする程の無垢な心は持ち合わせていない。
そんなものは硝煙の記憶と共に消え失せた。
頼れるのは、己の意志と力だ。
そうして生きてきた彼に、聖杯に託す願いなど無い。
此処に召還されたのも偶然に過ぎない。

とある依頼をこなした際に、依頼人から金銭と共に報酬として受け取った『白紙のトランプ』。
普段ならばすぐに捨てていたであろう物品を、彼は保管し続けた。
それに何かを感じたのか。あるいは、単なる気まぐれか。
今となっては思い出せない。
ただ一つ確かなことは、あのトランプに導かれる形でスノーフィールドへと召還されたと言うことだけだ。


「マスターと同じく、サーヴァントは願いを叶える為にこの聖杯戦争に参戦する」


煙草を片手に、彼は独りでに言葉を紡ぎ出す。
聖杯戦争のルールを確認するかのように。
彼の視線は、小さな事務所の隅で壁に寄り掛かる『男』の方へと向けられる。


「それで合ってるんだろうな、『アーチャー』」
「……ああ」


彼の問い掛けに、『男』は静かに頷いた。
男は、彼によって召還されたサーヴァント。
クラスはアーチャー。弓兵の英霊。


250 : Break My Fate/Break Your Fate ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:09:53 ngG1UjqE0


「奇跡に縋れるほど俺は夢を見ちゃいない。
 だが、あんたは違う。サーヴァントとして現れた以上、聖杯に用があるんだろう」


どこか斜に構えた態度で、彼はそう呟く。
その言葉の意味する所を、アーチャーは理解した。
彼は、問うているのだ。
己のサーヴァントとして召還された男の意志を。
何を願い、この聖杯戦争に現れたのかを問おうとしているのだ。
アーチャーは暫し、言葉を噤む。
彼はアーチャーの経緯を求めている。
戦う動機を、生の意志を欲している。
話す必要があることは、解っていた。
これから己の主人として共に戦う相手なのだから。
故にアーチャーは、覚悟を決めて口を開く。



「俺は『運命の奴隷』だった」



己の中での『納得』を得ても尚、理不尽な運命に屈することしか出来なかった奴隷。
それが、己の生前に対するアーチャーの評価だった。


「……少し、長い話になる」


アーチャーは静かにそう呟く。
マスターである『彼』は何も言わず、アーチャーの話を聞き届ける。

生前のアーチャーは、王族護衛官だった。
国家に尽くし、王に尽くす誇り高き戦士だった。
そんな彼には妹がいた。
妹の幸せを願った彼は、己の友人である男との見合いを勧めた。
国家の財務官僚の息子であり、将来的な地位を約束されている御曹司だ。
彼と結ばれれば妹は幸せになれると、その頃は信じていた。
しかし、違った。
男の本性に気付かなかった彼の行動が、妹を不幸にした。
男は暴力的な性格の持ち主であり、婚約した妹へ日常的に暴行を加えていたのだ。
彼がそのことに気付いた時には、妹は既に左目の視力を失っていた。
己の行いを後悔した彼は、法皇への直訴によって婚約を無効とし。
そして、妹の夫の逆恨みによって決闘を挑まれ。
決闘に勝利した末に、「国家の重要人物の息子を殺した罪人」として国外追放に処された。
地位も、誇りも、家族も、帰る場所も失った。
全てを亡くした彼は合衆国へと亡命し、居場所と地位を求めて汚れ仕事を請け負った。
敗北する方には付かない。自分はあくまで勝たねばならない。
そう信じて、戦った。
それでも、最後はたった一人の少女の為に戦う道を選んだ。
何故そうしてしまったのかは、自分でも解らなかった。
自分には初めから帰る場所など無いということを受け入れられたからかもしれない。
あの時の彼は、確かに己の選択に『納得』していた。


だが。
それすらも踏み躙られ。
彼は、命を落とした。


自分の身の上をここまで他人に話すことは、初めてだった。
サーヴァントとなり、己の過去に対する区切りをつけられたからか。


251 : Break My Fate/Break Your Fate ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:10:50 ngG1UjqE0

大きな力に従い、それを守ることこそが己の生きる道だとかつてのアーチャーは思っていた。
しかし、それは違った。
過去の地位と誇りにしがみつき、虚勢を張っているに過ぎなかった。
己が敗残者であることを受け入れられず、足掻き続けていた。
権力の道具として戦い、最後に地位を手に入れることに己の安息を見出さんとしていたのだ。


「『道具』として生きることはもう止めた。
 それが幸せだと思うことも、俺はもうしない」


そんな生き方は、合衆国に歯向かった際に捨てた。
たった一人の少女を守ることで得たものは、清らかな意志だった。
しかし、何も成し得る事無く、全ては裏目に出た。
家族の幸福を願った行為は不幸を齎し、己が最後に見つけた納得は実を結ぶことも無く。
結局の所、アーチャーは理不尽な運命の奴隷でしかなかった。
死の間際、己が何を思ったのかは思い出せない。
全てに対する諦観だったのか。あるいは、理不尽な運命に対する呪いの感情だったのか。
己自身でさえ、真相は解らない。
だが、今の彼は認めていた。
己が運命の奴隷であったことを。
運命と言う枷から抜け出せぬ無様な敗北者であったということを。
故に彼は運命を憎むことはしない。
己に降り掛かった理不尽を覆そうとも思わない。
それでも尚、彼には聖杯に託さねばならぬ願いがあった。



「……故郷に一人、家族を残した。
 俺のせいで不幸になった、たった一人の妹だ
 俺は……彼女の幸せを取り戻したい」



故郷に残した妹。
己が勧めた婚約のせいで視力を失い、人並みの幸福を喪った家族。
己が辿った運命の犠牲となった彼女だけは、救いたい。



「それが俺の償いであり、唯一の祈りだ」



確固たる意志を宿した瞳が、マスターを見据えた。
アーチャーは己の運命を受け入れ、されどたった一度だけ『運命に抗う』ことを選んだ。
己の行為によって不幸に巻き込まれた妹の運命を覆したい。
彼女の幸せを取り戻したい。
それが、アーチャーの願いだった。


マスターである銃頭の男は、彼の意志を無言で聞き届けた。
何も言わず、何も答えず。
アーチャーはそんなマスターをじっと見つめる。
彼に願いが無いことは、解っている。
偶然トランプを手にし、この地に召還されてしまった者だということをは解っている。
ふざけるな、お前の願いなどどうでもいい―――――そう拒絶されることも有り得る。
故に覚悟はしている。
己の身勝手な願いが叶えられないことを、受け入れる準備はしている。
その時はその時だ。
結局、自分に運命に抗う資格は無かったということだけだ。
アーチャーは思う。心の奥底の願望を抑え込みつつ。
息を飲むように、男を見据える。
そして男はアーチャーの想いを咀嚼するように、煙草の煙を吐き。
暫しの思案の後、口を開いた。


「……此処から抜け出す方法を探すついでだ。
 あんたの船に乗りかかってやる」


マスターが、ぶっきらぼうにそう答えた。
それはつまり、アーチャーの意志を受け止めたということを意味していた。


252 : Break My Fate/Break Your Fate ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:11:19 ngG1UjqE0
アーチャーは目を丸くし、そして頭を下げた。


「……感謝する、マスター」


己の願いに付き合うことを了承してくれたマスターに、感謝をした。
マスターに願いが無いことは理解していた。
それ故に断られたとしても詮無きことだと受け入れる覚悟はあった。
だが、マスターは応えてくれた。
感無量の極みであり、己の話を聞き届けてくれたマスターに頭を下げることも辞さなかった。


「別に」


頭を下げるアーチャーの礼に、目を向けず。
男は窓の外を眺めながら、一言呟く。



「あんたが、放っておけないだけさ」



アーチャーは、妹を救う為に『運命の奴隷』であることに抗う道を選んだ。
秩序の『道具』である生き様と決別し、己の意志で戦うことを選択した。


その在り方は、男を―――――――乾 十三(いぬい じゅうぞう)を動かすに足るものだった。


かつて戦う為の『道具』として利用されてきた銃頭の男は、何よりも『意志』を重んじる。
そして今、アーチャーの意志を受け止めた。
俺達は、何かの道具じゃない。
かつて『誰か』が言った言葉だった。
『道具』や『奴隷』としての己に抗うという姿に見せたアーチャーに、十三が手を貸さぬ筈が無い。
アーチャーが納得を求めるというのならば、己はそれに応えるのみだ。
この地より脱出する手段を探す為にも、十三はアーチャーと戦うことを選ぶ。




―――――弾丸(ねがい)は、込められた。


253 : Break My Fate/Break Your Fate ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:13:16 ngG1UjqE0

【クラス】
アーチャー

【真名】
ウェカピポ@ジョジョの奇妙な冒険 第7部「スティール・ボール・ラン」

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具C+

【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)の魔術を無効化する。
魔力除けのアミュレット程度の効果。

単独行動:C
マスター不在・魔力供給無しでも現界できる能力。
Cランクならばマスターを失っても一日程度の現界が可能。

【保有スキル】
投擲(鉄球):A
祖先より代々受け継がれし投球の技術。
精密かつ強力な鉄球の投擲が可能な他、ツェペリ家の技術である肉体の硬質化を行うことも出来る。

戦術眼:C
様々な戦況における洞察力。
他人の能力・技術を分析し、対象の強味を的確に潰す戦術を編み出すことを得意とする。
更に窮地においても自身の状況と敵の能力を冷静に把握し対処することが可能。

守護の衛兵:C
何かを守ることに己の価値を見出した生き様がスキル化したもの。
マスター等の他者を守護する際に自身の筋力・敏捷値にプラス補正が掛かる。

無詮の意志:A
生前、アーチャーの意志は最期まで報われなかった。
その呪いはサーヴァントとなった今も尚、スキルとして彼に纏わりつく。
アーチャーの強い意志や祈りから出た行動は高い確率で裏目に出、時としてそれは無惨な結果を齎す。
マスターにもアーチャーにも認識できない特殊なスキル。
ただしアーチャーは己の報われぬ在り方に感付いている。

【宝具】
『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:2~30 最大補足:100
ネアポリスの王族護衛官が操る『鉄球』。
アーチャーが祖先より代々受け継ぎし誇り高き武器である。
小型の衛星を複数備えており、衛星は本体である鉄球を投擲した際に時間差で周囲に放たれる。
衛星が少しでも掠った者は十数秒間左半身のあらゆる感覚を失う『左半身失調』の状態に陥ってしまう。
鉄球や衛星そのものも物理的に高い殺傷能力を備える。

『光輝は白銀に簒奪され(ストレイツ・オブ・マキナック)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ツェペリ一族の技術にして最大の強味である『黄金の回転』を封じた戦いの逸話が宝具へと昇華されたもの。
戦場を異界化し、空間内に存在するサーヴァントの宝具を封印する。
異界化した戦場は凍り付いた海峡を思わせる凍土へと変貌する。
武器の形状を取る宝具を封印した場合はその特殊効果を全て無効化して単なる『神秘を帯びているだけの武器』へと貶め、
何らかの異能力や技術を発揮する宝具を封印すれば行使そのものが不可能となる。
ただし改造を施した肉体そのものが宝具、魂そのものが宝具である等の「肉体や生命と直接関連する宝具」は封印できず、効果を劣化させるのみに留まる。
相手サーヴァントは幸運値判定によって封印の回避が可能だが、一度封印が発動した場合戦闘が終了するかこの宝具が解除されるまで効果が持続する。
固有結界に類似しているが、既存の空間の上に異界を出現させるという似て非なる空間魔術である。
また本来は魔術師ではないアーチャーが宝具という形で擬似的に魔術を行使している為、長時間の維持は相応の魔力消費を齎す。


254 : Break My Fate/Break Your Fate ◆DdYPP2qvSs :2017/01/12(木) 23:15:25 ngG1UjqE0

【武器】
『壊れゆく鉄球』、剣

【人物背景】
ネアポリス王国の元王族護衛官にして鉄球使い。
妹の幸福を願った行動をきっかけに転落し、国を追われる身となった男。
己の居場所を求めて合衆国へと亡命し、永住権と地位を報酬に大統領の配下となる。
その後大統領の命に従い自身と同じ鉄球使いであるジャイロ・ツェペリ、その相棒ジョニィ・ジョースターと交戦。
相棒マジェント・マジェントとの連携によって追い詰めるも敗北し、その後ジャイロの依頼によってルーシー・スティールの護衛を請け負う。
当初は「敗北する側につかない」として合衆国への叛逆を拒んでいたが、最終的に大統領へと立ち向かい彼は『帰る場所』を完全に失う。
しかしルーシーというたった一人の少女のために戦うことを選んだウェカピポは己の運命を受け入れた。
最期は手を組んだ男に利用され、失意の死を遂げる。

己の行動が裏目に出て全てを失い、最期には己が見出した『納得』さえも踏み躙られた。
決して報われることの無い人生だった。
そんな己を救おうとは思わない。
運命は受け入れた。
だが、それでも救いたい者がいる。
己が不幸にしてしまった妹を幸福にする為に、彼は聖杯戦争へと挑む。

【サーヴァントとしての願い】
自分のせいで不幸になった妹の幸せを取り戻す。

【方針】
情報収集を行いつつ敵主従に対処する。



【マスター】
乾 十三(いぬい じゅうぞう)@ノー・ガンズ・ライフ

【ロール】
様々な荒事を解決する便利屋。
銃頭を隠す為、仕事の際は常に覆面を被っていたという。

【武器】
拡張者としての施術を受けた十三は肉体そのものが武器と化している。

【能力】
『拡張者(エクステンド)』
過去の大戦時の技術によって肉体の部位を機械化した者。
十三は全身に機械化を施し、更に頭部を拳銃化した『過剰拡張者(オーバーエクステンド)』である。
機械化による高い身体能力を備える他、手の甲に仕込まれた弾倉からの射撃が可能。
更に弾倉から放たれるエネルギーを利用した拳撃『ヒュンケ・ファウスト』は列車をも正面から食い止める威力を持つ。
しかし拡張者は機械化の影響による神経の負荷も大きく、全身を拡張した十三は常に鎮静剤入りの煙草を手放せない状態となっている。
鎮静剤を長時間服用せずにいると自身の肉体を思うように制御出来なくなり、最終的に暴走状態へと陥る。

『ガンスレイブユニット』
大戦時における大鑑巨砲主義の産物。
巨大なリボルバー拳銃と化した十三の頭部そのもの。
一撃で戦局を左右するとされる程の破壊力と貫通力を持つが、構造上相棒となる射手がいなければ射撃そのものが出来ない。
十三の引き金を引けるのは彼が認めた者のみ。
しかし今の彼は、この引き金を誰にも預けようとはしない。

【道具】
『種子島』
十三愛用の煙草。
拡張者の神経の摩耗を和らげる鎮静剤が含まれている。
味も十三の好みであるらしく、純粋な嗜好品としての役割も果たしている模様。
スノーフィールドには元々所有していた種子島とその複製品を数箱ほど持ち込んでいる。

【人物背景】
拡張者絡みの事件の処理を生業とする『処理屋』。
彼自身も大戦時に全身を機械化した拡張者であり、リボルバーの頭部を持つ異形と化している。
冷静沈着な現実主義者だが、仕事の際には依頼人の純粋な願いや意志を何よりも重んじる。
常にハードボイルドに振る舞う一方、女性の素肌を苦手とするウブな一面も。
ある依頼で拡張者の技術を独占するベリューレン社から実験体の少年・鉄郎を奪還し、以降彼らと敵対関係になる。
参戦時期は3巻15話終了時点。

【マスターとしての願い】
元の場所へと帰るために、そしてアーチャーの願いに応える為に戦う。

【方針】
情報収集を行いつつ敵主従に対処する。
ただし必要以上の殺戮は絶対に行わず、あくまで己の納得を優先する。


255 : 名無しさん :2017/01/12(木) 23:15:42 ngG1UjqE0
投下終了です。


256 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:20:04 /sSWkSK20
皆様投下乙です。
他コンペからの再利用となりますが、私も投下します。


257 : 相田マナ&セイバー(ヒビノ・ミライ) ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:23:22 /sSWkSK20


     01/5つの誓い・11の誓い


「ウルトラ5つの誓い! ひとつ! 腹ペコのまま学校に行かぬこと!」

 満天の星空の下、青年の声が響く。
 世界全てを照らす日の光の如く、その声は熱かった。どんな冷たい風が襲い掛かろうとも、彼が持つ灼熱の前には微々たるものだ。

「プリキュア5つの誓い! ひとつ! プリキュアたる者、いつも前を向いて歩き続けること!」

 そして青年に続くように、少女は大声を響かせた。
 その声もまた、夜の闇を振り払うほどに眩しかった。どんな邪な感情が迫ろうとも、彼女の持つ博愛を飲み込むことなどできない。

「ウルトラ5つの誓い! ひとつ! 土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!」
「プリキュア5つの誓い! ひとつ! 愛は与えるもの!」

 二人の叫びは重なる。
 誰かを思いやる気持ちと、誰かを守りたいという愛。その気持ちは誰よりも強く、全ての宇宙を包み込んでしまう程に雄大だった。

「ウルトラ5つの誓い! ひとつ! 天気のいい日には布団を干すこと!」
「プリキュア5つの誓い! ひとつ! 愛することは守り合うこと!」

 青年と少女が口にするのは、大切な人から教わった誓い。
 どんな困難が待ち受けていようとも、その言葉を胸に刻んだからこそ乗り越えられた。二人にとって、心の支えとなっていた。

「ウルトラ5つの誓い! ひとつ! 道を歩くときには車に気をつけること!」
「プリキュア5つの誓い! ひとつ! プリキュアたる者、自分を信じ、決して後悔しない!」

 時に失敗して、挫けそうになった時が何度もあった。
 だけど、周りに目を向けて、そして自分自身を信じたからこそ、自らの信念を貫き通すことができた。

「ウルトラ5つの誓い! ひとつ! 他人の力を頼りにしないこと!」
「プリキュア5つの誓い! ひとつ! プリキュアたるもの、一流のレディたるべし!」

 誰かを守る為に、二人は自分自身を磨き続けた。
 だからこそ、たった一人の戦いになっても、強大な敵を打ち倒すことができた。如何なる脅威が待ち構えていようとも、決して負けることはない。
 心の中では強い炎が燃え上がっていた。

「プリキュア5つの誓い! ひとつ! みんなで力を合わせれば、不可能はない!」

 そして少女は、青年が持たない6つ目の誓いを宣言する。
 大切な友と、守るべき人々との触れ合いの末に導き出した答え。それもまた、彼女の心を支える大きな柱だ。


258 : 相田マナ&セイバー(ヒビノ・ミライ) ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:24:00 /sSWkSK20


 日々の未来を、愛で溢れるものにしたい。胸で鳴り響く鼓動には、そんな真心が込められていた。
 どんな人だろうと、幸せで満ちた夢を見られるようにしてあげたい……その為に二人は強くなって、そして大空に舞う為の翼も手に入れた。


 青年と少女は顔を合わせ、力強い笑顔を互いに向けていた。
 青年の名はヒビノ・ミライ。宇宙警備隊の若き勇士であり、人々との触れ合いで強く成長したウルトラマンの一人……ウルトラマンメビウス。
 少女の名は相田マナ。この胸に強い愛を宿らせて、すべての命と愛を守る為にジコチュー達と戦ったドキドキプリキュアの一人……キュアハート。
 ウルトラマンとプリキュアが、この世界で巡り会ったのだ。



     02/俺達・私達の翼



「君が僕のマスターなんだね。僕はヒビノ・ミライ。セイバーのクラスで召還されたウルトラマン……ウルトラマンメビウスだ!」
「あなたがサーヴァントさんなんですね? あたしは相田マナ……大貝第一中学校の生徒会長です!」

 相田マナは、目の前に立つ青年に自己紹介をする。
 黒のスーツと灰色のジーンズを身に纏い、スーツの上には皮製のベストを羽織っている。ジョー岡田のような穏やかさと凛々しさ、そして四葉家のセバスチャンみたいな実直さを誇る顔付きだった。
 セイバー……否、ヒビノ・ミライは礼儀正しく、見ていて親近感が沸いてしまう。一目見ただけで頼りになる人だとわかった。

「生徒会長って……凄いじゃないか、マスター!」
「ストップ! マスターじゃなくて、マナって呼んでください!」
「どうしてだい?」
「う〜ん。なんていうか、マスターって呼ばれるの……ちょっと恥ずかしいんです。何だか、くすぐったくなっちゃいそうで……だから、マナって呼んで欲しいんです!」

 生徒会長と呼ばれることはあったけど、それはマナがみんなの為に力を尽くした結果だ。彼の為に何かをした訳でもないのに、そんな肩書で認められるなんておかしい。

「それに、あたし達はまだ出会ったばかりです。だから、これからお互いのことを知る為には名前で呼び合うことが大事だと思いますから!」
「そうだね……じゃあ、よろしくね! マナちゃん!」
「こちらこそ、よろしくお願いします! ミライさん!」

 ミライの素朴な笑みに、マナは太陽のように眩い笑顔で答える。
 やっぱり、名前で呼び合った方が心が晴れるし、もっと仲良しになれる気がした。


 そしてここにいるのはマナとミライだけではない。
 マナの隣には、共に戦ってきた大切な相棒/親友だっているのだから。背丈はマナよりもほんの少しだけ小さく、桃色の髪はマナよりも癖がない。
 活発さと愛らしさが凝縮された表情からは、まるでマナの双子の妹と呼ばれても納得してしまいそうなオーラが放たれていた。


259 : 相田マナ&セイバー(ヒビノ・ミライ) ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:31:01 /sSWkSK20

「シャルルちゃんもよろしくね!」
「よろしくシャル! ミライ!」

 ミライと自己紹介を交わした少女はシャルル。髪に飾られた蝶ネクタイは彼女のトレードマークだ。
 今は想いの力で人間に変身しているけど、本当はトランプ王国で生まれたウサギとよく似た妖精だ。
 彼女もまた、マナと共にこの謎の世界に連れて来られている。

「キエテ・コシ・キレキレテ!」
「えっ?」
「僕と君は友達……宇宙語で、そんな意味がある言葉なんだ!」
「そっか! あたし達はマスターとサーヴァントとか、主従とか、そんな関係じゃなく……友達ですもんね!」

 初めて聞く言葉だが、そこに込められた素晴らしい意味にマナは瞳を輝かせる。
 宇宙は広い。無限大の文化が存在する宇宙には、無限大の言葉が存在し、そして無限大の未来が待っていた。
 そこに生きる人達のことを知って、笑顔にできたらどれだけ嬉しいか。想像するだけでも、胸がキュンキュンと鼓動を鳴らす。


 だからこそマナは許せない。
 誰かの未来を壊して、自分一人だけの為に聖杯を得るというジコチューな戦いが。
 叶えたい夢や、欲しいものの為に頑張るという気持ちは誰もが持っている。マナだって、昔から何かの為に努力を重ねてきたのだから。
 それは誰かの為だけではなく、マナ自身のワガママが行動原理になったこともある。マナ自身の行動で迷惑を被る人だってたくさんいた。
 それで落ち込んで、愛を見失いそうになる。だけどその度に周りの人から支えて貰い、失敗を反省して、何度でも立ち向かうことができた。だからこそ、ドキドキプリキュアはジコチュー達からみんなを守って、そして強くなれた。
 みんなと一緒に何かをすることの素晴らしさだって、分け合うことができた。


 聖杯を狙って誰かを傷付けようとする人はいるかもしれない。
 トランプ国王だって、プロトジコチューの悪意で病に倒れたアン王女を救う為に、エターナルゴールデンクラウンに手を伸ばした。同じように、大切な人を想って戦いに身を投じる人もいるはず。それは決して自己中などではなく、立派な愛だ。
 だけど、それで救われた側が愛を胸に抱けるのか。自分の為に、他の誰かが愛を失ったと知って悲しまないのか。
 何よりも聖杯を手に入れるというのは、誰かを傷付ける為の正当な理由になるのか。いいや、なる訳がない。

「ミライさん。あたし達に力を貸してほしいんです……この聖杯戦争って戦いを止める為に。そして、誰もが愛を失わない為にも」

 だからマナはミライを真っ直ぐに見つめて、協力を申し出る。
 シャルルがいるのは心強いけど、彼女以外のドキドキプリキュアのメンバーはここにいない。もしかしたら、この世界のどこかにいるかもしれないけど……そんな微かな可能性に縋ることなどできない。
 キュアハートだけで聖杯戦争を止められる保証はないし、互いに信頼できる仲間となってくれる誰かの助けが必要だった。
 ここにいるヒビノ・ミライのような、優しい青年のように。

「GIG!」

 そんなミライは真っ直ぐに親指を立てながら力強く宣言した。
 彼の言葉の意味がわからず、マナは首を傾げてしまう。

「じ、じーあいじー……?」
「これはね、ずっと昔に僕が大切な人達から教わった、勇気が出る合図なんだ!
 どんな困難が待ち構えていようとも、その度にみんなでこの言葉を口にしたから……乗り越えられたよ!」
「そうなんですか……とっても愛に溢れた言葉ですね! GIG!」

 真意を知ったマナは、思わずミライの真似をする。彼に負けないくらいの愛情を指先に込めながら。


260 : 相田マナ&セイバー(ヒビノ・ミライ) ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:31:21 /sSWkSK20

「ああ、勿論さ! 君が望むのなら、僕はいくらでも力を貸すとも!
 それに僕も……いいや、僕達ウルトラマンはこんな戦いを決して認めたりしないからね!」
「ありがとうございます!」

 その答えにマナの鼓動が激しくなった。
 感情は高ぶっていくけど、彼女はほんの少しだけそれを抑える。ミライについて、知りたいことが山ほどあるからだ。

「……あの、一つだけお聞きしたいことがあるんですけど、いいでしょうか?」
「いいよ。僕に答えられることだったら、何でも答えるからね」
「はい! ミライさんが言っていたウルトラマンって……一体どんな人達なんですか?」

 その一つが、彼が何度も口にした『ウルトラマン』という名前。
 ミライは自分のことを『ウルトラマン』と呼んでいる。『ウルトラ』という名詞が付いているからには、凄いことが出来る人だというイメージを何となく感じた。
 そして、それを問われたミライの表情は、とても真剣なものへと変わっていく。

「ウルトラマンとは……たくさんの命を守りぬいた戦士のことだよ。何度も地球を守り、そしてたくさんの宇宙で平和を乱す者達と戦ってきた。
 僕だけじゃない。たくさんのウルトラマンがいて、みんな人々の為に頑張ってきたんだ」
「たくさんのウルトラマン……? えっ、でもウルトラマンって人が地球を守ったなんて話は、聞いたことがないです! そんな人達がいるなら、ニュースになってもおかしくありませんから!」
「それはきっと、僕達が訪れた地球と君の生きる地球は、また別の地球だからじゃないかな」
「えっ? 別の地球……? あの、それってどういう意味ですか?」
「うーん、簡単に言うなら……宇宙には、地球と呼ばれる惑星がいくつもあるんだ。
 君達の地球の他にも、宇宙には地球とよく似た惑星があって、そこではたくさんの人達が生きている。僕や、僕の尊敬する兄さん達はそこに生きる人達と絆を深めてきた」

 別の地球。いまいちピンとこないけど、最近の科学では地球とよく似た惑星が観測された。だから、ミライが言う地球とはそこの事かもしれない。
 そして、彼が言ったウルトラマンとは……プリキュアのような愛の戦士だろう。だけどその行動範囲はプリキュアよりも遥かに壮大で、その分だけ人助けをたくさんしてきた。
 それがわかった途端、マナの笑顔はより輝いていく。ミライに対する情景の念が更に強くなったからだ。

「じゃあ、もしかしたらいつかあたし達の所にも、ミライさんみたいなウルトラマンが来るかもしれないのですか?」
「そうかもしれないね。その時が来たら、君のような優しい人と心を通わせるはずだ……僕と君が出会えたように」
「モチのロンですよ! あたしが出会った人達はみんな、心に強い愛が溢れていますから!」

 マナはこれまでの人生で色んな人と出会い、その度に色々なことを教えて貰った。
 マナを生んで、今日まで育ててくれたパパとママ。愛(マナ)という名前を付けてくれたおばあちゃんに、厳しくも時に優しく見守ってくれたおじいちゃん。マシュマロみたいに可愛かった犬のマロという友達。
 幼い頃から一緒にいた菱川六花と四葉ありす。ドキドキプリキュアになってから出会った剣崎真琴やジョー岡田を始めとしたトランプ王国の人達。アン王女から生まれた円亜久里やレジーナ。
 そして様々な場所で出会ってきた人達の笑顔を、マナは何度も見た。みんな、愛で溢れていた。

「その人達を裏切らない為にも、あたしは……聖杯戦争に乗るつもりはありません!」
「そうだね! 僕が付いてるから大丈夫……一緒に頑張ろうね!」
「あたしも頑張るシャルよ!」

 そして、これまで見守ってくれていたシャルルも、一緒に誓ってくれる。
 これまで、彼女と共にどれだけの愛を守ってきたのか。その度に、シャルルとどれだけの愛を育んできたのか……それを数えることなどできない。

「あたしはミライさんのことや、それにこの世界のこともよくわかりません。
 だけど、これだけはハッキリといえます。困ってる人がいたらゼッタイ助ける! 
 だからよろしくお願いしますね……GIG!」
「GIG!
 僕もマナちゃんを見習って、最後まで諦めずに不可能を可能にしてみせるさ!
 こちらこそよろしく頼むよ!」

 凛然と、そして強い愛を瞳に込めながらお互いの姿を見つめあっている。
 どんな困難が待ち構えていようとも、共に戦う彼/彼女と一緒に乗り越えてみせると。
 そして…………愛を守り抜いてみせる。
 星空の下で、ウルトラマンとプリキュアは誓い合った。


261 : 相田マナ&セイバー(ヒビノ・ミライ) ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:33:07 /sSWkSK20
【クラス】
セイバー

【真名】
ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス

【ステータス】
筋力A+ 耐久A 敏捷A+ 魔力EX 幸運A+ 宝具A+

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師では○○に傷をつけられない。


単独行動:A+
 マスター不在でも行動できる能力。


騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
 ガンウィンガ―を操縦する場合、より多大な効果を発揮する。


【宝具】
『無限大の未来(メビウスプレス)』
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 彼が地球に向かう際に、ウルトラの父より与えられた神秘のアイテム。
 メビウスプレスの力によって彼は神秘の巨人・ウルトラマンメビウスに変身し、数多の悪と戦い続けた。

『無限大の未来に羽ばたく俺達の翼(バーニングブレイブ)』
 ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人(自分自身)
 無双鉄神インペライザーとの戦いで危機に陥ったウルトラマンメビウスが、仲間達との絆を胸にして誕生した『燃える勇者』。
 灼熱の如く真紅に身体が染まり、全身には黄金色のファイアーシンボルが刻まれている。
 身体能力も大幅に向上し、炎を元にした技を数多く使い、如何なる灼熱だろうと彼を燃やし尽くすことはできない。その力強さは怪獣墓場の炎の谷にも耐えられるほど。
 反面、その分だけ魔力消耗が激しくなるので注意が必要。


【Weapon】
メビウスプレス
トライガーショット

【人物背景】
 特撮作品『ウルトラマンメビウス』の主人公。キャストは五十嵐隼人。(ロストヒーローズ2や劇場版ウルトラマンギンガS 決戦! ウルトラ10勇士では福山潤が担当していることもある)
 宇宙警備隊の若きルーキーで、ウルトラの父の命を受けて地球へと向かったウルトラマンの一人。
 彼は地球に向かう途中、遭難した宇宙船アランダスを発見する。そこに登場していたバン・ヒロトという名の青年を救おうとするも、後一歩というところで船はワームホールに飲み込まれてしまう。
 自らを犠牲にしてまで船のクルーを救ったヒロトの勇敢な姿に感動した彼は、ヒロトの姿を借りて地球に降り立つ。
 その後、彼はCREW GUYS JAPAN隊長兼総監のサコミズ・シンゴによって、ヒロトの父であるバン・テツロウと出会う。
 当初は拒絶されたも、後に彼はテツロウから認められ、地球で過ごすこととなった。
 テツロウの『日々の未来』という言葉から付けられた、ヒビノ・ミライという名前を借りて。


262 : 相田マナ&セイバー(ヒビノ・ミライ) ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:33:38 /sSWkSK20


 正義感が強く、どこまでも純粋。しかし地球の常識をほとんど知らない為、周囲からは「不思議ちゃん」と呼ばれることもしばしば。
 持ち前の明るさで、ディノゾールの襲撃によって一度は壊滅したCREW GUYSのメンバーを集め、共に数多の困難を乗り越えた。
 時にメビウスの力だけでは倒せない強敵や、人間が持つ『悪』の部分を突きつけられて、幾度も倒れそうになる。だがその度に、GUYSのメンバーや伝説のウルトラ兄弟達からの支えがあり、人類を守り抜いた。
 そうして彼は暗黒宇宙大皇帝 エンペラ星人すらも打ち破り、ウルトラ兄弟の仲間入りを果たして、地球を去っていった。


 地球を去った後も、メビウスはエンペラ星人の鎧であるアーマードダークネスとの戦いに勝利し、復活したジャッカル軍団を打ち破り、怪獣墓場・炎の谷で起こったゴーストリバース事件を解決するなど数多くの実績を残す。
 しかし宇宙牢獄から解き放たれたウルトラマンベリアルの暴走を止めることができず、宇宙空間に放り込まれてしまった。その際、彼は初代ウルトラマンとウルトラセブンの命を受けて、レイオニクス・レイと共にベリアルとの戦いに挑む。
 怪獣軍団を率いるベリアルに追い込まれそうになるも、レオ兄弟やウルトラマンダイナ……そしてセブンの息子・ウルトラマンゼロと力を合わせ、ついにベリアルを撃破した。
 その後はウルトラ10勇士の一人として、ウルトラマンギンガがいる地球で時空城に突入し、超時空魔人エタルガーの能力によって生まれたエンペラ星人のエタルダミーと戦う。
 彼はバーニングブレイブでエンペラ星人を撃破し、10勇士と共に時空城を破壊した。


 なお、ジャッカル軍団との戦いについては、内山まもる先生作の『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス ジャッカル軍団大逆襲!!』にて描かれている。


【サーヴァントとしての願い】
 マナちゃんやシャルルと力を合わせて愛を守る。


【基本戦術、方針、運用法】
 ヒビノ・ミライがウルトラマンメビウスとしての力を解放すれば、膨大なる光の力を発揮できる。しかしその度合いが強ければ強いほど魔力消耗は激しく、マナ自身に負担がかかってしまう。
 本来のサイズで戦えるのはたった三分間。ミクロ化すれば消耗はある程度抑えられるも、その分だけメビウス自身のパワーが弱くなる。
 それをカバーする為には、相田マナがラブリーコミューンでキュアハートに変身して、彼女自身の愛で光を助けなければならない。
 キュアハートの愛があれば、ウルトラマンメビウスにとって大いなる力となるだろう。


 メビウスブレイブ、メビウスインフィニティー、フェニックスブレイブの力を得るにはウルトラマンヒカリ及びウルトラ兄弟の存在が必須。


【マスター】
 相田マナ@ドキドキ! プリキュア

【マスターとしての願い】
 ミライさんと一緒に頑張りたい。

【weapon】
 キュアラビーズ
 ラブリーコミューン


【能力・技能】
 文武両道。人助けの為に、幼い頃から勉強とスポーツを頑張ってきた。
 成績優秀で、部活の助っ人をいくつも掛け持ちできる程に運動神経は抜群で、料理もできる。
 ただし、乗り物酔いに弱く、歌も下手。歌の酷さは某ガキ大将レベル。

【人物背景】
 アニメ作品『ドキドキ! プリキュア』の主人公。CVは生天目仁美。
 大貝第二中学生徒会長。胸に強い愛を抱き、何度も人助けをしてきた。順応力も非常に高く、どんな環境に入ろうとも周りの人間とすぐに打ち解けられるコミュニケーション力を誇る。
 みなぎる愛・キュアハートとして覚醒し、強い絆で結ばれたドキドキ! プリキュア達と力を合わせてたくさんの愛を守り抜いた。
 敵であるレジーナやキングジコチューすらも救い、全ての巨悪であるプロトジコチューを打ち破った。


263 : 相田マナ&セイバー(ヒビノ・ミライ) ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:38:45 /sSWkSK20

【方針】
 みんなを助ける為に戦いを止める。


【把握媒体】
 ヒビノ・ミライ
 特撮作品『ウルトラマンメビウス』
 TVシリーズ全50話

 外伝作品
 『ウルトラマンメビウス外伝 ヒカリサーガ』(ただし、こちらはウルトラマンメビウスは登場しない)
 『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス』
 『ウルトラマンメビウス外伝 ゴーストリバース』

 ノベライズ作品(ただしこちらは一部のエピソードが本編のパラレルとなっている)
 『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』

 漫画作品
 『ウルトラマンメビウス外伝 超銀河大戦 戦え! ウルトラ兄弟』
 『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス ジャッカル軍団大逆襲』

 劇場作品
 『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』
 『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』
 『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』
『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦! ベリアル銀河帝国』
 『劇場版ウルトラマンギンガS 決戦! ウルトラ10勇士!!』

 相田マナ
 アニメ作品『ドキドキ! プリキュア』
 TVシリーズ全49話

 漫画版『ドキドキ! プリキュア』

 劇場版『映画 ドキドキ! プリキュア マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス』

 以下、別シリーズとのクロスオーバー映画(ただし、こちらは本編との繋がりがかなり曖昧。パラレルワールドと見た方がいいかもしれない)
 『映画 プリキュアオールスターズNewStage2 こころのともだち』
 『映画 プリキュアオールスターズNewStage3 永遠のともだち』
 『映画 プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪』
 『映画 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』


264 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/01/13(金) 23:39:13 /sSWkSK20
投下終了です


265 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:01:31 ralkueKk0
投下します


266 : ハンター ◆6.lIGGc9i6 :2017/01/14(土) 19:03:46 ralkueKk0
内臓がひっくり返りそうな悪路。
シボレー・インパラは派手に二、三度バウンドした。
直後、地形が豹変する。
土地の起伏がなくなっていて、平野になり、やがては背後に退いて、水平線の景観と化した。
「サム!奴は来たか!?」
運転に集中して振り向く暇がない。
「いや、うまくまいたみたいだ!」
「ありゃ何なんだ一体!?本物のターミネーターだぞ、アイツ。銀も聖水も鉛弾も効かない。俺たちでも手に負えないぞ!」
「サーヴァントって使い魔らしいけど…凄かったな」
聖杯戦争から逃げるため、スノーフィールドから南下し、彼らはラスベガスを目指していた。しかし…。
ディーンの運転するシボレー・インパラが停車した。
「おい、嘘だろ……」
サムは自分の目を疑った。
同じくハンドルに頭にこすりつけてディーンは途方に暮れる。
「冗談じゃない!ふざけるな!俺たちは宇宙人にさらわれちまったのか?」
蜃気楼?いや、ありえない。
周囲の荒野に対して不釣り合いな無機質な緑黄色のポリゴン。地面すらない。
サムは車から降りて左右を見渡す。
壁が何処までも立ちはだかった。
行き止まりだ。
「この街はダークシティかよ…」
どうやらこのスノーフィールドからの脱出は絶望的だ。
「これは兄貴のせいだ!ベガスでの狩りの帰りに兄貴がカジノに行きたいって言ったから、行ってみたらハンガーゲームする羽目になっちゃったじゃないか!」
「ポーカーやってたら、白紙のトランプが配られてきた気づいたらココだぞ!俺にどうしろって言うんだ!?」


267 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:05:12 ralkueKk0
悪運を招き寄せるこのウィンチェスター兄弟は今回、とんでもないものを引き当てた。
脈々と語り継がれてきた伝説たちが競い、争う夢の饗宴《きょうえん》への招待チケットだった。

「俺は自分が誰だか気づくまで保険のセールスマンしてたんだ、営業成績一位の…信じられるか?お前に会わなかったらどうなってたか…」
「僕もだよ…」
「コイツ《インパラ》だってそうだ!中古車ディーラーに売られてたんだぞ、俺の車なのに一体どうなってんだ!?」
次にディーンはダッシュボードを開いた。
レッドツェッペリン、ラッシュ、 AC/DC ─…
あれだけ大量にあった往年の名曲が一枚もない。空っぽだ。
「見ろ! 俺のベストセレクションが…。質入れした奴を見つけ出して、必ずこの手で殺してやる!」
「また買えばいいじゃないかそんな物…」
「カセットテープなんて今時どこに売ってんだ!?」
ディーンは左腕の袖を捲った。
それはサーヴァントのマスターの証。令呪だった。
「それにこれ見ろよ!糞ダッサダッサのロックバンドみたいなタトゥー!これじゃ人前にも出られない。いくら擦っても落ちないし…」
「何で隠すの?」
サムは真顔でそう言った。
「正気か?」
「全然。格好いいじゃないか、ソレ」
たまに来るこの二人のセンスの違いにはどう表現していいのやら…。
「そんなことよりこれからどうする?」
「二人でこの街を出るんだ」
「でも、どうやって…」
もう腹を括るしかない…。
「いつも通りだ、サム」
「狩りだよ。それしかない」


268 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:07:31 ralkueKk0





同じ場所で何度何度も繰り返される交通事故。
夫が妻子と無理心中。老衰と書かれた死亡記事欄。
新聞の社会面や都内版で小さく数行で片づけられて読み飛ばされるような事件。でも…それは…。
それは違った。
そんな現実を知った僕《俺》たちは世界が違って見えていた。
世間に潜む闇の住人。 災いの影。
僕《俺》たちウィンチェスター家は先祖代々戦い続けている。
人の衣を借りる妖怪、病院を餌場にする亡霊、幼い子供に取り憑く悪魔、森に住み人を喰う怪物達…。
その首をはねるか、尽く滅する。

俺《僕》たちは──ハンターだ。

「あぁ、それしかないけど…でもまずはマスター同士話し合いから…」
「でも、向こうから突っかかって来たらお前どうするつもりだ?」
兄のディーンは弟サムの眼を見て話した。
「それは…」
「全員潰す」
ディーンはそう言うとインパラのエンジンをかけなおし。元来た道を引き返した。
「まずは情報を集める。他のマスターの目星も付けないと話し合いも出来ない。それから──」
「マスター?」
「何だよ!?」
ディーンが吠え、
ちら見したバックミラーにスマイルが写った。
「オレっちのこと、忘れてない?」
後部座席に知らぬ間に何者かが、座っていた。
急ブレーキからパニックストップ。二人は慌ててインパラから飛び降りた。
「何時から居た?」
ディーンは懐から銃を抜く。
「ディーン。もう諦めよう、彼には効かない。君、話聴いてたでしょ?」
「最初は冷や水浴びせられたり、しこたま撃たれたけど、全然気にしない。許す!」
「俺のインパラのボンネットに立つからだ!サンズ・オブ・アナーキー!」
「この鬼ごっこで確信した!お前たち絶対まともじゃない!オレはこうゆうマスターを待ってたんだ。これこそ行幸!遠路はるばる海を渡ってきたかいがあったぜ!」
その青年は彼らを指差した。
「おたくらは最高のバディだ!」 
サーヴァントからのマスター評価は、最悪のファーストコンタクトからにしては思っていた以上に高評価だった。
「そりゃ良かったな」
ディーンは煙草に火を点けて、ズボンの中に手を入れている。
「忘れてた。君の名前は?でも、自己紹介がまだだった…僕はサム・ウィンチェスター。こっちが兄貴のディーンだ。君のマスター…みたいだ」
「オレは坂田金時。世界一ゴールデンな男だ!夜狼死九《ヨロシク》!」


269 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:08:51 ralkueKk0
「そういや誰だよコイツ?何処のどいつだ?サム」
「ネットで調べるよ……日本だ」
相変わらず速い。スマートフォンでネットを開いて日本語を翻訳する作業に移る。
「どうせならフランスのジャンヌダルクとかケルトのスカサハとかがよかったよ。なんで外国かぶれの日本人の男が俺たちの所に来るんだ?ここ、アメリカだぞ」 
大人しそうな美姫と妖艶で淫乱な魔女。いかにもディーン好みな選択だ。
「しかも、平安生まれの京都育ちみたいだね…」
サムがウィキペディアを読み上げながら、困惑した。液晶画面と彼を見比べる。
「普通はシルバーサムライみたいな奴だよな」
「何か文句でもあんのか?」
少しムッとした金時。
まだ腹の虫も収まってないディーンは喋るのを止めない。
「お前は自分を鏡で見たことがないのか?」
金時とディーンは捻りよりながら睨らんだ。並び立つ二人の身長は同じくらいだ。
坂田金時の服装は黒のバンダナ、黒のサングラス、黒革のベスト着て、金の鎖と髑髏をジャラジャラさせたGパン通した、てっぺんからつま先まで真っ黒の出で立ちだった。
「似合ってるだろ?」
ディーンはインパラの隣に横付けされた金時の愛車ゴールデンベアー号を指差した。
「それにこのバイク!ロングフォークチョッパーに高いライザー。ステップはミッドタイプでマフラーはハイパイプにフロントはキャストホイールのフリスコスタイル」
「よくわかってるじゃねぇか、マスター」
「ここはテキサスかよ!?」
「それになんだ!?ゴールデンって、アホか貴様は! お前のママは一体どういう教育してたんだ!?」
「兄貴…もうそろそろその辺にしといた方が…」
サムの悪い予感は着々と現実になる。
「何だと!?テメェ…もう一度言ってみろぉ!」
それに構わずディーンは喚き散らす。
「髪まで染めやがって不良息子が!」
「コイツは地毛だ!」 
金時はディーンの肩を押した。軽いつもりでもかなり強い力だった。
五メートルほどふっ飛ばして、ディーンの身体を強く打ちつけた。
「ディーン!」
ディーンは苦もなく立ち上がる。
「あぁ…マズいな…」 サムは目を覆った。
ディーンは黙りこんだまま、右手を背後に回した。
背中から生えるようにマチェットを引き抜いた。
「ディーンやめろ!」


270 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:10:59 ralkueKk0
それから──
念押しの下準備をして暫く……。
いよいよ僕たち三人の決戦だ。 
「──お前の母ちゃんに会ってみたいな、大したお人だ」
「だろ?」
危ないのはいつも事。死にそうなのもいつもの事。
だけど…。
「──それで俺が森に入ったらウェンディゴが…」
「オレが森で遭った熊なんて──」
いつもよりなぜか僕は居心地が悪い、それは多分兄貴が二人居るように感じるためだろう。
クィーンを八時間ぶっ続けで流し続けたり、彼らは酒をあおって、互いの狩りの話をした。
サーヴァントの金時はどこからか拾ってきたギターを鳴らす。これがまた無駄に上手いのが腹立たしい。
『 Bnrn in the U.S.A 』が流れはじめた。
まただ…。
あぁ…これでもう、十八回目だよ。
もう、うんざり…。
「おまえあのコの話すると、ヤケにしおらしくなるな」
「ウルセェ」
「さてはお前…シタことないな〜?あんな母ちゃん居たら女なんて絶対近寄ってこないもんな〜?ははははっ!」
「ディーンちょっと飲みすぎ…」金時はたじろいだ。
すっかり酔っ払って、あの兄貴がインパラのハンドルを金時に譲っている。信じられない…。兄貴は銃で撃たれても絶対にハンドル離さないのに…。
「酔いが覚めたら、運転をかわれ」
「おい!サム」
ついに金時にも呼び捨てされて、サムは無言でこの狭い車内の中で入れ替わった。金時の靴の裏にはガムが付いていた。
足元の大量の酒瓶。臭いも酷い。
サムは気分が悪くなり後部座席の窓を開けて外の景色を眺めた。
顔を真っ赤にした兄貴が、
「ドライバーの特権で好きな曲かけていいぞ〜」
「OK〜じゃあ一曲」
金時はダッシュボードからカセットテープを一つ取り出した。
ボンジョヴィの『 Wanted Dead or Alive 《ウォンテッド・デッド・オア・アライブ》』だ。
カセットテープを突き刺して、リピートする。
奏でるギターの曲に合わせて、
「─just to get back home‥‥」
ディーンが唄う。

「I'm a cowboy………on a steel horse I ride 」
「I'm wanted!イェィ!─Dead or alive‥Wanted!ヘイ!─Dead or alive………」
金時も唄う。

彼を見て、わかったことがある。サーヴァントは使い魔という、道具ではなく、
彼も人だった頃があったという事を…。
彼にも優しくても強い母が居て、周りには仲間たちがいた…。僕たちみたいに…。

「 Dead or Alive! Dead or Alive!Dead or Alive!Dead or Alive!Dead or Alive!」

大合唱が始まった。

笑ったり、怒ったり、泣いたり、
今みたいバカ騒ぎして…。
そして静かに死んだんだ…。
でも彼はこれからまた死に逝く。
こんなわざわざ棺桶からミイラを引っ張り出して、また埋め戻すようなことをして。
何のためだ?
彼らを集めて何をする?
こんな事をして一体黒幕は何がしたいんだ?



「サミー。おねむの時間か?夜はまだまだ長いぜ〜」
「ん?あぁ」
サーヴァントなのでアルコールなんて回ってない筈だが、夜の運転で彼も気分は軽いらしい。
「今夜は面白いもの見せてやる」
金時はハンドルを持つ手に力をこめる。
金時の魔力が励起し、マフラーから、ありえない量の炎を噴き出す。
普段乗り回すインパラから放たれる聞き慣れないエキゾーストに、ディーンとサムの顔色が変わった。
「おい、金時。お前ナニした!?」ディーンの酔いも一気に冷めた。
更に、金時はアクセルを踏む込んだ。そしてギアを繋ぐ。
『──ゴオォォルデン・インパァルスゥ!カァモォォオオン!』
金時はクラクション三回を鳴らす。
突如空に、曇天の雲が現れた。
前触れになくインパラの屋根に稲妻が堕ちる。
すると…。
ボンネットにひび割れが走り、光が翔ぶ。その隙間から何かがせり上がってくる。スーパーチャージャーか?
運転席の中まで変形し始めた…。親切にも酒瓶を車外に棄ててくれる。
タコメーターの針が増え、ハンドルがOからUへ変わる。
テールランプの中からジェットノズルが咲きはじめた!
ディーンがバケットシートの上で身構えて言い放った。
「これ前に観たことある…ウィル・スミスの映──アアアアアアァァァァアァァアッ──!」


271 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:15:16 ralkueKk0
三人は女のような絶叫を上げた。
急発進。ノンストップだ。
なんとシボレー・インパラが超加速突撃形態へと変形したのだ。
「マジかよ!?スッゲー!これが俺のインパラ!?」
ディーンはあちこちを触り調べ始めた。
「ちなみにこれ…ちゃんと後で元に戻るよね。金時?」慌ててシートベルトを締めはじめるサム。
「何か…今ので、気持ち悪くなってきた…」ディーンが嗚咽を漏らす。
「おい、ディーン!オレの宝具にゲロ吐くな!絶対だぞ!」
「何言ってるんだ!この車は元々は僕たちの車だぞ!お前の宝具じゃない!」

──夜の静寂《しじま》を破る雷音。
テールランプは火を噴いて、無人のハイウェイをかっ飛ばす。
──廻る車輪は電電太鼓。
アスファルトを焼き焦がして、その炎の道標を書き綴った。
東洋の神秘を纏う1967年シボレー・インパラは3人のハンターを乗せ、いざスノーフィールドを目指しひた走るのであった。






【出典】史実
【SAESS】ハンター
【身長】190㎝【体重】88㌔
【性別】男性 【属性】秩序・善
【真名】坂田金時
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷B 
魔力C 幸運D 宝具C
【クラス別スキル】
単独行動:C 騎乗:C
【保有スキル】
鷲の眼:B
魔力放出(雷):A
天性の肉体:B

【宝具】

『黄金衝導《ゴールデン・インパルス》』
ランク:C 種別:対軍宝具
 レンジ:0〜800 最大補足:3000
1967年産のシボレー・インパラ。
ゼネラルモーターズ社製。
V8エンジン搭載。425馬力……だった。
たった一年間しか生産されなかった幻の名車は、
英霊・坂田金時の神鳴りに撃たれて、正体不明の宝具へと昇華した。
元のインパラ自身も幾つもの霊的処理がなされているため、相乗効果でこの車に近するだけでも金時以外のサーヴァントはダメージ判定が発生する。
壁だって登れるし、空だって飛べる。オマケにビームだって出せる。
『何じゃこりぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!?』
『ディーン!少し落ち着いて!』

『ゴールデンベアー号 』
ランク:B 種別:対軍宝具
 レンジ:0〜600 最大補足:800
金時が駆るモンスターマシン。雷神の力を宿す大型バイク。
200万馬力と最高時速2500km(約マッハ2)という規格外の性能を有し、ひと吹きで百里を駆け抜け、熊百頭が行く手を阻もうとも問題なく蹴散らせるスペックを有している。
──しかし、乗り手が金時一人だけなのでインパラとの二台同時の運用は事実上不可能。
したがってインパラとの合体も出来ない。
大変もったいない代物です。

【 weapon 】

Coming Soon....


【人物背景】
マスターのウィンチェスター兄弟に引っ張られて、 神秘殺し由来の魔力放出(雷)、更にアーチャークラスの鷲の眼などを獲得して退魔《ハンター》としての面を全面に引き出しての現界。しかし、彼のマスター達の偏った才能のせいで、複数のスキルの消失とステータスが若干低下みられる。
遂に憧れのアメリカ本土に上陸。
『ハリウッドに進出して、全米デビューだぜ!』

【サーヴァントとしての願い】
『アメリカでビッグな男になってやる!』


272 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:16:36 ralkueKk0
【出典】 海外ドラマ SUPERNATURAL
【マスター】 サム&ディーン・ウィンチェスター
【参加方法】ラスベガスで手に入れた
【人物背景】
ディーン・ウィンチェスター
代々ハンターのウィンチェスター家の長子。 家無し、金無し。1967年製シボレー・インパラに乗り、 弟のサムとともに怪異と戦うため、日夜全米を駆けずり回る。血縁者は弟のサムのみで、かけがいのない存在だ。その命に変えても…己の魂すらも厭わない…。

弟のサム・ウィンチェスターととも聖杯戦争に参戦。
彼は金時の武器や二人の戦闘をサポートするが…。

【 weapon 】
・銃器
・マチェット
・対魔兵装 金 銀 聖水
【能力・技能】
・サーヴァントに対しては、手も足も出ない。
・ただし知識だけは豊富だ。
・悪霊・悪魔憑きに専門だけあり、かなり立ち回れる
・いつも通り二人だけの狩りをする。
・ボビーは出ない。
・今回は現在本編での
・天使カスティエルのサポートはなし。
・悪魔の根回しもなし。
・他の因縁もろもろ無し。

【マスターとしての願い】
二人で街を脱出すること。勿論インパラもだ。

【方針】
聖杯戦争の全貌の解明。


273 : ハンター ◆6l0Hq6/z.w :2017/01/14(土) 19:17:16 ralkueKk0
投下終わり


274 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/15(日) 22:53:26 FUZDCY520

◆Wiki修正のお知らせ◆
拙作『側にいるだけで』、能力名も『自動操縦(オートパイロット)』と表記しているミスを発見したため、Wikiにて『反射神経(オートパイロット)』に訂正しました。


それはそれとして投下します。


275 : そいつの名は悪魔 ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/15(日) 22:55:04 FUZDCY520

 夜の路地裏――――二人組の男が、死体を漁っている。
 いや、厳密にいえば、一人の男が死体を漁り、もう一人の男はそれを横から覗いているのだが……

「おっ、見なよライダー。S&WのM36……『チーフ・スペシャル』だ。
 フィリップ・マーロウの愛銃で有名な38口径だよ。
 これがまたいい銃なんだ。銃身が短いから、携行に向いててね」

 死体を漁っている方の男――――いかにも軽薄そうな、口紅を差した痩躯の男が笑いながら銃を弄ぶ。
 耳につけた薬指型のイヤリングが特徴的な男。
 彼は死体の懐から取り出したその銃をあれこれと眺めながら、グッと握りしめた。

「とはいえ、珍しくもないしランクはEってとこかな」

 ――――――――――すると、銃が手の中に消える。
 手品ではない。
 文字通り、銃が“手の中に消えて行った”のだ。

「はえー、マスターも好きでござるなぁ。
 でもちょっとわかります。アニメのキャラが使ってる道具とか、揃えたくなるもんネ!」

 それを、横から男が眺めている。
 酷く背が高い大男で、鉤鼻と編み込みの黒髭が特徴的だ。
 そしてそれ以上に――――その男が羽織る、海賊のようなキャプテンコートが目を引いた。
 まるで大航海時代の海賊そのもののような、粗雑さを滲みださせる大男。

「拘りって奴だね。
 そういう付加価値がついてる物はランク高めに見積もるよ、僕は」

 痩躯の男はケラケラと笑いながらまた死体の懐を漁る。
 死体は銃殺死体だった。
 脳天を撃ち抜かれ、死んでいた。

「いやぁ、それにしてもいきなり襲いかかってくるなんて驚いたなぁ。
 血気盛んな参加者もいたもんだ……っと、今度はソード社製オートマか!
 これは珍しいな! 映画『ロミオとジュリエット』に出てきた拳銃のレプリカだよ!」
「あ、知ってますぞ。リア充が死ぬ話ですな!
 確かヴェインくんが悲劇厨だったっけ……oh、ブッチー……」
「これはD-ってとこかな。まったくいい拾い物をしたよ」

 つまるところ――――彼らは聖杯戦争の参加者であり、主従であった。
 そして他の参加者から強襲を受け、返り討ちにした……という次第である。

「他は……特にないか。んじゃ、証拠隠滅っと」

 痩躯の男が死体に触れ……そして、死体もまた男の手の中に呑まれて行った。
 あとには何も残らない。血だまりだけだ。
 まさしく異能であり、異形である。


276 : そいつの名は悪魔 ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/15(日) 22:56:42 FUZDCY520

「……さて、どうしよっか。
 さっきのソード社のオートマ、試し撃ちしたいなぁ」

 聖杯戦争の参加者とはいえ、人を殺しておいて主従共に罪悪感のようなものは感じられない。
 どころか、その行為を楽しんでいるようにすら見える。
 第三者が彼らを見ればこう感想を述べるだろう――――まるで悪魔のようだ、と。

「つまりこのまま略奪続行2クール目でござるな?
 それなら拙者、今度は金目の物とか……ってアッー!? 大変大変大変ですぞマスタァーッ!?」
「えっ、なに、どうしたの?」

 そのまま気まぐれに殺人でも犯そうかと路地裏を去ろうとするマスターに対し、ライダーが素っ頓狂な声を上げた。
 流石にマスターも驚き、何事かと周辺を警戒する。
 ライダーはいかにも大事だと言わんばかりにあたふたと手を動かし……

「今日は薩摩示現流の達人であるオレっ子美少女がサッカー界に殴り込みをかける大人気アニメ、
 その名も『オレごわっそ』の放送日でござったァァァーーーーッ!?
 しかも微妙にデッキの整理してないから録画できるか怪しい! 黒髭史上最大のピィーンチ!!」

 めちゃくちゃどうでもいい理由を吐露した。

「さらに今日は温泉回! かわいいちっぱいも包容力溢れるおっぱいもあられもない姿でくんずほぐれつ!
 これを見逃せば拙者は明日の朝日を拝めねぇ……! 聖杯に呪いあれ……!
 ……あ、ちなみに拙者、包容力のあるロリもバッチコイですぞ。
 お洗濯とか、してもらいたい……してもらいたくない? デュフッ☆
 ――――というわけでマスター! 拙者帰って全裸待機する系の仕事があるのでこれで!」

 そしてそのままシュビッと手を挙げて帰宅しようとするライダー。
 それを見て、マスターはやれやれとため息をついた。

「わかったよ。今日はここまでにして帰ろうか。
 マスターの一人歩きは危ないし……それに、試し撃ちの機会はいくらでもあるだろうしね」
「さっすがマスター、話がわかるゥ!
 それでは共に局部を隠す謎の輝きの向こう側を渇望しブルーレイに備える作業に臨みましょうぞ!」
「いやそれはいいや」
「なぜ!?」

 血だまりを背に、主従は夜の街に消えて行く。
 その途中――――ふと気になったマスターが、ライダーに問いかけた。

「……そういえば、ライダーは聖杯が手に入ったらどうするんだ?」

 サーヴァントは、聖杯と言う万能の願望機を求めて人間の従僕に甘んじる。
 これは、聖杯戦争における基本中の基本。
 であればこのクソオタクの典型のような男にも、渇望する願いがあるはずで。


277 : そいつの名は悪魔 ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/15(日) 22:57:37 FUZDCY520


「よくぞ聞いてくれました! それは当然――――――――拙者が主人公のハーレムモノエロゲが欲しい!!!!!」


 ……その渇望がものすごくどうでもいいものだったので、もうマスターは呆れる気にもならなかった。
 その代わりに、マスターはゲラゲラと笑うことにした。

「ハハハハッ! 天下の大海賊黒髭ともあろうお人の願いがそれか!」

 笑われても気を悪くした素振りを見せず、ライダー……エドワード・ティーチは、カリブの大海賊は、ニィと笑う。
 道化のような笑顔である。
 同時に、底知れぬ笑顔である。

「なにをおっしゃる! 自分が主人公のハーレムモノエロゲとか、もはや全人類の夢と言っても過言ではありませんぞ?
 願いが叶った暁には、マスターもヒロインの好感度を教えてくれる友人枠で出演を約束しましょう!」
「ヒーッ! ヒーッ! すごくどうでもいい! アッハハハハハハハッ!!」

 なおも爆笑するマスターに、ライダーは逆に問いかけた。

「それなら、マスターは聖杯にはなにを? 拙者気になります!」
「僕かい?」

 ――――サーヴァント同様、マスターもまた、万能の願望機の使用権を得る。
 それが、命を懸けたバトルロイヤルに身を投じる理由。
 その問いに対し、マスター……ベロニカ=ストレリチアは、笑い過ぎて出てきた涙をぬぐいながら答える。

「僕さぁ。自分が持ってない物見ると欲しくなんだよね。レアモノならなおさらだ。
 その点聖杯は最上級だね。ランク付けるならSSSって感じ?」
「ほほう。つまり、聖杯をコレクションに加えたいと?」
「そ。コレクションケースに聖杯が置いてあったら最高だろ?
 使い道は手に入れてから考えればいいや」

 歌うように、踊るように、ベロニカが天を仰ぐ。
 手を空にかざし、薬指と中指の間から月を覗く。


「――――――――僕は、“収集慾”の悪魔だからね」


 つまり、それがベロニカの全てだ。
 この世の全ての物を集める。
 ベロニカはそういう風に“設計”された悪魔なのだから。
 黒髭はまた、道化の笑みを浮かべた。

「なるほどォ! わかりますぞマスター! わかり哲也!
 この黒髭、かつてはカリブで悪魔と呼ばれた男! 略奪に関してはプロフェッショナル!
 即ち、拙者とマスターでダブルデーモンって寸法でござるな?」

 悪魔が笑う。
 悪魔が嗤う。
 悪魔の笑みと道化の笑みが交差して、二人は再び歩を進め始めた。

「さ、そういうわけだ。帰ろうよライダー」
「かしこまり! さーぁおうちで『オレごわっそ』が待っていますぞ!」
「ああうん。それはいいや」
「うーん突然の裏切り!」

 夜の街に悪魔が消える。
 この街の財宝を全て奪い尽くそうという悪魔たちが、街に溶けて行く。


 ――――――――――設計された悪魔と、生まれついての悪魔が。


278 : そいつの名は悪魔 ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/15(日) 22:58:43 FUZDCY520

【CLASS】ライダー

【真名】エドワード・ティーチ@Fate/Grand order

【属性】混沌・悪

【ステータス】
筋力B+ 耐久A 敏捷E 魔力D 幸運C 宝具C

【クラススキル】
騎乗:-
 騎乗スキルは『嵐の航海者』により失われている。

対魔力:E
 魔術に対する守り。無効化はできず、ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
嵐の航海者:A
 船と認識されるものを駆る才能。
 集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
 カリブ海で最も恐れられた海賊である黒髭は極めて優れた船乗りであり、図太く立ち回った。恐れられたんだってば。

海賊の誉れ:B
 海賊独自の価値観から生じる特殊スキル。
 低ランクの精神汚染、勇猛、戦闘続行などが複合されている。
 部下に何の前触れもなく暴力を働く一方で剣林弾雨に向けて猛然と突進する勇猛さを持つ。

【宝具】
『アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)』
ランク:C++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:300人
 クイーンアンズ・リベンジ。
 黒髭が実際に乗船していた船。
 元々はフランス船であったが奪い取った黒髭によって、『アン女王の復讐』と名付けられ、海賊船となった。
 敵船にはまず四十門の大砲を撃ち込み、
 その後で低級霊となった部下たち(名はなく、「黒髭の部下」としか本人たちにも分からない)と共に猛然と襲い掛かる。
 奪い去る、ということに特化した怪物船。
 その圧倒量の暴力は数多の宝具でも極めつけだろう。
 また、この船は海に限ってならば『常時展開宝具』として顕現する。
 空や陸も進むことができるが、その場合は魔力を大量に消費する。

 そしてこの船は黒髭以外に同乗しているサーヴァントが存在すると、ダメージを飛躍的に向上させる力を持つ。

【weapon】
『鉤爪』
 右手に嵌めた手甲についている大きな鉤爪。
 ライダーは主にこれを用いた格闘戦を行う。女の子とくんずほぐれつラッキースケベをするために。
 ちなみに伸縮するらしい。

『銃』
 いわゆるマスケット銃。
 他にコメントすることがない。海賊としては一般的な装備。

『剣』
 あとなんか剣も持ってる。
 これもやっぱり海賊としては一般的な装備。

【人物背景】
 1700年初頭に活動していた、おそらく世界で最も有名な海賊。
 “黒髭”と仇名され、船乗りはおろか同業者にすら恐れられたカリブの大悪党。
 その残忍さは常軌を逸しており、時折何の前触れもなく部下の足を撃ち抜いて笑ったこともあった。
 悪魔の化身とまで言われた男だが、最期は軍に追い詰められ討ち死に。
 ニ十箇所の刀傷、五発の銃弾を受けても憤怒の形相で戦い続けたが、銃の装填中にとうとう力尽きて斃れたという。
 彼の首は船首に吊るされ、晒され続けた。
 海賊の代名詞とでも言うべき存在であり、有名な『黒ひげ危機一髪ゲーム』は彼が元ネタである。

 ……とまぁこのような天下御免の大悪党なのだが、なんの因果か今ではただのクソオタク。
 元々こういう性格だったのか、はたまた現世に触れた影響なのかは不明。
 とりあえず言えることは、今の彼はどこに出しても恥ずかしいクソオタクであり――――そしてやはり、大海賊黒髭だということである。

【サーヴァントとしての願い】
 え、拙者の願い?
 んもう、そんなこと聞かれたら黒髭恥ずかしい☆
 ……あ、やめて。その養豚場の豚を見るような目はやめてくだちい。
 ………………ハッ! タイツ履いたロリをウィンウィンできたら最高なのでは!?
 やったねエドちゃん! 時代はやはりBBAよりロリですなぁ!


279 : そいつの名は悪魔 ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/15(日) 22:59:13 FUZDCY520

【マスター】
 ベロニカ=ストレリチア@デモンズプラン

【能力・技能】
『収集慾』
 “慾”を糧に悪魔を設計する『悪魔の設計図(デモンズプラン)』による能力。
 ベロニカは“収集慾”に基づいた能力を保有する。
 その能力は「物品の収集と使用」。触れた物を体内に取り込んで保管し、また任意で体から取り出す力。
 取り出した物品は自分の肉体のように扱えるようであり、
 銃を腕と一体化した状態で発現させて発砲したり、背中から戦車砲を展開する場面も観測されている。
 なお、欠損した部位を人体パーツのストックによって補うことも可能なようだが、
 敵に接触してその肉体を保管する様子は無く、物言いなどから察するに恐らく死体に限り生物も収集可能なものと思われる。

【weapon】
『コレクション』
 拳銃、ガトリングガン、剣、斧、槍などに始まり、戦車砲や手榴弾などのあらゆる兵器を収集済。
 宝石やアクセサリー、貝殻なども保管している模様。前述の通り人体パーツも。
 そのコレクションは多岐に渡り、全貌は見えない。

【人物背景】
 “慾”を糧に悪魔を設計する『悪魔の設計図(デモンズプラン)』に選ばれた男。
 “収集慾”によって物品を収集し、カテゴリ分けしてランク付けして、実際に使ってみるのが好き。
 軽薄で陽気。殺人に一切の躊躇いが無い人格破綻者。
 その行動原理は「持ってない物を見ると欲しくなる」「手に入れたら使ってみたくなる」の二本柱に終始する。
 珍しい物を見たり、使ってみたりするのが好きで、そのためならば自他の被害はまったく頓着しない。
 慾に呑まれた悪魔と呼ぶに相応しい男だが――――しかし、言動の端々からどこかお人よしなところが見受けられる。

 その慾の原点は、おそらく婚約者。
 病気がちな女に惚れこみ、彼女のために彼女が見たことのないものを全てかき集めて見せてあげたいと願った。
 しかし結局婚約者は(おそらくは病で)死に、慾だけが残った――と、推測される。
 ―――――ベロニカの耳にイヤリングのように付けられた婚約者の薬指には、指輪が嵌まっている。

【参戦経緯】
 原作でボロに敗れ、パトロンに殺される瞬間にいつの間にかコレクションに混ざっていた“白いトランプ”に導かれた。

【ロール】
 親の遺産で暮らす好事家。

【令呪の形・位置】
 海賊旗を思わせるクロスボーンで三画。

【聖杯にかける願い】
 聖杯をコレクションしたい。


280 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/15(日) 22:59:34 FUZDCY520
投下を終了します。


281 : ◆NIKUcB1AGw :2017/01/16(月) 23:31:32 jDPSFMs60
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます


282 : 伊達姿果物侍 ◆NIKUcB1AGw :2017/01/16(月) 23:32:41 jDPSFMs60
自分には誇れるものがなかった。
だからこんな無謀な旅をしているのだと、最初は思った。
だが、違和感は日に日に大きくなっていった。
自分の中で重要だったものが欠けている。そんな思いがぬぐえなかった。


ある日、彼に転機が訪れた。
その夜、彼はなかなか寝付けず宿泊しているホテルの周りを散歩していた。
その結果、公園で異形の怪物が女性を襲っている光景を目撃したのだ。
普通の人間にとって、それは非日常的なシーンだっただろう。
だが、彼にとっては違った。
このような異形の怪物との戦いこそ、彼にとっての日常だったのだから。
その瞬間、彼は全てを思い出した。

「アヤカシではないようだが……。放っておくわけにもいかないな」

彼が取り出したのは、携帯電話。そこから、普通ならばあり得ないものが飛び出す。
出てきたのは、筆先だった。

「ショドウフォン! 一筆奏上!」

筆と化した携帯電話を振るい、彼は空中に「火」の字を描く。

「ハッ!」

空中に浮かぶ文字を、気合の声と共に叩く。
すると文字は反転し、彼の顔に吸い込まれていく。
直後、彼の体は炎のごとく赤い戦闘スーツに包まれた。

「シンケンレッド、志波丈瑠」

刀を構え、彼は名乗りを上げた。


◆ ◆ ◆


「グギャアアア!!」

胸に深々と刀を突き立てられた怪物は、断末魔の悲鳴を上げる。
その肉体は崩壊を始め、やがて魔力の粒子となって消え去った。

「ふう……」

一息つき、変身を解除しようとする丈瑠。
だが新たな殺気を感じ、その作業を中断する。

「グルルル……」

うなり声を上げて、先ほど倒したのとまったく同じ姿の怪物が現れた。
しかも、今度は1体ではない。その数、10体。
仲間の敵討ちでもしようというのか、全ての個体が丈瑠に敵意を向けているようだ。

(並のアヤカシほど強くはないが、それでもナナシ連中よりはよほど強い……。
 この数を一人で相手にするのは厳しいな。
 だが、逃げるというわけにもいかない。こいつらを放置すれば、また民間人を襲うかもしれないからな)

素早く迎撃の決意を固めると、丈瑠は円盤状の物体を取り出す。
そしてそれを、刀の鍔にセットして回転させた。

「秘伝ディスク! 烈火大斬刀!」

丈瑠の声と共に、刀が変化する。
瞬く間に、それは身の丈を越える巨大な剣となった。

「はああっ!」

全身のバネを使い、丈瑠が烈火大斬刀を振るう。
その一撃が、怪物を複数まとめて吹き飛ばす。
だが残った怪物たちが、一斉に攻撃を繰り出してくる。
それでも、丈瑠はひるまない。攻撃を紙一重のところでかわし続け、真紅の大剣を振るい続ける。
一体、また一体と怪物たちが倒されていく。
だが、やはり数の差は大きかった。
残り一体まで減らしたものの、蓄積する疲労が丈瑠の反応をわずかに遅らせる。
それが、顔面へのクリーンヒットという結果を招いた。

「ぐあっ!」

鈍い叫び声と共に、丈瑠の体が吹き飛ぶ。
彼の体を包んでいたスーツが無数の「火」の文字に変わり、空中に霧散していく。

(くそっ、俺は死ぬのか……?
 こんなところで、使命も果たせずに……!)

必死で体を起こそうとする丈瑠だが、力が入らず再び倒れてしまう。
その拍子に、彼のポケットから白紙のトランプが飛び出した。

(これは……いつの間にポケットに!?)

驚く丈瑠の前で、トランプは宙に舞い上がる。
そして、一人の男の姿となった。


283 : 伊達姿果物侍 ◆NIKUcB1AGw :2017/01/16(月) 23:33:41 jDPSFMs60

「無謀な戦い方をするやつだ。防御を最低限にとどめ、攻撃に力のほとんどを注ぎ込むとは……。
 そんな戦い方では、命がいくつあっても足りん。
 なるほど、私が『剣士』ではなく『盾兵』として召喚されるわけだ」

そう口にしながら丈瑠の前に現れたのは、スーツに身を包んだ長身の青年だった。
甘いマスクとは裏腹に、歴戦を駆け抜けた強者としてのオーラを纏っているのが丈瑠にも感じられる。

「そうか……。目の前の敵に精一杯で、頭の隅に追いやったままだった……。
 あんたが……俺のサーヴァントってやつか……」
「そうだ。私は特殊クラス、シールダーのサーヴァントだ。
 まあ、詳しい説明は後にしよう。まずはあいつを片付ける」

今もなお臨戦態勢の怪物に視線を向けながら、シールダーと名乗った青年は言う。
そして奇妙なベルトを腰に巻くと、メロンがデザインされた錠前のような物を取り出した。
それを見た丈瑠は、直感で理解する。あれは自分のショドウフォンと同じように、「変身」に用いる物だと。

「天下御免の大甜果(メロンロックシード)」

真名を解放した錠前を、ベルトにセットするシールダー。
すると彼の頭上の空間に、突如として円を描くようにジッパーが出現した。
そこから、巨大なメロンがゆっくりと降りてくる。
メロンはシールダーの頭に被さると、割れるように展開。彼の体を包んでいく。
全ての行程が終わったとき、そこに立っていたのは白と緑の鎧に身を包んだ戦士。

『メロンアームズ! 天下御免!』

人呼んで、仮面ライダー斬月。

「いくぞ」

静かに呟くと、シールダーは怪物に向かって突進した。
そして怪物の間合いに入る直前で、跳躍。
手にした刀で、怪物の肩を斬りつける。

(さすが英霊といったところか……。あの男、動きに無駄がない)

丈瑠は、シールダーの戦い振りを食い入るように見つめる。
彼とて、腕の立つ戦士だ。その彼から見ても、シールダーの強さは一線を画していた。
怪物の攻撃を的確にかわし、あるいは防御し、一方的にダメージを与えていく。

「とどめだ」

シールダーはいったん距離を取ると、ベルトを操作する。

『メロンスカッシュ!』

響き渡る電子音声と共に、シールダーの由縁となった盾を投擲。
緑のオーラに包まれた盾は空を割いて飛び、怪物の腹を貫通した。

「ん?」

勝利を確信しかけたシールダーだったが、怪物の様子がおかしいことに気づく。
あきらかな致命傷を負っているにもかかわらず、消滅しない。
それどころか、どんどんとその肉体を膨張させている。

「先に倒された仲間の魔力を吸収したようだな……。
 どこぞのキャスターの使い魔だろうが、凝った真似ができるものだ。
 このままでも倒せないことはないが……」

シールダーは、ちらりと丈瑠に視線をやる。

「すまないな、マスター。少し多めに魔力を使わせてもらう。
 できるだけ早く終わらせるので、こらえてほしい」

そう告げると、シールダーはベルトに新たなパーツを取り付けた。
そして、二つ目の宝具を解放する。


284 : 伊達姿果物侍 ◆NIKUcB1AGw :2017/01/16(月) 23:34:28 jDPSFMs60

「力迸る真の甜果(メロンエナジーロックシード)」

新たな錠前が、追加されたパーツにセットされる。

『ミックス! メロンアームズ!』

音声に合わせるように、鎧が変化する。
その形状に、丈瑠は見覚えがあった。

(あれは……陣羽織?)

『ジンバー! ハハーッ!』

変身完了を告げる音声が鳴り響く。
仮面ライダー斬月・ジンバーメロンアームズ。ここに参上。

「グウウウ……!」

うめき声と共に、シールダーに向かって怪物が巨大な拳を振り下ろす。
だがその動きは鈍重で、シールダーにあっさりと回避される。
お返しとばかりに、シールダーは刀に変わって装備した弓につけられた刃で怪物の腕を斬りつける。
ひるむ怪物。その隙にさらに刃が振るわれ、今度は両足が切り裂かれる。
敵の機動力を奪ったところで、シールダーはメロンエナジーロックシードを弓にセットする。

「今度こそ終わりだ」
『メロンエナジー』

次の瞬間、弓から次々と光の矢が射出される。
全身に矢を受けた怪物は、ついに完全消滅した。


◆ ◆ ◆


「私は、理不尽な悪意を許さない」

ここは、丈瑠が宿泊している安ホテル。
戦闘後、丈瑠はここに戻り、傷の応急処置を済ませていた。
その後シールダーから聖杯戦争について詳しい説明を受けていたのだが、その中でシールダーがふとそんなことを呟いたのである。

「この聖杯戦争は、まさに理不尽な悪意そのものだ。
 本人の意思をまったく確認せず、強制的に殺し合いへ参加させる。
 巻き込まれた被害者にとって、これが理不尽でなくてなんだ。
 ゆえに私は、聖杯を破壊するためにあえて聖杯戦争の参加者となった。
 このような事件を、二度と起こさないためにな」

丈瑠はシールダーの言葉を、無言で聞いている。

「志波丈瑠、君にも協力を頼みたい。
 私にそれを強制する権利はないが……。
 お前もヒーローであるならばわかってくれると思っている」
「ヒーロー、か……」

一瞬、丈瑠の顔に自嘲的な笑みが浮かぶ。だが、それはすぐに消えた。

「わかった。お前の目的に協力しよう。
 俺のように戦う力を持つ者だけならともかく、何の力もない人間まで巻き込まれているとしたら、それはまさに外道の行いだ。
 俺が敵と見なすには十分だ」
「感謝する」

シールダーが、手を差し出す。丈瑠はその手を、しっかりと握った。

「私はどうやら、人を見る目はあまりないようなのだが……。
 それでも君とは、上手くやっていけると思っている。
 我々と君たちの間には、浅からぬ縁があるしな」
「……どういうことだ?」
「何、そのうちわかるさ。君が生きて、仲間たちの元に帰ることができればな」

シールダーの意味深な発言に、丈瑠は首をひねるしかなかった。


志波丈瑠の聖杯戦争、第一幕。まずはこれまで。


285 : 伊達姿果物侍 ◆NIKUcB1AGw :2017/01/16(月) 23:35:33 jDPSFMs60

【クラス】シールダー
【真名】呉島貴虎
【出典】仮面ライダー鎧武
【性別】男
【属性】秩序・善

【パラメーター】筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:E 幸運:C 宝具:B
    (変身時)筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
Bランクでは大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

【保有スキル】
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

九死に一生:A
確実に死んだと思われるような状況から、幾度も生還した逸話から生まれたスキル。
普通なら死ぬような状況に追い込まれても、一定確率で生き延びることができる。
「戦闘続行」を「敗北が確定する前に立ち上がるスキル」とするならば、これは「敗北が確定しても立ち上がるスキル」である。

神の加護:E-
「変身だよ、貴虎」

それは加護と呼ぶにはあまりにもちっぽけな、友からの言葉。
だがその言葉が胸にあるかぎり、貴虎はどんな苦難にも立ち向かえるだろう。

【宝具】
『天下御免の大甜果(メロンロックシード)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
異世界・ヘルヘイムの果実を加工して生み出された錠前型アイテム。
戦極ドライバーにセットすることで、「仮面ライダー斬月・メロンアームズ」へと変身出来る。
変身中はステータスが上昇し、刀と銃が一体化した武器「無双セイバー」と専用の盾「メロンシールド」を装備する。

『力迸る真の甜果(メロンエナジーロックシード)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
より力を引き出すことに成功したメロンロックシード。
本来はゲネシスドライバーにセットすることにより「仮面ライダー斬月・真」に変身するが、
シールダーとして召喚されたときの貴虎はゲネシスドライバーを持っていない。
そのため狗道供界との戦いの際に見せた「仮面ライダー斬月・ジンバーメロンアームズ」への変身に使用する。
変身中は耐久と敏捷がさらに上昇し、無双セイバーの代わりに刃がついた弓「ソニックアロー」を装備する。

【weapon】
「戦極ドライバー」
戦極凌馬が開発した変身ベルト。
ロックシードをセットすることにより変身ができる。

「ゲネシスコア」
新世代変身ベルト「ゲネシスドライバー」のコア部分。
戦極ドライバーに拡張ユニットとして取り付けることで、各種ジンバーアームズに変身出来る。

【人物背景】
巨大企業「ユグドラシル」で、異世界・ヘルヘイムの侵攻から人類を生き延びさせる「プロジェクト・アーク」の責任者を務めていた青年。
真面目で責任感の強い男。
人類の大多数を犠牲にして少数を救う計画を不本意ながら進めていたが、葛葉紘太との出会いにより少しずつ考えを改めていく。
誰よりも早くライダーとして戦い始めていたため戦闘技術は非常に高く、旧型の斬月で新型の斬月・真やデュークと互角以上に渡り合っている。


【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を起こすものの破壊

【基本戦術、方針、運用法】
戦闘に関してはこれといった弱点のない、安定したサーヴァント。
斬月の状態では遠距離戦に不安を抱えるが、ジンバーメロンとなればそれも解消される。
いちおう性格面では「危険な相手を信用してしまう」という弱点があるが、マスターが上手く手綱を握ればカバー出来るだろう。


286 : 伊達姿果物侍 ◆NIKUcB1AGw :2017/01/16(月) 23:36:57 jDPSFMs60

【マスター】志波丈瑠
【出典】侍戦隊シンケンジャー
【性別】男
【令呪】「火」の文字(真ん中の「人」が1画分)

【マスターとしての願い】
聖杯戦争の打破、および生還

【ロール】
バックパッカー

【参戦経緯】
モヂカラ鍛錬用の半紙の中に、白紙のトランプが挟まっていた

【weapon】
「ショドウフォン」
携帯電話型変身アイテム。
特定の操作をすることで筆が飛び出し、それを使って空中に文字を書くことで変身やモヂカラの行使を行う。
なお、普通の携帯電話としても問題なく使用可能。

「シンケンマル」
シンケンジャーのメイン武装となる日本刀。
変身時に自動的に装備される他、変身前でも「刀」のモヂカラを使うことで呼び出せる。
丈瑠のものは秘伝ディスクを装備することで、大剣「烈火大斬刀」へと変化する。

【能力・技能】
「モヂカラ」
漢字に宿る力を行使する能力。この聖杯戦争では、魔力の代用品としても機能している。
丈瑠は主に、「火」のモヂカラを操る。
その他「刀」でシンケンマルを呼び出したり、「馬」で馬を召喚したりとけっこうなんでもあり。

【人物背景】
江戸時代より続く戦隊・シンケンジャーの当代レッド。
シンケンジャーはレッドが主君、それ以外の4人が家臣という関係になっているため、「殿」と呼ばれる。
冷静で頼れる男だが、一方で自らの体を省みない無鉄砲な面もある。
実は、仲間たちにも明かしていない重大な秘密を抱えている。

今回は物語前半からの参戦のようである。

【方針】
対聖杯


287 : ◆NIKUcB1AGw :2017/01/16(月) 23:37:44 jDPSFMs60
投下終了です


288 : ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 01:54:18 6FufpaGk0
投下します。


289 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 01:56:31 6FufpaGk0
モンスター【英:monster】
怪物、化物。
語源はラテン語「monstrum(不可思議なもの、奇怪なもの、正体不明の怪物、驚異)」で、動詞「monere(警告、忠告、予兆)」に遡る。
古代人にとって、驚くべき出来事や奇怪な生き物の出現は、神々から人間への警告であり、何か異常なことの前兆であると考えられていた。
monition(警告)、premonition(予告)、monitor(忠告者・監視者)、monument(記念碑)なども、同じ語源から派生している。


 ◆ ◇


深夜。ようやく帰宅した男は、見慣れぬものを見た。

見知らぬ少女が、安アパートの軒下に、壁に背を預けて立っている。
年の頃は、十代半ば。なかなかの美少女だ。小柄で、胸は薄い。
藤紫色の髪をツインテールにし、ミニスカのチャイナドレスを着て、ニーソックスを履いている。冬の深夜に、寒そうだ。
表情はやや虚ろだが、凛として気が強そう。虚勢を張りたいお年頃、なのだろう。

男は、少し興味をそそられたが、訝しげな目つきで睨んで通り過ぎた。
コスプレか?デリヘル?援助交際?家出娘? いや、俺には関わりのないことだ。

ここらは、ああいう少女が深夜一人で歩けるほどには、治安が良くない。
近くに怖い連中がいて、あいつにのこのこ近づくカモを狙ってるんだろう。
そうでないなら、まあ、そういう商売か、迷い込んだバカなガキってだけだ。たまにいる。

自分の部屋の前に来ると、男はドアの鍵穴に鍵を差し込んだ。
多少の眼福だが、明日も早いんだ。冷蔵庫には何が残ってたかな……。


少女は、呟いた。


「息絶えるがいい」


290 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 01:58:12 6FufpaGk0
「あれ?」

鍵が回らない。故障だ。どうしたものか。男は舌打ちした。

「『退路遮断』。帰宅を禁じたの。あなたはもう、帰れない」

少女が、少し愉しげな声で呟く。男は苛立ち、そちらを振り向く。こいつのイタズラか。
次の瞬間、男の背後から、胸を何かが貫いた。

「がふっ」

驚愕に男の目が見開かれ、首を後ろへ向ける。


空中に、夜の闇よりも暗い「穴」が開いていた。
そこから赤黒い掌と、黄色い蛇のような触手が伸びている。その触手が、男の胸を貫いたのだ。
ほどなく腕が、顔が、髪が、上半身が、穴から抜け出てくる。

長手袋と水着のようなものだけを身につけ、蝙蝠の皮翼めいたマントを羽織った、半裸の白い女。
装束は赤黒、長い髪は銀白色。額には赤いハートマーク。瞳と唇は赤い。冷たい顔貌は彫刻のように美しい。


「消え去れ」


白い女が、右掌を男の顔に向けて宣告すると、男の視界は真っ黒に染まり、意識が途絶えた。
男の頭部は、跡形もなく消滅していた。その魂は白い女に喰われ、死体は闇の穴へ引きずり込まれて、消えた。

「よくやったわ、アーチャー」
「造作もないこと。しかし、NPCの魂では大して腹も膨れんな。マスターやサーヴァントが喰えればよいが」
「そいつら相手には、もっと慎重に策を練らないと……」
「お前の小細工に頼る気はない。いらぬことをすれば、殺されるだけだ。やはり自分の部屋にこもっておれ」
「もう少し、この世界を楽しませて。敵に襲われたら、守ってね」

無言のままで少女を一瞥すると、白い女、アーチャーは再び闇の穴に姿を消し、その穴も消えた。
少女は鼻歌を歌いながら、夜の街へ歩いて行く。


291 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 01:59:52 6FufpaGk0
少女の姓名は、董白。祖父は董卓。父は早世し、名は伝わっていない。
後漢末、朝廷の実権を握った祖父は、洛陽から長安へ強引に遷都を行い、一族郎党を高位高官につけた。
董白は、未だ笄も挿さぬ(十五歳未満の)年齢であったが、渭陽君に封じられ、華々しく印綬を受けた。
董卓が擁立した漢の天子、劉協の妃とする予定ではなかったかと推測される。

董卓が長安の西方二百五十里に建設した、豪奢な居城・眉塢(びう)の中で、董白は何不自由なく育った。

――楽世を承け、四郭に遊び、天恩を蒙り、金紫を帯び――

栄耀栄華の終わりは、あっけないものだった。
遷都から二年後。董卓は、王允と士孫瑞に唆された呂布の裏切りに遭い、長安で殺された。
眉塢にいた董氏一門は族誅。董卓の九十歳になる老母も命乞いしたが斬首され、一族の屍は一箇所に集められて焼かれた。
董卓の屍骸は晒され、誰かが戯れにへそに灯芯を刺して火をつけたところ、脂肪が燃焼して何日も灯り続けたという。

――西門を出て、宮殿を仰ぎ見、京城を望み、日夜絶え、心くじけ――

董逃、董逃、董白逃。

眉塢にいた董白は、必死に逃げた。姻族の牛輔らは、長安のずっと東の陝県に駐屯している。西へ、祖父の地盤たる涼州へ向かうしかない。
追っ手を逃れ、従者や侍女とはぐれ、月光を頼りに夜の山中を彷徨ううち……そこからは、覚えていない。
多分、死んだのだろう。いや、どこかで白い符を渡されたような、気もする。


自分が今いる場所は、時代は、何もかもが違う。
千八百年以上も未来。高句麗よりも遠い、東海の遥か彼方の異郷。
夜もなお煌々と明るい広大な都市。天を衝く建築物。無数の鉄の車。黒い砂利を固めた道。
そればかりか、これらは皆、月が作り出している幻なのだという。

なぜ自分がそこにいるのかは、すでに思い出している。植え付けられた記憶だ。
古今東西の英雄の霊、『英霊』を魔術師たちに召喚させ、万能の願望器『聖杯』を奪い合わせる殺し合い。
思い出しはしたが、なぜ自分が参加させられているのかは、よくわからない。大した理由はないのだろう。

「……私は、英霊となるほどの者ではなかったようね」

陳寿の『三国志』本文や、小説『三国志演義』に、彼女の名はない。
『三国志』の裴松之注に引く、王粲らが編纂した『英雄記』に、わずかに見えるだけだ。
そこにも、彼女自身の意志による事績はない。ただ祖父の専横の一つの事例であるに過ぎない。
誰かの妻になることも、子を産むこともないままに、彼女は歴史から姿を消した。

彼女に……彼女の記憶の断片に、仮初の記憶と社会的役割が与えられた。
「父に先立たれ、裕福な祖父も最近死に、母も不在がちな中国系の少女」。上出来だ。カネと自由がある。
命や遺産を狙う奴はいるかもしれないが、この従僕、アーチャーがいればどうということはない。いい餌食だ。

人の死など、飽きるほど見てきた。
尊敬する祖父は将軍として長年戦場を駆け回り、戯れに大勢の人を殺し、鼎で煮込んで食らうような男だったのだから。


292 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 02:01:25 6FufpaGk0

 ◇ ◆

数刻前。
寝室で記憶を取り戻した董白は、枕元の白い符から出現した、己の従僕と初めて対峙していた。
姿形は半裸の女性のようだが、身長が異常に高く、空中に浮かんでいる。
異様な服装、腰の後ろから生えた二本の触手、漲る魔力、禍々しい妖気。英霊としても尋常な存在ではないことは見て取れる。
董白は畏怖を覚え、次いで歓喜を覚える。なかなかに強そうなこの妖しい女魔が、私の従僕なのだ。

「問おう。お前がわしのマスターか」
「そのようね」

口調も声音も、外見よりは年老いているが、美しく妖しい声だ。

女は、董白を見下ろし、眉根を寄せ、苦々しげな表情で嘆息する。
「……小娘。お前は、弱い。あまりにも弱い。武力も魔力も微弱きわまる。ようも、このわしが召喚されたものよ」
「いきなり失礼ね。主君(マスター)とお呼びなさい、従僕(サーヴァント)。魔王・董卓の孫娘である、この董白を見下ろさないで」
「董白、董卓、のう。わしは知らぬ。かつての手駒に魔王を名乗った者はおったが」
「私だって、あなたを知らない。名乗りなさいよ」

女は、ようやく董白に名乗る。
「わしのクラスは『アーチャー』。真名は『暗闇の雲』だ。そう呼ばれておる」

「暗闇の、雲? ……生っ白くて黒いものを纏って、ふわふわ浮いているからかしら?」
「知らぬ。どうでもよい。とにかく、それがわしの真名だ。呼ぶ時はアーチャーでよい」
「アーチャー、弓兵ね。あなた、強いの? 強くないと困るわ」

不躾な董白の問いに、アーチャーは憮然として返す。
「……それなりにな。お前の力が弱いのと、やたらに能力を制限されておるせいで、随分弱まっておるが。
 そもそも今のこのわしは、本来のわしではない。次元を漂う記憶の断片を、月だか聖杯だかが脆弱な器に投影したものに過ぎん。
 いつぞやも、そんなことがあったな。『神々の闘争』とやらに駆り出されて、おかしな連中と戦ったものよ」

遠い目をして独りごちた後、アーチャーは空中にうつ伏せに寝そべり、董白に顔を近づけて自己紹介を続けた。


「わしはな、いわば『兆し』だ。愚かな者どもが力を暴走させ、この世が滅びようとしておる時、わしは自然と姿を現す。
 そうして、その力をさらに暴走させる。闇でも光でも同じこと。闇は光を、光は闇を飲み込んで、諸共に消滅する。
 全てを滅ぼし、無に還す。わしはそのためだけに、ひと時存在する。ことが終われば再び、わしも無に還るばかりよ」


闇と光。陰と陽、というやつか。陰極まれば陽を生ず、というわけにはいかないのか。

「この世が滅ぶ。妖賊どもが、そんなことをほざいていたみたいね。黄巾や米賊、それに浮屠。選ばれた、教えを信じる者だけは生き残ると」
「たわ言よ。天地万物が滅ぶというのに、たかが人間が滅ばぬ道理があるか?」

ファファファ……とアーチャーが哄笑する。

「そして、今は陰……闇の力が極まりつつある、というわけかしら。月の、太陰の裏の幻の世界だものね」
「わしが、この姿でここにおるとは、そういうことよ。たとえ脆弱な、まがい物の、かけらに過ぎぬわしでもな。滅びの兆しだ」


293 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 02:03:23 6FufpaGk0

董白の身の上話を、興味なさげに聞き流した後、アーチャーは己の方針を告げる。

「ああ、まあよい。お前の魔力が弱いのならば、『魂喰い』で力を集めるとしよう。わしは大喰らいでな」
「魂喰い。あなたに生贄を捧げればいいのね?」
「いらぬ。無力なガキは、ここで見つからぬようじっとしておれ。わしは勝手に動き、勝手に食事をする。
 あまり足手まといなようなら、洗脳してやろう。それとも縊り殺して、誰ぞ魔力の強い主君に鞍替えしてくれようか」

「私は、あなた以外に味方がいないの。側にいて私を守りなさい。裏切るようなら『令呪』を使うわよ」
「やめよ。いずれわしの役に立つかもしれぬものを、くだらん理由で無駄遣いするでない。
 わかったわかった、いきなり主君が殺されるのも、わしの気に食わん。できる範囲で、お前が死なぬように努力しよう」

なんともワガママな従僕だ。だが、それだけ己の力に自信があるということでもあるはず。
今のところは、一番頼りになる味方だ。せいぜい利用させてもらおう。

「で、あなたは、聖杯に望むことがあるの?」
「先程言ったであろう。わしの望み、存在理由などただ一つ。全てを滅ぼし、無に還すことよ。
 まあ聖杯にそれが出来るとしても、叶えてくれるとは限らぬな。叶えぬと言うなら、破壊して無に還すばかりだ。
 あるいはせいぜい、わしに存分な力を与えてくれと願うか。誰がやろうと、結果的にこのつまらぬ世界が消滅すれば、わしはそれでよい」

つまらぬ世界、か。私にとっては、これほど面白そうな世界もないのに。

「主君よ。わしの望みは告げたぞ。お前の望みを言ってみよ。死んで無に還るまでの僅かな時間に、成し遂げたいことがあるならば」

董白は、すぅ、と目を細めた。私の、今の私の、望みとは。『逃げ延びたい』という切実な望みは、叶ってしまっている。
この世界での平和な日常? 元の世界に帰る? おじいさまを蘇らせる? 董氏一門の栄耀栄華を取り戻す?
否。答えはこうだ。おじいさまなら、こう答えるはず。

「聖杯を手に入れ、この世界を我が物に」

「ファファファ! 覇者を気取るのか?」

アーチャーは、董白を見下し、笑いながら言った。
偉大な祖父の七光りだけで生きていたという、この無力で高慢な小娘が、何を抜かすかと思えば。

「覇者。そうよ。おじいさまは乱世の覇王だった。私だって、そうなりたい。
 あなたがこの世界を消し去りたいなら、私が天寿を全うしてからにしてね」

アーチャーの表情は変わらない。
くだらぬ。だが、多少は興味をひく生き物だ。無と化す世界を欲するか。

董白は、凛とした瞳で前を見、口角をつり上げる。
今から殺し合いだ。戦だ。どうせ死んだはずの身だが、やるなら必ず生き残り、勝つ。
そのために、まずは練習と行くか。お互いの能力を確かめてみなくては。


「みんな私のおもちゃにしてやろう」


 ◆ ◇


294 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 02:05:31 6FufpaGk0
【クラス】
アーチャー

【真名】
暗闇の雲@ディシディア ファイナルファンタジー、ファイナルファンタジー3など

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運C 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではアーチャーに傷をつけられない。光と闇を兼ね備えた攻撃なら少しは効くかもしれない。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。雲は自由。ただし宝具使用など、膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要になる。

【保有スキル】
波動砲:A++
自分の手や周囲から強力な波動砲を放つ遠隔攻撃。彼女(?)がアーチャーたる所以。近距離で放つほど強い(零式)。
波動球、波動柱(高射式・潜地式・追尾式)、波動壁(広角式・報復式)などのバリエーションもあり、多数の波動球をばら撒く(乱打式)ことも可能。
それなりに魔力を消費するが、自前の魔力と単独行動スキルにより、マスターが弱かろうと問題なく連発できる。属性は無。魔法防御力を高めれば軽減できる。

浮遊:A
空中を自由自在に飛ぶ能力。永続的に飛び続ける事ができ、常に浮遊している。地に足がつかないわけではない。

闇の穴:C
次元に自分が通れるほどの穴を開け、自在に出入りして瞬時に移動する。それほど遠くへは行けないが、回避や撤退、不意打ち、気配遮断に利用できる。
一応マスターなど生身の人間を抱えて運ぶこともできるが、穴の向こう側に長時間匿っておくようなことはできない。

カリスマ(偽):A+
人望というよりは、魔力、呪い、洗脳の類である。魔王ザンデや、アーリマン、エキドナなど闇の世界の強大な魔物たちを己の影響下に置いた。
ディシディアでも、とある少女を洗脳して戦わせたことがある。


295 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 02:06:57 6FufpaGk0
【宝具】
『暗闇の雲(クラウド・オブ・ダークネス)』
ランク:A+++(EX) 種別:? レンジ:- 最大捕捉:-

自らが『暗闇の雲』であること、そのもの。ただし様々な制限により、著しく弱体化している。
本来は「意志を持つ現象」であって、光と闇のバランスが崩れた世界を無に還す権能を有する存在、破壊者である。
異世界(ディシディア)においては、その記憶の断片として混沌の神に召喚され、秩序の神の戦士らと『神々の闘争』を繰り広げた。
とはいえ暗闇の雲は神ではなく、神として崇められたこともない。その出現自体が世界滅亡の先触れという不吉な存在である。
「この」暗闇の雲は、ディシディアでの姿形と能力を基本としつつ、様々な異世界に顕現した『暗闇の雲』の要素や記憶を、断片的に兼ね備えている。
その本質にのっとり、現実世界だろうと擬似世界だろうと、自分が出現した世界を破壊と消滅に導くことを唯一の存在意義とし、そのためだけに行動する。

『闇の氾濫(フラッド・オブ・ダークネス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:自分〜? 最大捕捉:?

闇の力が暴走した時に起きる現象。吸収した闇の魔力によってアーチャーの力が強化され、装束を脱いだ全身暗緑色の姿に変貌する。
マスターの魔力が微弱である場合は、魂喰いなどで魔力をアーチャーに集束させる必要がある。この段階では、スキル:魔力放出とさほど変わらない。
だが膨大な量の闇の魔力が集まれば、アーチャーは暗緑色の姿のまま巨大化(FF14版では身長40m)し、周囲の空間を固有結界めいた暗雲で飲み込んでいく。
光の魔力でもOKだが、その場合は『光の氾濫』が起きる(アーチャーの全身が白くなり、光り輝く雲が拡大する)。
どちらにせよ、究極的には現世(存在世界)そのものを崩壊消滅させる現象であるため、威力や範囲は本来より大きく制限されているものと思われる。

『超波動砲(スーパー・ウェイヴモーション・ガン)』
ランク:A+++(EX) 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人

『闇の氾濫』が発動している時にのみ使用可能。極めて強力な波動砲を放つ。
溜め込んだ魔力が少なければ、一発放つだけで『闇の氾濫』モードも解除されてしまう。
暗雲に覆われた範囲内であれば、FF14版のように全方位から多数の標的に対して無数の波動砲を放つことも可能。

【Weapon】
「触手」
自らの身体(腰の後ろ)より伸びる、黄色い蛇のような2本の触手。それぞれに意志があって自在に動き、振り回して攻撃する。
膨らんだ先端には口や目や小さな翼がついており、小さな雷や波動球、ついでに『臭い息』も吐ける。アーチャーが巨大化すると一緒に巨大化し、数も増えたりする。

【人物背景】
ファイナルファンタジー3(FF3)のラスボス。雲様。ナンバリング作品ではFF11とFF14にも登場する。ディシディアでのCVは池田昌子。
光と闇の均衡が著しく崩れた時に出現し、優勢な方を暴走させて世界を破壊し、無に還す「現象」。なぜか巨大な女性の姿。
本来は光と闇が協力して立ち向かわない限り無敵なのだが、記憶の断片から再現されたディシディアなどでは相応に弱体化している。
サーヴァントとしては、さらに著しく弱体化させられている。そもそも抑止力とか泥とかビーストとかORTとか、そっちの方に近い。
根本的に人間でないため極めてマイペースで、他者の命など何とも思っていないが、興味を抱いた対象には、なんだかんだ面倒見はいい気がする。

【サーヴァントとしての願い】
この世界を無に還す。

【方針】
魂喰いをして力を蓄えつつ、ひとまず聖杯を狙う。願いを叶えないなら破壊してもよい。結果的にこの世界が消滅すれば、存在目的は果たせる。
マイペースに、焦らず、無理はしない。他の参加者が憎み合い、殺し合って数を減らすよう仕向けるのも一手、一興。
マスターである董白のことは小馬鹿にしているが、多少は興味を抱いている。とりあえず生かしておき、勝手に行動させてみる。


296 : 兆し ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 02:08:04 6FufpaGk0
【マスター】
董白@三国志大戦(2、3、TCG)、史実?

【weapon】
なし。馬上鞭とか持っててもよい。
10代中頃の少女の体であるが、一応は軍馬を乗りこなし、馬上で剣や鉄鞭を振るい、弓を射、騎兵や歩兵を率いることができる。武力は10段階評価で2。

【能力・技能】
『退路遮断』
範囲内の敵を自城へ戻れなくする妨害計略。計略範囲は自分の前方に向けて楕円形に伸び、最大で一部隊に及ぶが、効果時間は短い。
知力の低い者ほど、かかりやすく解けにくい。知力が高ければすぐに解除されてしまう。董白自身の知力は、10段階評価で5。

計略とは言うが、発動時のエフェクト等から、魔術か妖術、禁呪(行為や有り様を禁じる呪術)のたぐいではないかと思われる。
自分の根城・安全地帯に逃げ込もうとする行動を短時間禁止するだけであり、それ以外のデメリットはない。
また、敵にかけるものであって、場所にかけることはできない。相手を追い込んでいるなら使い道はあるが、董白本人を守る能力ではない。
董白は背後に隠れ、雲様の火力で押しまくった方が無難である。ピンチになったらTCG版の『火事場の神速行』(強敵に狙われない)が発動するかもしれない。
ちなみにFF3(FC版)では「にげる」の成功確率が低く、しかも「にげごし」状態で攻撃されると大ダメージを受ける仕様であった。

【人物背景?】
魔王・董卓の孫娘。

ここでは、音楽ナスカ氏のイラストによる、いわゆる「ナスカ董白」としての姿である。さんぱずや無双の董白ではない。
貧乳チャイナミニスカニーソ絶対領域紫髪ツインテタカビードSツンデレポンコツ悪ロリという各種萌え属性のてんこ盛りにより、
現代日本における董白のイメージに重篤な影響を及ぼした。ちなみに某小説家の四月馬鹿企画では英霊化していたようだ。
史実の董白がナスカ董白として投影されているのか、ナスカ董白が史実の記憶も持っているのかは判然としない。
なお、頭飾り等は目立つので外しているが、ぱんつの紐は見える。属性は秩序・悪っぽいため、混沌・悪の雲様とは話が合わないかもしれない。

【マスターとしての願い】
この世界を我が物とする。自分が死んだら、世界も無に還ればよい。

【方針】
聖杯を狙う。邪魔者は排除する。
無力な弱者として振る舞い、敵を罠にはめ、殺して生き残る。
戦力たるアーチャーの魔力を高めるため、魂喰らいを支援する。
この世界を楽しむ。


297 : ◆nY83NDm51E :2017/01/17(火) 02:09:16 6FufpaGk0
投下終了です。


298 : ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:32:50 3M7WJHL20
投下します。


299 : ??? ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:35:27 3M7WJHL20

◆◆◆◆◆◆◆

010001010110月11010010下10100010101検101101001閲01

「こんなのってないぞ……聖杯戦争いい加減にしろよ……」

痩せて小柄、黒髪でショートボブ。永久脱毛した眉毛の代わりにイバラめいたタトゥー。
テックジャケットにジーンズ、エンジニアブーツ。首には「地獄お」とレタリングされた赤いマフラー。
彼女の名は、エーリアス・ディクタス。今、彼女に生命の危機が迫っている!

「■■■■■■■■■■■■!」
ナムサン!狂乱の叫びと共にエーリアスに挑みかかるのは、右手に棍棒を握った、スモトリめいた巨漢!
バーサーカー(狂戦士)のサーヴァントだ!その上半身には炎が纏わりついているが、火傷は急速に修復していく!

棍棒がエーリアスめがけ振り下ろされる!アブナイ!だが彼女はかろうじて回避!
そのまま棍棒は道路のアスファルトを砕いて穴を穿ち、破片を飛び散らせ、蜘蛛の巣めいた亀裂を作る!コワイ!
燃え盛るライブハウスからは、悲鳴を上げてパンクスたちが脱出する。さっきまでエーリアスらがいた場所だ。

「■■■■■■!」「アバーッ!」「アバーッ!」「ペケロッパ!」
ナムアミダブツ!バーサーカーは危険な棍棒を振るい、周囲の市民を無差別に殺戮!
ネギトロ、トマト、ピザめいた惨殺死体が次々と出来上がる!まるでツキジだ!
さらに棍棒を振るう!振るう!振るう!逃げ回る市民!「「「アイエエエーーエエエ!」」」

「ち、畜生!せめて俺だけを狙え!無関係な奴らを巻き込むんじゃねえ!」
市民たちがNPC、電子情報として擬似的に再現されたドロイドめいた存在であることは、さっき知った。だが、そうであっても。
激しい混乱と怒り、彼女の善良な人間性が、この場を逃走するという最善の選択肢を拒んでしまった。自分がマスターであることを露見させた。

「……あの女、やはりマスターのようだが……近くにサーヴァントがいないとは。不運な奴」
宵闇と月光の中、付近の路地裏に潜み隠れ、双眼鏡で様子を伺う者あり。
スキンヘッドの上に大きく「卍」のタトゥーを入れ、チョビ髭を生やした怪しい男。彼こそがバーサーカーのマスターである。
聖杯戦争に乗った彼は、己のサーヴァントを暴走させ、無差別にマスターやサーヴァントを呼び集めて殺すという愚劣な作戦に出たのだ。

「イヤーッ!」
カラテシャウトを発し、エーリアスは炎を振り払ったバーサーカーの背中を駆け上ると、両手で側頭部に強烈な掌打を放つ!
ヤバレカバレのカジバヂカラか?それともカラテカなのか?否!彼女は恐るべきカラテとジツを振るう半神的存在、ニンジャなのだ!
「おや、少しはやるか。だが……生身の人間が、サーヴァントに、それもバーサーカーに、勝てるものかね」

「■■■■■■!」「グワーッ!」
バーサーカーはエーリアスの掌打にびくともせず!そのまま背後に倒れ込み、ブリッジと同時に押し潰す!
彼女のカラテ……物理的戦闘能力は、一般的なニンジャに較べれば絶望的に弱い。非ニンジャのヨタモノ数人を撃退するだけで精一杯というところだ。

カラテを挑めば、実際貧弱なこの敵マスターは、手負いのエーリアスにも負けるだろう。
しかし、イクサとはただカラテをぶつけあえば解決するものではない。手駒のマジックモンキーを用いるブッダの頭脳があればこそだ。
彼はバーサーカーへの魔力供給をブーストするため、盗み取ってきた違法薬物のカクテルを一気飲みした。遥かに良い。


300 : ??? ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:36:44 3M7WJHL20
どうにか距離を取ったエーリアスは、突如ニューロンへ急速に流れ込んできた大量の情報に混乱していた。
(確か、ライブハウスでカードゲームをやってる時に、配られた真っ白いカードを手に取った瞬間からだ。『来た』時と同じだ)
イクサの最中だが、溢れる疑問に頭が追いつかない。必死で攻撃から逃げ回りながら、彼女は必死で考える。

整理しよう。ここは結局なんなんだ?ネオサイタマやキョートじゃなくてアメリカ大陸だと?ニンジャの仕業か?どっかの並行世界か?
いや、月の超UNIX「ムーンセル」が云々ってことは、つまりそいつが定義したIRCコトダマ空間だかのようだが、しかし、上空に黄金立方体はない。
通常の物理空間を住民含めてほぼ完全に再現し、そこでの法則までも再現してやがる。とんでもねえUNIXだ。まるでニンジャだ。

この俺が現実の俺本人なのか、それとも月UNIXが擬似的に再現した電子情報、コトダマの集まりに過ぎねえのかは、よくわからねえ。
だが、この俺は俺だ。これが今は現実で、俺の記憶とアイデンティティを持つ意識体が……ええと、なンかそんな感じだ。
まずもって、俺を「俺だ」と定義しねえといろいろ不安定な俺だ。俺だと考えるしかねえようだ。元の役割もそこらのパンクスってだけだ。

でもって、聖杯戦争とかいう殺し合いに、俺が選ばれちまうとは。また厄日だ。寝てたらアパートをクレーン鉄球で破壊されたのよりひでえ。
もっとカラテのある、邪悪なニンジャとか呼びやがれ。そいつらだけでやってろ。俺は奥ゆかしくて善良な小市民的ニンジャなんだ。
聖杯への願い事なら、俺の体を取り戻して、この体を元の持ち主に返還するッてことだが、何か別の、マシな方法があるはずだ。

そしてなんてこった、サーヴァントがニンジャより強いなんて。いや、英霊ってんならイモータル、半神的存在だから、ほとんどニンジャか。
じゃあ単に俺のカラテが足りねえんだ。情けねえ。カラテがダメならジツがある、と言っても、英霊で狂ってるこいつにはユメミル・ジツが効かない。
さっき追いつめられた時に出た『あいつ』のカトン・ジツも、あんまり効いてない。どうすりゃいい。敵のマスターはどこだ。

サーヴァントを呼び出せるとかいう白いカードは、最初に外へふっ飛ばされた時、風でどこかへ飛んでいってしまった。
ブッダはいつも通り寝ているようだ。呼び出せたのなら、そいつが俺を探して来るまで、独りでこいつを相手しなくてはならない。無理では?
NPCのマッポやデッカーじゃ、こいつはどうしようもねえ。正義感の強いマスターやサーヴァントが駆けつける可能性もあるが、期待薄……

「■■■■■■!」「グワーッ!」
ウカツ!注意力散漫!エーリアスはついに棍棒の一撃を食らって吹っ飛び、「不如帰」のネオン看板にぶつかってゴロゴロと転がり、道路に突っ伏す!
「畜生……俺は……俺はニンジャなのに……!ブッダもオーディンもいねえのかよォ……」

悔しがるエーリアス。それを聞いて、敵マスターは邪悪にほくそ笑んだ。イディオットめ、ニンジャ気取りのイカレたパンクスか。
この無慈悲な殺戮ゲームで、強力なサーヴァントを引いたのは幸運だった。当たりを引いた。
私にはブッダが微笑んでいる。ゲームに勝って聖杯を手に入れ、世界の王になれと、ブッダが命令しているのだ。

そして私は従僕に命ずる。こいつに―――

「トドメオサセー!」


……その時!


301 : ??? ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:37:35 3M7WJHL20

ハイウェイから恐るべき速度でエーリアスめがけて迫る真っ赤なスーパーカーあり!何者?
まさか、そのバッファロー殺戮武装辺境鉄道めいた猛スピードで、哀れなエーリアスを轢殺し、無惨なネギトロに変えようというのか!?
おお、ブッダよ!あなたはまだ寝ておられるのですか!

否!
スーパーカーは道路の登り坂を利用して、飛んだ!
そして見よ!見るがいい!
飛翔するスーパーカーの屋根の上に立ち、平然と拳銃を構える、ライダースジャケットを着た謎の男を!
そのサングラスと、赤黒いハチマキを!


【ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル】


302 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:38:53 3M7WJHL20

BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!

ブルズアイ!男の放つ拳銃弾は、一発も外すこと無くバーサーカーの全身に降り注ぐ!
さらにスーパーカーが放物線を描きバーサーカーに激突!

「■■ーーー■!?」

これほどの速度、これほどの質量を真正面から喰らえば、たとえニンジャであろうと実際即死の危険!
だが、バーサーカーはニンジャではないが、尋常な生き物でもない!英霊、サーヴァントだ!
棍棒を捨て、ダメージを顧みず、凄まじいサーヴァント耐久力とサーヴァント筋力によってスーパーカーの激突を受け止める!

「■■ー■!」
後方へふっ飛ばされつつ、勢いを利用し、サーヴァント敏捷性で空中へ連続回転上昇!ワザマエ!
それを追って、謎のハチマキ男も跳躍!スーパーカーは滑らかに道路上へ着地し、走り去っていく!自動操縦なのだ!
両者はビル群の猥雑なネオン看板を飛び移り、さらに上昇!上空を飛んでいた報道ヘリにしがみつき、片手でぶら下がる!

「な……!?」「なんだ、ありゃあ……!?」
敵マスターとエーリアスは、呆然と上空を見上げる。

「■■ー■!」
男の銃撃を受け、手負いのバーサーカーはヘリから飛び降り、建設中の高層ビルの屋上へ!追うハチマキ男!
ハチマキ男は無言のまま、バーサーカーは狂乱の叫びをあげながら、ワン・インチ距離でのイクサを開始!
右拳!左拳!メイアルーアジコンパッソ!ブリッジ回避!地上数百メートルの鉄骨の上で、目まぐるしいカラテの応酬だ!

「■■ー■!」
バーサーカーは業を煮やし、鉄骨からハチマキ男をビルの谷間めがけて突き落とす!
男は巧みに姿勢を制御すると、やや低い別のビルの屋上に設置された貯水タンクにウケミを取って着地!
瞬時に膝のバネを用い、跳躍し、対空パンチを放つ!鉄骨から飛び降りパンチを放ってきた、バーサーカーへと!

「■■ーーーーーーー■!!」

ドクロめいた月を背景に、両者のカラテが激突!!


303 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:40:07 3M7WJHL20

――――――――――――――

「ハァーッ!ハァーッ!なんだあいつは……サーヴァントなのか?あの女の?」
目を血走らせ、口から泡を吹き、暗い路地裏を逃走するのは、バーサーカーのマスター。
あまりにも意表を突く奇襲、物凄いカラテだった。ニューロンが焼け焦げそうだ。

混乱する彼の目の前へ、轟音とともに何かが二つ落下!
それは彼の従僕、スモトリめいたバーサーカーと、赤黒いハチマキの男!
「アイエエエエエエ!?」
敵マスターは失禁!血みどろのバーサーカーは、よろめきながらも立ち上がる!だが!

「グワーッ!?」
痛烈な前蹴りが、敵マスターを路地裏奥のビルの壁へと吹き飛ばした!袋小路!
敵マスターは壁の下に設置された大きなゴミ箱の上に落下し、ブザマに転げ落ちる!

「見つけたぞ。お前が奴のマスターだな」
「ゴボーッ!ば……バカナー!?」
吐血!貧弱な生身の人間である敵マスターには、この男のカラテは強烈過ぎる!男は決断的に敵マスターへ向け疾走!

バーサーカーが男の背後から襲いかかるが、男は這いずっていた敵マスターの襟首を掴むや、振り向きざまに突き出す!
フレンドリーファイア!敵マスターの顔面にバーサーカーの右拳が命中!片眼が飛び出し、歯が飛び散り、首が180度回転!直後!

「■■ー■!?」「アバーッ!?」
ゴウランガ!これは伝説の暗黒カラテ奥義、サマーソルトキック!
バーサーカーと瀕死の敵マスターは同時に空高く蹴り上げられ……刹那、ハチマキ男が後を追って跳躍!垂直上昇する両者よりも高く!

「「ア■バ■ー■ー■ー■ッ!!」」
サツバツ!男は両者を上空から斜めに蹴り落とした!その落下地点には、ナムサン!違法路上駐車中のタンクローリーだ!危険!

「ゲームオーバー」男がそう呟く。
ドクロめいた月もまた、この騒乱を見下ろし、「インガオホー」と呟ZGGGGGGTOOOOOOOOM!
タンクローリーの燃料タンクを両者が突き破り、その衝撃で燃料に着火!爆発炎上!

「「サヨナラ!」」
バーサーカーとその邪悪なマスターは、タンクローリーもろとも壮絶に爆発四散!ナムアミダブツ!
男はその爆発に背を向け、開脚着地して落下の衝撃を受け流した。タツジン!

「あ……アイエエエ……」

男の着地点の目の前にいたエーリアスは、あまりのことに口も聞けない。彼のイクサを見ていたのだ。

こいつは、この男は、どう見ても。

ニンジャだ。


304 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:41:52 3M7WJHL20

――――――――――――――

男は立ち上がり、サングラスを外す。赤黒いハチマキに、指ぬきレザーグローブ。
赤いインナーシャツに袖をまくったライダースジャケット、ジーンズ、スニーカーというラフな格好。左肩から右腰にベルト。
黒髪だが、見たところ日本人ではなく、金髪ではないにしてもコーカソイドのようだ。
それでも会話は通じる。低く渋い声で、男は話しかけた。

「待たせたな。君が俺のマスターか?」
「あ、ああ。……ドーモ、エーリアス・ディクタスです。エーリアスでいい。ありがとう、助かったぜ」

エーリアスは手を合わせて丁重にオジギした。アイサツは大事だ。古事記にも書かれている。
アイサツをされれば、返さねばならない。特にニンジャであれば、本能的に、必ず返すはずだ。

だが……彼は、先程のイクサで、一度もアイサツをしなかったようだ。
たとえ相手がニンジャでなくても、自分がニンジャならば、イクサの前にアイサツをするのが礼儀だろう。
アイサツ前に一度だけ許されたアンブッシュ(不意打ち)にしても、長すぎる。
拳銃があれば必要なかったのか、スリケンもクナイ・ダートも投げていない。カラテシャウトすら発していない。

では、彼はニンジャではないのか?それにしては、彼のカラテとアトモスフィアは、あまりにもニンジャに近い。

「エーリアス(別名義)か。あからさまに偽名だが、まあ詮索はしないでおこう。
 俺は『ライダー』のサーヴァント。真名は、『カン・フューリー』。凄腕の警官だ」

警官。通常のマッポ、というよりはデッカー(刑事)だろう。熟練デッカーの戦闘力は、状況次第ではサンシタニンジャにも匹敵する。
そういえば、右の胸元にデッカーのバッジをつけている。とすると、デッカーの英霊か?彼は、そんなに有名なデッカーだったのだろうか?

しかし、ライダーが自己紹介を続けると、エーリアスは確信した。

「俺はかつて、ただの人間だった。だが、ニンジャ装束を纏った謎のカンフーマスターに、相棒を殺された。カタナで、すっぱりと。
 錯乱した俺は、奴に拳銃を撃とうとしたが、その時、凄まじいことが起きた。落雷に撃たれ、コブラに噛まれたんだ」

「気を失うと、少林寺で僧侶たちがカンフーの修行に励んでいる光景が見えた。俺の意識は、寺の奥へ進んで行った。
 そこに座っていた老僧が、俺に名を授けた。『カン・フューリー』、すなわち『カンフーの怒り(Fury)』と」

「目を覚ますと、目の前にカタナを構えて走ってくるカンフーマスターが見えた。相棒の仇が。
 時間が、敵の動きが、泥めいて遅く感じた。俺の肉体は瞬時に変異し、カンフーのパワーが宿った」

「俺はそいつを返り討ちにし……そいつが遺した赤黒の布を、忘れないよう額に巻いた。
 俺は力を得た。だが守るべき法と、行うべき正義がある。だから、このカンフーで犯罪と闘うと、誓ったんだ」

やはり、こいつはニンジャだ。どう考えても。少なくとも、それに非常に近い存在。あのハチマキが、彼のメンポ(面頬)なのだ。
正体はともあれ、こいつのカラテ(カンフー?)が凄まじいのはよくわかった。あのニンジャスレイヤーと比べても、そう見劣りはしないだろう。
何より、こいつは善良な人間性を保っている。罪もない奴を殺戮する、さっきの奴らのような悪人じゃない。狂った復讐鬼でもない。
映画やカートゥーンの主人公めいた、悪人には無慈悲な、正義のヒーローだ。


305 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:43:08 3M7WJHL20
当たりを引いた。エーリアスはそう確信し、己のサーヴァントに提案する。
「カン・フューリー=サン、いや、ああっと、ライダー=サンか。
 言っておくが、俺はこの殺し合いに乗る気はない。といって、死ぬつもりもないぜ」

ライダーはうなずき、無言で続きを促す。エーリアスは慎重に言葉を選ぶ。説明は苦手なのだ。

「さっきの奴らみてえに、全員が殺し合いに諸手を挙げて賛成、っていうなら仕方ねえ。けど、そうでない奴もいるはずだ。俺みてえに。
 願い事がないわけじゃないが、そんな奴まで皆殺しにして願い事を叶えたって、俺は寝覚めが悪いし、俺の仲間にも顔向けできねえ。
 アンタはさ、正義のヒーローなんだろ?聖杯戦争をやめさせるのに、協力してくれねえか。帰り方はおいおい考えるとしてもよ」

ライダーは無表情のまま、静かな怒りを込めて答えた。

「俺の仕事だ(My Jooob)」

エーリアスはうなずき、無言で続きを促す。ライダーは続ける。

「当然だ。俺は警官、法の番人で守護者なんだ。こんなボーシット(くそったれ)な殺し合い、まっぴらゴメンだ。
 俺は聖杯戦争を止める。聖杯を破壊し、開催者をやっつけて、逮捕する。話しても聞かないバカどもは、やっつけりゃいい。
 シンプルだ。すべてカンフーで解決できる。エーリアス、君と俺の望みは同じだ。やろう」

決断的な答えだった。

「おう!そう言ってくれると信じてたぜ!」
「聖杯は、確かに君の願いを叶えてくれるさ。俺をサーヴァントにしやがったからな。壊してくれと言ってるようなもんだ」

二人の傍に、先程走り去った真っ赤な自動操縦スーパーカーが戻ってきた。二枚のシザードアが翼のように開く。
「この車が、俺の宝具だ。助手席に乗ってくれ。ひとまず他のマスターを探し、殺し合いに乗るか乗らないかを問う。
 弱者を救助し、味方を増やす。街中で暴れてる奴がいれば、俺がブチのめす。君は安全のため、この中にいればいい」
「まあ、そうだな。お言葉に甘えるよ。俺だって戦えなくはないんだが、アンタの方がよっぽど強いからな」

笑顔を交わして握手し、二人はスーパーカーに乗り込む。長いイクサの始まりだ。

『ようこそ、お嬢さん。私は「ホフ9000」です』
カーナビUNIX画面に壮年の男の顔が浮かび上がり、口のライトを点滅させながら人工音声で喋った。
「この車に搭載された人工知能だ。この車自身と言ってもいい」
「ど、ドーモ、ホフ9000=サン。エーリアスです」
エーリアスはアイサツを返す。アイサツは大事だ。

「ホフ、出発だ。周囲の異変を感知してくれ。それと、ミュージックを頼む」
『OK、カン・フューリー』
「ライダーだ。今からそう呼んでくれ」
『OK、ライダー』

ガオオオオン!猛烈なエンジン音と共に、急発進!まずは再び、ハイウェイへ!
ホフ9000は男らしい声で、男らしい歌を歌い出す。このハードなイクサを暗示するかのように。


306 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:44:17 3M7WJHL20

Kung Fury主題歌『トゥルー・サヴァイヴァー』 by デヴィッド・ハッセルホフ (私家版和訳)

ドミノが倒れ、街では暴動
ベイビー、時間だ
撤退もしない、降伏もしない

悪魔が現れる、過去からの影が
憤怒の炎を燃えあがらせて

時間切れだ、時が過ぎていく
今夜、カウントダウンの音が聞こえる

俺たちには必要なんだ
アクションが!
真の生存者のようになりたいなら
アクションが必要だ!
俺たちの愛を奪いたいなら
必要なんだ
生きる情熱、信じてるんだ
燃える心と、まっさらな気持ちを
アクションしろ!
真の生存者のようになりたいなら

灰をかきわけ、不死鳥が再び蘇る!
戦え、正義と善のために
俺たちが信じるもののために

俺たちには必要なんだ
アクションが!
真の生存者のようになりたいなら…


ハイウェイを疾走するスーパーカーの前に、巨大なドクロめいた月が浮かぶ。
果たして、マジックモンキーはブッダの掌に噛みつき、ボーでブッダの中指をケジメできるのか?
月は観測者から当事者となり、インガオホーを迎えるのか?これもまた、古事記に予言されしマッポーの一側面か?

今はただ、走れ!カン・フューリー、走れ!

【ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル】終わり


307 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:45:15 3M7WJHL20
【クラス】
ライダー

【真名】
カン・フューリー@Kung Fury

【パラメーター】
筋力A+ 耐久C 敏捷A+ 魔力D 幸運C 宝具A+

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
彼が得意とするのは自動車の扱いであり、獣に対する騎乗能力は本来ならばさほど高くない。ライダーのクラスの恩恵でこのランクになっている。
バイキング時代にアスガードというティラノサウルスに乗ったことはあるが、自分で御していたわけではない。
また、かつてタイムスリップのため、キーボードに乗ってコトダマ空間めいたどこかを飛翔したことがある。

【保有スキル】
戦闘続行:A
往生際が悪い。決定的な致命傷を受けて斃れても、仲間に超常的ななんかでどうにかしてもらえば復活することができる。
天国で自分のスピリットアニマルに「生き返らせろ」と迫り、遺体を見つけた仲間のハッカーマンに傷を(ハッキングで)治してもらって復活した逸話に基づく。
コトダマ空間(オヒガン)と関わりがあるようなので、エーリアスの『ユメミル・ジツ』でも効果があるはず。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要となるが、膨大な魔力を必要とする能力など持っていない。
かつてパートナーを目の前で失ったトラウマにより、あえて一人で行動する癖がついているが、戦いの果てに「チームワークはとても大切」と学んだ。
そのため、彼は大事な仲間を決して見捨てることはない。仲間のピンチには必ず駆けつけるだろう。


308 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:46:21 3M7WJHL20
【宝具】
『不滅闘魂・功夫之怒(ソウル・オブ・カン・フューリー)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大捕捉:-

ライダーに宿る、謎のカンフーソウル。ただの警官だった彼を、忍殺のニンジャめいたスーパーカンフー戦士に突如変貌させた。
戦車を軽々と持ち上げて投げ飛ばす、引きちぎった腕をプロペラにして飛翔するなど、常識を覆す凄まじいカラテもといカンフーを誇るが、ジツやニンポの類は一切使えない。
天国で自分のスピリットアニマルだと名乗る謎の知性コブラに遭遇しているが、コブラ・ニンジャクランとは特に関係がないようだ。

『霹靂遊侠・霍夫九千(ナイトライダー・ホフ・ナインサウザンド)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:2人

ライダーが駆る真っ赤なスーパーカー(ランボルギーニ・カウンタック)。ライダーがライダーたる所以の宝具。
80年代の人気米国SFドラマ『ナイトライダー(Knight Rider)』に登場するドリームカー「ナイト2000」のパロディめいた存在。
元ネタと同じく(HAL9000ともひっかけて)自立型スーパーコンピューター「ホフ(HOFF)9000」を搭載。『ナイトライダー』の主演デヴィッド・ハッセルホフが演じている。
スペック等はおおよそ「ナイト2000」と同じと思われるが、詳細は不明。天国(アニメパート)ではプロペラを出して空を飛んだ。

『北欧雷神・托爾降臨(デウス・エクス・マキナ)』
ランク:-(EX) 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?

どうしようもないピンチに陥った時、ライダーの知り合いである北欧神話の雷神トール(ソー)が突如やってきてウルトラマン風に着地し、とにかくなんとかどうにかしてくれる。
ハンマーからビームを放って時空を超えるポータルを作ったり、そこからライダーの仲間たちを呼び寄せたり、敵集団にたくさんビームを放ってネギトロに変えたりした。
あまりにもチートなので封印されているが、意外と気軽に出てくるかもしれない。ザ・ヴァーティゴやミーミーは多分呼べない。なお、ニンジャ神話と北欧神話には類似点が見られる。

【Weapon】
カンフーと拳銃。
拳銃からはほぼ無制限に弾丸を発射できるが、サーヴァント相手には急所(股間等)を狙わない限り効果が薄い。
何事もカンフーで解決するのが一番だ。野球バットやヌンチャクを装備すると月がばくはつしかねない。

【人物背景】
2015年5月に公開されたスウェーデンの80年代アメリカ風超絶濃縮傑作バカ映画『Kung Fury(カン・フューリー)』の主人公。監督・脚本のデヴィッド・サンドバーグ自身が演じている。
マッポー都市マイアミで警官をしていたが、追跡していた謎のカンフーマスター(ニンジャ)に相棒を惨殺された。
その直後、落雷に撃たれると同時にコブラに噛まれ、少林寺の伝説に残る新カンフーの達人たる“選ばれし者”、カン・フューリーへと生まれ変わった。

どこかで見たような懐かしい風貌、ダークナイト版バットマンみたいな声と喋り方をし、火薬量16倍のハチャメチャ痛快ヴァンダミングアクションを繰り広げるカンフーヒーロー。
メキシコから来たキンメリア人のような、心身ともにつよくたくましい真の男であり、犯罪者に対しては極めて無慈悲。彼の世界では『TIME』や『People』の表紙を飾るほどの有名人。
ヒトラーを倒すためナチス時代のドイツへタイムスリップしたり、謎の恐竜がうろつくバイキング時代に漂着してトール神に救われたり、死んで生き返ったりした。
なお、忍殺語を発したり、カラテシャウトやカンフーシャウトをあげることはない。彼は『ニンジャスレイヤー』の登場人物ではないのだ。いいね?

【方針】
法を犯す行為は許さない。聖杯を破壊し、主催者および殺し合いに乗る奴らを全員やっつける。俺の仕事だ(My Jooob)。


309 : ホーリー・グレイル・ヴァーサス・フューリー・ソウル ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:47:20 3M7WJHL20
【マスター】
エーリアス・ディクタス@ニンジャスレイヤー

【weapon】
なし。

【能力・技能】
『二重人格』
エーリアスの記憶と意識は、とある女性の肉体に憑依・間借りしている男性人格である。
元の肉体の持ち主の意識は深く沈んで眠っており、肉体側がピンチになると一瞬だけチェンジして能力(カトン・ジツ)をぶっ放す。
男性人格は「あくまで仮の肉体であり、いつかは返す」ことを目標にしているが、その方法は見当がついていないようだ。
二つの意識には各々本来の名前があるが、その名前で自己を定義すると片方が消えてしまう可能性が高いため、
あえてエーリアス・ディクタス(別名義)と名乗っている。コトダマだ。

『ニンジャ』
ニンジャであること。彼女は(肉体の元の持ち主、宿主ともに)ニンジャソウル憑依者である。
ニンジャ一般の基礎的能力をおおよそ持つ。ただしジツ(術)特化型であるため、カラテはニンジャにしては非常に弱い(一応ヨタモノ数人を撃退できる程度)。
女性人格側はまだしも強いが、現状では一瞬しか出現できない。

『ユメミル・ジツ』
エーリアスの用いるジツ。他者のニューロンをハッキングする、精神潜行能力。宿主人格の用いていたジツと名称は同じだが、いろいろあって変質している。
接触限定だが、ローカルコトダマ空間(脳内認識)に潜行して相手を短時間乗っ取ったり、ニューロンを焼いたり、錯乱状態や呪いを解除したり、
逆に相手の意識を自分のローカルコトダマ空間に招き入れたりと、色々応用が効く。
ニンジャ、ないしそれに準ずる存在に対しては、相手がジツ行使中など極度の集中状態にないと無効。詳しくは忍殺wikiとかを参照重点(マルナゲ)。
コトダマ関係においては非常に強力なジツであるが、制限も多く万能ではない。使用者のニューロンへの負担も大きく、多用はできない。

『スシ職人のワザマエ』
老舗スシ屋「ワザ・スシ」で特殊な修行を積んだため、その道のプロに近い高度なスシ作成のワザマエを持つ。材料が揃えば美味いスシを握れる。
スシは栄養補給に最適な完全食であり、効率よくエネルギーを回復させ、特にニンジャ回復力を高める。サーヴァントにも効果があるかもしれない。
高速で多数のスシを作る奥義「ガンフィッシュ」も使用可能だが、カラテが乏しく腕を酷使するためニンジャの体でも15個程度が限界。

【人物背景】
ニンジャスレイヤー第三部「不滅のニンジャソウル」に登場するニンジャ。とある男ニンジャが、いろいろあって女ニンジャの肉体を間借りしている状態。
男だった時から、ヘタレで気弱ながらここぞというときに活躍する名サイドキックで、女体になった今やヘッズからは完全にヒロイン扱いである。女子力も実際高い。
ここでは第三部初期、「フラッシュファイト・ラン・キル・アタック」終了後頃の時系列から参戦。女性人格はまだ完全には覚醒していない。

【方針】
聖杯戦争を止め、元の世界へ帰る。困ってる奴はなるべく助ける。
願いは「自分の肉体を取り戻し、この肉体を元の持ち主に返す」ことだが、聖杯の力には頼りたくない。


310 : ◆nY83NDm51E :2017/01/19(木) 19:48:13 3M7WJHL20
投下終了です。


311 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 20:58:30 OdO9VGzM0
投下させていただきます


312 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 20:59:25 OdO9VGzM0

 ウェイバー・ベルベットは、魔術師としては非才な方に部類される少年だ。

 家門はさして名のあるそれではないし、血統もたったの三代ぽっちと極めて浅い。
 世代を重ねる中で受け継がれ、蓄積・開拓されていくものである魔術回路も刻印も、由緒正しい魔術師の家門の末裔達には大きく劣る。少なくとも彼が招聘された魔術協会の総本部、時計塔には六代以上も血統を重ねた名門の末裔が珍しくもなくごろごろ在籍していた。
 しかしそれでもウェイバーは、自分が優秀で才に溢れた人材であると信じて疑わなかった。
 ほとんど独学で時計塔という最高学府の招聘を勝ち取ったのがその証拠だ。
 我こそは同期の学生共の中では勿論、時計塔開闢から今に至るまでの間でも類のない逸材であり、そんな自分の才能を理解しない者は自分に嫉妬しているか、そもそも崇高な考えを理解できない頭の残念な馬鹿のどちらかだろうと、日々周りの愚かな者達を見下しながらウェイバー少年は今日まで生きてきた。
 
 彼が言うところの"才能"が正当に評価されたことは、これまで只の一度としてない。
 生徒はどいつもこいつも揃いも揃って名門出身の優等生の礼賛に明け暮れ、講師でさえその例外ではない。
 彼らはウェイバーに微塵の期待もしていないことを杜撰な態度で存分に表現し、秘術の伝承はおろか、学習目的での魔導書の閲覧に許可を出すことすら渋る有様だ。
 ウェイバーが血筋と年の功だけを基準に人の価値と理論の信憑性を評価しようとする風潮に異議を唱えれば煙に巻くような形で言いくるめ、それで論破は成ったと彼を適当にあしらった。
 あまりにも当たり前に横行する理不尽。時計塔はお世辞にもウェイバーにとって居心地のいい場所ではなかったが、それでも彼は奥歯を噛み締めながら我慢し、いつか目に物見せてやると反骨心ばかりを胸に積もらせていった。
 彼が本当に自分が思うほど優秀な人物なのかどうかはさておいて、その忍耐強さは確かに評価に値するだろう。
 魔術師特有の陰湿さと腐敗したと言ってもいい時計塔の内情を、彼は当事者としてずっと味わい続けてきたのだ。

 そしてそんな彼にも、遂に我慢の限界がやって来た。堪忍袋の緒が切れた。
 その出来事はウェイバー・ベルベットに、人生で最大と言ってもいい耐え難い屈辱を与えた。
 横行する理不尽と旧態依然とした体制を是正する為、構想から執筆まで、合計四年もの時間を費やした一本の論文。
 屁理屈で煙に巻かれぬように持論を極限まで噛み砕き、重箱の隅を突くような底意地の悪い指摘をさせないように熟考に熟考を重ね、一分の隙もなく自分の抱く思想を敷き詰めた。
 会心の出来だった。必ずこの論文は時計塔に、それどころか魔術協会にさえも波乱を巻き起こすだろうと確信していた。
 しかし結論から言えば、それは改革を成すどころか、査問会の目に触れるにすら至らなかった。

"馬鹿にしやがって――馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがってッ!!"

 ウェイバーの論文は、ただ一度流し読みしただけで、無惨に破り捨てられてしまったのだ。
 その度し難い蛮行を働いた愚物の名を、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。九代を重ねる名門アーチボルト家の嫡男であり、『ロード・エルメロイ』などと持て囃されている、降霊科所属の講師だった。
 ウェイバーは元々ケイネスという男を軽蔑していた。
 若くして講師の椅子に座り、学部長の娘ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリとの婚約を取り付け、ウェイバーのように泥水を啜る思いをしたことなど一度もないだろう恵まれた男。ウェイバーの嫌悪する権威という概念を体現したような人物だ。
 自分の中に渦巻く嫌悪感を僻みなどとは決して思わない。あのような男が幅を利かせているから時計塔はこのザマなのだとウェイバーは心の底から確信している。
 冷ややかに。憐れむように自分を見下ろしたケイネスの眼差しは、今も瞼の裏に焼き付いて離れない。
 あろうことかあの男は、自分の論文を読み、その素晴らしさに嫉妬して蛮行に及んだのだ。今まで散々軽視し、冷遇してきたウェイバー・ベルベットという魔術師の才能の大きさを初めて自覚し、それに自らの立場を脅かされるのではないかと恐れ、曲がりなりにも人に物を教える人間のすることとは思えない行為を働いた。

 ……と、ウェイバーはそう思っている。仮にも講師の座を勝ち取った人間があの論文の内容を理解できないわけがないのだから、ケイネスは自分に嫉妬してあんな真似をしたとしか考えられない――そう早合点して、自分の力作を妄想と一蹴した男への怒りに鼻息を荒げながら、その後の日々を過ごしていた。
 そんな日々の中。彼は一つの噂を耳にする。


313 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 20:59:59 OdO9VGzM0
 曰く、極東の地で行われる魔術師の競い合い――聖杯戦争。その内容は、ウェイバーの心を鷲掴みにして離さなかった。
 肩書きも権威も糞ほどの価値も持たない、正真正銘の実力勝負。個人の優秀さ以外のあらゆる要素が介入しない、魔術師の優劣の決定。これこそまさに、ウェイバーが長年望んでいた好機であった。
 これに名乗りを上げ、見事勝利することが出来たなら……これまで押されてきた不名誉な烙印を全て消し去れる。
 不遇の天才ウェイバー・ベルベットの名は全ての魔術師の間に轟き、これまで自分を冷遇してきた愚か者達は皆、その間抜けさを恥じて掌を返し始めることだろう。散々上から見下してきた相手の足元にひれ伏し、その叡智を恵んでくれと懇願に明け暮れることだろう。その想像はウェイバーを最高の上機嫌へと導いた。

 と。
 興奮に浮足立つウェイバーの下に、更なる幸運が舞い込んでくる。
 ある日、管財課の手違いで一般の郵便共々ウェイバーに取り次ぎを託されたそれは、ケイネスその人が恐らくは聖杯戦争の為に手配した、マケドニアより届けられた"重大な"荷物だった。
 ――聖遺物。聖杯戦争において目当ての英霊を引き当てる為に不可欠な、召喚の触媒となるアイテム。
 これだ、とウェイバーは思った。これしかない、とも思った。
 これを持ち去って聖杯戦争の舞台となる冬木市に飛び、サーヴァントを召喚すればそれだけで聖杯戦争を戦い抜く為の準備が整う。同時に憎たらしいケイネスに痛い目も見せられ、まさに一石二鳥だ。

 勝手に開封しないよう厳命されていたそれの包装を剥がすべく、弾む足取りでカッターを探そうと部屋の中を歩き回り。
 

 そこでウェイバーは、自分のデスクの上に、見慣れないものが載っていることに気が付いた。


 何だ、これ。訝しげな顔で拾い上げたそれは、絵柄の書かれていない、白紙のトランプだった。
 身に覚えのない奇妙な物品をゴミ箱に放り込もうと手に取ったその時、自称・天才の視界は唐突にホワイトアウトする。
 強烈な目眩にも似た感覚と、自分という存在が世界から消失していく耐え難い悪寒。
 思わず情けない叫びすらあげながら――ウェイバー・ベルベットは"雪の戦場"へと放り出された。
 
 
 本来なら、彼は無事横取りした聖遺物を手に冬木へと旅立ち、そこでさる征服者の英雄の召喚に成功したのだろう。
 そして英雄の奔放さに振り回されながら、頭を抱えながら、がむしゃらに聖杯戦争を走り抜けていき。
 行き着いた結末は、最初の彼が望んだものとは遠い敗残でも。
 今後の彼の人生を大きく変える得難い経験と、かけがえのない友を得るに至ったのだろう。
 しかし、この世界ではそうはならなかった。白紙のトランプに導かれ、魔術師の少年は本来の運命から外れてしまった。
 ――だから、この話はこれでおしまいなのだ。


314 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 21:00:26 OdO9VGzM0
  ◇  ◇


 意味が分からない。
 スノーフィールドで暮らすごく普通の学生――という役割を与えられた魔術師、ウェイバー・ベルベットは頭を抱えていた。何に、かは言うまでもない。自分の置かれた状況全てに、だ。
 聖杯戦争は極東の冬木で行われるのではなかったのか。
 あの白紙のトランプは何で、自分は何だってこんな所に飛ばされてしまったのか。
 何より腹が立つのが、自分がつい数時間前まで、この状況を疑うこともなく平然と受け入れていたことである。
 覚醒のきっかけは日々の中で感じた微小な違和感だったが、もしそれに思い当たらなかったらと考えると背筋が冷える。
 その場合、自分は白痴のようにこの偽りの平穏を享受して、何も知らないまま世界の歯車に成り果てていたことだろう。自分の聡明さにウェイバーは心から感謝した。
 分からないことは山のようにあるが、そんなウェイバーの右腕には、彼があれほど欲していた三画の刻印がありありと刻まれていた。形は歪んでいるが、どこか王冠のようにも見える。
 
「……………………はあ」

 ウェイバーは深い、深い溜め息をついた。しかしその口元はだらしなく緩んでいる。
 過程はやや聞いていたものと違ったが、それでも自分が聖杯戦争に参加できたことに変わりはない。
 この令呪がその証拠だ。誰もが軽んじてきた自分の才能を、聖杯はしっかり認めてくれた。
 後は勝つのみ。この地でサーヴァントを召喚し、それを用いて全てのライバルを倒す。
 そして元の世界に聖杯を持ち帰り、自分の才能と優秀さを証明する。
 やることは極めて明白だが、簡単ではない。それくらいはウェイバーも承知している。
 この地にはきっと、これまでウェイバーに辛酸を嘗めさせてきた名門の魔術師も呼ばれている筈なのだ。
 それらを蹴散らす為には策が要る。立ち回りの巧さが要る。そして何より、優秀なサーヴァントが要る。

「やっぱり聖遺物はこっちにはない、か……いや、でも」

 ケイネスの聖遺物を置いてきてしまったのはあまりに痛い。
 それでもウェイバーに不安はなかった。自分ならばきっとやれると、確固とした自信があった。
 それよりも問題は、どうやってサーヴァントを召喚すればいいのかということだ。
 冬木の聖杯戦争と同じ要領で儀式をすればいいのか、それともまた別な手順が必要になるのか。
 魔術関係の文献を漁ることさえ困難なこのスノーフィールドで一から調べるとなると相当に手間だ。もし儀式の手順が変わっているのなら、まずどこに儀式の資料があるのかから調べて行かなければならないが――そんなウェイバーの危惧は、結論から言えば杞憂に終わった。

 このスノーフィールドにおいて、サーヴァントの召喚に決まった手順は存在しない。
 皆それぞれ何かしらの引き金を有していて、それが引かれた時に英霊が現れる。
 一概に言い切れない部分もあるかもしれないが、説明としてはある程度的を射ているだろう。
 そしてウェイバー・ベルベットにとっての引き金は――記憶を取り戻すことだった。


315 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 21:01:00 OdO9VGzM0


「――問おう。醜く憐れな者」


 凛と響く声に、ウェイバーは思わずその背筋を凍らせる。
 女の声だった。美声と呼んでいい音色だったが、ウェイバーがその声に対して抱いた感情は恐怖。
 何故かは、分からない。分からないが、とにかく女の声は魔術師に本能的な恐怖を覚えさせた。
 唸りをあげる虐殺装置が背中のすぐ後ろに突然現れたような、言葉にし難い恐れ。
 
「貴様が、私のマスターか」

 バッと勢いよく振り向いた先に立っていたのは、青髪に鋼鉄製と見えるバイザーを装着した鎧姿の女だった。
 人相ははっきりとは分からないものの、恐らく美人であろうことが両目が覆い隠されていても分かる。
 全体的に冷たい、氷のような雰囲気を醸したその女の口元は、薄い笑みの形に歪んでいる。
 その笑みがどういう種類のものかを、ウェイバーはすぐに理解することが出来た。
 時計塔の講師達が、才能主義の生徒達が、血筋に恵まれた優等生共が――ウェイバーに対して度々浮かべていたものと同じ。他人を見下し軽んじる、"持つ者"の嘲笑だった。

「……ッ」

 鎮静化していた苛立ちが、再びウェイバーの中に蘇ってくる。
 時計塔で長年味わってきた理不尽。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに舐めさせられた苦渋。
 折角聖杯戦争の舞台へやって来て、漸くそんな思いともおさらばかと思えば、その矢先にこれだ。
 自分の使い魔であり道具である筈のサーヴァントまでもが、自分を腐った笑顔で見下している。

「あ――ああ、そうだ! このボクがオマエのマスターだ! マスターなんだぞッ!!」
「そう。見たところマスターとしては並……いえ、それ以下のようね。精々下の中、下の上と言ったところかしら」

 ウェイバーの顔が、かあっと熱くなる。
 顔だけじゃない。頭全体が急に熱されていくのを、ウェイバーは感じていた。

「使えない。さては無能ね、"マスター"? よくもまあ貴方如きが、この私を引き当てられたものね」

 なんだ。なんだ……こいつは。
 召喚された瞬間からウェイバーを見下し、口を開けば使えないと、無能と罵倒する。否、その才能を侮辱する。
 ウェイバーは元より怒り易い質ではあったが、仮に彼でなくとも、面と向かってこう謗られたなら自尊心を沸騰させるのが当然というものだろう。
 たかがサーヴァント。たかが使い魔の分際で、こいつは今自分を何と言った?
 マスターと呼ぶ声に敬意らしいものは全くなく、皮肉交じりの蔑称であることがウェイバーにはすぐに分かった。

「オマエなッ――」

 怒りのままに口を開き、吼えようとする。ふざけるなと。自分の立場を分かっているのかと。

「……ごッ!?」

 しかし最後まで言い終えることは、ウェイバーには出来なかった。
 その腹にサーヴァントの爪先がめり込み、背後の壁まで勢いよく吹き飛ばされたからだ。
 ゴホゴホと荒い咳をし、逆流しかけた胃液を押し戻しながら、歯を食い縛って女を睨む。
 女は相変わらず、笑っていた。嘲笑っていた。その時ウェイバーは、初めて気が付く。

 ……違う。
 あれは、自分の才能の有無を嘲笑っているんじゃない。


316 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 21:01:31 OdO9VGzM0
 仮にウェイバーがケイネスのような優れた魔術師だったとしても、あれは全く同じ嘲笑をぶつけたことだろう。
 彼女はどんなマスターを引いたとしても、必ず見下し、軽蔑し、劣等と罵倒した筈だ。
 何故なら、今自分を蹴り飛ばした女の顔に浮かぶ笑みは――子供が蟻やバッタを痛め付けながら浮かべるような、自分より劣る存在に対して向けるそれだったからだ。

「身の程を弁えなさい、人類種。本来貴様など、私の前で呼吸をすることすら許されない存在なのだから」
「なんっ、だと……」
「ああでも、その幸運だけは褒めても良いわ。おまえはとても運が良い――何故ならこの私を呼び出せたのだもの」

 人類種と、女はウェイバーのことをそう呼んだ。
 遠回しに自分はおまえとは違うと、そう発言したようなものだ。
 そして事実、彼女は人間由来の英霊ではなかった。
 人間から上位種に登り詰め、その身で働いた暴虐の歴史を以って反英霊になった……彼女はそういう存在。
 

「我はサーヴァント・アーチャー。麗しき氷の花園を統べる眷星神が一。
 光栄に思いなさい、出来損ない。おまえは今宵、最も優れた英霊を召喚した」


 彼女は、ウェイバー・ベルベットの生きた世界とは異なる並行世界の英霊だ。
 文明の大半が一度崩壊し、星辰の粒子が地上を満たした世界。
 とある国がそれを利用して、人工的に異能者を開発、戦場の環境を一変させた世界。
 そこで彼女は歴史に名を残した。――人々の心に痛ましい爪痕を刻んだ大虐殺の下手人として。
 そう、彼女は間違っても英雄などではない。むしろその逆。英雄に悪として一度は滅ぼされた存在こそが彼女だ。
 人の名を捨て、新たに得た真名(コード)を……ウラヌス。ウラヌス-No.ζ。
 人の枠を超越した存在となり、醜き人類全てを嫌悪し侮蔑する、無慈悲なる天空神に他ならない。

「我が願いは英雄への復讐。この手で下す壮絶なる死を以って、舐めさせられた苦汁への報いとする」

 令呪を用いてでもこいつを縛るべきだと、ウェイバーは心からそう思った。
 ウェイバー個人が気に入らないとか、そういう話ではない。直接痛みを浴びせられて、彼は漸く悟ることが出来たのだ。
 このサーヴァントは危険すぎる。こいつは本当に、主従関係なんて微塵も考慮する気がない。
 ウェイバーを殺しはせずとも、死ぬ寸前まで痛め付けるくらいなら、こいつは躊躇いもなくやってのけるだろう。
 そう思い、顔を上げて――その考えがまず浅はかだと思い知った。
 歪んだ口元が語っていた。令呪で縛る? いいだろう、やってみるがいい。但し仮に自害を命ぜられようと、事が住む前におまえを八つに引き裂いてばら撒いてやる……と。


 ――ウェイバー・ベルベットの不運は、全て元の歴史から外れてしまったことに集約される。
 
 彼があの時白紙のトランプを見つけてしまったこと、或いはそれに触れてしまったこと。
 その時から結果的に見れば幸運な方へと向かう筈だった彼の運命(Fate)は崩れ、坂道を転げ落ち始めた。
 行き着いた先、スノーフィールド。数多の世界が交差する大地で、呼び出した英霊は栄光の反対に位置する虐殺者。
 
"ちくしょう――畜生畜生畜生ッ! どうしてこうなるんだよぉぉッ!!"


317 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 21:02:01 OdO9VGzM0

 ウェイバーの未来には、奇しくも本来の彼が辿る道と同じように、見果てぬ暗雲が立ち込めていた。
 ただ一つそこに違いがあるとするならば、その暗雲に喜々として向かっていく王者の姿はそこにはないということ。
 あるのは微笑する魔星の姿だけだ。王者を引きずり下ろし、殺すことを渇望する復讐の星が一つ瞬いているだけ。
 自らを最強と自称する星の英霊を従えながら、或いは彼女に従いながら、ウェイバーはこの先を戦い抜くしかない。


「待ち遠しいぞ、ヴァルゼライド。全ての英霊を生贄にくべたその先で、この積年の恩讐は漸く果たされるッ」

 喜悦を浮かべて吐かれた言葉の意味は、ウェイバーには分からない。
 いや――理解したくもなかった。今はとにかく頭を抱えて、これからのことを考えなければならない。
 カードは配られ、自分は聖杯戦争を、この鼻持ちならないサーヴァントと共に乗り越えなくてはならないのだから。
  
 彼がどれだけ現状を嘆き、不満を吐き散らしても。
 豪快に笑ってそれを導く王の姿は――此処にはない。


【クラス】
アーチャー

【真名】
ウラヌス-No.ζ@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具B+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:A
 マスター不在でも行動できる。
 ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。


318 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 21:03:02 OdO9VGzM0

【保有スキル】
魔星:B
 正式名称、人造惑星。星の異能者・星辰奏者(エスペラント)の完全上位種。
 星辰奏者とは隔絶した性能差、実力差を誇り、このスキルを持つサーヴァントは総じて高い水準のステータスを持つ。
 出力の自在な操作が可能という特性から反則的な燃費の良さを誇るが、欠点としてアーチャーは、その本領を発揮していくごとに本来の精神状態に近付いていく。本気を出せば出すほど、超人の鍍金は剥がれ落ちる。
 また魔星は人間の死体を素体に創造されたいわばリビングデッドとでも呼ぶべき存在であり、死者殺しの能力や宝具の影響をモロに受ける。

復讐者:D
 魔星として起動する前、自分を玩弄し辱めた"とある人物"への憎悪。
 彼女はかの英雄を殺す為ならば、いかなる犠牲も厭わない。

忘却補正:C
 時がどれだけ流れようとも、彼女の憎悪は決して晴れない。
 英雄に死を。無惨な幕切れを。己の味わった屈辱に釣り合うだけの痛みを。
 アーチャーは英雄への憎悪を忘れない。自分にとって都合の悪い真実は目を背け、忘れ去ったまま。

超越者の傲り:B
 人間だった頃にアーチャーが持っていた貴種の傲りは、魔星に生まれ変わった瞬間から超越者のそれへと変じた。
 醜く憐れで救いようのない存在と人類種を侮蔑し、喜悦の色さえ浮かべながらそれを惨殺する殺戮者。
 軍事帝国アドラーに消えない傷痕を刻んだ"大虐殺"の実行者の片割れということも手伝って、アーチャーは人間と人属性の英霊に対して特攻効果を発揮できる。
 だがその効果は、彼女が不利に立たされれば立たされるほど弱まっていく。

【宝具】
『美醜の憂鬱、気紛れなるは天空神(Glacial Period)』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1000人
 凍結能力。あらゆるものを凍結させる星辰光。シンプルで分かりやすいからこそ隙が無い。
 攻撃範囲が非常に広く、作り出された氷河期の如き空間に安全圏は存在しない。
 無尽蔵に次々と生えてくる樹氷が周囲を凍てつかせ、降り注ぐ氷杭は着弾点から氷華を花咲かせる。
 絶対零度に等しい氷気を周囲に纏っており、彼女に近付くという行動自体が自殺行為に等しく、動きが少しでも止まればそれだけで四方八方からの串刺しに合う。造り出された氷塊は外気の影響を受けず、熱力学の法則を完全に無視している。
 多方面の性質に優れているため、どのような場面でも高い戦闘能力を発揮できるのが強み。
 
【weapon】
 なし

【人物背景】
 アスクレピオスの大虐殺と名付けられた、帝国史上類を見ない大虐殺を生んだ張本人。
 彼女は魔星と恐れられる鋼鉄のアストラル運用兵器だが、元はカナエ・淡・アマツという貴種の人間だった。
 選ばれた者として栄華の限りを尽くしたが、不当な弾圧と権力の行使を忌んだ改革派筆頭――後に英雄と呼ばれる男、クリストファー・ヴァルゼライドによって断罪され、投獄の身へと堕ちる。
 ……それから絞首されるまでの間、彼女はヴァルゼライドから憤死しかねない程の屈辱を味わされた。
 その怒りと彼に対する憎悪は、英霊となった今もアーチャーの脳裏に深く深く刻まれたままである。
 
 余談だが、ウラヌスはアヴェンジャーの適性を持たない。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯を手に入れ、クリストファー・ヴァルゼライドに復讐する。


【マスター】
 ウェイバー・ベルベット@Fate/Zero

【マスターとしての願い】
 聖杯を元の世界に持ち帰り、周囲に自分の優秀さを認めさせる。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 優秀と自負しているが、魔術師としての力量は平凡。この時点では一般人への暗示も失敗してしまうくらいに非才。
 しかし実践方面の才能がない代わりに研究者としての洞察・分析の能力は秀でたものがあり、テキストの読解や記憶にかけては時計塔でも便利な見習い司書として扱われていたほど。
 一流魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの教え子であるため、専門ではないが錬金術の心得もそれなりにある。

【人物背景】
 名門魔術師に対してコンプレックスを持つ、元時計塔の学生。
 師ケイネスに手渡される筈だった聖遺物を掠め取り、征服王イスカンダルを召喚。
 彼との出会いを通じ、大きく成長していく――それが本来の歴史における彼。
 今回は聖遺物を持ち逃げする前の時間軸から参戦しており、蹂躙の英雄は召喚できなかった。

【方針】
 聖杯戦争を勝ち抜く。……煩い煩い、勝つったら勝つんだよッ!!


319 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/21(土) 21:03:24 OdO9VGzM0
投下終了です


320 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:35:23 UWRimRNI0
続けて投下します。


321 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:35:50 UWRimRNI0


 ながい、ながいユメをみていたきがします。
 それはとてもわるいユメ。
 かなしい、くらいユメでした。

 ユメのなかのおかあさんはとてもからだがよわくて、わたしはずっとつきっきりでかんびょうしていました。
 がっこうにはいきたいけれど、おかあさんがだいすきなのでずっとそばにいます。
 わたしはそれでちゃんとしあわせなのに、おかあさんはいつもかなしそうな、さみしそうなかお。
 わたしがおかゆをもっていてあげると、おかあさんはベッドのなかでいつも、きえいりそうなこえでつぶやくのです。

 ごめんね、ごめんね。
 おかあさんのせいで、ごめんね。
 なんであやまるんだろうと、わたしはふしぎでした。
 わからないけど、おかあさんがわたしのせいでかなしいおもいをしていることだけはわかったので、わたしもかなしくなりました。

 それでもわたしはちゃんとしあわせでした。
 ともだちがいなくても、あそびにでたりできなくても、まいにちとてもしあわせでした。
 じゅうじつ……? だっけ。
 ことばのいみがあっているかはわからないけど、とにかくそんなかんじでした。

 おかあさんがいて、わたしがいて。
 たあいのないおはなしなんかしていると、あっというまにいちにちがすぎていきます。
 
 おかあさんはくすりがないとつらくなってしまうので、いつもおばあさんがつくってくれたくすりをのんでいます。
 おばあさんはもりにすんでいて、くすりがきれたときはおばあさんのいえまでとりにいきます。
 そのひも、いつものようにくすりをとりにいってきてほしい、といわれました。
 
 ひとりきりの、ちょっとしたぼうけん。もう、なれたものです。
 でもそのひ、わたしはおかあさんとのやくそくをやぶってしまいました。
 つんではいけないといわれているおはなを、ちょっとだけ、つんでしまいました。

 それが、いけませんでした。

 おばあさんをよろこばせたくて、おはなをつんだ。
 やくそくを、やぶってしまった。
 かみさまはそんなわたしをゆるしてくれませんでした。
 わたしはただしずかにおかあさんとくらしていられればよかったのに、それでぜんぶおかしくなってしまいました。
 
 オオカミは、おはなをつむわたしにやさしくこえをかけました。
 わたしはうたがいもせずに、オオカミとてをつないで、おばあさんのところまでいって。
 おばあさんのいえにはいって、すこしして、おおきな……とてもおおきなおとがして。

 みにいったときには、おばあさんはたべられていました。
 くすりをたくさんふくろにつめながら、オオカミがおばあさんをたべていました。
 わたしにきづいたオオカミは、ゆっくりと、わたしのほうへあるいてきます。
 こわくて、おそろしくて、ふあんで、ゆるせなくて――むがむちゅうで。

 わたしは。
 まっかに、なりました。
 オオカミをまっかにして、まっかになりました。


322 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:36:22 UWRimRNI0

 ……とても。
 とても、いやなユメでした。
 めがさめて、おかあさんがしんぱいそうなかおでそばにいてくれたとき、おもわずなきだしてしまいました。
 
 わるいユメのことなんてわすれなさいと、おかあさんはそういってくれました。
 わたしもそうすることにしました。
 ユメはユメです。げんじつでは、ありません。
 でもわたしはだめなこだから、そのユメのことをどうしても、わすれることができませんでした。


 そしてとあるひ、きがつきました。


 わたしとおかあさんのおうちに、オオカミが、あたりまえのようにかえってきました。
 あのユメでてをつないだときのようなやさしいえがおで、ただいまって、いいました。
 
 そのとき。
 わたしは、ぜんぶおもいだしちゃった。
 ちがうって。
 こっちが、ユメで。
 あっちがげんじつなんだって、きづいてしまった。

 わるいユメからは、すぐにさめなくちゃ。

 そうおもってわたしは、わたしは。
 ちかくにあった、おおきなおのを。
 ユメのなかでオオカミをまっかにしたそれを。
 えがおでちかづいてきたオオカミのあたまのうえから、
 うえから、うえから、あたまのうえから、オオカミを、お×うさんを、めがけて…………


 そのあとのことは、よくおぼえていません。
 

 わたしはおかあさんと、いっしょにいられなくなりました。
 ユメのそとでやさしくしてくれた先生も、いまのおうちにはいません。
 レティちゃんも、ジョシュアくんも、ステラちゃんも、アレンくんも。だれもいません。
 まだ、ユメはさめません。つめたい、くらい、いやなユメはおわりません。
 
 
 きょうも、アヒルさんだけがわたしのそばにいてくれます。
 わたしをげんきづけようと、いろんなたのしいことをしてくれます。
 どうかおしえてください、アヒルさん。
 わたしはもう、おかあさんのところにはかえれないのかな。
 先生やみんなのところにかえることは、できないのかな。

 
 ……ひとごろしだから、だめなのかな。


323 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:36:40 UWRimRNI0
  ◇  ◇

 
 ――スノーフィールド郊外の一軒家で、とある悲惨な事件が起きた。

 仕事から戻った父親の頭を、娘が突然斧で叩き割った。
 父親は即死。返り血を浴びた少女は、まるで"赤ずきん"のように、赤く、赤く染め上げられていたという。

 少女はあまりにも幼かった。
 法の下に罪を問うことが出来ないほど幼く、そして混乱していた。
 少女は児童養護施設に送致され、暫くは厳重な監視がついていたが、あまりにも大人しいためにそれも日に日に緩んでいった。
 心に大きな傷を負っている。何らかのトラウマがフラッシュバックして、突発的な凶行に及んでしまった可能性がある。
 彼女を問診した精神科医はそう言ったが、しかし誰も、彼女のトラウマを突き止めることは出来なかった。

 親殺しの少女の名前を、チェルシーといった。
 チェルシーのポケットには今も、一枚の白紙のトランプが入っている。
 悪夢の世界へ彼女を導いた切符は、相変わらず真っ白なままで、そこにあり続けていた。


324 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:36:59 UWRimRNI0
  ◇  ◇


「ヘヘ、見ろよチェルシー! 僕はこんなことも出来るんだぜ!!」

 チェルシーへの監視は、事件当初に比べれば大分緩んでいる。
 それでも万一があってはいけないと考え、施設は彼女に個室を与えていた。
 チェルシーはほとんど一日中、与えられた部屋の中でじっとしている。
 クマのぬいぐるみを抱き締めて、誰かと遊ぶこともなく、一人で過ごしている。

 にも関わらず、耳を澄ますと時々クスクスという笑い声や、少年の声が聞こえてくることを知る者はいない。
 他の子供達の間では怪談めいた噂として語られていたが、大人達は子供の妄想と一笑に伏してしまっていた。
 だが現にこうして、部屋の中には彼女のものではない声が響いている。
 声の主は――奇妙な姿の少年だった。アヒルのような嘴のある、恐らくチェルシーより更に幼いだろう少年。

「次はそうだなあ……コポルク、って唱えてみろよ」

 呪文のような言葉。
 言われるがままに、チェルシーはそれを唱える。
 そんな彼女の手には、黄色く分厚い一冊の本が握られていた。
 チェルシーの声が呪文をなぞると同時に、それはかあっと発光する。そして――

「! ……あ、アヒルさん!?」

 嘴の少年……"アヒルさん"の姿が、急にチェルシーの目の前から消えた。
 どこに行ってしまったんだろうと慌てるチェルシーの下から、「へへ、僕は此処だぜ!」と声がする。
 視線を落としたチェルシーは、目を見張って驚いた。
 なんとそこでは他でもない"アヒルさん"が、親指ほどのサイズにまで縮んで手を振っていたからである。
 チェルシーの家にもたくさんの絵本や童話本はあった。 
 魔法使いや優しい小人の存在に憧れたことはあるし、今でも"居たらいいなあ"くらいには思っている。
 それでもそういう存在はユメの中にしか居らず、現実には存在しないのだと、チェルシーは当たり前の常識として承知していた。

 だが、此処は現実の世界ではない。
 チェルシーが迷い込んでしまった、悪いユメのセカイ。
 だから、こういうこともあり得るのだろう。
 何にでも化け、体を縮めて小人になれる――そんな存在が居たって、ユメなんだから何もおかしくはない。

「アヒルさんはすごいね……! まほうつかいみたい」
「そりゃそうさ。なんたって僕はすげー大変な戦いで最後の方まで勝ち残った超スゲー魔物なんだからね」
「まもの……? ……それって、わるいひと?」
「ん〜、魔物にもいろんなやつが居るんだ」  

 チェルシーの読んだ本の中では、魔物という生物は大体悪者として扱われていた。
 実際、人間の書物で彼らを凄い善人と褒め称えた作品はそうないだろう。
 だからつい、そんな疑問を口にしてしまう。
 気を悪くしてしまうかなと言ってから後悔したが、"アヒルさん"は少し考えてから、どこか懐かしげに語り始めた。

「悪いやつも居たよ。他人を苦しめて喜んだり、力を使って散々悪さをしたり。
 中には魔法で石にされた魔物を脅して怖がらせて、自分の言うことを無理矢理聞かせてたやつも居た」


325 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:37:22 UWRimRNI0
「こ……こわいんだね……」
「でも、良いやつもたくさん居るんだぜ? そうだなあ、例えば――」

 "アヒルさん"がチェルシーに話してくれたのは、彼の友達の話だった。
 チェルシーは、"アヒルさん"が昔大変な戦いに身を投じていたことを知っている。
 臆病で人付き合いの苦手な彼女は言うまでもなく喧嘩が嫌いだが、"アヒルさん"の経験したという戦いは、ただ辛くて悲しいものではなかったらしい。
 彼が直接そう言ったわけではない。それでも、表情を見ればそのことが伝わってきた。
 彼はとても嬉しそうに、過去の戦いのことを話す。アヒル嘴を笑みの形に緩ませて、どこか遠いところを見つめながら。

 "アヒルさん"は結局、その戦いで勝つことは出来なかった。
 勝って"魔界の王様"になることは出来ず、志半ばで魔界に帰る羽目になってしまった。
 王様になったのは、彼の友達だったという。
 強いのは確かなのにどこか間抜けで、幼く、お人好し。
 やさしい王様を目指すと言って憚らず、何度も血だらけになりながら戦って、戦って、戦って――
 ……結局その友達は、自分の願いを叶えた。やさしい王様になって、やさしい魔界を作り上げた。

「……とにかく、そんなやつも居るんだ。人間じゃないからって、皆が皆悪いやつってわけじゃない。それともチェルシーは、僕のことを悪いやつだって思うのかい?」
「! そ、そんなことないよ……! アヒルさんがきてくれてから、わたしはまいにちたのしいから……」

 嘘偽りのない、チェルシーの本音だった。
 事件があって塞ぎ込んでいたチェルシーの前に、"アヒルさん"は突然現れた。
 彼はチェルシーに自分の持っていた本を渡し、そこに書いてある言葉を読み上げさせた。
 すると、どうだ。彼の姿が目まぐるしく変わる。時には物に、時には人に。
 まるでサーカスでも見ているような驚きと愉快さに、気付けばチェルシーは笑顔になっていた。
 この悪いユメの中で、彼だけがチェルシーの味方であり、友達だった。

「――なあ、チェルシー」

 顔を赤くして俯くチェルシーに、"アヒルさん"が突然改まって口を開く。
 その声色はいつになく真面目なもの。彼らしくもない、真剣なものだ。

「チェルシーはさ……何か叶えたい"願いごと"ってあるかい?」
「ねがい、ごと……?」
「何でもいいんだぜ。お金持ちになりたいだとか、それこそお姫様になりたいだとか。一個くらいあるだろ?」

 問われたチェルシーは考える。
 願いごと。叶えたい、夢。
 別にお金が欲しいと思ったことはない。
 お姫様に憧れたことはあるけれど、なりたいってわけじゃない。
 今とは違う自分になれるのなら、"アヒルさん"のような魔法使いになりたい……でも。
 一つだけ願いが叶うというのであれば、チェルシーの答えは一つだった。

「………かえりたい」

 此処は、チェルシーにとっての現実じゃない。

「そうしたら、アヒルさんとはおわかれになっちゃう。でも……ごめんなさい。それでも、わたしはここにいたくないの」

 現実の世界にも、嫌なこと、思い出したくないこと、たくさんあった。
 でもチェルシーの大好きなお母さんや、気遣ってくれた先生、友達なんかは全員"あっち"にしかいない。
 このスノーフィールドにもしも彼らが居たとしても、それはユメの世界が作り出した偽物だ。
 そんな世界で、セカイでずっと暮らすなんて嫌だし、間違っているとチェルシーは思う。
 だから、帰りたい。この悪夢(アリス・メア)を抜けて、あの現実に。
 少女の切なる声を聞いた"アヒルさん"は、静かに頷いた。
 そしてまた、いつも通りの顔で笑うのだ。
 その顔だけが、一人きりのチェルシーを安心させてくれる。笑わせてくれる。


326 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:37:41 UWRimRNI0


「じゃあ、僕が連れてってやるよ」


 彼はチェルシーにとってのヒーローだった。
 見た目はかっこよくはないし、むしろかわいい方。
 お調子者ですぐ得意になるけれど、彼もまた心のやさしい魔物だ。
 
「帰ろうぜ、こんなトコはさっさと抜けて。それまでこの僕が、チェルシーをちゃんと守ってあげる」
「アヒルさん……」
「だってそれがチェルシーの願いごとなんだろ? だったら叶えなくちゃ。それが今の僕のやるべきことなんだから」

 "アヒルさん"は、ユメの世界に迷い込んだアリスを導く案内人ではない。
 サーヴァント・キャスター。魔術師のクラスをあてがわれた、英霊の座より来たる者。
 それが彼。願い抱く旅人にとって彼らサーヴァントは兵器であり、道具であり、望むなら友達にもなり得る存在だ。
 臆病な赤ずきんは、友達であることを選んだ。キャスターもそれを受け入れた。だからその願いはちゃんと叶える。

「チェルシー。このセカイは、楽しいことより辛いことの方が多いんだ。
 ただ帰るって言っても、そこまでの間に絶対戦わなきゃいけない場面がある。ケンカするよりもっと怖い、戦いが」
「……っ」
「チェルシーは弱虫だからきっと耐えられなくなって、泣くこともあると思う。
 でも、諦めることだけは絶対にしちゃダメだ。諦めたら、もう前に進めなくなっちゃうから」

 彼の言う通り、チェルシーは弱虫だ。
 体も心も、決して強くはない。
 激しい戦い――聖杯戦争の中で、何度も泣いて、震えて、弱音も嫌ってほど吐くだろう。
 それでも諦めるなと、彼は言う。それはチェルシーにとって、とても難しいことだった。

「でも……わたしに、できるかな。わたし、アヒルさんみたいにつよくないよ。
 さいごまであきらめないなんてこと、わたしに――こんなわたしに、できるのかな」
「簡単さ。歌を歌えばいいんだ」

 絞り出すようなチェルシーの吐露に、"アヒルさん"……キャスターは胸を張ってそう言った。誇らしげだった。

「うた……?」
「そう、歌。痛くて、苦しくて、諦めそうな時に歌うんだ」
「うたえば、あきらめないでいられるの?」
「もちろん。これはね、僕の大好きなヒーローの歌なんだぜ」

 キャスターの言うヒーローは、無敵の超人などではない。
 普通の人間だ。ただ人より少し打たれ強いだけの、人間。
 それでもキャスターは、英霊の座に祀り上げられた今でも、彼のことを無敵で最強のヒーローだと信じている。
 困っている時に必ず助けに来てくれる彼は、このセカイ――スノーフィールドにはいない。


327 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:38:00 UWRimRNI0
 
「手をこうやって腰に当てて、もう片方の手をこう振り上げながら歌うんだ。最高にカッコイイヒーローの特別な歌なんだから、よ〜く覚えとくんだぜ」

 彼が居なかったなら、キャスターはきっと、英霊の座に登録されるような"強い魔物"になることはなかっただろう。
 情けなく、無様に、何も残せずに敗北して魔界に送り返されていたのがオチだ。彼と出会えたから、そうはならなかった。
 泣いている時は前に立ってくれる。手を引いてくれる。
 道を踏み外した時は体を張って止めてくれる。父親のように強い瞳で、キャスターのことを見据えながら。
 これは、そんなヒーローの歌。間抜けでも、阿呆らしくても。どんな宝具よりも力強くキャスターを支えてくれる勇気の歌。

「鉄のフォルゴレ〜♪ 無敵フォルゴレ〜♪」

 歌詞に深い意味なんてない。ただ、とある人物を礼賛しているだけの歌。
 チェルシーは当然その男のことを知らないし、一瞬ぽかんとした顔さえしてしまった。
 それでも――何故か、その歌は心の奥をぽかぽかとさせてくれる暖かい響きに満ちていて。

「てつの、フォルゴレ……」

 気付けばチェルシーも、キャスターと一緒に口ずさんでいた。
 パルコ・フォルゴレ。それはキャスターがかつて戦いのために訪れた人間界で、一世を風靡していた国際的スターの名。
 そして――キャスターのサーヴァント・キャンチョメと共に魔界の王を決める為の戦いを駆け抜けた戦士の名。


(……見てるかい、フォルゴレ。僕はあれから色々あって、とうとうこんな戦いにまで呼ばれちゃったよ)

 思いを馳せる。
 別れて久しい、遠い世界のパートナーに。
 正直な話、キャンチョメもチェルシーのことを言えた柄ではない。
 サーヴァント同士の殺し合いなんて恐ろしいものに巻き込まれて、内心ではガタガタ震えたい気持ちでいっぱいだ。
 それでも、こんな小さくて弱々しい女の子が帰りたいと願っているのに、それを知ったことかと蹴飛ばすのは男のやることじゃない。
 フォルゴレならば、絶対にそんなことはしない。

(でも、この子と行けるところまで行ってみようと思うんだ。だから……見守っててくれると嬉しいな、フォルゴレ――)

 悪夢から覚める為に、白い道化師は優しい夢を演ずる。――此処に、弱虫同士の冒険譚が幕を開けた。


【クラス】
キャスター

【真名】
キャンチョメ@金色のガッシュ!!

【ステータス】
筋力E 耐久D++ 敏捷D+ 魔力A 幸運B 宝具A++

【属性】
秩序・善


328 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:38:19 UWRimRNI0

【クラススキル】
陣地作成:-
 キャスターは魔術師ではない為、このスキルを持たない。

道具作成:-
 キャスターは魔術師ではない為、このスキルを持たない。

【保有スキル】
魔物の子:A
 人間界とは異なる世界、『魔界』で生まれ育った魔物の子供。
 キャスターの場合、口元にアヒルのような嘴が生えている。
 一般に、普通の英霊よりも多くの魔力を保有する。

発想力:C
 柔軟な発想力を発揮し、目の前の物事に対処することが出来る。
 彼はお世辞にも真っ当に強い英霊ではないが、この発想力が自身の術と噛み合った時、予期せぬ力を発揮する。

記憶の中の英雄:A
 遠い日に、遠い世界で出会った英雄(ヒーロー)の記憶。
 それを思い出して力を込めるだけで、キャスター・キャンチョメは痛みを堪えて立ち上がる。
 泣きながら、泥に塗れながら、変テコな踊りに乗せて声を張り上げる。
 そうすればほら、いつかのあの歌が聞こえて――

【宝具】
『黄の魔本』
 ランク:D 種別:対人宝具(マスター/自身) レンジ:- 最大補足:-
 キャスターは魔界の住人キャンチョメとしてではなく、人間界で勇敢に戦った魔物キャンチョメとして召喚されている。
 その為彼が自分の呪文を行使するには、マスターがこの本を持ち、呪文を唱えるという行程が必要となる。
 マスターの裁量で自由に呪文は唱えられるが、無限に打てるわけではなく、魔力ともまた違った『心の力』と呼ばれるエネルギーが切れてしまうと回復しない限り呪文を使うことは出来なくなってしまう。強力な術になればなるほど、この心の力の消耗も大きくなっていく。
 そして何よりの欠点が、この宝具の焼却――破壊はキャスターの消滅に直結する。この消滅はどんな方法でも防げない。


329 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:38:52 UWRimRNI0

『白の虚構劇場(シン・ポルク)』
 ランク:A++ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~30 最大補足:300
 キャスターの持つ術は全て『黄の魔本』に搭載されているが、この術のみは個別の宝具として扱われる。
 彼の最大呪文で、作中のとある人物には「魔物同士の戦いにおいて最強の呪文」とすら称された強大な術。
 自由な姿の変形、幻の作成、敵の脳への干渉。これらの要素を組み合わせ、相手と空間の認識を支配する。
 幻による風景の変更、攻撃された錯覚による肉体的ダメージ、異能の消滅に始まり、相手が人間であれば命令を下すことで特定の行動を強制したり、動きを縛ったりすることも可能。幻覚ならばと目を閉じたところで、彼が攻撃したところから脳に情報が送り込まれてしまい、結局は苦痛を感じる羽目になる。
 ただしあくまでも精神攻撃のため、彼が術を解けば多少の怪我と疲労感は残るが、術中ほど大きなダメージは残らない。
 それでも過度な攻撃と苦痛を与え続ければ、傷は消えても精神の崩壊を引き起こす危険性は存在する。
 相手によっては完封すら出来てしまう強力な宝具だが、彼自身を実際に強化する効果はない為、術の効果による撹乱を掻い潜って本体に物理的ダメージを与えられればそれは通ってしまうという弱点も持つ。

 かつて彼はこの力に溺れ、非道な獅子となった。
 それでも、今の彼がまたその姿を象ることはきっとないだろう。
 彼の心に、世界一カッコイイヒーローとの思い出が残っている限り。

【weapon】
 なし

【人物背景】
 魔界の王を選定する百人の魔物の子の戦いに参加させられた内の一人。
 とても臆病なお調子者だが善の心を持っており、戦いの中でめきめきと成長していき、終盤まで勝ち残った。

【サーヴァントとしての願い】
 チェルシーをお母さんのところまで帰してあげる。


【マスター】
 チェルシー@Alice mare

【参加方法】
 部屋にあったトランプのなかに、偶然紛れ込んでいた白紙のトランプに触れた。

【マスターとしての願い】
 かえりたい。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 特筆したものは持たない。

【人物背景】
 臆病で泣き虫な赤ずきん。
 でも、その赤は。
 必ずしも、望んで被った赤じゃない。

【方針】
 たたかいたくない、こわい、でもがんばらないと――


330 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/01/22(日) 17:39:20 UWRimRNI0
投下終了です。


331 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/22(日) 23:19:10 2H.AN15I0
皆様、ご投下ありがとうございます!
ご無沙汰しております。今回は当企画の登場話コンペ期間の締め切りを通知したいと思い参りました。

募集の締め切りは、今月29日日曜日の、23:59:59を予告させて頂きます。

>>1の日程調整が失敗するなどあれば、また実際の締切日を変更することもあるかもしれませんが、一先ずはほぼ確実にこのご予定と思って頂ければ幸いです。
なお、感想は今回も遅れています。大変申し訳ございません。必ず全候補話にご用意させて頂く所存ですので、どうか長い目でお待ち頂ければと思います。


332 : 名無しさん :2017/01/22(日) 23:46:41 jiU0tacw0
>>331
期限設定了解しました


333 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:21:21 /kYnTwy60
投下します


334 : 黄金の悪魔はどうやって参加したのか ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:24:58 /kYnTwy60
 ランサーは膝をついた。吐き出された血反吐が、眼下を赤く汚す。血まみれの手が、土色の地面に赤い手形をつける。スノーフィールドの北に位置する渓谷へと続く土色の道路は、やりあう前までは整然と舗装されていたが、今となっては至るところが抉れ、乱れ、血に汚されている。この場所で敵のサーヴァントとの戦闘に入り、そして、先に折れたのは、ランサーの方だった。
 元来所持していた宝具たる槍は、ランサーの手元にはすでにない。両手を地面について体を支えながら、ランサーは顔を上げた。敵のサーヴァントが、傷ひとつ負わぬまま、悠然と歩を進める。敵は、その体を、淡い月明かりを反射させてきらめく黄金の装甲に包んでいた。街灯ひとつない夜の荒野に、禍々しく輝く赤の瞳が揺らめいている。クラスはわからない。その手には、ランサーが振るうべき宝具が握られていた。
 
「まあ、試運転としてはこんなところか」
「試運、転……だと」
「そうさランサー。貴様は言わば、このわたしの性能をつまびらかにするための研究材料に過ぎん。そういう意味では、今回の目的は概ね果たしたと言えよう。ふっふふ……貴様は、まあ、よぉく戦った方だよ」

 頭上から降り注ぐ敵サーヴァントのあざけりを聞いても、今更ランサーが怒りで頭に血を上らせるということはなかった。いかに笑われようと、いかに侮蔑されようと、敵との間に開いた戦力差はいかんともしがたい。
 敵はランサーの眼前の地面に、ランサーの槍の切っ先を突き立てた。

「せめてもの情けだ。それを使って、わたしに一矢報いてみたまえ」
「き、さま」

 振るえる手で槍の柄を握るが、自力で体を起こすだけの体力は最早残っていない。突き立てられた槍を杖代わりに身を起こすが、今度は黄金の装甲で覆われた敵の脚が、救い上げるようにランサーの胴を蹴り上げた。胴体がくの字に折れ曲がる。蹴り飛ばされたランサーは、受け身すらまともに取れずその身を地べたに転がされた。

「さっさとしろこのグズがッ!」

 低い声で、敵が怒鳴った。最前まで笑っていたことが嘘のようだった。
 戦乱の世を生き抜いてきたランサーだが、このような屈辱を味わったことは、生前にはなかった。怒りよりも、自身の情けなさが先に立つ。背後に控える主人を守ることもできず、こんな外道を相手に敗北するしかできない自分を呪った。
 首を捻って、ちらと後方へ視線を送る。此度の聖杯戦争において、ランサーのマスターに選ばれた少女が、大きくぱっちりとした可愛らしい瞳を赤く充血させて、逃げずにランサーの戦いを見守っている。その顔を見た時、ランサーは己の義務を思い出した。最前まで敵と戦力差による絶望に満たされていた心に、胸を内側から熱くさせる感情が宿る心地だった。
 もう一度、槍を地面に突き立てた。傷付いた体を無理矢理起こして、ランサーは構えを取った。過度な傷によって感覚は一周して、もはや痛みという痛みは感じなかった。ただただ体が重い。

「マス、ター……お逃げ、ください。あなたが逃げるだけの時間は、わたしが、稼ぎます」
「おいおい、そんな体で、まだ自らの主人を護り抜くため戦おうというのか? まったく、これだから力量の差を理解できんバカは始末におえんのだ」
「なんとでも、言え……わたしは、主を守る騎士。この身を盾としてでも、主は……主だけは、護り抜く」

 体が急に軽くなった。傷の痛みも、重さも感じない。体の内側、四肢の末端まで、一斉に励起した魔力が行き届く。ランサーは察した。マスターが、令呪を使ったのだ。それも、一画どころではない、この分ならば、二画か、或いは三画一気に使われた可能性すらある。


335 : 黄金の悪魔はどうやって聖杯戦争に参加したのか ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:25:39 /kYnTwy60
 
「マスター」

 愚かな判断だと、ランサーは思う。ここで令呪を残して離脱すれば、あわよくばマスターを失ったはぐれサーヴァントと再契約するという選択肢もあったのに、おそらくあの少女は、その選択肢を思い浮かべてなお、ランサーのために令呪を使うという判断に至ったのだ。それだけ信頼されている。応えないわけにはいかなかった。
 宝具を解放し、槍へと魔力を循環させる。神秘の輝きを纏った槍が、大気を震わせる。膨大な魔力が槍に集中し、溢れ出した光輝がオーラとなってゆらめく。槍を振りかぶった。
 敵が、己のベルトに備えられた鍵を捻った。車のエンジン音を連想させる駆動音が鳴り響く。敵の胸部装甲に装着されていた円環が、黄金の光を放出した。

「なっ……に」

 宝具の発動条件を満たし、あとは投擲するのみという状態だったランサーの宝具が、敵の放った光に触れると同時、宝具という存在そのものが掻き消された。データ情報にまで分解されたランサーの宝具が、敵の手元へと移動する。敵の手に渡った槍が、ランサーの魔力を宿したまま元通りの形へと再構築された。

「ふ、ぁ、は、は、あっはっ、はっはぁ! 言ったはずだぞランサぁああ、わたしはこのネットワーク世界の神にも等しいとォ!」
「ば、か……な」

 一度目と同じ手順で、ランサーの宝具が、敵に奪われた。
 敵が槍を振りかぶった。敗北を悟ったランサーは、最後に後方を振り返った。少女は、その大きな瞳から涙を零して、ランサーを見つめていた。

 ――逃げて。

 口元をそう動かして、最後のメッセージをマスターへと送る。ここでランサーが敗れることは必定だが、今ならばまだ、逃げおおせる可能性は十分にある。
 敵が放った槍の宝具が、ランサーの視界を通り過ぎていった。魔力の輝き迸る槍の切っ先が、少女の上半身を消し飛ばした。断末魔の声すらあげることなく、少女の半分になった体は、はじめ膝から地面について、最後にはどさりとその場に倒れ付した。

「え」

 ランサーは、自分が今見ているものが、理解できなかった。ランサーが命を懸けてでも守ろうと誓った少女は、その腰から上を消滅させている。傷口が此方に向けられている。瞬間的に迸った魔力の熱量によって、傷口は焼かれている。一拍おいて、内側から内蔵が溢れだした。血液が、あとからあとからじわじわと流れでてゆく。
 そこには、あの可愛らしい少女の面影は、もうなかった。透き通るようなブロンドの髪も、大きな青の瞳も、少しそばかすのある愛嬌のある顔も。少女を思い出させるものはすべて消し飛んで、遺されたのは腰から下の、下半身だけだった。やがて、筋肉の支えを失った少女の股下から、透明の液体が溢れ出した。
 今やあの少女は、血と、尿とにまみれた下半身でしかない。遅ればせながら、ランサーはそれを理解してしまった。


336 : 黄金の悪魔はどうやって聖杯戦争に参加したのか ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:26:01 /kYnTwy60
 
「あ、ああ……そんな……嘘だ、なぜ……どう、して」
「あっは、ふふ、ンふふぁあは、ふはっ……ランサぁああ、心配するな。ただ、おまえのマスターが死んだだけじゃないか……、あぁ――」

 あぁ、と。
 心底から感動したとでも言わんばかりのうっとりとした声音で、敵が恍惚の声を漏らした。

「――あぁあ、あァーっはっはっはっはっはぁ! あーっはっはっはっは! ふぅは、ふぅぁあはぁははは、ふひぁ、ふっ、ふふっ……ふひゃ、はァーーッはっはっはっはっへぇあっ、は、あはははははははッ!!」

 耳を聾する哄笑が、夜の荒野にこだまする。
 なにがそんなにおかしいのか、なにがそんなに面白いのか、ランサーには、微塵も理解できない。ただ、敵はその黄金の装甲で月光を一身に受け止めるように、大胆に両腕を広げて、狂ったように笑っている。
 だが、ランサーはもう、敵のサーヴァントがなにを考えているのかとか、どうしてランサーではなく、戦う力も持たぬ少女を殺したのかとか、そんなことはどうでもよかった。もう、なにもかも、どうでもよかった。あの優しい少女のことを思うと、胸に宿っていたあたたかな感情が一挙に沸騰して溢れ出し、激しい熱を持った感情が、ランサーのあらゆる思考を押しつぶしていった。理性が、意識が、押し寄せる感情の洪水に抗う術を持たず、水面下へと沈潜してゆく。代わりに浮き上がってきたのは、あれだけ侮蔑されてもついぞ抱かなかった、汲めども尽きぬ激しい怒りだった。

「貴様だけは……貴様だけはァァーーーッ!」
「ははははは、怒ったかランサー! いいぞ、わたしはもう目的を果たした! 最後の仕上げだ、貴様にはこの場で消えてもらおう!」

 怒りの熱に焦がされ駆け出したランサーを、敵の腕から放たれた黄金に輝く光弾が迎え撃つ。もはや、回避をしようという考えはなかった。腕を胴を、片口を、光弾に穿たれ、纏っていた鎧が弾けてなお、ランサーは止まらなかった。瞬く間に敵との距離を詰めたランサーは、再度手元に具現化させた槍で敵の首を薙ぎ払わんと振るうが、敵は最小限の動きで身を屈めて回避した。飛び込んだ勢いも止まらぬうちに、敵の拳がランサーの顔面へと二連続で叩き込まれた。一瞬怯んだランサーの胴に、強烈な前蹴りが叩き込まれた。血反吐を吐いて、ランサーの体は後方へと吹っ飛んでいった。

「ふぁっはっはっはっははははァ……これで終わりにしてやるぞ、ランサぁぁあぁぁ」

 敵が、ベルトのエンジンキーを再度捻った。車の走行音にも似た駆動音を響かせて、敵の脚が黄金の光を放つ。仮面の大部分を締める赤の複眼が禍々しく発光する。足元から溢れ出る輝きに照らされて、敵の黄金の装甲が煌めいているように見えた。
 飛び上がった敵の脚が、ランサーの胴体へと突き刺さった。霊基ごと蹴り砕かれたランサーの体が、金の粒子となって消滅してゆく。ランサーは最期に、短い時をともに過ごしてくれたマスターの名を呟いた。


337 : 黄金の悪魔はどうやって聖杯戦争に参加したのか ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:26:34 /kYnTwy60
 


 ランサーの霊基が完全に消滅したのを見届けたゴルドドライブは、無残にも下半身のみの姿と化した少女の亡骸に、その赤い複眼を向ける。一応、聖杯戦争のルール上、サーヴァント同士の争いの痕跡は秘匿しておくに越したことはない。遺体は消しておいた方がよいのだろうとは思うが、今はどうにも気が向かない。初陣で自らの性能を確かめたことで、ゴルドドライブは既に満足していた。内から込み上げる多幸感が、煩わしい作業を拒否している。
 結局、ゴルドドライブは少女の遺体をその場に放置したまま、この場を立ち去ることにした。遺体が放置されていたからといって、それが直接サーヴァント戦によるものだという証拠にはならない。必要でない作業をすすんでやる気は起きなかった。そういう不要な作業は、明日にでも適当な者がやっておけばよい。少なくとも、自分の仕事ではない。

「まったく、マスターなど所詮はただの駒に過ぎんというのに……不要なものを守ろうとするから不要な作業が増えるのだ。この世にはそれがわからんバカどもが多過ぎる」

 ゴルドドライブにマスターはいない。
 正確には、いた。名も知らぬ参加者が、この聖杯戦争における本来の記憶を取り戻して、ゴルドドライブの――蛮野天十郎の人格を宿したベルトを召喚したのは、昨日の話だ。キャスターのクラスをもって、ベルトの姿で限界した蛮野は、言葉巧みにマスターを誘導し、自らを装着させた。あとは、ゴルドドライブへの変身を遂げると同時に、蛮野の人格がマスターだった者の人格データを上書きすることで、蛮野は自らの身体と、マスターの権利の両方を手に入れた。
 ゴルドドライブの金の手甲には、赤の令呪が浮かんでいる。令呪の使用権も、他者に委ねる必要はない。ゴルドドライブが、自分の意思で、自分のためだけに令呪を使うのだ。それで令呪が尽きたなら、適当に他のマスターの身体を乗っ取って、この身体を捨てればよい。魔力が枯渇した場合も、同様に身体を乗り換えればよい。ゴルドドライブにとって、マスターなどその程度の存在でしかなかった。


338 : 黄金の悪魔はどうやって聖杯戦争に参加したのか ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:27:01 /kYnTwy60
 
「ふふ……ふふふふふぁはははははっ、月のムーンセルといえども所詮はデータ世界ッ! この世界においてわたしは無敵だ!」

 マスターも、必殺の宝具も必要ない。必要なものは奪う、それだけだ。
 この世界がデータである以上、データ生命体であるゴルドドライブの支配下においてしまえば、逆らうことはできない。その特性を理解しているからこそ、ゴルドドライブは嗤う。

「誰にもわたしは止められない! 世界がわたしの足元に跪くその日までッ!」

 夜の荒野に、ゴルドドライブは吠えた。誰もいない夜の闇に、ゴルドドライブの高らかな哄笑が吸い込まれていった。


 
【出展】仮面ライダードライブ
【CLASS】キャスター
【真名】ゴルドドライブ=蛮野天十郎
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C+ 耐久B+ 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具A
(※変身後のステータス)

【クラス別スキル】
陣地作成:C
 魔術師として自らに有利な陣地な陣地、小規模な「工房」を作成可能。
 最低限の資材さえあれば、そこが何処であろうと研究所として扱うことができる。

道具作成:A
 機械生命体『ロイミュード』ほか、様々な兵器を開発した才能。
 資材さえ揃えばあらゆる兵器・道具を開発できる。ただし、新規の『ロイミュード』を作成することはできない。

【保有スキル】
単独行動:EX
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 彼の場合、ベルトさえ無事ならばいつまでも現界していられる。

変身:A
 自身を装着した対象の人格データを、自らの人格データで上書きし、邪悪なる戦士、ゴルドドライブへと変身させる。
 ゴルドドライブへの変身後は、基本的には元の人格は消失するが、対魔力を持つものや、強靭な精神力を持つもの、強力な神秘の加護を受けているものには効力が薄く、仮に身体を乗っ取ったとしても、完全な支配下にはおけない。

超重加速:B
 超進化態が発生させる重加速領域を自由に行動できる。
 彼の場合、自ら重加速を発生させることはできないが、空間に作用する時間干渉能力の影響を受けず、超低速化した空間の中でも活動可能。ただし、低速化の度合いによって効果は落ちるため、時間が停止してしまう程に低速化した空間内では、それなりに動きも鈍る。

ネットワーク世界の神:A
 蛮野天十郎は長年データの世界に潜み続けた。
 対象のデータ・プログラムを任意に書き換えることができる。具体的には、ダメージを負った人間を一度データ情報にまで分解し、傷を負っているという情報、或いはバッドステータスに纏わる情報を削除して、健全な状態で再構築する。
 また、対象が機械であれば、支配権を奪って操るだけでなく、任意の改造、または悪性プログラムの埋め込みなど、あらゆる面での操作を行うことができる。


339 : 黄金の悪魔はどうやって聖杯戦争に参加したのか ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:27:56 /kYnTwy60
 
【宝具】
『黄金の簒奪劇(ゴルドコンバージョン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜10
 戦闘した仮面ライダーたちの武器や道具を分解し、自らの武器として再構築したという逸話を、ムーンセルによって再現された電脳世界専用宝具。
 ベルトのイグニッションキーをひねることで、タイヤから特殊な波動を放ち、この波動に触れた武器・宝具をデータ情報レベルにまで分解し、自らのものとして分解時の情報を再構築することで、任意の武器を奪い取る。宝具の発動シークエンスに入っている状態で発動すれば、そのまま奪い取って宝具として使用することも可能。
 ただし、この宝具は科学による宝具である。神秘を伴う宝具を奪った場合、その神秘まで再現することはできず、本来得られる筈だった加護や威力は大きく低下する。

【Weapon】
・バンノドライバー
 クリム・スタインベルトが開発したドライブドライバーのデータを盗むことで開発したゴルドドライブへの変身ベルト。このベルトに宿った蛮野天十郎の意思が、キャスターとしてのサーヴァント本体。実質的にベルトが本体。
 ベルト単体でも光弾や触手で攻撃することができるほか、自らのスキルで機械を操作して攻撃に転用することも可能。
 ただし、ゴルドドライブの本体がこのベルトである以上、ベルトが破壊されればその時点で蛮野天十郎の意識は消滅し、敗北が決定する。

【人物背景】
 機械生命体『ロイミュード』を生み出した天才科学者でありながら、グローバルフリーズに始まるすべてのロイミュード事件の元凶たる黒幕。
 蛮野天十郎本人はロイミュードの反乱の際に死亡したとされていたが、実際には自らの人格をプログラムとしてコンピュータの中で生き続けていた。

 非常に利己的で、家族ですら自分の駒としてしか見ていない。自分の思い通りにならないものはなんであろうと気に食わず、生前、蛮野への出資を断った実業家への鬱憤晴らしのため、自らの生み出したロイミュードに実業家の姿をコピーさせ、拷問にかけるなどといった陰湿さを秘めている。
 さらに、自分以外のすべての人間を完全に見下しており、世界は自分のものだとまで言い切っている。その一方で前述の実業家やクリムが蛮野を見限ろうとした際には情けなく追いすがるなど、傲慢で身勝手ながら、その実矮小な人物であったことが伺える。

 最終的な目的は、全人類をロイミュード同様にデータ化して自分が統制者として管理し、世界を自分の支配下に置くこと。


340 : 黄金の悪魔はどうやって聖杯戦争に参加したのか ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:28:22 /kYnTwy60
 
【基本戦術、方針、運用法】
 ゴルドドライブには、マスターが存在しない。その代わり、本来マスターが行使できるあらゆる権利を、自身が有していることが強みである。
 マスター不在でもベルトが存在する限り限界し続けていられる特性を活かして、都合が悪くなったマスターからは早々に手を切り、他のNPC、またはマスター・サーヴァントの身体を奪い取ってゴルドドライブの姿を保ち続ける。
 同様に、宝具とよべる武器も持たないが、それは対戦相手から奪い取ればいいだけである。敵の宝具を封じ、自らの武器と変える点は非常に悪質と言えよう。
 たとえ戦闘が不利な状況に転んでも、離脱さえしてしまえば、自らの肉体となる参加者の傷を、自らのスキルで治療することができるため、非常にしぶといサーヴァントである。倒すには、チェイサーマッハがやったように一気に押し切って身体とベルトを分離し、離脱される前にベルトを破壊するという戦法が有効。
 ただし、ベルト本体がそのまま弱点であることは、蛮野とて理解している。理解しているからこそ、ゴルドドライブ、またはバンノドライバーも、自らのベルトは必死に守ることだろう。

【出店】――
【マスター】不明
【参加方法】不明

【人物背景】
 不明。名もなきマスターだが、蛮野天十郎を召喚してしまったことが運の尽き。
 今や自らの意識を蛮野天十郎によって上書きされ、ゴルドドライブの生体パーツとして利用されるのみである。

【能力・技能】
 不明。ただし、常時変身状態であるため、実質的にはゴルドドライブの能力がそのままマスターの能力ともいえる。

【マスターとしての願い】
 不明

【令呪】
 左手の甲に三画。

【方針】
 必要な物は奪い取る。
 利用できるものは利用する。


341 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/24(火) 00:29:53 /kYnTwy60
投下終了です。
タイトルは正確には>>335以降のものが正しいです。


342 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:01:24 Fpd1KO5w0
投下します。


343 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:01:41 Fpd1KO5w0


アリスはうさぎを追いかけました。


アリスは穴に落っこちました。


アリスはうさぎを追いかけるために、他の動物達と追いかけっこをはじめました。


さて、アリスはうさぎに寄り添えたのでしょうか。



◆  ◆  ◆



箱の中にはジョーカーが二枚


ゲームで使えるジョーカーは一枚


さて、黒と白、どちらのジョーカーを捨てますか。


◆  ◆  ◆



夜の地下歩道。
其処で一人の青年が、息を切らしてゼェゼェと走っていた。
男は聖杯戦争に乗っかったマスターの一人だった。

(畜生……何で、何でこんな事に……ッ)

あの時、偶然店で拾ったカード。
それが、青年を聖杯戦争に招いた鍵となったのだ。
幸いにも記憶は取り戻し、同時に自身のサーヴァントは中々に強かった。
彼は頼もしい男だった。

だが彼は死んだ。
そして自身は惨めに取り残される―

いや、そんな程度だったら、どんなに幸せなことなのだろうか。
普通の街で、普通に滅びを迎えて取り残される。
そんな程度だったら―

そう考え、青年は地下歩道の出口を目指す。
その出口がもうすぐ其処に有る。
さっさとあの家に帰ろう。
彼処にいるのは、自分の家族だ。
例え偽物であろうと、彼等は―

だが、青年を容易く追手は見逃してはくれなかった。

「ひっ!」

怯える青年の眼の前には、地面から大量に出現した怪物だった。
頭部にはゴキブリのような触覚、されどその色は石膏の様に白い。
その数は、十体。

腰を抜かし、尻もちを突き、後ろを振り返る。
しかし後ろを振り向けば、其処にいるのはまたあの怪物。
顔を真っ青に染めた青年は怯え、絶望する。
怪物は四方八方を囲む。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

白き怪物、アルビローチに喰われ逝く青年の断末魔が、地下歩道上に鳴り響く。
そしてそれを見つめる、黄色の鎧戦士がいた。
鎧戦士はベルトの鍵をもとに戻し、青年の姿を表す。
青年は霊体化し、姿を消した。
地下歩道は、一瞬の間にして再びその静けさを取り戻した。



◆  ◆  ◆


344 : 十六人目の少女、五十四枚目の札 ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:02:31 Fpd1KO5w0

ハードゴア・アリス、鳩田亜子が聖杯戦争の記憶を取り戻して、大凡1日が立つ。
切っ掛けは、あの時拾った、一枚のトランプであった。
カラミティ・メアリによって不意打ちを喰らい、自身はゴミ箱に捨てられてしまった。
恐怖は微塵もなかった。自分は直ぐに復活できるから、と。

だがその時に、海に浮かんでいた一枚のカード。
それが、自らをこの聖杯戦争を招いた切っ掛けであった。

自身のサーヴァントは、今昼間の道路を歩く自分の隣にいる青年。
クラスはライダーで、とても心優しい青年だった。
歩く所歩く所で困っている人を、常にライダーは見逃さず、助けていた。
今回出会ったサーヴァントも、魂食いをしていた所を止めてくれて、あの鎧姿に変身して、他者を救ってくれた。
それはまるで、嘗て自分が憧れていた「彼女」の様で―

(スノー・ホワイト……)

未だにアリスは、彼女に会うことが出来ていない。
話せたのは、あの時助けてくれた時。
最後に会えた時には、逃げられて―

「どうしました?」
「ッ!?」

心配げな表情で、隣を歩くライダーが問いただす。
此処で、一旦話題を変える。

「ライダー。」
「……はい。」
「さっき、ライダーが戦ったサーヴァント、あの人は、どうなったの?」

あのサーヴァントを最後に見たのは、ライダーが抱えて、地下へ飛び込んだ所だ。
マスターも既に逃げている。
彼らがどうなったかが、気になる。

「ええ、何とか威嚇し、退散させました。
向こうの魔力も十分消費させました、恐らく、暫くは魂食い等しないでしょう。」

大丈夫ですよ、と言いたい様な表情で、ライダーは答える。
良かった、と、アリスは独りごちる。

「ですがマスター、一つお聞きしたいことが。」

ライダーは問い返す。

「マスター、僕は約束しました、貴方を元の世界に帰すと。」

アリスの眼に、その気迫の迫った眼をライダーは見せつける。
その気迫にアリスは足を止める。
嘗て、最後に己が父親を見た時の眼にそっくりだったからだ。
同じく足を止めたライダーは、己のマスターに面と向かい、更に言葉を続けていく。

「僕はその為に戦っていく所存です。ですが、他の主従を殺さずして戦い抜く、と言うのは、極めて困難な道程となるでしょう。
聖杯を獲得せずに勝ち残る方法など、僕にだって想像が付きません。何より、既に脱落者は大量に出現しています。それでも良いのですか?」

その言葉に、彼女の心は、まるで時計の重りの様にゆらゆらと動き始める。
確かに。
アリスには、脱出の仕方が分からない。
憧れのスノーホワイトに会うためには、聖杯が必要だという事は、彼女にも十分分かっている。
だが、アリスには聖杯を取る気はしなかった。
もしもだ。
仮に聖杯を手に入れて、彼女の元に帰れたとしても―
彼女は、本当に振り向いてくれるのだろうか。
誰かの為に一生懸命になり、笑顔を目一杯浮かべて誰かを救うことに全力になる、あの彼女が。
いや、寧ろ逆だ、それは彼女の想いを、優しさを、踏み躙る事になってしまう。
そうなってしまえば、とても彼女に、寄り添える刺客なんて無くなる。

しかし、自分が迷っている為に、今こうしてライダーは自分に問いかけているのだ。
きっと、自分は彼に迷惑を掛けてしまっているのだろう。
そう考えると、とても辛い。

「ごめん、ライダー……でも、私には……。」

その言葉に、ライダーは先程までの問い詰めるような表情を緩め、自分よりも背の丈が小さい彼女の頭を撫でる。

「いえ、大丈夫です。僕も言いすぎてしまいました。焦る必要は有りませんよ、マスター。焦らず、ゆっくりと考えて構いません。
その時間は僕が作ります。貴方が答えを見つけるまで、僕が貴方を護りますから、心配せずに。」

その言葉に、アリスは少し楽な気持ちになり、暗い仏頂面に、小さな笑顔を浮かべる。

「……ありがとう。」
「いえ、これくらいのことで。」

ライダーもはにかんだ表情をアリスに見せつけ、答える。
そして二人はまた歩きだす。
此処でのロールでは、アリス―亜子は、家族と旅行に出かけている、と言う事になっている。
生活環境は日本のそれとはやや異なるが、それでも、生き辛い、と言う程でもない。
それでも苦しくない、訳ではないが、少しだけ、生きていられる気がしてきた。
ほんのちょっぴり、ほんの少し、前向きな気持に変われたアリスは、ライダーと手を繋ぎ、家へと足を進めて行く。


345 : 十六人目の少女、五十四枚目の札 ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:02:50 Fpd1KO5w0




◆  ◆  ◆



―面倒だな。

心内でライダーは、そう呟く。
召喚された当初、ライダーは自身のマスターの能力を把握し、当たり、だと考えていた。
如何なる方法でも死なない不死の魔法、そして中々に優秀な魔術回路。
これでなら、自身の「本来」の力も、存分に振るえると。
彼女の考えを知るまでは、そう考えてはいた。

聖杯を望まずして脱出する、そんな事が叶うはずない。
多少話が分かる人なら己の願いも叶えられるというのに。
とは言え、能力のみを見ればそうそう見つからない程彼女は優秀なマスター適性の持ち主だ。
自身をカモフラージュするこのスキルも有効だ、まだまだ騙せるだろう。

―あの宝具、あの切り札を使うまで、当分は利用させてもらいますよ。

ライダーには、無論マスターには教えていない切り札があった。
「バニティカード」。
四体のカテゴリーKを回収して漸く手にしたカードが、今こうして自分の手に有るというのが、何という幸運だろう、と少し思った。
生贄なら、先程マスターから隠れて殺したサーヴァントとマスター、他にもかなりの人間をローチに食わせ、手にしている。
或いは、バニティカードが本当に欲す贄を手にすれば簡単なのだが―

―いや、それは取っておきだ、今使うわけには行かない。
それに、燃料は多ければ多いほど良い、当分魔力も影で集めさせて貰おう。
極めてイレギュラーな形では有るが、漸く眠りから醒められたのだ。
今度こそ、この聖杯戦争(バトルファイト)で、勝たせてもらうぞ。
この聖杯(チャンス)、逃す手はあるまい。

本来彼は、聖杯によって喚ばれるべきではない存在である。
今も彼の肉体は、カードに収められ、あのカテゴリー2の子によって長い長い眠りに着いている頃だろう。
だが、ライダーと言う不死生命体の情報すら、このムーンセルは把握していたのだ。
故に、彼を再現したこの霊基は此処に現界した。

今の生物の基礎を作った不死生命体、アンデッド。
その中において何れの生物の繁栄も齎さず、滅びというマイナスを齎すイレギュラーが、此処に顕現したのだ。
更に彼は、人間ですら把握できていないカテゴリーに属していた。

トランプの山札の中に紛れ込んだ、もう一枚の「ジョーカー」。
五十三までとされていた記録には残されていなかった、白きジョーカー。
ゲームの秩序を破戒しかねん真のイレギュラー。
嘗て月の隣で行われたゲームのワイルドカードは今、この聖杯戦争と言うもう一つのバトルロワイヤルに紛れ込んだ。


第五十四体のアンデッド、カテゴリー・ジョーカー。
アルビノジョーカー、サーヴァントと言う器、騎乗兵(ライダー)のクラスを以って、この聖杯戦争に現界した。
願いは一つ、世界のリセット。







―さあ、統制者(ムーンセル)よ、我がこの聖杯戦争(バトルファイト)に勝利した暁には、この我が願いを叶え給え。


346 : 十六人目の少女、五十四枚目の札 ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:03:09 Fpd1KO5w0



【出典】劇場版 仮面ライダー剣 MISSING ACE
【CLASS】ライダー
【真名】志村純一/アルビノジョーカー
【属性】秩序・善(正しくは混沌・悪)
【ステータス】筋力C+ 耐久C+ 敏捷C+ 魔力B+(EX) 幸運D 宝具EX(グレイブ変身時)

【クラススキル】

対魔力:A
原初の時代に星の集合意識が生み出した不死生命体、生物の祖に連なる者として強大な神秘を宿しており、魔術による干渉をAランク分削減・無効化する。
宝具である鎧を装備している間はその身に纏う神秘の飛躍的な向上から更に効力を倍加し、事実上純粋な魔術でダメージを与えることはほぼ不可能となる。

騎乗:EX
乗り物を乗りこなす才能。
バイクを乗りこなした他、ライダーで召喚されている影響でランクが規格外に跳ね上がっている。
始祖の怪物すら、彼は乗りこなすことが出来る。


【保有スキル】

人の殻:B
彼は以前、人間の殻を被って生活していた。
自身の姿を人間に変化させることが可能。
属性が「人」「秩序・善」に隠蔽され、占いすらも騙し通せる。
実質的に「気配遮断」と同等の効果も併せ持つ。


原初の一:A
アンデッド。星の集合意志(ガイア)が神代以前の原初に一体ずつ産み落とした、各生物種の始祖たる怪物。最初の産声を上げた星の胤子たち。始まりが故に終わりを持たぬ不死存在。
あくまでサーヴァントのために劣化しているとはいえ、その特性からセイバーの生命そのものを直接対象とした呪い・概念干渉等を一律無効化し、更にHPが0になった際、必要な魔力が供給されていれば幸運判定で復活の機会を得ることができる。
また、自らの意志や令呪による強制・補助を以ってしても自害、及びそれに繋がる行為ができない。


無貌の切札:A
ワイルド。
いかなる生物の系統樹でもないという、ジョーカーのみの特性。
特定の種族に適用する効果を一律無効化する。
また、ライダーは生前、統制者にはマークされることがなかった。


軍勢生成:A
自身の眷属たる「アルビローチ」を生成する能力。
本来ローチは、戦いの勝者となって初めて召喚できるのだが、彼が何故召喚できるのかは不明。


347 : 十六人目の少女、五十四枚目の札 ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:03:30 Fpd1KO5w0


【宝具】

「狩犬宿す黄昏の鎧門(グレイブバックル)」
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1

人類基盤史研究所「BOARD」が開発した、ライダーシステム。
これは、嘗て53体のアンデッドを封印した旧世代型を基に創りだした、新世代型のバックルである。
人工アンデッド「ケルベロス」を封印したカテゴリーAを装填することで起動、「グレイブアーマー」をライダーに纏わせる。
装備は「グレイブラウザー」、必殺技は「マイティ」のカードをラウズして発動する「グラビティスラッシュ」。
バックル自体は科学の産物であるため、ランクは然程高くはないが、ラウズカードを宝具に組み込んでいる影響で、+補正が働いている。

「原戦を欺け、虚白の死札(ジョーカーエンド・マンティス)」
ランク:A-(EX) 種別:対生宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
命を刈り取る形をした手持ち式の鎌。
地球上の全生命を死滅させるという、ジョーカーの攻撃本能が結晶化したもの。
斬り付けた対象の、生物としての純粋度、完成度に応じて追加ダメージが加算される。追加分が一定値を超えると即死判定が働く。
対象外となるのは、地球上の生物でないもの、生物の版図を越えてしまったもの、そもそも生物でないもの。
(人外の魔物や機械系サーヴァント、高ランクの神性スキル保有者が対象となる)

ただし、ライダーは霊格を下げられた上での現界の為、ランクが下がっている。
その代わり、「敗者を躙れ、十四の邪神」の発動時にはランクが()内に修正、本来の力を取り戻し、ジョーカーの真の権能が発現する。

「敗者を躙れ、十四の邪神(フォーティーン・クアドラプルエボリューション)」
ランク:EX 種別:対生命・対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1000

ライダーが生前、レリーフに四枚のカテゴリーKを融合させることで生み出した、十四の怪物。
白き竜の姿をしており、四本の腕には剣、杯、盾、杖をそれぞれ持つ。
巨大な火球を吐き、大地を吹き飛ばすほどの尾を武器として戦う。
普段は、ライダーがバニティカードとして封印している。
そしてこれに莫大な魔力を注ぎ込み、召喚したレリーフに装填することで、フォーティーンが顕現し、周囲には天変地異を表すかのように暴風が吹き荒れる。
其処にライダーが融合することで、「寂滅を廻せ、運命の死札」のランクが上昇する。
消費魔力は必然的に激しく、バニティカードには途方も無いほどの魔力を込めなければならない。

本来なら、この宝具はアンデッド解放に関わった人間の血を持つ者が生贄となって発動する事になっている。
また、嘗てはジョーカーアンデッドがカードの生贄となった逸話も残されている。
もし「ジョーカーその物」、あるいはジョーカーを「目覚めさせた」者を生贄にした際、この宝具は一発で起動する。
魔力も()内に修正される。
弱点は一つ、石版のバニティカードを破壊する事、それだけである。


348 : 十六人目の少女、五十四枚目の札 ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:03:56 Fpd1KO5w0

【Weapon】

「グレイブラウザー」
グレイブアーマーに付いている、ブレイラウザーを解析して作り上げた醒剣。
ラウズカードの力を目覚めさせ、アーマーに宿すことが可能となっている。

「デスサイズ」
ジョーカーが振るう鎌。
本来ならアンデッドを封印する能力も有るのだが、霊格の低下の影響もあり使えない。

「バニティカード」
四枚のカテゴリーKの進化能力を使って生み出されたカード。
「敗者を躙れ、十四の邪神」の起動キー。
魂喰いで吸った魔力や、ジョーカーアンデッド、ないしジョーカー覚醒に起因する人間を封印できる。


【人物背景】

存在することのなかった、もう一体の「ジョーカーアンデッド」。
53のアンデッドが封印された時に暗躍を始める。
バニティカードを奪い取り、ジョーカーの愛した少女を生贄にフォーティーンを顕現させるが、ジョーカーと、彼の意志を継いだ仮面ライダー達により倒される。

と言うのは、もう一つの世界での話。
52のアンデッドが封印されている時点で統制者はジョーカーにマークを付けており、アルビノジョーカーの存在は明らかにされていない。
彼は何処にいるのかは分からない。
もしかしたら、既に仮面ライダーに倒されているのかもしれない。
或いは、何処かで運命と戦う男に倒されたのかもしれない。
または、アルビノジョーカーの存在は無かったのかもしれない。

不死であるアンデッドだが、生物の始祖という強大な神秘は発生した時点でムーンセルに記録されている。
このサーヴァントはそこから召喚に応じた存在であり、英霊の本体と分身のサーヴァントとの関係のようなもの。
本来の彼は、未だカードの中に眠る。

【サーヴァントとしての願い】

最強のアンデッドの力を手にする。

【方針】
当分はマスターに従い、護るふりをするが、バニティカードの燃料が見つかり次第行動を起こす予定に有る。
現在はアルビローチに裏で、魂食いをさせています。


349 : 十六人目の少女、五十四枚目の札 ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:04:09 Fpd1KO5w0


【出典】魔法少女育成計画
【マスター】ハードゴア・アリス(鳩田亜子)

【参戦経緯】

カラミティ・メアリによって海に廃棄された際に白紙のトランプを拾った。

【能力・技能】

「どんなケガをしてもすぐに治るよ」

魔法少女としての固有魔法。
どんな致命傷を受けようが直ぐに復活する。
例え溶けようが爆殺されようが燃やされてゴミ箱にコンパクトに詰められて沈められても再生してしまう。
実質的に不死身では有るが、その代わり変身前には効果はない。


【人物背景】

父親に母親を殺されたと言う過去の持ち主で、今は親戚の家で生活している。
殺人犯の子なだけあって学校では孤立しており、自分が不必要なのではと言う考えすら浮かんでいた。
そんな時、家の鍵を拾ってくれたスノーホワイトに憧れ、彼女は魔法少女になろうとする。
結果、彼女は16人目の魔法少女となったのだが、皮肉にもそれが、キャンディ争奪戦の鍵となってしまう。

最低でも殺される前からの参戦。

【マスターとしての願い】

スノーホワイトの元に―

【方針】

殺したくはない。
だが、同時に迷ってはいる。


350 : 十六人目の少女、五十四枚目の札 ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:04:33 Fpd1KO5w0
投下を終了します。
追記、修正はWiki収録後後程。


351 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 06:13:00 Fpd1KO5w0
すみません、ページ名からトリップを削除させていただけませんでしょうか。
お手数おかけさせて頂くことになりますが、誠に申し訳ございません。


352 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/24(火) 17:35:45 Fpd1KO5w0
それと、このステータスの作成に、◆HOMU.DM5Ns氏の「ありす&バーサーカー」を参考にさせていただいた事を、此処にお礼申し上げます。


353 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:05:43 9Sw1m9ic0
投下します


354 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:06:01 9Sw1m9ic0





――君をまってる。君がまってる






雪原を関する街で、親に見守られ子どもたちが遊んでいた。
わいわいと騒ぎながら、子どもたちは遊び道具を拾っては投げつけている。
街の名前にお似合いの雪玉でも投げ合っているのだろうか。
……否。
彼らが投げているのは雪玉でもなければ、投げあっている訳でもない。
石だ。
子どもたちは石を拾っては一方的に投げつけているのだ。
ただ一人の少女に向かって。

標的にされているのは幼い少女だった。
10歳にも満たないないのではなかろうか。
ボロボロになった服を纏い、全身に痣を作り、今なお打ち付けられる石で傷つきながらも。
少女は涙すること無く、歩き続けている。

その様がさらに子どもたちを苛立たせたのだろう。
石を投げるというまどろっこしい手段では我慢できなくなった数人の子どもたちが、少女に駆け寄り殴りかかった。

大人は誰も、そんな子どもたちを止めようとはしなければ、叱ることもなかった。
当然だ。
大人たちもまたその少女に暴行を加えたことは一度や二度ではないからだ。
彼らこそが、自分たちの子どもに少女のことを――具体的には少女の親のことを悪しように語り、虐げさせている元凶だからだ。

大人たちは語った。
少女の親は悪い悪い人間だったのだと。
スノーフィールドの開発に関わり、先住民を追い出し、富を独占し、貧民たちをこき使った大悪人なのだと。

あいつらのせいで俺たちは落ちぶれたんだ。あいつらのせいで俺たちは貧しいんだ。
あいつらのせいでお前たちにも満足な生活をさせられないんだ。
あいつらのせいで。あいつらのせいで。あいつらのせいで。
………………………………。
…………………………。
……………………。
……………。
でも、あいつらはもういないんだ。
事業に失敗してケツをまくって逃げたんだ、ざまあみろ。


355 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:06:32 9Sw1m9ic0

そう大人たちはせせらわらった。
子どもたちに言い聞かせるように。
少女に聞こえるように。
笑って、嗤って、罵倒し続けた。

そこにあるのは悪意だった。
純然なる悪意だった。
始まりは少女の親への怒りや憎しみだったのかもしれない。
けれどそれは、いつしか、ただの悪意へと変わっていた。
少女の親はいなくなった。その分大人たちは弾劾の矛先を少女へと向けた。
親がどれだけ悪人であろうとも、子に罪はないというのに。
大人たちは皆が皆で、少女を責め立てた。
子どもたちもそれに倣って少女を迫害し始めた。

少女はいじめてもいい悪者だから。
何の権力も財力もない、親に置いて行かれた哀れな弱者だから。
正義の名のもとに、やり返される心配もない暴力を、暴言を、嬉々として人々は振るい続けた。

少女はそんな理不尽に、ただ、黙って耐え続けた。
涙するでも、やり返すでもなく、それでいて決して謝りはせず、許しを請うでも助けを求めることもなかった。

そんないつもの光景。
決して屈しない少女に、いつものようにエスカレートの果てに、子どもたちが直接暴力を振るわんと殴りかかったその時に。

いつもと、違うことが起きた。
少女の顔に殴りかかった一回り大きな少年の拳が受け止められる。
少年が、子どもたちが、大人たちが、何よりも他ならぬ少女自身が。
いつもと違う展開に驚き、目を見開く。
拳を受け止めたのは一人の青年だった。
歳は高校生くらいだろうか。
まだまだ少年と言ってもいい若さの青年は、しかし若者と呼ぶにははばかられる雰囲気を放っていた。

「楽しいか? 無抵抗の相手を一方的に殴りつけて」

青年が、口を開く。
静かな、それでいて確かな怒りが込められた言葉に誰もが圧っされるも、喘ぐように彼らは言い返す。

「な、なんだよ。お前、こいつの仲間か何かか!?」
「あの悪党どもめ、まさか娘にボディーガードを!?」
「見たことのない顔だが、よそ者か!? 何も知らない奴が首を突っ込まないでくれ」
「邪魔すんなよ、そいつの親は悪いやつなんだぞ!
 今スノーフィールドで起きてる事件だってそいつの仕業だって、みんな言ってんだからな!」

自分は悪くないと言い訳する子どもたち。
青年が語った正論を前にして、叱られるのを嫌がった子どもたちは口々に正義を主張する。
一方大人たちは誰にも嫌われていた少女に思わぬ味方が登場したことに戸惑い、中には少女の親の影を感じ恐れを抱く者もいた。
ざわめく老若男女たち。
口汚くまくしたてる彼らを前にして、青年は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。

「みんな、か。いつの世もどの世界も変わらないな……。
 誰かがそう言うから。みんながそう言うから。
 そんな理由で真実を見ようとしない。小さな声を、聴こうともしない」
「わけわかんないこと言ってんじゃねえよ!
 父ちゃんや母ちゃんがそいつが悪者だって言ったんだ!
 そいつの味方をするなら、お前だって悪者だ!」


356 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:06:50 9Sw1m9ic0

痺れを切らしたのは、拳を受け止められた少年だった。
少年からすればわけもわからぬ乱入者に正義の邪魔をされ、何故か怒りをぶつけられているという理不尽な状況だった。
その苛立ちをぶつけんとして、青年に掴まれている方とは逆の手で拳を振るう。
今度は受け止められることはなかった。
ざまぁ見ろ、と少年は悪者を退治したと確信する。
少年の拳はただの拳ではない。
少女に投げつけていた大きな石の余りを握りしめた立派な凶器だった。
少しくらい年上だからと偉そうに見当違いな説教をしてきた青年くらい、やっつけられる。
そう思い充足感に浸っていた少年の顔は、直後引き攣ることになる。

「どうした。もう終わりか。これっぽっちの痛みじゃ俺の心には全然響かないな。
 ほら、手を放してやる。今度は利き腕で全力で打ってこい」

凶器で殴られたはずの青年が、笑みさえ浮かべて少年のことを見下ろしていた。

「ひ、ひぃっ!」
「ママ、あの人どこかおかしいよ!」
「し、近づいてはいけません! 目を合わせちゃいけません!」
「こ、子どもの喧嘩に年上が出張らないでもらいたいがね……っ」
 
右手を解放された少年は、しかしもう拳を握ることはなかった。
ぺたんと尻餅をついて、恐怖のままに後ずさる。
少女を取り囲んでいた人の輪も同じだった。
おかしなものを見るように青年を指さし、汚いものに触れないようにほうぼうへと散っていく。
少年の親らしき大人が子どもを助け起こし、わめきながら去って行った時には、少女と青年以外の誰も残ってはいなかった。

「傷、見せてみろ」

大丈夫か、とは問わない。
明らかに大丈夫じゃないのは目に見えている。
青年は手早く少女の傷に処置を施していく。

「あの、その……ありがとうございます。ご存知かもしれませんが、私は瀬良あゆみと言います」

ぺこりと頭を下げ、礼を言う少女。

「嬉しかったです。助けていただいて。
 それに、ここにはいない、いて欲しくない大切な人たちのことを思い出しちゃいました。
 あなたみたいに赤いあの人のことや、私のたった一人の友だち……かもしれない男の子のことを」

胸に手を当て、思い出を抱きしめるように語る少女に、青年は応え、問いかける。

「構わない。俺が何なのかお前にはもう分かってるんだろ」
「……はい。私の、サーヴァントさん、なんですよね」
「ああ。サーヴァント、アーチャー。
 お前に呼ばれて俺はこの世界、この時代へとやってきた」

青年――アーチャーは、少女――自らのマスターへと言葉を続ける。

「マスター。お前は自分がマスターだと思い出していながらも、あいつらを前に自分から俺を呼ぶことはなかった。
 俺を呼んで命じさえすれば、あんな奴らはどうとでもできたはずだ。
 どうしてそうしなかったんだ。
 あいつらに復讐してやろうとは思わなかったのか?」


アーチャーは知っている

無理解からの孤独に狂い世界を壊さんとした異界の王を。
憎しみのままに破滅へと突き進まんとした絶望の暗闇を。
……怒りに呑まれないよう必死に耐え続けた自分自身を。
知っているからこそ、不思議だった。
少女は幼いながらも聡明だ。自らの置かれている状況も、与えられた力も理解している。
なのに少女は、されるがままだった。
サーヴァントの力さえあれば、後先を考えないなら、今の状況も簡単に脱しえるというのに。
そうはしなかった。


357 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:07:08 9Sw1m9ic0


思いたく……ありません。私はどんな時でも誇りを失いたくないんです」

思わない、ではなく、思いたくないと少女は答えた。

「誇り?」
「はい。私は暴力になんて屈しないと胸を張って示し続けたいんです」

それは何も暴力を振るわれることに耐え続けるというだけではないのだろう。
暴力に訴えること。
暴力に訴えて気に食わないことを解決するというその思想そのものに、少女は屈したくないのだ。

「そうか、お前も戦ってるんだな」

世界と。
目に見えないものと。
それがどれだけ険しい戦いなのか、アーチャーは嫌でも知っている。

「そんな立派なものじゃないですよ。それに……きっとあの人たちも不安なんです」

分かるんですと、少女は続ける。

「あの人たちも私のようにこの世界に無理やり連れてこられた人たちなんですよね……?
 その上、記憶を思い出していないあの人たちは、与えられた役割をわけもわからないままこなすしかなくて。
 ……それはきっと、自分のことも、置かれた状況も理解できている私より、ずっと不安だと思うんです」

私も、思い出すまではもやもややひっかかりを常に感じ続ける日々でしたから。
そう言って少女は困ったように笑うけど、それは笑えるような日々ではなかったはずだ。

いつも味方でいてくれたという赤い帽子の青年も、たった一人の友だちだった乱暴そうで優しい少年も、ここにはいない。
少女の心を支えてくれていた人たちが抜け落ちた5年前を思わせる日々のロール。
それは少女に記憶を取り戻させるほどの違和感を感じさせる程に辛かったというのに。
少女は笑って、あまつさえこんなことまで言いきるのだ。

「その無意識の不安を、私をいじめることで少しでも晴らすことができるなら……私は、いいんです」

いいわけがないだろ。
そう憤るのは簡単だが、アーチャーは少女を否定するのではなく、踏み込むことを選んだ。
アーチャーはただ、自分とは違う生き方をすることができている少女のことを理解しようとしていた。

「マスター。何がお前をそこまでさせるんだ」
「……。私のパパとママは皆さんにひどいことをしたそうです」
「…………」

ほんの僅かにアーチャーの表情が歪むも、それは少女に察せられぬよう、少女の話をさえぎらぬよう抑えられたものだった。
その甲斐もあり、アーチャーの様子に気付かず、少女は訥々と語る。

「パパとママは所謂大金持ちでした。でも、5年前に事業に失敗してしまって。
 ある日突然、私を残していなくなってしまったんです」

5年。その幼い少女にとって余りにも長い年月がどういったものだったのかは、想像するに容易い。
ボロボロの服、刻まれた傷、消えていない数多の痣。
アーチャーがさっき目にした光景は、少女にとって慣れてしまった日常だった。

「でも、パパとママはいなくなる前の日の夜に私に、言ったんです。
 いい子にしてれば必ず迎えに来る、って……」

少女はそんな、自分を置いて行った両親との口約束を信じて、辛い日々をただただ耐え続けることを選んだ。
恨み言一つこぼさず、いい子であり続けた。
アーチャーは遂に耐えきれなくなり、口を開く。


358 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:07:26 9Sw1m9ic0

「……そんなもの、子どもを捨てる親の定例句だとは思わなかったのか」
「私はパパとママを信じてます。それは迎えに来るという約束だけではありません。
 実のところ、私は、パパとママがみなさんにひどいことをしていないと信じてるんです。」
「……たとえお前の親が悪人でないとしても。
 どこにでもいる普通の母さんと、父さん、だったとしても。
 ……手のひらを返すことだってあるんだぞ」

それは確かな重みを持った言葉だった。
甘い夢を見る少女を諭すための大人の言葉なんかじゃないのは少女にもすぐ分かった。
だってそこにあるのはアーチャーの声に、瞳に入り交じった感情は。
少女自身も嫌というほど体験したものだったから。

「……知ってます。人は、変わることもあるって。
 友だちだと思っていた人がパパとママのせいで……」

言葉が詰まった。
それ以上言う必要が無いことを二人が二人共理解していた。
持ち上げるだけ持ち上げておきながらあっさりと手のひらを返す。
……どこにでもある話だ。

「それでもお前は、信じるんだな」
「はい。だからこそ私は、聖杯なんていりません」
「いいのか? 聖杯があればお前の父さんと母さんに遭うことだって」
「……いいんです。……私は信じて待つって決めたんです。
 それなのに聖杯なんてものを使って会いに行っちゃうのや、連れてきちゃうのは……ズルですから」
「そうか」

そこまで分かっていながら、少女は信じるといいきり、聖杯を使うことも拒絶した。
これ以上アーチャーが何を言っても、この頑固な少女が道を変えることはないだろう。
アーチャーがそうであるように、少女もまた、もうそういう生き方しかできない人間なのだ。
たとえどこか寂しげな笑みを浮かべていても。
少女が、聖杯に頼ることは、決して無い。
……それにきっと、この少女は、信じたとおりに両親から迎えに来てくれない限り、泣くこともできない。

「それに私にはパパとママのデッキがあります。これだけで十分なんです」
「デッキ? もしかしてバトスピか!?」

少女が取り出して、ぎゅっと大事に握りしめたディスクを前にアーチャーの様子が変わる。
明らかにさっきまでとは違う熱が入ったアーチャーの様子に少女は若干戸惑いつつも、ディスクからデッキを取り出してカードを広げる。

「あ、いえ、デュエルモンスターズというカードゲームのものなんですけど。
 パパとママが残してくれたデッキで。
 そういえばあのトランプもデッキケースの中にに混ざってたものでしたっけ」
「それは……いや、いい。それよりもデッキを手にとって見せてもらってもいいか?」

知ってか知らずかよりにもよって『白紙のトランプ』を娘に残していたことに一層きな臭さを感じつつも、アーチャーは言及することを避けた。
両親を信じると決めて、てこでも動かない少女に、そんなことを言っても傷つけるだけだろう。
それに言葉であれこれ詮索せずとも、デッキを見れば分かるものもある。
アーチャーはカードを一枚一枚真剣に目を通していく。

「これがデュエルモンスターズ……」

アーチャーはデュエルモンスターズというカードゲームを直接は知らない。
ただ、聖杯から与えられた知識にデュエルモンスターズについても含まれていた。
デュエルモンスターズは幾度か世界の危機を潜り抜ける力となっているからだろう。
その知識に加え実物を目にしたことで、アーチャーは幾らかデュエルモンスターズへの理解を深めていく。
デュエルモンスターズはかなり複雑なゲームだが、アーチャーとて一つのカードゲームを極めた英霊だ。
さらには異界のカードや未来のカードも柔軟に取り入れ自在に扱うだけの腕前を誇っている。
極めるとまではいかなくとも、おおよそを理解するくらいなら問題ない。


359 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:07:59 9Sw1m9ic0

「そしてあゆみのデッキか」

その上で少女のデッキを見るに、バトスピで言うところの【不死】の一種と言えなくもない。
自らデッキを破棄することで、トラッシュ(墓地)にカードをため、キースピリット(エースモンスター)のBP(攻撃力)を上げていく戦術を主体にしているようだ。
アーチャーの愛用するカードで言うならトレスベルーガ辺りとは相性がいいかもしれない。
まあ実際のところ、系統光導の存在しない少女のデッキではトレスベルーガを活かし切ることはできないのだが。
それよりも手札入れ替えと破棄、BPアップを両立できる灼熱の谷がいいか。
硯が使っていたストロングドロー辺りも……いっそ異界王のフラッシュドロー……いや、あれは聖杯による伝説入りに引っかかるか……。

「あの、アーチャー、さん? 
 すごく熱心にデッキを見てますけど私のデッキ、どこか変ですか?
 両親の残してくれたものを、私なりに改良した物なのですが」
「いや……」

カードバトラーとしてついついデッキ構築やカード効果について考えを巡らせてしまう一方、アーチャーは二つのことに気づいていた。

一つ、デッキ構築を見るに、少女は彼女たちの世界曰く“墓地肥やし”の重要性を知っている。
墓地にモンスターを貯めれば力になるということを、彼女は知っている。
それはつまり、魂喰の有意性を少女が理解していることへと繋がる。
死なせれば死なすほどに力となる。命を墓場に送れば送るほどパワーアップする。
【ワイト】しかり、聖杯戦争しかり、そしてアーチャーのデッキに眠るあるカードしかり。
アーチャーにとって魂喰は忌避すべき行為だが、単なる魔力補給以上の効果を得られる行為でもある。
蛇皇神帝アスクレピオーズ。
死者の憎しみと怨念から生まれたあのカードにとっては、魂喰は絶好の強化手段なのだ。
そのことを理解しているであろう少女が、安易な魂喰に走らないのは。
少女が言うように暴力への忌避に加えて、きっとスピリット――モンスターへの感謝も忘れていないからだろう。

もう一つ。
少女のカードたちは、非常に大事に扱われているのが見て取れた。
両親の遺したものとして少女が大切にしてきた、というだけではない。
少女の手に渡る前から大切にされていたのが伝わるデッキだった。

(デッキには組んだ人間の命が宿る……。
 このデッキには、確かにあゆみの両親の魂が宿っている……)

デッキテーマは死霊の家族という不吉極まりないものだとしても。
少なくとも、少女の両親は、自らの魂とも呼べるデッキを、我が子に託していくような人間ではあったらしい。
或いはアーチャーのように、辛い思い出としてデッキを置いていったのか。
……世の中に広まるのはほんとにあったことそのままじゃない。誰かがそう思わせたがっていることだ。
だから富豪だったという少女の両親が上手くいかないのを誰かのせいにしたがっている人たちに利用されただけの善人ということも十分あり得る。
この聖杯戦争でだってそうだ。
自分のように巻き込まれていないか心配した少女の耳に入ってきたのは、少女の両親の不在を裏付けるような噂と、してもいない悪事への罵詈雑言だった。
少なくとも今、この街を脅かしている事件は聖杯戦争であって、少女の両親によるものではない。
なのに、居もしない少女の両親のせいにされているのは、誰かが聖杯戦争を隠すためのちょうどいいスケープゴートとして利用しているからではないか。
その誰かとは、他のマスターではなく、聖杯戦争を管理している者たちではないかとアーチャーは見ている。
少女の身元や両親の経緯といったことは単なるマスターでは知りようがないからだ。
この聖杯戦争の管理者たちは、神秘の秘匿のロールプレイングをマスターたちに求め、同様に運営用NPCもそういう風に動いているのだという。
聖杯戦争を行っている以上、どうしてもマスター個人では隠しきれない世界の歪み。
それを運営側が少女の両親がいないのをいいことに、それならばとスケープゴートにして神秘の秘匿の一環にしているのはありえなくない話だった。

(……聖杯戦争を影からコントロールしようとしている奴ら、か)

それがムーンセルによる管理にしろ、戦争を起こし、願望機を謳いながら少女の願いを踏みにじるというのなら、闇のフィクサーと一緒だ。
世界の矛盾だ。


360 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:08:16 9Sw1m9ic0

「いいデッキだ。見せてくれてありがとう」
「いえ、どういたしまして。ふふ、アーチャーさんは本当に、私のパートナーになってくれたあの人に似てますね。
 デッキを見る目がそっくりでした」
「俺に似てる、か。ならそいつも強さの深みにはまっているのかもしれないな」
「?」
「なんでもない。話を脱線させて悪い。お前は聖杯はいらないと行ったな、あゆみ。
 両親を待ちたいとも。なら、お前が俺に望むのは……」

デッキを返しつつ、少女のタッグパートナーだったという赤い帽子の男の話を聞き、アーチャーは思う。
もしかしたらそれこそが、自分がこの少女に召喚された最大の要因かもしれない、と。
となるとアーチャーとして召喚されたのは幸いだったかもしれない。
もし本当に赤い帽子の男が強さの深みに至っていたなら、その縁でアーチャーもバーサーカーとして召喚されていた可能性もあったろう。
アーチャーならセイヴァーで召喚された時ほどではないが、バトルができればそれでいいとはならないでいられる。
こうして少女の心からの願いに耳を傾けることができる。

「はい。アーチャーさん……お願いします。私のパートナーになって、私を元の世界へと返してください。
 アーチャーさんだって、聖杯が欲しくて、召喚されたんだってことは分かってます。
 でも、こんなことを頼めるのは、今の私には……アーチャーさんしかいないんです」

お願いしますと頭を下げる少女を前に、アーチャーの心は決まっていた。

「あゆみ」

少女にスッと、手を差し伸べる。

「お前の、母さんと父さんは。いや、お前の母さんと父さんも。

お前のこと、待ってくれてると、いいな」

「はい!」

少女が笑顔で手を重ねる中、アーチャーは思う。
アーチャーを――馬神弾を待ってくれている人のことを想う。



――ごめんな、まゐ。お前にごめんなとありがとうを伝えるの、もう少し遅くなりそうだ


361 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:09:00 9Sw1m9ic0
【クラス】
アーチャー

【真名】
馬神弾@バトルスピリッツ ブレイヴ

【ステータス】
筋力:D 耐久:D+ 敏捷:D 魔力:D 幸運:E 宝具:A

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:C
 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
 
単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失っても1日間現界可能。

【保有スキル】

カードバトラー:EX
 伝説の激突王にしてブレイヴ使い。
 自分の勝利に迷わないアーチャーは絶妙のタイミングで望むカードをドローできる。
 戦闘時に限り幸運のランクがEXとなる。
 ……強さの深みまで達しているアーチャーは、強敵に飢えており、命がけの戦いを求めている。
 同ランクの狂化の互換とも言え、熱さと冷静さを保ったまま幸運を上げる代わりに、相手の全力を引き出した上で、勝とうとしてしまう。

心眼(真):A+
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
 その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
 読み合い・探り合いこそがバトスピの肝であり、高度な心理戦をも可能にする。
 
被虐体質:A+
 集団戦闘において、敵の標的になる確率が増す。
 A+ランクともなればライフで受けることにより、味方への攻撃を任意で自身に誘導することさえ可能。
 アーチャーはダメージを受ければ受けるほど、ライフを失えば失うほど魔力を得る。
 また、攻撃側は攻めれば攻めるほど戦いに熱中し、ついにはこのスキルを持つ者の事しか考えられなくなるという。

不屈の意志:A+
 あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意思。
 肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。
 幻影を破った逸話がある弾は、幻影のように他者を誘導させるような攻撃にさえ耐性を得ている。
 ――俺はもう、倒れない。

【宝具】

『開け放て、異界への扉(ゲートオープン、カイホウ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:自身
 本来は異界への扉を開く言霊。
 転じて、バトルスピリッツのルールの一部を戦場に流入させる宝具。本来の使い方も場合によっては可能。
 アーチャーはいかなる戦いでもバトスピで戦えるようになる。
 最たる効果として威力の大小を問わず、五回攻撃の直撃を受けない限り、ダメージは受けつつも、アーチャーは戦闘続行できる。
 この回数――ライフは下記の宝具で回復・防御することも可能。
 ただし敵が合体していたり宝具の性質次第では一度の攻撃で複数のライフを失うこともある。
 高火力相手でもライフは一度に付き一つしか減らない代わりに、低火力でも直撃を受ければ一つ減るため注意が必要。

『【激突せし魂・合体軸(バトルスピリッツ ブレイヴ)】』
ランク:E〜B 種別:対人宝具 レンジ : 最大補足:5体
 未来世界で使用した赤中心の混色デッキが宝具となった物。
 現代から未来まで伝説として語られるアーチャーの組んだデッキであり、下記の神のカードも入っているため相応の幻想として成立している。
 アーチャーは戦いの中で何度かデッキを組み替えているだけあり、多くのカードから編成できる。
 単純な強さだけでなく、魔力消費0で出せるブレイドラなど、扱いやすいカードも多い。


362 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:09:16 9Sw1m9ic0

『光導く星の神々(ジュウニキュウエックスレア)』
ランク:A〜A++ 種別:対人宝具 レンジ :1〜5 最大補足:5体
 神話の時代より伝わる強大な力を持った星の力を束ねる神のカード。全12枚+α。
 神話の存在だけあり1枚でもかなりの力を誇るが、十二枚揃うことで星をも救う力となる。
 特に光龍騎神サジット・アポロドラゴンはアーチャーの最強のキーカードであり、
 全力使用時にはアーチャー自身も異界の王の如き姿となり補正を得る。
 魔力消費自体は相応の重さだが、他の宝具を組み合わせることで、コストを軽減することもできる。

 尚、宝具にはアーチャーが所持したことのないカードや未使用のカードも含まれるが、
 12宮Xレアを巡る戦いの最後の勝者であり、神々の砲台であるアーチャーは宝具として全種使用可能となっている。


『神々の砲台、引き金たるは――(バシンダン)』
ランク:EX 種別:救星宝具 レンジ:― 最大補足:―
 12宮Xレアをエネルギーとする砲台。
 引き金であるアーチャーは宝具として自分の意思で召喚、使用可能となっている。
 この宝具使用時のバトルで使った12宮Xレアの枚数に比例して威力が上がり、半分も使えば星を救うだけの力を発揮する。

 単純なエネルギー砲としても使用可能だが、この宝具の真価は星を、世界を、そしてそこに住まう命を救うことにこそある。
 星を滅ぼす類の宝具やスキルを打ち消すことや、滅亡に瀕した世界を救うことができる。
 また、星によるリセットから生命を救った側面から、抑止力を阻止する力も持つ。

 ――引き金である、アーチャーの命と引き換えに。


【weapon】
コアブリット
 本来はバトスピ用のバトルフィールドへの移動手段兼台座となるメカ。
 その名の通り弾丸のような形状をしており、移動時は砲撃の如く射出される。
 聖杯戦争では基本台座としての機能を用いることはないだろうが、単体で自立飛行可能なため使いみちがないわけではない。

バトルフォーム
 バトルの際に着装するプロテクターのようなもの。
 スピリットを合体させるとそれに合わせて色が変わる。

【人物背景】
 異界の王より、地球と異世界、2つの世界を救った伝説的なカードバトラー。
 だが、異界王と結託していた権力者たちの世論操作により、友人や家族にも掌を返され、世界から孤立。
 大好きなカードバトルさえ、強すぎることを理由に、大会へ出場できなくなる。
 果には真実を訴えようとしたライバルが暗殺されてしまう。
 奇しくもそれは、かつて異界の王が味わい、強硬策を取ってでも世界を変革しようとした怒りと絶望、そのものだった。
 異界王の二の舞いにならないよう、自らを抑え込むのに必死だった日々は、いつしか、明るかった少年を変えてしまう。
 それでも。
 少年の根は変わってはいなかった。
 かつての仲間に呼ばれ、自分を必要としてくれた未来の世界とそこに生きる命を救うために少年は命を賭ける。
 そうして少年は星になった。
 一筋の涙と愛する人を残して。

【サーヴァントとしての願い】
 苦しんでいる人がいるのに知らん顔なんてできない。たとえ君が待ってるとしても。

【基本戦術、方針、運用法】
 基本ステータスは低いながらも、スキルと宝具が強力なサーヴァント。
 宝具で召喚したスピリットを庇うという召喚系サーヴァントとしては一風変わった戦術を取る分、アーチャー自身も変則的だが硬い。
 クラスこそアーチャーだが、タンク役もできるキャスターと言ったほうが分かりやすいかもしれない。
 耐えて庇って力をためつつ相手を読み、圧倒的な力で勝つ。それがこのサーヴァントの戦い方である。
 各種軽減やコアの運用など宝具やスキルが噛み合ってることもあり、宝具の強力さの割にはコストパフォーマンスも悪くはない。
 生身でもそれなりの戦闘力はあり、剣を用いて魔族を圧倒したこともあるが、流石に正統派三騎士などを相手にするのは苦しい。

 ちなみに英霊化したことで、バーストやアルティメットなどの知識も得ている。


363 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:09:33 9Sw1m9ic0

【マスター】
瀬良あゆみ@遊☆戯☆王ファイブディーズ タッグフォース6

【参戦方法】
パパとママのデッキに白紙のトランプが混ざっていた。
出典時期はハートイベント3以降、4より前

【マスターとしての願い】
私の大事な人達が幸せでありますように

【weapon】
デュエルモンスターズ
 パートナーデッキ【パパとママと一緒】
 所謂ワイトデッキ。死霊の家族である。
 尚、【パパとママのデッキ】→【パパとママの呼ぶ声】→【パパとママと一緒】とテーマも合わせ、やたら不吉。

デュエルディスク
 決闘者必須アイテム。
 カードをこれに乗せる事で、ソリットビジョンによりカード映像を表示させる。
 実は永久機関であるモーメントが内蔵されており、電力を心配する必要はない。
 あゆみは一般人なので、単なる玩具にすぎず、モンスターも実体化したりはしない。

【能力・技能】
 決闘者ではあるものの、子どもなのもあってか、まだまだデッキを扱いきれておらず、あまり強くはない。
 決闘者としての誇りはあり、少女にとって、デュエルとはじっと我慢して耐えて、最後に勝って笑うもの。

【人物背景】
 元々は貴金属王の一人娘だったが、大事業に失敗したことで、没落し、一家は離散、ひとりサテライト(スラム)で暮らすことになる。
 両親は相当にあくどい方法で財をなしていたとされ、その恨みと上流階級へのねたみから彼女に冷たく当たる人間は非常に多かった。
 当初は世界を救うほどの人間たちからも嫌われていたほど。
 それでも理解者は徐々に増えていき、少女はそのことを支えとして胸を張って生き続けた。
 私は大丈夫だよ。いい子にしているよ。強く生きていくから。
 そう大好きな両親に伝えたいがために。
 今日も少女は祈り続ける。私に訪れた幸運が。沢山の人に支えられている今が。パパとママにも訪れますように――。

【方針】
 暴力には屈さない。元の世界へと帰る。


364 : 君がまってる ◆TAEv0TJMEI :2017/01/24(火) 21:09:48 9Sw1m9ic0
投下終了します


365 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/24(火) 22:49:18 QCoZCnTc0
皆様、ご投下ありがとうございます!
今回は>>351での要望に対応した旨の報告にだけ顔を出させて頂きました。
そのため感想をご用意できておりませんが、あしからずご了承ください。


366 : ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:47:23 8NK0Wzpc0
投下します


367 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:48:14 8NK0Wzpc0


「はっ…はっ…はっ…………」

夜のスノーフィールド、その暗がりの中を一人の女性が走っていた。
女性は警察署に勤務する警察官であり、それなりに鍛えられた肉体と署内でも上位に入る銃の腕前を自身でも誇りに思っていた。
ある時期を境に急増しはじめた怪事件や、俄には信じ難い怪現象の目撃談や都市伝説の数々。
スノーフィールドがただならぬ状況になりつつあることを明敏に察していた女性は今夜、同僚と共に力を入れてパトロールに当たっていた。

……そして、見てしまったのだ。
パトカーのサイドウィンドウを閉めていても聞こえてきた奇妙な、断続的に鳴り響く金属音。
今思えば、使命感に駆られて同僚と様子を見に行ったのが良くなかったのだろう。
小規模なビルが入り組んだ路地のちょっとした広場のようなスペースで信じ難い光景を目撃してしまった。


長大な槍らしきものを振り回す男と見慣れない形状の細い剣で男に立ち向かう女を。
およそ前時代的に過ぎる決闘行為、しかしてその実状は女性の常識を遥か彼方へ置き去りにする凄烈さだった。
槍と剣がぶつかる度に暴風が吹き荒れ、コンクリートの路地がいとも簡単に砕け空中でさらに寸断されていく。
そもそも両者の動きの軌跡をほとんど目で追うことすらできない。
一つ、はっきりと理解できたことは、こんな争いに人間なんかが介入できるはずがないということだけ。

警察として取り締まる?
馬鹿を言え、軍隊でもなければあんな化け物どもを鎮圧などできるものか!
知らず同僚の腕を握る手に力が入った。


「悪いが、これで終わりだ」

男が持つ槍の先端に光が集まっていく。
光を纏った槍を振るった途端女が持っていた剣が砕け散り、続けざまの一閃で女の身体を真っ二つに切り裂いた。
光が人体を裂き、爆発した後には何も残らない……まるで現実味のない、冗談のような光景だった。

女性は同僚よりも早く現実に立ち戻り、強く腕を引いてその場から立ち去ろうとした。
理由はわからない、しかしここにいる事がばれれば殺されるという奇妙な確信があった。
だがこっそりと走り去ろうとしたその瞬間、道端の小石を蹴ってしまった。


「誰だ!?」

男の大音声が響く。
気づかれた、そう悟った二人の反応は早く一目散に駐車してあるパトカーへ向けて走り出した。
踏み出す足の一歩一歩が普段より異様に遅く感じられた。

「あっ!?」

運悪く躓いた同僚が受け身も取れないまま転倒した。
普段なら助け起こしただろう、しかし女性はそうしようとはせず我先にと逃げた。
だってどうしようもなく理解できる。
たった一度でも立ち止まれば死神に絡め取られるに違いない、と。


368 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:48:46 8NK0Wzpc0

少しして、グチャリ、と肉を刺し貫くような音が聞こえた。
限界さえ超えてさらに走る。パトカーはもうすぐそこだ。
あれに乗って、エンジンをかけさえすれば逃げられる。


「早く…!」
「そう焦るな、どのみち終わりだ」


ドスンと、嫌な音が聞こえた。
いつの間に、どうやったのか、男が手にした槍でパトカーを上から真っ直ぐに刺し貫いていた。
エンジンまで深く刺さっていたのか直後に車は爆発した。
爆発や飛んだ破片に当たらなかったのは運が良かったのか悪かったのか、女性自身もわからなかった。


「い、嫌……」
「お前たちに罪は無い。ただ我らに落ち度があっただけだ。
理不尽にも程がある話だろうが我ら、いや神秘の存在を一般に露呈させるわけにはいかん」

車に辿り着きさえすれば逃げられるなんて、どうしてそんな甘いことを考えてしまったのだろう。
この男が言う神秘とやらを目撃してしまった時点で運命は決まっていた。
ゆっくりと男が槍を振り上げた。もはや女性には動く気力もない。



「そこまでだ!」


女性の背後から飛来したエネルギーの弾丸を男の背後の壁に着弾した。
女性が声が聞こえた方を振り向くと白いパーカーを着た青年が不可思議な形状の銃らしいものを男に向けていた。

「今のは威嚇だ、次は本気で当てるぜ」
「…何者だ?それにどうやって嗅ぎつけた?」
「神秘だか何だか知らないけど、現代のテクノロジーをあんまり舐めない方が良いぜ?
ネットの目撃情報やSNSの書き込みから聖杯戦争絡みの信憑性がありそうな情報を吟味して、今夜はここで張ってたってこと」
「なるほどな、教訓にしよう」


聖杯戦争。その単語を知るのは覚醒を果たしたマスターとマスターによって召喚されたサーヴァントのみだ。
槍を持つ男、ランサーはいくらかの警戒を払いつつ闖入者である青年――――詩島剛を見やる。
白いバイク型の銃、ゼンリンシューターを握る右手に令呪の兆しが見えるがまだ完全に浮き出てはいない。
剛は懐からバイクの模型に似たシグナルバイク、シグナルマッハを取り出した。


「無駄かもしれないけど一応言っておく、その人から手を引け」
「魅力的な提案だが断らせてもらおう。神秘の漏洩はすなわち我がマスターの窮地に繋がる。
聖杯に託す願いなど持たぬ身だがマスターを危機に陥れるわけにはいかないのでな」
「そうかい、だったら倒してでも止めさせてもらう!レッツ変身!」
『シグナルバイク!ライダー!マッハ!』


その場に不釣合いな軽快なサウンドが鳴ると同時に、剛の姿が変わった。
首にマフラーを巻き、肩にはタイヤのついた仮面の戦士。
その名は――――


「追跡、撲滅!いずれもマッハ!仮面ライダーマッハ!!」


力強く、一言一句を噛みしめるように宣誓する戦士、マッハ。
やはりただのマスターではなかったか、とランサーは納得した。
変身する前からの立ち居振る舞いから見ても相手がかなりの修羅場を潜った者であることはすぐにわかった。
ランサーとしては好感すら抱ける手合いだが、彼の目的を果たさせれば監督役からマスターへどんな処罰が下るとも知れぬ。
故にまずは目撃者の始末を最優先にする。


369 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:49:17 8NK0Wzpc0


『ズーット!マッハ!』
「させるか!」

ランサーが女性警官を貫こうとした時、恐るべき速さで迫ったマッハの拳が槍の穂先を逸らした。
その勢いのまま虚を突かれたランサーとの取っ組み合いに持ち込んだ。

「早く逃げろ!」

マッハの呼びかけに我に返った女性が無言で頷きその場から走り去っていった。
残されたマッハはそのまま加速状態を活かし、一気に畳み掛けようとする。
文字通りマッハの速さで繰り出した拳は、しかしランサーの槍の柄によっていとも容易く止められた。


「何っ!?」
「大した機械仕掛けだが我らサーヴァントに挑むには無謀だったな」

空いた左手から出したボディブローがマッハのボディに突き刺さり、予想以上のダメージに後ずさる。
事ここに至ってマッハは相手が想像していた以上の超常存在だと気づいた。
見た目は生身の人間でありながら、マッハの加速についてくる上に仮面ライダーの装甲をいとも容易く抜くほどのパワーとは。
ロイミュードでも人間態ではさほどの力は発揮できないというのに。

「貴様では話にならぬよ、二重の意味でな。
サーヴァントがいるのなら呼ぶがいい」
「生憎だったな、サーヴァントならまだ呼べてねえよ!」
「そうか、ならばここで死ぬがいい」


ランサーの槍に光が灯る。
ランサーの槍は手にしているだけで筋力をブーストする常時解放型宝具であるが、真名解放なしに穂先に魔力を纏わせ強烈な連撃を見舞うことができる。
無論その威力は真名解放型宝具に及ぶものではないが、瞬時に最大火力を発揮できるため使い勝手には優れていた。


「まだだ!」
『ヒッサツ!フルスロットル!』

ゼンリンシューターにシグナルマッハをセット。
ランサーの神速の踏み込みに過たず照準とタイミングを合わせ、必殺のエネルギー弾を発射した。
ロイミュードも爆散させる熱量を前に、ランサーは避けようともせず不敵な笑みをこぼす。
エネルギー弾が無防備に突っ込んだランサーに直撃し、大きな爆発を起こすが、直後に無傷のランサーが爆光から姿を現した。


「!?」
「己の無知と無力を呪え…!」


上段からの袈裟斬りがマッハのボディを捉え、激しい火花が散る。
さらに追撃の突きがクリーンヒットし、吹き飛ばされたマッハはダメージに耐えきれず変身が解除された。
生身に戻った剛の中にあったのは屈辱ではなく攻撃が通じなかった疑問だった。

「何でだ…?確かに当たってたはずなのに…!」
「テクノロジーを誇るのも良いが我ら神秘の存在を侮るべきではなかったな。
サーヴァントは元より霊体。どれほど強力であろうとただの機械仕掛けが通じる道理などなし。
もっともその力ではどのみち俺一人すら倒せまいがな」
「そういうことかよ…ある意味いつぞやの眼魔みたいなもんか」

どうやら俺は最初から勝ち目など存在しない勝負を挑んでしまったらしい。
放っておけば犠牲者が増えるからと急いで動いた結果がこれか。
やはりサーヴァントの召喚を待つほうが良かったのかもしれない。

「さらばだ、俺を恨みたければ恨め」

未だ完全には立ち上がれていない剛にゆっくりと近づき槍を振り下ろすランサー。
しかし剛の目はまだ死んではいない、渾身の力を振り絞って槍の柄を受け止めてみせた。


370 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:49:53 8NK0Wzpc0

「まだ足掻くか…!」
「…俺さあ、今幸せの絶頂ってやつなんだよね」

サーヴァントさえ呼べていない、文字通り孤立無援のマスター候補。
そんな人間がここまで己に食らいつけるとは。
驚嘆すると同時に、戦士として惜しいと思ってしまう。
この青年に魔術師としての素養でもあればより尋常な戦いも叶ったであろうに。


「これからずっと守るって約束したからな、彼女と……俺の最高のダチに。
だから、こんなところで死んでる場合じゃねえんだよ、俺は………!」

ただの人間がサーヴァントの膂力に敵うはずがない。
ましてやランサーは宝具の恩恵で常に筋力が増した状態となっている。
事実、剛は明らかに押されており、あと少しで槍の穂先が喉笛を貫くというところだ。


「…ならば尚更サーヴァントが召喚されるまで身を潜めておくべきだったであろうに」
「馬鹿言え、それで人が殺されるのを見過ごしたら二度と仮面ライダーなんて名乗れねえだろ。
神秘がどうとか、戦う力があるとかないとか、そんなことは何の関係もねえんだよ……!
こんな下らねえゲームは撲滅する、生きて帰って令子を守る。
どっちも俺にとっちゃ取りこぼしちゃならないものなんだよ!」

ほんの僅か、ランサーの槍が押し戻された。
有り得ぬはずの均衡、覆るはずのない力の差を僅か一秒であれ覆してみせた力の源泉をランサーは知っている。
戦場で何度も出会った、故郷や家族、あるいは市井の人々といった誰かを守るために死兵と化した者たち。
そうなった者は、英雄でもなければその資質を持つ者でもない無名の兵であろうと時に英雄と呼べる者を大いに手こずらせる。
まさに、それと同じだ。

されど、ランサーもまたそういった者たちの屍の上に立ち英霊に至った者。
たかだか英雄の素養を持つ者が死力を振り絞っただけでは、彼を打倒するには足りない。



――――そう、ならば倒せるものが必要だ。
詩島剛に欠けていた、最後のピースを埋めるものが必要だ。




「――――いいガッツだ、兄さん。無謀だが心意気じゃあんたはそいつに負けてねえよ」


いつの間にか剛の懐から離れて地面に落ちた白紙のトランプがひとりでに空へと浮かんだ。
空中で眩い輝きを放つトランプから感じ入ったような男の声が聞こえてくる。
光はコンマ一秒毎に輝きを増し、やがて人型を形成しはじめた。

「サーヴァントの召喚……今ここでか!」

瞠目するランサーに一瞬ながら隙が生まれた。
トランプから現れた人影――――水色のローブを被った男がランサーへと吶喊し、剛から引き離した。

「杖だと!?」

白紙のトランプから新たに召喚されたサーヴァント、ローブの男が操っているのは剣でも槍でもなく杖だった。
三騎士やライダー、あるいはバーサーカーなどの接近戦に向くクラスなら剣や槍の一つは持参していて当然だ。
にも関わらず杖を使うということは、“それしか持ってこれないクラス”だからではないのか。

ローブを被ったサーヴァントは槍のように杖を振るい、ランサーを翻弄した。
力で押そうにも、ランサーに負けない膂力を発揮するためにそれも儘ならない。
仕切り直すために舌打ちし、後ろへ大きく跳躍した。
ローブを被ったサーヴァントはニッと不敵な笑みを見せ、左手を翳した。


371 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:50:24 8NK0Wzpc0

「アンサズ!」


呪文のような言葉とともに、五つの火炎弾がランサーへと襲いかかる。
無論ランサーが黙って炎を食らうような愚鈍であるはずもなく、宝具の槍に魔力を纏わせ迎撃する。
火炎弾と槍の一閃が激突し、大きな爆発が発生した。
爆発により生じた煙が対峙する両者の視界を遮る。


「驚いたな、貴様キャスターか」
「ご名答だ。そっちはランサーだろ?」
「ああ、しかし解せんな。貴様何処の英霊だ?
いや、サーヴァントに真名を尋ねるなど愚にもつかぬ行いだとは理解しているがな。
北欧のルーン文字を操り、槍兵の真似事をする魔術師など聞いたことがない」


煙が晴れ、再び現れたランサーは全くの無傷だった。
ローブの男、キャスターもその事実に驚きはしない。
三騎士たる英霊がこの程度の魔術で手傷など負うはずがない。


「…ぷっ」
「む?何がおかしい?」
「ああ悪い、あんたを笑ったわけじゃねえよ。
ただオレもそういうことを言われる身分になったのかと思うとついおかしくなっちまってな」

ランサーの誰何の何が可笑しかったのか、それはキャスター自身にしかわからないことだ。
キャスターはランサーの方を見たまま、剛へと声を掛けた。

「見ての通り、オレはキャスターのサーヴァントだ。
他の英霊は誰もあんたのところにゃ来ねえようだからオレがサーヴァントになってやるよ」
「あんたが、俺の……」


初対面の筈なのに、キャスターはとても気安く話しかけてくる。
サーヴァント。いつの間にか頭に詰め込まれていた聖杯からの知識によれば、マスターの戦闘代行者であるらしい。
つまりキャスターならあのランサーにも対抗できるということだ。
だが。



「助けてくれるのは有り難いんだけどさ、あいつは俺にやらせてくれねえかな。
あんた、魔術師ってやつなんだろ?俺でもあいつを倒せるようになる技とか持ってるんじゃないのか?」
「ほう、まああるにはあるが……そりゃあ無理だろ。
オレのルーンならお前とその機械仕掛けを強化してやれるが、それを奴さんが見逃すはずもあるまい」
「いや、そこは俺が足止めなりなんなりするからさあ、頼むよ。
ここであんたに頼って引き下がったら、きっと俺は二度とサーヴァントに立ち向かえなくなる」

剛は聖杯戦争に対して徹底的に抗うことを最初から決めていた。
そして、戦うからにはサーヴァントという人類史に刻まれた英傑たちと矛を交えることも避けられないだろうことも理解していた。
スノーフィールドにいる市民たちの殆どは魔術師やサーヴァントといった超常存在と戦う術を持たない。
だから彼らを守るためには戦う力を持つ自分がサーヴァントから逃げるわけにはいかない。



「中々に面白い話をしているな。
どれ、俺も一つその話に乗せてもらおうか」


意外なところから剛に助け舟が出た。
誰あろう現在対峙している最中のランサーだ。

「え?あんた、今何て?」
「その機械仕掛けにエンチャントを付与する術を持っているのだろう?それまで待つと言ったのだ。
何、気にするな。その方が俺にとって得というもの。
マスターである貴様を一対一で殺せばそこなキャスターも消えるのだからな」
「随分こっちを信用してくれるじゃねえか。
オレがこの兄さんと組んで二対一に持ち込むとは思わねえのか?」


キャスターの問いにランサーは笑いながら「思わんな」と答えた。


「俺の見たところ、貴様はキャスターとして現界してはいるが本質は俺と同じだろう?
であれば一騎打ちに割り込む無粋な真似は犯すまいよ。
……それにな、折角こうして今を生きる、最新の英雄に出会うことができたのだ。
先達として何も示せないまま終わるというのは寂しいと俺は思うのだ」


372 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:50:57 8NK0Wzpc0

ランサーもキャスターも令呪の枷を受け入れた上で現界を果たしたサーヴァントだ。
しかしそうである前に、過去、あるいは異界を駆け、そして生き抜いた人間である。
ランサーにしてみれば、自分より後の時代の人間が英霊となった自分と戦う気概を持っているということに喜びを感じていた。
早い話が有望な後輩に出会ったような気持ちになったのだ。



剛は驚きに目を見開いていた。
何もわかっていなかった、何も知らなかった。
願いが叶うという聖杯を巡って戦争をする連中に、こんなにも気持ちの良い者がいるなんて考えもしなかった。
無論、ランサーが無辜の市民を口封じに殺そうとした行為は絶対に許すことのできない悪だ。
だがそれはあくまで彼が聖杯戦争を有利に立ち回る上で必要な行為であったというだけで、このランサー自体の本質は決して悪ではない。

ランサーのような例はきっと聖杯戦争では氷山の一角に過ぎないのだろう。
善の心で仮面ライダーに変身したとしても、立ち塞がる相手が必ずしも悪であるとは限らない。
善の心で別の善を打ち砕かなければならないこともある。
善悪は等しく殺し合いの坩堝に放り込まれる。それが聖杯戦争の本質なのだ。


「とりあえずお前さんの肉体と装備にルーン文字を刻んでおいたから、これで戦えるはずだ。
ほれ、行ってこい。自分で言い出したことはきっちり果たせ」
「…ああ、サンキュー」

ならば、自分はどうするべきなのか。
人間社会を支配するために騒乱を起こしたロイミュードとの戦いとは種類の違うこのゲームで、何を信じ、何を倒すべきなのか。
剛の手は自然とキャスターによってルーンを刻まれたシフトライドクロッサーを掴んでいた。


「レッツ変身!!」
『シグナルバイクシフトカー!ライダー!マッハ、チェイサー!!』



新たな装甲を纏ったマッハの姿は先ほどとは違い青いカラーリングの上半身、銀色の下半身といった姿になっていた。
かつての仮面ライダーチェイサーと仮面ライダーマッハが一体となったかのような形態、マッハチェイサーだ。

「俺はこれからあんたを倒す。…でもそれはあんたが憎いからじゃない。
偉大な先人に胸を借りるつもりで戦わせてもらう」
「ふん、もう勝った気でいるのか?
ではその増長、死を以って償ってもらうとしよう」
「行くぜ!」


マッハチェイサーの踏み込み、その速さにランサーは驚きを隠せなかった。
先ほどよりも段違いに鋭く、別次元とすら思えるほどの重さの右ストレートがランサーをガードの上から大きく後退させた。


373 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:51:31 8NK0Wzpc0






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





ナンバー005、リベンジャーというロイミュードがいた。
かつて仮面ライダードライブに倒された005は小田桐という教授が開発したアニマシステムというプログラムへ逃げ込んだ。
アニマシステムには仮面ライダーたちによって倒されたロイミュードの怨念、残留思念が流れ込み005が復活する糧となった。
そして全てのロイミュードが倒されてから二年後、005は倒された多くのロイミュードの怨念と力を取り込みリベンジャーロイミュードとして蘇った。

リベンジャーの力は超進化体と同等の存在であるゴルドドライブを超えるものがあった。
同じく超進化を果たしたハートロイミュードにすら届いていたかもしれない。
戦えばドライブの最強形態であるタイプトライドロンですら苦戦を免れなかったであろうほどの実力者だった。
だがマッハチェイサーとその前身である超デッドヒートマッハはそんなリベンジャーを、素のスペックのみで容易く圧倒しこれを二度に渡って撃破した。
そして今のマッハチェイサーはキャスターからエンチャントを受け、大いに活性化している。



「うおおおおおおおおおぉぉっ!!!」
「ぬうっ………!」


その結果がこれだ。
マッハチェイサーが拳を打ち込む度にランサーはその重みに耐えきれず態勢を崩される。
手にする宝具である槍の恩恵で常に筋力がブーストされているにも関わらず、だ。
崩されたところへマッハチェイサーの拳が突き刺さり、ランサーの肉体に重篤なダメージを与える。
当然だがランサーも一方的に倒されるのを待つばかりの木偶ではなく、何度も槍術による反撃を試みていた。
しかしキャスターのエンチャントの恩恵もあってか、今のマッハチェイサーの目にはランサーの動きがまるで重加速にかかっているかのようにスローに見える。
ランサーが繰り出すあらゆる反撃を、悉く跳ね返していた。

『ゼンリン!』

ゼンリンシューターによる近接攻撃。
真横に振ったゼンリンシューターの攻撃を咄嗟に身体を逸らして回避しようとしたランサーだが間に合わず鮮血が宙を舞う。
ロイミュードを叩くのとは違う感触に一瞬戸惑うマッハチェイサーだったが、すぐにその生々しい感触を呑み込み追撃する。
右足で繰り出したハイキックを槍で受け止めたランサーだが、その衝撃に耐えきれずついに吹っ飛ばされた。


「ハハ、こんな隠し玉を持っていたか!
だが退くわけにはいかんなあ!マスターに敗れたとあってはこちらのマスターに合わせる顔がない!」

完全に圧倒されている。
そう自覚してランサーの胸中に湧くものは怒りや屈辱ではなく喜悦だった。
そもそも戦場で己を上回る敵、あるいは味方と出会うことなどランサーにとってはそう珍しいことでもない。

――――白状すれば、ランサーは彼が生きた時代において最強でも何でもなかった。
無論英雄として奉られるだけの武勲を重ねはしたが敵にも味方にもランサーを超えるような騎士、あるいは戦士は何人もいた。
けれどその事実を受け止めたランサーが卑屈であったかといえば否だ。
自らを上回る者と研鑽し、時に命を削り合うことを至上の喜びとして生き、そして死んでいった。


374 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:52:27 8NK0Wzpc0

ランサーの生き方は一度死に、時を越えて英霊となって蘇っても変わることはない。
今まさに自分を超えようとする戦士に敬意を払い、全力を以ってこれを打ち破るまでのこと。
残る全魔力を槍の穂先に注ぎ込み、必殺の構えを取る。


『ヒッサツ!フルスロットル!!』

同じく決着の時を感じ取ったマッハチェイサーもドライバーの蓋を一度開け、必殺技を起動。
跳躍し、つま先をランサーへ向けたライダーキックを放った。

激突する両者、炸裂するエネルギーと魔力の奔流に物理法則が悲鳴を上げ大きな爆発が発生した。
煙が晴れた時、立っていたのはマッハチェイサーのみだった。
自らが誇る究極の一を以ってして敗れたランサーは未練などないとばかりに、辞世の句もなく消え去っていた。
ただ辺りを漂う光の粒子だけが彼が存在していたことを示していた。


「はぁ、はぁ………」
『オツカーレ!』

変身を解除した剛はランサーから受けたダメージの深さからその場に崩れ落ちかける。
倒れかけた剛をキャスターの腕が掴み、肩を貸して立ち上がらせた。

「よう、お疲れさん。やるじゃねえか。
初陣にしちゃ、まあ見事なもんだったぜ」
「…これでも結構修羅場は潜ってきてるつもりなんだけどな」
「アホ抜かせ、聖杯戦争じゃ初陣には変わりねえだろ。
何しろサーヴァントも呼ばず、神秘の何たるかも理解しないままサーヴァントに挑む馬鹿なんだからよ」
「…言い返せねえ」


騒ぎを聞いて駆けつけてくるであろう警察から逃れるために少し場を離れ、適当な場所に剛を座らせたキャスターは癒やしのルーンを刻んだ。
するとみるみるうちに剛の受けた傷は回復していき、すぐに普通に歩けるまでになった。

「まだ名乗ってなかったな。
オレはキャスターのサーヴァント、真名はクー・フーリンだ」
「俺は詩島剛、よろしく」

もし剛にケルト神話に関する知識があればキャスターの正体に疑問を持っていただろう。
しかし残念ながら彼の知識は工学に偏っていたため何も疑うことなくキャスターの手を取り握手を交わした。
まあ「魔術師というわりには妙に荒っぽくないか?」という程度の疑問は持っていたが。

「で、早速だがよ。今のうちに方針を決めといた方がいい。
ふらふらしてて生き残れるほど聖杯戦争は甘くねえ」
「それならもう決まってるよ」


方針。詩島剛は何処を目指してこの電脳世界を走るのか。
先のランサーとの交戦で、その答えが朧気ながら見出だせた。


「人間を脅かすマスターやサーヴァントはもちろん撲滅する。
…でも、本来なら人を殺したくない奴らまで強制的に人殺しに仕立て上げるのが聖杯戦争って仕組みだ。
多分虱潰しに敵を倒していくだけじゃ根本的な問題は何も解決しない。
俺が本当に戦わなくちゃならないのは、聖杯戦争そのものだ」


375 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:53:03 8NK0Wzpc0

少なくともあのランサーは進んで市民を殺したがっている風には見えなかった。
では何故殺そうとしたのか、神秘の秘匿などという聖杯戦争を円滑に進めるためだけに存在するふざけたルールがあるからだ。
破れば監督役からペナルティを受ける、すなわち生き残る確率が下がるからやらざるを得ないのだ。

神秘の秘匿だけではない。
勝ち残れるのは一組だけで、勝てばどんな願いも叶うという聖杯。
そんな餌をぶら下げて、勝手に拉致した人間を殺人に駆り立てるシステムも絶対に許すわけにはいかない。
生きるためだけに殺し合いに参加せざるを得ず、取り返しのつかない罪を犯してしまうマスターだって中には当然いるだろう。
倒さなければならないのは、悪意に満ちたこの世界そのものだ。


「だから、あんたにも協力してほしいんだ。
あんたに助けてもらわないと俺は戦うことすらできやしない」
「…ただの上っ面で言ってるわけじゃなさそうだな。
良いんじゃねえか?少なくとも欲の皮突っ張ったマスターに使われるよりはマシさね」

何というか、キャスターはひどくさっぱりした性分のようだった。
英雄と呼ばれるような者は皆こういうものなのだろうか?

「実はオレは聖杯戦争じゃ結構な古参兵なんだがよ。
今回ばかりはどうにもきな臭いとは思っていた。
オレの経験が役立つと良いんだが」
「マジで!?教えてくれないか、他の聖杯戦争のこと」
「ああ良いぜ。道すがら話してやるよ」


これは知識以外でオレが教えることはあまりなさそうだ、とキャスターは考えていた。
魔力こそ乏しいが、肉体も精神も十分に鍛えられたマスターを得られたのは幸先が良いと言えるだろう。
後は兵器として、先達としてマスターの決断を支えるのみだ。




――――まあ、ランサーで現界できていれば何も言うことはなかったのだが。


376 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:54:02 8NK0Wzpc0


【クラス】
キャスター

【真名】
クー・フーリン@Fate/Grand Order

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具A

【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地である「工房」を作成する。
師匠の宝具である『門』をうまくアレンジした陣地を作ることもあるが、それは秘中の秘であるらしい。
なぜなら、使うとおとなげない師匠が「パクりか貴様―!」と突撃してくるからである。

【保有スキル】
ルーン魔術:A
スカサハから与えられた北欧の魔術刻印ルーンの所持。
キャスターとして現界しているため、ランサーでの召喚時よりもランクが高い。
ルーンを使い分けることにより、強力かつ多様な効果を使いこなす。
攻撃以外で主に使用するのは対魔力スキル相当の効果、千里眼スキルの効果、パラメーターをAランクに上昇させる効果、等。
またランサーでの召喚時に使用していた探知効果、気配遮断、全ルーンを使用した上級宝具をも完全に防ぎ切る防御結界も引き続き使用可能。
これらは全て一時的な効果であり、同時複数の使用はできない。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

矢避けの加護:A
飛び道具に対する防御。
狙撃手を視界におさめている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。
上級の宝具にも対処可能だが、超遠距離からの直接攻撃には該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
クー・フーリンはダーナ神族の光の神ルーの血を引いている。
信仰の加護、菩提樹の悟りといったスキルを打ち破る。


【宝具】
『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
ウィッカーマン。
無数の細木の枝で構成された巨人が出現。巨人は火炎を身に纏い、対象に襲い掛かって強烈な熱・火炎ダメージを与える。
真名解放を行わずとも部分的な召喚が可能で、腕部だけを顕現させて敵を握り潰すといった使い方もできる。
この巨人の胴部は檻となっており、本来はそこに生贄を押し込める。しかし宝具として出現した巨人は生贄を収納しておらず、本来納めるべき神々への贄を求めて荒れ狂う。
これはルーン魔術の奥義ではなく、炎熱を操る「ケルトの魔術師」として現界したクー・フーリンに与えられた、ケルトのドルイドたちが操るべき宝具である。


『大神刻印(オホド・デウグ・オーディン)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜80 最大捕捉:500人
オホド・デウグ・オーディン。
現代風に言うとマトリクス・オーダイン。真名解放と共に、スカサハより授かった原初の18のルーン全てを同時に起動することで発動する宝具。
北欧の大神オーディンの手にしたルーンの力が一時的に解放され、敵拠点に大規模な魔力ダメージを与える。
更に、生存している敵のバフ効果を全解除し、全ステータスを強制的に1ランク下降し、常時発動型宝具を有していた場合は1〜2ターンの間停止する。
地上ではオーディンによる使用制限が掛けられかねない宝具だが、ムーンセルではその干渉が届かないため問題なく使用可能。


377 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:54:40 8NK0Wzpc0


【weapon】
ルーンの刻まれたオーク材の杖。近接戦闘を行う際はルーンで一時的に筋力パラメータをAランクに引き上げて殴りかかる。

【人物背景】
ケルト、アルスター伝説の勇士。
赤枝騎士団の一員にしてアルスター最強の戦士であり、異界の盟主スカハサから授かった魔槍を駆使した英雄であると同時に、師から継いだ北欧の魔術――ルーンの術者でもあったという。
キャスターとして現界した彼は、導く者としての役割を自らに課していると思しい。
真のドルイドではなく、仮初めのそれとして――
共に在り続ける限り、彼はマスターの行く道を照らしてくれるだろう。

――――それはそれとして、やはりルーンのみの戦闘は馴染まないのかよく「槍が欲しい」と愚痴をこぼす。


【サーヴァントとしての願い】
強いて言えば槍が欲しいが、聖杯に願うことでもない。




【マスター】
詩島剛@ドライブサーガ 仮面ライダーマッハ

【マスターとしての願い】
仮面ライダーとして、聖杯戦争を撲滅する

【weapon】
マッハドライバー炎
仮面ライダーマッハへの変身ベルト
このベルトとシグナルマッハを使うことで仮面ライダーマッハに変身する。
バックル上部のスイッチを連打することで、「ズーット!マッハ!」の音声と共に猛スピードで行動できる。
またシグナルチェイサーを使うことで仮面ライダーチェイサーマッハへの強化変身を、シフトライドクロッサーを使うことで仮面ライダーマッハチェイサーへの更なる強化変身を行う。

シグナルバイク&シフトカー
仮面ライダーマッハへの変身、フォームチェンジ、能力使用に用いるミニカー型のツール。
自律行動させることもできる。
現在所持しているのはシグナルマッハとシグナルチェイサー、シフトライドクロッサーの三つ。
装備することで重加速現象への耐性を獲得し、重加速環境下でも行動できるようになる。
重加速は一定範囲内の空間の時間の流れに対して干渉するため、他の時間干渉能力にも対抗できる……かもしれない。

ゼンリンシューター
マッハ専用のエネルギー銃。マッハの意思に応えて手元に出現して装備するが、変身前でも使用可能。圧縮エネルギー弾を発射しての射撃のほか、銃口下部に備わった強化タイヤでの打撃攻撃も可能。

ライドマッハー
マッハの専用バイク。基本カラーは白。変身前の剛も愛車として使用する。正面から連射で一定時間物体が消滅するビームを発射し、後部からは攻撃を完全に防ぐシールドエネルギーを展開する。重加速現象にも対応している。


【能力・技能】
仮面ライダーになるにあたり訓練で鍛え上げた身体能力と時に特状課にも先んじて事件の真相へ辿り着く推理能力。
またチェイサーマッハ又はマッハチェイサー変身時には精神干渉に対して強力な耐性を発揮する。


378 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:55:15 8NK0Wzpc0

【人物背景】
「仮面ライダードライブ」本編途中でアメリカから帰国したフリーのカメラマン。同作品の2号ライダーであり、「小説仮面ライダードライブ マッハサーガ」以降の時間軸における主人公。
過去にアメリカでロイミュード017と018に親友のイーサン・ウッドワードを殺されたことからロイミュードへの憎しみを抱いた。
その時ハーレー・ヘンドリクソン博士に窮地を救われたことをきっかけに仮面ライダーマッハになるべく訓練を重ねることになる。
ある時自分の父親がロイミュードの生みの親である蛮野天十郎だということ、017と018が日本へ向かったことを知り訓練途中で来日する。
来日後は仮面ライダードライブ=泊進ノ介と共にロイミュードを撲滅するべく戦った。

ロイミュードであり、後に仮面ライダーチェイサーとして人類の味方になったチェイスに対して当初は強い敵愾心を抱いていた。
しかし進ノ介が一度殉職した際「誰かを守ろうとする仮面ライダーの信念」を認められ、特状課に顔を出せなかった時期に行動を共にすることも多かったからか徐々に態度は軟化していった。
だがチェイスを素直に「ダチ」と認めることはできず、蛮野との最終決戦まで意地を張り続けた。
そしてゴルドドライブとの戦闘の最中、チェイスが自らを庇い戦死したことで素直になれなかった自分自身を悔いた。
チェイスから託されたシグナルチェイサーを使い仮面ライダーチェイサーマッハへと変身してゴルドドライブを撃破、バンノドライバーを破壊し父親との因縁にも決着を着けた。

ロイミュードとの戦いが終わった後は人間とロイミュードの関係を模索し、怒りや憎しみに囚われず善良な心だけで仮面ライダーとなる方法を探し旅をしていた。
二年後に進ノ介と霧子の二度目の結婚パーティーの為に帰国し事件に巻き込まれ、元仮面ライダーであることから客員捜査員として権限を与えられ狩野とコンビを組む。
西堀光也の娘である令子と面会を繰り返す内に良好な関係を築きあげる中、意識不明となった彼女が遺したヒントから005が黒幕であることに気付き、プロトタイプマッハドライバーを手に仮面ライダーとして戦いに向かい、これに勝利した。

さらに一年後、チェイスを復活させる起動実験を行うためアメリカから再度帰国。
実験は何故かハートが復活してしまい、チェイスの復活にはまだ長い年月が必要だということが判明した。
もう一つの帰国の目的は収監されていた西堀令子の釈放を祝うことだったが、派手なパフォーマンスで彼女を出迎えたことが災いして走り去られてしまう。
その後連続絞殺事件の容疑者として追われていた令子の無実を信じて奔走する。
一度は令子と再会するも自分は父の「呪い」から逃れられないと言った彼女に催涙スプレーで昏倒させられる。
目が覚めた後に現れた狩野洸一からマッハドライバーとシグナルマッハを受け取り令子の後を追った。しかしこの時彼がもう一つ持ってきていたシフトライドクロッサーを受け取る前に振り切って行ってしまった。
令子を追って廃工場にたどり着いた剛は待ち構えていた西堀光也ことロイミュード005に追い詰められて死の危機に瀕するが、父の呪縛を逃れる決心をした令子により救われ、仮面ライダーマッハに変身する。


379 : マッハは何処を目指して走るのか ◆wzmTZGmcwM :2017/01/25(水) 14:55:49 8NK0Wzpc0
追い詰められた005はリベンジャーロイミュードへと進化を遂げてパワーアップし、再びピンチに陥ってしまう。
そこにチェイスの意志が宿った狩野がシフトライドクロッサーを届けに現れ、剛はそれを使い仮面ライダーマッハチェイサーに変身。
リベンジャーロイミュードを撃破して令子を父の呪縛から完全に開放した。
戦いの後、令子の落としていった手袋を渡して「これからは俺がずっと守る」と告白する。
令子もまたこれに応え、二人は結ばれた。

性格は飄々としたお調子者で派手なパフォーマンスを好むトラブルメーカー。
しかし空気が読めないわけではなく、TPOを弁えることもできる社交的な青年。

……というのは本心を隠すために彼が普段被っている仮面である。
実際の内面は正義感が強く真面目だがそれ故に激しやすく、一人で悩みを抱え込んでしまうことが多い。
もっとも様々な試練、挫折や失敗を経た現在ではつい仮面を被った態度で人と接してしまう悪癖は直りつつある。

【戦術・方針・運用法】
キャスターは基本ステータスこそ低いがルーン魔術によってある程度カバーが効き、戦闘技術も高いため実際はよほど規格外の強敵でもない限りは十分戦える。
攻撃魔術に関してもルーンを刻む工程こそ必要だが、それさえ済ませていれば何の詠唱もなく魔術行使ができるため敏捷性の高いサーヴァント相手でもワンチャンスが望める。
戦闘経験の豊富さもあって状況に応じて前・中・後衛を全て万遍なくこなした上で斥候にも向くなどサーヴァントに求められる能力の多くを平均以上で満たしている。
ただし彼はあくまで戦闘タイプの魔術使いであるため、一部のキャスターが持つ聖杯戦争のシステムそのものへ介入するような反則の類は望めない。
戦闘では剛が変身する仮面ライダーマッハへルーンによる強化を施した上で連携を取って戦うことが望ましい。
マッハが前衛でサーヴァントを食い止めている間にキャスターが魔術や宝具を叩き込むオーソドックスなスタイルは勿論のこと、状況に応じてキャスターが前衛で杖を振るいマッハが援護射撃を飛ばすこともできる。
型に嵌まらない戦い方が出来る主従である。


380 : 名無しさん :2017/01/25(水) 14:56:56 8NK0Wzpc0
投下終了です
詩島剛とクー・フーリンについては『Maxwell's equations』様の登場話コンペより◆V5/BJPQv6Y氏が投下された『詩島剛が抱いた決意とは何か』から一部ステータス、人物背景を参考とさせていただきましたことをここに明記します


381 : 名無しさん :2017/01/25(水) 16:41:53 EpJM3X0M0
◆Wiki修正のお知らせ◆
拙作『おさんとん係』に運用解説を追加しました。


382 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:08:20 47iSXIZE0
投下します。


383 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:09:26 47iSXIZE0
スノーフィールドの一角で連日大繁盛のレストランがある。

なんでも、そこの料理は美味いだけではなく食べた者に成功を呼ぶとの噂が絶えないとか。

店の名はシュプリーム・S(しろた)。

店主の名は至郎田正影―――


384 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:09:59 47iSXIZE0



「はぁっ、はぁっ...」

うす暗い路地から指す光に向かい俺は必死に逃げていた。
どこへ向かっているか―――そんなのを考える余裕すらない。
疲労と恐怖で肺が張り裂けそうだ。だが捕まれば命は無い。

俺はどこで間違ったのだろう。
奴のもとについたことか?料理人としてのプライドを持ち妙な正義感に駆られたことか?
もうそんなことはどうだっていい。
とにかく今は逃げなければ。そして、警察に俺の知ったことを全て話すんだ。
あの男は狂っている。
あんなモノ、世にのさばらせてはいけないんだ―――!!

光は次第に近づいてくる。
やった。あそこを出れば人通りのはずだ。
あそこにさえ出れば、奴も手が出せない筈―――

「ん」

ふと、目に止まった不自然なでっぱり。
足は止めないがすれ違いざまに確認する。
なんだコレは。
缶詰?書かれている文字は、D・C・S...



「ドーピングコンソメスープだ」



ゴ シ カ ァ ン


385 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:10:47 47iSXIZE0



「終わったか」

シュプリームSのオーナーシェフ・至郎田正影は背を向けたまま確認した。

「ああ。これで俺たちの邪魔をする者はいなくなった」
「ふふふ...」

至郎田は鍋を掻き混ぜ不敵に微笑む。

(あともう少しだ...もう少しで俺の至高にして究極の料理は完成する...)

至郎田正影は天才的な料理人であった。
それ故に美味い料理など息を吸うかのように作ることが出来た。
だが。それではだめだ。
美味い料理を作れるだけでは、世間では天才と持て囃される凡人共と同じだ。
真の天才料理人は、料理で人を支配するべきなのだ。
そこで至郎田が求めたのは、成功と引き換えに彼に縋らざるをえない中毒性の高い料理だった。

これが完成していれば悲願は達成できたはずだった。

(海野め...二度も俺を裏切りやがって)

だが、至郎田の作る料理の材料を知った海野は、このことを警察に公表すると脅してきた。
間抜けめ。だからお前は俺に敵わないんだ。
そう思い立った至郎田は、己の"料理"で強化した腕で海野を撲殺しようとし―――そこで降って来たトランプに触れ、改めてレストランのオーナーシェフとなっていた。
この時は至郎田は究極の料理のことも忘れ、海野もまたそれを忘れていた。
だが、数週間後、再び降って来たトランプに触れた至郎田は記憶を取り戻し、再び究極の料理の研究に没頭。
あと一息で完成といったところで水を差したのが、またしても海野だった。
以前と一言一句違わず邪魔をしようとした海野に苛立ち、至郎田は思わず正面から殴りかかった。
しかし、それが災いし、海野はそのまま裏口から逃亡。
追いかけようとしたが、いまのが騒ぎにになって無闇に厨房に入られるのはマズイ。
そこで、記憶を取り戻す際に手に入れたサーヴァント―――キャスターにあとを追わせたのだ。

結果、滞りなく海野を始末及び処分をしてくれたサーヴァントに、至郎田は流石はオレだと称賛を送った。


386 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:11:16 47iSXIZE0

(聖杯戦争...フッ、これを勝ち残れば俺の食の千年帝国は完全なるものとなる)

サーヴァントが語った聖杯戦争は至郎田の興味を非常にそそった。
聖杯を手に入れれば、海野のような凡才に足を引っ張られることもこそこそと警察から隠れて料理をする必要もなくなる。
ならば手に入れない理由は無い。如何なる手段を持ってしても、俺は聖杯を手にしてやる。

至郎田の背を押すように、至郎田の視ていた料理も完成する。

「完成だ...俺の至高にして究極の料理...」
「では、景気づけにひとつ」
「ああ」

至郎田は鍋から煮込んだ液体を掬い皿に注ぐ。
スープだ。紛れも無くコンソメスープだ。

キャスターもまた、空中に浮かんだ鍋から液体を掬い皿に注ぐ。
スープだ。こちらもまたコンソメスープだ。

流石はオレだ、と内心で互いを褒め合い邪悪な笑みを交わす。

至郎田は自分が為るであろう姿を見つめ。

キャスターは未だ成長を止めないかつての自分を見つめ。


「「では、俺たちの食の千年帝国へ向けて―――乾杯」」

これから共に創り上げる王国を夢見て。
マスターとサーヴァント―――二人の『至郎田正影』は、互いのドーピングコンソメスープを飲み交わした。


387 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:11:40 47iSXIZE0


【クラス】キャスター

【真名】至郎田正影

【出典作品】真説ボボボーボ・ボーボボ

【ステータス】
通常
筋力B 魔力C 耐久C 幸運C 敏捷D 宝具:B



【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
作れる施設はレストラン。

道具作成:EX
無からDCS(ドーピングコンソメスープ)を生み出すことができる。


【保有スキル】

料理:A
大概のものなら調理できる。得意料理はドーピングコンソメスープ


トリック:C
食材を使用した犯罪が得意。中でもDCSを使用した撲殺が得意。


DCS真拳:EX
ドーピングコンソメスープ。


【宝具】
『DCS(ドーピングスープコンソメ)真拳超奥義、食【えじき】食の千年帝国』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:DCSを摂取・かけられた人物
鍋でしっかりと煮込んだドーピングコンソメスープを漫画で使用したトリックと共に敵にぶっかける大技。


【weapon】
・DCS(ドーピングコンソメスープ)
様々な食材や薬物、その他諸々を煮込み続けて完成させた至高にして究極の料理。
肉体を超人級に活性強化させる奇跡の食材だが、一瞬でマッチョな筋肉質になって体型自体が倍くらいでかくなるという物理法則を無視した代物である。その成分は血液や尿からは決して検出されず、尚且つ配合した全ての薬物の効果も数倍となり、血管から注入(たべ)る事で更に数倍になるという。
これを食したサーヴァントは一時的に筋肉が膨大し『狂化:B』のスキルを手に入れることができるが、反動も強く最悪の場合、再起不能状態に陥ることも。

DCSの材料(警視庁押収レシピ参照)
牛スネ肉、骨付き鶏、タマネギ、ニンジン、セロリ、ニンニク、クレソン、長ネギ、パセリ、タイム、ローリエ、卵白、黒粒コショウ、シェリー酒、塩、湯葉の●、
●●イン、●●状●●、太刀魚、牛の●、豚の●、馬の●●の●●、人の●●を●したもの、秋の●、●の粉末、泊方の●、カマキリの●、電球の●、●●●味噌、
●●こ、男の●、女の●、DH●A、DHA、より●●した時の●、●●への●、美味しく作ろうという情熱、その他諸々


388 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:12:13 47iSXIZE0


【人物背景】

真説ボボボーボ・ボーボボ49話に登場したスペシャルゲスト。常にDCS使用後の姿をしている。
ナインエキスパート・黒賭博騎兵衆の一人、雨水の助っ人として竜騎士と共に忍者大戦3狩リアに参戦。
登場早々に雨水にDCSを無理やり飲ませようとしたりDCS真拳を使いボーボボと首領パッチにかましたりと暴れ放題であった。
ゲストキャラということで倒されるにしても気を遣われるのが普通だがそこはボーボボ世界。容赦なく巻き糞で締め上げられてしまった。
他作品の他作者のキャラクターがカメオ出演するのはまだしも本格的にバトルにまで絡んできたのは武藤遊戯と至郎田くらいだろう。
ゲスト出演でありながら人気投票で227票を獲得し堂々の15位を飾っている。

バトル面では武藤遊戯、人気投票では空条承太郎、荒木飛呂彦、プロシュート兄貴に並ぶ快挙(太臓モテ王サーガの人気投票において準レギュラーを差し置きそれぞれ9位、11位、13位に入賞している)を成し遂げた彼は英霊になる素質は充分だろう。


【方針】
マスターと共に食の千年帝国を築き上げるために邪魔者を排除し聖杯を手に入れる。


【聖杯にかける願い】
食の千年帝国を創る。







【マスター名】至郎田正影
【出典作品】魔人探偵脳噛ネウロ
【性別】男

【weapon】
・調理器具
レストランにある機器も彼にかかれば立派な凶器に。


【人物背景】

各界の有名スポーツ選手から「成功を呼ぶ店」と噂されるレストラン『シュプリーム・S(シロタ)』のオーナーシェフ。その実は違法ドラッグを大量に混入した創作料理を提供する異常思想の持ち主。
ドラッグ入りの料理を用いて「食の千年帝国」なるものを作ることが夢だったが、薬物混入の事実を知った同業の海野浩二に反対され、警察に告発しようとする彼を殺害する。殺害を偽装するために「犯行予告の脅迫状を受け取った」と装い警察を呼び、時間差トリックで海野が突然死亡したようにアリバイを工作する。
自身の作る料理を「至高にして究極」と自負しており、それを貶されると異常なほど怒りをあらわにする。現場検証中に彼の料理を試食した弥子から「食べる事に失礼」という評価を下され、激しく怒って事情聴取を取りやめ厨房に籠ってしまうほど。
彼が最高傑作と称する料理「ドーピングコンソメスープ」がカルト的な人気を博し、多くのファンだけでなく同業の漫画各作品でパロディされるほどになった。
基本オリジナルエピソードで構成されていたアニメにおいても、第一話にこのエピソードが起用されるなど、他のキャラクターに比べかなり優遇されている。

余談だが、DSゲームJUS(ジャンプアルティメットスターズ)においてはネウロの必殺技のひとつという形で参戦している。当時の準レギュラーであった五代はヘルプコマにすらなっていなかったというのに...

【能力・技能】
・料理
天才的。凡人では追いつけない。

・ドーピングコンソメスープ
上記サーヴァントの項目参照。



【方針】
如何なる手段を用いても聖杯を手に入れる。


【聖杯にかける願い】
食の千年帝国を創る。


389 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:14:23 47iSXIZE0
あと2作投下します。


390 : 火【ていおうとはんざいしゃ】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:15:34 47iSXIZE0

葛西善二郎は煙草に火をつけ、フゥ、と一息つきつつ思いにふける。

ここに連れてこられる前。
葛西は、絶対悪の王者である男、『シックス』の集めた組織、『新しい血族』の一員として生きてきた。
元々、『シックス』に出会う前から犯罪を美学と称していたし、彼と出会った後でもやはり犯罪を犯していた。
葛西善二郎という男は誰に命令されるまでもなく犯罪を犯していたし、そんな自分が決して嫌いではなかった。
ただ、生きる意味だけは確かに変えられていた。
かつては犯れるだけ犯ってあっさりと燃え尽きれる犯罪者の花道を歩んでいた彼だが、『シックス』に生きる悦びを植え付けられて以降は一転。
葛西善二郎は、誰よりも『人間の犯罪者らしく』長生きをしたいと思うようになった。

さて。そんな葛西善二郎だが、自分の同格の仲間は全て死に絶え、『シックス』は魔人探偵に殺されたことで再び1人の犯罪者となった。
『シックス』よりも長生きをしたいという彼のささやかな願いは見事に叶い、彼を縛るものも無くなった。
だが、それで彼という男がなにか変わったのかと問われればそのようなことはない。
人間の知恵と工夫のみで犯罪を犯しつつ、誰よりも長生きする犯罪ライフスタイルはなにも変わらなかった。

ここに連れてこられ、記憶を失っていた今までもだ。

そう。彼という男はどこまで行っても人間の犯罪者だったのだ。

...さて。そんな葛西善二郎だが、記憶を取り戻し改めて思うことがある。

どうやら自分は生死の瀬戸際に立たされる運命にあるらしいと。


391 : 火【ていおうとはんざいしゃ】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:16:29 47iSXIZE0



「するってえと、これから俺は他のマスターとやらを倒していけばいいんで?」
「そうだ」

バチバチと燃えさかる民家を背景に、葛西は召喚された男へと伺いを立てる。
男の名は、ツル・ツルリーナ三世。
かつてマルハーゲ帝国という国を治め多くの民を絶望により支配した男である。

「聖杯を手に入れ再び帝王の覇道を歩むには貴様の力が必要だ。力を貸せ、葛西善二郎」

それが当然だと言うように言い放つ三世だが、しかし葛西は特に嫌悪を抱くことも無く恭しく肯定のお辞儀する。

「かしこまりました、三世殿。...んで、俺はなにをすればいいんで?」
「まずはオレの下僕と成り得る者たちを集める。帝国を再建する以上、俺の手足となるべく者は必要だ」

これはまた随分と堅実的な考えだと葛西は感心した。

かつての主である『シックス』も血族の血を引いている者を集めはしたが、実質それは遊びのようなもの。
少しでも期待を背けば容赦なく壊してしまうこともあれば、何の非がなくとも気分次第で踏みつぶすこともある。
要は、彼は三世とは違い、部下を駒にすら見ていない。真の血族であるのは自分だけだという自負のもと、玩具を遊ばせているにすぎないのだ。

そんなシックスよりは、彼の方が幾らかマシなタイプだと思った。

「葛西。この聖杯戦争で俺の役に立てばお前には三大王の座を与えよう」
「ソイツはイイ立場なんで?」
「オレの側近だ。光栄に思え」
「へぇ...ま、考えておきますわ」

そんな葛西の予想外な返答に、三世は思わず呆気にとられてしまった。
葛西はマッチを取り出し、燃え尽きた煙草を捨て新しい煙草に火を点ける。

「ああ、いや、勘違いして不機嫌になられても困るんで先に言っておきますが、俺はあんたを過小評価なんざしてません。むしろ、絶対に俺の敵わない化け物だと思っています」
「ほう。そこまで分かっていて、オレの側近には興味がないと。ならばお前の願いはなんだ」
「ちっぽけなモンですよ。大多数の人間と同じ望み。ささやかで、冷めててそれでいてだいそれている」
「ほう。その望みとは?」

指で挟み煙草を口から離し、ふう、と上空に煙を吐く。


392 : 火【ていおうとはんざいしゃ】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:16:56 47iSXIZE0
「長生きしたいんですよ。あんたみたいな人間離れした怪物よりね」

煙は空に昇り四散する。が、一部だけはそのまま空へと昇っていく。

「あんたみたいな化け物は世界の誰よりも長く生き続けるだろう。あんたを脅かす者がいない限りな」

昇った煙は、他に散った煙同様そのまま消えた―――が、確かにほんの数コンマだけ他の煙より長く視認することができた。

「そんな帝王たるあんたより、コンマ1秒でも長生きしてみたい...俺の望みはそれだけでさァ」

葛西の返答を聞き終った後、三世は自然と笑みを浮かべていた。

(面白い奴だ。今までの部下にはいなかったタイプだ)

三世の部下には様々な人種がいた。

ただただ三世を信奉する者。
己の力を振るいたいだけの者。
従うことによって更になる力を手に入れようとした者。
物欲にかられた者。
真意の読めない者。

憎きボーボボ達に敗れたとはいえ、優秀な部下は多く、それは三世も認めている。

だが、この葛西はそんな元・毛狩隊の面子とは毛色が違う。
自分の力量を測り間違えず、それでいて己のスタンスを変えずに小賢しく立ち回り長生きしようとしている。
とはいえ、決して世の為人の為に動く人間ではない。召喚された時に見た放火場面がそれを物語っている。
いわば、誰よりも強かな『人間の犯罪者』のエキスパート。
今までの部下はどうにかボーボボ達を倒そうと躍起になっていたが、彼なら追い詰められればプライドもなにもかもを置き去りにしてさっさと逃げ出すくらいはやってのけるだろう。
案外、ただ強いよりはそういった者の方が長生きするのかもしれない。

「気に入ったぞ葛西善二郎。オレに従う限り、お前の命は保証してやろう」
「ありがたいお言葉で」

恭しくお辞儀をする葛西。
そんな彼の耳にサイレンの音が届く。


393 : 火【ていおうとはんざいしゃ】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:17:35 47iSXIZE0

「警察だ!放火および器物破損の罪状で逮捕する!」

あっという間に銃を構えた数十人の警官に取り囲まれる二人。

「あらら...ちとお喋りがすぎちまったか。ここは、ズラかりましょうぜ三世様」

囲まれてはいるが、逃走経路ちゃんと逃走経路は用意してある。
葛西の足元付近から走る灯油。
これに火を点ければ、炎は警官たちを襲い、その隙に自分達は足元のマンホールから逃走する手はずだ。
早速計画を実行しようとした葛西の前に、三世がズイ、と進み出る。

「貴様、それ以上動くな!」
「ちょうどいい。オレの力を披露するついでに凱旋の狼煙をあげるとしよう」

警官の言葉を無視し、三世は杖を生み出しくるくると回す。そこから現れるのは大量の純白のハト。

「やだなにこのハト!超カワイイ!」
「ほーらほら餌ですよ」

ハトに気をとられ、思い思いに触れ合う警官たち。

「真紅の手品真拳奥義『ハトの魔術』」

そんな警官の想いに応えるかのように―――ハトは警官諸共爆発した。

「ギャアアアアアア!国家権力万歳―――!!」
(悪役みたいな台詞で散った!?)

自分が引き起こした惨状にすら眼中などないかのように、三世は悠々と歩みを進める。
その様を見て改めて思う。シックスのような絶対悪ではなくとも、彼もまたれっきとした悪の帝王だと。

そして、こんな人間離れした力を手に入れることのないように、自分が死んだ後もサーヴァントとして呼ばれないよう聖杯に願おうかともボンヤリ考えた。

「いくぞ葛西。オレが帝王へと返り咲く日も近い」

王の歩みに、人間もまた続く。
伝説の犯罪者は、再び悪の帝王と共に炎燻る犯罪のロードへと足を踏み出した。


394 : 火【ていおうとはんざいしゃ】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:18:04 47iSXIZE0


【クラス】キャスター

【真名】ツル・ツルリーナ三世

【出典作品】ボボボーボ・ボーボボ

【ステータス】筋力B 魔力EX 耐久B 幸運C 敏捷B 宝具A+

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。

道具作成:EX
魔力を消費することで無から武器を生み出すことができる。



【保有スキル】

執念:A
執念深さ。己の目的を達するまではなにがあっても挫けないだろう。

帝王:A
帝王たる素質。彼が放つ威圧感や圧力には並の人間や英霊では耐えられないだろう。
また、己の力を他人に譲渡することもできる。

カリスマ:B
人望を集める力。基本的には力で押し付けるタイプだが、部下であるハンペンは捨てられても尚敬称で呼んでいたり、コンバット・ブルースは最後まで三世についていたことからそれなりの人望はあることが窺える。


【宝具】

・『真紅の手品真拳』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:30 最大補足:30
肉体を破壊する技。強力且つ使い勝手がいいためか、こちらが三世のメインの技となる。



・『青藍の手品真拳』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:20 最大補足:15
敵の精神に影響を及ぼす技。こちらは限定的な場面でしか使用できない。



・『聖マルハーゲワールド』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:5 最大補足:30
一定時間、三世が空間を支配する。この空間内は三世の理想郷であり、自在にコントロールすることができる。
また、この空間を破壊するか三世の空間を維持する力が消えない限り脱出は不可能である。


395 : 火【ていおうとはんざいしゃ】 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:18:26 47iSXIZE0


【weapon】
真紅の手品真拳で生み出すため特になし。



【人物背景】
100年前、当時弱小国だったマルハーゲ帝国をたった4日で大帝国にのし上げた マルハーゲ帝国3代目にして歴代最強の皇帝。
真の姿に戻るために毛の王国の人間の体内に存在する毛力(パワー)の源である毛玉を欲し、毛の王国の生き残りを狙っていた。
極度の人間嫌いで人間をゴミ呼ばわりする反面、皇帝である自分を至高の存在だと信じて疑わない。
ボーボボたちと激戦を繰り広げるが超絶奥義の前に敗北。以降、コンバット・ブルースと行動を共にする事が多い。
後に毛玉を奪う為にコンバット・ブルースと共に新・毛の王国に現れる。ボーボボに敗れ満身創痍のビービビから毛玉を奪い取り、背中に4本のアームが付いた鎧を着た姿になった。
『真説』では「ネオマルハーゲ帝国」を創り上げ、毛狩り隊改めケガリーメンたちを支配下においている。
善滅丸を使いネオマルハーゲ帝国を超最強軍団に変える「Zプロジェクト」を進行。続いて自分の部下以外の真拳使いを皆殺しにすることを民衆に伝え、宣戦布告する。
その後、ボーボボとの戦いに敗れ、最終的に「オレは何度でも蘇る」という言葉とビービビの毛玉を残して消滅した。


【聖杯にかける願い】
マルハーゲ帝国を再建しボーボボ達を殺す。





【マスター名】葛西善二郎
【出典作品】魔人探偵脳噛ネウロ
【性別】男

【weapon】
袖に仕込んだ火炎放射器。これを使えば傍からみれば手から炎を出しているように見える。



【人物背景】

シックス率いる「新しい血族」の中でも選りすぐられた五人の腹心、「五本指」の一人。
全国的な指名手配犯であり、放火を主に脱獄も含めて前科1342犯のギネス級の犯罪者。
先祖代々、火を扱う者としての「定向進化」を受け継ぎ、その恩恵により火の全てを司ることができる...が、彼の美学は人間を越えないこと。
彼の手品のような炎の扱い方は、全て小細工と知恵、計算によるものであり、全ての「新しい血族」の中で、唯一「定向進化」に頼らず人間の犯罪者として在りつづけた。
また、葛西の目標は「人間としての知恵と工夫で、人間を超越したシックスよりも長生きすること」であり、「新しい血族」の中でも、唯一シックスに対する絶対な忠誠心を抱いていない。
そのため、自己中極まりないシックスに対して唯一意見ができ、且つシックス自身もそれを不快にも思わない、云わば友人(対等ではないにせよ)とも言える数少ない存在である。

重度のヘビースモーカーであり、一日に8箱ものタバコを消費する。



【能力・技能】
・炎を操る
前述した通り、全ては知恵と工夫の結晶であり、何も無いところから火を放つことなどはできない。
そのため、火を起こす時にはマッチや火炎放射器を使用している。

・身体能力
他の「五本指」と違い、身体能力を飛躍的に上昇させる強化細胞を身体に埋め込んでいないため、純粋に生身の人間である。
しかし、高層ビルの壁をすいすいとよじ登る、強酸を仕込んだ銃弾を何発も受けても割りと余裕ある動きができるなど、かなり高い身体能力を有している。

・火にかけた親父ギャグのレパートリー:1000以上。


「ヒヒヒッ」→「火火火ッ」

【方針】
三世と共に勝ち抜く。

【聖杯にかける願い】
己の美学である"人間を越えないこと"は決して曲げずに長生きする。そのため、聖杯そのものには大した興味は無い。


396 : 交わる二人の漢たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:21:32 47iSXIZE0
とある民家の一室。

「夢じゃ...ねえんだよな」

金髪の青年―――初見では不良にしか見えない風貌の高校生、巽完二。
彼は、ベッドに腰掛け此処に至るまでのことを思いだしていた。

彼の住む稲羽市で起きた連続怪奇殺人事件。
その元凶となったマヨナカテレビにて真犯人を捕まえ、事件は終わりを告げた。
そして、その中心となった完二の先輩に当たる青年にして特別捜査隊のリーダー、鳴上悠は都会へと帰ることになり、彼の送別会の準備にとりかかっていた時のことだった。
折り紙で飾りを作っている完二の目に一枚の白紙のトランプがとまる。
それは買った覚えのないものだったが、偶然完二だけが見ていたのか、誰もそれに言及はしなかった。
なにかに使えるか、という算段もなく、彼はただそれに手を伸ばす。
それに触れた途端、気が付けば世界は変わり、仲間たちは『マヨナカテレビのことは知らないが仲のいい学友』になっており、自分もまたその一員となっていた。

「セーハイだかなんだか知らねえがよ...なんだっつーんだよ、クソッ」

頭を掻きつつそう吐き捨てる。
彼は勉強が得意な頭ではないことは自覚している。
しかし、そんな彼でも現状が「なにかとてつもなくヤバイ」ことは直感していた。

「どうだ。少しは落ち着けたか?」

ドアを開け、完二に声をかけるのはリーゼントをこしらえがっしりとした体格の巨漢。
彼こそが、完二のサーヴァントである。生前の名はブラート。かつて殺し屋・ナイトレイドの一員として活躍した漢である。
召喚され、聖杯戦争について語ったのはいいものの、混乱する完二に落ち着ける時間を作るため、見張りがてら部屋に彼を一人残していたのだ。


「あ...ワリッス。なんか気を遣わせちまったみてぇで」
「ハハッ、気にするな。こんな状況受け入れられなくても仕方ないからな」

朗らかに笑うブラートに、思わず完二も笑みを零す。


397 : 交わる二人の漢たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:22:12 47iSXIZE0

「えっと...名前、なんでしたっけ?ら、ラ...」
「ランサーな。まあ呼び辛かったら兄貴かハンサムでいいぜ。いや、むしろそっちの方がいい」
「んじゃ、兄貴でいいっスか」
「よし!いい感じだ!」

ブラートの口元がキラリと光る。
その歯並びからしてかなり丁寧に磨いているのが窺える。

「それで、マスター。お前はこれからどうするつもりだ?」

スッ、と自然な流れでブラートは完二の隣に腰掛ける。ギシリ、と微かに軋む音がした。

「そういやまだ名前言ってなかったっスね。俺は巽完二。完二でいいっスよ。マスターがどうとかは俺の柄じゃねえんで」
「タツミ...」
「?」
「いや、かつての仲間にタツミって名前の熱い男がいてな」
「マジっスか。珍しい偶然もあるもんスね」
「まったくだ。まあ、それは置いておいてだ。完二。お前はこの聖杯戦争をどう勝ち抜くつもりだ」

ブラートの目付きが変わり、先程までの朗らかな雰囲気が一変引き締まったものになる。

「勝ち抜くってのは...」
「この聖杯戦争はただの喧嘩じゃない。正真正銘、れっきとした殺し合いだ」

"殺し合い"。その言葉に完二の目が見開かれる。

「殺しって...んなのヤるわけねえだろ!」

殺し。他者の命を奪いこの世から亡くすこと。
殺人は法律で禁じられた許されざる行為である。
だが、それ以上に完二は知っていた。
花村陽介。普段は軽い態度で、どうやったら女にモテるかを本気で考えるような、一言で言えば"チャラい"性格の完二の先輩。
だが、彼のかつての想い人であり、連続殺人事件の被害者である小西早紀の話題になると、いつも誰よりも悔しげに顔を歪ませていた。
小西尚紀。小西早紀の弟であり、突然の彼女の死にどう反応すればいいか戸惑い、一時期はロクに会話をしようともしなかった。
ようやく受け入れた時には、誰よりも姉を想って泣き腫らしていた。
それに、完二自身も経験がある。いや、彼以外の特別捜査隊の者も同じだ。
鳴上悠の妹同然の堂島菜々子が息を引き取った時、彼らは胸が張り裂けそうな苦しみを味わった。
悲しみ、怒り、憎み、下手人に対して本気の殺意をも抱いた。
奇跡的に息を吹き返したからよかったものの、もしその奇跡が起きなければ、皆の心には決して癒えない傷跡が残っていたはずだ。

人が殺される―――死ぬ。それは、多くの人間を傷付け地獄に突き落とす所業だ。

巽完二という男が、そんな残酷な所業に手を染められる筈もなかった。


398 : 交わる二人の漢たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:23:18 47iSXIZE0

「聖杯戦争は、なにもただ殺し合うだけじゃない。勝ち残った奴には如何なる願いも叶える権利が与えられる。聖杯を狙うのは、単純な損得で動く奴らだけじゃねえ。例えどれだけ傷つこうが、屍を積もうが叶えたい願いのために戦う奴らもいる。例えお前がそいつらを殺さずに止めたとしてもだ。そいつらは決して夢を諦めない。命が尽きるまで戦い続けるだろう。完二、もう一度聞くぜ。もしも命がけで願いを叶えるために戦う奴が現れた時。お前はそれでも敵を殺さないつもりか」

ブラートの言葉に、完二のこめかみから冷や汗が伝った。

目を伏せて考える。

完二とて、今まで何の苦労もしていない訳ではない。
だが、今まで自分の命を投げ打ってまで挑んでくる敵と一人で相対したことはなかった。
戦ってきた相手は、大概は己の欲圧された心のやり場を求める独りぼっちの影(シャドウ)であり、自分にはいつも信頼し合える仲間が大勢いた。
今回の聖杯戦争はそれとは状況が全く違う。
サーヴァントという仲間はいるものの、それは別の者も同じだ。
2対2、単純に考えれば1対1の構図になる。
そんな状況で、今まで通りにブッ飛ばすだけでは済まない相手と戦った時―――完二は、相手を倒せるのだろうか。

やがて、完二は意を決したようにブラートへと向き合った。

「...兄貴。俺ァ、人様に胸張れる人間じゃねえ。警察にはなにかと目をつけられるし、お袋や先輩たちにも迷惑をかけっぱなしだった」
「そんな俺でも、やっぱり人を殺しちゃいけねえのはわかるんだ。どんな理由があってもだ」

甘い考えだ、とブラートは思った。
彼にそれを非難するつもりはない。むしろ、一般人である彼にそう易々と殺し屋のような覚悟はしてほしくないとさえ思っている。
だが、聖杯戦争に選ばれてしまった以上、彼も敵を打ち倒さなければならないのだ。

そんなブラートの想いを、完二はわかっている、とでもいうように正面から見据える。

「けどよ、兄貴の言う本気の奴らはそこまでしても叶えたい願いって奴を抱えてるんだよな」
「ああ」
「だったら―――俺は、ソイツらを受け止めてやりてえ」

ブラートは耳を疑った。完二は、相手が殺意を持っていてもなおそれを受け止めたいというのだから。

「死ぬつもりか」
「んなつもりはねーよ。けど、そいつらは誰にも自分の想いを打ち明けられねえんだろ...ずっと抱え込んで戦うなんて、辛すぎるだろ。だったら、ソイツらが抱え込んでるモンを全部俺にぶつければいい。そんで、俺も本気で止めてえんだってことを伝えてやりてえんだ」


399 : 交わる二人の漢たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:24:27 47iSXIZE0

かつて、自分が向き合うことになった影(シャドウ)のことを思いだす。
彼(じぶん)は、男の身でありながら繊細な趣味であったことにコンプレックスを抱いていた。
そのことで自分を馬鹿にしてくる女が怖い。男らしいってなんだ。そうじゃなきゃ認められちゃいけないのか。
極め付けに、彼(じぶん)は言った。
『僕を受け止めて』と。
完二は知った。存在を認めることが、想いを受け止めることがどれほど救いになるかを。
彼(じぶん)だけではない。
直人も、りせも、クマも、自分が直接見た訳ではないがセンパイ達も。
みんな、そうやって己を受け入れ前へと進んできたのだと。

「あ〜、うまいこと纏まらねえや。...とにかく、俺は、最後までわかりあうことを諦めたくねえんスよ」
「...なるほどな」

ブラートは完二への認識を改める。
どんな相手でもただ否定するのではなく理解を測る。
言葉にすれば簡単だが実行するのは困難だ。
相手は理念が違うのなら住む世界も違う。己の世界の常識が通じないのは当たり前だ。
完二はそれを承知のうえで解り合いたいと言うのだ。
頑固と言うべきかどこまでも純粋というべきか。
聖杯戦争を勝ち抜くマスターとしては厄介なタイプだろう。

だからこそ、共に戦いたいと思う。

もともと、ブラートの願いも聖杯を消すことだった。
どんな願いも叶うモノなど人間には過ぎた力だ。
強大な力は人を欲と狂気に溺れさせ、傲慢に陥れ、闘争を誘い、多くの人々を滅ぼす。
ブラートの生きた時代もそうだ。強大な暴力や権力を持った者が闊歩し力無き人々はいくら苦しんでも泣き寝入りするしかない。
そんな時代だったからこそ、ブラートは反乱軍に加わり国を変えようとした。
だから、この聖杯戦争でも願いは変わらない。
聖杯を消し、二度と聖杯戦争を起こさない。それがブラートの願いだった。
力を持とうとも他者を踏み台にすることをよしとしない完二は、反乱軍の目指した世界の理想の人間だ。
そんな男だからこそ、単に他のマスターを殺して願いを叶えるのではなく、共に違う方法を模索し聖杯を消したいと思う。

「お前の覚悟は認めるぜ、完二。俺はおまえがそれを望むまで一緒に戦わせてもらう」
「兄貴...!」
「だが、勢いだけでどうにかなるもんじゃねえことはわかってるな」

ブラートがゆっくりと距離を詰める度に、ギシ、ギシ、とベッドの軋む音が鳴る。

「人の関係ってのは繊細なものなんだ。俺が見る限り、お前は優しい奴だが周囲には誤解されやすい...違うか?」
「うっ...否定できねっス」
「だから」

俯く完二の顎に手をやり、くいっと持ち上げる。

「俺が教え込んでやるよ。手取り足取り...な」

徐々に近づくブラートと完二の顔。
やがて、互いの吐息が交わり合い―――


400 : 交わる二人の漢たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:25:52 47iSXIZE0

「なななな、なにやってんだコラァ!!」

完二は思わず顔を真赤に染め上げ飛び退く。

「ハッハッハッ、冗談だ」

豪快に笑い飛ばすブラートだが、彼が本当に冗談だったのかマジだったのか...その真意は完二にはわからない。

「まあとにかくだ。俺たちの目指す場所は同じだって分かったんだ。改めてヨロシクな、完二」
「ウッス!男・完二、身体張らせていただきます!」
「よおし、その意気だ!」

マスターとランサー。信頼を築いた二人の男は、固い、固い握手を交わした。
その信頼は、山より高く鋼よりも厚いだろう。

「さて。親睦を深めるために裸の付き合いとシャレ込むか!」
「オウ!...って、はだか?」
「なにキョトンとしてんだ。風呂だよ、風呂」
「あ、あぁ...風呂っスね。そういやここらへんにでかいサウナで有名な大浴場が...」

『僕の可愛い子猫ちゃん...』『あ、嗚呼、なんてたくましい筋肉なんだ!』『怖がることはないんだよ。さぁ、力を抜いて...』

「だだだだだ、だから俺はそういうンじゃねえって言ってんだろうが!キュッと絞めんぞコラァ!!」


401 : 交わる二人の漢たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:26:29 47iSXIZE0

【クラス】ランサー

【真名】ブラート

【出典作品】アカメが斬る!

【ステータス】
通常
筋力B 魔力E 耐久B 幸運C 敏捷B 宝具:EX

宝具発動後
筋力A+ 魔力E 耐久A+ 幸運C 敏捷A+ 宝具:EX


【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力 :C

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

頑健:A
体力の豊富さ、疲れにくさ、丈夫な身体を持っている事などを表すスキル。
通常より少ない魔力での行動を可能とし、Aランクであれば魔力消費を通常の4割近くにまで抑えられる。

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。


【宝具】
『悪鬼纏身インクルシオ』
ランク:EX 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己のみ。

鎧の帝具。
凶暴な超級危険種タイラントを素材として作られた帝具で、素材となった竜の強靭な生命力により装着者に合わせて進化すると言われている。

非常に高い防御力を誇り、生半可な攻撃ではダメージを受けず、毒等の特殊な攻撃も無力化または大きく軽減できる。また、副武装として「ノインテーター」と呼ばれる槍が備わっており、これを主な攻撃手段として用いる。 ほか、使用者の身体能力を飛躍的に向上させる効果もあり、武器を持たず戦うことも十分可能。
ただし、使用者に大きく負担が掛かる為、並の人間が身に着けると死んでしまう恐れもある。
また、適正があったとても長時間の使用は厳しく、体力の低下に伴い自動解除される為、持久戦に持ち込まれると不利になることも。

『インクルシオの能力』

・透明化

周りの風景に合わせて姿を消せる能力だが気配や殺気まで消すことは出来ない。
これは生前のタイラントが高い環境適合力と防衛本能により身に付けた能力である。


・進化
帝具の材料となった竜型超級危険種「タイラント」の筋繊維や闘争本能は未だ生きており、使用者の思いと成長に合わせて進化するという強力な特性を持っている。



【weapon】
・インクルシオの鍵剣
この状態ではただの頑丈な剣だが、宝具を発動するとインクルシオとなり、武器も槍に変わる。



【人物背景】
殺し屋「ナイトレイド」の一人。
筋肉質の大男で、同じくナイトレイドの一人であるタツミからは「兄貴」と呼ばれている。
豪快な性格で面倒見がいい兄貴分。タツミに目をかけており、いずれ自分を超えるかもしれないと期待を寄せている。
同時に、殺し屋としての非情な現実を突きつけることも多い。タツミとの会話で顔を赤らめることからホモ疑惑が浮上しているが、その性癖はナゾに包まれている。
元は帝国の有能な軍人だったが、帝都の腐敗を知ってナイトレイドに仲間入る。彼のトレードマークでもあるリーゼントヘアーはナイトレイド加入に際して行ったイメチェンであり、以前はかなりの美形だった。軍人時代は「100人斬りのブラート」として名が通っており、その戦闘力はナイトレイド随一。帝具がなくても十分な強さを持ち、ニャウからは「エスデスに次ぐ」とまで評されている。船上での護衛任務にてエスデス直属の帝具使い「“三獣士”」と戦闘になった際には、圧倒的な実力でダイダラを瞬殺。次いで、かつて尊敬していた上司リヴァと対峙し激戦の末、致命傷を与えるものの、猛毒を仕込まれた血を撃ち込まれこれに侵される。死を悟ったことでタツミにインクルシオを託し、その奮戦を見届けながら静かに逝った。


【方針】
完二に付き合い共に聖杯戦争を止める。だが、どうしても止まらない奴がいれば完二の代わりに手を汚すつもり。


【聖杯にかける願い】
聖杯を壊す。


402 : 交わる二人の漢たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:26:55 47iSXIZE0



【把握用資料:アカメが斬る!1〜3巻、TVアニメ アカメが斬る!1〜8話】






【マスター名】巽完二
【出典作品】persona4 the animation
【性別】男

【weapon】
・己の拳
そんじょそこらの不良では相手にできないほどのケンカが強い。

・デスク
鈍器として使用可能。

【人物背景】
稲羽市中央通り商店街にある染物屋「巽屋」の一人息子。 八十神高等学校に通う一年生で、主人公達の後輩にあたる。
中学時代から札付きの不良としてその名を轟かせており、過去にたった一人で暴走族を壊滅させたという話で周囲から恐れられているが、根は仁義にあつく、子供や動物にも優しい性格。
また信頼できると目上の人間にはちゃんと敬意を払うなど、ちゃんと礼節もわきまえられる実直な部分もある。が、からかわれたり興奮したりすると時々口調が荒くなる。
その風貌からは全く想像できないが、実は裁縫や編み物が趣味のオトメンであり、かわいいもの(モノ・動物問わず)が大好きである。
そのため、周囲の視線はきつく、本人も傷つくことは少なくなかった。

マヨナカテレビに落とされ、己の認めたくない部分である『影(シャドウ)』と対峙することになるが、主人公たちの助力を借りつつも己の影と向き合うことでペルソナ『タケミカヅチ』を習得。
以来、主人公たちの仲間の一員として事件の解決に協力した。


【能力・技能】

・タケミカヅチ
真っ黒な鋼鉄のボディに骸骨の文様という、それまでの『女神転生』系とは一線を画すデザインが成されており、手に持った稲妻形の鈍器を武器に戦う。
攻撃手段として強力な物理攻撃と電撃を有している。
この聖杯戦争内ではペルソナは進化前のものらしいが...

【方針】
聖杯を狙って誰かを殺そうとする奴を止める。


【聖杯にかける願い】
対聖杯派。元の世界に帰る。



【把握用資料:PS2ソフト persona4、PSPVITAソフト perusona4 The GOLDEN、TVアニメ P4A、TVアニメP4G】


403 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/25(水) 18:27:25 47iSXIZE0
投下終了です


404 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:27:20 PEY0bl/o0
投下します。


405 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:27:43 PEY0bl/o0


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


君は、この世界に生きとし生ける命に何を見る、何を信じる。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


アメリカ、スノーフィールドに有る貧民街。
其処は田舎街の中でも、仕事と言える仕事に付けぬ最下層の人間が集う場所である。
だがしかし其処の住民は大変仲がよく、絆を結び合い、助け合いながら今日まで生きてきた。

其処のリーダー格の一人である男性が、一昨日息を引き取った。
原因は病だった。
しかし彼の容態と財力ではとても癒せる物では無く、結局彼は病に負けてしまったのである。

その男の葬式が、今日行われた。
葬式、と言っても、此処らに住む貧しい神父を呼び、急に作った棺に遺体を入れて埋葬する、と言ったお粗末な物ではあったが。
場所は男性の家の庭だった。
家も庭も、やはりボロボロで敷地も狭い。
しかし、其処には此処らに住む沢山の人々が参列していた。
彼等には皆喪服を買うなどと言う程のお金は無かったが、せめてと木製の十字架を握りしめている。
十字架は神父が配った物だが、あるだけでも大変マシだろう。

誰もが涙を流し、彼の死を悔やんでいた。
男性の棺が埋められるだろう穴に向かって。
故人たる男性は、人柄が良く誠実な人柄で、その人一倍の優しさで彼等に勇気を与えてくれた人だった。
皆々、彼を慕い、家族のように愛してくれていたのだ。
聖歌が、此処に住む売れないアーティスト達の声から鳴り響く。
彼等もまた、男性に勇気づけられた一人なのだ。

「ひっ……ひっ……。」

皆の嗚咽が鳴り響く中で一人、十字架ではなく、キラキラと煌くペンダントを握りしめて啜り泣く少年がいた。
少年は故人の息子だった。
少年は男性を誰よりも慕っていた。
あのペンダントは、男性がいつもの様に身に着けていたトレードマークの様な物。
何時譲り受けたのかは分からないが、それでも少年は、ハンカチで顔を覆う母親の腕にまかれながら、一生懸命にそれを握っていた。

此処らの住民の一人、ヴィラルは、その少年のペンダントに目がいった。
何故だかは、正直ヴィラルにも分からない。
確かに、あの青年には散々お世話になった。
新入りだった自分を、まるで友達のように扱い、居場所を与えてくれた。
少なくとも「記憶」ではそうなのだが、それでも、恩義は十分過ぎる程感じ取っている。

しかし、今はあの少年の握りしめているペンダント。
アレから、感じ覚えの有るあの熱気が、ジリジリと、螺旋力の如きパワーが、此方に伝わってくる。
嘗てあの人間、シモンと言う男が手にしていたコアドリル。
幾度も自身を倒してきたあのカミナの熱気をそのまま受け継いだかのようなエネルギーを持つシモンのコアドリルに良く似た熱気が、あのペンダントから発せられている。


―答えを知りたければ見続けることだ、ヴィラル。


螺旋王ロージェノムが己に託した、語り部としての役割。
しかし、人間について興味を持った己に、彼が託してくれたあの言葉。

(あの気が、それに繋がる、とでも言うのか……?)

そう考えていく内に、棺は埋められ、葬式は終わった。
母親と手を繋いでいる先程の少年が、立ち尽くして考え行くヴィラルの目の前をすれ違う。
少年は涙を流してはいるが、その目つきは、あの男性に何処か似ていた。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


406 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:28:15 PEY0bl/o0



葬式が終わったその日の深夜。
自分のボロボロのレンガ造りの家の玄関前でヴィラルは、貰ってきた炭に火を付け、温まる。
辺りの明かりを見回し、もう完全に周りの人間が寝静まったのを確認したヴィラルは、見えない「誰か」に声を掛ける。

「皆寝静まった、実体化して構わないぞ、セイバー。」

その言葉に答え、ヴィラルの眼の前に謎の何かが姿を表す。

右手は竜の様な橙色の籠手。
左手には狼のような蒼い籠手。
そしてその身は白虎の様な模様のトリコロール。

彼こそが、ヴィラルの喚んだ「セイバー」のサーヴァントである。
真名はオメガモン、「デジタルワールド」と呼ばれる電子の世界の秩序を護る「ロイヤルナイツ」最強の騎士。
自身も獣人であるが故に、セイバーには然程違和感は感じられない、大きいのは気になるのだが。

「うむ、だが良いのかマスター、お前の魔力は。」
「大丈夫だ、回路が齎す痛みはこの身体が治してくれている。
アンディーネ様の平手打ちにも及ばない、気にするな。」

そう軽口を叩きながらも、ヴィラルはこれまでの経緯を回想する。
ロージェノムが倒され、螺旋軍は壊滅。
これが切っ掛けで大グレン団は新政府を樹立した。
されど自分達を始めとする生き残った獣人達はそんな世界に納得行くはずもなく、当然の如く戦い続けた。
しかし結局無理が祟って自身は敗れ、獄に繋がれた。
そしてその時に拾った一枚のカードに導かれ、今に至る。

だが今のヴィラルには、願いと言える願いが見つからないのだ。
あの時ロージェノムが自身に委ねたのは、「語り部」としての役割。
その命令を成すとなれば、ロージェノムを生き返らせるという選択肢は消え失せる。
だからと言って、新政府に怨念が有るわけでもない。
どうせなら、この聖杯戦争から脱出する、と言う選択肢も有るが―

(俺は一体、何をどうすれば良いんだ……)

ヴィラルのこれまでの7年間は、この言葉に集約されている、と言っても過言ではないのかもしれない。
只やりきれなかった。
やることが見つからなかった。
だから同じ志を持った同胞達と共に、主の仇に立ち向かい続けてきた。
それを今更、此処でどうやって―

「どうした、マスター。」
「……。」

考え事をしている事をセイバーに勘付かれ、ヴィラルはまた俯く。

「……セイバー。」
「何だ。」
「お前には、叶えたい願いは有るのか?聖杯に縋ってまで、前世に思い残した、思いや願いは。」

マスターからのその問いかけに、セイバーもその煌めいていた目をつぶり、考える。

(私の願い、か……)

セイバーのサーヴァント、オメガモンは、本来は喚ばれるべきサーヴァントではない。
ムーンセルという、イグドラシルと同等の演算装置が何らかの形で接続していること。
そしてこの聖杯戦争に喚ばれるサーヴァントに制約と言える制約が無いこと。
これらの二つが合わさったことで、電子の世界における神霊クラスの英雄、オメガモンは此処に推参出来たのだ。
だがそんな今の自分に、叶えたい願いは有るのだろうか。


407 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:28:36 PEY0bl/o0


―全ての命は生きるために有る。
―命は、受け継がれる物だから……


友の言葉が、嘗ての敵の言葉が、セイバーの胸中に反芻する。
イグドラシルが命じた選別計画「プロジェクト・アーク」。
ウイルスを散布し、選ばれたデジモンだけを残す、滅びのプロジェクト。
しかし、その中から、滅びに抗う「Xデジモン」が出現する。
ウイルスに対抗できる力を持つ、真紅の宝石を額に宿したデジモン。
イグドラシルは無論ロイヤルナイツに、このXデジモンの淘汰を命じた。

これまでオメガモンが切り捨てたXデジモンは、数え切れない程の数値に有るだろう。
ロイヤルナイツ最強のデジモンと言われたオメガモン。
その力に為す術もなくXデジモン達は切り捨てられ、倒れていった。

だが、このオメガモンに抗う力を持ったデジモンを、オメガモンは知っている。
彼は弱かった。
その力は、命の灯火は、到底このオメガモンに届くような物ではなかった。
だが彼は立ち上がり続けた。
その果てに彼は翼を広げ、イグドラシルの眷属の力はおろか、伝説のロイヤルナイツの力すら物にしてしまった。
そんな彼は、自身の命と引き換えにイグドラシルに挑み、答えを見つけ出し、そして―


―これを、貴方に託したい。


滅びに抗う為のその力を彼は、己に託した。
その力は今でも、己の宝具として生き続けている。
ふと思い浮かんだのは、昼間に行われた葬式と、その少年が握りしめたペンダント。
あのペンダントは、嘗て彼が託してくれたそれに、良く似た様な物を感じる。
それに、その少年が涙を流しながらも堪らえようとするその表情。
それは、嘗て自分がこれまで切り捨ててきた数多くのデジモン達に、大変良く似た顔だった。


更に浮かぶのは、イグドラシルが仕切り直したあの世界。
彼も、彼女も、そして己の盟友も、皆笑って過ごすあの世界。
彼処で友は言った、イグドラシルも必死だった、と。

―かの君もまた、生きたかったのであろう。

あまりにも複雑かつ煩雑になり過ぎたこの世界を仕切り直さんとした己が主君にも、一縷の望みはあった。
イグドラシルもまた、彼と同じように答えを知りたかったのだ。

しかし、このマスターはどうなのだろうか。
果たして彼は、自身とは違ってこの聖杯に望む願いを、既に見出しているのだろうか。
自身を喚び、この二度目の生において共に動く第二の主君(マスター)は、一体どんな男なのだろうか。
ふと、オメガモンはそんなちっぽけな疑問を、口に出して問う。

「……私には、他者の生命を消してまで叶えたい願いは無い。
既に役割は果たした、未練もない、だがマスター、お前はどうだ。
お前には、どんな望みがある?」

その言葉に、ヴィラルは一瞬俯き、考える。
そして暫くして顔をセイバーに向け、答える。

「良いだろう、話せ、私にも聞きたい事が沢山有る。」




∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


408 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:28:59 PEY0bl/o0


「100万匹の猿がこの地上に溢れ出た時、か。」
「ああ、そうだ、穴蔵に一度押し込められた人間達がこの地上に溢れ出したその時、その瞬間に、己の名を叫べと、ロージェノム様は俺に命じて下さった。」

パチパチと燃える火の照らす暗闇でヴィラルとセイバーは、お互いのこれまでの経歴を、話せるだけ話した。
そして今こうして、主従同士の事情について組いることが出来た。

「しかし、世界に生きる生物達がが増えに増え、文化が複雑になったが故に世界を仕切り直そうとした、と言う事なら知っている。」
「それが、今お前の話した『プロジェクト・アーク』と言う奴か。」

―プロジェクト・アーク。
Xプログラムと、ロイヤルナイツの力を以って、世界に生きとし生けるものを選別させる計画。
それは、嘗て螺旋王が千年にあたって人間を地下に押し付けてきた事に似ている気がした。
特にヴィラルは、その役割を負わされた人類掃討軍極東方面部隊長であり、地上に抜け出た人間達の処分に常々取り当たっていた獣人だ。
Xプログラムに殺されぬ者を殺し続けてきたセイバーには、何か親近感が湧いてくる気がしてきた。

「確かに、そうだな、我が主君、イグドラシルが命じた、増えすぎた者達を消すと言うことは、名目上、ではあった。
が、お前の主君の遺言には、何処かそれに、通じる物を感じさせるな。」
「人口が溢れ、種が複雑になった世界を仕切り直す、か。
今の私にロージェノム様のお心は察せぬが、確かに彼処が獣人だけの世界になった時は、新政府とやらが出来た今と比べれば、まあ分かり易い世界だったよ。」

獣人達が蔓延り、螺旋王が裁くあの頃の世界。
其処のルールは至極単純な物だった。

螺旋王に従え。
螺旋王の元に動け。
地上に這い上がらんとする愚かな猿は殺せ。

この3つさえ護れれば良い、それだけだった。

だが確かに、セイバーの主だという「イグドラシル」が危惧した様に、大グレン団率いる人間達が率いた世界は、とても複雑になった。
人々の意志はロージェノムの時のように一致せず、社会構造には様々な人間の道と道とが複雑に絡み合いながら出来ている。
螺旋王の意思が全てであったあの頃の世界とは本当に、何もかもが違っていた。

「だが俺達獣人には、それが生き辛い世の中でもあった。螺旋王様から頂いた役割をこなす事だけが全てだった、俺達にはな。
だから俺達は戦ったよ、人間にな。結局は負けて、今に至るわけだ……」

ヴィラルは一瞬、卑屈げに口許に弧を描き歪めるが、しかし言葉を続ける。

「今思えば、この俺に生きる道が見つからぬのも、ロージェノム様がお亡くなりになったのが理由の一つ、かもしれんな……。」

何も、迷走の責任を彼になすりつけているわけではない。
只、ロージェノムと言う行動の指針を失った自身に、行動するための理由が無くなってしまった、それだけのことだ。

セイバー、オメガモンはそれを聞き、自身を見つめ直す。
自分もそうだった、嘗てはイグドラシルが正しいと、イグドラシルが総意だと、イグドラシルこそが真実を見据えていると。
そう考えながら、ああして多くのXデジモンを、こと一刀の元に斬り倒してきた。
だが、その心は後に裏切られることになった。
例え選ばれた物のみを方舟に積もうとも、混乱は起きてしまう。
彼の命が秩序を必ずとも安定させるとは、限らなかったのだ。
そして、イグドラシルが生きたいと言うメッセージを、このプロジェクト・アークを通して伝えた事で、彼もまた一つの命だという事が分かった。
だからこそ、オメガモンはロイヤルナイツが一片ではなく、只のオメガモンとして思考出来たのかもしれない。

「確かにな、その気持は察せる。俺もお前と同じように、主の命を絶対にして生きてきたからな。
だが、俺のように主すらいなかった彼が、俺には見つけられなかった答えを見つけられたことを、俺は知っている。
焦らずゆっくりで構わない、お前がここで何を見て、何を信じて、それで得た答えを見い出せばいい。」

諭すような口調でオメガモンは、自らの主に話す。
彼が、その身を以って、その犠牲を以って、自身に教えてくれた事を。
そしてヴィラルはそれを見つめ、

「ああ、分かっている。そうなったら、当分は聖杯戦争はお預けか。」
「……そうだな、罪のない者を殺めるつもりなど、私にも無い。」

セイバーの頷きにヴィラルが答えたと同時に、焚き火の火の灯りが暗くなった。
それを見たヴィラルは、火が弱まった事でより鮮やかに見えた夜空を眺めた。

「監獄で見たのは泥だけだったがな……夜空も中々悪くない。」
「そうだな、私も同じ気持ちだ。」

今日は月が、一段と綺麗に見えた。
それは偽物だがしかし、半分に掛けた月は自分達を明るく照らしてくれていた。


409 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:32:13 PEY0bl/o0



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞




生き方に地図なんて無い、何処にだって行ける。
その答えはそう、何時も心(ここ)に有る。


410 : ヴィラル&セイバー ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:33:19 PEY0bl/o0

【クラス名】セイバー
【出典】DIGITAL MONSTER X-evolution
【性別】無
【真名】オメガモンX
【属性】秩序・善
【パラメータ】筋力A 耐久A 敏捷A+ 魔力B 幸運B 宝具EX(X抗体非使用時)

【クラス別スキル】

対魔力:A+
魔力に対する耐性。
神代の魔術をも無効化する。

騎乗:A
乗り物を乗りこなす才能。
幻獣、神獣を除く全ての乗り物を乗りこなす。


【固有スキル】

オメガインフォース:EX
「未来を先読みする」力。
その先の未来を予知出来る。

ロイヤルナイツ:A
デジタルワールドの守護者。
属性が「混沌」ないし「悪」の英雄と対峙した際、パラメータに補正が掛かる。

無窮の武練:B
ロイヤルナイツ最強の騎士とも言われた無双の武芸手腕。
如何なる状況においても、その武技を万全に引き出せる。

変化:C
宝具であるX抗体の存在を秘匿することにより、自らの姿を変化させる。
己の姿を一時的に「オメガモン」に戻すことが出来る。
この間幸運を除く全パラメータは1ランク減少してしまう上に宝具の内の1つが使えなくなるが、魔力消費は抑えられる。
また、他の伝承においてセイバーは、二体のデジモンが融合して誕生したと言う逸話が残されているが、
このゼヴォリューションにたどり着いた側面が強調されているオメガモンには、それは無理な話である。


411 : ヴィラル&セイバー ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:33:51 PEY0bl/o0

【宝具】

「そこにあり、受け継がれる生命(X抗体)」
ランク:C 種別:対滅宝具 レンジ:- 最大捕捉:1

セイバーがアルファモンから受け継いだ「抗いの力」。
Xプログラムの感染を抑制する抗体で、別のクラスでなら「ゼヴォリューション」という進化の力を与える。
呪いや病に対する強い耐性として動く他、他者に受け継ぐことが出来る。
ただし、この宝具を与えた瞬間オメガモンは消滅する。
また、この宝具は秘匿することが可能で、おかげで普段のセイバーはパラメータの減少と引き換えに本来の「オメガモン」へと戻っている。

「世界を仕切り直す抹消の剣(オールデリート)」
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1〜1000

セイバーがイグドラシルを破壊し、世界を仕切り直したとされる一撃。
真名解放と共にグレイソードに魔力を込め、グレイソードに触れた物全ての概念自体にダメージを与える。
世界の秩序を担うイグドラシルを斬った逸話から、世界の均衡を担う事に関わるサーヴァントに補正が掛かる。
また、イグドラシルを破壊し世界を黒に染めた逸話から、周囲を無に帰す衝撃波を放つ放出型も発動出来る。
ただし、発動するには相応の魔力を消費する上に、「そこにあり、受け継がれる生命」を開放しなければ発動出来ない。

【Weapon】

「ガルルキャノン」
セイバーの右手に装着されているキャノン砲。
構えると口が開き、ビームを発射する。
ある伝承ではメタルガルルモンが変化した姿としても語り継がれている。


「グレイソード」
セイバーの左手に装着されている剣で、宝具の本体。
構えると剣が出現する。
ある伝承ではウォーグレイモンが変化した姿としても語り継がれている。

【人物背景】

デジタルワールドを支配する「イグドラシル」の下に動くロイヤルナイツの中でも最強と言われるデジモン。
イグドラシルの意志を絶対だと信じ、「プロジェクト・アーク」を円滑に進めるためにX抗体を持ったデジモン達を抹殺していった。
だが一方でプロジェクト・アークにも徐々に疑問を持ちあわせており、遂にイグドラシルに答えを問いに行く。
同じく答えを求めていたドルモン/アルファモンもそれに着いていき、イグドラシルを護るデクスモンをアルファモンの犠牲と引き換えに倒す。
そしてアルファモンの遺したX抗体を手にし、イグドラシルを斬り裂く。
世界は再生され、イグドラシルの思惑通り世界は仕切り直された。

【サーヴァントとしての願い】

マスターに答えを見つけ出させる。

【基本戦術・方針・運用法】

神霊であるオメガモンXは確かに御し難い程に魔力を消費する大食いである。
普段は「そこにあり、受け継がれる生命」を封印することで魔力を封じている。
オメガモンはこのプロジェクト・アークを巡る伝説の他の、八人の少年達の冒険においても数々の強敵を打ち倒した実力を持つ。
ガルルキャノン、グレイソードを扱った数多くの技と、無双の武技は、並大抵の強敵に苦戦することは無いだろう。
ゼヴォリューションを開放すればその戦闘力は倍以上に跳ね上がるだろうが、反面魔力消費が難しくなるため、基本的にはオメガモンで行こう。


412 : ヴィラル&セイバー ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:34:59 PEY0bl/o0



【マスター名】ヴィラル
【出典】天元突破グレンラガン
【性別】男


【能力・技能】

・不死身の肉体
螺旋王ロージェノムから授かった、驚異的な再生能力と衰えない身体。
決して死ぬことはない。
このため少ない魔術回路の稼働に対するダメージも軽減されるが、回路数が少ないため魔力は其処まで多くない。
それどころか本当に死にそうなレベルでの激痛を伴う可能性すら有る。

・ガンメン操縦技術
人型機動兵器、ガンメンを操る技能。
隊長を務める程の優れた技能の持ち主。
ただし螺旋力は無いため、専用のガンメンでないと乗りこなせない。

・身体能力
獣人としての人並み外れた身体能力。
訓練も積んでおり、包丁を扱った剣術と素早い身のこなしを武器とする。

【人物背景】

螺旋王ロージェノムが作り上げた獣人の内の一体。
人類掃討軍東方面総隊長の肩書を持っている。
愛機、エンキを駆りカミナ、シモンを追い詰めるが、二度目の戦いでエンキのシンボルたる兜をグレンラガンに奪われ、それを奪い返そうと躍起になる。
大グレン団に螺旋四天王までもが全滅させられた中生き残り、その際シモンと戦う直前のロージェノムに「語り部」としての役割と、
それを全うするための不死身の肉体を与えられる、が、ロージェノムはシモンに倒されてしまう。
それでも新政府を樹立させた大グレン団相手に生き残った獣人達と共に七年間戦い続けるが、遂に無理が祟り愛機のエンキドゥドゥが不調を起こす。
そしてヴィラルはとうとう獄につながれてしまう。

【ロール】
貧民街の新入り。

【聖杯にかける願い】

ロージェノムの言うことが正しかったのか、それを知る。

【方針】

自分から動くつもりもない、セイバーの意思も組んで誰かを殺めるつもりもない。
だが死ぬわけにも行かない、答えを見つけるまでは。
当分は情報探しも行いながら、答えを探し続けていく。


413 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:37:03 PEY0bl/o0
投下終了です。
尚、このステータスの作成において、
「聖杯戦争異伝・世界樹戦線」における◆TAEv0TJMEI氏の「葛葉紘汰&セイバー」を参考にさせて頂いた事を、この場を借りて追記させていただきます。


414 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/26(木) 00:53:42 PEY0bl/o0
拙作をWIkiに収録する際、スキルに追記、修正を加えました。


415 : ◆7PJBZrstcc :2017/01/26(木) 18:38:50 org1MeWs0
投下します


416 : 兄より優れた弟なんて ◆7PJBZrstcc :2017/01/26(木) 18:39:36 org1MeWs0


 夢を見た。それはある男の過去だ。
 その男には二人の兄と一人の弟がいた。
 その男は3人の兄弟と拳法の伝承者の座をかけて競っていたが、彼は他の3人に比べて劣っていた。
 そして伝承者決定の日、彼にとっては信じられない事が起きる。
 彼の弟が伝承者になったのだ。
 彼としてはそれは認められない事実だった。
 自分なのが一番いい、そうでなかったとしても実力的には2人の兄の方が上のはずなのに何故よりにもよって弟なのか。
 そう考えた彼は弟に伝承者を降りるように告げるか、弟はこれを一蹴。彼に消えない傷をつける。
 それを恨んだ彼は弟の名を騙り悪行をするが、それに弟は怒り直接対決する事になる。
 そして彼は敗北、醜く死んでいった。

 その男の名前は、ジャギ。


 夢を見た。それはある男の過去だ。
 その男には弟がいた。
 弟は出来そこないの落ちこぼれで、今まで必要じゃない存在だった。
 しかしある時、弟が必要になり迎えに行ったら弟は自分が何者かすら忘れ、子供まで作る始末だった。
 仕方なく弟が何者かを教え、彼らの仲間になるよう言ったら彼に歯向かう始末。仕方ないので弟の子供を人質にし、弟を意思を変えようとするが意味は無かった。
 弟は仲間を連れ彼に向かうが、彼に圧倒される。
 しかし、弟の子供の予想外の強さと、弟の捨て身の覚悟により彼は死ぬ、弟とその仲間に絶望を残して。

 その男の名前は、ラディッツ。





417 : 兄より優れた弟なんて ◆7PJBZrstcc :2017/01/26(木) 18:40:13 org1MeWs0


 アメリカの地方都市スノーフィールドにも人間が住む場所である以上悪人が居て、その集まりがある。
 悪人が集まる犯罪集団、いわゆるマフィアである。
 そのマフィアの中の一つに最近、用心棒がついたらしい。
 特徴的な仮面をかぶった男で、武器も使うが素手の戦いがめっぽう強いらしい。
 正面から銃を持った男が何人も同時に掛かって行ったが、全て返り討ちに会った。
 ならば暗殺だ、と考えた人間も居たがあっさり見つかり返り討ちにされる始末。
 そして不思議なことに、殺された人間は皆まるで爆弾が爆発したかのように内部から弾け飛ぶのだ。

 ある住人は思った、何かのトリックだと。
 別の住人は思った、それはデマだと。

 だがこれはトリックでもデマでもない、確かに起きた事実なのだ。
 そしてそれを引き起こした件の男は今――


「よおアーチャー、いやラディッツだったか。今日は面白い夢を見たぜ。
 力が劣っている弟に予想外の状況による動揺と、捨て身の攻撃で無様にやられちまう兄貴の夢だ」

 その男、ジャギはあるマフィアのアジトの一室で目を覚まし、自分のサーヴァントに話しかけた。
 そう、彼は聖杯戦争の参加者に選ばれたマスターだったのだ。
 彼は心底楽しげな表情で、見た夢についてアーチャーに話しかける。
 それはアーチャーの過去、敗北し死んだときの話だ。
 それを聞いて、アーチャーは心底忌々しそうな顔をしながらジャギにこう返した。

「俺の事はアーチャーと呼べと、真名を出すなと言った筈だ。
 それとな、俺も面白い夢を見たぞ。
 弟に何もかもが劣った兄が逆恨みをしたあげく、無様に死んでいく夢だ」

 アーチャーの言葉を聞いて今度はジャギが心底忌々しそうな表情をした。
 これはジャギの過去、含み針にガソリンまで使ったにも拘らず敗北し死んだときの話しだ。

「「チッ」」

 どちらともなく二人は舌打ちをする。
 ジャギも、アーチャーも、自分の組んだ相手が嫌いだ。
 それは同族嫌悪。まるで鏡を見せられているような気分になるから。
 どちらも自分が弟より優れていると思っていて、勝つためならどんな手も使う。
 別にそれを恥じた事は無い、勝てば官軍という言葉があるように勝者こそが全てを握るのだから。
 だが

「アーチャー、俺は必ず聖杯を手に入れるぜ。
 そして誰にも負けねえ力を手に入れてやる。ラオウの兄者やトキの兄者よりも強くなってやる」
「当然、俺もそのつもりだ。ナッパやベジータ、いやフリーザよりも強い力を手に入れる。
 そしてもう誰にも弱虫など言わせるものか。サイヤ人の王子だろうが宇宙の帝王だろうがな」

 彼らは力を羨んだことがないと言えるのだろうか。
 どんな悪行も、どんな覇道も圧倒的な力で突き進んでいくそんな姿に、憧れた事がないと言えるのだろうか。

「アーチャー、俺はてめえが嫌いだ。てめえと組むなんて心底反吐が出る」
「奇遇だな、俺も貴様と手を組むなど腹立たしくてしょうがない」
「だが俺はてめえを利用してやる。勝てばいい、それが全てなんだからな」
「勘違いするな、利用するのは俺で貴様はデクの様に立っていればいい」

 ジャギとアーチャー、二人の思いは共通していた。

 気にくわない、心底から気にくわない。
 だがある意味こいつは最良のパートナーだ。
 勝つためならどんな手でも使い、そして似たような願いを持っている。
 ああそうだ――

「「弟よ、この戦いが終わったときが貴様の死ぬ時だ!!」」

 こんなにも、俺は弟が憎らしい。


418 : 兄より優れた弟なんて ◆7PJBZrstcc :2017/01/26(木) 18:41:28 org1MeWs0
【クラス】
アーチャー

【真名】
ラディッツ@ドラゴンボール

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具E

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間は現界可能。

【保有スキル】
サイヤ人:E
宇宙最強の戦闘種族。好戦的な性格としっぽ、そして満月を見ると巨大な大猿になるのが特徴。
死に瀕する危機から回復することでステータスが増加する。
弱点として、しっぽを握られると力が入らなくなってしまう。

気:D
アーチャーの世界で使用される、体内エネルギーの事。
これを使う事で手からエネルギー弾を発射したり、空中飛行が可能になる。
アーチャーはこの概念を知らずに使用しているので低ランク。戦闘力のコントロールも出来ない。

【宝具】
『俺は一流の戦士だ!』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:2
正面から突っ込んでいき、一瞬で後ろに回り込んで攻撃してくる技。これは相手の敏捷に関わらず戦闘開始直後なら1回だけ使用可能となる。
本来なら宝具どころか技とも呼べないものだが、当時地球で1,2を争う実力者二人に恐怖を覚えさせたという逸話が宝具になった。

【weapon】
・スカウター
戦闘力を測る機械。索敵範囲は広く、宇宙船で1年かかる距離でも索敵が可能。
なお、ラディッツが用いているのは旧型なので21000以上の戦闘力を計測すると爆発する。
通信機も兼ねているが、同じスカウターが無ければ無意味。

・戦闘服
宇宙の帝王フリーザの部下に支給される戦闘服。
ドンドン伸びる上に重さが殆ど感じられれない、それでいて衝撃に強いという代物。

【人物背景】
兄弟の長男

【サーヴァントとしての願い】
聖杯の力で何よりも強くなって生き返り、カカロットにリベンジする。そしてもう弱虫などと言わせない。

【基本戦術、方針、運用法】
肉弾戦のステータスは高いものの、スキルや宝具のステータスが低い物が殆どのため搦め手に弱い。
マスターの戦闘能力も低くは無いが、魔術的なものは無いためやはりその辺りが弱点だろうか。
狙うならば不意打ちが妥当。幸い主従揃って卑劣な行いに抵抗は無いので躊躇なく実行するだろうし、方針を巡って争う事も無いだろう。
ある意味、勝つためなら何でもするこの精神性が一番の武器かもしれない。
ただし、マスターの容姿の都合で表に出づらい。


419 : 兄より優れた弟なんて ◆7PJBZrstcc :2017/01/26(木) 18:41:57 org1MeWs0


【マスター】
ジャギ@北斗の拳

【マスターとしての願い】
ラオウの兄者やトキの兄者を超える力を得て生き返り、北斗神拳の伝承者になりケンシロウに復讐する。

【weapon】
・ショットガン
世紀末ではあまり見ない武器、不発弾も混じっている。

・含み針
口から吐き出して使う。

【能力・技能】
・北斗神拳
1800年以上伝わる一子相伝の暗殺拳。
ジャギは正統伝承者では無いものの、一般人から見れば高い戦闘能力を持つ。

・南斗聖拳
108派ある北斗神拳と対照的な拳法。
石造を砕かず腕を貫通させる事ができる。

【人物背景】
四兄弟の三男。

【ロール】
マフィアの用心棒

【方針】
どんな手を使ってでも勝ち残り聖杯を手に入れる。

【備考】
参戦時期は死亡後です。
外伝設定は採用せず、本編設定のみ使用しています。


420 : ◆7PJBZrstcc :2017/01/26(木) 18:42:22 org1MeWs0
投下終了です


421 : ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:16:44 ngRqoiGk0
投下させていただきます


422 : クビキリサイクル ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:17:42 ngRqoiGk0

心底、面倒臭い。
横にいる相手には聞こえないよう、滲み出した言の葉は胸の奥に秘めておきながら。
それでも隠し切れない感情をはあ、と重い溜息に変えて、月のない夜道を進む。

「なぁなぁ! アレはなんだ? 赤くて、ピカピカしてるやつ!」

鈴の鳴るような声に反応し、視線を其方に向ける。
恐らく、数メートル先に直立している信号機を指しているのであろう。
華奢な体躯からすらりと伸びる雪の様に白い腕の先。
細く、たおやかな指先をぶんぶん振りながら好奇心全開な視線を僕に向けてくる彼女。

「……さっきも教えなかったかい? あれは、信号機って言って――」

本日二度目となる説明を開始した僕の唇は彼女の容赦ない平手打ちによって塞がれた。
強烈なビンタから、悲鳴をあげる隙間すらなくぴったりと唇を覆う掌。
普通に痛い。
そして苦しい。
自然、睨み付ける様な表情を浮かべてしまうが、どうやら僕以上に彼女はご立腹らしい。
真実、人を射殺さんばかりの視線を此方に向けていた。

「アンタはアタシを馬鹿にしてんのか! 信号機は、さっきの青いのだろ!」

掌を退かせ僕が糾弾を開始する、その前に烈火の勢いで彼女は言葉を紡ぐ。

召喚、当初から薄々勘付いてはいた。
だけど、考えたくなかった。

「一回までなら許してやる! だからさっさとあの赤いやつの正体を教えな!」

まさか、自分の召喚したサーヴァントがこんなにも馬鹿だったなんて。
大体、サーヴァントは召喚に際し聖杯から必要最低限の知識を教えて貰っている筈なのだがそれはどこへ消えてしまったと言うのだろうか。

信号機を知らないだけならまだ理解出来なくも無い。
人間――英霊であっても――誰しも全てを知っているワケではない。
自分が信号機を知っているからと言って、相手にもソレを押し付けるのは些か傲慢が過ぎるだろう。
知らない事は、知れば済む話なのだし。

だけど、だけれども。

赤く点滅する信号機と青く点滅する信号機を別々に理解したうえに、言葉に対し暴力でキャッチボールを行う相手にどう物事を教えれば良いと言うのだ。

否、信号機云々は問題の本質からは程遠い。
確かに、互いの認識――或いは常識の摺り合わせは、根気強く付き合っていけばなるほど確かに可能だろう。


423 : クビキリサイクル ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:18:06 ngRqoiGk0
だが、暴力による返答、これが問題だった。
些か以上に貧弱な僕の体に、仮にも英霊と呼ばれる存在からの殴打は荷が重い。
必然的に彼女との会話を避けていたのだが、どうやらこの英霊様は絶えず喋っていないと我慢出来ない性質らしい。

「赤いのも、青いのも同じ信号機だよ。……点滅する色によって発信する意図が違うんだ
……ほんとに、こんなんで勝ち抜けるのかな……」

小学生の子供を相手にしているような錯覚に陥りつつ、ポロリと本音が漏れ出してしまう。
それは、偽らざる素直な気持ちだった。

どうしても、叶えなくてはならない願いがある。
例えどれ程の怨嗟を受け、生涯許される事の無い罪をその身に背負ったとしても、叶えなくてはならない願い。
からっぽな僕に残された、たった一つ形あるもの。

聖杯戦争。
魔術師とサーヴァントの主従が、たった一つの願望器を巡って争い、殺し合う儀式。
曰く、何でも願いの叶う願望器。
聖杯の存在は、崩れ落ちそうな意志を再び奮い立たせるには充分すぎる以上に効果を発揮していた。

愛し気に、首筋に現れた印を撫でる。
令呪と呼ばれるそれは、サーヴァントに対する絶対の命令権。
生意気なサーヴァントを律する事も可能であれば、一時的とは言えサーヴァントの力を強化する事も出来る。
その圧倒的な力量差から、サーヴァント同士の争いに介在する事は不可能だが、令呪を用いれば力の劣るサーヴァントでもジャイアントキリングを起こす目も出てくるだろう。
――勿論、敵対するマスターも同じ事を考えているだろうから、実際に起こる可能性は相当低いのだが。

と、そこで再び視線を自らのサーヴァントに向ける。

「……不満そうだね、アサシン」

先程漏らした言葉をしっかり聞いていたのだろう。
露骨に不満そうな表情をしているサーヴァント。

黒を基調とし細部に真紅の細工がなされた豪奢なドレス姿から伸びるのは、着衣とは対照的に透き通るように白く、何処か艶めいた素肌。
長く伸ばされた黒髪は風に揺れ蟲惑的な香りを醸し出している。
小学校低学年位の身長でしかないのを差し引いても、充分美女といえる存在。
街中を歩いていたら思わず他人の目を惹きつけそうな彼女ではあるが――隣にいて尚、その存在を見失いかねない程、存在感が希薄だった。
否――最早皆無と言っても過言ではない。

アサシンの持つスキル、気配遮断。

知識として理解してはいたが、いざ体験するとここまでのモノかと驚いてしまう。


424 : クビキリサイクル ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:18:43 ngRqoiGk0

「別に、アンタがどうアタシを値踏みしようと勝手だけどさ……弱音を吐かれるのは鬱陶しい」

じっとりとした視線。
その眼差しに、比喩ではなく本当の意味で冷や汗が一筋零れ落ちる。
如何に幼い少女の姿をしていても英霊は英霊。
この舞台に呼ばれるに足る逸話と力を保持しているのだ。
その気になれば、華奢な僕の身体など一を数える間に千は殺しきるだろう。
自分自身の力量を卑下するわけではないが、彼我の差は絶対だった。

「別に、ちょっと不安になっただけさ。君の力を疑っているワケじゃない。
――勝つのは僕たちで、願いを叶えるのもまた、僕たちさ」

先程溢した不安は確かに、混じりけの無い純粋な気持ちである。
だがしかし、これもまた純粋な本音だった。

正直、滅茶苦茶驚いた。
その数分後により驚く事になるのだが、それはさておき、兎に角驚いた。

戦争の前に、自軍の戦力を確認しない愚かな将などいる筈は無い。
サーヴァントを召喚し、少女がアサシンのクラスを名乗ると同時。
マスターに与えられた特権の一つである、ステータス確認を用いたところ、僕の視界に飛び込んできたのは最低Bランクに平均Aランクというアサシンでは到底考えられないような数値である。
スキルによる底上げや、逆にスキルによるマイナス補正などランクの調整は確かに存在するらしいが、そんな小細工は一つもない純粋な彼女の実力がそこには示されていた。
加えて、アサシンとしての固有スキルを失っているなどという事も無く。
言ってしまえば、三騎士クラスのサーヴァントにアサシンのスキルを付けるというバランスも糞もないステータスになっていたのである。

そして、彼女を彼女足らしめる切り札である宝具。

Aランクという文句なしの宝具に優秀なステータス、ほぼ確実に有利を取れるスキル。
苦手な性格且つ頭が悪いのが難点だが、それを補って余りある程の勝率を見出していた。

――とは言え、その頭の悪さが勝敗を左右する結果になりかねないのは肝に銘じておかなくてはならないだろうが。

「……赤は止まれ、で青は進め。じゃあ……アレはなんなのさ」

心配していない、の一言で機嫌を直した彼女の興味はまたしても信号機に移っていた。
赤と青、この二つの意味を漸く理解したらしい彼女は、新たに現れた黄色の存在にご執心らしい。

「決まってるだろう? 黄色は……アレ? えと、黄色は……」

はて、どうやらど忘れしてしまったらしい。
脳内をフル回転させて記憶を手繰る。

一般常識では、あるのだが……深夜に出歩く性質でもない僕に黄色信号と触れる機会はとんと無かった。

止まれと、進めの間……わからない。
赤と青の中間というのなら、ゆっくり進めにも思えるが、これはきっと違うだろう。
なら急いで渡れ、かとも思ったがどうにもしっくり来ない。


425 : クビキリサイクル ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:19:18 ngRqoiGk0
何にせよ、彼女に真偽を確かめる術など無いのだし多少自信が無くともこれ以上機嫌を悪くされる前に答えておくべきだろう。

思考と同時、ぞわり、と全身に悪寒が走る。
またご機嫌斜めか……。

そう考え、数秒の間内に向いていた意識を外に向ける。
その刹那。
張り詰めていた意識の一瞬の空白。
現れたのは自らのサーヴァントと同じくらい小柄な少女、次いで。

ひうん、ひうん、ひうん、ひうん、と。
泣き叫ぶような、空気を裂く音が僕の耳に届いて――ナニカが落下する感覚と共に、気付けば僕の瞳は自分の胴体を見上げていた。
瞬く星空の光が淀み、掠れていく。
考えるまでもなく、理解させられた。
僕の意図はここで切れ――僕の聖杯戦争はこの瞬間に終わりを告げたのだと。
段々と霞んでいく視界に映るのは、闇に紛れて姿を隠す、黄色。


ふと、頭を過ぎる。
ああ――黄色は、注意しろ――だったっけ。


 +++

「ざっとこんなもんですかねー」

自分の呼び出したサーヴァントが、自分と同じマスターと呼ばれる存在を殺すのを、少女――御坂御琴は一時も目を離さず見つめていた。
既に信頼関係を築いていたのだろう。
楽しげに会話し、揉め、また笑顔を浮かべていた彼ら。
夜闇に包まれて尚輝く陽だまりの世界。
両者ともどう見ても小学生にしか見えず、見る場所によっては微笑ましくすら思う組み合わせではあったが……それでも、美琴のサーヴァントは幼い相手に対する情けや容赦など一切含まず、彼らを血の海に沈めた。
圧倒的、そう評するしか無いだろう。

如何に幼く見えたとは言え、彼らも立派な聖杯戦争の参加者であり、少なくとも美琴の目には彼らが周囲に対する警戒を解いたようには見えなかった。
故に、目下の方針である奇襲による暗殺を諦め退却も考えていたわけだが。
美琴のサーヴァント――アサシンは、確かに不意打ちや闇討ちに長けたサーヴァントではあるが、それにしても凄いとしか表現の仕様がない。

アサシンの宝具である、不可視に近い糸。
一体どのような原理なのか、その糸を繰ると、此方が一方的に視認出来るだけの距離に居ながらにしてマスターと思わしき少年の首に糸が巻き付く。
それでも、糸の存在に気付かれれてしまえばお付きのサーヴァントに引き裂かれるなりなんなり、即座に外されて終わりだろうと思うが、どのような仕組みか少年が糸の気配に気付く様子はない。

――こうなってしまえば、結末は一瞬だ。

僅かでも動揺を誘う為だろうか、小柄な体躯で堂々彼らの前に姿を現すアサシン。
相手が何らかの反応示すその刹那。
まるで学芸会の指揮者のように、アサシンは指先をくいっと振り上げ、ついっと斜めに振り下ろす。
それで、終わり。
名も知らぬマスターと、名も知らぬサーヴァントの姿はずたずたに――ジグザグに、切り裂かれて、その命を終える。
大したドラマもなく、呆気なく。

「怖気ついちゃいましたか?」

たった今、二つの命を奪ったなど微塵も感じさせない口調でアサシンが美琴に問い掛ける。
その瞳は自身の胸の奥深く迄探るようで、返答を間違えば即座に命を落としかねない危うさを孕んでいる。
マスターとサーヴァント。
主従関係など今の自分たちに有りはしなかった。

「そう、ね……ショックなんてありません、全然平気です。なんて言ったら嘘になると思う。
……でも、この位で……たった二人死んだ――ううん、殺したくらいで、折れるつもりは無いわ
私には、聖杯で叶えるべき願いがあるから」
「ふう、ん。それならそれで全然問題ないですけどねー。……取り合えず、暫くは予定通り剣玉必殺。獲物が網に掛かるまで姫ちゃんは姿を隠しとくですから。マスターは、予定通りに無防備な姿をアピールしてて欲しいですよ。――その方が、手っ取り早いですし」

アサシンは、美琴の身体が微かに震えているのを見逃さない。
だがそれでも、その言葉に宿る意志の強さを見て図ったのか、それ以上追求する事は無く一方的な要求を告げるとこれ以上話す事は無いとばかりに霊体化して姿を消す。

姿を消したというだけでこの場から居なくなったワケではないが、其れでもあの静かな威圧感から開放されたと言うだけで思わず安堵の吐息が零れ落ちてしまう。
自慢するわけではないが、それでも御坂美琴は学園都市にも七人しかいない超能力者(レベル5)の一人であり、それなりの修羅場を潜っている自負もある。
しかし、これまでに潜った死線が子供騙しに思えるほど、自らのサーヴァントから伝わる死の匂いは異常だった。

「ごめんなさい、なんて。残酷で一方的……まるで意味無いのはわかってるけど。……でも、それでも、ごめんなさい」

彼らも覚悟してこの聖杯戦争に臨んでいる。
放っておいても、誰かを殺し誰かに殺されるだけの存在――そう理解してはいても、胸中の感情は消えることなく美琴の心を蝕む。


426 : クビキリサイクル ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:19:42 ngRqoiGk0

殺人も、それに加担するのも同罪だと美琴は思う。
彼らに直接手を下したのが自分ではないとは言え、その命を下したのは間違いなく彼女だ。
それ故に、この場において初めて感じる――そしてこれから幾度も味わう事になるであろう罪の意識に押し潰されそうになりながら、それでも前を見据えて懺悔の言葉を紡ぐ。
ただの自己満足であるとは思っても、其れでも彼らが安らかに眠れるように、と。

後悔がないと言えば嘘になる。
だが、あの少年に叶えたい願いがあったように、美琴にも叶えたい願いがある。
その願いを叶える為なら、例えどれ程自らの手が血に濡れようと構わない。
元より、これからの幸せを願うには重すぎる罪を自分は背負っているのだから。

たった今殺した彼と彼女だけで収まる話ではない。
既にこの身体は、一万人以上の罪に濡れているのだ。
今更罪を重ねようが重ねまいが、最早自らが幸せになる道は閉ざされている。

「もう、これしか方法が無いの……他の奴等に願いがあろうとなんだろうと――そんな幻想、ブチ殺してやろうじゃないの」

それならば、自分に残されたのはせめて遺された罪を清算することだけだと。
恐らく、もう二度と会えないであろう誰かを思いながら、狩人はただ得物を待つ。
自らの所為で犠牲になった妹達の全てを救い、その全てが幸せになれる世界――彼女達が誰かに利用される事無い世界を、夢見て。

 +++

アサシン――紫木一姫は、どこか危うく、不安定なマスター召喚されたときの事を思い出す。

細かい会話など覚えていない、元より興味の無い事柄だ。
色々と応用の利く能力を持っているらしいが、魔術師というわけではないらしく魔力供給も碌に行えない少女。
暗く、澱んだ瞳をした少女が口に出したたった一つの願い。

(もう元には戻れない――だから、せめて残った罪を精算したい、ですか)

曰く、自分自身の不用意な行為で産み出された命を救いたい、と。
自らの身体が罪に溺れ、沈むのを待つのみと知って尚、足掻きたいと。
その身に更なる罪を重ねても願いへ到達出来る保証は無く、仮に願いを叶えてもその場所に自らの居場所はない。
地獄へ落ちるだけの一方通行、それでも構わないと。

その姿に、その言葉に、きっと僅かながら彼女自身の姿を重ねてしまったのだろう。
そうでなくては今頃、自分はマスターを探してさまよう事になっていた筈である。

無論、一姫には自分を犠牲にして他の誰かを救うなんて愚かな考えは存在しない。
彼女の願いはたった一つ――この身に纏わり付く罪の清算、だ。

たった一つ、歯車が噛み合わなかっただけのだと彼女は思う。
小さくて、とても大きな歯車。

世界中には、幸せそうに暮らしている同年代の少女がそれこそ星の数ほど存在している。
自分のように、最早取り返しの付かない罪と、欠陥を抱えているワケでもない。
幸せを幸せと認識できないようなぬるま湯に浸かった存在が、山程。

――其れが、羨ましかった。

紫木一姫は、ただそうであるように人を殺す。
今は友人でも、いつその境界線が無くなるのかも曖昧で。
敵は殺す、味方も殺す、そして自分を殺す。

こんな有り様で人並みの幸せなど、どうして願えよう。
いつ血に濡れるかわからないその手で、何を掴めよう。

――其れが、堪らなく嫌だった。

どうして、自分だけ幸せになれないのだろう。
どうして、自分には恋する人と幸せになる権利が無いのだろう。

そんなのは、間違っている――間違っていて欲しい。

だから、願う。
こんな自分との決別と――平穏な日常への仲間入りを。


427 : クビキリサイクル ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:23:21 ngRqoiGk0

+++

【クラス】 アサシン
【真名】 紫木一姫
【属性】 混沌・悪

【ステータス】
筋力:D(C) 耐久:D(C) 敏捷:B(A) 魔力:D(C) 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:A サーヴァントとしての気配を絶つ能力。活発な行動をしていなければ気配を感じ取られることはない。

【保有スキル】
戯言遣いの弟子:A
戯言遣いを師匠と仰ぎ、彼すら騙しうる嘘吐きであることの証明。
あらゆる嘘を見抜き、彼女の吐く嘘を見抜くのは至難の業。
少なくとも同ランク以上のスキルでなくては不可能である。

精神汚染:E
生前の言語能力の生涯及び自分はもう戻れないという思い込みの副産物。
会話による意思疎通は困難であり、精神干渉系のスキルをある程度無効化する。

曲弦師:A
曲弦師としての極地。
対象に気取られる事なく曲弦糸を自由自在に操る事ができる。

人格形成:A
対象を観察する事で相手が望む性格を自由自在に形成する事ができる。

【宝具】
 『曲弦糸(ジグザグ)』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大捕捉:100〜200
彼女自身の代名詞ともいえる宝具。重力、反発力、摩擦、遠心力、はたまた滑車の定理など、この世に満ち溢れる様々な力を駆使して糸を操る。彼女自身が糸であると認識したものなら構わず使用可能であり、生前は必要としていた滑車や手袋等も、この宝具が自由自在に糸を操ったという概念に昇華されていることから今回の召喚では必要としていない。縦横無尽に糸を這わせ相手をズタズタに引き裂く、山一つ覆うほど範囲を広げ糸の結界内に侵入した対象の人数や会話内容の把握等汎用性に優れる。また、自身の持つ曲弦師としてのスキルやアサシンの気配遮断等も合わせこの糸を感知するのは困難となっている。
また、相打ちとはいえその世界の最高峰に位置する殺し屋を殺しきったという逸話が昇華されており、○○ランク以下の宝具を受け付けないといった格上の効果を無視して相手へ直接攻撃を加えられるようになっている。

 『危険信号(シグナルイエロー)』
 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
彼女自身が対象を敵であると認識してしまった場合、その存在を見過ごす事ができず、同盟協力等一切不可能になり攻撃を仕掛けてしまうようになる。生前の逸話が宝具となったもので、呪いのようなものであり、正攻法だまし討ち人質等々あらゆる手段を用いて対象を排除する。その呪いの代償としてこの宝具が発動している間のみ幸運以外のあらゆるステータスがワンランクアップする。

【weapon】
 『糸』
なんの変哲もない糸だが、曲弦師が使用する事で兵器となりうる。

【人物背景】
大きな黄色いリボンが似合う17歳。
女子高生ではあるのだが見た目は小学生と見紛う程小柄で、可愛い。可愛い。
12歳から外見年齢はが成長せず体重は30kgにも満たない。
人格を自由に形成できる、という能力――というか技術を持っているのだが相手に合わせて様々ン人格を使い分けていた内にどれが自分の本当の人格なのかわからなくなってしまっている。
また、前頭葉の言語野に後天的な障害があり、その為諺や慣用句、熟語などを間違って使ってしまう事が多い。
幼い頃から殺し殺されるのが当然の世界にいた所為か、そんな裏世界とかけ離れた表の世界に自分が戻れるはずがないと盲信してしまっており、一度相手を敵と認識してしまえば止まることの出来ない壊れた信号機でもある。
でも、そんな些末な事柄を除けば誰かに恋し、一緒にいたいと願う一人の少女だった。

【サーヴァントとしての願い】
間違えた一歩目をなかったことにした上で、戯言遣いや哀川潤、遊馬達との出会いをやり直し、殺人をしたこともなく今後することのない普通の女子学生としての生を送り直す。

【基本戦術、方針、運用法】
曲弦糸を用い糸の結界を張り、網に掛かった得物の会話を吟味し、刈り取る。


428 : クビキリサイクル ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:23:52 ngRqoiGk0

【マスター】
御坂美琴@とある科学の超電磁砲
【参加方法】
都市伝説として流れていた聖杯戦争の噂に縋り、探りを入れていた所偶然、白紙のトランプを手に入れる。
【マスターとしての願い】
絶対能力者進化実験の完全消去及び死亡した妹達の蘇生、寿命の一般化。
【weapon】
 ゲームセンターのコイン。
【能力・技能】
学園都市第三位の発電能力者。
基本となる攻撃は速度と連射性に優れた直接電気を放出する電撃。作中ではよく高圧電流の槍を投げつける「雷撃の槍」を使用しており、最大電圧は10億ボルト。落雷を発生させることも可能。
磁力を操作することで、周囲の鉄を含む金属を意のままに動せる。これにより盾のように組み固めて相手の攻撃を防御したり、建材や瓦礫を集めて足場を作成し たり、鉄筋や鉄骨などを使用した構造物の壁を自由に歩いたりなど幅広い応用が利く。さらに、地中の砂鉄を操って、表面を振動させて物体を切断し形状や長さ が変化する「砂鉄の剣」や、津波のように地表を呑み込ませたり、竜巻のように突き上げるといった攻撃も可能。
直接的に電気信号や電子を操作することで、電子機械に対する高度なハッキング(クラッキング)を可能としている。また、磁力線が目視できるなど電磁気関連 においては高い知覚能力も有し、AIM拡散力場として常に周囲に放出している微弱な電磁波からの反射波を感知することで周囲の空間を把握するなど、レーダーのような機能も有している。
また序列第三位なだけはあり演算能力も高い。

【人物背景】
230万人の超能力者の序列第三位。
さばさばとした性格で面倒見が良く後輩からの信頼も厚い。 反面、気を許した相手には甘える――と言う名の暴力的行為によって感情表現を行ってしまう事もしばしば。
とある事件により中学生の少女が背負うには重すぎる罪を犯してしまうが一人の少年により救われる……のはここではない何処かのお話。
拭えぬ罪を消し去る為に、彼女はひた走る。

【令呪の形・位置】
右手に蛙のマスコットで三画(頭部、胴体、脚)

【方針】
どんな手段を用いても聖杯を手に入れる。
基本は、曲弦糸による情報収集からアサシンの気配遮断を用いた不意打ちだが、難しそうなら同盟からの裏切り等も選択肢に含む。


429 : ◆4etfPW5xU6 :2017/01/26(木) 22:24:29 ngRqoiGk0
以前別所で投下したものの焼き直しになりますが投下終了です。


430 : 黒き聖杯/再誕 ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/26(木) 22:57:23 ef4xw2Pk0
投下します


431 : 黒き聖杯/再誕 ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/26(木) 22:57:57 ef4xw2Pk0

 ポロリ、と。
 スノーフィールドの郊外に存在する砂漠地帯。
 そこに黒い破片が転がった。
 黒曜石の欠片にも見えるそれは、超弩級の呪詛の塊であり、周囲の砂を浸食し黒く染め始める。
 原型生物のように蠢く黒い砂は広がり小型生物達が喰われ、いつからか蟻地獄のごとき流砂が生じていた。

 黒い欠片────冬木の汚染された黒き聖杯、第四次聖杯戦争の残滓がスノーフィールドに牙を剥く。
 
 それ自体がこの世、すべての悪という願望であるため聖杯戦争の参加者として認められた。
 聖杯戦争のマスターとしてふさわしくあるために、それは肉体(うつわ)を生成する。
 これは破片といえど魔力(ナカミ)が詰まっていた小聖杯。その魔術回路は“実現可能な範囲ならば過程を無視して叶える”ことに特化している。
 肉体の鋳造など造作もない。





 砂から一人の裸体が現れる。肌は雪のように白く、年齢は二十代前半。
 黒い砂が肌を隠すようにまきつき、衣服へと変貌する。
 豊満な胸の間には白いカードが挟まれていた。


「ふむ、前の器はこんなものか。」


 かつてアイリスフィール・フォン・アインツベルンと呼ばれたホムンクルスそっくりの女がそこにいた。
 既に本人の意志は無く、ただ砂から鋳造した肉体に堕ちた聖杯が乗り移っただけのこと。
 手を前に翳し、たった一言。


「来たれ」


432 : 黒き聖杯/再誕 ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/26(木) 22:58:23 ef4xw2Pk0


 聖杯である彼女はそれだけで目当てのサーヴァントを召喚する。
 手の影から暗雲が生まれる。彼女が握ってしまえば潰れてなくなりそうなコレこそ世界を滅ぼしうる彼女の現身。


 ────人の願望を叶える悪性であり全人類の欲望を叶える結果、ヒトを皆殺しにする悪魔。


 ────今はまだ養分が足りないため小さいが、時間の経過と共に巨大化する大災害!


 小さな暗雲が、大きな暗雲となり、肉体を取り戻して世界を滅ぼすであろうサーヴァント。その真名を『ユリス』という。


433 : 黒き聖杯/再誕 ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/26(木) 22:58:42 ef4xw2Pk0




 ユリスの生まれた世界は、この世界と決して交わらぬ遥か可能性宇宙の彼方にあった。
 そこでは二つの種族が争い、世界中で負の感情が満ちていた。募りに募った負の思念から生まれたモノこそ怪物ユリス。

 彼/彼女は人類の負の感情より生まれ、産みの親の欲望を叶えるために現れる。
 その欲望とは憎悪、嫉妬、悲壮、恐怖、強欲、憤怒など数多の他者へ向ける〝変容を強要するモノ〟
 ユリスの叶える欲望とはつまり────今ある世界を否定して新たな都合のいい世界が出来てしまえという負の感情(モノ)。



 故にユリスの叶える結果は『自滅』だ。あらゆる限界を超越して願いを叶えるモノなど人の悪性をおいて他にない。
 しかし、この世すべての人の悪性に人は耐えられず自滅する。
 残るのは生まれ変わった世界、人類史の残滓が蠢く暗黒の天体である。





 ────以上の権能によりユリスのクラスは確定した。
 万能の願望器などとは偽りの器。

 其は人類が生んだ、人類史の最も業深さを表した大災害。
 名をビーストR(リバース)。〝再誕〟の理を持つ獣の名である。
(人でありながら世界や他者に都合の良い変容を望む。それこそがユリスの獣性である)





 ユリスが誕生すれば世界を守る六騎の聖獣と一騎の聖獣王によってそれは鎮められる。
 しかし、その後も残り続け、人の世を乱し続け再び誕生の時を待つのだ。
 一度目の顕現では完全体になる前に聖獣王に封印された。
 人を唆して封印を破き第二の顕現を為すも聖獣の力を持った英雄達に打ち倒された。
 此度は三度目。聖獣の力が届かぬこの地で、再び悪神は渦動する。


434 : 黒き聖杯/再誕 ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/26(木) 22:59:32 ef4xw2Pk0

【サーヴァント】
【クラス】
キャスター → ビースト(第三形態以降)

【真名】
ユリス@テイルズ・オブ・リバース

【属性】
混沌・悪

【パラメーター】
第一形態(小暗雲)
筋力:E- 耐久:D 敏捷:E 魔力:B 幸運:A 宝具:A++

第二形態(大暗雲)
筋力:E- 耐久:D+ 敏捷:D 魔力:A 幸運:A 宝具:A++

第三形態(災いの獣)
筋力:A 耐久:A 敏捷:D 魔力:A++ 幸運:A 宝具:A++


【クラススキル】
陣地作成:EX
 魔術師としての工房を生成するスキル。
 ユリスの場合は『ユリスの領域』になる。

道具作成:-
 手足が無いため道具を作る能力は無い。

単独顕現:B
 第三形態時に得るスキル。
 単体で現世に現れることが確定するスキル。
 即死耐性、時間操作による因果律の書き換え耐性を無効化する。

【保有スキル】
魔眼:C
 持っている魔眼のランク。
 ユリスの場合、魔眼「ユリスアイ」を口から吐き出す。
 ユリスアイは自ら魔力を生成し、高度な魔術を行使する自律兵器と化す。
 とはいってもあくまで使い魔程度。サーヴァントに対抗できるものではない。

魔術:A
 莫大な魔力を稲妻や炎、第三形態では陣地内限定かつ部分的に複数の固有結界すら発動可能。
 ユリスは無数の悪心から生まれた故に自己の心象風景は無い。
 母胎となった数多の悪心をユリスの領域内部で保管し、使うことができる。


ネガ・リバース:A
 第三形態時に使用可能なスキル。
 ヒト(ここでは知性を有した者全てを示す)の英霊に対する耐性を持つ。
 必然的に聖杯戦争では抑止力以外に対して有利となる。


435 : 黒き聖杯/再誕 ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/26(木) 22:59:54 ef4xw2Pk0

【宝具】
『大空に邪なる心が満つる時』(リバース)
 ランク:A++ 種別:対心宝具 レンジ:聖杯戦争の舞台全て 最大捕捉:ヒト全て
 ユリスの思念を飛ばす。参加者、NPCに問わず人の持つ憎しみや妬みといった負の感情を増幅させ人々を争わせることで負の思念を増やす。


『災いの獣、降り立ち、大地に破滅をもたらす』(ユリス)
 ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???
 ユリスの肉体の顕現。
 世界に一定以上の負の感情が集まった時に発動可能。
 災いの獣ユリスが顕現する第三形態。
 霊基がキャスターから人類悪(ビースト)に変更され一部のステータスが大幅に上昇する。


『ユリスの領域』
 ランク:E→A→A++ 種別:対軍 → 対国 →対界宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???
 ユリスの領域と呼ばれる領域を世界の上に置く宝具。常時発動。
 世界中の負の感情を蓄積し、蓄積した量に比例して領域を広げ、果ては世界が塗り替えられる否想天。魔術理論・世界卵そのものである。
 ユリスの領域内はできかけの大地や宮殿が列び、マスター同様に黒い聖杯の内部にいるようなもの。
 聖杯であるマスター以外の侵入者は負の感情によるプレッシャーをかけられ極大の呪詛によって破滅する。
 ただしAランク以上の精神耐性を持つサーヴァントには無効。


【weapon】
人々を唆す虚言、集めた負の感情を魔力に変えての魔力放出など
肉体を顕現させた後はそれらを槍のように尖らせて刺す。

【人物背景】
テイルズ・オブ・リバースよりラスボス。
世界に負の感情が満ちた時に姿に現す大敵。ヒトから生まれる一つの終焉。
欲望とは世界をより良き方向へと変えたい希望であると同時にそのためならば今の秩序を否定する人の業である。
ユリスはそういった欲望や感情の負の面より生じる終わりの貌の一つにすぎない。
ユリス自体を誕生・復活させないためにはユリスを封印し、ヒトを滅ぼす他にない。


聖獣王ゲオルギアス曰く『世界を殺す剣、万物の敵、破滅のもの』


【サーヴァントとしての願い】
固有の自我は無いが叶えるべき願望はある。
自分を生んだ霊長の願い、すなわち人の破滅を叶えたい。


436 : 黒き聖杯/再誕 ◆Jnb5qDKD06 :2017/01/26(木) 23:00:15 ef4xw2Pk0

【マスター】
黒き聖杯

【マスターとしての願い】
願望の成就

【weapon】
泥による呪詛

【能力・技能】
小聖杯として実現可能な範囲の願望ならば仮定をすっ飛ばして叶える能力を持っている。
また無尽蔵に等しき魔力を持ち、彼女単体でもサーヴァントに対抗しうる。

【人物背景】
冬木市の第四次聖杯戦争にて破壊された聖杯の破片。
アンリマユという願望を有したために“全人類を殺す”という呪いに汚染されている。
錬金術における人間の定義として精神・肉体・魂の三要素を有し、更にはこの世、すべての悪という願望を持つため参加者として認められた。

形成した肉体は破壊された時の聖杯の器『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』のものを模造した。

【方針】
ユリスを顕現させ聖杯を獲得し、今度こそ誕生する。


437 : 名無しさん :2017/01/26(木) 23:00:51 ef4xw2Pk0
投下終了します


438 : ◆TAEv0TJMEI :2017/01/27(金) 02:04:45 5fxPghas0
>>413
承知しました。読んでいてニヤリとできました


439 : ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:07:35 G0P6xmlQ0
投下します


440 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:09:57 G0P6xmlQ0






なぜ、こんな事になってしまったのだろう。




湿った空気に包まれた森林地帯、磁場の狂った悪環境の真っ只中。
ここは異界の戦場。地獄の鉄火場。
傍らには夥しい数の髑髏の群れ、異形の軍隊がカタカタと不気味に骨を鳴らしている。
なぜだ。どうしてこうなった。

一体どこで私は、順風満帆な人生のレールから外れてしまったのだ。
本来なら今頃は安全な場所で文明的な生活を満喫し、
優雅にコーヒーでも飲みながら確定した出世の報を受けるまでの余暇を過ごしていた筈なのに。

「おかしい」

毒づけど現実は変わらず。
泥濘が短い手足を絡め取って歩きづらい。


なぜ私はこんなところで泥まみれの行軍を敢行しているのだろう。
なぜ私は聖杯戦争なんぞに参加させられているのだろう。


溜息を吐きながら闇に染まった空を見上げ、未発達な手で額の汗を拭った。
嗚呼。





そもそもなぜ、私は幼女なのだろう。



###


441 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:10:59 G0P6xmlQ0

ごきげんよう諸君、私の名はターニャ・デグレチャフ。
ワケあって幼女で軍人をやっている。

そのワケとは忌々しい話だが、簡単に述べるので聞いてほしい。
前世では日本のサラリーマンだった私の職務には、人事部として人の首を切ることがあった。
職責を忠実かつ厳正に果たした結果、リストラした無能社員の逆恨みで列車の線路に突き落とされたのが全ての始まり。
積み上げてきた実績と命を理不尽に奪われ、死に逝く私の前に現れたのは、更なる理不尽だった。

神を名乗るその存在は現世に生きる者の信心の欠如を咎め、更に私の生き方に難癖をつけ異世界へと放逐したのだ。
それも軍事国家の戦災孤児の幼女として転生させた上で。
曰く「非科学的な世界で、女に生まれ、戦争を知り、追い詰められよ」。

ニーチェの言葉は正しかったらしい。神はとっくの昔に死んでいた。
神がいるならばこのような不条理許すはずもなし、よって神は居ない、証明終了。
私の目の前に現れた自称神は悪魔、あるいは『存在X』と仮称する他ない。

魔法と銃火入り乱れる世界で魔導適性の在った私は帝国の軍に入隊。
生きるためにやむなしとは言え、九歳で戦争の最前線だ。
加えて、邪悪な『存在X』の差し金で、呪いのチートアイテムを抱きこまされ、頭を汚染され主への賛美を垂れ流すハメに。

おお呪いあれ!
『存在X』に災いあれ!
何度心中で叫んだかしれない。

それでも何とかやってきた。
人間は適応できる生き物なのだ、考える頭を持っているのだ。
思考を止め祈りを吐き出す機械になるなど、私は絶対に御免こうむる。

いつか必ず『存在X』の眉間を撃ち抜いてやると、常にライフルを握り締めながら。
ゼロから始めた世界で、再び自らをレールに乗せた。
ルールを守り、かつ合理的に行動する事でキャリアを積み、チャンスを逃さず出世コースという階段を昇った。
そして遂に地獄の前線から離れ、安全な後方での生活を開始した矢先。まさか、更なる不条理が唐突に襲い掛かるとは夢にも思わず。

きっかけは昇進を間近に控えた昼下がりの午後。
郵送で送られてきた白いトランプに触れたあの時だ。

記憶が徐々に曖昧になり、体感時間が狂い始めた。
どうせまた呪われた宝珠の影響だと、タカを括っていた我が身の未熟と恥じ入るしかないだろう。
気づいた時には、既に戻れない所に来ていたのだから。

知らない土地、知らない秩序、知らない人々。
当たり前に享受していた偽りの生活を突如自覚した時の驚愕、諸君らは理解してくれるだろうか。
アメリカという国名は元居た世界に在ったものだが、スノーフィールドなる土地に聞き覚えもなければ、
頭に突っ込まれた『聖杯戦争』だの『英霊』だのに関する知識など笑止千万ものだった。

何にせよ二度目の異世界来訪を自覚した私は途方に暮れるより先に、近場の教会へ向かう事にした。
無論、祈る為ではない。
こんな荒唐無稽なマネが出来る存在に、心当たりは一つきり。
『存在X』の眉間に鉛玉をしかと叩きこまねば、いよいよ気が済まなかった。

道すがら『聖杯戦争のROE(喧嘩の作法)』を頭に叩きこみながらも、私は怒りに燃えていた。
あの世界で私を試すと言ったクセに、前提をひっくり返すとは何のつもりだ。
人種の坩堝で異世界人の蠱毒をやれとは、どういう冗談だ。

教会に行けば会えるという確証もないが、何かが居るという予感があった。
誰も居なかろうが、いつもの日課のように『存在X』の模倣像の前で憎悪を涵養し、
心中を呪詛の声で満たす健全な状態を構築すれば、少しは気持ちもスッキリするだろう、と。
私は教会の門を勢いよく開き。






――――そこで、『本物の悪魔』と出会ったのだ。








###


442 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:12:53 G0P6xmlQ0


――――黄金の獣。



それが瞬間に駆け抜けた感想であり、結論だった。


黄金。
たなびく鬣の如き髪は黄金。
全てを見下す王者の瞳も、やはり黄金。
この世の何よりも鮮烈であり華麗であり、荘厳で美しくもあると同時におぞましき黄金。
人の世に存在してはならない、愛すべからざる光の君。

黄金の獣、黒太子、忌むべき光、破壊の君。
忌むべき魔名の数々が、私の脳幹へと弾雨の如くに叩きこまれる。
内から一つを無造作に拾い上げるように、獣の王はこう名乗った。

「聖槍十三騎士団黒円卓第一位、破壊公。
 ――ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ」

歴史の中に聞いた事のある名前だった。
1900年代中期を生きた軍人であり政治家。
第二次世界大戦期のドイツにおいて、様々な意味で名高きゲシュタポの初代長官。
敵味方の区別なく、恐れられると同時に惹きつけたといわれる、冷酷無比なる第三帝国の首切り役人。
暗殺によって命を落とさなければ、戦争の結果は変わっていたかもしれないとまで言われたあの、ラインハルト・ハイドリヒ。
それが、私の目の前に立つバケモノの正体だと。

荒唐無稽な冗談だと笑いたかったが、生憎とそんな余裕は欠片もない。
十年と少ししか生きていない少女の矮躯が、メキメキと軋んでいくのを全身で感じる。
黒天から降ろされる圧倒的な視線の暴力。獣の眼に、血を沸騰させるような黄金の熱線に、捕えられて動けない。
愛すべからざる光(メフィストフェレス)とはよく言ったものだ。
これぞ本物の悪魔。この世界への認識が甘かった。あれは今すぐにでも、視線だけで私を殺せる。

スパークする脳髄で、このふざけきった現在を、なんとか分析しようと試みる。
ここは巨大な城の玉座の間。広大なホールのような空間で、君臨するは荘厳なる黄金の王。
その眼前で私は傅いている。
何の事はない、教会のドアを開ければ更なる異世界だったという話だ。
それも、とびきり上等な地獄の世界。

ああ、ああ、最悪だ。

誰に聞くまでもなく聖杯が齎す知識とやらが最悪な真実を告げている。
目の前の獣(かいぶつ)こそ、お前に与えられた従者(サーヴァント)なのだと。
そして私(マスター)に与えられた観察眼は、こう続けた。

『おめでとう。最強(おおはずれ)だ。絶望せよ』

召喚は大大大大失敗だ。
あまりに規格外を呼びすぎている。
これでは主従が成り立たない、組むという前提が成り立たない。
一瞬で私を細切れにしてかつ生かさず殺さず、魔術回路のみ存命させる事すら、彼には可能なのだから。

生命の危機に瀕していると自覚する。
虫でも観るような視線を受けた瞬間に理解した。
あれは私を殺すことに、何ら躊躇いを持ち得ない。
興味を失くしたらすぐさま手足を削いで、魔力を生み出す電池か何かに変えるだろう。

刹那の後、私は獣に喰われて終わる。
だから早く口を開け、何かを言え、だが間違うな。
1秒にも満たぬ思考時間、命の危機に瀕した故の加速思考、刻限は目前。
己の本能に従うまま、口を突いて出た言葉は、

「私は、ターニャ・デグレチャフ、と申します。
 帝国軍航空魔導士官――中尉の階級を拝命しております」

軍属としての、名乗りだった。

「まず名乗り遅れたご無礼、この通り、お許しください―――」
「ふむ……」

当たり前の事だった。
上段の相手に、先に名乗らせた時点で大失態。
このミスは高くつくだろう、しかしミスをミスと理解できるくらいの頭は戻ってきた。

「そう、構えずともよい。こちらに咎める意志は無い」

悪魔が、続けて口を開く。

「なに、卿の魂の色を見たくてな。戯れだ、デグレチャフ中尉」
「……恩情、いたみいります」

よし、諦めてはならない。
考えろ、どうやってこの場を乗り切るか。
初手の失敗はやり過ごしたが次はない。
獣の言葉が途切れる前に結論にたどり着かなければ、今度こそ終わりだ。

「さて此度の戦争。卿も既に聞き及んでいることだろうが、我々は友軍として向き合っている」

友軍。あちらから出た言葉を頭で繰り返す。
そう、ようは軍と同じに考えればいいのだ。
聖杯によって詰め込まれた魔術の理に引っ張られてはならない。
魔道の観点では決して、この男と向き合えない。あまりに格が違いすぎる故。


443 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:14:52 G0P6xmlQ0

遥か高みの存在なれど、軍属であるという一点においてのみ、我々は立場を同じくする。
ならば昨日まで生きてきた通り、あくまで帝国軍人として、ドイツ国の伝説的軍人に応対する。
あくまで『人間』として、上司に接するように。そうする事で対話を成立させるのだ。

「ならば――」

再び視線が私を突き刺す。
今度こそ、加減はないぞと告げるように。
さあくるぞ、第一波が。

「一度、立場をはっきりとさせる事が肝要かな。
 ―――中尉」

きた。読み通り、それはそう来る。
現状我々は2つの軍。指揮系統がズレている。
ならば最初にやる事は当然、どちらが上かを明瞭に。

「はい。私はこの地の闘争に際し、
 御身の軍に加わるべく、ここに立つものです」

気を強く。礼を失せず、しかし堂々と答えろ。
彼の興味が失せた瞬間、塵芥のように潰される。
逆に言えば僅かでも興味を持っているから、まだ殺さない。
この熱線を掴んで離すな。
気を抜くな、今のは獣の予備動作のようなもの。

「そうか、では卿は――」

次こそ本命。
獣がやおら目を細め。氷点下の微笑みを表情とする。
瞬間、今までにない熱視線に私の全身が罅割れた。
猛烈な吐き気と耳鳴り。全身が砕けそうな重圧の中で己を保つ。

来るぞ、来るぞ、来るぞ。
主(マスター)がなんだ、従(サーヴァント)なんだ。
絶望的に乖離した力関係を前に、お飾りの称号が役に立つものか。
あちらが上、現状を見れば分かり切った事実であり、間もなく飛来する第二波こそ試金石。

「――卿は、私に何を捧げる?」

来た。
これだ。
この答えが全てを決する。
古今東西、悪魔は契約に対価を求めると相場が決まっているのだ。
お気に沿わない言葉を口にした瞬間首が飛ぶ。
故、これより選ぶのは運命の一言。何を選ぶ?

忠誠。
違う、示せれば早かったが私には無理な相談だ。
なにしろ我々初対面。心からの忠義など在るわけ無し。
媚へつらいの言葉を聴かされた獣は容赦なく私の命を摘むだろう、斬首。

契約。
ダメだ。対等な関係を強気に迫り、逆に気に入られようなど甘い。
令呪の優位など御粗末なもの。相手は指一本動かさずとも私を殺せる。
愚かな事を考えたが最後、口にする前に、斬首。

信仰。
なに馬鹿なことを考えている。
もっとも苦手分野だろうに。

どれ一つ、決め手に欠ける。足りない。
そもそもこれは、自分より力劣る者と組むことへのメリットの提示。
私という存在のプレゼン。ターニャ・デグレチャフの価値を示すべく。
捧げるべきは私自身。

いや、まて。
ならばこう問われてもいるわけか。

『――さあ、卿はどう踊る?』

掴みかけている。
しかし悲しいかな時間が足りない。
獣の瞳が伏せられる、身を焦がす熱が萎んでいく。
さながら失望を表すが如く、あれほど熱かった私の総身が冷えていく。

せめて、令呪が使えたら。
「もう少し待ってくれ」と命じさせてくれたなら。
だがそんな彼の最も嫌いそうな無様を働こうとしたが最後。

いや、まて。
なるほど、ならば試してみる価値はある。

獣の眼が伏せられ、視線が切れる寸前。
つまり私の死の寸前だった。

足を、一歩動かす。
震えはない、それを己に許せば命はない。
腕を、証の刻まれた手を、幼年の体躯で届く限り高く掲げた。
これほど我が幼き体躯を呪った日はない。いまいち恰好がつかないではないか

言葉だけでは足りない。
行動で示せ。
そして行動だけで足りないならば、両方使ってやればいいのだ。
振るまえ、さながら神の好む英雄のように―――


444 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:17:10 G0P6xmlQ0

「我に与えられし令呪をもって、〝我" に命ず」

イラつくほど舌っ足らずな口を無理やり抉じ開けるようにして詠唱。
行うのはマーケティング戦略、私という存在のコストを高める為。
売り込みはキッチリいこう、与えられた機会(チャンス)を活かしてこそ人生は楽しくなると。
二つの人生を生きた私は既に知っているのだから。

「三画、全てを我が主へ捧ぐ」

令呪の行使が認められた理由は単純明快。
背信的な令呪行使を先んじて潰されるというのなら、そうでないならば当然見逃されるという話だ。
手をつくせ口をつくせ、大仰に大仰に。
大上段から見下ろすこの気難しい上司へと、出世の為ならば口と行動でアピールしてこそ。

「貴方に捧ぐ。一つを忠義、二つを契約、三つを……信仰」

流石に最後のは吐き気がしたし、嘘臭すぎて言った瞬間に首が飛びかねなかったが、
胸の内側で95式魔導宝珠を少し回して事なきを得た。頭が良い感じで汚染されてくる。
オーライ、この瞬間だけは存在Xに救われたというわけだ。反吐が出る。

「我これをもって〝覚悟″となす」

どうだ、見たいんだろう踊る勇者の姿が。これでどうだ。
令呪を全て使い切る愚昧は、ここで死ぬ無能に勝る。
ようは背に腹は代えられないという話だ。
忠義、契約、信仰。どれを取っても足りないなら三つ同時に行動で示してやろう。
多分、この手合いは大盤振る舞いが大好きそうという、予測も添えた最大のデモンストレーション。
ヤケクソとも言う。

だがこれは命を半分差し出す代わりに、最後まで私の安全を確約する契約書でもある。
黄金の獣に守られるなら、聖杯戦争における私の安泰は決まったも同じ。
さあ最後に軍人なら誰でも大好きな、最高の一言をブレンドして告げてやる。受け取れ悪魔め!

「我は御身へ、勝利を捧ぐ! ここに―――!」

契約を交わさんと、告げる寸前だった。

「よい、卿の覚悟、しかと見せてもらった」

全ての術式、発動しようとしていた令呪が停止する。
代わりに私の手の甲を、黄金の閃光が貫いていた。

「ガッ――――ア―――――」

突き刺されと認識した瞬間、視界が真っ赤に染まる。
穿たれたのは身体の末端だというのに、魂の真中が焼却されたようだった。
悲鳴すら上げられぬ痛みは一瞬、取り戻した視界に飛び込んできたのは再び己の手の甲。

「これ……は……」

発動の止められた令呪はきっちり三画残っていた。
しかし僅かに、模様が変わっている。
三つ重なった赤い歯車を模した令呪に割込んで、4つ目の歯車が刻まれていた。
加えられた四画目、それだけは黄金の色で刻まれている。

「卿に贈る聖痕(ステイグマ)だ。紋様も、その方が似合うだろう」

なる程、私の魔導宝珠の内側を模したようで、実に皮肉めいている。
ではなく、いったいこの男、なにをした。

「契約だよ。卿が先程やろうとした事だ」

……では認められたという事だろうか。
あの捨て身が、他に無ければそれが活路と断じた私の合理的思考が、琴線に届いたと。

「ああ、その魂、共に戦うに値する。
 此度の闘争間のみではあるが、卿を私の爪牙の一つと認識しよう」

ならば素直に喜んで良いのだろう。
いつまでも間抜けな体たらくを晒せない。
弛緩しそうな全身に再度緊張を漲らせ、表情を再構築。よし。

となれば全ての状況が逆転する。
最強の悪魔に、私は一時的とは言え部下と認められたのだ。
あとはじっくり城の外の敵を殺しまわってもらえば戦は終わる。
私は城の安全圏で、ゆっくりコーヒーでも飲んで待っていればいい。

これについては決して楽観などでは無い。
強き確信があった。喩え聖杯戦争の所謂素人であってもはじき出せる計算式だ。
ラインハルト・ハイドリヒは無敵である、と。
この聖杯戦争は勝利したも同然だ、と。

故に、なんて楽な仕事なのだろう。
ああ素晴らしきかな後方勤務。
安全の確保された場所で、勝てる従者の蹂躙劇を眺めるだけの簡単なお仕事。

「よって早速だが、卿にも働いてもらおう」
「は……?」

そんな甘い夢を観た時間が今であり、最良の時だったと強く言える。
私に出る幕があるのかと首を傾げると、ハイドリヒ卿は微笑みながらこう言った。

「ああ、見ての通り、『まだ完全ではない私』はここから動けん。
 故、此度の戦争は全て卿に一任する」


445 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:19:24 G0P6xmlQ0

一瞬、意味がまったく分からなかった。
しかし落ち着いた頭で、改めてハイドリヒ卿のステータスを確認して。
遂に理解する重大な瑕疵。

ふざけるな。
こんなの詐欺だ。
クーリングオフを要求する!
この悪魔、こともあろうに!

「そう、私はこの城を出られん」

確認した彼のステータスはあまりにも低かった。
なんと宝具以外はオールEという体たらく。肝心の宝具も一つを除いて全て半封印中。
カラクリは単純、あの最強の悪魔はこの城を一歩出ればコレなのだ。

弱いのではなく存在できない。
黄金の城という異界その物を引き連れし彼の魂を、サーヴァントとしての器は容認しない。
要するにあまりにも燃費が悪すぎるのだ。

「故にこその、卿なのだ」
「私…ですか?」

これでどうやって勝てばいい。
見上げた私に頷いて、獣は語る。

「現状、私はスノーフィールドに薄い像を結ぶのが限界だろう。
 仮にだが、現状可能な力を引き出して戦えば五分、いや四分経たずに卿も私も共倒れだ。
 だが、私の一部であれば、かの地を侵すことも可能となる」

なんだか嫌な予感がする。
そしては私はこの手の予感を外したことが無く、感じた時には手遅れであると理解していた。
もしやこの獣様、もう一つくらい前提を覆して来るのではないか、と。


「――――卿に、私の軍隊を預けよう」


言い終わるや否や起こった出来事に、私は今度こそ驚愕した。

「総員、集え。客人がみえている」
「な…………」

思わず出ていた声に咄嗟に口を押える事すら忘れ、私は目前に広がる地獄に瞠目する。
玉座の足元、広がる大理石の床から湧き上がる無数の腕。
釣り下がるシャンデリアから落ちてくる数多の足。
黄金の壁から剥がれ落ちる大量の骨の津波。それらは一つ残らず自立し、人型を為す骨、髑髏で出来た兵士だった。
銃、剣、大砲、戦車、皆一様に様々な武器を持ち、しかして独立し統制のとれた部隊。
尚も増え続け、ずらりと整列するは数百万に及ぶ大軍勢(レギオン)。

「彼らなら、いくらか下ろしても問題ない。
 斥候、哨戒、諜報、攪乱、戦場を開拓し、
 その間、私と卿はここで待つ、と考えていたのだがな」

ほらみろ雲行きが怪しくなってきた。

「いやなに、今度は私が恥じ入る番という事だ。卿を甘く見ていたことを認めよう。
 私と共に戦うという覚悟、しかと見せてもらった。
 そして勝利を齎すと言い切った卿に対し、単なる客人扱いはもはや礼を欠こう」

この悪魔が次になんと仰るか、私は理解できている。

「ターニャ・デグレチャフ中尉、卿に命ずる。
 ――私の軍勢を指揮し、勝利へ導け。無論、かの地の『最前線』でな」
「はっ! 光栄であります!」

最悪極まる!
ああ、まったくもって最悪だ。


446 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:21:14 G0P6xmlQ0

地獄がここにある。
床から、天から、壁から、骸骨が現れていたように見えていたが、そうではなかった。
最初からそこに居たのだ。床も天井も壁の、今私が踏みしめている場所も何もかも、城は全て死人で出来ている。

事此処に至って、私は漸く真理を解したのだ
まさか、これら全て在りし日のドイツ軍。生きていた人間、死人の群れだというのか。
ラインハルト・ハイドリヒという黄金に喰われた物の末路だと。
獣の内側に渦巻き、やがて流れ出した異界を構築する軍隊だと。
そんなモノに、私は先ほど何と言った?

『はい。私はこの地の闘争に際し、
 御身の軍に加わるべく、ここに立つものです』

手に刻まれた聖痕が何を指し示すのか。
今なら良く理解できる。

それは紛れもなく悪魔の契約。
私の魂は今、地獄に縫い付けられた。
死ねば必ず強制収容。世界の果てまで戦い続ける戦奴の仲間入り。

「では往け、中尉。勝利か、ヴァルハラか、だ」

ああ何たる光栄! 何たる栄誉! 
私の地獄(ヴァルハラ)はこの上司が保証してくださる!
死んだら抱いてくださるそうだ!

尋常ではない理不尽に今すぐ自殺したい衝動に駆られるが、すると地獄行きが確定する文字通りの退路無し。
ああ、ああ、まったくもって最悪の極み!
生き抜き望みを叶えるのではなく、彼らは殺し合いがしたいのだ。
那由他の果てまで戦い続けたいのだ、うん、頼むから私抜きでやってくれないものか?

「そして最後に聞かせてくれ。
 私に勝利を齎す者よ。ならば卿は、何を望む?」

骨と、血と、肉と、死者の螺旋に押し流されながら私は、その問いを聞く。
私の望み。聖杯に望む私の願い。そんなもの最初から一つしか在りはしない。
部下の出兵を見送る上官の問いかけだ、毅然と答えるべきだろう。

「はい。では僭越ながら。
 私は『世界の神を自称する存在』を討滅することを、希求いたします」

それがいったい、どこのツボに入ったというのか。

「――――ク。
 ハハッ、ハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」


新しい上官殿はこれ以上ない邪悪な笑いで、私を送りだしてくれた。






###


447 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:21:37 G0P6xmlQ0

諸君、以上が私の身に起きた悲劇の全てであり、今ここで泥水を啜っている理由に他ならない。
何か質問があるか? ない、ならばよし。
色々と頭の痛い事態ではあるが、戦争が始まってしまったならば、ひとまず職務を遂行する他ないのだから。

偉大なるハイドリヒ卿から命じられた最初の任務は即ち索敵調査。
こうして少人数の哨戒部隊と共に湿地を進むこと4時間と少し。
未だ何ら進展ないまま、体力と気力を消耗している。

「ゲルリッツ軍曹!」

呼べばすぐにでも傍らに駆けつけ、骨を鳴らしながら敬礼する髑髏の兵隊。
地図を開き、ライトを付けて私の指示を待っている。
うん、素早いことは大変良い。教育が行き届いている。
流石はハイドリヒ卿の部隊といったところか。

「大気中を漂う魔力の濃度が濃い。陣形を切り替えながら右側のルートを迂回する。
 他のモノにも知らせろ。また、私は速度を上げる、諸君らは死ぬ気で付いてこい」

すると軍装はカラカラカラと小気味よく骨を鳴らしながら後方へと下がった。
今もしかして、笑っていたのだろうか。死ぬ気で、と皮肉のつもりで言ったのだが。
奴らの声なき声を理解し始めた自分が嫌だ。

結局のところ。私に残された選択肢は一つ。
最前線で戦いながら、聖杯戦争を生き残る。
死ねば地獄行きが確定している、嫌なら生きるのみだ。

勿論、兵士のみでは命が幾つあっても足りない魔の戦場、必ずあの上官、黄金の獣に頼る時がやってくる。
ハイドリヒ卿の口ぶりからして、力が完全に近づけばこの地に降り立つことも可能らしい。
戦場の拡大、多くの死、魂の散華を行えば一度に導入可能な部隊の数も増え、大将の帰還にも繋がる。
ようは戦火を広げろと言う事だ。最前線で走り回る私の生存率にも関わるので、押さえておきたい。

また私が城から放り出され、スノーフィールドの前線で戦う意味は確かにあるらしい。
私(マスター)というハイドリヒ卿の触覚が現場にいる事で彼の干渉力が増し、動員できる兵隊の量が飛躍的に増大するのだ。。
効率面では正解といえる。実に合理的だ。そのマスターが死ねば全てが終わるという、致命的な欠陥を無視すればだが。
……そも、完全に主従が逆転している気がするのだが。

所持していた警報機がぶるりと震える。別働隊が何かを見つけたようだ。
ややあって伝令、西方に展開中の部隊が何かを発見との報。

マスターかサーヴァントか、あるいは自立型のエネミーか。
正体は不明だが、増援に駆けつけねばならないようだ。

「部隊反転。白銀より心臓部(コントロール)。
 我が隊は西方にて展開中の部隊、第36SS武装擲弾兵師団(ディルレワンガー)の援護に移る。
 哨戒部隊を回収の後、強襲重装部隊を配備願う」

あっという間に城に回収されていく哨戒部隊。
薄まり消えながらも幾人か、私に骨の手を振っていた、正直少々薄気味悪い。
代わりに送られてくるのは、これまた髑髏の精鋭達。

素早く森林地帯を超えて、味方部隊の援護に回る必要がある。
私自身も新しい武器を受け取って残弾確認。
ついでに手に刻まれた残機も確認。

三画の令呪。
たった三枚の切り札(ワイルドカード)。
使えば短時間だが、ハイドリヒ卿の現界時間を伸ばす事すら出来る。
上官としての能力で評すならば、私は彼に確実な信頼を置いている。
僅か数分間のご出陣であろうと、必ずや戦局をひっくり返してくれる事だろう。
だが私はこれを、三画全て使い切るわけには行かないのだ。

最後の一画。
それだけは終戦まで残しておかねばならない。
所謂これは、書き直しのきかない退役届け。後生大事に持たねばならない。
一生地獄で殺し合いなど真っ平御免だ。
そもそも私は善良なる一般人(サラリーマン)なのだから。

なのでここでも、真面目に働くしかないらしい。
銃を取り、泥を掻き分け、敵を粉砕して地獄の部隊を引き連れ進め。
そういう仕事に真摯に取り組む事にしよう。

振り返れば背後で待つのは死人の部隊。
彼らは私の号令を待っている。

折角だし、発破でもかけてやるか。
進軍にさしあたり士気を高めるのは良い。
骨で出来た兵に、一体どれほど効果があるか知れないが。


「では往くぞ諸君、仕事の時間だ!!」


密林に響き渡る骨鳴りの音を聞くに、どうやら試す価値はあったらしい。
うん、如何なる職においても、上に評価される行動を心がけるべきだ。

私自身の戦略的価値を示す事が出来れば、或はかの上官とて、私を後方で守護する判断をしてくれる。
なんて余地もある筈だろう。
私は銃を掲げ叫びながら、そんなふうに今後の戦略を考えていた。





###


448 : JINGO’s ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:22:32 G0P6xmlQ0

戦場に開戦の号砲が放たれる。


「諸君、我々の任務は何だ!?」


最前線に臨む少女の激励に、髑髏の軍勢が湧き立つ。
神よ。おお神よ。これは如何なる奇跡であろうか。


「殲滅だ! 一騎残らずの殲滅だ!!」


我らの理想が此処に在る。女神が戦場を駆けていく。
我らの立つべき大地を造る為に。
負けたままの我らを、戦うことの出来なかった我ら総軍を、栄光へと導いてくださるのだ。


「この地に蠢く英霊(えもの)全てを打ち破り、我らが主に勝利を捧げよ!!」


感謝する。いと小さき戦乙女よ。
我らが主もお喜びのことだろう。
黒円卓のほぼ全員が消えてしまったこの異常事態、貴女の降臨は信託であったか。


「我々の為すべきことはただ一つ!!」


骨身に肉が戻る。血が満ちる。
ああ、戦場に降りる事叶わぬ、破壊の王よ。

「この世界に、地獄(グラズヘイム)を創り出せ!!」

ご安心を!
そしてどうか、しばしお待ちを!
必ずや我らが、彼女と共に、至高の黄金に相応しき世界をご覧に入れましょう!

「ジークハイル!!」

おお、勝利を(ジークハイル)!! 
勝利を(ジークハイル)!! 
我らに勝利を与えたまえ(ジークハイル・ヴィクトーリア)!!


狂熱する地獄の軍勢、その遥か後方。


黄金の玉座で獣は見つめる。最前線で指揮をとる少女の背中を。
熱い視線で見つめている。
彼は何より奮起する英雄を好むが故に。

悪くない。
存外に、悪くない。
魅せろ小さき勇者よ。
私の兵達を見事に惹きつけたその光、実に良い。

さすれば俄然、観たくなってしまうではないか。
いいやもっと魅せてくれ。

苦境と苦難の中でこそ、英雄は尊く輝く故に。
それこそが、より高みへとターニャ・デグレチャフを飛翔させると信じる故に。
私は卿に、至高の戦場を送り続けよう。

そしてもし、叶うならば異界の英雄よ。
この世界(ゲットー)を超越し――



私に、未知を見せてくれ。









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449 : ターニャ・デグレチャフ&ラインハルト・ハイドリヒ ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:27:46 G0P6xmlQ0



総員、傾注!!




【出展】Dies irae 〜Amantes amentes〜
【CLASS】ランサー
【真名】ラインハルト・ハイドリヒ
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力E+++++ 耐久E+++++ 敏捷E+++++ 魔力E+++++ 幸運E+++++ 宝具EX

【クラス別スキル】
 黄金聖餐杯:EX
 本来は宝具の一つ、対魔力の代わりにクラススキルとして所持している。
聖遺物に至るまで魂を喰らった彼の玉体そのもの。
 魂を大量に貯蔵する事による堅牢の究極に、あらゆる防壁を重ね塗りした無敵の鎧。
 現在、グラズヘイムの外に在っては不安定な状態である。

 単独顕現:D-
 単独行動の上位特殊スキル。
 其は一にして全、全にして一のレギオン。
 このスキルを持つ者は即ち――

【保有スキル】

 カリスマ:A+
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
 地獄の王として君臨する圧倒的カリスマ。
 唯一このスキルのみ、ランクの下降が見られない。

 軍勢変性(獣):A-
 自己の内側に渦巻く魂の形成、及び能力を発現する。
 軍略を始め、多彩なスキルをD〜Aランクの習熟度で発揮可能。
 ランク判定は本人の適性、つまり『好むか否か』。

 破壊のルーン:A-
 意味は「天災」、固定化した状況の打破。
 戦場が拮抗、膠着した際に判定を行い、
 成功すれば軍勢全体をステータスアップ。

 神殺し:D-
 かの者を貫きし神槍の正統継承者。
 神性を持つサーヴァントに対する際にプラス補正が掛かる。

【宝具】

『聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)』
 ランク:A- 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1000

 究極にして最高位の聖遺物。
 鍛治士トバルカインが神の落した星の隕鉄を鍛えて作ったとされる伝説の神槍。
 常人ならば直視するだけで魂が焼却される神造兵器、主となるのは一つの時代に一人のみ。
 振るえば、正しく必中、必殺、必滅の一撃を織りなし、一振りで街を焼け野原に変える威力を誇る。
 またこの槍で聖痕を刻まれた者、刻まれた者に殺された者を死後に地獄(グラズヘイム)に捕え、戦奴に変性させる特性を持つ。

 ランサークラスたる所以だが、現在は城外では半封印中。
 完全に近づくことで使用が可能になるとされる。


450 : ターニャ・デグレチャフ&ランサー ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:28:42 G0P6xmlQ0

『至高天・黄金冠す第五宇宙(グラズヘイム・グランカムビ・フュンフト・ヴェルトール)』
 ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:- 最大補足:-

 修羅道至高天。ここでは固有結界と仮称。
 その理を体現する法則。世界に流れ出す一歩手前の異世界にして、ラインハルト・ハイドリヒの渇望その物。
 即ち「死を想え(メメント・モリ)」の思想と「全てを愛したい」という渇望の具現である。

 不死身の戦奴が無限に殺し合う地獄の魔城。
 スノーフィールドから僅かに位相のズレた次元に展開する事で世界の修正を免れている。
 同様の理由から戦場に直接干渉する事が出来ないが、戦奴の部隊を送りこむことは可能。

『■■■■■■■■■■■』
 ランク:EX 種別:■■■■ レンジ:■■ 最大補足:■■■■

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 ■■■■■■


 まだ諸君らはこの項目を開示される位階に達していない。
 いずれ『その日』に至るまで、奮起奮闘せよ。

【weapon】

「エインフェリア」
 ラインハルトの内側で渦巻く至高天(グラズヘイム)。
 そこで渦巻く戦奴達。全員等しく不死であり、ラインハルトと半同一化している。


【人物背景】
 ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。
 実在したドイツ軍人であり階級は大将。
 聖槍十三騎士団第一位・首領である。

 彼の者の愛とは破壊。
 幸不幸優劣なく全て平等に愛している。

 その愛と渇望の具現こそがグラズヘイム。
 彼らは旧秩序を破壊し、那由他の果てまで戦い続ける獣の軍勢(レギオン)である。

 黄金の獣の鬣の一本となる事を、至上の悦びとせよ。


【サーヴァントとしての願い】
 旧世界(ゲットー)を破壊する。

【基本戦術、運用法、方針】
 勘違いしてはならない。
 運用するのではない、諸君が彼に運用されるのだ。


451 : ターニャ・デグレチャフ&ランサー ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:32:01 G0P6xmlQ0

【マスター】
 ターニャ・デグレチャフ@幼女戦記

【参加方法】
 郵送で送られてきたトランプに触れ参戦。

【人物背景】
 元は日本のエリートサラリーマンであったが、
 死に瀕した際、神を自称する存在に、異世界に幼女として転生させられる。 

 徹底的なリアリストであり個人主義者。
 非科学的な世界で戦争を知り、しかし適応してみせた。

 帝国軍魔導航空士官、階級は中尉。
 今日も出世の為に奮闘する。

 様々な理由から神を自称する『存在X』への憎悪は深い。


【weapon】
 航空魔導士標準装備
 軍用演算宝珠:エレニウム九七式
 軍用演算宝珠:エレニウム九五式
 
 魔導宝珠とは魔力をもって飛行や術式展開を可能とする機器。
 中でもエレニウム九五式はターニャ・デグレチャフにしか扱えず、紛れもないチートアイテムだが同時に欠陥品。
 これを使うと強力な力の代償に精神は汚染され、暫く口から神への賛美を垂れ流してしまう。
 神に災いあれ!

【能力・技能】
 戦場における観察眼。
 部隊を率いる将としての指揮力、判断力に優れる。
 また魔導士としての個人武力も抜きん出ており、帝国内外から畏敬を集めるエースオブエース。

 周囲の評価は得ておくものである。


【令呪】
 右手の甲。四つ重なった歯車。


【マスターとしての願い】
 立身出世。
 ……ただ出来るなら、安全な後方で。

【方針】
 では上官の命令通り地獄を創るとしよう。
 諸君、仕事の時間だ。


452 : ◆7ajsW0xJOg :2017/01/27(金) 23:33:08 G0P6xmlQ0
投下終了です


453 : ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:41:02 OniKZC6I0
皆様投下お疲れ様です
自分も投下させていただきます


454 : 二重螺旋 ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:42:14 OniKZC6I0
 人をきずつけるのはいけないこと。
 人をころすのはかなしいこと。
 それはわたしも知っている。小さなわたしでも知っていること。

 だけどそうしてたたかわないと、手に入らないものがあった。
 みんなの上に立つおひめさまには、だれか一人だけしかなれない。
 いすにすわれる一人になるには、いすにすわっているだれかを、どうしても下ろすしかなかった。

 ルーラが言ってた。
 「リーダーは憧れの対象でなければならない」。
 「皆がリーダーを目指すことで、組織が活性化するのだ」って。
 わたしはルーラになりたかった。
 ルーラにあこがれていたから。ルーラが大すきだったから。
 だからわたしは手をのばした。それがルーラののぞみだから。そういうそしきをめざしていたから。
 ルーラへの大すきをしめすためには、これが一番だっておもったから。

 だから、これからもそうする。
 いまのわたしはもうルーラだ。
 ルーラをめざして、ルーラをたおして、ルーラになったのがわたしなんだ。
 こんどはわたしがルーラをやる。あこがれられるリーダーになる。
 ころしたいと思われるほどに、あこがれられるリーダーに。

 だから、いまは、生きてたたかう。


455 : 二重螺旋 ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:42:56 OniKZC6I0


「――小娘、お前は何がしたかったんだ?」

 ふぅっと紫煙をくゆらせながら。風に髪を棚引かせながら。
 コンクリート色の迷宮の中、天に程近いビルの上から、少女を見下ろし青年は問うた。
 つまらない――というよりも、興味が湧かないといったような、無感動な顔つきで。
 神話の大魔人を相手取り、必死に戦う少女の姿を、他人事のように観賞しながら、緑の髪の男は言った。

「愛した者を殺したと言ったな。お前は認められたかったと。だからこそ命を奪ったと」

 水着の少女は只人ではない。超常を操る魔法少女だ。
 鋭い槍を振りかざし、都会の闇へと姿を晦まし、影から現れて敵を襲った。
 あらゆる物質に透過・侵入し、空間を自在に泳ぐ異能――それは確かにこの男にも、備わっていなかった奇跡の御業だ。
 しかし、相手は物が違う。魔法が人の手によって、神の奇跡を模造したものなら、今まさに彼女が相対するのは、本物の神話を生きた勇士だ。
 突かれた程度で傷などつかぬ。逃げ回る程度は歯牙にもかけぬ。
 神か悪魔か、それ以上の何かか。かつて呪われし加護を受けた、緑の髪の男なればこそ、その恐ろしさが理解できる。
 半端者の現代っ子では、到底及びもせぬ器――それこそが英霊・サーヴァントなのだと。

「それは本末の転倒というのだ。お前はそれで何を得た? 語る舌など持たぬ死人が、お前の叛逆を賞賛したのか?」

 怨ォん――と雄叫びが木霊する。
 狂戦士(バーサーカー)の二つ名を得て、現世に蘇った魔性の戦士は、咆哮すらも力と変える。
 びりびりと天地を震わす声は、物理的な破壊力すら有して、水着の少女へ襲いかかった。
 形あるモノでない轟音は、魔法少女にすら凌ぎきれない。たまらず、痙攣したかのように震えた少女は、吹き飛ばされて壁に打たれた。
 からからと乾いた音が聞こえる。手にした鋭利な切っ先が、虚しく零れ落ちアスファルトを転がる。

「全てが徒労と……後の祭りと。何もかも自らの手で壊して、何もかも掴めなかったお前の、その顛末の感想はどんなだ?」

 そうまでして挑む少女の心が、男には理解できなかった。
 言葉少なく語られた、戦いの動機というものに、まるきり共感できなかったのだ。
 彼女は最も尊敬し、愛した魔法少女を殺している。
 組織を率いていたリーダーに、刃向かい殺したことによって、恩を返したなどとほざいている。
 とんだ間抜けだ。賞賛も報酬も、その者が死ねば、何一つ返ってこないというのに。
 あるいはそのことに気付きながらも、後悔の大きさに心を壊し、考えることを放棄したのか。
 僅か七歳に過ぎない童女の心は、とうの昔に砕け散っているのか。

「……まだ、何も終わってない」

 それでも、少女はなおも動いた。
 傷つき痺れた体を動かし、取りこぼした槍へ手を伸ばした。
 感情の機微の読み取れない、鉄面皮のような顔立ちではあったが、しかしその瞳には確かに、力の光が宿されていた。

「私はルーラになったから……ルーラみたいに、もっと強く、正しいリーダーにならなきゃいけない」

 少女は恩人から立場を奪った。しかしそれはあくまでも、己が愛を証明するための、最初の一歩に過ぎなかった。
 王座をもぎ取り座っただけでは、ルーラと同じにはなれない。
 ルーラはもっと堂々としていた。ルーラはもっと賢かった。ルーラはもっと成果を示した。
 強く、気高くならなければ。停滞に甘んじているだけでは、ルーラの死すらも穢してしまう。
 涙を呑んで挑んだというのに、決意を固めて殺したというのに、本当に無駄な死で終わってしまう。

「上手にできたって褒められるのは、全部、終わってからでいい」

 男の指摘はもっともだ。しかしそれは、今の己が、道半ばに立っているからだ。
 まだ何一つ終わっていない。賞賛に値するほどの恩返しを、自分は未だ示せていない。
 魔法少女の争いがあるなら、チームを率いて頂点を目指そう。
 奇跡の聖杯がそこにあるのなら、手にしてより強いリーダーになろう。
 それでこそ、ようやく意味を持つ。ルーラにならんと、成さんとした決意は、それでようやく完遂される。
 全てを成し遂げ、同じ力を手にし、同じように討たれた時こそ――天寿を全うしたその時にこそ、あの世で待っているルーラに、認めてもらうことができるのだ。
 それがスイムスイムの決意だ。
 それこそが坂凪綾名の愛だ。
 まだ何も見せていないというのに、それだけでしたり顔で語られるほど、浅はかなものなどではないのだ。


456 : 二重螺旋 ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:44:10 OniKZC6I0
「……く、クク」

 だからこそ、男はようやく笑んだ。
 震える体に鞭を打ち、決死の覚悟で立ち上がる、彼女の姿を見た時にこそ、ようやく目の色を変えたのだ。
 真紅の令呪で結ばれた、ライダークラスのサーヴァントは、己がマスターの在り方に、ようやく興味を示したのだ。

「ハハハハハ!」

 笑う。笑う。高らかに笑う。
 闇夜を無数のカラスが騒がす。その羽の音と叫びにも、微塵も掻き消されることなく、男は月下で大笑する。

「それこそがお前か! お前なりの愛か! ただ一人地獄の淵に立ち、羅刹修羅道を歩むことでしか、寄り添う資格を掴めぬ矛盾!」

 坂凪綾名は破綻していた。
 彼女の抱く愛と恩義は、男の下らぬ勘ぐりよりも、遥かに致命的に壊れきっていた。
 支えるのでも、寄り添うのでもない。まるきり同一の存在へと、己を高めることでしか、納得と完結を見ない信仰。
 しかしルーラは指導者だった。
 船頭になる者はただ一人。並び立つことは叶わない。二人のリーダーが共存すれば、組織は山に登るしかない。
 ルーラの存在を穢すことなく、ルーラと同一になるためには、ルーラに降りてもらうしかない。
 だからこそ、殺すしかなかったと――その最悪に至ったことに、何の疑問を抱かなかった時点で、綾名は完全に破綻したのだ。

「黒き殺意を突き立てるしか、清き愛を示せぬ矛盾! それこそはお前を狂わせ、捻じ曲げ! 獄炎すら照らさぬ無明の闇へと、お前を誘い突き落とすだろう――」

 それでも、綾名は止まらぬだろう。
 それをどん詰まりであるのだと、認めないどころか気付きすらせず、平然と反論してみせた彼女は、なるほど確かに本物だった。
 愛する者をこの手で殺す。代わりに愛する者になる。愛するものに認めてもらえば、道のりの全ては肯定される。
 であれば、あのおぞましき殺人は、罪科と呼ぶには値しない。この道は茨の道ではあっても、外道では断じてないのだと、本気で信じているのだ、彼女は。
 漆黒の死と、純白の愛。交わらぬ矛盾でありながら、しかし本人の中では矛盾せず、完全な太極図を描く二重の螺旋。
 ルーラがそれを望まぬと――他人の自己満足などより、己の命を欲するなどとは、思いもせずに描かれたのだ、それは。

「――この俺のように!!」

 瞬間、稲光が爆ぜた。
 雷光が天の暗雲ではなく、地の底から龍となり駆け上がったのだ。
 天が砕ける。大地が割ける。爆音と光の暴力が、綾名を、バーサーカーを揺さぶり、戦闘行為の一切を、その瞬間だけ遮った。
 災厄(カタストロフ)の光景が、過ぎ去った後に聳えるのは、暗天。
 月の薄明すらも遮り、影も形も認められぬ、無間の闇こそが現出される。
 否――その只中に、浮かぶものがあった。暗黒だけがあるはずの世界で、それを生み出している存在だけは、誰の目にも視認することができた。

「此度の戦いに対して、俺には理由も興味すらもなかった。……だがな。お前がその道を歩むのならば、道化のようにも踊ってみせよう」

 声が聞こえる。天より響く。
 影の頂点で宣言するのは、かの緑の髪の男だ。
 聖杯戦争を下らぬと断じ、しかし綾名の在り方にこそ、意義を見出した男だ。
 遠き世界で刃を振るい、坂凪綾名と同じ矛盾に、酔いしれ殉じた反英霊の姿だ。

「目を背けることは許さん。しかと見届け焼き付けるがいい。何せそれはお前の姿だ! 俺こそがお前なのだからな!」

 天を閉ざすは闇の荒神。
 空に聳える黒鉄の城は、下界を見下し焼き払う、悪しき暗黒神の化性。
 怨神ヤマタノオロチの具現――その第一の首こそが、彼の宝具であり、彼自身だ。
 雄々しくも禍々しき威光を湛えた、鋼の巨人の姿こそ、「嶽鑓御太刀神(タケノヤスクナズチ)」であり、彼だ。

「この俺のこの姿こそ――スイムスイムの成れの果てだ!!」

 その名はツバサ。一ノ首、ツバサ。
 罪を背負って愛を守り、愛する者の平穏を、彼方より切に願った白を。
 罪にまみれて魔性を引き寄せ、引き裂かれた愛すら汚し尽くしても、此方へと引き寄せんとした黒を。
 矛盾した陰陽の欲望を、しかし一切の矛盾なく貫き、世界へと叫んだ魔人の姿だ。
 そのおぞましき末路こそ、坂凪綾名の行き着く果てだと、ツバサは天を衝く声で叫んだ。
 醜悪であっても、破綻していても、お前がその道を進むのであれば、必ずこの結末へ行き着くのだと。
 高らかに笑うその姿に、綾名が抱いた感情は――今はまだ誰にも、本人にすらも、推し量れるものではなかった。


457 : 二重螺旋 ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:45:20 OniKZC6I0
【出展】神無月の巫女(アニメ版)
【CLASS】ライダー
【真名】一ノ首・ツバサ
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【保有スキル】
鋼鉄の決意(怨):A
 オロチの意志、すなわち怨念。深き絶望と黒き憎悪。
 最愛を引き裂いた人の世を、地獄と断じ滅ぼすと誓った、鋼の決意がスキルとなったもの。
 オロチの力による身体強化、勇猛・冷静沈着の効果を含む複合スキルだが、1ランク下の精神汚染スキルの効果も内包している。
 人間性を摩耗させ、妄執にのみ生きる男に、余人の理屈は通用しない。
 ……余談だが、精神干渉系の効果のうち、特に魅了に関しては、100%無効化することができる。
 神であろうが仏であろうが、ただ一人のみを見据える彼にとっては、等しく阿婆擦れでしかない。

魔力放出:C
 武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。

剪定事象:-
 並行世界の英霊である。
 特に剪定事象というのは、ある一つの世界から分岐し、乖離しすぎたために消滅した世界を意味する単語である。
 本来なら特記するほどの事項ではないのだが、現在残された世界には、オロチも天群雲剣も存在しない。
 このためツバサも異能とは無縁の、全くの一般人として生活しており、彼と同じ英霊の座を経ていない者には、正体を探ることはできないのである。


458 : 二重螺旋 ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:46:06 OniKZC6I0
【宝具】
『嶽鑓御太刀神(タケノヤスクナズチ)』
ランク:A 種別:対城宝具 最大捕捉:1000人
 邪神・ヤマタノオロチの一部である黒鉄の巨神。
 月光の翼をその身に背負い、宵闇より現れ人の世を焼く、禍々しき荒神の像である。
 メイン武器は刀剣で、他にも両目からの光線や、胸からの熱線などの武器を保有する。
 また、神の分身であるため、Bランク相当の神性を有している。

【weapon】
刀剣
 何の変哲もない長剣。

【人物背景】
 今は剪定事象と成り果て、彼方へと消え去った遠い世界。
 かの地にて名を連ねし人類悪(ビースト)の一・ヤマタノオロチに見初められ、魔性の力を与えられた、七人のオロチ衆の筆頭である。
 怨念を引き寄せた心の闇は、生まれを選べなかったが故に家族と引き裂かれ、汚辱の限りを味わった地獄の記憶。
 しかしその最愛の家族――実弟・ソウマは、自らと敵対する道を選んだ。
 それ故にツバサは、世界の破滅よりも、彼を手に入れることにこそ、暗い情念を燃やしていた。

 彼のかつての望みとは、弟が己とは交わらず、穏やかな光の中で生きていくこと。
 オロチとしての望みとは、弟を闇に染め上げてでも、共に手を取り生きていくこと。
 矛盾した二つの感情は、しかし彼の中では反発せず、さながら陰陽魚のように、表裏一体であり続けた。
 ソウマが己を討とうとも、己に屈し堕ちたとしても、大望は等しく果たされる。
 己を下し、やがて破滅し、それでもと選択を誇った弟を、なればこそとツバサは祝福したという。

【サーヴァントとしての願い】
 もはや聖杯に願うようなものではない。今は反英霊として祭り上げられた、この身の醜悪こそを見せつける。

【基本戦術、方針、運用法】
 神性すら帯びたロボット宝具は、適切に運用することさえできれば、文字通りの鬼札となり得るだろう。
 しかし聖杯すら望まず、理解も共感もはねつける彼には、協調性というものが微塵も存在しない。
 どころか方針を考えれば、嫌がらせに近い行いすらも、平然と選択すると思われる。
 成り行きに身を任せるか、あるいはその思考すら読み切って、上手く誘導してみせるか。いずれにせよ、扱いの難しいサーヴァントである。


459 : 二重螺旋 ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:47:20 OniKZC6I0
【出展】魔法少女育成計画
【マスター】坂凪綾名(スイムスイム)

【参戦方法】
 学校で白紙のトランプを拾った

【人物背景】
 スイムスイムの二つ名を取り、N市にて活動する「魔法少女」。
 先輩魔法少女・ルーラに心酔し、彼女の下につき活動していたが、状況の変化とある人物の後押しにより、反逆を決意。
 ルーラとなるべく、ルーラに挑み、ルーラを排除することによって、ルーラに代わる新たなリーダーとなった。
 愛するがゆえに教えを守り、教えられたがゆえに命を奪う。
 矛盾から始まったロジックは、冷徹な思考力と共に暴走し、魔法少女達へと牙を剥く。

 その正体は七歳の小学生。
 知識は少ないが頭の回転が早く、それが物事の善悪を知らぬ無垢さと噛み合い、最悪の方向へと転がり落ちていった。
 本来辿るべき未来において、彼女は多くの魔法少女達と戦うことになるのだが、正体を見るまで誰一人、その幼さに気付く者はいなかったという。

【weapon】
ルーラ
 魔法の国で鍛え上げられた槍。極めて強力な殺傷能力を誇る。
 ネーミングはもちろん、敬愛するルーラから。

【能力・技能】
魔法少女
 魔法の国の力を受け取り、魔法使いの少女として、変身し力を行使する存在。
 常人を遥かに超えた身体能力と、何事にも屈しない精神強度を誇る。
 ただし変身しなければ、その能力は一般人と変わらず、魔法を発動することもできない。
 変身した姿・スイムスイムは、綾名の実年齢よりもかなり年上であり、その上グラマラスなスタイルをしているため、見た目からは正体を悟られにくい。

「どんなものにも水みたいに潜れるよ」
 スイムスイムの行使する魔法。
 あらゆる物体に潜行し、その中を泳ぐように移動することができる。
 その範囲は無機物・有機物を問わず、相手の攻撃をすり抜けさせるように、無効化することも可能にする。
 ……ただしこの魔法の効果範囲は、実体を持つ「もの」にのみ通用するもの。
 このため光や音波など、実体を持たない攻撃は、無効化できず直撃を食らってしまう。
 また、潜ったものごと空間からえぐり取る攻撃や、そもそも物理的な効果を伴わない精神干渉など、他にも太刀打ちできないものは多い。

精神汚染
 人と会話が噛み合わない。
 ルーラが残したいくつもの教えを、額面だけ受け取り実行する彼女は、その論理に致命的な破綻を来たしている。
 善悪を判断する基準を知らず、結果と合理のみを追求する言動は、たとえ無垢なものであっても、もはや狂人のそれと大差ない。

【マスターとしての願い】
 ルーラのように強くなる。立派なリーダーになるための力を求める

【方針】
 ルーラのように作戦を立て、聖杯戦争に勝利する。強く、気高く、そして賢い、決して失敗などしないリーダーとして。


460 : ◆Vj6e1anjAc :2017/01/27(金) 23:48:38 OniKZC6I0
投下は以上です
また、ライダー・ツバサの解説文に関して、「Maxwell's equations」に投下された候補話を参考にさせていただきました


461 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/28(土) 01:43:23 38WF8cgs0
投下します


462 : 熱帯 ―アマゾン― ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/28(土) 01:50:02 38WF8cgs0
「〜♪」

キッチンの電灯が照らすのは、中学生と呼ぶにも幼すぎる少女の容姿、そしてその赤い瞳が見つめるひき肉と刻んた野菜。
狭いキッチンに響くのは少女のハミング。
それに伴い、少女の細い腕がリズムよくひき肉と材料をこね合わせ、天辺に大きなはね返りのある淡いの紫色のショートカットを乗せた頭もリズムに乗って揺れていた。

事故で両親を無くし、唯一の親族であり同じく身寄りも無く、一人で暮らしていた金髪の少年――GVに引き取られ、今は二人で暮らしている。
それが彼女のこの世界での設定<プロフィール>である。
買い物のために立ち寄った歓楽街で、突然落ちてきた白紙のトランプを、ワンダーランドのアリスのように惹きつけられるように追いかけ、拾ってしまった。
そのような経緯でこの聖杯戦争の場に呼ばれてしまった少女――シアンではあったが、この場での生活は不幸ではなかった。
彼女の同居人であり、想い人GVは現実と同じように仕事で忙しく、
他に身寄りの無い少年少女二人での生活もまた、楽とは言えない。

しかし、誰にも追われること無く、責められること無く堂々と生きられる。
皇神の目も気にせず友人と本名で呼び合える。
何気なく買い物に出かけ、手料理をGVに振る舞う時間もあった。

仮初とは言え、確かに幸せな居場所であった。
ただ、一つを除いでは。

「…!」

ふと、シアンの肉をこねる手が止まる。
そして急いで軽く手を洗うと、冷蔵庫から数品のチルド食品を取り出し、皿に盛るとレンジの中に押し込み、温め始めた。
そして何事もなかったかのように料理に戻って数分後、肉団子を入れた鍋が煮えてきた頃に再び手が止まった。
シアンが玄関を向く、GVが帰ってきたのではない。
彼は今日も、仕事で夜遅いはずだ。
そこには白いシャツを着た、穏やかな雰囲気を感じさせる中性的な青年――バーサーカーのクラスで召喚された。彼女のサーヴァントが居た。


463 : 熱帯 ―アマゾン― ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/28(土) 01:50:23 38WF8cgs0
「えっと、おかえりなさい、バーサーカーさん」

「どうも、ただいま」

霊体化し、音も立てず帰還した己のサーヴァントを正確に察知し、挨拶を交わす。
これは互いの日常となっていた。
当初は念話で連絡を取り合っていたが、互いに察しが良い者同士必要性が薄く、細かい打ち合わせをする時以外では使われなくなっていた。
故に、互いに互いを感じてるものを、大雑把であるが感じ取ってしまっていた。

タイミングよく、レンジが音を鳴らした。
一瞬、レンジから香るかぐわしい匂いを嗅いだバーサーカーの端正な顔が、飢えた獣のように歪んだのをシアンは見た。

「ありがとう、用意してくれてたんだね」

「…もっとちゃんとしたお料理も作ってるけど、今はそれだけしか」

「いや、これだけあれば十分だよ」

バーサーカーはそう言うと、レンジから皿を取り出し、食卓へ持ち込んでいった。
シアンにはわかっている、彼は常に空腹だ、あれだけ激情を燃やした後にあれだけではとても足りないだろう。
まだ沸足りない鍋を見て、やむを得なく鍋を、安い電気コンロの上から食卓へ運んだ。

すでに皿に盛った食料を平らげたバーサーカーは、持ち込まれた鍋を見て一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに申し訳そうな表情に変わった。

「…ごめん」

「ううん、気にしないで」

「でも食費とか…」

確かにただの未成年の二人暮しという役割での生活は苦しい。


464 : 熱帯 ―アマゾン― ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/28(土) 01:50:40 38WF8cgs0
シアンも食費のため、GVに気づかれないよう隙を見て内職に手を付けているし、
家事上手のGVに冷蔵庫の中身や食器の異変に気づかれ、
「いっぱい食べれば大きくなれるかと思って…」
「GVに負けないよう料理の練習したくて…」
など苦しい言い訳をして、GVに複雑な表情をさせるのも心苦しい。
だが、いざとなれば(本当に最終手段だが)不正をしてお金を稼ぐことも不可能ではないし、
それに現実のGVのように、身を挺して戦ってくれているバーサーカーに対して、その程度のことで腹を立てるほど器は小さくない。

「バーサーカーさんは戦ってくれてるし、これくらいはしないと」

鍋の中の肉団子は、まだ赤みが残っていたが、バーサーカーは気にせずにフォークをつきたて、口の中に運んだ。
思いの外熱かった肉団子に苦い顔をするが、しかし飢えたバーサーカーは急いで噛み砕き、飲み込んだ。
そして、箸を止めてポツリと一言漏らした。

「不安だよね、あの僕の中の僕を視たら」

シアンは息を呑んだ。
シアンがバーサーカーの飢えがわかるように、バーサーカーもシアンの不安がわかるのだ。

バーサーカーがある時、突然ベルトを身に着け、外に出て、帰ってくる。
聖杯戦争だ、そこで何が行われているのかは、当然わかっている。
しかし、令呪を通して伝わってくる感情は、皇神と戦っていたGVが生温く思えるほど、純粋で、溶岩のように熱く、そして頭の全てを塗りつぶすほどの快感と、そして底のない苦しみであった。
まさに人が未だ踏み入れていない、否、人が何万年もの時間を掛けて、ようやくわずかに抜け出せた深い密林、人外魔境の世界であった。

「でも、心配しないで」

「守るべきものは守る、例え人間でも、そうでなくても」

そう言ってバーサーカーは再び箸を動かし始めた。


465 : 熱帯 ―アマゾン― ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/28(土) 01:50:57 38WF8cgs0

シアンの不安は消えなかった。
それはバーサーカーの中の激情を恐れている――からではなかった、

本能ではなく理論(ロジック)。
彼の言う守るべきもの、そこに自分とGVが含まれているかが不安なのだ。

人から能力者に向けられる謂れなき恐怖。
そして、その人と能力者の両方から向けられる恐怖、望み、期待。
シアンは感じている、あのプロジェクトリーダー、紫電の正義欲を。
GVの父に等しいアシモフの、あの眼鏡の奥の瞳が自分を見る時、時折不穏な感情になる時を。
皇神に囚われている時に感じた、あのピンク色の気配を。


人食いであっても生きられる世界。
怪物であっても生きられる世界。
だがそこに、人外からすらも恐れられる自分<サイバーディーバ>とGV<アームドブルー>の居場所は、あるんだろうか。
己の存在そのもの、それはシアンにとって夢であり、そしてたったひとつの不幸でもある。

生きることは決して諦めない。
だが、この弱肉強食の熱林のような地で生きることとは
いや、この世界で生きることとは、つまり――

物言わず、赤身の残る肉団子を食べるバーサーカーを見ながら、
軽く身震いをしたシアンは、気づかぬうちに右の手のひらに刻まれた令呪を握りしめていた。



そして監視者達はネフィリムと呼ばれる息子たちを人間に産ませた。
ネフィリムは監視者とは似つかわず、ネフィリムは互いを食べた。
ギガスはネフィルを、ネフィルはエルヨを、エルヨは人を、そして人は互いを殺した。

ヨベル書 7章22節より


466 : 熱帯 ―アマゾン― ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/28(土) 01:51:26 38WF8cgs0

【クラス】バーサーカー
【真名】水澤 悠
【出典】仮面ライダーアマゾンズ
【性別】男
【属性】秩序・悪

【パラメーター】筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:E 幸運:C 宝具:B
    (変身時)筋力:B- 耐久:C 敏捷:A- 魔力:E 幸運:D 宝具:B

【クラススキル】
狂化E-(C)
人のタンパク質を好む性質を抑えられないアマゾンの一人であるが、
バーサーカーは普段はアマゾンズレジスターから注射される抑制剤の効果によって抑えられている。
そのため、バーサーカーでありながら通常通り会話可能である。

【固有スキル】
加虐体質:A
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
攻めれば攻めるほど強くなるが、反面、防御力が低下してしまう。
バーサーカーは狩るべきものと判断したものに対して、普段の冷静さを失ってしまう傾向がある。


気配感知:B
気配を感じ取ることで、効果範囲内の状況・環境を認識する。近距離ならば同ランクまでの気配遮断を無効化する。
バーサーカーはアマゾン体の中でも高度な察知能力を持つ。

獣の本能:B
人並み以上に三大欲求が強い。
バーサーカーの場合、常に食欲を満たしていなければ戦うことができない。
この食欲は魔力補給のためというより、もはや精神観念に近いものであるため、魔力での代用は難しい。
空腹状態では狂乱の軍神と調和の申し子(アマゾンズドライバー)が使用不可能になるが、
満腹状態なら戦闘続行、直感を兼ねるスキルとなる。

【宝具】
狂乱のアレスと調和の申し子(アマゾンズドライバー)
ランク:D 種別:対アマゾン宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人
装着者のアマゾン細胞に影響を与え、戦闘能力を向上させる機能などを備えているベルト。
このベルトを所持した2人のアマゾンは、アマゾンを交え世界に新たな生態系を作ったとされる。

守るべきものは守り、狩るべきものは狩る(ギガンツ イン ネフィリム)
ランク:B 種別:対敵宝具 レンジ:1〜50最大捕捉:1〜4000人
人食い狩り、或いは同種のバーサーカーと敵対した時、
加虐体質の防御低下のみを無効にし、更に相反しうるAクラス相当の勇猛スキルを付与する。
1000人余りのアマゾン達を守り続け、時が来てしまったものを狩ったとされる伝承から与えられた宝具

【サーヴァントとしての願い】
守るべきものは守り、狩るべきものは狩る。

【マスター】
シアン@蒼き雷霆ガンヴォルト

【マスターとしての願い】
GVと共に生きる。


467 : 熱帯 ―アマゾン― ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/28(土) 01:51:42 38WF8cgs0
投下終了です


468 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:29:01 IhOdtos.0
皆様投下乙です。
自分も投下します。


469 : 吸血鬼の王 ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:36:08 IhOdtos.0
 町外れの街道を照らす街灯は、等間隔に並んではいるものの、そのうち一本だけが点灯していた。その一本を除いて、他はすべて明かりを消している。周囲に民家は存在しない。闇夜を照らす光源は、たった一本の街灯、それだけだった。
 その街灯の光の中に、吸血鬼はいた。
 頭上から降り注ぐ街灯の光に照らされた美しい金の髪は、太陽の強い日差しを受けて煌めくオリーブオイルさながらに煌々と輝いていた。髪の方が、街灯よりもずっと眩しく見えるほどだった。
 黄金の双眸が、ちらりと横目に彼を見た。目鼻立ちのはっきりとした、肖像芸術を彷彿とさせる顔立ちをしているが、その切れ長の瞳には有無をいわさぬ圧迫感があった。腰がすくんで、逃げ出すこともできない。噂に聞く、吸血鬼の魔眼とは、このことを指すのかもしれない、と彼は思った。

 ――夜になると吸血鬼が出るから、あまり出歩いてはいけない。

 そういう噂を聞いたことならある。だが、信じてはいなかった。所詮はくだらない与太話だと思っていたし、実際のところ、嬉々として吸血鬼伝説を噂していた者たちの中にも、心の底から吸血鬼という存在を信じていた者がいるとはとても思えない。
 だが、それも今日までだ。目撃してしまった決定的な事実を、稚拙な噂話と否定することは、もはやできない。

「キャ、キャスター」

 彼は、震える声で己のサーヴァントを呼んだ。キャスターは答えない。答えられる状況ではなかった。
 キャスターは、吸血鬼の腕に抱かれていた。なにかに腹部を貫かれ血を大胆にぶちまけたキャスターに、万全の吸血鬼に反抗するだけの余力が残されていないことは、火を見るよりも明らかだった。
 吸血鬼がゆっくりと大口を開けた。整然と並んだ歯並びのうち、犬歯だけが鋭く尖っている。上下の歯列の間を、やや粘度を孕んだ唾液が伝っている。その姿が、彼の目にはこれ以上もなく、なまめかしく見えた。吸血鬼の放つその色気に、視線は釘付けにされていた。その結果、彼は、己がサーヴァントに最期の瞬間が訪れるとき、なにも行動を起こすことができなかった。

「あ」

 気付いたときには、吸血鬼の牙がキャスターの首筋に突き刺さっていた。薄い桃色の唇から、淡い色合いの血液を僅かに零しながら、キャスターの血が吸われてゆく。
 キャスターの身体が、金の粒子となって、手足から順に崩壊しはじめた。あの吸血鬼は、中途半端に吸血をして、眷属を増やす気はない。キャスターの霊基そのものを吸収して、存在そのものを吸い尽くすつもりでいるのだと、遅れて彼も気付いた。
 やがてキャスターという存在そのものを吸い尽くした吸血鬼が、背筋を正して、彼を見据えた。唇の端に残った血痕を軽く拭った吸血鬼は、柔らかく微笑んだ。蠱惑的な微笑みだった。思わず、引きつった笑みで返す。
 吸血鬼は、シックなデザインの赤いドレスに身を包んでいた。腰回りの布は、吸血鬼のバランスよく育った体つきにぴったりと纏わり付いて、その体に無駄な肉がないことをつまびらかにしている。それでいて、ふくよかな、今にもドレスから零れ落ちそうな胸元は、僅かに血の滴った谷間を大胆に見せ付けている。隠しようもない女の色香が否応なしに立ちのぼってくるのを感じた。
 この美しい吸血鬼になら、殺されてもいいのかもしれない。そういう考えが、心のどこかで鎌首をもたげた。彼の脚が、ふらふらと、一歩目を踏み出した。
 それ以上、吸血鬼に近づくことはできなかった。

「え」

 背後から、腹部をなにかに貫かれていた。
 隆々とした黄金の腕が、腹部から生えている。身じろぎする余裕はない。体を貫いていた黄金の腕が引き抜かれた。自重を支えるだけの体力は残っていなかった。彼の体は、重力に引かれるまま前のめりに倒れこんだ。
 朦朧としはじめた意識の中、首を回して、下手人の顔を見る。
 黄金の頭髪に、黄金の双眸。尖った犬歯をむき出しにして笑う、もうひとりの吸血鬼を、彼は見た。そいつが、傍らに現出させていた黄金の分身をかき消して、その丸太のような腕を振りかぶった。吸血鬼の四本の指が、彼の首筋に突き刺さる。
 体内から、急速に熱が奪われてゆくのを感じた。全身から感覚が抜けてゆく。もはや痛みすら感じはしなかった。彼は、眠るように瞼を落とした。


470 : 吸血鬼の王 ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:43:29 IhOdtos.0
 


 人間をやめて、自我すら失った哀れな化け物の成れの果てが、魚の鱗のようにずらりと並んで、街を埋め尽くしている。それが、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが持つ、己の世界の最期の姿だった。
 あの世界は、もう、決定的に、救いようもなく、終わっている。夜になるたびゾンビが街中に溢れ出して、生き残りの人間を狩り尽くす死の世界だ。街はゴーストタウンと化して、生き残った人類を探すことは困難と思われた。

 事実上、種としての人類は、滅んだといえる。
 キスショットが、自らの意思で、滅ぼしたのだ。

 吸血鬼にとって、食事としての吸血と、眷属をつくるための吸血は、わけが違う。眷属をつくるための吸血とは、すなわち、性行為のようなものだ。忍野忍にとってそれは、やつあたりのようなものだった。惚れた男に振られた女が、誰でも構わないと自暴自棄になって、その他大勢で欲望を満たすことと大して差はなかった。そんな拗ねた子供のような理由で、あの世界は一夜にして滅ぼされた。
 最初の動機は、純然たる憎しみからくるものだった。自らの命すら投げ出して、見ず知らずの怪異を救ってくれた、この世で最も愛おしい男を殺したあの色呆け猫を、忍野忍は湧き上がる激情に身を任せて、まず、殺した。そうして忍野忍は憎しみに狂い咲き、そして、怪異の王へと返り咲いた。
 キスショットは次に、世界で最も愛おしい男が死んでしまったあの世界を滅ぼそうと考えた。己の貞操など、もうどうでもよかった。世界を滅ぼす、その願いひとつで、最初の何人かを眷属へと変えた。世界を滅ぼすという願いを込めて眷属へと作り替えられたそいつらは、次々と他者を襲い、ねずみ算式に世界は吸血鬼で溢れかえった。世界を滅ぼすことが、かくも簡単なことだなんて、思ってもみなかった。
 つまらなく、あっけない幕切れだった。

 忍野忍にとって、阿良々木暦は、自身のすべてだった。

 その阿良々木暦が死んだ。世界が滅んだ。最後に残った自分自身を殺して、なにもかもを終わらせようと思った。
 だけれども、キスショットの思惑通りにはいかなかった。なにもかもが終わると思ったのに、気付いたときには、月の電脳世界へと飛ばされていた。己のサーヴァントを召喚して、聖杯戦争に挑むという義務が課せられていた。ならばそれでいいと思った。もう、なにもかも終わったのだ。今更失うものなどなにもない。
 不死の自分がこの戦争で死ねるなら、それでなにもかも完結する。日光の下にこの身を投げ出して焼身自殺を図るよりも確実に死ねるだろう。
 もしも勝ち残ることができて、願いを叶えられるなら、それならそれで、やはりいい。なんでも願いを叶えることができるというなら、やりなおせばいいのだ。
 なにを、何処からやりなおせばいいのかはわからない。ただ、やりなおせるなら、何処からでもいいから、やりなおしたい。もう一度、阿良々木暦に会いたい。それが、キスショットの願いだった。

「どうした……なにか悩み事かね、キスショット」

 ふいに呼び止められたキスショットは、頭上から見下ろす己のサーヴァント――アサシンへと視線を送った。
 今はこのアサシンとともに、町外れの、廃墟と化した建物の一室を根城としている。元は学習塾だったらしいが、今はすっかり廃れ、この廃墟に足を運ぶ人間はそうはいない。かつて子供たちが学習していた机を何重にも組み合わせたオブジェの上に腰掛けて、黄金の装束を纏ったアサシンは、ハードカバーの本を読んでいる。ゆったりとした動作で本を閉じたアサシンは、不敵に口元を歪めた。

「うぬは相も変わらず、主に対して随分と大きな態度を取る男じゃな。従僕のくせして主を略語で呼び捨てにするなど……それもデリケートな問題に土足で踏み込もうとしておる。まったく、気に入らん」
「おっと……そういうつもりじゃあないんだがね。気を悪くしたなら謝ろう。ともに聖杯戦争に挑む同士として、歩み寄りの精神は大切だと思った……ただのそれだけなんだ」
「拗ねた子供のような理由で世界を滅ぼした女に歩み寄ったところで、なにを理解できるというのか」

 キスショットは、肺の中の空気を吐き出すように笑った。
 アサシンに媚びる気はなかった。キスショットにしてみれば、今更聖杯を獲ろうが、敗退しようが、なにも変わらないのだ。失うものはなにひとつ存在しない。


471 : 吸血鬼の王 ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:46:55 IhOdtos.0
 
「まあ、そう自棄になるなよ……きみにはチャンスがあるんだ。もう一度あの日々に帰るためのチャンスが」
「あの日々に帰ったところで、なにをやりなおせばよいのか、儂にはてんでわからぬ。攻略本が欲しいくらいじゃ」
「ほう……ならばその道は、わたしが示してやる。わたしの天国ならば……誰も、なにも、迷う必要がなくなるぞ」
「儂の道を示す、じゃと。ハ、百年かそこらしか生きていない小僧が、大口を叩きおるわ」
「嘘じゃあない……わたしにはかつて、その力があった」

 オーバーヘブン。
 アサシン――DIOがかつて辿り着いたという、この世のあらゆる物理法則をねじ曲げて、己の望む真実を上書きする究極の能力。今は完全にその力を失って、ただのアサシンとして召喚されている。聖杯を手に入れ、もう一度天国へと到達することが、アサシンの願いだった。その力が嘘でないことは、キスショットも知っている。

「まあ、確かに……うぬの言う天国とやらの力があれば、儂の望んだ世界にたどり着くことはできるのかも知れんの。怪異の王が、天国などに頼るというのもおかしは話ではあるが」
「怪異の王が……吸血鬼が、天国の力に頼ってはいけないというルールなどどこにもあるまい。現にわたしは一度……天国へ到達したのだ。きみが望むなら、きみは神にだってなれる」
「いや、それはいい。お断りじゃ」

 にべもなく、アサシンの提案を蹴った。憮然とした面持ちで、アサシンはキスショットに視線を送る。

「神は、昔一度やった。儂が向いてないことはその時よくわかった」
「そうか。ならば、それはそれでいい……だが最低限、きみの願いだけは叶えさせて貰う……これは確定事項だ」

 阿良々木暦の蘇生。それがキスショットにとっての最低限の望み。
 聖杯戦争に勝ち残ることで得られる日々を一瞬夢想する。胸が内側から苦しくなる想いに駆られたところで、キスショットは、考えることをやめた。腹に溜まっていた空気を一気に吐き出して、諦念の色が強く混ざった嘆息を落とした。

「まあ、よかろう……どのみち、儂にはもう失うものなどなにもない。貴様の遊びに付き合ってやるのも、別に構わん」
「そうか……感謝するよ。きみの力があれば百人力だ……キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」

 オブジェから飛び降りたアサシンが、キスショットの肩に手を置いた。軽く肩を回して、アサシンの手を払いのける。この世界に、キスショットの愛した男はもういない。それなのに、こんな得体の知れない吸血鬼が眷属として傍らにいるのは、どうにも気分がよくなかった。とは言うものの、聖杯戦争に乗ること自体に抵抗はない。要は、あの滅んだ世界でやったことと、方向性は同じだ。当て所のない苛立ちを、やつあたり気味にぶつけてやればいい。
 踵を返したキスショットは、アサシンにちらと振り返り、凍てつくような冷たい視線で睨め付けた。アサシンはくすりと口元を歪めるだけだった。視線だけで常人ならば身動きすら取れなくなる吸血鬼の魔眼だったが、アサシンには通用しない。吸血鬼としての格はアサシンの方が圧倒的に低いが、腐っても吸血鬼ということだろう。ふん、と肺に溜まった空気を吐き出したキスショットは、そのまま廃墟の奥へと消えていった。


472 : 吸血鬼の王 ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:47:39 IhOdtos.0
 

 
【出展】ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン
【CLASS】アサシン
【真名】ディオ・ブランドー
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力A 耐久EX 敏捷B 魔力A+ 幸運C 宝具A
(※マスターであるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの莫大な魔力量に引っ張られて、ステータスは全体的に底上げされている)

【クラススキル】
気配遮断:-(EX)
 サーヴァントとしての気配を断つ。
 彼の場合、その圧倒的すぎる存在感が仇となって、スキルとしては機能していない。
 ただし、後述の宝具発動中ならば、時間の流れそのものを感知させず、実質的にランクEX相当のスキルとして機能する。宝具による時間停止中という限定的な条件はつくが、攻撃態勢に移ってもランクはダウンしない。

【保有スキル】
カリスマ:B
 悪のカリスマにして、悪の救世主。
 彼の場合、国家運営はできないが、悪の軍団を指揮する上で類まれなる才能を発揮する。

魔力放出(氷):C
 気化冷凍法を再現したスキル。
 自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。彼の場合、触れた対象を氷漬けにすることができる。

吸血鬼:A
 対象の魔力・生命力を吸収し、自身の魔力・生命力を回復する。
 また、肉の芽を使用することで、神秘による加護のない者、対魔力ランクの低い者を洗脳したり、屍生人(ゾンビ)化することも可能。
 自らの血を与えることで対象を吸血鬼化することも可能だが、アサシンがこの能力で自らの眷属を作ることは、基本的にはない。また、マスターであるキスショットの影響で、吸血鬼としてより高次の存在へと昇華したため、元来吸血鬼ではないアサシンのスキルランクもアップしている。

戦闘続行:A+
 三度ジョナサン・ジョースターに敗北し、身体を破壊され戦闘不能に追い込まれるも、アサシンはそのたびに復活を果たした。
 彼に頭部以外の致命傷は存在しない。どれほど深刻な傷を負おうとも生存し、戦闘を続行する。
 また、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードをマスターとした影響で、元来のものよりも大幅に回復力・耐久性ともに底上げされている。


473 : 吸血鬼の王 ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:48:49 IhOdtos.0
 

【宝具】
『世界(ザ・ワールド)』
ランク:A 種別:対人(対界)宝具 レンジ:1〜10 最大補足:-
破壊力 - A / スピード - A / 持続力 - A / 射程 - C / 精密動作性 - B / 成長性 - B
 近距離パワー型スタンド。射程距離は十メートルを誇り、圧倒的なスピードとパワーによる肉弾戦で他を圧倒する。
 また、五秒間だけ時間を停止させ、止まった時の中をアサシンだけが自由に行動することができる。
 時間停止の発動に大した魔力消費は存在しないが、その代わり連続しての発動はできない。一度発動すれば、必ず一呼吸をおく必要がある。

『DIOの世界(ワールド・イズ・マイン)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1〜99
 ジョースター一行と最後の戦いを繰り広げたエジプトの街並みを再現する固有結界。
 固有結界内には、アサシンがナイフを調達したレストランや、武器として使った道路標識、果ては工事用のロードローラーなどが再現されており、空条承太郎に対して用いた数々の戦法を再現することができる。
 また、発動した上で十分な魔力を賄えるならば、固有結界内に限り、下記の追加能力を得られる。

・空中浮遊能力の獲得。
・時間停止時間を最大九秒まで延長させる。

 ただし、固有結界の発動に必要な魔力量は大きく、上記の追加能力まですべて発動させるためには、それこそ莫大な量の魔力が必要となるため、あまり多用することはできない。


『傾く世界の物語(アンダーワールド)』
ランク:EX 種別:- レンジ:- 最大補足:-
 正確にはアサシンの宝具ではない。マスターにキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが健在の場合のみ発動可能。
 マスターのスキル、吸血(エナジードレイン)によって、サーヴァントとしての存在力、霊核そのものをキスショットへ移動させ、一時的にマスターとサーヴァントの立場を逆転させる。その場合、アサシンはサーヴァントとしての力を失い、キスショットはエクストラクラス『ハニーヴァンプ』として扱われる。令呪もまた自動的にその瞬間マスターである側へと移行する。
 ただし、永続的にこの宝具を発動し続けることは不可能である。世界(ムーンセル)の強制力によって、イレギュラーは必ず正されるからである。
 この宝具を発動していられるのは、発動から三ターンの間のみ。効果持続時間が切れた場合、自動的にアサシンにサーヴァントとしての全権が戻り、次回発動まで最低でも一日はクールタイムをおく必要がある。
 また、ファニーヴァンプとしてキスショットを運用する場合の魔力消費量は途方もないほどに膨大であるため、全盛期のキスショットとはいえ、フルスペックで戦闘を行うことはできない。

『かくして世界は終焉を迎えた(ワールズ・エンド・キスショット)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1〜99
 上記の宝具『傾く世界の物語』発動中にのみ発動できる宝具。
 キスショットが体験した、吸血鬼の成れの果て――すなわちゾンビ溢れる滅びゆく世界を固有結界内に再現し、対象をそこに引きずり込む。膨大な数のゾンビが対象を敵とみなして襲い掛かるが、噛まれたところで少しでも対魔力ないし神秘の加護を持つものならば、ゾンビ化はしない。また、個々の戦闘力も大したことはない。
 また、街に溢れる屍生人には、アサシンが生前生み出した屍生人の特性も付与されており、アサシンの配下たる屍生人も中には混じっている。
 こちらも魔力の消費量が大きく、ファニーヴァンプの現界を保った状態で、長時間の発動を維持することは難しい。

【サーヴァントとしての願い】
 もう一度、天国に到達する。


474 : 吸血鬼の王 ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:50:14 IhOdtos.0
 
【人物背景】
 ジョジョの奇妙な冒険 第三部 スターダストクルセイダースにおけるラスボス。
 ご存知ジョースター一族の宿敵であり、世界すら支配するスタンド『ザ・ワールド』の使い手。
 百年に及ぶ一族との決戦の末、DIOはついに空条承太郎を撃破し、天国へと到達した。あらゆる事実を、望みのままに上書きする能力『ザ・ワールド・オーバーヘブン』を手に入れ、時代と世界を越えて集まった八人のジョジョと、その仲間たちを苦しめた。
 だが、最後はDIOと同質の進化を遂げた空条承太郎の『スタープラチナ・オーバーヘブン』によって能力を打ち消され、壮絶な戦いの末に、本来の歴史で辿った通りの敗北を刻み込まれ、死亡した。
 今回の聖杯戦争においては、オーバーヘブンの記憶を持ち越してはいるものの、能力面は完全に通常時である。

【基本戦術、方針、運用法】
 マスターはあまりにも莫大すぎる魔力量を秘めた、世界最強の怪異、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードである。
 アサシンが通常通り戦闘を行う分には、よほど考えなしに魔力を消耗しない限りは、魔力の枯渇は起こりえない。
 寧ろ欠点となりうるのは、サーヴァントとマスターの関係を逆転させる宝具『傾く世界の物語』の存在である。ファニーヴァンプの能力は途方もないほどに強力無比だが、その代わりマスター・DIOが負う魔力消費も甚大である。ゆえに、この宝具を発動した場合、早期の決着を狙う必要がある。
 また、参戦時期の都合上、キスショット自体が、非常に不安定な精神状態であり、自暴自棄になりやすいことが大きな欠点ともいえる。それが後々大きな問題へと繋がる可能性もないとは言い切れない。



【出展】傾物語(まよいキョンシー)
【マスター】キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード
【参戦方法】
 人類の消えた世界を彷徨っているうちに、白紙のトランプを拾った。

【人物背景】
 忍野忍。ほぼ六百歳。正確には五百九十八歳。
 鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。怪異の王にして最強の怪異。怪異殺し。数々の異名を持ち、その異名に恥じない圧倒的すぎるスペックを誇る吸血鬼。
 眷属である阿良々木暦がブラック羽川に殺されたことで、はからずも全ての能力を取り戻してしまった忍は、怪異の王として返り咲き、羽川翼を殺害した上で、世界を滅ぼすため狂い咲いた。
 完全に自暴自棄になっており、日光の下に身体を晒すことで焼身自殺を図るも、その強力すぎる不死性が災いし、日光ですら死にきれなかった。
 今回の参戦は、上記の焼身自殺を試みる前からである。

【能力・技能】
 とにかく全方位において規格外のスペックを誇る。
 南極からジャンプで日本まで飛んだり、身体を自由に変形させたり、割となんでもありである。ひとつひとつ説明するのが億劫な程多くの能力を有しているが、おそらくムーンセルではその大半が制限下におかれており、発揮不可となっている。
 残された能力のうち、特筆すべきものは以下のものである。

・吸血(エナジードレイン)
 対象にかじりついて血を吸うことで、その存在そのものを吸収できる。
 自らのサーヴァントから霊核を吸収することで、一時的にサーヴァントとして現界できる。

・物質具現化能力
 身に纏っているドレスをはじめとする衣服や、武器などを任意に創造できる。
 この場においては、あまり大掛かりすぎるもの(神殿など)を創造することはできない。

【マスターとしての願い】
 やりなおしたい。
 でも、なにをやりなおせばいいのかわからない。

【方針】
 蹂躙する。


475 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/28(土) 03:51:07 IhOdtos.0
投下終了です。


476 : ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:40:57 AMyLEL0o0
投下します


477 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:41:45 AMyLEL0o0
0

あまりに高度な科学は、魔法と区別が付かない。
では、あまりに高度な魔法は……?


478 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:42:35 AMyLEL0o0
1

「魔法少女、と聞くと、夢と希望に満ちた、華々しい存在だとイメージするかもしれません。実際、私もそんな空想を抱いていた一人でした。魔法少女ってすごい、魔法少女って憧れる――という風に」

だから。
本物の魔法少女になれた時はとても嬉しかったですね――と、学生服風の着衣物を身に纏い、椅子に腰掛けている少女は、口元を緩め、微笑むような顔で言った。
豪奢な木製の机を隔てて、少女の向かいの椅子に座っている少年――『地球撲滅軍』の新設部署、空挺部隊の隊長にして、十四歳の若き英雄、空々空は、会話に出てきた『魔法少女』というあまりにも非現実的な言葉に対して――驚かなかった。
何もこのノーリアクションは、空々が感情を持たず、驚く感性が無いからということだけが原因ではない。
単に彼は魔法少女という存在に、既に慣れているのだ。
というのも、空々は一度、魔法少女になってすらいる。
正確には魔法少女の魔法のコスチュームを着ただけだけれども、それでも、魔法の力を体験し、使用した事はあるのだ。

(むしろ、驚く所は、あんなフリフリのコスチュームを着ていなくても魔法少女って所かな……)

そう考えつつ、ふと、四国で出会った魔法少女達を順に思い出す――が、黒髪シニョンの華奢な馬鹿が脳裏に浮かんだ途端、それを打ち切った。
ともあれ、あんな着る事自体が罰ゲームみたいなドギツい衣装を着なくとも、目の前の少女が着ているような学生服風の衣装(あくまで学生服『風』であり、それに施されたアレンジは多少目立つけれども)で『魔法少女』になれるというのは、空々にとって初耳であった。
いや、たしか、この少女の場合、魔法少女になるにあたって重要なのは、衣装では無いのか?

「魔法少女になったばかりの私は、夢が叶った喜びのままに、しかし得た力を私利私欲で使いはせず、色んな人の役に立つべく活動しました。側溝に落ちた車を戻したり、無くした鍵を探してあげたり、あとは……」

まあ、要するに、彼女はその魔法の力を『困っている人を助ける』ために使ったのだろう。
まさに、漫画やアニメに出てくる、清く正しく優しい魔法少女みたいだ。
四国では魔法の力を自分が生き残るために使い、人を助けるどころか殺しすらした空々にとっては、耳が痛くなる話である――いくら心が無い英雄でも、痛くなる耳ぐらいならある。

「けれど、そんな風に魔法少女の活動を楽しめたのも、ほんの短い間の――あの恐ろしいゲームが開催されるまでの話だったんです」

と。
そう言って、少女は、少し表情を暗くし、僅かに俯いた。
空々のように心に欠陥を負った人でなしではなく、きちんと感情の備わっている人間がその顔を見れば、『なんて悲しい顔をしているんだろう』と、少女への哀れみを禁じ得なかっただろう。
心が無く、それ故に、他人の心を察する能力が決定的に欠けている空々は気付くまい。彼が四国で体験した『四国ゲーム』に負けず劣らぬ程に血と死体に満ちたゲームを、目の前の少女がかつて体験していたことになど。

「その催しで沢山の人が死んでいった中で、無事生き残った私の心にあったのは、後悔だけでした。私は何も出来なかった。自分で何も選ばず、どんな決断もしなかったままに、終わってしまった。それを、後悔しました」

だから――と、少女は表情を変えないまま、言葉を続ける。

「決めたんです。次は……選ばなかったことを後悔するんじゃない。後悔する前に自分で選ぶ――と。」

その考えには、空々も同じであった。
何事も、他人に何かをしてもらうのを待っていては遅く、間に合わない。
伝説上では、何かと他人頼りな印象を受けられやすい空々だが、もしも彼が本当に何もかもを他人に任せていた場合、彼の英雄譚はとっくの昔に幕を閉じていたであろう。
結局、自分の事は自分でやり、自分で決める他ないのだ。

「それから私は、懸命に働き、戦いました。あの地獄のようなデス・ゲームを繰り返させないために、そのような事を企む魔法少女を次々に倒していきました。そうしていった末、いつの間にか、私は『魔法少女狩り』という異名で呼ばれるようになっていたんです」

少女の腕は美しくて細く、柔らかそうである。
健康的ではあるものの決して強力そうでもないその腕では、悪者どころか少し重めの図鑑一冊すら倒せなさそうな気もするが、しかし、彼女は魔法少女――この世の法(ルール)ではなく、魔の法(ルール)の元にいる存在だ。
ならば、悪者の一人や二人、余裕で倒せるだろう。


479 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:43:33 AMyLEL0o0
「だけど、私が働けば働くほど、世の中が良くなったか――と言えば、そうではありませんでした。この話の最初に、私は『魔法少女、と聞くと、夢と希望に満ちた、華々しい存在だとイメージするかもしれません』と言いましたけど、実際はそんなイメージ通りではなく、魔法少女の社会にも、人間社会と同じくらい生々しい闇だったり、面倒臭い慣習だったりがあったわけです。だって、魔法少女も、元々は普通の人間だったんですから」

それもやはり、空々と同じである。
人類を救う為の若き英雄になり、『地球撲滅軍』に入れられた空々であったが、彼を待ち受けていたのは、絵に描いたようなヒーローストーリーではなく、ただひたすらに汚く、醜い、人間同士の争いであった。
自分の出世の為に、上を引き摺り下ろし、他人を陥れ、弱い者を危険に晒す――そんな組織は何処にだっている。
結局、人類を救う正義の組織であろうと、この世の法則から外れた魔法少女の集まりであろうと、平凡な社会であろうと、其処に居るのが人間であれば、出来る社会構造はそう変わらないのである。

「そんな中で生活していたから、次第に私の心はプレッシャーや責任、遣る瀬無さで擦り切れていたのかもしれませんね。だからこそ、決定的な崩壊を迎えてしまった『あの時』以来、私は魔法少女であるのが嫌になったんでしょう。全てが嫌になったんでしょう」

少女の顔に掛かった影が、言葉を紡ぐ度に段々と暗くなる。
しかし、次の瞬間。
『だけど』――と。
力強い発音でそう言って、少女は俯いていた顔を上げた。
空々の方を見据える少女の表情には、先程までの暗さが微塵も無く、月のような輝きを纏った笑顔があった。

(こういう表情を何処かで見たような……いや、表情というよりも、感情かな?)

目の前に現れた表情――感情に対する既視感を疑問に思う空々。
彼が、それへの決定的な答えを出すのを待たずに、少女は言葉を続けた。

「――だけどその後、私は、プク様のおかげで救われました。彼女の友達の一人になることが出来ました。それまでの悩みなんて気にもせず、プク様に仕え、プク様のお役に立てる事を、生きる目的として定められたんです。それが、どれほど素敵なことだったか、分かりますか?」


480 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:44:42 AMyLEL0o0
2

あぁ、そうだ――と、空々は納得した。
目の前の少女が放つ感情への既視感が何だったかを、思い出したからだ。
その感情は、空々の世話係にして空挺部隊副隊長、氷上竝生が時折見せていた、『献身する事への喜び』だった。
もっとも、氷上女史が見せていたこの感情は、目の前の少女ほどに強大ではない、細やかなものだったけれども。
少女のその感情に、空々は押されることも負ければ引くこともなく、ただ受け流し、

(成る程。これが『彼女』の魔法なのか……)

と、今ここには居ない、自分が召喚したサーヴァント――少女が言うところの『プク様』の魔法を分析していた。
その時、それまでうっとりと酔いしれるような表情をしていた少女が、ふと、何かに気付いたような表情を見せ、台詞を中断した。

「そろそろプク様がいらっしゃるようです。こんな短時間で着替えを終わらせなさるとは……プク様は余程、あなたとの会話を楽しみにしているのでしょうね」

背後をちらりと振り返り、そこにあるドアを見て、少女はドアの向こう側の様子が見えているように――否、聞こえているかのように、そう呟いた。
その口調は先程までとは違い、恍惚に満ちた物ではなく、何処か不満で、憎々しげな様子である。
その不満と憎悪は、これからやってくるプク様に対して――ではなく、『プク様』との会話を控えている空々に対して向けられたものであった。
要するに、彼女は空々が羨ましく、妬ましいのである。『プク様』と会話が出来ることは勿論、『プク様』が着替えの時間を短縮するほどに、空々からとの会話を楽しみにしてくれていることも。
しかし、そう恨んでも羨んでもばかりいられない。
『プク様』の来訪を予見した少女は、空々との会話を唐突に打ち切り、席を立った。
そのまま、ドアの真横まで移動し、使用人が主人を迎えるような、恭しいポーズを取って待機する。
その数秒後、ドアが開き、部屋の外から一人の魔法少女を先頭に、何人もの魔法少女たちがぞろぞろと室内に入って来た。
彼女たちは、まさに魔法のように美しい少女たちであったが、その中でも特に、先頭を飾っていた魔法少女は一際美しかった。
アフタヌーンドレスを更に豪華にしたような着衣物に加え、背中に孔雀の羽のような装飾品を何枚も付けている彼女は、そのまま先程まで学生服風の少女が座っていた椅子の真横に到着。
すると、後ろに控えていた何人もの魔法少女の内、五人がそれぞれ、布やらクッションやらを持ち出し、椅子を飾って行く。
やがて見る見るうちに、五秒と経たず、椅子は女王(クイーン)の玉座さながらの豪華絢爛さを醸し出すようになっていた。
それを見て、豪華アフタヌーンドレスの魔法少女は満足げに頷き、椅子の装飾を担当した魔法少女たちの頭を順番に撫でていった。
頭を撫でられた彼女たちは皆、頰を赤らめ、今にも昇天しそうなほどに気持ち良さげな表情を浮かべていた。
後に豪華アフタヌーンドレスの魔法少女は、ぴょんっとバックジャンプするような動作で着席。クッションに腰を沈めた。

「改めましてこんにちわ、空々お兄ちゃん。スノーお姉ちゃんとのおしゃべりは楽しめた?」

空々が召喚したサーヴァント――豪華アフタヌーンドレスの魔法少女こと、セイヴァー『プク・プック』は、太陽のように明るい微笑みと共にそう言った。


481 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:46:14 AMyLEL0o0
3

空々空が、聖杯戦争の一参加者として選ばれ、スノーフィールドへと連れてこられたのは、ほんの数時間前のことである。

(聖杯を巡る戦争なんかより、まずは地球との戦争をどうにかしなくちゃいけないんだけどな……)

そんなことを考えるも、現実への適応性において右に出る者がいない空々は、聖杯戦争を勝ち抜く――というよりも、生き残るべく、すぐさま白紙のトランプからサーヴァントを召喚したのであった。
かくして、召喚されたのは『誰とでも仲良くなれる』魔法少女、プク・プックであり、それどころか、彼女に加えて、何十人もの魔法少女たちが一緒に出現した。
プク曰く、『硬い友情で結ばれている友達は、いつでもどこでも――サーヴァントになった後でも、一緒に居るものなんだよ』だとか。
その台詞を聞き、その場に居た他の魔法少女達は、『プク様の戦いに同行出来て、私たちは幸せです』と、滂沱の涙を流していた。
まあ、タネを明かせば、彼女たちは単にプクの宝具で召喚されているだけなのだが、それを知った所で大した変化は生じないだろう。
ともあれ、空々は一騎のサーヴァントだけでない、何十人もの戦力を一気に有するようになったわけである。空挺部隊のおよそ五、六倍近くの人数が居るのではないだろうか?
だからと言って、そこで諸手を上げて喜ぶほど、空々は愚かではない。
たしかに戦争において重要視されるのが兵隊の人数であり、空々の(正確にはプク・プックの)有する戦力が多くても、それを上手く使わねば、戦争に勝てる訳がない。
ただの数のごり押しで戦争に勝てるならば、四十七億人の人類は地球との戦争にとっくに勝利を収めていただろう。
というわけで、空々はプクと今後の戦略について、ミーティングを行おうとした――のだが。

「それならちょっと、おしゃべり用のファッションに着替えてくるね。これは召喚される時用のファッションだったから」

召喚された当時の彼女のファッションは白いトーガであった。しかし、それでも十分に豪華極まりない衣装である。

「プクが着替えている間は暇でしょ? だったら、スノーお姉ちゃんとおしゃべりしてみてね。スノーお姉ちゃんは、これまで悪い子たちをたっくさん倒してきたすごい子なんだよ。だから、面白い話をいっぱい聞かせてもらえると思うの」

と言って、プク・プックは学生服風の少女と空々を部屋に残し、屋敷――これは、空々がスノーフィールドに居た当初から、彼の住居として設定されて居た場所だ――の別の部屋へと、魔法少女たちを連れて行ってしまったのだ。
そして、暫く気まずい沈黙が室内に流れた後、学生服風の少女と空々は着席、会話を始め、冒頭に至る、というわけである――。


482 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:46:58 AMyLEL0o0
4

「プクは聖杯が欲しいな」

会話を始めるやいなや、プクはそう言った。

「だって、聖杯に願えば、どんな願いでも叶えられるんでしょ? そんな事、あの『魔法の装置』でも出来なかった筈だよ。だから、プクは聖杯が欲しいな」
「ちなみに聞きたいんですけれど、聖杯を手に入れたら、セイヴァーさんは何を――」
「プクは『セイヴァー』じゃなくって、『プク』って呼んで欲しいな」
「…………」

サーヴァントを真名ではなく、クラス名で呼ぶべきだということを、聖杯戦争のルールを知った時に勘付いていた空々であったが、まさかそれをサーヴァント自らが否定してくるとは思っていなかった。
目の前に居るプクは、名前で呼んでもらえなかったことに、少し哀しげな表情を浮かべて居る。
その瞬間、空々とプクの周りを囲っていた何十人もの魔法少女たちが一斉に、空々へ殺意と敵意を向けた。
ある者は睨み付け、またある者は悲しんでいるプクの姿に悲しみ、またまたある者は『それ以上プク様を悲しませたら殺す』と言わんばかりに腰に下げた剣に手を掛けている。
そんな中でなお、自分の意見を頑固に貫こうとするほど、空々は命知らずではない。

「……聖杯を手に入れたら、プクさんは何を願うんですか?」

と、改めて言い直す。

「ええとね、『世界中のみんなと友達になりたい』って願うかな」
「…………」

世界中のみんなと友達になりたい。
その文面だけ見れば、なんとも微笑ましい、子供が思う様な願いである。
是非叶って欲しいものだ。
だがしかし。
プク・プックが――『誰とでも仲良くなれる』魔法を持ち、友達になった者全員から狂信者の如き信仰を受けている彼女が、その願いを口にした場合、それが含む意味はだいぶ違った物になる。
それは、『世界を支配したい』と言っているのと、ほぼ同じだ。
子供ではなく、悪の魔王が思う様な願いである。

(なんて事を此処で言った所で意味は無いんだろうけどね……)

プクの意見への否定を、プクの友達達の前で言えばどうなるか。
まあ、プクを現世に繫ぎ止める楔の役割でもあるマスターの空々をそうあっさりと殺す事はないにしても、半殺し程度にはされたっておかしくない。
彼女達にとってみれば、空々は『最悪生きてさえいれいれば、大丈夫なもの』なのだから。
異常なまでの友情から発する、異常なまでの狂信。


483 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:47:44 AMyLEL0o0
けれども、そんな彼女達よりもずっと異常だったのは、空々空そのものであった。
何せ、彼はプクを召喚してから現在に至るまで、一度たりとも、彼女に対して友情を感じていないのだから。
プクの美しく愛らしい姿に、ほんの少しも心が動いていないのだから。
それもその筈、何せ彼には美しいものを美しいと思い、感動する心がないのだ。
友情以前に情がないのである。
人道ならぬ外道を歩み、情ならぬ非情を持って敵を倒す――それが、空々空という、心の死んだ英雄のあり方であった。
そんな彼にも、かつては友人が居たには居たが……その人物との友情は、プク・プックの求めるそれとは異なっていると言えるだろう。
少なくとも、彼女が友達に求める友情は『友達は友達だけど、必要とあればビルの屋上から蹴落とす』なんてものではないはずだ。
というわけで、空々はプク・プックの友達――シンパにならずに済んでいるのである。

(まあ、それは、僕が周りから外れた、どうしようもない人でなしだという証明でもあるんだけど)

今まで何回も確認し、証明して来た事実を再認識し、空々は溜息を吐きたくなった。が、ここでそんな動作をして、あらぬ誤解を受けるわけにもいかないので、自制する。
一方、プクの方もプクの方で、マスターがいつまで経っても自分の『誰とでも仲良くなれる』魔法で友達にならない事に、疑問を抱いていた。
どういう理由か分からないけど、空々ちゃんが友達になってくれない。
その事を悲しく思うプクであったが、しかし、然程危険視するほどの事でもないとも思っていた。
何せ、空々はその精神に多大なる欠落を持っていて、英雄と呼ばれていても、所詮はただの人間であり、それも十四歳の少年だ。
非力な存在である。
その上、空々とプクはマスターとサーヴァントの関係――謂わば、仲間であり、運命共同体なのだ。
空々が聖杯戦争を生き残りたいと思っている限り、プクに頼らざるを得ないだろう。依らざるを得ないだろう。
つまるところ、空々はプクの『誰とでも仲良くなれる』魔法が効かない異例の存在であるものの、無力な仲間である彼がこちらに危害を与えて来る可能性はゼロであり、危険は全くない、という事なのだ。
尤も、空々は人類の味方の英雄でありながら、味方である人類を倒した回数の方が多いという、仲間殺しの英雄なのだけれども……。
ともかく、

(だけど…………)

空々が無害である事を理解した(つもりになった)後でもなお、プクは思う。

(それでも、いつかは空々お兄ちゃんとも友達になりたいな)

そんな優しい願いを胸に秘めつつ、偉大なるプク様は、空々との会話を進めていくのであった。

(終)


484 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:48:26 AMyLEL0o0
【クラス】
セイヴァー

【真名】
プク・プック@魔法少女育成計画シリーズ

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力B 敏捷A 耐久A+ 魔力A 幸運A− 宝具EX

【クラススキル】
対魔力:A

対英雄:-
対峙した英雄のステータスを下降させるスキル。
一部の例外を除き、セイヴァーと面と向かって対峙した者は、どれほどの英雄豪傑であろうとも彼女との戦闘そのものを放棄し、彼女の『友達』になる。
つまるところ、ステータス下降がどうのこうの以前に、戦闘にならない。

カリスマ:EX
普段はA〜Bランク程度。
しかし、下記の宝具である魔法で完全に魅了した者に対しては、最早神への信仰に等しい規格外のカリスマを発揮する。

【保有スキル】
魅了:EX
下記の宝具で得たスキル。
例え敵対関係にあろうとも、セイヴァーを一目でも見た者は彼女に魅了され、自らの命を以って尽くそうと決意する。

魔法少女:A+
三賢人の一人の現身であるセイヴァーのこのスキルのランクは著しく高く、肉体の強度は従来の魔法少女のそれ以上となっている。

【宝具】
『誰とでも仲良くなれるよ』
ランク:A++ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

セイヴァーが所持する固有の魔法。
文字通りどんな相手とも仲良くなれ、セイヴァーと『友達』になった相手はセイヴァーの役に立つ為に己が身を犠牲にしてでも働こうとする。
魔法の力の強弱によって、『友達』になる深度は変わる。最大出力で力を発揮すれば、相手は一瞬の内に洗脳され、セイヴァーの配下に落ちるだろう。
ある程度距離を取れば、魔法の力を弱める事が出来る。
また、この魔法はセイヴァーの姿を直接見ずとも、テレビ画面のモニター越しで彼女の映像と音声を見聞きしただけでも効果を発揮する。

『全てはプク様のために』
ランク:EX 種別:対人・対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

セイヴァーが生前友達になった者たちを召喚する。
召喚される友達の殆どは高い戦闘能力を有した魔法少女であり、中には歴戦の猛者もいる。
キャスターでもないセイヴァーが召喚術を行使出来るのはおかしな話だが、セイヴァーと魔法少女たちの間に並々ならぬ友情が存在した為、この宝具が生まれる事となった。
身の回りの世話をしてもらうべく数十人の魔法少女を常に召喚しているが、この宝具が最大展開された時、何百人もの友達が召喚される。

【weapon】
なし。強いて言うなら友達との友情だよ。

【サーヴァントとしての願い】
世界中のみんなと友達になる。
いつかは空々ちゃんとも友達になりたいな。


485 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな ◆As6lpa2ikE :2017/01/28(土) 09:49:29 AMyLEL0o0
【マスター】
空々空@伝説シリーズ

【能力・技能】
・元野球部で現軍人である為、身体能力はそこそこ高い。

・感情が無く、心が死んでいるので、精神干渉を受け流す。

【weapon】
・ヒーロースーツ『グロテスク』
空々専用のヒーロースーツだ!
着るだけで透明になれるぞ!
だが、着るのに手間と時間が掛かったり、透明になれる時間に制限があったりと、短所もある!
必殺技はグロテスクキック! 正義の蹴りで悪を踏み潰せ!

・破壊丸
かつて空々と共に居た剣道少女の形見!
持っているだけで敵をオートで斬りまくるぞ!
持ち主を文字通りの殺人マシーンにしてくれるわけだ!

――という、地球撲滅軍の科学の叡智を尽くした武器をかつて持っていたが、人工衛星『悲衛』に乗り込む直前の時期では、いずれの武器も持って居ない。丸腰の徒手空拳である。

【人物背景】
人類の三分の一を絶命させた『大いなる悲鳴』――それを発した地球を打倒すべく『地球撲滅軍』によって英雄に選ばれた少年が空々空である。
感情が死んでいる彼はショッキングな出来事も大抵ならば受け流し、必要とあれば人殺しもアッサリとやってのける。
参戦時期は悲衛伝直前。

【マスターとしての願い】
現在人類と地球の間に起きている戦争をなんとかする。ともかく、まずは生き残る事を目標に。


486 : 名無しさん :2017/01/28(土) 09:49:58 AMyLEL0o0
投下終了です


487 : ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 15:53:35 gvcBwvdo0
投下します。


488 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 15:55:08 gvcBwvdo0

悪はわたしにからみつき、数えきれません。
わたしは自分の罪に捕えられ、何も見えなくなりました。
その数は髪の毛よりも多く、わたしは心挫けています。
                            ―――詩篇40:13



「……エルフは神を信じない、っちゅうに」

夕刻。スノーフィールド中心部からやや外れた、閑静な住宅街。昔の商館を移築・改装したアンティークショップ。

目つきの悪い痩せた男が、館の西の窓辺でたそがれ、ぼやいている。一人暮らしの、館の主人だ。
黄色いマントに緑のマフラー。ボブカットされた色素の薄い髪の下には、先の尖った長い耳が隠れている。
そう、彼は人間ではない。英霊でもない。生まれつき人間ではない。エルフだ。
正確に言うと、ついさっきエルフの姿と記憶を取り戻してしまった。


まったく、なんてことだ。

わたしが?聖杯戦争の?マスター?英霊ではなく?ゲームマスターでもなく?
仮にもわたし、アノス救国の英雄、の一人だぞ。世界のルールの破壊者で、知名度は大陸級だぞ。
いや、まだ死んでないから英霊にはなれんか。天寿もまっとうしてないのに死にたくないけど。
まあ、現時点で死んで英霊になったところで、わたしは大して強くないか。所詮この世はカネとコネだ。

それじゃあ、シミュレーションしてみるか。『英霊になったフリ』。
問おう、キミがわたしのマスターか。んーと、クラスはランサーにしようかキャスターにしようか。
時々冒険中の不注意で死んだこともあったが、カネとコネがあるから蘇生は楽だ。おかげで天寿を全うできた。千年、長かった。
人間の仲間たちは、百歳にもならないで寿命で死んでいった。はとこも二百歳ぐらいで死んだ。彼らも英霊になってれば会えるだろうか。
確か戦乱に乗じてエルフ帝国を建設し、超英雄になって古竜や魔神王やアトンや邪神と戦ったような気がしなくもないが、忘れた。
とにかく、晩年の百年ぐらいは森に引っ込んでたからな。しばらく見ないうちに、人間世界も随分変わったものだ……。

……むなしい。いくら妄想したところで、現実の自分が貧弱なボウヤであることが変わりゃせんわい。
わたしは、紛れもなく、超英雄や英霊ではなく、精神力抵抗にボーナスもない、ただのレッサー・エルフだ!

エルフ……伝説的な成金冒険者「バブリー・アドベンチャラーズ」の軍師スイフリーは、顔を両手で覆ってうなだれた。


489 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 15:56:26 gvcBwvdo0

ついてない。酒場でカードゲームなんかしてたのが悪かった。なんであんなとこに召集令状(白いカード)が入ってたんだ。
ババどころの話じゃない、死ねと言われたようなもんじゃないか。ルキアルの罠か。だからわたしは賭け事は嫌いなんだ。
お互いに6面ダイス二つを振った場合、自分の出目は6まで、相手の出目は最低7。これがわたしの基準だ。
一回しか振れない時は、一ゾロ限定。振っても後悔しない選択肢でないといけない。
わたしのサイコロは、わたしを裏切るようにできている。なんとかサイコロ振らずに勝てる方法はないものか。

そして、わたしの苦手なのは、論理の通じない奴だ。理性や打算でなく、無償の善意や感情だけで突っ走る存在だ。
具体的には、狂人と子供。それと一部の女性に、狂信者。エルフは神を信じない。同じ始源の巨人から生じた存在だと知っているからだ。
この戦争に呼ばれた連中は、どうせその手の狂人と女子供と、超英雄や古竜や魔神王やアトンや邪神やキウイみたいなのばっかりだ。
しかもそいつらと殺し合いだ。もろにデスシナリオだ。ゲームマスターは誰だ、出てこい。月か。フェネスか。クリスタニアにこもってろあんな奴。

……脱線しすぎた。とにかく、現状を把握し、対応せねばならん。いつまでも絶望しててもしゃあない。

わたし、セージ(賢者)技能はあるけど、ソーサラー(魔術師)じゃなくてシャーマン(精霊使い)だぞ。
しかもこの世界は都市文明が異常に発達してて、精霊(ともだち)が少ないじゃないか。いてくれるだけありがたいが。
現代都市でエルフのストリート・シャーマンやれってか。『シャドウラン』じゃないんだから。
西の方に森はあるが、わたしはここを拠点にしてるからなあ。とはいえ、戦争が始まるなら身軽な方がいい。
社会的役割も成金の道楽の骨董品屋って程度だし、強敵に襲われたら逃げて隠れよう。早めに荷造りしとくとしよう。

確認のため、センス・オーラ(精霊力感知)しとくか。
光、闇、精神の精霊はいる。冬だからフラウ(氷の精霊)はいる。ここは古民家だからブラウニーもいる。
庭に植物はあるからドライアドやスプライトが呼べる。水は池や川があるし、屋内でも蛇口をひねれば出る。ウンディーネも大丈夫だ。
電気で灯りをつけているから、なまの火が少ない。だが簡単に火がつく便利な道具はある。じゃあサラマンダーもなんとかなる。ロウソクでも点けとくか。
ただ、石畳やコンクリやアスファルトからはノームが呼べないし、屋内ではシルフが呼べない。いつもどおりだな。

まあいい、わたしの必殺技は「インビジビリティ」からの「バルキリージャベリン」だ。スプライトと、無謀と慢心の精霊(バルキリー)はいる。
前回の冒険で獲得した経験点でレベル上げて、やっと精霊使い7レベルか。こっちでもクエストこなしたら、なんぼか経験点入らんかな。

あと幸いに、冒険で獲得した財産、使い切れないほどの魔晶石やらマジックアイテムやらもついてきた。ありがたい、救済措置かな。
でも、他のマスターやサーヴァントからしたら、大量の魔晶石やマジックアイテムなんか垂涎の的だよな。狙われたらやばい。
第一、こんなもん用意してくれるってことは、これ以上のインフレチートな敵と戦え(そして死ね)って言われてるようなもんだ。怖いなあ。
しかし、比較的邪悪でない連中となら、報酬として交渉の具にはなり得るか。お宝惜しんで死んだら何にもならんしな。

現状、仲間がいないのが難点だ。ファイター二人はともかく、はとこやフィリスやグイズノーがおるだけで違うのになあ。
それなら、こっちで作ればいいか。7レベルだから「フルコントロール・スピリット」はあるし、カネでNPCのシタッパーズを雇っても……。
……ああ、仲間ね。サーヴァントね。忘れてた。これが一番の味方だよな。ほんじゃあ、呼んでみようか。出てこいわたしのサーヴァント!


490 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 15:57:19 gvcBwvdo0

スイフリーが投げた白いカードから出現したのは、見るからに戦士だ。手に抜き身のブロードソードを持っている。
短髪髭面の壮年の男で、額は後退し、目つきは良いとはいえない。右眉の上に刀傷。使い古した胴鎧を着ている。
歴戦の傭兵、それもかなりの悪党、といったところだろう。うん、普通の殺し合いでは頼もしそうだ。

「よう、あんたがオレのマスターか?」
「ああ、わたしの名はスイフリーだ。きみのクラスと真名を名乗りたまえ」
「オレのクラスは『セイバー(剣士)』だ」

おお、やはり。脳内に勝手に書き込まれた情報によれば、サーヴァントの中では当たりだというじゃないか。
だが、男はしばし、真名を名乗るのを躊躇った。

「真名は……どれにすっかな……」
「いくつもあるのか?」
「オレァ、ちょいと込み入った事情があってな。ま、いつも名乗ってた方が楽か」

男は、意地の悪そうな笑みを浮かべながら名乗った。

「アシェラッド。アシェラッド・ウォラフソン。千年前にくたばった、しがねェノルド戦士さ」

ノルド戦士。えーと、この世界に関する脳内情報によれば、古代の北方の海賊戦士たちか。
アレクラスト大陸だと、バイカル王国にいるような連中だな。まあ、冒険者の同類だ。

「よろしく、アシェラッド。普段はセイバーと呼べばいいんだね」

にこやかに挨拶。相手は悪党、信頼関係を築いておかねば、いつ寝首をかかれるかわからんからな。
ところが、男はニカッと笑い、信じられないことを口にした。

「ああ。言っとくけど、オレは英霊の中じゃハズレもいいとこだぜ。ツキもなけりゃ、知名度もねェ。
 どこかのお嬢ちゃんかと思わせて出て来る、一発ネタの出落ちだ。残念でした」

それを聞いて、スイフリーは膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れ込んだ。

……詰んだ。今、わたしの聖杯戦争、っていうか人生(エルフだが)が終わった。




491 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 15:58:41 gvcBwvdo0

「おおい、マスターさんよ。そうがっかりすんなよ。言い過ぎたか。大丈夫、なんとかなるって」
「そ、そう言われてもね……」

セイバーに励まされ、スイフリーはなんとか気を取り直した。
ひとまず別室へ移り、主人がワインと食事を用意する。主従はテーブルを挟んで晩餐を取りつつ、落ち着いて互いの情報を交換し合う。

「トンガリ耳のエルフ(アールヴ)ねェ。ほんとにいたんだな」
「きみのいた世界とは別世界の出身だがね。精霊魔法も使えるよ。ああ、こっちじゃ『魔術』って言わないといけないのかな?」
「大して変わんねェだろ」
「世界法則の問題で、結果がその時代の科学技術で再現できる魔法は『魔術』ってことになるらしい。便利な世の中になったものだ」
「けど、千年経っても殺し合いか。人間て奴ァ、そこんとこは進歩しねェな。あんたはエルフだが」
「まったくだよ。……って、誰かにこの耳を見られたら、人間じゃないとひと目でバレてしまうな。
 切り落としたくもないし、髪やフードやイヤーマッフルで隠しておこう。それとも、付け耳だと言い張ろうか」

ささやかな晩餐は、和やかに続いた。
彼は悪党ではあるが、いきなり襲いかかってくるような狂人ではない。また頭脳も明晰で、充分に理性的、打算的だ。
百人ほどの戦士団の長であったというから、長年の経験で戦略、戦術をわきまえているはずだ。
希望を持とう。今は彼と協力して、この難局を切り抜けるしかない。抜きん出た戦闘力がなくとも、作戦を考える頭は二人分だ。

「オレァな、生前は何十年も悪党ばかりと暮らしてきた。だから、そいつがバカか利口か、信用できるかできねェか、ひと目でわかる。
 あんたは、見るからに、こすずるい小悪党のツラだ。カネも力も欲しいが、てめェの命が一番大事で、大それたこたァしたくねェ。だろ」
「当たらずといえども遠からず、ってとこだな。仲良くしようじゃないか、悪党同士。運命共同体だ」

スイフリーは、苦笑いして酒杯(ゴブレット)を挙げる。セイバーが応じる。

「それで、スイフリーさんよ。あんたの願い事ってのは何だ?」
「もちろん、生きて元の世界に戻りたいよ。恋人や妻子が待ってるわけじゃないが、仲間や友人がいる。
 運命だかなんだか知らんが、勝手に殺し合いに呼び寄せられて困ってるんだ。こんなところでわけもわからず死にたくない」
「ふゥん、分かりやすい目的だ。聖杯ってな、何でも願いが叶うってのに、欲のないことだね」
「わたしは、元の世界ではそれなりに成功して裕福だったんだ。こっちでもそれなりだが。
 全く欲しくない、と言えば嘘になるが、今さら邪悪な聖杯の力なんていらんよ。何かを手に入れるなら、自分が納得できる方がいい。
 もともとエルフの寿命は長いから、細く長く生きれば生きれるし。それでも冒険に出たのは、人間を観察するためだ」
「観察?」
「人間がかくも繁栄している理由を突き止め、我らエルフの千年王国を……なに、冗談だよ」


492 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 15:59:46 gvcBwvdo0

セイバーはワインを何杯も飲み干し、料理をむさぼり食ってから、核心に触れた。

「しかしよ、元の世界に戻るってこたァ、結局は聖杯を獲得するってことだぜ。つまり、殺して勝ち抜くしかねェ。
 参加者にはバカみてェに強い奴もいるだろう。悪党も善人も、あんたみてェに生き残りたいだけの奴も、無力な女子供もいるかもな。
 そういうのも殺すってことだ。あんたにその覚悟はあるかい? 一応、聞いときてェ。オレァ職業柄、日常茶飯事だが」

スイフリーは、びくりとした後、渋面をして答えた。

「……覚悟はしているよ。わたしも英雄と呼ばれた冒険者だ、生き延びるために人を殺したことは何度もある。
 ここで殺し合って生き残れ、っていうなら、やるしかない。心は痛むが、わたしが罪を墓場まで持って行こう。
 殺し合いたい奴らだけが、勝手に殺し合ってればどんなにいいか……」

目を閉じ、唾を飲み込む。脳裏に仲間たちや、あの変な女の顔が浮かぶ。改めて、自分は今、異世界で孤独なのだと感じる。
彼らに再会できたとして、この異常な体験を、黙ったままでいられるだろうか。スイフリーは拳を握り、歯を噛みしめる。

「……いや、悪人以外と殺し合わずに脱出できるなら、それに越したことはないさ。なるべくそっちに望みをかけよう。
 究極的には、我々を理不尽に突然呼び寄せた、邪悪な月のせいだ。せめてすべてが、月の作った幻影、悪夢に過ぎないと思いたいね」

「そーかい。それを聞いて安心したぜ。オレが仕える主人は、オレが仕えたくなるような奴であるべきだからな。
 あんたはまだ甘ちゃんだが、少しは見込みがありそうだ。我が先祖アルトリウスの名にかけて、あんたを守ると誓おう」

セイバーは片手を挙げて宣誓する。契約は成立だ。

「心から感謝するよ。では、きみの望みは何だね」
「あー……大してねェな。生きてる間にやりてェこと、やれることは大体やったし、次の世代に後も託した。
 強いて言えば『故郷を守る』ってことぐれェだが、まァ、今さらだ。汚れ役として使い潰してくれて、構わねェよ」
「そうか。じゃあ、わたしの目的のために協力してくれ。と言っても、きみにも報酬があった方が、お互いに信頼できるだろう。何かないかね」

セイバー……アシェラッドは、眉根を寄せ、遠い目をして西を見た。日はとうに沈んでいる。

「……理想郷(アヴァロン)」

「?」

「オレの母親の寝物語だ。戦争も奴隷もねェ、平和な理想郷。それが西の大海の彼方にあるという。
 ご先祖サマはそこへ行って、戦の傷を癒やしているそうだ。オレも、そこへ行きてェ。
 『英霊の座』だの、月だの、なんとか大陸だのじゃァなくてな」

飄々としていたセイバーの声音と顔つきが、次第に凄味を帯びていく。

スイフリーは、不意に異様な気配を感じた。饐えた血の臭い、腐臭。殺気と冷気。狂喜の笑い声。鉄の擦れ合う音。
薄暗い部屋の隅に、黄色く濁ったオーラを纏った亡者たちがうずくまっている。武装したノルド戦士の亡霊だ。

「行って、そいつをぶん殴りてェ。それだけさ」




493 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 16:00:54 gvcBwvdo0

【クラス】
セイバー

【真名】
アシェラッド@ヴィンランド・サガ

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具C(EX)

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。彼の血筋による加護。

騎乗:C+
騎乗の才能。幻想種を除き、大抵の乗り物を人並み以上に乗りこなせる。更に船舶を乗りこなす際、有利な補正が掛かる。

【保有スキル】
心眼:C
人生の中で培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

人間観察:C
人々を観察し、理解する技術。その人間の本質・才能を見抜くことに長けている。嘘や裏切りも見抜く。

嵐の航海者:D+
船と認識されるものを駆る才能。集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
大軍を率いた経験はないためこんなものだが、小集団を率いてのゲリラ戦はお手のもので、えげつない手段を用いても敵を妨害し生き残る。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。それほど魔力を必要としない。


494 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 16:02:29 gvcBwvdo0

【宝具】
『約束されぬ勝利の剣(リョースアールヴ・スヴェルズ)』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人

セイバーの持つ剣(スヴェルズ)の腹から光(リョース)を放ち、相手の目をくらませる。彼が生前に用いた戦法(原作6巻)。
別名ハゲフラッシュ。特に破壊力はない。非常にしょぼいネタ宝具なので、魔力消費はない。視力がある者なら誰にでも効果はある。

『果てしなく遠き理想郷(ニヴルヘイム・ナグルファル)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:40人

生前にセイバーが用いた、竜頭のロングシップ。ノルド戦士の亡者たちが水上は漕ぎ、また陸上は担いで運搬する。頑張れば空も飛べるかも。
マスターとセイバー他数人を、荷物ごと載せて移動できる。ただし目立つので、普通に自動車を利用した方がよさそうである。ぶつければそれなりに痛い。
魔力を注げば、周囲に冷たい濃霧を起こして隠蔽することができる。ロングシップなしで濃霧だけ出すことも可能。

『終わりなき戦争の世界(ヘルヘイム・ヴァルハラ)』
ランク:C(EX) 種別:結界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人

セイバーが死後に堕ちたとされる世界(原作10巻)を再現した固有結界。彼自身は「現世(うつしよ)そのもの」「クソどもの掃き溜め」と語る。
深い地の底、石柱が立ち並ぶ泥沼で、ゾンビのような無数のノルド戦士たちが、笑いながら永遠に殺し合いを続けている。
ここに堕ちた者には亡者たちが襲いかかる上、その者が殺害した人の霊が泣きながら纏わりついて離さない。
戦意・殺意・敵意・悪意を持つ者や意志なき殺戮者、過去に誰かを殺した者は、自分と同等以上の力でこの世界に縛られ、いかなる力でも永遠に脱出できない(マスターは除外可能)。
そうした意志を失って空っぽになり、心の底から罪を悔い改め涙を流した者は脱出できるが、亡者たちはその後も精神の中に永遠に取り憑き、常に手足を引っ張る。
またセイバーは、この世界から任意の数十名を召喚し、霊体として使役できる。最期まで彼の友だった狂戦士ビョルン、数キロ先までの物音を聞き分ける「耳」などである。
亡者たちは基本的に戦うことしか頭にないが、セイバーの命令には従う。強さは鍛えた人間の戦士並だが、傷ついて斃れてもすぐに蘇る。結界の中なら、セイバー自身も。

【Weapon】
『ヴァイキング剣』
生前に使っていた幅広の剣。比較的高品質と思われ、セイバーの剣技により兜ごと人間を一刀両断するほどの威力を持つ。セイバーがセイバーたる所以。

『手斧(ハチェット)』
小振りな斧。セイバーはこれを投擲して、10数m離れた相手に正確に命中させることができる。回転も加わっているため、当たれば手足や首が切り飛ばされる威力。

【人物背景】
デンマーク出身のノルド戦士。短髪で髭をたくわえ、ローマ風の胴鎧を身に着けている。百人ほどの戦士団を率い、ヴァイキングや傭兵として長年暮らしてきた。
とある出生の秘密を持つが、普段は飄々とした人物。頭脳は明晰、手腕は冷酷非情。剣の腕も相当に立ち、自分を囲んだ多数の戦士相手に大立ち回りを演じた。
アサシン、バーサーカー、アヴェンジャーなどの適性も持つが、今回はセイバーとして参戦。バカや「美しくねェ奴」は大嫌い。

なお、ノルウェーなどの伝承には、アスケラーデン(灰小僧)という名前の妖精が登場する。
伝承では、他の者が失敗するところを知恵と胆力で成功する知恵者、という役回りで描かれる事が多い。
ただしその際、障害を取り除くために選ぶ手段は、必ずしもフェアなものではない。

【サーヴァントとしての願い】
理想郷へ行って、ご先祖様をぶん殴る。
やることは大体終わってるので、マスターに使い潰されても別に構わない。あまりに理不尽な命令には従いたくないが。

【方針】
手段を問わず、マスターを守る。とりあえずマスターと相談し、いろいろ作戦を立てておく。
濃霧や船や亡者を展開すると目立つので、序盤は伏せ、いざという時の切り札とする。警戒と情報収集のため、「耳」は首だけ呼んでおくか。
殺し合いは本当にうんざりするほどやってきたので、必要以上の殺しはしない。オレじゃなくてトルケルとか呼べやと思っている。


495 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 16:03:38 gvcBwvdo0

【マスター】
スイフリー@ソード・ワールドRPGリプレイ第三部(バブリーズ編)

【weapon】
『銀製・高品質の槍』
戦士としての装備。銀製の武器はアンデッドなどに与えるダメージが大きい。

『高品質の硬革鎧』
戦士としての装備。軽く丈夫で、行動を阻害しない。

『毒無効化の指輪』
とある魔術師が所持していた指輪。身につけた者に対する毒を完全に無効化する。「眠りの雲」や「酸の雲」も無効。

『使い切れないほどの魔晶石』
とあるドラゴンから貰った、魔力を込めた大量の宝石。スイフリーの生命線。限度はあるが、魔力供給に苦労することはない。
外見はトパーズに似ており、大粒でも指の股に挟める程度(「デーモン・アゲイン」表紙より)。古代魔法王国では通貨であったという。

『ファストフィンガー』
敏捷度を上昇させる指輪。素の敏捷度も高いので、通常の人間相手には先手を取って行動できる。

『パリーパリー』
回避力を上昇させる指輪。

『抗魔の守り(アミュレット・オブ・カウンターマジック)』
魔法抵抗力を上昇させる護符。

『魔力のカード(翼)』
古代語魔法が付与された、使い捨てのマジックアイテム。破りつつコマンドワードを唱えると魔力が発動する。
このカードには「フライト(飛行)」が込められており、使用すると1時間だけ最大時速50kmで飛行できる。誰でも使用可能。

『使い切れないほどの財産』
莫大な財産。人間が普通に暮らして一生使っても使い切れないぐらいはある。生活費には困らないし、大概の物品は手に入る。


496 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 16:05:05 gvcBwvdo0

【能力・技能】
『エルフ』
肉体を持つ幻想種たる妖精の一種、エルフ族である。先祖代々物質界に住み着いているため、肉体的には人間と大差ない(混血も可能)。天寿は千年。
人間よりやや優れた器用度・敏捷度・知力・精神力(スイフリーは人間並み)を持つが、反面で筋力と生命力は人間にやや劣り、身長も少し小柄で華奢。
しかし妖精界・精霊界とのつながりにより、自然現象を司る精霊(スピリット)と自由に会話でき、彼らの力を借りることが出来る。
なお耳が尖っているため、これを見られると即座に人間ではないことがバレてしまう。「付け耳だ」とかごまかすことは可能。

『精霊使い(シャーマン)技能7レベル』
高度な精霊魔法(サイレント・スピリット)が使える。精霊はともかく、結果自体はおおむね現代の科学技術で再現できるので「魔術」扱いか。
使用者は金属製(銀やミスリルを除く)の鎧を身に着けていてはならず、口がきけ、片手と指が自由に動かせる状態でなければならない。
使用には精神力を消費するが、「使いきれないほどの魔晶石」がある限り、およそ気にせずに使用できる。威力や効果時間・効果範囲の拡大も可能。
ただし使用する場合は、それに対応する自然の精霊がその場に存在することが前提となる。水中で火矢は使えないし、石畳からは石礫を飛ばせない。
また威力的に、多分サーヴァントには効きが悪い。隠蔽・撹乱・諜報活動、マスターを狙う、敵の行動の妨害、防御や撤退・不意打ちの支援、といった使用法が主となろう。
なお「デーモン・アゲイン!」でのスイフリーの精霊使いレベルは6だが、ここでは獲得した経験点で7にレベルアップしている。冒険者レベルも7なので各種抵抗は高め。

シャーマン基本技能(消費なし):インフラビジョン(赤外線視認)、センス・オーラ(精霊力感知)、サイレント・スピリット(精霊語)

・7レベルまでの精霊魔法
 大地:転倒、拘束、穴掘り、石礫、地割れ
 水 :水浄化、水膜、水中呼吸、水上歩行、沈没、水圧軽減
 火 :火矢
 風 :遠耳、静寂、沈黙、避矢、必中矢、音声操作、竜巻
 光 :光霊
 闇 :闇霊、恐怖
 植物:緊縛、透明化、植物支配、魅了、植物の家
 精神:撹乱、混乱、勇気、昏睡、戦乙女の槍、戦乙女の加護
 建物:家事雑用
 生命:(女性専用のためスイフリーは使用不可)
 他 :下位精霊支配、精霊壁(各種)、下位精霊完全支配

『戦士(ファイター)技能5レベル』
かなりの技量を持つ戦士である。ただしスイフリーは筋力も生命力も低いため(一応エルフにしては筋肉質だが)、もっぱら攻撃の回避に用いる。
素の敏捷度が高い上に、ファストフィンガーやパリーパリーを装備しているので、回避に徹していれば通常の攻撃はなかなか当たらない。

『賢者(セージ)技能3レベル』
各種学問に関する総合的な理解や知識の深さを表す。ただし異世界「フォーセリア」の知識であるため、地球ではあまり役に立たない。
宝物鑑定や薬品調合、フォーセリアにも存在する物品に関しての一般的な知識については適用可能か。知識に過ぎないので策略とは無関係。

『神算鬼謀』
ある種のメタ的な視線と知識を持ち、高速であれこれ策を考えて先を読み、あらゆるルールの裏と穴をつくことができる非凡な発想力。
その小賢しい小細工が、世界の法則を変えることすらあるかも知れない。彼の世界の創造主の一人(剪定者でもある)が中の人だったという。心の声は関西弁。


497 : 悪党たちの交響曲 ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 16:06:13 gvcBwvdo0

【人物背景】
ソード・ワールドRPG(無印)リプレイ第三部の主要登場人物。エルフの男性。140歳。TRPGにおける「和マンチ」の代名詞的存在。
伝説の英雄「成金冒険者達(バブリー・アドベンチャラーズ、略称バブリーズ)」の一人。誇り高く高慢で冷静で知的でお調子者。自称美形。
人間観察のため故郷の森から大都会に出てきたが、研究のし過ぎで「染まって」しまい、今や裏読みと打算と小細工が大好きな陰謀・策略・口車の達人に。
エルフらしい理知的な判断を、人間並の俗物さ、ダークエルフ並の冷徹な邪悪さをもって発揮する。故に「あの耳は付け耳だ」「あの肌は白粉だ」と噂された。
その知謀はアレクラスト大陸最高の軍師「指し手」ルキアルにも匹敵するとされるが、基本的には臆病なほど慎重であり、必ずしも邪悪で冷酷非情な人物ではない。
彼の策謀は、貧弱な自分の生命や仲間たちを守るためのものが多く、しばしば物事を疑い過ぎ、曲解し過ぎることもある。感情的になることもある。
また考えるのに疲れると無策の力押しに走る傾向もあるが、仲間が暴走を止めてくれるのを期待してもいる。苦手なのは子供と狂人、正義の神ファ■■。
ここでは、リプレイ「デーモン・アゲイン!」終了後、しばらくしてからの参戦となる。ルールは完全版以前の旧版に準拠。あんまり厳密に適用しなくてもよい。
キャラクターデザインは中村博文。挿絵により金髪だったり銀髪だったりするが、「デーモン・アゲイン!」時点では青髪っぽい。

【マスターとしての願い】
帰りたい。めっちゃ帰りたい。でも聖杯は明らかに邪悪。どうしよう。

【方針】
死にたくない。聖杯を獲得するしか帰る方法がないならやるしかないが、悪人以外はなるべくなら殺したくない。
敵からは基本的に逃げ隠れ、目立たないように行動する。いつでも引き払えるよう、片付け・荷造りは済ませておく。魔晶石やマジックアイテムは極秘の切り札。
殺し合いに乗る者同士をぶつからせ、乗らない者同士で協力するのが、今のところは最善の策か。相手の裏切り、殺し合いを助長する各種介入は当然と考える。
現代の科学技術や知識・情報も積極的に活用し、早いとこ信頼できる強力な仲間(コネ)を得たい。突然の無差別範囲攻撃等で叩き潰されないよう、いろいろ策を考えておく。
亡者の群れは悪役っぽいしトラウマもあって嫌だが、生き残るためには好き嫌いは言えない。ダークエルフ化したらどうしよう。


498 : ◆nY83NDm51E :2017/01/28(土) 16:07:19 gvcBwvdo0
投下終了です。


499 : ◆pu1C9voasQ :2017/01/28(土) 23:38:08 cULQgRjE0
投下します


500 : 名無しさん :2017/01/28(土) 23:38:33 cULQgRjE0
少女は希望を求めていた。
最高の友達は死んだ。
願ったのは過去を変える力────希望を繋げる力。
そして少女は戦い続けた。

少女は希望を求めていた。
最高の友達は消えた。
望んだのは未来を変える光────希望を照らす光。
そして少女は戦い続けた。

少女は希望を求めていた。
最高の友達はいない。
祈ったのは希望で彩る世界────希望のための世界。
そして少女は戦い続ける。











学校終わりの週末の日の夜。
今日は私の家にまどかが遊びに来ていた。
家にいるのは私とまどかの2人だけ。
まどかは今日、このまま私の家に泊まっていく事になっている。
ここにあるのは何でもない普段通りの日常。
一緒にお茶をして、一緒に宿題をやって、一緒に夕飯を食べて、一緒に他愛ない話をしながら寝る。
どこからも邪魔は入らない。この世界は私の箱庭だから。
だけど────

「ええっと……またなの……ほむらちゃん……」

そう、まただ。またまどかが円環の理の事を思い出しそうになってしまった。
そのたびに私はこうしてまどかを思い切り抱きしめる。どこにも行ってしまわないように。
異常が起こるたびに何とか押さえ込んではいるものの、それも限界が来ているのかもしれない。
今日はこれでもう3回目。最近目に見えて回数が増えてきている。

「だって……その……ごめんなさい……」
「うーん……ほむらちゃんって本当に心配性だよね」

まどかももう呆れてる。そうだよね、いい加減しつこいよね。でも離さない。
その方がまどかの存在を感じていられるし、離すとまた始まってしまいそうな気がして怖いから。
まどかを抱きしめていると安心できるけど、それを強いられる状況には全く安心できない複雑な気持ち。

「ほむらちゃんがそんなに心配しなくても大丈夫だよ。
 私はみんなに黙っていなくなったりする気なんて無いし、どこかに行ったらちゃんと帰ってくるから」

まどかはこう言ってくれるけれど、実際にはまどか本人がどうにかできるような問題じゃない。
このまま行けば、最悪の事態になるのも多分時間の問題。
だから私が何とかしなきゃいけない。まどかがこのまま世界のどこにだっていられるように。

「……ほむらちゃん?」

私はまどかを抱きしめたまま、正面に見える窓に目を向ける。
そこに見えるのは月。私とまどかを見下ろす月。その内にある物を隠す月。
以前インキュベーターから引き出した情報によると、月の正体はムーンセルと呼ばれる巨大な装置。
インキュベーターとはまた別の文明が作ったらしい、地球の全てを記録するための観測機。
そして重要なのは、ムーンセルには宇宙を変える程の力を持つ願望器としての機能もある事。
神にも負けない理を作れるだけの力。聖杯とも呼ばれる力。
それだけの力があれば、鬱陶しい円環の理だって黙らせられるはず。
私の力だけでまどかを繋ぎ止め続ける事ができないなら、そこに別の力を足してやればいいだけ。
どんな願いでも叶えるなんて売り文句は、あのインキュベーターの事を連想させてくれて正直言って気に入らない。
でも、今のまどかに必要な物でもある。私の些細な不快感なんて問題じゃない。


501 : 名無しさん :2017/01/28(土) 23:38:54 cULQgRjE0

ムーンセルへの干渉はすでに試してみたものの、防御が固くて力押しでは乗っ取れそうになかった。
それは予想の範囲内ではある。
逆に簡単に掌握できる程度の物なら、そもそも役に立つレベルの物なのかも怪しくなってくる。
それに、外からが駄目なら中から掌握すればいい。
ムーンセルは観測の一環として外部から人間を呼び込んで、その人間達を戦わせたがっている。
戦いの勝者への見返りはムーンセルの機能、つまり聖杯の使用権限。
やっぱりこのままにしておいても、まどかがいつまで持つか分からない。
状況が悪い方向に行きつつある事を考えると、その戦いに乗り込んででもムーンセルを手に入れる必要がある。
放っておけばまどかがまた消えていなくなってしまう。
もう絶対にあんな事が起きるような状態にさせてはいけないから。
だからそのために、まどかは私が──

「……あなたは私が必ず……」
「ほむらちゃん、どうしたの?」
「……ううん、なんでもないわ。
 ごめんなさい、私、変な事ばっかりしてて……」
「別に謝るような事じゃないよ。
 ほむらちゃん、私から見てても最近何だか大変そうだし、ちょっと疲れちゃってるのかも。
 今日はもう寝て休んだ方がいいよ」

いいえ、私は何も疲れるような事はしていないはずだし、そもそもそんな事を気にしている状況でもない。
私にはまだやらなきゃいけない事が残っているみたいだから。

「うん……あのね、まどか……?」
「何? ほむらちゃん」
「……やっぱりもう少しだけ、このままでいてもいい……?」
「ほむらちゃん……」

……一体私は何を言っているんだろう。
どうして自分の口からこんな言葉が出てくるのか理解できない。
このままこうしてまどかの所にいたって何も解決はしないのに。
まどかを絶対にこの手から離しちゃいけないからこそ、あの円環の理の問題をどうにかする必要があるはず。
そもそも、まどかが円環の理なんて物になってしまった原因を作ったのは私なのに。

「……ねえ、ほむらちゃん。ちょっといい?」

まどかが自分の髪に結んでいる赤いリボンをほどいて、私の髪に結んでいく。
このリボンは……

「私が転校して来た日にほむらちゃんがくれたリボンだよ。
 ママもよく似合ってるって褒めてくれてたんだよ」
「どうして私に……?」
「……あのね、ほむらちゃん。
 私、あの日ほむらちゃんと出会えて本当に良かったって思ってるんだ」
「まどか……?」
「私、最初に見滝原に帰って来た時は凄く不安だったんだ。
 3年も経って周りは知らない人だらけになっちゃったから。
 それでも周りに馴染めるのかな、ちゃんとやって行けるのかなって。
 ほら、私って鈍臭くてすぐ人に迷惑かけちゃうでしょ。
 きっと、ほむらちゃんにもいっぱい迷惑かけちゃってると思うんだ」

そんな事ない。今まであなたを迷惑に思った事なんて一度も無い。

「でも、ほむらちゃんが私の事を気にかけてくれたおかげで、すぐにみんなとも仲良くなれたんだよ。
 まあ、最初にほむらちゃんと会った時はちょっと驚いちゃったけど。
 ほむらちゃんがいてくれなかったら、今でも誰とも友達になれなかったかもしれないから。
 だから、ほむらちゃんには凄く感謝してるんだ」

あなたなら私がいなかったとしても、すぐにみんなと友達になれていた。
あなたは誰からも愛される人間だから。
それに、感謝するのは私の方。
あなたがいてくれなかったら、確実に私は何一つまともにできないし、友達もいない人間のままだった。

「私ね、ほむらちゃんみたいな人になりたいって思うんだ。
 勉強も運動も得意で、大人っぽくて綺麗で、頼りになって、優しくて。
 ほむらちゃんみたいに凄くかっこよくて、素敵な人に。
 私なんかじゃ難しいかもしれないとは分かってるんだけどね」

私はあなたにそんなふうに思ってもらうような人間じゃない。
本当に凄いのはあなたの方なのに。私なんかよりもよっぽど。


502 : 名無しさん :2017/01/28(土) 23:39:19 cULQgRjE0

「私はほむらちゃんみたいに何でも上手くできるわけじゃないし、誰かの役に立てるわけでもないけど。
 ほむらちゃんが困った時には、私なんかでも話を聞く事ぐらいならできると思うから。
 もし何か悩み事があったら一人で抱え込まないで、私でよければいつでも何でも話してほしいんだ。
 って、ほむらちゃんに心配されてる私が言う事じゃないのかもしれないんだけど」
「まどか……」

あなたは本当に、いつだって痛いくらいに優し過ぎる。
何かあれば、私をこうして元気付けようとしてくれる。
誰かのためなら、自分の事を投げ捨ててしまえる程に優し過ぎる。
あの時、私があなたの優しさを止めなかった結果が、あの円環の理。
全ての魔法少女を救うために作られたはずの物なのに、あなたという存在は救われなかった。
そんな事私は認めない。
あなたには自分の望む人達と生きて、いつだって心から笑っていてほしいから。
あなたの優しさがあなたの事を救わないなら、それを叩き壊してでも私はあなたを救いたい。

「ほむらちゃんに結んだリボンはね、ちょっとしたお祈りみたいなものかな。
 ほむらちゃんがこれだけ私を心配してくれるって事は、きっと何か理由があるんだよね。
 このリボンはほむらちゃんがくれた物だから。
 だから、ほむらちゃんの心配事が無くなるまで、これはほむらちゃんに持っててほしいんだ。
 私がみんなと一緒にいられますように、みんなと繋がっていられますようにって。
 どうかな? ほむらちゃん」
「うん……そういう事なら、預からせてもらうね」

このリボンはあなたの存在の証だった。
あなたが行ってしまって私が一人だった時も、あなたはずっと私の事を見守ってくれていた。
あなたの祈りが込められたリボン。きっと今でもあなたと私を繋げてくれる。
あなたが見守ってくれていたあの頃のように、私に──私達にとって、これ以上無いお守りになってくれる。

「私ってドジな上に何の取り柄も無いし、これからも沢山迷惑かけちゃうかもしれないけど。
 それでも、これからもほむらちゃんが私と友達でいてくれたら、凄く嬉しいなって思うんだ」
「……うん、もちろんよ。まどか。
 あなたは私の大切な友達。これからもずっと、何があっても……」

あなたは私の最高の友達。それは絶対に変わらない。
そもそも、私がこれまで戦い続けてきた理由。
かつてあなたと交わした約束。必ずあなたを助けるという約束。
今でも忘れてない。覚えてる。
数えきれない程繰り返して、戦って、ようやくあと一歩の所には来たけれど、未だにその一歩が届いていない。
だけど、もう少しで本当に全てを終わらせられる。
それは私がやるべき事で、私にしかできない事だから。

「……ありがとうまどか、少し気が楽になってきたかも。
 ごめんなさい、困らせちゃって」
「ううん、ほむらちゃんは何も困るような事なんてしてないよ。
 でも、ほむらちゃんが少しでも元気になったなら良かった」
「ええ、今日はもういい時間になってきたし、そろそろ寝ましょう、まどか」
「また明日だね、ほむらちゃん。
 そうだ、寝る前に歯を磨かないと、ほむらちゃんも一緒に磨こう」
「そうね、そうしましょう」

あなたが少しだけ待ってくれるなら、私の戦いもきっと次で最後になる。最後にしなきゃいけない。
この世界が不安定なのは、私の気持ちの強さが足りなかったからなのかもしれない。
きっと、それだけあなたの想いが強かったという事なんだと思う。
それでも、あなたを円環の理から切り離した事が間違いだったとは思わない。それだけは確かに言える。
あなたは何も悪くない。こうなったのは全部私のせいだから。
そもそも、本来なら私が上手くやれてさえいれば、あなたに何もかもを背負い込ませてしまうような事にもならなかった。
これは私が背負うべき罪。
あなたが背負った物を下ろす事ができるように、私は私の世界を完成させる。
あなたのために、必ず。








503 : 名無しさん :2017/01/28(土) 23:39:50 cULQgRjE0





ムーンセル内部のSE.RA.PH──スノーフィールド。
どこかの世界に実在する都市を丸写しして作ったというこの街、見た目は無駄に良く出来ている。
私が住んでいる家から一歩出れば住宅や道路が整備されて、人も暮らすし乗り物も走る。
街の中心部はビルが並んで、多彩な店や施設もある。
電気や水道も通っているし、治安の維持もされている。
少なくとも、表面上は全部現実のそれと何も変わらない。
これなら単なるデータだとは言われなければ、気付く人間も出てこない。

「ほむらちゃん」

逆に街の人間は、わざわざあちこちの並行世界から本物の人間を掻き集めてデータ化している。
マスター選抜を兼ねるとはいえ、それだけなら全てのNPCに本物の人間を使う必要は無い。
殆どのNPCは自前で代用できそうなものだけど、あえてそうしない理由。
ムーンセルは地球で実際に行われた聖杯戦争を真似たがっているらしい。
大方、地上同様に本物の人間を使う事で、参加者にNPCの殺傷に対して少しでも気を使わせたいと言った所かしら。
願望器目当てにここにやって来た人間の中に、そんな事を気にする連中がどれだけいるかは知らないけれど。

「ねえ、ほむらちゃん」

もう私がこのスノーフィールドに入ってから数日目の朝になる。
家のテレビを付ければ、スノーフィールドに関する情報を放送するニュース番組がやっている。
ソファに座って番組を流し見るだけでも、原因不明の事故や事件がちらほら見られるようになってきた。
この街が何のために用意されたかを考えれば、おそらく他の参加者によるものだとは推測できる。

「ほむらちゃーん」

全てのマスターとサーヴァントが出揃うのも、おそらくそう遠くは無いはず。
聖杯戦争の方式はほぼ何でもありのバトルロイヤル。
自分の生存を最優先に考えながら、効率良く敵を減らす必要がある。
自分がマスターであるという情報を隠しながら、他のマスターを探……

「あのー、ほむらちゃーん、私の声、聞こえてるー?」

……そんなに何度も呼ばなくても聞こえているわよ。
どうせならこのまま無視していたいとも思うけど、さすがにそうもいかなさそうね。

「さっきからうるさいわね、ランチャー」
「だって、ほむらちゃんが何にも反応してくれないから」

別に私はあなたの声に必ず反応しなきゃいけない、なんて決まりも無いでしょう。
返事をするもしないも私の自由。あなたが決める事じゃない。

「反応したい気分じゃなかったからよ。
 それと、私の事をそうやってちゃん付けで呼ぶのはやめなさい」
「んー、でもやっぱり呼び捨てとかより、この方が私にはしっくりくるというか、呼びやすくて」

こっちはあなたにそんなふうに呼ばれても全然嬉しくないの。
あなたにとって呼びやすいかどうかは問題じゃない。
あなたじゃなくて私が不快なの。全く馴れ馴れしいわね。

「別にそういう事を聞いたわけじゃないのだけれど……それで、何かしら?」
「えーっとね、やっぱりほむらちゃんの事、聞かせてほしいなって」

何を言い出すかと思えばまたこの手の話。本当に疲れるサーヴァントね。
そんな事は話す気も義理も無いと言っているはずなのに。

「あなたに聞かせるような事は特に無いとは言わなかったかしら?」
「でも、ほむらちゃんって本当に何も教えてくれないから。
 別にどうしてムーンセルに来たのか、みたいな話じゃなくてもいいの。
 どんな所に住んでるのかとか、好きな食べ物は何かとか、趣味は何かとか、何でもいいんだけどな。
 どうして何も話してくれないの?」


504 : 名無しさん :2017/01/28(土) 23:40:17 cULQgRjE0

わざわざあなたに話す必要性は無いし、あなたに話すのも嫌だから。
これ以上の理由は必要無いでしょう。

「話したいと思わないから。別にあなたが知っていなければならないような事でもない。
 ……大体、私の事なんて知ってどうするつもり?」
「言ったでしょ? 私はほむらちゃんと色々な事を話して、友達になりたいなって思ってるって。
 それに今のままじゃ、ほむらちゃんが一体どんな事を考えてるのかも分からないから。
 もしほむらちゃんに何か困ってる事とかがあるなら、もしかしたら私が力になれる事もあるかもしれないし。
 だから何か少しでもいいから、ほむらちゃんの事教えてくれたら嬉しいんだけどな」

どうせそんな感じだろうとは思ってたけど相変わらずね。
私はあなたと友達になりたいと思っていないし、あなたの事に興味も無いし、あなたに話すような困り事も無い。
要するにあなたはお呼びじゃないの。
お願いだからそろそろ黙ってくれないものかしら。

「私はあなたと遊ぶ気も無駄話をする気も無いの。
 あなたも暇なら、いつまでもそこに立ってないで街の偵察でもして来なさい」
「それならもうサーチャーを飛ばしてあるけど」

あなたも行けと言っているのよ。本当に察しが悪いわね。
いちいち言わせないでくれないかしら。

「しばらく一人で考え事をしたいの。いいから早く行って来て」
「うーん……じゃあ、何も無ければ夜までには戻ってくるから。
 それじゃあ、行ってくるね」

……やっと霊体化して外に出て行ったようね。
毎度私に無意味な会話をさせるよりも、まずは多少なりとも私の役に立ってほしいものね。
あのサーヴァントが出てくるまでは、考えてたより簡単に行くかと思ったりもしたけれど。
さすがにそこまで都合良く行く訳ではないという事かしら。

最初の段階、白紙のトランプを使ってムーンセルにアクセスする分には、何の妨害も見られなかった。
内部での活動用の体を作ってムーンセルに入り、サーヴァントを召喚した所までは問題らしい問題は無い。
ムーンセルの側から扉を開けているのだから、当然と言えば当然かもしれない。
出て来たサーヴァントは、どことなく魔法少女を思わせるような見た目の白い服を着た少女。
外見年齢はおおよそ十歳前後くらい、クラスはランチャーなる特殊クラス、真名は高町なのはと名乗っていた。
最初は魔法少女かとも思ったけど、ソウルジェムを持っていないし、能力面を見ても魔法少女のそれとはまた違っている。
要は見た目が似ているだけの別物という事らしい。
魔法少女であってもなくても、私の手駒としてちゃんと使い物になるのならそれで問題は無い。

ただ、あのランチャーは性格面に難を抱えていた。
頼んでもないのに意義の無い余分な話を持ち出したがり、懲りずに私の事を知りたがろうとする。
自分の望みについても、私と友達になりたいとか、私の事が気になったからなんて馬鹿みたいな事を言い出す始末。
私にはまどかという友達がいるのに、何が悲しくてあんなぽっと出の幽霊なんかとわざわざ仲良くするような必要があるのか。
はっきり言ってあのサーヴァントは気に入らない。
やたらと気安く接してくる上、物言いも一々癇にさわる。
本当に面倒臭いサーヴァントを掴まされたと感じる。
方向性の違いはあっても、面倒臭い人間という点では美樹さやかや巴マミ等と同レベルとも言っていい。
どうしてムーンセルも、もう少し私に合った扱いやすいサーヴァントをよこしてくれなかったのかと思う。

それでも私にはもう、あの面倒なサーヴァントを使って戦う以外の道が残っていない。
この戦い、敗北は決して許されない。
私が勝たなければ、まどかは再びただ魔女を消して回るだけの概念に成り果てる。
そうなればあの子はまた、永遠に一人きりのまま取り残される事になる。
誰もあの子を知らない、誰もあの子に気付かない、誰もあの子を受け入れない。
そんな世界、私が絶対に許さない。
一度は私のせいで、あなたに辛い選択肢を選ばせてしまった。
もう二度と同じ間違いは繰り返さない。
今度こそ私はあなたを守る。
私があなたに始めさせてしまった戦い、今度こそ完全に終わらせる。
私はもう、あなたの友達にはなれないのかもしれないけれど、それでも、あなたは私の友達だから。
今までも、これからも、私はただ、あなたの幸せだけを願うから。


505 : 名無しさん :2017/01/28(土) 23:40:32 cULQgRjE0
【マスター】
暁美ほむら@劇場版魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語

【マスターとしての願い】
まどかと円環の理の完全分離。

【weapon】
盾の内部に収納された大量の銃火器や爆弾。

【能力・技能】
時間停止をはじめとした魔法少女としての能力。
現在の体はほむらが作成したアバターのため、魔法少女としてのほむらが本来持っていた一部の能力や性質が欠落している。
時間遡行の魔法はリソースの限界で再現できず、戦う上で不要な魔女化の性質も再現していない。

【人物背景】
悪魔なほむほむ。



【CLASS】
ランチャー

【真名】
高町なのは@魔法少女リリカルなのはThe MOVIE 2nd A's

【属性】
中立・善

【ステータス】
筋力C 耐久B+ 敏捷C 魔力A+ 幸運A+ 宝具A++

【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではランチャーに傷をつけられない。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

魔力放出:EX
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
いわば魔力によるジェット噴射。
また、ランチャーの場合は魔力による射撃や砲撃等の技に派生するスキルにもなっている。

【保有スキル】
複合召喚:A
ハイブリッドサモン。
複数のクラスが複合、変異する事により発生するエクストラクラスで召喚されたサーヴァントが持つ特殊スキル。
ランチャーのクラスはアーチャーとランサーの複合クラスとなっている。
複合召喚で発生するクラスの該当条件は複合先のクラスごとに異なる。
このクラスの場合はアーチャーとランサーの適性、高ランクの魔力放出スキル、何らかの形で強力なビームが撃てる能力を持つ事が条件となる。
ランチャーの場合、自身の魔力を宝具を介して射出するという形でビームを放つ。

戦闘続行:B
不屈の闘志。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

直感:B
戦闘時、常に自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

勇猛:A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

【宝具】
『不屈の心はこの胸に、貫く意志はこの魂に(レイジングハート・エクセリオン)』
ランク:A+ 種別:対人、対軍、対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:500人
ランチャーが魔力を撃ち放つ攻撃を行う際に用いる、状況に応じて複数の形態に変形する宝具。
自己の意志を持ち会話も可能で、飛行や戦闘時の魔力の制御の補助、情報や状況の分析等のランチャーの支援も行う。
また、防御や捕縛、加速等のランチャーが戦闘で使用する魔術の詠唱代行機能を持つ。
この宝具が有する形態は以下の4つとなる。

待機形態である小さなペンダントの姿となるスタンバイモード。
攻撃の速度や精度に優れる、基本形態である杖の姿となるアクセルモード。
攻撃の威力や射程に優れる、砲撃形態である砲身の姿となるバスターカノンモード。
全ステータスが1ランク上昇する、最大出力形態である槍の姿となるエクセリオンモード。

『運命照らす輝きの星(スターライトブレイカー)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
上記宝具のエクセリオンモードで行う大出力の魔力砲撃であり、ランチャーを象徴する必殺の一撃。
自身の魔力の他、自身や他者が使う等して、周囲の空間に散って残留する魔力を集束して放つ。
これにより、集めた魔力量に応じてランチャー本人に必要になる魔力残量も減少する。
また、障壁や結界の類に対する特効属性を持つ。

【weapon】
『魔力カートリッジ』
レイジングハートでロードする事で魔力のブーストを行う、使い捨てのカートリッジ。
召喚時に大量に持ち込んでいる。

【人物背景】
彼女は大人の姿でも召喚されうるが、今回は少女の属性を持つマスターに引っ張られた結果少女としての姿で現界した。
それに伴い、記憶や精神性も少女期の物で固定されている。

【サーヴァントとしての願い】
ほむらと友達になりたい。


506 : 暁美ほむら&ランチャー :2017/01/28(土) 23:41:14 cULQgRjE0
投下終了です


507 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/01/29(日) 01:30:24 i9ISzWW60
拙作、熱帯―アマゾン―を収録する際、加筆を行い、
拙作、ホルホース&たまにおける宝具名の修正、宝具内容の修正を加えました。
宝具内容の修正としては以下になります。

・抱き合い飛ぶ片翼の天使達(元気の出る薬)
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1〜2人
魔法の国の日用品。本来は10錠だがアサシンは己が服用した2錠分しか出せない。
服用してから30分の間、筋力値、敏捷値を一段階上げ、戦闘続行D、心眼(偽)Cを付与し、
更に30分の間ピーキーエンジェルズのユナエル、ミナエルを召喚する。
召喚されるのはランダム、かつ2錠で二人召喚されるため、ユナエルorミナエル、無しorユナエルandミナエルのパターンで召喚される。(一度召喚されたものは召喚されない)

土曜日のメリュジーヌ(透明外套)
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
魔法の国の日用品。羽織っている人間の姿・匂いを消すマント。
認識されながら強敵を打ち倒した、及び見てはならないものを見てしまったアサシンの末路から、これを羽織っている最中のアサシンを認識した相手の幸運値を一段階下げる。
更にこの効果で相手の幸運値がEになった、または効果を受けたが元々Eの場合はアサシンに一回限りの直感Bを付与し、更に落第生が発動している場合、確実に先手が取れる。


508 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:24:54 YSMw4aqE0
投下します。


509 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:27:22 YSMw4aqE0
「おかわり」

 空になった茶碗が、眼前に突き出された。米粒ひとつ残すことなく平らげられた茶碗を見て、妖夢は小さく首肯し、茶碗を受け取った。炊飯器の中の米は、はじめ五.五合も炊いていたというのに、今はもう半分ほどしか残っていない。五合炊きの炊飯器を利用する上で、最も美味しい白米を味わう手段は、一度に炊く量を三合以内に抑えることだと妖夢は理解しているが、この家庭において、そういう知識を実践するだけの余裕はない。

「はい、セイバーさん」
「ありがとうございます、ヨウム」

 茶碗に盛られた大盛りご飯を見て、アルトリアは小さく会釈をした。口元を微かに綻ばせながら、アルトリアは茶碗を受け取る。彼女が今手にしている白ご飯は、既に三杯目だった。妖夢が用意した焼き魚と味噌汁、つけものとを、順番に一口ずつ白米に乗せては口へ運んでいく。自分が作った朝食を美味しそうに平らげる姿を眺めるのは、やはり心地がいい。

「ねえ妖夢、私もおかわり」
「はいはい」

 幽々子が、米粒ひとつ残さず平らげた茶碗を差し出してきた。妖夢は、アルトリアのために米をよそったきり、未だ右手にしゃもじを握ったままだった。同じように、幽々子から受け取った茶碗に山盛りに白米をよそって、それを手渡す。加速度的に炊飯器の中の米がなくなっていくその様は、妖夢にとっては慣れたものだった。
 山盛りのご飯を受け取って、にこりと満足気に微笑んだ幽々子は、白米を一口咀嚼し、すぐに味噌汁をすすった。口の中で白米と味噌汁を混ぜ合わせることで奏でられる絶妙なる味のハーモニーは、妖夢も理解するところである。見ているうちに妖夢も食欲をそそられてきたので、炊飯器を閉じて、自らの席に戻った。
 醤油で味付けされた焼き魚に箸をつける。骨を避けて、妖夢はそれを口へと運んだ。それから、自分の茶碗に盛られた分の、決して多くはない白米を一口食べる。思わず頷いた。いい塩梅だと思った。塩が適度に効いていて、ご飯によく合う。食欲が進むことにも納得した。沸き起こる食欲に突き動かされるまま、妖夢は再び箸を魚につけた。

「すみません、ヨウム……おかわり」

 アルトリアが、空の茶碗を差し出してきた。いざ二口目を味わおうとしていた妖夢だったが、その箸はすぐに箸置きに戻されることとなった。苦笑交じりに立ち上がった妖夢は、再び炊飯器の前に戻った。アルトリアに四杯目のご飯をよそった時には、既に炊飯器の中の米は尽きようとしていた。次に幽々子に茶碗を差し出されたら、今日の朝食の米は終わるな、と妖夢は思った。

「妖夢、私も」

 弾むような声で、幽々子は茶碗を差し出した。


510 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:32:14 YSMw4aqE0


 スノーフィールドの都心部から西側に少し離れた町外れに、アメリカの景観には不釣り合いな和風建築があった。敷地は広大で、その専有面積はおよそ千坪に及ぶ。白玉楼と呼ばれる巨大な屋敷は、昔ながらの日本の武家屋敷を再現した料亭旅館だった。
 春になると、庭に桜が咲く。その美しさが白玉楼の人気に火をつけた。今や白玉楼は、連日、日本文化を好む観光客が宿泊する人気観光スポットと化していた。そのため、経営者である西行寺幽々子は、この国で金に困ることはなかった。
 それがこの世界で割り振られた設定であることを、妖夢は理解している。自陣営ながら無茶な設定だとは思うが、そういう役割を与えられた以上、逆らうわけにもいかなかった。

「ええ、私は別にいいと思うけど。だって、この国の食べ物ってどれも美味しいし」

 幽々子が、分厚いハンバーガーを片手にけらけらと笑った。厚めの肉が二枚と、レタスにトマト、チーズが挟まれたそれは、既に半分近くが幽々子の腹の中へと消えていた。
 都心部のファーストフード店の窓から見上げた空には、日が高く登っている。午後の食事にごった返す店内で、幽々子は眼前のテーブルにハンバーガーを残り三つも詰んでいた。ポテトとナゲットもある。幽々子の注文ひとつに対応するため、後ろに並んでいた客の待ち時間が増えたことは余りにも明白だった。

「そうですね。和食も好きですが、時には洋食も悪くない」

 清楚な印象を懐く白ブラウスに、青のロングスカート。金の髪の毛を揺らしながら、アルトリアが着席した。テーブルに置いたトレイには、ハンバーガーが四つと、ドリンクとポテト、アップルパイが乗せられている。外見から懐く、小柄で清楚な印象も台無しだった。

「というか、お二人は少し食べすぎでは」
「えっ、妖夢、腹が減っては戦はできぬって言葉、知らない」

 幽々子が、さも驚いたとでも言いたげに掌で口元を覆って、目を見開いた。ぜんぜん驚いている風には見えなかったので、逆に乾いた笑いが漏れた。

「ユユコの言う通りです。いつ何時、敵に奇襲を仕掛けられるとも知れないのです。いかな戦闘にも耐えうる身体づくりを平時から心がけておくことは、決して悪いことではない」
「セイバーさんはそもそも食事とか必要でしたっけ」

 アルトリアは、無言のまま、真顔になった。じっと妖夢を見詰めてくる。表情に変化はないが、口内に頬張ったハンバーガーをもぐもぐと咀嚼するたび、頬が小動物のように膨らんでいる。アルトリアが食べているのは、照り焼きソースがふんだんにまぶされたハンバーガーだった。
 二人の食費を賄っているのは、妖夢だ。この世界では白玉楼の稼ぎがあるので、そう簡単に金欠に喘ぐことはないが、それはそれとして、この二人と出かけると、妖夢の財布の中は常に寒々しくなる。たまの休みにちょっとした贅沢に金を使う余裕もなかった。妖夢が二人ほど大食らいではないことがせめてもの救いだった。
 妖夢が簡素なハンバーガーをちまちまと齧っているうちに、アルトリアと幽々子は、既に二つ目のハンバーガーに手をかけていた。

「ねえセイバー、これを食べたら、おやつにクレープでもどうかしら。気になってたお店があるのよ」
「クレープ」

 アルトリアが、傍目にもわかるほど瞳を輝かせてその品名を復唱した。この時点で、妖夢は再び財布に視線を落とし、残金の計算をはじめていた。もはや出費は避けられない。

「いいですね。いきましょう、ユユコ」
「流石、あなたならそう言うと思ってたわ」
「ええ。美味しいものなら、私は、なんでも、いいです」


511 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:35:37 YSMw4aqE0
 


 日が西へと傾き始めていた。開け放たれた白玉楼の縁側から、空が焼けるような赤に染まっているのが見える。妖夢は、全員分のどんぶりが食卓に並ぶのを見届けると、己の座布団に着席し、手を合わせた。アルトリアと幽々子も同様に合掌の姿勢を取った。

「いただきます」

 夕飯は、白玉楼の厨房で作られたそばだった。幽々子のそばには、大きなかき揚げが乗せられている。サクサクと小気味よい音を響かせながら、幽々子がかき揚げにかぶりついた。軽い咀嚼ののち、口内の食感が消える前に、そばを啜る。幽々子は今、かき揚げがふやけてしまう前に食べきってしまうことで、きっと頭がいっぱいだ。長年幽々子の傍にいた妖夢にはわかる。今は、妖夢の声も幽々子には届かないだろう。
 アルトリアのそばには、大きな油揚げが乗せられていた。きつねそばだ。油を抜いてから、みりんで味付けされたきつねを、アルトリアは大胆にかじった。きつねに染みこんでいたそばのつゆが、口内で濃厚な味わいとなって広がっているのだろう、アルトリアが分かりやすく頬を綻ばせた。見ているだけで食欲をそそられる表情だと妖夢は思った。
 妖夢のそばには、天ぷらが乗せられていた。海老と、イカの天ぷらがそれぞれひとつずつ。手始めに、海老をかじる。ぷりぷりとした食感が口の中で弾ける。つゆとの相性も絶妙だった。妖夢はにんまりと相好を崩した。勢い付いて、イカをかじった。弾力のある触感が、心地よい噛みごたえを演出している。今、この瞬間、幸福だと、妖夢は感じていた。

「やっぱり一日励んだあとの夕食は格別ね、妖夢」
「はい、まったくです。でも、お二人は別になにもしてませんよね」
「ねえセイバー、そのきつねそばも美味しそうね。私、おかわりするわ。次はきつねそばで」
「いいですね。では、私はかき揚げそばをいただきましょう」
「私の話し聞いてます?」
「聞いてる聞いてる」

 ぜんぜん聞いてる様子ではなかった。既に掻き揚げとそばを平らげた幽々子は、どんぶりにその桜色の唇をつけて、つゆを啜り始めている。アルトリアも同様だった。なにを言ったところで聞こえるわけもないと判断した妖夢は、これ以上の小言はやめておこうと思った。
 妖夢は、あくまで幽々子の使い魔でしかない。幽々子が召喚したサーヴァントとは別で、はじめから幽々子に付き従うように設定されていた、半人半霊の使い魔。それが妖夢だった。幽々子とアルトリアの食欲は目に余るものがあるが、昼間アルトリアが言っていたように、いつ奇襲を仕掛けられるかもわからない中、少しでも平和な時間を満喫しておきたいと思うのは、決して悪いことではないと妖夢も思う。だから、なんだかんだとぼやきつつも、妖夢は二人にこれ以上食べるな、と言うことだけはしないでいた。妖夢には、幽々子の安全と、幸福を守る義務があった。
 二杯目のそばを勢い良く啜り始めている二人をよそに、妖夢は立ち上がった。

「それでは、私はこれで。広間で剣の修行をしてますから、用があれば呼んでください」

 妖夢のどんぶりの中身は、綺麗に空になっていた。厨房の使用人たちに、ごちそうさまです、と告げて、妖夢は部屋を後にした。残された二人は、やはり無言のまま、夢中になってそばを啜っていた。


512 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:41:40 YSMw4aqE0
 


 隙間なく張り合わされた木の床を勢い良く踏み込む足音と、刀を振るたびびゅんと鳴る風切り音だけが、妖夢の鼓膜を満たしていた。もうどれだけここでこうしているか、妖夢自身にも判然としない。やりはじめた時はまだ、窓の向こうの空は微かに陽の光の残滓を見せていた。今はもう、完全に日が落ちている。窓から差し込む月明かりだけが、妖夢を照らしていた。
 妖夢は、時間を忘れるほどに集中していた。しかし、依然として息は乱れていない。
 妖夢には、いかなる敵からも主を守らなければならないという義務感があった。あの剣の英霊だけに、大切な主を任せてはおけないという、使命感があった。いざという時、本当に幽々子を守り通せるのは妖夢自身だという確信があった。
 そもそも元を正せば、幽々子がこの聖杯戦争に巻き込まれたのは、妖夢の責任だ。博麗神社に遊びに行った妖夢が、その帰りがけに白紙のトランプを拾ったことが原因で、トランプの魔力に引きずられる形で、幽々子は月の聖杯戦争に引きずり込まれたのだ。なれば、この戦争で幽々子を死なせることは、巡り巡って妖夢の責任ということになる。それは、マズイ。非常にマズイ。
 だから、なんとしても、幽々子のことを守り通さねばならない。強い思いを剣に乗せて、妖夢は剣を振るう。まだ見ぬ強敵の出現を夢想して、剣を突き出す。何度も、何度も、妖夢はそれを繰り返す。幾度目かの素振りののち、妖夢は、足裏に纏わり付いた汗に滑って、バランスを崩した。

「わっ」

 勢い良く床へ倒れ込んだ妖夢は、咄嗟に身体をひねって、受け身を取った。身体を痛めることなく、仰向けに倒れた妖夢は、大きく息を吐き出した。集中力が途切れると同時に、徐々に息が荒くなっていく。意識しないようにしていただけで、疲労は溜まっていたのだろう。
 ふいに、気配を感じた。敵かもしれない。戦争は既に始まっている。そう思うと、体が一気に強張った。緊迫した思考のまま、素振りに使っていた楼観剣を握り直して、妖夢は飛び起きた。気配の方向へと剣を構える。
 白いブラウスに、青いロングスカートが、青白い月光に照らされていた。薄暗がりの中で、アルトリアは微かに頬を緩めた。

「あ……セ、セイバーさん。いつからそこに」
「はて、いつからでしょう。もう随分とここにいましたが、思いのほか集中していたようなので、声をかけるにかけられず」
「うう、お恥ずかしいところをお見せしました」

 自分の汗ですっ転んだ様を見られたことに気付いた妖夢の顔が、耳まで赤くなる。アルトリアは首を横に降って、立ち上がった。開けっ放しの入り口へと歩を進め、アルトリアは道場代わりに使っていた広間の電気のスイッチを押す。瞬く間に、広間が人工の光に照らされた。

「恥ずかしがることはありません。見事な集中力でした。それに、いい剣筋をしている」
「いや、えっと……あなたにそう言われると、その、少し、気恥ずかしいものがあります」

 妖夢は、アルトリア・ペンドラゴンという英霊を知っている。正確には、幻想郷では知らなかった。ここへ来て、その偉大なる存在を知った。幽々子を真に理解し、守り抜くのは自分である、という思いはあるが、それはそれとして、かの有名なアーサー王に褒められたとあっては、面映ゆさもひとしおだった。

「どうです、ヨウム。よければ私と一戦」
「えっ」
「騎士として、是非、あなたと手合わせしてみたい」
「わたしと、手合わせ」
「はい」

 壁に立てかけていた竹刀を、アルトリアは手に取った。拒否するつもりはなかった。あのアーサー王と、手合わせできる。その純然たる事実が、妖夢の胸を内側から焦がす。じわりと、腋から滲んだ汗が、妖夢のブラウスを濡らして、体に貼り付くのを感じた。体が、火照っている。
 やってみたい、という思いがあった。既に疲労は溜まっているが、その分こちらの方が体はあたたまっている。やってやれない気はしない。

「はい、喜んで」

 楼観剣を鞘に納めた妖夢は、アルトリアと同様に、竹刀をとった。互いに剣士だ、防具は必要ない。広間の中心で、二人は互いに竹刀を合わせた。最初に攻勢に出たのは、妖夢だった。胸を焦がす熱に逆らうことなく、一気呵成に妖夢は攻め込んだ。


513 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:48:54 YSMw4aqE0
 


 既に夜はすっかり深まって、街の明かりがぽつぽつと消え始めている。幽々子は、両手に木で編み込まれたかごを抱えて、道場代わりに使われている広間へと向かった。かごの上には、大きな笹の葉が二枚乗せられている。さらにその上に、海苔を巻いた特大の握り飯が四つ乗っていた。幽々子が握った、塩気たっぷりのお手製おむすびだ。

「あらあら、うふふ」

 道場代わりの広間に辿り着いた幽々子は、両手にかごを抱えたまま、わざとらしく微笑んだ。いや、微笑んだと表現するには些かあからさますぎる、もはや幽々子は、言葉に出して発言していた。
 広間の真ん中で、妖夢が手足を広げて、大の字になって仰臥していた。息は荒く、美しい銀の髪は汗でしっとりと濡れている。妖夢が寝そべっている周囲だけ、床の木板がほのかに濡れていた。妖夢の汗と、体温で蒸されたのだろう。
 傍らにはアルトリアが立っている。幽々子の姿を認めたアルトリアは、小さく会釈をした。

「あらら、妖夢ったらまた随分とまたムキになったのねえ」
「ゆ、ゆゆ……さま……」

 消え入るようなか細い声で、妖夢は主の名を呼んだ。

「いいわよ、寝てなさい」

 なにかを言い返そうとしたのだろう、妖夢はぷるぷると震える頭を僅かにもたげたが、すぐに諦めて、脱力した。ご、と音を立てて、妖夢の後頭部が木の床に落ちる。もはやその程度では大した痛みを感じている様子もなかった。
 幽々子はくすくすと微笑みながら、おむすびを妖夢の口元に押し当てた。妖夢の乾いた唇が、おむすびの塩味を敏感に感じ取ったのだろう、妖夢の体が、小さく震えた。大口を開けて、妖夢はおむすびを齧り、咀嚼し始めた。

「ねえ妖夢、美味しい」
「あい、おいひ……」
「よかった」

 かわいい。
 幽々子は、うつろな瞳のままおむすびを咀嚼しては嚥下し、恐るべき速度で胃へと流し込んでゆくその姿を、愛おしく感じた。

「はい、セイバーも」
「ありがとうございます、ユユコ」

 差し出されたおむすびを、アルトリアも受け取った。幽々子のお手製のおむすびを一口齧る。二口目移行は、早かった。妖夢に負けず劣らずそれなりの速度で、幽々子のおむすびはアルトリアの胃へと収められてゆく。
 よく見れば、アルトリアも僅かに息が上がっていた。妖夢ほど明らかではないが、それでも微かに、鼻から吐き出される空気に勢いがついている。幽々子はにこりと破顔して、自分でつくったおむすびにかぶりついた。

「どう、うちの使い魔は。面白いでしょ」
「ええ。まだまだ荒削りですが、ひたむきで、真っ直ぐで……気持ちのいい剣筋でした」
「うふふ、そうでしょう、そうでしょう」
「おまけに、まだまだ伸びしろがある。よい剣士です。彼女とともに戦えることを、私は誇りに思います」

 途端に、妖夢の頬に、朱が挿した。
 アルトリアから視線を逸らして、妖夢は唇を尖らせた。

「つっ、つぎこそは、わたしが、かちますっ」
「そうですか。ならば、いつでも受けて立ちましょう」

 アルトリアがくすりと笑った。おむすびをすべて平らげた妖夢が、視線を逸らしたまま、ゆっくりと上体を起こした。幽々子は、最後のおむすびを、妖夢の口にねじこんだ。

「ふがっ」
「無理しないで、もう少し寝ててもいいのよ」

 はじめはなにごとか言いたげに幽々子を睨んでいた妖夢だが、すぐに諦念の混じった吐息を一息に鼻から吐き出すと、口にねじ込まれたおむすびを両手で支え、咀嚼を始めた。かわいい。
 この世界において、幽々子は、亡霊としてのあらゆる能力を失っている。死霊を操ることもできなければ、死に誘うこともできない。死霊を見ることくらいならできるのだろうが、それだけだ。今の幽々子は、ただの小娘も同然だった。
 その代わりに、幽々子には、使い魔として妖夢が付き添っている。まだまだ半人前で、未熟者だが、ひたむきで真面目な、誰よりも信頼のおける剣士。
 幽々子は、自分の脳力が失われたことに関しては、それ程悲観してはいない。ひとりだったら話はまた違ったのだろうが、今の幽々子はひとりではない。ともに体験を共有し、戦ってくれる妖夢がいる。見知らぬ世界に飛ばされた幽々子にとって、それはなによりも心強い事実であった。

「さ、もう夜も遅いんだから。お風呂に入ったら、しっかり休みなさいね。あなたには私を守る義務があるんだから」
「は、はいっ」

 食べかけのおむすびを慌てて嚥下して、妖夢は声を張り上げる。胸に支えたのか、妖夢は表情をしかめて、握りこぶしで己の胸元をとんとんと叩き始めた。


514 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:49:33 YSMw4aqE0
 
「セイバー、あなたも」
「はい。ヨウムは私が無事浴場まで送り届けます」
「あら、それは聞き捨てならないわね」
「は」
「うちの子と裸の付き合いだなんて。私もお邪魔しようかしら」
「幽々子様、それ、仲間はずれにされたくないだけでしょ」
「あらら、バレちゃった」
「バレバレです」

 くだらない冗談を言って、こうして笑い合う時間が、幽々子には愛おしい。本当なら、妖夢の師匠を買って出てくれたアルトリアと、こうしてずっと一緒に過ごしていたい。
 幽々子には、聖杯に願う望みなどなにもなかった。ただみんなで生きて、元の幻想郷に帰りたい。ただの、それだけだ。それ以上の贅沢なんて、今となっては、なにひとつ浮かびはしない。
 だから、迷いはしない。聖杯は破壊する。二度とこんなことが繰り返されないように、二度とこの他愛のない平穏が脅かされないように。穏やかな笑顔の下で、幽々子は、確固たる意思で、聖杯の破壊を決定していた。

「ところで、入浴中のおやつはなんにする?」
「えっ、まだ食べる気なんですか、幽々子様」
「入浴中というのがまた乙なものですね。私は、お団子を所望します」
「ええ……」

 アルトリアと幽々子のふたりに肩を支えられた妖夢が、青い顔で両者を眇める。やはり、妖夢をからかうのは面白い。この平穏を、守りたい。幽々子はそう、強く思った。



 
【出展】Fate/Grand Order.
【CLASS】セイバー
【真名】アルトリア・ペンドラゴン
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運A+ 宝具A++

【クラススキル】
対魔力:A
 どのような大魔術であろうと、A以下の魔術は無効化する。

騎乗:B
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなし、それは生きていた時代に存在しなかったものも例外ではない。ただし、幻想種は乗りこなすことができない。

【保有スキル】
カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。
 団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分といえる。

魔力放出:A
 武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。言ってしまえば、魔力によるジェット噴射。この英霊は剣戟はもとより防御や移動にも魔力を働かせているため、あらゆる面で高い性能を発揮している。
 強力な加護のない通常の武器では魔力の篭った彼女の攻撃に耐えられず、一撃の下に破壊されるだろう。

直感:A
 戦闘時、常に自身にとって最適な展開を感じ取る能力。
 研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。


515 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:50:26 YSMw4aqE0
 
 
【宝具】
『風王結界(インビジブルエア)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大補足:1
 セイバーの剣を覆う、風の鞘。
 正確には魔術の一種で、幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。当然相手は、間合いを把握出来なくなるため、特に白兵戦型のサーヴァントに対して効果的である。
 他にも纏わせた風を解放することでジェット噴射のように加速したり、バイクに纏わせて空気抵抗を減らしたり、風の防御壁として利用したり、と応用技も多く披露しており、中々に使い勝手が良い。
 纏わせた風を突きと共に解放することで破壊力を伴った暴風として撃ち出す形での応用もできる。

『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1000
 聖剣というカテゴリーの中では頂点に立つ宝具。
 人造による武器ではなく、星に鍛えられた神造兵器。妖精たちの手で管理されていたが、魔術師マーリンを仲介人にしてアーサー王に預けられた。
 所有者の魔力を光に変換し、収束・加速させる事により運動量を増大させ、神霊レベルの魔術行使を可能とする聖剣。その膨大な魔力は先端以外にも熱をもたせ、結果として地上を薙ぎ払う光の波に取られる。指向性のエネルギー兵器ともいえるだろう。
 星の内海で生まれたこの剣は、この惑星を脅かす外敵の出現時にこそ真の力を発揮すると言われている。

『全て遠き理想郷(アヴァロン)』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:- 最大補足:1人
 セイバーの魔力に呼応し、持ち主に不老不死と無限の治癒能力をもたらす、『約束された勝利の剣』の鞘。
 宝具として真名開放すれば、数百のパーツに分解して使用者の周囲に展開され、この世界では無い「妖精郷」に使用者を隔離してあらゆる攻撃・能力・交信を遮断する、この世界最強の守りとなる。
 しかも守られている側からは攻撃可能であり、更に上記の通り持ち主個人の対象としているため、持ち主本人を操っても、持ち主を洗脳しても、持ち主の能力をコピーしても無意味。

【人物背景】
 おなじみFateの顔、アルトリア・ペンドラゴンである。

【サーヴァントとしての願い】
 マスターである西行寺幽々子と。
 使い魔の魂魄妖夢とともに戦い抜く。


516 : 西行寺幽々子&セイバー ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:50:44 YSMw4aqE0
 


【出展】東方Project
【マスター】西行寺幽々子
【参戦方法】
 妖夢が拾ってきたトランプに巻き込まれて参戦。

【人物背景】
 白玉楼に千年以上前から住んでいる亡霊の少女。西行寺家のお嬢様。
 幽霊を統率できる能力を持っており、幻想郷の閻魔大王である四季映姫・ヤマザナドゥより冥界に住む幽霊たちの管理を任されている。
 性格面では、飄々としておりその真意が掴み辛い。従者である魂魄妖夢は日常茶飯事として、八雲藍や射命丸文ですら彼女には翻弄されている。
 同時に柔和な雰囲気も醸しており、『儚月抄』では当初こそ警戒していた玉兎たちも幽々子に懐いている。
 登場するたびに食い意地の張ったような発言をしており、『心綺楼』では妖夢から渡されるおにぎりを驚異的な速度で食べ続けるという姿を見せた。

【能力・技能】
『死霊を操る能力』『死に誘う程度の能力』『死を操る程度の能力』など。
 文字通り抵抗なく生物を殺す能力。この能力によって殺された者の幽霊は、幽々子の支配下に置かれる為、成仏することが出来ない。
 しかし、月の聖杯戦争においては幽々子の能力は完全に消失している。現在の幽々子は、外見通りのただの少女である。
 
【マスターとしての願い】
 聖杯を破壊して、元の世界に帰る。
 二度とこんな戦いは起こさせない。

【令呪】
 左手の甲に、幽霊を連想させる文様が合計三角。


【出展】東方Project
【使い魔】魂魄妖夢
【参戦方法】
 白紙のトランプを拾ってしまった。

【人物背景】
 冥界の白玉楼に住む剣術指南役兼庭師。種族は人間と幽霊のハーフ、半人半霊。
 性格は何事にも一所懸命だが、それが報われることが少ない。癖のある連中が多すぎる幻想郷では、真っ直ぐ過ぎてからかわれやすい性格でもある。おまけに天然のきらいもある。
 幽霊の側の半身(半霊)は白くて大きな霊体の形。半霊は物体をすり抜けさせることもできるし、硬化させてぶつけることもできる。幽霊の半身を人型に変形させ、人間の半身と共に別々に技を繰り出すことも出来る。
 実は、半人半霊なのにお化けや怖いものを苦手としている。また、日本刀を武器としてだけではなくファッションとしても気に入っているフシがあり、ナイフ派の十六夜咲夜に対して優位を主張している。

【能力・技能】
『剣術を扱う程度の能力』
 長刀『楼観剣』と短刀『白楼剣』を扱う二刀流。
 両方とも生身の人間を斬ることも出来る。体術、妖術は半人前ながらも優れており、バランスが取れている。対象が敵、霊、弾幕、人の悩みであっても斬ることが出来る。
 準備時間があれば短い距離の直線で、瞬間的に移動しつつ斬ることが出来る。これは幻想郷の中でも最高級の速さを持つ射命丸文でさえ、目で追えない程の速度となる。
 しかし、それでも剣の実力はまだまだ未熟。半人前なので、成熟まで日々の修行を欠かさない。


【Weapon】
・楼観剣
 長い方の剣が楼観剣である。妖怪が鍛えた剣と伝えられており、長すぎて並みの人間には扱えない。「一振りで幽霊10匹分の殺傷力を持つ」とあるが、それ以上の詳細は言及されていない。
・白楼剣
 魂魄家の家宝。斬られた者の迷いを断つことが出来る。幽霊に使えば成仏する。
 原理は不明だが、魂魄家の者にしか扱えない。
 尚、白楼剣で幽霊を斬ると成仏してしまうので濫りに使用すると閻魔に怒られる。

【使い魔としての願い】
 幽々子様を守る。
 もっと強くなる。


517 : ◆DIOmGZNoiw :2017/01/29(日) 02:54:17 YSMw4aqE0
投下終了です。
投下後に今更ですが、やはりタイトルは『守護の剣』に変更します。


518 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:00:29 T3THs3ds0
投下します。


519 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:01:45 T3THs3ds0

 ――――――我妻善逸は、ごく普通の男子高校生である。

 齢は十六歳。
 両親はいない。
 いわゆる夜逃げという奴で、幼少のころに両親に捨てられ置き去りにされた善逸は孤児院に拾われた。
 その孤児院はそう大きくも立派でもなかったが、院長である老人はよくしてくれた。
 いや、よくしてくれたという割にはかなり厳しい人物だったが、それでもよくしてくれたと善逸は思う。
 よく殴られたらが、院長は決して善逸を見捨てることは無かった。
 それが善逸には嬉しかった。
 両親は自分を見捨てたからだ。
 彼らが逃げ出す前の晩、善逸はその耳で聞いていた。

 ――――善逸はどうしようもない奴だ。邪魔になるから、置いていこう。

 布団の中でうずくまり、耳を塞ぎながら、今での会話を耳にしていた。
 そして、声で分かった。
 彼らは本気で自分を捨てようとしているのだと、理解してしまった。
 ずっとそうだった。
 善逸はダメな人間だから、誰も善逸には期待しない。
 なにもできないと思っているから、すぐに善逸のことを見限った。
 だから、院長が自分を見捨てずに叱ってくれるのが嬉しかった。
 いや、ほんとに厳しすぎだとも思ったが。殴りすぎだと思ったが。
 それでも、決して見捨てることなく根気よく、自分を育ててくれたことに感謝している。
 感謝しているが……つい昨年、善逸は孤児院を追い出された。
 それはもちろん見捨てられたというわけではなく、要するに「自立しろ」という話で。
 最低限の仕送りはしてやるから、そろそろ独り立ちできるように頑張ってみろ……ということらしい。
 善逸は抵抗した。
 それはもう泣いて喚いて懇願して全身全霊で抵抗した。
 院長が善逸のためを思って言っていることは声から理解できたが、それはそれとして抵抗した。
 死ぬと思った。
 絶対死ぬと思った。
 とにかく全力で駄々をこねて抵抗して……最終的に疲れ果てて寝てる隙に話が全部進んで結局追い出されることになった。
 死を覚悟した。

 ……が、案外どうにかなって今に至る。
 今はバイトで必要な金を稼ぎ、仕送りと共にどうにか暮らしている状態だ。
 バイトはすぐクビになるが。
 なにやってもすぐにクビになるが、どうにか暮らしている。どうにか。
 …………。

「あああああああ待って待って待ってくださいよここクビになったらほんとに死んでしまうぞ!!」

 …………………喚きながら、善逸が建物から追い出された。
 バン、と無慈悲に扉が閉められる。

「うっそぉほんとに!? 一声もなし!? 俺結構頑張ったんだけどそこまで容赦なくクビにできるの!? 人の慈悲が無いのか!?」

 善逸は扉に縋りついてガンガン叩いた。
 泣きわめき、必死に呼びかけた。

「待って待ってもうちょっと雇ってくれよ今月も厳しいんだよ餓えて死んじゃうだろ死んだらどう責任取ってくれるんだよ!」

 それはもう必死に呼びかけ、それが届いたのか扉が勢いよく開く。
 縋りついていた善逸は弾き飛ばされ、尻餅をついた。

「ぶべっ」

 直後に扉が閉まった。

「………………………」

 ……もう扉が開く気配はなかった。

「……うっそぉ……」

 ――――その日、善逸は一人暮らしを始めてから通算三十九回目の解雇通告を受けた。


520 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:02:43 T3THs3ds0


  ◆  ◆  ◆


「嘘だろ……嘘すぎるだろ……これでもう三十九回目だぞ……そろそろ四十回目だぞ……」

 ……善逸は、泣きながら夜道を歩いていた。
 今回クビになったのはファミリーレストラン。勤務期間は一週間。
 最初はホールスタッフに入っていたのだが、接客に対する恐怖から使い物にならないとして就業その日に厨房へ。
 そして不器用なりに厨房でどうにかやっていたものの、本日火加減を間違えて派手な火を出してしまい、それにビビッて暴走。
 色々ひっくり返したり壊したりして、晴れてクビになった。
 ちなみにこれでも善逸的には長くバイトできた部類である。
 一応一週間分のバイト代は支払われるらしいのが救いか。

「よくないよこれ……かなり嘘だよ……またもやし齧って生きて行かなきゃだぞ……まだ十六歳の少年としてあんまりだろ……」

 ぐずりながらふらふら歩いている善逸に、自分が悪かったという考えはとくにない。
 いや、あるにはあるのだが、それに目を向けるとかなり死にたくなるので目を向けないようにしている。
 とりあえず、また節約して生活するしかない。
 その惨めさに善逸が涙した時、目の前を何かが通り過ぎた。

「ギャーーーーーーっ!!!」
「ニ゛ャ゛ーーッ!」

 猫だった。
 一瞬ヤバイ妖怪か何かかと思って本気で死を覚悟したが、ただの猫だった。
 妖怪?
 ……何か、忘れている気がする。
 気がするが、思い出せない。というかそれどころではない。

「おおお前お前お前マジでふざけるなよ今心臓がまろび出るところだったぞ!!
 そしたらお前殺人猫だからなわかっているのか!!
 言っておくが俺の心臓は多分おいしくないぞわかっているのか!!」

 善逸が泣きながら喚き散らすと、猫はそそくさと逃げて行った。
 あとに残されたのは善逸のみである。むなしい。
 ひとまず今日の所はもう帰ろう。
 善逸がそう思いまた涙した時―――――――ふと、聞こえる声があった。

 ――――――――今何か聞こえたな、セイバー。
 ――――――――うむ。微かだが、男の声だったように聞こえる。
 ――――――――どうする?
 ――――――――夜道の一人歩きか。なら、試し切りにはちょうど良いかもしれん。
 ――――――――然り、然り。では行くか。これも聖杯戦争なる運命の妙よな。

 …………距離は遠い。遠いが――――

「せい、はい……せんそう……」

 ――善逸は、その言葉になにか聞き覚えがある気がした。
 セイハイセンソウ。
 せいはいせんそう。
 聖杯戦争――――――


521 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:03:48 T3THs3ds0

「――――っ!」

 ――――――――全て、思い出した。
 じいちゃんのこと。
 鬼のこと。
 鬼殺隊のこと。
 伊之助のこと。
 禰津子ちゃんのこと。
 蜘蛛の鬼のこと。
 毒のこと。
 それから、炭治郎のこと。

「……そうだ、俺、あの時……白い札が降ってきて……」

 蜘蛛の鬼との戦いを終え、毒が回らないように呼吸で抵抗していた時。
 木の葉に紛れて空から白い札が降ってきて……それが額に当たった直後、この世界に送られたのだ。
 懐に手を入れれば、そこには白い札。
 そしていつの間にか握られていた日輪刀。
 同時に、聖杯戦争の知識が入ってくる。
 サーヴァント。令呪。マスター。聖杯……

「……………………あっ、これ死ぬ!」

 善逸は聖杯戦争の仕組みを正しく理解した。
 サーヴァントとマスターが殺し合い、唯一の願望機を求めるバトルロイヤル。
 死ぬ。
 どう考えても死ねる。
 と言うか何より問題なのは、先ほど聞こえた声は聖杯戦争の参加者のそれだろうということで……

「――――おう、いたな。童ではないか」
「いや、よく見ろマスター。あの童、刀と、白い札……それから、令呪まで備えておる」
「ほう。つまり――――参加者か。試し切りにはちょうどよかろうな」

 ――――その参加者が、明らかにこちらを殺す気満々だということだろう。
 現れた二人組は、双方侍のような恰好をした美丈夫だ。
 セイバーと呼ばれた方の男は和服を着崩して刀を担ぎ、マスターらしき方は着流しに刀を一本差している。

「おう、童。サーヴァントを――――」
「ギャーーーーーーッ!!!!!!!」

 善逸は逃げ出した。

「待て待て待て待てどういうことだ早いだろ早すぎるだろあんまりだろ!!!!
 心の!!! 準備とか!!!! あるでしょ!!!!!
 俺は今記憶を取り戻したばかりなんだよもう少し待ってくれてもいいだろ時間をくれ時間を時間時間時間!!!!」
「……おー、見事な逃げっぷりよ」

 全力で喚き散らしながら、善逸は逃げ出した。
 なんかもう色々と無理だった。絶対死ぬ奴だった。
 せめてめちゃくちゃ強いサーヴァントが出てきて自分を守ってくれればいいのだが、まだサーヴァントは出てきていない。

「よし、追うか」
「うむ、然り」
「追わなくていいだろぉぉぉぉーーーーーッ!?」

 そしてセイバーたちは情け容赦なく善逸を追ってきた。
 当然と言えば当然なのだが、とにかく善逸は必至で逃げる。


522 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:04:40 T3THs3ds0

「おかしくない!? 俺なんかした!? しました!? まだサーヴァントも召喚してないのに殺されるとかあんまりじゃない!?」
「適度に痛めつければ出てくるのではないか?」
「おう、そうしよう。ダメならそのまま死ぬだけよ」
「どういう発想をしているんだこの人たちは!!! そんなことしたら死んじゃうだろ!!!!」
「殺すつもりだが?」
「然り」
「ヒィーーーーーーーーーッ!!」
「は、は、は、私は生まれつき人を斬りたくてしょうがない性質でなぁ。かれこれ三十は斬り殺した」
「某など、生前は二百ばかりは斬り殺した。勝ったな」
「殺した数を自慢するのかなり異常者だろ俺こんなのに殺されるの!!!」

 逃げる、逃げる、逃げる。
 向こうも遊び半分なのか、追いつかれてはいないが明らかに余裕そうだ。
 このままでは早晩追いつかれてしまう……と思いつつ、路地を右に曲がる。

「ひぎっ」

 壁にぶつかった。

 ――――つまり、行き止まりだった。

「ぎゃあああああーーーーーーーーッ!!!!!」
「お、行き止まりよな」
「これで逃げられんぞ、童」

 背後にセイバーたちが迫る。
 目の前には壁。逃げることはできない。

「うおおおおお待て待て俺は本当に弱いんだ!! とても弱いぞ!!!
 なんならその辺の野犬にも負けるぐらい弱い!!!
 こんな弱い俺を殺して良心が咎めないのか!!!!!」

 善逸の必死な命乞い(?)に、セイバーたちは肩をすくめた。
 ……答えるまでも無い、ということらしい。

 ――――――あ、死んだなこれ。

 善逸は理解した。
 恐怖と緊張が臨界に達し、意識のブレーカーが落ちる――――――


523 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:05:40 T3THs3ds0


 ――――――――――寸前。


「■■■■■■■■■■■■■■――――――ッ!!!!」
「っ!?」

 ――――獣が、飛び出した。

「セイバーッ!」

 出所は善逸が手に握っていた白い札。
 門かなにかを通るように、ヒトガタの獣が闇を割き、セイバーに襲いかかる。
 その速度たるや弾丸の如く。
 有無を言わせぬ奇襲にてセイバーを掴み、肩を押し、腕を引き、足を差し込んで。
 一呼吸でその背は既に遠く、その突進力が下を向く。
 それは獣のような凶暴性でなお――――あまりにも美しい、“大外刈り”。

「■■■■■■――――――――ッ!!!!」

 受け身は不能。
 反応も不能。
 爆砕音が大地を砕き、土煙が辺りを覆う。

「セ、セイバー! 大丈夫か!」

 相手のマスターが、困惑のままに叫んだ。
 ……土煙が晴れるとともに、最初に見えたのは獣の姿。
 2mをゆうに超える巨体、尖った耳、耳元まで裂けた口に並ぶ鋭い牙、異様に鋭い手足の爪。
 それは形こそ人のようではあるが、明らかに人を超えた獣の姿。
 ―――――奇妙なのは、その獣がまるで“学生のような”服装をしている事だろう。
 ワイシャツと、ボンタンのような幅広のズボン。
 履物こそなく素足のままだが、まるで不良学生のようなそれ。
 獣の姿が人の装いに身を包む、酷くアンバランスな構図。
 その獣が、白い吐息を吐きながらのし、のしとセイバーのマスターへと足を向けた。
 次はお前の番――そういうことらしい。

「ま、て……」

 ……そしてその歩みを止める者が、獣の背後にいた。
 それはセイバーだった。
 地面に叩きつけられ、血を吐いてなお、その男は立って刀を構えていた。

「この程度で、某が負けたと思わないでもらいたいな、バーサーカー……!!」

 獣――――バーサーカーが、セイバーに向き直る。
 セイバーは執念で立っている。
 戦闘続行と呼ばれるスキル。
 システマティックに言えばそれだけのこと。
 だが、それ以上に――――強者と戦える歓喜にて、セイバーは刀を構えている。

「マスターはそちらの少年と遊んでいろ。
 この獣、某が一刀にて切り伏せる……!」
「■■■■…………■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッ!!!」

 応じるような、獣の咆哮。
 善逸はその咆哮から、怒りとも歓喜ともしれない感情を聴き取った。

 ――――俺はお前より強い。

 ――――そのことを証明してやる。

 そんな、酷く野性的な感情。
 呆然とそれを聞く善逸。
 対して、セイバーのマスターは薄く笑みを浮かべて再び善逸の方を向いた。

「遊び相手を見つけたか、セイバー……羨ましいことだが、手は出せん。
 しからば童よ、しばし私の暇つぶしに付き合ってもらうぞ」

 明確に向けられる殺気。
 男がスラリと刀を抜く。


524 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:06:28 T3THs3ds0

 急に起こった色々なこと。
 セイバー。
 セイバーのマスター。
 聖杯戦争。
 バーサーカーらしき獣。
 今向けられている殺気。
 そういった諸々の情報が善逸の中で容量過多となり――――今度こそ、善逸の意識は暗転した。

「む……気絶したのか? なんと臆病な……」

 呆れるセイバーのマスター。
 ふらりと地面に倒れ込む善逸。
 ――――その刹那、善逸は踏みとどまり、その手が鞘に入ったままの刀の柄を握った。

「ぬ――――――――」

 その奇妙な様子にセイバーのマスターが警戒を向けた、次の瞬間。


 善逸の姿は掻き消え、セイバーのマスターの首が飛んでいた。


 ―――――――全集中、雷の呼吸。

 壱ノ型―――――――――――霹靂一閃。

「な、あ――――――――――?」

 目にもとまらぬ抜刀術。
 その一撃を受け、一瞬回転する視界の中で―――――

 ――――――セイバーが再び地面に叩きつけられ、頚椎を折られて消滅する瞬間を目撃し、セイバーのマスターは死んだ。


  ◆  ◆  ◆


「――――――――ハッ!」

 そして、善逸は目を覚ます。
 何があった?
 自分は死んだのか?
 とりあえず地面に寝転がっているのはわかる。
 周囲を見渡す。
 大きな足が見えた。
 見上げる。
 獣がいた。

「■■■■■■■■■■……」
「ア゛ーーーーーーーーッ!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」

 なんか咄嗟にすごい勢いで謝り倒して後ずさった。
 目の前に怪物がいる状況に耐えられるほど、善逸の精神力は強靭ではなかった。

「■■■■……」
「えっなに!? なんなの!!! そんな獣みたいなうめき声あげられてもわかんないだろ常識で考えろよ!!!」
 
 そして逆ギレした。


525 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:07:24 T3THs3ds0

「……………………」
「黙るなよ怖いだろ!!!!」

 ついには(呆れたのか)黙った獣にすら怒鳴り始めた。
 それで一旦落ち着いたのか、肩で息をしながら恐る恐る獣を見る。

「そ、それで、お前が俺のサーヴァントなのか……なんですか?」
「■■■■■■■……」

 どうも肯定らしき唸り声。
 意識を集中させてみると、確かにこの獣に善逸から何かのエネルギーが流れ込んでいる感覚がある。
 まじまじと獣を見てみれば、そのステータスを見ることもできた。
 バーサーカー……狂気の代償に身体能力を向上させるクラス。
 つまり、現在の彼は言語能力を失っているらしい。

「喋れないのか……でっ、でもお前は俺のこと守ってくれるんだよな!? サーヴァントだもんな義務だろ守れよ頼むぞ!?」

 何が何だかわからないが、とにかくバーサーカーは善逸にとっての生命線である。
 とりあえず彼が自分を守ってくれるという確証があれば……と、ふと足元を見る。
 生首が転がっていた。

「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」

 それはセイバーのマスターのものだった。
 当然、善逸は意識を落とした後のことは覚えていない。
 つまりセイバーのマスターを斬ったのが自分だとわかっていない。

「えっこれバーサーカーがやったの!? 素手で!?」

 明らかに素手で掻き切った切断面ではない。
 ではないのだが。

「――――ありがとぉ〜〜バァサァカァ〜〜〜!! お、俺死ぬかと思ったよぉぉぉぉぉぉ!」

 なんかもう、善逸の中ではそういう感じになっていた。
 少なくとも自分がやった、などとは微塵も思っていなかった。

「やっぱりバーサーカーは俺を守ってくれたんだな! そうなんだな!
 ありがとうバーサーカーこれからも俺を守ってくれよぉぉぉぉ!!」

 泣いて喜んでバーサーカーに飛びつく善逸。
 バーサーカーはそれに特に反応を示さず……しかし、ピクリとどこか遠くを見た。

「え、なに、どうしたのバーサーカー」

 善逸も耳を澄ませてみる。
 ……どこか遠くで、剣戟の音が聞こえた。
 つまり――――聖杯戦争の気配。

「■■■■■……」
「え、行くの? 嘘だろバーサーカーあんまりだぞ今助かったばかりなのに死んでしまうぞ確実に死んでしまうぞ」

 のし、とバーサーカーが巨体を剣戟の方向へ向けた。
 しがみついていた善逸の体が揺れる。
 すごく嫌な予感がした。
 ざわざわとバーサーカーの黒髪が揺らめき、大きく息を吸う気配。

「■■■■■■■■■■■■―――――――ッ!!!」
「ぎゃーーーーーーーーッ!!」

 バーサーカーは咆哮し、戦の方向へ駆け出した。
 善逸は手を放して落ちるわけにもいかず、必死でしがみつきながら、本日何度目かもわからない絶叫をするのであった。


526 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:07:38 T3THs3ds0


  ◆  ◆  ◆


 ――――善逸は理解していた。
 この獣は、バーサーカーは、伊之助と同じような人間だ、と。
 いや本当に人間なのかは怪しいが、およそそういう思考回路の持ち主だ、と。
 つまり――――

 ――――――――俺が最強だ。

 ……これだけを胸に、それだけを誇りに、どれだけの敵にも戦いを挑む、獣の在り方。
 バーサーカーは聖杯戦争のあらゆる強者に戦いを挑み、倒そうとするだろう。
 それは修羅の道。畜生の生き方。

 だが、それは酷く恐ろしいが、それでも、善逸はバーサーカーを止められない。
 伊之助を思い出すと同時に、善逸の脳裏に浮かぶ者がいたからだ。

 ――――――――炭治郎。

 諦めるな、と言ってくれた彼。
 悲しいぐらい優しい声で自分を案じてくれる少年。
 彼は心配しているだろうか?
 自分は毒蜘蛛にやられてしまいそうになったが、どうにかこうして生きているよ。
 そう伝えたい。
 彼を安心させてやりたい。だって炭治郎はいい奴だ。
 自分を信じてくれた。応えてやりたいと思う。

 だから、善逸は帰らなくてはならない。
 そのためには、聖杯を手に入れなくてはならない。
 恐ろしい。恐ろしいけれど――――全ての敵を倒して、勝利しなくてはならないのだ。

 …………それに、バーサーカーが伊之助の同類だと言うのなら。
 ここに炭治郎はいないから。
 彼の世話を焼いていた、兄のような彼はいないから。
 炭治郎の代わりに、自分が彼の世話をしてやるべきだと――そう思って、でもやっぱり怖くて善逸の意識はその晩途中で途絶えた。
 気絶したマスターを運ぶのが面倒だったのか、バーサーカーは疾駆を止めて、善逸が気付くと既に朝だった。

「■■■■■■……」
「ひっなんだその目はやめろよ怖いだろ呆れたみたいな唸り声出すなよ!」

 ……彼らの聖杯戦争は、こうして始まったのだった。


527 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:08:19 T3THs3ds0

【CLASS】バーサーカー

【真名】岩田我治@ジュウドウズ

【属性】混沌・狂

【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷A+ 魔力E 幸運D 宝具E

【クラススキル】
狂化:C
 魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、
 言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる。

【保有スキル】
暴狗の雄叫び:C
 獣じみたウォークライ。
 いわゆる丹田呼吸法の亜種であり、急激に血を脚部に集め、強化する。
 使用する度に敏捷ステータスを一時的に向上させる。この効果は累積する。

八破羅式:E-
 鬼神・田中柔蔵を開祖とし、子々孫々に伝えられ各々で特化していった柔道の技。
 剣術の補助を源流とする通常の柔道とは一線を画す、人を倒すことを追求した絶技である。
 バーサーカーはこの術理に精通しているとは言い難く、使えるのは基本技“大外刈り”のみである。
 ――――そして、彼にとってはそれだけで十分となる。

獣稽古:B
 山々を駆け巡り、獣相手に柔道の稽古を続けていた逸話に由来するスキル。
 獣属性を持つ者に対して与えるダメージにボーナス修正がかかる。
 また獣属性を持つ者がバーサーカーの姿、あるいは痕跡などを知覚した場合に“威圧”のバッドステータスを付与する。

【宝具】
『獣道(ケモノミチ)』
ランク:E++ 種別:対人奥義 レンジ:1 最大捕捉:1人
 バーサーカーが唯一使うことのできる“技”。
 暴力的なスピードで突撃し、反応を許さぬ速度で相手を投げ倒す超高速の大外刈り。
 言葉にすればただそれだけだが、常軌を逸した身体能力によって必殺の絶技と化している。
 また、本人のスロースターター気質が宝具の性質として昇華されており、
 この宝具の威力は「経過ターン」「宝具の使用回数」「『暴狗の雄叫び』の使用回数」が増える度に上昇していく。
 上昇した威力は、戦闘が終了することでリセットされる。

 厳密に言えば宝具というよりただの技であるため、魔力消費量が極端に少ない特徴を持つ。

【weapon】
 なし。八破羅村の村人にとって、最強の武器とは無手の柔道である。

【人物背景】
 柔道の鬼児どもが住まう村、八破羅村の山中に居を構える少年。
 身長2m30cmだが、一応17歳の少年である。明らかに人間の体してないけど。
 一日だけ訪れた道場で大外刈りを習うと、「これで十分だ」と全ての門下生を投げ倒して山へ籠った野生児。
 山を駆け回り、獣相手に柔道の稽古をするうち、ついにはその足跡を見るだけで獣たちが逃げ出すに至った。
 彼の技は超高速の大外刈り『獣道』ただひとつであり、常軌を逸した身体能力、特に異常脚力がこれを成立させている。
 かつては名うての“いじめっ子”だったが、ある男に倒され、その後もいじめられ続けた過去を持つ。
 その怨みを晴らすため、その男を倒すために修行を続けていたのだが――――――――

【サーヴァントとしての願い】
 敵を全員掴んで投げる。


528 : 一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:09:03 T3THs3ds0

【マスター】
 我妻善逸@鬼滅の刃

【能力・技能】
『超聴覚』
 常軌を逸した聴覚を保有する。
 これは単に「耳がいい」というだけに留まらず、声から他人の感情や性質をも理解することができる。

『雷の呼吸』
 特殊な呼吸法により、瞬間的に身体能力を飛躍的に高める技術。
 善逸はこの呼吸法により、超高速の抜刀術『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』を使うことができる。
 が、普段はあまりの臆病さによって体が強張ってしまい、使えない。

『失神状態』
 恐怖や緊張が臨界点に達すると、善逸は失神して眠りについてしまう。
 ―――――が、直後に起き上がり、夢遊病患者の如く動きそのまま戦闘を開始する。
 この状態の善逸は無意識で行動しているために恐怖などの余計な感情が存在せず、十全な実力を発揮できる。

【weapon】
『日輪刀』
 太陽光を浴びせなければ殺すことのできない鬼を殺すことのできる刀。
 使い手によって色が変わる性質を持ち、善逸のそれは稲妻のような刃紋を浮かべている。
 恐らく太陽の属性を持つ武器であり、太陽を弱点とする存在に対して有効だと思われる。

『鬼殺隊隊服』
 背に「滅」の字が書かれた詰襟。
 通気性に優れ、燃えにくく、濡れにくく、下級の鬼の攻撃であれば引き裂くことができないほどに頑丈。

【人物背景】
 不死身の怪物・鬼を倒すための組織――――鬼殺隊の新人隊員にして剣士。
 鬼殺隊の剣士はその全てが精鋭であり、優れた能力を持つ……
 …………はずなのだが、善逸は恐ろしく臆病で小心者。
 死にたくない、恐ろしいと恥も外聞もなく泣きわめく生粋の腰抜け。
 緊張が極度に達することでようやく剣士として戦える……
 が、その間は意識を失っているために自分が戦っていると気付けない。
 その癖美人に弱い女好きで、泣きわめきながら結婚してくれとせがんだりする。どうしようもない男。
 しかし、その性根は極めて優しい。
 心理を聞き取る才能を持っていてもなお、人を信じて騙されてしまうお人よし。
 女に騙されて借金を背負っていたところを、師に拾われて剣士として育てられた。
 育ててくれた師に報いるためにも立派な剣士になりたい……のだが、やはりどうしても臆病なのであった。
 それでも、誰かを助けるため、守るために立ち向かう勇気は(少しだけ)持ち合わせている。

【参戦時期】
 原作34話より、蜘蛛の鬼を倒し力を使い果たした直後。

【令呪の形・位置】
 右手の甲に雷鳴のごとき三画。

【聖杯にかける願い】
 炭治郎たちの下へ帰る。


529 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 03:09:20 T3THs3ds0
投下を終了します。


530 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 04:58:01 kVgMQRzs0
投下致します


531 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 04:58:44 kVgMQRzs0


「おい、起きろ」


……自分を呼ぶ、聞き覚えのある声がした。
幻聴でないかという疑いが、まず最初に浮かんだ。
そも誰かに呼ばれるということ自体が、自身とっていつ以来だったかも憶えてない程、長い時間同じ場所で蹲っていた。
とはいえしかし、声を否定することそのものはしない。むしろずっと待っていた。誰かがこの場所に辿り着いたのは、己にとっては喜びだ。
驚いたとすれば、聞き覚えのある声ではあったが、それが誰なのかをどうしても思いつかないことだろうか。
真偽の所在を確かめるため閉じていた瞼を開けて見る。そこで此処が、今までいた場所ではないことにようやく気付いた。

どこでもなく、いつでもない、時間と空間から隔絶された場所。
薄い極光が漂うばかりの、世界の裏側といえる地点だが、永遠に思える時を過ごした場所だ。何もないが、景色ぐらいは憶えている。
今いる所はまるで別だ。何もないという点では同一だが、たまに通り過ぎる同族がいたあそことは違って、此処は本当に何もない。
白に染められた空間。いや、世界を彩る要素を残らず吸い取り漂白してしまった結果として白いのか。
存在が曖昧な元の場所とは逆に、明確に他が遮断されている。地上の何処を探しても辿り着くことはない彼岸の園。

人類の世界という織物(テクスチャ)を剥がした裏にあるんが幻獣の世界であるならば、この地はまさに世界の外に在るもの。
数多の魔術師が追い求め、当然の様に届かない約束の光。理解する必要はない。思考を巡らすまでもなく、その事実は抵抗なく入ってくる。
其れは”真理”。即ち―――――――――


途端、背後から感じた、物質の概念を超えた存在感に身を振り返った。
飾りが剥ぎ取られた、何の変化もない場所。あらゆるものが存在しない世界。
そこにただひとつ、存続が許されたものが置かれている。

巨大な扉だった。壁といってもいい。
真中に割れている線が開閉するものだという証だった。
材質は石ともそれ以外の鉱物ともつかない。面には何かを封じるかのように彫刻が刻まれている。
見ているだけで触れたくなる、それでいて触れ得ざるものという矛盾した印象を与える。
重々しくも荘厳に直立しているそれの隙間には、確かに中身を感じる。
扉の他に続く建造物はない。従って収容できる質量の物理法則に従う必要もない。
この先にある城……さらにその奥に眠る莫大な財宝を守る門のようでもあった。

どうしてこんなものがあるのか。此処は何処なのか。
時間を刻む毎に沸く疑問は増えていくばかりで整理がつかない。
前後の記憶を探ろうにも、裏側に落ちて以降動かずにただ待っていた自分は時間の感覚というものに鈍重になっている。
何か、変化が欲しかった。こうして自分が目覚めたように、状況を動かす一手が必要だ。
今起きていることが未来に待ち望んでいた結果なのか、そうでないのか、せめてその把握だけはしたかった。


532 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:00:09 kVgMQRzs0


「待て……!俺は、どこに行くんだ?」
「それを知るのは着いてからだ。俺から教えられることは何もない。
 ……だが、ひとつだけ答えをやる」

真白な空間が闇に消えて行く。
目が霞み耳が遠くなる。何もなくなる以前の世界に逆戻りする。
その最後に、脳に挿し込まれたように朗々と語る声がした。


「俺はおまえ達が"世界"と呼ぶ存在」


意識が溶けていく中で、ずっとひっかかっていた疑問が氷解していく。


「あるいは"宇宙"、あるいは"神"、あるいは"真理"」


この声にずっと聞き覚えがあった。なのに誰であるかが分からなかった。
それは当然だ。正解は最初から、自らの手で除外していたのだから。


「あるいは"全"、あるいは"一"」


個が生を受けて初めて知る他人。
如何な生であれ逃れられず、目の前に背後に常にあり、されど向き合う機会は意外なほど少ないもの。
そして自分にとっては―――星が頭上に落ちるほどの確率で認識した、硝子に映る像。


「そして」


つまり。



「俺は"おまえ"だ」



おまえは――――――"俺"か。





  ■


533 : 531-532の間に入れ忘れた文章です ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:03:43 kVgMQRzs0



「そいつは、見たままの"扉"だ。現実と真理の地平線に置かれた境界だよ」


胸中の疑問に答えたのは、自分を起こしたのと同じ声。
前を向き直してもやはり誰の姿も何の影も見えない。けれど、変化はあった。
何かが、いる。
透明な空間に溶け込んでいるが、薄黒い靄に包まれる形でとりあえずの輪郭は成している。
手があり足があり胴があり頭がある。見た目の通りであれば人の姿だろう……現状ではまだ生命であるかも怪しいが。
そうして見えた体には、一点だけ欠落があった。
胴の中心部、人間でいえば心臓に当たる部位。そこだけが球状に抉られたている。

……違う。逆だ。胸が抉られているのではない。そこだけが"ある"のだ。
剥き出しになって見える脈動。赤い生命の証。
影も形もないそれに、心臓だけが唯一の実像としてそこにある。
過去の情景が記憶に蘇る。受けた致死の痛みがフラッシュバックし、思わず自分の胸に手を当て確かめてしまう。


「なに?」


それが、決定的な変化だった。
下を向く視線には白い掌が胸に触れている。手から伝わってくる鼓動の懐かしさは、一種感動すらもたらした。
腕も足もあのときのまま。顔は見えないがきっと同じなのだろう。
そこにあるのは■の巨躯ではなく、ありきたりで量産の体。
一瞬で燃え尽きる消耗品、只の電池として生み出された生き人形。
蓄積の一切ないカラの器に注ぎ込まれたのは心臓に雷。わずか5日に過ぎない、人生の全て。種を咲かせた望み。
何もかもあの時と同じ、かつての"俺"のままの姿だ。


「……何の関係もない奴がここに来るとは思わなかったな。関連付ける要素は多々あるが、それでも結びつけるには因子が足りない。
 しかも引き当てるのがよりにもよって奴とはな。まったく―――運が無い、そんな性質まで受け継ぐことはないだろうに」


戸惑うこちらを尻目に声は続く。
腕を組んで頭にあたる部位を頷く動作をし―――おそらくだが、憐憫の感情を宿している。
人の機微を知れるほどの経験もない者が、人であるか疑わしいものに抱くのには間違っているかもしれないが。

相対する存在が現れたことで選択肢が生まれ、変わらなかった世界は動き出す。
時間の概念が生じた場所で、男は取り得る選択を考える。そして一番に聞きたい答えを投げかけた。

「おまえは―――俺の元に、来たのか?」

人が夢の彼方へ辿り着く、それをずっと待っていた。真の平和をもたらす宝を奪い取った邪■に挑む何者かを待ち続けていた。
それが今なのか。それがまず彼の確かめたいことだった。
目の前にいる靄のような姿が、遥かな未来で変容し新たに定義した人類の姿だとしても、それはそれで構わないとも。

「悪いが質問には答えられない。今のお前には俺と語る資格はない」

にべもない拒否。是とも否とも違う、質問そのものへの完全なる拒否だ。

「そして対価もなくシフトしてきたお前に、扉の先は見せられない、悪いが早々に退出してもらおう。
 代わりに通行料は取らないでおいてやる。特例でな」

扉とは、背後にある閉ざされた扉のことか。
幾つか気になる言葉が出るが、次に言おうとするより前に体に衝撃が走る。
引っ張られるような、落とされるような、どこかに飛ばされる感覚。
堪えようとするが踏ん張る地面もなく、凄まじい風に押し流される。幻影が周囲の世界ごと遠ざかる。
飛び立つ羽は消え、手足をばたつかせる抵抗しかできない。急転する事態に"俺"は叫ぶ。


534 : ジーク&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:08:12 kVgMQRzs0





「おい、いい加減に起きな」

……自分を呼ぶ声に目が覚める。
―――夢を、見ていたようだ。


背中に当たる固くて冷たい感触。積もった埃と酸っぱい臭いが鼻を刺激する。
開けた瞳は、汚雲(スモッグ)が覆ってるように暗い空を映し出した。
カビの生えた木製の廃屋の床から半身を起こして、少年―――ジークは記憶する己の役割(ロール)を思い起こす。

住処のないホームレス。家庭のないストリートチルドレンの一人。
搾取と酷使の絶えない奴隷生活を強いられどうにか逃げ出すも手につくものは何もなく、地を這うような暮らしをするしかない。
誰もが人生に精を出す発展の裏で、ごく自然に切り捨てられたに過ぎない最小数。
路地の隅に目をやれば何処にでもいるありふれた地獄。諸国に比べ裕福といわれる現代都市といえど例外ではない。
近代化を遂げた社会だからこそ、こそげ落ちた錆のようにあぶれた落伍者が裏には溢れかえる。
……これがランダムに割り振られたのではなく己の来歴を元に設定したのであれば、実に皮肉が利いてるとジークは思わざるを得ない。
自分が生み出された当初の目的と、敵対した暗殺者の正体が見せた光景。
あてつけかあるいは悪趣味なのか。どちらにせ決して良い気分というわけにはいかない。

さて、目覚めたはいいが、かといってどうするという行動があるでもない。
なにせ何故自分がここにおり、かつここがアメリカ北方のスノーフィールドという地方であるのは知っているのかの理由に検討もつかないのだ。
周囲と見渡す。近くにいるであろう、声をかけて起こしてくれた人物に話を聞いてみようと思って。
……なのに側にいて然るべき姿はどこにも見当たらない。
どうしたものかと途方に暮れているところに、再び声がした。

「こっちだ、こっち。下を見ろ」

生まれて間もない赤子にも聞こえ、最後の一葉が落ちる間際の老人とも取れる声だった。
指示に従い目線を床に這わす。散乱した紙屑、ガラクタに紛れ込んで、果たして声の主は転がっていた。
立っても座ってもない、転がる、というほか表現のしようがないのだ。

丸い球状の硝子。一見すると魔術師が使う遠見の水晶玉であるが、栓で塞がれた注ぎ口からこれがフラスコの一種であると分かる。これも魔術の実験では馴染み深い器具だ。
そして中に収まっているのは―――球のフラスコよりもう一回り小さい黒い球体だった。

「よぉ」


535 : ジーク&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:08:51 kVgMQRzs0


ジークは元はと言えば魔術によって生み出された人造生命―――ホムンクルスだ。常識の埒外にある存在の側であり理解もある。
よって音がフラスコの内から発せられているという事実を誤認はしない。
加えてひとつの確信もあった。体の内部に刻まれた魔術回路に慣れた感覚が繋がっている。
生成された魔力が目の前の球体へと流れていく因果線(パス)を正しく知覚していた。

「―――俺を呼んだのは、君でいいのか?」

呼びかけに応じて、フラスコの中身が変化した。
黒球に表れる二つの白い三日月。一つは上向き、一つは下向きに弧を描き、それぞれが独自の変化を見せていく。
上の月の中に黒点のついた赤い丸が浮かび笑う目に。下は細かな間隔の線が幾度も走り笑う歯に。
子供が無造作に描いた落書きのように戯画的なデザインだ。

「それを言うのなら君の方が私を呼んだというのだがね。それで君が私のマスターか?
 私はキャスターのサーヴァントだ。こんな格式もない召喚だが。宜しく頼むよ」

糊で張り付けた紙にだけにしか見えない月は、視覚と口という器官の役目を十分に満たしているらしい。
喋り出した球状の小人にジークは……特に驚くわけもなく自然に会話を続行する。
実際目にしたことがなくとも魔術的な生物は知識にある。ホムンクルスとて分類ではその枠組みに入っているのだ。

「ああ、そうらしい……待て、これは聖杯戦争なのか?」
「おや知ってるのかい?なら話が早いね。言い方からすると、望んで参加したというわけでもなさそうだけど」

小人は意外だとばかりにその身の半分を占める単眼を更に開かせた。

「……ああ。俺は聖杯戦争は知っているが、この事態に関わった憶えはないし状況把握すらままならない。
 サーヴァントであるならば君の方が知っていることは多いだろう。すまないが、教えてもらえれば助かるのだが」
「ふうん。興味深いね。いいよわかった、道すがら教えてあげようじゃないか。君の方の情報と等価交換でね」

ジークはその身で以て体験とした事実として、聖杯戦争を知っている。
脳にこびりついた未知の知識。なのに既知になっている知識とが混ざって僅かに混乱をきたしていた。
この聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの方が知識は正しいだろう。情報の交換は望むものだった。

「そう言えば……名乗っていなかったな。俺の名はジークという」
「ジーク?『ジークフリート』でなくて?その方が一般的だろうに」

不意に出された名前に、ジークの心臓が一拍だけ高鳴る。
自分を名付けるという普通は起こらない機会、自己を定義するに際しあやかった人物を思い起こす。

「……それは俺の名前じゃない。俺を救ってくれた、俺に新しい命を与えてくれた恩人の名だ」
「へぇ……まぁそのあたりもおいおい聞くとしようか。
 それじゃあ次は私の番か。名前、名前か……そうだな」

ぐるぐると回る靄。不定形で黒い渦を思わせる流れは思考の形態を視覚化したものであるようだ。
やがて流れはぴたりと止まり、単眼を大きく見開いて、

「フラスコの中の小人―――ホムンクルスとでも呼びたまえ」

小さな試験管の中で、ソレはにんまりと口角を釣り上げた。


536 : ジーク&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:09:57 kVgMQRzs0





聖杯大戦―――それは起こり得た可能性の内の中で起きた外典(アポクリファ)。
二度目の世界大戦末期、冬木の大聖杯を奪取したユグドミレニア家とそれを処罰する魔術教会が雇い入れた魔術師の七対七による最大規模の聖杯戦争。
ジーク―――この時点ではまだ何の名称もないホムンクルスでしかなかった彼の役目は、ただの供給。単なる搾取。乾電池。
召喚されたサーヴァントの戦う魔力を契約したマスターに代わって支払い、出し尽くせば廃棄される使い捨て。
だが創造主に反したジークは運命を掴み、聖杯戦争史上例のない異分子(イレギュラー)となり、事態に介入していくことになった。

供給漕から逃げ出すだけで死に瀕していた自分を何の見返りも求めず助けてくれた"黒"のライダー、アストルフォ。
アストルフォに頼まれるまま自分を診断し、どう生きるかという課題を提示した"黒"のアーチャー、ケイローン。
自らの心臓を捧げてまで命を救ってくれた、名にあやかり自分を名づけ、英霊の力をも授かった……今の自分の規範といって過言ではない"黒"のセイバー、ジークフリート。
そして―――最初の出会いから始まり、戦う理由になるまでに自分の中で大きくなった存在……ルーラー、ジャンヌ・ダルク。
数知れない奇跡の連続によってジークは生き、戦い、関わり、最後にひとつの望みを叶えたのだ。
人類全てを変革する第三魔法(ヘヴンズフィール)……一人の聖人が求めた救済を、個人の理由で台無しにする真似で。
代償にその身を怪物に変え、人類の手に届かない裏……幻獣の棲まう世界に旅立ちずっと眠っていた。
いつか自分から財宝を奪いに挑む者を待って。こんな宝も必要のない、無限の星(ソラ)に至る日を願って。






「君、頭が悪いだろ」

簡潔、かつ辛辣な評価だった。

「自覚は……まあ、ある。友人は俺の無茶に事あるごとにバカバカとまくしたてていたな」

腕の中にキャスターを抱え、ジークはスノーフィールドの街中を歩いていた。
フラスコには布を被せて隠しており、外から見る者には占い師が持つ怪しげな水晶玉にでも見えるだろう。

ジークが街を出歩いているのはキャスターにとって最適な陣地を見繕う為だ。
キャスターが陣地を作成し居を構える防性クラスなのを承知しているジークは、陣地にできる土地を探したいという提案を承諾した。
方針は定まってないが、これから何を決めるにせ地盤固めは重要だ。生きるという選択肢を捨てることだけはしないと誓ったのだから。

「折角狭い供給漕(フラスコ)から出て自由になった。その上寿命まで大幅に延びた。なのに仲間のために戦いに戻る?
 馬鹿だよ。愚かだ。理解に苦しむ。しかも何だって人でもないのに人のために戦おうとするのかねぇ」
「俺は何も会ったこともない誰かのために戦ったわけじゃない。身近な誰かを助けたくて、大切な人を信じただけだ」
「それが愚かでなくなんだというんだね。自分の人生を劣った他人に捧げたところでくれるのは上辺の感謝のみだよ。後は都合よく食い潰されるだけ。
 経験がないというのは怖いねぇ、なまじ知識と力ばかりあるから体よく利用されてしまう」

キャスターの知る今回の聖杯戦争の概要と、ジークの体験の聖杯戦争。価値の異なる互いの情報を交わし合うことで、現状をより正確に検証する。
来歴を語り終えたジークに対しキャスターは呆れともつかない表情をした、単眼と口しかないわりに表情豊かに演じてみせるものだが―――。

「又聞きでなんだがね、私には分かるよ。その聖人のやろうとしたことは正しかった。
 不老不死を一部の特権ではなく全人類に施して感情、即ち欲望を薄くすれば争いは起こらない。原初の七罪からも解放される。上手いやり方だ。
 人類を救済には唯一の手段だろう」

私はやろうとは一度も思わなかったがねえ、と笑いながら付け足す球体。
饒舌なキャスターの語りの大半は嘲りや皮肉の混じったものだ。
曰く人は脆い、曰く人は愚かしい。
遍く他を見下した物言いは、歴史に名を刻んだ偉大な英雄故の傲岸さ―――とは解離した理由から。
人類とは根本から種の樹形図を異とした、別種族から見た視点だ。


537 : ジーク&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:10:58 kVgMQRzs0


「それは……」

竜の胸に生じた僅かな不快を声に出しかかる。
その言には、少なくとも一部には正しさがある。人間は誰しもどうしようもない醜さを内面に抱えており、僅かな秤の傾きで表層にこぼれてしまうのだと。
ジャック・ザ・リッパー―――社会の闇が自然に産み落とした堕胎児の怨霊で構成されたサーヴァント。
親に世界に認知されんまま殺人鬼の伝説に統合されてしまった犠牲者達を思うたび、これを許容する世界に疑問を抱いてしまう。

もう一人の聖人、掟破りの第二のルーラーである天草四郎時貞。彼は一切の私心なく人類救済を求めた。
同胞を鏖にされる凄惨な最期を迎えながら、人を憎まずに遍く救おうと願った少年。
その骨子にあった信念、執念の強固さは、他のサーヴァントを抑え込み願望の成就一歩手前、いや完遂にまで至らせた。
彼は何かを間違えていた。人類全体に拭えぬ不信を抱いていた。……しかしその願いは紛れもなく万人に共通のものだ。
その希望を奪い取り、永遠に持ち去ってしまったのはジークだ。救われた筈の人々を切り捨てたに等しい行いには、邪悪の誹りを免れまい。


何のために奪ったのか。
何を信じて、誰もが争い嘆く歴史に終止符を打てた光を呑み込む罪を背負ったのか。
決まっている。そう望んだからだ。

ジークは大聖杯を強奪した。つまりは所有者だ。ものにした以上そこには管理の責任が発生する。
自分の所有物を放って別世界に向かいそのまま帰って来ないなど無責任にも程がある。社会に疎いジークにもそれは分かる。

あるいは永劫孤独なまま彷徨う時から解放されたのは幸運かもしれない。
今一度人としての生を謳歌するチャンスと受け取ってもいいと考えようもある。
現世に残した同胞と、今も謳歌してるであろう友人との再会。ジークが生まれた世界に帰る、そんな希望も叶うことに魅力がないわけは、なかった。

あれは、俺(ジーク)の望みだ。
誰に強制されも請われてもいない。むしろ反対する者の方が多いはずだ。
善を迷い、悪に疑い、「それでも」と前進して、その果てで己が成し遂げたいと願って、やりたいと望んだ。
……同じように悩みながらも希望を信じて聖女を見て、邪悪を背負おうと決められたのだ。

その望みを放棄することをジークは認められない。妥協を許せない短い人生だったから、自分を偽ることも騙すこともできない。
ジークはやはり生きたいのだ。閉ざされた硝子(フラスコ)から抜け出そうとしたあの頃からずっと持っていた熱。
獲得した生を、むざむざ散らすことはしたくはない。そして少なくともその一点だけは、奇妙な姿のキャスターと共通できる感情のはずだ。


―――私はこの姿では一切の魔術は使えない。無論、攻撃手段も持ち得ない。
   戦力として見れば変身しない君より弱い、正真正銘最弱のサーヴァントというわけさ。


運んでいる途中、腕の中に収まった小人はそう言った。
厳然たる事実だけを述べる口調。端に微かに乗る自嘲の色。笑う顔はこの時ばかり、その身よりも暗く翳りを覗かせた。
そこから出られはしないのかと、その時そう訊いた。


―――出られない。正確には出た瞬間私は死ぬ。こんな狭い世界でしか生きられないほどに、私の基盤は脆弱なのさ。


宣言は自ら腸を暴くのにも等しい重みだろう。
マスターが器を持ち宙に上げて手を離せば、それだけで自分は終わってしまうのだ。
重さを感じたのは、それを聞いたジークも同じだった。
閉じた箱に詰められている。いつ終わるとも知れぬ存在。生死の自由を、存在意義を他に握られている。
その苦痛に。その絶望に。彼は何を選んだのだろうか。


538 : ジーク&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:11:44 kVgMQRzs0



―――私は自由が欲しい。


狂おしいほどの熱がこめられた声だった。
切実なほどに求め欲したものが出せる声だった。


―――これから作る錬成陣は私の宝具の発動条件だ。これを使って、私はようやく人並みに動く体を手に入れられる。自由を得ることができる。
   そのためには君の協力が必要だ。他者(きみ)の手で陣を描いてもらい、君の血をもらう必要がなる。


懇願なのか。命令なのか。要請なのか。
マスターの情に訴えているのか。騙しおおす算段を立てているのか。
彼は人ではなく、同種ではない人間の命を軽く見ている。
目的のために魔術師が自分達(ホムンクルス)を使い潰すのと、立場を逆にしてまったく同じことをするのに躊躇しないだろう。
影の胸中を窺い知る術は持たない。分かるのはただ、自分は求められてるということ。

魔術師の英霊とは、ジークにとっての始まりと終わりの要素を内方している。
あの日、キャスターとそのマスターがゴーレムに魔術回路を組み込む素材に自分を指ささなければ、明白な自我を獲得する機会は訪れなかったかもしれない。
そして指名された以上、いずれ遠からず回路を剥がれ肉は廃棄される運命。あの数度時計の針が刻む間に逃げなければジークの命はなかった。

だからだろうか。ホムンクルスでありながらジークは魔術にあまり好い印象を持っていない。
目的のために手段を選ばず。自分達の創造主もそうした典型的な性質の魔術師だった。……後の間抜けな態度から印象はだいぶ変わってるが。

陥れるための甘言、その可能性はある。
本当はこちらに大して意識を向けてはいないかも……。
しかしジークは重ね見てしまった。フラスコの中に閉じ込まれている小人と、かつての供給漕の己の姿を投影してしまった。
自由のない絶望。その檻から抜け出せた喜び。
その時の感動を知っている。普通の命にとってはあまりにちっぽけな願いを叶えてくれた、小さな奇跡への感謝をいつまでも憶えている。

無作為な非道を認める気はない。戦いに必要な犠牲だとしても、簡単に割り切れはしないだろう。
救える命、助けられる数には限度がある。だからせめて今は手が届くこの小さな相棒に。
幾多者英霊に渡してもらった命のボタンを、自分もまた他者に渡せるのなら。
ジークは既に、キャスターの力になると決めていた。



「……そうだな。なら、俺は生きなければな」
「ん?待て、何故私の話を聞いてそんな結論になるんだ?」
「何でもない、こっちの話だ。それより地脈は見つかりそうか?」

放逐された異界の空気に晒されていても、自分は変わることはなかった。
こんな望みを抱いていられる。希望を持っていられる。
それが、ジークにはとても嬉しかった。


539 : ジーク&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:12:35 kVgMQRzs0




【クラス】
キャスター

【真名】
フラスコの中の小人(ホムンクルス)@鋼の錬金術師

【ステータス】
筋力‐ 耐久‐ 敏捷‐ 魔力A+ 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 "工房"を上回る"神殿"を形成する事が可能。

道具作成:EX
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 ホムンクルス、キメラ、錬金術の粋である賢者の石すらも制作可能。

【保有スキル】 
真理の智慧:A
 "世界"、あるいは"全"にして"一"、即ち"真理"から得た知慧。
 英雄独自のものを除く、ほぼ全てのスキルにB〜Aランク相当の知識を保有する。
 キャスターには確たる肉体がないため実践が出来ず、知識を他者に伝授するに留まる。
 宝具により"容れ物"を得ることで、魔術スキル等を実際に発揮できる。

魔術:EX
 多様な魔術様式を始めから"知っている"。
 主に使用するカテゴリーは錬金術。技量は物質のみならず魂の変換にまで及ぶ。

脆弱:A
 完全なバッドスキル。
 容れ物(フラスコ)から出てしまえばキャスターは即座に消滅してしまうほどに脆い。耐久判定に常にマイナス補正が入る。
 この装備(スキル)は外せない。

【宝具】
『小人の王国は硝子(フラスコ・キングダム)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1、1〜99 最大捕捉:1人、1000人
 かつて小さなフラスコの中でしか存在する事が叶わなかったホムンクルス。
 それが肉体、国家と範囲を大きくしていった逸話による宝具。
 ホムンクルスの本体を外界から保護する容れ物という"動く結界"である。
 初期は小さなフラスコで、肉体の情報(主に契約したマスターが対象)を得て肉体に変化する。
 そこから作成した結界と連結することで、結界そのものをホムンクルスの"容れ物"として扱うことが出来る。
 結界内はキャスターの体内も同然で、土地の地脈から大量の賢者の石を生産するだけでなく、内部の状況を監視、大規模魔術の行使、
 マナを支配して敵の魔術を使用不能にする事も可能。

 ……本来の使用法は、結界内で大量の生命(魔力)と触媒となる"人柱"を用意し"ある術式"を発動させることにある。
 あらゆる意味でこのサーヴァントの要と言える宝具。
 
【weapon】
『賢者の石』
錬金術(魔術)の効果を大幅にブーストできる赤色の物質。
結晶体である場合が多いが流体でも質に差は無い。キャスターが謹製する七つの大罪になぞらえたホムンクルスの核・燃料源にもなる。
その正体は生きた人間の魂の凝縮エネルギー体であるが、魔力の凝縮体という形であればスキルの範疇で作成可能。


【人物背景】
偶然によって生み出され、血を分けた兄弟に名前と知識を与え、狭い世界の中でしか生きられない身を疎み、
自由に動ける体を求め、国を生贄にして体を得て、それでも兄弟には同じ等分の命を与え、やがて更なる野心を抱き、
糧にするために一から国を造り、多くの犠牲者を生み出し、感情を切り離して生み出した道具に父と呼ばせ、
神の力を取り込んで思い上がり、道具である子に裏切られ、見下していた人間の団結に敗れ去り、
最期は元の世界に還される事に絶望しながら消えた。
まるで人間のようなホムンクルス。

【サーヴァントとしての願い】
完全な自由を得る。

【基本戦術、方針、運用法】
陣地確保が肝となるキャスターらしいサーヴァント。長所も短所も一般的なキャスタークラスのそれに沿っている。
利点として知識に優れ、手駒が多く、魔力を効率よく多量に集められ、再生力が高く、結界内であれば無類に強い。
逆に対魔力持ちが天敵。容れ物が壊れると即消滅するし、場合によれば躊躇いなくマスターを裏切る。使い魔も時にサーヴァントを裏切る。
今回は誕生当初の多感な時点での現界。関係を築くのは大変難しいが、ジークについては現状比較的には好意的。


540 : ジーク&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:13:59 kVgMQRzs0





【出典】
Fate/Apocrypha

【マスター】
ジーク

【マスターとしての願い】
元の世界(幻獣世界)に戻り、聖杯に辿り着く誰かを持ち続ける。
【weapon】

【能力・技能】
一級品の魔術回路。物質の組成を解析・魔力を流し破壊する『理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)』他通常の魔術は扱える。

"黒のセイバー"ことジークフリートから竜の心臓を授かったことで、3分のみジークフリートに変身する特異令呪『竜告令呪(デッドカウント・シェイプシフター)』を。
"黒のバーサーカー"ことフランケンシュタインの雷を受けたことで第二のフランケンシュタインと化し、
自分や周囲から漏れる魔力を効率よく回収し蓄積する『乙女の貞節(ブライダル・チェスト)』、自分諸共雷を落とす 『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』を受け継いでいる。

その代償に肉体を失い■と化していたが―――今は元の姿に戻っている。

【人物背景】
使い捨ての供給装置として生み出され、偶然によって意思を持ち、己の運命に絶望しながらも反抗し、
奇跡ともいえる出会いによって命を繋ぎ、恩人にあやかって自らを名づけ、兄弟を救うため戦場に向かい、
英雄として戦う力を得て、聖女と、英雄と、人間と、殺人鬼との出会いで感情を育み、
世界の救済のために怒りを捨てた聖人を愛する者を喪った怒りによって討ち、
最期は自らの体を捨て、人間を信じながら別の世界に消えていった。
人間になりたがったホムンクルス。

【令呪】
竜刻令呪と同様、竜の紋様。しかし形状に些かの変容が見られる。
それはさながら、自らの尾を噛む蛇(ウロボロス)のように。

【方針】
無闇な犠牲、戦う意思の無い者を倒す事は避けるが、キャスターの願いは叶えてやりたい。


541 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/01/29(日) 05:16:52 kVgMQRzs0
投下終了です


542 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:46:17 sC6pzPcY0
投下します


543 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:46:42 sC6pzPcY0
1944年 ベルリンの地で、一人の男の野望が潰えた。
男の名はアドルフ・ヒトラー。
彼は人の進化を歴史的大変動に求め、第二次世界大戦を引き起こしたという。
その最後の成就に、ベルリン陥落の際に、市民が避難した下水道への注水を命じた。

また一説によれば、大量に人間を死へと追いやるという人に為し得ぬ行為を行い、世の人々の憎悪を一身に浴びることで、人を超越した存在になろうとしたともいう。
その最後の仕上げが、己にとって大切な、守るべき対象で有るベルリン市民を殺戮する事だったとも。







運命の女と無数の異形が見守る中、二つの影が激しくぶつかり合っていた。
銀の鎧武者と紅い魔人との死闘は、魔人の剣を鎧武者が折り、奪い取った切っ先で魔人の胸を貫くことで終わった。


無数の人と妖物の骸が地を埋める街並の上空で、二つの美が最後の相剋を繰り広げていた。
蒼穹が人の形をした夜に切り取られたかの様に黒く、地に落ちる影の形ですらが美の極致にある、黒の魔人と黒の魔人との死闘は、初めて出遭った日に首に巻かれていた運命の糸を以って決着がついた。


斃れた者の名と姿を知り世界は安堵した、滅ぼされずに済んだから。
生き残った者は、一人は『蛇』に祝福され星の外へと去り。
一人はそれまでと変わらぬ─────波乱に満ち、無数の魔戦を戦う生を送った。

そして蛇は、新たな地に根を伸ばしに赴き─────あるものを拾った。


544 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:47:09 sC6pzPcY0
「落とす首が一つ増えた」

樹々が鬱蒼と茂る森の中に召喚されるなり、此の地に住まう全ての命ごと、マスターとサーヴァントを殺し尽くそうとしたアーチャーは、マスターの話を聞き終えると、そう呟いた。
年若い男の声だ。只の人間の声だ。それなのにアーチャーの声が響いたと同時、全ての生き物が─────否。そよいでいた風ですらが止まったのだ。
まるで天上の音楽神が魂を傾けて爪弾いた竪琴の調べを思わせる男の美声を聞いた瞬間に。
声の主たるアーチャーは一言で形容出来る─────万言を費やしても形容出来ぬ男だった。
アーチャーを語るには只の一言。『美しい』と語ればそれで済む─────その美しさは時が終わるまで語り続けても語り尽くせまい。人には所詮天上の美を語ることなど出来ぬのだから。

己のマスターが語った事柄は、アーチャーの気を引くに充分な内容だった。
進化を齎す為に、周囲とは異なる─────異界とも呼ぶべき環境を創り出し、その中で果て無き闘争を行わせる。
その環境に順応し、繰り返される闘争に勝ち残った者は、もはやそれまでの種とは異なる存在となる。
その存在同士で覇を競い、勝ち残ったものが次のステージへと進み、旧き種を滅ぼして、新しい種の時代を齎す。
アーチャーが生き、戦い、果てた『街』と、それは同種と言える存在だった。

共に肩を並べて戦い、共に同じ理想を追い、そして遂に道を同じくすること無く、何方かが消えるしか無かった二人の男。
勝ち残った一人に『進化』への果実を齎す女
アーチャーの生涯をなぞったかの様な、マスターの語る二人の男の物語。
進化を求めて止まないアーチャーにとって、到底無関心ではいられない、そんな話をマスターである男は語ったのだった。

「アイツをどうするつもりだ?」

話終えた後、アーチャーの言葉を聞いたマスターが訊ねる。
本当に解らないのか、それとも見透かした上で聞いているのか、アーチャーには判別出来なかったが、興味深い話を聞かせてくれた礼として、答えてやることにした。

「殺す。僕が新たなステージに進む為に」

短い言葉に凄まじい質量の殺意を込めて、アーチャーは宣言した。
屍を積む程に、死を撒く程に、死の具現として恐れられる程に。
その屍が世の人々から愛され、慕われ、その死を嘆くものが多い程に。
その屍が己にとって大切な、掛け替えのない存在である程に。
その屍が己にとって死力を尽くさねばならぬ強敵である程に。
アーチャーの進化の階梯としての価値は高まる。
アーチャーが生前に求めたものを得て、更なる進化のステージへと進み、神とも呼べる存在になった者なら、アーチャーの進化の為の贄としては、それこそアーチャーの幼馴染を越えるかもしれない程の最上のもの。
此れを見逃すなどという選択肢をアーチャーは持たぬ。


545 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:47:35 sC6pzPcY0
「出来るかな」

面白そうなマスターの問いに対するアーチャーの答えは、短く奇怪なものだった。

「勝てないな、今のままでは」

「今のままでは…ねえ」

アーチャーは何処か遠くを見る眼差しをマスターに向けた。

「生前果たせなかった進化の為の行為。それを行えば勝てる様になるかもしれない」

そう言った自身のサーヴァントに、蛇は薄ら寒いものを感じた。
蛇がアーチャーに二人の男と一人の女の物語を語ったのは、アーチャーが現れた際に、その記憶を繋がったパスより読み取った結果だ。
その物語がアーチャーの気を引き、アーチャーが行う殺戮を止めることができると踏んだ為だ。
蛇には聖杯戦争に対する展望は無い。
精々が自分が過去無数に行い、そして未来に無数に行う行為。唯一無二の資格を巡っての殺し合い。
それとシステムを同じくする闘いの結果を見届けたいだけだ。
ひょっとすれば、勝者は新たな進化のステージへと至るかも知れないのだから。
そう思う蛇の元に、鳥が飛ぶ様に、魚が泳ぐ様に、進化を求め、その為の破壊も厭わぬ精神の持ち主が現れたのは当然と言えるだろう。
しかし、このアーチャーの精神は蛇が今まで関わってきた者達の中でも群を抜いて凄烈だった。

“全ての生命に課せられた絶対的運命。進化による淘汰。破滅と再生”
だが、このアーチャーが淘汰するのは自分以外の全てだ。
“破壊無くして創造はない。古い世界を生贄にすることでしかお前たちに未来はないんだぞ”
だが、このアーチャーは己以外の全てを生贄にして、自分だけが未来を掴むだろう。

アーチャーは嘗ては人間だった。一つの世界の中で生きる、限り有る命の存在だった。
しかし今アーチャーは複数の世界へ赴く術と、朽ちぬ肉体を得る術を知る魔人だった。
アーチャーが聖杯を手にすれば、尽きぬ命を以って数多の世界の生物を殺し尽くし、己という種だけの未来を掴むだろう。
蛇は無限ともいうべき屍が積み重なって出来た山の頂きに立つアーチャーを幻視した。


546 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:48:01 sC6pzPcY0
星の全てを鋼と変えた者達とも。
激変した環境に適応できぬ者達を切り捨てる決断をした王とも。
理想とする世界の為に既存の世界を破壊しようとした男とも。
既存の世界を傷つけることを厭い、苦難の道を選んだ男女とも。
その全てと異なる心を持ち、蛇の存在と所業を肯定し、進化による新しい種の誕生と、その為の破壊を最悪の形で行うのがアーチャーという存在だった。

アーチャーが聖杯を手に入れれば全ての世界の生有るものは死に絶え、アーチャーが唯一人の超越生命体(オーヴァーロード)として君臨するのだろう。
それは蛇にとって好ましく無い事態だった。進化を促す生物が居なくなれば、蛇の存在意義が潰えるのだから。
だが、それとは別なところで、蛇はこのアーチャーを忌避する感情があった。
蛇の試練によって滅びの途を辿った種族を悼み、蛇の試練よりも過酷な途を選んだ男を祝福した記憶が、蛇にアーチャーを忌避させるのだ。
しかし蛇はアーチャーを拒めない。進化を目指し、その為に破壊を行うことは、蛇が過去無数に行わせてきたことなのだから。
蛇は聖杯戦争に関わるつもりは無い。アーチャーを掣肘する意思も無い。アーチャーには自由に振舞わせよう、そう思った。


547 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:48:32 sC6pzPcY0
「詰まら無い相手だ」

薄暗い街角で、アーチャーは誰かに話し掛けた。

「英霊などというからどれ程のものかと思えば、僕が生きた街に居たサイボーグや妖物の方が遥かに面倒な相手だった。こんな者達が相手では聖杯とやらは容易く手に入りそうだ」

そう言ったアーチャーと、全身から夥しい血を流して膝を付く、左腕の無い壮年の男との目線が合った。
男はサーヴァントだった。志有るマスターに従い、殺戮を旨とする者達と、この聖杯戦争の主催者を討つべく行動していた処。
この路地裏で凄まじい殺気を垂れ流して居る存在に気付き、聖杯戦争に乗った者として討とうとし、主従共々返り討ちにされたのだった。
そして主は宙で、サーヴァントは地で動きを封じられ、アーチャーに命運を握られている。

「痛みで止まる。失血で止まる。肉体が損壊すれば止まる。実に下らない、僕が生きた街では胴を両断されても牙を剥く犬が、斬り落とされた腕が尚も爪を立てる屍喰鬼(グール)が、
内蔵全てを失っても止まらぬ薬物中毒者(ジャンキー)が、両手足を切り離されても空を飛び、胴体に内蔵された火器で戦うサイボーグが居た」

そう、アーチャーが呟くと、宙の男の右腕がズレ、鈍い音を立てて路面に落ちた。
激痛に叫ぶ男にアーチャーは微笑んだ。

「上を見たまえ、君の主の命は今から散る」

信じ難いことが起きた。両腕を失った激痛に苛まれるサーヴァントがアーチャーの微笑を見て、痛みを忘れて恍惚となったのだ。
無理もない。アーチャーの持つ、中天に座す太陽ですら霞む自ら輝くが如き美貌、
美を司る神が、己が権能の全てを費やし、己が不滅の命を投げ打って創造したかの様なその美しさ。
サーヴァントの眼には、薄暗い路地裏がアーチャーが存在しているというだけで輝きに包まれている様に見えた。
陶然と蕩けたその顔は、サーヴァント目の前に鈍い音と共に肉塊が落ちるまで続いた。
愕然と頭上を見上げるサーヴァントの視界に映ったのは、10mの高みで、何も無い虚空に逆さ磔にされて、右の胸部から夥しい血を流す二十過ぎの女の姿。右の乳房を切り離された己がマスターの姿だった。

「貴様…」

火を吹く様な視線をアーチャーに向け、憎悪と共に絞り出した声に硬い音が重なった。
路面に白いものが転がっていた。慄然と見上げた視線の先には限界以上に口を開けたマスターの顔。口から赤い線が、目元から透明な滴がサーヴァントの顔に滴り落ちる。
如何なる手段を用いたのか、アーチャーは地に両足を着けたまま、上空の女の歯を引き抜いたのだった。

歯が全て引き抜かれ─────止めろ。
舌を切り刻まれ─────止めろ。
耳と鼻が無くなり─────止めろ。
四肢を寸刻みにされ─────止めろ。
細切れになった内臓が肛門と口から溢れ出た─────止めろ。

マスターが四肢と両目以外の全ての顔のパーツを失った頃、叫び続けたサーヴァントの喉は潰れていた。
アーチャーが敗者の哀願など、踏み潰した虫の鳴き声よりも意に介さぬことは判っていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。

「許さん……許さんぞ貴様」

血涙すら流して憎悪を口にするサーヴァントを見て、アーチャーは満足気に頷いた。

「力が高まっている。やはりこの地に現れた者共は僕の糧か」

生涯最後の日に行った大殺戮。それにより得る事が出来ただろう結果を此の地で得る事が出来る。それが判っただけでも充分過ぎる。
最早如何なる関心も無くしたのアーチャーが踵を返すと、サーヴァントとそのマスターの女の首が同時に胴から離れて地に落ちた。

「待っているが良い。せつら、葛葉紘汰。僕は此の地でお前達を越え、お前達の前に立つ」

魔天の頂を目指し、叶うこと無く地に堕ちた魔王は、今ここに再び階梯を昇り出す。


548 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:49:05 sC6pzPcY0
【クラス】
アーチャー

【真名】
浪蘭幻十@魔界都市ブルース 魔王伝

【ステータス】
筋力:D 耐久:B+ 敏捷:A+ 幸運:D 魔力:C 宝具:EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


【保有スキル】
魔人:A
人界に出現した異界とも言うべき“魔界都市”で、畏怖された者達。
アーチャーは“魔界都市”でも最上位に君臨する魔人と覇を競った為に最高ランク。
ランク相応の反骨の相と精神異常と心眼(偽)の効果を発揮する。

美の化身:A+++
美しいという概念そのものを体現したかのような美。凡そ知能有るものならば確実に効果を表し魅了する。美貌というだけで無く存在そのものが、地に落ちる影すらが“美しい”。
肉体の美に関するスキル全ての効果を内包する複合スキル。
Aランク未満の精神耐性の持ち主は忘我の態となる。Aランク以上でも判定次第では効果を表し、アーチャーが微笑みかける等の働きかけを行うことで効果を増す。
このスキルで魅了されたモノに対しアーチャーはA+ランクのカリスマ(偽)を発揮できる。死ねと言えば死ぬし、殺せと言われれば殺す。最早呪いの域に達した美貌。
再現不能な美しさの為アーチャーの姿を模倣したり複製を作ることはことは不可能。作成した場合は大きく劣化し、時間経過と共に崩壊する。

頑健:B
体力の豊富さ、疲れにくさ、丈夫な身体を持っている事などを表すスキル。
通常より少ない魔力での行動を可能とする。

戦闘続行:C+++
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
胴体に右腕が着いているだけ、という状態でも最後の一糸を放つことが出来る。
アーチャーの執念と併せれば、絶命していても一度だけ攻撃可能。


549 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:50:09 sC6pzPcY0
【宝具】

我が殺意は静寂に満ちて(ホロコースト)
ランク:E 種別:対国宝具 レンジ:1-∽ 最大補足:∞

1m程の長さの妖糸を大量に散布。風に乗せて飛ばすだけのもの。妖糸は風に乗ってどこまでも飛び、あらゆる隙間から侵入し、あらゆる守りを貫いて、触れた生き物全てを斬断しながら飛ぶ。
生涯最後の日に行った殺戮の再現であり、後述の宝具と併せる事で真価を発揮する。


魔天の頂へと至る鮮血と屍の超越階梯(再演・ベルリンの狂気)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身

嘗てアドルフ・ヒトラーが試した狂気の行為。大量殺戮を行い、人を超越し超人へと至る行為を己が身で再演する。
屍を積み上げ、世の人々の憎悪を哀しみをその身に受ける程に、アーチャーの霊基は強固になり、霊格は上がってゆく。
殺害対象が世の人々に惜しまれ、愛される者程。己にとって大切な者程。殺害する、若しくはアーチャーを憎悪する者の“格”が高ければ高い程、向上率は上がる。
もし此の地に顕現した英霊全てを倒せば、アーチャーの霊格は神域に到達するだろう。

【weapon】
妖糸:
1000分の1ミクロン。一nmという極細のチタン鋼。その細さの為視認は不可能。高ランクの視覚に干渉する妨害を無効化するスキルや第六感に類するスキルが無ければ存在事態に気付けない。

切断や拘束といったものから、身の回りに張り巡らせての防御。足場にしての空中浮遊。広範囲に張り巡らせて行う探知。糸を以って生者を操る人形使い。死者を操る死人使い。
糸を一度付けた相手は身体の状態や感情に至るまで具に知る事ができ、糸を以ってすれば空間の歪みや空気成分、果てはキャッシュカードのデータまで読み取れる。
気流に乗せて飛ばすことはおろか、気流の流れに逆らって飛ばす事も、糸を捩り、元に戻る反動を利用して飛ばす設置系トラップとして使用することが可能。
アーチャーの由来は此処に有る。
妖糸は魔力に依り幾らでも生成可能。生前は小指の先に地球を一周する分を載せられる事が出来たという逸話から、精製に必要な魔力量は極めて微量。

【人物背景】
人類を進化させる為の実験場とも言われる魔界都市〈新宿〉に於いて進化の鍵と〈新宿〉の覇権を賭けて戦った魔人の片割れ。

【方針】
サーヴァントと戦った上で惨殺し、魔天の頂へと至る超越の階梯(再演・ベルリンの狂気)の糧とする。
最終的には主催者とNPCも全て殺害する。


【聖杯にかける願い】
受肉と異なる世界への移動。


550 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:50:51 sC6pzPcY0
【マスター】
サガラ@仮面ライダー鎧武

【能力・技能】
瞬間移動…というより完全な神出鬼没。何処にでも出てくるしいきなり居なくなる。但し現在は使用不能。

ロックシード精製…別段シグルドの中の人を岩で挟み潰す訳では無い。掌の中でオレンジを多面体の物質に変換し、ロックシードに加工している。

【weapon】
無し

【ロール】
無し

【人物背景】
異世界より根を伸ばし、やがて星一つを覆い尽くし、その過程で根を伸ばした先の知的生命体に進化を促す存在“ヘルヘイムの森”のアヴァター的存在。
此の地ではヘルヘイムから切り離されている為、瞬間移動は使えない。

【令呪の形・位置】
浪蘭家の紋章の形状。
黄金の山羊の頭の紋章(クレスト)と、 その角に、顎髭の下で結ばれたマンドラゴラの蔓が纏わっていると言う意匠。

【聖杯にかける願い】
無い。

【方針】
聖杯戦争を傍観する。やる気の無い奴には発破をかけてやっても良い。要するに何時も通りにやるだけ。
アーチャーの要請があれば令呪を使うが、それ以外の事はしないし、干渉も掣肘もしない。

【参戦時期】
本編終了後。駆紋戒斗の遺品と思って何気無く拾ったら『白紙のトランプ』だった…というオチ。


【運用】
魔天の頂へと至る鮮血と屍の超越階梯(再演・ベルリンの狂気)による強化を手っ取り早く行う為にはNPCを殺しまくるのが最短だが、運営にばれて粛清されては元も子もないのでルールに則って戦う。
強敵は後に回して自己強化を行えば優勝も夢では無い。
不意打ちで仕留めるのが最も楽だが、それをやっても糧には出来ないというジレンマ。
索敵に関しては、存在そのものを消しでもしない限りは妖糸の監視からは逃れられないので、誰に対してもイニシアチブを取れる。
美貌と妖糸を併せて用いれば、相手は殺された事に気づくこと無く死ぬが、惨殺しなければ良質な糧にはならないという罠。


551 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 09:54:01 sC6pzPcY0
投下を終了します
尚、アーチャーのテンプレ作成に於いて 魔界都市新宿 ―聖杯血譚―の◆zzpohGTsas氏の【魔王再誕】を参考にさせて頂きました


552 : ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:00:19 EEZd/o7o0
投下します


553 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:01:33 EEZd/o7o0


それはささいなすれ違いだった。
迷い子となった少女が最後に帰ろうとした果ての場所。
受け入れてくれると信じた。あの『お兄ちゃん』ならば。
自分に愛が何たるか教えてくれた彼ならば。
きっときっと、受け入れてくれると信じていたのだ。
だから、軋む心と体に鞭打って全速力で飛び続けた。
そして―――



『エンジェロイドは帰ってくんなッー!!』




そして、優しい『幻想(ユメ)』は終わる。

よろよろと、尻もちをついて崩れ落ちる。
世界が壊れた音を聞いた気がした。
絶え間なく動力炉が痛み続ける。
こんなのは嘘だ。嫌だ。
頬を何かが伝っていく。

ぽとり、
そんな音を立てて自分が抱えている上履きの中から何かが落ちた。
頬から流れる液体そのままに、視線でそれを追う。
それはカードだった。
シナプス製カードにも似ていたが、違う。
それは白紙だった。
白紙の、トランプだった。
ぐちゃぐちゃの思考回路でそれに手を伸ばす。
直ぐそこで聞こえるお姉様達の声も聞こえない。
ただ茫然と、まっさらなソレを、少女は掴んだ。


554 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:02:23 EEZd/o7o0





「―――痛い、痛い、痛い痛い痛いぃ………」


打ち捨てられた廃教会で、少女は独り打ちひしがれる。
その背の幾何学的な黒い翼は未だ修復せず、右手に刻まれた刻印も相まって、哀れな咎人が神に懺悔するようで、
胸が痛い。心が痛い。何もかも痛い。
その痛みは忘却を許さない。安穏としたモラトリアムの期間さえ奪い去る。
シナプスの第二世代戦略エンジェロイド。
最先端兵器たる体は、本来ならシナプス本国の防御プログラム・ゼウスすら容易には破壊できないはずなのに。
今は、何もしなくても、壊れて崩れて行ってしまいそうで。



「ッ!…………くすくすくす」


だから、心を守るためには、狂うしかないのかもしれない。


「そう、なのね?」


堕ちていくしかないのかもしれない。
エンジェロイドは、夢を見ない。


「やっぱり、痛いのが『愛』なのね?」


ならば、与えよう。この痛みを、この愛を与え続けよう。
ここに来るさい、刷り込み(インプリンティング)された情報を参照する。
この街にいる人間全てに『愛』を与えていけば、聖杯というものが手に入る。
それをお兄ちゃんに渡せば、褒めてもらえるかもしれない。
『いい子』として、おうちに帰れるかもしれない。
だから。


555 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:02:57 EEZd/o7o0




「ううん、違うよ」
「違うな」



その声で、自分の前に誰かがいるのにようやく気がついた。
自分のレーダーにも捕捉されず、今突如として現れた人影二つ。
ゆっくりと顔を上げ、何某かを検める。
自分とは真逆の白い修道服を纏ったシスターと、
ツンツン頭の『お兄ちゃん』位の年の少年がそこにいた。


「お兄ちゃん達、誰……?」


そう問われると、二人は目くばせを交わすと、白シスターの方が進み出でくる。
そして、静かに少女を抱きしめた。


「私はね、インデックスって言って
とうまが貴方に呼ばれて、私もとうまに呼ばれて、貴方を助けに来たんだ、マスター」
「助、けに……?」


うん、と力強くインデックスと名乗った少女はカオスと自分が呼んだ少女に微笑みかけた。
彼女は優しく頭を撫でながら、言葉を紡ぐ。
全ては、迷える子羊を救わんがために。

「貴方は悪い子なんかじゃないよって
誰かに痛くしなくても、おうちに帰れるよって、教えてあげに来たの」
「―――ちがう!!」

違う。
自分は悪い子で。
だからお兄ちゃんは。
良い子にならなければ、
皆みんなに愛を”押し付けて”、聖杯を手に入れなければ。

…そんな破綻した思考回路のまま少女は後方へ下がり、禍々しい黒の翼を広げ、インデックスを恫喝する。
少女の翼は既存の兵器など容易に輪切りにできる。それだけの威圧感も持っている。
だがインデックスは臆する様子も無く、カオスに歩み寄っていく。

「大丈夫だよマスター。やっぱりあなたは悪い子なんかじゃないから」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……こないで!」


カオスはインデックスの言葉を否定し、キリキリと狙いを絞る。
まるで駄々をこねる子供のように。
それを見たインデックスは、静かに瞑目すると、祈りの姿勢を取った。

轟っっ!!

小さな少女の体など、百人纏めて貫いて余りある、漆黒の暴威が振るわれた。
斬撃が空間を灼き、轟音が大気を裂く。
しかし、純白のシスターは斃れない。
傷一つ無く立っている。
『歩く教会』
あらゆる魔術的干渉、聖人の攻撃すら守護する、喪われて久しい彼女の霊装が彼女を護る。

「一人ぼっちにならなくてもいいんだよ、人と人はやり直せるんだよ
『お兄ちゃん』とも、きっと仲直りできるよ」

一年ごとに忘れたくない人を忘れてきた少女は高らかに言う。
築いてきたものを、余りにも短い一年という時で零にするしかなかった少女は、それでも。
罪は赦せる、祈りは届く、人はそれで救われる。
甘い夢物語だと唾棄される事すらあったかもしれない。
しかし彼女達修道女はそれを謳い、長い時の中、教えを広めてきたのだ。
そして彼女もまた、救われた。
皮肉にも、神様の奇跡すら否定する右手で。
だから。


556 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:03:27 EEZd/o7o0

「きっと、とうまと私がおうちに帰してあげる」
「あ…」


今度こそ、少女を離さぬように抱きしめる。
それが決壊の合図だった。
唇が震え、瞼の奥が熱くなる。
堪らなくなって、遂に黒い修道服の少女は純白の修道服の少女に抱きついた。
戦略兵器などではなく、子どもの様にただ泣き続ける。
純白のシスターは、再び瞑目しそれを慈しむ。
そうやって、しばらく二人の少女は抱き合っていた。


557 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:03:51 EEZd/o7o0



「じゃ、これ以上はカオスの魔力的に良くないし…また次に呼ぶときまで頼むんだよ、とうま」
「あぁ、でもなぁ…あんまり無茶するなよ。見てるコッチがヒヤヒヤしたぞ」
「とうま直ぐ女の子泣かせちゃうから、裸にひん剥くし、しょうがないんだよ
それよりも、次呼ぶときはご飯を一杯用意しておいてほしいな」
「お前にとっての俺の評価は女泣かせの鬼畜か何かなのか…?
てか、宝具のくせに食い意地張ってんじゃ…ああやめろやめろそんなガチガチ歯を――」





558 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:04:10 EEZd/o7o0


白い純白のシスターが消え、世界は三人から二人になる。


「ブレイカー、インデックスお姉ちゃんは…?」
「ああ、あいつならお前の負担にならないよう一端帰ったよ、
でも大丈夫だ、またきっと呼んでやるから、てか呼ばないと俺が喰いちぎられるしな」

そうやって力強く言う少年。
カオスはその言葉にとても心強さを覚えた。
あのお姉ちゃんの顔を思い出すと、それだけで胸が熱くなってくる。

(ああ、そっか)

これがきっと―――お兄ちゃんが言っていた。

「さてマスター、インデックスのお蔭で俺からいう事はあんまりないんだけどさ
お前は、どうしたい?」

何か得心がいった様子の主を見つめて少年は問う。
問われた少女は僅かな逡巡と共に答えた。

「私は…『お兄ちゃん』の所へ帰りたい。聖杯なんて手に入らなくてもいいから
それでも、帰りたいよ」

そうか、とその答えにブレイカーの少年は静かに笑った。
やるべきことは定まった。
ここからは自分の―――上条当麻の仕事だ。

「あぁ、絶対帰して見せるよ」

抱き合う二人を見て、守ろうと思った。
“この“自分は大した人間では無いけれど。
学園都市を救って見せたワケでも、
世界大戦を終結させたワケでも、
魔神を救って見せたワケでもない、
偽善使い(フォックスワード)でしかないけれど、
後の上条当麻も、自分が大した人間だからと、拳を握り続けた訳ではないはずだから。
笑っていて欲しい女の子の為に、拳を振るったはずだから。

「証明してやるから」

特別なポジションや理由など必要ない。
ブレイカーを示す名に正義や邪悪など必要ない。
それしきでブレイカーは揺らがない。
きっと、後の上条当麻もこういうだろう。
過去と未来、二つのピースが交差し、嵌る。

「お前の幻想(ユメ)は簡単に壊れるものじゃないって」

やる事はどうしようもなくシンプルだ。
そのままだと堕ちていってしまう天使に、
救われぬ者に、救いの手を。


559 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:04:42 EEZd/o7o0

【クラス】
ブレイカー

上条当麻@とある魔術の禁書目録

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:EX 宝具:EX

【属性】
中庸・善

【クラススキル】

救済否定者:EX
神の右席や魔神の世界救済を打ち破ってきた後のブレイカーの逸話から与えられた破壊者としてのスキル。
その性質は救済の否定。
セイヴァー、或いは世界に救いをもたらさんとしたものがブレイカーと相対した場合、
全てのパラメーターが1〜2ランクダウンし、+補正も打ち消される。
超越した力を以て世界を救おうとするものを、右拳の届く世界に引きずり堕とす。

【保有スキル】
前兆の感知:A
『本人の意図しない微弱な動き』からこれから行おうとしている攻撃を察知する力。
能力そのものと、そこから派生する余波を、どう利用するかと言う判断基準。そして具体的に行われる臨機応変な戦術の切り替え。
それらを反射神経と組み合わせて、頭の裏側にある部分で処理した結果光速の雷撃にも完璧に対応してみせる超反応。
直感と心眼(真)の複合的効果を持つ。

偽善使い(フォックスワード):B
カリスマなどの異能の関係しない精神干渉に対する耐性。
誰かの思惑が絡んでいた上での選択だとしても、自分の考える最善の行動を最後までやり通そうとする強い意志。
また、その意志を言葉にして相手に伝えることで、相手の精神を揺さぶって行動を鈍らせることもできる。

戦闘続行:B
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】

『幻想殺し』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
偶像崇拝の理論により"上条当麻の記憶"が英霊となる際聖杯によって再現された、
本来の物とは異なる、しかし規格外の破壊者である彼の象徴とも呼べる宝具。
魔術であっても超能力であっても、それが『異能』に属するあらゆる力を打ち消すことができ、宝具であっても触れただけで破壊可能、その性質上無効化も不可能である。
ただし、宝具を破壊しても、魔力によってすぐ再構成されるだけなので、魔力供給減を断たぬ限り完全に打ち消すことはできない。
またブレイカー個人を対象とした呪いや精神干渉なども無効化できる反面、回復魔法なども無効化してしまう上に副作用として幸運パラメーターが測定不能の最低ランクまで下げられる。
そして聖杯によってあくまでそれらしく再現された贋作(フェイク)なので「サーヴァントそのもの」「マスターからの魔力供給」「令呪」「狂化」等は打ち消せない制約を持っている。

『竜王の顎(ドラゴンストライク)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1人
聖杯が幻想殺しの中に潜む者すら再現しようとした結果獲得した宝具。
当然その性質は本来の物とは異なる。
幻想殺しがブレイカーから切断されることで使用可能になり、右手が巨大な竜の頭に変わる。
幻想殺しの能力が遠隔でも発動するようになり、それに加えて牙に触れた相手の霊格を直接消滅、マスターならば記憶の全消去をもたらす。
こちらには幻想殺しにかかっていた制約がないのでサーヴァントにも有効だが、それはブレイカー自身も例外ではなく、この宝具の使用後ブレイカーは本聖杯戦争から消滅する。
事実上の特攻宝具。

『旧約・とある魔術の禁書目録』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
神の右席を退けた訳でもない、第三次世界大戦を終結させたわけでもない、魔神を救済したわけでもない、7月28日に死亡した彼が成し遂げた最大の救済にして逸話の具現。
当代の禁書目録の管理者としての権能を以て禁書目録を召喚する。
供給される魔力量によって再現できる再現される霊装等は決まり、絶対の物理・魔術干渉への守りを誇る『歩く教会』や『自動書記』等を全て再現しようと思えば、令呪のブーストが不可避な程に魔力消費は跳ね上がる。
ただし『首輪』だけは、救済の象徴としての宝具という性質上再現できない。
またそれらの霊装の他にも他者の詠唱を強制的に乗っ取る『強制詠唱』や『信仰』を否定し統一された集団を行動不能にする『魔滅の声』などを得意とする。
まだ禁書目録の少女がブレイカーにとっての日常になる前だからこそ、連れてくることができた。


560 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:06:48 EEZd/o7o0

【クラス】
ブレイカー

上条当麻@とある魔術の禁書目録

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:EX 宝具:EX

【属性】
中庸・善

【クラススキル】

救済否定者:EX
神の右席や魔神の世界救済を打ち破ってきた後のブレイカーの逸話から与えられた破壊者としてのスキル。
その性質は救済の否定。
セイヴァー、或いは世界に救いをもたらさんとしたものがブレイカーと相対した場合、
全てのパラメーターが1〜2ランクダウンし、+補正も打ち消される。
超越した力を以て世界を救おうとするものを、右拳の届く世界に引きずり堕とす。

【保有スキル】
前兆の感知:A
『本人の意図しない微弱な動き』からこれから行おうとしている攻撃を察知する力。
能力そのものと、そこから派生する余波を、どう利用するかと言う判断基準。そして具体的に行われる臨機応変な戦術の切り替え。
それらを反射神経と組み合わせて、頭の裏側にある部分で処理した結果光速の雷撃にも完璧に対応してみせる超反応。
直感と心眼(真)の複合的効果を持つ。

偽善使い(フォックスワード):B
カリスマなどの異能の関係しない精神干渉に対する耐性。
誰かの思惑が絡んでいた上での選択だとしても、自分の考える最善の行動を最後までやり通そうとする強い意志。
また、その意志を言葉にして相手に伝えることで、相手の精神を揺さぶって行動を鈍らせることもできる。

戦闘続行:B
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】

『幻想殺し』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
偶像崇拝の理論により"上条当麻の記憶"が英霊となる際聖杯によって再現された、
本来の物とは異なる、しかし規格外の破壊者である彼の象徴とも呼べる宝具。
魔術であっても超能力であっても、それが『異能』に属するあらゆる力を打ち消すことができ、宝具であっても触れただけで破壊可能、その性質上無効化も不可能である。
ただし、宝具を破壊しても、魔力によってすぐ再構成されるだけなので、魔力供給減を断たぬ限り完全に打ち消すことはできない。
また永続的に効果を発し続けるものや、幻想殺しでも打ち消せない大出力の攻撃には相性が悪い
またブレイカー個人を対象とした呪いや精神干渉なども無効化できる反面、回復魔法なども無効化してしまう上に副作用として幸運パラメーターが測定不能の最低ランクまで下げられる。
そして聖杯によってあくまでそれらしく再現された贋作(フェイク)なので「サーヴァントそのもの」「マスターからの魔力供給」「令呪」「狂化」等は打ち消せない制約を持っている。

『竜王の顎(ドラゴンストライク)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1人
聖杯が幻想殺しの中に潜む者すら再現しようとした結果獲得した宝具。
当然その性質は本来の物とは異なる。
幻想殺しがブレイカーから切断されることで使用可能になり、右手が巨大な竜の頭に変わる。
幻想殺しの能力が遠隔でも発動するようになり、それに加えて牙に触れた相手の霊格を直接消滅、マスターならば記憶の全消去をもたらす。
こちらには幻想殺しにかかっていた制約がないのでサーヴァントにも有効だが、それはブレイカー自身も例外ではなく、この宝具の使用後ブレイカーは本聖杯戦争から消滅する。
事実上の特攻宝具。


561 : 天使の救い方 ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:07:51 EEZd/o7o0

【weapon】
右手。

【人物背景】
学園都市に住まう平凡な男子高校生…の筈だが
7月28日に死んでしまった"初代上条当麻の記憶"が後の世の影響によりただの記憶から昇華し、英霊となったもの。
そのため人格・性格は旧約一巻の上条当麻であり、生身の彼が持っていた『幻想殺し(イマジンブレイカー)』も本来の力を喪失している。

【サーヴァントとしての願い】
無い。マスターを元の世界へ帰す。


【マスター】
カオス@そらのおとしもの

【マスターとしての願い】
お兄ちゃんの所へ、帰りたい

【weapon】
第二世代エンジェロイドとしての肉体、及び搭載した多数の兵装・電子兵装。
自己進化プログラムPandora

【能力・技能】
上記の兵装に加えて変身能力やエンジェロイドには禁忌とされる夢への干渉能力も有する。

【人物背景】
第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)「Chaos」
ただ愛されることを夢見た、兵器の少女。


562 : ◆CxyioHyIhc :2017/01/29(日) 15:08:25 EEZd/o7o0
投下終了です


563 : ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:32:33 BBmf63W60
投下します


564 : 何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:33:33 BBmf63W60


─────それは、紛れもなく現実だった。
現実に顕現した、地獄だった。


灰色の町並みがあった。
黒と呼ぶには余りにも整然、されど白と呼ぶには余りにも澱んでいる風景。
その最たる原因は、そこに立ち込める霧だった。
人類が産み出した知恵だとか、未来を切り開く為の道具だとか、そんなモノが副産物として吐き出していく人工の魔障。
発展していく世界の裏の、穢れた汚点を投げつけるゴミ捨て場に、今日も工場から漏れ出たスモッグが充満していく。
言わずもがな、それは生を蝕む毒。身体に入り込み、内側から肉体を腐らせる死神の吐息。
死へのカウントダウンを刻む針が、一層他より早い場所─────それが、霧の都ロンドンの一角。ホワイトチャペルという町だった。

ある時、一人の少女が其処にいた。
何処から流れ着いたのか、少女が誰か。そんな事は知る由も無いし、知ったところで此処では何の意味もありはしないのだから。
ただ、少女は見るからに不健康といった風体で─────そして、飢えていた。
単純な話だ。此処はまともではないとされるような食事にありつく事、それですら困難というような場所。生き残る為には、そもそも己自身をまともな範疇の埒外へと投げ捨てる必要がある。

そう、例えば。
彼女の前に、浮浪者の男が現れた。
片手を力なく垂らし、そしてもう一方の手には─────あった。腐りかけだが、それでもまだ食べられそうなパンが幾つか入ったそれ。
たちまち少女は飛び付いた。持っている金を全て出し、地を這うように土下座をした。
男は暫く黙ってそれを見て─────少しして、下卑た笑みと共に口を開く。
告げられた言葉に、少女は暫し固まって。それでも、すぐにそれを受け入れた。
それから数刻。少女はその手に一つだけパンを持ち、とある建物から外に出た。
所持金も減ってはおらず、その身体も先と比べればむしろ綺麗になっているくらいだ─────「内側」がどうなったかは別として。
ついさっきまでいた男のねぐらを一瞥し、少女はゆっくりと歩き始める。
「幸運にも」目減りすることが無かった金を握りしめて、彼女は近くの医者へと向かう─────『万が一』を避ける為に。

─────そうしてまた、灯るかもしれなかった命の火が、消えた。

それは殺戮ではない。
生まれる前の命など殺すとも言えないし、そもそもそこには殺意どころか特異な感情を持ってすらいない。

それは、消費だ。

少女が握ったパンと同じだ。
その日を凌ぐ為に望まず生まれ、そして消失することで誰かの生きる糧となる。
遺すものどころか生まれすらしない、生きる前に殺されるという命とすら呼べないモノ。
それらが、存在することすら許されず、使い潰されて消えていく。

そんな事が、彼方此方で起こっていた。

これが、或いは何か、明確な悪が存在していれば良かったのかもしれない。
何かが消えることで解消される地獄なら、もっと早くに人々が立ち上がって、或いは外からその歪みを断ち切る人間がやってきて。
それで、この地獄は終わりを告げてちたかもしれない。

けれど、此れは違う。
此れは、「ただそこにある」ものだった。
丁度、其処に立ち込める霧と同じ。消すことは愚か掴むことすら出来ずに、どうしようもなく存在する。
生の為に生を蔑ろにするという論理すら通用せず、ただ「生まれるはずだった、でも生まれなかったモノ」が使い潰されるという、馬鹿げたシステム。
─────紛れもなく、どうしようもなく。
此れは、現実だった。
一度階段を踏み外したばかりに踏み入れてしまったせいで。
希望など存在しない世界で、展開されるべくして展開されるそもそもが人工の地獄で、ヒトは何処までも堕ちていった。

例えば、報われぬ愛を誓い合った二人の片割れが、生を欲するばかりにもう片割れを殺してその肉を喰らう様。
例えば、食物を奪う為に散々に痛めつけられて、それでも当たり所が悪かった─────否、「良かったばっかりに」死ぬ事も出来ず生き地獄を味わい続ける様。
例えば、嘗ては名もそれなりに知れていたであろう可憐な令嬢が、今は最早寒さすら凌げない程にボロボロになった元は豪奢なマントだったろう襤褸すら奪われる様。

例えば、そう。


ある娼婦が、栗色の髪を三つ編みに纏めた娼婦が。
当たり前の愛を受けていた筈の、そしていつの間にか地獄に堕ちていた女が。
自らと愛する男の遺伝子が伝った「それ」を、己諸共にただ川へと「廃棄」しようとする様─────



「─────あ、あ、ああああアアアアアアァァァァァ!!!!」


─────堪らず、絶叫を上げて。
そうして、室田つばめは夢から覚めた。


565 : 何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:35:40 BBmf63W60


目の前に広がる自室の風景が、此処まで心を休めてくれる時が来るとは思いもよらなかった。
厳密には「我が家」ではない、今の彼女にとっての住まい。余分な物が無いことを「遊びが無い」とこっそり非難した自分を、この時ばかりは罵倒する。
寝汗のせいで寝巻きは身体にひっつき、掛け布団もやたらと蒸し暑いのを苦にして、つばめはゆっくりとベッドから立ち上がった。
隣に眠る夫を起こさないようにそっとベランダに出て、火照った身体と未だに脈打つ心臓を冷まそうとする。

「………なんだよ、あれ」

ぼそり、と思ったことを正直に口にした。
酷い夢だった。
嘗て燃え盛るハイウェイを見た時にはこの世の地獄かと思ったものだが、あんなものとは比べ物にならない真の地獄。
悪意すら存在しない故の残酷な世界を思い出し、どうしようもなく背筋が凍る。
夢、と断じることすら簡単ではない程に強烈なリアリティを以て再現された、この世で最も穢れていた場所の一つ。
なぜ自分がそれを垣間見たのか、と思い、そして少しの間を置いてはたと思い当たる。

「……アサシン」
「なあに、おかあさん」

その「心当たり」の名を呼ぶと同時に、ベランダに少女の姿が現れる。
どことも知れない虚空から霊体化を解いて現れたその様は、正しくアサシンのサーヴァントに相応しき出現。
白髪の小柄な少女の形をした可愛らしい姿の、しかしその名は聞くものを震え上がらせる恐怖の象徴。
─────ジャック・ザ・リッパー。
イギリスという国を恐怖させた、現代日本でも語られるような殺人鬼の名が目の前の少女の名だと知った時は、つばめも流石に衝撃を受けた。
─────実のところを言えば、それをまだ少し疑っていたところもあった。
なまじ、彼女が既にとある非常識に触れていたというのもあるだろう。姿を消すことやアクション映画じみた動きを軽々とこなすアサシンの姿も、「切り裂きジャック」の名前を結びつけるには足りなかった。
けれど。
今の夢、そしてこの少女が語った彼女自身についての説明を思い出す。
子供であり、かつ何処か精神を病んでいるような少女の言葉から受け取った「ジャック・ザ・リッパーの生まれ方」と、夢の中の地獄、そしてその中で響く声のない悲鳴。
リフレインするそれに突き動かされるかのように、つばめは口を開いて。

「お前は─────」

─────言おうとして、言えなくなる。
心の内に、未だに残る一つの凝りが、アサシンへと踏み込んだ発言をすることを阻害する。
その代わりに、と言葉を探し、そして導き出したのは一つの、そして彼女が現れてから数回目の提案。

「─────今日も行くからさ、ちょっと手伝ってくれ」
「うん、わかった」

頷くアサシンから、僅かに目を逸らすように、つばめは懐から端末を取り出す。
画面をタップし、途端に光が放たれて─────そして、そこに室田つばめはいなかった。
代わりに立っているのは、箒を構えた可憐な少女。
魔女が被るような三角帽にこれまた魔女が持つような箒、そして背中のローブにでかでかと刺繍された「御意見無用」の文字。

「さあ、今日も行きますか!」

──────魔法少女・トップスピードが、そこにいた。


566 : 何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:38:28 BBmf63W60



─────スノーフィールドでの人助けは、以前に比べて難易度がぐんと上がっていた。
その理由はといえば、やはり今のトップスピードの行動を見た人間に対しての処置をしてくれるファヴがいないから。
そして、神秘の秘匿という条件によって、明確に存在する事を仄めかす事が事実上不可能になったからだ。
ここに来る前は、ファヴというマスコットキャラクターのお陰で、情報の隠蔽が徹底されていた。
助けた人間はぼんやりとしか魔法少女の姿を覚えていないし、カメラなどでも確実にピントがズレるようになっていた。
それ故に、ある程度なら大っぴらに活動出来ていたのだが─────今、この場にそのファヴはおらず。
それでも、「知られてもいい」ならばもう少し大胆な行動も取れたかもしれないが、そこでネックになるのは神秘の秘匿という条件。
これがトップスピードの魔法少女としての力にも適応されている以上、下手にバレるような事があれば瞬時に討伐令やら何やらと面倒な事が降って湧く。
よって、強いられるのは隠密行動。
露見する手がかりをギリギリまで減らし、その上で何かしらの行動を起こす、という事が必須だった。
しかし、そこまで制限があるならば、人助けなどほぼ不可能ではないか─────と聞かれれば、実を言うとそうでもない。
その理由は、アサシンの手助けにあった。
人が来ればそれを知らせ、間に合いそうにないとなれば対象を気絶させる─────最初は解体しようとしていたが慌ててトップスピードが止めた─────などと、その高い敏捷を活かしてフォローに入ってくれている。
また、サーヴァントだけあって見た目にそぐわぬ力も持ち、魔法少女であるトップスピードと合わされば大抵の物は動かす事が出来た。
人を助けている彼女の顔は、最初こそ不思議そうな表情を浮かべていたが、今は楽しそうなあどけない表情を浮かべながら手伝ってくれている。
─────時たま、その表情が強張るのを除けば。
そうしてその日も何件かの人助けを終え、いい加減に外に出ている人の数も減ってきていることを確認すると、彼女はゆっくりと裏路地に降り立つ。

「ありがとな、アサシン」
「うん」

自分と同じく箒に跨がっていたアサシンが降りたと同時に、その頭を撫でてやる。
ごわごわの髪を撫でられて、擽ったさそうに小さく身を捩る少女の姿を見て、トップスピードの表情も和らぐ。
そうして、時間も時間だからと、再び箒に跨がってさっさと退散しようとする。

「…ねえ、おかあさん」

─────だが。
何処か逃げるようなトップスピードのその行為よりも、アサシンの言葉の方が早かった。

「おかあさんは、いつまでこうしてるの?」

放たれるのは、端的な問い。
いつまでこの人助けを続けるのか。
いつまで─────現実から目を逸らし続けるのか。

「…いつまで、って、」

言葉に詰まる。
それは、少なからず彼女に自覚があるから。
本来やるべきではないことをしているという、その自覚が。
─────それでも、トップスピードは答えられない。
それを告げてしまえば、もう嫌が応にも逃げられなくなるから。
だから、その言葉に続く先は提示されぬまま、静寂が路地を包んでいた。

「おかあさん」

それに対し、アサシンは尚も問いかける。
─────ジャック・ザ・リッパーにとって、この人助けは、決して嫌なものではなかった。
それが彼女の過去に存在せず、それ故に「この」ジャックが生まれたという事実を併せて考えれば、それは想像に難くない。
何せ、自分達のような不幸が生まれることが減るのだから。
助けを差し伸べられ、それで救われた人間が一人でも多かったなら、きっと世界を呪う子供も減っていただろう。
そう考えると、彼女は決してこの人助け自体には決して反対ではなかったのだ。

けれど。
そこには、前提がある。
「もう少しで己らも救われる」という、そんな前提が。

聖杯を手にして、もう一度真の意味で産まれ直す。
それが成就するならば、確かにそう、これから生まれるかもしれない自分達は人助けによって生まれることはなくなる。
だが、そもそもマスターが聖杯を手にしないというのであれば─────そもそも、それは前提から瓦解する。
彼女もまた、生きているものを救う、というだけで。
歴史の廃棄物たる、産まれてすらいない自分達を助けてくれるということは、ないのか。
それは怒りではなく、恐れ。
また、自分は胎内に帰る事が出来ずに死んでいくのか。
そんな恐れを、ジャックは抱いていた。

それでも。
召喚に応じ、そしてこれまでの日々で、アサシンも己のマスターが抱えているものには気付いていた。
そして、それがあるのならば、彼女は絶対にわたしたちを助けてくれると信じていた。

けれど。
それは、間違いだったのか。
アサシンが垣間見た室田つばめは、偽りだったのか。
今はただ、それをアサシンは聞きたかった。


567 : 何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:40:25 BBmf63W60





「おかあさんも、わたしたちをすてるの?」





「──────────」


何も、言い返せなかった。
ただ虚ろな瞳で此方を見つめる己のサーヴァントに、トップスピードはただの一言も返すことが出来なかった。


─────室田つばめ、或いは魔法少女『トップスピード』。
彼女は、厳密には一度死んでいる。
相棒と共に町を壊す悪党と対峙し、そしてそれを勝利という形で終えた後、突如胸の中央で冷たい感覚がした。
何かの刃が己の胸を貫いたのだ、と気付いて、次に、ああ、助からないな、と悟った。
人間、どうしようもないと理解した瞬間には、案外死ぬまでは早いらしい。
最期の最期に思い浮かべたのは、家で帰りを待つ主人の顔だった。
そうして、そのまま、室田つばめは死ぬはずだった。
だが。
その最期の視界の中に、白いトランプがうっすらと映ったかと思うと─────気付けば、自分はここスノーフィールドにいた。
自分は死んでいなければおかしい、という実感は、瞬間的に記憶を取り戻すには十分なトリガー。
それから、聖杯戦争、そしてサーヴァントの事実を知り。
知ってなお、彼女の心中を過っていたのは喜びだった。

─────良かった。
─────まだ、自分は死んでいない。
─────なら、自分は「この子を産める」。

その事実は、死と同時に全てを諦めていた彼女にとっては何処までも朗報だった。
─────その時は。

間違いに気付いたのは、この地でも魔法少女としての人助けをしようと自然に身体が動きかけた時。
ジャックがその時、彼女へとかけた言葉。

─────ころしにいくの?

その言葉に、まず内容が飲み込めず少し固まって。
次に、その内容を理解して笑顔で間違いを正そうとして。
─────そこで漸く、自分が何に巻き込まれたのか、改め理解した。

これは、戦争なのだ。
自分がいたあの魔法少女同士の椅子取りゲームと、決して同じ物ではないのだ。
向こうは、死人が出なかった場合─────本来は出ないはずのものだが、いつのまにか最初からそうだったようにすら感じられた─────は、マジカルキャンディーの量で脱落者が決まった。
だから、マジカルキャンディーを集める人助けは、「生き残る為に必要なこと」だった。─────そうやって、自分を納得させた。
だから、徹頭徹尾彼女は人助けに専念した。
けれど、今回のこれにそんな逃げ道は存在しない。
もし自分が最後まで戦闘から逃げようとしたとしても、自分を除いた最後の二組が同士討ちするというほぼ有り得ない状況にならない限りは戦いは避けることは出来ない。
いつかどこかで─────戦わなければならない時が、きっとくる。
少なくとも、この場所での人助けは─────本当に、どこまでも気休めでしかない行為だというのは、確かだった。

─────それでも、道が無いわけでは無かったのかもしれない。
聖杯に頼らずにこの世界から抜け出す道を探るという手段も、もしかしたらあったかもしれない。
けれど、その選択肢は既に縛られている。
その理由は─────アサシンだった。

彼女もまた、願いの為に聖杯を求めている。
その願いとは、胎内回帰。
ついぞ「産まれることが出来なかった」彼女、或いは彼女たちにとって、願うことはたった一つ─────「この世に生を受ける」という、ただそれだけ。
怨霊の願いでしかない、たったそれだけの願いは。
けれど、彼女にとっては、その願いは。
─────「本来産まれるべきだった命を」「己の命と諸共に永遠に失わせてしまった」彼女にとっては、その願いは胸に突き刺さるものだった。

わかっている。
わかっているのだ。
聖杯戦争に乗りたいと思っているという、そんな自分の気持ちは。
けれど、それを妨げるのは、輝かしい「魔法少女」としての自分。
あの時、相棒と共に胸を張って空を駆けた記憶。
希望を信じた魔法少女としての自分が、どうしてもそこで二の足を踏ませる─────

「─────俺は、俺は─────!!!」


568 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:43:18 BBmf63W60

けれど。
答えを返す前に、それはやってきた。

最初に訪れたのは、衝撃だった。
ごう、と響き渡った激震に、辛うじて魔法少女の身体能力で踏み止まる。
次いで第二撃。今度はより直接的な、暴力の具現が振るう一振りの槌。
飛び去る事で助かったのは、魔法少女であったからだろう─────常人では、そのまま潰されていたに違いない。

『─────サーヴァント』

念話を通じて、アサシンの声が伝わってくる。
敵サーヴァントが現れると同時に、アサシンたる彼女は気配遮断と霊体化を発動していた。
敵のクラスが何であれ、アサシンというクラスそのものが敵に対し真っ向から立ち向かっていくクラスではない。
そういう点では、それは非常に正しい選択だっただろう。
現れた英霊を、トップスピードは改めて確認する。
握るは鉄槌。鋼鉄の鎧に身を包み、そしてその顔には─────正気とは思えぬ形相が張り付いている。
その表情、まさに狂気。見るものの精神すら蝕みそうなそんな風貌をしているとすれば、それは─────

「─────バー、サー、カー……!!」

物陰から、その声と同時に人影が現れる。
年若い、高校生くらいの少女。整っていれば美しいだろう黒髪や、不細工では決してない風貌ではあるが、しかし窶れている今となっては見る影もない。
重い魔力消費のせいなのだろう、息も絶え絶えといったような少女だが─────それでも、此方を睨む眼に宿る殺意はぎらついた光を放ち続けている。

「……行きな、さい……!貴方の全力を以て、あのマスターを殺しなさい……!!」

絞り出すようなその叫びに、しかしバーサーカーは咆哮を以て応と答える。
狂戦士が飛び出さんとするのを見て、トップスピードも咄嗟に箒に跨がり地を蹴る。
途端に、箒が超加速せんと唸りを上げる。
如何にサーヴァントであろうと、敏捷のランクが高くない限りはラピッドスワローには追い付けまい。
──────逃げられる。
なんとかそう算段を立て、いざ飛び立たんとして。

(─────おかあさんも、わたしたちを─────)

止まる。
疾風の如く飛び去ろうとした箒が、加速することなく唸りだけを漏らす。
先の言葉が、逃げようとした己の足を縫い止める。
刹那の迷いが、彼女の行動を遅らせて。
そして、その一瞬の迷いは、サーヴァントを相手取る上ではあまりに致命的。
風圧すら置き去りにした殺意が、すぐそこに迫るのが感じられて。
はたと振り向けば─────すぐそこに、バーサーカーの鈍器が見えた。
人間の血を喰らうが如く浴びてきたのであろう鉄槌が、今まさにその犠牲者の一人として己を数えようと迫り。
そうして、思わずトップスピードは目を瞑った。


569 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に :2017/01/29(日) 17:44:41 BBmf63W60

─────ああ、また、死ぬのか。
自分は何も出来ず、此処で。

…そうだ。
そもそも、自分が生きられるような道理ではなかったのだ。

「─────『遊びを理由にするなんて、馬鹿のする事だ』、か」

愛する男が言っていた事を、漸く理解する。
馬鹿は死ななければ治らない、なんて言うけれど─────ほぼ一度死んだと言っても差し支えない己が今になって理解出来たということは、案外その諺も間違っていなかったのかもしれない。

己の生を実感する為に、遊んで生きてきた。
遊ぶということは生き甲斐だと、そう言って日々を過ごしてきた。
それ自体を間違っていたことだとは、彼女は思わない。
きっと、もっと平凡な毎日を送れるような。そんな運命であったなら、やはりずっと自分は同じことを言い続けていただろう。
子供と共に遊んで、旦那に呆れられたり、なんてそんな何気ない日常を、きっと送っていただろう。

けれど─────今。
今、自分がそうやって生きて、その結果として、一つの命を殺すなら。
自分の為の遊びというそれだけの為に、生まれるべき生命を見捨てるというのなら。
結局のところ、それはあの『システム』と自分が何ら変わらない事を意味する。

─────いや、そもそも。
そもそも、此処に、遊びは無い。
此処は地獄。戦争という名の地獄。
生きる為に生を踏み躙り。
願う為に願いを轢き潰し。
幸福の為に不幸を散蒔く。
故に、『魔法少女トップスピード』は此処では生きられない。
生き甲斐を失くした少女の末路は、夢など有り得ぬ汚泥の底の其処。


570 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:47:16 BBmf63W60





─────けれど。



『おかあさん』



─────ああ、けれど。



『また、わたしをころすの』



─────それでも、もう、そんなことはしたくない。



『わたしを、うんでくれないの』



─────お前を道連れにするなんて、そんなことはもうしないから。



「─────安心しろ」



『魔法少女トップスピード』ではない。
ただ一人、『これから産まれてくる命の親』として、ならば。



「─────俺は、絶対にお前を産んでやる」

彼女は、地獄を超えられる。


571 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:49:05 BBmf63W60



「─────アアアアアサシイイイイイイインンンン!!!!!!」

絶叫と同時に、彼女は天空へと翔んでいた。
バーサーカーのマスターが驚きながら何かを叫ぼうとしていたが、風に阻まれてただの一言も聞こえることはなく。
そして、トップスピードの加速が追い付く前に迫っており、依然彼女を叩き潰そうとした鈍器は、二筋の銀光に刻まれる。
最高クラスの敏捷を活かして一瞬にしてトップスピードの元へ馳せ参じたアサシンが受け流すと同時に、彼女たちは空へと舞い上がっていた。
天に飛び去った箒は、そのまま百八十度ターンする。
当然だ。逃げる為ではない─────もう、逃げるわけにはいかないのだから。

「アサシン」
「なあに、おかあさん」

けれど、その前に。
彼女はひとつ、聞いておきたいことがあった。
確かめておきたいことが、あった。

「─────俺は、『少女(こども)』じゃない、立派な『親(おかあさん)』になれると思うか?」

問いかける。
己は、母に足るものか、と。
ここまで逃げてきた少女が、今更母親となっていいものか、と。

「おかあさんは、わたしたちのおかあさんだよ」

─────答えは、単純だった。
母となってくれるのならば、それだけでジャック・ザ・リッパーには十分であり。
ならばこそ、母親に合格も失敗もなく─────そして、それは認めるに値した。

トップスピードは振り返る。
そう告げたアサシンの顔を、改めてしっかりと見る。
─────其処に、何ら変化はない。
けれど。
『親』は、其処に面影を見た。
未だ見ぬ『我が子』の面影を、確かに。

「─────そうか」

覚悟は決まった。
眼下を見下ろせば、既に裏路地の中に影など見えなくなっていた。
その理由は、ほんの僅かな時間で立ち込めた濃霧のせいだ。
『暗黒霧都』(ザ・ミスト)。二つあるアサシンの宝具、その片割れ。中にいるだけでも魔力の硫酸が猛毒となって牙を剥き、生半可な人間程度なら十分に殺し得る。
だが、相手もサーヴァントとそのマスター。この程度で倒れてくれるとは思わない。
─────だから。

「─────行くぜ、アサシン」
「─────うん、かいたいするよ」

言葉を交わし、それと同時に再びラピッドスワローが加速する。
進む先は尚も霧が立ち込める裏路地。バーサーカーとそのマスターがいるその場所へ、二人はまっすぐに突っ込んでいく。


572 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:50:38 BBmf63W60


─────此よりは地獄─────


運が良かった、と、トップスピードは思う。
もしもこの時、不確定要素が多かったとするなら、彼女はそれを躊躇ったかもしれない。
躊躇って、その結果、自分が選択するのは遅くなり─────結局、選ぶ暇も無く脱落していたかもしれない。


─────私達は、炎、雨、力─────


けれど、今は違う。
今は「夜」で。
今はアサシンの宝具によって「霧」が出ていて。
─────そして、バーサーカーのマスターは「女」だった。
ならば。
ならば、確実に殺せる。


─────殺戮を、此処に─────


─────覚悟を決めろ、俺。
─────これは、お前が選んだ道だ。
─────後悔する前に、と、お前がお前で選んだ修羅の道だ。
わかってる、と心の声に応える。
もう、この先後戻りは出来ない。
大人になった女が少女に逆戻りできないように、もうこの先彼女が『魔法少女』を名乗ることも─────あいつと肩を並べることも、ない。

「─────それでも、俺は─────」



─────もう、夢みない。


573 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:52:22 BBmf63W60



─────霧の中を、箒が一瞬にして駆け抜ける。
その内の一瞬、サーヴァントが対応する前にマスターと肉薄した刹那。
それで、全ては事足りる。
アサシンの宝具、二つの宝具のうちのもう一つ。
『切り裂きジャック』は─────現れる。

「─────解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!!」

─────ナイフが振られる前から、「それ」は始まった。
黒色の怨念が、バーサーカーのマスターへと纏わりつく。
それを振り払おうとするよりも先に、その障気が彼女の臓腑を撫ぜて。
次の瞬間、彼女は『解体』された。
反応する暇なぞ一切与えず。
声を上げることすら許さずに。
ただ─────殺人鬼への恐怖だけを残して、命の灯火が掻き消される。
臓物が溢れ出し、肉が切り分けられ、骨が揃えられ、鮮血が舞い散り。
徹底的に解体(バラ)されて解体されて解体されつくした、ただの肉塊だけがそこに残る。
何故─────霧が出る晩、女の前に『切り裂きジャック』が現れたから。
どうやって─────そこで、漸くナイフが降り下ろされる。
因果の逆転。
ジャック・ザ・リッパーに牙を剥かれた誰もが死に絶えた逸話、その再現はこうして行われ。
完全なる解体(さつじん)が、此処に成る。

魔力源を失ったバーサーカーは、暫く暴れようとしていたが─────魔力の消費が追い付かず、数分もすれば消滅した。
安全が確保された、と認識した後、トップスピードは改めて路地に降り立った。
既に霧は晴れ、そこにある惨劇の様はありありと見ることが出来た。
撒き散らされた臓物。
両側の壁にまで飛び散った血痕。
美しいほどに切り揃えられた人体。
それも、己がアサシンに命じてやらせたことだ。
それらをしっかりとその目に納め─────彼女は、改めて理解する。

─────ああ。
─────これからは、俺が地獄を作るのか。

ホワイトチャペルを思い出す。
人の悪意ですらないものによって作られた、紛れもない地獄。
それに対して、眼前の光景はどうか。
人が一人、願いを踏みにじられて死んだ。─────自分が、殺した。
少なくとも、これは悪と呼べる所業なのだろうという自覚はある。
己の為に人の命を食い物にする行為を、悪役と呼ばずに何という。
物語の中ならば、それこそ魔法少女のようなヒーローにいつか退治されて然るべき、そんな悪。
だからこそ、人間の悪性によって作られるこの地獄は、同一ではない。
けれど、それでもここは地獄に相違ない。
地獄の釜の入り口を、自分は今踏み越えたのだ。
─────それでいい、と思う。
先に言った通り、この地獄にて『魔法少女(トップスピード)』は生きられない。
そして、生き延びることなく死に堕ちた少女は、それでも地獄から掬い上げたいものがある。
本来此処に来るべきではなかった一つの命を、この地獄からあるべき世界に戻す。
それが、今の彼女が見据える現実。
胸の中には、ただ─────あの時響いた声とそれに裏付けられた決意が、煌々と燃え盛っていた。


574 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:55:45 BBmf63W60

「…なあ、アサ─────」

なんとなくサーヴァントを呼ぼうとして、ふと思う。
『アサシン』や『ジャック』は、決して彼女の名ではない。
彼女には、未だに─────明確な、「彼女」を指す名前はない。
ならば、いっそのこと自分が彼女に命名するのもありか─────そんな思考がふと過る。

「いつか、さ」

けれど、結局それはしない。
それはきっと、彼女が名付けられるべき人間の元で産まれたときにされるべきことだ。
それを自分がしてしまうのは、きっと少し違う。

「俺が『お前』を生んだら、その時はちゃんと名前をつけてやるから」

─────それは、「母親」の顔だった。
子を見守る母親のように、優しい目付きをしていた。
まるで、本物の子を見ているかのように─────或いは、彼女を通してそれ見ているかのように。

「だから、今は─────アサシン。よろしく頼む」

それを聞いて、アサシンは。
一瞬驚いたような顔をした後、その顔を満面の笑みに染めた。
─────その顔は、ちょうど、親に誉められた子供のようで─────

「うん!」





─────此よりは地獄、其処にて我は魔法の夢を見る『少女』に非ず。
一人の子供の『親』として─────如何なる地獄も生き抜いて、遺すべき物を遺す事こそ我が使命。



大切な、そして産まれて来る事が出来なかった命に。
何としてでも、生を届ける為に。





【クラス】
アサシン

【真名】
ジャック・ザ・リッパー@Fate/Apocrypha

【属性】
混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ、隠密行動に適したスキル。完全に気配を断てば発見することは不可能ひ近い。
攻撃態勢に移ると気配遮断のランクが大きく落ちてしまうが、この欠点は“霧夜の殺人”スキルによって補われ、完璧な奇襲が可能となる。

【保有スキル】
霧夜の殺人:A
夜のみ無条件で先手を取れる。暗殺者ではなく殺人鬼という特性上、加害者の彼女は被害者の相手に対して常に先手を取れる。

精神汚染:C
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
このスキルを所有している人物は、目の前で残虐な行為が行われていても平然としている、もしくは猟奇殺人などの残虐行為を率先して行う。
彼女の場合、マスターが悪の属性を持っていたり、彼女に対して残虐な行為を行うと段階を追って上昇する。魔術の遮断確率は上がるが、ただでさえ破綻している彼女の精神は取り返しの付かないところまで退廃していく。
─────今のマスターが、「魔法少女(せいぎ)」に倒される悪である現在、このスキルには恐らくそれなりの向上が見られるだろう。

情報抹消:B
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

外科手術:E
血まみれのメスを使用して、マスター及び自己の治療が可能。見た目は保証されないが、とりあえずなんとかなる。
120年前の技術でも、魔力の上乗せで少しはマシ。


575 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:57:49 BBmf63W60
【宝具】
『暗黒霧都』(ザ・ミスト)
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:50人
産業革命の後の1850年代、ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害を由来とする現象の宝具化。
霧の結界を張る結界宝具。硫酸の霧を半径数メートルに拡散させる。骨董品のようなランタンから発生させるのだが、発生させたスモッグ自体も宝具である。このスモッグには指向性があり、霧の中にいる誰に効果を与え、誰に効果を与えないかは使用者が選択できる。
強酸性のスモッグであり、呼吸するだけで肺を焼き、目を開くだけで眼球を爛れさせる。一般人は時間経過でダメージを負い、数分以内に死亡する。魔術師たちも対抗手段を取らない限り、魔術を行使することも難しい。サーヴァントならばダメージを受けないが、敏捷がワンランク低下する。最大で街一つ包み込めるほどの規模となり、霧によって方向感覚が失われる上に強力な幻惑効果があるため、脱出にはBランク以上の直感、あるいは何らかの魔術行使が必要になる。

『解体聖母』(マリア・ザ・リッパー)
ランク:D〜B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人
霧の夜に娼婦を惨殺した、正体不明の殺人鬼「ジャック・ザ・リッパー」の逸話を由来とする宝具。
通常はランクDの4本のナイフだが、条件を揃える事で当時ロンドンの貧民街に8万人いたという娼婦達が生活のために切り捨てた子供たちの怨念が上乗せされ、凶悪な効果を発揮する。
条件とは『対象が女性(雌)である』『霧が出ている』『夜である』の三つ。このうち『霧』は自身の宝具『暗黒霧都』で代用する事が可能なため、聖杯戦争における戦いでは1つ目の条件以外は容易に満たすことができる。
これを全て揃った状態で使用すると対象の霊核・心臓を始めとした、生命維持に必要な器官を蘇生すらできない程に破壊した状態で問答無用で体外に弾き出し、血液を喪失させ、結果的に解体された死体にする。“殺人”が最初に到着し、次に“死亡”が続き、最後に“理屈”が大きく遅れて訪れる。
条件が揃っていない場合は単純なダメージを与えるのみだが、条件が一つ揃うごとに威力が跳ね上がっていく。またアサシンを構成する怨霊が等しく持つ胎内回帰願望により、相手が宝具で正体を隠しても性別を看破することが可能で、より正確に使用する事ができる。
この宝具はナイフによる攻撃ではなく、一種の呪いであるため、遠距離でも使用可能。この宝具を防ぐには物理的な防御力ではなく、呪いへの耐性が必要となる。

【weapon】
ナイフ。六本のナイフを腰に装備するほか、太股のポーチに投擲用の黒い医療用ナイフ(スカルペス)などを収納している。

【サーヴァントとしての願い】
おかあさんのおなかのなかに、かえる。

【人物背景】
ジャック・ザ・リッパー。世界中にその名を知られるシリアルキラー。日本ではそのまま「切り裂きジャック」と呼称されることが多い。
五人の女性を殺害しスコットランドヤードの必死の捜査にもかかわらず捕まることもなく姿を消した。
ジャック・ザ・リッパーは金目当てでも体目当てでもなく、「ただ人間の肉体を破壊したかっただけ」としか思えない殺し方をしていた。
アサシンとして召喚された彼女は数万以上の見捨てられた子供たち・ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨念が集合して生まれた怨霊。
この怨霊が母を求め起こした連続殺人事件の犯人として冠された名前が“ジャック・ザ・リッパー”である。
後に犯行が魔性の者によるものと気づいた魔術師によって消滅させられたが、その後も残り続けた噂や伝承により反英雄と化した。
しかし「ジャック・ザ・リッパー」という概念はあらゆる噂と伝聞と推測がない交ぜとなった今、全てが真実で全てが嘘であるために「誰でもあって、誰でもない。誰でもなくて、誰でもある」無限に等しい可能性を組み込まれた存在となっている。
そのため、もはや「彼女たち」が「ジャック・ザ・リッパー」の伝説に取り込まれたのか、伝説を取り込んでしまったのかすら定かではなくジャック・ザ・リッパーの可能性の一つと化している。
また群体で一個体の「ジャック・ザ・リッパー」を形成しているため、一人一人には名前もなく、世界に個体としての存在が認められていない。
「暗殺者」として顕現したジャックは姿も精神も幼い子供のものとなっている。自身をそう名乗っているが、本当に「真犯人」なのかは本人自身にも分からない。


576 : 総ては何時か此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 17:59:08 BBmf63W60



【マスター】
室田つばめ(トップスピード)@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
我が子に、幸せを。

【weapon】
『ラピッドスワロー』
彼女の魔法『超スピードで飛ぶ箒を出せるよ』によって生み出された魔法の箒。
箒と呼ばれてこそいるが、彼女が全力を出した場合は風防やハンドル、ブースターが現れ、バイクのような形へと変化する。
その性能は非常に高く、最高速度ならばサーヴァントとて容易に追いつくことは出来ない。

【能力・技能】
『魔法少女』
『魔法の国』から与えられた力によって、魔法少女に変身する。
人間とは比べ物にならない身体能力や非常に可憐な容姿を持つ他、その魔法少女一人につき一つ固有の魔法を持つ。彼女にとってのそれは、後述する『超スピードで飛ぶ箒を出せるよ』である。
正確には「身体が魔法少女という生物に変化する」と言った方が正しく、妊娠している彼女も魔法少女に変身している間はどう体を動かそうと影響が無い。

『超スピードで飛ぶ箒を出せるよ』
彼女の固有魔法。文字通りの魔法。
Weapon欄にある箒、『ラピッドスワロー』を作り出し、それに乗って空を駆る。

【人物背景】
彼女はもう、『魔法少女』ではない。
今はただ、『親』として『子』を幸せにする─────それだけだ。


577 : ◆deFECPYDAg :2017/01/29(日) 18:00:09 BBmf63W60
投下を終了します。正式タイトルは「総ては」が入ってる方です


578 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:00:23 z3K8mBgc0
投下します。


579 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:01:30 z3K8mBgc0
自分を纏っていた鎧が、光を持って消滅していく。
もう、動くことは出来なくなっていた。
体の中にある何かが、少しずつ削れていく気がしてきた。
それは、自分がもう灰になろうとしていることを示唆していた。

眼の前に浮かぶのは、初めて自身の体が異形に変わった時の事だった。
化物だと、もう死んだはずだと、周りの人間達からは逃げられ、迫害されていった。
思えば、さっきまで自分を動かしていた怒りの種火は、この時に出来たのかもしれない。

それでも、と。
あの時の自分には、まだ一縷の望みが残っていた。
きっと、人間とも共存できると、まだ、人間として生きられると。
自分の夢に賛同してくれる仲間も、種族を問わず出来た。
何時か夢は叶う、皆憎み合えずに生きていける、そんな大きくも小さい夢を、あの時の自分は持てた。


やがて、この世界の大半を生き、支配する種族は、自分達と同じ化け物達になった。
僅かな人間達は、諦めず、屈しず、只生きるために抗い続けた。
自分も、仲間と共に化物でありながらもそれに加勢した。

逃げる道はあった。
自分達化物は、化物の社会に属する資格があり、当然、あの世界で人間を屠りながら生活して行くことを許されていた。
向こうからは幾度も、此方側にやって来る様に、と通告され続けてきた。
勿論自分達は断固として拒否し続けてきた。
自分達には、化物と人間とが手と手を取り合える世界を作るという、大きな夢があったから。

その夢を叶える道が茨の道であることもまた、自分達にもよく分かっていた。
何度も人間達には、あの時のように迫害されてきた。
親しい靴屋の少女が、自分達と関わったばかりに嫌がらせを受けたこともある。
しかし、その靴屋の少女の様に、理解を示してくれている人間達も、何人かはいた。
人類解放の象徴として今日まで生きてきた彼女も、同じ夢を持った救世主たる彼も、自分達を人間のように扱い、接してきてくれた。

それに、自分達を恐れる人々を、あの時はまだ、憎むつもりもなかった。
沢山の同胞達を殺してきた宿敵の同族。
それだけで、恐れてしまう気持ちもまだ分かる。


―そう、思っていた。

しかし、人間達は、自己の利益を優先し、自分達を今日まで迫害してきた。
その果てに、自分達は敵に潜り込み、優しさを示せ、と要求されたのだ。
だが、敵はそれすらも見通していたのだ。

背中を支えてくれた仲間二人は、その刺客によって殺された。
だが、その時自身の眼の前に映った彼女の姿が、己を更なる絶望に追い込む。
彼女は裏切ったのだと、己を売って助かろうとしたのだと。


―だって貴方、オルフェノクなんだもの。


人類の象徴にして親友だった彼女ですら、偽善者の一人であった。
そうなると、あの二人は無駄死にをした、と言うことになる。
愚かな人間達によって、自分達の夢をぐちゃぐちゃにされて。


580 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:01:49 z3K8mBgc0

監獄の中で何度も泣いた。
何度も何度も何度も。
何度自分を責めたか。
何度孤独を味わったか。
何度二人の死を悔やんだか。
今となっても、自分には数える気もしない。

ふと、人間の罠で喰われた親友の遺した言葉が反芻する。



―夢ってのはな、呪いと同じなんだよ。呪いを解くには夢を叶えなければ。
でも、途中で挫折した人間は、ずっと呪われたままなんだよ。



そうなれば、自分は一生呪われたままなのか。
自分の足にある汚れを見るように、あの時は本当にそう思った。
そうなれば、彼等は、呪われたまま死んでいったのかと。
今までやって来た事のせいで、自分も、死んでいった二人も、一生呪われたままなのかと。

自分は一体何をやって来たのだと。

自分は、此処にはいない誰かに、そう問い詰めた。

気がつけば、自分は既に黒の鎧にその身を包み、化物として生きていくと、そう高らかに叫んでいた。
そう、もう、己には何も残されていないと。
夢に惑わされた自身が愚かだったと。
後悔と怒りと絶望にその身を焦がし、自分は戦いの場へと赴いた。

立ちはだかったのは嘗ての友である救世主だった。
救世主は自分とは真逆に、人間として戦うことを決意している。
それでも、自分の足が止まることは無かった。
ただ只管に殴った。
観客の歓声が騒がしかったが、そんなことすらどうでも良かった。
怒りと憎しみを拳に込めて、自分は戦った、救世主に全てをぶつけた。

救世主もまた、自分と同じ存在だった。
彼もまた、嘗ての自分達のように化物でありながら人間に付いていたのだ。
それでも拳の勢いを止めなかった。
人間の味方をするのなら、誰であろうと倒すと決めたのだから。
しかし救世主はそれに答える。

―おまえのやりたかったことは俺がやる、お前の理想は俺が継ぐ!

其処で彼は再び、その救世主と呼ばれた姿に変わり、自分とのぶつかり合いを始めた。
激闘の末、勝ったのは―彼の方だった。
此処で一旦考える。
自分は間違っていたのかと。
彼のほうが正しかったのかと。

地面に横たわる中で見えたのは、裏切ったかと思ったはずの彼女が襲われる姿だった。
それを見た時、何時の間にか、自分の体は動いていた。

―そして今に至る。

その時自分を見つめていたのは、救世主と成りうるだろう友と、裏切ったと思った少女であった。

「木場……っ。」

もう時間がない。
走馬灯が終わり、視界がボヤケていく。
―この言葉を、この夢を、彼に託す。
彼の言葉を信じて。

「約束、して……。」

最後の力を振り絞って、言葉を発する。

「俺の、俺の出来なかった…事を…君、が。」


人間に裏切られた、哀れな馬。
疾走する本能に翻弄されるままにあった地の帝王、木場勇治の二度目の生は、これにて終わりを告げた。



◆  ◆  ◆


581 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:02:27 z3K8mBgc0

電子で構成された、黄昏色の荒野。
まるで終末を迎えたディストピアの様に儚げなこの場所で、黒き獣が、咆哮を挙げていた。


獣の右手に有るは、刺々しい漆黒の戦士。
左手にあるは、禍々しいオーラを纏った剣。
獣は、その剣を突き立て、剣士を突き刺し殺す―かと思われた。

しかし、獣が突いたのは自身の肉体だった。
鋼鉄の様に硬いその肉体を、獣は自分で、貫き刺したのだ。

『我ヲモ、裏切ルノカ!汝マデモガ、我ヲ裏切リ、滅シヨウトイウノカ!』

獣は、獣の心は、己が纏う者に向かい叫ぶ。
それは怒る様にも、泣き叫ぶようにも聞こえる、悲痛な叫びであった。

『違う!僕はお前を滅ぼしたりしない!この剣は、お前を傷つけない!』

これまで、獣は五体の戦士の肉体を渡り歩いてきた。
力の差は別々だが、此処まで力を引き出してくれたのは、彼が初めてであった。
そして、同時に己の憎悪に干渉できたのも、また、初めてのことであった。

だがそれだけでは、獣の本能は止まりはしなかった。

『嘘ダ!アラユル者ハ欺キ、騙シ、裏切ルノダ!我ハ何者ヲモ信ジナイ!』

憎しみの奔流が、獣の剣が付けた傷から流れ出てくる。
七千年にも渡って蓄積され続けてきたそれは、怒り、悲しみ、悔み、憎しみ、怨み。
それらは幾つもの触手となって、自身の胸の剣を引きずり出そうとしていく。

だが、宿り主は往生際悪く、それに抗う。

何故だ。
獣は理解ができなかった。

この鎧を呼び覚ました者達は皆、力を求めていた。


582 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:02:48 z3K8mBgc0

誰かに離れられるのが怖かった。
誰かに負けたくなかった。
何もかも失ってしまうのが怖かった。

嘗て、アビリティどころか碌な武器すら手に出来なかった頃の自分が、「彼女」に見捨てられるのを恐れてきたように。
彼女が消えることを、彼女を失うことを恐れながら、この加速世界を生きてきたように。

今自分に抗う銀鴉もまた、自分と同じような存在だった。
孤独に生き、「親」の期待に答えるのに必死でいた。
この鴉に取り付く前に自分を纏った赤塔だってそうだった。
親の期待に答えようと必死になり、力を求め、そして「己」を呼び寄せた。
結局、彼は親に殺されて永久退場。

だが、彼が喰らいついてくれた糸が、この鴉に導かせてくれた。
彼は自分に最も馴染む存在である。
これなら、今周りの何処かに隠れているであろう、彼女を奪ったあの「影」だって倒せるはずだ。
だからこそ、この鴉の意志の強さには解せない上に苛立ちがこもる。

鴉は尚も叫び続ける。
己の心の中に向けて。

『僕を信じろとは言わない!でも、この世界に、たった一人、お前を愛し、思いやってくれている人がいるんだ!
その人を……信じてくれ!!』

その時、剣を握る鴉の左手が、銀色の光を発す。
鴉が発する「心意」の光が、この禍々しき剣に光を伝える。
眩い光に包まれたその剣は、実に懐かしい輝きを発していた。
あの日、あの時、彼女を殺した敵を殺して手にした、星の如き光を発する白銀の剣。

『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』

鴉はそれで自分の身体を、更に深く抉る。
痛みはなかった。
代わりに、世界が変わった。
自分を包んでいた憎しみの世界が、真っ白に染まっていく。


その中で見えたのは、嘗て獣が最も会いたかった存在にして、会うことを諦めた存在であった。
あの時、彼女は死んだはずだと、そう思っていた。

彼女と出会ったのは、この世界に来て間もない頃だった。
その時の自分には、何の武器も無く、技量もなく、只ちっぽけな戦士であった。
そんな自分をサポートし、手助けしてくれたのが、彼女だった。
自分と彼女は、同じ理想を握りしめていた。
この世界に初めて飛び込んだのは100人。
その内の五分の四は、もうこの世界の記憶を失い永久退場。

それを憂いた彼女は、個々の軍勢(レギオン)を作り、互いに助け合うルールを考えていた。
自分もそれに賛同した。
道が険しいことは分かっていた。
それでもと、夢を叶えるために、と。
自分達は、この道を行こうとした。

だが、そんな物は所詮幻想だった。
賛同者は皆、自分と彼女を欺く気でいたのだ。
拘束され、制限なしの空間に有る化物に殺され、その度に、周りの連中に蘇生されていく。
何度も、何度も、何度も何度も何度も。


583 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:03:07 z3K8mBgc0

我慢など到底できなかった。
今になって漸く手にすることが出来た、この速さでたどり着いた自分は―彼女の息を、引き取った。
彼女を救えなかったのが悔しかった。
彼女が死んでしまったことが悲しかった。
彼女を裏切った彼等が…憎かった。

これまで、自分は人の顔色を伺いながら生き続けてきた。
ふと、元の世界でイジメを受け、何処かへと去ってしまった親友の姿が思い浮かぶ。
そうだ。
あの時自分が怒っていれば、こんなことにはならなかったと。
そんな後悔と怒りが混じり合わせた感情―憎悪が、自身と、彼女が遺した鎧を黒く染め上げていく。

気がつけば、自分は彼女を屠った化物を殺し、剣を、引き抜いた。
その剣が今、あの時の輝きを取り戻したというのだ。
彼女もまた、あの時のままの姿で、今自分の前に立っている。

『ごめんね、一人にして。寂しかったよね…苦しかったよね…。』

とても受け入れることは難しかった。
彼女はもう死んだ、そう思って今日まで憎み戦い暴れ続けてきたのだから。
偽物か何かだと考え、無意識に後ずさる。
しかし、彼女は一瞬で自身の眼の前に現れ、その懐かしい感触の手で自分の顔を撫でてくれる。

『これからは、ずっと一緒だよ。ずーっと、ずっと一緒。』

そういった彼女は、元の世界での姿に変わり、手を延ばす。
自分もそれに答え、手を延ばす。

―ファル!

あの頃と変わらない、彼女の明るい声が聞こえてくる。

―フラン!

それに答え、自分も手を延ばす。

不思議な、しかし懐かしみの有る感覚に包まれていく。
もうとっくに慣れている心の痛みが、何時の間にか消えていた。
あの頃の、夢を見て、秒単位の時間を明るく過ごしていた時が、七千年の時を巻き戻して帰ってきたかのような気持ちだ。

サラバダ、我ガ最後ノ共闘者ヨ。
汝ハ……強カッタ。我ヨリモ、我ガ滅ボシ、マタ我ヲ滅シタ、アラユル者達ヨリモ。
願ワクバ……汝ノ光ガ、世界ニ残ル、最後ノ禍根ヲ断チ斬ラン事ヲ……。


夢に敗れ、怒りを覚え、七千年に渡る恐怖の伝説を生み出した<<災禍の鎧>>。
その鎧が嘗て<<クロム・ファルコン>>だということ言う事は、何時しか忘れ去られていった。



◆  ◆  ◆


584 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:03:37 z3K8mBgc0

「じゃあね〜。」
「それじゃあ〜。」

昼間の道路の交差点。
其処を自転車で走る、二人の男女がいた。
この内、男性が通るは右方面、女性が通るは左方面。
此処までツーリングをしていた二人だが、一旦お別れだ。


爽やかな笑顔を浮かべながら自転車をこぐ木場勇治が記憶を取り戻して、半日が経過する。
与えられたロールは、此処アメリカ、スノーフィールドの留学生。
資産家であった両親からの資金で此処にある大学に行き、時折ピザ屋でバイトもしながら、囁かな毎日を送っていた。
二度と味わうことなど出来なかったであろう、緩やかで、平和な毎日。
偽りでは有るが、しかしそんな充実した日々に、木場は満足していた。

そうもなれば、自身が記憶を楽に取り戻せたのも、自然の流れと言えるであろう。
最初は緩やかな違和感だった。
只、自分に両親がいたこと、帰る場所が、遊園地のボロ屋ではなく、普通のマンションであった事。
そして何より、何処か寂しく、やるせない気持ちがしてきたこと。
これらが重なり合い、今、木場は記憶を取り戻せている。


今木場が住んでいるマンションで、一旦自転車を止める。
駐輪場に停め、階段を登り、自分の部屋へと向かう。


「ただいまー。」

部屋の中は、昔海堂や由佳と一緒に暮らしていた頃の邸宅に良く似ていた。
8LDKのマンションと言う、大学生、それも留学生にしては、大変に金をきかせた部屋では有るが。
上の段は無かったがそれでも、あの時の居間のデザインは、あの頃のままだ。
しかし其処にあるソファに座っていたのは、海堂でも由佳でも無く、宇宙服に良く似た格好の人型の何かだった。

彼こそが、木場の召喚したサーヴァント。
クラスは「セイバー」、木場と同じく、剣を操るサーヴァントである。
サーヴァントは英雄が喚ばれる、とは木場も聞いてはいるが、曰く、彼は「この世界とは別の世界」の英雄なのだそうだ。
その世界がどういう物なのかを、木場は知る由もないが。

「あ、お帰りなさい、木場さん。」

穏やかな口調で、セイバーは答える。

「ごめん、一人にさせちゃって。」
「いえ、一人で過ごすことには、慣れているので。」

苦笑いをしているような口調で、セイバーは答える。
実際、セイバーは両親が忙しく、小学生で有りながら一人でマンションで過ごしていたのだ。
家、というのなら、加速世界でフランと一緒に過ごしたあの家があるので、何時も一人、と言う訳では無かったが。
そういう点では、人間態に成ることが出来ないのが、少し残念に思えた。

しかし、此処で一つ、自分のマスターに問いたいことが有る。
それをセイバーは、ソファに腰を下ろしたマスターに向けて、口に出してみる。

「すみません、マスター。」
「どうしたんだい?」

懐かしい感触のソファの座り心地にホッとした木場が、興味深そうな表情で聞き返す。

「……マスターは、この聖杯戦争で、これからどうするつもりでいますか?」
「どうするつもりって……。」

思えば、木場勇治には聖杯を手にしてまで叶えたい願いはない。
人間への敵意は既に消え失せた。
夢なら彼に託した。
となれば、もう木場には思い残すことも無いはずだ。

「……セイバーには、願い事はないの?」
「はい……願いなら、もう元の世界に託したので……。」

セイバーのサーヴァント、クロム・ファルコン。
彼は本来の聖杯戦争「でなら」、召喚することは出来ない存在である。
存在が公にされていないゲーム「ブレイン・バースト」。
そのブレイン・バーストにおいて、自身の無念が起こした怪物「災禍の鎧(クロム・ディザスター)」が、
ゲームがばら撒かれて7年の間、このゲームに恐怖を齎す伝説となった逸話―
それをムーンセルが計測していたお陰で、今こうしてセイバーは現界していられる、と、現界時の記憶にはそう刻まれている。

詰まる所、自分はクロム・ディザスターの記憶をそのまま受け継いだ「コピー体」。
しかし、そんな形で再生して、いきなり願いを叶えろ、と言われても、セイバーにはいきなりには思いつけない。
何より、フランが願ったレギオンの結成なら、既に叶ったも同然。
希望なら六代目に―その仲間達に託した、ならば。

「ですので僕は、貴方のサーヴァントとして動きます。その為に、僕はこの場で再び現界したのですから。」


585 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:03:57 z3K8mBgc0

しかし木場は、そんな儚げなセイバーの姿を見て、嘗て叶えようとした願いに想いを馳せた。
人間とオルフェノクの共存。
その為に、木場は昨日まで戦ってきたのだ。
確かに、夢は乾や真理に託した。
でもそれは、自分が叶えようとした夢だったんだ。
だったらせめて、彼等の夢の花を踏み躙るような事はしたくはない。
別に、自分が正しかった、

「それなら、セイバー。俺は、この戦いには乗らないことにするよ。
聖杯は破壊する。罪なき人々は絶対に助ける。それが、俺が今を生きる乾君や園田さんに出来る、ささやかな手助けだから。」

木場は、それまで少し俯いた顔を上げ、セイバーの問いにやっとの答えを見出した。
聖杯の破壊、それが木場勇治の方針であった。

セイバー、クロム・ファルコンにとって、その願いは心地よい物だったのかもしれない。
数多くのサーヴァントがぶつかり合う「聖杯戦争」。
それは、セイバーが嘗て経験していた頃のBBに少し良く似ていた。
だが、フランもシルバー・クロウも、争うことを拒み、平和を叫び続けてきた。
自分には、あの二人のような強さは無いのかもしれない。
でも、あの頃のように希望を投げ捨てたくはない。
もう二度と、BBの様な事は起こさないし、加速研究会の様な連中が現れたら、絶対に倒す。
そう決意したセイバーも俯いていた顔を上げ、木場の方針に、ウン、と頷き、「STAR CASTER」と刻まれたカードを懐から引き抜く。

「分かりました、マスター。一緒に聖杯戦争を止めましょう。」

(フラン、もう一度力を貸してくれ)

そう心で喋った時、カードが一瞬、キラリと光った気がした。


◆  ◆  ◆


二人の剣士の在り方は、実に似ていた。
裏切りによって理想を汚され、漆黒の鎧と剣を振るった馬と隼。
一人は化物の帝王に祭り上げられ、一人は嘗て願った理想を、自ら歴史もろとも砕いていった。
だが二人は同時に、理想に生きようとした心優しい人だった事、それもまた事実である。
嘗て願った理想は、元の世界に投げ捨てた。
だが、彼等が護るために再び握ったその剣は自然と、嘗ての理想に答えを見出すために振るわれ始めていくだろう。


586 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:04:18 z3K8mBgc0







【出典】劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
【マスター】木場勇治

【Weapon】

「オーガギア」
世界を支配する大企業「スマートブレイン社」の切り札「帝王のベルト」。
これはその中でも火力に秀でた「地のベルト」である。
スーツを転送し、制御する「オーガドライバー」
装備の操作、及びスーツの転送を行う「オーガフォン」
フォトンブラッドの刃を発生し、万物を切り裂く大剣「オーガストランザー」
これらの装備で構成されている。
これを使用することでオーガのスーツを転送し、変身することが可能。
オーガとなれば戦闘力は向上するが、科学の産物であるためサーヴァントには太刀打ちできない。
ベルトを奪われれば変身は出来なくなるが、これは極一部の最強クラスのオルフェノクでなければ変身は叶わないため、利用される心配はない。
また、オーガは本来、人工衛星「イーグルサット」を介して変身するのだが、このSE.RA.PH内にはそれも再現されている模様。


【能力・技能】

・オルフェノク
人間が一度死ぬことで覚醒する、人類の進化系。
木場は自然死で極稀に生まれる「オリジナル」のオルフェノクであり、通常のオルフェノクを越える程の戦闘力を誇る。
変身するのは馬のオルフェノク「ホースオルフェノク」で、更には「激情態」と呼ばれる姿に進化している。
「ホースソード」を使った剣撃の他、「疾走態」によりケンタウロスに変化、盾を発生させた防御戦も得意とする。
ホースソードを人間の胸に突き刺すことで、「使徒再生」を行い、低位のオルフェノクを僅かな確率で覚醒させることが可能。
また、人間態でも高層ビルの屋上から飛び降りて無傷なほどに耐久力と治癒能力が高いので、きっと魔力も安定しているだろう。


【人物背景】

人間の進化体「オルフェノク」の中でも特に秀でた力を秘めた青年。
裏切られ、欺かれ絶望した彼は、地を統べる帝王へと君臨する。
彼は親友であった救世主に敗れ、夢を託し蒼き炎に包まれていった。
基本的に真面目でお人好しな性格だが、一度キレると手が付けられなくなる心の弱さも併せ持つ。

【マスターとしての願い】

聖杯を破壊する。

【方針】

願いは救世主に託した、現世に悔いはない。
脱出派、対聖杯派を探す、魂食いを行い、聖杯を手に入れるために暴れる者には容赦はしない。


587 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:04:47 z3K8mBgc0


【出典】アクセル・ワールド(7巻)
【CLASS】セイバー
【真名】クロム・ファルコン
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力C 耐久A 敏捷A+ 魔力C 幸運E+ 宝具A

【クラス別スキル】

騎乗:E
乗り物を乗りこなす才能。
バーストリンカーにはオートバイな外装が存在する他、エネミーで沖縄から本州に飛んだりする者もいるため、騎乗スキルもある程度は内包されている。
ただしセイバーには乗り物を乗りこなした逸話は無いため、ランクは低め。多分自転車か三輪車に乗れるかどうか。

対魔力:D
魔力に対する耐性。
魔除けのアミュレット程度。

【保有スキル】

心意:A+
バーストリンカーが習得できる、「イメージ」の力。
イメージを形とし、力とすることが可能。
彼は嘗て、心意の力を暴走させることでその鎧を漆黒に染めた経験がある。

無辜の怪物:B(EX)
七千年に渡って語り継がれた鎧の主だった逸話から。
能力・姿が変貌してしまう、また、このスキルは外せない。
彼の場合は、Bランクの「魔力放出(闇)」と、Eランクの「狂化」の複合スキルとして扱われる。
セイバーは「災禍の鎧」としての知名度が高く、その影響から鎧の記憶も有している。
また、第三の宝具を発動した場合、ランクが()内に修正される。

フラッシュ・ブリンク:-
セイバーが扱うバーストアビリティ。
身体を量子に変換し、超速で移動することが可能。
この間は攻撃が通じない他、壁をすり抜けることも可能。

腐食耐性:B
身体を蝕む攻撃に対する耐性。
これにより、セイバーは宝具の唯一の弱点を補っている。


588 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:05:05 z3K8mBgc0


【宝具】

「七星外装・<<開陽>>(<<THE DESTINY>>)」
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
セイバーを包む甲冑で、愛した彼女の形見。
伝説にて語り継がれる「クロム・ディザスター」の元となった装備。
かなりの耐久性を誇り、大抵の攻撃では傷つけられない。
腐食を除く、同ランク以下のありとあらゆる攻撃のダメージを軽減させてしまう。
普段はカードとなって収納されており、任意で装着することが可能。

「蛇殺しの手に星剣は降る(<<STAR CASTER>>)」
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:10
セイバーが神獣レベルエネミー、ヨルムンガンドを殺して手にした剣。
高ランクの強化外装で、まるで天使の羽のような美しさを放つ聖剣。
ワーム型神獣ヨルムンガンドを倒すことで入手できる逸話から、竜殺し、ないし神殺しの概念を持つ。
これもまた、カードとなって収納されている。

「閉じた陽光・<<災禍の鎧>> (<<THE DISASTER>>)」
ランク:A+ 種別:対怨宝具 レンジ:― 最大捕捉:1
七千年に渡り加速世界において語り継がれてきた災禍の鎧。
「七星外装・<<開陽>>」、「蛇殺しに星剣は降る」を「無辜の怪物」「心意」を重ね合わせて発動する。
パラメータは向上するが、その代わりセイバーは、己自身の憎悪に蝕まれ、暴走する危険性がある。
基本的にセイバーはこれを封印しているが、もしセイバーが再び憎しみに狂えば、この宝具は自動的に起動する。

【Weapon】

「蛇殺しに星剣は降る」

【人物背景】

ニューロリンカーが世に出て間もない頃。
「ブレイン・バースト」と呼ばれるアプリケーションが、100人の少年達に配られた。
多くのバーストリンカー達が争い合う中で一人、加速世界の融和を願う少年がいた。
しかし、彼は鋼の隼から、災禍の獣へと姿を変えた。
それ以来、この加速世界七千年の歴史に、有る鎧の伝説が刻まれた。
鎧は力を求めるバーストリンカーに寄生し、取り憑き、本能のままに暴れる狂戦士と化していくという。
既に五体の主を変えたその鎧を人は、災禍の鎧―クロム・ディザスターと呼んだ。

尚、この鎧の伝説は、黒のレギオンに所属するちっぽけなプレイヤーによって終止符を打たれている。
鎧にこびり付いた憎悪は浄化され―元となった外装は、今も何処かでひっそりと、幸せそうに眠り続けているだろう。

本来、デュエルアバターはサーヴァントとしては召喚することは出来ない。
しかし、この世界が演算装置であることに加え、通常では召喚することの出来ないサーヴァントも召喚できるようになっていることから、
存在が公にされていない謎のゲームに伝説を打ち出した呪いは、嘗ての姿を取り戻し今此処に現界している。

【サーヴァントとしての願い】

夢は既に叶い、自身も加速世界からは解き放たれている。
もう、思い残すことはない。


589 : 帝王の灰馬、災禍の金隼 ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:05:20 z3K8mBgc0

【基本戦術・方針・運用方法】

素早さと頑丈さに長けたサーヴァント。
基本的には「フラッシュ・ブリンク」による超速移動と、「蛇殺しに星剣は降る」を使った強力な斬撃を武器に戦う。
「七星外装・<<開陽>>」による防御能力も兼ね備えており、大抵の攻撃は通じない。
ただし、ファルコンは強化外装を除いたウェポンを所持しておらず、些か火力には劣る。
第三の宝具を使えばその限りではないが、「今の所」セイバーにはそれを使う気は無い。
元々碌な目にあっていない事に加えマスターのこともあり幸運は低めだが、イジメのターゲットから逃れられたり、激レア外装を偶然入手したりと、
瞬間的に幸運を呼び寄せることは出来る。


590 : ◆lkOcs49yLc :2017/01/29(日) 18:05:38 z3K8mBgc0
投下を終了します。


591 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:10:49 iz.ryWwc0
投下します


592 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:14:36 iz.ryWwc0


男の前には、二つの道があった。


心を通わせた友を救い、世界とそこに生きる人々を見殺しにする道。
世界と人々を救い、友を暗い闇に封じ永遠に決別する道。
どちらか一つを選べば、もう一つは捨てざるを得ない。

男は迷い、苦悩し、泣き叫んだ。
選べるものか。どちらか一つなど、決して選べるはずがない。
あまりにも重すぎる選択。誰にもその重責を分かち合うことなど出来はしない。

だが――だが。たった一人。
たった一人だけ、剣崎の背を押した者がいた。
迷う必要などないと。お前の選ぶべき答えは決まっているはずだと。
その想いを胸に秘め、決して口にすることなく――それでも必ず伝わると信じて。


自ら、命を差し出した。


友は、自らの命を捨てて、男に委ねた。
世界を守るために。
世界の片隅で生きる小さないのちを、守るために。
男に、世界を救ってくれと懇願した。


友の名は、相川始。
男の名は、剣崎一真。



彼が選んだ道は――世界を守るため、無二の友である相川始を、封印することだった。


593 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:15:50 iz.ryWwc0

   ◆


「お前は、誰だ……?」

セイバーのサーヴァントとして召喚された剣崎一真の前に、二人の少年がいた。
双子のように同じ顔、だが別の存在であると感覚でわかる。
一人は床に倒れ意識を失っているようだが、もう一人はその傍らに立ち、眠る少年をを見つめている。

「我は汝、汝は我……とは、いかぬようだ。姿形は人間であっても、君はもはや人ではない。私を映す鏡とはなれない」

少年の声は低く、セイバーをして底知れないと思わせる深みがあった。
セイバーはふと、己が剣に手を掛けていたことに気付く。
敵意を感じた訳ではなく、攻撃された訳でもない。
しかし、目の前にいるこの存在は、自身の知る人間という範疇から逸脱した存在であると、本能が叫んでいる。

「私はフィレモン……意識と無意識の狭間に住まう者」
「お前が、俺のマスターなのか?」

フィレモン、と名乗る仮面の少年に、セイバーはそう問いかける。
だが、問うた瞬間に違う、と確信していた。
こいつは違う。
外見こそ人間であっても、決して人間ではない。
サーヴァントであるセイバーが警戒している。となれば、自然と魔力が圧となって放たれ、平常な人間であれば悪寒や恐怖を感じてもおかしくはない。
だがフィレモンにそうした感情の波は感じられず、どころかまるで底の見えない海に沈むがごとく、平然と魔力圧を受け流していた。
と、フィレモンを注視するセイバーの視線が止まる。
少年の頬はついさっき殴られたのか痣になっていて、口の端から血が滲んでいる。

「ああ、これか。彼にね……当然の報いだと思っている」

フィレモンは気を失っている少年を目で示すと、指を鳴らした。
セイバーの瞳が瞬く。視界を遮ったのは、光り輝く黄金の蝶だった。
蝶はふわふわと舞い、少年の顔に止まる。やがて輝きを薄く弱め、少年の痣を覆い隠す黄金の仮面となった。

「問いに答えよう。と言っても、君はもう答えを得ているようだが。
 お察しの通り、君のマスターは私ではなく、この少年だ。名を、周防達哉という。君には、彼を救ってやって欲しいのだ」
「周防、達哉。彼は何故お前と同じ顔をしている?」
「逆だ。私が彼の顔を真似ているのだ。私は……私と向かい合う者の心を映し出すが故に」

フィレモンは跪き、周防達哉の身体を抱え上げた。
力なく垂れ下がるその四肢からは意志の力は感じない。怪我をしているようにも見えないが、完全に意識を失っている。
達哉の頬には、濡れた跡があった。涙の跡。苦しげに歪められた眉。
彼は、慟哭の果てに崩折れたのだ。


594 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:16:36 iz.ryWwc0

「何があった。達哉……は、何に泣いているんだ?」
「すべてに。すべて、失ったが故に。彼はいま、境界の狭間にいる。
 古き世界から逃れ、新たな世界へと漕ぎ出すその境界……その狭間に」

フィレモンは深く息を吐くと、達哉の辿って来た過去を語り出す――いや、映し出す。セイバーの霊核に直接刻み込む。
幼き日の過ち。自らを守るためにその思い出を封じ、やがて再会した仲間たちと共に、ペルソナという力を武器に悪魔との戦いに身を投じる。
長く、険しい戦いの果て――達哉を待っていたものは、敗北と喪失だった。

「彼らは敗北した。顔なき人の悪意に。もう一人の私ともいうべき存在に。
 慕っていた女性を目前で奪われ、帰るべき場所さえも破壊された。
 君にはわかるはずだ。バトルファイトの勝利者、霊長の頂点。人がその争いに敗れれば、どうなるのか」
「まさか……達哉の世界は……?」

セイバーの声は震えていた。想像してしまったからだ。
かつて彼がその手で阻止した世界の滅び。人類種の滅亡。地球文明の終焉。
それが、達哉の世界で起こったとすれば、涙も当然というもの。
この少年は、地獄を見て絶望し、それでもなお、ただ一人生き残ってしまったのだ。

「だが、一つだけ。滅びを回避する手段があった」

それは、忘却。
幼い達哉とその仲間たちが出会い、罪を犯した日。
その日こそが分岐点。達哉が生きてきた時間を構成する、最も古き時間に降ろされた錨。
その日を「なかったことにする」――達哉たちがその記憶を放棄することで、そこから先も「なかったことにする」。
結果、生まれたのはもう一つの世界。
達哉とその仲間たちが出会わないことで成立する、悪魔など存在しない、平和を謳歌する世界。
愛する人の死を、家族や友人との別れを、地球という星の滅びを受け入れられなかった少年たちは、フィレモンの提案を受け入れた。
新世界は達哉たちが記憶を捨てることで初めて確定する世界。
幼き日の出会い、時を経た再会、手を取り合い駆け抜けてきた戦いの日々。
彼らが育んできた絆も、思い出も、すべてを捨てて、ようやく世界を救うことができる。

「彼らはみな、記憶を捨てても再会できると信じた。必ずもう一度会える運命だと」

達哉に笑いかけ、感謝し、愛を伝えて、仲間たちは旅立った。必ずもう一度会おう、もう一度友達になろうと約束して。
最後に残った達哉は別れを告げたフィレモンに意地の拳を叩き付け、仲間たちの後を追って新世界へと足を踏み入れ――

「……だが。彼は忘れられなかった。捨てることを拒んだ」

世界を渡る間際で、達哉の心は限界を超えた。
仲間たちの前では強いリーダーでいられた。強い自分でいられた。世界を守るために記憶を捨てることも決断できた。
しかし、一人になった瞬間。孤独を意識した瞬間。そんな決意は粉雪のように吹き散っていった。



駄目だ、忘れたくない、忘れられるものか……

みんな行かないでくれ、一人にしないでくれ……

嫌だ、嫌だ……嫌だ――――――――――――――――!


595 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:17:22 iz.ryWwc0

剣崎は、血が滴るほどに強く拳を握り締めていた。
フィレモンが見せた達哉の過去。血を吐くような叫び。
達哉が犯した「罪」――これを、フィレモンとその同類は、「罪」と呼んだ。

「ふざけるな……」

セイバーの、剣崎一真という存在の魂の奥底から、業火のように湧き上がるものがある。
フィレモンへの怒り。悪意の化身への怒り。そして運命への怒り。

「これが罪だと? 友のことを忘れたくないと願う、その想いが罪だと? ……ふざけるなッ!
 お前は、お前たちは何様のつもりだ! 懸命に生きている人間を利用し、嘲笑い、弄んで!
 何が……救ってやって欲しいだ! 達哉を追い詰めたのはお前たちだろう!」
「返す言葉もない。そう、私もまた、彼にとっては憎むべき存在だろう。私は彼奴を止めることも、諌めることもしなかった。
 君に糾弾されるのも当然だ。だが、これだけは信じて欲しい。私は彼が運命と戦うことを……そして打ち勝つことを望んでいる。
 たとえ、聖杯戦争というさらなる地獄の中に彼を突き落とすことになろうとも」

セイバーの怒りを、やはり水面に沈めるように受け止めて――フィレモンは。
達哉の胸に手を置き、そこから引っ張り出すように一枚のカードを取り出した。
いや、一枚ではない。一枚は太陽の絵が書かれたタロットカード、もう一枚は――白紙のトランプ。

「彼のペルソナ、アポロ。太陽神の力を宿す強力なペルソナだ。だがサーヴァント相手ではあまりに微かな力。
 だからこそ、彼を君に託したい。世界を救った勇者。強力なサーヴァントである、君に」

そのカードを見てセイバーは気付く。未だ、達哉と己とは契約を交わしていない。
いや、そもそも――ここは聖杯戦争を行う地ではない。
意識と無意識の狭間に棲まう、とフィレモンは言った。
そう、ここは英霊の座と似て非なる場所。周防達哉の意識と無意識の狭間なのだ。

「お前が俺を召喚……いいや、引き寄せたのか?」
「然り。如何に強き英霊であろうと、彼を任せるには適任であるとは言えない。
 宇宙に煌めく無数の星々が如き英霊たちの中にあって、君が……君だけが、周防達哉の守護者たるべき存在だ。だから私は君を選んだ」
「何故、俺なんだ。俺のいったい何が達哉に適任だと?」
「わかっているはずだ。何故なら、君もまた」


罪を犯した者だからだ。


「友と世界を天秤にかけ、世界を選んだ男だからだ」

幻聴か、あるいは偽らざる自身の魂の声か。セイバーの胸を刺す、罪という響き。
セイバーの脳裏に去来するのは、あの日の記憶。
英霊となり幾星霜を経てもなお色褪せることのない――友との別れの記憶。


596 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:18:21 iz.ryWwc0

「君ならば、周防達哉の抱える痛みと苦しみをわかってやれるだろう。彼の願いも、救いも」
「そのために聖杯戦争に勝ち残れと、俺に……いや、達哉に手を汚せと言うのか」
「彼は二つの世界を結ぶ特異点と化した。
 ここで君が契約を結ばなければ、彼は新たに生まれた世界へと送られる……記憶を有したまま。
 その世界は彼らが過去に出会わなかったことを起点に存在している。特異点がそこに紛れ込めば……」
「新世界も滅びる、のか。達哉の存在によって」
「そうだ。かと言って、旧世界に戻ったところでそこには彼の友はもはやいない。愛する人もなく、世界も彼らの街を除いて滅んでいる。
 救いはもはやここにしかない。こちら側でも向こう側でもない、この境界の狭間にしか」

フィレモンが歩み寄り、力なく眠る達哉の身体を差し出してくる。
拒むのは簡単だ。契約は未だ結ばれておらず、選択権はセイバーにある。
だが拒めば、フィレモンの言った通り、達哉は絶望と滅びの未来に向かうしかない。
救う可能性は僅か、聖杯に賭けるしかない。
セイバーなら、剣崎一真なら周防達哉を「救える」かもしれない。
もう一人の自分とも呼べる、この少年の未来を、切り開いてやれるかもしれない。

「……俺は。仮面ライダーブレイドだ」

人々を守る戦士、仮面ライダー。その誇りとする職務から逸脱する行為だと、わかってはいても。
それでもなお、たった一つ。すべてを失い泣きじゃくるこの少年の、支えになることができるのは自分しかいないと、そう感じたからこそ。
あの日、友の命と引き換えに世界を守り、英霊となった自分だからこそ、この少年に寄り添えるのだと信じて。

「お前に言われたからじゃない。俺は、俺のやり方でこの少年を救ってみせる」

フィレモンから達哉の身体を受け取り、強くその手を握り締める。
太陽のカードが輝き、達哉とセイバーの間に縁が結ばれる。
世界のために友を殺した男と、世界のために友と別れることを拒んだ少年。
これを運命と呼ぶなら皮肉なものだ。だが、運命など後出しの予言と何も変わらない。
運命と戦う。それが一体どういうことなのか。達哉とともに戦うことで答えが見いだせるのか。
目覚めの時だ。セイバーはフィレモンに背を向け、一歩を踏み出す。

「全部終わって、俺と達哉が生きていたなら、必ずお前をぶん殴ってやる。覚悟しておけ」
「私もそれを望もう」

光の粒となり、消えていくセイバーと達哉。彼らはこれより決戦の地へと向かう。
見送るフィレモンは、達哉に殴られた頬を撫で、眠るように眼を閉じた。

「しかし、試練と出会うのは彼だけではないかもしれない。
 セイバー、あるいは君も、犯した罪の罰に直面することが……」

言葉は誰に届くこともなく、黄金の蝶は何処かへと羽ばたいていく。
これは、境界の狭間で語られた始まりの物語である。


597 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:19:38 iz.ryWwc0

【出展】劇場版  仮面ライダー剣 MISSING ACE
【CLASS】セイバー
【真名】剣崎一真=仮面ライダーブレイド
【属性】秩序・善
【ステータス】
 筋力C 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運B 宝具A (通常フォームのステータス)
 筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力D 幸運B (ジャックフォーム)
 筋力A 耐久A+ 敏捷D 魔力D 幸運B (キングフォーム)
【クラス別スキル】
対魔力:A
 魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
騎乗:C
 正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせる。
【保有スキル】
融合係数:A
 アンデッドとどれだけ深く融合しているか、を示す値。
 装着者の精神状態によって変化し、怒りや強い思いによって闘志が高まるのに呼応して上昇、逆に恐れや迷いを抱くことで闘志が失われると低下する。
 融合係数が高まれば全ステータスにプラスの補正を得るが、逆に低下するとマイナスの補正を受ける。
守護騎士:A+
 怪物から人々を守護する、都市伝説の仮面騎士。
 宝具である鎧を装備している時にのみ付与されるスキル。
 他者を守る時、人を護りたいというセイバーの意志により、宝具である鎧との融合係数が向上することで、一時的に防御力を上昇させることができる。

【宝具】
『我掲げるは勝利の剣(ブレイバックル)』
ランク:A 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 ラウズカードに封印されたアンデッドの力を引き出し変身するライダーシステムの一つ。
 ブレイドは特に剣戟戦闘に長け、雷の力を操り攻撃に転用する。
 通常フォームへさらに魔力を注ぎ込むことで強化形態であるジャックフォーム、キングフォームにそれぞれ変身することが可能となる。
 ジャックフォーム時は背中に翼が生成され高い空戦能力を得る。キングフォーム時は翼は失われるが、重力制御によって(ジャックフォーム時ほどではないが)飛行は可能。

『切り札は我が手の内に(ラウズカード)』
ランク:A 種別:対人(自身)宝具 最大補足:1人
 アンデッドの力を封じ込めた13枚のカード。ブレイラウザー、またはキングラウザーにラウズする(読み込ませる)ことで瞬間的に様々な効果を発動する。
 キングフォーム時はカードをラウズせず直接効果を発現できるが、どの形態でも使用できるのは一戦闘に一度のみ。
 但し、セイバーのクラスとして現界した都合上、カードから剣に関与しない力を引き出すことは不可能となっている。使用可能な効果は以下。
  2・スラッシュ 筋力値に「+」効果を付加する。
  6・サンダー 魔力放出(雷):Bのスキルを得る。
  9・マッハ 敏捷値に「+」効果を付加する。

『闇よ退け、此よりは人の時代なり(ロイヤルストレートフラッシュ)』
ランク:A+ 種別:対神宝具 レンジ:1〜50 最大補足:100人
 全身に融合した十三体のアンデッドの力を重醒剣キングラウザーに凝縮し、光の斬撃として放つ。
 古代の邪神、そして不死存在たるジョーカーアンデッドを完全に消滅せしめた逸話より、神殺し・不死殺しの属性を宿す剣。

【weapon】
「醒剣ブレイラウザー」
 ブレイド専用の剣型カードリーダー。通常フォーム、ジャックフォーム時の主武装。
「重醒剣キングラウザー」
 キングフォームに変身すると同時に実体化する大剣型カードリーダー。ブレイラウザーとの併用も可能。


598 : ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:20:09 iz.ryWwc0

【人物背景】
 かつて人を捨て、永遠の孤独と引き換えに、運命との戦いに挑んだ男――の、別の可能性。
 不死存在アンデッドによる地球の支配権を巡る戦い「バトルファイト」に、人を守る戦士「仮面ライダーブレイド」として参戦した。
 この剣崎一真は親友である相川始=ジョーカーを封印することを選び、人間をバトルファイトの勝利者とした。
 やがて剣崎は再び復活したアンデッドとの戦いに巻き込まれ、その中で相川始と再会する。
 始は自らを犠牲にして強大な邪神を押さえつけ、剣崎の手によって諸共に討たれることを望む。
 この「剣崎一真」は、世界を守るために友を封印し、世界を守るために友の命を奪った男である。

 自らもアンデッドと化しバトルファイトを継続、友と世界を守り運命と戦うことを選んだ「剣崎一真」とは、同一にして異質の存在。
 正しく人を、世界を救い、人間の英雄として英霊となった存在。故に、真名は「剣崎一真=仮面ライダーブレイド」。
 この剣崎一真はもう一人の「ジョーカー」とはなる道を歩まず、キングフォームを使用しても暴走の危険はない。

 ――ただし、それはあくまで彼が生きた世界で観測された事象による。
    その世界のジョーカーは自ら封印されることを望み、剣崎もこれを受け入れた。
    もし、彼がキングフォームの力を全開にしてジョーカーと、あるいは同質の存在と戦ったならば――

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯に託す願いはもはやない。だがもう一度、友と出会うことが出来たなら、そのときは……


【出展】ペルソナ2 罪/罰
【マスター】周防達哉
【参加方法】
【人物背景】
 PSゲーム「ペルソナ2 罪/罰」に登場する少年。「罪」では主人公を務める。
 ペルソナ能力を駆使し、「悪魔が跋扈し、噂が現実になる」街の異変に挑む。
 やがて異変の核心に迫るものの僅かに力及ばず世界は滅びてしまい、達哉と仲間たちは自らの記憶を忘却することで新たな世界を創造=滅びをリセットしようとする。
 仲間たちは世界と大事な人を守るために忘却を受け入れたが、達哉だけは間際で拒んでしまう。そして新たに生まれた世界でただ一人、記憶を引き継いだまま目覚めることになる。
 自らの存在が世界にもう一度滅びをもたらすと知り、達哉は今度こそ世界と仲間を守るため孤独な戦いを始める。

 ただし、この周防達哉は罪と罰の狭間――記憶を失うことを拒んだ瞬間から、聖杯戦争に参加している。

【weapon】なし。刀剣類の扱いに熟達している。

【キーワード】
『ペルソナ使い』
 ペルソナとは「心の奥底に潜むもう一人の自分」が実体を伴う像として具現化したもの。
 実体化したペルソナは神話の英雄や怪物、天使や悪魔などの姿を取り、またその姿に由来した能力を持つ。
 覚醒の方法は幾つかあり、達也の場合は「フィレモン」(人間の普遍的無意識が人格化した存在)により力を与えられた。
 ペルソナ使いたちはベルベットルームという不可思議な部屋で新たなペルソナを生み出したり、付け替えたりすることができる。

【能力・技能】
『ペルソナ/アポロ』
 達也がその身に宿すペルソナは、太陽のアルカナに属し、炎熱を統べる特性を持つ人型のペルソナ『アポロ』。
 ギリシアの太陽神。輝くばかりに美しい男神。芸能・芸術の神、病を払う治療神でもあり、神託を授ける予言の神としての側面も持つ。ボクシングを創始した神としても知られる。
 降霊中は本体である達也に火炎属性への無効耐性を付与するが、逆に水・氷結属性への耐性は低下する。
 火炎を操る、爆発を起こす、両拳による格闘戦を主な攻撃手段とする。

【マスターとしての願い】
 仲間たちとの記憶を無くしたくない。世界が滅びるのも認められない。だからこそ、どちらも失うことのない世界が欲しい。


599 : 周防達哉&セイバー ◆gz9gLHsUlk :2017/01/29(日) 20:22:30 iz.ryWwc0
投下終了です。
セイバーのステータスは◆aptFsfXzZw氏の「レクス・ゴドウィン&セイバー」より一部流用させていただきました。


600 : ◆7u0X2tPX0. :2017/01/29(日) 21:40:44 FP3bbDL.0
投下します。


601 : あるいは夢いっぱいのおもちゃ箱 ◆7u0X2tPX0. :2017/01/29(日) 21:43:01 FP3bbDL.0

 すうすう、と。小さな幼い、か弱いながらも確かな生命を感じさせる息遣い。それが心地よく私の耳に届く。

 光源が月明かりのみの、静かな部屋。暖かなベットの中で寝息をたてて眠る金髪の少女。その傍らで、私はベットに腰掛けながら眠る少女を起こさぬよう気遣いながら見守っている。

「…………」

 髪の色や顔立ち、明らかに国籍が違う二人。端から見れば年の離れた友達と見えなくもないかもしれない……いや、時と場所が違っていたら、本当にそうだった、そうなりたかったかもしれない。

  だが、違う。


 彼女の守護者にして使い魔。この月の聖杯戦争を生き抜く主従。

彼女は、マスター。私は、サーヴァント・バーサーカー

――――真名は、ジーナ・チャウ
かつてはとある組織に「SCP-2599」と呼ばれ生涯を終えた、ある一人の女の名だ。


※※※※※※


 白いトランプの導きの元。召喚されて初めて見たものは、困惑に揺らぐ緑の眼だった。
無力を容易く察せられる程の瞳、彼女と目を合わせた途端。
「『病気』をなかったことにする」願いのために覚悟を定めていた私の意志は、砂山が崩れるかのように霧散した。


602 : あるいは夢いっぱいのおもちゃ箱 ◆7u0X2tPX0. :2017/01/29(日) 21:44:15 FP3bbDL.0
 何の力も持たない無力で無垢な小さな女の子。
……「守らなければならない」。自然とその結論に達した。


 彼女は聖杯戦争について正しく認識していない。

 偽りの地、スノーフィールドでの生活。マスターの資格を得たと同時に取り戻すことのできた本来の自分と……この地で繰り広げられる願いのための争い。それらへの折り合いがつけられなかったのだろう。

 私は彼女へ本当のことを告げることができなかった。
願いのために、他者と争い血を流すことになるかもしれない醜い真実を。

『聖杯戦争とはお祭りのようなもの。私は貴方の秘密の友達』

 そんな風にでっち上げ、深く考えなくていいと云った。
そして今、彼女はそのままの、偽りの生活を享受し続けている。
 当たり前の日常。暖かな家族。楽しい学校生活。
絵に描いたような、理想の生活。
……私がかつて、理不尽にも奪われたもの。

 「当たり前」を失う痛みを私は誰より知っている。
だから……奪えなかった、壊せなかった。
偽りに重なる偽善。汚れた真実を隠す綺麗な嘘。
 いずれ失うのだとしても、せめて――――

「……貴方は私が守る。シガーロス」

 暗闇に響く、静かな決意。この胸に宿った、新たな闘志。


   ――――そう、これはきっと、確かな私の意志だ。



 言い聞かせるように、思い込むように。
 ついぞ私は、何にも気づくことはなかった。


603 : あるいは夢いっぱいのおもちゃ箱 ◆7u0X2tPX0. :2017/01/29(日) 21:45:15 FP3bbDL.0
【出展】 SCP Foundation

【クラス】バーサーカー

【真名】ジーナ・チャウ(SCP-2599)

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:D 幸運:C 宝具:EX

【属性】
中立:中庸

【クラススキル】
狂化:EX
 バーサーカーのクラススキル
彼女は狂ってなどいない。彼女のもつ特異性が、「人として異常な状態」というだけ。
故に、彼女の場合は規格外ではなく異例的という意味合いのEXである。


【保有スキル】
無力の殻:C
 能力値が一般人と変わりない程度に落ち込み、固有スキルが発動しなくなる。
代わりに、サーヴァントとしての気配が関知されにくくなる。


【宝具】
『Not Good Enough (不十分)』
ランク:E〜EX 種別:対人(自身)宝具 レンジ:― 最大捕捉:―

 バーサーカーは自分に向けられた全ての命令を絶対に実行する。
 しかし、命令を完全に完了することはできず、結果には何らかの「失敗」や「不完全さ」を孕んでいる。

 現実的に困難あるいは不可能な命令の場合、バーサーカーは異常な挙動を見せることがあり、「現実を歪曲」していると思わしき現象が発生することがある。

 これはマスターであるか否かに関わらず、バーサーカーに下された全ての命令に例外なく発動し、命令に対するバーサーカーの精神的抵抗は一切ない。
 バーサーカーが自発的にこの宝具を解放することはできない。

 また、パラドックスを含んだ命令を下しだした場合、バーサーカーは[削除済み]

【weapon】
特になし

【人物背景】
 SCP財団に収容されている人型オブジェクトの一つ。14歳の朝鮮系の少女。
 有している異常性以外はいたって普通な家族を想う女の子。


【サーヴァントとしての願い】
 自分の「病気」をなかったことにし、両親の元へ帰る。
 ……はずだった。


604 : あるいは夢いっぱいのおもちゃ箱 ◆7u0X2tPX0. :2017/01/29(日) 21:46:57 FP3bbDL.0
【出展】 SCP Foundation
【マスター】 シガーロス=ステファンスドッティル(SCP-239)
【参戦方法】 
 収容時期に白いトランプを入手。詳しい経路は不明

【人物背景】
 SCP財団に収容されている人型オブジェクトの一つ。
 外見は8歳程度の少女。肩までの長さの金髪と、眼には灰緑色の陰がちらついている。

【weapon】
スペルブック

【能力・技能】
 彼女は未知の形態の放射能を有しており、低濃度だと無害だが高濃度だと物質を素粒子レベルまで分解する。
 また、財団が「現実改変」と呼称している特殊な異常性により、現実を思うがままに改変することができる。
 彼女はその力について無自覚であり、財団は「君は魔女なんだ」と刷り込むことにより行動をある程度制御することに成功している。

 その効果範囲は彼女が認識する全て。すなわち、「彼女は見れば、変えられる」

【マスターとしての願い】 
 不明
【方針】 
 不明


 クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、 
SCP FoundationよりSCP-293(著者不明)。及びSCP-2599(著者 weizhong氏)の創作キャラクターを二次流用させていただきました。

本家ページ
SCP-239
ttp://www.scp-wiki.net/scp-239
SCP-2599
ttp://www.scp-wiki.net/scp-2599


605 : ◆7u0X2tPX0. :2017/01/29(日) 21:47:28 FP3bbDL.0
投下終了です。


606 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:21:01 sC6pzPcY0
二作投下します


607 : 現代の御伽噺と未来の伝説 ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:22:42 sC6pzPcY0
魔法使いが示した道は、お城に向かって真っ直ぐに、けれどお城に続く道は、無数の茨に覆われて。
立ちすくむお姫様。お城は見えるけれど、ただ、それだけ。進むことなど出来はしない。
けれどお姫様の窮地には何時だって騎士(ナイト)がやって来るもの。
騎士はお姫様の為に茨を刈り取り道を開きます。
お城に続く道を真っ直ぐ駆けるお姫様。門を通り、広間に入り、そこで皆から祝福されて、輝く星を手にするのでした。





現実は非常である、御伽噺とは違う。





「はう〜〜〜〜」

島村卯月は盛大に溜息を付く。せっかく取り戻した彼女の最大の魅力である笑顔も、再び曇ってしまう程に、卯月は落ち込んでいた。
自分だけの笑顔を見つけて、城のステージに上がろうと思った矢先に聖杯戦争なんて事態に巻き込まれたのだ。震えて泣いても誰も彼女を責めないだろう。
にも関わらず卯月が憂鬱な顔をするだけで済んでいるのは、側に彼女のサーヴァントが控えているからだった。

「まあ、そう落ち込みなさんな。私だってこう見えても伝説と呼ばれた時代に生きていたんでね。そうそう引けは取りはせんよ」

シンデレラの元に来たのは精悍な中年の男性。彼女には想像も付かぬ未来で“騎士”をやっていたらしいが、卯月にはサッパリだ。

「それで?お嬢さんは何の願いがあってこんな野蛮な争いに首を突っ込んだんだい?」

値踏みするような眼差し、下手な事を言おうものならその場で絶縁されるであろう事を卯月に簡単に理解させた、その口調。オーディションの時以上に緊張して卯月は答える。

「私の願いは……私が…私自身の力で…みんなと一緒に叶えるものです……こんなところで…他の人を傷つけてなんて……してはいけないんです!!」

精一杯の意志と覚悟を決めた答え。眼差しと言の葉に自分の思いの全てを込めて男にぶつける。

「ほう、それではお嬢さんは魔法だの奇跡だのに興味は無いと?」

僅かに関心を持った口調で漢が聞いてくる。

「もう、私は…プロデューサーさんに魔法をかけてもらいましたから」

「………それは興味深いな」

魔法という言葉に、男は嫌が応にでも思い出してしまう。男の人生が最も輝いていた時を、男と仲間達を宇宙の闇の中で照らし、輝かせた恒星を。その死に間に合わなかった冴えない魔法使いを。

「私は…もっとキラキラしたい。その為にも戻らないといけないんです!!お願いです!力を貸してください!!」

はあ、と男はため息を着いた。こんな健気な娘をこんな下らないことで死なせたくは無し。それに、一度救えなかったのだ。この娘を護れなければ、己の名は無能の代名詞となるだろう。

「………まあ、お嬢さんの言うキラキラした人達とやらにも興味がありますしね……私も全力を尽くすとしましょうか」


608 : 現代の御伽噺と未来の伝説 ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:23:35 sC6pzPcY0
【クラス】
ランサー

【真名】
ワルター・フォン・シェーンコップ@銀河英雄伝説

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 幸運:B 魔力:E 宝具:B

【属性】
混沌・中立

【クラススキル】
対魔力:ー
ランサーは対魔力を持たない。
神秘無き時代の英雄の為このランク

【保有スキル】

勇猛:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。


独立不羈:B
誇り高く、実力のみを以って人を計り虚飾に惑わされず、権威や権力をものともしなかった精神。
同ランクの叛骨の相と貧者の見識を持つ。


騎乗:D++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
兵器の類ならば常人以上の技量を発揮する。


軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。


攻城:A
難攻不落を謳われたイゼルローン要塞を二度に渡って陥落させるのに貢献したことで得たスキル。陣地攻略戦に於いて大幅に有利な補正を得る。
ただし、このスキルは陣地内に侵入しない限り効果を発揮しない。


無窮の武練:B
一個連隊が一個師団に相当すると謳われた薔薇の騎士連隊において、地面か床に足をついている限りあれ程頼りになる男はいない。と言われた白兵戦技の功者。
如何なる状況下でもその戦闘能力は衰えない。


609 : 現代の御伽噺と未来の伝説 ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:24:02 sC6pzPcY0
【宝具】
星海にて語られる英雄譚(銀河英雄伝説)
ランク:E 種別:対英雄宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

常時発動型宝具。
地球が人類から忘れ去られ、人々は宇宙に生き、神秘など死に絶えた時代に於いて語られる英雄達の伝説が宝具と化したもの。
人の作り出した道具が神話の神々の御業を再現する時代に於いて、神秘に依らず、只々自身の智慧と力のみで伝説を築き上げた英雄達の伝説は、人の子の力の絶対の肯定であり、神秘の否定である。
彼ら星海の英雄に神秘は届かず、否定される。
ガイアに近い英霊程、神秘の強い時代の英雄程、神秘と縁の強い英雄程、高い神性や魔性を持つ英雄程、その神秘に応じてステータスはそのままに、戦闘における攻撃と防御の数値が減少する。
また、ランクを問わず魔術の類や神性持ちのサーヴァントのカリスマを一切受け付けない。
この宝具は人の力で戦う人の子の英雄には何の効果も発揮し得ない。
破格の効果を持つ宝具だが神秘を否定する宝具の為にランクは最低である。



民主主義万歳(ビバ・デモクラシー)
ランク:B 種別:対英雄宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

常時発動型宝具。
民主主義を奉じて人類史上最大の征服者、皇帝(カイザー)ラインハルトに抗い続けた者達が持つ概念宝具。
皇帝特権をランク分減衰させ、王侯貴族に連なる者のカリスマをランク問わず無効化する。

三つの赤(ドライ・ロート)
薔薇騎士連隊を象徴する三つの赤。赤い薔薇と火と血。
その内の『火』の面である薔薇騎士連隊で運用していた兵器群が宝具かしたもの
装甲車、気体爆薬、ライフル銃、ブラスター、ハンドキャノンetcからなる。
未来の技術の為に性能は高い。



【weapon】
未来技術製のトマホークと装甲服。

【人物背景】
自由惑星同盟で帝国からの亡命者で構成された陸戦部隊、薔薇騎士(ローゼンリッター)連隊の第十三代目隊長。
白兵戦の巧者として、優れた陸戦部隊の指揮官として名を残す
毒舌家であり漁色家としても知られる

【方針】
マスターを護ってもとの世界に返す

【聖杯にかける願い】
無い。強いて言うならプロデューサーに興味が有る。




【マスター】
島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)

【能力・技能】
歌って踊れる。体力は標準以上。

【weapon】
笑顔

【ロール】
女子高生件アイドル

【人物背景】
笑顔が印象的なアイドル。属性キュート
キラキラしたいという気持ちを大事に今日も頑張るアイドル

【令呪の形・位置】
右手の甲に靴の形

【聖杯にかける願い】
帰還のみ。輝くことも星を掴むことも自分の力で為すべきことだから。

【方針】
アイドルとして他人を傷つけることはしない。

【参戦時期】
アニメ版終了後。


610 : 魔法使いと廃課金兵とシンデレラストーリー ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:25:49 sC6pzPcY0
昨今話題になっている、“日本から来たアイドル達”を迎えて、スノーフィールドに有る多目的ホールは、建設以来初めて満員御礼の札を下げる事態になっていた。

「その欲望!解放しなさい!!」

虫頭(緑)の様な決めゼリフを、青い光に照らされたステージ上の、最近凄まじい勢いで人気を伸ばしている新人アイドルが言うと、観衆達が一斉に歓声をあげ、無数のサインボードが掲げられた。



「ふう〜〜」

プロデューサーはステージの陰で深く息を吐く。もう何度目のことか直ぐには思い出せないが、アイドルがステージに立つ時は時は何時も緊張する。
ましてやいまステージに立つのは人間では無い。サーヴァント、偉業を為して人を越えた超越の存在。
しかもこのサーヴァントは元来人では無い。ステージの上で歌い踊る少女の姿は仮初めのものなのだ。


〜一月前〜

プロデューサーは遠くアメリカはスノーフィールドの地に居た。
346プロダクションがアメリカ進出をするに当たり、社内で厳選されたメンバー10人を引き連れて此の地にやってきた─────という役割を与えられていた事に、ほんの些細な違和感から気づいたのだ。
そもそもが、今、此処で、プロデュースしているアイドル達の顔触れに違和感を覚えたのが始まり。
その小さな小さな違和感は消えること無く、アイドル達と顔を合わせる度に増していき、遂に日本でプロデュースしていたアイドル達を思い出したのだ。

「此れは…一体……?」

思い出した記憶。自分が道を示さなければならないシンデレラ達。然しプロデューサーはこうも思うのだ。
この場所にいるアイドル達も自分を必要としている、と。
ならば自分は己の役割を果たすだけ。
プロデューサーは聖杯戦争に乗らない。然しアイドル達が巻き込まれる様な事があれば戦って守護る事を決めた。
後は此の事を己がサーヴァントに伝えるだけ。
どう切り出そうか考えこんでいたプロデューサーに出された異動命令、『白紙のトランプ』が光り出す。
吹き荒れる旋風。周囲を照らして輝く光。
脳に刻まれる知識。自分の置かれた状況を否が応でも理解する。
部屋を満たした魔力が形を取り、プロデューサーの前に彼の運命(シンデレラ)が姿を見せる。

「貴方が…私のマスター」

艶やかな女の声。しか現れた影は異形。全体的な姿は人型だが、シャチの様な頭部、吸盤の並んだ脚部。羽織った魚類のヒレの様なマントから伸びる触手。
思わず後ずさったプロデューサーを見て異形はくつくつと笑い、姿を変えていく。
年の頃は十代前半、長い艶の有る黒髪と、整った容姿の少女に姿を変える。

「私はキャスターのサーヴァント…メズール………何の真似?」

「あの…アイドルに興味はありませんか」

「はぁ?」

「いきなりな話ですが、貴女は何を願ってこの聖杯戦争にやってきたのですか?」

「願い……」

そんなものは決まっている。『愛』を得ること。けど其れは果たして今のままで叶うものなのか。
そもそも人間の感覚を得るだけで得られるものなのか。己で感じなければ意味が無いのでは無いか。
暫し黙考してふと気付く。

「アイドルって………何?」

というよりも人間では無いグリードにできるものなのだろうか?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


611 : 魔法使いと廃課金兵とシンデレラストーリー ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:26:25 sC6pzPcY0
そして今、アイドルというものについて知ったメズールは、プロデューサーに召喚されたサーヴァントとしてで無く、アイドルとして活動に勤しんでいる。
元から人間以上の身体能力を持つ身で有るから、ダンスのレッスンは必要は無かったが、歌唱力を磨き、演技力を磨き、スポットライトを浴びてデビューして、
CDを出して、握手会だのサイン会だのを重ねてファンを増やし続けて行った。元がサーヴァントば為に個人情報が全く無く、必要時以外は霊体化している為に住んでいる場所もプライベートも不明というミステリアスな面が神秘性を高めて、
今やメズールのファンは鰻登りに増え続け、出すグッズもCDもバカ売れ状態。こうなれば会社としてもメズールに全面的な投資を行い、今やメズールは346の全米進出の原動力となっていた。
とまあ…ここまで上手く行くのには当然裏が有る訳で………。



「有難う」

輝くばかりの笑顔でファンの手を握るメズール。サイン会にやってきたファンに対するサービスをキッチリとこなしている。
その手が時折霞んでは、ファンの身体がグラリと傾くが、毎度見られる光景なので誰も気にしない。精々が感極まって貧血でも起こしたのだろうと思う程度だ。
統計を取れば、サイン会で貧血を起こしたファンが、廃人と呼ばれる程にファン活動に金銭を投入していることが判るだろうが、誰も調べていないので当然気付いた者は存在しない。



〜その夜〜


「お帰り、坊や」

プロデューサーの住んでいるマンションの一室で、実体化したメズールの前に、サメと人を併せたかの様な異形が複数現れた。

「出しなさい」

異形に向かってメズーが微笑んで告げると、異形の形が崩れ、無数の鈍く銀色に輝くメダルとなった。
そのメダルにメズールが手をかざすと、掌に吸い込まれでもしたかの様にメダルが消えていく。

.;このメダルこそセルメダル。メダルの塊でしか無いグリードのCELL(細胞)人の欲望によって精製される人の欲望そのもの。
メズールが機を見てファンに投入したセルメダルから産まれ、ファンの欲望─────この場合はファン活動を─────宿主が破産する勢いで行わせて成長する怪物、ヤミーを形作るもの。欲望の火に注がれる油。


メズールがプロデューサーの申し出を受けたのは、セルメダルを楽に集められると踏んだから。その読みは正しく、メズールはデビューして以来魔力に困ったことは無い。
“魂喰い”等という目立つことをしなくても、メズールの元には魔力の供給源が毎日の様にやって来る。そして膨大な魔力をグリードであるメズールに齎し、膨大な収益をアイドルであるメズールに齎す。
あの何処かガメルを思わせるプロデューサーの、突拍子もない申し出を受けた甲斐が有ったとメズールは思う。
こうなる前にやっておけば良かったと思うが、そもそもグリードには既存の欲望を利用することは出来ても、欲望を作り出すことは出来ないのだから仕方が無い。


612 : 魔法使いと廃課金兵とシンデレラストーリー ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:26:45 sC6pzPcY0
この供給元である346を守る為なら、アイドル達が襲われた時に戦って追い払うくらいのことはしても良い。
何しろ現時点で既に魔力充溢しているのだ。そして魔力の供給が衰える事も無い。全力で戦った処でマスターに負担をかけることも無い。
此れだけの好条件では有るが、それでもメズールは不満だった。
アイドル活動をやってみた理由はもう一つ有る。自らの欲望である『愛』について得るものが有るかと思ったからだ。
アイドルとして愛されれば何かを得られるかも知れない。そう思ってみたが皆目得られるものは無く、メズールはこの点に関しては不満を募らせていた。


─────食べて、見て、聞いたんでしょ?どうだった?

袂を分かった鳥の王に投げかけた疑問を思い出す。仮初めとはいえ人の肉体を得て変わった鳥の王は、一体何を知ったというのか。

「人の身体」

やはり鍵は其処なのだろうか?グリードの身では決して満たされぬ欲望も、人の身体を得れば満たせるのだろうか?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



仕事を終えたプロデューサーは、自室でシミジミと考える。
偽りの世界とはいえ346のアメリカ進出は順調だ。
プロデューサーの見たてではメズールというイレギュラー抜きにしても、346のアメリカ進出は成功する。
元々アメリカ進出は346でも取り沙汰されていた事案であり、今回の件は丁度良いシュミレーションといえた。
尤も、プロデューサーがいま考えているのはメズールの事だった。彼女の存在を“惜しい”と、元の世界でも輝いて欲しいと、そんな事を考えていたのだ。

「聖杯……ですか」

万能の願望機。メズールは何か願いたいことが有るらしいが………自分も乗ってみるか?
だが、他人の願いを踏み潰す。そんな事が許されるのだろうか?


613 : 魔法使いと廃課金兵とシンデレラストーリー ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:27:24 sC6pzPcY0
【クラス】
ライダー

【真名】
メズール@仮面ライダーOOO

【ステータス】
筋力:D+ 耐久:D+ 敏捷:B++ 幸運:D 魔力:A+ 宝具:B(怪人態)
セルメダルを大量に摂取した為に幸運を除くステータスに+が着いている。

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:D
ヤミーが『巣』を作るがキャスターには作成能力は無い

道具作成:ー
グリードに何かを作ることはできない


【保有スキル】
疑似生命・欲望結晶(青):A
グリードと称される錬金術に依り作り出された擬似生命体。キャスターは水棲系生物の力を宿した青いメダルを体内に宿す。
欲望の結晶であり、グリードの細胞でも有るセルメダルを人間に投入して、ヤミーという使い魔を作成する能力。人間への擬態を可能とする変化の二つのスキルの効果と
五感が正常に働かない感覚異常。欲望に支配された精神性からくる精神異常のバッドスキルの効果も持つ。
メダルの塊でしか無い為に死の概念を用いた攻撃に耐性を発揮する。

戦闘続行:D
キャスターそのものと言えるコアメダルが一枚だけの状態になっても、死なずに逃げ延びることが可能。
ウヴァさんを引っくり返す水流も出せる

吸収(偽):A
セルメダルを吸収し魔力に変える。膨大なメダルを取り込めばステータスを向上させることができる。
セルメダル限定能力

場面転換:EX
取っ組み合ってジャンプすれば人気の無い場所へと移動できる。
“昭和”とカテゴリーされる者達なら確実に採石場になるが、キャスターの場合は一定しない。大抵は林の中に移動する。


614 : 魔法使いと廃課金兵とシンデレラストーリー ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:28:00 sC6pzPcY0
【宝具】
欲核結晶・海王(青メダル・シャウタ)
ランク:C 種別:対 レンジ :0 最大補足:自分自身

800年前に生み出された、水棲生物の力を宿した10枚のメダルから一つを抜いたもの。一つ一つのメダルが魔力炉としての機能を持つ。
この形態はセルメンと呼ばれる不完全体であり、本来の実力を出せないが燃費は良い
能力としては高圧水流の放出しか使えない
高熱に対して非常に脆弱。


青き核の発現・流れ巡る水の力(メズール)
ランク:B 種別:対 レンジ :0 最大補足:自分自身

グリードとしての本来の力。
全ステータスが1ランク向上し、水棲生物の王のグリードとしての力を行使出来る様になる。
高圧水流の他に、液状化による攻撃透過や三次元移動。液状化して地面に溶け込む事すら可能。
熱に対しても耐性を持つが、凍結攻撃に対して脆くなっている。

【weapon】
高圧水流

【人物背景】
800年前に欲深い王により作られた水の王
『愛』というものを欲しながら自分では誰も愛せなかったメダルの塊。

【方針】
このままアイドル活動を続けてセルメダルを大量に集めて能力を強化する。
346の関係者や自分を襲ってきた奴は殺す

【聖杯にかける願い】
人の肉体を得る


615 : 魔法使いと廃課金兵とシンデレラストーリー ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:28:26 sC6pzPcY0
【マスター】
プロデューサー@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)

【能力・技能】
プロデューサーとしての能力・優秀。

【weapon】
名刺

【ロール】
346のアメリカ進出の責任者

【人物背景】
通称『武内』
180cm越える長身と、無口かつ強面の為に初対面の相手には怖がられ、警察には職質される。
実際には小学生相手でも敬語で話す礼儀正しさを持つ、朴訥な人柄の人物。
困ったことが有ると首筋に手を当てる癖がある

【令呪の形・位置】
首筋に三角

【聖杯にかける願い】
キャスターを受肉させて連れ帰りたいが……その為に他者の夢を踏み躙るのは気が進まない

【方針】
当面は専守防衛。アイドル達が襲われない限りは戦わない

【参戦時期】
アニメ終了後

【運用】
ネタ枠に見えるが、合法的にNPCから魔力を集められる上に、セルメダルをファンに投入する現場を抑えるのは、神秘の隠匿というルールに触れるか、純粋に事案として警察のお世話になる可能性が高く。
ヤミーを抑え様にも隠匿性が高い水棲系ヤミーは発見が困難。
こうやって魔力を集めていけば貧弱なステータスを補う強さを獲得できるだろうし、継戦能力も上がる。
時間経過と共に強くなり消耗しにくいので、後半戦にまで残れば勝ちの目はかなり高くなっているだろう。


616 : 魔法使いと廃課金兵とシンデレラストーリー ◆v1W2ZBJUFE :2017/01/29(日) 22:31:38 sC6pzPcY0
投下を終了します
尚、キャスターのステータス作成に際して
◆87GyKNhZiA氏の当スレの参戦候補063 炎の記憶 を参考にさせて頂きました


617 : ◆pu1C9voasQ :2017/01/29(日) 22:38:41 tIWaEuzM0
投下します


618 : 名無しさん :2017/01/29(日) 22:39:41 tIWaEuzM0
「…………」

……なんだろうこれ。誰かの声がする?
……でも、何言ってるのか分かんないし、あんまり考え事したくないし、放っておきたいかも……

「……て……さ……」

……なんだろうこれ。誰かに呼ばれてる?
……でも、やっぱり何言ってるのか分かんないし、あんまり動きたくないし、このまま寝てたいかも……

「……さん……てんさーん」
「……んー……」

……なんだろうこれ。やっぱり誰かに呼ばれてる。ついでに体も揺すられてる気がする。
こうなるとさすがにもう目も覚めてくる。というか覚めた。
意識がはっきりしてくるのを自覚しながら目を開けると、真っ先に私の視界に入って来たのは見覚えのある花飾り。
これは多分──

「……あれ……初春……?」
「あ、おはようございます。佐天さん」

頭にこんな花飾りを乗せてるのは、私の知る限り一人しかいないわけで。
つまりはまあ、私は目の前の人物が初春飾利であるという事を寝ぼけ気味ながらに認識したという事になる。

「何で初春が私の部屋にいるの……?」
「約束より少し早くなっちゃったけど、時間が空いたから来てみたんです」

今日は私と初春の2人で、駅前近くに新しく出来たケーキ屋に行く事になっていた。
最初に私が入っている学生向けアパートの部屋に2時集合で、今は大体1時45分くらい……早いと言えば早いのかもしれない。

「でも佐天さん何回呼んでも出てくれないし、部屋の鍵も開いてたから中に入ってみたんですよね」

確かにさっき買い物から帰って来た時、部屋の鍵を閉めてなかったような気がする。

「そうしたら佐天さんが眠ってたから。
 一応起こしてみたんですけど、佐天さん何か眠そうだし悪い事しちゃったかもしれませんね」
「あー、いや、私は大丈夫。ごめんね初春。
 この前学校で出た数学の課題やってたら何か疲れちゃってさ。
 ベッドで寝転がってる内に眠っちゃって……みたいな?」

あくび交じりに私はベッドから起き上がる。
一方、初春は私の机の方に目を向けていた。

「数学の課題って机の上に出てるこれの事ですよね?」
「そうだけど」
「さっきちらっと見てみただけですけど、それでも結構間違ってる所多かったですよ。
 むしろこれ合ってる所の方が少ないんじゃ……」
「う、初春が見てない所は合ってるかもしれないし」
「本当ですか? やっぱりどの辺を見ても間違いの方が多そうな感じですけど」

初春が間違ってる所をこれもここもとか言いながら、机に乗ってる課題のプリントを眺めている。
……まあ、どうせあんまり出来てないだろうなとは自分でも思ってたし。
わざわざ初春にそんな事言われなくたって……そういえばこの初春って本人なんだろうか?
……ちょうど初春もこっちを向いてない事だし、折角だからちょっと確かめてみようかと思う。
というか確かめたい気分だ。

……という訳で私は静かに初春の背中に近付いて行く。
元々距離も近かったしあっという間に射程圏内。普通ならまず外さない間合い。
そして、初春のスカートを狙って両手を下から上に一気に振り上げる。
あとはいつものように、スカートがばーっとめくれて初春のパンツが顔を出────

「あ……」
「ふう……またこれなんですか、佐天さん」

す事は無かった。
私の手は初春のスカートにもパンツにも触る事無く空を切っていた。
一方、初春はさっきいた所から少し横に動いた場所に、半ばため息をつきながら立っている。
つまり避けられちゃった事になる。という事は……

「えーと、キャスターさんですよね?」
「……君は本当にいつも友達にこういった事をやっているのかい?」

そう言いながら初春の姿が結構イケメンな男の人の姿に変わる。
私のサーヴァントのキャスターさんだ。

「これが私の初春への挨拶兼日課みたいなものですから。
 あ、そうだ。さっき起こしてくれて有難うございました」
「うん、そうなのか……君の友達も大変そうだな」

もし私が眠っちゃって時間が来ても起きそうになかったら、キャスターさんが起こしてくれる事になってたのを思い出した。
でも正直、本当にガチの昼寝モードに入る事になってしまうとは自分でもあんまり思ってなかった。
……それだけ疲れてるって事なんだろうか。

「それにしても、キャスターさんのそれって本当凄いですよね。
 ぱっと見ただけじゃ全然本人と区別付かないし」
「一応、僕の一番の得意技とでも言える物だからね」


619 : 名無しさん :2017/01/29(日) 22:40:44 tIWaEuzM0

キャスターさんは術を使って他人に変化してるんだとか。
変化の術って事は最初は忍者か何かかと思ったけど、本人が言うには仙人とか仙道とかそんな感じらしい。
キャスターさんの変化は本物そっくりで、私じゃ何度見ても見分けが付かない。
でも、初春の変化に限って言えばぶっちゃけ簡単に判別できる。
さっきみたいにスカートをめくれなかったらキャスターさんで、めくれたら初春本人だ。
だって本物の初春がスカートめくられるのを避けられるわけないし。

キャスターさんは今回みたいに、たまに誰かに変化してる事がある。
本人曰くちょっとしたお遊びみたいな物らしい。
確かに誰かに変化してる時は、大抵その人の真似をしようとしてるし、意外と結構ノリのいい人なのかもしれない。
他には割と女の人に変化してる事が多いような気がするし、実は女装好きとか?

「あとはこの街にいる初春も大概とんでもないというか……
 私の知らない並行世界の初春って、何か未だに実感沸かない所があるというか」
「並行世界の人間と言っても、基本的な所は君の世界にいる人間と何も変わらないはずだ。
 むしろ、一目で分かるような違いがあった方がおかしいと言えるだろうね」

一目で分かる違い……
確かに初春が体から角とかしっぽとか生やして、目から光線とか出すような怪人とかになってたらすぐ分かるしびっくりだけど。
……いや、並行世界ってそういうのじゃないのか。よく分からないけど。

「んー……そういうものなんですかね。
 そもそも、いきなり連れてきた上に記憶までいじっちゃうってムーンセルも結構酷くないですか?
 初春が自分からこんな所に来たって事も無いでしょうし」
「あまり褒められたやり方とは言えないのは確かだね。
 これでは、君達のような人間にとっては殆ど事故じみた物になってしまっている」
「……君達って、私もですか?」
「君だって自分から望んでムーンセルに来ているわけではないんだろう?
 こういった無差別に人間を連れてくる方法では、単純に参加希望者だけという訳にもいかない。
 連れてこられる側には防ぎようもないからね」
「あー、まあ……確かに、そうですね」

私は、戦う気は無いのに自分の意志に関係無く、こんな所に連れてこられてしまいました。
……一応、何も間違ってはいないのかもしれない。

「他のマスターやサーヴァントの中には、やっぱり戦ってでも聖杯が欲しいって人達もいるんでしょうか?」
「まず間違い無くいるだろうね。
 さすがにマスターもサーヴァントも全員誰一人として聖杯を求めない、というのは考えにくい。
 ……今まで聞いてはいなかったけど、君は聖杯を手に入れたいと思っているのかい?」

そこまでして願いを叶えたいっていうなら、やっぱりそれだけ重大で深刻な理由があるんだろうか。
……さすがに、私みたいにしょうもない事で悩んだりするような人達はいないんだろう。

「そういうわけじゃないですけど、そんな物があるなら一回大金持ちにでもなってみたいなー、みたいな事は思ったりしたりとか。
 ……やっぱり馬鹿みたいな事言ってるって思います?」
「まあ、割と俗っぽくてありがちな考えではあるかもね」
「やっぱりそうですよね。
 私ももう少しキャスターさんみたいな、まともで立派な人間になれてたら良かったんですけど」
「その言い方だと、まるで君はまともではない駄目な人間みたいに聞こえるな」
「実際、その通りですから。
 私って普段からこういう下らない事ばっかり考えてる、どうしようもない駄目人間なんですよね。本当に……」
「うーん……僕から見てて、君がそういったタイプの人間だとは思わないけどね。
 前から少し感じてはいたけど、マスターはどうも必要以上に自分の事を卑下しがちなように──」

キャスターさんが喋ってる途中、突然一つの音が割って入る。
この部屋の玄関に付いてる呼び鈴がなった音だ。

「あ、もしかして……」

時計を見ると、その時間はほぼ2時に近くなっていた。
多分初春で間違い無いだろう。

「えーっと……」
「僕は霊体化しているから出て構わないよ」
「あ、すみません。じゃあ……」

キャスターさんの姿が消えた後、私はそのまま玄関に行って扉を開ける。

「こんにちは、佐天さん」

外にいたのは当然の如く初春だった。
初春の挨拶を聞いた私は、とりあえずそのまま初春のスカートをつまんでめくり上げる。

「……ぶっ!? いきなり何するんですか佐天さん!」

今日は模様の無い白一色。
初春は今日もちゃんとパンツを穿いていたようだった。

「いやー、うん、やっぱり初春が初春なんだなーって」
「そんなの当たり前じゃないですか!
 何わけの分からない事言ってるんですか!」

こうやってなんだかんだで、私のおふざけに付き合ってくれる初春。
並行世界の人間と言ってもその辺は何も変わらない。
そう……変わっていない。


620 : 名無しさん :2017/01/29(日) 22:42:18 tIWaEuzM0

「全くもう……それで、今日はこれから一緒にケーキを食べに行くって事でいいんですか?」
「ああ、うん、もちろん。
 どうしようか。早速今から行く?」
「そうですね。佐天さんが大丈夫なら行きましょうか」
「……うん。それじゃあ、行こう初春」

でも、並行世界の初春って事は、やっぱり私の世界の初春とは厳密には別人という事になる。
それは今の私にとっては、良かったんだろうか、悪かったんだろうか。
……いいや、それもおかしいか。初春がどうとかなんて全然関係無い。
これは私が勝手に自爆とか自滅をしましたみたいな話なんだから。











多分、これは私への天罰が落ちたって事なのかもしれない。
レベルアッパーのせいで──私のせいでアケミが目の前で倒れちゃった時。
とんでもない事になった、私もああなるんじゃないか、もう起きられなくなるんじゃないかと怖くなって仕方なかった。
そこで私の頭に浮かんだのは、ホワイトトランプとかいうレベルアッパーとはまた別の都市伝説。
ダウンロードして何か願い事を入力すれば、その願い事が叶うとかいうアプリケーション。
最初に知った時はさすがにハイハイって感じで気にもならなかったけど。
レベルアッパーが本当だったし、もしかしたらこれも……みたいな事を少しでも考えた辺り、私は頭がどうかしていたんだろう。
あれでレベルアッパーの事がどうにかなるかもとか思った結果は、このムーンセルやら聖杯戦争やら分けの分からない話の押し売り。
でも、こういう都合の良い話に欲を掻いて何回も引っかかるような本物の馬鹿だから、私は今こんな所にいるって事なんだよね。
いや、願いを叶えてほしがったという意味では、自分が望んだからこういう事になってるのかな。
さっき痛い目にあったばかりのはずなのに、すぐまた懲りずに似たような物に頼ろうとする辺り、本当に救いようがないって感じだ。

ここに来てからの私がやっている事は、ただムーンセルに用意された役割に沿って毎日を過ごす事だけだった。
別に何か考えがあるってわけじゃない。むしろ何も考えてなんかいない。
本当は色々と考えなきゃいけないんだろうけど、正直あまり考えたくない。
考えるにしても、何もかも私の手には余り過ぎて、すぐに頭がごちゃごちゃになってぼやけてくる。
つまり、私は目の前の日常に流されるようにしながら、どうにかついて行く事くらいしかできてないというだけ。
キャスターさんは私が自分の世界に帰る手段を何か考えてみようとは言ってくれる。
でも、キャスターさんは聖杯にはあまり興味は無いっていうし、私の事も本来キャスターさんには関係無い事のはず。
実際の所、私なんかに付き合わされて向こうにもきっと迷惑になっているだろう。


621 : 名無しさん :2017/01/29(日) 22:42:51 tIWaEuzM0

自分のサーヴァントとして召喚されたのがキャスターさんだったのを見るに、どうも私は運だけは一丁前にいいらしい。
ここに来てから見るようになった変な夢──多分、キャスターさんの記憶なんだろう。
それをただ見てるだけでも、この人は本当に凄い人なんだなっていうのはよく分かる。
滅茶苦茶才能があって、沢山努力もして、周りからも凄く信頼されて、自分じゃなくてみんなのために戦った文字通りの英雄。
私みたいな変な欲も無いし、仙人っていうだけに霞でも食べて生きてたんじゃないかってくらいの、絵に描いたような完璧超人。
逆に、私は何の才能も無くて、いつも人頼り物頼りで、周りをトラブルに巻き込んで、そのくせ自分の事ばっかり。
何もかも私なんかとは全然違う、というか正反対なんじゃないだろうか。
どうしてこんな人が私のサーヴァントになったんだろうと思うくらいだ。
キャスターさんを見てると、自分はどれだけ駄目で無価値で欠陥だらけな人間なのか、改めて思い知らされるような気もしてくる。

そもそも、自分の世界に無事に帰れたとして、それでどうなるんだろう。
それでアケミ達の事が解決するわけでもないし、私のやった事が無かった事になるわけでもない。
初春が今の私の事を知ったらどう思うだろう。
力に釣られてズルして他人を巻き込んで、更にズルを重ねて問題を誤魔化そうとして、挙句の果てに殺し合いに参加してます。
これだけ滅茶苦茶やってたら、さすがに今度こそ呆れて見放されちゃうだろうか。
初春だけじゃない。他の人達だってきっと同じだろう。
結局、手に入った物は何も無くて、周りに迷惑をかけるだけかけて、気付けば自分も変な場所にいてそれでお終い。
でも要はこれは、身の程知らずが分不相応な事を考えたらしっぺ返しを受けました、という一言で纏められるような話でしかない。
全部私の自業自得だと言われたら、全くもってその通りとしか言い様がない話。

それ以前に、これが本当に殺し合いなんだったら、自分が生き残れるという保証だってどこにもない。
むしろ、自分が死にそうな要素は沢山あっても、生き残れそうな要素の方は殆ど無い。
でもそんなのは当たり前。こういうのは本来私が入って行けるような世界じゃないから。少し考えればすぐ分かる事だ。
私は御坂さんとか白井さんみたいな人達のようにはできない。
強くもないし頭も良くないし、自制心が無くて騙されやすい事だって証明済み。
客観的に見て、自分はどうしようもなく弱くて、何もできるような事は無いってタイプの人間という事になる。
キャスターさんがいくら凄くても、私に足を引っ張られるんじゃ、何とかできる物もできなくなったって何もおかしくはない。
でも、なんでだろう。
死ぬかもしれないって話なのに、今の所、どうしてか自分は思ったよりは怖いと感じていないらしい。
それどころか、元の世界に帰る事の方が怖いような気さえしてくる。
どうしてこんな感じ方になるんだろう。
いつの間にか頭がどこかおかしくなっちゃってたり、考え方がずれちゃってたりするからって事なのかな。
分からない。
私は別に死にたいなんて思ってるわけじゃないし、帰りたいとも思ってるはずなのに。
やっぱり、何も……分からない。
本当、何やってるんだろう……私……


622 : 名無しさん :2017/01/29(日) 22:43:15 tIWaEuzM0
【マスター】
佐天涙子@とある科学の超電磁砲

【マスターとしての願い】
無し。
というかあまり考えたくない。

【weapon】
無し。

【能力・技能】
家事万能な高い女子力とか大体誰とでも仲良くなれる高いコミュ力とかレベル0の空力使い(エアロハンド)とか。

【人物背景】
都市伝説好きのミーハーな中学1年生の女子。



【CLASS】
キャスター

【真名】
楊ぜん@封神演義

【属性】
中立・善

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運A+ 宝具A++

【クラス別スキル】
陣地作成:-
スキルによる変化能力を持つ代わりに、陣地作成スキルは失われている。

道具作成:-
スキルによる変化能力を持つ代わりに、道具作成スキルは失われている。

【保有スキル】
妖怪仙人:A
人以外の生物や無生物が千年以上月日の光を浴びて魔性を帯びて妖精になり、人の姿を取れるようになった者。
妖怪仙人の教主の息子であり、自身も統一された仙人界の教主となったキャスターはこのスキルを最高ランクで保有する。
人と妖精の中間の姿である半妖態となる事で、このスキルのランク相当の対魔力及び狂化と同等のステータス補正を得る。
また、半妖態時には対峙した相手に圧力を与える事で精神判定を行い、判定に失敗した相手には威圧のバッドステータスを与える。

変化:A(A+)
キャスターが行使する仙術の一種であり、ある意味宝具以上にキャスターを象徴すると言えるスキル。
キャスターが生前及びサーヴァントとして現界した後に見知った生物や物体に変身する能力。
この変化は全身だけでなく、手足等の体の一部のみを部分的に他者の物に変える事も可能。
他の生物に変化した場合、幸運を除くキャスターのステータスは一時的に変化先の生物の物に変化する。
他のサーヴァントへの変化の場合は、そのサーヴァントのステータスの他にスキルや宝具等の再現も可能。
しかし、このスキルのランクを上回るランクのステータスやスキルや宝具の場合完全な変化はできず、本来の物より大幅に劣化する。
また、再現可能なスキルは神性や魔力放出等の肉体に関連する物に限る。
宝具も剣や鎧等、物体として具現化できる物にしか変化できず、他者の技術の模倣や生物の召喚等は不可能。
ランク問わず、自身が担い手ではない宝具の真名開放もできない。
その他、自身がその存在を認識していないスキルや宝具の機能は自分の意志では発動できない。
半妖態時にはこのスキルのランクは()内の物に上昇する。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

透化:B
明鏡止水。精神面への干渉を無効化する精神防御。

【宝具】
『斬尖なる槍刀(さんせんとう)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:10人
三尖刀。三又の槍型の宝具。
斬撃を飛ばしたり、先端を曲げ伸ばしたりして攻撃する。

『穿天たる猟犬(こうてんけん)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:50人
哮天犬。人間と同等か少し上回るくらいの大きさの犬型の宝具。
キャスターの操作や指示に従って行動し、突撃させる事で目標を粉砕する。
飛行可能で乗り物代わりにも使える。

『葬送する魂の棺(りくこんはん)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
六魂幡。キャスターが身に纏うマント状の宝具。
かつて星と融合して人類種を生んだ始祖の手により作られた、仙人界に伝わる宝具の中でも最強である七つの神造兵器の内の一つ。
変形、拡大した布を展開し、操る事で攻撃や防御を行う。
また、布で空間を包み込み、指定した対象を収束する事でその対象を無へと還す。
この消滅効果は相手の体だけでなく魂にも及ぶ。
このため、死亡後に自己の蘇生や転生等を行う能力は事実上無効化され、サーヴァントの場合その魂が英霊の座に還る事も無い。

【人物背景】
変化が得意な微妙にナルシスト気質な天才道士。

【サーヴァントとしての願い】
無し。


623 : 佐天涙子&キャスター :2017/01/29(日) 22:43:44 tIWaEuzM0
投下終了です


624 : ◆Mti19lYchg :2017/01/29(日) 22:59:42 Vqb3frao0
間に合うかどうか不明ですが、一応予約だけしておきます。


625 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:18:21 lppUb2Bc0
投下します。


626 : 闇に生きた男たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:19:33 lppUb2Bc0
元・MI6のエージェント、ニクスは自らが置かれた状況を整理する。
復活したダ・ヴィンチの起こした事件をルパンが解決し数ヶ月が経過したころだ。
既にMI6を半ば強引な取引で退職していた彼は、今まででは考えられないほどに平和な生活を満喫していた。
愛する妻と三人の娘。彼らに後ろめたい気持ちで接することがなかったこの数ヶ月は本当に幸せであった。
だが、それは突如として一変する。いや、彼ら家族が平和だったことには変わりがないので周囲のみが変わったというべきだろう。
ポストに入っていた紙―――これがトランプであることは後になって知った。これに触れた途端、今までの記憶は全て消え、気が付けばスノーフィールドの警察官の一人となっていた。
また、家族もこのスノーフィールドへ連れてこられており、ニクスは彼らと円満な生活を送っていた。
MI6や余計なしがらみを気にすることのない平凡なこの生活。彼にとってはやはり満たされたものであった。

数週間後、捜査資料として見つけたトランプに触れた瞬間―――すべてを思い出す。

自分は警察官ではなく元エージェントであったこと。
この世界にはトランプに触れてから連れてこられたこと。
また何者かが家族に手を出したのか―――瞬間湯沸かし器のように怒りが煮えくり返りそうになったニクスだが、この世界での家族の顔を思い出し留まる。
この数週間は本当に平和な日々だった。家族だけでなくニクスも心から笑顔で過ごすことができた。
ここがどこかはわからないが、もしかしたら何者かは自分を匿ってくれたのではないだろうか。
そんな淡い期待はすぐに撃ち破られることになる。

「あなたが俺のマスターか」

背後からかけられた声に振り返る。
いつの間にいたのか―――そこにはレインコートに身を包み、丸眼鏡とマスクをし顔を隠した男が立っていた。
不審者だ!そう叫びまわるよりも早くニクスは拳銃を構える。
こうも気配を隠すことができる達人だ。おそらく他の者が来たところで太刀打ちはできないだろう。

「貴様、何者だ」
「俺はあなたの味方だ。この世界のことを知るために、俺の話を聞いてくれ」
「......」

ニクスは考える。
この男は味方というが、どう見ても信用に値しない。
このような男が娘に近づこうものなら躊躇わず能力を行使し意地でも引き離そうとするだろう。


627 : 闇に生きた男たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:20:04 lppUb2Bc0

(だからこそ、聞くだけの価値はあるか)

信用を得たい者ほど見栄えがよく小奇麗な装いをするものだ。
エージェントであるニクスはそういった者ほど裏の顔を持つことを身に染みている。
だが、この男は取り繕いもせずに話を聞いてくれというのだ。
少なくとも下手に小奇麗な者よりは信用がおけるだろう。

「...話してみろ」
「ありがとう」

拳銃は突きつけたまま、ニクスは男の話に耳を傾ける。
男の語る事柄はにわかには信じがたいものだった。
この男―――宮本篤はサーヴァントというかつて死んだ者であり、自分以外にもマスターとサーヴァントの関係にあるものがいること。
如何なる願いをも叶えることができる聖杯に、それを巡る聖杯戦争のこと。
本当に信じがたい。信じがたいが―――彼の言葉を嘘と断定することもできなかった。

「俺は可能ならば聖杯を手に入れたい。だが、最終的な判断はあなたにゆだねる」
「......」

ニクスは考える。
現在の自分の状況。家族。聖杯戦争の性質。etc...
そこで、ある疑問に辿りつく。

「ひとつ聞かせろ。俺の家族もこのスノーフィールドに連れてこられている。彼女たちはどうなる?」
「えっ?家族がいる...のか」
「答えろ」

篤は俯きニクスから視線を逸らす。やがて、言い出し辛いような悲痛の面持ちを見せた。
ニクスが理解するのにはそれで充分だった。

「彼女たちも巻き込まれる可能性があるのか...!」
「...ああ。他のマスターが手段を択ばない奴であれば、な」
「貴様ァァァァァ!!」

ニクスは激昂し篤の胸倉を掴み上げる。
わかっている。篤もまた駒のひとつにしかすぎず、彼にもどうすることもできないことは。
だが、家族が危険な目に晒される可能性に憤りを感じずにはいられなかった。行き場のない怒りをぶつける他なかった。


628 : 闇に生きた男たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:21:32 lppUb2Bc0

「...マスター。俺は、聖杯を手に入れたいと言った。だが、あなたの家族を危険な目には遭わせたくない」

ハァ、ハァ、と息を切らしつつ篤はニクスを見据える。

「俺には弟がいた。優しくて、将来は小説家になりたいなんて言ってた弟だ。俺はそんな弟を地獄に引きずりこむだけではなく重い十字架を背負わせてしまった」
「地獄?」
「かつての仲間や肉親が容易く敵にまわり殺さなければ生きられない場所だ。俺も、多くの仲間を葬ってきた」

かつて篤は、亡者と化した友を殺した明を、よく試練を乗り越えたと褒め抱きしめた。
けれど、本心では明に戦ってほしくなどなかった。憎しみなど覚えてほしくはなかった。
かつての友・村田の弟、武と同じように、優しさを忘れず無理に変わってなどほしくはなかったのだ。
だが、彼岸島という地獄はそれを許してはくれなかった。
優しき少年たちは、憎しみを募らせ続け、やがてまともでいられなくなった。
そうすることでしか生き残る道は切り開けなかった。

「あいつは今でもその地獄で戦い続けているだろう。...俺は、もう誰にもこんな辛い思いはさせたくなかった」

篤は家族や仲間を失う辛さや殺す苦しさを知っている。
聖杯を手に入れたかったのは、明や仲間たち、涼子ら心優しき吸血鬼たちをあの呪われた運命から救い出すためだ。
そのためなら己にどんな地獄が待ち受けていようとも構わない。そんな想いであった。
だが、マスターの家族も連れてこられていたのは予想外だった。

「すまない。こんなことになってしまって...」

篤は目を瞑り己の腹に渦巻く苦しみを噛みつぶす。
いまの彼にできるのは謝ることだけだ。
そして一度戦闘が始まれば、ニクスたちになるべく関わらないよう自分だけでなんとかする。
聖杯を諦めるわけにはいかない篤には、そうすることでしか彼らを守れない。


629 : 闇に生きた男たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:22:29 lppUb2Bc0

「......」

そんな篤を見据えていたニクスは、やがて手を離し背を向けた。

「...俺も人を殺したことはある」

かつてのニクスはMI6のエージェントとして命令に忠実だった。。
その中には当然殺人の命令もあり、ニクスはそれに反対することなく素直に従ってきた。
本当は殺したくはない、などと感情を抱くことは無く、任務だと割り切るだけだった。
だから、篤のように心の底では殺人に忌避感があるわけではない。
きっと、彼とニクスが心の底から解り合うことはないだろう。

「家族を守れるのなら、今さら己の手が汚れようが気にすることは無い」
「!」

だが篤の顔に嘘は無いことだけはわかった。
彼にも守るものがあること。そしてなにより彼も家族を愛する者であること。
そして、そのためならば己の手を汚すのを厭わないことを。
それだけは、互いの唯一の共通点であるとニクスは確信した。

「聖杯戦争というのは二人で挑まねばならないのだろう。妙な気を遣って家族に危害が加わることになれば俺はお前を許さない」
「...礼をいう、マスター」

篤は、頭をさげずにはいられなかった。
正直、一人で勝ち残るのは苦しいと思っていたからだ。
彼もまた家族のために戦ってくれるのならこれ以上なく心強いことだった。

「ジャスティン・パーソン。これからはそう呼べ」
「え?」
「おまえがマスターと呼んでいるのを聞かれれば他の奴らにも俺たちが聖杯戦争の参加者だと割れかねん」
「...わかった。これからよろしく頼むよ、パーソンさん」

元・エージェントとアサシンの称号を得た戦士。
愛する者たちのために戦う彼らの聖杯戦争はかくして幕をあげることになった。


630 : 闇に生きた男たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:23:02 lppUb2Bc0

【クラス】アサシン

【真名】宮本篤

【出典作品】彼岸島

【ステータス】筋力:B 魔力:E 耐久:B 幸運:E 敏捷:A 宝具:B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見は困難。


【保有スキル】

矢よけの加護:D
飛び道具に対する防御。
狙撃手を視界に納めている限り、弓矢による攻撃を肉眼で捕らえ、対処できる。
また、あらゆる投擲武器を回避する際に有利な補正がかかる。
ただし、超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。

単独行動:D
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
本来はアーチャーのクラススキルだが、長年の修練によって独自のスキルとして反映された。


無窮の武練:C+
かつて彼岸島の吸血鬼のボスである雅と一騎討ちの果てに一時的にとはいえ勝利を収めた武練。
いかなる戦況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる

感染:B
宝具『吸血鬼化』を発動した時のみ発動できる。魔力を消費することにより血を与えた者を彼岸島産の吸血鬼にすることができる。
NPCのみに有効であり、マスターやサーヴァントには効果がない。


【宝具】

『丸太』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜4 最大補足:1〜15
彼岸島の主要武器のひとつ。これを振り回すことで篤や仲間たちは吸血鬼や亡者といった人外の者たちを葬ってきた。
また、矢を防ぐ盾になるのはもちろん、車に槍状に括り付け亡者の壁を突破、巨大な丸太で分厚い城の門を破壊する、ケーブルカーに括り付け吸血鬼を一掃など応用性も半端ない。

『薙刀』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜30
篤の本来の武器。これを手にした篤はまさに縦横無尽じゃ。携帯に不便なため、普段は薙刀より運びやすい日本刀や丸太を使用している。
日本刀はともかく丸太の方が持ち運びにくいのではとかツッ込んではならない。それには訳があるんじゃ。

『吸血鬼化』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:自身のみ。
彼岸島の吸血鬼の身体になる。吸血鬼になれば力は増すわ病気にはかからないわ少々の怪我ならすぐに治る体質になる。
デメリットとして定期的に人間の血を飲まなければ意識の無いままに暴れまわる邪鬼や亡者のような醜い怪物に変貌してしまう。
この宝具は一度発動すると二度と元に戻ることができなくなる。

【weapon】
・刀
篤の主要武器。


631 : 闇に生きた男たち ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:24:11 lppUb2Bc0

【人物背景】
彼岸島の主人公である宮本明の兄。作中の通称は兄貴。二年前、婚約者の涼子と共に来た神社で、閉じ込められていた吸血鬼の雅を開放してしまった為に、悲劇を起こす事になる。
後に明を助けるために雅の返り血を浴びて吸血鬼ウイルスに感染し、雅の動きを封じたまま、明が邪鬼を落とした振動で起きた雪崩に巻き込まれ死亡したかに思われたが、吸血鬼として五十嵐の研究所址にて再登場し、その際に自らの意志で雅に従っている事を告白。
明側、ひいては人間側と訣別。吸血鬼側につく。
涼子を傷付けた事への贖罪も兼ねて、人間を捕まえられず雅に見捨てられた年寄り吸血鬼達の面倒も見ており、皆から信頼されている。
お互い守る者(明は人間、自分は涼子達)があることを明に教え、自分が弟に超えられる事を恐怖に思っていたことを告白。ワクチンを賭けて明と真剣勝負を挑む。初めの頃は雅から「丸メガネ」と呼ばれていたが、後に「篤」と呼ばれている。以前は青山冷と組み、雅の不死の秘密について調査していた。
武器は丸太と日本刀を愛用していたが、実際には薙刀をもっとも得意とし、その腕前は師匠をも上回る(大型の武器で携帯に不向きなため、あまり使用していなかった)。
明との真剣勝負で深手を負い、それにより吸血鬼の血が覚醒、逃亡した先の教会において、そこで行われていた結婚式に乱入、そこに居た神父、花嫁、参加者を皆殺しにし、自分の血で吸血鬼にして利用するという吸血鬼の本性を表した。
激戦の際に左目を潰され失明した挙句、明に深手を負わされている。涼子やお腹の中にいる子供、そして村の老吸血鬼達を守らねばと命乞いをするが、直後に足場が崩れ転落した。
その際、落下の衝撃から明を庇ったため下半身を失い瀕死の重傷を負う。その後、明にとどめを請い、彼の介錯でその生涯を終える。享年25。平成15年4月3日の事であった。


【聖杯にかける願い】
雅を抹殺し愛する者たちを使命に縛られない元の生活へと戻す。


【マスター名】ニクス(ジャスティン・パーソン)
【出典作品】ルパン三世(2015年TVシリーズ)
【性別】男

【weapon】
・ワルサーP99
愛用拳銃

【人物背景】

イギリスの諜報機関MI6に所属する殺しのライセンスを持ったエージェント。ローマのマルケルス劇場地下にアジトを築き、本部長パーシバル・ギボンズをトップとしてイタリア国内で様々な諜報活動をしている。
「ニクス」という名前はMI6内でのコードネームで本名はジャスティン・パーソン。妻と3人の娘を持つ妻子持ちである。
基本的に冷静沈着であり粛々と任務を遂行していく。しかし、家族が絡むと心拍数が上がって冷静さを失ってしまう。
同時に身体能力も飛躍的に上がるが、半狂乱状態となってエージェントとしては使い物にならなくなるので、その場合は銃撃して重症を負わせた上で回収するという荒業が必要になる。


【能力・技能】

・身体能力
かのルパン三世と渡り合えるほどの身体能力を有する。MI6内では間違いなく最強候補の一人だろう。

・エコローケーション
物音と反響だけで相手の居場所をつかめる。

・心拍数のコントロール
心拍数がネズミのように速くなることで周囲の風景が全てスローペースに視えるほど身体能力が向上する。
ただし、暴走状態に近いため感情の制御が難しくなる。

【ロール】
一介の警察官(家族もち)

【方針】
家族を守る。家族に危害を加える者は殺す。

【聖杯にかける願い】
家族を安全な元の世界に帰す。

※ニクスの家族がNPCとして連れてこられています。


632 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/29(日) 23:25:15 lppUb2Bc0
投下終了です。
アサシンのステータス作成に際してFate/Reverse ―東京虚無聖杯戦争―での◆.wDX6sjxsc氏の松野カラ松&アサシン(宮本明)を参考にさせて頂きました


633 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:32:25 T3THs3ds0
投下します。


634 : イリヤのバーサーカー ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:33:59 T3THs3ds0

「黒に全てだ」

 どこか確信的な物言いと共に、チップがルーレット台を移動する。
 ここはスノーフィールドで一番のカジノ、『クリスタル・ヒル』。
 言い放ったのは、巌のような大男。
 この場にいる多くの者とは違い、どこか安っぽいスーツを着た巨漢。
 だが、その風格を咎める者は誰もいない。
 それは男の巨躯がそれほどに威圧的だった、ということもあるし……
 ――――また、男の巨躯故にそれを当然と思わせたためだ。
 如何なスーツを着ようと、この男の肉体の前では色あせて映るだろう。
 それほどの、その男の肉体は美しかった。
 日焼けした肌、肩にかかる黒髪、逞しい髭。
 スーツの上からでも、盛り上がった僧帽筋や上腕二頭筋が見て取れる。
 少し力めば弾けてしまいそうなほどに窮屈な印象を受けるそれ。
 あるいはそれ故に安いスーツを着ているのかと思わせるような、圧倒的な筋肉。
 例えその男が腰蓑一つでこの場にいても、やはりそれを咎める者はいなかっただろう。
 男の肉体それ自体が、一級のスーツでありドレス。
 そう思わせる、息が漏れそうな肉体美であった。
 
「本当に大丈夫なの?」

 そしてその大男にかかる、鈴を転がすような声。
 幼い少女のそれ。
 本来ならカジノにあってはならないそれ。
 大男は視線をチラと懐に向ける。
 自分の膝の上。そこに、雪の妖精のような少女がいた。

「さっきから勝ててるからいいけど、負けたら承知しないんだから!」

 膨れっ面――――不安からか。
 白く透き通る長髪を手で梳き、血のように赤い深紅の瞳を頭上の大男に向ける。
 大男はそれに対し、口元を静かに緩めた。
 安心しろ、と言いたげに。

「――――今の俺には未来が見える」

 小さく、男は呟いた。
 視線を再びルーレットへ向け、堂々と。
 周囲の者が怪訝そうな顔をした。
 あるいは、ごくりと唾を飲んだ。

「ツキもある」

 ルーレット台を白球が転がっていく。
 赤、黒、赤、黒、二色のどちらに入るかを決めかねているかのように。

「負ける理由が無い」
「あっ、見てバーサーカー! すごいすごい!」

 果たして――――球は黒のポケットに落ちた。
 倍するチップが大男の前に運ばれ、男はそれを無造作に掴むと、はしゃぐ少女を片手で抱えて肩に乗せた。
 そうしていくつかのチップをその場に残して立ち上がり、堂々とカジノを後にする。
 その背を追う者はいなかった。
 少女を咎める者も、またいなかった。
 あるいは――――そも、少女を認識しているものすら、その場にはいなかった。


635 : イリヤのバーサーカー ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:34:55 T3THs3ds0


  ◆  ◆  ◆


「イリヤ」

 帰路の中、大男が少女に声をかけた。
 少女は大男の前を、くるくると踊るように歩いている。
 声を掛けられて、くるりと大男の方を向いて。

「あら、ダメよバーサーカー。
 バーサーカーは私のサーヴァントなんだから、ちゃんとマスターって呼んでくれないと」

 小悪魔のような笑顔で、そう言った。
 少女――――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、とても御機嫌だった。

「……イリヤ」
「ひどいんだバーサーカーったら! レディに同じことを二回言わせるつもり?」
「…………わかった。マスター、この後はどうする」

 ため息をつきつつ、折れた大男――――バーサーカーが、イリヤに問いかける。
 イリヤはマスターである。
 バーサーカーはサーヴァントである。
 二人は聖杯戦争の主従であり、運命共同体であった。

「うーん、とりあえず今日はホテルに帰ろ?
 まだ聖杯戦争も始まってないみたいなんだもん。
 今の内から他の参加者を探しても仕方ないわ」
「ああ。だが――」
「わかってるわよ。業務員にはちゃんと暗示をかけてあるから平気だって」

 暗示魔術――――幼い少女の外見であるイリヤ(実際は既に十八歳なのだが)が、一人でホテルに宿泊するために必要な処置。
 自分を大人だと思い込ませて、お金を払ってホテルに泊まっている。
 やろうと思えば無銭宿泊も可能だが――――それは、イリヤのプライドが許さないらしい。
 そしてこれが、先ほどイリヤが平然とカジノに存在していた理由でもある。
 暗示……とはまた異なるらしいが、周囲の人間の認識を阻害し、イリヤの存在を知覚できない状態にしていたらしい。
 魔術師やサーヴァントには容易に見破られるが、一般人ならば何の問題もなく誤魔化せる。
 まぁ、それも本人曰く「こんな立派なレディを捕まえて、子供は入れませんだなんて失礼しちゃうわ」とのことだが。
 ともあれ、イリヤはそういった術を使ってバーサーカーと行動を共にしている。
 離れて行動する――――というのは、イリヤにとって考えられないことだから。

「魔術、か。仲間に予言者はいたが……」
「ふふん。私はそんじょそこらの魔術師とは違うんだから!
 アインツベルンの最高傑作、生きた聖杯、願望機そのものなんだからね!」

 誇らしげに胸を張るイリヤスフィール。
 自然とバーサーカーの頬も緩んだ。
 そう、聖杯……イリヤスフィールは生きた聖杯そのものだ。
 ホムンクルスの大家、アインツベルンが生み出した傑作ホムンクルス。
 英霊の魂を吸収し、聖杯となって願望を叶えるもの。
 厳密に言えば、彼女は魔術師ですらない。
 彼女の魔術は理論が存在しない。
 彼女の魔力を用い、彼女の魔力で実現可能な“結果”を彼女の“願望”から導き出す。
 それは技術ではなく、願望機が持つ過程省略の性質を利用して奇跡を起こす“性能”に他ならない。
 とはいえ、それも――――――――

「――――今回の聖杯ではないが」
「うっ」

 ――本来の聖杯戦争なら、の話ではある。
 もちろん、彼女自身が聖杯であることには変わりがない。
 だから彼女自身の能力に陰りは無い。
 だが、彼女は今回の聖杯ではない。
 この聖杯戦争は冬木で行われる五度目の聖杯戦争ではなく――――月の仮想する聖杯戦争。
 月の聖杯が計算し、演算し、仮想した世界で聖杯の使用権を競い合う戦争。
 故に、彼女は願望機として完成しない。
 彼女の中に英霊の魂は入らない。
 不完全な願望機として、聖杯戦争に参加しなければならない。

「……ふんだ。だいたい、月なんかが聖杯戦争をするなんて言うのがナマイキだわ!
 アインツベルンじゃない聖杯なんてジャドーよジャドー!」

 イリヤは膨れっ面でそっぽを向いた。
 彼女にとって、聖杯であるということは存在意義そのものである。
 その役割を奪われるということは、酷く癪に障るらしい。

「だが、戦うんだろう?」
「トーゼンよ! 聖杯はアインツベルンのものなんだから!」

 子供の癇癪のようにむくれるイリヤを見て、バーサーカーは小さく笑った。
 もちろん、それが数多の参加者を打ち倒し、時には殺害する修羅の道だとわかっていても。
 少女の無垢さを知っているから、バーサーカーは苦笑した。


636 : イリヤのバーサーカー ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:35:56 T3THs3ds0


 ――――――バーサーカーは想いを馳せる。
 自分が彼女のサーヴァントとして召喚された時の事。
 あるいは、その前のこと。
 白いトランプに導かれ、月の聖杯戦争の参加者として招かれたマスターたちは、その記憶を剥奪される。
 そして日常の役割(ロール)を与えられ、そのように過ごす。
 自らの役割の不自然さに気付くことができれば予選突破。
 記憶と能力を返還され、聖杯戦争の知識とサーヴァントを与えられる。

 そしてイリヤに与えられた役割(ロール)は――――――――親なき子。
 親を失い、ストリートに投げ出された没落令嬢。
 ドイツの大家・アインツベルンのホムンクルスであるイリヤがなぜそのような役割に堕したのかは、わからない。
 だが事実として、本来の記憶と能力を剥奪されたイリヤはそのような役割を与えられ、スノーフィールドに放り出された。

 ―――――――さむいよ、おかあさま。

 路地裏で凍えながら、イリヤは膝を抱いた。

 ―――――――おなかがすいたよ、おとうさま。

 空腹に耐えながら、イリヤは中空を見つめた。
 そこに令嬢としての尊厳は無かった。
 どうすればいいのかわからず、何が起こったのかもわからず、ただ衰弱していく幼子がそこにいた。
 やがて少しずつ現実を理解し始め、食べ物を自分で探さないといけないと理解して。
 ふらふらと路地裏を歩くイリヤに、襲いかかる何かがあった。
 野犬―――――獰猛な。
 彼らのナワバリに侵入してしまったことに、イリヤは気付かなかった。
 吠えたて、襲いかかる野犬たち。
 牙を突き立て、爪を突き立て、イリヤを攻撃する野犬たち。
 泣いても、喚いても、助けはこない。
 ここで死ぬのか、とイリヤは思った。
 それは嫌だな、とイリヤは思った。
 おとうさまに会いたいな、とイリヤは思った。
 野犬が吹き飛んだ。

 ―――――――遅くなった。大丈夫か?

 それは、山のような大男だった。
 イリヤの父とはまるで違う、巌のような男。
 ごつごつとしていて、けれど暖かい、大きな人。

 ―――――――あなた、だぁれ?

 思えば、それはひとつの異常だった。
 イリヤは“記憶を取り戻していなかった”のにも関わらず、そのサーヴァントは現れた。
 そのことに理由はない。いらないとバーサーカーは思う。
 もしも理由が必要だったとして、そんなことはただの一言で説明がつくのだ。
 男は手に持った棍棒で野犬を打ち払い、獅子の兜を脱ぎ捨てる。
 それから、どこか悲しげな眼差しに自信の炎を吹き入れ、イリヤの問いに答えた。


 ――――――――――――――俺の名は……


637 : イリヤのバーサーカー ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:36:42 T3THs3ds0



 ……それが、イリヤとバーサーカーの邂逅だった。
 その後、遅れて記憶を取り戻したイリヤは全てを理解し、聖杯戦争への参加を決めた。
 …………が、役割(ロール)は存在したままで何も変わらない。
 つまり、イリヤは身を寄せる場所がどこにもない。
 困ったイリヤを安心させるように数度の会話を交わしたあと、バーサーカーは街へ繰り出した。
 皮鎧の大男は目立ってしまうから、落ちていたボロ布を着て。
 ――――まぁ、それでも巨躯故に目立ってしまったが、それはともかく。
 バーサーカーは賭けボクシングに出たり、それに賭けたりした。
 それによって当座の資金を稼ぐと、今度は身なりを整え、カジノに繰り出した。
 あとは、冒頭の通りだ。
 一生遊んで暮らせる……とは言い難いが、少なくとも数週間は問題なく暮らせる額が手に入った。
 神話の英雄のくせに、妙に現実的な考え方ができるんだな、とイリヤは思った。
 否、神話の英雄というのは少し誤りがあるかもしれない。

「……ねぇ、バーサーカー」
「なんだ?」

 バーサーカーは、眉を上げて返事をした。
 父とも兄とも違う、けれど妙な安心感を覚える顔。

「バーサーカーは、ほんとに勝てるの? だって……」
「――――ただの人間なのに、か?」
「……うん」

 そう――――バーサーカーはただの人間だ。
 その身に神の血を宿さない。
 怪物を倒すこともない。
 ただの、逞しいだけの人間だ。
 あらゆる神秘の化外が揃う、この聖杯戦争という場で、彼は本当に戦えるのか?
 無論、バーサーカーは強い。
 それはわかる。彼の能力は一線級だ。
 だが―――――――それでも、やはり。
 もしかしたら、彼が本当の神話の英雄にやられてしまうのではないかと、時折イリヤはそう思う。

「……そうだな。俺はゼウスの子じゃない。
 不死身のヒュドラも倒しちゃいない。
 ライオンは……まぁ、倒したが。ケルベロスもな」

 ひとつひとつ確かめるように、どこか遠くを見ながら、バーサーカーは答える。
 けれどその表情は、不思議な自信に満ちていて。

「だが、俺は勝つ」

 力強く、彼は言い切った。

「どうして? どうしてバーサーカーはそうやって言い切れるの?」

 その強さが本物だと確かめたくて、不安げにイリヤはまた問いかけた。
 バーサーカーは苦笑して地面に膝をつき、イリヤの頭を優しく撫でた。
 彼の中に不安はなかった。
 優しくも力強い瞳が、イリヤの赤い瞳を見据えていた。


638 : イリヤのバーサーカー ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:38:20 T3THs3ds0

「大丈夫だ」

 彼がそう口にする度に、こちらまで不思議と大丈夫な気がしてきた。

 その言葉に根拠は無い。
 理屈は無い。
 理論は無い。

 あるのは願望と結果だけ。
 それはまるで、イリヤの魔術のような。
 願望(いのり)があるから、結果(きせき)がある。
 その、唯一絶対の真実を、バーサーカーは重ねて口にした。
 あの日、イリヤを助けた時と同じ言葉を。

                               I am Hercules
「――――――――――――――――――“俺は、ヘラクレスだ”」


 ……それは、あるいは異なる世界での主従。
 神話の英雄と、最後の聖杯の間に結ばれた絆。
 彼は違う。
 神話の英雄ではない。
 彼はただの人間だ。
 だが、だからこそ彼は言い切った。
 かつて、我が子を守れなかった男が。
 父に助けを求める幼子を守るために、高らかに言い放った。
 その名は伝説。
 その名は英雄。
 数多の虚構を乗り越え、世界にその名を刻む男――――――――――彼の名は、ヘラクレス。


639 : イリヤのバーサーカー ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:39:10 T3THs3ds0

【CLASS】バーサーカー

【真名】ヘラクレス@ヘラクレス(2014年、ドウェイン・ジョンソン主演映画)

【属性】混沌・善

【ステータス】
筋力A+ 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具B

【クラススキル】
狂化:E-
 最低ランクの狂化。
 バーサーカーの保有する狂気とは、自己への絶対的な肯定感である。
 それにより、筋力と耐久がより“痛みを知らない”状態になる。

【保有スキル】
神性:-
 彼は人間である。

心眼(真):C+
 修行・激戦によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 さらにバーサーカーの場合、団体戦においてランクが向上する。

戦闘続行:B
 不屈の闘志。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

勇猛:A+
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

【宝具】
『我が名は伝説(ヘラクレス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 貴様は何者だ――――その根源的な問いに対する唯一絶対の回答。
 真名開放と共に筋力ステータスが一時的に向上し、あらゆる判定を筋力ステータスで代用可能になる。
 また、全ての難行を“不可能なまま”“実現可能な出来事”として判定する。
 不可能を乗り越え、因果律すらも歪める英雄の在り方。
 バーサーカーの前に不可能など存在せず、全ての困難をその肉体で打破していく。

『十二の試練(ブラザー・フッド)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:5人
 バーサーカーが生前共に戦った五人の戦友。彼らとの絆が宝具へと昇華されたもの。
 英霊としての召喚こそ不可能だが、その能力でバーサーカーを助ける。

◎『話術師イオラオス』
 軽妙な話術をバーサーカーに与える。
 また、任意の情報を周辺に流布し、拡散する。

◎『戦略家アウトリュコス』
 バーサーカーの影からナイフを投擲して攻撃する。
 また、バーサーカーに『軍略:D』のスキルを与える。

◎『予言者アムピアラオス』
 啓示スキルにも似た未来予知をバーサーカーに授ける。
 これによって垣間見る未来は流動的なものであり、行動次第でいくらでも変わり得る。

◎『狩人アタランテ』
 バーサーカーの影から矢を放ち攻撃する。
 また、地形ペナルティを無視した移動能力を一時的にバーサーカーに与える。

◎『狂戦士テュデウス』
 一時的にバーサーカーの狂化をCランクまで引き上げる。
 また、その命と引き換えに姫を守った逸話から、
 テュデウスに纏わる能力を失う代わりにマスターへの攻撃を一度だけ無効化する。

【weapon】
『棍棒』
 バーサーカーが象徴とする主武装。
 何か特殊な効果があるわけではないが、バーサーカーの怪力に耐える強度を持つ。

『仲間の武器』
 バーサーカーの宝具『十二の試練』の副産物。
 イオラオスの懐剣、アウトリュコスの投げナイフ、
 アムピアラオスの変形十文字槍、アタランテの刃付き弓矢、テュデウスの二丁斧。
 これらの武器をバーサーカーは自在に扱うことができる。

【人物背景】
 十二の試練を乗り越え、数多の怪物を倒したと言われるギリシャ最強の英雄。
 ――――しかしその伝説は多くが虚構。
 “無双の英雄の伝説”を演出するためのホラ話に過ぎない。
 彼自身はただの人間であり、ゼウスの子でもなんでもない。
 ただの傭兵であり――――――――英雄である。

【サーヴァントとしての願い】
 とくになし。イリヤを守る。


640 : イリヤのバーサーカー ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:40:03 T3THs3ds0

【マスター】
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night[Unlimited Blade Works]

【能力・技能】
 アインツベルンの傑作ホムンクルスとして、規格外の魔力量を誇る。
 また、彼女自身が聖杯そのものであるため、願望機としての性質を保有。
 今回の聖杯戦争では聖杯としての機能は失われているものの、
 “過程”を飛ばして“結果”を生み出す魔術の才能は保持したままである。

『天使の詩(エルゲンリート)』
 イリヤが戦闘に使う術式。
 自らの髪の毛から『シュトルヒリッター』なる鳥型の使い魔を作成、使役する。
 いわばオート追尾のビット。小型ながら魔力の生成すら可能な自立浮遊砲台。
 光弾を撃つ銃身と、それを固定する浮遊する本体の2パーツで構成されている。
 剣状に変形したバレル部分を弾丸として打ち出すこともできるが、
 これは強力な反面、銃身を失った使い魔が自壊してしまう難点を持つ。

【weapon】
 とくになし。

【人物背景】
 アインツベルンが作り出した、聖杯戦争用の傑作ホムンクルス。
 魔術師殺し・衛宮切嗣と先代聖杯・アイリスフィールの間に産まれた、生きた聖杯そのもの。
 来たる第五次聖杯戦争に向けて調整を施された、アインツベルンの尖兵。
 自らを裏切った――と教えられた――父と、その後継者衛宮士郎への報復を胸に冬木に訪れた最強のマスター。
 悪魔にして天使、冷酷にして無垢、横暴にして臆病、姉にして妹。
 様々な側面を同時に内包する、ひとりの少女。
 第五次聖杯戦争開始に先駆けての二ヵ月前、最強の英雄ヘラクレスを召喚しようとし――――
 ……その直前、白いトランプに導かれた。

【令呪の形・位置】
 イリヤの令呪は特別製であり、普段は隠れているが全身に刻まれている。

【聖杯にかける願い】
 アインツベルン以外の聖杯などナマイキ。願いなど無いが、聖杯を取る。


641 : ◆uL1TgWrWZ. :2017/01/29(日) 23:40:19 T3THs3ds0
投下を終了します。


642 : ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:50:42 5aAGe9GM0
ギリギリですが投下します


643 : 美遊・エーデルフェルト&ランサー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:52:20 5aAGe9GM0

星の綺麗な夜だった。
正確には月が地球のそれを真似て投影しただけの作り物の夜空なのだとしても、かつて見上げた空と何の違いも感じられなかった。
ギリシャ神話にその名も高き大英雄、ランサーのクラスで召喚されたアキレウスは豪勢な屋敷の屋根で何をするでもなく夜空を見上げていた。

こうして心からのんびりと時を過ごすのは彼にとってひどく珍しい。
生前は少年の頃から死ぬまで駆け抜けるように生き急いできた。
かつての聖杯大戦でもただ待つだけの期間というものはあったが、師との決着の時を万全に迎えるために鍛錬に励む時間も多かった。
マスターの都合もあるが、それでもフラットな状態で召喚されていれば今頃は強敵を求めて哨戒にでも出ていただろう。

「ランサー」


黒髪の少女が屋根の上に登ってきた。
この高さによく上がってきたものだと思ったが、よく見れば例のステッキが髪留めのような形で彼女にくっついていた。
大方身体能力を底上げして登ってきたのだろう。


「よう、お勤めご苦労さん、マスター。
その歳で働いてるなんざ立派なもんだ」
「別に、いつものことですから」
「敬語はいらねえよ」

ランサーのマスターである少女、美遊・エーデルフェルト。
彼女は普段小学生として生活しつつこのエーデルフェルトの邸宅でメイドの仕事もこなしている。
さすがに今は仕事着であるメイド服ではなく寝間着に着替えているが。

「で?腹は決まったのか?」

直截に、ランサーは美遊に方針を訪ねた。
軽い調子での問いかけだがそれが重い意味を持つことはこの場の誰もが理解していた。
聖杯戦争、美遊の知るそれともランサーが以前の現界で参加したそれとも形式は異なるが命の駆け引きという一点については何ら変わらない。
一日前、記憶を取り戻してランサーを召喚した美遊は彼に「少し考えさせてほしい」と告げた。
そして今、彼女の中で答えは決まったのだろうか?


「最初は、乗ろうと思っていました」
「だから敬語は……いや、もういい。
思ってたってことは、今は違うのか?」

美遊の表情には様々な葛藤が乗せられていることが伺える。
それはつまり、十になるかどうかといった子供が自発的に聖杯戦争に乗りかけるほどの何かを抱え込んでいるということだ。
その事情が何であるか、ランサーは訊いていないし出会ってすぐに教えてもらえるとも思っていない。
当人が話したいと思った時に話してくれればそれでいい。



「でも、大切な友達が言ったことを思い出したんです。
“わたしは全てを救いたい”。その言葉でわたしは救われたんです。
聖杯は欲しい、でもそのために誰かを犠牲にはしたくない…わたしも、もう何も諦めたくない」


644 : 美遊・エーデルフェルト&ランサー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:52:56 5aAGe9GM0

思わずランサーは目を丸くした。
まさか、こんなところで彼女やあの聖人のような願いを聞くことになろうとは。
いや、美遊の言うそれは願いというよりは最早我が儘と言った方が近いだろう。
到底叶うはずのない、現実を知らない子供の我が儘だ。

「俺はお前と似たようなことを言った奴を二人知っている」


以前なら「そんなことは不可能だ、自分が生き残ることを第一に考えろ」とでも返しただろう。
しかし今は不思議とそんな気分にはなれなかった。


「一人はとんでもない執念で、本当に全ての人類を救おうとした聖人だ。
奴は好きになれそうもないタイプだったが信念は本物だった。
少なくとも、この俺の槍を突きつけられて微塵も動揺しない程度にはな。
ただ…あいつは心の底じゃ人間ってやつを信じてなかっただろうなあ」


ルーラー、天草士郎時貞。
六十年もの時を過ごして準備を整え、策謀を尽くして第三魔法の実現によって人類を救おうとした男。
自分が消えた後も人類の命運を決める決戦は続いただろうが、その結果については興味はない。
仮にあの男が勝っていたとしても、この世界には関わりのないことだからだ。


「もう一人は聖杯で全ての子供の幸福を願った女だ。
彼女の願いを聞いた時、俺は正直心の中じゃ無理だろうって思ったよ。
誰もが幸福で満ち足りた世界なんぞ実現できるはずもない、それが世界のシステムだってな。
だが……美しかった。美しい願いだったんだ」


彼女のことを語ると、不意に後悔の念が込み上げてくる。
何故自分は彼女の変調に気づかなかったのか。
師との対決に向けた鍛錬に専念していたからとはいえ、もう少し深く話をする時間ぐらいはあったはずだ。
あまりに自分らしくない、後ろを振り向くという感傷に走る程度にはあの聖杯大戦の記憶は魂に深く刻まれていた。


「あの…つまり、どういうことですか?」
「あー…話が逸れちまったな。
つまりだ、誰も彼もを救おうなんざ英雄であっても成し得るもんじゃないって話だ。
ましてやお前が言ってるのは理想ですらねえ、ただの我が儘な上に友達の受け売りだろ」


645 : 美遊・エーデルフェルト&ランサー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:53:34 5aAGe9GM0


美遊が唇を噛み締めて俯いた。
やはり誰も犠牲にせずに聖杯を手に入れようなんて無茶だったのだろうか。
いくら自分がイリヤの言葉を信じていても、自分と共に戦うサーヴァントに信じてもらえなければ意味がない。
乗るしかないのか、殺すしかないのか。


「やっぱり…」
「――――だが、その我が儘に英雄が付き合っちゃならないなんてルールはない」

俯いていた美遊がハッと顔を上げる。
美遊に向けたランサーの顔には笑みが浮かんでいた。


「確かに誰も彼もを救うのは困難だろうさ。不可能事、とすら言えるかもな。
ただまあ、アレだ。不可能から目を背けるのは英雄らしくないと、俺は思うんだよ」

この身、この魂には後悔が刻まれている。
こうして新たな世界で、新たな霊基で現界を果たしてもなお消えない罪の記憶が。
だからこそ二度と同じ罪を繰り返すわけにはいかない。

正直に言って、こういうのは俺向きじゃないとランサーは思う。
純真で真っ直ぐな子供の従者など、荒ぶる英雄より子の幸福を願う女狩人の方がよほど適任だろうに。
だが彼女はここにはいない。なら俺がやるしかない。
不向きであろうと何だろうと、不可能を力技で引っ繰り返してこその英雄なのだから。


「約束する。俺はお前の味方であり、お前が救おうとするもの全ての味方だ。
お前はお前が思うままにすればいい。
周りの野次なんかは気にすんな、俺が何とかしてやるからよ」
「……ありがとうございます」

美遊も自然と笑顔になっていた。
単なる契約ではなく、心から共に戦ってくれるサーヴァントに出会えた自分はきっと恵まれている。

イリヤはどうなのだろう?
美遊の最高の友達はこの世界にも存在しているし、友達であることに変わりはない。
出来ることなら今すぐにでも彼女に会って、一緒に戦いたい。
イリヤがマスターに目覚めていないとしても彼女を守りたい。

けれど、それは出来ない。
もしイリヤがマスターでなかったら不用意に彼女を聖杯戦争に巻き込んでしまいかねない。
それだけならまだしも聖杯戦争には神秘の隠匿というルールがある。
イリヤがマスターでなかった場合、神秘の漏洩を防ぐために監督役に抹殺されてしまうかもしれない。
だからイリヤがマスターだと確信できない限りは真実を話すわけにはいかない。
もちろん、イリヤの姉という設定になっているクロにもだ。


(そういえば、イリヤは妹扱いで良いのかな)

ふと何でもなかった、けれど何にも代えがたい価値のある日常のワンシーンを思い出した。
イリヤとクロのどちらが姉になるか争ったことがあったが、どうやら月はクロを姉として認めたようだ。
もし二人のどちらもが記憶を取り戻して、マスターになっていたらまた姉の座を巡る姉妹喧嘩が始まるに違いない。



――――そう、もしも二人と手を取り合えたなら、どんなことも成し遂げられるに違いない。
きっと、必ず。


646 : 美遊・エーデルフェルト&ランサー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:54:19 5aAGe9GM0
【クラス】ランサー

【真名】アキレウス@Fate/Apocrypha

【属性】秩序・中庸
【ステータス】
筋力B+ 耐久A 敏捷A++ 魔力C 幸運D 宝具A+


【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法を以ってしても傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
戦闘続行:A
往生際が悪い。
弱点であるはずのアキレス腱と心臓を射抜かれてもしばらく戦い続けた。

勇猛:A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効にする能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

女神の寵愛:B
母である女神テティスから寵愛を受けている。
魔力と幸運を除く全ステータスがランクアップする。

神性:C
海の女神テティスと人間の英雄ペレウスとの間の子。


【宝具】

『彗星走法(ドロメウス・コメーテース)』
ランク:A+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人
あらゆる時代のあらゆる英雄の中で、最も迅いという伝説が具現化した常時発動型宝具。
広大な戦場を一呼吸で駆け抜け、フィールド上に障害があっても速度は鈍らない。
その速度は最早瞬間移動にも等しく、アキレウスの視界に入る全ての光景は彼の間合いとなる。
自身の弱点であるアキレス腱を露出しなければならないが、この速度を捉えきれる英霊は数少ない。

『勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人
踵を除く全てに母である女神テティスが与えた不死の祝福がかかっている。
Cランク以上の神性スキルを持たない者からの攻撃を威力・効果を問わず全て無効化する。
また神性スキルがD、Eランクの者からの攻撃によるダメージをそれぞれ25%、50%ずつ削減し、神造兵装によっても(ランクに応じて)ダメージを負う。
よって神性スキル、神造兵装のいずれも持たない者がアキレウスを傷つけるには踵に攻撃を命中させるしかない。
ただし、宝具などによる広範囲攻撃で踵を巻き込んでも意味はなく、あくまでアキレウスの生前の逸話に則り踵をピンポイントで狙って傷つけなければならない。
踵に攻撃を受けた場合はこの宝具と『彗星走法』が解除され、よほどの大魔術でない限り踵の治癒は困難となる。

『宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:2〜10 最大補足:1人
アキレウスの父母が結婚する際、アキレウスの師であるケイローンが彼らに贈った長槍。
真名を発動することで時間や環境全てから遮断された、どちらかが倒れるまで解除されない闘技場を形成する。
お互いに第三者や神々、幸運などの補正が全て打ち消され、不死や蘇生タイプのスキル、宝具も無効化される究極の実力勝負。
ただしこの宝具はアキレウスが一対一を望む者にしか発動できず、また相手が一騎打ちを望まない場合はアキレウスも無理にこの宝具を発動しようとはしない。
また生前この槍でアマゾネスの女王ペンテシレイアを殺してしまったことから女性に対しては真名解放自体ができない。
ランサーとして召喚されたため、上記の効果とは別にこの槍で手傷を負わせると治癒が不可能になる常時発動効果が使用可能になっている。
この槍で与えたダメージ分だけHP上限そのものを削減するため、治癒能力を用いても傷を受けた状態までしか回復できない。


647 : 美遊・エーデルフェルト&ランサー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:54:57 5aAGe9GM0

『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』
ランク:A+ 種別:結界宝具 レンジ:0 最大補足:1人
鍛冶神ヘパイストスによって作られた神造兵装の盾。
アキレウスが見てきた世界そのものが投影されており、外周部分には海神による海流が渦巻いている。
この盾に立ち向かうということは即ち世界を相手取るということであり、発動させれば対城・対国・対神宝具すら防ぎ切れる。
上記の通り、防御用の宝具だがアキレウスはこれを攻撃に転用することができる。
宝具を展開した後、前へ前へと突き進むことで極小世界による押し潰しを図る。なお鍛冶神はこのような使い方は考慮していないと思われる。
戦車の宝具を持たないランサークラスのアキレウスとしては、最大の威力を持つ攻撃手段となる。

【weapon】
宙駆ける星の穂先
無銘・長剣

【人物背景】
ギリシャ神話にして世界三大叙事詩の一角「イリアス」に登場する人類最速の英霊。
ギリシャ最大の大英雄ヘラクレスに次ぐギリシャを代表する大英雄であり、数ある英雄の中でも屈指の知名度を誇る世界的な英雄。
銀の軽鎧を纏った美丈夫で気に入らなければ王の命令であろうと公然と無視する奔放な青年。
義に厚く、卑怯な振る舞いを嫌い、討ち果たされた友のためなら万軍を敵に回しても見事敵将を討つほどの豪傑で、世界にただ一人の友と愛する女たちがいれば、ただそれだけで満足とし、散り様でさえ陽気を忘れない勇者。
敵と認めた者には一切の容赦がない苛烈さを持つ一方、一度でも味方ないし良い奴と認めた相手には甘く、戦うことを躊躇することすらある。
豪放磊落だが乱暴狼藉を良しとはせず、父ペレウスに似て穏健を良しとする根の甘さを持っている。
英雄らしい清廉さと高潔さ、英雄らしい傲慢と愚かさが同居している人物。

とある並行世界で起こった聖杯大戦の記憶を継承しているレアケースのサーヴァント。
本来、聖杯戦争に参加したサーヴァントがその記憶を持ち越すことはない。有り得ざる第二の生の記憶がいくつもあれば、生の実感を薄れさせてしまうからだ。
――――それでも、英霊本体にも強く焼き付いた忘れ得ぬ体験があった。
届かぬ理想と知りながら全ての子供が幸福で在れる世界を願った彼女と、その理想から目を背けた自分。
裁定者によって殺された子供たちの無念を晴らさんと英霊の矜持をも捨てて失墜していった彼女と、彼女の異変に気づきながら知らぬふりを決め込んだ自分。
かつて見たはずの美しい夢をすら見失い魔獣へと変貌した彼女と、呪いをかけられた槍で彼女を殺した自分。
美遊の召喚に応じ寄り添うことを決めたのは、アキレウスなりの贖罪であり決意である。
今度こそ、彼女の眩い理想から目を逸らすことなく英雄として目の前の子供を守り抜いてみせよう、と。

ちなみに以前の現界で積年の悲願であった師匠超えを果たしていることもあり、既に戦いそのものにはある程度満足している。
無論新たな戦場で自らを傷つけ殺し得る強敵との戦いを望まないわけではないが、今は幼いマスターの理想の行く末を見守ることを第一義としている。


【サーヴァントとしての願い】
美遊と美遊の理想を守り抜く。


648 : 美遊・エーデルフェルト&ランサー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:55:50 5aAGe9GM0

【基本戦術、方針、運用法】
全サーヴァント中でもトップクラスの戦闘力と並のライダークラスすら置き去りにする絶大な機動性を併せ持つ。
ランサーとして現界したことで戦車の宝具と騎乗能力を失ったが、引き換えに敏捷性がより生前に近くなり対魔力が向上、そして『宙駆ける星の穂先』の全ての能力を行使可能になった。
歩兵としての性能は上がったが戦車にマスターを匿うことが出来ず、対軍の攻撃手段を失っているためマスターを防衛する能力は低下していると言える。
美遊の能力面については無限の魔力供給には一目置いているものの、クラスカードの行使を含めた自衛力に関してはさほど信頼していない。
これは美遊を見下しているというより、以前の現界で数多くのイレギュラーや規格外というものを身を以って味わった経験があるため。



【マスター】
美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!

【参戦方法】
エインズワースから救出された後、衛宮邸に落ちていた『白紙のトランプ』に導かれ、マジカルサファイア及び一部のサーヴァントカード諸共に参戦

【人物背景】
ある平行世界の冬木に存在した「朔月家」の「神稚児」と呼ばれる存在。朔月家では代々その身に神を宿し、願いを叶える存在となる子供が生まれるが、周囲の人間の強い願いを無差別に叶えてしまうため、七歳になって能力が消えてしまうまでは結界の中で暮らすことになる。彼女もそうなるはずであったが、災害をその力で食い止めたことから衛宮切嗣に目を付けられ、連れ去られた。
切嗣の死後は士郎の妹となるもエインズワースによって連れ去られ、その後士郎に救出されイリヤたちの住む平行世界に送られた。
ルヴィアに拾われエーデルフェルトの名やイリヤという友人を得たが八枚目のクラスカードを封印した時に現れたエインズワースのドールズによって元の世界に連れ戻されたが、イリヤや士郎、仲間たちの尽力で救助された。
その後士郎の過去を聞き改めてエインズワースに対抗し、平行世界と美遊の共存を目指して作戦を練り直していた最中に聖杯戦争の参加者として見出された。

【weapon】
マジカルサファイア
宝石翁ゼルレッチが2本1セットで製作した特殊魔術礼装・カレイドステッキ……に、宿っている人工天然精霊。もう1本のカレイドステッキに宿っている精霊・マジカルルビーの妹にあたる。
任務によって宝石翁からルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトに貸し与えられマスターとしたが、遠坂凛との私闘に明け暮れるルヴィアに呆れ、姉と共にマスターを見限った。現在、美遊・エーデルフェルトをマスターとする。
基本的に無口であり、あまりしゃべらない。口調そのものは丁寧で、誰に対しても「様」をつける。性格元のメイド服同様、冷静なように見えて意外と感情の起伏が大きい。
また、慇懃無礼な態度の裏の性格は非常に辛辣で、彼女的に見てどうかと思う人物・行為に対しては容赦なく罵倒する。
本来は姉と違ってマスターから簡単に離反するような性格ではないのだが、あまりにルヴィアが任務を無視した傍若無人な振る舞いをしたため、見限ることになった。対し、美遊との関係は良好。
平行世界からの干渉によってマスターへ無限の魔力供給が可能。
また、Aランクの魔術障壁の他、物理保護、治癒促進、身体能力強化といった恩恵を常に与えている。
ただし、供給量・持続時間は無限でも、一度に引き出せる魔力はマスターの魔術回路の性能に依存するため、結局は効率的な魔力運用は欠かせない。
機能の一つに、魔術ではなく「純粋な魔力」を放出するというものがあり、砲弾、散弾、ブレード状に固定、といったバリエーションで駆使する。


649 : 美遊・エーデルフェルト&ランサー ◆wzmTZGmcwM :2017/01/29(日) 23:56:21 5aAGe9GM0
ある程度、形・大きさを変えることができるらしく、使用時以外は手で持つステッキ部分を消して、羽の生えた星型の丸いヘッド部分のみの姿となって、美遊の近くにいる。
洗脳電波デバイスを有し、事件の記憶を一般人から(時にはマスターたちからも)消したり、トラブルを起こしたお仕置きにルビーを洗脳したりもする。

サーヴァントカード
エインズワースによって作られた魔術礼装。イリヤ達は当初、彼女達の世界の魔術協会が名付けた「クラスカード」の名で呼称していた。
高位の魔術礼装を媒介とすることで英霊の座にアクセスし、力の一端である宝具を召喚、行使できる『限定展開(インクルード)』の能力を持つ。
だが、それは力の一端に過ぎず、本質は「自身の肉体を媒介とし、その本質を座に居る英霊と置換する」、一言で言えば「英霊になる」『夢幻召喚(インストール)』を行うアイテム。
「美遊の世界」の冬木市で開催される聖杯戦争はこのカードの所有者同士の対決によって行われる。
現時点で美遊が何を保有しているのかは不明だが、少なくともキャスター(メディア)のカードは既に喪失している。

【能力・技能】
魔導元帥製のカレイドステッキ及び回収したエインズワース製のサーヴァントカードを利用した、魔法少女(カレイドライナー)としての能力を持つ。
カレイドステッキにより、平行世界から無尽蔵な魔力回収、またAランクの魔術障壁の他、物理保護、治癒促進、身体能力強化といった恩恵を常に受けている。但し、障壁の防御機能は内部からの攻撃には無力である。
ただし、供給量・持続時間は無限でも、一度に引き出せる魔力はマスターの魔術回路の性能に依存する。
アキレウスへの魔力供給によってカレイドライナーとしての能力値の大幅な減衰は免れないが、それでも戦車の無いランサーでの現界ということもあってある程度の自衛力は確保できる。
多少無理をすればアキレウスの維持と『夢幻召喚(インストール)』も短時間ならばこなせると思われる。
また機能の一つに、魔術ではなく「純粋な魔力」を放出するというものがあり、対魔力スキルを突破し得る砲弾、散弾、ブレード状に固定、といったバリエーションで行使可能。
持ち主のイメージ次第で飛行することも可能なのだが美遊は「人は空を飛べない」という常識に縛られているため飛行することはできない。
代わりに魔力で空中に足場を作りそこに跳躍する、という手段を用いている。


【マスターとしての願い】
もう何一つ諦めない。極力誰も犠牲にすることなく帰還し、聖杯も手に入れる。

【方針】
未定。


650 : 名無しさん :2017/01/29(日) 23:56:56 5aAGe9GM0
投下終了です


651 : 名無しさん :2017/01/29(日) 23:58:55 H8eYEWR.0
投下します


652 : ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/29(日) 23:59:18 bqgjt2EE0
投下お疲れ様です。
滑り込み投下させていただきます。


653 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/29(日) 23:59:29 H8eYEWR.0
投下します


654 : 名無しさん :2017/01/29(日) 23:59:58 H8eYEWR.0
っと、先にお譲りします


655 : ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 00:00:03 sunYQU4o0
すいません。同じく滑り込み投下したいのですが、お譲りします。


656 : ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:00:14 xBLsvmg60
すみません、お先にどうぞ


657 : ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 00:03:05 sunYQU4o0
私の場合、ちょっと詰めながらなので時間が少しかかります。
◆QBWmkX/RHQ様か、◆ACfa2i33Dc様のどちらかがお先にどうぞ。


658 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:03:23 YCMcbaXs0
ぐだつかせて申し訳ない、ならば先に投下します


659 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:03:59 YCMcbaXs0

 ●


 紅い月。
 ――それは、"彼ら"が現れた証。
 次元が歪み、彼らの世界の月がこちら側の世界に現れた、闇のしるし。
 ムーン・セルもまた月ならば。異界の月が、この万能の願望器へと繋がっていないと、何故言い切れるだろうか?


660 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:06:00 YCMcbaXs0
 ●


 黒衣の男が、街中を往く。
 上から下まで、夜に溶け込むような黒衣。真昼の街中においては如何に身のこなしに気を払おうと、衆目を浴びる事は間違いない。
 だがしかし、男は行き交う人の注目を集めるような事はない。それどころか、意識にすら入らず、記憶に残る事もないだろう。
 これこそ黒衣の男がヒトの枠を外れた者である証。
 聖杯戦争において呼び寄せられたサーヴァント、アサシンであるという証明である。
 当然だが、何の理由もなく、街中をうろついているわけではない。アサシンは、とある男についての内定を進めている途中だった。

 名はバーチェス・マルホランド。
 姓をそのまま付けた『マルホランド』という総合商店の店長。
 人柄も良く、経営する『マルホランド』の評判も高い。買い物客のみならず務める従業員からも評判のいい、伝聞だけならば君子のような人物である。
 だがアサシンとそのマスターは独自の調査を行ううち、彼が聖杯戦争の参加者――すなわちマスターではないか、という情報を得た。
 まだ確定ではないが、疑惑はかなり濃い。
 この時点で襲撃を決行するという手もあった。が、僅かであれハズレという可能性が残っていることと、こちらの方が重要だがサーヴァントの正体が一切不明ということから、数日は情報収集に徹するという方向でアサシンとマスターとは合意していた。
 今はその最終段階。
 バーチェスの自宅へと潜入し、サーヴァントに繋がる情報を入手してくるのがアサシンの使命であった。

 調査の結果、バーチェスは少なくとも日中はサーヴァントを連れていないことが判明している。
 それがバーチェスがマスターではなくただの人間だからなのか、あるいはサーヴァントを何処かへ待機させているからなのかは不明だが、後者であるならばバーチェスの自宅にサーヴァントが待機している可能性は高く、そうでなくともマスターであるなら聖杯戦争に関連する何かが残っているかもしれない。

 ――本来なら、マスターの疑いがある相手が一人で出歩いてる時点で、暗殺するか、そうでなくとも浚って口を割らせるべきだ。

 当然アサシンも、最初はそれを提案した。
 だが、件のバーチェスがどうにも一人になる時間を作らず、強硬策に出る場合周囲が騒ぐのを覚悟せざるを得ない事……そして、マスターの希望もあって、推定マスターが居ない内に住宅を捜索する、という手段を取ることにしたのだ。
 甘い男だ、とアサシンは思う。
 だが、それでも此の度の戦いの主ではある。

 ――極力被害を少なくするのが望みなら、使われる側の暗殺者としては、出来るだけ満たしてやるのがプロだ。


 そのような事を思いながら、スノーフィールドの住宅街の外れにあるバーチェスの住処までやってくる。
 当然鍵など持っていないが、サーヴァントの霊体化を行えば、魔術的な壁でない限りは素通りを――

 ――む。


661 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:06:28 YCMcbaXs0

 霊体化したまま通過しようとして、アサシンは見えない壁のようなモノに押し留められた。
 これは……おそらく、魔術的な防壁、結界か。
 自宅にこのようなモノがあるという時点で、バーチェスがクロであるという事は自明の理であり、そしておそらくはここにいるのがキャスターのサーヴァントである、というのも同時に推測できたわけだが、しかしこの時点で退くかどうか、アサシンは迷った。
 軽く調査した限りは、この結界が留めるのは霊体のみだ。おそらく実体化し、玄関なり窓なりを鍵開けすれば這入り込むのは容易。
 だが、陣地を張ったキャスターの懐に入るのが、どれだけの危険か理解していない訳でもない。
 これ以上の情報を得るため危険を冒すか、それともこれで十分、と撤退するか……。

 ――ここで退くならば、マスターの心意気に応えた意味もないか。

 できる限りマスターや一般人に被害をかけたくない、というマスターの思いに応えるならば、ここで退こうが今進もうが最終的には同じことだ。
 ならば今進み、侵入が発覚する前に情報収集して退散するとしよう。
 そう決意し、アサシンは実体化し、窓の鍵をするりと開けて陣地へと侵入した。


 ――中は一般的な住宅だな。店が繁盛しているのか、大分質のいい内装だが。

 這入った場所は広間であるらしい。ざっと見た限りでは魔術の気配はない。
 おそらくは一般の来客用に怪しまれないようにしているのだろうが、ここにキャスターの陣地があるとして、その要はさらに奥……おそらくは地下階にあるのか。
 そう当たりをつけたアサシンは、地下階への階段を探して探索を開始する。

 ……十数分。魔術による隠蔽を成された階段を発見したアサシンは、躊躇いなく地下へと降りた。
 こつ、こつ、と。
 今まで探し回っていた一階の様子とはかけ離れた、昏い、地の底へと続くような石造りの螺旋階段を下る。
 場を包む気配も一変し、「魔」の空気を漂わせる。
 異界。ヒトの住む世界、その裏側へと踏み込もうとしていることに、アサシンは螺旋階段の中ほどで気が付いた。

 ――今さら退くわけにもいかない……か……?

 ここまで来た以上、タダで逃げ帰ることはできない。漠然とした直感だが、アサシンはそう確信している。
 ならば毒を食らわば皿まで。この言葉に従い、この異界の核をこの目で確認するまでのこと。
 決意を新たに。アサシンは、石段の最後の段を駆け下りた。


662 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:06:49 YCMcbaXs0



 ……そこは神殿だった。
 立ち並ぶ御柱。
 古きかみを祀る、朽ち果てた幾つもの祭壇。
 だというのに神聖さなど欠片もない、闇と、虚無に満ちた空間。太古の神の神殿が、そこにあった。

 ――これは……。

 が、アサシンの目に真っ先に焼き付いたのは、それではなかった。
 神殿内に立ち並ぶ祭壇。それは、祭壇が、祭壇として機能している証を、しっかりと見せつけていた。
 すなわち、捧げモノ――神の流儀で言えば、生贄。 
 祭壇の上に囚われたモノ。苦悶の表情を浮かべるそれは、紛れもなく人間だ。

 ――いや……ほとんどは一般人だが、右手の奥に囚われた男の手に刻まれているのは、令呪……!?

「――そうよ、彼は元マスター」

 アサシンの思考を後押しするように、奪うように、彼の背後から言葉が紡がれる。

 ――いつの間に背後を……!?

 驚愕より先に身体が動く。
 前方へと飛び込みながら、体を回し背後を確認。

 ……アサシンが石段を降りてきて、他には誰もいなかったハズの其処に、一人の少女が佇んでいた。

 紺色のブレザー――おそらく、何処かの高校の制服だろう――その上に、異国風のポンチョを羽織った少女だ。
 艶のある銀の髪、輝く緋色の瞳、人形のように整った美貌。
 一見すれば、衆目を魅了する美少女である。
 だが、二目と見ればそのような印象は消え失せる。その少女には、現実味が、人間としてのにおいが皆無だった。
 ――異界の美貌であった。

 アサシンは、瞬時に理解する。この少女が、この異界の神殿の主だ、と。

「非道だなんて思わないでくれるかしら? そいつらは私たちに襲い掛かってきたマスターか、あるいは空き巣や強盗に入ろうとした狼藉者で、無辜の人間には手をつけてないんだから。
 おまけにマスターのお願いで、命を奪う事はしてないのよ? お優しいマスターに感謝して欲しいところなんだけど」

 やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめる少女に、しかしアサシンは目を離せない。
 残虐性、などと言うつもりはない。アサシンのサーヴァントに列された以上、アサシンも殺し方にしろ、あるいは生かし方にしろ何かを言えた身分ではない。
 恐ろしく思うならば、少女の在り方。
 この少女のサーヴァントは。人間を利用する事に。人間を使う事に、なんら悪感情を抱いていない。
 憤怒でも嫌悪でもなく、憐憫でもなく、この女は人を搾取する。まるで玩具のように、面白い読み物のように、人間を殺す。
 この少女は、人間ではない。字面通りに、ヒトとは違う生き物だ。

 立ち竦むアサシンに、少女のカタチをした化け物が歩み寄る。
 近寄る死にアサシンは身動きできない。

 ……と。アサシンは、死ぬ間際になって、奇妙なコトに気がついた。
 石畳と石壁の囲む、暗黒の空間だというのに。
 その空には――

 ――紅い月が見える。


663 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:07:44 YCMcbaXs0
 ●


 バーチェス・マルホランド……本名、アーチェス・アルザンテが今日の仕事を終わらせて帰宅した時、一番に受けたのはキャスターの報告だった。

「陣地内にサーヴァントが侵入してたわ。おそらくアサシンね。明日からは、私が傍に付くか、護衛の侵魔を付けておいた方がいいんじゃない?」
「……そうですか……」

 溜息を吐く。
 陣地に侵入した者がいて、このキャスターが健在であるならば、その答えは――

「また、プラーナを食べたんですか?」
「アサシンが持ってたプラーナの分だけね。というか、近場にマスターもいなかったし」
「……そうですか」

 安堵に近い溜息を漏らしながら、アーチェスはキャスターを見た。
 キャスター――ベール・ゼファーを名乗る少女は、プラーナという『生命の力』を喰う。
「魔力の源とか、想いの力とか、気とかオーラとかルーハとか存在の力とか、そういうのだって考えてくれればいいわ。要するに魂喰らいね」
 と彼女は言った。魔王である彼女は、其れを糧に力を得るのだ、と。

 魔王。アーチェスの世界における最後の魔王フィエルなどとは違う、魔人や魔族のという意味の魔王ではなく、悪魔の名を冠する侵略者たちの王。
 同じ魔王の称号を持つ女性であっても、アーチェスの知る魔王と、キャスターでは何もかもが違う。が、一点だけ同じ点がある。

 ……圧倒的な力の差。

 ふるきかみを名乗るのも、ハッタリなどではない。
 本来ならばミーコ様にも匹敵する、人知を越えた能力の持ち主。聖杯戦争を共に戦うという『戦力』としては、申し分のない駒。

 無論彼女の邪悪さは理解している。
 けれど、だが。それを言うならば、『闇』の力を借り、この世から魔導力を一掃しよう、と決めた時から、業を背負うとは決めている。
 そう。聖杯の力を借りれば、魔導力の一層よりも確かな手段が取れる。

「聖杯の力ならば、過去の改変なども可能……でしたね、キャスターさん」
「ええ。ムーンセルはこの宇宙の叡智を記録した、万能の願望機。
 其の力を借りれば、歴史の枝道(ブランチ)の選択程度、可能でしょうね。
 けれどマスター? それでいいの?」
「……ええ。私の提案により、地上に散ってしまった魔人たち。
 それをなかった事にするために……魔界の侵攻そのものを無かった事にする。それが私の償いです」
「そう。ご武運をお祈りするわ、マスター殿。
 ……それとも、堕ちた古代神の祈りは要らない?」
「暗黒神の加護を受けた私にとっては、どちらも似たようなものでしょう?」
「それもそうね」

 くすくす、と。面白い玩具を見るように、キャスターは嗤った。


664 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:08:11 YCMcbaXs0
 ●


 人理定礎というものがある。

 人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。
 これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。

 世界の可能性。それこそが人理だ。

 そしてそれに対して、霊子記録固定帯というモノがある。

 無限に並列する平行世界を編纂し、外れた世界を剪定するモノ。

 歴史を固定する為のタガ。

 例え歴史が改変されたとしても、人類史という大枠のうねりを変えることはできない。
 その中で誰かが幸せになろうと、滅ぶべき国は亡ぶ。誰かが不幸になろうと、栄えるべき国は栄える。それが人類史というモノだ。

 ――だが、何らかの大偉業であれば、その人類史を否定できよう。そう、聖杯があれば。

 しかし人類史の否定とは、即ち現行の世界の否定だ。
 現行人類の否定だ。
 それが行われれば人理は焼却され、たちまち無へと帰るだろう。

 アーチェスの世界で行われた魔界から地上への侵攻、そして魔人の拡散。それが人理に『固定』された事象でないと、誰が言い切れるだろうか?
 いいや、これほどまでに大規模なコトだったなら、きっと霊子記録固定帯に認められたに違いない。
 つまりアーチェスの願いとは、それ即ち人理の否定、人理の焼却に他ならない。

 アーチェス・アルザンテは聖者のような男だ。
 己の行った地上侵攻を悔い、その贖罪のために手段を選ばない、優しさを持ちながらその優しさを非情さへと転ずる事のできる男だ。

 その男の願いが、世界を焼く様は、どんなモノだろう?

 魔王は嗤う。

 聖者のような男が、己の業によって転げ落ちる様は、さてなんと愉悦だろうか――!


665 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:08:35 YCMcbaXs0
---

【クラス】キャスター
【真名】ベール・ゼファー@ナイトウィザード
【パラメーター】
筋力D 耐久B 敏捷C 魔力A++ 幸運E 宝具B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
陣地作成:A
 自らに有利な陣地を作り上げる。
 "工房"を上回る"神殿"を形成する事が可能。
道具作成:A-
 魔力を帯びたアイテムを作成できる。強力なマジックアイテムを作成可能。
 ただし人を惑わす魔王としての逸話を持つキャスターの作るアイテムは、使った人間に代償を要求する呪いのアイテムである。
 また、人間のプラーナを材料とすることにより、使い魔の派生として魔物を作成する事が可能。
【保有スキル】
高速神言:A
 呪文・魔術回路との接続をせずとも魔術を発動させられる。
 大魔術であろうとも一工程(シングルアクション)で起動させられる。
 現代人には発音できない神代の言葉を唱えることができる。
神性:A
 神霊適性を持つかどうか。
 現在は魔王に堕ちてサーヴァントの格に収まっているとはいえ、墜ちた神性であるキャスターは高ランクの神性を持つ。
蠅の女王の権能:A
 蠅を初めとする、空とぶものをあまねく配下に置く。
 一定の力を持つものには通用しないが、支配下に置ける相手は使い魔のように扱うことができる。
魔王:A
 侵魔(エミュレイター)の大公。
 裏界よりの侵略者であり、プラーナ(生命の力)を糧とするモノ。
 魂喰いや生贄によりプラーナを得る事で、魔物作成や魔力の回復を効率化することが可能。
 逆に一定期間プラーナを補給できなかった場合、魔力に関係なく衰弱していく。
【宝具】
『七原罪・暴食(オリジナルエゴ・ベルゼヴブ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 キャスターそのもの。
 その肉体、そして一挙手一投足が宝具と化している。
 『神性』スキルを持たないBランク以下の攻撃ダメージを無条件に減算する。
【weapon】
『魔術』
闇・虚属性の魔術を得意とする。
【人物背景】
“蝿の大公”もしくは“蝿の女王”の二つ名をもつ魔王。爵位は大公。古代神の一人。悪徳の七王の一角で暴食を司る。
空を飛ぶ全てのものに対する命令権を持つ。
魔王の中では頻繁に表界を訪れる。表界へ現れる時の写し身は、輝明学園秋葉原校の制服にポンチョを羽織った姿でいる事が多い。
その際「ベル・フライ」「涼風鈴」「飛田鈴」という偽名を使うこともある。可愛らしい容姿と裏腹に残酷であり、搦め手で相手を破滅させることを好む。
全ての事象をゲームとして捉えており、ゲームはお互いリスクを背負うからこそ面白いと考えている。
本人曰く「だって、その方が面白いじゃない」との事。
ただし、その性格が災いして、精緻な仕掛けをしてはその隙をつかれてウィザードたちに敗れ去る事も少なくない。
(wikipediaより)
【サーヴァントとしての願い】
特になし。アーチェスの行く末を見守り、嘲笑う。


666 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:10:32 YCMcbaXs0
【マスター】アーチェス・アルザンテ@戦闘城砦マスラヲ
【マスターとしての願い】
 世界の歴史を改変し、魔族の侵攻の歴史をなかったことにする。
【weapon】
なし
【能力・技能】
『召喚士』
暗黒神の加護を受けており、状況次第では邪神の召喚も可能。
高位の魔族だが、そのほぼ全てを「召喚師」として特化しているため、戦闘能力は著しく低い。
【人物背景】
笑顔を絶やさないアルハザンの団長。別の世界から先遣隊として派遣されたエルシアの母親フィエルの部下だった人物で当時の名前は「アーチェス・アルエンテ」。暗黒神の加護を受けており、状況次第では邪神の召喚も可能。
「聖人殿」と揶揄されるほどの心優しい性格。しかしその善人としての在り方故に自らの行動に躊躇いはなく、理想と目的のためにはあらゆる手段を行使する面も持ち合わせる。交渉術、人心掌握術など権謀術数に長けている。恐ろしくギャグセンスが無い。
聖魔杯へは人間「バーチェス・マルホランド」として参加している。バーチェスというのはフィエルが付けたニックネーム。
ほとんど魔殺商会に支配された商業区で唯一「安心、安全、真心」を貫く希望の星「マルホランド」の店長。だが、鈴蘭に「マルホランド」の店長であることがバレ、所場代として売り上げの50%を奪われている。
魔界の領土拡大のため地上への侵攻を提案した人物で、それが原因で生まれた魔人と人間の骨肉の争いに終止符を打つべく暗躍し、その為には犠牲を厭わない。当初は「魔人の為の国を作る」ことを目的としていたが、数千年経っても変わらない現状に絶望し、「闇」を召喚して全ての魔導力をこの世界から消し去ることを決意、聖魔杯奪取を目指す。
(wikipediaより)
【方針】
聖杯を手に入れる。


667 : ◆ACfa2i33Dc :2017/01/30(月) 00:10:43 YCMcbaXs0
以上で投下終了です。


668 : ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:18:18 xBLsvmg60
投下お疲れ様でした!
大遅刻ですが、投下させていただきます。


669 : 明日に向かって走れ! ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:19:20 xBLsvmg60
 不快感と困惑に苛まれ、何を考えるのもおっくうだったとする。そんなとき、初対面の少年が「叫ぶとすっきりするよ!」と勧めてくれたとしよう。それが真なる親切心から出た言葉だと、はっきりと理解できたとしたところで、はいそうですかと素直に従える人間がどれほどいるのだろうか、と彼は思うのだ。
(少し危ない子なのかな? やだ、怖……)
 無論気持ちはわかるのだ。彼自身とてどちらかといえば、少年と同じく気風のいい性格であるし、悩むよりは行動した方がマシだと身をもって知っている。腹の底から声を出すということがどれほど己を鼓舞するかなど、言うに及ばずというほどだ。鬨の声は耳にしたものを、自他の区別なくそれぞれ違う意味で震え上がらせる。つんざく砲声のただなかにあって、比せば弱弱しいはずの咆哮は、それでも確かな力を放つからだ。
 だが理解と同時、常に鉄火場へ身を置いていた経験から、戦場になりえる場所で大声を挙げることがどれほどの愚策であるか、という躊躇いがある。聖杯戦争の概要こそ『知ってしまった』が、やはり戦争というからには、この身一つで駆け抜けた『戦争』と同じものなのだろう。どうしたって、気楽に構えてはいられないのだ。あと常識に則って考えても、何もないところで突然叫びだしたらキ印の誹りは免れ得まい。不死身と謳われた彼であっても、そんな扱いは御免被るというものだ。
 先行き不安にもほどがある、と小さくため息をつくのに連動して、彼の顔面に走る無数の傷跡が歪んだその時である。
 崖に向かって心意気のすべてをあけっぴろげにしていた少年が、ひと仕事終えた、といった満足気な表情で振り向いた。

「もういいのかい? 決意表明は――ブラック君」
「ああ、とりあえずは、ね。お待たせ――杉元佐一さん」

 薄い笑いを浮かべる杉元に、帽子のつばをひょいと指で押し上げブラックは、やはりこちらも笑って応じた。
 マスターとサーヴァント。ポケモントレーナーと軍人。聖杯戦争、魔術師、令呪。
 まるで縁のなかった世界の二人は、ただひとつの共通点を以て、ここに主従として結びついたのだ。

≪明日に向かって走れ!≫


670 : 明日に向かって走れ! ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:20:31 xBLsvmg60
「それにしても驚いた。あれはどういう?」
「日課だよ。いや……日課だった、かな」
「ほぉ」
「思い出したからにはやらなくちゃ、っていうそれだけさ。お前たちを忘れてなんかないぞ、オレは絶対ポケモンリーグで優勝してやるぞ、ってね」
「夢の溢れる話だね……ポケモンか」

 少年の名前はブラックという。イッシュ地方、カノコタウン出身、ポケモンリーグ優勝を目指し、パートナーのポケモンたちと旅をする、いたって普通の少年だ。
 ――訂正をするのであれば、いたって普通の少年『だった』ということと、『この世界では』いたって普通の少年である、という二点に尽きる。

「ああ。……元気でやってるといいんだけど」
「言っちゃなんだが動物だろう? なら平気だろうさ、奴ら――」
「ああーッ!! ポケモンリーグもプラズマ団の連中も社長のこともやることいっぱいあるのにっ、ちくしょォォォォ!!」
「ひっ怖い」
「あ、ごめん」

 咳払いをして居住まいをただすのは杉元佐一。元陸軍人、日露戦争を生き抜き除隊後、北海道でとある事情から旅をする、いたって普通の青年だ。
 ……実に物騒な顔面の刀傷と、アイヌの埋蔵金を求め、その場所の地図が彫られた囚人たちの皮を剥いで集めている、という事情をのぞけば、だが。

「…………」
「…………」

 自己紹介は終わっている。これから共に戦うふたりとして絆を深めていくべきなのだろうとは思うが、あまりに世界観、そう、世界観が違うからと、どうにも立ち入ったことを話す気にはなれない。
 警戒癖も考え物だな。杉元は頭の隅で小さく考え、やれやれと首を振った。
 ぼけっとしていても始まらない。人は会話をしてつながる生き物なのだ。もはやその身は人ではないが、何、些末なことだ。いつのまにサーヴァントとやらになったのか、あの旅路がどうなったのか、それすらもさっぱりなのだ。夢にも似たこの世界で、足踏みする理由などない。
 ちらりとブラックを見ると、目があった。彼の顔が一瞬ひきつる。召喚後、初めてこの顔を見た彼の顔が恐怖に歪んだのを思い出し、くすり、と来た。怖かったのだろうなぁ。耳の違いはなくとも、ここまで異相ならばさもありなん、といったところだろう。
 ブラックが口を開いた。


671 : 明日に向かって走れ! ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:21:26 xBLsvmg60
「オレさ……やらなくちゃいけないことがあるんだ」
「そうかい」
「帰りたいんだ。でも、殺しもしたくない」
「難しい注文だな」

 電子の海に沈むか沈めるか、それしかない殺し合いだ。杉元の表情には笑いが張り付き、微動だにしない。
 冷酷さすら感じる固着したそれに、だが、ブラックは少しだけ顔を歪めるだけで、気丈に笑ってみせた。

「強欲なのさ、オレは。だから選ばれたのかも?」

 あのトランプに導かれるようにして触ってしまったのも思えば、とブラックはうつむきがちに繋げる。八個目のバッヂ、とやらを手にしたその時に、いつの間にかポケットに紛れ込んでいたというそれを触ったのを思い出した、とはすでに聞いた話であった。
 負けて、どうしようもなくなって、それでもあきらめずに進み続けて、転んで、這いつくばって、多くを失って、それでも掴んだバッヂは、夢の証だったのだという。

「…………」
「手伝って、くれないか? 杉元さん」

 なんとなく、そこに自分を見た気がしたからだろうか。
 甘ちゃんなところではない。ひたむきに進もうとあがくその姿に、梅子の治療費を稼ごうと走り出した自身が重なってみえた、のかもしれない。
 子供なのに、とは思わなかった。杉元は殺しを厭わないことを語っておらず、ブラックも、自身が最も思い悩んでいる『やるべきこと』を隠しているように見受けられる。
 ふ、と、自然に笑いが漏れるのを感じた。

「……杉元さん? どこいくんだよ?」

 すれ違うようにして進む杉元。崖を背にしていたブラックの横を通り抜け、先ほどの彼と同じように、崖の淵ぎりぎりに立った。振り返らず、どこまでも広がる雄大な大地を前にしたままいう。

「叫ぶんだよ。すっきりするんだろ?」
「……っ、ああ、ああ!」

 弾んだ声と軽い足音が響き、自身の横に小柄な影が並ぶのを感じる。
 こうやるのさ、と、彼が先だって叫んだそれと同じ文言を飛ばすのを見て、杉元は息を吸い込んだ。

「金稼ぐぞッ!!」
「そうそう、そうやって腹の底から……えっ、お金?」
「なんかおかしいか? 生きるのに金が必要なのはどこだって変わらんだろ、ぽけもん? とやらがいようが、怖いオジサンたちと追っかけっこしてようが、聖杯戦争に身を投じようが。そうだろ?」

 杉本の頬は小さく笑みの形を作っている。顔面に深く残る傷跡が歪み、気の弱いものなら後ずさってもおかしくはないその相貌は、しかしブラックに正しく意思を伝える役目を果たしていた。
 何のために金を欲しているのか、そのために何をしているのか、今は詳しいことを話すつもりはないが、『夢』を追うというこの少年のまっすぐな姿は、彼にとって眩しいとして映るのだ。無下にする理由がどこにあるというのだ?
 虚を突かれ、ぽかんと口を開けていたブラックに、再び快活な笑みが舞い戻る。

「オレはポケモンリーグで優勝するぞォォォ!! 絶対絶対絶対優勝だァァァ!!」
「金稼ぐぞッ! 皮剥ぐぞッ!! 味噌は食べられるオソマだッ!!!」
「オレだって金も稼ぐゥゥゥ!!」
「腹減ったァッ!!」

「……杉本さん、オソマってなんだよ?」
「……聞かないでぇ?」


672 : 明日に向かって走れ! ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:23:35 xBLsvmg60
【出展】ゴールデンカムイ
【CLASS】バーサーカー
【真名】杉元佐一
【ステータス】
筋力B+ 耐久EX 敏捷C 魔力E 幸運B 宝具EX

【属性】
秩序・中庸

【クラス別スキル】
狂化:E
 パラメーターをランクアップさせる。ランクが非常に低く意思疎通は可能だが、そもそもの戦闘スタイルが狂気的な圧力を発するのに加え、踏み荒らされてはならないものが害された場合、彼は比類なき戦闘狂へ転じる。

【保有スキル】
戦闘続行:A
 不死身の杉元と呼ばれるほどの不死身ぶりがスキルとなったもの。致命傷と思われる傷を受けても、時間と魔力とうまい飯さえあれば回復する。

勇猛:B
 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

観察眼:A
 戦闘行動において、無類の観察力を発揮する。こと肉体同士の接触においては、筋肉の付き方、その奥の体幹の状態、意志の強さまで推し量ることを可能とする。

【宝具】
『不死身の杉元(カント・オロワ・ヤク・サク・ノ・アランケプ・シネプ・カ・イサム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」。日露戦争、刺青人皮争奪戦と、苛烈な殺し合いを駆け抜け、そして生き抜いた逸話が宝具として昇華された常時発動型の宝具。
 銃で撃たれ、剣で切り付けられ、熊に引き裂かれ、それでもなお立ち上がり、それどころか翌日には完治すらさせる馬鹿げた肉体と精神が形になったことで、規格外ともいえる生命力を発現させる。

【weapon】
『三十年式歩兵銃』
『短刀』

【人物背景】
 全身に傷跡を持つ元軍人。日露戦争を生き延び、そこで戦死した旧友の妻にして自身の昔の思い人、梅子の目に光を取り戻させるため、一攫千金を求めて北海道へ。
 そこで「アイヌの埋蔵金」とその場所を示した刺青人皮を巡る争いに巻き込まれ、男はさらに苛烈な戦いへと身を投じた。

【サーヴァントとしての願い】
 特になし。金がほしい、ぐらい?


673 : 明日に向かって走れ! ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:28:15 xBLsvmg60
【出展】ポケットモンスタースペシャル
【マスター】ブラック
【参加方法】
 ムシャがいなくなり、気づいた時には布団の中。うろんな頭で伸ばした手の先には、『白紙のトランプ』があった。

【人物背景】
 ポケモンリーグ優勝を目指す普通の男の子。イッシュ地方の命運を背負わされ困惑中。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 戦闘時の指揮能力は高い。が、相棒であるムシャーナがおらず、思考の整理に手間がかかることから、使えるものとはいいがたい。

【マスターとしての願い】
 帰らなきゃ。やらないといけないことが山積みだ。

【令呪】
 モンスターボールをあしらったもの。
 右手の甲に発言している。

【方針】
 とりあえずは行き当たりばったりで!


674 : 明日に向かって走れ! ◆QBWmkX/RHQ :2017/01/30(月) 00:28:36 xBLsvmg60
投下終了です。
まごついてもうしわけありません。


675 : ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 00:30:16 sunYQU4o0
では、最後になりますが投下します。


676 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 00:30:54 sunYQU4o0
 大鳥居あすかは本を読みながらスノーフィールドの騒々しい中央公園から道を外れ、静かな建物の脇道へと移動する。
 今は誰とも会いたくない。特に聖杯戦争の最中は。
 
 手に持って読んでいる本は、適当に購入したものでタイトルも知らない。
 だが、こうして本を読んでいれば聖杯戦争の事を忘れられる。

 あすかは既に記憶を取り戻している。だが、戦いに対して準備する気などまるでない。
 何故かサーヴァントが姿を現さないという事もあるが、それ以上に戦いをする気が全くないからだ。

 だが、こうしていてもいずれ聖杯戦争の参加者である事実は知られるだろう。
 そうして否応なく戦う羽目にあう。

 かつて、というほど過去でもない中学生の頃。
 あすかは魔法少女として戦い、両親を殺され、仲間を失い、世界を救った。
 もう十分だ。一生分戦った。それなのになぜこんな戦いに巻き込まれているのか。

 ――分かっている。理由なんてない。

 偶々手に入れた「白紙のトランプ」とやらでこのスノーフィールドに召喚され、マスターとしての資格を得た。それだけだ。
 それでも、自由意志ががある分この都市の中、NPCとして埋没していくよりはましなのだろう。

 ――本当に?

 戦い苦しむよりは、いっそこのままNPCとして暮らしてゆけば良かったのだろうか。
 そうだ、いや違う。
 二つの考えがあすかの中で混じりあう。

 あすかは思考の海に没入していながら、歩く。その最中、違和感に気づいた。
 誰とも通りすがっていない。いくら脇道でも一人ぐらいはいるはず。
 そう思ったあすかは本より視線を上げる。映る視界には髑髏の仮面を付けた男達。
 そして、地面に血を流して伏せる人影。

「お前ら!!」
 あすかは変身用のカランビットを取り出し、絶叫する。

 戦いを避けつづけた猶予期間(モラトリアム)は、突如として終わりを告げた。


677 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 00:32:02 sunYQU4o0
 一瞬で変身したあすかは、襲い掛かるサーヴァントに対し手中にあるマジカル・カランビットを横なぎに振るう。
 通常ならば、装甲車でさえ切り裂くカランビットをサーヴァントの一体が曲刀で受け止め、逆に隣にいたサーヴァントがナイフを突いてきた。
 あすかはスウェーバックで辛うじて避けたが、背後のサーヴァントが指で石を弾き、あすかを狙い射撃を行う。
 あすかは倒立後転して躱し間合いをとった。
 
 こいつら、一人一人が並の魔法少女以上の戦闘力だ。
 あすかには既に聖杯戦争の知識が与えられている。サーヴァントと呼ばれる連中は人類史にその名を馳せた英雄たち。
 その実績に恥じない戦闘力にあすかは戦慄していた。

 続いてサーヴァントたちは遠巻きにあすかを囲み、指弾、ナイフを投擲してくる。
 それに対し、あすかはマジックシールドを展開。
 あすかの使うマジックシールドは戦車砲にも耐える強度を持つが、それは魔力の無い攻撃に対してのみ。
 敵の魔力が付与された指弾でシールドが削られ、投擲されたナイフが突き刺さる。
 身動きが取れないあすかに、他の個体と比べても一際巨大なサーヴァントが、引き絞った右腕を展開しているシールドに叩きつけた。
 シールドはあっさりと砕かれ、打撃を喰らったあすかは吹き飛ばされ、十数mほど地面を転がりようやく停止した。

 こんな所であっさりと死ぬのか。
 仰向けで天を見上げるあすかの心には恐怖など微塵もなく、どこか感情が麻痺し、ぼんやりとした気持ちだけがあった。
 とても死にそうにない先輩魔法少女や軍人が、戦場でいとも簡単に死んでゆく様を幾度も見てきた。
 そして遂に自分の番が回ってきた、ただそれだけだ。
 そういう奇妙なバランス感覚というべきか、逃避というべきか、よく分からない楽観的な気分に支配されていた。

 そうして、あすかが目を閉じようとした時。

「お前の戦争は、まだ終わっていない」

 鋭く、冷たい男の声があすかの真上から響いた。


678 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 00:33:26 sunYQU4o0
 アサシン『百の貌のハサン』に命じられたのは、マスター候補であろうこの少女の抹殺だ。
 細心で用心深いアサシンのマスターは、魔力を持つ少女をマスターになり得ると判断。サーヴァントがまだ召喚されていないと推測される今、総掛かりで排除を決断した。
 アサシン達が遠巻きにマスターである少女を囲み仕留めようとした時、それは突如として虚空より現れた。
 首元まで覆われたボディースーツを着た、金髪碧眼の男。
 その瞳は殺気に満ち、アサシン達を見据えている。
 アサシン達がひるんだ一瞬、男は手にある手榴弾のピンを抜き、投げつけた。
 手榴弾から一気に煙が噴出、辺り一面が覆いつくされ、鎧を装着するような音が男のいる位置から響く。

「サーヴァントだ、油断するナ゛ッ!?」
 声を発したアサシン――ザイードという固体名を持つ――は頭部を撃ち抜かれた。
 近くにいたアサシンのまとめ役でもある女アサシンは眉間にしわを寄せた。
 この状況では、我々は人影を見ても敵味方の判断はつかないが、奴にとって声がする場所はすべて敵の位置だ。
 それに気づかず不用意に発言するなど何たる低能か。
 内心で罵倒しつつ、アサシン達に半円状の包囲網を敷くように手話で指示する。
 煙がわずかに落ち着いた瞬間、女アサシンは近接戦に優れたアサシン達を先頭にサーヴァントとその側にいるであろうマスターに対し、一斉攻撃の号令を告げた。

 先陣を切り突入したアサシン達は、それを見、一瞬で感じ取った。それは人の姿をした悪魔、そう呼べるほどの殺気の塊。

 男のサーヴァントは鎧――それはSAAと呼ばれる近未来のパワードスーツ――を着こみ、右手にカービン・ライフル。左手に狗――ジャッカル――の意匠の盾を持っていた。

 男から右側にいる巨体のアサシンが飛び上がり、剛力まかせにダブルハンマーパンチを振り下ろす。男は当たる直前、胴体に蹴り。
 水平に吹き飛んだアサシンが他のアサシンを巻き込んで激突。地面に転がるアサシン達に対し、男はシールドの内側にセットされた銃を向け、引き金を引いた。
 戦車砲のような轟音が鳴り響き、一条の閃光が走る。
 軌道上に居た複数のアサシンは、まるでコルク栓を抜いたような円状の痕跡を残し、身体の一部を残して消滅した。
 
 右側のアサシンが男の注意を引きつけている間、左側のアサシン達がマスターを狙い壁際から移動してゆく。
 男は身動き一つせず、装着しているヘッドギアの左側にあるカメラを、視線入力によって左側頭部まで移動させる。
 カメラからあすかに迫るアサシン達にレーザー照射がなされ、目標をロック。背中のミサイル・ポットから多弾頭誘導弾が発射された。
 ミサイルは空中で分解、内部から分かれた小型ミサイルが予め定められた目標に向かう。
 アサシン達はそれぞれ回避しようとしたが、誘導弾の弾速と数に対応しきれず、次々と爆破されていった。


679 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 00:41:50 sunYQU4o0
 女アサシンは、爆風から顔を手で覆い相手の戦力が、計算以上であると認めざるを得なかった
 複数ならばサーヴァントはマスターをかばい切れず仕留められる。そう思ったが火力が違いすぎる。
 あれは単独で現在で言う重戦車以上の火力を備えている。
 それにこの心の底から震える感覚は『記録』にあるあの『王の軍勢』に優るとも劣らない。
 たった一人で万軍の、それもサーヴァントの軍勢に匹敵する威圧感を我々に与えているというのか。

 作戦の失敗を悟った女アサシンが、残ったアサシン達に撤退を指示しようとした時。
「ブースト」
 男は既に背中のバーニアを吹かし、女アサシンに接近していた。
 防ぐ間も無く、女アサシンの首は男の持つカービン・ライフルの銃剣によって切断された。

 あすかは仰向けの状態から身を起し、カランビットを構え周囲を警戒する。
 だが、ただの一人もサーヴァントが近づいてくる気配がない。
 それでもあすかが警戒し続けた数分後、ミサイルの爆煙が、風で払われてゆく。

 そこにあったのは、まるで巨大な獣が得物を喰い散らかしたかのようなサーヴァントの屍達。
 一個小隊規模のサーヴァント達は、たった一人の相手により――殲滅されていた。

 それは一人の人間では到底為し得ない殺戮。故に男はこう呼ばれる。
 大量虐殺を意味する『Slaughter』を越えた『Genocide』と。


680 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/30(月) 01:14:51 UX9TykSo0

投下中に割り込みとなっていた場合は申し訳ありませんが、>>679より◆Mti19lYchg 氏の書き込みが途絶えて30分以上経過したので一端顔出しさせて頂きました。
他に投下を考えている方や、◆Mti19lYchg 氏が書き込みできる状態であれば五分ほど待機しますのでこのレス宛に反応をお願いしてもよろしいでしょうか?


681 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/30(月) 01:22:26 UX9TykSo0

お疲れ様です。
大変申し訳ありませんが、リアルの都合もありますので離席させて頂きます。
◆Mti19lYchg氏は途中まで投下されているので、該当話の続きのみ、本日の午前十二時までに投下されていた場合には受付致します。
一先ずではありますが、皆様、ご投下ありがとうございました。後ほど正式な伝達を行えればと思います。おやすみなさいませ


682 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 01:34:10 sunYQU4o0
 あすかと向かい合う男に装着されているSAAが外され、虚空へと収納されてゆく。 
 その男の冷静な佇まいから、あすかは悟っていた。
 あすかのサーヴァントは記憶を取り戻した時点で、既に召喚されていたのだ。
 そして、常にあすかの側にいて、霊体の状態で気配を絶ち見守っていた。
 
「……私の戦いは終わっていないって、どういう事?」
 あすかは、男に対し尋ねた。
 それは、戦いたくない、もう魔法少女になりたくないあすかにとって、聞き捨てならない言葉だから。

「……逆に問うが、何故お前はその武器を手放さなかった」
 男の返事に対し、あすかは右手に持つ武器を見つめた。
 魔法少女に変身するアイテムの、マジカル・カランビット。
「戦いを終わらせたい者が、武器を持つ必要などない。お前は戦いの答えを得ているのに、そこから目を背けている」

 そうかもしれない、とあすかは思った。
 戦いから離れようとしても、戦いの方から追いかけてくる。
 もし、本当に戦いを止めたいのなら、武器をすて殺されるに任せればよかったんだ。
 だけど、答えなんて――

「……あんたは何で戦うんだ?」
「その答えを見つけるためだ」
 間髪入れずに男は答えた。余りにも冷たく、悲しい口調だった。
「お前がどうしようと、俺は俺の戦争を始める。
 お前が望むなら、どこかに避難し俺だけに戦争を任せれば良い。戦いから逃げても構わない。だが――」
 男は、あすかの目を正面から見据えて言った。
「生きろ。立ち向かう事を諦めるな」

 あすかは共に戦った魔法少女たちを見てきた。軍人を見てきた。
 だが、これほど深く、冷たく、悲しい瞳を持った男を見たことは無い。
 その瞳を見て、あすかは宿命の声が、戦いの答えが聞こえた。そんな気がした。

 あすかは、実はアニメの魔法少女になるのが夢だった。
 魔法を使い、人々を救う。そんなおとぎ話。
 だが精霊達の住む『地冥界(ディスアス)』の侵略が始まって、夢が現実のものになってしまった。
 現実はアニメのように滅多に死人が出ないわけがない。敵である魔法少女の親が狙われ、殺されるなんて事もある。
 現実になってしまった夢に、あすかは苦しみ、憎悪し、否定しようとした。

 それでも戦いは、悪意はやって来る。
 だけど、普通じゃない事をすれば普通じゃない苦痛が返ってくる。
 だから自分の手の届く範囲内で何かを守れればそれでいい。そう思っていた。
 だが、それは違った。確かに心の奥にあった声を無視していた。
 
 多分、彼は私には想像できない何かを背負い、戦ってきたのだろう。
 それも、理由もないまま。それがどれほどの苦痛だったろうか。
 それに比べれば、確かに私には理由があった。

 宿命の声は「死んだ者の分まで生きろ、戦え」。
 そして戦う理由は「夢の代償」だ。
 いつか夢見た「魔法少女になって悪と戦う」という。
 それが現実になってしまった以上、私に出来るだけの事を。

 男は踵を返し、立ち去ろうとしたが。
「待った」
 あすかは背を向ける男に対し声をかけた。
「私も戦うよ。生きるために、聖杯を悪用しようとする連中を倒すために」
 あすかの言葉に対し、男は頷いた。
「その前にまだ名前を聞いてない。私はあすか、大鳥居あすか。コールサインは『ラプチャー』」
「ミルズ、グラハルト・ミルズ。クラスはライダーだ」


683 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 01:34:33 sunYQU4o0
【CLASS】
ライダー
【真名】
グラハルト・ミルズ@redEyes
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具B
【属性】
中立・中庸
【クラス別能力】
対魔力:E
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:A
 騎乗の才能。幻獣、神獣ランクを除いた全ての乗り物を自在に操れる。
【保有スキル】
直感:A
 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
 視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
罠作成:B
 その場にあるありあわせの物や人間から罠を作成する技能。
一人の軍隊:A
 単独で一軍に匹敵する軍人の称号。
 同ランクの単独行動と同じ効果を持ち、その他気配遮断、破壊工作、無音暗殺術、騎乗、戦術、射撃、狙撃、爆撃、CQBなどにおいてBランク以上の習熟度を発揮できる。
千里眼:C
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
ジャッカル:A
 特殊部隊ジャッカル隊員が全員抱く誇り。
 『不可能』を『可能』にするという強い意志は作戦成功率を上昇させる。
【宝具】
『SAA XSP-180 MK54 聖騎士(パラディン)』
ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人
 パワードスーツに分類されるSAA(特殊強襲用装甲)の宝具。装着すると対魔力、筋力、耐久、敏捷値が1ランク上昇し、さらに敏捷値に+補正が追加される。
 標準装備主火器は15.2mm徹甲重機関銃、携行用電磁レールガン『ハイパー・ヴェロシティ・アームガン』、通称『ハイヴェロアーム』、熱伝振動ブレード。
 その他状況に応じてEMリアクティブアーマー、ミサイルポッド、六連装ガトリングガン、シールド付属電磁レールガン、銃剣付属カービン・ライフル、対SAA用拳銃、近接対戦車兵器「タンクバスター」などがセットされる。
『戦場の死神(ジェノサイド)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:200人
 最早現象の領域に達した彼の異名。
 戦場を固有結界に近い殺気で覆い尽くし、範囲内に「威圧」の効果を与え敵軍の士気や命中率を低下。さらに範囲内の敵の位置、攻撃のタイミングを視覚に頼らず把握する。
 逆にこの範囲内でミルズは、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
【WEAPOM】
無銘・拳銃
 口径は.45。
無銘・突撃銃
 口径は5.56mm×45。
無銘・狙撃銃
 口径は7.62mm。装填されているのは対SAA用徹甲弾のため、サーヴァントでも侮れない貫通力を持つ。
無銘・ナイフ
発煙手榴弾
手榴弾
 以上はSAA非装備時に用いる。マスターへの譲渡も可能。


684 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 01:35:02 sunYQU4o0
【人物背景】
 SDI計画をさらに大規模な形で実現した軍事衛星群『オービターアイズ』により人工衛星、ICBMの使用が不可能になり、戦争が有視界戦にまで退化した現在の地球とは異なる近未来。
 国家、民族も再構成された世界での一国家、レギウム共和国の特殊部隊、ジャッカルの隊長。
 単騎で戦車、SAAクラダーを含めた機甲一個中隊を殲滅するという常人を超えた戦闘力を持つ。
 尋常ではないその戦力から『戦場の死神』『ジェノサイド』と呼ばれ、レギウム軍兵士のカリスマ的存在でもある。

 元は単なるガソリンスタンドの店員だったが『戦場の死神』の異名を持つアラン・クルサード大佐に資質を見いだされ、レギウム軍の精鋭部隊であるレインジャー連隊に入隊。
 そこで兵士としての才能を開花してゆき、親友と呼べる者もできるが、時代はミルズを一兵士に留まることを許さなかった。
 大佐は弱体化し、その癖プライドだけは高い現在のレギウム共和国を心底嫌悪し、さらにドグラノフ連邦との戦争が近いことを察知していた。
 その為、自ら武装蜂起を行い、ミルズに自分達を倒させる事で、自分以上の兵士を創り上げドグラノフ連邦に対抗しようとしていた。
 だが、ミルズは大佐を殺す事は出来なかった。自分の生きるべき居場所を与えてくれたのは大佐だったのだから。
 だが、大佐は語る。ミルズの生きる場所は軍隊ではなく戦場だと。
 それでも頭を振るミルズに、大佐は自分の考えを押し付けてしまった、と言った。
 しかし、このままでは結局大佐が率いる兵士たちに殺されてしまう。
 大佐は銃口をミルズに突きつけ、引き金を引く瞬間に言った。
 ――生きろ、と。
 そして、ミルズは大佐を殺し――『戦場の死神』の名を受け継いだ。
【サーヴァントとしての願い】
 戦争。そして「戦うための答え」を見つけ出す。


685 : マジカル・ガール アンド ザ・グリムリーパー ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 01:35:30 sunYQU4o0
【マスター】
大鳥居あすか@魔法少女特殊戦あすか
【人物背景】
 かつて世界を救った魔法少女『伝説の五人(マジカル・ファイブ)』のまとめ役。
 魔法少女名は「ラプチャー☆あすか」。柄に指を通す輪がついている湾曲したナイフ「マジカル・カランビット」で変身する。
 敵が着ぐるみのようなマスコットの姿をしていたため、街中で着ぐるみをみると人を襲う姿を幻視するというPTSDの疑い有り。
 初めは魔法少女達と人間界に侵略する地冥界(ディスアス)との戦いであったが、次第に精霊たちと結びついた国やゲリラを巻き込んでの戦場に投入されてゆく。
 最後には阿蘇山火口の『冥獣王(ディスビスト)』をそれまで残った魔法少女五人で倒したが、魔法の存在は消えず、国家、テロリストと結びついた精霊、魔法少女達の新たな戦争が始まってゆく。
 そんな中、あすかはそれまでの魔法少女の犠牲を目の当たりにし続けた事で、もう戦わないと決めていたが――。
【WEAPON】
マジカル・カランビット
 変身にも用いる主武装。
 切断時に特殊な光子が発生し、ありとあらゆる物体を切り裂く。
 魔力を帯びた武具なら防御可能。
ラプチャー・タロン
 マジカル・カランビットに魔力を注ぎ、巨大化させる。高速回転させた投擲に用いる事も可能。
【能力・技能】
マジックシールド
 脳波が魔法少女のシステムにより増幅され、疑似プラズマ・カーテン系のハニカム形状をした多層シールドを形成。
 通常兵器なら戦車砲にも耐えるが、魔力を帯びた武器なら破壊可能。
相貌失認誘発フィールド
 姿を見た人間の視覚情報に介入し、魔法少女「ラプチャー」と変身前のあすかと顔の認識の区別を付けなくさせ、正体を掴まなくさせる。
 魔力を持つ人間には無効化される。
【サーヴァントとしての願い】
 生きる。悪人に聖杯を渡さない。

【把握用資料】
redEyes
 現在21巻まで発売。特にミルズの過去編である6~8巻はキャラの把握に必須です。 
魔法少女特殊戦あすか
 現在3巻まで刊行。ちなみにどんな作品かは以下の帯の推薦文を見れば大体想像がつくかと。
「虚淵玄驚嘆!「魔法少女にこんな残酷な運命を背負わせるなんてひどいよ! あんまりだよ!」」


686 : ◆Mti19lYchg :2017/01/30(月) 01:36:00 sunYQU4o0
投下終了です。遅れて本当に申し訳ありません。


687 : ◆aptFsfXzZw :2017/01/30(月) 23:45:06 UX9TykSo0

お疲れ様です。
改めまして候補作を投下して下さった皆様方、本当にありがとうございました!
企画発足時にはこれほどの投下に恵まれるとは露とも思っておりませんでしたので、予想外の結果を大変喜ばしく思っております。

これより皆様にご投下頂きました候補作から、本選に参加する主従を>>1が独断で選考致しますので、暫しの間お待ち頂ければと思います。
参加者発表のOPにつきましては完成の目処が立ち次第、改めて報告させていただきます。

なお、感想については何度もお待たせ頂いているところを大変申し訳ありません、できれば全候補話に感想を述べたい所存ですが、一旦中断させて頂きます。再開については後日報告する予定です。
大変不甲斐有様ですが、何卒ご理解頂ければ幸いです。


688 : ◆7u0X2tPX0. :2017/02/01(水) 12:22:10 OHgPx29.0
>>600にて投下しました拙作ですが、まとめwikiに欠番扱いで収録されていません。問題がないのであれば申し訳ありませんが、どなたか収録をお願い致します。


689 : ◆Mti19lYchg :2017/02/04(土) 07:22:10 xehkTPM20
真に勝手ながら、未だwikiに投下されていない◆ZbV3TMNKJw様、◆wzmTZGmcwM様、◆QBWmkX/RHQ様の作品をwikiに投下しました。
後、自作品の宝具の欄を修正しました。


690 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/02/04(土) 20:18:01 oJmyIpdQ0
拙作 想いを胸に、誇りにかけてのキャスターのスキル欄から【対魔力】を消して、【魔力放出】を加えました


691 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:13:13 iH6lzP.Y0

皆様、お疲れ様です。

>>688-689
この度は大変ご迷惑をおかけいたしました。勝手ではございますが、今後はwikiの編集等に改めて専念したいと思いますので、どうかご容赦ください。
また、候補話への感想は一時中断したままとなりますが、これより参加者発表のオープニングを投下致します。よろしくお願い致します。


692 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:14:23 iH6lzP.Y0







 ……夢は時に、当人の忘れた古い記憶さえも映し出すという。

 ならばこの真っ白い情景は、そんな希釈された思い出の一場面なのだろうと、茫洋とした頭で認識する。
 これが現実の眺めではない、ということを理解できている明晰夢でありながら、自意識はどこか頼りない。

 それは視点が、随分と高いせいだからと思われた。現実の倍以上の高度。まるで宙に浮いているかのような感覚が、冷静な思考を妨げていたのだろう。
 そんな高い視点の主は、冬の永住する大地を蹴って駆けていた。

 躍動する筋肉。その熱量を内から直に感じ取り、ようやくそれが、己の体ではないことに気がついた。

 ――視点の主は、疾走する巨人だった。

 鋼の如き筋肉で包まれた、巌の如き巨躯。それが一切の鈍重さを感じさせない勢いで、冬の森の積雪を散らしながら駆け抜けて、跳ぶ。
 身を躍らせたその先にあるのは、黒々とした点の集まり――飢えた獣の群れだった。
 巨人はその中心に、一切過たず飛び込み――そうしてそれから、少しも動きはしなかった。

 落下の衝撃程度で、この巨人が朽ちるはずはない。
 だからこの停止は、彼の意図した物に他ならない。
 巨人からすれば、惰弱な小動物に過ぎない餓狼の群れ。その飢えた牙の中心で、微動だにせず在り続けるという選択の末の。

 当然、彼は獣達から格好の餌食となった。
 動脈に、腱に、眼球に。我先にと、一斉に、獣達が牙を突き立てる。
 鋼の肉体、神秘の守りを有していても、一切の抵抗を捨て暴力を受け入れれば、いつかは傷を負い、流血する。
 それでも巨人は、山脈のように不動だった。

 そんな姿にも何ら躊躇しない、野生の暴力に半分以上を塞がれた網膜に、切れ端が映る白い影が在った。
 鮮血に濡れた細い肢体が、その正体が人間の少女であることを示している。
 ともすれば雪の中に溶けてしまいそうなその白い少女を、獣どもから守護するために。巨人はその場に在り続けていたのだ。

 どうして、という疑問が零れる。
 それは眼下の少女が言ったのか、それとも巨人の視点を覗き見る己が口にしたものか。
 どちらにしても、巨人は答えなかった。答えるだけの能力(理性)を、彼は許されていなかったから。

 どれだけの時間、巨人はそうしていたのだろう。
 だがやがて、先刻の疑問、その解を示される瞬間が訪れた。

 ――巨人に庇われていた少女が、叫んだ。
 何と叫んでいるのか。理性のない巨人には、少女の言葉が認識できなかった。
 ただ、少女が自分の為ではなく――巨人の為に叫んでいることだけは、理解できていた。

 そうして、巨人の腕(かいな)が振るわれる。
 一瞬の出来事だった。無抵抗な肉塊へ暴虐の限りを尽くしていた獣達は、その一瞬で鏖殺という報いを受け終えていたのだから。

 結局、巨人の血が流れることはなかった。
 ――代わりに、少女の腕が爆ぜていたから。

 ……だから無敵の巨人は、自分の意志では動かなかったのだ。
 彼が存在し、行動する代償に、白い少女が蝕まれていたのだから。
 それでも少女は、これ以上巨人が傷つかないようにと、自らが痛みを引き受けた。

 そうして返り血と、吹き出た血とで、真っ赤に染まった黒と白。
 命なき冬の森の中心で向かい合う、巨人と少女。

 また彫刻のように停止した巨人に、苦痛を訴える体をそれでも動かして寄り添った少女は、そのまま大きな拳へと己の掌を載せた。


693 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:16:29 iH6lzP.Y0

「――やっとわかった」

 語りかける少女の顔。
 巨人が見守るその容貌は、何かの影に遮られているかのように、曖昧で、不確かで。
 だけど。
 その輪郭、初雪のように白い銀の髪は、まるで。まるで――――

「あなたは命令だから、サーヴァントだから、わたしを守っていたんじゃなくて――」



   「――――夜分遅くに失礼します」

 少女の告白を遮ったのは、前触れのない闖入者の声。
 その瞬間に巨人の夢は暗転し、強制終了し――

 気づいた時には、まったく異なる景色が網膜に映し出されていた。








 




「お待たせしました、皆さん。約束の時が来ました」

 暗闇の中。
 唯一照らし出された領域に、一人の年若い尼僧が居た。

「既に御存知の通り、今回の聖杯戦争は地上のそれに可能な限り近づける、というテーマがあるのですが……なにせ開催までの経緯がまるで異なりますからね。
 なので今回は趣旨とは反しますが特別に、夢を介すことで皆さんへ同時に、本選開幕の合図をお伝えする形を取らせて貰っています」

 まだ状況を満足に把握できていない聞き手に向けて、一人だけ状況を完全に理解している尼僧は、すらすらと言葉を並べ教示する。

「もちろん、皆さんの全員が就寝されていたわけではない……あるいは、夢を見られる体質の方ばかりというわけではありませんので。白昼夢として御覧になっている方もいらっしゃるかと思いますが、実際の時間経過はほぼないので、どうかご安心ください」

 一先ず、前後不覚の心配は無用であると。
 これから授業を行う教師のように、本題に入るまで前置きしてから、尼僧は自らの胸に手を当てた。

「ということで、改めまして。私は今回の聖杯戦争の監督役を務めるNPCの、シエルと申します。
 この声がお届きのマスターとサーヴァントの皆様――おめでとうございます。あなたがたは、真に聖杯を臨む十五の席、その一つに座する資格を得ました」

 快活な声で、にこやかに名乗りを終えた監督役――シエルはそのまま、祝辞を述べた。

「この瞬間、振り分けを終えて『小聖杯』は鋳造されました。皆さんにはこれより十三の『小聖杯』を収集し、『大聖杯』たる『熾天の檻』へのアクセス権を争奪して頂きます」



『小聖杯』。
 記憶を取り戻しただけでは、聖杯からはその詳細を開示されなかったキーワード。
 奪い合うべき数さえも定かではなかったそれが、遂に明かされる時が来た。



「――ああ、『小聖杯』についての説明がまだでしたね」

 真剣に身構える聴衆に対し、シエルはふと、それを思い出したように呟いた。
 しかし監督役はそのまま言い淀むことなく、つらつらと説明を開始する。



「では、前提からお話いたしましょう。
 本来の『小聖杯』とは、とある地上の聖杯戦争において用いられた、願望機である『大聖杯』に繋がる孔にして炉心、言うなれば『大聖杯』起動の鍵のことです。
 地上の聖杯戦争は敗退した英霊の魂を『小聖杯』へ一時的に蓄え留め、それを魔力に変換し、必要量が満ちれば根源に至る孔を開く儀式を『大聖杯』が執り行う仕組みとなっていました。
 その聖杯戦争においてはサーヴァントを贄に降霊した聖杯こそが、願望機としての完成品。その真なる聖杯を降霊させるための物理的な器が『小聖杯』であり、他の参加者を排除して掴む優勝賞品(トロフィーカップ)でした。
 ここまではよろしいですね?」



 シエルの問いかけ。しかしその視線の先に、本当に聴衆が存在するわけでもなく、形式的な確認の再現に過ぎない。
 それでも、ある程度話の意味を咀嚼する時間を与える程度の意図はあったのだろう。
 独りでに頷き、一定の間を置いてから、彼女は説明を再開した。


694 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:17:39 iH6lzP.Y0

「それでは、このSE.RA.PHにおいて、新たに再現された聖杯戦争における『小聖杯』について説明します。
 まず――本来、ムーンセル・オートマトンは既に万能の願望機として完成しています。その機能を発揮するために、英霊の魂を炉心に焼べる必要などありません。故に従来は、単に正面戦闘のみのバトルロワイアルで以って、その獲得権を魔術師達に競わせて来ました。
 しかし、先日行われた更新を契機とし、『小聖杯』争奪戦の様相も聖杯戦争における重要な駆け引きの一つ、再現すべき要素であるとムーンセルは判断を改めるに至りました。

 そうして再現されることとなった『小聖杯』ですが、その元々の存在意義は敗北したサーヴァントの魂を現世に留めておくための器であること。
 つまりSE.RA.PHにおいては、サーヴァントの霊基に込められた英霊の魂、その情報を保存するための物理的なデバイスでさえあればよかったわけです。
 それさえ満たせば他の要素は問題ない――逆を言えば、他の機能があっても構わない、ということ。
 ……ここから少し、話を脇道に逸らしますね」

 思わせぶりな箇所で話を終えたシエルは、急にそのように切り出した。
 あるいは疑問に思った聞き手も居たかもしれないが、実のところ確かめる術もなく。監督役は構うことなく、その脇道に逸れた話を開始する。



「――奇跡を望む者が一様ではないように。招かれた皆様の世界が数多存在するように。聖杯戦争もひとつきりではありませんでした。

 編纂事象、その大本の幹だけではなく。やがて異世界として独立する剪定事象の地上の多くでも、いくつもの聖杯戦争が行われました。
 ムーンセルが観測したその内の一つに、英霊の情報を保存する媒介として、他の『小聖杯』やその亜種と比べても特異な、しかし一度鋳造すれば安定して機能する魔術礼装が存在しました。
 ――それが、こちらです」

 言葉とともに。シエルは右手を翳した。
 正確には、その指の間に挟み込んだ――――一枚のカードを。

「――サーヴァントカード。
 ムーンセルと同じ『既に完成している聖杯』を巡る贋作の聖杯戦争で用いられていた、小聖杯の亜種。
 ムーンセルはこれを模したものが、SE.RA.PHで争奪される『小聖杯』に最も適していると判断しました」

 彼女の手にあったのは、その掌よりも一回り大きなカード。
 そこには大きな弓に矢を番(つが)え、今にもそれを放たんとしている女性の弓兵の姿が、精緻な線描と写実的な色彩で描かれている。

「この礼装(カード)には、贋作の聖杯戦争が他の聖杯戦争と比べて特異な理由となる機能が秘められています。
 一つは、他のサーヴァントの魂を臨界まで一手に引き受ける他の『小聖杯』に対し、カードは原則一枚に一騎分の情報しか保存しないこと。
 そしてもう一つ」

 シエルが言葉を継いだその時。
 前触れなく――彼女を中心に、魔法陣が展開された。

「何よりの特徴は、その対応するサーヴァントと術者自身とを、このカードを媒介に置換する――『夢幻召喚(インストール)』が行えるという点です」

『夢幻召喚』。

 その言葉をシエルが口にした途端、魔法陣から生まれた何条もの光が、彼女の体に降り注いだ。
 そして言い終えた頃には、見る者の目を焼いた輝きは消え失せ。再び顕となったシエルの姿は、寸前までと変わっていた。
 まるでその光と魔力の嵐が、生まれ変わるための繭であったかのように――羽のように広がる、鮮烈な紅の外套を靡かせて。

 弓を片手に、胸部と腰部を漆黒のプロテクターで覆ったその姿。
 その佇まいの変化が、単なる着替えでは済まないことを、その夢を見た者達は理解できた。
 何故ならばマスターはその特権で。サーヴァントは備わった本能で、その事実を認識できたのだから。

 ――――今の彼女は、サーヴァントである、と。


695 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:18:52 iH6lzP.Y0

 先程までは人間に属する存在であったはずのNPCが、サーヴァントへと変化した。
 その事実に大なり小なり衝撃を受ける聴衆の反応を踏まえたように、『弓兵』と化したシエルは言う。

「『夢幻召喚』はこのように、元となった英霊と一時的に同化し、劣化したものとはいえ該当するクラスの宝具とスキル、身体能力を会得することができます。
 この性質から、贋作の聖杯戦争では魔術師自身が英霊化し、他の参加者を合わせ七枚のカードを集めることで聖杯の使用権を争奪していました。
 ……しかし、ムーンセルからしてもここまで行けば本来の目的と逸脱しています。サーヴァントという稀人との交流、一対の主従としての在り方も、ムーンセルが人間の魂を観測する上で重視する要素なのですから」

 弓を消し、黒白一対、陰陽の夫婦剣を出現させるなど、英霊化の実態を示すように振る舞っていたシエルが、そこで元の姿に戻った。
 手には再び、弓兵の描かれたサーヴァントカード。それを見つめることで、衆目を誘導しながら彼女は続ける。

「そこで、本聖杯戦争では、カードを核に英霊自体を実体化させることもできる、という偶発的に発現した機能を拡張し作り直した代物が『小聖杯』となっています。
 さて、ようやく本題に戻りましたが――――もう、お気づきですよね?」

 視線を上げた監督役の顔には、試すようなからかいの笑み。



「これから皆さんに争奪していただく『小聖杯』の正体は、かつて『白紙のトランプ』であったもの――マスターの皆さんが召喚されたサーヴァントの、霊核となります」



 そうして彼女は、言い放った。
 遂に明らかとなった、この聖杯戦争の実態を。

「願望機の別名(グレイル)ではなく、本来の聖遺物としての聖杯(カリス)の原典は、最後の晩餐で用いられた救世主の杯に由来します。
 晩餐に集ったのは、神の子と十二使徒の十三人。そして各スート十三枚存在するトランプの、ハートは本来カップ――聖杯(カリス)を模したマークとなります。
 ムーンセルはこれらの符号を踏まえ、『聖杯符(カリスカード)』と呼ぶべき魔術礼装として『小聖杯』を作成しました。
 後は、時限式に姿を変えるという魔術の最メジャー――形としては真逆であり不可逆とも言えますが、灰かぶり姫の逸話に倣った日付の変更を約束の時として『白紙のトランプ』に設定し、分配したということです」

 魔術儀式としての聖杯戦争。
 その一面を模したムーンセルの意図が、シエルの口を介して明かされて行く。

「これら魔術式としての側面で、『小聖杯』鋳造の際に存在するサーヴァントには、何らかの縁がある数字がトランプのカテゴリーとして割り振られます。
 逆を言えば、契約により現界したサーヴァントがその数と一致しない状態で日を跨いでも、『白紙のトランプ』を『聖杯符』に置換できなかった――だからそれ以外のタイミングで上限である十五騎が召喚されても、日付変更までに数が欠けてしまえば、補充された翌日までは本選を開始できなかったというわけですね」



 ……だから、もしも。『聖杯符』になれないままその枠を埋める異物が混入すれば、魔術式には不備が生じてしまう。
 無論、管理の怪物たるムーンセルが、そのような排除対象を自ら生み出してしまうことはありえない。
 だが、もしも。魔術式を構築した時点で設けられた、サーヴァントの現界数の上限と、必要な『白紙のトランプ』の枚数。それを乖離させる物がSE.RA.PH内で発生したのではなく、そのまま外から紛れ込んだのだとすれば――?

 ここまでの説明を受けた時点で、そこまで考えの及んだ者はおそらく、まだ誰もいなかったことだろう。
 シエルの手にしたサーヴァントカードの出処に関心を向ける者など、ただ一人の例外を除いて存在しない。

 何故なら彼らの関心は、その次にこそ向けられていたからだ。


696 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:19:58 iH6lzP.Y0



「斯くして揃った『聖杯符』は、第一階位(カテゴリーエース)から第十三階位(カテゴリーキング)までの十三種と、二枚の番外位(ジョーカー)の計十四種。
 獲得する方法はただ一つ。その『聖杯符』を核としたサーヴァントを消滅させ、遺される『小聖杯』を掴むのみ。
 そして自身のサーヴァント以外の、十三種の『聖杯符』を手中に収めた一組の主従となること――それがこの聖杯戦争本選における勝利条件となります」



 儀式としての戦争――隠されていた、その唯一の勝利条件に。

 何より伝えねばならなかった最優先事項を伝え終えたシエルは、NPCと名乗りながらもその瞬間、わずかに緊張していた顔つきを緩め、一息を吐いた様子だった。
 しかしそれは山場を超えた、という意味に過ぎず。この場における彼女の役目はまだ、完了したわけではなかったらしい。

「さて、ここからは補足説明ですね――ああ、サーヴァントの階位(カテゴリー)は単に枠組みの中から、特にその英霊と馴染みのある数字が選ばれただけのことで、聖杯戦争における優劣を示すものではありません。時には他のスートの方が近い縁でも結ばれることもあるでしょう。もちろん、絵札に描かれた英霊しか該当しないというわけでもなく、単なる呼称分け程度のことなので、その点は誤解されませんように。
 それぞれのサーヴァントに宛てがわれた階位(カテゴリー)は、初めて見るサーヴァントであってもマスターならばステータス欄から視認できます。特に意味はありませんが、後ほどご確認ください」

 さらに事務的に、しかしきびきびと、シエルは説明を続けて行く。

「次です。地上では、サーヴァントを喪い脱落したマスターは多くの場合監督役に保護されますが、この聖杯戦争において我々はお力になれません。そもそも従来のSE.RA.PHにおいてはサーヴァントや令呪を喪ったマスターは、問答無用で消去される対象でしたから。
 しかし今回からは、地上の聖杯戦争の多くで復活劇が見られたことから、本選出場者には命ある限り聖杯戦争を続投して貰うこととなりました。『聖杯符』にもサーヴァントカードと同様の『夢幻召喚』の機能がありますので、他の主従に反撃し、他のマスターからサーヴァントを奪う機会は歴代の聖杯戦争より遥かに現実的ですから、どうか頑張ってみてください」

 聞く側からは形ばかりとしか思えない激励を送りながら、シエルはさらに言葉を重ねる。

「『夢幻召喚』についてですが、SE.RA.PHにおいては令呪を宿した者が『聖杯符』を手に念じることが発動する唯一の条件となっています。令呪を喪ってもサーヴァントとの契約は維持されますが、『夢幻召喚』が不可能となることを覚えておいてください。
 なお、マスターのIDと紐付けされているサーヴァントはあくまで契約により実体化している英霊に限られます。実体化せず、マスター当人を『夢幻召喚』で置換したサーヴァントは該当しませんので、両者の併用が可能です。
 また一度置換を解除しても、『聖杯符』内の情報は召喚前と不変です。『夢幻召喚』先の切り替えを含め、何度でも再召喚は可能ですが、『夢幻召喚』も英霊召喚の一種なので相応の魔力消費が必要となります。計画的な運用を心がけるようにしてください。
 ちなみに、『夢幻召喚』の対象は、あくまで英霊の力を再現する情報になります。原則として彼らの自我がマスターを侵食するということはありませんが、スキルや宝具、生前の逸話やマスターとの相性等次第では例外もあり得ることをご留意ください」


697 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:21:11 iH6lzP.Y0

 参加者の無視できない重大な要素として、『夢幻召喚』に関する情報が連ねられていく中。シエルは再び、おもむろに手元の弓兵のカードを翳した。

「勝利条件に関わらない点を除けば、これらの性質はサーヴァントカードの場合も同様ですが、神秘の秘匿を担当する運営用NPCへ危害を加えた場合も処罰対象としますので、目先の戦力欲しさに私からこのカードを強奪するという選択は避けた方が良いと忠告しておきます。同じ理由から、我々の拠点である市の中央教会に対する攻撃も控えてください。
 また、『小聖杯』として鋳造され直す前に殻となるサーヴァントを喪った『白紙のトランプ』はそのまま消滅しています。昨日までに討ち取った相手のカードを求めて右往左往するのは時間の無駄ですので、ご注意を」

『小聖杯』の情報が開示される前、その時点で脱落してしまった者達についても、シエルは言及を開始する。

「本選開始前にサーヴァントを召喚しながら脱落してしまったマスターについては、この通達時点を以ってサーヴァントとの契約がないマスターは再びNPCに戻り、記憶や装備品、その神秘の力も改めて没収されています。皆さんと成り代わろうとする者は存在しませんので、ご安心ください。
 その時点で彼らに宿っていた令呪については、監督役である私に預託されています。これらは例えば神秘の秘匿のため、我々の要請を受け貢献された方には報酬として一部譲渡することもあるでしょう」

 計画性もなく動き返り討ちに遭ったか、それにすら対処できないほど迂闊か弱小であったのか――どちらにしても、本選開始前に足切りされて然るべき主従の内、意外にもマスター達は穏やかな末路を迎えているということと、再利用できる点については抜かりなく預かっている――だからこそ彼女も、『夢幻召喚』という戦力を確保できているという旨が、監督役から告げられた。

「――以上で、本選開始に伴って説明すべき事項のおおよそはお伝えしました。他に詳しく質問したいことがある方は、後ほど中央教会の方までいらしてください。公平性を損なわない範囲でしたら、質問にお答えいたします」

 細々とした補足の後、シエルは次のように開幕の合図を終えた。

「それでは皆さん。これより聖杯戦争を始めましょう」



 斯くして月の代行者により、十五の席を獲得した主従への洗礼は終了し、火蓋は切って落とされた。

 日付の変更と共に――――聖杯戦争が、動き出す。


698 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:22:06 iH6lzP.Y0
【第二階位(カテゴリーツー)】 アサシン



「あなたは第二階位(カテゴリーツー)のようですね」
「二代目火影だからか。本当にそのままのようだな」

 深夜。
 聖杯戦争、その本選開幕の通知を受けたとあってはそのまま眠りこけていられるはずもなく。
 目を覚ましたマヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルトは、自室にて控えていたアサシン――千手扉間との意見交換を行っていた。

「それで、『小聖杯』の正体は貴様のほぼ推察通りだったわけか」
「はい。似たようなものを集めていた経験があるからですけどね」

 西暦の黎明より、およそ二千年の後。神代を終わらせた聖人の再来の如く、人魔平等の契機となる聖魔王と呼ばれた存在の伝説が、マヒロの世界には存在していた。
 その聖魔王の遺した世界を律する証、聖魔杯。管理者の一族として、その起動に必要となる紋章符を求め方々を旅したのも、もう二年近く前の思い出だ。
 万能の聖遺物と起動プレートという組み合わせや、元の宗教はともかく聖魔杯の原典たる聖杯の知識とは馴染みが深かったことと、教養としてトランプの源流を知っていたことから、マヒロは自然と『小聖杯』の正体、その核心の近くにまで迫ることができていた。

「儂らの霊核となった『白紙のトランプ』が小聖杯たる『聖杯符』と化し、それはサーヴァントが死なぬ限り取り出せない――だが、ならば何故十三ではなく、かといって十四でもなく、十五なのだ?」
「さあ……即興の連想で良いなら、本物の聖杯の数については諸説ありますが、魔術を成立させる上ではトランプと噛み合わせられる十三が一セットとして都合が良かったから術式に採用した。しかし物質化して回収された十三の『小聖杯』とマスターだけではなく、サーヴァントも残したいから列席者の十三人以外でその場にあり得た存在――本来三柱の神性というわけではないのですが、三位一体で同一視されている残りの二要素を、救世主の同位として扱えるとジョーカーに設定したら、追加は一枠ではなく二枠でしか術式を組めなかった……とか、そんな程度は思いつきますけど。僕も魔術の専門家ではないので、特に根拠はない素人の当てずっぽうです」

 トランプ、タロット、プレイングカード……そういった概念のない時代・社会で生涯を送ったアサシンは、その手の娯楽の雑学を座から貰えていなかったらしく、この手の考察は専らマヒロが担当することとなっていた。
 特に勝利条件に関わる――しかも、最後に残る主従は理論上、片割れが限られるにせよ二組まで許されるという、重大な項目であり、切り崩していくには重要な材料だ。
 あるいは他の要素や、計り知れない目的があるのかもしれない。その可能性を踏まえた上で、少なくとも今の自分達にとっては急いで考察すべき要素ではない、とマヒロは踏んでいた。
 それを察したように、アサシンは頷き、切り出して来る。

「少なくとも、有力な情報のない現時点で重要視する必要性は薄い、か……しかし、おまえも一切予想できていなかった『夢幻召喚』についてはそうも行くまい」
「そっちの方は何の知識も持ち合わせてなかったので。モデルとなった小聖杯が具体的にどういうものかも知らなかったわけですし、予想なんて無理ですよ――覚悟していた最悪は免れましたが、これはこれで面倒ですね」

 監督役はその機能を指してサーヴァントを喪っても諦めるなと言っていたが、その態度はつまり、敗退したマスターにも容赦するなということの裏返しだ。令呪と命があれば、いつ『聖杯符』を手に反逆して来るものかわかったものではない――そして令呪は、一度尽きても監督役から再分配される可能性があるとなれば、残された選択肢は限られる。
 殺し合いに乗ってまで叶えたい願いがある者達にとって、サーヴァントだけを倒してしまえば良い、という逃げ道は限りなく狭くなったと言えるだろう。
 また、戦闘行為の消耗に見合うだけの、戦力拡充のメリットが用意されているというのも、マヒロ達からすれば手痛い要素だ。

 だが、それでも小聖杯の獲得にマスターの死そのものが必要条件でないことは、マヒロからすればまだ救いであった。

「それで、どうするつもりだ。やはり聖杯は戦争を望んでいるようだが」
「どうするも何も、やることは変わりませんよ。それしかできませんから」
「おまえのせいでな」
「これが一番勝ち目があると、あなたも納得はしてくれたでしょう?」

 アサシンと言葉を交わしながらも、マヒロは今後の戦略を組み直し続け、そして検証を終えた。

「向こうが情報を開示してくれるまでは、元々待つ予定でした。なのでこのまま予定通り、まずは教会に仕込みと裏取りに行きましょう。今日のお昼前ぐらいが良いですかね」


699 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:22:53 iH6lzP.Y0
【第三階位(カテゴリースリー)】 ライダー



 スノーフィールド市中央区の、とある路地裏。
 夜の喧騒や、人の灯りから離れた暗い通りを、一人の男がほろ酔い気分で歩いていた。
 とある工場に勤めている彼だが、本社技術室への辞令を受けた今夜ばかりは飲んで浮かれずには居られなかったのだ。
 同僚が次々と去り、やがて日が変わり、さらに数時間が過ぎるまで飲み明かした男は結局、早く帰れと促されて仕方なく一人、帰路についていた。
 ……別れ際。噂好きの店主は曰く、極東は日本において数十年前、社会現象となった都市伝説の殺人鬼が、この街に現れたから気をつけろなどと告げてきた。
 男は何を馬鹿なと笑い飛ばし、今も真剣な語り口を思い返して滑稽さを覚えていた。

 ――自らの足の先、アスファルトに落ちる影を見つけるまでは。

 男はアルコールで揺れる視線で、その紅の外套に包まれた上からでも細いとわかる身体つきをなぞり――最後に行き着いた、白いマスクに目を奪われる。
 その特徴はまさに、つい先程耳にした与太話と、完全に一致していたのだから。

 ……男は知る由もないが、時を同じく、場所を異にして。スノーフィールド市内三箇所で、次のような言葉で始まる問答が開始されようとしていた。

「「「―――――私、綺麗?」」」

 男は先程聞いた噂――都市伝説の殺人鬼と、自らが遭遇したことを悟った。







「……ああそうだ。そこに人が口を裂かれて倒れているぞ! 犯人は口裂け女だ!」

 スノーフィールドで、すっかりその数を減らしてしまった公衆電話。
 その内の一台に篭り、受話器に向かって叫び終えた男は、通話先のオペレーターが尋ね返すのを無視して、乱暴に電話を切っていた。
 果たして通報を受けた彼らは、どのように動くのか。悪戯と無視するのか、迅速に救助へ駆けつけるのか――どちらにしても、遅いか早いかの問題だ。事実として口を裂かれた被害者が実在する以上、噂は真実としてさらなる広がりを見せる。
 その過程で脚色され、よりおぞましい伝説として像を結ぶため。

「――あるいは、ワラキアの夜の再演に至るため」

 公衆電話から外に出た貴族風の出で立ちの男――ズェピア・エルトナム・オベローンは、誰にも聞き取れないような囁きを、その口の中で弄ぶ。

「『聖杯符』か。なるほど英霊の魂を留めるとなれば相応の器が必要。逆に魂そのものが宿った聖遺物を介せば座に通じることも不可能ではなくなる。幾つもの聖杯戦争の仕組みを再編したというだけあって、面白い趣となったものだ」

 魔術として見ても、そして怪談として見ても。

「力を増せ、ライダー(口裂け女)。君と私は似通っている。君が私を取り込むか、私が君を受け継ぐか! 古より、噂とは混じり合い新生する運命にあるものよ!
 もっとも、今の君では役者不足だ。かつて私のように、教会で怠惰を貪っている蛇の残滓が、無視できなくなるほどの混乱を! 恐怖を! 人々の口の端へ乗せてやれ! 狂乱の星(スター)へと自らを磨くのだ、我が姫(ヒロイン)よ!!」

 昂ぶりのまま哄笑し始めた夜の貴族はそこでふと、冷水を駆けられたように静かになった。

「……一人、欠員が出たか」

 三箇所に散らばったライダーの内、一騎との因果線が消失していることにズェピアは気づいた。
 並列思考を活用し、ライダーから吸い上げた末期の視界には敵影は非ず。ただ、その心臓と眉間、二箇所の霊核を的確に貫いた、矢の尾羽だけが見て取れた。
 おそらくは索敵に優れたアーチャークラスに補足され、遠距離から狙撃で仕留められてしまったのだろう。

「……早々に演劇の邪魔をするとは、忌々しい弓兵め」

 苛立たしげに吐き捨てた吸血鬼だが、直ぐにその口元の歪みが円弧へと変化する。

「しかし、その矢文も台本を書き換えるには及ばぬよ。何せ、既に代役の候補は手配しておいたのだから」

 獲物も宝具の問答が正しく成立する前に逃してしまったが、NPCの一人や二人、惜しむほどではない。むしろ生き残ったのなら目撃者として泳がせて噂を広め、来るべき時を加速させるのに一役買わせるべきだろう。
 そしてアーチャーの矢も、既に『二発』喰らった。
 次は三度目。ライダー一騎の損失と引き替えと見れば、十分なアドバンテージを稼いだといえるだろう。

 そこまで状況を整理したところで、暫しの間緩やかになっていた魔力消費が、また元の勢いに戻ったのを感じ取って――時刻を確認した夜の貴族は哄笑をあげた。

「……では、繰り上げて当選発表と行こう! 次は君が舞台に上がる番だ、ライダー(口裂け女)!!」



「「「―――私、綺麗?」」」



 時を同じく、場所を異にして。問いかける声は三つ。
 街に拡がる怪談に、陰りは未だ訪れず。


700 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:23:51 iH6lzP.Y0
【第四階位(カテゴリーフォー)】 アーチャー



「特に怪我もないようですね。呪詛の類の様子もない。これなら大丈夫でしょう」

 気絶している男を診察したアーチャーの報告に、巴マミはほっと胸を撫で下ろした。
 己の信じる、魔法少女として在るべき姿――それをスノーフィールドでも遵守しようとして、夜間のパトロールに繰り出すようになっていたが、実際にサーヴァントと交戦したのは本選開始後の今日が初めてだった。

 魔法少女の視力をして見通せない、夜闇に潜む彼方の惨劇。その兆候を、アーチャーは千里眼で詳らかとした。
 使い魔との視覚共有でマミが認識したのは、ライダーのサーヴァント。連続殺傷事件の真犯人と噂される怪異。口裂け女。
 都市伝説に語られる怪物は、英霊の矜持はおろか理性すらなく、人気のない路地裏に迷い込んだ人間を喰らおうとする、魔物に他ならなかった。

 それを確認したアーチャーの行動は的確で、迅速だった。

 まずはライダー(口裂け女)ではなく、怪物に遭遇した青年に一射。
 鏃はなく、代わりに弾き飛ばせるための術式を先端に仕込んだ矢での狙撃。音を置き去りにした強打は、振り下ろされていた刃から男を遠ざけ、その意識を昏倒させた。
 ライダーは一瞬見失った獲物を引き続き追うか、矢の出処を探すか戸惑うように、視線を巡らせる。
 その隙を衝いた、二射と三射はほぼ同時。ライダーの脳天と胸板、霊核に直結する二つの急所へ正確に到達し、貫いた。

 それで、終わり。
 語られて来た重みが違う、と言わんばかりに。
 神代の弓兵はかくも鮮やかに、現代の怪物を討ち取った。

 ライダーが輝く粒子となって霧散した後も、油断なく千里眼で状況を俯瞰したまま。マミに合わせて街の影を移動したアーチャーは、己が救った命の元に駆けつけ、事態の収束を確認していたのだ。
 アーチャー――大賢者ケイローンがオリンポスの神々より学んだ数多の智慧。中でも、奥義を授かった四大分野の一角である医術の腕前は、医神アスクレピオスの師となったほどの代物だ。
 その眼によれば、意識を失った被害者が元は酩酊状態にあったことまで解き明かされた。ならば先程の遭遇も、後で勝手に夢と思い過ごすだろう。

「……それにしても、本当に口裂け女がアメリカでサーヴァントになってるなんてね」
「場所はあまり関係ないのかもしれませんが、それより奇妙ですね。確かに手応えはあったのですが、肝心の『聖杯符』が見当たりません」

安堵のまま、余計な話を始めてしまいそうなマミだったが、緊張した様子を崩さないアーチャーの言葉に気を引き締め直す。
 ……この路地裏に辿り着くまでに、誰かが横取りする様子もなかった。
 ならば導かれる結論は一つ――アーチャーの弓術によって、見事に葬られたと見えたライダーが、まだ生存しているということだ。
 慌てて周囲を警戒しようとするマミに、しかしアーチャーは穏やかに首を振った。

「大丈夫ですよ、マスター。少なくとも周囲にサーヴァントの気配はありません――仕留め損ねたことも、間違いないかと思われますが」
「そう……なのね」
「あまりお気になさらず。あなたは哨戒という方針を立て、見事に彼の命を救う結果を導きました。サーヴァントの相手はサーヴァントが務めるもの。であれば責を負うべきはあなたではなく、私にあります」

 気落ちするマミに対し、アーチャーは滑らかに、気遣いの言葉を口にしていた。

「いえ、そんな……」
「ですからどうか挽回の機会を、マスター。次こそは邪悪を討ちましょう。そのために、まずは敵の正体を推測したい……あなたが耳にしたのは、『三姉妹の口裂け女』という噂話でしたね?」
「え、ええ。同じ時刻に、合わせて三件、同様の事件が何度も発生しているの……その犯人が、口裂け女だって噂になっていて……」
「ふむ……口裂け女は、マスターの故郷で発生した、都市伝説でよろしかったでしょうか?」

 被害者を抱えながら、アーチャーは考察を重ねるために、マミから情報を引き出していく。
 上手く話題を逸らされた、と薄々理解しながらも。マミに己自身を責めさせまいとする、その手並みもまた鮮やかであり、見習いたいと思えるものだった。
 マミは既に、アーチャーに全幅の信頼を寄せていた。心の師と仰ぎ、彼という英雄が積み上げた過去を学び己の後進に伝えられるようになることを、聖杯戦争における一つの目標とするほどに。
 だからその気遣いを、今は素直に受け止めて。偉大なる背中に続こうと、マミは歩みを再開した。
 ……彼に冠された数字に、一抹の不安を覚えながら。

 ケイローンを死に至らしめた逸話は、彼の弟子にしてギリシャ最高最大の英雄が挑んだ『十二の功業』の一幕、第四の試練の最中に起きたとされる悲劇なのだから。


701 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:25:06 iH6lzP.Y0
【第五階位(カテゴリーファイブ)】 キャスター



 空条承太郎が勤務先の水族館に到着した頃には、微かな朝日が東の空に差し込み始めていた。

 内陸の都市であるスノーフィールドだが、未来都市を志向するこの街には文化・芸術面にも地方都市相応ながらに力を入れており、その一環として水族館が存在していた。
 沿岸部の立地と異なり、館内で飼育する生物の管理に外部の海洋学者が駆けつける協力体制を築くことは容易ではない。故に、予め専属の学者に勤務して貰う、という形で対策が取られていた。
 そしてこの水族館の責任者と懇意な知人の依頼で、承太郎は専属の学者として赴任している――というのが、海洋生物学者である承太郎がこの街で生活するために用意された設定だった。

 微かに息白む中、既に出勤していた一部の清掃員や他の職員に挨拶を返しながら、承太郎はまだ暗い館内を歩き回る。
 目的地は、己に与えられた待機室ではない。そも、どこにあるのかも定かではない。
 その背後を、黒い犬――否、三つ首の魔犬(ケルベロス)を模した人形のような何かが追跡していることをNPC達が気づくことはなかったが、肝心の承太郎は既に認識していた。
 だから逆に、その犬ッコロの主が姿を見せないことに苛立ちを募らせていた。

(――どこにいる。キャスター)

 承太郎が探していたのは、自身のサーヴァントであるキャスター。「火」「水」「風」「土」、そして「空」の五大元素使い(アベレージ・ワン)たる魔術師、笛木奏の行方だった。

 ……あの対決から日を経ても、承太郎は結局何も変わっていない。
 未だキャスターを自害させるでもなく。かと言って、己の欲望のためだけに弱者を利用し踏みつける邪悪に変転する覚悟も決まらず、ただ葛藤し続けるだけ。
 娘を授かる以前。かつての己であれば決してありえない、無為なだけの時間の使い方を誤魔化すように、承太郎はキャスターを探していた。

 ――見つけ出しても、結局は何をするかも決めていないのに?

「(覚悟は決まったか、マスター)」

 自らに疑念を浮かべたそのタイミングで、尋ね人の声が直接脳内に響いて来た。
 この水族館の位相の異なる空間に潜み、しかしマスターである承太郎をそこに通すことなく、監視の使い魔だけを付けて放置していたキャスター。
 不意打ちのような彼からの問いかけに、承太郎は取り乱すことなく――しかし固唾を呑んで答えを返した。

「……ああ。私はおまえを止める」
「(いつまで下らない意地を張るつもりだ。本気なら何故、貴様は未だ令呪を切っていない)」

 呆れたような物言いだが、その声は嘆息には及んでいなかった。余分な感情を挟まず、キャスターは冷淡に念話を続ける。

「(本選が開始されてしまったが、『煌めく亜獣(カーバンクル)』を一体、用意することが間に合った。魔力炉となる最初の一体さえ完成すれば、後は早い。来館者や魚どもから魔力を吸い上げる手間も必要ない)」
「貴様――っ!」
「(安心しろ。誰も、何も死んではいない。他の主従に気づかれないよう、遊び疲れ程度の微小な魔力を貰っていただけだ。おかげで時間もかかったが……これで私は、おまえの意向に関わらず自活できる最低限の能力を得た)」

 湧き上がる憤怒を、取り乱すことなく制止された承太郎は、続く文言の意味するところを解して驚愕する。
 彼は魔術師のクラスのサーヴァントだ。魔術儀式である聖杯戦争の、仕組みそのものに極小規模でも干渉し得る存在。その彼が、依代であり、令呪を宿した承太郎の意志に関わらず、自活できる能力を得たと言った。
 迷い、答えを出さなかったその間に。もしや自分は、この悪魔を止める最後の安全弁さえ腐らせてしまったのだろうか――?

「(おまえがそうして無意味な葛藤を重ねる間にも、私も、聖杯戦争も進んで行く。それを許したのは貴様だ、空条承太郎。戦わず沈黙し続けた貴様は既に、我ら邪悪の共犯者だ)」

 無限の自信を与えてくれた青い若さを失って、数多のしがらみと引き換えに、家庭という幸福を得た。
 それさえも喪いかけた瞬間に露呈したのは、正義を貫く戦士という過去からの在り方と、何よりも娘を想う父という現在、二つの己の齟齬が招いた怠惰の罪。
 弾劾の声に、空条承太郎はこの時、ただ立ち尽くす他にできることはなかった。



 ――果たして。歩みを止めたクルセイダーに、未だ黄金の精神は宿るのか。


702 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:25:47 iH6lzP.Y0
【第六階位(カテゴリーシックス)】 バーサーカー



 スノーフィールド某所。
 偽装を重ね、遠い異国から潜入してきた破壊活動組織、『曙光の鉄槌』の隠れ家。
 その一室で、現党首である砂礫の人喰い竜ズオ・ルーこと、レメディウス・レヴィ・ラズエルは一人、思索を巡らせていた。
 傍らに侍るのは、毒々しい紫色をした異形の竜。存在しないモノ達の欲望を司る六色目のコアメダルの作用と、今しがたレメディウスの行使した令呪により、英雄から怪物へと変転してしまったバーサーカー――仮面ライダーオーズ・プトティラコンボの威容だった。
 理性を奪われたサーヴァントと、それを為したマスターと。平時に交わされる言葉など、あるはずもない。故に無機的な青い照明と、耳が痛いほどの静謐だけで満たされていた中。不意に、バーサーカーの頭部が上がった。

「おっと待った、私だよ」

 微かに全身の筋肉を緊張させた狂戦士に制止の声を掛けるのは、彼とは別にレメディウスが従える使い魔だった。

「アムプーラか」
「如何にも。ご要望どおり、新戦力の補充と教導は終わらせてきたよ?」

 忽然と姿を現したのは、青銀の格子柄で塗り分けられた華美な服飾の男。
 毒々しい道化のような装いの、放蕩貴族を思わせる容貌の中。青の軌跡を残して閃く二股の舌が、彼がただの人間ではないという事実を仄めかしていた。

 禍つ式(アルコーン)。
 虚数空間に生息する、生きた咒式。古来において魔神や悪魔と呼ばれた者ども。
 中でもアムプーラは、歌乙女の街エリダナでの活動に当たって、レメディウスが召喚した怪物どもの支配者たる上位種、二体の大禍つ式(アイオーン)の片割れ。
 そしてレメディウスと契約咒式で繋がっていたが故に、配下の禍つ式諸共、使い魔としてムーンセルに取り込まれた怪物だ。

「この聖杯戦争という新たな夜会、報酬たるムーンセル・オートマトンがあれば我が眷属も救われる。野蛮ではあるし敵も遥かに強大となったが、君との共闘という契約に変わりはないからね」

 在野の攻性咒式士からすれば最悪の敵の一角である大禍つ式といえど、四九八式、子爵級最下層のアムプーラ程度では、先に堕ちたヤナン・ガラン同様、サーヴァントには及ばない。おそらくは『夢幻召喚』を果たした、人間のマスターに対しても同様だろう。
 それでもアムプーラがレメディウスに従い聖杯戦争に挑む理由は、今しがた彼の述べた以外にもう一つ、滅亡の危機に立たされている眷属を救うという大義のためだった。

「しかし、君たち人類は本当に不可解だ。これだけの代物を前にして、確実な儀式の遂行のために協力するでもなく、私欲のために同胞同士で命を奪い合うとは」

 そのような立場で、聖杯戦争に関わったためか。アムプーラは心底疑問に思ったように、述懐を漏らしていた。

「意思を持ち、それを伝える言葉を持ち、それを受け取る理性と共通基盤のある人間同士が、聖杯を前に何故暴力や戦闘行為などという非効率的な方法でなければ交渉できないのか。あろうことか、人類全体への貢献ではなく一個体の事情で消費しようとしているなど、正気と思えない」
「だからこそ私が願(つか)う。貴様らにとっても、それが唯一の道であろう?」
「確かに。しかし我ら異種族との契約を同胞との合議より本気で尊重しているのだとすれば、一層理解が及ばない。
 私としては正直な話、ウルムンの民のためにエリダナやスノーフィールドの人間を殺す君よりも、非効率的でもバーサーカーの考えの方が、まだ論理性を感じられたね」
「……だろうな」

 言うなれば生きた数式である使い魔は、人間の弾き出した不等式が理解できないと真摯に訴える。
 力なく首肯しながらも、レメディウスは回答する。

「だが、我らの世界は美しく設計された論理に運営されているわけではない。土台となる理論が偶発的に組上げられた、最初から破綻している代物である以上、その上にいくら正しい数式を描こうと意味はないのだ」
「だから聖杯でその土台を修正する。なるほどそれは理解できる。だがそれ以前から君は、犠牲を生まぬために同胞を殺してきた。到底実現できない夢想のために、結局は等量の死の分配先を他へ押し付けただけだ。
その願いが実現する目処はなかったのに、どうして君はそんな選択をしたのだ?」

 アムプーラの瞳は直線に問うていた。
 強い感情を何故、我欲で浅ましい、そんな非生産的なことに費やせるのかと。

「……貴様らには、永遠にわからないままだろう」

 ああ、きっと。ある意味で生まれながらに完全だからこそ、彼らは知らない。
 非生産的で、どうしようもなく論理的に誤っていて、刹那的でちっぽけな、けれどレメディウスや火野映司が手放せなかった、
 思い出の一欠片に宿る、魂を狂わす輝きなど。


703 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:26:59 iH6lzP.Y0
【第七階位(カテゴリーセブン)】 ガンナー



 ――認めよう。
 殺し合うことは避けられない。それが人間の本質だ。

 生存の為の搾取。繁栄の為の決断。
 動物を絶命させ、資源を食い荒らし、消費するだけの命。
 その積み重ねの果てにある人類の歩みは、まさしく大罪の歴史と断じるべきだ。

 だが、そのように野蛮をただ否定して終わらせることは、人間が人間である以上は赦されない。

 多くの血が流れた。芥(あくた)の思想が燃え尽きた。
 それらは決して癒やされない、深い深い傷跡だ。
 ならば、その欠落を埋められる成果がなければ、嘘だろう。

 積み上げられた犠牲に、ただ過ちであったと目を背け、報いることなく怠惰を貪るのではそれこそ、小狡い獣への堕落だ。
 ただ食べて眠るだけではなく、様々なものを作り上げ、産み落とし、築き上げるためにこそ、人は罪を犯してきたのだから。

 だからこそ、非論理的で非生産的な闘争が、我々には必要なのだ。
 停滞を破り、埋めずにはいられない爪痕を残す戦争が。

 人類が欠落してきたその総てに、確かな意味を与えるために。







「……ありがとう、トワイス」

 唐突に己のサーヴァントから感謝の言葉を告げられて、トワイス・H・ピースマンは彼女の方を振り返った。

「うん? どうしたんだい、ガンナー」
「うん……うん。あたしね、ずっと人間の近くに居たから。何となくわかっちゃうの、人間のこと。どんな人柄で、どんな因果を背負っていて、何を考えているのか……って、これは前に言ったわね」

 室内でもヘルメットを被ったままのガンナーは、その側部を照れたように指先で叩いた。

「あたしね。昔、人の子から要らないって言われたの。ううん、彼は、マックルイェーガーという友人に生きていて欲しいと願ってくれたわ。それは本当に純粋に、とても嬉しかった。でも最期まで、戦神としては必要とされなかった」

 ガンナーの声のトーンが微かに落ちるのを、トワイスは黙って聞いていた。

「それを恨んだりなんかしてないわ。あたしはあたしを生んだ人間というものを、嘆きも憎みも絶対にしない。でも、自分の役割の終わりを告げられて、それを寂しいと感じたのも、やっぱり本当なの。
 だから、その務めを果たせる機会に恵まれたことが、それもこんなにも必要としてくれる相手に出逢えたのが、本当に嬉しい」

 ああ、なるほどと、トワイスは納得する。
 トワイスの裡にはいつも、戦争に対する狂熱が渦巻いている。
 自らが挑む最後の聖杯戦争を前にした今ならば、なおさらに。
 何より憎み、しかし否定しきれないからこそ真摯に向き合った、戦争に対する想いが在る。
 あの地獄に、意味を見出そうとした想念が。
 それが、人類が欠落してきた一つである彼女にとって、ささやかな報いとなったのだろう。

「別段、何か特別なことをしたつもりはないが。君の英気を養えたのなら何よりだ」
「そうね。うん、こんなに必要として貰えたのだから。あなたの言うとおり、あたしは一人の兵士として、戦場に出るわ。そしてこの手で敵を撃つ。敵味方関係なく加護を与えて漫然と死に誘うのではなく、他ならぬあたしの意志で命を奪う」

 銃の女神は、狙い通りに弾が命中するという加護を兵士に与える一方、その敵兵をも分け隔てなく祝福する。人間が好きだからこそ、生けとし生きる全ての者を、平等に。
 結果として、戦場で彼女に取り憑かれた勇者は皆、最期は避けようのない魔弾を受けて死ぬ。まるで必中たる七つの魔弾を授かった、狩人のように。
 だから彼女は、戦神であるとする自らを時に、必中の魔弾を授ける代わりに、最期にその射手の命を奪う契約を行う悪魔である、ザミエルに例えるのだろう。

 そんなガンナーの自己認識を踏まえてから見れば。加護を与える女神としてではなく、死を齎す魔王として戦争に臨まんとする彼女に冠された数字が七であることは、至極道理に思えて来る。
 射手に幸福を導く恩恵ではなく、人命を奪う致死の災厄として鋳造された魔弾とは、七発目であるのだから。

「それは重畳だ。だが……」
「わかっているわ。基本、マスターは狙わない。あなたの願いを担う後継者を見つけるためでもあるし、戦争じゃない殺戮なんて嫌いだもの。それにやっぱりあたし、人の子が好きだから……もちろん『夢幻召喚』でもなんでも、神殺しを挑んでくるっていうなら、相応に饗しはするけどね」
「ああ、そこに至ったならば構わない。では、君は君の戦いを、存分に果たしてくれたまえ」

 問答の後、煎れたコーヒーを二人で味わっていた頃になって、セットしていたアラームが鳴り出した。

「……少し早いが、出発しようか」

 ――泥濘の日常は燃え尽きた。

 今日こそが私たちの、目覚めの朝だ。


704 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:27:59 iH6lzP.Y0
【第八階位(カテゴリーエイト)】 キャスター



「……どうやら、夜の間に教会を訪れた参加者はいないらしい」

 スノーフィールドの中央公園。
 同じく中央区に存在する中央教会と程近いそこに、仮住まいの安モーテルからジョギングに訪れた体を装って足を運んだ『音を奏でる者』改、サンドマンは、この土地に闊歩する精霊の声を聞いたキャスターの報告を受けていた。

「無論、精霊の目を掻い潜れるほどの腕利きがいなかった保証もないが……昨夜の説明で十分だと判断したのか、役割に縛られたか、それとも我々のようなライバルからの監視の目を掻い潜る算段を立てている最中なのか。いずれにせよ、直接的な成果は得られなかったな」
「……しかし、キャスター」

 公園の隅にあるベンチにて。サンドマンは隣に腰掛けた憧れの英雄――ジェロニモへと、臆することなく口を開く。

「あなたの口ぶりだと、何らかの『目』を飛ばしてきている勢力が居るように聞こえたが……そこから間接的に辿ることはできないのか?」
「良い着眼点だ、マスター」

 後進の慧眼ぶりを喜ぶように、キャスターは誇らしげな笑みを浮かべた。

「そのとおり。我々とは私と君だけを指すのではなく、私達のように様子見をしている陣営全てのことだ。当然だが、そのような手合は他にも存在しているらしい」

 肯定の後、中央教会のある方角へと向いて、キャスターは目を細めてみせる。

「確かに一般的な使い魔では、現場に着いた後のこと、そこで見える範囲でしか知覚し得ない。だが私がその声を聴くのは大地の精霊たちだ。彼らは最初からその土地に居た者。後から来た使い魔達が何処から来たのかを辿る手がかりを持っている可能性は充分にある。……無論、事前に契約していたわけではないから、彼らがきちんと覚えていない可能性もあるがね」

 シャーマニズムを行使するために、実体化しておく必要があったとはいえ、そのまま二人は聖杯戦争に関する話を展開している。
 しかし周囲には、それこそ契約によりジェロニモを守護するコヨーテの精霊が目を光らせている。彼の嗅覚により、周辺に身を潜めたサーヴァントの不在は確認済だ。サンドマンとキャスターも傍目には同族同士で歓談する、世代違いの友人のようにしか見えないだろう。

「……だが、使い魔を扱えるということはそれなりの魔術の使い手ということだ。迂闊に近づけば、逆に先手を打たれる可能性もある。
 この先の戦場に待つのは、既に最低限の淘汰を越えた兵達だ。私はそう強力なサーヴァントではない。少なくともこの戦争では、緒戦から八人も屠るといった芸当は不可能だろう。むしろ早々に八つの戦傷を受けて脱落するかもしれないが、どうする?」

 自らに与えられたカテゴリー、彼がジェロニモの名を得るに至った闘争で最初に殺した敵兵の頭数と、最終的に敗北した際負っていた戦傷の数――彼の戦歴の始まりと終わりとに共通した数字を持ち出して、些か冗談めかしたように尋ねる。
 奪い合うべき小聖杯(トロフィー)が『聖杯符』であり、それが手にする者に無視できない力を与えると判明した以上、敵は容赦なくマスターも手にかけることだろう……自分達がそう考えているように。

「愚問だキャスター。わたしは既に覚悟を終えて、聖杯戦争に乗ったのだから」

 だがサンドマンは、臆病風に吹かれることなく、状況の変化を受け入れていた。

「敵から身を守るには敵を知ることが一番だ。まずはどのカードから手に入れるべきかを検討するためにも、な」

 敗退したマスターの安全、という面でみればリスクの増したルールの開示も、勝てば益でしかないとばかりに、サンドマンは強気に発言する。
 何より心を強くできる理由が今、この目の前にあったから。

「何より、たった一人でアメリカと渡り合ったあなたが、迂闊な戦運びを許すはずがない。無意味に恐怖を覚えるほど、わたしは愚かではないつもりだ」
「……本当に、随分と買われたものだ。だがそれでこそだ、サウンド……いや、サンドマン。臆病が必要な時もあるが、蛮勇もまた手放してはならない。そして今必要なのは、後者だ」
「もちろんだとも、キャスター。オレは何よりあなたの流した血から、それを学んでいるつもりだ」

 ――祖先から続く土地を取り戻したいのも、全ては積み重ねられてきた過去に報いたいという思いからだ。
 過去からの遺産、それを正しく相続し、再び子孫に続く人の輪を廻すためにこそ、サンドマンは手段を選ばず戦う。
 ならばそのために誰より勇敢に戦った英雄の姿を学ぶのもまた道理。
 その敬意が伝わったのか、ジェロニモは穏やかに微笑んだ。

「それでは同胞よ。我らの流す最後の血を見定めに行こうか」

 ――そうして。聖杯に捧げる血を求め、悪魔達は偽りの大地で動き始めた。


705 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:29:00 iH6lzP.Y0
【第九階位(カテゴリーナイン)】 アサシン



「いきなり始まりやがったな」
「そうだね。多分、僕らは出遅れている側なんだと思う」

 アサシン――夢で覗いた記憶に拠れば、アンクという真名の魔人の吐き捨てるような言葉に、天樹錬は淡々と現状認識を述べた。
 記憶を取り戻すまでの間に、既にスノーフィールドには不穏な空気が流れ始めていた。
 それを招いた異変の原因が聖杯戦争に関するものだとすれば、既に活動を開始している主従が複数存在するはずなのだ。経過時間はそのまま不利と直結してもおかしくはない。

「――ったく。寝坊が過ぎたんじゃないのか、レン」
「うん……それは、面目ない」

 二重の意味で、錬は謝罪した。
 アサシンを召喚するに至ったのは、昨日の夕方。
 共闘の姿勢を取り付けてすぐ、錬はアサシンと模擬戦を行っていた。
 結果としてサーヴァントのスペック、その実測値や、SE.RA.PH内において錬が扱える情報操作の実性能、そしてアサシンの体内の九つの情報核(コアメダル)を並行励起させる第二宝具を含めたサーヴァント運用の負担を確認することはできたが、ここで必要な情報を初めて集積した分加減を誤り、相応の疲労を蓄積してしまった。

 その後はハッキングによる情報収集程度でコンディションの回復を優先し、深夜に監督役から開幕の宣言を受けても、その晩は積極的に動くことを控える運びとなった。
 仮眠を終えた頃には空は既に青く輝き、与えられた市民としての役割を果たさねばならない刻限が近づいていた。

「ねえ、アサシン」

 だからもう、他のことに手を回す余裕はないと理解しながらも――仮住まいの窓越しに、当たり前のようにあるそれを、記憶を取り戻してから初めて目にして。錬は、今後の戦略に何の関係もないことを、つい口に出してしまっていた。

「聖杯があれば……きっと、取り戻せるよね」
「取り戻す? ないから作るんじゃなくか?」
「うん」

 失った物を取り戻したい。その何が気に食わなかったのかはわからないが、願いの表現に少しだけ面白くなさそうな顔をしたアサシンに、それでも錬は素直に頷いた。

 人造の天使も、その犠牲がなければ生きられない民も。誰も死ななくて良いような、かつてあったあの世界。
 三万メートルの高みにまで昇らなくとも、天を仰げば誰もがあのきれいな眺めを得られるような。

「灰色じゃない――フィアがきれいだって言った、青い空を」

 スノーフィールドに広がる偽りの、しかし確かに再現された現実である、澄み渡った青空を改めて目の当たりにして。錬は心のままに、その言葉が漏れるのを止められなかった。

「――言っておくが、空(アレ)は、王(俺)の所有物(モノ)だ」

 そんな、何気ない心情の吐露を後悔させるほどの圧力が、傍らに立つ青年から溢れ出た。

「それをたかが人間が取り戻す、だと? 図に乗るなよ」

 彼が気難しい性格であることは、この半日で充分に理解している。しかし、無意識に近い呟きがここまで地雷を踏んでしまったのか――と、アサシンの放つ気迫に圧された錬だったが、そこでふとその圧が抜けるのに気づいた。

「……が、まぁ。俺の所有物に憧れてるって奴を見下ろすのは、悪い気分じゃない。おまえに空を譲るつもりなんざ毛頭ないが、目を輝かせて見上げる自由ぐらいなら、特別に許してやっても良い」
「……なにそれ」

 彼の激怒が、遠回しな肯定の前段階だったことに気づいて、錬は小さく吹き出した。
 アサシンは鼻を鳴らしながらも、彼にしては穏やかな様子で続ける。

「言葉のとおりだ。聖杯だろうがなんだろうが、この俺の所有物に手を出す奴はぶっ潰す。逆を言えば、俺にとって価値のある所有物は庇護の対象ってことだ。欲を掻きすぎてこっちを見る目を曇らせてやがったら要らねえが、そうじゃないなら見上げてくるおまえらも、空から見下ろす景色の一部だからな。その価値を損ねる雲は邪魔になる。
 仮にも俺を呼び出すほどの代物だ。掃除ぐらいはできるだろ」

 つまるところ、彼の矜持から全肯定こそできずとも。
 アサシンもまた、あの子にきれいなものを見せてあげたいという錬の願いを、彼なりに応援してくれているのだろう。

「ま、聖杯を心配する前に。おまえはまず俺に、組んで得な人間だったと思わせてみろ。この俺の前で、世界も命も空も欲しい、なんて大口を叩いたんだからなぁ。『つまらないもの』は見せてくれるなよ、レン」

 ――人間は何かを犠牲にしないと幸せになれないのか、そんなつまらないものなのか。
 ――僕らは今、その瀬戸際にいるんだ。

「……わかった。約束するよ」

 昨日、会話の中で漏らした兄の言葉を踏まえたアサシンの激励に。錬は初めて、彼のためにも負けたくないという想いを覚えていた。


706 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:30:17 iH6lzP.Y0
【第十階位(カテゴリーテン)】 ライダー



「行くぞ。ちゃんと捕まってろよ」
「(うん……)」

 晴天下。脳内に伝わるのは肉声を伴わない、少女の返答。
 その思念の声には覇気がない。捕まっていろ、と言っても、そもそもその動作や接触の知覚が彼女にはできないのだから、自信がないのだろう。腰の後ろから回された手をこっそりと導いても、気付いてはいないのかもしれない。
 だが、ライダー――門矢士はそれを敢えて伝えるまでのことはせず。横座りにタンデムシートへ腰掛けたコレット・ブルーネルの安全を確保できたと判断してすぐに、愛車を走らせ始めていた。

 無数の世界で、初めて見る土地を共に駆け抜け、今は宝具『世界を駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』と化した愛機を、ライダーはもどかしいほど緩やかに加速させる。
 パッセンジャーから伸びた腕。その締め付けは、少し苦しいまでの物となっていたが、今の彼女に加減を要求するのは酷な話だ。うっかり落下されてしまったりする方がよほど困るから、ライダーはコレットに何も言わずに居た。

「(今日はお仕事、決まると良いね)」

 そんな沈黙に耐えかねたわけではないのだろうが、コレットは今、世界で唯一彼女の声が聞こえる相手だろうライダーに念話で語りかけてきた。

「あのな……そんな場合じゃないだろ」

 聖杯戦争本選の開幕が告げられたその日の言葉としては、どうにも呑気なコレットの様子にライダーは溜息を吐く。
 ライダーは既に、門矢士としての名でスノーフィールド市民としての役割(ロール)を与えられている。最近移住してきたフリーのカメラマンとして、市内の出版社や様々な施設の広報担当に営業を行っている、ことになっている。
 サーヴァントとして座に記録されるとすれば、世界の破壊者、仮面ライダーディケイドとしての名前が主だろうが、約束を破って顔も知れない相手に名前が広がり過ぎるのは避けたい事態だ。
 今日も二人で街中を巡るのは街の様子を確認するついでに、そういった余計なリスクを軽減するためでもある。仕事を取れるかどうかは重要ではない……別に、負け惜しみなどではなく。
 向かってくる相手に易々と遅れを取るつもりはない。だがコレットを伴う以上は軽率な立ち回りをする気もない――という気持ちが遠回しながらに発露したものであったが、ライダーの気分を害したと思ったらしいコレットは如実に意気消沈した様子で謝って来た。

「(あ、うん……ごめんね。でも、ライダーの写真、褒めてくれる人がもっと見つかったら良いな、って……思ってたから……)」
「……おばあちゃんが言っていた。真の才能は少ない。そしてそれに気づくのはもっと少ない、ってな。だから気にするようなことじゃない」

 かつてないほど穏やかに走らせ続けている車体の上。コレットが驚いた気配が、背中越しに伝わってきた。

「(ライダー、おばあさまのことを尊敬してるんだね)」
「なんか随分意外そうだな……ま、どうせ俺のばーさんじゃないけどな」
「(旅の中で会った人なの?)」

 ああと応えれば、コレットはまた色々と尋ねてくる――世界中を旅したという少女からしても、幾つもの世界を巡った先人の話には興味が尽きない様子だった。

「(ライダーの妹さんも、お兄様とそっくりなんだね)」 
「……そうだな。もしかしたらまた、旅の途中でひょっこり会えることもあるかもしれない。その時はよろしくしてやってくれ」
「(……うん、そだね。わかった)」

 それまで快活に笑っていたのに、その時はぎこちなく、コレットが頷いた。
 実の妹がまだ存命している、というライダーの正体に結びつくような余計な情報を与えてしまったせいかと一瞬疑ったが、すぐに違うとわかった。
 きっと、本当にその約束が果たせるものかという不安が、彼女の返答を躊躇わせたのだろう。
 聖杯戦争を生還し、更にその先、宿命付けられた死を乗り越え、そして世界を救えるのか――そんなこと、一度や二度の励ましで簡単に確信できるはずがない。

「心配するな。上手くやれるさ、きっとな」

 だから――何に対して上手くいくのかは、伏せたまま。ライダーはもう一度、死ぬために生み落とされたという天使の少女を励ました。
 その運命を覆す最初の第一歩――聖杯戦争で彼女の旅を終わらせてなるものかという、決意を密かに固めながら。
 天使と相乗りしながら、悪魔と呼ばれた旅人は、新たな世界を駆ける。


707 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:31:05 iH6lzP.Y0
【第十一階位(カテゴリージャック)】 バーサーカー



 朝日は、既に完全に昇っていた。
 今日はまだ――役割上だけとはいえ、学校のある日だ。そろそろ寄宿舎を出発しなければ遅刻するだろう。
 今この瞬間にも『妹達』の命が奪われているかもしれないという状況で呑気に学業に勤しむなど、学園都市に居たままなら絶対耐えられなかったに違いない。

 だが、感情のままに暴発する一歩手前で、御坂美琴は踏み止まっていた。

 美琴は今の状況を、『絶対能力進化実験』関係者以上の権限と技術を持った集団による仕業と看做している。
 スノーフィールドという都市を密かに作り出し、学園都市最強の精神操作能力さえ無効化するレベル5を拉致し、認識を改竄して、挙句同様の状態の人間を老若男女八十万人も物理的に用意されるよりは、そういう電脳世界に取り込まれたと見る方がずっと納得できる。
 そして電脳空間であるのなら、時間経過を現実と合わせる必要はないはずだ。実験時間の短縮のため、異なる時間の流れを設定するのが妥当だと、美琴は考えた。
 昨夜の、夢を介した開幕宣言とやらでも、スノーフィールドとあの夢の中の実時間は別であると監督役は言及していたのだから、学園都市の時間経過に過敏となる必然性は薄いはず。
 ――それは単に、あの子達のことを忘れて能天気に笑っている間に、三ヶ月もの月日が経過しているかもしれないことを、受け入れたくないが故の推測かもしれない。

 そんな欺瞞を薄々自覚しながらも、暗闘の側面が強い聖杯戦争において、無闇に行動すべきではないと美琴は己を抑えていた。

 ここで無様を打てば、今度こそ、あの子たちを助けることなど叶わなくなってしまう。

 何しろ、この戦場には御坂美琴でも敵わないような怪物がまだ十体以上も存在しているのだから、慎重に行動するしかない。

 そうして美琴は、なぜだか出発前になるといつも、部屋中のコンセントを抜き始める従者の方を振り返って、何に対してでもなく苦笑した。

「……世界観に気合入っている割には、結構適当よね。あんたが十一(ジャック)って」

 部屋を出るその前に、美琴はどうでもいいような愚痴を、未だその顔を直視できない人造の花嫁(バーサーカー)に話題として提供した――結局、喋れない狂戦士には疑問符のような唸り声一つで済まされてしまったが。
 別段、直接戦闘に関わるような要素でもない。しかし昨今では騎士をモチーフに描かれるジャックというカテゴリーとフランケンシュタインの怪物を結びつける要素が弱い、と不可解を感じるのもまた事実であった。
 フランケンシュタインは人造人間を題材とした作品ではあるが、彼女が造られた目的は理想の人間を生み出すことであり、その役割は召使などではない。当然ながら、一般的なハートのジャックに描かれた人物――あの聖女ジャンヌ・ダルクの戦友であった憤怒の騎士ラ・イルとの関連性も、美琴はとんと耳にしたことがない。ランスロットやヘクトールといった他スートの人物や、もちろんコンセントを抜く癖ともだ。
 だから精々、彼女が生まれたのが十一月のわびしい夜だった、という程度の繋がりしか、美琴は花嫁の姿をしたフランケンシュタインの怪物と、男性的なイメージの強いその数字の縁とやらを見出だせなかった。



 そう、御坂美琴が知るはずはない。

 遠い世界で、バーサーカーの命の一欠片を受け継ぎ騎士となった人造の少年が、聖女と共に戦った外典のことなど。
 殺されるために生み出されて、しかし運命に反逆し、憤怒を抱く人間になった己が子弟との縁は、バーサーカーさえも認知していないことだから。



 故に、知らないことは仕方ない。元より知ったところで、彼女には何の意味もないことだ。
 ならば知っていることから、できることをして行くしかない。

 美琴の能力(ハッキング)により、聖杯戦争に関わるワードの検索履歴を洗い出して、少なくとも一昨日の時点で市立高校に一人以上、マスターが存在していることは確認した。
 またバーサーカーも、そのサーヴァントとしての感知力で、既に――美琴の通う市立中学に一組以上、他の主従が存在することを突き止めていた。
 どちらも未だ個人の特定には至っておらず、そもそも本選に残っているのかも不明だが、何の手がかりもないよりは探りを入れていくことはできるはず。そしてそれは少なくとも、同じ学校に関わる敵からしても同じこと。
 まずは、身近なところからだ。

「行くわよ。今日こそ敵を見つけ出す」

 それがゆくゆくは、あの子たちを救うことに繋がるのなら――これから過ごす時間は決して、気が抜けるものではないと決意を新たにして。
 霊体化で姿を消したバーサーカーを従えて、御坂美琴は扉を開き、全てが偽りの戦場へと歩み出した。


708 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:31:46 iH6lzP.Y0
【第十二階位(カテゴリークイーン)】 セイバー



「(不思議だな)」

 外部組織との会談のため、まず一族の有力者と合流すべく街中を移動する、車内にあって。偽りの役割を続けるティーネ・チェルクの頭の中に響いたのは、平坦な疑問の声だった。

「(畏れながら………何が、でございましょうか)」

 独り言かもしれないが、確認もせず無視したとあっては、無駄に機嫌を損ねられかねない。そのように判断したティーネが問いかけた相手こそは、霊体化中の彼女のサーヴァント。軍神(マルス)の剣を持つセイバー、真名をフン族の大王アルテラ。史上でも指折りの広大な文明圏を蹂躙した大英雄だ。

 機械の如き印象のとおり、何も感じない、などと言っていた彼女の琴線に、いったい何が触れたのだろうか。
 やはり、女性であることすら忘れられた大王が、第十二階位(カテゴリークイーン)を与えられたことが不可解なのだろうか、などと――スートこそ違うものの、トランプにおけるクイーンのモチーフの一つとされる戦女神――軍神に勝利せしアテナと彼女の間に存在する縁を、知るはずもない身で考えたティーネに対し、霊体化したままのセイバーは答えを寄越した。

「(かつての私なら、このような文明の産物を視界に収めれば、破壊せずにはいられなかっただろう、と思ってな)」

 何でもないことのように、しかし耳にしたティーネが、ゾッとするようなことをセイバーは言う。

「(それが随分と、衝動が薄まったものだと感じていた)」

 つまりは生前のセイバーであれば、敵ですらないこの車両も、窓の外を流れて行くスノーフィールドの街並みさえも、目に映る文明の全てを。破壊の大王として粉砕してしまっていた、ということだろうか。
 思わず固唾を飲んだ後。一族の悲願のために心を捨てたはずの己が、その事実に恐怖を覚えているという事実を再認して、ティーネは強い疑念に襲われた。
 何故自分は、この忌まわしきスノーフィールドを模したこの偽りの街が滅びることに、強い忌避感を覚えているのか――?
 ――何故だかそれは、長く見つめていてはならない気がして、ティーネは意識を振り分ける先を意図的に切り替えた。

 もしもセイバーが、彼女の言う"かつて"の状態であったなら、討伐令を受けることは不可避であっただろう。いくら強力なサーヴァントとはいえ、セイバーは防衛能力にまで長けているわけではない。あるいは今のままでも、その影響が払拭されているとも限らず、制御に不安を覚えるのは当然だ――きっと己は、そのことを恐れたのだと、ティーネは自らに言い聞かせる。
 そうした欺瞞の蓋から、さらに目を背けるように。ティーネは注意をセイバーに向けるべく、次の問いかけを放っていた。

「(……大王は文明がお嫌いなのでしょうか?)」
「(……わからない。私は命を壊したいと思ったことはない。だが、いつも、視界に広がる文明を破壊し続けてきた。これまでの私は、いつもそんな選択しかできなかった)」

 変わらない平坦な思念の中に、どこか沈痛な響きが聞こえた気がした。
 ……だが、勝手に読み取った感情に基づけば、どのように受け答えするのが正解なのか。

「(では、せめて視界の落ち着きますよう、これだけでも片付けておきましょう)」

 わからないなりに、ティーネは若い運転手が妙な気遣いで手渡して来れたが、全く趣味に合わない異国の玩具――座席の隅に放置しておいた、紳士風のカエルのマスコット人形を、セイバーが目に収めずに済む位置に動かそうとして。

「(待て)」

 セイバーからの制止の声を聞いた。

「(? 如何なさいました?)」
「(いや、その)」

 ティーネの問いかけに、セイバーが言い淀む。これまでの彼女の印象からすれば、その様は珍しいものに思えた。
 しかし、暫くしてもそれ以上の説明も要求がなかったので、ティーネは再び、宣言を実行に移そうとして。

「(待て)」

 またも制止の声を聞いた。

「(待て、マスター。違うぞ。その……違う)」

 しどろもどろ、と言った様子のセイバーがどんな表情をしているのかは想像できない。
 ただ、彼女が何を求めているのかは、ティーネにも予想が付きそうだった――容易に受け入れられないほどに、意外な答えだったが。
 ……一先ず、直接口に出すのは控えた上で試してみようと、ティーネは考えた。

「(……では、大王。こちらの処分は、御身にお任せいたします)」
「(ん……)」

 そうして、カエルの人形をティーネから譲り受けられるような位置に運ばれた霊体化中のセイバーは、どこか弾んだような声を返し、ティーネの推測が正しかったことをおおよそ証明してみせた。
 それが、セイバーに対してティーネの抱いていた印象が逸した、最初の出来事であった。


709 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:32:51 iH6lzP.Y0
【第十三階位(カテゴリーキング)】 ランサー



 ハートのキング。その絵札に描かれた王はシャルルマーニュ、カール大帝であると言う。
 ローランやオリヴィエ、アストルフォに代表される十二勇士を従え、自らを西ローマ皇帝と号したヨーロッパの父たる偉人中の偉人。
 フランク帝国はかつて栄えた、真にローマの系譜たる西ローマ帝国とは本来何の繋がりもない。信仰する神もまた、ローマの古典的な神々とは異なっていた。
しかしながらその一方で、彼らは古代ローマの文化や法を熱心に研究し、つまりはローマという理念に憧れ、その相続者となったという。

「――即ち、裡にローマを秘めた我が子の一人である」

 己に冠された階位(カテゴリー)、その絵札に描かれた西ローマ皇帝について、古代ローマ建国の王ロムルスはそのように述べていた。その縁があるからこそ、自らが第十三階位(カテゴリーキング)に指定されたのだと。
 他の者が言ったのであれば、節操がないようにも見えただろう。しかしランサーのクラスで再び人々の前に姿を顕した彼に対しては、そのような邪推の念が滲み出るということはなかった。

「そしてそれはおまえもだ、実加よ」

 木漏れ日を連想する慈愛に満ちた眼差しで、ランサーは今生の主を見つめていた。

「人は、人を愛するのだ。その心を育む光こそが、私(ローマ)の願った浪漫(ローマ)である。
 史上、多くの邪悪がそれを否定するだろう。しかし如何なる暗黒にも、その光を消すこと能わず。故にこそカールにも、おまえにも、遙かなる私(ローマ)の時代より継がれて来た輝きが宿り続けているのだ」

 まだ、打ち明けていないはずなのに。まるで未確認生命体に纏わる事件の数々を、否、人の世の全てを識っているかのように、深い確信と共にランサーは述べる。

「深き悲しみに見舞われようとも、その光を絶やすまいと戦い、傷つきながらも勝利してきた娘よ。ならばこそおまえは我が子である。故にこそ私(ローマ)は我が槍、我が力、我が偉業の全てを以て、おまえの敵を打ち砕こう。
 だから迷うことはない、実加よ。おまえはおまえの裡にある人間愛(ローマ)を信じ、戦い、そして勝てば良いのだ。そこに自ずと道は開かれる」

 そうして神祖は、見事なサムズアップを披露してみせた。

 ――それが本選開始の合図、その説明の中から、想像していた以上の過酷が予想される聖杯戦争に物怖じした夏目実加に対し、ランサーが見せた激励だった。

 朝。本来の出勤時間よりも早くに職場を訪れた実加は、文字通り忙殺される勢いで資料の整理を行っていた。
 実加だけではない。留学という目的で出向しているスノーフィールド警察署の国際テロリズム対策課、そこの同僚は皆が同様の状態だ。
 何故ならスノーフィールドに、『曙光の鉄槌』を自称する破壊活動組織が潜入してきたとの情報が入手されたからだ。
 真偽の程は未確認。遠い異国の反政府組織が、この街で何を目的としているのかも予想がつかない。
 しかし、彼らは自爆も辞さない危険組織だ。事実である証拠がないとしても、決して無視できるわけではない。

 おそらく、二日前の深夜から被害者が続出している『三姉妹の口裂け女』事件と比べれば、『曙光の鉄槌』と聖杯戦争の関係性は薄いものと考えられた。
 だが、この偽りのスノーフィールドの治安とは無関係ではない。
 確かに聖杯戦争を止めなければならない。だがそれは、あの日の自分のように理不尽な悲しみで涙を流す人が、一人でも減ることを願ってのことだ。
 五代雄介のように、一条薫のように――きっと、ランサーの言う人間愛(ローマ)のために。
 ならば聖杯戦争と無関係な事件さえも、警官である夏目実加は解決してみせなければならない。
 辛い二重生活になるだろうけれど、やってみよう……自分なりに、中途半端にだけはしないで。

「(実加)」

 そんな決意の下、鋭意職務に励む最中。皇帝特権EX、その破格のスキルによって気配を潜めていたランサーが、念話で呼びかけてきた。

「(どうしました、ランサー?)」
「(この警察署内に……もう一騎、サーヴァントが存在している)」

 衝撃的な告白に思わず手を止めた実加はその後、意図せず集めた衆目への対処に縮こまる羽目になるのだった。


710 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:33:44 iH6lzP.Y0
【第一階位(カテゴリーエース)】 アーチャー



 窓より朝日の差し込む自室に、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは篭っていた。
 二人部屋の主、その片割れが消えてから二度目の朝。昨日は朝から警察が来て、捜査の騒々しさに包まれていたが、今朝はそのようなこともなく。
 今は海外の両親に代わって姉妹の面倒を見ている、ということになっていた二人の同居人がそれぞれ、捜索や方々への連絡等に追われている間、学校を休んだイリヤは部屋に一人のはずだった。
 しかし、倍も広く感じられるはずの室内に、以前よりも窮屈な印象を与える、多大な圧迫感を伴う者が立っていた。

「マスターよ。貴様の仇敵が見つかったようだな」

 そう呼びかけるのは、長い布を被り素顔を隠した長身痩躯の弓兵――アルケイデスと名乗り、自らをアヴェンジャーとも称した、イリヤのサーヴァントだ。
 与えられた祝福を捨て、その命一つで神々を人の手で滅ぼさんとする彼に冠された数字は一。それが特権階級を廃し、人民の地位を向上させた象徴でもあることには、その場の誰も考えが及ばず、また興味もなかった。
 淡々とした様子ながらも、主に浴びせるその声にはどこか、暗い愉悦が滲んでいるように感じられた。

「貴様の裡に滾る、その黒い憎悪をぶつける先が」
「まだ、確定したわけではありませんよ」

 沈黙する主に代わってアーチャーに答えるのは、イリヤと彼の間で浮遊する魔術礼装、マジカルルビー。自律した思考能力を有する彼女にも、どうやらあの夢の景色は届けられていたらしい。

「監督役はあくまでカードを回収したと言っただけです。彼女がクロさんを殺害した犯人であると、即座に結びつく証拠はありません。妙な煽動は控えて貰いましょうか」
「では。中立を謳う運営NPCが、他者の戦利品を奪い取ったとでも言うつもりか、魔杖よ」
「――ッ、それ、は…………いえ、令呪と同様と考えれば、あり得る話だと思いますが」

 ルビーが一度は窮しながらも切り返した言葉に、アーチャーは頷きを返す。

「なるほど、一理あるな。だが我らの見立てはどちらも、所詮は推測に過ぎぬ。そして仮に我が読みが的中し、マスターの復讐すべき敵が監督役だと確定しても、私がその手助けをすることはないだろう」
「……何ですと?」

 態度を豹変させたような物言いに、ルビーが動揺を見せた。そして彼女のみならず、イリヤも抱えた膝の上に乗せていた視線を上げる。

「――今は、な。つまるところ、それは奴が討伐令という札を切れなくなるまでの話だ」

 その反応に、ニイと口の端を持ち上げた復讐者は、その両腕を広げて饒舌に語る。

「そして標的が監督役ではないとしても、貴様の復讐すべき相手は既に月に奪われているだろう。まずはそこに手をかけるところから始めねばなるまい。
 我が復讐の妨げとならぬ限りは、私を招いたその憎悪のサーヴァントとして在るという契約だ。それに沿う限りは、力を貸すが?」

 つまりはまず、仇敵に牙を突き立てるための準備として――他の主従の全てを抹消せよと、アーチャーは暗にイリヤを促す。
 そのために協力しろ、さもなくば殺すと。

 ……彼が提供するという力が絶大なものであることを、疑う余地などどこにもない。
 そもそも聖杯戦争にマスターとして参加してしまった時点で、サーヴァントの庇護が必要なことは明白なのだから。
 この口が紡ぐべき答えは、一つしかない。

「……まずは、あのシエルって人に会います」

 だが、実際に唇から吐き出された言葉は違っていた。

「本当のことを知りたいから。どうしてクロが……死んじゃったのかを」
「……まあ、いいだろう」

 その返答にアーチャーは些か憮然とした様ながらも、紅い手がイリヤの首に伸びるということもなく。
 様子を見守るように、一歩退くような挙動を示す己がサーヴァントの姿を見て、イリヤの胸に去来したのは切なさを覚えるような違和感だった。

(やっぱり……小さい)

 最中で断たれた、あの夢。
 冬の森で少女を救ったあの巨人(サーヴァント)の記憶の出処は、このサーヴァント以外にあり得ないはずだ。
 だがあの巨人とこのアーチャーの姿は、どうにも結び付けられなかった。そもそも骨格からして一回り以上小さいが、それ以上に。
 守護する者と、復讐する者とが、イリヤにはどうしても同一には見えなかった。

 それがなぜだか、イリヤは無性に悲しくて。
 クロの死と、この聖杯戦争と、いったいどうやって向き合えば良いのか、未だ答えは出せないままでも――この変わり果てた英雄に、ただ押し流されるだけは嫌だと。
 垣間見た冬の森の思い出に後押しされて、今はたったそれだけでも、少女は強さを取り戻すことができていた。


711 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:34:36 iH6lzP.Y0
【番外位(ジョーカー)】 バーサーカー



 遂に開始された聖杯戦争。
 月は舞台を通し、代行者を介し、その意図を参加者達へと伝達した。
 しかし、そうして与えられた知識をまるで理解できていない者が、一人だけ残っていた。
 己が置かれた状況に無自覚な彼女は愚かなのではなく、ただ、精神がその基準にも達していないほど幼いだけ。

「……つまんないの」

 呑気な嘆息を漏らす少女――ありすは、傍目には十にも満たない少女だった。
 ……実際に肉体の軛から解き放たれたのは、もう少し先でも。結局のところありすがヒトとして生きたのは、たったそれだけの時間だった。
 だから、その心は幼いまま。類まれなる素質によって、偶発的に電子の海へと流れ出て、遂には運命の札に導かれて、時空すら越えて未来の月に到達した。

 無間の孤独。そこに、お星様が落ちてきたような輝きをくれた怪物が現れて、早一晩。
 彼のくれた新しい玩具を手に、遊び相手を探しても――誰も、誰も、ありすに気づいてはくれなかった。
 誰も、一緒に遊んではくれなかった。

 街征く人々は皆、ただ流れて行くだけの風景と同じ。
 結局傍に居てくれるのは、口の利けない怪物(バーサーカー)だけ。
 それだけでもずっと、ずっと、これまでより世界が輝いて見えたけれど。ありすにはまだ、足りなかった。

 ……何故なら彼女はもう、夢見てしまったから。

「どうしてだれも、ありすと遊んでくれないのかしら」

 今までずっと、手に入らなかった思い出。
 でも、折角バーサーカーが来てくれたのに、念願が叶う気配は少しもない。
 今、ありすの手にしたトランプとは違う――もう一つのトランプ遊びに、皆が興じているのだろうか。

「あっちのトランプなら、みんないっしょに、遊んでくれるかしら」

 この箱庭の街で行われているという一大イベント。
 それが正確に意味することは、先に述べたとおり、ありすの理解が正しく及んでいることではないけれど。
 令呪という模様を刻まれた者同士が競い合う遊びの中でなら、バーサーカー以外にも、ありすに構ってくれる誰かが現れるかも知れない。

「ねえ、あなたはどう思う? あたしも、まぜてもらえるかしら?」
「……」

 少女の影(サイバーゴースト)を認識できず、触れないからと通り過ぎて行く、無遠慮なNPCの群れが作り出す人の流れ。
 残酷なまでに無関心なそれを避けて、路地裏で休憩していたありすの問いかけにも、バーサーカーは無言だった。

 当然だ。この砂糖菓子のように儚い、夢の中に残された少女の心に寄り添う代償として、彼は己の心を差し出していたから。
 故にバーサーカーは、頷きを返しすらしない。
 ただ、ありすに付き従い、護り抜くだけ。

 その覚悟の程を、未だ理解できないなりに。決して己を否定しない守護者の様子に後押しされ、ありすは一人で結論を下した。

「決めたわ! あたしも、まずはあっちのトランプ遊びに入れてもらいましょう!」

 バーサーカーから贈られた束を、大事に懐に仕舞いながらも。決心してからのありすは早かった。
 子供はいつも、思い立ったことをすぐに実践してしまえるのだから。

 その命を守る、リミッターが設けられていない故に。気づきもせず魂を燃やした少女が、膨大な魔力を練り上げる。
 理屈としては、地上で争奪された聖杯と同じだ。途方もない量の魔力が起こす奇跡の一端にして、単なる過程の短縮。歩き続ければいつか辿り着いた場所まで、一気に飛んで行くだけのこと。
 ――ありすの魂と契約によって繋がった狂戦士もまた、それに巻き込まれる。

 彼女を保護すべく、行き先も定かならぬどこかへと一緒に跳ぶことになる、その寸前。
 ほんの少しだけ、ある方角に向けてその醜悪な頭を向けた。

「――――――――■■」

 失われた人の心の中、ジョーカーアンデッドは果たして何を唱えたのか。
 誰にも解き明かせない無音の暗号を残し、死神は迷える少女と共に、何処とも知れぬ場所まで姿を消した。


712 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:35:27 iH6lzP.Y0
【番外位(エキストラ・ジョーカー)】 セイバー



 ――ふと、誰かに名前を呼ばれたような気がした。

「始?」

 未だ死を知らぬ身でありながらサーヴァントとして召喚された彼は、その無音の呼び声にあの日より別離したままの、ただ一人の同胞の姿を想起した。

「どうかしましたか、セイバー」

 そんなセイバーに問いかけるのは彼のマスター、スノーフィールド警察署長の役割を与えられたレクス・ゴドウィンだ。
 この時間の署長室に余人は現れない。故に実体化を許されていたセイバーは再現された五感と合わせて改めて周囲を探り、そして結論を下す。

「何でもない、マスター。……知り合いの声が聞こえた気がしたけど、勘違いだったらしい」
「本当ですか? あなたの懸念が当たっているとすれば……」
「そのことばかりを考えているから、かもしれないな。だけど本当に近くに居たのなら、見失うはずがないよ」

 サーヴァントであれ、アンデッドであれ。その身が同じ戦場にあるならば戦いの運命に後押しされ、互いに引き合うことになるのが自分達であると、セイバーは理解していた。
 だから、自分を引っ張る力が何も感じられない現状は、友が近くにいるはずはないという結論を、セイバーに促していた。

「確かに、戦いの中で二枚のジョーカーが存在していて。その内の一枚が俺なら、もう一人はあいつじゃないのかって考える道理かもしれない。だが、聖杯戦争はバトルファイトじゃない。一つの考えにばかり囚われるのは間違っている」

 残った者が二人だけなら、剣崎一真と相川始はもう、戦うことでしかわかり合えない。
 けれど、仮令一時だけでも。二枚のジョーカー以外にも、他のカードがその卓上に存在している間なら、あるいは。
 ……だが、それでも。

「そもそも、居ない方が良いんだ。世界を破滅させる要因なんて、少ない方が良いに決まっている」

 だから、期待なんて、しなくて良い。
 その希望は絶望への反転が約束された代物だ。
 絶望せず、しかして希望するでもなく。ただ、耐え続けること。それが地上で今も戦い続ける、本物の剣崎一真と相川始に報いることができる、セイバーなりの運命との戦い方だ。

「セイバー。もう一度、言いましょう」

 だが、そんなセイバーの様子を見咎めたのか、ゴドウィンが口を開いていた。

「確かに我らは世界の敵。存在することが既に人類に対する利敵行為となる者どもです……しかし、それでもあなたはかつて、人類を救った英雄のはず。そのあなたがうたかたの日々でささやかな報酬を望んでも、誰にも文句を言われる筋合いはないでしょう」
「マスター……?」

 セイバーの示す戸惑いに構わず、ゴドウィンは続ける。

「いずれ、あなたやその友の存在が世界を滅ぼすことになるかもしれない。しかしそのいつかは、決して今ではない。他のサーヴァントが存在する限り、この聖杯戦争においてあなた達は勝利者とならない。そんな限られた時の中でまで、友との再会という希望を拒む必要はまだ、ないはずです」

 ゴドウィンは椅子から身を起こし、セイバーのもとまで歩み寄る。

「破滅の未来を招くのだとしても、それは今この瞬間の希望を、絆を否定する理由にはならない……確かな信の置ける仲間が居て初めて、人は運命を越えることができるのですから」

 死を以て人を越え、孤独の神たらんとした男は、それでも真摯に、その言葉を紡いでいた。

「私は、その奇跡を目撃した。そして英雄であるあなたは、重過ぎる代償を承知の上で、絆を信じる未来を掴み取った。
 そのあなたがまた、自らをカード(孤独)へ封じる必要があるのだとしても。ならばその時までは、希望とともに在ってください。……私には、機会のないことでしたから」

 思い当たった節を、声には出さず飲み込んだものの。セイバーは蘇ったゴドウィンが、再会した兄ルドガーと争うしかなかったまま終わった運命に、胸を痛めた。
 その無念を抱くからこそ、あり得るかもしれない希望に自ら蓋をするセイバーに対して彼は、こうも強く訴えているのか。

「あるいは、仮初の希望を持てと、残酷なことを言っているのかもしれません。ですが君には、私のできないことをして欲しい。それが君自身に関することでも」
「……ありがとう、マスター」

 その時だけ、呼び方を主の真意を悟ったセイバーは、自然とその言葉を吐いていた。
 続いて二つの宝具の内、黄金の剣のみを実体化させる。

「この剣に誓う――俺は必ず、マスターと一緒に、運命に勝利することを」
「では……我が命運は、汝の剣に。――頼みましたよ、セイバー」

 そして、騎士の誓いは交わされた。
 今この瞬間より、改めて。運命に立ち向かう二人の戦いが開始される。
 絆という、ただ一つの切札を信じて。


713 : オープニング ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:37:02 iH6lzP.Y0







 そして、月の用意した箱庭の中に、運命のカードは配り終えられた。
 再現された偽りの聖杯戦争の地で、幾つもの出会いと、それを上回る争いの幕が上がる。
 始まってしまった物語は、結末へと向けてうねり出す。
 その運命の切札を掴み取るのは、誰か。



 箱庭の中の聖杯戦争――――開幕。



























 贋作の聖杯戦争を元に再現された聖杯戦争――同じく冬木という土地の聖杯戦争を再現するため、そして本来招かれないはずの、剪定事象を越えて異世界として確立した世界からマスターやサーヴァントを招き、さらに広範な知見を得るために。魔術儀式の舞台となる箱庭には、本来召喚され得ないはずの存在が次々と召喚された、このスノーフィールドの地の再現が選ばれた。

「……結局、昨夜のうちは誰も来ませんでしたね」

 そんな箱庭の聖杯戦争を取り仕切る監督役として、新たに用意された上級AIであるシエルは、スノーフィールド中央教会にある隠し扉の前で一人、そのようなことを呟いていた。
 予選の時分より神秘の秘匿を始めとする聖杯戦争の進行補助のために駆け回り、ようやく本選開幕に漕ぎ着けて一息つく段にありながらも。やはり初仕事となるこれからの役割がどのように転ぶのか、AIとはいえ、その興味は止まらなかったのだ。

「聞くまでもなく聖杯戦争を進めるつもりなのか、慎重派が多いのか、はたまた……この『保険』まで冬木の大聖杯から再現・調整した意味が出るのか。果たしてどのような結末に至るのでしょうか」

 ゆっくりと階段を下りながら、厳重な護りで固められた地下の保管室を目指す彼女の手には。



 彼女が『保険』と呼んだ三枚の『白紙のトランプ』が、蝋燭の灯りを白く照り返し、仄かに輝いていた。


714 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:37:47 iH6lzP.Y0

以上でオープニングの投下完了です。
続いて、参加者名簿及び追加ルールを改めて投下します。


715 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:38:38 iH6lzP.Y0



【第一階位(カテゴリーエース)】 アーチャー:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アルケイデス

【第二階位(カテゴリーツー)】 アサシン:マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト&千手扉間

【第三階位(カテゴリースリー)】 ライダー:ズェピア・エルトナム・オベローン&口裂け女(オロチ)

【第四階位(カテゴリーフォー)】 アーチャー:巴マミ&ケイローン

【第五階位(カテゴリーファイブ)】 キャスター:空条承太郎&笛木奏

【第六階位(カテゴリーシックス)】 バーサーカー:レメディウス・レヴィ・ラズエル&火野映司

【第七階位(カテゴリーセブン)】 ガンナー:トワイス・H・ピースマン&マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ

【第八階位(カテゴリーエイト)】 キャスター:音を奏でる者&欠伸をする者

【第九階位(カテゴリーナイン)】 アサシン:天樹錬&アンク

【第十階位(カテゴリーテン)】 ライダー:コレット・ブルーネル&門矢士

【第十一階位(カテゴリージャック)】 バーサーカー:御坂美琴&フランケンシュタイン

【第十二階位(カテゴリークイーン)】 セイバー:ティーネ・チェルク&アルテラ

【第十三階位(カテゴリーキング)】 ランサー:夏目実加&ロムルス

【番外位(ジョーカー)】 バーサーカー:ありす&ジョーカーアンデッド

【番外位(エキストラ・ジョーカー)】 セイバー:レクス・ゴドウィン&剣崎一真


716 : 追加ルール ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:39:54 iH6lzP.Y0
※勝利条件:13種類の『聖杯符(カリスカード)』を集め、ムーンセルの中枢『熾天の檻』へのアクセス権、つまりは聖杯の使用権を獲得するサーヴァントとそのマスターの主従になること



【『聖杯符(カリスカード)』について】
・予選の終了を合図に、サーヴァントの霊核となった『白紙のトランプ』がスートとカテゴリーナンバーを与えられ変化したものです。
 変化した後のカードの種類については、マスターはステータス欄からの確認が可能です。この際与えられる数字そのものはサーヴァントと縁のある物が(時には別スートも含み)選ばれただけで、特に(サーヴァントの格付けなどの)意味を持つことはありません。
・『聖杯符(カリスカード)』は聖杯(Chalice)を象徴とするハートスートのトランプですが、例外としてジョーカー、エキストラ・ジョーカーの二枚が含まれています。それぞれのカードは本来のトランプで言う絵札(J、Q、K)以外にも、それぞれのサーヴァントのクラスを象った絵が描かれています(>>1としては、サーヴァントのクラスカードを数字に関係なくハートのトランプにしたようなものと考えています)。
・サーヴァントが敗退・消滅した後も、その『聖杯符』は偽りのスノーフィールドに残存します。SE.RA.PH内では原則としていかなる権限・能力を用いてもこれらカードを消滅させることはできません。また、消滅していないサーヴァントから『聖杯符』を入手することも不可能です。なお、一度『聖杯符』と化したサーヴァントがこの聖杯戦争中に復活する・再召喚されることも同様にありえません。
・当聖杯戦争企画では13種類の『聖杯符』を最初に全て集めた主従が『熾天の檻』へのアクセス権、つまりは万能の願望器たる聖杯の使用権を獲得します。闘争を以って奪い合われるトロフィーカップであり、サーヴァントの魂を一時的に留めておく物質的器であるこれら『聖杯符』が、当聖杯戦争企画における『小聖杯』となります。
 なおハートスートの13枚全てが揃わない場合でも、必要なのは13『種』ですので、一枚だけならば『ジョーカー』のカードで代用することが可能です(この際、ジョーカーとエキストラ・ジョーカーは同一種扱いされます)。
・アクセス権を得られるのはあくまで”主従”であって、サーヴァント、もしくはマスター単独でアクセス権を得ることはできず、13種のカードを揃えた際に誰かしらと契約を結んでおく必要があります。
・『聖杯符』は令呪を持つ人物(現時点では各マスターと、預託令呪を保有する監督役NPC)が手にした場合、対応するサーヴァントを自らに『夢幻召喚(インストール)』することができます。


【『夢幻召喚(インストール)』について】
・『聖杯符』を媒体とすることで英霊と一時的に同化し、その宝具とスキル、身体能力を会得する機能で、使用者はそのカードを核としていたサーヴァントの能力を再現できます。この聖杯戦争においては令呪を持つ者が『聖杯符』に触れて強く念じることで発動できるとします。
 但し、厳密には完全同一化することはできないため各ステータスが本来のものより1ランク低下し、スキルや宝具の効果も劣化する可能性があります。また変身中はそのサーヴァントを使役しているのと同等の魔力消費が使用者に要求されます。


717 : 追加ルール ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:41:43 iH6lzP.Y0

・『夢幻召喚』中、使用者はその『聖杯符』に対応するサーヴァントの性質を獲得します。そのため狂化スキルによって自滅するまで魔力を消費したり、精神汚染スキルの類から影響を受けることがあるなどのリスクが存在し、場合によっては後遺症が残る可能性もあります。宝具、もしくはステータス欄に記載されていないそのサーヴァントの特性、生前の逸話に由来するデメリットも同様です。
・『聖杯符』と化したサーヴァントの人格は基本的に消滅していますが、個体差や『夢幻召喚』した者との相性によってはその記憶や魂の在り方が精神に影響を与えることもあるかもしれません。
・『夢幻召喚』しても、その『聖杯符』の元となった英霊がサーヴァントとして現界するわけではないため、現在既に契約しているサーヴァントのいるマスターでも『夢幻召喚』は可能となります。ただし、『夢幻召喚』できるサーヴァントは通常、一度につき一騎のみです。
 また、変身中の人物をサーヴァントに見立て、他のマスターと契約すると言ったことは不可能です。


【その他】
※監督役について
・シエル@月姫は当聖杯戦争の監督役として用意された運営用NPCとなります。
 彼女は予選脱落者から回収された預託令呪を保有しているため、『夢幻召喚』の利用が可能です。また、プロローグで回収したサーヴァントカード・アーチャー(エミヤ)を保有しています。

※スタンド能力に係る可視化制限について
『聖杯符』は聖杯を模した魔術礼装であるため、『聖人の遺体』のような聖遺物に近しい性質を獲得しています。
 そのため、『聖杯符』を核とするサーヴァント、及びそれと契約で繋がったマスター、または『聖杯符』そのものを保有する人物は、スタンド能力者でなくともスタンドを目視することができます。
 逆に、それ以外の者がスタンドを視認することは、そもそもスタンド使いとサーヴァント契約をしているなど特別な繋がりがあるなどの、何かしら特別な要因がない限りできません。
 なお、サーヴァントカードでは『聖杯符』の代用にできないため、オープニング時点ではシエルを含む運営用NPCもスタンドを視認することはできません。

※追加サーヴァントについて
 中央教会には、ある条件を満たした場合に追加サーヴァントが召喚される触媒となる三枚の『白紙のトランプ』が保管されています。
 条件が満たされた場合には、一騎、もしくは四騎のサーヴァントが追加召喚される場合がありますが、条件が満たされなかった場合はそのまま放置されます。
 これら予備の『白紙のトランプ』は現時点では何のサーヴァントとも繋がりを持たず、『夢幻召喚』を行うことは不可能です。また、条件を満たしても『聖杯符』に置換されることはありません。


718 : 書き手ルール ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:42:32 iH6lzP.Y0

《予約について》
・予約開始は2017/2/11(土)00:00 となります。
・予約期間は7日間、申請があれば3日まで延長可とします。


《マップについて》

 1マスの大きさは約5km×約5kmです。
 こちらで用意した地図をwikiに収録しておきます。


《時刻刻みについて》
・以下の通り四時間制を採用します。

 未明(0〜4)
 早朝(4〜8)
 午前(8〜12)
 午後(12〜16)
 夕方(16〜20)
 夜間(20〜24)

・なお、各キャラクターの初回の時間帯は「早朝」以降から選択してください。
 また、当企画では脱落者の通告等の定時放送は行われない予定です。ご了承ください。


《状態表テンプレートについて》
・基本的には他の聖杯系企画と同様のものになります。[所持カード]の欄に現在保有している『聖杯符』のカテゴリーを記入してください。


【地区名/○日目 時間帯】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]


719 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/05(日) 23:43:39 iH6lzP.Y0

以上でオープニング、及びルールに関する投下を完了します。
wikiへの収録や質問への応答、、感想については申し訳ございませんが明日の夜以降に行いますのでご了承ください。



また、事前にお願いしていた採用主従についてのステータス修正について一組、お願いしたいサーヴァントが存在するためこちらで告知します。

◆T9Gw6qZZpg氏の候補話『Father』より採用させて頂きましたキャスター・笛木奏について、宝具の追加及びステータス・スキルランクの修正を要請します。

まず、原作において重要な役割を果たした、特殊な効果を持つハーメルケインを無銘の武器の扱いというのは勿体無いという気持ちが強いため、キャスターらしく杖の宝具といった体で設定を追加して頂ければ、と思います。
また、陣地作成も笛木の場合は空間のレベルで干渉し異界化させる腕前を持っているため、Aランクが適当かと考え、修正を提案致します。
最後にこれは完全に私の感性の問題なので無視していただいても結構ですが、見栄えの問題でキャスタークラスがAランク筋力はやや高すぎるかな、と個人的に思います。
笛木の場合はインフィニティースタイルとの戦いを見るに、スペックではなく技量があの白兵能力を支えていると解釈しており、また当企画では筋力値が実際の戦闘に与える影響は微々たるものかと思いますので、ステータスの修正をご一考いただければ幸いです。



頼み事ばかりを並べており申し訳ございませんが、本日は以上となります。今後も当企画をよろしくお願いできれば幸いです。


720 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/02/06(月) 00:22:54 eZUzX6oM0
◆aptFsfXzZw氏、オープニング投下大変お疲れ様でした。

取り急ぎレスさせていただきますと、修正内容については私から特に反論したい点はないため、
氏の要求内容に沿う形で修正を行わせていただきたいと思います。
修正が済み次第改めて報告いたします。


721 : 名無しさん :2017/02/06(月) 10:56:33 WRRJxx6o0
オープニング投下乙
ああ…こいう事だったのか。気付かなかった。よく考えたもんだ


722 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/02/06(月) 23:30:22 rPrsEGwQ0
◆aptFsfXzZw氏からの要望に沿う形でキャスター(笛木奏)のステータスを改訂したので、
改めてステータス表全体を再投下します。

----



【クラス】
キャスター

【真名】
笛木奏@仮面ライダーウィザード

【パラメーター】
通常時⇒筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運D 宝具C
変身時⇒筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具C

【属性】
中立・悪

【クラススキル】
・陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
キャスターの場合、空間それ自体に位相の異なる他次元の領域を作り出すことをも可能とする。
その他、後述の宝具発動のための陣地も作成可能。

・道具作成:A
魔術的な道具を作成する技能。
さらには、後述する宝具の再生産も可能とする、

【保有スキル】
・高速詠唱:-
魔術の詠唱を高速化するスキル。
呪文詠唱は全て宝具が代行するため、必要としない。
上級魔術であっても一瞬で詠唱を終えることが可能。

・ウィザードローブ:C
変身によって身に纏うローブによる特性。対魔力と魔力放出の複合スキルで、それぞれCランク相当。
なお、このスキルは変身前の状態では一切機能しない。

・勇猛(偽):A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
精神干渉の無効化は、実際には精神汚染スキルを内包しているために実現されることとなる。
ただの一人の父親でしかなかった笛木奏は、歴戦の英霊達のような気高き黄金の精神など持たない。
愛する娘を喪った絶望と狂気。ただそれだけを糧に、彼は『魔法使い』へと変わり果てた。

【宝具】
・『詠うは白き慟哭の声(ワイズドライバー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
キャスターが腰に装着する、ベルト状の呪文代行詠唱装置。
普段はベルトに偽装されているが、ドライバーオンの指輪で本来の姿を取り戻す。
ウィザードリングを翳すことでそれぞれに対応した音声を発し、本人の詠唱無しで呪文を行使する。
『白い魔法使い・ワイズマン』に変身した状態では各能力が上昇し、ウィザードローブのスキルを獲得する。
性能は事実上『指輪の魔法使い・ウィザード』が持つ同型の宝具の上位互換であり、数々の上級魔術を行使可能。

道具作成スキルの応用により、同型の物を擬似的な宝具として再生産することが可能。勿論、相応の魔力の消費が伴う。
キャスター以外の者でも魔法使いへの変身が可能となるが、擬似宝具によって変身するのは『メイジ』という下位の魔法使いである。
『ワイズマン』への変身を可能とするのは、あくまでキャスター自身が持つオリジナルの宝具のみ。
また、体内にファントムを宿さない人間がドライバーのみで魔法使いに変身することは出来ないため、その点を解決する必要もある。


723 : ◆T9Gw6qZZpg :2017/02/06(月) 23:31:45 rPrsEGwQ0

・『煌めく亜獣(カーバンクル)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1体
生前のキャスターによって生み出された人造ファントム。科学と魔法の融合による産物。
このファントムを自らの肉体に融合させることにより、キャスターは『魔法使い』となることを可能とした。
生前はこのファントムの姿を表出させること、およびファントム自体を肉体から分離させること可能であった。
しかし宝具と化した現在では、他者と一体化して以後は表出も分離も不可能となる。
そのためキャスターが自らの力を行使するパワーソース、一種の魔力炉としての機能が主となっている。
また、魔法石の原石を精製するという元来の能力は現在も残されている。
魔法石の原石には「道具作成スキルによって新たにウィザードリングを作成する」「そのまま魔力に再変換して回復を図る」の二通りの利用方法がある。

道具作成スキルの応用により、同型の物を擬似的な宝具として再生産することが可能。勿論、相応の魔力の消費が伴う。
他者の肉体に取り込まれるまでの間は単独での行動を可能とするが、戦闘能力自体はさほど高くない。
このファントムと身体を一体化させ、ドライバーを用いることで初めてキャスター以外の者も魔法使いに変身可能となる。

・『屍殻穿つ魔杖(ハーメルケイン)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大補足:1体
キャスターが武具として用いる杖。笛と横槍を合わせたような形状。
魔力で構成された物品・肉体に対しては特に有効な破壊力を与えられる。
刃自体で魔術を切り伏せることだけでなく、魔力による障壁を発生させることも可能とする。
また、キャスター以外の者であっても武器として問題なく使用可能。

・『蝕まれし希望の光、絶望の幕開け(サバト・トゥ・ラスト・ディスパイア)』
ランク:EX 種別:対人・対界宝具 レンジ:? 最大補足:?
数多の罪無き人々を犠牲にして得た魔力を願望器に込める、贄の儀式。キャスターの反英雄としての象徴。
解放のために必要な条件は少なくとも四つ。
日食を人為的に引き起こすエクリプスリング、及び効果発動に要する多量の魔力。
生前に拿捕した『魔法使い』の代替となる、強大な魔力を有する四人の生者。
魔方陣の発動によって魔力を吸い上げられるスノーフィールド全市民。
そして、魔力を込める器となる『賢者の石』あるいはその代替物。
これらを宝具解放のために設けた陣地に集めることで、初めて解放可能となる。
その実態は、言うなればスノーフィールド全域で一斉に発生させる魂喰い。そして聖杯戦争の完遂すら要さずに起こされ得る奇跡の実現。
仮にこの宝具の効果が完全に発揮された時、何が遺されるか誰にも予測し得ない。
故にランクは測定不能。

【weapon】
・ウィザードリング
宝具『詠うは白き慟哭の声』で呪文を行使するための指輪。
生前に使用した指輪は既に一通り揃えられている。
また、道具作成スキルにより魔法石の原石から新たに指輪を作成することも可能。

【人物背景】
かつて娘を喪った一人の父親。
絶望の中、娘にもう一度生きてほしい一心で魔法の力へと手を伸ばした。
そしてあまりにも多くの人々へ痛苦と非業を振り撒いた彼は、しかし娘の蘇生を果たせず逝った。
手を下したのは一体のファントム。他ならぬ笛木によって絶望させられた青年の、成れの果て。
笛木の愛を起点とした絶望の連鎖は、笛木自身を終わらせた。

【サーヴァントとしての願い】
暦の幸福な未来。


724 : 名無しさん :2017/02/06(月) 23:32:59 rPrsEGwQ0
以上です。


725 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/06(月) 23:41:27 qRaS4PIY0
>>724

◆T9Gw6qZZpg氏、お疲れ様です。
礼を欠いたような要望にも真摯にお応えいただき誠にありがとうございます……!
早速wikiに反映させて頂きました。ご確認のほどよろしくお願いいたします。


726 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/07(火) 23:52:20 5aZC.kcc0
まとめwikiに、拙い自作ですがスノーフィールドの地図を用意いたしました。

また、近日のFate関連の展開を踏まえて、拙作の内のアルケイデス、マックルイェーガー、門矢士のステータスシートを修正しました。
スキル名の変更やそれに伴う調整になるので、本編に影響するような総合的な能力面の変化はないかと考えますが、ご確認いただけますよう合わせて報告いたします。


727 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/11(土) 00:00:01 OO35VJvA0

コレット・ブルーネル&ライダー(門矢士)、トワイス・H・ピースマン&ガンナー(マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ)、予約します


728 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:33:50 P5TCegyQ0
予約分の投下を開始します。


729 : 神は沈黙せず ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:35:54 P5TCegyQ0






 スノーフィールド中央病院。
 名の通り、スノーフィールド市の中央区に存在する大病院に、コレット・ブルーネルは居た。

 彼女は今、口が利けない。
 温度も感じられず、痛みも覚えず、そもそも触覚すら喪失している。
 味覚も喪われ、食べ物を消化することもできず、夜、眠ることも叶わない。

 しかしこれらの症状を癒やすために、コレットはこの場所を訪れたわけではない。

 そもそもこの天使疾患は、マスターとしての自覚を取り戻したことで完全に発現した、元の世界(シルヴァラント)に由来する病。
 文明レベルが遥かに優れたスノーフィールドの医療技術とはいえ、世界の理からして異なる以上、一朝一夕で解決できるものではない。
 一方で、記憶を取り戻す以前は障害もまだ幾らか程度が軽く、そう頻繁に通院する必要はない状態だった。

 故に彼女が、この中央病院を訪れた理由は、当人にあるのではなく――

「くっそ、えらそーに……!」

 たった今、同伴していたコレットと共に応接室から追い出されたこの自称・写真家の青年の仕事に付き合って、のことだった。

「何が怪奇写真はお求めしていません、だ……! 俺はこの病院のありのままを写しただけだっ!」

 門矢士の名で、スノーフィールドで活動するフリーカメラマンの役割を持つサーヴァント――ライダーは今朝方、応援するコレットに気にすることじゃない、と答えたことを綺麗さっぱり忘却してしまったかのように肩を怒らせ、行き交う人々が何事かと視線を寄せることにも意を留めずに不満を噴出させていた。
 病院のホームページに掲載する写真を更新するに当たって、公募された撮影者候補の一人として訪れたライダーだったが、案の定というべきか、現像した写真の出来を見た担当者ににべもなく切り捨てられてしまったのだ。

「――誤解を招くような物言いは控えてください。単に被写体がめちゃくちゃに歪んだだけの写真を持ってきたのはあなたでしょう」

 心底呆れたとばかりに担当者から注意され、ライダーは事実と罪悪感を指摘されてその勢いを鈍らせる。

「写真が歪んでいるのは……世界が俺に撮られたがっていないだけだ」
「(……えっと、ライダー? 落ち着こ? ねっ?)」

 憤怒に歪んでいたライダーの顔が、幾らか沈痛に翳るのを見て取ったコレットはそのように宥め、相手方にぺこりと一礼をした後、一先ず離れた待合室まで移動することにした。
 ライダーは基本的に尊大なまでの自信家ながら、どうにも写真を撮ることだけは上手くいかないらしい。そしてその点がコンプレックスにもなっているようで、写真絡みの情緒は他より不安定だ。
 もちろん、万事が万事この調子ではなく……コレットを除けば、十件連続でその腕前に酷評を受けたことがいよいよ耐えかねたのだろう、とは推測できていたので、無理からぬとコレットも思っていたのだが。

「……悪い」

 そうして、おおよその注目を避けて二人きりになった頃に、ライダーは斜に構えた様子もなく、素直に謝罪してきた。
 コレットに要らぬ苦労をかけたことか、それともまたもや仕事を逃したことにか、具体的には言及しなかったが、声色には真剣なものが感じ取れた。

「(ううん、だいじょぶだよ。ライダーこそもう平気?)」

 念話で胸の内を伝えると同時、コレットはライダーの手を取って、そこに文字を描くように指を動かしていた。

 ……ライダーは、今のコレットが直接声を届けることのできる唯一の相手だが、対外的にはコレットが発声できないことに変わりはない。
 だから人目のあるところでは念話だけではなく、シルヴァラントでロイド相手にそうしていたように会話している、という振る舞いを付け足すようにしているのだ。
 変身していないライダーは基本的にサーヴァントとして認識されないとのことだが、こういった些細なことから他の陣営に先手を取られることのないようにと、彼から指示されてのことだった。

「ああ。俺は別に、世界の全てを撮りたいだけで、写真に求めることなんて他にないからな」

 先程の取り乱し具合を思えば、白々しく感じるのが自然かもしれないが……彼の言葉は嘘ではないだろう、とコレットは思っていた。
 もちろん自らが評価され、賞賛を受けることがあればそれを喜ぶ感性はあるのだろうが、真の目的は言葉のとおりなのだろう。
 ただ、その彼が求めるだけの写真を撮ることだけが、どういうわけだが難しく。そこを無遠慮に責められても否定できないだけの自覚があり――それでも諦めず、次こそはといつも希望を抱いているからこそ、そのことだけは泰然自若としていられないだろう。


730 : 神は沈黙せず ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:37:06 P5TCegyQ0

「(ライダー。喉、乾いてない?)」

 彼の様子がある程度普段通りに戻ってきたと感じたコレットは、そこで話題を変えることにしてみた。
 家を出てから、相応に時間も経過している。そうして言い争いまでしたとあっては、そろそろ潤いが恋しい頃合いではないかと思ったのだ。

「……そうだな」

 暫し、躊躇った様子を覗かせた後。ライダーは頷くと、すぐ隣にある有料のコーヒーメーカーに歩を進めた。
 ライダーはサーヴァントでありながら、極めて特殊な例として、嗜好ではなく生理現象として寝食を必要とするのだという。
 一方で天使化の進んだコレットは、最早、飲食することすら叶わない。
 食べることの素晴らしさを知りながら、後天的な疾患でそれの叶わないコレットに対し、その眼前で自分だけが恵みを堪能することにライダーも引け目を覚えているのかもしれない。
 しかしコレットは誰に対しても、自分に遠慮などしないで、正しく人としての営みを送って欲しいと願っている。
 それを既に承知しているからこそ、ライダーも結局は何も言わず、自身の飲料だけを求めて席を立ったのだ。

 そうしてすぐ隣で、ライダーがコーヒーを淹れる間。コレットは担当者から押し返された写真にふと目線を配った。
 不可思議に歪んだ景色の中、極光にも似た幕を透かして浮かぶ、巨大な白塗りの建造物。
 外から見た病院の姿そのままとは言わないが、幻想的な白亜の城を描いたようなその一枚を、コレットはやはり嫌いになれなかった。
 個々人で感性の差があるとはいえ、もっと大勢の人にライダーの情熱が篭ったこれらの写真の魅力が伝われば良いのに……と思いながら、コレットは視線を上げる。

 歪んだ写真が素敵であることと、目の前にある実物がまたそのままでも素晴らしい物であるということは、矛盾する事柄ではないと思う。

 適度な弾力を秘めた機能と継ぎ目もない美観を両立した、滑らかな床や壁の造り。
 眼前に広がるのは、コレットの世界、シルヴァラントにはない景色。
 互いの世界は文字通り時空の断層で隔たっているのだとしても、限りなく遠くとも起源を同じくしたヒトの築き上げた文明の産物。

 与えられた知識によれば、これが神や精霊の祝福によるものでも、世界を蝕む魔科学によるものでもなく、真実人間の手による業だという。
 その事実を尊く思ったコレットは、自然とその瞼を伏せ――

「……何してるんだ?」

 いつの間にか隣に腰掛けていたライダーの問いかけに、コレットは己が掌を合わせていたことに気がついた。

「(えと……お祈り)」

 答えながら、湯気の昇る紙コップを片手に握ったライダーの、もう反対の手を取って、コレットは指先で字を書いていく。

「(シルヴァラントの皆が、無事でありますようにって……)」
「……俺には祈ったりする習慣はないからわからないが、こんなところで祈って届くものなのか?」
「(わかんない……けど、ずーっとやってきた習慣みたいなものだから、やらないと変な感じがするの)」

 コレットの返答に、一口コーヒーを啜ってから、ライダーは皮肉げに問いを重ねた。

「……こんなことに巻き込まれても、おまえに救いの一つも寄越さないような神様に、か?」
「(うん。旅は、試練だから。まず人が頑張らないと、神様はお応えしてくれないよ)」
「そうやって目を瞑っている間に、応えが来たのかわからないまま旅が終わりそうだな」

 信仰における盲目への嫌悪を隠しもせず、ライダーは吐き捨てる。

 それはきっと、彼は自分で旅をして来たからだと、コレットは思う。
 時に転んで怪我をしたとしても、道を間違え迷うことがあるとしても、それでも旅をして来た。
 誰かに案内されるままではなく、自らの選んだ道を歩み続けた。その道程に誇りを覚えている。

『生きるとはすなわち旅すること。人は皆、旅をせよ』というマーテル教の教えを誰より体現しながらも、悪魔を自称する青年は、人間の自由を尊ぶ故に。それを自ら放棄するような盲信を快く思わないのだろう。

 そしてそれは――コレットにも、いくらか共感できることだった。


731 : 神は沈黙せず ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:38:29 P5TCegyQ0

「(あのね、ライダー。もしも、マーテル様には届いてなくても……わたしの声、聞いてくれる神様は居るんだよ?)」
「……多神教なのか?」
「(ううん、そういうことじゃなくて……それにライダーにも、その神様の声は聞こえたと思う)」
「俺は一応、悪魔ってことになってるらしいんだがな」

 露骨に不機嫌さを増したライダーに対し、コレットは続ける。

「(聞こえてるよ。だからわたしを助けてくれたんだもん)」
「……は?」

 これまで、写真を撮ること以外ではずっと余裕ぶった態度を崩さなかったライダーが、真剣に意味を測りかね、困惑した表情を見せた。
 それから先程まで以上に、苛立ちをその顔へ露出させたライダーは何とかその怒りを飲み込んで、和らげた重い嘆息として吐き出した。

「……俺がおまえの前に通りすがったのは、別に神様とやらの道案内があったからじゃない」
「(ううん……ライダーの中にも、神様はいるよ。良心っていう神様が)」

 侮蔑さえも滲ませつつあったライダーは、その言葉に意表を衝かれたのか暫く目を瞬かせて、硬直していた。
 その様子が何だかおかしくて、くすりと微笑を一つ零した後、コレットは両掌を自らの胸に重ねた。

 神が、ヒトをより善き生き方を歩めるように導いてくださる指針であるのなら、誰もが心に棲まわせているはずなのだ――良心という、内なる神を。

 そればかりはライダーが否定しなかったことに、コレットは温かい安堵を覚えていた。

「(貰っただけの知識なんだけどね。この街の元になった世界で信じられてた――聖杯に纏わる神様の言葉も、わたし達の世界で信じられてる物とよく似てるの)」
「こっちの神は――まぁ、少なくとも最初から創造主が存在していたわけじゃなさそうだが」

 英霊のように、後世の信仰から近い存在が生まれているかもしれない可能性を踏まえながらも。隠蔽を言い出した手前、表に出せなかった躊躇を間隙としながら、ライダーが呟いた。

「(うん……でもきっと、その方が素敵だと思う)」
「どーいう意味だ?」

 寸前までのような悪感情もなく。純粋に興味を持ったように、ライダーがコレットに尋ねる。
 対して神子は、聖言を刻むように厳かに、悪魔の掌へとその見解を述べた。

「(『汝、殺すなかれ』、『汝、盗むなかれ』……こんな神様の教えが、本当はヒトの考えたことで。その願いが、違う世界みたいに遠く離れたヒト達の間で、同じように善いことだって信じられてるんだったら。
  ライダーが言うみたいに、誰かが道案内しなくても……人間は、自分達だけで善良であろうとしていけるんだって)」

 ユウマシ湖における、ユニコーンとの邂逅から密かに芽生えた疑問。

 神は真実、生まれ以っての神であるのか、という不敬。

 我が父を名乗る天使(レミエル)が、真実コレットの父であるのか――そんな疑念をもより加速させた一件からの逡巡は、この月より与えられた異世界の知識により、一つの着地点を見出していたのだ。

 ……神子という立場にありながら。マーテル教のみならず、そんな宗教観を受け入れられるようになったのは、常に歴史の定説を疑うリフィル・セイジに師事していたことと。
 神の教え、その遵守による報酬のためではなく……自らの良心に従って生きる、一人の少年のことをずっと見て来たからなのだろうと、コレットは思う。

「それが、おまえの本当の信仰か?」
「(……内緒にしてね)」

 マーテル教会の神子が、奉ずる神以外を信仰するというのは世間体として宜しくない。
 しかし完全な通りすがり(部外者)であり、悪魔を名乗る彼にならば、胸の内を明かせるのではないか。
 そんな思いで、コレットは告白していた。

「(それに、マーテル様を信仰しているのもほんとだよ? 苦しむ人々のために、その御力を揮ってくれた――敬うべき、素晴らしい御方だもん)」

 見返り目当てではなく、己の良心に従って正しく生きようとする人々がいたからこそ――仮令、真実の地母神ではなかったのだとしても、後に女神と呼ばれるようになった偉大なるマーテルもまた、シルヴァラントを救ってくれたのだとコレットは信じたかった。
 そんな答えに行き着くことも、彼女が神子に世界再生の旅を命じた目的なのではないかと、思うからだ。


732 : 神は沈黙せず ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:41:36 P5TCegyQ0

 アメリカという国が、二十一世紀という時代にここまで至ったように、
 神の導きがなくとも善を為し、文明を興し、繁栄に向かって前進することのできる力が人間にあるのなら。シルヴァラントの行先にも、人々がより幸福となる未来があると希望を持てた。

 ……マナの減少による、世界の衰退さえ回避できれば。

 この異界の月に囚われている間に、どうかこれ以上の悲劇がないように。
 そして己が辿るのがどのような結末であれ、再生された後の世界に、大いなる実りがあるようにと――コレットは、祈らずにはいられなかったのだ。
 ただ偉大なる存在に縋るのではなく、自らの良心でそんな明日を望み、実現へ向けて進むための、一歩目として。

 そんな気持ちを、コレットは目の前の恩人に表明していた。

「……それが、おまえの旅なんだな」

 コレットの言葉を反芻するように瞳を閉じていたライダーは、ぽつりと感想を漏らした。
 それを境に目を開けた彼は、心なし素直な表情をしているようにも見えていた。

「だいたいわかった――ま、そういうことなら、悪魔にだって神様は居るのかもな」
「(うん。居るよ、絶対!)」

 胸の前で両手を握ったコレットは、ライダーの肯定に猛烈な勢いで同意を示した。
 決して容易い道ではないとしても、良心こそが、聖杯戦争の犠牲を防ぐ結末にも繋がると信じていたから。



 ……引っ込み思案な自分が、こうも遠慮なく主張する不思議を胸に感じるコレットは。
 目の前の青年もまた、これでも彼の知己が目にすれば喫驚する神妙さを見せていることをまだ知らなかった。
 そうなった理由が、コレット自身が彼に向ける感情と似通い、また鏡写しの物であることも。

 気づかないまま、しかしその価値を損ねることもなく、暫し二人は笑顔で共に過ごしていた。













「ねえ聞いた? 口裂け女の被害者が、この病院に居るんですって」

 その後。病院を後にするべくエントランスに足を運んでいたコレットは、そのような噂話を耳にした。
 往来から離れた場所で発せられた話し声を聞き取れたのも、天使疾患の影響だ。人としての営みと引き換えに、残された視力や聴力は旅を始める以前より遥かに鋭敏となっていた。
 それだけならば、心を痛めながらも聞き流してしまっていたかもしれないが、ちょうど備え付けられたテレビでも、同名の犯人による連続殺傷事件のニュースが取り上げられていたとあっては無視できなかった。

「(ねぇライダー。口裂け女って……?)」
「……元は、日本って国の都市伝説だ」

 立ち止まり、ライダーの掌に疑問文を書くと、彼はさらに詳細に答えてくれた。
 邪魔にならないよう壁際に寄ってのやり取りは、自分がこんな身の上でなければ、ただ歩いているだけでも本来は済んだ物だ。
 不便を掛けて申し訳なく思いながらも、コレットはライダーへ質問を書き連ね、都度彼は答えてくれた。

「……周辺の国々にも伝来したとは聞いたことがあるが、アメリカではそんなに知られているような話じゃない。模倣犯が自然発生するってのも考え難いだろう」
「(じゃあ……)」
「最近急に広まり始めているオカルトだ。関係あるかもしれないな」

 後に続く単語そのものは、ライダーも口にはしなかったが、文脈から充分読み取れた。
 ――即ち、聖杯戦争と。

 神秘の秘匿という、運営側より厳命された大原則の一つをこうも軽視している立ち回りは俄には信じ難いものだが、ライダーの推測は無視できない。
 既にこの街の警察も捜査に乗り出しているということだが、口裂け女事件がサーヴァントの関与しているものだとすれば、彼らではきっと敵わない。さらに多くの悲劇が生まれてしまうことだろう。

「それで、おまえの良心(神様)はなんて言ってるんだ? コレット」

 そんなコレットの内心を読んだかのように、ライダーは問いかけを浴びせて来た。

「(……止めなきゃ)」

 無論。この時も、神は沈黙してなどいなかった。

「(これ以上、誰かが傷つけられちゃう前に)」

 その声はコレットに強い決意を固めさせ、次なる方針を明確にさせる。
 ただ、いくら強く決意しても――コレット一人だけでは、聖杯戦争においてはあまりにも無力だ。
 だから。


733 : 神は沈黙せず ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:44:07 P5TCegyQ0

「(……ライダー。お願いしても、だいじょぶ?)」
「何度も同じことを言わせるなよ。俺の選んだ役割は、おまえが信じる道を行く自由を護ることだ。
 それにどうやら悪魔の神とやらも、おまえの神様と同意見みたいだからな」
「(そっか……ふふ。じゃあ、その神様にも御礼を言わなきゃだね)」
「……必要ないだろ。ほら、行くぞ」

 コレットの掌を振り払い、ライダーは行動に移るよう促した。
 頷きを返し、コレットは素っ気ない様を装う彼の背中を追いかけることにした。

「(ありがと、ライダー)」

 その背中越しに、心の声だけでも。感謝の言葉を、確かに新たな仲間へと届けながら――

「――――?」

 その時、不意に。視線を感じたような気がして。
 振り返ったコレットは、しかし天使に近づいた目にも耳にも、その主を認識できず。
 振り向くまでの間に隠れた気配も、消えた人影もないだろうことを、周囲を行き交う人々の平常極まる様子から推察するまで、暫し立ち尽くしていた。

「どうした?」
「(――ううん。ごめん、何でもないみたい)」

 その様子を訝しみ、微かに緊張の色を増したライダーの問いかけに首を左右に振りながら、コレットは改めて出口へと歩みを進めた。













 ……聖杯戦争に参加するマスターには、目にしたサーヴァントのステータスを視認できる特権が与えられている。
 筋力や耐久といったパラメータ、さらに解読していけばスキルや宝具に至るまで、その霊基を構成する情報を具に読み解いていくことができるのだ。

 しかしそれは、あくまで目視した時に得られる特典でしかない。
 逆を言えば、単純に視線を隔たれていただけで――すぐ傍にサーヴァントが居ても、その気配をスキルにも成り得ないレベルであれ隠されてしまっていれば、マスターには発見することができないのだ。

 ――だから金髪の少女は、幾枚もの内壁に阻まれた先より己を監視するサーヴァントの存在に、気づくことができなかった。



「(マスターを見つけたわ、トワイス)」

 外来患者を装い病院内を闊歩する、古めかしいフリッツヘルムを被った欧州系の若い女――ガンナーは、やはり壁を隔てた診察室に待機する医師に向けて、そのような思念の声を飛ばした。

「(おや。患者の中にはマスターは居なかったはずだが……外来かね?)」
「(そうね。あまりよくないものに憑かれているわ。でもそれを治しに来たわけじゃなかったみたい)」

 脳内へと直接響く返答に、鉛色の髪を揺らしたガンナーは小気味よく応じて行く。
 彼女のマスター――中央病院勤務の脳外科医という役割を今も演じているトワイス・H・ピースマンは、説明するガンナーの声色を読み取ってか、自身も興味を惹かれたように尋ねてきた。

「(それで、お眼鏡には叶いそうかな?)」
「(そうね……あたしは好きだわ、ああいう子)」

 人間の想念から生まれた神であるマックルイェーガー――ガンナーにとって、神という概念を重んじてくれる人間が好ましい対象であることは言うまでもない。
 特に宗派に囚われず寛容であり、過酷な境遇にも負けず人間の善性を信じてくれるような優しい子とくればなおさらだ。
 そんな、一人の少女の背負う因果、その果てに導かれた心の在り様までも、神の視座から見れば赤裸々に読み取れる事柄であった。

 ただ、優しい人間が好きだというのは、マックルイェーガーの一面から見た話。

 そんなガンナーにとっては好ましい、という言い回しに、含むものを感じたのだろうトワイスはやや硬い様子で問うた。

「(では、私とはどうだ?)」
「(たぶん、相性最悪じゃないかしら)」

 人間の傍に在り続けたが故に、ガンナーの千里眼はそんな結論も容易に導けた。
 ヒトに望まれた神、人間を愛する神として、善良なる人間を好むのは嘘偽りのない事実ながら、同時に。マックルイェーガーは、戦女神である。
 優しき少女を好ましく感じる慈愛の精神と、数多の死を齎すトワイス・H・ピースマンの思想に共鳴する危険性とは、いずれも彼女を構成する一側面として等しく含有される要素だ。
 そして今のマックルは、ガンナー。トワイス・H・ピースマンとの契約によりこの世界へ招かれたサーヴァント。
 聖杯戦争による犠牲を望まぬ信心深い娘が居ようとも、人類の救罪を願う亡霊の側にこそ立つことを選んだ邪神に他ならない。


734 : 神は沈黙せず ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:45:31 P5TCegyQ0

「(そうか……まぁどちらにせよ、君はマスターは狙わないとのことだ。向こうはこちらに気づいているのか?)」
「(いいえ)」
「(なら、顔だけ覚えてこの場は見逃すかい?)」

 トワイスの目的には合致せず、即ち戦場に送り込む意義は薄い。
 そして聖杯戦争は未だ開幕したばかり。無闇な消耗を避けられるならばその選択こそが賢明だろう。

 そういったありきたりの理由だけならば、トワイスが戦いを見逃す素振りを示すことすらなかったろうに。なまじ、ガンナーが対象への好意を表明していることが遠慮させたのだろうか。

 そんな調子ではこの先苦労するぞ、と内心苦笑したガンナーは、婉曲的に助け舟を出してみることとした。

「(んー、折角見つけた最初のマスターだし……それに、どちらかというサーヴァントの方が気になるのよね)」
「(というと?)」
「(うん……あのサーヴァント、何者なのかは知らないけれど、どうもまだ生きている人間みたいなの)」

 繋がった念話越しに、トワイスが驚いたのをガンナーは認識した。

「(そもそもあの二人の関係を見てそう判断しただけで、彼のことをサーヴァントとは普通は認識できない……今のところはね。
 よくよく見てみればちゃんと霊核……に当たる部分は『聖杯符』になっているみたいだけど。便宜上は疑似サーヴァント、とでも言えば良いのかしら)」
「(……だから、そのサーヴァントは君に気づかなかった?)」
「(たぶん)」

 一方的な捕捉は索敵範囲の差だと思っていたのだろうトワイスが、事態の深刻さを咀嚼するようにして沈黙する。
 その横で、ガンナーは東洋人の青年に注目を移したことで、知り得た情報を伝えていく。

「(免許証を持っているみたいね。ツカサ・カドヤ……単なる偽名なのか、真名として座からあたしに伝えられたのは別の名前なのか、どっちかしら)」
「(……視覚を共有しても、私も彼をサーヴァントとして認識できない、か。階位(カテゴリー)すら見通せないとは、聖杯戦争に例外は付き物とはいえ、些か登場が早すぎる気もするが)」

 考察を重ね合う中で、トワイスが苦笑する。少しだけ表情に出てしまって、周囲から訝しまれているが当人は気づいていない様を、壁越しにガンナーは眺めていた。

「(ムーンセルが受け入れたイレギュラー……なるほど、興味深い話ではある)」
「(でしょ?)」

 そうして、乗り気になったマスターに相槌を打つ。
 彼はそれで良い。戦争という概念に縛られた亡霊。かつての自分と同じ。
 この先、もしもそこから変化することがあるとしても。ガンナーに対する勘違いが理由で捻じ曲がっていては、他ならぬ彼が報われない。

「(わかった。その二人の後を追ってみてくれ、ガンナー)」
「(了解よトワイス。それじゃあたし、お出かけしてくるわね)」

 答えながら、ガンナーは足を進める。院内の監視カメラが在る手前、ここで不用心に霊体化することなく、出口までのんびりと徒歩で向かうことにした。

「(ああ、そうそう。もちろん何かあればあたしが何とかしてあげるけど、例の被害者には気をつけておいてね。この先がはっきりとは視えてないけど、どうにも悪い気配があるから)」
「(……承知した。余計なお世話だろうが、君も油断しないように」

 平穏を乱すために寄り添い舞い戻った二人の亡霊は、皮肉と思いながらも互いの無事を祈り合い、そして一度距離を取った。

 単独行動スキルも活用し、別行動を開始しながら、ガンナーは一人呟いた。

「さぁて。今度のあたしは、簡単に黙って消えたりしないわよ」

 それでもなお必要ない、というのであれば、この銃神が身を引くに相応しいものを示してみるが良い。

 あの日の英雄のように。輝く勇気と知性と正義、即ちヒトの素晴らしさというものを。



 そんな猛りを抱えながら、女神は天使と悪魔の後を追い始めた。


735 : 神は沈黙せず ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:46:27 P5TCegyQ0

【E-5 中央病院周辺/1日目 午前】

【コレット・ブルーネル@テイルズオブシンフォニア】
[状態] 天使疾患終末期(味覚、皮膚感覚、発声機能喪失中)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] チャクラム(破損中)
[所持金] 極少額(学生のお小遣い未満)
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に巻き込まれた全員の生還
1.聖杯戦争に関係のある被害を食い止める。
2.まずは『口裂け女』事件と聖杯戦争の関連性を探る。
[備考]
※ライダー(門矢士)が生きた人間(疑似サーヴァント)であることを知らされていません。
※スノーフィールドにおける役割は「門矢士に扶養されている、重度の障害を持つ親類」です。


【ライダー(門矢士)@仮面ライダーディケイド】
[状態] 健康
[装備] 『全てを破壊し繋ぐもの(ディケイドライバー)』、『縹渺たる英騎の宝鑑(ライドブッカー)』、『世界を駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』
[道具] 『伝承写す札(ライダーカード)』、『次元王の九鼎(ケータッチ)』
[所持金] 数百ドル程度
[思考・状況]
基本行動方針: コレットの十番目の仲間としての役目を果たす。
1. コレットと協力し、彼女のサーヴァント、かつ、一人の仮面ライダーとして戦う。
2. 『口裂け女』事件を追う。
[備考]
※サーヴァントですが、「(自称)フリーカメラマン」というスノーフィールドにおける役割を持っています。
※スノーフィールドでライダーが撮影した写真には奇妙に歪みが発生します。




【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 医師相応
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:全人類のために大戦争を起こさせる、後継者たるマスターを見出す
1.当面は様子見を続ける。
2.ガンナーにイレギュラーのサーヴァント(門矢士)を追わせる。
[備考]
※サイバーゴーストに近い存在ですが、スノーフィールドでは中央病院勤務の脳外科医という役割を得ており、他のマスター同様に市民の一員となっています。
※イレギュラーのサーヴァント・門矢士の存在を認知しました(ただし階位とクラス、「仮面ライダーディケイド」の真名は未把握)



【ガンナー(マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ)@レイセン】
[状態] 健康
[装備] 無銘・『フリッツヘルム』
[道具] なし
[所持金] ほどほど
[思考・状況]
基本行動方針: トワイスとの契約に則り、人類規模の戦争を起こさせるために戦う
1. 自分自身も『戦争』を楽しむ。
2. 『口裂け女』事件を追う。
[備考]
※闘争ではなく作業的虐殺になりかねないので、マスターは基本的には狙わない方針です。
※口裂け女の被害者に宿る、悪い気配を感じています。


736 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/17(金) 22:50:01 P5TCegyQ0
以上で予約分の投下を完了します。

続いてイリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー(アルケイデス)、マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト&アサシン(千手扉間)、シエルを予約します。


737 : 名無しさん :2017/02/19(日) 23:34:34 mzCB3PJI0
投下お疲れ様です
コレットの信じる良心と言う神様は世界の破壊者や古の戦神にも受け入れられて何より
しかし信仰の違いが争いを生むのは世の常といいますか、同じ人の可能性や未来を信じるにしても闘争という全く別の方向を向いているトワイスとは相性が悪そう
流行病のように蔓延する口裂け女の噂も相まって今後が楽しみになる不穏な空気を感じられました
キャラクターの内面を通じて世界観をつなげる書き方とても見事だと思います


738 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/23(木) 22:44:18 qQRJY0ng0
予約を延長します。

>>737
ご感想ありがとうございます!
励みとして頑張ります。


739 : ◆GO82qGZUNE :2017/02/24(金) 21:49:29 FRtNSUdU0
天樹錬&アサシン(アンク)を予約します


740 : ◆GO82qGZUNE :2017/02/24(金) 21:49:57 FRtNSUdU0
投下します


741 : 王と悪魔と始まりの朝 ◆GO82qGZUNE :2017/02/24(金) 21:50:54 FRtNSUdU0





―――空間を認識する。

 情報の存在に付随する構造体の変位として、天樹錬は仮想的に構築された世界を知覚する。
 視覚は必要ない。ノイズになる。だから、目を閉じる。聴覚も不要、嗅覚も不要。味覚、触覚―――五感の全てを脳から遮断すれば、あとにはただ、I-ブレインに投影された霊子虚構時空の構造情報だけが残される。
 脳内に構築されたイメージの『世界』に色彩という概念は存在しない。どこまで行っても無色透明の虚ろな空間。その中心にぽかりと浮かぶ、I-ブレインの中の『自分』。

(I-ブレイン通常起動。情報検索状態へ移行)

 眼前の一点を中心に、光が生まれる。
 抽象代数によって記述された脳内空間に、対象が持つ仮想的な空間構造が再現される。
 空白の世界を縦横に貫いて、光の線が走る。
 座標軸を現す無数の細線が、等間隔かつ平行に、世界の果てまでを満たす。初めは横、それから縦、高さ、そして時間。空間三軸、時間一軸、四方向に延びる光の線が、巨大な四次元の格子模様を形成する。

(未確認情報空間へ接続。演算処理継続)

 I-ブレインの感覚を他人に説明するのは難しい。通常のディスプレイのように画面が目の前にあるわけではないが、かといって21世紀の終わりごろに流行ったような、五感の全てを仮想世界に没入させるフルダイブ形式とも違う。
 肉体の感覚を全てこちら側に残しながら、同時に額の裏、すなわち脳内にもう一人の自分を用意するのだと例えれば適当だろうか。物質的な感覚と情報的な感覚、その二つを同時に体感する二重感覚。完全に覚醒しながら見る白昼夢と言ってもいい。
 光の線が縦横に貫くあちら側に佇む『もう一人』の錬の周りには無数の窓が並び、その中を高速で文字列が流れていく。やろうと思えばもっとリアリティのある、それこそ現実世界と区別がつかないような仮想世界を脳内に構築することもできるが、I-ブレインに負担をかけるだけなので何の意味もない。少なくとも、作戦行動中に取るべき行いではないだろう。
 そう、今は作戦行動中なのだ。

(高密度情報構造体を確認。接続―――……成功。当該情報構造体名をSerial Phantasmと定義)

 情報空間とは、正確には空間ではない。情報を蓄積し、計算する構造物。その内部に意識を接続した状態での情報処理領域を指す。有体に言うならば、そう、情報書庫(ハードディスクデータ)であろうか。
 錬はそこに介入しているのだ。本来ならば卓抜したウィザードですら困難極まる作業を何ともなしに、当たり前のように。
 膨大な演算処理能力を以てして。


742 : 王と悪魔と始まりの朝 ◆GO82qGZUNE :2017/02/24(金) 21:51:31 FRtNSUdU0

(解析開始)

 世界は『情報』でできている。
 森羅万象のすべては、物体が支配する通常の世界と、数値パラメータが支配する『情報の海』の二重映しによって構成される。
 二つの世界は合わせ鏡。一方が動けば他方も動く。物体の運動は情報を変位させ、情報の変位が物体を運動させる。超高速の演算処理は情報の海を書き換え、通常の世界の在り様を変化させる。
 脳内に生体コンピュータ『I-ブレイン』を備え、物理法則を超越する者たち。
 名を、魔法士といった。

(No.0からNo.10^22-1までをクリア。把握領域を拡大)

 無機的な空間を潜っていく。光の線が走る最中を、虫食いの穴をかいくぐるように突き進む。
 高密度情報構造体、ムーンセル・オートマトンの一部たるSerial Phantasm、そこを基点に更なる潜航を果たす。
 そして錬は何か壁のようなものに接触し、該当情報を得るためにそれを振り払おうとして―――

(―――エラー。規定条項への抵触を確認。容量不足、強制終了まで残り10ナノセカント)

 瞬間、錬の知覚領域を膨大な"光"が呑みこんだ。
 目標に触れた途端に、錬のI-ブレイン内に大量の情報群が流れ込んだ。錬の知覚には、それはまるで海のようにも見えた。現実の視覚をカットしアナログ化させた脳内世界を、しかし非現実的なまでにリアルな視覚イメージで以て埋め尽くされた。圧倒的なまでの情報密度である。四方は淡青色の海中が如き情報群で占められ、大量の文字列が上から下へと流れていく。
 そしてその全てを覆い尽くす怒涛のノイズ、ノイズ、ノイズ―――

 完全に遮断したはずの聴覚を苛むノイズ音を振り払い、錬は苦し紛れに手近なオブジェクトへと手を伸ばす。
 アクセスは不可。これ以上踏み込めばI-ブレインごと脳を焼かれる。故に、"警告"以上の抵触を起こさないよう情報をかき集める。
 1ナノ秒経過―――作業完了。
 更に1ナノ秒経過―――データ参照、運営から与えられた知識との整合を開始。

 項目:令呪―――不整合はなし。
 項目:英霊―――不整合はなし。
 項目:聖杯符―――不整合はなし。
 項目:夢幻召喚―――不整合はなし。
 項目:聖杯―――不整合はなし。

 6ナノ秒経過―――検証終了。与えられた知識と掴み取った情報との間に一切の齟齬はなし。

(高密度情報構造体との接続を強制終了。全システム、正常に再起動)

 その文字列が脳内に表示された瞬間、錬の意識は急速に浮上し、光と情報に埋め尽くされた視界が一面の闇へと切り替わった。





   ▼  ▼  ▼


743 : 王と悪魔と始まりの朝 ◆GO82qGZUNE :2017/02/24(金) 21:52:19 FRtNSUdU0





 微かに痛む頭を抑え、天樹錬は静かに目を開いた。
 思考の主体が『現実側の自分』へと復帰し、五感の機能が回復する。操作端末のディスプレイが仄かな燐光を放つ部屋の中、現実世界に戻った時特有の苦みが口の中に広がる。
 網膜に飛び込んでくるのは、窓から差しこむ眩しいくらいに明るい陽射し。ぴよぴよと、風の音に混じって鳥の声が聞こえてくた。
 清々しい朝であった。

「……ふぅ、危なかった」
「で、何か分かったのか、レン」

 安堵するように嘆息する錬にかけられる、労いの欠片もない無遠慮な声。
 振り返れば、そこにはアサシンの姿があった。

「そうだね、とりあえず監督役のNPCが言ってたことに嘘はないってことくらいかな。あくまで表層的には、だけど」
「それだけかよ。もっとこう、ムーンセル自体に介入とかはできねえのか」
「うーん……僕の知る限り最高のハッカーを百人用意して、僕と同じくらいの処理能力がある端末を三台ずつ渡して、五万年かければ手がかりくらいは」
「無理なもんは素直にそう言えよ」

 無理難題ふっかけてきたのはそっちでしょ、と苦笑いしながら、錬はうなじに接続していた有機コードを引っこ抜く。その反対側は、机に備え付けられたノートPCに繋がっていた。

 錬が行っていたのは簡易的なハッキングだ。
 この虚構世界そのものを構築している大本へのアクセス、それによる情報収集と、与えられた知識との齟齬の確認である。
 とはいえそう大仰なものではなく、あくまで簡易的なものだ。あまりにも時間が足りず、接続の基点が市販の情報端末と共有のネットワークシステムなことも相まってか、ほとんど既存の情報から発展した成果を挙げることはできなかったことからもそれが分かる。
 無論、あわよくば"聖杯"へのショートカットも……という考えはあったが、やはり現実はそう上手くいかないもので、ムーンセルへの完全な介入は現時点においては「絶対的に不可能」と結論を出さざるを得なかった。
 単純な演算速度もそうだが、それ以上に技術体系そのものが錬の知る情報制御理論とは姿を異とするものなのだ。あれは単純な科学技術のみならず、魂の量子化というある種の魔術的な見地が解析に必須なのだ。少なくとも錬単体では、この絶対的な隔たりを何とかする手段はない。


744 : 王と悪魔と始まりの朝 ◆GO82qGZUNE :2017/02/24(金) 21:52:45 FRtNSUdU0

「で、お前これからどうする気だ?」

 と、思考の海に埋没しかかった錬の耳に、再びアサシンの声。
 考えをとりあえず保留として頭の隅に放り込みながら、何でもないふうに錬は答えた。

「まあ、暫くは潜伏だね。情報収集と様子見に徹する」
「弱腰、ってわけじゃねえだろうな」
「もちろん」

 錬の言う戦術は、アサシンを引いたマスターとしては定石である。アサシンのクラスは単純なスペックで他のクラスに劣る反面、サーヴァントがただそこにいるだけで垂れ流してしまう強大な魔力反応と気配を隠蔽する「気配遮断」のスキルを持つ。
 故にアサシンのサーヴァントの本領は、言うまでもなく潜伏と暗躍だ。あるいは暗殺者の名に相応しく、隙を晒した他マスターたちを闇討ちするのもそうである。つまるところ、表立って華々しく戦うようなクラスではないのだ。
 幸いなことにマスターである錬もまた、そうした潜入工作の類は仕事柄お手の物である。相性という面ではなるほど確かに、彼ら主従は良好と言えるだろう。

「フン、だが忘れるなよレン。俺はあまり気が長いほうじゃない。当面はお前に合せてやるが、俺が"動くべき"と判断した場合には……分かってるな?」

 だがこのアサシン―――アンクほど暗殺者のクラスに似つかわしくない英霊もそうはいないだろう。
 彼はアサシンのサーヴァントとしては破格のスペックを誇る英霊だ。三騎士はおろか騎兵とすら打ち合えないのが定石のアサシンにおいて、彼はスキルや宝具次第では三騎士にも比肩し得るステータスを誇る。
 しかし、それはあくまで"条件次第では"の話だ。宝具を使えば強い、などというのは当たり前の話で、なおかつ宝具(それ)を持つのはアンクだけではない。故に、総合的に見れば彼は三騎士相手に決して油断できないという程度の力しか持たないと結論付ける他ない。
 同時に、彼はアサシンとしての技量に乏しい。アサシンとしての技量というのは、つまりは潜入・潜伏の工作能力だ。気配遮断のスキルランクこそBとそれなりだが、この欠点はアサシンとしては致命的だろう。

 言ってしまえば、アンクは単純戦力としてもアサシンとしても器用貧乏なサーヴァントなのである。無論それら双方を高レベルで両立しているのは破格と言う他ないが、それぞれを個別に見た場合には一流のそれには決して及ばない。加えて前述の性格だ、どうしても不安は残ってしまう。
 だが、しかし。

「うん、分かってる。サーヴァントへの攻撃のタイミングはアサシンに任せるよ。思考に拠らない直感じゃまるで敵わないわけだしね」

 同時に、アンクだけが持ち得る思考的な強みというのもまた存在していた。野性的な直感、狩るべき獲物を知り尽くしているが故の経験則。言うなれば獣の強さだ。そして彼は傲慢な性格とは裏腹の極めて合理的な思考回路を持つ以上、感情に任せてそれらを放棄する愚を犯すことはない。
 その一点において、錬はアサシンを信頼していた。期待と言い換えてもいい。それを前に、アサシンは不貞腐れるように一回だけ鼻を鳴らす。

「結局のところ、僕らは圧倒的に情報が足りてないんだ。敵マスターの所在に戦力戦況、事前情報はできるだけ手に入れるべきだ。
 そしてそれは、虱潰しに当たるなら人の多い場所のほうが効率もいい」
「つまりこういうことだ。お前は要するに」
「うん、要するに」

 そこで二人は、顔を見合わせ。

「そろそろ登校の時間ってこと」

 遅刻まであとぎりぎりと言ったところまで差し迫った時計の針が、無情に朝の時間を告げていたのだった。


745 : 王と悪魔と始まりの朝 ◆GO82qGZUNE :2017/02/24(金) 21:53:05 FRtNSUdU0

【D-6 学生寮/一日目 午前】

【天樹錬@ウィザーズ・ブレイン】
[状態] I-ブレインに蓄積疲労(極小)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] ミスリル製サバイバルナイフ
[所持金] 学生並み
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得による天使の救済。
1.暫くは情報収集に徹する。
2.まずは普通に登校し、サーヴァントの気配及びマスターの痕跡を探す。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は日系の中学生です。
※ムーンセルへの限定的なアクセスにより簡易的な情報を取得しました。現状はペナルティの危険はありません。


【アサシン(アンク)@仮面ライダーオーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 欲核結晶・炎鳥(タジャドル・コアメダル)
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:王として全てを手に入れる。
1.レンに合せて他陣営を探る。場合によって戦闘も視野に入れる。
[備考]


746 : 名無しさん :2017/02/24(金) 21:53:33 FRtNSUdU0
投下を終了します


747 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:47:18 WHpu05Zs0

◆GO82qGZUNE氏、ご投下ありがとうございます!

>王と悪魔と始まりの朝

 世界は『情報』でできている。
 ウィザーズ・ブレインの持つ雰囲気を醸し出すにはやはりこの、情報制御の描写がどこかで欠かせないのでしょうが、流石氏となれば表現も巧みなもの。
 原作通りのハッキング描写、からの、相手が錬でさえも及ばぬ神の頭脳・ムーンセルであるということを知らしめる文章。ハッキングのイメージに光や海といった、ムーンセルやセラフのキーワードが踊るのにわくわくします。
 そうして敗北しても減らず口を叩く負けず嫌いな一面も、錬の少年らしさと、アンクとの類似性の一つを併せて描写していてお見事です。
 最後に絶妙にハモる様と言い、二人の意外な茶目っ気というか、アンクが錬を気に入っているという感じがしてとても良いですね。
 さて、そろそろ登校の時間。偽りとはいえ錬にとっては初めての学園生活ですが、いつかそんな当たり前の幸福にフィアの姿が加わることを願って戦うのだろう少年を応援していきたい気分です。
 改めて、ご投下ありがとうございました。たいへん楽しく読ませていただきました。

 それでは私も、これより予約分を投下します。


748 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:48:58 WHpu05Zs0







 スノーフィールド中央教会。
 街が多種多様の人種を受け入れたことで、合衆国にある何割かの教会同様、宗派を問わずに信者を受け入れる市内最大のそこは、礼拝の日や日曜学校には多くの信徒が足を運ぶ場所だ。
 しかし平日の午前中となれば、そも信者の多くも社会活動に従事していることがほとんどであり、ステンドグラス越しに陽光の差す広大な礼拝堂内は閑散としていた。

 元はそこの清掃でもしていたのだろう尼僧が、今まさに奥へ引き上げようとしたところに、彼は声をかけた。

「お忙しいところ失礼します、シスター」

 意識の埒外から音もなく出現した人影に、一瞬以上の時間、呆気に取られていた修道服の女性――当聖杯戦争の監督役であるシエルは、昨夜の通達をなぞった少年の挨拶にしかし取り乱すことはなく、次のように返答した。

「――――とんでもない。ようこそ、マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト王子」
「へえ。マスターが誰かだけじゃなくて、元の世界での経歴も把握してるんですね」

 隙を衝いた一瞬に主を招いた、と同時にその身を再び霊体化させたアサシンを万が一のために控えさせたまま、そのマスターである少年――マヒロはシエルの呼びかけに応えた。

「はい。その点については先の通達に合わせて、ムーンセルから情報が提供されていますので。本来の聖杯戦争ならマスターは監督役に参戦を申告するものですから、把握しているのが自然な状態ですからね」

 対し、それも再現の一環、とばかりにシエルが説明する。

「厳密に言えば、教会の中立地帯に監視等でマスターが干渉するのも冬木の聖杯戦争では禁則事項なのですが……この街しかない、セラフという箱庭の中では地上とも事情が違いますし、特に通達も行っていませんでしたからね。聖杯戦争の公平な進行に影響が出ない限りは見逃しましょう。
 それで、ご用件は? 他の陣営に追い詰められて、中立地帯に逃げ込んだという様子ではありませんが、もしもそのような理由であればペナルティも覚悟してくださいね?」

 教会内にまで一瞬で転移してきたことに、今後そのような目的で行動に移さないよう釘を刺してくるシエルに、マヒロは苦笑する。

「いえ、余としては目の保養に美しいシスターのお顔をもっと間近で拝見できれば……と思う気持ちもいくらかあるのですが」
「……」

 相好を崩しての発言に、シエルが心なしジト目となり、背後のアサシンからも無言の圧力が発せられた。マヒロは小さな咳払いを一つ挟んで仕切り直す。

「聖杯戦争に臨むに際して確認したいことがありますので、ご案内通りにお伺いさせて貰ったわけです」

 教会に足を運ぶことが、マヒロが最初に選んだ方針だった。
 そしてそのタイミングは、アサシンの能力を顧みるに、同じように役割を演じ衆目を欺きながら、他陣営の監視が薄い日中こそが適時であるとマヒロは判断していた。
 今頃は面倒な授業を押し付けられた替え玉が講義に出席している頃だろう――と、こんなところでも押し付けられた学業の閉塞感から逃れられた喜びをこっそり堪能しながら、マヒロは口を開いていた。

「本選が開始されるまでは小聖杯についても情報は伏せられていましたし、他に余が気にかかっていた事柄も合わせて開示されるのだとすれば、監督役に何度も同じ説明をさせるのも申し訳ない。昨夜の通達でご教授頂きました事項を余なりに整理した上で質問させて頂こう、と考えていた次第なのです」
「そうでしたか。それはお心遣いありがとうございます」

 すべてがすべてを真に受けたわけではないのだろうが、一先ず納得した様子でシエルは礼を返してきた。

「いいえ、どういたしまして。ちなみに聖杯戦争における公平性を損なわない質問なら、参加者の誰に対しても同様にお答えされるのですよね?」
「はい。我々はあくまで聖杯戦争の円滑な運営のために用意されたNPCですので。王子にも身寄りのない子供にも、迷える子羊には等しくお答え致しましょう」

 ――まず一つ、言質を取った。

 己の言い分で相手の言い分を引き出せた手応えに、内心でマヒロは小さな笑みを浮かべる。


749 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:51:06 WHpu05Zs0

 ……マヒロの方針は、一切の暴力に頼ることなく、言葉だけで聖杯戦争に勝利すること。

 馬鹿げてはいるだろうが、何の力もないマヒロには、それしか術が存在しない。
 それは死した者への冒涜だと言われても、パリエルの国を滅ぼしたようなものに頼る気持ちには、どうしてもなれない。
 だからマヒロは、家族から授けられたその武器だけで、それでも何かができるはずだと二年以上、大陸中で戦ってきた。

 そうして一定の成果を上げてきた以上、付け焼き刃で戦おうとするよりも、今回の戦争でも、使い慣れた武器を選ぶ方が論理的であると結論した――実のところは単純に、今更生き方を変えられなかっただけかもしれないが。

 感傷はさておき。積んできた経験から語れば、話し合いという戦場に必要なのは、言葉だけではなく切るべきカードだ。『聖杯符(カリスカード)』に限らず、情報でも物品でも感情でもとにかく何でも、交渉の材料となるカード。
 しかし今のマヒロは、他者に対して切れるカードをほとんど持っていない――故に、それを作りに教会に来たのだ。

 現状で唯一、何の対価も払わずとも、すべてのマスターが言葉を交わすことのできる相手の元に。

「それで、肝心のあなたのご質問とは?」
「はい。神秘の秘匿に関することなのですが、具体的にはどういった状況を避けるべきなのかを、ご教授いただきたく」
「――ああ、なるほど。そういうことですか。確かに気にかかるでしょうね。神秘がありふれた世界に生きた、あなたのような方ならなおのこと」

 得心が行ったという様子で、シエルはうんうんと頷いた。
 ……安心させるような笑顔の中で目が笑っていないのは、こちらの経歴を知られているからだろうな、とマヒロは推測した。
 若干のやり難さを覚えるものの、しかし公正な監督役というのは事実であるようで、隠し立てする様子もなくシエルは続ける。

「これは問われれば誰にでも答えられる内容ですし、構いませんよ。どうぞ遠慮せずお聞きください」
「ありがとうございます。では、そもそもの前提から……神秘の秘匿は聖杯戦争の再現度を高めるためのロールプレイとのことですが、そもそもモデルの世界でも聖杯戦争に限られた要素ではないのですよね?」
「はい。神秘の秘匿は聖杯戦争に参加する魔術師にとっても、魔術の力を保つための大原則。そして私達のモデルとなった教会にとっても、全ての異端を消し去り、人の手に余る神秘を正しく管理することが目的であり、故に聖杯戦争の監督役を派遣するなどといった行いが為されているわけですね」

 夢の中でもそうだったが、授業でもしているかのような丁寧な語り口でシエルは述べていく。

「それで、ご心配の秘匿できる程度について、ですが……やはり状況によりけり、ですね」
「まぁ、そうですよね」
「ただ、傾向として言えば一つの大事件以上に、継続的に世間の注目を集めるような事態を招く者こそが討伐令の対象になり易いと言えるでしょう」
「というと?」
「例えば聖杯戦争の余波で高速道路が倒壊しても、事故として処理が叶います。突如数キロ規模のクレーターが生じても、何とか誤魔化しはできるでしょう。一度に数百人単位で死傷者を出すような災厄が起きたこともありましたが、関与したマスターもサーヴァントも討伐令どころか、警告を受けることすらありませんでした。やや特殊な例では堂々とテレビ出演したサーヴァントも居たそうですが、その場合も神秘の秘匿は保たれました」
「……思っていたよりも自由度が高いんですね、神秘の秘匿って」
「いえいえ。あくまで関係者の尽力と幸運のおかげで隠蔽できたというだけですので、可能な限りこんな前例には倣わないでください。監督するために用意されたNPCの私はどんなに仕事が膨れても逃げられませんから」

 些か泣き言じみたシエルの物言いに、マヒロは若干彼女に気の毒な思いを覚えた。
 ただそれも長くは続かず、シエルは元の調子に戻って解説の言葉を並べ始めた。

「本題に戻りますと、一方でムーンセルの記録に拠れば、一つの街で何十件もの誘拐殺人事件を繰り返した主従、神秘に生きる眷属を国家規模にまで増殖させ現世に君臨しようと画策した突然変異の怪物などは、実際に一般社会へ晒した被害こそ前者を下回ろうと、秘匿を脅かす存在として速やかに討伐令を受け、打倒されています。最初に気にされていたように、これらの傾向は聖杯戦争に限った話ではなく、例えばかの高名なヴァン・ホーエンハイム・パラケルススも一般社会に神秘の一端を開示し続けたため、最期は他の魔術師の手で粛清されたのです」


750 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:52:05 WHpu05Zs0

 具体的な解説になるほどとマヒロは頷き、そのまま割り込んだ。

「つまり、生きている限り神秘を世間に追求される危機を回避できない、と判断された者が主な抹殺対象だったわけですね。発展して、隠蔽を行う裏方の邪魔をしないということも、あなた方にとっての常識を弁えない異邦人には釘を差しておく必要があったから、昨夜はあのように述べられた、と」
「はい、そのとおりです。満点ですよ」

 まるで生徒を褒める教師のような笑顔で、シエルはマヒロの推測を肯定した。

 とはいえ、どの道ここまでは、この街で最初に確認した、与えられた常識の段階分け――世間一般と魔術社会の棲み分け具合から、充分予想できたことだ。
 加えて、これまた類例からの推測となるが、マヒロの世界においてもこの時代はまだ、同様の棲み分けが行われていた時期でもある。当時それらの境界を乱すことがタブー視されていたのも同様だから、最も容易に想像できた事情背景だといえる。

「では、それを踏まえて一つ。シスターのお考えを教えて欲しいのですけど……」
「はい、何でしょうか?」

 だから予定通りに、マヒロは話を進めることにした。

「――エレナ・ブラヴァツキーは、何故神秘の秘匿のために消されなかったのですか?」

「……エレナ・ブラヴァツキーですか? あの、神智学協会の」
「はい。そのブラヴァツキー夫人です。このスノーフィールドの基盤となっている世界、その歴史上に実在した、女性オカルティストの。一応、余の世界にも居たそうですが」

 自身も世間一般に有名な錬金術師であるパラケルススに言及しておきながら、マヒロがその名を出してきたのが意外であったのか。シエルは思わず、と言った様子で問い返してきていた。
 それに応じながら、マヒロは続けて質問の意図を解説する。

「彼女が活躍していた十九世紀後半はオカルトと科学の領域が曖昧で、科学によって霊や魔術を研究しようという動きがあった時代です。その中でも彼女はその神智学協会の創設を始め、世間一般に神秘を公開するという活動を行ったもっとも有名な人物の一人のはず。そんな彼女がパラケルススのように魔術師や教会から実力行使で排除されなかったのは、どうにも奇妙に受け取れます」
「……あなたは彼女を詐欺師ではなく、本当に神秘を解き明かし発信しようとした魔術師であったと考えるのですか?」

 話を逸らす、というよりは純粋な疑問として尋ねるシエルに、マヒロはそのままの表情で頷いた。

「はい。彼女が言っていることが、この時代の一般認識通りのインチキであるならともかく。アカシックレコードという根源の一側面たる概念や、英霊や神霊のような高次霊的存在への言及は、ムーンセルに与えられた聖杯戦争の魔術知識とも通じ合っている以上、そのように結論するのが妥当と考えられます。違いますか?」
「それは……そうですね。実のところ、彼女が本物の魔術師であったという事実は、確かにムーンセルが観測し記録しています」

 シエルの肯定に、マヒロはやはりと言葉を継ぐ。

「もちろん、当時の平均寿命を越えてから没しているとはいえ、彼女も最終的には暗殺されていたのかもしれませんが……それでも、何の理由もなくあれだけ大規模な、十年以上に及ぶ神智学の普及活動を当時の魔術師界隈が看過するとは、あなたの話を聞く限り考え難い。だからその理由を聞きたいのです」
「聖杯戦争に関連して、ですか?」
「はい。遵守すべき神秘の秘匿に関連する、具体的な事例として」

 シエルの放った確認に即答しながら、マヒロは詰め寄る。

「それは……流石に、私のモデルとなった人物(シエル)もまだ生まれていない時代の話ですので、私としても伝聞と推測での見解しかお答えできませんが」
「いや、僕としても監督役の見解こそを是非お聞かせ願いたい。お願いしてもよろしいですか?」


751 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:53:08 WHpu05Zs0

 いくらか困った様子のシエルに、マヒロは助け舟を出す形でさらに踏み込んだ。

「……では、あくまで私の推測ですが。当時の魔術協会や聖堂教会が早期の強攻策に出ることができなかった理由として考えられるのは、神智学協会創設当初のメンバーと創設の場所が挙げられます」
「人員と、場所ですか」
「はい。何せ、当時の神智学協会は発明王トーマス・アルバ・エジソンを筆頭に、フリーメイソンや心霊協会会長ら当時の華やかなりし科学、オカルト両方面の著名人、さらに弁護士や軍の高官までもが大量に名を連ねていました。ましてや、場所は協会や教会の本拠地から海を隔てたここ、アメリカ合衆国。充分な地盤固めのできていない十九世紀のこの国で、仮にこれほどの面々を抹殺しようものなら、謀殺の痕跡を断つことなどまず不可能でしょう」
「……つまり、魔術師達としても教会としても、当時のブラヴァツキー夫人については、むしろ彼女やその研究成果を共有するメンバーの抹殺こそが神秘の秘匿を脅かすことになりかねず、地道にSPRなどを通すことで彼女らを詐欺師と思い込ませ、世間の意識を風化させるしか打てる手段がなかった……ということでしょうか?」
「そうですね。そうでもなければ当時の代行者が見逃すはずもないでしょう――あくまで私の見解としては、ですが」
「なるほど」

 真相はどうあれ、それが監督役の見解であるなら何も問題はない。その問題における意思決定を持つキーパーソンは、このスノーフィールドにおいては極論彼女一人に収束し――



「では、この聖杯戦争が地上を模した形式で運行される以上――この街でも似たような事例が発生した場合、僕らも迂闊に手を出せば、逆に討伐令の対象となる可能性があるということですね」



 その口からマヒロの望む通りの見解を、充分に引き出すことができたのだから。

「……そうですね、場合によってはそういうことにもなり得ますが――あなたは何か、そういった情報を既に把握されているのですか?」
「残念ながら、それ以外もまだ全然。ただ、アメリカという土地と、オカルトの全盛期を過ぎた頃合いの時代だったので、その点が気になっただけです。情報化社会が発達した分、立ち回りの注意点も把握しておくべきですからね」

 笑みを浮かべながらマヒロは告げる。目的の大部分を果たした会心のそれではなく、冴えない少年の力ない苦笑を装って。
 それに、“今の時点で”そのような状況に身を置いている陣営を知らない、というのは本当だ。
 まあ表情はともかく、流石にこの話をした時点で取り繕いきれるものではないだろうが、それも含めて仕込みだとマヒロは裡で嗤っていた。
 少なくとも表面上の己はまだ、あくまで聖杯戦争を進める上での注意点を尋ねに来た異邦人でしかないのだから。

「――あ、待ってください。全然じゃなかったですね」

 そうして思い出したように、露骨になり過ぎない程度で話題の転換を試みる。

「一般人でも耳にする風の噂になっている上に、調査対策本部が警察に設けられているとか言われている口裂け女も先程シスターがおっしゃった要件を満たしている気もしますが、彼女は討伐令の対象じゃないんですか?」
「現時点では下されている討伐令はありません。そして見込みの有無をお答えすることは参加者間の公平性を損ねる恐れがありますので、私からお答えできることではありません」
「……なるほど。余はまだ、自分の手では他の陣営の動向を掴んでいない、と言ったばかりですからね。監督役からこの類の情報を得ようとするのは不当である、と」
「ご理解いただけて助かります」

 口裂け女が単なる猟奇事件であるのか、聖杯戦争の関係者が遺した痕跡であるのか。その情報を、監督役を通して確定させるのは平等性を欠く、ということか。
 まぁこのぐらい仕事熱心で居てくれないと、マスター側も安心して訪問できないだろうし、先程聞き出した情報も信用性が増すというもの……と、内心値踏みを続けるマヒロに対し、シエルは小首を傾げていた。


752 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:55:21 WHpu05Zs0

「ご質問は以上でしょうか?」
「……いえ、実はもう一つ。ちょっと心配症の過ぎる質問ですが」

 シエルの確認に対し、マヒロはそのように断ってから口を開いた。

「これは僕のあてずっぽうなんですけど、地上における聖杯戦争って、毎回成功したわけではないですよね?」













「(……いきなり踏み込み過ぎだったのではないか?)」

 数十分後。礼拝堂を出て、しかし外に至る前の玄関内で、マヒロは未だ霊体化したままのアサシンの声を聞いた。
 一般的な魔術師とマスターが行う念話の魔術ではなく、彼の習得した忍術――本来はある一族の秘伝の業らしいそれで、アサシンはマヒロ以外に届かぬ声を放っていたのだ。

「(地上の聖杯戦争が、儀式の完遂に至らなかった例が多いという推測が妥当だとしても、その対策の有無を直接監督役に訊いては警戒されるだろう)」
「(いやぁ、それを言うなら多分最初から手遅れじゃないですかね。向こうはサーヴァントの詳細は知らなくとも、参戦したマスターの経歴は把握しているみたいですし)」

 マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルトの過去を大なり小なりシエルが知っているというのなら、聖杯戦争に対するスタンスを予想することは容易いだろう。
 そんなマヒロとの質疑応答にも、今のところは丁寧に答えていたのだから、言葉通りに公平な監督役を務める所存であるようだ。

 一方で、彼女自身が特に言及したわけではないが、監督役が参戦したサーヴァントの情報をどこまで把握しているか、についても推測はできた。

 今も、アサシンの本体はマヒロの背後に控えている。霊体化と気配遮断を重ねた彼は、シエルが一流の魔術使いであっても容易には発見できまい。
 そして事実として、アサシンだからこそ気づかれずに内部まで踏み入れたが、教会は既に幾つもの結界が重ねられた彼女の陣地たる魔術工房と化していたという。

 その内部に、事前の気配なくマヒロが現れたことをシエルは『驚いた』。

 マヒロの最初の呼びかけへ応答するまでに費やした時間は、そのようにして訪れるのが誰かまで想定した上で身構えていられた、と考えるには些か長過ぎた。
 つまり、マヒロと契約したサーヴァント、アサシンの正体である千手扉間にまでは、彼女の認識は及んでいないと考えられる。あるいはクラスまで今も伏せていられているのかもしれない。

 それらの情報がわかっただけでも収穫といえば収穫となる、が、しかし本命は。

「(どの道、既に当時のブラヴァツキー夫人のような存在に手を出せば逆に討伐令の対象になる、という言質を取りに行った時点でアウトです。今後はマークされると考えましょう)」

 その仕込みと裏取りに成功した時点で、目的の大部分は達成できていた。

「(まぁ、余自身はぶっちゃけマスターとしては無能ですが、幸い契約したサーヴァントがあなたなのでこんなアホ王子でもかなり自由に立ち回れますし、中立的な立場から監視されるとしても大した問題ではないでしょう……こんな風に)」

 心伝心の最中。マヒロの姿は、教会内から忽然と消えていた。
 否、飛んでいた。空間を。

 その網膜に映る景色は一瞬で切り替わる。未だ慣れない感覚に少しばかり脳が混乱するが、既に把握していた理性は何とかその被害を抑え込み、マヒロの体を直立させる。

 スノーフィールド市立高校の、トイレルーム内に。

 周囲を仕切りに覆われた個室の中。マヒロの前には、鏡に映った己のように瓜二つの容姿の少年が居た。
 急に切り替わった視界に、脳の認識が追いつく前に。その姿が幻であったかのように消え失せるもう一人の己(ドッペルゲンガー)が、しかし幻覚などではないことをマヒロは識っている。
 何故なら、アサシンの分身体の一つを、自身の影武者に仕立てるように指示したのがマヒロ自身だったから。


753 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:56:36 WHpu05Zs0

 ハイスクールの授業中、講義に出席しているというアリバイを保ったまま、教会にまで足を運ぶ――伝説の忍であるアサシンの能力は、マヒロという落第マスターを宛てがわれてなお、その難題を可能とした。

 自律行動を行う分身体を作成する影分身の術、その姿を変える变化の術、そして事前に施したマーキングまで瞬時に空間を跳躍する飛雷神の術……修練を積む、あるいは相応の道具を準備すれば最低限の才能さえあれば、誰にでも扱える技術であるが故に宝具の域には至っていない、しかし高等とされる忍術の数々。それらを駆使しての立ち回りが、他のマスターの目を掻い潜った教会への訪問だった。

 これだけの芸当が可能ならば、真っ当に優勝を狙う方が早く見えて来る……が、自身の能力と性格以前に、序盤はともかく後半は『夢幻召喚』の存在がそれを難しくすることを理解しているマヒロは、やはりその能力を全て諜報へと振らせることにしていた。

 己が暴力以外の手段で、聖杯戦争に勝利することに全てを費やすと決意しているように。

「(おかげで、ここでのゲームの仕掛け方はわかりました。今日中には動き出したいですね)」

 ゲームの仕掛け方とはつまるところ、かつて帝国三番姫らに行ったようなそれ――応じる意志のない相手にも、話し合いしかできない場を作るための手管のことだ。

 暴力に頼らず、言葉だけで聖杯戦争に勝利する、などと宣ったところで、相手にしてくれる者ばかりいるはずがない。十中八九居ないどころか、願いが切実であるほどその決意を侮られたと憤慨され、怒りを買うことだろう。
 かと言って話の通じそうな相手をのんびり見定めようにも、悠長にしている間に逆に捕捉されれば。いくらアサシンが戦線離脱に優れた能力を有していようと、弱小の自分達ではジリ貧となってしまう。ならばどうするか。

 簡単だ。

 向こうから、言葉以外を封じられた状態で来て貰えば良い、とマヒロは考えた。

 具体的に言えば、聖杯戦争におけるペナルティ、討伐令という脅しを利用したテーブル作り。
 つまり当時のブラヴァツキー夫人のように、迂闊に消せば逆に神秘の秘匿を脅かし、その下手人こそが討伐令の対象となってしまうような存在に、マヒロ自身がなれば良い。
 それでも情報という餌を匂わせれば、真っ当に勝つ意志のある陣営ほどマヒロを無視できず、しかし不利を招く攻撃はできない。結果、言葉による交渉以外の術を失くす。

 もちろん今から神智学協会のような組織を作るだとかは悠長に過ぎるので、彼女と比較すればすぐに風化する程度で構わない。
 幸いなことに高度情報化されたこの時代には、そのような一時の話題を作る手段は飽和している――と、マヒロはポケットに入れてあるスマートフォンの重量を意識する。
 不特定多数のマスターにこちらの存在や考えを表明するのは、そのような状況が整ってからで良い。さして時間は要さないだろう。そのための仕込みを今、教会で行ってきたばかりなのだから。

 まぁ、それだけで聖杯戦争が停滞することを是とするほど監督役が無能とも思えないので、脅しが有効なのは一時的な話に収まるだろう。そもそも本当にそこまで上手く事態を運べると考えるのは楽観的過ぎる。
 しかしその一時で次の手札を揃えられれば、また新しい攻め方を見つけられるのだ。沈黙したところで餓死するだけならば、賭ける価値は充分にある。
 舞台が社会と地続きの地上と違い、いくらそれを模倣していたところで、箱庭の中で行われる聖杯戦争後のことをマスターが気にする必要もないのだから、それらの勢力に目をつけられる心配も特にない。

「(ならば手筈通り、儂も準備を進めよう……だが、おまえは自分を性急だとは思わんか?)」
「(仕方ないでしょ。確かに好き好んで殺し合いなどしたがる馬鹿どものために走り回るのは馬鹿馬鹿しいですけど、現状一番被害に晒されているのは無関係なNPCにされた人ですからね)」

 アサシンの問いかけに、マヒロは大きな溜息とともに答えた。

 彼の言うように、可能ならばそれ以前にも保険となるような同盟先を見繕っておければなお良いが、どうもこの学舎に他の陣営は存在しないらしい。
 ならば外部のそれが見つかるまで決行は見合わせるのが賢明とは理解できるが、しかし、既に聖杯戦争は動き出している。

 例えばシエルは立場上、その言動から辿られることこそ避けたが、被害者が続出しているという口裂け女事件などはまず間違いなく黒だろう。


754 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:58:15 WHpu05Zs0

「(バンザイ降伏しても関係なく民を殺す、なんて畜生にこそさっさと討伐令を下してくれって感じですが、その判断を変えるよう監督役に談判するのは勝ちの目が低い。ので、そういう手合の注意を少しでもこっちに集めたり、一般社会への被害が抑制される方向に戦況を誘導するしかないです。そもそも決行を先延ばしにしたからと言って、いつまでも敵に発見されないというわけでもないですし。あなたの魔力に貯蓄があるうちに動きましょう)」
「(……まぁ、おまえがそう言うのならば、儂も従おう)」

 微かな間を置いて承諾を示した後、アサシンはこっそりという様子で呟いた。

「(そもそもおまえが余計な令呪を使っていなければ、それらは儂が直接退治に行って終わる話だったがな)」
「(どの道、余がマスターじゃサーヴァント戦は無理でしょ。単独行動スキルだけで生きてる余命を削る気ですか)」

 直接戦闘に優れるわけではないアサシンのクラス。一切の魔力供給のないマスター。これだけの悪条件が重なった状況で、よし懲らしめてきなさいなどとはマヒロも言えない。
 そもそも圧倒的な武力を背景に、顔馴染みの国へ無条件降伏の脅しをかけるまでならば平然と行うが、実際に暴力を行使することだけは決して認める気がないのだから。

「(確かに僕ら自身が抑止力になれるのであれば、介入だけならどんどんしていきたいとは思いますが、返り討ちに遭うのが関の山でしょう。なら理想を追った結果自分にできることまで放棄するような、無責任な真似はしたくありません)」
「(それをおまえが言うのか)」

 今度は驚いたというより呆れた様子でアサシンが呟いた。

「(……だがマヒロよ。こうして監督役との接触を終えたわけだが、実際のところ、最終的な着地点は見えたのか?)」

 そうしてトイレルームを後にするマヒロの背後に、霊体化した影分身が付き添いながら。教会近辺に潜伏するアサシン本体からの問いかけがなおも続く。

「(いえ……彼女は本当に、ただ聖杯戦争を進行する監督役として用意されただけの末端で、事態を動かすどころか上に訴える権限があるかも怪しい具合でしたので、特に糸口にはなってくれそうにないですね)」
「(だろうな。儂にもそう見えた。このままではおまえが理想とするような解決策が見つかるようには思えんが、どうするつもりだ)」

 マヒロが三問目として尋ねた、聖杯戦争完遂の見込み、その保証。

 地上においてはそれこそ神秘の秘匿と、それを維持するための外部勢力の介入といった妨害要素が考えられる。
 そもそも舞台となる戦場以外にも世界の広がる地上なら、降霊するかも怪しい聖杯などより、召喚されたサーヴァントの利用を目的として、一つの勢力に聖杯戦争が乗っ取られ、肝心の儀式を放棄される事態すらありえるはず……という疑問をマヒロはぶつけた。
 己の描いた、もっとも楽なビジョン――小聖杯そのものを獲得できずとも、それを内包するサーヴァントを一つの意思の下に統一するという形で聖杯戦争を終えることが可能なのか否か、確かめるためのカモフラージュに。

 地上の再現度を上げてばかりだが、果たしてそれらの対策は施されているのか、と。
 犠牲を払わせておきながら、失敗しましたでは納得できない――というのは、マヒロよりも真っ当に聖杯を狙う者の方が自然に抱く感情だろうが、表面上だけでもその不安を代弁してみたのだ。

 対してシエルは、そのために自分達運営用NPCがいるのだと答えた。

 無論地上と比すれば、事実上外部勢力が存在しない月の聖杯戦争の許容度は著しく高いことはマヒロも承知の上であり、シエルの回答の大半は予想通りであったが。
 その上で、その質問におけるマヒロの本命に対しても言及はあった。
 マヒロが用意した例にまんまと引っかかったのか、はたまた敢えて示すことで牽制しているのか、あるいは“この問いかけに答えなければ不公平になってしまう理由がある”のかは不明だが。一つの勢力がサーヴァントを独占し、聖杯戦争が停滞する、もしくは全く異なる思惑に利用される事態への対抗策は、モデルである冬木の大聖杯の時点で備わっているものであるとシエルが明言した。

 月のそれこそ、詳細は明かされずとも。
 地上においてはその場合、その勢力に対抗するための追加サーヴァントが召喚され、強制的に戦争状態を継続させる予備システムが存在するのだと。


755 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 22:59:26 WHpu05Zs0

「(……最終的な到達点への行き方は確かにまだ見えませんが、一先ず僕らがその直前まで辿り着くための方針は見えました。このままの予定通りに進めましょう)」

 そのシステムの存在、そういった意図をムーンセルが模倣している可能性を踏まえた上で、マヒロは返答した。

「(儀式というからには相応の準備が必要です。そこに当初居なかったサーヴァントを追加で呼び出すなんて、そんな真似が簡単にできるなら、地上の聖杯はもっと容易に降霊できていたでしょう)」

 やはりマヒロの睨んだ通り、地上の聖杯戦争は、その目的を達成できたケースの方が少数であることもシエルからは聞き出せた。

「(追加のサーヴァントを、それも複数騎召喚できる回数なんて限られているはず。無制限なカウンターではないと考えられます。それが地上に限った話でも、月は地上を模しているというのなら、対抗策を無効化されればその結末を受け入れての観測をするのが道理でしょう)」

 殺し合いの果てに残る一人だけを選ぶ。それが地上の聖杯を真似た性質なのだとしたら、同じように地上での破綻を再現すれば良い――とマヒロは考えた。
 とはいえ、アサシンが懸念しているのはそこで終わる話ではなく。

「(あるいは一人の勝利者しか認めないというのが、最初から月の性質であるのなら。この箱庭のモデルとなったスノーフィールドのように、人類に社会性という特徴があることを確かに観測しながら、ムーンセルは犬猫と同じ杓子でしかヒトを測っていないのだとすれば……その時も僕は可能な限り抗いますが、契約通りあなたは好きにしてくれて結構です)」

 先の展望は必要だが、世の中、最終的な解法が、最初から見えていることばかりではない。今はまだまだ表面的な部分だけを探り始めただけに過ぎないのだから、手応えがないのも当然だ。

「(ただどちらにしても、まず聖杯戦争を止められないことにはムーンセルとの交渉なんて夢のまた夢でしょう。並行して情報収集を続ける必要はありますけどね)」
「(……現時点で結論を急ぐことこそ性急、か。まぁ妥当なところだな)」

 マヒロの連ねた解答にアサシンが了承を示し、そこで話は終わるはずだった。

「(マヒロ、また学舎を抜け出した方が良いかもしれんぞ)」
「(えっ、いきなりですか?)」

 だが、講義中の席に戻った直後に、折を見て教会から離れ、影分身と交代でマヒロの傍らに戻るはずだったアサシンから、予定にない思念が飛んできたのだ。

「(教会にサーヴァントが接近している。それも、凄まじく強力な奴がな)」

 その声には、これまでにない緊張が含まれていることが、念話越しのマヒロにも伺えた。









756 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 23:00:03 WHpu05Zs0






 ――本当は、すぐにでもここへ来たかった。

 だが、クロの失踪を受けて、イリヤもまた容易に外出できない状況となってしまっていた。
 この世界、アメリカの街でも、両親は普段は理由があって海外出張中で、家を留守にしているという。どこに行っているのか、未だ連絡の着かない父母に代わってアインルベルン家の双子の面倒を見ていることになっている二人の家政婦――セラとリーゼリットの二人は、一瞬たりとも心休まる様子のないままにクロの捜索に従事していた。
 昨日は警察に頼り。失踪届を受理したとして、警察が引き上げてからもセラは両親を含む方々に連絡を送り、リズは普段の印象が嘘のように、その健脚でスノーフィールド中を駆け回り、古典的なチラシを配るなどしながら、直接クロを探している。
 義兄さえもいないこの世界では、より強くイリヤたちと結びついていたのだろう二人は、事態が発覚してから寝る間も惜しんで活動し続けていた。

 ……もう、クロが見つかるはずがないのに。

 繋がらない電話を前に、奥様になんとお伝えすればいいの、と漏らすセラの弱々しい姿は、目にしたイリヤもまた胸に痛みを覚えるものだった。

 だからこそ。元の世界の彼女達なのかはわからずとも、二人のためにも、イリヤは真実を突き止めなければならないと決心していた。

 クロの形見を目にする悪夢から醒めて、気持ちを落ち着けるまでに一晩。そして、ルビーの手助けを得てセラの目を欺くまでにさらに数時間を要してしまった。

 その末に、イリヤはやっと、中央教会に足を踏み入れていた。

「ようやくだな、マスター」

 扉を潜ると同時に実体化したアーチャーの声が、頭上より降って来る。

「貴様の憎悪の向かう先が、確定する時が来た」
「……」

 くつくつと笑うアーチャーの声を無視して、イリヤは礼拝堂へと小さな歩を進める。
 その声に、惑わされてはならない――真実を知るまでは。
 その目指す方向から、細い影が一つ降りてきた。

「――ようこそ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 決意の少女を出迎えたのは、年若い一人の尼僧だった。
 夢の中で見たその人の姿を認めた瞬間、まるで隣に立つ紅い弓兵から何かが流れ込んで来たかのように――あるいはその奥から何かが溢れ出て来たように、激しくこの胸が疼くのを感じながらも。服の胸元を握り締め、イリヤは耐えた。

 そして。

「……こんにちは、シエルさん」

 声が震えていることを自覚しながらも、何とか理性を、自分を保ったまま、イリヤはその唇を動かした。

 何も知らない今は、暴力も魔力も方向性が定まらずまるで無意味な今は、新たな運命と対峙するための、ただ一つの術である――

「あなたに訊きたいことがあって、来ました」


 ――言葉を、紡ぐために。


757 : 言の葉を紡ぐ理由 ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 23:00:46 WHpu05Zs0



【D-4 市立高校/一日目 午前】

【マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト@ミスマルカ興国物語】
[状態] 健康
[令呪] 残り二画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 裕福な高校生並
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:一切の暴力に頼らず、聖杯戦争を止める。
1.暴力以外はなんでも使う。
2.討伐令の仕組みを利用し、他の主従を牽制した上で交渉に持ち込みたい。
3.他の陣営の情報を集めると同時に、上記のための準備を進めたい。
4.アサシン(千手扉間)を通じて教会の様子を監視する。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は市長の息子である高校生です。
※教会を訪れ、神秘の秘匿とそれに関するペナルティの条件について知見を得ました。
※監督役の説明から、冬木の大聖杯同様残存する陣営が一勢力に統一され聖杯戦争が停滞した場合に、予備システムで追加サーヴァントが召喚されるのではと推測しています。
※監督役が参戦マスターの経歴を把握していることを知りました。また、参戦サーヴァントの詳細は知り得ていないと推測しています。
※『討伐令の仕組みを利用した話し合いの席』を設ける手段について、具体的には後続の書き手さんにお任せします。



【D-4 中央教会/一日目 午前】

【アサシン(千手扉間)@NARUTO】
[状態] 魔力消費(小)、令呪の縛り(暴力行使禁止)あり、霊体化中、気配遮断中、影分身二体生成済(現時点では市立高校に二体とも配置)
[装備] 各種忍具
[道具] 各種忍具
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マヒロが火の意志を継ぐ者か否かを見極める。
1.当面はマヒロに従い、協力する。
2.最大限警戒しながら、教会の様子を監視する。
[備考]
※令呪により、マヒロの同意なき暴力の行使ができません。
※現状、魔力供給がなされていません。
※スノーフィールド市内に飛雷神の術のマーキングを施してあります。また、契約で繋がっているためマヒロを『自身に触れている物』として飛雷神の対象とすることが可能です。




【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤドライ!!】
[状態] 健康、クロを喪った精神的ショック
[令呪] 残り三画
[装備] カレイドステッキ・マジカルルビー
[道具] クラスカード×1〜5
[所持金] 小学生並
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:未定
1.シエルにクロのことを尋ねる。
2.アーチャー(アルケイデス)の言いなりに流れされるのはイヤだ。
3.巨人(ヘラクレス)の夢が気がかり。
[備考]
※クラスカード(サーヴァントカード)を持っていますが、バーサーカー以外の何のカードを、また合計で何枚所有しているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※家人としてセラ、及びリーゼリットのNPCが同居しています。両親及び衛宮士郎は少なくとも現在、家に居ない様子です。


【アーチャー(アルケイデス)@Fate/strange Fake】
[状態] 健康
[装備] 『十二の栄光(キングス・オーダー)』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.復讐に関することだけはマスターに付き合う。
2.ただし、監督役と事を構えるつもりは「まだ」ない。
[備考]




【シエル@月姫】
[状態] 健康
[令呪] 残り?画
[装備] クラスカード・アーチャー(エミヤ)、第七聖典、黒鍵×沢山
[道具] 不明
[所持金] 不明
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の円滑な進行
1.イリヤに対応する。
2.マヒロを警戒する。
[備考]
※彼女は厳密にはシエルを模してムーンセルが創造した上級AIで、本人ではありませんが、本人と同等の能力を有しています。


758 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/27(月) 23:02:20 WHpu05Zs0
以上で投下を完了します。


759 : ◆aptFsfXzZw :2017/02/28(火) 22:13:19 sKdY1yVA0
拙作における、誤字の報告を行います。
>>757の状態表欄、【D-4 中央教会/一日目 午前】は正確には【E-4 中央教会/一日目 午前】でした。
wiki収録時には修正しておきます。

また、>>735のマックルの状態表も、思考欄の2.は『口裂け女事件を追う』ではなく『ツカサ(ライダー)と金髪の少女(コレット)を追う』でした。こちらもwiki収録分を修正しておきます。


760 : 名無しさん :2017/03/06(月) 23:45:18 UYl23HTM0
士が真っ当に仮面ライダーやってる聖杯スレって初めて見たかもしれん


761 : 名無しさん :2017/03/07(火) 20:54:34 lbob5okY0
大体どのパロロワでも世界の破壊者モードで参戦させられるのが悪い
マーダーになる理由づけに使いやすいからだろうけど


762 : ◆aptFsfXzZw :2017/03/31(金) 23:33:12 sHjAep6o0
お久しぶりです。

レクス・ゴドウィン&セイバー(剣崎一真)、夏目実加&ランサー(ロムルス)を予約します。


763 : ◆aptFsfXzZw :2017/04/06(木) 22:37:41 g1VivUIc0
予約を延長します


764 : ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:37:53 xRH2eqh60
予約分の投下を開始します。


765 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:40:53 xRH2eqh60






「さて、情報の整理をしましょう」

 スノーフィールド警察署の署長室。
 共闘の誓いを終えた後。セイバーに対し、部屋と彼の主であるレクス・ゴドウィンはそのような言葉を切り出した。

「ムーンセルが職歴を参考にしたのかはわかりませんが、私に与えられた役割はスノーフィールドに生じた変化を観測しやすい立場にあります。このアドバンテージを活かさない手はありません」

 ゴドウィンの言葉に、セイバーも頷く。
 街を襲う異常、その細部はともかく、全体像を俯瞰するという一点に置いては、警察組織の長という立場以上の物はないだろう。
 既に一般市民にも警戒を呼びかけられている、『口裂け女』と呼称される犯人による連続殺傷事件や、新聞の片隅とはいえ報道された謎の廃工場の爆発事故のみならず。未だ正式な発表の為されていない失踪者の増加傾向に加え、真偽不明ながらテロ組織『曙光の鉄槌』の潜入疑惑などの情報まで。その尽くを己の社会的権限だけで把握できる人間は、著しく限られたものとなるだろう。

「……おそらく、ここ数日で有意に増加が認められるっていう失踪事件の大部分はあのキャスターみたいな、聖杯戦争に一般人を利用しようとした者による犯行だろうな」

 そんなマスターから口伝された情報の自己解釈を零したセイバーは、思わず奥歯を軋ませる。

「でしょうね。ただ、私が今気がかりなのは、これだけのことが起こっているにも関わらず、街が穏やか過ぎるということです」

 しかし、それを冷静に受け止めたゴドウィンの話は、セイバーの予想外の方向に転がった。

「……というと?」
「一種の劇場型犯罪、それも無差別の殺傷事件という残虐な行為を許しているにも関わらず、警察に対する批判の声があまりにも乏しいのですよ」

 それは、いつも人知れず戦ってきたセイバーとは異なり、生前も公の立場で治安維持を担っていたゴドウィンならではの視点だった。

「確かに、『口裂け女事件』は大規模なパニックを呼ぶほどの物ではないでしょう。しかし一定数の市民に不安を覚えさせるには充分過ぎます。ですが実際には、市民からのクレームもマスメディアからの責任追及もほとんどないのです」
「それは……警察が悪いわけじゃなくて、犯人が悪いって皆わかってくれているからじゃないのか?」

 自分でも楽天が過ぎるような推測だが、必ずしも人の善意を疑わずとも良いのではないか――そんなセイバーの考えが透けて見えたのか、ゴドウィンは厳しい表情で首を振った。

「そうであれば良いのですが、残念ながら全ての人が不安に打ち克てるとは限りません。かつての私のように」

 実感を伴って呟かれれば、セイバーとしても沈黙するよりほかなくなる。
 セイバー自身も、人間であった頃は誰も彼もを恨まず、疑わずに居られたことばかりではなかった。
 ヒトであることを放棄した後も、人類は賢明なばかりではなく、自身の利益のために他者を攻撃することもあるのだということを嫌というほど思い知らされていた。

「……だからって、それがどうしたって言いたいんだ? マスターは」
「おそらくですが、NPCである人々には、神秘の秘匿とやらのために疑念や狂乱から意識を遠ざける暗示のようなものが施されているのではないかと思うのです」

 深刻な顔つきで、ゴドウィンはセイバーの疑問に答えた。
 意味するところにセイバーの理解が及び、新たな疑念が湧き上がるのを横目で確認したのだろうゴドウィンは、さらに言葉を並べていく。


766 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:42:32 xRH2eqh60

「もちろん、あれだけ再現性とやらを監督役が強調していたからには、市民には一般的な反応から逸脱させないとは思うのですが……それこそ、実はこのスノーフィールド自体が、地上に存在した時点から聖杯戦争のために調整された都市であり、街中に人々の意識を誘導する仕掛けが組み込まれていたのだとしても不思議はありません。むしろ、監督役の言及した本流の冬木ではなく、この街をムーンセルが舞台に選ぶ理由にも説明が付きます」
「……警察にクレームが来ないっていうのも、そのせいなのか?」
「ええ。私も、星の民に関連しない魔術系統については門外漢なので確証はありませんが……仮に街そのものが聖杯戦争のために造られた箱庭だとすれば、私が黒幕で可能であるならそうします。そして現状から推測すれば、飛躍した考えだとしても、否定する要素も特にはありません」

 セイバーの問いかけに、かつて自ら陰謀を企て多くの人々を巻き添えにした男はさらに表情を険しいものにして、自らの考えを告げた。

「真相はどうであれ、市民の自己判断が正しい形では為されないかもしれない――その状況を考慮しておくことは、いざその局面に遭遇した場合に役立つでしょう」
「つまり……暗示の影響を受けた、一種の洗脳状態に陥った人々は目の前の危険を認識できないかもしれない、っていうことか……っ!」

 ゴドウィンの憂慮する事態を理解し、セイバーは握り拳を震わせる。
 月の聖杯だけではない。ゴドウィンの推理が真実だとすれば、スノーフィールドを作り出した魔術師達もだ。
 どれだけ、何も知らない人々を食い物にすれば気が済むというのか。

 その様子を目にしたゴドウィンが、やや沈んだ声で続きを述べた。

「そして、異常現象への関心や、注意喚起の意志も希薄となっている可能性があります。警察による事態の把握も遅れることでしょう。現状の優位を過信はできないということです」

 ゴドウィン自身がここまで考察できていることを踏まえると、仮に暗示があるとしてもNPCを脱したマスターには効き目が薄いのだろう。
 そうなれば、集団の意識レベルで機能を低下させられた警察機構では、サーヴァントを筆頭とする異能力を持つマスターとの情報差が優位になるとは限らない。

「そうか……せっかく署長になったのに、上手くはいかないもんなんだな」
「そうですね。もちろんこの役割だからこそのメリットは多々ありますが……立場上の制約もあります。俯瞰的に情報を見られる我々と並行して、軽いフットワークで調査に当たれる同盟相手を探したいところです」

 ゴドウィンはその立場上、自由に街を闊歩できるタイミングは限られている。
 セイバーにはこの街における役割などそもそも無関係ではあるが、どうにも燃費の悪いサーヴァントだ。サーヴァントとマスターの距離が離れれば魔力供給にも支障が出る。単身で街中を見回るとして、もしも遭遇戦となった場合には、十全な力を発揮できない可能性がある。
 いや、それだけならまだ許容範囲だ。もしもその不安定な状態が、セイバー自身か、ゴドウィンの中の地縛神の暴走を促すことになってしまえば……
 最悪の事態を考えると、セイバーだけで単独行動することはあまりにもリスクが大き過ぎる。

 同じ危惧を抱いたゴドウィンも、何か他の手段がないものかと思索に沈み、二人きりの署長室を静寂が覆った。

 それを破ったのは、部屋の中へと吹き込んできた一陣の風だった。

「……何故」

 特に、その風に攫われるような紙などはなかったが、ゴドウィンは緊張に満ちた面持ちで開いた窓へと目を向けた。
 それを不思議と思うことなく、セイバーも戦慄に打たれて視線を巡らせる。

「いつから、あの窓は開いて……」
「――ローマッ!!」

 愕然とした呟きは、忽然と背後に現れた気配の放った雄叫びに遮られ、掻き消えた。


767 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:43:24 xRH2eqh60












 その出現は、あまりにも唐突だった。

 レクス・ゴドウィンの眼前。セイバーの背後に、寸前まで目視できなかった巨漢が現れたのだ。

 まるで、巧緻を極めた彫像の如く。威厳に満ちた逞しさと洗練された美しさとを兼ね備えた、およそ生物として完璧な、輝ける玉体。
 人種や性別を問わず、一目見れば惹き寄せられるだろう天性の肉体を持つその男の圧倒的な存在感に、何故この瞬間まで気づくことができなかったのか。

「第十三階位(カテゴリーキング)……っ!」

 その理由は、目の前に出現したその男がサーヴァントであることを認識できた段になっても、未だゴドウィンの理解が及ぶところではない。
 しかし理解が及ばぬとしても、事態の進行は何ら変わることはない。
 奇声としか思えない掛け声で放たれた腕の一振りは、不意を打たれた形となったセイバーの細い体の芯を的確に捉えていた。

「――セイバーっ!」

 受け止めた勢いに浮かび上がったセイバーの痩身が、そのまま開け放たれていた窓の隙間から落ちる様を目撃して、思わずゴドウィンは腰を浮かす。
 その直後に、金縛りに遭ったかのように全身が硬直した。

 ――原因は明白。眼前のサーヴァントが放つ威圧感。

 深い色合いの紅玉を嵌め込んだような双眸に見据えられた瞬間、ゴドウィンは蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなくなっていた。

 体格だけで見れば、ゴドウィンも決して負けた物ではない。
 だが、違う。眼前の存在は、根本から生物としての作りが異なるものだ。
 それはまさしく、かつて自身が目指した、人を超えた存在――

 セイバーの庇護もない今、この状況では、自身の生殺与奪は目の前の絶対強者(サーヴァント)が握っている。
 あまりに明快なロジック。その道理を捻じ曲げる術が、あるとすれば――

(――いかん!)

 体の奥底から這い上がって来た悪寒。
 瞳を介さず脳裏に過ぎった、白光を遮る黒い影。
 一度は野望のため、自ら身を委ねたその感覚を、ゴドウィンは意志の力で拒絶する。

 邪神の眷属たるダークシグナーの力を全開とすれば、確かにサーヴァント相手でも僅かな時間は稼げるかもしれない。
 だがそれでは、仮に窮地を脱しても駄目なのだ。怪物を倒しても、自身が怪物に堕ちてしまっては結末は同じ。意味はない。

 自分はもう助からない。既に潰えた宿命だ。
 だが、それでも。人の力で運命を変えられることを、ゴドウィンはあの日、確かに知ったのだから。

 ならば今は、戦う術を奪われたすべての人々の代わりに、己が戦う――同じ志を持つ、セイバーと共に。

 ……眼前の脅威の認識。裡から魂を侵す邪悪の把握。それを跳ね返すための、決意の再認。
 極限の緊張状態により加速した思考は、それら三つのステップを刹那の間に駆け抜けた。

 金縛りのようなプレッシャーを脱し、ゴドウィンはわずかばかりに身構えることができた。
 拳を持ち上げる、といった芸当はできない。元より意味はないだろう。

 それでも、全身には適度な緊張を保たせる。
 そして、視界に収めるだけで畏怖に打たれるような超人の姿を、両目で捉えて離すまいとする。
 この身で眼前のサーヴァントに抗しきれるとは思わない。令呪を使う隙すらないだろう。
 それでも一瞬でも長く、逃げ延びることができたなら。運命に抗い続ければ、セイバーが駆けつける可能性を僅かでも上昇させられるはずだ。


768 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:44:53 xRH2eqh60

「……それもまたローマである」

 決死の覚悟で相対したゴドウィン。その耳が拾ったのは、斯様に謎めいた言い回しだった。
 疑問に思う余裕もないゴドウィンの前で、第十三階位のサーヴァントは悠然と身を翻すと、自身もセイバーの落ちた窓に、そしてその外へと飛び出して行った。

 そうして呆気なく、だだっ広い署長室から、二騎のサーヴァントの姿は消えた。

「――っ」

 その事実を認識した瞬間、ふと身が揺らぐ。
 数秒にも満たない時間とはいえ、先日のキャスターなど比ではない強大なサーヴァントと一対一で向き合った。それによって齎された緊張は尋常の物ではなく、糸が僅かに緩んだだけで、予想以上に力が抜けてしまったのだ。

「彼は、いったい……」

 文字通り風のように現れ、去っていったあのサーヴァントの真意。ゴドウィンには未だ計り知れない代物だ。
 奇襲を仕掛けておきながら、サーヴァントと分断され孤立した自身には何も危害を加えなかった。

「――セイバー!」

 だが、その向かった先に居る者にまで思考が及んだゴドウィンは、まだ気を抜くことはできないと正気に返る。
 真意は計り知れずとも、未だセイバーが害される恐れはある。無視することはできない。

「待ってください」 

 慌てて窓まで駆けつけようとしたゴドウィンは、ふとした女性の呼びかけに動きを止めた。

「ランサーはあなたを認めました。だから私も危害は加えません。ただ、暫くの間、共に見守っていて欲しいんです」

 その口ぶりから、先程のサーヴァントのマスターか、同盟者のような相手だろうとゴドウィンも推測するが、その姿は何処にも見当たらない。

(さっきのがランサー? アサシンやキャスターではなく……)
「……姿も見せずにいる相手とともに、ですか?」

 伝えられる情報に疑念を抱きながらも、それを表に出すことなくゴドウィンは尋ね返した。

「……申し訳ありません。ご理解頂ければと思います」

 声の主がサーヴァントなのか、マスターなのかもわからないが、他の陣営の前に姿を現すことに抵抗があるのも仕方ないと、ゴドウィンは一旦引き下がることにしてみた。

「まぁ、いいでしょう。それで、そもそも見守るとは、いったい何を?」
「あなたのサーヴァントに……ランサーが、どんな裁定を下すのかを」













 セイバーが落下した先は、四方を警察署の壁に囲まれた中庭だった。
 ――咄嗟に不意打ちを凌いだ両腕は、叩き込まれた衝撃に痺れたまま。
 加えて宝具も発動できていないとはいえ、セイバーは根本より人外の存在へと変転し、そしてサーヴァントの霊基を以って召喚された身。不完全な体勢からでも両足で衝撃を殺し、無事の着地に成功する。

「――セイバー!」
「マスター――、っ!」

 人外である故に微かに聞き取れた、ゴドウィンからの再度の呼びかけ。それに彼が振り向いた時には既に、敵も中庭まで舞い降りてきていた。

 先程まで感じ取れなかった威圧感を伴ったサーヴァントは、そのまま無音の着地に成功する。筋骨隆々とした逞しい印象とは裏腹な、猫のようなしなやかさ。足運び一つでも、英雄として円熟した技量の程が伺える。
 元より、これだけの存在感を有しながら、セイバーに気取られることなく室内に忽然と現れたあの芸当。気配遮断か、それに派生する高度な武芸を修めていることは明白だろう。
 だが、ならば、と。僅かな希望的観測を懐きながら様子を窺うセイバーの前で、そのまま巨漢は無造作に、右手へ得物を出現させる。長身の彼より、さらに倍近くも巨大な荒々しい造りの樹槍を。

「ここでやるつもりなのか……っ!?」

 予想できていたこととはいえ、敵手――推定クラス・ランサーの明確な戦闘態勢を見て取ったセイバーは、呻かずにはいられなかった。
 神秘の秘匿という前提がある以上、日中堂々と、それもこんな街の中心部で本格的な戦闘を仕掛けて来る敵が現れるとは想定していなかった。あったとしても、先の気配遮断によるような奇襲が精々だろうと。だがあの巨槍は、明らかにそんな範疇に収まる用途の代物ではない。
 辛うじて往来から遮られた警察署内の中庭とは言えど、この程度の障害、サーヴァント同士の戦闘ならば容易に粉砕してしまえる。
 そもそも、この場で対峙していることを職員達に気づかれるまでの猶予も、いったい幾ばくのものなのか――それ以前に、彼らに及ぶ被害のほどは。


769 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:46:04 xRH2eqh60

 そんなセイバーの焦燥を見て取れぬほど、愚鈍なわけではないだろうに。深い知性の輝きを両の眼に湛えたまま、ランサーは泰然とその槍を素振りした。

「『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』」

 ――ランサーの声に、大地が応じた。

 振るわれた槍の軌道の延長上、それをなぞるようにして。コンクリートの床で覆われていたはずの地面から、突如として石造りの壁が顕れたのだ。
 地の底、としか思えない空間から迫り出した塀は、その出現に伴いセイバー達の足場を小動もさせないままに展開され、内側に位置していた二騎のサーヴァントを瞬く間に世界から切り取った。

 警察署の中庭は、逃げ場のない闘技場へと様変わりしていた。

「これなる壁はローマと世界を隔てる国境。外より私(ローマ)を覗き見、跳び越える全ての者を拒絶する」

 その説明に、これらの石壁が結界宝具の類であることセイバーも理解した。故にランサーが、白昼堂々と仕掛けてきたのだということも。

「ローマに伝わる隔絶の壁……おまえの真名は、古代ローマ建国の王、神祖ロムルスか!」

 同時、逸話の昇華された宝具を目の当たりにしたことで、その持ち主の正体も見当がついた。
 軍神マルスを父とする生まれながらの超人。人類史の大いなる基盤の一つとなった一大国家ローマの建国神話に伝わる伝説の王、ロムルス。
 それこそが、眼前に君臨するこの槍兵の正体に相違あるまいとセイバーは睨む。

「如何にも。私(ローマ)が、ローマである」

 堂々と宝具を開帳した上で、ランサーはセイバーの推理を躊躇なく肯定した。
 それは愚かさ故、ではない。彼ほどの大人物ともなれば、英霊としての格も相応の物だ。
 知名度から容易に悟られ得る真名を知られた上で、なお恐れる必要がないという、絶対の自負が彼には備わっており――そしてその確信は、否定する余地のない事実に他ならなかったからだ。

「そして――貴様は何者であるか、セイバー」

 その姿を険しい目つきで見据えるセイバーに対し、ランサーは誰何を返して来た。

「世界とは、ローマである。私(ローマ)の信じたヒトの輝きが連綿と受け継がれ、繁栄し続けた未来であるもの。なればこそ私(ローマ)は世界のすべてを愛そう」

 ローマの建国王は、自らの偉業に基づく英霊としての視点をその口より語り始めた。
 突拍子のないような言葉でも、彼の声に載せられたそれは、セイバーにも無視できない宣告となって闘技場に響き渡る。

「仮令、遠き天より飛来した脅威、または地球(ほし)の生んだ怪物であろうとも。ヒトの輝きに触れ、同じ光を胸に灯す者があれば、彼らもまたローマである。
 あるいは世界(ローマ)を滅ぼす人類悪であろうとも、その起源が我が子の人類愛にあるのであれば、私(ローマ)はその獣さえも愛してみせよう。
 しかし、セイバー。貴様は同じく世界を滅ぼす存在であっても、生まれながらの怪物ではなく、かといって人類悪ですらない」

 セイバー――剣崎一真を映す紅玉の瞳は静かに、その輝きを鋭くした。

「貴様は、何だ。人類愛(ローマ)の中にありながら、貴様は何故、世界(ローマ)を滅亡に導かんとする」

 威厳に溢れながら、不躾なまでに真っ直ぐな弾劾の言葉は、そのままの勢いで剣崎一真の胸を抉った。

「異世界より顕現せし、命ある者たちの天敵、未知なる原初の獣よ。我が起源(父)たる闘争を以って、この私(ローマ)が貴様の本質を見極めよう」

 そうして、冷厳な宣告とともに。薔薇と黄金の神祖は国造りの槍を片手に、セイバーへと踊りかかった。


770 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:47:18 xRH2eqh60












 ――事が此処に至る、ほんの少し前のこと。

 第十三階位(カテゴリーキング)のランサー・ロムルスは、国際テロリズム対策課の室内で、堂々と実体化していた。

 一目見た者に深い感動すら覚えさせる黄金色(コガネイロ)の肌を惜しげもなく晒すその巨漢の存在を、しかしその時認識しているのはマスターの夏目実加だけであった。

 圧倒的な高次電脳体であるサーヴァント。その中でも、一際存在感を伴うだろう建国王ロムルスの顕現を、NPCへ貶められた民が知り得ぬ理由。
 それは万能の神祖と謳われし彼の持つ、破格のスキルによる御業だった。

 即ちスキル・皇帝特権――ランクEX。

 サーヴァントとして召喚された際、その霊基が本来保有するに至らなかったスキルを短時間のみ獲得するという、超級の技能。
 無論、一切の素養がなければ如何に神祖と言えど習得には至らないが、彼こそは元祖2000の技を持つ男。
 軍神を父とし、後に旧き神と一体化した超人の有す稀代の才覚(タレント)は、全能には及ばずとも、万能と呼ぶに相応しい特権だった。

 その一端として、彼は今、極めて高ランクの気配遮断スキルを獲得し、衆人環視の中にあってなお、その圧倒的な存在を素養なき者には悟らせずに在り得たのだ。
 そしてランサーはさらに、規格外の万能性を存分に発揮し、先程実加に告げた、警察署に存在するもう一騎のサーヴァントについて遠見を行った。

 その結果を踏まえた上で、ランサーは直々の接触を実加に進言した。

 曰く、旧き時代に枝分かれした異世界のことまでは、半神たるランサーの特権をしてすべてを見通すことは叶わない。
 どちらもが該当するこの主従、このサーヴァントについては極めて特殊な相手のため、折を見て直接接触を図り、その在り方を確かめたいと訴えてきたのだ。
 
 ランサーに既に全幅の信頼を寄せていた実加はこれを即座に承諾し、彼から与えられた加護によって共に気配を遮断し、署長室へと潜入するに至った。

 それから、「少々非私(ローマ)的な姿を見せることになる」と言い残したランサーは番外位(ジョーカー)のサーヴァントを中庭に叩き出し、そのままセイバーを追って場外乱闘に向かってしまった。
 当然、事態を追いかけようとするセイバーのマスター――役割上は自身の上司に当たるレクス・ゴドウィン警察署長を、実加は呼び止めることになった。



「……ランサーの裁定、ですか?」
「はい。あなたがご存知かはわかりかねますが、あのセイバーは本人の人柄とも無関係に危険であると、ランサーは認識しています。
 あなたたちが被害の拡大を止めるべく決意していることは、ランサーも既に見通しています。あるいは手を取り合えるかもしれないと、私にも提案してくれました。
 ただ、万一その危険性を乗り越えられなかった場合。その脅威はあまりにも甚大であり、ここで禍根を断つべきだと、結論することになりました」













「――セプテムッ!」

 特異な掛け声と共に、ランサーの攻撃がセイバーに迫る。
 署長室へ受けた一撃とは違う。本気と言うほどの鬼気は篭っていないが、同時に、死んでしまっても構わないという未必の殺意によって放たれる、鋭い一突き。
 身を躍らせて何とかそれを回避したセイバーは、しかしまだ宝具を顕現させなかった。

「おい、待ってくれ! 俺は……世界を滅ぼしたいだなんて思ってない!」

 ランサーが攻撃前に述べていた言葉。彼がセイバーを襲う理由を顧みれば、無用な争いを避ける道があるのではないかと思えたからだ。

「本当は、誰にも傷ついて欲しくない……こんな、無関係な人を沢山巻き込んだ聖杯戦争だって止めたいと思ってる! だからまずは、話を聞いてくれ!」
「――その心は真であろう」

 ピタリ、と。意外なほどに聞き分け良く、ランサーはその動作を停止した。
 しかし、それに対する一瞬の困惑は、次の展開への確信へと変化する。
 それだけで済むような相手なら、そもそもこうも野蛮な手段に訴えるはずがないと、セイバーにも理解できていたからだ。


771 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:49:56 xRH2eqh60

「だが、世界の滅びにおまえの意志は関係あるまい。その身は既に、星が備えた終末装置、単なる自殺機構に他ならない。そしてその在り方は、貴様自身が望んで変転したものだ」
「……っ!」

 どのような異能を有しているのか。未だこちらの正体を知らないはずなのに、背負う因果を見通しているかのように――正しく神たる者の視座から、ランサーはセイバーを糾弾する。

「それでも……だからこそ、俺は、無意味な戦いはしたくない。そんな運命に負けたくないんだ!」
「二度言おう、セイバーよ。おまえの意志は、おまえの備えた機能とは無関係だ。ただ口先で取り繕い、そこから目を逸らすしかできぬ程度であれば、その血の宿命(さだめ)に背くこと能わず。ならば私(ローマ)は王として、ローマに迫る脅威を滅ぼすのみ」

 セイバーの訴えを弱音と断じ、ランサーは再度の突撃を敢行してきた。

「ロムス!」

 二度目の槍撃は、一度目を凌ぐ苛烈さを有していた。完全には避けきれず、セイバーの頬が割かれ出血する。
 既にヒトではない身の上を示す、緑色の血液を。

「ローマァッ!」

 身の丈以上の長槍を小枝のように扱って、ランサーはさらに追撃する。
 今のセイバーでは、体勢を立て直す暇もない。この一撃を受ければ絶命する。
 未だ真意も知れぬ相手の手で、護るべき戦えない人々を大勢残して。

 ――あるいは、本来の不死性を再現したスキルにより、復活の判定が得られるかも知れない。
 だがその時、アンデッドとしての特性で蘇生した己は果たして、今(ヒト)の自我を保っていられるのだろうか。
 それこそランサーが誹るような生命の天敵、単なる終末装置として、再稼働しない保証はない。

 そんなこと――――到底、受け入れられるはずがないっ!



《――Turn Up――》



「……防いだな。私(ローマ)の槍を。私(ローマ)の意向を」

 詰るような、しかし悪感情の一切を伴わないランサーの声が、金色の壁の向こうからセイバーに届く。
 彼の槍を防ぎ、弾き返したのは、確かにセイバーが腰に巻いた宝具の展開した結界――オリハルコンエレメントによる仕業だったが、敢えて取り合おうとはセイバーもしない。
 代わりに、左手を引き、右手を掲げるいつもの構えを取る。
 その所作に、半透明のオリハルコンエレメントの壁が呼応する。
 いつからか更新された機能を反映して、自身の下へと迫って来た瞬間。人外の物となった血をなおも熱く燃やしながら、セイバーは叫んだ。

「――変身!」

 そうして、光の壁を潜る瞬間。真名解放の代わりとなる解号を詠唱したセイバーの姿は、変わっていた。

 痩せぎすだった肉体は、黄金の甲冑に包まれて厚みを増し。その顔を、三本角が特徴的な兜が包み込む。
 全身を隈無く装甲した、絢爛たる黄金の鎧騎士が、彼の居た場所に立っていた。

 これこそは、生物種の始祖、その内の十三体たる不死者と融合した王者の鎧。
 セイバーの持つ最強の力の象徴にして、仮面ライダーの名を背負う戦士の姿を再現する宝具。
『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』の威容だった。


772 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:54:32 xRH2eqh60

 仮面ライダーブレイドに転じたセイバーが、籠手に覆われた右手を開けば。そこに光芒が走り、瞬く間に黄金の大剣が実像を結ぶ。
 それこそがセイバーの誇るもう一つの宝具。人の願いに導かれながら、人の意図した結果に拠らず、星の力を束ねて産み落とされた兵装、その最も新しき系譜。
 顕現した神殺しの大剣に、セイバーは左の手を添えて、構えた。

「マグヌスッ!!」

 一連の変化を認めて、一呼吸の後。裂帛の気合と共に、ランサーの宝槍がセイバーへと襲いかかる。
 セイバーが宝具を纏う以前とは違う、手心のない必殺の一撃。真名の解放を伴わずとも、天性の肉体が誇る筋力で揮われる大質量の直撃は、武勇に優れた英雄にとっても致命的な一刺しとなる。
 そして鈍重な鎧を着込んだセイバーには、それを躱す機動力など望むべくもなかった。
 巨人が棍棒で打ち据えるような一撃が、黄金の鎧に着弾。衝撃の伝播した足元のコンクリ床が砕け、粉塵が舞い上がる。

 ――直後。金色の一閃が、立ち込める白い暗幕を切り払う。

 余波がその身を貫き、足元を砕くほどの一撃を真正面から脆に受けて――セイバーはなお、健在だった。
 国造りの樹槍を受けた絢爛たる甲冑には、歪みも、痛みも、曇りの一つも在りはせず。その威容を、僅かたりとも貶めぬまま輝きを放つ。
 その堅牢な宝具と融合した当人もまた、たかが一撃では微かな痺れを覚えただけで、これと言った痛手は受けていない。

 しかしその痺れは、敏捷にも優れるランサーを取り逃すには充分過ぎる隙だった。
 視界を塞がれていたのは同条件にも関わらず。セイバーが繰り出した反撃の刃を、ランサーは的確に回避していた。

 ランサーは払われた勢いを利用して後退したまま、さらに距離を取り、双方の間合いの外まで逃れて行く。
 仕切り直す形となった両雄はそこで一度、動きを止めて向かい合った。

「――ランサー。おまえは、俺を見極めるために戦うって言ったよな」
「左様である。父たる軍神の司る概念、我が起源こそは戦にあるが故に」
「……俺とおまえは、戦うことでしかわかり合えない、って言いたいのか?」
「如何にも」
「そうか」

 ランサーの淡々とした返答を受け止め、咀嚼したセイバーの内で、反響は徐々に膨れ上がった。

「……悪い。確かに俺はもう人間じゃないし、あんたの言い分もわかる。それに昔、自分でも似たような真似をしたことがある――だけど少し、あんたには腹が立った」

 ――あるいは、無遠慮に友との記憶を掻き乱されたからか。
 悪行に憤るのとも少し違う、久しい憤りを身に宿しながら、セイバーはなおも言葉を連ねた。

「ただ、俺と話をする気がないとしても、一つだけ聞かせてくれ。ここに俺を閉じ込めている間に、マスターに手出しをするつもりはないんだろうな?」
「無論。あの男もまた、その裡にローマを秘めているのだから」
「ああ、安心したよ。それなら存分に、あんたの気が済むまで付き合ってやる」

 超然としたランサーの返答の、真偽の程はわからない。だが、主従を結ぶパスは未だ繋がっており、随時供給される魔力にも乱れがないならば、敢えて疑う必要も薄いことだろう。
 いざという時には、令呪で呼びつけて貰うこともできるだろう。だから過度に心配するよりも、まずは目の前の火の粉を払うべきだとセイバーは結論した。
 それこそが、立ちはだかる運命に光差す道を切り開く最初の一歩になると信じて。

(――耐えてくれ、マスター)

 ただ一度、空間ごと隔離された同志に向けて、祈るように胸中で呟きながら、セイバーは手にした大剣を構え直した。
 それを見たランサーも、それまでと異なり重心を適度に落とした、正しく戦闘態勢と呼ぶべき構えを取る。



 そして合図もなく、ただ呼吸が噛み合った瞬間に、二人の王者が揮う大剣と巨槍の距離は再び零となる。



 その激突を合図として――聖杯戦争の初戦を飾る、超級のサーヴァント同士の対決の火蓋が、ここに切って落とされたのだった。


773 : バトル・コミュニケーション ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:55:32 xRH2eqh60

【D-5 警察署 署長室/一日目 午前】

【レクス・ゴドウィン@遊戯王5D's】
[状態] 健康、魔力消費(小)
[令呪] 残り三画
[装備] デュエルモンスターズカード(マヤ文明デッキ)
[道具] なし
[所持金] やや裕福
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての贖罪として、罪なき人々を悲劇の運命から救う
1.姿の見えない何者かに対処する。
2.セイバー(剣崎一真)の援護を急ぐ。
3.実地調査に当たれる同盟先を探したい。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は警察署の署長です。
※スノーフィールドには市民の危機感を抑える魔術式が施されているのではと推測しています。



【夏目実加@仮面ライダークウガ(小説)】
[状態] 健康、魔力消費(微小)、七つの丘による気配遮断スキル獲得中
[令呪] 残り三画
[装備] プロトアークル、
[道具] 不明
[所持金] 一般社会人並
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての英雄たちのように、人々の笑顔を守りたい。
1.ゴドウィンを抑える。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は国際テロリズム対策課所属の刑事です。




【D-5 警察署中庭/一日目 午前】

【セイバー(剣崎一真)@仮面ライダー剣】
[状態] 健康、やや苛立ち、仮面ライダーブレイドキングフォームに変身中
[装備] 『原初纏う黄金の鎧』、『始祖束ねし王者の剣』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦えない全ての人の代わりに、運命と戦う。
1.ランサー(ロムルス)に対抗する。
[備考]
※第十三階位(カテゴリーキング)のランサーの真名を知りました。



【ランサー(ロムルス)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] 『すべては我が槍に通ずる』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:人々の中に受け継がれる光(ローマ)を見守り、力を貸す。
1.セイバーの本質を裁定し、対処する。
[備考]
※『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』を展開中です。
※レクス・ゴドウィンの中にローマを認めました。



[全体備考]
※警察署中庭に『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』による結界が展開されています。周囲からの目視、及び内部のサーヴァントの感知は通常に比べて著しく困難となっています。


774 : ◆aptFsfXzZw :2017/04/10(月) 22:56:55 xRH2eqh60
以上で投下を完了します


775 : 名無しさん :2017/04/11(火) 05:38:00 B00asoyo0
投下乙です。
友を殺せなかった剣崎君は、弟を下した神祖からしてみればやはり甘く見えるのでしょうか。
マッチョ皇帝にアサシンの真似事をさせられるとは、流石は皇帝特権EX。
しかしそんな神祖と互角以上に渡り合えるキングフォーム。流石、劇場版で14を真っ二つに出来ただけの事はありますね。
それとこれ、警察同士の内ゲバに等しいと考えると少しニヤリと来ますねw


776 : 名無しさん :2017/04/11(火) 10:35:19 4J.t/Xc60
王vs皇帝か


777 : 名無しさん :2017/04/11(火) 12:13:06 xUcJcygYO
投下乙です

事実だけ見ると、地球の生物史のリセットを半永久的に先延ばしにする為に、リセット装置増やしたって事だからね。全然安心できない
ローマは、理性的だし周りにも配慮してるけど、やってる事は「拳で語り合おうぜ!」


778 : 名無しさん :2017/04/22(土) 12:51:47 RkOdpdQI0
しかしどこぞの金ぴかに比べればまだ穏当だと思う
奴だったら剣崎どころか仮面ライダー全般を敵視して潰そうとするだろうし


779 : ◆87GyKNhZiA :2017/05/13(土) 23:44:19 oIFM6bOw0
御坂美琴&フランケンシュタイン、天樹錬&アンク、巴マミ&ケイローンを予約します。
また今更な話で申し訳ありませんが、自作である天樹錬&アンクにおきましてスキルに鷹の目を追加したいと考えております。お手数おかけしますが、ご一考のほどよろしくお願いします。


780 : ◆aptFsfXzZw :2017/05/14(日) 00:39:12 aBIVyuf60
>>779
ご予約ありがとうございます!
アンクのスキルに鷹の目を追加の件ですが、言われてみればないことが不思議なスキルでした……今の時点ならば過去作に影響を与えることもないかと思いますので、是非追加して頂ければ幸いです。
また、氏のアンクのステータスに合わせて、拙作の火野映司のスキル欄も道具作成を擬似生命・欲望結晶に内包する形にwikiの方を修正いたしました。よろしくお願いいたします。

最後に、自分も件のレメディウス・レヴィ・ラズエル&バーサーカー(火野映司)、およびティーネ・チェルク&セイバー(アルテラ)で予約します。


781 : ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:46:40 o6IFjbTs0
予約分を投下します


782 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:48:37 o6IFjbTs0
初めてのプレゼントですから、とその子は言った。
それをどんな思いで吐き出せた言葉だったのか、その時の自分には知る由も無かった。

ある日突然現れた、自分そっくりな女の子。幼い日の過ちによって生み出された、愚かな私の罪の証。
彼女は、突然の闖入者だった自分を茫洋とした瞳で見つめていた。
何者だと問いただしたら、クローンだとあっさり自白した。何がなんだか分からず戸惑う自分とは違い、彼女は何も動じてなかった。不思議そうな顔をして色んなものを見てまわっていた。
一緒にじゃれて、一緒にアイスを食べて、一緒に缶バッジを取り合って。最初は彼女の後を尾けて製造者をとっちめてやると思っていた自分も、いつの間にか彼女のことを「モノ」じゃなく人なのだと思うようになっていた。
初めてのプレゼントだから、と。自分がつけてやった缶バッジを撫ぜて彼女は言った。
何のことか分からずに、そんなもので、と自分は思った。

「さようなら、お姉様」

別れを告げる彼女に、自分は適当に相槌を打ってその場を後にした。
自分でもよく分からない感情がぐるぐる渦巻いて、なんだか胸が苦しかった。

絶対能力進化計画を知ったのは、そのすぐ後のことだった。
一人の超能力者を次の段階へ進めるため、複製された2万人の「妹たち」を犠牲に為される悪ふざけのような計画。
何を馬鹿な、と思った。複製された私を殺すとか、レベル6とか、そんなバカげた計画が成功するわけがないと、切って捨てようと思ったのに。
さようなら、と言ったあの子の顔が思い出されて。
いつの間にか、自分の足は地面を蹴っていた。


783 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:50:34 o6IFjbTs0

計画が真実だと知った時には、全てが手遅れだった。
不自然なまでに人のいない街路を走って辿りついた倉庫街で自分を待っていたのは、単独で軍隊とも渡り合えるとさえ称されるレベル5の第一位と、今まさに殺されようとするあの子の姿だった。
その光景が目に飛び込んできた瞬間、脇目も振らずに走りだし、けれど絶望的なまでの距離が自分を阻んだ。
間に合えと必死に祈って、悲鳴をあげる肺を酷使して、そんな自分の目の前を巨大な鉄塊が落ちていった。
鉄塊の向こうに見えなくなっていくあの子に、無我夢中で手を伸ばした。
一生懸命伸ばしたのに、届かなかった。
何かが崩れる音が、自分の中で鳴り響いた。

落ち延びた自分はすぐに研究施設の所在と動向を調べ、その全てをつまびらかにした。
文字通りの全力で探り当てた情報を元に計画に携わる研究所を襲撃し、計画を続行できないよう徹底的に破壊してまわった。
眠る暇も休む時間もなかった。疲労に霞む視界の中で、これは自分がやらなければならないのだと心に鞭を打った。
胸を苛む感情が何であるのか、その時には既に、自分でも判別がつかなくなっていた。
ただ一つ分かるのは、これは自分の罪なのだということ。
自分の犯してしまったたった一つの過ちが、少女たちの命を奪っているのだということ。
弱音を吐くことは、許されなかった。

結局のところ、全ては徒労でしかなかった。
阻止できたと思った研究は、けれど自分の想像を遥かに超える規模で続行された。
それさえ壊してしまえばあらゆるものが元通りになると思った諸悪の根源は、そもそも計画よりもずっと前に壊れて無くなっていた。
自分の敵は、学園都市そのもの。
自分以外の全てが、自分の敵だった。
何もかもがおかしくて、昏い笑いがこみ上げるのを堪えきれなかった。


784 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:52:00 o6IFjbTs0

電流と爆音が通路を満たし、飛び交う炎が研究所を火の海に変えた。逃げ惑う研究員を無視し、計画に必要な機材と設備だけを狙って潰した。
諦めるわけにはいかなかった。
だって、自分にはそれが許されないから。
一万人を殺した自分には贖罪の義務があって、だから立ち止まるわけにはいかなかった。
機材も、資金も。欲も野心も底を割って何もかもが消えてなくなるまで。
全てを壊して、壊して、壊して、壊して壊して壊して壊して壊して。
そうすればいつかきっと、妹たちを救うことができるのではないかと。




『いつか?』

『そんな都合のいい日が訪れるとして』

『その時までにあと何人、妹(わたし)達は死ぬの?』




「───うるさいッ!!」

絶叫が、喉を迸る。

「ならどうしろって言うのよ!
 計画を今すぐ阻止して、あの子たちがみんな助かって!
 そんな都合のいい方法が、どこにあるっていうのよっ!」

あるわけがない、そんなもの。
現実はいつだって不条理で、誰かを苛んで止まらない。一人が為せることなど砂漠の中の一握が限度で、大きな流れに逆らうことなどできず無残に押し流されていく。
今だってそうだ。
助けたいと、救いたいと、こんなにも願っているのに。
結局私は、誰一人として救うことなどできずに。


785 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:53:19 o6IFjbTs0

ふと。
視界の端にモニターが映った。そこに映し出されていたのは、止められなかった計画の一端。
妹たちの、殺される姿。

───お姉さまから頂いた、初めてのプレゼントですから。

記憶の中の少女が、どこか嬉しそうに言った。


「……あ」

心が、折れた。
足が、無意識に一歩、後ずさった。

「やだっ……や……やめ……」

声は、届かなかった。
モニターに映る光景が、一面血の色に染まった。

ひぅ、と息を呑み、言葉を失ってただ唇を戦慄かせた。
崩壊する施設の音すら遠くのことのように思え、飛散する衝撃が頬を掠め、制服の端が襤褸屑と千切れ飛んだ。

───さようなら、お姉様。

耳元で、声が聞こえた。
その声から逃げるように、御坂美琴は研究施設から駆け出した。



   ▼  ▼  ▼



辛い時。苦しい時。何処からともなく現れて助けてくれる無敵のヒーロー。
そんな都合のいい誰かなんて、何処にもいるはずがないのだと。どうして今まで気付けなかったのだろう。



   ▼  ▼  ▼


786 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:54:49 o6IFjbTs0





聖杯戦争という名の熾烈な殺し合いは既に始まっているというのに、新たに迎えたこの朝は、どこまでも安穏とした雰囲気を崩していなかった。

「それもそうよね。たった十数人が覚悟決めたところで、急に世界が動くなんてことあるわけないか」

もしも世界がそんな単純な代物だったなら、きっと今頃何もかも解決して、みんな笑顔になってるはずだから。
と、そんな自嘲めいたことを心の中だけで呟いて、御坂美琴は中央地区にある中学校へと足を運んでいた。

留学生用の寄宿舎と、中学の本校舎はそれほど離れた距離にはない。だからこうして、気持ちゆっくりと歩いていても遅刻の心配はなかった。
通行人たちの明るい声がそこかしこに木霊する。近くには小学校も併設されているから、見かける人影には小さな子供たちも多かった。仲のいい友人やクラスメイトと並んで話しながら歩く。そこに暗い影は微塵も見えない。

「……あの子たちも、こうして登校する日とか、来るのかな」
【ゥ?】

独り言に、脳内で聞こえる唸り声。何でもないわよと念話で返し、美琴は歩みを再開する。


787 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:55:49 o6IFjbTs0

こうして登校する美琴のように、日常生活を続行するというのは聖杯戦争の初動としては間違った行動ではない。
従えるサーヴァントの性質如何によっても大きく変わるだろうが、少なくとも美琴の従えるバーサーカーは籠城戦に向いたサーヴァントではない。ならば直接戦闘において真価を発揮するのか、と問われたら少しばかり厳しいが、籠城よりも向いていることは確かだ。
汎用性に乏しい都合上外堀はマスターである美琴が埋める必要があるのだが、それにしたって魔力の感知ができない以上は最終的にはバーサーカーに頼る他はない。
結局のところ、初動において外に出るか否かというのは大して重要ではなく。肝心なのは最初に出会ったサーヴァントへの対処のほうになるだろう。

(サーヴァントに会ったらまずは私が交渉して、駄目だったら……まあ、逃げるか戦うかしかないわよね)

ざっくり言えばそういうこと。
美琴は学園都市において最高峰に位置するレベル5・超能力者ではあるが、その暴威も物理法則が意味を為さないサーヴァントには決定打になり得ない。魔力という神秘で形作られた彼らを打倒するには、同じく神秘の塊をぶつけるしか道がないからだ。
つまるところ最後はバーサーカーに頼る他ないのだが、このバーサーカーが戦闘面で強力なサーヴァントかと聞かれると……。
うん、明言は避けておこう。彼女の名誉と自分の精神安定のために。
第一に交渉が挙がるのもここに起因する。自分たちだけで勝ちあがれると、美琴は全く思っていない。その道中で共闘、ないし協力できる陣営との接触は必要不可欠だし、その布石を序盤から打っておきたい気持ちもあった。

───とん。

「うん?」


788 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:57:16 o6IFjbTs0

不意に、足元に軽い感触があった。
視線を落とすと、トラぶちの子猫が一匹、ソックスに包まれた美琴の足に激突していた。どこからか逃げてきたのだろうか、ちょっと身をよじると、子猫は弾かれたように飛び跳ねて美琴から離れた。帯電する体質の都合上、動物からはこんな反応をいつもされてしまう。慣れたものだが、どこか物寂しい気持ちもあった。

「あっ、トラちゃん!」

目を向けると、十歳くらいの女の子が駆け寄ってきた。子猫の飼い主だろうか、すぐそこの家先から飛び出してきた少女は逃げる子猫を追い掛けて、しかし高いフェンスの上に登ったのを見ると、困った表情を浮かべ立ち止まった。

「あ……トラちゃんが、その……」

ぶつかったことを気遣われてか、もじもじと女の子。心配気な顔をして、チラチラと美琴と猫とで視線を彷徨わせる。子供と言っても猫なのだからこれくらいの高さは平気だろうとは思うけれど。
それを前に、美琴は思い出すことがあった。

(そういえば、前にもこんなこと───)

ふと思い返す。それは確か、初めて"あの子"に会った時のこと。
木の上から降りられなくなった子猫を、あの子は助けたいと言ってきた。表情の伺えない顔で、それでも確かに助けたいと。

その時のことが、何故だか鮮明に思い出されて。

「……よし。ちょっと待っててね」

ぽんぽんと女の子の頭を撫で、にっこりと笑いかける。きょとんとした女の子を後目に、決意も新たに子猫を見据えた。
目標は遥かフェンスの上。あの時よりはずっと楽なはずである。多分。

「ほら怖くない、怖くないからこっちにおいでー……」

子猫を抱きかかえようと腕を伸ばす。フェンスは美琴が万歳しても届かないほどに高く、ぶつかろうものなら派手に揺れて猫が落ちかねない危険性があった。だからそっと、そぉっと静かに手を伸ばす。
手を近づけると威嚇するようにこちらを睨み唸ってくる。慌てて手を引っ込めると、子猫は大あくびをして視線をふいと逸らした。それを何度も繰り返し、一進一退の攻防劇。傍らの女の子と一緒に、息を呑んで事態に集中する。

「ていっ」

するり。

「とりゃっ」

するり。

「このっ、いい加減に捕まれーっ!」


789 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:58:22 o6IFjbTs0

全然捕まらない。
ぴょんぴょんと跳ねる美琴の腕を、子猫は紙一重で躱し続ける。そんなに美琴に捕まりたくないのか、仮に猫にも表情があったら「嫌だなぁ」という顔をしているに違いない億劫な所作でこちらを見ている。女の子も女の子で「そこだっ」「惜しい!」と熱が入ってるようで、何とも微笑ましいものだがこれでは埒が明かない。

「ぐむむ、こうなったら……」

いい加減ケリをつけてやる、と心機一転。余人には見えず感じ取れない程度の微弱な電流を、ほんの少しだけ流す。靴裏と地面に反発する磁性を付与し、掛け声と共に跳躍。不自然じゃない程度に浮き上がった体と、「すごーい!」という女の子の声。どんなもんよと笑いつつ、さあこれでようやく捕まえてやれるぞと向き直り───

「あだっ!?」

いつの間にかフェンスから眼前まで飛び跳ねた子猫が、美琴の顔面を蹴りあげて跳躍。突然の不意打ちに為す術なく、もっふりとした衝撃を食らってしまう。
凄い音を立てて背中から墜落する美琴と、綺麗なフォームで地面に降り立つ子猫。そのまま駆けて行ってしまう。

「こン、の……待ちな───」


「───よしよし、いい子だから大人しく、ね?」


子猫を抱き上げたブロンド髪の少女の姿が、そこにはあった。
何時の間にそこにいたのだろう。その子の腕には、甘えた鳴き声をあげ丸くなっている子猫の姿。


790 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 09:59:29 o6IFjbTs0

「この子、あなたの飼い猫? はい、もう目を離しちゃ駄目よ?」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」

駆け寄った女の子に、優しい手つきでそっと子猫を渡す。たったそれだけの仕草なのに、どこかお嬢様めいて、何ともサマになっているものだった。

「それと、そっちのお姉ちゃんも。手伝ってくれてありがとう」
「あ、うん……」

にっこりとお礼を言われて、けど美琴の返事は曖昧だった。結局何も役立ってないような気がするし、正直恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。うん、消えたい。

「また会おうね、お姉ちゃん!」

ばいばいと手を振って、子猫を抱えた女の子とさよならする。割と散々だったが、まあ結果良ければ何とやらだろう。
女の子が見えなくなるまで曖昧な笑みで手を振り続け、見えなくなったところで服の汚れを払い、さて気を取り直して学校へ行くかと思ったところで。

「……あなた、御坂さんだったわよね?」

と、声をかけられた。

「うん、まあ、そうだけど」

振り返ってみれば、そこには先ほど子猫を捕まえてくれたブロンド髪の少女がいた。
綺麗な女の子だった。同じ制服を着ていることから美琴と同じ年頃であろうその子は、一言で言ってしまえば温和でおしとやかな雰囲気を湛えた少女であった。ロールヘアのブロンド髪は貴族めいて、それでいて全く嫌味を感じさせない。発育のいい体は、同年代の女子としては多少羨ましいものを感じさせるのだった。
と、そこまで観察して気付く。

「アンタ、もしかして日本からの留学生?」

この少女、凄く綺麗な金髪をしているが、顔立ちは日系のそれだ。
問われ、少女は笑みを浮かべて。

「ええ。私は巴マミ、せっかくお会いできたんだから自己紹介でもと思って」


791 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:00:29 o6IFjbTs0

聞き覚えのある名前に、ああなるほどと納得する。数少ない日本からの留学生同士ならば名前を知る機会もある。彼女が自分の名前を知っていたのもそうだし、自分が彼女の名前に聞き覚えがあるのだってそうだ。
巴マミ。確か、自分と同じ学年だったはず。寄宿舎も同じところを利用しているはずだが、今の今まで顔を合わせる機会がなかったのだ。

「そういえば同じカリキュラムを受けてるはずなのに、不思議と話す機会もなかったのよね。私は御坂美琴……って、もう知ってるか」

よろしく、と軽く会釈。マミの穏やかな雰囲気に当てられたのか、先ほどまでの気恥ずかしさやら何やらもどこかへ吹き飛んでいた。

「こちらこそよろしくね、御坂さん。貴方が良い人そうで良かったわ。ここだとやっぱり日本の人は少なくて、ほんの少しだけ心細かったから」
「ふうん、そういう風には見えないけど」
「本当にそう見えてるのだとしたら、私の強がりもちょっとは効果があるみたいね」

やっぱり心細そうには見えない微笑を浮かべるマミに、曖昧な笑みで答える。何というか落ち着きすぎてて同い年の少女と話してる気がしないというのもあるが、良い人と言われて面映ゆい気持ちもあったから、どう反応していいものやら分からなかったのだ。
……でも。
嬉しくはあったけど、その評は大外れだ。
だから美琴は曖昧な笑みしか浮かべることができない。一万人を殺して、今再び殺人を犯そうとしている自分が、善人であるはずがないのだ。

「ま、同席する機会があったら仲良くしましょ。授業の準備があるから、またね」

そのまま返事も聞かずに踵を返し、学校の方に足を向ける。
マミのことが嫌だとか、そういうわけではない、
ただ、これ以上話していると、四人でよく過ごしていた頃のことが思い返されて、今の自分が尚更惨めに思えてならなかったのだ。

(そうよ、今私がいるのは戦場、やらされてるのは殺し合い。安穏とぬるま湯に浸かってられる余裕なんて何処にもないんだから)

例えいつも通りに登校するという日常を送ろうと、それはあくまで身を隠すという戦術的な意味でしているにすぎない。そこに含まれている意味が、真に日常ね回帰するわけではない。

(戦わなきゃ生き残れない……私は、生き残って……)

救わなければならないのだから、と。
それだけを胸に、御坂美琴は歩み続ける。


792 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:01:25 o6IFjbTs0



『見捨てるのですか?』
『お姉様は』
『今度も、また』



───頭蓋に響く怨嗟の声は、耳に張り付いたまま途切れることなく繰り返される。
───答えることなど、できるわけもなかった。


【D-5 中学校までの通学路/1日目 午前】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]若干の精神不安定
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:最後まで生き残り帰還する。聖杯により妹たちを救う?
0.登校する。
1.私は本当に人を殺せる……?
[備考]

【バーサーカー(フランケンシュタイン)@Fate/apocrypha】
[状態] 健康、霊体化
[装備] 乙女の貞節(ブライダルチェスト)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:……
1.マスターに従う
[備考]





   ▼  ▼  ▼


793 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:03:08 o6IFjbTs0





御坂の後ろ姿が道の向こうに消えていくのを見届け、マミは柔和な顔つきを強張らせ、問いかける。

【……アーチャー、やっぱり】
【ええ、間違いないでしょうね。あの少女、御坂美琴は聖杯戦争のマスターです】

念話で答える声が一つ。それはマミに付き従うサーヴァント、ケイローンの声だ。

高次の魔力体であるサーヴァントにはそれぞれ固有の魔力反応が存在する。サーヴァント同士であれば数百メートル単位で互いの位置を感知可能であり、広大な街中を舞台にする上で参加者同士が効率よく激突し合うための一要素でもある。
しかし、そんな不文律はこのサーヴァントには通用しない。神代にも近しい古代ギリシアにおける遍く英雄たちの師であり、神に連なりし大賢者たるケイローンには。
万能の御業、神より賜りし奇跡の叡智。
即ちスキル「神授の智慧」。それは遍く技巧、遍く力を体現する無窮の業なれば、今やケイローンは熟達の暗殺者すら凌駕する域の気配遮断能力を発揮するに至っているのだ。

【今、我々にはいくらか選択の余地があります。見逃すにせよ接触するにせよ、この段階であれば過ちとなる可能性は極めて少ない。故に、貴女の成したい意思こそが重要となります】
【私の、やりたいこと……】
【無論、そう気負わずとも大丈夫です。これほど分かりやすい形で魔力反応がある以上、彼女が件の都市伝説に纏わるサーヴァントを従えているということはまずありません。交渉や回避の余地は十分にあるかと】

マミは押し黙り、何かを考える。ケイローンは口を挟むことなく、ただ答えを待った。


794 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:03:55 o6IFjbTs0

【……私ね、アーチャー。御坂さんが悪い人だとは、どうしても思えないの】

マミたちは早い段階から御坂とそのサーヴァントの気配を探知していた。彼女と接触したのもそうした理由からだ。だからマミは御坂美琴の登校する様子を、ずっとつぶさに観察していた。
その上で出した結論こそがそれだった。少女のために子猫を庇おうとし、悪戦苦闘する様を見て誰が彼女を悪人と思おうか。

【ええ、その点については私も同意見です。しかし悲しいことですが、悪人でないという事実と他者を害する行為は容易に両立し得ます。努、忘れることのないよう】
【……そうね。ええ、本当に】

目を細め、マミが思うは過去か。彼女の辿ってきた道行、友誼を交わした人々。かの赤い魔法少女は、誰かを傷つけながらも決して悪人ではなかったから。

【一度、彼女と話してみたいわ。それで戦うことになっても……後悔だけは、したくないから】
【分かりました。それが貴女の意思ならば、私は全霊を尽くしましょう】

背後の彼に心からの礼を言い、マミは歩みを再開する。迷いも恐怖もありはしない。

ただ、自分自身の思い描く魔法少女であるために。
巴マミは聖杯戦争への第一歩を、今この瞬間に踏み出したのだ。


795 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:04:39 o6IFjbTs0


【D-5 中学校までの通学路/1日目 午前】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] バッグ
[所持金] 学生並み
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:魔法少女として誰かを守れるように在りたい。
1.時期を見て御坂美琴に接触する。
2.口裂け女は放っておけない。
[備考]


【アーチャー(ケイローン)@Fate/apocrrypha】
[状態] 霊体化、気配遮断
[装備] 弓矢
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの力となる。
1.マスターの意思を尊重し、それが損なわれないよう全霊を尽くす。
[備考]
※御坂美琴とそのサーヴァントの気配を感知しました。
※口裂け女について一定の情報を得ています。





   ▼  ▼  ▼


796 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:05:45 o6IFjbTs0





錬が奇妙な『情報の乱れ』を感知したのは、中学校への通学路を歩いているまさにその時であった。
I-ブレインの突然の反応に立ち止まる。極めて微弱ではあったが、すぐ近くで、何者かが情報制御を行なっていた。しかも、酷く特異なやり方で。

【おい、どうしたレン】
【情報制御だ。近くに魔法士がいる】

言って錬は目を閉じ、I-ブレインに意識を集中させる。情報の海を伝って、力の中心を探る。
……見つけた。現地点から前方300メートル、そこに微かな力の流れがある。
目を開けた錬は、大通りから狭い脇道へと進路を変え、気持ち早足で先を急ぐ。情報制御……位相世界たる情報の海に生じた法則の乱れの発生源は既に特定している。例え亜光速で離脱されようとも対象を見失うことはない。

果たして、数分をかけて移動した錬の視界の向こうにその少女はいた。
フェンスに乗った猫を捕まえようと悪戦苦闘している。傍から見れば何の変哲もない……いやそれ自体はかなり奇矯な行動ではあったが……ともかく普通の少女にしか見えない。通常の視界であるなら何ら異常は見当たらない。しかしI-ブレインの視界から見た彼女は常軌を逸していた。端的に言えば、捻れた物理法則が少女の全身を覆い尽くしていたのである。

AIM拡散力場という事象が存在する。
それは少女───御坂美琴のような脳開発により発現した能力を持つ全ての人間が兼ね備える、無意識に展開する微弱な”力”のフィールドのことだ。
発火能力者ならば熱量を、念動能力者ならば圧力を、常に微弱な力の流れとして垂れ流している。それは本来常人では一切感知できないほど小さく、何にも影響を与えない程度のものではあった。レベル5たる美琴ですら、精々が体表に帯電する静電気で犬猫に嫌われるくらいしか影響を及ぼさない、その程度の小さな力場。
だがしかし、どれほど小さくあろうとも、それは本来世界に在り得ざる歪みに違いはない。


797 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:06:28 o6IFjbTs0

錬が感知した微弱な情報制御とは美琴の放つAIM拡散力場のことだった。物理法則を書き換えて放たれる電流はそれ自体が世界の構成情報を変異させる。その点において御坂の扱う超能力と錬の扱う情報制御は同一の事象を操る技術であった。
しかし。

【……変だな】
【どうした。なにか気にでもなるか?】
【うん、なんていうか……あれ、本当に魔法士?】

錬が気になったのは、まさに”常に垂れ流されている”という美琴の持つ能力の性質だった。
魔法士の持つI-ブレインとは、生体細胞を用いてはいるが基本的なフォーマットは量子CPUに準拠する。それはつまり、完全なON/OFFが可能ということだ。というよりも、それがノーマルな状態と言っていい。
少なくともあのように常時情報制御を行使しっぱなしなんてことはない。単純に意味がないし、私は魔法士ですと大々的に自己紹介して周るようなものだからだ。そんなことをするような人間は、それこそ馬鹿か狂人しかいないだろう。
つまるところ、あの少女は通常の魔法士にしてはどこかおかしいということだ。というか変だ、こんな人間初めてお目にかかる。あ、思い切り背中から落ちた。すごい痛そう。

【で、サーヴァントの気配は?】
【バリバリしやがる。間違いなくマスターだなあのガキ】
【うん、まあそうだよね】

言って錬は少しばかり考えこみ。


798 : それぞれの往く場所 ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 10:07:23 o6IFjbTs0

【とりあえず、今すぐ接触はなしの方向で】
【理由は?】
【こっちはアサシンなんだから静観している内からばれる危険性は少ない。加えて相手の手札がわからない状態で仕掛けるのは無謀。ついでに言えば、相手は現状”餌”としての利用価値がある】

あれだけ無防備に気配を晒して、街を行き交うサーヴァントの網を掻い潜れる道理はない。そう遠くない内にあの少女は他の陣営と接触し、何かしらのアクションを起こすだろう。
垂れ流された情報制御も含め最初からそういう意図で動いている可能性もあるが……どちらにしろ錬としてはそれを利用するまでだ。他の陣営を釣り出す餌として、存分に働いてもらおう。

【現状維持って言えば聞こえは悪いかもしれないけど、まだまだ焦る必要はないよ。聖杯戦争はこれからなんだから】

自身を奮い立たせるように、あるいは強がるように。錬は薄っすらと笑ってみせるのだった。


【D-5 中学校までの通学路/1日目 午前】

【天樹錬@ウィザーズ・ブレイン】
[状態] I-ブレインに蓄積疲労(極小)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] ミスリル製サバイバルナイフ
[所持金] 学生並み
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得による天使の救済。
1.暫くは情報収集に徹する。
2.マスターの少女(御坂美琴)を利用して他の陣営を引きずり出す。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は日系の中学生です。
※ムーンセルへの限定的なアクセスにより簡易的な情報を取得しました。現状はペナルティの危険はありません。
※御坂美琴をマスターだと認識しました。


【アサシン(アンク)@仮面ライダーオーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 欲核結晶・炎鳥(タジャドル・コアメダル)
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:王として全てを手に入れる。
1.レンに合せて他陣営を探る。場合によって戦闘も視野に入れる。
[備考]


799 : 名無しさん :2017/05/17(水) 10:07:48 o6IFjbTs0
投下を終了します


800 : ◆87GyKNhZiA :2017/05/17(水) 19:33:35 o6IFjbTs0
設定のミスがあったので、>>791の冒頭を以下のものと差し替えさせていただきます。



聞き覚えのある名前に、ああなるほどと納得する。数少ない日本からの留学生同士ならば名前を知る機会もある。彼女が自分の名前を知っていたのもそうだし、自分が彼女の名前に聞き覚えがあるのだってそうだ。
巴マミ。言われてみれば何度か耳にした名前だ。本来よりも上の学年のカリキュラムを受けることも少なくない美琴は、必然として違う学年にも顔を出すことが多い。寄宿舎も同じところを利用しているはずだが、今の今まで顔を合わせる機会がなかったのだ。


801 : ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:06:50 1PgpojSk0
ご投下、ありがとうございます……!
また、お早い修正お疲れ様でした。よかった、留年したマミさんは居なかったんだね……!

美琴の戦う理由を、今一度なぞり始まる冒頭。自らの命を差し出してまで償おうと追い詰められた時期からの参戦でした。
そうでなければ、通りすがりの女の子のために、杞憂であるとわかっていても子猫を助ける優しく元気な普通の女の子でしかないのに、何故こうも。
罪を贖うため。女の子のために頑張って、格好悪い失態に恥じ入って、そして楽しかったあの頃から逃げるように戦いに向かう、いずれの心理も深く感情移入させられる、メリハリのある描写がお見事です。
そんな美琴を見て悪い人ではないと確信するマミさん。彼女が追い詰められた理由を訊けばさらに放っておくことはできないでしょうが、ケイローン先生の指摘も流石に真理をついており、先の展開はまだまだ読めません。
そしてマミさんと同じように、錬もまた、美琴の戦う理由を知ったなら、今のように冷淡では居られないのかもしれませんが……二陣営揃って先に美琴たちを一方的に捕捉しているの、シリアスなのになぜだか笑えてしまえます。
とてつもなく重く切実な理由で戦う美琴ですが、現状は明らかに大ハンデからのスタート。今後に巻き返しができるのか、そして彼女を軸に錬やマミさんはどう絡むのか。先の展開に期待が募りますね。
大変面白い作品でした。改めてご投下、ありがとうございました!

それでは私も、予約分の投下を開始します。


802 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:08:01 1PgpojSk0



      奴隷と王様と、貧者と金持ちと、英雄と悪漢と
      役割に甘んじるかぎり、誰もが運命の下僕に変わりはしない。
                          シェイクスリー公爵 「劇場の世界の劇場」 皇歴一二九年













 スノーフィールドの東西南北を取り囲む、四種の大自然。
 その内、東に広がる湖沼地帯に、ティーネ・チェルクを載せた車は到着していた。

「お疲れ様でした、ティーネ様」
「そちらこそ」

 労いの言葉を掛けてくる、偽りの同胞に言葉を返しながら、ティーネは脇に目をやった。
 この運転手にティーネが魔術による暗示を施した後、実体化していた同乗者――セイバーのクラスで以って現界した英霊に。
 アッティラ・ザ・フン――今はアルテラを名乗る、偉大なる征服の大王。

「……む」

 可憐な少女の姿で顕れた破壊の大王は、最早好意を隠すことなく、カエルを模したマスコット人形をその胸の中に抱いていた。

 曰く、日本を端とするこのゲコ太人形というキャラクターグッズは、在住する熱烈なファンが本国より取り寄せ続けた結果、スノーフィールドの街でも取扱店舗が存在するようになったらしい。
 どこまで本当なのかはわからないが、何故か土地守の民の役割を与えられたNPCはこれをティーネの慰みにと購入してきたらしい……確かにアメリカ製品を渡されるよりは遥かにマシだが、その行動は理解に苦しむ。

 だが、そんなNPCの行動も、セイバーの興味を惹いたのならば悪くはない、のかもしれない。
 寸前までの、今にも街を焼き払いかねなかった剣呑な雰囲気は何処へやら。ティーネからその人形を献上されたセイバーは、「ゲコ太は良い文明」などとすっかり気に入っていた。
 それまでの機械的な印象を裏切る彼女の様子は、ティーネがその人となりを理解するにはまだ及ばずとも、一先ず良い方向に機嫌を動かせたのなら好ましいと思えた。

「畏れながら、大王」
「……わかった」

 その愛着も、制御に難が出るほどの執心ではないことは幸いだ。ティーネが促せば、セイバーは惜しむ様子ながらも一旦人形を手放し、霊体化して姿を消してくれる。
 聖杯戦争という本題を見失うことなく、不可視化したセイバーを伴って、ティーネは車から降りた。

 スノーフィールド郊外の中でも、比較的開発の進んだこの一帯には、幾つかの別荘地が点在している。
 この場所はその内の、ティーネ達の一族が所有する――と、ムーンセルに設定されたペンションの所在地だった。

 そして、この街中から外れた宿泊施設にティーネ達が今回足を運んだのは、もちろんここで愛すべき郷土が誇る大自然を満喫するため、などではなく。この場所を隠れ家として提供した外様との協力関係を、再確認するためだ。
 即ち、国境を越え活動する破壊活動組織『曙光の鉄槌』との、確固とした同盟締結が目的なのだ。

 ――堕ちたものだ、とティーネは内心で嘆息する。
 魔術という拠り所すら存在しないとはいえ、誇り高き土地守りの一族が、テロリストと手を組むなど。

「(マスター)」

 所詮、ムーンセルが配役したに過ぎない偽りの同胞ではそんな程度か――などと一方的な落胆を続けていたティーネの脳内に、直接響く声があった。

「(いかがされましたか? 大王)」

 霊体化したセイバーからの呼びかけだと気づいたティーネは、何を考えているのか伺えない、抑揚のない声に尋ね返した。

「(居るぞ、この中に――サーヴァントが)」

 セイバーは変わらない様子のまま、その続きの言葉をティーネに聞かせた。


803 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:09:26 1PgpojSk0








 数分後。
『曙光の鉄槌』が拠点とする屋敷、その地下室。
 その扉の前に、ティーネは一人で立っていた。

 随伴するはずだった一族の大人達も、浅黒い肌に彫りの深い顔つきの『曙光の鉄槌』の構成員たちも、ティーネが一人で屋敷の最深部に進むことを見咎めもせず、むしろ彼女から離れるようにして館の入口近くに固まっている。

「大王。ここに……」

 ティーネの問いかけに、ああ、とセイバーが頷いた。
 この扉の奥に、サーヴァントが存在するのだと。

 道中、出会う相手には片っ端から魔術による暗示を施して進んできた。
 そのために、幼いティーネの単独行動が咎められることはなく。また同時に暗示に抵抗できる者、即ち無力なNPCではない者の識別も兼ねることができた。
 結果、ここまでそれらしき該当者は皆無。サーヴァントを従えるマスターが居るとすれば、やはりこの最深部――『曙光の鉄槌』の党首が待つという部屋しかあり得ない。

 意を決して、ティーネは扉を開いた。

 軋みを上げて、視線を遮る壁が半ばまで退いたその先。無機質な青い照明で照らされた部屋の奥。
 そこに砂色の男が一人、佇んでいた。

 傷が縱橫に走る皺深い顔からは、老いよりも強靭さが感じられた。遮光眼鏡で隠された容貌にはセイバーの物とも異質な威圧感、万年の星霜を耐えた砂漠の巨岩の如く静謐なそれがある。
 どこか不吉な印象の彼が、この館に潜むというマスターなのだろうか。

「土地守の一族の長、ティーネ・チェルクか」

 無言の来訪者に、男は錆びた声で呼びかけた。
 一瞬だけ、何故、という疑問に頭を支配される。しかし眼前の男が、『曙光の鉄槌』党首のズオ・ルーの特徴を満たす人物であるとティーネが把握していたように、相手もまたこちらの情報を事前に知っていたに過ぎないのだろうと推測できた。
 相手の迫力に呑まれていた己の弱気を叱咤して、ティーネは口を開く。

「――それでは、早速ながら夜会を始めよう」

 だがそこから言葉を発するより早く、聞き覚えのない声が響いた。
 ティーネの真横、墓土の臭いがする冷たい息が漂ってくるほどの至近距離から。

「――ッ!?」

 不意に吸い込めば息を乱されるほどに濃密、かつ悍ましい魔力の波長に、ティーネの眼球だけが先んじて声と瘴気の出処に向かう。

 視認したのは、過剰なほどに白く塗られた化粧の上に、青い入墨のような意匠を刻んだ容貌。
 放蕩貴族か、悪趣味な道化のような姿をした怪人物。彼は何の前触れもなく、ティーネの肩に顎を載せられるほどの至近距離に出現していた。

「既に朝日は昇ったが、場所には恵まれている。君も聖杯戦争の演者だろう? では、我らと踊って貰わねば」

(――敵っ!)

 自らの素性を明かすような問いかけに、ようやっと状況を一つ把握できたティーネが咄嗟に魔術を練るより早く、炎を宿した道化の指先が少女の顔面に迫り、

 そのいずれよりも先んじて、極彩色の閃光が駆け抜けた。


804 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:10:28 1PgpojSk0

 迸る三原色の煌めき。道化の腕と脳天を灼き払う輝きを束ねた、軍神の剣。

 それを執るのは、純白の戦装束を纏った剣姫。

 ティーネを庇うように姿を現し、理不尽な死の肉薄を退けたのは、褐色の肌をしたセイバーだった。

 彼女は無言のまま、残心を挟むこともなく前進。苛烈な勢いでその剣を正面へと振り下ろし、衝撃を空間に波打たせた。

「――今のは危なかった。まさか私の反応を越えかねない起動で、迅速に急所を狙ってくるとはね」

 セイバーが峻烈な踏み込みを行った、その少し先の空間。そこに、呑気に呟く道化が居た。
 数瞬前、軍神の剣で確かに両断されたはずの肉体に、瑕疵一つ残さぬ姿を晒して。

 幻視を疑うティーネはしかし、更なる驚愕と混乱に見舞われていた。

「■■■■■■――ッ!」

 何故なら彼とセイバーの間を阻むように立ち塞がり、代わって軍神の剣を受け止めた、一騎のサーヴァントが存在していたからだ。
 雪のように白い肉体を毒々しく鮮やかな紫色の装甲に包んだ、竜の意匠を持つ異形の鎧騎士――あるいは、魔性の装備により変生した怪物。
 そのようにしか形容できない姿をした狂戦士が、握り締めた戦斧で以ってセイバーの光刃を食い止めていたのだ。

「無事だな、マスター」
「は、はい……っ!」
「そうか」

 文字通り竜の膂力を誇るバーサーカーと鍔迫り合いを続けながら、その事実を忘れさせる平坦な声でセイバーが言った。
 その確認に答えながらも、感情を捨てたつもりであったティーネは、未だ混乱から立ち直りきれてはいなかった。

 セイバーと切り結んでいるのはバーサーカー――ならば、奥にいるあの道化は?

 ……つい先程、ティーネの真横に居たのはあの男で間違いない。
 突如として接近した異様な魔力を持つ道化に、ティーネを護ろうとしたセイバーが実体化と同時に攻撃を加えた。ここまでは理解できる。
 しかし、頭部を破壊する一撃を受けてなお道化は生存し、五体満足な姿を披露している。

 その事実が、ティーネを大きく動揺させていたのだ。

 何故なら、マスターの特権があればわかってしまうのだ。人間であれば不可能なはずの再生を見せたあの道化は、サーヴァントではない――と。
 サーヴァントではなく。しかし人間よりも、英霊に近い強大な魔力を有する何者か。
 使い魔を持つとは考え難いバーサーカーの背に隠れたその正体が果たして何であるのか、ティーネには皆目見当も付かなかった。

 そんな少女の疑問の視線を知ってか知らずか、自身の前で激しい鍔迫り合いを演じる二騎のサーヴァントを道化は興味深そうに観察する。

「今の挙動は超速反応というより、未来予知の領域だ。なるほど、これが三騎士に適合する英霊というわけか」
「アムプーラ。何をしている」

 道化――アムプーラと呼ばれた彼のさらに奥から、砂色の男が声を発した。

「何とは、決まっているだろうレメディウス。君と我らの契約に基づき、聖杯戦争で勝利するための先制攻撃だ」

 ズオ・ルー――ではなくレメディウスと呼ばれたその男の存在が、ティーネにとってアムプーラの存在をより一層不可解な代物としていた。

 自軍以外のサーヴァントはあの、第六階位(カテゴリーシックス)のバーサーカーのみ。おそらくマスターはレメディウスと呼ばれた男だろうと、ティーネはバーサーカーの動きを見て判断する。
 であれば、やはり――アムプーラとはいったい、何者なのか?

 そんな疑問にティーネが囚われている間に、地下室の空気に波紋が生じた。


805 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:14:30 1PgpojSk0

 ……否、波紋だけではない。

 朧な光が虚空に踊り、複雑怪奇な術式をそこに描いていた。
 一瞬の後、数多描かれた術式から、実体を持った何かが次々と顕現し始める。

「――ッ!」

 アムプーラのそれには規模が届かずとも。同質の悍ましき気配と、その予感を違えぬ醜悪な光景に、ティーネは思わず息を詰めた。

 顕現したのは、既存の生物学を完全に無視した異貌のものどもだった。

 関節の折れ曲がったヒトの手足と、正気を失った人面が無数に生えた、内蔵を裏返したような肉色の球体。
 金属格子の拷問檻に頭部を、杭や針で縫い付けられた僧服に体を包まれた骸骨。
 眩く白い女人の下半身に繋がる、何十本と生えた青い刺胞動物のような触手で構成された上半身。
 無数の立方体や三角錐の集合した幾何学的な構造の浮遊物。
 さらに種々多様な禍々しい怪物たちが、次々とその姿を実体化する。

 幻想種、だとしても度を越した異形の群れ。まさに魔界の軍勢が顕現したとしか思えない百鬼夜行が、ティーネとセイバーを円状に取り囲む。

「さぁ、月の聖杯を賭けて我らと踊ろう。人類の代表、英霊とそれを従えし魔術師よ」

 悪魔たちの支配者であるかの如く鷹揚に。アムプーラと呼ばれた道化師は、そのような宣言を口にした。













 高次元に存在する生きた咒式――禍つ式の軍団が室内を満たした直後、第十二階位(カテゴリークイーン)のセイバーとバーサーカーは磁石の反発し合ったようにして互いを弾き、距離を取った。

 同時、後退しながらセイバーが手にした光輝の刀身が何倍にも伸長、死を齎す神の鞭のようにうねり、縦横無尽に駆け巡る。
 移動する一瞬の片手間に繰り出されたその一撃と、彼女の右手側に展開していた下級禍つ式達は打ち合うことすら叶わなかった。
 十体近い悪魔の一軍が、構えた武具や硬質の表皮ごと三色の光芒に切り刻まれ、ヘモシアニンの青黒い血霧となって四散する。

(――強いな)

 体内に複数存在する脳や心臓。その全てを破壊しなければ、禍つ式は活動を停止しない。
 斯様に強靭な生命力を誇る異貌のものどもに対し、瞬く間に繰り広げられた殺戮を前にして――そんな当たり前の事実を、改めてレメディウスは認識する。
 予選期間中に自らを襲ったサーヴァントは、アムプーラと双璧をなす最上級の大禍つ式(アイオーン)、〈戦の紡ぎ手〉と呼ばれた魔界の猛将、ヤナン・ガラン男爵を含む二十体の禍つ式を一方的に葬った。
 そのサーヴァントと比較して、全てのパラメータで上回るセイバーの圧倒的な戦力は、マスターであるレメディウスには一目瞭然の事実であったのだ。

 自己強化の宝具と狂化スキルの働きにより、件のサーヴァントを圧倒したバーサーカーにも遜色しないステータス。その持ち主が十全な技量を発揮できるという脅威もまた、レメディウスは充分に理解していた。
 加えて、禍つ式の何割かは『今は無き欲亡の顎(メダガブリュー)』の判定に失敗し、味方から重圧を受けて能力が下降している有様だ。判定を成功しているセイバーに鎧袖一触されるなど、当然の帰結に他ならない。

 原則として――サーヴァントに対抗できる者は、サーヴァントしか存在しないのだから。

「■■■■■■――ッ!!」

 獣の如き咆哮を上げ、バーサーカーが翼を開いた。それが大気を叩く力を利用し、瞬間的に敏捷性を倍加させた狂戦士は、宝具たる戦斧を掲げてセイバーへと直進する。
 無造作に禍つ式を屠殺していたセイバーもまた、一瞬たりとも異形の戦士から注意を逸らしてはいなかった。即座に手元に戻した剣の刀身をバーサーカーに向けると、今度は三又に分裂・伸長させた刺突として一撃を放つ。
 バーサーカーもまた、両肩に備えた角を延ばす。紫水晶の戦斧と、双振りの槍と化した金色の角。都合三つの凶器は見事にセイバーの三点同時攻撃を迎え撃ち、その勢いのままバーサーカーの肉体が旋回した。
 力負けした、わけではない。それはセイバーが持ち得ない四つ目の武器、長大化した尻尾による一撃を繰り出すための動作だった。
 初見殺しに等しい異形の殴打を、セイバーは事前に知悉していたかのように身を浮かせて回避する。そうなれば今度はバーサーカーが隙を晒した形だが、彼女は見当違いな方角へと剣を揮った。

 光輝の奔流と化した斬撃はその先に在った禍つ式の軍勢、そして密かにセイバーのマスターたる少女へと接近を試みていたアムプーラを薙ぎ払い、それから再びバーサーカーの打ち込みへの防御に回された。
 如何にセイバーと言えど、空中にあってはバーサーカーの豪腕には踏み止まれない。何とか衝撃の向きをいなし、床へ着地した彼女に向けて、何条もの光が殺到する。


806 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:17:27 1PgpojSk0

 禍つ式どもは、無抵抗に殺されるのを待つばかりではなかった。
 観測効果による作用量子定数や波動関数への干渉――即ち咒式を用いて、反撃へと打って出たのだ。
 咒力を介することで、局所的に物理法則を変異させ、任意の物理現象を引き起こす超常の術式。ヒトが手にする遥か以前より、竜や古き巨人らと共に禍つ式が操ってきた異能の力だ。

 それによって紡がれた、電磁光学系咒式第四階位〈光条灼弩顕(レラージュ)〉の遠赤外線レーザーの集中砲火。
 光速まで加速した高密度の自由電子の矢は、幾何学的な紋様の刻まれたセイバーの肌に到達した途端に弾け、散乱した。

 咒式もまた、異なる世界線で発展した魔術の一種であるとムーンセルには記録されている。それ故に、実在する物理現象を再現するだけの術式もまた魔術と見做され、神秘を帯び、サーヴァントへの殺傷力を持ち合わせる。
 だが、魔術であるとは即ち、騎士クラスのサーヴァントが保有する対魔力スキルの影響を受けるということだ。
 発動を観測したことで、レメディウスが把握できたセイバーの対魔力スキルはBランク。大魔術・儀礼呪法であっても、ほとんどダメージを受けないほどの性能だという。
 それはつまり、第五階位までの咒式を完全無効化するあのヤナン・ガランやレメディウス自身の咒式干渉結界に匹敵するだけの、咒式への抵抗力を常時有していることを示していた。

 人間の咒式士とは桁違いの咒力を誇る禍つ式でも、下位の個体の遠隔咒式ではセイバーには通用しない。
 ならばと、咒力を載せた武具を直接叩き込もうとする四本足に馬頭の騎士が嘶きとともに突撃するが、間合いに入る前にその脇に抱えた槍ごと長大化した光剣に両断され、胴が落ちるより早い追撃で縦にも割られて消滅した。

 バーサーカーを相手取りながら、その合間に次々と禍つ式を殲滅して行くセイバー。大胆に素肌を露出した格好でありながら、未だ負傷どころか返り血の一滴にもその身を汚さず君臨している戦闘力は凄絶の一言に尽きた。

「■ォ■■――!」

 異質な知性体である禍つ式たちにさえ畏怖を抱かせ、女神の如く戦場を支配する褐色の剣姫へと、恐怖を知らぬ狂戦士が三度目の突貫を開始する。

 一合、二合、三合。レメディウスに誘導される破壊衝動だけの怪物と化した紫のバーサーカーと、殺戮機械のように冷徹な白いセイバーの間で、地下室内を揺るがす重い剣戟が交わされる。
 乱雑な戦斧の猛打を、流麗な半月を描いて光刃が弾き返す。即座に戻って来る強靭な筋力のバネに、セイバーの天性の肉体も競り負けはしない。
 必殺の威力を秘めた連撃、両者の回転数は互角。故に双方ともが直撃には至らず。それでもリーチと柔軟性に勝るセイバーの剣が、防がれた上から徐々にバーサーカーの装甲の表面を削り始める。
 その度にバーサーカーの霊基を構築するセルメダルが蠢き、欠損を埋めた完全な姿を即座に復元する。しかしいずれも軽傷未満とはいえ、被弾を許しているのはバーサーカーばかり。

 このままではいずれ押し負ける。本能で判断したバーサーカーは素顔を隠す仮面から、強烈な冷気として魔力を放出した。
 打ち合いの最中、予備動作なしに放たれた竜の息吹――それさえ読んでいたかのように、セイバーもまた剣から冷気を放出し、その勢いを相殺した隙に距離を取って仕切り直す。
 直後、またも長大化させた光剣を大きく振り被り、一閃。バーサーカーに戦斧を両手で構えた防御を余儀なくさせ、強烈な一撃でその場に釘付けとする。

「やはり、彼女には予知能力でも存在しているのか?」

 バーサーカーに浴びせた大振りの一撃は、凍てつく古の暴君だけを諌めるための物ではなかった。
 長大化させた間合いにより、またもアムプーラを薙ぎ払い、レメディウスに声が届く後方までの退避を余儀なくさせていたのだ。
 さらには、バーサーカーを援護しようとした禍つ式らの伸ばした触手の群れをも根本から切り払っていた。


807 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:18:39 1PgpojSk0

 下位の禍つ式同様、幾度となくセイバーに刻まれながら、アムプーラだけは五体満足で生存し続けている理由。それはこの怪物が連続使用する咒式に秘密があった。
 数法量子系咒式第七階位〈軀位相相換転送移(ゴアープ)〉は、自己の体を量子段階まで情報化させ、物質波動として別の座標に転送し、再生・統合して再度物質化するという、自己の連続性を無視した危険な咒式だ。
 代償として、術者は咒式展開前後の損傷を無視した擬似的な不死性の獲得と、障害物を無視した完全な光速での転移を可能とする。
 最初にティーネの真横に忽然と出現したのも、他の禍つ式に先んじて実体化したアムプーラが〈軀位相相換転送移〉を使用した結果だ。暗殺にも非常に有効な咒式であると言えるだろう。

 しかし、子爵級の大禍つ式たる〈墓の上に這う者〉、アムプーラの咒力と演算能力をして、一度に転移できる距離は数メルトルが限度であり、情報化したままでいられる時間も限られている。さらに言えば、咒式の発動前に本体を絶命させられれば、転移も復元も不可能となる。
 それはそもそもの物理的思考速度が禍つ式に及ばない人間の咒式士には、ほとんど存在しないと同義の瑕疵。しかしアムプーラさえ凌駕する反応速度のサーヴァントならば、充分に突き得る隙となる。
 先日のサーヴァント戦でも、敵マスターが不在の状況では自身が倒されないよう防戦一方となるのがアムプーラの限界だった。

 その事実を踏まえても、セイバーの対応力は異常なレベルであった。

 常にアムプーラを監視しているわけではない。にも関わらず彼女はバーサーカーと交戦しながら、都度転移先を誘導するような攻撃をセイバーは仕掛け、アムプーラの魔の手がティーネに及ばぬように立ち回っていたのだ。
 レメディウスやアムプーラさえ上回る超演算能力か、はたまた英霊の持つ物理法則を越えた直感による未来予知か。いずれにしても、一手先の脅威を知悉しているかのようにセイバーは動いている。

 それは、アムプーラに対してだけではない――と、レメディウスは視線を巡らせる。
 一切劣化しない脳内の記憶映像と、同じように。隙を突いてティーネに攻撃を仕掛けようとした禍つ式が一体、彼女が瞬時に呼び起こした巨大な炎の顎(アギト)に呑まれて焼失する。
 どうやらティーネは、特異体質の咒式士と同じように、咒式具の補助なく魔術というものを行使できるらしい。その実力は、強力な干渉結界を有さない個体程度ならば悠々討ち果たせるほど高位のようだ。
 逆を言えば、干渉結界に優れた禍つ式ならばティーネに対して優位を取れる――が、それらが接近しようとすればセイバーが漏らすことなく殲滅していたために、禍つ式に包囲された少女はなおも健在だった。

 危機への選択をまるで誤らず、淡々と冷徹に対処し続ける、恐るべき戦闘機械。ただ強いだけではないセイバーの脅威を、レメディウスはそのように認識した。

 ――その能力の高さに加えて、彼女らにはこれと言った消耗が見られない。

 お互いに、未だ宝具の真名解放に至っていないから――という問題ではない。サーヴァントの行使と併せて本人も強力な魔術を行使しながら、ティーネの魔力値が減少する気配がまるでないのだ。
 レメディウスもまた、ウコウト大陸有数の超高位咒式士である。燃費の悪いバーサーカーに全力戦闘をさせながら、まだまだ咒力は余裕がある。
 それでも、こちらばかりが燃料を消費しているとすれば、ただでさえ不利な戦況がさらに悪化の一途を辿ることは明白――と、砂礫の人食い竜は現状を把握する。

「――それでは、私も動こう」

 自らの考える勝利の一手を指すために。レメディウスは英霊同士の対決を見守っていた魔界の子爵に、そのような言葉を投げかけた。


808 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:19:32 1PgpojSk0








 散乱した肉片の、汚泥のような腐臭が充ちる地下室内。次なる異形の襲撃に身構えるティーネの眼前で、セイバーとバーサーカーの攻防が続く。
 足を止めての打ち合いではセイバーを切り崩す勢いが足りないと判断したのか、バーサーカーの攻めは一層苛烈さを増していた。
 翼による加速を利用した超音速の突撃と、その繰り返し。一撃離脱戦法の合間に、両肩の角や尾の伸縮による間合いの操作、時に怪物たちさえ巻き込む凍気の放出といった変幻自在、かつ疾風怒濤の猛攻を見せる。

 その悉くを、セイバーはなおも剣一本で捌き切っていた。

 セイバーこそ最優のクラス、とされる対応力の高さを実演される形となったティーネは、自らの悪運に幾許かの感謝を覚えていた。
 だが、胸を撫で下ろすのはこの戦争に勝利してからだと、偽りの大地から魔力を汲み上げることに集中する。
 土地守りの一族として、故郷の大地と共生する彼女の魔術回路は地脈から湧き出るマナを即座にオドとして利用できる。それはこの月に再現されたスノーフィールドでも変わらない。
 セイバーのように霊格の高い、強力な英霊を休むことなく運用しても、魔力の在庫が尽きる心配はまずない――が、戦況が急に変化することもある。一時的にティーネの中に貯蓄できる魔力量には限りがあるのだ。それがセイバーの要求する魔力量に追いつかなくなれば、一転して不利に転ぶことも考えられる。

 ――自分は考えず殺すだけだと、セイバーは言った。だからおまえが使いこなせ、とも。

 実際にはこちらから何を言うまでもなく、セイバーはティーネを護り、敵と戦っている。
 マスターを失えばサーヴァントは現界できない。その前提があるからこその行動であることは理解できる。その後の戦闘行為も、若輩のティーネなどより英霊である彼女に任せた方が間違いがない。
 考えることを任せる、と言われながら、結局はそれらしきことをティーネは何もできていない。
 だからせめて、十全な魔力を供給することだけは怠るまいと努めるティーネの視界の隅に、奇妙な影が映った。

「また……!」

 それは連続の転移で迫る、アムプーラの姿。
 ここまでの対決で推測できて来たが、おそらく彼らは魔術式そのものが受肉した怪物だ。言うなれば伝説に聞くソロモン王が束ねた真性悪魔に近しい存在、であるとすら言えるのかもしれない。
 しかし性質こそ似通っていても、その存在規模は真性悪魔として伝承される者どもと比べて途方もないほどに小さい。だからこそあのバーサーカーのマスターも、別枠の使い魔として契約して連れて来られたのだろう。
 故に、サーヴァントの敵ではない。それどころかティーネ自身も既に三体、醜悪な肉塊を己の魔術で焼き払っていた。

「【                    】」

 極限まで詠唱を圧縮し、無音で構成された魔術の焔をティーネは再び呼び起こす。

 ――だが、アムプーラという道化だけは、他の使い魔どもとは格が違った。

 ティーネの放った劫火に呑まれたと思った次の瞬間には、その中から影が消える。セイバーの攻撃からさえも生き延びている超速度の転移と再生の魔術は、ティーネの手に余る脅威だ。
 しかし、一瞬でも時間を稼いだ意義は大きかった。

 バーサーカーとの攻防、その一瞬の隙を衝いたセイバーがティーネの頭上に転移したアムプーラを切り捨て、さらに星の紋章スキルに内包された直感に従って、ティーネの周囲で伸長させた切っ先を踊らせる。
 転移先を致死の斬撃で満たされたアムプーラはティーネから離れた空間に再出現し、再び様子を見る構えとなり――

「バーサーカー。宝具を使え」
「■■■■■■■――ッ!!」

 そちらの対処にセイバーが割いた時間だけ、バーサーカーは自由行動を許されていた。


809 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:20:33 1PgpojSk0

 咆哮するバーサーカーの掌には、褪せた分厚い銀貨が三枚。それが高密度の魔力の結晶であることを、ティーネは一目で看破した。
 バーサーカーはその硬貨を、暴君竜の顎を模した大斧に貪らせる。生々しく硬い破砕音を立てて、戦斧がそれらを咀嚼し、嚥下した。

《――プ・ト・ティラ〜ノ・ヒッサーツ!――》

 そうして高密度の魔力を"喰らった"ことで、まるで生きているように噫気を漏らした戦斧――バーサーカーの宝具が奇妙な詠唱を歌い上げる。
 ……未だこの英霊の正体はわからないが、真名解放に等しい行為を完了したのだと、押し寄せる禍々しい魔力の波動にティーネは確信する。
 同時。セイバーは一度、狂気の暴君に怖気立つティーネの傍まで後退してきた。

「……その文明を粉砕する」

 そのままマスターであるティーネを庇うように改めてバーサーカーと対峙し、重心を落として愛剣を真っ直ぐ突き出す形で構えたセイバーは、呟きを一つ口にした。

 ――直後。軍神の剣の刀身が、高速回転を開始する。

 撹拌された大気中の魔力が、渦に囚われたようにしてマルスの剣に飲まれていく。
 飲まれた魔力は三原色に入り混じり、虹色に変化した波長として零れ出す。たちまち地下室を充たす光の粒子。半分近くに数を減らした不浄の軍勢が、その眩さに圧されたかの如く後退する。

「■■ッ■ァ――ッ!!」

 圧倒的な輝きを前に一歩も引かないのは、やはりバーサーカーだけだった。一切の躊躇なく、こちらを蹂躙せんと進撃して来る。

「『軍神の剣(フォトン・レイ)』――!」

 破壊的な魔力で構成された巨大な刃。それを纏った戦斧を片手に迫るバーサーカーに対し。魔力の制御に集中するように一瞬だけ伏せていた瞳を見開いたセイバーは、その剣の真名を詠い――迸る虹の光を推進力に、自身を浄化の矢の如く射出した。

 ……文明を滅ぼすものと、欲望を否定するモノ。

 世界を焼く魔の箒星となって飛翔するセイバーと、生命を無に帰す大地の怒りを解き放つバーサーカー。

 双つの破壊の刃を隔てていた距離は瞬く間に消え失せ、そして宿命のように、両者は正面から激突した。

「――――……ッ!?」

 膨大な魔力の衝突による眩い白光が、ティーネの網膜へ強烈に灼き付いた。次いで耳を劈く轟音と、肌を打ち据える烈風が叩きつけられる。

「■■■――ッ!!」

 魔術の補助で即座に明順応を果たしたティーネの視界が捉えたのは、『軍神の剣』の勢いに打ち負けたバーサーカーの握力から解放された戦斧が、地下室の天井に逆しまの流星の如く突き刺さる瞬間だった。

 ――だが、セイバーも完全に打ち勝ったとは言えなかった。

 衝突の瞬間、その威力の拮抗によってセイバーもまた、剣の鋒を逸らされていた。バーサーカーの中心を貫くはずだった剣は上段からの打ち込みに対抗した結果、双方の宝具が解放していた魔力の大部分が相殺し、わずかな余力の残っていたセイバーがバーサーカーとその手斧を上向きに跳ね飛ばしただけという結末に終わってしまっていた。

「――充分だ」

 武器を失いながらも、即座にバーサーカーが構えを戻したその時、錆びた声がティーネのすぐ近くから聞こえた。
 気づけば、帯剣していた得物を抜いたバーサーカーのマスター――レメディウスが、ティーネのすぐ傍まで肉薄していた。


810 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:22:33 1PgpojSk0

「! 【                    】」

 慮外の接近を受け、ティーネは反射的に魔術を行使する。
 ……命を奪う、までの覚悟と選択は、咄嗟にはできなかった。
 しかし充分な魔力を扱えるマスター相手に、暗示が効くとも思えない。
 故に手足の片方ずつに、深い裂傷を負わせ無力化する――そういった術式に基づいた灼熱の刃が飛翔し、レメディウスに届く寸前の空間で停止した。
 次の瞬間には、ティーネの魔術は宙を漂う儚い魔力にまで分解され、何一つ為さぬままに霧散した。

「結界……!?」

 それも、ここまで強力な。
 驚愕に打たれた一瞬。その一瞬の内に、鈍色の刃がティーネの細い首に押し当てられていた。

「マスター……!」

 この戦闘が始まってから初めて、感情の揺らぎが込められた声をセイバーが発した。
 だが、彼女も動けない。この瞬間、セイバー自身に仕掛けてきたアムプーラの奇襲を防ぎながら、さらに未だ全身の凶器が健在なバーサーカーとも対峙している状況に足止めされていたからだ。
 今背中を見せれば、ミイラ取りがミイラになる。少なくとも、これからティーネの首が刎ねられるのには絶対に間に合わない。

「……っ!」

 遮光眼鏡越しの碧玉の瞳に射竦められ、ティーネは敵の思惑を理解した。
 バーサーカーの宝具開帳は、この盤面を作るための布石。
 宝具とは文字通り英霊の切札だ。その絶大な威力を前にすれば、こちらもまた宝具で迎え撃つ他ない。
 それで一時的に、セイバーの注意は惹いてしまえる。その激突を目眩ましに、レメディウス本人が接近できる程度には。

「これで状況は収まる」

 だがその作戦を実行させた原因は、宝具を伏せたまま戦い続けたセイバーではなく、唯一の武力である魔術に頼りきったティーネにある。
 自分が、敵の目の前で手の内を晒し過ぎたのだ――マスター同士だけの戦闘で、容易に制圧できる程度でしかないと。

「それでは予定どおり、同盟を結ばぬか」
「……え?」

 しかし、刀身から伝わる冷たい絶望に満たされつつあった少女が聞いたのは、死の宣告ではなかった。

 ――悪運は、どうやらまだ尽きていないらしい。













 重々しい軋みを上げて、館の扉が閉じられた。
 そこから脱したティーネは世話役に案内されたまま、帰りの車まで足を運んだ。

「交渉、お疲れ様でした」
「――いいえ、そちらこそ」

 本人は認識していないが、何もせず待機していただけのNPCに心の篭もらない労いの言葉を返しながら、ティーネは車の後部座席に身を預けた。
 緊張から解き放たれた体が、柔らかなシートに沈み込む。あの地下室の、青黒い血肉の腐乱したような臭いから解放されたことに心地良い目眩を覚えた。

 ――だが、その喜びを堪能することなど、今のティーネにはできなかった。

「……申し訳ございませんでした、大王」

 館の中に居たテロリスト達。そして世話役を含む土地守りの一族。改めてその全員に施したそれに続いて、運転手の認識に暗示を及ぼしたティーネは隣の空席に向けて謝罪を述べた。
 その言葉が合図であったかのように、セイバー――アルテラが瑕疵一つない天性の肉体を結実させ、車内にその姿を晒した。


811 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:24:03 1PgpojSk0

「貴方様は、ただの一騎で大軍を圧倒しておりました。だというのに、私は……」

 何という無様。
 戦力として縋るしかないとしても、本心の知れぬセイバーには頼れない。
 そう思っていた矢先の初陣で、自分は敵のマスターに遅れを取り、虜となった。
 戦場においては、孤軍奮闘する破壊の大王の急所としてしか存在できなかった。

 果たしてセイバーは、かくも情けない命綱(マスター)をこの先どう扱うだろうか。

 心を殺す決意を固めておきながら、実際のティーネは不安に消え入りそうだった。

 彼女に見限られてしまえば、一族の悲願は、私は――

「構わない。生きているのなら、それで良い」

 そんなティーネに対し、セイバーは平坦なままの声音で告げた。
 文面だけならば、穏やかな言葉。一方で感情の読み取れない、機械のような声だった。
 やはり彼女の本心が知れない……などと、幾らか怯えるティーネの横で、セイバーは朴訥と話を続ける。

「あの同盟で私達が不利となる事柄は特にない。ならば何も責める理由などない――むしろ、敵の進行を許した私の落ち度だ」

 述べられた言葉は、やはり優しかった。
 だがそこには、先のティーネも比にならぬほど感情が篭っていない。ただ路傍の石ほどにも興味が無いだけにしか思えない。

 確かにレメディウス――本人はズオ・ルーを名乗っているが、アムプーラがそうとしか呼称しなかったバーサーカーのマスターが提案した同盟は、不利益の目立つものではなかった。
 その内容はNPC時代から引き継ぐ役割上の立場と、聖杯戦争の参加者、その両面での協力体勢の構築という、極めてシンプルな内容だった。

 曰く、ムーンセルに与えられた立場上、レメディウスには自由が少ない。潜伏には協力者が必要となる。
 そのためにティーネら土地守りの一族は有用な協力者であり、その内に聖杯戦争の事情にも通じる者が居た方が都合が良いのだそうだ。
 単純に、今回の戦闘の後始末でも、暗示の魔術を修めているティーネの存在が有意義だとも述べていた。

 そして今回の交戦は、発端こそ形式上の使い魔であるアムプーラが独断専行で仕掛けてからのなし崩しの戦闘であったが、こちらばかりが被害を受けたことで手打ちにして欲しい。
 以後は、聖杯戦争の参加者として互いに要請があれば可能な限り協力すること――という、少なくともセイバー陣営としては、一方的な損のない取引だった。
 王手をかけた状態からすればあまりにも手緩く、令呪による縛りすら求められない同盟への合意か、無意味な死か。後者を選ぶ理由は誰にもなかった。

 当然、危険な戦場に送り込まれる可能性は考慮すべきだが、それはこちらからも等しく打てる手だ。事実上は単なる共闘関係を結んだだけの落とし所となっている。
 しかしそれは、結果論に過ぎない。早々に脱落寸前まで追い詰められたことは紛れもない事実なのだ。

「――とはいえ、次からは気をつけるのだな。おまえが死ねば、契約もそこまでだ」

 故に、ティーネにはもう見切りをつけ、機があれば他のマスターに乗り換える――そんな思惑だから興味がないのだろうと疑っていたが、セイバーは淡々としたまま、しかし彼女にしては饒舌な様子で言葉を続けていた。

「だが、それはあまり面白くない。今の私は、この隷属から自由になるよりも――」

 そこでセイバーは、傍らにあったゲコ太人形を抱き上げた。

「――もう少し、おまえの横に居てみたい。なので、せいぜい死ぬな。壊れた命は、取り返しがつかないのだから」

 そして、そのように願望を吐露していた。


812 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:25:45 1PgpojSk0

「――――セイバー」

 無意識の内に、ティーネは彼女の名を呼んでいた。
 慈しむように、その手の中に人形を抱き締める彼女の姿は、何かを欺くためのものとは思えない。
 ならば、同時に放たれた言葉もまた、嘘偽りのない本心なのだろうか?
 あるいは、先程までに口にしてくれた優しさも。

 ――これまでの私は、いつもそんな選択しかできなかった。

 ふと、今朝交わした言葉が蘇る。
 何も考えず、何も感じないと言っていたセイバーはしかし――きっかけや理由はどうあれ、『今の』彼女は、ティーネという個人に関心を持ち、無事を願ってくれた。
 生前は、抗えない衝動に呑まれていたというアルテラは、しかしそれが薄まったという今は、自らの心を宿したのではないのだろうか?

 初めて得た物だから、未だ、出力の仕方こそ覚束なくとも。
 肚の知れない英霊などではなく。彼女は最初から、もしかすれば誰より誠実に――――

 他ならぬ己も、それを伝える術を確立できていないままでも。
 自らの心を殺そうとする少女はその時、自らが契約した英霊に対する印象が大きく変わるのを自覚した。













「それで、何故あの場で殺してしまわなかったんだい?」

 同盟相手が居なくなった途端、アムプーラがレメディウスへと問うてきた。

「戦力の補充なら、わざわざ同盟を組まなくともセイバーを『聖杯符』として手に入れれば済んだのでは?」
「同族で殺し合うのが不思議だと揶揄しながら、それか」
「その不等式は不可解だが、君は既に避けられないことと断じて、我らと契約しているのではないか。制約がないなら、勝利条件である『聖杯符』の獲得は満たしておくべきだったのではないか?」
「確かに貴様が私に協力させられているような、明確に縛鎖となる式はない。しかしその意見は拙速に過ぎるだろう」

 人間の文化や社会への馴染みが極端に薄いためか、はたまたマスターではないからか。異邦人は極端さから短絡的な疑問を抱いていたようだ。

「第一に、あのセイバーのステータスを維持しながら今のバーサーカーを従えるのは、私の自業自得だが流石に消耗が激し過ぎる。対して、絡繰は知らぬがティーネはそもそも魔力を消費している様子がない。ならば、第十二階位(カテゴリークイーン)を彼女に維持させたまま、利用できる方が効率的であろう」

 使い魔たる禍つ式どもの頂点に、レメディウスは判断の根拠を述べて行く。

「第二に今の段階では、監督役どころか警察に目をつけられても面倒に過ぎる。対外的にも穏便に事を済ませるには、NPCの認識を操れるティーネの協力が必須であるだけだ」
「だとしても甘い。真名ぐらい明かさせれば良かったと思うのだが」

 生きた咒式、それ故の愚直さから駆け引きの一つも解さぬ分際で、アムプーラは契約者の采配に不満を並べる。

「君たち人類が抱く錯覚の一種……面影、と言うのだったかな。ナリシアのそれを、ティーネに感じでもしたのかい?」


813 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:26:51 1PgpojSk0

「浅はかだな」

 穏和な選択肢の理由として、アムプーラが疑う二人の少女の類似性への感傷を、レメディウスは失笑と共に否定する。

「ナリシアはナリシアだ。今も私の目の前で笑い、泣き、歌い、祈り、そして死に続ける。そこに別の誰かが重なるものか」

 レメディウスは全てを記憶し続ける。し続けてしまう。一ビットルの劣化もなく。
 今のこの瞬間にも、レメディウスの眼前には、彼女と出会ってからの全ての景色が展開されている――残酷なほど、鮮明に。
 ならば圧制者から故郷が解放されることを願い、絶望に抗う少女を新たに目にしても。記憶する感情の引き出しを混同することなど、ありはしない。

「他人に死者の影を見て、甘さが出るとすれば。それは、"私"ではないだろう……忌々しいことであるが」

 言葉と共に、レメディウスは傍らの異形を一瞥する。
 ヒトの姿を喪ったバーサーカー――火野映司は令呪に増幅された狂気に澱んでなお、最後の一線で踏み止まっていた。

 セイバーは対象外だったが、バーサーカー自身はティーネに被害が及ぶ事態に抵抗していたのだ。本来なら地下室を丸ごと、指向性を持って凍結させられるだけの魔力放出を全開にしなかったのはそういうことだ。
 あるいは、セイバーがサーヴァント戦の最中あそこまでアムプーラを牽制できたのも、バーサーカーが禍つ式を巻き込んで暴れたのも、全ては同じ理由なのかもしれない。

 己の全てを差し出した後もなお駆動するそれは、英雄の精神が備えた気高さか、もしくは彼自身を追い詰めた異常性か。
 いずれにせよ、その最後の自制が働くのは、ルウを思わせる幼い少女に対してのみなのか、あるいは……レメディウス自らが動いた時には邪魔をしなかったことから、パスを通じて伝わった――

「くだらない。実に、な」

 軟弱を、レメディウスは唾棄する。
 結局のところ、あの時ティーネを仕留めなかったのは、そうすることが最善手だったからに過ぎない。それで説明できる以上、くだらない推理ごっこに意味はない。

「そもそも、あの少女がナリシアであったなら……悪魔を呼び込む片棒など、私が担がせることはない」

 そして当人には伏せた思惑を語りながら、レメディウスは目を伏せた。

 最悪の咒式兵器、超定理系第七階位〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉。
 世界に次元の穴を開け、疫鬼の群れを解き放つ大量虐殺咒式。
 スノーフィールド市民もろとも敵対するマスターを一度に殲滅し、なおも残存するサーヴァントをも一掃するための一大戦力、伯爵級以上の大禍つ式を招く呼び水となるレメディウスの切札。

 その死神を、形を模しただけとはいえ――八十万の人命で満ちる彼女の故郷へ炸裂させるために、レメディウスはティーネを利用するつもりでいた。

 それはナリシアが生きていれば、決して許さなかっただろう悪行であり、大罪である。

 だが、その仮定は無意味だ。ナリシアの生きられる世界であれば、僕(レメディウス)は私(ズオ・ルー)にならなかったのだから。

 しかし、既に供物は捧げられた。もはや砂礫の竜には乞われた通り、罪とされる人食いを以ってウルムンの、そして人の世の敵を殺す以外の道はない。

 ……分岐点など、とうの昔に過ぎている。


814 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:27:49 1PgpojSk0

【E-7 湖沼地帯 別荘地区/一日目 午前】

【ティーネ・チェルク@Fate/strange Fake】
[状態] 健康、乗車中
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] 不明
[所持金] やや裕福
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:セイバーの力を利用して、聖杯を獲る。
1.セイバーを信頼しても良いのかもしれない。
2.レメディウスとの同盟をこの先どうするか……
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は原住民「土地守の一族」の族長です。
※第六階位(カテゴリーシックス)のバーサーカーが宝具を使用するところを目撃しましたが、真名は把握していません。また彼らと同盟を結びました。



【セイバー(アルテラ)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康、乗車中
[装備] 『軍神の剣』
[道具] ゲコ太人形
[所持金] なし
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、戦闘行為を代行する。
1.マスターに従い、戦闘行為を代行する。
2.ゲコ太は良い文明。
[備考]




【E-7 湖沼地帯 『曙光の鉄槌』隠れ家/一日目 午前】

【レメディウス・レヴィ・ラズエル@されど罪人は竜と踊る Dances with the Dragons】
[状態] 健康、魔力消費(小)
[令呪]残り二画
[装備] 魔杖剣「内なるナリシア」
[道具] 超定理系第七階位咒式弾頭〈六道厄忌魂疫狂宴(アヴァ・ドーン)〉×2
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を掴む。そのために手段は選ばない。
1. 〈六道厄忌魂疫狂宴〉で最も効率的な戦果を得られるよう、準備を進める。
2. そのためにも当面はティーネとの同盟関係を活用する。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は潜伏中の破壊活動組織『曙光の鉄槌』の党首です。砂礫の人食い竜ズオ・ルーの異名を有しています。
※アムプーラ麾下の禍つ式の軍団と咒式による契約関係を有しています。半数近くはセイバー(アルテラ)に倒されましたが、禍つ式の具体的な総数については後続の書き手さんにお任せします。
※第十二階位(カテゴリークイーン)のセイバーの宝具使用を目撃しましたが、まだ真名を把握していません。また彼女たちと同盟を結びました。



【バーサーカー(火野映司)@仮面ライダーオーズ】
[状態] 仮面ライダーオーズ プトティラコンボに変身中(※令呪により常時暴走)、ダメージ(小)
[装備] 『今は無き欲亡の顎』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:なし(レメディウスに従う)
1.――――
2.■■■■■■■■■■■
[備考]



[全体備考]
※E-7 湖沼地帯『曙光の鉄槌』隠れ家地下室が半壊しています。


815 : 少女と竜と分岐点 ◆aptFsfXzZw :2017/05/17(水) 21:29:29 1PgpojSk0
以上で投下を完了します。


816 : 名無しさん :2017/05/17(水) 22:22:29 LsBtQklAO
投下乙です

狂化しようと欲望までは奪えない


817 : ◆yy7mpGr1KA :2017/06/05(月) 21:50:21 BZc.BEjw0
>>それぞれの往く場所
三組の主従が集う伏魔殿になっている中学校のお話
悲痛な美琴の過去描写からくる彼女の悲壮な決意に反して、戦場では最も遅れをとっている現状はなんとも悲痛さを増して感じます
そんな乗り気な美琴を一方的に補足している二組の主従、混戦の予感がして今後が楽しみです

>>少女と竜と分岐点
聖杯狙いの主従の交戦、からの同盟話
アルテラが禍つ式相手に大立ち回りを演じるのはEXTELLAの彼女で脳内再生されました。すごい
アムプーラと映司まで相手取って五分なのはさすがに原作トップサーヴァントの貫禄
開幕の同盟としてはなかなか強力なものが生まれたなと
真性悪魔という人類悪級の単語も散見して、白い巨人もあわせて考えるとマスターの思惑も込みで不安でもありますが面白い立ち位置になりそうですな


サンドマン&ジェロニモ、空条承太郎予約します


818 : ◆yy7mpGr1KA :2017/06/12(月) 18:54:10 CNJ9lQqM0
延長お願いします


819 : ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:12:33 fOOqo6is0
遅くなりましたが投下します


820 : 始まりはZero、終わりならZet ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:13:32 fOOqo6is0

建物から建物に飛び移り、街中を移動する男がいた。
速度で言えばそれは英霊に及ぶべくもない。
しかし看板や僅かな凹凸を利用して飛んで撥ねて移動するその新しい技術は英霊であっても真似るのが難しいものだ。
そんなフリーランの技術をサンドマンが披露するのもこのあたりではそう珍しいものではなくなりつつあった。
赤信号であっても道を飛び越えることで渡る彼の姿に驚く者もいるが、写真を撮ったりといった反応は見られない。

『調子はよさそうだなマスター』

サンドマンの脳裏に相棒の念話が響いた。

『二つ先の建物の屋上にいる。合流してくれ』

聞こえた通りに前方やや上に視線をやると穏やかな笑みを浮かべたジェロニモの姿が見えた。
大きく加速し、建物をクーガーのように上って即座にそれに合流する。

「やあ、新しい靴には慣れたかな」
「問題ない。大枚叩いただけあっていいものだ」
「何よりだ。足元を固めるのは大切だからな。新兵にモカシンづくりを教えたのも懐かしい思い出だよ。君も教わったかな?」
「昔、姉と一緒に父から教わった。今でも一族の誇りとしてよく覚えているよ」

二人して思い出話に浸る。
しかしすぐに気持ちを切り替えるようにジェロニモは懐から凶器を取り出し、サンドマンへと差し出す。

「では先日も言っていた精霊の祝福を受けたナイフだ。これならサーヴァント相手の殺傷もできる。
 何分シャーマンとしては二流もいいところでね、精霊との交渉に時間がかかって済まなかった。出来はその分保証する」

サンドマンはゆっくりとそれを受け取り、手ごたえを確かめるように二度三度振るうと、鞘に納めて腰に下げた。

「それだけか、と思うかもしれないが下手な武装を与えるよりは君のスタンドの方が有効打になりそうだしな」
「いや、これで十分。刻む音と衝撃音はこれで出せる。あとはどこかでライターでも調達すれば武装に足る」
「そう言ってくれると助かるよ。それに手土産には他にもある。情報というね」

知的な笑みを深め、コヨーテの精霊に確認するようにジェロニモの声が飛ぶ。

「……さて。君には教会を離れたあと足元を固めてもらっていた。その機動力は間違いなく武器になるからね。
 その間に私は武器を作るとともに精霊の声に耳を傾けていた。やはり私以外にも魔術でもってこの地で暗躍するものがいる」

ジェロニモは指を三本サンドマンに立てて見せた。

「まず一人。私と同じように土地の魔力を借り受けている者がいる。奪うのではなく、借りる。おそらくは私と同じシャーマンか、その系譜だ」

相手の魔術師は精霊と直接交渉していなかったため、コヨーテの精霊と直接やり取りするジェロニモ相手にその存在を秘することはできなかったのだ。

「さすがに素性まで明かしてはくれなかったが、魔術師としては私と比しても格下だ。こちらから相手の魔術を完封することも難しくないだろう」
「ねらい目か?」
「落ち着け。サーヴァントならば容易い相手ということだが、マスターだとするなら未知数になる」

急いた発言をするサンドマンを制するように指を折ってみせる。

「二つ目は極めて広範囲かつ高度なものだ。立木の一つ一つから未知の一本に至るまで恣意的に作られている。
 魔術の寓意だけでなく現代の技術も用いられているらしい。精霊にも私にも分からないことが多い」

屋上から街並みを見渡すようにジェロニモが視線をやる。
サンドマンもそれを追うように見た。
目に映る街並みに魔術的に手が加えられているというのは驚きがあるが、納得する点もある。

「そこまでの大規模となると一参加者のものか疑わしいな」

SBRレースの裏の目的にも、アメリカ大統領が絡んでいた。
開催する側のものならそれくらいはやっているだろうとサンドマンには思えた。

「私もそう考えるよ、サンドマン。神秘の秘匿というのは個人の裁量以上に組織的な都合が大きいはずだ。おそらく運営の仕込みではないかな」
「なら運営に睨まれるには相当やらかさなければ問題ないか」
「多少の騒ぎなら一般人は気にしないようになっているのだろう。事実君が街中を跳びまわってもあまりに反応が薄い」

少し悪戯気味に笑っていうジェロニモにサンドマンもつられて笑う。

「試していたのか」
「結果的にはな。だが得たものはある――」


821 : 始まりはZero、終わりならZet ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:13:50 fOOqo6is0

突如としてジェロニモがサンドマンを屋内に放り込み、自らも即座に霊体化して姿を消す。

「どうした!?何があった!?」

咄嗟にスタンドを出し、サンドマンも戦闘態勢に入る。
だが敵がいるなら霊体化するのはおかしい。

『いや、少なくとも精霊の気づく範囲に敵はいない。サーヴァントの感知能力のさらに外からだ、視線を感じた』

先ほどまでの動作とは裏腹に落ち着いた調子の念話がサンドマンに届く。

『何度も戦場で囚われたおかげか、どうも視線には敏感でね。隠れはしたが見られてしまったな……
 だがこの距離では向こうも何もできないだろう。このまま死角を動こう』

建物を目立たないように降りるよう示され、それに従って階段を降りだす。

『歩きながら続けるぞ。最後の一件は恐らくだがこの視線の主だ。
 この先に水族館がある。そこにも魔術師がいるらしいと精霊に聞いてね、何となく惹かれるものがあって様子を見ようと思っていたんだが……』

じっとサンドマンを観察するように視線を走らせるジェロニモ。
正確にはその背後に展開したスタンド、イン・ア・サイレントウェイを。

『悪魔の手のひらで目覚めたその異能……どうやら精霊の中にそれと似たものを知っているものがいるらしくてね。
 水族館にも似たものを感じていたのだが、それ以上に今の視線から嫌な予感がする。私が最後に囚われたあの戦いと同じ空気だ。単独で挑めば帰れまい』

ジェロニモの口から苦々しいものがもれるのをサンドマンは初めて聞いた。
その言葉に込められた痛苦も警戒も真摯に感じられる。

「となるとここは撤退か」
『そうだが、ただで退くつもりはない』

ジェロニモの口調に強さが戻る。
格上相手の戦いなど生前腐るほど経験した英雄だ。多少の実力差に怯えるだけなどということはない。

『最初に話した、土地の力を借りている者のことは覚えているな?高い確率でこの魔術師は我らの同門だ。
 最も攻略が容易い相手であり、同時に最も交渉もしやすい相手だろう。君の能力は使い魔を利用すれば強力なゲリラ戦術がとれる、有効なものだ』
「組めればよし。組めなければ――」
『ああ。故郷のために流す血としてしまって構わない。先も言ったが魔術師としては私が優る』

強い声に、さらに冷徹な響きが混じる。
獲物を見定める狩人のものだ。

『とはいえ敵と運営の情報を手土産にするのだ。そう無碍にはされんだろう』
「ああ。となると後の問題は」
『視線の主だな。無視ししてくれるならいいが追われると面倒だ』

建物の出口にたどり着き、ナイフをカーブミラーのようにしてサンドマンが周囲を見渡す。
ジェロニモがそれを感じた視線の死角となるように誘導する

『戦闘態勢は怠るな。これは逃亡ではなく撤だマスター』
『わかっているさ、キャスター。多少はやらかしても運営も目こぼししてくれるというなら、加減も油断もしない』





【E-5 水族館から少し離れた地点/1日目 午前】

【音を奏でる者@Steel Ball Run 】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備] ナイフ(精霊による祝福済)
[道具] 安物の服、特注の靴
[所持金] サンドマン主観で数カ月一人暮らしには困らない程度
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯により知識と富を獲得して土地を取り戻す。
1. ジェロニモに従いこの場から離れる
2. ジェロニモと同じタイプの魔術師に興味


[備考]
※スノーフィールドでのロールはオールアップ済みのB級映画スタントマンです。



【キャスター(欠伸をする者)@Fate/Grand Order 】
[状態] 健康、霊体化
[装備] ナイフ
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:サンドマンのために聖杯をとる
1. 視線の主から離脱する
2. 土地の力を借りる魔術師に接触する
[備考]
※精霊を通じて水族館に魔術師が陣取っていること、自分以外にも土地の力を借りている魔術師がいること、土地自体に魔術的に手が加えられていることを把握しています。
他にも何か聞いているかもしれません。


822 : 始まりはZero、終わりならZet ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:14:27 fOOqo6is0

(第八階位……)

目に付いたのは偶然だった。
何かから逃避するように、何かに惹かれるようにスタープラチナで彼方を見るとその視界に黒人男性が突如として飛び込んできたのだ。
同時にその男がサーヴァントであることと、付随する情報が視界に映るが、次の瞬間には霊体化したのか姿を消したため殆ど記憶には及ばなかった。
認識できたのは容貌とカテゴリーだけ。
その後はマスターらしき男も、サーヴァントの残影もなく、身を隠しているのか見渡してもスタープラチナの眼ですら見つけられない。

(1キロ以上は離れていた。サーヴァントの認識能力もそこまでは及ばない筈だ。だがスタープラチナで見つけた瞬間姿を消し、それからも隠れているらしい。まさか気付いたか……?)

腕利きの工作員のように、ただ用心深く身を潜めるのが習慣になっているというだけの可能性もあるが、承太郎は戦場でそんな楽観視をできるタイプではなかった。
こちらの視線に、こちらが向こうを見つけたのに気付いていると断定する。
サーヴァントの感知の及ばない範囲であろうと、そういう能力とは別の次元に戦士というのは存在することを承太郎自身が歴戦の戦士である故に認識していた。
大海原で漂流していようと、砂漠の真ん中だろうといわゆる直感だけで敵の存在に気付くことはできるのだと。
では気付いたとしてどうなるか。
あの黒い偉丈夫は敵に気付かれ、気付いたとしてどう動くのか。

(撤退か、交戦か、交渉か、ってとこだが。明確な敵対はまだしていない相手に軽々に仕掛けるのはよほどの自信家か、あるいはバカかだ。もっとも……)

己の従える邪悪なる魔術師を討ちたいというのなら分からなくもないが。
自分ですら歯噛みする生粋の半英雄に、まともな英霊ならば強い反感を抱くことは間違いない。
しかし捕捉されたことを即座に認識し、姿を隠す聡明な英霊が拙攻に走るとは考えにくい。
一時的ではあろうが撤退するのが賢明な判断だろう。

(もし乗り込んでくるとしても、キャスターが手を加えたここを容易くどうこうはできないだろう。
 もしできたとしても……それはそれであのキャスターの消滅に繋がるなら構いはしない)

半ば自棄のような結論を出して、割り当てられた待機室のデスクに身を投げる。
深く息をつくと目にしたサーヴァントの姿がなんとなく目に浮かぶ。
力強さと知性の同居した色黒の戦士の姿はかつての仲間を想起させた。
歳をとりセンチになったせいか、次々と戦場を離れていった戦士たちのことが脳裏によみがえる。

(アヴドゥル、イギー、花京院。ポルナレフ、じじい……お前らならどうするだろうな)

イギーはさすがに想像が難しい。
誇り高くはあるが結局のところ人間の倫理観とは価値観を異にする生き物だ。
赤の他人より家族をドライに優先するだろうか。
花京院は、どうだろうか。
家族に何も告げずにエジプトにまで来た男だ。
家族思いではないのかもしれないが、スタンドという共通項のある仲間のためなら命を投げ出せる男だった。
家族もスタンド使いであるのなら、それを守るために修羅になることもあったりするのだろうか。
……いや、運命の車輪の本体を探して茶店の客を全員ぶちのめそうとしたときあいつだけはそれを止めた。
あの時のメンバーで、見ず知らずの人間を最も思いやれるのは花京院だった。あいつは、きっと悪意には染まらない。
アヴドゥルとは、歳の近い花京院やポルナレフと話すことが多かったせいかあまり家族のことなど腹を割る機会はなかったな。
あるいはあいつ、私の母のことやポルナレフの妹のことを気遣ってそうした話題を避けていたのか。
断言はしかねるがあの男が非道に手を染めるとは思い難い。
その気になればいくらでも好き勝手に振る舞う力のあるのがスタンド使いという人種だ。
特に強力なスタンド使いであるにも関わらず、占い師なんて殊勝な生き方を選ぶことのできる男が、DIOの誘惑も撥ね退けた男が堕ちるなどあり得るものか。


823 : 始まりはZero、終わりならZet ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:14:47 fOOqo6is0

(……ああ、やっぱりいい奴らだった。あいつらならオレよりよっぽどいい父親になれただろうよ)

家族を失うどころか、伴侶を得ることすらなく逝ってしまった仲間たちに思いを馳せると、現状の自分の情けなさも相まって泣きたくなってくる。
自分と同じように、娘ホリィを守るために戦い抜いたジョセフと比べてなんと無様な。

(娘を守るために戦う父親の背中ってのはあの時さんざん見た。あんたがオレにDIOの能力を伝えてくれたから、あんたの娘の命は救われたんだ。
 命を懸けて、最期まで戦って、あんたは娘を救った。オレは…私はあなたのようにはなれなかったよ、おじいちゃん)

もしかしたら自分がDIOに勝ったように、徐倫がプッチに勝利することもあるかもしれないと何度希望的観測に逃げようとしただろう。
そのたびに出来るわけがないと歳をとり現実的に思考するようになった一面が否定するのだ。
娘の死という定まってしまった運命は承太郎を幾度も絶望へと追い込む。
しかし、時が経過するたびに娘を亡くした空洞を別のものが埋めていくのも実感していた。
娘を亡くした空虚な胸中に恨みというカスが満ち、承太郎の心を漆黒の殺意で染め上げていく。

(ポルナレフが復讐に走るのも分かるってなものだ。プッチの野郎をぶちのめせるなら10年の雌伏なんてなんでもない)

娘、ではないが妹を辱められたうえに殺され、復讐に生きた白銀の騎士がいた。
今の自分の心境に最も近いのは彼だろう。
彼は審判の暗示を持つスタンドに縋ってしまったことがある。
妹と仲間の命を、願望器に託したことがあるのだ。当時ならともかく今同じ状況に置かれた自分はその気持ちを痛いほどに理解している。

(……いや、違うな。オレはまだポルナレフと同じにはなれない。妹と親友の仇をとった誇り高い騎士と同じステージにオレは辿りつけていない)

復讐を遂げ、己の心に決着をつけたからこそ、ポルナレフは再会を望んだのだ。
未だそれを成していない自分がポルナレフと同じなどおこがましいにもほどがある。

(徐倫のいない世界であるならばなおのこと。プッチに、然るべき報いを与えなければならないッ!)

仇をとる。邪悪を討つ。
そのためならばまだ立ち上がれる。
黄金とは言えない意思の輝きが傍らに立つ像に力を吹き込んでいくのを感じられる。

(思えば失くしてからの戦いというのは殆ど経験がないな)

スタンドに目覚め、戦いに身を投じて20年以上経つ。
しかしその大半が母や叔父、娘を守るための戦い……1を0にしないための戦いだった。
失ってマイナスになってからの戦い、ましてやマイナスを取り戻して0に戻るなど奇跡的な機会に恵まれたことなど――

(たった一度だけ。殺された仲間の復讐だった。そして死んだ肉親を生き返らせた戦いでもあった)

DIOとの戦いが唯一の経験。
花京院とジョセフは直接、イギーにアヴドゥルは間接的に殺されその仇に燃えていた。
そして殺したDIOから血を奪い返すことでジョセフを生き返らせるという希望に縋りもした。
復讐のための戦いであり、同時に奪われた命を取り戻し0に戻るための戦いでもあった。
あの時の自分が一番強かったことはここでもケープカナベラルでも、13年前の杜王町でも痛感した。
ならばあの時の空条承太郎に立ち返ることこそが肝要。

たった一人の母親の命を守るためで、そのために仲間たちだけでなく、無関係の一般人やSPW財団員なども含め多くの命が犠牲になった戦いだ。
ジョセフの蘇生も相当のギャンブルだった。
吸血鬼の血を注がれたジョセフがもとのままであるかという不安はあったし、ジョセフもまたその可能性に即座に思い至っていた。


824 : 始まりはZero、終わりならZet ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:15:09 fOOqo6is0

1を0にしないために、多くの命を費やした。
マイナスになったことに納得するため、復讐に身を投じた。
マイナスから0に戻るために外法に手を伸ばした。
なぜそれを罪悪とは捉えない?

――――――そこに巨悪を討つという正義があったからだ。
DIOという巨悪に貸していたものを取り戻すために、アヴドゥルも、イギーも、花京院も、SPW財団員も戦い、散ったのだ。
そしてプッチというその後継たる邪悪を討つべく徐倫のもとには多くの仲間が集い、逝った。
去っていった者から受け継いだものを大切に思うなら、その正義を違えることはできない。
まだ、自分には為さねばならないことがある。

(プッチを殺し、仇を討つ。決着を終えないうちにその先のことなど考えてはいられない)

希望に縋るのはあくまで『最後』だ。
では、『最初』にすべきは何だ?希望を眺め、絶望の中でいかにもがくべきか。

(笛木という邪悪も許してはならない……だろう)

迷いはある。
娘を亡くした父という同類ゆえの憐れみか。
聖杯戦争を戦うための同胞としての期待か。
だが揺蕩わず、僅かとはいえ偏った天秤は即座に傾く。
心中のくすんだ黄金が告げる。悪を討てと。
心中の鈍く光る漆黒が告げる。背を預けるに足る信頼がないと。

自嘲がこぼれる。
昔から理由さえあれば拳を握れるタチだった。
母や叔父は戦いの本能が不足したせいでスタンドに取り殺されかけるくらいには優しく穏やかだというのに、それに比べて自分の何と荒っぽいことか。
歳をとって昔よりは落ち着いたと言っても性根は変わらない。
一度そうと決めればプッチを、笛木を倒すべく思考は回り、腕に力がみなぎる。
右手に宿った令呪に命令を下そうとして――

(いや、キャスターは私の意向にかかわらず活動するだけの魔力をすでに得たと言っていた。
 事実上、いつでも私との契約を切ることができるということだ。ならばこの令呪もどこまで切り札になるか……過信はできない)

自害を命じようとするも思いとどまる。
決定的な決裂を生む命令を下せばさすがにあのキャスターも重い腰をあげてこちらを始末にかかってくるだろう。
真っ向勝負での勝機は薄い。
隙をつき倒す術か、上回る新たな力が必要だ。

(倒す手段……そもそも奴にスタープラチナは通じるのか?)

かつて日本で幽霊相手にスタンドが有効なのは確認した。
では英霊相手には?神秘を纏わなければ干渉すらできないというサーヴァントにはどうなのか。

(恐らくだが通じるはずだ。スタープラチナならサーヴァントを殴れる、有効打となりえる)

キャスターとの戦いで奴はこちらの攻撃を全ていなし、躱して見せた。
一つも直撃はしていない。
その技巧は目を見張るが、もし効かないのならばわざわざ避けるような真似などしないだろう。
あえて受けて見せた方がより深く絶望を演出できる。あの男がそれをしないとは思えない。


825 : 始まりはZero、終わりならZet ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:15:30 fOOqo6is0

(ではなぜ効く?やつ固有の弱点なら、アキレウスの踵のような急所があるのか、ヘラクレスに対するヒュドラの毒のような死に関わる逸話なのか。あるいはサーヴァント全般にスタンドは有効な武器となりえるのか……)

倒しきる武器が用意できるならスタンドにこだわるつもりは毛頭ない。
必要なら銛やナイフを投げてもいいし、銃だって調達しよう。
何なら効果があるのか、知ることはそれが武器となる。

(私のスタンドはDIO、ひいてはジョナサン・ジョースターの肉体から影響を受け目覚めたものだ。生まれついてのものではない。
 だがスタンドは遺伝する。ジョースター家、ガイル親子に吉良親子、ダービー兄弟、虹村家にDIOの息子。それは確かだ。
 DNAにスタンドを発現する要素が刻まれ、脈々と受け継がれているのだ。ではそれはいつから?100年前?1000年前?もしかすると数万年遡るのか?)

待機室のデスクに深く腰掛けるとこの水族館のパンフレットが目に付く。
風にあおられたか、そのページが捲れ幾つかの生き物の名前が目に付く。

(アロワナか。数万年前の化石そのままで発見されることもある古代魚、生きている化石。数万年前っつうーと人類最古の英雄より先輩だな。
 スタンド使いという人種がその時代からいたとするなら……スタンドが神代の産物だとするなら。
 神代の技能を再現しているならサーヴァントの有効打になるのも納得だが……)

ではなぜ、人類の遺伝子にスタンドの要素が発現したか。

(カギは弓と矢だ。あの鏃は成分的にはケープヨークに数万年前落下した隕石と同質のものだとSPW財団の調査で分かっている。
 隕石の中に眠っていた、宇宙由来のウイルスによりスタンドが目覚めるものだと。突然変異でなくウイルス進化によってスタンドがDNAに刻まれる。
 ならば隕石が飛来した数万年前の時点で、感染し進化した存在がいたはずだ。人間に限らず、犬やオランウータン、ネズミやハヤブサの祖先にもな)

仮説ではあるが。
ローマの建国も置き去りにするほどの神話の時代においてスタンド使いはすでに生まれていた。
もしやスタンドを宝具とする神話の英雄とてあり得るかもしれない。
DNAを通じて脈々と伝承に語られるような力を受け継いできていたと考えられる。

(神代の維持者…いや、ウイルスのキャリアというべきか。神代の保菌者……伝承の保菌者?
 ……やれやれ、妙な学名をつけたがるのは学者の癖か。それともアヴドゥルが移ったかね。
 だがもう一歩。実習と実験が必要だな。再現性がなければ仮説は仮説で終わる)

スタンドが実際に通用するかどうかは確かめておかなければならない。
そしてできるなら時を止める以外にももう一つ欲しい。
スタンドのその先、サーヴァントにも鬼札となりえるものが。

(吉良はどうやら矢を改めて突き立てることでバイツァ・ダストなる能力を発現したと予測されていたな。
 結局行方不明のまま終わった矢と同化することで吉良はさらに進化したと、SPW財団内では考えられていた。
 貴重な矢で、命がけでやる実験としちゃリスクが過ぎるせいでやれてなかったが、ウイルスを直接大量に体にぶち込むことでスタンドは進化する可能性がある。
 スタープラチナでも、スタープラチナ・ザ・ワールドでも届かないなら更なる高みへと手を伸ばす必要がある)

だがここに弓と矢はない。
ウイルスをブチ込んで進化させるのはできそうにない。
ならば、スタンドの進化について思い当たる手段はもう一つしかない。

(必要なものはスタンド、ザ・ワールドである……問題ない。スタープラチナとザ・ワールドは同じタイプのスタンドだ。
 私は断じて奴の友ではないが、この身に流れる血は奴の体、ジョナサン・ジョースターのそれを受け継いだもの。資格はある。そもDIOやプッチの野郎が天国にいけるというなら欲望をコントロールできる聖人である必要性なんざあるとは思えねー)

脳裏に浮かぶのはかつて焼き捨てた悍ましき進化への道筋。
24年前に一度見ただけで今もなおはっきりと記憶している。

(らせん階段。カブト虫。廃墟の街。イチジクのタルト。カブト虫。ドロローサへの道。カブト虫。特異点。ジョット。天使‐エンジェル‐。紫陽花。カブト虫。特異点。秘密の皇帝)

14の言葉。
その意味など分からないが、これも覚えている。

(スノーフィールドの座標もどうやら緯度上はケープカナベラルに近い。重力の条件を満たす地点もあるはずだ)

最大の問題であるものの入手もこの地では用意されている。
ダービーのようにコインにするでもなく、プッチのようにDISCにするでもなく、誰もができる手段で、この戦場では魂を保存し手元において置くことができる。

(必要なものは極罪を犯した36名以上の魂である。だがこれがあくまで罪人の魂に強い力が宿るからだというなら、より強大なエネルギーを持つ者を用意できれば36も必要ないはずだ)


826 : 始まりはZero、終わりならZet ◆yy7mpGr1KA :2017/06/16(金) 00:16:04 fOOqo6is0

そう。
例えば、英霊の魂ならば1つでも十二分な力を秘めている可能性はある。

(キャスターは力を得る行為のことを魂喰いと言っていた。サーヴァントは人の魂を喰らい力を蓄える特質がある。
 そして監督役が言っていた。聖杯符はサーヴァントの核……おそらくは魂を固定したものだと)

聖杯符を糧に、引力の力をこの身に受ければ。
恐らく、スタープラチナ・ザ・ワールドはスタンドのその先、天国の果て(オーバーヘブン)へとたどり着くだろう。
加速する時間の果てに何があるのかは分からないが、恐らくは伝承保菌者(ゴッズ・ホルダー)のかつてあった形へ。

(サーヴァントと戦い、スタンドが通用するのか確信を得る。
 あわよくばそのサーヴァントから聖杯符を手に入れ、プッチや笛木を倒す切り札とする。
 最初にすべきことは、そのあたりか。幸いターゲットも目に付いた。まるで引かれあうようにな)

決意が定まる。
全身に力を漲らせ、ゆっくりと椅子から立ち上がると

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

その呟きと共に世界が染まる。
動く気体も流れる液体も全てが静止した、たった一人の冷たく孤独な世界に。

「あと4秒」

視点を一ヶ所に定めると承太郎は歩き始めた。

「あと3秒」

歩んだ先には黒い魔犬を模した笛木の使い魔がいる。

「あと2秒。オラァッ!」

軽めのパンチをスタープラチナが繰り出し、使い魔へと直撃させた。

「少しだが安心したぜ。使い魔を殴れるならこの調子でサーヴァントも殴れるといいんだが……あと1秒」

残心もなく使い魔に背を向け、座っていた椅子の前に戻る。

「そしてサーヴァントといえど止まった時を認識することはできないらしいな。文句の一つも飛んで来やしねえ。
 ……時間だ。時は動き出す」

世界に色と命が戻る。
止まっていた空気が震えて音を伝え、拳を繰り出す音と直撃した音が同時に承太郎の耳に届く。

「聞こえてるな、キャスター。第八階位(カテゴリーエイト)を発見した。まだ近くにいるはずだ……倒すぞ」

どす黒い殺意の籠もった声でそう告げた。
その意志の向かう先は娘の仇か。使い魔の向こうの邪悪か。
…………あるいは彼のすがる最後の希望か。
黄金の意思を黒い殺意で鍍金して、クルセイダーは歩み出す。



【F-6 水族館内、待機室/1日目 午前】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン】
[状態] 漆黒の殺意、若干の迷い
[令呪]右手、残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針: 『最初』に邪悪を滅ぼす。『最後』には……
1. 第八階位(カテゴリーエイト)を発見し倒す。
2. スタンドがサーヴァントに通用するか実験する。
3.聖杯符を入手し、可能ならスタンドを進化させる。

[備考]
※スノーフィールドでのロールは水族館勤務の海洋学者です。
※第八階位(カテゴリーエイト)のステータス及び姿を確認しました。


827 : 名無しさん :2017/06/16(金) 00:16:40 fOOqo6is0
投下終了です。
指摘等あればお願いします


828 : 名無しさん :2017/06/16(金) 07:56:28 m8LiDO4k0
投下乙
最初に遭遇したのがサンドマンとは正しく『スタンド使いは引かれ合う』というやつか

ポルナレフは亀だからまだ生きてるとは思うけど


829 : ◆aptFsfXzZw :2017/06/16(金) 22:09:36 ym1uWtIM0
ご投下、ありがとうざいます!

冒頭に挟まれた、「既にモカシンの作り方を知っている」という言葉と靴のエピソードの一つで、ジェロニモさんらしい合理性や同胞同士の繋がりを的確に掘り下げる構成に脱帽です。
繋がりと言えば、同じく大地と共生する民が他にも居ることを早々に見出すジェロニモさんの慧眼っぷり。スノーフィールドに施された暗示や、水族館に潜む敵の脅威を的確に把握するなど、FGO第五章で見せた頼もしい戦術眼は健在。おかげで、血気盛んなサンドマンのことも安心して見ていられます。彼もまたパパみに溢れたサーヴァント……
そんな二人を狙うは、スタンド使い同士引かれ合ったかのような空条承太郎。サーヴァントは性能だけを見ると同クラス同系統の上位互換で、さらに殺意を固めた承太郎に狙われたサンドマンは、ジョジョキャラ同士として見ると絶望感が半端ない。
しかし、姿を見せない笛木との関係はとても良いとはいえない承太郎たちと比べると、聖杯戦争で特に重要な主従関係においては完全に勝ると言って良いでしょう。格上相手にアパッチの戦略がどこまで通用するのか気になります。

そしてその承太郎も、参戦時期と笛木から流れ込んだ記憶の影響で弱っていた精神が、仲間を思い出し、彼ならではという説得力のある思考の流れでサンドマン相手に0に戻る戦いを選べるまでに回復……したついでに、歴戦の兵士兼学者としての面目躍如な考察を展開。
スタンドがサーヴァントに通用するのか? という疑問から発展して辿り着く、スタンドはウィルスによる伝承保菌者という仮説! FGOでケツァル・コアトルが語った出自を思えばなるほど、大胆ながらにたいへん説得力のある見解。私、こういうクロスオーバー大好きです。
そしてそもそもプッチとの因縁にも繋がる、DIOの日記の記述……『天国に到達する』術を満たす条件が、まさかの勢揃いしていたスノーフィールド。まさか聖杯符の設定がここまでスタンドと相性が良いとはこの>>1の目を持ってしても(ry 設定を用意してみた身としては書き手冥利に尽きる扱い方です! 至るかスタープラチナ・ザ・ワールド・オーバーヘヴン!?
黒金に変じつつあるクルセイダーの歩む先で巻き起こる戦い、その行末に興味が尽きません。素晴らしい作品をありがとうございました。改めてご投下お疲れ様でした!


830 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/04(月) 01:06:13 PP8UdE760
ありす&バーサーカー
ズェピア&ライダー
予約します


831 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/10(日) 18:26:28 6nB.8BGU0
予約を延長します


832 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 00:57:34 rdnMHBg.0
予約を投下します


833 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 00:58:13 rdnMHBg.0



時は遡る。
くるくるまわる。狂々おどる。
軸はあいまいに。系列はあやふやに。くるりと翻り、秒針をまわす。
過去を今に、今を過去に、さかしまにまわす、まわす、まわす―――





聖杯戦争が正式に開始を通達した、最初の夜を過ごすスノーフィールド。
始まる儀式。英霊同士の武闘。拡散する魔術。奇術。詐術。闇中で密やかに交わされる謀略。
ここから先、スノーフィールドの闇で繰り広げられていく数多の戦いを前にして、各々の主従は思案する。
目的に沿う道筋を考察し、敵方が取るであろう対策を講じる。
大半はまず、街に繰り出して地盤固めに奔走していくだろう。人気の少なくなり被害に遠慮がいらなくなる夜こそ、聖杯戦争の本番だ。
あるいは本格的な動きに備え、今は見に徹し朝を待つ者もいる。自己の能力を弁え慎重を期するなら、これも確かな戦略である。

しかしその中で、恐らくは唯一、戦略の組み立ても、勝利に対する展望もないままに、スノーフィールドの街中をあてもなく彷徨うマスターがいた。


白いサテンドレスの少女はてくてくと街を歩く。
西欧の顔立ちは衣装とあいまって愛らしく、そのままパーティーの場に入っても自然と迎え入れてもらえる姿だ。
今いる場所がホテルの前の噴水広場であれば、遅れて式に入る来賓にも映るだろう。
しかし少女はホテルマンはおろか、道を通りかかる誰の目にも映ってはいない。心配して声をかける者も、邪な意図で近づく輩も皆無だ。
淡い印象の少女は、その存在を完全に"無い"ものとして街に、住民全てに扱われていた。
少女の背後に護衛のように張り付いている、見るもおぞましい怪物にすら気づいてないことからそれは明らかである。
怪物……バーサーカーを従えたマスター、ありすは聖杯戦争の始まりの日でも、孤独にスノーフィールドを徘徊していた。

「んしょっと。ふう、ずっと歩いてたら疲れちゃった」

噴水前のベンチに腰掛ける。組み上げられた水は宙に舞い散り、辺りに置かれた照明に反射して幻想的な光景を生み出す。
水玉が飛んでは散っていく様を、ありすは足をぶらぶらさせながらつまらなさそうに見上げていた。

「あたしたちとおんなじ人、いないねー」
「……」
「そうだよね、つまんないよねー」

バーサーカーは答えない。理性を剥奪されるクラスであるが故、問いを返す能力がこのサーヴァントには欠如している。
そうと知ってか知らずか、それでも少女は気にせずこうして言葉を投げかけている。

「ひょっとして、みんなで隠れんぼしてるのかな?ありすが鬼役で、見つけないとずっと隠れたまま、遊んでくれないの?」
「……」
「どうすれば見つかるのかな。お家の中、森の中、迷路みたいでひとりじゃ見つけられないかも……」
「……」
「うん、そうだね。あなたもいるものね。壁をみんな壊しちゃって、森もぜんぶ真っ平らにすれば、アリンコみたいにみんな出て来るもんね」

従者との会話……と言えるかも分からない一方通行でもありすは止めようとはしない。
それは人形や玩具に語りかけるような、幼さからくる意思の疎通が成り立ってないことへの理解の欠如なのか。
傍目には一方通行に見えても、二人の間では、まるで双子のように心が通い合っているのか。
彼女らを見つけられる相手が今いない以上、全ては詳らかにされることはないが。


834 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:01:24 rdnMHBg.0


ともあれ、事実として。
少女は孤独を癒され、今は快活に日々を過ごしている。
砂糖菓子の如き脆い時間、火の点いた蝋燭の身とも知らずに、無邪気なまま。
やっと手に入れた遊びの時間を楽しむ自由を、体いっぱいで謳歌していた。

「よし、今日はありすがみんなを見つけよう!女王がばらまいたトランプ探し!
 この街になら遊べる相手がいるって、お姉ちゃんは教えてくれたし!」

椅子から立って、くるくると回り廻る。
どうやら修道女の監督役からの通知、ルール説明を拙くも読み解き、とりあえず『トランプ集め』なる催しに自分も参加する資格があるとこまでは理解したらしい。
当てがないのは相変わらずだが、とりあえずの目的はできた。遊びの形が決まれば、あとは一直線である。ぱたぱたと駆け出して広場を後にしようとする。
―――聖杯符を核とするサーヴァントから抜き取る行為が何を意味するか。己がサーヴァントを失ったマスターの運命がどこに行き着くか。
その残酷さに気づくことのないままに、少女は聖杯戦争のルールに則ってしまっていた。


「あれ?」


そこで、彼女は『視線』に気づいた。
自分を見る目。注視している気配。
誰もありすに気づかない群衆の風景の中で、ただひとつありすの方を向いている、赤い影。
他人に顧みられることのなかったありすには、その視線の意味……ありすを見る意図の感情に気づくことはなかったが、それだけに敏感に反応した。


「見つけた!」


華咲く顔で、指を指して、めいっぱいに叫んだ。
声も届いたのか、影は生い茂る木々の隙間にするりと入って消えていく。ありすも臆することなく後を追いかけていく。

「あは、追いかけっこだね!まてー!」

なにせやっと見つけた遊び相手だ。逃げられたくはないし、逃してしまえば遊びは自分の負けだ。
なにより、怪物以外で自分を見てくれたのが、どんな顔か見てみたい。
気分はまるで時計ウサギを追いかける童話のアリス。小さな体を急かし立ててありすを走らせる。

とはいえ、逃げる方が成人程度の背丈があるのに対して、追う方は十にも満たぬ矮躯である。歩幅からして違いが大きすぎる。
体力の差も鑑みれば、逃げる方が立ち止まらない限り、捕まえられる可能性など微塵もないのは当然のこと。
時間が経つにちれ、見る見る内に影は遠ざかってく。何度目かの裏路地の角を曲がり、このまま置き去りにして眩ませてしまおうかという段に―――背後からの声に呼び止められた。

「追いついた!ありすの勝ち!」

声の主は当然、期待に胸を膨らませたありすだ。
少女が思いの外健脚ったのか、しかし近道もなく数十メートルの距離を一瞬に詰める移動をしても、息ひとつ切らした様子もない。
もし逃げた人物に、ここ最近スノーフィールドで流れる極東の噂話の知識があれば、
電話をかけるたびに受けた相手に近づく少女の霊の怪談を思い出したかもしれない。


835 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:02:12 rdnMHBg.0


それは魔術。それは超常。
転移という、ある地点から地点への移動を過程を抜きにして空間を直接飛び越えて終える、魔術の最奥のひとつ。
空間転移は根源―――魔法の領域に指をかけている術だ。実現するには稀代の魔術の腕と然るべき費用と時間を求める。
遊び目的で追いつくために使用するのも埒外なら、準備も時間もかけず式を完了させているのも埒外だ。
さらに彼女はサーヴァントではない。神代に生きた稀代の魔術師ならいざしらず、魔術を知らない幼子の業と知れば、尋常の魔術師が見れば卒倒しかける光景であっただろう。

「お姉ちゃん、あたしが見えるのよね?ね、一緒に遊ぼう?」

為した事の異常さを自覚せず、ありすは影―――いや、この距離まで近づけば後ろ姿からでも体格からで判別できる女へと話しかける。
女は立ち止まったままありすに振り返ろうとしない。

「なんだか真っ赤っかなかっこうね。赤ずきんみたい」

ありすが言った通り、女の姿は赤一色だった。正確には腰まで伸びた黒の長髪が見えているが、女が着る赤いコートの色がそのような印象を与えているだけ。
薄暗い道にあって、その赤は色濃く映り、その空間だけ赤い血で染められているかのよう。
あるいは、生き物の血に爛れた口内か。

それから、ゆっくりと女が振り向いた。
顔の大部分は白いマスクに覆われて表情は窺えない。見えているのは両眼のみ。
その眼が、ありすを見る。愛おしそうに、羨ましそうに、妬ましそうに、憎らしそうに。禍々しく、悍ましく、恐ろしく、凄まじく。


マスクの紐に指がかかる。ずれたマスクの端から黒い孔が覗いた。


かけた指を引き離す。両の耳まで裂けた、女の貌の全てが露わとなる。


そして裂けた口で、ありすにこう問うた。





「私、綺麗?」





女が嗤う。


836 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:04:29 rdnMHBg.0

女だった妖怪(モノ)が嗤う。
いや、嗤ってなどいないのかもしれない。不出来な三日月のように弧を描いた口が、思い切り顔筋を釣り上げた笑みを浮かべているように見えているだけ。
その本質は殺戮。目的は恐怖。
問いに意味はなく答えもない。出会う者を区別なく自分と同じ醜き顔に引き裂く通り魔。
都市伝説。スノーフィールドに俄に立ち昇っている、唐突に極東の国より流れてきた妖怪の話。
口々に『乗る』噂という特性が生んだ例外的な騎乗手(ライダー)。
話には尾ひれが付き口伝で歪み本来の形すら忘れられ、ここに幻想と成って果てた、"口裂け女"という伝説が舞台に昇ってきた。

その伝承の残り滓、出逢えば刻まれてしまう妖怪を目の当たりにしたありすは、

「きゃっ」

と、可愛らしい悲鳴を上げるのみだった。

「びっくりした。赤ずきんかと思ったらおおかみだったのね。おばあちゃんに化けて娘をひと呑みにしちゃう、わるいおおかみ!」
「私、綺麗?」

どこからともなく包丁を取り出して近づいてくる口裂け女を前にして。
嬉しそうにはしゃぐありすの顔は、死を間近にした恐怖の色に染まってはいなかった。

「やったあ!一緒に遊んでくれるんだね!あたし、ずぅっと待ってたの!」

むしろサーカスで楽しみにしてた出し物を見たような、好奇心と期待をありありと乗せている。
感情が喪われている、わけではない。少女の数ある恐がるものの中に、今襲いかかる妖怪は含まれていないというだけ。
本の物語に出てくる『こわいかいぶつ』が、『病院や医者』のような痛い記憶を生み出さないだけのこと。



「ァ゛―――――――」
「…………あ」

そして、彼女は怪談に出てくるただの被害者ではない。
認識しておらずとも彼女はマスターであり、そこには常に、傍に立つ守護者にして破壊神が在る。

「ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

地を震わす咆哮と共に凶獣が動く。
流れる緑の血は異形。引き裂かれるまでもなくその口は人ならに獣のそれ。
死神のバーサーカー。無垢なる少女の魂の安寧を願うべくその心を代償にした堕ちたる英霊は、にじり寄る口裂け女の前に立ち塞がった。

「■■■■■■――――――!!」
「ぁぁあああああああ…………!」



人語にならぬ狂声が混ざり合う。
対峙する妖怪(クリーチャー)と怪物(モンスター)。
相克する伝説(フォークロア)と神話(ミトロジー)。
ここには正しき英雄など存在せず。しかし紛れもなく、聖杯戦争のあるべき形を取っていた。


837 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:05:31 rdnMHBg.0



「それじゃあ、遊びましょう?たのしいたのしいトランプ遊び。ポケットの中、服の下、ぶ厚い肉の底に隠したトランプを引っ張り出しちゃおう!」

緩やかなありすの声を合図に、二体は互いの武器を振るった。
化物同士に、殺し合いの前に気取った挨拶も客員作業もない。獲物がいて敵がいる。それで理由は両手に余る。

赤い妖怪(ライダー)が手にした包丁を振るう。構えも歩幅も出鱈目な、素人目にも洗練されてない動きだが、生まれる早さと重さは常識外だった。
自己保存の防衛本能など捨てた妖怪は、後先を考えずに自己崩壊も厭わずに相手を殺そうと全力を投入する。
恐怖の濃度で能力が高まる都市伝説の特性、様々な妖怪の伝承を取り込み、魔獣の位階に達したものに付与される怪力性。



その全てを砕き散らして、緑の怪物(バーサーカー)の暴威が妖怪の裂け広がった口に叩き込まれた。



「ぁ゛、あ゛あ゛……!?」

赤いコートが、新鮮な赤色で塗り直される。
噂話にある、口裂け女に出会った被害者と同じ結末。違いは自身の血で濡れている点。
喉の奥まで腕を突っ込まれ悶絶する口裂け女。
バーサカーの腕は全身が禍々しく突起に覆われており、この時点で口腔内はズタズタに刻まれ今なお鮮血を撒き散らす。
このまま出血多量か窒息に死に至ってもおかしくないが、口裂け女もさるもの。絶命する最後の瞬間が来るまで抵抗の意思を消しはしない。
腕を一本塞いだのを幸いに、まだ手に握った刃を距離が詰まったバーサーカーに突き刺そうとする。

「■■■■■■■■■――――!!」

だがそれよりも一手早く、バーサーカーは突き入れたままの右腕を『下に振り下ろした』。

ベリベリと肉を引き剥がす、聞くだに恐ろしい破滅的な音。
口裂け女の姿は、今までは人の姿を保っていただけまだ生温かった思わせるほどの変貌していた。
下顎どころか胸元を心臓ごと抉り持っていかれた格好は、皮肉にも恐怖の度合いは数段増していて、もはや女としてすら映らなかった。
声を発する器官も潰され、ぜいぜいと断末魔の痙攣を繰り返す口裂けの妖怪を、バーサーカーは逆の手に持った鎌で何の躊躇も見せず首を切り落とした。

縦横に割れた顔が地面に落ち、制御を失った胴体も崩れ落ちる。
それで終幕。
小波を大波が飲み込んだ後のようにあっさりと。サーヴァント戦と呼ぶにはあまりに呆気ない始末。
血の水溜りに転がった死体はそれきり動かず、次第に砂の粒子に崩れていく。
加害者は被害者に置き換わり、通り魔事件は過去の記録として幕を閉じる。
やがて死体は完全に消え去り、後には何も残らなかった。

「あれ?」

その結果にありすは首を傾げた。

「トランプ、どこにもないね。持ってなかったのかな?」

目当てだった聖杯符(トランプ)を落とさず口裂け女が消えた地面を不思議そうに見つめる。
これが常なるマスターであれば、異常な事態に思考を働かせ、様々な可能性に思い至るだろう。
しかしぼんやりとした感覚でしかルールを把握してないありすは、ただ呆然としているだけ。
このまま時が経てば綺麗さっぱり忘れ、また新たな遊び相手を探し回りに行くのだろう。
しかし、そうはならなかった。


838 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:06:41 rdnMHBg.0





「―――演劇中断(カット)」





落ち着いた男の声が、こぼれて聞こえた。
光の届かない森の闇から、新たな影が足音も立てず浮かび上がる。

「カットと言うしかあるまいよ」

深夜の大気を切り取った色をしたローブを纏った、金髪の男だった。
洒脱な雰囲気は貴族めいており、そのまま落成式やオペラの舞台にでも上がれそうでもある。

「劇の最中に割り込みとはマナーがなってないお嬢さんだ。しかも役者を壇上から叩き出してしまうとはあまり感心しないな。
 出番が待ち遠しいにしても、演目(ステージ)のお披露目は順番を守っていただかないとね」

目を瞑ったままに、立入禁止の標識を超えた子供に窘めるような口調で、ズェピア・エルトナム・オベローンは語りかけた。



「おじさんはだれ?」
「誰、か。その問いに意味はない……と言いたいところだが、生憎今の私は『噂』に成り果てるより前の個として成立してしまっている。
 さりとて自ら名を明かして『私』を広める必要もなし、なにより芸がない。ここはひとつ、タタリとでも呼んでくれたまえ。
 精緻な硝子細工のお嬢さん。君の名を伺っても?」
「あたし?あたしはありすだよ。タタリのおじさんも、ここに遊びに来たの?」
「ふむ?」

ありすはどこまでも無邪気に聞いてくる。
目の前の男が人を喰らう吸血鬼の王の一角、500年に渡って血の海を飲み干してきた真性の怪物であるなどと露とも勘付かず。
その反応を怪訝に思ったのか、ズェピアはありすに再度問いかける。

「聖杯戦争、という単語に覚えは?」
「なにそれ?」

即座に返された答えに、何かを精査するように硬直するズェピア。
一秒の後、指先の伸びた爪を額に乗せて、全てに合点がいったという風に頷いた。

「ありす……ああ、ルイス・キャロルだね。異界を迷い歩くヒロインの物語。
 世界で最も広まった童話は、それ故に後世にて多くの改変を受け世に再版された、メジャーな二次創作ともいえる。
 ……ふむ、これは拾い物かもしれんな」
「?」

形の良い貌には、笑みが張り付いていた。夜空に浮かぶ、細い弧月の形。

「まさかこのような場所で、かつての『私』だった姿と相見えようとは。
 君は過去を捨てることで童話の住人そのものへと転生を遂げた。その肉体もある種人々の夢想で形作られた魂の外装であり―――」

口裂けた形相のまま、不思議そうに見つめるありすにゆっくりと歩を進めていき―――大気を震わす狂気にそれ以上の前進を阻まれた。


839 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:08:14 rdnMHBg.0


「■■■■■■■■■■■……!」

意味を見出だせない獣の唸り声を上げるバーサーカー。
顎を開き、死神の鎌を掲げ威嚇する様は、口裂け女との比ではなかった。
空気が膨張せんほどに溢れる殺意は、狂戦士としての戦闘本能だけに収まる理由ではない、明確な意志を示していた。



――――それ以上彼女に踏み込んでみろ、俺は貴様を殺す。



「カテゴリー番外位(ジョーカー)か。面白い」

前にこそ進まないがそれを涼風と受け流すズェピア。
ともすれば通常のサーヴァントに匹敵する霊基を保有した吸血鬼は笑みを引かせ、興味の対象を怪物に移した。

「先程の戦闘を見せてもらったが、名に違わぬ鬼神の如き強さだ。
 忌々しい代行者の声を借りた監督役によれば、聖杯苻の数字とサーヴァントの割り振りに直接の因果関係はないらしいが、君に限ってはそうではないらしい。
 単なる数値上の話だけではない、我々のような死徒と同様―――人類の歴史そのものを否定する概念に即した力の類が垣間見える。
 もし君の性質が絵札の通りだとすれば、人に属するサーヴァントに対して絶対的な権限を押しつけられると踏んでるが、どうかね?
 おっと失礼。狂気の淵にいては返答を望むべくもないか」

次々に言葉を並べていく。科学者が自身の考察と持論を聴かせるのと同じ風に。
しかし聞く相手に理解を求めず展開していくのはむしろファックスの用紙を流し続けるコピー機の方が似ていた。

「トランプゲームのおけるジョーカーとは、最強の一枚に数えられるのが常だ。スートの番外位であり単純にあらゆる札に強く、ペアでは他の札の代用に使えるからだ。
 あらゆる役に成り代わり、圧倒的に場を蹂躙していく死神道化。ああ、私(タタリ)の性質にも近しい部分でもあるだろう。
 しかし何事にも例外はある。とかく最強や無敵と安く冠されるものについては特にそうだ。公正を旨とするゲームでは尚更さ。私(ズェピア)がそうであったようにね」

一度、そこで言葉を切る。

「ちなみに、あるゲームにおいてジョーカーは、特定のスートの3の札に弱いとされている」

再び言葉を出した後、わざとらしく懐から出した懐中時計を開いて見せた。


「"丑三つ時"だな」


呟いた、瞬間。







「私、綺麗?」







有り得ざる声が、銀の閃光と同時にありすに降りかかってきた。


840 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:08:57 rdnMHBg.0


「■■■■■■■■■■■……!」

意味を見出だせない獣の唸り声を上げるバーサーカー。
顎を開き、死神の鎌を掲げ威嚇する様は、口裂け女との比ではなかった。
空気が膨張せんほどに溢れる殺意は、狂戦士としての戦闘本能だけに収まる理由ではない、明確な意志を示していた。



――――それ以上彼女に踏み込んでみろ、俺は貴様を殺す。



「カテゴリー番外位(ジョーカー)か。面白い」

前にこそ進まないがそれを涼風と受け流すズェピア。
ともすれば通常のサーヴァントに匹敵する霊基を保有した吸血鬼は笑みを引かせ、興味の対象を怪物に移した。

「先程の戦闘を見せてもらったが、名に違わぬ鬼神の如き強さだ。
 忌々しい代行者の声を借りた監督役によれば、聖杯苻の数字とサーヴァントの割り振りに直接の因果関係はないらしいが、君に限ってはそうではないらしい。
 単なる数値上の話だけではない、我々のような死徒と同様―――人類の歴史そのものを否定する概念に即した力の類が垣間見える。
 もし君の性質が絵札の通りだとすれば、人に属するサーヴァントに対して絶対的な権限を押しつけられると踏んでるが、どうかね?
 おっと失礼。狂気の淵にいては返答を望むべくもないか」

次々に言葉を並べていく。科学者が自身の考察と持論を聴かせるのと同じ風に。
しかし聞く相手に理解を求めず展開していくのはむしろファックスの用紙を流し続けるコピー機の方が似ていた。

「トランプゲームのおけるジョーカーとは、最強の一枚に数えられるのが常だ。スートの番外位であり単純にあらゆる札に強く、ペアでは他の札の代用に使えるからだ。
 あらゆる役に成り代わり、圧倒的に場を蹂躙していく死神道化。ああ、私(タタリ)の性質にも近しい部分でもあるだろう。
 しかし何事にも例外はある。とかく最強や無敵と安く冠されるものについては特にそうだ。公正を旨とするゲームでは尚更さ。私(ズェピア)がそうであったようにね」

一度、そこで言葉を切る。

「ちなみに、あるゲームにおいてジョーカーは、特定のスートの3の札に弱いとされている」

再び言葉を出した後、わざとらしく懐から出した懐中時計を開いて見せた。


「"丑三つ時"だな」


呟いた、瞬間。







「私、綺麗?」







有り得ざる声が、銀の閃光と同時にありすに降りかかってきた。


841 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:10:14 rdnMHBg.0


頭上から伐採用の鋏を持って落ちてくるのは、誰あろう都市伝説。
赤いコート、耳まで裂けた口、どれもがさっき逆に引き裂いた口裂け女と同一の姿だった。

「■■■■■■■■!」

しかし能力も同一であったのか、奇襲にも関わらず口裂け女の斬撃はバーサーカーの黒い手に掴まれた。
飛翔能力で飛び上がろうとしたが、バーサーカーの腕力でそれも叶わずそのまま壁に叩きつけられる。
死亡確認もせず幾度となく繰り返し、掴んだ肉塊が「たたき」になっても生命活動が終了した途端に肉体は崩れ去り、同じく塵へと帰っていった。
それでもバーサーカーの怒りは止まない。二度に渡って己のマスターを狙うのは日に油を注ぐに等しい行為だ。
仕掛け人である今のライダーのマスターに相違ないズェピアの方へ向いて―――肝心の敵が既に消えていた事によりたちまち殺意が冷却された。

『ここまでだな。流石に軽々に三体目を失うわけにはいかない』

声のみが空間に反響して聞こえてくる。
二体目の口裂け女の出現はありすの殺害ではなく、場を仕切り直すための時間稼ぎだった。

「タタリのおじさん、あたしと遊んでくれないの?」
『済まないが私は多忙の身でね。この街により多くの物語を配給しなくてはならない。噂を流し、恐怖を広め、中途で頓挫した劇の再演に至らなければならない」

つまらなさそうに顔を膨らませるありす。やっと遊び相手になれそうな人を逃したことが不満の様子だ。
そんなありすを宥めようとしたのか、ズェピアから言葉が付け足された。



『だが……君に遊びの場を提供するぐらいはできる』
「ほんとう!?」

飛びつく勢いでありすが聞き返した。

『ああ。既にヒロインは先約済みだが、飛び入りを認めぬほど無粋ではないよ。劇のキャスト欄に加えておこう。
 ―――君という亡霊を、新たな都市伝説に組み込む。挿絵から飛び出たナーサーリーライム。しかし具現するは悪夢!
 そも童話とはアンデルセンを引き合いに出すまでもなく、陰鬱を秘めるのが常。幕間の題材としては上々だ。
 そうすればこの街の住人も、もう二度と君から目を離さずにはいられなくなるだろう』
「わあ……!」

ありすの瞳にたちまち星の輝きが満ちていく。
ありすの欲しがっていた、決して手に握れなかったものを、与えようと。
どれだけ絢爛華やかな景色であっても、その中で切り離されていたありすにとって、外の世界はどこも色褪せていた。
誰とも話せない、誰にも見向きもされない。生きていないありすの時間は、活きてすらいなかった。
そのモノクロだった世界に、色が取り戻される。想像するだけで
――――――"タタリの夜"による再現という、致命的な齟齬に気づかぬまま。

「チケットは後で手配しよう。脚本にそれなりに時間はかかる。
 それまで自ら噂を生み出すもよし、新たに舞台を立ち上げプリマドンナに躍り出るもよしさ。
 ああ、それとこれは助言だが、君に気づいた相手とは積極的に遊ぶといい。その分だけ開幕のベルは早まるからね―――」

そんな言葉を最後に、今度こそズェピアは消えた。姿から遅れて声の残響も完全に無くなり、夜の静けさを取り戻す。


842 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:11:27 rdnMHBg.0


「ありがとうおじさん!あたし待ってるね!」

どこに行ったのかは分からないため、適当な方向に手を振って見送る。
二人きりになっても、ありすの興奮はまだ冷めなかった。くるくる回って喜びを表現する。ほんのり赤くした白磁の頬に夜風が心地いい。
このまま朝まで街中を探し回りたい気分だったが、そこで限界が訪れた。子供には決して耐えられぬ誘惑が。

「あれ……なんだか眠くなっちゃった……」

急速に睡魔に襲われ倒れかかったありすをバーサーカーが受け止めたる。触れれば肌が裂ける突起だらけの腕で、決して傷つけないように。

「……」
「そうだね、もう夜だもん……寝なくちゃいけない時間だったけど……あんまりにも楽しくて忘れちゃった……」

空間転移を苦もなく使用し、魔力喰らいのバーサーカーを容易く運用するタネと仕掛け。しかし消耗自体が皆無なわけではない。
気づかぬ内にも刻一刻と砂時計の中身は下に落ちていく。その果ては器ごと割れ砕ける魂の全損。
本人にとっては、単なる遊び疲れとしか捉えないだろうが。

「……」
「そうだね……今日はもうお休みにしよう……。これからは、色んな人達といっぱい遊んべるんだもん……。
 お茶会もして……鬼ごっこや隠れんぼをして……」

微睡みに落ちていく中でもありすは言葉を止めようとはしなかった。
うつらうつらと、明日やりたいことを口にする。そうすれば、希望は現実に成ると夢見るように。

「ずっとずっと……楽しい時間を…………永遠に……………………」

やがて瞳が閉じられ、静かに寝息を立て始めたありすを、バーサーカーは抱えた状態でその場に佇み続ける。
放出していた獣の威圧も静まり返った夜気に消え、伝説にある戦いの後のベルセルクの戦士のように虚脱に陥っている。
それは狂気が消え、空虚な精神の中から表層に現れたただ一つの意志。
死神は眠る少女の安寧を乱さぬよう、只々鎮まり、立ち尽くしていた。

降り注ぐ雨風を凌ぐ家のように、堅固に。
我が子を抱き寄せて守り抜く、母の彫像に似て。

いつまでも。
いつまでも。







♡♥





――――――――死神を連れた白い少女の噂―――――――――





♡♥


843 : your fairytale/Bad Apple princess ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:13:02 rdnMHBg.0








【どこか/一日目 早朝】

【ありす@Fate/EXTRA】
[状態] お休み中、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:遊ぶ
1. ゆめのなか。
2. タタリのおじさんの劇で、みんなと遊べるといいな。
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。

【バーサーカー(ジョーカーアンデッド)@仮面ライダー剣】
[状態] 狂化
[装備] 『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ありすの守護
1. ――――――
2.―――■■
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。ただし自発的な行動はその限りではありません。



【いずこか/一日目 早朝】


【ズェピア・エルトナム・オベローン@MELTY BLOOD(漫画)】
[状態] 魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を以て再び第■法に挑まん
1. 『口裂け女』の噂を広め、ライダーの力を増す。
2. 次善策にありすを『都市伝説』に組み込む。
[備考]
『死神を連れた白い少女の噂』を発信しました。ありすや口裂け女への影響はまだ未知数です。

【ライダー(口裂け女)@地獄先生ぬ〜ベ〜】
[状態] 2体消失(即時補給中)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:殺戮
1. 私、綺麗?
2. これでも?
[備考]


844 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/09/14(木) 01:14:07 rdnMHBg.0
投下を終了します


845 : ◆aptFsfXzZw :2017/09/15(金) 20:26:11 xFKQpF7M0
>> your fairytale/Bad Apple princess

ご投下、ありがとうざいます!
幼児相手という、口裂け女の能力が最も発揮できる相手かと思いきや、絵本の中の『こわいかいぶつ』は痛い記憶を生み出さないから恐怖はしない、という。
感情豊かなのに、自身の命を脅かそうとする異形を前に恐怖することもできない。無邪気な姿ですが、それができるほどに生きることもできなかったから、というありすの悲痛さが胸を締め付けます。
一方でそんな感傷を持つことのない都市伝説の妖怪から、少女を護るのは仮面ライダーカリスではなく、ジョーカーアンデッドとしてのバーサーカー始さん。
ホラーのクリーチャーらしく殺意全開の口裂け女も、ニチアサの楔から解き放たれた惨たらしい残虐ファイトであっさりムッコロしました――が、理性無き怪物系サーヴァント同士の戦いはある意味前座。

かつて現象に成り果てた死徒と、世界に焼き付いた童話の夢に生きるサイバーゴースト。元作品組のくせに当企画でもある意味トップの規格外二巨塔となるTYPE-MOON出典のマスター同士の邂逅こそが個人的には最高潮。
カードゲームにおいてジョーカーは最強、「だが、ここに例外が存在する」、「ジョーカーは特定のスートの”3”に弱い」、「丑三つ時」など、キレッキレのズェピアの喋り口は魅力満点!
そりゃこの二人が顔合わせしたならズェピアにありすが懐柔されますよねと思ってはいましたが、案の定モノクロなありすの世界に色彩をくれた人が胡散臭いタタリのおじさんになってしまいかねないシリアスな笑い的事態に。
いきなりとんでもなく厄いフラグが立ってしまったありすですが、電波系サイコロリなのでそのことには当然気付かず。せめて彼女が幸福に夢を終えられるように願う始さんには辛い展開です。
しかし、さらっと二体目の口裂け女もムッコロしたバーサーカーのどこまでも彼女の守護者であり続けようとするその姿は、当企画に変わり果てた姿で現れた元祖バーサーカーのそれにも似て……仄かな希望もあると信じたくなります。

ゴシックな伝奇風という、型月らしさを彷彿とさせる雰囲気に狂言回しとしての役割を存分に果たしたズェピアの魅力と、彼に唆されて新たな都市伝説に成り果ててしまいそうなありす&バーサーカーの今後が気になる素晴らしい作品でした。改めて執筆お疲れ様でした!


846 : 名無しさん :2017/10/23(月) 18:33:59 ja5sATmY0
投下おつー
ズェピアの語りがすごいそれっぽくてセンスあっていいなー
型月同士のクロスに留まらずジョーカーについてまで語ってくれて面白かった
書かれ方がすごいおどろおどろしい幻想的で伝奇的な話だった


847 : ◆aptFsfXzZw :2017/11/24(金) 23:36:20 .bYeWOCA0
お久しぶりです。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー(アルケイデス)、マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト&アサシン(千手扉間)、シエルで予約します。


848 : ◆aptFsfXzZw :2017/11/30(木) 20:43:53 qmf2sgRM0
延長します。


849 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:22:10 wEapWcN.0
予約分を投下します。


850 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:26:24 wEapWcN.0






 ――消えたくない、と彼女は願った。

 使い潰される道具として勝手に生み出されて、我が子の行末を憐れんだ両親になかったことにされた女の子。
 偶然の事故から突然現れて、幾つもの騒動を起こしたクロが本当に望んでいたのは、ささやかな日常だった。

 家族が居て、友達が居る、何の変哲もない普通の暮らし。
 この世に生を享けた当たり前の命としての、彼女は居場所が欲しかった。

 同じ陽だまりを奪い合う者として衝突して、停戦して、一緒に過ごして、また争って……自分達の真実を知って。

 何も知らなかったイリヤの代わりに傷ついてくれていた、もう一人の自分――彼女に幸せになって欲しいと、気づけば自然に願っていた。
 そして、やっと手を取り合って、新しい家族として同じ時を生きて。やっぱりイリヤの知らなかった裏で大変な苦しみを背負っていた友のため、今度こそみんなで平和な毎日に帰ろうと、一丸となって戦って。

 長かった戦いの終わりが見えた、その矢先に。



「彼女を排除するに至ったのは、その存在が聖杯戦争の運営における致命的なバグであったからですね」

 ――自分達を拐った『月』の代行者、クロを無慈悲に消し去った張本人は、イリヤの問いかけに平然と答えた。













 スノーフィールド中央教会。

 時期であれば信徒や観光客と言った来訪者で賑わう威厳ある礼拝堂だが、耐性のない者を遠ざける人払いの結界が張り巡らされたことにより、今は三つの人影だけが存在していた。

 閑散とした長椅子の列の狭間で対峙するのは、聖杯戦争の監督役であるシエルと、彼女に真実を問い糾すべく訪れた主従、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと『第一階位(カテゴリーエース)』のアーチャーの組み合わせ。

 昨夜、聖杯戦争本選開幕を告げる場所で、シエルの披露した『夢幻召喚』。
 そのために用いた触媒、『弓兵』のクラスカード――二日前に行方不明となったクロの、核となるはずの礼装の出処を知ることが、イリヤ達の目的だった。


851 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:29:34 wEapWcN.0

 そしてそれは、呆気なく達成された。

 目の前の尼僧が、自分がクロをその手にかけて、回収したと即答したのだから。

 何故、どうして、と……せめて理由を知りたいと願うイリヤに、シエルは滔々と回答を連ねる。

「既にお伝えしたように、サーヴァントの現界数はカテゴリー分けの都合から、上限が設けられていました。その内の一枠を『白紙のトランプ』ではない異物が埋めてしまっては聖杯戦争を始めることができなかったので、その原因を取り除くように月から指令を受けたということですね」
「……あなた達が、私たちを勝手に拐ったのに!?」
「その点については、申し開きの言葉もありません。ですが」

 あまりの言い分に、思わず声を荒げたイリヤに対し、シエルは表情に僅かばかり滲ませていた沈痛さすら掻き消した。

「無自覚だとしても、そもそもムーンセルの招待に応じたのは彼女の願いです。これより命を賭して競い合う、あなたたちのそれと同じように。そして――この先に生まれる敗者と同様、彼女の魂は月の目に適わない物であっただけの話。ならば、殊更に特別扱いするほどでもないでしょう」
「――っ!」
「……わたしが言えることではないかもしれませんが、それは流石に悪徳商法過ぎませんかねぇ」

 激高寸前のイリヤの揶揄するように、ルビーが口を挟んだ。かつて無理筋な手法でイリヤと契約を結んだ極悪愉快型のカレイドステッキをして、シエルを通したムーンセルの言い分には物言いの一つも付けたくなるようだ。

「物言いはご自由に。ですが彼女の存在を許し続けていては、SE.RA.PH.の全てを消去するしかなかったことは事実です。この再現されたスノーフィールドごと。集められたあなたたちまで」
「……っ!」
「だから私はムーンセルと、そして他の参加者たちの願いのためにも、監督役としての役割を果たしただけのことです」

 まるで。
 クロの命を摘み取ったのは、あなたたちのためだと言わんばかりの。

 並べられて行く言葉に、イリヤの中で滾る溶岩のような紅と黒とに灼熱した感情が、臨界へと近づいて――

「この件についてお話できることはこれだけです。あなたもマスターの一人として、早めに気持ちを切り替えることをお勧めします……ご姉妹も、きっとそれを望んでいますよ」
「ふざけ――なっ!?」

 その言葉に、激情のまま飛び出そうとしたイリヤだが、その身を突如襲った痛みに声を詰まらせた。
 それから一瞬だけ暗転した視界が戻った時には、少女の身は床に伏せていた。

「アーチャー!」
「……監督役とやら」

 ルビーの抗議を無視した声は空気中だけでなく、背に押し当てられた重みからも伝播してきた。

「マスターに代わり、一つ問おう」
「はい、何でしょうか?」

 宣言の主は、イリヤと契約したアーチャーだった。
 シエルに思わず掴みかかろうとしたイリヤを、背後に控えていた彼が一瞬の内に組み伏せていたのだ。

 黒化英霊との交戦経験豊富なイリヤをして、なお戦慄する驚異の早業。
 それが、適切な身体操作を可能とする本来のサーヴァントからすれば児戯に過ぎないということに、格の違いを文字通りに痛感させられる。

「そのカードは、元を正せば我がマスターの縁者の物だ。返還しようという意志の有無だけ訊いておく」

 そうしてイリヤから交渉の主導権を奪ったアーチャーが問うたのは、まだそこまで考えを及ばすことのできなかったイリヤが、今更になって気づいた望みの実現性だった。


852 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:31:11 wEapWcN.0

 そうだ。
 クロが――本当に死んだということを、どうしようもなく保証されたのだとしても。せめて、その形見だけでも。

 そんなイリヤの縋るような眼差しに気づいたのか否か、シエルは肩を竦めるようにして回答する。

「残念ながら、仮に彼女が聖杯戦争の舞台に進むことができていたとしてもその場合のお二人は敵同士でしたので、所有権を認める根拠にはなりません」
「……っ!」

 形として残された繋がりの残滓。たった一枚のカードに向けた小さな希望は、その一言であっさりと奪われた。

「そうなると、今の時点で戦力の増強に繋がる礼装を無償で提供するのは公平性を損ねることになりますので、お渡しすることはできませんね」
「今の時点で、ということは……」

 黙すアーチャー、失意に震えるだけのイリヤに代わって、そこで口を挟んだのはルビーだ。シエルは頷く。

「そうですね。何らかの報奨か、あるいは聖杯戦争が終結した後なら、お渡しすることには異存ありません」
「――だそうだ。帰るぞ」
「きゃあっ!?」

 シエルの回答を聞き終えると同時に、アーチャーはイリヤの体をそのまま掴み上げ、右の肩へ荷物の如くぞんざいに担いだ。

「邪魔をしたな」
「いえいえ」

 別れの言葉を交わして立ち去ろうとしたアーチャーの足が、その時、不意に止まった。

「最後に――月の人形なぞに言っても仕方のないことだろうが、それでも告げておくべきことがある」

 アーチャーは言う――諦念を滲ませた声に、それでも抑えきれず静かに猛り狂う、確かな憤怒を載せて。

「いかなる理由であれ、幼子を手に掛けるような外道は相応の因果に晒されるべきだ。もしその道理から世界が目を逸らしたとしても、正統なる復讐を忘れぬ者が居ることを、その胸に刻んでおくが良い」
「……敵対宣言でしょうか?」

 監督役として用意された月の代行者、NPCたるシエルをして、反応に一瞬以上の淀みを生む迫力。
 それをすっぱりと消し去って、アーチャーは小さく鼻を鳴らした。

「好きに解釈すると良い。後から理不尽と、神を名乗る無法者どもと同列に謗られたくはなかっただけだ」

 ――果たしてそれは、答えを言外に告げているのではないか。

 しかし公平性を掲げる監督役としては、采配に不平を示しただけの参加者までを罰することはできないらしく、彼の背が去りゆくのを見届けるだけ。

 いずれにせよ、互いにそれ以上取り合うことなく。礼拝堂を後にするアーチャーに抱えられたまま、イリヤはその姿が見えなくなるまで、シエルの姿を睨み続けていた。


853 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:32:02 wEapWcN.0













「――覚悟は決まったか、マスター」

 教会を出て、暫し歩いた後。担いでいたイリヤを肩から降ろしたアーチャーは、そのように問いかけた。

「覚悟、って……」
「おまえの半身を奪った仇への復讐、それ以外に何がある」

 躊躇いがちにイリヤが問い返すと、それだけで身が竦むほどに力強く、アーチャーは断言する。

「最初に告げたとおり、私はおまえの憎悪に招かれた復讐者のサーヴァントだ。聖杯戦争の勝利以外にも、その完遂に手を貸してやることは吝かではない」

 それから、いくらか穏やかな調子で物騒な言葉を並べていたアーチャーだったが、またその身に纏う気配をも剣呑なものとする。

「――だが、そのためにおまえが私を利用することを許すように、私もおまえを利用する。そして私にとっては他の何よりも、我が復讐こそが優先される。
 故に、今朝話したとおりだ。今、監督役に手を出すことは徒に障害を増やすに過ぎない。まずは聖杯戦争に挑む一参加者として、他のマスターとサーヴァントを鏖殺することが、我らが悲願のための共通にして最善の道となる」

 一切の妥協を認めない、と言わんばかりの。鋼鉄の決意を覗かせる声音で、アーチャーはその顔を覆う布越しに、鋭い視線でイリヤを射抜く。

「貴様の望んだ真実を知った今――その覚悟は、決まったか?」
「……っ」

 直接目の当たりにしたわけでもないその眼力は、改めて、凄まじい圧を伴っていた。

 ただ対峙するだけで呼吸を乱され、挙げ句の果てにはこの場から逃げ出したいという衝動にすら見舞われながらも――

「……できないよ」

 イリヤは、強大なる審判者の意に背く言葉を口にした。

「そんな覚悟なんて、できない」
「……惰弱だな」

 呆れたように、アーチャーが鼻を鳴らす。

 それだけのことだが、彼が不機嫌になったという事実は、空気の重さが何倍にもなったような圧迫感になってイリヤを苛む。

「私に慈悲を期待するなと伝えたはずだが? 障害となるなら、我が手で縊り殺すとも」

 続いて放たれた直接的な恫喝の言葉は、それ自体が直接命を奪ってもおかしくないほどの威圧と化してイリヤを打ち据えた。


854 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:33:31 wEapWcN.0

 ……だが。

「だって……大切な人が殺されたからって、その復讐のためなら何をしても良いわけがない……っ!」

 これまで何度も、巨大な問題から逃げ出していたイリヤはしかし、既に覚悟を決めていた。

 もうこれ以上、何も諦めないという誓いを。

「他の誰にだって、わたし達と同じように、失くしたくない人が居るのに……!」

 クロを喪った瞬間に、その脆弱さを突きつけられた子供の覚悟。
 しかし、だからこそ貴き価値のある子供の我儘(ねがい)は、ただ一人で規格外の大英雄が与える絶望を前にしても、手放すことを選ばせなかった。
 一度でも手放してしまえば、取り戻すことはきっと、できなくなってしまうから。

 だから、クロが信じてくれた、友達も世界も救うという夢を胸に。確かな形のある物ではない、心の中の思い出だけでも、彼女との繋がりをこれ以上、失ってしまうことがないようにと。
 イリヤの意地は何とか、それだけの言葉を絞り出していた。

「……つまり貴様は」

 対しアーチャーの声が、一段低くなった。

「貴様はこの私に、覚悟を胸に戦場でまみえる兵士に情けをかけ、敵と馴れ合うために我が子らの苦しみを忘れ去れと言いたい訳か」

 長身痩躯から放射される尋常ではない気配に、イリヤは思わず息を詰まらせる。

「ち、ちが……っ」
「……貴様が、その半身に抱いていた情が私の見込み違いだったことは認めよう。だが同じように、貴様如きが私の復讐を賢しげに語ろうと、どこまでも見当外れなそれを聞き届ける義理はない」

 ゾッとするような声音で、アーチャーが宣告する。

「――そして、我が子らを軽んじるような言葉を口にすることは許さん。次はないと思え」

 その『忠言』には。それまでの脅しや、単なる苛立ちに混じっただけのものとは違う――アーチャーが自覚的に込めた、真の殺意が内包されていた。

 ……知らず、イリヤは数歩後退していた。

 腰が抜けなかったのが不思議なほどの圧力を感じ、完全に臆している己を自覚したイリヤは、それでは駄目だと首を振る。

 そして、なけなしの勇気を振り絞り。刺すような雰囲気の中、決死の想いで口を開いた。

「い、言い方が悪かったのは謝る、けど……あなたのお子さんのことを、忘れろなんて言うつもりはない、よ」
「ちょ、イリヤさん!?」

 刺激するな、と言わんばかりに、ルビーが上擦った声を発した。
 けれど一度口を開いたからには、もう止められない。止めるわけにはいかないと、イリヤは妙に絡まる舌を必死に回し続ける。

「わたしだって、クロのこと……忘れられるわけ、ないじゃない! それでも、復讐のために他の誰かを犠牲にするなんて間違ってる……っ!」

 ヒトの生きる世界を守るために、死力を尽くす正義の味方が居た。
 悪と謗られようと、世界のための生贄となる妹を救おうとする兄が居た。

 両者は相反する目的のために、多くの犠牲を払ってでも悲壮な戦いを繰り広げた。


855 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:34:45 wEapWcN.0

 そのどちらかが間違っているだなんて、イリヤは思いたくなかった。
 だから答えは、一つだけ。

「子供の我儘だって言われるんだとしても、わたしはもう、誰も諦めたくない……それに、そうした無茶を叶えて来た英雄なんでしょ、あなたも!?」

 思い返すのは、ルビーから聞かされた、アーチャーの真名が意味する正体――イリヤでさえも覚えのある剛勇無双の大英雄の、人間としての幼名。
 その逸話の数々と、何より、昨夜垣間見た夢の影響が、イリヤにその言葉を選ばせていた。

「だから、そんなことを言うのはもうやめて――――アルケイデス!」

 その想いを伝えるためにも、サーヴァントとしてではなく、彼という個人に呼びかけるために、イリヤはその名を叫ぶ。

 刹那――――張り詰めていたそれは、確かに幾許か和らいだ空気へと変わっていた。

「……英雄などいない」

 やがて。イリヤの訴えに、暫しの間を置いてから彼は答えを寄越した。

「貴様が語る伝承は、暴君どもに迎合した愚物のモノよ。そして私は『奴』が捨てた人間としての残滓、復讐者でしかない」

 寸前までと比べれば、嘘のように落ち着いた声音で――どこか、物悲しさすら感じさせる語り口で述べるアーチャーに、イリヤは首を振る。

「それでもあなたは、罪を償うために、困っている人々のために試練に立ち向かったんでしょ? だったら……」
「――『奴』は末期、無様にも苦難から逃げ快楽を選んだ。斯様に高尚な精神など期待できまい」

 話を聞いて貰えるかもしれない、という淡い期待を裏切るかのように。一瞬で、アーチャーの声に硬さが戻った。

「そして自らの願いのために、こちらを殺める覚悟を決めた敵にかける情けなどない。ましてやそのために、私が復讐を捨てる理由など何処にある?」
「わ、わたしや、クロみたいに、巻き込まれた人が……」
「ならば早々に令呪を使い切ってサーヴァントを自害させ、降伏すれば良い。さもなくば敵として葬り去るのみだ」

 それがアーチャーの示した、最大限の譲歩。
 慈悲を求めるなと告げていた復讐者の見せた、これ以上ない妥協。

 だが――そんなの無茶苦茶だ、とイリヤは思う。

 サーヴァントにだって人格はあるのに、普通の人間に簡単に殺すという答えを出せるはずがない。加えてサーヴァントを喪ってその後に狙われることがあっては一溜まりもなく、そもそも反抗されて死んでしまう恐れもある。
 他ならぬイリヤ自身が、アーチャーを令呪を使ってでも止めようとする決心が未だつかないのは、そういった幾つもの理由のためだ。

 ……きっと。心の何処かで、復讐のための力を望んでいるから、などではなく。

「えー、お盛り上がりのところ失礼します」

 軽薄な声色の闖入者が現れたのは、イリヤが逡巡から会話を途切れさせたその時だった。


856 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:35:45 wEapWcN.0










「何者だ」

 布越しの視界へ、瞬時に声の主を捉えながら、アーチャーは問いかけを行った。

 アーチャーの背後に、前触れ無く出現した乱入者は二人。
 声の主である眉目秀麗な少年と、それに随伴する異国の武人の組み合わせ。

 一瞬だけ、後者の位置からサーヴァントの気配を察知できた。
 佇まいから見ても十中八九、この武人はアサシンのサーヴァントなのだろう。

 ならばある程度の距離まで、アーチャーの感知能力を掻い潜れても不思議はないが……マスターまで、ともなれば話は別だ。

 その不可解さ、そして自身の前に堂々と姿を晒す得体の知れなさから。警戒を隠しもせずイリヤを背に庇う形で対峙するアーチャーを見て、少年の方が能天気そうな笑顔を浮かべた。

「僕はマヒロと申します。こちらは、僕のサーヴァントである第二階梯(カテゴリーツー)のアサシン。以後お見知りおきを」
「失笑ものだな。暗殺者が呑気に顔を出して、次があると思っているのか?」
「あれ、ご挨拶ですね。もしかして取り逃がしたら後が怖いとか思っちゃってます?」

 見せつけるように弓を構えたアーチャーに対し、マヒロと名乗った少年は挑発するように笑い返した。

 小馬鹿にした態度だが、アーチャーは過度に気を取られる愚は犯さない。互いの間合いと言える距離に、アサシンが存在しているからだ。

 アーチャー自身をアサシンが脅かせるとは考え難いが、あるいは先程イリヤの口にした、こちらの真名を把握されている可能性もある。
 ましてや相手はマスター殺しの専門家。万一を警戒するのは当然だ。

 しかも、互いの位置関係が拙い。
 アーチャーの背後にイリヤが居るように、マヒロとアサシンの背後には教会がある。

 流れ矢を当ててしまえば後々要らぬ不利を招く恐れから、アーチャーも早々に射殺してしまうことができず。
 結果、互いの隙を伺うように束の間の会話を許す結果となっていた。

「仕方ない。そんなに警戒されていては、落ち着いて話し合いの一つもできないので――」

 そんな状況を理解しているのかいないのか、マヒロはべろりとその舌――そこに顕現した紋章を覗かせ。

「令呪を以って我が暗殺者に命ずる」

 聖杯戦争において重要な意味を持つ、その言霊を紡ぎ始めた。

「第一階梯(カテゴリーエース)のアーチャーとそのマスターへの暴力の行使、並びにその援護の一切を、以後永久に禁止する」
「――っ!?」

 しかし俄に身構えていたアーチャーが聞いたのは、彼をして一瞬理解の追い付かない命令だった。

「え……えぇ……っ!?」
「あら、まー」

 数瞬の後。思わずと言った様子で、イリヤとルビーが驚愕と困惑の当分された声を漏らしていた。
 その反応に満更でもないと言った様子で、先程までとは違う達成感に充ちた笑顔を作ったマヒロが改めて見せつけた彼の舌部からは、発現していた令呪が一画、確かに消え失せていた。


857 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:36:58 wEapWcN.0

 残る令呪はあと一画。あまりにも呆気なく、彼は切札を使用した。

「な、なんで……」
「……何を企んでいる?」

 意図の読めない行為を目の当たりにしたことで混乱したイリヤを遮り、警戒の度合いを引き上げてアーチャーが問いかけた。
 対し、マヒロはあっけらかんと回答する。

「いえ、言葉のとおり。僕らはあなたたちと交渉に来ました。だからアサシンが脅威に見做され話の邪魔になるなら、その攻撃力を放棄するまでのこと」
「見え透いた嘘だな。この聖杯戦争に一度関わった以上、他の魔術師とサーヴァントを全て葬る以外の道はあるまいに」
「その意図がない、ということですよ」

 アーチャーの詰問にも、マヒロは何でもないことのように前提を否定する。

「つまるところ、最初から優勝するという選択肢が僕にはない。だから、あなたたちと自発的に争うための暴力を持つ意味もないんですよ」
「ほう。ならばこのまま無抵抗に屠られる、贄の道を選ぶということか?」
「まさか。攻撃はともかく、自衛までは令呪で縛らなかったでしょう?」

 マヒロの言葉を裏付けるかのように、アサシンは密かに抜き取っていた得物を構える素振りを見せた。

 なるほど最低限の防衛力が残っているのならば、位置関係の優位もあって、当初アーチャーの意識外から出現した術を持ってすれば逃走も叶うかもしれない。
 加えて言えば。残る一画での相殺は無論のこと、アーチャー達の前に姿を現す以前から、マヒロの令呪は一画消費されていた事実も見逃せない。二画目への抵抗として事前に行使されていた可能性はある。

 油断はできない――が、仮にそうだとしても。この最序盤から二画も費やしてまで行ったパフォーマンスの目的がただ、単独行動をクラススキルで持つアーチャーのマスター一人の暗殺とも、そもそもそれに繋がるとも考え難い。

 一方で、寸前のアーチャーの発言を彼らが耳にしていて、なおかつ目的の達成には最低でも令呪一画以上のメリットがあると、マヒロとアサシンが考えているのだとすれば……

「僕とアサシンは可能な限り最大多数のマスター、およびNPCの生還を目的として行動します。そのための協力をあなたたちに依頼したい」

 アーチャーの思考が排除から揺らいだ瞬間に叩きつけるように、マヒロはその交渉目的を口にした。

「……皆で、元の世界に帰るってこと?」
「まぁ、できる範囲で、だけどね」

 イリヤの震えた声での問いかけに一度頷いてから、マヒロは改めてアーチャーに視線を合わせて来た。

「アサシンの見立てと、そちらの真名から推測しただけのことですが。あなたたちにはこの聖杯戦争における優勝候補となるだけの実力がある。ならそれをサポートする方が、僕らが直接聖杯を取りに行くより現実的と判断したまでのことです」
「……っ!」

 マヒロの語る解決策の内容に、直前まで平和的な希望を見出していたらしいイリヤの息を呑む気配が、アーチャーにも伝わった。

「……下らん。強者と見なした相手に媚び、都合良く厄介事の代行を縋るだけか」


858 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:38:30 wEapWcN.0
「元々、荒事は苦手で。それに僕には回路は在っても魔力がないものですから……アサシンとしても不本意だとは思いますがね」

 失望を滲ませたアーチャーの感想に対し、マヒロは居心地が悪そうに自らのサーヴァントへと話を振る。

「貴様も聖杯を求め馳せ参じた一角の英霊であろう。その小僧に第二の生を使い潰されることに不満はないのか?」

 釣られたわけではないが、アーチャーもまた――東洋の暗器を得物とするサーヴァントに問いをかけた。

「ワシは既に時代を終えた亡霊に過ぎん。これと言った心残りもない。使い潰されるのも元よりの生業に過ぎぬ故、こうして月に喚ばれもしたのだろうが」

 果たして皆が見守る中で、アサシンは淡々と口を開いた。

「時代の遺物としては、多くの助けになりたいという後世のバカに力を貸すのもまぁ、そう悪くはない――少なくとも、単に貴様と敵対するよりは、よほど有意義な命の使い道にはなるだろうからな」

 涼しげに、そして皮肉を込めながら、アサシンは己がマスターの支持を表明した。
 言葉とは裏腹に、いつでもアーチャーの挙動に対応できるよう全身を緊張させているアサシンの庇護を意識しているのか、いないのか。無造作に歩み出たマヒロが軽薄な調子で続ける。

「もちろん、こちらからも見返りは用意できるつもりです」
「ほう。例えば?」
「そうですねぇ」

 わざとらしく悩む様子のマヒロの頭を、不用心を咎めるようにしてアサシンの腕が掴む。



「(――監督役を排除した上で、戦い続けるための算段、などを)」



 直後、失望から再び排除に寄った思考に従い、一瞬の隙に矢を放とうとしていたアーチャーの脳裏に声が響いた。

「痛い痛いっ!」
「前に出過ぎだ」

 アサシンに力尽くで引き戻され、こちらへ注意など払っていないという様子のマヒロの声なき声が、直接。

「(察しの通り、アサシンの能力であなたとだけ繋いだ念話です)」

 アサシンに頭を捕まれ、渋々と引き下がらさせられている――そんな様子を演じているマヒロから、平坦な調子で裏の声が届けられ続ける。

「(何故私にだけ繋げる必要がある?)」
「(その子に聞かれて、途中でやる気を無くされたら困るのはあなたでしょう?)」

 構えを解かぬまま、脳内に感じる異物感へアーチャーが尋ねれば、マヒロも即座に問い返す。
 その視線はアーチャーにとって最大の弱所にして悩みの種と言える、イリヤを指し示していた。

「(ただ、この念話もパスを通じてない以上はあまり使用できるものではありません。この先の話にご興味を持って頂けたなら、聞かれない工夫はそちらでお願いします)」

 一方的にマヒロが告げると、アーチャーの脳内から念話の気配は消失した。


859 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:39:01 wEapWcN.0
「元々、荒事は苦手で。それに僕には回路は在っても魔力がないものですから……アサシンとしても不本意だとは思いますがね」

 失望を滲ませたアーチャーの感想に対し、マヒロは居心地が悪そうに自らのサーヴァントへと話を振る。

「貴様も聖杯を求め馳せ参じた一角の英霊であろう。その小僧に第二の生を使い潰されることに不満はないのか?」

 釣られたわけではないが、アーチャーもまた――東洋の暗器を得物とするサーヴァントに問いをかけた。

「ワシは既に時代を終えた亡霊に過ぎん。これと言った心残りもない。使い潰されるのも元よりの生業に過ぎぬ故、こうして月に喚ばれもしたのだろうが」

 果たして皆が見守る中で、アサシンは淡々と口を開いた。

「時代の遺物としては、多くの助けになりたいという後世のバカに力を貸すのもまぁ、そう悪くはない――少なくとも、単に貴様と敵対するよりは、よほど有意義な命の使い道にはなるだろうからな」

 涼しげに、そして皮肉を込めながら、アサシンは己がマスターの支持を表明した。
 言葉とは裏腹に、いつでもアーチャーの挙動に対応できるよう全身を緊張させているアサシンの庇護を意識しているのか、いないのか。無造作に歩み出たマヒロが軽薄な調子で続ける。

「もちろん、こちらからも見返りは用意できるつもりです」
「ほう。例えば?」
「そうですねぇ」

 わざとらしく悩む様子のマヒロの頭を、不用心を咎めるようにしてアサシンの腕が掴む。



「(――監督役を排除した上で、戦い続けるための算段、などを)」



 直後、失望から再び排除に寄った思考に従い、一瞬の隙に矢を放とうとしていたアーチャーの脳裏に声が響いた。

「痛い痛いっ!」
「前に出過ぎだ」

 アサシンに力尽くで引き戻され、こちらへ注意など払っていないという様子のマヒロの声なき声が、直接。

「(察しの通り、アサシンの能力であなたとだけ繋いだ念話です)」

 アサシンに頭を捕まれ、渋々と引き下がらさせられている――そんな様子を演じているマヒロから、平坦な調子で裏の声が届けられ続ける。

「(何故私にだけ繋げる必要がある?)」
「(その子に聞かれて、途中でやる気を無くされたら困るのはあなたでしょう?)」

 構えを解かぬまま、脳内に感じる異物感へアーチャーが尋ねれば、マヒロも即座に問い返す。
 その視線はアーチャーにとって最大の弱所にして悩みの種と言える、イリヤを指し示していた。

「(ただ、この念話もパスを通じてない以上はあまり使用できるものではありません。この先の話にご興味を持って頂けたなら、聞かれない工夫はそちらでお願いします)」

 一方的にマヒロが告げると、アーチャーの脳内から念話の気配は消失した。


860 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:40:05 wEapWcN.0

「たちまちは、こちらが諜報に優れたアサシンであることを活かしての情報の提供。現状では真名までは掴めていませんが、昨夜はあなた以外に二騎のサーヴァントを捕捉しました」
「……ちょっと待って。昨夜って、どういうこと?」

 改めて口を開き言葉を並べ始めたマヒロに、イリヤが食って掛かった。

「えっ? 昨夜、予選終了より前にそこのアーチャーがサーヴァントを一騎、倒してたよね?」

 芝居なのかそれとも素か、マヒロは驚いた様子でイリヤに問い返した。
 一方でアーチャーとしては、一つの納得を得られていた。

「なるほど。見立てとやらの出処はそこか」

 その内容は大したことではない。昨夜の予選終了の直前、イリヤが心労で早々に就寝した後、アーチャーが偶然発見したサーヴァントを狙撃しただけのことだ。

 事前に誰かしらと争ったのか、既に消耗していることが明白だったそのサーヴァントを泳がすことも考えたが、仕留めることができる間に、回復される前に始末することをアーチャーは選択した。
 その際、覚悟の決まっていないマスターに事前了承を得る必要はないと考えて先制攻撃を仕掛けたが、標的は余程消耗していたのか禄に魔力を消費することもなく、それこそイリヤに気づかれる前に殺害に成功していたのだ。

 そしてマヒロたちは、その場面を偶然からか目撃し、アーチャーの実力の一端を検分していたということだろう。

「そん、な……」

 酷くショックを受けた様子で、イリヤが押し黙る。その様子を見たマヒロが、気遣うように声をかけた。

「……一応僕の方から言っておくと、アーチャーもマスターまでは殺していなかったよ」
「直後に本選が開始されたからな。魂喰いをするわけでもないのなら、記憶を失いNPCに戻った者を屠ったところで不利益を被るだけだったということだ」

 便乗する形で、当時の真意をアーチャーは口にする。

「……どうして」

 しかし、両者から掛けられた言葉は、イリヤを納得させるには至らなかった。
 彼女の瞳には既に、闖入者の訪れる以前に宿っていた哀しみと闘志とが、より強い勢いで戻っていた。

「どうして、そんなことを!?」
「繰り言だな。聖杯戦争の掟に従ったのみのことよ」
「聖杯戦争だっていうなら、あなたはサーヴァントなのに、マスターのわたしに黙ってそんなことを!?」
「勘違いしているようだが、たかが肩書を絶対視しないことだ。我らの実態は、あくまで共通の目的のために利用し合う関係に過ぎない」
「っ、だとしても、勝手に誰かを殺そうとするなんて……!?」
「その話はもういい――そして、煩わしいな」

 なおも食い下がるイリヤに対し、アーチャーは蔑むような言葉を口にし、そのか細い首筋に精密な制御の下、手刀を閃かせた。

「あ……アーチャー!? 何をするんですか!?」
「他者との交渉でまでこうも喚かれては話し合いも満足にできん。暫く眠っていて貰うだけだ。
 そしておまえにも、暫く席を外して貰う」

 アーチャーは自ら昏倒させたマスターの少女の体を、文句を言おうとする自律型の魔術礼装ごと抱え込む。


861 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:41:00 wEapWcN.0
 それからマヒロとアサシンから一瞬も目を離すことないまま、一度教会の門にまで飛び退った。

 背の高い囲いにイリヤの背を預けて寝かしながら、アーチャーは騒ぎ出そうとするルビーに口を開く。

「貴様の黙らせ方はわからないのでな。そして中立地帯とはいえ万一に備えるなら、貴様は主の傍を離れない方が良いだろう」
「ぐっ……!」

 言い含められたルビーが反論を詰まらせたのを聞き届けて、アーチャーは再び軽く跳躍し、元の位置関係――イリヤ周辺の様子も監視できる位置でマヒロとアサシンに対峙する。

 これで、自らを餌にアーチャーと分断したとして、第三のマスターやサーヴァントにイリヤを襲わせる、というような小細工も許すことは早々ないだろう。

「待たせたな」
「お気遣いなく」

 再び眼前に戻ったアーチャーに対し、マヒロは涼しい声で即答した。

 この様子を見る限り、イリヤが気絶させられる展開は想定内だったようだ。彼女が意識をはっきりさせていれば、アーチャーと会話する横で念話で異なる交渉を進めることも可能だったのだろうから、それをこちらが読むところまでは当然予測していたらしい。
 かと言って、気配遮断中に他者へ思念を飛ばせるなら、そもそも顔を突き合わせる必要も最初からないはず。後々を含め、彼女だけに何かを吹き込むという真似を見逃す可能性は低いだろうとアーチャーは判断した。

 そのような事態になってもマヒロらが何ら焦燥を見せないということは、それが何ら不利にならない――つまり自身と共闘したいだけという主張の信憑性が増したと感じたアーチャーは、口を開くこととした。

「それで、話というのは長くなるか?」
「いえ、この状況で提案することは簡単です。つまるところ、あなたにとっても目の上のたんこぶである存在を排除した上で聖杯戦争を続ける、その手助けというだけの話ですので」

 そう言ってマヒロは自らの背後――延長線をイリヤと結ぶには高い位置、すなわち教会を指し示す。

「これは僕の勝手な印象ですけど、去り際の捨て台詞を見るにあなたとしても、監督役は早々に討伐したい相手のように見えました」

 教会内でのやり取りから既に把握していたということを、何でもないことのようにマヒロは告げる。

「しかし、よりにもよってあなたのマスターが聖杯戦争に積極的と言えず、現状では唯一闘志を期待できる相手が参加者ではなく監督役。彼女を早々に討てば、その後の戦いに今以上の支障が出る。だから退くしかなかった」
「否定はせん」
「その答えで十分」

 アーチャーの返答にほくそ笑み、口調を崩したマヒロは続きを述べた。

「今のままだと困るというのなら、替えてしまえば良いんだ――マスターを。その協力を僕らがしよう」

 告げる少年の顔に浮かぶのは、まるで蛇のような笑顔だった。


862 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:43:47 wEapWcN.0










「僕らには今日中にでも自分を餌に他の陣営を複数組、一箇所に集める計画がある。詳細を詰めるのはこの後だが、君はそれに横合いから乗っかってくれるだけで良い」

 マスター替えの協力を申し出たマヒロは、アーチャーに対し指を二本立ててみせた。

「君にとってのメリットは二つ。一つは自身が騒動の中心となるよりも俯瞰的に戦場を把握でき、僕に釣られた陣営の不意を突いて効率良く間引きができること。そしてもう一つは、複数のマスターを候補として品定めできることだ」

 指を折り終えたマヒロは、本題へと話題を切り込んでくる。

「君が非好戦的なあの子を切らない理由は、単純にあの子が魔力プールとして見れば優秀だからという面が一番大きいだろう? 強力なサーヴァントほど消費は激しい。マスターを替えても戦えなければ意味がない。志気と能力、その二つの観点から妥協できる候補を一組ずつ遭遇する中で見つけ出し、事を運ぶのは容易じゃない。今のマスターの協力が得られないならなおのこと、君だけで見繕うのは非現実的だ。だから僕らの協力する余地がある」

 アーチャーの現状、それから導き出された課題を小気味よく導き出し、その解決のために需要を満たす存在として、少年は自陣営の価値を改めて強調して来る。

「そして条件を満たすマスターが居ても、第一候補を必ず活用できるとも限らない。命綱の付け替えをするというのならなおのこと、保険は残しておくべきだ」
「だから敵であれマスターは極力殺すな、と言いたいわけか」
「そういうこと。降伏すれば良い、とは君も言っていたけど、その後の保証なしでは応じる相手も応じないだろう。だから、その後の監視と保護は僕らが受け持つ」

 アーチャーの解釈に頷いたマヒロは再び、微かに背後を――今度は視線を下げて、イリヤを示すように振り返った。

「もちろん、あの子のこともね」
「……私よりも、貴様の方が我がマスターを気にかけているようだな」

 果たして、その言葉のためにアーチャーが開けた間隙の意味に気づいたか否か。
 ともかくとして、死線を一つ越えたマヒロはそのまま、おどけたようにして口を開いていた。

「それはね。サーヴァントを喪ったマスターも含む生存競争を煽っていた監督役は、僕の目的からしても退場して貰うことが望ましい。まずはその点だけでも協力して貰えるなら、その他の妥協を引き出すためにはこちらとしても手は尽くしたい、ということだけど」
「……まぁ、筋は通っているな」

 アーチャーの零した感想に、マヒロは年相応の少年が浮かべるような笑顔を見せた。

「ありがたい。じゃあその信頼に応える意味でも、アサシンの真名を明かしておく。彼は千手扉間――木ノ葉隠れの二代目火影。忍者だ、凄いだろう」
「……遠い事象世界の英雄か」

 何故かドヤ顔で誇るマヒロに取り合わず、アーチャーは聖杯より与えられた知識と照合し、目の前のアサシンの正体を把握した。

 神代より続く因果が実を結ぶ忍の物語に登場した英雄の一人。外見的・能力的な特徴も確かに合致する。
 敵に回せば厄介ではあるが、それでも相性を含め、アーチャーが戦闘で遅れを取るような相手ではない。
 なおかつ、協力者とできるなら有用であるとも見立てることができた。

「……やっぱり知識はあるのか。だったら話が早い。数多の禁術を開発した二代目にはキャスターの適正もある。だからマスターが生きたままでの契約の変更も、彼の補助があれば難しくはないはずだ」

 淡白な反応にやや拗ねたような調子で、マヒロが述べる。


863 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:45:34 wEapWcN.0

「『聖杯符』の回収についても援護する。ご覧の通り僕の令呪は残り一画だし、先の制約の破棄と『夢幻召喚』の資格は両立不可。主従で戦力を倍加して君に叛逆する、ということもできない。そもそも僕には魔力が残ってないし。
 君がマスターを乗り換え、監督役を抹殺し、無事に優勝まで漕ぎ着けたなら最後の令呪でアサシンも自害させて『聖杯符』を提供する。その時には、見返りとして先程伝えたこちらの願いを汲んで貰いたいけれど」

 平然と、自らのサーヴァントの切り捨てをマヒロは述べるが――アーチャーの伺う限り、アサシンの顔色に変化はない。

 ……与えられた知識によれば、アサシンは徹底した効率主義から敵対者にとっては悪名高い存在であると同時、その死因は次代を担う若者達のため、自らを囮として捨て駒になったことだという。
 そんな最期を自ら選ぶ、先の主張にも垣間見えた精神性故か。はたまた、マヒロの主張がやはり虚偽であるためか。アサシンの無反応はどちらの理由も確証はないが、アーチャーはそれを踏まえた上で改めて口を開いた。

「確約はしかねるな。戦場での不殺も、聖杯に託す願いも、余裕があるとは限るまい」
「……ま、それはこちらも他に選択肢がなく縋っている身の上じゃあ、強く出ることはできないからね。君に余裕ができるよう僕らも微力を尽くそう」

 互いにできる最大限の譲歩を示し合わせた後、マヒロはにやりとほくそ笑んだ。

「でも、逆を言えば――こちらの手助けが足りている限りは」
「ああ。貴様らの策とやらに乗っても構わん」

 マヒロの答え合わせを、アーチャーが引き継ぎ――同盟締結への合意を示した。













 実のところ。マヒロの言い分が真実であれ偽りであれ、アーチャーにとって大差はない。
 そも、アーチャーにとっての万象との関わり方は極めて単純であり、復讐に利用できる物は利用し、その逆であれば排除する、というだけだ。

 裏返せば、他のマスターの命を奪うのは単に復讐に向け後顧の憂いを断つためであり、殺人自体がアーチャーにとっての目的というわけではない。
 故に、より宿願成就の公算を上げるためならば、敵マスターを敢えて見逃すという選択肢も充分検討に足りる。

 そしてマヒロの主張は、現在生きている人間の最大多数の生還、という一点を実現するための手法としては確かに筋が通っている。
 今のところ純粋に論理を言葉で聞く限りでは、疑う理由は乏しい。

 そして、腹に一物を抱えているのだとしても。少なくとも令呪一画と引き換えに交渉を臨むほどの意気込みであれば、アーチャーを騙すとしてもその補填を狙い、利用しようとするはず。
 そのために、当面は述べた言葉に沿った行動へ移るだろう。

 ならば実力を有すこちらが同盟の主導権を渡さず、その中で得られる益があるうちは実際に協力してやれば良いだけだ。

 仮に彼らとの同盟を喪ったとしても、そもそもほんの数分前に労せず降って湧いた話がなくなり、元の状況に戻るのみ。何より、この先イリヤが心変わりすることがあれば即不要になる程度の協力関係だ。

 大して気にかけるほどのものではない――と、そのように考えていた。



「――では、長時間滞在すると監督役から物言いを受けそうだし、僕も今はまだ潜伏のためロールに復帰したい。互いの連絡用にもアサシンの分身を一体付けるから、単なる情報の提供は彼から受けて欲しい」

 主要な交渉を終えたマヒロの提言と同時、白煙を上げてアサシンが"増えた"。

 影分身の術。名の通り、己の力を分け与えた分身を生み出す忍術だと記憶している。
 当然令呪の効力は分身にも及んでいるとして。確かに先程の念話も使えるならば、この分身を預かることは既に十分有用、だが――

「……分身の魔力が少なすぎるように見えるが」

 少なくとも、サーヴァント戦ではせいぜい肉壁にできる程度の援護しか期待できない、とアーチャーは見立てた。


864 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:46:30 wEapWcN.0

「繰り返すけど、僕がアサシンに魔力を供給できていないからね。分身に戦闘力まで確保させる余裕はない。そこは了承して欲しい」
「既に大のために小を切り捨てる腹づもりなら、魂喰いをする気はないのか? その程度の覚悟もなく、私の力に縋ろうと?」

 威圧するようにして、アーチャーは値踏みの言葉を投げかけるが、マヒロはわずかに視線を険しくしただけで即答した。

「それをしてしまうと、あの子をはじめ保護するマスターたちの信用が得られなくなる。後のために了承して欲しい」

 この瞬間に脅されながらも、あくまで先のことを見据えて回答する。その姿勢に内心、一定の評価を与えながらも、今後の関係を有利にしようとアーチャーはさらに詰め寄った。

「だが、それが同盟のために尽くすという約定を違えているとは考えないのか?」
「互乗起爆札」

 瞬間、マヒロは抑揚のない声で呟いた。

「――何?」
「二代目火影が生前開発した禁術――穢土転生。その内容は知ってるかい?」

 真名が刷り込まれているように、当然その知識はアーチャーにも備わっている。

 口寄せ・穢土転生。二代目火影千手扉間が自ら考案・開発した、蘇生させ不死の肉体を与えた死者を支配し、自爆特攻させるという、徹底的な効率主義の行き着いたおよそ外道の誹りを避けられぬ邪法。

 その自爆のために使われる、不断炸裂により広範囲・長時間を攻撃する自爆装置の名が、互乗起爆札だったはずだ。

「禁術自体はキャスターでの召喚じゃないと扱えないらしいが、合わせて運用していた爆弾まではそうでもない。
 アサシンはそのセーフティを生体反応と同期させて、僕の体内に仕込んである。ついでに自害用の劇毒もね」

 そしてマヒロはさらりと、文字通りの爆弾発言を行った。

「どうせ同盟に失敗すれば死ぬ命だったんだ。だけど、僕も生きている以上は死ぬことができる。ならただ失敗して死ぬよりは、君も巻き添えにできる方が上等だろう?」
「下らん嘘だな。令呪の縛りはどうした」
「命令はあくまであの瞬間、『以後』を対象とした内容だ。仕込みはとうの昔に終えているに決まってるだろう」

 失笑に失笑を返された直後。不意に、アーチャーの中の何かが警告を発した。
 その時、背筋を流れた怖気は。まるで、致命的な罠へと単身で飛び込んでしまった刹那のような――

「そして君らへの攻撃やその援護を禁止はしたけれど、阻止までは命じていない。ならアサシンが敢えて解除する理由もない。
 僕はともかく。二代目火影が本当に何の備えもなく、君の前に姿を見せたと思っていたのかい?」

 筋は通る。確かにサーヴァントにも有効な爆弾を己がマスターに仕込むぐらいはアサシン――千手扉間はする男だ。
 彼の背後に控えるアサシンは、弁舌をマスターに任せ、分身ともども無言を貫いている。その氷のような瞳の奥の、心中を推し量ることはアーチャーにも叶わない。

 マヒロの言葉が真実であるという証拠はない。だが、否定するための根拠もまた。


865 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:47:36 wEapWcN.0

「なるほどな。それでその程度の脅しが、この私に通じるとでも思ったか?」
「君には、ね。でも教会や、あそこで寝ている君のマスターはどうかな?」

 瞬間。わざわざこの場所で姿を現した理由、そしてイリヤと分断させた目的の一つを、今更になってアーチャーは理解した。

 魔術師の工房でもある教会ならば、たかがアサシンの使い捨ての爆弾一つ、耐えきってみせることは可能だろう。

 だが、果たして起爆した場合。今の位置から、野晒しなイリヤの守護が間に合うのか――そして中立地帯で諍いを起こし、運営側に事実として被害を齎した末に待つ討伐令を、免れる術は。

「貴様……っ!」
「僕も、彼女を巻き込むことは本意じゃない。けれど、より大勢を守るためならやむを得ない。だから選ばせないでくれ」

 初めて胸中を乱したアーチャーに対し、マヒロは悲しげな表情で応えた。
 しかしそこにはなおも、一切の怯えの色はなく。

 激情を覆う冷静さを取り戻した後、アーチャーは口を開いた。

「……貴様が自害するより早く、あれのように昏倒させられるとは思わなかったか?」
「実を言うと、そこは僕にも予測がつかない。結果次第で君らに危害が及ぶ引き金を君自身が引くという場合、さっきアサシンに掛けた令呪がどのように働くのか、僕にもまだ読み切れないからね」

 問いかけを受けたマヒロは、先に見せた悲痛さの鳴りを潜め、待っていたとばかりに乗ってきた。

 まるで賭け事に興じるかのような気軽さで。
 彼らを無力な鴨と見て、軽い気持ちで吹っ掛けたアーチャーと同じぐらい軽率に。

 そして抑えきれずに滲み出た、刺激への愉悦を発露させて。

 ……自害されるより早く気絶させ、場所を移す。
 あるいは体内の起爆札諸共、発動の隙を与えず瞬時にマヒロの肉体を完全消滅させる。
 いずれも、アーチャーならば容易い所業だ。

 しかしそこに、最速の忍とまで謳われたアサシンの妨害が加わるとなれば。アーチャーをして、その達成は確実なものとは言えなくなる。

 まして、マヒロの令呪は姿を現す以前より、既にその一画が――

「でも、そんな賭けをするよりは――君も人間なら、どっちが得かは話せばわかることだろう?」

 狙い澄ましたように、マヒロはそんな言葉を投げてきた。
 問いかけていたのはこちらだというのに、まるで試すかのような口ぶりで。

「……よいだろう。寄越すのはその粗悪な分身で構わん」

 数瞬の葛藤の後。せいぜい連絡用の子機と、本体らが移動するための中継端末にしか使えそうにない分身を指し示して、アーチャーは妥協の意志を示した。


866 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:50:44 wEapWcN.0

「酷い言われようだな。事実ではあるが」
「ただし。私の監視から逃れた瞬間があればこの分身も、そして貴様らも同盟に背いたものと見なす。それを忘れないことだな」

 分身のアサシンが嘆息を零すのを待たず、アーチャーは釘を差した。

「もちろん。なにせ大事な同盟相手なんだから、互いの信用を大切にしないとね」

 一方、体よく監視の目を押し付けることに成功したマヒロは、アーチャーの脅しもどこ吹く風とばかりにいけしゃあしゃあと言い放つ。
 ……とはいえ、先に同盟相手の目的に背こうとした側である以上、今は沈黙することしかできず。

「それじゃあ、計画の進展含め、こちらから何かあれば分身を通じて連絡する。逆もまた然りだ。要望には可能な範囲で応えさせて貰うから、今後ともよろしく」

 それだけを告げると、いよいよ監督役の目が怖いからとマヒロはアサシンの本体と共に教会前から消失した。

 時空間忍術、飛雷神の術――設定した座標まで、瞬時に空間を転移する高等忍術だ。
 その座標の設定というのも、アサシンが一度手で触れるだけで完了するという簡便さ。

 利用できれば有用なそれを見ながらも、アーチャーは残された分身に告げた。

「当然だが、私たちには触れるな」
「承知した」

 ……本選で最初に対峙したこの主従は、おそらくはこの聖杯戦争における最弱候補の一角だろう。
 何しろ魔力供給もろくにできず、当人らも真っ当に優勝できるとは思っていないと宣うのだから。

 しかし彼らはある意味、アーチャーをして油断のできない強敵だった。

 同盟交渉さえ成立した後なら、こちらが主導権を握ろうとすれば細々と交渉する前に、いきなり死ぬ死なないの話を切り出して来る思い切りの良さ。
 真偽は不明だが、もしもあの脅しが事実であれば、交渉が決裂しアーチャーが彼らを仕留めた時点で以後の不利が決定していたというのだから質が悪い。

 ……しかもマヒロ自身は、己の生き死にはどうでも良いと思っている手合なのだ。
 数多の戦場で殺生を目の当たりにしたアーチャーだからこそわかるが、あれは戦士ですらない戦狂いの顔。
 勇気や慈愛ではなく、狂気の類。だからこそアサシンの真名と相まって、何の裏付けもないただの言葉が無視できない劇毒と化した。

 そして、そうであればこそ初めて姿を現した瞬間から、このアーチャーの殺意を前にして、一度たりとも己が身を案じた様子を見せなかったことにも合点が行く。

 そう。
 理由はどうあれ、アーチャーを人間呼ばわりしたあの少年は、終ぞアルケイデスを怖れなかった。
 挙句、話せばわかると来たものだ。

「面白い」

 知らず、アーチャーは呟きを零した。

 あの弱者は異常者の類だろうが、その狂気を支える強欲には興味がある。
 無力な小僧と侮っていたが、言葉による駆け引きに限ればアーチャーを相手に一歩も引かなかった、話し合いという戦場での熟達者。

 果たして口先の通り、彼は今後アーチャーに協力し続けるのか、それとも裏切りを見せるのか――あの蛇がどのように踊るのか、その時はどのようにやり合おうか。
 未だ知り得ぬ、しかし間近に待ち受けるこの先の出来事に。あの船に乗り、未知の冒険に挑んでいた時のような滾りを覚えるその一方で……


867 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:52:25 wEapWcN.0

「――アーチャー! あなた、勝手に何を話していたんですか!?」
「先に告げたはずだ。単なる同盟交渉に過ぎん」

 教会に接近した次第、食って掛かるルビーの追求をそのように躱しながら、アーチャーは気絶したままのイリヤの痩身を掴み取る。
 そして、即座にその身に何の変化もないかを検分した。

「ちょっと、イリヤさんに何を――ってアタシもですか!?」

 またも抗議に向かってきたルビーを捕まえたアーチャーは、念のため彼女の全体もまた素早く確認を終える。

「――杞憂だったか」
「信用されていないようだな」

 アサシンの分身の嘆息に、アーチャーもまた鼻を鳴らす。

「何しろ悪名高い二代目火影との会談の後だ。警戒するのも当然のことだろう?」

 意趣返しのようにそう告げるアーチャーが危惧したのは、アサシンの忍術による工作だった。
 随時監視していたつもりではあるが、気配遮断と影分身を駆使されたなら万が一もあり得る。少なくとも侮れる相手ではないことは、既に重々承知させられたのだから。

 だが、たちまち殺す必要はないだろうと――今この時点では、アーチャーはそのように判断した。



 ……いずれ、切り捨てる算段ではあったとしても。
 もしも、イリヤに害の及ぶような真似に出ていたのであれば、アーチャーは速やかにマヒロたちを殺すつもりだった。



 確かに、復讐を成就するためならば如何なる禁忌にも躊躇するつもりはない。
 だがそれはあくまで、最期に報いを受ける覚悟を前提としたアーチャー自身の行いに限った話。

 どんな理由であれ、幼子を害する輩など悍ましき外道に他ならない。
 どれだけ歪曲させられても、その悪虐を許すことはできない――それが、アーチャーの芯となる精神だった。

 監督役の抹殺も、本心を言えば聖杯戦争における干渉を排除したいこと以上に、幼子を殺めた邪悪を討たねばならぬという義憤が動機として大きいほどに。

 故に、イリヤを自爆に巻き込むことを仄めかして来た際は激高しかけたが、脅しが真実だとしても一度結んだ同盟を砕く引き金を引くのはあくまでアーチャー自身であり……虚偽だとすればそもそも害する手段が存在しない以上。己が無法な暴君ではないと定義するなら、同盟を重んじ矛を収めるのが道理だろう。

 結果として、変わらぬ重みを肩に載せるに至り――そこに、懐かしさすら漂う安堵を覚える自身を否定しながら、歪曲した大英雄は立ち上がる。


868 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:54:24 wEapWcN.0

「まずは拠点に戻る。また喚き散らすかもしれんが、我がマスターが目覚めた後、貴様らの掴んだ他陣営の情報とやらを寄越せ。全てな」
「あのー……そっちのアサシンさんでも良いので、道中同盟の内容だけでもアタシにも教えてくれませんか?」
「よかろう」

 そんな声を背に伴いながら、歩み出した復讐者が……情報提供という形で、より古くに置いてきた縁を若き蛇が結ぶことを知るのは、おそらくはもう少し先の話。













「案の定、警戒されているな」

『第一階位(カテゴリーエース)』のアーチャーに同行させた分身から、秘伝忍術・心伝心により報告を受けたアサシンは主に向け、その内容を口にした。

 場所はスノーフィールドの市立高校、ではなく。影武者と交代するタイミングを掴むための中継として一旦、マヒロ宅の自室に戻っていた。

「目標の第一段階は達成したが、この先へ進めるには根気が必要だろう」
「監視していた最中に彼らがたまたま教会を訪れ弱みを見せてくれた、という運の助けがなければそれさえ叶いませんでしたからね」

 アサシンの分析にも、マヒロは焦る様子なく首肯し、事態を振り返る。

「だが何にせよ、結果としては聖杯獲得の意欲の強いアーチャーの下に同盟という形で分身を送り込めた。戦術レベルでの話ですけど、この先の難易度は充分下げられるかと」
「……やるだけのことはやらせてみるが」

 そこでアサシンの声は幾分、呆れた調子を混ぜ始めた。

「ワシは兄者と違って賭博はしなかったからな。分身ともども、貴様ほど大逸れたハッタリには慣れておらんぞ」
「……勿体無いですね。準備なしの自爆宣言なんて、あなたの真名があればこそ威力を得られたことなんですけど」

 前は国を丸ごと空にしたんですよ、などとマヒロは心底惜しむ声音で続けた。

 アサシンこと、千手扉間がマヒロの体内に互乗起爆札を仕掛けたという、アーチャーの要求を撤回させた脅しのカード。

 言うまでもなく、それはただのブラフだった。

 マヒロには、暴力に頼るという選択肢、その一切を否定しているのだから。

 ……厳密に言えば、全く別の起爆条件でアサシンは仕込もうとしていたが、そういう理由でマヒロ自身が丁重に辞退した経緯があり、咄嗟に言い出せたわけだが。

 いずれにせよ、行使されない限りは、暴力は武力という交渉のカード。
 その正体がただの白紙でも、裏返さない限りは幻想の切札として効力を発揮させることもできる。

 仮令相手が、英霊であっても――――同じく理性に基づき思考する人間ならば、騙すことは不可能ではないのだ。

 その証左となるハッタリの成果に、しかしアサシンは首を振る。

「そのせいでもある。同盟意識を再認させることはできたが、こちらの要求を通した後だ。次の話運びは難化するぞ」
「元より想定の内でしょう。それに一応、尾を踏む直前で留まるようにはしたつもりですが」
「それでも、だ。あれだけ警戒されればマーキングを仕掛けられる局面は限られる」

 飛雷神のマーキングを、あのアーチャーに施すこと。

 それが聖杯戦争を止めるため、いずれ達成しておくべき勝利条件の一つであると、マヒロとアサシンは認識していた。
 故に令呪を捧げてまで辿り着いた同盟交渉も、その目的のために講じた虚言でしかない。

 そして、ただ相手への譲歩のためだけに令呪を消費するほど、マヒロもアサシンも甘くはない。

 ハッタリや情報操作だけではなく、実行力のある抑止、交渉のカードとして……此度の令呪の内容を、最終的にはアーチャーへの呪縛として利用する展望があってこその決断だ。


869 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:55:50 wEapWcN.0
 問題は、そのためにも重要なマーキングの設定が既に警戒されているところにあるが。

「とはいえ、言ったとおりです。復讐者の言いなりになって民草を食い散らかすような輩に、命を預けられる者など居ないでしょう。ましてその時は、あなたの真名が今度は邪魔になる。それこそイリヤ(あの子)の懐柔だって」
「マヒロよ。ワシはおまえの判断を否定しているわけではない。ただ、都合良く事が運んだからと楽観はするなと言っているのだ」

 抗議するマヒロに、伝説の忍は淡々と応じる。

「加えて言えば、条件的にこの策が有効なのはそもそも中盤頃だけだ。それこそ勝負は時の運も絡む。ならば賭けの回数を減らすべきだ」

 確かに現状は悪くない。他の陣営含め少なくともあのアーチャーに先手を取られ、狙撃で即死させられる事態はまず回避できる。
 さらにこの先に用意があるから、情報を提供するからと理由づけして序盤の行動を抑制しつつ、強豪である彼との繋がりを他の陣営との交渉材料にして盤面を整えて行くことは可能だろう。

 だがそれも、いつまでも続くわけでもなく。

「悲観もしない主義ですが、進言はありがたく受け取らせて貰います。先程までと違って状況が動いたんだから、今度は早めに運任せの要素を減らせ、ということですね」
「そういうことだ。特に、アーチャーの監視に一体付けたということは、今のワシでは自由に動かせる分身は精々あと一つが限界だ。使い道を早々に決めねばならん」

 アサシンの言葉に、微かに視線を落としてマヒロは思考して。

「……例のあの子、結局うちの学校には居なかったんですよね?」

 問うたのは、後ほど同盟相手にも情報提供することになっている、とあるマスターに関することだった。

 昨夜、アサシンの諜報網は『第一階位』の弓兵の他、件の口裂け女と目されるサーヴァントと、それを退散せしめNPCを救ったもう一騎、『第四階位(カテゴリーフォー)』のアーチャーの二騎の本戦出場サーヴァントを発見していたのだ。

 その振る舞いを見る限り、後者の陣営はおそらく、現状把握している勢力の中では最も人格的な危険度が低いと考えられる。

 接触を図る価値は充分にあり、しかもマスターともども容姿に至るまでマヒロとアサシンが把握済と好条件、なのだが。

「ここまで校舎内を調べはしたが、やはり見かけてはいないな」
「ですよねぇ。たまたま今日は不在でも、普段あんなに可愛い子が居たら余はがっつり覚えていると思うので、居るとすればやはりミドルスクールでしょうか」

 未だその所在を確かめられてはいない。
 浮かび上がった候補地も推論に過ぎないことを踏まえた上で、予想より早期に達成した『第一階位』のアーチャーとの接触から計画を早めに修正し、マヒロは改めて口を開いた。

「……教会を見張っていても、多分これ以上の収穫はないでしょう。というか次に誰か来た時に顔を出してもいい加減監督役に目をつけられかねないので、動かします」
「同感だな」
「しかしマーキングか、他の対抗手段が確立できないうちに不特定多数へ呼びかけてもあのアーチャーが得をするだけです。どっち道日中は集まりも悪いでしょうし、事前に接触を図れる相手とは会っておいた方が良いでしょう」

 そうは言っても、口裂け女は論外だろう。早期に被害を抑えたい気持ちはあるが、今の手札でのこのこ会いに行っても良い結果になるとは思えず、そもそも神出鬼没の都市伝説とは何処に行けば出会えるのかも不明だ。

 歯痒いが、そうとなれば、この後に選ぶべき妥当な指し手は一つだけ。
 とはいえ、それも――

「――結局のところ変更はなく、まずは彼女からですが。仮に中学生とすると授業中に余が乱入するのも難しいので、素直に互いの放課後を待ちましょう。ただ、事前に居る居ないの確認は済ませたい」
「承知した。下見程度ならば分身でも容易い」
「お願いします。可能ならその時、恋文の一つでも臨機応変に」

 冗談めかして考えを伝えながら、マヒロは第四の弓兵との接触を目指し、次の目的地を中学校に設定した。



 その選択が手繰り寄せる因縁の大きさを、まだ知る由もないままに。


870 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:58:15 wEapWcN.0
【D-3 エーデンファルト邸/一日目 午前(正午間近)】

【マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト@ミスマルカ興国物語】
[状態] 健康
[令呪] 残り一画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 裕福な高校生並
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:一切の暴力に頼らず、聖杯戦争を止める。
1.暴力以外はなんでも使う。
2.討伐令の仕組み等を利用し、他の主従を牽制した上で交渉に持ち込みたい。
3.他の陣営の情報を集めると同時に、上記のための準備を進めたい。
4.アーチャー(アルケイデス)を抑えつつ、利用して立ち回る。
5.次は中学校にいると思しき第四階位の陣営との接触を図る。まずは確認のためアサシンの分身を潜入させる。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は市長の息子である高校生です。
※教会を訪れ、神秘の秘匿とそれに関するペナルティの条件について知見を得ました。
※監督役の説明から、冬木の大聖杯同様残存する陣営が一勢力に統一され聖杯戦争が停滞した場合に、予備システムで追加サーヴァントが召喚されるのではと推測しています。
※監督役が参戦マスターの経歴を把握していることを知りました。また、参戦サーヴァントの詳細は知り得ていないと推測しています。
※『討伐令の仕組みを利用した話し合いの席』を設ける手段について、具体的には後続の書き手さんにお任せします。
※『第一階位』のアーチャーの真名を知りました。また、彼と(表面上)同盟を結びました。
※本選開始直後に行われた、『第四階位』のアーチャーと口裂け女の接触を把握していました。



【アサシン(千手扉間)@NARUTO】
[状態] 魔力消費(小)、令呪の縛り(下記参照)あり、気配遮断中、影分身二体生成済
[装備] 各種忍具
[道具] 各種忍具
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マヒロが火の意志を継ぐ者か否かを見極める。
1.当面はマヒロに従い、協力する。
2.影分身を統括し、戦況を有利に導く。
3.隙を見てアーチャー(アルケイデス)に飛雷神のマーキングを仕掛ける。
[備考]
※令呪により、マヒロの同意なき暴力の行使ができません。
※現状、魔力供給がなされていません。
※スノーフィールド市内に飛雷神の術のマーキングを施してあります。また、契約で繋がっているためマヒロを『自身に触れている物』として飛雷神の対象とすることが可能です。
※『第一階位』のアーチャーの真名を知りました。また、彼と(表面上)同盟を結びました。
※本選開始直後に行われた、『第四階位』のアーチャーと口裂け女の接触を把握していました。
※令呪により、『第一階位』のアーチャーおよびそのマスターへの暴力の行使、並びにその援護を永久に禁止されています。
 なお、この令呪の内容も利用してアーチャー(アルケイデス)に対する抑止力となる策を練っているようですが、詳細については後続の書き手さんにお任せします。






【D-4 市立高校/一日目 午前(正午間近)】

【アサシン・影分身1】
[状態] 割譲魔力(極小)、マヒロに変装して授業中、令呪の縛り(下記参照)あり、気配遮断中
[装備] 各種忍具
[道具] 各種忍具
[所持金] なし
[思考・状況]
1.マヒロと交代次第、中学校に向かい『第四階位』のアーチャー陣営の所在を確認、可能ならば伝言を残す。
[備考]
※令呪により、マヒロの同意なき暴力の行使ができません。
※同じく令呪により、『第一階位』のアーチャーおよびそのマスターへの暴力の行使並びにその援護を永久に禁止されています。
※『第一階位』のアーチャーの真名を知りました。


871 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 16:58:51 wEapWcN.0
【E-4 中央教会付近/一日目 午前(正午間近)】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤドライ!!】
[状態] 健康、クロを喪った精神的ショック、気絶中
[令呪] 残り三画
[装備] カレイドステッキ・マジカルルビー
[道具] クラスカード×1〜5
[所持金] 小学生並
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:未定
1.???
2.アーチャー(アルケイデス)の言いなりに流れされるのはイヤだ。
3.巨人(ヘラクレス)の夢が気がかり。
[備考]
※クラスカード(サーヴァントカード)を持っていますが、バーサーカー以外に何のカードを、また合計で何枚所有しているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※家人としてセラ、及びリーゼリットのNPCが同居しています。両親及び衛宮士郎は少なくとも現在、家に居ない様子です。


【アーチャー(アルケイデス)@Fate/strange Fake】
[状態] 健康、イリヤに対する謎の懐旧の念(※本人は否定的)、マヒロへの興味
[装備] 『十二の栄光(キングス・オーダー)』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.アインツベルン邸に戻り、イリヤの目覚めを待つ。
2.その後の手筈を整えるまで監督役と事を構えるつもりはないが、幼子を殺めた外道は須らく誅殺する。
3.上記のためにマヒロを利用する。ただし、アサシン(扉間)ともども警戒は怠らない。
[備考]
※『第二階位』のアサシンの真名を知りました。
※マヒロに少しだけ知り合いの面影を感じています。
※マヒロに起爆札が仕掛けられているという話は疑いを持っていますが、否定しきれていません。
※『第二階位(カテゴリーツー)』の陣営と同盟を結びました。



【アサシン・影分身2】
[状態] 割譲魔力(極小)、令呪の縛り(下記参照)あり
[装備] 各種忍具
[道具] 各種忍具
[所持金] なし
[思考・状況]
1.『第一階位』のアーチャーに同行して表面上の同盟関係を保ちつつ、可能な限り被害を抑止できるよう誘導する。
2.イリヤおよびルビーの心変わりをそれとなく妨害し、可能ならば懐柔を図る。
3.以上のための活動経緯を本体に随時報告する。
[備考]
※令呪により、マヒロの同意なき暴力の行使ができません。
※同じく令呪により、『第一階位』のアーチャーおよびそのマスターへの暴力の行使並びにその援護を永久に禁止されています。
※『第一階位』のアーチャーの真名を知りました。






【E-4 中央教会/一日目 午前(正午間近)】

【シエル@月姫】
[状態] 健康
[令呪] 残り?画
[装備] クラスカード・アーチャー(エミヤ)、第七聖典、黒鍵×沢山
[道具] 不明
[所持金] 不明
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の円滑な進行
1.監督役としての務めを果たす。
2.イリヤおよびマヒロの陣営を警戒する。
[備考]
※彼女は厳密にはシエルを模してムーンセルが創造した上級AIで、本人ではありませんが、本人と同等の能力を有しています。


872 : ◆aptFsfXzZw :2017/12/03(日) 17:02:21 wEapWcN.0
以上で投下完了です。
タイトルは「英雄と蛇、邂逅」でお願いします。

なお、>>859は誤って二重投稿してしまったレスになります。申し訳ございません。
ご感想や、ご指摘などお待ちしておりますのでよろしくお願いいたします。


873 : ◆aptFsfXzZw :2018/01/08(月) 23:26:34 6FL7SotQ0
明けましておめでとうございます。

空条承太郎&キャスター(笛木奏)、トワイス・H・ピースマン&ガンナー(マックル)、サンドマン&キャスター(ジェロニモ)、コレット・ブルーネル&ライダー(門矢士)、ありす&バーサーカー(ジョーカーアンデッド)を予約します。


874 : 名無しさん :2018/01/09(火) 14:57:53 CEKC17Tg0
遂に先住民コンビに試練到来か


875 : ◆aptFsfXzZw :2018/01/14(日) 17:44:07 MrPzcd160
念のため延長します。


876 : ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:13:27 ltiECthE0
投下します


877 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:14:19 ltiECthE0






 最初に気づいた異変は、一つ前を走る自動車が停止したことだった。

 停車、ではない。一切の速度を落とすことなく、制動距離もあったものでなく。音すらないまま、路から生えたオブジェのように微動だにしなくなったのだ。
 低速走行とはいえ、前兆なく出現した障害に対し。未だ事態に気づいているかも怪しい同乗者を振り落とすことなく、一瞬の回避が間に合ったのは、一重に彼の騎乗スキルの賜物だ。

「……これは」

 追い抜いた後、文句の一つでもつけながら、異常を調べようとしたライダー――門矢士はそこで、事態の全容を把握した。

 さらに前を走行していた車輌や、街路を行く雑多な人種の通行人。風に煽られていた街路樹の葉々や、街頭スクリーンに映し出された映像。
 それらの合唱していた煩雑な物音もろとも、その全てが止まっていた。



 その瞬間、『世界』が凍えついていたのだ。



「(ライダー……いったい、何が起こったの?)」

 マシンディケイダーに跨る二人以外、視野に収まる森羅万象、その全てが停止した『世界』。
 常識外の光景を前にした同乗者――マスターであるコレット・ブルーネルの当惑と不安の入り混じった声無き声が、直接ライダーの意識に響いた。

「……時間が止まっているらしいな」

 少女の疑問に対し、ライダーは心当たりを口にした。

 今でも思い出せる、あの旅立ちの日。
 崩壊に直面した光夏海の世界を、“紅渡”は時間を停止することで保全してみせた。

 自身と関係者を除いたあらゆるのものが止まった無音無動のこの空間は、あのシチュエーションとよく似ている。

 しかしてそれが、必ずしも特別な瞬間にのみ訪れるわけではないこともまた、数多の次元を旅したライダーは識っていた。

「幾つもの世界の中には、たまにはそういうことができる奴も居る」
「(……わたしも、聞いたことがある。失われた秘術の中には、時を止める大魔術が存在するって)」

 まさか、体感するとは思っていなかったという調子でコレットが答えていた最中に――――時は、動き出していた。
 寸前、路肩に避けて停車していたライダーは、ヘルメットのバイザーを上げて脇を行く車たちを見送っていた。


878 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:17:17 ltiECthE0

「あんまり驚いてる様子はない、な」

 第三者から見れば半ば瞬間移動した自分たちの存在で、小さなパニックの一つも起こるかと覚悟していたが――そんな気配もないことを確認したライダーは、さらに念入りに周囲を探る。

「(……なんで、わたしたちは動けたの?)」

 その背後で、コレットが当然に行き当たるべき疑問を漏らしていた。

「それはこれから確かめるが、多分こいつに乗ってたからだろーな」

 指先でハンドルを叩いて、ライダーは愛車――自身の宝具の存在を強調する。

 周囲に術者と思しき気配はない。おそらくは近隣ではなく、こことは違う場所で誰かが、特定の個人や空間ではなく、『世界』ごと時の流れを止めたのだ。
 だからこそ、世界にとっての異物として、世界そのものに対する干渉を受け付けないライダーは、その止まった時の世界を認識できたのだと推測できる。
 そしてコレットもまた、『世界を駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』に騎乗していたことにより、その影響で時間停止に巻き込まれなかったのだろう。

 とはいえ、まだ――そのことに対する確証がない、ならば。

「とりあえず場所を移すぞ。しっかり掴まってろよ」

 うん、という頷きを背中に感じながら。再びバイザーを降ろしたライダーは、愛車を発進させていた。







「えっ、嘘!?」

 思わず上げた素っ頓狂な声は、スキルと合わせ、何とか周囲に拾われない程度には抑え込めた。
 しかしそれで安心するよりも、絶対の自負を持っていた己の視界が、追跡対象を突如として見失った衝撃の方が、ガンナーの中で勝っていた。

「何で見失――ってない、けど……どういうこと、これ?」

 最初の衝撃と、それに伴う混乱が解決するまでは時間を要さなかった。追跡していた二人組、彼らの乗るオートバイクがロストした地点からほんの数十メートル先に停まっているのを、彼女の千里眼は瞬時に再捕捉したのだから。
 だが、立ち直ると同時に芽生えた疑念が口を衝いて飛び出した。

 ――――確かにこの目で捉えていた標的が、ガンナーの認識すら掻い潜った刹那の間に、数十メートル程度とはいえ予兆もなく転移した。

 宝具、『億千万の鉄血鉄火(インフィニティ・ガンパレード)』として再編された銃神としての権能により、銃砲を扱う術理の一つ、狙撃手の技能として生前の気配遮断を再現していた以上、追跡に気づかれたとは考え難い。相手の様子を伺う限り、その推測が誤りとも思えない。

 となると、考えられる要因としては自身や眼前のイレギュラーだけではなく、第三者による影響が自然と浮かび上がって来る。

 その第三者が、近隣に居るとは限らないものの。建物の影に身を隠すなり、即座に索敵の範囲と精度、そこに割くリソースを増したガンナーは果たして、新たなサーヴァントを発見するに至った。

「何かから逃げている……その影響であたしの認識が狂わされたのか、それとも追手側の能力かしら?」

 新たに捕捉したサーヴァントは霊体化し、そのマスターともども人混みに紛れながら、南東から来る何かを避けるかのように移動している。
 もう少し近づけば事の詳細もわかるかもしれないが、前提として、ガンナーの身は一つしかない。

「ねえトワイス。あなた、使い魔は」
「(残念ながら、君だけだ)」

 あらかじめ念話を繋ぎ、現状とそれから展開した推論を伝えていたマスターは、既に距離の開けた中央病院の一室から期待していなかった予想通りの回答を寄越した。
 トワイス・H・ピースマンは偶発的にマスターと化した元NPC。医者として治癒のコードキャストにだけは長けているが、それ以外のウィザードとしての能力は最低に近い。
 サーヴァント以外に自力で使い魔を用意するだけの技量も、彼は持ち合わせてはいないのだ。


879 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:18:55 ltiECthE0

「そうよね。となると」
「(君をして認識の外から干渉され得るのだとすれば、まずはそちらを叩くべきだろう。イレギュラーを優先し過ぎては足をすくわれかねない)」
「ええ、あたしも同意見だわ。幸いツカサ達にはまだ気づかれていないみたいだし。少し後回しにしましょうか」

 時を同じくして、どこかしらに向けて発進するバイクを背中越しに見送りながら、ガンナーもまた駆け出した。

 そして次なる標的へ近づくに連れ――戦女神の顔には、新たな期待の色が滲み始めていた。







「――止まれ、マスター」

 霊体化していた肉体を結実させながら、キャスター(ジェロニモ)は警告の声を発した。

「まさか、もう追いつかれたのか?」

 緊張感をさらに高めた様子で振り返ろうとするサンドマンに、しかしキャスターは首を振る。

「いや……下手をすればもっと悪い。我々は挟まれたかもしれないぞ」

 そう。撤退と、まだ見ぬ同門との接触のための行軍を止めたのは、背後から迫るかもしれない敵に追いつかれたからではなく。
 いつの間にやら交戦距離まで接近していた、新たなサーヴァントの存在を察知したがためだ。

「すまない。どうやら気配遮断の術を持つ相手のようで、発見が遅れてしまった」
「ということは、アサシンか? ……ならば、正面戦力は乏しいはずだ」

 キャスターから伝えられた情報を即座に咀嚼した次の瞬間、サンドマンは背後にその精神の像(ビジョン)を出現させた。
 インディアンの装束を纏った人型のスタンド、イン・ア・サイレント・ウェイを。
 突如出現したそれは、常人には視認できない。何も気づかず行き交う通行人を睥睨したサンドマンは、のどかな雰囲気に反した言葉を続けた。

「障害物も多い。場所が良いとは言えないが、それでも先手を取れば、わたしとあなたならやれる。手土産を一つ増やせるかもしれないな」
「落ち着け。私も危機感を煽り過ぎてしまったかもしれないが、精霊たちが気配遮断した相手に気づけたのは――」
「こんにちは。ちょっとお待たせしちゃったみたいね」

 キャスターが制止を言い終える前に、それは呆気なく姿を現した。

 自身の接近に気づかれたことを、既に把握していたかのような口ぶりで、笑顔で手まで振って来るのはフリッツヘルムを被った鉛色の髪の女だ。
 キャスターが視認した次の瞬間、直接は何も感じられなかった女から、サーヴァント特有の強い魔力波長が漂って来た。意図的に気配遮断を解除したようだ。
 その態度から敵意は薄い、と思われるが……同時にキャスターは、無視できない違和感に襲われる。

(体が重い……?)

「『第七階位(カテゴリーセブン)』……」

 戸惑いを覚えるキャスターの横で、今この時点で読み取れる情報を、マスターであるサンドマンが呼びかけの形で通達してくれた。

「そ。ところで、そっちは……」

 美しい女だが、欧州系の白人らしい外見に、微かに敵愾心を抱くサンドマン。
 その視線を無防備なほど意に留めない第七階位のサーヴァントは、やや暗い色調の銀の瞳でキャスターの顔を覗き込んでくる。

「『枝』が違うけれど……やっぱりジェロニモよね、あなた!」


880 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:20:32 ltiECthE0

「!?」

 そして再会を祝すような、喜色満面の笑顔で真名を言い当てて来る女に対し、二人のインディアンは思わず身構えた。

「キャスターで召喚されたのね。……ウィンチェスターは持ってきてないみたいだし、あたしの居ない『枝』の方が精霊と縁深くなってるなんて複雑だけど、本物の召喚士(シャーマン)になったあなたを見られたのは感慨深いわ」
「おまえ、いったい……っ!?」
「逸るな、マスター――これは、如何なる導きかな?」

 未だ敵意を見せない相手を刺激しないよう後進を抑えながら、底知れぬ者との交渉にキャスター――ジェロニモは打って出た。

「どうか答えては貰えないか、異なる編纂事象より来訪した精霊よ」

 そう、シャーマンであるがこその、交渉役として。

「何!? いや、そういうことか……!」

 驚愕した様子の少し後に、サンドマンも合点が言ったという様子を見せた。
 先程キャスターが伝え損ねた情報――大地の精霊が何故、気配遮断した相手の接近を察知できたのか。その理由が、同種が縄張りに踏み入ったが故の敏感さと思い至ったからだろう。
 そしてこのサーヴァントが個人の昇華された英霊ではなく、元より精霊の概念に属する霊格であるならば、シャーマニズムのスキルを持つジェロニモが交渉を試みる価値のある相手だ。
 その事実を悟ったように、彼は遂に一歩引き下がる様を見せた。

 一方、どこか満足したような笑みを浮かべて、精霊の女は口を開く。

「ここで会ったのはただの偶然よ。さっき変な目に遭ったから、その犯人を探していたら最初にあなたたちを見つけただけ」
「ふむ。申し訳ないが、君の言う変な目、というものに我々は心当たりがないな」
「ええ。顔を合わせて確認させて貰ったけれど、あなたたちじゃないわ。多分、原因はあっちから追いかけて来ている方みたいね」

 さらりと、精霊はキャスターが恐れた視線の主――水族館に潜んでいた陣営が、やはり自分達を標的に据えていたことを伝えてきた。
 同時、疑念が走る。眼前の精霊が先に発見し接触できたのは自分達で、それからさらに遠方にいる間に、水族館の陣営から干渉を受けた……?

「精霊よ。君が遭った出来事というのは……」
「詳細は言えないわ。というより、まだあたしにもよくわからないというか……気づけたのも偶然だし」

 お手上げとばかりに肩を竦める彼女からは、嘘を吐いているという様子は見受けられない。
 同じく大地の精霊たちも、何かしらの工作を察知した者はいない。少なくともこの周辺には。
 ならば本当に、追手が何をして来たのか、彼女さえも把握できていないという可能性も高い。

「ともかく。そういうわけで確認も済んだし、あたしはもう行くわね。犯人の方に用事があるから」
「――まさか。殿を引き受けてくれる、というのかね?」
「うん。だって、今のあなたたちじゃ敵わないから逃げていたんでしょ? それで追いつかれそうなら、ね」

 至極当然のことのように、今しがた顔を合わせたばかりのサーヴァントは言い放った。
 確かにキャスターは精霊との交渉で力を借り得るシャーマニズムのスキルを持つが、これは正当に得られる対価の範疇を越えているだろう。

「何故だ? そちらの『枝』において、私と君はそこまで深い仲だったというのかね?」
「特別に親しい、というわけじゃなかったわ。世界大戦の前、あなたの時代のあたしは、まだそこまではっきりした霊格じゃなかったから。でも、あなたは本気で、色んな願いをあたしに託してくれていた、思い出深い戦士の一人だった」

 そう答える精霊の手には、いつの間にか一挺の小銃が握られていた。


881 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:21:35 ltiECthE0

 彼女が愛おしそうに見つめる、使い込まれたその銃身を視た瞬間、キャスター……アパッチ族の戦士ジェロニモは息を呑んだ。

「だから今更でも、一度ぐらいは肩入れしてあげたい、と思っているわけね。せっかくサーヴァントになって、神様の公平さから自由になったんだし」

 胸の内を告白する精霊の手に握られていたのは、ウィンチェスターライフルM1876――つい先程言及された、ジェロニモが生前に愛用した銃であったからだ。
 それも、あの部品の磨り減り加減はおそらく、ジェロニモ自身が扱った銃そのものだ。

 何故、彼女がそれを所有しているのか――外見の特徴と、此度の現界に当たって座から与えられた知識とを合わせた推測は、一柱の候補者を導き出した。

「並行世界の、銃を司る精霊――君は、マックルイェーガー……か?」

 自然を疑神化した古きカミガミではなく。かつてジェロニモがその命と祈りを弾丸に託したように、銃という概念へ兵士たちが捧げた信仰から生まれた、運命を定める人工物を擬神化した存在。
 それはキャスターの属する編纂事象では未だ現れていない新種の精霊。二度の世界大戦を経て、一度は神霊にも届いたという、新しき戦女神の名。

「流石ね、ご名答。マックルで良いから、祖霊の皆さんにもよろしく言っておいて」

 己の真名を言い当てられたことに、マックルはむしろ笑みを深めていた。
 知られても構わないという自負か、これで対等だとでも思っているのか、はたまた他の理由なのかはともかく。
 どうやら彼女はキャスターに真名を知られることを、別段問題視していないようだ。

 キャスターとサンドマンの間をマックルが横切る。その姿を追う瞬間、サンドマンと視線が噛み合う。

「……待ってくれ、銃の精霊よ」

 マスターと頷きを交わした直後、キャスターは改めて交渉を再開した。

「力を貸してくれるというのであれば、私たちも共に戦おう。我々は小狡い獣ではなく、誇り高き血を引く戦士なのだから」
「残念だけど、今はまだ誰とも組む気はないわ。あたしのワガママも、マスターがそこまでは許容してくれていない」

 半身だけ振り返ったマックルは、同盟を結ぶ気はない、と言う。
 だが普通に考えて、単身で挑むよりは徒党を組む方が、追手に対抗するには有効なはずだが――

「気遣いは無用よ。あなたたちにここを無事逃げ延びて貰うのは、マスターの意向でもあるから」

 瞬間、何か薄ら寒いものをキャスターは感じた。

「だってその方が、この聖杯戦争は泥沼になるでしょう?」

 そして予感に応えるように。マックルは明るい声の調子を変えぬまま、そんなことを言ってのけた。

「あなたの得意分野じゃない、ジェロニモ。泥沼のゲリラ戦。長期戦を得意とするキャスターのクラス。長生きして貰えれば、その分戦場が悲惨になって、みんなもっと必死になる。なのに、序盤で脱落されたらつまらないじゃない」
「……何を言っている?」

 精霊との対話に慣れていないせいか。突如として別の側面を覗かせ始めた、先程まで友好的だったマックルの並べた言葉に戸惑ったように、思わずと言った様子でサンドマンが疑問を零した。

「もちろん、あたしはあなたたち自身にも期待しているわ。マスターはまだ懐疑的みたいだけど、あなたたちは大きな欠落から狂熱を灯し、それを埋めようとする戦士だもの。きっと次代に語り継がれる物語となるはずよ」
「マックルイェーガー……君はまさか」

 静かに張り詰めていく――こちらがそのように錯覚しているだけかもしれないが、重苦しい空気の中でキャスターはマックルに問うた。

「まだ……第三次世界大戦を願うつもりなのか?」
「そうよ。ニンゲンがもっと面白くなってくれるようにね」


882 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:22:41 ltiECthE0

 涼やかな表情で答えたマックルは前を向き、掌をひらひらと振って歩みを再開した。

「それじゃあ、縁があればまた会いましょう。あくまで戦争の敵同士なんだから、次に遭った時は見逃さないわよ」

 暗に、これより赴く闘争への水入りに釘を差しながら。ウィンチェスターライフルを担いだ銃の精霊は、人垣の中に消えて行った。

 ――背後から仕掛ける、つもりはない。銃の精霊ならばおそらくは、人を超えた視座を持ち合わせているだろう。前準備もなく隙が衝けるとは思えない。

 そもそも、折角あの追跡者を相手にしてくれるというのだ。潰し合って貰うのが効率的である以上、敢えて火の粉を被る理由もない。

 ただ、クラス特性を理由にこちらを見逃した以上。おそらく彼女は、追手のことも――――

「あれは邪神の類なのか?」

 戦女神の姿が見えなくなってから。思わずといった様子で、サンドマンが呟きを漏らした。
 悪魔のてのひらから異能を得た彼でさえも、人格を保った神性との遭遇は初の出来事だったのだ。その体験を前に多少の衝撃も仕方ないだろう、とキャスターは受け止めた。

「そういう側面もある、ということだろう。銃の発展が人類の生息圏を確保する上で有用である事実もある。そうして人間を庇護すると同時、やはり殺戮と闘争のための武器である以上、戦という華を求めるのも道理というものだ。
 自らを望み産み出した人の子を害したい、とは思わずとも、結果として血が流れることを厭うような在り方ではないのだろう」

 ジェロニモとて、生前は正式なシャーマンではなかった。サーヴァントの身になって初めて実感を得たことだが、それでも次代の同胞に、先人として一つ智慧を伝授する。

「視点が違うのだよ、サンドマン。私たち人間と、大いなる精霊とでは。だからこそ彼らの中では一本芯が通っていても、私たちにはコヨーテのような気紛れ者として映るのだ」
「……その気紛れで、あの精霊には借りができた。だが」
「ああ。いずれ討たねばならないだろう。聖杯戦争に勝利するだけではなく、母なる星を無辜の血で染めないためにも」

 そう。仮令、戦女神が敵でも蛮勇を手放しはしない。
 何故なら自分たちは、この大地と共生する悪魔――異郷の神を畏れる必要などありはしないのだ。

「……だが、すまない。サーヴァントの霊基を以って現界したという点では同じでも、所詮は一介の戦士に過ぎなかった私だけでは、一度は戦神にも届いた精霊には敵わないだろう」
「だからこそ、ここは奴の思惑に乗ってやろう、ということだな?」
「ああ。人の力は小さい、だが多くを費やせば大自然にも抗し得る。それをあの若き精霊にも教えてやろう」

 そのためにもまずは、同じく大地に生きる人間と合流する。
 方針を明確にした二人は、これ以上時間を無為にしないため、勝利に向けた行軍を再開した。







《――Teleport, now――》

 水面のように波打つ空間を抜け出た瞬間、空条承太郎の前に広がっていたのは寂れた工場地帯の一区画だった。

 水族館からほんの数キロ西に広がる工場地帯は産業が盛んではなく、時期によっては稼働していない施設も珍しくはない。
 しかし承太郎が空間を転移して現れた周囲は、それを加味しても人の姿が一切見受けられない奇妙な静寂に包まれていた。

 そんな通行人の不在は、承太郎を此処まで移動させた同行者の細工に因るものだろう。
 ほんの数十秒前。承太郎の目撃した『第八階位(カテゴリーエイト)』のサーヴァントを追うべく、先んじて放たれていたキャスターの使い魔の内一羽が、この付近で消息を絶った。

 たかが使い魔といえど、一般市民や野生動物に不覚を取るような生半な代物ではない。害せる者がいるとすれば、犯人はマスターかサーヴァントに限られる。
 キャスターは残存した使い魔を急行させると人払いの結界を構築させ、その完成とほぼ同時に打って出たというわけだ。

「……無事に着いたようで何よりだ」

 転移早々、既に戦装束を纏っていたキャスターは、攻撃される憂き目に遭うことのなかった己のマスターに対し素っ気ない感想を述べた。
 彼は承太郎の申し出を断りはしなかったが、どちらかといえば望んではいない様子だった故の皮肉だろう――知ったことか。


883 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:24:17 ltiECthE0

「キャスター。サーヴァントは」
「居るぞ。すぐそこにな」
「わ、もう来たんだ」

 問答を行ったまさにそのタイミングで、キャスターの示した廃工場の影から若い女の声が聞こえてきた。
 そのままひょっこりと顔を出した、軽そうな頭を物々しい軍用ヘルメットで包んだ女の姿を認めた直後、承太郎は微かに眉を顰めた。

「『第七階位(カテゴリーセブン)だと……キャスター、こいつだけか?」
「そのようだ。どうやら、おまえが目をつけた相手ではなかったらしいな」

 どの道やることは変わらないが、と言外に匂わせながらキャスターが答える。
 認めるのは癪だが、その点については承太郎も同意見だった。

「『第八階位(カテゴリーエイト)』の居所を知っているか? 肌黒い男のサーヴァントだと聞いているが」
「もう知らないわ」

 念のため、といった具合のキャスターの問いかけに、女英霊は拒絶を返した。

「ま、ま、落ち着いて。あなた達から距離を取りたがっていたみたいだから、あたしが代わりに引き受けて来たのよね。あ、別に同盟とか結んでいるわけじゃないから安心して? 暫くは誰とも組む気はないから」

 落ち着け、と言いながらも。同じ殺し合いの参加者相手に、共闘の意志がない旨を平然と伝えてくる。
 陽気な笑顔の裏が読みきれない女に対し、隙を逃すまいと睨めつける承太郎の横で、キャスターが仮面から苦笑を零した。

「なるほど。奴らの代わりを引き受けてきて、なおかつ停戦の意志もない、か。ならば行き着く結論は一つだな」

《――Connect, now――》

「そうね。でも、まだ引きこもっているからこっちは待ってあげてい――」



「スタープラチナ・ザ・ワールド」



 瞬間、『世界』から音が消えた。

 指輪に刻んだ魔術により、接続した空間から得物となる短槍の如き魔杖を取り出したキャスター・仮面ライダーワイズマンも。
 いつの間にやら、その手の中に――既製品の、珍しくもないライフル銃を握り込んでいた敵サーヴァントも。
 時間の止まった『世界』に入門できない全ての存在は、英霊であろうと例外なく、その活動を停止していた。

(――早まったか?)

 サーヴァントさえも抗えぬ、その現象を起こした張本人――最強のスタンド能力、スタープラチナ・ザ・ワールドを発動した承太郎は、微かに脳裏を掠めた躊躇を検分しながら、一歩その足を踏み出した。

 スタープラチナによる時間停止。先程、使い魔を殴りつける際にキャスター――即ちサーヴァントにも通用することは把握していた。
 眼前の『第七階位』もまた同じく、その能力から逃れることはできなかったようだ。

 ならばキャスターとの連携を予め示し合わせておけば、完全な意識外からの不意打ちを利用した初見殺しさえ成立させられたかもしれない。
 あるいは、キャスターの窮地を救うためにこそ温存しておくか。
 いずれにせよ、強力さ故に対策される危険性を考慮するなら、こんな初手から考えなしに使うべきではないのがセオリーだ。

 だが、今この場ではそれらの有効な活用法を成立させるための大前提、つまりはスタンドによる攻撃そのものが、サーヴァントに通じるという実証が済んでいないことが焦点となる。

 敵を知ることは大切だが、何よりもまず、己を知ること。それを疎かにした机上の空論は最悪の場合、逆に首を絞める結果に繋がる。
 攻撃が通じる保証のないままでは、連携もクソもない。窮地を救うために発動しても、その時に敵へ通じる攻撃手段を持ち合わせているか否かを把握できていなければ選択を誤る恐れがある。

 だから、最初に確認を済ませるべきなのだ。あるいは敵が想定外に弱く、実験の機会を得る前にキャスターが始末し終えてしまう場合――もしくはその逆に、悠長に機会を伺うことすらできない難敵である場合にも備えて。

 彼我の距離はおよそ十メートル。対してスタープラチナの射程はわずか二メートルしかない。
 しかし――時が止まっているというのに奇妙な表現だが、停止できる時間だけは、高校生時代の全盛期にも匹敵する五秒を確保できている。
 故に、敵が完全に停止していることを改めて確認しながら、本体の承太郎が間合いに捉えるまで接近するには充分な猶予があった。


884 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:25:27 ltiECthE0

 ……身動きの取れない女が相手だが、その正体はサーヴァント。そして殺し合いに積極的であることは明白である以上、拳を握ることを躊躇う義理はない。

「実験に付き合って貰うぞ――オラアッ!!」

 間合いに捉えた敵の得物を払い除け、そして繰り出したスタープラチナの拳が、女サーヴァントの端正な頬を遠慮なく殴りつけた。

(手応え――――アリだっ!)

 人間や吸血鬼、下手なスタンドさえも殴りつければ容易に頭蓋骨を破損させるスタープラチナの拳でも、その一撃ではサーヴァントの肉を切った感覚すら得られない。
 しかしそれはただ、このサーヴァントが人体や並のスタンドよりも頑丈というだけのことだ。
 打ちつけた手応え、与えた衝撃が確かに相手に伝わり、頬の肉を押し込んだ程度とはいえわずかながらも変形させたという感触は、スタンドを通じて本体の承太郎にもフィードバックして来た。
 神代からの伝承を保菌して来たスタンドによる物理攻撃は――神秘を伴わない攻撃を無力化する、サーヴァントにさえ作用している!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――」

 一撃目の手応えを理解した次の瞬間、最早刹那の躊躇も挟まず、眼前のサーヴァントの美貌へと拳のラッシュを叩き込む。
 顔面そのものを砕いた手応えは未だ得られずとも、視界を封じる目的で眼球を狙い、呼吸を妨げるために鼻梁や喉元にも容赦なく、ロードローラーさえ破壊する連打が精密に降り注ぎ、その身体を大地から引き離し始める。
 浮かび上がった的を逃さず、スタープラチナの左手で細い首筋を掴み、全力で締め上げる。その間も止むことのない殴打の軌跡に、やがては微かな血の線が混じり始める。

「オラオラオラオラオラアッ!! ――――そして時は動き出す」

 そして最後に、渾身の右ストレートを浴びせると同時に女の首を手放した。

「――!?」

 驚愕に息を呑む気配は、承太郎を挟む前後から。停止した時間の中でタコ殴りにされていた女と、認識しないうちに己のマスターが移動し、なおかつ敵サーヴァントを殴り飛ばし終えた光景を目撃したキャスターの、二騎の英霊が揃って見せた動揺だった。
 次の瞬間には、スタープラチナのパワーで弾かれた女が錆びついた背後の大扉に激突し、叩き割るようにして押し開いて、無人の工場施設内へと呑み込まれて行った。

「硬いな……だがいつかの爆弾ほどじゃあない」

 流血にこそ追い込んだが、数秒間殴っても握っても、骨を砕けたような確実な有効打としての手応えはなかった一方、こちらの拳が砕けるようなこともなかった。
 スタープラチナの攻撃はサーヴァントにも通用する神秘を持つことは確認できた。だが、有効な攻撃力とまで評して良いのかは悩ましいところだ。

「そういった能力が在るならば事前に示し合わせろ。警戒されてないうちならばそのまま仕留められただろうに」
「そいつは悪かったな。何せ、そもそもスタンドでサーヴァントに干渉できるかも確証がなかった……誰かさんが殴らせてくれなかったせいでな」

 キャスターの文句に言い返しながら、彼が隣まで歩いてくるのを待つ。口惜しいが、単身で追撃を仕掛けるのは危険であるとも今の実験で結論できた。

 ようやく、この戦いにおける己を一つ理解した。
 本番はこれからだと気を引き締め直し、この時ばかりはキャスターと足並みを揃えて、承太郎はブチ開けた工場の入口にその長身を潜らせた。


885 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:26:26 ltiECthE0







「あの女が銃を持っていたのは見たか?」

 照明のない廃工場。踏み入ったの薄闇に目が馴染むまでの一瞬に、承太郎はキャスターに確認を行った。
 果たしてキャスターは首肯し、仮面の奥から見聞を返す。

「ああ。飛び道具を使い、なおかつマスターが近辺に見当たらない様子からするとアーチャーだろう――対魔力持ちとは少々面倒だな」
「……訂正すると、あたしはガンナーね」

 そこで微かに、痛みによって揺らいだ声で女が割り込んだ。
 まだ痛みが抜けきっていないのか、それとも動揺の現れか、顔を掌で撫でながら『第七階位』――ガンナーのサーヴァントはゆるりと立ち上がり、承太郎たちと視線を結んだ。
 あれだけスタープラチナで殴りつけてやったが、暗さに慣れた目に止まるほどの外傷はない。出血していた事実と矛盾がないように考えると、この短時間で治癒したのだろうか。

「銃使いのエクストラクラス。結構思い入れがあるから、ちゃんと呼んで貰えると嬉しいわ」
「良いだろう。つまり対魔力はないということだな」
《――Explosion, now――》

 聞くが早いか、キャスターは準備しておいた指輪魔術を発動した。

 宝具、『詠うは白き慟哭の声(ワイズドライバー)』。キャスターが腰に装着する、ベルト状の呪文代行詠唱装置。
 それがただの一小節で発動させたのは、空間を操る大魔術だ。
 紫の魔法石の煌めきに合わせて、圧縮された高密度の魔力が炸裂する。

 仄暗い工場の半分を爆炎が埋め尽くすその威力は、彼のマスターである承太郎が喰らったそれより遥かに増大していたが――ガンナーは既に、その範囲を知悉していたかのように躱していた。
 小刻みなステップを挟みながらも、前へと跳んで。
 爆風を背に接近するガンナーに、奇襲じみた一撃を避けられたキャスターも魔杖を片手に応じようとする。

 しかし、彼が一歩踏み出すよりもさらに早く。

「――スタープラチナ・ザ・ワールド!」

 再び、時間の流れが凍結した。

 時間の停止した『世界』には、眼前のサーヴァントも入門できない。ならば有効打を浴びせられずとも、単純に体勢を崩させるだけでキャスターを有利にできる。
 己がサーヴァントの手を借りるのは癪ではあるが、まずは一枚、『聖杯符』を回収することこそが優先される――そのように思考していた承太郎は次の瞬間、驚愕に打たれた。

「――何?」

 それは――時間停止を発動するための意識の集中、その一瞬の隙に撒かれた、致死の罠。
 停止した『世界』の中には、承太郎を取り囲むように配置された、コーラ瓶とも見紛う巨大な弾丸の群れが、剣山のように現れていた。

 視線を巡らせれば、爆発を逃れる位置の工場の床や――空中に。乗用車の倍はある長さの、尋常ではない七銃身の巨大ガトリング砲が合わせて五門存在し、無人のまま夥しい量の弾丸を吐き出す最中に停止していた。

 突如として出現した異様な銃砲の群れと、その神速の早撃ちが、銃使いの英霊の仕業によるものとは即座に看破できた。
 だが、その変化した状況の再把握と解析までに一秒以上、承太郎は限られた時間を行使してしまっていた。

 スタープラチナの超視力は、サーヴァント同士の高速戦闘をも容易に把握する。
 しかし迎撃などを自動でさせるわけでもないなら、その視覚で得た情報を処理し判断するのは、あくまで生物学的に人間である空条承太郎の脳神経だ。
 サーヴァント本体の動きを注視し過ぎて、時を止める瞬間に生じる隙、そこで放たれた攻撃へと気づくのが遅れてしまったのだ。


886 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:27:54 ltiECthE0

(既に発射された数だけで、三十八発……)

 思わず連想したのはエジプトの決戦時、DIOの繰り出して来たナイフ投げか。
 だが、明らかにあのナイフ以上に重量があり、しかも停止した弾頭付近が空気を圧縮してかげろうのように揺らめいているのを見るに、弾速も音の壁を越えている。それだけの運動量を前にしては、あの時のように腕の一振りで何発も弾くといった芸当も困難だ。

(……停止していない場合だと、一門相手にスタープラチナのラッシュが追いつくかどうか。最短距離は弾幕に潰されている。捌いて攻め込むには手数が足りない)

 回避に徹するしかないという苦渋の結論を下し、同時にガンナーへの攻撃を諦めざるを得なくなった承太郎はバックステップで後退。必要以上にスタンドパワーを浪費する前に時の運行を再開させる。
 直後、鋭角の衝撃波を伴った砲弾が床を穿って炸裂し、別の射線が工場の壁を内から食い破って外へ飛び出して行った。

(――焼夷弾か)
「オラオラアッ!」

 人払いが済んでいたことに安堵するより早く、射線が動く。追ってきた弾丸を、スタープラチナが高速かつ精密な動作で横合いから殴り飛ばして軌道を逸らす。
 星の白金の狙いは正確。自然発火を誘発することなく、衝撃派の猛威からも射線を免れたが、予想以上に重い。
 この勢いでは躱し切ることすらできないかもしれない――そんな悪寒が脳裏を掠めた直後、承太郎の前に白い影が割り込んだ。

「下がっていろ」

 その正体は、展開した魔法陣で秒間三百五十発の弾丸をあっさりと遮断しながら、未だ魔力で輝く指輪を翳したキャスターだった。
 直後、五箇所で立て続けに爆発が起きる。ガンナーの設置していた五つのガトリング砲をほぼ同時に、空間爆破の魔術で破壊していたのだ。

 ……承太郎とは桁違いの防御力と、圧倒的な攻撃力。
 人が、馬ほど早く走れないように。あるいは魚ほど上手く泳げないように。能力は通用するとしても、スタンド使いとサーヴァントでは、基礎的なスペックに大きな格差があることを強く再認識させられる光景だった。

 そんな、サーヴァントの強大さを知らしめた一因たる指輪が、突如としてキャスターの掌から弾け飛ぶ。
 犯人は当然、ガンナー。手にした大型拳銃、デザートイーグルでの精密射撃は、サーヴァントの指を曲げることもできず、魔法石で作られた指輪を壊せないまでも、キャスターの指から脱落させるには充分な威力を持っていた。

「うん、下がっていた方が良いわよ。向かって来るなら、もうあたしも容赦はしないから」

 殺意を載せたはずの通告は、どこか爽やかな調子で言い放たれた。

「特にあなたの場合はね――ニンゲンとはいえ南米の神様の親戚みたいなものなんだもの、あなた。油断はしてあげられない」
「何を言っている?」

 自身の家系図から完全に外れたガンナーの表現に、承太郎は思わず問い返していた。

「それよ、それ。その青紫っぽいヒトガタの」

 キャスターに拳銃を向けたまま、ガンナーはスタープラチナを目で示して言う。

(こいつにもスタンドが見えているのか)

 当初の戦いで、キャスターは完全にスタープラチナを視認していた。
 それは承太郎と契約したからという線も考えていたが、どうやらサーヴァントは一律、スタンドを視認できると見ておく方が賢明そうだ。

「しかも、時を止められるなんて驚いたわ。納得はしたけど、それ、本当は天界とかの管理する権能よ?」

 ――能力の秘密を見抜かれた。
 覚悟していなかったわけではないが、苦いものを噛み締めるしかない承太郎とは対照的に。
 いつまでも余所見をする敵を前に待つほど、彼のサーヴァントは辛抱強くはなかったようだ。


887 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:29:36 ltiECthE0

 無言のままに駆け出したキャスター。ガンナーが牽制で放つ大口径拳銃弾も、キャスターの手の甲が展開した魔導障壁には全くの無力だ。
 距離を詰めた勢いのまま、直線、最速の突きとして繰り出されるキャスターの得物こそは宝具、『屍殻穿つ魔杖(ハーメルケイン)』。
 ランクこそ低いが、魔力で構成されたサーヴァントに対しても特攻を発揮し得る強力な白兵武器。単純な物理破壊力だけでも、サーヴァントの膂力で繰り出される一撃は先のガトリングの一射を遥かに凌ぐ。

 そんな必殺の刺突を、ガンナーは横への小さいステップのみで回避する。
 最速の一撃をあっさりと躱されたキャスターはしかし、そのクラス傾向の例外に属する存在だ。近接戦闘においても目を瞠る技倆を有す彼は、ただのそれだけで動作が停滞する愚は犯さない。

 キャスターは逃れた敵への追撃のため、淀みなく魔杖を翻す。
 その瞬間、キャスターの引いた力に向け、合気のようにしてガンナーが弾丸を叩き込んだ。

 サーヴァントに対しては豆鉄砲ほどの脅威にもならないだろう拳銃弾は、しかし放たれた瞬間、そしてその狙いが凄絶の一言に尽きた。
 キャスター自身の力を利用するための、完璧なタイミングを余さず捉えたピンポイント連続射撃。不意に襲い掛かったマイナス方向の力は見事に彼を絡み取り、武器を取り零しかけたキャスターは体勢を崩し、そのまま後退した。

「まだ引きこもっているつもり?」

 そして刃の間合いから逃れた途端、両手を下げて構えを解き、謎めいた問いかけを発するガンナー。まるで無警戒なその姿に対し、キャスターは慎重な所作で構えを直す。
 この女のような手合も戦法も承太郎は目にしたこともなかったが、この様子を見るに、どうやらそれはこのサーヴァントにとっても同じであったらしい。

「そうだな。もう少しこのままで居させて貰おう」
「そう。じゃあ、こっちから引っ張り出してあげるしかないのかしら」

 再び宝具を片手に斬りかかるキャスターに対し、撃ち尽くしたデザートイーグルの弾倉を取り替えるでもなく虚空に消したガンナーは手を上げようとして、瞬時にその身を屈めた。
 距離を詰める、と見せかけてキャスターが一閃した杖より放たれた魔力の刃が、彼女目掛けて飛来していたのだ。逃げ遅れたフリッツヘルムが弾き飛ばされ、鉛色に輝く髪が数本、巻き起こった風に流されて行く。

 屈んだ勢いのまま転がりつつ、手元に召喚したライフル銃を構えるガンナー。銃弾そのものの威力が全身を装甲したキャスターに通じるとは思っていないだろうが、指輪を狙っての精密狙撃が放たれる。
 対するキャスターは指輪を嵌めた手の甲に魔法陣を展開し、射線を完全にシャットアウト。妨害を物ともせず、腰の宝具まで指輪を運ぶ。

「横だ!」

 先の反省と、主戦場から距離を取っていた分、今度は承太郎の方が早く気づいた。
 だが、如何に鋭く尖らせようと、肉声による警告では遅い。正面から狙うガンナーとちょうど十字となるように、空中に出現した一回り巨大なライフル銃は既に、音速に数倍する銃弾を発していた。
 それは承太郎の警告が届くより早く、キャスターの構えた障壁をギリギリで掻い潜る入射角で突き進み、先の再現のようにしてキャスターの指輪を掌から弾き飛ばし、魔術の詠唱を阻止してみせた。

 音速超過の攻防の中に銃弾を混ぜ込む、本人の凄まじい早撃ちと精密射。加えてそれを、何処からともなく召喚した、自在な射角を持つ銃砲でさえも可能とする。
 単純ではあるが、現代兵器による飽和攻撃に神憑り的な精密性が加わることの脅威を、同じく精密動作を売りとするスタープラチナを持つ承太郎は理解した。

 微かな戦慄を覚える承太郎の横で、キャスターは阻止された魔術に拘泥せず駆け出した。あらゆる角度から瞬時に狙い撃って来るこの敵には、一小節の詠唱は悠長過ぎると悟ったのだろう。
 接近に合わせて立ち上がるガンナー。その手を降った勢いのまま、延長線上に今度は倍の計十門、美しい白銀の砲塔の列が翼のようにして拡げられ、即座に斉射された。

 放たれた砲弾の初速と連射性は、先のガトリング砲に僅かに劣っていた。だが、弾丸はさらに二倍どころか三倍に迫る巨大さ、質量でいえば約二十倍。映画で見る戦車の主砲に採用されるようなそれだ。
 それをキャスターは、指輪を介さず手の甲に展開した小さな魔術障壁だけで凌ぎきり、着弾の衝撃で僅かに速度を緩めながらも前進する。

 遅れた颶風が、承太郎の頬を撫でる。余波だけで老朽化した工場に激震が走り、あわや倒壊しかねないだけの火力が行使されているのだ。
 その照準を一身に集め、なお無傷の男は、遂に女を刃の致死圏に捉える。


888 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:31:04 ltiECthE0

 繰り出された一突き。ガンナーは魔杖を横に流した掌で逸らし、軌道を曲げさせた。
 同時、思い切りよく宝具を手放したキャスターの裏拳がそのまま、ガンナーの下顎を目指して翻る。
 ガンナーは空いた手で顎を庇う。互いに弾き合った次の瞬間に、キャスターの右膝がガンナーの腹腔を狙うが、同じく閃いたガンナーの右足が迎撃。
 連動して繰り出されたガンナーの左拳を、キャスターは右手に展開した魔法楯で逸らし、その勢いで互いに弾き合い、距離が離れたと思った瞬間、またも激突する。

 キャスターとガンナー。本来は遠距離での攻防にこそ真価を発揮するクラスで現界したはずのサーヴァント二騎が、その原則に真っ向から背くかの如く、苛烈な白兵戦を展開し続ける。

 瞬きも忘れるほどに白熱した、肉を打つ音が連続する攻防は果たして、どれほどの時間続いたのか。

 濃密な一挙手一投足の交換の中、やがて生じた一瞬の間隙を衝き、キャスターが大威力のために魔杖の刃を後ろへ引く。
 同時、ガンナーの頭上に出現した機銃が発砲。先の再現として、敵自身の動きを利用して体勢を崩させようとしたが、キャスターは当然学習していた。
 刃を引いたのはブラフ。左の回し蹴りが突如として跳ね上がり、白き迅雷の如くガンナーの首を狙う。

 しかしその動きを、ガンナーは既に見切っていた。
 自身が銃撃しなかったことで空けていた両手で、キャスターの蹴りを完全に受け止める。そのまま追加の機銃掃射で重心を崩させたキャスターを持ち上げ、豪快なスイングで投げ飛ばした。

 そして、宙で身動きの取れない獲物にガンナーが追撃の砲門を呼び出す――――その瞬間こそが、キャスターの狙いだった。

《――Yes! Special――》

 背面を装甲された自身の背中、前面を手の甲に展開した簡易の魔導障壁。そして側面をは弾丸を通さないウィザードローブで遮断した状態で、なおかつガンナーを狙える体勢を作り出すことが。

「――っ!」

 キャスターの指輪から放たれたのは、彼の膨大な魔力を変換した黄金の衝撃波。ガンナーの展開した銃砲の群れを破砕し、誘爆させ、そして彼らの主までもを呆気なく、破壊の奔流に呑み込んでいく。

《――Understand?――》
「――なんだと」

 ベルトが詠唱を、指輪が魔力の照射を終えたと同時、キャスターの張り詰めた声をスタープラチナの聴力が拾った。

「……やるわね、今のは焦ったわ」

 告げたのは、光の奔流に呑まれたはずのガンナーだった。
 無傷、ではない。鉛色の髪は煤に汚れ、パンツァージャケットの左腕部は焼き切れている。その下の白い肌も、一部は熱を帯びて膨れ上がるのを通り越し、醜く焼き爛れていたが、なおも五体満足の立ち姿だ。
 その傷ついた体からは、キャスターが放った物よりも澄んだ光の粉のようなものが舞っていた。

 直後、その輝きが一層強まった気配を、ガンナーが身に纏う。
 そして、工場最奥まで落下し終えたキャスターの元へと一気に駆けた。

 その速度は、寸前までの比ではない。先の魔術も、その出力で直撃を逸らしたか。
 咄嗟にキャスターは『屍殻穿つ魔杖(ハーメルケイン)』を口元に構え、不気味な音色を響かせた。
 刹那、展開されたのはキャスターの身体を完全に覆い尽くす円形の魔法陣。手の甲に出現させていた簡易なそれとは、強度も範囲も桁違いの代物。
 それを。

「せーのっ!!」

 輝きを載せた拳の一撃、それ自体が砲弾と言わんばかりの勢いで、ガンナーはキャスターの魔法楯を弾き飛ばした。


889 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:32:35 ltiECthE0

 魔導障壁は、なお砕けはしなかった。だが着弾の衝撃、その連動に引っ張られたように、キャスターの手から魔杖があらぬ方向へ投げ出される。

 おそらくは、こうして防御手段を取り上げて、一瞬体勢を崩すだけで充分だったのだろう。

「……っ!」

 思わず息を呑んだのは、承太郎か、それともキャスターか。
 ガンナーが拳を振り抜いた、その瞬間に。彼女の背後に、超弩級の火砲が姿を顕したことに気づいたが故の、絶句。

 それは本当に、度を越して巨大な砲塔だった。
 工場に収まりきらない全長の、圧倒的な存在感を感じさせる大筒。承太郎の位置からは、その口径がどれほどの物かを視認することはできないが、馬鹿げた数字に決まっていると確信できた。
 その、どう考えても何十キロも先の要塞を粉砕するために用いられるのだろう大砲が、ほぼゼロ距離と言って良い距離で照準するのは、キャスターという人間大のサーヴァントただ一騎。
 承太郎をして心底戦慄した刹那。極限の緊張により加速した視野に、超巨大な鉄の塊が火を噴く、その予兆となる稼働が垣間見えた。

「――スタープラチナ・ザ・ワールド!!」

 三度、承太郎は時を止めた。

 列車砲への最短距離には、案の定。能力発動の隙にガンナーが配置した無人の機銃による弾幕が既に、展開されていた。
 どの道、アレを殴って止めたところでこちらも無事では済まない。弾幕はそもそも無視して、一度だけ工場の奥に視線を向ける。

 スタープラチナの射程は二メートル。停止時間は五秒間――キャスターを安全地帯に連れ出すことは不可能だ。
 そこまで判断した時点で、身を翻して工場からの脱出を図りながら、承太郎はさらに思案を巡らせた。

 令呪を使う? 時止めを解除してからでは命令が間に合わない。だが停止している時間の中で発した命令は、果たしてそれを認識できないだろうサーヴァントに有効なのか?

 ……そもそも、あの男を救う必要はあるのか?

 募るのは疑問ばかりではなく、そのような黒く冷たい閃きもまた、承太郎の胸の裡に降ってきた。

 これでキャスターが死ねば、奴の聖杯符が出現する。スタープラチナの能力を駆使し、ガンナーに先んじて回収できれば、目的の一段階をクリアできる。
 その利益に引き換え、我が子を亡くしたとはいえ一個人の事情を理由にして、理不尽な犠牲をどこまでも撒き散らそうとしたあの邪悪を救う意義とは何だ?

 だが……仮に、キャスターの聖杯符が出現したとして。それを、時間停止の発動とその隙を見逃さずに対処してきているガンナーに先んじて、回収できるという保証はあるのか?
 聖杯符を確実に入手できる状態に持ち込む前に、サーヴァントという戦力を失ってこの先はあるのか?

 ……停止した時間の中で、無意味な思考が錯綜する。
 迷っている場合ではない。迷いは弱さだ。

(あの頃の……おれなら、どうしていた?)

 最も強かったあの頃。DIOを倒した時の若き自分。迷いなど欠片も持ち合わせることのなかった己なら、こんな時、どんな選択を――

「――オラアッ!!」

 迷う間にも、まず己の生存のための脚は止めなかった。
 スタープラチナが、外れかかっていた工場の鉄扉を留め具から引きちぎる。分厚い鉄板を抱えたまま工場から飛び出した頃には、猶予は残り一秒にまで迫っていた。

「――――令呪を以って命じる。躱せ、キャスター!!」

 承太郎が叫び終えると同時、凍っていた『世界』の時は再び流れ出し――そして爆風が、何もかもを洗い流した。


890 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:33:17 ltiECthE0







「ぬ……ぐぅ……っ!」

 身体の節々に生じた痛みを知覚して、承太郎は目を覚ました。
 あの馬鹿げた大砲の発射現場に、至近距離で居合わせてしまい、破滅的な衝撃波をモロに浴びた。
 ただそれだけのことで、何の備えもなければ即死してしまっていただろう。飛来する破片から身を守るための頑丈な鉄扉のおかげで致命傷は受けなかったが、それでも吹き飛ばされて数秒失神していたようだ。

(……このザマじゃあガンナーから先手を取る、なんてのはどの道不可能だったろうな)

 自身に覆い被さっていた鉄板をそろりと外しながら、承太郎は粉塵が濃霧の如く充満する破壊の跡で立ち上がった。

 ……寸前まで戦いの舞台となっていた工場は、跡形もなく消し飛んでいた。
 それも、大部分はあの砲撃の標的になったからではなく、その発射の余波に巻き込まれただけで。
 時を止めて外へ避難していなければ、承太郎も脳髄をシェイクされて御陀仏だったに違いない。

 そして如何にサーヴァントとはいえ、この零距離射撃を前にしては、不死身を売りにしているような英雄でもなければ消滅は免れないだろう。

「令呪は……かっきり消えている、か」

 右手の甲を見れば痣の一部、三画ある令呪の一つが欠けていた。時間停止中の命令は、どうやら令呪そのものには受理されたらしい。
 ならば後は、その絶対命令を受け取る張本人――キャスターがあの砲弾を回避できたか、だが……

「……ぐぁ」

 遠く、小さな苦鳴が聞こえた。
 スタープラチナの聴力が拾ったその声の主を、スタンドの超視力が見つけ出し、解像する。
 途端、承太郎は自身の体温が急速低下するような錯覚に見舞われた。

 ……か細い声の主は、着弾によるクレーターの縁に膝を着き、白い影を降ろすキャスター。
 スタープラチナが目にしたのは、原石のような仮面がひび割れ、左腕から胴体の半分近くまでを飴細工のように引き千切られ喪ったキャスターが今、微細な魔力の粒子にまで分解されて消滅する、まさにその瞬間だった。

「――キャスター!」
「焦るな」

 思わず身を起こした承太郎は、背後から降り掛かった声にさらなる驚愕を覚えた。

「――どういうことだ」

 瞬時に混乱を呑み干し振り返った承太郎の、その視線の先にいるのは――埃一つ着いていない、真っ白な戦闘服を纏ったキャスターだった。
 つい先程、目の前で消滅したはずのサーヴァントが晒す無傷な立ち姿に視線を険しくする承太郎に、新たに現れたキャスターは小さく鼻を鳴らす。

「何の事はない。先程までガンナーと戦い、今しがた消えたのは魔術で造った私の分身に過ぎん」

 説明の言葉とともにキャスターが翳した手の甲の寸前で、火花が散る。それは先程、何度も目に焼き付けた光景の再演だ。

「うん、やっと出てきたわね。戦争ではちゃんと、自分の命を懸けないと駄目よ」

 キャスターの出現に呼応したかのように、肉薄してきたのはガンナーだった。フリッツヘルムを被り直していた彼女は無傷ではないが、酷かった火傷は既に軽傷にまで回復している様子だ。
 その口ぶりからすれば、どうやらガンナーは己が仕留めたキャスターが分身体に過ぎなかったことはとっくに――振り返れば接触したその最初期から、既に把握していたらしい。


891 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:34:09 ltiECthE0

 詰るようなガンナーの物言いに、キャスターは肩を竦めた。

「生憎、この仮初の命は持ち合わせが一つしかないからな。工房の中で大切にさせて貰っている」
「自分のマスターは戦場に放り出しておいて?」
「当人の強い希望だったものでな」

 キャスターの答えは事実だ。スタンドの伝承保菌論の実証、そして『天国』に到達するために必要な『聖杯符』の入手をと、静かに意気込んで承太郎は戦場に臨んだ。
 だが、終わってみれば己は、ただの道化だった。
 あるいは遭遇したのが眼前のガンナーよりも与し易い相手であれば、話は変わっていたかもしれないが――逆に、より苛烈な、危険なサーヴァントを相手にする運命になってしまっていたとしたら。
 忸怩たる思いが、承太郎の口を塞いでいるのを知ってか知らずか。キャスターは契約上の主を顧みることなく一人、ガンナーと会話を続ける。

「とはいえ、このまま外で貴様とやり合うのは避けた方が賢明のようだ。だからマスターを迎えに来た」
「そう。じゃあ今回はこれでお開きにしましょうか」

 意外な返答に、承太郎は微かに眉を動かした。
 キャスターもまた、流石にこれは想定外だったのか、少し間を置いてから返答する。

「……随分とあっさり見逃してくれるものだな」
「まだ初日だもの。こんな序盤でキャスタークラスを落としてしまったら面白くないわ。
 それにあなた達も、ジェロ――ああうん、これは藪蛇になりそうね。ただ個人的に期待しているとこがあるから、頑張って生き残ってみて」
「付き合いきれんな」

 勝手気ままの過ぎるガンナーの物言いに、キャスターは邂逅当初のような苦笑を漏らした。
 同時に、空間転移の魔術を起動。波打つ空間が彼自身と、承太郎とを呑み込んで、一瞬の暗転。



 ――視界が晴れた時には、破壊し尽くされた工場跡地から水族館にある承太郎の待機室にまで戻ってきていた。

「仮に奴が追撃してきたとしても、陣地内ならば遅れを取るような相手ではない。外から水族館ごと砲撃されても問題なく対処は可能だ」

 テーブルを挟んで、承太郎と正反対の位置にまで歩を進めながらキャスターが解説する。

「分身一つ分の魔力を早々に潰されたのは損失だが、緒戦としては悪くない量の情報を得られたと言えるだろう。ガンナーの妨害で第八階位への追跡を一旦断念せざるを得ないことと――貴様が令呪を無駄に消費した以外は、な」

 そして仮面越しに、侮蔑の言葉を投げかけてきた。

「……誰かさんが教えてくれていなかったからな」

 対する承太郎は自身の不甲斐なさとキャスターの不実への怒りをせめぎ合わせながら、負け惜しみのように返すのが精一杯だった。
 契約したマスター自身の透視力でも識別できなかった以上、そうと言われなければ同行していた相手が偽物などとは普通、考えるはずもない。

 だが、事実としてこの魔術師は分身を作成でき、またガンナーはそれを容易く見抜き、スタープラチナ・ザ・ワールドの時間停止にも対抗できる洞察眼を有していた。
 対サーヴァント戦闘は、それこそ複数のスタンド使いと同時に交戦する時以上に警戒を強めるべきであったし――何よりキャスターは信用できないという認識を徹底できなかった、己の至らなさへの反省は強く胸に刻むべきだ。

「それは悪かった。私としてはそもそも、貴様に明かす意義を見出していなかった。それで不利益を被るとは思えなかったからな」


892 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:34:52 ltiECthE0

 素顔を晒さないままにキャスターが口ばかりの謝罪をして――それから、どこか呆れた調子で言葉を続けた。

「まさか――貴様が敵を討つためではなく、私を生かすために令呪を切るとは想像もしなかった」
「……単に、戦力を惜しんだ。てめーが分身におれを守らせたのと同じ理由だ」

 そう、キャスターが承太郎を庇ったのは単にそれだけの理由だとは理解している。
 仮に別の魔力供給源があるとしても、契約を喪えばサーヴァントは現世に留まるための要石を失くし、その間は万全の実力を発揮し得ない。

 それを恐れただけの行動だとは、わかっていても。

 DIOを討ったあの時の自分なら――損得勘定とはまた別に、自身の心に後味の良くないものを残すまいとしたはずだと、血迷ってしまった。

 その迷いが、あの瞬間、承太郎の中の天秤を狂わせた。

「結果として、我々は令呪を一画無意味に失った、か。なるほど準備不足は高くついてしまったな」

 仮面の奥から、溜息一つ。それからもう一息置いて、キャスターは承太郎に言う。

「良いだろう。次からは敵を騙すためにまず味方から、などという迂遠な真似は控えよう。貴様もどうやら、最後の希望を見据え始めたようだからな」

 もう一度拳を握れるようになった、とでも告げたいのか。
 歩み寄るようなキャスターの言葉は、しかし承太郎の胸の内に何ら響かない。
 仮面の男は、承太郎の行為に絆されたわけではない。ただ、己のマスターが次なる愚行を犯さぬよう、制御しようとしてきているに過ぎないことが明白だったからだ。
 先の戦いで、既に重々承知させられた。この男は信用できない、と。

 だが。

「……そうだな」

 ……彼の、今は亡き娘を想う気持ちだけは本物だ。
 選んだ道が間違ったものだとしても、目的を果たさんとする漆黒の意志、その強さだけは認められる。

 そしてその一点だけは、確かに空条承太郎とキャスター――笛木奏は等しい存在だった。

 信頼などない。だが、承太郎の見出した拳を握る理由――最初に復讐を果たすためには、ある程度聖杯戦争で勝ち抜く必要が確かにある。
 それまでの間は、どれほどの屈辱であろうとも。己に与えられた唯一の手札であるこのキャスターを逆に利用するしか道はない。

「もう一度、詳しく話して貰うぞキャスター。おまえの能力を細かくな」

 あの吐き気を催す邪悪を――娘の仇を討つための新たな力が必要だというのなら、それを手に入れるために如何なる艱難辛苦も飲み干そう。
 その一念だけが敗北者となった父親を立ち上がらせる、最後の希望なのだから。







「……ごめんなさいねトワイス。派手に暴れておいて、戦果なしで」

 キャスターとそのマスターが転移した後。取り残されたガンナーは、未だ中央病院に居るトワイスに向けて念話を送っていた。

「(それ自体は構わないよ。結局のところ、私達自身は勝者にはなれないのだから)」

 果たして戦いの趨勢を見守っていたトワイスは、ガンナーの謝罪をやんわりと受け入れた。


893 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:37:49 ltiECthE0

 その上で、問いかけが一つ、投げられる。

「(……だが、彼らは本当に我々の後継になると思うか?)」
「欠落があったからこそ躍進する、という意味では、ジェロニモたちはその体現だと私は思うわ」

 かつて、ゴヤスレイだった戦士ジェロニモは言うに及ばず。『第五階位』のキャスターもまた、何ら特異な因果と関わらずにいた平凡な男が、大切な何かを喪って英霊にまで到達した人間――ということは、最高ランクの千里眼を有するガンナーには見通せる事柄だった。
 逆に彼のマスターである――見透かした身元証明品によるとジョータロー・クージョー……ジョジョは、何やらその血が大きな因縁を背負っていると思われたが、本人の置かれた現状はキャスターと近しいものと見えた。
 そして、その身に秘めた成長の可能性に、当人が思い当たっているらしき気配も。

「(……だが、肉親に価値を見出す者が、私の思想に賛同してくれるとは思い難いが)」
「かもしれないわね。でも、盛り上げ役が成長した実例なのは良い配置になるでしょ?」
「(なるほど。そういう理由ならば許容しよう。少しヒヤヒヤさせてくれたが)」

 ジェロニモに伝えた通り。長期戦でこそ真価を発揮するキャスターのクラスは、それだけ聖杯戦争を泥沼化させ、苛烈な物へとに育ててくれるだろう。
 その中で、彼ら自身の心変わりを得られぬとしても。やがては彼らとも命の遣り取りをすることになる最後の勝者の目には、戦争の中でこそ輝く人間の姿が焼き付くはずだ。
 それを乗り越えた者にこそ、己やトワイスの願いを託してみたいと、ガンナーは思っていた。

 何の意外性も発展もなく、ただの既定作業として人々の命を潰えさせて行くような停滞した『世界』――そんな未来の到来をこそ、塗り替えて貰うために。

 ……もっとも。勝者として辿り着くのがヒデオのように、優し過ぎる人の子なら、その目には叶わない眺めかもしれないが。
 それでも、戦争の中で成長した誰かが、また。陰惨で、卑劣で、卑怯で、容赦のない戦争を前にしても。人間としての知性を尽くして、勇気に満ち溢れた答えをくれるなら……きっと。あの日のマックルのように、トワイスも……

 脇道に逸れた思考を閉まって、ガンナーは派手に破壊した周囲の様子をもう一度見回した。

「後始末とかの隠蔽はシエルたちがやってくれるのよね?」
「(そういう手筈だろうな。幸い、『第五階位』の手際がよかったおかげで目撃者もいないなら、君が気に留める義理はないだろう)」
「安心したわ。じゃあまた、例のイレギュラーを追ってみようかしら」
「(……あのイレギュラーを見失ったのがジョジョという男の影響なら。彼を生かしたまま、イレギュラーに近づくのは危険ではないかい?)」
「大丈夫大丈夫。ジョジョが時を止められる目処はだいたいわかっているから、それを踏まえて立ち回れるわよ。
 それに今更潰しに行こうったって、流石に陣地に乗り込んだら無事じゃ済まないと思うわ。多分あっちはここみたいに気軽に壊せないでしょうし、攻め込むにも時期を見計らわなきゃね」

 やや不安な様子のトワイスに回答しながら、負傷した今は流石に人目を避けようと判断したガンナーは霊体化を果たした。
 そして、最後に目撃した位置と進行方向から割り出した目的地に向かって、高速移動を開始した。







 ……祖父らしき高齢の男性に肩車をされてはしゃぐ、小さな女の子。
 ベンチに腰掛け、膨らんだお腹を愛おしそうに撫でる女性と笑顔を見せるその友人。
 和気藹々と追いかけっこする腕白な子供たち。そのうちの一人が落とした帽子を拾って、丁寧に汚れを拭った後に優しく手渡す若い清掃員。

 のどかな昼下がり。スノーフィールド中央公園を訪れた人々は、誰もが各々の時間に没頭していた。

「――今、止まってたぞ。おまえ」

 何気なく瞳に映り込んだ、暖かな眺めに見惚れていた最中。唐突に、そんな言葉を隣に現れたライダーから浴びせられ。噴水の縁へ腰掛けていたコレットは自身の感知し得ぬ間に、検証が終わったことを理解した。

「三回ぐらいな」

 その言葉にコレットは、ライダーが腰を預けていたバイクからいつの間に離れていたのかわからなかったのが、聴覚が鋭敏になったはずの自身のうっかりではないと理解した。

「(そっか、全然気づかなかった……)」

 数十分前に遭遇した奇妙な現象。
 主観にして、およそ五秒間の――自分たちを除いだ世界の、時間停止。
 誰がどんな意図を以って起こしたものかはわからないが、人為的な現象ならば再発の可能性があると推測したライダーはこの公園に場所を移した後、そこでコレットに協力を要請して来たのだ。


894 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:38:57 ltiECthE0

『世界を駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』から降りた状態で、再び時間が停止した場合――先程無事だったコレットは果たしてその対象に含まれるのか否か、という実験に。

 そして再び訪れたその瞬間には、ライダーの宝具から降りたコレットもまた背後の噴水や公園内を行き交う人々と同じように、風になびく髪の一本一本に至るまで停止してしまっていたのだという。

「これで、単に関係者が除外されているって線は排除されたな」

 聖杯戦争、という具体的な単語は口にせず。ライダーは昨夜の開幕宣言のような、聖杯戦争関係者に対するムーンセルの大規模干渉という可能性が無くなったことを告げてきた。

「(……やっぱり、誰かが『世界』の時間を止めているっていうこと?)」
「みたいだな。どこのどいつだかは知らないが」

 周辺の様子を伺っていただろうライダーは、呟きとともに肩を竦めた。
 どうやら近辺に該当者は居ないらしいが、それにしても時間停止能力者とは恐れ入る。
 それは伝説の大魔術タイムストップや、それを再現した秘蹟アワーグラスのような驚異の御業だ。

 ……そんな天の奇蹟に等しい異能も、悪魔であるライダーには通用しない、とすれば絶大なアドバンテージだ。様子を見る限りは、宝具に頼らずとも彼自身の特性として耐性を持つらしい。
 だがそれも、あくまでも現時点での推測に過ぎない以上、油断はできないだろう。

 思考を巡らせたコレットの不安を察したように、ライダーはその口を開いた。

「……探してみるか?」
「(うん……ううん、やっぱり口裂け女の方が……)」

 一度、流されるままに頷きかけた首を、コレットは横に振った。
 聖杯戦争を止めるために、まず疑う予知もなく関係者である時間停止能力者と接触したい、という気持ちは確かにある。
 けれど、やはり優先すべきは、NPCと化した市民にも明確な危害を加えている都市伝説を食い止めることだと、コレットは思う。
 先程ライダーが英霊や魔術の徒ではないと判断した、公園内を行き交う人々の姿を見ればなおのこと、だ。

 この、月の眼が観察する箱庭の中で人々が見せる営みは――押し着せられた配役で為す、偽りの風景に過ぎない。

 けれども。裏返せばそれは、巡り合わせにさえ恵まれれば人々は隣人を慈しみ、親しき人を愛せるということの証明だ。

 もちろん、意図したものであれ無自覚であれ、人が悪意を持つことは知っている。世の中には理由の有無に関わらず不幸もあり、そして避けようのない犠牲が求められることがあることも。
 それでも、全てが克服できない悲しみばかりではないはずだ。生きてさえいれば、この公園に溢れているような幸福に辿り着けることもあると、コレットは信じたい。

 だから、こんなところで彼らの命を理不尽に奪われることなど許してはならない、という一念が増していく。

「――――?」

 そんな決意を再認していた中、ふとした違和感をコレットは覚えた。



 ……いつの間にか。視線の先に、一人の少女が現れていたからだ。


895 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:39:53 ltiECthE0

 可愛らしいフリルをふんだんにあしらった、サテンドレスに身を包んだ白い童女。
 衰退世界のシルヴァラントならいざ知らず、文明の進んだスノーフィールドであれば、それはさして珍しい衣装ではないかもしれない。
 しかし、和気藹々とした市民公園を訪れるには些か不似合いに思えるその愛らしい姿が、寸前まで意識に上っていなかった事実に、コレットは奇異な印象を覚えたのだ。

 気になって、もう少し観察してみれば――要人の息女にも思える出で立ちの幼い少女の近くには、保護者となるような人物が誰も見当たらなかった。
 いいや、それどころか……コレットと、その視線に釣られたらしいライダー以外、公園に居る全ての人々が、良くも悪くも気を引きそうな一人の少女に、一瞥も寄越す様子がない。

「どうかしたのか?」
「(あっ、ううん……)」

 ライダーの問いかけに、なんでもないよ、と首を振りながらも。
 まるでただ独り、誰からも認識されない幻のようにして在る淡い姿が気になったコレットはつい、もう一度だけ、そちらに注意を向けた。

「あれ?」

 ――その瞬間、碧と紫の視線が結びついた。

 他と比べて、明らかに自身を注視する気配の存在を察知した白い少女が、コレットの方へ振り向いたのだ。

 不思議そうに、こちらを見つめて来るつぶらな瞳と相対し。あんまりじろじろと見て、失礼だったかもしれないと反省したコレットは、謝意を込めて頭を下げた。

「わあ……!」

 だがコレットの所作に対し、少女は予想から少し外れた反応を見せた。
 大きな感嘆の声を漏らし、華の咲くような笑顔を浮かべ。それから、とてとてとて、たったったっ、と。ずっと待っていた誰かのところへ急ぐように、コレットの方へ駆け出した。
 接近者に気づいたライダーもそちらを向いた頃には、少女は手を伸ばせば届くほどの距離にまで詰めていた。

 そして、息も整わぬ興奮した様子で、期待に満ちた眼差しで、彼女はコレットの顔を見上げて来た。

「おねえちゃん、あたしが見えるのね!?」
「――――?」

 紫水晶の瞳を星空の如く輝かせながら、謎めいた問いかけを発する白い少女。
 声を失くしたコレットは、返事のできない罪悪感と困惑を誤魔化すように、曖昧な微笑で喫驚する童女と向き合った。



 互いが伴う破壊者の気配、そして躙り寄る闘争の臭いを、未だ知覚し得ぬままに。

 運命の回す時計の針は、くるくると踊り始める。






【E-5 中央公園/1日目 午後】


896 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:40:27 ltiECthE0

【コレット・ブルーネル@テイルズオブシンフォニア】
[状態] 天使疾患終末期(味覚、皮膚感覚、発声機能喪失中)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] チャクラム(破損中)
[所持金] 極少額(学生のお小遣い未満)
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に巻き込まれた全員の生還
0.えと、この子(ありす)は……?
1.聖杯戦争に関係のある被害を食い止める
2.まずは『口裂け女』事件と聖杯戦争の関連性を探る
[備考]
※ライダー(門矢士)が生きた人間(疑似サーヴァント)であることを知らされていません。
※スノーフィールドにおける役割は「門矢士に扶養されている、重度の障害を持つ親類」です。


【ライダー(門矢士)@仮面ライダーディケイド】
[状態] 健康
[装備] 『全てを破壊し繋ぐもの(ディケイドライバー)』、『縹渺たる英騎の宝鑑(ライドブッカー)』、『世界を駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』
[道具] 『伝承写す札(ライダーカード)』、『次元王の九鼎(ケータッチ)』
[所持金] 数百ドル程度
[思考・状況]
基本行動方針: コレットの十番目の仲間としての役目を果たす
1.コレットと協力し、彼女のサーヴァント、かつ、一人の仮面ライダーとして戦う
2.『口裂け女』事件を追う
[備考]
※サーヴァントですが、「(自称)フリーカメラマン」というスノーフィールドにおける役割を持っています。
※スノーフィールドでライダーが撮影した写真には奇妙な歪みが発生します。
※『世界』に働きかける時間停止能力者の存在を認識しましたが、正体や居所は把握できていません。



【ありす@Fate/EXTRA】
[状態]健康(?)
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:遊ぶ
1.おねえちゃん(コレット)といっぱいおしゃべりして、遊びたい
2.タタリのおじさんの劇で、みんなと遊べるといいな
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。


【バーサーカー(ジョーカーアンデッド)@仮面ライダー剣】
[状態] 狂化、霊体化
[装備] 『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ありすの守護
1.――――――
2.―――■■
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。ただし自発的な行動はその限りではありません。
※ありすの消耗を抑えるため、彼女の機嫌次第では霊体化することもあるようです。


897 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:41:20 ltiECthE0


【F-5 工場地帯/1日目 午後】

【ガンナー(マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ)@レイセン】
[状態] 顔面に軽度・左腕等に中度の火傷(再生中)、霊体化、コレットらを探して移動中
[装備] 無銘・『フリッツヘルム』
[道具] なし
[所持金] ほどほど
[思考・状況]
基本行動方針:トワイスとの契約に則り、人類規模の戦争を起こさせるために戦う
1.自分自身も『戦争』を楽しむ
2.再びツカサ(ライダー)と金髪の少女(コレット)を追う
3.二つのキャスター陣営の今後に期待。ただし、次に戦う時は見逃さない
[備考]
※闘争ではなく作業的虐殺になりかねないので、マスターは基本的には狙わない方針です。
※口裂け女の被害者に宿る、悪い気配を感じています。
※宝具由来の気配遮断は銃を使う上での技能なので、霊体化中では使用できません。



【E-5 中央病院/1日目 午後】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[状態] 健康、魔力消費(小)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 医師相応
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:全人類のために大戦争を起こさせる、後継者たるマスターを見出す
1.当面は様子見を続ける
2.引き続きガンナーにイレギュラーのサーヴァント(門矢士)を追わせる
3.空条承太郎は早々に潰すべきと思うが、ガンナーにその気がない現状、どうしたものか
[備考]
※サイバーゴーストに近い存在ですが、スノーフィールドでは中央病院勤務の脳外科医という役割を得ており、他のマスター同様に市民の一員となっています。
※イレギュラーのサーヴァント・門矢士の存在を認知しました(ただし階位とクラス、「仮面ライダーディケイド」の真名は未把握)
※第五階位、第八階位がそれぞれキャスターであること、およびそのマスターの容姿を把握しました。




【D-6 路地裏/1日目 午後】

【音を奏でる者@Steel Ball Run 】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備] ナイフ(精霊による祝福済)
[道具] 安物の服、特注の靴
[所持金] サンドマン主観で数カ月一人暮らしには困らない程度
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯により知識と富を獲得して土地を取り戻す。
1.ジェロニモに従いこの場から離れる
2.ジェロニモと同じタイプの魔術師に興味。接触を急ぐ
3.最後には倒すべき敵だが、マックルイェーガーには一つ借りができた
[備考]
※スノーフィールドでのロールはオールアップ済みのB級映画スタントマンです。
※『第七階位』の真名、ステータス及び姿を確認しました。



【キャスター(欠伸をする者)@Fate/Grand Order 】
[状態] 健康、霊体化
[装備] ナイフ
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:サンドマンのために聖杯をとる
1..このエリアから迅速に離脱する
2.土地の力を借りる魔術師と早急に接触し、戦力を増強する
3.マックルイェーガーを警戒する
[備考]
※精霊を通じて水族館に魔術師が陣取っていること、自分以外にも土地の力を借りている魔術師がいること、土地自体に魔術的に手が加えられていることを把握しています。
他にも何か聞いているかもしれません。
※『第七階位』のサーヴァントがマックルイェーガーであることを知りました。
※マックルが水族館からの追手を脱落させるかは強く疑問視しています。


898 : 止まる『世界』、回る運命 ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:42:24 ltiECthE0

【F-6 水族館内、待機室/1日目 午後】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン】
[状態] 漆黒の殺意、若干の迷い、疲労(小)、精神疲労(中)、全身に打ち身等のダメージ(小)
[令呪]右手、残り二画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針: 『最初』に邪悪を滅ぼす。『最後』には……
0.やはりキャスター(笛木)は信用できない……
1.キャスターを利用し、目的を果たす
2.スタンドはサーヴァントにも有効、だが今のパワーでは心許ないらしい
3.聖杯符を入手し、可能ならスタンドを進化させる
[備考]
※スノーフィールドでのロールは水族館勤務の海洋学者です。
※『第八階位』のステータス及び姿を確認しました。
※『第七階位』のクラス、ステータス、宝具及び姿を確認しました。



【キャスター(笛木奏)@仮面ライダーウィザード 】
[状態] 健康、魔力消費(中・回復中)
[装備] 『詠うは白き慟哭の声(ワイズドライバー)』
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を掴み、暦を幸せにする
1.娘のために空条承太郎を利用し、聖杯戦争を勝利する
2.失われた魔力の回復に努める
3.ガンナーのような強敵とは、本体は陣地外での交戦を避ける
4.『第八階位』は……
[備考]
※承太郎の意向に関わらず自活するだけの力を得た、という発言が事実であるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


[全体備考]
※正午頃、F-6 工場地帯でガンナーが列車砲を使用し、一区画を破壊しました。


899 : ◆aptFsfXzZw :2018/01/17(水) 23:45:14 ltiECthE0
以上で投下完了です。


900 : ◆yy7mpGr1KA :2018/04/01(日) 23:18:48 LZB6iyvM0
>>英雄と蛇、邂逅
タイトルにあるようにアルケイデスと蛇の物語ですね
アカシャの蛇、続けて蛇の如き為政者との言の刃でのやり取りお見事です
シエルに対するアルケイデスの反応はいかにと思いきや、神に仕えるシスターと神殺しでなく、子殺しの外道と復讐者として向き合う
アルケイデスの中に残った英雄らしさに感じ入りました
しかしマスターを気遣いながらも復讐を勧める姿に決定的な違いも描かれていて、イリヤとヘラクレスの数奇な繋がりに胸が詰まります

そしてここまでの描写が介入するマヒロの魅力を増させてますね
シエルに凄み、イリヤも恐れたアルケイデスに一歩も引かない胆力は魔力的にへっぽことは思えない
心伝心の術(でいいのかな)や令呪を用いたパフォーマンスからの起爆札の仕込みブラフとか
真名を伏せるより明かした方が何しでかすか分からなくなる卑劣様マジ卑劣

>>止まる『世界』、回る運命
ザ・ワールド、オレだけの時間……じゃない、だと……!?
こともあろうにこの止まった時の世界に入門してくるとは……おのれディケイド!時間操作に耐性のある単独顕現持ちだけある
ディケイドの始まりもそうですが、世界を救う≒時間を前に進める仮面ライダーであるもやしが止まった時の中にいるというのはなんとも不穏
ページをめくって一方そのころ、銃の精霊と精霊使い遭遇
近現代の戦人の大半は知り合いかこの神様
ダディやシオンのことも知ってたりするのかな
型月の神霊に引けを足らない気ままさ、尊大さとそれに見合うマックルの能力、実力が伝わってきます
特に第六階位の主従との激突、御見事
スタプラのラッシュが直撃しても涼しい顔、千里眼による時間停止の先読みや笛木の居所を見抜くスペック
スタプラをケツァ姐の類縁、天界の領域など評する知識
承太郎と笛木でも容易にはいなせない銃撃の威力とバリエーションなど戦神の凄味がこれでもかと詰まっていて素晴らしい
ここの承太郎の心描写好きです、心に後味のよくねーものを残さないようにする。失くした青さに縋る強くも弱くもなった戦士の行く末に期待
分身越しにその全てを掌の上といわんばかりの笛木もいいキャラというか立ち位置しておる
六部の承太郎が水族館に「帰って」いくのは……脱獄フラグと信じたい
そしてまたページをめくってみると、死神連れた白い少女のウワサが
世界の破壊者とジョーカーの遭遇、アカンやつやこれ
タタリのおじさんといい、ペイルライダーに負けてはならんとばかりにやばくなっていくスノーフィールドから目が離せない



巴マミ&ケイローン、御坂美琴&フランちゃん、天樹錬&アンク、ズェピア&口裂け女予約します


901 : ◆yy7mpGr1KA :2018/04/08(日) 21:04:38 yMKKy.OY0
延長お願いします


902 : ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:36:09 F6aZ8Sck0
投下します


903 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:37:37 F6aZ8Sck0

◇ ◇ ◇





アラもう聞いた?誰から聞いた?
口裂け女のそのウワサ
血のように真っ赤なコートと真っ赤な車、お洒落にキメたお嬢さん!
3のつく時に3のつく場所であなたのことを待ってます
でもでもご注意、オンナゴコロと秋の空。お嬢さんのご機嫌損ねちゃったらあなたもお洒落にされちゃうってスノーフィールドの人の間ではもっぱらのウワサ!
ワタシ、キレイ?








アラもう聞いた?誰から聞いた?
死神連れた白い少女のそのウワサ
綺麗なおべべの女の子とその友達のこわーい死神
最近はトランプ遊びに夢中になって一緒に遊ぶ友達を募集中!
でも子供って勝手よね。そのお友達も結局いつかはお腹をちょきちょき、赤ずきんの狼みたいに切り開いて中のトランプを持ってっちゃうってスノーフィールドの人の間ではもっぱらのウワサ!
ページヲトジテサヨナラネ!





◇ ◇ ◇


904 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:38:10 F6aZ8Sck0


「ゴシップ好きはどこも一緒かあ」

中等部に併設された学食、というよりはカフェテラスや休憩室といったスペースで御坂美琴は独りごちる。
彼女が使っているのはどこにでもあるような情報端末に学園内の共有ネットワークにすぎない。だがムーンセル内に電子情報で構成されたSE.RA.PHという環境で、科学の町学園都市で3本の指に入る電子能力者が用いればそれはアカシックレコードに繋がるようにあらゆる情報を手にできるツールとなりえる。
それを利用して得られた情報が眉唾な噂では溜息も出ようというもの。
だがあらゆる情報を得られる、といっても使い手が人の域を出ない以上制限は自然と課されるものだ。
無作為なネットサーフィンで有意義な情報を得るのが困難であるように、ただ電子の海を漂っても成果は薄い。
明確なターゲットが無いなりに漁るとなると、もうすでに何度も確認したSE.RA.PHへのアクセス履歴が学生寮から確認できることと雲を掴むような風評くらい。
……無力感は強まるばかり。

「あー、ダメダメ。焦るな私」

注文した紅茶を一気に呷り――思ったより熱くてむせた――思考を切り替える。
無理をしてここで倒れるのは犬死だ。今は抗わなければならない。

学園の関係者にマスターがいる可能性が高い、とは思う。
だが当然最低限のセキュリティは配備したのだろうし、個別のでなく今の美琴同様に共有ネットワークを用いているせいで詳細な居場所はとんと分からない。
だがバーサーカーの振る舞いを察するに近くにサーヴァントの気配はないらしく、全く相手の見当がつかないのだ。
相手は気配遮断などの技能を保持している?単に登校していないだけ?もしかして寮の回線を利用しただけの部外者?
様々な仮説が走り廻る。
そして仮説に関係なくついて回る懸念がある。
自分が気付いたのだから相手の方もこちらのアクセス履歴に気付く可能性は高い。そしてバーサーカーに気配遮断なんて便利な技能はない。
回線は学園のもので個人の特定はできないようにしているが、それでも近くにいれば一方的に察知される危険がある。
くるなら来い、という戦意がある。不利な戦闘は避けたい、という判断もある。それらは合わさり、敵の姿が見えない焦燥になる。
焦りながらも最近嫌というほど噛みしめている無力感に抗うように電子の海から情報を掬い上げる。
集まってくるのは最近できた年下の友人が好みそうな都市伝説紛いの奇妙な噂。

「……でもやっぱり不自然、よね」

『口裂け女』は日本人の美琴にとっても、一昔前に流行った今更感のあるうわさ話だ。
それが入念に作りこまれたアメリカの都市に広まるというのはミスマッチがすぎる。
だが過去の英霊が召喚される戦争、というシチュエーションにならば合致するとも思える。

「今はとりあえずここからかな」

いつから広まったのか。
誰から言い出したのか。
どこから発生したのか。
警察の捜査記録やレスキューへの通報履歴などに侵入することも視野に入れて。
電子の世界で敵のしっぽを探し始めた。




◇ ◇ ◇


905 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:38:38 F6aZ8Sck0

「え?三時限目休講なの?」
「そだよー。マミ、今朝掲示板見てこなかったの?」

周りのクラスメイトが次の授業の準備をしていないのを奇妙に思って問うてみると思いもしない答えが返ってきてマミを驚かせる。

「ハイトマン先生、どうされたのかしら。先日はお元気そうだったのに」
「さあ?風邪でもひいたんじゃない」
「ハイトマン?噂だけど、最近話題のアレらしいよ。口裂け女」

新たに会話に入ってきた少女から語られた情報がまたマミを驚かせる。
口裂け女、昨晩マミとアーチャーが取り逃がしてしまったスノーフィールドに潜む脅威。
身近なところに被害者が出てしまったことにマミの裡に悔しさが灯る。
守れなかった。
魔女を取り逃がしたことも、そのせいで被害者が出てしまったこともあるが、幾度経験しても後悔の味はあまりに苦い。

「……マミ、そんなに気になるなら放課後お見舞いに行く?スノーフィールド中央病院に運ばれたらしいから行くなら私も付き合うわよ」

マミの表情に浮かんだ感情を教師への心配と捉えた少女は見舞いに行くことを提案した。
もしこれがただのケガだとしたらマミとて見舞いに行くこともしただろう。
だがこの事件はいわゆる普通のものではない可能性が高く、そして彼女にはそれを解決できる能力がある。
被害者を気遣うのも大切だが、元を断つ方がより肝要……
そう考えて断りを入れようとするが

『マスター』

アーチャー、ケイローンの念話が静かに割って入った。

『探索を優先する、というのも誤りではありません。ですが被害者から何らかの情報が得られる可能性もあります。選択肢から排除するのは早計かと』

あまり会話を遮らないように最低限のセンテンスで。
耳に馴染んだ日本語がマミの心を落ち着ける。
ふ、と小さく息をついて

「少し、やることができるかもしれないの。返事は放課後まで待ってもらえないかしら?」
「そ。まあ別に今日急いでいかなくても明日以降でもいいしね」

ひとまずは放課後の予定は空けておくことにして、突発的に空いた時間を活用するために教室を後にしようとする。

「あ、マミ。ハイトマンもいいけどさ、この後一緒に課題やらない?生物のやつ」

もう一人のクラスメイトがそれを呼び止めた。
よくある勉強の誘い。ただ……

「私、生物は選択してないのだけど」
「あっれーそうだっけ?じゃあ4限もないからもう昼休みか、いいなあ。
 や、でも放課後ちょっとだけ付き合ってくれない?今水族館に日本から博士がいらしてるらしいのよ。うちの先生も専門のヒトデ研究で有名な。同郷のよしみでマミが一緒なら話しやすくなるかもしれないし、ね?お願い」

両手を合わせて、片眼を閉じて。
ありふれた日常の光景は、魔法少女という非日常に飛び込んでから見る機会がなくなって久しい。
放課後に友達と過ごすだけの日々を送れればどれだけいいか。
それでも

「ごめんなさい。さっきも言ったけど忙しくなるかもしれないから約束はできないわ」
「むぅ、残念」

他の留学生あたりにダメもとで声かけてみるかなー、とぼやくクラスメイトに改めて一顧して教室を出る準備を進めるマミ。
逃げ出すつもりはない。
魔女相手に一人でもそうしてきた。
そして今は隣に友ではなくとも頼れる仲間がいるのだから。

『アーチャー』
『はい』
『御坂さん、どこにいるか分かる?お昼の約束くらいは取り付けたいのだけど』

マミからの問いに少しだが沈黙が下りる。
もちろんサーヴァントの気配は今朝から追い続けていたが、それが万に一つも間違いのないものだと己の中で納得ができたところで、アーチャーは居場所を告げた。

『三号館の食堂。少なくともそこに今朝彼女と一緒にいたサーヴァントの気配はあります。マスターもいると断言はしかねますが、学内で長時間別行動をとることは考えにくいでしょうね』
『学食?教室じゃないのね』

それなら、と鞄の中から魔法瓶を取り出して足早に三号館へと向かう。
授業が始まる前に接触できなければ話す機会を逸してしまうかもしれない。
放課後に口裂け女の僅かな手掛かりを追うことも考える以上、時間は有効に使わねば。
廊下や階段を走るのはいかがなものか、などと平時であれば言うであろうケイローンもさすがに押し黙りマミに続く。


906 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:39:21 F6aZ8Sck0

魔法少女の健脚も幸いして始業のチャイムが鳴る前に目的地にたどり着くことはできた。
もう授業開始間近だからか、食堂内の生徒は一人だけ。
その生徒、御坂美琴がたった今入ってきたばかりの巴マミに気付いて視線をやる。
目が合ったのにマミの方も気付くと、笑みを浮かべて近づいていく。

「こんにちは、朝以来ね。授業が近いけれど、時間は大丈夫なの?」
「ええ、こんにちは。三限は選択していないの。そういうあなたは?」
「私はハイトマン先生が休講で」

話しながらここいいかしら、と美琴の正面の席へ。
そして返事を待たずに魔法瓶と紅茶の準備を進めていくマミ。

「…いいけど」

少しの沈黙の間に美琴の視線が各所に走った。
誰一人いない周囲の空席。
マミの持ち込んだ上等そうな紅茶。
蜂蜜を思わせる金髪。
同じ国籍の同じ年代とは思えない豊満な肢体。というか局所。
いけ好かない同窓生を思い出すが、さすがにそんな理由で素気無い態度はとらない。

「ところでハイトマンが休講ってホント?」
「ええ、伝聞だけど」
「そっか。じゃ私四限も休みかぁ」
「そうなの?じゃあしばらく一緒出来るわね。お茶、あなたもいかが?」
「ありがと。一応あるから大丈夫、よ」

美琴の手の中ででだいぶ冷めてしまった紅茶を示す。
これで同席を続けるのはどうかと思わなくもないが、そこまで気を遣う余裕も今の美琴にはない。
それでも相手に向かい合うくらいの人間性はまだ保っており、ウワサを探っていた端末をテーブルに置く。

「御坂さん、調べものの最中だったかしら?課題か何か?」

生徒である以上課題に追われているというのはよくあることだ。
マミもクラスメイトからそういう話題を振られたので、てっきりそうかと思った。
だから何ということもなくイエスと返答すると思ったのだが。
話しを振られた美琴は少し逡巡してこう答えた。

「いえ。その、今噂の口裂け女について、ちょっとね」

口裂け女。
まさか相手の方からその単語が出るとは思っていなかったマミの胸中で驚きと警戒が強まる。
どうやって聖杯戦争の話題にしようか。まさか単刀直入に?こんな時キュウべぇの唐突さが少しだけ羨ましい。
そんな風に悩んでいたが、相手から口にするとは。
まさか、むこうもこちらに探りを入れている?
それとも、聖杯戦争に関わると考えて調べているだけ?
いずれにしても関係のない雑談で回りくどく話すのは終わりにしよう、と意識を切り替える。

「口裂け女?ハイトマン先生も被害にあったらしいのだけど……何か分かった?」
「んー…誰が言い出したことなのかはやっぱり知りたいんだけど。
 だって変でしょ、アメリカで口裂け女の噂が広まるなんて。『死神を連れた白い少女』のウワサなんてのも広まり始めてるけど、それはまだわかるのよ。普遍的というか、元型にも通じるものありそうだし。
 でも口裂け女なんてマイナーな日本の都市伝説が話題になるなんて…ねえ?絶対だれか火付け役がいなきゃおかしいもの」

敵の正体は口裂け女だ、と誰かが喧伝しているのか。それともまさかとは思うが我は口裂け女なり、と名乗りを上げているのか。
いずれにせよ、噂が人の口の端に上りつづけるように苦心しているストレンジャーがその先にはいるはずだと。
口裂け女という名を上げるだけでは駄目だ。その名が忘れられないよう、こまめに話題にし続ける必要があっただろう。
ネットの海に情報を流し続けたか。メディアを介して幾度も発信を行ったか。その痕跡を探っていたのだが

「気になるならまだ調べる?」

マミの態度は具体的な情報を求めているようで、何度も端末と美琴の間で視線を行き来させる。
美琴としても会話に花を咲かせるよりもそちらを調べたいと思うので、相手が許すならこれ幸いと端末を改めて起動させた。


907 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:40:03 F6aZ8Sck0

「どうかしら?」
「ちょっ、覗くなら一言くらい……!」

テーブルから身を乗り出して画面を覗きこむマミに軽い苦言。
端末に見られて困るようなものはないが、能力を行使しているのを人に見られるのは避けねばならない。
その動揺で操作を誤った。
リンクを踏んで、飛ばされたのはシンプルな個人の作ったらしきホームページ。

「これが重要な情報源?」
「…いや、たぶん違う。一応口裂け女関連ではあるみたいだけど……」

トップの画像は、イメージした口裂け女だろうか。
大きなマスクで顔の下半分を覆った女性の画像と、大きく書かれた私綺麗?に、それからYesとNoのリンク。
できはさておき、こういうサイトは求めていないとブラウザバックしようとする。
だが、勝手にページの読み込みが始まってしまう。
どうやらアクセスして数秒でリンク先に移動してしまうタイプのところらしい。
美琴は煩わしい作りにしてくれた、と内心苛立ち


耳まで裂けた口。
血で赤く汚れた顔。
『口裂け女』の画像が画面いっぱいに大きく表示された。

それを見たマミと美琴の顔から血の気が引く。
仮にも現代を生きる少女たちだ。画像に手を加える技術のことも、メイクによって異形の容貌を作れることも知っている。
だが、これは違う。
本物というのは人の心を打つ。
それが正であれ負であれ、絵画や写真を通じてもその存在感を完全には失わないものというものはあるのだ。
この口裂け女の風貌がそれだ。魔女という人外の異形に馴染んだマミも、学園都市という人の闇を知らしめられた美琴も平静ではいられない。
ページの下に書かれたこれでも?という文言も。
添えるように描かれたトランプのハートの3も目に入らず、二人は一時放心した。




キーン、コーン、カーン……
と始業のチャイムが遠くで聞こえた。三時限目が始まったらしい。
それが耳に入ってはっとしたように二人とも現実に戻る。
だがさらにもう一人

「ヴゥゥ……ウウゥゥリィィィ!!」
「え、バーサーカー!?」

バーサーカーのサーヴァント、フランケンシュタインが叫びを上げて実体化する。
それに即座に続いたのは同じサーヴァントのケイローンだ。
同様に実体化するとマミを抱えて距離をとる。

だがマスター二人はそれについていけない。
口裂け女の貌を見たショックからの回帰を完全に終えないままに、マミは突如実体化した二騎に、美琴はそれに加えて埒外の存在であるアーチャーを目にした驚愕の渦に呑まれる。

ニ騎のサーヴァントは互いに睨み合って……いない。どちらも視線は窓の向こうへ。
そこからもう一人分の声が現れる。


908 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:40:46 F6aZ8Sck0



「ねえ」



静かな声だ。それでもなぜか、よく通る。
美声、などというものではない。恐らく最も近い現象はコーン・オブ・サイレンス。



「私」



霊体化によって建築物を透過し、獲物を見据えて像を結ぶ。



「綺麗?」



赤いコートに顔を覆う大きなマスク。
その姿はまさに美琴とマミがアクセスしてしまったホームページの画像のものとそっくりだった。
『口裂け女』がそこにいた。

濁った獣のような眼がギロリと美琴を睨んだ。
美琴の喉から小さく息を飲む音がする。
意図したものではない。
ホームページ作成者の悪意に満ちた仕掛けだ。
それでも。
美琴は端末を通じて口裂け女の綺麗かという問いに、イエスと回答してしまっている。
ゆえに。



「これでも?」



口裂け女がマスクを捨てる。露わになるのは画像で見た通りの醜く悍ましい異貌のもの。
どこからともなく現れた斧を右手で振り上げ、美琴へと襲い掛かる――――!

「ヴゥゥ!!」

それをもう一人の怪物が迎え撃つ。
振り下された口裂け女の斧は、フランケンシュタインのメイスへと打ち据えられた。
白雪姫の母は鏡に問う。怪物(くちさけおんな)の威圧を怪物(フランケンシュタイン)は狂気により捻じ伏せる。
虚ろなる生者の嘆き。怪物(フランケンシュタイン)の絶叫はもとより思考のない怪物(くちさけおんな)には無意味。
英雄の決闘のような美しいものではない、怪物同士の殺し合い。
ぶつかり合った得物で鍔迫り合いを続ける二騎に駆け引きや戦略などと言ったものはない。
登場人物が二人だけならばこの力比べの決着まで勝負に水入りはなかっただろうが、そうはいかない。


909 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:41:21 F6aZ8Sck0

矢が放たれ、場の空気をかき乱す。
矢の主はもう一人のサーヴァント、ケイローンだ。怪物たちのスキルと宝具の影響か、僅かに出遅れはするもその戦略眼に誤りはなし。
一矢と言わず次々と矢を放つが、その標的はどちらのサーヴァントでも、ましてや美琴でもない。

空を駆けた矢は壁に紋様を描くように突き刺さる。
外れた?否、外したのだ。
矢によって陣を描くことに意味がある。

「   」

そしてケイローンの口から何らかの言葉……現代人では発音はおろか聞き取ることも叶わない、しかし脳に訴えかけてくるような呪文。
スキル、神授の智慧によって『高速神言』を唱える。
ケイローンに魔術に秀でたという逸話はないが、凡百の魔術師と彼では生きた時代が違う。
文明国が識字率に優れるように、神代に生きた神霊の識魔術率となれば現代とは比べ物にならない。
根源接続や魔法など容易くこなすメイジに比べれば、今こうして魔法陣と詠唱を媒介に『人払い』の魔術を発動したケイローンなど魔術師の端くれとも言えたものではなかろう。

ともあれ人払いには成功。騒ぎを聞きつけた誰かが訪れることは相手が魔術師でもなければ、まずない。
これで監督役にとやかく言われることはないだろう、と確信したところでケイローンは改めて弓を引く。
狙い定めるは口裂け女。
万一にも御坂美琴のサーヴァントに当ててはまずいと考えて一矢のみ番える。
そして離れ。
鍔迫り合う口裂け女の頭部霊核へまっすぐに矢が向かう。
当たる、と思われた瞬間。
口裂け女は姿を消した。

矢は空を切り、競り合っていたフランケンシュタインもたたらを踏む。
霊体化したわけではない。そんな手段ではケイローンの矢も、フランケンシュタインの宝具も躱せない。
完全に消えた。
その行方を皆が疑問に思い始めた次の瞬間。



「こォォォォォォォれェェェェェェェでェェェェェェもォォォォォォ!!」



三時限目(3のつくとき)、三号館(3のつくばしょ)に口裂け女は自分に悪口を(きれいだと)言ったものを殺しに現れる。
消えたはずの口裂け女が突如として御坂美琴の背後に現れ、斧を振りかぶっていた。

フランケンシュタインの反応は早い。しかしそれでも凶器を振り下すだけで事の済む口裂け女に立ち塞がれるような理不尽な速さや能力を彼女は持ち合わせてはいない。
美琴の反応も遅くはない。電磁波を感知し、固体の識別もできる超一流の電気使い(エレクトロマスター)は背後からの不意打ちも看破する。
しかし気付くことと、対処できることは別の話だ。
放電による迎撃も、磁力により刃物を奪うことも、サーヴァント相手には通用せず。、
後手では空間を飛翔した口裂け女に及ばず。

ならば一手読み、先んじた者ならば。
ケイローンの腕が伸び、口裂け女の後ろからその手を掴んで止めていた。
高位の千里眼と心眼(真)の複合により彼は未来を看破する。
敵の手の内は分からずとも、肉食獣のような眼で狙いはわかる。
消えたならば、いずれいずこかに現れよう。狙いは?有効な一撃とは?
それさえ分かれば迎撃は容易い。

凶器による襲撃を、敵の腕を『掴んで』止めた。
掴んだら、壊せ。常々ケイローンが弟子に言い含めていることであり、当然彼もその教えに忠実だ。
神授の智慧まで行使して筋力を向上させ、腕に力を籠める。


910 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:42:07 F6aZ8Sck0

ぼきり、と。
枯れ枝を握りつぶすような音が口裂け女の腕から鳴った。
ただでさえいびつな口裂け女の表情がさらに歪む。
さらに裂けた口から悲鳴が……上がる間もなくケイローンはさらなる追撃。
だらりと力なく垂れた腕を引き、華麗に口裂け女を投げ飛ばした。
口裂け女の体が綺麗に弧を描き、床に叩きつけられる。
今に伝わる武術と比較してあまりにも殺意に溢れた一撃。現代のオリンピアで披露すれば反則負けは免れまい。
受け身をとり背中から着地するなど許さない姿勢、急所に最も負荷がかかるようまっしぐらに顔面から地面に叩きつける。
頭蓋、首、脊柱を諸共に壊す殺戮技巧が一たび掴まれれば襲い掛かる、恐るべきはパンクラチオン。
だが

(いや…浅いッ!)

投げたケイローンには分かっていた。
顔を叩きつけ、鼻や歯の数本はへし折っただろうが、首などの致命には至っていない。
霊核の破壊でなければ、サーヴァントの動きを止めることは敵わない。
追撃を――――

(ぐっ!)

先に試みたのは口裂け女だった。
折れた腕を利用して関節など無視した攻撃、掌に自ら突き立てた医療用のメスが爪のようにケイローンの腕を傷つける。
人型の範囲を超え、自身への苦痛と反動を完全に無視した攻撃はケイローンが達人であるがゆえに慮外のものだった。
そして僅かとはいえ筋肉が損傷すれば力が緩むのは形ある生命ならば必然。
ほんの少し力が減退した瞬間に口裂け女は怪力スキルで筋力をケイローンに比肩させ、無理矢理につかまれた腕を引きはがす。

仕切り直し、というほどのものではない。
互いに次の一撃のために投げられ、投げた姿勢から態勢を整える。
当然のようにケイローンが早い。
だが口裂け女もそれは予期していたのだろうか。
僅かに、拳も蹴りも届かない間合いから外れた位置に口裂け女はいた。
武術の心得もない口裂け女が、投げられた姿勢からそんなに速く動けるのか?
答えは彼女の飛翔スキル。
地面を蹴る必要もなく、這うこともなく、魔力放出も翼もなく宙を翔け距離をとりつつ即座にまっすぐ向き合った。
ケイローンのパンクラチオンから生還したのもこのスキルの賜物だ。
通常投げ技にかかった者は技のかけ手以外に寄る辺がない。
そしてケイローンほどの達人となれば空中での反撃など許すはずもない。
だが、口裂け女は空を飛ぶ。
足場などなくとも、空中で投げられながらでもその速度を殺すように抗うことができるのだ。
投げを無効はできずとも命さえあれば反撃の機会は訪れる。
折れた腕にはメスを編み出した。無事な方の手には今度は丈の長い日本刀を握っている。

クイックドロウだ。
口裂け女は長い間合いを活かしケイローンの射程外から日本刀で突きかかった。
躱しきれる態勢をケイローンはとれていない。
選んだのは後の先。
ケイローンの手中に一本の矢が握られる。

だが弓術とは構え、狙い、絞り、放つの四動作を必要とする。
刀による刺突に初動で送れ、後の先はとれはしない。
ならば、と。
弓など不要。矢など刺さればそれでよい。戦場ではよくあることだろう。
己の体を弦として、握った矢をそのまま突き出した。
匕首のように真っすぐな軌道で、口裂け女の心臓目がけて矢を握る腕が伸びる。
素人の口裂け女と武の達人ケイローンでは踏み込みの速さが違う。
刀を握る手が伸び切るよりも速く、ケイローンの矢は標的に届いた。


911 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:43:02 F6aZ8Sck0

が、刺さらず。
口裂け女の胸を矢が貫くことはなく、逆に矢の方が折れてしまう。
接地点を間違えたなどということはない。確かに鏃が肉に触れた。
それでもケイローンの一矢は口裂け女の守りに敗れた。

口裂け女の宝具の一つ、『末妹不成功譚〜この灰かぶりは小鳥に出会わない〜(ポマード、ポマード、ポマード)』。
口裂け女がケイローンの矢をその身で受けるのはこれで三度目だ。
三度目の正直ならぬ、三度目の失態を彼女は万物に振りまく。

後の先は防いだ。
今度は口裂け女の刃が脅威となる。
だが何の変哲もない平突き程度、ケイローンに傷つける能わず。
捩りを加えた腕で刀の側面に触れて体の外側に刃を受け流す。
そして折れた矢を放し、同時に肘を曲げつつ大きく踏み込み、エルボーを口裂け女の胸に突き刺す。
あばらを砕き、その奥の心臓まで抉りかねない一撃だが、これもまた口裂け女は空を舞い、衝撃を逃がしてかろうじて生き延びる。

「ウゥーーーーーーーーー!!」

雄叫び。
距離ができた瞬間にフランケンシュタインが口裂け女に殴りかかった。
口裂け女はそれを上方に飛んで躱す。
大きく距離が空いた。
跳べば容易く届く距離、しかし自在に宙を舞う術のない者が不用意に踏み込むには空中というのはあまりに危険な世界だ。
それでも弓矢の届く距離―ケイローンの射程―からは逃れていない。
だが彼は今一つの怖れを覚えていた。

矢が、刺さらなかった。
それほどに硬い肉体?いいや、ケイローンの格闘で砕け散る脆いものだ。
ならばこの怪物は矢が刺さらない?昨晩は確かに刺さったのに?

(まさか…成長し、耐性を得たか)

これに似たものをケイローンは知っている。
そしてそれが途轍もなく強大な存在であることを。
『十二の試練(ゴッド・ハンド)』。ケイローンの弟子、ヘラクレスの持つ宝具。
矮小な攻撃は無視し、仮に命を奪うほど強力な攻撃をしようとも蘇り、耐性を獲得する。
例えば一度ケイローンの矢で殺めれば、もう二度と彼を同じ手段で殺すことはできない。
もちろん、それを口裂け女ごときが持っているとは思わない。
だがこのサーヴァントは矢を無効化した。同質の何かを持っている可能性は否めない。

(あるいは、これが狙いで殺人を繰り返しているのか?)

思えば昨晩容易く仕留めたサーヴァントとは思えないほどにこの怪物はしぶとくなっている。
強くなっているのだ。
その原因として一つ思い当たる。
口裂け女はウワサとして広まっている……知名度を増している。
知名度によってサーヴァントはより生前へと近づき、そして再現できる宝具などの数も変わるという。
時間が経つほどに。
あるいは命を落とすたびに。
このサーヴァントは強くなるのではないか。

早期に殺さねばならない。だが、下手に殺すのもマズいかもしれない。
射るか、否か。
僅かに煩悶するうちに――――

「ワ、タ、シ、ワ、タ、シ……」

口裂け女は戦場に背を向けた。
武器は捨てて、逆にマスクはつけて戦略的でも何でもない逃亡。

背中を射抜くか……いや、効いたとしても恐らく昨晩同様殺しきれない。
追いすがり、四肢を砕くか……いや、下手にこの場を離れることはできない。

残されたのは四人。
巴マミとケイローン。
それに不審な目を向ける御坂美琴とフランケンシュタイン。
戦場で、現時点では友好と言い切れないマスターとサーヴァント相手に自らのマスターを隙だらけで放ることはできない。

「どうか、戦意をお収めください」

そう言いながらケイローンは武装を解き、マミへちらりと目線をやる。
すると意図を察したかマミも頷き

「御坂さん、私たちにあなたたちと争うつもりはないわ。どうか話をさせてくれない?」


912 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:43:54 F6aZ8Sck0

【D-5 中学校/1日目 午前】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(微小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:魔法少女として誰かを守れるように在りたい。
1.御坂美琴と話したい。
2.口裂け女は放っておけない。
[備考]
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。
※『第十一階位』のステータス及び姿を確認しました。


【アーチャー(ケイローン)@Fate/Apocrypha】
[状態]ダメージ(微小)
[装備]弓矢
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの力となる。
1.マスターの意思を尊重し、それが損なわれないよう全霊を尽くす。
2.口裂け女への警戒。知名度の上昇、あるいは多くの耐性を獲得する前に仕留めたほうがよい。
[備考]
※御坂美琴とそのサーヴァントの気配を感知しました。
※口裂け女について一定の情報を得ています。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]若干の精神不安定
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]バッグ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:最後まで生き残り帰還する。聖杯により妹たちを救う?
0.私は本当に人を殺せる……?
1.巴マミへの対応
[備考]
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。またホームページ上で彼女を綺麗だと回答させられました。
※『第四階位』のステータス及び姿を確認しました。

【バーサーカー(フランケンシュタイン)@Fate/Apocrypha】
[状態]魔力消費(微小)
[装備]乙女の貞節(ブライダルチェスト)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:……
1.マスターに従う
[備考]


913 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:44:29 F6aZ8Sck0

◇ ◇ ◇


怪物に顧みる知性などない。
逃げると定まれば逃げるのみ。
だから口裂け女は一目散に全速で空を飛び、戦場から離れようとする。
――――それが、新たな戦士の逆鱗に触れるなど思いもよらず。

「王(オレ)の空(くに)に土足で踏み込むとはいい度胸だな」

口裂け女の背中を袈裟切りにするように、熱と痛みが駆け抜けた。
それは猛禽の鉤爪。それは欲望の炎。
空の王にして暗殺者のサーヴァント、アンクによる奇襲。
如何に口裂け女が愚昧の上に負傷していると言えど、初撃を容易く成功させるのはアサシンの面目躍如といったところか。

攻撃を受けたことでようやく新たな敵の存在に気付き、そちらへ口裂け女が振り向いた。
大きな一対の翼に、猛禽類を思わせる鋭い爪と眼光。真っ赤な怪人が目に映る。
赤いコートの怪人と、赤い翼の怪人が空中で向き合う。
そう、空中でだ。
アンクにはそれが許せない。

翼のある鳥ならば。あるいは成り損ないとはいえ鳥である恐竜ならば。
翼あるものとして、空の風景の一部として認めよう。
人が懸命に足掻き、鋼の翼を纏っているのを見下ろすのも愉悦を覚える。
虫が小さな羽を震わせて鳥の王国に迷い込むなら、王とその民の餌として歓迎しよう。

だがこともあろうにこの女は、翼もなく我が物顔で空を翔るなどという真似を、王の眼前で!
王が罪人を目にした。
それは同時に狩人が手負いの獲物を見つけたということも意味する。
腕を折り、胸骨の抉れた弱小サーヴァントを見逃す道理などなく、斯様な不敬を王が許すはずもなく。
かくして口裂け女はさらなる闘争を余儀なくされる。

「私、綺麗?」
「あァ?」

そしてどんな状況であっても口裂け女は変わらない。
マスクで顔を隠しながらも、『承認欲求〜白雪姫の母は鏡に問う〜(ワタシキレイ?)』と、口にし続ける。
怪物(かがみ)に答えなど期待はしないが、それでも彼女は問うし、彼は答えた。

「薄汚い虫けらが。一丁前に美意識なんざ振りかざしてんじゃねえよ」

答えはノー。
回答と同時に爪でなぎ、顔を抉ることでマスクも千切れて口裂け女の素顔があらわになる。
見る者に畏怖を覚えさせる、宝具の一部にまでなった醜い容貌。
だが、それはアンクに対して意味をなさなかった。
怪人など見飽きている、というのも理由の一つだが。
なにより彼はグリードだ。
欲望に囚われた異常な精神構造は軟な干渉など受け付けはしない。
そして……感覚を喪失し色褪せた視界では、口裂け女の貌の美醜を正確にとらえることはできなかった。

持たざるゆえの哀しき強みがアンクを一方的な捕食者とし続ける。
顔に一撃入れて視界を奪うと即座にアンクは翼を振るわせ空を翔る。
反撃のできないであろう、折れた腕のある口裂け女の右側へと旋回して回り込んだ。
眼は見えずとも、耳は機能し、サーヴァントとしての知覚もできるため空を切る音と気配を頼りに口裂け女もそちらを向く。
だが機動力が違いすぎる。
速さが自慢といえど、幻霊に近しい都市伝説が空中で鳥の王に勝るはずもない。
口裂け女の体が正面を向いた瞬間、アンクは霊体化と急降下で完全に姿を晦まし、攻撃態勢に入ったことで減衰した気配遮断を十全に取り戻す。

消えた、と口裂け女の意識が切れた瞬間に

ずぶり

と濡れた肉に硬い何かが食い込む音。
口裂け女の目の前にアンクがいて、その腕が胸を貫いている。
鷹の眼は見抜いていた。胸骨が砕け、防備の薄くなった心臓を。雌だけあって多少脂肪が集まってはいるが、軌道を誤るほどではない。
着地して、地を蹴り、翼で加速。
攻撃態勢に入ったことで気配遮断のランクは再び低下しはしたが、反応される前に仕留めればよい。


914 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:45:14 F6aZ8Sck0

手刀は的確に心臓を射抜いた。もはや生きるすべはない。
だが

「ワ、タ、シ…ワ、タ、シ、ワ……キレイィィィィィィィィィィィ!!!」

まだ、死なない。
口裂け女の保有する単独行動のスキルは高ランクになれば魂に致命的損傷を受けても短期間ならば生存できる。
貫かれた腕を損傷した胸の筋肉と折れた肋骨で挟み込んで逃がさない。
口裂け女は「私、綺麗?」という問いに対して明確な答えを返したものと戦闘を行う場合、Cランク相当のスキル:加虐体質を獲得し、追撃時に攻撃判定を3度追加できる。
振り返った。捕らえた。ならばあとは刺し殺すのみ。
口裂け女の左手に包丁が生み出される。
振りかぶって―――

「うるせえぞ」

アンクの腕が燃えた。
その熱が余さず口裂け女の体内を焦がし、血液を沸騰させ黒焦げになった体を破裂させる。
死体に鞭うつ、どころではない追い打ちで、これでは高ランクの単独行動もかたなしだ。

かろうじて、追撃の判定には成功したらしい。
焦げた腕で振るわれた包丁はアンクに届き、セルメダルを一枚落とさせることには成功した。
その功績を最期に残して、口裂け女は光の粒子となって消えた。

「無駄な真似しやがって」

アンクの口から舌打ちが一つ漏れる。
セルも回収に行こうかとするが、校舎に転がり込んでしまった。
霊体化したままでは回収できず、万一実体化して食堂にいるマスターの眼に入っては人の姿をとっていてもステータスでバレてしまうだろう。
せっかく潜伏しているのにそんな間抜けな真似は避けたい。

『おい錬。片づけたが、セルメダル一つ落としちまった。あとで回収しとけ』
『あーはいはい。一応授業中だから、後でね。そっちこそ聖杯符の回収忘れないでよ?』

この戦いはただ殺し合うだけではない。
聖杯符というトロフィーを規定数集めなければならないのだから、敵を倒したところでそれを得なければ骨折り損だ。
だからこそ軽口とはいえ念を押すのだが

『…………ねえぞ』
『え?』

うそでしょ、と口をついて出そうになるがそんな質の悪い冗談をいうような相手じゃないのは短い付き合いでも分かっている。
第三階位(カテゴリースリー)がアンクの腕の中で消えていくをの錬もパスを介して見ていた。

(仮説一、サーヴァントじゃない偽物。だとしたらムーンセルから与えられたステータスの確認という権限すら誤魔化す、介入しているということ。さらに言うなら低級とはいえサーヴァント級のものを捨て駒にできるということ。
 仮説ニ、至って単純。第三階位は生きている)

どちらもあまり信じたくはないが……

『仕留めたのは間違いない。だが、目に付く範囲に聖杯符がないのも事実だ』

アンクの胸にも嫌な感覚が芽生える。
あるべきものがそこにない……どことなく紫のヤミーを思い出させられる。
変えの効く兵隊なのか、あるいは特異な倒し方が必要なのかも想起させられた。

『仕方ない。アサシン、まだしばらくそのあたりで警戒を。授業が済んだら……合流して改めて調べものかな。今度は口裂け女と、念のため聖杯符についても』


915 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:46:12 F6aZ8Sck0

【D-5 中学校/1日目 午前】

【天樹錬@ウィザーズ・ブレイン】
[状態]I-ブレインに蓄積疲労(極小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ミスリル製サバイバルナイフ
[所持金]学生並み
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得による天使の救済。
1.暫くは情報収集に徹する。
2.マスターの少女(御坂美琴)を利用して他の陣営を引きずり出す。
3.口裂け女を倒しても聖杯符が手に入らなかったことに戸惑い。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は日系の中学生です。
※ムーンセルへの限定的なアクセスにより簡易的な情報を取得しました。現状はペナルティの危険はありません。
※御坂美琴、巴マミをマスターだと認識しました。
※『第三階位』のサーヴァントが口裂け女であることを知りました。


【アサシン(アンク)@仮面ライダーオーズ】
[状態]ダメージ(セル一枚分、極微小)
[装備]なし
[道具]欲核結晶・炎鳥(タジャドル・コアメダル)
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:王として全てを手に入れる。
1.レンに合せて他陣営を探る。今後も場合によって戦闘も視野に入れる。
[備考]


916 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:46:55 F6aZ8Sck0

◇ ◇ ◇


日が昇る。
多くの人々にとってそれは一日の始まりを意味するだろう。
だが太陽を忌避する存在にとってそれは穴蔵に籠もる時間が訪れたことを意味する。
ズェピア・エルトナム・アトラシアにとって日の出はどちらでもない。
生きた奈落と呼ばれるアトラス院一度その門をくぐった者を生涯外に出すことはない。
日に当たる生活など望むべくもなく、そしてそれに不都合はなかった。
ワラキアの夜にとって日の出は活動の停止を意味した。
当然だ、夜は明ければ終わるもの。
では死徒ズェピア・エルトナム・オベローンはどうか。
アトラスという蔵がないなら籠もる理由はない。
ワラキアの夜にあらざるがゆえ、動きを止める必要もない。

赤い外套を纏った死徒が、陽光の下を歩んでいた。
見る者が見れば何たる悪夢かと嘆く狂気の一幕。
種は何ということもない、ズェピアの纏う外套が太陽光を防ぐ概念武装であるというだけのこと。-100℃の外気だの、毒の霧や高度10000メートルなどの極地に対応するものならともかく、その程度は錬金術師ズェピアにとって大した難題ではない。
外観はアトラス院秘蔵の礼装、『赤原礼装』に近いもの。
明け方にテストも兼ねて活動し、日も高くなってきた今も問題ない。

「悪く無い出来だ。しかし演出や脚本どころか、衣装や縫製まで兼ねねばならないとは。出資者殿はこれ自体が喜劇の一幕とでもいう気かな?
 ともあれ、これで一張羅は用意した。ヒロインも広報に尽力してくれている。そろそろ本番前のゲネラルプローペと洒落こみたいものだが」

足取り軽やかに進んでいたが、ふと民家の前で足を止める。
そして呼び鈴を鳴らすこともせず、玄関へと進んでいくと

キイ

とさび付いた音を立てて扉が開かれた。
ズェピアの身に着ける外套のように赤いコートを着て、白いマスクで顔の下半分を覆った女性が出迎えたのだ。
その家へズェピアが勝手知ったる、というように上がっていく。

事実ズェピアはその家のことをよく知っている。
彼にとって情報とは奪うもの。
誰でもよかったし、どこでもよかった。
ただすれ違った少年が、この時代で使われている情報端末―パーソナルコンピュータ―と、写真を取り込む機械を持っているとエーテライトを介して知ったから。

ズェピアと少年がすれ違った数時間後、少年の家に招かれざる客が現れた。
鍵も、扉も、壁さえ意味なく、その客は気付いたら家に上がっていた。
そして家人に問うたのだ。私、綺麗?と。
数秒後、その家の生存者は0となった。

それから数分後にズェピアは家を訪れた。
我が物顔で家を闊歩し、今は亡き少年のパソコンを立ち上げる。
家の見取り図、道具の扱い、ついでのようにそのパソコンのパスワードや諸々の個人情報までエーテライトで奪い取った。
家主がいなくなった今やこの家を最も活用できるのは誰あろうズェピアである。


917 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:48:16 F6aZ8Sck0

ズェピアがパソコンを立ち上げて始めたことはホームページの作成だった。
口裂け女について、シンプルに宣伝を。
マスクをつけた口裂け女の顔写真と、外した写真。
トランプの画像の素材を適当に見繕って。
デザインは至ってシンプル。
トップにマスクをつけた顔写真と、私綺麗?の一文。スクロールした先にYESとNO。
YESの部分だけリンクにして、リンク先にはマスクを外した顔写真とこれでも?のテキスト、それからさりげなくハートの3を張り付けて。
最後にトップページにアクセスしたら直ぐにYESのリンク先に飛ぶようにして完成だ。

文字には魔術が宿る。ルーンなど典型だ。視覚一つで魔術に堕とすのもよくあること。
何より口裂け女の本質は災害染みた理不尽な憎悪にある。
写真は本人、作成には口裂け女も介在したこれは新たな都市伝説、呪いのホームページの一端を担えるだろう。

「批評家の言葉に耳を傾けるのも時には一興。お待ちしているよ」

公開したホームページのリンクをSNSなどに張り付け。
そして口裂け女の連続殺人について情報を求めている、警察のもとにもリークする。

「ふむ、これはもしや炎上商法というものになるのか?些か好みから外れはするが、まあよかろう。剣闘士然り、公開処刑然り、民の娯楽に血は欠かせまい」

開設してすぐ、リンクが踏まれたらしい。
口裂け女の怒りが募っていくのを感じる。

「……いる。もしや釣れたか?二番思考、ライダーとリンク」

ズェピア・エルトナム・オベローンは恐らくこのスノーフィールドにおいてメイガスとウィザードの両立という点で最も優れる人物だ。
精神を演算処理によって電子化し、分割した思考の一部のみでムーンセルにアクセスする離れ業も片手間でやってのけるくらいに。
現在彼の分割思考の一つがそれを実行している。
世界の改変や深い調べものなどできないが、魔術による干渉(ハッキング)だけで分かることもある。
他者が介入した形跡の有無。
それがあれば格段に干渉は容易くなるからだ。
ズェピアは見つけた。中学校の座標から何者かがムーンセルにアクセスした形跡を。
故に、その地に口裂け女は襲い掛かったのだ。

理性も知性も存在しない口裂け女を従えるのは難儀だが、ズェピアは彼女の思考と自らをリンクさせることで完全に行動を制御し、戦闘にも干渉した。
彼自身知らないことだが、これはとある歴史においてアトラス院のホムンクルスの少女が自らのサーヴァント、バーサーカーを従えた手法に近しい。
そのホムンクルスは実戦経験に欠けるため凄腕のウィザードに及ばない面があったのだが、ズェピアは死徒二十七祖の一角。
彼の操作によって口裂け女はこの地で第四階位のサーヴァントとある程度は勝負を成立させることができたのだ。
それでもスペックの差は覆しがたく撤退を余儀なくされ、帰路においては第九階位に敗れたのだが。

「―――――――――カット」

口裂け女とズェピアの間のラインが一つ切れる。
しかし即座に別の個体が発生してラインが新たにつながった。察するに…土葬されていた死体の一つだろうか。
ひとまずその個体は自由にして、分割思考は自らの情報を考えるために作動する。


918 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:49:55 F6aZ8Sck0

「些かヒールが多すぎるなこの舞台は。出資者は英雄譚はお望みでないと見えるが、いかがか」

死徒である自身と、怪物口裂け女はもとより。
未明に対峙した人類史の否定者、番外位(ジョーカー)。
メイスを振るった第十一階位(ジャック)も、空を駆けた第九階位(ナイン)もヒトではないようだ。
アカシャの蛇の残渣が監督をしている時点で考えるべきであったか。
――――――この物語(せいはいせんそう)は、人類史を肯定しているのか?

「何かが熾天の玉座に至りムーンセルに干渉したか?」

それができるのならば、聖杯戦争の意義は消える。勝ち抜かずとも熾天の玉座にたどり着く術があるということなのだから。

――ニ番思考、三番思考ともに否定。ムーンセルの守りは堅牢。ワラキアの夜を以てして数万の年月が必要――

「今の私にそれは現実的でない」

悪なるものが集ったのは偶然?
……悪性?

「キャスト!!一番から四番まで、先の戦闘を再演し思考せよ」

複数の記憶を照らし合わせ、マスターを観察する。
気にかかるのは――――

「金髪の少女の指輪。悪性情報が積もりつつある」

それは現実における呪い。知性活動から生まれた負の情報活動。
ズェピアならワラキアの再演の如く、死者を再現する際には用いるカタチで有効活用するが、

「そういえばこのムーンセルでは見ないものだ。光があれば影があり。祝福あれば呪いあり。世に穢れが消えないよう、この地にも悪性情報はあるはずだが……」


――三番思考、到達。悪性情報の行き先はSE.RA.PH、月の裏側。ムーンセル上にて廃棄の記録在り――
――一番思考、関連。悪性情報の結晶、月の癌による熾天の玉座到達の履歴の痕跡。虚数事象、ケースC.C.C――


「――――――カット」

見つけた。熾天の玉座への文字通りの裏口を。

「悪性情報の結晶……呪いの塊か。人理を否定する我ら死徒を迎えるようではないか。やはりここは月、ブリュンスタッドの王国ということかね」

その発見はまさに一流のメイガスで、ウィザードであればこそ。
他の魔術師による干渉(ハッキング)の履歴があればズェピアにはそれを利用する手腕がある。

2018年、大西洋上においてとある魔神が一人の聖人についてムーンセルに干渉(ハッキング)した履歴があった。
調査の内容は『虚数事象とされた事件における殺生院キアラなる人物について』。
その調査の結果、虚数事象は一騎の獣の顕現を許し、その獣が保有する単独顕現と千里眼(獣)によって観測者を得てしまっていた。

ケースC.C.C、悪性情報による熾天の玉座への不正到達は歴史から抹消されず、手段の一つとしてなりえてしまった。

「ならばやはりワラキアの夜は成さねばならぬ。噂は混じり、変転し、強大な魔となろう」

ズェピアは伏した少年の死体に手を伸ばす。

「赤が好き?」

死体が一つ自らの血に染まった。
少年の父親の死体を放り投げた。

「青が好き?」

洗面台の水底に死体が一つ沈んだ。
少年の母親の死体に口づけた。

「白が好き?」

吸血鬼に血を吸われた、真っ白な死体ができた。

「改めて、喧伝しようか」









アラもう聞いた?誰から聞いた?
口裂け女のそのウワサ
血のように真っ赤なコートと真っ赤な車、お洒落にキメたお嬢さん!


アラもう聞いた?誰から聞いた?
碧い死神連れた白い少女のそのウワサ
綺麗なおべべの女の子とその友達のこわーい死神


あなたは赤が好き?青が好き?白が好き?ふーん、■が好きなんだ!
――――コレデモ?


919 : 学校の怪談、口裂け女のウワサ ◆yy7mpGr1KA :2018/04/11(水) 23:54:07 F6aZ8Sck0

【いずこかの民家/一日目 午前】


【ズェピア・エルトナム・オベローン@MELTY BLOOD(漫画)】
[状態] 魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を以て再び第■法に挑まん
1. 『口裂け女』の噂を広め、ライダーの力を増す。
2. 次善策にありすを『都市伝説』に組み込む。
3.悪性情報の活用に大いに期待。
[備考]
※『死神を連れた白い少女の噂』を発信しました。ありすや口裂け女への影響はまだ未知数です。
※『第四階位』、『第九階位』、『第十一階位』のステータス及び姿を確認しました。
※ムーンセルにアクセスし悪性情報、ムーンキャンサーによる熾天の玉座アクセス未遂のことを知りました。今のところはペナルティなどはないようです。

【ライダー(口裂け女)@地獄先生ぬ〜ベ〜】
[状態] 1体消失(即時補給中)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:殺戮
1. 私、綺麗?
2. これでも?
[備考]


920 : 名無しさん :2018/04/11(水) 23:54:48 F6aZ8Sck0
投下終了です
指摘等あればお願いします


921 : ◆aptFsfXzZw :2018/04/14(土) 23:40:20 0rW8Bytk0
ご投下、ありがとうざいます!
年頃の学生たちの口に都市伝説が登るのも自然な流れとばかりに、火薬庫の一つである中学校に口裂け女が出現する今回のSS。
バトルヒロインであるマミさんや美琴も根は現代社会の一般人少女、ケイローン先生ですら出鼻を挫かれるサーヴァントによる精神汚染を受けてはホラーの被害者みたいな動きになるのもやむなしですね。可愛い。
それにしてもスキルでケイローン先生の判断を鈍らせることができるなんて、フランちゃん想像より強いなぁ! と思ったら口裂け女と鍔迫り合いが互角……怪物同士だからステータスが直に出ているのだとしてもよ、弱すぎる……今後も美琴のところに口裂け女が飛翔してくるたびに互角の戦闘をしていたらそれだけでフランちゃん詰んでしまうでは、と心配になりますね。
彼女から戦闘の主導権を引き受けたのは人払いもできる超有能ケイローン先生、アーチャーなのに素手で得物持ちバーサーカーよりも優れた近接戦闘力で口裂け女を圧倒するのは流石の一言。未来予知に等しい千里眼と心眼の組み合わせも強者の風格。
しかし口裂け女も、圧倒されながら底知れない不気味さ。矢を防がれたケイローン先生のヘラクレスを知っているが故の深読みもあって逃走に成功する大金星(?)。
逃げた先でアンクに虐殺されたのはご愛嬌ですが、サーヴァントと同等とされる二十七祖のズェピアがラニ同様の思考同一化をしているのなら呂布の場合と違って大幅強化されているのも納得ですね。FGOの最新要素で出てきた単語との思わぬネーミングの一致も追い風になるとしたら現状以上に台風の目となるかもしれません。
それ以上に凄まじいのはやはりズェピア。マスター陣が美琴は今回のように能力が通じず、殴れる承太郎ですらサーヴァント相手はパワー不足と言っている横で、公式のお墨付きでサーヴァントと同格の戦闘力を持つのみならず相応に高性能なメイガス&ウィザードっぷりを見せてくるという。パソコンを利用したいという理由であまりにも平然と一家惨殺する死を徒に運ぶ者っぷりにも恐ろしさを禁じえません。だのにホームページ用に口裂け女の写真撮影したり日除けの概念礼装手編みしたりしているところは場面を想像するとシュールな笑いが込み上げてくるのでズルい。
しかも聖杯狙いながら、優勝せずとも聖杯に至る裏口を見つけ出すなど事態の真相に誰より近づいているという万能ぶり。ここの考察というかスタンド使い伝承保菌者説に続いた◆yy7mpGr1KA氏の理論の組み立てというかは、相変わらずゾクゾクするようなキレでお見事でした。FGOのCCCコラボをこうも活かすとは……!

話題をズェピアから戻して中学校。いよいよ戦闘特化型なのに企画内最弱疑惑が濃厚になってきたフランちゃんと、強マスターのはずだけど今回のSSで共演したマスター陣もほぼ同格以上の猛者ばかりで突出できていない美琴のコンビがこの先生きのこるには……勝手に食蜂さんを重ねたマミさんと仲良くするチャンスを逃すべきではないかと思われますが、さてさて彼女らの性格がどう転ぶか。
逆に他キャラとの絡みという面では前話と違って美琴組以上に出遅れた感もある錬とアンクですが、巻き返すチャンスはまだ充分。転がったセルメダルの行方も気になります。
加えてNPCからマミさんに渡された病院や水族館への訪問フラグや卑劣様の介入が予想される現状、事態がさらに大きくなりそうな中学校からも目を離せませんね。
全編通して、大変楽しく読ませて頂きました。改めてご投下お疲れ様でした!


922 : ◆yy7mpGr1KA :2018/09/11(火) 23:28:54 SAS3CQXw0
夏目実加&ロムルス、レクス・ゴドウィン&剣崎一真予約します


923 : ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:41:23 wBcCG6CA0
投下します


924 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:43:07 wBcCG6CA0

「ロォォォーーーーーーーーーーーマッ!!!」
「ウェェェーーーーーーーーーーーイッ!!!」

高らかな雄叫びがまるでゴングのように響き渡る。
それとほぼ同時に衝突音、そして衝撃波が広がった。
大剣、『始祖束ねし王者の剣(キングラウザー)』。
巨槍、『すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)』。
秘められた神秘も、込められた質量も超弩級の武装が共に大上段から振り下ろされ、ぶつかり合った結果である。
ミサイルもかくや、というエネルギーがせめぎ合い、ランサーとセイバーの間を揺蕩っていた。
ランサーが剣を流すように切っ先を逸らせばセイバーはそれに追いすがり、逆にセイバーが退こうとすればランサーが大きく踏み込み鍔迫り合う。

力、技、神秘、誇り、あらゆる面において最高峰の英雄の衝突が健国王の築いた闘技場で繰り広げられる。
名高きローマのコロッセウムと言えどこれほどの激闘は数えるほどしか行われていないだろう。
そんなローマ皇帝すらも羨む闘いの観客となる栄誉を許されたのはただの二人……レクス・ゴドウィンと夏目実加だけ。
『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』によって隔離された中庭だが、城壁には射眼と呼ばれる警戒や矢を放つための窓がつきものだ。
ゴドウィンたちの位置する署長室からは、中庭がその射眼を通じて見降ろせるよう城壁は築かれていた。

(……始まりましたか)

魔力が外へと流れだしていく感覚がゴドウィンの中で強まり、剣戟音も相まって宝具の解放をしたのだと視覚以外でも感じ取る。

「裁定というのはああして矛を交えることですか?それとも、命を奪うというのが下された裁定ということでしょうか?」
「……それは私にもまだわかりません。ですが、必要なことであるのは確かです」
「なるほど」

ゴドウィンが虚空へと投げた問いかけには正確なレスポンスがすぐに返ってきた。
これまでのやりとりでほぼ疑ってはいなかったが、録音ではないことが確信できる。
だが声はすれどもその出どころは全くつかめず、呼吸音や物音すらも耳には入らず、それでは当然姿を捉えることもできはしない。

(今の私がとれる手段では見つかりませんね、これは)

署長室含め、署内の監視カメラを総動員する科学的アプローチ。
デュエルモンスターズを用いた魔術的アプローチ。
そのあたりならあるいは、とも思うが、今はどちらも手札として持ち合わせていない。
残された手札は

(令呪、でしょうか)

左腕に形を変えて再び宿ったドラゴンヘッド。
その一部を失うことで奇跡、切り札を呼び起こす。
セイバーをこの場に召喚すれば戦線からの離脱、そして合流が行えるはず。
しかしそれがこの場を大きく打開するほどの有効な一手となるか。
もしそうしたなら敵のとるであろう選択肢は恐らく二つ、継戦か撤退かだ。
継戦となれば――向こうも令呪を使うかは定かではないが――サーヴァントと合流し攻撃を仕掛けてくるだろう。ようするに今とさして変わらない。
撤退となれば、こちらに向こうを追うすべは恐らくない。サーヴァントとマスター、いずれの姿も捉えるのが困難となれば追いかけるどころの話ではない。
令呪一画で戦場を変える、あるいは離脱するほどの価値があるか……それは恐らく否であろう。

結局今のゴドウィンに取れる懸命な打開策はない。
盲滅法攻撃を仕掛ければ万に一つの勝利もあろうが、それはどう控えめに言っても悪手であろう。
そうと悟ったゴドウィンは大きく息をついて全身の緊張を解き、サーヴァントの戦いに全てを委ねるべく観客に徹する。
一応背後には椅子と机が来るように位置取り、中庭を見下ろすだけに勉めた。


925 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:43:52 wBcCG6CA0

「ご理解いただけたなら何よりです」

その振る舞いに続くように声の主も動いた……そんな気がゴドウィンにはした。
今ならば自分と同じく二人の戦いを見ているのではないか、反撃にも出れるのではないかとも思うが。

(先ほどよりは分が悪くはないでしょうが、それでも賭けになる。まだ、そのいざという時ではない)

マスターもサーヴァントも姿を消して完全な不意打ちの機会があったにもかかわらず、未だゴドウィンには指一本触れていない。
いつでも仕留められるということかもしれないが、初撃で仕留めずセイバーと矛を交える理由としてはそれだけではあまりに弱い。
事実、こちらを知ろうと、裁定しようとしているのだろう。
……彼方から戦場を見下ろしていると思い出す。
かつてレクス・ゴドウィン自身もまた、刺客をあてがいシグナー達を裁定しようとしていたことを。
ならばこそ、サーヴァント自ら闘うことで相手を理解しようとするのは決闘者として共感できるものもあった。

(誤用を承知で言うなら賽は投げられた、といったところでしょうか。さあそれでは、出目の方はいかに)

セイバーが聖杯に触れてはならないサーヴァントだということは聞いている。
たしかに真っ先に排除の対象として選ばれてもおかしくはないだろう。
しかし容易く排除できるほどセイバーは弱くない、ということもゴドウィンは知っている。
相性の問題もあっただろうが、本選開始前にもキャスターを無傷で屠った黄金の戦士の輝きはサーヴァントの中でも上位であろうと。
だからこそゴドウィンは驚いた。
初撃をぶつけ合わせたまま、未だに鍔迫り合いを続ける二騎の姿に。

(単純なスペックではセイバーが上回るように見えますが、やはり容易くはいきませんね)

聖杯戦争のマスターにはサーヴァントのステータス透視能力があり、個人によってその見え方は違うものだが、ゴドウィンにはそれがデュエルモンスターズのレベルのように見えて取れる。
彼の眼には筋力はセイバーがレベル5、ランサーのそれはレベル4に。耐久値はどちらもレベル5だが、セイバーの値はそのうえにまるでダークシンクロモンスターのような別枠のレベルが表記され、より強靭になり得ると示されていた。
もちろんそんな数字の上だけで勝負が決まるものではないことはよくわかっている。
デュエルモンスターズとて攻撃力より効果が重視されるもの。
ゴドウィン自身、地縛神Wiraqocha Rascaという効果を重視したモンスターを用いていたのだから。
ただステータスを重視するのは攻撃力だけ見てゴブリン突撃部隊や絶対服従魔神などを何も考えず使うようなもの。
語るまでもないがランサーはそんなバーサーカー染みたデメリットアタッカーであるはずがないということだろう。
姿も気取られずに奇襲を仕掛けたもの、そして力の差を何らかの形で埋める能力を持っている難敵。

長期戦を覚悟してゴドウィンの丹田に力が入る。
サーヴァントが目の前の敵に全力を尽くせるよう、彼もまた己の内の魔性との闘いを始めた。

その隣で夏目実加もまた別のものと格闘していた。
彼女の相手もまた己。
実加はグロンギという異形を知り、クウガという戦士を知り、自らもクウガとなった戦士だが未だ神秘の徒としては一歩目を踏み出したに過ぎない。
先達に学ぶものは多く、見るべきものもまた。
ローマの開祖が裔にまず共有した皇帝特権(わざ)は魔術だった。
念話、ステータスの幻視、視覚の共有といったマスターとしての基礎をスキル越しに学ばせていく魔術使いとしての第一歩。
苦心しながらも実加はその道を決死に進んでいく。
ランサーは、見ろと言った。ならばそのマスターとして肌で、眼で戦いを共にしなければならない。

呼吸に応じて腰に宿ったアマダムが熱を持つのを感じる。
そこから張り巡らされた神経節が魔術回路に近似することはロムルスに聞かされていた。
力はある。あとは行使するだけ。
息を深く吸い、自己を鼓舞するように文言を紡いだ。

「〈邪悪なるものあらば、その姿を彼方より知りて疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり〉……」

念話を聞くのも、サーヴァントの視界を見るのも言うなれば感覚の延長だ。
そう思うと自然とその言葉が口をついて出た。

それはまさしく魔術であった。
特定の所作や詠唱によって力を制御するのは魔術において基礎と言えよう。
指をさすことで対象を呪う、柱で区切って場を築く、幣や鈴を振るい神に祈るなど……
あるいは、かつて五代雄介が拳舞と発声によって超戦士の力を制御したように。

実加の視界が大きく開け、ロムルスのものと重なる。
その瞬間に戦局は大きく動いた。


926 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:45:51 wBcCG6CA0

「セプテムッ!!」

最高峰の筋力ランクを誇る仮面ライダーブレイド・キングフォームにロムルスはその天性の肉体によるステータス上昇で喰らいついていた。
さらにそこへ皇帝特権によって魔力放出を加算し、ブレイドの剣を弾く。
両腕ごとかち上げられ、隙だらけになったセイバーの胴体にランサーは石突部分の後刃を続けて叩きこむ。柄返しと言われる技法に近いが、石突を打ち込むそれと違って刃のついた一撃に込められた殺気の量は十二分と言える。
膨大な魔力によって加速した国造りの槍が、そうして黄金の鎧に再び撃ち込まれた。
――――最初の衝突同様、槍は鎧を抜くこと能わず。矛盾の争いは盾の勝利と言えよう。
しかし此度の一振りは上段ではなく下段からの薙ぎ。そのため衝撃は大地へではなく、空へと向けられる。
鎧と、それを纏った肉体は槍に耐えたが、セイバーを地に縫い付ける重力は耐えきれず空中へとその体を舞わせる。

「ティベリス!!」

ランサーはさらにそこに前蹴りを叩きこんだ。槍が通じなければ蹴りでも変わらない、ということだろうか。
140キロの体重を支える脚が亜音速で放たれ、足場のない空中でそれを受けてはさしものセイバーも吹き飛ばされることになる。
だがそれも一瞬のこと。
セイバーは即座に背の重力制御装置でもってその勢いに抗い、のけ反った姿勢からキングラウザーを振り下ろして反撃に転じようとする。
空を斬る音。そして続けて肉を裂く音が――

(く、速いッ!)

鳴ることはなかった。
蹴りの反動もあってランサーは即座に剣の間合いから離脱。
ランサーが両刃の槍を木の構えに近いものにすると、セイバーも空振った剣を正眼に構えなおして向かい合う。
大剣、巨槍双方の間合いの外での睨み合い。

戦うことで二人は少しずつ分かりあっていた。
例えば膂力はそう変わらない、とか。武具の質や強度も概ね五分。鎧のぶん硬さではセイバーに分があるが、逆に速さではランサーに軍配が上がる、などなど。
単純な皮鎧で身を固めただけのランサーは一刀浴びれば致命的。それを優る速さで躱し続けるとしても、セイバーの鎧を抜けなければ勝機はない。
だがサーヴァントとなったことでマスターと、魔力という枷が双方に生じている。
お互いマスターに刃を向けることはないが、長期戦になればセイバーは自身を縛る枷が重くのしかかることになるのを危惧していた。
ゴドウィンの内の地縛伸、セイバーの内のジョーカー。
消耗によってそのいずれかが表出してしまえば……ランサーの憂いが現実になってしまうということで、それだけは何としても避けなければならない。
焦燥、とまではいかないが僅かな心の乱れが現れてセイバーに息をつかせる。

「ウェリア!!」

その一瞬の隙を狙ってランサーが攻めへと転じた。
槍を大地に走らせ、石礫や砂塵を打ち付ける。
砂をかけ目くらましにする、あるいは投石などは近代の武術でも散見するがランサーの力と速度が地を走った影響はそのようなものでは収まらなかった。
畳返しのように地をめくりあげ、視界を覆いつくすほどの大規模な砂礫の壁が魔力放出も相まって津波のように押し寄せる。
もちろんいくらランサーの魔力の影響を受けているとはいえ、その程度で『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』の威容に陰りをもたらすことはできない。
だが大質量、高速度の土砂に呑まれれば態勢はくずれ大きな隙を晒すことになるだろう。
速度で劣るセイバーには受け入れられない不利だ。

「せやッ!!」

マグネットの力が発動できれば十分だったのだが、セイバークラスでは扱えるクレストに限界があり、そうもいかない。
『始祖束ねし王者の剣(キングラウザー)』 を振るい、その剣圧でもって砂の波を真っ二つに斬り裂く。
その剣閃は砂の向こうのランサーにも届きかねない威力だったが

(――いない!?)

砂で視界を埋めた一瞬で再びランサーは姿と気配を消した。
咄嗟に周囲に目を走らせながら急所の守りを固めていると


927 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:46:48 wBcCG6CA0

『左ですセイバー!』

ゴドウィンからの念話が届く瞬間に喉元と心臓付近を籠手と大剣で守り、その刹那には樹槍の切っ先が籠手によって弾かれた。
互いの姿を覆い隠すような砂礫を起こしたロムルスは、今度は彼が実加の視界を共有することで戦況を俯瞰し、霊体化と気配遮断を合わせて視界の外からの奇襲をしかけたのだ。
ゴドウィンの念話がなければ鎧の急所である関節部分を貫かれていただろう。
だがそうはならなかった。
ならば、と大剣を手放して両手を空け、右手は拳を、左手はランサーの槍を握る。
大剣では攻撃の出が遅く、ただでさえ敏捷で劣るのだから少しでも早くカウンターを撃ち込まねばならない。
逃がすまじ、と得物を握って槍と大剣どちらにとっても間合いの内側に引き込み拳を構えた。
ビートのカードも使えないが、たかが拳と侮るなかれ。シールドバッシュという技法があるようにより硬い防御力は攻撃力にも転じる。
右拳を覆う籠手もまたAランク宝具『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』の一部なのだ。
引き寄せる勢いと腰の捻り、体重移動も加えた理想的なフォームでその籠手を纏った拳を叩きこもうとする。

ガン!!という重厚な金属音が鳴る。
だがそれはセイバーの拳がランサーを穿った音ではなく。
剣の間合いを跳び越えて拳の間合いの内側にまで飛び込んだランサーがセイバーに組み付いた音。
槍を引かれるのに抵抗するどころか従って大きく踏み込み、組み付くことで拳を躱し、無力化したのだ。
零距離の間合いで打はほぼ意味をなさず、有効に成り得るのは絞、投、極であろう。

ランサーは即座に極にかかった。
両の肘でセイバーの鎖骨近辺を抑え、腕を後頭部に回して首を落とす完璧なまでの首相撲。
そこから膝につなげるのが定石だろうが、ランサーにはそれすらも不要だった。
超高速で首を揺らし、兜の内側にセイバーの頭部を叩きつけていたのだ。
より硬い防御力は攻撃力にも転じる……強靭な兜で擬似的に頭部を殴られるような現状、今度はそれがセイバーに牙をむいたと言える。
常人ならば兜の中身どころか頭蓋の内側まで潰れるような衝撃を受け、いくらアンデッドといえど拳は緩み、槍の握りも甘くなる。
それを見逃さずランサーは己の槍を奪い返し、上体を倒しつつあったセイバーの肩口に足をかけて背後へと飛び込んでいった。
衝撃で完全に倒れそうになるが、セイバーはかろうじてそれを堪え、大剣をとりつつ後ろに回り込んだランサーへと改めて向き合う。
再び二人の間に大きな距離が開く。

「槍の穂先を握られるは槍兵として恥辱の極み。猛省しよう。そして称賛しよう、セイバー」

語りつつ、ランサーが構えを大きく変える。
大上段に槍を持つ、火の構えに近いもの。無論現代の槍術とは異なるが、理念は通じる……持久戦を考慮した木の構えとは相反する、短期決戦攻撃特化のフォームであろう。
のぞむところだ、とセイバーも剣を握る手に緊張を奔らせると

衝撃。
遅れて風切り音。
超高速で突進したランサーがセイバーの胴体部から脇の箇所にすれ違いざまに槍を叩きつけ、そのまま背後へと駆け抜けていったのだ。

「ッ、ぐぅ…!」

肩関節の稼働のため少しだけ守りの薄い箇所。
同時に呼吸を制御する肋骨に衝撃が伝わる位置で、加えて肋骨は正面からの衝撃には強いが側面から打撃を受ければ容易く折れてしまう。
まだ折れてはいないが、そう何度も受けることは許されない。
とにかく向き合い迎撃しようとするが

再びの槍打。
同じ箇所に重ねての一撃を浴びせ、また駆け抜けて距離をとる。
肺にまで衝撃が伝わり今度は悲鳴すら出ない。


928 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:47:41 wBcCG6CA0

「セイバー。貴様に二度と私(ローマ)の槍を触れさせはせぬ」

狼のような獰猛な笑みを浮かべてその言葉と共に三度突撃。
だがさすがに三度も同じ箇所にとなればセイバー程の英雄なら剣でもって受けることもできる。
しかしカウンターなどは到底できない、圧倒的な速度の差。マッハやタイムが使えればあるいは、というところだが。

(だが正面から二度受けたことでランサーがどうやって高速移動しているかは分かってきた……)

大上段に構えた槍の重量と自らの体重を前に出した片足に一瞬かけ、即座にその足を払われたように宙に浮かせる。
それにより全体重が宙に浮き、重力加速度に従って体が前に倒れる。
9.8m毎秒の加速度を前方に得て、さらに体重という負荷を取り払った両の足、さらには槍を片手で持ち空いた手も加えて地面を蹴って高速で駆けだす。
――東洋武術の縮地と、近代走法の合わせ技。

(古代ローマの王がそんなものを使いこなすのは驚きだが……いや、効率化を極めるうちに自然にたどり着いたということもあり得なくはないのか)

かつて羊飼いであったロムルスだが、羊を追い立てるうちに学んだのだろうか。
あるいは片手と両足で駆ける様は肉食獣……狼のように見えなくもない。育ての親から見て取った野生の走法か。
思考しながらも放たれた矢の如きロムルスの突進を受けようとするが、今度は肩口を痛烈に打たれ、少しずつ鎧の側面にダメージが蓄積していく。

当然ただ走法を凝らしただけでは速さも威力も飛びぬけることはない。
今のランサーは完全ならずとも狂化状態に近いといえる。
かつて自らの誇る壁を跳び越えられ怒り狂ったように、此度は誇りそのものと言っても過言でない槍を掴まれたのだ。
未熟な自らへの怒りが大きいが、それは逆鱗に触れた敵対者への憤怒を抑える理由には成り得ず。
マスターから平時以上の魔力を吸い上げ、肉体の強化に回している。通常ならば電脳体が負荷によってむしろダウンしてしまうだろうに、神より授かった天性の肉体がその無理を道理としてしまう。
つまりは皇帝特権には拠らない、微細な狂化による敏捷と筋力の上昇。
さらに用いた皇帝特権によって主張したのは魔力放出(跳躍)のスキル。速度も威力もこれによって加速度的に増すことになる。
縮地、近代走法、疑似的な狂化、魔力放出(跳躍)。
これらを併せ、弟レムスが壁を跳び越えるよりも速く、鋭く、魔力を纏って地を駆けるロムルスに速さで勝るなどそれこそ最速の英霊でもなければ役者が足りない。
真っ向からの突撃だけならともかく、側面・背面に回り込む戦術判断もあってさしものセイバーもジリ貧になっていく。

そして十一度目の交差。
背後から槍の薙ぎがセイバーの膝を打ち、大きく態勢を崩させる。
続けざまに十二度目の突撃。
幾度目かの肩への攻撃がセイバーの手から『始祖束ねし王者の剣(キングラウザー)』 を落とさせる。
終となる十三度目の疾走。
低い姿勢で駆けこんだランサーがそのまま大下段からの槍の薙ぎ上げ。
槍を振るう腕の力に加えて低い姿勢から伸びあがることで足腰と全身のばねも加えた強烈な一撃で、セイバーの体がはるか高く宙に舞う。

(これは、まずい……!)

度重なる攻撃は確実に鎧を削り、その急所を晒しつつある。
何より空中を重力制御装置で駆るだけではさらなる追撃を躱すのは難しい。
自由の利かない空中で、剣など及ばない距離で、ランサーは背中の筋肉をパンプアップさせとどめの一撃の構えだ。

剣士のクラスと槍兵のクラスには決定的なリーチの差がある。
それは得物の間合いというだけではない。
槍には剣にはまずない、投擲の逸話がつきものだからだ。
クランの猛犬のゲイ・ボルグしかり、兜輝く将軍のピルムしかり、投げることによって城壁や軍勢に大打撃を与える一面が槍という武器には存在する。
もしもランサー、ロムルスの宝具の真価がそこにあったならば『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』ですら射貫くのではないか。そんな予測がセイバーの背筋を冷たくする。
もちろんそれを黙って受けるつもりはない。
迎撃、防御、抵抗。
宙に打ち上げられた時点で熟練の戦士たるセイバーはそのためのアクションを始めている。
だが、手札が足りない。
キングラウザーは手元になく。
ジャックフォームのような飛行手段は速度の劣る重力制御装置しかない。
マッハも、マグネットも、タイムも。
このままでは態勢を整えることすらままならない。
それでも、と諦めず抗いはするが…………一手及ばない、と対峙する両者は感じていた。


929 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:48:59 wBcCG6CA0




瞬間、『世界』から音が消えた。

それがその瞬間起きたのは偶然か、ただの幸運か、あるいは運命なのか。
此処とは異なる地で、彼とは異なる仮面ライダーを従える一人の戦士が『時』を止めたのだ。

今の『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』ではアンデッドクレストを輝かせ、その力を引き出すのは一部しかできない。
しかしその力を宿していることには変わりなく、近似する力に対しては強い抵抗力を発揮する。
例えば斬撃。例えば雷撃。例えば――時間操作。
『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』に変身した剣崎は止まった時を認識し、僅かにだが動くことができたのだ。
それはせいぜいがパンチを一発撃てるかどうかの一瞬だけ。
だがそれで、仮面ライダーブレイドには十分な時間だ。

重力制御装置により、吹き飛ばされた勢いも加味して壁へと着地する。
そして壁を蹴り、ランサーへ反撃に転じる。
ブレイラウザーを利用してのコンボ?
いや、自然と選んだのは一枚のカード。それも今はクレストから真価を発揮することはないローカストの紋章による一か八かのカウンター。

―――KICK―――

とその音声は響かないが。
それでも幾度となく繰り出されてきた必殺技、仮面ライダーのキックという対人奥義でランサーの切り札を迎え撃つ――――――!!

対するランサーも相応の手札を切っていた。

「見るがいい。我が城壁、すなわちローマがここにあることを!」

ランサーの足元から宝具、『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』が高速で姿を見せる。
そこで上体を振るい、足腰の力に背や腕の力も束ねる姿勢をとっていたランサーが魅せたのは投擲でなく跳躍。
すなわち全身全霊に加え、宝具をカタパルトのようにして自らを撃ち出したのだ。
とった姿勢は、偶然か意図してかこれもまたキック。

「ウェェェーーーーーーーーーーーイッ!!!」
「ロォォォーーーーーーーーーーーマッ!!!」

開戦時の宝具の激突と同じように響く雄叫び。

黄金の影が堕ちる。それはまるで宙から飛来する流星の如く。
真紅の光が翔ける。それはまるで空へ届く最果ての塔の如く。

光と影が重なった瞬間、あたりには雷鳴が響いた。
二つのキックの衝突のエネルギーで空気が音速で膨張した証拠だ。
周囲の建物を蹂躙してもおかしくないその波はすべてローマの城壁が受け止める。
ぶつかり合い、一瞬静止した二人。闘いは決着し、真紅と黄金は地上へと降りる。


930 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:51:22 wBcCG6CA0

―――立っていたのは真紅だった。
両の手は真っすぐに天を衝き、両の脚は揺らぐことなく大地を踏みしめる。
それは槍というにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさにローマだった。
だがその背は勝利に酔うものではなく。力ある緊張が未だに全身を包んでいる。
―――膝をついていた黄金が立ち上がる。

キックの威力に大きな差異はなかった。
宝具まで用いたロムルスのキックに並んだ剣崎を讃えるべきか。仮面ライダーのキックという、宝具ならざるとも人類史に連綿と受け継がれる奥義に比肩したロムルスを称賛すべきか。
決定的な差異は直撃か否かだった。
ロムルスは跳躍時に皇帝特権により魔力放出(跳躍)を獲得していたが、その後即座に魔力防御のスキルを主張したのだ。
蹴足の先に魔力による錐体の壁を形成することで空気抵抗を減らし加速、より硬い壁は当然攻撃力にも転じ、さらにはその障壁で僅かにだが剣崎のキックを逸らした。
結果ロムルスのキックはまともに入り、剣崎のキックは点睛を欠いた。
『原初纏う黄金の鎧(キングフォーム)』の効果でキックのダメージは減らしたが、それでも逆転を望むにはあまりにも小さくとも大きな賜暇が生まれてしまった。
事実上の、決着と言える。
この場は仕切りなおすしかないか、と剣崎もゴドウィンも考え始めたところで

「問おう。セイバーよ」

二人が初めて聞くようなロムルスの穏やかな声が響いた。

「私(ローマ)は皇帝(マグヌス)である。而してただの人に過ぎぬ。この身がクィリナスならざる事はすでに気付いていような?」
「…ああ。お前の真名が偽りなくロムルスなのは確信した。それにクィリナスほどの神霊が聖杯戦争に簡単に来れるはずもない」

突然の問いに困惑しつつも答える。
するとロムルスの顔に笑みが浮かぶ。戦闘中に浮かべた獣性に満ちたものでなく、父性に満ちたものを。

「続けて問おう。お前は本来神ならざる生命への殺戮権を有し、そしてお前の振るった剣は原初の精霊種や神を殺める武装であるな?」
「む……」

沈黙で返す。だがそれは事実上の肯定。
仮面の下で表情は隠しているが、全ての道はローマに通ずというのは伊達ではない。その眼でもって様々な枝も見通しているのだろう。

「本来ならばこのような非私(ローマ)的な姿をとることも覚悟のうえであった」

そういうとロムルスの体の随所に黒い痣のような紋様が浮かぶ。

「な、それは……まさか神代回帰!?」
「しかり。この城壁内、すなわちローマであるならば封印した神性を改めて高位で得るのも容易い。
 されどそれを必要としないことが分かったならば、お前に向けるのは槍ではない」

槍を手放した状態で改めて剣崎へと向けられたのは親指を立てられた右の拳。
すなわち、サムズアップ。

「これは古代ローマにおいて満足できる、納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草だ。それが意味するところは分かるか?」

剣崎はその仕草と問いに戸惑いながらも頷く。
古代ローマにおいて、剣闘士の戦いを讃えた観客は生か死か判決を叫ぶ。
その言葉に皇帝は所作で答えるのだ。
親指を天に向けたとき、すなわちサムズアップを皇帝が見せたとき戦士は生を約束される。
今この瞬間に裁決は下った。
剣崎一真は生きるべきだと、健国王ロムルスは定めたのだ。

「そっちから仕掛けておいてお終い、か。まあ気が済むまで付き合うと言ったのはこっちだが……」
「戦うことでしか分かり合えないと言っていたが。よい、まさしく戦いは何にも勝る交流である。サーヴァントとなればなおのことな」


931 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:52:17 wBcCG6CA0

そう、人間同士の闘いとはわけが違う。
サーヴァント同士の戦いは互いの生涯と歴史を背負っての衝突となる。
宝具が、スキルが、所作が、習慣が。
様々なものがそのものの来歴と真名を語る。
だがそれだけでは分からないことがある。
名と生涯を知ったところで、それに伴う感情や動機まで知り尽くせるわけではない。
明智光秀がなぜ織田信長を殺めたかなど謎は残り、その者を反骨の士として警戒するべきかは、より深くその者を知れば答えが変わるかもしれない。
また無辜の怪物、というものもある。
風評と実際の在り方が異なる故に歪んでしまったサーヴァント。
ヴラド三世などはその典型だ。吸血鬼である、という風評一点で宝具まで獲得する無辜の怪物の究極。
されどその悪名を取り払うために戦う彼は通常吸血鬼と化す宝具を用いることを極めて嫌うという。
ただし狂戦士として召喚されたヴラド三世は吸血鬼としての悪名を払拭するために吸血鬼としての力を存分に振るう狂気の沙汰を見せるとか。

ジョーカーという怪物である剣崎一真の在り方が如何様なものか。
神ならざる生命種への絶対殺戮権を行使し、神殺しの剣まで振るう死の権化。
そのような想定でロムルスは挑んだ。しかし戦ううちにそれが誤りであり、彼が口先だけのものではないと理解できた。

「お前の覚悟はサーヴァントのシステム、在り方すら変質させて生命種への殺戮権を放棄させている。
 私(ローマ)や……あるいは英雄王のような者であれば自らの意思で在り方を変えることも難しくはない。しかし只人であったお前がそれを為すのは容易ならざることである。
 戦いを止めるというその裡なる願いによって達成した一つの奇跡をこの私(ローマ)は認めよう」

サムズアップしていた拳をほどき、掌を向けて剣崎をいざなうロムルス。

「来るがよい。我がマスターと是非とも会ってもらいたいのだ。仮面ライダーブレイドよ」

その言葉と共に宝具『すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』 が解かれ、仮初の闘技場はどこにでもある中庭に戻っていく。
はっきりと見えるようになった署長室のゴドウィンと実加のもとへロムルスはすぐさま跳躍し、それに少し遅れて剣崎も続いた。

そして合流する二人のサーヴァントとマスター。
互いの主従のもとで損傷と健闘を労い合う。

「見ていたな、実加?」
「はい。二人の勇姿を余すことなく」
「よい」

視覚の共有や念話など、魔術の行使に一歩一歩馴染んでいるのを確かめてロムルスの表情が後進を導く英霊のものとして引き締まる。

「実加よ。黒の力は代償を伴う」

ロムルスの体に走る赤黒い紋様……神代回帰の証が消えていく。

「お前は真紅と黄金に染まれ。それこそ我らがローマの華である」

抽象的で、意味の掴みかねる言葉。まさしく神の啓示や詔なのだろう。

「そしてセイバーよ。この者が我がマスター……いまはまだ仮面ライダーならざる戦士、クウガである」
「何!?待て、クウガだって?」

ロムルスの言葉に剣崎が反応する。
鍛えられてはいるが、こんな小柄な女性が仮面ライダー?と戸惑い半分、驚き半分視線を交わす。

「ブレイドよ。黄金の仮面ライダーよ。同じ人類史に名を残した英雄として願う。どうかこの者と共に戦い、私(ローマ)と共に導いてほしい。私(ローマ)もまたお前のマスター、レクスの願いのため全力を尽くすことを約束しよう」

それは真紅の建国王から黄金の剣王への盟の提起であった。仮面ライダーを導くこと。決闘者を闇へと堕ちぬよう救うこと。
互いのマスターを見やり、剣の王は記憶を探る。
ムーンセルによって再現された今の自分と地上で運命と戦う剣崎一真は厳密には異なる存在のため、記録と記憶の違和感はある。
クウガ。共に戦ったような気もするし、初めて聞く様な名前。
それでもその名がここにあり、自分たちがここにいる意味は

「ああ……だいたい分かった、ってところかな。でもその問いの答えを決めるのは俺じゃあない」

そう言うと今度はマスターに譲るように一歩引く。
今を生きる者が生きる道は決めるべきだと。
そうして空いた空間に新たに一歩、一人の人間が踏み込んだ。

「レクス・ゴドウィン署長、それにセイバーのサーヴァント。私は国際テロリズム対策課所属、夏目実加です。この聖杯戦争ではランサーのマスターを担っています。改めまして、私たちと共に人々のため、この聖杯戦争打開にご協力いただけませんか?」


932 : 限界バトル ◆yy7mpGr1KA :2018/09/15(土) 20:54:10 wBcCG6CA0

【D-5 警察署 署長室/一日目 午前】

【レクス・ゴドウィン@遊戯王5D's】
[状態]健康、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]デュエルモンスターズカード(マヤ文明デッキ)
[道具]なし
[所持金]やや裕福
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての贖罪として、罪なき人々を悲劇の運命から救う
1.実加との交渉、情報交換。
2.実地調査に当たれる同盟先を探したい。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は警察署の署長です。
※スノーフィールドには市民の危機感を抑える魔術式が施されているのではと推測しています。

【セイバー(剣崎一真)@仮面ライダー剣】
[状態]ダメージ(小)
[装備]ブレイバックル
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦えない全ての人の代わりに、運命と戦う。
0.クウガ……
1.実加への対応。基本はゴドウィンに従う
[備考]
※第十三階位(カテゴリーキング)のランサーの真名を知りました。




【夏目実加@仮面ライダークウガ(小説)】
[状態]健康、魔力消費(小)、七つの丘による魔力回復スキル獲得中
[令呪]残り三画
[装備]プロトアークル
[道具]不明
[所持金]一般社会人並
[所持カード]なし
[思考・状況]
基本行動方針:かつての英雄たちのように、人々の笑顔を守りたい。
1.ゴドウィンとの交渉、情報交換。
[備考]
※スノーフィールドにおける役割は国際テロリズム対策課所属の刑事です。





【ランサー(ロムルス)@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[装備]『すべては我が槍に通ずる』
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:人々の中に受け継がれる光(ローマ)を見守り、力を貸す。
1.セイバー、ゴドウィンへの対応。基本は実加の決定に従う。
2.真紅と黄金こそローマの華である。
[備考]
※レクス・ゴドウィンの中にローマを認めました。
※番外位(エキストラ・ジョーカー)のセイバーの真名を知りました。その在り方を一応は認めています。


[全体備考]
※キングフォームによる戦闘がありました。ジョーカーアンデッドへの影響は今のところ不明です。


933 : 名無しさん :2018/09/15(土) 20:54:39 wBcCG6CA0
投下終了です


934 : ◆aptFsfXzZw :2018/09/17(月) 22:13:20 6wReQUrY0
ご投下、ありがとうございます!
氏の作品で描かれるは企画内白兵鯖最強決定戦と言っても過言ではないビッグカード、セイバー・剣崎一真VSランサー・ロムルスの限界バトル!
まずはその様子を見守ることを許される、各々のマスターの視点だけでも既に面白い。
決闘者由来の観点や緑の射手の碑文を元とした彼らの感性は、もはや設定クロスオーバーの達人と言って差し支えない◆yy7mpGr1KA氏の手腕が存分に発揮されています。

そして考察だけではない、戦闘の組み立てを始めとする理詰めの展開の巧みさもまた本作の面白さ。
あのキングフォームの苦戦という、原作に存在しない描写であるにも関わらず、圧倒的な説得力はローマの魅力を引き出してこそ。
FGOから早速のエントリーな魔力放出(跳躍)といい、その基礎ステータスでそれは自重しローマ! な戦闘力や、最後のやり取りでロムルスの格の高さがこれでもかと描かれています。
そんなロムルスの猛攻に今作中では倒されることはなく、槍の穂先を掴んだり、完全な想定外の助力になったとはいえ承太郎のスタープラチナ・ザ・ワールドの時間停止に抵抗を見せたりする剣崎も、判定負けとはいえまだまだ底を見せておらず、限界バトルの参加者に相応しい強豪ぶりです。

決着となる対人奥義・ライダーキックの打ち合いも熱く、剣崎の在り方をローマ認定する展開に思わず喝采。
仮面ライダーを導いて欲しい、という同盟の誘いに対して、ゴドウィンがどう答えるものか――聖杯狙い涙目の最強お巡りさんチーム結成なるか!?

サムズアップを返すしかない力作の執筆、誠にお疲れ様でした。繰り返しになりますが、本当にありがとうございます!


935 : ◆aptFsfXzZw :2018/12/22(土) 23:09:11 TCPqV8j20
お久しぶりです。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー(アルケイデス)、アサシン(千手扉間・影分身2)、トワイス・H・ピースマン&ガンナー(マックルイェーガー)、コレット・ブルーネル&ライダー(門矢士)、ありす&バーサーカー(ジョーカー)で予約します。


936 : ◆aptFsfXzZw :2018/12/22(土) 23:16:27 TCPqV8j20
追記で、書き込むタイミングをなかなか逃してしまっておりましたが、ガンナーことマックルイェーガーのステータスについて少し変更を……
原作で見せた能力を『闘神の戦気』というオリジナルスキル名としておりましたが、Fate公式に存在するスキルである『女神変生』に変更することを報告します。
ネーミングが遥かに良くなり、原作での描写により能力の内容も近づくこと、よくよく考えれば企画内のパワーバランスや前回の戦闘の内容にも目立った影響は出ないかと思うので、ご了承いただければ幸いです。


937 : ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:33:09 PAZyxWcM0
これより予約分の投下を開始します。


938 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:34:35 PAZyxWcM0



 前触れなく。その弓兵は歩みを止めた。

「――どうした?」

 教会を離れ、物陰を転々と移動し、彼らの拠点へと帰還しようとしていたはずのアーチャーの様子に、アサシン――千手扉間の影分身が一体は問いかける。
 対し、気絶したままの自身のマスター、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを抱えたまま、アーチャーは踵を返すと布越しに回答を寄越した。

「神の気配がした」

 その怨嗟が籠もった声に、アサシンは微かに眉を寄せる。

 今は魔力(チャクラ)を練っていない、とはいえ。感知タイプである己が何も察せなかった存在を、アーチャーが先に認識したという事実がまず、理由の一つ。
 おそらくは死後、微かにニアミスしただけだったアサシンとは違い、神々との距離が近かった世界に生きたアーチャーの方がよりその類に対して敏感である、といったところだろう。
 だが、彼という強大なサーヴァントの動向を御することで、聖杯戦争の進行をある程度コントロールするという当面の目的上、索敵能力で劣る部分があるのは無視できない不安要素だ。

 しかしより緊急の問題となるのは、もう一つの理由――その声に込められていた感情の強さだ。

「遠くはない。このまま滅ぼしに行く」

 そうして危惧した通りの言葉を、アーチャーはアサシンの前で紡いでみせた。
 確かな戦意と、それ以上の憎悪を漲らせて。

「えっ、ちょっと!?」

 臨戦のサーヴァントに対する戸惑いの声は、未だ意識を取り戻さないイリヤスフィールではなく、彼女が持つ意志を有した礼装から。
 それに取り合うことはせず、あるいは、一般市民が目の当たりにすればそれだけで昏倒は避けられぬような殺意を纏った復讐者に、アサシンは制止の声を掛ける。

「少し待て。同盟を忘れたのか? ワシらが効率の良い戦場を用意する手筈だ」

 アーチャーの赴くままの戦闘行為――それによる被害を未然に防ごうと、アサシンは説得を試みる。

「貴様と同盟を結んだのが先刻のことだ。ようやく形を整えようとしているところで勝手に動かれて、計画を台無しにされては困る。こちらは貴様の勝利に賭けるため、令呪まで使われているのだからな」
「困る、か」

 ぴたりと、アーチャーの歩みが止まった。
 だがその際、喉の奥でくぐもったような嘲笑が漏れたのを聞き逃すほど、アサシンも油断はできていなかった。

「――先程は、確かに私が浅慮だった。同盟を結んだ貴様らの目的を知りながら、火急でもない理由でそれに不都合な要求をしたのだからな」

 殊勝な言葉を並べたアーチャーだったが、その声の硬さがそこで一段、跳ね上がる。

「だが、貴様らの目的が最大多数の生還というのであれば――私の目的は我が忌み名を消し去ることと、もう一つ。神を名乗りし暴君どもへの復讐にある。それを阻むというのならば、貴様らと組む理由はない」

 殺意すら載せた通告に、今は返せる手札を持ち合わせないアサシンは押し黙るほかになかった。

「……そこまで言うならば仕方ない、か」

 教会で会話した時のアーチャーは、もう少し理知的であったが――今の彼は、それこそ暴力の行使を拒絶するマヒロのように、他者の意志が介入するための隙がない。
 大英雄の伝承には語られなかった一側面、神への憎悪を目の当たりにしたアサシンは、その事実を重く受け入れた。

 ……今は、言葉だけでこの復讐者を御せる状況ではない。
 諦観を抱いたアサシンは早々に思考を切り替え、次善の策に事態を推移させるべく歩みを再開した。


939 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:35:33 PAZyxWcM0





「ね、いっしょにあそびましょ?」

 昼下がりの公園。
 噴水を背に座っていたコレット・ブルーネルの正面にまで駆け寄ってきた幼い女の子は、そんな誘いの言葉を投げかけてきていた。

 淡い印象の少女に対し、どこか気にかかるものを覚えながらも――コレットは答えを返せない罪悪感に、浮かべる笑顔をぎこちないものに変えつつあった。

「ダーメだ。お姉さんたちはこれから忙しいから、な」

 そんな窮地に、助け舟を出すようにして割り込んだのは、隣に立っていたライダーだ。

「他のところで遊んで来い。ほら行った行った」
「えーっ、イジワルなおにーちゃん!」

 しっしっと手を払うライダーに、少女は可愛らしくその頬を膨らませながら、素っ気ない対応への不満を示す。
 それを見たコレットは、ライダーの服の袖をくいくいっと引っ張って、振り返った彼に首を振った。

「(ちょっと大人げないよ、ライダー)」

 念話でコレットに苦言を呈されると、少し表情を歪めたライダーは腰を屈め、できるだけ視線の高さを近づけて童女と対峙する。

「だいたいおまえ、知らない人について行っちゃ駄目だって教わってないのか? 家の連中が心配するぞ」

 そんなライダーの問いかけに、しかし少女はつーんとそっぽを向いて、無言を貫いた。

「おいこら、ちゃんと返事をしろ」
「やだ。おにーちゃん、イヤな人だもん」

 その返答に、微かとはいえ苛立っている様子のライダーの袖をもう一度引っ張って、コレットは何とか彼の怒りを制止する。

「あたし、おしゃべりするならおねぇちゃんのほうがいいな。やさしそうだから」

 そんなやり取りを目にしてか、少女はリクエストを口にした。
 しかし……褒めてくれたのに申し訳ないが、コレットはその要望には応えられない。

「……どうしたの?」
「悪いな。こいつは今、声が出せないんだ」

 不思議がった少女に、ライダーはとうとう真実を告げた。
 露骨にがっかりした様子を見せる少女の表情を、コレットから隠すかのように立ち上がったライダーは、その高い位置から声を降らせる。

「だから嫌でも、話をするなら俺を通せ――それで、大人の人とは一緒に来てないのか?」
「……おとなのひとじゃなきゃだめ?」
「そりゃ、その方が良いが……その大人のことが嫌なのか?」

 渋々と言った様子で応じながらも、暫し回答を迷う様子を訝しんだライダーが重ねて問いかけるが、しかし少女は首を振った。

「ううん。おとなのひとだったら、あたし、タタリのおじさんを待ってるの」
「一緒かどうか聞いたんだけどな……」

 幼子ゆえの少しずれた回答に、ぼそりとライダーが漏らした愚痴はおそらく、天使疾患で聴覚の強化されたコレットにしか聞こえなかっただろう。


940 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:36:19 PAZyxWcM0

「で、そのおじさんはいつ迎えに来てくれるんだ?」
「わかんない」
「……じゃあ大人じゃなくても良い。他に、この公園に一緒に来ている人は居ないのか?」
「いっしょに来ている『ヒト』は、いないわ」

 小さく首を振る様子に、コレットは再びこちらを振り返ったライダーと視線を合わせた。
 
「……おにーちゃんと、おねえちゃんは、ふたりだけなの?」

 そこに少女が、逆に問いかけを投げてきた。
 再び前を向いて、もう一度視線を戻したライダーと意志を確認し合ったコレットは、彼の「ああ」という声に同意するように頷いてみせた。

「じゃあ、ふたりはあたしたちとおんなじひとじゃないのかな……?」
「――?」

 謎めいた言い回しだった。
 その紫の瞳はどこか虚空に視線を回したかと思うと、続いてコレットとライダーの顔を順番に見つめて、それから考え込むように瞼を閉じる。
 白い少女は小さな額に愛らしい皺を寄せて、少しの時間悩んだ後、言葉を吐いた。

「でも、あたしのことを見つけたひととあそんでてって、タタリのおじさんも言ってたのだわ」
「いや、勝手なこと……」

 また、少女の要求を跳ね除けようとするライダーの服の端を、コレットは再び、より穏やかに掴んだ。

「……いいのか?」
「(うん。急いでいるって言っても、手がかりがあるわけじゃないから、少しだけなら)」

 ――それは、間違った選択かもしれない。

 おそらくはサーヴァントに関連する口裂け女に、対処できる存在は限られている。
 その数少ない一人であるライダーは、マスターであるコレットを置いては動けない。
 いくら手がかりがない状況とはいえ、迷子の保護なんてことに彼を縛り付けることは、大局で見れば非生産的な行為だ。

 それでも――本人が、その状況を自覚すらしていないとしても。
 自分が助けになることのできる、目の前で困っている誰かを無視して進むことは、コレットにとって選びたくない道だったから。

 そんなコレットの心根を、既にわかってくれているのだろう青年は、観念したように溜息を吐いた。

「……少しだぞ。ちゃんとしたところに預けるまでの話だ」
「(うん。ライダー、ありがと)」

 そして、ひたすら無愛想を気取っていても――素っ気ない態度こそが遠慮の現れで、本当は面倒見が良い彼もまた、きっとコレットと同じように感じていたのだろう。
 だから。

「喜べチビっ子。このお姉さんが遊んでくれるそうだ」

 そう告げる時、ライダーの声は、それまでのやり取りよりも幾分、軽やかな音色に感じられた。







 霊体化したサーヴァントは、原則として他者からは目視されず、世界に存在するために必要となる魔力消費を抑えることができる。


941 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:37:18 PAZyxWcM0
 さらには物理的には相互に干渉されない故に、壁等の物理的障害をすり抜けて移動することすら可能だ。

 だが、サーヴァント同士は互いの気配を感知することができ、またサーヴァントの持つ武装の多くは概念・魔術的特性を持っているため、霊体にも干渉できる場合が少なくない。
 しかも、霊体化は世界との繋がりを薄めている状態であるため、普段は問題無く耐えられる攻撃にも関わらず大ダメージを負う危険性もあり、必ずしもメリットばかりとは言えない状態なのだ。

 故に。霊体の状態で傷を癒やしながら、人目を避けて移動していたガンナー――マックルイェーガーが新たなサーヴァントの気配を察知した途端、人混みを避けるべく僅かに移動した後、即実体化したのは当然の選択であったと言えるだろう。

「……この気配、って」

 建物の天井に飛び移ってすぐ、自らの存在を隠匿しながら気配の主を探して視線を泳がせたガンナーの声には、微かな感情の揺らぎが表れていた。

 先程感じた気配は、彼女にとって既知の物――に、類似した感覚を齎した。
 ジェロニモと同じような古き馴染み。そして彼以上に、マックルにとって無視できない因縁の――

 そんな懐旧の念を抱いていたガンナーの鉛色の瞳が、瞬間、見開かれる。

 ――きんっ、という鋭い音。

 先の戦闘の最中のように、ガンナーの被っていた古めかしいフリッツヘルムが宙を舞う。

 陽光の如く彼方の空へ抜けていくのは、一条の雷――否。鉄メットの側面に激しい傷みを刻んだそれは、超音速の矢に他ならない。

 気配遮断中のガンナーの脳天を過たず狙った、凄絶なる一射。
 その二撃目はもう、ガンナーの眼前に出現していた。

「相変わらずタチが悪いわね」

 マズルフラッシュもないなんて、とまでは喋る余裕がなかったものの――不意を突かれたわけでもないその矢を、千里眼を有す女神は片手で掴んで止めていた。

 それが伴っていた烈風が、遅れながらも鏃の届かなかった獲物の額に到達。勢いに煽られたようにして、ガンナーは軽い調子で跳躍する。
 だが、その速度は凄まじい。まだ上昇軌道を描いていたフリッツヘルムに悠々追いつき、空いた手で捕まえた後は被り直さず横薙ぎして、動きを完璧に追って来ていた第三の矢を打ち弾いて直撃を回避した。

 そして、落下しながらも握っていた矢を反転させたガンナーはそのまま、長大なダーツのようにして投擲した。

 標的は当然、この矢を放った狙撃手――縦に垂れかけた柄付きの長布で顔を隠し、弓を携えたサーヴァントだ。三度の狙撃を無条件に許すわけもなく、ガンナーの誇る千里眼は当然のように発射位置を捕捉し返していた。

 とはいえ、流石に本職の英霊が弓で放った速度には及ばない。簡単に受け止められるだろうと予想した返し矢はしかし、それすら及ばず迎え撃たれた第四の矢で爆散した。

(……これは止められないわね)

 右手に新たな布を纏わせた、覆面の弓兵が放った一矢――先程までとは別格であることを証明するかのように、返し矢を容易く貫通した神気の籠もった一撃を検分し、ガンナーは思考する。

 おそらくは、矢に加護を与えたのは自身と同系統の概念を司り、なおかつより原初に近い神性。
 神秘はより強い神秘に敗れる。古の戦神のチカラが込められたその矢は、仮にマックルイェーガーが持つ戦女神としての絶対性を発揮してなお、阻むことはできまい。
 先に感じた縁とは異なる神性に、微かな戸惑いを覚えながらも。それを認識した時点では既に、彼女の行動も完了していた。

 ガンナーの背中。右に五門、左に五門と翼の如く拡がるのは、友たる精霊から譲り受けた聖ミスリル銀製の八十八ミリ高射砲。
 それが傍目には、一斉に火を噴いていた。


942 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:38:29 PAZyxWcM0

 神気を纏い飛翔する矢は、千五百メートル先の戦車の正面装甲を貫徹し得るタングステン芯弾の尽くを接触の刹那に打ち砕く。百分の七秒のうちに時間差で五発。
 だが、それで軌道を逸らされた矢は、ガンナーやその眷属たるアハトアハトの群れを掠めることもせず、また衝撃波だけではミスリル製の砲身を傷つけることもできずに飛んで行く。

 そして残る五発が、二つの長い布地を纏った弓兵の元へと殺到していた。
 しかし弓兵は、ガンナーが彼の矢をフリッツヘルムでそうしたように。左手に握った弓を軽くしならせるだけで、一つ一つが二十キロに達する金属塊、超音速の砲弾五つ全てを払い除け、戦車主砲の集中をあっさりと逸らしてみせた。

 その見事な腕前に感心しながらも、ガンナーは直ちに追加の銃砲を展開する。

 続けて召喚したのは、六連銃身で構成されたガトリング砲の代名詞。ギリシャの鍛冶神と同一視されるローマの火神、その名を戴いた二十ミリガトリング砲M61バルカン。
 第五階位(カテゴリーファイブ)のキャスター陣営との攻防に用いた三十ミリガトリング砲たるGAU-8には威力で劣るものの、最大稼働時の連射速度はその三倍近い毎分一万二千発。
 ガンナーはそれを計三十門、三方向から立体的に敵手を完全包囲するようにして配置して、アハトアハトの第二射とも同期させた集中砲火を開始した。

 宝具としての神秘を帯びたそれは、仮に英霊という上位存在であろうと――サーヴァントという限定された霊基で召喚される以上、純粋な身体操作だけではまず回避や防御が追いつかないほどの飽和射撃として成立する。
 加えてガンナーが放つ以上、その弾丸に無駄撃ちは存在しない。描かれた射線の尽くが、互いの死角を塞ぎ、吸い込まれるように有効打としての軌跡を辿る。
 そうして重金属の嵐は、悠然と立ち尽くす弓兵へと過たず全弾が直撃し、四散した。

 弾頭が炸裂した、わけではない。

 まるで存在そのものを否定されるかのように、ガンナーが送り出した万を越す金属の牙は対峙する英霊の肉に毛筋ほども食い込むことなく、弾頭が潰れたことによる焼夷効果を発することもなく、触れた途端に消滅したのだ。

 さしものガンナーも、これには瞠目する。

 元より殺傷力ではなく、スキルや宝具を使わせる様子見のための制圧力を優先した選択だ。一発一発の砲弾の威力は筋力Eのアーチャークラスの矢にすら及ばない以上、見るからに頑健な肉体を有すサーヴァント相手に致命傷を期待したわけではないが――先のキャスターが展開した魔術障壁とのような、単なる強度比べに破れたわけではない結末は無視できない。

 そうして互いの攻撃が無為に終わった結果を受けて、射手同士の戦いに小休止が訪れる。

「……銃といったか、それは」

 遠方で、ガンナーと対峙する弓兵が呟いた。
 抑えている声量で届く距離ではなかったが、彼に注目したガンナーは布越しに唇の動きを読み上げ、並べられた言葉を把握する。

「既に神代から切り離されて久しかろうに、新たな人の業への信仰にまで浅ましく寄生するとは。神を名乗る者どもはどこまでも卑しいな」
「随分な言われようね」

 少しばかり頭に来る物を覚え、抉れ歪んだフリッツヘルムを被り直したガンナーは改めて臨戦態勢を整えるが、制止する声が脳内に響く。

「(待つんだガンナー。あのアーチャー……『第一階位(カテゴリーエース)』のサーヴァントには、君の砲撃が通じていない)」

 声の主は彼女のマスター、トワイス・H・ピースマン。
 彼もまた、魔術師(ウィザード)としての能力でガンナーの視界の一部を共有し、真っ昼間に街の上空で行われた攻防を目撃していたのだ。

「(そうね。さっきの様子を見ると多分、威力の問題じゃないわ。特定の条件を満たさない限り攻撃が届かない、そんな感じ)」

 トワイスの焦燥を、ガンナーもまた首肯する。

「(その条件を君が満たせるとは限らない。連戦するには、あまりに危険な相手だ)」
「(そういう危険が日常なのも、戦争よ?)」

 だが、続いたトワイスの懸念を、ガンナーはあっけらかんと笑ってみせた。


943 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:39:12 PAZyxWcM0

「(撤退しろって言いたいんでしょ? でも気配遮断も見抜かれちゃったみたいだし、簡単には行かないと思うわ)」
「(……ならば、令呪を以って援護しよう。流石に今この時点で、君を喪うことは避けたいからね)」
「(嬉しいことを言ってくれるのね、ありがと。けど、令呪を使うならなおのこと、何も通じなかったままじゃ引けないわ。もう少し探りを入れてみないと)」

 そう言ってトワイスの意見を一旦蹴ったガンナーは、どこか諦念を含んだような、しかし微かな喜色の入り混じった吐息を漏らした。

「……それに、ここまで熱烈にアプローチされたら、ね」
「つまらぬ言い換えは寄せ」

 こっそり呟いたつもりだったが、この距離で対等に撃ち合えるだけの眼を持っているのだろう。軽口を耳聡く見抜いたアーチャーは不満を示すが、ガンナーは肩を竦める仕草を返す。

「間違ってはないと思うけれど。あたしを殺したいんでしょ? 人の子に強く想われて悪い気はしないわ」

 直後。
 再び、手にした帯から莫大な神気を生じさせたアーチャーが、手にした弓矢にその力を流し込んだ。

「よくぞ宣った、ならば今日が貴様の命日だ。未練たらしく人の世にしがみつく怨霊よ」

 最早言葉遊びは無用とばかりに番えるそれに対し。街の様子を千里眼で視認したガンナーもまた、体内に巡る魔力の勢いを増大させる。

「今日かどうかは知らないけれど……ええ、その憎悪の相手をしてあげるわ。古い時代の人の戦士」

 直後、彼らを囲む空の模様が塗り替わる。
 澄み渡るような青のコントラストが、纏まった白い雲から、星の数ほどの銃砲の黒金色へと。
 先に並べたバルカンやアハトアハト以外の機関砲及びカノン砲だけでなく、迫撃砲、小銃、散弾銃、拳銃すらも含め並べられた大小様々な火器が、その桁数を軽く三つは増やして空間を制圧する。

 それこそはガンナー、マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカの宝具、『億千万の鉄血鉄火(インフィニティ・ガンパレード)』。

 銃と戦の神である彼女の眷属として使役される、人の作りし幾千幾万の銃口が、ただ一騎のサーヴァントを狙い撃つ。
 それは、現代における戦争の化身たる億千万の鉄血鉄火と、神代における究極の一個人である英雄との、世紀を越えた一戦ともいうべき構図だった。

「このあたし、この世最後の戦神が!」

 胸の高鳴りのままにガンナーが吠えると同時、幾千万の銃声が大気に轟き。
 そして雷の如き神域の剛弓が、その尽くを薙ぎ払った。







「あはは、こっちだよー!」

 のどかな公園の風景。それを彩る遊びに夢中の幼い声が、また一つ、新たに奏でられていた。

「(待て待てー!)」

 相手には聞こえない声で、しかし同じぐらい楽しそうな調子で呼びかけながら、コレットは笑顔で白い童女――つい先程知った名前は、ありすという――を追いかける。
 その声を因果線を通した念話として聞きながら、ありすに嫌われ気味のライダーは少し離れた場所で、追いかけっこに興じる年の離れた少女たちを見守っていた。

「おいコレット、おまえドジなんだから足元も見て歩かないと……言わんこっちゃない」

 旅の中の、穏やかな思い出となりそうな一場面。写真に残したくなったその瞬間を切り取った後、ライダーが横合いから注意を喚起する最中に、コレットの体勢が崩れた。そのまま勢いよく、ばたんと倒れ込む。
 倒れ込んでから数瞬の後、もぞもぞと頭を動かしていたコレットは、ぎこちなく上体を起こす。
 派手な転倒ではあったが、怪我をするようなものではない。すぐに立ち上がれないのは痛みではなく、触覚を喪った今の彼女にとっては、五体のみでその動作を急に行うことが容易ではなくなったからだ。

 ……驚いた拍子に羽を出さなかったのは幸いだと思いながら、頬に砂粒が着いていることも自力では認識不能な彼女のために、ライダーはカメラから離した手にハンカチを取って歩み寄る。

 そんな自分と同じように心配したのか。コレットに追われていたはずの白い少女が踵を返し、とてとてと歩み寄っていた。

「おねぇちゃん、だいじょうぶ?」

 心配そうに覗き込むありすに、コレットは穏やかな微笑を湛えて応えた。


944 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:40:13 PAZyxWcM0

 喋れないなりの配慮だったのだろうが、しかし言葉としての回答ではなく。ライダーが手を貸すまで、起き上がるのにも苦戦していた様子を見ていたありすは、やはり不安が晴れなかったのだろう。

「しゃべれないの、人魚姫みたいねって思っていたのだけど……もしかして、おねぇちゃんも歩くと痛いの?」

 小首を傾げる少女に、コレットは笑顔のまま首を振った。
 そこに気遣いの嘘など含まれてはいない。コレットは天使疾患により、痛みを忘れて久しい身体になっているのだから。
 動くだけで痛い童話の姫君と、さてどちらが辛いのだろうか……などというくだらない比較の感傷が湧き出たのを、ライダーは自己の内で瞬時に切り捨てた。

 ……もっとも、今しがた何もないところで転んだのは天使疾患の影響などではなく。彼女が生粋の、それも重度のドジっ子であるからということを、部屋の壁にコレット型の大穴を開けられたライダーは既に把握していたが。

「そう……なら、よかったわ」

 一方で、その対応にやっと安心したように、ありすは胸を撫で下ろしていた。
 ライダーに対しては生意気だが、幼子ゆえの分別のつかなさがあるだけで、根が悪いわけではないのだろう。
 そんな様子を見て和みたいところであったが、しかしライダーはその瞬間、それを許さない緊張を強いられていた。

「(……ねぇ、ライダー。今日って、お祭りの予定とかじゃなかったよね?)」
「ああ。そもそも昼間だ」
「(じゃあ……)」
「わかってる」

 聴覚の強化されたコレットが問かけるより早く、ライダーもその不穏に気づいていた。

 ……遠くから、火薬の炸裂する音が聞こえてきたのだ。

 それも複数。こんな真っ昼間から、鉄の弾けるような音が、何度も繰り返し――徐々に、近づいてきている。

 明らかに只事ではないが、石材や木材の破砕音、そして何より人の悲鳴までは聞こえて来ないという一点だけが、今にも駆け出してしまいそうな二人にまだ様子見を許す理由になっていた。
 とはいえ、長時間対処しないままでいることが望ましいとは当然、思えない。

「だからまぁ、さっさとこの子を預かって貰おう。ちょうど待ち人も来たみたいだ」

 目当ての人影を見つけて、ライダーはそうコレットに言い聞かせた。

 待ち人とは、ありすの知人であるというタタリのおじさん――ではなく、一人の警察官だ。
 顔馴染み、というわけではない。ただ単に、ライダーが公園の事務局を介して警察に通報して貰っていたのだ。結果、近隣を巡回中だった巡査が現場に駆けつけたのだろう。
 若い巡査も、通報者と特徴の一致するライダーに気づいたように、三人の方へと向かってきた。

「あなたがカドヤさんですね」

 周囲を少し見渡した後、若い巡査は制服のポケットから折り畳まれた紙の束を取り出し、その中の一枚を選び取った。

「迷子は白い髪の女児とのことですが、もしやこの子でしょうか?」
「いや? あの通り真っ白いし、もうちょっとちっちゃいな」

 通報時点では名前を聞けていなかったせいか、行方不明児童――クロエ・フォン・アインツベルンという名の、小麦色の肌と赤い瞳の女児の目撃情報を求める写真付きチラシを広げた巡査に首を振り、ライダーはコレットと戯れる少女に視線を送る。


945 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:41:31 PAZyxWcM0

「……もしやあなた、保護しているとおっしゃった迷子を見失ったのですか?」
「はぁ? 何を言っている。ドレスを着た小さなレディがこっちを見てるだろうが」

 やや不注意な気がする巡査に呆れながらライダーは指で示すが、暫しそこに焦点を合わせ、目を瞬かせていた巡査は心底困惑した様子で問い返してきた。

「いやドレスじゃないですし、伺った話より分別の付きそうな年齢ですし、髪もブロンドですよ?」
「そっちは元々、俺が保護者代わりだ」
「……あの、カドヤさん。もしも通報が悪戯ということなら、少し署までご同行願いたいのですが……」
「ちょっと待て、本気で言ってるのか?」
「私は至って真面目に告げております。軽い気持ちだったのかもしれませんが、あなたの行動は確かにこの街への不利益を……」
「じゃなくて、本当にわからないのか?」
「だから――!」
「……少し待て」

 ようやく、明らかな異常を察したライダーは、さらにもう一つの異常――接近を示すように大きくなった、最早紛うことなき砲声に揺れる空気を無視して、コレットとありすのところまで歩を進めようとした。
 問答の時間が無駄だ。直接ありすを託して、自身が異常の調査に向かおう――とライダーは考えたがしかし、その手を背後から掴まれ、引き止められる。

「逃げるつもりですか!?」
「違う! というかおまえ、こんな音がしていたらもっと気にすることがあるだろ!?」
「何を気にするんですか? 祭りの花火でも上がっているだけでしょ!?」

 巡査の態度も、傍から見て異様と言えるものになっていた。

 ――否。巡査だけではない。

 公園内に居た人々が、近づいてくる音に一度は顔を上げるも、すぐに興味を失ったように元の営みに戻っていくのだ。
 まるで、それが日常であるかのように、気にも留めず。

「…………イヤ」

 だが、そうはならない者も居た。
 ライダーと、コレットと、そして――――

「この音、イヤだわ……!」

 ただならぬ様子で震え始めた、ありすが。

 自らの小さい体を抱き、恐怖に縮こまる少女の様子に――しかしライダーとコレット以外、誰も気づかない。意に留めない。
 明らかな異常。だが、何が異常なのか。
 あるいは――果たして何が、異常ではないのか。

「こわいの……っ!」

 声を奪われたコレットは、皮膚感覚のない身で砂糖細工のように儚い、涙を浮かべる少女を傷つけてしまうことを恐れるように、遠慮がちに触れることしかできない。

 二人の様子を見て、まともな状態ではないNPCの拘束を振り切ることにしたライダーの呼びかけは、さらに大きく響き始めた砲声によって遮られる。
 それでも、二人に向かって駆け寄ろうとしたライダーはその時――既知の、しかし出現を予想だにしなかった存在を前に足を止め、その原因を視認できていない巡査に再び組み付かれた。

「■■■■■――――――――ッ!!」

 そして、ありすを砲声から庇うように顕現した黒と緑の怪物――ジョーカーアンデッドは、迫り来る戦争の気配を押し返すほどの咆哮を上げた。


946 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:42:26 PAZyxWcM0





 スノーフィールドを舞台とする戦女神と復讐者の戦いは、膠着状態に陥っていた。

 容易く万を越す圧倒的な物量と、文字通り神憑り的な精度を両立するガンナーの宝具による弾幕は、アーチャーの矢をして未だ直撃を許さない。
 威力も速度も、ガンナーが繰り出すほとんど全ての銃弾を凌駕するアーチャーの超音速の矢にさえも、どのタイミングでどこに当てれば効果があるのか、完璧に見据えたガンナーの迎撃はその軌道を逸らし続ける。

 しかし、その迎撃とは別に繰り出される飽和攻撃の数々は、アーチャーに何の痛痒も与えはしない。
 人の作りしあらゆる武器を拒絶する神獣、ネメアの獅子の皮を剥いで編まれた裘(かわごろも)は、その人理否定の力を十全に発揮して、『億千万の鉄血鉄火』の火線の全てを遮断していた。

 いくら撃てども、ガンナーの攻撃はアーチャーには通じない。アーチャーの攻撃は今のところその尽くを躱されているものの、その鏃に染み込んだ毒と合わせて――彼女の対英雄スキルによるステータス下降を加味してもなお、掠りでもすれば神殺しを成し得る威力を保っている。
 一見、千日手のように見えたとしても。この距離を保てば、アーチャーは防御に意識を回す必要もなく、一方的な攻撃に専念できる。
 さらに言えば、礼装を介し第二魔法の応用による無尽の魔力供給を受けるアーチャーは、有限の魔力しか持ち得ないだろう他のサーヴァントとの消耗戦において、絶対と断じられるほどの優位を持つ。

 論理的に考えて、徐々に活路が塞がれ詰んで行くのは、現代の文明に付け入り生まれたあの戦女神の方だ。

 ……だというのに、そんなこともわからぬほど愚昧でもあるまい敵は未だ涼しい顔。一方で。

「……アーチャー! これ、本当に大丈夫なんでしょうね!?」

 耳元で甲高く囀るのは、未だ意識のないイリヤスフィールを強制的に魔法少女に転身させた礼装、カレイドステッキのルビーだ。

「ああ。そこが最も安全だ」

 視線を向けるまでもなく、アーチャーは直に肌へ触れているマスターの状態を理解している。
 アサシンへ預けるには信頼が足りず、かと言って意識を取り戻させたところで、未だ覚悟の定まらぬマスターを自由にさせるのも、神を討たんとする戦いにおいては不安要素が大きすぎる。

 故に、イリヤを自らの背中に、鎖で巻き付けて運びながら戦うことをアーチャーは選んでいた。
 もちろん状況次第では切り離すことも考えたが、銃砲の群れを従え、あらゆる射角で飽和攻撃してくるこの戦女神が相手ならば、結果的に神獣の裘で諸共に安全を確保できるこれが最良の形とも言えた。

 もっとも、無尽の魔力供給の実現とアーチャーの機動による慣性に耐えさせるために魔法少女化させているとはいえ、アーチャーの動きには制限が架かり――ある意味、ガンナーを未だ仕留めきれない理由ともなっているが。

「……そうね。色々試してみたけれど、やっぱり銃じゃ届かないみたい」

 そんなやり取りを見ていたのか、ガンナーもまた、肩を竦めて嘆息を零していた。

「けど、そんな有利な状況でも焦れったそうにしていたら、その……杖? も、不安にもなるわよ」

 いつの間にか、アーチャーに降り注いでいた重金属の雨は無為を悟ったように止んでいた。
 それでも会話を届かせるにはラグのある距離であり、何より、変わらずアーチャーの放つ矢を迎撃する砲声によって度々肉声が遮られている。
 そんな、射手の眼による互いの読唇術で成立している会話の方に、ガンナーは意識を向けたらしい。

「あたしの纏う鉄血鉄火は、その衣には通じない。だけど矢には別だから、この距離だとあたしが消耗するまではまず届かない。それをもどかしく思いながら、あなたは近づいて来ない」

 絶えずアーチャーの放つ矢を、既に慣れたと言わんばかりに片手間の砲撃で逸らしながら、跳躍したガンナーが接近を試みる。
 しかし同じ分だけ、アーチャーも相対距離を保つために移動して、間合いが詰まることはない――これが先刻から延々繰り返され、徐々に戦火をずらしていくこの闘争の経緯だ。


947 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:43:13 PAZyxWcM0

「察するに、あたしでも距離を詰めて――それこそ肉弾戦にでも持ち込めれば、あなたたちを傷つける可能性ができる……といったところかしら」
「だとしたら、どうした」

 そんな戦闘の推移から考察を述べるガンナーに、アーチャーは平静な声のままで問う。

「この私を相手に、徒手空拳で勝利するつもりか」
「ま、それは試してみてのお楽しみとして……背中の子を心配しているんだとしたら、第一印象より、ちゃんと優しいなって思って。ちょっと嬉しくなっちゃった」
「――――!」

 瞬間、堪えきれなかったとばかりに破顔した女神に向けて、アーチャーはあらん限りの力で矢を射った。
 だが、怒りの余りに軍帯より神気を呼び起こすことすら忌避してしまった一撃は、取り囲む銃砲の群れを起動させることすらなく、ガンナーの細い人差し指と中指の間に易々と捉えられる。

「人の武器が通じない衣を纏い、古の戦神の力を秘めた帯を持ち、神域の技量で毒矢を放つ」

 受け止めた矢、その鏃に染み込ませた致死の呪いを直に覗き込むようにして、ガンナーは言葉を紡ぐ。
 その様子を認めたアーチャーは、遂に一歩、自ら相手への距離を詰めた。

「どうしてあなた自身から神性を感じないのか、とか。どうしてノアレの本体……暗黒神(アンリ・マユ)から神性を抜いたような気配までするのか、とか。イメージと違うし疑問に思うところもあるけど、だいたい心当たりは付いたから」
「黙れ」

 こちらの接近を意にも止めない様子だったガンナーに向けて、距離を詰めながらアーチャーは弓を引く。今度はアマゾネスが女王より簒奪せし帯から神気を与えられ、爆発的に破壊力を向上させた一撃だ。
 それが先程までよりも、迎撃のための距離が欠けた状態で放たれるが――再びの砲火、そして不足分をガンナー自身の手に召喚した拳銃によるクイックドロウが埋めてみせる。
 傷んだフリッツヘルムの下、鉛色の髪を衝撃波に激しく煽られながらも。なお紙一重で膝を沈めて致命の矢を回避したガンナーは、撓みが戻る勢いのまま跳躍したが――今度は逆に、彼女の方が距離を取ろうと後退る。

「ま、流石にもう疲れてきたから、場は改めさせて貰うわね。ただ、ここまでは役に立ったから置いてたけど……次回はこっちが有利に進められるようにしておこうかしら」
「――させると思うか」

 こちらから距離を取りながら、視線を巡らせた敵が何を狙っているのかアーチャーはその隙を与えまいと、再び前進する。
 だがそれこそが誘いと言わんばかりに、未だ毒矢を握ったままだったガンナーもまた、着地と同時に体を運ぶ向きを反転させた。

 結果、互いに距離を詰める形となった両者の間合いは一気に縮まり、先程までは遠かった肉声も滞りなく通じるだろう位置にまで近づいて――

 ――そこで、どちらが先に気づいたのだろうか。



「■■■■■――――――――ッ!!」



 禍々しい気配――そして、地を震わす悍ましき咆哮に。

 互いに集中する余り、意図せぬままに自分たちが……恐るべき死神の間合いへと、踏み入ってしまったことに。



 ――――視線を巡らせたその時には、恐怖の塊のような姿をした乱入者は、既に命を刈り取る一撃を解き放っていた。



 輪舞するそれは黒い全身に通う、異形の血が結晶したような緑の刃。
 手持ちの鎌から破壊の成分だけが抽出され分離したような地獄の光輪は、音速を越えて飛翔し――纏めて貫かんとする軌道で、接近した二騎のサーヴァントに襲いかかった。


948 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:44:07 PAZyxWcM0

 その刃と先に接触する運命にあるのは、アーチャーだった。

 不躾に人間へ踏み込む女神を葬らんと構えていた弓兵は――憎悪の対象より与えられていたが故に捨てた第六感の喪失のため、慮外の一撃となったそれへの対処の時間が限られていた。
 故に、数多の冒険を越えることで積み上げた、人としての危機回避能力を発揮し、生存への活路を瞬時に見出す。

 だが、背の荷物があるために、動きが制限される事情は変わらない。死の肉薄に対処するには迎撃を諦め、また眼前の仇敵への攻撃も一時中断する苦渋の決断を呑む必要があった。
 結果、命を刈り取らんと襲来した刃に対しても、アーチャーやイリヤは無傷のまま、逃げ遅れた裘の末端を切断されるだけでやり過ごすことに成功したが――

 ――――『神獣の裘』の一部が、刈り取られた。

 切り裂かれた幅は指三本分ほど。人理否定の具足としての機能に何の不全も与えない、軽微な欠損。
 だが、明らかな武器の類から繰り出された斬撃は。ともすればこの宝具の元となった神獣をも一太刀で屠りかねない鋭利さを保ったまま、億千万の鉄血鉄火を寄せ付けなかったネメアの獅子の毛皮を貫いた。

 そのまま勢いを落とすことなく、光輪はガンナーの首を飛ばさんと天翔ける。

 彼女が展開した宝具は、アーチャーの矢を弾くのと同様に、重金属の弾丸を鎌に叩き込んだ。
 だが、彼女もまた初撃に気づくのが遅れたこと。そして壁となるように『神獣の裘』を纏ったアーチャーが存在し射線を遮られていたことが、銃神の誇る迎撃能力の瑕疵となっていた。

 結果、充分な軌道の変更が間に合わず、輪舞する緑の鎌は戦女神のヘルムを掠め、破砕。
 そして鮮血と、淡い光の粉を巻き込んだ尾を曳きながら、恐るべき殺戮の刃はどこか、あらぬ方角へと飛んで行った。

「――やっぱりあたしじゃ駄目か」

 向かいの家屋の上、度重なる被弾に傷みきっていたフリッツヘルムを失ったガンナーが、裂かれた側頭部から流れる血の化粧を払うように頭を振って呟いた。
 寸前、アーチャーとの対決でも見せなかった神気の爆発的な向上――限定的ながらも女神としての霊基を再現した彼女の護りを易々と貫き、殺傷したという事実。
 裘の切れ端をちらりと視界の隅に収めたアーチャーは、警戒の度合いをさらに跳ね上げる。

「魔物の類か?」
「見たままなら、ガイアの死神……とでも言えば良いのかしら」

 問うたわけでもないアーチャーの独白に、負傷からかやや緊張した声音でガンナーが続いた。
 互いに、接近した標的よりも、新たな脅威への警戒を優先した二騎のサーヴァントは、恐怖の化身と睨み合う。

「人類史の否定者、その一種……けれど、霊長のみでなく。地球に出生した全ての命を審判する、星の刃たる原初の殺し屋。星の触覚だった古い神々ならともかく、人造物への信仰から生まれたあたしじゃその殺害権を拒絶することはできないということかしら。それとも、アレが神をも含めた如何なる系統樹にも属さないから……?」

 神の視座、とでも評すれば良いのか。人間とは異なる高位の視点から、ガンナーは見たままの結果として、自らに血を流させた一撃を検分していく。

「■■■■■■――――――!!」

 二人の視線の先。スノーフィールド中央公園に陣取った怪物は、苦悶の表情のまま固まった顔面、その口腔を限界まで開いて、大音声の咆哮を発して来る。
 こちらを排除しようという意志が圧力となって伝わる狂声。大気に充満する破壊の衝動は、眼前の獣が戦女神と復讐者を等しく敵視していることを告げていた。

 そうして再び、防御不能の得物を構えようとする怪物に対して、アーチャーは『戦神の軍帯』の神性を付与した矢を閃光のように浴びせ掛かる。

 だが怪物は、むしろ自ら当たりに来るかのように踏み込むと、ガンナーでさえ正面からは防げなかったそれを鎌の一振りで切り払った。
 改めて、しかしただそれだけの動作で読み取れる、桁外れの膂力。凄絶な切れ味と、研ぎ澄まされた殺戮の本能。
 それを揮う鬼神の如き気迫を見て、アーチャーは一つの事実を理解した。


949 : 静寂を破り芽生えた夢(前編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:45:08 PAZyxWcM0

「……あれがマスターか」

 鬼気を漲らせた死神が踏み出したのは、こちらの射線を完全に遮るため。
 今、その背に隠した小さな影――恐怖に俯き、震える白い童女を、護らんとするように。

「あの子――」

 アーチャーの矢に続くようにして、機関砲や戦車砲を並べて飽和射撃を仕掛けるも。仁王立ちする怪物の、ただ強靭なだけの皮膚に尽く跳ね返されたガンナーもまた、同じ存在を知覚したと思しき呟きを漏らした。

 一撃で装甲車を貫き、家屋を粉砕する破壊力を雨の如く無造作に浴びながら、なお健在。加えて、人理否定の特性を受け付けず、あまつさえ神獣すら切り裂くだろう殺傷力。
 圧倒的な戦闘力を見せる黒緑の死神は、ネメアの獅子よりさらに上位の神獣か、あるいは全く別のカテゴリーに分類されるような――

 ――だというのに。

「獣(バーサーカー)風情が守護者気取りとはな」

 果たしてどんな感情が、自身の唇からそんな言葉を漏らさせたのか。アーチャーも自覚できてはいなかった。

 ただ、この恐るべき怪物が狂気の澱に沈んでなお、決して己の優先順位を見誤らないようにして少女を庇い、砲火の嵐に磔となっているこの機を逃すべきではないと次の矢を構える。

 ここでガンナーを討つには、この獣の介入を許してはならない。だが早々に排除するには、アーチャーをして少々骨が折れる相手だ。
 まして、こちらの背にイリヤを負ったままでは、『射殺す百頭』を放つことすら容易ではない。

 ――ならば、死神本体よりも遥かに脆き生命線を直に、断つ。

「駄目よ」

 そんな冷徹、かつ悪辣な思考に従おうとしたアーチャーを制するように――しかし全く別の誰かに語りかけるようにして、ガンナーが呟いた。

「ここから帰れない理由ができたわ。あの子は――あたしが送ってあげなくちゃいけないから」

 ガンナーがそんな言葉を発した直後。
 公園を取り囲むようにして、無数の銃砲が展開されていた。

 如何に怪物が強靭といえど、死神自身には並大抵の銃弾など通じないとしても――――あの、砂糖細工の如く淡い印象の少女には。

「貴様――」

 自らの為そうとしていた所業を、ただ先取りされただけでありながら。アーチャーは無意識に、声へ込める神への敵意を増幅させた。
 しかし鏃の向きを変えるより早く、筒の中の火薬が炸裂し――



「変身っ!」
《――KAMENRIDE DECADE!!――》



 その声と同時に飛翔した七枚の板状のエネルギーが、縦横無尽に公園の空を疾走し、降り注ぐ銃砲弾の雨を打ち弾いた。

 そして役目を終えたとばかりに地上に舞い戻ったそれらの集合地点に、マゼンタの鎧に身を包んだ、さらなるサーヴァントの気配が現れていた。


950 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:46:22 PAZyxWcM0





 突然、目の前に出現した異形のバーサーカー。その姿が纏う濃密な死の気配に、コレットも湧き出る恐怖に竦むを堪えられなかった。

 そのまま、大地を圧すような咆哮を発した番外位(ジョーカー)のサーヴァントは砲声の轟く方角へと攻撃を仕掛け、強化された視力でその軌道を追ったコレットはやっと、街中で二騎のサーヴァントが相争っていた事実を知った。
 彼らから当然のように繰り出された反撃を、直接受けたわけではないのだが――その破壊力の余波を浴びて負傷する者が現れたからか。砲声を聞いても大した反応を見せなかったにも関わらず、公園に居た人々が、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

 それは――危険に晒された時点で良くはないけど、ここに至っては構わない。本来の自己も、力も何もかもを奪われた彼らは、こんなところに居るべきではない。負傷者も連れて逃げ延びてくれるなら、それが一番だ。

 ……けれど、それすら叶わない者が居る。

「イヤ……イヤなの……っ!」

 砲火の中、今のコレットでも油断すれば聞き取れないほど小さな声で――ただそれだけを繰り返し、頭を抱えて縮こまり、震え続ける小さな女の子。
 死神の如きバーサーカーが、迎撃の際に見せた挙動で、コレットも大凡の事情を察した。

 この不思議な少女が、番外位のサーヴァントと契約したマスターであることを。
 理性を奪われた怪物は、ただ純粋に、ありすを恐怖から庇護しようとしているのだと。
 己の身で火線を遮るその姿に、悍ましき異貌の奥に秘められた守護者の心を感じ取りながらも、しかしコレットは彼らを全肯定することはできなかった。

 理性なき従者を、ありすが自覚的に動かしているのかまでは預かり知れない。
 だが少女を脅かす不幸を排除するために、彼が戦いを挑んだ結果として――罪もない公園の人々を、そして彼が護らんとするありすまでもを、サーヴァント戦に巻き込んでしまったということは、紛れもない事実だ。

 故に、睨み合う三者を前にして、コレットは己の立ち位置を決めかねていたが。

 直後、バーサーカーでも庇いきれない範囲の、数多の死が襲来した時。コレットは力加減に細心の注意を払いながら、ありすを抱き締める決心をした。
 自らの背を楯にするようにして、少しでも幼い少女を脅威から遠ざけようと。

 そして、ライダーに人前で晒さないよう厳重されていた禁を破り、クルシスに授けられた天使の羽が出現するのも厭わず、体内のマナを練り上げる。

 ありすを巻き込むようにして発動したのは、レデュース・ダメージ――多量の魔力を消費すると引き換えに生半な害悪を軽減する、傭兵クラトスに教えられた防御奥義によって発生した結界が、衝撃波や破片の襲来を危険のない程度にまで和らげてくれた。

 それでも、飛来した砲弾、サーヴァントの放った攻撃の数々は本来、一つ一つが結界ごとコレットたちを貫いても不思議ではなかった。

 ――だが、こちらにも。そんな暴威へ対抗できるだけのサーヴァントが、居てくれた。

 コレットの十人目の仲間。彼女の意を汲み、ライダーが宝具――『全てを破壊し繋ぐもの(ディケイドライバー)』を用いてその霊基を完成させた第十階位(カテゴリーテン)のサーヴァント、仮面ライダーディケイドが。

「……次から次へと」

 その参戦を認めた途端、彼方に立つ異様な風体の弓兵――第一階位(カテゴリーエース)のアーチャーが、そのように独り言ちた。

「全くだな。平和な昼間から何をやっているんだ、おまえら」

 パンパンと手を払いながら耳聡くその愚痴を拾ったライダーが、ディケイドの仮面の奥から呆れた調子で溜息を吐いた。

「愚問だな。聖杯戦争において敵が居て己が居る。ならば後は果たし合う以外に道はあるまい」
「いいや? 他にも選べる道はあるだろ。たとえば……聖杯戦争を破壊する、とかな」


951 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:47:59 PAZyxWcM0

 ――複数のサーヴァントが一堂に会しての、生存戦(バトルロイヤル)。

 このような状況での定石は、複数の陣営が一旦徒党を組んで、最大の障害となる、あるいはより与し易い陣営を葬ることだ。
 その観点で言えば――コレットがマスターとしての特権で把握した、各々のサーヴァントのステータス……宝具を抜きにした個体性能で言えば、明らかに一人劣った水準にあるライダーは、ただでさえ格好の標的になりかねない。
 だというのに、堂々と聖杯戦争への敵対を――つまりは、聖杯を求めるというサーヴァントらの共通項に宣戦布告するというライダーの大胆な振る舞いは、剛毅を通り越して愚挙と言っても差し支えのないものだった。

 だが、それを責める気はコレットにはない。
 彼が口にしたそれは、コレットが託した願い、そのものだったから。

「無関係の人間を巻き込んで、マスターだからってこんな小さな子供まで殺そうとする。そんな奴らに、願いを口にする資格はない! ……だから俺は、おまえらの邪魔をしてやる」

 熱く怒るライダーの覇気に、しかし三騎のサーヴァントも呑まれることはなかった。

「――――――」

 番外位(バーサーカー)は、ライダーから機械的に貌を逸らす――まるで、彼がありすを脅かす者ではないと理解しているかのように。

「……その資格を決めるのは貴様ではない」

 言い分を静かに聞き届けた第一位(アーチャー)は、ライダーのそれを跳ね返すような強烈な闘気を発しながら、弓を強く引き。

 そして、第七階位は――

「そうかもしれないわね」

 至極あっさりと、ライダーの言葉を受け入れた。

「誰に資格があるか、なんて簡単に決めて良いことじゃないでしょうけど……あなたとあたしに関してはきっとそうよ、アーチャー」

 直後、爆音が連続する。

「きゃぁあああああああああっ!?」

 耳元で叫ぶありすに痛みを与えないように、細心の注意を続けながらも。コレットも思わず身を竦めたそれは、アーチャーの乱れ撃ちにした矢の過半数が直撃を逸れ、代わりに公園のあちこちにすり鉢状の大穴を穿った際の音だった。

「……どーいうことだ?」

 手にした剣、『縹渺たる英騎の宝鑑(ライドブッカー)』ソードモードの一閃――並行世界から、微かにズレた軌道の攻撃を全く同時に召喚する多重次元屈折現象(アタックライド)を駆使して不足した個体能力を補い、アーチャーの矢の残り半分をバーサーカーと分担して打ち払ったライダーが、コレットが抱いたものと同じ疑問を声に出していた。

 ……アーチャーの矢が外れたのは、第七階位のサーヴァントがその背に並べた銃砲の一斉掃射で、斜め後ろから軌道を逸らしていたためだ。
 恐るべきことに――音速に数倍する銃弾よりさらに速いアーチャーの矢に後ろから当てるために、彼女は完全にタイミングを見極めて、アーチャーが射る以前に銃撃を開始していたのだ。

 しかし。その神域の技量以上になお、コレットとライダーには彼女の真意が計り知れない。

 何故なら――


952 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:49:09 PAZyxWcM0

「だから、あなたはやめておきなさい。あの子は、あたしが責任を持って送るから」

 銃使いのサーヴァント――ガンナーと仮称すべき彼女によって展開された数多の銃口。
 アーチャーの矢を阻んだそれらはなおも、ありすを狙って並んでいたから。

「■■■■■――――ッ!!」

 気づいた時には、再び幼きマスターを狙わんとする敵手に対して、激昂するバーサーカーが咆哮と共に光刃を射出していた。
 しかし、半ば不意打ちとして成立した初撃とは異なり。アーチャーの矢に対してそうしたように、殺到した砲弾が軌道を逸らして、ガンナーへの直撃を外されてしまう。

「いやぁあああああああ――――っ!!」

 コレットの腕の中にあってなお、届く銃声にまたも悲鳴を上げるありす。そんな彼女の恐怖の根源を取り除こうと、さらなる追撃をと構えるバーサーカーだったが――その異形が放つ圧力が突如、薄まる。
 疑問を覚えたその時には、同じ現象がもう一箇所――感覚のない己の腕の中で起こっていることに、コレットは気づいた。

 次の瞬間には、恐怖に目を閉じたままのありすと、彼のサーヴァントであるバーサーカーが、コレットの視界から夢幻の如く消失していた。

 この腕に抱いていたはずの、少女の喪失――それは天の御業そのものや、魔科学が再現してみせた転移という術を連想させる現象だった。

「……逃がしちゃったわね」

 その直感を、確信に変えるような声が一つ。
 呆気ない幕切れを前にしたガンナーの唇から、ありすの生存を意味するのだろう言葉が漏れていた。
 どこか寂しそうな調子で呟いた彼女はそのまま、暗い銀色の瞳をコレットに向け、皮肉っぽく笑ってみせた。

「遠慮しないで、あなたごとぶち抜くべきだったのかしら。ライダーのマスター」
「ふざけたことを言うなよ」

 コレットに向けられた視線を遮るように、ありすとバーサーカーに置いていかれたライダーが一歩前に出る。
 ……だがコレットは、自らが晒されているかもしれない危険よりも、ガンナーの発言が気にかかっていた。

 遠慮しないで――その発言の真意に悩むコレットの様子に気づいたように。ガンナーはくすりと、どこか寂寥を含んだ微笑を零す。

「一つだけ忠告しておくわ。あの子にはもう、あなたたちは近づかない方が良いと思うわよ」
「それはおまえの邪魔になるから……か?」
「そうよ。それにあなたたちと……そしてあの子のためにも、ね」

 コレットに代わって問うたライダーに、ガンナーは淀みなく応じた。
 ――その返答に対し、ライダーが宝具の柄を握る力を強める音を、コレットの強化された聴覚が拾う。

「何があの子のためだ。さっきから黙って聞いていれば、随分と勝手な――」
「あの子の正体は網霊(サイバーゴースト)よ」

 ライダーが静かに高めた憤りを遮るように、ガンナーはそんな言葉を続けた。

「もう生きてすらいない死者の夢。未だ苦しみに囚われた、戦争の犠牲者なの」
「……なんだと?」
「思い当たる節はあるでしょう?」

 声の揺らぎを隠しきれなかったライダーに対し、ガンナーは試すように問い返す。

「サイバーゴーストとしては少し、特殊なタイプみたいだけど……あの子はもう、とっく死んでるわ」

 突拍子もないガンナーの言葉。
 しかし、他ならぬライダーの反応が、それが真実を表しているのだと知らしめてしまっていて。

「あとはただ消え去るだけ。もうムーンセルどころか、SE.RA.PHから出ることすらできない……たとえこの月の勝利者となっても、ね」


953 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:50:23 PAZyxWcM0

「……!」

 聖杯戦争に巻き込まれた、全ての人々の生還――そんな夢見がちな願いを、早々に否定するような現実を告げられて。
 無言を貫くしかないまま、打ちのめされるコレットの様子を認めたようにして。ガンナーは三度、淡く陰のある微笑みを浮かべた。

「夢に終わりが来るのは同じでも。悲しい結末よりは、救いのある方が良いでしょう?」

 ……それは、きっと何でもそうだ。
 けれど――その救いとは、果たして何を意味して――?

 あたかもコレットの声なき疑問に答えるように、ガンナーはなおも言葉を紡ぐ。

「だからあの子は、取り返しのつかなくなる前に、あたしが責任を持って送るわ。あたし、これでも銃と戦争の神様だからね」
「戯けたことを」

 ――瞬間、喪って久しい肌寒さがコレットを襲う。

 言うまでもなく、それは錯覚だ。
 強烈な負の感情、それもただの余波によって引き起こされた。

 神を名乗りしサーヴァントの発言に割り込んだのは、仮面に口を隠したライダーでも、もちろん声の出せないコレットでもなく。
 先程妨害を受けてから、目立った動きを見せていなかった第一階位の弓兵だった。

「何が責任だ。我欲のため、幼子に再び死の責め苦を与えるだけの所業を、よくも厚顔無恥に言い換える」

 ガンナーに対し不快感を剥き出しにしたアーチャーの手に抱えられているのは、今この時ばかりは弓矢ではなく、一人の少女の体だった。

「あの子は……」

 その姿にライダーが反応を示した少女――おそらくアーチャーのマスターの年頃は、ちょうどコレットとありすの中間、と言ったところか。
 静謐な雪原のように綺麗な銀髪をした彼女は、どうやら今は気絶しているらしく。アーチャーの行動に対し、抵抗も協力も示しはしない。
 その少女の首元に、ストールのようにしてアーチャーが纏わせたのは、先のバーサーカーの攻撃によって分断された、彼自身の纏う布の切れ端だった。

「その犠牲を忌むように嘯きながら、貴様は戦を否定するわけではあるまい――マックルイェーガー」
「……ま、これだけ手の内を見せてれば気づかれるのも仕方ないか」

 アーチャーの呼びかけに少しばかり苦笑したガンナー――真名をマックルイェーガーというらしきそのサーヴァントは、改めて当初の敵対者に向き直った。

「当然ね。戦女神を捕まえて、戦争根絶を唱えるとは思わないでしょう? あたしの真名に至ったのならなおのこと」

 アーチャーが放つ凄まじいまでの憎悪の念。少女から離れ、さらに一段階強まったそれを涼風の如く受け止め、ガンナーは小首を傾げた。

「悲しい犠牲はあるとしても――いつか、要らなくなる未来が来るのだとしても。人類にはまだ、その勇気を失くさないために、戦場という物が必要なのよ」
「すり替えは止せ。貴様らにとっては、己が娯楽のために必要とするだけだろう」
「その点も否定はしないわ。やっぱりあたしは、あたしを生んだ人の子と戦争が大好きだから」
「ならば――人間を玩弄するのはここまでにして貰おうか、邪神よ」

 何の気負いもなく肯定を返したガンナーに、アーチャーは掴んだ無数の矢をそのまま弓に番えた。

「――っ!」

 滑らかに続いたのは変則の構え。
 それに対し、何を予見したのか。血相を変えたガンナーが高く、大きく跳び退った。
 同時、静観していたライダーもまた、素早く宝具解放の手順を整える。


954 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:51:36 PAZyxWcM0

《――ATTACK RIDE――》
「『射殺す百頭(ナインライブス)』――!」

 しかしライダーが後出しの宝具発動を完了するよりも、コレットの気が遠くなるほどの莫大、かつ清冽な魔力を纏いし帯から引き出したアーチャーが、弓を射る方が速かった。

 ――コレットには一度にしか見えない動作で、その実、限りなく同時に九度、終える方が。

《――AD VENT!!――』

 ライダーが二つの宝具を組み合わせ、『伝承写す札(ライダーカード)』からとある英雄の駆った怪物を顕現させる寸前、コレットは視た。



 ――――それは、神を喰うもの。



 咄嗟とばかりにガンナーが呼び出した兵装――彼女自身の十倍以上も長大な三連装の円筒が三基。衰退世界の神子が知る由もない極東が誇る史上最大の艦載主砲から超音速で放たれた、一つ一つが数十キロ先の戦艦や城塞を破壊する九つの超質量――それを正面から、刹那の内に噛み砕き翔ける超極音速の矢がまるで、輝ける九頭竜の如き軌道を描いたのを。

 そうして守護を喪った女神に対し、九つの顎が容赦なく同時に襲いかかり、その影を呑んだ勢いのまま駆け抜けて行く光景を。

 彼女の背後に展開されていた、三基の三連装砲という痕跡すらも見逃すこともなくその砲口に飛び込み、徹底的に蹂躙して遠い天(ソラ)へと昇り行く憎悪の程を。

 神話の時代の如き幻想的な情景を描いた、圧倒的な破壊の直後。刹那の攻防に産み落とされた衝撃波が街に迫るのを、たちまちに跳ね返す白い翼がそこにあった。

 鏡の如き水面から飛び立った麗しき白鳥は、しかしその大きさが異様だった。モンスターと言って差し支えないその正体こそは、ライダーが召喚した閃光の翼、ブランウイング。
 騎兵の霊基で召喚されたディケイドだからこそ使役を可能とする、過去に一人の仮面ライダーを乗せたミラーモンスターの一種だ。

 一度羽ばたけば天災にも等しい暴風を呼び起こすブランウイングは、街を蹂躙しかねなかったアーチャーの矢による二次被害を食い止めるという役割を見事に果たしていた。

 ――だが、もしも直接狙われたならば、あの矢を防ぐことは到底叶わなかっただろう。

 それは為す術もないまま消滅させられた、あのガンナーの犠牲が証明して――――

「……小癪な」

 そんなコレットの思考を途絶させるような怨嗟に滲んだ声が、残心したままのアーチャーから漏れていた。

「ま、こんな早々に令呪を使い切ってるような奴らもそーはいないだろうさ」

 そんなアーチャーを労うような声音で、しかし皮肉たっぷりに肩を竦めたのは、ライダーだった。
 ……彼の言葉で、やっとコレットは誰も『聖杯符』を手にしようと動かなかった理由を悟る。

 つまり、あのガンナーは――未だ、脱落してはいないのだ。

 令呪。『夢幻召喚』を為すための資格にして、三画限りの絶対命令権。
 時には空間を越えた瞬間転移のような、マスターとサーヴァントだけでは為し得ない奇跡さえも実現する、聖杯戦争における最上の切札。
 それによって、ガンナーはあの致命の状況を凌いで見せた。

 彼女は果たしてそのまま離脱したのか、それとも近くで姿を隠し、隙を伺っているだけか。
 それは未だわかり得ぬことながら、視認できる範囲では残されたサーヴァントは二騎だけとなった。


955 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:52:18 PAZyxWcM0

「気にするな、せいぜいあと二画だ――そこまで撃たせるつもりはないけどな」

 残り者同士となる相手に向けて、ライダーは挑戦的な言葉を吐いた。

 街への被害すら厭わず、宝具を行使するようなサーヴァントは危険過ぎる。邂逅できた今この場で、可能な限り無力化するべきだ。それがコレットの願いに沿った、ライダーの考えなのだろう。

 しかし、そんな以心伝心の仲間の判断とは裏腹の、強敵を前に拭いきれぬ不安がコレットの裡で膨らむ。

 驚嘆すべきことに。あの凄絶なる弓術を披露する前後で、アーチャーとそのマスターからは心身と魔力、その一切の消耗が見受けられなかった。
 こちらは、ライダーの有する宝具の中で特段燃費の悪いわけでもないブランウイングを開放しただけでも、相応の疲労を蓄積しているにも関わらず。

 加えて言えば。先のガンナーのように、窮地に陥ったサーヴァントの死線をマスターが曲げるということが――コレットには、できない。
 発声の叶わぬ身では、令呪の行使すら叶わないのだから。
 本来サーヴァントの動力源であるこの身を楯にする程度なら可能かもしれないが、それがあの剛弓の前で如何ほどの意味を持とうか。

 ――否定しようのない、絶対的なマスターの差がそこにはあった。
 自らの願いを代行してくれるライダーに対して、しかし捨て身の覚悟ですら貢献に届かないだろう無力な己の存在が、コレットに微かな躊躇を生んでいた。

「……どうやら、完全に逃がしてしまったようだな」

 ライダーの挑発を聞き流したかのように独りごちたアーチャーは、ようやくこちらを見据えてきた。

「やはり障害は先んじて取り除いておくべきか。これだけサーヴァントと出くわして、『聖杯符』の一枚も持ち帰らないのも割に合わないからな」
「(……っ!)」

 そんな竦んだ心を射抜くように、アーチャーの殺気が叩きつけられる。
 喪われた五感が蘇るような怖気。思わず腰が抜けそうになる。
 さらに、本能すら越えたさらに奥底へ響くかの如く、コレットの精神を揺るがす厭な感覚にまでも苛まれる。

 だが――ライダーは微かに緊張しながらも、微動だにせず圧倒的な力と向かい合っていた。
 それが、コレットの託した願いだから。

 ――こんなところで挫けるような人間が、世界再生なんてできるはずがない。

 ……ロイドならきっと、そう言うから。
 理想の実現に繋がる第一歩、通りすがってくれた英雄に託したこの祈り、決して折ってなるものか。

 だからコレットは、震える体に芯を通して、布奥からの憎悪を載せたアーチャーの視線に対峙した。
 無力を承知の上で、それでもライダーの枷ではなく、共に歩む意思となるために。

 この一歩は、退けない。

「……」

 そんな反応を認めたように、アーチャーが弓を構えるように腕を動かす。
 ライダーもまた、新たなカードをその手に握り――


956 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:53:33 PAZyxWcM0

「そこまでにしておけ」

 一触触発に至った公園跡地に響いたのは、全く未知となる新たな男の声だった。







「……アサシンか?」

 問いかけるような呟きを漏らしたのは、声の主を知るアーチャーではなく。彼が現在進行形で対峙する敵手――階位より先に宝具によって真名の割れた――ガンナー曰くライダークラスのサーヴァント、仮面ライダーディケイドだ。
 声はすれども姿は見えず。さらには気配、そして魔力すらも感じない。サーヴァントを相手に魔術に頼らずそれだけの技量を見せ得る存在としては、当然思い至る可能性だろう。

 こちらへの警戒を解かぬまま、召喚した白き魔鳥と共に己がマスターを庇うように位置関係を調節するライダーの様子を目にしたアーチャーは、その杞憂を鼻で笑う。
 彼の危惧する展開は己にとっては好都合だが、残念ながらアサシンと、そのマスターにとってはそうではないということを、アーチャーは既に知っていたからだ。

「アーチャーよ。先に伝えた通り、既にあのガンナーは近くにはおらん。ここは一旦退け」

 先に念話――曰く、心伝心なる術で述べられた通りの内容を、今度はライダーとそのマスターにも聞こえるよう、されど出処は悟られぬように肉声で繰り返すアサシンに、アーチャーは言うはただとばかりに問いかけた。

「まだ好戦的な敵対者が、こうして目の前に残っているが?」
「これ以上の騒ぎはワシも隠蔽しきれる保証はない。街中に被害がなかったのは、貴様と違ってあのガンナーも最後まで気を配っていたからなのでな」

 対し、果たしてそれだけの器用さと心遣いが、復讐者と破壊者の攻防に存在し得るのかと、伝説の忍は暗に問い返してきた。
 そしてそこまで聞かされたことで――隙が生まれるほどではないにせよ、ディケイドの戦意が微かに鈍るのを、アーチャーは確かに知覚した。

「だが結果として公園は半壊し、教会の目も既に届いている。折角見つけた本命を狙う前に、無闇に邪魔者を呼び寄せるような真似は我が同盟者にとって都合が良いとも思えんが」

 アサシンの言い分に、よく回る舌だとアーチャーは呆れながらに感心する。伊達に、ムーンセルがあの小僧に宛てがったサーヴァントではないということか。

 ――事実として、臨界寸前まで暖められていた戦場は、アサシンの言葉が齎した情報によって急速に収まりつつあった。

 アーチャーにとっては、世界の破壊者ディケイドなぞ眼中にない。少なくともこの霊基では恐るるに値しない。
 だが際立った強者とは言えずとも、一角の英雄であることもまた事実。ついでに仕留めておこうという程度の獲物だが、この距離で周囲への被害を出す間もなく仕留められるかはまた別問題だ。

 対するライダーは聖杯戦争を破壊する等と大言壮語を吐いているが、それは彼の伝承に散見される乱心の類ではなく、真っ当に被害を憂いてのものであることは透けて見えている。
 ならばアーチャーの戦意が薄れた状況下で、継戦はさらなる被害拡大を招くと告げられれば彼の闘志が静まるのも自然な流れだろう。

「……いいだろう。大事の前の小事だ」
「誰が小事だ」

 苛立ったように言い返しはするも、手を出そうとはしないライダーを無視して、構えていた弓を肩に担ぐ形で収めたアーチャーは悠然と、世界の破壊者に対して背を向けた。
 そのまま寝かせておいたマスター、イリヤスフィールをまた抱き上げたところで、顎を使って正面を指した。

「私から触れるだけだ。わかっているな」
「言われるまでもない」

 アーチャーが手を伸ばした時には、気配遮断をしていたアサシンの分身が一体、その場に姿を現していて。

 その肩に手を載せた次の瞬間には、分身も、アーチャーも、そしてイリヤとルビーも、公園には影すら残さず。飛雷神の術による転送で、別の場所へと転移していた。


957 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:54:08 PAZyxWcM0





「行くぞ」

 新たなサーヴァントの気配が浮き出たかと思うと、すぐにまた――今度はあのアーチャーもろとも消えたのを認識した次の瞬間、ライダーはコレットにそう呼びかけた。

「(えっ、でも……)」
「今回の騒ぎは教会――運営側も把握しているらしい。なら後始末は連中がするはずだろ。俺たちよりも人手は足りているはずだ」

 戸惑う様子のコレットに対し、少し離れた位置に停めてあった『世界を駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』を自律走行で呼び寄せながら、ライダーは言う。

「だがそれも、俺たちがここを離れない限りは後回しだ――一方的に相手を捕捉している弓使いが、遠慮する理由もないからな」
「……!」

 この場にライダーとコレットが残り続けていれば――距離が開いたアーチャー、あるいはガンナーにとっては一方的に有利となる。
 それは反撃が届かなくなり得るというだけでなく、攻撃を再開しても、結果として衆目に晒され神秘の隠匿を妨げるのがライダーたちだけになってしまうという意味でも、だ。
 あのアーチャーの雰囲気では、そのような手段を選ばないという保証はできない。彼らの攻撃が続く限りは監督役も迂闊には手を出さず、余計に犠牲が増えてしまう。

 そういった展開を悟ってくれたらしい己のマスターを先に乗せると、そのままライダー自身も愛車に跨った。

 愛車を発進させたライダーは今しがた現界を解除させたブランウイングの飛び出した水面――砕けた噴水近くの大きな水たまりに向けて、跳んだ車輪を突っ込ませる。
 ――接触の瞬間、水飛沫が撥ねることはなく。ライダーとコレットはそのまま、鏡写しの異世界、ミラーワールドへと潜航し、元の公園から視認できる存在ではなくなっていた。

 寸前までと寸分違わぬ、しかし全てが左右反転し、生命の気配を感じさせない無人の街が延々と拡がるもう一つのスノーフィールド。
 コレットと出会った時にも利用した異世界の様子には、彼女も既に戸惑いはしないようだった。
 だから彼女の気が沈んでいるのは、全く別の理由であることをライダーも知っていた。

「……場所を移すか」

 エンジンの回転数を緩やかに落としながら、ライダーは改めて仮面に覆われたままの口を開いた。

「で、どこに行く?」
「(えと……ごめん、わかんない)」

 項垂れた様子でのコレットの返答に、無理もないかとライダーも静かに息を吐く。
 実際に対峙した時間は長くはないとはいえ、一度に三騎――声を聞いただけの相手も含めれば、四騎ものサーヴァントとの接触は、心労を重ねても当然だ。
 それも、きっと彼女としては久方ぶりの、気の安らぐはずだった一時を破壊されて、なのだから。

「(……ありす、どこ行っちゃったのかな)」
「さあな」

 コレットが真っ先に思った相手の所在に対し、ライダーは率直に不認知を返した。

 ジョーカーアンデッド……おそらくはかつて旅の中で遭遇した紛い物ではなく。ムーンセルが英霊の座にも関わる領域で保存せざるを得なかったような、地球の終末装置たる死神を連れた、既に命なきサイバーゴーストの少女。

 彼女の所在、ありすを狙いながら街に被害を出さないように立ち振る舞っていたというガンナー、マックルイェーガー。
 そしてその他一切の情報を見せなかったアサシンと同盟関係にあると見られ、何より本人の戦力が群を抜いていた第一階位のアーチャー。

 未だ見ぬ、しかし着実に被害者を増産しているという口裂け女ともども。存在を知らされながらその思惑が明らかにならず、対処の追いつかない現状には思考が錯綜するのも仕方がない。

「……ありすは元々迷子だった。誰もあの子に向き合ってやらなかったから、あの子には自分の居場所さえわからなかった。どこに行けば良いのか、どこに行ったのかなんて、誰も知るわけがない」

 だから、そういう時は――旅人として先輩に当たる自分がアドバイスの一つもくれてやってもいいだろうと、ライダーは考えた。


958 : 静寂を破り芽生えた夢(中編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:55:03 PAZyxWcM0

「だが、おまえは皆に無視されたあの子に向き合ってやった。それは死んでも彷徨い続けていたあの子にとって、やっと見えた灯火になるはずだ」

 それはかつて、カメラのファインダー越しでしか世界と向き合えなかった自分を変えた、絆のように。
 あるいは――伝聞でしかその最期を聞き届けられなかったが、それこそありすと同じように。誰も彼もに無視されて、自らが死んだことすら忘れていたあの少女が、こんな自分を大切に想ってくれたように。

「何が救いかなんて、どこの神様だろうがなんだろうが、他人が決めることじゃない。おまえと一緒に居た時の笑顔が、ありすにとっても大事な物なら。きっと、また向こうからひょっこりやってくるさ」
「(ライダー……)」
「ま――もしかしたら、選ぶのはおまえのところじゃないかもしれないけどな」

 幾らか照れ臭くなってきたライダーは、意図的に声を軽い調子にして言葉を続けた。

「ひょっとすると、他にも行きたいところが見つかるかも知れない。それを決めるのはありす自身だ――なら、後はその自由を守ってやれば十分だろ」

 つまりは、目指す場所は何も、変わりはしないと。

「だから、おまえがあんな言葉を気にする必要はない。もしも、あの女神とやらの言う通りにありすの死が決められているんだとしても……そんな世界の理を破壊する悪魔がここにいるんだからな」

 そんなことを伝えていると、装甲越しに、コレットの頭が背中を微かに押したのを、ライダーは感知した。

「(……うん。そだね。ありがと、ライダー)」

 鏡の中に拡がる不思議な世界、無人の街でゆっくりと走るバイクの上で。因果線を通して伝わるコレットの声が、先の疑問より軽くなっているのを感じたライダーは、仮面に表情を隠したまま、脇に逸れた話を元に戻すこととした。

「それじゃあ俺たちの行き先だが……おまえに宛がないなら、俺が勝手に決めるぞ」
「(……うん。お願い)」
「なら、とりあえずは――アインツベルンだな」
「(どこ、そこ?)」
「それはこれから調べるが……多分、あのアーチャーを追う手がかりにはなる」

 サーヴァントたちが一堂に会するその寸前、目にすることになった捜索願。
 ありすの目撃情報から誤解されて見せられた行方不明者、クロエ・フォン・アインツベルンは、昏倒していたアーチャーのマスターと瓜二つの容姿をしていたのだ。

「口裂け女を追っても良いが、どの道アテはないんだ。街を守るために優先的に抑えておかなくちゃいけないやつを調べるのは間違いじゃないだろ……アサシンと組んでるあいつ自身が、あの女神様とやらにご執心だしな」

 つまりそれは、ありすを狙う脅威を追うことにも繋がる。

「(うん……そだね。それが良いと思う。行こう、ライダー)」
「よし。掴まってろよ」

 ライダーの意図することを理解し、共に歩む意志を示すコレットの声を受け。
 天使を乗せた悪魔は、世界にその轍を刻む速度をさらに上げた。







 アーチャーが戦場を一瞬にして離脱したのは、アサシンの影分身による飛雷神の術――空間転移によるものだ。
 それはチャクラを用いて付加したマーキングへと、一瞬にして跳躍出来る時空間忍術。口寄せの原理を利用した技で、内実としてはマーキングを目標に自らや接触した物質を口寄せする術となる。
 故に、アーチャーの要望である高所、かつ本来の進行方向から逆算した結果、マヒロが通うスノーフィールド市立高校の屋上に書き込まれた転送陣を利用することとなり――彼らの出現場所は、その塔屋となっていた。


959 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:56:07 PAZyxWcM0

「……流石に見失ったか」

 転移の後、イリヤスフィールを置いて一度空を見上げた後に南東の方角へと視線を向けたアーチャーは、そんな呟きを漏らしていた。

 彼の立つ場所は先の戦場だった中央公園からは、直線距離でも十キロ近く離れている。索敵に優れた弓兵の霊基とはいえ、サーヴァント特有の感応が機能する間合いではない。
 故に純粋な目視に頼らざるを得なかったアーチャーだが、そのような展開を読んでいただろう世界の破壊者も、既に移動して行方を眩ませている様子だった。

「奴は並行世界移動でなくとも、固有結界にも似た鏡の異界への潜行も可能と聞く。そこを通られていてはワシでも感知はできん」
「……よかろう。先の言葉通り、破壊者とやらは捨て置くとするか」

 アサシンの分身が放つ主張に殊更異議を唱えることなくアーチャーは弓を収めると、続けて足元に目を向けた。

「今更だが、隠蔽の方に抜かりはないのだな」
「本当に今更だな。無論、仕事はしてある。そこの童子らにもワシらの姿は見えておらぬ」

 二騎のサーヴァントが立つペントハウスの下。本来は開放されていない屋上に立ち入った素行不良の生徒が数名、授業を放棄してたむろしていたが、たまに視線を上げる彼らの瞳には、闖入者の姿は映っていない。

 カラクリのタネは単純。アサシンが操る魔幻・此処非の術――つまりは自分がいる場所を別の場所だと錯覚させることができる幻術にある。
 その効力が及んでいたのは、この校舎の上だけでなく。アーチャーとガンナーが激しく撃ち合っていた最中、その区域の上空もまた、常人が目にできる範囲ではそこで何事も起きていないかのような幻の風景が映し出され、超常の対決を衆目から覆い隠していたのだ。

 だがアサシンの様子を訝しんだように、アーチャーは問いかける。

「随分と燃費が良いように見えたが……そもそも貴様、先程までとは別人か?」
「本体に近いこの場所へ、分身までそのまま飛ばすよりは、解除し魔力(チャクラ)として回収する方が効率的だったからな。記憶も既に引き継いであるから不便はかけさせん」

 その読み通り、現在の自分は交代した影分身であることをアサシンが告げるが、アーチャーは纏う圧力を緩めることなくさらに問い詰める。

「不便はない、と言うが……まさか、あの程度の工作で使い物にならなくなる分身しか寄越さないわけではあるまいな?」
「あれだけ暴れておいてよく言ってくれる。制止したのはあくまで収拾がつく状況で留めたかっただけであって、魔力の方はまだ余裕はあった」

 教会で渡した時点の分身と、割譲された魔力に差がないことを再び突こうとするアーチャーの物言いを、アサシンは淡々と否定する。

「今回用いたのは、後の世では学び舎を出た次の昇任試験の脚切りに用いられる程度の術だ。サーヴァントどころかまともなマスターにもまず効果がない文字通りの子供騙し……流石にこの程度ならば造作もない」

 元より、神秘を秘匿せねばならない相手はサーヴァントではなく、ムーンセルに制限を架された市民用NPC。効果としては目的を達成するに必要十分を満たせる。
 その上、個々人ごとにハメる強力なタイプではなく、特定の区域ごとに広範囲で効果を発揮する術であることも、往来の激しい街中での使用でも魔力を節約するのに適していると言えた。

 後は、自らの動作の生む音を消せて当たり前の忍界では発達しなかった――しかし秘匿を重視する魔術世界では必須の代物だろう防音の結界について、カレイドステッキより心得を習えば十分だった。
 加えて言えばその気質か単に秘匿のためか、ガンナー側がアーチャーとの戦闘の間は流れ矢による二次被害が出ないよう配慮していたおかげもあり、影分身に割かれた少ない魔力でも目的は容易に達成できたわけだ。

 確かに想定以上の物量と、それに伴う戦闘音を生んだガンナーとの一戦は、両者の移動や乱入も相まって完全な隠密こそ叶わなかったが、マヒロが教会で聞き出した事例に比べればいくらでも誤魔化しの効くものだろう。

 ――そも、暴走したアーチャーを抑える口実のために、完璧な隠蔽なぞ元より望んでいなかったアサシンとしては、憂慮に値するほどの誤算ではない。

 ある程度は要望に沿うことで最低限の保身を整え、なおかつ脱落者が出る前にアーチャーを制止するという計画通りに事を運ぶための材料となったのだから、むしろ成功とすら呼んでも良いものだ。

 マヒロの目指す暴力を用いない聖杯獲得のために、他者の暴力による聖杯獲得を阻害することもまた、アサシンの役目なのだから。

「……ならば良い。大目的以外でも、同盟の利便性を確認できた」

 そんなアサシンの真意を見透かさんとするかのように沈黙していたアーチャーだったが、やがてそんな風に口を開いた。

「そうか」

 何でもない風に答えながら、アサシンも内心で一つ溜息を漏らす。


960 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:57:05 PAZyxWcM0

 暴力に頼らず、暴力を制す。耳障りは素晴らしいが、それこそ武を問われている生存競争の場においてはあまりにも難題だ。
 スキルによって高精度の気配感知を行った際の手応えから、ガンナーをアーチャーと戦わせてもやられはしまい、という読みそのものは的中し、何とか今回は乗り越えられたが。早々にアーチャーを口先だけでは抑えきれない局面に遭遇したという事実は覆せない。

 既にマヒロへ語って聞かせた通り。そう何度も幸運に恵まれると考えるべきではなく、今回のような賭けに臨まざるを得ない回数を減らす試みは必要だと、アサシンの思考は帰結した。
 そのためには、やはり最優先はアーチャーの制御……現状の鍵を握るのは、とアサシンが視線を巡らせていると、アーチャーが口を開いた。

「……貴様らの策とやらで、マックルイェーガーは誘き出せるか?」
「さてな。確約はできんが、かと言って他にアテもない。他の分身にも探らせはするが、奴も気配を遮断できる以上過度に期待はしないで貰おうか」
「見つければ必ず私を呼べ。どんな状況だろうと……良いな?」
「……了解した」

 声の圧が先程までとは違う。それを悟ったアサシンは、変にはぐらかすことなく頷きを返した。

 神に対する憎しみ。それがこのアーチャーの根幹の一つであり、マヒロが言うところの崩すべき要と直結していることは間違いない。

 それがどのような構造をしているのかを把握するために、実際に神に分類されるサーヴァントと遭遇した先の戦闘の情報を無駄にしてはならないだろう。

「(まぁ、逸話と言動から考えれば推測は容易いが……問題は)」

 彼にとって、幾度となくそのような言動を繰り返しているように。幼子を死に追いやるような行為は、この上ないほどの禁忌に他ならないのだろう。
 だが一方で、復讐を完遂するためならば自らその禁忌に手を染めることすら厭わないのだろうということもまた、先の戦闘の様子からは伺える。
 ガンナーとの戦闘で見せた、一際強い二度の激昂。一つは神によって禁忌を破られる様を見せられそうになった時。そしてもう一つは、やはり神からとある指摘を受けた時に。

 ――神殺しにおいての枷を外さなかったのは、単に必勝を期して長期戦を見込んでのことだったのか、それとも。

「(その禁忌の中でも。イリヤスフィールは殊更特別なのかどうか……だ)」

 理由までは知らず、また知りようもないが。

 おそらくはその一点を解き明かすことが、最強のサーヴァントを攻略するための要となると、アサシンは予想する。

 身に纏う『神獣の裘』、その一切れでアサシンを完封する最強者。その圧倒的な強さを支える執念、暴力の根源たる意志を挫くという、皮肉にも自らに絡みついたマヒロという蛇の戦い方こそが、確かに残された唯一の活路であることを、既に重々理解しているからこそ。アサシンは思考を巡らせ続ける。

 そして、そのせいか。

「(しかし……かの半神を、人としての死に追いやったのは水蛇(ヒュドラ)の毒とは聞くが)」

 再び、アーチャーとともにアインツベルン邸に向けての移動を再開しながら、アサシンはらしくもない物思いに耽っていた。
 聖杯戦争における一つの定石――強大極まるサーヴァントも、既に伝承に昇華され物語として完成した英霊ならばこそ、その最期を克服することは能わず。故に語り継がれる死因を再現できれば、その通りに葬れるとは言うが。

「(彼がアルケイデスと呼ばれた時代……最初の試練として差し向けられた二匹の蛇は、物の見事に捻り潰されたのだったな)」

 さて。
 ヒュドラも、その毒を以って最大最強の英雄を下したのは死後の話であるということは、最初から念頭に置いてはあるが。

 果たして自分たちはヒュドラになり得るのか、それとも単にアルケイデスへ最初に忍び寄った二匹の蛇で終わるのか。

 アサシンをして、今はそんな不安が拭えなかった。






961 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:57:36 PAZyxWcM0

「……もう十分よ。ありがとう」

 ガンナーが告げると、彼女を治療していた男性医――マスターであるトワイスは額の脂汗を拭うこともなく、深々とシートに身を委ねて溜息を吐いていた。

 如何にガンナーが単独行動スキルを有するとはいえ。紛れもない強敵との連戦、特に乱戦にまで発展した二戦目は長時間に渡る宝具展開に加え、市民としてのロールの傍ら令呪による介入のタイミングを逃さぬように調整まで行っていた上で、コードキャストによる治療まで行ったのだから、トワイスがガンナー以上に消耗しているのも当然だ。
 だが、おかげで外傷は塞がった。これでそこからガンナーの魔力が無意味に抜け続けるということもなく、トワイスとしてもこれ以上の消耗を避けることができる。

「……それで、例のイレギュラーについては正体まで辿り着いたとのことだが」

 やがて。乱れた息が整い切る前に、トワイスはそもそもの出立の目的だった事柄について尋ねてきた。

「そうね。彼は仮面ライダーディケイド――世界移動者の中でも、代表格の一人と言える旅人よ」
「空条承太郎による時間停止の影響を受けないと思われるのは、彼が停止させられる世界に含まれない異物であったから……ということか」
「そう。彼は聖杯戦争に関してと言うよりも、この世界に対してのイレギュラー。逆を言えば、あくまで聖杯戦争の参加者として見た場合、マスター同様元々生きているのか、今回ムーンセルに創られた電脳体か、というのと同レベルの違いでしかないと思うわ」

 サーヴァント――英霊として取得した知識と照合しながら、ガンナーはトワイスの疑問に答える。

「先のキャスターもうそうだけど。簡単には貫けない全身装甲は厄介でも、全く通じないわけじゃないから、何とかなりそうね」
「……なら。あの弓兵に対して、勝ち筋は見つかったのかい?」

 真名まで把握できた当初の獲物の簡単な分析を終えたところで、トワイスはそもそもこちらの宝具が完全に無効化されている、目下最大の難敵について話題を変えてきた。

「そうでないならば、例のバーサーカーは暫く残しておいた方が」
「駄目よ。あの子は早く送ってあげなきゃいけないから」

 その提案を強く制した後、改めてガンナーは心配してくれたマスターに向けて笑顔を見せた。

「それに、あなたの令呪のおかげで無事なまま、敵の宝具も見られたんだから、次は勝ち目もあるわ。もちろん、油断はできないけどね」
「なら、構わないが……」
「そもそも優勝を目指しているわけでもないからね、あたしたち」

 改めて自分たちのスタンスを再確認した上で、ガンナーは直球でトワイスに問うた。

「嫌いみたいね。あのアーチャーのこと」
「……そうだね。少なくとも、私の理想を継いで貰えるとは思い難い。彼の正体が、君の推察する真名の通りだとすれば……それこそ人類史でも頂点を競うほどの、生まれつきの強者だからね。彼は」
「けれど――あの大英雄も、何より名を馳せた十二の試練に挑みこれを越えたのは、大きな欠落があったからこその躍進なのよ」

 大英雄に対する畏怖を覗かせるトワイスを諭すように、ガンナーは述べる。

「あたしとのやり取りも、戦争を嫌っているように見えてその実、神(あたし)を拒絶していただけだもの。戦場の必要性を否定されなかったんだから、最初から目の敵にしなくても良いんじゃないかしら」
「寛大だな、君は」

 皮肉げに苦笑するトワイスに、ガンナーも微笑み返す。

「どうかしら。単にあたし、復讐者って嫌いじゃないの。それって人間の持つ知性と勇気の、一つの証明みたいなものだから」

 野に生きる動物の多くは、復讐などしない。食べて寝て殖えるため以外の危険に近づくという行為は、生きるという作業において何の益にもなりはしないからだ。
 だが知性は、愛しいものを失った報いを求めずには居られない。その感情は、自らを脅かし得る脅威に挑むという勇気を育み、やがて己の意志で銃爪を引かせる未来を導く。

 復讐とは知性と勇気がある人間だからこその選択であり、そしてその憎悪から来る戦意を周囲にまで伝染させていく――闘争とは、切っても切り離せない代物なのだ。


962 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 21:59:21 PAZyxWcM0

「それも、あの時代に人の子に祝福を保証する神様への憎悪なんて、よっぽど強い感情よ? そんな想いを子供ながらに引き寄せたマスターにも、見込みはあるんじゃないかしら」
「……なるほど。他ならぬ神たる君の託宣だ。先のキャスターたちとは価値観の基準となる時代が大きく異なることも含め、よくよく検討するとしよう」

 神とヒトと。その視点の違いから来る意見を丁重に受け取るトワイスの姿に、ガンナーはつい思考を戻して愚痴をこぼす。

「あの子も、そんな風にあたしの言うことを受け止めてくれたら良いんだけど」
「……ディケイドのマスター、のことかな?」
「そう。信心深そうだけど、あたし、結局は他所の神様だし」

 そんな風に思い煩う様が彼にとっては珍しかったのか、トワイスは様子を見るように少し間を置いてから尋ねてきた。

「よほど邪魔されたくないようだね。あのバーサーカーのマスターとのことを」
「……というよりは、せめてね。構ってくれた人がちゃんといる、という思い出ぐらいは、そのままで送ってあげたいから」

 おそらくは。千里眼ほどの洞察力はなく、外観相応の分別しか持たないあの少女の網霊は当初。仮面ライダーディケイドの特異性故に、自らを認識できた人間が、聖杯戦争の関係者だと認識できていなかったのだろう。
 だが、それが明らかとなってしまったこの次は、果たして。
 まして――

「アンリ・マユの気配。著しく劣化しているとはいえ、電脳体を構成する三要素の内、肉体を欠いた者にとってはなお汚染を免れ得ない悪性の呪いよ。波長を軽く浴びただけでもどう変質してしまうのか、もうあたしにも見通せない」

 忸怩たる思いを込めて、ガンナーは呟いた。
 かつての盟友たる暗黒神の端末。彼女と違って神性を感じ取れないとはいえ、その分制御されていない悪性情報が、あのアーチャーの憎悪に結びついて放射されていた。

 それは複製で劣化を重ね、そのまま垂れ流すだけで他のサーヴァントを汚染するには、もはや弱すぎる呪いに過ぎない。
 しかし英霊ほどの魂の強度を持ち得ないサイバーゴーストが果たして、たったあれだけの接触ならば無事と保証できるのかは、神の視座を以ってしても断言できない事柄だ。

 ――それは、網霊を誘引する程度には、同じく三要素の結合が希薄になりつつある少女にしても同じことだが。

「あの子はもう、戦争(あたし)が十分に苦しめた……その命は既に、確かに輝き燃え落ちたんだから、その後の安寧ぐらいはね。あたしが殺した責任、取ってあげないと」

 ささやかな望みが、救いようもない悪夢へ歪んでしまうその前に。
 あるいは――最初にその声に応えた優しい死神が、守りたいと願った相手の魂を食い尽くしてしまうことになる前に。

 本来はガイアに帰属するだろうあの怪物が、人理(アラヤ)に依存するサーヴァントとして召喚されたのも。精霊種としての特権で、かなりの無理を通した結果だろう。
 あの哀れな少女を守るため――あるいはもっと以前から、人間を愛した故だとすれば。そのような結末は、同じく精霊の括りに当てはまるガンナーとしても余りにいたたまれない。

 ……そもそも死の化身たる彼もまた、ディケイドのマスターに憑いた例の寄生体へ良からぬ影響を齎すようであればなおのこと。

 彼女たちは二度と出会うべきではない。触れ合うことも、言葉を交わすこともない――ただ、安らかな一時の思い出だけを抱えて、それぞれの命を全うする。
 その方がきっと、互いにとって望ましい結末のはずだ。

「……そういうわけだから、悪いけど、次からあたしはあの子を優先的に探すわ。ただ流石に疲れたから、ちょっと御飯でも食べてくるわね」
「承知した。私と同じように、勝利者となれない亡霊が候補者を減らすのも望ましくはないからね。全容が知れるまでは引き続き君に任せるよ」

 報告と相談を終え、二人は会話を切り上げた。
 しかし、診察室から立ち去る前に、サーヴァントはマスターに向けて手を伸ばした。

「病院食じゃ元気出ないわ。外食してくるから、カード貸して」

 ガンナーが満面の笑顔で告げると、トワイスは苦笑と共に財布を取り出した。






963 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 22:00:18 PAZyxWcM0

 スノーフィールド。どことも知れぬ場所。

「……いや。いやだわ……いやぁ……!」

 幼い少女の愚図る声が、遠慮なしに周囲にまで響いていた。
 しかし、その童女にも。彼女を護るように優しく抱きかかえる恐ろしい顔の怪物にも。周囲を行く人々は一切の関心を示しはしない。

 ――NPCとなった者は、神秘に関わる能力が制限されるよう設定されている。

 だから通常の電脳体ではなく、魂だけの存在と化したありすのことを認識することができない――彼女を要石としてSE.RA.PHに顕現しているバーサーカーのことも、また。

 無論何事にも例外は存在し、それはまたアサシンの行った偽装工作への耐性も同じくであり、『死神を連れた白い少女』を新たに認識した者は皆無ではないが、この場には該当せず。

 あるいはそれに乗じて、人々の話題を奪わんとする死徒の工作が進めば、その状況にも変化が生じるのかもしれないが……今はまだその時ではない。

 そうして誰にも拾われない木霊が残響するまま、どれだけ時間が経ったのだろうか。

「……おねぇちゃん、居なくなっちゃったの?」

 最も恐ろしい記憶を想起させた戦場から離れてようやく。泣き疲れたようなありすは、周囲の変化に気づいたような声を上げた。
 正しくは、移動したのはありすの方ながら――それさえも、自分がどこに居るのかの認識もあやふやな小さな女の子は、またも自身が取り残されたかのような錯覚に苦しめられていた。

「おねぇちゃんと、あのおにーちゃん……あたしたちとおんなじだったね」

 恐怖に錯乱する合間に見た光景を、今更になってなぞるようにありすは言う。
 しかし、その声には子供らしい溌剌さが見受けられなかった。

「つぎにあったら……タタリのおじさんの言うとおりに、あそんでみたら……いいの、かな?」

 問いかけるようにしながら、しかしその瞼は降りて行く。
 彼女を何より恐怖させる戦争の化身を排除せんと、全力を行使したバーサーカー。その運用の代価としての魂の燃焼が、またも抗い難い睡魔となってありすに襲いかかっていた。

 しかし――そのまま意識を微睡みの中に手放すありすは、気づけない。

「……」

 それを認識したのは、今はまだバーサーカーだけ。

 怪物の腕の中で眠る幼き魂が、その外装の色が抜けたように、透けて見え始めていることに。

 ジョーカーアンデッド。それは地球上の全生命を殺戮し、やがて既存のテクスチャ全てを張り替えるために用意された原初の終末装置。
 如何に霊格を落とし、通常のサーヴァントの霊基に収まるまでその規模を削ってきたとはいえ。狂気のままその戦闘力を行使すれば、幼き魂一つ、燃え尽きさせるまで余りにも猶予がない怪物であることに、変わりはなかった。

 バーサーカーには、時間がなかった。
 ありすの夢を、悪夢で終わらせないためには。

 だから。ありすを見ることができながら、ありすにサーヴァントとそのマスターだと認識されず、またバーサーカーの気配を何故か感知できなかった二人組に出会えたのは、この上ない幸運であり、希望であったはずなのに。
 ――何故、ありすを最初に見つけたのが、彼らではなかったのか。

 あるいはあのコレットという少女が、口を利けたのなら。ありすはもう、救われていたのかもしれなかったが……不満を補って余りあるまで遊ぶ前に、何より忌むべき敵が現れ頓挫させられてしまった巡り合わせを、バーサーカーは明確に認識することができぬまま、ただ小さな不満として虚となった胸に留めていた。

 そして、同じくらい小さく、奪われた理性で曖昧に、彼は危惧していた。

 次に、彼女らと出会う時は。
 果たしてあの忌まわしき死徒の吹き込みを信じ、先の言葉の通りありすは自らに、彼らとのババ抜きを命じるのだろうか――と。

 それが孤独から解き放たれる唯一の道と信じて、差し伸べられた手を、自ら切り落とすような真似を。
 理性を奪われた己は、その所業を諌めることもできず実行してしまうのだろうか――と。

 全ての生命の敵たる、恐怖の塊のような姿のサーヴァントは、曖昧な認識の中で一人、そんな小さなことを恐れていた。


964 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 22:02:02 PAZyxWcM0

【D-4 市立高校付近/一日目 午後】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤドライ!!】
[状態] 健康、クロを喪った精神的ショック、気絶中
[令呪] 残り三画
[装備] カレイドステッキ・マジカルルビー、『神獣の裘』の切れ端
[道具] クラスカード×1〜5
[所持金] 小学生並
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:未定
1.???
2.アーチャー(アルケイデス)の言いなりに流れされるのはイヤだ
3.巨人(ヘラクレス)の夢が気がかり
[備考]
※クラスカード(サーヴァントカード)を持っていますが、バーサーカー以外に何のカードを、また合計で何枚所有しているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※家人としてセラ、及びリーゼリットのNPCが同居しています。両親及び衛宮士郎は少なくとも現在、家に居ない様子です。


【アーチャー(アルケイデス)@Fate/strange Fake】
[状態] 健康、イリヤに対する謎の懐旧の念(※本人は否定的)、マヒロへの興味、ガンナーへの強い殺意
[装備] 『十二の栄光(キングス・オーダー)』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.アインツベルン邸に戻り、イリヤの目覚めを待つ
2.その後の手筈を整えるまで監督役と事を構えるつもりはないが、幼子を殺めた外道は須らく誅殺する
3.ガンナー(マックルイェーガー)は必ず殺す
4.上記のためにマヒロを利用する。ただし、アサシン(扉間)ともども警戒は怠らない
[備考]
※『第二階位』のアサシンの真名を知りました。
※マヒロに少しだけ知り合いの面影を感じています。
※マヒロに起爆札が仕掛けられているという話は疑いを持っていますが、否定しきれていません。
※『第二階位(カテゴリーツー)』の陣営と同盟を結びました。



【アサシン(千手扉間)・影分身2(3)@NARUTO】
[状態] 割譲魔力(極小)、令呪の縛り(下記参照)あり
[装備] 各種忍具
[道具] 各種忍具
[所持金] なし
[思考・状況]
1.『第一階位』のアーチャーに同行して表面上の同盟関係を保ちつつ、可能な限り被害を抑止できるよう誘導する
2アーチャーにとってイリヤスフィールが特別なのか否かを見極める
3.イリヤおよびルビーの心変わりをそれとなく妨害し、可能ならば懐柔を図る
4.以上のための活動経緯を本体に随時報告する
[備考]
※令呪により、マヒロの同意なき暴力の行使ができません。
※同じく令呪により、『第一階位』のアーチャーおよびそのマスターへの暴力の行使並びにその援護を永久に禁止されています。
※『第一階位』のアーチャー、ガンナー、及び仮面ライダーディケイドの真名を知りました。
※実体化を解除した影分身2と交代しました。以後影分身2で呼称しても問題ないと思われます。
※偽悪スキルの影響で、仮面ライダーディケイドに対してあまり良い印象を抱けていません。


965 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 22:02:28 PAZyxWcM0

【E-5 ミラーワールド内/1日目 午後】


【コレット・ブルーネル@テイルズオブシンフォニア】
[状態] 天使疾患終末期(味覚、皮膚感覚、発声機能喪失中) 、魔力消費(小)
[令呪] 残り三画
[装備] クルシスの輝石
[道具] チャクラム(破損中)
[所持金] 極少額(学生のお小遣い未満)
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に巻き込まれた全員の生還
1.聖杯戦争に関係のある被害を食い止める
2.ライダーとともにアインツベルンについて調査する
3.『口裂け女』事件と聖杯戦争の関連性を探る
4.ありすのことが心配
[備考]
※ライダー(門矢士)が生きた人間(疑似サーヴァント)であることを知らされていません。
※スノーフィールドにおける役割は「門矢士に扶養されている、重度の障害を持つ親類」です。
※『クルシスの輝石』の寄生状況について、詳しくは後続の書き手さんにお任せします。
※第七階位のガンナーの真名を知りました。


【ライダー(門矢士)@仮面ライダーディケイド】
[状態] 健康
[装備] 『全てを破壊し繋ぐもの(ディケイドライバー)』、『縹渺たる英騎の宝鑑(ライドブッカー)』、『世界を駆ける悪魔の機馬(マシンディケイダー)』
[道具] 『伝承写す札(ライダーカード)』、『次元王の九鼎(ケータッチ)』
[所持金] 数百ドル程度
[思考・状況]
基本行動方針: コレットの十番目の仲間としての役目を果たす
1.コレットと協力し、彼女のサーヴァント、かつ、一人の仮面ライダーとして戦う
2.『アインツベルン』に関する情報を集める
3.『口裂け女』事件を追う
[備考]
※サーヴァントですが、「(自称)フリーカメラマン」というスノーフィールドにおける役割を持っています。
※スノーフィールドでライダーが撮影した写真には奇妙な歪みが発生します。
※『世界』に働きかける時間停止能力者の存在を認識しましたが、正体や居所は把握できていません。
※クロエ・フォン・アインツベルンの手配書を見ました。
※ありすとコレットが戯れる様子を写真に収めました。



【どこか/いずこか】


【ありす@Fate/EXTRA】
[状態]健康(?)、魔力消費(大) 、戦争への恐怖
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針:遊ぶ
1.お昼寝中
2.タタリのおじさんの劇で、みんなと遊べるといいな
3.コレットおねぇちゃんたちと、次に会ったら……
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。
※偽悪スキルによる影響で、門矢士に対してあまり良い印象を抱けていません。
※魔力消費により、霊体の保っていた外観が薄れ始めています。
※『聖杯の泥』に汚染されたアーチャーと遭遇しました。魂のみの存在であるありすがどのような影響を受けるのか、受けないのかは、後続の書き手さんにお任せします。


【バーサーカー(ジョーカーアンデッド)@仮面ライダー剣】
[状態] 狂化
[装備] 『寂滅を廻せ、運命の死札(ジョーカーエンド・マンティス)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ありすの守護
1.――――――
2.―――■■
[備考]
※聖杯戦争関係者以外のNPCには存在を関知されません。ただし自発的な行動はその限りではありません。
※ありすの消耗を抑えるため、彼女の機嫌次第では霊体化することもあるようです。


966 : 静寂を破り芽生えた夢(後編) ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 22:03:37 PAZyxWcM0

【E-5 中央病院/1日目 午後】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[状態] 健康、魔力消費(大)
[令呪] 残り二画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 医師相応
[所持カード] なし
[思考・状況]
基本行動方針:全人類のために大戦争を起こさせる、後継者たるマスターを見出す
1.当面は回復に専念する
2.空条承太郎は早々に潰すべきと思うが、ガンナーにその気がない現状、どうしたものか
3.第一階位の陣営に注意を払う。警戒の意味でも、期待の意味でも。
[備考]
※サイバーゴーストに近い存在ですが、スノーフィールドでは中央病院勤務の脳外科医という役割を得ており、他のマスター同様に市民の一員となっています。
※イレギュラーのサーヴァント・門矢士=仮面ライダーディケイドの存在を認知しました。
※第五階位、第八階位がそれぞれキャスターであること、およびそのマスターの容姿を把握しました。



【ガンナー(マックルイェーガー・ライネル・ベルフ・スツカ)@レイセン】
[状態] 左側頭部に裂傷(応急処置済・治癒中)
[装備] 無銘・『フリッツヘルム』 (修復済)
[道具] なし
[所持金] 脳外科医のクレジットカード相応
[思考・状況]
基本行動方針:トワイスとの契約に則り、人類規模の戦争を起こさせるために戦う
1.自分自身も『戦争』を楽しむ
2.バーサーカーのマスター(ありす)をなるべく早く葬る
[備考]
※闘争ではなく作業的虐殺になりかねないので、マスターは基本的には狙わない方針です。
※口裂け女の被害者に宿る、悪い気配を感じています。
※宝具由来の気配遮断は銃を使う上での技能なので、霊体化中では使用できません。
※コレットとありすについて、アーチャー(アルケイデス)由来の『この世全ての悪(アンリ・マユ)』による汚染の影響を心配しています。



※全体備考
・スノーフィールド中央公園並びにその周辺市街地の広い範囲が破壊されました。おそらく隠蔽には問題がないかと思われますが、詳細は後続の書き手さんにお任せいたします。
・上記に関して、処理が追いつく前に『死神を連れた白い少女の噂』に関する目撃情報が流出した可能性がありますが、詳細は後続の書き手さんにお任せいたします。


967 : ◆aptFsfXzZw :2018/12/26(水) 22:05:43 PAZyxWcM0
以上で投下完了です。

なお、>>957及び>>958はタイトルミスで、(中編)ではなく(後編)になります。失礼いたしました。

ご指摘ご感想等ございましたらどうぞよろしくお願いいたします。


968 : ◆yy7mpGr1KA :2019/06/30(日) 23:53:07 GHqLEWqo0
空条承太郎&笛木奏予約します


969 : ◆yy7mpGr1KA :2019/07/07(日) 22:53:28 ZTCY/EAo0
延長お願いします


970 : ◆yy7mpGr1KA :2019/07/10(水) 23:59:09 d8zPn.bk0
投下します


971 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:01:33 pTMwVwOM0

ぼこり、と。
泡のはじけるような音が空間に響いた。
そこは月の海とも、石の海とも異なる魔力の海だ。
魔術師ワイズマン、あるいは白い魔法使いが用意した工房で彼は力を蓄える。

魔術師の工房とは来るものを拒み、去るものを逃がさぬもの。
千客万来の観光施設にソレは本来不適なのだが……
『水族館』はある種の『監獄』であるがゆえにワイズマンにも望外の適性を見せた。
人の手によって蒐集され一所に囚われた生き物たちの房、人の業そのもの……とまでいうのは悪し様がすぎようが。縛られているのは人も同じくであるし、飼われることで滅びを免れ益を得ている種もある。
例えば、恐竜は今の世には消えて久しい。
鳥へと進化し種として絶えたとも、宙より飛来した隕石が原因で滅びたともいわれるが、どうあれ彼らは生存競争という戦いに敗れ霊長の祖としての座を人に譲り渡した。
同じように人の進歩によって絶滅の危機に瀕しながらも、人の手によって保護されることで命をかろうじて繋ぐヤシガニやカブトエビなどの生き物がこの水族館にも飼われている。
それらは恐らく人が自然を保護してやる、など傲慢なことを言いださなければ滅んでいただろう。
そういう意味で彼らは人に隷属したと言える。
だが人は彼らの絶滅を防ぐために資金や人材で多大なリソースを裂いているのが現状だ。だた生きるだけで、蝶よ花よとまるで愛でられる姫君のように。
そして水族館とは、絶滅危惧種に限らず様々な水棲生物を目当ての客が落とした金で従業員を食わせる施設だ。
なるほど檻に入っているのは水棲生物であろう。だが、彼らに奉仕しているのは人であろう。
サディストの望む姿を演じるマゾヒスト、奴隷がいなければ食事も礼服も日々の生活すらもままならない貴族、真に相手を支配しているのはどちらなのか。
――――――人も見世物も枷に囚われた『監獄』こそがこの『水族館』だ。

霊地として優れるわけではないが、ワイズマンが魔力を集める拠点に十分と判断する要素がこの地には満ちていた。
ワイズマンの右手でプリーズの指輪が光る。
魔力の授受を可能とするその魔法の指輪と自らの宝具を組み合わせ、彼はガンナーとの闘いでの消耗を補っていた。
宝具とはサーヴァントにとっての象徴、代名詞と呼べるもの。
継承・奪取などにより複数のものの手に渡ることも時折あるが、多くはサーヴァントが独自に持つ逸話や武器であり、その扱い方を最も知るのは彼らである。
額面通りの使い方をするとは限らない、ということだ。
例えば外敵を封じる結界を転じて、自らの魔眼に枷を課す者。
例えばあらゆる監獄から脱獄する宝具を転じて、あらゆる空間へ侵入する者。
ワイズマンもまたそうした応用を可能とする者。
宝具『蝕まれし希望の光、絶望の幕開け(サバト・トゥ・ラスト・ディスパイア)』は本来なら生贄となる魔法使いを糧として広範囲に強制的な魂食いを行い、宝具『賢者の石』を生み出すもの。
その一端を解放し、プリーズの指輪の魔法、五代元素が一つ水属性の特性である吸収も併せ――水族館という場所は魔術的・風水的に水気に満ちておりそういう面でもよい――館内の生命からの魔力徴収を再開していた。

ガンナーが指輪を撃ち弾いた指の調子を検めるように曲げ伸ばしする。
撃たれたのは分身なのだから異常があるわけもないのだが、形代のような呪詛を警戒したか。あるいは彼女の技巧を思い返し警戒の念を強めていたか。
兎にも角にも十全に機能を発揮できるのを確かめると、その指に新しく嵌めたコネクトの指輪を光らせ此方と彼方を繋ぐ門を開く。
門をくぐりぬけた先の水族館の一室――空条承太郎に割り当てられた、なんの変哲もない一室――に笛木奏の姿が現れるとともに部屋の主である承太郎もまた帰室した。


972 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:04:17 pTMwVwOM0

「ようやく済んだか」
「ああ。テメーのおかげで沸いた余計な仕事がな」

笛木が行っていた魔力の徴収は遊び疲れ程度のもの……そう嘯いていたし、事実笛木自身もそのつもりだった。
だが人間相手の加減はともかく魚や水棲生物相手ではさしもの白い魔法使いも完璧とはいかなかったのか、一部の動物の様子にスタッフが異変を覚えたのだ。
その様子を診てほしい、と言われれば仕事としても個人的な責任感としても断ることは難しい。
自分の専門分野ではないなりに平時診ているトレーナーや獣医に混じり確かめて、外傷などなく疲労がたまっただけだろうと意見がまとまるまで少しばかりの時間をとられた。
諸悪の根源であるこの男をどうにかできればいいのだが、言ってやめるものでもなく歯噛みすることしか今の承太郎にはできない。
命さえ奪ってなければいいだろうと言わんばかりの振る舞いはまさしく魔術師の在り方なのだがそれは承太郎の知ることではなく、彼としては『魔術師』よりも『恋人』の暗示の男を思い出していた。
その苛立ちも、吐き気を催す邪悪もどうにかするには濁った気持ちを飲み干して歩みを進めるしかない……ただその一心で承太郎は今マスターとして動きを再開した。

笛木は嫌味を馬耳東風と聞き流してPCを立ち上げ、承太郎は懐から取り出した大学ノートの切れ端をスキャナーに読み込ませる準備を進める。
そこに描かれているのは承太郎が記憶を頼りにスタープラチナで描いた、ガンナーの用いていた銃器のスケッチ。
100%正確な描写ではないかもしれないが、武装の特徴や名称から敵対したサーヴァントの真名を探れまいかと二人は文明の利器を使うことにしたのだ。

「デザートイーグルと、アヴェンジャー。それくらいはおれにも分かるが」
「ふむ。お互い銃になじみの薄い出身に、必要としない身ではな。私もさして変わらない認識だが……」

本来スタンド使い、魔法使いにとっても銃器の類は無視できるものではないのだが、超のつく一流の二人の前ではほぼ意味をなさない。
至近距離の銃弾をつまんで止めるスタープラチナに、凡百の銃などでは傷をつけようもない鎧をまとった白い魔法使い。
加えて二人とも銃刀法の施法された現代日本の出身で、その辺で銃が調達できるようなものでもない。
身近なものではないため正確な推察はかなわないが、それでも知見で補うことはできる。例えば

「最後のアレは恐らく列車砲の類になるのではないか?」
「ん?あー……」

レールウェイ・ガン。19世紀に導入された、大口径の火砲を線路上を走行させることで移動可能とした当時としては画期的な兵器だ。
スケッチの一つに承太郎の視線が落ちる。
ほぼ砲口しか写せていないそれに情報としての価値はさほどなく、規模からの推察の方がマシなアプローチだろう。
口径は……100㎝はさすがにないだろうが、数10cmは下らないように見える。これほどの大火砲は史上においても稀だ。

「なるほどな。そんなもんがあったか……いや、にしてもデカいな。ナチスドイツがバカデカいのを2、3基持ってたと記憶してるが?」
「グスタフとドーラの2つだな。3番目は未完成に終わったはずだ。口径だけで言うならアメリカにより大きなものがあったと記憶しているが、全長から見るにお前の言うナチスの列車砲という推察で当たりだろう」

喋りながらも二人は作業を続け、読み込ませたスケッチで画像検索をかけていく。
大口径の拳銃は想定通りデザートイーグル。
焼夷弾をばら撒いたガトリングも想定通りアヴェンジャー。
近接するキャスターを牽制した、アヴェンジャーより大きな砲門は恐らくアハト・アハト。
指輪を撃ち落としたライフルはスケッチが正確でなかったか、ガンナーが手を加えた特異な逸品だったか、理由は定かでないが詳細は分からなかった。
大口径の砲もやはりスケッチがそも情報不足というのもあって碌な結果ではないが、全長数十メートルに口径が1メートル近い大砲などそうあるものではない。推察を重ねるうちいくつかに候補は自然と絞られるだろう。


973 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:07:00 pTMwVwOM0

「デザートイーグルはイスラエルが製造元でアメリカも関わってたな。アヴェンジャーは米軍の機銃で、アハトアハトはドイツか。第二次大戦で暴れたって聞いた覚えがある。
 ライフルはよく分からねえとしても、こいつがナチスの列車砲というのが当たりなら、ドイツとアメリカの銃器が多い。ペーパークリップか何かでアメリカに亡命したドイツ軍人か、あの女?」
「ふむ。国籍を追うとそう見えるが」

最低限の情報は承太郎のスケッチを通してのネット検索で当たれた。
しかしそれだけでは不足と笛木がコネクトの指輪を再度ドライバーにかざし、腕を伸ばして彼方へと届かせる。
そこから腕を伸ばすと数冊の本――どうやら銃器の資料らしい――が握られており、目当てのページをいくつか開く。

「製造年のずれが小さくない。列車砲とアハトアハトは第二次大戦がピークだが、アヴェンジャーとデザートイーグルは70年代開発のようだ。
 それに列車砲とアハトアハトは個人兵装ではない。一人の軍人が持つものではないだろうな」
「サーヴァントがそういう大規模な武装を個人で持ち込む、っていうのは珍しくないのか?」
「本来ならば複数人で扱う武器を一人で扱う逸話と考えるなら、古い英霊には珍しくはなかろう。西遊記で孫悟空が振るう如意金箍棒は約8トンの重さで、海の深さを測るときに天井の軍が総出で運んだとか。
 だが列車砲を単独運用する軍人というのはとんと覚えがないな……」

一応列車砲についてぱらぱらと書をめくるも、この時代はもはや兵器の時代で単騎活躍の英雄というのは――いないわけではないが――ごくわずかだ。
少なくとも数百人がかりで動かす兵器を一人で運用するのは英雄とかそういう次元の話ではなく土台無理な話だ。

「だが英霊には後の口伝やイメージで生前とは異なる情報が付与されることもままある。無辜の怪物と呼ばれるものであったり……あとはそうだな。
 例えば服部半蔵は忍者ではないが、おそらく召喚されればそのような面を付与されるだろうな。
 そのように大規模な兵器を単独で扱ってもおかしくないと思われる者となると……」
「開発者か、軍の指揮官という線は?」
「なるほど」

列車砲の仕組みについて承太郎も軽く目を通して、単独での活用は無理だと判断したうえでそのような意見を述べた。

「名の知れた城主や船長やなどであればそれこそ船や城を宝具とするのはおかしくない。アン女王の復讐号、潜水艦ノーチラス、万里の長城やピラミッドであれば持ち主が宝具とすることもあるだろう。
 だが、開発者ではない。先も言ったように時代の差異があり、そもそも開発者ではガンナークラスにはなれない。指揮官もほぼ同様。もっと、存在の級位が上だ……」

笛木はつぶやきながらも思考を進め、答えを漁るようにまた指輪を輝かせて彼方へと手を伸ばす。

「人類をもっとも繁栄に導いた発見とは何だと思う?」
「あ?そうだな、いろいろあるだろうが……」
「星の開拓者とも関わる話になるが、それはいい。電気、車輪、鉄、紙、繊維、文字……様々な候補があがるだろう。私は魔術にそれを見出しているが……」
 人類の発展において戦争を除いて語ることはできない。つまり、『武器』という概念も人類との発展と共にあると言って過言でないだろう」

そう言いながら笛木が選んだのはギリシャの神々が描かれた本だった。

「君も私同様分野が違うとはいえ命に携わる科学者だ。『プロメテウスの火』を知らないということは無かろう」
「……あらゆる戦争はプロメテウスが人に火を与えたことに起因する、か。また人の手に余る技術のことをそう呼ぶ」
「そうだ。あらゆる武器と戦争の起源は火であるがゆえ、人に火をもたらしたプロメテウスはあらゆる武器を手にする可能性を持つと言えよう」

承太郎のスタンドについて、南米の神々云々と言及したのも推論の要因となった。
それを認識できる、国か時代……おそらくは神話の存在であろうと推論を重ねるうちに笛木は思い至っていた。
その中でも銃器にまつわる神というのは聞き覚えがなく、苦心したが一つの仮説には至れた。


974 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:11:29 pTMwVwOM0

英霊によっても得意分野というのは存在する。
約束された勝利の剣のような、英霊の座に至ったならば誰もが知る高名なものならまだしも、様々な世界・時代の英霊の知識がムーンセルや座から与えられようとその知識を活用するのはサーヴァントなのだ。
馴染みのある知識ならすぐ引き出せようが、不慣れな分野ではそうもいかない。10年以上前に勉強した些末な知識のように思い出すにも苦労する。
魔術や物理学、時代や国を近しくする英霊ならまだしも、神々や精霊に馴染みのない笛木では、シャーマンであるジェロニモのような推察は容易くないということだ。

そうして辿り着いた推論には当然穴があり、承太郎もそれに気づかない男ではない。
なによりプロメテウスは男神であること。プロメテウスの火を武器とすることの是非。そして


―――銃使いのエクストラクラス。結構思い入れがあるから、ちゃんと呼んで貰えると嬉しいわ―――


第七階位(カテゴリーセブン)の、拘り。プロメテウスに銃に思い入れがあるとは思えない。
『プロメテウスの火』というなら銃よりもっと危険な、核は扱いにくいとしてもミサイルくらいなら持ち出してきそうなものだ。
宝具がサーヴァントの代名詞だというならば、それは恐らくスタンドが持ち主の精神性を現すのに近いだろう。
銃を代名詞とする……いや、むしろ

「別の仮説を提唱したい」
「聞こう」

自論の穴は当然承知か、笛木もその先を促す。

「グレムリンってのを知ってるか?」
「なに?」

突然発せられた因縁ある名前に僅かに笛木も動揺する。
だが、あの固体名を指しているのではないのだろうとすぐに思い至りその名の元となった怪物のことを思い浮かべる。

「機械に悪戯をする妖精の一種。ノームやゴブリンの類縁とされる怪物のことで相違ないか?」
「ああ。そのグレムリンだ。じゃあそのグレムリンっていうのは一体いつから存在した怪物なんだ?」

ノームをはじめとした妖精の類は神話の時代から語られる存在だ。
日本でいうところの天狗に近いか。
ではその類縁とされるグレムリンがその時代から語られていたかというと、それは否であろう。
機械に悪戯をする妖精は、逆説的に機械がなければ生まれ得ない。
機械の誤作動という事象が観測されるようになって初めて、機械に悪さをする妖精であるグレムリンが観測され、定義されたのだ。
先ほども述べていた。
服部半蔵が忍者である創作が世に広まることで座にそのように記録されるように、近代となっても英霊や妖精は変異・誕生しえるということ。

「ロビンソン・クルーソーは読んだことあるか?ああ、おれもガキの頃の夏休みにあれを何度も読み返したよ。
 あの中にフライデーっていうのがいた。遅れて島に流れ着き、ロビンソンに仕えた召使だ、分かるよな。
 フライデーはロビンソンの持つ銃が何だか理解できず、音がすると何だか分からないが鳥が死ぬもの、としか思えなかった。銃に理解が及ばなかったフライデーは、その銃口が自分を害しないように何をしたか……祈ったのさ、銃にな。どうか自分を傷つけないでください。どうかこれからも獲物をお恵みください、と。つまり、だ」
「銃に対する信仰……付喪神か」
「ああ。付喪神、あるいは九十九神。そう呼ばれ出したのは室町のころだったと思うが、グレムリンよりは先輩だ。銃が一つの信仰を獲得するのにゃ十分。刀剣信仰の一種としちゃあそんなに可笑しなものでもないしな」
「戦神ならぬ、銃そのものの神といったところか、なるほど……」


975 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:14:27 pTMwVwOM0

そんな存在に何か覚えがあった気がして、笛木はまた指輪を輝かせ彼方へと手を伸ばす。

「ところでお前、さっきからどこから本を引っ張り出してる」
「これか。昨夜監督役が言っていただろう、聖杯戦争は幾度も行われていたと。この月でも行われていた、その名残だ。
 バーサーカーかそうでないにしても聖杯由来の知識を活用できないサーヴァントを宛がわれたマスターへの救済も兼ねてだろう。こういったサーヴァントの来歴を調べるのに適した書物が図書館に配置されている。私のようにムーンセルにアクセスできるウィザードならばすぐその存在に気付くはずだ」
「図書館……そりゃサービスのいいことだ」
「一長一短でもある。敵について調べる環境が整っているということはこちらのことを知られる危険性も増すということだ。そしてさすがは管理の怪物というべきか、書物の移動はできても破壊はかなわないようにプロテクトされている」

笛木が図書館のことを知ってまず考えたのは当然自分の史跡の抹消だった。
語られることの少ない反英雄ではあるが、情報量が1と0では天と地の差だ。
だがかつて同じように自らのサーヴァント、太陽を落とした女の航海日誌を抹消しようとしたマスター同様隠ぺいが精いっぱいというところ。
二人の技量の差はそれこそ月とスッポンだが、本物の月を前にしてはどんぐりの背比べでしかないらしい。

「つまりお前にまつわる資料もあるってことか、キャスター」
「正確には私の英雄譚ではないが、ね」

そう言って笛木が懐を漁り、いくつか見える本の中から一冊を選んで承太郎に放ってよこす。

「『指輪の魔法使い』……?」
「そう。私は彼に打ち倒された反英雄だ。様々な英雄譚が観測されるが、白い魔法使いがハルトという青年に指輪を与えて魔法使いとし、その青年に敗れるのが編纂事象、全ての歴史の基軸のようだ」

アーサー王の物語は時代によって変遷している。ランスロットやトリスタンが登場するものしないもの、剣を主武装としたもの、槍を主武装としたもの、あるいはその性別までもが異なることもあり得る。
だがそれでも、大筋は変わらない。王を選ぶ剣を引き抜いたアーサーは国を守るべく粉骨砕身するも、ブリテンの神秘の枯渇という時代の変化に抗いきれず、嫡子モードレッドの裏切りによって命を落として幕を下ろす。
またクウガと呼ばれるリントの戦士に変身するユウスケの物語も単一ではない。
英雄はただ一人でいいと笑い続けたもの、人類の進化種アギトとの因縁を紡いだもの、世界の破壊者と肩を並べたものなど。
同じようにハルトの物語も複数あった。
笛木のよく知るものであったり、またその笛木の知る晴人から指輪を与えられたものであったり、またも世界の破壊者と縁を結んだものであったり。
そのうちの一つが今承太郎の手の中にある。

「私の能力を詳しく話せと言っていたな。否はない。だがいちいち口頭だけで説明するのが非効率だというのにも否は無かろう。
 指輪の魔法使いの使う魔法はほぼ私の産み出した魔法石に由来するものだ。ドラゴンが強く出たものとインフィニティーは私にも作れないが、それ以外なら問題なく扱える。
 いちいち指輪を一つ一つ提示して説明するより参考文献にまとまっている方が職業柄分かりやすかろう」

そう言うと笛木は工房への門を開き、話を打ち切るように戻ろうとする。

「私は回復がてら書籍の封印と調べものだ。お前の言う銃の神に何やら覚えがある気がするのでな。お前のスタンドについては後で詳しく話してもらう」
「待ちな」

それを承太郎は短く、しかし強く呼び止める。
一瞬沈黙が奔るが、笛木は振り返りそれに応じた。
二人が向き合うと承太郎の背後に青い人影が浮かぶ。


976 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:18:40 pTMwVwOM0

「生命・精神のエネルギーが像となって現われる。傍に立つことから能力全般を『スタンド』と呼ぶ。
 おれの能力の固有名は『星の白金(スタープラチナ)』、あるいはスタープラチナ・ザ・ワールド。射程距離は2m。パワー、スピード、精密性についてはそれなり……のつもりだったんだがな。どうもここのところ自信をへし折られてばかりだ。一応至近距離からのショットガンくらいならなんてこたねーし、トラックくらいなら力比べで勝ってみせるが。
 それから要の能力が、時を止めること。体感にして、5秒程度。世界の時を止め、その中をおれだけが動くことができる」
「…………」

咀嚼するように笛木が息をつく。
あとでいいと言ったのになぜ今、と思わなくはないがそれでも能力はシンプルなもので確かに時間を置くほどのものではないかもしれない……伏せている札がなければ、だが。

「名というのは宝具の真名解放か、魔術の詠唱のようなものか?」
「さて、深い意味はあるかもしれんしないかもしれん。友人の占い師がタロットを引いてつけてくれた、おれの運命の暗示だそうだ」
「では止める時間が5秒程度というのは?どうにも曖昧だが」
「止まった時の世界じゃあ針は刻まず、砂はこぼれず、水も流れない。その中で正確に時間を測るアイディアは随時募集してるぜ?」
「…………南米の神というのに覚え、はないようだな」
「おれもそれは気にかかっていた。またあの女に聞く機会があればいいんだが」

笛木の投げかけた疑問に対してまともな答えが返ってきたとは言い難い。
伏せている札があるために答えを渋るのか、逆に全て出し切ったゆえこれ以上話すことがないのか。
いっそメイジのように洗脳してしまうか、という考えが首をもたげるが……

「わかった。ひとまずはそれでいい。続きは後だ」

改めて話を切り上げて工房へ入り、まず懐にしまっていた指輪の魔法使いの物語を簡素であるが工房内に封印していく。
敗北の歴史に思うところがないわけではない。
暦のために必要だったとはいえ、自由意思を持った指輪の魔法使いがいたのが自分の敗因の一つだったのは間違いない。

(だが空条承太郎の自由意思を奪うのは上策ではないだろう)

関係が致命的に変化するというのあるが、それ自体は些事。
問題は自分が操作する空条承太郎は、彼自身の足で立つそれよりも確実に戦力で劣るということだ。
魔術の素人であったメイジが玄人である自分の影響下に置かれるのとはわけが違う。
すでにして歴戦のスタンド使いである戦士――敵わないとはいえ自分や第七階位のサーヴァントと戦えた実力者――をスタンドの素人である自分がわざわざ操作するのは愚の骨頂だ。
スタンドが精神のエネルギーだというならどんな影響が及ぶかもわからない。

(リスクは承知。それでも人間とファントム両陣営を渡り歩くに比べればたかが一人、渡り合ってみせる)

侮りはしない。
グレムリンと操真春人を見誤った失態を二度犯すわけにはいかない。空条承太郎は二人以上にしたたかな熟練の戦士だ。

(『私』の物語はここに封じた。もう誰の目に着くこともない)

英霊ならば平等に存在する最期の逸話。
協力者の裏切り。『屍殻穿つ魔杖(ハーメルケイン)』という凶器。空条承太郎がこれを知れば……宝具を握り敵対することでこの要素はするりと埋まってしまう。
そして

(口裂け女。グレムリンと同じ、現代に産まれた怪物)

スノーフィールドで不審な情報を集めれば、意図せずとも飛び込んでくる怪奇情報、口裂け女。
起源は異なるが構成する要素としては笛木の最期を彩った怪物に近しい。
もしこれがディルムッド・オディナに対する猪のような天敵となってしまうのなら、たかが知れた幻霊モドキの都市伝説と言えど油断はできない。


977 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:19:10 pTMwVwOM0

この『指輪の魔法使い』の封は二度と解くまい。最低限の情報は得た。

(タイムの指輪。やはり、それでは暦は救えないか……)

笛木の死後の指輪の魔法使いの物語。
彼の遺した魔道具と操真春人より産まれた魔法使いは、タイム――時を超える魔法――を使い暦を救おうとした。しかしそれは叶わずに終わる。
英霊となってみればそれも当然と思えた。
量子記録固定帯(クォンタム・タイムロック)……世界の残酷な決定を人の身で覆すことは出来はしない。
だからこそ人の身ならぬ聖杯が必要なのだ。

(――――――私にとっても、この戦いは娘を救う最後の希望なのだ。空条承太郎)

気を許すつもりはない。だが―――
正位置の星、それは希望の暗示。魔術師にとって名前というものは大きな意味を占める。
死後に掴んだカードの名は無意味ではないと思う程度には彼は魔術師であった。


【F-6(?) 水族館内、笛木の工房/1日目 午後】


【キャスター(笛木奏)@仮面ライダーウィザード 】
[状態] 健康、魔力消費(中・回復中)
[装備] 『詠うは白き慟哭の声(ワイズドライバー)』
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を掴み、暦を幸せにする
1.娘のために空条承太郎を利用し、聖杯戦争を勝利する
2.失われた魔力の回復に努める
3.ガンナーのような強敵とは、本体は陣地外での交戦を避ける
4.『第八階位』は……
5.ガンナーを銃の付喪神と推察、調査。
[備考]
※承太郎の意向に関わらず自活するだけの力を得た、という発言が事実であるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


978 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:27:02 pTMwVwOM0
笛木と別れた承太郎は、さっそく渡された『指輪の魔法使い』に目を通していた。
悲哀の彩りに満ちた、されど希望にあふれた胸躍る英雄譚、それを目にしての感想はというと

(ヤツの持っていたものと微妙に異なるな。やはり死因については隠したがったか)

即座に一通り目を通し、その内容を咀嚼する……笛木の隠したものと比較して。
そう、承太郎は笛木の隙をついて彼の物語に一瞬だが目を通すことに成功した。
用いたのは当然スタープラチナ。

立ち去る寸前の笛木を呼び止め、時間停止。
わずか5秒、されど5秒。
スタープラチナの速度と精密性ならば本のページを一つ一つ丁寧に、されど一瞬で捲り切ることができ、そしてそれを見極めることができる。
目当ての本を引けたか、この物語が笛木のものかは承太郎には確信できない。
だがその可能性は高いと踏んでいる。

―――『悪霊』だよ。『悪霊』が持ってきてくれるんだ。必要なものをな―――
―――スタンドはエネルギーのイメージ化した姿だ―――

できて当然と思うこと……引かれるように、そうまるで引力に導かれるように承太郎は操真春人の物語を手に取り、一瞬だが目にした。
抜きとった本は懐に戻す……階段を上ったと思ったら降りていたと勘違いするように、淀みなく精密に元に戻した。

そして問答を終え、今に至る。
スタンドに関する問答で当然承太郎は全てを話してはいない。
まず今後の肝となる『聖杯符』と『天国』の可能性。これは現時点で不確定な情報だから伝える必要がなかったとも言えるが、切り札である以上明かすわけにはいかない。
また時間停止の中に踏み込んでくるものがいる可能性。動くものが敵か味方かによって意味の大きく変わる情報であり、またそもそも止まった時の中で動くということを認識させれば自分のように入門してくる可能性があるため、積極的に伝えようとは思えない。
そして承太郎にとっては話すまでもない、されどその他の者にとっては最大の肝。
敵対者に曰く、無敵のスタープラチナはもとより本体の承太郎こそが最も厄介であると。

一流イカサマ師のセカンドディールに気付く観察力があっても、その行為の意図が分からなければ指摘できない。
シャッフルしているトランプを見極める動体視力があろうとも、順序を記憶できる知能がなければ意味はない。
僅かな時間で操真春人の物語を速読するのはスタープラチナだが、それを記憶できるのが空条承太郎という男だ。

(ヤツの宝具がそのまま死因か。伏せたがるのも分かるってなもんだ)

それならば無理に聖杯符を狙う必要はないか……否、先を見据えて戦うと決めた。
プッチという邪悪に然るべき報いを与えると決めた。
であれば伸ばす手を止めるつもりはない。
まるでそうしろと運命が告げるように、パーツは揃いつつある。

(指輪の魔法にまさかこれほどうってつけのものがあるとはな)

グラヴィティのリング。
そして笛木の持つ宝具の一端であるエクリプスリング。
日食を引き起こす魔法、というのがどの程度のものかは分かりかねるが、日食とは新月の時にしか起こらないもの。
つまりこれは『新月の時』を満たす魔法というわけだ。
さらに必要ならグラヴィティによる調整があれば、天国の時は成るだろう。

(やれやれだ。今更ながらおれがあいつらの野望と同じ道を追おうとするなんてな)

月の聖杯戦争にて、新月を求める。まさしく月の導きであろうか。
―――月の正位置、その暗示は迷い、不安ある旅路、信仰。そして、裏切り。


979 : 星の暗示、月の暗示 ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 00:27:23 pTMwVwOM0
【F-6 水族館内、待機室/1日目 午後】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン】
[状態] 漆黒の殺意、若干の迷い、疲労(小)、精神疲労(中)、全身に打ち身等のダメージ(小)
[令呪]右手、残り二画
[装備] なし
[道具]『指輪の魔法使い』の物語(操真晴人の物語とは微妙に違う、リ・イマジ的なもの)
[所持金]
[所持カード]
[思考・状況]
基本行動方針: 『最初』に邪悪を滅ぼす。『最後』には……
0.やはりキャスター(笛木)は信用できない……
1.キャスターを利用し、目的を果たす
2.スタンドはサーヴァントにも有効、だが今のパワーでは心許ないらしい
3.聖杯符を入手し、可能ならスタンドを進化させる。キャスターの魔法、重力と日食も利用できるか?
[備考]
※スノーフィールドでのロールは水族館勤務の海洋学者です。
※『第八階位』のステータス及び姿を確認しました。
※『第七階位』のクラス、ステータス、宝具及び姿を確認しました。
※操真晴人の物語に目を通しました。少なくとも笛木奏の死因周りについては重点的に記憶しましたが、他どの程度把握・記憶しているかは後続の方にお任せします。


【全体備考】
※スノーフィールドのどこかに図書館があり、Fate/EXTRAのようにサーヴァントについて調べることができます。ただし『指輪の魔法使い』に関する資料は笛木が全てとは限りませんが目に付く限り隠ぺいしたようです。


980 : 名無しさん :2019/07/11(木) 00:28:10 pTMwVwOM0
投下終了です。指摘等あればお願いします


981 : ◆yy7mpGr1KA :2019/07/11(木) 23:51:25 pTMwVwOM0
すいません、些事ですが>>971-979の投下タイトルを「二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。 一人は月を見た。一人は星を見た」に変更したいと思います
それだけのためにレス消費も何なので
音を奏でるもの&欠伸をするもの、ティーネ・チェルク&アルテラで予約もします


982 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/11(木) 23:58:28 d0hJHs2o0
>>二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。 一人は月を見た。一人は星を見た

◆yy7mpGr1KA氏、ご投下ありがとうございます!

マックル戦を終え水族館に戻った承太郎と笛木のパパチーム。私が「まぁ、笛木ならできるやろ……」ぐらいの適当さで描いた工房での魔力の徴収の筋道が具体的に描写されて、ぐっと深みが増す冒頭。非常に良いですね。
発動させられるのかどうかと思っていたサバト宝具も、本家Fateシリーズのサーヴァントを例に「その扱い方を最も知るのは彼らである」として応用例を見せてくれたのがGOOD。
笛木が指の調子を検める描写は、一瞬「あれ、マックルと戦ったのはデュープの分身……」と思っていたら形代のような呪詛を警戒したか、という一文を入れることでますます凄腕のキャスター感を醸し出す演出で痺れますね。

しかしそんな笛木も、娘以外の人命を軽んじるのだから動物愛護の精神が希薄に決まっていた、というやらかし発生。同じ『魔術師』でも、大切な仲間のアブドゥルを重ねてはくれません(そういえばアブドゥルを重ねていたジェロニモさんもキャスターであることに今さら気づきました。不覚……)。謀ったからね仕方ないね(アブドゥルと一緒に承太郎もポルナレフを謀ったのは内緒)。

気の合わない二人、しかし熟練の戦士同士なので共通の敵を協力して調べることはできる。先の戦闘で得られた情報からガンナーの正体を追う様子にゾクゾクします。そしてなんか頻繁にマックルイェーガー呼びされている印象とはいえ、その辺の情報とは馴染みのない二人には未知の英霊であり、真名予想にプロメテウス等の別候補が出てくるところも含めて実に月の聖杯戦争っぽい。
……拙作だとマヒロが本以上にネットで卑劣様を把握したっぽい(月の聖杯戦争っぽくない)のは、まぁ『NARUTO』はアメリカでも大人気ということで!

話の中で空の魔王とか白い死神が思い浮かべられてそうだなとか、死んだ娘を救うために博士号まで取った科学から新たに宗旨変えした魔術に懸ける想いだとか、細かいところにもニヤリとできる要素を散りばめながら、口裂け女とグレムリンが同じ都市伝説の怪物=笛木の天敵足り得るのではないか、という推察や――承太郎が今回は出し抜き返し、笛木に死を齎した武器がハーメルケインであることを知るという、今後の展開にも大きく影響しそうな情報が並ぶ考察パートは流石の一言。氏の十八番ですね。クウガを軸にした編纂事象への言及もイカス(五代さんがまるで東條みたいな表現でクスってなっちゃったけど)。

そして量子記録固定帯(クォンタム・タイムロック)という真理を知り、より一層強く聖杯を求める魔術師ゆえに名前が暗示する希望を抱く笛木と。
月の導く運命を感じ取り、迷いを漆黒の殺意で固めて行く承太郎。その裏切りは成就するのか、否か。

それ以外がまるで合わないながらも、お互いに近しいものを感じる父親同士。出し抜こうとするもの・歩み寄ろうとするものとが目まぐるしく入れ替わる関係性は本企画でも特異な主従の魅力が、存分に描かれていたSSでした。
同時、自分はこういうクロスオーバーならではの展開、二次創作ならではの、キャラクターごとの描写にこそ注力されたSSが読みたいし、また自分でも描いてみたいと思っていることを再認できる、私にとっての名作でした。
不甲斐ない企画主ですが、このような作品を提供して頂けたことに感謝して、きちんと励んでいきたいと思えました。

最後は少し自分語りが入ってしまって恐縮ですが、本当にありがとうございます。改めて、ご執筆並びに投下、お疲れ様でした!
予約も楽しみにさせていただきます!


983 : <削除> :<削除>
<削除>


984 : 名無しさん :2019/07/12(金) 05:33:04 aIV5j.J60
幾らなんでも難癖過ぎだろ


985 : <削除> :<削除>
<削除>


986 : 管理人 :2019/07/14(日) 00:31:35 ???0
管理人より警告いたします。
本スレッドにおいて当掲示板の削除基準に抵触する発言が続いております。
>>983につきましては削除およびホスト[softbank126209039089.bbtec.net]の無期限書き込み規制、
>>985につきましては削除対応を行っております。
今後も同様の発言は即時削除対象とさせていただきます。
継続するようであれば荒らし行為と判断し、ホスト[panda-world.ne.jp]の規制を検討いたします。

また本決定に対する本スレッドでのご意見は企画の妨げとなりますため、ご遠慮ください。
以上、悪しからずご了承いただきますようお願い申し上げます。


987 : <削除> :<削除>
<削除>


988 : ◆yy7mpGr1KA :2019/07/18(木) 00:08:04 teIwiPAE0
延長お願いします


989 : 名無しさん :2019/07/18(木) 12:32:13 HvsWjNlM0
>>987
あなたのアドバイス(笑)なんて誰も必要としてないので今後二度と来ないで下さい


990 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/19(金) 22:14:03 UmdjzKQQ0
お疲れ様です。

スレッドの残量的に、現在予約のある投下に対応できるか不安が生じたため、下記の新スレッドを用意させて頂きました。
このスレの残りは予約や感想等に利用して頂けると幸いです。
今後とも、箱庭聖杯をよろしくお願い致します!


次スレ『Fate/Fessenden's World-箱庭聖杯戦争- Part3』
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1563541085/


991 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/31(水) 23:24:58 ap4KPB7U0
ご報告が遅れてしまっておりましたが、原作の進行に合わせて修正が必要となったパートが拙作『静寂を破り、芽吹いた夢』にございましたので、ご報告致します。
既にwikiの方には修正版を収録しておりますが、主に差し替えとなる部分について、念の為こちらにも投下しておきます。


992 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/31(水) 23:25:50 ap4KPB7U0
>>946前半部分と差し替え

×××




 スノーフィールドの街並み、その屋根よりほんの少しだけ上の高度の低空。
 行き交う人々の頭上を舞台にした戦女神と復讐者の戦いは、膠着状態に陥っていた。

 容易く万を越す圧倒的な物量と、文字通り神憑り的な精度を両立するガンナーの宝具による弾幕は、アーチャーの矢をして未だ直撃を許さない。
 威力も速度も、ガンナーが繰り出すほぼ全ての銃弾を凌駕するアーチャーの矢に対し。どのタイミングでどこに当てれば効果があるのか、超極音速の射線を完璧に見据えたガンナーの迎撃は、その軌道を逸らし続ける。

 しかし、その迎撃とは別に繰り出される飽和攻撃の数々は、アーチャーを脅かすにはさらに遠い。

 元よりガンナーの宝具として召喚された銃砲は、神秘を宿しこそすれ、それに応じて威力が増幅されると言ったことはなく。殺傷力そのものはあくまでもその銃火器本来の性能を発揮しているに過ぎないために、個人携行火器による被弾程度では、アーチャーには雨粒に打たれる程度の消耗にしかなり得ない。
 時に、狙い澄まされた特大の砲弾がアーチャーの肌を裂こうとも。仮初の血液を構成する魔力と溶け合い、霊基を歪曲させた『泥』が瘡蓋の如くその出口を埋め尽くし、刹那の間に万全の肉体を復元し続ける。

 ――礼装を介し、マスターより第二魔法の応用による無尽の魔力供給を受けるアーチャーは、有限の魔力しか持ち得ないその他のサーヴァントとの消耗戦において、絶対と断じられるほどの優位を持つ。

 この先も永遠に減退することのないアーチャーの治癒力をガンナーが上回るには、魔力の供給源たるマスターを仕留めるか、この霊基を一気に砕く火力を叩き込む他に活路はないだろう。

 しかし、アーチャーがその身を包む長布こそは、かつての試練にて勝ち取りし宝具の一つ。人の作りしあらゆる武器を拒絶する神獣、ネメアの獅子の皮を剥いで編まれた裘(かわごろも)。
 人の文明――即ち人理否定の特性を宿したこの具足が霊核と直結した急所を覆っている以上、サーヴァントをも殺傷し得る大砲による火線は、これで慣性の伝播すら完全に遮断されている。

 その隙間を狙おうにも、アーチャーの強靭な筋肉と骨格を貫通できるような火砲は限られている。如何にガンナーの射撃が精度も物量も抜きん出ていようとも、心眼を誇るアーチャーがそんな致命の一撃を見落とすはずはない。

 そして、この撃ち合いがどれほど長く続こうとも。仮令、億千万の銃槍をこの身に刻まれようとしても。復讐を誓ったアーチャーの精神が、たかがそれだけのことで判断を損ねるような軟な代物のわけもない。

 故に一見、一方的に被弾しているのはこちら側であっても。この距離であれば、アーチャーの優位は揺るがない。
 論理的に考えて、徐々に活路が塞がれ詰んで行くのは、現代の文明に付け入り生まれたあの戦女神の方だ。

 ……だというのに、そんなこともわからぬほど愚昧でもあるまい敵は未だ涼しい顔。一方で。

「――アーチャー! これ、本当に大丈夫なんでしょうね!?」




(以下同)


993 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/31(水) 23:28:37 ap4KPB7U0
>>953

×××

「……!」

 聖杯戦争に巻き込まれた、全ての人々の生還――そんな夢見がちな願いを、早々に否定するような現実を告げられて。
 無言を貫くしかないまま、打ちのめされるコレットの様子を認めたようにして。ガンナーは三度、淡く陰のある微笑みを浮かべた。

「夢に終わりが来るのは同じでも。悲しい結末よりは、救いのある方が良いでしょう?」

 ……それは、きっと何でもそうだ。
 けれど――その救いとは、果たして何を意味して――?

 あたかもコレットの声なき疑問に答えるように、ガンナーはなおも言葉を紡ぐ。

「だからあの子は、取り返しのつかなくなる前に、あたしが責任を持って送るわ。あたし、これでも銃と戦争の神様だからね」
「ほざくな」

 ――瞬間、喪って久しい肌寒さがコレットを襲う。

 言うまでもなく、それは錯覚だ。
 強烈な負の感情、それもただの余波によって引き起こされた。

 神を名乗りしサーヴァントの発言に割り込んだのは、仮面に口を隠したライダーでも、もちろん声の出せないコレットでもなく。

「何が責任だ。我欲のため、幼子に再び死の責め苦を与えるだけの所業を、よくも厚顔無恥に言い換える」

 先程妨害を受けてから、目立った動きを見せていなかった第一階位の弓兵だった。

「その犠牲を忌むように嘯きながら、貴様は戦を否定するわけではあるまい――マックルイェーガー」
「……ま、これだけ手の内を見せてれば、気づかれるのも仕方ないか」

 アーチャーの呼びかけに少しばかり苦笑したガンナー――真名をマックルイェーガーというらしきそのサーヴァントは、改めて当初の敵対者に向き直った。

「当然ね。戦女神を捕まえて、戦争根絶を唱えるとは思わないでしょう? あたしの真名に至ったのならなおのこと」

 怨敵の真名を捉えたからか。
 そこに佇んでいるだけで、感情に合わせ蠢いた魔力が物理的な風となって吹き荒れるほどに烈しさを増した、アーチャーの放つ憎悪の念。
 凄まじいまでのそれに対し、あたかも涼風と向き合うようにして、ガンナーは小首を傾げた。

「悲しい犠牲はあるとしても――いつか、要らなくなる未来が来るのだとしても。人類にはまだ、その勇気を失くさないために、戦場という物が必要なのよ」
「すり替えは止せ。貴様らにとっては、己が娯楽のために必要とするだけだろう」
「その点も否定はしないわ。やっぱりあたしは、あたしを生んだ人の子と戦争が大好きだから」
「ならば――人間を玩弄するのはここまでにして貰おうか、邪神よ」

 何の気負いもなく肯定を返したガンナーに、アーチャーは掴んだ無数の矢をそのまま弓に番えた。

「――っ!」

 それに対し、何を予見したのか。血相を変えたガンナーが高く、大きく跳び退った。
 同時、静観していたライダーもまた、素早く宝具解放の手順を整える。


994 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/31(水) 23:30:25 ap4KPB7U0
続いて、>>954との差し替えです

×××


《――ATTACK RIDE――》
「――――『射殺す百頭(ナインライブス)』」

 しかし、ライダーが後出しの宝具の展開を完了するよりも。
 アーチャーがへし折れる寸前まで引き絞った大弓から、コレットの気が遠くなるほどに莫大、かつ相反する二属性の魔力を纏いし『それ』を、スノーフィールドの空へと解き放つ方が速かった。

《――AD VENT!!――』

 ライダーが二つの宝具を組み合わせ、『伝承写す札(ライダーカード)』からとある英雄の駆った怪物を顕現させる寸前、コレットは視た。



 ――――『それ』は、神を喰うもの。



 咄嗟とばかりにガンナーが呼び出した兵装――彼女自身の十倍以上も長大な三連装の円筒が三基。衰退世界の神子が知る由もない極東が誇る史上最大の艦載主砲から超音速で放たれた、一つ一つが数十キロ先の戦艦や城塞を破壊する九つの超質量――それを正面から、刹那の内に噛み砕き翔ける超々極音速の矢がまるで、九頭の輝ける邪竜が如き軌道を描いたのを。

 そうして守護を喪った女神に対し、清澄なる神気と赤黒く濁った呪詛を孕んだ九つの顎が容赦なく同時に襲いかかり、その影を呑んだ勢いのまま駆け抜けて行く光景を。

 彼女の背後に展開されていた、三基の三連装砲という痕跡すらも見逃すこともなくその砲口に飛び込み、徹底的に蹂躙して遠い天(ソラ)へと昇り行く憎悪の程を。

 神話の時代の如き幻想的な情景を描いた、圧倒的な破壊の直後。刹那の攻防に産み落とされた衝撃波が街に迫るのを、たちまちに跳ね返す白い翼がそこにあった。

 鏡の如き水面から飛び立った麗しき白鳥は、しかしその大きさが異様だった。モンスターと言って差し支えないその正体こそは、ライダーが召喚した閃光の翼、ブランウイング。
 騎兵の霊基で召喚されたディケイドだからこそ使役を可能とする、過去に一人の仮面ライダーを乗せたミラーモンスターの一種だ。

 一度羽ばたけば天災にも等しい暴風を呼び起こすブランウイングは、街を蹂躙しかねなかったアーチャーの矢による二次被害を食い止めるという役割を見事に果たしていた。

 ――だが、もしも直接狙われたならば、あの矢を防ぐことは到底叶わなかっただろう。

 それは為す術もないまま消滅させられた、あのガンナーの犠牲が証明して――――

「……小癪な」

 そんなコレットの思考を途絶させるような怨嗟に滲んだ声が、残心したままのアーチャーから漏れていた。

「ま、こんな早々に令呪を使い切ってるような奴らもそーはいないだろうさ」

 そんなアーチャーを労うような声音で、しかし皮肉たっぷりに肩を竦めたのは、ライダーだった。
 ……彼の言葉で、やっとコレットは誰も『聖杯符』を手にしようと動かなかった理由を悟る。

 つまり、あのガンナーは――未だ、脱落してはいないのだ。

 令呪。『夢幻召喚』を為すための資格にして、三画限りの絶対命令権。
 時には空間を越えた瞬間転移のような、マスターとサーヴァントだけでは為し得ない奇跡さえも実現する、聖杯戦争における至上の切札。
 それによって、ガンナーはあの致命の状況を凌いで見せた。

 彼女は果たしてそのまま離脱したのか、それとも近くで姿を隠し、隙を伺っているだけか。
 それは未だわかり得ぬことながら、視認できる範囲では残されたサーヴァントは二騎だけとなった。


995 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/31(水) 23:31:23 ap4KPB7U0
>>955

×××


「気にするな、せいぜいあと二画だ――そこまで撃たせるつもりはないけどな」

 残り者同士となる相手に向けて、ライダーは挑戦的な言葉を吐いた。

 街への被害すら厭わず、宝具を行使するようなサーヴァントは危険過ぎる。邂逅できた今この場で、可能な限り無力化するべきだ。それがコレットの願いに沿った、ライダーの考えなのだろう。

 しかし、そんな以心伝心の仲間の判断とは裏腹の、強敵を前に拭いきれぬ不安がコレットの裡で膨らむ。

 驚嘆すべきことに。あの凄絶なる弓術を披露する前後で、アーチャーからは心身と魔力、その一切の消耗が見受けられなかった。
 こちらは、ライダーの有する宝具の中で特段燃費の悪いわけでもないブランウイングを開放しただけでも、相応の疲労を蓄積しているにも関わらず。

 加えて言えば。先のガンナーのように、窮地に陥ったサーヴァントの死線をマスターが曲げるということが――コレットには、できない。
 発声の叶わぬ身では、令呪の行使すら叶わないのだから。
 本来サーヴァントの動力源であるこの身を楯にする程度なら可能かもしれないが、それがあの剛弓の前で如何ほどの意味を持とうか。

 ――否定しようのない、絶対的なマスターの差がそこにはあった。
 自らの願いを代行してくれるライダーに対して、しかし捨て身の覚悟ですら貢献に届かないだろう無力な己の存在が、コレットに微かな躊躇を生んでいた。

「……どうやら、完全に逃がしてしまったようだな」

 ライダーの挑発を聞き流したかのように独りごちたアーチャーは、一度視線を足元に配らせた後、ようやくこちらを見据えてきた。

「やはり障害は先んじて取り除いておくべきか。これだけサーヴァントと出くわして、『聖杯符』の一枚も持ち帰らないのも割に合わないからな」
「(……っ!)」

 そんな竦んだ心を射抜くように、アーチャーの殺気が物理的な圧力を伴った魔力の波長として叩きつけられる。
 喪われた五感が蘇るような怖気。触覚の失せた肌を押す力に逆らえず、思わず腰が抜けそうになる。
 さらに、本能すら越えた奥底へ直接響くかの如く、コレットの精神を揺るがす厭な感覚にまでも苛まれる。

 だが――ライダーは微かに緊張しながらも、微動だにせず圧倒的な力と向かい合っていた。
 それが、コレットの託した願いだから。

 ――こんなところで挫けるような人間が、世界再生なんてできるはずがない。

 ……ロイドならきっと、そう言うから。
 理想の実現に繋がる第一歩、通りすがってくれた英雄に託したこの祈り、決して折ってなるものか。

 だからコレットは、震える体に芯を通して、布奥からの憎悪を載せたアーチャーの視線に対峙した。
 無力を承知の上で、それでもライダーの枷ではなく、共に歩む意思となるために。

 この一歩は、退けない。

「……」

 そんな反応を認めたように、アーチャーが弓を構えるように腕を動かす。
 ライダーもまた、新たなカードをその手に握り――


996 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/31(水) 23:33:41 ap4KPB7U0
最後に、>>958前半部分の差し替えです。

×××


「だが、おまえは皆に無視されたあの子に向き合ってやった。それは死んでも彷徨い続けていたあの子にとって、やっと見えた灯火になるはずだ」

 それはかつて、カメラのファインダー越しでしか世界と向き合えなかった自分を変えた、絆のように。
 あるいは――伝聞でしかその最期を聞き届けられなかったが、それこそありすと同じように。誰も彼もに無視されて、自らが死んだことすら忘れていたあの少女が、こんな自分を大切に想ってくれたように。

「何が救いかなんて、どこの神様だろうがなんだろうが、他人が決めることじゃない。おまえと一緒に居た時の笑顔が、ありすにとっても大事な物なら。きっと、また向こうからひょっこりやってくるさ」
「(ライダー……)」
「ま――もしかしたら、選ぶのはおまえのところじゃないかもしれないけどな」

 幾らか照れ臭くなってきたライダーは、意図的に声を軽い調子にして言葉を続けた。

「ひょっとすると、他にも行きたいところが見つかるかも知れない。それを決めるのはありす自身だ――なら、後はその自由を守ってやれば十分だろ」

 つまりは、目指す場所は何も、変わりはしないと。

「だから、おまえがあんな言葉を気にする必要はない。もしも、あの女神とやらの言う通りにありすの死が決められているんだとしても……そんな世界のルールを破壊する悪魔がここにいるんだからな」

 そんなことを伝えていると、装甲越しに、コレットの頭が背中を微かに押したのを、ライダーは感知した。

「(……うん。そだね。ありがと、ライダー)」

 鏡の中に拡がる不思議な世界、無人の街でゆっくりと走るバイクの上で。因果線を通して伝わるコレットの声が、先の疑問より軽くなっているのを感じたライダーは、仮面に表情を隠したまま、脇に逸れた話を元に戻すこととした。

「それじゃあ俺たちの行き先だが……おまえに宛がないなら、俺が勝手に決めるぞ」
「(……うん。お願い)」
「なら、とりあえずは――アインツベルンだな」
「(どこ、そこ?)」
「それはこれから調べるが……多分、あのアーチャーを追う手がかりにはなる」

 サーヴァントたちが一堂に会するその寸前、目にすることになった捜索願。
 ありすの目撃情報から誤解されて見せられた行方不明者、クロエ・フォン・アインツベルンは、彼らの立ち去る寸前に目にした、アーチャーのマスターと瓜二つの容姿をしていたのだ。

「口裂け女を追っても良いが、どの道アテはないんだ。街を守るために優先的に抑えておかなくちゃいけないやつを調べるのは間違いじゃないだろ……アサシンと組んでるあいつ自身が、あの女神様とやらにご執心だしな」

 つまりそれは、ありすを狙う脅威を追うことにも繋がる。

「(うん……そだね。それが良いと思う。行こう、ライダー)」
「よし。掴まってろよ」

 ライダーの意図することを理解し、共に歩む意志を示すコレットの声を受け。
 天使を乗せた悪魔は、世界にその轍を刻む速度をさらに上げた。


997 : ◆aptFsfXzZw :2019/07/31(水) 23:34:36 ap4KPB7U0
以上で、修正部分の投下を終わります。


998 : ◆aptFsfXzZw :2019/08/04(日) 20:29:46 YpzxV/HM0
スレ3で現在行っている予約、延長します。


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