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闘争バトルロワイアル【序章】

1 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/15(火) 01:50:06 upVUzHQk0

【魔法少女育成計画】○『スノーホワイト』/○『ラ・ピュセル』/○『森の音楽家クラムベリー』/○『ハードゴア・アリス』

【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎/○『DIO』/○吉良吉影/○ブローノ・ブチャラティ/○リンゴォ・ロードアゲイン

【魔法少女まどか☆マギカ】○鹿目まどか/○『暁美ほむら』/○『巴マミ』/○『美樹さやか』/○『佐倉杏子』/○志筑仁美

【ミスミソウ】○野咲春花/○野咲祥子/○小黒妙子/○佐山流美/○相葉晄 /○南京子

【真夏の夜の淫夢派生シリーズ】○『野獣先輩』/○『MUR大先輩』/○『ゆうさく』/○『虐待おじさん』/○『ひで』

【バジリスク〜甲賀忍法帖〜】○甲賀弦之介/ ○朧 /○薬師寺天膳/○陽炎

【とある魔術の禁書目録】○上条当麻/○御坂美琴/○白井黒子/○一方通行

【BLACK LAGOON】○岡島緑郎/○レヴィ/○シェンホア/○バラライカ

【ベルセルク】○ガッツ/○『ロシーヌ』/○『モズグス』/○『ワイアルド』/○『ゾッド』

【彼岸島】○宮本明/○『雅』

【ターミネーター2】○『T-1000』/○『T-800』/○ジョン・コナー

【GANTZ】○玄野計/○加藤勝/○西丈一郎/○岡八郎/○『ぬらりひょん』

【書き手枠】
『○』/『○』/『○』/○/○/○

※『』がついているのは赤い首輪の参加者

【生還条件】
 最後の一人になるまで殺し合うか、赤い首輪の参加者を殺せば、即ゲームクリア。ゲームから解放される。
 ちなみに、自分の意思で残留するかどうかを選ぶこともできる
 その場合は、特典として本人の希望するある程度の要望を叶えてもらえる
 例:参加者の詳細情報、強力な武器や装備の支給など
 
【会場】
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0284.jpg

※NPCが存在し普通に生活していますが、どう扱うかは書き手の自由です

【支給品】
地図:上の地図の印刷された紙
食料:うまい棒が3本と無糖のコーヒー缶だけ。あとは現地調達。
ランダムアイテム:現実出展か参加者の世界のアイテム。1〜2個


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2 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/15(火) 01:52:16 upVUzHQk0

そこは…… 暗闇だった。

「簡潔に…説明する」

「お前ら、戦え」

「逆らえばーーー殺す。こんな風にな」

 ポン☆ 

 男が倒れた。

「お前らは首輪がついている……爆薬を仕掛けた。威力は見ての通りだ」

 男は頭が無くなっていた。 

「いいかーー。生き残る条件は2つだ」

「まず、最後の一人になるまで殺し合うこと」

「それか……お前らの中に何人か赤い首輪をしている奴等が居るだろう?
 そいつらは……まぁ、例えるなら賞金首だな。
 いいか……『赤い首輪』をしている奴を殺せば、それだけでゲームクリアだ」

 明らかに、場がざわついた。慌てて首元を隠す人間もそれなりに多かった。

「当然だが、赤い首輪の奴等は強い。生半可な装備、それこそ銃でも殺せないような連中だ。 人間の屑や吸血鬼みたいな本物の化物も居る。……挑むなら、気を付けることだな
 個人的には……徒党を組むことを進める」

「あぁ、もしも赤い首輪もちが全滅したら、その時点でこのルールは無効だ。
 その場合は最後のひとりになるまで生き残ることだけが優勝条件となる……まぁ、頑張れ」

「お前らにはこのディバックが与えられる。中には地図や食料に…ランダムでアイテムが入っている。運が良ければ強力な武器が当たる可能性もある。無ければ何とかしろ」

「…思ったより長くなったな。では、説明は以上だ。異論は…認めない」

男は端末を操作した。

「ゲーム…スタート」

参加者たちは転送されていく……ゲームが始まった。


3 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/15(火) 01:58:44 upVUzHQk0
オープニングは以上ですが、よろしくです。リレーで頑張ります。
岡八郎 予約します


4 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/15(火) 11:21:45 YHqfkDVs0
宮本明、鹿目まどか、書き手枠でホルホースを予約します。

質問ですが、名簿は参加者に配られますか?


5 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/15(火) 12:29:54 ssV1Q.zo0

参加者名簿は支給されます。抜けてました。以下がディバックの中身です
予約ありがとうございます。頑張ります。

地図:地図の印刷された紙
食料:うまい棒が3本と無糖のコーヒー缶だけ。あとは現地調達。
ランダムアイテム:現実出展か参加者の世界のアイテム。1〜2個
参加者名簿:名前だけが書かれた紙。首輪の色は書かれてない


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6 : ◆zYMYRXvgaE :2016/11/15(火) 16:36:53 OWHSyBNY0
『ゆうさく』、薬師寺天膳、『ハードゴア・アリス』、書き手枠で『スズメバチ』@真夏の夜の淫夢派生シリーズを予約します。

予約期限に関しては長くなりすぎないように気をつけるくらいでいいでしょうか


7 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/15(火) 17:19:17 8vLIrZDw0
予約ありがとうございます。予約期間は1週間とします。延長で三日くらいで


8 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/15(火) 19:54:27 EGdUnPwU0
吉良吉影、『野獣先輩』、書き手枠として如月左衛門@バジリスク〜甲賀忍法帖〜の3人を予約させて戴きます。

能力に関する制限などはどのように致せば宜しいでしょうか?


9 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 00:12:03 iyJAWN4k0
予約ありがとうございます。制限はこんな感じで考えてみました。よろしくお願いします

【魔法少女育成計画】
無し。

【ジョジョ】
能力制限は無し。でもスタンドは見えるし物理も有効。

【魔法少女まどか☆マギカ】
 ほむらの時間操作は時間停止だけ。それでも長く止めてると疲れる。他には特になし。

【ミスミソウ】なし

【真夏の夜の淫夢派生シリーズ】バトル淫夢でも過度なインフレはNG。まぁ多少の謙虚さはね?

【バジリスク〜甲賀忍法帖〜】特になし。

【とある魔術の禁書目録】演算制限。能力を連発すると疲れる。

【BLACK LAGOON】なし

【ベルセルク】なし

【彼岸島】雅の再生能力は遅くなる。バラバラにされ過ぎたら死ぬ

【ターミネーター2】なし

【GANTZ】なし。


10 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 00:16:01 iyJAWN4k0
『ひで』『暁美ほむら』も予約します


11 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 16:25:02 i5MOtC8c0
岡八郎、『ひで』、『暁美ほむら』投下します。タイトルは「悶絶開戦」です。


12 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 16:27:44 i5MOtC8c0

 暁美ほむらは殺し合いに乗った。

「まどか… 安心して、貴女は絶対に死なせない」

 すべては鹿目まどかのため。彼女を残酷な魔法少女の宿命から救うため、ほむらは1ヶ月をひたすらに繰り返してきた。
 今回はこれまでと比べて、明らかに異質な世界だったが、それでもほむらは気にしない。覚悟などとっくの昔に決めている  
 支給されたサブマシンガンにカートリッジをセットし、他の参加者を探すために街を駈ける。
 
「うー☆うー☆」

 ……見つけた。
 小学生のような格好をした体格のいい男が、能天気な顔をしながら歩いていた。
 明らかに場違いな、というか設定的に狂気すら感じる服装だが、あの男はどうやら参加者のようだ。その証拠に、首輪をしている
 しかも、ほむらと同じ赤色をしていた。
 なぜ小学生のような格好をしているのかはこの際おいておく。
 ほむらは冷酷に男に銃口を向ける。まだ相手はこちらに気がついていない。ならば、気づかれる前に始末してしまう方が最善だ。
 無関係な人間を殺すのはほむらも望まないが、これもまどかの為だ。
 そう自分に言い聞かせ、引き金を引く。



「痛い痛い!!」

 男が騒いでいる。銃弾は命中した。
 ほむらは警戒を強める。
 それは男の表情を見たからだ。

「痛いんだよもう!」

 ……わざとらしいほど痛がってはいるが、明らかに口元が笑っていた。  

「うー☆うー☆」

 男とほむらの目があった。やはり、笑っている。
 歯茎が剥き出しでクッソ気持ち悪い。


「 ぼ く ひ で 」


 唐突に男の口から出た四文字の言葉。
 どうやら自己紹介のつもりらしい。(初対面の相手にもきちんと名乗る人間の鑑)
 ほむらは無視して引き金を引いた。


13 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 16:28:49 i5MOtC8c0


「あぁぁぁーっ痛い、痛い痛い痛い!」


 飛び出した銃弾は男の鳩尾にめり込んだ。男の体がくの字に曲がる。

「わかったわかったわかったよもう! お姉さん、やめちくり〜(挑発)」

 答えは沈黙と弾丸だった。 鳩尾に正拳突きを刺すように連続で撃ち込む。

「やーだやめて撃たないで! 撃たないでよ!」

 ほむらは戦慄した。この男の、なんたる耐久力か。これだけ撃ち込んでいると言うのに、男ーーひでというらしいーーは、まるで堪えていないようだった。
 ただ、それでも気分は害したらしい

「痛いんだよおおおおおおお!!!(マジ切れ)」

 堪忍袋の緒が切れたのか、ひでは凄まじい形相で此方に突っ込んでくる。少年の格好でがっちりした体格の男が駆け寄ってくるのは、滑稽を通り越しておぞましかった。
 その謎の威圧感から、ほむらは手札を切ることを決断する。

 次の瞬間、世界が静止する。

 時間停止。
 暁美ほむらの最大の武器。止まった世界では彼女だけが動くことができる

「まさか、こんなに早くこれを使うことになるなんてね……」

 盾に手を突っ込むと、もうひとつの虎の子の支給品を取り出す。
手慣れた手つきで安全ピンを抜くと、ひでの方へと放り投げる。ほむらの手元を離れた手榴弾は、時間停止の効果を受けて空中で停止。
 その隙に爆発に巻き込まれないように距離をとる。そして、時間停止を解除。
 世界は再び動き出す。

「ダイナマイッ!?」

 突然出現した爆発物に驚愕するひで。慌てて身を引くがもう遅い

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 閃光、爆発。
 
「……流石に死んだようね」

 ほむらはじっと爆心地を観察する。地面にぶちまけられた亡骸は挽き肉のような有り様であり、例え知り合いでもこの男を見分けることは不可能だろう。
 それを多少は哀れだとは思うが、まどかの為ならばどうということもない。
 ただ気になるのは、
 側に転がっていたひでのディバックを回収すると、その場を立ち去りーー





「…………うー☆」


14 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 16:30:15 i5MOtC8c0


 最初は空耳かと思った。
 それを間違いだと気づかせたのは、背後から立ち上る邪悪なオーラ。幾度と感じてきた、魔女と似た人ならざる者の気配であった。

「(闇の力に)溺れるぅ溺れるぅ……」


 振り返ると、そこには男がーーひでが、いた。五体満足で、先程と同じ気持ちの悪い笑みを浮かべて立っている。
 前と違うのは、紫の肌に蝙蝠のような翼、そして頭の角である。
 どこから取り出したのか、先端が三つに別れた矛を携えている。
 その姿はまさしくーー悪魔だった。
 ほむらの誤算はひとつ。
 最初の暗闇で司会者が言っていた特殊ルール『赤い首輪の参加者を殺せば即クリア』
 ひでの首輪は赤。もし彼が先程の爆発で死んでいれば、主催から何からのリアクションがあって然るべきなのである。
 悪魔と化して復活を遂げたひでは、邪悪な笑みを隠そうともせずほむらを見据える。

「お姉さん……死んじくり〜(挑発)」

 瞬間、毒々しい紫がほむらの視界を覆う。

「ッ!」

 速い!ほむらは驚愕する。悪魔と化したひでの身体能力は魔女の領域に達していた。
 ホモ特有の敏捷で急速に距離を詰めたひでは、自分を殺そうとした憎きほむらを串刺しにしようと矛を突き出す。
 寸での所でそれを回避したほむらは、ひでの頭部を銃撃する。いくら体が固くても、顔を撃たれたらダメージは通る筈だ。
 予想通り、ひでもそれを受けずに防御。右手で顔をガードし、受け流す。
 一瞬だが明確な隙ができた。
 ほむらは距離をとり体制を整えるため、その合間に再び時間停止をーー

「っ!?」

 突然の目眩、疲労。
 唐突すぎる体調不良に一瞬、体が硬直してしまう。
 戦闘においてその隙は致命傷だ。悪魔はそれを見逃さない。
 ほむらの鳩尾に、拳がめり込む。メギャリ、と鈍い音が聞こえた。

「がっ……はッ!」

 重い。あまりにも重い一撃。
 衝撃を殺しきれず、年相応の小柄な体が派手に吹っ飛び、転がり、壁に衝突する。
 魔法少女は限界まで肉体を酷使できるが、ダメージそのものがないわけではない。
 ひでの剛力によって放たれた拳は、ほむらの内蔵に致命的なダメージを与えたことは疑いようもない。夥しい量の吐血がその証拠だ。
  

「あ^〜もう(命が)出ちゃいそう!」


 その様子を見たひでは嬉しそうにはしゃぐ。でもまだ足りない。

「もう終わり?……何だか僕、舐められてるよぉ」

「くっ……ッ」

 勝ち誇ったようなひでの、癪に触る言い方に、ほむらは顔を歪ませる。だが現状では彼方の方が有利なのは事実だった。
 ほむらの基本戦術は充実した装備と時間停止によるごり押しである。
 その両方が万全ではなく、しかも相手が悪魔というこの状況で勝利は難しい。
 その時だった。


15 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 16:31:31 i5MOtC8c0

 その場に出現した第三者の存在によって事態は急変する。

「ヴォェ!?」

 突如飛来したビームによりひでが爆発四散し、肉片が辺りに飛び散った。
 突然すぎる急展開に目を見開くほむらの前に、件の襲撃者が緩慢な動作で現れた。
 それは控えめに見ても奇妙な外見だった。
 身の丈ほどの巨大な両腕部に、後頭部から伸びる太いケーブルを引っ提げた異形『ハードスーツ』に身を包んだひとりの参加者。

 その男は過去に地獄のミッションを幾度となく繰り返し、そして七回クリアという偉業を成し遂げた大阪チームの戦士。
 七回クリアの男、岡八郎だった。
 岡はマスク越しにデビルひでの残骸とほむらを観察する。別に、助けたわけではない。
 赤の首輪もち……このミッションにおいての、ターゲットだ。
 岡は先程から二人の様子を伺っていたが、明らかに厄介そうなあの悪魔のような星人を始末する方が先決だと判断したに過ぎない。
 その判断は正しかった。

「……不意打ちでも駄目か」

 岡の眼前で、赤い首輪に肉片がより集まり、再びひでが悪魔と化して復活する。
 怒りに顔を真っ赤に染めて岡を睨む。ただ警戒しているのか、攻撃してこない。
 なるほど、確かにたいした耐久力だ。……それでも、殺せないわけではない。
 これまでも再生する星人は居たが、そのどれもが最後には殺せた。ようは、死ぬまで破壊すればいいのだ。

「今の俺に隙があったらーーどっからでもかかってこんかい!」

「あ^〜もう拳が出ちゃいそう(半ギレ)!!」

 その挑発が開戦のゴングとなり、悪魔の矛と屍戦士の拳が交差した。


【5ーE 住宅街】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:内蔵にダメージ(中)
[装備]:ソウルジャム、ひでのディバック
[道具]:サブマシンガン
[思考・行動]
基本方針:まどかを生還させる。その為なら殺人も厭わない

【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:健康、悪魔化
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す
1:なんだこのおっさん!?

【岡八郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ハードスーツ@GANTZ
[道具]:?
[思考・行動]
基本方針:ミッションのターゲット(赤い首輪もち)を狙う
1:意識外の攻撃は駄目か?


16 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/16(水) 16:33:08 i5MOtC8c0
終わりです。あと5ーEを街にしましたが会場の施設とかは書き手の自由です


17 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:18:15 n9/kNan.0
投下乙です。

奉仕マーダー、ひで、赤首輪限定マーダーと危険思想の三人の激突。
彼らの対決の結果は和やかなものとはならないだろうが果たして。

宮本明、鹿目まどか、ホル・ホースを投下します。


18 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:19:27 n9/kNan.0
「はぁ...どうしたもんかねぇ」

転送された民家の一室で、この俺、ホル・ホースは誰に言うでもなく呟いた。
突如巻き込まれた殺し合い。こんな状況に追い込まれたのなら誰だって不安に思うかもしれない。
しかし、こう見えても俺は殺し屋だ。
自分が生き延びるためには殺しを躊躇いはしない。
そのため、第一に赤首輪の参加者を殺しての脱出を考え、できれば女性がいないことを願って名簿を確認した。
だが、名簿を見た瞬間、俺の頭から優勝の二文字は消えた。

「空条承太郎にDIOまでいやがるとは...ふざけてるにもほどがあるぜ」

空条承太郎。
こいつはかなりの曲者だ。
圧倒的なパワーは勿論、機会以上の精密な動きを有し、近接戦最強格のスタンドである星の白銀(スタープラチナ)。
おまけに本体もキレる奴と来た。
それに加えてこの俺の銃のスタンド『皇帝(エンペラー)』の能力のタネまでバレてしまっているとくれば一対一では到底勝てそうにない。

そしてDIO。
最悪だ。こいつだけは本当に最悪だ。なにが最悪かって、天地がひっくり返っても俺はこいつには敵わないってことが確定してるからだ。
銃を突きつけたあのとき。こいつ以外なら俺は確実に仕留めれていた。だが、あいつは無理だった。なにが起きたかもわからない内に敗北を刷り込まれた。
俺は傷一つつけられていない。それが逆に恐ろしかった。『お前の命はそこらを蔓延る蟻のようなものだ』と言外に叩き込まれたように思えた。

(奴の言っていた赤い首輪...強い参加者ってのがDIO並みのヤロウばかりだとしたら、ふざけてるにもほどがある。そんな奴らに戦いを挑むのはバカのやることだ)

もしも俺の予想通りに、DIO並の赤い首輪の参加者がゴロゴロいるとしたら、俺の生き残る道はひとつ。
赤い首輪の参加者に赤い首輪の参加者をぶつけ、脱出させることで強敵を減らす。
そうすりゃ、残るのは俺のような普通の首輪の参加者だけだ。
これなら乱戦なり扇動なりでまだ勝ちようはある。
もしも脱出の糸口が見つかればそれに便乗すればいいし。

(尤も、空条承太郎は俺の悪評を流すだろうがな...どうすりゃいいんだ)

溜め息をつきつつ、俺は周囲の探索をすることにした。


19 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:20:52 n9/kNan.0

(にしても、珍しい村だ。和風?っつーのか、俺のあまり見ない建物だ)

俺は世界中にガールフレンドがいる。
そのため、ちらっと日本でのデートも経験したことがあるが、それでもこうまで古臭い村は見たことがない気がする。
まぁ、デートスポットとして考えるなら悪くはない場所かもしれない。

(しかし、村だっつーのに人の気配がねえな。まあ、殺し合いなんだから当然っちゃ当然なんだが)

「きゃああああああ――――!」

悲鳴。女の子の悲鳴だ。
いましがた気配が無いと思ってた俺は度胆を抜かれつつも慌てて物陰に身を潜め様子を窺う。

「ガハハハハ、待て待て小娘ェ!」
「嫌アアアアア!」

こちらに駆けてくるのは、桃色の髪の小柄な少女に、もう一人は真っ黒な眼孔をした中年の男。
少女の方は、服がほとんど破れていること以外はこれといった特徴はないが、男の方は編み笠にゴム手袋、長靴装備と、明らかに農業をやる気マンマンな姿だ。

息を潜めつつ、俺は少女たちが通り過ぎるのを待つ。
勿論、ただビビって隠れてるわけじゃない。
二人の首輪を確認してそれに合った対応をするためだ。


(女の子の方の首輪は―――普通。男の方も普通)

決まりだ。
あの楽しみながら追いかけてる様子から、あの男はそういう趣味を持った奴で、あの女の子は被害者だ。
当然、あの様からして二人共戦闘においてはド素人なのは一目瞭然だ。

(ったく。わかってねぇなぁ。女ってのは、愛してやって、尊敬するべき生き物なんだ)

正義漢ぶるつもりは毛頭ない。
だが、このホル・ホースには『女は尊敬すべき』という信念がある。
女に嘘をついたことはあるが殴ったことは一度もねえ。
ブスだろうが美人だろうがガキだろうがババアだろうが、そこに差別はない。
殺し屋という職業に就いている俺だが、この信念を蔑ろにだけはするつもりはない。


20 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:22:03 n9/kNan.0

もしもどちらかが赤い首輪だったらそのまま放っておいたが、両者とも普通の色のため、信念に従い少女を助けることにした。
それに、少女を助ければ、俺は無害であることを周囲にアピールできるし、俺の悪評を流すであろう承太郎も易々と手を出すことはしないはず。
一般人を連れ歩くリスクはあるが、長い目で見ればメリットも多いのだ。

(とはいえ、だ。助けるっつっても、いきなり姿見せてヤロウのドタマをぶち抜くわけにはいかねえ)

映画なんかでは偶然現れた主人公が暴漢の頭を銃でぶち殺し、助けられた女性は恋に落ちる、なんてパターンがよくあるだろう。
だが現実はそううまくいくもんじゃねえ。
銃でドタマをぶち抜けば、恋とは無縁な血や脳漿、その他グロテスクなモノを見せることになる。
こんな状況でそんなプレゼントをされれば、如何にハンサムなカウボーイでも警戒されちまう。

(そういう訳で、今回はこういうやり方でいかせてもらうぜ)

二人が通り過ぎるのを待った俺は、そっと身を乗り出す。

そして。

メギャン 

ひっそりと俺のスタンド『皇帝(エンペラー)』を発動。

ドキャ ドキャ ドキャ ドキャ ドキャンン!!

間髪入れずに5発の弾丸を発射。
弾丸は、男の両肩に両脚、そして最後に腹部に着弾した。

「イテェ!なんだなにがあった!?」
「え...?」
「そこまでだぜ、おっさん」

凛々しい声で、堂々と宣言した俺の登場に、少女と男は足を止めて振り返る。
うむ。我ながら結構イカしてる。


21 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:23:18 n9/kNan.0

「が...ぐ...」
「その傷であまり動くんじゃねぇぜおっさん。あんたが大人しく引き下がるならこのまま見逃してやっても―――」
「がああああああ!」

両手足に負った傷にお構いなしに突撃してくる男。
俺は舌打ちをしつつ再び弾丸を発射。
狙いは心臓。まあ、血は飛び散るが、彼女に見せちまう分には脳漿よりはマシだろう。

「がぁっ!」

心臓を撃ちぬかれた男は苦悶の声をあげ、迫る勢いのまま俺に向かってくる。
勿論、男を抱きしめる趣味はないため、俺はヒラリと躱し、男が前のめりに倒れ込む様を見届けた。
男はピクピクと痙攣している。奴はもう駄目だ。直に息を引き取るだろう。
本当ならここで頭を撃ってトドメを刺しておきたいが、そこまでやればそこの腰が抜けてる女の子にドン引きされちまう。

「無事だったかい、お嬢さん」
「ぁ...ぁ...」

俺はニヒルな笑みを浮かべながら少女に手を差し伸べる。
が、少女は未だに身体を震わせて、俺の手を中々とってくれない。
こんなわけのわからない殺し合いなんぞに巻き込まれて早速こんな血みどろの現場に来ちまったんだ。仕方ねえか。

とはいえ、このままここに居座られても俺が困る。
俺は、片膝を着き、少女と目線を合わせた。

「恐い思いをさせてすまなかった、お嬢さん」

少女は俺の言葉に、首を横に振る。

「た、助けてくれて、ありがとうございました」

彼女は涙目になりつつも、声を振り絞りそうお礼を言った。
恐怖は覚えつつも、あの場面では奴を殺さなければならなかったことは理解してくれているらしい。
殺しはよくないだの、殺す必要は無かっただのとごねられなくて助かった。
よし、それじゃあ早速奴の支給品を物色して...

ザリッ

―――え。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

俺の背に冷や汗が走る。
いまの足音はなんだ。
そんなバカな。奴は確かに致命傷を負ったはずだ。
両手両足に腹部、ダメ押しに心臓への着弾だ。
こんなもん、空条承太郎だってまともに動けねえはずだ。

ゆっくりと振り返る俺が見たものは―――



「痛ェじゃねェか、クソ人間」



ハーハーと息を切らしながらも、俺を睨みつける血塗れの怪物だった。


22 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:25:19 n9/kNan.0



「て、てめえええええ!!」

思わず俺はエンペラーを撃ってしまう。
あんまりにも慌てていたもんだから、ロクに狙いを定められなかったが、弾丸は再び奴の心臓に着弾。
今度こそは間違いない。確実に死ぬはずだ。

「てめェ、この野郎...!」

だが、奴は今度は倒れもせずに俺たちを睨みつけている。

「なんなんだよてめえはよおおおおお!!」

なんとも情けない。そうは思いつつも俺は叫ばずにはいられなかった。
だってそうだろう?こんなにしこたま弾丸をぶち込まれて尚生きてるんだぜ。
こんなバケモン相手に平静でいられる奴、いるわけがねえよ。

(クソッタレ!バケモンは赤首輪なんじゃねえのかよ!?)

あの最初の男の言葉を信じるならば、バケモン染みた奴は赤い首輪が巻かれているはずだ。
加えて、スタンドなんて便利能力持ってる俺は普通の首輪だったことから、『特殊な能力は持っているが、身体は人間である』。それがこの首輪のルールだと思っていた。
だがこのバケモンはなんだ?俺と同じ首輪をしていながらこのしぶとさなんざ、インチキにもほどがあるだろうが!

そんな焦燥に包まれる俺に更なる絶望が降りかかる。


「なんだなんの騒ぎだ」


ぞろぞろぞろ。
そんな擬音が聞こえてきそうなほど、俺が撃ってるバケモンと似た恰好の奴らが大勢寄ってきた。

(な、なにィ――――!?こいつら一体どこに隠れてやがった!?)
「吉川が人間に撃たれてるぞ!」
「テメェ!クソ人間!」
「クソッ、逃げるぞ嬢ちゃん!」

三十六計逃げるに如かず。
このまま囲まれれば殺られる。
俺は急いで嬢ちゃんの手を引き駆けだした。
可憐な少女の手を引き逃避行。
文字だけ見れば華やかなもんだが、追いかけてくる醜悪な中年のバケモン達の存在が容赦なくそれをうち消してくる。


23 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:26:28 n9/kNan.0

(マズイぜ、非情にマズイ)

こちらは二人。あちらは大勢。
数の不利は勿論、その質にしてもこっちの戦力は俺のスタンドだけ、あっちは何発弾丸を撃ち込まれても死なない奴らが大勢だ。差があるにも程がある。

「チクショウ、この村の出口はどこだ!?」

当然、この村にトばされてきたばかりの俺は知らない。
闇雲に走り回るが、未だにゴールは見えない。

そしてついに俺たちの逃避行は終わりを告げた。

「しまった!こっちは行き止まりだ!」

最悪の形を持ってしてだが。

(袋小路!逃げ道がない!)

「バカが。自ら追い込まれやがって」

ドヤドヤとバケモノ共が俺たちの退路を塞いでいき、瞬く間に絶体絶命のピンチを迎えてしまう。

「オイ、誰か樽を持ってこい。小さいヤツな」
(樽?)
「俺をめった撃ちにしやがって。ただじゃ死なせねェよ。手足を切って樽に入れ、絶命するまで血を啜ってやる」

奴の語る樽に入れられたイメージが脳裏をよぎり、俺の背にまたしても冷や汗が溢れだす。
じょ、冗談じゃねえぜ!そんな目に遭ったら死んじまうじゃねェか!
チクショウ、どうする?どうすれば切り抜けられる!?

前にはそびえ立つ壁、後ろにはバケモノの軍勢。
ここで問題だ!この絶望的な場面をどう切り抜けるか?

3択―――ひとつ選びなさい。

答え①ハンサムのホル・ホースは突如反撃のアイデアが閃く。
答え②仲間が来て助けてくれる。
答え③やられる。現実は非情である。


24 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:27:27 n9/kNan.0

俺が○をつけたいのは答え②だが名簿の知り合いがDIOと承太郎な時点で期待はできない。
仮にこの場に現れたとしても、DIOはほくそ笑みながら俺を見下ろし自分でなんとかしろと言うだろうし、承太郎はこの子だけ助けてトンズラこくに決まってる。ヘタすりゃそのまま殺されるだろう。
じゃあこの子の仲間は?おそらく期待しても無駄だ。この子の仲間ということは、この子と同じ一般人の女の子だろう。
そんな子達が来たところで犠牲者が増えるだけだ。


「やはり答えは...①しかねえようだ」
「お、おじさ」
「俺の後ろに隠れてな」


冷や汗は止まった。呼吸も落ち着き指も震えてねえ。
俺はもう腹を括ったぜ。

「へっ、あきらめy」

ドゴォン

先頭に立っていた、最初に嬢ちゃんを襲っていたバケモンの喉を撃ちぬく。

「がへっ!?」
「...やはりな。テメェら、俺のスタンドが効いてないわけじゃねえんだろ?撃たれりゃ血は出るし、痛いモンは痛い」
「こ、こにょ」
「俺らしくはねえが、根比べってやつだ!」

俺のエンペラーはスタンドであるがゆえに残弾は無い。
撃とうと思えば何発だって撃ちこめる。

「だ、だが、俺が盾になれば俺の仲間がテメェらを」
「見上げた自己犠牲心だねェ。だが、俺の弾丸はスタンドだ。てめぇらにはなんのことかわかんねーだろうが...」

ボコォン

血塗れのバケモンの背後で、悲鳴と共に血の濁流が流れ出す。
バケモンの身体を貫いた弾丸は、そのまま後ろのバケモンにまで着弾し、尚止まらず動いているのだ。


25 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:28:40 n9/kNan.0

「なっ、なんだこの弾!?自在に動きやがる!」
「ひいいいい!訳が分からねええええ!!」

後ろにいるバケモノ達の悲鳴は瞬く間に伝染し、混乱を呼び起こす。

「スタンドは己の意思で操作できる。覚えときなおっさん―――そんで、あんたとはおさらばだ」

再びの発射。

弾丸は血濡れのバケモンの額をぶち抜くだけに留まらず、ぐるぐると内部を蠢き脳をかきまぜ破壊していく。
俺が頭蓋にブチ開けた穴から大量の血や脳漿がでろでろと溢れだし、瞬く間におぞましい光景を作り上げていく。

(嬢ちゃんを後ろに隠しておいてよかったぜ。こんなもん見せたら気絶しちまう)

かくいう俺も精神衛生上よろしくないものを見せられてはやはり胸を悪くする。
多くの人間の死を生み出してきた殺し屋である俺だが、人の内臓を見てメシが美味いといえるほど無神経ではないのも確かなのだ。

「い"が が が がが がヘェ」

やがて、壊れた玩具のような呻き声をあげてバケモンは倒れた。
普通の人間相手ならやりすぎもいいところだろう。
こうまでしなければ勝てなかったのだ。
だがそれでも。

(まだ一体目...クソッタレ!)

まだ終わりではない。
あと何十匹もいるバケモンを殺さなければならないのだ。

(チクショウ、頭が割れそうだ...慣れねえことはするもんじゃねえよなぁ...)

それになにより、一番の問題は俺のスタミナだ。
スタンドは己の精神エネルギーの塊だ。
そいつを動かし続けるってことは、体力と精神力をすり減らすのと同じだ。
『弾丸を撃ち続ける』『多くの弾丸を同時に操る』『着弾した弾を蠢かせて身体の内部から破壊する』。
この三つを大勢の相手に行っているのだ。
いまの俺はかつてないほどの頭痛や疲労、吐き気に襲われていた。


26 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:30:03 n9/kNan.0

(頼むからよぉ...最初の一匹でビビって退散してくれ...)

そんな俺の願いが届いたのか、バケモン共はジリジリと後退していく。

(いけっ、そのまま―――!)

ガクン。
俺の視界が傾く。

「えっ」

なにが起こった?俺はなにをされたんだ?
...なにもされてやしねえ。単に俺の方にガタがきたんだ。

「あの変な弾が消えやがった!チャンスだ!」

待ってましたと云わんばかりにバケモノどもはなだれ込み、俺の身体を取り押さえていく。

「ヤダ、ヤダアアアアア!!」
「ガハハハ、喚け喚け。女の悲鳴はイイ肴だ」
「て、てめえらまちやが」
「うるせえ!」

ガブッ。
最早抵抗する力もなく、俺はバケモノに首筋を噛まれた。
何故だか全身から力が抜け、下半身から暖かいものが流れていく気分になった。

「あ、あがっ...」

...もはや悲鳴をあげる力すらない。

「あ...あぁ...」
「美味ェぜ!このガキの血超美味ェ!」

―――答え③


「ああ堪らねェ。チクショウ勃起が半端ねェ」
「オイ、男の方はさっさと樽に入れてこのガキ輪姦(まわ)そうぜ。初物の女は珍しいんだ」

現実は非情であ


27 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:30:35 n9/kNan.0




トッ



ゴ ォ ン


28 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:31:48 n9/kNan.0

「ぁ...ぎゃ...?」
「なんだ!?片岡の奴が潰されちまった!?なにが起こったんだ!?」
「わからねェ!ただ、上から降ってきた奴が、バカデケェのを振り回して片岡を潰しちまったんだ!」



「こんなところにも吸血鬼がいたとはな...」



―――答え④。



「吸血鬼は根絶やしにする。それが兄貴たちとの誓いだ」



救世主が現れる。


29 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:34:21 n9/kNan.0

「なんだテメェは!クソ人間如きが俺たち吸血鬼に勝てると思ってんのか!」
「たかだか一人だ!やっちまえ!」

ワ ア ア ア ア ア

来訪者の男に、吸血鬼たちが跳びかかる。

「や...ヤベェ...来るぞ...!」
「アンタ達。死にたくなければこれで顔を覆っていろ」

男は、ロクに動けない俺と嬢ちゃんの顔に、ふわりと大きめの葉っぱをのせる。
なんだこりゃ。
そう思う暇も与えず、男は次なる行動に移っていた。

「スゥッ――――」

男は、両手で獲物を腰にまで引き、軽く息を吸う。そして

「ハッ!」

ザ ン ッ

一閃。
何か巨大なモノを振った男は、その一振りでバケモノどもを真っ二つにしちまった。

俺と嬢ちゃん、いや、バケモノ含めたその場にいた奴ら全員が呆気にとられていた。

「がああああああ!」

その勢いのまま、男は回転を加えてもう一振り。

ザ ン ッ

男が獲物を振り回す度に、バケモノは次々と両断されていき、あっという間に、バケモノの屍の山が築かれていく。

(俺が一匹殺すのにあれほど苦労したっつーのに...!)

五回転ほどしたところで男は止まり、手に持った獲物の正体も露わになる。


―――それは、剣と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。

それは正に鉄塊だった。


30 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:35:50 n9/kNan.0

「ヒイイイイイ!ヤベエぞコイツ!こんなもんで俺たち吸血鬼を殺せるのかよ!?」
「敵わねェ!この化け物には敵わねェよ!」

今までのあの強気な態度が嘘のようだ。
怖気づいたバケモノ達が、蜘蛛の子を散らすように逃げようとする。

「フンッ!」

だが、男はそれを許さない。
気合一徹、鉄塊を投げとばし、回転の加わったそれは逃げるバケモノの身体を両断し壁に突き刺さる。

「ひええええええ!」

腰を抜かし、涙すら浮かべる最後のバケモノへと男は歩み寄る。
...今しがた殺されかけた俺だが、あんな姿を見せられるとちょいと憐れにすら思えちまうな。
まぁ、同情はしねえがな。ゴシューショー様ってヤツだ。

「答えろ。雅はどこにいる」
「は?雅?知らねェよそんな奴!なあもうあんたには手を出さねェよ助けてくれよ!」
「そうか」

ザンッ

鉄塊を降りおろし一刀両断。
真っ二つになったバケモノの痙攣を最後に辺りは静寂に包まれる。

「...さて」

やがて男は振り返り俺たちのもとへと歩いてくる。
奴が近づく度に俺の鼓動はドキドキと波打ちやがる。
当然だ。
傍からみれば助けてくれたように見えるかもしれねえが、ここは殺し合い。
俺たちの生殺与奪を奴が握っている現状、嫌でも緊張は高まってしまう。

男は、地に膝をつき、俺の唇を摘み上げる。
一通り眺め終ると、今度は嬢ちゃんにも同じように唇を摘み上げ何やら確認。

「...よかった。感染はしていないな」

なにやらホッとしたような表情ではにかむと、俺と嬢ちゃんを軽々と担ぎ上げて何処へと運んでいく。

「あ、あんた...なにものだ...?」
「後で話す。まずはお前達が落ち着いてからだ。...二人の下着も探さなきゃならんしな」

男の言葉と共に漂ってきた仄かなアンモニアの臭いに、嬢ちゃんは顔を真赤に染め上げ、尊厳を失った俺の視界は涙でぼやけた。


31 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:36:28 n9/kNan.0




数刻後、俺たちは適当な家屋と着替えを拝借し腰を落ち着けることにした。
痺れもだいぶとれたため、俺たち三人は自己紹介を兼ねての食事にとりかかっていた。
食事といっても、そこらの畑で生えてた大根とうまい棒しかないのだが。

「ホント助かったぜ旦那。俺はホル・ホースだ。よろしくな」
「宮本明。明でいいよ」
「わ、わたしは鹿目、まどかです」

まだ微かに震えているまどかちゃんの頭にぽんぽんと軽く手を乗せてなだめつつ、俺たちは大根にかじりつく。
あー...死にかけたせいか、こんなもんでも美味ェや。

「そういや旦那。あんたあのバケモノになんか聞いてたな。なんとかって奴を知らないかって」
「ああ。探している男がいる」

ピタリ。
俺たちは大根を食う手を止め、明へと向き合う。

「奴の名は雅。俺が殺さなければならない男だ」

そう語る明の目は、まるで地獄からやってきた鬼のように殺気を放っていた。


32 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:38:57 n9/kNan.0


【D-1/吸血鬼の村/深夜】
※この付近の吸血鬼@彼岸島(NPC)は全滅しました。

【宮本明@彼岸島】
[状態]:健康、雅への殺意
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]: 不明支給品0〜1、大根@現地調達品
[思考・行動]
基本方針: 雅を殺す。
1:吸血鬼を根絶やしにする。
2:まどかとホル・ホースと情報交換をする。
3:邪魔をする者には容赦はしない。
※参戦時期は最後の47日間13巻付近です。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(絶大)、失禁
[装備]: 女吸血鬼の服@現地調達品、破れかけた見滝原中学の制服(選択中)
[道具]: 不明支給品1〜2、大根@現地調達品
[思考・行動]
基本方針: みんなと会いたい。
0:ほむら、仁美との合流。マミ、さやか、杏子が生きているのを確かめたい。
1:明とホル・ホースと話をする。

※参戦時期はTVアニメ本編11話でほむらから時間遡航のことを聞いた後です。
※吸血鬼感染はしませんでした。


【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労 (絶大)、精神的疲労(絶大)、失禁
[装備]: 吸血鬼の服@現地調達品、いつもの服(洗濯中)
[道具]: 不明支給品1〜2、大根@現地調達品
[思考・行動]
基本方針: 脱出でも優勝でもいいのでどうにかして生き残る
0:できれば女は殺したくない。
1:明と交渉する。可能ならば明を相棒にする。
2:DIOには絶対に会いたくない。
3:まどかを保護することによっていまの自分が無害であることをアピールする(承太郎対策)。
4:そういやこいつら、スタンドが見えているのか

※参戦時期はDIOの暗殺失敗後です。
※赤い首輪以外にも危険な奴はいると認識を改めました。
※吸血鬼感染はしませんでした。


33 : 鉄塊 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:39:56 n9/kNan.0

※NPC解説
【吸血鬼@彼岸島】
彼岸島に棲息する、吸血鬼ウイルスに感染した人間のこと。基本的に人間を見下している。
興奮すると髪が白く、白目が赤黒くなり、三白眼になるが、普段は鋭く尖った犬歯(牙)以外は人間と同じ風貌をしている。
通称キモ笠。農家のおじさんの恰好をした者が多く、比率も中年男性が多いが、稀に女性や老婆、子供なども確認される。

吸血鬼になると全てのウィルスに感染しなくなり、身体能力も飛躍的に向上する。耐久性もあがり、首を刎ね飛ばすか頭を潰さない限り中々死なない。
心臓を抜けば死ぬという説もあるが、一部の感染者(ケンちゃん)のようにちゃんと死ぬ者もいれば、マシンガンでめった撃ちにされても生きている者(本土で新田に撃たれた吸血鬼)もいるので心臓が大事な器官かはわからない。
他作品や伝承によくある『日光に弱い』『にんにくや十字架には手を出せない』『川を渡れない』などの弱点は一切当てはまらない。
ただし、食塩水を注入されると激痛が走り正気を失いかけるほどに喉が渇き血を求めるようになるので、追い込まれたら使ってみよう。


吸血鬼の血を体内に取り入れると感染して吸血鬼になる。
人間の血は食料ではなく、邪鬼や亡者に変態しないための薬であるため、飲食は普通の人間と同じである。そのため、家を探せば野菜とかどぶろくとかも普通に手に入る。
牙(唾液)には強い麻酔効果があり、体内に入ると涙や小便等を垂れ流しながら動けなくなる。唾液には吸血鬼ウイルスも混ざっているが、感染力は低い。



このロワにおいては、不死身度は本編よりはさがっており殺しやすくなっている。
雅や明のことはすっかり忘れている。そのため、雅を見ても崇拝せずに生意気な態度をとる可能性が高い。
吸血鬼の吸血も制限されており、本編ほどの時間は痺れが残らない。涙や小便は出ます。
また、住民全員に首輪が巻かれており、最初に配置されたエリアから出ようとすると爆死する。禁止エリアに指定されても爆死する。
彼岸島基準ではザコなので、首輪は普通の首輪である。そのため、倒してもなにも特典は貰えない。相手にするだけ無駄。



【樽】とは。
彼岸島産の吸血鬼の間に伝わる食文化のひとつ。
彼らはこの中に入るように四肢を切断した人間を入れ、歯と鼻、目を抜き完全に抵抗ができない状態にして獲物を保管している。
備え付けられている蛇口をひねることで、獲物から溢れる血を枡に入れて呑むのが一般的な飲み方。
また、血が出やすいように樽の中に刃物が詰めてあるのも特徴のひとつ。
外見的な特徴は、黒ひげ危機一髪を参考にしていただければわかりやすいかと。


34 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/16(水) 23:40:26 n9/kNan.0
投下終了です


35 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/17(木) 03:45:49 tdoF9nPA0
投下乙です。明さんスゲェ!でかした!ドラゴンころしを軽々と振り回す姿に違和感ない。てか吸血鬼もいるのかよヤベェ!
『ラ・ピュセル』『虐待おじさん』予約します


36 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:22:19 bTKtzwNw0
『ゆうさく』
薬師寺天膳
『ハードゴア・アリス』
『スズメバチ』

投下します。


37 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:23:31 bTKtzwNw0




ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン




チクッ……



あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ!(あああ↑↑↑)
アーイク……



ちーん。



    スズメバチには気を付けよう!(♪陽気なBGM)



【ゆうさく 死亡】
【薬師寺天膳 死亡】
【ハードゴア・アリス 死亡】

【スズメバチ 赤首輪参加者殺害成功により脱出】









ふざけんな!(声だけ迫真)
はーい、(本編)よーいスタート(棒読み)


38 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:23:49 bTKtzwNw0


◇◇◇

薬師寺天膳に能力への過信がなかったとは言い難い。
彼が生まれながらに持っていたのは死を覆す能力だ。
老いることもなく、どんな傷でも死ぬこともない。いや、実際には死ぬが、死後時間が経過すれば傷はふさがり、心臓は再び鼓動を刻み始める。
そんな体質で百数十年も生きれば、自然、自身を狙う危険への警戒心は薄れてしまう。
更に、彼がこの殺し合いに巻き込まれる直前の状況も悪かった。
伊賀・甲賀の両門争闘の禁が破られ、戦闘も熾烈を極め、天膳自身が何度も死に、そして蘇って敵を殺した。
そんな最中から呼ばれたものだから、自然、天膳は自身の能力への驕りを抱いていた。
いきなり集められ殺し合えなどと言われてもトボけた話にしか聞こえない。なにせ天膳は死なないのだから。

   ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……

それが、天膳が目を覚まして聞いた最初の音だった。
それは羽音のようだった。そして人の声であるようにも聞こえた。
ただでさえ視界の限られた森の中。薄暗い森の中。音の主の姿は見えない。だが、近づいてきているのははっきりと分かる。
方向も分かるが、やけに音の位置が低い。子供か、あるいは女人か。

   ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……

音はだんだんと距離を詰めてきている。その進行は緩やかながら淀みはない。あちらには天膳の姿が見えているようだ。
迎撃しようにも相手の姿もわからず、手元に武器がない。ならばどうするか。
普通の人物ならば逃げるか迎撃の策を練るかだろうが、天膳にはもう一つの選択肢が残されている。
相手の姿を見た上で殺され、その後復活して相手に強襲をかける。
薬師寺天膳にとってのスタンダードな戦法であり、これまで誰もが対応できなかった奇策だ。

   ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……

木立を突っ切り音の主が現れた瞬間、天膳はその細い目をカッと見開いた。
羽音の正体はヒトの頭ほどの大きさの人面の蜂らしき生き物。
甲賀卍谷に地虫十兵衛という四肢のない芋虫のような体をした忍者が居たが、アレを芋虫とするならこいつは地虫十兵衛が糸を吐いて蛹になって羽化したような、まさにそんな姿だ。
どう見ても忍者ではない、子供でも、女人でもなく、まして人でもない。すわ化性の類かと奇襲の策も忘れて反射的に身構えても遅い。蜂は既に天膳の懐まで忍び込み、鈎爪のような針から毒液を滴らせている。

   チクッ……

ゆっくりと、針が天膳の左胸の、丁度乳首の位置に突き刺さる。途端に全身から血の気が引いていく。
まず視界から光が消え、消えた視覚の代わりに聴覚が鋭敏になったように呼吸の音だけがどんどん大きく脳の内側で反響しはじめた。
そして全身に回る血は氷のように冷え渡り、熱を奪われた体は制御を失いただ木偶の坊みたいにどうと倒れた。
地面から吸い上げられていく熱が体の芯に残っていた命すらも巻き込み、心の臓まで冷やしきり。
だが、そんな異様な死の際においてもまだ、天膳は自身の優位を疑わなかった。
敵の姿は見た。技も覚えた。これで蘇ったならば今度は確実に勝利を収められる。
それどころか、自身の絶え絶え続く呼吸の向こうで、さてあの蜂をどういたぶってやろうか、あるいはあれを使いこなし甲賀に奇襲をかけようか、なんて考えていた。
薬師寺天膳の命運は、この過信によって決したという他ないだろう。


39 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:24:03 bTKtzwNw0


◇◇◇

ハードゴア・アリスが真っ先に考えたのは、当然スノーホワイトのことだった。
彼女が呼ばれているのが分かっていて黙っていられるアリスではない。まず最優先として、彼女を保護しなければならない。
僥倖が一つあった。湖を覗き込み確認したアリスの首元で鈍く光る拘束具は、血よりも深い赤色だということだ。
アリスは『殺される側』として選ばれた。アリスを殺せば殺した人物はこの殺し合いから脱出が出来る。
アリスがスノーホワイトを見つければそれだけで彼女を救う条件は整う。
自身の命を捨てることに躊躇はない。そもそもあの日死ぬはずだったアリスを救ってくれたのはスノーホワイトだ。
彼女を救うために命を差し出せと言われれば、アリスは喜んで差し出す。当然のことだ。
急務はスノーホワイトとの再会だったが、それに関しても策の打ちようはある。
スノーホワイトの魔法「困った人の心の声が聞こえるよ」を利用して、アリスの位置を知らせればいい。
会場中を走り回りながら「スノーホワイトに会えなければ困る」と強く念じ続けていれば、会うことも容易いはずだ。
スノーホワイトが変身していない可能性もあるが、命を狙われる状況下で身体能力が数段優れ睡眠や食事が必要なくなる魔法少女の姿を取らないとは考えづらい。
ならばあとはアリスの行動次第だ。アリスは強くスノーホワイトを案じながら、森の木立の群れを縫うように駆け出した。

駆け出してしばらく、アリスの目に横たわる男の姿が飛び込んできた。
遠巻きに様子を確認する。魔法少女の聴覚でも呼吸音は確認できず、また視覚を用いても身じろぎどころかまぶたの痙攣すら見て取れない。肌の色も土気色を通り越して灰色だ。
近寄り、脈を確認する。触れた肌は土のようにひんやりとしており、命の火のぬくもりをもう感じさせない。
殺し合いの開幕を告げられてからまだ数十分も経っていないのに、もう殺した人間と、殺されてしまった人間が生まれたらしい。
人の気配はもうしないことから下手人はアリスと入れ違いで去っていったのだろう。
死体の損傷を確認する。左胸に太めのアイスピックを刺されたような傷が残っている。それ以外に特に目立った損傷は見られないことを見ると、心臓を直接攻撃されたか、あるいは毒物か。
右手を大きく振り上げて、死体の胸に叩きつける。肋骨をへし折り、肉をかき分け、心臓を掴み、そのまま引きずり出す。
体に残っていた血が口の壊れた水鉄砲のようにあちこちに飛び散り、アリスが乱暴に引きずりだしたせいで切れた大きな血管からもどろりとした褐色の半固形がこぼれ落ちる。
嫌悪感はない。とっくの昔に、マジカロイド44の体を貫いた時に、そんなもの捨ててしまった。
ただ、アリスを動かしていたのは不明な敵の攻撃手段の解明であり、自身がこれから遭遇する可能性の最も高いであろう敵への警戒だった。
引きずり出した心臓を眺める。損傷はない。ということは毒物で間違いなさそうだ。
それを確認し、心臓を詰め直す。アリスが腕を抜くのに従い花が咲いたみたいにひっくり返っていた肋骨がもう一度無理やり元の形に押し戻される。
魔法少女は毒物への耐性がある。魔法の毒物ならまだしも、通常の毒物ならば効果は薄い。
仮にこれからアリスが走り、この男を殺した襲撃者と遭遇し交戦することになったとしても致命打にはなりえないということだ。
それは同時に、同じ相手にスノーホワイトが襲われたとしても、生き残れる可能性は高いということだ。


40 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:24:31 bTKtzwNw0


必要な情報を得、そのかわりに損傷の激しくなった男の死体を見下ろす。
死者を冒涜するような行為をスノーホワイトは喜ばないだろうが、それも生き残るためならば仕方がない。
スノーホワイトを汚さないためなら、アリスはどれだけだって汚れても構わない。
不意に、男の首に巻き付いているものに目を奪われる。アリスとは違い、鈍色の首輪だ。
首輪は爆発すると言っていた。上手く使えば目くらましの武器くらいにはなる。
それに、もし首輪を破壊あるいは分解できれば、主催者の強制力はなくなり、スノーホワイトだけでなくアリスも、ついでに他の魔法少女や参加者たちも脱出することが出来るかもしれない。
まさに夢のような話だ。絶対に叶わない、遠い夢のような、綺麗な結末の話だ。
でも、きっとスノーホワイトはそういう解決策を望む。あるいはそういう解決策を望む人物がこの島内に、彼女以外にも居るかもしれない。
首輪を解除出来る能力を持つ人物、首輪を無効化する案のある人物、そういった人物と出会う可能性だってないわけではないのだ。
そういった人物と出会った時のために、首輪を手元に置いておくのは悪くないように思える。
アリスだって出来ることならば困っている人を救いたい。スノーホワイトとは違いこちらはあくまで出来ることならば、だが。

手刀を振るい、首を切り落とす。漫画や映画みたいに勢い良く血が吹き出すなんてことはなく、心臓の時と同じように、ただ褐色の血がこぽこぽこぼれて大地を濡らした。
邪魔な頭は側に転がし、片手で首の肉を締め上げ、片手で首にピタリと張り付いている首輪を剥がす。
剥ぎ取った瞬間に地面が揺れた。

「あ、あ」

不意の声。どこからか。声の主に目を向ける。
死体の首が転がるだけ。
続いてばたばた動く音。音の正体を探す。
死体の体が横たわるだけ。
音はどこから。死体から。男の死体からだ。
いや、本当に死体なのか。男の体は、男の頭は、まるで陸に上げられた魚のように、まさに必死に動いていた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

切り飛ばし放り投げた頭は餌を求める金魚みたいにパクパク口を開閉させている。長い髪を振り乱し、七つの穴から血を吹き、涎を飛ばし、泡を吐きながら苦しんでいる。
体の方ももんどりうち、見えていないだろうにアリスに向けて手を伸ばし、何かを掴もうと必死で手を降っている。
まるで糸を掴むみたいに、両手を空に向けて伸ばしてもがき、立ち上がれもしないのに足をばたつかせている。
再び顔の方を見れば人面疽のようなものが顔を駆けずり周って首の切断面までたどり着いていたが、何も出来ずにぶちゃりと潰れて膿汁みたいな物を吐き出した。
それが男の最後の悪あがきだった。


41 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:25:05 bTKtzwNw0


「伊―――」

最後に何かを伝えようとして、男の体は大きく跳ね、口からは吐けるはずのない血を吐き散らし、そのまま動かなくなった。
一部始終を見終えて、アリスはもう動かない死体を見下ろしやや考えた。
死亡は確認した。どころか心臓を引きずり出し首を切断した。なのに首輪を抜くと動き出し、そして死んだ。
頭を抱えたくなるような話だが、幸いにもアリスにはこの現象について一つの心当たりが合った。
心当たり、それは他ならぬアリスの魔法。「どんなケガでも治る」……有り体に言うなら不死の力だ。
冗談みたいな話だが、ハードゴア・アリスは例えひき肉にされても死なない。数十秒もあれば今の姿に戻ることが出来る。
そんな殺し合いに最も向かない人物を殺し合いの場におくなんてという疑問が数瞬頭をよぎったのだがなるほど、不死を阻害するからくりがあったならばアリスも殺し合いに巻き込める。
この男はアリス同様不死あるいは蘇生が可能な能力者で死んだように見えて蘇生能力を発動している最中だった。
だが、首輪を奪われた瞬間その能力の発動が阻害され、結果的に不死者が死んだ。血反吐を吐き、体を波打たせながら絶命した。
これはアリスにとっても他人事ではない。
もしもアリスがケガの再生中に首輪を奪われれば、その時点で魔法の効果が消えて死んでしまう、ということだ。
首輪の爆発も同じだ。首輪がなければ再生が出来ないと言うならば、首輪が爆発すれば首の大きな傷を再生できずに死ぬ。
そっと自身の首輪を撫でる。首から離れないように食い込むくらいにピッタリと張り付いた異物から感じる息苦しさが、少しだけ強くなる。
適当な武器を見つけたら頭を切り落として抜いてしまおうかとも思っていたが、そういうことならば放っておいたほうがいいだろう。

命を燃やし尽くした元不死の男の出来の悪いダンスを見終わったあと、アリスは男のものと思われる荷物から必要なものだけを抜き取って、死体の横を通り過ぎ、ここにたどり着くまでと同じように駆け出した。
死体のことなんてもう頭のどこにもない。
アリスが首輪を奪ったせいで彼が死んだという事実に対する後悔も懺悔もない。
あるのは、「スノーホワイトと会えないと困る」という強い心の声だけだ。

【薬師寺天膳 死亡】


【G-7/森の中/深夜】

【ハードゴア・アリス(鳩田亜子)@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品×2、ランダム支給品2〜4、薬師寺天膳の首輪
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探し、自身の命と引き換えに彼女を脱出させる。
1.「スノーホワイトに会えないと困る」という強い感情を持ちながら会場を回る。
2.襲撃者は迎撃する。ただしスノーホワイトとの遭遇優先のため深追いはしない。
3.可能ならば自身も脱出……? 他者の脱出をサポート……?

※蘇生制限を知りました。致命傷を受けても蘇生自体は行えますが蘇生中に首輪を失えば絶命するものだと捉えています。
  あるいは、首輪の爆発も死ぬと考察しています。


42 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:25:31 bTKtzwNw0


◇◇◇

下手人は空をゆく。
人の顔をした巨大なスズメバチ。名前はない。
彼のことを呼ぶならば、もっともゆうさくを刺し殺したスズメバチとか、一般的なスズメバチと区別するためスズメバチくんとか呼ぶほかない。
彼に与えられた使命は一つ。ゆうさくを刺し、スズメバチの危険性を動画の視聴者に理解させ、注意を喚起すること。
薬師寺天膳を刺したのに特に理由はない。飛行の軌道に入っていた。それだけだ。
彼はすべての障害を排し、使命を遂行する。

◇◇◇

一方、スズメバチから遠く離れた場所で、ゆうさくは一人確信していた。
ここにもスズメバチが存在しており、自分の命を狙っているということを。

「不安感じるんでしたよね?」

ゆうさくの右手はせわしなく左腕と左の乳首をまさぐり、不安を解消しようとしていた。
だけども気持ちよくなるだけで、不安が消えることはなかった。
ゆうさくにとって、スズメバチとの遭遇は絶対に避けなければならない事態である。
殺し合いも十分危険だが、ゆうさくにとっては殺し合い以上の危険を孕んでいるのがスズメバチだ。
なにせやつは絶対にゆうさくを見つけ出し、絶対にゆうさくを刺し、刺されればゆうさくは絶対に死ぬ。殺し合いは万に一つは生き残れる可能性もあるが、スズメバチと遭遇してしまえばゆうさくの命はそこまでなのだ。
さて、如何にしてスズメバチを撃退するか。それを考えなければならない。
幸か不幸か、ゆうさくはまだ気づいていなかった。
自身の首輪が、他者にとって脱出の権利になる赤い首輪であることを。
スズメバチだけでなく、見る人が見たならゆうさくは瞬時に殺害の標的となることを。

【F-6/森の外/深夜】

【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】健康
【道具】なし
【行動方針】
基本:注意喚起のためにゆうさくを刺す。邪魔者も刺す。
1.ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……
2.チクッ……

※刺した相手を必ず殺せます。
※相手がゆうさくでない場合、邪魔をしなければ刺しません。


【F-3/平野/深夜】

【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】不安
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【行動方針】
基本:不安感じるんでしたよね?
1.スズメバチ対策をする。
2.殺し合いについてはそれから考える。


43 : 能力制限には気を付けよう! ◆zYMYRXvgaE :2016/11/17(木) 12:25:48 bTKtzwNw0
工事完了です……


44 : 名無しさん :2016/11/17(木) 16:07:13 jMfRHzMI0
投下お疲れ様です!
ウッソだろお前!?天膳序盤から殺すとか自分、称賛して良いっすか?
なんだかんだで書き手枠のスズメバチで笑わされながら読ませて戴きました。
ここから出てくるであろう弦之介と陽炎、書き手枠で予約されている左衛門たちかわいそう(適当)
ゆうさく生きろ


45 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/11/17(木) 17:46:30 gguCgKeo0
御坂美琴、書き手枠で『ありくん』@真夏の夜の淫夢派生シリーズで予約します


46 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/18(金) 13:05:58 nt.WF.VQ0
『ワイアルド』、『美樹さやか』、志筑仁美、バラライカ、書き手枠で『隊長』@彼岸島を予約します


47 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/11/21(月) 03:44:39 WUVdtISk0
投下します。


48 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/11/21(月) 03:46:26 WUVdtISk0

 うまい棒×3、コーヒー、地図、名簿、半径100m程の首輪レーダー、そしてウサミミ少女のブロマイド数枚。
 ――これが、御坂美琴に与えられた支給品の全てだった。

「急に戦えなんて言われたと思ったから……何よこれ!」

 美琴は怒りに打ち震えていた。
 一食分にも及ばないおやつ程度の食料に、意味不明な支給品。
 
「ランダムなんて言っておいて、完全に人を選んでるじゃない!」

 美琴には『電撃使い』という能力があり、『超電磁砲』として恐れられる程の実力を持っているが、こんなガラクタを押し付けられて不満が無いわけがなかった。
 その内、明らかに使いようがないブロマイドを鞄にしまうと、美琴はもう一つの支給品を調べ始める。

 「このレーダー、中心の黒い点が私ってことよね……」

 自分の首輪を確認すると、そこにはレーダーの点と同じ色の首輪がはめられている。
 能力で外せないか試そうかとも考えたが、下手にいじって爆発されたらいくらレベル5でも助かる見込みはない。
 
「私が黒ってことは赤い首輪はどれだけ化物なのよ……吸血鬼とか、冗談じゃないわよ」

 彼女らの世界にも吸血鬼は存在するのだが、美琴はそんな事は知る由もない。
 美琴の脳内には上条当麻や一方通行の存在がよぎるが、この会場では彼らとて黒首輪――つまり、弱者として選ばれた者達なのだ。

 美琴は見通しの良い海辺で目覚めており、このままではいつ奇襲に遭ってもおかしくない場所にいる。
 地図から現在位置を把握することは困難だが、周囲を見る限りどちらかの島の端にいることは間違い無い。
 最も近い遮蔽物である森の中に身を隠すようにして、美琴は移動を開始した。


 ――  ――  ――  ――  ――


 それから10分、美琴は能力で生物の気配を感知しながら、同時にレーダーも駆使して森の中を歩いていた。
 本当に吸血鬼なんて存在がいるのだとしたら、美琴の感知に引っかからない存在だって十分に考えられるのだ。
 レベル5だからといって、慢心することのない美琴の姿がそこにはあった。
 
 ――その時。
 美琴の索敵と、レーダーの両方に反応が現れた。
 レーダーの色は赤、どうやら名簿では分からなかった首輪の色は、レーダーには反映されているらしい。
 
 美琴は反応のあった方向から身を守るようにして木に張り付き、赤い首輪の人物を確認する。
 そこには支給品のブロマイドに映っていたウサミミの少女と思わしき影があった。
 辺りは暗く、影しか確認はできないが、特徴のある頭部の装飾は同一人物だと確信するには十分である。

(あの子が私以上の化物だって訳?)

 写真に映っていた笑顔の少女からは、とてもじゃないが恐怖を感じることはなかった。
 ――あのウサミミは人外の証かもしれない、と美琴は息を呑んで目の前の影を追った。

 美琴が少女を追ってから数分、急に辺りの景色が変化した。
 そこはどうやら小さな集落の様で、外れにある小屋からは弱々しく光が漏れている。
 変わらずレーダーは赤く点滅しており、否応もなく少女が赤首輪だと示していた。


49 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/11/21(月) 03:47:22 WUVdtISk0

 しかし、そこで美琴は異常に気付く。
 レーダーの赤い点滅と、美琴自身の黒い点滅が重なっているのだ。
 確かに美琴は慎重になりながらも、10m近い距離まで少女に接近している。
 だが、先程までは反応は隣り合う程度の距離を保っていた。

 (え?……)

 少女の影が小屋に近づき、その姿が光に照らされると、その顔がはっきりと露になった。
 ――否、露になったのは顔だけでなく、その首筋も同様である。

(首輪が……無い!?)

 そう、ウサミミ少女の首には赤どころか首輪自体無く、参加者ではないことを物語っていた。
 
 ――ガサッ

 音は美琴の脇、つまり森の茂みの中から発生していた。
 ――まずい、と思った時にはもう遅く、美琴が振り向いた先には大量の巨大なアリが武器を美琴に向けていた。
 中心には、首輪をはめた一匹のアリ。
 その首輪の色は、レーダーに映っていた者と同じ色をしていた。

(電撃で……でも首輪は赤、一発で仕留められなかったら私がやられる!)

 それ以前に全方位から武器で狙われている以上、最善でも相打ちが決まったようなものである。
 後手に回りたくはないが、先に動いても怪我は免れない、一種の「詰み」の状態であった。
 幸いなのか、アリたちは武器を構えているだけで襲ってくる気配はない。
 美琴が危険は存在なのか思案しているのだろうか。

 通常ならば、このような膠着状態では話し合いが為されるものだが、美琴には一つ懸念があった。
 ――言葉通じるの、これ?

 相手はアリである。

 しかし、あの黒幕の言葉通りに殺し合いに参加している意思があるのなら、言語を理解している可能性はある。
 もとより詰みの状態ならば、乾坤一擲の勝負に出てみるほか、選択肢は無かった。

「……私は殺し合いをするつもりはないわ。アンタ達、というかアンタみたいな赤い首輪の参加者がどんな存在なのか見てただけなのよ」

 これは事実である。
 美琴は例え赤い首輪の者を殺せば脱出できると解っていても、殺すつもりは毛頭なかった。
 自分の為に人を殺す事は、美琴に一方通行と妹達のことを想起させ、嫌悪感しか抱けない。

 美琴の言葉にアリ達は少しばかり武器を下げるが、まだ仕舞う様子はない。
 しかし、その時美琴の方が優しく2度、叩かれた。

 美琴が驚き警戒をしながら振り向くと、そこには先程まで追っていたウサミミ少女が立っていた。
 少女はやさしそうな顔をキリッと力強く引き締め、右手でピースサインを作ってみせた。
 美琴は状況を理解できずに困惑するが、少女は頷くとピースサインをアリ達にも向ける。
 すると、アリ達は一匹、一匹と姿を消し、遂には赤い首輪のアリだけが残った。

 少女はそのまま無造作にアリに近づき、その小型犬程度の大きさのアリを抱え上げる。
 アリもさっきまでの剣呑な空気をすっかり収め、瞳を細めて楽しそうにしている。

「アンタ達も殺し合いはしないってこと?」

 美琴がそう尋ねるとアリは頷き、まるで周囲に音符が見えるほど陽気に踊りだした。
 恐らく意思が通じた事による喜びの感情表現なのだろう。
 美琴は彼らを敵ではないと判断し、かねてからの疑問を口にした。

「この写真、アンタよね? なぜか私に支給されてたんだけど……」


50 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/11/21(月) 03:47:51 WUVdtISk0

 美琴はデイバッグからブロマイドを取り出すと、ウサミミ少女に渡した。
 こうして本人を目の前にしてみると、なんだか写真よりも実物の方が見た目が粗くに感じてしまう。
 写真の方は紛れもない美少女なのだが、実物は目の大きさもかなり小さい。

 少女は写真を受けとると、しばらく眺め、やがて首を横に振った。
 どうやら写真の人物とは別人だと言いたいらしい。
 すると、少女の腕に抱えられていたアリが、4本しか無い足の前足にあたる部分をせこせこと動かし、写真を要求し始めた。
 アリは写真を受け取ると、今まで以上に上機嫌になり、頬を赤く染めて写真に頬ずりし始めた。

「別に私はいらないし、そんなに気に入ったならアンタにあげるわ」

 美琴がアリにそう告げると、アリは感謝の意を込めてコクコクと頭を下げた。

「あ り か゛ と う」

 いままで無言だったウサミミ少女は、初めてたどたどしく言葉を発した。
 美琴はその素直な言葉に、少し照れくささを感じてしまう。

「べ、別にお礼なんて良いわよ。……ここから脱出するために、仲良くやっていきましょ」

 そうして同盟を組んだ1人と1匹とNPCは、ウサミミ少女の先導で小屋に向かった。

 そして美琴以外もう一人の参加者であるありくんは、写真を眺め、一つのことに気がついた。
 その写真の背景が、どう見ても都会ではなく、島の何処かで撮られていること。
 そして、自分たちがいるこの場所が、島であるということ。
 この2つから導き出される答え。

 ありくんはこの島の何処かにいるであろうHSI姉貴に会う事、そして一緒に脱出することを胸に誓った。
 そして、小屋に向かう道中、ブロマイドにムラムラしたありくんは、ウサミミ少女の腕の中で自慰をし、果てた。


【H-8 集落】
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、混乱
[装備]:なし
[道具]:首輪レーダー
[思考・行動]
基本方針:生きる(脱出も検討)。
1:この子達は信用してもいいかもしれない。
2:当麻を探したい。
3:蟻……???

【ありくん@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2、HSI姉貴のブロマイド写真
[思考・行動]
基本方針:HSI姉貴を探し、一緒に脱出したいと思っている。
1:MSK姉貴と協力しようと思っている。
2:偽物だが参加者に協力的そうなHSIさんとHSI姉貴ブロマイドは守ろうと思っている。

※『偽物だが意思を持つありくん』を100匹まで召喚できます。
※『偽物だが意思を持つありくん』は意思を持ちますが、ありくんが意思を統括しています(ありくんネットワーク)。
※『偽物だが意思を持つありくん』は一般軍隊アリ〜一般大型犬並の大きさに自在に変体でき、マスケット銃や剣、盾等の武器や火を噴く個体もいます。フェニックスもいます。

【NPC】
【偽物だが参加者に協力的そうなHSIさん】
 会場で生活するHSI姉貴のそっくりさん。いい奴そう。
 踊るかもしれないが、錬金術も使わないし、冷奴でも筋骨隆々でもこの世全ての悪でもない。


51 : ◆IPU8SGkvmQ :2016/11/21(月) 03:50:51 WUVdtISk0
工事完了です・・・(達成感)。
タイトルは「動画を投稿しただけで殺し合いをさせられるありくん.BR」です。

『#ERROR名前が長すぎます』ってウッソだろお前!?


52 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/21(月) 15:34:26 CLoQl5MA0
投下ありがとうございます!

〉能力制限には気を付けよう!
天膳殿が今度こそ死んでおられるぞ!?不死身は扱いにくいからねしょうがないね。
天膳の断末魔がゆうさくと同じで笑った。

〉「動画を投稿しただけで殺し合いをさせられるありくん.BR」
 軍団を召喚するありくん強そう(確信)
 MSK姉貴は見た目異形でも対話をする人間の鏡。今回は対主催だってはっきりわかんだね。NPCが活用されててうれしい(素)
 
 『ラ・ピュセル』『虐待おじさん』投下します


53 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/21(月) 15:44:59 CLoQl5MA0

 その店は一見してどこにでもある普通のバーであるが、実際は監禁した少年を奴隷として客に提供するホモガキでも戦慄するトチ狂った場所であった。
 店名はSMバー平野。なぜか下北沢ではなく5-Eに存在している。
 そんなクッソ汚い店にひとりの参加者が居た。竜をイメージした尾に角、外見的な特徴を一言で纏めると女騎士といった所か。
 参加者の名はラ・ピュセル。
 本名は岸部颯太(きしべ そうた)、魔法少女もとい魔法少年である。

「いったい何がどうなってるんだ…?」
 
 彼女もとい彼は、突如巻き込まれた殺し合いに困惑していた。
 この場に連れて来られる直前、ラ・ピュセルは同じ魔法少女である森の音楽家クラムベリーと戦うも敗北。
証拠隠滅のためか、車道に放り投げられ車に轢かれた……筈だ。

(そのはずなのに、どうしてこんな所に居る?これもファヴが仕組んだことなのか?)

 まず真っ先にあの憎たらしいマスコットが思い浮かぶが、すぐに否定する。

(いくら何でも回りくど過ぎる。それに魔法少女だけじゃなくこんなに大勢の人を巻き込むのも不自然だ)

 名簿を確認したが、この場にいるのはスノーホワイトにクラムベリーだけ。

(でもファヴの仕業じゃないなら、あの男は一体……)

 もしかしたら運営の人間かも知れないが、流石に情報が少なすぎる。

「とにかくまずはスノーホワイトたちを探そう。……クラムベリーも、放置するのは危険すぎる」

 スノーホワイト、小雪は扱う魔法も本人の性格も争いに向いていない。
もしもクラムベリーのような戦闘狂と遭遇してしまったら……危険すぎる
 幸いにも自身の支給品は剣であり、自身の魔法とピッタリな代物だ。今度こそ、小雪を護ることもできる。
 そう考えを纏め終え、出発する為に立ち上がろうとした時だった。

「お?君、参加者?」
 
 バーに新たな参加者が現れた。


…………


「いやー。すぐに殺し合いに反対する人に会えて、おじさん助かったなぁ」
「そうですね。私も最初に会ったのが葛城さんで安心しました」

 バーを訪れた男性は葛城蓮と名乗った。名簿には何故か『虐待おじさん』という怪しすぎる名で記されているが。
 自分と同じ赤い首輪をしているのをみて警戒したが、話してみると気さくでな人で、優しそうな普通のおじさんのようだ。
 おじさんの方も最初はラ・ピュセルの尻尾や角のある外見に驚いていたが、会話を重ねることで打ち解けることができた。

「でも不思議です。よく私が男だって分かりましたね?」

 そう、なんとおじさんは、魔法少女ラ・ピュセルの本当の性別が男であることをすぐに見抜いたのだ。

「はは、振舞いや雰囲気から何となく分かったよ。まぁ、此方も普段からそういうのは見慣れてるからね
……でも、君みたいに成りきってるのは始めてだけどね。おじさんビックリしたよ」

 やや珍獣を見るような目でおじさんは語る。その視線はラ・ピュセルの胸元にも向けられたが、邪な感情がないためか嫌悪感は感じない。
 魔法少女に変身している時は完全に女性の体なのだが、おじさんはどうやら女装か何かだとだと思っているらしい。
 だがあえて指摘することもないのでそのままそういうことにした。
 そうした軽い自己紹介が終わり、今度は自然とお互いの知り合いの話となる。
 まずはラ・ピュセルがスノーホワイトが安全な人物であること。逆にクラムベリーは危険だと説明する。
 次に今度はおじさんの知り合いは呼ばれているかを聞こうとした時

「あのさ、その前にちょっといいかな?」

 おじさんが妙に真剣な顔で問いかけてきた。

「な、何ですか葛城さん。そんな急に改まって」
「実はちょっとしたお願いがあってね……聞いてくれるかい?」
「お願い、ですか?まぁその、私にできることなら」

 お願いとはなんだろうか。ひょっとして誰か大切な人が連れて来られてしまったから、探すのを手伝って欲しいとかだろうか。
 そう考えるラ・ピュセルを余所に、おじさんは何故かネクタイを外すとーー

「そうかそうか、それは良かった……YO!」

ーー首を絞めようと襲い掛かった。


54 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/21(月) 15:48:03 CLoQl5MA0

「うわっ!」

 驚き咄嗟に後ろへ避けるラ・ピュセル。魔法少女の身体能力ならそれぐらいは容易い

「か、葛城さん!?いきなり何を!?」
「何ってお願いだよお願い。ちょっと君の苦しむ姿を見せて欲しいんだ」

 先程と変わらない優しそうな笑顔で言うおじさん。それを見てラ・ピュセルは背筋に寒いものを感じた。
 ネクタイを片手にじりじりとにじり寄ってくるおじさんに堪らず叫ぶ。

「そんなもの聞ける訳ないでしょ!?いい加減に「は?(威圧)」

 言葉を遮り笑みを消すおじさん。さっきとは別人のような怒りの顔を作っている。

「お前さっきお願い聞くっていったよなぁ!なぁ!聞くって言ったのに聞かないって、おかしいだろそれよぉ!」
 
 とんでもなく理不尽な理由で、例えるなら植木鉢を破壊されたかのように激怒する。その威圧感はまさに迫真。明らかに殺気すら混じっていた。
 慌てておじさんから距離をとり、戦闘体勢に入りながらおじさんを睨む。この状況なら疑いようもないが、一応の確認のために口を開く。

「葛城さん…貴方、殺し合いに乗ったんですか?」

 当然と言えば当然の質疑に、おじさんは何故かキョトンとした顔をする。

「?いや、俺はただ、自分の趣味を優先させてるだけだよ。
 
 ……おじさんはねぇ、きっ君みたいな可愛い子が悶絶する顔が、だ、大好きなんだよ!(マジキチ)」

 おじさんの大胆すぎるカミングアウトに衝撃を受け、嫌悪感に顔を歪めながら吐き捨てる。

「なっ…、僕は男なんですよ!?」

「それが良いんじゃないか!!」

「えっ何それは……(ドン引き)」

 ドン引きするラ・ピュセルを余所に、おじさんは日本刀の刃を突きつける。戦いは避けられないと察した女騎士も西洋剣を握る
 おじさんはそれを見て一言。

「悪い子はお仕置きだどー」

 それが開戦の合図となり、魔法少女の剣とおじさんの日本刀が交差する


【5-E 街(下北沢)@深夜】
【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢】
[状態]興奮
[装備]日本刀詰め合わせ@彼岸島
[道具]基本的支給品
[思考]
基本:可愛い男の子の悶絶する顔が見たい
1:ラ・ピュセルを調教する
[備考]
※参戦時期はひでを虐待し終わって以降
※ラ・ピュセルを女装した少年だと思っています

【ラ・ピュセル(岸部颯太)@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]だんびら@ベルセルク
[道具]基本支給品
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探す
1.おじさんを何とかする
2.襲撃者は迎撃する


55 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/21(月) 15:49:40 CLoQl5MA0
以上です。おなシャス!


56 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/21(月) 16:40:30 iSlQtCgM0
投下乙です

ありくんとMSK姉貴というつよそうな対主催タッグ。
ひでや吸血鬼率いる化け物揃いのこの殺し合いでどこまで進めるだろうか。

虐待おじさん、何処からどう見てもマーダーなんですがそれは

>>46の予約からバラライカを外して、相場晄を予約します


57 : 名無しさん :2016/11/21(月) 16:42:59 4UzErwaA0
投下乙です

次はSUちゃんが虐待されてる所からスタートですね!(マジキチスマイル)


58 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/21(月) 16:46:32 xeA1Y.4Q0
申し訳御座いませんが予約延長させて戴きます


59 : 名無しさん :2016/11/21(月) 16:54:17 lcrmHNTY0
ラ・プュセルの胸を見ても全く欲情しないおじさんはホモの鏡


60 : 名無しさん :2016/11/21(月) 18:06:06 glieqbpo0
ありくん、バトルロワイヤル中にホ、ホナニーですかぁ!?
どちらも想い人がいる恋愛タッグですね…間違いない

男性の方が欲情しないと思って変身解かなくて正解でしたね…
多分全力で否定してればちょっと男っぽいだけだと思われたと思うんですけど…(名推理)
自分からバラしていくのか…(困惑)


61 : 名無しさん :2016/11/22(火) 03:13:23 Pu6DGaLA0
投下乙です
始まって早々に有力な参加者同士が出会い、かたやチームを結成、かたやいきなりの交戦とはっきりと展開が別れましたね
後者はどちらが殺すにせよ脱出第一号となるのも気になります


62 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:17:36 ZkS2LCig0
投下します


63 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:19:09 ZkS2LCig0
「よっと」

その頭の禿げあがった老人は、文字通り上半身だけで歩いていた。
胸元までスッポリとカバンに入っている様は、なにかできの悪い玩具と見間違えるだろう。
しかし、その鞄は明らかに人が入るような大きさではない。では、彼の下半身はどこへ消えたのだろうか。
答えはどこにもない。かつて、拷問によって腰から下を失ってしまったからだ。当然ながら、腰から下にはペニスも存在していない。
彼の名は『隊長』。誇り高き元・雅の護衛隊長の吸血鬼である。

(まったく、とんでもないことに巻き込まれたわい)

あの主催の男の目的がなんなのかは全く読めない。が、彼はそこまで心配はしていなかった。
何故なら、彼の心から信頼できる者たちもこの殺し合いに呼ばれていたからだ。

雅。隊長ら吸血鬼を統率する者であり、圧倒的な強さとカリスマを誇る男である。
彼岸島の吸血鬼には彼を信奉・信頼する者は多く、神の如く崇める者も珍しくは無い。隊長もまたその一人であった。
宮本明。彼岸島にて吸血鬼と敵対している人間であり、その中枢を担う男。
しかし、何の縁か、共に様々な苦難を乗り越え、二人の間には奇妙な信頼関係が築かれていた。
明も隊長も、共に友達と認識するほどにだ。

そんな二人の存在を認識した隊長は、こんなふざけた催しどうにかしてくれるだろうと楽観的に見ていた。
自分がするべきことは、どちらかに早急に合流するまで生き延びることであり、無闇に戦う必要もない。
それに、自分も吸血鬼の端くれだ。そう易々と死ぬはずもない。

「ふんふ〜ん♪」

そんな隊長は鼻歌まじりに道を歩いていた。
もしも狩人が彼を見つければ決して見逃さないだろう。


ザ ク ッ

突如隊長の肩に突き刺さる矢。

「ぎゃああああああああああ!」

あまりに唐突な出来事に、隊長はゴロゴロと転がりまわる。

(なんじゃ!?なにが起きたんじゃ!?)

数秒遅れて、自分が襲撃にあったことを認識すると、刺さった矢を抜きあたふたと木陰に身を隠す。

(ヒイイィィ...訳が分からねえよ...)

「どうもおじーさん」

ぬっ、と姿を現すのは獣の皮をフードのように被った巨漢。
その面相もまたまさに獣といえる形相だった。

「な、なんじゃお前?まさかお前が」
「おっ、首輪が赤いってことはオレのお仲間?俺の名前はワイアルド。覚えてねん」

ワイアルドは懐から金属バットを取り出すと、高々と振り上げる。

「おじーさんも人間じゃないんだろ?だったら俺の遊びに付き合ってよ」


64 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:20:24 ZkS2LCig0



志筑仁美は震えていた。

大切な友人の葬式に出ていた最中、気が付けばこの殺し合いに巻き込まれていた彼女は、混乱しつつも家屋に身を隠し、支給されたものを確認した。
デイバックの中にあったのは、大筒とアクセサリーらしきものと共通支給品。
支給品の説明書もあったが、彼女が真っ先に目を通したのは名簿だった。
一番最初に目についたというのもあるが、なにより他に参加させられている人が気になった。

いまにも失くしそうなアクセサリーをポケットに入れつつ、ざっと名簿を見渡したところ、日本人姓もあれば外国人らしき姓も多い。
中には野獣先輩やMUR大先輩など明らかにふざけた名前も記載されているが、いまは置いておく。

(えっと。私の名前は...)

この50人超の名前が記載されていながら、五十音もめちゃくちゃな名簿。
そんな中から自分の名前を探し出すのは一苦労だった。
ようやく自分の名前を見つけ、改めて前後の名前を確認したその時、仁美に戦慄が走った。

(うそ――――)

記載されていた名前で知る者は三つ。

鹿目まどか。自分もよく知るクラスメイトであり友人だ。
暁美ほむら。彼女もまたクラスメイトの一人で、謎めいた転校生だ。
そして美樹さやか。彼女もまどか同様クラスメイトであり友人である。

有り得ない、と仁美は自分に言い聞かせた。
だって彼女は―――

ガラリ。

扉を開ける音がした。

「ひぃっ!」

仁美は思わず懐中電灯を向け、下手人を照らしだす。
浮かび上がるのは少女の輪郭。
照らされた者を見て、仁美は再び絶句した。

「ぇ...」

そこにいたのは、亡くなった―――自分のせいで死んだ筈の美樹さやかだったから。


65 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:21:30 ZkS2LCig0



美樹さやかは困惑していた。
親友の手を振り払い、自暴自棄に魔女を狩り続け。
気が付けばこの殺し合いに巻き込まれていた。

訳が分からなかった。
この殺し合いも。死んだ筈の巴マミが生きていたことも。親友の鹿目まどかや志筑仁美が巻き込まれていることも。
くしゃりと名簿を握り潰しふらふらと歩きだす彼女だが、その歩みに目的は無い。
例え最後の一人になったとしてもこの身体が戻るわけではないし、まどかやマミを殺すなどとは到底考えられない。
だが、主催に抗い弱き者を守るために戦えるかと問われれば即答はできない。
赤い首輪である自分を狙ってくるのは容易に想像ができるし、自分のために尽くした女を玩具のように罵る人間の本性を知っていることもまた彼女を迷わせる。
結局のところ、彼女は道を見失ってしまったのだ。
自己嫌悪に陥り、目的もなにももたず彷徨う様はまさに亡霊と呼ぶべきだろう。

そのままふらふらと彷徨っていると、やがてさやかは明かりの灯る民家を発見。
なんて不用心だと思いつつも、光に誘われる蛾のように民家へと歩みを進める。

理由などない。強いて言えば、最初に出会った人に全てを委ねたかったのだろうか。
その理由は彼女自身も知る所はなかった。

なぜなら。

扉を開けた先にいたのは、さやか自身がよく知る志筑仁美で。

―――『仁美に...恭介をとられちゃうよ...!』

『あの時助けなければよかった』と一瞬でも思ってしまった自分が思い出されてしまったから。



「さやか...さん...」
「ぅ...ぁ...」


信じられないものを見たかのような仁美の視線にさやかの心は苛め抜かれていた。
視線の先にあるのは、さやかの首輪。
主催に化け物の烙印を押された危険人物の証。

(違う...あたしは...)

仁美の死を願った。人間じゃない。魂の抜かれたゾンビ。他の参加者から狙われる嫌悪の対象。
度重なる自己嫌悪の言葉に、さやかの脚は自然と後ずさっていく。


66 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:22:02 ZkS2LCig0

(あたしは――――!)

気が付けば、さやかは振り返り駆け出していた。
ただ、彼女から、仁美から離れたい。化け物であり醜い自分を見られたくない。その一心だった。

「さやかさん!」

仁美の呼び止める声に振り向きもせずさやかは森の中をただ走る。
さやかの脚は止まらない。
一般人である仁美と魔法少女であるさやかとの距離は遠のいていくばかりだ。

(あたしは、あたしは―――!)

ここでの彼女の不運は、仁美との連れてこられた時間差に気が付けなかったことだ。
仁美がさやかを見ていたのは、死んだはずのさやかの存在を信じられなかっただけのことであり、首輪を見て畏怖していたわけではない。
もしもさやかがあの場に留まっていれば、仁美は涙を流し再会を喜んだだろう。
だが、勘違いは勘違いのままで物語は進んでしまう。


「ハァッ、ハァッ...」

どれほど走ったのだろうか。気が付けば森を抜け、切り立った崖に辿りついていた。
後ろを振り返り、仁美の姿はもう確認できないことに、さやかはホッと胸を撫で下ろした。

(いま、なんであたしはホッとしたの?)

自分のことなのにまるでわからない。
なぜ仁美がいなくなって安心したのか。

仁美を守ることから目を背けたのか。

(違う...)

どこかで仁美が死んでしまえば自分に責任は無いと安心したのか。

(違う―――――!)

さやかを苛む自問自答はおさまらない。
だが、いくら悩もうとも真実には決して辿りつかない。
今までもそうだ。答えがでなかったから、誰にも彼にも八つ当たりしてしまった。
答えが出なかったから、魔女との戦いに身を任せてきた。

「――――――――!!」
「悲鳴...?」

そんな彼女が、志筑仁美以外の悲鳴を聞けば。
そこに闘争の種が転がっていれば、足を運ぶのは当然のことなのかもしれない。


67 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:22:37 ZkS2LCig0



「嫌アアアアアア―――――――!!」
「あ、ヨイショーッ」

悲鳴をあげながら逃げる隊長へと次々と岩石が降り注ぐ。
ワイアルドは、金属バットで野球部のノックにも似たやり方で隊長に石を打ち放っているのだ。
時々、わざと掠めるように撃ちこんだり。かと思えば、拳大に削った石をそのままぶつけたり。
普通の人間ならとうに重傷を負っているのだが、幸か不幸か隊長は曲がりなりにも吸血鬼。
この程度の怪我ではまだまだ動け、その分ワイアルドの遊びと称したリンチに付き合わされるハメになっていた。

「も、もうやめて...痛いのイヤ...」
「おじーさんさぁ、逃げ足が速いのはわかったけど、逃げるだけじゃつまらない死に方しちゃうよ?何事も楽しまなくちゃ」

息を切らし懇願する隊長に、ワイアルドはチッチと指を振りつつもちょっぴりの不満を覚えていた。
鷹の団の男と戦っている最中にこの殺し合いに呼ばれた彼の心境は特に不満もなく平常だった。
最後まで殺し合え。結構結構。ただ欲望のままに本能の赴くままに戦い蹂躙し楽しむ。いつものことだ。
ただ、あの男との戦闘は中々面白いものだったので、まずは中途半端だった戦闘欲求から満たしたいと思っていた。
そんな折に発見したのが隊長だった。自分と同じ赤い首輪に上半身だけでピンピン動く様からして、明らかに自分同様人間ではなかった。
そのため、それなりに期待して戦闘を申し込んだのだが、隊長は逃げの一手で全く反撃してこない。
仕方ないから戦闘ではない嗜虐的な催しをしているものの、ただ頑丈なだけの得物では戦闘の欲求はおさまらない。
あまりの物足りないので、とうとうワイアルドに飽きがきた。
岩石ノックを止め、ワイアルドは隊長へと肉薄する。

「えっ、ちょ、はやっ」

バチィン

ワイアルドの張り手が隊長の頬を捉え数メートル先の岩場に吹きとばし叩き付ける。

「あが、が...」
「おっ、頑丈頑丈。けど、それだけじゃやっぱり飽きるんだよね。そういう訳で」

金属バットを振りかざすワイアルド。このまま隊長を殺し、活きのいい獲物の情報を手に入れる腹積もりだ。


68 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:23:06 ZkS2LCig0

「や、やめて」
「ダーメ。オレを飽きさせた罰だ」

ドッパァン

振り下ろされる金属バットにより、哀れ隊長は四散―――

「おろ?」

していなかった。
破壊されたのは、隊長の下にあった岩盤だけだ。
バットが振り下ろされた瞬間、隊長は抱きかかえられ射線から外れたのだ。

「え...お前さん...?」
「......」

隊長の命を救ったのは青い髪の少女、美樹さやかであった。

「おっとこれは予想外」

おどけるワイアルドだが、そこに動揺はない。
せいぜい、ジジイよりはマシな獲物が来たと思った程度だ。

「...逃げなよ、おじいさん。あいつの相手はあたしがするからさ」
「け、けどあいつ」
「いいから」

隊長を地面におろし、さやかは剣を構えワイアルドと向き合う。
一緒に逃げる気配の見えないさやかに後ろ髪を引かれる思いで隊長はそそくさと茂みに隠れていく。

さやかがワイアルドに対峙している理由は、決して正義感によるものではなかった。
確かに、少しは弱者を助けたいという気持ちもあったかもしれない。
だがそれ以上になんでもよかったのだ。魔女との戦いのように何も考えずに戦い考えることを放棄することができれば。

「中々やるねぇ可愛いおじょーさん。もう少し成長してれば俺好みだったかも」

それに、どうせ戦うならこんな分かりやすい悪党がよかった。
もし殺してしまっても罪悪感は感じないだろうから。
仮に負けても、弱者を守った正義の味方という口実ができたから。

「じゃあ、遊ぼうか」
「......」

数瞬の後、金属バットと剣が交叉し戦いが始まった。


69 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:23:53 ZkS2LCig0



(さやかさん...ッ!)

仁美は、突如逃げ出したさやかを追いかけていた。

ここに連れてこられる前、さやかは数日間行方不明となっていた。
心当たりはあった。
さやかの行方が知れなくなる前日。
仁美は、さやかに対して、上条恭介に告白するという宣戦布告をした。
さやかが恭介に想いを寄せていることを知りつつだ。
そして、さやかは告白をしなかった。
そのまま行方不明となり、再び会えた時には物言わぬ骸となっていた。

仁美は後悔した。悔やまずにはいられなかった。
仁美が恭介に想いをよせていたのは事実だ。
しかし同時に。さやかのことも恭介とは比べられぬほど好きだった。
もしも、さやかが恭介に告白し、結ばれていたとしたら、仁美は心から祝福しただろう。
いや、むしろそうなることを望んでいたのかもしれない。

もしも、さやかが仁美が譲った一日で告白し、さやかが恭介と結ばれていれば、仁美は告白せずとも恋を諦められた。
そして、今まで通りさやかと友達でいられ、まどかを含めた三人でまた仲良くできたはずだ。
仮にさやかが告白しなかったとしても、恭介が仁美の告白を断れば、それはそれで笑い話にでもなり丸く収まったはずだ。
だが、仁美はそんな自身の願いに気が付いていなかった。彼女が自身に気が付かないまま、恭介は仁美を受け入れてしまった。
この時は、あまりの予想外の結果に、自分の本当の想いに気付いていなかった仁美は幸福にすら感じていた―――己の選択が、恋路と引き換えに友情を喪うものだとも知らずに。
その結果がさやかの死だった。
自分の行いを正当化する弱い心で行った告白の果てに残ったのは、友情でも幸せな恋路でもなく。
もしも時間が巻き戻せるなら、あの愚かな決断をした自分を殺してやりたいと思うほどの後悔だけだ。

そして、この殺し合いで目覚めてすぐに再会できた、死んだ筈の美樹さやか。
間違えるはずもない。彼女は仁美の友人だった美樹さやかだ。
彼女を見た時、仁美は決めた。
なぜ生きているのかなどどうでもいい。必ずさやかに謝ろう。弱く醜い自分を全て打ち明けようと。
そして、願わくば自分が愛したあの日常へ戻りたい。また、三人で一緒に――――


ガッ

「あうっ!」
「んぎゃっ!」

なにかに躓き、転倒する仁美。
擦りむいた顔を押さえつつも、躓いたなにかが人であることに気が付いた彼女は、慌てて振り返る。


70 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:24:22 ZkS2LCig0

「だ、大丈夫ですか...ッ!」

躓いたものを見た彼女は絶句した。
彼女が躓いた傷だらけの老人は、下半身がなかったのだ。

「きゃあああ――――」

喉から出かけた叫びは、老人―――隊長がとびかかることにより抑えられた。

「むが、むぐ!」
「シーッ!」

人差し指を己の口に当ててジャスチャーをする隊長の様子に、仁美はいくらか冷静さを取り戻した。

(この人...傷だらけではありますが、すごく元気ですわ)
「静かに。戦いに巻き込まれんうちにここから去るんじゃ」
「戦い?」
「耳を澄ませてみろ」


隊長の言葉に従い、仁美は耳を澄ませ音を聞く。
確かに、金属を叩くような音が仁美の耳にも聞こえてくる。

「戦い...というのは」
「化け物のような奴がおる。とてつもない怪力の恐ろしい男じゃ。オレは、青い髪の女の子に助けられて命からがら逃げだしたんじゃ」

青い髪の女の子。
仁美の脳裏を過るのは美樹さやか。
正義感の強い彼女がこの老人を助け逃がす光景は容易く想像できた。
逃げた方角からみても、ほぼ間違いない。

(さやかさんっ!)

仁美は覆いかぶさる隊長をはねのけ、音の鳴る方へと駆ける。

(さやかさんっ、無事でいてください!)

さやかは、見滝原中学の中でも運動神経は悪い方ではない。
しかし、大人の、ましてや怪力の男相手に敵うはずがない。
いますぐ彼女の力にならなければ。

一心不乱に駆ける仁美は、ようやくたどり着いた。


「ああああああ―――――!!」


獣(けだもの)の如く吼えながら、剣を振るう友のもとに。


71 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:25:39 ZkS2LCig0



ひゅっ、と風を切る音と共に、さやかはワイアルドへと駆けだす。

ガキン、とバットと剣とが交叉し金属音特有の甲高い音を打ち鳴らす。

「これだよコレ。やっぱり戦う相手は活きがよくなくちゃ」

ワイアルドは、力任せに振るわれるさやかの剣を容易くバットで打ちかえす。
一心不乱に剣を振るうさやかと、軽々と剣を捌いていくワイアルド。
どちらが優勢かは語るまでも無い。

「おあた!」

剣をはじいた隙をつき、ワイアルドの拳がさやかの胸部に叩き込まれる。
メキリ、と骨が軋む音と共にさやかの身体は後方へと大きく吹き飛ばされる。
手応えからして、骨の一・二本は逝っただろう。

「あっちゃあ、もう少し楽しみたかった...おっ?」

幾らか地面をバウンドしたさやかは、勢いが弱まるのと同時に足元に魔法陣を展開。
そのままそれを蹴り、一気にワイアルドのもとへと飛びかかる。

「いいねえ、その勢い!頑丈さ!これなら退屈しのぎにはもってこいだ!」

ワイアルドは笑みを浮かべつつ、バットを振るい、時には徒手を交えつつさやかの身体を痛めつけていく。
対するさやかは、痛覚を遮断することによって己に降りかかるダメージを無視し、ワイアルドへと斬りかかる。

技量もなく、ただただ感情のままに雄叫びをあげ剣を振るうさやか。
その全てを身体能力だけで、玩具で遊ぶように振り払うワイアルド。

その両者の戦いを木陰から見ている仁美は、その光景を信じることができなかった。


72 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:26:14 ZkS2LCig0

友人であるさやかの闘う姿。
パワーも。スピードも。全て人間のソレではない。
まるで獣(けだもの)のように荒々しく、血に濡れても戦う姿に、仁美は恐怖を覚えていた。

「ホラ、見つかる前に逃げるぞ。俺たちにできることはないんじゃ」

仁美の後をつけてきた隊長は、すぐにこの場から離れるよう仁美の手を引っ張る。
しかし、仁美は動かない。
それどころか、身体を震わせながらもさやかを見つめて続ける始末だ。

(...さやかさん)

仁美の頭の中では、さやかの戦闘から、一つの仮説が立てられていた。
仁美が恭介に告白すると宣言する数週間前。時期にしていえば、暁美ほむらが転校してきた辺りだろうか。
あのころから、さやかとまどかはどこか遠い世界で生きているかのように疎遠になりつつあった。
そのことに一抹の寂しさを覚えていたが、いま思えば、あれは自分を巻き込まないようにしていたのではないか。
あの日常からは程遠い血みどろの世界から遠ざけようとしてくれていたのではないのか。

(...私は)
「なにやっとるんじゃ。早く!」

仁美を急かすように手を引く隊長の手に、温かいモノが落ちる。

「えっ」

隊長がそのモトを辿ると、その先には仁美。
彼女が隊長の手に落としたとすれば、それは―――

「お前、泣いておるのか?」

仁美は、ごしごしと止まらない涙を拭いつつ、戦場へと歩を進めようとする。

(私、なにも知らないで勝手なことばかり―――)
「なにをするつもりじゃ」
「私は、さやかさんを助けますわ」
「無茶いうな。そんなに震えてなにができる。あいつらにビビッてるんだろ」

隊長が手を引いている間、仁美はずっと震えていた。
その震えが、明が見せていた武者震いではないのは容易に理解できたつもりだ。


73 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:27:17 ZkS2LCig0
「...恐いです」
「だったら逃げろよ。あの動きみたら二人とも人間じゃねェのはわかるだろ」
「けれど、一番恐いのは、さやかさんのことを何も知らないことですわ」

仁美はなにも知らない。
なぜさやかがあの力を手に入れたのか。
なぜあそこまでして戦うのか。
何も知らないからこそ、友人であるさやかにすら恐怖を覚えているのだ。

「私は、もっとさやかさんを知りたい。もっと知って、さやかさんの力になりたい」

「マジかよ...」

バカげている。隊長は素直にそう思った。
友のために戦いに赴く。言葉で書けばなんとも綺麗な響きに聞こえるかもしれないが、ただの人間が無策であの戦いに割り込むなど自殺にも等しい。
だが、彼女が望むのならば、行かせてやるべきだろう。それに、隊長と仁美は会って間もないどころか親睦を深めてすらいない。
仁美を見捨てたところで損も責任を感じることもない。

(けどよ...)

明なら、隊長の友達なら、迷わず仁美に加勢するだろう。
深い理由などいらない。友達を助けようとする奴を見捨てられない。そんな単純な理由でだ。

「...ハァ。俺も随分と明に毒されちまったみたいじゃな」

隊長は右手でボリボリと頭を掻きつつ、仁美同様震える身体に耐えつつ言った。

「いいか嬢ちゃん。あの子を助けたいなら俺の言う事を聞け。まずは支給品を見せるんだ」


74 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:29:11 ZkS2LCig0




さやかが突撃し、剣とバットが交叉し、ある程度打ち合ったところでワイアルドがさやかを吹き飛ばす。そのやりとりももう何度目だろうか。
当然ながら、同じやりとりに飽きが出てこないワイアルドではなく、新たな刺激が欲しくなってくるころあいであった。
突撃してくるさやかの腕を掴み、地面に叩き付ける。

「がッ」

いくら痛覚を遮断しているとはいえ、骨が折れればその部位は動かなくなる。
それを補うためのさやかの治癒魔法だが、骨が完治する前にワイアルドはさやかの衣装を引き裂き、さやかの程々に実った果実が曝け出される。

「―――――!?」
「中々イイ身体してるじゃん。もう少し成長すれば、俺好みの女になったかも」

そういう蕾を荒らすのも悪くない。
そんな笑みを浮かべつつ、ワイアルドはさやかの頭を押さえを四つん這いになるよう組み伏せ、下半身の下着も引き裂き秘部をも露出させる。

「な、なにを!」
「やだなぁ。戦いに負けた女がされることといったら一つでしょ」

金属バットをしまい、代わりに腰巻を下ろし露わになったワイアルドの性器を見て、ようやく理解した。
この男は、自分を犯そうとしているのだと。

「ッ!!」

剣を作りだし、ワイアルドの腕を刺そうとするさやか。

「ワイアルドチョーップ!」

しかし、手首に放たれた強烈な手刀により、剣を落としてしまう。
それでもこのままやられるわけにはいかない。

「う、うああああああ!!」

必死に抵抗しようともがくさやかだが、ワイアルドには通じない。
体格も、力も、なにもかもが彼には及ばないさやかに逃げ道はない。

「そうそう!もっと抵抗してくれよ!嫌がる女を無理やり犯すのが刺激的なんだからさぁ!」

それどころか、ワイアルドの嗜虐心に応じて性器の反りも増すばかりだ。

「い、嫌...」

ただ殺されるだけならまだよかった。
だが、こんな見ず知らずの醜い悪党に穢されるなど思いもよらなかった。
まだ幼いさやかは、ましてや、魔法少女という男が介入しない戦場しか知らない彼女は、戦闘で男に負けるのがどういう意味を齎すのかを知らなかった。
力無き者は、命だけでなく尊厳も魂も全て貪り食われる。
それが戦場なのだと思い知らされ涙を流した時にはもう遅い。
ワイアルドの性器は、無情にもにじりより―――


75 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:30:44 ZkS2LCig0


「こっちじゃ化け物!」

突然の叫びに、思わずワイアルドは振り向く。
瞬間。

バンッ

大筒の音と共に降りかかる巨大な網。
バットを仕舞っているワイアルドにそれを防ぐ術は無く

バ サ ッ

ワイアルドは漁師に捕らわれた魚の如く、全身を網に包まれた。

「いまだ!やれ!」

ブルルン、とけたましいエンジン音と共に黒塗りの高級車が草木をかき分け現れる。


「なんだあれ」


さしものワイアルドも見たことのない鉄の箱が速度を持って迫ってくるのには僅かながら驚愕する。
が、大したものではない。使徒であるワイアルドにとってあの程度のものを防ぐのは容易い。

「って、あれ?」

しかしワイアルドは己の身体に絡みつく網に困惑する。
いくら解こうとしても解けない。むしろ、もがけばもがくほど網が絡まりワイアルドの動きは制限されてしまう。
これではロクに動くことも、迫りくる黒塗りの高級車を防ぐこともできない。

「ウソ、オレがこんなので」

そして、加速が止まらない黒塗りの高級車はそのままワイアルドへと迫り。

バ ァ ン

黒塗りの高級車が大破するのと共にワイアルドの巨体が吹き飛ばされる。
ダメージそのものは大したことはない。しかし、彼が吹き飛んだその先には崖。
網のせいでロクに受け身も踏ん張りもできないワイアルドに抵抗する術は無い。

「身体が...ふわぁー」

ワイアルドは、そのまま20メートル超の崖の下に消えた。


76 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:31:24 ZkS2LCig0

ハァ、ハァ、と息を切らしながら、黒塗りの高級車から仁美がふらふらと姿を現す。

(っつ...初めての経験でしたが、護身術の一環で受け身の練習をしておいて助かりましたわ)

「やった...やったぁ!」

あの高さから落ちればひとたまりもない。
よしんぼ生きていたとしても、重傷は免れない。
あれほど恐ろしかった化け物を倒せた喜びのあまり、隊長はやんややんやとはしゃぎ始める。

「ひ、仁美...」
「さやか、さん...」

そんな隊長を余所に、少女たちは互いの名前を呼び合い対峙する。
それきり二人は、ハァハァと息を切らしつつ黙ってしまう。

両者の瞳に敵対の意思はない。
ただ、片や相手の死を僅かにでも望んでしまった少女。
片や、己の勝手な行動で友を死に追いやってしまった少女。
互いになんと言葉をかければいいのかわからなかったのだ。

「え、えっと...」

そう先に言葉を発したのは、さやかだった。
仁美に声をかけた―――というよりは、自分の姿をなんと説明したものかといったところだが。

(たぶん、仁美はあいつとの戦いを見ていた。じゃなきゃ、あんないいタイミングで助けには入れない)

果たして仁美は自分を見てなにを思ったのか。

獣のように吼える自分を見て。
まるで殺人鬼のように剣を振るう自分を見て。
どんな怪我でもたちどころに治して戦う自分を見て。
おおよそ人間とは思えない自分を見て。

人間である彼女は、なにを思ったのだろうか。

そんな、この期に及んで自己保身を考える自分が心底嫌になる。


77 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:32:46 ZkS2LCig0

「さやかさん」

そんなさやかとは対照的に、仁美は真っ直ぐにさやかを見つめて歩み始めた。
その姿が、堂々とした姿勢がいまのさやかには直視できず、思わず目を逸らしてしまう。

さやかには不安しかなかった。
仁美は、いまの自分の心中を。嫉妬や羨望に汚れた自分を見据えた上で助け、こうして歩み寄ってきているのか。
こんな、人間ではない自分でも、友と見なしてくれるのか。
それとも、殺し合いのルールに則り、自分を脱出の糧にするのか。
ワイアルドを落としたように、怪物である自分を切り捨て恭介と寄り添う腹積もりなのか。
わからない。
いまの自分には、なにも―――

さやかは、己が課していくプレッシャーに耐え切れず、思わず目を瞑った。

瞬間。

突如、仁美が駆けだし、さやかとの距離が瞬く間に縮まっていく。
異変に気が付き、さやかが目を開け顔を上げた時には、仁美の突き出した掌は、さやかの身体に触れる寸前にまで迫っていた。
首を絞められる。
そう思うのと同時に、さやかの足は自然と後退していた。

(やっぱり、仁美はあたしを)

殺すつもりだったんだ。
美樹さやかはあの男と同じ化け物だから。
美樹さやかを殺せば生き残れるから。

臆病な怪物ほど殺しやすいものはいないから。

「ひ」

気が付けばさやかは剣を精製していた。

「と」

当然のように柄を握りしめていた。

「み」

自然と、込める力は強まった。

そして。

ドスッ

志筑仁美の可憐な顔立ちには似つかわしくない凶器がひとつ生えた。


78 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:34:36 ZkS2LCig0


志筑仁美の失態を挙げるならば、ワイアルドを落としたことについて真に理解していなかったことだろう。
いくらさやかを助けるためとはいえ、動きを封じ、高速で黒塗りの高級車を当てた上で落としたのだ。
もしもワイアルドの頑強さが人間並であれば確実に死んでいる。
さやかを助けるために必死だったとはいえ、もしもワイアルドが死んでいれば仁美は殺人者となる。
少し落ち着けば、そのことを自覚できたかもしれない。

だが、一度はさやかを死なせてしまったという自責は判断力を奪い、自分がしでかしたことを、他者から見れば恐怖にも思えることを認識しきれていなかった。
それが影響して、さやかに懐疑の余地を持たせていたことに気が付いていればなにかが変わったかもしれない。
だがもう遅い。全ては後の祭りだ。

仁美を信じきれなかったさやかは僅かに動き、仁美の動きを止めるために剣を握り絞めた。

そんなさやかの背後から飛来する鉄製の矢を、ただの人間である仁美が躱す術などありはしなかった。



仁美は、右目に走る激痛と共に、ぐらりと身体が仰向けに倒れるのを感じた。
自分の目に何があったのか、考えるのを遮られる程に激痛が脳を支配する。

「仁美ッ!」

涙でぼやける仁美の視界に、さやからしき輪郭が映り込む。

(さやか、さん...)

仁美が側に寄ろうと歩み寄り、さやかが目を伏せたあの時。
仁美はさやかの背後の空間に何者かの姿を見た。
さやかが何者かに狙われている。
それを認識した瞬間、気が付けば仁美の身体は動いていた。
声をあげる暇すらなく、たださやかをこの場から離さなければと手を伸ばした。
そして、さやかが後退し、わずかに身をよじるのと同時、さやかの耳元の空気を裂き、何かが仁美の目に飛来したのだ。

(わたくし、は...)

身体の力が抜けていく。
痛みはもうほとんど消えかけているが、もう動くことも出来ない。
右目に刺さったモノが脳まで貫通し破壊していることを、即ち死が近いことをなんとなく悟った。
さやかに謝りたい。もっと解りあいたい。またまどかを含めた三人で仲良くしたい。もっともっと色んなことをしたい。
このまま死にたくなんてない。

「いやだ...嫌だよ、仁美!」

仁美の残った左目に雫が落ちる。
仁美の涙と混じったそれは共に眼孔から流れ落ち、彼女の視界を微かに晴らす。

(さゃ...)

左目に映ったさやかの泣き顔を、自分の為に涙を流してくれる友の顔を見て。
彼女の愛したあの日々に微睡みつつ、意識は闇に落ちていった。


79 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:36:18 ZkS2LCig0


「仁美...ひとみィ!」

反応を示さなくなった友の身体を抱きあげ、さやかは必死に呼びかける。
治療のための魔力はもうかけている。治癒の祈りで契約した魔法少女であるさやかは、巴マミのように魔力を応用すればそれなりの治療魔法を行使できる。
だが、打撲や骨折ならばいざ知らず、刺し傷、それも矢を抜けば出血多量で死に至る状況だ。
さやかの魔法など気休めにしかならなかった。

仁美を抱きしめ泣きじゃくるさやかから少し離れた位置で、隊長は困惑しつつも現状を整理した。

(あの嬢ちゃんに刺さっている矢...間違いない。あの時俺が刺された矢じゃ!)

ワイアルドに襲撃される直前、隊長の肩に刺さった矢。
間違いない。あれはあの矢と同じだ。

(だが何故じゃ!?仮にさっきの奴が生きていたとしても、上ってくるのが早すぎる!...いや、待て。たしか奴は)

仁美を死に至らしめた矢は確かな威力を持っている。
あの怪物染みたワイアルドならあれを投げるだけで同等近い威力を出せるかもしれない。
だが、隊長を甚振っている時にはあれを出す気配すらなかった。わざわざ岩石を砕き飛ばす始末だ。
出し渋っていた線も捨てられないが、もしもだ。
もしも、奴があの矢を持っていなかったとしたら。
もしも、最初に隊長を襲撃したのがワイアルドとは別人だったとしたら。

「敵は、二人いた―――?」

隊長の呟きに応えるが如く。

スパン、と虚しく音が響き、泣きじゃくる美樹さやかの後頭部を矢が貫いた。

「ぁ...」

ぐらり、とさやかの身体が傾き、仁美に覆いかぶさるように倒れ込む。
仁美から流れた血とさやかの頭から流れるものが交わり、地面を赤く染めていく。

「ヒイイイイイイイ!!」

静けさに包まれた血濡れの惨状に、隊長の恐怖の悲鳴が響き渡った。


雲が月を覆い、辺りをよりいっそう暗くする。

「俺に支給された武器がこれでよかった」

がさがさと草木をかき分けさやか達のもとへ歩み寄る影がひとつ。
暗闇に加え、視力の悪い吸血鬼である隊長だが、その影がワイアルドよりも小さく、それどころか仁美たちと比べてもなんら遜色ないものであるのだけはわかる。

「これなら使いやすいし、拳銃のように反動を気にすることはなく撃てるから」

影が手を動かす度に、ぬちゅり、ぬちゅりと柔らかいものを掻き混ぜるような音がする。

「こうやって矢を回収しなくちゃいけないのは難点だけどね」

音が途切れるのとほぼ同じくして、雲は切れ月光が影を照らす。
照らし出された襲撃者を見た隊長は、思わず「へ?」と声を漏らした。
影の正体は、まだ幼ささえ窺える細身の少年だった。

少年、相場晄は感情の籠らない眼で隊長を見つめていた。


80 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:37:29 ZkS2LCig0





「お、お前が嬢ちゃんたちを殺したのか」

震える声で隊長は聞くが、相場は返答しない。
そんな相場に隊長は不気味ささえ感じていた。

普通、人を殺した後はなにかしらの感情が現れるものだ。
恐怖で動揺し涙を流したり。倒した喜びで笑みを見せたり。目的を達成した虚しさを覚えたり。
だが、相場からはそういった感傷は見られない。
まるで、彼はこの殺人にはなんの興味も持たず、その遙か先しか眼中にないようにすら見える。

そんな相場に恐怖を覚えた隊長は、どうにか逃げようと考えを巡らす。

ヒュンッ

風を切り隊長の額へと飛来するボウガンの矢。

「ギャアアアアアア!!」

とっさに庇った右腕に走る激痛に隊長の悲鳴があがる。
間髪入れずに放たれるもう一矢もまた、咄嗟に急所を庇った隊長の左腕に突き刺さり、またも隊長の悲鳴が響き渡る。

「...やっぱり、あんたは頑丈だ」

流石に赤い首輪だけはあると認識を改めた相場は、ボウガンをデイバックに仕舞い歩み寄る。


81 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:38:08 ZkS2LCig0

「ヒイイィィ...」

激痛に悶え転がる隊長だが、頭部に振り下ろされた相場の踵落としで動きを止められる。
隊長は苦悶の声を漏らすが、相場には関係ない。
まだこれだけ動けるようでは腕に刺さった矢も引き抜けないと判断した相場は、隊長が弱りきるまで殴打することにした。

相場が馬乗りになり、隊長の顔面に拳を振り下ろす。

「や、やべて」

いくら懇願しようが関係ない。
隊長の顔が醜く腫れようが関係ない。
彼の動きが弱まるまで、相場はただひたすらに拳を振りおろし続ける。
何度も、何度も、何度も。
やがて、悲鳴をあげるのも止め、ピクピクと痙攣するだけになった段階に来て、ようやく相場の拳は納まった。

「...これだけやっても、まだ死なないんだな」

隊長の首輪に触れ生死を確認した相場は、彼の腕から矢を引き抜き握り絞める。
狙いを定めるのは脳天。

(いくらしぶとくても、さすがにここを完膚なきまでに破壊すれば死ぬだろう)

躊躇いなどない。
相場は瀕死の隊長に向けて、矢を振り下ろした。

ザリッ

隊長の脳天に矢が刺さる寸前、背後から聞こえた地面を掻く音に、相場の腕は思わず止まる。
後ろにいるのは先程殺した少女たちの筈であり、少女たちと戦っていた化け物も戻ってくるにはまだ早いはず。
だとすれば、まだ微かに生きていたのか。
どちらが生きていようが、片や右目から脳髄を、片や後頭部から額にかけて弓矢が貫通した少女だ。
まともに動けない上に放っておいても直に死ぬのは自明の理。
しかし、確認せずにはいられないのが人間の性というものだろうか。
相場はその本能に逆らえず、無意識の内に振り向いていた。


「――――ッ!?」


相場は思わず息を呑んだ。
脳天を貫かれた少女は、血に濡れ脳漿を垂れ流し、それでも立ち上がっていたのだから。


82 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:39:16 ZkS2LCig0

ずるり、ずるりと身体を引きずり迫ってくるさやかに若干の恐怖を覚えた相場だが、しかしすぐに気をとりなおしデイバックからボウガンを取り出す。
まだ息があったのには驚いたが、今度はちゃんと殺せば問題ない。
さやかの額に狙いを定め、引き金を引く。
弓は再びさやかの額を貫き流れる血は地を濡らす。

だが、さやかは身体をぐらつかせるだけで倒れもしない。
それどころか、血走った目で相場を睨みつけている。

そして。

さやかは相場に跳びかかり瞬く間に距離を詰める。

「くっ!」

慌てて横に飛び抜く相場の脇をさやかが通り過ぎる。
もしもこの体当たりをまともに受けていれば、人間である相場は一溜りもなかっただろう。

「...!」

この時、初めて相場は焦燥した。
頭を貫かれて尚生きられる生物など想像もしていなかった。
さやかの殺し方が解らない以上、手持ちの最後の武器となるボーガンの弓一本だけでは心もとないにも程がある。

(俺はこんなところで死ぬ訳にはいかない)

相場が選んだのは逃走だった。
いまの手持ちの武器ではさやかを殺すことができない。
体勢を立て直し、殺せる準備を整えなければ。
逃走経路を確認するために相場は一瞬だけさやかから目を離す。
瞬間、相場の肩に走る激痛に、思わず前のめりに転げ落ちる。

それがさやかの剣だとわかると、痛みに耐え慌てて体勢を立て直した。

(あいつとの距離は転んだぶんだけ離れてる...剣を投げたのか)

さやかからは目を離さないようにじりじりと後退しつつ、いつ剣を投げられても躱せるように身構える。

(待てよ...なんであいつはとびかかってこない?)

あの一瞬、剣の投擲ではなく先程のように跳びかかられていれば相場は捕まっていた。
それだけではない。
いまこうしている間にも跳びかかれば相場に為す術はない。
彼女が自分を殺そうとしている以上、なにもしてこない理由はない。

(もしかして、跳びかからないんじゃなくて、跳びかかれないんじゃないのか?)

見た目にも彼女はかなり疲弊していることが窺える。そのため、もう跳びかかる力が残っていないのでは。
そこまで思考がいきついた相場は、後退していた足を速め、森に辿りつくと振り返りさやかに背を見せる。
剣が飛んでくるであろうことを予測し、しゃがみ込めば案の定投擲された剣が頭上を通り過ぎた。

(やっぱりだ。あいつはだいぶ弱っている)

さやかが弱っているならこれは好機だ。
この森林を利用し逃げ切ることができる。
それがいまうてる最善の策だ。

「...化け物め」

相場は、時折さやかへと振り返りつつ、忌々しげに唇を噛みしめた。


83 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:40:24 ZkS2LCig0



「......」

相場の予想通り、さやかにはもう相場を追う力は残っていなかった。
ワイアルドとの戦いで蓄積されたダメージやボーガンでの傷は魔法で大方は治療しているものの、ソウルジェムの濁りが増せば魔法の効果は鈍くなる上に疲労も溜まる。
相場に跳びかかったのと最後に投げた剣を精製した分で、さやかの肉体とソウルジェムは限界に近かった。
もしも相場が己の命惜しさに逃げ出さず立ち向かってきていれば、敗北していたのはさやかだろう。

(あいつがあたしを殺しにきても、どの道あいつは死んでたかもしれないけどね...ははっ)

さやかの魂はソウルジェムとして抜き取られており、これを破壊すれば死んでしまう反面、自分が死んだと認識しない限りは決して死ぬことはない。
もしも相場がソウルジェムの秘密に気が付けば話は別だが、あの様子では頭部や喉、心臓など人体の急所ばかり狙っていたことだろう。
そうなれば、魔力が尽きたさやかのソウルジェムはグリーフシードへと変わり、魔女となってあの少年を含む全てに呪いを振り撒いていた。

(...あいつが逃げたせいでご破算になったけど)

まだあの少年を殺せていないため魔女にはなりたくないし、まだぎりぎり余裕はありそうだが、もはや時間の問題だろう。
よろよろと隊長のもとに足を運び、そっと身体を持ち上げる。

(...ごめん。あたしがもっと早く回復できていれば)

もう動かない老人に、心で詫びをいれながら抱きしめた。
脳髄という重要器官を潰された上に疲労の溜まった状態での治癒魔法だ。
当然、行動できるようになるまで修復するまでには時間がかかってしまう。
だが、そんなものは言い訳だ。
さやかは間に合わず、そのために老人は死んだ。この事実が覆ることはない。

(おじいさん。仁美と一緒にあたしを助けてくれてありがとう)

「...ムグ」

パシパシと腕を叩く感触に、さやかは思わず呆けてしまう。

「む、むぐぐぐ(くるしい)...」
「おじいさん!」

さやかが抱きしめるのを止め、両手でその身体を持ち上げると、隊長はゲホゲホと咳き込みだした。

「ち、窒息するかと思った」

ハァハァと息を切らす隊長を見て、さやかは涙目になり再び抱きしめる。

「むがもごが(だから苦しいと)!」
「よかった...生きててよかった...」
「......」

明が再会する度に喜んでくれるように、自分の生存を喜んでくれる存在というのはやはり嬉しい。
涙ながらに自分を抱きしめる少女の温もりに、隊長はひとまず身を任せる。
自分の孫が明だとしたら、彼女はその娘、自分からしたらひ孫になるのだろうなとなんとなく思った。


84 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:41:34 ZkS2LCig0

やがて、さやかは隊長をそっと地面に下ろすと、彼に背を向けよろよろと歩き出した。

「なんじゃ?どうしたんだ?」
「...仁美を、埋葬してあげなきゃ」

重たくなる身体を引きずりながら、さやかは仁美の遺体の側に立つ。

(仁美が死んじゃうって思った時、ようやくあたしはわかったんだ。あたしはもっと仁美と向き合うべきだったって)

仁美はさやかを助けるために動き、さやかがそれを信じなかったから仁美は撃たれてしまった。
仁美が動いたのは、純粋にさやかを助けるため。敵意など微塵もなかった。
もしも、さやかが仁美を信じて動かなければあの矢は仁美の救いを待たずしてさやかを貫き、仁美が死ぬことはなかっただろう。
魔法少女であるさやかは撃たれても生きていた可能性は高いのだ。どちらが撃たれるべきだったかは、言うまでもない。

それだけではない。
再会した時に仁美から逃げなければ、ちゃんと言葉を交わし合い、喜び合うことができたはずだ。
そうすれば、仁美を疑うこともせず、共にまどかを探しにいくこともできたはずだ。

殺し合いに連れてこられる前もそうだ。
仁美は、自分に嘘をつきたくないと言っていた。
さやかは与えられた猶予を自分は人間ではないことを理由にフイにし、そのまま逃げ出し、嫉妬し、絶望に身を委ねていった。
さやかがするべきことはそんなことではなく、仁美をもっと信用することだった。
あの状況で恭介に告白する勇気が無ければ、己に燻っていた不満を話し、仁美ともっとぶつかり合うべきだった。
そんな程度のもので、二人の友情が壊れることは無いと信じるべきだったのだ。

(...ごめん、仁美。あたしが臆病だったせいで、助けてくれたのに、何にもできなくて)
「ここは目立って危ないから場所を移そう」
「...うん」

おそらく、この埋葬が最後の仕事になるだろう。仁美を埋葬し終えれば、後は隊長に迷惑がかからないところで魔女になってのたれ死ねばいい。
せめて産まれた魔女があの少年を殺して仁美の仇を討ってくれればと願うだけだ。
仁美と同じところにはいけないだろうが、もしも神様が許してくれるなら、その時は今度こそ―――


85 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:42:18 ZkS2LCig0

カラン

抱きかかえた仁美の遺体から、何かが落ちる音がした。

「え...これって」

落ちたものは、さやかもよく見覚えのあるモノ。
魔法少女の成れの果てであるグリーフシードだった。

なぜこれを仁美が持っていたかはわからない。

「そっか...そうだよね、仁美」

だが、さやかにはこれが仁美の意思だと思えて仕方なかった。

「まだ、あの子がここに連れてこられてる。なら、こんなところで死んでる暇なんて、ないよね」

さやかの脳裏によぎるのは、さやかと仁美の親友である鹿目まどか。
あそこまで醜い姿を見せても、さやかを見捨てようとしなかった優しい子。
きっとこのグリーフシードは、仁美からの激励だ。諦めるな、彼女を助けて、と。

(あたしはどんなことをしてもまどかを助ける...だから、どうか見守っていて...)

グリーフシードでソウルジェムを浄化し、さやかは心中で誓った。


なんとも自分に都合の良い妄言だ、茶番だと笑う者もいるだろう。
確かに偶然が重なっただけのことかもしれない。

馬鹿にするなら勝手にすればいい。彼女達はきっとそう断言するだろう。
美樹さやかは志筑仁美との友情を取り戻し、志筑仁美もまた友情に殉じることができた。
それを彼女たち自身が否定する理由などどこにもないのだから。


86 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:44:10 ZkS2LCig0

【G-3/崖/深夜】

【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】
※西山特製の網バズーカ@彼岸島(仁美の支給品)は弾が切れた状態で放置されています。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意
[装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢
[道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:危険人物を排除する。
0:どこか落ち着いた場所で仁美を埋葬後、これからの行動を決める。
1:まどかとマミとの合流。杏子、ほむらへの対処は会ってから考える。
2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。
3:マミには何故生きているのか聞きたい。

※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。



【隊長@彼岸島】
[状態]:疲労(大)、出血(大)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢
[思考・行動]
基本方針:明か雅様を探す。
0:どこか落ち着いた場所で仁美を埋葬後、これからの行動を決める。
1:明か雅様と合流したい。
2:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。

※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。


87 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:45:28 ZkS2LCig0


痛む右肩に耐えながら、相場は森林を駆け抜ける。

相場晄が最初にこの殺し合いに抱いた感想は「これでは春花と一緒にいられない」だった。
相場晄は野崎春花を愛している。はにかむと可愛く、厳しい冬を耐え抜いた雪を割るようにして小さい花を咲かせるミスミソウのような彼女を愛していた。
これは一方的な愛ではなく、彼女もまた相場晄を受け入れ愛している。少なくとも相場はそう信じ込んでいる。
相場には彼女が必要だったし、彼女には自分さえいればそれでいい。そう、信じ込んでいる。
しかし、こんな殺し合いに巻き込まれてしまっては、春花を守ることができなくなってしまうではないか。
ふざけるな。俺は彼女を護ると約束したんだ。
殺し合いなんて俺と春花以外のウチのクラスメイトを呼んでやっていればいい。真宮や池川なんかは喜んで参加者を殺していくだろうに。
そんなことを考えつつ相場は参加者の名簿を確認した。

名簿を見た時は目を疑った。
参加者の中には相場の愛する野崎春花の名も連ねられていたからだ。
彼女と殺し合いをするなど絶対に嫌だ。
そう思ったが、しかし相場は主催の語ったルールを思い出す。

『赤い首輪の参加者を殺せばゲームクリア』

このルールでは、優勝者以外の人間も生還させることができる。
それを理解するのに時間はかからなかったし、理解した時にはこれをむしろ好機と考えた。
この殺し合いで春花と共に生還すれば、春花はますます自分への信頼と愛を深め、自分無しで生きることを考えなくなる筈だ。
この殺し合いに呼ばれているらしい春花の妹も、春花にバレないように始末できれば尚更いい。
そうすれば、死にかけの妹や老い先短い祖父などではなく、きっとこの相場晄を求めるようにだろう。
この瞬間、相場晄は野崎春花のために殺せる者は殺していく方針に定めた。

その方針に従い、一番最初に見つけた隊長を狙撃し、ワイアルドとの戦いを観察し隙を窺い、志筑仁美たちを襲撃したのだ。
初めての殺人だったが、春花を守るためならどうともなかったし、心が痛むこともなかった。

彼の唯一の誤算はさやかの怪物染みた生命力だ。
あそこで始末できれば一番良かったが、最終的な目標は自分と春花の生還のため、無理をして自分が死んでしまえば元も子もない。
そのため、さやかの始末よりもこうして逃走を選んだのだ。


88 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:47:26 ZkS2LCig0


(俺には、まだ殺す手段が圧倒的に足りない)

肩に刺さったはずの剣は、数分ともたずに消えていた。
これで残りの武器はボウガン一発だけ。
戦力不足なのは語るまでもないことだ。

今回の戦いで思い知った。
赤い首輪の参加者を殺すには、手軽な武器だけでは駄目だ。
情報や戦力など、もっと準備が必要だ。

(待っててくれよ、野崎。俺は必ずお前を守るから)

彼が進む先は真っ暗闇の森の中。
しかし彼が怯えることなどありえない。
相場晄の愛はこんなものより暗く深いのだから。


【G-3/森林/深夜】

【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
1:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
2:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
3:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
4:カメラがあれば欲しい。


※参戦時期は18話付近です。


89 : Decretum ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:48:20 ZkS2LCig0


その頃、ワイアルドは未だに西山の網に捉われもがいていた。


【G-3/崖の下/深夜】

【ワイアルド@ベルセルク】
[状態]:背中にダメージ(小)、車の衝突のダメージ(小)、西山の網が絡まっている。
[装備]:
[道具]:金属バット@現実、基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: エンジョイ&エキサイティング!
0:まずはこの網を外す。
1:鷹の団の男(ガッツ)を見つけたら殺し合う。
2:さっきの奴ら(隊長、さやか、仁美)を見つけたら遊ぶ。

※参戦時期は本性を表す前にガッツと斬り合っている最中です。


90 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/23(水) 02:50:03 ZkS2LCig0
投下終了です。

続いて、ガッツ、野崎祥子を予約します。


91 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/23(水) 15:59:17 ZOLrDkUQ0

予約&力作の投下ありがとうございます!
隊長硬ェ!吸血鬼とは思えないほど良い人だけど赤首輪だから命狙われそう。
さやかを娘のように思ってるのもほのぼのしてて良いですね。
ワイアルドは恐ろしいやつだけど慢心しすぎて不幸にも黒塗りの高級車に衝突w。対する相場くんが人間なのにある意味ワイアルド並にイカれてるのが怖い。
仁美ちゃんに合掌。

『スノーホワイト』『ゆうさく』『スズメバチ』予約します


92 : 名無しさん :2016/11/24(木) 00:02:17 2jFQnB/U0
投下乙です
本編ではすれちがったままだった二人でしたが今回もあと一歩でつながった手が無情にも離されてしまった
いきなりの激戦で今後の展開を大きく左右しそうです

そしてさっそく危険な予約
こちらもきなくさいものを感じずにはいられません


93 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:39:43 EDvvMYS.0
投下させて戴きます。


94 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:41:01 EDvvMYS.0
吉良吉影、33歳独身。
仕事は真面目で卒なく熟すが今ひとつ情熱の無い男。
なんかエリートっぽい気品漂う顔と物腰をしている為女子社員にはモテるが
会社から配達とか使いっぱしりばかりさせられている。
悪い奴ではない(大嘘)がこれと言って特徴の無い影の薄い男…だった奴だ。

今はとある理由で川尻浩作という人間の顔と指紋と戸籍を乗っ取って過ごしている。
戸籍とか色々やったは良いが、その元の男。妻子持ちで出世欲の高い男だった。
という訳でありまして妻とは仲良くやっている。
子供との仲は敢えて言わないでおこう。


…で、そんな一般人が目を覚ますと家の屋上に居た。
軽く頭が痛い。
そんな思いをしながら彼は直前に起こった事に関して思い起こす。

1999年7月15日。私はいつも通り出勤した。
すると突然意識が飛び…見知らぬ場所で目が覚めてそこで男に殺し合え、と言われた。
そしてまた意識を失い、気付けばここに居た、という訳だ。


周囲を見渡す。どうやら町に飛ばされた様だ。杜王町では無いどこか。
こんな住宅の密集した場所は東京ぐらいしか無いのではないか、と思えばふと変な物が目に入った。

コップに入った液体。
恐らく紅茶か、丁寧に氷まで入れてある。

だが殺し合え、なんて言われたのだ。もしかしたら毒でも仕掛けられているかもしれない。

彼はそれを見なかった事にした。


95 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:41:51 EDvvMYS.0
次にデイパッグの中身――支給品を確認する。

中身は良く分からない地図と、名簿と、うまい棒と、缶コーヒーと、背中に鍵の付いた亀。
支給品と言いながら亀…とは。
もしかしたらコイツもスタンド使いなのかもしれないが一旦は保留。
そして名簿を一応見ておく。
一応、東方仗助や虹村億安といったイヤなヤツが居ないか…という心配からだったが、案の定ヤツはそこに居た。
空条承太郎。物凄く重い拳を放ってきたスタンド使いだ。
私の事に気付いている恐れがある。しかも、私の名前は『吉良吉影』として記載されている。

クソッ…忌々しいな…
だがそれも束の間。別の感情が増幅してきたのだ。


怒り。
自分から平穏を奪ったあの男への怨みだ。

しかし怒りに身を任せるのは良くないのは経験上分かっている。
一旦冷静になってみる。
そして一言。

「キラークイーン!」

嘗て自分を窮地から何度も救ってきた自身のスタンドの名を呼ぶ。
そして無から有が。無機質な屋上に桃色の人型のナニカが。

元からそこに居たかの様に現れた。


一応キラークイーンは出せる様だ。シアーハートアタックもちゃんと搭載されている。
これを使えばあの男も殺せるだろう。

…が、興味深い事も言っていたな。
『赤い首輪』をしている奴を殺せばそれだけでゲームクリアだと。
つまりそういう奴等を殺せばこんな場所からはおさらば、晴れて平穏な暮らしに戻れるのだろう。


そう考え――嗤う。
こんな事、別に屁でも無いじゃないか。
賞金首なんて私のキラークイーンに掛かればどうと言う事も無いのだ。


「シアーハートアタック!」


屋上から下の階へ続く階段から無差別な暴力を発進させる。


美しい手を持つ女を見掛けたら自分の物にしよう、という考えを持ちながら、
連続殺人鬼は意気揚々と他人の家の屋上で顔を愉しみで歪めていた。


96 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:43:23 EDvvMYS.0
だがそんな笑みも次の瞬間、いとも容易く崩れてしまった。
突然放たれた風切音に吉影は後ろを振り返る。

そこに向かって来たのは投擲されたであろう針。
だが制御が少し甘かったか、少し体を反らすだけで軌道は近くの格子に阻まれる。
鈍い音を出して針は地面に転がった。


「そこで何をしている?」


聞こえたのは女の声。恐らく二十歳行ったか行ってないか、と言った所か。
だが知っている声では無い。

また針が投げられる。今度はどストレート。
だが今回は軌道を最初から見ていた。
ここは…と思い、彼はキラークイーンの腕を相手に見えない様に出し、飛んできた針を掴む。

そして振り被り――投げた。
高速で針は飛び、女の声のした方角へと真っ直ぐ伸びる。
が、すんでの所で壁に阻まれる。キラークイーンの能力によって壁は爆発したが、女の姿が見えるまでには至らない。

しかし思ってみれば、不可解な点がある。
…殺意を抱かれる事は何もしていないのだ。


否。一つだけあったではないか。
この殺し合い、とやらで最後の一人になろうとしているのだ。
私みたくスタンドを持っている訳では無い奴に『赤い首輪』とやらの相手は出来ないだろうしな。


しかし私を狙うとはつくづく運の無い女だ。
醜い心を捨てて、私と清らかな心を持って接して貰おうか…

彼はすぐさまコップの中にあった氷を手に取る。
敵が顔を出してきた瞬間にコレを爆弾化。そして近くまで投げて点火。
至ってシンプルな計画。
顔を綻ばす。


だが彼の耳に想定とは別な答えが返って来る。


「うむ、流石だ。これなら過不足無いだろう。」


…男の声。
それは吉影に少しの間の混乱と苛立ちを与えるのであった。


97 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:45:27 EDvvMYS.0
少し時間を戻そう。
吉影がデイパッグの中身を確認している時には既に、もう一人屋上に居たのだ。
その人物の名前は如月左衛門。
この場所では驚かれるだろうが、彼は忍である。


甲賀に属する彼は、伊賀との両門争闘の禁が破られて以来、殺し合いの渦に巻き込まれていた。
仲間は日に日に敵によって殺され、左衛門自身もコンビで倒した者も含めて4人殺している。
そして今や3対1(厳密には天膳は生きていたから3対2なのだが)となり、こちらの勝利はほぼ確定だと思っていた最中、
また別の殺し合いの場に呼び出されてしまったのだ。

吉影が名簿を眺めている間、彼も名簿を眺めていた。
知っている人物は4人。
甲賀弦之介。陽炎。朧。

…そして、死んだ筈の薬師寺天膳。
弦之介の叔父である室賀豹馬によって殺された筈の人物。
それが何故ここに?


と言うか自分は伊賀の朱絹を殺し、橋の上から落としたのでは無かったのか?
気付いたら変な場所でまた殺し合え、等と言われ挙句の果てに石造りの建物ばかりの見知らぬ場所に飛ばされた。
しかも天膳の衣を身に纏っていた筈だがいつもの姿に戻っている。
疑問は浮かびっぱなしで決して消えない。

ふと、筑間小四郎を殺した辺りで聞いた言葉を思い出す。
「余程の事が無い限り、天膳殿は死なぬ」…だったか?記憶が曖昧だ。
でも意訳した時にそんな感じなのは覚えている。

つまり、薬師寺天膳の能力は『不死である事』なのでは無いだろうか?
流石に非常識だがそれなら合点が行く。…まだ分からない事は多いが。



さて、彼も吉良吉影のキラークイーン宜しく能力を持っている。
だがそれは決して戦闘に適した能力では無い。

「顔形、声色をどんな相手にも自由に変化させる」

それが彼の能力だ。


故に相手の油断を突いてその隙に殺す、という手段しか取れないのだ。
知らない者の多い場所では相手の知っている人物に変化するなんて殆んど出来ないと言っても過言では無い。
一応針、しかも毒針が数十本支給されていたがそれでは事足りないだろう…
その考え故に、彼はコンビを組む事を考えた。


彼の第一目標は『赤い首輪』の人物を殺して元居た場所に帰る事。
案外弦之介殿や陽炎は楽にそれを成し遂げそうだ。
朧…は殺し合いに参加している身、しかも伊賀の人間だが一応弦之介殿の許嫁である。
見掛けたら守る、程度の事はしておいた方が良いだろう。

まぁ兎も角、『赤い首輪』の人物を殺すにはコンビを組んでやるしかない。
それが左衛門の考えであった。


98 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:47:07 EDvvMYS.0
さて話を現在に巻き戻す。
左衛門は目の前に居た男とコンビを組もうと思い立った。
幸い、首輪の色は赤では無い。

…だが、そのコンビを組もうとした相手がもし弱かったらと考えた結果、彼は毒針を投げる事にした。
そして色仕掛けで軽く落ちる奴もコンビを組むのに相応しくない、と思い一発目の投擲後は敢えて女の声で相手の動向を伺った。
回りくどいが、それでも彼にはやっておく意義を感じていたのだ。

結果は左衛門として見れば良好。

何せ吉影とは悶着も無く、情報交換に移る事に出来たのだ。


だが左衛門は吉影に若干殺意を抱かれたり、顔・声を変える能力に若干の興味を抱かれながらの同行となってしまっている。
しかも吉影には自分の能力を教えて貰えない始末。
だが左衛門は、それが何かまでは分からないが彼に何かしらの能力があるだろうという事に薄々感じていた。





だが努努忘れる事なかれ。
屋上で二人が会話している間も、無差別な暴力は動き回っていたのだ。

それはその屋敷に居た3人目の参加者に牙を剥く。
その3人目は何を隠そうその家の主。
野獣先輩と呼ばれる男であった。


99 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:48:37 EDvvMYS.0
所で、このゲームに参加させられたのは水泳部の「田所」でもなく柔道部の「鈴木」でも無く『野獣先輩』なのかを彼の動向の前に語っておくべきであろう。
水泳部の「田所」はこの吉影や左衛門達の居る家の主であり、「BABYLON STAGE 34 真夏の夜の淫夢 〜the IMP〜第四章『昏睡レイプ!野獣と化した先輩』」の登場人物である。
また、柔道部の「鈴木」は後輩に自分の股間を凝視された、「Babylon Stage27 誘惑のラビリンス 第三章『空手部・性の裏技』」の登場人物である。
では野獣先輩とは何か?


正解は、これらホモビ作品に出演したとある男優の偶像である。
だからこそ彼は「田所」でもあり「鈴木」でもある。
GOとは違い、多大な信仰を集めている訳では無いが、それでも信仰されてはいる神の一柱と考えてもらおう。

死亡説が流れてるという事は神に上り詰めたと同義、と言っても過言では無い。


以上内容より、彼は「出演作品」という神話を基に自分の性質を創る事が出来る存在である(適当)


まぁまずは例を挙げてみよう。
例えば彼の作中のセリフの中に「白菜かけますね〜(意味不明)」という物がある。
これを基に野獣先輩が明確な意思を持って神話を創る。
先程のセリフより『野獣先輩が白菜を無から想像して垂れ流す事が出来る説』が生まれ、その性質が新たに野獣先輩に加わる。
因みに都合の良い時だけその性質を得る事が出来るが、明確な意思を持たなければ神話を作り出す事が出来ない。
これもう分かんねぇな。


100 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:50:34 EDvvMYS.0
あっ、そうだ(池沼)
下北沢の野獣邸が何故こんなところにあるのかは気にしてはならない(戒め)
と言うか彼は殺し合いに参加させられている、という緊張感が無いまま自宅に居た。
支給品をロクに確認もせずに、彼はデイパッグの中から一枚の写真があるのに気付くとすぐさま取り出す無能っぷりである。

その写真は支給品であった。
一般通過爺では無いものの、そんな風貌もしなくも無い人物が写っている。
だがそんな事は彼には一切関係無い。
ただオカズになるかならないかの話だ。


「2ヶ月…だいぶ溜まってんじゃんやばいじゃん…」


実際彼は2ヶ月溜まっていた。
だから、写真を見るや否やズボンを下げる。


「勃ってきちゃったよ…(ご満悦先輩)」


今まさに出そうな時であった。


「そんな汚い物ワシに向けるな!」


それは老人の声。一般通過爺にセリフは無い。
野獣先輩は首を傾げるが、不可解な声は続く。


「だからそこのお前!写真だからと言えそんな汚い物を向けるな!」


そこには写真からまるで3Dの様に浮き出た老人の姿。
その老人は野獣先輩の方を睨み付けている。


「ファッ!?」

「何じゃ驚嘆な声上げて…しかしお前は誰だ?
 仗助の仲間か?それとも…吉影を知っているのか?」

「24歳、学生です。でも仗助とか吉影とかいう名前はちょっとわかんないですね…
 で、アンタの名前は?」

「ん、あぁワシか。吉良吉廣…まぁ幽霊という奴じゃな。」

「幽霊…ま、多少はね?」


見れば野獣先輩は体を震わせていた。
怖がるのは女の子の特権。良いね?


101 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:52:07 EDvvMYS.0
刹那、けたたましいキャタピラの音が屋敷の中に響き渡った。
野獣と吉廣は途端に振り向く。
「神を呼び捨てにしても良いのか?」という野暮な事は敢えて言わないでおこう。

そこにあったのは緑色をした玩具の戦車の様な何か。
だが銃砲が付いていない代わりに顔が付いているのを見ればそれが亀だと思えても可笑しくない風貌もある。


「コッチヲ見ロォォ!」

「いいよ、来いよ!胸にかけて胸に!」


野獣は咄嗟にその何かに近付く。
どうやら彼は亀と見間違えてしまっている様だ。
だがそれは亀ではない。
かと言って戦車でもない。
それは熱を自動追尾する小型爆弾、シアーハートアタックその物であった。


吉廣はその小型爆弾を見るや否や息子・吉影のスタンドだと気付いた。
その標的が野獣に向かっている事も。だが一般人に所詮スタンドなど見えないのだ。
このまま彼は爆死して死体すら残らない…

いや待て。野獣はまるでシアーハートアタックにこっちに来いと言っている様では無かったか?
彼の結論は一つ。
――この男はスタンド使いである。
この男はクソッタレ仗助らの事を知らない様であった。場合によっては鋼田一豊大の様に刺客として差し向ける事も出来たに違いない。

しかしそれも遅い。
何故なら彼は爆死する。シアーハートアタックの攻撃は一部例外こそあれど絶対だ。
吉廣はこれから死ぬだろう野獣に向けて合掌する。
幽霊が死人を労わるってもうこれ分かんねぇな(諦め)



そして辺りに強烈な爆発音が響き。
野獣邸の一部がニコニコ本社の様に爆発した。

やったぜ。




屋上に居た吉影と左衛門はその音に気付く。


「な、なんだ!?火薬が炸裂した様な音だったが…」

「今屋敷の中に『とある物』を放っている…
 それが今この屋敷の中で誰かに攻撃を行った、とだけ言っておこう」

「…一体それは何の術なんだ?」


その質問をした瞬間吉影は黙った。
どうやら彼の秘密にしておきたい事なのだろう。
…が、それと同時に左衛門は自分がコンビを組んだ人間の強さを強く実感するのであった。


102 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:53:20 EDvvMYS.0
その爆発。
それは吉廣に吉影が近くに居るだろう事を伝えただけでは無かった。
スタンドエネルギーによって起きた爆発による煙の揺らめきの中に、動く何かがあった。


「クゥーン(仔犬)」


その声が聞こえた瞬間、吉廣は戦慄した。
それはシアーハートアタックの攻撃を喰らって死んだ筈の野獣の姿。
所々体が煌き、目にはサングラスらしき何かを付けていた。


これまた彼の能力なのだが、「SCOOOP!!!1 - Virtual Sex イカせ隊見参!!!」というCDで銀粉が体に満遍なくかかった状態の野獣が出演している。
この事象より、彼は爆発寸前にギリギリで『野獣先輩サイボーグ説』を生み出した。
そのお蔭で彼は九死に一生を得たのだ。

因みにJO↑JO↓世界では爆死したのにサイボーグとなって蘇った登場人物が居る。
彼の存在が無かったらもしかしたら野獣は死んでいたかもしれない。
よってこの偶然を引き起こしたであろうGOは神である。Q.E.D.


更に彼は「SCOOOP!!!1 - Virtual Sex イカせ隊見参!!!」での「クゥーン(仔犬)」というセリフより『野獣先輩嗅覚優れている説』を生み出した。
そこから彼は攻撃主を探す。
人の匂いが屋上の方向に2つ。
彼はシアーハートアタックから逃亡しつつ吉廣に声を掛ける。


「この屋上にィ、多分この爆弾放ってきた人、来てるらしいっすよ。
 じゃけん今すぐ行きましょうね〜」

「面白いヤツじゃな、気に入った…」


参加者と支給品の幽霊は屋上へと向かう。
一人は攻撃主をブチのめす為に。
一枚は愛しの息子に会う為に。
だが2人とも気付いて居ない事があった。

吉廣は今現在バトルロワイヤルが起こっている事。
そして、実はこの会場内ではスタンドに制限が掛かっており、一般人も平気でスタンドが見える為に野獣がスタンド使いで無い可能性が高い事。

そして野獣は自分の首輪が血より緋い色をしている事。


彼等を屋上で待ち受ける運命とは果たして。


103 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:53:54 EDvvMYS.0
【E-5/住宅街(下北沢) 野獣邸屋上/黎明】

【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:少し苛立っている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×1、ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出
1:如月左衛門、という奴と同行。秘密を知られたら殺すが今は頼れる味方だ。
2:こんなゲームを企画した奴はキラークイーンで始末したい所だ…
[備考]
※参戦時期はアニメ31話「1999年7月15日その1」の出勤途中です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。

【如月左衛門@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:特筆点無し
[装備]:甲賀弾正の毒針(30/30)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出
1:吉良吉影という男と同行。この男、予想以上に強いのでは…?
2:甲賀弦之介、陽炎と会ったら同行する。
[備考]
※参戦時期はアニメ第二十話「仁慈流々」で朱絹を討ち取った直後です。
※今は平常時の格好・姿です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。


【E-5/住宅街(下北沢) 野獣邸地下室/黎明】

【野獣先輩@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:背中の皮膚に少し炎症
[装備]:吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:気の向く(性欲を満たす)ままに動く
1:じゃけん屋上行きましょうね〜
2:なんだこのおっさん!?(驚愕)
[備考]
※(特に)ないです


104 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:54:30 EDvvMYS.0
※補足

・野獣邸
安定のリスポーン地点。こ↑こ↓
キッチンに催眠薬が置いてあったり、屋上にアイスティーが2つ置いてあったりと主催は用意周到である。
地下室の設備も本編そのまま。
使用されてない催眠薬が置いてあるのに置いてあるアイスティーの一方には催眠薬が入ってるとかこれもう分かんねぇな
もしかしたら近くにあずま寿しがあったりするかもしれない。


・ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険
第五部に出てきたスタンド使いの亀。スタンド名「ミスター・プレジデント」。
吉良吉影に支給された。
背中に宝石が付いており、そこに触れると亀内部にある部屋に引き込まれる。
部屋の中は原作通り、テレビもクローゼットもソファもある。
何故か床に排泄物を捨てる為にブチャラティが開けたジッパーが残っている。
因みにスタンドの能力としては
破壊力:E スピード:E 射程距離:E 持続力:A 精密動作性:E 成長性:E。


・甲賀弾正の毒針(30/30)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
バジリスクの登場人物、甲賀弾正の主な武器。
如月左衛門に支給された。
先端に塗られている毒の種類は不明だが、恐らく強い。少なくとも遅効性では無いだろう。
因みに本編中ではこの針によって2人死んでいる。
そんな物が30本の束になって支給された、という訳だ。


・吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険
第四部に出てきたとある写真。
野獣先輩に支給された。
吉良吉廣という人物は息子の吉影が21歳の時に癌で病死している。
しかし、スタンド能力で幽霊として顕界に留まっている訳の分からない人物なのだ。
そんな彼が仗助達に吉良邸を捜索された際に、なんやかんやあってとある写真に居続けている。
そしてその居続けている写真が支給された、という事である。
吉廣と会話する事も可能。
因みに写真の中に『スタンドの矢』と携帯電話を隠し持っている。
スタンドの能力云々については自分で調べて、どうぞ


105 : ◆kdRUj5e.eA :2016/11/24(木) 21:56:01 EDvvMYS.0
これにて投下を終了させて戴きます。
後、タイトルを忘れていましたがそれにつきましては「一天四海の星彩」でお願い致します。


106 : 名無しさん :2016/11/25(金) 22:42:23 ffmh6qc.0
投下乙です

てっきりビルの屋上か何かかと思ったらまさかホモビ会社の屋上とは思いもしませんでした
下北沢が着実に広がっていっていますね

左衛門は上手く吉良との同盟を成功させましたがいきなりそれが活きる展開になりそうです
忍者と殺人鬼、そして性犯罪者の出会いで果たして何が起こるか


107 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:48:10 /ZG641eg0
投下します


108 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:49:57 /ZG641eg0
夢を...夢を見ていました。
夢の中のあの人は、独りぼっちで泣いていました。
大切な人達のために、泣き、怒り、けれど誰にも頼らず孤独に身を沈めていきました。
私はあの人の名前を何度も呼びました。
けれど、あの人に私の声は届きません。どれだけ手を伸ばしてもあの人には届きません。

そして、あの人は独りで―――

神様、どうかお願いします。
わたしの大好きなあの人を助けてください。


109 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:50:58 /ZG641eg0



寂れた商店街の交通路。
小さなスーパーマーケットのガラスの前で、野崎祥子は信じられないものを見たような顔で立ち尽くしていた。
ぺたぺたと顔を触り、感触と共に確かにこれは自分のものだと認識する。

野崎祥子は、家を家族諸共焼き討ちされた。
皮膚も、髪も、以前の面立ちは見る影もないほどに焼けただれ、全身に包帯を巻いたままずっと病院のベッドで過ごしていた。
その病院の記憶も、寝たきりで辛うじて生きていただけの彼女にはほとんどない。
己の肌を見たのはいつ以来かもわからない。

(あたし...戻ったんだ...!)

けれど、いまこうして彼女は五体満足で立っている。
後遺症や傷一つなく、ここにいる。
その事実だけは、泣きたいほどに嬉しいことだった。

だが、側に置かれた支給品と首に巻かれた首輪が、ここは殺し合いだという現実に引き戻す。
名簿には、姉の春花の名も連ねられていた。
身体を元に戻す代償に彼女と殺し合えというのか。
絶対に嫌だ。
そんなことをするくらいなら、迷わずあの見るに堪えない火傷姿に戻るのを選ぶだろう。
赤い首輪の参加者を殺せというのも従う気にはなれない。
一度死に瀕したからこそ、命を奪うという意味がよくわかるから。

(早くお姉ちゃんを探さなくちゃ)

とにもかくにも、まずは春花と合流しよう。
当面の目的を決め、歩き出そうとしたその時だ。


ゴリ、ゴリ。

なにかを引きずる音。少し遅れてカチャカチャと金属音が祥子の耳に届く。
ビクリ、と肩を震わせる祥子だが、そんな彼女にお構いなしに音はカシャンカシャンと近づいてくる。
やがて音は止まり、ひとつの巨大な影が祥子へと覆いかぶさる。
祥子は、肩を震わせつつもゆっくりと振り向いた。

「聞きたいことがある」

背後に立っていたのは、隻眼の黒い亡霊だった。


110 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:51:20 /ZG641eg0



男、ガッツはこの殺し合いに対して苛立っていた。
傭兵くずれの経験もある彼にとって、殺しは日常茶飯事であり忌避すべきものでもない。
しかし、いつの間にかこのような首枷をつけた上にグリフィスを探しだし殺す旅の邪魔をされたのは非情に腹立たしかった。

そんな苛立ちを我慢しつつガッツは参加者の名簿に目を通した。
彼を待ち受けていたのは驚愕。
何度か遭遇している使徒『不死のゾッド』がいるのもそうだが、それ以上にだ。

「ロシーヌとワイアルド...だと?」

ロシーヌとワイアルド。共に使徒であり、ガッツも剣を合わせたことがある。
しかし、両者とも、特にワイアルドは死んだのをガッツのみならず大勢の人間が目撃した。
なぜ奴らがこの名簿に記載されているのか?どうやって生き返らせたのか?
気にかかることは山ほどある。

(...いや、んなことはどうでもいい)

だが、それで彼という男が止まる理由にはならない。
彼の目的は使徒を殺し、鷹の団を裏切ったグリフィスも殺すこと。
死んだ筈の使徒が生きているというのなら、再び殺せばいいだけの話だ。
やるべきことは変わらない。
これまで通り、武器を振るい憎き奴らを殺すだけだ。

一歩。また一歩を踏みしめる度に身体に蠢く獣が囁いてくる。
前へ踏み出せ。憎しみを燃やせ。奴らを殺せ。

ああ。ああ。云われるまでも無い。
怒りも憎しみも殺意も決して忘れてたまるものか。

与えられた支給品を引きずり、気配を隠すことすらなく、男はただその足を愚直に進める。


どれほど歩いただろうか。
やがて見つけたのは小さなひとつの影。

ハッキリとは見えないが、背丈や身体つきからして子供。
そういう外見に化ける使徒もいるため油断はできないが、烙印が疼かないため少なくとも奴らではないだろう。
無視するか。いや、万が一にもこの殺し合いか使徒共の情報を得られる可能性があるならば捨てる意味は無い。

やがて、はっきりと互いが認識できる距離まできて、影は振り向いた。
その正体は幼い少女だった。
明らかに怯えている様子だが、さてどう声をかけるかなどと悩むほど彼はお人好しではない。
知りたいことは最低限に迅速に。その方が互いのためになる。

「聞きたいことがある」

そう口を開いたガッツに、少女はまたしても怯えるように肩を震わせるのだった。

(別にとって食おうって訳じゃねえんだがな)


111 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:52:14 /ZG641eg0



「牛みたいな化け物か犬みたいな化け物か虫みたいな化け物を知らねえか?」

ガッツの問いに、ふるふると首を横に振る祥子。
その返答を聞くなりガッツは「邪魔したな」と一言だけ詫びをいれて再び歩き出す。

「ま、待って」

通り過ぎようとしたガッツをしかし祥子は呼び止める。
高い背丈にガッシリとした体格の強面の男。
祥子にとっては恐怖の対象でしかなかったが、危害を加えずそのまま立ち去ろうとする様から、悪い人ではないかもしれないと彼女は思い直した。
見るからに強そうな彼なら、一緒にいてくれれば心強いかもしれない。
そんな想いで祥子は声をかけたが。

「俺が会ったのはお前が初めてだ。だから、誰か知らねえかって聞かれても何も答えられねえ」

聞く耳も持たないというべきか、ガッツは振り返りもせず足も止めない。
そのまま、祥子を置き去りに前へと歩を進めていく。
祥子はそんなガッツを追うことはできない。
ただでさえ人見知りの気がある少女だ。
強面の男に拒絶されれば、追う術を持たない。

これで、少女と男の邂逅は大した意味も無く終わる。

「...そうか。ここでもそうなのかよ」

はず、だった。


112 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:53:01 /ZG641eg0

バリン。

突如、ガッツの前方の民家のガラスが割れ、中から黒いなにかが転がり出てきた。
祥子はひっ、と喉を鳴らし思わず腰を抜かしてしまう。

ガラスを突き破ってきたのは、人―――いや、獣。
違う。その両方。
人と獣の身体を有する幽鬼、トロールだ。

睨み合うガッツとトロール。
じりじりと距離を詰めていくトロールに対し、ガッツは微動だにしない。
トロールがピタリと足を止めると、訪れるしばしの静寂。

先に動いたのはトロール。
家屋の壁を蹴り、跳躍しガッツへと迫る。
降りかかるトロールに、並の人間ならば恐れおののくだろう。
だが、彼は違う。
一切退く素振りさえ見せずに、左拳を振るう。
リーチの長さではガッツの方が上。
メキリ、という音と共にトロールの鼻に鉄に包まれた拳が減り込み吹きとばす。

地面をいくらか跳ねると、トロールは体勢を立て直し再びガッツと睨み合う。

「そうじゃねえだろ。テメェらはよ」

突如、トロールは雄叫びを上げる。数瞬の木霊の後に、ざわざわと殺気が立ちこみ始めた。

「そうだ。テメェらはそうでなくちゃな」

ぞろぞろと四方から姿を現すトロールの群にも、ガッツは微塵も怯まない。
どころか、口角を吊り上げている始末だ。

(いつものことじゃねえか)

トロールが一斉に跳びかかる。
その様はまさに押し寄せる悪魔の軍勢。
だがガッツは物怖じしないどころか笑みさえ浮かべていた。


113 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:53:32 /ZG641eg0

(剣を振るって、群がるバケモノどもを殺す)

ガッツは、手にしたそれを握り絞める。

(奴らに剣を振るっている間は、何もかも忘れて憎しみに全てを委ねることができる)

そして。

ゴ ッ

ガッツがソレを振るうと、トロールたちは一様に吹き飛ばされた。

「中々どうして、おあつらえ向きのモンじゃねえか」

―――それは、木材というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして丁寧に切りそろえられていた。

それはまさに丸太だった。


吹きとばされた同朋の仇を討つたずにはいられぬとでもいうのか。
トロール達は絶え間なくガッツに襲い掛かる。
ガッツは臆することなく、ただただ丸太を振るい、薙ぎ払い、叩き殺し、押しつぶす。

「こいつはイイ丸太だな」

男は嗤う。
まるで狂った玩具のように、商店街を朱に染め上げていく。


114 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:54:08 /ZG641eg0


祥子は、未だに腰を抜かして動けなかった。
恐い。
トロールもそうだが、それ以上にあの丸太を振るい血に濡れていくあの男が。
なぜ、あそこまで躊躇いなく殺せるのか。
なぜ、笑みさえ浮かべているのか。
恐い。悪魔のように丸太を振るうあの男が。
彼から伝わってくるどうしようもない憎しみが。

(...でも)

祥子は、そんなガッツにどこか既視感を覚えていた。
どうしようもない悲しみや怒り、憎しみなどの負の感情を抱え、壊れていったあの少女に。
今際のきに夢で見ていた己の姉、野崎春花に。

(お姉ちゃんを助けてくれる人は誰もいなかった)

春花はなにも悪くなかった。
ただ転校してきただけなのに。ただどんなに酷いイジメからも耐え続けてきただけなのに。
彼女は全てを奪われた。
神様は、優しい彼女を救おうとはしてくれなかった。

(あの人も、誰も助けてくれなかったのかな)

あの男もそうなのだろうか。
誰からも救われず、全てを奪われ、憎しみに全てを委ねることしかできない。

復讐に感情を押し殺した春花と復讐に感情をむき出しにするガッツ。
両者は対極であれど、その根本は同じ。
少なくとも、祥子にはそうとしか見えなかった。

(あの人も、お姉ちゃんと同じ...)

気付けば、祥子の震えは止まっていた。


115 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:56:48 /ZG641eg0

グチャリ、と最後のトロールを叩き潰し膝をつく。

(...足りねえ)

まだだ。まだ、暴れ足りない。

(奴らがここにいるだけで憎しみが湧き出てくる)

己に蠢く獣が囁く。
まだ奴らは生きているぞ。
早く進め。奴らを殺せ。

(云われるまでもねえっつってんだろ。奴らは必ず―――)

ザッ、と土を踏みしめる音がする。
振り向けば、立ち尽くすのは小さな少女。

「......」
「なんだガキ。まだいたのか」


「...祥子」
「あ?」
「野崎祥子。あたしの名前」

少女の予想外の言葉に、ガッツは思わずポカンと口を開けてしまう。

(神様はお姉ちゃんを助けてくれなかった)

もしも本当に神がいたとしたら、祥子は春花を見捨てたことを絶対に許さないだろう。
だが、そんな神に憎しみを向けているだけでどうする。
いま、祥子はちゃんと両脚で立っている。
なら、春花を助けなければいけないのは誰だ。

(神様なんかあてにしてちゃいけない。あたしが、お姉ちゃんを助けるんだ)

祥子は一人決意する。
必ず春花を独りにしないと。そして、眼前のこの男もだ。

彼といれば、春花と安全に会えるという子供なりの打算はあったかもしれない。
だが、それ以上に。
春花と同じ、誰も助けてくれなかった彼を、春花のように神様に見捨てられた彼をこのまま放っておくことなどできなかった。

そんな彼女の想いなど知らないガッツは、差し伸べられた手に疑問符を浮かべずにはいられなかった。


116 : 壊れかけた玩具 ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:57:32 /ZG641eg0

【D-7/商店街/一日目/深夜】
※トロール@ベルセルクが商店街に巣食っていますが大半はガッツに殺されました。


【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)、軽い興奮
[装備]:ゴドーの甲冑@ベルセルク、青山龍之介の丸太@彼岸島
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:
0:使徒共を殺し脱出する。
1:なんだこのガキ
2:ドラゴン殺しが欲しい
3:己の邪魔をする者には容赦しない。

※参戦時期はロスト・チルドレン終了後です。
※トロールをいつもの悪霊の類だと思っています。


【野崎祥子@ミスミソウ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:今度こそお姉ちゃん(春花)を独りぼっちにしない。
0:お姉ちゃんと合流する。
1:ガッツは春花に似てるので放っておけない。


※参戦時期は18話以降です。



※NPC解説
【トロール@ベルセルク】

直立歩行する獣。簡単な道具を使う程度の知能はある。極めて貪食で、人間や動物を襲うだけでなく、共喰いも日常的に行っている。洞窟の中など暗い所を棲家とし、人間の女を攫って犯し繁殖する。
クリフォト(幽界の領域のひとつ)から生まれる。 より高い知能を持つ一際大柄な個体が群れのボスとして君臨する。


このロワにおいては普通の首輪をしている参加者には滅多に干渉せず、参加者側から干渉しなければ極めて無害。
ただし、NPCや赤い首輪の参加者や強い力を放つ烙印を刻まれているガッツには容赦なく襲い掛かる。
また、吸血鬼同様首輪を巻かれており、エリアから出ると首輪が爆発し死ぬ。


117 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/11/28(月) 02:59:07 /ZG641eg0
投下終了です。

続いて『DIO』、『雅』、『ゾッド』、『MUR大先輩』を予約します。


118 : 名無しさん :2016/11/28(月) 06:25:30 4P4r2l5k0
投下乙です
なんででしょう、久々に王道の登場話を読んだ気がします
絵面だけなら洋画のロードムービーのような組み合わせでガッツの安心感が凄いんですが、ただ若干人間関係こじれていきそうなものも同時に感じますね
このあと誰と出会うかで大きくロワ内での立ち位置が変わるんじゃないでしょうか


119 : 名無しさん :2016/11/28(月) 12:12:01 tM5J15u.0
投下乙です
ダークファンタジーとサスペンス・ホラー、
どちらも復讐の世界で生きてきた人間として
ガッツに手を差し伸べた祥子の優しさと強さに感動しました


120 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/11/30(水) 15:44:59 1X.yM6RM0
投下乙です。
同じく理不尽に家族を奪われた祥子がガッツの境遇を直感し、手を差し伸べる展開は感動です。
殺し合いに参加させておいてあれですが幸せになってほしいものですね。
『スノーホワイト』『ゆうさく』『スズメバチ』の予約を延長します。


121 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/12/01(木) 16:39:33 aFh0bM1s0
『スノーホワイト』『ゆうさく』『スズメバチ』投下します。タイトルは「魔法少女(迫真)」です


122 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/12/01(木) 16:40:47 aFh0bM1s0

 ゆうさくほど雀蜂に刺された男は居ないだろう。その因縁はすでにホモガキたちの間でも語り継がれている。
 そしてスズメバチくんのゆうさくへの執着もそれに違わず強いものだ。
 ふたりの因縁は、ゆうさくが生き延びる決意をして数十分も経たずに成就した。





ビンビンビンビンビンビン

信じたくなかった。
不吉な羽音が、ゆうさくにとっては死の宣告に等しい音が。
まさか、自分の背後から聞こえてくるなんて。



何度、こうしてそれと対峙しただろうか。
そして、何度それに刺されただろう
ゆっくりと振り向いた視線の先には、ゆうさくにとっての死神ーー不気味なほど自分と似た人面のスズメバチが、居た。

何度もこいつに殺された。
あまりに多すぎて覚えていないが、少なくともその回数は400000回に到達している筈だ。

「……不安、的中しちゃうんですよね」

その音が聞こえた瞬間から、ゆくさくは既に生を諦めていた。
抗うだけの気力を持てなかった。
抗っても無駄だからだ。
過去には抗ったこともある。何度も何度も、時には撃退すらしたこともある。ただ、それでもお約束のごとく刺されて死んできた。
マッハ2.2で突っ込まれたり、背後から奇襲されたり、ビブラートで襲われたり……
それらの経験は、ゆうさくの心を折るには十分すぎるものだった。

ビンビンビンビンビンビン

薬師寺天膳を刺したスズメバチくんは、この広大な島で直ぐ様ゆうさくを見つけ出した。 
具体的には直感のみで2エリアも移動してきたのだ。恐るべき執念。いや使命感か。
すでに刺すための準備は万端であった。
聞き方によっては人の声にも聞こえる羽音がその証拠だ。

ビンビンビンビンビンビン

ゆうさくは自身の死を確信していたし、スズメバチもゆうさくの死を確信していた。




 ガシィッ!!


「ま、間に合った…大丈夫ですか!」


 白い少女が、スズメバチの一撃を受け止めるまでは。






 なぜ、どうして。
 スノーホワイト、姫河小雪が最初に思ったことは絶望だった。
 魔法少女は清く正しく美しく…断じて殺し合いの道具などではない。
 ずっと魔法少女に憧れていた。それでも叶わないと思っていた夢が叶って、幸せだった。
 その先に待ち受けていたものは魔法少女の削減と…それに伴う殺し合い。暴力と略奪と死という、信じていた魔法少女の姿とは駆け離れたものだった。
 それだけでもキツいのに、その矢先にこれだ。
 キャンディ集めとは違い、土地の枯渇を防ぐためという大義名分もなく、堂々と開き直って殺し合いをさせられている。
 魔法少女は精神耐性も高まるとはいえ、まだ十代半ばの少女には荷が重い。それに、自身の首輪は狙われる側の"赤"ときた。
 ただ、それでも。

「でも……こんな事、間違ってるよ」

 折れる寸前とは言え、まだ彼女は理想の魔法少女を貫きたいと思っている。
 希望はある。
 この島に居る魔法少女は自分を含めて四人。
 接点はないがN市の最古の魔法少女のクラムベリーに、不気味だが一応は味方になってくれそうなハードゴア・アリス。
 彼らと協力すれば、この状況を抜け出せる道もあるかもしれない。ただ、それよりも注意を引くことがひとつ。

「そうちゃん……!」

 ラ・ピュセル。死んだ筈の、…殺された筈の幼馴染みの名前が名簿に乗っていたのを見たときは目を疑った。
 もしも、もしも彼が生きてこの島に居るのならーー会いたい。会って話をしたい。
 そう思った直後だった。


123 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/12/01(木) 16:42:11 aFh0bM1s0

『視聴者のためにゆうさくを刺さなければいけないのに刺せない。どこだ』
 そんな声が聞こえてきた。

『見つけた。刺さなければ』

『見つかった。死にたくない』
また声が聞こえてきた。今度は別の人の声だ。

『助けて、死にたくない』
『誰か、もういやだ』

 魔法少女は例外なく、ひとつの固有魔法を扱える。スノーホワイトも例に漏れず、彼女の魔法は『困った人の心の声が聞こえるよ』である。
 そして、その声が殺し合いの会場で聞こえるということは、まず疑いようもなく、近くで誰かが命の危機に瀕していることだった。

「助けなきゃ…」

 正直、精神的にも状況的にも他者を助ける余裕はない。
 ただ、それでも彼女は駆け出した。
 それでも助けるのが、魔法少女だから。




 声を辿っていくと、そこには今まさに襲いかかろうとしている人面の蜂と男性の姿が。
 危機一髪で間に合った。 

「ま、間に合った…大丈夫ですか!」

 先程の声から刺されたらまずいのは分かっている。針に触れないようにディバックでガードする。
 パワーそのものはたいしたことはないのか、戦闘に不慣れなスノーホワイトでも防ぎきれた。
 突然の乱入者に驚いた顔をするが、人面のスズメバチはゆうさくを刺せなかったことを悔しそうだ。ただ、ゆうさくを刺すという使命感は今だ衰えていないのか、空中で旋回。
 一直線にゆうさくの、具体的にはその右乳首に突撃する。
 
「えいっ」 

 それに対して『ゆうさくを刺せずに困っているスズメバチの声』を聞いて動きを予想していたスノーホワイトは、懐に忍ばせていた支給品を放り投げる。 

 バシュッ!!という空気が抜けた音の後に、視界が煙幕で覆われる。
 発煙弾。これといった殺傷能力はないが、足止めには便利な道具だ。
 余談だが雀蜂の駆除には煙による燻し出しが効果的だ。よってスズメバチにも一定の効果が期待できると思うんですけど(名推理)

 とにかく隙が出来たことは確かだ。

「すみません!暴れないでくださいね」

 スノーホワイトはゆうさくを抱えると、一直線に離脱を図る。魔法少女の身体能力なら、成人男性を抱えての逃走も可能とした。
 ゆうさくは軽々と自分を抱えて走り出した少女に驚くも、助けてくれたことを理解しなすがままに任せていた。



【F-?/平野/深夜】

【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】健康
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない…
1.同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2.そうちゃん…
3.スズメバチから逃げる
※参戦時期はアニメ版第8話の後から


【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】不安、困惑
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【行動方針】
基本:不安感じるんでしたよね?
1.スズメバチ対策をする。
2.なんだこの魔法少女!(困惑)


 一分も経たずに煙が晴れると、そこにはスズメバチのみ。ゆうさくとスノーホワイトは影も形も残さず離脱に成功していた。

 スズメバチは激怒した。

 ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン
 ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン
 ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン
 ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン
 ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン

【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】健康、怒り
【道具】なし
【行動方針】
基本:注意喚起のためにゆうさくを刺す。邪魔者も刺す。
1.白い少女(スノーホワイト)に激怒。
2.ビンビンビンビンビンビン……チクッ
※刺した相手を必ず殺せます。
※相手がゆうさくでない場合、邪魔をしなければ刺しません。


124 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/12/01(木) 16:43:15 aFh0bM1s0
投下終了です


125 : 名無しさん :2016/12/01(木) 23:22:36 NSschtek0
投下乙です
やはり出会ってしまった一人と一匹
運命づけられた惨劇をその魔法で回避するのはさすが魔法少女ですね
スズメバチの駆除に煙が有効というのも勉強になりました


126 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/05(月) 01:16:02 4ao60VDc0
予約からゾッドを外して延長します。


127 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/12/05(月) 15:05:33 8WJU54YQ0
上条当麻、加藤勝、『T-800』予約します


128 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:08:28 /ZJcVa3.0
投下します。


129 : 帝王とは ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:10:17 /ZJcVa3.0
トクッ、トクッ、トクッ。

グラスに注がれるワインの音が大気に染み込む。

「驚いたよ。まさか、わたし以外にも"人間ではない者"が存在していたなんてね」

額にハートの装飾、身体には黄色い服を身に纏った男はそうひとりごちながら、グラスへとワインをゆっくりと注いでいく。
彼の名前はDIO。
かつては人間だったが、"石仮面"の力により人間を辞め吸血鬼と化した男である。

「君たちもどうかな?」

三つのグラスにワインを注ぎ終え、DIOはグラスの細いステム(脚)を摘み眼前の二人に差し出す。

白くてムチムチとした肉づきの良い体をした坊主頭の男は、隣に立つ白髪の男へ伺いを立てるようにチラチラと視線を送る。

「ふむ。ではお言葉に甘えようか」

そうワインを受け取った、赤い目をした白髪のこの男の名は雅。見ての通り吸血鬼だ。

「今日もいっぱい飲むぞ〜」

雅がワインを受け取るのに便乗して男もまたワインを受け取る。
彼の名はMUR大先輩。MURの読み方は『ムラ』ではなく『ミウラ』なので注意しよう。


130 : 帝王とは ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:11:16 /ZJcVa3.0

グラスを手にした三人は、それぞれにワインを嗜み始める。

「ほう。中々のモノじゃないか。これはいいワインだな」
「そうだろう?私も気に入っている」

二人の吸血鬼は、グラスを揺すり、中のワインを渦巻状に回し香りを楽しむ。
一般的なワインの楽しみ方ではあるが、二人がそれを行えばどこかの貴族の催しにすら見えるほど気品に溢れていた。



一方で。

ゴクリ。

香りを楽しむなどなんのその。
まるでジョッキに注がれたビールを平らげるかのように一気に飲みこむMUR大先輩。
プハーッ、と大きな息に加え、バンッ、と音が鳴る程に力強くテーブルにグラスを置く様などもはや煽っているようにしか見えない。


「......」
「......」
「いいゾ〜、これ」

吸血鬼二人の冷めた視線などお構いなしにご満悦な大先輩。
しかし、おかわりのためにDIOへと顔を向ければ、彼からの視線に気が付き流石に場違いなことをしていたと自覚する大先輩。
思わずバツの悪い子犬のように身を縮めてしまった。恐いからね、仕方ないね。

「あっ、そうだ(唐突)。オイDIOォ、お前さっき人間じゃないって言ってたよなぁ」

空気を変えるようにDIOへと問い詰めるMUR大先輩。

そんなMUR大先輩の問いをさらりと受け流すようにDIOは雅へと視線を移す。

「君たちも人間にはない特別な能力を持っているようだが...非常に興味を惹かれるよ。ひとつ、私に聞かせてくれると嬉しいのだが」

うぞぞ、とDIOの髪がざわめくような錯覚を二人は覚える。
実際に彼がなにかをしていた訳ではない。
だが、身に纏うオーラのように髪や服の一部がざわめき、DIOを一際大きなものに見せていた。


131 : 帝王とは ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:11:40 /ZJcVa3.0

「いいだろう。私も他の赤い首輪の参加者には興味がある」

だが、雅は憶することなく。どころか、笑みさえ浮かべてDIOに応えた。
それもそのはず。彼は、吸血鬼の中でも更に異質な存在。
拒否反応を起こす筈の同種の血を幾多も受け入れてきた最強にして至高の吸血鬼。
自らが頂点であることを自負している彼に恐れる者などあるはずもない。

側の椅子に腰を落ち着けつつ、二人の吸血鬼は飲みかけのワイングラスを手で弄ぶ。

「私は吸血鬼だ。彼岸島という島の吸血鬼達の長を務めている」

ピクリ、とDIOの眉が動くと共に、ワインの表面が微かに揺れた。

「吸血鬼達...といったか。伝承では希少な生物として扱われやすいが、そんなに大勢いるものなのか?」
「ああ。私は、あの島の人間の半数以上を吸血鬼にした。頗るいい気持ちだったよ」
「なぜそんなことを?」
「私は人間が嫌いだ。だから滅ぼしたい。それだけだ」
「...そうか」
「それで、お前はなんだ?―――いや、語るまでも無いか」
「?」
「匂うのだよ。私と同じ、他者の血を喰らうことで満たされる眷族の匂いがな」
「...ほう」

DIOと雅は、不敵な笑みを交わし合いつつワインを呷る。

「きみの察しの通り、私は吸血鬼だ。人間を超越し、この力を手に入れることが出来た」
「なるほど。もと人間か。人間をやめた気分はどうだった?」

瞬間、ある種のプレッシャーにもにた妙な緊張感が空間を包んだ。
雅は愛も変わらず薄ら笑いを浮かべているが、DIOからは笑みが消え険しい顔つきとなっている。

「...この殺し合いでは関係ないことだと思うが」
「これは失礼した。興味が湧くと口が軽くなってしまうのは私の癖だ」


132 : 帝王とは ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:12:52 /ZJcVa3.0

雅の謝罪と共にそれはすぐに収束したが、まだ微かに場に残る重圧は並の者なら息苦しくなるだろう。
一瞬の間をおき、「それで」とDIOは視線をMUR大先輩に移す。

「きみはどんな能力を持っているのかな」

MUR大先輩の目が泳ぎ始める。マイケル・フェルプスも真っ青の速さである。
眼前の二人は吸血鬼という妙な生物だというふざけた存在らしい。
それが嘘にせよホントにせよ、ただものではないのは確かだ。
それに比べ、自分はただホモビに出演しただけの男優の一人である。
「口元のホクロがセクシー...エロイッ」という適当にもほどがある選考基準でKMRと野獣先輩と共に抜擢されただけだ。
当然ながら、出演していたビデオのタイトルである迫真空手など会得していないし、そもそも迫真空手がなんなのかさえわからない。
とどのつまり、ただのホモである。
そんな彼にこの吸血鬼共が満足できるものなどある筈が無い。
なにかこの場を誤魔化せるものはないか。考えること3秒。

「見たけりゃ見せてやるよ(震え声)」

MUR大先輩は立ち上がりパンツをずりおろす。
露わになるのは一際巨大な男の勲章。
みとけよみとけよ〜と、後輩である野獣先輩の応援を脳内で再生しつつ、MUR大先輩はまるで変質者のように吸血鬼たちの前でぶらぶらとソレを揺らし始めた。

「ホラ、見ろよ見ろよ」
「では、互いに持つ情報を交換するとしようか」
「うむ」

まるでMUR大先輩とのやりとりは無かったかのように目を背ける吸血鬼たち。
どうやらいまので満足して貰えたらしい。やったぜ。
二人からの冷めた視線が少し気にかかったが、今この場を凌げただけでも彼はご満悦だった。


133 : 帝王とは ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:14:03 /ZJcVa3.0



おおまかな情報交換を終えた三人は、同盟を組むわけでもなく争う訳でもなく、その場で解散した。

DIOは思った。
あの雅という男は気に入らないと。
奴と話している最中、ずっと浮かべていた笑み。
間違いない。あの男はこのDIOを見下していた。

彼岸島の吸血鬼の統率者だかなんだか知らないが、このDIOを見下すなど言語道断。

だが、あそこで怒りに身を任せて手を出せば、自分が下であるのを認めることになるためこちらの敗北となる。
そのため、DIOはあの場は穏便に済ませ、彼らと別れたのだ。

それに、雅の語った人間を全て吸血鬼にするという夢も相容れない要因となった。
人間を全て吸血鬼にするなど愚かしいにもほどがある。
それほどまでに同種が欲しい、寂しいというのか。
くだらない。まったくもってくだらない。
頂点に立つ者は常に一人。孤独を恐れてなにが王か。




雅は思った。
あの男、DIOとは相容れないと。
もと人間でありながら、この雅を敬うことのない隠しきれないプライドの高さ。
そういった輩は見ている分には面白いが、いつかは必ず牙を剥く。
無論負けるつもりはないが、ああいった手合いはすぐに潰すよりも泳がせていた方が面白い。
そう。この雅への復讐を糧に生きるあの男、宮本明のように。

雅としてはこの興味深い催しはできれば楽しみたい。人外である赤い首輪の参加者からは色々と話を聞いてみたいし、自分と同じく招かれた明にも興味がある。
奴の絶望の顔をもう一度拝むため、脱出が出来る算段が整っても奴が現れるまでは待ってやろうとまで思うほどにだ。
そのため、彼はこうして一所に留まらず、あの火種になるであろう男にも手を出さずに別れたのだ。

それに、DIOの頂点たるスタンスもまた相容れない要因となった。
聞けば、彼は優秀な人間をスカウトし雇っているらしい。
吸血鬼でありながらなぜ人間と馴れ合おうというのか。
劣った種族の中でしか己の器を見いだせないというのなら滑稽だ。まったくもって滑稽だ。
同じ種族の中で頂点に立ってこそ、王たる資格があるというのに。




MUR大先輩は思った。

怖かった。スゴイ怖かった。
主体性の無い自分がよくもまあ生き延びれたものだと思う。いや、主体性が無いがゆえにほぼ空気で終われたのか。
いまとなってはわからないがそんなことはどうでもいい。

これから自分が便乗すべき道はどこか。MUR大先輩の不安は治まらない。






三者三様の想いで、交わることなき道へと進む。
もし彼らの道が再び交わるとすれば、それはいずれかの道が朱に染まるときだろう。


134 : 帝王とは ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:16:50 /ZJcVa3.0

【G-7/民家/一日目/深夜】
※三人はそれぞれいずれかの方角へバラバラに向かっています。


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品。DIOのワイン@ジョジョの奇妙な冒険、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには手段は択ばない。
0:主催者は必ず殺す。
1:空条承太郎には一応警戒しておく。
2:不要・邪魔な参加者は効率よく殺す。
3:あのデブは放っておく。生理的に相手にしたくない。

※参戦時期は原作27巻でヌケサクを殺した直後。
※DIOの持っているワインは原作26巻でヴァニラが首を刎ねた時にDIOが持っていたワインです。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。


【雅@彼岸島】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:主催者に興味はあるが、いずれにせよ殺す。
1:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
2:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
3:あのMURとかいう男はよくわからん。

※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。


【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0:この怖い二人から離れる。
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。


135 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/07(水) 02:17:23 /ZJcVa3.0
投下終了です


136 : 名無しさん :2016/12/07(水) 12:11:39 Rv21doDQ0
投下乙です
雅とDIOというラスボス同士の会談は手に汗握りますね…
道を違えた二人の道は互いの道を血に染めることになるのか
☆MURがジャマ!!


137 : 名無しさん :2016/12/07(水) 16:47:22 TLg1xgUY0
>>136のネタが六部のアオリだという事に1145141919秒かかった、訴訟


138 : 名無しさん :2016/12/09(金) 21:25:25 KstWBu2E0
投下乙です
常人でありながら強大な二人を生理的に退けた大先輩は知将と呼ぶに相応しいのではないでしょうか
吸血鬼二人とホモという異色の登場話でしたが不穏なものを抱えながらも珍しく危険人物同士の接触が成功したのはこの後の展開を大きく左右しそうです


139 : 名無しさん :2016/12/11(日) 22:36:07 SxHw5CD20
雅様「ハ、男性器を見るのは何年ぶりだろう」


140 : 青山 ◆N/GLYlkin2 :2016/12/13(火) 03:33:32 Sjd1Asxo0
投下乙です
吸血鬼二人と会談して話術のみで生き残ったMUR大先輩は知将の可能性が微レ存‥?
一旦、予約を破棄します


141 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/23(金) 11:35:22 sZKbmbbE0
空条承太郎、『ゾッド』、朧、野崎春花を予約します


142 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:50:36 GaqkYP0.0
投下します。


143 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:53:07 GaqkYP0.0
私は許さない。

私の家族を、全てを奪ったあいつ―――あいつらを、絶対に。

だから、私は奴らをみんな殺した。

残っているのは、私の全てを燃やしたあいつだけ。

...こんなわけのわからない状況に巻き込まれたのは幸運だ。

だって、あいつに逃げ場はないんだから。

あいつさえ死ねば―――あとは、どうだっていい。


144 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:55:03 GaqkYP0.0

「...弦之介、さま」

コンクリートジャングルのど真ん中。
着物の美女―――朧は名簿を見て思わず呟いた。
彼女は非力とはいえ仮にも伊賀鍔隠れ衆の忍び―――ましてや頭領にあたる立場の人間である。
忍びの世界とはかくも非情なものである。
戦を好まずロクな戦闘手段も無いため殺人経験などない彼女だが、それでも人の死は何度か見てきた。
この殺し合いに対して忌避感は覚えていたが、それでもまだかろうじて平静を保てていた。

誰か知りあいはいるだろうかと名簿を確認し、真っ先に目に飛び込んできたのが甲賀弦之介。敵対勢力である甲賀卍谷衆の主でありながら、朧と恋仲にある男である。いや、正確には恋仲であったというべきだろう。
他にも弦之介と同じ甲賀卍谷衆の一人・陽炎と伊賀鍔隠れ衆の一人・薬師寺天膳も名簿に載っている。
単純に敵対勢力である陽炎に、自分を無理矢理手籠めにしようとした天膳はともかく、弦之介と殺し合うことなど場所が違えば決して望みたくない。
かといって弦之介のために他の参加者を殺せるかと問われればそれも不可能。
元来より争いを好まぬ彼女は、この状況においても犠牲なく終わるようにと忍びにそぐわぬなんとも甘き願いを抱いていた。
そう。いまは異常事態。伊賀鍔隠れ衆と甲賀卍谷衆の諍いを引きずっている場合ではないはず。
この殺し合いを終わらせ元の場所へと帰れば、またあの争いを見届けなければならないのなら、せめてこの一時だけでも淡い夢に身を委ねたい。


(...そういえば)

弦之介への恋慕と伊賀鍔隠れ衆への想いを捨てきれなかった結果、七夜盲の秘薬によって閉じた目が見えているのを思い出す。
まだあれから七日も経っていないはずだが...これはどうしたことだろう。
もしやあの主催の男には秘薬すら凌駕する力があるというのか。

(...考えたところで仕方ありませぬ)

どの道彼女は殺し合いに乗るつもりは毛頭ない。
殺し合いを止めるためにはまず協力者が必要である。

共に脱出する志があるものは放っておくことなどできぬ。
誰か。誰かおらぬのか。

朧は周囲に気をつけつつ辺りを見回す。

やがて、目の端に止まるは小さな影。

その影はとても小さく、弱弱しいものだった。

影の主は年端もいかぬ少女であった。


145 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:55:31 GaqkYP0.0

「あの、もし...」

そう遠慮がちに声をかける朧だが、少女の返答は沈黙。
僅かに目を合わせたかと思えば、すぐに視線を逸らしふらふらと朧から離れていく。
怯えているようには見えない。
だが、誰かを殺そうとしているようにも見えない。
まるで幽鬼のように彷徨っている―――そう表現するのが当て嵌まるだろうか。

「そなた、この戦には乗るつもりはないのでしょう?」

ピタリ、とまた一瞬だけその歩みを止める―――が、やはり彼女は振り返らず。
そのまま朧に構わず再び歩を進める。

彼女は自分と一緒に行動したくない。
忍とは思えぬほどドン臭い朧でも、その程度のことはわかる。

だからといって、この危険な場所で幼子を放っておくことはできない。
伊賀鍔隠れ衆・朧。その慈善の心はこの場においてもなお健在であった。

待っておくれ。

そう言葉を喉から出しかけたその時だ。

ズンッ、と地響きとともに少女の前方より砂塵が舞う。

「貴様らも贄のひとりか」

怪物―――そう形容するしかないモノが砂塵を晴らしその姿を露わにした。


146 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:56:11 GaqkYP0.0



男は、ただ闘争を求めていた。
血を、魂を揺さぶるような戦いを、己に匹敵しうる強者を求め、幾多もの戦場を駆けた。
ついた字は『不死者』。
『不死(ノスフェラトゥ)のゾッド』。それがこの男の通り名である。

10階建てのビルの屋上で目を覚ました彼は深く息を吐き、身を乗り出し地上を確認する。
辺りを見渡せば、自分のあずかり知らぬ建物ばかり。
この建物は塔のように巨大であればこそ、装飾など邪魔だといわんばかりに味気ない。
家屋は煉瓦や藁造りの家はなく、全て触れれば砕けそうな代物だ。

文明が退化しているのだろうか。それとも進展した結果がこれなのか。それはこのゾッドの預かりしらぬことだ。

(...まあいい)

現状がなんにせよ、ゾッドが望むものは闘争のみ。
それを譲るつもりは毛頭ない。

彼が地上を見下ろし始めてからどれほど経過しただろうか。

やがて彼は獲物を見つけた。
一人は成人済だと思われる女子。もう一人はまだ年端もいかぬだろう幼子だ。
外れか、などとは決めつけない。
彼の生きた世界では、女子供が大の男を打ち負かすことは珍しくない。
実際に剣を交えねばその価値はわからぬのだ。

故にゾッドは嗤い、地上目掛けて―――跳んだ。

ズンッ、地響きを打ち響かせ着地する。

「ふううぅぅぅ...」

大きく息を吐き、獲物を確認する。

「そ、そなた...物の怪か?」

ゾッドを認識した朧は震え上ずった声をあげる。

「ほう。オレが人間ではないことがわかるか。どうやら貴様もただものではないようだ」
「そ、その姿を見れば誰でもわかる」

怯える朧に対し、ゾッドは武器を握る。
この女は果たして戦う価値のある獲物なのか。それとも今まで食い散らかしてきた有象無象と同じなのか。
さあ、試してくれようぞ。
剣を己の目線にまで掲げて、気付く。
剛毛に覆われた両腕。剣に反射し映る巨大な角。
彼の姿が、人間のものではなく、"使徒"の本性を曝け出していたことに。

「...?」

おかしい。確かに先程―――跳び下りる前までは人間の姿をしていたはずだ。
だが、いまは使徒の姿に変わっている。
あの主催の男がなにか細工を施したのか?それとも、この女が...?


147 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:56:52 GaqkYP0.0

(...まあ、いい。いまは戦うだけだ)

若干驚きはしたが、だからといって彼の身体に異常がある訳でもない。
戦いの枷にならないのならそれでいい。
ゾッドは改めて武器をデイバックに仕舞い―――その脇を、幼子がてくてくと歩いて行く。
まるで恐怖を覚えていない、更にいえばこの男など眼中にないかのように。

「なにをしている」

ゾッドは思わず問う。
今まで己と対峙してきた人間は、必ずなにかしらの注目を浴びせてきた。
打ち倒し名を挙げようとするもの。彼の存在に、強さに畏怖するもの。
使徒を前にして目を離せるはずもない。
だが、この幼子はそれをやってのけた。
なんの変哲もなさそうなこの女児がだ。

「答えろ。貴様はなぜ歩みを止めない」

少女は足を止め、ゾッドへと視線を移す。
それを見て彼は察した。

生への希望も、執着もない。
その瞳にあるのは、闇より深い絶望のみ。

―――なんてことはない。少女は、既に亡者だっただけのこと。

もしも少女がこの結論通りならなんともつまらない答えだろう。
ただ、気にかかるのはその眼の奥にあるドス黒い怨念。
憎しみが生きる糧になりつつあるとでもいうのか。
だとすれば、もしやこれは演技なのでは―――そんな淡い期待を込めつつ、その巨大な右手を振るう。
力はあまり込めていない。
あたったところで気絶がいいところだろう。

バチリ、と音を立て吹き飛ぶ少女は、弾丸の如く朧へと飛ばされる。
受けようにも、身体能力の高くない朧ではどうすることもできず、身体に走る衝撃に倒れてしまう。

「うぅ...」

どうにか立ち上がる朧だがその足取りは拙い。
気を抜けばいまにも膝をついてしまいそうなほどにだ。


148 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:57:46 GaqkYP0.0

(つまらん)

気絶してしまったのか、そのまま動かなくなった少女とまともに動けなくなった女を見てゾッドは落胆する。
こうまで華奢で弱いとは。
こんな弱者と戦ったところで得るものはないだろう。
ならばもう終わらせる。
掌を握りしめ、朧へと歩み寄る。
そのまま彼女を引き裂かんと掌を振り下ろすが、既に覚束ない足取りになっていた朧はそのまま後退し、尻もちをついてしまう。
幸か不幸か。爪は朧の着物の裾を切裂くのみに留まり、その余剰エネルギーはアスファルトを砕き破片は小粒となり朧へと襲い掛かる。
欠片とはいえ、それが目に入るのは危険だ。
思わぬ痛みに、朧は思わず目を閉じてしまう。

舌打ちをしつつ、ゾッドはもう一度手を振り上げる。

彼が手を振り下ろせば、今度こそ動けない朧は彼にその身を裂かれる。

特段仕留める理由もないが、ここで逃がす理由もない。
無慈悲にもゾッドの手は朧へと振り下ろされ


バ ゴ ォ


た。


「!?」

突然の衝撃と共にゾッドの視界が揺らぐ。
なにが起こったか―――それを理解する暇もない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラ』

雄叫びと共に降り注ぐ衝撃。
それが荒れ狂う暴風の如き拳だと知った時にはもう遅い。

『オオオオオオ――――オラァ!!』

気合一徹。最後に叩き込まれた拳に、ゾッドの身体は宙を舞った。

「――――――ッ!!」

悲鳴を上げる間もなくガラスをぶち破り民家に叩き込まれるゾッド。

「やれやれ...間一髪、といったところか」

乱入者―――空条承太郎は、学帽に手をやりそうひとりごちだ。


149 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 01:58:56 GaqkYP0.0




(気に入らねえ)

空条承太郎は、あの主催の男に内心毒づいた。
人の命を玩具かなにかのように扱う主催のあの男。
間違いない。DIOと同種のゲス野郎だ。
如何にして自分を連れてきたか―――それを考えるのは二の次だ。
奴をぶちのめす。空条承太郎は自然と方針をそう定めていた。

あの男の言葉に従うならば、この殺し合いから生還する方法は二つ。赤い首輪の参加者の殺害、若しくは最後の一人になることだ。
あの男をぶちのめすためにはまず殺し合いから脱出することが優先であり、方法としてはそのどちらかをとるべきなのだろう。
だが、承太郎はどちらも選ばなかった。
何故か。あの男の言葉が信頼できないというのもある。優勝・赤い首輪の参加者を殺して脱出した途端に約束を反故にする可能性だってあるのだ。
それに易々と乗っかるほど承太郎は迂闊ではない。
だが、それ以上に彼を駆り立てるのは『気に入らない奴の言いなりになりたくない』というシンプルな理由からだ。
シンプルが故に彼を曲げる方法は難しい。それこそ、近い未来に生まれる娘を人質にでもとられなければ不可能と言っても過言ではないだろう。

だが、全てを救える、と豪語するほど人間が出来ている訳ではなく、また、現実が見れない男でもない。

命惜しさに他者を殺してしまう者は必ず出てくるだろう。
そういった輩は実力行使で止めるしかなく、最悪殺す必要性もある。
それに、自分をいつの間にか拉致し殺し合わせるような男だ。
例えば連続殺人犯や凶悪なテロリストなんかを参加者に混ぜている可能性も否定できない。
そのために、まずは参加者の大方の目ぼしをつけようと名簿を見たのだが...

(DIO...だと...?)

彼は目を疑った。かつてこの手で殺したはずの男の名前が記載されていたからだ。
100年前に船で爆発したのとは訳が違う。この目でしかと骨の一片も残さず消えたのを見届けたのだ。
いくら吸血鬼が人智を超えた存在だからといってあの場面で復活できるとは到底思えない。
そもそも死者が蘇るはずがない―――とは言い切れない。そもそも、吸血鬼には死者をゾンビにして操る能力があるらしい。
となれば、それを応用すればDIOを蘇らせることは不可能ではないのではないか。
主催の男がなにかしらの方法で蘇らせたのか、それとも同名の別人か。
なんにせよ要警戒しておくべきだろう。

承太郎は名簿をしまい、周囲の散策に踏み出した。

それから程なくしてのことだった。

ちょうどビルを挟んだ向こう側から、なにかが落下したような轟音がした。
何事かとその足を向ければ、見るからに獰猛な怪物が腰を抜かした女性に襲いかかろうとしているではないか。
承太郎にとって彼女を助ける義理はない―――が、わざわざ見殺しにするのも寝覚めが悪い。
それに、ここで闘争の火種を摘むのは後に繋がることだ。
ならば、あの男をブチのめさない理由はない。

怪物が腕を振り上げたその時だ。

『スタープラチナ・ザ・ワールド!』

掛け声と共に承太郎以外の全ての『時』が静止する。
その静止した数秒間の内に承太郎のスタンド『スタープラチナ』が怪物に拳を叩き込んだ。


150 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:00:50 GaqkYP0.0




「殴り飛ばされるなどいつ以来のことか」

ゾッドは、散らばったガラスを踏みしめ、身体についた埃を払いながら民家より姿を現す。

「なるほど。どうやら赤首輪ってのは伊達じゃないようだ」

承太郎は学帽を深く被り直し、改めて眼前の強敵を見据える。

硬い。スタンドを通じて伝わった感触はそれだった。
スタープラチナのパンチは、岩石程度なら簡単に破壊できる。
それを通じて尚硬いと云わしめるのだ。生半可な攻撃では通用しないだろう。


「う、うぅ...」

朧は目に袖を当てながら呻き声を漏らす。
先程の破片の欠片が目に入り、痛みと共に視界がぼやけ、うまくものを見ることができないのだ。

「あんたはそこのガキを連れてさがってろ。邪魔になる」

朧は、そう声をかけた男が何者かはわからなかったが、いま自分が助けられたことだけはわかった。
手探りで倒れた少女を見つけ出し、どうにか引きずりながら傍の建物の陰に隠れる。

「その人形...なるほど。先程の打撃はソレの仕業か」
「俺のスタンドが見えている...てめえもスタンド使いか」

ゾッドが承太郎へと歩を進めるのに合わせ、承太郎もまた距離を詰めていく。

「ひとつ聞きてえ。さっきのあの女にやってたこと。アレはなんだ」
「しれたこと。ここは命削り合う殺戮と闘争の場なのだろう。ならばオレはそれに従うまで」
「つまり、テメェはこれからも目の前に立つ奴を殺してまわるつもりだと解釈していいんだな」
「貴様もオレの得物のひとりだ。先程の女どものように失望させるな」

やがて、二人は歩みを止める。互いに手を伸ばせば触れられそうなほどに近い。
これがゾッドの、スタープラチナの。戦士二人の射程距離。


151 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:01:32 GaqkYP0.0

「さあ、最早言葉は無用。その生を繋ぎたくば―――押し通れ!」
「―――いくぜオイ!」

さあどちらが己が武器を抜くのが早いか。

使徒でも有数の力を持つ不死のゾッドか。近接戦最強のスタンド、スタープラチナ有する空条承太郎か。

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
「『スタープラチナ』!!」

二人の叫びに呼応するかのように大気が揺れる。

ゾッドの、スタープラチナの拳が互いに相手を屠らんと握りしめられ―――闘争のゴングが鳴り響く。

『オラァ!』

先手をとったのはスタープラチナ。
ゾッドの振るった腕を掻い潜り、その頬に拳を叩き込む。

またも、ぐらりと視界が揺らぐゾッド。
当然、承太郎はその隙を見逃さない。

先のラッシュは、あくまでも戦闘の中断のためのもの。
今度こそは、一切容赦なしの全力全開。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ』

絶え間なく繰り出される拳の雨にゾッドは為す術もない。
幾百もの連打をその身で受けるのみ。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ―――オオオオオォォォォラァァァァァ!!』

渾身の力が込められたラッシュをその身に受け、再びゾッドの身体が宙を舞い民家を突き破る。

「オレ以上に速いだけでなく一撃一撃が正確無比。わが身を二度も吹き飛ばすとは驚いたぞ」

だが、多少の出血はあれどこともなしとでもいうかのように彼は立ち上がる。
呆れるほどの頑丈さに、承太郎は舌打ちをせずにいられなかった。


152 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:03:16 GaqkYP0.0



雄叫び。肉を殴りつける音。建物や地面を破壊する音。
目と鼻の先で行われる闘争の音に怯えながらも、朧は少女の介抱に努めようとしていた。

だが、視界がぼやけているのに加え、少女がどのような怪我を負っているのかがわからない。
どうにかせねばとわたわたと手を動かすが進展があるのかどうかもわからない。

そんな朧の手にほんのりと温もりが添えられる。
それが、少女のものだと気づくのにさして時間はかからなかった。

「......」
「目をお覚ましか」

少女が目を覚ましたなら話が早い。
いまの自分達がここにいたところでどうにもなるまい。

「はようここから離れなければ」
「......」

恐怖からか身体を震わせながらも、少女は動かない。
どころか、かさかさと紙の音がすることから、なにかを握りしめ読んでいるようだ。

「...ゃん」

やがて、ポツリと少女の口から言葉が漏れる。
命の危機に瀕しても悲鳴ひとつあげなかった彼女がだ。

「しょー...ちゃん...」

やがて、少女の声が震え始める。
『しょーちゃん』とは彼女の知己だろうか。
そう尋ねようとした朧―――その言葉は、側を通り過ぎた轟音に再びかき消された。


153 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:04:47 GaqkYP0.0


吹きとばされたゾッドは、衝突した衝撃により降り注ぐ瓦礫にも構わずのっそりと立ち上がる。

「面白い...げに面白き男よ!」
(ヤロウ...!)

至る箇所から血を流しつつも、未だ致命傷なく立ち上がるゾッド。
対して、空条承太郎は大した傷はないものの、度重なる攻防により疲労が蓄積していた。

不死のゾッドとスタープラチナ。

筋力はさして変わらない。強いてあげるならゾッドの方が僅かに上、だろうか。
スピード。こちらは確実にスタープラチナの方が上だ。決して、ゾッドがノロい訳ではない。スタープラチナが早すぎるのだ。

能力だけで見れば、スタープラチナの方が若干有利である。
だが、承太郎が攻めあぐねている原因は、ひとえにゾッドの頑強さだ。
かつてスタープラチナはダイヤモンドの固さを自称するスタンドの歯をへし折ったことがある。
それでも尚倒しきれない頑強さ。筋肉の鎧も極めればここまでになるというのか。
この一点にさえ絞れば、あのDIOすらも上回る。
ゾッドは、空条承太郎にとってのまさに最硬の敵だった。

(あの女たちに気を回す暇すらなかった...いまのに巻き込まれてなければいいが)

弱者を絶対に助けたい、という訳ではないが巻き添えで死なれるのも寝覚めが悪い。
まだロクに言葉すら交わしていない彼女を気遣うのもそのためだ。
ズン、と力強く地を踏みしめるゾッドの傍らで、少女に覆いかぶさり身を悶わす女が視界に映る。
大した怪我もないことを確認し、改めてゾッドへと視線を写す。

「嬉しいぞ...あの男たち以来だ。こうまで血沸き肉躍る闘いを満喫できるのはな」

ゾッドは低く頭を垂れ、承太郎へと向けて片膝をつく。
これは日本でいう敗北の証、土下座―――などでは当然ない。
ゾッドの足が地を蹴り、その身体は承太郎へと走っていく。
その様はまさに砲弾。


154 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:05:13 GaqkYP0.0

速さとは力である。質量を持った塊が速さを伴えば破壊力は増大する。
ゾッドほどの筋肉の塊をこの速度で喰らえば、人体などひとたまりもないだろう。

承太郎はこれを横に跳びのき回避。あの体当たり相手ではスタープラチナのラッシュも弾かれてしまうという判断である。

すれ違いざまに背中に拳を撃とうとする―――が、しかし。眼前に迫るのはゾッドの後ろ蹴り。
承太郎が躱すのと同時、両手を前方に強く叩きつけ、その反動で蹴りを放ったのだ。

とはいえ、如何に使徒とはいえ無理な体勢からの蹴りである。
スタープラチナの腹部を捉え後方に吹きとばすも、殺傷には至らない。
もちろん、吹き飛ばされる承太郎が壁に叩きつけられれば衝撃は大きい。
それを防ぐのがスタープラチナだ。
承太郎と壁の間に割って入り、ダメージを和らげる。

「あ...」

はずだった。

「なに!?」

突然だった。
着地点の確認をするため背後に目をやった瞬間、スタンドが解除されてしまったのだ。
背後―――いや、正確にいえば、視界の端に映った女の視線と交わった瞬間だ。
承太郎がそれを理解した時にはもう遅い。

圧倒的なパワーで壁に叩き付けられた承太郎は頭部から出血し―――ゾッドの追撃の体当たりが迫る。
辛うじて躱す承太郎だが、強烈な眩暈と共にがくりと膝をつく。
そして、ゾッドの体当たりは家屋の壁を、柱を破壊し―――瓦礫が二人をのみこんだ。

(しまった...!)

朧の両目は生まれついての破幻の瞳―――つまり、如何な忍法でも苦も無く破る摩訶不思議な瞳である。
一見強力に思えるこの能力だが、朧自身に制御が出来ないという最大の欠点がある。
つまり、本人にその気がなくとも偶然見てしまっただけで敵も味方もなく忍法を破られてしまうのだ。

この殺し合いの場では、忍法とは即ち『異能』を示している。
空条承太郎のスタンドの消失はこれが原因だ。
朧は、両目の痛みに耐え、戦況の確認をしようと目を開いた。
だが、自分を助けてくれた男が忍術らしきものを、それも偶然こちらを見ているとは思いもよらなかった。
その結果がこれだ。
助けてくれた男を逆に追い詰めてしまった。


155 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:06:13 GaqkYP0.0

「なるほど。貴様のその目...異形をうち消す力を持っているのか」

瓦礫を押しのけ姿を現すのはゾッド。
至る箇所に怪我を負っているが、その威圧感は一切衰えていない。

「それがオレの擬態も破ったということか。興味深いが、あの男との戦いを穢されたのは許せん。貴様はここで死ね」

ゾッドは小さく腕を振りかぶり、朧を横なぎに切り裂かんと振るう。
朧はなにもできない。ただ数秒の後に切り裂かれて死ぬ。
それを直感してしまったのか、ゾッドの爪が迫ろうとも恐怖で動くことが出来ない。

そんな朧を助けたのは少女。とっさに朧に飛びつき押し倒し、ゾッドの爪の射線から逸らす。
当然、超人的な身体能力を持つ訳ではない少女は躱しきれず左頬を、耳を、その長い髪を切裂かれてしまう。
切り傷から血を流しつつ、少女はふらりと立ち上がる。

(この童...)

数分目を離したことでなにが変わったというのか。
先程までは死人のそれであった少女の眼光には、確かな意思が宿っている。
絶望と怨念に濁った瞳、その奥にある鉄の如き意思。
なにが彼女を駆り立てたのか―――

カツン。

少女の懐から、なにかが零れ落ち地に跳ねた。

ソレは、球状、更に言えば卵のような形をしている。

「貴様、それは―――」




「スタープラチナ」


156 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:07:25 GaqkYP0.0

男の呟きと共に時が静止する。

「止められるのは2秒が限界ってとこか...」

最初に時を止めた時もそうだが、どうやらスタープラチナには制限がかかっているらしい。
まだ確実に把握できていないが―――いまはこれで十分だ。

吹きとばした後に朧たちを巻き込まぬよう、ゾッドの前方へと回り込み、スタープラチナと共に拳を握りしめる。

「『オオオオオオォォォォォ――――』」

スタープラチナの雄叫びに承太郎も合わせる。
放たれるのは、幾度も繰り返してきたこのラッシュ―――時間を止めた上での全力全開。
静止した時の中では、筋肉の鎧も使用不可能。
つまり、ゾッドは無防備な状態で最大のラッシュを受けることになるのだ。


「『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ』」

放たれた拳の雨がゾッドの身体に幾多も減り込み―――時が動き出す。

「ごっ!?」
「時が動き出そうが...このままぶち抜かせてもらうぜ」

『オオオオラアアアアアァァァァァ―――ッ!!』

ド ン ッ ! !

無数の拳の痕が同時にゾッドの身体に刻まれ、右角がへし折れ、最後の一発が鼻づらに叩き込まれた。

「NUAHHHHHHH――――ッ!!」

悲鳴と共に再び民家に叩き込まれるゾッド。
追い打ちをかけるように倒壊による瓦礫が、ガラスが降り注ぐ。

突如現れた男の背中を見て、朧は思わずヒッ、と悲鳴を上げてしまう。

頭部のみならず、全身の至る箇所から血を流している。
こうして立っているだけでも信じられないほどにだ。


157 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:08:10 GaqkYP0.0

(チッ...奴にトドメを刺しておきてえが、これ以上はヤベェ...)

承太郎自身、こうして立っているのがやっとであり、疲労も怪我もピークに達しかけている。
これ以上深追いすれば死は免れないだろう。
もしも、相手がDIOであれば無茶をしてでも倒そうとしたかもしれない。
だが、いまの相手はあくまでも『殺し合いに乗ったイチ参加者』。
自分の本来の目的は殺し合いを壊し生還することであり、名前も知らない女性を命を捨てて助けるという紳士的な美徳でもない。

故にここは最善手をとるべきである。

「ワリーがここは一旦引くぜ。...それと、あんたはなるべく俺を見るな」
「その怪我で動いてはいけません!」

動こうとする承太郎を朧は慌てて止める。
当然だ。この出血、下手に動かせば悪化するのみだ。
だが、承太郎が動かなければ撤退しようにもどうしようもない。
朧が背負う―――無理だ。
ただでさえ背丈が違う上に、朧は身体能力はそんじょそこらの村娘と同等、いやそれ以下かもしれない。
人一人を担ぎながら、且つなるべく揺らさぬように歩くのは不可能である。

万事休す。そんな空気になりかけた二人。

「―――コレ」

ガラガラと音を立て、少女が引っ張るのはリアカー。
崩れた家屋の倉庫から見つけてきたものである。

「こ、これは...」
「二人なら運べると思う。乗って」
「...やれやれだぜ」

重傷の男をリアカーで運ぶ少女と着物の女。
承太郎はそんなシュールな光景を想像しつつ、普段の口癖と共に、傷ついた身体に鞭うち荷台に乗り込んだ。


(...しょーちゃん)

朧と共にリアカーを引きながら、己の妹―――野崎祥子のことを思い浮かべる。
自分のせいで全身を焼かれてしまったあの優しい妹。
彼女はあの火傷のままここに連れてこられたのだろうか。
だとすれば一刻も早く彼女を救わなければならない。
彼女を喪えば自分はどうにかなってしまう。
それに、名簿に記載されていた相場晄のことも気にかかる。
彼はいつも自分を支えてくれた少年だ。こんなことで死なせたくはない。

(...でも、あいつだけは、絶対に許さない)

他にも、イジメの主犯格に祭り上げられていた小黒妙子、イジメを見て見ぬふりを貫いてきた南京子など気にかかる名前はあったが、いまは後回しだ。

佐山流美―――殺し合いの説明の際に視界にとらえたあの女。家に火を点け両親を殺し、祥子をあんな目に遭わせた張本人。
あの女を見つけた瞬間、殺し合いへの恐怖よりも憎しみの念が勝った。
これであの女に逃げ場はない。決してこの状況を喜びはしなかったが、逃がす心配もなくなった。
だから、あの化け物に吹き飛ばされバッグから零れ落ちかけた名簿を見るまでは『結果的にあの女が死ねばいい』とだけ考えていた。
その前に自分が死のうが興味はなかった。
だが、祥子や相場のことを考えれば、彼らを救うまでは死ぬ訳にはいかなくなった。
彼らは必ず生還させる。その執念が、ゾッドの興味を微かにひく結果に繋がったのだ。

やるべきことは多い。
けれど、いまは、助けてくれた者たちへの恩を返す。

少女―――野崎春花は、己の支給品のもたらすものに気付くことなくリアカーと共に街を駆ける。


158 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:09:14 GaqkYP0.0



ガラガラと音を立て、倒壊した家屋からゾッドは姿を現す。
出血や痣は多数あれど、その眼光未だに衰えず。

「...ふーっ」

どっか、と瓦礫の山に腰掛け身体を落ち着けるゾッド。
承太郎との戦いにより受けた怪我と疲労は、彼にとっても決して無視できる類のものではなくなっていた。

「疲れた、か。ふっ、久しく忘れていたな」

いまのゾッドはかつてないほどに満たされていた。
使徒として闘争と殺戮の日々に身を投じて三百年余り。自分とこれほどまでに互角に渡り合える者はいなかった。
かつて、ガッツとグリフィス、二人の男の剣をこの身に刻まれたがそれ以上だ。
あの男の異能力には正面から挑みスピードは上回られ、あれほどまでに拳を受けた。
なんとも素晴らしい戦士だ。機会があればまた戦ってみたいものである。

(しかし、奇縁とでもいうべきか...否。これも運命か)

少女の落とした石に想いを馳せる。
ゾッドは、否、使徒ならばみな知っている。
少女の持っていた、その人面にも似た模様の刻まれた意思持つ真紅の石。

覇王の卵―――ベヘリット。

(あの垣間見せた執念。あの小娘もまた、あの男と同じ運命にあるか、それとも新たな道を切り開くか―――虫けらのように死ぬか。見物だな)



ベヘリット。それを持つ者は、一番大切なものを捧げ世界を手に入れる選択肢を与えられる。
所有者である野崎春花は如何なる道を選ぶのか―――それは、まさしく『神』のみぞが知る。


159 : strength -力- ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:09:38 GaqkYP0.0


【I-4/街/一日目/深夜】

※周囲の民家の半数以上が倒壊しました。

【朧@バジリスク〜甲賀忍法帳〜】
[状態]:腹部にダメージ(中)、疲労(中〜大)
[装備]:リアカー(現地調達品)
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と会いたい
0:承太郎を安全な場所で治療する。
1:脱出の協力者を探す。
2:陽炎には要注意。天膳にも心は許さない。

※参戦時期は原作三巻、霞刑部死亡付近。


【野崎春花@ミスミソウ】
[状態]:右頬に切り傷・右耳損傷・出血(中)
[装備]:ベヘリット@ベルセルク
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:祥子を救い、佐山流美を殺す。その後に自分も死ぬ。
0:ひとまず承太郎を安全な場所へ運ぶ
1:祥子、相葉の安全を確保する。
2:小黒さんは保留。南先生は...


※参戦時期は原作14話で相場と口付けを交わした後。

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大〜絶大)、全身にダメージ、出血(大)、リアカーに乗せられている。
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:主催者の言いなりにならない。
1:ひとまず休憩をとる。
2:DIO・先程の化け物(ゾッド)には要警戒。

※参戦時期は三部終了後。

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:全身にダメージ(大〜絶大)、疲労(大)、右角破損
[装備]:日本刀@現実
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:闘争を繰り広げる。
0:とにかく戦う。
1:ひとまず休憩をとる。
2:空条承太郎には強い興味。春花の持つベヘリットにも少し興味。
3:ガッツと出会えれば再び戦う。

※参戦時期はグリフィスに忠誠を誓う前。


160 : ◆ZbV3TMNKJw :2016/12/30(金) 02:12:10 GaqkYP0.0
投下終了です。
続いて、『巴マミ』、佐山流美、ブローノ・ブチャラティを予約します。


161 : 名無しさん :2017/01/01(日) 23:57:39 dT5jY1no0
新年明けましておめでとうございます
そして投下乙です

組み合わせ的に朧がスタープラチナを見てしまいそれが原因で死ぬ展開を予想していましたがさすがの頑強さでした
それと状態表を見るとゾッドが瀕死レベルのダメージを受けているはずなのにそれすらも喜ばしいものと受け止めているのも恐ろしいですね
今後のあばれっぷりが楽しみです


162 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/06(金) 00:52:30 7Blq.1qg0
延長します。


163 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/08(日) 02:38:27 tMqVZe3A0
巴マミとブチャラティを予約から外して投下します。


164 : 佐山流美は自信を持って生きていたい ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/08(日) 02:40:19 tMqVZe3A0
「クソッ...ふざけんなクソッ!」

佐山流美は舌打ちと共に地団太を踏んだ。
この殺し合いに巻き込まれたことへの怒り。当然それもある。
しかし、それ以上に彼女を焦らせていたのは野崎春花と野崎祥子の存在だった。

野崎春花は佐山流美を殺したいほど憎んでいる。
なぜか。

流美は、クラスメイトと共に春花の家に火を放った。
本当は少し脅すだけのつもりだったが、久我の些細なミスにより母親は焼殺してしまい、見られた以上殺すしかないと父親と妹にも火を点けた。
父親は死んだが、かろうじて妹は一命をとりとめていた。全身の皮膚が焼けただれた見るも無残な姿でだが。

そして春花は復讐鬼になった。

その手始めとして、橘が引き入る三人を殺した。
次いで久我、間宮、池川も殺られた。
となれば、だ。
首謀者である流美を許す道理はどこにもない。

今までは誰にも知られないようにやっていたかもしれないが、このような事態に陥ればどんな手段を使うかわかったものではない。
例えば、春花が周囲の者に身の上を話せばそれだけで流美は警戒対象になり追い立てられることは間違いない。
それでも、春花一人ならばまだ言いくるめることは可能だったかもしれない。あいつはイカれた女だと訴え続ければこちらが優勢になれるかもしれない。
だが、放火の犯人を知る者はもうひとりいる。
そう。生き残った妹―――野崎祥子だ。彼女もまたこの殺し合いに連れてこられている。
あの有り様では言葉を話すことすら怪しいが、彼女の有り様を見せればどちらに味方するかは言うまでもないだろう。
これで状況証拠として有利なのは春花。証言者2対1で有利なのはどちらか。言うまでもない。

(あいつは絶対にあたしを潰しに来る。でも、どうすれば...!)

殺られる前に殺ればいい。
確かにそうだが、それを終えても他の参加者も殺さなければ生き残れない。
春花が素性を話した者がいれば尚更だ。
それに、流美は決して運動神経が優れているわけではない。
大の大人相手では歯が立たないだろう。

つまりこのままでは流美は詰みだ。殺されるのを怯えながら待つしかない。


165 : 佐山流美は自信を持って生きていたい ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/08(日) 02:40:41 tMqVZe3A0

(あたしは...ごめんだね)

ふざけるな。あんなイカレに殺されてたまるか。
自分をイジメてた連中はたえちゃん―――小黒妙子以外はみんな死んだ。
自分をイジメていいのはたえちゃんだけだ。
正直に言えば、死んだ奴らに対してザマアミロ、因果応報だという気持ちがないとは言い切れない。

―――そう。このまま終わるわけにはいかない。

人間は他人を犠牲にすることで生きている。そうしなければ自分が犠牲になってしまうから。
私は今まで自信がないから虐げられてきた。だが、これはチャンスだ。
今までクラスの連中に犠牲にされてきたぶん、今度は私がみんなを犠牲にして生き残ってやる。
そうすれば自分はもっと自信を持って生きていけるだろう。
今まで通りビクビク怯えながら過ごすのはもうゴメンだ。
私はこの試練を乗り越えてみせる。

(そのためには、やっぱあんたらは邪魔なんだよ野崎春花)

まずすべきことは彼女たちをいち早く見つけることだ。できることなら誰にも会っていない状態でだ。
そして、奴らが悪評を振り撒く前に―――殺す。

流美はデイパックを握りしめ決意する。
己の犯した罪から目を背けるように―――負け犬人生とはおさらばだと。


【B-8/一日目/深夜】

【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:健康、野崎春花と祥子への不安と敵意。
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
1:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
2:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。

※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。


166 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/08(日) 02:43:16 tMqVZe3A0
投下終了です。

まとめWikiを作成しました。
まだあまり出来ていませんがボチボチと更新していきたいと思います。
リンクはこちらです
ttps://www65.atwiki.jp/20161115


167 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/13(金) 23:12:46 b32xx2CU0
一方通行、リンゴォ、『スズメバチ』を予約します


168 : 竹中 :2017/01/16(月) 22:17:38 uJqapgXA0
南京子@ミスミソウと書き手枠で『千手観音@GANTZ』
ゲリラ投下します


169 : 竹中 :2017/01/16(月) 22:19:14 uJqapgXA0
「ははははははッ!!」

暗闇の中を駆け巡る嗤い声。
怪物──『宮藤清』の姿は確かにそこにあった。


◉ ◉ ◉


少なくとも彼女もまた混迷していた。
女の名は南京子。大津馬中学校の教員であった。
しかし何かがおかしい。

(『死んだ』───確かに自分は死んだ)

記憶に誤りが無いのなら自分は除雪車に轢かれて───。

「……そうだ、これはきっと悪い夢なんだ」

南京子は解釈した。根本からしてまずおかしい。
状況があまりに飛躍している。

あの首が吹き飛んだ男の人も何かのトリックだ。そうだ、そうに違いない。
この首輪もきっと何かのオモチャなんだ。

「痛っ!!」

おもむろに頬をつねる京子。
しかし夢は覚めない。覚めるはずが無い。

だが彼女は依然として現実を受け止めようとはしなかった。


◉ ◉ ◉


〝ゴキィ〟

何かを磨り潰すかのような擬音。
その音が自分の背後に迫るまで京子は『それ』の存在に気付けなかった。

『身体が半分溶け、肉のようなものがはみ出ている観音様』。
その『赤い首輪』を装着した異形の塊がすぐそこに佇んでいたのだ。

「ひっ!」

反射的に足元にあったデイパックに手を伸ばす京子。
こうなったら信じてみるしかない。
あの男は確かに『アイテム』を支給した、と言った。何か──何でもいいからッ!

手探りの果てに京子が掴んだのは銃剣だった。
それはかつて学園都市・三沢塾を占拠した錬金術師アウレオルス=イザードが錬成した銃剣。
十分な殺傷性能はある。経緯なぞ知る由もない京子にさえもそれは分かった。

(撃つ!殺られる前に殺る!)

南京子は引き金に指をかける。あとは引く。たったそれだけのモーションで済む。
仮にあの男の言葉が正しかったなら、『赤い首輪』の参加者を皆殺しにすれば帰れる。
たとえ相手が強力だろうがこの至近距離。
銃など扱った事の無い京子であっても外す事は無いだろうし、相手へのダメージもそれ相応には絶大なはず。

(引く!引くんだ!)

沈黙。南京子は躊躇いながらも引き金に手をかけた。


170 : 竹中 :2017/01/16(月) 22:20:17 uJqapgXA0
◉ ◉ ◉


「馬鹿だなぁ。勝てる訳がないじゃないか」

果てしない嗤いの末に『千手観音』もとい『宮藤清』は口を開いた。
彼の目の前に転がるは拳銃を握った女の死体。
頭部には燈籠レーザーによって大きな風穴が空いている。

宮藤清もまた当惑していた。
自分は確かに一度死に、あの【黒い玉の部屋】に行き、転送された寺院でまた死んだ。
殺されたのだ。そう『自分自身』に。
目を覚ますと『自分』が『自分』になっていた。

とても気分が良かった。そして自分は黒服の男──確か『加藤くん』と呼ばれていただろうか。
確かに彼を追っていた。そのはずだった。

だがどうだい。目を覚ませばこの有様だ。
しかしながら悪い気はしなかった。
むしろ最高だ。

もっとだ。もっと殺してやる。
───同胞を皆殺しにした『人間』という種を皆殺しにしてやる。

狂気に顔を歪める千手観音。
そして再び響き渡る嗤い声───。


【南京子@ミスミソウ 死亡】


【A-8/草むら/一日目/深夜】

【千手観音(宮藤清)@GANTZ】
[状態]:健康、人間に対する激しい殺意
[装備]:(燈籠レーザー)
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:黒服を含めた全参加者を皆殺しにする。
0:最高に気分がいい。もっと殺したい。
1:同胞を殺した黒服(ガンツメンバー)は優先的に殺害。

※参戦時期は宮藤吸収後で加藤勝の腕を切断する直前です。


171 : 竹中 :2017/01/16(月) 22:20:44 uJqapgXA0
投下終了です


172 : 竹中 :2017/01/16(月) 22:24:00 uJqapgXA0
全部埋まったと思うので貼っておきます

7/7【真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
○『野獣先輩』/○『MUR大先輩』/○『ゆうさく』/○『虐待おじさん』/○『ひで』/○『スズメバチ』/○『ありくん』

6/6【ジョジョの奇妙な冒険】
○空条承太郎/○『DIO』/○吉良吉影/○ブローノ・ブチャラティ/○リンゴォ・ロードアゲイン/○ホル・ホース

6/6【魔法少女まどか☆マギカ】
○鹿目まどか/○『暁美ほむら』/○『巴マミ』/○『美樹さやか』/○『佐倉杏子』/○志筑仁美

6/6【ミスミソウ】
○野咲春花/○野咲祥子/○小黒妙子/○佐山流美/○相葉晄 /○南京子

6/6【GANTZ】
○玄野計/○加藤勝/○西丈一郎/○岡八郎/○『ぬらりひょん』/○『千手観音』

5/5【バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
○甲賀弦之介/ ○朧 /○薬師寺天膳/○陽炎/○如月左衛門

5/5【ベルセルク】
○ガッツ/○『ロシーヌ』/○『モズグス』/○『ワイアルド』/○『ゾッド』

4/4【とある魔術の禁書目録】
○上条当麻/○御坂美琴/○白井黒子/○一方通行

4/4【BLACK LAGOON】
○岡島緑郎/○レヴィ/○シェンホア/○バラライカ

4/4【魔法少女育成計画】
○『スノーホワイト』/○『ラ・ピュセル』/○『森の音楽家クラムベリー』/○『ハードゴア・アリス』

3/3【彼岸島】
○宮本明/○『雅』/○隊長

3/3【ターミネーター2】
○『T-1000』/○『T-800』/○ジョン・コナー


173 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:51:41 kL2auerA0
投下乙です。
南先生は相手が悪かった、南無。
千手観音さんは原作序盤の敵ながら絶望感がハンパないキャラですよね。
他にもバケモノ揃いなこのロワでどう立ち回るか。

投下します。


174 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:52:41 kL2auerA0
「ベクトル操作...」

服装、髪の色、肌。その全てが白を基調とした少年―――この場では少年と定義させていただく―――『一方通行(アクセラレータ)』はぶつぶつとそんなことを呟いていた。
手に持った石を上空に放り、それは重力に従い落下する。着地先は見上げる少年の鼻先。
それは彼に触れる寸前で突如軌道を変え、脇にそれ地に落ちる。

「こっちは問題ねえ。だが...」

落ちた石を拾い、再び上空に投げる。重力に従うそれはまたしても垂直に落ち、その着地先はそっぽを向く少年の頭である。
今度は軌道を変えずにそのまま落下。小石はコツンと一方通行の頭に当たり跳ねた。

(やっぱりか。『自動(オート)』には設定できねえから、俺が意識を向けてなきゃ操作もできねェ。どうやら完全に能力が戻った訳じゃなさそうだ)

ここまでの制限が加えられていれば、今までは平気だった不意打ちや奇襲にも常に気を張らなければならないだろう。
殺し合いを成立させるためには妥当な制限なのかもしれない。

ここに連れてこられる前―――研究員・木原数多のことを思いだす。
あの男と向き合った直後に気が付けばこの会場に連れて来られた。
あいつがなにかをしたのか?いや、そんな素振りは一切見せなかった。
アレはあの場で自分をどうにかするつもりだった。わざわざ手間をかけてこんなもののために連れだすほどモノ好きではないだろう。
となれば第三者であると想定しておくべきだ。


「くっだらねェ」

一方通行は溜め息と共にそんな感想を述べた。
他の人間を殺させ最後まで勝ち残らせる。その目的はなんだ?
また絶対能力(レベル6)に進化させるための実験か?


175 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:53:10 kL2auerA0

ほんとうにくだらない。
いまさらカビが生えたようなあの実験に関わるなどクソくらえだ。

なにより見ず知らずの奴に目的も知らされずに言いなりになるなんざ腹が立ってしょうがない。
もしも打ち止め(ラストオーダー)が人質にでもとられていれば、全員ブッ殺してでも救い出そうと僅かにでも考えたかもしれない。...彼女に言えば調子づいておちょくられるのは目に見えているため言わないが。
ただ、もしそうならあの主催の男は自分にそう伝えたはずだ。彼女の命が惜しければ我々に従え、と小物悪党の常套句を付け加えてだ。
でなければこうして一方通行が殺し合いに反目するのは承知の上のはず。
それに、いましがたテストしたように、能力が使えることからミサカネットワークは主催の手にあることを察せるとふんだとしてもだ。
アレが関与している割には自分の能力の管理がおざなりすぎな上に、今なら時間制限なく能力を使用できる実感がある。
例え小一時間能力を使用したとしても言語中枢の異常や脳への負担は生じないだろう。

つまり、いまの一方通行の能力はミサカネットワーク以外のなんらかの力で調整されているはずだ。

(怪しいのはこの首輪か)

演算用チョーカー型バッテリーの代わりにいつの間にかつけられていたこの首輪。
どういう仕組かはわからないが、コイツが関与していることは間違いない。
無闇に外せば脳に負担がかかりマトモに言語を発することもできなくなるだろう。

(つーことは、俺はコイツを迂闊に外すわけにもいかねェってことか、クソッ)

ますます気に入らない。
不平不満を言いつつも結局これが必要になる。これではまるでペットのようではないか。
決めた。
あの主催の男は必ずブチ殺す。

そんな怒りをぐつぐつと煮やす一方通行の耳に、カツン、カツン、とアスファルトを叩く音が届く。
音は彼のもとへ近づいている。つまり、何者かがこちらへ向かっているということだ。


176 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:54:16 kL2auerA0

やがて現れたのは、髭を蓄えた細身の男。
映画なんかでたまにみるガンマン、なんて印象を抱かせる風貌だ。

「いきなりだが自己紹介をさせていただく。オレの名はリンゴォ・ロード・アゲイン。配られた支給品はこの一八七三年型コルトのみで、使用する武器はこれだけだ」
「アァ?」

聞いてもいないのに、リンゴォと名乗った男はそう口火を切った。

(ンだァ?お手て繋いで仲良くしましょうってかァ?)
「スタンド、という概念を知っているか」
「......」
「知らないという体で話を続けさせてもらう。スタンドとは己の精神エネルギーが像を成したもの。スタンドは使用者によって個性や能力が異なっている。
オレのスタンドの能力の名は『マンダム』。ほんの6秒。それ以上長くもなく短くもなく。キッカリ『6秒』だけ時を戻すことができる」
「なんだなんだなんですかァ?僕はこんだけ話したからお友達になりましょーって奴ですかァ?」
「オレが望むのは『公正なる果し合い』だ。お前からはいざという時に殺人を躊躇わない漆黒の意志を感じる」
「...アァ?」

果し合いということは、つまりリンゴォは殺し合いを肯定したということだ。
あの男の言いなりになってだ。
まあ、彼にとっては想定内のことである。
そして自分に戦いを挑んで来る者には容赦ができない。
それが一方通行という能力者であった。

「こういう馬鹿はどこにでもいるもンだな。まあいい、相手してやるよ」

気だるげに己の首に手をやり、コキリと音を鳴らす。


177 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:54:49 kL2auerA0

「学園都市一位の一方通行(アクセラレータ)って知ってるか」
「いいや」

先程のリンゴォのやりとりをそのまま返すかのような問い。
それに苛立つこともなくリンゴォも淡々と答える。

「だったら教えてやるよ。俺の能力は『ベクトル操作』。俺の身体に触れたあらゆる物質のベクトルを脳内で演算することで操作できる能力だ。いまはオート機能はねェからテメェの能力を上手く使えば勝てるかもなァ」
「なぜお前も能力を教える」
「別に聞いてもねえことをテメエがペラペラとお喋りしやがったからな。これで『公正』だろ」
「...感謝いたします」

決して皮肉ではなくリンゴォは純粋に礼を述べる。
リンゴォは己の能力は自ら話すが、それを他人に強制したことはない。
なぜか。
この果し合いはあくまでもリンゴォが望むもの。
闘う価値のある者に強制的に付き合せているにすぎない。
そのため、相手が自分をどう解釈しようが、どのような手段をとろうが責めることはしない。
未知なる相手だが、それを乗り越えることもまた修行のひとつである。
だが、相手は自ら能力を話し真に『公正』なる果し合いに仕上げてくれたのだ。
なればこそ感謝の意を示さずにはいられなかった。

片や一方通行にはそんな考えなど微塵も無い。
公正だの果し合いだのなんだのと眼中にない。
ただ、彼からすればリンゴォの態度はこの一方通行を『ナメている』としか思えなかった。
『6秒だけ時を戻す』。それが真にせよ偽りにせよ、わざわざ教えるというのだ。
一方通行を知らないと言うのだから対策をすでに立てているというわけでもない。
単純に『コイツになら勝てる』と思っているのだ。
よほど自信があるのか、それともよほど一方通行を低く見積もっているかだ。
そんな事実をハイソウデスカとすんなり認められるはずもない。
だから己も能力と弱点を晒すことで『公平』にしてみせた。
そして、この一方通行をナメたツケは倍にして返してやる。
そのための公平だった。

片や、漆黒の殺意と敬意を抱き。片や、純粋な苛立ちと共に。

二人の言葉は一コンマずれることなく重なった。

「「よろしくお願い申し上げます」」


178 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:55:22 kL2auerA0

開戦の合図は意外にも静かなものだった。
リンゴォは即座に引き金を引くのではなく、歩を進め一方通行との距離を縮めていく。
いまの距離で銃を撃てば確かに届くが、命中率は低く致死性もまた低いからだ。

一方通行もまたその場から動かない。
リンゴォは拳銃しか使わないと言っていたが、それがブラフである可能性も考慮する。
それ以外にも、砂を蹴りあげての目つぶし。隠し持った武器。まだ話していない『能力』。何れも可能性はある。
如何なる手段を用いられても、一方通行は制限によりそれらを己の目で認識しなければならない。
相手の一挙一動を見逃してはならないと目を張り―――気が付く。

リンゴォの手は震えていた。

「ンだァ?てめェから誘っておいてビビッてんのか三下が」
「恐怖というのは否定しない。自分ではそう思っていなくても、極度の緊張で肉体が動かないこともありうる。また、三下というのもだ。オレはまだ修行中の身。オレの目指す『男の世界』の果てにたどり着くまでは半人前。つまりオレは三下ということだろう」
「...スカしてンじゃねェよ、気に入らねえ」

なんともまあ小物臭い言葉を発してしまったものだと自分に苛立ちかける。
相手が自分をナメてかかっている訳ではないのはわかった。だからこそ、リンゴォという男が未知のものに思えてくるのも仕方のないことだ。
それでも。
本来の能力を発揮できない現状、学園都市最強には相応しくないかもしれないが、それでも彼女が、打ち止めがいる間だけは最強で在りつづけると決めたのだ。

彼女が見ていようがだったら、相手がなにを考えていようが正面から捻じ伏せるだけだ。

ザッ

リンゴォに合わせるかのように、一方通行もまた歩を進める。

「!」
「テメェが距離を詰めるのがトロいからよォ、思わず足が出ちまった」
「自ら死線を詰めるか...嬉しいぞ。やはりお前はオレの乗り越えるべき壁だ」

ザッ ザッ

向かい合う二人が互いに歩めばそれだけ距離が縮まるのも早くなる。
二人は、あっという間に手を伸ばせば身体に触れられる距離まで近づいていた。


179 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:56:10 kL2auerA0

「これがお前の射程か?」
「射程だぁ?ンなもンねェよ。だが、この距離ならテメェは絶対に逃げらンねぇだろ」

互いに死線を踏み越え、睨み合うこと数十秒。
先に動くのは―――リンゴォ。
拳銃を抜き引き金を引く。
文章にすればそれだけのことだが、美学のもとに研ぎ澄まされた早撃ちは生半可な覚悟の者では追いつけない。
例えベクトル操作の能力を持っていたとしても、演算が間に合わずその心臓を打ち抜かれるだけだ。

「―――ごっ」

相手が一方通行でなければ、だが。

「さっきも言ったがこいつが俺の能力だ。武器は拳銃(ソイツ)しか使わねえって言ったテメェには理不尽かもしれねェが卑怯と思うか?」
「い、い、や」

心臓付近から血を流し伏すリンゴォは、指を震わせながら時計の針のツマミへ手を伸ばす。
間もなく意識も遠のくだろうに、末期の哀愁のつもりだろうか。
リンゴォは、残る力でツマミに触れ―――

―――ド オ オォ ォ ン

「ッ!?」
「......」

再び両者が対面する。
まるで先程の数秒の間のやり取りが無かったかのように。

「成る程。コイツがテメェの能力か」

少々驚いたが、事前に聞かされていることもあり動揺することはない。
むしろアレで終わってしまっては興ざめだ。


180 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:56:46 kL2auerA0

勝負は振り出しに戻る。

そう。これはあくまでも振り出し。

戻ったところで同じように弾丸を放てば。

「―――ごっ」

当然、弾丸はリンゴォを貫く。

「ンだぁ?何の工夫もなしに俺が殺せると思ったのかよ」

―――ド オ オォ ォ ン

「また、か」

何度やり直しても。

「―――ごっ」

―――ド オ オォ ォ ン

「いい加減にしやがれ」

弾丸を撃つタイミングをズラしても。

「―――ごっ」

―――ド オ オォ ォ ン

「そういうンじゃねえんだよ」

リンゴォは『拳銃しか使わない』と断言したためそれを曲げることはない。
例え、何度やり直すことになろうと。

―――ド オ オォ ォ ン

例え、一筋の光すら見えなくとも。

―――ド オ オォ ォ ン

リンゴォは、己の定めたルールに従い相手を破るのみ。
それが『公正なる果し合い』。ウソのない『男の世界』である。


181 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:57:36 kL2auerA0

「気は済ンだかよ」

一方通行はそんなリンゴォの事情など知ったことではない。
何度も繰り返されるやり取りについに痺れを切らした。

リンゴォが自身の放った弾丸に身体を貫かれるのと同時、暴風が吹き荒れリンゴォの身体を空に巻き上げる。

「―――――!!」

その風はまさに脅威。純粋なる圧倒的パワー。
宙に投げ出された身体ではマトモに身動きすらできない。

「う、うおおおおおお―――!!」

あまりの圧力に叫ぶリンゴォ。それを追いかけるように空を舞うは一方通行。
跳躍―――違う。翼だ。
風のベクトル操作によって生み出した竜巻の翼である。
その姿はまさに天使、否。悪魔だ。

「悪ィがこっから先は一方通行だ」

風が止む。
一瞬の静寂と共に相対するは、傷ついたガンマンと凶悪な笑みを浮かべる悪魔。
悪魔の握りしめた拳は獲物を屠らんと放たれる。

「大人しく尻尾を巻いて三途の川へ逝きやがれ!」

純粋なる敵意と殺意を乗せた拳はリンゴォの顔面に突き刺さり


―――ド オ オォ ォ ン

時間が巻き戻り、リンゴォの弾丸は身体を貫いた。


182 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:58:23 kL2auerA0

「あ...」

声を漏らし、血の流れる腹部を手で押さえる。

「お前が攻撃に移った瞬間こそ、オレのチャンスだった」

ベクトル操作。それの具体的な理論はわからなかったが、一方通行の言葉を信じるなら、己の脳で演算することで発動できる能力である。
一見、正面からの突破は不可能な能力だと思える。
だが、もしも能力を発動する際の演算に途中で妨害が入ればどうなるか。
問題用紙に書いた計算式が成立する直前にビビッ!と余計なモノを書き足せばどうなるか。
それでも計算式は成り立つだろう。しかし、そこに様々な情報が加わればそのぶん時間はかかってしまう。
リンゴォは、一方通行が攻撃へと意識を向ける時をひたすら待った。
意識を攻撃に向けたその瞬間に時を巻き戻せば、6秒前に放たれた弾丸のベクトル計算に攻撃の意識が割り込み計算式は乱れ、弾丸は届くはず。
それでも尚、リンゴォにとってそれは賭けであった。
もしも一方通行の攻撃が瞬間的に終わるものであったなら。もしもリンゴォの能力発動のキッカケとなる時計を先に破壊されていれば。
例え、リンゴォが一手たりともしくじらなくとも失敗する。そんな針の先を通すような無謀な賭けであった。

「―――とでも思ってたのかよ、三下ァ」

故に、一方通行が賭けに勝ちその両脚で立っているのもまた当然のことである。


「く...」

震えるリンゴォの指がツマミへと向かう。
一方通行は蹴りあげにより腕を弾き、そのまま肩に足を押し付けて仰向けに倒す。
そのまま両肘を踏みつけ地面に固定した。
一方通行自身は決して怪力ではない。
しかし、万全の状態ならいざ知らず、腹部を撃たれたリンゴォにそれを咄嗟にはねのける力はなく、かといって銃を撃つことも時計に触れることもできない。
もぞもぞともがく内に、タイムリミットは迫り。

「6秒―――ゲームオーバーだ」

宣言と共に、リンゴォの両手は地に落ちた。
決着はあまりに静かなものだった。


183 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:58:58 kL2auerA0

「オレの負け...か」
「ああ」

一方通行がリンゴォに拳を振るう直前。
風を完全に静止させ、威力を殺してまでただの拳で殴りかかったのは次のベクトル操作に向けてだ。
あの状況であればリンゴォは必ず能力を行使する。それも、6秒戻せばベクトル操作がぎりぎり間に合わないタイミングでだ。
そこで彼は、殴る直前に、先にある程度の演算を澄ませておくことにした。
記憶が引き継がれるのであれば、それでベクトル操作を発動することもできるはず。
その考えは的中し、6秒戻った時には既に演算のほとんどが終わっていた。
後は、残りのぶんを演算すればそれでよし。見事、リンゴォの腹部に弾丸は命中したのだ。

「なぜ...心臓へ反射させなかった」

ここでリンゴォはひとつ疑問を抱く。
そう。先程まで一方通行は心臓部に反射させていたというのに、いまに限っては致命傷にならない部位に反射させたのだ。
能力のトリガーを見切っている以上、心臓へと反射させた方が楽だというのにだ。
同情や情けをかけたか?違う。この男はそうではない。
その証拠にこの男のリンゴォへの殺意は消えていない。
となれば、だ。

「...聞きてェことがある」

リンゴォはその半ば予想していた答えに、構わない、といった視線を送る。
リンゴォの命を断ち、果し合いを最後までやり遂げるというのなら、敗者は敗者らしく質問には答えよう。
参加者の中に他に知っている者はいるか。スタンドとはなにか。どうやって能力を得たか。
恩人であるファニー・バレンタインの不利になること以外なら幾らでも話そう。

「テメェは俺を殺してなにになりたかったんだ?」

だが、彼は予想外の問いを投げかけた。
一方通行を殺して、なにになりたい。理解するのに時間がかかってしまった。

「...どういう、意味だ?」
「聞いたままだ。テメェの『公正なる果し合い』って奴の先にはなにがあるのかって聞いてんだ」
「......」


184 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 02:59:32 kL2auerA0

リンゴォは考える。
なぜ自分は決闘を望みそれを修行と称したのか。

かつてのリンゴォは弱いだけの存在であった。
農夫であった父親は徴兵され戦争へ行き、なにがあったのかは知らないが戦場から脱走しどこかの牢獄で病死した。
その煽りを受け、父を失った自分と母と二人の姉は裏切り者と蔑まれ、生まれた土地では生きていけなくなり追いやられるように全国を転々としてきた。
生まれつきリンゴォは皮膚が弱く、ちょっとしたことで皮膚が切れ出血したり、それに関係してか、病床に伏せることも多かった。
そんな存在しているだけで社会的に価値の無い弱者。
それがリンゴォ・ロードアゲインの少年期であった。

転機が訪れたのは10歳のとある夜中だった。

ふと目を覚ますと、かすかな光の中に軍服を着た見たことも無い大男が立っていた。
男はリンゴォの首を絞めながら言った。『おまえは騒ぐなよ。食いものさえも満足にねえ家だと思ったら、久しく忘れていたぜェ...こんな美しい皮膚をよォォォォ』
そんな男の脇から見えるのは、普段の日常を彩るテーブル。
その光景からリンゴォを見つめるのは、倒れる母や姉たちと、彼らの血で濡れたナイフ。

リンゴォは静かに泣いた。
つい先程、眠りにつくまでそこにあった"日常"が奪われあっという間に"非日常"へと放り込まれた恐怖と悲しみに。
これから、そんな非日常さえも奪われるのだろうという絶望に。

男は、そんなリンゴォに構わず、荒い息遣いで彼を抱きしめ、皮膚を舐め回し、あろうことか男である彼を犯そうと服を脱ぎ始めた。

必死に逃れようとするリンゴォは、いつの間にか男の腰から拳銃を盗んでいた。
震える全身と止まらない鼻血を携え拳銃を突きつけていた。

男は、おどけるように言葉をまくし立てた。
『落ち着け』『軽々しく扱うな』『もっと鼻血が出ちまうぜ』『いまは怒ってないがオレも怒っちまう』『やさしくするから銃を下におけ』
そんな、先程まで性具のようにしか見ていなかったリンゴォに対して優しげな言葉を投げかけた。

だが、リンゴォは男を撃った。
隙を突き拳銃を奪おうとした男をそのまま射殺した。

―――この時、少年の鼻血は止まっていた。目には力が漲りその皮膚には赤みがさした。
彼には"光"が見えていた。これから進むべき"光り輝く道"が...
鼻から吸い込む空気は今までにないほどさわやかに胸を満たした。
以後、リンゴォ・ロードアゲインの生きる上で原因不明で出血したり呼吸が出来なくなるという事は2度となくなった。


185 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:00:12 kL2auerA0

それらを踏まえた上で、リンゴォは真っ直ぐな瞳で言い放った。

「公正なる闘いは内なる不安をとりのぞく。乗り越えなくてはならない壁は『男の世界』。オレはそう信じた...それ以外には生きられぬ"道"」

そう。彼には後悔や躊躇いはない。
今までの果し合いで屍を積んできたことも。ここで一矢報いることもできず敗北することも。
かつて見出した『男の世界』に殉じたこれまでに疑いの余地などありはしなかった。

だからだろうか。

そんな自分を見つめる一方通行の。

「...哀れだな、テメェ」

心底同情するかのような表情が許せないと思ったのは。



――――ピチョリ


突如、一方通行の首筋に液体のようなものが降りかかる。
思わずそこに手をやり、上空を見上げる一方通行。
だが、空には雲一つない。
周囲を見回すが、やはり何者かの気配はない。

「...リンゴォ。テメェ、なにか―――ッ!?」

一方通行の首筋に電撃の如く熱い衝撃が駆け抜ける。

(なンだコイツは!?俺はなにをされた!?)

怒りの形相でリンゴォを視る―――が、リンゴォも戸惑いの表情を浮かべている。
下手人がリンゴォではないとしたら、いったい誰が―――




ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン


チクッ


186 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:00:42 kL2auerA0


ビンビンビンビンビンビン

ゆうさくに逃げられたスズメバチは荒れていた。

一刻も早く自分は奴を刺さなければならないというのに。
あと一歩だったというのに。
あの少女さえいなければ奴を刺せたというのに。

ビンビンビンビンビンビン

スズメバチは考えた。
このままゆうさくを刺しに行ってもまたあの少女に邪魔されるだけだ。
彼女を乗り越えねばゆうさくを刺すことはできない。
だがどうやって。彼女も強い。よしんぼ倒せたとしてもゆうさくに逃げられれば意味がない。

殺るなら正面からではなく暗殺だろう。

ビンビンビンビンビンビン

しかし、スズメバチはこの羽音を止めることができなかった。
どれだけ速度を変えてもやはりコレだけは抑えられなかったのだ。
当然、羽音が聞こえれば敵も警戒するため暗殺は困難である。
だが自分の武器はこの針だけだ。どうすればゆうさくを刺せるだろうか。

スズメバチが途方に暮れていたその時。

ゴ オ オ オ オ ォ ォ

「!?」

突如吹き荒れる暴風。

体格的にはとても小さいスズメバチはその余波に煽られ近くの木々に何度も打ちつけられる。


187 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:01:23 kL2auerA0

―――てめえふざけんなよ。こんなことしてただですむと思ってんのかよ

そんな憎々しげな視線を送る先にいたのは、風を翼のように纏い宙に浮く悪魔のような少年。

―――なんだよそれ。人間の癖に飛ぶなんて俺の立場かたなしじゃねえかよ。

スズメバチは一目で理解した。奴は危険だと。
奴がゆうさくと組めば決して手出しができなくなってしまう。奴は排除すべきだ。
だが勝てる気がしない。あの風をモロに受ければ絶対に死ぬ。

―――ヤバイヤバイヤバイ

風に巻き込まれていく身体に焦燥するスズメバチ。
どうにかして逃げなければともがくが、ピタリと風が止んだかと思えば。

―――ド オ オォ ォ ン


―――!?

スズメバチが風に巻き込まれる寸前にまで時が巻き戻った。

かと思えばいつの間にか少年はAVでよく見る展開のようにダンディな男を押し倒していた。

あまりの事態に困惑するスズメバチ。
だが、これはチャンスだと考えた。幸い、自分の身体には異常がない。
必ずや障害となるあの少年を刺せば、ゆうさくへの足がかりになる。
というかあの少年を乗り越えれば怖いものなどなくなるだろう。

ここでスズメバチは、あの少年はゆうさくではないが彼を刺すと決意。
だがどうやって。
自分が近づけば必ずあの少年は警戒する。最初に出会った忍者っぽい男はなぜか警戒しなかったが、大概の者は逃げるか殺虫剤を撒いてくるだろう。
もしあの少年が自分を敵だと見なせば、先程のように自分の肌に触られないように風を操り自分を殺してしまうだろう。

ここでスズメバチは暗殺に適した方法を思いつく。
少年は風を操っていた。即ち、遠距離攻撃が出来るというわけだ。それができれば自分でも不意をつくことができるはず。
だが、重ね重ね言うがスズメバチの武器は針だけ。遠距離攻撃などとてもできやしない。
スズメバチは悔し紛れに盛んに尻を振り始め、辺りにはスズメバチ特有のフェロモンが撒き散らされた。

―――ん?

その己から排出された体液を見て首をかしげる。
このフェロモンはスズメバチが仲間を呼ぶための匂いである。もっとも、この会場ではスズメバチは自分一匹なので意味がないが。
そういえばスズメバチの自分はこんな技があったな、とぼんやりと思った。


―――!

あっ、そうだと唐突に思い出した。
自分にもちゃんとした遠距離攻撃があったのだ。
それを思い出したスズメバチは遙か上空へと向かう、


188 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:01:44 kL2auerA0

ビンビンビンビン

羽音はどうしても隠せないが、それすら届かぬ上空まで飛んだため、少年たちがスズメバチに気付くことはなかった。

ピピピピピ

首輪が鳴りはじめる。

『このままでは首輪が爆発する可能性があります。あと30秒以内に一定の高度まで降りてください』

と、同時に、そんな警告まで流れ始めた。
どうやらあまり高くに行きすぎると首輪が爆発するらしい。
殺し合いが成り立たなくなるし当然だよなぁ?

ぐずぐずしていられないと、スズメバチは尻に力を込める。

ブリュブリュブリュッ...ポンッ(迫真)!!

そんな擬音と共に放たれるのは液体。
ただの排泄物と侮ることなかれ。
致死性はないものの、触れれば炎症も起こり得るれっきとした毒液である。

現実のスズメバチの攻撃方法は針で刺すだけではない。彼らは時折空中から毒液を散布することもある。
それを浴びれば、即死はしないものの、かぶれや炎症といった病気を引き起こしてしまう確率は高い。

このスズメバチもまたそれに倣い毒液を排泄したのだ。

当然、遙か上空で放たれたそれに少年たちは気付かない。
動かなければそのまま毒液が付着するだけだ。

排泄した毒液のあとを追うようにスズメバチも下降する。

ビンビンビンビンビン

毒液を受けた少年が悶えはじめたところで、スズメバチもまた羽音が聞こえるであろう高度まで下降した。
少年は炎症に苦しみスズメバチどころではない。

狙い通りだ。さあ、これで遠慮なく刺せる。

悶える少年は、スズメバチの接近に気が付かない。

そして。

―――チクッ


189 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:02:40 kL2auerA0



「あ、あ、ア、あ、アあ、あ」

突如、体を震わせ始めた一方通行にリンゴォは目を見張る。
ビンビン、チクッ、という音と共に彼は苦しみ始めた。
尋常ではない。彼にいったいなにが。
先程、彼は自分になにかしたかと問いかけたが、まさか何者かの奇襲を受けたのか。

そう判断すると共に、リンゴォは時計へと意識を向ける。
時間を巻き戻せばこの不明な現象を解決できるかもしれない。そして、この果し合いを侮辱した者を排除し一方通行にトドメをさされれば公正なる果し合いを完遂できる。

時計へと手を伸ばすリンゴォ。その手に、熱い感触が奔る。

「こ、これは!?」

瞬く間にリンゴォの手は発疹のようなもので赤く染まっていく。
一方通行に降り注いだ毒液がリンゴォの腕にも付着したのだ。
本来ならば、リンゴォはその程度のことでは怯まない男である。
だがリンゴォは常人よりも肌が弱い。そんな彼が一般人ですら腫れてしまうものを浴びせられればどうなるか。
答えは激痛。常人にとっては多少の毒でも、彼にとっては劇薬になり得るのだ。

「う、うおおおおお――――!!」

だからといって、真に覚悟のある者は諦めはしない。
全身が痺れと激痛に襲われつつも、必死に手を伸ばす。
いま時を戻せれば自分も一方通行も元に戻るはず。

ビンッ

だが、それを遮るかのように割り込む影がひとつ。

リンゴォはその奇妙な生物に戦慄を覚えた。
影―――スズメバチはリンゴォに囁くように口を動かした。

チ ク ビ か ん じ る ん で し た よ ね

リンゴォの脳裏に、自分が初めて殺したあの男の顔がよぎり―――腕は、止まってしまった。


190 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:04:33 kL2auerA0

ゴォッ

「!?」

リンゴォとスズメバチを襲う唐突な暴風。
そのパワーに彼らは一切抵抗することはできなかった。

「ぐうううぅぅぅ!!」

時計へと手を伸ばすこともできず、リンゴォは為されるがままだった。

「――――アクセラレータァァァァ―――!!」

オレを奴から救ったと言うのか―――そんな遺恨の念を込めて彼の名を呼ぶ。


そんな彼に、一方通行はンなわけねーだろボケの意を睨みに込めて返した。

彼はリンゴォを助けるつもりなどなかった。

スズメバチに刺された瞬間、彼は自分は死ぬと悟った。
そんな彼が最期に残された時間を複雑な演算に費やしたのは、激痛でゲロ吐きそうになってまで暴風を起こしたのは、二人を殺すつもりだったからだ。
自分がなにもできずに死ぬのはゴメンだ。せめて殺すと決めた奴と自分を殺した奴くらいは道づれにしてやる。
そんな身勝手な考えからであった。

風が止み、落下していくリンゴォを見据える。

(あのぶんじゃ、ちいせえのはともかくリンゴォの奴は多分死ぬはずだ)

あの高さから落ちれば死ぬ確率の方が高い。

だが、もしも生き延びたら。もしも一方通行の最期のあがきを無下にして運に選ばれたなら。

(テメェも、いっぺん最弱(さいきょう)にでも負けてみな)


191 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:05:07 kL2auerA0

一方通行の脳裏にあの少年の背がよぎる。
レベル0の無能力者の癖して、学園都市一位の自分の幻想をぶち殺したヒーローの姿が。

男の世界だの公正なる果し合いだのとのたまっていたが、一方通行からしてみればリンゴォは自分と同じ穴の貉だった。
誰も傷付けたくないと望んでおきながら、実験と称した殺戮で一万人の妹達(シスターズ)を殺した自分。
果し合いという自己満足で、自分が信じる光り輝く道とやらの果てに自分が望むものがあると信じているリンゴォ。
一度とて分かり合えなかったが、これだけは解る。
自分も奴も、自分が望むモノがわからないままに強さだけを追い求めて、あとに引けなくなった人間のクズであり悪党だ。

もしも、リンゴォが同種である自分ではなくあの最弱(さいきょう)に敗北すれば―――自分のようになにかが変わるのだろうか。

(ほンと、くだらねェ)

随分とらしくないと自嘲するが、悪くはないと思う自分もいるのはたしかだ。

意識が遠のいていく。

この程度で自分の罪が清算できたとは思っていないが、悪党らしい不様な最期ではあるだろう。

どこか解放感と心地よさをおぼえつつ目蓋を閉じる。

(...ンな泣きそうなツラしてんじゃねェよ、ガキが)

目蓋の裏に浮かんだ少女の涙と共に、学園都市一位、一方通行は二度と覚めない眠りについた。


192 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:06:09 kL2auerA0



ビンビンビン

スズメバチは生きていた。
全身を暴風に晒されながらも。身体を引きちぎりかねない圧力にも耐え、ボロボロの姿でありながらもまだ生きていた。

だが、その身に刻まれた代償は大きい。足は数本折れ、身体のいたるところに切り傷がつけられた。
便宜上はハチであるため赤い血は出ないが、体液らしきもので濡れている。
飛行も今までとは違いまるで蚊のようにフラフラとしか飛べない有り様だ。
それでも、スズメバチは飛ぶのを止めることはない。
ゆうさくを刺す。
その一念だけがスズメバチの身体を動かしていた。




「ブハァ、はぁ、はぁ...」

小さな池から、全身を濡らしたリンゴォが陸に上がる。
リンゴォが落ちたのはこの池だった。
それなりの高度からの落下のため、ダメージは逃れられなかったが、致死には至らなかった。

だが。

「......」

疲労とダメージがピークに達し、ついに彼は大の字に身体を開き眠りについてしまった。

この日、リンゴォは幾多の敗北を味わった。

一方通行には完膚なきまでに敗北し。
スズメバチにはある種のトラウマを喚起され。
しまいには一方通行に助けられる始末だ。

彼の姿を見た者がいれば、口を揃えて言うだろう。
『なんとも情けない姿だ』『惨めに生き残ってなにが男の世界だ』と。


『男の世界』を歩み始めてからというもの、リンゴォは修行中の身でありながら敗北を喫したことはなかった。
彼の基準では敗北は即ち死を意味するからだ。

そんな彼がこれほどの屈辱を味わえばどうなるか。それを決められるのは彼自身をおいて他ならない。


193 : 男の世界は一方通行 ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:07:57 kL2auerA0

【F-4/一日目/黎明】

【一方通行@とある魔術の禁書目録 死亡】
※一方通行の死体の周囲に基本支給品一式と不明支給品1〜2が放置されています。


【リンゴォ・ロード・アゲイン@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、脇腹に銃創、精神的疲労(大)、両腕にスズメバチの毒液による炎症(大)、ずぶ濡れ、気絶。
[装備]:一八七三年型コルト@ジョジョの奇妙な冒険 スティールボールラン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:公正なる果し合いをする。
0:???
1:一方通行との果し合いに決着をつける
2:なんだあのハチ!?(驚愕)

※一方通行が死んだことを知りません。


【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:全身にダメージ(大〜絶大)、疲労(中〜大)、怒り、全身傷だらけ。
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:注意喚起のためにゆうさくを刺す。邪魔者も刺す。
1.白い少女(スノーホワイト)に激怒。
2.ビンビンビンビンビンビン……チクッ

※刺した相手を必ず殺せます。
※相手がゆうさくでない場合、邪魔をしなければ刺しません。
※毒液を飛ばす術を覚えました。この毒液で直接死ぬ恐れはありません。


194 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/20(金) 03:10:42 kL2auerA0
投下終了です。

『佐倉杏子』、レヴィ、白井黒子、『T-1000』で予約します。


195 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:21:43 nAJ9Jox20
投下します。


196 : hurry up ! ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:23:27 nAJ9Jox20
「まったく、随分とまあふざけたことを考えつくものですこと」

少女、白井黒子は殺し合いに乗ることは考えなかった。
当然だ。学園都市のレベル4にして風紀委員(ジャッジメント)でもある彼女の正義感がそれを許さなかった。
それ以上の理由がいるだろうか。いやいらない。

(私の首輪は普通の首輪...でいいんですわよね?赤い首輪でなければおそらくそれでいいはずですが)

自分が男の言った『賞金首』の証である赤い首輪でなかった。
どういう基準かはわからないが、ルールからして過半数以上が赤い首輪である可能性は低い。
おそらくあの男は赤い首輪を手に入れるために参加者が協力するのを見たいのではなく、赤い首輪持ちを倒す段階で『誰がこのゲームから脱出するのか』で争うのを見たいのだろう。
そのため、参加者全員が脱出できるような仕掛けは作らないはず。
そう考えれば、赤い首輪の参加者が少ないのは容易に想像がついた。
そして、その赤い首輪が敬愛するお姉様―――御坂美琴ではないかとも。

(お姉様はレベル5の能力者。並大抵の能力者では相手にもならないほど強力なことを考えると、赤い首輪であってもなんら不思議ではありませんわ)

もしも御坂が赤い首輪であった場合、大勢の参加者から狙われることになってしまう。
普段の喧騒なら大した心配もいらないがこの状況だ。とてつもない不安を抱くだろう。
ならばこそ。

「お姉様が最も信頼を置くこの私が側にいなくては!お姉様、あなたの黒子が今すぐに参ります!」

多くの暴漢に囲まれ絶体絶命の御坂。そこに颯爽と現れるは彼女のベストパートナー、白井黒子!
並み居る脅威をちぎっては投げ、あそ〜れ、ちぎっては投げ!

『黒子...救けに来てくれたの...?』
『当然です。黒子はお姉様のためなら例え火の中山の中、宇宙の果てまでも駆けつけますわ』
『く、黒子...あんたって子は〜!』

感極まりお礼と共に御坂は黒子を抱きしめ、その控えめな胸に顔を埋めさせる。
その温もり、まさに天恵のごとし!


197 : hurry up ! ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:24:22 nAJ9Jox20

(そしてこの殺し合いを破壊したあとは...)

『はい、黒子、あ〜ん』

『黒子...手、握っていいかな』

『黒子、遊園地に行きましょう。勿論...二人で』

『黒子、一緒に寝てもいい...?』

そんなIFの物語を脳内で作り上げ、思わずにんまりと頬を吊り上げぐへへと小さく声とよだれを漏らす。

(そして真夜中のベッドで...)
『黒子...私を食・べ・て』

その妄想は最高潮に達し―――

(おねえさまあああああああああああああ!!)

両手を胸の前で交差させ、己の肩を掴み身体を震わせる。
顔を真赤に染め恍惚の表情を浮かべているその姿は、赤の他人から、いや彼女をよく知る者から見ても変態のそれだろう。

己の破廉恥な妄想に悶えること数十秒。

(―――ま、ありえないですけどね)

先程までの妄想も恍惚の表情もピタリと止み、彼女はジャッジメントとしての顔を取り戻す。

ミサカは黒子のあずかり知らぬ所で強大なモノと戦っている。
そんな彼女にとってはこの催しもその強大なモノのひとつにしかすぎないだろう。
それに、いくら彼女を助けようとも愛人には為りえぬ間柄。
少し辛いが黒子としてはそれでも構わない。

(想うだけなら自由...もしかしたら、その機会すらもう手にすることが出来ないかもしれないですし)

果たして犠牲者無しに済ませられるのか。御坂の力になれるのか。なにより自分自身が生きて帰れるのか。
いかに黒子が修羅場を潜ってきたとはいえ、必ずしも無事でいられる保証はないのだ。

「ですが私の覚悟はこの程度では崩れませんことよ。さて、目にモノ見せてくれますわ」

右腕の腕章に触れ、どこかで聞いているだろう主催の男へ宣戦する。
それが示すのは、誇り高き正義の証。


198 : hurry up ! ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:24:57 nAJ9Jox20



「いい加減...くたばれよっ!」
「ヘッ、そんな温い攻撃でこのレヴェッカ様が殺れるかよ!」

佐倉杏子は苛立ちと共に槍を振るう。
その相手を勤めるのはガンマン・レヴィ。

争いの発端は至ってシンプルだ。

レヴィが主に活動する街、ロアナプラでは殺人など日常茶飯事でありいまさらワーワー喚くほどのことでもない。
だから、この殺し合いも赤い首輪の参加者を殺しさっさと脱出する腹積もりであった。

そこで出会ったのが赤い首輪を着けた佐倉杏子であった。
赤い首輪の参加者であるならば、それが子供だろうが関係ない。
この時点で杏子はレヴィの狩り対象となっていた。

佐倉杏子もまた、生存するためには殺人も厭わなかった。
魔法少女は魔女を殺すことで生き永らえる存在である。
ここに連れてこられる前から、魔女へと成長する使い魔を見逃しそれによって出る被害には目を背けてきた。
いわば間接的な殺人者である。
そんな彼女が今さらこんな場所で誰かのためにだとか正義の味方染みたことを語るなどちゃんちゃらおかしな話だろう。
大勢から狙われる赤い首輪の参加者として招かれたのなら尚更だ。

だから佐倉杏子は決めた。自分を守るためならなんだってやってやると。

そこで出会ったのが自分を獲物だと狙うレヴィであれば、戦闘になるのは必然であった。

幾度かの攻防の後、銃声と共に呻き声が響いた。

「ガッ...!」
「ザマアねえ。ご自慢のすばしっこさもコイツで終わりだな」

右腿を撃ち抜かれた杏子は激痛に蹲る。
レヴィの言う通りだ。このままではロクに動くことができない。


199 : hurry up ! ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:25:57 nAJ9Jox20

だが、レヴィは決して容赦はしない。
殺し合いというものはどちらかの息の根が止まるまでが殺し合いである。
例え両手足全て失っても、相手より長く生きていればハッピーエンドだ。
自分が有利になったからといって舌なめずりするのは三流であり、当然ながらレヴィはそのような悪手を踏むつもりはない。

「あたしを殺したきゃあの世でどこぞのヤクザにでも教えを請いな。テメーじゃ力不足だ」

軽口を叩きつつも決して気を緩めはしない。
レヴィはすぐさま引き金に指をかける。

「―――のヤロウ!」

破れかぶれか。杏子はレヴィへ向かって力任せに槍を突き出す。
勿論、それは難なくレヴィに躱される。

ガ キ ン

金属の音が鳴り、杏子の槍が多節根へと変化する。
レヴィが呆気にとられる間もなく、それは地面に叩き付けられ土煙を巻き上げる。

「チッ!」

煙から逃れるため、舌打ちと横に飛び退くと共に引き金を引く。
いくら煙で視界を妨害しようが関係ない。
長年の戦闘経験は、この程度で標的を見失うことはない。
が、手応えはない。確かに居た場所に撃ちこんだはずだが―――

バキッ

レヴィの頬に走る衝撃。
それが蹴られたことによるものであることはすぐに理解した。

佐倉杏子はインキュベーターと契約し人間をやめた魔法少女である。
彼女の魂はその胸で輝くソウルジェムに姿を変えられており、身体はただの入れ物同然だ。
そのため、魔力を消費し身体の修復にあてれば多少の怪我であれば治すことができるのである。


200 : hurry up ! ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:26:27 nAJ9Jox20

この蹴撃により、レヴィの苛立ちは更に増し、杏子もまた弾丸を撃ちこまれたことで苛立っている。
両者の怒気が混じり、今再びの闘争を繰り広げようとしたその時だ。

「風紀委員(ジャッジメント)ですの。両者共、即刻武器を放棄なさい!」

仲介が木霊し両者の意識はそちらに向けられる。
少女、白井黒子の姿を認識したレヴィは、眉間に皺を寄せつつ詰め寄る。

「オウコラ、ガキが警察(ポリス)ごっこか。大人しくママの家に帰ってミルクでも咥えてな」
「そういう三下の台詞は」

レヴィが胸倉を掴もうと伸ばした腕に黒子が触れたその瞬間

「なっ―――」

レヴィの世界が逆に回転した。

地面に倒れ込むと同時に、レヴィは飛び退き警戒体勢をとる。
決して油断していた訳ではない。ただ、なにをされたのか理解する間もなく逆さに落とされたのだ。

(この反応の速さ...ただのスキルアウトとはわけが違いますわね)
「てめえなにしやがった!?」
「自分の能力を喋るはずがないでしょう」
「こ、の、ガキ...!」

レヴィのこめかみに青筋が走る。

ああ、ウザッたい。
あの主催の男も。銃弾ブチ込んでもピンピンしてるバケモンも。この正義ヅラしたガキも。
なんもかんもが癇に障る。
今すぐここを真赤に染めて血の風呂(ブラッド・バス)としゃれこみたい気分だ。

「取り込み中失礼」

そんなレヴィの苛立ちを知ってか知らずか、またも現れる乱入者。
警官の役を演じている映画俳優。そんな言葉がピッタリな風貌の男だった。

彼の登場により、レヴィの苛立ちはまたも募っていく。


201 : hurry up ! ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:28:42 nAJ9Jox20



状況。全ての抹殺。
場所。限られた空間。
自機に付けられた首輪。赤。ターゲットになりやすい。
何れもジョン・コナーの抹殺に支障なし。

前方。戦闘音を確認。
体温。三人を検知。
何れもジョン・コナーとは不一致。
排除すべき。否。まだ早い。
これより合理的判断により接触を開始する。

「探している少年がいる。ジョン・コナー。この名簿にも載っているが、知っていることがあれば教えて欲しい」



【C-4/工場地帯/一日目/深夜】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
1.二人の闘いを止める。
2.御坂と上条との合流する。
3.タトゥーの拳銃使い、槍使いの少女に要警戒。
4.この男は...?

※参戦時期は結標淡希との戦い以降。

【レヴィ@ブラックラグーン】
[状態]:頬に軽い痣、苛立ち
[装備]:ベレッタ@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:赤い首輪の参加者を殺してさっさと脱出する。
1.自分の邪魔をする奴は殺す。
2.ロックは見つけたら保護してやるか。姉御は...まあ、放っておいても大丈夫だろ。
3.ガキ共もポリスもなんもかんもがイラつく。

※参戦時期は原作日本編以降


202 : hurry up ! ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:29:40 nAJ9Jox20

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:苛立ち
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには殺人も厭わない。
1.どんな手段を使ってでも生き残る。
2.鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむらを探すつもりはない。
3.マミが本当に生きているかは気になる。
4.ここの奴らは全員むかつく。

※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。

【T-1000@ターミネーター2】
[状態]:異常なし。
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:ジョン・コナーを殺害する。
1.眼前の人間たちからジョンについての情報を聞く。始末するかは後で判断する。
2.効率よくジョンを殺害するために、他者の姿を用いての扇動および攪乱も考慮に入れる。

※参戦時期はサラ・コナーの病院潜入付近。


203 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/01/28(土) 00:30:12 nAJ9Jox20
投下終了です


204 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/02(木) 18:09:46 pLN22ir.0
『虐待おじさん』『ラ・ピュセル』上条当麻を予約します。


205 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/02/06(月) 12:25:09 DtT6SGgs0
『ハードゴア・アリス』『森の音楽家クラムベリー』を予約します。


206 : 竹中 :2017/02/06(月) 18:29:00 ja3t.V2A0
玄野計、陽炎を予約します


207 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:48:38 cXR8D2o20
投下します。


208 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:49:45 cXR8D2o20

ギシ、ギシ、ギシ、と小刻みに階段の軋む音が鳴る。

ラ・ピュセルと虐待おじさん。
赤の首輪を持つ二人の闘いが終わり、勝者が気絶した敗者を運んでいるのだ。
床に横たえられる敗者の身体。

勝者は、ペットボトルの水を口に含み、敗者の顔を愛おしそうに見つめていた。


209 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:50:31 cXR8D2o20



突如、顔にかけられた飛沫。
ラ・ピュセルは突然のことに思わず意識を取り戻す。

「ゲホッ、ゲホッ!」

かけられた水滴が喉に入ってしまったのか。反射的にむせながらも頭の中では状況の整理に努める。

幾度かの鍔迫り合いの後、身体能力で勝る自分は更に戦況を有利に運ぶために魔法をつかっt「ブッ!」

ラ・ピュセルの思考を中断するかのように、勢いよく飛沫が顔にかけられる。

「手こずらせてくれたね...おじさんのこと、本当に手こずらせてくれちゃったね」

むせるラ・ピュセルにも構わずおじさんは水を口に含み、ポタリポタリと己の唾を含ませラ・ピュセルの口元に垂らしていく。
ラ・ピュセルはそれを避けようと顔を背けるが、躱しきれず頬に唾液混じりの水が付着する。
ほんのり漂う異臭にラ・ピュセルは思わず顔をしかめた。

「な、なにを」
「まずは痛くない奴からやってんだよ。わかれよそれくらい」

冷めた声。
若干苛立ちが込められたおじさんの視線に、ラ・ピュセルは思わず喉をヒッ、と鳴らす。
もはやおじさんには紳士的な影などなく、獰猛なサディスト―――あの恐ろしいクラムベリーと同種にしか見えなかった。

途端に逃げたくなる衝動に駆られるが、ラ・ピュセルの武器は当然没収されており、身体も小さな椅子に嵌められるように固定されている。
更に、おじさんがその椅子に座りラ・ピュセルの身体に跨っている体勢のため、隙を突いて逃げ出すのも困難だ。

ペットボトルを掲げ、ちょろちょろちょろ、とおじさんはラ・ピュセルの顔に水を垂らす。


210 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:51:08 cXR8D2o20

「ぅゲホッ、ゲホッ!」
「これと」

次いでおじさんは水を口に含ませ、今度はラ・ピュセルが逃れられないように頬を抑えこみ、再び唾液と共に水を垂らす。
唾液はラ・ピュセルの口腔へと侵入し喉を蹂躙していく。
これが小雪のものであれば多少はどぎまぎしたかもしれないがおじさんのモノなので単に嫌悪の感情しか湧いてこない。

「これ。どっちが美味い?」
「ぅおえっ」
「どっちが美味い?」
「ゲホッ...」
「どっちが美味いかって聞いてんだよ小僧、オラ」

ペチッ。
頬を叩く音が静かに染み渡る。
ラ・ピュセルは魔法少女であり、その身体能力は常人を遙かに上回る。
当然、おじさんのこの程度のビンタなど大したダメージはない。
しかし、精神的なものだろうか。それとも心が抉られているというべきか。
何故だか、ラ・ピュセルの視界は涙でぼやけはじめていた。

三度ペットボトルの水を口に含み、ブッと勢いよく吹きかける。
水と唾でラ・ピュセルが濡れていく様に、おじさんの嗜虐心は更にそそられる。

「どうなんだよ、なあ。どうなんだよ。どっちが美味いんだよ、なぁ」
「うぅ...」
「忘れたか、なあ。どっちが美味いって聞いてんだよなあオラァ」
「い、いい加減にしてくれ。こんなこと」
「生意気な口をきくのはこの口でちゅか〜」

靴下を脱ぎ裸足になるおじさん。
そして、むせるラ・ピュセルの顔に足を乗せ床に押し付けた。
中年特有の汗ばみと加齢臭の嫌悪感に歪む顔に、おじさんは満足げに笑みを浮かべる。


211 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:51:51 cXR8D2o20

「ぐあっ、ああっ...」
「イイ顔になってきたじゃねえか」

おじさんは足を退け、ラ・ピュセルの顔を掴み状態を持ち上げる。
その隙を突き、ラ・ピュセルはおじさんの腕を払おうとする―――が、間一髪、おじさんの舌がラ・ピュセルの肌を舐めあげた。

「ひっ!」
「興奮させてくれるじゃんか、ええおい」

おじさんは息を荒げながらラ・ピュセルの頬や額にも舌を這わせ、続けざまに平手を振り上げた。
おじさんのビンタは一度目は空振り、二撃目をラ・ピュセルの頬をはたいた。
やはり、ラ・ピュセルにとってあまり痛くは無いが精神的に抉られるような感覚に襲われる。
悔しげに歪む少女の顔に、やはりご満悦な表情を浮かべるおじさんは、ポケットから布を取り出し、それをラ・ピュセルの顔に乗せ足で押し付けた。

「むぐ、むぐぐぐ!」

ラ・ピュセルは窒息しかけると共に口内に充満する加齢臭に目が潤み、その様におじさんの嗜虐心は更に加速する。

「ゲホッ、ゲホッ」
「そこで待ってな」

おじさんは床に伏すラ・ピュセルを尻目に階段を降りていく。

当然、彼はこの隙に逃げ出そうとする―――が、身体がうまく動かない。
立ち上がることすらままならない状態だ。


212 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:52:56 cXR8D2o20

なぜこうなったのか―――それは、ラ・ピュセルとの戦いの際にかけられたものが原因であった。

ラ・ピュセルが己の魔法を行使しようとしたまさにその時、おじさんは液体の入ったペットボトルを投擲。
中に入っていたのはアイスティー。
アイスティーといえばホモコロリと合わせて相手を昏睡させるための道具であり、SMバー平野にも当然ながらそれがあった。

そんなことはつゆ知らず、反射的にペットボトルを斬ってしまったラ・ピュセルはアイスティーを被り、幾らか飲みこんでしまった。
ほんの少量でもホモコロリは充分。それは魔法少女の耐性すら上回る。
それを体内に摂取してしまったラ・ピュセルは野獣に狙われた青年の如く昏倒してしまい、いまもなお効果が続いているという訳だ。

だが、当の本人はそれに気が付いていないため自分が敗北した理由には至らない。

動けなくても、せめて武器だけでも手に入れなければ。
なにかないかと探しているうちに見つけたのは、壁にたてかけられたタンビラ。あれは自分の支給品だ。
これは暁光、と手を伸ばしたところで。

パ ァ ン

飛来した鞭がラ・ピュセルの手を叩く。

「うああっ!」
「誰が触れていいっツったオラァ!」

苦痛に上がる悲鳴。
下手人はいつのまにか鞭と竹刀を手に階段を上ってきていたおじさんだ。
壁や床に振るう鞭や蹴飛ばすペットボトルにより、手を出さずとも効果的な脅しをかける。
音が響く度に、先程の腕の痛みが思い起こされ、思わず縮こまってしまう。

「つぎ、コレね。コレ」

椅子を取り除かれ、見せつけられる鞭に、ラ・ピュセルの顔は思わず固まってしまう。
鞭でなにをするか―――考える間でもない。

「OK?」
「...い、イヤだ」
「OK牧場?」
「ぇ」
「ッオォーイ!!」

鞭がラ・ピュセルの身体へと振るわれる。
あなたが勝手に寒いギャグを言っただけじゃないか―――そんなことを考える暇もなく、苦痛が身体を奔る。

ほぼ反射的に少しでも攻撃される部位を減らそうと、ラ・ピュセルは必死に身体をよじり部屋の隅にズレていく。
おじさんは眉を顰め、鞭を竹刀に持ち替えラ・ピュセルを叩きはじめる。


213 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:54:23 cXR8D2o20


「そっちに行くならやるね、コレでやるね!」

背、臀部、腹部、手足と余すことなく間髪いれずに振るわれる竹刀。
パシパシと音が響き、その度にラ・ピュセルの身体には痛みが刻まれる。

「イタイ、イタイよ!」
「痛いのはわかってんだよオイオラァ!YO!」

おじさんの爆弾のような怒声と共に振るわれる竹刀に思わずビクリと身体が跳ねあがる。
さながらその様は怖い体育教師に説教を受ける純粋な男子中学生といったところか。
度重なる苦痛と恐怖に、もはや、ラ・ピュセルとしての凛々しい魔法少女騎士の面など剥がれかけていた。

対するおじさんの表情は怒声とは裏腹に恍惚に溢れていた。
ここに連れてこられる前に虐待していたひでとかいうガキは、その態度や口ぶりのせいで虐待している方がイラついていくるという前代未聞の事態に陥っていた。
だが、このラ・ピュセルという騎士は奴とは違う。
虐待すればするだけその顔は苦痛に歪み、股間にクる悲鳴を上げてくれる。なにより単純にひでより可愛い。
女装ではなく女性の身体であることだけは不満に思ったが、精神的には少年であるので問題はない。
これだけ虐待のしがいのある子は中々いないだろう。


(僕は...僕は、こんなことのために魔法少女になったんじゃ...!)

最初に魔法少女に選ばれた時のことを思い出す。
幼馴染の小雪を守れるような、カッコよく凛々しい魔法少女の姿を夢見ていたことを。
小雪と共に多くの人々を助けるために戦えると思った。彼女の隣で一緒に立派な魔法少女になれると思った。

だが魔法少女になってからはなんだ。
せっかく小雪を守れる力を、姿を手に入れたというのにだ。
クラムベリーには圧倒されゴミのように車の前方へと投げ出され。
この殺し合いではホモのおじさんに虐待され続け。
もう情けないとかそういうレベルじゃない。
自分がなにをしたというんだ、まるで大罪を犯した咎人のようじゃないか。

(僕は...)

ラ・ピュセルの心が崩壊する鐘を鳴らすかのように、おじさんの竹刀が振り下ろされた。


「その子から離れろ変態野郎!!」


響く第三者の叫び。
おじさんもラ・ピュセルも思わず振り向き凝視してしまう。

声の主はツンツン頭の学生らしき少年だ。
少年は竹刀と鞭を持ったおじさんに対し素手。完全に無手である。

少年の右ストレートがおじさんの頬を捉えたとき。
武器を持つ相手にも臆せず、見ず知らずの自分を助けてくれたこの少年の背に。

岸部颯太は、かつて憧れた魔法少女の信念―――"ヒーロー"の姿をみた。


214 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:55:08 cXR8D2o20



学園都市のレベル0、つまりは無能力者の位を与えられた少年、上条当麻。

彼が目を覚ましたのは下北沢にある何の変哲もない商店だった。
今までも学園都市最強との戦いや魔術絡みの事件など命をかけた経験は幾つもあるが、流石にこんな状況では戸惑ってしまうのはしかたのないことだ。
心を落ち着ける意味合いも込めて、とりあえず眼前にある椅子に座る。

「はぁ...不幸だ」

当然、こんな決まり文句の一つや二つも出るのは当然である。
そんなことをボヤきつつ、彼はデイバックを検めることにした。

上条は殺し合いに乗るつもりは毛頭なく、殺し合いを止めあの主催の男へ反抗する者がいれば是非とも協力したいと思っている。
とはいえ自分一人では厳しいことくらいはわかっているつもりだ。そのため、彼の行動方針として協力者の捜索を第一と定めることにした。

まず手に取ったのは名簿だった。
ザッと見た限り、彼の知る名は己も含めて四つ。
御坂美琴。
学園都市のレベル5の一人。つまりは超強力な電撃使いで、なにかと自分に絡んでくる少女。
普段なら例の如く電撃を放ちながら追い回さしてくるだろうが、正義感や責任感が強いのはわかっているし、流石にこんな状況では弁えるだろう。
白井黒子。
彼女についてはあまり詳しくないが、御坂が信頼しているであろうことはわかる。
そして一方通行。
レベル5の一人であり学園都市最強、つまりは第一位。一度はあいつをレベル6に引き上げるための実験を中止させるためになんとか倒したが、その後はどうなったかはわからない。
あの一件で改心したか、それともあの実験とは別の場所で力を振るっているのか...なんにせよ、注意だけはしておくにこしたことはない。

名簿をしまい、次いで支給品を確認する。
下手に逆さにして火器にでも起爆すればたまったものではない。
そのため、ごそごそと中身を手で探り、掴みとったのは水の入ったペットボトルと食糧としてのうまい棒の袋。
...なんで袋だけ?


215 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:55:42 cXR8D2o20

「ヴォー...」

不気味な声と共にもぞもぞとデイバックが蠢く。
ファッ!?と妙な声が出そうになる衝動を堪え、デイバックを凝視する。
まさか生き物が入っているとは思わなかった。
殺し合いというからには、サソリやスズメバチ、ヤドクガエルのような凶悪な生物だろうか。
緊張感と共に、蠢くソレが姿を現すのを静かに待つ。

デイバックから姿を現したのはリスのようなサルのようなクッソ汚い小動物だった。

「えっ、なにコレは」

上条はドン引きしつつも、小動物の背に括り付けられた説明書を手に取る。
この動物の名は淫夢くん。なんでも身体をこすると近くにいる参加者の反応を察知しガッツポーズで知らせてくれるらしい。
つまりこれがあれば参加者の捜索に便利ということだ。やったぜ。

早速試してみようと淫夢くんを持ち上げてみて気がつく。口元になにかの欠片が付着していることに。
そして理解した。何故食糧であるはずのうまい棒が袋だけだったのかを。

「...不幸だ」

思わずがくりと肩を落としてしまう。
開始早々に食糧難に陥ってしまうとはなんともツイていない。それも支給品が勝手に貪るとは尚更だ。
しかしインデックスよりも小さい小動物だ。流石に本気で怒るわけにもいかず、溜め息をつくほかなかった。

まあ、しょせんはうまい棒3本。30円で参加者探知機を買ったと思えばよしとしよう。
気を取り直し、淫夢くんの身体を擦り反応を窺う。が、淫夢くんは微動だにしない。

(そうそう都合よく誰かがいるわけないか)

再び溜め息をつき淫夢くんをこすりながら周囲を探索することおよそ1時間。
そろそろ手も疲れてきた頃合いに、淫夢くんに変化が訪れる。


216 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:56:39 cXR8D2o20

「ん?」

流れが変わった。
思わずそれらしいBGMを流したくなる衝動に駆られるほど、それは確かなものだった。
ゆっくりと、しかし確かに徐々に挙げられていく右手。
上条もそれに魅入り、自然と擦る手にも熱がはいってしまう。

―――彼は目撃した。
淫夢くんがその手を天高く掲げたその右手を、勝利を確信し握りしめた拳を。
歴史的瞬間といっても差し支えないこの時を。

おぉ...と思わず言葉を漏らし、直後に我に返る。

淫夢くんがガッツポーズをしたということは付近に何者かがいるということである。

殺し合いに乗っていないものなら嬉しいが、やはりこの状況で混乱し手を出してしまう者もいるかもしれない。
慎重に接触しなければ。

そして上条は反応の出所らしきSMバー平野へと足を踏み入れる。

ここに人がいたとしてどう接触しようか。そんなことを考えていた折だ。

「――――!!」

響いた叫び。
何者かが怒鳴っているのだろうか。

これでここに参加者がいるのは確定した。
だがこの騒々しさ、もしや殺し合いは既に起こっているのでは。

考える間もなく、彼は駆けだしていた。
なにが起きているか、なんてわからない。知り合いが関わっているのかもわからない。
これは決して利口な行動ではないだろう。
しかし、側で血が流れようものなら、力無き者が襲われているとしたら。
例え無謀と思われようとも助けずにはいられない。
決して正義を謳うわけではない。だが、他者の不幸を本能的に好まない。それが上条当麻という少年だった。

彼が階段を駆け上がった先で繰り広げられていたのは、平穏とは程遠い少女虐待の光景。

「その子から離れろ変態野郎!!」

気が付けば、そう叫び中年へと殴りかかっていた。


217 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:58:08 cXR8D2o20



ほとんど不意打ち同然だったのが効いたのか。
おじさんはよろめき、上条を一瞥すると即座に竹刀を振るい上条を牽制。
そのままじりじりと移動し、隠し持った鞭を投げつけると同時に背を向け一目散に階段を駆け降りていく。

「待て!...っと」

おじさんを追跡しようとしたが、しかし虐待されていた少女を思い返し踏みとどまる。
もしもあのおじさんの後を追って彼女を放置し殺し合いに乗った参加者が訪れれば最悪の結果になってしまう。
ここは彼女の介抱に努めることを優先すべきだろう。

「大丈夫か?」

意識があるか確認するが、しかし苦痛から解放されて気が抜けたのか。
ラ・ピュセルは無防備な寝顔を上条に晒していた。

(これは目が覚めるまで側にいてやった方がよさそうだな)

他人の看病というものも初めてではない。
とりあえずは彼女の打撲痕から応急処置をするため、彼は淫夢くんを撫でつつ医療道具を探すことにした。



【E-5/街(下北沢、SMバー平野)/一日目/黎明】

【ラ・ピュセル(岸部颯太)@魔法少女育成計画】
[状態]全身に竹刀と鞭による殴打痕、虐待おじさん及び男性からの肉体的接触への恐怖、水で濡れた痕、精神的疲労(大)、気絶
[装備]
[道具]基本支給品、だんびら@ベルセルク
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探す
0.虐待おじさんこわい。
1.僕は...こんなことのために...
2.襲撃者は迎撃する



【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品、淫夢くん@真夏の夜の淫夢、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0.とりあえずこの子の目が覚めるまで介抱する。
1.御坂、白井と合流できれば合流したい。
2.一方通行には注意しておく。
3.他者を殺そうとする者を止めてまわる。

※淫夢くんは周囲1919㎝圏内にいるホモ及びレズの匂いをかぎ取るとガッツポーズを掲げます。以下は淫夢くんの反応のおおまかな基準。
・ガッツポーズ→淫夢勢、白井黒子、暁美ほむら、ハードゴアアリス、佐山流美のような同性への愛情及び執着が強く異性への興味が薄い者。別名淫夢ファミリー(風評被害込み)。
・アイーン→巴マミ、DIO、ロシーヌのような、ガチではないにしろそれっぽい雰囲気のある者たち(風評被害込み)。
・クソザコナメクジ→その他ノンケ共(妻子や彼女持ち込み)。
判定はガバガバです。また、参加者はこの判定を知らされていないため、参加者間ではただの参加者探知機という認識になっています。


218 : 変身少年調教計画 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:58:37 cXR8D2o20


「本気で怒らせちゃったね、オレのことね。おじさんのこと本気で怒らせちゃったねぇ!」

おじさんは怒りを覚えつつ駆けていた。
当然その矛先ははラ・ピュセルの調教が中断したこと、あの横やりをいれた少年であり、なにより自分の不甲斐なさだった。
調教に夢中になって乱入者に気が付かなかったとは迂闊にもほどがある。
更に思い返せば、ラ・ピュセルの調教はひでの時と比べてだいぶ温い。それは偏におじさんの機嫌がよかったからだ。
自分好みの可愛い少年がみつかって、更には期待以上に興奮させる悲鳴を上げてくれる。
まさにおじさんの理想に適っていたせいで、気が抜けていたのだ。

これでは似たような場面が訪れた時、同じヘマをしかねない。
気を入れ直すためにおじさんはあの場は撤退した。
少年とラ・ピュセルの二人がかりで来られれば流石に勝ち目がないというのもあるが、それ以上に名簿にも載っているひでを探すためだ。

ひでを虐待した時。あの時はストレスが溜まっていたが同時に最高の虐待だった。多くの虐待好意としての理想と言っても過言ではないはずだ。
奴を再び虐待し、あの時の感触を身に染み込ませる。
そうして練り上げた虐待をもってして、再び彼らに相まみえよう。
ラ・ピュセルは勿論、あのウニ頭の可愛い顔をした少年も纏めて調教するのだ。

決意を新たに、おじさんは小田○正ばりの笑顔で夜の街へと姿を消した。



【E-5/街(下北沢)/一日目/黎明】


【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]興奮、頬にダメージ(小)
[装備]日本刀詰め合わせ@彼岸島
[道具]基本的支給品、鞭と竹刀とその他SMセット(現地調達品)。
[思考]
基本:可愛い男の子の悶絶する顔が見たい
0:殺しはしないよ。おじさんは殺人鬼じゃないから。
1:また会ったらラ・ピュセルを調教する。
2:あのウニ頭の少年(上条)も可愛い顔をしているので調教する。
3:気合を入れ直すためにひでを見つけたらひでを虐待する。
[備考]
※参戦時期はひでを虐待し終わって以降
※ラ・ピュセルを女装した少年だと思っています
※どこへ向かっているかは次の書き手に任せます。


219 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 02:59:42 cXR8D2o20
投下終了です。

『巴マミ』、佐山流美を予約します。


220 : 名無しさん :2017/02/09(木) 03:08:01 yP7henwg0
魔法少女は気絶したら変身解除されるのでは?


221 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/09(木) 08:34:24 cXR8D2o20
うっかりしてましたごめんなさい。

修正したものを近日中にwikiにあげます


222 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/02/09(木) 13:22:56 Xf3nZMXE0
投下乙です。
惜しくも敗れてしまい失意に沈むラ・ピュセルくんですが
そこに現れるヒーローを見た彼の成長、
そして虐待を練り上げるためひでを探す虐待おじさんの今後に期待ですね。

こちらも投下します


223 : 悪魔の娘 ◆VJq6ZENwx6 :2017/02/09(木) 13:24:33 Xf3nZMXE0
(スノーホワイト…!!)

深い森の中、アリスは北に向かって一心不乱に走り続けていた。
特に目的地があるわけではない、ただスノーホワイトのことを思いながら走り回ることに意味がある。
走り続けても代わり映えしない森の中を走っている最中、アリスは前方に人影を認めた。

「こんばんは、ハードゴア・アリス」

人影から声がかかる。知らない女の声だ、少なくともスノーホワイトではない。
ハードゴア・アリスは走るのを止め、歩いて近づいた。魔法少女の視力なら深夜の木陰であろうとも問題なく視認できる。
やはり見たことのない顔であったが、名簿の中でこちらの名前を知っていて、なおかつこちらの知らない人物となると、相手は必然的に一人に絞れる。

「クラムベリー、ですか」

「おや、察しが良い」

両の肩に大きなバラを乗せ、長い耳を持ったエルフのように長い耳を持った顔立ち、
楽器こそ無いがまさに森の音楽家、という肩書に相応しいように感じる少女であった。
なんの用なのかは知らないが、今はかまっている時間がない。
手早く聞きたいことを聞く。

「スノーホワイトと、会いましたか」

「いえ、この場で会ったのはあなたが初めてですよ、ハードゴア・アリス」

「わかりました」

それを聞いたアリスは彼女の横を通り抜け、駆け出した。

「待ちなさい」

背後から声が掛かるが、聞く必要はない。そのままアリスは森を駆け続ける。


224 : 悪魔の娘 ◆VJq6ZENwx6 :2017/02/09(木) 13:25:05 Xf3nZMXE0
「スノーホワイトの居場所ですが」

“スノーホワイト”、その言葉に反応し再び足を止める。
振り返るとクラムベリーは前と変わらぬ距離で佇んでいる。思ったより足が速い。

「少なくとも向こうのエリアには居ませんよ」

ウィンタープリズンから、クラムベリーは危険な魔法少女だとは聞いている。
信じるに値しない情報として踵を返そうとした所で、また声がかかった。

「それともう一つ、恐らくその首輪に魔法少女の能力を封じるような機能がついているので、あなたでも無理に首輪を外すのは控えるべきでしょうね」

「なぜですか」

「このような場に連れてきている以上、あの試験のように主催に生殺与奪権が握られている、と考えるのが当然でしょう」

「違います。なぜあなたはそれを私に教えるのですか」

最初の情報の信憑性は限りなく低いが、2つ目は違う。
アリスが実際に目の当たりにした事実であり、なおかつ目の当たりにし無ければ引っかかっていただろう罠だ。
それを無条件でわざわざ教えるというのは、聞き伝えられたクラムベリーの情報と全く合致が行かない。

「気に入らないのですよ、このゲームが」

クラムベリーは目を伏せ、吐き捨てるように言った。
アリスはクラムベリーの赤い目が伏せられる一瞬、その目が父や自分と同じように底光りしたのを見逃さなかった。

「怪物を殺せばゲームクリア、コンセプトは悪くないですが
肝心の怪物役がヌルすぎる。いくら魔法少女とは言え、スノーホワイトにあの暴力を、絶望を、快感を、望めるはずもない。
そんなただ人間より強いだけの存在を殺して生き残るような者に、何の価値もない」


225 : 悪魔の娘 ◆VJq6ZENwx6 :2017/02/09(木) 13:25:54 Xf3nZMXE0
「…あなたは」

「スノーホワイトの性格に付け込んで、気楽に生き残るような者を出さないことを祈りますよ、ハードゴア・アリス」

クラムベリーはそれだけを言うと、アリスの言葉に耳を貸さずにアリスのすぐ横を通り、森の中へ踏み込んでいった。
アリスは数秒の間、スノーホワイトの事を考えることすら忘れクラムベリーの背中を目で追い、彼女を止めるべきかと思った。
優先するべきはスノーホワイトだ。あれがスノーホワイトの脅威になる時は遠い。
そう思っても目はクラムベリーの背中を追い、やがてその背中が完全に視界から隠れてやっとクラムベリーとは違う方角、西に向け駆け出した。

【G-6/森の中/深夜】
【ハードゴア・アリス(鳩田亜子)@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品×2、ランダム支給品2〜4、薬師寺天膳の首輪
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探し、自身の命と引き換えに彼女を脱出させる。
1.「スノーホワイトに会えないと困る」という強い感情を持ちながら会場を回る。
2.襲撃者は迎撃する。ただしスノーホワイトとの遭遇優先のため深追いはしない。
3.可能ならば自身も脱出……? 他者の脱出をサポート……?

※蘇生制限を知りました。致命傷を受けても蘇生自体は行えますが蘇生中に首輪を失えば絶命するものだと捉えています。
  あるいは、首輪の爆発も死ぬと考察しています。


226 : 悪魔の娘 ◆VJq6ZENwx6 :2017/02/09(木) 13:26:21 Xf3nZMXE0
「はあ」

振り返ること無く、音でハードゴア・アリスが西に向かったことを確認したクラムベリーはため息を付いた。
喋りすぎてしまったが仕方のないことだ、この殺し合いには自分に合わない要素が多すぎる。
自分に全く悟られず、首輪を付け、このような場所に運んでみせた上に死んだはずのラ・ピュセルまで蘇生させて殺し合いに参加させる。すごい魔法ではあるがやることが簡単過ぎる。

(どうせ生き返らせるなら、ウィンタープリズンの方をお願いしたかったのですが…)

本来ならアリスと一線交えたかったが、赤い首輪の彼女を殺してしまえばそれでこのゲームはクリアしてしまう。
不満の一つや二つ、出てくるというものだ。
まあいい、彼女の魔法は強力だ。この殺し合いを抜け、試験でも勝ち残ることは容易いだろう、命のやり取りはその時で良い。

まずはこの甘ったるいルールで、安っぽく生き残るような弱者を淘汰せねばならない。
弱者を狩るのは趣味ではないが、それ以上に弱者が生き残ってしまうような状況、それ自体が気に食わない。

クラムベリーの赤い瞳は、人殺しの色に燃えていた。

【G-6/森の中/深夜】
【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2
[行動方針]
基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
1. 赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
2. 一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。
3.ハードゴア・アリスは惜しかったか…


227 : 悪魔の娘 ◆VJq6ZENwx6 :2017/02/09(木) 13:26:35 Xf3nZMXE0
投下終了です


228 : 名無しさん :2017/02/13(月) 00:27:05 fNCatth60
投下乙です
魔法少女達はそれぞれ境遇に早くも差が広がり始めてますね
特にラ・ピュセルは順調にろくな目にあっていないのが良いです


229 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:41:09 unuJjTC20
投下乙です。
戦闘狂クラムベリー、アリスに戦いを吹っ掛けると思いきや意外にもスルー。
目的の果てには彼女の望む闘争があるのだろうか。

投下します。


230 : 口は災いのもと ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:42:36 unuJjTC20

殺し合い。
その響きに少女―――巴マミは恐怖を抱いた。
当然だ。彼女は魔法少女とはいえ、それでもまだ中学三年生。
魔女との戦いならいざ知らず、普通の人間相手に殺し合ったことなど一度も無い。
なにより、自分の首輪が問題だ。
側にあった鏡で確認できた首輪の色は赤。主催の言葉が正しいなら、大半の参加者に狙われることになる。
自分に殺し合う気がなくとも争いを誘発する要員としては最適なものだろう。
彼女自身には殺し合うつもりなどない。
しかし、だからといってむざむざ殺されたくはないとも思ってしまう。
ならばどうするべきか。
正面から自分は殺し合いに乗らない、協力してほしいと頼み込むか。自分が赤い首輪であることを隠すか。
どちらも困難ではあるが、さて彼女はどの手段をとるか。

ザリッ

悩む彼女の耳に届くのは、アスファルトを踏みしめる音。
出所は曲がり角からだ。
マミは背に冷たい感触を覚える。

すぐそこに参加者がいる。
殺し合いに乗る者か、守るべき市民か、協力者となり得る者か、自分と同じく怪物の烙印をおされた者か。
もしも一般人であるならば、この首輪を見るだけで怯えるか殺しに来てしまうかもしれない。
ならば、まずはこの首輪を隠すべきだろう。

そう判断した彼女は―――


231 : 口は災いのもと ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:43:14 unuJjTC20




「えっと...佐山さん、でいいかしら」
「...それでいいよ」

巴マミと佐山流美は、ここ、C-7エリアにて出会った。
暗がりの中、先に声をかけたのはマミだった。
曲がり角から流美が姿を見せる前に距離を置き、出会いがしらのトラブルを避けた上でのことだ。

流美は当然のようにマミに怯えかけたが、数刻前に決意したことを思いだし、震える全身に耐えつつ彼女との接触を謀った。

もしもマミの首輪を見ていれば、流美は一目散に逃げ出しただろう。
しかし、マミは己の魔法であるリボンを首輪に巻きつけ、色を限りなく本物の色に近づけていた。
この行為が、流美との接触にイイ意味で影響したのは言うまでもない。

互いに殺し合いには乗らない、と口頭で伝え、情報交換に勤しむことにした。

「私はあんたと会ったのが初めてだよ。行くあてもないからとりあえず東に向かってたんだ」

ぶっきらぼうにそう告げる流美だが、決してマミへ敵意を向けているわけではなく、彼女が人との付き合い方が苦手なだけである。
利用するにしても相手の気をよくした方がイイのだが、流美はそんな器用なコミュニケーション能力に長けていない。
それができていればイジメられることなどなかっただろう。

当然、そんな事情を知らないマミは感じが悪い人だと思ってしまうのも仕方のない話である。
ただ、彼女は魔法少女は人を助けるものであるとも考えているため、彼女を見捨てるわけにもいかないのだが。

「私もあなたが初めて出会った参加者ね。私の知り合いは四人巻き込まれているわ。あなたは?」
「...あたしも、何人か知り合いはいるよ。たえちゃん―――小黒妙子と相場、野崎って奴ら、それに先生」
「そうなると...まずは、私の後輩たちとあなたの知り合いを探しましょう。なにかあなたの知り合いの心当たりとかはないかしら」

流美は考える。この女はいまは自分のことを知らない。しかし、このまま共に行動すれば、野崎と出会った瞬間に詰みである。
いや、奴が悪評を吹き込んだ参加者と会う可能性だってある。
どうするべきか。答えが出るまでにさほど時間はかからなかった。


232 : 口は災いのもと ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:43:45 unuJjTC20

「の、野崎春花って奴には注意した方がいいよ」
「え?」

悪評が出回る前に奴の敵を増やせばいいのだ。

「さ、最近、あいつと関わった奴らが次々に消えるんだ。もしかしたら、あいつが殺したのかもしれない」

いくらお人好しでも、殺人を犯した者と一緒にいるのは憚られる。
それを春花が言いふらす前に、こちらからあいつは嘘つきだ、人殺しだと悪評をばら撒けばいい。
実際にコレは本当なのだから、奴も否定できないはず。
うまくいけば、奴を信用する手ごまと信頼しない手ごまに分かれ対立が生じる。
そうすれば、自分が絶対に逃げられない、斬り捨てられるという状況だけは逃れられる筈。

「あいつはオカシイんだ。あんなことがあっても平然と学校に来るし」
「あんなこと?」
「あ、あいつの家、火事に遭ったんだ。それで家族も重症で...」
「それと学校に来るのがオカシイというのがなんの関係があるのかしら」

しまった、と流美は内心で舌を打つ。
多くの悪評を振り撒こうと焦り、自分の首を絞めるような発言をしてしまった。
ここで『野崎が家を燃やした本人達のもとにノコノコと足を運んでいること』などと正直に話せば敵視されるのは流美の方だ。
今さらなんでもないと誤魔化すのも不自然すぎる。
どうする、どうすればこの場を乗り切れる...!

「だ...だってさ、家族が重症なら看病を優先するのが普通でしょ。なのにあの女は澄ました顔で登校してきて...」

苦し紛れに出た言い訳がこれだ。
それっぽい理由ではあるが、果たしてこれでマミの疑念が解けるだろうか。

「も、もしかしたらあいつ、遺産目当てに家を焼いたのかもしれないね。きっとそうだ、きっとあいつが」
「そういう決めつけはあまり感心できないわね」

しまった。二度目の失態だ。
またもや地雷を踏んでしまったというのか。おそらくそうだ。
思えば、自分のクラスではイジメるのは野崎か流美かという認識があった。
そのため、二人に関しての悪評はなにを吹き込んでも構わなかったし、それでクラスメイト同士が対立することもなかった。
だがこの場では違う。そんな田舎の教室の常識など通用しない。他人の悪口を大声で叫ぶ者に良い印象など受けられるはずもない。
流美はまず相手の常識を把握することから始めるべきだったのだ。

「あなた、随分とその野崎さんを敵視しているみたいだけれど、なにかあったのかしら」
「うぅ...」

マズイ。非常にマズイ。
このままでは更に敵を増やし逃げ場を無くしてしまう。
ここで彼女を殺すか?その覚悟はもうしてきた。できるはずだ。
...いや、ダメだ。まだ早い。
どうにか彼女を信頼させあの女への対抗策を作るのだ。


233 : 口は災いのもと ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:44:49 unuJjTC20

「ご...ごめん。巴さんがあいつに騙されないようにって思ったらつい口が悪くなって...」

心の籠ってない言葉だと自分でも思う。
こんな一言で疑念を晴らせるはずもない。

「...そう。お気遣いは嬉しいけれど、あまり人の悪口を言ってはダメよ」
(とりあえずはこれで収めてくれたって感じだね。深入りしないのは助かるけど)

マミの声音から、まだ疑念は解けていないことくらいはわかる。
これまでの数々の失態を顧みて、いかにこの牛乳女からの疑念を晴らすか、流美は頭を抱えたくなった。


(...彼女。なにか隠しているわね)

当然、マミもあの程度の言葉で疑念を晴らしているはずもない。
流美との会話から、彼女はなにか後ろめたいことを隠していると察することができた。

(彼女は『野崎さんと関わった人が消える。おそらく彼女が殺した』と言っていた。...となると、彼女のクラスメイトは野崎さんからの恨みを買っていた可能性もある。
若しくは、魔女の口付けを受けた野崎さんかクラスメイトが凶行に及んだ...だとしたらまだマシだけれどね)

魔女の口付け。それは人の正気を狂わせ、魔女が生気を吸うために凶行に及ばせる可能性もある。
もしも野崎春花をとりまく環境にそれが干渉しているだけならまだ救いようがあるかもしれない。
しかし、万が一にもそれが流美を含めたクラスメイト全員が己の意思で行ったことであれば。それが春花の凶行に関連していれば。
春花と流美、彼女たちが対立した時、どちらの意思を尊重するべきかは考えるまでもないだろう。
少なくとも、憶測で家族を遺産目当てに焼いたなどと言える者の味方をしようとは思えない。

(とはいえ、佐山さんを見捨てるわけではないけれど)

巴マミは魔法少女である。
魔女の有無に関わらずとも人命を救うのに労力を惜しまないし、それが魔法少女として生き永らえた意味だとも思っている。
流美が明確にマミを裏切りでもしない限りは、彼女を放置することはないだろう。

かくして疑心暗鬼を募らせたまま二人の少女は夜道を往く。
その道の果てに、希望の光はまだ見えない。


234 : 口は災いのもと ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:45:23 unuJjTC20


【C-7/一日目/黎明】

【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:健康、野崎春花と祥子への不安と敵意。
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
1:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
2:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。

※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:自分が赤首輪であることはなるべく隠しておく
1:知り合いとの合流。
2:流美の知り合いを探す。
3:野崎春花からはしっかりと話を聞きたい。

※参戦時期は叛逆の物語にてほむらがべべを拉致する前。
※首輪の上にリボンを巻いて色を隠しています。


235 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:48:26 unuJjTC20
投下終了です。

続いて『モズグス』『ぬらりひょん』をゲリラ投下します。


236 : 神よお導きを ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:52:13 unuJjTC20
彼は今しがた吹き飛ばした男のデイバックを漁っていた。
しかし、目ぼしいものがないことを確認するとそれを放り捨てその場をあとにした。

彼の名はぬらりひょん。

なぜ彼は幾何の言葉を交わした後に男を吹き飛ばしたのか。

理由などない。
彼らはこの殺し合いという箱庭で出会った。ただそれだけだ。
それだけで、ぬらりひょんにとっては排除する理由になる。

ズドン、とどこかで轟音が響いた。あの男が地面に衝突したのだろう。
あの高さからの落下だ。人間であるならば死ぬ可能性が高い。仮に生き延びたとしても、奴では自分に敵わない。
そう悟ったぬらりひょんは背を向け、次なる出会いを探す。

ぬらりひょん。
彼は、いつからか『神』の存在を感じていた。

神とは人のようなものか。どのような形か。
わかるのは、絶対の力を持つ存在であること、この世はそのような個が作りだしたものということだけ。
神ほどの力を持たない者からしてみれば、如何な理不尽が与えられようとも仕方のないこと。
災害と同じと言い換えてもいい。

だからぬらりひょんはこの殺し合いを受け入れた。
他に同胞がいるかもしれないが、それが『神』の意思だというのなら、致し方なきことである。


【E-7/一日目/深夜】
※モズグスのデイバックが付近に転がっています。

【ぬらりひょん@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:『神』の意思に従いこの殺し合いで勝ち抜く。
0:皆殺し

※参戦時期は岡八郎との戦いの後です。
※現在の形態は岡と殴り合っている時のものです。
※モズグスの首輪が赤い首輪であるのに気が付きませんでした。


237 : 神よお導きを ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:53:06 unuJjTC20

「...許すまじ」

吹きとばされた巨漢―――モズグスは、大の字になって地面に減り込んでいた。
通常の人間なら骨はひしゃげ、内臓が吹き飛ぶだろう衝撃を受けたにも関わらず、彼はほぼ無傷で倒れ伏していた。

「神を畏れぬ愚か者どもよ、天罰覿面!天に代りてこの私が!!あなたたちに罰を与えましょう!!」

彼の言う愚か者。それは、さきほど自身を殴り飛ばしたぬらりひょんとこの殺し合いを開いた主催の男を指す。
モズグスは信仰に生涯の全てを捧げ、それを一身に貫いてきた熱心な信者である。
幾多の試練が立ち塞がろうとも、一瞬たりとて信仰を蔑ろにしたことはなかった。
その彼の生涯を認めてくれたのだろう。
魔女の放つ醜悪な亡者と会いまみえたその時、神は奇跡を与えてくださった。

与えられたのは、頑強な身体に天使の羽根。

あの時、モズグスは真の神の遣いに成ったのだ。

だが、喜んだのも束の間。
気が付けば彼は枷を嵌められあの珍妙な男の催しに巻き込まれていた。

彼は思った。許すまじ、と。
神聖なる儀式と処刑を邪魔したあの男はまさしく邪教徒であると。
この神の代弁者たる私が貴様に天誅をくだそうと。

「この試練を私は必ずや乗り越えてみせましょう。それが信仰!!すなわち神の御意志!!」

神は告げている。
あなたの従うべきは私であり、あのような矮小な男ではないと。
故に、あの男の言葉通りに他の参加者を全て殺し優勝するなどという甘言には従わない。
この試練において自分のすべきことは、首輪の色などという幻に惑わされず、信者と為るべき者と邪教徒共を選別することだ。

「神よ!御拝見ください!私は必ずやあなたへの信仰を貫いてみせます!!」

闇夜の森の中、一人の狂信者の叫びが響き渡った。

【E-7/一日目/深夜/森】

【モズグス@ベルセルク】
[状態]:後頭部にたんこぶ、前進にダメージ(小)
[装備]:自前の教典
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:信仰に従い邪教徒共を滅ぼす。
0:邪教徒以外の参加者を探し共に試練を乗り越え殺し合いを破壊する。

※参戦時期は原作20巻。
※邪教徒の基準はモズグスによります。


238 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/13(月) 02:54:58 unuJjTC20
投下終了です。

以前投下した『変身少年調教計画』を修正し、wikiに収録しました。

西丈一郎、加藤勝、相葉晄を予約します


239 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:17:48 Ix9Ct7ks0
投下します。


240 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:18:58 Ix9Ct7ks0
「あっ」
「おっ」

森の中を散策していた彼ら、加藤勝と西丈一郎は思わぬ遭遇に言葉を漏らした。
彼らは死者を呼び寄せる黒球、ガンツに呼ばれた者同士として顔見知りである。
しかし、仲が良いかと問われれば決してありえず、性格も目標も相容れない二人でもあった。
では、そんな彼らが出会えばどうなるか。
立場でいえば互いに協力者であり、実際に敵対したことは一度とてなかった。少々言い争ったことがある程度だ。
仲は良くないが、互いに憎み合うわけでもない。彼らの関係はガンツに呼ばれた一点を除けば希薄だと言っても過言ではないだろう。
つまるところ、彼らが出会ったからといって特筆すべきことはなく、他の参加者の情報交換との違いは、互いの共通事項の確認をする程度だった。

「お前もスーツを没収されたみたいだな」
「さあどうかな。お前らみたいにスーツを忘れるようなヘマはやらかしたことはねえからな。もしかしたらデイバックの中にあるかも」
「誤魔化すな。俺たちの中では誰よりも経験のあるお前がこんな異常事態にスーツを着ない訳がないだろう」
「...チッ」

加藤と西。彼らはガンツの星人討伐任務に挑む際、支給された特殊スーツを常に着用していた。
この特殊スーツは着用者の身体能力を底上げすることができるものであり、これの有無で任務の難易度が大きく変わるほどの代物だ。
しかし、この催しではそれは没収されている。
この時点で、彼らは現在の状況が従来のガンツの任務から外れていることを認識していた。

「それで、お前はどうするんだ」

だから加藤は不安だった。
西丈一郎。彼は、加藤から見て非情且つ異常な面の目立つ少年だった。
デマを流し他者を囮に使う、人の死を語り興奮する。そんな少年が殺し合いに放たれればどうなるか。加藤は想像するだけでも嫌だった。


241 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:19:35 Ix9Ct7ks0

「んー...それって、殺し合いに乗るかどうかってこと?」
「ああ」
「興味ねーな。俺の邪魔しなけりゃそれでいい」

だから加藤は彼の意外な返答に思わず面喰らってしまった。
てっきり、この機に殺人を愉しむだろうとばかり思っていた。

「意外だな」
「別に今までと変わらねーもん。今回は赤い首輪が『星人』で、殺したら点数の代わりに特典が貰える。それだけだろ」

同時に、最も彼らしいこの言葉に落胆を覚えずにはいられなかった。

(そうだ...こいつはこういう奴だった)
「けど、今回はどんな奴がターゲットか分からないんだぞ」
「今までもそんなのバッカだったろ。ガンツのいい加減な特徴が役に立ったことがあるか?」
「それはそうだけど...」
「それに今回は一匹殺すだけで100点相当の大盤振る舞いときた。尚更狩らずにはいられねえよ」

西の言葉に、加藤は思わず言葉を詰まらせる。
これから先も自分はガンツに呼ばれ続ける。その中には千手観音のような強敵もいるだろう。
その時に充分な装備が無ければ、また全滅寸前にまで追い込まれてしまう可能性は高い。
それに、この場に呼ばれてしまった玄野やガンツに呼び出される度に心配をかけている弟の加藤歩のこともある。
この機に装備を充実させるという西の言葉に間違いはないのだ。

「...けど、赤い首輪の参加者だって」

ガサガサガサ。

加藤の言葉を遮り、何者かが草木をかき分け近づいてくる。
加藤はデイバックからPLUCKと血文字が記された剣を、西は懐から拳銃を取り出し臨戦態勢にはいる。

「使えるのか?」
「どう思う」
「...難しそうだ」

ガンツの任務で支給された銃は、未知の技術によるものか、残弾や反動といった拳銃特有の弱点がなかった。
だが、西が握っているのはなんの変哲もない拳銃。引き金を引けば弾丸が発射され、反動により隙も大きくなる現代の武器だろう。

もしも近づいてくる足音が赤い首輪の参加者、若しくは殺し合いを肯定した者であれば、自分が前に立つしかない。
足音が近づく度に、加藤の鼓動は大きく波打った。

「助けてくれ...赤い首輪の参加者に襲われた...!」

現れたのは、息を切らし、肩の怪我を抑える少年だった。


242 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:20:27 Ix9Ct7ks0



「青い髪の少女に上半身だけの老人?」
「はい。女の方はどこからともなく剣を出してきます...いてて」

少年、相場晄の応急手当を施しつつ、加藤は相場から事情を伺っていた。

「俺と一緒にいた仁美って緑色の髪の子もソイツに殺されました。彼女は俺を庇って...」

相場の声に陰りが生じる。
既に犠牲者が出ているという事実に、加藤は歯噛みするほかなかった。

「だから言ったろ、いつもとなんにも変わらないって」

西はヘラヘラと薄ら笑いを浮かべつつ加藤を挑発するかのように声をかける。
当然ながら、彼が相場の手当を手伝うことはない。

「...そいつらは、あっちの方角にいるのか?」
「...我武者羅に逃げてきたからあまり自信はない」

申し訳なさげに俯く相場だが、加藤はそんな彼に非難の目を向けることなく、相場の走ってきた方角へと顔を向ける。

「おっ?偽善者が珍しく殺る気になったか」
「......」
「それとも、赤首輪の連中にも事情があるとか言っちゃうわけ?」

加藤は答えない。しかし、その姿勢が全てを物語っている。
そんな彼に西は溜め息をつかずにはいられなかった。

「あいつらのところに行くつもりですか?」

心配そうに問いかける相場に顔を向ける加藤の額には緊張による冷や汗と脂汗が滲んでいた。

「...できれば味方は欲しいが、いまは俺しかいないから」
「無茶ですよ。せめてもう少し仲間を増やしてから」
「もう被害者も出ている。一刻も早くそいつらを止めないと」
「でも...」
「別にいいんじゃね。死にたい奴は勝手に死なせとけ」


243 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:20:51 Ix9Ct7ks0

二人の言い合いを止めたのは、現状をじれったく感じた西。
元々彼は加藤と組むつもりはなかったし、いまの段階で赤首輪の参加者を狙いにいくつもりもなかった。
いざ赤首輪を狩ろうという時に割って入るであろう偽善者を切り離すにはいいタイミングだ。
西にとって、そんな死にたがりを止める理由など一切なかった。

相場は諦めるように加藤から僅かに目を逸らし、やがて視線を再び合わせた。

「...野崎って女の子を見つけたら、俺が探していたことを伝えてください。待ち合わせ場所はD-5でお願いします」
「野崎...春花と祥子って子だな。わかった」

加藤は名簿の『野崎春花』と『野崎祥子』に印をつけ、すぐに踵を返す。

「精々楽に死ねるよう祈っとけよ、偽善者」

激励のつもりは一切無い。
そんな調子で嘲笑う西に、加藤は一度立ち止まり、一度だけ視線を向け言い放った。

「...お前がなんと言おうと俺のやり方を変えるつもりはない」

それだけ告げると、加藤は闇夜へと駆けて行った。

(赤首輪の参加者だって、人間じゃない奴にだって感情はある)

森を駆ける中、加藤は今までの戦いを思い返す。
ネギ星人との戦いは、子供を殺された親の怒りによってヤクザ達は殺された。
田中星人も、肩に乗っていた鳥を西が殺したことにより戦いが始まってしまった。
あの恐ろしい千手観音でさえ、仲間を失ったことを嘆いていた。

(この状況は完全なイレギュラーだ。赤首輪の参加者とだって、戦わなくて済む道もあるかもしれない)

加藤は、星人たちと殺し合うことに常に疑問を抱いていた。
なぜ戦わなければならないのか。誰がこんなことをさせているのか。
星人たちを好き好んで殺したことは一度たりとてありはしなかった。

ガンツの時と同様、理不尽に開催されたこの催しでも同じ。
例え赤い首輪が人外の証だとしても、同じ被害者であれば彼はそれだけで敵視しようとは思えなかった。


244 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:21:40 Ix9Ct7ks0

(俺は俺のやり方で戦う。―――そして計ちゃん)

玄野計―――この名簿に連ねられた親友を想い馳せる。
彼は酔っ払いを助けようとした加藤に巻き込まれる形でガンツに呼ばれ、幾度か共に戦った。
加藤が先に死んでしまってからも、彼を生き返らせるために奮闘していたという。
そんな彼も、今では加藤を蘇生した後に仲間に見送られ元の生活へと戻った。
そう。ガンツのことなど、一度死んだことなど忘れ去ってしまった平穏な日々へと。
加藤は思った。計ちゃんには頑張ったぶん平和に過ごしてほしいと。
だが、その矢先にこの殺し合いだ。いまの計ちゃんはガンツでの戦いの記憶が無いため振りは免れない。
危機に晒されるほど力を発揮するのが玄野計という男だが、それもどこまで通用するかわからない。

(計ちゃんは俺が守るから、無茶はしないでくれ!)

もう彼を傷付けるのは御免だ。こんな理不尽なゲームで誰かが傷つくのは嫌だ。
必ずこの殺し合いを止めてみせる。加藤は拳を握りしめ心中で誓った。


【G-2/一日目/黎明】

【加藤勝@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ブラフォードの剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:相場の語った赤首輪の参加者に注意。できれば説得して止めたいが...
1:計ちゃんとの合流。

※参戦時期は鬼星人編終了後。そのため、いまの玄野はガンツの記憶を無くし普通に生活している状態からの参戦だと思っています。


245 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:22:09 Ix9Ct7ks0


「あんたは行かなくていいのか、仲間なんだろう?」
「冗談。俺に要るのは使えるか使えないか、邪魔になるかならないか、それだけだ」

西は銃を磨き、時には構えて撃つ練習をしつつ相場と言葉を交わす。

「それとあいつよりはお前の方が話が解る。それがあいつを追わなかった理由でもあるな」
「...どういうことだ」
「お前さ、人の死体とか見たことある?」

人の死体。
相場の脳裏によぎるのは先程ボウガンで撃った志筑仁美―――ではなく、火に包まれた春花の父と妹。

「俺はあるぜ。ニュースとか写真なんかじゃない。本物の人間が切り裂かれ、破壊される現場でだ」

炎に包まれる春花の家へ、彼女の家族を救助へ向かった時。
彼は見た。炎に包まれる春花の父と妹の姿を。

「さっきまで生きてた奴らが破壊されて肉塊になるのを見てるとさ、興奮するんだ。テレビなんかじゃ出せない本物の死体がここにあるって」

不謹慎だとは思った。しかし、気が付けば彼らを助けることすら忘れてカメラを手にしていた。

「それでそいつらと俺を見比べて思うんだ。『俺は生きている、こいつらよりも優れている』って」

その時の自分はどうだったか。
この姿はカメラに収めなければならないと無我夢中だった。
身体を張って娘を助けようとした父の勇姿に感動していた。
そんな父親の姿を愛する春花に見せてやりたかった。
彼らが消えたことにより春花にとっての自分の存在は確固たるものとなったと密かに喜んでいた。

「お前はどうだ。もしも死体を見たら、どうなると思う?」

その時の自分は有体にいえば興奮していたのだろう。


246 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:23:00 Ix9Ct7ks0

「...下らない。俺をお前と一緒にするな」
「どーだかね。...まあいいや。とりあえず、準備ができるまで赤い首輪の参加者の悪評を振り撒くつもりなんだろ?」
「...!」
「偽善者にはわからなくても俺にはわかんだよ。お前が狩られるんじゃなくて狩る側だったことくらいはな」

相場の目が驚愕に見開かれる。
自分の演技は完璧だったはずだ。言葉にも矛盾はなかったはずだ。なのになぜ...

「あの偽善者が手当してた時、お前は頑なにデイバックを奴の視線から外そうとしてたよな。なにか見られたくねーもんでもあるんじゃねえか?例えば、血の付いた凶器とか」
「それは...」

相場は確かに、万が一にも加藤にデイバックを探られないよう無意識的に言葉を交わすことで彼の注意力を散漫させデイバックが視界に入らないよう位置の調整をしていた。
現在の唯一の武器である血濡れの弓が見つかれば化け物たちの悪評を振り撒くどころではなくなるからだ。

「...だとしたらどうするんだ」

しかし、だからといって狼狽えるほどのことでもない。
言葉を交わした範囲で判断する限り、この男は自分と春花の生存においては重要ではない存在だ。
邪魔するなら殺せばいいだけのことにすぎない。

「俺もお前もまだ準備不足ってトコだろ。だから俺の狩りの準備が整うまでは口裏合わせてやるよ」

そんな相場に協力の提案を申しかけたのは西。当然ながら、彼には彼の思惑がある。

前述した通り、いまの西は赤首輪を狙うつもりはなかった。
西の武器は拳銃のみである。当然ながら残弾はあるし、ガンツから支給される銃とは違い、当たったところで確実に仕留められる保証もない。
また、スーツも無いため近接戦闘もたかが知れている。赤首輪はおろか、大人一人にも勝てないだろう。
こんな状態で赤首輪のもとへ出向けば返り討ちにされるのがオチだ。
以前なら己の腕に過信し加藤の後をつけた可能性もなくはないが、田中星人の時に死んだ経験が彼を慎重にさせた。

いまの彼が欲するモノは力と最小限の手ごまである。
力。まず第一に強力な武器だろう。スーツが手に入ればいいが、せめてガンツの任務で使用する銃くらいは欲しいものだ。
手ごま。これは数があればいいというものではない。
数があれば囮として使うにはイイかもしれない。しかし、任務では点数が配分されるのとは違い、今回のゲームでは『赤首輪を殺した者一名』のみが報酬を得るシステムになっている。
前者では多くの数を倒さなければならない代わりに全員が100点を達成できるケースがあったが、今回は泣いても笑っても一人だけだ。
報酬を得るために諍いが起こり足を引っ張る可能性が高くもある。最小限の数で効率的に狩りができるのが一番イイ。
加藤は赤首輪を守るだけでなくそういう輩も分け隔てなく連れてくる可能性が高かった。だから単身赤首輪のもとへ向かわせ死んでくれることを願った。
その点、相場はまだやりやすい。狩るにも躊躇いはなさそうだし加藤よりは合理的に行動ができそうだ。
だから、西は相場への協力を提案したのだ。扱いやすい駒の先駆者としてだ。

「......」

当然、相場も西になにか裏があることは勘付いている。だが、このまま一人で目的を達成できず協力者が必要なのは言うまでもないこと。
断れば容赦なく悪評を振り撒かれるであろうことから、彼は西の提案を飲まざるをえなかった。

「...よろしく頼む」
「交渉成立だ」

握手は決して交わさない。互いに信頼の二文字はありえないのだから。
一人は新たなる力を手に入れるため、一人は愛する者のため。
二人の男子中学生は偽りの契約をここに締結した。


247 : 変わらない世界 ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:23:52 Ix9Ct7ks0


【G-2/一日目/黎明】



【西丈一郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ポンの兄の拳銃@彼岸島
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:赤首輪の参加者を狙い景品を稼ぐ。装備が充実したら赤首輪の参加者を殺すなり優勝なりして脱出する。
0:邪魔する者には容赦しない。
1:相場は利用できるだけ利用したい。
2:いまは準備を整える。

※参戦時期は大阪篇終了後。


【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
1:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
2:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
3:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
4:カメラがあれば欲しい。


※参戦時期は18話付近です。


248 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/15(水) 02:25:51 Ix9Ct7ks0
投下終了です

『暁美ほむら』、『ひで』、岡八郎、岡島緑郎、『雅』を予約します


249 : 名無しさん :2017/02/15(水) 04:20:40 nezhxHDI0
キチガイとキチガイが組んじゃったよぉ……


250 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:10:57 3yncmkkY0
投下します


251 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:12:59 3yncmkkY0
こんにちわ。ロックです。
ロックと言いましたがアメリカ人ではありません。日本人です。
昔は岡島緑郎という名でした。もうこの名前は捨てましたがね。
何故捨てたかと申しますと、早い話が首きりですよ。文字通り、俺の命は上司に捨てられたんです。
まあその時の心境とか経緯は長くなるので機会があればおいおい語るとします。
そんなこんなで俺はリストラの元凶となったおっかない運び屋さん『ラグーン商会』に再就職となりました。
新たな勤め先では仕事柄色々と危険な目に遭うのが日常茶飯事で、最近は割りと慣れてきたんじゃないかと思ってます。
そんな俺ですが、現在かつてないほどのピンチです。
突如巻き込まれたバトルロアワイアル。誰かを殺さなきゃ自分が死ぬ最悪のゲーム。
...まあ、命賭けのゲームならロアナプラで嫌というほど経験してきました。違いは首輪の有無くらいですか。
けれどいくら慣れてても危険であるのは変わりません。
一緒に連れてこられた先輩やお得意様なんか構わず銃をブッ放してる姿が目に浮かんで困ります。絶対に俺に飛び火する。
ともかく、そんなサバイバルの最中で俺は。

「やだ!もう痛いのやだ!」

小学生を騙る不審者と。

「巻き込まれたくなければ早く離れなさい。死ぬわよ」

貧乳コスプレ中学生と。

「一度だけ警告したるわ。そこをどかんかい」

ごてごてアーマー野郎。

そんなイロモノ三人衆に囲まれて絶体絶命の身です。

...俺って不運の星に恵まれてるのかな。


252 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:14:08 3yncmkkY0



時は遡る―――

場所はE-5エリア。

「あーもう...拳が出ちゃいそう!(半ギレ)」

これ以上虐待されてたまるか―――そんな想いを体現するかのように、悪魔と化したひでは岡へと殴りかかる。

岡の着用しているハードスーツは並大抵の衝撃では壊れない。
しかし、岡は多くの経験から直感していた。奴の攻撃をなんども喰らうのはマズイと。
スーツの強度に過信せず、避けられるものは避けリスクを最小限に抑える。
それが今回の岡の戦法であった。

拳を躱され隙だらけになったひでの腹部に岡の拳が叩き込まれる。

「俺はな、こう見えても学生時代はピンポンやっとったんや!」

ピンポン。即ち卓球。
何故ここでピンポンが?という疑問は当然湧いてくるだろうが、おそらく動体視力と腕の振りには自信があるということだろう。
実際、スーツを着ていることを差し引いてもその容赦ない一撃は見事としかいいようがない。

「ヴォエッ!おじさんやめちくり〜(挑発)」

悶絶するひでに次々に叩き込まれる拳。
その一撃一撃が必殺の威力を有し、ひでの身体に傷を、痣を刻んでいく。

(...今の内に退くべきかしら)

その様を遠巻きから見守っていたほむらは、この場から退散することも視野にいれる。
彼らの戦いに割って入るのは骨が折れるしなにより理由が無い。
ほむらの第一優先は鹿目まどかの保護であり、危険な雰囲気を醸し出すひでを殺すのはあくまでも二の次。
ここで自分が死んでしまえば元も子もないし、あのスーツの男がひでを殺してくれるならそれで済む話だ。

ほむらがひっそりと後ずさりしたその時だ。


253 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:14:42 3yncmkkY0

「やだ、やだ、ねえ小生やd―――ッダァイ!!」
「ッ!」

感じた殺気に、ほむらは反射的に横に跳ぶ。
ひでが四散すると共に奔る閃光がほむらの髪先を焼ききった。
あとほんの数瞬反応が遅れていれば、額に風穴どころか頭蓋を四散されていただろう。

「チッ、外したか」

下手人は岡。その右腕に装着されたレーザーで、ひでごとほむらを撃ち抜こうとしたのだ。

(あの男、私ごと殺そうと...!)

なぜ彼は自分を狙ったか―――想像に難くない。ほむらとひでの共通点は、赤い首輪である。ならば、あの男の狙いはおそらく首輪。
それも、脱出用ではなく情報若しくは新たな道具を得るためのだ。

自分を狙ってくる以上、反撃するべきなのだろうがそれは難しい。
ほむらの見る限り近接戦で一番劣るのは自分だ。ひでは技術こそないもののパワーとスピードに優れ、岡はスピードと技術がピカイチである。
それに比べて、ほむらは特筆すべき点はなく、加えて武術のような心得もない。この有り様では近接戦の不利を覆しようがない。
遠距離戦ではどうか。駄目だ。あのスーツに銃弾が通用する気がしない。
仮に時間を止めようと、攻撃が通用しなければ意味が無い。

では、ひでと手を組み岡を撃退するのはどうか。不可能だろう。
生理的嫌悪を除いても、つい先ほどまで殺し合っていたもの同士。一時的にでも協力できるはずもない。

(やはりこの場にいるのは危険...けれど、どうやって離れれば...)
「痛いっていってるのに...この人頭おかしい(小声)」

ほむらの思考を中断するかのように再生するひで。
気のせいだろうか。先程に比べて再生速度が遅く見える。

「やはりお前にも限界はあるようやな」

岡は、ひでの再生能力にも限界があると認識。この調子でいけば限界まで削りきれるかもしれない。


254 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:16:21 3yncmkkY0


(けど、まずはお前からや!)

ひでの特性を把握したところで、岡は突如としてほむらへと殴りかかる。
先程、ほむらはこの場から逃げようとしていた。
この状況で逃げようとするのは、おそらく有効な戦闘手段を持ち合わせていないからだろう。身体能力もさほど高くはないと見た。
この中で一番弱い彼女を逃がせば、他の者に狩られてしまうかもしれない。
そのほんのちょっぴりの欲が、ほむらへの攻撃に繋がったのだ。

ほむらは眉をひそめ盾に触れる。
なにをする気か―――その答えを知るためにもまずは殴り飛ばす。
中断できたならそれでよし。仕留められたならなおのことよし。仕留められずともダメージがあれば構わない。
高速で振るわれる拳。ひでにも劣る彼女のスピードでは完全に躱しきるのは困難だろう。

―――カチリ

しかし、岡の拳が彼女を捉えることはなく。
ほむらは、既に岡の視界から消えひでの背後に隠れていた。

(瞬間移動か!?)

振り向きざまに放たれるレーザーがひでに直撃する。

「やめてGwtit!」

絶叫と共に四散するひでを無視し、ほむらは巻き添えを回避するために横にとび、ついでに岡へとサブマシンガンを浴びせる。
が、やはり無傷。軽傷ではない。まったくの無だ。あのスーツ相手ではダメージが通らない。
いま力技で来られれば逃げ切れるかわかったものではないだろう。

しかし、ほむらにとっては幸運だろう。岡はほむらの能力を警戒し動きを止めていた。

(奴の動き...瞬間移動かと思ったが、ならあの男の拳を受ける理由がわからへん。それにんなもんあるならさっさとソレ使って逃げればええ筈や。なにか使えん理由があるんか?それとも使えない振りをして俺を騙し取るんか?)

「うぅうぅうう......」

思索する岡を余所に、ひでの泣き声にも似た呻き声が空気を震わす。
殴られ続けた上にレーザーで三度も爆発四散させられたのだ。流石に辛くなってきたのだろうか。
身体を丸めて蹲るひでを見て、つい先ほどまで彼を殺そうとしたほむらも流石に憐憫の情が湧いてきた。

(いや、よくみたら半笑いねアレ)

訂正。やはり同情は湧かない。元からニヤけた顔をしているせいかやはり演技なのかはわからないが、歯をむき出しにして笑みを浮かべているのを見て、哀れむ気持ちはすぐに霧散した。


255 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:17:14 3yncmkkY0

「どうやらそろそろ限界のようやな。いま楽にしたる」

岡は油断のない足取りでひでのもとへ足を進める。
この隙に逃げられないか思案するほむらだが、下手に動き狩られるのを避けるため、岡の隙を窺う。
逃走のチャンスはひでにトドメを刺したその時だ。このタイミングで時間を停止させればおそらく大丈夫だ。

「ヤダッキッヤダッイウコトキクネッチョ、イ”ヴゴドギグガラ”ヤ”メ”デ!(高速詠唱)」
(この狼狽えよう、演技やないな。本当に限界が来とるようやな)

まくし立てるひでにも構わず、岡は拳を振り上げる。
ほむらはひでの潰れる音を聞き届けた後に時間を停止し逃走する腹積もりだ。

「やだ、やだ、やだぁ〜〜〜↑ぁぁ〜〜↑」

クッソ腹の立つビブラートをかますひでに、岡は躊躇いなく拳を振り下ろした。

キンッ

「...???」

響いた音は、今までの轟音には程遠い空しい金属音だった。流石の岡もこれにはビビッた。

この金属音は、ひでが発した能力『ヤメチクリウム合金』によるものだ。
ヤメチクリウム合金とは、ひでが限界まで追いつめられた時に限り偶発的に発動する能力である。
ヤメチクリウム合金は、早い話が短時間だけ全身を硬くする技であり、その硬度はまさにダイヤモンド以上!
この能力によりひではハードスーツの攻撃を防いだのだ。

(わけがわからんがこの硬さはパンチじゃ無理や。こいつで)
「誰か助けて!!」

掌からレーザーを出そうとした岡を異常な力で突き飛ばし彼方へと駆けていくひで。
その様脱兎のごとし。

呆気にとられていたほむらは、ふと冷静に返り改めて自らの置かれた状況の危うさを自覚する。
ほむらが狙われなかったのはひでの影響だ。そのひでがいなくなれば狙いは自分に移る。
そして、岡相手に一対一で易々と逃げられるとは思えない。

「くっ!」

ひでを利用しなければ現状を脱することはできない。
不本意だが、重ねて言うが心底不本意だが、ほむらはひでのあとを追う。

(..大丈夫や。奴らの能力は未知数だが現状は俺の方が有利。退く必要はあらへん)

岡もまた、冷静に現状を分析し、獲物をとられてはたまらないと二人の後を追った。


256 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:18:12 3yncmkkY0




「どーするかな...」

青年、ロックこと岡島緑郎は溜め息と共にそんな言葉を吐いていた。
突如招待された血と硝煙の入り乱れるこのクレイジーパーティに対する感想である。

煙草でも一服ふかしたい気分だが、生憎没収されており、なによりこんな場所で吸えば匂いでここにいることが危険人物にバレる恐れがある。
そんな自殺行為はするべきではないだろう。

(俺意外にもレヴィ、シェンホア、バラライカさんが呼ばれている)

名簿を取り出し連れてこられた彼女たちの行動を予測する。
答えはみんな同じ。彼女たちが大人しく他の参加者と手を取りあって脱出を目指す像が思い浮かばない。
シェンホアは見返りがあればまだ協力してくれるかもしれないが、他二人はその希望は薄い。
放っておけば確実に血の池地獄のできあがりだ。できれば早めに合流し止めたいが...

ロックとしては可能な限り死者を減らし、協力者たちと共に元の場所へ帰りたい。
しかし、この殺し合いのルールがそれを困難にさせている。

まず、赤い首輪の参加者は狙われやすい。この時点で彼らは身を守るために疑心暗鬼となる。
では、仮に赤い首輪の参加者の命を諦め普通の首輪の参加者の脱出のみを考えるとしよう。
あの主催の男は『赤い首輪の参加者が全滅したら優勝者が決まるまで殺し合いは続く』と言っていた。
おそらく参加者の過半数が赤い首輪で占められている訳ではないのだろう。つまり、全員が赤い首輪で脱出できるわけではないのだ。
そしてなにより懸念されるのは『誰が最初にトドメを刺すか』で揉めることである。
仮に六人で赤い首輪の参加者を虫の息にしたとする。しかし脱出若しくは報酬を得られるのは一人だけ。
となれば、誰がその権利を得るかでもめ、その流れで殺し合うのは必然である。
では一人で戦えばいいのではという疑問もわくが、赤い首輪の参加者は吸血鬼のような化け物だと言っていた。
ただのハッタリかもしれないが、なんの前触れもなく突如連れてこられたことを顧みると、その超常的な存在もあながち嘘ではないと思えてくる。
結局、組んで戦うことを強いられるのだ。

(俺たちはあの主催の駒として掌で踊らされるしかないのか。そんなの)

"面白くない"
そう考えがよぎった時、ロックの背に冷たいものが走った。

(面白い面白くないの問題じゃないだろう。こんなことは間違っているから止めなきゃいけないんだ)

そう。こんな殺し合いなど間違っている。だからこそ、ロックは止めようと考えているのだ。
だが頭の片隅では。
"どうやってあの主催の男の間抜け顔を見られるか"
"如何に自分があの男を出しぬき嘲笑(わら)ってみせるか"
"そのための駒をどう動かそうか"
そんな、まるでゲーム依存者(ジャンキー)ような考えばかりがよぎってしまう。


257 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:18:33 3yncmkkY0

ここに連れてこられる前、ファビオラとガルシア、そして張に指摘されたことがある。

『お前は人の命をチップに乗せる悪党だ』。
『お前の語るソレが本当に善意か考えろ』と。

自分が殺し合いを止めようとするのは何故だ。
本当に死者を出したくないという善意なのか?
それとも脳が蕩けるようなギャンブルを興じたいだけなのか?
―――あるいは両方か?

いまの彼にはわからない。いまの自分が求めているものはいったい―――

ドォン

少し離れた場所から戦闘音らしき音が響く。それは凄まじい速さでロックのもとへと近づいてくる。

(もう始まってるのか...!)

このままではマズイ。もし銃撃戦などに巻き込まれればロックに抵抗する術はない。
逃げている暇はないが、だからといって立ち往生している訳にもいかない。いまはひとまず身を隠すべきだ。ロックは岩陰に身を潜めた。

「やだ、もうやだ!!」

しかし時既に遅し。
逃げてきたひではとうにロックを視界にとらえていた。

「お兄さん助けて!!」
「なっ!?」

ひでは隠れたロックへと飛びつきその背に隠れる。

(あの男は―――いた!!)
(また1人参加者か)

ビームの発射エネルギーが尽きた岡の拳を避けつつほむらもまた彼ごとロックへと距離を詰めていく。
そのハードスーツと常人では捉えきれない拳を振るう岡も、防戦一方且つ辛うじてでも躱し続けられるほむらも、ロックからしてみれば十二分に怪物である。
すぐにでも離れようとする―――が、服を掴むひでのせいでロクに動けない。

ロックはどうにか振りほどこうとするも、ひでの力が異常に強く離れてくれない。どころか、迫る二人の盾にするかのようにロックを突き出している。
そんなひでに怒りを覚えるよりも早く、二人の戦線は辿りついてしまった。

ひでとロックを挟む形で向かい合うほむらと岡。そしてそれを牽制するかのようにひでに付きだされるロック。
完全に巻き込まれた―――ロックは己の不運さを嘆かずにはいられなかった。


258 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:21:18 3yncmkkY0



そして現在。

「ううううう...」

ひでの泣き声がのみが空間を支配する。
岡。ほむら。ロックの三人はそれぞれの様子を窺い一様に沈黙していた。

ほむらは思った。
ひでと共にいる男の首輪は赤ではない。しかし、この場を退かないところをみるとなにか策でもあるのだろうか。

ロックは思った。
ここは彼らの言葉に従い素直に退くのが一番安全である。しかし、ひでがシャツを握って離さないためロクに身動きがとれない。
さてどうする...どうすれば生き残れる。

岡は思った。
この男は普通の首輪である。殺しても大した意味はない。しかし邪魔をするなら排除するのみだ。

「警告はした。二度目はあらへん」

拳を握りしめ標的を見据える。
ひでは弱っているはずだ。見逃す理由はどこにもない。奴を庇う男ごと殺し、女の方も殺す。

「いいのかよそれで」

良心にでも訴えるつもりか。無駄だ。そんなものはとうの昔に置いてきた。ロックの言葉にも耳を傾ける必要などない。

「こんな茶番に付き合っててツマラナイと思わないのか」

はず、だった。

「いまの俺たちはあいつの小屋の家畜だ。しかも従ってもなんの利益も得られない最悪のな。あんたにはそれで満足できる程度の安いプライドしかないのか」

岡は眉をひそめた。この男の狙いがわからない。
なぜそんな挑発的な言動で止めようとする。なぜもっと言葉を慎重に選ばない。

「どうせあの主人は俺たちを逃がしはしない。どこに転んでも逃げられないなら、賭けてみないか。俺たちが死ぬか、主人が死ぬか。このクソッタレな状況でそんな対等な賭けが成立したら、最高だと思わないか?」

なぜ、そんな笑みを浮かべている。


パ ァ ン


一瞬。ほんの一瞬だけロックへと気が向いて気が付かなかったのか。
突如飛来したなにかが岡のフェイスヘルメットを弾き飛ばした。

それはひででもほむらでも、ましてやロックでもない。

凄まじき速さで回転するそれは、バシィンと気持ちの良い音を響かせ主のもとへと舞い戻った。

「これはまた、奇妙な参加者がお揃いのようだ」

岩山に立つ乱入者―――雅は、愉快気な笑みを浮かべ四人を見下ろしていた。


259 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:22:36 3yncmkkY0

「赤首輪が二人に、男が二人か」

岩山から跳び下り、四人を品定めするかのように視線で舐めまわす。
四人は身動きすらとらない。この男に空気を完全に変えられたことを実感した。

「女ならば犯してから食おうとも考えたが男ではな。とりあえず...弱らせておくとするか」

雅は戦場を凱旋する王のようにゆったりと岡への距離を詰めていく。

岡のもとまであと五歩、四、三...

ブンッ

放たれる拳。

岡の鉄拳が雅の顎を砕いた。
ぐらりと上体を揺らがせる雅の胴体に、続けざまに岡は拳を放った。

「やるじゃないか、人間」

だが、拳は届く前に掌で止められる。雅は顎を砕かれながらも笑みを浮かべていた。

「フンッ!」

雅による投げ―――それも、柔道のような洗練された技術によるものではない。ただただ圧倒的なパワーにより岡の身体が宙を舞った。
通信教育で空手を習っている岡でさえ、受け身をとる間もなく地面に叩き付けられる。
ハードスーツはまだ無事だが、その衝撃は並の人間であれば致命傷なほどの威力だ。

「これが衝撃を吸収しているのか?変わった服だ。だが、これに覆われていない部分を攻められればお前はどうなるか...」

愉快気に嗤う雅の掌が岡の眼前にまで迫ったその時だ。

バシュッ

突如、ハードスーツの背より排出された煙が辺り一帯を覆う。
思いもよらない反撃に、雅は思わず目を瞑り、他の三人も煙を吸い込んだのか咳き込み始める。


260 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:23:14 3yncmkkY0

(なんだこれは!?煙たいぞ!)

ゴッ

顔に鉄腕のフルスイングを受け地面に転がる雅。
岡はその手応えだけを感じ取ると、すぐに起き上がり、次いで近い順にほむら、ひでへと拳を叩き込む。
しかし威力はそれまでのパンチとは比べものにならない。牽制のために当てたという程度の威力だ。
岡は拳を浴びせた三人へ深追いはせず、ただ一人『人間』であるロックを掴みあげ、そのまま全速力で逃走した。

煙が晴れた後に残されたのは、赤首輪の三人だけ。

「...フン。逃げたか」

落胆の色を乗せつつ雅は一人ごちた。
もしもアレが明ならば、地を這おうが絶望に身を転がそうが意地でも自分に食らいついただろう。
だが、あの男は逃げた。数度拳を交えただけで敵わないと悟ったのだ。つまらない。ああ、なんともつまらない男だ。
そんなツマラナイ男には興味が湧かないしわざわざ追う理由がない。

「それよりは―――こちらの方が楽しめるか」

雅は殴られた頬を抑えるほむらとひでへと振り向く。

「......」
「ぼ く ひ で」

警戒心を露わにするほむらと歯をむき出し自己紹介をするひで。
両者の対応はやはり正反対である。

「ひでか。私の名は雅。彼岸島を治める吸血鬼だ」
「きゅ、吸血鬼...?」

ほむらは思わず呆けてしまう。
自身も魔法少女という人外であり、魔女という異形も散々目にしてきた。この会場でもひでという生命体に最初に出会っている。
しかし、改めて伝承上の怪物だと公言されるとやはり早々に受け入れられるものではないのだ。

「ワ〜オ、吸血鬼はじめて見たぁ〜!」

対するひでは無邪気にハシャいでいた。彼がなにも考えていないのは一目瞭然である。


261 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:23:59 3yncmkkY0

「吸血鬼以外の人外と接する機会など中々ないのでな。そういった輩とはこの機に色々と話をしてみたいと思っている。少し話を聞かせてもらえると嬉しいのだが」
「ぼくもしゅる〜」

雅を気に入ったのかそれともやはりなにも考えてはいないのか、ひでは間もおかず雅に賛同した。

「......」

残るほむらは考える。いまの彼らには交戦の意思はないようだ。
雅という男は危険なニオイがするが、いま無理をして戦うのは得策ではない。
選択肢としては、大人しく彼の『お話』に付き合うかすぐに去るかだが...

さて、どうするか。


【F-6/一日目/黎明】


【雅@彼岸島】
[状態]:疲労(小)
[装備]: 鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:主催者に興味はあるが、いずれにせよ殺す。
1:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
2:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
3:あのMURとかいう男はよくわからん。


※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:内蔵にダメージ(中)、疲労(中)、右頬に痣
[装備]:ソウルジェム、ひでのディバック
[道具]:サブマシンガン
[思考・行動]
基本方針:まどかを生還させる。その為なら殺人も厭わない
0:この男と情報交換をするか、無視して去るか...


【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す
1:この白髪のおじさんとお話しゅる〜


※ヤメチクリウム合金
ひでが追いつめられた時に限り偶発的に発動する能力。
己の身体をオリハルコンの如く硬化する。これを直接破壊するのはかなりの力を要する。ただし、毒や音のような身体の内部に届くものへの抵抗力は薄く、この状態で首輪が爆発すれば死ぬ。
これを発動している時はひでからは攻撃できず、また長時間持続することはできない。


262 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:25:05 3yncmkkY0

「この辺りなら大丈夫やろ」

岡はロックを地に下ろし、ふぅ、と一息ついた。
あの場での逃走に間違いはないと確信している。未だ未知数の赤首輪が三匹を相手にするのはリスクが高すぎる。
特に新たに現れた白髪の男...奴が一番危険な臭いを感じた。

やはり対抗するには、ガンツの任務のようにチームを組むべきだ。それも足手まといのいない実力派のチームを。

(そのためには...)

岡はロックへとチラリと視線を送る。


(俺は、やっぱり...)

あの追い詰められた場面で、彼は何故か笑みを浮かべていた。そのことを自覚しつつも疑問を抱かなかった。
理由はなんとなくわかっている。
赤い首輪の二人と情け容赦のない男を懐のチップケースに入れる。
その賭けに、その後に待ち受ける更に強大な、脳髄を蕩けさせてくれるだろう大博打に期待していた。
善意などではなく、純粋に己の享楽のために。
人間、追い詰められた時に本性が出るという話もあるが、やはりそういうことなのだろうか。

「お前、名前は?」
「...ロック。名簿上は岡島緑郎」
「俺は岡八郎や」

「岡、さんか...なあ、あんたから見て、俺は悪党に見えたか?」
「見えたわ。それがどうした」

間髪入れずの返答にロックは思わず「へっ」と言葉を漏らしてしまう。

「いや、なんで助けてくれたのかなって思って...」
「お前に利用価値があると判断しただけや。善悪問答なら仏様にでも尋ねたらええ」

岡からしてみればロックの素性や悩みなどどうでもいい。
必要なのはチームを作るために交渉できるかできないかというその一点のみだ。
しかし、大阪のチームは大半がイカレていたため交渉なしでも任務という一点だけでそれなり(岡基準)に纏まっていた。
もしもチームが普通の感性を持つ者で構成されていれば、口達者ではない岡では纏めることができなかったはずだ。
この男は悪党クサイが、あの状況で勧誘を選ぶ程度には度胸があるのはわかった。自分の代わりの交渉役としては不足はない。

「お前、主催の男と賭けがしたい言うたよな。ならチームを作るつもりはあったんやろ」
「あ、ああ...」
「ならソイツはお前がやれや。俺はそういうのはあまり好かん」

ひとまずは協力してくれる。ロックはそう解釈した。

「...感謝するよ、岡さん」
「呼び捨てでええ。堅苦しいのは苦手や」
「わかった。岡、しばらくよろしく頼む」

一人はただミッションクリアを目指すために。一人は己の本性とはかくあるかを思い悩み。
二人の岡はここにひとまずの協力を結ぶことにした。


263 : 朱、交わって ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:25:24 3yncmkkY0


【F-5/一日目/黎明】

【岡八郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ハードスーツ@GANTZ(フェイスマスク損失、レーザー用エネルギーほぼ空、煙幕残り70%、全体的に30%ダメージ蓄積)
[道具]:?
[思考・行動]
基本方針:ミッションのターゲット(赤い首輪もち)を狙う
1:赤首輪に対抗するためにチームを作る。


【岡島緑郎(ロック)@ブラックラグーン】
[状態]:健康、不安(小)
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する。
1:とりあえず岡と行動する。
2:レヴィとバラライカと合流できればしたいが...暴れてないといいけど

※参戦時期は原作九巻以降です。


264 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:27:00 3yncmkkY0
投下終了です。


265 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/20(月) 02:30:36 3yncmkkY0
>>206氏、予約期間が延長込みで過ぎているのでなにかしらの反応をお願いします。


266 : 竹中 :2017/02/20(月) 08:24:56 FxrwiN6U0
報告が遅れてすいません
何とか明日中には書き上げますので延長お願いします


267 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/02/25(土) 02:38:42 6yQJo9GY0
シェンホア、『T-800』を予約します


268 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/07(火) 02:13:58 DNOPr3SY0
遅れましたが投下します


269 : 運のいい時に限って中々気付けない ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/07(火) 02:14:51 DNOPr3SY0
T-800。
彼の世界から見れば過去、過去の側から見れば未来から送られてきた対人間用抹殺兵器だ。
この殺し合いに巻き込まれた彼の第一にとった行動は、この環境におけるジョン・コナーの生存率である。
名簿には60名、その内知っている名はジョンとTー800、そしてT-1000。
まずT-1000は優先的にジョンを狙う。
そして知らない名前の参加者たちがジョンを狙う確率は低い。
赤首輪が何人いるかはわからないが、赤首輪の条件は人外の生物である。
民間人が狙うのは彼らであり現時点では有能ではないジョン・コナーを狙うとは到底思えない。
つまり、ここに飛ばされる前とあまり変わらない。
T-1000に警戒し、ジョンを守るために立ち回る。それが彼の定めた指針であった。

支給品一式を一通り確認し、あてもなく真っ直ぐに進む。
どれほど歩いただろうか。

やがて見つけたのは黒髪ロングの女。
スリットの入った赤い服装から中国を連想させる美女だ。

女も彼に気が付いたのか、振り返り歩み寄る。

「ハイ、こんb」
「ジョン・コナーを知っているか」

女の挨拶を遮り開口一番に問いただす。
必要な情報のみを優先する故である。

「...聞きたいことがあっても挨拶は大事。コレ常識よ」
「そのようなプログラムはされていない」
「映画のサイボーグみたいなこと言うね。フィクション(そっち)の世界にのめり込むのは勝手、けれど覚えなければどうにもならないですだよ」
「挨拶を言えば答えるのか」
「イマイチ噛み合わない男ね...私は知らないですだよ。これでイイか?」
「そうか」

女の答えを聞くなり踵を返すT-800だが、女はそんな彼を慌てて呼び止める。


270 : 運のいい時に限って中々気付けない ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/07(火) 02:15:13 DNOPr3SY0

「なんだ」
「お宅、用件はそれだけで済ませるつもりか?」
「お前がジョン・コナーを知らなければ交わす言葉は必要無い」
「交渉とかするつもりはなしか」
「交渉?」
「世の中はギブ&テイクで回ってる。早い話、お使い仕事の売り込みよ」
「......」

数秒の沈黙の後、T-800は己に支給されたデイバックを渡した。

「ジョン・コナーという少年を探してくれ。報酬は好きな物を持って行け」
「アラ太っ腹」

渡されたデイバックを遠慮なくまさぐり取り出すのは一振りの刀。
従来の日本刀とは比べものにならない長さである。

「ならこれ頂くね。よろしいか?」
「問題ない。最初の放送が終わったらジョンを連れてF-7エリアに来てくれ」
「見つからなかった場合は?」
「状況を確認するためにも一度合流したい。頼めるか」
「了解」

そのやり取りを最後に、二人は別の道へと進む。

情報は必要最低限に。
依頼の受け手である女―――シェンホアにしても、依頼人の事情などイチイチ気にしていたらロアナプラではやっていけない。
報酬の前払いとして刀を譲り受け依頼を受けた。それ以上の事柄は必要はない。

とはいえ、彼女の目的はなにもいつも通りの仕事と依頼ではない。
あくまでもここから脱出することである。
そのためには赤い首輪の参加者を葬るのが一番手っ取り早いが、彼女はそれをしなかった。

(刃と体は不滅よ、この世で一等イカした武器ね)

シェンホアの本来の武器は刀剣である。
普段から使用しているものから、苦無のようなものまでなんでもござれ。
その刃物が全て没収されている状態からの殺し合いだ。こんなロクに報酬も無いモノ付き合ってられない。
勿論、そんな状況でも赤首輪の参加者に負けるつもりはない。
しかし、こんな状況で刀をくれたあの男にはそういった恩義染みたものもあり、ひとまず標的からは外すことにした。

本人は知り得ぬことだが、命が紙くずのような世界で生きながらもこの選択をできたシェンホアは幸運であった。

もしも彼女が刃物を没収されていなければ。もしもT-800がもう少し早い時間から連れてこられていたら。もしも彼女が仕事に律儀な人間でなければ。
彼らの間でも闘争が発生し、敗北していたのは彼女だろう。

なんせ相手は全身鋼鉄のサイボーグ。
彼女の振るう刀も、彼にかかれば鉄くずと化していただろうから。


【E-3/一日目/深夜】

【シェンホア@ブラックラグーン】
[状態]:健康
[装備]:とんでもなく長ェ刀@彼岸島
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:生き残る。手段にはこだわらない。
1:レヴィたちと合流するつもりはないが敵対するつもりもない。

※参戦時期は原作6巻終了後です。


【T-800@ターミネーター2】
[状態]:異常なし
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ジョン・コナーを守る
0:ジョンを探す。
1:T-1000は破壊する。

※参戦時期はサラ・コナーを病棟から救出した後です。


271 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/07(火) 02:16:11 DNOPr3SY0
投下終了です

宮本明、ホル・ホース、鹿目まどか、『ロシーヌ』を予約します


272 : ◆Y/yXICoBK6 :2017/03/07(火) 18:53:58 d6zQCieA0
投下乙です
仕事に忠実なですだよ姉ちゃんのシェンホア。何気に幸運ですね。
さすがにターミネーターに刃物は通じないよなぁ……

『雅』『ひで』『暁美ほむら』予約します


273 : 名無しさん :2017/03/10(金) 00:30:32 0IcMuXOY0
投下乙です
予約の段階ではこれはシェンホア死んだと思いましたがそんなことはありませんでした
こういうさらっとした接触が多いのがこのロワの特徴のような気がします


274 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:44:59 HsA9niIQ0
投下します。


275 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:45:34 HsA9niIQ0
「雅、ねえ...この名簿にも載ってるがどういう奴なんで?」

ホルホースは当然の疑問を抱く。
自分達を助けた彼がああも殺気を纏わせるのだ。当然の問いだろう。

「奴は吸血鬼だ。それも、俺達を地獄に突き落とした最強最悪のな」

吸血鬼。そのいまの雇い主に纏わる単語に、ホルホースうげっと舌を出しかける。

(勘弁してくれ。DIO以外にも吸血鬼がいるなんてふざけてやがる)

その雅とやらがどの程度の吸血鬼なのかはわからないが、関わらないのが吉だろう。
この男はどうやら雅を殺したいらしいが、危険を避けたいホルホースにとっては都合が悪すぎる。
これが殺し合いなんて場でなければ組む必要もないため放っておけばいい。
だが、この男は戦力としては充分当たり。他者を助ける程度の常識もあることから、組みやすい相手でもある。
どうにかして引き留めたいが...ここは彼の良心にかけてみよう。

「旦那、その雅って奴を倒すのはこのバトルロワイアルが終わってからでいいんじゃねえか?」
「なに?」
「いや、確かに旦那は雅を殺せればいいかもしれねえがよ、他の参加者はどうなるんだ。それこそまどかちゃんなんて一般人だ。早く家に帰してやらねえと不憫でしょうがないぜ」

泣き落としは女と子供の専売特許であり最高の武器である。
多少なりともマトモな感性を持ち合わせていれば揺らがざるを得ないはずだ。

「...あんたのいう事は尤もだ。状況だけみれば、あいつも俺たちと同じ被害者なのかもしれない」
「おっ、話がわかるじゃねえか。じゃあ、その雅って奴には...」
「だからこそ、この状況はチャンスなんだ」

ホルホースは思わず「は?」と声を漏らす。
せっかく話が纏まりかけたと思ったら、明の目からは微塵も殺気が消えていない。


276 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:47:11 HsA9niIQ0

「奴はその強さや不死性が厄介な上に、常に周囲に邪鬼や吸血鬼を従えている。だが、この場では部下もいなければご自慢の不死身もなにかしらの方法で制御されているはずだ。でなければ、ヤツに首輪を嵌めたところでなんの枷にもなりはしない」
「ってことはなにか?旦那はその雅ってヤツを殺すまではここを抜けるつもりはねえってことか?」
「ああ。こんなチャンスは二度とないかもしれない」

宮本明という男と組むメリットとデメリット、両者の顔が覗かせる。
この男は強い。性格も相まって"相棒"としては最高級だ。
加えて、脱出には大した興味を示していないため、赤い首輪の参加者を殺せるチャンスがくれば代わりに譲ってくれる可能性が高い。
デメリットとしては、雅なる吸血鬼と出くわす可能性が高くなることだ。
彼を探している以上、情報の出所へ足を向けるのは当然であり、適当にぐるぐるとまわるよりは遭遇する確率はかなり高くなる。
もしも雅と戦う時にとばっちりを受けてはたまったものではない。可能な限り避けて通りたい道である。

(まあ、現状はメリットの方が大きい。やっぱこの機を逃すわけにはいかねえよなァ)

「旦那よ、あんたの事情はなんとなくわかった。あんたの複雑な事情に首ツッこむほどヤボじゃあねえ。だが」

ここで、チラリとまどかを一瞥する。
この交渉の肝はやはり彼女だ。善人を利用するには弱者を効果的に使うことが交渉の基本である。

「俺はともかくとして、やっぱり彼女を巻き込むのはどうかと思うぜ。旦那一人で雅を追うにしてもそれじゃあ彼女の危険が高まっちまう」
「......」

考える素振りを見せる明の様子を見て、ホル・ホースは内心でガッツポーズを決める。
もうひと押しで折れそうだ。このままいけるぞホル・ホース。

「あの、明さん」

まどかが申し訳なさそうに小さく挙手をする。
それを見たホル・ホースはいい流れだとほくそ笑む。

(おっ、なんだ嬢ちゃん。加勢してくれるのか?いいぞいいぞ、多少の我儘は女の子の特権だ)

「明さんは、赤い首輪の人を...殺すつもりなんですか?」
「...いや。雅は別だが、特別に赤い首輪の参加者を敵視するつもりはない。雅とこの島の吸血鬼を倒し、それでも俺が生き残っていれば残る参加者全員の脱出を目指すつもりだ」

思わずホッと胸を撫で下ろすまどか。その様子に明は思わず疑問を抱く。


277 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:47:41 HsA9niIQ0

「それがどうかしたのか?」
「あっ...えっと...」

言うべきか言わないべきか。そんな躊躇いを体現するかのように、目を逸らしては明へと戻し、また逸れかければ再び戻す。
先程の質問とその様子を見れば、勘の鈍い者でも彼女の悩みはなんとなくは察せる。
おそらくまどかは赤い首輪の参加者に知り合いの心当たりがあり、それを自分達に教えていいのかと悩んでいるのだろう。
まさかこんな普遍的な女の子にそんな危険なツテがあったとは。

(まあ、吸血鬼やスタンド使いがいるんだ。今さらなにがきても驚きはしねえ)

そう。ホルホースはこれまでの人生で己を含めた常識外れの存在を多くみてきた。
そもそもスタンド使い自体が千差万別であり、常識なんてほとんど通じない。
そして、DIOというスタンド使い且つ吸血鬼。それにこの島で出会った吸血鬼とアホみたいにデカい鉄の塊をあっさりと振るう男。
最早常識などとうの昔に捨て去っている。
来るのが狼男だろうが蛇女だろうが大抵のことは受け入れられるはずだ。

やがてまどかは決心したかのように、明を正面から見据えた。

「...わたしの友達のさやかちゃんとマミさんと杏子ちゃん。みんな死んじゃったはずなんです。でも、この名簿には載ってて...」

準備をしていたからこそ。
その言葉に度胆を抜かれてしまった。
ストレートに備えたガードを擦り抜けたジャブをモロに顎に受け呆気なく倒れてしまうボクサーの気持ちとはこんなものだろうか。

「か、勘違いじゃねえのか?嬢ちゃんがそう思ってただけで実は生きていたとかよ」

命は一つの生物に対して一つしかない。
それを深く理解しているからこそホル・ホースは殺し屋という道を選び、誰よりも己の命に執着する。
まかり間違っても死者が蘇り再び生を得るなどあってはならないのだ。

しかし、まどかは首を横に振り否定する。
己の見たあの光景を嘘という形で逃避するわけにはいかないと。

「マミさんは魔女に食べられて、杏子ちゃんとさやかちゃんは、一緒に...」
「魔女?」
「...マミさん達は、魔法少女なんです。キュゥべえと契約して、願いを叶えた...」

まどかは語る。
魔法少女のこと、願いを叶えたこと、契約すれば魂を抜かれること、魔女のこと...
とにかく、己の知り得る限りのことを二人に語った。
下手に隠して魔法少女を『赤首輪の化け物』と見られたくはなかったからだ。
勿論、ただの赤の他人に教えることなどはしない。明とホル・ホースを信頼できる者として認めたから、誤解のないように話す決心をしたのだ。


278 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:48:22 HsA9niIQ0


「なるほど。彼女達魔法少女は、人間の身体じゃなくなった。だから首輪も赤い首輪である可能性が高い...そう言いたいんだな?」
「...はい」
「...さっきも言ったが、俺はなにも人外全てを憎んでいる訳じゃない。雅さえ倒せれば、後はなるべく全員が脱出できるように行動するつもりだ」
「明さん...!」
「俺も、人間じゃなくても良い奴は知ってるからな」

明の答えに顔を明るくするまどかと、それにつられてか笑顔を見せる明。

(いやいやいや、アンタは話をちゃんと聞いてなかったのかよ!?)

一方のホル・ホースは冷や汗交じりにそう心中でツッこんでいた。

魔法少女。
響きだけは可愛らしいものだが、その実態はどう考えてもただの化け物だ。
まあ、それ自体は味方につければ頼もしい戦力となるだろう。
魂を抜かれた、という点も生きてナンボのホル・ホースからしてみれば大して重要ではない。
だが、問題は戦力そのものではない。
ホル・ホースが懸念するのは魔法少女の行く先である魔女の存在だ。

魔女とは魔法少女が絶望しソウルジェムが濁り切った時に産まれる怪物である。
理性なし。言葉は通じない。己の絶望を他者にぶつけその魂を食らう。
敵も味方もありゃしない。ただただ、目についた者と殺すだけの災厄。
しかも、ソウルジェムの濁りという奴は絶望せずとも魔力を使うだけでも増していくらしい。
つまり、魔法少女と行動するということはいつ爆発するやもしれぬ爆弾を抱え込むのと同じ。
考えようによっては明の憎む吸血鬼よりもタチが悪いかもしれない。
そいつらとお友達のまどかはともかく、まともな神経では易々とは受け入れられないだろう。

(だが、ここで魔法少女を知れたのはラッキーかもしれねえな)

おそらくこの事実を知らぬまま件の魔法少女と遭遇した場合、ソウルジェムの浄化だとかそんなことは一切考えずにいつも通りに接していただろう。
時には相棒に、時には隠れ蓑に、時には仮初めのガールフレンドに。
そして、起爆に気が付かぬまま魔女の誕生を許しあっさりと命を落としていたことだろう。
そんな羽目にならずに済みそうなのは幸運としか言いようがない。

(それに、嬢ちゃんがいれば魔法少女の制御も楽だろうからなぁ。よし、運は向いてきている)

魔法少女という化け物の制御となるだろう少女と人間の癖にバケモン染みた男。
この二つとこんな序盤で接触できたのは紛れもなく幸運だ。失禁と引き換えでもおつりが来るくらいだ。


279 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:48:45 HsA9niIQ0

「よし、そういうわけだ。当面は俺たちで嬢ちゃんを保護しつつ、お友達を探すのを優先ってことでいいだろ明の旦那?」
「すまないがそれはできない」

即座の返答に、ホル・ホースは思わずガクリと肩を落としかけた。

「雅は必ず殺し合いに乗るだろう。奴を優先的に殺すことは他の参加者の生存にも繋がるんだ。...それに、ヤツとの戦いは俺の問題。他の者を巻き込むわけにはいかない」

ここまで頑固であれば、ホル・ホースも観念した。
彼と組むのは不可能。少なくとも、雅という男が死ぬまでは相棒にすることはできない。

「...すまない、二人共。だが、これだけは譲れないんだ」

謝るくらいなら協力してくれ。
そう内心で毒づくホル・ホースだが、下手に敵視されても困るので表には出さない。

「仕方ねえさ。人間誰しも、どうしようもねえ事情ってモンがあらァ。助けてくれただけでも感謝するぜ」
「明さん...絶対に、死なないでくださいね」
「ありがとう。...この村で人目につきにくいルートは調べておいた。元気になったらそこを使ってくれ」

大まかな道筋を書き記した用紙を二人に渡し、明はその背のドラゴンころしと共に家屋を去っていく。

踏みしめるは、憎むべき仇敵たちの残骸の山。

(俺は立ち止まる訳にはいかない。一刻も早くヤツを殺さなければ...!)

復讐を糧に男は進む。
例えその果てに血塗られた戦場しかなくとも。

―――クス クス クス

そんな彼を笑う声がする。
声の主は誰だ。鹿目まどかか、それともホル・ホースか。
いや、彼らは違う。聞こえてくるのは頭上。見上げなければ見ることのできない空中だ。


昆虫のように真赤な眼に、頭部に生えた触覚。背に生えた巨大な羽根。
それでいて、身体は幼い少女そのもの。
明を愉快気に見下ろすソレは、正に異形そのものだった。


280 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:49:09 HsA9niIQ0




「コレ、お兄ちゃんがやったの?」

異形は問いかける。明の足元に散らばる残骸を指差して。
それは罪を問いただすとか恐怖にかられてだとか、そんなものとは正反対。
異形にあるのは好奇心のみ。それは明にもしっかりと見てとれる。

「...そうだ。こいつらは吸血鬼。俺が殺らなければならない存在だ」
「ふーん。吸血鬼って人間よりも強いの?」
「ああ」
「じゃあ、お兄ちゃんはその吸血鬼よりも強いんだ。人間なのにどうして強いの?」
「......」

明は異形の意図が読めなかった。
まるで、興味を持った子供がなんでも質問してくるかのように思えてくる。

「その刀、あのお兄ちゃんのやつだねえ。少しは楽しめそうだし、ちょっと味見してみようかな」

ゾクリ、と明の背に怖気が走る。
殺気。微かだが、確かに異形からソレが放たれたのだ。

「いっきまーす!」

その掛け声と共に異形が明へと迫りくる。
速い。人間などとは比べものにならない速さだ。
だが、その軌道は直線。タイミングさえ誤らなければ攻撃を当てることはできる。

まどかには赤首輪の参加者とて殺すつもりはないと言ったが、目の前の異形は明らかに害を為そうとしている。
こちらを殺すつもりならば、戦うしかない。

明はドラゴンころしを構え、垂直に振り下ろす。

―――が。

直線から曲線へ。異形は高速で動いている最中に軌道を変える。
反応しきれなかった明の右頬に、すれ違いざまに触覚で切りつけ鮮血を舞い上げる。


281 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:49:59 HsA9niIQ0

「ヤッター、私の勝ちィ!」

キャッキャと異形ははしゃぎ、対する明は戦慄を覚える。
アレは強敵だ。ヤツにとってあんなものは遊びの一環なのだろう。
更に現在の明の装備も万全ではない。
そして、いまの明の武器であるドラゴンころし。破壊力は充分だが、小回りがきかず普段の武器よりも速さが劣る。
これではあの速さには追いつけない。せめてもう少し小回りのきく武器があればいいのだが。

(このままでは不利か...!)

「それじゃあもう一回―――」

ピクリ、と異形の触覚が揺れ明から視線を外す。
その先、距離にして遠目である場所には家屋。更に絞れば曲がり角。

異形はギュン、と角へと一っ飛び。
その思惑を図りかねる明だが、数秒後にその答えを知ることになる。

「ゲッ!」

異形が角へと辿りつくのとほぼ同時に漏れるは男性の悲鳴。
間違いない、ホル・ホースのものだ。

「のぞき見なんて趣味が悪いね」
「...いや、なに。嬢ちゃんみてえな可憐な妖精を見れば誰だって出ていくのを憚られるってモンだぜ」

(チクショウチクショウチクショウ!なんたってこういう展開になっちまうんだよ!?)

表面上は平静を保ってはいるものの、その心中は決して穏やかではない。
当然だろう。彼の恐れるシチュエーションである『赤首輪とのタイマン』がいままさに成立しようとしているのだから。

何故、先程明と別れたホル・ホースがここにいるのか。
理由は単純。ここは吸血鬼の村だ。未だ残存しているかもしれない吸血鬼に怯えながら身体を休められるはずもない。
だから、彼は明の後をつけることにした。彼が歩いた道に吸血鬼は生きているはずもない。
故に、この村を安全に出るには明の示した人目につかないルートよりも、明の道を辿った方が安全である。
そんな目論見で後をつけたのが完全に裏目に出た。吸血鬼よりもタチの悪い怪物に遭遇してしまった。


282 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:50:30 HsA9niIQ0

(...だがよ、逆に言えばコイツはチャンスかもしれねえ)

ホル・ホースの最終目的はゲームからの脱出である。
そのための手段は問わず、要は生き残れれば勝ちである。
女は傷付けないというポリシーはあるが、それは人間に当てはまる持論だ。目の前のコレは明らかに怪物である。

(まだ俺はスタンドを見せちゃいねえ。奴は俺の手の内を知らねえことになる)

唯一の勝機は、ホル・ホースは僅かながらも手の内を知っており、且つ自分は手札を見せていないというこのアドバンテージ。
悪くない。皇帝のスタンドは近接戦での暗殺にその真価を発揮する。
眼前の異形は、完全にホル・ホースを舐めきっている。それでいい。楽に勝てるのならいくら侮られようが問題ない。

「おじちゃんも遊んでよ」
(タイミングはいま―――!!)

異形が攻撃の宣言をすると同時に拳銃の像を発現させる。
まさに早業。そんじょそこらのガンマンでは歯が立たないだろう。

だがそれでも。

「ッ!!」

銃を構えると同時、膝を軽く曲げ微かに身を屈める。
本能的に悟ったのだ。間に合わない、と。
それとほぼ同時にホル・ホースの額を一筋の風が吹く。

ピリッ。

そんな小さな音と共にホル・ホースの帽子のツバに裂け目が入り、微かに額が切れ血が滴る。
それが触覚によるものだと気が付いた時には既に遅かった。
当然、こんな有り様で反射的に引いた引き金で狙いを定められるはずもなく、皇帝の弾丸はあっさりと虚空に逸れてしまった。

「ヤッター、またわたしの勝ちィ!」
(あ、危ねェ...!間一髪だ。反応が遅れりゃオダブツだった!)

背筋を冷や汗が伝う。
あの異形は、駆け引きだとか有利に立ち回るだとかそんなものには一切興味を示さない。
己の赴くままに力を振るう。ただそれだけだ。
あくまでも勝率の高い勝負に持ちこもうとするホル・ホースとの差はソレだ。
彼の手札になんら警戒心を持たず己の速さを示すことしか考えていないが故に、ホル・ホースの狙いを定める時間を奪うことに成功したのだ。


283 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:51:27 HsA9niIQ0

(チクショウ、赤首輪ってのは伊達じゃねえってことか...!DIOの野郎といい赤首輪ってのはこんなのばっかなのかよ!?)
「じゃあ今度こそ―――」
「ホル・ホースさん!」

再びホル・ホースへと攻撃を仕掛けようとした異形を遮るのは少女の声。ここまでくれば言うまでもなくわかるだろう。鹿目まどかである。
まだ存分に身体を動かせるほど回復していなかったまどかは、明を見送ってくると告げたホル・ホースに置いていかれたのだが、当然こんな場所で一人にされるのは短時間でも心細い。
程なくして、疲労の抜けていない身体に鞭うちホル・ホースのあとを追う。
意図せず明の後を追うホル・ホースの後を追うまどかという珍妙な状況ができあがっていたのだ。

「もーなんなのよー」

三度目の中断にさしもの頭にきたのか、プクッと頬を膨らませ一気にまどかへと肉薄する。
邪魔をするな、後で遊んであげるから大人しくしていろ。そんな旨を伝えるためだ。

(ヤベェ!)

まどかには利用価値が大いにある。こんな場面で死なれるのはご免だ。
ホル・ホースは異形を止めるためすぐさま発砲する。
しかし、放たれた弾丸を一瞥した異形は、その触覚で弾丸を叩き落す。
そしてあっという間に異形は少女のもとへと舞い降りた。

「あなたもなにか見せてくれるのかな?」

にこやかに問いかける異形だが、一般人のまどかですらその真意は直感している。
つまらなければ殺すと。

鹿目まどかは強大な素質を持っている。
しかし、それはキュゥべえと契約し魔法少女となって初めて意味を為すものであり、現状ではただの一般人に過ぎない。
魔法少女の先輩の力にさえなれなければ、魔女となった親友を救うこともできない。
そんなちっぽけな存在に異形が惹かれるはずもなく。異形の基準でいえば遊ぶ価値もないデクの坊である。

そんな彼女が見せられるものなどない。
心臓を締め付けられるような圧力がまどかを襲う。
しかし。

「あの...」

「?」

「あなたとどこかで、会った気が...?」


284 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:51:59 HsA9niIQ0

つい、口に出してしまった既視感。
それが異形の意識を思わず奪い、戦況は変化する。

「―――!!」

足元から感じ取った殺気に思わず目を向ける。
先程弾き落とした弾丸が異形目掛けて再び襲い掛かったのだ。

「おっと」

しかし、それでも足りない。触覚が振るわれ弾丸は弾かれる。
が、落ちたはずの弾丸は再び速度を伴い異形へと迫る。

「しつこい、なあ!」

異形は悪態と共に飛び退き、弾丸を触覚で巻き上げる。
そこまでして弾丸はようやくその動きを止めた。

「うおおおおおお!!」

それを狙いすましたかのように異形へと被さる影。
ようやく異形へと追いついた明が異形へと向けて跳びかかったのだ。

振り下ろされるドラゴンころしは、大げさな音を立てて地面を砕き砂塵を舞い上げる。

砂塵の晴れた先には、真っ二つに斬られた異形の姿が―――確認できず。

「いまのはちょっと驚いちゃったかな〜」

トボけたような声が上空より投げかけられる。
そこにはやはりというべきか、多少の埃は付着しているものの、未だ健在の異形の姿。

「面白いね、あなたたち」

明とホル・ホースの背に冷や汗が伝う。
いまの攻撃も躱されたとなると、現状はかなり厳しい。
明が速さに慣れるのも、ホル・ホースが明との連携を完全に仕上げるのも時間がかかる。
それまでに異形が本気を出せば絶体絶命だ。できればアレとの戦いは避けたい。

「でも、こんなので終わらせちゃうのは勿体ない。お兄ちゃんたちがもっと面白くなったらまたくるね」

そんな二人の祈りが通じたのか。異形は小馬鹿にした態度でくるりと背を向け飛び去っていく。


285 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:52:19 HsA9niIQ0

異形―――ロシーヌには目的などなかった。
ただ、何者にも捉われず、かつて夢見た霧の谷のエルフのように自由に生きたいだけだった。

このバトルロワイアルでもそうだ。
あの主催の男になんか従わない。
自分の好きなように遊んで好きなように玩具を壊す。
時間が足りなくなりそうだったら本気を出してさっさと全部を排除する。
ロシーヌにはそれが出来る自信があった。なんせ自分は妖精だから。人間なんかよりいっとう優れた存在だから。
だから、自分の一存で玩具の価値を決めることだってできる。

ジルの好きな男にちょっぴり似てるあの男、ちょっぴり男前な渋みのあるおじさん。あとはおまけの桃色髪の少女。
過程はどうあれ、あとひといきで捉えられそうになったのはいつぶりだろうか。
もう少し泳がせていればもっと面白い玩具に成長するかもしれない、と少しばかりの期待を込めて、ロシーヌは彼らを見逃した。

「さーて、次はどこへ行こうかな〜」

気ままな妖精は空を行く。
彼女の次なる出会いは果たして―――?


【D-2/一日目/黎明】


【ロシーヌ@ベルセルク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 好きにやる。


※参戦時期は少なくともガッツと面識がある時点です。


286 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:53:32 HsA9niIQ0


去っていくロシーヌの姿が闇夜に消え去るまで見つめ、消えると同時にホル・ホースは深く息をついた。

「間一髪だったな、明の旦那」
「ホル・ホース。お前、なんであんなところに」
「細かいことはいいじゃねえか。ただまあ、これで少しはわかっただろ。俺が足手まといじゃねえってことがよォ」

つい先ほどまで死線に立ちかけていたというのに、彼はすぐにこの状況を交渉に用いた。
生き残る確率を上げるためには交渉に余念がない男。それがホル・ホースという男であった。

「旦那が雅を追うのは構わねえが、さっきのみてえに手強いのがいちゃ、いつ何時おっ死ぬかわかったもんじゃねえ。どうだい、ここはひとつ俺と組んでみるってのは」
「......」

明は考える。
先程の異形はかなりの手強さだった。それこそ、並の吸血鬼では相手にならないほど、少なくとも邪鬼(オニ)レベルの強さだ。
もしもホル・ホースが訪れず、一人で戦いを続けていればただでは済まなかっただろう。
そしてそれはホル・ホースたちの立場でも同じことである。
雅との戦いに巻き込みたくないと二人から離れようとしたが、どうやらこの状況では離れる方が危険が高まりそうだ。

「...わかった。雅に会うまで手を貸してくれ」
「よろしく頼むぜ、明の旦那」

契約を取り付けたホル・ホースはヒヒッ、と思わず笑みを零しかける。
結果オーライだ。明と同行すれば、大概の敵はどうにかなる。
さっきの怪物も、明との連携をしっかりととれるようになれば勝機は増す。
これで生存率はだいぶあがったはずだ。

上機嫌になるホル・ホースの一方で、まどかは未だロシーヌの飛び去った方角を見つめていた。


(...なんだろう、あの子)

ロシーヌと対面した時、まどかは奇妙な感情に襲われた。
恐怖は確かにあった。だが、その陰には確かに既視感をおぼえたのだ。

(どこかで、会ったこと...あるのかな)

「っつーわけだ、まどかの嬢ちゃん。しばらくは明の旦那と行動することになったから...」
「......」
「どうした?」

ロシーヌの残り香に囚われていたまどかは、ホル・ホースの呼びかけでようやく我を取り戻した。

鹿目まどかの既視感の正体。それは、ロシーヌの存在そのものだ。
ロシーヌの正体。それは、人間の絶望より生まれし、超越者、使徒である。
まどかは知っていた。直接戦ったことこそないものの、魔法少女の絶望より生まれし魔女の存在を。
そんな使徒と魔女の雰囲気が相似していたことに感覚的に気が付いた、ただそれだけのことである。

しかし、これらが相似していることを、ロシーヌがもとは人間であることを気が付けたとしても彼女にはどうすることもできないだろう。
魔女も使徒も。絶望の果てに捨てたものはもう元には戻らないのだから。


287 : 妖精 ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:54:13 HsA9niIQ0

【D-1/一日目/吸血鬼の村/黎明】
※この付近の吸血鬼@彼岸島(NPC)は全滅しました。

【宮本明@彼岸島】
[状態]:雅への殺意、右頬に傷。
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]: 不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 雅を殺す。
1:吸血鬼を根絶やしにする。
2:ホル・ホース及びまどかとしばらく同行する(雅との戦いに巻き込むつもりはない)
3:邪魔をする者には容赦はしない。
※参戦時期は47日間13巻付近です。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(絶大)、失禁
[装備]: 女吸血鬼の服@現地調達品、破れかけた見滝原中学の制服
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: みんなと会いたい。
0:ほむら、仁美との合流。マミ、さやか、杏子が生きているのを確かめたい。
1:明とホル・ホースと同行する。
2:あの子(ロシーヌ)の雰囲気、どこかで...?

※参戦時期はTVアニメ本編11話でほむらから時間遡航のことを聞いた後です。
※吸血鬼感染はしませんでした。


【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労 (絶大)、精神的疲労(絶大)、失禁、額に軽傷
[装備]: 吸血鬼の服@現地調達品、いつもの服
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出でも優勝でもいいのでどうにかして生き残る
0:できれば女は殺したくない。
1:しばらく明を『相棒』とする。
2:DIOには絶対に会いたくない。
3:まどかを保護することによっていまの自分が無害であることをアピールする(承太郎対策)。
4:そういやこいつら、スタンドが見えているのか


※参戦時期はDIOの暗殺失敗後です。
※赤い首輪以外にも危険な奴はいると認識を改めました。
※吸血鬼感染はしませんでした。


288 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/16(木) 01:55:31 HsA9niIQ0
投下終了です。

『森の音楽家クラムベリー』、『巴マミ』、佐山流美で予約します


289 : ◆Y/yXICoBK6 :2017/03/17(金) 00:04:33 6equ2iwg0
投下乙です
自由気ままなロシーヌも驚異ですが、それと人の身で渡り合う明も相当ですね。ホルホースもしぶとく立ち回っているのも良いと思います
遅れましたが自分も投下します


290 : ホモコースト勃発! ◆Y/yXICoBK6 :2017/03/17(金) 00:06:13 6equ2iwg0

 魔法少女『暁美ほむら』
 不死身の吸血鬼『雅』
 クッソ汚い小学生『ひで』

 期せずして終結した赤首輪の三人だったが、意外にも荒事は起こらず、  
 結局は互いの情報交換に落ち着いていた。

「ふむ…… 魔法少女にキュゥべえ、それに魔女か…… これでもそれなりの長生きだが、不思議なこともあるものだ」

 一通りほむらからの情報を聞き、自分の知らぬ人外の存在に感心する雅。
 明を見つけるまでとは言え、割と紳士的な態度の雅に、
 しかし、ほむらは警戒を崩さない。
 
「……吸血鬼の貴方に言われたくないわね」

「それもそうか」

 素っ気ないほむらの態度に気を悪くすることもなく、
 単に納得する雅に向けるほむらの視線は鋭い

(この男は危険。……でも、戦力としては間違いなく一級品。何とか利用できないかしら)

 暁美ほむらの最優先事項はまどかの生存および生還。そのためにも、使える駒はできるだけ活用しなければならない。
 弾薬も不足し、頼みの綱の時間停止も乱用できないとなれば尚更である。
 そのため、多少ののリスクは覚悟でその場に残ったのだ。
 罪悪感は全く抱かない。先程交戦していたひでは勿論、雅に至っては助けられた形になったとはいえ明らかに危険人物。
 女なら犯して食うなどと言っていたし、そういう意味でも明らかに黒である。

「早くお家に帰って宿題しなきゃ……(使命感)」

 唯一三人の中で何を考えているか全くもって解らないひでだったが、
 岡との交戦でいかに鬼耐久といえども堪えたのか、「一年生になったら」などとほざきながら大人しくしていた。
 悪魔化により服が破れ、全裸のまま少年のように振る舞う成人男性など滑稽を通り越して冒涜的ですらあったが、
 それでも油断ならない怪物であることは、左記の戦闘で身をもって知っている。
 そういえば……と、雅がひでを呼び止めた。ほむらは兎も角、
 今は人間の姿に戻っているが、先程は確かに異形のものであったひでへの興味を雅が持つことは必然である。
 
「ところでひで。察するに君は悪魔なのか?」
「ぼくひで」

 まず最初に真名を告げる人間の鏡。しかしすでに名乗っているんだよなぁ(呆れ)

「……いや、名前はわかったが、今度はもっと君のことを教えてほしい」

 尤もな雅の言葉に、ひでは珍しく真顔で沈黙し、暫く悩んだ後で答えた。

「うーん。僕も良くわからないけど、いつの間にかこうなったん……だぁ(小並感)」

 駄目みたいですね(諦め)
 要領を得ないひでだったが、何も彼が質問に答えない人間の屑か、
 どこぞの大先輩のように便乗するしか脳のない池沼である訳ではない。
 そもそも『原典』において、ひでという役名の男性が悪魔であった描写はなく、
 当然ながら鬼耐久でも、ヤメチクリウム合金などという能力も持ち得ない筈である。
 ただ、何事にも例外は存在する。
 もっとも近い例としては、同じく淫夢の住人であり参加者の一人である野獣が挙げられる。
 こ↑こ↓に存在する野獣先輩がクッソアドリブを連発するTDN男優ではなく、野獣先輩という概念の結晶として参戦していることからもわかるように、
 このひでは『真夏の夜の淫夢』もしくは『BB先輩劇場シリーズ』という神話に基づいた偶像(BB)である。
 偶像としてのひでの役割は様々だが、大抵は虐待されるか殺されるだけのクソザコナメクジである。
 ただ、作中で虐待され殺されても復活し、強キャラと化し猛威を振るうひでもまたBBとして存在する。
 俗にそれはダークネスひで、デビルひで、もしくはひデビルなどと様々な名を持つが、
 ここに参加者として存在する『ひで』は、それらのイメージが色濃く具現化された存在であることは説明するまでもないだろう。
 もっとも、本人がそれを自覚しているかはまた別の話なのだが。


291 : ホモコースト勃発! ◆Y/yXICoBK6 :2017/03/17(金) 00:07:42 6equ2iwg0


 ひでの言葉の節々から先程のMURと同じ空気を感じたのか、
 雅は適当に会話を切り上げると、これからの方針について訪ねようとした。


 あっそうだ(唐突)
 このバトル・ロワイアルにはNPCが存在する(断言)。
 彼らの多くは怪物であったり吸血鬼であったり偽物だが良い奴そうなモノばかりだが、彼岸島の吸血鬼たちが記憶操作されつつも、何時もと変わらないような生活を営んでいたことならもわかるように、彼らはある程度その日常を再現されている・もしくはそうなるだけの時間ここに滞在していたものと想像できる。  

 ここでひとつ考えてみてほしい。彼らが今どのエリアにいるのかを。
 野獣邸があり、爆発する本社が乱立し、そしてSMバー平野が存在する空間。
 そう、ここは下北沢である(名推理)。
 それもただの下北沢ではなく、真夏の夜の淫夢というクッソ汚い世界観を色濃く反映し、ホモガキの聖地として再現された特殊エリアでもあるのだ。

「なんだこれは、たまげたなぁ」
「あーあもう滅茶苦茶だよ」

 つまり、住民が存在しても何ら可笑しいことは無い。


 気づけば、大勢の野次馬のホモたちが集まってきていた。
 そもそも、先程の手榴弾の爆発やら岡との戦闘で表通りは悲惨なことになっており、派手に騒げば人だかりができるのも多少はね?

 最近の立教大学(淫夢)の統計によると、下北沢の人口は1145141919人であることが証明されている。
 流石にこの島にそれだけのホモが存在するとは思えないが、それでも810人は居るかもしれない(居るとは言ってない)

「まさか……こんなに人が?」

 異様な集団に気圧されつつ、驚愕するほむら。しかし側にいた雅は冷静に指摘する。

「いや、それは妙だ。どうも見覚えのない顔が多すぎる。
 それに、こいつら首輪をしていない」

「えっ!?」

 慌てて確認してみると、確かに。
 彼らは参加者の証明である首輪をしていなかった。
 この島に存在するNPCたちは、それぞれその危険度によって参加者と同じく爆弾つきの首輪により管理されている。
 ただ、このエリアにいるホモ、もしくはレズたちはそういった明らかに管理が必要な怪物とは違い、多くはただの一般人(大嘘)である。
 よって、適当な資材と生活基盤を条件に脅されつつも、
 割と自由に、それこそ首輪による管理すらされずに放置されている。
 勿論、首輪に頼らない監視方法やらで主催が彼らを操作していることも考えられるが、この場においては語らないでおこう。

「三人は、どういう集まりなんだっけ?」

 困惑する三人を他所に、野次馬を代表してか、バットマンのような覆面を被った男がインタビューのような口調で話しかけてきた。
 その問いに対する反応は三人とも異なっていた。 
 どう答えるべきか悩むほむら、聞いていないのか無視するひで、
 そして……
 
「少し良いことを思い付いたぞ」

 突然、雅が持っていたブーメランで男を斬りつけた。
 迸る鮮血。倒れるバットマン。唖然とするひでとほむら。

「やべぇよ…… やべぇよ……」
「お○んここわれちゃ〜う!」
「あっ……(察し)」

 阿鼻叫喚の渦と化したホモたちを尻目に、雅はブーメランで己の腕を切る。
 そして、再生する前に滴る血をバットマンに振りかけた。

「あ、貴方… 何をして」
「何、見ていればわかる」

 すると、信じられない事が起こった。
 倒れていたバットマンが、ゆっくりと立ち上がったのだ。
 ただ、異様なのはその雰囲気である。
 マスクから覗く赤い瞳と、肉食獣のように発達した犬歯がその証拠であった。
 彼は突然、一番側にいた一般通行爺に飛びかかりその犬歯を突き立てた。
 悲鳴を無視して欲望のままに一般通行爺を貪る姿には、先程の理知的なインタビューアの面影はもはや欠片もない。
 そして一般通行爺に飽きたのか、バットマンは再び手頃な位置にいるホモたちに襲いかかり、噛みついていく。
 異変はそれだけではなかった。
 噛みつかれたものはこれまた平等に叫び、失禁し、動かなくなる。
 しかししばらくすると立ち上がり、同じようにホモたちに跳びかかったのだ!


292 : ホモコースト勃発! ◆Y/yXICoBK6 :2017/03/17(金) 00:08:28 6equ2iwg0

「やめてくれよ……」「やめてくれよ……」「やめてくれよ……」「やめてくれよ……」「やめてくれよ……」「やめてくれよ……」

 悲劇はそれだけでは終わらない。
 さらに酷いことに、ここはホモの聖地として名高い下北沢。
 吸血鬼化により理性の枷が外れたのか、女は女を、男は男を押し倒し、欲望のままに蹂躙する。
 血と汗と失禁その他もろもろのハッテン場が完成してしまったのだ。

 地獄絵図と化した下北沢を眺めつつ、三人は完全に忘れ去られていた。

「み、雅。あなた一体何をしたの」

 あまりにもあんまりな光景に、ほむらは吐き気を押さえつつ雅を問い詰める。
 流石にホモセックスが横行するとは思っていなかったのか、少し引き気味の雅はしかしそれでもほくそ笑む。
 
「そういえば言っていなかったな。私は人間が嫌いでね」

 参加者ならばもう少し一考したが、首輪もつけていないただの有象無象ならこうした方が良い。とあっけらかんと良い放つ雅にほむらは呆然として、漸く理解した。
 この男は、悪であると。魔女と何も変わらない、人類の敵なのだと。
 
(甘かった…… この男はあまりにも危険。生かしておけば、まどかにも害が及びかねない)

 今はまだ無理だ。装備も、何もかもが足りない。
 だが、まどかのためにも必ず……始末する。 地獄と化した下北沢において、それぞれの思惑が交差した。 


【F-6/一日目/黎明】

【雅@彼岸島】
[状態]:健康
[装備]:鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:主催者に興味はあるが、いずれにせよ殺す。
1:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
2:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
3:あのMURとかいう男はよくわからん。

※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※魔法少女・キュぅべえの情報を共有しました

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:内蔵にダメージ(中)、疲労(中)、右頬に痣、焦り
[装備]:ソウルジェム、ひでのディバック
[道具]:サブマシンガン
[思考・行動]
基本方針:まどかを生還させる。その為なら殺人も厭わない
0:雅のことは利用するが、まどかに害が及ぶのなら始末する。

【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す


【ホモコースト勃発!】
※F-6の下北沢エリアにいるNPCたちの間で吸血鬼ウィルスによるパンデミックが起こっています。
 感染した下北沢のNPCは吸血鬼化し、男なら男を、女なら女を襲います。血を吸わずに一定時間たつと邪鬼化するかもしれません。


293 : ホモコースト勃発! ◆Y/yXICoBK6 :2017/03/17(金) 00:09:03 6equ2iwg0
工事完了です……


294 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:38:42 VZx9pmyc0
投下乙です。

自分でしでかしたことなのに予想外のホモセックスにドン引きする雅様はドジッ子属性もち可愛い。
彼岸島並に下北沢が広がっていくこの会場はいったいどうなってしまうのか。
そしてこの三人の中ではマトモな部類のほむらの胃がストレスで潰されないか心配です。

余談ですが彼岸島X最終話が今週の土曜日に配信されます。お忘れなく。


投下します


295 : Magia Record -真魔法少女大戦- (1) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:41:29 VZx9pmyc0
(中々、他の参加者とは出会えないものですね)

ハードゴア・アリスとの遭遇より小一時間、クラムベリーは他の参加者の誰とも遭遇していない。
地図にして10×10マスの計100マスに対して参加者は60人程度である以上は仕方のないことであり、また、クラムベリーの能力のひとつである音探知もうまく機能しない。
相手が近くにいる時は問題ないのだが、普段よりも探知できる範囲がかなり狭いのだ。
そのため、大がかりな探索が困難となっているのも中々出逢えない要因の一つだった。

(...嘆いていても仕方がない。このまま地道にいくとしましょう)

結局のところ、探索に有用な支給品を持たない彼女はこうしてしらみつぶしにエリア中を徘徊するしかないのである。
他の参加者を捉えるまで、休むこともなくただひたすらに足を動かし続け―――その功が為してか。
ついに彼女の耳は参加者の足音を捉えた。





「はあ、はぁ...」
「大丈夫?」

そびえ立つビル群の中、マミは息を切らす流美を気遣いつつ足を進めていた。
出逢ってかれこれ数時間。周囲を歩き回っているが未だ成果は手に入らず。
この数時間の探索はただ悪戯に流美の体力を削っただけだった。

「少し休みましょう。余裕があればご飯も...とは言ってもお菓子しかないけれど」

流美はマミの言葉に素直に従い、ソッと側の壁に背を預ける。

(...クソッ、一刻も早く野崎を見つけ出さなきゃいけないのに...!)

親指を甘噛みしつつ、湧き上がる焦燥や憎しみを和らげる。
自分の悪評が廻れば確実に追いたてられてしまう。
それは駄目だ。絶対に避けねばならない。

そう思えば思うほど流美の焦燥は加速し隠しきれないものに昇華されてしまう。


296 : Magia Record -真魔法少女大戦- (1) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:42:10 VZx9pmyc0

その様子を見かねたマミは、己のデイバックに手をいれペットボトルとうまい棒を取り出す。

「ハイ。本当は紅茶でもあればよかったのだけれど」
「え...それ、巴さんの...」
「こういう時は、少しでもお腹を満たせばだいぶ変わると思うから」

流美は差し出された食糧へとおずおずと手を伸ばす。

「わ、わたしも持ってるけど...いいの?」
「いいのよ。怖い時は、喉を潤してお菓子を口にすれば多少は和らぐから」
「じゃ、じゃあ...」

おそるおそるとうまい棒の袋を開け、チラリとマミへと視線を移す。
こういう時は必ずなにか裏がある。クラスのイジメからの経験談だ。
「食べさせてあげる」とかいって無理矢理口に詰め込んできたり、お弁当にゴミを載せて「ふりかけの代わりだよ」とかのたまってきたり。
それで苦しんだり吐いたりする様を愉しむのがイジメっ子の"遊び"である

いまこうしている間にも、うまい棒を顔面に叩き付けられるか、ペットボトルの水を鼻から飲まされるか。
そんな嫌な未来に怯えつつ彼女に従いお菓子を口に運ぶ。

チラリ、とマミへと視線を移せば、ニコリと微笑むだけで悪意なんて微塵も感じられない。
思い過ごしなのか―――いや、油断すればその隙を突かれるのがいつものことじゃないか。
いつやられても耐えられるように、心構えを

(...そんなこと言ってたらダメだって)

数時間前に決めたではないか。自信を持って生きると。
だのにビクビクと怯えながら施しを受けるいまの自分はなんだ。まるで変っていないじゃないか。

(変わる...あたしは、もうあんな人生を送りたくなんかないんだ!)

もう虐げられるだけの惨めな人生なんて嫌だ。全てにケリをつけて生還し、前を向いて暮らすんだ!
改めて決意を固め、流美はマミを睨み殺さんばかりの形相を向ける。

「か、返せないからね!巴さんがくれるって言ったんだからね!」

その勢いのままにうまい棒へと齧りつき、あっという間に平らげてしまう。
クラスメイト相手にこんな啖呵をきれば、調子に乗るなと殴り甚振られること間違いなしだろう。
だがそれがどうした。文句があるなら甘んじて受けてみせよう。だが、正しいのはこちらの方だ。それだけは絶対に譲らない。
再びマミへとジロリと視線を向ける。

「佐山さんが元気になったみたいでよかったわ」

当のマミは、それを微笑みながら見ているだけ。やはり悪意など微塵も感じられない。
まさか本当にただの一人相撲だった?そう自覚すると途端に恥ずかしさで顔中が赤くなりまともにマミの顔を見ることが出来なくなる。

(なにやってんのさあたし...恥ずかしすぎる...!)

貰った水を飲み顔の紅潮を冷まそうとするが、しかし大して効果を為さず。流美の顔はまだまだ火照ったままだった。

一方のマミは、先刻の一件から流美に対して全幅の信頼を置いているわけではない。


297 : Magia Record -真魔法少女大戦- (1) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:42:44 VZx9pmyc0
しかし、それでも流美は一般人。魔法少女が守るべき対象である。

野崎春花への罵詈雑言染みた情報提供やいまのやり取りからしてなにか話し辛い事情があるのはなんとなく察せる。
しかし、いまはそれを聞き出す必要はない。
気持ちが落ち着き、彼女がちゃんと事情を話すことに納得した時に聞きだせばいい
いまは殺し合いの場であり、そんな中だからこそ、互いの信頼関係を築くのは必須であり、罪があったとしてもそれを咎めている場合ではないのだから。

「そ、その、巴さん」

流美はどもりつつもマミへと向き合う。

「なにかしら?」

視線が交わるだけで流美の頬は赤く染まり、目を逸らしたくなる衝動に駆られてしまう。
しかしダメだ。ちゃんと伝えなければ。
モジモジと己の親指を重ね合せ、それからようやく伝えたい言葉を発した。

「その、あ、ありがとう」

それは純粋な気持ちであった。こんな状況下でも励ましてくれた彼女へのお礼の言葉だ。
両親以外の他人にこの言葉を使うのはいつ以来だろうか。
それほどまでに、学校という佐山流美の小さな社会には敵しかおらず、両親以外に優しさを向けてくれる人も誰もいなかった。

「どういたしまして」

流美のその言葉に、マミは思わず頬が綻んだ。
魔法少女の活動は一般人に知られることは滅多にない。
だから、いくら頑張ろうともそれは己の中で完結させるしかなく、マミ自身もそれでも仕方ないと思っている。
しかし、こうして守るべき対象からお礼を言われるとやはり嬉しい。
自分があの見滝原で守ってきたモノは間違っていなかったとも思える。

「そうだ。よかったら背負っていきましょうか。それなら佐山さんもあまり疲れないでしょう」
「い、いや、そこまではいいよ。世話になりっぱなしじゃ、申し訳ないっていうか...」

少し前のどこかギクシャクとした空気はどこへやら。
歴戦の魔法少女と取り返しのつかない罪を犯した少女。
そんな影など見当たらないほどに、いまの二人は入学したてではしゃぐ女子中学生のようだった。

だが、そんな時間も長くは続かない。

「仲がよろしいところ失礼します」

二人の頭上に影が被さる。
マミはその異変にいち早く気が付き、すぐに上空を見上げる。

ふわりと降り立つは、長く尖った耳が特徴的な美しい女性。

「私は『森の音楽家クラムベリー』。魔法少女です。この赤い首輪の示す通り、このゲームにおいては人間ではありません。どうぞお見知りおきを」

巴マミと同じ『魔法少女』を名乗る、人ならざる者。


298 : Magia Record -真魔法少女大戦- (1) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:43:16 VZx9pmyc0




「えっと...」

虚を突かれた、とはこういうことを言うのだろうか。
懇切丁寧な物腰で現れた彼女は、堂々と自分が赤い首輪であることを提示した。
なにも考えていないのか―――否、そう決めつけるのは早計かもしれない。
マミは混乱を防ぐために己の赤首輪を隠したが、クラムベリーのようにあらかじめ明かしておくというのもリスクはあるが効果的ではある。
この殺し合いでは赤い首輪は狙われる対象となる。だが、それを明かした上で手を組みたいという意思を示せば、自分が手を組める相手かどうかの判断を示しやすい。
そういう考え方もあるにはある。

とにもかくにもまずは会話をしてみるべきだろう。全ての判断はそこからだ。
マミは、流美の前に進み出てクラムベリーと対峙する。

「...とりあえず、森の音楽家クラムベリーさん、でいいんでしょうか」
「クラムベリーで構いませんよ」
「わかりました。クラムベリーさん、私の名前は巴マミです。私たちはこの殺し合いをどうにか止めたいと思っています」

変わらず微笑みを浮かべているクラムベリーの真意を測りかねるマミだが、一応は聞き入れていると判断し話を続ける。

「勿論、赤い首輪でも関係ありません。誰も犠牲者が出ないように行動するつもりです。クラムベリーさん、どうか力を貸していただけないでしょうか」
「協力、ですか...悪くはないですね」

クラムベリーの返答に、マミは思わずホッと息をつきかける。
思ったよりも話がわかる相手でよかった。

「ですが」

クラムベリーがそう区切ると同時、彼女の纏う雰囲気が僅かに変化する。
それは些細な、しかし確かな変化だ。
マミはそれを見逃しはしなかった。

「あなたはともかくそちらの方は不要ですね」

クラムベリーの視線がマミの後ろの流美へと向けられる。
流美がその言葉の、視線の意味を理解しきるよりも早く、クラムベリーの右足の蹴上げが放たれた。
腹部目掛けて放たれたソレは、並の人間なら数分の悶絶の後に死亡するほどの威力を有している。


299 : Magia Record -真魔法少女大戦- (1) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:43:53 VZx9pmyc0

が、それも当たらなければ意味はない。

クラムベリーの攻撃の気配を察知したマミは、蹴りが放たれる寸前で後方に跳び退き、その勢いで流美の身体を後方へと押しだしたのだ。

「いい判断です。やはり私の目に狂いはありませんでした」

クラムベリーは、なにも和平交渉をしにきた訳ではない。
こちらが赤い首輪であろうことを明かし、その反応を見ていたのだ。
もしも自分の存在への動揺があまり確認できなければ、少なくともそれだけの肝の据わった者であり、逆に大いに動揺し恐怖のような負の感情を露わにすればそれは弱者である。
自分なりの大雑把な見分け方ではあったが、今回はそれが的中。前者は巴マミ、後者は佐山流美である。
クラムベリーが赤い首輪であっても冷静に対処し、変に緊張を持たず接したのが巴マミ。
クラムベリーが赤い首輪であると認識した途端、恐怖を露わにし怯えなんども首輪へと視線を向けてきたのが佐山流美だ。
おそらく、自分を殺せば脱出できる、などと考えていたはずだ。
そういった輩はこのゲームには要らない。それがクラムベリーが下した判断だった。

「あなたは殺し合いに乗るんですか!?」
「いまは乗っていませんよ。ですが、私の望むものは強者との闘争です。そのためには、赤い首輪ではない参加者は不要なんですよ。わかりやすくいえば、私はこれから赤い首輪以外の参加者を殺してまわるつもりです」
「そんな...!」

マミは理解できなかった。クラムベリーは、己を魔法少女と名乗っていた。
魔法少女の中にも縄張り意識の強い者はいる。多少は乱暴な者もいるかもしれない。
しかし、好んで人を殺したいと思う者はいなかったはずだ。
だが、クラムベリーは確かに言った。自分の望む闘争を繰り広げるために、一般人を殺すと。

「...佐山さん。彼女は私が食い止めるわ。これを持って、逃げてちょうだい」
「と、巴さん...!」
「大丈夫。私、こう見えてもそこそこ強いんだから」

マミは己のデイバックを流美に押し付け、この場から立ち去るように促す。
流美は、後ろ髪を引かれる思いでマミたちへと背を向け走りだした。

「...殺すと言ったわりにはやけにあっさりと見逃してくれるのね」
「まずはあなたに話を通した方がいいと思ったので」


300 : Magia Record -真魔法少女大戦- (1) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:44:17 VZx9pmyc0

「巴マミ。彼女を大人しく差し出せばあなたの相手は後回しにします。なんなら、申し出通りに協力しても構いません」
「それは、彼女を殺すということなのでしょう」
「そうなります。アレはどう見ても弱者です。排除するのが一番手っ取り早いんですよ」
「...あなたの気持ちは変わらないのね。なら、尚更ここを通すわけにはいかないわ」

マミが己のソウルジェムを掲げると同時、全身を淡い光が包み込む。
数秒の後に弾け飛ぶのと同時、元来の制服に代わり、どことなく西洋のイメージを連想させる衣装とその豊満なる胸を強調するコルセットに身を包んだ肢体が露わになった。
首輪を包んでいたリボンももう戻している。これが巴マミの真実。クラムベリーとは違う世界の魔法少女である。

「振る舞いからしてただものではないと思っていましたが...なるほど、あなたも赤い首輪なのですね」

首輪の色をカモフラージュできるリボンには少々驚いたが、まあなんてことはない。
それよりもだ。
方針通りに動くならば、赤い首輪の参加者との戦いは避けるべきだ。
だが、状況が状況。今回は戦わなければならないだろう―――などと、一応の言い訳を作ってはいるが、本音ではやはり強者に飢えている。
あの主催の男が用意した強者はどの程度の強さなのか。自らが満足しうる者なのか。
気になって確かめたくて味わいたくてしょうがない。己の手で壊したくてしょうがない。
相手の気が変われば別だが、立ちはだかるというのなら喜んで戦おう。

「ひとつ、窺ってもよろしいでしょうか」
「?」
「この殺し合いでは、赤い首輪の参加者はすべからく危険生物として、脱出道具として扱われます。なのに何故あなたはアレを逃がしたのですか?」
「...私は、私の信念に従って戦い、私の信じる魔法少女らしくありたいと思っているだけよ」

マミの返答に、クラムベリーは思わずクスリと笑みを零しかけ、それを見たマミは思わずムッと眉根を寄せる。

「失礼しました。この殺し合いに巻き込まれる以前に交戦した魔法少女が似たような台詞を言ったもので、つい。非難している訳ではありませんよ?王道的な言葉だと思います」
「......」
「ただ、彼女はそれに見合うだけの実力はありませんでしたが...あなたにはその口ぶりに似合う強さを期待してもよろしいのでしょうか」
「あなたの期待なんて知ったことじゃないけれど...人々に危害を加えるというのなら、私は容赦できないわよ」
「ありがとうございます。それでこそ、私の闘いは意味を為す...」

クラムベリーは戦いへの期待に笑みを浮かべ、マミは魔力を消費しマスケット銃を作り出す。

「銃、ですか。私の好みからは外れますね。できれば格闘家か剣士であれば嬉しかったのですが」
「悪いけれど、あなたの流儀になんて合わせるつもりはないわ」
「構いませんよ。戦いにおいて己に適した武器を使うのは当然のこと。それを卑怯と罵るのは三流の所業です」


笑みを崩さないクラムベリーと、銃を手に戦闘態勢へと入るマミ。
片や魔法少女の選抜試験の過激な試験官として、片や見滝原という町を守り続けてきた正義の味方として。
両者は互いに己の世界で多くの戦いを勝ち抜いてきた魔法少女。

その戦いの火ぶたは、ここに切って落とされた。


301 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:46:13 VZx9pmyc0



睨み合う両者。
先に動いたのはクラムベリーだ。悠然と歩き、距離を詰めていく。
対するマミは引き金に手をかけるも弾丸は放たず。明らかに攻撃を誘っているクラムベリーに一層警戒が強まったのだ。
数秒の後、先手を打ったのは―――

「ッ!」

マミが引き金を引く間もなく、突如にしてクラムベリーが距離を詰める。
そこから放たれるは、腹部へのミドルキック。
寸前に察知したマミは僅かに飛び退き蹴りを躱し、お返しと言わんばかりに引き金を引く。
クラムベリーはのけ反り回避し、再び接近。
振るわれるクラムベリーの拳を避け、銃を構えようとするも次なる攻撃が許さない。
次々に放たれる拳に、蹴撃に、マミは銃を使う暇もない。

(なにも、銃に依存している、という訳ではないようですね)

体感的には、身体能力は自分の方が上である。
だが、なにも攻撃を躱すだけならば身体能力は絶対条件ではない。
繰り出される攻撃にも焦らず対処し、避けきれなければ当たる寸前に払えばいい。
言葉にすれば単純だがそれを為すには多くの経験と技量が必要となる。
彼女は銃という遠距離武器を使いながら、その鍛錬も積んできたのだろう。

だが、そこはやはり近接主体と中距離主体の戦闘スタイルの差か。
徐々にマミの表情に焦燥が浮き始める。
それが行動にも出たのか。
クラムベリーの腕を払い、マミは銃を突きつける。
だがそれがクラムベリーへと放たれることはない。
体勢を崩したクラムベリーのアクロバットの如き蹴りあげが銃を弾き飛ばしたからだ。

「きゃっ!」

衝撃により上体が崩れ仰向けに倒れかけるマミ。勿論、クラムベリーはその隙を見逃さない。
拳を握りしめ、マミの腹部へと叩き込まんと突き出しかけ、気が付く。
上体を限界までのけ反らせ宙に舞うマミの身体。
そのマミの手にある銃口が、既に己へと向けられていたことに。

「―――!」

先程、銃を弾かれたのはフェイク。隙をついて追撃をしようとした敵を仕留めるための撒き餌だ。
瞬時且つ直感的にそれを理解したクラムベリーは追撃を打ち止め、しゃがみ込むことで回避。
体勢を立て直すであろうマミを見やり―――その姿が高速で視界から失せた。
なにかに吸い込まれるかのように瞬時に消え失せたのだ。


302 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:46:51 VZx9pmyc0

すぐにマミの消えた方角へと視線を向ける。
そしていまの現象を理解した。彼女の魔法の正体も。

「そのリボンがあなたの魔法の正体ですか」

マミの手に握られているのは、建物の一部に縛られている黄色のリボン。
彼女は体勢を崩すと同時に近場へとリボンを放ったのだ。

(リボンによる立体機動...随分と万能ですね)

マスケット銃の精製と自由に操れるリボン。それがマミの固有的な魔法だとクラムベリーは判断する。

「ですが、まさかこれで終わりではありませんよね?」

クラムベリーの体感的には、巴マミは強いことには強い。
己の魔法を持てあまさず、頼り切らず、身体能力も並の魔法少女よりは上。
...が、これだけでは満足には程遠い。
ラ・ピュセルとの戦いと似たようなものだ。10回戦えば10回クラムベリーが勝つ。それ程の差がある。
まだなにかを見せつけてくれなければ物足りない。

そんな期待に呼応するかのように、マミの背後に幾多ものマスケット銃が召喚される。

(なるほど。一度に召喚できる銃は一つではないのですか)

無限の魔弾―――パロットラ・マギカ・エドゥインフィニータ。弾幕により辺り一帯を制圧できる荒業である。
放たれる弾丸の雨に、さしものクラムベリーも足を止める。
これだけの数だ。避けきるのは至難の技だろう。―――むしろ、避けないのが正解だ。

この技は逃がさない・躱されないことを前提としているものであり、そのために有効範囲を広げているにすぎない。
動けばそれだけ防御が薄くなり、被弾する数も増える。
だが、動かなければ、その大半は彼方へと着弾。実際に当たるのはよくて3割程度。
そう感覚的に理解したクラムベリーだが、とはいえその全てをその身で受け止めれば、流石にただでは済まない。
彼女は、迫りくる弾丸を―――弾いた。その拳で次々に弾き落としているのだ!

もしもこれが普通の機関銃のようなものであれば、いかにクラムベリーといえど容易く弾くことなどできない。
だが、クラムベリーは見切っていた。巴マミのマスケット銃から放たれる弾丸は、敵を殺すための銃火器とはとてもいえないものだと。
当然と言えば当然かもしれない。
マミのマスケット銃は魔力を消費して生み出すもの。そこにあらかじめ本物の弾丸を詰め込むなど不可能である。
ではあの弾はなにか。巴マミが想像し生み出したものだ。本物の弾丸を知らない彼女に本物をまるきり再現しろというのは酷な話だろう。
そのため、巴マミの使用する弾は本物の拳銃に殺傷能力で劣る。その推測のもと、クラムベリーは魔法少女の優れた身体能力とそれに伴った動体視力で弾丸を弾き返すという選択をしたのだ。
言葉にすれば単純だが、これもかなりの難易度の技である。いくらクラムベリーの世界の魔法少女が、マミの世界の魔法少女よりも身体能力に優れているといえど、魔法無しにこんな芸当ができるのは近接戦に特化したクラムベリーとヴェス・ウィンタープリズンくらいのものだ。


303 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:47:21 VZx9pmyc0

マミは目の前で繰り広げられる光景に唖然とする。
心血を注いだ技があんなやり方で防がれているのだ。そうなるのも仕方のないことだろう。
しかし、その仕方ないことが戦場では命取りとなる。
その動揺により微かに乱れた攻撃のタイミングをクラムベリーは見逃さない。
僅かに止んだ隙間を縫い、瞬く間に距離を詰める。
咄嗟に飛び退こうとするも既に遅し。
クラムベリーの拳がマミの腹部を捉え、後方に大きく吹き飛ばす。
だがそこでは終わらない。転がるマミの腹部へと追撃の蹴りあげを放ち再び吹き飛ばした。

「か、はっ...!」

マミの喉から込み上げる血が激しい咳を誘発させ、クラムベリーはそんな彼女に愉悦の笑みを浮かべていた。

「どうしました?まだ戦いは終わってはいませんよ」

マミは悠然と歩み寄ってくるクラムベリーから距離をとり、近場のビルへと逃げ込む。
クラムベリーはそれを視線で追い―――敢えて放置。否、その足は動いてはいるが、速さは変わらず。
まるで王のように優雅に、着実にマミとの距離を詰めている。

(さて、本題はここから...)

クラムベリーがマミを急いで追わなかったのは、マミを試していたからである。
マミと似たようなことを言っていたラ・ピュセル。
彼も中々の強さは持ち合わせていたが、戦いにおける心構えは未熟もいいところ。
少し痛めつければあっさりとその脆弱な精神を露わにし、戦意を喪失までしかけた。
なんとか持ち直しはしたが、それでもクラムベリーは満足しきれなかった。

もしも、マミがラ・ピュセル以上に醜態を晒すようならば最早この場に不要。
手足を破壊するなりして、死なない程度に痛めつけて適当な参加者に渡すだけだ。

(見せて貰いましょうか。あなたの信じる『魔法少女』とやらを)


304 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:48:06 VZx9pmyc0


「ハァ、ハァ...ゲホッ」

ビルへと逃げ込み階段を駆け上がったマミは、息を切らし、激しく咳き込む。
長らく忘れていた痛みに、身体が過剰に防衛反応を示していたのだ。
ナイトメアとの戦いは、自分も相手も痛みを伴わぬモノだった。
人々の悪夢から生まれるナイトメアを、五人の力で浄化し、健康な夢として持ち主へと返す。
そんな優しい戦いだった。

「うぅ...」

何故だか涙が溢れてくる。
痛みが我慢できなくなった―――わけではない。
確かにクラムベリーの拳は痛かったし、いまも腹部の痛みは残っている。
だが、動けない訳ではないし、施設を活用すれば逃げ切ることだってできるかもしれない。
そう。なにも希望が絶たれた訳ではないのだ。

(なんで...この込み上げてくるものは、なんなの...?)

だというのに、涙は止まらない。
この『痛み』自体に悲しみを覚えている。
何故だ、何故―――

コツ、コツ、コツ。

階下より、一定の感覚を空けた足音が空気を打ち鳴らす。
何者か―――考えるまでもない。クラムベリーだ。
間違いなく追ってきている。

もしも、彼女と再び相対すれば、必ず『痛み』が訪れる。

その果てに待ち受けるのは、死。

(―――嫌)

心臓の鼓動が激しくなる。頭の中に感情の渦が激しく巻き上がる。
にじり寄る現実は、マミの脳髄を加速させその身体に、魂に刻まれた記憶を呼び起こさせる。

(私が戦ってきたのは...恐れているものは...!)

それは人々を苦しめる悪い夢ではない。誰かのために作られた甘く優しい夢でもない。

巴マミが目を背けている真実。その名は―――


305 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:48:59 VZx9pmyc0



「......」
「鬼ごっこはお終いのようですね」

ビルの五階。
巴マミは、クラムベリーを正面から待ち構えていた。
逃げることを止め、正面から戦いを挑む。
実に王道的でわかりやすい、決闘には最高のシチュエーションだ。
クラムベイーもそういうのは嫌いじゃない。むしろ望むところである。

(...残念です、巴マミ)

だが、彼女の心境は歓喜とは正反対。
落胆と呆れ。これ以上ない失望だ。

そんなことも露知らず、マミはクラムベリーへと向けて発砲。
当然、そんなものは当たらない。僅かに身体を動かすだけで避けきれる。

マミは再びマスケット銃を生み出し、順に発砲していくが、そのどれもが掠りもしない。
徐々に近づいてくるクラムベリーに対し、マミの顔に焦燥の色が浮かぶ。

クラムベリーは耳がいい。
物音だけでなく、人間の呼吸音や足音、果ては心臓の鼓動音まで聴き取ることが出来る。
そんな彼女の耳は、マミの心臓が激しく高鳴っているのを捉える。この音は緊張と恐怖。いまの状況に恐れを為しているのだろう。

当たらないマスケット銃に頼るしかないと云わんばかりに次々と発砲するも空しく、ついにクラムベリーは己の射程圏内にまで到達。
咄嗟に弾の切れたマスケット銃を水平に振るも、クラムベリーはそれを左掌で軽々しく止めた。同時に、背後へ向けて右手を伸ばす。

「カッ」

喉を潰されたような掠れた呻きが鳴る。
右手に掴まれたのは、巴マミの喉。

前方と後方に二人の巴マミという異常事態にあっても、クラムベリーは揺るがない。
当然だ。
前方にいたマミはニセモノ、つまり分身であり、いま首根っこを掴んでいる方が本物だということを知っているからだ。


306 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:49:50 VZx9pmyc0

クラムベリーが聞いた鼓動の音はひとつ。それは待ち構えていた巴マミのものではなく、物陰に潜んでいたマミのもの。
つまり、クラムベリーは分身の理屈こそは解らないにせよ、マミがそういった技術を持ち合わせている・若しくは支給品に分身ができる道具があったことを聞き取っていたのだ。
だからこそ、クラムベリーは失望した。
それは分身という行為そのものに対してではない。
自分の信じる魔法少女でありたいと啖呵を切っておきながら、追い詰められてやることは、痛みを恐れこそこそと機を窺う三下そのもの。

これなら、ラ・ピュセルとの戦いの方がマシだった。彼女は最後の最後で光るものを見せつけてくれた。
巴マミにはそれがない。そこそこ強いだけの魔法少女だ。
時間の無駄だった。さっさと死なない程度に破壊しよう。

クラムベリーは、この逡巡の間にも、マミが反撃しようものなら即座に攻撃に移る準備はできている。
マミが照準を構える前に更に強く締め上げ、気が済むまで痛めつける。それでこの闘争はお終いだ。

クラムベリーは、巴マミに失望していたが、油断はしていなかった。





―――パァン

だから、銃声と共に己の額に走る激痛が理解できなかった。


307 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:50:31 VZx9pmyc0

「くっ!?」

クラムベリーの顔に初めて驚愕の色が浮かぶ。
当然だ。
首を締め上げるのとほとんど同じタイミングで、額を撃たれたのだ。
額の皮一枚で済んだのは幸いだったが、しかしマミの反撃は早すぎた。

まるで、分身を見破られても即座に反撃できるように備えていたかのように。

けれどそれは痛みに怯え避けようとする者、ましてや分身に戦闘を任せ隙を突くような者にはできない芸当だ。
普通ならば痛みに身体が追いつけず反撃などは不可能の筈なのに。
そんなクラムベリーの困惑は、痛みに怯んだ隙を突き抜け出したマミによって断ち切られる。

クラムベリーは知らない。巴マミという魔法少女の戦いを。

『ナイトメア』などという架空の存在の相手ではない。
『魔獣』との戦いを重ね、痛みも悲しみも恐怖も死も、その全てに耐え続け、見滝原という町を守り続けてきた魔法少女の真の敵意を。

距離をおきマミの背後に無数に現れるマスケット銃。放たれるのは先刻と同じ無限の魔弾。
額から流れる血を抑える暇もなく、クラムベリーは迫る弾丸を弾き落とす。
その感触に違和感を覚える。放たれる弾丸は、先程のまるで玩具の弾とは違う。
威力も殺傷度も、より本物の弾丸に近い、敵を斃すための弾だ。

だが、依然戦況に変化は無し。

森の音楽家クラムベリーに本物の銃を向けようが、それで彼女を斃せるならば誰も苦労はしていない。
放たれる弾丸が偽者だろうが本物だろうがそれは些末なこと。
殺傷力があろうが弾かれればそれで終わりだ。それはマミもよくわかっている。

だから、この技で仕留められる、などとは思っていなかった。

本命はこの後。弾かれた弾丸そのものにある。

突如、クラムベリーの足元から黄色のリボンが溢れだす。
それは瓦礫を押しのけ、クラムベリーの身体に纏わりつき縛り上げた。


308 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:51:52 VZx9pmyc0

「なっ...!?」

さしものクラムベリーもこれには驚く他ない。
巴マミがリボンの魔法を使うのは判明していた。だが、それを発動する素振りは見当たらず前兆もなかった。
あらかじめ仕込んでいた―――そんな暇はなかったはずだ。

クラムベリーの推測を待つ暇もなく、マミは新たな攻撃の準備に移る。
その手のリボンが自身の身体ほどに巨大な拳銃―――もはや大砲と表現すべきだろう―――を模っていくのを見て、クラムベリーは理解した。

クラムベリーはマミのリボンと拳銃の能力は別だと考えていた。
しかし、それは間違いだ。マミの本来の能力はリボンのみであり、マスケット銃の生成はその副産物にしか過ぎない。
それは先の分身も同様だ。リボンを束ね様々な物質を模す。そして、如何に器があろうと弾が無ければ銃の意味を為さない。
銃も弾丸も分身も。その全てはリボンによって作られたものである。
となれば、クラムベリーを拘束したリボンの出所も至極明白。
リボンの全てはクラムベリーが弾き落としていた弾丸、つまりクラムベリーは自らマミの罠の設置を補助していたのだ。

(巴マミ、あなたという人は...!)

身動きのとれないクラムベリーへと大砲の照準が合わせられる。
クラムベリーはもがくが、リボンはそう容易く切れる代物ではない。

(ならば...)

「ティロ・フィナーレ!!」

大砲の引き金が引かれ、砲弾が放たれる。
その瞬間だ。クラムベリーを拘束していたリボンが、突如張りを失くし、クラムベリーの拘束が解けた。彼女の魔法でリボンを弛ませたのだ。
異常事態を察知したマミだが、砲弾の発射を止めることはできない。
自由の身となったクラムベリーは、両手を前方へと突出し砲弾を受け止める。

「これはなかなか...!」

拮抗し静止するのもほんの一瞬。
徐々にクラムベリーの身体は押しやられ、ついにはガラスを突き破り外へと放り出される。
高さにして五階。放り出されれば、当然足場などなく、ふんばりの効かない状態ではそのまま隣のビルの外壁に衝突するのが必定。

だが、そのまま素直に運ばれるクラムベリーではない。
ここまで発動しなかった魔法、音を自由自在に操る魔法により掌から音波を放つ。
それは砲弾を上向きへと逸らし、かつ自分の身体も地上の方角へと逸らしていく。
ものの数秒で砲弾はぶつかる筈だった外壁の更に上階へと逸れ、クラムベリーもまた本来よりも地上寄りの外壁へと到達。そのまま外壁を軽く蹴り、無事に地上へと着地した。
微かに遅れて響くのは爆弾のような轟音。見上げれば、砲弾が着弾した場所は崩壊しもうもうと煙と火が舞い上がっている。

アレは人に放つようなものではないでしょう、などと思いながら破壊痕を見上げれば、その下手人もふわりと地上へ舞い降りてくる。

「これが本当のあなたの戦いですか」

己の腫れあがった両掌を見つめる。あともう少し魔法を使うのが遅れていれば、この両手は無事では済まなかった。
いや、それどころかあの砲弾で致命傷に近い重体となっていただろう。
面白い。巴マミになにがあったかわからないが、ようやく彼女にも勝機が生まれてきた。
やっと壊し甲斐のある相手に仕上がってくれた。

これから繰り広げられる本当の闘争に、クラムベリーは期待の笑みを浮かべずにはいられなかった。


309 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:54:05 VZx9pmyc0

(私は思い出した)

クラムベリーから受けた痛みを、恐怖を通してマミは思い出した。
自分が戦っていたのはナイトメアなどではなく、魔獣という存在であったことを。
魔法少女として、魔獣だけではなく魔法少女とも戦ってきたことを。
魔獣との戦いの果てに美樹さやかを失ったことを。

全ての痛みも悲しみも思い出したのだ。

本当はあの優しい夢に微睡んでいたかった。
辛く苦しい現実のことなど思い出したくはなかった。

(けれど、いまは...!)

いまは、戦うべき戦場だ。自分が甘えているせいで犠牲が出るなどあってはならない。

気になることも山ほどある。
なぜ美樹さやかの名前が記載されているのか。
なぜナイトメアなどという架空の存在と戦っていたのか。
自分と暮らしていた『べべ』とはなんだったのか。

だが、いまはそれを考えている場合ではない。

眼前の一般人を殺してまわる魔法少女を放っておくわけにはいかない。
一刻も早く彼女を倒し、流美を保護しなければならない。


森の音楽家クラムベリーの肉体と巴マミのマスケット銃、互いの信念を込めた武器がいま再び交差する。


310 : Magia Record -真魔法少女大戦- (2) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:55:04 VZx9pmyc0



巴マミとクラムベリーが戦いを繰り広げる一方で。
マミから荷物を渡され逃がされた流美は、さほど離れていない場所で蹲っていた。

全身の震えが止まらない。
ガチガチと歯が打ち鳴らされる。
その様は語るまでもない。恐怖しているのだ。

(む、無理だ...こんな場所で一人でなんて...!)

彼女が怯える理由なんて一つしかない。こんなわけのわからない場所で一人にされたのだ。
戦場など知らない一般人が恐怖を覚えない方が難しいだろう。
なにより、流美は野崎春花から恨まれている。もしも春花から悪評を吹き込まれた者と一人で出会ったら、なんて考え出せばキリがない。
もしも当初のように一人で行動しているだけであれば、春花を憎むことだけを考えここまで怯えずに済んだだろう。

だが、その恐怖は巴マミという存在により更に増していた。
マミは、自分に対して一抹の不安を持っていたであろうにも関わらず優しく接してくれた。ずっと虐められ続けてきた自分に対してだ。
こんな殺し合いの場で味方をしてくれる人がいる。
そんな甘い夢を見せられてはたまったものじゃない。
どうしても彼女と離れたくないと思ってしまう。側にいてほしいと思ってしまう。

(でも、あのクラムベリーってヤツめちゃくちゃだし...どうすれば...!)

時間が経つにつれ春花と接触した者は増え、こんな場所でマミのように優しくしてくれる人が他にいるとは考えにくい。
もしもマミがあの女に殺されれば、流美はまた独りになってしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。

「そ、そうだ。なにか凄い武器でもあれば...!」

マミを失うのが嫌ならクラムベリーを排除すればいい。
いや、そもそもあの赤首輪を殺せれば自分はこんなゲームに縛られずに済むし万々歳である。
自分の支給品で武器となるのはナイフだった。10本あるが、これでクラムベリーに勝てるとは到底思えない。
ならば、頼みの綱はマミの支給品。流美はすぐに中身を探り始める。
掴み、取り出したのは真っ黒なスーツ。ピチピチのタイツのようなものだ。

「ダサッ」

思わずそう零し、鞄の中身をもう一度検める。

ドォン、と轟音が鳴り響いた。

慌ててふりむけば、破壊されたビルからもうもうと立ち昇る煙と砂塵が確認できる。
先程まで自分がいた付近、つまりマミとクラムベリーが戦っているであろう付近だ。
やがておくれて響く轟音、轟音、轟音...
そのひとつひとつが耳に届く度に彼女は思う。

こんなの、人間のやっていいものじゃない、と。


311 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:55:43 VZx9pmyc0



あれは9歳のころだった。
『魔法の国』といういま思えばなんとも胡散臭い者たちに選ばれた選別試験。
クラスメイトの一人が召喚した悪魔が暴走し、瞬く間に私以外の者は全員殺された。
だが、私だけは生き残った。私が特別な訳ではない。犠牲者との魔法の差などでもない。ひとつ間違えば、私もまたクラスメイトたちの肉塊のひとつと成り果てていただろう。
それでも私は生き残った。見知った者たちの赤黒い血に、臓物の異臭にまみれ。それでも、いまこうしてこの場に立っている。
私と彼らの違いはなにか。この試験はそれを嘘偽りなく教えてくれた。
悪魔がクラスメイトどころか管理人の誰にも止められなかったのは悪魔がそれだけ強かったからであり、私が悪魔を乗り越え生還できたのは私が他と比べて強かったからだ。

―――命のやり取りの果てに掴むものこそが、真の強さである。

その真理こそが戦いの、力の全てだと理解した。

だが、『魔法の国』はそれを事故と片付けその本質を覆い隠した。
本来はこうあるべきだと見せられたものはあまりにも生ぬるく、かったるく、だるかった。
敗者は平気で照れ笑いを浮かべ、勝者も大手を振って皆から祝福される。
そうじゃない。そうじゃないだろう。
そんなものになんの価値があるというのか。

私はそれが気に入らなかった。
こんなつまらないもので人智を越えた力を手に入れていいのか。
私があの事故から手に入れた『本物』はなんだというのだ。

私はどうしてもそれが許せなかった。

だからファヴと交渉し選抜試験のマスターなどと面倒な役割も請け負った。

互いに取り返しのつかない大切なものを奪い合い、殺し、殺され、その結果残った者がようやく『勝者』となる。
それが人智を超えた力を持つ者たちの在るべき姿だ。嘘偽りのない真実だ。

それを証明するために、私―――クラムベリーという魔法少女は戦い続けてきた。


312 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:56:34 VZx9pmyc0


あれは数年前のことだった。
まだ『魔法』の魔の字も知らないごく普通の女の子だったころ。
私は交通事故で両親と普通の人間としての命を失った。
私は生きてしまった。特別に運がよかったわけではない。ただ、ほんの一言が言えなくて。私自身の願いの一部だけが口に出てしまって。
結果的に私だけが生き残ってしまった。両親が助かる道を閉ざしてしまった。

後悔は山ほどあったし、もう死んでしまおうと思ったこともある。

けれど、ここで諦めたら両親の死は本当に無駄になってしまう。
私が戦わなければ、この街の人が魔獣の犠牲になってしまう。
そう思いこむことで、怖い戦いにも頑張って耐えてきた。

自分がどれだけ傷ついても、褒めてくれる人がいなくても、頑張って魔獣と戦うことができた。

最初は魔法少女からも理解されなくて、とても辛かったけれど、やがて私の戦いに賛同してくれる子たちがやってきてくれて。
嬉しかった。私のやってきたことは間違いじゃなかったと思えるようになった。

誰かのために戦うことは決して間違いじゃない。

それを証明し続けるために、私―――巴マミという魔法少女は戦い続けてきた。


313 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:58:45 VZx9pmyc0



それは最早人の身で行われている光景とは思えなかった。

魔法少女たちが衝突する度に、建築物は次々に破壊されていく。

クラムベリーの立つ場所に放たれる弾幕は瞬く間に視界を土埃で覆い隠す。
その煙が晴れるのを待たずして上空へと突き破る影がひとつ。
クラムベリーはビルの壁を蹴り地上へ向けて加速する。その様はまさに隕石のようである。
速度の伴った前蹴りをマミは交差させたマスケット銃で受け止めるが、しかし抑えきれず。
マスケット銃はへし折れ、直撃こそはせずともマミの身体は地面を跳ね、後転しながら大きく吹き飛ばされしまう。
マミは壁に激突する寸前に背後にリボンの網を展開、衝撃を緩和する。

平衡感覚がままならない状況、しかしクラムベリーから注意を逸らしてはならない。
その心づもりが幸いし、クラムベリーの低空からの踵落としの回避に成功。
避けられた踵落としは地面を砕き砂塵を巻き上げる。
その砂塵に紛れ放たれるは、クラムベリーのこめかみへのマミの回し蹴り。
いくら頑丈な魔法少女とて、頭部に衝撃を受ければ怯まざるを得ない。
ぐらり、と傾いたクラムベリーへとマミは追撃の蹴りを放つ―――が、届かない。
当たる寸前にクラムベリーはその足を掴んでいたからだ。

間髪入れずクラムベリーはマミの足を強力な力で握りしめ、加えて打撃もいれる。
ゴキリ、と鈍い音が響き、常人なら意識が飛ぶほどの激痛がマミを襲う。
クラムベリーは思わず口角を吊り上げる。
これだ。これを待っていた。
自分が手こずるほどの強敵を打ちのめし蹂躙するこの感触。これを味わうことこそがクラムベリーの生き甲斐だ。

マミは涙が出そうな激痛をそれでも堪え、この瞬間を防衛ではなく攻撃に利用した。
握られている足を支点にしての頭部への蹴撃。当然、これはクラムベリーのもう片方の手で止められる。
それを狙ったかのように、マミはマスケット銃をクラムベリーへと突きつける。
クラムベリーは眼前に突きつけられたそれをのけ反り躱しつつ、マミの両脚から手を離しオーバーヘッドキックの要領で背部を蹴りつける。

背中に走る激痛に耐え、落下中にありながらも照準を狙いすまし引かれた引き金。その弾丸はクラムベリーの腹部に着弾した。


314 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 18:59:09 VZx9pmyc0

互いの顔が苦悶に変わるのも束の間、二人はすぐに次なる行動へと身を翻す。

クラムベリーは腹部の痛みなどものともせずにマミを追い、対するマミは高所にリボンを放ち括りつけリボンを縮めることで宙へと舞う。
跳躍し更にマミを追うクラムベリー。彼女に対し、マミはそのまま逃げるのではなく逆にリボンで反動をつけ迎え撃った。逃げたところですぐに追いつかれるという判断からだ。
両者は空中で衝突し、拳と銃が交叉する。
打ち、躱し、撃ち、躱す...
そんな目にも止まらぬ速さで行われる攻防を交わしつつ、二人は重力に従い落下していく。
着地の寸前で二人はほぼ同時に弾き飛ばされるように距離をとる。

(どこまで羽ばたけるというのですか...巴マミ!)
(この人、強い...私の戦ってきた今までの何者よりも!)

片や純粋な称賛を、片や純粋な焦燥を抱くが、それが相手に届くことは無い。

ザリザリ、と両者とも指で地面を削り勢いを抑え、息をつく間もなく次なる技の準備へと移る。
マミの手に巨大な銃が模られていくのを見て、クラムベリーも己の魔法の行使を決心する。

(あまり使いたくありませんでしたが)
「ティロ」

クラムベリーは、自分の魔法を攻撃に用いることはあまりない。
というのも、彼女の音を自由自在に操れる能力は対人戦闘においては強すぎる。
彼女のレベルになれば、音波などという生易しいものではなく衝撃波めいた攻撃もできるし、更に応用をすればまともに戦うことすらなく相手を殺害できたりもする。
極力、戦闘を愉しみたいと考える彼女は、それ故に極力攻撃での使用を避けてきた。

(ですが、あなたなら問題ないでしょう、巴マミ)

だから、いまここでその魔法を使うということは、この強力すぎる魔法を使っても構わないほどの強敵であると認めたということだ。
己の最大の技をぶつけ合う。これほど解りやすいシチュエーションもないだろう。

「―――大爆音(フォルティッシモ)」
「フィナーレ!!」

二人の声が重なり、両者の大技が同時に放たれる。

大砲と巨大な衝撃波の衝突は、大気を揺らがし、地を、建物を削り、その周囲には何物をも存在を許さない。
両者の意思が、想いが込められた二つの強大なエネルギーは、やがて収束し辺りを閃光に包む。

起こるのは、ミサイルでも落ちたのかと間違うほどの爆発。
それは周囲のものを根こそぎ飲みこみ塵と化していく。
その中心に残されたのは半径20メートルほどの巨大なクレーターのみだった。


315 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:00:01 VZx9pmyc0


「...まさか、相殺するとは」

己の技の起こした惨状を見下ろしながら、クラムベリーはポツリと呟いた。
技が衝突した直後に、爆発の被害を避けるため、ビルの壁を蹴りつつその屋上まで昇っていた。
そして、それは巴マミも同様で、彼女もまたリボンで近くのビルの屋上へと昇り己の魔法で折れた足の治療をしていた。

「正直に言って驚きました。あの技には自信があったのですが」
「その割にはあまりショックを受けないのね」
「当然です。これほどの強さを持つあなたに勝利を収めた時、どれほどの喜びが待ち受けているか...想像だにできません」

二人は、今の攻防でだいぶ力を消耗してしまった。
しかし、まだ動ける。まだ戦える。
どちらかが動けるまでクラムベリーは戦いを止めようとは思わないし、マミも大人しくやられるわけにいかないと抵抗を余儀なくされる。
己の必殺技をぶつけ合う最高のシチュエーションを終えても勝負はまだ終わらない。

だが、この戦いもそう遠くない未来で終わってしまう。
人智を超えた者、その中でも上位の者同士が戦っているのだ。結末はどちらかの死でしかありえない。
だから、いまここで、戦況が動かないこの状況でクラムベリーは伝える。
眼前の強き魔法少女へと、純粋な敬意を込めて。

「感謝します、巴マミ」

クラムベリーはこの戦いをこれ以上なく楽しんでいた。
今回の魔法少女選抜試験では、一番の強者だと認めていたヴェス・ウィンタープリズンが呆気なく死んだことでやる気を半分程は削がれていた。
そんな折にこの戦いへと興じることができた。
一手一手が互いの死に近づき、死に追いやっていく本当の戦い。一歩間違えば自分が死に、一歩手繰り寄せれば勝者となる、かつての悪魔を彷彿とさせる真の闘争。
今までの強者の中でも5指には入る実力を持ってして、互角の戦いを演じてくれたのだ。クラムベリーはこれ以上なく満たされていた。
あとは、巴マミの命を獲ればもう言う事は無い。ここで脱出してしまうことになっても悔いはない。

「礼を言うくらいなら、もう誰とも戦わないでくれると嬉しいのだけれど」

一方のマミはこの戦いをこれっぽちも楽しんでなどいなかった。
そもそも彼女は痛いのだとか恐いのだとか、そういったものがついてくる戦いが怖かった。
己の技に名前をつけるのだって、幼いころにアニメで見た魔法少女のように名前をつけて叫ぶことで恐ろしい戦いの中で自分を奮い立たせるためである。
一人で活動していた時は常に我慢し続けてきたし、そうしなければやっていられない程には戦いが嫌いだった。
マミはクラムベリーとは違う。戦いなんかよりも友達と遊んだりスイーツを食べたりするのが好きな年頃の娘である。
だから、自分と互角の敵なんて欲しくは無いのも当然である。

「無理です。私は強い相手を凌駕し勝利するのが生き甲斐ですから」
「...そう。残念だわ」

戦いを通じ強者が互いに認め合う。立場の違う強者たちが明日には肩を並べて酒を飲み交わす。
そんな王道的なシチュエーションもこの二人にはありえない。
性格、戦闘スタイル、行動方針。なにからなにまで噛み合わず、互いに妥協など考えつかないのだから尚更だ。

二人の視線が空中でぶつかり火花を散らす。
おそらく、これが正真正銘最後の衝突。
あと数分後に戦場に立つのは一人。勝者は生存、敗者は死。
彼女たちの戦いは、それでしか終わらせることができない。

互いに踏み込み、決着に臨む。


316 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:00:36 VZx9pmyc0





瞬間。




クラムベリーは聴き取った。

背後より高速で迫るなにかを。

そのなにかに対処しようと振り向くも、間に合わない。

突如飛来した真っ黒な影は、クラムベリーへと飛びつき屋上より突き落とす。

ここまでやられればもう為す術はない。あとは落ちるだけである。

その影の正体が、先程逃がした佐山流美だと知ったクラムベリーは驚愕した。


317 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:01:57 VZx9pmyc0

「ひっ、ひぃっ!」

流美は涙目になりつつも、次なる行動に移る。
懐より抜くのはナイフ。これを突き立てんと流美はクラムベリーへと振るう。

(死ねっ、死ねよ!)

だが、ナイフはあっさりと弾かれ彼女達よりも早く地上へと落下する。

(マズイ、マズイマズイマズイ!)

伸ばされるクラムベリーの掌から全力で逃げるように彼女の身体を踏み台にして跳躍。
そのまま、先程の屋上へと手を伸ばすが―――届かない。
外壁を掴むための手は空を切り、その身は重力に従い呆気なく落ちてしまう。

まさにピンチ。流美の涙が宙へと零れ落ちる。

「佐山さん!」

彼女の救いとなるのは、もう一人の魔法少女の声。
マミもまた、流美を救うために屋上から跳び下りたのだ。

屋上にリボンを縛り付けたマミは、サーカスの空中ブランコの要領で流美の腕を握りしめ、身体ごと抱きかかえる。
その温もりを肌で感じながら、流美はちらりと地上を見る。
この高さから突き落とされたのだ。流石にあの怪物も死んで...







「私としたことが、少々不覚をとりました」


318 : Magia Record -真魔法少女大戦- (3) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:03:09 VZx9pmyc0

否。クラムベリーは生きていた。
コキコキと首を鳴らしつつ、落ちる前とほぼ違わぬ様相でだ。
たかが屋上より突き落とした程度では、クラムベリーを殺すことなど不可能だったのだ。

地上より見上げるクラムベリーに、流美の喉がヒッと鳴る。
間違いなく怒りを向けている。
まともに戦えば、間違いなく殺される。
その恐怖を堪えるかのように、流美は強く掌を握りしめた。

一方のマミは、そんなことでは一々驚かない。
むしろ、あれほどの戦いを演じておいてあの程度で死ぬとは考えられなかった。
クラムベリーがケロッとした顔で立ち上がったところで、それもそうだろうという感想があるのみである。
だが、マミの気持ちになんの変化もないかといえばそうでもない。
巴マミは浮かれていた。
彼女は魔法少女として多くの人間を守ってきたが、それを魔法少女以外に知られることはなく、守ってきた人々がマミの力になってくれたことなど一度もない。
だから、流美を逃がした時もそんなことは期待せず、いつも通り魔法少女として一般人を守ろうとしただけだった。
だが、彼女は戻ってきた。どんな形にせよマミを助けようとしてくれた。
それが溜まらなく嬉しい。
自分の重ねてきたことは間違っていなかったと胸を張って言えるような気がした。

己の胸に顔を埋めた流美が震えている。
そっと手を頭に乗せると、流美の身体がビクリと反応した。

「ごめん...巴さん」
「大丈夫よ、佐山さん。私があなたを守るから」

声に出して、改めて決意する。自分は絶対に一般人を見捨てない。
必ず守り抜いてこの殺し合いを止めてみせると。

(守る人がいれば、私はいくらでも強くなれる。なってみせる)

身体が軽い。もう何も怖くない。

独りではなくなった巴マミに、恐れるものなどなにもない!









ブスリ、と巴マミの背中に刃物が生えた。

ぇ、と小さく声が漏れ、リボンは力を失くしたように頭を垂れてはじけ飛んだ。

自分に起きたことの理解に頭が追いつかなくて。

落ちながら、雪のように消えていく魔法の粒子を眺めることしかできなかった。

何故、どうして、意味がわからない。

答えはまだ出ていない癖に、マミの目からは既に涙が溢れていた。


319 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:07:35 VZx9pmyc0




私は、どこで間違えたんだろう。

ずっと、ずっと町の皆を守ってきた。
痛いのも、苦しいのもずっと我慢してきた。

ここに来てからもそう。
一般人を守ろうと頑張って戦った。
狙われるかもしれなくても、その恐怖を乗り越えた。
...なのに。

どうして、守ろうとした人に殺されなくちゃいけないの。どうして...


そっか。
私が人間じゃないから、しょうがないか。
こんな状況だから、しょうがないのよね。
危なくなったら、切り捨てられるのも、しょうがない、のよね


...こんなの、今まで私が守ってきたものが嘘みたいじゃない。
他人の為に戦うのなんて馬鹿らしくなっちゃうじゃない。


...どうして。

お父さんとお母さんが死んだ時、どうして1人だけ助かろうとしたのかな。

やっぱり、私はあの時死んでおくべきだったのかな。

あの時、私も二人と一緒に死んでいれば、魔法少女になんてならなければ、こんな思いをしなくてよかったのかな。


320 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:08:57 VZx9pmyc0



二人の身体が地上に激突する。

高さにもよるが、ビルと定義される建物の屋上から落ちれば人は死ぬ。
クラムベリーが平気な顔をしていたのは、彼女が頑強な魔法少女で、落ちる際の衝撃を己の魔法の衝撃波で和らげたからだ。

だから、無防備な状態で落ちた佐山流美は本当ならば死んでいる。
しかし、彼女は生きていた。まるでボールのように吹き飛ばされながらも、彼女は健在だった。

彼女が無事だった理由は、マミから渡された支給品の賜物だった。
支給品の中身はガンツスーツ。死してガンツに呼ばれた者に配られる、身体能力を底上げする代物だ。
このスーツのお蔭で、流美はクラムベリーへの不意打ちが成功し、落下しても五体満足でいられたのだ。
本来の用途では支給者以外は使用できないものなのだが、このロワにおいては使用者に合わせてサイズが変更する仕様となっていた。

(と、巴さんは...!)

落下地点を見据える。
いた。
マミは伏していた。
思ったよりも外傷は派手ではないが、血だまりに沈み倒れていた。

いましがたマミを刺したナイフを強く握りしめ、トドメを刺さんと駆ける。

が、流美の腕を掴みそれを防ぐ者が一人。クラムベリーである。

無言無表情のまま流美を持ち上げ、腹部へと膝蹴りをいれる。
そのまま飛ばされることを許さない。吹き飛びかけた流美を掴み、地面に叩き付け、苛立ちをぶつけるガキ大将のように蹴り飛ばす。

(私の危惧したことが起きてしまった)

クラムベリーは顔にこそハッキリとは出さなかったが、静かに怒っていた。
弱者が強者を打ち倒す。それだけならばまだ構わない。
だが、道具だけならばいざ知らず、あまつさえ甘さに付け込み裏切り、弱者がロクに戦わずして強者を屠る。
それを巴マミという極上の獲物にやられたのだ。
これを下らぬ結末と、侮辱と言わずしてなんというか。


321 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:10:19 VZx9pmyc0

(やはり、私の方針は間違っていなかった。赤首輪以外の参加者は、真っ先にその存在さえ排除すべきでした)

「う、くっ...」

常人ならとうに五体粉砕されている攻撃も、ガンツスーツのお蔭でかなり軽減される。
だから、流美もまだ意識はあったし、身体は動かせる。

だが、ゆっくりと歩み寄ってくるクラムベリーに立ち向かうことなどできず、その一歩一歩に対し死神の如き恐怖を覚える。


「なにを呆けているのですか。あなたは巴マミを殺したいのでしょう。ならば、私にもそのナイフを突きつければいい」

「―――ひっ」

クラムベリーより放たれた殺気に竦み、ガチガチと歯が打ち鳴らされる。

(やっぱり無理...あいつには敵わない!)

流美の選択は、戦いでもなく謝罪でもなく、逃走。
生物ならば誰もが保有している生存のための本能。

逃すものか。逃げる流美を追おうとするその足に、しかし纏わりつくような違和感を覚える。
これは重り―――違う。リボン。巴マミの魔法のリボンだ。

「巴マミ...!」
「......」

マミは伏したまま、それでもクラムベリーを行かせまいと魔法を行使した。
だが、クラムベリーにとってこの程度はただの布きれ同然。少し魔法で揺らしてやれば、簡単に拘束から逃れられる。


322 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:12:30 VZx9pmyc0

「...これは失礼しました。そうですね、魔法少女(わたしたち)がこの程度で死ぬはずがない。こんなことも忘れていました」

クラムベリーは、敢えて拘束から逃れなかった。
巴マミがまだ戦おうと引き留めるのだ。あんな小者よりも、優先すべきは眼前の強者との決着である。

「さあ、早くその怪我を治してください。そして決着をつけましょう。心配はいりません。あんな小者の介入は私が二度と許しませんから」

巴マミの怪我はそれほど深くは無い。
落下の高さも大したことはなく、内臓が零れているわけでもない。
折れた筈の足を治した魔法があれば、難なく回復できるはずだ。

「...巴、マミ?」

なのに、マミは動こうとしない。

クラムベリーの足に一本のリボンを括りつけたまま、うつ伏せに倒れているだけだ。

流石に妙だと思い、耳を澄ませる。

呼吸はしている。心臓の鼓動も聞こえる。ならば、いったいなぜ―――

「...っ...う、え、え、ぇ...」

耳に届いたのは、信じたものに裏切られたことを悲しむ、か弱く哀れな少女の泣き声。

本当は、裏切った流美を助けたくなどなかったのでは、とさえ思えるほどの、絶望と涙に歪んだ丸裸の素顔。

ようやくわかった。

クラムベリーの認めた強き"魔法少女"は、もう死んでしまったのだと。



―――パリン。



零れ落ちた少女の涙が、己の全てを絶望に染めあげた。


323 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:13:35 VZx9pmyc0



「はあっ、はあっ...クソッ」

クラムベリーからひたすらに逃げていた流美は、追手がないことを確認すると深く息をついた。

マミを刺したのは、間違いなく流美自身の意思によるものである。
何故、彼女が味方であるマミを刺したのか―――生き残るために決まっている。

幾度かの轟音を聞いた時、流美は、一旦は逃げようとも考えた。
だが、ここである疑念がよぎる。クラムベリーは赤首輪の参加者だ。なら、それとあそこまで戦えるマミは何者だと。
もしかしたら、首輪の色をうまくごまかしているだけで、本当はマミも赤い首輪の参加者なのでは。
もしそうならば、二人の漁夫の利を狙えば、無事に脱出を果たせるのではないか。
その考えに至った流美は、もう一度支給品を検めた。
いまの手持ちは、ナイフと妙なスーツ。入っていた解説書を読めば、このスーツを着れば超人的な力が手に入るとのことだった。
胡散臭いアイテムではあったが、もしこれが本当ならば、もしかしたらイケるかもしれない。
試しに着用し、身体を動かしてみた。まるで体が自分のモノではないほど軽くパワーも溢れててくる。
当たりだ。これさえあれば、大丈夫だ。
流美は気づかれないように戦場へと近づき、二人の戦いを眺めていた。
目で追うことも難しかったが、わかったのは、マミもまた赤い首輪の参加者であったこと、そして全体的に見てクラムベリーの方が優勢だったこと。

(狙うなら、巴さん、だよね)

マミを殺すことができれば、自分は元の場所に戻れる。
今度こそこの手で殺人を犯せば、もう今までの怯えるだけの自分ではなく自信を持っていきていける人生が待っている。
それに、マミとは赤の他人。ならば、殺したところで大して心は痛まないはずだ。

「......」

ほんの少し前の優しくしてくれた思い出が脳裏を過る。
イジメられ続けてきた流美に向けられる純粋な善意。友達になって欲しいとも思ったかもしれない。
やはり標的はクラムベリーにしようか。
しかし、正面から挑めばまず間違いなく勝ち目はない。
だが奇襲ならどうだろうか。奇襲ならば、あの実力差では勝ち目がない相手でも勝機が生まれる。
成功すれば、だが。

悩んだ末に、彼女は決めた。
最初はクラムベリーに奇襲を仕掛け、殺すのに失敗したらマミを殺そうと。

―――やるしかない。殺らなければ、遅かれ早かれ自分は詰んでしまう。

逃げられる最大のチャンスはいまだ。
そう言い聞かせ、ひたすら奇襲を仕掛けるチャンスを待ち続けた。


...この生き延びるための理由付けでさえ、彼女の真意を解することはできない。


324 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:13:57 VZx9pmyc0

彼女が真に恐れていたのは、家族焼殺事件の真実の暴露。もしもこの会場に野崎春花がいなければ、流美は少なくともマミを刺すことはなかっただろう。
真実を知られること自体ではなく、あれほど優しく接してくれたマミに見捨てられるのが怖かった。
マミが見捨てないでくれると信じるのは無理だ。クラスメイトの家族を焼き殺した者を受け入れろという方が無理難題というものだ。
このまま二人で行動していれば、いずれ、その場面には必ず遭遇してしまう。
もしもマミに殺人鬼だと蔑まれ彼女に敵視されれば、もう頭がどうにかなってしまうだろう。
だから、捨てられる前に切り捨てた。勝者となるべく、優しかった彼女を裏切った。

本音を隠し、生き残るためという大義名分を盾に巴マミへとナイフを突き立てた。

その結果がなにも得るもの無しの逃走だというのだから笑い話にもならない。

(もう、後戻りはできない)

佐山流美は本当に独りになった。
もう、彼女の安否を気に掛ける者はいない。

(いないなら、作って利用するだけ...)

マミと仲良くなりかけてしまったから余計な情を挟みクラムベリーに奇襲するという悪手をうってしまった。
もうマミのように甘えようとはしない。単純に道具として使い捨て、生き残るために利用する。
どれだけ薄汚く思われようとも、泥の中を這いずろうとも必ず生き延びてみせる。

流美はただひたすらに逃げ続ける。

その背に這いよる罪と、胸にのしかかる罪悪感の存在を感じながら、それでもただひたすらに向き合おうとはしなかった。


【D-5/一日目/早朝】

【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:疲労(中)、野崎春花と祥子への不安と敵意。 マミを刺したことへの罪悪感、クラムベリーへの恐怖。
[装備]:ガンツスーツ@GANTZ(ダメージ60%)、DIOのナイフセット×9@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0〜1、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
1:クラムベリーから逃げる。
2:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
3:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。


※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。
※本来のガンツスーツは支給者専用となっていますが、このガンツスーツは着用者に合うようにサイズが変わるので誰でも着ることができます。


325 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:14:56 VZx9pmyc0

「これは...!?」

マミのソウルジェムが砕け、瘴気にも似たなにかが渦巻き始める。
いったい何事かとクラムベリーの理解が追いつくよりも早く、ソレは姿を現した。

円環の理の庇護下にある巴マミの本来の時間軸ではありえなかった、魔法少女の絶望の果てにいきつく姿。

おめかしの魔女、キャンデロロ。

理想を追い求める、誰よりも小さく心優しい魔女。


突然の異形の登場に面食らうクラムベリーは、咄嗟に耳を澄ませマミの容態を窺う。

マミの呼吸は―――していない。心臓の鼓動も、聞こえない。
その代わりに増えたのは、この小さき異形。

そこからの理解は早かった。
理屈もわからずオカルト染みた答えだが、そうとしか考えられなかった。

「あなたが巴マミ、だというのですか?」

魔女は言葉を発さない。
ただ、己の存在を示すかのように僕を生み出すだけだ。

「......」

クラムベリーは考える。
この眼前の異形が巴マミだというのなら、コレを斃せば巴マミに勝利したことになるのだろうか。

そんなことを考えている間にも、赤青桃紫と色とりどりな使い魔たちがクラムベリーを取り囲む。
それは魔女の敵意などはなく、むしろ一緒にいてほしいと懇願するようで。
両脚を縛られている使い魔が示すように、離れてほしくないと訴えかけているようでもあった。


326 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:15:41 VZx9pmyc0

クラムベリーは一旦目を瞑り、それを文字通り一蹴。
言葉を交わすこともなく、笑みすら浮かべることのない一撃。

明らかなる拒絶。それを感じ取った魔女は、リボンでクラムベリーを縛り上げ、砲弾を発射する。

爆発と共に轟音が鳴り響き、魔女本人も吹き飛ばされる。

―――くだらない。

爆炎を掻き分け伸びた掌が魔女の頭部を掴む。

「殺す気も無い、痛みを恐れるだけ、ただ闇雲に力を振るう...そんなあなたが私に勝てるはずもないでしょう」

クラムベリーと渡り合った彼女は違った。
殺すつもりで戦った。痛みを恐れつつもそれに打ち克ち戦ってきた。クラムベリーに勝つためにその知恵を、工夫を凝らしてきた。
如何に相容れぬ存在だったとしても、彼女は間違いなく強者だった。

だが、眼前のコレはなんだ。
私と仲良くしてくださいと言わんばかりの殺気のなさ。自己防衛のためだけの攻撃。知恵も工夫もなにもなく、力に頼るだけ...
いま目の前のちっぽけな存在が、あの巴マミの代わりになどなる筈もない。

「あなたは美しく、気高く、強い魔法少女でした。こんな形での決着となり残念です。...さようなら」

魔女を握る手に力を込める。

グシャリ、と音を立てて魔女の頭部は潰れ、その血がクラムベリーの掌を汚した。

今まで強者を倒すたびに彼女の心は満たされてきた。

だが、勝利を収めたというのに、ここまで空しいだけの結末は初めてだった。


327 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:16:45 VZx9pmyc0

魔女も使い魔も消え去り、数分の沈黙が周囲を包む。

「......」

耳を澄ませ、もう一度マミの生死を確かめる。やはり呼吸も鼓動もない。
あの異形を倒せば息を吹き返す、なんてファンタジーチックなことはなかった。
そんなバカげた期待を微かにでも抱くほど、彼女とのこんな決着は不本意だったことを自覚し、主催からの連絡を待つ。

赤い首輪の参加者を殺したが、主催からの連絡は一向に来ない。
なにか合図を送らなければならないのだろうか。

(...そういえば)

先の事態を振り返る。
もしも二人の攻撃が重なり死んだ場合はどうなるのだろうか。
一人が背後から脳髄を撃ち抜き、もう一人は心臓を破壊した場合で例えるとしよう。
これでは死因が頭部の破損か心臓の破壊かがわからない。そういったややこしいケースではどうなるのか。

(なにか確実に判定できるものが必要ですね。となれば...)

目に行くのは、やはり首輪である。
単純に考えれば首輪になにか仕組みがあり、それを知るには回収するしかない。

巴マミの死体の首に手をかける。力を込め、ゴキリと首の骨をへし折る。
そのまま剥がすように引き伸ばせば、ブチブチと皮と筋線維の千切れる音が鳴り、胴体から離れた頭部がころんと地に転がった。
手に入れた首輪の内側をなぞっている内に、なにやらボタンのようなでっぱりを発見。
押してみると、首輪からファンファーレのような音が鳴り響き、「おめでとうございます!あなたは見事赤い首輪を手に入れました!」などと陽気で場違いなアナウンスが流れ始めた。

(なるほど。コソコソと隠れているだけの者では手に入れられない仕組みになっているのですね)


首輪のボタンを押してから数十秒。

ジジジ、と微かな電子音と共に、クラムベリーの傍らに巨大な黒球が現れた。
転送された、と言い換えてもいいだろう。

パッ、と液晶に光が灯り、クラムベリーのデフォルメされた画像の横になにやら文字が並べられる。


『もりのゴリラ』


「ウケ狙いのつもりですか?くだらない」と呟くと、次いで『ミッションクリア』の文字が浮かび上がり、画面はまたもや変化する。


328 : Magia Record -真魔法少女大戦- (4) ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:18:03 VZx9pmyc0

『めにゅ〜
1.元の世界に帰る。
2.武器を手に入れる
3.情報をひとつ手に入れる。
4.その他(参加者の蘇生は駄目よ)』

(赤首輪を殺しても必ず生還を強制されるわけではないようですね)

ふむ、と顎に手をやり一旦考える。
まず、一番は考えられない。巴マミほどの強者がまだいるとなれば、やはりここで帰るのは惜しく思う。
二番も自分には必要ない。己の魔法と身体。それだけで勝ち残るのが彼女の流儀である。

となれば、残るは3番と4番だが、さてどうしようか。

クラムベリーはマミの頭部へと目を向ける。
埋葬などはしない。死者に涙を流すような情も持ち合わせていない。
だが、彼女の顔はしかと脳裏に焼き付ける。悔しさと悲しみの涙に濡れた、絶望の表情を。
これは自分で作り出したものではない。自分のミスの産物にしかすぎない。もう二度とこんなつまらない結果で終わらせはしない。
赤首輪以外の参加者は必ず根絶する。
そう心中で改めて誓い、彼女は空しき勝利の報酬へと手を伸ばした。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ 死亡確認】
※魔女の結界は制限により張られませんでした。


【C-6/一日目/早朝】
※巴マミの死体が首が切断された状態で放置されています。


【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中〜大)、全身及び腹部にダメージ(中〜大) 、出血(中)、両掌に水膨れ、静かな怒り
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2 巴マミの赤首輪
[行動方針]
基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
0:3番か4番、どちらにするか。
1:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
2:一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。が、状況によっては容赦なく交戦する。
3:ハードゴア・アリスは惜しかったか…
4:巴マミの顔を忘れない。
5:佐山流美(名前は知らない)は見つけ次第殺す。


329 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/23(木) 19:18:36 VZx9pmyc0
投下終了です


330 : 名無しさん :2017/03/23(木) 19:29:41 fp4F/sXg0
投下乙です

全てに耐え続け戦ってきた巴マミ、
強者との戦いを求めるクラムベリー、
人並みで弱く繊細で醜い流美
三者の少女の思いが交差した見事な決戦でした!!


331 : 名無しさん :2017/03/24(金) 00:19:38 oXE5aLjY0
投下乙です
正統派の真面目なバトル展開と岡山の県北の川の土手の下がごときスカトロホモセックスが場所は違えど同居するというのはこのロワならではだと思います
スタンドや魔法で死力を尽くして戦っている人間がいる一方で凶暴化したNPCがどう影響を与えていくのか、また主催側がどのような反応をしてくるのか、続きの予想がつきません


332 : 名無しさん :2017/03/25(土) 16:40:44 rC4tYKP60
一流の料理にハチミツをぶちまけるが如き愚行、そりゃあ音楽家は激おこプンプン丸


333 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/03/31(金) 23:43:12 318x7hmc0
感想ありがとうございました。

吉良良影、如月左衛門、『野獣先輩』、『虐待おじさん』を予約します。


334 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:21:48 7txgmGo60
投下します。


335 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:23:02 7txgmGo60
バ ァ ン(大破)!

屋上への扉が勢いよく開かれ、野獣が転がり出る。

「!...まさか、私の能力から逃げ切るとは」

大した怪我もなく現れた野獣の姿に、吉良は軽くショックを受けた。
無敵ではなくなったもののかなりの信頼を置いていたシアーハートアタックが、承太郎やクソッタレ仗助ならまだしもあんなくさそうなステロイドハゲすら仕留めきれなかったのだ。
その事実、ショックを受けても仕方のないことだろう。

(!あやつの首輪...)

ショックを受けている吉良に代わり、左衛門が野獣の首輪に気が付く。
彼の首輪は自分や吉良のような普通の首輪ではなく、赤色の首輪。
即ち、賞金首とかいう連中の一人である。
奴一人を殺せば脱出できるというのだから、是非ともこの機に討っておきたい。

(...しかし、奴の能力がわからんな)

左衛門が見る限り、野獣はただのくさそうな男である。
接近戦に持ち込めば、戦闘向きではない自分でも勝てそうなほどに覇気のようなものを感じない。
そんな男がなぜ赤い首輪なのかは気にかかる。

その答えは、遅れて野獣の赤首輪に気が付いた吉良共々、すぐに思い知らされることになる。


336 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:23:32 7txgmGo60

「コッチヲ見ロォォォ―――!!」

野獣に続き、階段を駆け上がってきたシアーハートアタック。
それを迎え撃つ野獣は、今度は正面から受け止めるのではなく、己の拳で殴りつけた。

「ホラホラホラホラホラホラホラ」

正に一瞬。
そう、一瞬の間に、無数の拳が放たれシアーハートアタックに打ち付けられる音が鳴り響いた。

吉良は、かつてその身に受けたスタープラチナの拳のラッシュが脳裏をよぎり顔をしかめ、左衛門はシアーハートアタックと無数に手が生えたと思えるほどのラッシュを放つ野獣に驚きで目を瞬かせた。

―――カカカカカカカカン

だが弱い。
野獣の拳は速いだけで、いくら当てようともシアーハートアタックを減速させるにも至らない。

「駄目みたいですね(諦め)」

爆発。
クッソ汚い咆哮と共に野獣の身が爆炎に包まれる。

「...フーッ。悪いね、先に私が脱出できることになりそうだ」

勝利を確信した吉良が、余裕綽々とした態度で左衛門へと向き直る。
左衛門としては、コンビを組もうとした矢先に脱出されてしまうのは不満がないわけではないが、仮に吉良を殺したところでどうしようもない。
自分は新たに組める相手を探し、弦之介や陽炎と会えれば同行するだけだ。この場は素直に吉良を見送ろう。

「うむ...まあ、こればかりは仕方のないことじゃ」
「ふふっ...では、健闘を祈っているよ」

話が解るヤツは嫌いじゃない。
ものわかりが悪い相手は理解できるように納得のいく説明を強要されるし、それでも嫌だと喚く者は論外だ。
ストレスの要因にしかならない、嫌悪感を抱くしかない存在だ。
それに比べて彼(左衛門)はイイ。遭遇時のやり取りはともかく、こういう場面でもごねたりしないのは非常に助かる。ストレスの溜まらない相手だ。

(それはそれとして、私の能力を知ってしまった以上、死んでもらうのだがね)

だが、残念ながら左衛門はシアーハートアタックを知ってしまった。
もしも承太郎と遭遇しいまの自分の顔が割れてしまえば平穏から一歩遠ざかってしまう。
左衛門はここで殺しておく方がいいだろう。

彼から見えぬよう、キラークイーンの腕のみを発現させ、ひっそりと懐のペンを爆弾に変える。
あとはこれを投げつけ起爆させれば、それで片がつく。


337 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:24:43 7txgmGo60

『TARGET』


ポポポポポポ、という電子音と共に機会染みた音声が響いた。
その出所は、まず間違いなく爆炎の中からである。

(まさか...)
『CAPTURED』


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

『BODY SENSOR』

あの爆発を受けて生きていられるはずもない。
だが、この耳に届くモノは間違いなく爆炎の中で何者かが生存している証だ。
吉良と左衛門は思わず固唾を飲みこみ爆炎を見つめていた。

『EMULATED、EMULATED、EMULATED』

綴りの怪しい単語を発し、爆炎が吹き飛ばされる。
クリアになった景色を背景に、ソレは立っていた。

「クゥーン(仔犬)...」


バァ―――――z_____ン


現れたのは、身体が銀色に煌めいた、まさにサイボーグを彷彿とさせる野獣であった。


338 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:27:30 7txgmGo60

現れたのは、身体が銀色に煌めいた、まさにサイボーグを彷彿とさせる野獣であった。

「な、なんだこいつは...!?」

吉良は己の目を疑った。
シアーハートアタックは確かにあの男を爆破したはずだ。
だが、爆炎を巻き上げ現れたのはまるで別人。体型や風貌からして先の男と同一人物であることは窺えるが、この事象を驚くなというのも無理な話だろう。

一方の左衛門は、至って冷静に分析する。
というのも、己も別人の顔の型をそのまま借りる変装術を専ら用いている。
そんな彼からすれば、少し目を離した合間に別人になり代わるなど珍しいものではない。

(ただ、奴はそれを一瞬でやりのけた...流石に赤首輪といったところかのう)

左衛門の術は、水と泥により相手の顔の型をとらなければ使用することはできない。
眼前の男は、それすら必要なくあの爆炎の中、限られた時間でやり遂げたのだ。
自分よりも優れた術士だと認めざるをえないだろう。自然と、身体が強張るのを実感した。

(だが、爆発が効かぬのならば...)

フッ、と口から毒針を放つ。
野獣は直線的に飛来する針を躱しきれず、毒針は肩に刺さった。

「貴様...!」
「悪く思うな。コイツは早い者勝ちだと、先程言った」
「くっ...!」

先程のやり取りをそのまま返されては反論はできない。
脱出するチャンスをフイにされたことに憤りを感じる吉良だが、いまはその怒りを堪える。
眼前のチャンスを逃すのは歯がゆいが、承太郎と左衛門が接触する機会がなくなったと捉えれば問題は無い。
長期的に見ればこの吉良良影にとってはプラスに働く。そんなポジティブシンキングにより、己を自制した。

「アーイキソ...アァ――...」

苦しみ悶える野獣の様子に、左衛門は内心でほくそ笑む。
どうやら爆発のような外部からの衝撃には強いが、毒のような内部への攻撃は通用するらしい。やったぜ。

「アァー...FOO↑気持ちいい〜」

否。
野獣はまだ生きている。どころか、先程の苦悶が嘘のようにご満悦な笑みさえ浮かべていた。


339 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:28:08 7txgmGo60

「毒も効かんとはな...」

もはや呆れかえる程の荒唐無稽さに、左衛門は苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

(くっ...!どうする、これではキラークイーンで直接触れなければ殺せないじゃあないか)

吉良のこめかみを一筋の冷や汗が伝う。
シアーハートアタックは吉良の手持ちの中では間違いなく高火力な能力である。
それが効かないとなれば、残された攻撃手段はひとつ。野獣に直接触れ、彼自身を爆弾に変えることだ。
だが、それでは左衛門に能力を知られてしまうし、なによりあんな得体のしれないものに近づくなど絶対にしたくない。
どう足掻いてもリスクは避けられないのである。

(だが、こんな時だからこそ、冷静に対処しチャンスをモノにするのだ...!)

逆境にあればあるほど燃える、などというスポ根染みた感情などは持ち合わせてはいない。
しかし、いつだって己の生と平穏を諦めないその姿勢こそが、吉良良影という殺人鬼を形成してきたのだ。
彼はこんなものでそう易々と諦めることなどできない男だった。

『よ、良影!その顔がお前の新しい顔なのか!?』

突如響き渡る嬌声。
その聞きなれた声に、吉良は思わず呆気にとられてしまった。

「親父...か?」
『おぉ、良影!我が愛する息子よ!』
「ん?知り合いですか?」
『そうじゃ。良影、野獣よ。ひとまずここは矛を収めてはくれんか』
「おかのした」

ツイている。
この野獣と呼ばれた男は、この吉良良影に親父という頼もしい命を運んでくれたのだ。
親父は吉良良影に味方してくれる『運命』。吉良は、ソレを強く感じずにはいられなかった。


340 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:29:04 7txgmGo60

「アッ、ハッ、ハァッ、ハァッ」

突如、絶頂した時にも似た恍惚な表情を浮かべる野獣。
吉良親子、左衛門の三人は何事かと目を見張る。

ここで少し前の出来事を振り返ってみよう。
野獣先輩は、左衛門から毒針を受けたものの、多少苦しんだ後はスッキリとした顔で受け流してみせた。
毒が弱かったのか?いや違う。甲賀弾正愛用のこの針は、人を死に至らしめるには十分な毒を有している。
では何故野獣先輩は死に至らなかったのか。

左衛門が知る由もないが、この野獣先輩という偶像には、『うんこの擬人化』という、訴えれば勝てる程の大変不名誉な風評被害が纏わりついている。
うんことはそもそも老廃物の塊が放出されたもので、下痢となればウイルスを排出・拡散させる場合もある。
野獣先輩がそのうんこの性質...即ち、ウィルスを吸収した過程を取り除きウィルスを排出したという結果のみを特性として有していれば、甲賀弾正の毒を受けつつも生存したのにも頷ける。
このウィルスとは即ち毒針の毒である。
よって、野獣先輩は即死しない大概の毒なら排出できるのである(適当)。

では、どうやって排出するのか。

ご満悦な表情を浮かべた際に排出された?いや、違う。あれは排出の前兆にすぎない。
うんこの擬人化とはつまり基本構造は人間であるということ。
ならば、取込んだモノを排出できる場所など限られているのは明白である。

野獣先輩はガーゴイル座りの体勢を取り、そして。

「で、出ますよ」
















341 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:30:52 7txgmGo60



野獣邸・リビング。
非情に臭くなった屋上から退避してきた吉良親子、左衛門、野獣先輩の三人と一枚は、互いの持つ情報を交換する時間に移っていた。

「殺し合いって...やはりヤバイ」
「お主、気付いておらんかったのか」
「こ↑こ↓、うちにそっくりなんだよね...」
「親父はどうなんだ」
『ワシも気が付いたら奴の股間を見せられていたからのぉ〜。スマンが、お前の言っていた主催の男とやらについてはなにもわからん』

とはいえ、つい先ほどまで普通に家にいると思い込んでいた野獣たちがロクな情報を持ち合わせている訳もなく、基本的には吉良と左衛門が主導で進んでいた。

「お主の事情もつゆ知らずに攻撃してすまんかった。わしらも生き残るために必死だったのじゃ」
「私からも謝罪しておこう」
「生死かかってるからね、しょうがないね」

明らかに正当防衛の域を超えた殺人技と本心の籠らない平謝りに対しても憤らない野獣先輩は人間の鑑。
そんな寛大な器を持つ野獣が、このような殺し合いなぞに賛同する筈もない。

「頭にきますよ!」

野獣は夢だと思っていた、あの主催の男のセレモニーを思い返し、般若のような形相で虚空を睨みつけた。

(コイツは...思ったよりも扱いやすい奴なのか?)

吉良良影は考える。
コイツを殺すのは困難極まりないことはわかった。では、コイツを味方につけることはできるのか。
敵対していた時の奇天烈な行動とは裏腹に、いまの野獣の態度と言動は思ったよりも常識内の範囲だ。
ちゃんと指示してやれば、こちらには牙を向かず、あの承太郎ですら手こずるような働きをしてくれるかもしれない。
あわよくば、この男が承太郎を追い詰めた際にヤツ諸共爆破―――なんて、考えを父・吉廣もしている頃だろう。

(しかし...どうにも、この男と付き合い続けるのは辛そうだ)

それはもはや理由理屈もない勘にしか過ぎない。
だが、確かに吉良の培ってきた経験が告げるのだ。この男とは関わらない方がいい、と。
しかし有能になりそうな手ごま兼いつでも脱出できる非常用道具を簡単に手放してもいいのだろうか。

ますます考え込む良影へと心配そうにチラチラと視線を送る吉廣。
そんな良影を野獣の如き眼光でひっそりと見つめる野獣。それを見逃さなかった左衛門。



「喉渇いた...喉渇かない?」
「うむ。頂こうか」

唐突な提案と左衛門の自然な流れに、吉良もつい頷き同調してしまう。

「飲み物持ってくる。ちょっと待ってて」

野獣が台所へと姿を消すのと同時、左衛門が吉良へとひそひそと耳打ちをする。

「今の内に離れるぞ。奴とこれ以上関わるのは危険じゃ」

吉良は静かに頷いた。


342 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:31:24 7txgmGo60




ジョロロロロロロ...

ドンッ...

カッ!

サッー!(迫真)



ガチャコン

バンッ


「お ま た せ !アイスティーしかなかったけd...誰もいませんね」


343 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:33:19 7txgmGo60



アイスティー(ホモコロリ混入)を注ぎ終え、待つこと数分。左衛門も吉良良影も姿を見せない。
家中を探し回ってもどこにも見当たらない。
野獣は己の目論見を果たせなかったことにアンニュイな表情を浮かべる。

彼はアイスティーにホモコロリを混ぜてなにをしようとしたのか。
左衛門と吉良を昏睡レイプしようとしたのである。
殺しにかかってきた彼らに怒りを抱いていた?いや違う。重ね重ね言うが、彼はそのことに関してはとうに許している。
彼は、なんでもいいので2ヶ月も溜まった性欲を発散させたかっただけだ。

それに、どことなく吉良の顔立ちはKMRに、左衛門は目付きが遠野に似ている気もしていた。
ちなみにKMRと遠野はそれぞれ『空手部・性の裏ワザ』『昏睡レイプ!野獣と化した先輩』にて彼にレイプされた後輩である男たちである。

であれば、性欲を持て余している野獣先輩が再び野獣と化して吉良たちを食おう(性的な意味で)としてもなんらおかしなことではない。

「しょうがねぇなぁ(悟空)。じゃけん(探しに)行きましょうね〜」

傍から見れば知人を心配する先輩の鑑、しかしその胸の内には底知れぬ性欲を秘め、彼は二人の捜索へと向かう。

その時だった。

ガチャコン、バンッ

「大丈夫か?なにかスゲェ臭うけど」

野獣邸のドアを開き、一人の男が野獣と対面した。

屋上から漂う異臭を嗅ぎ付け、住民を心配しやってきた虐待おじさんである。

「ファッ!?」
「オァ!?」

両者は対面し互いの姿を認め合うと同時に頓狂な悲鳴を上げる。

野獣先輩と虐待おじさん。
彼らはこの名簿上では『真夏の夜の淫夢』からの参加者として扱われている。
しかし、彼らの所属は違うホモビ会社であり、BB先輩劇場でよく見られる光景のように初見から肩を並べて酒を飲み笑い合うことは許されない。

野獣とおじさんは互いに真剣な眼差しになり、戦闘態勢に入る。


味わうのは美酒か、それとも敗北の苦渋か。

COATとACCEED。両社の戦いの果てに待つのは所属を越えた友情か、無慈悲な惨状か。

その結末は神のみぞ知るところにあり、それを知るGOは神である。Q.E.D。


344 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:35:23 7txgmGo60

【E-5/住宅街(下北沢) 野獣邸/黎明】


【野獣先輩@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:背中の皮膚に少し炎症
[装備]:
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:気の向く(性欲を満たす)ままに動く
1:虐待おじさんと戦う
2:吉良と左衛門犯したい...犯したくない?
[備考]
※毒物をぶち込まれると即死性ではないかぎり消化・排出することができる。排出場所は勿論シリ。
※殺し合いを認識しました。
※吉良(川尻の顔)と左衛門の顔をそれぞれKMR、遠野に似てると思い込んでいます。


【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]興奮、頬にダメージ(小)
[装備]日本刀詰め合わせ@彼岸島
[道具]基本的支給品、鞭と竹刀とその他SMセット(現地調達品)。
[思考]
基本:可愛い男の子の悶絶する顔が見たい
0:殺しはしないよ。おじさんは殺人鬼じゃないから。
1:野獣と戦う
2:また会ったらラ・ピュセルを調教する。
3:あのウニ頭の少年(上条)も可愛い顔をしているので調教する。
4:気合を入れ直すためにひでを見つけたらひでを虐待する。
[備考]
※参戦時期はひでを虐待し終わって以降
※ラ・ピュセルを女装した少年だと思っています


【備考】
※吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険が部屋のどこかで野獣を監視しています。
※屋上に野獣先輩の糞が放置されています。匂いは114514Cmの範囲まで届きます。


345 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:36:00 7txgmGo60

左衛門が野獣の眼光に気付き、吉良へと耳打ちしてからの行動は早かった。
野獣に気付かれないよう、気配を殺しつつすぐさま野獣邸を後にした。
あの場に留まればおそらく自分のナニかが終わる。二人共そんな気配を感じ取っていたために意見が合致し躊躇いなく行動に移せたのは幸運と言う他ない。

野獣邸を後にした二人は、これからの行動について話し合っていた。


「わしとしてはなるべく中央に向かいたい。あの野獣との戦いでわかったが、赤首輪との戦いでは、いまのわしらではチト戦力不足やもしれん」
「ふむ、そのために協力者を集うということかな?」
「うむ...して、あやつに任せてよかったのか?」
「親父は頼れる男だ。それに、野獣と共に行動していたなら監視役も最適だろう」

吉廣を野獣の監視に回したのには理由がある。
野獣にはまだ未知の部分が多い。それを解明するには、やはり観察するのが一番だ。
しかし、人の目がある中で彼が本性を露わにするとは限らない。この吉良良影がそうであるのだから尚更だ。
仮に監視しているのがバレても、元々の同行者である吉廣ならば、一度は命を狙ったこの二人よりは言い訳もきくだろう。

(それに...いまこの状況を逃すのも惜しいのもある)
「?なにか言ったか?」
「いや...先を急ぐとしよう」

吉良は、チラリと左衛門の手を見る。

(やはり悪くない...あの男の手を見た後では尚更だ)

野獣の例に漏れず、吉良もまた性欲が溜まっていた。
ただし、吉良が欲の発散は、野獣を含む大多数の人間のように性交によるものではない。
他者の美しい手を愛し、共に暮らすことで発散されるものである。
即ち、彼にとっては手が魅力的であれば後はどうでもよく、その持ち主が如何に歪んだ性根や顔をしていてもなんら問題ないのである。

つまりどういうことか。

吉良は、左衛門の手に見惚れつつあるのだ。

彼は東方仗助たちから一度にげ遂せた後、いまは手を愛でるのは我慢しなければならない禁欲の日々からこの会場に連れてこられた。
そして、左衛門の手も、忍びらしくしめやかに引き締まっており、且つ彼の忍法は使用する度に手を洗うことになるので、中々に磨き上げられている。
更に後押ししたのが野獣先輩との遭遇だ。彼の臭そうな手を見た後では自然と左衛門の手の評価も上がってしまう。
この三つが重なれば、吉良が左衛門の手を目の保養とするのも無理はない話である。

(...そうだ。この機に、承太郎を始末するだけでなく、美しい手を持つ者を探し出そう)

杜王町にはまだ東方仗助や広瀬康一といった承太郎の仲間のスタンド使いが大勢いる。
承太郎を始末すれば捜査の手は多少は緩まるだろうが、それでも確実な平穏とは言い難い。
そう考えれば、この殺し合いはチャンスでもある。脱出の目処が立てば、美しい手を手に入れ今後の禁欲期間の足しにできる。
吉良は、先程までの苛立ちなど嘘のように吹き飛び、俄然やる気に満ち溢れていた。

―――吉良吉影、三十三歳、既婚中。目下『不倫』相手募集中也...


346 : abnormalize ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:36:59 7txgmGo60

【E-5/住宅街(下北沢)/黎明】


【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、半勃ち
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×1、ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出
1:如月左衛門、という奴と同行。秘密を知られたら殺す(最悪、スタンドの存在がバレるのはセーフ)が今は頼れる味方だ。
2:こんなゲームを企画した奴はキラークイーンで始末したい所だ…
3:野獣の扱いは親父に任せる。できればあまり関わりたくない。
4:左衛門の手も結構キレイじゃないか?
5:最優先ではないが、空条承太郎はできれば始末しておきたい。
6:美しい手(かのじょ)が欲しい。

[備考]
※参戦時期はアニメ31話「1999年7月15日その1」の出勤途中です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。


【如月左衛門@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:特筆点無し
[装備]:甲賀弾正の毒針(30/30)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出
1:吉良吉影という男と同行。この男、予想以上に強いのでは…?
2:甲賀弦之介、陽炎と会ったら同行する。
3:野獣先輩からは妙な気配を感じるのであまり関わりたくはない。
[備考]
※参戦時期はアニメ第二十話「仁慈流々」で朱絹を討ち取った直後です。
※今は平常時の格好・姿です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。


347 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:38:12 7txgmGo60
投下終了です

ジョン・コナー、小黒妙子、『MUR大先輩』を投下します


348 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:39:29 7txgmGo60


「えっと...このMURっていうのがあんたの名前なの?」
「そうだよ(肯定)」
「なんで英語表記なのよ」
「知らないゾ」

H-7の寂れた農村。
DIOと雅と別れたMURは、歩くこと約一時間で少女・小黒妙子と少年・ジョン・コナーと遭遇していた。

「......」

妙子の視線が、思わずMURの顎下へと注がれる。
口元のホクロがセクシー...エロイッ!などとホモ的な感想を抱いたわけではなく、彼女が着目しているのは彼の首輪。
見た目どこからどう見てもただの成人済の一般男性にしか見えない。
そんな男が赤首輪を巻いているのだ。これはもう他参加者に殺してくれと言っているようなものだ。

(...コイツを殺せば、あたしは元の世界に戻れる...)

小黒妙子は人を虐めたことはあれど殺したことはない。
それも確固たる意志だとかではなく、単にそれほどの度胸が無かった故にだろう。
しかし、できるできないは別にしても、こんな場所から逃れられるとなれば、嫌でも脳裏に過らざるをえない。
彼女は自然と己の動悸が早くなるのを感じ取った。


349 : 不穏の前触れ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:40:07 7txgmGo60


「駄目だよ。赤い首輪でも殺そうとしたらあの主催の男の思うつぼだ」
「わ、わかってるわよ」

そんな妙子の心境を察してか、ジョンはひそひそと耳打ちし、妙子も己を顧み邪念を振り払う。
目の前の男はどう見てもただの人間であり、且つ脱出に必要な赤首輪の持ち主という垂涎ものの状況だ。
おそらく一般人を殺人に誘導し疑心暗鬼を引き起こすのが主催の狙いだろう。

ジョン・コナーは普段から窃盗をしたり心配してくれた相手への暴言を吐いたりと一般世間的にはクソガキと呼ばれる部類の少年だが、殺人は嫌だという最低限の良心は持ち合わせていた。
だから、この場でも命惜しさにMURを殺そうとは思わなかったし、T-800が他の参加者を殺さないか不安で仕方なかった。

(約束したから大丈夫だと思うけど...やっぱり不安だ)

T-800は、サイボーグであるせいか容赦を知らない。ジョンの命令が無ければ邪魔な者は容赦なく傷付け殺してしまう。
こんな他の参加者がみな敵に為り得る場では一刻も早い合流を余儀なくされるだろう。

(そのためには、僕が無事に生き残らなくちゃいけない)

ジョン・コナーは母親のサラ・コナーから仕込まれた機器に関する技術以外は平凡な子供程度の身体能力しかない。
一人で生き残るのは難しいため、どうしても味方となる人物が必要になる。
その点、最初に出会えたのが小黒妙子で助かった。
彼女は目付きや口調はすこぶる悪いものの、殺し合いに賛同するつもりはなく、同行もすんなり了承された。
彼女が純粋な戦力になるとは思えないが、それでも一人で協力者を求めるよりも同じく一般人がいる方がいいに決まっている。

妙子も妙子で、最初の遭遇がジョンでよかったと思っている。
ここに連れてこられる前、彼女はクラスメイトの野崎春花を虐めていた。
本当は、春花が憎かったわけじゃない。ただ、彼女が相場晄になびいていくのが許せなかった。あんな男になびかず、自分を見てほしかった。
そんな嫉妬心とクラスメイトからの持ち上げから引けに引けなくなって、気が付けばイジメの主導者となっていた。
その果てにあったのが、佐山流美率いるクラスメイトによる春花の家族への放火事件。
妙子は何度も後悔した。なぜ止めなかったのか。なぜ本気でやるわけがないとタカを括って煽るような言葉を吐いてしまったのか。
そう思い悩んでいた折に呼び出されたのがこの殺し合いだ。わけがわからなかった。だが、やらなければならないことはわかっていた。
野崎春花を死なせない。その意味は多分にあるが、それが当面の彼女の目標であった。
とはいえ、そのために身命を賭せるかといえばそうでもなく。かといって彼女のために他の参加者を殺しまわる覚悟もない。
そんな勇気と度胸があれば、彼女はイジメなどやるはずもない。
つまり、彼女は現状ではとにかく死にたくない、その上で春花を危険な目に遭わせたくないというある種臆病な気持ちでこの殺し合いに臨んでいた。

そのせいで、自分一人では、また状況に流されないという保証はない。さきほどのように、自分にも機会があれば赤首輪の殺害による脱出の算段を計画してしまう。
それを戒めるためのストッパー役として、ジョンは最適だった。こんな状況でも冷静に動ける彼がいれば、流されることなく春花と再会できるはず。
現に、MURの首輪を見て揺らぎそうだった妙子を諌めてくれた。
戦力にこそはならないものの、あのクラスメイトたちよりはだいぶマシだろう。
そんな思いで、彼女はジョンの同行を受け入れた。


350 : 不穏の前触れ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:41:13 7txgmGo60

それから程なくしてMURと遭遇し、三人での情報交換の時間としゃれ込むことになった。

「吸血鬼にサイボーグって...バッカみたい」
「けどあいつらはすっげえ怖かったゾ」
「そんな嘘をつく意味はないから僕は信じるよ。サイボーグだって嘘じゃない」
「ハンッ、んなことわかってんのよ。こんな状況だもの、なにがあってもおかしくない。...あたしが言いたいのは、そいつらとどう接すればいいかってことよ」

吸血鬼にサイボーグ。
それが嘘か真か確かめる術は現状はないが、妙子としてはそんなおっかないものには極力触れたくない。
仮に対面した時、どうすればいいというのだ。

「DIO達とはあっちで別れたからあまりあっちには行かない方がいいゾ」
「...僕も、なるべく彼らとは関わらない方がいいと思う。危険はなるべく避けるべきだよ」
「同感。じゃあ、万が一にもそいつらが追ってこないように、早く出発するわよ」

バケモノになんて関わりたくない。
妙子は、いそいそと荷物を纏めて出発の準備をする。

「あ、おい待てィ(江戸っ子)。その前に調べたいことがあるゾ」

唐突に呼び止めるMURに、妙子は訝しげな視線を送る。

「なによ、あんたの言ってたDIOとかいう奴らがきたらどうするのよ」
「DIO達は別の方角に向かうって言ってたから心配ないゾ」
「手伝って欲しいことってなんなの?」
「...こっちだゾ」

珍しく先導するMURに導かれて辿りついたのは、一際巨大な鉄の扉。
なにやら封印染みたものを連想させる造りである。


351 : 不穏の前触れ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:41:50 7txgmGo60

「...これはなに?」
「お前達と遭遇する前に見つけたモノだゾ。一人で調べるのも怖かったから手伝ってくれ」
「いや、でも見るからにマズイでしょこれ」

妙子の住んでいる場所は田舎である。あそこにも祠のような不気味な場所はあるが、これはその比ではない。
いまここに立っているだけで祟られそうな雰囲気さえ醸し出している。

「や...やっぱりやめましょうよ。触らぬ神に祟りなしって言葉は知ってるでしょ」
「殺し合いがしたい主催がそんなオカルトチックなものを置くはずがないよ。あいつが見たいのは僕らの殺し合いなんでしょ?だったら、原因不明の脱落なんて望んでいないはずだよ。まあ、僕はそんなもの信じちゃいないけどね」
「そうだよ(便乗)」

ジョンの言う事は理に適っている。
借りに祟りだなんだが実在したとしても、ここに置く理由がない。
そのせいで死んだところで殺し合いの趣旨には反するだろう。
ただ、それでも妙子からはここが不気味すぎる上に奇妙な胸騒ぎは払しょくできなかった。

「嫌なら僕らだけで行くよ。行こう、MUR」

率先して足を踏み入れるジョンに続き、MURもそろそろと足を踏み入れる。
取り残された妙子は、きょろきょろと周囲を見渡し、結局残される不安に勝てずジョンたちの跡を追うのだった。


352 : 不穏の前触れ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:42:26 7txgmGo60




ジョン達が足を踏み入れた施設。その遙か地下...



ペタッ...ペタッ...



なにかが這うような音が木霊している...



「ン エ エ エ エ エ エ」



もぞもぞと壁を伝い蠢く一つの巨大な影。



それは、徐々に、着実にジョンたちへと近づいていた...。


353 : 不穏の前触れ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:43:46 7txgmGo60

【H-7/一日目/寂れた農村・地下通路/黎明】


【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0:この怪しい場所を調べる。
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。


【小黒妙子@ミスミソウ】
[状態]:健康、不安
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:とにかく死にたくない。
0:暗いし怖いし不気味なんだけど。
1:野崎を...助けなくちゃ、ね。

※参戦時期は佐山流美から電話を受けたあと。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。
0:とりあえずこの施設?を調べてみる。
1:T-800と合流する。
2:T-1000に要警戒。

※参戦時期はマイルズと知り合う前。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


354 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:45:30 7txgmGo60
投下終了です。

ガッツ、野崎祥子を投下します


355 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:47:39 7txgmGo60
ゴリ、ゴリ、ゴリ。

無機質な物を引きずるような音がひとつ。
その主は、丸太を引きずりながらその足を進めるガッツ。
黒衣に身を包んだ復讐者である。

とこ、とこ、とこ。

そんな可愛らしい足取りと共にガッツの後をついていくのは、一人の小さな少女。野崎祥子だ。
二人はトロールとの戦いから向こう、あてもなく足を進めていた。

「オイ。なんでついてくる」
「名前、まだ教えてもらってないよ」
「...ガッツだ。これでいいだろ。さっさと知り合いでも探しに行きな」

シッシッ、と掌を振り祥子に目もくれず再び歩みを進める。
しかし、祥子はそれでも構わずガッツの後についていく。

「聞こえなかったのか、ガキ」
「ガキじゃないよ。祥子だよ」

ガッツは思わずげんなりとした表情を浮かべる。
これだからガキの相手は嫌なんだ。と、思わず舌うちをしてしまう。
そのまま無言で歩くが、祥子も声をかけずにそのままついていく。
どころか、なにかムキになったのか、その歩みは次第に早まりガッツとの距離はドンドン縮まり、やがては隣に並び立った。


356 : ひとりきり ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:49:37 7txgmGo60

「なにか用件でもあるのかよ」
「お姉ちゃんを探してほしいの」

こんな何の変哲もない少女の家族が連れてこられている。その事実を聞いたせいか、再び舌打ちが漏れてしまった。

(なにがやりてえんだ、あの男は)

戦場なら数えるのも億劫なほどに渡り歩いてきた。屠ってきた兵士や戦士も数知れないほどにいる。
だが、そんな彼でも戦う術を持たない町民を襲うようなことはなかったし戦いたいとも思ったことはない。
ではそんな無力な人間が戦場に放り込まれればどうなるか。殺されるだけだ。なんの面白みもない。

使徒がいる中にこんな餌同然の弱者を放り込む。気に入らない。あの主催の男が、気に入らない。

「...ソイツの名前はなんだ」
「春花。野崎春花だよ」
「どっかで会ったら伝えておいてやる。それでいいだろ」
「嫌。あたしと一緒に探して」

ガクリ、と思わず頭を垂れてしまう。
なんなんだコイツは。なんで付いてくる。
もしかしてアレか。形的には助けたことになっちまってるから、それに甘えようとしてるのか。

「...いいか。さっきので助けてもらえたからこれからも助けてくれる、なんて思ってんならソイツはお門違いだ。さっきの奴らはたまたまお前を狙わなかっただけだ」

ガッツは、お高い貴族のように人助けを生業になどしない。
使徒や悪霊どもの好きにされるのが嫌だから、結果的に助ける形になることはよくある。
だが、時には敵を殺すために弱者を囮にすることだってあるし、相手が子供でも人間をやめていれば容赦なく殺したりもする。
守るための戦いなどガッツは慣れていないのだ。

「もしてめえが邪魔になったら、丸太(コイツ)を止めるつもりはねえ。わかったか」

丸太の先を見せつけ、脅すように忠告する。
流石に気圧されたのか、祥子は沈黙の後に黙って頷いた。
ガッツはそれを見届け、止めていた歩みを再び動かす。しかし、祥子もまた彼の隣へと並び立った。


357 : ひとりきり ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:49:58 7txgmGo60

「...オイ。聞いてなかったのかよ」
「聞いてたよ。でも、ガッツを一人にしたくないもん」

"一人にしたくない"。その言葉にガッツの頭は真っ白になり、気が付けば祥子の胸倉を掴み持ち上げていた。
まるで鬼のような形相で睨むガッツに、さしもの祥子も冷や汗をおぼえる。

「―――――――」

喉から出かけた言葉をぶちまけようとして―――止めた。
自分がなにを言おうとしたのかもわからない。
余計なお世話だ、生意気な口をきくんじゃねえ、目障りだ。どれも違うような気がする。
ただ、こんな子供にムキになるのはアホらしいとは思った。
自分はなにを言おうとしたのか。忘れてしまったその言葉も、もう考える気にもならなかった。

「...そうかよ。勝手にしな」

祥子を地面におろし、ガッツは再び歩みを進める。
隣に祥子が並んでも、もう文句は言わなかった。

(...やっぱり、ガッツも寂しいのかな)

祥子は、彼の隣を歩きながら漠然とそんなことを考えていた。
ガッツは厳しい口調で何度も注意してきたけれど、一度たりとも『ついてくるな』とは言わなかった。
単に偶然なのか、それとも祥子を傷付けまいと彼なりの本音を隠した優しさなのか...

その答えが解らずとも、彼女のすることは変わらない。
ひとりぼっちになった春花を、ひとりぼっちになろうとする彼を独りにはしたくない。

ガッツの大きな歩幅に合わせるよう、祥子は頑張って彼のペースに追いすがる。

武器は丸太の厳つい顔した黒衣の傭兵と吹けば倒れてしまうような幼い少女。

二人の進む道は未だに暗いが、それでもいまは真っ直ぐ歩けているようだ。


358 : ひとりきり ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:50:17 7txgmGo60


【D-6/商店街/一日目/黎明】




【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ゴドーの甲冑@ベルセルク、青山龍之介の丸太@彼岸島
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:使徒共を殺し脱出する。
1:もう勝手にしやがれ。
2:ドラゴン殺しが欲しい
3:己の邪魔をする者には容赦しない。


※参戦時期はロスト・チルドレン終了後です。
※トロールをいつもの悪霊の類だと思っています。



【野崎祥子@ミスミソウ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:今度こそお姉ちゃん(春花)を独りぼっちにしない。
0:お姉ちゃんと合流する。
1:ガッツは春花に似てるので放っておけない。

※参戦時期は18話以降です。


359 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/03(月) 00:51:34 7txgmGo60
投下終了です。

甲賀弦之介を予約します


360 : 名無しさん :2017/04/03(月) 22:07:52 RZIQRRNI0
投下乙です
三連続投下を見事敢行とかこれって…勲章ですよ…
ぎこちないながらもコミュニケーションをとってとりあえずの同行を始めたガッツ達が下北沢に接近しているのが気になりますね
虐待おじさん達に続いて早々に同作キャラと出会う可能性もありますね
ホモコーストのことも考えるとどうなるか予想がつきません


361 : 名無しさん :2017/04/04(火) 19:50:57 DoY5CeZg0
投下乙です、
瞬く間に三作を投下され、ついに全参加者が出揃いましたね
これからの不穏希望がありますがどの組も頑張って欲しいですね


362 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/06(木) 18:15:13 zjz1op.20
投下します


363 : 紅い雫滲む唇に ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/06(木) 18:16:53 zjz1op.20
「......」

あの謎の男に呼び出され、気が付けばこのような場所に捨て置かれていた。
始めは我ら甲賀卍谷衆と伊賀鍔隠れ衆の面々のみを集めたのかと思った。
だが、それにしてはチト妙であった。
お上の気が変わり互いの10人を取りやめ、どちらかの谷が全滅するまで戦わせるつもりであれば、納得はできずともまだ理解はできる。
だが、あの場にいた者の中には、忍とは到底思えない者が大勢いた上に、赤い首輪を斃せばこの殺し合いから抜け出すことが出来るという。
この時点で矛盾だらけだ。

加えてこの名簿。
伊賀も甲賀も知る名はほとんどなく、ましてや互いに選ばれていた10人の名もほとんどない。
わしの知る名は陽炎と朧殿に薬師寺天膳。そしてこのわし、甲賀弦之介だけだ。

(よもや、わしら四人は徳川の者ではない何者かに囚われこの殺し合いを強制させられているのだろうか)

なぜこの四人に絞ったのかはわからないが、これならばしっくりくる。

「ふむ...」

なぜこんな真似をしたのか、あの殺し合いを催した男に問いただすのは当然としても、そこに如何に辿りつくかが問題だ。
あの男は言っていた。
『赤い首輪は脱出の鍵であり手強いヤツだ。他の参加者と協力し打ち倒すのを勧める』と。

だが、それは状況によっては更なる争いを誘発する。見事赤首輪を打ち倒したところで、脱出できるのは一人のみ。
結局、その権利を奪い合い真の殺し合いへと昇華してしまうだろう。
故にわしはなるべく赤首輪の参加者を狙うのは避けようと思う。

(ここに刑部がおれば、なにを甘いことをとでも叱られたかもしれぬがな)

そんな脳内によぎるいつもの光景を思い浮かべ、つい苦笑してしまう。
だが、やはりわしは無闇に戦いとうはないのだ。
わしが尽力し犠牲者が減るのならば、それが一番ではないか。


364 : 紅い雫滲む唇に ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/06(木) 18:17:44 zjz1op.20

(当面は陽炎との合流を目指すとしよう)

陽炎は基本的には無力な女だ。
人を殺せはするが、それはあくまでも一般の村人でもできる範囲。武器が無ければ無力も同然。
あやつの忍法はその性質上、女を殺すことはできんし状況がかなり限られる。
その使える状況も、まあ、こんな限られた空間での殺し合いの最中に女を抱こうなどと考える輩もそうはいまいて。

(陽炎もそのことはわかっているはず。無闇に殺しまわり味方を減らすような真似はしまい)

いまは、彼女がただの村人を装い親切な者に保護されていることを願おう。
危機が迫る前に合流を果たし守ってやらねばな。

それと、薬師寺天膳。
彼奴についてはあまり知らぬゆえ断定はできぬが、伊賀のまとめ役の風格を感じる男だ。
数では互角のこの機にわしと朧を殺ろうと考えるやもしれぬ。
強く警戒しておいて損はない。

そして。

(...朧どの)

朧。わしと恋仲にあった、伊賀鍔隠れ衆の少女。
共に交わした言葉も、笑顔も、約束も。
彼女との一時、一片たりとも忘れてはおらん。

(だが...)

彼女は、不戦の約定が解かれた途端に、わしの甲賀卍谷衆の仲間を五人葬った。
いや、彼女が直接手を下したわけではない。
しかし、彼女がわしと仗助を伊賀の屋敷へと招き入れ、わしらを気にかけ探しにきたお胡夷、そして仗助が殺されたのは事実。
死んだ五人の首を並べ、ほくそ笑む朧どのの顔が浮かび上がる。
これが彼女の真意だったのか。それとも、そんなことはつゆ知らず、伊賀の者たちの独断でやったことだったのか。
わしとの逢瀬が嘘か真か。
知りたい。知らなければならない。
甲賀卍谷衆の頭領としてではなく、甲賀弦之介という一人の男として。


365 : 紅い雫滲む唇に ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/06(木) 18:18:46 zjz1op.20

だが、知ったところでどうなるのか。
甲賀卍谷も伊賀鍔隠れも、互いに心より相手方の里を憎んでいる者は数多い。
朧どの一人の真意がわかったところで、もう死者が出ている以上、おいそれと止まることはできぬだろう。
朧どのの真意が争いに非ずとも、もはや戦いは止められない。
わしら四人が無事に生還できたとしても、その果てに待つのは互いの命を削り合う闘争の場。つまりは元通り殺し合うだけだ。

(...それでも)

それでもわしは、せめてこの一時だけでも甘い夢に溺れていたい。
朧どのと憎み殺し合うのではなく、ただ二人の男女として手を携えたい。

...嗚呼。未だにこれほど未練があるわしは愚か者なのだろう。

しかし、どうしてもその淡い願いを捨てることはできずにいた。



【Gー5/1日目/深夜】

【甲賀弦之介@バジリスク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する(ただし赤首輪の殺害を除く)。
0:陽炎と合流する。朧を保護し彼女の真意を確かめる。
1:薬師寺天膳には要警戒。
2:極力、犠牲者は出したくない。
3:脱出の協力者を探す。

※参戦時期は不戦の約定が解かれたのを知った直後
※瞳術には制限がかかっています。以下が制限です。
・通常よりも疲労が溜まりやすくなる。
・相手の力量により効果が薄れる。一般人相手ならば自滅を強いることができるが、それなりに経験を踏んだ者ならば抵抗することも可能。
また、赤首輪の参加者に対しては動きを止める・怯えさせるのが精いっぱいである。


※左衛門は書き手枠のため名簿には記載されていません。そのため、弦之介は左衛門の存在を知りません。


366 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/06(木) 18:19:13 zjz1op.20
投下終了です


367 : 名無しさん :2017/04/06(木) 19:05:19 5jn7gmww0
書き手枠だから左衛門が記入されてないとは悲しいなぁ…
しかし天膳様が死んでおられるので彼の知り合いは皆敵意を向けてこなさそうだ、とは思いますね
陽炎の参戦時期?えっ、それは…(困惑)


368 : 名無しさん :2017/04/06(木) 19:45:39 i/KVyD4Q0
投下乙です
ちゃんと普通に現状を確認して全うにこれからどうするかを考えるというストレートな立ち上がりの動きで、このロワでは珍しい正統派対主催といえるのではないでしょうか
ところで陽炎って誰だよお前の彼か?(嫉妬)


369 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/06(木) 23:29:01 zjz1op.20
感想ありがとうございます

>>364 でミスがあったので修正します。

数では互角のこの機にわしと朧を殺ろうと考えるやもしれぬ。


数では互角のこの機にわしと陽炎を殺ろうと考えるやもしれぬ。

ついでに
『隊長』『美樹さやか』で予約します


370 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:48:26 mhTIW/Hs0
投下します


371 : 人外二人、行くあてもなし ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:49:26 mhTIW/Hs0
ガッ、ガッ。

地面へと剣を突き立てる音が鳴る。

眼前で友を喪った美樹さやか。彼女はその亡骸を埋葬するために穴を掘っていた。

「そのくらいでいいんじゃないか」

一心不乱に墓穴を掘りつづける彼女は、同行者の呼びかけによりようやく動きを止める。
見れば、人の一人を埋めてもまだ余りある空間が、如何にさやかが感情任せに穴を掘っていたかを語っていた。

「......」
「あんまり時間をかけるとまた襲われるかもしれんぞ」
「...うん」

思いのほか、隊長の言葉をすんなり飲みこめた自分に思わず自虐染みた苦笑を浮かべる。
こうやって、ちゃんと人の話を聞き入れられていれば、大切な人達を傷付けることなどなかったのに。

仁美の遺体を穴に横たえる。

「......」

もう彼女が動かないことはわかっている。
涙なんてもう枯れて出やしない。
それでも、彼女を埋めることにはどうしても抵抗がある。

いまここで土を被せてしまえば、仁美とは二度と逢えなくなる。
嫌だ。やり直せるものならやり直したいと何度でも思うほどに、置いて行きたくない。

けれど、彼女はここに置いていかなければならない。

同行者の隊長に負担を強いてしまうし、これ以上連れまわせば仁美の身体を更に傷付けてしまうかもしれない。

ならば―――置いていくほかないのだ。

(...ごめん、仁美。あんたの分までまどかは守るから)

いくら謝っても足りない。謝って済ませたいことじゃない。
けれど、いまはそうすることしかできない。
許されなくても、自分が許せなくても、残された友を守ると誓うことしかできない。

覚悟を決め、仁美へと土を被せようとする。


372 : 人外二人、行くあてもなし ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:49:49 mhTIW/Hs0

「待ってくれんか」

寸前で止める隊長に、さやかは訝しげな目を向ける。

「すまんのう。やはり断りを入れるならいまだと思ってな」
「断りって...なにか頼みでもあるの?」
「うむ。お前さんが嫌がるとは思うんじゃが...」

隊長は、一度目を伏せ、意を決して再びさやかへと視線を向けた。

「血を飲ませてくれんか」
「へ?」

キョトン、と呆けた顔になるさやか。
それを見た隊長は、彼女がそもそも自分の存在について知らないことを察する。

「そうか。お前は知らなんだか。見ての通り、ワシは人間じゃなくて吸血鬼なんじゃ」
「吸血鬼...?」

そこから隊長は、吸血鬼のこと、彼岸島の現状などをさやかに大まかに語った。

話を聞いたさやかの第一印象は『胡散臭い』だった。
それもそうだろう。
一年中彼岸花が咲き乱れる小さな孤島、彼岸島。
その島に生息する数々の吸血鬼、多くの村や集落に、砂丘に五重塔、大型研究所等々、観光スポットとしても売りだせそうなほど多彩な施設の数々。
色々とスケールが大きすぎて小さな孤島に釣り合っていない。それが本当だとしたらおそらく彼岸島は悠に日本列島の半分は超えている。

だが、一方でその話を否定しきれない自分もいる。

自分自身、見滝原市に長年住んでいるが、それでもほんの数週間前に巴マミと会うまでは魔女や魔法少女の存在を知らなかった。
どころか、周囲でも噂すら流れていなかった。
あの狭く平凡な市内でも、裏ではあれほど広くおぞましい世界が同居しているのだ。
やはり魔法少女の世界も市内で共に介在するのは釣り合っていないといえる。

もしかしたら、彼岸島のみならずどこもかしこも社会の裏側を探れば理屈では釣り合わない世界があるのかもしれない。
そう、半ば強引に己を納得させ落とし込む。

なにより、そんな嘘をつく意味はないし、隊長は仁美と協力してくれた人だ。
多少の誇張はあったとしても、その全てが虚構ではないだろう。

「まあ、吸血鬼だったら血はいるよね。...いいよ、ほら」
「あ、いやお前のじゃなくてな...」

隊長はさやかから視線を逸らし、チラ、と足元を見る。
その先には、穴に横たえられた仁美。


373 : 人外二人、行くあてもなし ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:50:11 mhTIW/Hs0

「ッ...、だ、ダメだよ!血ならあたしのを飲んでいいからさ!」

もう死んでいるとはいえこれ以上仁美を傷付けたくはない。
その一心で、さやかは袖をまくり己の腕を見せつける。

「いや、そういう訳にもいかないんじゃ。本当はワシも生き血の方がいいんじゃが...」
「...あたしが人間じゃないから?」
「そうじゃない。ワシら吸血鬼は、唾液に強い麻酔の効果がある。牙を立てて飲むとどうしてもお前の身体に入ってしまう。
そうすると、身体から力が抜けて動けなくなり小便を垂れ流してしまうんじゃ」
「えっ」

隊長に噛まれて失禁する自分の姿を想像し、これはナイと率直な感想を抱いた。
最悪、失禁を我慢するにせよ、この殺し合いで動けなくなるのはかなりマズイ。
先程のワイアルドのような危険な男に遭遇すればひとたまりもなく殺されるだろう。
合理的に考えれば仁美の血を吸わせるのが最善だ。だが、美樹さやかはそこまで賢い少女ではなかった。
そんななにもかもに割り切れていれば、絶望に身を沈めてなどいない。

「やっぱ、血を吸わないと死んじゃうの?」
「いや、死にはせんのだが邪鬼か亡者になってしまうんじゃ」
「邪鬼と亡者?」
「邪鬼は超強力な力と身体を手に入れる代わりに、理性はなにもかも吹き飛び人体からはかけ離れた身体になってしまう。亡者は、その邪鬼になりそこなってしまった哀れな化け物じゃ」
「それって元には戻れないの?」
「不可能だ。だから、ワシら吸血鬼は邪鬼にならないようにワクチンとして人の血を吸っておるんじゃ。それに、どの程度の時間血を吸わなければ邪鬼になってしまうのかはワシにもわからん。
ここに連れてこられてからどのくらい経ったのかはわからんが、できればいまの内に血を吸っておいた方がいいと思うんじゃ」
「なるほど」

確かに、あの主催の男に連れてこられてからどの程度経過したのかはわからない。
であるならば、いまの内に血を吸っておこうというのは賢明な判断だ。

ただ、動けなくなる訳にはいかないのでどうにかして別の方法で吸わせてあげたいが...

「...仕方ない」

さやかは、右手に魔法で作った剣を投影。
そのまま大した間もおかず、左の手首を貫いた。


374 : 人外二人、行くあてもなし ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:50:33 mhTIW/Hs0

「な、なにをしておる!?」
「これなら噛まなくても血が飲めるでしょ、ホラ」

隊長の頭上に左腕を掲げ、刺さっていた剣を抜く。
たちまちに血が垂れ始め、隊長は慌ててその血を飲んでいく。

「ぷはっ。も、もうやめんか。見ているこっちが痛くなる」
「ん、わかった」

傷口を指でなぞり、魔力をかける。
すると、瞬く間に傷は癒え血も治まってしまった。

「しかし、さやかのソレは不思議なもんじゃな。あれだけ酷い怪我もあっさり治っておるし」
「吸血鬼ほどじゃないよ」

プラプラと己の腕を揺らして見て、その感触を確かめる。
以前は、キュゥべぇの語った『ソウルジェムの構造は弱点だらけの人体よりよっぽど便利』という理論を心底嫌悪していたが、今では一定の理解を示せている。
手首を切って血を呑ませるなんて芸当、ソウルジェムを持つ魔法少女でなければ不可能だ。

「...じゃ、そろそろ」

仁美の遺体に土をかけ、徐々にその身体は見えなくなっていく。
たちまちに顔の部分だけを残して土は盛られていく。
さやかはそれを名残惜しそうに見つめるが、立ち止まる訳にはいかないこともわかっている。
その過程で、おそらく自分はそう長生きも出来まいと自覚している。

「またね、仁美」

せめて、生きている間は志筑仁美の友達として胸を張れるように頑張る。
だから、もしもあの世で会えたなら、今度こそちゃんと友達になろう。
そんな想いで土をかけ、いまは一時の別れとして区切りをつけた。


375 : 人外二人、行くあてもなし ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:51:39 mhTIW/Hs0

「...隊長はこれからどうするの?」
「そうじゃな。行くあてもないことだし、しばらくはお前についていくぞ」
「あたしが魔女になるかもしれなくても?」
「魔女?」
「あたしの力が尽きたら、魔女っていう化け物が産まれちゃうのよ。たぶん理性もなにもない、絶望を撒き散らすだけの存在にね」
「邪鬼みたいじゃな...まあ、構わんよ。雅様ならおそらくその魔女とやらもコントロールできるはずだしな」
「雅...隊長の信頼してる人だっけ」
「ウム。雅様か明と合流できれば百人力じゃ。そうなればあの犬みたいな男と出会っても怖くないわい」

「あたしが魔女になるとしても、隊長は怖くないの?」
「こう見えても邪鬼は多く見て来たから慣れっこじゃ」
「...ありがとね、励ましてくれて」
「ワハハ、もっと感謝しろ」

鼻に手をやりふんぞり返る隊長に思わず頬が緩み、気持ちが軽くなるのを実感する。
隊長にはだいぶ助けられている。こんな自分にここまで付き合ってくれただけでも感謝しかないというのに、色々と気遣い言葉をかけてくれる。
精神的に参っているいまではかなりの救いだ。そんな彼を必ず友達に会わせてやりたいとも思う。

さやかは隊長の入ったかばんを背負い、途端に隊長は笑みを零し一息ついた。

「ああ、やっぱり人の背中は楽チンじゃ。女子だから明ほど乱暴しないしのう」
「乗り心地悪くなったら言ってね」
「さやかは優しいのう。明ももう少し気遣って背負って欲しいもんじゃ」
「隊長って、少し気が緩むとすぐ明って人の話するよね」
「ん?...まあ、色々と無茶するし放っておけないヤツじゃからな。あいつはワシがおらんと駄目なんじゃ」

楽しげに明について語る隊長と言葉を交わしながら、さやかは足を進める。

人間ではなくなった二人の怪物も、いまこの時は、互いを労りあう祖父と孫のようだった。




【G-4/一日目/黎明】


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意
[装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢
[道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:危険人物を排除する。
1:まどかとマミとの合流。杏子、ほむらへの対処は会ってから考える。
2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。
3:マミには何故生きているのか聞きたい。
4:雅と宮本明を探す

※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。


【隊長@彼岸島】
[状態]:疲労(大)、出血(小)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢
[思考・行動]
基本方針:明か雅様を探す。
0:とりあえずさやかと行動する。
1:明か雅様と合流したい。
2:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。

※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。


376 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:52:26 mhTIW/Hs0
投下終了です

続いて、玄野計と陽炎を投下します


377 : 甘い言葉の蜜薫り立つ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:53:15 mhTIW/Hs0
「玄野どのの知己は、加藤勝と西丈一郎...この二人なのですね」
「ああ」

玄野計は、この会場で目を覚まし程なくしてであった陽炎と名乗る女性と情報交換にとりかかっていた。
自分がなぜこんな殺し合いに呼ばれているのか。ガンツの趣向が変わったのか?
現状ではわからないが、おそらく違うと思う。
ガンツは殺し合いとはいえ、ターゲットはあくまでも星人のみ。定められたルールを守り、呼ばれた者同士が連携をとる意思させ明確にしていれば、内部崩壊など起こらない仕組みであった。
しかし、今回の殺し合いは今までのものとはまったく異色のものだ。

報酬を貰えるのは赤い首輪の参加者を狩った者のみで、他の者はおこぼれを預かることもできない。事前になんの情報も与えられない。
赤い首輪の参加者を全滅させても殺し合いは終わらず、最後の一人になるまで戦わなければならない。これではガンツのミッションのように最後まで協力するのは困難だろう。
なにより、ミッションには必須のガンツスーツさえ配られない始末だ。これは明らかにおかしい。
確かに、配られた支給品には武器が入っていた。
だが、その武器は今まで星人相手に使っていたようなガンツから配られる武器ではなく、本物の銃。
しかもドラマで見たことある拳銃よりも一回りも二回りも大きく、考え無しに引き金を引けば反動でしばらく動けないであろうことは容易く想像できた。
これでは100点ではない星人相手でもかなりの苦戦を強いられるだろう。
星人の討伐をミッションに設定しているガンツにしてはありえない支給品だった。

(...そういえば、いまガンツの転送が始まったらどうなるんだ?)

ガンツの転送は場所と時間に関係なく行われる。もしも、ガンツが転送を始めたら自分はどうなるのだろうか。
晴れて殺し合いから自動的に脱出となるのか、首輪が爆発し死んでしまうのか。

(それとも...ここにいる間は転送されないのか?)

この殺し合いには、自分以外にも加藤勝と西丈一郎、二人のガンツ参加者が巻き込まれている。
ただの偶然か、それともガンツについてなにかを知っている者が意図的にこの殺し合いに招いたか。
もしも後者であれば、ガンツによる転送による脱出など快く思うはずもない。
ならば、なんらかの方法でガンツの干渉を防いでいる可能性が高い。

(...けど、確かめようにも手段がない。いまはとにかく生き残らねえと...)

とにかく、いまを生き残らなければどうにもならない。
この状況を切り抜けるためには、加藤と合流するのを優先するべきだ。
手がかりなどはなにもないが、とにかく先へ進まなければ。


378 : 甘い言葉の蜜薫り立つ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:53:46 mhTIW/Hs0

「玄野どの...」

陽炎が、ひしと玄野の身体にしがみつく。

「陽炎さん...?」
「私は恐ろしいのです...このような、命を命と思わぬ残酷な遊戯が...」

陽炎の身体と声の震えが、恐怖の感情を玄野の心に訴えかける。

「このような弱き身では、すぐにでも虫けらのように殺されかねない...どうかお力添えを...お願いいたします...」
「も、勿論だ。俺は必ずあんたを助けてみせる」

玄野は決して熱血漢ではないし、正義漢でもない。その役割は幼馴染の加藤の役だ。
だが、最低限の良識は持ち合わせているつもりだし、なにより陽炎を守りたいと思わせたのは、彼女の美貌によるものが大きい。
もしもこれが容姿に優れない者であれば、よほどの恩でもない限り、即答はせず玄野も多少躊躇っただろう。

「嬉しい...」

陽炎が抱き着いたまま、顔を上げ玄野と視線を交わす。
その潤んだ瞳に、形の整った容姿に、ほんのりと赤い薄紅の唇に、押し付けられる豊満な胸に、玄野の鼓動がドキドキと脈打つ。

(―――あっ)

玄野のズボンが盛り上がる。
陽炎の漂わす色香に、女の香りにいやがおうでも反応してしまう。
それを知ってか知らずか、徐々に近づく陽炎と玄野の顔。
玄野の心臓は更に高鳴りを増す。
やがて、その距離は互いの息がかかるところまで近づき―――

『計ちゃん』

「だッ、だから安心してくれ!俺、生き残ることに関してはスッゲー自信あるから!」

脳裏によぎった『彼女』の声に我に返り、とっさに陽炎を引き離す。
危なかった。
あのまま流されていれば、浮気してしまうところだった。
陽炎が許してくれればそのままベッドインだ。それだけは駄目だ。タエちゃんを裏切ることはできない。

「まずは俺の幼馴染の加藤を探そうぜ。あいつは頼りになるからさ」
「玄野どのがそう仰るのなら、私は構いません」

常に流れを掴んでいなければだめだ。行動の主導権を握っていなければだめだ。
でないと、いつ流されて過ちを犯してしまうかわかったものじゃない。
玄野は、気を引き締め直し陽炎を先導するように足を進める。
しかし、どうしても陽炎のしなやかで美しい肢体をチラチラと視線で追ってしまうのだった。


379 : 甘い言葉の蜜薫り立つ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:54:07 mhTIW/Hs0

「......」

玄野に悟られないように、陽炎は密かに不満を胸に募らせる。
惜しかった。もう少しで、この男は自分を押し倒し、欲の赴くまま貪ろうとしたことだろう。
そうなれば、彼の支給品を手にすることができたのに...
寸前で企みに気が付いた?いや、その割にはいまでも警戒心は見当たらない。
心に決めた者でもおったか、それとも初心なだけか。
...まあいい。
本当は、頼りになりそうにもない彼の支給品を奪い自分で行動するつもりだったが、守ってくれるというのならそれはそれで構わない。
使い潰し、適当なところで捨てれば良い。

(...弦之介さま)

陽炎を占めるのは、愛しきあの御方のみ。
彼が望むなら、彼のためなら、陽炎はなんだってできる。
この殺し合いの他の参加者を皆殺しにすることも、一人では到底太刀打ちできないと言われた赤首輪に挑むこともできる。
その、はずだった。

(けれど、あの方は私を裏切った...)

だが、陽炎は知ってしまった。
弦之介の心は敵方の朧にあり、自分に向けられることはないことを。
朧を討つ絶好の機会を得ても、彼は討つことができなかった。
それほどまでに、朧への想いは硬かった。陽炎がいくら愛そうとも彼が愛してくれることはないとハッキリわかった。

(手に入らぬのなら、いっそ共に死にたい)

そんな陽炎にとって、彼女の願いを叶える機会を与えてくれたかのようなこの殺し合いは暁光だった。
陽炎の身体は、薬師寺天膳に打たれた毒により余命いくばくもなかった。
だが、その毒はこの通り綺麗に取り除かれており、疲労や怪我も完治させられていた。
それだけではない。
この殺し合いでは、玄野のように忍びではない者が招かれている。
少なくとも、名簿で確認できる中で徳川家の世継ぎ争いに所縁のある者、即ち甲賀と伊賀に組する者は四名。
甲賀の甲賀弦之介と陽炎、伊賀の朧と薬師寺天膳のみ。

これなら伊賀甲賀の争いに他人の力を借りることを恥と思う必要もない。
如何なるものの全てを利用し為したいことを為せばよい。

(私が朧を殺すか、弦之介様が朧を守るのが先か...それとも、私があなたに会い共に死ぬのが先か...果たしてどの解になるのでしょうね)


甲賀卍谷衆がひとり、陽炎。

その女に惚れることは死を意味する。


380 : 甘い言葉の蜜薫り立つ ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:54:28 mhTIW/Hs0

【Cー3/1日目/黎明】

【玄野計@GANTZ】
[状態]:健康、顔面紅潮、半勃ち
[装備]:鉄血帝国ルガー・スペシャル@ブラックラグーン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する。
0:陽炎さんヤバイ、エロイ。
1:加藤と合流。西も、まあ...合流しておこう。
2:浮気はマズイって。

※参戦時期は大阪篇終了以降
※たえちゃんとは付き合っています。

【陽炎@バジリスク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(武器ではない)
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と共に絶頂の果てで死にたい。
0:弦之介様と合流する。
1:薬師寺天膳には要警戒。
2:朧を殺す。
3:朧が死んだ場合、方針をゲームから脱出する(ただし弦之介を脱出させること優先)に変更する。
4:玄野を利用する。

※参戦時期は弦之介が天膳を斬った後。
※左衛門は書き手枠のため名簿に名前がありません。


381 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/13(木) 18:55:25 mhTIW/Hs0
投下終了です。

加藤勝、『ワイアルド』、『ゾッド』、『ロシーヌ』を予約します


382 : 名無しさん :2017/04/13(木) 19:38:29 2QNyZLLc0
(参戦時期は)ダメみたいですね…
玄野に生きろと言うのも酷な話かもしれない


383 : 名無しさん :2017/04/13(木) 19:58:16 BfXGDNZc0
投下乙です

>人外二人、行くあてもなし
死線を超えた後のさやかと隊長のやり取りが和む
頬って置いたらやがて理性の無くなる二人も今この時は人と何ら変わりないな

>甘い言葉の蜜薫り立つ
玄野、ギリギリセーフ
果たしてこれからも耐えられるのだろうか


384 : 名無しさん :2017/04/13(木) 20:47:58 ZmALhA1sO
投下乙です

浮気すると死ぬ
分かりやすい


385 : 名無しさん :2017/04/19(水) 00:14:12 6y3mr1sU0
投下乙です
ここのロワは全体的に不穏なチームが多くて対主催の空気を出しているところも油断できないですね
ひょっとしたらさやかが一番不確定要素の少ない堅実な対主催かもしれません
すごい


386 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/22(土) 23:10:15 mwNUwF3Q0
感想ありがとうございます

申し訳ありません
>>381の予約を破棄し

空条承太郎、朧、野崎春花で予約します


387 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/27(木) 23:55:50 iUJs6BXI0
投下します


388 : 小休止 ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/27(木) 23:56:41 iUJs6BXI0

不死のゾッドから離れて数十分。
追手がないことを確認した三人は、辿りついた病院で承太郎の手当に勤しんでいた。
まずは額の血をふき取りなるべく清潔にする。
次いで止血処置をしようと濡れたタオルで額に触れると、承太郎のこめかみがピクリと動いた。

「え、と...しみるでしょうか」
「構わねえ、そのままやってくれ。できれば消毒も頼む」
「しょ、しょうどく...?」

聞きなれない単語に戸惑う朧に代わり、春花が消毒を探しだしガーゼに染み込ませ出血箇所にそっと触れる。

「私が消毒するから、朧さんは向かいの部屋から道具を持ってきて」
「は、はい」

てきぱきと行動する春花と慌てふためきてんやわんやに動く朧。
互いの歳とは逆な両者の立ち振る舞いは酷く滑稽に映るものであった。

「随分と手際がいいな」
「......」

朧と見比べた感想をポツリと呟いた承太郎の言葉に、春花の顔が微かに陰る。
春花の通う大津馬中学校で、半年以上もかけて彼女は虐められ続けてきた。
机を傷付けたり靴を捨てられたりと精神的な虐めも多かったが、時には傷を負うことも珍しくなかった。
その虐めのことを両親に知られないよう、傷を隠すために自分で適当な治療をしたこともある。
そんな背景から、彼女は怪我をした時の簡易的な対処法を"身をもって"学んでいた。

承太郎は己の言葉に反応し春花の顔に陰りが見えたことには気が付いたが、事情を聞くようなことはしなかった。
人にはその人生の数だけなにかしらの事情があるものであり、そこにわざわざ踏み入る必要はないと考えているからだ。

空条承太郎という男は、女性の扱いに関してはハッキリと言えば上手ではない。
もう少し年齢を重ねれば年下や異性相手にもわけなく接することができるかもしれないが、今の彼はまだ高校生。
春花の精神が荒んでいたとしても、承太郎に丁寧なメンタルケアをする術などなく、メソメソと泣き寝入りしようものならやかましいと一喝すらしてしまうだろう。
彼の仲間であるジョセフにポルナレフ、アヴドゥルや花京院ならばうまく聞き役に徹し慰めや同情の言葉をかけることもできる。
この会場にいる承太郎所縁のスタンド使いであるDIOやホル・ホースにしてもそうだ。彼らは彼らで弱き者の心の溝を埋めることはできる。
承太郎はそれが苦手だ。同情を買うための不幸自慢をされれば尚更だ。

だから、春花が必要以上のことを話さず、自分の境遇をできれば隠したいと思うタイプだったのは、この場においては互いの益だったのかもしれない。


389 : 小休止 ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/27(木) 23:57:05 iUJs6BXI0

「あ、あの...いったいどれが必要で...」

二人は震えた声で問いかける朧へと目を向ける。
どうやって積んだというのか、彼女の両手には手当り次第にかき集めた道具の山がそびえ立っていた。

「えと...」
「...一旦、そいつを全部下ろせ。探すのはそっからだ」

呆れられている。
二人のため息交じりの視線を浴びせられ、羞恥で顔を赤くする朧は言われた通りに道具を下ろそうとする。
だが、積まれた物を下ろす時というのも中々に集中力がいるもので。
崩れないようにとバランスを取ろうとすると、その度に足元がふらふらとよろめいてしまう。
春花が手伝おうとする間もなく、朧は自分の足に躓き前のめりに崩れ、承太郎へと道具を雪崩のように振らせてしまう。

承太郎はほぼ反射的にスタープラチナで道具を集めようとする。
その身体スペックがあれば、いまの傷ついた身体でも一つも零さず回収することも可能だ。
が、己の失態を呆然と眺める朧の視界には、確かに承太郎も入っていて。
ゾッドとの戦いと同様にスタープラチナが解除され、降りかかったボトル詰めの消毒液が春花と承太郎へと降りかかった。

「も、申し訳ございません!」

あわあわと己の失態を謝る朧。
春花はなんとも困った顔で「気にしないで」と声をかけ、承太郎は消毒液塗れの学帽に手をやりひとりごちた。

「やれやれだぜ」


390 : 小休止 ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/27(木) 23:57:43 iUJs6BXI0




一通りの止血処置を施した一同は、腰を据えての情報交換にしゃれ込んだ。

「私の知る名は、甲賀弦之介に薬師寺天膳、陽炎の三名でございます。ただ、弦之介と陽炎の両者とは訳あって少々いがみ合っております。ですが、流石にこの状況でもその諍いを持ち込むことはないかとは思います」
「全員、殺し合いに賛同する可能性は低いと考えてもいいのか」
「...申し訳ありません。弦之介様はともかく、陽炎殿についてはあまり知らず、天膳も誤解を招く言動が見受けられるためなんとも...」

いがみ合っている筈の片割れは信頼し、身内である男は警戒する。中々にややこしい間柄だと承太郎は思った。

「俺の知る名はDIOだけだ。とはいえ、コイツが俺の知るDIOかはわからねぇし、俺の知る男ならコイツほど危険な男はいねえと思っている」
「つまり、殺し合いには賛同する男だと?」
「ああ。そうじゃないにしろ、警戒はしておくにこしたことはないだろう。野崎、オメーはどうだ」
「私は、知ってる人が5人。私の妹のしょーちゃんと相場くん...小黒さん、南先生...佐山流美。しょーちゃんと相場くんは、私の大切な人だから絶対に助けたい」

春花の人物関係については、承太郎も朧もこれ以上踏み入ることはなかった。
それは春花を信用しているのか、それともあくまでも一般人である以上、そこまで危険な要素はないと思っているのか。
なんにせよ、春花にとってそれは幸運だった。
彼らを自分の道に引きずり込むこともないし、流美を追い詰め殺すとでもいえば止められてしまう可能性は高い。
流美を殺すと決めた以上、できれば他者の干渉は避けたかった。


一通りの情報を交換した後、話し合いは次の段階へと進む。
いや、話し合いというよりは確認事項とでもいうべきか。


391 : 小休止 ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/27(木) 23:59:04 iUJs6BXI0

「...スタープラチナ」

呟きと共に、承太郎の背後に出現するスタンド、スタープラチナ。
その超常染みたものに、何度か見た春花も微かに驚きの表情を見せるが、あくまでも微か。驚愕で喚きたてることも感嘆の声を漏らすこともなかった。
一方、朧はスタープラチナを視界に入れぬように両目蓋を閉じている。
やがてゆっくりと目蓋を開けスタープラチナを視界に入れると、瞬間的にスタープラチナはその姿をかき消された。

「やっぱりあんたの眼が原因か。スタンド使いじゃあないようだが...あんた、いったい何者だ?」
「え、えっと...」

どう説明すべきか、と無意識的にキョロキョロと視線のみを動かす朧。
自分は仮にも忍びの身だ。
忍びは表に出ることを許されず、歴史の影に暗躍する存在だ。
それを教えるのは如何なものだろうか。

けれど、承太郎は自分たちを助けてくれた。

恩人である彼にとって不利な要素であるこの眼については話さなければならないし、この眼を語るのに忍びのことを誤魔化す言葉も思いつかない。
ならば、せめて自分のことくらいは正直に話すべきだろう。
それが礼節でありせめてもの謝罪だ。
泳いでいた視線を止め承太郎を真っ直ぐと見据える。

「私の両目は産まれつきの破幻の瞳。如何なる忍法をも打ち破ってしまう眼でございます」

忍法。
朧の眼自体よりもその普段は聞きなれない単語に春花も承太郎も思わず眉を潜めてしまった。


392 : 小休止 ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/28(金) 00:00:11 EIVQX3Vg0

「待ちな。忍法ってのは、忍者の使う技のことか?」
「左様でございます」
「あんたの口ぶりだとまるで忍者が身近にいると聞こえるが」
「はぁ、まぁ...」

承太郎の顔にますます困惑の色が浮かび上がる。
承太郎の知る限りでは、忍者などそもそも存在が怪しく実在したとしてもとうに途絶えたモノ。
見たことがあるのは観光地の忍者体験の看板を掲げたアトラクション施設くらいだ。

それを朧は実在し身近にいると言うのだから時代錯誤にも程がある。

かといって、こんな場面で忍者がいるなどと荒唐無稽な嘘をつく意味がわからない。
確かに言葉づかいや着物は少々時代劇がかったものではあるが、自分を騙すにしてももっとマシな嘘をつくだろう。

となれば朧の妄言か。否。

承太郎は違う可能性に辿りつく。

それを確実にするには春花の意見も聞くべきだろう。

「野崎、オメーは朧の話を聞いてどう思う」
「ちょっと...時代がズレてると思う」
「そうか」

疑念は更に確信へと昇華されていく。


「...あんた、いまの総理大臣は知ってるか?」
「総理大臣とは?」
「国を代表する人間だ」
「えと...国を治める御方、という意味でしょうか」
「...ああ」

承太郎の問いかけに今度は朧が困惑の色を示す。
いまの日本国を治めるのが誰か。そんなもの生まれてほどない赤子ですら周知のことだろう。

「徳川家康殿でございましょう。それがなにか?」

この答えを聞き、承太郎は確信する。

「...徳川家康ってのは、俺が産まれる300年以上前の人間だ」
「え?」
「やれやれだ。どうりで消毒のしの字も知らなかったわけだぜ」

自分と朧は文字通り違う時間を生きているのだと。


393 : 小休止 ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/28(金) 00:01:08 EIVQX3Vg0

(昔見た映画のタイムトラベル現象を体験するハメになるとはな。生憎感傷に浸る余裕もないが)

「今後の混乱を防ぐためにも俺たちの状況を整理しておく。朧、アンタの言葉が全て真実だという前提で仮定させてもらう。俺たちからしてみれば、朧、あんたは既に死んでいる人間だ」
「え...」
「早合点するなよ。さっきも言ったが、徳川家康ってのは俺が産まれる300年以上前の人間、あんたも病気なり寿命なりで死んでなきゃおかしいってことだ」
「???」
「チトややこしいが、俺からしたらあんたは過去の、あんたからしたら俺は未来の人間になるわけだ。おそらくコイツは他の参加者にも当てはまるだろう」

承太郎の唱えた説の荒唐無稽さに、朧は目を丸くする。
自分達が違う時代の人間だというSF染みた展開に馴染みのない春花も同様だ。

(俺の考えが正しいのなら、DIOの奴がこの名簿に載ってるのも理解できる。...そうなると厄介なのは主催の力だ)
(あのDIOですら時間を止めるのは9秒が限界だったんだ。時間に干渉するのは口で言うほど簡単なことじゃねえ。だが最低でも奴は60人近くの参加者の時間に干渉できる力を持ち参加者たちを拉致することができる。
それがなにかしらの能力か映画のような機械かはわからないが、厄介なこと極まりない。
脱出できたとしてもすぐにまた主催に捕まり同じことを繰り返されるか、そうでなくともまたDIOのような死んだ悪党を蘇らせて世界的な混乱を起こされる危険が高い。

(やはり、奴は徹底的に叩きのめした方がよさそうだ)

かねてより気に食わないと思っていたこの殺し合いだが、仮定の背景もありその決意は尚強固なものとなった。

「...とにかくだ。時代が違うってことは俺たちの抱えてる常識も違うことになる。そこのところだけでも理解しておけ」

常識の差異による摩擦。
非情に地味だが、こんな状況ではその地味なことが命取りになり得るのだ。
二人はこくりと頷き理解を示した。


「それで...この後はどういたしましょう」

その朧の言葉に三人はひとまず各々の思考にふける。

ややあって切り出したのは承太郎だ。

「俺は当面はDIOを倒すことを優先しようと思っている。奴を放っておけばロクなことにならねえ」

それだけを告げると、承太郎は『どうするかはオメーらで決めな』と言わんばかりに背もたれに腰を預け口を噤んだ。
承太郎としてはどちらでも構わなかった。
自分から離れようが離れまいが、DIOや先程の怪物がうろついている以上、危険なのは一緒だ。
ならば彼女達自身に選ばせるべきだろう。そう考え、決断を彼女たちに委ねることにした。



朧としては、できればこの三人で行動したいと思っている。
春花はまだ幼いので当然だとして、承太郎もまだ傷は癒えておらず、なにより彼はこの中で一番戦闘経験が豊富であり頼もしい。
先程の物の怪と遭遇しても勝利の目があるのは彼くらいだろう。
だが、やはり彼のスタンドなる力と破幻の瞳は頗る相性が悪く、下手をすればまた足を引っ張りかねない。
流石にそれを承知の上で動向を無理強いすることはできない。



春花としては、できれば一人で行動したいと思っている。
一刻も早く他の参加者にも流美の悪評を振り撒き逃げ場を無くし、確実に殺せるようにしたい。
だが、それ以上に無償で助けてくれた眼前の二人に、自分は相応しくないと思えてしまう。
彼らは光だ。正しい道を進んでいる人達だ。
自分は違う。憎悪に身を任せ、既に6人も殺した。
そんなことをしても家族は戻らないことなんて解りきっているのに。殺せたところで気持ちが晴れることがないのもわかっているのに。
こんなの、私の家族を殺したあいつらと同じだ。酷く薄汚れて、誰かを不幸にすることしかできない人殺しだ。
光に泥を塗ってはいけないから、できれば一人でいたい。



共に行動するか、別れて行動するか。

これが彼女たちの運命の分かれ道だが、さてどうなる。


394 : 小休止 ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/28(金) 00:01:38 EIVQX3Vg0

【H-3/一日目/黎明】


【朧@バジリスク〜甲賀忍法帳〜】
[状態]:腹部にダメージ(中)、疲労(中〜大)
[装備]:リアカー(現地調達品)
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と会いたい
0:この後の行動を決める。
1:脱出の協力者を探す。
2:陽炎には要注意。天膳にも心は許さない。

※参戦時期は原作三巻、霞刑部死亡付近。
※春花、承太郎と情報を交換しました。

【野崎春花@ミスミソウ】
[状態]:右頬に切り傷・右耳損傷・出血(中)、頭部から消毒の匂い
[装備]:ベヘリット@ベルセルク
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:祥子を救い、佐山流美を殺す。その後に自分も死ぬ。
0:できれば一人で動きたいけど...
1:祥子、相葉の安全を確保する。
2:小黒さんは保留。南先生は...


※参戦時期は原作14話で相場と口付けを交わした後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※朧、承太郎と情報を交換しました。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ、出血(止血処置済み)、帽子から消毒の匂い
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:主催者の言いなりにならない。
1:ある程度休憩をとったら行動を開始する。
2:DIO・先程の化け物(ゾッド)には要警戒。

※参戦時期は三部終了後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※春花、朧と情報を交換しました。


395 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/04/28(金) 00:02:43 EIVQX3Vg0
投下終了です

ジョン・コナー、MUR大先輩、小黒妙子、ブローノ・ブチャラティを予約します


396 : 名無しさん :2017/04/28(金) 00:43:47 MBHsoG860
投下乙です
起承転結に忠実でお手本のような第一放送前のssだと思います
最近のロワの投下ではしばらくぶりにまっすぐストレートな話で、なおかつ後の人の自由度が高いのも良いのではないでしょうか
ですが1レス目の「消毒を探しだしガーゼに」の辺りが誤字脱字っぽくてん、ま、そう、よくわかんなかったので-3.64364点させていただきます


397 : ◆pmgezgfcp. :2017/04/28(金) 16:13:51 yZzrE..I0
バラライカ、モズグス 予約します


398 : ◆45MxoM2216 :2017/05/02(火) 00:43:55 2kdzfHwc0
ハードゲイ……もといハードディスクの肥やしにするのももったいなかったので
上条当麻、岸部颯太ゲリラ投下します
ぶっちゃけて言うと多分読まなくても問題ありません


399 : ◆45MxoM2216 :2017/05/02(火) 00:44:15 2kdzfHwc0
「う、んぐ……む!?んー!んー!」

岸部颯太が目を覚ました時、そこは男色系……じゃない、暖色系の色に包まれた謎の空間だった。そして、彼はベッドの上で身体を大の字に拘束され、しかも口はハンカチで戒められていた。
自分は鞭で打たれてるうちにいつの間にか気絶してしまったらしい。少年の声が響いて助けてくれたような気もしたが、朦朧とする意識の中で見た幻覚だったのであろうか。

「一人の少年をイチから調教するなんて久々だな」
「んっ!」
彼は拘束されたまま、怯えきった声をあげる(猿轡のせいで声になっていなかったが)。自分をこんな風に拘束したと思しき、虐待おじさんが急に目の前に現れたからだ。

虐待おじさんはベッドで拘束されている颯太の上に跨ると、颯太の若く瑞々しい肢体にゆっくりと指を這わせる。

「んむぅ!?んー!んー!ふぁ、ふぁえへ……!」
「止めてじゃねぇんだよ」

サッカー少年の命とも言える足をスリスリと擦りながら、抗議のうめき声を発する颯太を無視する。
ひざ小僧の辺りを行き来していたおじさんの手は、段々と足の付け根……股へ向けて動いていく。

「んー!んー!」

放っておくとおじさんが何処を触るのか……おぞましい想像をしてしまった颯太は全力で抵抗するが、ベッドがギシギシと不快な音を立てるだけだった。
必死にいやいやと首を横に振るうちに、咥えさせられていたハンカチが緩んでハラリと外れる。
大声をあげて助けを呼ぼうとする颯太だが、それは叶わなかった。ハンカチが外れた瞬間、おじさんの口が颯太の唇を塞いでいたからである。

「んんむ!?」

キスをされたのだと理解するのに、一瞬の間を要した。顔を背けて逃れようとする颯太だが、おじさんが首をがっちりと押さえたことでそれすらも叶わない。
ちょい悪親父風のスーツの男性と、健康的なサッカー少年のあまりにも背徳的すぎるキスシーン。
口膣内を思うさま蹂躙され、颯太は涙目でおじさんの劣情を全て受け止めるしかなかった。

「んちゅ、あんむ……れるろぉ」
「あ、んぐ、んむぅ!」
「ちゅぱ、はぁんむ、ちゅぱちゅぱ、あああんむ!」

颯太はおじさんの舌を噛んで必死に抵抗するが、カスが効かねぇんだよと言わんばかりにおじさんは舌を絡めて洋画ばりのディープキスを繰り返す。


しばらくしておじさんが口を離すと、颯太とおじさんの間には唾の糸が伸びていた。それを見て完全にスイッチが入ったのか、おじさんはもう一度颯太に口付けをする。かと思えば鼻を舐め上げ、耳の穴に舌を突き入れる。
颯太は最早、虚ろな瞳でされるがままになっている。

虐待おじさんはこう見えてもプロのホモビ男優である。少なくとも一部のガチホモ兄貴からは「出演し過ぎて鼻につく」と、一時期の花澤香菜みたいなことを言われる程度にはホモビに出まくっている。
そんなおじさんにしてみれば、たかが10代かそこらの小僧如き……『堕とす』ことなど造作もない。堕ちろ!

「随分素直になったじゃねぇか」
「ふ、ふご……」
おじさんは懐からハンカチを取り出すと、今度は解けないように強く強く颯太の口に縛りつける。

目は口程に物を言う、という諺がある。水泳部の先輩が後輩を性的に襲おうとしている時、目つきが野獣の眼光と呼ばれる程に妖しく光っていたことからも、その諺が的を射ていることは分かるであろう。
颯太はおじさんの眼光を見て、直感的に理解する。おじさんはこれから、本格的にホモセックスを始めるつもりだ。
自分を調教して、ホモセックスでしか感じられないような生粋のゲイにするつもりだ。堕ちろ!

虚ろだった颯太の瞳に色が宿る。恐怖という色が。

おじさんは颯太の口を縛ったハンカチを外す。さっき縛ったばかりなのに、自分から外していくのか……と思う間もなく、おじさんは一層荒々しい接吻を繰り返し、かと思えばまたハンカチで口を縛るというグダグダなホモビみたいな回り道をする。


400 : 魔法少女は電気羊の淫夢を見るか? ◆45MxoM2216 :2017/05/02(火) 00:45:03 2kdzfHwc0
「今からお前には恥かしい台詞を言って懇願してもらう」
「ふご……」
「できなければこの鞭でお前を痛める」
いやいやと首を横に振る颯太を鞭で脅し、おじさんは無理矢理颯太に恥かしい台詞を言わせようとする。

「僕のペ〇スを見てくださいと言え」
「ふぐ!?んん、ん!」
「言え!」
おじさんは鞭で颯太を滅多打ちにする。

「んぁ!ひぎ!ふぐぅう!ほ、ほふの、へひふほ、ひへふははい」
「もう一度言ってみろ!」
「ほふの、へひふほ、ひへふははい!」
「なんつってるか分かんねぇよ!!」
「ふぐぅ!!?」

鞭での激しい責めから逃れるため、思わず矜持を捨てて恥かしい台詞を言ってしまう颯太。堕ちたな(確信)
しかしそんな彼の必死の懇願を無視して鞭を振るうおじさん。自分で口塞いどいてなんて言い草だろうか。

と、おじさんはいい加減性欲を抑えきれなくなったのか、いよいよ颯太の大事な所に手を伸ばす。堕ちろ!アソコを強く握られたことで、颯太の身体に今までの人生で感じたことのないような激痛が走る。


「ン、ンアアアアアアアア!!!」


〜〜〜(≧Д≦)(≧Д≦)(≧Д≦)(≧Д≦)(≧Д≦)〜〜〜


結論から言えば、上条当麻は変態親父から助け出した少年の股間を触っていた。
いや待て、やはり順を追って説明しよう。上条当麻は少年の看病をしようとしていたら転んで彼の股間を誤って触ってしまったのだ。

いやいや待て待て、ここは理由を説明しよう。まず前提として、岸部颯太はラノベヒロインである。
男ではあるが魔法少女に変身するし、広義の意味で言えばラ・ピュセル=岸部颯太はラノベヒロインであろう。
そして上条当麻はラノベ主人公であり、ラノベヒロインにセクハラ染みたラッキースケベをよく行っている。主にヒロインの裸をちょくちょく見ている。
この2人が出会えば、上条が颯太にラッキースケベを発動させることは自明の理であった。

しかしここで問題なのは、岸部颯太が魔法少女に変身しない限りは男であることだ。インデックスのような少女であれば、裸を見ればそれでラッキースケベと言えるだろう。
だが、男が男の裸を見てもそれはラッキースケベではない。ならば、上条当麻が岸部颯太の局所に触れるくらいしなければ、ラッキースケベとは言えないだろう。

上条はすぐに颯太の股間から手を離したが、上条が颯太の局所に触れた瞬間、意識のない彼の身体はビクンと震えていた。その時、彼の夢の中ではおじさんにナニをされていたのか……。
是非とも詳細に描写したい所だが、ただでさえ全く話進めずにただ筆者のリビドーを解放しただけの話なのに、チャンピオンREDとかマガジンの袋とじ染みたギリギリのラインのお色気をやっては流石に怒られそうなので止めておこう。
いくら夢オチとはいえ、ま、多少の謙虚さはね?

【E-5/街(下北沢、SMバー平野)/一日目/黎明】

【ラ・ピュセル(岸部颯太)@魔法少女育成計画】
[状態]全身に竹刀と鞭による殴打痕、虐待おじさん及び男性からの肉体的接触への恐怖、水で濡れた痕、精神的疲労(大)、同性愛者への生理的嫌悪感(絶大)、気絶、悪夢兼淫夢を見ている

[装備]
[道具]基本支給品、だんびら@ベルセルク
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探す
0.虐待おじさんこわい。
1.僕は...こんなことのために...
2.襲撃者は迎撃する



【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品、淫夢くん@真夏の夜の淫夢、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0.とりあえずこの子の目が覚めるまで介抱する。
1.御坂、白井と合流できれば合流したい。
2.一方通行には注意しておく。
3.他者を殺そうとする者を止めてまわる。


401 : 魔法少女は電気羊の淫夢を見るか? ◆45MxoM2216 :2017/05/02(火) 00:45:47 2kdzfHwc0
投下終了です
正直すまんかった

あと一レス目タイトル入れ忘れてました……(小声)


402 : 名無しさん :2017/05/02(火) 06:13:29 WSdthwuA0
ホモの魔の手からはああ逃れられない!
ここまでくるとラ・ピュセルが可哀想にしか思えませんね…


403 : 名無しさん :2017/05/02(火) 12:52:57 4jTNvJVg0
どうでもいいけど上条さんってホモ人気あるらしいですね


404 : 名無しさん :2017/05/02(火) 14:47:40 p2ZBI/CQ0
上条さん「止めろ!俺はホモじゃない!!」


405 : 名無しさん :2017/05/04(木) 14:45:57 W0e73jGE0
そうちゃんは二次創作だといっつもこんな役回りだなぁw


406 : ◆pmgezgfcp. :2017/05/06(土) 03:14:15 Bx3LqSHk0
投下します


407 : ちょっと危険なカ・ン・ジ ◆pmgezgfcp. :2017/05/06(土) 03:18:46 Bx3LqSHk0

「随分とクレイジーなパーティーだこと」


 呆れたようにそう呟いたのは、黒いスーツに軍用コートを羽織った女だ。
 均整の取れたスタイルと美しいブロンドヘアを、顔の右半分、目の上から頬の下にかけて残る火傷の痕が打ち消してしまっている。
 女の名はバラライカ。犯罪都市ロアナプラにおける一大勢力である、ロシアンマフィア『ホテル・モスクワ』の大幹部であり、元軍人の戦争マニアだ。
 どこかの少佐のように高らかな宣言こそしないが、ひとたび戦争となれば嗜虐的な笑みを浮かべ、残酷な仕打ちも厭わない。
 ロアナプラでも屈指の“おっかない女”である。


「味方は現状ゼロ、武器はトカレフだけ、そして首には爆弾か」


 首輪をなぞるバラライカ。
 表面上は冷静だが、内心では導火線に火が着いている。
 血の滾る戦争を、命を懸けた闘争を、心が自然の内に望んでいるのだ。
 とはいえ、戦意だけに支配されているわけでもない。
 バラライカにはマフィアの幹部としての立場がある。軍人時代からの部下を統率する者として、このような遊戯にかまけて命を落とすのは本意ではない。


「まあいいわ。手っ取り早く『赤い首輪』を殺せばいいのよね」


 この島にはラグーン商会のレヴィやロックもいる。
 障害となるなら殺害も辞さないが、そうでなければ協力も見込める相手だ。
 『赤い首輪』の参加者は銃弾が効かないという。にわかには信じがたいが、そうした敵も考えると徒党を組むことも必要ではないか。
 あるいは威力の高い武器を集めることも必要か。
 ――と。
 そこまで考えて、バラライカは眉をひそめた。
 繋がれた犬。自分を含めた殺し合いをしている参加者は全員がそうだ。
 殺し合いに乗るか否か。
 『赤い首輪』の参加者を殺すか否か。
 邪魔をする他者を排除するか否か。
 別の強力な武器を探すか否か。
 そうした選択の全てが、殺し合いを開いた男に操作されているようで、気に食わない。


「そうね。生き残って、この島から出た暁には――」


 しかし、バラライカは笑う。
 笑顔が牙を見せる行為の名残だと述べたのは誰であったか。
 獰猛な笑みを浮かべている“おっかない女”の胸中を全て知ることができるのは、本人だけだ。


「――こんな茶番(パーティー)を開いた主催者に、銃弾を以て感謝しないとね」


 バラライカの後ろには死体が転がっている。
 不用意に襲撃し、心臓を何発もの銃弾で貫かれた、哀れなNPCの吸血鬼。
 それに一瞥をくれることもなく、バラライカは野獣の眼光で前を見据えた。


【I-2/一日目/深夜】
【バラライカ@ブラックラグーン】
[状態]:健康
[装備]:トカレフ@現実
[道具]:トカレフの弾薬、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:『赤い首輪』の参加者を殺して脱出する。その過程での障害は排除する。
1:『赤い首輪』を殺す準備を整える。
2:ラグーン商会の二人には会ってから考える。


408 : ◆pmgezgfcp. :2017/05/06(土) 03:21:46 Bx3LqSHk0
投下終了です。
モズグス様も予約したのにバラライカ単体の登場話になってしまい申し訳ありません。
あと短いのも許してください!なんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)


409 : 名無しさん :2017/05/06(土) 17:56:26 gHgr4ba60
野 獣 の 眼 光
ちょっとおっかなさすぎるんよ〜(震え声)


410 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:03:49 ZBh2XjD.0
投下乙です

夢の中でもそうちゃんを虐待するおじさん恐い...恐くない?
同時期に投下されたとあるロワでの上条さんはエラいことになってるがこちらのKMYNもエライことになってますね
握ったのがおじさんのじゃなくてそうちゃんなのは正直うらやmけしからん

バラライカさんは容赦しない。
それが例え主催者でも人外でもNPCの吉川でも一切の情け容赦しないのが頼もし恐ろしい。

投下します


411 : 接近 ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:06:26 ZBh2XjD.0
「ホント不気味ねここ」

妙子がポツリと呟く。
通路というよりは、洞窟染みた広さを持つこの暗い空間に居合わせればそんな感想が出てもしょうがない。
なぜ殺し合いの会場にこんなものがあるか、そもそもこれはなんの目的で置かれているのか、気になることは非常に多い。

「これを見て」

ジョンは壁に張られた紙を指差す。
そこには、『↑H-6←G-7→I-7』と記されていた。

「これ、この方角に行けばそこに着けるってことじゃないかな」
「じゃあ、ここは地下通路ってこと?」
「そうだと思う。H-6は地図だとほとんど海だからきっと向こうへ渡るためだよ」
「殺し合いだってのに逃げ道を用意してくれるのは親切って言っていいのかしらね」

なんにせよ地下通路の存在を知れたことは大きなアドバンテージである。
これならあまり目立たず移動できるし、複雑な道でもないので奇襲も受けにくい。下手な施設を拠点にするよりも強固な防壁になり得るのだ。

「あ、おい待てい(江戸っ子)」

しかしその安堵もすぐに崩れ去る。
MURはなにやら足元の壁に張られた張り紙を見つけたらしい。

「ホレ、見ろよ見ろよ」
「えーっと...『姫 出没注意。目 合わせるべからず』、か」
「は?姫?」

妙子もジョンも、見つけたMURでさえポカンと口を開きかけた。
こんなところに姫がいて、目を合わせてはならないだのなんだのと唐突すぎる。
姫のイメージは三人とも共通のものがあるが、流石に女性と目を合わせてはいけない意味まではわからない。
なにかの悪戯だろうか。それとも、本当に姫と目を合わせてはいけないという警告なのだろうか。


412 : 接近 ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:06:50 ZBh2XjD.0

「きっと参加者を遠ざける罠だゾ」

そう結論を出したのはMURだった。

「他の参加者に近づかれたくない事情があって、こうやって警告文を出すことで牽制をかけ逃げようとしている。つまりこれを書いた奴はそこまで強くないヤツだゾ」
「な、なるほど...」

困惑するだけの自分とは違いつらつらと言葉を並べ立てるMURに、妙子は思わず同意してしまう。
そんな自分の意見に自信があるのか、MURは大先輩の名に恥じぬしゃんと伸ばした背筋で後輩たちを先導するかのように先へと進む(どう見ても相手が雑魚だと思って調子づいているんですがそれは)。

(でも、牽制ならもっと解りやすいモノにするんじゃないかな。例えば、熊とかライオンとか...)

そんなもやもやとした疑問を抱きながらも、ジョンと妙子もまた彼の後を追う。

どれほど歩いただろうか。

やがて辿りついたのはうす暗闇に包まれた螺旋階段。矢印が正しければ、この階段を昇ればG-6エリアへと出ることが出来るようだ。
ひとまずは地上へ出ようと一行は階段を昇って行く。

コツ コツ コツ...

音。間違いなく自分達とは異なる足音が耳に届く。どうやら暗闇の先には何者かがいるようだ。

それに気付いたMURは足を止め、それに倣いジョンと妙子も一旦止まる。

相手もこちらが止まったことに気が付いたのか、足音は一旦止み、少し間をおいて再び足音が反響する。

何者かがこちらの存在に気が付いた上で向かってきている。

走る緊張感に誰とも知れずゴクリ、と唾を呑みこむ音が小さく鳴る。

(困ったゾ)

中でも一番動揺していたのはMURだった。
自信満々にこの先にいる奴は強くないと推理したものの、現状でかなりその確率はかなり低い。
本当に弱ければ存在に気が付きながらもこちらに向かってくる必要はないからだ。
もしとてつもなく強い奴だったらどうしよう。
彼は内心で自分が生き残れる術を必死に模索していた。

だが、時間が彼の答えを待っているはずもなく。
一行の先にぼんやりと浮かび上がるは一つの影。
人だ。細身で上背のある輪郭だ。

やがて現れたのは、おかっぱヘアの凛々しい顔立ちといった、やたらに『濃ゆい』男だった。


413 : 接近 ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:07:21 ZBh2XjD.0



ブローノ・ブチャラティは死人であった。
これは誇張ではなく、己の属するギャング組織・パッショーネの『ボス』に間違いなく殺されたのだ。
だが、彼はこの会場に連れてこられる前にも己の意思を持って動いていた。
痛覚をはじめとするあらゆる感覚や体温や脈も、全てを失いつつあってもしっかりと戦うことが出来ていた。
何故か。
恐らく、彼の部下であるジョルノ・ジョバーナが能力で流してくれた生命エネルギーのお蔭だろうというのがブチャラティの推測だ。
だが、推測はあくまでも推測。本当のところは彼にもジョルノにもわからない。
ただ、彼は運命がほんのちょっぴりだけ偶然の奇跡を許してくれたのだろうと思っている。
それだけでも、彼が戦いの道に赴くには十分すぎる奇跡だった。その果てに惨めな屍を晒すことになろうが、仲間たちが、トリッシュが生きていられるなら悔いすらなかった。

だから、この会場で目を覚ました時には驚いた。
死んだ筈の自分の身体が、傷一つ残さず復活しているのだから。

はじめはジョルノの能力のように傷を癒すことが出来る能力者でもいたのかと思った。
しかし、確かに脈もあれば体温も生きている時のソレ、加えて素手で壁を殴りつければちゃんと痛みを感じられる。
間違いない。
自分の身体は確かに蘇っていたのだ。

(どうやらあの男はそこまでして俺を殺し合いとやらに巻き込みたいらしい)

最初のセレモニーを思い出す。
つらつらとこんなふざけた茶番のルールを語った主催の男、為す術もなく惨めに死んだ名も知らぬ男...
その光景を思い返すだけで、ブチャラティの胸にはドス黒い感情が渦巻いてくる。
彼らに如何な関係があったのかは知る由もない。だが、わかることはひとつだけある。
あの主催の男は、自らの都合で何も知らぬ者でも利用し利益と快楽を得ることだけを考える『吐き気を催す邪悪』だ。
ブチャラティとて先を急ぐ身だ。こうしている間にもジョルノ達やトリッシュに危険が迫っている可能性もある。

だが、あのような男の言いなりになって皆のもとへのうのうと帰れるほどブチャラティは賢い人間ではない。
だから心は既に決まっている。
このふざけたゲームを必ず止めると。あの主催の男を必ず倒すと。


414 : 接近 ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:07:41 ZBh2XjD.0

「殺し合いを破壊する。犠牲者を最小限に、可能ならばゼロに抑える。仲間のもとにいち早く帰る。...全部をやらなくっちゃあならないってのが『ギャング(おれたち)』の辛いところだな」

ギャングは有体に言えば世間からの爪はじきものである。
裏社会まで見渡せば、治安を守っている側面はあっても、やはり世間一般的には『ゴロつきの集まり』だの『血の飛び交う暴力至上主義』だの『金に汚い守銭奴』だのという認識だ。
そういった側面もあることは間違いないし、少なくとも胸を張っていい職業ではない。だから、世間から見ればそういう扱いなのは当然だと思っている。
だが、ブチャラティの信じるギャングは違う。
ヒーローとは口が裂けても言えないが、麻薬や理不尽な暴力・殺人を犯さない者。
表ではなく裏の治安を命を懸けて守れる者達。それが彼にとってのギャングだ。
その己に課すルールだけは、決して外しはしない。

そんな決意を固め周囲を探索すること数分、彼はこの奇妙な施設を見つけた。
ご丁寧に入口には地下通路という文字が書かれており、周りが海だらけの場所で目が覚めたという現状もあいまりすぐに探索に向かった。

中はひどく不気味な場所であったが、一度は死んだギャングである彼を恐れさせるには遠く及ばない。
迷わず真っ直ぐ進むうちに、やがて辿りついたのは暗がりの螺旋階段。

それを下っていくと、程なくして己のモノとは違う足音が反響し耳に届いた。

足音は二つ、いや三つ。

しかも、戦場慣れしていない、気配を殺すのが下手な足音だ。
そんな者達が他者を蹴落とし合う殺し合いに賛同するだろうか。
いや、もしかしたら赤い首輪を狙う者達が一時的に手を組んでいるだけかもしれない。

このことから、ブチャラティは敢えて強気で歩き遭遇するべきだと判断。
止まりかけた足を再び進める。

やがて現れたのは、赤い首輪のむちむちとした身体つきの男、目付きの悪い日本人らしき少女、アメリカ人らしき少年の奇妙な三人組だった。


415 : 接近 ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:08:30 ZBh2XjD.0



「出会いがしらに不躾だが聞かせてくれ。お前達はこの殺し合いに賛同するつもりはあるか?」

ブチャラティの問いに、一同は思わず固まってしまう。
別にやましいことがある訳じゃない。ただ、彼の醸し出す雰囲気というか威圧感はタダ者ではないことを容易く窺わせてしまい、MURと妙子の二人は対峙するだけで冷や汗を滝のように流してしまう。

「僕たちはこんな殺し合いに賛同なんてしない。だからこうやって三人で行動してるんだ」

幾度かターミネーターの騒動に巻き込まれ曲がりなりにも修羅場を経験したジョンは、唯一ブチャラティへ真っ直ぐに向き合えた。

「僕たちこそあんたに聞きたい。あんたは―――」
「お前が姫だろ」

唐突にジョンの言葉を遮ぎり言いがかりをつけたのはMUR。
そんなMURを妙子とジョンは怪訝な眼で見つめる。

「...姫?なんのことだ」
「さっき『姫 出没注意』って張り紙があったんだゾ。真っ直ぐ進んだらお前がいたからお前が姫だろ」
「なにか勘違いをしているようだが、俺は参加者だ。名はブローノ・ブチャラティ。それと、俺は見ての通り男だ。どう足掻いても姫なんてあだ名を付けられる柄じゃあない」
「嘘つけ絶対姫だゾ」

こんな濃ゆい姫がいてたまるか。
ジョンと妙子は内心でそうツッこむが、流石にそれを声に出すのはブチャラティに失礼すぎるのでご愛嬌。

そんな二人を余所にMURは、なんの根拠があるのかおかっぱだから姫だのなんだのと一方的に決めつける。ブチャラティが強く反論しないのも拍車をかけているのだろう。
MURはもしかしたら大先輩の名に恥じぬようブチャラティを後輩にするために無理やりにでも彼の上に立とうとしているのかもしれないが、その真意はMURのみぞが知る。


416 : 接近 ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:09:28 ZBh2XjD.0


―――ペタリ


そんな音が四人の耳に届いたのは、MURの無駄問答にブチャラティが溜め息をつきかけた時だった。

―――ペタリ

「ね、ねえ...なにか聞こえない?」

―――ペタリ

「下からだ。何かが這うような音だ」

―――ペタリ ペタリ

徐々に一同へと近づいてくる音。

その正体を探るため、ブチャラティは三人に先んじてこっそりと下を覗く。

「!!」

這ってくるソレを垣間見たブチャラティは咄嗟に三人の頭を抱き寄せヒソヒソと耳打ちをする。

「MURだったか。あんた、さっき姫とは目を合わせるなと言ったな?」
「おっ、そうだな」
「...三人とも。もうすぐ例の『姫』が昇ってくる。幸い、俺は奴と目が合わなかったようだが、合った時は何が起こるかわからない。いいか、何を見ても絶対に取り乱すな」

冷や汗混じりにそう発するブチャラティの心境を三人が理解するのはその数十秒後だった。

「ン エ エ エ エ エ...」

声。何者かの声だ。
そちらへ向きたい衝動を抑えつつ、一同はしゃがみ込む。

ヌッ、と視界にその巨躯が映り込む。

「ひっ!!」
「わあああああ!」
「ポッチャマ...」

三人が各々の恐怖の叫びを挙げるのを聞き、ブチャラティは慌てて三人に覆いかぶさり視界を塞ぐ。

ギョロリ。

大きな目が四人のいる空間を見据える。

巨大な一昔前の姫のような顔に、多足節を思わせる数々の乳房と小さな手。

ソレは正に異形だった。人間では太刀打ちできないほどの巨躯だった。

ソレの名は『姫』。吸血鬼が変貌した邪鬼の中でも、災厄の邪鬼。

ソイツと目を合わせることは死を意味する!!


417 : 接近 ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:10:07 ZBh2XjD.0

【H-6/一日目/地下通路・螺旋階段/黎明】
※今はまだ姫に見つかっていません。

【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0:姫から逃げる
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。


【小黒妙子@ミスミソウ】
[状態]:健康、不安、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:とにかく死にたくない。
0:姫から逃げる
1:野崎を...助けなくちゃ、ね。

※参戦時期は佐山流美から電話を受けたあと。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。
0:姫から逃げる
1:T-800と合流する。
2:T-1000に要警戒。

※参戦時期はマイルズと知り合う前。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、冷や汗
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:姫から逃げる
1:弱者を保護する。

※参戦時期はアバッキオ死亡前。






※NPC解説
【姫@彼岸島】
彼岸島の炭鉱に住む邪鬼。主な攻撃方法は溜酸の母乳と捕食。
巨大なムカデのような体とおかめのような顔が特徴的で、目が合うと怒りの形相に変わり、目が合った者へと襲い掛かる習性を持つ。
逆に言えば、目を合わせない限りは滅多に人を襲わないので、遭遇しても無傷でやり過ごすことも可能(ただし硫酸の母乳は垂れているため難易度は高い)。
また、長年の炭鉱生活のために太陽が苦手らしく。日中に外に出てもすぐに炭鉱へと戻ってしまう。。
奇天烈な邪鬼が多い彼岸島の中でも最強クラスの戦闘力を有しており、明たちがまともに勝利したことは一度もない。
また、トロッコが背中を走れるくらい背骨がくっきりとしている。

このロワにおいては島中に点在する地下通路(順路とは限らない)をランダムに徘徊しており、地下通路から外に出ることは出来ない。
出てきた場合は、首輪から姫の嫌がる音が脳内に響き渡り、すぐに地下通路へと戻ってしまう。首輪は赤だが倒しても特典はもらえない。
また、一匹しかいないので、同時に二か所現れることはない。【例:A-8とG-7で同時に出現は不可能】


418 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/07(日) 01:12:24 ZBh2XjD.0
投下終了です

『DIO』、御坂、『ありくん』を予約します


419 : 名無しさん :2017/05/10(水) 01:09:51 1Pn/T8QY0
投下乙です
ブチャラティ姫説を提唱するMURには草
地下通路に姫を配置して危険地帯にする主催者は主催者のの鑑


420 : 名無しさん :2017/05/10(水) 15:59:06 RS24kTxY0
投下乙です
MURさん話の腰折らないでくれよなー、頼むよー

姫は原作ではなんか気づいたら剥製にされてて勿体ねェなぁと思ってたので、是非活躍を見たいですね
しかし、カモでしかないMURを誰も襲おうとしない辺り、ポッチャマを除けばこのチームも中々安定していると言えますね
ブチャラティという戦闘員も加わりましたし


421 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:00:07 TAMYfMx20
投下します。


422 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:00:56 TAMYfMx20
集落の付近を探索して数十分。

(なんでこんなところにコインが...助かったからいいけど)

御坂美琴は、探索の末に得られた成果であるコインを懐にしまったところで、己を取り巻く違和感に気が付いた。
いや、それは違和感などという曖昧なものではない。
異臭。ともすれば生理的嫌悪を抱くモノに近い。
まさか、毒ガスかなにかだろうか、と何者かの襲撃を予感し御坂は戦闘態勢に入る。

チラリ、とレーダーへと目を移すが、変わった反応は無し。
自分の普通の首輪とありくんの赤首輪の反応、それぞれ一つだけだ。
だが、レーダーの探知しない距離から敵を害する方法などいくらでもある。先に挙げた毒ガスなんかがいい例だ。最初に罠を設置しそこに誰かがかかればいい。

御坂の緊張は自然と高まり、戦闘の予感に冷える頭の一方で心臓の動悸が早くなる。

ありくんもまた、己の緊張感が高まるのを実感する。

―――バレたらどうしよう。

尤も、彼のソレは御坂にこの匂いの主が自分であることがバレたらどうしようという不安からだが。

御坂が嗅ぎ取った異臭は、前話にてありくんがHSI姉貴の写真に欲情した際に発射されたエキス、即ち精液のものである。
生理的興奮から年頃ならば誰しもが自慰してしまうものだが、もしそれを他者の面前で行えばその先は想像に難くない。
手に入れた信頼は変態の烙印と共に凋落し、二度と表社会を大手を振って歩けなくなる。
いくらありくんとはいえその程度のことは理解しているつもりだ。
一時のリビドーに身を任せて果ててしまったが、それはそれ。この島にいるらしいHSI姉貴と共に脱出するにはこの御坂という貧乳だが強そうなJCからの信頼を損ねる訳にはいかない。
どうにかしてごまかさなければ...

「ねえ」

かけられる声にビクリと震えあがる。


423 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:01:55 TAMYfMx20

「やっぱり、あんたも気が付いてたんだ。なにか変な臭いがするって」

バレた訳ではないことにホッとしたのも束の間、御坂は偽HSIさんの手を取りジーッと見つめ、次いでクンクンと匂いを嗅ぐ。
身体が貧しいとはいえ美少女が己の精液の匂いを嗅いでいるこのシチュエーションに、ありくんは再び股間に手を当て動かしかけるが、しかしどうにか思いとどまる。

「...やっぱり、ここからだ。なにかもの凄いベタベタしてるし」

気付かれた―――いや、まだだ。
まだ御坂はその正体にまで至っていない。それはそうだ。
いくら小型犬サイズとはいえ、ありが欲情して自慰するなど想像もつくはずもない。
だが、偽HSIさんがありくんを抱いてたらかけられたとでも告げればそれだけでも不信感を抱かれる。
射精がバレずとも何故かベトベトな粘液を発射する生物など溜まったものではないだろう。

「ねえ、あんたなにか心当たりない?」

御坂はHSIさんに問いかける。

マズイ。彼女が正直に答えればもう言い訳が聞かなくなってしまう。
頼むから答えてくれるな、頼むから!

HSIさんはコクリと無言で頷いた。

終わった...とありくんはしょんぼりと身をすぼませた。
これから自分は御坂に『キモイのよ変態あり!』『虫けらの分際でそんな汚いモノみせるな!』『私に近づいたら黒こげにするからね、変態!』と一方的に強く罵られ、今後は養豚場の豚に群がる小蝿を見るかのような冷めた眼で見られるだろう。
いや、まあ、そのシチュエーション自体はおかずにできるので悪くないが、この殺し合いで味方を失うのはヤバイ。
どうする、どう答えれば逃れられる―――!


424 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:02:34 TAMYfMx20

だが、ありくんの予想とは裏腹に、偽HSIさんはありくんではなく後方の大木を指差した。

「あの樹の樹液に触ったの?」

無言で頷く偽HSI。

「そっか。...ごめんね、なんか変に騒ぎ立てちゃって。けど、ああいうのは肌がかぶれるかもしれないから無闇に触っちゃダメよ」

無言で二度頷く偽HSI。
御坂はそれきり異臭のことには触れなかった。

―――助かった?

ありくんは思わずパチクリと目を瞬かせた。
信じられない。完全に詰みだと思っていたが、何故か偽HSIさんは嘘を憑きありくんを庇ったのだ。
困惑するありくんの意図を察したのか、偽HSIさんはありくんを見つめ、Vサインで答えを示す。

―――HSIさん...!

ありくんはHSIさんにひれ伏した。
愛しのHSI姉貴にクリソツなだけではなく、彼女の腕の中であさましいことをした自分を庇ってくれた菩薩の如き器の大きさに感激したのだ。

「なにやってるのよ。写真の子を探しに行くんでしょ」

そんな事情を知らない御坂が溜め息をつきつつ後方の二人へ呼びかけたその時だ。

「あっ」

レーダーが反応する。
何者かが近づいてきている証拠だ。
その色は赤。人外を示すものである。

(赤首輪か...どうしよう)

御坂は赤首輪とて殺すつもりはない。
ここにいるありくん同様無害な者もいるのなら尚更だ。
しかし、もしもあの主催の男が言っていた吸血鬼のような怪物ならば、無警戒で接触する訳にもいかないだろう。

(どの道、会ってみなくちゃわからないか)

果たして現れるのは彼女達にとって友好的な者か、それとも火種となる者か。

やがて現れたのは、金髪の男。
凍りつく目ざし、黄金色の頭髪、透き通るような白いハダに男とは思えないような妖しい色気...
まるで芸術品のようだと御坂は場違いな感想を抱いてしまった。


425 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:03:16 TAMYfMx20

「きみも参加者だね?私の名はDIO...きみは?」
「...え?あっ、み、御坂美琴」

呆けかかっていた御坂だが、DIOの言葉に意識を引き戻される。
見惚れていた、というよりは吸い込まれていたと評するのが正しいだろう。
しかし、DIOに意識を奪われていたのは、なにも外見が好みだったからとかそういう意味ではない。
御坂とて、学園都市で多くの人間と関わってきた人間だ。その中には当然、所謂美人やイケメンと呼ばれる者達も大勢いる。
確かにDIOもそういった者達にひけをとらない美貌と肉体を有している。
だが、彼から感じるのはそんなモノではなく、もっとおぞましく、それでいて神秘的ななにか。
何者にも塗りつぶされない漆黒の真珠とでもいうべきだろうか。とにかく得体のしれないものを感じていたのだ。

「御坂美琴か。後ろの彼女は?」

偽HSIさんは相変わらず答えない。だが、今までとは違い、ピースサインは作らず、眉を吊り上げDIOを睨みつけている。

「答えるつもりはないか...まあいい。私はこの殺し合いからどうにか脱出したいと思っている...少し、力を貸してもらえると嬉しいのだが」

言葉自体はなんてことのない普遍的な協力要請だ。
しかし、御坂はほぼ反射的に警戒態勢をとると共に左手に電気を走らせていた。
なにか確証があったわけではない。
しかし、この男と相対しているだけで直感していた。
この男を己の領域へと招いてはいけない、これ以上近づかせるのは危険だと。


426 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:04:20 TAMYfMx20

「なんのつもりだ?」
「勘違いなら謝るわ。けど、あんたは『普通じゃない』。赤首輪だからとかじゃなくて、もっと根本的に私とは違う気がする」
「ほう。わかるか。ならば隠していても仕方がない。私は吸血鬼だ。その気になればきみを捻り殺すことなど容易い」
「ッ!」

ざわりとDIOの髪が蠢き、醸し出す威圧感は更に邪悪に変貌していく。
御坂の警戒心は一気にピークに達し、いつでも電撃を放てる構えをとる。
間違いない。コイツは、アンチスキルなんか比にもならない程の、純粋なる『悪』だ。

「動かないで!それ以上近づけばあんたを撃つ!」
「そんなに怖がることはないじゃあないか。安心しろよ、御坂美琴」

微笑みを浮かべつつも、DIOはゆっくりと御坂へと歩み寄っていく。
かけられる言葉は声音も合わさりとても甘く優しいものに思える。
だが、それを信頼することはできない。信頼できないのに、それに身を委ねてしまってもいいと思えることがなお恐ろしい。
電撃を身に纏わせバチバチと放電をするも、威嚇にすらなりはしない。DIOは変わらず御坂へと歩み寄ってくる。

「...警告はしたわよ!」

単純にDIOを倒そうとしたのか、それとも恐怖に押しつぶされたのか。
御坂自身、どちらも確証は持てなかったが、攻撃事態は驚くほど冷静に放つことができた。
ここに連れてこられる前にも、学園都市レベル5第4位の麦野沈利率いる『アイテム』や学園都市レベル5第一位の一方通行等々、命のやり取りの経験を積んでいたのが活きたのだろう。
放たれる電撃の威力は、かつて一方通行へと立ち向かう御坂を止めようとした上条当麻へと放ったものと同レベルだ。
まともに当たればロクに動けやしない。それは吸血鬼であるDIOとて同じことだろう。

「なるほど。中々の威力だ。私の部下にもここまでの威力を出せる者はそうはいない。きみさえよければ部下に欲しいくらいだ」

だが、如何な攻撃でも当たらなければ意味は無い。
何時の間に移動したのか、前方にいた筈のDIOの声が御坂の右方から耳に届く。

「しかし、引き金を引いた以上、その代償は払うべきだ」

ドスリ。

慌てて振り向くのと同時、ぐっ、と小さく呻き声が漏れる。

「ぁ...」
「言っただろう?私は吸血鬼だ。こうやって他者から血を吸い取ることで空腹を満たしている」

御坂は絶句した。

喉に刺さっていたのは、DIOの中指と人差し指。

「ふむ。中々悪くない血だ。しかし微妙にしっくりこない気もするのは残念だ。例えるならイタリアンピッツァに乗せられたブディーノといったところか」

御坂の隣にいた少女、偽HSIさんの虚ろな目が御坂を見つめていたのだから。


427 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:04:46 TAMYfMx20

「なにをしてんのよ、あんたぁぁぁぁぁ!!」

怒りのままに電撃を放とうとする御坂の視界に、しかし黒い影が映り込む。
その数は、10、20...いや、咄嗟には数えきれないほどの軍勢だ。
その正体はあり。大量のありだ。
そしてそれを指揮するのは、ここまで存在感を消していたありくん。
彼は、万が一DIOが危険人物だった時の為、ひっそりと近場の影に身を隠していたのだ。

「ムゥッ」

流石のDIOも突然のありには少々驚愕し、つい偽HSIさんを離してしまった。
DIOの脚に大量のありが纏わりつき彼の動きを封じる。
その隙を突き、幾分か冷静になった御坂はHSIさんを回収しすぐにDIOから距離をとる。

咄嗟に呼吸と出血箇所を確認する。
見た目ほど重傷ではなく、正当な手当をすれば助かる見込みは高い。
御坂はホッと胸を撫で下ろした。

(助かった...あのまま撃ってたら、この子まで巻き添えにしちゃうところだった)

あの至近距離で電撃を放てば、HSIさんの巻き添えは免れない。
ありくんが御坂よりも早く攻撃に転じてくれたのは幸いだった。

「待っててね。あいつをどうにかしたらすぐに手当するから」

心配そうな目で見つめる御坂へ、HSIさんはやはりピースサインで応えた。


428 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:05:58 TAMYfMx20

DIOの脚に纏わりついたありたちは、DIOの脚に齧りつき、中には剣で刺したり、火を噴いたりしてDIOを攻めたてる。
ありくん自身もまた、小型の機関銃染みたなにかで攻撃に加わる。


「虫けら如きがこのDIOに歯向かうか」

ありくんは怒っていた。
偽者とはいえ優しいHSIさんを傷付けられ、怒りに満ち溢れていた。
その怒りが、御坂の電撃が発動する前への攻撃に繋がり、結果的にはHSIさんの命を救ったのだ。

「だが、いくらありが群がろうとも無駄無駄無駄ッ!」

しかしDIOも黙ってやられる男ではない。
腕で払い、潰し、剣や火を両こぶしで弾き。受けるダメージを最小限に抑えている。
次々に剥がされていくありたちに、さしものありくんも冷や汗をかいてしまう。
だが、負けるわけにはいかない。偽者とはいえ優しいHSIさんを傷付けた罪、必ず償わせてみせる。

「ふんっ、まるでゴミだな。所詮はありごときがこのDIOに歯向かうこと自体が間違っているのだ」
「なら、そこに常盤台の超電磁砲が混じればどうかしら」

DIOの視界の端に移るのは、コインを指に挟みこちらへと向ける御坂の姿。
ありくんは御坂のしようとしていることを何となく察し、万が一のことがないようにDIOから距離をとり御坂の右方に並び立つ。
先程はHSIさんを巻き込みかけたが今は違う。
冷静さを取り戻し、範囲を狭め群がるありを巻き込まないようにできる。

「食らいなさい、DIO!」

放たれるは、彼女の通り名を表す得意技。『電磁砲(レールガン)』。コインを電磁誘導で高速の3倍以上で撃ちだす技である。
彼女の通り名を知らぬ者でも見ずともわかるだろう。アレをまともに受けるのはマズイ、と。

だが、DIOは違う。
電磁砲の危険性を直感しながらも、不敵な笑みを浮かべているのだ。

「マヌケが...知るがいい。このDIOの前では、虫けらも電撃使いも等しく路傍の石にしかすぎないことを」

そして電磁砲は放たれる。眼前の醜悪な吸血鬼、DIOを倒すために。







「『世界(ザ・ワールド)』」


429 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:06:57 TAMYfMx20

カラン。

「...!?」

御坂は己の目を疑った。
あり達に纏わりつかれて動けなかった筈のDIOが、何の前振りもなく姿を消してしまったのだから。
瞬間移動?いや違う。それならありたちもどこかへ行っているはずだ。
だが、あり達はDIOのいた場所にいる。見た限りでは全く減っていない。
ありたちは纏わりついていた相手を探すかのように、辺りをうろうろと蠢いている。

(そういえば、さっき何かが落ちたような...)

御坂の耳が確かなら、さきほど何かが地面に落ちた音がした。
それを示すように、先程までDIOのいた場所にはなにか円形のものが落ちていた。

「...?」

御坂は疑問を抱きつつも、落ちたソレを手に取り検める。

(これ、どこかで見たような...)

その答えに辿りつく前に、御坂の指はボタンのようなでっぱりに触れてしまう。

『おめでとうございます!あなたは見事赤首輪赤い首輪を手に入れました!』

そんな陽気で場違いなアナウンスがファンファーレと共に鳴り響く。
そこで、御坂はようやく既視感の正体に気が付いた。
これはつい先ほどまでDIOも着けていた赤い首輪である。

(殺しちゃった...のかな)

姿が見えないということは、先程の電磁砲で身体ごと消し飛んでしまった。そうとしか考えられない。
流石にそこまでの範囲では放っていない筈なのだが、いまの御坂にそこまで考慮する暇はなく。
ただ、後からやってくる罪悪感と嫌悪感に苛まれるだけだ。

(やっぱり、いいものじゃないわね)

御坂はこれまで多くの死闘を繰り広げてきた。
しかし、そのいずれの戦いも敵の命まではとらなかった。
だから、御坂としてはDIOも少し痛めつけて降参してくれればそれが一番だった。
だが、それは敵わず。結局、こうしてDIOを消し飛ばしてしまったのだから、如何な理由があろうとこれは殺人である。

「...あの子を手当しないと」

重くのしかかる罪という名の十字架を噛みしめつつ、御坂はHSIさんの手当のために顔を上げる。


430 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:07:51 TAMYfMx20

パチ パチ パチ

そんな彼女の耳に届いたのは、一定の間隔を置いた、小馬鹿にするような拍手。

慌ててふりむけば、そこには五体満足で微笑むDIOの姿が。

「あんた、どうやって...!」

御坂は驚愕しつつも、殺していなかった事実に無意識的に安堵し胸の重みがスッと消えていくのを実感した。

「まあいいではないか。そんなことより...」

DIOが指差した方を見れば、巨大な黒球がいつの間にか現れていた。

パッ、と液晶に光が灯り、御坂のデフォルメされた画像の横に『ビリビリ』という文字が並べられる。

「な、なによコレ」
「おそらく奴が言っていた赤首輪殺害への報酬という奴だろう」
「そっか、これが...」

DIOの言葉に違和感を抱いた御坂は思わず言葉を噤む。
これは赤首輪の参加者殺害の報酬?

(じゃあ、なんでDIOは生きているの?)

DIOへと視線を戻し、首を確認。首輪は―――ある。相変わらずの赤い首輪だ。
彼が首輪を外した訳ではない。
じゃあ、この首輪は?

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「どうした?そんなに浮かない顔をして」

御坂の背に冷たいものが走る。

そんなバカな。
ここにいた赤首輪の敵はDIOだけだ。
もう一人の『彼』は自分の隣にいたはずだ。
だから、巻き込むなんてありえない。首輪があの位置に落ちるのもあり得ない。
なら、この首輪は―――





「『君があのありを殺した』報酬なんだ。もっと素直に喜べばいいじゃあないか」


必死に目を背けていた事実を突き付けられた御坂の膝は、ガクリと力なく地に垂れた。




【ありくん@真夏の夜の淫夢派生シリーズ 死亡】


431 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:08:53 TAMYfMx20

『めにゅ〜
1.元の世界に帰る。
2.武器を手に入れる
3.情報をひとつ手に入れる。
4.その他(参加者の蘇生は駄目よ)』


「なるほど。赤首輪の参加者を殺しても脱出以外の道もある、か」

項垂れる御坂を余所に、DIOはまじまじと黒球を見つめたり画面に触れたりと興味深げに観察する。

「ふむ。どうやら殺した本人しか操作が出来ないようだ。そして私が思うに、これは制限時間がついている筈だ。ずっと放置する意味もないからな。これが消えてしまう前に早く一番を押すといい」

動こうとしない御坂の腕を掴み、無理やり画面に触れさせようとする。

バチリ。

DIOの左腕に電流が走り、突然の痛みに思わずDIOの顔が歪む。

「あんた...なにをしたぁぁぁぁぁ!!」

御坂は己の電撃能力を応用し、土から砂鉄を引き寄せ、みるみる内にその手に砂鉄の剣が模られる。
怒り。悲しみ。困惑。恐怖。絶望。無力感。罪悪感。その他諸々。
ぐちゃぐちゃの感情の渦に奔流されながらも、彼女はいまやらなければならないことは理解していた。

―――この男は、必ず倒さなければならない。

感情の赴くままに振るうは、チェーンソーのように振動する剣。
舌打ちと共に弾こうとしたDIOの右腕に切れ込みが入り、肉を切裂く感触が剣を通して御坂にも伝わる。
その嫌悪感に浸る間もなく、DIOの右腕を半ばほどで断ち、胴へと迫り―――

「図に乗るんじゃあない、小娘」

高速で放たれた拳が御坂の顔面を捉え後方へと大きく吹き飛ばす。
激痛と共に鼻血が吹き出し、歯は数本吹き飛ばされ、唾液と血の混じった液体が空を舞いつつも、御坂は必死にDIOを見据える。


432 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:10:08 TAMYfMx20

左腕は痺れ、右腕はたったいま切り裂いた。
だというのに放たれたこの拳はなんだ。
激痛と困惑に惑わされながらも、御坂は見た。DIOの傍に立つ、守護霊の如き像を。

それこそはDIOのスタンド、『世界(ザ・ワールド』である。

DIOはフン、と鼻を鳴らし千切れかけた右腕の切断面同士をスタンドにつけさせる。
すると、たちまちに彼の皮膚と血管のようなものが蠢き修復されていく。

「こんなものは容易く治る。...さて。きみはこれでもまだ私を倒せるつもりかな?」
「......」

御坂は答えられない。
相手の能力の正体が皆目見当がつかない。現状ではどうまかり間違っても御坂の勝ちの目は薄い。

「仮にきみが私に勝とうというなら、ここは大人しく恩恵を受けるべきだと思うが」
「ふざ、けんじゃ、ないわよ」

顔面を苛む激痛に、ありくんを殺してしまった罪悪感に耐えながらも御坂はフラフラと立ち上がりDIOを睨みつける。
本当は今すぐにでも泣き出したい。投げ出したい。楽になりたい。
DIOの言う通り、脱出し一度体勢を立て直しリベンジするという言い訳染みた考えがよぎらなかったとも言えなくない。
だが、この男を野放しにしておけば、今度はこの会場にいる上条や黒子が危険に晒される。
そんなことはあってはならない。許さない。
だから御坂は立ち上がる。彼らの道を切り開くために、いまの痛みを耐え抜く。
例え自分が死のうとも、せめて彼らが少しでも有利になれるように手傷の一つも負わせてやる。

「そうか。...もう少し利口なら長生きできたというのに...残念だ」

もはや自分で戦うこともないとでもいうのか、DIOは側に侍らせていた『世界』を御坂へと向かわせる。

(ごめん...面倒なこと押し付けることになるかも)

この場にいない、この会場のどこかにいるあの二人に内心で詫びながら覚悟を決める。
フラつく身体に鞭うち御坂は電撃を放つ。
だが、頭部にダメージを負った御坂の身体では、脳が正常に働かず正確なコントロールはとれず、『世界』はあっさりと電撃を掻い潜る。
そして、ほとんど無防備な御坂の腹部に拳を数発叩き込み吹きとばし、身体は地面を数バウンドしてようやく止まった。
御坂はピクピクと痙攣するのみで立ち上がれない。
もはや勝負ありだ。


433 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:10:29 TAMYfMx20

「さて。では血を頂こうか」

悠然と歩み寄るDIOは、しかし足に違和感を覚え動きを止める。

「なに?」

見れば、いつの間にか大量のありがDIOの脚に纏わりついている。

「チィッ、虫けら風情が」

群がるありを蹴散らし踏みつぶす。
だが、ありたちは怯むことなくDIOへと立ち向かう。
ありくんの仇をとらずにはいられないとでも言うのだろうか。

くだらない。なんの策もない虫けらに、このDIOがなぜ倒されようか。

幾度かありを払い終えて、DIOは気が付く。

動けない御坂を担ぐひとつの影。偽HSIさんが、御坂を連れて逃げ出そうとしていることに。
偽HSIさんは血を吸われたにしては早く、あっという間に距離が空いていく。

(なるほど。それが目的か)

ありたちの目的はDIOを倒すことではなく足止めすること。
ありくんが消え去るその間際まで偽HSIさんを想っていたお蔭で、ありくんネットワークにインプットされた偽HSIさんへの愛に殉じた結果である。
そして、その目的はほとんど達成されつつある。

「フンッ、まあいい。奴如きはいつでも殺せる」

わざわざ死にかけの子供如きを追いかける必要はない。
いまは、この帝王DIOに歯向かう愚か者を一掃するまでだ。

「...だが、このDIOはただでは逃がさんぞ」

DIOは、遠ざかっていく偽HSIさんたちを見つめる。
距離は『世界』の射程範囲を超えており、飛び道具の支給品も持ち合わせていない。
だが、そんなことは大したことではないと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべ、そして―――


434 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:10:59 TAMYfMx20



「ん...」

上下に揺られる振動に、御坂は目を覚ます。
あのDIOの操る人形に殴られたところまでは覚えているが、そこから先は曖昧だ。
現状を整理するためにキョロキョロと辺りを見回してようやく把握する。
いま、自分は何者かに担がれていることに。
顔をあげれば、視界に移るのはウサ耳で、担いでいる者の正体は偽HSIさんであることは容易く察することができた。

「ご、ごめん...もう大丈夫」

偽HSIさんに下ろしてもらい、周囲を改めて見渡す。
DIOどころかレーダーにも反応はない。
助かった―――いや、彼女に助けられた。

「...ありがとう。あんたもさっき血を吸われたっていうのに」

御坂のお礼にも、偽HSIさんは答えない。だが、応えるために震える腕を掲げようとする。
程なくして力を無くし前のめりに倒れそうになるのを、御坂は慌てて受け止めようと手を伸ばす。

(そんなに無理して応えようとしなくていいのに)

殺してしまったありくんのことを考えるととても楽にはなれないが、こうまでして助けてくれた偽HSIさんには幾らか心が救われていた。
まだ会って間もない間柄だが、今度は自分が彼女を支えなくちゃ。


ベトリ。

そんな想いで突き出した御坂の両手が赤に染まる。


435 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:12:18 TAMYfMx20

「え?」

信じられない、といった形相で己の両手を見つめる。

(なによ、これ。血を吸われたのは首筋でしょ?)

じゃあこれはなんだ。この鉄の匂いがする、どろどろとした赤いものは。
御坂は偽HSIさんの腹部へと目をやる。その、開けられた穴からとめどなく流れ出す赤色に絶句した。

「あんた、こんな怪我で私を」

現実逃避をするよりも早く、御坂は止血しようとする。
だが、もはやその必要すらない。
彼女の命はもはや風前の灯。流れる血も出尽くしているのだから。

「―――――」

必死に止血しようとする御坂の耳に、か細い声が届く。
滅多に喋らない偽HSIさんの声が。

「ま け な い て゛」

震える手で掲げられたピースサイン。
共に発せられた声を最後に、偽HSIさんの腕がパタリと地に落ちる。
それきり、彼女の鼓動は息の根を止めた。
彼女の死は、そんな呆気ない幕切れだった。

彼女が何故ここまでして自分を助けてくれたのかはわからない。
最後に御坂にかけた言葉の真意も窺い知れない。
だが、いまの御坂にできることは、ありくんと偽HSIさんの死に涙し、己の無力さへの絶望に打ちひしがれることだけだった。


【偽物だが参加者に協力的そうなHSIさん 死亡】


436 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:12:53 TAMYfMx20

【G-7/一日目/黎明】

※ありくんの支給品とHSI姉貴のブロマイドは電磁砲で消し飛びました。

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)、顔面にダメージ(中〜大)、腹部にダメージ(中〜大)、鼻血(中)、歯が数本欠けている、混乱 、精神的疲労(絶大)、ありくんを殺してしまった罪悪感、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:首輪レーダー コイン×5(集落で拾った)。
[思考・行動]
基本方針:生きる(脱出も検討)。
1:......
2:当麻と黒子を探したい。
3:ごめんなさい...




「無駄ァ!...これで終わりのようだな」

ありを全て潰し終えたDIOは達成感と共にひといきの休息につく。

「あの小娘、あの傷でどこまで逃げおおせたか...まあ、今さら追う気もしないがな」

偽HSIさんが御坂を担いで逃げたあの時。
DIOはありたちの猛攻の隙間を縫い、己が有する技のひとつ、空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)を放ち、偽HSIさんの腹部を貫いた。
その傷が致命傷となり、偽HSIさんを死に至らしめたのである。

(赤い首輪の参加者を殺した者でなければ恩恵はないことがわかっただけでも収穫か)

DIOは、なにも余裕や慢心のみで御坂を脱出へと勧誘していた訳ではない。
そんな理由で、何事もNo.1が好きな彼が、脱出一番乗りという美味しすぎる恩恵を渡そうとするはずもない。
主催の男は言った。赤い首輪の参加者を殺した者は脱出できると。
だが、果たしてそれは本当なのか。どうやって脱出させるのか。
迂闊にその手段で脱出した瞬間に首輪を爆発させ嘲笑う可能性だってある。

それを知るために、わざわざ時間を止め、本来ならそのまま殺せばいいものの、御坂の隣にいたありくんを電撃の中に放り投げ殺させるという回りくどいことまでしたのだ。

結果としては、赤首輪殺害の報酬の譲渡や強奪が不可能ということが判っただけだったが、まあ悪くは無い。
なにも進展がないよりは遙かにマシだ。

(あの様では御坂とかいうガキは意地でも脱出しようとはしないからな。放っておいても構わないだろう)


437 : 勝利へのV ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:13:29 TAMYfMx20

幾らでもお膳立てはしてやり、諦めて脱出しても良い口実と状況は作ってやった。
しかし、御坂は結局最後まで歯向かった。
肉の芽で洗脳し脱出させてみることもできたが、後々にDIO自身が脱出することも踏まえれば、なるべく精神状態が正常である方がより正確な実験になるだろう。
これらの点から、彼女は実験対象としては不適合者の烙印を押さざるを得なかった。

(実験体に相応しい者は、己の欲のままに動く者か、下手な情に流されず合理的に動ける者か。...部下の一人でもこの殺し合いに招かれていれば楽なのだが)

ないものねだりをしたところで仕方がない。
ないのならば、これまで通り己で見つけ奪うまでだ。

帝王はひっそりと闇夜の中に姿を晦ます。
黒球もとうに消え失せ、戦場に残されたのは無数に散らばるありの残骸だけだった。



【Hー8/一日目/黎明】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】 
[状態]:疲労(小)、身体のところどころに電撃による痺れ(我慢してる)、出血(右腕、小〜中、再生中)、両脚にありたちによる攻撃痕(小〜中、再生中)
[装備]:
[道具]:基本支給品。DIOのワイン@ジョジョの奇妙な冒険、不明支給品0〜1
[思考・行動] 
基本方針:生き残る。そのためには手段は択ばない。 
0:主催者は必ず殺す。
1:赤首輪の参加者を殺させ脱出させる実験を可能な限り行いたい。
2:空条承太郎には一応警戒しておく。
3:不要・邪魔な参加者は効率よく殺す。
4:あのデブは放っておく。生理的に相手にしたくない。


※参戦時期は原作27巻でヌケサクを殺した直後。
※DIOの持っているワインは原作26巻でヴァニラが首を刎ねた時にDIOが持っていたワインです。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。

解説
※空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)
体液に高圧をかけ、眼から光線のように発射する技。要は目からビーム。
その威力は人体を容易に貫き、石柱を切り裂くほど強力。
ディオが編み出し、後に吸血鬼となったストレイツォが命名した。


438 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 01:16:00 TAMYfMx20
投下終了です。

『スノーホワイト』、『ゆうさく』を予約します


439 : 名無しさん :2017/05/13(土) 03:13:00 44FmUyck0
乙です!
淫夢キャラがここまで熱い生き様と献身をみせるとは……
御坂は強かったけど、DIOの格には及ばなかったか、まさに悪の権化
御坂の状態表を見て熱いものがこみ上げてきた


440 : 名無しさん :2017/05/13(土) 16:03:49 VZDNfWMUO
投下乙です

人の評価は見た目や嗜好で決まるんじゃない
その行動で決まるのだ


441 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/13(土) 17:30:15 TAMYfMx20
感想ありがとうございます

>>426
>コイツは、アンチスキルなんか比にもならない程の、純粋なる『悪』だ。
のアンチスキルは誤字でしたので
『そこらのチンピラ同然のスキルアウト』に修正します。すみません。


442 : 名無しさん :2017/05/14(日) 17:04:34 ej8VsGOs0
投下乙です
放置されてる黒球はどうなったんでしょう?
それとも後で御坂が報酬を受け取りに行くイメージなのかな?


443 : 名無しさん :2017/05/20(土) 00:41:12 rRhmFS160
投下乙です
最近パロロワというものが少しわからなくなり迷っておりましたが、投下される話を読んでこちらも励みになっております
TDNのスローボールのように真似しがたくも素晴らしいssを多く見て、こちらも負けてられないと身が引き締まる思いです


444 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/21(日) 01:35:59 pf3E/IuM0
>>442

黒球はなにも操作しなければ5〜10分くらいで消えます。

投下します


445 : 誰が為に ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/21(日) 01:36:30 pf3E/IuM0

どうも、ゆうさくです。

いつからかスズメバチに因縁をつけられる日々を送ってきた僕ですが、いまはなんと殺し合いに巻き込まれている最中です。
しかもこの会場にはあの恐ろしいスズメバチが。
奴が目の前に現れた時には、僕はもう諦めていました。もうね、刺すなら刺してください、早くこの恐怖から解放してくださいと。
けれど、そんな僕を助けてくれる子供が一人。
ええ、子供です。しかも可愛らしい女の子です。
今までそこそこの数のホモビに出演させていただきましたが、まさか女の子に抱かれる日が来るとは思いませんでした。
この少女に、僕は恥ずかしながら『魔法少女みたいだ』なんて印象を抱きました。
いい歳こいて抱く感想が魔法少女ってなに言ってんだって感じですよね。

けど、そう思ってしまったのは仕方ないんです。

だって、彼女はとても清く真っ直ぐな目を、人を希望に導くような目をしていたんですから。


446 : 誰が為に ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/21(日) 01:37:01 pf3E/IuM0



ゆうさくを抱きかかえた少女、スノーホワイトは、ふわりと地面へと降り立つ。

振り返り、追手のスズメバチを警戒するも、あのビンビンという羽音(?)や心の声は聞こえない。
どうやらだいぶ離れたようだ。

「もう大丈夫みたいですね」

かけられた言葉に、ゆうさくはホッと一息をつく。
助かった。
あの恐ろしきスズメバチから逃げ出し死なずにすんだ。
いまのゆうさくの胸の中は、奴への恐怖や不安は薄れ(消えたとは言っていない)、ただただ自分を救ってくれた少女への感謝の念でいっぱいだった。

「ありがとうございます」

だから、まずはその感謝を言葉に。
当然のことかもしれないが、案外極限状態に陥ると疎かにしがちなことである。

「い、いやそんな。当たり前のことをしただけですよ」

そうは言いつつも、顔の綻びを隠せないスノーホワイトに、ゆうさくもまた思わず顔を綻ばせる。
自分を助けてくれた時はずいぶんと清く凛々しく思えた彼女も、案外年相応なところをのぞかせ、思わず『可愛いな』と身内の子を愛でるような気分になってしまった。

それから周囲を見回し、改めて安全を認識した二人は、情報交換へと流れを持ち込んだ。


447 : 誰が為に ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/21(日) 01:37:25 pf3E/IuM0

「ゆうさくです。きみの名前は?」
「スノーホワイトです」

ゆうさくが年上らしく先導したのが功を為したのか、ホモビ男優と現役女子という垣根があるにも関わらず、二人は妙な緊張もなく話を進めていた。

「俺は知り合いはいないんだけど...スノーホワイトちゃんはどう?」
「友達が一人と、知り合いが二人います。この三人の誰かに遭いませんでしたか?」

名簿の知り合いを指差しゆうさくへと見せるが、しかしゆうさくは首を横に振る。
魔法少女の誰一人として知らないという答えだ。
もしも遭遇していたら一緒に行動しているはずなので想定内ではあったが、ちょっぴり落胆せずにはいられなかった。

「それで、えっと...さっきの蜂?のことなんですけど」

そのことに触れた途端、ゆうさくの顔が一気に陰る。
あれだけ恐怖していたのだ。嫌がるのも無理はないだろう。
だが、あのゆうさくに瓜二つな蜂について知ろうとするなというのも無理な話であり、且つ知らなくては対策ができないのだ。

ゆうさく自身もそのことはわかっており、震える声でスノーホワイトに語る。
あの突如発生したスズメバチは、何故かわからないが自分にそっくりでしかも如何なる手段をもってしても自分を刺していくのだと。

それだけならば単なる怪奇現象だ。実際、スノーホワイトも魔法少女でありながらスズメバチに恐怖を抱いている。

だが、彼女の恐怖は、ゆうさくの『何度も刺されて死んだ』という言葉で瞬く間に霧散する。

「死んだ...?」

信じられないような表情のスノーホワイトに、ゆうさくは事実を述べる。
自分はあのスズメバチに何度も刺され、その度に死んでいると。

ならば、何故生き返っているのか。その問いには、ゆうさく自身もわからない、気が付けばまた画面の中で乳首をさすっていたと答えた。

画面や乳首云々は置いておいて、ゆうさくの語った事実は、スノーホワイトに一縷の望みを見出させた。

この殺し合いに招かれているラ・ピュセルは本物である可能性が高いと。

ラ・ピュセルこと岸部颯太は、目も当てられないような惨状の遺体で発見された。
直接見ることは敵わなかったし見たいとも思えなかったが、その伝聞だけでも彼が確実に死んでしまったということは解っている。
だから、この名簿のラ・ピュセルに対しては半信半疑だった。

しかし、ゆうさくが気付かない内に何度も生き返っているというのなら、その何者かにそうちゃんも生き返らせてもらっているのかもしれない。

そんな玩具のように人の生死を操れる者への恐怖よりも、いまは大切な人にまた会えるかもしれないという期待と希望が遙かに上回っていた。


448 : 誰が為に ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/21(日) 01:37:46 pf3E/IuM0

「ありがとうございました、ゆうさくさん」

ペコリと頭をさげるスノーホワイトに、ゆうさくは笑みを零す。
表情に活気が戻っている。
よくわからないが、自分とのやり取りで得るものがあったのならなによりだ。

一息おいて、これからの方針を決めようとした時だ。

『―――――――』
「え?」

スノーホワイトの魔法が、一つの声を拾った。
それは、荒々しく、しかしか細い少年のような声だった。

「スノーホワイト?」
「...ごめんなさい、ゆうさくさん。私、いかなくちゃ」

困っている人がいればすぐに駆けつけ力になる。
キャンディ云々は関係ない。
それがスノーホワイトの、姫河小雪の目指す清く正しく美しい魔法少女だからだ。

「私は、困っている人の声が聞こえる力があるんです。それを見捨てたら...私は、もう私じゃいられない」
「なら俺も行くよ。一人より二人だ」

間もおかずにゆうさくは同行を申し出る。
決して死にたいわけではないし、自分に大層な自信があるわけでもない。
しかし、ゆうさくは『ヴァーチャルウリセン』シリーズを見てもわかるように、ホモビだからといって手を抜かず、礼儀正しく尽くし、ホモガキからは汚いと言われる淫夢の人物とは思えないほど清潔で気遣いのできる男である。
少なくとも「げっ、靴下もかよ」などと愚痴を零したりはしない。
そんな彼が、恩義のあるスノーホワイトに協力しないという選択をすることはありえなかった。

スノーホワイトも、ゆうさくの申し出を嬉しく思っていた。
こんな殺し合いの場でもなお理想の魔法少女であろうとする自分に賛同してくれる者がいる。
それだけで勇気が湧いてくるし、理想を追い求めていてよかったと思える。
そんな彼女に、ゆうさくの申し出を断る選択肢はなかった。

「よろしくお願いします、ゆうさくさん」
「ハイ、喜んで」

そして、再びゆうさくを担ぎ、スノーホワイトは声の主のもとへとその足を急がせる。

だが、彼女は知らない。

声の主、一方通行は既に死の淵にあったこと。その下手人はゆうさくの天敵であるあのスズメバチであることを。


449 : 誰が為に ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/21(日) 01:38:04 pf3E/IuM0

【F-4/一日目/黎明】

【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】健康
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない…
0:声のもとへ向かう
1:同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2:そうちゃん…
※参戦時期はアニメ版第8話の後から
※一方通行の声を聴きました。



【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】健康
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【行動方針】
基本:希望感じるんでしたよね?
0:スノーホワイトについていく。
1:スズメバチ対策をする。
2:スノーホワイトに協力する。


450 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/21(日) 01:38:50 pf3E/IuM0
投下終了です

加藤勝、『ゾッド』、『ワイアルド』を予約します


451 : 名無しさん :2017/05/21(日) 17:36:44 09Q9cz7E0
投下乙です。

ファッ!?久々にスズメバチに刺されるゆうさく見ようと思ったら消されてるじゃんアゼルバイジャン!じゃけんYouTubeで見ましょうね〜。

何度刺されても蘇り、再び刺されて死ぬゆうさくの姿にそうちゃん生存を見出すスノーホワイトさん。
そうちゃんはそうちゃんの魔法の剣を上条さんの幻想殺しに握られちゃったりしてるけど、生きてさえいればまた会えることもあるでしょう。

ゆうさくはいまいちバトル淫夢での定番みたいなのが思い浮かびませんが、きっと上手いこと注意喚起してスノホワさんをサポートしてくれることと思います。
今後の二人に期待です。


452 : 名無しさん :2017/05/21(日) 23:24:44 htWeCBNg0
投下乙です
たとえホモビ男優であろうとそれがロワであるのならば一人のロワの参加者である、当たり前のことではありますがそれを再認識しました
私事ですがこれを機にゆうさくを把握したいと思います


453 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:46:20 iTYbtdk60
投下します


454 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:47:56 iTYbtdk60
相場たちと別れ、南下した加藤は眼前の光景に言葉を失った。
もとは東京のように整備された道路が敷かれ、綺麗なビルや民家が立ち並ぶちょっとした都市だったのだろう。
だが、至るところに刻まれた破壊の痕は、否が応でも身の危険を予測させる。

ここでなにかあったのだ。それも、これほどまでに地形を変えるような大規模な戦いが。

この状況において、大した戦力を持たない大多数がとる行動は逃走だろう。
下手人がまだ近くにいるかもわからないし、ソイツと遭遇することになれば敗北は必至だ。
だから、この場で逃げ出そうとも責めたてる者は誰もいない。

(もしかしたら、動けない人がいるかも...)

だが、それでも加藤は見知らぬ他者を助ける選択をした。
例え誰から偽善者と蔑まれようと、助けた見返りがなくとも、危ない人がいれば放っておくことができない。
合理的とは程遠い、根っからのお人好しが加藤勝という男だった。

なるべく足音を殺すように、ゆっくりと町の中心へと足を踏み入れていく加藤。
破壊痕は、進む度にその激しさを増していく。

(こんなことが出来る奴が人間だとは思いたくない...相場の言っていた赤首輪の参加者か?)

この地に呼ばれた赤首輪の参加者はここまでできるというのか。
正直、怖いと思う。
だが、逃げているだけでは殺し合いの被害は広まるばかりだ。
どうにかして赤首輪の参加者を止めなければ。

「なにをしている」

頭上よりかけられた声に、加藤の足は思わず止まる。
やはり逃げ遅れた者がいたのか。
声をかけられた方へと視線を向ける。

その声の主を見た瞬間、彼は思わず息をのんだ。

満身創痍でこちらを見下ろすソレは、一目でわかるほど異形なる存在だったからだ。


455 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:48:27 iTYbtdk60




ソレの姿を認めるのと同時、加藤の呼吸は重く苦しいものへと変貌する。
呼吸の度に取込んだ空気は肺に重くのしかかり呼吸の枷となる。

「これは、あんたがやったのか」

加藤は震える声で瓦礫に塗れた家屋を指差す。

「そうだ」

数瞬の間もおかずして返答がくる。
まるでそれが当たり前だとでも言うかのように、堂々とした物言いだ。

「誰かと戦ったのか」
「語るまでもないだろう」

見ればわかる―――その通りだ。
この惨状を引き起こしたと言い張るなら、何者かと戦闘したという結論など考えなくとも辿りつく答えだ。

「...あんたが望んだ戦いなのか?」

加藤は、僅かな希望を込めて問う。
もしもこの怪物が赤首輪であることを理由に狙われ、身を守るために戦ったのならそれは正当防衛だ。
そうであるならば、犠牲にはせず共に脱出の道を探したいと思っている。

「無論。闘争こそ我が本分。なぜそれを拒絶する理由がある」

だが、返答は加藤の希望を打ち砕いた。
怪物が戦ったのは、正当防衛などではない。おそらくその逆。
コイツは、この殺し合いを受け入れるだけでなく、自ら戦いを仕掛け、殺戮と闘争に興じようとしている。

「オレを止めたければ剣を握れ。その足を踏み出せ。言葉などという脆き刃に縋るな」
(やるしかないのか...!)

自然と、加藤の剣を握る手に力が籠る。
戦うしかないのか。
ガンツの関係ないこんな異常な状況でも、殺し合わなければならないのか。

加藤が苦悩するそんな中。

「オホッ?見たことあるツラだと思いきや...随分と面白いナリになってるじゃねえか、ゾッド」


456 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:50:05 iTYbtdk60

新たに現れた、獣の皮を被った大男が一人、にたにたと笑みを浮かべつつ現れた。
その男が醸し出す異様さに、邪悪な気配に。
加藤は、この男もまた怪物であると感じ取らずにはいられなかった。

「なぁ、お前があいつをあんなにしたの?」

加藤の気持ちを知ってか知らずか、大男は気さくに話しかけてくる。
だが、その友好的にも見える立ち振る舞いや軽い言動に反して妙なプレッシャーを植え付けられてしまう。


「い、いや...そういう訳じゃ」
「なぁーんだ、ちぇっ」

大男は加藤からあっさりと視線を外し、相も変わらずにたにたとゾッドを眺めている。
なにがそんなに愉快だというのか。
そう口にしようとした加藤はしかしゾッドに遮られる。

「ワイアルド...よもや貴様が生きているとはな」

煽りと嘲笑の笑みへの苦言ではなく。
ゾッドが零した言葉に、ワイアルドの笑みは薄まり、思わずポリポリと額を掻いた。

「あー?ナニ、その俺が死んだみたいな言い方」
「言葉通りだ。貴様は俺に身を裂かれ確かに死んだはずだ。...貴様、なにをした?」

ワイアルドの笑みが消える。
いま、こいつはなんと言った?

「...詳しく聞かせてもらおうじゃねえか」


457 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:50:40 iTYbtdk60







ワイアルドが死に至るまでの大まかな経緯をゾッドは語った。

「つまり、死にそうになった俺が『5人目』を殺そうとしたのを、お前が止めたってことか?」
「そうだ」
「覚えがねえな。そもそも俺があの男に殺されかけること自体ありえねえ」

そう口にしながらも、ワイアルドの眉間には皺が深く刻まれている。
自分がゾッドに殺される、というのは、まあ理解はできる。
というのも、ゾッドは使徒の中でも戦闘力が高い部類に入り、認めたくはないがまともに戦えば返り討ちに遭うのは事実。
だから戦えば殺されるというのは事実だろう。

だが、ワイアルドは確かにガッツとの斬り合いの最中にこの殺し合いに呼び出された。
あの時は食らいつくのに必死だったガッツとは違い、自分には余裕があった。
あの場面で自分が殺されかけるとは到底思えない。

もしも情報源が他の使徒ならば話半分に聞き鼻で笑って一蹴しただろう。
だが、ネタの提供者はあの不死のゾッド。使徒の中でも屈指の堅物クソ真面目だ。
嘘や冗談を言うような頭を持ち合わせていない彼が、こんなバカげた話を思いつくはずがない。

しかし、ワイアルド自身の記憶とゾッドの話を照らし合わせれば、それだけで矛盾が起きている。
これはどういうことだろうか。

「時間が違うのかもしれない」

思わずそう呟いたのは、加藤。
彼は、二人の異形を前に、逃げ出すこともできず結局ゾッドの話を聞くことになっていた。

「そういやお前いたっけ」

茶々を挟むワイアルドにも特に機嫌を損ねることなく加藤は続ける。


458 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:51:37 iTYbtdk60

「あんたたちの言っていることは、多分どちらも間違っていない。俺も思い当たる節はあるんだ」
「...続けろ」
「...実は、俺は二度死んだことがあるんだ。一度目は電車に轢かれて、二度目は敵と相討ちになって...俺が言いたいのは、この生き返った時のことなんだ」

死者の蘇生。そんなことは、人間を辞めた使徒ですら容易いことではない。
それこそ、神々の所業だろう。
だが、この男は、何の変哲もないこの男はそれを二度も体験したというのだ。
ゾッドもワイアルドも、自然と加藤の言葉に興を惹かれていた。


「俺が生き返ったのは友達が頑張ってくれたお蔭なんだが、二回目に生き返った時は、俺が相討ちになった記憶までしかなかった。死んだヤツは、死ぬ直前の記憶を受け継ぎ再生させられるんだ」
「つまり?」
「その、確実な証拠はないが、俺の知り合いは『俺たちはコピーで、オリジナルはおそらく処分されている』って言っていた」

コピー。オリジナル。
加藤とは生きる時代が違う二人は、その言葉自体には馴染みがないものの、彼の言いたいことはなんとなく察していた。
いまここにいる自分は、偽物である可能性が高い、と。

「たぶんあんたが死んだ記憶がないのも、死んでから再生させられたからだと思う」
「......」

ワイアルドは呆然とした表情で虚空を見つめている。
仮説とはいえ、自分が死んだなどという事実を証拠と共に突き付けられたのだ。
容易く全てを受け入れるのは困難だろう。

「まあ、いいか」

だが、彼のモットーはエンジョイ&エキサイティング。
少々のショックはあったものの、いま生きているならそれでいいやというなんとも気楽な考えに至り、前向きな気持ちになる。
むしろこれはラッキーだ。
死ぬ運命だった自分が改めて生を掴みとり、生き残れる。そんなかけがえのないチャンスだ。


459 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:52:26 iTYbtdk60

「なあ、ゾッドさんよ。俺を殺したのは間違いなくオメェなんだよな?」
「それがどうした」
「ならよぉ、ヘヘッ。俺が殺り返しても文句は言わねえよな」

そのために、まずは不安要素を潰す。そう、この手負いのゾッドを殺すのだ。
自分よりも強いゾッドを殺し脱出すれば、この殺し合いを終えた後の自分の生存確率はかなり上がる。

「俺は元々オメェが気に食わなかったんだ。"望むままを行う"。それがオレ達使徒の唯一の戒律だってのに、いつもいつも武人気取りでお堅いオメェがよ」

ワイアルドの身体の筋肉がメキメキと膨張し、発せられる蒸気がその姿を包み隠していく。
その熱気に加藤は思わず目を瞑り、逸らした目を再びワイアルドへと向け絶句する。
かろうじて人間の形を保っていたワイアルドの姿は、一目瞭然に変化していたからだ。

巨大化、などはそのほんの一部。
まず目につくのは腹部に空いた巨大な眼とその真下についた巨大な口。
それらを支えるのは、先程までワイアルドの身体だったものが飾りのようなほど巨大で毛深い肉体。その両肩には腹部のものと同様の邪悪で巨大な眼。
そして先程までのワイアルドの身体は、その異形な肉体の頭部に生えている。

これを一言で言い表すならば、怪物以外のなにも相応しくないだろう。

「......」
「どうしたゾッドさんよ。戦況がヤバすぎて言葉も出ねえか?なあに、エンジョイ&エキサイティングを忘れなけりゃ死ぬのだって怖くはねえさ!」
「...いいだろう。使徒同士の戦いには興が惹かれぬが...貴様がその気ならば、相手をしてやる」
「この牛バカやろうが...そういう態度が、気に入らねえんだっつってんの!」

感情の赴くままに、ワイアルドは拳を振り上げゾッドへと打ちおろす。
彼には自信があった。
自分の強さに間違いはないし、なにより相手は手負い。
この機を逃さねば、確実にゾッドを殺れる。
だからこそ、振り下ろした拳がゾッドの頭部へ当たった時にはやはり勝ちを確信したし、なんなら今までの鬱憤を晴らす勢いで甚振り遊ぼうかと考える余裕さえ生じている。


460 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:53:05 iTYbtdk60

「舐められたものだ」

だが、決着はまだついていなかった。否、もう付いていると言っても過言ではないだろう。
ワイアルドの振り下ろした腕は、ゾッドの頭部を殴りつけるのと同時にそのまま掴まれてしまう。

「戦闘においては敵を屠るために攻撃を放つ。そんな定石すら忘れたか」

ワイアルドは捕まれた腕を引きはがそうとするも、ゾッドの力は緩まず逃れることができない。

「先程の男は、人間の身でありながらわが身に殺意の拳を刻んだぞ―――このように」

拳を握りしめ放たれる右ストレートがワイアルドの腹部に減り込み、そのまま息をつかさぬほどの拳の雨がワイアルドを襲う。
そう、まるで空条承太郎から受けたラッシュを再現するかのように。
ワイアルドは為す術もなく拳の雨を受け続け、最後の一撃でその巨体が宙を舞い、後方へと大きく吹き飛ばされ瓦礫に衝突しその身を埋めてしまった。

(ど、どうしようもできない...)

加藤は眼前で繰り広げられる戦いに立ち尽くすしかなかった。
手尾ながらも圧倒的な強さを誇るゾッドもそうだが、加藤からしてみれなワイアルドも充分に強い。
もしもワイアルドの攻撃を生身の人間が受けたならば、ただではすまないだろう。
それほどまでに、己と二人との次元の差を実感していた。

(何度か星人たちと戦ってきたが...ガンツの武器がなければ、俺はこんなにもちっぽけなのか)

「立て。よもや、その程度で俺を殺せると思っていたのではあるまいな」

ゾッドの呼びかけにも応えず、ワイアルドは死んだかのようにピクリとも動かない。
まさか本当に死んだのでは?と加藤の脳裏に疑問が湧いたその時だ。

ガバッ。

ワイアルドは突如立ち上がり、ゾッドも加藤も一瞥することなく背を向ける。
そのままスタコラサッサとでも擬音がつけられそうなほどに一目散に駆けだしあっという間に姿を消してしまった。


461 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:55:00 iTYbtdk60

「...フンッ。やはり奴との戦いでは俺の求めるものは得られんか」

呆れたように息を吐くゾッドは、座り込むとその鋭い眼光でジロリと加藤を一瞥する。

「それで...貴様はどうするのだ」

加藤の心臓がドキリと跳ねあがる。
ゾッドを倒す。無理だ。不可能だ。せめてガンツスーツでもあればまだマシだったが、こんな剣一つでどうにかできるはずもない。

「どうしてもあんたは戦わなきゃならないのか」
「くどい。俺を止めたいのならばその剣をわが身に突き立ててみせろ」

加藤はどうにか説得を試みようとするが、やはりにべもなし。
ワイアルドよりは品性も知性もあるものの、やはり話は通じない。
種族だとかではなく根本的に解りあえない、解り合おうとしないのだから当然だ。
加藤勝がゾッドを止めることは不可能。いまはその事実を認めるしかなかった。

「......」

目を合わせたまま、じりじりと後退する加藤。
その距離が10メートルほどに達したその瞬間、加藤は背を向け全力で逃げ出した。

加藤勝は超がつくほどのお人好しである。
もしもこの場に他の参加者、その中でも非力な者がいれば、加藤は勝機が無くとも立ち向かっただろう。
だが生憎この場にいたのは加藤ひとり。
彼だけならば、ゾッドから逃げる選択肢をとることもできる。

それに、加藤はなにも臆病風に吹かれただけではない。
ワイアルドを瞬く間に蹴散らしてしまったゾッドだが、あの身に刻まれた怪我はホンモノだ。
あのゾッドをあそこまで痛めつけることができる存在がこの殺し合いにいるのなら、自分一人で挑み無駄に屍を晒すよりも、その人物に協力を得た方がいい。
その考えに至ったからこそ、加藤はゾッドに背を向けることができたのだ。

(...俺たちは、人間は、それ以外の生物とは殺し合うしかないのか?)

加藤の選択肢は、生き残るためには間違ってはいない。それは彼自身も自覚している。
しかし、彼の頭の片隅から、その一抹の疑問が消えることはなかった。



一方、ゾッドは加藤を追おうとはしなかった。
おそらく追いつくこともできるだろうが、敢えて彼を放置した。
彼が戦わなかったことへの落胆。それもある。
しかし、それは予想の範囲内だ。
今まで数多くの戦士と剣を交えてきたが、ゾッドの力を見せつけられても尚立ち向かって来れる者は少ない。
単に怯えて逃げたのではなく、なにかしらの目的があって去ったようにも見えたが、空条承太郎との戦いの後では怯えの有無など五十歩百歩のようなものだ。
ただ、予想の範囲内にしては落胆が大きいのは、承太郎と声が似ていたことから、余計に期待を抱いていたからだろうか。

(...まあいい。奴やワイアルドが強者を引き連れてこれば捨て置く意味もあるというもの)

承太郎との戦いの余韻を少々濁されてしまったのは口惜しいが、それを引きずる必要もない。
次なる闘争に備え、不死のゾッドは再び身体を休めることにした。


462 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:55:41 iTYbtdk60



「ゲホッ...クソッ、あの牛馬鹿ゾッドめ」

息を切らしながら走り続けたワイアルドは、フゥと息を吐き身体を木に預けた。

失念していた。
あいつの字は"不死のゾッド"。
死んだと噂が流れる度にまたどこかの戦場で戦ってきた使徒だ。
つまりは、単に勝ち続けてきた自分とは違い、幾度も死にかけてきた経験があるということ。
例え重傷を負っていたとしても、生半可な相手ではないのだ。

「チックショウ、せっかくウサ晴らせるかと思ったのによぉ」

僅かだが拳を交えて改めて思い知らされる。
ゾッドがいる限り、自分はまともに生き残ることはできないと。

ではどうするか。
大人しくゾッドがのたれ死ぬのを待つか、諦めて奴の糧になるか。
両方違う。
再び奴と出会う前に脱出してしまえばいい。

同じ赤首輪でも、あの青い髪の女のように自分よりも弱い存在はいくらでもいるだろう。
そいつらを殺し、一足先に元の世界へ帰還し、以前のように恐怖政治により荒くれ共や囚人を束ね戦力を整える。
おそらくゾッドも生き残るだろう。
奴が帰ってきたら、一気に手駒をぶつけ、弱ったところを今度こそ本気でブチ殺す。
彼はそれを今後の大まかな行動指針とした。

「遊びはほどほどにしなくちゃ...『ほどほど』になぁ」

だが、彼の辞書には反省の二文字は記されていなかった。


463 : ノスフェラトゥゾッド ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:56:56 iTYbtdk60


【I-4/街/一日目/黎明】

【ワイアルド@ベルセルク】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、ボコボコ
[装備]:
[道具]:金属バット@現実、基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: エンジョイ&エキサイティング!
0:いてえ...いてえよぉ
1:鷹の団の男(ガッツ)を見つけたら殺し合う。
2:さっきの奴ら(隊長、さやか、仁美)を見つけたら遊ぶ。
3:ゾッドはどうにか殺したいが、いまは離れる。

※参戦時期は本性を表す前にガッツと斬り合っている最中です。
※自分が既に死んでいる存在である仮説を受け入れました。


【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)、右角破損、頭部にダメージ(小)
[装備]:日本刀@現実
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:闘争を繰り広げる。
0:とにかく戦う。
1:もう少し休憩したら行動を始める。
2:空条承太郎には強い興味。春花の持つベヘリットにも少し興味。
3:ガッツと出会えれば再び戦う。

※参戦時期はグリフィスに忠誠を誓う前。
※加藤が二度死んでいることを聞きました。



【加藤勝@GANTZ】
[状態]:健康、精神的疲労(中)、ゾッド・ワイアルドへの恐怖。
[装備]:ブラフォードの剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:相場の語った赤首輪の参加者に注意。できれば説得して止めたいが...
1:計ちゃんとの合流。
2:ゾッドを追い詰めた参加者を探し協力を頼む

※参戦時期は鬼星人編終了後。そのため、いまの玄野はガンツの記憶を無くし普通に生活している状態だと思っています。


464 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/05/29(月) 18:58:40 iTYbtdk60
投下終了です。

白井黒子、『T-1000』、『佐倉杏子』、レヴィ、玄野計、陽炎を予約します。


465 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 18:59:40 rFI1XDWA0
陽炎と玄野を予約から外して投下します


466 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:00:15 rFI1XDWA0
「ジョン・コナー...ですの?」

乱入者である警官の問いに最初に反応したのは白井黒子だった。
ジョン・コナー。記憶が確かなら名簿に載っていたはずだ。

「知らないなら知らないでいい。私はその少年について警告させてもらうために口を挟ませてもらった」

警告。即ち、ジョンという少年はなにか危険な要素があるということだろうか。

「ヘイ、おまわり。ソイツはアタシの腹の虫をぶち撒けるのを邪魔するくらい大事な用だってか、ええ?」

ピクピクとこめかみに血管が浮き出るレヴィに、黒子は内心で同意する。
レヴィの意見を肯定する訳ではないが、タイミングがマズすぎる。
なんせ、このガンマンと槍使いは今しがた殺し合っていたところだ。
黒子自身、一度の乱入で止まらなければ実力行使もやむなしと判断していた。
だが、この警官はそんなこともお構いなしに自分の用件を押し付けようとしているのだ。
特に短気なレヴィには火に油を注ぐようなものだろう。

「きみの腹の虫とやらがなにかは知らないが、ジョン・コナーについてはイチ早く知らせるべきだと判断した。理解してくれ」
「オーライ。あんたの言いたいことはよーくわかったぜ」

レヴィは先程とはうって変わって落ち着き払い、ひらひらと掌を振り―――銃声。放たれた弾丸は、警官の心臓に着弾する。
あまりの唐突な変化に、黒子も警官も身動きひとつとることはできなかった。
殺気を醸すことなく、息をするかのように銃を放つというある種の技術。
死が路上の糞の如く転がる街・ロアナプラで生きてきた彼女の特権だ。

「『知ったこっちゃねえんだよクソヤロウ』。こいつがあたしの答えだ。冥土の土産に持っていきな」

警官が倒れたのを認識したレヴィは、次なる獲物へ銃を向け、その眼前に迫るは朱色の槍。
先程まで殺し合っていた杏子は、レヴィが警官を撃つと確信していたため、他二人よりも早く反応にうつることができたのだ。
レヴィはそれを焦ることなく顔を傾け回避。杏子は刺突の勢いでそのままレヴィの懐に入り込んでしまう。
互いの顔に吐息がかかりそうなほどに近づく二人の距離。
レヴィは殺し合いへの愉悦に口角を吊り上げ、杏子は舌打ちと共にレヴィを睨みつける。


467 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:00:35 rFI1XDWA0

「ハッ!ガキの癖してあたしのご機嫌取りとは、嬉しくて涙が出てくるじゃねえか、ええ?」
「あたしはさっさとあんたみたいなのとは終わりにしたいだけだっての。...けど、その前に」

二人は同時に踵を返し標的を見定める。
彼女達の狙いは―――倒れた警官へと駆け寄ろうとしていた黒子。

銃声。

放たれる弾丸は黒子へと飛来し、寸前で黒子の姿が消える。
その姿は、レヴィの背後に。間一髪の瞬間移動で躱したのだ。

だが、間髪入れずに彼女の身体に絡みつくのは鎖。

その持ち主、佐倉杏子を認識すると同時に、黒子の身体が壁へと叩き付けられた。

「カハッ...!」

肺から空気を絞り出されるかのような激痛に、黒子は思わず苦悶の声を漏らす。

「ビンゴ。あたしがガキを撃っておまわりの処置を邪魔すれば、あたしを黙らせてからおまわりのとこへ行こうとする。だが、もう一つ横やりが入ればそれでオジャンだ」

レヴィと杏子。互いの戦いにとって白井黒子という存在が邪魔になるのは明白だ。
彼女たちは僅かに交差した視線ひとつで、大雑把ながらも意思疎通をこなしてみせた。
場所は違えど、殺し合いの日々を送ってきた経験の賜物である。

だが、手を貸すのは一時的にだけ。
レヴィが赤首輪(賞金首)を狙う限り、佐倉杏子が己の生存を望む限り、両者の戦いが終わることはない。
引き金は引かれ、槍を持つ柄は強く握りしめられ、戦いは再開の狼煙を上げる。


468 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:01:10 rFI1XDWA0



(不覚...でしたわ)

金属音と銃声が鳴り響く中、黒子は痛む身体に鞭をうちどうにか意識を繋ぎとめる。
なにもできなかった。
警官の男をレヴィが撃ったあの時、黒子はレヴィが殺気を醸し出せばすぐにでも動ける心構えはしていたつもりだった。
すぐにレヴィを押さえてしまっては彼女が不満を募らせ暴走するのではと冷静に判断し様子を窺ったつもりだった。
だが、現実的にレヴィのスイッチの切り替えは速すぎた。あの弾丸が黒子に向けられていたら、五体満足で躱せたかどうかもわからない。
レヴィと杏子。二人の経験を見誤っていたのか。
自分がそんなミスを犯したとは信じたくはないが、現にこうして醜態を晒し殺し合いを継続させてしまっている。

(申し訳ございません。私が不甲斐ないばかりに...ですが!)

自分は確かに無力だった。だが、それで腐っていていいのか。否。
失敗したのなら全力で取り返す。諦めこそ、犠牲になった警官の死をも無意味にしてしまう悪手。
警官の弔いは必ず果たす。だが、それまでは全力で彼女たちを止めるのみだ。
息を切らしつつも立ち上がり決意する。
もう殺し合いを促進させるような失態は犯さない。粉骨砕身、全身全霊でこのバトルロワイアルを止めてみせると。

ごしごしと目を擦り、視界をクリアにすることでようやく気が付く。

撃たれた筈の警官が無傷で立っており、銃の引き金に手をかけていたことに。


469 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:01:30 rFI1XDWA0



BANG!!

「ッ!?」

突如の発砲音から僅かに遅れて、レヴィの手からベレッタが、次いで杏子の槍が弾き飛ばされる。

「おいおい、何のトリックだこいつは」

今しがた心臓を撃たれ倒れた筈の男が悠然と歩み寄ってくる光景に、二人の背に戦慄が走る。
なんなんだこの男は。
首輪の色は確かに"赤ではない"。
なぜ生きている。なぜこうも平然としていられる。

「二人共武器を収めてくれ。これでは話の一つもできやしない」

あくまでも穏やかな口調で語りかける男だが、無表情も相まり返ってそれは見る者に不気味な印象を抱かせる。

「改めて言わせてもらう。私は殺し合うつもりはない。ただ、情報を交換したいだけなんだ」

レヴィは即座にデイバックに手を入れ、杏子もまた槍を精製し直し構える。

「...その言葉、信じていいのですか?」

ただ一人、黒子だけは男の隣に並び立った。


470 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:02:02 rFI1XDWA0

全面的に男を信用しているわけではない。
黒子もレヴィたち同様、男に不気味なものを感じている。
だが、どういう思惑があるにせよ、この戦況を収めようとしているのは彼一人だ。
いまは味方だと考え場の収拾に努めるのがベストだと判断し、黒子は協力の要請を申し出たのだ。

「私は彼女たちを抑え込むのに尽力するつもりだ」
「わかりました。では、及ばずながら私も彼女たちを無力化するのに協力致しますわ」

レヴィは思わず舌打ちする。
撃たれても死なない男と瞬間移動する少女。
片方ならまだしも組まれると面倒な相手だ。一人で相手するにはどうしても骨が折れる。
どこぞの色ボケクソ尼かですだよ姉ちゃんでもいれば駄賃渡して一緒にブラッドパーティに乗り込むのだが、生憎とここにいるのはつい先ほど殺し合ってたガキが一人。
当然、彼女と組むのは不可能。一瞬ならまだしも、長期で組むのは赤首輪であるあちらにリスクが高すぎる。
そんな状況下でそれを受け入れるには互いの信頼が必要だが、レヴィ自身が杏子を信頼しようとは思っていないため交渉する余地はない。

と、くれば必然的に乱戦になるのだが、この中で一番不利なのは、銃を弾き落とされたレヴィであり彼女自身それを理解している。

(...殺るなら、一対一(サシ)だな。それしかねえ)

レヴィは、ひとまず弾かれたベレッタを拾うために駆けだす。
が、それを防ぐのは男の銃撃。
落ちているベレッタへと銃弾を浴びせ更に遠くへ弾き、同時にレヴィへの牽制の弾が地面に着弾する。
舌打ちと共にレヴィは立ち並ぶコンテナへと駆け、男の視界から姿を眩ます。

「彼女は私が引き受ける」

それだけを黒子に告げ、男はレヴィの後を追う。
コンテナの影から様子を窺ったレヴィは、駆けてくる男を確認しコンテナの角を曲がる。
ここがなんの工場地帯かはわからないが、コンテナが多く立ち並んでいる。
レヴィは、黒子と警官の男、この二人を引き離すためにわざと隙を突かせ、追ってくるように仕向けた。
結果、首尾は上場。後はどうするかだ。


471 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:02:21 rFI1XDWA0

レヴィと男が去り、その場に残されたのは黒子と杏子。
槍を構える杏子に対し、黒子はまずは説得を試みた。

「くどいようですが、私は犠牲者なくこの殺し合いを止めたいと思っていますの」
「赤い首輪の参加者を全員殺して脱出させるってことだろ」
「いいえ。赤い首輪の参加者だろうと関係ありません。誰一人犠牲者を出さず、この殺し合いを止め、あの男を逮捕する。それが私の目的ですわ」
「カッコイイこと言うねぇ。けど、そんなのをホイホイと信じるのは馬鹿のやることだ」
「...私の言葉を信じないのは構いませんが、ならあなたはこれからどうするのですか?」

これからどうするか。
佐倉杏子は戦闘狂ではない。
黄色髪の正義の魔法少女と袂を別った後も、魔女を斃しグリーフシードを集めることに奔走してはいたものの、それはあくまでも生きるため。
暁美ほむらから『ワルプルギスの夜』が来ると聞かされた時も、一人で挑もうとは思わず、彼女と手を組み勝率を上げることを考えた。
この場でもそうだ。レヴィと戦っていたのは、彼女が襲ってきたから自衛していたにすぎない。
もしもレヴィが襲い掛かってくることなく逃げていたら杏子も捨て置いただろう。
だからこの場では黒子の好みそうな綺麗ごとか、『自分を守るためには戦うが、殺しまわったりはしない』とでも答えれば、無駄な消耗は避けられる。
赤首輪も助けたいとのたまう黒子と戦ったところで、杏子が得るものはなにもないのだから。

「決まってんじゃん。生きるために殺すんだよ」

だが、その口から出たのは挑発じみた宣戦だった。

『あたしは人の為に祈ったことを後悔していない。この力、使い方次第でいくらでも素晴らしいものになる筈だから』

そんな綺麗ごとを言った少女を思い出す。
あまりにも甘ったるく、幼稚で、純粋な正義感を。
そんな正義感を見せつけられる度に、佐倉杏子は気に入らないと思うのだ。

「ならば、私はあなたを止めてみせますわ。口で言ってもわからないのであれば、少々荒療治になることは覚悟してくださいまし」

当然、黒子がそれを見過ごせるはずもなく。
この場にいるのが黒子でなくとも、正義を謳う者であれば同じ反応をするだろう。
これは避けられた戦いだ。
だが、無駄な消耗戦であることを自覚しつつも、佐倉杏子は正義の味方に噛みつかずにはいられなかった。


472 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:02:56 rFI1XDWA0




(さて、どうするか)

レヴィは、コンテナの影に隠れつつ戦法を考える。
現在、レヴィの手持ちは、もう一つの武器であるダイナマイトのセットのみである。
基本的に銃しか使わないものの、それだけしか使えない訳ではない。
ただ、ダイナマイトは確かに強力だが扱い辛くもある武器だ。
闇雲に投げれば自分も危険に晒すし、爆発までに時間もかかるため投げ返されることもある。
更に言えば、銃では敵を撃った感覚を味わえるが、爆弾ではそうはいかない。
設置し敵がかかるのを待つにせよ、投げて爆殺するにせよ、己の腕と感覚が直結し辛いため、敵を殺した感触がイマイチ味気ない。
故に、他の者にとってはどうかは知らないが、レヴィにとってこの支給品は外れの部類であった。

(...オーライ。文句ばっか垂れてても仕方ねえ。とにかくあたしはこいつであのおまわりを殺さなくちゃならねえんだ)

裸同然での最悪なシチュエーションは今までにも経験がある。
だから、こんな状況もいつもと変わらない。
しくじれば死に、ヘタをうたなけりゃ生き残る。
それが無法者の町、ロアナプラでの生き方だ。

コツ、コツ、コツ。

足音が耳に届く。

来やがった。
レヴィは姿勢を低く、臨戦態勢に入る。

(ステゴロでも負けるつもりはねえが、どうにも奴は気味が悪ィ。どうにかしてあいつのを奪いてぇが...)

柄にもなく、知恵を振り絞り勝機を探っていく。
限られた手段しかないのだ。人間である以上、自然とそうなってしまうのも仕方のないことだろう。


473 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:03:20 rFI1XDWA0

「やめだやめ」

だが、それが保ったのもほんの数秒だけ。
いまの自分がやっていることはなんだ。
生きるため、死なないためにうまく立ち回ろうとし、必死に慣れない知恵を振り絞る。
らしくない。
普段通りに二挺拳銃(トゥーハンド)でいられない現状に狼狽えているとでもいうのか。
あのクソッタレのおまわりが持っている銃を見て目が眩んだか。
そういうのはお高くとまった成金どもにでもやらせておけばいい。

(あたしは歩く死人だ。くたばりぞこないのアンデッドには、生きるの死ぬのは大した問題じゃねえ)

生きるのに執着する奴には怯えが生まれ目が曇る。
それが無ければ地の果てまででも戦える。

だから、いま自分がとるべきアクションは―――

「よぉ旦那。嬉しいねェ、あたしの誘いを受け入れてくれるなんてよ」

こそこそと隠れ勝機を伺うのではなく、姿を晒して死を肌で感じる。
そうすれば、首輪があろうがいつもと変わらないシチュエーションの完成だ。

不敵な笑みを浮かべ自ら姿を現したレヴィを見れば、誰しもがなにかを仕掛けるつもりだと警戒心を抱くだろう。
だが、男は無表情で銃を構え引き金に手をかける。

(そうさ。こういうのはビビッたら負けだ)

ダイナマイトの導火線に火を点ける。

目の前に火の点いた爆薬が転がってきた時どうするか。
生きるのに必死な奴は、もうすぐで爆発しちまうと慌てふためく。
くたばりぞこないなら、まだ爆発しないと鼻歌唄いながらソイツを蹴り飛ばせる。

自分はどちらだ。

当然、後者だ。

「一緒に脳みそをカラにして踊り狂おうぜ。沈着冷静(クール・アズ・キューク)なその面も真っ青になるくらいな」


474 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:03:43 rFI1XDWA0



警官―――T-1000は考える。
自分の任務は、ジョン・コナーを抹殺することだ。
この殺し合いという異様な状況でもそれは変わらない。
単純に考えれば、ジョンを抹殺するのに最も効率的なのは、出会いがしらに他の参加者を殺害していくことである。
参加者が減っていけば、同時に奴の隠れ蓑もまた減っていき、やがては自分と相対することになる。
そうすれば、もはや任務は達成したも同然だ。
まだ幼くロクに戦う術も持たない奴を刺殺してやるだけでいい。

だが、このゲームが始まってから最初に見たものが、効率的な手段だと思っていた方針を非効率的なものにしてしまった。

戦闘音を聞きつけ足を運べば、繰り広げられるのは参加者たちの闘争。

ガンマンと槍使い、超能力者の三人だ。

主に戦っていたのはガンマンと槍を使う女だった。
どちらも身体能力は高く、通常の成人女性を遙かに上回る体捌きだ。
槍を使う女は赤首輪なだけあり、驚異的な回復能力を有しているらしい。
だが、彼女達以上に目を引いたのは、乱入者である空間移動を使う女だった。

彼女は触れたモノを自由自在に転移させることができる。
スカイネットも時代を超えて兵士を送り込むことはできるが、その兵士までもが超能力染みたことができる訳ではない。
兵士、即ち自分は流体金属のもとに、変装や物体の透過など幅広い行動はできるものの、それを越えた能力は使えない。
あの少女の空間移動という一点だけは、ターミネーターを越えていると言っても過言ではないのだ。

これらのことから、この三者をただ殺すのは決して容易いことではないと判断。

ならば、闇雲に殺してまわるのではなく、地道に数を減らしていくのが効率的であり確実な手段だ。


475 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:04:02 rFI1XDWA0

また、この場で黒子の味方をしたのも理由がある。

ここに連れてこられる前、T-1000は、ジョンを見つけ追跡していた。
順調にいけばジョンを確実に殺せたが、旧型に邪魔をされ失敗。
要因は乗り物の差だろうが、いまの問題はそこじゃない。
この時、もしも空間移動が使えた、もしくは使える者が補助にいれば。
まず間違いなく任務を遂行できたはずだ。

また、もしもアレがあれば、今後ジョンを追い詰めた時にも必ずや役に立つだろう。

つまりはどういうことか。
T-1000は、黒子の瞬間移動を欲したのだ。


あの能力は敵に回せば厄介だが、味方におけば一級品の戦力となる。
あの女がジョンの殺害に協力してくれるのならそれに越したことはないが、それが不可能ならばあの空間移動の技法を手に入れればいい。
人間にできることがターミネーターに、偉大なるスカイネットにできないはずがない。
理屈さえわかれば、きっとあの空間移動を身につけることができる。

そのために、黒子の言動から彼女の目的に沿う行動をシュミレーションし、懐に潜り込もうとしているのだ。

ターミネーターには感情がない。
しかし、もしも感情がプログラムされていれば、彼はきっとほくそ笑んでいただろう。


476 : 前哨戦 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:04:21 rFI1XDWA0

【C-4/工場地帯/一日目/黎明】
※ベレッタ@魔法少女まどか☆マギカが落ちています。


【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
1:槍使いの少女を止める。
2:御坂と上条との合流する。
3:あの警官の男は味方と思いたい。が、まだ信用はしきれない。

※参戦時期は結標淡希との戦い以降。
※T-1000への信頼感は半信半疑程度です。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:苛立ち
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには殺人も厭わない。
1:どんな手段を使ってでも生き残る。
2:鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむらを探すつもりはない。
3:マミが本当に生きているかは気になる。
4:コイツ(黒子)の正義感が気に入らない。

※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。






【レヴィ@ブラックラグーン】
[状態]:頬に軽い痣、だいぶ落ち着いた。
[装備]:
[道具]:基本支給品、西山のダイナマイトセット(ライター付)×5@彼岸島
[思考・行動]
基本方針:赤い首輪の参加者を殺してさっさと脱出する。
1:自分の邪魔をする奴は殺す。
2」ロックは見つけたら保護してやるか。姉御は...まあ、放っておいても大丈夫だろ。
3:このおまわりを殺して銃を奪う。つかあたしの銃だろアレ。

※参戦時期は原作日本編以降

【西山のダイナマイトセット】
彼岸島にて文房具屋の西山が製作したダイナマイト。
人をバラバラに吹き飛ばすのはもちろん、邪鬼にもかなりのダメージを与えられるほどの威力を有している。
使用者曰く「やっぱりすげェやこの威力」。
しかし、当然爆発するまでに時間差があるため使用には要注意。


【T-1000@ターミネーター2】
[状態]:ダメージ3%
[装備]:ソードカトラス@ブラックラグーン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ジョン・コナーを殺害する。
1:銃使いの女への対処。利用価値無しと判断すれば処分する。
2:効率よくジョンを殺害するために、他者の姿を用いての扇動および攪乱も考慮に入れる。
3:黒子の瞬間移動の技法を手に入れる。そのためにまずは黒子の懐に入り込む。

※参戦時期はサラ・コナーの病院潜入付近。
※首輪に流体金属を巻いて色を誤魔化しています。


477 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/05(月) 19:05:21 rFI1XDWA0
投下終了です

ロック、岡八郎、野崎祥子、ガッツを予約します


478 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/06/12(月) 20:07:01 BdyyR9pQ0
リンゴォ・ロードアゲイン、『スノーホワイト』、『ゆうさく』を予約します


479 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:49:08 WN6gSjQs0
投下します。


480 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:50:18 WN6gSjQs0
下北沢のとあるマンションの一室。
亜柊雫と羽二重奈々は5階にあるその部屋で共に暮らしていた。


亜柊雫は、羽二重奈々が大好きだ。
少しふっくらとした頬も、柔らかな唇も、自分の体重を気にしているところも、意外と拗ねやすいところも、ベッドで乱れる際の甘い吐息も、彼女のなにもかもが大好きだった。
特筆すべきところは、あの笑顔だろう。
あの可愛らしい笑顔を見るだけで、雫の心は癒されその度に奈々を愛おしく思うのだ。

奈々を抱き寄せ、スルリと肢体に手を回す。

「もう、またなの?」

呆れたような台詞とは裏腹に、奈々は頬を紅潮させ頬を緩めている。
おそらく彼女も自分と同じ気持ちだったのだろう。

「すまない。どうもこの街にいると、無性に君を抱きしめたくなるんだ。勿論、嫌なら止めるよ」

離れようとする腕を、しかし奈々はそっと手を添え引き留める。

「言わなくてもわかるでしょう?」

ニコリ、と微笑みかける奈々に雫の頬が赤くなる。
やっぱり、自分はこの笑顔が大好きだ。
彼女の笑顔を守るためならなんだってできる。


481 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:50:42 WN6gSjQs0

雫は、この街、下北沢をそこそこ気に入っていた。
多少風紀に問題があり性に奔放すぎるきらいはあるものの、この街の恋愛観は酷く自由だ。
異性で愛し合う者もいれば、男同士、女同士で愛し合う者も大勢いる。
近所のソルベとジェラートもまたその中の一組だ。
彼らもまた、厳つい顔をした男同士でありながら恋人繋ぎで街をぶらついているのを何度か見かけたことがある。

同性愛は社会一般的に冷たい目で視られ、嗤われる要因になりやすい。
雫は他者からの好奇の視線などどうとも思わないが、奈々がそういう目で視られるのは快く思わない。
そんな気遣いもこの街では不要。みんながみんな、性別に捉われず好きな人を愛し気持ちに正直になれる。
好奇な視線もあるのとないのでは当然ないのがいい。
突如拘束されて連れてこられ、首輪を嵌められ、妙な機械を渡され、『数日間ここに住んでもらう』とアナウンスされた時は流石に困惑し憤慨したが、住めば都とはこういうことを言うのだろう。
数日間だけならば、大学も少し休んだ程度で済むはずなので、その心配も必要はないはずだ。

ギシリ、と雫と奈々を乗せたベッドが軋む。

奈々はベッドに仰向けになり、雫はその傍らに腰を掛けている。

首筋をそっと撫で上げると、ピクリと反応を示す奈々が可愛くて、ついついそれを繰り返してしまう。
そして次第に雫の指は、服の上から奈々の身体をゆっくりとなぞっていく。
首筋から肩へ、肩から豊満な胸に、胸から少し大きめの腹部へと、じっくりゆっくりと指を奔らせていく。

奈々は奈々で、雫のそれが気持ちいいのと同時にこそばゆくもあるけれど、楽しそうに弄ってくれる雫が愛おしかったので嫌がらず甘んじて受けいれた。
王子様が愛してくれるのなら、それを余さず受け入れるのが姫の役割だから。

程よく身体が火照ってきたところで、雫は一旦指を止め、ゆっくりと奈々に覆いかぶさる。

「んっ...はむっ...」

互いの唇が重なり、舌で口内を蹂躙し合い、身体は熱を帯びていく。
衣擦れとぴちゃぴちゃと小さく鳴る水音が、二人の情欲を更に掻き立てる。

「...っはぁ」

唇が離れると、細い涎の糸が唇から垂れさがり、重力に従い落ちていく。

もう我慢の限界だった。
雫は奈々の服に手をかけた。
しかし、野獣のように服を引き裂くのではなく、お姫様の御召し物を取り替える王子様のような優しさを忘れずに。
そんな凛とした雫の姿を見て、奈々の胸の高鳴りは更に増していった。


482 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:51:51 WN6gSjQs0

「おっ、開いてんじゃ〜ん」

突如、二人の空気を壊すかのような陽気な声が響く。
男だ。黒髪、赤髪、青髪の三人の男が部屋へと足を踏み入れてきたのだ。

「なにやってんだぁ?なにやってんだおい、楽しそうだねぇ〜」
「おいおい俺らも混ぜろよお前〜」
「おい楽しそうじゃねぇかオラァ」

二人を囲んでいく男たちの迫力に、奈々は思わず身を震わせ、雫はそんな彼女を庇うように抱き寄せる。

「兄ちゃんよ〜」
「気持ちいいか〜?」
「ちょっとアツいんじゃないこんな所でー?ねーお兄ちゃ〜ん。混ぜてほしいんだけど〜。ワーイ(無邪気)」


男たちは自分を男と勘違いしているようだ。
となれば、襲われるのは奈々。このままでは奈々の貞操が危ない。
そう直感した雫は傍らの端末を手にし掲げた。

端末が光るのに僅かに遅れ、地面から巨大な壁がそびえ立ち男たちを部屋の壁に叩き付ける。
その隙をつき、雫は奈々の手を引き玄関へと逃走する。

(おかしい...鍵はかけていたはずなのに)

玄関を出る瞬間、雫はチラと視線を扉へと移しその奇妙さに目を見張った。

(なんだこの...無理矢理こじ開けたようなドアノブは...こんなの、道具がないと無理じゃ...?)

あの三人が何かを持っていた訳ではない。しかし、現実としてドアノブは壊れている。
いったいどうやって?

「し、雫っ!」

その疑問の答えに辿りつく前に、奈々の声が雫の思案を遮った。

いや、奈々の指し示したその光景を見れば、そんなことを考えている余裕などなかった。


483 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:52:26 WN6gSjQs0

「嫌ァァァァァ!!」
「ガハハハ!気持ちいいぜ!コイツの穴超気持ちイイ!」

それは異様な光景だった。

「スゲェぞ!コイツ超ウメェ!」
「もっとだ。もっと吸えや!」


異様な臭気と熱の中、折り重なり蠢く肉の海。

「三人に勝てるわけないだろ!」
「バカやろうお前俺は勝つぞお前!(天下無双)」


「お前初めてかここは?なあ?力抜けよ。あくしろよ」


「先生がビンビンでいらっしゃるぞ。咥えてさしあげろ」


「あああああああああああああああああああああああああああ!(発狂)」


「一万円くれたらしゃぶってあげるよ?」


「お前を芸術品に仕立てや...仕立て上げてやんだよ」


ところせましと欲望をぶつけあい、蹂躙する欲の塊。





それはまさに地獄絵図だった。


484 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:52:54 WN6gSjQs0

ガクリ、と奈々の膝が地に崩れ落ちる。

「奈々!」

慌てて支える雫だが、この異様な光景に腰が砕けてしまったのか、奈々は動くことすらできない。

(マズイ...さっきの三人もいつまで拘束できるかわからない...)

とにかくこの場から離れ、あの地獄絵図から少しでも早く遠ざからなければ。
雫が奈々を抱き上げたその時だ。

ドサリ、と何かが落ちる音がした。
雫が目を向けると、そこにいたのは二人の男。
否。そこにあったというべきだろう。
なんせ、そのソルベとジェラートだった肉塊は肛門から血を流し、この世のものとは思えぬ苦悶の表情で虚空を見つめていたのだから。


「ヘヘヘ、こりゃあ上玉じぇねえか」

巨大な影が雫へと覆いかぶさる。

見上げれば、そこには禿げあがった頭の、凶悪な面構えの男が雫を見下ろしていた。
屈強なる戦士、ドノバンである。

「なあおい。ここ最近溜まってたんだ。その穴貸してくれよ」

雫は背中に伝う冷や汗よりも早く振り返り駆け出した。
いまこの場に留まるのはヒドくマズイ。
その予感からなる逃走である。


485 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:53:14 WN6gSjQs0

「逃がすかよぉ!」

ドノバンは巨漢とはいえ傭兵だ。
一人を抱えた女に追いすがれないほど愚鈍ではない。
だが、それはなんの介入もなかった場合だ。

奈々は己の端末を握りしめ、雫の顔を見つめる。
すると、雫の身体が淡く光り、駆ける足は人一人を抱えているとは思えぬほど軽く力強い足取りになっていき、たちまちドノバンから距離を離していく。

無論、そのまま逃がすドノバンではない。
距離が離れようとも利があるのはスタミナのある彼であり、このまま追われればいずれは捕まってしまう。
雫は追いかけてくるドノバンに舌打ちをしつつ、奈々にそっと耳打ちする。

「奈々。舌を噛まないように」

それだけで意図は伝わったのか、奈々はコクリと頷き、それを認識すると、雫は廊下から跳び下りた。

ここは五階。普通の人間が落ちればタダでは済まない。それでも無事なものがいるとすれば、それは最早超人か怪物の類だろう。

だが、いまの雫ならそれが出来る。

雫は空中の最中、一旦奈々を上空へと投げ、自らは三階の手すりに掴まり一旦勢いを殺す。
そして、そのまま壁を蹴り一足先に地上へと下り、遅れて落下する奈々をキャッチし抱きしめた。

だいぶ距離をショートカットできた。これならうまく逃げおおせることだろう。

「大丈夫か、奈々」

身体を強化しているとはいえ、自分も無茶な動きで多少なり身体を痛めているだろうに、心底心配してくれる雫に、思わず奈々は頬を綻ばせる。

「大丈夫ですよ。あなたがいてくれますから」

本当は全体的に中々痛かったが、このムードを壊したくはないため我慢してみせた。
ホッと息をつき、再び抱きかかえたまま走りだす雫を見て、奈々は「やっぱり、私の王子様は雫しかいない」とぽんわり思っていた。


―――ズドン

何かが落下する音が響いた。
雫が振り返れば、そこにはもうもうと立ち昇る砂煙。

それを突き破り、ドノバンは雫たちのもとへと駆けだしてきた。

(あそこから跳び下りたのか!?)

ありえない。あんな場所から何の工夫もなく跳び下りて無傷など。

憔悴する雫だが、未だ腕の中で頬を緩めている奈々のためにも足を止めることはできなかった。


486 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:54:30 WN6gSjQs0



雅たちから離れたロックと岡はしばしの探索の後、見つけたホテルを休息場所としていた。
ピンク色の壁だったり回るベッドや巨大な鏡が備え付けてあったりと、まるでAVかなにかでよく見る典型的なラブホテルの内装である。

男2人で入るなんて、受付の人がいれば変な目で見られるだろうなとロックはなんとなく思ったが、ここは下北沢。
そんなことは何の問題もないことを彼が知る由はない。

「俺はスーツが治せんか確かめとる。なんや変なのが来たら教えろや」

ここは三階だ。
窓から覗けば地上を見下ろせるため見張りには最適である。

ロックはうまい棒と缶コーヒーを手に窓際から様子を伺い、岡は部屋の片隅でガンツスーツを弄っている。

そんな、特に目立った会話もないまま数分。


ロックは視界の端に人影を捉える。
どうやら、人を抱えたまま走っているようだ。
その様から何者かから逃げているのは容易に想像できた。

「岡、どうやらアリスが二人迷い込んできたらしい」

ロックの報告を受け、岡はスーツを弄る手を止め地上を見下ろす。

そこには確かに、女性を抱きかかえて逃走する端整な顔立ちの少女とそれを追いかける屈強な禿げ頭の姿があった。

「......」
「助けに行こう。あれじゃあ追いつかれるのは時間の問題だ」
「俺はパスや。そんな余裕はあらへん」
「岡!」

冷たくあしらう岡に、ロックは思わず詰め寄る。
が、岡は全く動じず冷静に鋭いまなざしで睨み返す。

「あいつらを助ける利益はなんや」
「...彼らがいれば脱出の時に力になってくれるはずだ。それに、支給品もなにか便利なものがあるかもしれない」
「両方アカンわ。まず第一にあいつはあそこまでして足手まといを庇っとる。そういう奴はいざという時に彼女を守れる道具をくれだの彼女を帰すことを優先してくれだのとやかましく喚いてチャンスを逃す。
第二に支給品はロクなものはないやろ。あれば使う素振りも見せるのに、あいつはそうせんと逃げるだけ。どう考えてもハズレや。スーツもこんなな以上、リスクは避けられん」

岡は、ひどく現実的な思考をする男だった。
かつてガンツの任務をを7回クリアした彼だが、大阪チームの面子とは違い己の腕を過信するのではなく、相手の力量を見極め退くべき時には退き勝利に必要な条件を整え戦いに赴く。
そんな慎重さと冷静さこそが、彼の強さの秘訣と言えよう。
だからこの場でも同じだ。
リスクを極力排し、確実な勝利への算段を整える。
そのためには余計なものを抱え込む必要は無いのだ。

「やりたかったら勝手にやり。俺は手伝わへん」

ロックは押し黙ることしかできなかった。
ロック自身は拳銃すら使う事のできない男だ。
そんな自分が岡抜きで地上の彼らを救うことができるだろうか。いや不可能だ。
だが、岡の言い分もわかる。
ここは殺し合い。それも脱出の権利は限られている。
ならば、目についた非力な相手にまで手を差し伸べている余裕はないのは当然だ。
見捨てるしかないのか。そんな苦い思いでロックは再び窓の外へと目をやる。

少女たちは足を止めていた。
禿げ頭とは対極の方角、少女たちの逃走経路から黒衣の死神が歩みを進めていたからだ。


487 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:55:02 WN6gSjQs0



雫の背を冷や汗が伝う。
挟まれた。
眼前の黒衣の男が、ドノバンの仲間かどうかはわからないが、その面構えや醸し出す威圧感から堅気の者ではないのは一目でわかる。

おまけに、自分の体力ももう尽きかけている。
今までは奈々の力を借りて逃げていたが、さすがに長時間の使用もあって奈々も疲労困憊だ。
もはや覚悟を決めるしかないだろう。

「奈々。たぶん、これが逃げ切れる最後のチャンスだ。もしも失敗したら、きみだけでも」

言葉は紡がれない。
奈々が人差し指で口を塞いだからだ。

「失敗したら、なんて思っちゃ駄目よ。成功することだけ考えなくちゃ」

この期に及んでも微笑んでくれる奈々に、つられて雫も微笑みを零す。
そうだ。
彼女が自分を信じてくれるなら、自分が後ろ向きな気持ちでどうする。
彼女が、優しく清らかでいてくれるのなら、自分も最期まで前へ進むだけだ。

黒衣の男が駆けだした。

雫も奈々の能力を借りて駆けだす。

彼女の狙いは、最早作戦などというものではない。
ただ、あの男の巨大な獲物を振るうのが早いか自分達の方が早いか。

成功すればそのまま逃げられ、失敗すれば敗北必至。
負けてたまるものか―――そんな意地にも似た決心で駆け抜ける雫。
その横を通り過ぎる、黒衣の男。

雫の口から、思わず「はっ?」と言葉が漏れかける。

黒衣の男は手出しをしなかった。
まるで、自分たちなど視界にすら入っていなかったかのように。

ガァン

交叉するドノバンの斧と黒衣の男の丸太。

鉄と木材、どちらが強いかは言うまでもないだろう。


488 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:56:16 WN6gSjQs0

「なっ!?」

だが、そんな常識を覆し、丸太には傷一つ付かず、男が踏み込む度にドノバンは後退してしまう。

「が、あ、ああああああああ!!」

気合一徹。
男の叫びと共に振り切られる丸太に弾き飛ばされた斧は虚空に円を描きながら落ちていった。

男は攻撃の手を緩めない。
そのまま丸太で胸部を突き、ドノバンを怯ませすかさず頭部を殴りつけた。

「な、なんだテメエは...」
「まさかてめえまで生き返ってやがったとはな...ドノバン」

男は、そうポツリと零すと、丸太でドノバンの横っ面を殴りつけた。
傾く視界。
倒れたドノバンの頭部に、男は無慈悲に丸太を振り下ろした。

「―――ひっ」

奈々は飛び散った鮮血に息を呑んだ。
つい先ほどまでの余裕すら見てとれた態度はどこへやら。
いまにも失禁してしまいそうなほど、彼女の身体には眼前の光景への恐怖が刻まれていた。

男は、血に濡れた丸太を担ぎ上げ、くるりと振り返る。
その視線の先には、当然、雫と奈々。

間違いない。今度こそは、こちらを認識している。

雫は腰を抜かし震える奈々の肩を抱く。
本当は雫も眼前の惨状には恐怖を覚えており、少しでも気を抜けば簡単に腰を抜かしてしまうだろうと自覚している。
それでもこうして奈々を庇えるのは、ここに奈々という存在がいるからだ。奈々がいなければ、雫もまた恐怖に圧し潰されていただろう。

とはいえ、本質的には雫も奈々と同じただの女子大生だ。

歩み寄ってくる男が死神のように見え、その一歩毎に、二人の鼓動は緊張と恐怖で早さを増していく。
這いよる死への恐怖に、雫はとうとう目を瞑ってしまった。


489 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:56:39 WN6gSjQs0

「大丈夫?」

頭上よりかけられた声は、到底男のものとは思えない幼いものだった。

顔をあげると、そこに佇んでいたのは、男の腰ほどの背丈の少女だった。

「ガッツがあんな乱暴に助けるからだよ」
「知るか。助けたつもりなんてねえよ」
「もう。またそうこと言って」

ガッツは、つっけんどんな態度で少女―――野崎祥子をあしらうが、彼女は意にも介さない。
雫の目には、先程までは死神に見えた大男が、いまは拗ねた時の奈々にほんのちょっぴり重なった。

「えっと、助けてくれた...ということでいいのかな」

そう雫に尋ねられた証拠は、数歩下がってガッツのマントの裾を掴み、こくりと頷いた。
雫は、意外に人見知りなのかなとなんとなく思った。

「とにかく礼を言わせて―――うしろっ!」

突然の警告に、ガッツは思わず反応し振り返る。

目に入ったのは、信じられない光景。

ドノバンが、頭部から大量の血を流し、顔面がほとんど陥没しているのにも関わらず立ち上がっていたのだ。


490 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:57:50 WN6gSjQs0

「い...いてえじゃねえかよ、クソ人間」
「ヘッ、どうやらテメェも人間を辞めちまってるようだな」

目が赤く変貌していくドノバンに、ガッツは鼻で笑い悪態をつく。

ドノバンは斧を拾うのも忘れ、激情のままにガッツへと跳びかかる。
振り下ろされる腕を丸太で受け止めるが、押し返すのはおろか、弾くこともできずそのまま硬直。
頭部からの大量の出血や元来より崩れた顔など満身創痍のドノバンに対し疲労が少々程度のガッツ。
だが、そのパワーバランスは容態通りにはならなかった。

(こ、こいつのパワーは...!)

ただ闇雲に振るわれただけのドノバンの腕。
そこには傭兵としての経験から研ぎ澄まされたものはなにひとつない。
あるのは、純粋な暴力のみ。
その技術も何もない力は、歴戦の戦士であるガッツを確かに圧していた。

「ガッツ!」

祥子は思わずドノバンの脚に飛びつき少しでもガッツの力になろうとするも、ドノバンが軽く片足を振るだけであっさりと引きはがされボールのように地を跳ねる。
重心が片足になった隙を突き、ドノバンの手を払いのけようとするが、しかし丸太を掴まれていてはそれも叶わない。
多少揺れた程度で、すぐに力は均衡する。

「オメェ...どっかで見たツラだな。なんだったか」

ドノバンは空いた片手で顎を弄りながら思い返す。
圧されるガッツとは対照的に、ドノバンには余裕が滲んでいた。

「まあ大方、オレに買われた穴の誰かなんだろうが、そんなもんイチイチ覚えてられねえよ」

瞬間、ガッツの脳髄へ灼熱のごとき憎悪が湧きたてる。

覚えていない?覚えていないだと!?
ガンビーノから銀貨三枚で買い、貴様の薄汚ねえ情欲から全てを狂わされた俺をだ。
貴様からしたら俺は玩具のひとつにしかすぎねぇということか、ドノバン!


グリフィスの裏切りにより鷹の団が壊滅し、キャスカが壊され、なにもかもを喪った彼をここまで生かしてきたのは、負の感情だ。
憎悪。呪詛。憤怒。殺意。復讐心。
それら攻撃的な負の感情を狂気に変え、彼は使徒たちと戦ってきた。

それらを募らせるほど、ガッツという男は力を滾らせ、戦士から狂戦士(ベルセルク)へと近づいていく。
狂気を糧に、バケモノどもを殺すことこそが、いまの彼の戦いの本分である。

だが、彼がそれを怨敵ドノバンへとぶつけることはなかった。

怒りと共に踏み込んだ時には、彼の首は宙に舞っていたのだから。



「隙だらけや」

その言葉を告げられ、ドノバンはようやく自分の首が斬られたことを理解した。


491 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 20:58:29 WN6gSjQs0


グラリ、とドノバンの上体が倒れ込む。
ガッツは彼の身体を受け止めるつもりはサラサラなく、一歩退き怨敵の身体が倒れるのを見届けた。

「なんだテメェはぁ!?俺をこんなにしやがって!ぶち殺してやる!」
「まだ喋れるんかいな」

フェイスヘルメットを無くし、素顔を見せたままのパワードスーツを身にまとった岡は、躊躇いなく拳を握りしめる。

「ひっ、ちょ、ちょっとま」

その先の言葉は紡がれない。
岡の機械仕掛けの巨腕は、無慈悲にドノバンの頭部を叩き潰し粉砕した。

(あの白髪の男と似たような目をしとったから同類かもしれんが...流石にここまでやれば死ぬんやな)

岡のしたことは至って単純だ。
隠れて様子を伺い、ガッツに気を取られている隙を突き、不意をついてスーツ付属のブレードでドノバンの首を斬った。
ただそれだけのことだ。

ドノバンが死に、包む静寂に遅れ、ロックが息を切らしながら現れる。
いくらロックが訴えかけようと関与する気のなかった岡が、ガッツを見た途端、突如スーツを着てホテルを出てしまい、それを慌てて追いかけてきたのだ。

「岡、なんたって急に...」
「おう、ロック。この黒い男は使える。こいつらに話つけろや」

遅れて出てきてイマイチ状況が掴めていないというのにこの理不尽な注文。
制作会社の下請け業者なら文句と共にインターネットで拡散してしまう心境に陥ることだろう。
まあ、そういう類の無理な注文は慣れっこではあるが。

「えーっと...とりあえず、俺たちに戦意はない。俺はロックで、こっちのスーツ着た方は岡八郎。少し話をしたいんだが...」

まだロクに相手の人物像を掴めていないため、至極平凡な誘い文句になってしまった。
さて、こんなテンプレーションで信頼を得ることができるかどうか。


492 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 21:00:44 WN6gSjQs0

「...チッ」

ガッツは舌打ちと共に丸太を収める。
獲物を横取りされたことへの不満はあるが、戦場でイチイチそんなことを気にしていてはやってられない。
些細なことでも怒り合えるかつての仲間たちならいざ知らず、名前も素性も知らない妙な男ならば尚更だ。

「手短に済ませろ」

ガッツの返事に、ロックはホッと一息つく。
思ったよりも会話が通じる相手でよかった。
これがロアナプラの住人なら下品な悪態と共に銃を突きつけ新たなガンファイトの始まりだった。

はた、と祥子と目が合うと、祥子はすぐにガッツの後ろに隠れてしまう。

特に悪手を選択した覚えはないが、子供は人の本性を見抜くのが得意なのだろうか、とロックは少しナイーブな心境になった。



雫は奈々に肩を貸し、どうにか立ち上がらせる。

(なんだこれは)

雫も奈々も、図らずもその意見は一致していた。

つい先ほどまで平和に暮らしていたのに、いつのまにか血で血を洗う地獄に成り果てていた。
まるで仕組まれていたかのように。この街で過ごしたあの日々が淡い嘘にしかすぎなかったかのように。
雫と奈々は、ソルベとジェラートの死に顔を思い出し、眼前に転がるドノバンだった残骸を見つめ、ようやく自分達がロクでもないことに巻き込まれていることを実感した。


493 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 21:01:27 WN6gSjQs0

【E-6/下北沢近郊/黎明/一日目】
※吸血鬼化したドノバンの死体が放置されています。

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ゴドーの甲冑@ベルセルク、青山龍之介の丸太@彼岸島
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:使徒共を殺し脱出する。
1:とりあえず目の前の連中と情報交換する。
2:ドラゴン殺しが欲しい
3:己の邪魔をする者には容赦しない。


※参戦時期はロスト・チルドレン終了後です。
※トロールをいつもの悪霊の類だと思っています。



【野崎祥子@ミスミソウ】
[状態]:擦り傷
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:今度こそお姉ちゃん(春花)を独りぼっちにしない。
0:お姉ちゃんと合流する。
1:ガッツは春花に似てるので放っておけない。

※参戦時期は18話以降です。



【岡八郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ハードスーツ@GANTZ(フェイスマスク損失、レーザー用エネルギーほぼ空、煙幕残り70%、全体的に30%ダメージ蓄積)
[道具]:?
[思考・行動]
基本方針:ミッションのターゲット(赤い首輪もち)を狙う
0:ガッツたちと情報交換。できれば味方に引き入れたいが、交渉はロックに任せる。
1:赤首輪に対抗するためにチームを作る。


【岡島緑郎(ロック)@ブラックラグーン】
[状態]:健康、不安(小)
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する。
0:ガッツたちと情報交換。できれば味方に引き入れたいが、正直自信はない。
1:とりあえず岡と行動する。
2:レヴィとバラライカと合流できればしたいが...暴れてないといいけど
3:そんなに悪党かな、俺

※参戦時期は原作九巻以降です。


494 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 21:01:50 WN6gSjQs0

【NPC】

【羽二重奈々@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、不安(大)
[装備]:魔法の端末(シスターナナ)@魔法少女育成計画
[思考・行動]
基本方針:状況を把握する。



【亜柊雫@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、不安(大)
[装備]:魔法の端末(ヴェス・ウィンタープリズン)
[思考・行動]
基本方針:状況を把握する。


495 : 夢や愛なんて都合のいい幻想 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 21:02:58 WN6gSjQs0

【NPC解説】


【下北沢@真夏の夜の淫夢】
E-5、E-6エリアにかけて広がっているこの街では、多くのNPC(ホモ及びレズ達)が住んでいる。
住民に選ばれるのは、同性愛者のみ(拡大解釈、風評被害込み)である。
彼らは殺し合いに関わる知識はないため尋問しても主催のことは聞きだせない。
また、この街でムラムラすると性欲を掻き立てられたり掻き立てられなかったりする。




【KBSトリオ@真夏の夜の淫夢】
K(金)・B(暴力)・S(セックス)をモットーにツルんでいる三人組。
男女のカップルがいれば、躊躇いなく襲いに行く。男を。

下北沢住人。現在は吸血鬼化。

【ソルベとジェラート@ジョジョの奇妙な冒険】
『ジョジョの奇妙な冒険5部 黄金の風』に登場。
ギャング組織パッショーネの暗殺チームの一員である男たち。デキてるんじゃあないか?というくらい仲がよかった。
禁忌である『ボスの秘密』を探ろうとしたためにソルベは輪切りに、ジェラートはソルベの処刑を見てしまいさるぐつわを飲みこみ死亡。

このロワでは下北沢の住人として暮らしていた。


【ドノバン@ベルセルク】
ガッツの元育て親にあたるガンビーノと同じ団にいた傭兵。
武器は鉄の斧を使う。
ガッツの幼少期に、ガンビーノから銀貨三枚で一晩ガッツを買いカマを掘った。
その後、戦乱の中でガッツに不意打ちされて死亡する。
彼は紛れもなくホモでショタコンだが、男が男を抱くのは軍隊ではよくあることらしい。というのも、彼の団には女性がいないので、彼一人が特殊な性癖ではなかったのかもしれない。
つまり穴があればなんでもいい可能性が微レ存。

このロワでは下北沢の住人として暮らしていた。

【羽二重奈々@魔法少女育成計画】
魔法少女育成計画本編に登場する『シスターナナ』の変身前の姿。
ぽっちゃり系で、スキー部の姫としてちやほやされ平和にて暮らしてきたが、雫が入部してきてからは一転。
彼女に嫉妬やらなんやらをしたり、魔法少女の美しさを見せつけて上に立とうとしたりと色々とあったが、なんやかんやで愛し合う関係になった。
ハグやキスは勿論お茶の間では流せないこともしている。

このロワでは下北沢の住人として雫とイチャコラして暮らしている。
魔法少女には変身できないし記憶もないため、現状はただのレズカップル。
支給されている魔法の端末を使うと変身はできないが、奈々の体力と引き換えに指定した誰か一人の力を底上げすることができる。
また、奈々の行動できる範囲は決まっており、E-5から周囲一マスまでしか行動できない。そのマスから出た場合は首輪から警告音が流れ、それを無視して進んだ場合死亡する。
奈々を殺して奪ってもこの魔法の端末は使用できる。


【亜柊雫@魔法少女育成計画】
魔法少女育成計画本編に登場する『ヴェス・ウィンタープリズン』の変身前の姿。
ボーイッシュでありながらも美しい顔立ちで、巨乳ではないもののスタイルの整った非の打ちどころのない美少女。
男女からの人気も当然高く、短い間だが奈々と出会う前には男とも女とも付き合ったことがある。
根っからの奈々大好きっ娘であり、交際を申し込むために指輪を買ったり、第三者(雫観)から「女同士ですよ!?」と引かれても「愛の前では些細なことだ」と真顔で言える。スゲェ。
念願叶って奈々と半同棲している(自分の部屋に帰るのは週一程度らしい)。

このロワでは下北沢の住人として奈々とイチャコラして暮らしている。
魔法少女には変身できないし記憶もないため、現状はただのレズカップル。
支給されている魔法の端末を使うと変身はできないが、雫の体力と引き換えに一度に三枚まで自由に壁を作ることができる。三枚出したら一枚消えるまで壁を新しく作れない。
また、雫の行動できる範囲は決まっており、E-5から周囲一マスまでしか行動できない。そのマスから出た場合は首輪から警告音が流れ、それを無視して進んだ場合死亡する。
雫を殺して奪ってもこの魔法の端末は使用できる。


496 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/13(火) 21:04:48 WN6gSjQs0
投下終了です

『千手観音』、佐山流美、『T-800』を予約します。


497 : 名無しさん :2017/06/14(水) 13:53:49 2Vz3/Taw0
投下乙です。力作やりますねぇ!
ふたりは幸せなキスをして終了とはならず、地獄とかした下北沢で散々なめにあっててかわいそう(小並感)
わざわざ下北沢にレズとホモを拐ってくる主催は筋金入りの淫夢民ってはっきりわかんだね。ホモコーストが起こる前はそこそこ楽園みたいになってて草。
というかトラウマの大本であるドノパンとガッツが遭遇するって長いパロロワ史でも初じゃないでしょうか。彼らと考察役として優秀かもしれないロック、そしてNPCとの交流で何がどうなるのか予想がつかず、とても面白いです。
レヴィ姉貴、T-1000兄貴、杏子姉貴、黒子姉貴もまさか会場の一部がハッテンバと化しているとしったらたまげるだろうなぁ……。ん?、黒子はレズ(断言)、そしてレヴィは両方いける口だったはず……あっ(察し)
いつも力作ありがとナス。闘争書き手兄貴の投稿はすっげー面白くて(主に淫夢と一般作品姉貴&姉貴との迫真の絡み)楽しみにしてるゾ


498 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:40:21 MS01ugnU0
感想ありがとうございます

投下します。


499 : ともだち100人できるかな ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:41:33 MS01ugnU0
魔法少女たちの戦場から逃げおおせた流美は、激しく波打つ鼓動を抑えるために左胸に手を当てた。
そこで初めて気付く。
思ったよりも自分が疲れていないことに。

(始めはダサイと思ってたけど、結構使えるじゃん)

流美の身を包むガンツスーツ。
これは瞬間的な筋力だけでなく、身体能力自体が向上するものでもある。
着用している間は常に効果を発揮するため、普段ならとうにバテきっている距離を走っても短時間且つ疲労も軽減されているのだ。

少し前なら、これさえあれば勝ったも同然だとハシャいだだろう。
だが、先のクラムベリーとの戦いを思い返せばとてもそんな気分にはなれない。

こんな強力な道具があってもあの化け物には勝ち目がない。万が一もなくゼロの勝機しかないのなら、上機嫌になれないのは当然である。

故に、このスーツは戦闘用ではなくあくまでも逃走手段のひとつ。その程度の認識にしておくべきだ。

だが、激しく波打つ鼓動の正体が疲労ではないとしたらなんなのか。
それが罪悪感という十字架であることを、いまの流美が知る由もない。

「あら?あなた...」

自分を呼ぶ声がした。
見つかった。誰に。わからない。
なら誰だ。
いや、まて。自分はこの声に覚えがある。
少なくともクラムベリーではない。マミさんはもっとありえない。
なら、誰が―――

呼びかけられた方へと顔を向ける。
その正体を見た時、流美は思わずポカンと口を空けてしまった。

「や、やっぱり佐山さんだ。私よ、担任の南よ」

半身を削られある筈の無い肉をのぞかせる仏像が、教師の声を借りて呼びかけていたのだから。


500 : ともだち100人できるかな ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:42:19 MS01ugnU0




「なんなんだ...なんなんだよ、あんた」

流美は狼狽した。
赤い首輪の参加者とは既に二人も遭遇している。
だが、巴マミもクラムベリーも目が覚めるような美人であり、首輪とその強ささえなければなんら人と遜色ない者たちだった。
眼前の仏像は彼女たちとは違う。
一目で怪物だとわかるほどに異様な風貌である。

「待って、佐山さん!」

すぐに逃げ出そうとする流美を、しかし千手観音は呼び止めた。

「信じられないかもしれないけれど...私は本当に南京子なのよ、佐山さん」

クラスの担任、南京子。
千手観音から発される声質は、間違いなく彼女のものだ。
クラスの担任とは決して遠い存在ではない。
学校に通えば必ず顔を突き合わせるし、この会場内では数少ない知り合いの一人だ。

そんなものは佐山流美の足かせにもなりはしない。
例えあの怪物の言う通り、アレが本物の南先生だとしても、もしくはあの怪物に先生が捉われているとしても。
クラス中から虐められてた自分を助けようともしてくれなかった彼女を助ける義理はないし、助けたいとも思わない。
仮にあの怪物の中で苦しんでいたとしても介錯しようとも思わない。
苦しむのなら勝手に苦しめばいいし、死ぬのなら勝手に死ねばいい。
あの人が今さらなにを言おうが、元の世界での腐った繋がりなどすべてクソ喰らえだ。
いま必要なのは、生き残るために全力で逃げる。ただそれだけだ


501 : ともだち100人できるかな ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:42:49 MS01ugnU0


「あ〜あ、逃げちゃった。...虐めを見過ごしてたからしょうがないか」

千手観音は小さくなっていく流美の背中を見つめつつ、ポツリとひとりごちる。
彼は、南京子を殺害した後、その頭部を割りその脳を食し、彼女の記憶と知識を手に入れた。
この会場に連れてこられる前の宮藤清と南京子。
いまの千手観音は二人の人格と知識を有しているのである。

「それにしても佐山さんってば...まさか、あなたがあの黒服を着てるなんてねェ」

佐山はあの『加藤くん』率いる一派にはいなかったはずだ。

となると、あのスーツは支給品のものか。

なんだっていい。
どの道彼女を殺すことには変わりはないのだから。

だが、逃げに専念するあのスーツを相手にただ追いかけるのは骨が折れそうだ。
『加藤くん』のように反撃してくるのならすぐにでも殺せるのだが。

彼女は酷く憔悴した様子だったが、何者かから逃げてきたのだろうか。
だとしたら、彼女を追わずとも彼女の逆の方角へ向かえば別の参加者に遭えるかもしれない。
そいつを殺しに行くのもいいだろう。


502 : ともだち100人できるかな ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:43:19 MS01ugnU0


――――『南京子』は中学時代、ずっと虐められ続けてきた。

泣いても吐いても、彼らは決して虐めをやめなかった。
もう吐くものが無くなれば、母がせっかく作ってくれた弁当をぐしゃぐしゃにして無理やり詰め込まれ、最初は見えないようにと服の上から殴られできた痣は、次第に顔まで昇ってきた。
それでも味方をしてくれるクラスメイトなど存在せず、一方的にレッテルを張られて虐げられてきた。
理由はわからない。だが、もしもあの時のクラスメイトから建前抜きで理由を聞きだせれば、一様に『虐めやすいから』と答えるだろう。
そんなものは一過性のものであり、仮に京子がいなくなっても新たなターゲットを見つけ、虐げ、優越感に浸っていたことだろう。
中学時代の反抗期にありがちなちょっとした背伸び。
そんな身勝手でクソのような成長のために、彼女の中学時代は犠牲にされた。

上っ面の文体でコピーされた卒業証書と自分の写真がほとんどない卒業アルバムを捨て、あの学校で過ごしたことを無かったことにしても、その傷が癒えることはなかった。

だから、そんな忌まわしい過去を塗り替えるべく、彼女は教師になった。
たとえ教師と生徒という立場の違いがあれど、友達を作り、今度こそちゃんと大津馬中学を卒業したかった。

けれど、蓋をあけて見れば結局はあの頃と変わらなかった。
転校生や弱者の立場にある仲間を対象に、クラスカーストの上位にある者の愉悦のためだけに横行するイジメ。
そんな子供たちを正当化し誇りに思い存分に甘やかし、子供の素行の悪さを全て教師にぶつけてくる、他人の痛みを気にしない毒虫のような親。
教え導く者の立場でありながら、子供にごますって顔色を窺わなければならないイカれた教育システム。

結局、学校とはそういうものだと諦めさせるには充分すぎるほど腐りきった世界だった。

「それにしても、ねえ。まさかあなた達までここに来ていたなんて」

連れてこられた直後は混乱して持ち物もロクに確認できなかったが、この仏像になってからはだいぶ落ち着きを取り戻し、情報を整理できるほどにまでは冷静になれた。
名簿に記載されていた中で知り合いは自分を除いた四人。野崎春花、相場晄、小黒妙子、佐山流美の四人だ。
野崎春花は、転校生であるが故に『クラスの輪を乱す者』として虐められていた。彼女もだいぶ酷いイジメを受けていたのは可哀想だとは思ったが、下手に触れて生徒からイジメられるのは嫌だったので見過ごしてきた。
ただ、彼女には相場晄がいてくれただけでも救いがあったのかもしれない。彼は、いつだって春花の味方でいたし、相手が教師でも春花の敵にまわれば厳しい言葉を投げかけた。
それを言われた時は生意気な口を聞くヤツだと苛立ちもしたが、同時にもしあんな人が昔の自分の傍にいてくれたら少しは救われたかもしれないと思ったかもしれない。

小黒妙子は、非常に扱いづらい生徒だった。
最初はそうでもなかったが、ある日をきっかけに、突如春花を虐げ始め、悪態はもちろん暴力すらも平気で行使するようになった。
キレるタイミングを計るのも難しく、敵対しないように導火線に火が点いたダイナマイトよろしく丁寧に扱ってきたつもりだ。
友達として扱ったのもそのタメであり、イジメの中心核だった彼女を好きになる理由などどこにもなかった。

佐山流美。彼女もまたイジメられっこであり、春花のようなイジメられる理由や救いも無い点を見れば、彼女には既視感を覚えていたかもしれない。

「けど、さっきのあなたの目はそうじゃなかったわよねェ」

先程遭遇した流美は、京子のような虐げられる者の目をしていなかった。
生きるためなら、なんだって利用してやる。そんなイジメられっ子に近い目をしていた。
なにがあったかは知らないが、ただ虐げられてきた自分よりは上等に感じてしまう。

結局、生徒を含めても自分は一番不様な女なのだと思えてしかたなかった。


503 : ともだち100人できるかな ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:46:34 MS01ugnU0

「ほんっと嫌になるわ、あの学校」

生徒の時も教師の時も、イイ思い出などなにひとつない。
あったかもしれないが、そんなものは空気中の塵に等しいちっぽけなものだろう。

けれど、いまの彼女にとってそんなことはどうでもよかった。

彼女はとても清々しい気分だった。
流美を見つける前に色々と試してみたが、新たに手に入れた肉体は、南京子だったころのものと比べて強靭で人間ではできない動きも平然とやってのけた。
もしもまたイジメられるようなことがあっても、この身体ならあっさりと返り討ちにできるだろう。
この身体であの田舎に帰り、あのクソのような生徒や親を殺す様を想像しただけで胸のトキメキが治まらない。

そもそも、これだけ異様な風貌であれば、恐れられることはあってもイジメにあうことはない。
虐げようとするのならその都度殺してしまえばいいだけだ。

そしてなにより、この身体の特性が彼女の気分を更にハイにした。

『まったく、あなたみたいな美人をイジメるなんて信じられないよ』
『あ、ありがとう宮藤くん』

身体に同居する『宮藤清』と脳内で会話する。
この青年は、自分の前に殺され脳を食われた人間だ。
この千手観音は、他者の脳を食らうことで知識と記憶、言語を手に入れることができるらしく、それは上書きされるのではなくこの身体の中に残るらしい。
つまりは、千手観音が脳を食らえば食らうほど、同居人が増えるということだ。

彼女にはそれが嬉しかった。
この身体なら殺せば殺すほど同居人が増え、今度こそ友達が出来るとふんだのだ。
実際、身体が同じであればイジメなどできるはずもなく、精神的にイジメようとしたところで自分という意識が消耗するだけだ。
否が応でも友好的な関係を築かざるをえないのだ。

この身体では中学校は卒業できないが、それはもういい。
文字通り心を繋ぎ合わせられる友達ができればそれで充分だ。

「すごいっ!サイッコウにイイ気分よ!これが私の求めていたものなんだわ!」

『南京子』は真の繋がりを求めて動き出す。
例え歪なものでも、虐げられ続けてきた彼女にはそれに縋るほかなかった。




【B-5/一日目/早朝】

【千手観音(宮藤清)@GANTZ】
[状態]:健康、人間に対する激しい殺意
[装備]:(燈籠レーザー)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜3 、銃剣@とある魔術の禁書目録(南京子の支給品)
[思考・行動]
基本方針:黒服を含めた全参加者を皆殺しにする。元の世界(ミスミソウの方)に戻ったら全員殺す。
0:最高に気分がいい。もっと殺したい。
1:同胞を殺した黒服(ガンツメンバー)は優先的に殺害。
2:友達を増やす(参加者を殺して脳を食べる)。
3:佐山を追うか、彼女を追っていた者を探しに行くか


※参戦時期は宮藤吸収後で加藤勝の腕を切断する直前です
※南京子の知識と記憶を手に入れました。
※南京子と宮藤清の記憶が同居しています。


504 : ともだち100人できるかな ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:47:14 MS01ugnU0

(ちくしょうちくしょうちくしょう!)

流美は、赤首輪との立て続けの遭遇に毒を吐く。
もしも自分がもっと強ければ、または準備が整っていれば、この遭遇はツイていることになるだろう。
だが、味方がいない・頼みのスーツでも勝ち目が薄い・相手の能力及び力量が計り知れないの三拍子が揃っている状況での遭遇は、ツイていないとしか言いようがない。

ひとまずは化け物以外と接触したい。
利用しやすい参加者であれば尚更いい。

いまはとにかく、クラムベリーや仏像のいる危険な地帯から遠ざかるべきだ。

そんな焦燥が思わず足に余計な力を入れ、必要以上の跳躍を生んでしまう。
しまった、とは思うが時既に遅し。
如何にガンツスーツといえど空中では身動きはとれない。
着地の衝撃はほとんどないが、これでは嫌でも目立ってしまう。
せめて周囲に誰もいないといいのだが。

そんな流美の願いも空しく。
落下地点に大柄な人影がひとつ。

「いっ!?」

あちらは流美を見上げているようだが、物珍しさからか動こうとしない。

どけ、と叫びたくなる衝動に駆られるが、両手で口を塞ぐことでどうにか留まる。
利用しやすい参加者とはどういう者か。
お人好しなのは前提だが、少なくとも高速で動くものがぶつかりそうなこの状況で呑気に空を見上げる阿呆ではないだろう。
ならば、衝突しダメージを与え、相手が死ぬにせよ死なないにせよ支給品でも奪ってやればこれから先が楽になるのではないか。

そう考えた流美は衝突に備え身体を丸める。
既に殺人に近いことをやってしまったのだ。今さらこの程度はものの数ではないだろう。

が、流美の目論見はあっさりと外れることになる。

ガシリ、と彼女の身体は掴まれ身動きが取れなくなってしまったからだ。

あれほどの高速で動く質量のある物体を両手で掴まえるのは非情に困難な技である。
それを成功させたのは、T-800。
彼のサイボーグボディの強靭さと正確無比な機械的な器用さの賜物だ。

「......」

T-800は、突如飛来した少女をセンサーで解析する。
動悸が激しく、お世辞にも小康状態とはいえない。
それが興奮によるものか恐怖によるものかはわからないが、事情を聞くためにはとにかく落ち着かせるべきだろう。
だが、機械であり人間の感情を知らない自分にはその適切な手段がわからない。


『聞きたいことがあっても挨拶は大事。コレ常識よ』

先程の女との会話を思い返す。
彼女は、自分との会話を挨拶から始め、自分にもそうするように促した。
人間は挨拶を重視するというのなら、自分もそれに倣うべきではないだろうか。試してみる価値はある。

「ハァイ」

頭上より野太い声でかけられた言葉に、流美は思わず固まった。
おそるおそる顔を上げてみると、視界に広がるのはワイルドな男のぎこちなく不気味な作り笑顔と赤首輪。

マミ達との件といい、今回といい、なにもかもがうまくいかない。自分の望みとは逆の結果ばかりついてくる。

己の運の無さを実感した流美は、つい苦笑いを浮かべるしかなかった。


505 : ともだち100人できるかな ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:47:40 MS01ugnU0

【D-5/一日目/早朝】

【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:疲労(中)、野崎春花と祥子への不安と敵意。 マミを刺したことへの罪悪感、クラムベリーへの恐怖。
[装備]:ガンツスーツ@GANTZ(ダメージ60%)、DIOのナイフセット×9@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0〜1、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
1:クラムベリーから逃げる。
2:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
3:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。
4:あの先生の声の仏像キモイ、怖い。
5:また赤首輪かよ...

※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。
※本来のガンツスーツは支給者専用となっていますが、このガンツスーツは着用者に合うようにサイズが変わるので誰でも着ることができます。






【T-800@ターミネーター2】
[状態]:異常なし
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ジョン・コナーを守る
0:ジョンを探す。
1:T-1000は破壊する。
2;流美から色々と聞き出す。

※参戦時期はサラ・コナーを病棟から救出した後です。


506 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/17(土) 00:49:11 MS01ugnU0
投下終了です

シェンホア、宮本明、ホルホース、鹿目まどかを予約します


507 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/06/19(月) 10:39:44 ocbxxKIc0
すみません、予約を延長します


508 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/06/22(木) 00:50:05 ok/2aIDw0
すみません、今日中に書ききる自信がないので予約を破棄させてもらいます


509 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/26(月) 00:12:27 U6OpiDP20
予約を延長します


510 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:35:07 GjmURg7M0
投下します


511 : 不安 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:35:48 GjmURg7M0

ザ ン ッ

「てめェ!!クソ人間!!」

「ひいいぃぃぃ!!」

ワ ア ア ア ァ ァ ァ

響く吸血鬼の怒号。まどかの悲鳴。

それらを背景に、襲いくる吸血鬼たちの軍勢へ、明はドラゴンころしを構える。
体勢は居合抜き。
ただし、腕だけではなく身体全体を使った回転斬りだ。

明が鉄塊を振るう度に吸血鬼は両断され、薙ぎ払われ、血だまりを作っていく。

だが、大ぶりであるが故に隙も大きく、二人の吸血鬼が鉄塊を躱し、背後にいるまどかへと襲い掛かる。

そんな『相棒』の隙をフォローするのはホル・ホース。
目にも止まらぬ速さでスタンド『皇帝』を発現させ、吸血鬼たちの両脚を撃ち抜く。
とはいえ、人間よりも生命力が強く頑丈な吸血鬼相手では数秒の足止めが限界だ。

「そんだけありゃ充分だろ、なァ旦那」

その言葉通り、数秒のうちに明は体勢を立て直し、再び鉄塊を振るい吸血鬼たちを両断する。

シーン...

殺戮の終焉と共に訪れる静寂。

ハァ、ハァ、と呼吸音が空気を支配する。

明は吸血鬼たちが動かなくなるのを確認すると、身体から力を抜き息を吐く。


512 : 不安 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:37:37 GjmURg7M0

「大丈夫か二人共」
「お蔭さまでな。今回は噛まれずに済んだぜ」

功労者である相棒を労うホルホース。一方、まどかは優れない顔色で血だまりを見るだけだ。

「恐いのか」

明はそんなまどかに気が付き声をかける。

「恐いのは吸血鬼というより...俺だろうな」

まどかの身体がビクリ、と跳ね上がる。
図星だ。
まどかにとって吸血鬼も恐いが、明はそれ以上。
最初の時は助けられたこともあって感覚が麻痺していたかもしれないが、落ち着きを取り戻したいまでは、容赦なく敵を殺戮する明が悪魔にすら見えてしまう。
そんなことはない、彼は優しい人だ。
そう思えば思うほど、現実との乖離は酷くなってしまう。

「ご、ごめんなさい、わたし...」
「謝るな。お前は間違ってない」

明を傷付けてしまったと思ったまどかだが、明は微笑み逆に彼女を肯定した。

「俺も彼岸島に着いた時はそうだった。あの島にいた兄貴に会った時、その冷血ぶりに攻め寄ったんだよ」

微笑みつつも、遠い目でかつての光景を思い浮かべる明に、ホルホースは存外人間味があるんだなと思っていた。

「あの島は人を変え、大切なものを見失ってしまう。だから、お前が俺のようになる必要はないんだ」

ポンポン、と幼子をあやすようにまどかの頭に手を乗せ、くるりと振り返り吸血鬼たちの亡骸へと向き合う。
二人に見せないその顔は、おそらく無表情の冷徹な狩人と化しているだろう。
だが、彼の寂しく悲しそうな背を見れば、もうまどかの目には彼が悪魔のようには映らなかった。


513 : 不安 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:38:07 GjmURg7M0

「オゥ、これはまた絶景ね」

どこからともなく発せられた暢気な声。
まるで物見遊山にでも来たかのようなほど、この光景には不釣り合いだ。
三人がとっさに振り返れば、そこに立つのはスリットの入った中華風の装いの女。
その色気漂う女―――シェンホアのいきなりの登場に、まどかはただ面くらい、明とホルホースの二人は反射的に戦闘体勢に入る。

「あ・ア〜、早とちりよろしくないですだよ。争うの別に構わないが、それ目的なら声かけたりしない。よろしいか?」

その訛りがかった口調に三人は怪訝な顔を浮かべる。

「こいつは失礼。あんたみてぇな別嬪さんに声かけられると流石に緊張しちまうんだ」
「嬉しいこと言ってくれるね、色男。ならふたりとも武器を下ろして貰えませんですか?」
「悪いな。俺も、そう易々と他人は信用するなと学んだんだ」

若干間の抜けた空気が流れるものの、明とホル・ホースの警戒心は依然衰えていない。
依然、張り詰めた糸は残ったままだ。

そんな空気を打ち破るかのように、もぞもぞと地面を這う影がひとつ。

「ガアアアアア!!」
(しまった!一匹見逃していたか!)

明は慌ててドラゴンころしを振ろうとするももう遅い。

影―――吸血鬼は、シェンホアへと跳びかかった。



―――ピッ。

吸血鬼は押し倒したシェンホアごとごろごろと地面を転がり明たちから距離をとる。

「ハッ、仲間の死体に隠れて死んだふりをしていた甲斐があったぜ。あいつら見捨てたお蔭でこんな上玉を食えるんだからよ」

吸血鬼はハーハーと息を荒げ、シェンホアへと下卑た笑みを見せつける。
この男がナニをしようとしているのかは、語らずともわかるだろう。

「奴らを殺したらお前を犯してやる。それまで小便垂れて大人しくしてな」
「お宅好みじゃないね。逝きたいなら一人で逝くよろし」

動じず冷めた返事を返すシェンホアだが、吸血鬼に押し倒されている状況だけ見れば危機は必至。
まどかは思わず明たちへと振り返り助けを促そうとするが、二人は戦闘態勢をとるだけで、それ以上近づこうとはしなかった。
何故か。助ける理由がないからだ。

言い換えれば、もう勝負はついているということだ。


514 : 不安 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:38:33 GjmURg7M0

「強がるじゃねェか。だがよ、オレに噛まれていつまでその暢気な態度g」

ぐらり、と吸血鬼の視界が傾き頭部が地に落ちる。

「保て...あ、あれ、なんでオレの身体がそこに」
「まだそれだけ喋れるですか。けど頭と体泣き別れたらもう終い」

シェンホアは、伸しかかる吸血鬼の身体を面倒そうに押しのけ返り血を拭う。

(速ェ...)

ホル・ホースは純粋に彼女の技量への賞賛の感を覚えた。
吸血鬼が跳びかかるのとほぼ同時に反応し、目にも止まらぬ早業で吸血鬼の首を斬ってみせた。
彼女の身のこなしから相当の達人であり且つあの躊躇いの無さから自分と同じく殺し屋染みた生業の者であることは容易く察せた。
単純な体捌きなら確実にあちらの方が上。実際に戦りあえば、己の信条を抜きにしてもお互いにただでは済まないだろう。
そんな自分と同等の者が現れたのは幸か不幸か。それを判断するのはこれからだ。

「余計な邪魔が入りますしたが、お話戻しますです。私、あなたたちと話がしたいだけですだよ」

あくまでも穏やかに語るシェンホアは語る。
実際、彼女からは殺気など感じ取れず、不審な点も見当たらない。
いつまでもこうしていては埒が明かないと、ホル・ホースは銃をおろし、明は構えを解き。

その切っ先をシェンホアへと突きつけた。


515 : 不安 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:40:07 GjmURg7M0

「あ、明さん?」
「旦那?」
「さっき言っただろう。俺は易々と他人を信用するなと学んだ。あんたみたいに笑顔を振りまく奴に騙されたこともあるんだ」

話し合いへの交渉が収束しかけていた時に突如剣先を突き付けるのだ。
明のその予想外の行動にはまどかもホル・ホースも思わず面食らい、シェンホアでさえも目の色が変わってしまった。

当然、張り詰めた空気になるのは必定である。

ドキドキと誰かの鼓動が脈打ち、それが空気を伝わり伝染するかのように一同は鼓動が早まりハァハァと呼吸が乱れる。

(...戦る気なら受けて立ツ)

シェンホアの目が薄く見開かれ、殺気が目に宿る。
同時に、明の剣はスッと下ろされた。

「すまんな。ようやくいい目になった」
「?」
「アンタはいま俺に殺意を抱いた。その本気な目付きが見たかったんだ」

張り詰めた空気は一気に四散する。
明の行動の意味を理解したシェンホアとホル・ホースはそういうことかと肩で息をつき、まどかはただ一人疑問符を浮かべホル・ホースへと説明を仰いだ。

「日本でも目は口ほどにモノを言うって諺があるだろ?どう演技しても、本気の目付きって奴には生き方が現れちまうもんだ。旦那はそれを知りたかったってことだ」
「な、なんだかすごいですね」
「だがやり方が強引だ。あれじゃ一歩間違えば殺し合いが起きちまう。...なんか焦ってたのかねェ」

ホル・ホースからしてみれば、明とシェンホアがぶつかり合い無駄な消耗をするのは好まない展開だった。
だから、結果的に両者無傷で事が済んだのは暁光ものであった。


516 : 不安 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:41:25 GjmURg7M0

(焦っていた、か...)

明は己の手にするドラゴンころしへと目をやる。

ホル・ホースの憶測は的を得ていた。
この殺し合いに巻き込まれてから幾度か振るったこの鉄塊。
確かに強力なものだが、同時に違和感を感じていた。

(同じくらい重たい物は持ったことがある。だが、この剣からは重量以外のなにか奇妙なモノを感じる)

ドラゴンころしは、ただの鉄塊ではない。
名鍛冶師・ゴドーが叩き上げ、それを一人の男が幽界(かくりよ)の相手に振るい斬り続け、亡者の怨念を浴び続け鍛え上げられ、異界の者への干渉が可能になるまで至った。
文字通り魔剣である。

そんなものを初見且つ魔法染みたモノへの認識の無いまま使いこなせる者はそうはいない。

常人では持ち上げることすらできないドラゴンころしを振るえるのは流石というべきだろう。
だがそこまでだ。
明にできるのは、この鉄塊を振るうことだけであり、決して扱いこなせてはいない。
いうなれば、武器に振り回されている状態だ。
長期の鍛錬を積めばまだわからなかったかもしれない。
だが、少なくともいまの明ではドラゴンころしを使いこなすことができないという確信があった。

常にドラゴンころしへと意識を向けることを強いられるため、否が応でも注意力は散漫してしまう。
それが、今回死んだふりをした吸血鬼を見逃し、シェンホアへの対応が強引になってしまった要因だ。

だが、明はそれを自ずから口にはしない。自分が動揺すれば同行者にもその不安が伝わってしまうからだ。
故に明は、彼岸島の時と同様、表面上は冷静に振る舞っていた。

「お話の前にひとつよろしいか?」

シェンホアは己の目を指差す。

「これ、笑顔作ってるわけじゃなくて、生まれつき細めなだけですだよ」
「...すまない」

早とちりで人を試すような真似をしてしまった。
こんな調子では先が思いやられそうだ。明はそんな思いで謝罪と共に頭をさげた。


517 : 不安 ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:41:50 GjmURg7M0

【F-2/一日目/早朝】


【シェンホア@ブラックラグーン】
[状態]:健康
[装備]:とんでもなく長ェ刀@彼岸島
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:生き残る。手段にはこだわらない。
1:レヴィたちと合流するつもりはないが敵対するつもりもない。
2:T-800からの依頼(ジョン・コナーを探す)は達成したいが、無理はしない。
3:明たちと情報交換をする。

※参戦時期は原作6巻終了後です。



【宮本明@彼岸島】
[状態]:雅への殺意、右頬に傷。
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]: 不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 雅を殺す。
1:吸血鬼を根絶やしにする。
2:ホル・ホース及びまどかとしばらく同行する(雅との戦いに巻き込むつもりはない)
3:邪魔をする者には容赦はしない。
4:シェンホアと情報交換をする。
※参戦時期は47日間13巻付近です。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、失禁
[装備]: 女吸血鬼の服@現地調達品、破れかけた見滝原中学の制服
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: みんなと会いたい。
0:ほむら、仁美との合流。マミ、さやか、杏子が生きているのを確かめたい。
1:明とホル・ホースと同行する。
2:あの子(ロシーヌ)の雰囲気、どこかで...?
3:シェンホアと情報交換をする。

※参戦時期はTVアニメ本編11話でほむらから時間遡航のことを聞いた後です。
※吸血鬼感染はしませんでした。


【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労 (大)、精神的疲労(大)、失禁、額に軽傷
[装備]: 吸血鬼の服@現地調達品、いつもの服
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出でも優勝でもいいのでどうにかして生き残る
0:できれば女は殺したくない。
1:しばらく明を『相棒』とする。
2:DIOには絶対に会いたくない。
3:まどかを保護することによっていまの自分が無害であることをアピールする(承太郎対策)。
4:そういやこいつら、スタンドが見えているのか
5:シェンホアと情報交換をする。

※参戦時期はDIOの暗殺失敗後です。
※赤い首輪以外にも危険な奴はいると認識を改めました。
※吸血鬼感染はしませんでした。


518 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/06/27(火) 01:42:36 GjmURg7M0
投下終了です

玄野、陽炎で予約します。


519 : 名無しさん :2017/06/27(火) 02:14:09 tutMd3LA0
投下乙です
ここのロワさんにはNPCの使い方や一癖二癖ある参加者の際どい空気感の参考とさせて頂いております
丸太を振るうガッツとドラゴン殺しを振るう明、この二人は王道の対主催が少ないこのロワにおいて頼れるツートップといった感じがしますね
段々と立ち上がりの動きも固まりつつありますがどの集団も他の集団とすんなり協力できなさそうなあたりどう転ぶかこれもうわかんねえな


520 : 名無しさん :2017/06/27(火) 08:05:47 hGtZaH.A0
……?


521 : 名無しさん :2017/06/27(火) 12:35:37 pJSFlNdw0
>>520
何が「……?」だよ鬱陶しいコメすんな


522 : 名無しさん :2017/06/27(火) 17:06:01 FZLdFgyE0
……?


523 : 名無しさん :2017/06/27(火) 17:36:34 hGtZaH.A0
疑問に思ったんだからしょうがないよ


524 : ◆pmgezgfcp. :2017/07/01(土) 16:27:12 90qguQKo0
投下乙です。
明さんはドラゴンころしという強力な武器と一緒に、不安も抱いた状態。
ホル・ホースとまどかが支えることはできるのか・・・?
そしてシェンホアは安定感のある強さ。最後の「生まれつき細めなだけですだよ」が良い味を出してる。

甲賀弦之介、ハードゴア・アリスを予約します。


525 : 名無しさん :2017/07/01(土) 16:46:52 Rc9PA0xQ0
どちらも不死身かぁ
これは変な予感が


526 : 名無しさん :2017/07/01(土) 18:26:52 veQtzxrY0
どちらも不死身?弦之介様と天膳様勘違いしてませんか?


527 : 名無しさん :2017/07/01(土) 19:01:49 U7VFQ.bQ0
無敵という意味の不死身じゃない?


528 : 名無しさん :2017/07/01(土) 19:58:28 VoALjKgM0
……?


529 : 名無しさん :2017/07/01(土) 20:49:17 kGav/xTs0
いや、目が開いてる間だけのオート先制迎撃であって不死身ではないでしょ


530 : 名無しさん :2017/07/02(日) 10:23:02 sDPm1T.c0
相手の殺意反射ってマーダーキラーだな


531 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:45:54 cxiDftkY0
>>524

感想ありあとうございます。

予約にレヴィ、黒子、杏子、T-1000を追加して投下します。


532 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:47:00 cxiDftkY0

学園都市レベル4。それは決して低い数字ではない。
現状、確認できるのがレベル5までだからというだけでなく、学園都市に住む多くの超能力者の大半がそこまで辿りつけないからだ。
白井黒子はそんなレベル4の超能力者である。能力名は『空間移動』。
触れたモノや者を計算した座標に瞬間的に移動させる能力だ。
当然、対象に触れなければ能力を発動できないため、戦闘面においては能力だけに頼るのではなく、鍛錬も積んでいる。
そんな彼女は、学園都市の中でも間違いなく強者の部類だろう。

さて。そんな彼女のいまの相手は魔法少女の佐倉杏子。

彼女も彼女で、長年魔法少女として見野市で魔女と戦い続けてきたベテランである。
その戦闘術は主に槍による近〜中距離戦。
本来ならば幻惑の魔法を使えたのだが、父親が家族を連れて無理心中してからというものの、その魔法を使うことはできなくなっていた。
じゃんけんで例えれば、選択肢はグーとチョキのみ。そんなハンデを負ったまま、師と仰いだ魔法少女から離れ、一人でここまで生き残ってきた。
彼女もまた、猛者と言っても過言ではないだろう。

そんな二人だが、その戦況は停滞していた。

黒子は振るわれる槍を極力能力を使わず、己の身体能力のみで躱す。
杏子は明らかに空間移動を使い避けさせようと攻撃している。
焦って下手に能力で躱せば、先程のように動きを先読みされ攻撃を受けてしまうからだ。
そのため、多少の掠り傷は甘んじて受け、確実なる勝機を伺っているのだ。

対する杏子はというと、彼女も決して余裕綽々ではない。
身体能力は自分の方が上のはずだが、それにしては黒子が粘っているのだ。
本来なら、とうに黒子が痺れを切らし、瞬間移動で攻撃を躱している筈だった。
だが、彼女は多少の傷などものともせず杏子の槍をその身ひとつで躱し続けている。
想像以上に戦い慣れている黒子の実力は認めざるをえないだろう。

現状では、身体能力で勝るぶん杏子が優位ではある。
このまま戦い続ければ、杏子がなにかミスでも冒さぬかぎり彼女の優位は揺らがないだろう。
だが、黒子はこの形成を変えるチャンスがあることを確信していた。
それはなにか。
外部からの助っ人?いいや、そんな淡い希望染みたものではない。
そのチャンスは、ほどなくして訪れる。


533 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:47:26 cxiDftkY0

カッ。

槍を避けた黒子の脚が、なにかを踏みつける。

(―――あった!)

黒子はすかさずしゃがみ込み、その踏みつけたなにかへと触れる。

同時に。

杏子の右肩に走る痛み。
その痛みは杏子の動きを鈍らせ、それに伴い槍の動きも鈍くなる。
痛みのもとを見やれば、そこに撃ちこまれていたのは小さなネジ。

(チャンスは、いま!)

黒子が槍を躱しつつ待っていたのは、工場でよく使われるネジだ。
普段使用する金属矢を没収されている黒子には、現状武器が無く、その代用として探していたのがこのネジだった。
ネジさえ見つかれば後は簡単。このネジを能力で杏子の肩へと撃ちこむだけだ。

唐突な痛みは行動を制限し戦意を削がせる。
拘束するなら、いまこの瞬間が最大の好機だ。

まずは瞬間移動で転倒させる。
そのためには対象に触れなければならない。
杏子に触れようと黒子は右手を伸ばす。

ぐるり。

黒子の手が触れた瞬間、杏子の世界が180°傾く。
同時に、杏子の右足が突き出され、黒子の額へと放たれる。
ありえない反応の速さに、黒子は思わず目を見開き、迫る蹴りへの反応が遅れ、額で受け止めざるをえなかった。

杏子が突然の痛みに怯んだのは決して演技ではない。そこまでの反応は素だ。
だが、黒子が空間移動で、自分を反転させることはあらかた予想はしていた。
杏子は、最初に乱入してきた時の黒子の攻撃手段を覚えていた。
彼女は、掴みかかったレヴィを宙回させた。
あの時はレヴィのあまりの反応速度に気をとられていたが、本来ならば、レヴィが地面に落ちた時点で踏みつけるなりマウントをとるなりで無力化しようとしたのだろう。
ならば、移動させる位置は黒子自身の近くであると予想は立てやすい。
自分の身体が逆さになるのも、予想しておけばいくらでも対応はできる。

杏子は己の脳天が地に着く寸前に両掌を着け、一旦逆立ちになり速度を殺すことで身体への負担を減らした。
そのまま両手を屈伸させ、腕力で跳躍し体勢を立て直す。

蹴りを受けた黒子だが、体勢が体勢であり本来の半分にも満たない威力の蹴撃だったため、少々の痛みと額が赤みを増す程度で済んでいた。

両者は再び向かい合い睨み合う。

互いに少々の手傷を負わせたうえでの仕切り直し。


534 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:48:09 cxiDftkY0




レヴィは、その手に持ったダイナマイトを投擲。
導火線には火が点いている。あと数秒もすればT-1000の付近で爆発を起こすだろう。
だが彼は一切動じずに銃を構え、爆弾を撃ち抜いた。

当然、起こるのは爆発。

派手な音と共に巻き上がる爆炎とT-1000の技量に、レヴィはヒュゥと口笛を吹いた。

いまの一投は、敵が爆弾に対してどうでるかの様子見だ。

レヴィ自身、T-1000がなにもできずに被弾するとは思っていなかった。
ただものではないのはわかっていたことだが、ダイナマイトに動じず正確に撃ち抜いたあたり、かなりの技量を持ち合わせているらしい。
おそらくこのままダイナマイトを投げ続けたところで届きはしない。銃弾が効かなかった謎も合わせればかなり厄介だ。

(だが構わねえ。こちとらダラダラと延長戦に持ち込む趣味はねえ)

だが、レヴィの戦闘スタイルは元々慎重には程遠い。
短期決戦。勝てば美味い酒をのみ負ければ不様な骸を路地に晒す。そんな生死を掛ける勝負でも、流れ星が落ちるまでに簡単に決するような瞬間の煌めき。
それは、本来の二挺拳銃(トゥーハンド)であろうとなかろうと変わりはない。

呼吸も、鼓動も、脳髄も、全てホットに冷静(クール)。いつも通りだ。
さあ、死の踊りとしゃれ込もう。

ダイナマイトの導火線に火を点け、再び投擲。
T-1000は、先程の流れを再現するかのようにソレを撃ち抜く。

違うのは、撃ち抜かれたダイナマイトが爆発しないこと。

予想外のことに、T-1000は思わず動きを止める。

(いまのはあらかじめ火薬をあらかた抜いて、念入りに湿らせておいたやつだ。どんなけ着火しようが煙草の代わりにもなりやしねえ)

いまの一投はフェイク。本命は二投目だ。
低い姿勢からのアンダースローにより、ダイナマイトは地面スレスレを高速で滑空する。


535 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:48:54 cxiDftkY0

フェイクに気を取られていたT-1000は反応が遅れ、迫るダイナマイトを撃ち抜くことができない。
銃を腰のホルスターへと仕舞い込み、一足飛びで後退し、ダイナマイトから距離をとる。

火が導火線を侵食し爆発する。

爆風はT-1000の全身を煽り、その熱で服を、皮膚を焦がしていく。
無論、その程度で行動不能に陥る彼ではないが、眼前の熱風はレヴィの探知を阻害し行動の停止を余儀なくされる。

だが、晴れるのを待たずして熱風を掻き分け迫る者が一人。

レヴィは、己の身が高熱に晒されるのも厭わずT-1000へ特攻したのだ。

T-1000が彼女の存在を探知した時にはもう遅い。
彼の顔に向けて放たれるは、レヴィの後ろ回し蹴り。
狙いは頬やこめかみなどではなく眼球。人体の中でも解りやすい急所である。
踵がそこにめり込む感触と共に、レヴィは追撃の手を伸ばす。

ガシリ、とレヴィの手が掴まれる。

T-1000は、澄ました表情のままレヴィの腕を吊り上げ、右脇の下へと回し蹴りを放つ。
レヴィはほぼ反射的に左手を挟み込み脇への直撃を防ぎ、右手を掴むT-1000の左手を無理やり引きはがし後退する。

「眼球に当たってるんだぜ。ちったぁ痛がれよ」

T-1000は、追撃のために腰に手を当て銃を抜こうとする。
が、見当たらない。腰のホルダーは、既に空になっていた。

「探し物はコレかい、おまわりさん」

レヴィを見やれば、その手の中でT-1000が先程まで使用していた銃をクルクルと弄んでいる。

「悪党の前でそんなに隙を見せちゃ駄目じゃねえか。こんな簡単にスられるようじゃ街の安全なんざ守れねえよ」

銃を奪われた。その事実を認識すると、Tー1000は近接戦へと持ち込むために駆けだす。

「遅ェよ」

響く銃声。
放たれた弾丸はT-1000の眉間へと放たれ吸い込まれるように着弾した。
T-1000は、2、3歩後ろへとよろけるとそのまま仰向けに倒れ天を仰いだ。


536 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:49:31 cxiDftkY0

「......」

勝利したというのに、レヴィの顔は浮かない。
それどころか、警戒心と殺気は微塵も消えていなかった。

「...くだらねえ三文芝居は止めな。てめえ、脳みそはどこへやったんだ」

その言葉を聞き遂げるのとほぼ同時に、T-1000は顔色ひとつ変えずにむくりと上体を起こした。

頭部に被弾したというのに血が一滴も飛び散っていないのだ。
この光景を目にすれば、レヴィでなくとも違和感を感じたことだろう。

「なるほど。最初に心臓撃たれても生きてたのは防弾チョッキなんかじゃなく、そういう身体の仕組みだったからか。おまけに化けの皮も剥がれて踏んだり蹴ったりってやつだな、賞金首」

T-1000の普通の首輪の下から覗かせる真赤な首輪。
レヴィの弾丸を受けた部位の修復により、首輪に巻いていた分の流体金属が剥がれてしまったのだ。

「......」

T-1000は、立ち上がり程なくして、くるりと踵を返してコンテナの密集地帯へと駆けこんだ。

単なる逃走か、それとも策があるのか。
なんにせよ構わない。目の前にカモがいるなら地の底まで追いつめる。
レヴィは、躊躇いなくT-1000の後を追った。

「あ?」

しかし、その先にあったのは左右を挟んでそびえ立つ、数個の巨大なコンテナだけ。T-1000の姿はどこにもなかった。
レヴィはコンテナの森へと踏み込む。

(コンテナの間には通れるかどうかの隙間がある程度...まさか、あそこに隠れたのか?)

だとすれば、なんとも単純な待ち伏せだろう。もはや作戦でもなんでもないではないか。
だが、この状況ではそれが効果的なのは厄介だ。こちらは左右どちらにいるかを当てなければならないが、あちらはレヴィが顔を出したところを狙うだけだ。
それでも行かなければ決着をつけることができないのだから尚更だ。

(仕方ねえ。こいつでおびき出すか)

まずはダイナマイトを投擲し様子を窺おう。もしも投げた方の隙間にいればなんらかのアクションがあり、なにもなければ潜んでいるのは逆の隙間にいる可能性が高い。
レヴィは、ダイナマイトとライターを取り出した。

瞬間。

レヴィは咄嗟に身を捩った。
それは、なにも確信があった訳ではない。
いうなれば、それは『勘』。
長年の経験により積み重なった、生き残るための本能。

そしてそれは見事に的中し、左方から伸びた刃がレヴィの指を掠め鮮血を散らした。


537 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:50:05 cxiDftkY0

ダイナマイトとライターが空を舞う。
彼女は目を見張った。
なんせ、その刃の出所は、コンテナの中からだったのだから。

何時の間に入ったのだろうか。それを考える間もなく、ほぼ反射的に銃を抜き発砲する。
だが、コンテナの厚い壁は弾丸を弾くだけだ。奥にいるT-1000には届かない。

延びた二本の刃は、垂直に下ろされ、コンテナを切裂いていく。
これだけの切味なら、見失った数秒で中に入ることも簡単だろうとレヴィは推測した。

切り裂いた壁を蹴り飛ばし、レヴィの前へと姿を見せるT-1000だが、落ちたダイナマイトとライターを回収するなり、再びコンテナの中へと戻ってしまう。
それを追いかけるレヴィだが、コンテナに足を踏み入れた途端、充満する粉に思わず足を止めてしまう。

(コイツは小麦粉か?だとすりゃあ)

下手に銃を使う訳にもいかねえか。
そう思ったレヴィだが、差し込んだ月明かりに照らされたT-1000の姿に、思わず目を見開いてしまう。

その手に握りしめられるのは、ライターとダイナマイト。
そして、T-1000の指は、ライターの蓋に触れている。

「お、おい。テメェ、まさか...」

キンッ。

引きつった笑みを浮かべるレヴィを余所に、ライターの蓋は開かれ、導火線に火が点いた。


538 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:50:29 cxiDftkY0




それは唐突だった。

一つのコンテナが爆発、そこから連鎖するかのように次々にコンテナは爆発していく。
互いの戦闘に集中していた杏子と黒子も、思わずたじろぎ動きを止めてしまう。

その瞬間が致命的だった。

誘爆は、瞬く間に二人のもとへと近づいてくる。

「ッ!」

先んじて動いたのは黒子。
杏子が爆発に気を取られ固まっている隙を突き、有無を言わさず能力を発動。

二人の身体はその場から消え失せ、爆発との距離は遠ざかる。
だが、その行為も空しく。

瞬く間に爆風は目前へと迫り、二人の身体を飲みこんだ。


539 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:50:50 cxiDftkY0



轟音。

まるでなにかが爆発したかのような音が、玄野と陽炎の耳に届く。
何事かと目を向ければ、そこにはもうもうと立ち昇る煙と火の手。
間違いない。あそこでなにかがあったのだ。

「す、スッゲェ爆発...」

玄野はそう漏らすと同時に、そこにいるかもしれない友の安否を気遣う。
もしも加藤があそこにいたら間違いなくピンチに陥っていることだろう。
仮にあの爆発に巻き込まれていなくとも、彼ならば間違いなくあそこへ向かい生存者の救出に向かうだろう。
そう考えると気が気ではなかった。すぐにでも向かわなければ。

「陽炎さん!」

玄野の呼びかけに、陽炎は黙って頷く。
陽炎は、玄野が現場へと向かうのを止めはしなかった。
あの場に弦之介か朧がいる可能性があるのもそうだが、彼女は玄野がどの程度の男なのかを見極めたかった。
彼は生き残ることに関しては自信があると言い張っていた。
それだけ自負するなら、狂言の類でなければ、相応の体術か忍法を有している筈だ。
彼がその力を見せるのは追い込まれた状況の中だろう。
それを確認するために、興味の無い人助けに、陽炎は承諾したのだ。

「ハッ、ハッ」

玄野は走る。一刻も早く現場に辿りつくために。
だが、GANTZスーツの無いいまの自分は、有効な武器を持っていなければ、特別優れた運動神経を持っている訳でもない。
それでも彼は現場へ向かうことに躊躇いはなかった。

加藤が心配なのはもちろんだが、その一方でこんな場面を望んでいる自分がいた。

かつて、田中星人討伐の任務を終え日常に戻ったころ、早くガンツからの任務にいきたい衝動に駆られたことがある。
それは、星人を殺せるからというよりは、全く振り向いてくれない岸本と彼女に想いを寄せられていた加藤への複雑な気持ちからだ。
普段は教師やクラスメートに凡庸な男だの昼行燈だのと弄られ、好きな少女には目の前で惚気をだべられる始末。
そんな自分でも、他の者が出来ないことをやってのけた。
他の誰がどう思っていようとも、あの間だけは確かに大活躍なヒーローだったのだ。

そんなかつての栄光を手に入れた感覚に酔いしれたいのか、それとも傍らの女性にいい恰好ができると感じ取っていたのか。

玄野の顔には、微かに笑みが浮かんでいた。


540 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:51:51 cxiDftkY0



「ひとまず収まったか」

パキン、と音を立て、紡がれた鎖は崩れ落ちる。
杏子の魔法で張られた鎖の結界が、爆風から彼女を護ったのだ。

「......」

杏子は、傍らで火傷により意識朦朧としている黒子へと目をやる。
爆発が起きたあの刹那、あの状況で、如何に自分を守るかを考えていた自分と違い、黒子は真っ先に二人が助かる手段をとった。
あの時彼女一人だけでさっさと逃げていれば、余計な手傷を負わずにいられたというのにだ。
だがそのお蔭で杏子が生き残れたのも事実。もしもあのまま取り残されていれば、ただでは済まなかっただろう。

「おい」

聞こえているかもわからない彼女へ呼びかける。
返答はない。

「爆風は大半はあたしが防いだ。あのままモロに食らってたら、きっとあんたは死んでただろうな」

意識が朦朧としている彼女に聞き逃すなという方が無理かもしれない。
けれど、彼女が聞いていなくても構わなかった。ただ、自分の中でケリを着けたいだけだから。

杏子は黒子を抱き上げ木陰に横たえる。
爆発が収まったいま、ここなら更なる被害を被ることはないだろう。

「その程度の怪我なら死にはしないだろ。...借りは返したからな」

それだけを告げ、杏子は去っていく。
その小さくなっていく背中を、黒子は見つめることしかできなかった。


541 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:53:11 cxiDftkY0





「クソッ、やりやがった。やりやがったあの野郎!ハワード・ペインも大喜びだクソッタレ!」

粉塵爆発による火傷を負い、煤と泥に塗れたレヴィは、火災地から離れるように足を引きずり歩を進める。

T-1000がなにをしようとしたのか瞬時に理解し、咄嗟にコンテナから離れたのが幸いした。
幸い、向かい側にも巨大なコンテナがあったため、それが爆風や熱による被害を軽減役割を果たし、レヴィはこうして無事に生存することができたのだ。

だが、受けたダメージは決して軽いものではない。
これでは普段のように銃弾の雨の中を無傷で行き交うことはできないだろうし、二挺拳銃も存分に力を振るえない。
この殺し合いにおいてかなり不利な条件の参加者になってしまった。

(ったく、なんでこんなことになっちまった)

一度頭を冷やし、こうなってしまったいきさつを振り返る。
どこでヘタをうったのか。考えるまでも無い。
T-1000を撃ち、杏子との闘争を継続したのが全ての原因だ。

もしも、素直に黒子の静止に従い、T-1000の言ったジョン・コナーという少年の情報交換に事を留めておけば、こんなことにはならず五体満足で済んだ。
多少の我慢ならロアナプラでもよくあることだったのに、レヴィは我慢が効かずに引き金に手をかけた。苛立ちのままに引き金を引いてしまった。
この殺し合いの熱に浮かされてしまったとでもいうのだろうか。

『銃じゃ、解決しないこともあるんだぜ』

不意に、そんな言葉を思い出す。
ロック―――この殺し合いにも連れてこられているバカヤロウが、ラグーン商会に入って間もない頃のことだった。
あの時は、新人が入るといつもなってしまうホイットマン熱(フィーバー)の残り香でなんに対しても苛立ち当り散らしていた。
そんな折に、あの男は銃を脳天に突き付けられた上でそう言って退け、レヴィが引き金を退いても生き延びて見せた。

(うるせえな。あの状況じゃ仕方ねえだろ)

『ガンマンは稼業。気分で撃つのは乱射魔だ。チャールズ・ホイットマンを雇った覚えはねえ』

「あ〜〜〜、うるせえな!わかってるよ、あたしがトチったんだよ!」

同僚に続き雇い主の御高説までもが脳裏を過り、レヴィは思わず苛立ちで地団太を踏んだ。

「ああ、クソッ。あのヤロウ、あたしをこんなのに招待しやがったあのヤロウは絶対ェタダじゃおかねえ」

もとをただせば全ての原因はあの男にある。依頼を頼んだわけでもなく、駄賃の一銭も払わず自分を殺し合いに放り込んだあの主催の男にだ。
決めた。いま決めた。あいつは殺す。尻の毛をむしり取り下の球を叩き割って絶望の淵に陥れて遊び殺してやる。
苛立ちしか募らない殺し合いに呼びつけた主催への怒りを募らせ、レヴィは独り暗がりへと歩みを進めていった。


【C-4/工場地帯/一日目/早朝】
※多くのコンテナが爆発しました。火災はまだ続いていますが、これ以上広がることはありません。


【レヴィ@ブラックラグーン】
[状態]:頬に軽い痣、全身に火傷とダメージ、疲労(大)、精神的疲労(大)、苛立ち。
[装備]:ソードカトラス@ブラックラグーン
[道具]:基本支給品、西山のダイナマイトセット×2@彼岸島
[思考・行動]
基本方針:赤い首輪の参加者を殺してさっさと脱出する。
0:少し落ち着いて行動する。
1:自分の邪魔をする奴は殺す。
2:ロックは見つけたら保護してやるか。姉御は...まあ、放っておいても大丈夫だろ。
3:あの主催の男は絶対ブチ殺す。

※参戦時期は原作日本編以降


542 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:54:00 cxiDftkY0





「待ちなよ」





レヴィを呼び止める声がひとつ。
聞き覚えのある、まだ幼い声だ。

振り返り、姿を認めれば、そこに立つのは赤を基調とした服の槍使い。

「あたしとの決着はまだついてないだろ」

ああ、そうだ。もとはコイツと殺りあっていたんだ。

「...オーライ。あたしも中途半端は嫌いなんだ。これからどうするにせよ、キッチリケリは着けておかねえとな」

レヴィは凶悪な笑みを浮かべ、銃を構える。
それに対する杏子の手は、槍を構えての突撃。
無防備極まりない猪突猛進に見えるが、先刻のやり取りで解っている。
適当に撃ったところで躱されるだけだ。もしそうなれば、死ぬのは手傷の多い自分だ。

ならば、狙うべきは死の瀬戸際だ。
相手の槍がこちらの心臓まで届くようなゼロ距離射撃で確実に仕留める。

槍が迫り、レヴィの心臓を穿つまであと30cm。

(こんなもんじゃねえ)

20cm。

(まだだ。まだ足りねえ)

10cm。

(まだだ。まだ...)

5...4、3、2、1

(ゼロだ)

ミリ単位の瀬戸際まで来て、レヴィは身を翻す。
服が切り裂かれ、穂先を掠めた胸部が露わになり血が滲むも、それがレヴィを殺すには至らない。

(殺った―――!)

杏子のこめかみに銃を突きつけ、引き金に力を込める。

瞬間。彼女と視線がかち合い、レヴィの背筋に怖気が走った。

杏子の、人のモノとは思えないほどに無感情な瞳に。


543 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:54:42 cxiDftkY0



玄野計と陽炎。
二人が辿りついた時には、もう手遅れだった。
爆発はもう止めようがなく、原因の確認もロクにできなかった。

だが、ある意味では彼らは間に合っていた。

今まさに、第二ラウンド、ガンマンと槍使いの少女の勝負が決する寸前だったのだから。

二人は「待て」とも武力行使としてもその戦いを止める暇も無かった。

カラン、と音を立て落ちる槍。

ガンマン―――レヴィは、その脳天を刃で貫かれた。

「お」

その事態を認識した玄野は、ようやく声を発することができ、叫びと共に銃を構えた。

「お、お、おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

引き金が引けるかはわからない。
だが、いまこの場で人が殺されたのならば、次に狙われるのは自分達だ。
彼の生存本能は、咄嗟に最適解を叩きだし、身体を行動に移させた。

少女―――杏子は、玄野達の方へ向き直り、引き金が引かれる前にレヴィの身体を投げつけた。

当然、そんなことをされれば、引き金を引くことよりも、彼女を受け止めることを優先せずにはいられない。

玄野は咄嗟に銃を手放し、振りかかる重い衝撃に耐えつつレヴィを抱きとめ、地面に倒れこむ。

杏子は、すぐさま槍を拾い上げ、玄野たちへと背を向け逃走する。
玄野は崩れた体勢のまま銃を広い狙いを定めようとするも、立ち昇る煙が視界を遮り、玄野の追撃を許さなかった。

「クソッ...」

玄野は、陽炎の力も借り、伸し掛かるレヴィの身体を地面へと丁寧に横たえる。
大丈夫だろうか、という視線を陽炎に投げかけるも、陽炎は首を横に振る。
即死。脳髄を破壊されたのだから当然である。

レヴィの見開かれた両眼は、己に起きたことを信じられないかのように虚空を見つめ続けている。
そこには感動も矜持もなにもない。ただ、一人の参加者が他の参加者に殺されただけのことだ。
二人には、それがこの催しが殺し合いであることを物語っているようにも見えた。


544 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:55:06 cxiDftkY0



「はぁ...はぁ...くっ」

黒子は痛む身体に鞭うち手を伸ばすも、炎はそれを拒むように燃えさかり彼女の干渉を許さない。
これでは空間移動をしようにも、座標が計算できず中まで入れない。

怪我を負った黒子が炎に近づき、わざわざなにをしているのか。
彼女は、杏子に安全な場所へ放置されたのはいいものの、爆発の大元であろうレヴィとT-1000が気がかりになり、こうして火の手まで足を運んでいたのだ。

(お二人共、どうかご無事で...)

あの爆発では助かる可能性は低い。それこそ、反射の能力でも持ってなければ厳しいだろう。
けれど、生きている可能性もゼロではない。ならばこそ、黒子がそう易々と諦められるはずも無かった。

どうにか消火しなければと眩む頭を働かせるが、そんな手段はなにひとつ浮かばない。
一か八か飛び込むかと考えが纏まりかけた時だった。

「大丈夫か」

かけられた男性の声に、黒子は思わず振り返る。
立っているのは、紛れもなくあの警官、T-1000だった。

「ぶ、無事でしたの...」
「危うく死にかけた。きみこそ酷い有り様だ。ここからすぐに離れよう」

T-1000は、有無を言わさず黒子を背負い、炎から遠ざかるように背を向けた。

「あの女性なら私よりも先に遠くへ避難していた。あの炎の中にはもう誰もいない」
「そう、でしたの」


545 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:57:25 cxiDftkY0

黒子はT-1000の言葉にふぅ、と息をつく。
それは、自分の心配が徒労で済んだことへの安堵の息。

レヴィはお世辞にも善人とは言えない者だが、だからといって死んでせいせいするなどとは到底思えないし見捨てようとも思わなかった。
だから、彼女が生きていると聞かされれば安堵もするものだ。

それに、自分を助けてくれた杏子もだ。
彼女は確かに終始敵意を抱いていたが、一度とて自分を殺そうとはしなかった。
もしも殺す気で来ていたならば、確かなチャンスであったあの反撃を蹴りではなく槍で刺していたはずだ。
だが、彼女は自分を殺さないどころか支給品にも手をつけなかった。
きっとまだ殺し合いには乗っていないのだろう。ならば、レヴィとの問題さえ解決すれば味方になってくれるかもしれない。

少々手傷を負ってしまったが、死者が出ておらず改心のきっかけを作れたのなら上々な結果だろう。
妥協する気は無いため、彼女達の説得を止めることはないが。

(ああ...眠たいですの...この背中がお姉様のものだったらよかったのですが...)

黒子が安堵による睡魔に襲われていたその時だ。

「あ、アンタ達気を付けろ!」

T-1000が足を止めるのとほぼ同時に、聞きなれぬ青年の焦燥の声が黒子の耳に届いた。
背負われたまま身を捩れば、甘いマスクの青年と着物の美女、そして仰向けに倒れるレヴィの姿が確認できた。

「いまさっきこの人が殺された。犯人は、槍使いの女の子だ!」

その思いがけない結末を聞いた瞬間、黒子の眼は驚愕で見開かれた。


546 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:57:55 cxiDftkY0



佐倉杏子は、黒子と別れ、独り闇夜を駆けていた。

(クソッ...なんであたしはあいつを助けちまったんだ)

舌打ちと共に毒づくのは、自身の理解不能な行為。
どんな手段を用いてでも生き残る方針とは矛盾する人助け。

(せめて支給品くらいカッ払っうべきだろうが。なんであたしは...!)

今まで生きてきたように合理的に考えれば、支給品くらいは取りに戻るべきなのだろう。
だが、正義であろうとする黒子の姿が、あの甘い戯言抜かす二人の魔法少女の幻影が重なれば、わざわざ邪魔をしに戻る気が失せてしまう。

安否不明なあの二人―――レヴィとT-1000の存在は気がかりだが、わざわざ戻って顔を突き合わせる意味もないだろう。

杏子は、当てもなくただ立ち昇る火煙へと背を向ける。

彼女の向かう先、空は次第に明るみを増しているが、未だ暗い部分もある。
それは、煮え切らない想いで殺し合いに臨む彼女の気持ちを表しているかのようだった。


【C-5/一日目/早朝】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、苛立ち、黒子に対して複雑な気持ち。
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには殺人も厭わない。
1:どんな手段を使ってでも生き残る。
2:鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむらを探すつもりはない。
3:マミが本当に生きているかは気になる。

※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。


547 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:58:18 cxiDftkY0

順調だ。
黒子や青年の様子を確認し、T-1000はそう実感する。

自分の正体が見られた以上、どうしてもレヴィは始末しておきたかった。
だが、単に刺殺するだけなら、真っ先に疑われるのは対峙していた自分だ。
黒子の懐に入りこむ以上、彼女から信頼を損なうのは避けたかった。そのために粉じん爆発を用いてレヴィを爆殺しようとした。
逃げ場のないようなるべく多く誘爆するように隣接したコンテナにはあらかじめ大きな穴を開けておき、この爆発を起こしたのはレヴィであり、彼女は自爆したことにして片付けるつもりだった。
だが、悪運強く彼女は生き延びていた。あれで殺せないならば、もう確実にこの手で殺す他なかった。
そこで白羽の矢が立ったのが佐倉杏子だ。
彼女の戦闘スタイルや口調は既に知っているし、レヴィも力量を既に認識しているため読み違えやすい。
肝心の黒子もまた、あの爆発の最中で未だに杏子と共にいる可能性は低いだろうと考えた。
彼女の姿で殺せば、自分に疑いの目がかかる可能性は低くなる。
槍は己の身体の一部を使い再現できるのでなおやりやすい。
加えて、それを立証するのが新たに現れた玄野計と陽炎だ。
杏子の姿を借りてレヴィと接触する前に、彼らの姿を確認したT-1000は、彼らを目撃者に仕立て上げることを考えた。

ここまでくれば後は実行するだけだ。


T-1000が佐倉杏子の姿を借りてレヴィを殺す。

たったこれだけのことで、レヴィを殺したのは杏子となり、自分に疑いの疑惑がかかるのを防ぐことができる。
正体を知った者を口封じに抹殺し、ジョン・コナーを追い詰めるための手駒を増やすこともできる。
まさに一石二鳥とはこのことだ。


一皮むけば大したトリックもない、変装術によるただの詐欺だ。
だが、この事件の真実を知るのは、T-1000ただ1人だけ。

何も知らぬ小年少女らは、ターミネーターの仕掛けたウィルスに侵されるだけか、それとも...


548 : Breaking The Habit ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 18:59:57 cxiDftkY0

【C-4/工場地帯/一日目/早朝】

基本支給品、西山のダイナマイトセット×2@彼岸島、ソードカトラス@ブラックラグーンがレヴィの死体付近に落ちています

【レヴィ@ブラックラグーン 死亡確認】


【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、ショック(大)、衣類ボロボロ、全身に軽度の火傷(簡単な行動にはあまり支障無し)。
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:状況を確認する。
1:...止められません、でしたか。
2:御坂と上条と合流する。
3:槍使いの少女に要警戒。


※参戦時期は結標淡希との戦い以降。

【T-1000@ターミネーター2】
[状態]:ダメージ40%(爆発によるダメージ)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ジョン・コナーを殺害する。
1:眼前の人間たちからジョンについての情報を聞く。始末するかは後で判断する。
2:効率よくジョンを殺害するために、他者の姿を用いての扇動および攪乱も考慮に入れる。
3:黒子の瞬間移動の技法を手に入れる。

※参戦時期はサラ・コナーの病院潜入付近。
※白井黒子、佐倉杏子、レヴィの容姿を覚えました。
※首輪に流体金属を巻いて色を誤魔化しています。




【玄野計@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:鉄血帝国ルガー・スペシャル@ブラックラグーン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する。
0:陽炎さんヤバイ、エロイ。
1:加藤と合流。西も、まあ...合流しておこう。
2:浮気はマズイって。
3:状況を確認する。

※参戦時期は大阪篇終了以降
※たえちゃんとは付き合っています。

【陽炎@バジリスク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(武器ではない)
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と共に絶頂の果てで死にたい。
0:弦之介様と合流する。
1:薬師寺天膳には要警戒。
2:朧を殺す。
3:朧が死んだ場合、方針をゲームから脱出する(ただし弦之介を脱出させること優先)に変更する。
4:玄野を利用する。
5:状況を確認する。

※参戦時期は弦之介が天膳を斬った後。
※左衛門は書き手枠のため名簿に名前がありません。


549 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/04(火) 19:00:37 cxiDftkY0
投下終了です

相場、西くんを予約します


550 : 名無しさん :2017/07/04(火) 22:29:22 GvFTRK/E0
投下乙です

ジョンの義母に化けて暗殺を試みた時のようないやらしく効果的な戦術ですね
自身のスペックを把握した上で人間的な迷いなく躊躇せずに攻撃してくるというのはどこぞのゴリラメイドを彷彿とさせます
コンテナという地理的な環境と乱戦という社会的な環境を利用したT-1000の見事な独り勝ちです


551 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:32:09 oUwc8R6M0
大変遅れて申し訳ありません、投下します


552 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:35:12 oUwc8R6M0
燦々と日光のみが降り注ぐ果て無き荒野に、白髪の男と向かい合っていた。
男の赤い目と鋭い視線を交わす。それが全て。互いに言葉はなかった。
ただ、荒野の乾いた風が、白髪の男との間に流れているのを心で感じる。
やがて、太陽が丁度互いの間に登った時、互いに腰の拳銃を抜いた。
どちらが素早かったか、それはすぐにわかる。
銃声が一つ響いた後、オレは崩れ落ちた、右肩を撃たれた。
不思議と痛みはない、オレはおとなしく目を閉じ、相手の第二射を待った。

しかし、予想に反して第二射は来ない。
撃たれているのだ、放って置いても死にそうなものだが中々死なない。
そこでオレは気づいた。
「これは…夢か」

トドメの一撃が来なければ、撃たれても痛みを感じないのも当然だ。
寝ている場合ではない、早く目覚めなければ。
そう念じ、目を開いた矢先に飛び込んだ光景は

白髪の男が血を流して倒れている光景だった。

何があった。そう考え固まったオレの頭上でしゃくしゃく、と野菜を着るような音が聞こえた。
頭上を見上げると、半裸の大男がじゃがいもを食べながらこちらを見下ろしている。
忘れもしない、10歳のあの日、家を襲ったあの軍人だ。
撃たねば、頭ではそう考えるが、しかし左腕が動かない。
気づくと、オレは10歳当時の姿に戻っていた、片手では拳銃が持ち上がらない。
そんなオレの虚しい努力に構わず、大男はオレのシャツを破る。
男の熱気が肌を焼き、男の下がオレの身体を舐め回す。
背筋が凍りつく、あの日の恐怖が蘇る。
ああ、なぜ敗れた時は死ねるなどという甘い考えを抱いてしまったのか、負けたオレは、光り輝く道を見失ってしまったオレは、あの日、この時に戻ってきてしまったのだ。
やがて半裸だった男は、ついに下も脱ぎ、オレのズボンに触れた。
嫌だ、止めてくれ、オレを殺してくれ。

「…ですか!?」

誰か…誰か…オレを助けてくれ。


553 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:35:28 oUwc8R6M0

「大丈夫ですか!?」

少女の声が聞こえた気がして、リンゴォは目を覚ました。
そして目覚めた次の瞬間に目に入ってきた顔は

「お、大丈夫かあんた」

あの蜂と同じ顔だった。

「うおおおおおおお!!」

リンゴォは瞬間的に眠りにつく前のあの惨状を瞬時に思い出した。

「ど、どうしたんだよ」

「汚らわしいぞ!オレに近づくな!!」

トラウマを発症しリンゴォはパニックに陥った。


「…すまない、取り乱した」

「大丈夫だよ」

数分後、ゆうさくが必死になだめたかいあってリンゴォは落ち着きを取り戻した。

「ゆうさくです、あんたは?」

最初の挨拶は肝心だ、ゆうさくは頭を下げる。

「…リンゴォだ」

ゆうさくの顔を視界に入れないよう、そっぽを向きながら答える。
背後の茂みがガサガサと揺れる。


554 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:35:48 oUwc8R6M0
「あ、目を覚ましたんですね」

茂みを裂いて白い少女が現れる。

「初めまして、スノーホワイトです」

「こっちリンゴォさんって言うんだって、
ところでスノーホワイト、どうだった?」

「ダメです、見つかりませんでした」

「…お前ら、何の話をしている」

「この辺りで、困った人の声が聞こえたんです。
リンゴォさん知りませんか?」

「声?」

「実際の声じゃなくて、
私、困っている人の心の声が聞こえるんです
それで声が聞こえたところに行く、途中で悪い夢にうなされてるリンゴォさんの声が聞こえて…
心当りないですか?たぶん、若い男の人の声だったと思うんですが」

「…一方通行か」

「知っているんですか!?今どこに…」

「あの崖の上、その男の頭を付けた蜂に刺された
その後は…俺にもわからん、声とやらはどうなったんだ?」

「それが…気づいたら聞こえなくなってました」

「そう、か…」

己を殺すべき男、一方通行の暗い展望にリンゴォは顔を落とした。
あれでそう簡単に『悩み』が消えるはずはない。
生きていたとしても、能力で遠く離れているだろう。


555 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:36:53 oUwc8R6M0

リンゴォが暗い展望に顔を青くしている頃、同じくゆうさくは青ざめていた。

「やっべ!こんなことしてる場合じゃねぇ!早く戻んなきゃ」

「そ、そうですね…早くここから離れないと…
 リンゴォさん、」

「お前らはここから離れていろ、オレはあの蜂に用がある」

リンゴォはそう言って立ち上がった。

「え!?」

「どういうことなんだよ、ちゃんと説明してくれよ!」

「お前らには関係のないことだ」

それを聞いたスノーホワイトとゆうさくは驚きの表情を隠せない。
しかしリンゴォは、それに取り合うこと無く周囲を見回す。

(こいつらがあの蜂を知らないということは、奴はこちらには来ていないな…生きていればな)

あの一方通行の行動が俺を救う意図のものであれば、生きている可能性も高いだろう。
あの蜂はでかい顔を持っている上、羽音と呼ぶにはおぞましい音を出して空を飛んでいる。
見逃すわけはあるまい、恐らくはこちらと真逆の方向に行ったのだろう。
しかし、向こうを捜索していたと見られるスノーホワイトはあの蜂を見つけられなかった、最初から殺し合いと語られていたこの場で、決闘に乱入者を許したのは全て俺の責、急がねば。

そう考え、踵を返そうとしたリンゴォの右手を少女の手が掴んだ。

「待ってください!危ないです!」


556 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:37:06 oUwc8R6M0
「離せ!」

その華奢な腕を無理矢理に振りほどこうとするが外れない、思いの外力が強い。
少女の首輪がリンゴォの瞳に映る。
赤い首輪、確か怪物と言われていたか。

「オレはあの蜂を殺さなければならない!一方通行との決着を付けねばならない!」

「無理です!」

「知ったかぶるな!貴様に何がわかる!」

「わかります!だって!
リンゴォさんの困ってる声が聞こえるから!」

「なに…?」

「『一方通行に殺されなかったから公正なる果し合いが果たされない』、『蜂が怖い』って!リンゴォさんの心の声が聞こえるんです!」

「――――ッ!?」

リンゴォは愕然とする。
蜂に恐れをなしたこと、敗北した上で無様に生きていること、
己の恥部とも言える部分を、この少女に見抜かれていたのだ。

「それじゃあ、ただ殺されたいだけじゃないですか!」

ただ殺されたい、それはかつて己の行動に似て、
正当なる果し合いとは真逆の行動である。
その事に気づいてしまったリンゴォの身体は、弾かれるように動いてしまった。

「黙れぇっ!」

リンゴォはそう、叫びを上げると同時に左手でホルスターから拳銃を抜き、
スノーホワイトの頭にそれを突きつけた。


557 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:37:31 oUwc8R6M0
「ちょ、ちょっと、落ち着いて落ち着いて」

旗から見ていたゆうさくは止めに入る。
しかし、互いに譲ることはなかった。

(なんてバカげたことをしているんだ、オレは)

スノーホワイトの言葉に『対応』して銃を抜いてしまった。
光り輝く道が見えていた頃の自分であったなら、こんな無様は晒すまい。
しかし、否、故に、光り輝く道を見失い、かつての幼少期のように暗闇の荒野に取り残された自分は『恐怖』して銃を抜いてしまった。

「はあっはあっはあっはあ…」

息が苦しい、寒気がする、腫れるだけで済んだはずの傷から出血している。
精神と共に身体まで幼少期に戻ってしまったリンゴォは、立ち続けることすらできず地面にへたり込んでしまった。

「リンゴォさん…」

「わかっていた、というのか?その『困った声』が聞こえるとやらの能力で…」

スノーホワイトは、微動だにせず。
リンゴォが銃を下げるまで見つめ続けていた。

「いいえ、そんな声は聞こえません、ただ…」

リンゴォは、今まで対応者と見下ろしてきたその瞳を覗き込んだ。

「リンゴォさん、私以外のことで頭がいっぱいだからきっと撃たないって思ったんです」

甘い、人間としても影か少なすぎる瞳、
しかし、その瞳に、しっかりと希望が見えていたのをリンゴォは見逃さなかった。


558 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:37:50 oUwc8R6M0
「…道を見失っていた時点で、お前にも勝てなかったということか」

リンゴォは己を自嘲する。
思えば、あの蜂と遭遇した時もそうだった。
己を殺してもらうため、その暗闇の荒野の中、先がない犠牲の行いは実を結ぶことはなかったが、
あの場での一方通行の行いは俺の命を(不本意とは言え)残した。
一方通行、奴が何を思って俺を助けたのかは今となっては謎だが、これだけは言える。
奴の行動には、暗闇の荒野を照らす「覚悟」があった!

光り輝く道を見失い、怯えきっていたリンゴォだが、
少女の「希望」は、まさにリンゴォに光を与えた。

「リンゴォさん、落ち着きましたか?」

「…ああ、すまなかったな」

もう、スノーホワイトにリンゴォの声は聞こえない。
ふと気づけばリンゴォの過呼吸は止まっている。
リンゴォは完全に立て直した、その事実が嬉しくてスノーホワイトはリンゴォの腕を離し微笑んだ。

「気にしないでください、リンゴォさんが無茶なことをやらなくて良かったです」

「も、もう十分ですよね…」

「え?」


背後からゆうさくの声がかかった。
そう言えばさっきから心の声が聞こえていたが、リンゴォに集中していたため聞いていなかった。
スノーホワイトは振り返る、ゆうさくは震えて固まっていた。

「ほら、この辺に蜂がいるんだろ?」


559 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:38:09 oUwc8R6M0
「あ!」

忘れきっていた。
そう、この付近にはあの凶悪な蜂が飛び回っているのだ、
一箇所にとどまるのは危険だ。

「リンゴォさん、とりあえず今はここから離れましょう」

「お前たちに話しておくことがある」

「そんなこと言ってる場合じゃ…」

「俺はあの蜂と決着をつける」

「え!?」

「そんな…」

「じょ、冗談はやめてくださいよ」

「冗談ではない」

「あの蜂は一方通行との果し合いを邪魔し、オレの男の世界を汚した
 そして何より…あの蜂は今の俺の内に巣食う不安そのものの形だ、
…一方通行と会う前に、やつとここで決着をつける」

「無茶です!」

「確かにさっきまでの俺では無謀だっただろうな…
 しかし、お前に今の俺の心の声が聞こえるか?」

「それは…」

「聞こえないなら、少なくとも今の俺の行動に迷いはないのだろう
世話になったな」


560 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:38:54 oUwc8R6M0
「待って!」

リンゴォが背後に目を向け、踵を返そうとしたその瞬間、
スノーホワイトがさせまいと再びその腕を――――

「動くな」

掴む一瞬前、無警戒だったスノーホワイトの頭に、再び銃口が向けられた。
スノーホワイトは耳を澄ませた。
(え、ここでですかまずいですよ…)
相変わらず、ゆうさくの声しか聞こえない。
リンゴォは完全に希望をいだいてこの結論を出した。まずいだろう。

「お前らと争うつもりはない、二人共その木の後ろまで下がれ」

スノーホワイトに選択肢はない。後ろ足でジリジリと下がった。
注意深く隙を伺うも、今のリンゴォには全く隙がない。
どうするか。
その時、隣から微かな声が聞こえた。

(スノーホワイト)

(ゆうさくさん?)

(俺に手がある、任せてくれ)

見たことのないゆうさくの真面目な表情を見て、スノーホワイトは軽く頭を縦に振った。
それを見たゆうさくは微笑み、前に進んだ。

「下がれ、お前ら受け身の対応者に用はない」

リンゴォがゆうさくに拳銃を向けた瞬間、世界は漆黒の闇に包まれた。
スノーホワイトは見た。
光一つ見えない漆黒の中、3人に分裂したゆうさくが乳首をこねくり回している姿を。
上空に輝く「スズメバチには気を付けよう!」という純白の文字を。


561 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:39:14 oUwc8R6M0
その場に圧倒される中、スノーホワイトは聞いた。
場に流れるやたら軽快な音楽に混ざって、走り去る一つの足音をーーーー

「ゆうさくさん!!」

スノーホワイトの大声に、ゆうさくがビクリと身を震わせ、
闇が晴れた先に見えたのは、やはり目もくれず雑木林の獣道に消えるリンゴォの姿。
何も言わずにスノーホワイト駆け出し。
直後にゆうさくもその後を追った。


人間と人外、その差は彼らの速度差を見れば明らかであった。
距離を多少取った所で精々数秒程度しか稼げまい。
やがてリンゴォが獣道からも逸れ、木と木の間に体をねじ込み、より木の密度が高い森に身体を隠す。
今度こそチャンスだ、あそこなら銃すら自由に振り回せないだろう。
そう考えたゆうさくとスノーホワイトも、獣道から逸れ、森に飛び込んでいった。
…丁度、リンゴォが獣道から逸れた地点に着く「6秒前」の地点で。


【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】健康
【道具】基本支給品、ランダム支給品1
【行動方針】
基本:希望感じるんでしたよね?
0:スズメバチには気を付けよう!
1:スノーホワイトについていく。
2:スズメバチ対策をする。
3:スノーホワイトに協力する。

【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】健康
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない…
0:リンゴォを止める
1:同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2:そうちゃん…
※参戦時期はアニメ版第8話の後から
※一方通行の声を聴きました。


562 : 不安という名の影、戦い続けるのさ ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:39:31 oUwc8R6M0
スノーホワイトとゆうさくが飛び込んでくる直前で6秒時を戻したリンゴォは、背後の二人が森に飛び込んだことを確認すると、一息をつき、前を見据えた。
彼の前にはもはや光り輝く道など無い、どの道が一方通行に、あの蜂に繋がっているかなど見当もつかない。
しかし彼は歩みを止めない。
覚悟とは、決まりきった光り輝く道を歩くことではない、
漆黒の荒野から、道を切り開くことだ。

【リンゴォ・ロード・アゲイン@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、脇腹に銃創、精神的疲労(大)、両腕にスズメバチの毒液による炎症(大)、ずぶ濡れ、気絶。
[装備]:一八七三年型コルト@ジョジョの奇妙な冒険 スティールボールラン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:公正なる果し合いをする。
0:ハチと決着をつける
1:一方通行との果し合いに決着をつける
2:受け身の対応者に用はない

※一方通行が死んだことを知りません。


563 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/06(木) 20:40:27 oUwc8R6M0
投下終了です


564 : 名無しさん :2017/07/07(金) 02:35:04 HcxPmHGw0
投下乙です
このままだと死んでもおかしくない状態だろうと前に進むという覚悟
それがこれほど似合うのはリンゴォを置いて他には居ないのではないでしょうか
すぐ気絶しているあたり未だ意思に身体が着いてきていないのでしょうがそれでも何かやってくれるという凄みを感じます
雪ゆう組は読心と分身による注意喚起というなかなかにトリッキーな能力の組み合わせでどこまで立ち回れるかが鍵となりそうですね
どちらも幸薄そうですがどうロワを生き抜いていくのか


565 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/07(金) 11:02:40 /a..XTt.0
すみません、リンゴォの気絶はミスです
wikiで現在時刻と場所を追加しました


566 : ◆pmgezgfcp. :2017/07/09(日) 05:29:15 AQkHgDZM0
投下乙です。
>Breaking The Habit
かたや黒子と杏子、中学生同士の、それにしては場慣れしたバトル。
かたやレヴィとT-1000、洋画さながら爆発だらけの過激なバトル。
どちらも緊迫感がありました。特にレヴィの最期のシーンが好きです。

>不安という名の影、戦い続けるのさ
リンゴォというキャラの『覚悟』は、周りからしたら理解されにくいでしょうね。
スズメバチ、そして死に恐れながら、それでも前進するために決着を望む。
道を切り開くことができるのか、興味深いキャラだと思いました。

では自分も投下します


567 : 黎明邂逅 ◆pmgezgfcp. :2017/07/09(日) 05:30:48 AQkHgDZM0
 空がうっすらと明るくなり始めた時分。
 木々の葉が風にゆれて、虫のさざめきの如き音を鳴らす中で、甲賀弦之介と少女は邂逅した。
 互いに立ち止まり、一瞬の沈黙があった。
 その後、無言のまま走り去ろうとした少女の背中に、弦之介は問いを投げた。


「待てっ、訊ねたいことがある」
「……」
「陽炎か朧という女、あるいは薬師寺天膳という男に会ってはおらぬか」


 少女は振り向いたが、返事はしなかった。
 弦之介は少女に目を合わせた。しかし、暗く淀んだ目からは、殺意はおろか、人間なら当然に備えているだろう感情の一片さえ読み取れない。
 この世ならざる力を持つ魔眼であろうとも、心を察する力はない。
 ただ、返事がないこと自体に弦之介は疑念を抱いた。
 会っていなければ否定すればいいだけの話。返事をしない理由があるとすれば、これまでに争い敵対したか、さもなければ己が手にかけたか。――悪い想像はいくらでもできる。
 よくよく目を凝らせば、凝固して赤黒く変色した血のあとが、手や服に点々と付いている。
 少女の顔色は良くないが、目立つ外傷はない。
 他の参加者の血、と考えることが自然なように思えた。


――いや、むやみに疑うのはよそう。


 しかし弦之介は、首を振って疑念を断とうとした。この美丈夫は、無用なたたかいを好まない性分なのだ。
 その性分は、甲賀卍谷衆の次期頭領でありながら、敵対する伊賀鍔隠れへと無策に立ち入るという、とても迂闊な真似をしてしまうほどのもの。
 そんな危険なまでの人の良さは、この場においては話を進展させる方向にはたらいた。


「その手を見るに、誰かに会ったようだが」
「あなたと似たような服の男を見た。それだけ」
「……そうか」


 返答は簡潔なものではあったが、弦之介は考え込んだ。
 “似た服の男”が薬師寺天膳であるとすれば、この近くに潜んでいることもありえる。
 そして、朧や陽炎の手がかりはない。
 地道に探す他にはないかと、やや落ち込んだ気分になっていると、今度は少女の方から問いがあった。


「スノーホワイト……白い魔法少女に、会った?」
「すのぅほわいと?まほうしょうじょ?」


 真面目な顔をして「魔法少女」と口にする青年がここにいた。
 さておき、弦之介には心当たりがとんとない。耳にしたこともない言葉であったし、そもそも島に来てからは誰とも会っていなかったのだ。
 少女はそれを察したのか、踵を返して再び走り去ろうとした。
 弦之介もまた、少女に探し人がいると知れた以上、無理に引き留めるつもりはなかったが、最後にひとつだけ、と考えて声をかけた。


「待て!わしは甲賀弦之介。陽炎と朧に出会ったなら、こう伝えてくれ。
 わしはこの島から脱出して、元の里に戻るために動く。そなたらの無事を祈る、と」


 この広い島で、会いたい相手に会えるとは限らない。
 弦之介の思考は、冷静にそう判断していた。
 ゆえに少女が、朧か陽炎に会い、伝言をくれることを、弦之介は密かに期待した。


「以上だ。そなたも“すのぅほわいと”への伝言はあるか?」


 少女は振り向かなかったが、弦之介を無視することはなかった。
 そして、最後に一言、とても小さな声で呟いて、ついに少女は去った。
 去り際の言葉を、弦之介はその耳でしっかりと聞いていた。


「すのぅほわいとを守って……か」


568 : 黎明邂逅 ◆pmgezgfcp. :2017/07/09(日) 05:31:30 AQkHgDZM0
【F-5/一日目/黎明】

【甲賀弦之介@バジリスク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する(ただし赤首輪の殺害を除く)。
0:陽炎と合流する。朧を保護し彼女の真意を確かめる。
1:薬師寺天膳には要警戒。
2:極力、犠牲者は出したくない。
3:脱出の協力者を探す。
4:“すのぅほわいと”を守る?


【ハードゴア・アリス(鳩田亜子)@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品×2、ランダム支給品2、薬師寺天膳の首輪
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探し、自身の命と引き換えに彼女を脱出させる。
1:「スノーホワイトに会えないと困る」という強い感情を持ちながら会場を回る。
2:襲撃者は迎撃する。ただしスノーホワイトとの遭遇優先のため深追いはしない。
3:可能ならば自身も脱出……? 他者の脱出をサポート……?
※蘇生制限を知りました。致命傷を受けても蘇生自体は行えますが蘇生中に首輪を失えば絶命するものだと捉えています。
 あるいは、首輪の爆発も死ぬと考察しています。


569 : ◆pmgezgfcp. :2017/07/09(日) 05:46:29 AQkHgDZM0
投下終了です。また短いじゃないか(呆れ)
意見等々ありましたらお願いします。

如月左衛門、吉良吉影、上条当麻、ラ・ピュセル、ガッツ、野崎祥子、岡島緑郎、岡八郎、ぬらりひょん
以上を予約します


570 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/09(日) 07:33:35 3Fu4wZUk0
投下乙です

リンゴォは無事持ち直せたようでなにより。
対応者としてみなされたスノーホワイトとゆうさくですが、彼にいまひとたび道を歩ませたこともまた事実。
再会することがあればどんな反応になるのでしょうか、気になります。


弦之介殿は優しさが今回は根はイイ子のアリスだからプラスに働いたものの、今後の隙になりそう
アリスについてる血が天膳殿のものと知ったら怒りはしないが色んな意味で驚くだろうな

投下します


571 : 泥の船 ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/09(日) 07:34:55 3Fu4wZUk0
西丈一郎と相場晄。
獲物を求める二人の男子中学生は、今後の方針について話し合っていた。

「お前の言ってた青い髪の女って奴、特徴教えろよ」
「は?さっき言っただろ」
「あんな偽善者用の表面的なことじゃねーよ。どうして狩れなかったのか、ソイツが解ればカモ同然だろ」

高圧的というべきか、馴れ馴れしいというべきか。
兼ねてよりの知り合いらしい加藤ならいざ知らず、初対面の相手によくもまあこんな態度で話せるものだと相場は思う。
少なくとも、仲良くはできないなと思わざるをえなかった。

「...あの女は、ボウガンで頭を貫かれても生きていた」
「ソイツは正面からか?」
「いや、姿を隠して背後から」

相場の証言を聞き、西は考え込む素振りを見せる。
これだけの情報でなにかわかるのだろうか。だとしたら頼もしいが...

「...お前、ソイツを撃つ前に余計なことはしなかったか?」

ふと、なにか思い当たったような表情を垣間見せ、相場へと向き直る。
余計なこと、と問われても相場には心当たりはない。
あの時はさやかとは会話すらロクにしていないし、特筆すべきことは...

「...そういえば、最初は背後から撃ったけど、仁美ってやつのせいで躱されて、あいつが隙だらけになってからようやく頭を撃てたっけ」

その相場の漏らした呟きに、西は「それだ」と即座に返答する。
西の心当たりと相場のミスが合致したのだ。

「お前のその最初のミスで、その女に存在を気づかれた。完全な不意打ちだったら殺せてたはずだ」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「俺の狙ってる獲物にも似たような奴がいるからだよ」

西は、そのまま名簿を取り出し、記された名前を指でなぞっていく。


572 : 泥の船 ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/09(日) 07:35:31 3Fu4wZUk0
「確かこのあたりに...あった」

西の指した名はぬらりひょん。
ぬらりひょんといえば、相場の知る限りでは妖怪の一種だが、まさかそんなものまで巻き込まれているというのか。

「コイツは再生能力が半端なくてな。正面からいくら削ろうがすぐに元通りになっちまう。おまけに姿も自由自在ときた。
けどな、コイツにもひとつ弱点がある。不意打ちだ。完全な意識外からの攻撃を浴びせれば、それだけでしばらく再生できなくなる」

西の口から出てくるぬらりひょんについてのワードは、再生能力だの変幻自在だのと、およそ人智を超えるモノだったが、西の言いたいことはなんとなくわかる。
あの青い髪の女もそのぬらりひょんとかいう奴と似たような性質を持っていると推測したのだろう。
実際には、ぬらりひょんの下位互換なのだろうが、西の推測通りなら、あれだけやっても死ななかったのも理解できる。

不可思議なのは西の素性だ。
何故そんな化け物についての知識を有しているのか、何故そんな化け物が参加者として殺し合いに招かれているのか。
純粋に興味が湧いてきてしまう。

「なんでお前はそんなに化け物に詳しいんだ?この殺し合いになにか関わっているのか?」
「...さあな」

含みを持たすような笑みを浮かべる西に、相場の疑念と興味はますます膨らんでいく。
もしもこいつが主催に関する者なら、うまく使えば一足先に野崎を脱出させることが出来るかもしれない。
仮に不可能でも、こいつと組むメリットは非常に高い。
こいつはこの殺し合いについてのノウハウを熟知していることになる。ならば、殺し合いの展開を有利に運ぶのにはもってこいの筈だ。
主催となんの繋がりが無くとも、化け物についての知識は役に立つ。
厳密まで同じではなくとも、似たタイプの化け物を相手にするのに際し参考になるからだ。

性格に難があるとはいえ、あの時、加藤についていかずこちらに残ったのは正解だったかもしれない。
相場は、ツキが廻ってきていると実感し、一刻も早く野崎春花の唯一の拠り所になりたいと内心で胸を躍らせた。


573 : 泥の船 ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/09(日) 07:35:56 3Fu4wZUk0

(俺が主催に繋がってる?んなわけねーだろバーカ)

そんな相場には気の毒と言えよう。西は、内心で舌を出し相場を嘲笑った。

自分が主催と関わりがあるように振る舞ったのは完全にフェイクである。
もし本当に主催と関わっているのなら、こんなショボイ武器ではなくガンツで配られるような超兵器を自分に支給しているし、参加者にも加藤なんかではなく和泉あたりを連れてきている。
では、何故彼は己の素性を偽るような真似をしたのか。

彼は相場を制御したかったのだ。

西は相場を評価している。
冷静沈着な振る舞いだけではない。
超常的な現象も受け入れられる柔軟さを有しており、相場は東京のチームのような偽善者ではないし、自分と似ている部分があると思っていた玄野よりも更にこちらに近い側の人間だ。そんなタイプの人間こそ、西が利用価値があると見いだせる人間なのだ。
だが、近いからこそわかってしまうこともある。
相場は必ず西を裏切る。そして裏切れば、その時点で役立たずと判断し口封じも兼ねて処分する。
どういう形かまではわからないが、必ずそうするであろうという確信があった。少なくとも自分ならば、己の利のためにそうするからだ。

それを防ぐための偽の情報である。

西が主催側の人間であれば、相場は自分を如何に利用するかを必ず考える。
利用価値があると判断する以上、相場は下手に西の命を危険に晒すような行動には移れない。
可能な限りこちらの補助をせずにはいられないだろう。

どれほどチープな素材でも、使いこなせばマリオネットを操る糸になり得るのだ。

(まあ、あながち無関係って訳じゃねえかもしれないけどな)

西は、名簿に刻まれたぬらりひょんと岡八郎の名前を思い返す。
岡八郎はハンターとして、ぬらりひょんはミッションのターゲットとして確実に死んだ。
だが、この名簿にその名前が連ねられている以上、生きて殺し合いに参加していると考えるしかないだろう。

それだけではない。

玄野、加藤、西。この三人もまた一度は死にガンツに呼ばれた者たちだ。
だが、いつの間にやらこんな荒唐無稽な催しに招かれている。
死者を生き返らせ、ガンツの干渉を排し参加者として強制的に呼び出す。
そんなことが出来るのは、ガンツ自身に他ならないだろう。
なにが目的かは知らないが、主催にガンツが関与しているとなれば、よりガンツの真相に近い自分は関わりがあると言えよう。

(もしガンツが関与してるなら、大方、カタストロフィに向けての選別ってところか)

カタストロフィ。
それは、多くの人類が体験する最大の戦争。
弱者は惨めに死に絶え、強者も残るのは一握り。そんな規模の大戦争だ。
この殺し合いがカタストロフィに向けて最強の戦士を作り上げる為のプログラムだとしたら、武器が貧相なものだったのも頷ける。

(関係ねぇ。どんなゲームだろうが、最後に勝つのは俺だ)

西には、相場のように守りたいものなどない。
世界を手中に収め、手に入れたいものは、偽善染みた法律や道徳が意味を為さない混沌とした世界。
群れなければなにもできない愚図ではなく、優れた者が全てを支配するあるべき世界。


世界の全てを手に入れるため、西丈一郎は独りゲームへと臨む。
これまでも、そしてこれからも。


574 : 泥の船 ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/09(日) 07:36:22 3Fu4wZUk0

【G-2/一日目/早朝】



【西丈一郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ポンの兄の拳銃@彼岸島
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:赤首輪の参加者を狙い景品を稼ぐ。装備が充実したら赤首輪の参加者を殺すなり優勝なりして脱出する。
0:邪魔する者には容赦しない。
1:相場は利用できるだけ利用したい。
2:いまは準備を整える。
3:ぬらりひょんは弱点を知ってるので優先的に狙いたい。
4:岡は戦力になるので赤首輪が手におえなければ利用したい。

※参戦時期は大阪篇終了後。


【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
1:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
2:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
3:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
4:カメラがあれば欲しい。
5:西はなにかこの殺し合いについて関与しているのか?

※参戦時期は18話付近です。


575 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/09(日) 07:37:15 3Fu4wZUk0
投下終了です

『クラムベリー』、『杏子』を予約します


576 : ◆pmgezgfcp. :2017/07/16(日) 23:07:45 LDuLfeLc0
連絡が遅くなりすみません。
予約を延長させていただきます。


577 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:00:27 4RaghAqA0
ミスミソウが実写化するそうです。
まさか今になってミスミソウがメディア展開するとは予想外でした。
正直に言って凄いことだと思います。

投下します。


578 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:04:07 4RaghAqA0

佐倉杏子。彼女はかつては人間だった。
教会の牧師のもとで産まれ、優しい両親と妹を家族に持ったれっきとした人間だった。
そんな彼女が人間を辞めたのは、教義に無いことを唱えた父が、本部から破門されたのがキッカケだった。

世の中の幸せのために。

そんな想いで説いた説法は否定され、非難され、罵倒され続けてきた。
当然、そんな有り様となった以上、今まで教会へと足を運んできた信者はパッタリと姿を消し、本部から破門されれば一家郎党銭無し生活へと放逐されてしまった。
一刻も早く金が入らなければ飢え死んでしまう。そんなことよりも、杏子は、父の話を誰も聞いてもくれない現実を悲しんだ。
別に全てを肯定しろと言っている訳じゃない。ただ、ほんの少しだけ耳を傾けてくれればそれでよかったのだ。

そんな折に囁いたのは、キュゥべえという摩訶不思議な動物だった。

彼は言った。きみの願いを叶える代わりに魔法少女になってほしい、と。

杏子は契約した。
父の為に。家族の為に。みんなの幸せのために。

そして、杏子は人知れず魔女と戦う魔法少女になった。

魔女。
それは、世界に災厄をもたらす遣い。
彼らとの戦いは人知れず、誰からも褒められることはなかった。
それでも構わなかった。
それで人々の、家族の平和が守られればそれ以上に嬉しいことはないと思っていた。

一人の『正義の味方』に出会うまでは。

正義の味方の名前は巴マミ。
隣町に住み、杏子よりも前から活動している魔法少女だった。
戦う彼女の姿は、優雅で、華麗で、なにより強かった。
そんな彼女の姿に惚れ込んだとでもいうべきだろうか。
人々の為に戦う彼女の信念とは波長が合い、互いの仲が深まるのも時間がかからなかった。

そして、杏子はマミの弟子になった。


579 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:04:27 4RaghAqA0

杏子はマミを師と仰ぎ、共に手を携え戦うことで、飛躍的に実力を伸ばしていった。
彼女とのコンビはまさに強力の一言。
互いの実力はさながら、堅い信頼で結ばれた連携は、大概の魔女にひけをとらず、伝説の魔女ですら敵ではないとさえ思えるほどだった。

優しい家族。
優しく強い師匠。
裏に表と彼らに支えられた魔法少女の生活は、これまでにないほど充実した。

そんな幸せの絶頂にも終わりが訪れる。

それはほんの些細な失敗からだった。
教会に現れた魔女を退治する場面を父に見られてしまった。
杏子は仕方なく全てを話した。
自分の戦う理由も、そのために叶えた願いも。

それが、全ての崩壊の始まりだった。

ほどなくして、杏子の父は壊れてしまった。
酒に溺れ、家族に暴力を振るい、人外の力を手に入れた娘を魔女と罵る。
そんな絵に書いたような廃人と化してしまった。
世の中を変えることなどなにもできない己の無力さ、娘の魂を悪魔に売らせてしまった自責の念、娘の願いで惑わされる人々への懺悔、壊れた理由は挙げればキリがないほど複雑で多い。
妹や母が杏子を責めなかったのは唯一の救いだったのかもしれない。

けれど、そんな脆くなった家庭など壊れるのはあっというまで。

杏子が家へと戻った時、父は家族を道ずれに無理心中をしていた。
その選択をした父にどんな想いがあったかはわからないが、結果として杏子は取り残されてしまった。


当然、そんな状況に陥った彼女がかつてのように無邪気に夢見る正義の味方でいられるはずもない。

兼ねてより使えた幻惑の魔法は、自らの願いを潜在意識で拒絶してしまったために封印され。
こんな、人を破滅に向かわせるしかできない奴にも優しくしてくれるマミの姿は、どこか拒否したくなるほど眩しすぎて。
だから杏子は彼女と別れることにした。

自分の為だけに力を使う。そんな信念を掲げ、一方的に彼女から離れていった。

そして二人の魔法少女の道は違えた。

一人は名も知らぬ大勢の他者のために戦う光り輝く正義の道へ。
一人は己の利益のためだけに戦うドス黒く利己的な道へ。


そんな彼女たちの末路は。

末路は...


...


580 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:04:54 4RaghAqA0



一人の少女が、森を、街をひた走る。
当てもなく。これといった思慮もなく。ただただ愚直に走り続けている。
少女の名は佐倉杏子。嵌められた首輪は、この会場内で『怪物』とされる"赤"。

彼女は、白井黒子に助けられその借りを素直に帰してしまった事実に複雑な想いを抱いていた。

いま思い返してもその気持ちは変わらず。あれではまるで―――

「ああ、クソッ」

つい舌打ちをついてしまう。
それで気分が晴れることはないが、せずにはいられないのだ。

ふと、デイバックからポロリと中身が毀れかける。
杏子は咄嗟にそれをデイバックに仕舞い込むものの、それを見て苦い表情を浮かべる。
彼女の支給品のひとつは、何の変哲もないホッケーマスク。
それを見た者には、かのスプラッター映画の怪人、ジェイソンを連想させるだろう。

「......」

その仮面を見つめながら思う。
特別映画に詳しくは無い杏子でも、ジェイソンがどんな怪人かは大まかには知っている。
武器を片手に人間を殺傷する鬼人。それがジェイソンの一般的イメージだ。
彼が何故人を殺すのか。そんなことまでは知らないが、殺人鬼の面が配られたのは主催からの皮肉だろうか。
まるで、人を不幸にするだけのお前にはおあつらえ向きだと。そんな意図を込められているようにさえ思えてしまう。

「...くだらねえ」

なにをセンチになっているのか。
今さら善人ヅラするつもりはないし、他者からなんと言われようともどうでもいい。
自分は自分のために力を使うだけだ。
ホッケーマスクをデイバックにしまい、再びその足を進める。


581 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:05:12 4RaghAqA0

闇雲に走り続けてどれほど経っただろうか。
やがて辿りついたのは、荒れに荒れた廃墟だった。
建物の至るところに穴が空き、罅が入り、崩れ落ちている。
派手にやったものだと呆れと感心を同時に抱かせるほど凄惨だ。

この破壊を刻んだ者達―――こんなことを一人でやるはずもない―――はまだいるのだろうか。
だとしたら、早く離れるべきだろうか。

そんな杏子の耳に留まるものがひとつ。


―――――♪

「歌...?」

まるでガラスのように透き通るような声。聞こえてきた歌からは、そんな印象を抱かせた。

この殺し合いという場でなんと暢気なことだろう。
底抜けに能天気なバカか、それとも獲物を誘っている狩人か。
なんにせよ、この破壊をもたらした者であれば、姿だけでも確認しておくのも悪くは無い。

杏子は、気配を殺しつつ歌の出所を探ることにした。


「―――――♪」

建物の陰から伺い、薄く差し込む朝日に照らされた声の主の横顔を確認する。
声の主は女だった。
緑と白を基調とした服に身を包み、尖った耳と美貌が特徴的だ。


見るからに隙だらけだ。脅しをかけるにせよ少しでも参加者を減らすために殺すにせよ、いまは絶好のチャンスにも思える。
だが、杏子は動けなかった。
彼女の佇む巨大なクレーターが嫌でも警戒心を抱かせる。それもあるかもしれない。
だが、それ以上に彼女の歌が気になってしまう。


582 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:05:43 4RaghAqA0

「...もしもこの花に心があるなら寂しさも癒えるでしょうか」

思わず歌詞を口ずさんでしまった口元を慌てて塞ぐ。
気付かれていないだろうか。
チラリと女へ視線を向けるも、こちらに反応した様子はなく歌を続けている。
間抜けだ。緊張感が無さすぎる。
だが、彼女の歌は嫌でも杏子の心に染み込んでくるのだ。
それは彼女の声のせいなのか。それともどこかの誰かにも通じる歌詞のせいなのか、そこまでは自分でもハッキリとしていないが。

やがて歌が終わり、女はふぅ、と一息をつく。

「御清聴感謝します」

彼女はゆっくりと立ち上がり、杏子の隠れる建物へと目を向ける。

(なんだ、バレてたのか)

戦略的には、未知数の相手から逃げるのは決して間違いではない。
しかし、魔女のような言葉の発せない怪物ならいざ知らず、言葉を交わせる相手にこのまま逃げるのは癪だ。
観念した杏子は、素直に女の前に姿を現した。

パチ、パチ、パチ、と一定の感覚をおいた拍手を送る。
半分は純粋な称賛を、もう半分は少しばかりの嘲笑を込めて。
その意図を知ってか知らずか。女の笑顔は一向に崩れなかった。

「いい歌だったよ。こんなところじゃ場違いにもほどがあるけどな」
「身体を休めるにあたり、暇を持て余していたのでつい。ですが、お蔭であなたという収穫がありました」
「ハッ」

女の言葉を鼻で笑い、杏子の視線に敵意が宿る。


583 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:06:02 4RaghAqA0

(なるほど。あの歌で獲物を引き付けて狩るつもりだったわけだ)

なんて命知らずだろう、とは思わなかった。
この荒れ果てた街を創り上げたのはおそらく彼女だ。
本人でなければ、下手人を警戒する必要があるため、ああも暢気に釣り針を垂らすような真似はできない。
単なる奢りや油断ではなく、相応の自負と自信があり、それに偽りはないと察せる。

身体を休めていると言っていたが、この女に手傷を負わせ、この廃墟を作り上げるのに貢献したのだ。相手もそうとうなものだろう。

だからといって、杏子が怖気づくことはない。
杏子とて魔法少女のベテランだ。己の強さには相応の自信があるし、容易く負けると思えるほど謙虚ではない。
なにより、女は自分と同じ『赤首輪』。
彼女を斃せば一足先にバトルロワイアルから脱出ができる。
ならば、狙わない理由はないだろう。

突きつけられる槍を前にしても女の笑みは変わらず、そこからは微塵も恐怖や緊張を感じ取ることはできない。
変わらぬ歩調で、杏子との距離を詰めてくる。

「戦うのは構いませんが、その前にひとつお話をよろしいでしょうか」

好戦的な態度とは裏腹に女が持ちかけたのは対話。
当然、杏子がそんなものをあっさりと信じられるはずもなく。
もしかしたら他に協力者が潜み狙っているのではないか、キョロキョロと目線だけで確認する。

その視界の端で杏子は捉えた。

女が最初に座っていた付近で、何者かが横たわっていることに。

その制服に見覚えがあることに。

気が付けば杏子は足を進めていた。

女との距離が縮まるのも、言葉を交わすことなく通り過ぎるのも構わず。

ただ、考えるよりも早く『確認しなくては』と身体が動いていた。

横たわる者へ辿りつくまで、時間にすればほんの数十秒だが、杏子にとっては永遠に辿りついて欲しくないとも思える時間だった。
だが、何者からの邪魔もなく辿りつき。

杏子は見てしまった。

横たわっていたのは、かつて敬愛した師、巴マミであったこと。
彼女の頭部と首が泣き別れていたこと。
正義の味方の末路としては、あまりにも惨たらしい顔でこちらを見つめていたこと。

「なあ―――こいつは、死んでるのか?」

思わず零れ出たのは、悲しみの涙ではなく、憤怒の激情でもなく。

そんな、見ればわかるような間抜けな問いかけだった。


584 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:06:26 4RaghAqA0



「26人ですか」

黒球の報酬である、赤首輪の数を書かれた紙を見て呟く。
思ったよりも多い。
参加者の半分もあれば、報酬によって脱出する参加者もそれなりに出てしまうのではないか。
果たして自分は何人の赤首輪の参加者と闘争を愉しめるだろうか。
出来れば他の赤首輪の参加者も第一に弱者の排除からとりかかってもらいたいものだが。

そんなことをぼんやりと考えつつ、身体を休めていたクラムベリーの耳に届いたのは、何者かの足音。
その足取りから素人ではないことはわかったが、それ以外は実際に見ない事にはわからない。
そこで彼女は、魔法で音を操り歌を届けることによって、相手の出方を窺った。
歌を聞き、もしも離れるならその程度の弱者であり用もない。
もしも恰好の獲物だとこちらを狙うなら最低限の実力は有しているはず。
その結果として現れたのが、赤首輪の参加者、佐倉杏子だ。

マミの死体を見て問いかけてきた杏子の様子から、クラムベリーは彼女の事情を察する。

(巴マミの知り合いでしたか)

かねてよりの試験の時から、他の魔法少女の素性や本来の姿について一切探ろうとしない彼女から見ても杏子の態度はわかりやすかった。
巴マミの死体を見てショックを受け動揺している。
自分やマミの首輪同様、赤首輪を嵌められていることから、十中八九魔法少女だろう。

(さて、どう答えたものでしょうか)

クラムベリーは考える。

普段なら、彼女を殺したのは自分だと挑発を交えて闘争に臨んだだろう。
だが、このバトルロワイアルでは赤首輪の参加者は後回しにすると決めている。
巴マミとの戦い同様、余計な横やりを入れられてはたまらないからだ。


585 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:07:46 4RaghAqA0

なにより、ここでそう言葉にだせば、自分が巴マミに勝利を収めたことになってしまう。
確かに、彼女の命を絶ったのは自分だ。だが、あんなものは勝利とは言えない。
魔法少女としての彼女は、裏切られた時点で死んでいた。
例え嘘でも、あんなものを彼女との決着の形にはしたくなかった。

「そうですね。イチから話しましょうか」

結局、彼女は嘘偽りなく事の顛末を話すことにした。

巴マミと佐山流美と出会ったこと。
自分が流美を殺そうとしたことによりマミと交戦したこと。
戦いが熱を帯びてきた折に、マミが裏切られたこと。
マミが怪物になってしまったため、その命を絶ったこと。

杏子は、クラムベリーの告白に意外にも口を出さず静かに耳を傾けていた。

(もしも彼女も巴マミと同等の実力者であれば、楽しみは後にとっておきたいですが...)

杏子が自分の方針に賛同してくれるのが一番手っ取り早い。
しかし、巴マミのように正義を謳い、若しくは敵討ちだと憤り立ち向かってくるならそれはそれ。
その時は全力を持って楽しむつもりだ。

「私はこれより赤首輪以外の参加者を狩ってまわります。赤首輪の参加者との戦いはその後です。あなたはどうしますか?」

さて、杏子の返答は如何なるものか。


586 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:08:06 4RaghAqA0




目の前の女は全部語ってくれた。
あいつが人間を護るために戦ってたこと。
護っていた筈の人間に裏切られたこと。
最後に魔女になって殺されたこと。


正直、予想外なことではなかった。
あたし自身、そうなる可能性が高いと考えていたから、あのジャッジメントと名乗った女を拒否し続けてきたからだ。

...普通なら、魔法少女が魔女になるなんて聞かされたらもっとショックを受けてた筈だ。
でも、なんでかな。
いまはもう、そんなのはどうでもいいことと思えるくらい動揺や感傷は覚えなかった。

たぶん、あいつのせいだ。
ホントは戦いたくなんかねえくせに、誰かを護るために戦い続けて。
周りがいくら忠告しても、自分の利益にならない使い魔退治を馬鹿みたいに続けてきて。
なにが嬉しかったのか、魔法少女候補生の一般人を連れまわして隙を突かれて死んで。
生き返ったと思ったら性懲りもなく護るために戦って。
結局、ソイツに裏切られて、それでも最期までソイツを守ろうとしちまって、悔しそうな顔をして死んじまったあいつのせいだ。

カメラがあったら写真に収めて見せてやりたいね。これ以上、あいつが絶望することなんてあるのかよってさ。

だからかな。あいつが死んだのが悲しいんじゃなくて、悔しいと思っちまうのは。

多分、あいつがまともに戦って、ちゃんと負けていればもう少しマシな顔で死ねたのだろう。
そうすれば、あたしも涙の一つも流してやることが出来ただろう。

でも、現実は違う。

あいつが護ろうとした奴は、己の保身のためにあいつを切り捨てた。あいつのこれまでの全てを否定しやがった。

泣くことなんかよりも先に、得体のしれない苛立ちが湧いてきちまう。

「...ありがとな」

だからだろう。あいつを殺した張本人に、お礼を言っちまったのは。


587 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:08:56 4RaghAqA0

「何故礼を?」
「あいつ、馬鹿だからさ。もし魔女のまま生き延びて他の人間を殺しでもしたら、きっと死ぬほど悔んでた。そうなる前に、あんたが殺してくれた礼さ」

そうだ。あいつは結局、人間を見捨てられなかった。
本心で望んでいようとなかろうと、あいつは最期まで正義の味方であろうとしたんだ。

あいつを殺した女は、キョトンとした様子で目を瞬かせる。
まあ、当然だろう。あいつがああ見えて、あたしと道を別っても生き方を変えなかった程の頑固ものだってことは知る由もないんだから。

「...なあ、あんた、名前は?」
「森の音楽家クラムベリーです。クラムベリーと呼んで下さい」

このソウルジェムの中の魂がぐつぐつと煮えたぎる感覚を覚える現象。
さっきは得体のしれない苛立ちといったが、訂正する。

あたしが苛立ってるのは、人間に対してだ。

いつもそうだ。

親父が少し教義と違うことを説いただけで異端者扱いして弾きだし。
聞かないだけならまだしも無意味に罵倒し水をかけ。
奴らが心の隙間を突かれて魔女に操られた所為で全てが狂い。

...肉親ですら、少し人から外れた力を使っただけで、悪魔に魂を捧げただの人間を生贄に捧げただのとレッテルを張り勝手に壊れていって。

あげくの果てには、護ろうとしてくれた奴を切り捨て己だけ助かろうとする。

あたしの敵は魔女なんかじゃなく、いつだって人間だ。

親父の言葉を盲信してたかつてのあたしは、皆が幸せになれるようにと願っていた。
けど、現実を見れば考えなんていくらでも変わる。

なんであいつらのために戦わなくちゃいけない。
なんであたし達を苦しめる奴らの幸福を守らなくちゃいけない。

あいつらはなにもしてくれない。
それどころか、正義の味方であろうとすることさえ許さない。
声高々に正義を名乗るのが許されるのは、人間だけだ。

「クラムベリー。あんた、赤首輪以外を狩るって言ってたよな」

だったらもう答えは決まってる。
あいつらが、あたし達を否定するのなら、都合のいい道具としか考えないなら。

あたしはあんたらの言いなりにはならない。
マミみたいに裏切られることもしない。

正義も悪もどうだっていい。

「手伝ってやるよ、人間狩り」

人間(おまえら)全員、あたしの敵だ。


588 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:09:47 4RaghAqA0



クラムベリーは思わずきょとんとした表情で杏子を見る。
予想外の答え―――いや、予想はしていた筈なのだ。
そもそもその答えを聞くために勧誘したのだから、この返答は望み通りのものだ。

「...意外でした。まさかこうも迷いなく受け入れてくれるとは」
「裏切るつもりなら、いつかは殺し合うこと前提では話さないだろ」
「そういう意味ではないのですが...」

巴マミの死でショックを受けるほど親しい仲なら、彼女と似たような信念を持っているものだと思っていた。
絶対に弱者を見捨てない、百歩譲って答えを出すのにもっと時間を要するかと思っていた。
だが、杏子はさして迷う素振りもなくクラムベリーの方針に賛同した。
果たしてそんな彼女は本当に強いのか。甚だ疑問が残る。

「失礼します」

それを試すために、クラムベリーは不意打ち気味に掌底を放つ。
勿論、殺気は込めている。これをまともに受けて再起不能になるのならその程度であり、組む必要などない。
杏子の顔目掛けて放たれた掌底は、しかし首を捻り躱され、代わりに槍を喉元に突きつけられる。
槍の先端をクラムベリーが人差し指と中指で挟み止めれば、二人の顔は互いの鼻先が掠り合いそうなほどに接近した。

「合格です。試すような真似をして申し訳ありませんでした」
「構わないよ。あたしがあんたの立場ならたぶんそうしてた」

二人は互いに戦闘態勢を解き、互いの武器を下ろす。

彼女の強さに問題は無い。
だが、巴マミと親しき仲にありながら、彼女とは真逆の道を行こうとしている。
何故か。考えられる理由はひとつだろう。

「巴マミの敵討ち、でしょうか」

クラムベリーの問いに、杏子は一旦間を置き答える。

「別に。敵討ちがどうとかはどうでもいい」

その答えに少し驚き、しかし続く答えにクラムベリーは納得し笑みを浮かべた。

「ただ少し、気に入らないことがあっただけさ」


589 : Anima mala/Credens justitiam ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:10:07 4RaghAqA0

【C-6/一日目/早朝】
※巴マミの死体が首が切断された状態で放置されています。

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1、鮫島精二のホッケーマスク@彼岸島
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには殺人も厭わない。
0:どんな手段を使ってでも生き残る。
1:クラムベリーと協定し『人間』を狩る。共に行動するかは状況によって考える。
2:鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむらを探すつもりはない。


※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。
※魔法少女の魔女化を知りましたが精神的には影響はありません。


【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中〜大)、全身及び腹部にダメージ(中〜大) 、出血(中)、両掌に水膨れ、静かな怒り
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2 巴マミの赤首輪(使用済み)
[行動方針]
基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
0:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
1:杏子と組む。共に行動するかは状況によって考える。
2:一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。が、状況によっては容赦なく交戦する。
3:ハードゴア・アリスは惜しかったか…
4:巴マミの顔を忘れない。
5:佐山流美は見つけ次第殺す。


590 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/17(月) 23:13:25 4RaghAqA0
投下終了です。

参加者紹介動画を投稿しました。
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm31589149

『モズグス』、甲賀弦之介、ブチャラティ、ジョン、小黒妙子、『MUR大先輩』を予約します。


591 : 名無しさん :2017/07/17(月) 23:40:36 SA0WpvlU0
作品と動画投下乙です
杏子堕ちたか?マミさんの遺体を放置とは
T-1000の暗躍も加え、屈指の強マーダーと位置づけされそう


592 : ◆VJq6ZENwx6 :2017/07/18(火) 02:11:18 Ywmnx34U0
投下乙です。
普通の首輪と赤首輪、人と人外、弱者と強者を分ける線引に苦しめられた杏子が
クラムベリーの誘いに乗る事はある意味必然だったのか、
赤首輪が同盟を組むことで常人の参加者はより苦しむでしょうね

自作悪魔の娘においてアリスとクラムベリーがスノーホワイトが赤首輪だということを
確信していた件をwikiにて補足・加筆しました
ttps://www65.atwiki.jp/20161115/pages/38.html
問題があれば修正します


593 : 名無しさん :2017/07/18(火) 11:09:19 lOQKARs.O
投下乙です

流美、クラムベリー、マミ、杏子
みんな他人に期待しすぎ
勝手に期待して勝手に失望って自業自得じゃないですか


594 : 名無しさん :2017/07/20(木) 15:53:20 lusXZk120
ねむい


595 : 名無しさん :2017/07/20(木) 17:04:24 4WZYS7bM0
>>593
>>594
キャラ叩きやふざけたコメはやめて、どうぞ


596 : 名無しさん :2017/07/20(木) 17:42:11 j8.7jlaA0
>>595
じゃあお前が感想書けよ?


597 : 名無しさん :2017/07/23(日) 17:05:53 mYaSkTIw0
これでキャラ叩きは流石に草。
ロワ中のキャラのムーブについて語っただけで叩きとか何も言えねえなあ


598 : 名無しさん :2017/07/23(日) 17:06:57 X3fq4vh60
くっせえ流れだなぁ…(呆れ)


599 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:26:03 CS4o2QOs0
>>590
の予約から弦之介とモズグスを外して投下します


600 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:28:22 CS4o2QOs0



オ オ オ オ オ オ オ

ペタリ、ペタリと『姫』の這う音が染み渡る。
誰も『姫』と視線を交わそうとはしない。代わりに交わるのは、ハーハー、ハァハァと紡がれる息遣い。
ブチャラティ。妙子。ジョン。MUR。つい漏れてしまう呼吸は、巨大な脅威に対する彼ら四人の恐怖の現れなのかもしれない。

「な、なんなのよあれ...」
「静かに」

つい漏らしてしまう妙子の唇に、すぐさま人差し指を当て黙らせる。
普段ならば、相手が女性であるためもう少し遠慮したかもしれないが、状況が状況だ。
目を合わせていないとはいえ、いつこの怪物が牙を剥いてくるかはわからない。
そのためにはほんの些細な失態さえも見逃すわけにはいかないのだ。

(だが、本当にこの怪物は目を合わせないだけで襲ってこないのか?)

直接目視できないとはいえ、現状、怪物との距離はかなり近い。
暗がりの中とはいえ、目視すればこちらの存在を認識するのは容易い。
仮に姫が盲目だとしても、手探りで捕まえられる可能性は充分だ。
座して待つのではなく、今すぐにでもこちらから仕掛けるのが正しいのではないか?
ブチャラティの脳内でそんな疑問が渦巻いていたその時だ。

ビチャッ。

四人の傍に液体が落ちる。
何事かと目を向ければ、たちまち床が溶け始めたではないか。

「ひっ!」

それは誰の悲鳴だったか。
それが引き金となり、三人は今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。
このままではパニックに陥る。
ブチャラティはそれを察知し、慌てて三人を引き留める。


601 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:28:55 CS4o2QOs0

「落ち着け。まだ攻撃された訳じゃない」

それは、自分にも向けた言葉だったのかもしれない。
だが、そのお蔭で頭が冷えた。
やはりいまベストなのは、『ここから動かないこと』だ。
おそらくあの液体は酸のようなものだろう。あれを受ければただではすまない。
だが、あれは自分達には当たらなかった。液体は今も尚、壁や床に落ちているが、いずれもまばら且つ少量だ。これでは獲物を追い詰めることも逃げ場を減らすこともできはしない。
つまり自分達に攻撃している訳ではないのだろう。
いまならば確信を持っている。やはり『姫』は、目を合わせない限り大丈夫であると。

ペタリ。ペタリ。ペタリ...

蠢く大量の手足が過ぎ去り、しーんとした静寂に包まれる。

「...行ったか」

ブチャラティは、警戒体勢を解き、三人を解放し一息をつく。

「な、なんだったのよアイツ」
「あれも参加者なのかな」
「...いや。お前達はあいつに関しての警告文を見たんだろう。おそらくあれは、この通路に長居させないための仕掛けだ」
「なんでそんなことを?」
「あの男は、吸血鬼がどうとか言っていたな。もしも伝承通りならそいつらは日光に弱い筈だ。そういった奴らが地下に留まり続けるのを嫌ったのかもしれない」

ブチャラティのその推測に、ジョンの面持ちは暗くなる。
吸血鬼。MURが出会ったというその存在は確かに実在しており、彼らのために凶悪な仕掛けを施したのはまだわかる。
だがそれに付き合わされた人間はたまったものではない。
ターミネーターでさえ苦戦するであろう参加者や仕掛けがあと幾つあるというのか。
それを考えると頭が痛くなるのも仕方のない話だ。


602 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:29:21 CS4o2QOs0

「ふぃ〜、サッパリした」

MURの暢気な声が耳に届く。
ふとそちらに目を向ければ両手で顔中の汗を拭き、ペタペタと壁に拭いつけているMURの姿。
思い返せば、吸血鬼と遭遇した張本人である彼は、ジョンのように不安を顔には出さなかった。
不安を隠せない自分と大概暢気なMUR。
彼の内心ではどうかわからないが、周囲に与える影響は彼の方が好いだろう。
そのブレない能天気さは見習うべきかもしれない。ジョンはそんなことを思っていた。

ガコン。

MURが壁に押し付けていた手が突如沈み込む。
同時に、パッと一帯が明るくなり四人は思わず目が眩んだ。

「なんだこれは...電燈?」

目を擦りながらも一行は己が目を晦ませた元凶を認識。
辺りを見まわせば、一定の感覚で壁に電燈が埋め込まれている。

「よかった。これで見やすくなった」

先程までは暗がりに包まれていたこの空間だが、電燈が点いたことで視界は広くなり部屋全体を見まわせるようになった。
これでだいぶ探索もしやすくなるだろう。

(だが、あの主催がこんな仕掛けを作るか?)

ブチャラティは顎に手をやり考え込む。
あの主催は、地下通路に姫などという見るからに怪物を放り込むような輩だ。
そんな奴が、こんな参加者の為になるような仕掛けを作るだろうか。
いや、単純に考えるなら、これは参加者の為の仕掛けなどではない。
これを付けた理由は―――


603 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:29:47 CS4o2QOs0

突然だが、彼らのいる位置を振り返ろう。
彼らのいるこの場所は螺旋階段。
前回の話で、ジョン・妙子・MURは下から昇ってきた。ブチャラティはこの螺旋階段に足を踏み入れほどなくして彼ら三人と遭遇した。
これらのことから、彼らのいる位置は螺旋階段の上層部にある。つまりは天井が近いとも言い換えられる。
この時点でなにかを察せた方もいるかもしれないが、もう少し続けさせてもらう。

天井とは云わば巨大な鼠返しである。
脚に大量の微細な毛が生えている虫でもなければ、重力に逆らうことはできず張り付くことはできない。
それは姫も例外ではない。万物の法則に従うのならば、彼女はとうに落下していなければ可笑しな話だろう。
だが、姫は落ちてはいない。即ちブチャラティら四人の上方にいるのだ。
加えて、生物の多くは常に動き回るのではなく一度立ち止まり休憩を取り入れ再びの活動の糧にする。


だから、MURがふとした拍子で空を仰げば。

「あっ」

天井付近で待機していた姫と目が合うのも必然である。


604 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:31:19 CS4o2QOs0

「ギッ ギャッ ギャッ」

ピキピキと血管を浮かび上がらせ、姫の顔色が変わっていく。
異変に気が付いた他三人は天井を見上げ、怒る姫を認識。
迂闊にも顔を上げたMURを責める間もなく、姫の巨体が一同へと襲い掛かった。

「ブ エ エ エ エ エ エ」
「ヒイイィィィ!!」

巨大な口が迫る。
妙子も。ジョンも。MURも。ただ絶対なる死への恐怖に押しつぶされていた。

「『スティッキィ・フィンガーズ!』」

ただ一人、数多の死線を、本物の死を経験したこの男を除いては。

ブチャラティの背後から現れたスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』は、己の足元を殴りつけジッパーを取りつける。
姫がの牙が食らいつくその直前に、ジッパーを開封し三人を引きずり込む。
すると、四人は下の段に着地し姫は獲物の消えた階段に激突し破壊する。

「い、いまのは」
「説明は後だ!まずは奴との距離を離さなければならない!」

息をつく間もなく襲いくる第二撃。
ブチャラティは床に再びジッパーを取りつけ四人纏めて階下へ降りていく。
再び姫は階段を破壊し四人へと迫り、ブチャラティは着地とほぼ同時にスティッキィ・フィンガーズでジッパーを取りつけ階下へと逃げる。
速度は姫の方が速く、距離も地道に詰められている。ただ破壊するだけの姫と、四人を抱えた上で能力を行使、ジッパーを引くという動作を強いられるブチャラティの差である。
このまま鬼ごっこを続けたところでいずれは捕まるのは明白だ。

(賭けるしかない!)

床へと振り下ろされる筈のスティッキィ・フィンガーズの腕が空を切り壁を叩く。
その箇所にジッパーが現れ、ブチャラティは三人をその中へと放り込み自分も跳びこみジッパーを閉める。

彼らを追いかけた姫が壁にぶつかり、ドォン、と派手な音を一帯に響かせた。


605 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:32:21 CS4o2QOs0

スティッキィ・フィンガーズが手を伸ばし、前方の壁に触れジッパーを取りつける。
チャックを開けばそこに広がるのは石造りの光景。ブチャラティは三人と共にチャックから這い出た。

どうやら賭けには勝てたらしい。

ブチャラティは内心でそう安堵する。

ジッパーは決して無敵の防御方法ではない。
ジッパーの中は水中に潜るのと似ており、長時間潜り続けることができず、呼吸が必要になる。
また、ブチャラティはまだ地下通路に入ったばかりで地理もロクに把握していない。
もしもジッパーで開けた先がメートル単位で非常に分厚かったり、地面しか無ければ四人纏めて呼吸困難で死に至る危険性は高かった。
その危険なリスクを負わなければ逃げられない状況だったのだ。安堵するのも無理はない。

「助かったよ、ありがとう。...ねえ、あんたのその背後から出てる人形はなんなのさ」

指を指し問うジョンに、ブチャラティは思わず目を見開いた。

「!...見えているのか?」
「見えてちゃマズイものなの?」
「そういう訳じゃないが...」

ブチャラティは三人を見回し考える。
スタンドはスタンド使いにしか姿を認識することができないのが基本のルールだ。
だが、眼前の三人がスタンド使いであるならばあの極限の場面でも発現すらさせないのは不可解だ。
ならば無自覚のスタンド使いだろうか。いや、『スタンド使いは引かれあう』とは聞いたことがあるが、こうも都合よく無自覚の者が集まるとは考えにくい。

(いや待て。そもそもスタンドを使える俺を殺し合いに放り込むのは少々危険なんじゃないのか?)

殺し合いというニュアンスからして、主催はただの一方的な虐殺ではなくあくまでもそれなりには対等の条件の殺し合いを見たいはず。
そんな中にスタンド使いを放り込んだらどうなるか。
ブチャラティのスティッキーフィンガーズのジッパーは戦闘においても非常に強力な能力だ。
敵にジッパーを取りつけバラバラにしてしまえば大概の敵はそれで方がついてしまうからだ。
そんな攻撃が認識不可能な状態から放たれれば、いくら人外のものといえど回避は困難だろう。
下手をすれば赤い首輪の参加者以上にパワーバランスを崩壊させる存在だ。
だとすればだ。
なにか奇妙な力で、公平を期すために非スタンド使いでもスタンドを認識できるように調整されている。
そう考えるのが妥当だろう。

他人の能力に干渉できる点から考えて、主催の力はかなり強大であることが伺い知れる。
それこそ、あのボスにも匹敵しうるかもしれない程にだ。

だが、それを承知の上で彼の信念に基づく方針は揺らがない。
強大な力にビビリあがり挫折するほど利口な生き方はできなかった。


606 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:32:53 CS4o2QOs0

「シャツがもぉ...ビショビショだよぉ」

静かに決意するブチャラティを余所に、相変わらず能天気な声色で汗を拭うMUR。
命を助けてもらった礼も、感謝の感情すら見受けられない。大先輩を助けるのは当然とでもいうべき態度だ。
これがミスタやナランチャらが所属するチームの面々なら緊張感が無いことに厳しく注意をしたかもしれないが、MURはあくまでも一般人。
少なくとも、ギャングに所属するような人間ではないことは見てわかる。
故に、ブチャラティはその程度でイラついたりはしないし注意も軽いもので済ませることができる。

だが、それは戦場慣れし多種多様の人間と関わってきたブチャラティだからこその話である。

一連の流れを居合わせた第三者が、特に気の短い者が見ていたらどうなるか。

「...なにスットボけたこと言ってんのよ」

ポツリ、と妙子が漏らす。

「もとはといえばあんたの所為であたしたちが死にかけたんだろうが」

一度口火を切ってしまえば、もう容易くは止められない。
元来の短気な性格も相まって、募る不満や苛立ちは濁流の如く発せられてしまう。

形相を歪ませ詰め寄る妙子に、MURだけでなく対象でないジョンまでもが気圧される。

「あの化け物に襲われたのは全部お前のせいなんだよ!んなこともわかんねーのかよ池沼!!」
「ポッチャマ...」

心底反省しているのか、あまりの妙子の形相に怯えたのか、MURは震え声で小さく漏らし、両掌で己の顔を覆い隠した。

このままではマズイ。これはチームの崩壊の兆しだ。
長年、パッショーネの一グループのリーダーを務めた勘がブチャラティにそう告げる。
ここで流れを断ち切らなければ、もう修正が効かなくなってしまう。


「落ち着け。彼を責めたところでどうしようもない」
「なによ、あんただって内心じゃイラついてんでしょ!?」
「いや。俺はむしろラッキーだったと考えている」

"ラッキー"
その思わぬ単語に、妙子は思わず怪訝な顔を浮かべた。


607 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:33:44 CS4o2QOs0

「あの姫と目を合わせた時にどうなるか。奴の攻撃手段はなにか。それさえわかれば対策はいくらでも打ちようがある」
「みんな無事だったんだし、結果オーライって奴だね」
「そうだよ(便乗)」

あくまでも冷静に分析した上でそう告げたブチャラティと、親指を立て賛同するジョン。
そんな彼らに性懲りもなく便乗したMURに多少苛立ちつつも、妙子はブチャラティとジョンの意図を察する。
言い過ぎだ、妙子。
そんな無言の会話のキャッチボールは無事に成立した。

「...わかったわよ。私も少し言い過ぎたわ」

未だMURへの苛立ちは残っているが、ここで更に感情任せになってはブチャラティに更に心労をかけることになる。
それに、自身でもカッとなりすぎたのは自覚しているのだ。これでは春花と虐めていた時となにも変わらない。
妙子は、口を噤み己の負の感情を噛み潰した。

「......」

そんな妙子の背に、MURは訝しげな視線を送る。
先程の罵倒は、果たして一時的な感情によるものなのだろうか。
彼女とはまだ会って数時間程度だ。
当然、腹の底まで解るような間柄ではなく、信頼関係もほとんどないと言える。
それは彼女と最初から行動していたジョン、先程あったばかりのブチャラティにも当てはまることだ。
そんな彼らが赤い首輪の参加者を見つけたらどうするか。まず間違いなく狙うだろう。

もしかしたら、彼女は最初から自分を殺すつもりで行動していたのかもしれない。
赤首輪である自分の隙を突くために抑圧した感情が漏れあの罵倒に繋がった可能性は高い。

彼女の罵倒を即座にフォローした二人も怪しい。
もしかして、彼らも自分を油断させるために一芝居を売っているのだろうか。

考えれば考えるほど懐疑の念は強まるばかりだ。
機を見て離れるべきだろうか。MURは独り疑心暗鬼に陥りつつあった。


608 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:34:18 CS4o2QOs0

バ ァ ン

突如、轟音が響き渡る。まるで巨大なものを打ちつけたかのような音だ。
四人が、音の出所を見れば、そこは先程までジッパーが取り付けられていた場所。つまり、つい先ほど逃げてきたところだ。

「な、なんの音よ」
「さっきの化け物が暴れてるのかな」

バ ァ ン バ ァ ン

一定の間隔を置いて、繰り返し響き渡る轟音。おそらくあの壁を破壊しこちらに来たいのだろう。しかし、壁には亀裂も入らず音を響かせるだけだ。
ここから離れねば、と思う反面、あの様子ならしばらく大丈夫だという安堵の気持ちが一同の間には漂っている。
壁というものは存外簡単に壊せるものではない。厚さがあれば尚更だ。

(いや、待て...奴には...!)

「急いでここから離れろ!!」

ブチャラティの突然の怒声に、他三人は慌てて逃走の足を速める。

(奴には酸がある。あれで壁を溶かしでもすれば...!)

ピシリ、と亀裂が入る。
それはまるでブチャラティが現状の危険性を認識するのを待っていたかのように。
頑丈な土づくりの壁とはいえ、一度ヒビが入ってしまえば脆い物。

「ア ア ア ァ ァ 」

ガラガラと崩壊した壁から覗くのは、怒れる狩人の目。
殿を努めたブチャラティと姫の視線が交差する。

鬼ごっこ第二幕、開始。


609 : ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う! ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:34:41 CS4o2QOs0

【H-6/一日目/地下通路/黎明】
※姫はMURとブチャラティを捕捉している状態です。

※地下通路内に何か所か電燈のスイッチがあるようです。
電燈が点くと視界が広くなる反面、当然『姫』と目が合いやすくなります。

【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康、恐怖、不安
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0:姫から逃げる
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。
3:同行者たちへの不安感。このまま便乗するのはマズい?

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。


【小黒妙子@ミスミソウ】
[状態]:健康、不安、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:とにかく死にたくない。
0:姫から逃げる
1:野崎を...助けなくちゃ、ね。

※参戦時期は佐山流美から電話を受けたあと。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。
0:姫から逃げる
1:T-800と合流する。
2:T-1000に要警戒。

※参戦時期はマイルズと知り合う前。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、冷や汗
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:目が合った...!
1:弱者を保護する。

※参戦時期はアバッキオ死亡前。


610 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/07/25(火) 01:38:22 CS4o2QOs0
投下終了です

『ハードゴアアリス』『美樹さやか』『隊長』『モズグス』『ワイアルド』を予約します

>>569
の予約期間が延長含めて過ぎていますので、なんらかの反応をお願いします。


611 : 名無しさん :2017/07/25(火) 20:20:41 deZFek9g0
投下乙です
淫夢勢にしては珍しく弱そうだな


612 : 名無しさん :2017/07/26(水) 11:47:58 CNbXtwic0
投下乙
他のホモが割と好き勝ってやってる分
人並みの思考力がありそうなMURは衝撃的だな


613 : 名無しさん :2017/07/27(木) 22:41:13 5pgqnmgg0
上西議員映画出演
iroha.xyz/cfgb


614 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/01(火) 23:43:49 r9sxQ1uc0
予約を延長します


615 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:31:23 Dd92Zru60
投下します。


616 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:34:52 Dd92Zru60
最初に見て思ったのは、『どこかで見たことある気がする』だった。



美樹さやかと隊長。
歩く二人の視界に留まったのは、一人の少女だった。
二人が少女に抱いた印象は漆黒。
いまがまだ陽の昇りきらない時間帯であることを除いても、頭髪は勿論全身を包む衣装や不健康そうな目の隈が嫌でも黒色を印象付けてしまう。
加えて無表情にジッと見つめてくるものだから、不気味を通り越して幽鬼の類にすら受け取れてしまう。

さやかは咄嗟に剣を構え、背負う隊長を庇うかのように戦闘態勢をとる。
対して黒衣の少女は虚ろな目で二人を見つめるだけ。警戒心も戦闘態勢も見受けられない。
まるで観察されているような感覚をさやかは覚えた。

互いの視線がぶつかり合うこと数分。
殺し合うでもなく、歩み寄るでもなく。ただただ沈黙の時間だけが過ぎていく。

「何者じゃ、お前さん」

やがて痺れを切らした隊長が口火を切った。
しかしすぐに返答する訳ではなく。
数秒の沈黙の後に、少女はポツリと呟いた。

「...ハードゴア・アリス」

呟かれた名前を受け、隊長はさやかのデイバックから名簿を取り出し確認する。

「うむ。確かに名簿に乗っ取る名前じゃな。お前さんもワシらと同じ巻き込まれた参加者のようじゃな」
「......」
「お前さん、ワシらになにか用があるのか?」
「......」

返答はない。相も変わらず観察するような淀んだ目で二人を見つめるだけだ。
彼女は何を思っているのか。
さやかには全く読み取れず、得体のしれない気味悪ささえ感じていた。


617 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:35:38 Dd92Zru60

「さやか。ひとまず剣を収めろ」

隊長はアリスに聞こえないよう、さやかにひそひそと耳打ちをする。

「大丈夫なの?」
「お前を警戒して何も答えないのかもしれん。仮にあいつがワシらを殺そうとするつもりでもワシらならそこまで危険じゃないだろう」

さやかは少々考え込み、考えの読めない相手に戦闘態勢を解くことに気を置けないものの、隊長の意見に一理あると判断。
剣を仕舞い、戦闘態勢を解き改めてアリスと向き合う。

「見ての通り、ワシらは殺し合いには賛同しておらん。脱出に協力するつもりがあれば協力してもらいたいのじゃが」
「......」

やはり返答はない。

「...あんたさ、言いたいことがあるならさっさと言いなよ」

真意を語らない相手にどうしたものかと悩む隊長とは対照的に、さやかは苛立っていた。
害を為すつもりはないのに、何も答えようとしないアリス相手では、元来より気の短いさやかでは仕方のないことかもしれない。
だが、それ以上に彼女の目が気にかかっているのだ。
どんよりと薄黒く濁った、どこかで見た目。
いったいどこで見たのだろうか。

「...スノーホワイト」

そんなさやかの機嫌などお構いなしとでもいうかのように、アリスはポツリと呟く。
隊長はようやく話が先に進みそうだと一息をつき、さやかはそのタイミングも相まり更に苛立ちを募らせた。

「白い魔法少女を見ましたか」


618 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:36:02 Dd92Zru60

ボソボソと紡がれる言葉の中の、魔法少女の単語にさやかの眉根がピクリと反応する。
魔法少女。それは、奇跡と引き換えに魂を売り渡した契約者だ。
彼女が言うスノーホワイトが魔法少女であるならば、彼女もまたあの白い獣に騙された者なのだろうか。

(...まあ、あいつが見滝原だけで活動してる訳じゃないから他にいても当然か)

「ワシは知らんよ。さやか、お前はどうじゃ」
「あたしも見てない」

その答えだけを聞くと、アリスはすぐさま踵を返し二人に背を向ける。

「ちょっと待ちなよ」

そんなアリスをさやかはたまらず呼びとめる。

「あんたさ、他に聞きたいこととかないの?どこかで襲われたのかとか、危ない奴はいないのかとか」

さやかと隊長の恰好はお世辞にも清潔とは言い難い。
怪我はそれなりに回復しているものの、全身は埃まみれで身体の所々に血痕も付いている。
何者かとの戦闘があったのは明白だ。ならば如何な思惑があるにせよ、情報を収集しておくのが吉なのは馬鹿でもわかることだ。

「......」

アリスは相も変わらず淀んだ目で二人を見ている。
その目を見る度にさやかは思う。

やはり、この子の目は気に入らない。
どこで、誰がこんな目をしていたのだろうか。


619 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:36:31 Dd92Zru60

ダンッ。

突如、さやかとアリスの間に割って入る巨大な黒影。
影がその巨腕を振るえば、ベキリ、と音を立ててアリスの細やかな肢体が吹き飛ばされ木に叩き付けられる。
呆気にとられるさやか。彼女にもまた、影は腕を振るい吹きとばす。

気を持ち直した瞬間、頬に走る激痛に耐えどうにか体勢を立て直し影の正体を見据える。

「ヤッホー、さっきぶりだねおじょーさん達」

その正体は、先刻刃を交わした忌まわしき狂人、ワイアルドだった。

「あんた...!」
「ヒイイイイィィィィ!!」

さやかの歯ぎしりと隊長の悲鳴が重なった。

「もう一人いなかったっけ?まあいいや。なあ、いまちょっとむしゃくしゃしてるから、もう一度遊びに付き合ってもらうよん」

さやかは吹き飛ばされたアリスへとチラリと目を向ける。
首はへし折れ90度傾いており、叩き付けられた衝撃か出血もしている。
一目で即死であるとわかる。息をつく間もなく、アリスは殺されたのだ。

さやかは剣を構え、ワイアルドを睨みつける。
アリスとは先程であったばかりで縁の深い間柄ではないし、どちらかといえば気に入らない眼をしていた。
だが、目の前でああも無残に殺されれば当然胸を悪くするのだ。
やはり暴虐のままに振る舞うこの男は許せない。
そんな想いを込め、さやかは己の脚に力を込めた。


620 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:36:53 Dd92Zru60

交叉し打ち合わさる剣とバット。
つい先刻も繰り返された一連のやり取りだ。
だが、違いは二つある。

「おっ」

第一に、さやかに先刻ほどの力の余裕はない。
限られた力を調整し、まどかを探しだし相場を殺さなければならない状況にある。
そのお蔭で、感情任せに立ち向かっていた先の戦いとは違い、冷静にワイアルドの動きを見ることが出来ていた。

第二の違いはさやかの背負う隊長の存在だ。

「よっ!はっ!」

隊長は右方より迫るバットにデイバックを挟み込むことで衝撃を緩和。
通常の人間ならばそれでも吹き飛ばされてしまうのだが、彼は曲がりなりにも吸血鬼である。
その腕力だけならば十分に人外の範疇であるため、その場に留まることも可能であった。

「てやあっ!」

気合一徹。
さやかの突き出した剣がワイアルドの皮膚を裂きフードに切れ込みが入る。

掠り傷とはいえ入った一撃は、先刻の戦闘よりも力量の差が縮まったことを確かに示していた。

だが。それでも実力の差を埋めきるには程遠い。

ワイアルドの左手が伸び、さやかの胸元に掌底が放たれる。
咄嗟に後退し衝撃を緩和するものの、一瞬空気を詰まらせ眩暈を引き起こす程の威力は防ぎようがない。
体勢を立て直し、再び睨み合うさやかとワイアルド。

「なるほどなるほど。雑魚でも組めばちょっとはマシになるか」

ワイアルドは頬に付けられた掠り傷を親指で拭い、ニタリと笑みを浮かべる。
まただ。確かに先程よりは善戦できていはいるが、まだ彼にとってはお遊びの範疇でしかない。
二人がかりでもなお届かない。


621 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:37:10 Dd92Zru60
「い、イチチ...どうするんじゃ。こんな様じゃ長くはもたんぞ」

隊長は赤くなった掌にフーフーと息をかける。デイバックを盾にしていたお蔭で多少は抵抗できるものの、やはりパワーはワイアルドの方が上である。

「わかってる。けど...」

さやかの額を冷や汗が伝う。
やはりこの男は強い。暴虐が服を着て歩いているようなものだ。
パワーも技量も体格も、この男に勝ることはない。
百歩譲ってスピードだけなら勝るかもしれないが、それでも些細なものだ。
剣が届く前に反応されてしまえば意味を為さない。

(あたしに残された手はあと一つ...)

さやかにはまだ披露していないモノがある。
連結剣と刀身の射出。
前者は剣を変化させ多節棍のように扱うのだが、ワイアルドに届くには技量が伴っていない。
後者は、剣のトリガーを引くことで刀身を発射する技だが、それ自体は効果が薄い。刺さったところであの男が降参する筈もないし一度見られてしまえばそれで終わりだ。
狙う箇所は一点。ワイアルドの首輪だ。
主催の男は首輪は爆発することを示した。ならば、あの首輪が爆発すれば流石のワイアルドでも死ぬだろう。
問題は、首輪に当てられるかどうかと衝撃で爆発するかだ。
いくら不意打ちに適しているとはいえ、タイミングを誤り少しでも不信感を抱かれれば身を捻るなりして首輪を避けられるだろう。
仮に当たってももし爆発しなければそれまでだ。今度こそ万策尽きてしまう。

(チャンスは一度...けどどうやってその勝機を作る...?)

如何に微かな勝機でもそこに至ることすらできなければ話にもならない。
果たして、自分にあの男の攻撃を掻い潜り隙を突くことなどできるのだろうか。

さやかが決心するのを待たずして、ワイアルドはバットを握りしめ肉迫する。
再び打ち合わされる二つの金属が音を奏でる。
迫るバットを必死に受け止めながら、さやかは勝機を伺う。
だが、光明は見えない。このままでは蹂躙されるだけだ。


622 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:37:38 Dd92Zru60

ザリッ

ワイアルドの耳に地を踏みしめる音が届く。
さやかを吹き飛ばしつつ、ほぼ反射的に振り返る。
そこに立っていた者―――首が90度に曲がり、血にまみれつつも、立ち上がっているハードゴア・アリスの姿に、ワイアルドもさやかも隊長も、皆一様に言葉を失っていた。

「嘘...あれで生きてるなんて」

隊長は思わずそう漏らしてしまう。
牙が無かったことから、アリスはどう見ても人間だ。
吸血鬼ならいざ知らず、あんな状態で人間が立ち上がれるはずがない。

(...そういえばさっき)

さやかはアリスとの会話を振り返る。
アリスはスノーホワイトという白い魔法少女の情報を求めていた。
彼女との間柄がどういうものなのかはわからないが、彼女が魔法少女であるならばその知り合いであるアリスもまた魔法少女なのかもしれない。
であれば、あの状態で生き残ったのも頷ける。なぜすぐに怪我を治さないかは甚だ疑問ではあるが。

「ちょびっと驚いた。タフだねえ、おじょーさん」
「......」

ワイアルドはこれまで通りの軽い調子で語りかけ、アリスはやはり無言でワイアルドを見つめている。
相対する者に否が応にも不気味さを感じさせるアリスの挙動も、ワイアルドを恐れさせるには程遠い。
生命力が強ければそれだけ嬲り甲斐があるというものだ。

ワイアルドは駆けだしアリスへ向けて右爪を突き立てる。
人間形態であるため、猛獣ほど鋭くは無いが、ワイアルドの腕力を持ってすれば人体を貫くことは可能。
ドズリ、と鈍い音を立ててアリスの腹部から背中にかけてワイアルドの掌が突き抜けた。

ボタボタと血が滴り、その血と内臓の熱を腕で感じれば、ワイアルドの醜悪な笑みは一層深まる。
そのままなんとなしにアリスを貫いたままの腕を後方に振れば、凶行を止めようと突撃していたさやかの頭部にアリスが激突し、さやかを転倒させる。
すかさず追撃の拳を叩き込もうとするワイアルドだが、思わぬ右腕の痛みに動きを止めてしまう。
見れば、アリスは腹部を貫かれて尚ワイアルドの腕を掴み握りつぶそうとしていた。
戦闘に特化した使徒の腕を握りつぶすのは容易なことではない。それこそ同じ使徒でもなければ不可能なほどだ。
だが、現実にそれは起きている。握りつぶされないにしても、ワイアルドの腕は痛みというシグナルを送っているのだ。


623 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:37:58 Dd92Zru60

ワイアルドは舌打ちをしつつ、立ち上がり体勢を立て直したさやかを蹴り飛ばし、アリスの刺さった腕を振りかぶる。

ドンッ。

轟音。

凄まじいパワーで叩き付けられたアリスの身体から血塊が飛び散り土煙を巻き上げる。
如何に生命力が高いといえど、これではただではすまない。

「あ、アダダダダ!!」

だが、悲鳴をあげたのはアリスではなくワイアルド。
腹部を貫通され、身体のところどころの肉が抉れ骨を覗かせてもなお揺らがぬ力でワイアルドの腕を握りつぶそうとしているのだ。
その表情はやはり変わらない。苦悶も悲哀も歓喜も愉悦もなにもない。
己の身体にあるものを見せられても、これから男の腕を引きちぎろうと、そんなものはまるで眼中にないようにすら見える。

「こん、のぉ!!」

先程までの余裕は最早見当たらず、ワイアルドは感情任せに腕ごとアリスを地面に叩き付ける。
再び血が飛び散ろうとも、やはりアリスの力は緩まず、ワイアルドの腕には苦痛が伴い続ける。
ワイアルドは、とにかくアリスを引きはがさんと地面に押し付け削り下ろすように低空で走りだす。
いくら力が緩まらずとも、腕自体が折れてしまえば拘束は不可能だ。
アリスの右腕が千切れ、ワイアルドの拘束も解けてしまい、ごろごろと地面を転がる。

衣服はところどころが破れ、小さな桃色の突起や柔らかな肌もほんのり見えている。
ワイアルドは幼く貧しいながらも整った肢体を舐めまわすように見やりヒュゥと軽く口笛すら吹いてみせた。
だが、アリスの表情は変わらない。
片腕が千切れようとも、辱めを受けようとも変わることは無い。


624 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:38:16 Dd92Zru60

さやかはワイアルドの隙を突くのも忘れ、その光景を遠巻きに見ていることしかできなかった。
さやか自身、魔女に全身を貫かれながらも魔法で痛覚を遮断しながら戦い続けたことはある。
だが、その時の自分は嗤っていた。愚かな自分を、腐った現実を嗤わなければやっていられなかった。
アリスは違う。
いくら自分が傷つこうが澄ました顔で、冷静にワイアルドを斃そうとしている。
なぜそんなことができるのか。なぜそんな他人事のような顔で己の惨状を受け入れられるのか。

自分のことですら、他人事。

(...ああ、そっか。そういうことか)

彼女に感じていた苛立ちは、その正体がわかるにつれ納得に代わり、次第に呆れへと変貌していく。

(あの子の目、どっかで見たことあると思ったら)

さやかが既視感の正体に辿りつくのと同じくして、ワイアルドがアリスにトドメを刺さんと駆けだす。
いくら魔法少女とはいえ、流石にあれほど傷ついた状態は危険だ。助けなければならない。
さやかもまた二人のもとへと駆けだす。

「むわちなさあああああああいい!!」

戦闘を中断するかの如く鳴り響く怒声。
それはワイアルドでもさやかでも隊長でも、勿論アリスでもない。
さやかに被さる巨大な影。
それは、さやかもワイアルドも飛び越しアリスを背にワイアルドへと相対する。

その突然すぎる登場に、さやかも隊長も、アリスですらも呆気にとられてしまう。

「あなたからは邪な気配を感じます...幼気な少女に代わり、この私が相手をしましょう!」

新たに現れた異形の宣教師、モズグスは喉が張り裂けんほどの怒声で宣戦した。


625 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:38:51 Dd92Zru60



ぬらりひょんとの邂逅早々に吹き飛ばされたモズグスは、昂る気持ちを落ち着けるため周辺を探索していた。
あの主催の男はおそらく邪教徒だ。邪教徒は滅ぼさなければならない。
彼の頭はそれでいっぱいだった。

バサリ。
翼を広げ空を飛ぶ。
彼は日々の頂礼により歩くのがやっとなほどの傷を脚に負っている。
使徒擬(しともどき)化しているため、痛みはかなり軽減されているため走ることもできるのだろうが、そこは日々の癖と言うものだろう。

探索し続けること数時間、モズグスはようやく他の参加者を見つけることに至る。
野蛮な風貌の大男と傷ついた黒衣の少女が対峙し、少し離れて傷ついた少女と背負われた老人が見守っているという状況だった。

一見では彼らが邪教徒かどうかはわからない。だが、今現在一番怪しいのはあの大男だ。
この信仰者の証たる教典には、如何に邪教徒と相手といえど強姦を赦す内容は記されていない。
拷問に際しても、苦痛を与え、心に理解させ改宗させることはあれど、快楽を与える交わりは取り入れてはいない。
なにより、あの男には邪な気配を感じる。
修道院にて対峙した、あの魔女が召喚したあの怪異共によく似た気配を。
仮に子供たちが邪教徒であろうとも、精神が未熟であれば大人よりは改宗も容易いだろう。
ならば、まずはあの男を止めるべきだ。
そう判断したモズグスは、少女たちの戦いに乱入。大男、ワイアルドと対峙した。

「お嬢さん方。ここは危険ですので離れていてください」
「え、えっと...」

突然の異形の襲来に、さやかはただ驚くことしかできなかった。
助けてくれるのだろうか。しかし何故。ただの善意とでもいうのだろうか。


626 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:39:27 Dd92Zru60

「なんで助けてくれるんですか?」
「私は信仰者であり僧侶です。邪教徒の蛮行を見逃すわけにはいかない...なに、これも巡り合せのひとつです。感謝の言葉は必要ありません」
「けど、あいつは強いよ。あたしも手伝った方が」
「御心配なく。私には神より授かりしこの身体があります。...さ、いまは彼女を連れて退きなさい」

優しい微笑みを携えるモズグスの言葉に、さやかの心は洗われるような心地よさに包まれる。
その言葉は取り繕ったものではなく、本心よりのものであることが疑いなく感じ取れる。
信仰の知識はサッパリだが、やはりそういった者達はこうも心安らぐ言葉を語りかけてくれるものなのだろうか。

一方のワイアルドは、頬を掻きながらモズグスを観察している。
現れた男は間違いなく自分のお仲間、使徒のなりかけだ。
だというのにこいつは他者を護り自分と敵対しようとしている。まあ、そういう使徒も珍しくはあるがいないことはない。
使徒に共通するルールは好きにやることだ。
例えお仲間でもそれを邪魔する謂れはないし、邪魔されれば殺しても構わない。

ワイアルドはバットを握りしめ一同へと突撃。
さやかは剣を構えなおし迎え撃つ体勢をとるが、しかしモズグスがずいと前へ進み出て妨害。
振り下ろされるバットをその頭部で受け止めた。

ガキイイン、と金属を打ち鳴らすような音が響く。

「そのような玩具で神より授かりしこの身体を壊そうなどと笑止千万!!いまは不在の我が弟子たちに代わり、わたしがあなたを処罰いたしましょう!!」

さきほどまでの温和さが一転。モズグスは表情を激昂に歪め高々に叫ぶ。
同時に、さやかの彼への評価も一転。多くを語らずとも彼の表情が、変化していく身体が伝えている。この人はヤバイ人だと。

「さあ、お行きなさい!私が処刑している間に早く!」
「さやか。あいつが味方でいてくれるうちに逃げるぞ」

隊長もモズグスの異様さに勘付いたのか、さやかにヒソヒソと耳打ちをし逃走を促す。
この殺し合いが始まった直後ならそれでもモズグスに手を貸したかもしれないが、いまは冷静でいられるしやるべきこともある。
彼がいつこちらに牙を向けるかわからない現状、ここは退くべきだという正常な判断を誤ることはしなかった。

「ホラ、あんたも行くよ!」

モズグスとワイアルドの二人を眺めていたアリスを無理矢理引っ張り、さやか達は戦場をあとにする。

「オメェ、俺たちのお仲間だろ?なんだって邪魔しやがるんだ」
「仲間?私は法王庁にて神に仕える僧侶!あなたのような罪人と仲間などとは片腹痛い!」
「...なーんか勘違いしてんなオメェ。まあいいや。こちとらあの牛馬鹿のせいで気が立ってるんだ。男相手にゃお遊びもいらねえ」

ワイアルドは先程までの余裕を消し、殺気をこめた目で睨みつける。

「いいでしょう!私は何者の挑戦も承ります!かかってきなさぁい!!」

モズグスの口内が赤い輝きを放つ。

放たれるは浄化の炎。

「ゴオオオォォッドブレエエエェェェス!!!」


627 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:39:46 Dd92Zru60

【H-5/草原/一日目/早朝】

※モズグスの炎が放たれ周囲に火が撒かれています。

【モズグス@ベルセルク】
[状態]:後頭部にたんこぶ、全身にダメージ(小)
[装備]:自前の教典
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:信仰に従い邪教徒共を滅ぼす。
0:邪教徒以外の参加者を探し共に試練を乗り越え殺し合いを破壊する。
1:目の前の男を斃す。


【ワイアルド@ベルセルク】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、ボコボコ
[装備]:
[道具]:金属バット@現実、基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: エンジョイ&エキサイティング!
0:この邪魔してくるハンペン顔を殺す。
1:鷹の団の男(ガッツ)を見つけたら殺し合う。
2:ゾッドはどうにか殺したい。
3:さっきのガキ共を見つけたら遊び殺す。

※参戦時期は本性を表す前にガッツと斬り合っている最中です。
※自分が既に死んでいる存在である仮説を受け入れました。


628 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:40:29 Dd92Zru60


「ギャアアアア!!熱い!熱いィィィ!!」
「ちょ、暴れないで隊長!」

モズグスより離れた直後に放たれた炎は、瞬く間に草木を焼き、隊長の頭部にも燃え移り現在に至る。
すぐにでも沈下してやりたいと思うさやかだが、背中の隊長がもがもがと暴れるために鞄を下ろせずてんやわんやな状況に陥っていた。

「あんた水とか持ってない!?」
「......」

アリスは答えない。代わりに残された左手を隊長の頭に乗せ炎をその皮膚で受け止める。

「ギャアアアア――...ハァ、ハァ」

やがて、アリスの肉を焼く臭いと共に火は沈下し隊長とさやかはふぅと一息をつく。

「あー助かった...火はもう勘弁してほしいわい」

ただでさえ少なかった毛の数の減ってしまった頭を涙ながらにさする隊長を余所に、さやかはアリスの腕を握る。

「ほら、見せてみなよ。少しの怪我なら治せるからさ」
「......」

アリスは特に抵抗することなく掌を見せる。が、しかしその掌には既に火傷のあとはなく、もとの端整なものに戻っていた。
それだけではない。
モズグス達から離れる際に回収していた右腕が蠢き切断面へと神経や骨同士が付着していくではないか。
流石のさやかもこの異常な再生能力に驚き、慌ててソウルジェムの濁りを確認しようとする。だが、アリスの身体をいくら探しても見当たらなかった。

「あんた、魔法少女だよね」
「......」
「ソウルジェムはどうしたの?」
「...?」
「キュゥべえと契約した時にできるアレだよ」
「キュゥ...べえ...?」

首を傾げるアリスに、さやかは思わず目を丸くする。
アリスは先程スノーホワイトを魔法少女だと言った。となれば、スノーホワイトの近くにはキュゥべえがいる筈であり、その存在を知らない筈がない。
それ以前になによりも、アリスが魔法少女になるにはやはりキュゥべえの契約が必要なのだ。だから、魔法少女に関する者でキュゥべえを知らない者はいないと断言できる。
だというのにこの食い違いはなんだというのか。


629 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:41:19 Dd92Zru60

「お前の知ってる魔法少女とは違うんじゃないか?」
「え?」
「ホレ、一言で邪鬼と言っても種類は豊富にあると言ったろう。それと同じじゃよ」
「あー...」

魚と一言で言っても種類は豊富にある。言われてみればそんな単純なことだが、既に魔法少女という存在であるためか、同じ呼称で違う性質の者がいることに気が付けなかった。
そうなると、アリスらの魔法少女はどういうものかは非常に気になる。だが、それを尋ねようとする前にアリスは既にさやか達へ背を向けていた。

(ああ、やっぱりこの子は)

さやかはガシガシと己の髪を掻きながら溜め息をつく。

「ねえ、あんたの魔法、再生能力は凄いみたいだけどさ、あんな目に遭って痛くもかゆくも無い訳じゃないんじゃない?」
「......」

依然答えようとしないアリスに、まあそうだろうと半ば予想しつつ、さやかは言葉を紡ぐ。

「そうやって自分を蔑ろにして、誰かの為だけに戦うのはさ、傍から見てると結構嫌なものなんだよ。そうやって助けられても、助けた本人が死んじゃったら助けられた方はあんまりいい気はしないと思う」

言いながら、どの口が言うのやらと自嘲した笑みを浮かべる。
アリスを見た時に感じた既視感の正体。それは、自己犠牲の美意識にどこか酔いしれる部分のあった自分であり。

「もう少し周りに目をやった方がいいんじゃない?あんたがその調子だとスノーホワイトって子まで白い目で視られちゃうかもしれないよ」

なにより、目的しか目に見えておらず、他の全てを諦めた目をしていた転校生、暁美ほむらに酷似していた。

「まあ、素直に聞くとは思えないけどさ。失敗した先輩の経験談として頭の片隅にでも置いておいてもらえると嬉しいかな」

そんなアリスを見ているとなんとなく見えてくる。
魔女との戦いで傷つきながらも戦い続けた自分を見ていた時のまどかの気持ちが。
かつての自分と重ね合わせて世話を焼こうとした杏子の気持ちが。
あの時の自分の愚かさが。そういう壊れていく奴を放っておけなかったまどか達の気持ちが。


630 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:41:57 Dd92Zru60

「......」

さやかの言葉を聞き何かを思ったのか。
アリスは背を向けたままであるものの、ずっとその足だけは止めていた。
やがて、微かに振り返り視線だけをさやかに向けて口を開いた。

「スノーホワイトと会えたら、力になってください」

それは純粋な願いだった。こんな状況だからこそ、彼女が心配であるという嘘偽りない本心だった。

「わかった。それじゃ、あたしからも頼みごと。鹿目まどかって子と巴マミって人を見つけたら、美樹さやかが探してたって伝えてほしいな。
それから、佐倉杏子と暁美ほむらっていう魔法少女もいるけど...まあ、一度会えたらよく見てみるといいよ」
「宮本明と雅様、特に明には隊長が探していたと伝えてくれんかの」

さやかと隊長の言伝を預かり、数秒の沈黙の後、アリスは思い出したかのように付け加える。

「朧と陽炎という人を見つけたら、弦之介という人が探していたと伝えてください」

たぶんあたしが呼び止めなかったら忘れてただろうな、とさやかはなんとなく思いつつ了解の意を示した。

簡易的な情報交換。しかし、彼女達、特にアリスの立場から考えればその簡易的なものですらようやく設けられたものだといえるだろう。

やがて、アリスは踵を返しスノーホワイトを探す岐路へと戻る。
さやかは遠ざかっていくアリスの背を見つめながら、意外に素直に聞き入れる面もあるんだなと思い、同時にせめてあれくらい聞き分けがよければ自分にももっとマシな道があったのだろうと一抹の寂しさを覚えた。


【H-5/一日目/早朝】

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意、モズグスへの警戒心(中)
[装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢
[道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:危険人物を排除する。
1:まどかとマミとの合流。杏子、ほむらへの対処は会ってから考える。
2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。
3:マミには何故生きているのか聞きたい。
4:あのおじさん(モズグス)は悪い人じゃないとは思うんだけどな...どうしようかな。


※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。
※スノーホワイトが自分とは別の種の魔法少女であることを聞きました。
※朧・陽炎の名前を聞きました。

【隊長@彼岸島】
[状態]:疲労(大)、出血(小)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)、頭部に火傷
[装備]:
[道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢
[思考・行動]
基本方針:明か雅様を探す。
0:とりあえずさやかと行動する。
1:明か雅様と合流したい。
2:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。

※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。
※朧・陽炎の名前を聞きました。


631 : 誰の心にも秘められた想いがあって ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:42:44 Dd92Zru60


アリスは、これからの行動方針を考えていた。
それは即ち、先程の男たちをどうするか、である。
さやかと隊長は、その言動から警戒対象ではないと判断したためスノーホワイトに協力するよう頼むことができた。
だが、ワイアルドとモズグス、特にワイアルドはスノーホワイトを脅かす類の存在だ。
モズグスも異様な点が多く、信頼には値しないのが現状の評価だ。
ここで彼らを放置し、いずれスノーホワイトと対峙することになれば最悪の結果も招き得る。
しかし、彼らが戦っているうちにスノーホワイトを探しだす若しくはスノーホワイトを探す協力者を募ることができれば、彼女の生存率は跳ね上がる。
危険人物の掃討と探し人の探索、どちらを取るにしてもやはりその基準はスノーホワイトの安否だ。


―――もう少し周りに目をやった方がいいんじゃない?あんたがその調子だとスノーホワイトって子まで白い目で視られちゃうかもしれないよ

さやかの助言がなんら気にかからなかった訳ではない。
しかし、それでも自分にはスノーホワイトの存在が何よりも大切だ。
それほどまでに、彼女の存在は大きいのだ。
彼女のためならなんだってしてみせる。その根幹が揺らぐことは決してない。

自分が進むべき道は、未だ先が見えぬ汚れなき道か、灼熱の炎焦がす罪深き道か。
全ては、スノーホワイトの為に。



【H-5/一日目/早朝】

【ハードゴア・アリス(鳩田亜子)@魔法少女育成計画】
[状態]全身にダメージ(中、再生中)
[装備]なし
[道具]基本支給品×2、ランダム支給品2、薬師寺天膳の首輪
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探し、自身の命と引き換えに彼女を脱出させる。
0:ワイアルドとモズグスをここで仕留めるか、それともいまはスノーホワイトを探すのを優先させるか。
1:「スノーホワイトに会えないと困る」という強い感情を持ちながら会場を回る。
2:襲撃者は迎撃する。ただしスノーホワイトとの遭遇優先のため深追いはしない。
3:可能ならば自身も脱出……? 他者の脱出をサポート……?


※蘇生制限を知りました。致命傷を受けても蘇生自体は行えますが蘇生中に首輪を失えば絶命するものだと捉えています。
 あるいは、首輪の爆発も死ぬと考察しています。


632 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/05(土) 02:44:32 Dd92Zru60
投下終了です

雅、ほむら、ひでを予約します

>>569の予約ですが、このままなにも反応が無ければ明後日の月曜日に予約解禁となりますのでご了承ください


633 : 名無しさん :2017/08/06(日) 03:14:30 Du4tQ2iA0
投下乙です
隊長の毛髪ご愁傷様
対主催、誰も彼も危ういなあ


634 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/08(火) 18:53:17 3hC4hrpw0
>>632
の予約に
『ぬらりひょん』、ガッツ、野崎祥子、岡八郎、岡島緑郎を追加予約します


635 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/12(土) 22:12:02 J0lOEfsE0
予約を延長+再延長します


636 : 名無しさん :2017/08/12(土) 23:51:58 hJ7Y1xEI0
ラップみたいで草


637 : 名無しさん :2017/08/13(日) 22:18:39 LhdX6kSI0
投下乙です
ハードゴアアリスと美樹さやか、似た者同士の会合から始まって
使徒同士の激しい戦い、ロワにふさわしい乱闘ですね
さやかとアリス、互いに己を見つめて振り返るものと振り返らぬもの、
その道がまた交わることはあるのでしょうか


638 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:25:38 vo/IExBs0
投下します


639 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:27:01 vo/IExBs0
これからどうするべきか。
至る所で肉欲が蠢く地獄絵図の中、暁美ほむらはこれからの方針について考えていた。


「クサッ(小声)お兄さんのおTNTNオトナおTNTNですね」

視界の端では、ひでが数人の男に囲まれて性をぶつけ合っていたが、奴に関しては放置しておくことにした。
危険人物ではあるが、下手に刺激すれば遭遇時の交戦の二の舞だ。
そして不本意ながらもこの数時間を共に行動してわかったことだが、ひでは自分から殴りにかかることはない。
誰かに肉体的危害を加えられた時だけ反撃に移ってくるのだ。
気味悪がれど、まどかがひでを攻撃するとは思えないため、比較的安全であると判断をくだした。
あれを性的対象にするとは物好きもいたものだと思いつつ、ほむらはひでを視界から外した。

「シャブリ・タイナラー」
(問題は...やはりあいつ)

視線の先には白髪の吸血鬼、雅。この地獄絵図を作り出した張本人でありながら、いまはベンチに腰掛けのんびりと光景を眺めている。

雅が作りだしたこの地獄絵図。ほむら自身、何度か吸血鬼化した女性に「あなたは同じ匂いがする」だの「本当は興味深々なんでしょ」だのと妙な言いがかりをつけられ身ぐるみを剥がされそうになった。
敵意はなかったため振り払うことは容易かったが、いつなんどきこの吸血鬼化した住民たちが本気で襲ってくるかわかったものではない。
当然、早く離れたいと思うのだが、ほむらが下北沢を抜け出す決心に至れないのもこの男が原因だ。
雅は人間に対して明確な敵意と悪意を持っている。
もしもこの男がまどかと遭遇すれば、なにをしでかすか想像に難くない。殺されるのは勿論、身体の隅々まで蹂躙されてしまうことだろう。
そんなことはあってはならない。その前に、この男を処分しなければならない。
だが、残る弾数は限られており、彼の不死性を凌駕する火力を有する武器も無い。
結局、いまはこの男を見張ることしかできないのだ。


640 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:27:26 vo/IExBs0

「ふわぁ」

そんなほむらの思惑を知ってか知らずか、雅は暢気に欠伸を漏らしていた。
岡を攻撃した時は女ならば犯して食おうと言っていたが、ホモ・レズセックスに混じるつもりはないらしく、最初は引き気味ながらも嗤いながら眺めていたのだが、少し時間が経過すればこの様だ。
自分が発端となったというのに、この男には責任感というものがないのだろうか。

「いけないおTNTNなのら、ペンペン(棒読み)」

「つまらん。やめろやめろ。何をやってもつまらん」

雅は頬杖を突きながら吸血鬼たちの行為を静止させる。ひでと周囲の男たちは構わず行為に及んでいる。

「お前達。馬鹿の一つ覚えのように遊んでないで、さっさと他の参加者でも連れてきたらどうだ」
「オウコラァ!誰に口聞いてんだ、気持ち悪ィ髪しやがって田舎モンが!」
「......」

どこからか届いた罵倒に、雅は少し不機嫌気味な表情になり、スッと立ち上がり罵倒した893風味の男―――TNOKのもとへと歩み寄る。

「お兄さんのTNTNが、僕のお尻の中で暴れていらっしゃる(解説)」

「んだよその態度ォ。謝りに来たのか?ならまずはヨツンヴァインになれよ。あくしろよ」
「誰にものを申している」

パ ァ ン

ブーメランによる一閃。
吸血鬼と化したTNOKの頭部が胴体と泣き別れる。数メートルほど飛んだ頭部が地に落ちるのと同時、血を噴水のように巻き上げながらTNOKの身体が倒れる。


641 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:27:43 vo/IExBs0
「私に舐めた口を聞いた以上、こんなものを避けられない者に私の配下たる資格はない」
「ヒイイイィィィィ!!」

男女問わずのハッテン場と化していた下北沢に恐怖と絶望の悲鳴が蔓延する。
眼前で起きた殺人に、先程まで交わっていた者が一様に混乱に陥り我先にと逃げ出した。

「ハッ。まるで蜘蛛の子のようじゃないか」

先程までの退屈を体現していたかのような態度が嘘のように、雅は逃げ惑う住民たちを愉快気に嘲笑う。
やはり、いつ見てもゴミ共の絶望の顔はたまらない。

「どれ。たまにはこういった狩りも悪くは無い」

そのまま、決して急ぐことなくゆっくりと歩き住民たちを追い始める雅。

「......!」

その雅の姿を、恐怖と嫌悪の入り混じった目で追うほむら。
やはり、あの男は始末しなければならない。それも可能な限り早急に、確実にだ。
決意を新たに、ほむらは雅の後を追う。

「これが...ご褒美なのぉ?なんだか犯されてるよぉっ!」

そんな二人の背中にひでの嬌声がかけられるが、彼らの反応は無かった。


642 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:28:41 vo/IExBs0



とあるラブホテルの一室。
このさほど広くはない部屋で、岡、ロック、ガッツ、祥子、雫、奈々の6人は、岡に頼まれたロックを中心として情報交換の場を設けていた。

「殺し合い...だって?」

雫は思わずそう零す。
下北沢に連れてこられたのも、先程までは、なにかのサプライズ程度にしか考えていなかったのだから驚くのも当然である。

「信じたくない気持ちはわかるが、最初のセレモニーであの男が言ってただろう」
「セレモニー?あの男?なんの話だ」

雫は年上であるロックに対し、敬語も忘れズイと詰め寄る。
ボーイッシュながらも確かな美貌を有する彼女の顔が近づけば、普段ならば緊張してしまうものだが、彼女の戸惑いと怒りの表情を見せつけられてはそんな余裕はない。
とにかく彼女を説得しなければとロックは言葉を模索する。

「いいかい、落ち着いて聞いてくれ。きみも見たあれは夢じゃない。だから、こうして面識もない俺たちが首輪を嵌められて使うつもりのない部屋を借りてるんだ」
「だから、それがわからないと言っている。私たちはそんなものを見ていないし、それをハイソウデスカと信じられるわけがないだろう!」

駄目だ。彼女は現実を見れていない。
聞く耳をもたないというのはこういうことを言うのだろう。
尚も熱く詰め寄ってくる雫に、ロックは諦めと呆れの目を向けていた。

「いい加減にしてくれ。そうやって現実から目を背けてなにかが解決するのか。そうやって空想に甘えて逃げてどうにかなると本気で思ってるのか」
「いい加減にしてほしいのはこっちだ。そもそも、そこの厳つい人ならともかくどうして私たちが殺し合いになんて巻き込まれる謂れがあるんだ!」
「雫っ!!」

思わず感情的に叫び、奈々に手を引かれることでハッと我に返る。
いま自分はなんと言った。
殺し合いに巻き込まれるならガッツ達のような者だと、言い換えれば彼らなら巻き込まれても仕方ないという趣旨のことを言ってしまったのではないか?
空気が今まで以上に重くなり、奈々の叱咤と恐怖の入り混じる視線が刺さる。
違う。そういうつもりで言ったんじゃ...


643 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:29:07 vo/IExBs0

「あ、あの」

おずおずと祥子が言葉を発する。
彼女が手にしているのは参加者共通の支給品である名簿。
一同から注目の視線を浴びる緊張感に、名簿を握る手に力が籠るのを確かめながら、祥子は口を開いた。

「たぶん、お姉さんたちの名前載ってないよ」
「え?」

ロックは祥子から名簿を受けとり目を通す。

「本当だ...名前が載っていない」

改めて隅から隅まで確認すれば、確かに『羽二重奈々』と『亜柊雫』の名前は記載されていない。
主催側のミスか?いや、彼女たちがセレモニーの記憶がないという言動と合わせると、彼女達はあの場にいなかった、つまり参加者ではないと考えた方が自然である。
これは自分の失態だ。彼女達には謝らなければならない。

「すまない。俺の早とちりで厳しい言葉を投げてしまった」
「こ、こちらこそすみません。つい感情的になってしまって、生意気なことばかり...それに、あなたにも妙なことを言ってしまって...」

雫は先程とはうって変わり、ロックに、そしてガッツに向けて頭をさげる。

「気にしてねえさ。お前の言う通り、俺みたいなのは殺し合いにおあつらえ向きだ」

自嘲や嫌味ではなく、淡々と事実を述べるガッツに、雫はそれ以上の追求はしなかった。
なにか事情があるのだろうが、それに同情するのは彼への侮辱。そう思わせる雰囲気が漂っていた。


644 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:29:36 vo/IExBs0

「じゃあ、なんで君たちはここに?」
「私たちは...」

雫は語る。
目を覚ましたらここに連れてこられていたこと。ロックたちと違い殺し合いの胸を伝えられた訳ではなければ見せしめを兼ねたセレモニーを見せられたわけでもないこと。
それから数日間は下北沢で平和に暮らしていたこと。

その話を聞いたロックの眉間に皺が寄る。

(妙だな...彼女達が参加者でないなら、何故ここに連れてきた?)

現状、彼女たちの存在による殺し合いにおけるメリットは見受けられない。
むしろ参加者間の潰し合いを誘発するには邪魔な要素の方が多い。

なにか彼女達を連れてきた意味があるというのか。

「ひとつ、聞かせてもらってええか」

岡が挙手と共にズイと進み出る。

「お前ら二人...いや、こん中でここに連れてこられる前に自分が死んだ若しくは死にかけたって奴はおるか」

その問いに雫と奈々は顔を見合わせ、ふるふると首をふり返答する。

「そんな覚えはないが...どういうことだ?」
「個人的なことや。お前らはどうや」

岡が視線を向けるのはガッツと祥子。
特に反応を示さないガッツとは対照的に、祥子は顔を青くして震え出す。

「死にかけるなんざいつものことだ」
「そうか」


645 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:30:02 vo/IExBs0

一通り聞き終えた岡は、顎に手をやり考える。
どうやらこの殺し合いは、完全にガンツの範疇を越えているらしい。
この中で瀕死の体験をしたのは、自分と祥子、ガッツの三人。
残る三人、特にロックはガンツにチームの一員として呼ばれる資格を持っていないため、この場にいるのは有り得ない。
やはり状況はかなりのイレギュラーである。
ここでは欲を出さずに、赤首輪の参加者を数人狩る程度に抑えて早期に脱出しておいた方が賢明かもしれない。
そのためには、やはり戦力となる者が必要だ。
戦場慣れし、ただの獣ではない協力者が。

「なあ、ガッツ。俺と組まんか」

岡が、その条件を満たしているガッツに目を付けたのは必然だったのかもしれない。

「化け物にも物怖じしない胆力、まともにやり合える実力。戦力にはうってつけや。俺たちなら、どうにかことをうまく進められるかもしれん」

勿論、たった二人で全てうまくいくとは微塵も思ってはいない。
だが、ドノバンとの戦いを見た限り、この男はやはり優良な素材であることは確かだ。
そのために慣れない勧誘を試みる岡だが...

「悪ィな。ツルんで戦うのは性に合わねえ。誰かの隣で戦うのも、護るのも、俺には縁のないことだ」

ガッツはそれを一蹴し、情報交換はここまでだと丸太を引きずり切り上げようとする。
聞きたいことは聞けた。ならばもう用はないと言外に告げていた。

その後を慌てて追おうとする祥子に、ガッツはジロリと睨むように目を向ける。


646 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:30:22 vo/IExBs0

「邪魔だ。お前はそっちの奴らと行け」
「でも」
「改めて言っておくぜ。俺はお前みたいに弱っちいのが嫌いなんだよ。足手まといの癖にすぐに人様の領分に首を突っ込みやがる」

指を突き付け、意地悪く笑みを浮かべるガッツ。
その様を見ていた雫と奈々は、非情というよりは大人げない男だと思った。

「そっちの女たちは悪い奴じゃねえんだろ。なら、お前の大好きなお姉ちゃん探しはそいつらに頼むんだな」

言いたいことだけ言い切ると、それきり背を向け部屋を後にしてしまう。
祥子は寂しげに俯いたきり、顔を上げることはしなかった。

「...よかったのか、岡」
「しゃーないわ。あそこまで拒否るなら引き留めるのも無駄な労力や」

見過ごすのは惜しい人材だが、固執し衝突などでもすれば元も子もない。
岡は合理的に考え、ガッツを見逃さざるを得なかった。

「また外を見張っとれ。俺はもう少しスーツを調整する」

岡に頼まれた通り、ロックは再び窓際から外の様子を伺うことにした。


「...どうする、奈々」
「うーん...なんにせよこんな小さな子を放っておく訳にはいかないわ」

祥子を半ば強制的に託されてしまった二人だが、無害な幼子を見捨てて置けるほど薄情ではないつもりだ。
幾分か相談し合い、雫が祥子へと目を向ける。―――が。

「?」

祥子の姿が無い。
四人が各々の相談に入った隙を突き、彼女は姿を消していた。


647 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:30:43 vo/IExBs0




誰かに雇われることはいくらでもあった。
長居することはなく、そのほとんどがその日限りの短いものだった。
岡が手を差し伸べたのは、そういう類のものであり、グリフィスのように本気で欲した訳ではなかったのはわかっている。
だが、彼はにべもなく断った。

いつからだろうか。
金欲しさにも戦場欲しさにも、誰にも雇われようと思わなくなったのは。

それほどまでに、彼の中のかつての仲間は、『鷹の団』という存在は大きかった。

だからこそ、それを切り捨てたグリフィスが、貪り蹂躙した使徒が、自身の身を蝕むほどに憎悪を膨らませる。
奴らをこの手で殺す。それだけが自分の生きる意味だ。
この道に他者が関与するのは、少しの繋がりでも残したくはない。
それが、岡の協力を拒んだ理由だ。

『ガッツ』
「...くだらねえ」

別れ際に彼女に厳しい言葉を投げかけたのは何故だ。
煩わしかったのか。苛立っていたのか。
おそらくどちらもあるのだろう。

だが、その対象は本当に彼女のような無力な者なのか。それとも...

「...キャス」

脳裏を過るその名前をポツリと口ずさむ。
煩わしいのは、苛立っているのは、本当は護ることから目を背けている...

「......!」

嗅ぎなれた臭いがガッツの鼻をつく。それもひとつや二つではない。
角を曲がれば、そこにはかつて人間だったもの達の欠片が散らばり街を悪趣味な芸術に仕立て上げていた。
仏はいずれもなにか強大な力で無理矢理引き裂かれたかのように傷跡を遺していた。

使徒か―――いや、違う。烙印に反応は無い。

下手人が何者かは分からない。
わかることはひとつ。

なにか、この街に使徒に匹敵し得る強力な力を持つ者がいることだけだ。


648 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:31:18 vo/IExBs0



「はぁっ、はぁっ...」

息を切らしつつ、祥子はガッツの後を追う。
彼女が奈々たちよりもガッツを選んだのは、なにも奈々たちが信用できない訳ではなかった。

ガッツは自分から独りになりたがっている。手を伸ばせなかった春花とは違い、自らの意思で拒んだ上でだ。
本当なら、そこに横やりを入れてはいけないのかもしれない。
けれど、だからといってそのまま放っておけば、彼も春花と同じように誰からも知られぬ場所でいなくなってしまう。
本当の孤独になってしまう。

祥子はそれが嫌だった。
もう、春花のような人を見殺しにしたくない。彼女のように孤独にしたくない。
祥子はそんなひとつきりの想いでいっぱいだった。

そんな折に。

「見ろよアレ」
「おいやっちまおうぜ!」
「やっちゃいますか!?」
「やっちゃいましょうよ!」

祥子の耳に届く三人の男の声。
人見知りな祥子は、そのやけにチャラついた声音に警戒心を抱き、とっさに街角に隠れひっそりと様子を伺う。
そこには、それぞれ赤色のジャンパーとサングラス、青色のトレーナー、金髪のサングラスと色とりどりの三人組が祥子に背を向け佇んでいた。

「そのための...右手?」
「スカウトォ...」
「あとそのための拳?」
「拳?自分のためにやるでしょー」
「金!暴力!SEX!!!」
「金、暴力、SEX!!って感じで...」


なにやらワイワイとはしゃぎながら、まるで何かを取り囲むように円を作る男たち。
すると、三人は徐にズボンに手をかけ下ろしたではないか。


649 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:31:39 vo/IExBs0

「!?」

初めて見せつけられる他人の男の臀部と見え隠れする陰茎に、祥子は思わず凝視してしまう。
彼らはあんなところでナニをしているというのだろうか。

「なんぞこれ」

再び祥子の耳に届く声。
今度は三人とは違う、老人のような声だ。あの三人に取り囲まれているのだろうか。

「なんぞこっ」

グモッ、という音と共に、老人の声は止み、男の内の一人が腰を振りはじめる。

「あぁ〜、中々いいじゃ〜ん」
「オレにもヤらせてくれよぉ〜」

男たちの輪は縮んでいき、やがて三人とも喘ぎを交えつつ腰を振り始める。
そこでナニが行われているのか―――まだ幼い祥子にはわからなかった。
彼女の脳裏に蘇るのは、あの火事での記憶。
歪んだ形相で、自分達に灯油をかけたあの忌まわしき少年少女たち。

「あ...あ...」

あの時の恐怖が身体を支配し、祥子は叫ぶこともままらなずペタリと尻もちをついてしまう。

「―――ウッ」

男たちが一様に背筋を伸ばし直立する。
やがて、ぽたりぽたりと液体が地面に滴れば、次いでドサリと小柄ななにかが地に落ちる。
老人だ。後頭部が異様に発達し、白い粘液に塗れた小柄な老人が地面に落ちたのだ。

「ウッ...げええ」

老人は唾を吐き捨て咳き込み、粘液を吐き捨てる。
男たちは、まだ満足できないとでも言わんばかりに老人の頭を掴み上げる。


650 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:32:00 vo/IExBs0

瞬間。

「お前達は、もういい」

突如老人が肥大化し、全裸の女性の身体が大量に生え始める。
女の身体は呆気にとられる男たちを包み込み、持ち上げ、纏わりつく。
その様を、祥子は腰が砕けたまま見ていることしかできない。
男たちが悲鳴と共に頭から爪先まで包み込まれ、三十秒ほどだろうか。
数秒の静寂の後、三つの球状のものが地に落ちる。
頭部だ。KBSトリオの苦痛に歪んだ顔が、地面に落ちたのだ。

大量の女体は収縮し、再び小柄な老人の姿へと戻る。

「んん?」

老人は、怯えた目で見つめる祥子へ振り返る。
彼女の姿を認識すると、腕を組み両袖に手を通しながら、彼女のもとへと歩み寄る。

「首輪...ふむ。実に興味深い」

老人は己で完結させるがごとく、ひとりごち、顎に手をやり頷く。
祥子は、未だに腰を抜かしたまま動けない。
先程の焼かれる前の幻影とは違う。
老人から醸し出される、得体のしれない強力な圧迫感に、ただ恐怖を抱いていた。

振り上げた老人の腕が巨大な魚のヒレのような形に変貌する。
その質、大きさ共に、祥子へと振り下ろされれば、為すすべなく彼女は潰されたカエルのようになるだろう。
老人は躊躇うことなく、ヒレを振り下ろす。


651 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:32:42 vo/IExBs0

同時に。

上空より落下する人間サイズの丸太が、グシャリ、と老人を叩き潰した。

黒衣がはためき、血に濡れた丸太を肩に担ぎ上げる。

丸太を振り下ろした下手人の姿を認めた時、祥子の顔はパァッと明るくなった。

「ガッツ!」

仔犬のように顔を綻ばせる祥子に、ガッツは小さな舌打ちで返した。

「なんでこんなところにいやがる。あの女たちはどうした」
「うぅ...」
「...チッ」

祥子の態度でなんとなく察する。
おそらく彼女は間もなくして追いかけてきたのだろう。
それも、他の四人には内緒でだ。

より安全な場所はあったというのに、なぜこいつは未だに追ってくるのか。ガッツにはわからない。

「ふむ。なるほどな」

その答えを探る暇もない。


652 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:33:15 vo/IExBs0




消えた祥子を追いかけ、ロック、雫、奈々の三人は街を駆けていた。
岡はやはりというべきか彼らと同行はしなかった。今回はスーツのメンテナンスがもうすぐ終わりそうという尤もらしい理由はあるが、本心は子供に構う気はないといったところだろう。

雫と奈々の二人は、注意を逸らした己の迂闊さに申し訳なさげに何度も謝り、ロックはその度に彼女たちを宥めていた。
実際、彼女たちを責める気にはなれず、むしろまだ社会人でもない彼女たちに祥子の一切を任せようというのも無理な話であるのは己が反省すべき点だろう。

(大丈夫かな、あの白髪の奴みたいなのに襲われてなきゃいいけど)

そんな打算の無い純粋な心配が過り、まだ自分にもちゃんとした良心があることを実感する。
自分は確かに無法者の町、ロアナプラに染まりつつある悪党かもしれないが、まだ腐りきっては無い。そうであると信じたい。

やがて、三人の耳に届く戦闘音。

音の出所はそう遠くは無い。
三人は自然と緊張と警戒心で気配を殺した歩き方になる。

ちょうど出所の曲がり角に差し掛かった時だ。
三人の鼻孔を、鉄臭い匂いがくすぐる。
ロックはその慣れ親しんだ匂いにいち早く反応し、右手で後ろの二人を制する。

(この先には、絶対にアレがある)

女二人に先んじて物陰から様子を伺うロックを出迎えたのは、苦悶の表情に歪むKBSトリオの頭部。
ロックが静止をかける前に覗いてしまった雫は思わず口元を抑え、続いた奈々は思わず手で顔を覆い悲鳴をあげかける。


653 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:33:47 vo/IExBs0

「きみは見ては駄目だ。...見ないでくれ」

蒼白な顔でそう語る雫に気圧され、奈々は思わずコクコクと頷き目を伏せる。
先程までは生きていたKBSトリオの惨状を見て、これは殺し合いなのだと改めて認識する。

姿を隠しつつ、戦闘音の正体を確認するロック。

そこで行われていたのは、丸太を縦横無尽に振るうガッツ、それを軽やかな動きで交わし続ける頭部が発達した『妖怪ぬらりひょん』のような小柄な老人というなんとも珍妙な光景だった。

「あれが、殺し合いにおける賞金首、ですか?」

老人の首輪が赤であることを認識した雫は思わずロックにそう尋ねてしまう。
あのひ弱な見た目からは信じられぬのも無理はない。

「...俺も、あいつがそこまで強くは見えない。けど...」

いくらガッツの攻撃を躱し続けているとはいえ、その敵意を向けられておらず格闘技の経験もないロックには、老人の戦闘力は測れない。
しかし、KBSトリオの惨状を見れば、あの老人が自分の計り知れない力を秘めていることを嫌でも思い知らされる。

(ガッツが殺したとは思えないし、なにより丸太で首を切断できるとは思えない。やっぱり、あのぬらりひょんが...)

ガッツの丸太がぬらりひょんを捉えようとしたまさにその瞬間、ぬらりひょんの姿は再び大量の女体に変貌しガッツへと襲い掛かる。

「チッ」

丸太を一閃し、巨腕を模る女体を薙ぎ払うが、しかしすぐに生えそろい元の形へ修復してしまう。
見た目以上に速いソレをしゃがみ、丸太で叩き、どうにか猛攻を凌ぎ勝機を伺う。
常に全力で動くガッツと比較的余裕を持ち攻撃するぬらりひょん。
スタミナでは後者が断然有利である。
故に、均衡が破れるのは一瞬。
繰り広げられる攻防に耐えかねたガッツの反応は遅れ、振るわれる張り手を咄嗟に盾にした丸太で防ぐものの、その威力を殺しきれず、ガッツの身体は宙に浮く。
突き出されるままにガッツは壁に叩き付けられ、鮮血を撒き散らし、壁が崩れると共に視界を覆えるほどの砂埃が舞い上がる。


654 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:34:12 vo/IExBs0

「ふむ。なるほどな」

ぬらりひょんは、今度は頭部は元の形のままに、大柄で逞しい男の身体へと変貌する。
次々と変貌していくその姿に、見ている方が気がおかしくなりそうだ。

(いや、それよりもガッツは無事なのか!?)

慌てて吹きとばされた方角を見やれば、ガッツは項垂れたままピクリとも動かず、祥子は必死に彼の名を呼び続けている。
彼の安否は気にかかるが、彼の救助をしている余裕はない。いまは、どうにかしてこの老人の魔の手から逃れねばならない。

「雫っ!」
「ああ!」

奈々が取り出した端末を握り、身体が光を帯びると同時、雫は奈々とロック、二人を担ぎ上げぬらりひょんの頭上を跳躍。
突き出される巨腕の障壁として、雫の端末により壁を錬成し攻撃を防ぐ。
だが、限界である三枚の壁を通じで尚止まらず、肩の奈々を護るために無防備となった肋骨に拳が突き刺さる。

「カッ」

雫は跳躍した勢いと殴られた衝撃により激しく地面をバウンドし、地面を吐血で赤く染める。
地面に投げ出されながらも、すぐに体勢を立て直して駆け寄る奈々に、大丈夫、と微笑みかける。
が、内心では余裕ぶることはできない。

(壁で勢いを殺していなければ確実に死んでいた...私たちは、こんな奴から本当に逃げられるのか?)

圧倒的な実力差に、三人の顔に絶望の影が色濃く表れる。
この怪物の前では、自分達がどんな小細工を仕掛けようと無力。
下手な抵抗は、悪戯に寿命をすり減らすだけなのかもしれない。

「これはこれは、奇妙なものを見つけた」

だが、彼らの抵抗は決して無駄ではなかった。

「ただの負け犬にしては、面白そうな者たちを見つけてきたじゃないか」

彼らの無駄にも思える抵抗は、戦況を更に混沌(カオス)と化した。


655 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:34:40 vo/IExBs0




「ううううぅぅ」

どこから取り出したのか、純白の布団にくるまり震えるひで。その様はまるで餃子である。
その周囲には、原型を留めていない肉塊が散らばっていた。
事の発端は、ひでを犯していた男が、突如として暴力を振るったことである。
少しハードなSMプレイをするつもりだったのだろう。だが、ひではそれを虐待だと感じ取ったのか。
悪魔化して殺害し、この惨状と相成ったのだ。

そんなひでの一部始終を、スーツの調整を終えた岡は見ていた。

(なんや街が騒がしいと思ったらコイツか。なら、あの白髪たちもどこかにおるはずや)

周囲を見回すが、雅とほむらの姿がない。どうやら別行動しているようだと判断。
岡はひでについて考える。

果たしていまこの場でひでと戦うべきなのだろうか。

岡は、先の戦闘でひでのしぶとさを思い知らされている。
不意打ちも効かないとなれば、嫌でも長期戦に持ち込まざるを得ない。
そうなれば、万全ではない自分の方が不利であり、雅たちが戻ってこれば尚更勝機は薄くなる。

(なら、コイツを利用することはできへんか?)

もしも、雅たちが単に一時的な別行動をとっているのではなく、制御しきれずここに放逐したのなら。
ひでをうまく利用すれば赤首輪の狩りも効率的に進めることが出来るかもしれない。

(こいつにガッツのような戦力を期待することはできんかもしれんが...さて、どうするか)


656 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:35:04 vo/IExBs0





吸血鬼と化した住民たちを狩って遊んでいた雅は、戦闘音を聞きつけ足を運んだ。
五階建てのビルの屋上から見下ろした先には、老人と対峙する女が二人と男が一人。
男の方は見覚えがある。あのスーツを着た男が連れ去った者だ。
戦いすらできない負け犬に興味はなく、傍らに立つ二人も同類だと思っていた。
だが、彼女達はなにやら奇妙な機器を取り出したかと思えば、人間を越えた身体能力を披露し壁を作り出すという魔法染みた業さえやってみせた。
面白い。彼女たちは人間のようだが、なにか特殊な力があるのか、それとも支給品によるものなのか。
あの老人といい彼女たちといい、中々に興味深い状況だ。

雅は己の好奇心を満たすため、戦況へと足を踏み入れる。
トンッ、と躊躇いなくビルから跳び下り、着地の衝撃を殺すことなく着地した。

「む?」

ぬらりひょんの意識がロック達から外れ、突如現れた雅に向けられる。

「ほぉ、お前も赤い首輪...つまり人外か。全く、このゲームは興味を惹くものが多くて飽きん」

余裕綽々にゆったりと歩み寄ってくる雅の放つ威圧感に、雫と奈々はぬらりひょんとは違う種類の恐怖を覚える。
ぬらりひょんが怪物だとすれば、この男は残虐な王とでもいうべきだろうか。

「気を付けてくれ二人共。こいつが、俺と岡が出会った男だ」

ロックの小声での注意喚起に、雫が小さくうなずく。

「そこのお前達、さきほど見せた力はなんだ?」
「え、えっと...」

思わず答えかける奈々の口を雫が慌てて塞ぐ。
いまこの男は自分達の力に興味を持っている。もしもそれが支給品によって与えられたものだとすれば、奪いにくることは想像に難くない。
そうなれば、自分達などもはや無力な女二人だ。ここが殺し合いである以上、死を免れることはできないだろう。

「ハッ、語らずともその態度を見ればわかる。そこまで慌てて隠すとは、あの力は支給品によるものらしいな」

勘付かれた。二人の背中に冷や汗が伝う。まるで蛇に睨まれた蛙のように、緊張と恐怖で震えが止まらない。


657 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:35:49 vo/IExBs0

「どれ。まずはその力を頂くとしよう」

雅はブーメランを振り上げ、斬りつけようとする。
雫が壁を作り、奈々がその隙に雫を強化、雫にロックと奈々を抱え雅から距離をとらせる。

「ハッ、逃がすとでも―――」

ピクリ、と雅の眉が微かに釣りあがる。直後、三人に覆いかぶさる巨大な影。
ぬらりひょんが跳躍し、両手を組みハンマーの如く構えていた。
まるで、これは自分の獲物だ、貴様には渡さないと云わんばかりの襲撃である。

雫は残る二枚の壁をすぐに錬成し、奈々とロックが巻き添えを食わないように放り投げる。
振り下ろされる拳は、立ち塞がる壁を経て尚威力を殺し切れない。

ぬらりひょんの拳を受けた雫の右腕は地面に叩き付けられ、激痛と共に骨が粉砕される。
奈々の魔法の効果も手伝い、千切れることはなかったものの、あまりの衝撃に雫は一瞬にしてその意識を失った。

「雫...しずくっ!」

奈々が涙目になりながら駆け寄り呼びかけるも雫の反応は無い。
そんな彼女へも拳を振り下ろそうとするぬらりひょんだが、首筋に宛がわれたブーメランに止められる。

「待て。こいつらは私の獲物だ。今は手を引いてもらおうか」

雅は人間は嫌いだが、女好きの一面もある。
いい女は血を吸いたくなるし犯すのも好きだ。
自分が吸血鬼にした一団にも女はいたし、暁美ほむらという少女もいるにはいるが、彼女たちにはそそられない。
あの一団にいた「一万円くれたらしゃぶってあげるよ」とのたまっていた女がまり子以上にアレだったせいで萎えてしまい、暁美ほむらに至っては論外だ。
顔立ちは中々ではあるものの、まだ子供な上に血色が悪く身体も貧相であるため、雅の好みの範疇からは大きく外れてしまう。
要は色気がないということだ。

そんなお預け状態からの奈々と雫という悪くない女との出逢いだ。
奈々は少々ふとましくはあるけれど、決して不細工ではなく血色もいい。雫はスレンダーながらも貧相ではなく確かな美貌も持ち合わせている。
両者とも、見ただけで血の美味い女であることが窺い知れるし犯して食らうにはもってこいの女たちだ。
それを横取りしようというのだから、雅が敵意を抱くのも無理はない話だ。

それはぬらりひょんも同じ。
例え同じ赤首輪であろうとも、皆殺しにすると決めた以上、この男も敵である。


658 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:36:09 vo/IExBs0

パキャッ

高速で振るわれた拳が雅の顎を打ち砕く。
下あごが骨ごと千切れだらりとだらしなく垂れ下がり、血が地面を濡らす。

「ハッ」

だが、雅は嗤う。常人ならば死なずとも激痛に声を発することもできないであろう傷を負いながらも尚、嘲り笑う。

ザンッ

雅のブーメランがぬらりひょんの右腕を斬りおとした。
ぬらりひょんは地に落ちた己の腕と残された切断面を見比べて、ホゥと感嘆の声を漏らす。

雅の顎の皮膚が蠢き接着されていく。
ぬらりひょんの右腕が新たに生え変わる。

「なるほど。お前も再生能力を持っているのか」
「んん...実に興味深い」

雅とぬらりひょんは互いに邪悪な笑みを交わし合う。
もはや、いまとなっては人間の餌への興味は薄れている。

「どれ。私の能力と貴様の能力、どちらが優れているか試させてもらおうじゃないか」

のぞむところだと云わんばかりにぬらりひょんはウム、ウム、と小さく漏らす。
彼らは共に集団を率いる長であり好戦的な性格だった。
そんな彼らが出逢えば、戦闘が生じるのは必然だったのかもしれない。


659 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:36:36 vo/IExBs0




(マズイぞ...)

気絶した雫にすり寄り泣きじゃくる奈々を傍目に、ロックは現状を努めて冷静に分析する。
岡は未だに姿を現さず、雫とガッツはダウン。奈々は見ての通り冷静な判断をくだせなくなっている。
現状、まともに動けるのは自分と祥子だけだ。
だが、身体能力は一介のサラリーマンと変わらない自分と幼女になにが出来るというのか。
眼前の化け物たちの戦いが終わり、殺害対象がこちらに向けばその時点で終わりだ。

できれば今すぐにでも離れたいが、彼らに背を向けての逃走はリスクが高すぎる。
もしも無闇に逃げ出せば、容赦なくその背中を撃たれることだろう。
なにより、雫をあの状態から下手に動かすのは危険だ。
せめて担架でもあれば別だが、生憎とそんなものはない。

(どうする。どうすればいい)

「ガッツ!」

ロックの苦悩を打ち砕くかのように、祥子の歓喜に満ちた声が耳に届く。
見れば、頭部から多少の出血はあれど、まるで効いていないと云わんばかりに首をコキコキと鳴らしている。
今まで動きが無かったのは、恐らく気絶していたのではなく雅達の様子を窺っていたのだろう。

ガッツは喜ぶ祥子に取りあわず、丸太を担ぎ雅達のもとへと歩みを進める。

「無茶だ。あんな中に飛びこめば死ぬだけだ」

ロックは己の見解をそのまま述べてガッツを引き留める。
奴らは今までロアナプラで見てきたどんな人間よりもイカれている。
レヴィやロベルタのような超人然とした連中でも馬鹿正直に割って入るのは無理だ。

「だったら、おめおめと尻尾を巻いて逃げるか?それでも奴らは追ってくるだろうよ」
「そうかもしれないが...せめて、岡が来るまで待った方が」
「そうやって当てもない助けに縋って、どうにかなる奴らかよ」


660 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:37:02 vo/IExBs0

増援が来るまで粘る、若しくは待機している場所まで逃げて誘い込むといった戦法は決して間違っていない。
ガッツ自身もそういった戦の経験はある。
だが、それは増援側との確かな作戦や信頼があってこそだ。
ガッツにしてみれば、岡とは一言二言言葉を交わした程度、ロック達にしても数時間程度の付き合い、云わば赤の他人だ。
そんな彼に勝手な助けを期待し命を張らせるのはお門違いだ。
仮にロック達を見捨てたところで責めることはできやしない。

「勝手に期待して誰かの所為にするくらいなら、俺は自分で道を切り開く。テメェらはテメェらで好きにしな」

化け物を殺す。
ただ苛立ちに任せて武器を振るうのではない。
ここで敵を殺すことこそが、道を切り開く最善の手段だと知っているからこそ、彼はその足を進める。
その殺意を糧に進める足を止める言葉をロックは知らない。

そんな彼のマントを掴み引き留める祥子。
その目は、今にも泣き出しそうに潤んでいた。
そんな彼女をガッツは、今までのように挑発染みた言動で突き放すのではなく、摘み上げ、ポイとロックへと投げ渡した。

「...無理だよ。彼は、誰にも止められない」

腕の中の祥子を宥めるようにロックは呟く。
彼を止められないのは祥子の所為ではない、彼はどうあっても止まるつもりはないのだと。

それでも祥子はガッツを止めたかった。

例え止めるのが無理でも、独りで全てを背負おうとして壊れていく人をもう見たくはなかったから。


661 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:37:30 vo/IExBs0



ぬらりひょんの耳が切り裂かれる。

「ハハハハハハ!!」

雅の笑い声が木霊する。
その刹那に雅の頬に拳が叩き込まれ砕け散る。

「ガハハハハ!!」

ぬらりひょんも笑っていた。
戦いの愉悦に、己の拳で敵を粉砕する感触に浸っていた。

「楽しいぞ、ここまで私と対等に戦えるとは!」
「んん、実に興味深いぞ」

互いに、肉が飛び散り、骨が突出し、内臓が毀れ落ちてもその度に再生し嗤いながらの殴り合いに興じる二人。
一度目を離せばすぐに元に戻り、永遠に決着が着かないのではとすら思わせる。

「ふんっ!」

雅が投擲したブーメランがぬらりひょんの頬を肉を裂き彼方へと消える。
目測を見誤ったか。
ぬらりひょんの拳が雅の腹部を突き破りそのまま持ち上げる。
雅はその腕を掴み笑みを深める。

ザンッ。

ぬらりひょんの右足が切り裂かれ、ガクリと膝を着いてしまう。

「知らなかったのか?ブーメランは軌道を変えて戻ってくることを」

力が抜けたその隙をつき、雅は突き刺さった拳を引き抜きぬらりひょんの顎を蹴りあげる。
両者互いに重傷。しかしこれもまたたちまちに回復してしまう。


662 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:37:50 vo/IExBs0

この瞬間。
そう。再生のために両者が無防備になる瞬間を彼らは見逃さなかった。

一足飛びで距離を詰め、丸太を居合のように構えるガッツ。

それとほぼ同時に。

「やだ、やだ、やぁだ!!」

突如、ひでがぬらりひょんの背後へ落下した。
あまりの唐突さに一同は彼に反応する間もなく事態は動く。

雅とぬらりひょん、両者を仕留めんと振るわれた丸太は、雅の頬を強打し、ぬらりひょんの身体を裂きひでもまた殴り飛ばされる。

「ッダァイ!!」
「......?」

突如降って来た妙ちくりんな男の存在には疑問を抱いたが、ガッツは気を取り直して丸太を再び振るう。
狙うは距離の近い雅だ。


663 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:38:08 vo/IExBs0

ガンッ。

雅の頭部に丸太が振り下ろされ、鮮血が舞う。

「ぐがっ」

痛みに動きが止まる雅だが、ガッツはお構いなしに丸太を振るい続ける。
何度も、何度も、何度も。

ガシリ、と雅の掌が丸太を掴む。

「なんだ貴様。何者だ」

ハーハーと息を切らしつつ、雅はガッツを睨みつけ凄んで見せる。
ガッツは即座に丸太を回転させ、雅の手を無理やり引きはがす。

「シィッ!」

そこから放たれるのは、丸太による突き。
防御すらせずそれを腹部で受け止めた雅の身体が宙へと浮き、数メートルほどの距離を後退させる。

「中々やるではないか、人間。だがそんなものでは私は倒せんよ」
「チッ」

あれほどめった打ちにしたというのに、雅には疲労すら窺えない。
出血箇所も、程なくして全て塞がってしまう。

面倒な敵だ。ガッツはそう思わざるを得なかった。


664 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:38:29 vo/IExBs0



一方、身体を裂かれたぬらりひょんもまた、右足を除いてすべて完治しており、ひでを見下ろし立ち尽くしていた。

「ううううぅぅぅ」

うずくまり、殴られた頬を抑えつつ身体を震わせるひで。
ぬらりひょんがそんな彼へと拳を振り下ろすのにさほど時間はかからなかった。

ひでの背中に拳が減り込む。
しかし、人体なら軽く貫通する筈のソレは、ひでの背中に痣を作るに留まった。

「痛ッ!痛いんだよもう!!」

ぬらりひょんは無視して次なる拳を振り下ろした。
その顔には先程までの笑みなどない。


さて。唐突だが、このひでという偶像について隠された特性を述べさせていただく。
彼には挑発とでも称していいような、天然的に他者をイラつかせる特性を有している。
それは原点のひとつである『悶絶少年』における虐待おじさんこと葛城蓮さんの演技かガチか分からないほどの迫真のキレ方を見れば一目瞭然だろう。
このロワにおいても、暁美ほむらは遭遇時に見ただけでショットガンを乱射していた。
そしてそれは言葉を交わす事に勢いを増した。彼女も内心ではイラついていたことだろう。
これらから、ひでには人の苛立ちを誘発する特性があることがわかる(適当)。
そしてそれは人外であるぬらりひょんとて例外ではない。
彼もまた、苛立ちにより先に拳を振り下ろしてしまったのだ。

なんども拳が振り下ろされるが、やはり痣を作るのが限界だ。

「痛いんだよおおおおおおおお!!(マジ切れ)」

拳の痕が10を超えた辺りでひでは絶叫。
なんとぬらりひょんの拳を掴んだではないか。
それだけではない。
先程までのにやけ顔が嘘のように、目を見開き額に青筋が浮かぶほどの怒りの形相と化したひで。
あまりの変貌ぶりに、流石のぬらりひょんも驚愕する。

「絶対に許さないにょ!!」


665 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:38:54 vo/IExBs0

そんなひでとぬらりひょんの戦況を遠巻きに見据えるのは、岡八郎。
彼は、ひでを殺すのではなく、極力手傷を負わせないように拉致し、雅達の戦いに放り込むことで三つ巴の戦況を作りだそうとした。
だが、偶然にも全く同じタイミングでガッツが乱入したこともあり、結果的にガッツと雅、ぬらりひょんとひでという戦況に移行した。

(やっぱりお前は使える男やったな、ガッツ)

もしもこれが打ちたてた作戦通りなら最高の結果であり、また打ち合わせなしに自分と同じタイミングで狩りに向かったことも評価できるだろう。
だが、如何せん状況が悪かった。
打ち合わせも無しに岡と同じタイミングで狩りに行ってしまったがために、一対一の構図になってしまい、岡の目論みから外れた戦況と相なってしまった。
いや、そう決めつけるのは早計かもしれない。

(あの爺、なんで右足を治さんのや?)

雅相手にはさっさと治して、ひで相手では治さない理由はないだろうに。
ひょっとして、あれが弱点だとでもいうのか?
いまはわからない。だが、もしそうだとしたら分析する必要がある。
岡は気配を殺しつつ、ひでとぬらりひょんの戦いの成り行きを観察することにした。





物陰に潜みつつ、ほむらは一連の戦闘を傍観していた。
雅とぬらりひょんは、互いに、肉が飛び散り、骨が突出し、内臓が毀れ落ちてもその度に再生し嗤いながらの殴り合いに興じていた。
次元が違う。
パワーにしてもそうだが、回復魔法に優れた美樹さやかですらああはいかない程の再生能力。
彼らは明らかに自分たち魔法少女とは違う次元の生物だ。

(奴らを放っておくわけにはいかない。まどかに害を為す者は必ず排除する)

いまここで確実に仕留めなければ、必ずまどかに辿りついてしまう。
狙うべきはぬらりひょんか、それとも雅からか。
その判断を誤れば、彼女の道はそこで打ち止めと為り得るだろう。


666 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:39:21 vo/IExBs0



ホモガキに親しまれ、ホモの聖地と名高い下北沢。

今日、この街は戦火に包まれる―――!!





【TNOK@真夏の夜の淫夢 死亡】
【KBSトリオ@真夏の夜の淫夢 死亡】


【F-6/下北沢〜下北沢近辺/早朝/一日目】


【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:健康、イカ臭い。
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す



【ぬらりひょん@GANTZ】
[状態]:身体の至る箇所の欠損(再生中)、右足欠損(微回復中)、KBSトリオの液
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:『神』の意思に従いこの殺し合いで勝ち抜く。
0:皆殺し
1:戦いを愉しむ。
2:他の参加者、特に雅に興味。

※参戦時期は岡八郎との戦いの後です。
※現在の形態は岡と殴り合っている時のものです。
※モズグスの首輪が赤い首輪であるのに気が付きませんでした。


【岡八郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ハードスーツ@GANTZ(フェイスマスク損失、レーザー用エネルギーほぼ空、煙幕残り70%、全体的に30%ダメージ蓄積)
[道具]:?
[思考・行動]
基本方針:ミッションのターゲット(赤い首輪もち)を狙う
0:ひでをうまく扱い赤首輪の狩りに役立てたい
1:赤首輪に対抗するためにチームを作る。
2:できれば無理はしたくない。...が、ぬらりひょんはもしかしてチャンスなのか?


667 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:40:21 vo/IExBs0


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、右頬に痣
[装備]:ソウルジェム、ひでのディバック
[道具]:サブマシンガン
[思考・行動]
基本方針:まどかを生還させる。その為なら殺人も厭わない
0:雅とぬらりひょん、どちらから先に葬るべきか...




【雅@彼岸島】
[状態]:身体の至る箇所の欠損(再生中)
[装備]:鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:眼前の人間と愉しむ。
1:主催者に興味はあるが、いずれにせよ殺す。
2:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
3:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
4:あのMURとかいう男はよくわからん。


※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※魔法少女・キュゥべえの情報を共有しました



【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(中) 、出血(小)
[装備]:ゴドーの甲冑@ベルセルク、青山龍之介の丸太@彼岸島
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:使徒共を殺し脱出する。
1:雅を殺す。
2:ドラゴン殺しが欲しい
3:己の邪魔をする者には容赦しない。



※参戦時期はロスト・チルドレン終了後です。
※トロールをいつもの悪霊の類だと思っています。


668 : 戦線は下北沢にあり ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:40:38 vo/IExBs0

【野崎祥子@ミスミソウ】
[状態]:擦り傷
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:今度こそお姉ちゃん(春花)を独りぼっちにしない。
0:お姉ちゃんと合流する。
1:ガッツは春花に似てるので放っておけない。


※参戦時期は18話以降です。


【岡島緑郎(ロック)@ブラックラグーン】
[状態]:健康、不安(小)
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する。
0:どうにかこの場を切り抜けたい。が、雫のことがあるので逃げられない...どうすればいいんだ。
1:レヴィとバラライカと合流できればしたいが...暴れてないといいけど



※参戦時期は原作九巻以降です。


【羽二重奈々@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、不安(大)
[装備]:魔法の端末(シスターナナ)@魔法少女育成計画
[思考・行動]
基本方針:雫と共に生き残る。




【亜柊雫@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、右腕粉砕骨折、気絶
[装備]:魔法の端末(ヴェス・ウィンタープリズン)
[思考・行動]
基本方針:奈々と共に生き残る


669 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/08/19(土) 01:41:52 vo/IExBs0
投下終了です


670 : 名無しさん :2017/08/19(土) 19:15:56 Hp7xGr1s0
投下乙です
戦場となった下北沢やべえよやべえよ…
ガッツ、雅、ぬらりひょん、ひで
ジャンルは違えどこのロワでも上位の戦闘力を持った者たちの戦いは圧巻ですね


671 : 名無しさん :2017/08/21(月) 19:28:16 N37vY1wY0
投下乙です
ホモの汚さと強者同士の激突という熱さが合わさっていいゾ〜これ
さらっとピンキーがまり子以上のブスメス扱いされてて草


672 : ◆dKv6nbYMB. :2017/10/06(金) 22:11:33 092DO08c0
野獣先輩、虐待おじさんを予約します


673 : 名無しさん :2017/10/07(土) 21:18:23 uUVzXAms0
久々の予約いいゾ〜これ


674 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:31:55 kp7qXyV20
>>672
酉間違えてたよ...やはりヤバイ
こっちの酉で投下します。


675 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:32:36 kp7qXyV20

野獣邸。
数多くのホモガキに慣れ親しまれた、この邸宅で睨み合うは男二人。

片や、ベッドや生活用品等の遍く事象に存在するCOATの顔。
片や、一時は数多のビデオに出演したAcceedの元売れっ子俳優。

別に、互いのことが憎い訳ではない。
ただ、なんの諍いもなしに馴れ合うことは許されない。
それが同属会社の影のならわし。

―――逃れられぬカルマ。


676 : ブラックホール ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:34:19 kp7qXyV20

「じゃあオラオラこいオラァ!!」

気合一徹、おじさんが刀を構え突撃する。
片手平突き。
かのHZKTが考案したと云われる技である。

野獣は寸でのところでしゃがみ込み回避。
突きの勢いのまま放たれる膝蹴りは、あえて頭突きを入れることで相殺する。

野獣の予想外の行動におじさんの動きは一旦止まり、野獣はその隙を突き反撃に出る。

「ホラホラホラホラホラ」

拳での乱打。まるで腕が増えたと錯覚させるほどの速さである。

おじさんはそれを敢えて回避しようとはせず立ち尽くす。

放たれる拳はその大半が目くらましである。
ならば当たるものだけに注意しておけばいい。

拳の幾らかはその身に受けつつ、おじさんは刀の柄で野獣の腕を跳ね上げる。
純粋な力ではひでに劣るものの、武器を使わせれば右に出るもの無しのおじさんの技術による賜物である。

「ファッ!?」

驚愕に顔を引きつらせるのも束の間、おじさんの鞘による打撃が野獣の胸板に叩き付けられ、痛みと共に後退を余儀なくされる。

「やりますねぇ!」

それは純粋な賞賛か挑発か。
そう声をあげる野獣には笑みさえみてとれる。


677 : ブラックホールバースデイ ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:36:22 kp7qXyV20

「アァ!?」

その言動に、ひでがいう事をきかなかっただけで激怒するおじさんが耐えられるはずもない。
おじさんは感情のままに刀を突出し突撃する。
してやったり―――そう言わんばかりに、野獣はしたり顔を浮かべる。

「オォン!」

野獣の気合と共に放たれた蹴りがおじさんの刃の腹を叩き、横合いからの衝撃によりおじさんは刀を手放してしまう。
『空手に先手なし』。
空手は相手の技を見切ってこそその真価を発揮する。
それは、1145141919流派はあろう空手世界の中でも異彩を放つ迫真空手においても例外ではない。

(武器を落とせばこっちのもん。はっきりわかんだね)

いまが最大の好機。
野獣のように鋭い眼光を放ち、おじさんのこめかみへ向けて左上段回し蹴りを放つ。

「ざけんじゃねぇよオイ!」

それをおじさんは―――なんと野獣と同様に左上段回し蹴りで迎撃した!
おじさんは力ではラ・ピュセルやひでに劣るため、それをカバーするかのように多様な武器と扱う技術を備えている。
だが、それは比較対象が悪いのであり、なにもおじさんが肉弾戦が出来ないことを証明する訳ではない。
多彩な武器を扱えるからこそ、それに適した体捌きや武器を凌がれた時の防御法を我流ながら身に着けてきた。
それ故に、武器がなくとも野獣の迫真空手に追いすがることが出来るのだ。

交差する互いの左回し蹴り。
拮抗する力。
互いの脚が弾かれると同時、両者が勢いのまま放つはみぞおちへの後ろ回し蹴り。
同時に放たれた蹴りは再び交差し弾かれる。
互いに向き合い放たれるは、腰を低く落とした体勢から放たれる正拳突き。
またも交叉。次いで放たれる左手での正拳突き。掌底。前蹴り。蹴りあげ。踵落とし。フェイントからのタックル。頭突き。
いずれも同時。
まさに互角である。


678 : ブラックホールバースデイ ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:36:57 kp7qXyV20

互いに一旦離れ、体勢を立て直す。

「頭に来ますよ!!」
「怒らせてくれたね、おじさんのことね!」

まるで鏡写しのように攻防を繰り広げる相手に声を荒げるおじさんと野獣。
二人の怒号からむこう数秒静寂に包まれる。
やがて、おじさんはデイバックから刀を取り出し野獣へと放り投げる。
それは、殺意を持ったものではなく、野獣が受け取りやすいように山なりの放物線を描き彼の手に収まった。

「使えねえ訳じゃねえんだろ」
「いいねぇ」

互いに対等の条件で戦い勝利を得たいというのか。
おじさんの構えに対し、野獣もまた剣を抜く。

「邪剣"夜"―――逝きましょうね」

その声と共に野獣の纏う空気が変わる。さながらその様は瘴気を放つ
野獣の纏う雰囲気の変化を察知したおじさんは、刀を握る手に熱が入るのを実感する。
そうだ。COATの象徴ともいえる野獣の本当の力を叩き潰してこそ、ACceedの覇権は確固たるものとなるのだ。
それは野獣も同じ。武器というおじさんを象徴する戦いで彼を征することができればホモビ業界の頂点はCOATのものになるも同然。


679 : ブラックホールバースデイ ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:37:43 kp7qXyV20

互いの会社の業界生命を賭けた一戦、それを遠巻きに眺めるものが一名。

(な...なんて戦いじゃ)

吉良吉廣。息子の吉良吉影の頼みで野獣を見張っている幽霊である。

幽霊の立場から見ても、あの二人の戦いは常軌を逸している。
単に身体能力が高いというだけでなく、奇妙なのはその動作だ。
拳や蹴撃といった肉弾戦を行う場合、そこには腰を低くする・膝を曲げる・腕を振りかぶるなど、そこに付随する動作が必ず生じる。
それは、空条承太郎の一級品のパワーとスピード・正確さを備え持つスタンド『スタープラチナ』ですら当てはまることだ。

だが、野獣とおじさんの二人の攻撃にはその挙動が見受けられない。
まるで、動作だけを切りとり、放つまでの過程を省略しているかのような錯覚すら覚えてしまう。

(奴らをうまく使えば、あの空条承太郎を排除するのも容易いかもしれん...!)

あの野獣たちの戦力は未だ未知数。味方に付けられれば、愛する息子の平穏を守ることができる。
吉廣は二人の行く末と特徴を見定めるため、喜びを抑えきれない心境でひっそりと物陰から様子を窺っていた。

その時だ。

「ムッ!?」

突如、吉鷹の持つ矢が盛った雄のように暴れはじめる。

「な、なんじゃ!?どうしたというんじゃ矢よ!?」

吉鷹は馬を宥めるように必死に抑えようとするが、しかし矢は吉鷹の言葉を無視して尚暴れている。

(ま...まさか、欲しがっているのか!?奴らのどちらかを!なぜこのタイミングで!?)

それがどちらかか―――確認するまでもなく矢はひとりでに吉鷹の手元を離れ飛翔してしまう。
真っ直ぐに突き進む矢。それはほどなくして標的に突き刺さった。


野獣の、尻の穴に。


680 : ブラックホールバースデイ ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:38:44 kp7qXyV20

「ヌッ!」

突如走る臀部の激痛に、野獣は思わず悲鳴をあげる。
それは、かつて愛し合った男たちの肉棒の如く野獣の腸内を掻き分けていく。

「ハァ、アッ、アッ、アッ、アッ―――――」

宿敵の急な変貌に動揺するおじさんを余所に、野獣は襲いくる激痛と快楽の波に身を任せる。
彼がもがけばもがくほど、矢は彼の体内へと深く、深く侵入していく。

『なんじゃ!?どうなるというんじゃ!?』
「アアッー!ハァハァ、イキすぎィ!」

野獣の表情が苦痛と快楽の入り混じった芸術の様相を醸し出し、甲高い喘ぎ声は次第に甘美な耳心地さえ生み出し始める。
そして。

「イクゥ、イクイクゥ...ァッ...ンアッー!(迫真)」

ついにあがる咆哮。
野獣の下半身は奇妙な心地よさに包まれ、白濁液が染み出し下着を濡らし、屋上には生臭い匂いが充満するのだった。

「えぇ...(困惑)」

あまりの唐突さに言葉を失うおじさん。
飛来した矢。向こう側で喚きたてる写真の老人。矢で尻穴を犯されながら絶頂し気絶した野獣。
理不尽なことばかり起こるのが世の常だが、流石にここまでのものは早々おめにかかれない。


「おい!」

状況を把握するためにおじさんは近くに隠れている写真へと呼びかけた。

『し、しまったバレて...!』

逃げ出そうとする良廣の写真を掴みあげ、静かに詰め寄る。
そのプレッシャー、並大抵のものならば泣いて許しを請うほどの迫力を有している。

「さっきの矢はお前のだな」
『わ、ワシの意思ではない!矢が勝手に...!」
「そんなことはどうでもいいんだよ。野獣を元に戻す方法を教えろっつってんの」
『解らん...とにかくいまはそのまま介抱するしか...』
「そうか」

おじさんはひでを連れ込む要領で野獣を担ぎ上げる。
別に善性からの行動ではない。ただ、このままでは消化不良だということだ。
こんな形でCOATとの戦いを終わらせたくはない。ひとまず野獣を介抱し、最低限対話ができる状況へと持ち込む。全てはそれからだ。

おじさんは野獣邸を後にし、その足を病院の方角へと進めた。


681 : ブラックホールバースデイ ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:39:16 kp7qXyV20


ここから先は読む必要のない事柄である。

『矢』はなぜ野獣先輩を貫いたのか―――そこには理屈もなにもないのかもしれないが、あえて検証してみよう。


まずはこの『矢』の特性について考察してみよう。
過去から現在においてまで数多のスタンド使いを生み出してきたこの『矢』。
詳細は不明であり現在もその正体はハッキリとはしていないが、この材質は五万年ほど前に落ちた隕石と同質であり、これに付着した未知のウイルスが『人』を『スタンド使い』たらしめているというのが有力な説だ。
ウイルスとて生物であり己の種を護るために生物の身体を媒介とし繁殖を繰り返すのが本能だ。
そのため、『矢』はウイルスが繁殖に適した身体や魂を持った者を選び増やすのではないだろうか。

次に、なぜ野獣先輩を狙ったのか。
近年、野獣先輩はスマートフォンに感染するウイルスとして扱われたことがある。
その内容は、画面が彼の顔のアイコンのアプリが大量に追加されてしまうというなんとも言い難いものだ。
だが、そんなことよりも着目してほしいのは、曲がりなりにも野獣先輩がウイルスと化したことである。
もしもこの参加者が空手部の鈴木及び水泳部の田所を演じた役者本人ならばたいした問題ではなかった。
だが、パロロワ恒例の超常的且つ理不尽な参加者収集方法を用いても特定できなかった彼は、『野獣先輩』という愚像という形で参加させられている。なんでそこまでして連れてきたとか聞く奴は...窓際行ってシコれ。
この偶像は、説得力の高い有力説からクッソガバガバで雑な説までいくつもの顔を有している。
例を挙げれば、この殺し合いの参加者でもあるガッツ説、女の子説、情報生命体説、ファニー・ヴァレンタイン大統領説、天体説などが当てはまる。
つまり、先輩がウイルスと化した以上、そこに『野獣先輩ウイルス説』が追加されるのは当然の流れなのだ。

そして、JO↑JO↓作中内では、『スタンド使いは引かれあう』という法則がある。
友人か、バスの中で足を踏んだ人か、引っ越してきた隣の住人か...とにかく、互いの正体も知らない内に引かれあってしまうというものだ。
これを単に運命だと定義するのは簡単だが待ってほしい。
彼らが出会うのは単に定められたことではなく、その裏には理由があるのではないか。もう一歩踏み込んでみよう。

生物が対象を認識する手段の一つに、嗅覚がある。
例えば、カメムシやてんとう虫などは、己に危機が迫った際に刺激臭を発し敵を遠ざける。
その逆のケースもあり、多くの虫類は同種を引き付けるフェロモンを発し求愛したり、スズメバチのようにフェロモンで仲間を呼び寄せることもある。
人間にしてもそうだ。
香水をつけて異性を魅了したり、逆に異臭がする者や場所からは離れようとする。
これは矢のウイルスにしても同じことが言えるのではないのだろうか。
スタンド使い―――つまり、ウイルスに侵された者は、仲間内で引き合う匂いを発するということだ。
それも、明確に『臭い』『イイ匂い』と判別できるほどではなく、『体の中のウイルスが辛うじて反応できる』レベルでだ。
雌雄のないウイルスがなぜ互いに引き寄せ合うのか―――そこに触れるのは本筋から大いに外れてしまうので今回は止めておく。


682 : ブラックホールバースデイ ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:40:05 kp7qXyV20

結論を述べよう。
矢に付着していると言われる未知のウィルス。
野獣先輩というウイルス。
もしも、両者が互いに特有の匂いを発していたとしたら、矢が野獣先輩へと引き寄せられたのも納得ができるのではないだろうか。

以上が私の出した仮説であるが、現状ではあまりにも根拠が少ない。
ハッキリ言ってつつけばボロが出るような穴だらけの理論である。
だが、曲がりなりにも仮説を提示したことで、この話のオチが思いつかなかったから適当に野獣先輩に矢をぶち込んだという疑惑は晴れたことだろう。



最後に、説明が長すぎて曖昧だし意味がわからねえ、ちゃんと説明してくれよという方のために要約した文で締めくくる。

野獣先輩に矢を持った吉良吉廣の写真が支給されたのは神の悪戯に他ならず、神とはGOを示す。
よってこの事件の元凶はGOである。Q.E.D





【E-5/住宅街(下北沢)/早朝】



【野獣先輩@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:背中の皮膚に少し炎症、疲労(大)、身体の中に矢@ジョジョの奇妙な冒険が入っている。気絶
[装備]:吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険、
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:気の向く(性欲を満たす)ままに動く
1:気絶中
2:吉良と左衛門犯したい...犯したくない?
[備考]
※毒物をぶち込まれると即死性ではないかぎり消化・排出することができる。排出場所は勿論シリ。
※殺し合いを認識しました。
※吉良(川尻の顔)と左衛門の顔をそれぞれKMR、遠野に似てると思い込んでいます。
※吉鷹の持っていた矢@ジョジョの奇妙な冒険が野獣先輩の尻の中へ吸収されました。異変があるかはヨクワカンナイケドネ



【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]興奮、頬にダメージ(小) 疲労(中)
[装備]日本刀詰め合わせ@彼岸島
[道具]基本的支給品、鞭と竹刀とその他SMセット(現地調達品)、吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険。
[思考]
基本:可愛い男の子の悶絶する顔が見たい
0:殺しはしないよ。おじさんは殺人鬼じゃないから。
1:野獣を病院へと運ぶ。決着云々はその後考える。
2:また会ったらラ・ピュセルを調教する。
3:あのウニ頭の少年(上条)も可愛い顔をしているので調教する。
4:気合を入れ直すためにひでを見つけたらひでを虐待する。
[備考]
※参戦時期はひでを虐待し終わって以降
※ラ・ピュセルを女装した少年だと思っています


【備考】
※野獣邸の屋上に野獣先輩の糞が放置されています。匂いは114514Cmの範囲まで届きます。


683 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/10/20(金) 23:40:51 kp7qXyV20
投下終了です

加藤勝、バラライカ、ロシーヌを予約します


684 : 名無しさん :2017/10/21(土) 12:20:56 Zwum4dgQ0
投下乙です

COAT対ACCEEDの因縁対決いいゾ〜これ
野獣先輩と『矢』の関係性は納得いくんだかいかないんだかこれもう分かんねぇな
あとひでしね(理不尽)


685 : 名無しさん :2017/10/23(月) 18:05:39 OE.gmxZo0
>(な...なんて戦いじゃ)

もうこれが全てじゃね?


686 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:38:28 2u9a9XAg0
予約からロシーヌを外して投下します


687 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:39:16 2u9a9XAg0
加藤はゾッド達のもとから退散した後、彼をあれほど痛めつけた者を探し回っていた。
あの怪我の具合からそれほど経過していないと判断したのだが、未だ出会える者はいない。
あてが外れてしまったのか―――そう腐っている暇もない。
なんせゾッドとワイアルドだけでなく、相場の同行者を殺したという青い髪の少女と上半身だけの老人もいるのだ。
彼らを止めるには、GANTZスーツもない自分だけでは不可能だ。
一刻も早く協力者を確保しなければならない。

加藤勝は正義感の強い青年だ。
例え自分が危機に陥ろうとも、苦しんでいる人が、死にそうな人がいれば放っては置けない。
例え偽善者と罵られようとも、助けた者から「もっと早く助けに来てくれ」と非難の目を向けられようとも。
彼は結局のところどんな人でも助けを求める者を見捨てることができない男だ。
それはもはや理屈ではなく本能と表現しても相違ないだろう。

そんな彼を正義の味方と評するか愚者だとせせら笑うか。
その行動に惹かれるか蔑むか。
それは見る者によって変動するし仕方のないことである。
肝心なのは、加藤勝がどういう男なのかという点のみだ。

彼は先刻は守るべき者が側にいなかったために二人の巨悪から逃走を選んだ。

『私の名前はバラライカ。この殺し合いから抜け出したい者は私のもとに集いなさい。場所はI-3の高層ビルよ。繰り返すわ』

では、そんな彼が、このような拡声器越しの自殺紛いな行為を聞いてしまえばどうするか。その答えは聞くまでもない。
加藤は、バラライカなる者のもとへ全力でその足を走り進めた。


688 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:39:44 2u9a9XAg0

どれほど走っただろうか。
やがて、バラライカの言葉通り見えてきたのは高層ビル...とは言えなくもないが、ほぼ廃墟同前にガタがきている。
あまりの静けさに不気味ささえ感じてしまうが、ここで足踏みしている場合ではない。
この殺し合いを止めようとしている者ならば尚更あの行為が危険であることを伝えねばならない。

入口から中へと入ってみるが、うす暗さもあり視界は狭いままだ。

「俺の名前は加藤勝。さっきの呼びかけに応じてきた。いるのなら返事をしてくれ!」

声を張ってみるが返答は無い。
ひょっとして罠か、と思うよりも自分の行動が迂闊だったことに気が付いて避難してくれたのかと安堵する方が先によぎるのは性分というほかないだろう。
その安堵より、溜まった疲労が彼を襲い、身体を休めるために壁に背を預け臀部を床に着ける。

「ふぅ...」

加藤はここまでほとんど走りっぱなしであることに気が付き、目を瞑り一息をつく。
思い返せば奇妙な出来事の連続だ。

GANTZとは違う、妙な殺し合いにいきなり放り込まれたかと思えば、老人と少女に襲われたという少年に出会い。
牛の化け物と狂犬を連想させる男たちに問い詰められ、いまはこうしてバラライカという人の呼びかけに応じている。
精神的にも肉体的にも、GANTZ以上に疲労の溜まりやすい環境だ。
疲労で火照る身体には床の冷たさも有難い。いっそ、このまま全身を寝かせて冷やしてみようか。


689 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:40:07 2u9a9XAg0

そんな考えがよぎるのと同時、額に冷たい感触をおぼえる。

誰かが氷でも持ってきてくれたのか。では、その誰かは誰だ。

目を開ければ、視界に入るのは鉄の塊。更に言えば、刀のようなものだ。
途端、心臓ごと冷え込むような悪寒に襲われる。

油断した。

自分は罠に嵌められたというのか。

「動きは封じた!取り押さえろ!」

男の声と共に、幾多もの影が飛び出し加藤を拘束していく。
あくまでも一般人程度の身体能力しかない彼に、それに抗う術は無い。


加藤は己を拘束した者達の姿を見回し姿を確認する。

忍者だ。

黒い布と服で頭から爪先まで目元以外のそのほとんどを隠している姿は忍者を真っ先に連想させた。


「救世主様、侵入者を捕えました!」
「御苦労、同士諸君」

忍者の声に応じるは、凛とした女性の声。
見上げれば、そこには整った容姿とプロポーションに対して、顔の右半分を覆う火傷が目立つ熟女が自分を見下ろしていた。


690 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:40:51 2u9a9XAg0



「救世主だ...」

バラライカが、襲ってきた吸血鬼を返り討ちにした後のことだった。
そう言って縋ってきたのは大量の忍者の恰好をした人間たちだった。

首輪を巻いていることから参加者だと思ったが、よく見れば明らかに参加者よりも多い。
しかもその大半が同じような恰好をしているものだから百戦錬磨の彼女も流石に面食らった。

が、敵対する意思は見受けられなかったため、ひとまずは穏便に彼らから事情を聞けば、さきほど自分が殺したのは吸血鬼であり、その集団に自分達は虐げられていたとのことだ。

しかし、殺し合いに関してはいつの間にかここにいたという事実を知っているのみであり、あのセレモニーや参加者の存在は一切知らないらしい。

バラライカは、参加者以上の人間を殺し合いに放り込む主催の意図は測りかねたが、これはこれで使えると判断する。

吸血鬼を斃したことにより信頼関係が既に出来上がっている以上、彼らを味方につけるのは容易かった。
忍者たちはバラライカを「救世主」と呼び、ほぼ一方的に彼女を慕いだしたのだ。

こうしてバラライカはホテルモスクワには及ばないものの、それなりの数の戦力を手に入れることができた。

辺り一帯の忍者を一通り面通しした彼女は、次に参加者との遭遇を目的とした。
赤首輪でも普通の首輪でもどちらでもいい。
まずは自分以外の殺し合いについて理解している者を欲した。それが戦力になればなおいい。

主催の言葉から判断すれば、おそらく忍者たちは赤い首輪の参加者を殺しても脱出できない。
だから、彼らが自分に協力するとしても、その本気の度合いはわからない。
だが、脱出するという明確な像があるものであれば、生き残るために本気で立ち回るだろう。
故に彼女は名簿上の参加者の協力者を欲するのである。


691 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:41:45 2u9a9XAg0

その名簿上の参加者を呼び寄せるために使用したのが拡声器だ。

無論、この殺し合いの場でこれを使うことがなにを意味するかがわからないほど彼女は愚かではない。

だが、モノは使いようであり使う者による。

彼女はこれを使用しても生き残る自信があった。算段があった。

『私の名前はバラライカ。この殺し合いから抜け出したい者は私のもとに集いなさい。場所はI-3の高層ビルよ。繰り返すわ』

だからこそ、こうして堂々とこの最後の支給品を使用したのだ。

やがて現れたのはオールバックで長身の青年―――加藤勝だった。
走って来たのか息切れしていた彼は呼びかけに応じたと叫んだ直後に蹲ってしまった。

それほど脱出したかったのか。

まああそこまで必死にここまで来たのなら、その点だけは認めておこう。
だがそれで戦力にならなければ意味が無い。
だから、まずは様子見の意味も込めて忍者たちに先に取り押さえに向かわせた。
結果はあっさりと捕まってしまったため、身体能力においてはそこまで評価できないと判断。
しかし、戦いとは身体能力だけで決まるものではない。
悪運やズル賢さ、顔の広さなども必要な要素になり得る。
そのため、バラライカは直接面通しをすることにした。

バラライカから見る限り、この加藤という男に特筆すべきところはない。
背丈は高いものの、それだけで彼と言う男を評価するのは難しい。

次いで交わすのは言葉だ。
言葉を重ねていけば、ある程度の人間性は垣間見ることが出来る。

「さっきのコールに応じてきたと言っていたけれど、あなたの望みはなにかしら?」

あそこまで胡散臭い言葉で流したのだ。なにか裏があるのではと察するのが普通だ。
だが、加藤は馬鹿正直に正面から入ってきた。本来なら警戒して然るべき場面でだ。
まさかあの言葉をただ信じてここまできた訳ではないだろう。

「望みってわけじゃないが、さっきのあれは、危ない奴らもおびき寄せるんじゃないかって心配で...」

そう思っていたからこそ、耳を通り過ぎるありえない言葉に思わず呆けてしまった。
わざわざ体力を消耗してあんな胡散臭い呼びかけに応じたのが、単に発信者の身を案じて?
生き残るための打算でもなく、偽りの善意だけで?


692 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:43:18 2u9a9XAg0

「―――クッ」

思わず笑みが毀れてしまう。

嘘ならばもう少しマシな内容にするはずだ。
だが、彼の眼はいたってまっすぐで純粋だ。もしもこれが演技なら賞をくれてやりたいと思うほど裏が見えない。
濁ったネズミや猛獣のような目の輩が蔓延るロアナプラで生きた身としては嘲笑の念が浮かばずにはいられなかった。

「な、なにか可笑しいことを言ったか?」
「あなた、あのコールが罠だったらどうするつもりだったの?いまは曲がりなりにも殺し合い。この状況で生き残れるとは思えないけれど」
「あ...」

言われて気が付いたと云わんばかりに開口する加藤に、ますます嘲笑の念が強くなる。
部下に聞かせれば軍曹ですら失笑し他の部下なら「ウッソだろお前、馬鹿じゃね?笑っちゃうぜ」と指差して腹を抱えるだろう。
この男、どうやら自分の求めていた人材とは百八十度違う男らしい。

(逆に言えば、こんな戦場のイロハも知らないスイートパイが他にもいる可能性が高いということかしらね)

だが、彼に価値がないかといえば断言はできない。
バラライカは、この殺し合いには自分のような狂犬と怪物しか招かれていないと思っていた。
しかし、この男を見ればそれは誤りだとわかる。

おそらく、この殺し合いにはこの男のような『甘ちゃん』が他にもいる。
それがどれほどの数かはわからないが、確かに存在している筈だ。
そんな中で、自分がいつも通りに振る舞えば、甘ちゃんどもに村八分にされるのは当然だ。
無論、お人好しどもがいくら集まろうとも生き残る自信はおおいにある。
だが、そんな輩に敵視されたせいで肝心な場面で邪魔されては非常に迷惑だし、奴らの排除に弾と労力を消費するのも惜しい。
ならば敵対もせず放っておくのもひとつの手段だが、それ以上に甘ちゃんだからこそできる仕事もある。


693 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:43:42 2u9a9XAg0

自分を慕い戦力となった忍者たちだが、彼らは何故か地図上の周囲1マス程度の距離までしか行動ができないようだ。
そんな彼らを偵察や郵便屋として使うのは難しい。
だが、参加者同士で組んで戦う場面が必要になった時、伝達手段がなければ不便もいいところである。
そこで役に立つのが加藤のようなお人好しだ。

彼のような男ならば、バラライカに信頼をおけば裏も無く伝達係なども引き受けるだろう。
また、他参加者の交渉役としても利用価値はある。
自分の知り合いは、ロック、レヴィ、シェンホアの三名。
その内、まともに交渉が出来そうなのはロックくらいだが、彼もまた裏社会で染みついた臭いがたたってか、時折、本能レベルで拒否されることがある。
世間的に言う『善人』と呼ばれる者の技術や経験が必要だった時に、自分の知る中では向いている者がいないのだ。
その点、加藤のようなお人好しは実に都合がいい。

加藤は己の利よりも他者の身を案じる男だ。
そんな彼ならば、ロアナプラの面々よりは甘ちゃん達の受けもよく交渉にも向いているだろう。

(とはいえ、なんの取り得もない者を頼りにするほど頭がハッピーではないけれども)

いまのところの加藤への評価は、平和ボケしたお人好し程度である。
そんな彼の評価を改めるには、彼と言う男を見定めなければならない。

「手荒な真似をして悪かったわね。取りあえず、ここで会えたのもなにかの縁だし情報交換といきましょうか」

忍者たちに指示を出し、身柄を解放させる。
彼女の口調は穏やかであるものの、その眼と表情は燻る狂気と闘争心を微塵も隠そうとはしていなかった。
促されるままに席に着いた加藤は、その放たれる威圧感と忍者たちの鋭い視線に胃を痛める思いで口を開いた。


694 : 火傷顔の救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:44:06 2u9a9XAg0

【I-3/一日目/早朝】

※周囲にバラライカの呼びかけが響き渡りました。

【加藤勝@GANTZ】
[状態]:健康、精神的疲労(中)、ゾッド・ワイアルドへの恐怖。
[装備]:ブラフォードの剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:バラライカと情報交換する。
1:計ちゃんとの合流。
2:ゾッドを追い詰めた参加者を探し協力を頼む
3:相場の語った赤首輪の参加者に注意。できれば説得して止めたいが...

※参戦時期は鬼星人編終了後。そのため、いまの玄野はガンツの記憶を無くし普通に生活している状態だと思っています。



【バラライカ@ブラックラグーン】
[状態]:健康
[装備]:トカレフ@現実
[道具]:トカレフの弾薬、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:『赤い首輪』の参加者を殺して脱出する。その過程での障害は排除する。
0:加藤と情報交換し、彼の価値を見定める。
1:『赤い首輪』を殺す準備を整える。
2:ラグーン商会の二人には会ってから考える






※NPC解説

【忍者@彼岸島】
彼岸島にて吸血鬼と対峙するレジスタンスたちの通称。
忍者と通称されているが、実際に忍者ではなくあくまでもそこそこ強い一般人である。
そのため、武器は手裏剣や忍法などは使わず、主に日本刀や丸太、時々西山の秘密兵器である。
忍者っぽい恰好をしているのは吸血鬼ウィルス感染を防ぐためだと思われるが実際は不明。
混血種である青山龍之介に鍛えられている筈だが、戦闘シーンはほぼかませの扱いでありあまり強い印象はない。
また、彼岸島に自生している疑いがあり、吸血鬼や邪鬼との戦闘でかなりの人数が戦死しても章をまたぐと人数が戻っているどころか増えていることもある。
ちなみに名前は『吉川』や『新田』、『細山』など普通の日本人姓が多い。


このロワでも相変わらず吸血鬼に抗っているらしい。
また、彼岸島での記憶はないため明や雅のことは全く知らない。
彼らも首輪がつけられており、生えてきたマスの周囲1マスからは出ることができない。
もしも出た場合は警告音が鳴り無視して進むと首輪が爆発してしまう。
この忍者たちは『I-2』から周囲1マスが行動可能エリアである。
現在は一部がバラライカの配下になっている。


695 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/01(水) 18:45:17 2u9a9XAg0
投下終了です

宮本明、鹿目まどか、ホル・ホース、シェンホア、スズメバチを予約します


696 : 名無しさん :2017/11/01(水) 21:55:07 JmUQ7Tj.0
シリアスに紛れてくる彼岸島クオリティ+淫夢に草


697 : 名無しさん :2017/11/01(水) 23:02:00 ewVGpQec0
投下乙です
忍者までいるとはたまげたなぁ…
人外や危険人物としか出会えてない加藤かわいそう、かわいそうじゃない?


698 : 名無しさん :2017/11/01(水) 23:08:39 SZcJxYsU0
ん?


699 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:34:03 zvdi1Ukw0
投下します


700 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:34:56 zvdi1Ukw0
「吸血鬼?」
「ああ。あんたがさっき殺した奴はそういう化け物だ。奴らの血液を体内に取り入れると感染して吸血鬼になってしまう。だから奴らの血液には気を付けるんだ」

吸血鬼達の残骸から離れた場所で、明、シェンホア、まどか、ホル・ホースの四人は情報交換に勤しんでいた。

「でも、なんで吸血鬼がここニ?おたくのいう彼岸島とやらから連れてこられたにしても参加者以上に数が多いのはおかしい話ですだよ」
「俺もそう思って最初に尋問したんだ。だが、奴らはなにも知らないといっていた」

明は、まどかとホル・ホースに出会う前にも吸血鬼と遭遇していた。
始めは参加者だと思っていたが、明らかに人数以上のそれを不審に思い、1人を残して尋問にかけた。
その結果、彼らは殺しあいには関係しておらず、明や雅のことも知らないとのたまった。

あるだけの情報を聞き出した明はその吸血鬼の首を刎ね、その矢先にまどか達の騒動を聞きつけたのだ。
ちなみに、まどか達には精神衛生上よくないと判断し、その尋問の詳細は伏せている。

「妙な話ね。あの男、私たちに戦え、最後の一人になるまで殺し合え言った。けれど、あんな怪物がいれば参加者同士が協力する余地が出てくるますよ」
「そうだな。俺もそこが引っかかっていた。なぜあいつは吸血鬼をこの島に...?」
「サァ、それはそこの色男(ロメオ)が知ってるではないですか」

言うが早いか、シェンホアの剣がホル・ホースの喉元に突きつけられる。

「...俺がなんだってんだ?悪い冗談はよしてくれや」

シェンホアへと向けて牽制のために皇帝を構えつつ、ホル・ホースの背を冷や汗が伝う。
彼女の急な転換に、らしくなく動揺し反応が一歩遅れてしまった。
というのも、自分が吸血鬼に関わりがあるなど、彼からしてみれば言いがかりにもほどがあるのだ。
百戦錬磨の彼とはいえ、反応が遅れてしまうのも無理はない話である。

明もまた遅れてドラゴンころしを構え殺気を放つ。
その矛先はシェンホア。彼もまた彼女の意図を測りかねていたのだ。


701 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:35:21 zvdi1Ukw0
「ど、どういうことなんですか?」

まったくもって事態の展開に理解が追いついていないまどかが、二人の代弁をするかのように呟く。

「おたくら、名簿をしっかり見ましたですか?その男、この中でただ一人名簿に載ってないね」

シェンホアの言葉に従い、まどかは慌てて名簿を取り出し確認する。
自分と知り合いの名前だけに注視していたため他の名前が疎かになっていたが、彼女の言う通りだ。
59名の参加者の中に、ホル・ホースの名はない。
明も確認しようとするが、いま構えを解けば、シェンホアはホル・ホースを襲うかもしれない。
そのため、まどかに頼み、明のデイバックの名簿を確認させる。
やはり、その中にホル・ホースの名は無い。
つまり、彼は参加者ではなく吸血鬼たちと同じ立場にあるということだ。

「この男が二人と同行していたのは、いずれ隙をつくためと考えれば無理はない。違うか?」
「悪いが答えはNOだ。どうして俺の名簿以外に俺の名前が載ってないかはわからねえけどな」

そうは言いつつも、チラと視線を明に送る。
果たして自分は信用されるだろうか。まだ明たちとは会って数時間の関係だ。
下手に捲し立てれば不安を煽ると思い、あえて正直に、言葉数は少なくした。
とはいえ、自分が逆の立場であればそれでも警戒心は抱く。
果たして彼らに自分の願いは届くのだろうか。

「わ、わたしはホル・ホースさんは嘘を言ってないと思います」

控えめながら、しかし確かな意思を持ってまどかが口を開く。

「どうして言い切れるですか?」
「ホル・ホースさんは吸血鬼に襲われてたわたしを助けてくれたんです。演技だったら、あんな目に遭ってまで助けてくれるとは思えません」
「俺もまどかに同意見だ。むしろ、こういった名簿に記載されていない参加者を混ぜて疑心暗鬼を謀っているんだと俺は思う」


702 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:35:53 zvdi1Ukw0

蒔いた種が活きた感覚とはこういうものだろう。
まどかも明も、目の前の懐疑より先の労を認めてくれた。
信念に従い失禁までした価値があった。

「シェンホア、剣を下ろしてくれ。無駄な争いはしたくない」
「...わかりましたですよ。色男、恨むなら自分の運の悪さを恨むよろし」
「構いやしねえよ。こんな状況、疑ってかかってなんぼだ」

男相手なら愚痴のひとつやふたつは言いたくなるものだが、相手は女性。
それも裏社会に生きている女だ。下手に刺激するのを避けるため、ホル・ホースはその言葉でこの件を終わらせた。

(しかしなんで参加者以外の奴がいるか、か...まあ、なんとなく察しはつくがねぇ)

今まで散々な"ゲスやろう"とも組んできたため、この悪趣味な催しを開いた者の思惑もなんとなく察せる。
殺し合いの参加者を縛る最大の要因は首輪だ。
参加者同士が手を組んで怪物対策に走れば、自然と首輪に関しての調査は疎かになりそのぶん脱出までの時間は長くなる。
だがこんな殺し合いで時間制限が決められていないとは思えない。数日経過しても誰も殺し合っていないという事態に陥れば、主催が痺れを切らして全員の首輪を爆破する可能性は十分に考えられる。
そこで、あと一日で全員の首輪を爆破するとでもアナウンスすれば、嫌が応でも参加者同士で殺し合うハメになる。
ただでさえ化け物対策で手いっぱいのところでそんなことを伝えられればチームの崩壊は必至。最終的には脱出派が詰み主催の奴が勝利する。

狙いはおそらくそんなところだろうが、それを明たちには伝えない。
万が一、そうする必要が出てきた場合に、あの化け物じみた強さを誇る明に警戒されるのはたまらないからだ。

そんなホル・ホースの黒い考えに気付かず、一行は情報交換を再開する。

「雅。ソイツが吸血鬼のボスか」
「奴はとてつもなく強いだけではなく、驚異的な不死身性を持っている。首を刎ねようがバラバラにされようが死ぬことはないんだ」
「それはまた厄介なことね」
「ああ。だから、奴と遭遇した時は一目散に逃げるのも手だ」
「そうさせてもらいますですね。斬っても死なない化け物殺し、仕事の範囲外ね」


703 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:36:21 zvdi1Ukw0

刀の血を拭きつつ言葉を交わすシェンホア。
明はそんな彼女の得物を凝視する。

(あれはまさか...)

脳裏にひとつの背中がよぎる。
敬愛し、尊敬した実の兄、宮本篤の背中が。

間違いない。
あの長さや刃渡りは、確かにあの雪山での戦いで手に入れ、兄に託したあのとんでもなく長い刀だ。

なぜこんなところにあるのか。
その疑問よりも、明は己の思いを口にしていた。

「シェンホア、突然ですまないが、その刀を譲ってくれないか」

シャンホアは思わず呆気にとられてしまう。
当然だろう。
なんせこの殺し合いの場、生き抜くために必要な武器を渡してくれというのだから。

「その刀は俺の兄貴が使っていた刀なんだ。だから...」
「私もこれを手放したら丸腰ね。おたくがもっと使いやすい刃物を持ってるなら交換考えてあげてよろし、けれど...」

シェンホアはドラゴンころしを指差しながら続ける。

「アレじゃお話にならないね。アレは刃物言うよりは塊、ましてやロクに振り回せないとなれば尚更よ」
「...そうだな」


704 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:36:53 zvdi1Ukw0

できれば強力だが扱い辛いドラゴンころしと交換できれば、と考えていた明だが、案の定の結果に小さく溜め息をついてしまう。
明はチラ、と後ろの二人に視線を送るが...

「...見るかい旦那、俺の支給品」

苦笑いを浮かべつつ、ホルホースはデイバックから己の支給品を取り出す。
彼の手にあったのは、青を基調としたペンギンのようなヌイグルミ。

「ポッチャマ...とかいうキャラクターのヌイグルミらしいぜ。特に仕掛けはねえ」
「...まどかはどうだ」
「えっと、わたしは...」

まどかが取り出したのは、長髪で目付きの悪い少女が写された写真。
少女の名前は小黒妙子。名簿にも連ねられているが、それ以外の情報は記載されておらず、かといって一同の誰も彼女のことを知らないため、捜索にいこうという話題にもならず。
結局のところ、この支給品もロクに役に立ちそうにない。

あまりの役立たずな支給品に困惑の空気になる一同。
スタンドのあるホル・ホースはまだマシだが、なんの力もない少女にゴミ同然のものを渡すあたり、主催はなにを考えているのだろうか。

結局、シェンホアの刀に見合う物はなく、明は渋々とこの話を切り上げた。

次いで交換するのは、互いの知り合いについてだ。

「あの、シェンホアさん。ここにくるまでにわたしと同じくらいの歳の女の子と会いませんでしたか?」

最初に口火を切ったのは意外にもまどかだった。
合流すべき友人が殺し合いに連れてこられているため、自然とそうなってしまうのだが。

「わたしが出会ったのはサングラスかけた赤首輪の厳つい男ね。それ以外はお嬢さんらが初めてよ」
「そう、ですか...」
「まあ、そんな都合よくいかねーわな」


705 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:37:52 zvdi1Ukw0

ホル・ホースが肩を落とすまどかを軽く宥める傍ら、次いで口を開いたのはシェンホアだ。

「私、サングラスの男からジョン・コナーいう男の子の捜索を頼まれたね。知らないか?」
「いや、俺たちも赤い首輪のすばしっこい子供と吸血鬼しか会っていない。あんたは知り合いはいないのか?」
「いるにはいるですが、特別合流しようとは思いませんですよ。レヴィとバラライカ、この二人ね」
「敵対しているのか?」
「いいえ、流石にこの状況で足引っ張り合おう思わない。向こうはどう思てるかわからないけれど」
「殺し合いに賛同する可能性はあるのか?」
「ありますよ。レヴィ言うクサレアマは仕事の依頼もないこんな場所じゃ、銃で暴れてお終いね。
バラライカの姉御は」『私の名前はバラライカ。この殺し合いから抜け出したい者は私のもとに集いなさい。場所はI-3の高層ビルよ。繰り返すわ』

シェンホアの言葉を遮るように、遠方より響くバラライカその人の声に、シェンホアは思わず肩を竦めてお手上げだ、とポーズをとる。

「あの通り、頭の線が焼きキレてるからなにしでかすかわからない」
「協力は無理なのか?」
「状況によるですだよ。あのアバズレは敵に回すと厄介、けど味方としても仕事が絡まないと短気すぎて制御が難しい。
バラライカの姉御は絶対に敵に回しちゃいけない女。味方としては気が合う奴(ウォーモンガー)はイイけれど」

シェンホアがまどかの頬を軽くつつき笑みを浮かべる。

「そっちの二人はともかく、お嬢さんみたいなのは門前払いなら幸運(ラッキー)、それ以外は餌か盾にされるのがオチね」

まどかの背筋に怖気が走り、喉が鳴りかける。
シェンホアは軽い調子で告げてくれているが、冗談の類などではないことがひしひしと伝わってくるのだ。

「...それで、あんたはあの呼びかけは無視するのか?」
「そーねぇ」

顎に手をやり、考え込むこと約1分。

「とりあえず顔だけ出しておくね。いざという時に獲物の取りあいになるの一番面倒よ」

仮に自分が赤首輪の参加者を見つけられて。
いざ狩ろうとした時に偶然居合わせたバラライカと衝突、などという展開は好ましくない。
別に彼女を殺めることに躊躇いがある訳ではないが、単に死ぬほど苦戦してまで彼女と戦う意味はないのだ。
ならばあらかじめ彼女の行動する範囲を知っておくなり共に行動して一番乗りを諦める方が賢い立ち回り方である。


706 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:38:20 zvdi1Ukw0

「そうか。...まどかはそのバラライカとは相容れそうにないと言っていたな。ホル・ホース、あんたはどうする?」
「俺は彼女の傍にいるぜ。あんたもそうなんだろ?」
「ああ。俺も、どうにもあの手の奴とは相容れそうにない」

ホル・ホースとしては、可能な限りは手駒を増やしたいと思っている。
また、彼の長所は相方の能力を活かし存分に発揮させることである。相方が率先して動いてくれるぶんには問題なく、むしろそちらの方が助かる面もある。
人柄の良し悪しも大した問題ではない。最低限の実力があり、協調性があればそれだけで充分だ。
だが、この殺し合いの場ではそうもいかない。

聞けばバラライカという女はとんでもなくヤバイ女である。
あの呼びかけも、妙に自信のある声音からして普段の通りブレていないことが窺える。もしかしたら集まった者を一網打尽にする腹積もりなのかもしれない
そんな大多数の参加者を敵に回しやすい女と、強さはイカれているが良識も持った明。
どちらの傍にいる方が安全かは比べるべくもないだろう。

「そ。じゃあここでお別れね。あなたたち、連れてきてほしい者はいるか?あなたたちのところまで運ぶなら1人につき支給品1つ、名前だけならロハで構わないですだよ」

明はチラ、とまどかとホル・ホースにお前達はどうする、と視線を投げかける。

「じゃあ、あの、志筑仁美ちゃんがいれば、わたしが探してたことを伝えてください」
「志筑仁美ね、了解了解。他は大丈夫か?」
「...ああ。問題ない」
「それじゃあお元気で」


ひらひらと手を振り明たちから離れていくシェンホアの背中が遠ざかっていく。
その背が見えなくなったところで、明は口を開いた。

「他の娘たちはよかったのか?」
「...はい」


本来ならば、さやかやほむら達魔法少女の名も伝えて然るべきである。
だが、シェンホアが先程バラライカを引き合いに出した時、『獲物の取りあい』と口にした。
それを聞き逃さなかったまどかは、魔法少女たちの名を伝えるのを憚れた。
万が一にも彼女達が自分の名をダシに騙されるのを防ぐためだ。
シェンホアに嘘をついているようで後ろ髪を引かれる思いではあったが、魔法少女の真実を知って以来、なにもかもを純粋に信じられるほど無垢ではいられなくなったのも事実だ。
そんな彼女が、会ったばかりのシェンホアに全幅の信頼を置くのは難しい。
拙いなりに考えた結果、魔法少女ではなく狙われる危険の少ない仁美の名前だけを伝えたのだ。

(なるほど。あの反応、知り合いに賞金首がいるようね。鹿目まどかと志筑仁美の間にある『暁美ほむら』『巴マミ』『美樹さやか』『佐倉杏子』あたりがおそらく当たり)

だが、決断空しく。むしろ、まどかの反応からシェンホアは賞金首の存在を勘付いていた。
鹿目まどかはつい先ほどまで敵対もせずごくごく普通に話していた少女だ。
しかし、そんな彼女の友達だろうがシェンホアには関係ない。
ロアナプラではつい先日まで世間話をしていたガンマンたちが翌日には獲物を狩るために競争して本気で殺し合う。
そんな街の住人に、殺し合いでの微かな時間に情が湧くはずも無く。
もしもシェンホアが魔法少女を獲物だと認めれば、容赦なくその刃は血に濡れることだろう。


【G-2/一日目/早朝】


【シェンホア@ブラックラグーン】
[状態]:健康
[装備]:とんでもなく長ェ刀@彼岸島
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:生き残る。手段にはこだわらない。
1:バラライカの呼びかけに興味。
2:レヴィたちと合流するつもりはないが敵対するつもりもない。
3:T-800からの依頼(ジョン・コナーを探す)は達成したいが、無理はしない。

※参戦時期は原作6巻終了後です。
※明・ホルホース・まどかと情報交換をしましたが、魔法少女についてはほとんど聞かされていません。が、なんとなくまどかの知り合いに赤首輪がいることは勘付いています。
※ロックの本名『岡島緑郎』について知らないので彼の存在を認識していません。


707 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:38:41 zvdi1Ukw0


「旦那よ、俺たちはこれからどうする?」
「とりあえず島の中央に向かおうと思う。島の端よりは誰かに会える可能性が高いからな」

明の提案に、ホル・ホースは一瞬渋い顔をする。
人通りが多ければ、それだけ危険人物と遭遇する可能性も高い。
もしかしたら雅やDIOのような吸血鬼も食糧を求めて集まってくるかもしれない。
しかしだからといって、ずっと隅に隠れていればいいかといえばそうではない。
脱出するにせよ赤首輪を狩るにせよ、もしもひたすら隠れ待っていて時間制限が迫れば打つ手がなくなってしまう。
それに、後手にまわることで承太郎が流すであろう悪評が蔓延るのも防ぎたい。
あらかじめ他の参加者にコンタクトをとっておけば、全員が全員承太郎を信用することはなくなるだろう。

こんな状況だ。デメリットゼロで事が済むとは思えない。ならば、ある程度のデメリットは覚悟で進むしかない。
結局、ホル・ホースは明の提案に乗ることにした。

「まどか。お前はどうしたい?」
「あっ、わたしも賛成です、けど、その...」

顔をほんのりと赤らめつつもじもじと身を捩らせるまどかに、疑問符を浮かべる明。
言わなくてはならないのか。躊躇いつつも言葉に出した。

「その、トイレに行きたくて...」
「トイレ?吸血鬼に噛まれてあんなに出したのに?」

まどかの顔が更に赤みを増すのを見て、相棒の不甲斐なさにホル・ホースは深く溜め息をついた。

「旦那よぉ、ちったあ女心ってやつを理解してやらなきゃ駄目だぜ」
「え?あっ...」

ホル・ホースの、まどかの言わんことを遅れて理解し、今度は明の顔が赤に染まる。

「す、すまん。その、ここ最近男連中がほとんどの環境にいたから...」

まるでまだ垢抜けない少年のようだ。
慌てて取り繕う明にそんな感想を抱きつつ、ホル・ホースはつい噴き出そうになった口元を抑える。
ついさっきまで修羅のような顔をしていた男とは思えぬ姿がたまらなくおかしかったのだ。


708 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:40:04 zvdi1Ukw0

そんな彼の様子に気が付いたのか、明は照れ隠しの意味も込めてコホンとひとつ咳払いしつつ二人を連れて公衆トイレへと向かった。

明はまどかが入るよりも先にトイレへ踏み入り中を物色し成果を告げた。

「中には誰もいなかった。隠れる場所も見当たらないし、この入口さえ見張っていれば大丈夫だろう。ただ、トイレットペーパーだけは見当たらなかった」

トイレは汚くなくどちらかといえば全体的に綺麗な様相であったが、何故かトイレットペーパーだけは設置されていなかった。
もしや主催が変態利用目的で盗撮しているのでは、と監視カメラを探したが見当たらず。
もしや紙を切らすことで尻を拭けなくし動けなくするのが目的なのだろうか。
全くもってその意図は図りかねるが、紙がない以上どこからか調達する他ない。

「なら俺が探してくるぜ。旦那は嬢ちゃんを見張っててくれ」

名乗りを上げたホル・ホースに明は特に異論をはさまず、そのまま紙を探しに行く彼の背を見送った。

彼が自ら探索役を買って出たのは二つの理由がある。

ひとつは出入り口の見張りの役に回されるのを避けるためだ。あの位置では姿を隠しての襲撃に気付き辛く、スタンドが拳銃の彼では対処が難しい。
空条承太郎の『星の白銀』のような人型のスタンドであれば、多少はダメージを受けることになろうともスタンドで己の身体を庇えば致命傷は避けられる。
だが、拳銃で護るには自分で攻撃を視認し、狙いを定め、撃ち落とすという行程をこなさなければならない。
至近距離での暗殺をする分には強い皇帝だが、される側になると脆いのだ。

もうひとつは危険人物に遭遇した時だ。
もしも明に紙を探しに向かわせた場合、待機している自分に危険人物が現れた時、どこに向かったかわからない彼を探しに行く必要がある。
だが自分が探しにいけば、危険人物と遭遇した時もトイレで待っている明のもとまで逃げ出せばいい。居場所がわかっていれば状況もかなりマシになるのだ。

それらの打算のもと、彼は紙を探す役目を引き受けたのだ。

(魔法少女だなんだと関わりがあっても、やっぱりただの女の子ってとこか)

まどかが用を足すことにホル・ホースは苛立ちを抱かない。
こんな状況だ。緊張と恐怖で腹を下すなんてのは自然なことである。
もしもこれで自分が死ぬようなハメになれば、流石に彼女のいないところで文句のひとつもでるだろうが、そうでない限りはイチイチ騒ぎたてるようなことはしない。
むしろ、そんな殺し合いとは無縁な一般人を保護しているアピールになるため都合がいいのだ。

「しかし紙、紙ねぇ...ティッシュでもありゃいいんだが」

生活の中でトイレに使える紙というものは存外少ない。
探す事数分、どこにも紙らしきものは見当たらなかった。

(まいったな...チト可哀想だが、葉っぱで拭いてもらうしかねえか)

ホル・ホースは大きめの葉っぱを数枚千切り、明たちの待つトイレへと足を向けた。


709 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:40:43 zvdi1Ukw0

ビンビンビンビン

そんな彼の耳に届いたのは声らしき音。
それは確かにこちらへ向かっている。
敵襲か?だとしたらなぜあんな声を?

ビンビンビンビン

ホル・ホースは側の物陰に姿を隠し音の出所を探る。

ビンビンビンビン

歩いている者はいない。
音はいまだに近づいてきているため、どこかに隠れている訳ではあるまい。
では、音の主は何処へ?

ビンビンビンビンビンビンビンビン


頭上を通り過ぎる音。
既に接近していたというのか。ほとんど反射的に皇帝を構え牽制をかける。
瞬間、彼の思考は停止した。
なんせ自分が銃を突きつけたのは自分のしるものより一回りも大きい蜂。
それも、頭部が人の顔の所謂"人面蜂"だったのだから。

呆気にとられるホル・ホースの存在にきがついたのか。
人面蜂―――スズメバチはピタリと停止しその顔をホル・ホースへと向ける。

狙い定められた銃口と彼の顔を交互に眺め、やがて口を開いた。



チ ク ビ 感 じ る ん で し た よ ね


710 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:41:09 zvdi1Ukw0

それが攻撃の合図だった。
ホル・ホースは本能的に危険性を察知し、息ひとつ乱さず弾丸を発射。
スズメバチの眉間へと放たれた弾丸は、しかし吸い込まれることなく躱される。
スズメバチはそのまま急降下し、尻の針で狙いを定める。
狙うは乳首。
今まで数多の抵抗をしてきたゆうさくを葬ってきた必勝ポイントである。
ホル・ホースの右乳首に針が刺さる寸前にまで迫るも、しかし上空からの殺気に後方に下がる。
銃弾だ。さきほど躱した筈の銃弾が上空より軌道を変えて襲ってきたのだ。

ビビビビビビ

スズメバチはいまの攻防でホル・ホースを危険な敵だと認識したのか、威嚇しつつ空中で停止し様子を見ている。


(や...やべぇ)

ここにきて、ホル・ホースの額についに冷や汗が滲む。
人面蜂は今まで見たことがないが、あの臀部の縞模様は見覚えがある。
たしかあの紋様は、『スズメバチ』だ。
昆虫に詳しい訳ではないが、蜂の中でもとりわけ獰猛且つ危険な蜂であることくらいは小学生並みの感想程度には理解している。
二度刺されれば高確率で死に至る。
そんな蜂が巨大化し、それに伴い毒も強くなっていれば―――考えただけでも恐ろしい。

いまこの場で赤い首輪を仕留めれば一足先に脱出できる。
その考えがよぎる暇も無く、彼の脳内では逃走経路のシュミレーションが為されていた。
それが影響してか。ホル・ホースの足は自然と後方に下がりつつあった。


711 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:41:29 zvdi1Ukw0

瞬間。

スズメバチは再び接近を開始する。
この男は逃げるつもりだ。
逃げられればどうなるか。
自分の噂をばら撒かれ、多くの参加者に狙われることになるかもしれない。
この傷ついた身体に多勢に無勢で襲われれば、ゆうさくを刺すどころではなくなるかもしれない。
なんとしても仕留めなければ。

ホル・ホースが再び右腕で皇帝を構え、弾を発射する。
だが、先程よりもタイミングが微かに遅れている。
これさえ躱せば、弾の軌道を変化させられようとも問題ない。
自分に向かってくるまでに彼の乳首を刺せるだろう。

スズメバチが弾丸を躱し、勝利を確信したその瞬間、彼の視界は漆黒に染まる。

なにが起こったのかを理解する間もなく、スズメバチは上空からの力に圧され地面に叩き付けられた。
激痛が支配し、漆黒の空間の中を悶えまわる。いまのスズメバチならば子供でもその息の根を止めることができるだろう。

(チクショウ!こんな化け物みてえな虫とやりあってられるか!)

だが、そんなことはつゆ知らず、ホル・ホースは脱兎のごとく逃げ出していた。

彼はスズメバチが迫るその瞬間に、弾丸を曲げるのではなく空いている左腕で己のテンガロンハットを網代わりにしスズメバチへと振り下ろした。
弾丸を曲げてくると思い込んでいたスズメバチは対応が遅れ、為すすべなく捕まってしまったのだ。
地面に叩き付けたテンガロンハットの上から追撃として踏み殺そうとしたホルホースだが、この島に大量に生息している吸血鬼の例を思い出して踏みとどまる。
たしかスズメバチには仲間を集めるフェロモンを発する特性があったはず。
もしもこのスズメバチがあの吸血鬼のように大量に存在していれば、まず間違いなく逃げきれない。
赤首輪は参加者の脱出への引換券のため、大量に置いておくとは考えづらい。だが、もしも万が一、スズメバチが大量に潜んでいれば。
脱出する前にその群に襲われれば。まさに身震いするほどの地獄絵図の完成だろう。


それに、逃走を促したのはなにも臆病風だけの話ではない。
ホル・ホースがテンガロンハットを振り下ろしたのとほぼ同時、スズメバチは反射的に毒液を発射し彼の右腕に付着させていたのだ。
一方通行ら相手にも披露したこの毒液だが、スズメバチの身体のサイズもあり、かなり強力なものとなっている。
肌が弱くない者は浴びれば即死はしないものの、戦闘続行を困難にさせるには充分すぎる。
それが、ホル・ホースに「まだ動けるのではないか」という疑惑を募らせ、その万が一の可能性を考慮し、ホルホースは目先の利益よりも第一の保身を考え逃走を選んだのだ。


トレードマークであるテンガロンハットの蠢く様に肝を冷やしつつ、ホル・ホースは相棒のもとへと走り去っていった。


712 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:41:54 zvdi1Ukw0


公衆トイレの入り口。
その脇で明はドラゴンころしを手に周囲の見張りに努めていた。

「本当にごめんなさい」

トイレの個室から呼びかけるまどかに、明は耳と意識だけを傾けて話を聞く。

「わたし、何にもできないのに、足ばっかり引っ張ってて...」
「......」

まどかの独白に、明はただ黙って耳を傾けている。

「こんな状況なんです。なにが起こってもおかしくない。なのに...みんながいなくなっちゃうかもしれないと考えると、それだけで...」

まどかは既に三人の友の死を経験している。
その辛さも、悲しさも、虚しさも。全て解っているのに、可能性を思い浮かべるだけで緊張と恐怖でどうにかなってしまいそうになる。

「明さん、もしもわたしが邪魔だと思ったら、ホル・ホースさんと一緒に置いていってください。そして、どうかみんなの力に...」
「...まどか。お前は、友達が死んでも本心を隠して『仕方ないことだ』で済ませられる人間になりたいのか?」

え、とまどかの声が小さく漏れる。
その明の言葉には厳しさはなく、むしろ優しい声音で語りかけている。
顔は見えないが、その顔は微笑みを浮かべているであろうことは容易に想像できた。


713 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:43:05 zvdi1Ukw0

「彼岸島ではそうするしかなかった。仲間が吸血鬼になっても躊躇わずに殺す。それを繰り返す度に、自分の中の全てが狂い、どれだけ親しい友達を殺しても割り切らなければ生きていけなくなった。お前はそんな俺たちを強いと思うか?」
「......」
「確かに俺は剣の腕は上達した。けど、その代わりにまともじゃなくなっていくならそれは決して正しい強さじゃない。正しい強さってのは、こんな状況でも誰かの死を仕方ないで済ませられない心だと俺は思う」
「明さん...」
「誰の犠牲も許せないお前を見ていると、俺は正気を保てる気がするんだ。お前には帰る場所がある。だから、お前はお前のままでいてほしい」

明の言葉を聞き、まどかは小さく「ごめんなさい」と呟き、それを聞いた明は「またごめんなさいか」と思ったが、それは口に出さなかった。
そういう時はありがとうでいいんだよ、などという加藤のようなキザッたらしい台詞は気恥ずかしくて言えないし、まどかはそれだけ他者に気を遣える人間なのだろうと、むしろそれを好意的に見ていた。
ここにいない色男ならどんな対応をするだろうか、などと考えていた時だ。


「た、助けてくれ旦那ァ!」

噂をすればなんとやら。
紙はあったのかと聞こうとした明だが、彼の様子を見ては憚られる。
この慌てようはただ事ではない。

明が口を開く前に、ホル・ホースが凄まじい剣幕で捲し立てる。

「ハ...ハチだ。人の顔がついた巨大なスズメバチだ!」

齎された情報は、あまりにも奇想天外なものであり、明も思わず呆気にとられてしまった。


【G-2/一日目/早朝】

【宮本明@彼岸島】
[状態]:雅への殺意、右頬に傷。
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]: 不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 雅を殺す。
1:吸血鬼を根絶やしにする。
2:ホル・ホース及びまどかとしばらく同行する(雅との戦いに巻き込むつもりはない)
3:邪魔をする者には容赦はしない。
4:は?人の顔がついたスズメバチ?

※参戦時期は47日間13巻付近です。
※シェンホアと情報交換をしました。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、失禁、トイレの個室にいる。
[装備]: 女吸血鬼の服@現地調達品、破れかけた見滝原中学の制服
[道具]: 不明支給品0〜1、小黒妙子の写真@ミスミソウ
[思考・行動]
基本方針: みんなと会いたい。
0:ほむら、仁美との合流。マミ、さやか、杏子が生きているのを確かめたい。
1:明とホル・ホースと同行する。
2:あの子(ロシーヌ)の雰囲気、どこかで...?
3:なにかあったのかな

※参戦時期はTVアニメ本編11話でほむらから時間遡航のことを聞いた後です。
※吸血鬼感染はしませんでした。
※シェンホアと情報交換をしました。

【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労 (大)、精神的疲労(大)、失禁、額に軽傷、スズメバチの毒液による腫れ
[装備]:吸血鬼の服@現地調達品、いつもの服、ポッチャマ...のヌイグルミ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ、
[道具]:不明支給品0〜1、大きめの葉っぱ×5
[思考・行動]
基本方針: 脱出でも優勝でもいいのでどうにかして生き残る
0:できれば女は殺したくない。
1:しばらく明を『相棒』とする。
2:DIOには絶対に会いたくない。
3:まどかを保護することによっていまの自分が無害であることをアピールする(承太郎対策)。
4:そういやこいつら、スタンドが見えているのか
5:なんだあのハチ!?

※参戦時期はDIOの暗殺失敗後です。
※赤い首輪以外にも危険な奴はいると認識を改めました。
※吸血鬼感染はしませんでした。
※シェンホアと情報交換をしました。


※支給品解説

【ポッチャマ...のヌイグルミ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
今も尚発売されている某モンスター捕獲ゲーム(通称ポケモン)のキャラクターを模したヌイグルミ。
おそらくポケモンで一番風評被害を受けたキャラクター。
『空手部・性の裏技』本編にてMUR大先輩が野獣先輩と共にKMRをレ○プする際に発した『こっちも...』の空耳が元ネタ。
BB先輩劇場にてヌイグルミが出てくると大概ポ○チャマのヌイグルミが使われるのはこのため。


714 : 警鐘 ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:43:23 zvdi1Ukw0

主が去った後のテンガロンハットは、静けさに包まれていた。
そこに潜んでいたはずの住人は、先程までの暴走とは裏腹に、微動だにせず止まっている。
当然だ。なんせ、地面に叩き付けられた衝撃はいまの身体には無視できないダメージであり、再生能力もない彼にとっては致命傷になりうるものだったのだから。
薄れゆく意識の中、彼は実感した。


これはあくまでも殺し合い。誰もかれもに可能性のある平等こそが基本ルール。
故に、スズメバチがゆうさくを刺して物語に終わりを告げるという御約束も通じはしない。

一方通行のような強力な能力者に攻撃されても自分は動ける程度には無事だった。だからゆうさくを刺すまでは絶対に死なないと思っていた。
だが、いまはホル・ホースのような銃弾を曲げることしかできない程度の人間に瀕死に追い込まれた。
そう。この殺し合いではゆうさくを刺さずとも自分の命が絶たれる可能性は非常に高いのだ。

そんな中で彼が覚えたのは、ゆうさくに幾度も与えてきた"死"という恐怖。
この脅威に晒された彼が如何なる道を進むかは、誰にもわからない。


【G-2/一日目/早朝】

【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、怒り、全身傷だらけ。死への恐怖。テンガロンハットの中
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:注意喚起のためにゆうさくを刺す。邪魔者も刺す。
0:気絶中。なにがあった?
1.白い少女(スノーホワイト)に激怒。
2.ビンビンビンビンビンビン……チクッ


※刺した相手を必ず殺せます。
※相手がゆうさくでない場合、邪魔をしなければ刺しません。
※毒液を飛ばす術を覚えました。


715 : ◆ZbV3TMNKJw :2017/11/08(水) 01:43:50 zvdi1Ukw0
投下終了です


716 : 名無しさん :2017/11/08(水) 15:58:07 xdbOEBpE0
投下乙です。
ホモビが紛れ込んでいるとどんな場面でも草不可避。投下される度に地の文に刷り込まれる淫夢語録を探すのが癖になっちゃったよヤバイヤバイ……
SNHA姉貴に限らずロアナプラの連中は流血に場馴れ過ぎてて堅実ですよね。さすが仕事人
AKR兄貴とHORUHOS兄貴のコンビは安定感あるけど、唯一の一般人であるMDK姉貴が不穏な二人の精神状態を解してて良い。これって、勲章ものですよ…
注意発起というお約束を果たせず早くも死にかけているスズメバチ、頑張って、どうぞ
彼がゆうさくをさせる日がくるのかこれもうわかんねぇな


717 : 名無しさん :2017/11/16(木) 17:24:08 O1cX1iqo0
投下乙です
明さん、ホルホース、まどかの結構相性良いトリオは見てて楽しいからいいゾ〜これ
まどマギ組がシェンホアに狙われたり、注意喚起所じゃなくなってるスズメバチとすっごいカオス


718 : 名無しさん :2018/01/02(火) 16:38:42 6m4tBqJY0
支援


719 : 名無しさん :2018/01/02(火) 22:24:45 Gewtvry.0
予約が来たと勘違いするから一々ageるのはやめて、どうぞ


720 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:06:44 Rw7kDA2Y0
明けましておめでとうございます
ゲリラ投下します


721 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:10:36 Rw7kDA2Y0
甲賀弦之介は空を見上げていた。
時刻はまだ夜。
辺りに照明などはなく、月明かりだけが己を照らす導となる。

(...美しいな)

夜空に浮かぶ満月に、そんな感想をポツリと浮かべる。
その言葉に偽りなどない。
だが、美しく思う一方で空しさを覚えているのも確かだ。

その空しさは、きっと彼女によるものだろう。
ほんの数日前までは、彼女と色々な景観を楽しみ、共に笑みを、心の温もりを交し合っていた。
身体で繋がることはなかったが、互いの手で触れ合い、寄り添いながらあんな月を眺めたこともある。
だが、もうその温もりは訪れない。
彼女、朧の真意がどうであれ、自分との逢瀬は二度と叶わないだろう。

(...わしは、未だに朧への未練を断ち切れぬか)

いまは殺し合いの最中だというのに、なんとも気の抜けた様であろう。
それほどまでにあの至福の時に恋焦がれている。
こんな有様、他の甲賀の衆には見せられないなと思いつつ、脳裏から彼女の姿をひとまず消し去る。

ただ、その意思に反してか、やはりその眼は夜空の月を見上げてしまう。

そんな視界の端をよぎるは黒い影。

影は、弦之介の眼前にまで迫り、停止。
彼はそこまできてようやく眼前に浮かぶのが昆虫のような身体の少女であることを認識することができた。

くすくすと笑うその少女の異様さに、弦之介は思わず言葉を失う。
自里にも風待将監や地虫十兵衛のような己の忍法を活かす為に特異な身体を有しているが、少女のそれは彼らとはまた似ても似つかぬ様相である。
まるで、人間と異性物を混ぜ合わせたようだ。そんな印象を抱かせた。


722 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:10:57 Rw7kDA2Y0
「こんばんわ、おにーちゃん」

にこりと微笑む少女に、弦之介は毒気を抜かれつられて挨拶を返す。

「うむ、こんばんわ」
「私はロシーヌ。エルフだよ」
「えるふ...?」
「エルフを知らないの?遅れてるなぁ」
「む...すまぬ」

申し訳なさげに頭をさげる弦之介に、ロシーヌは思わず吹き出してしまう。

「謝らなくていいのに、変なおにいちゃん」

その無邪気さながらな少女の様に、弦之介の顔は思わず綻んだ。

この殺し合いに巻き込まれて出会ったのはロシーヌを含めて二人。
どちらも赤い首輪であり、ロシーヌに至っては見るからに人外である。
だが、そのどちらも敵対はせず、至って平和的に話が進んでいる。
伊賀甲賀の争いがいよいよ始まってしまった元の場に比べれば、この殺し合いの方が遥にマシだと思えるほどにだ。

この調子ならば、殺し合いもさして労せず終結させ、あわよくば元の場に戻ったとき、このいざこざに便乗し争忍の乱を締結させることができるかもしれない。

「ねえおにーちゃん、せっかく会えたんだから遊ぼーよ」
「遊ぶ?」
「もちろん、戦争ごっこだよ!」

彼のそんな甘い期待を、ロシーヌは変わらぬ無邪気な笑顔で打ち破る。


723 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:11:29 Rw7kDA2Y0

"戦争ごっこ"。

その単語の意味を知らぬ弦之介だが、ロシーヌの殺気と悪意が膨れ上がるのを肌で感じ、木刀を構え警戒体勢をとる。

自分がなにか刺激してしまったのか。思い当たる節は見当たらず、他の可能性―――この殺し合いという環境に怯えている仮説のもと、ひとまずは対話を試みる。

「待て、わしはそなたを殺すつもりはない。いや、そなただけではなく他の赤い首輪の参加者もじゃ」
「関係ないよ。これはいつもの遊びと何にも変わらないから、さ!」

ロシーヌは急加速し弦之介の懐にもぐりこむ。
その触覚は、躊躇うことなく弦之介の心の臓に向けて突き出されていた。

「ッ!」

弦之介は反応が遅れたものの、構えていた木刀で辛うじて触覚を防ぐ。
触覚は木刀の腹を滑り、弦之介の肩を貫く。
弦之介は走る痛みにも動じず、触覚を逸らした勢いで己の身体に回転を加え木刀を振り下ろす。
高速で移動する中、ロシーヌは迫る木刀をものともせずにかわし、上空へと舞い上がる。

「へえ、少しはできるみたいだけど、あの大きな刀のお兄ちゃんほどじゃないね」

血の滴る右肩を押さえつつ空を見上げる弦之介と無邪気に笑いながら見下ろすロシーヌ。
弦之介は決して己の術に縋りきっているわけではない。彼の剣術の腕前は、盲目でありながらも伊賀の薬師寺天膳と互角以上に張り合えるほどである。
しかし、その剣術を持ってしても、眼前の怪物には及ばない。
いまの彼らの立ち位置が、そのまま力量の差を表している。


724 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:12:04 Rw7kDA2Y0

「...童(わっぱ)よ。最後の通達じゃ」

だが、それでもなお彼は屈しない。どころか、嘘偽りない警告すらしてみせる。

「わしは赤い首輪の参加者であれど殺すつもりはない。それでもわしを殺すというのであれば、そなたも死を覚悟せよ」

いかにも自分の方が上であるかのような発言に、ロシーヌはかすかな苛立ちを覚えた。

「へーえ。お兄ちゃんエルフに勝てると思ってるんだ。それじゃあ見せてもらおうかな」

ロシーヌは再び高速で弦之介へと迫る。
単純且つ戦略もなにもない攻撃だが、人間では追いつき難いが故にそれだけでもかなりの脅威となる。
彼の実力を踏まえれば、それこそが最善手であるのは間違いではない。

「致し方ない」

甲賀弦之介が剣士であるならば、だが。

弦之介の瞼が閉じ、見開かれる。

その両目を、傷跡のような文様が刻まれたものに変貌した瞬間、ロシーヌの世界は彼女のものではなくなる。
まるでその目に魅入られるかの如く、逸らすことすらできず。彼女の身体は指先1つすら己の意思で動かすことができず。
本当にこれが自分の身体なのかと疑問すら浮かべることなく、弦之介へと向かっていた身体は直角に軌道を変え、地面へと墜落した。

「警告はした...許せ、童(わっぱ)よ」

これこそが甲賀弦之介最大の術、『瞳術』。害意・殺意に反応し、敵を自滅へと誘う秘術である。


725 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:12:51 Rw7kDA2Y0

「くっ...」

弦之介は目を押さえつつ、二・三歩ばかり後方へと退く。
眩暈だ。唐突な眩暈が弦之介を襲ったのだ。

(妙じゃ...何故、たった一度の術でこうも疲労が...)

幾度も、そして連続して術を使えば疲労が表れることもあろう。
だが、いまのこの疲労は明らかに異常だ。
なにより。

「イッタいなぁ。さっきの目のせいなのかな」

ロシーヌに致命傷を与えられなかったこと事態がありえないのだ。

(わしの術が弱っておるというのか...?)
「...おにいちゃんの目、気持ち悪いなぁ。だから、もういらない」

ロシーヌは立ち上がるなり、弦之介へと突撃しようとする。
使徒は好戦的であれど、その大半は一方的な虐殺を望む。
明やガッツのように、手に負える範囲で遊べる達人ならばまだしも、弦之介の瞳術のように使徒ですら脅かしうるモノを野放しにする謂れはない。

「くっ」

弦之介は焦燥する。
あの高速での墜落も大した傷にならぬというのならば、現状、持久戦に持ち込めば先に果てるのは弦之介だ。
しかし、ただ逃げようにもあの速さではすぐに追いつかれてしまう。
如何に防ぐべきかと考えていたそのときだ。

「フンッ」

バシィ、と小気味いい音と共に、弦之介へと迫っていたロシーヌの身体が地面を跳ねる。
突然の頬を走る衝撃に、ロシーヌは空中で停止し目を凝らす。
弦之介の背後より浮かび上がるのは、金色の豪腕。
あの腕がロシーヌを殴りつけたのだ。


726 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:13:41 Rw7kDA2Y0

「赤首輪に人間の参加者...ちょうどいい」

弦之介の背後より現れた黄色の服に身を包んだ男は、金色の巨人を傍らに侍らせながら不敵な笑みを浮かべた。

「そなたたちは...?」

振り返り、男の姿を認識した弦之介はまず第一に素性を問うた。
自身を助けてくれた男は、甲賀の者でなければ、まして伊賀のものでもない。
はたまた、あの黒衣の少女の語ったすのぅほわいととは似ても似つかない。
なにより目に付くのが、男の傍に立つ黄金の巨人。首輪が見当たらないことから参加者ではないのだろうが、何者だろうか。
男は弦之介とロシーヌへと交互に視線をやり、納得したかのようにひとりごちる。

「...ふむ、どうやらスタンドが見えているようだ。あの御坂とかいう小娘のことも考えれば、オレの方が手をつけられていると考えるべきか」

そう己ひとりで結論付けると、男は改めてロシーヌを見上げ声をかける。

「そこのきみ。ここの彼も交えて少し話がしたい...降りてきてもらえると嬉しいのだが」

態度は紳士的であり、その柔らかな物腰からしても嫌悪は抱かない。
弦之介などはその言葉から彼も殺し合いに反対するものだろうかと安堵しつつあるほどだ。

だが、ロシーヌは違う。
彼女はこれまで多くの大人を見てきた。
人間の頃も、使徒と化してからも。
どんな人間の大人も信じられなくなった彼女だからわかる。
男の放つ邪悪な気配に。自分とは異なる異質な存在であることに。
なにより、決してこの男は『信用できない』ことに。

ロシーヌは後方へと退き、彼らを射抜くための助走距離をとる。
それを見た弦之介は木刀を握り締め男を守ろうと進み出ようとするが、男はそれを手で制する。
ここは私に任せていろと、言外に伝えていた。


727 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:14:03 Rw7kDA2Y0

ロシーヌは構わず彼らへと高速で接近する。
赤い首輪であるあの男が何者かはわからないが関係ない。
気に入らないものがいれば排除する。今までも、そしてこれからも。

隙だらけの脳幹を串刺しにしてやればよほどのことがない限り死ぬだろう。

触手をしならせ、男の頭部目掛けてその先端を突きつけ

「『世界』」

る。

「...?」

ロシーヌは急停止し、己の行動を振り返る。
いま、自分はなにをしようとしていたのか。
何故自分は彼を信用できない、殺そうなどと思ってしまったのか。
困惑する彼女の頭に手を置きつつ、男は微笑み優しい声音で告げる。

「落ち着いたようだな。では、互いの情報を共有するとしよう」

突如、借りてきた子犬のように大人しくなってしまったロシーヌに違和感を抱きつつも、戦乱の火種を撒くつもりがないならと提案に乗る弦之介。
ロシーヌもまた、さきほどまでの自身の感情と今の感情の差異に困惑しつつ、男たちの後へと続く。
そんな彼女の額に蠢く肉片が植えつけられていることは、男以外は知る由もなかった。


728 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:14:31 Rw7kDA2Y0



(ふふ...これは思わぬ拾い物をした)

群がるありを払い終えたDIOは、他の実験体となる参加者に会うためにその歩を進めていた。
歩くこと数時間、彼がついに見つけたのは空を飛ぶ昆虫と人間の合成獣(キメラ)のような生命体、即ちロシーヌであった。

ちなみにこのロシーヌ、D-2からそのまま北上してDIOのいたエリアを通り過ぎている。
つまり、地図上の端は対極側の端と繋がっているのだ。
そんな地理上のアドバンテージを得ていたのだが、特に当てもなく気ままに飛んでいた彼女にそれを知る由もなかった。

彼女はDIOに気がつかなかったのか、そのまま飛び去ってしまったため、彼もまたその後を追い、やがて発見したのが弦之介との交戦の現場であった。

あの少女は赤首輪で間違いないだろう。そして、男の方もただやられるだけの偽善者ではない。
そう判断したDIOは、すぐに止めに入り赤首輪の実験を始めようとしたが、弦之介の纏う空気の変貌に足を止めた。
奇妙なことに、遠目から眺めていたにも関わらず、彼の姿から目を離すことができなかったのだ。
ほどなくして、突如落下するロシーヌ。その現象にDIOは興味を抱いた。
勿論ロシーヌの存在自体も興味はあるが、それ以上に弦之介が施したなにかに強く惹かれていた。

思えば、先刻交戦した御坂美琴やありたちもスタンド使いという括りでは成しえない業を見せ付けてくれた。
ならば、彼もまたそのような業を有しているのではないだろうか。

(スタンドではないようだが...面白い)

DIOは思った。
首輪の実験をするにはまだ早いと。

この殺し合いには空条承太郎が連れて来られている。
部下からの報告が正しければ、ジョースター一行で残るのは『花京院典明』『J・P・ポルナレフ』『ジョセフ・ジョースター』のみ。
強力なスタンド使いであるモハメド・アヴドゥルとイギーを欠いて、その上チームの主戦力である空条承太郎まで失った日にはその絶望は生半可なものではないだろう。
だが、やつらの結果的に誰も欠けることなく館まで辿りついた勢いが侮れないのも事実。
だからこそ、ここで徹底的に芽を摘む。
自分が先に脱出することで、奴に強力な装備や弦之介のような特異な者を探し味方につける余地を与えてしまわないように。
奴を確実に葬り、その上で元の世界に帰還し、戦意喪失した残るジョースター一行をも始末することで完全なる勝利を遂げる。

それ故に、DIOは弦之介にロシーヌを斬らせることよりもまずは情報の収集を優先することにした。
そのため、わざわざ弦之介を助け、ロシーヌには肉の芽を植えつけたのだ。

(ジョースターの血統の者は手加減せずに一気に殺すと決めていた...万が一にも、貴様に逆転の目は与えんぞ)

帝王はほくそ笑む。その邪悪な眼が映し出すは、全てを奪い勝利する覇道のみ。


729 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:15:12 Rw7kDA2Y0

【G-6/早朝/一日目】

【ロシーヌ@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)、額に肉の芽
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 好きにやる。
0:この黄色いおじさんは信用してもいいかもしれない

※参戦時期は少なくともガッツと面識がある時点です。
※肉の芽が植えつけられていますが、肉の芽自体の効力が制限で弱まっています。
現在は『DIOを傷つけない』程度の忠誠心しかありません。


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】 
[状態]:疲労(中)、身体のところどころに電撃による痺れ(我慢してる)、出血(右腕、小〜中、再生中)、両脚にありたちによる攻撃痕(小〜中、再生中)
[装備]:
[道具]:基本支給品。DIOのワイン@ジョジョの奇妙な冒険、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには手段は択ばない。 
0:弦之介とロシーヌと情報交換をする。
1:主催者は必ず殺す。
2:赤首輪の参加者を殺させ脱出させる実験を可能な限り行いたい。
3:空条承太郎には一応警戒しておく。
4:不要・邪魔な参加者は効率よく殺す。
5:あのデブは放っておく。生理的に相手にしたくない。
6:弦之介の謎の技に興味。


※参戦時期は原作27巻でヌケサクを殺した直後。
※DIOの持っているワインは原作26巻でヴァニラが首を刎ねた時にDIOが持っていたワインです。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※肉の芽を使用できますが、制限により効果にはかなり差異が生じます。
特に赤首輪の参加者、精神が強い者、肉体的に強い者などには効き目が薄いです。


【甲賀弦之介@バジリスク】
[状態]:疲労(小)、右肩に刺し傷。
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する(ただし赤首輪の殺害を除く)。
0:DIOとロシーヌと情報交換する。
1:陽炎と合流する。朧を保護し彼女の真意を確かめる。
2:薬師寺天膳には要警戒。
3:極力、犠牲者は出したくない。
4:脱出の協力者を探す。
5:“すのぅほわいと”を守る?


730 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/17(水) 00:17:37 Rw7kDA2Y0
投下終了です

野崎春花、空条承太郎、朧、相場晄、西くんを予約します


731 : 名無しさん :2018/01/17(水) 10:29:22 eaUIpMjs0
投下乙です

GNNSK様が騙されちゃってる、やばいやばい…
やっぱり出たか肉の芽。制限掛かってるけど今後どう影響していくのだろうか


732 : 名無しさん :2018/01/17(水) 22:55:23 EgyvtNKc0
投下乙です。
弦之介とロシーヌのふわふわとしたやり取りに心安らぐのも束の間
このロワでも実力者の弦之介とロシーヌの激突…を避け
手玉に取るDIO様、流石悪のカリスマ


733 : 名無しさん :2018/01/19(金) 19:14:38 rcz1Ar3w0
投下乙です、そしてバジリスクアニメ化おめでとうございます
個人的に弦之介様はろくな目に合わない予感がしていましたが、そんなことはなかった
でも長い目で見たらとんでもないつまずきになってそう


734 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 00:54:27 2tpoMfPo0
バジリスクの新作、ミスミソウ実写化、禁書目録の第三期アニメ化決定、ベルセルクは去年に第二期のアニメ化、マギレコ、彼岸島Xの第二シーズン...
ロワ参戦した作品が新しくメディア展開していくとなんだかテンションがあがりますね


相場と西君を外して投下します


735 : 護ることの難しさ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 00:56:00 2tpoMfPo0
『私の名前はバラライカ。この殺し合いから抜け出したい者は私のもとに集いなさい。場所はI-3の高層ビルよ。繰り返すわ』

そんな放送が彼らの耳に届いたのは、朧が恥を承知で承太郎と共に行動して欲しいと頼もうとしたその時だった。

「......」
「あ、あの...いまのは...」

朧は上目遣いで承太郎へと問う。
いまのは救援の呼びかけなのではないのか、本当に脱出の手はずが進んでいるのではないのか、自分達は向かうべきではないのかと。

承太郎は、数瞬の間を置き答える。

「少なくとも、あれはあんたの期待する呼びかけじゃねえことだけは確かだ」
「何故でございますか」
「簡単なことだ。あんたとは時代が違うから分かり辛いかもしれないが、あれは誰かに協力を頼む口ぶりじゃねえ。自分に従う駒が欲しいって謳い文句だ」
「この催しからの脱出方法を見つけたのでは...」
「そいつも可能性はかなり低い。わざわざ違う時間軸の人間を集めてるんだ。主催の奴がどこまで神経を張り巡らせてるかはわからねえが、まだ始まってから6時間も経過していねえ。
そんな短時間でこの首輪を外し脱出できるような技術や能力を持っている奴を参加させるとは思えねえし、支給品にしてもテメェで配る物を一切把握していないことはねえだろう」

「じゃあ、どうするの?」

春花の問いに、承太郎は帽子を深く被り直し、背もたれに体重を乗せる。

まともな感性を持っていればあの放送を聞いてそのまま信じる人間はいないだろう。

あれは挑発だ。
おそらくバラライカという女は、自分を殺しに来た赤首輪の参加者かゲームに乗った者を狩ろうとしているのだろう。

となれば、だ。

「知らんぷりしてりゃあいいんだよ。ほっときな...」

空条承太郎は善人ではあるが聖人ではない。
承太郎としては極力犠牲者は出したくはないと思っているが、あのような好戦的な輩の面倒は見切れない。
仮にあれで自分と戦ったあの怪物に狙われることになろうとも、あそこまで派手にやってしまえばもう自業自得である。
彼女に赤首輪であろうとなんだろうと仕留められる自信があるが故に、あのような放送を流したのだから、わざわざ怪我を圧してまで向かう必要はないと判断を下した。

そして、朧と春花も、進んで危険人物のもとへと向かう必要もないと考えているため、素直に承太郎の言に従うこととなった。


736 : 護ることの難しさ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 00:56:44 2tpoMfPo0

再び一同に訪れる沈黙。

承太郎は朧たちの返答を待ち、朧は沈黙の重い空気におされつつも、いつ切り出そうかそわそわと落ち着かない様子を醸し出す。
春花は一人で行動するつもりではいるが、朧が引き止めるのは容易に想像ができ、かといって嘘をついて抜け出すのも迷惑をかけてしまうと危惧し、結局言い出せず今に至る。

それから数分後、結局切り出したのは、落ち着かない様子で機を窺っていた朧だった。

「く...空条殿。恥を承知で申し上げます」

ようやくの返答に、承太郎はジッと視線を朧へと向ける。
承太郎は別に威嚇しているつもりはなければ急かしているわけでもない。
ただ、生来の力強く鋭い眼光により、穏やかな気性である朧は否が応でもプレッシャーを感じずにはいられなかった。

「その、私も春花殿も、このような忌み場では非力でか弱き存在でございます。空条殿が許すのならば、どうかご同行をお願いいたします」

弱者ゆえの願い出。
恐怖からの思考放棄からなる依存ではなく、彼女なりに冷静に現状を分析し、下した判断だ。
承太郎はそれを拒否するつもりはなく、むしろ変に気を遣い何処で屍を晒されるよりは断然マシだ。

「...1つだけ忠告しておく」

それを承知の上で承太郎は言う。
ともすれば横暴とも捉われかねない忠告を。

「あんたらが俺と行動するのは構わねえ。だが、いつでも守って貰えるという考えだけは持つな」

空条承太郎は強い人間だ。それはスタンドや自身の身体能力だけの話ではない。
決してブレない精神力や物怖じしない度胸もその要員として挙げられる。
また、常に冷静でありながらも、その内にはジョースター家から受け継がれた勇気と熱き魂が宿っており、如何な場面においても仲間を見捨てることは決してないだろう。
それは朧と春花に対しても同じだ。
足手まといだから切り捨てるだとか、重症を負ったから諦める、といった行為は決してしない。
誰から頼まれずとも、同行した以上は全力で彼女達を守るだろう。

だが、それはあくまでも互いの信頼あってこそだ。
彼の元の世界での仲間、己の祖父ジョセフ・ジョースター、花京院典明やモハメド・アヴドゥル、J・P・ポルナレフにイギーは常に対等な仲間だった。
対等であるが故に「守られて当然」といった考えは誰一人として抱いてはいなかった。
だからこそ、互いに守りあい、絆を深め、背中を預けられるほどの信頼を築き上げることができた。

だがこの殺し合いの場ではそうもいかない。
朧や春花のように戦う力を持たず殺し合いに反する者達は、戦闘においては無力も同然だ。
そんな非戦闘員ですら戦うことを強要される可能性が高いこの殺し合いにおいて、自分は守ってもらえるから平気だというお姫様然とした考えは、いざという時に破滅を導きかねない。
彼女達にかつての仲間たちのようになれとは言わないし言いたくもないが、最低限、危機が迫ったときに己の判断で動ける程度はできなければ困るのだ。

そんな承太郎の心境の詳細まではわからずとも、甲賀伊賀の争いにおいておんぶに抱っこの状態である己を顧みれば、彼に頼り切るなどという選択肢はとれるはずもなく、温厚な彼女にしては珍しく力強く頷いた。


737 : 護ることの難しさ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 00:57:11 2tpoMfPo0

「春花殿、私達はできることに尽力致しましょう」
「......」

健気に呼びかける朧とは対照的に、春花は浮かない面持ちを浮かべる。

承太郎に頼りきるつもりはないのは春花も同意だ。
しかし、同行を志願した朧と同行するつもりはない春花とはそもそも方針からして違っていた。
春花を取り巻くのは殺人者であるという自己嫌悪。
無論、それを口にすることはできない。できるとすれば、それは強迫観念に襲われた時だけだ。


「なにか言いたいことがあるのか」

問いかけた承太郎と励まそうと声をかけてくれる朧に申し訳ない思いを抱きつつ、春花は口を開く。

「ごめんなさい...私は、1人で行動したいと思います」

その告白に、朧は目を丸くする。
自分と同じく非力な、その上破幻の瞳を持たない彼女が、怪物の闊歩するこの会場を一人で行動したいとはなにごとか。

「な、何ゆえそのようなことを」
「...こうしている間にも、しょーちゃんや相場くんたちが、酷い目に遭ってるかもしれないから」


探し人がいるから別れて探したい。
確かに理には適っているが、それは互いの戦力が均等もしくは近しい場合にのみだ。
現状、承太郎以外の二人のどちらかが単独行動に出れば、それはもはや自殺行為に等しい。
善意の行動を取ったが為に命を散らすなどあんまりではないか。
朧は春花を引きとめようとするが、しかし承太郎は彼女とは逆の対応をとった。

「野崎。オメーの行動にとやかく口を出すつもりはねえ。だが、何も出来ずに死ぬかもしれねえ覚悟は出来ているのか」

数瞬の沈黙の後にコクリと頷く春花を見届けた承太郎は、そうかと呟き黙りきってしまう。

「空条殿?」
「あいつが決めたことだ。なら、俺が無理に引き止めることもねえ」
「そんな...」

承太郎の言は正論だ。
春花が一人で行動したいと言ったのは、自分なりに考え出した答えであり、それを邪魔する権利は誰にもない。
これが彼でなく、伊賀の里の者、一番朧によくしてくれる朱絹でも承太郎と同じ結論を述べるだろう。
だが、眼前の死地へとみすみす送り出すのはやはり憚れる。


738 : 護ることの難しさ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 00:59:00 2tpoMfPo0

狼狽する朧と真っ直ぐに見据え送り出してくれる承太郎へとペコリと会釈し病室をあとにしようとする春花。
そんな彼女を見た朧は、思わず手をとり引き止める。

「朧さん...?」
「え、えっと...」

反射的に手をとってしまったため、朧は特別なにかを言おうとしたわけではない。
ただ、理屈や正論よりも、このまま彼女を危険に晒したくはないという善意のみが朧の身体を動かしていた。

これからどうしようか。次の言葉を捜し、朧はあわあわと春花を引き止める材料を探し出す。
やがて目に留まったのは、彼女の痛々しく傷ついた右耳だった。

「その耳は?」
「あ...さっき、あの怪物に...」
「であれば、手当ていたしましょう。傷は捨て置けば、後の憂いになります故。ささ、こちらに」

朧は引き止める口実が出来たのを皮切りに、春花が反論を口にする前に手当ての準備にかかる。
こうして手当てをしている間に心変わりをしてくれれば。そんな思いを抱きつつ、朧は医療道具へと手を伸ばした。

その一連を眺めつつ承太郎は考える。
この殺し合いにおいて危険人物は『DIO』『牛型の怪物』『バラライカ』の三人が存在していることが判明している。
三人。そう、既に承太郎が出会った人数の中で半数に達しているのだ。

無論、偶然危険人物が側に飛ばされていただけの可能性もあるにはある。
だが、最悪の可能性というものは避けてはならないものだ。
極論をいえば、この参加者の中で殺し合いに反する者が自分達だけしかいない可能性もあるのだから。


739 : 護ることの難しさ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 00:59:22 2tpoMfPo0

(...いや、今は違うとしても、そうなる可能性は高い、か)

承太郎が危惧する事態。それは、DIOによる参加者の統一だ。

DIOにはスタンドとは別の、吸血鬼としての能力として、『肉の芽』というものがある。
これは、DIOの細胞を対象の脳に打ち込むことで、忠誠心を引き起こし、忠実なる下僕と変貌させる脅威の技だ。
これを埋め込まれた者は決してDIOに抗うことが出来ず、かつて花京院典明やJ・P・ポルナレフがそうであったように、DIOの為ならば平気で殺人も犯せるようになってしまう。
なにより厄介なのが、肉の芽自体の防衛反応だ。
下手に引き抜けば植えつけられた者の脳は破壊され、引き抜こうとした者にすら危害を加える。
放っておいても肉の芽は着々と脳を侵食し、いずれは破壊してしまうというのだから非情にタチが悪い。

とはいえ、だ。
洗脳されたはずの二人が承太郎の仲間として共に旅を出来たのは、承太郎が肉の芽に対抗する手段を会得しているためである。
承太郎の何事にも動じない強靭な精神力とスタンド『星の白銀(スタープラチナ)』の機械以上に精密な動作に強力なパワー。
これらが合わさり、肉の芽を植えつけられた対象が大人しくしていれば、肉の芽を引き抜くことは可能である。

しかし、それは決して楽な仕事ではない。
ただでさえ針の先を通す以上に繊細な作業だ。
少しでもブレが生じれば、対象の脳は破壊され承太郎も危険に晒される。

仮に、DIOが出会った先々で肉の芽を使い、大勢の参加者と敵対することになれば、戦況は絶望的だといわざるをえない。

(目安は最初の放送といったところか...)

いつまでもここに篭城しているわけにもいかない。
最悪のケースを考えれば、多少無理をしてでも可能な限り早急に傷の治癒を切り上げ、DIOの討伐へと向かうべきだろう。

(だがそのためには)

チラ、と朧たちへと視線を向ける。
あの二人、特に朧はその性格やヌけている様の所為で見ていて非情に危なっかしい。
このまま朧たちがついてくるにせよ、やはり別行動をとるにせよ、せめてあと一人は彼女達をカバーできる戦力が欲しい。

朧たちの保護。
DIOや化け物への対処。
殺し合い自体の破壊方法の探索。

これからこなさなければならないちとヘヴィなスケジュールに、承太郎は小さく溜息をつかざるをえなかった。


740 : 護ることの難しさ ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 00:59:41 2tpoMfPo0

【H-3/一日目/早朝】


【朧@バジリスク〜甲賀忍法帳〜】
[状態]:腹部にダメージ(中)、疲労(中〜大)
[装備]:リアカー(現地調達品)
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と会いたい
0:春花の手当てをする。どうにかして共に行動して欲しいが...
1:脱出の協力者を探す。
2:陽炎には要注意。天膳にも心は許さない。

※参戦時期は原作三巻、霞刑部死亡付近。
※春花、承太郎と情報を交換しました。

【野崎春花@ミスミソウ】
[状態]:右頬に切り傷・右耳損傷・出血(中)、頭部から消毒の匂い
[装備]:ベヘリット@ベルセルク
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:祥子を救い、佐山流美を殺す。その後に自分も死ぬ。
0:できれば一人で動きたいけど...
1:祥子、相葉の安全を確保する。
2:小黒さんは保留。南先生は...


※参戦時期は原作14話で相場と口付けを交わした後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※朧、承太郎と情報を交換しました。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ、出血(止血処置済み)、帽子から消毒の匂い
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:主催者の言いなりにならない。
1:ある程度休憩をとったら行動を開始する。
2:DIO・先程の化け物(ゾッド)には要警戒。

※参戦時期は三部終了後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※春花、朧と情報を交換しました。


741 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/01/26(金) 01:02:00 2tpoMfPo0
投下終了です

雅、ぬらりひょん、ひで、暁美ほむら、ガッツ、野崎祥子、ロック、岡八郎を予約します
あらかじめ延長もしておきます


742 : 名無しさん :2018/01/26(金) 16:56:20 aNoGovv.0
投下乙です

確かに承太郎一人で非戦闘員二人をカバーするのは厳しいな。安定した対主催者と会えれば良いが


743 : 名無しさん :2018/01/27(土) 05:12:22 0cCwrEt60
久々に来たら新作がウレシイ・・・ウレシイ・・・


744 : 名無しさん :2018/02/03(土) 00:12:29 u1b3QSvg0
投下乙です
参加者のスタートの動きも一段落していよいよ序盤戦の構図が固まってきたかと思いますがここでDIOと承太郎が奇しくもバジリスク勢とスリーマンセルを組んだのが今後どう影響してくるのか、こっからが本番ですね


745 : 名無しさん :2018/02/12(月) 21:36:45 .GsA/qY20
投下乙です
このロワでもDIOと承太郎の因縁の芽がむくむくと育っていくな
ここで別れるつもりの春花と優しすぎて引き留めたい朧の運命やいかに


746 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:14:51 XRuwJnsI0
だいぶ遅れてしまい申し訳ありません。
投下します


747 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:15:58 XRuwJnsI0

「うー☆うー☆」

ひでが両掌を突き出し連続で打撃を浴びせる。
張り手。
日本の国技、相撲でもおなじみのこの技だが、見かけによらず使うものが使えば強力な打撃技となる。
力士のそれは非情に強力であるが、悪魔と化したひでのそれも、人間を殺傷するには充分な威力であった。

「ぬんっ」

それを受けるは、星人・ぬらりひょん。
変幻自在に身体を変化させられる彼だが、今回はそのまま受け止めた。
所詮は人間体と侮っていたのだろう。
それが災いし、ぬらりひょんの胸部に掌形の痣が刻み込まれ、今だ修復されていない右足の為にふんばりも効かず、後方へと吹き飛ばされ、ビルのガラスを突き破った。

「おじいちゃんこんなものなの?弱いくせに小生にちょっかいかけるのはやめちくり〜」

相変わらずのにやけ面に重ねてご満悦な表情を浮かべるひで。
それが癪に触れたのか。
ぬらりひょんの身体が大量の全裸の女体に変貌し、ひでの10倍はあろう大きさにまで重なり集った。

「わぁお、大人のお姉さんのおっぱいいっぱいだぁ」

そんな余裕綽綽、どころかはしゃぐひでにお構いなしに、腕と化した大量の女体を振るい、先ほどのお返しだと言わんばかりにひでを殴り飛ばした。
小学生とは思えぬ野太い悲鳴をあげつつ吹き飛ばされるひで。
壁に叩きつけられたひでへとぬらりひょんは大量の女体で追い討ちをかける。

大量の全裸のナイスバディな女体に迫られると書けば羨ましくも聞こえるかもしれない。
だが考えてみて欲しい。
その女体がみな美しかったとしたら。最低でも50kgはあるそれが速さを伴い襲い掛かってきたとしたら。
その身体が、自分に叩きつけられる度に、乳首や乳房ごと肉が弾け飛び、血や内包物をドロドロと夥しく垂れ流し、美しさを敢えて粉砕していたとしたら。
それはもう淫靡などではない。
ただのスプラッター映像だ。


748 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:16:25 XRuwJnsI0

「あーあぁ〜」

気の抜けたようなひでの呻きに呼応するかのように、女体はその勢いを緩め、やがてひでへとゆったりと被せられる。
かと思えば、ひでの身体へと余すことなく纏わり着き、あっという間にひでの顔を残して全身を包まれる。

そして。

ぎゅむっ。

女体たちは万力のようにひでの身体を締め付け圧迫する。

「(女に)溺れる、溺れる!!」

身動きの取れない中、ただ空しく響くひでの絶叫。
ひでの身体を覆っていた女体は遂に彼の頭部をも飲み込み絶叫すら閉じ込める。
数十秒の後、ひでは全身を潰され、うち捨てられた頭部を残しこの世から消滅する。

そのはずだった。

「?」

ぐぐぐ、と女体が押しのけられ始める。女体で押しつぶすぬらりひょん以上の力でだ。

まさか抗っているというのか。ありえない。あの黒スーツすら着ていない人間が何故。

ぬらりひょんの脳裏を過ぎる疑問が解決する間もなく、肉塊の中から三叉槍が女体を貫きぬらりひょんの本体へと突き出される。
槍はぬらりひょんを串刺しに、地面へと突き立てられた。
同時に、ひでを圧迫していた力が抜け、ひでは自由を取り戻す。


749 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:16:58 XRuwJnsI0

ひでは鬼耐久だけではなく、虐待おじさんを越える純粋なパワーを有している。
両手で振るう竹刀を片手で掴んだだけで実質奪いとってしまったり、屈んだ状態で掛けられる体重を平然と押しのけかけてしまったりと、目を見張るものが多い。
そのパワーに悪魔の力が加われば、ぬらりひょんの女体による拘束から逃れるのも不可能ではなかった。

「頭にきたにょ!!」

怒りの形相を浮かべながら、ひでは再びぬらりひょんへと襲いかかる。
ぬらりひょんを縫いとめている槍はそのままに、再び高速で振るわれる張り手の雨。
今度は槍で拘束されているため吹き飛ばされはしない代わりに逃げ出すことすら出来ず。
ぬらりひょんはただただサンドバックのように猛攻を耐えるのみ。

張り手がぬらりひょんの身体を破壊し、削り取る度にびちゃびちゃと大量の血と肉片が地面を染めていく。

「うー☆うー☆」

張り手の数が114514回を越えた辺りで、ひではぬらりひょんの背後に回る。
既にぬらりひょんの肉体は原型を留めておらず、ぼろ雑巾そのものであったが、宿題は早めに終わらせるタイプのひでには関係ない。
地面へと仰向けに寝そべり、その体勢か放たれるは、回し蹴り。
今度はゆっくりと、しかし確かな力を持ってして放たれる蹴りは、一際鈍い音を周囲に響かせる。

蹴りの回数が810回を越えたころになって、ようやくひでの攻撃は止まった。

「早く脱出(かえ)って宿題しなくちゃ(歓喜)」

ズタボロになったぬらりひょんを見てご満悦な感想と笑みを浮かべたひでは、突き刺さる槍を抜き取り懐にしまう。
虐待してくる老人はこれで殺せた。
ひとまずは雅に自分が脱出できることを報告しに行くため戦場を後にしようとしたそのときだ。


750 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:17:45 XRuwJnsI0

「ホ、ホハハハホホホハホヒョホホホ」

笑い声が響き、ひでの足が止まる。
ひでのものではない。
ではこれは。

「あれぇ?」

振り返り、ひでの視界に佇んでいたのは老人でも大量の女体でもなく。
ギョロリとした目と長い黒髪、マネキンのような肢体が特徴的な女だった。
これはひでの知る由のないことではあるが、ぬらりひょんの形態が再び変化したものである。

「ほ、ほほおほほほほほホホハァ」

ぬらりひょんは奇妙な笑い声を上げながら、己の腹部を裂き、血と臓物を大量に零し始めた。
かと思えば、その傷口からは似たような頭部が覗いているではないか。
これには流石のひでも眼前の光景に理解が追いつかず悲鳴をあげる。

「ヒェ〜ッ」

たまらず槍を突き出すひで。
槍は見事ぬらりひょんの頭部へと突き刺さる。
しかし。

「!?」

槍は四本の腕で押さえられ、それ以上先に進めることができない。
そう、四本。
ぬらりひょん本体の両腕と、腹部から生えてきたもう一体のぬらりひょんのものである。

「えぇ...(困惑)」

それだけに留まらず、事態は急加速する。
なんとぬらりひょんの傷口から複数の頭部が生え、身体を形成し、増殖し始めたではないか。
困惑するひでに構わず、ぬらりひょん達は彼を取り囲む。
その数、10体。
数だけ見れば大したことがないと思うかもしれないが、自分と同等の実力を持つものが10体もいれば状況は絶望的といえよう。

「ねぇほんと無理無理無理無理!!」

ひでの顔に始めての焦燥が浮かぶ。
自分がこれからどうなるか...想像するまでもない。

ぬらりひょん達は一斉に飛び掛る。
ひでは必死に懇願するが時既に遅し。




「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」




絶叫が、夜明け前の下北沢に響き渡った。


751 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:18:28 XRuwJnsI0



ガキン。

甲高い金属音と共に丸太とブーメランが交叉する。
互いに一歩も譲らないつばぜり合い。
しかし、殺意に塗り固められた表情のガッツに対し、雅は笑みさえ浮かべられるほどに余裕が見受けられる。

「いい太刀筋だ。踏み込みも、力も、技量も、気迫も、全てが備わっている」

笑みを浮かべる雅のそれは決して賞賛などではない。
まるで大して期待していなかった料理が思っていたよりは美味な時に抱く感情のような、煽り染みたものである。
ガッツは舌打ちと共に後退し鍔競り合いから逃れ、再び丸太を構えなおす。

「だがその程度では私は倒せんよ。貴様がどう足掻こうとそれは覆せない現実だ」
「そうかよ」

雅の言葉にも一切怯むことなく、ガッツは丸太を握る力を込める。
無理だの無茶だのは、子供の頃からくぐってきた道だ。
その中には、当然人間の達人との戦いがあれば、使徒のような化け物達とも幾度も命を掛けてここまで生き残ってきた。
全ては怨念と殺意のために。その積み重ねてきたものの前では実力差などは恐怖の対象にはならなかった。

ガンッ。
ガッツは丸太を足元へと振り下ろし、アスファルトを砕いた。
舞い上がる粉塵と転がる破片。
ガッツは丸太をバットのように振るい、雅目掛けて破片を撃ち飛ばす。

破片が雅の顔や手に刺さるが、彼は意にも介さない。
それはガッツの予想の範囲内だ。

ガッツは居合いの型を取り、地を蹴り雅へと肉迫する。
遠心力の乗った丸太が、ガッツの身体に先んじて振り下ろされる。
そのパワー、並の人間ならばロクに耐えることすらできないだろう。

ガキン、と再び金属音を響かせ交差するブーメランと丸太。

雅は強力な力を誇る吸血鬼だ。
ガッツのパワーを持ってしても、彼へとは至らない。


752 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:18:57 XRuwJnsI0

「どうした?先ほどとまるで変わらないではないか」

変わらず笑みを絶やさない雅。
そんな余裕を見せる彼に対してガッツは思う。
そのニヤついた面を消してやる、と。

ガッツは、ブーメランの側面沿いに丸太を滑らせ、その勢いのまま身体を捻り回転する。
雅は来るなぎ払いへと向けて、ブーメランを盾のように構え―――それこそがガッツの狙いであった。

バサッ。

振向き様にガッツの掌から砂が放たれ、雅の目に入る。
突然の奇襲と目の痛みに、思わず目を瞑る雅。

その隙を突き、放たれるは丸太によるなぎ払い。
丸太は雅の胴を薙ぎ、横合いへと吹き飛ばす。

「ぐっ、がっ」

胴を押さえつつ、目を擦る雅に再び放たれるは丸太による突き。
丸太は雅の腹部へと打ち込まれ、後方の壁へと叩きつける。

内臓への衝撃で、雅の口の端から血が流れる。

それに構わず、ガッツは丸太を幾度となく振り下ろし、突きを放ち、雅の身体を痛めつける。

しかしそれも長くは続かない。

雅の片手が、突き出された丸太に添えられる。
振りほどこうとするが、丸太はピクリとも動かない。
片手の力だけで、ガッツの猛攻は止められてしまったのだ。

「ふんっ」

雅は丸太ごとガッツを持ち上げ、ぽいと放り捨てる。
ガッツは地に着くと同時に受身を取り、体勢を立て直す。


753 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:19:41 XRuwJnsI0

「いくら振り回しても私には効かんよ。そんな小枝ではな」
(小枝、か...ふざけやがって)

ガッツは内心で毒づきつつ、手の丸太へチラと視線を送る。
ハンマーもこの丸太も、鈍器の類を否定するつもりも侮辱するつもりも毛頭ない。
如何な武器であろうが結局勝負を作用するのは状況と使い手であり、鈍器には鈍器の、剣には剣の用途がある。

だが、この現状、驚異的な再生能力と耐久力を持つ相手に鈍器というのは非情に相性が悪い。

もしもこれが剣であれば、いくら再生力を有していようが、切断しその部位を拘束でもしておけば、完全に戻るまでは時間がかかる。
いかに頑強な身体といえど、とどのつまり肉体だ。鎧を着ていない以上、実力差があろうとも、刺せば皮膚と肉は損傷し斬れば身体を分離させることができる。

鈍器では、潰すことはできても身体から部位を引き離すことができない。
そのため、いくら振るおうがその側から再生してしまう。

なによりこの丸太はドラゴンころしよりも軽い。扱いやすく下手な武器よりは当たりの部類だが、普段ほどのパワーは発揮できていない。
おまけに、義手に仕込まれている大砲や矢は当然ながら没収されている。
この不利な状況を打破するには、現状の装備では不足と言わざるをえない。

「私を倒すというのなら、これくらいでないとな」

雅は、側に植えてある大木へと両手を添える。

「ふんっ」

ささやかな掛け声と共に筋肉に筋が入り、力が込められる。

(まさか、あのヤロウ...!)

ガッツの背に冷たいものがはしる。
雅がなにをやろうとしているのか―――嫌でも想像できてしまう。
だが、いくら力が強いとはいえ、ゾッドほどの巨漢ならいざ知らず、自分ほどの背丈の男があれを引き抜くことなど出きるのだろうか。

「んがぁ!」

メキメキと音を立て、地に張られていた太い根が地面から引き剥がされる。
雅は、引き抜いた大木を見せ付けるかのように肩に担ぎ、笑みを浮かべる。

「これはいい丸太だな」


754 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:20:20 XRuwJnsI0

その言葉と同時、横薙ぎに振るわれる大木。
丸太と大木。正面からやり合えるはずもない。
ガッツは身を屈めかわし、振り下ろしには横っ飛びで対応する。
隙を伺うも、大木を軽々と振り回す雅まで至るには遠く届かない。
このままチマチマと粘り続けたところで勝機はない。
三度大木が振り下ろされたその時、彼は勝負に出た。

「むっ」

今まで横っ飛びでかわしていたガッツが、己の身を掠めそうなほどの紙一重で避け、雅目掛けて突進する。
それを阻もうと、雅は打ち込んだその体勢のまま横なぎに大木を振るう。
その瞬間、タイミングを見計らっていたかのように地面に丸太を突き立て、その反動で跳躍し、大木をかわす。
予想外の回避に、雅は大木を構えなおす暇すらない。
ガッツは跳躍の勢いのまま、鉄の拳を握り締め雅へと迫る。
大砲は没収されており、丸太よりもリーチは劣るが、重量のある鉄の拳は速さで勝る。
この鉄の塊を再生する前に叩きこみ続ければ、流石に効果はあるはずだ。
ガッツの拳が雅の顔へと撃ち込まれるその刹那。

キ――ン

突如、耳鳴りと共にガッツの脳髄に走る鋭い痛み。
謎の苦痛にも構わず、鉄の拳は雅への顔面へと叩き込まれる。
雅は地面を滑り、大木を手放してしまう。
そんな隙を見逃すガッツではなく、雅へと追い討ちをかけんとする。


キ――ン キ――ン キ――ン


再び脳髄へと走り始める激痛。
恐らくは雅によるなんらかの攻撃であると推測はできるが、対処法もわからない以上、雅を殺すのが手っ取り早い解決方法だ。
激痛に顔が歪むが、この世に産まれ出でてから戦場に身を置いてきた彼にとっては、身体が動く限り、如何な痛みも足を止める理由には至らない。

その闘争心と殺意こそが、勝負の分かれ目だった。

振り下ろされるガッツの拳。
それを、雅は仰向けの体勢のまま、掌で軽々と受け止めた。

「人間とは不便なものだ。如何に痛みに耐えようとしても身体は正直に反応してしまう」

ガッツの脳髄の痛みは、雅から発せられた音波、『脳波干渉(サイコジャック)』によるものだ。
その苦痛により、ガッツの拳は本来の威力を削がれ、雅に大したダメージを与えられぬまま、追撃に向かってしまったのだ。

「くっ!」

拳を掌から引き剥がし離れようとするガッツを、逆に抱き寄せる。
今にも鼻先が掠めそうなほどの距離で、雅はガッツへと囁いた。

「お前の負けだ、人間」

ガブッ。

首筋に、雅の牙が食い込んだ。


755 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:20:54 XRuwJnsI0



「ううううぅぅぅ...」

全身に痣を刻まれたひでは、うずくまり身体を震わせていた。

「ふむ。なるほどな」

ぬらりひょんはひでを見下ろしつつ、まじまじと己の両手を見る。
先ほどまで分裂していた身体は、数分で元に戻ってしまった。
どうやら、自分の能力は妙な力で制御されているらしく、単に形態を変化するだけならば大したことはないのだが、分裂などの身体を増やしかねない技は、一定時間を越えると元に戻るようだ。

制限を不便とは感じるが、むしろ彼は主催への興味をそそらせていた。
自分の身体は一朝一夕で弄れるようなものではない。
例え解剖されたとしても、こんな制御を施すことはできないだろう。
この殺し合いの主催者は、そんなありえぬ奇跡の体現者だとでもいうのか。


先ほどまで殴り合っていた白髪の男もそうだ。
彼もまた、再生能力を有し、自分と互角に張り合って見せた。
自分が率いる軍団と比べても明らかに異端。
そんな者達がまだ大勢いるとしたら、ますます興味が湧いてしまう。

「うむ、実に興味深い」

ウンウンと頷きつつ、ひでへと視線を送る。
目の前に転がる変質者も中々に強かったが、あの男に比べれば物足りない。
それに、強いものと戦うことに喜びも感じる自分が、ああまで苛立っていたのは不快感極まりない。

「お前は、もういい」

下される宣告に、ひでの焦燥は瞬く間に加速していく。

「やーだ!やめてタタカナイデ!タタカナイデヨ!」

当然、虐待おじさんすら苛立たせるだけのひでの懇願が届くはずもなく。
ぬらりひょんの拳が握り締められる。


756 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:21:25 XRuwJnsI0

その一方で。

「が...あ...」

雅に噛まれたガッツの身体から力が抜け、痙攣と共にだらりと両手が垂れる。
吸血鬼の唾液により、全身に痺れがまわり、小便を筆頭に体液が勢い良く放出されていく。

「ガッツ!」

一部始終を見ていた祥子は、ロックや奈々に止められる間もなく、悲痛な面持ちのままガッツのもとへと走りよる。

「ほう。私に立ち向かうか、小娘」
「ガッツから離れて!」

それは策も何もない無鉄砲な特攻だった。

助けたい。
力になりたい。
傷ついてほしくない。

そんな純粋で表裏ない想いにも雅は容赦しない。

パァン、と小気味いい音と共に、祥子の頬に激痛が走り吹き飛ばされる。
衝撃で脳を揺さぶられた祥子は、自分が雅に殴られたことを理解する間もなくあえなく気絶してしまう。

「首を吹き飛ばすつもりで殴ったが...なるほど、他者の身体能力を操作するのがお前の力か」

雅が言葉を投げかける先には、片膝をつきつつ祈るように己の手を組んでいた奈々。
祥子が殴られる寸前、奈々は咄嗟に端末を使い、祥子の身体能力をあげていた。

無論、咄嗟の使用の為、奈々の体力は大幅に削り取られ、頬は赤くなり呼吸も乱れてしまう。

「女、お前の支給品にますます興味が沸いてきたよ。お前で楽しんだ後は私が引き継ごうじゃないか」

嫌らしい笑みを浮かべる雅に、奈々とロックは共に嫌悪感と言い知れない恐怖を覚える。

(クソッ...!)

ガッツが負けた。
この事実だけでも現状に絶望するには充分だが、加えてひでもぬらりひょんに敗北したのだ。
ガッツ、雫。ついでにひで。
こちらに敵意のない三人、それも実力者が皆敗北した以上、もはや逃げ道はない。


757 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:22:52 XRuwJnsI0

「さて。この男の息の根を止めたら...次は貴様たちだ」

ギョロリ、と目を動かし告げられる宣告に、ロック達は死を予感する。
これより自分達はあの二人の怪物に為す術なく壊され、殺され、蹂躙される。
明確な死への恐怖は、彼らの足腰の自由を奪い、その場に縫い付けてしまった。

ぬらりひょんが拳を肥大化させ、雅がガッツの首を掴み上げる。


「「終わりだ」」

二人の『王』の声が重なり、意識は互いの獲物へと向けられる。
瞬間。

――――今だ!


狩人たちの牙は剥かれた。



ズブッ。

ぬらりひょんの腹部から金属の巨腕が生え

カチリ。

雅の頭部に冷たい銃口が触れる。

「おっ」
「なっ」

虚を突かれた王達が驚愕の声をあげるも、間に合わない。

「おォおオォ」

雄たけびと共に、巨腕が縦方向に振りぬかれ、ぬらりひょんの身体が引き裂かれ四散し。

パララッ

銃弾が、雅の頭皮ごと脳を削り取り、ピンク色の内包物が外へと顔を覗かせる。

彼らが互いに標的を違えたのは偶然だった。
岡八郎と暁美ほむら。二人の狩人は、各々の奇襲を見事成功させたのだった。


758 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:23:44 XRuwJnsI0



「ふーっ、ふーっ...」

息を切らしつつ、四散したぬらりひょんを見下ろす岡、ポツリと呟いた。

「そうか...やっぱり、意識の外からの攻撃か...」

雅やひでとの戦いを観察していた岡は、違和感を抱いていた。
雅から受けたブーメランは再生に時間を有していたにも関わらず、ひでからの猛攻は瞬時に治していた。
ブーメラン一発とひでからの数多の攻撃、どちらの方がよりダメージが深いかは比べるまでもないだろう。
だが、ぬらりひょんに通用していたといえるのは前者のみ。

そこで、雅の攻撃とひでの攻撃を照らし合わせ、両者の状況の違い―――即ち、攻撃が意識の外にあったかどうか、に気がつくことができた。

「道理であのガキ(?)が勝てん訳や。こいつには不意打ちしか効かへん...理屈は解らんがな」

岡はぬらりひょんから視線を外し、もう一方の戦局、雅たちへと意識を移す。

(あの白髪の再生能力はネタが解らへんかったから爺を優先したが...あっちはどうなっとるんや)


759 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:24:10 XRuwJnsI0


「ぐ...が...」
(まだ生きている...!)

よろめきつつもうめき声を漏らす雅に驚愕するほむら。
生命力が尋常ではないのはぬらりひょんやガッツとの戦いを観察していて解っていたつもりだが、それでもこんな有様でまだ動けるのは予想外であったのだ。

(けれど、流石に頭部を破壊されれば堪えるようね)

頭部。
即ち、脳は非情にデリケートな器官である。
目・耳・口、それらからの情報を行動に移すために、身体の各部位へと情報を伝達するにはこれの存在が欠かせない。
生きるうえで心臓と同価値の器官であると言い換えられるかもしれない。
その脳が破壊されれば、如何にソウルジェムを破壊されない限り不死身性の高い魔法少女でも生存は難しくなる。
だからこそ、ほむらは雅の頭部を狙った。その成果は確かに出ていた。

ほむらは剥き出しの雅の脳へと向けてショットガンを突きつける。

(躊躇はしない。殺人への抵抗感なんて、まどかを殺したあの日にもう捨てている。彼女を害する存在ならば、尚更よ)

引き金は引かれ、散弾は放たれた。

パ ァ ン

雅の身体が後方へとよろめき、いまにも倒れそうなほど仰け反る。
放たれた弾丸は、雅の脳髄を破壊し、地面には脳漿と大量の血液が、頭皮と頭髪がブチ撒けられた。

拭いきれない嫌悪感を隠しつつも、ほむらは終わったことに安堵しふぅと一息ついた。


760 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:24:47 XRuwJnsI0

そのほむらの腕を掴む手が一つ。

「今のは...いい奇襲だった」

頭部を破壊され、仰け反っていた雅の身体が起き上がる。
掴まれた腕を離させようとするほむらだが、雅の腕力には及ばない。
再び驚愕するほむら。
それは、まだ雅が生きており言葉を発せたこともある。

だが、雅の残された口元を見たその時、ほむらの背に旋律が走った。
雅の口元―――頭部を吹き飛ばされてもなお変わらなかった笑みを浮かべていたことに。

「だがあてが外れたな。私は、たとえ頭部を吹き飛ばされようがバラバラにされようが決して死なない。
脳も心臓も、生物のあらゆる重要な器官も、私にとってはなんら弱点になりはしない」

うじゅうじゅと肉片が蠢き、雅の頭部を瞬く間に彩っていく。
ほむらが為し得た奇襲は、僅か10秒にも満たず無意味なものと化してしまった。


「くっ!」

雅の腕を撃ち抜き逃れようとするほむら。しかし、突如走った右肩の激痛に止められる。
如何に魂を抜かれた身体であろうと、感覚を遮断していなければ、機能面では人間と変わらない。
その不意打ち気味の激痛を無視して最善の行動をとれるほど彼女は達人ではない。

「弾丸だよ。私の頭にお前が撃ち込んでくれたな」

雅の舌に乗せられた弾丸を見せ付けられ激痛の正体を知った時には全てが遅い。

ガブッ。

ほむらの首筋に、牙が突き立てられた。


761 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:25:29 XRuwJnsI0

「か...あぁ...」

痺れと共に全身から力が抜ける。
痙攣が止まらず、涙や涎、小便などが勢い良く放出されていく。

じゅる、じゅる、と幾らかの血を吸ったところで、ぬぽっ、と牙が首筋から離される。

「ハッ、思ったとおりの不味い血だ。味も薄く、コクも無い。まるで死体から啜っているようだ。お前の貧相で不健康な身体にはお似合いじゃないか」

倒れるほむらの身体をつま先で小突きつつ雅は嘲った。

「...だが、私へと恐怖を抱きつつも歯向かったその無謀さだけは評してやろう」

雅はほむらを背中越しに持ち上げ、抱きしめるように立ち上がらせる。
雅の身体が背中越しに密着している感触に嫌悪感を抱くものの、いまのほむらに抵抗する力は無い。

「ふんっ」

掛け声と共に投擲されるブーメラン。
それはロック達の方面へと向かい、彼らから軌道を逸らし、背後の家屋の壁を破壊した。

「マズイ!」

破壊により傾き落ち掛ける瓦礫を避けるため、ロックは奈々と共に雫を担ぎ、その場を離れる。
間一髪、瓦礫は先ほどまで彼らのいた場所へと落ちて行った。
ブーメランが手元に戻ってくると、雅は満足げに笑みを深めた。

「助かった...けど」

いまのブーメランの投擲でわかった。
あの投擲は、自分達を仕留めるものではなく、わざと軌道を逸らしていた。
つまり自分達は、ただ雅に遊ばれているだけであり、いまここで息をしていられるのも、あいつの気まぐれにしか過ぎないということだ。

ほむらと岡の二人が奇襲を成功させた時は、絶望的な状況から一転、戦況を覆した二人にロックは万馬券を当てた観客のように思わず拳を握り締めたものだが、この僅かな時間でそれが遠い過去のように思えてしまう。
自分達に逃げ場などない。
一度希望を見出せた分、絶望は返って引き立っていた。


762 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:26:04 XRuwJnsI0

「女」

雅にブーメランを向け名指しされた奈々はビクリと反応を示す。

「こいつで遊び終わったら次はお前の相手をしてやろう。それまではそこで見ていることだ」

実質的な死刑宣告に、奈々の身体が震えだす。
雅がほむらになにをするつもりかはわからないが、ロクなことではないことだけは直感でわかる。

(あの男は、彼女にいったいなにを...?)

奈々が疑問を抱くのもつかの間、雅はほむらの顎を撫でつつ、耳元でそっと囁いた。

「先ほどは軽めに吸っただけだから意識もあるだろう。気分はどうだ?」

辛うじて動く目で睨みつけられる雅は、しかし鼻で笑い受け流す。

「身体に比べて目つきだけは一人前だな。だからこそ、壊しがいがあるというものだ」

つぅ...と雅の舌がほむらの首筋を撫であげれば、ほむらの背筋に寒気が走る。

「聞こえているな暁美ほむら。私たち吸血鬼の唾液には、麻酔の効果がある...が、それだけではない」
「...?」
「血を吸われるというのは、尋常でない快楽をともなう。昔の彼岸島では、その快楽を求めて自ら進んで吸われに来るほどにだ」

尋常でない快楽。
その言葉の意味が解らないほむらは、雅を睨みつつも怪訝な顔を浮かべてしまう。
彼女のその反応を合図に、雅は再び首筋に噛み付いた。


763 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:26:43 XRuwJnsI0

「ぁっ...」

じゅる、じゅる、じゅると再び吸われていくほむらの血液。
またもや視界が霞がかり、股座を初めとする様々な部位から体液が漏れ始める。
痺れが脳内を蹂躙し、口端からは唾液が滴り、はっ、はっ、と小さく吐息が漏れはじめる。

「見るがいい、お前が垂れ流した情けない体液の有様を」

血液を啜り、ほむらの醜態を見ながらせせら嗤う。
辛うじて繋ぎとめている意識の中、ほむらは負けじと雅を睨みつけた。

その反応を愉しんでいるのか。

雅の掌が、すすっ、とほむらの腹部を撫であげる。
ピクリ、とほむらの身体が反射的に反応する。
その反応を掌で感じ取った雅は、ほむらの服に手をかけ

ビリッ。

二つに裂き、小ぶりな胸を包む下着を露に曝け出した。

ほむらの痴態を見つめる他ない二人は各々の反応を見せる。
裏社会で生きる男であるロックは、少女の破廉恥な行為を見せ付ける下種野郎に歯軋りし。
同性愛に理解のある奈々は、雅には嫌悪を抱きつつも、その光景にゴクリ、と微かに生唾を飲み込んでしまう。

「どうだ暁美ほむら。皆の前で快楽を貪るというのは中々興奮するんじゃないか?―――おっと」

雅は何かに気がついたような素振りを見せ、目を瞑り、ほむらの首筋から牙を抜く。


764 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:27:15 XRuwJnsI0

キ――ン キ――ン キ――ン

発せられる超音波が、ロックと奈々の、限りなく側にいるほむらとガッツの、雅たちの背後からにじり寄っていた岡の脳を刺激し足を止めさせる。

「また会ったな、人間。ひでたちと向こうで戦っていたようだが、お前が倒したのか?」
「......」
「もしもそうならばお前も遊んでやりたいところだが、生憎といまは先約が入っている。お前の相手はその後だ」

ただ、と小さく付け加え、雅は背後の岡へと笑みを向ける。

「腹を貫通されながら女を犯すというのも新たな刺激のひとつかもしれんな。その拳を打ち込みたければ打ち込むといい」

それだけを告げると、雅はくるりと岡へ背を向け再びほむらの吸血に取り掛かる。

岡は舌打ちをしながら、その様子を観察する。

雅の弱点はまだつかめていない。果たしてぬらりひょんと同じく不意打ちに弱い性質なのか、それとも全く別の能力なのか。
全貌がつかめない以上、ひとまずは不意打ちで勝負に出るしかない。
そう考えた岡は気配を可能な限り殺しつつ背後へとまわっていたが、寸でのところで悟られてしまった。

存在が割れた以上、もはや不意打ちは成功しえないものとなってしまった。
雅の言ったとおりに腹を突き破ろうが、この男は物ともせずに再生することだろう。

(...しゃーないか)

ゆっくりと歩みを進める岡。
その挙動を、ロックと奈々の二人は固唾を呑んで見守る。
歴戦の戦士、岡八郎。
果たして、彼はこの窮地をどう乗り切るつもりだろうか。


未だに吸血を続ける雅へと近付いていく。
3歩、2歩、1歩...

そして――――そのまま通り過ぎた。


765 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:27:45 XRuwJnsI0

「は...?」

思わず言葉を失うロックへと、岡は言葉をかける。

「一旦消えるわ。お前等も早く逃げた方がええ」
「き、消えるって...」
「向こうにいる爺な、意識外からの攻撃...不意打ちしか効かへんのや。せやから、今のうちに姿くらまして奴の意識外に入らんと狩れん」
「ですが、あの子やガッツさんは!」
「知らんわ。不意打ちができん以上関わるにはリスクが高すぎる。お前らかてそうや。ここで見取ったところでなんか変わるんか。無理やろ。白髪の気が変わったら殺されるだけや。
それに、ガッツもあの女も、見ず知らずのお前等に助けてもらうことなんか期待しとらへんわ」

奈々の非難の視線が向けられるが、岡は意にも介さない。
彼は、雅にほむらが犯されようが興味はなかった。
ガンツで集められた大阪のチームでは、敵星人の強姦や拷問などは横行しているし倫理がどうとかも一切興味がない。
岡の興味ないし目的は任務をクリアし強力な武器を手に入れる、もしくは脱出することである。
雅を背後から狙っていたのも、ほむらを助けるためではなく、あわよくば彼女もろとも雅を仕留め赤首輪を手に入れるためだ。
それが不可能である以上、ここで雅を相手にすることも、ガッツを救うのも、全てが不要な手間だ。
いつぬらりひょんが復活するかわからない以上、これ以上は長居するべきではない。
岡はそう判断を下したのだ。

ほな、と言い残し岡は去っていく。
冷静を通り越して冷徹にも思える彼の後姿を止められる者は誰もいなかった。

「フン。やはりつまらん男だ」

ぬぽっ、と牙が抜かれ、ほむらの膝が崩れ落ちる。
最初に遭遇した時もそうだったが、あの男は自分が必ず勝てる戦いしか挑まない。
明や篤など、自分を楽しませてくれた男達は違う。自分を目の前にすれば微かな勝機にでも縋りつき、みっともない格好でも構わず泥臭く食らいついてきた。
いくら強さを備えていようが、明たちのような楽しませてくれる人間のように興味を惹かれなければどうということもない。
もしもまた会ったら、遊ぶこともなく殺してしまおう。


「...さて」

雅は、ほむらの頭を掴み起き上がらせる。
魔法少女の変身は既に解け、脱力でだらりと垂れた舌、だらしなく垂れ流された涙に涎、小便などその他諸々の液体。
端正ではあった顔立ちも、いまや見る影もないほど崩れていた。
普段ならば、女のこんな様を見れば雅の息子も反応するのだが、不健康な血液と洗濯板のような肢体には反応が薄く、彼を欲情させるには至らなかった。


766 : TOP OF THE WORLD(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:29:38 XRuwJnsI0

「―――――」

ぼそぼそとうわ言のようにほむらの口から言葉が漏れる。

血を吸われ、吸血鬼の唾液という麻酔を投与され、快楽を与えられ、サイコジャックの余波で脳に刺激を与えられ。
ほむらの意識はもはや彼岸の彼方だった。
文字通り孤立したかのような真っ暗な視界の中、脳裏に過ぎるのは少女の姿だった。
なにもかもに自信がなかった自分に、魔女に襲われ命の危機に晒されていた自分に、力を得ても足手まといだった自分に、いつも魔法少女【ヒーロー】のように手を差し伸べ、眩しいほどの笑顔を向けてくれた少女。
誰よりも優しくて、可愛くて、強くて、かっこいい、友達であり尊敬し敬愛する少女。
いまの暁美ほむらの全ての始まりのあの少女。

「...て...」

疲弊した精神と孤立は容易く仮面を奪い去る。
臆病で脆弱で何にもできなかったかつての頃のように、彼女はただ求めることしかできなかった。
ほとんど無意識に呟いた文字は、名前。
幾度となく、自分を助けてくれたあの魔法少女(ヒーロー)。


「たすけて...なめ...さ...」

ピクリ、と雅の耳が動く。
名前こそはほとんど聞き取れなかったが、この期に及んで名指しで助けを求めるとはよほど思い入れのある者なのだろう。
暁美ほむらに大切な者がいる。その事実を認識した時。

「ハッ」

息子は、生を取り戻した。

かつて宮本篤の嫁、涼子を襲った時を思い出し、身体が熱を帯びる。
あの婚約者の目の前で蹂躙し、心身共に快楽の奴隷にするあの高揚感はなんど味わっても堪らない。
もしもほむらの想い人があの二人のどちらかだというのなら―――やることは決まっている。

雅はほむらを仰向けに転がし、股を覆う布を破る。

「ハ、大洪水じゃないか」

嘲り笑いつつ、雅はチラとロック達の反応を見る。
両者とも、雅への嫌悪とほむらへの憂慮は窺えるものの、兼ねてよりの知己のソレとはまるで異なっている。
せめてかつての篤のように形振り構わず向かってくれば楽しめたのだが、と思いつつも、ズボンのチャックを下ろし、己の勲章を露にする。
天を穿たんとそそり返るソレを鎮めるため、雅はゆっくりと腰を鎮めていく。

雅の欲望が、ほむらの少女を散らさんとにじり寄る。

その行いを止められる者はいない。

「が」

ただ一人。

「ガ、アアアアアアア!!!」

かつて愛する者を眼前で蹂躙された『彼』を除いて。


767 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:31:49 XRuwJnsI0



(なにが、どうなっていやがる...?)

雅が岡へとサイコジャックを放った時、ガッツもその余波を受け、脳の痛みと共に意識が覚醒していた。
とはいえ、半ば朦朧としており、なぜ自分がこうなっているのか、いまなにが起こっているのか。
それらを整理するのがやっとであり、吸血の効果で身体も痺れてロクに動くことすらできなかった。

(情けねえ...大口叩いておいてこの様かよ)

無茶だとロックに止められた時のことを思い返す。
あの時、自分の道は自分で切り開くとのたまっておきながら、現状は雅の気まぐれで生かされているに過ぎない。
これを滑稽だといわずになんというのか。

だからこそガッツは殺意を滾らせる。
化け物【使徒】どもはいつもそうだ。人間を見下し、侮り、慢心する。
そしてその驕りで、己の身を焦がし最後は鉄塊のサビとなる。

雅も変わらない。
驚異的な再生能力を有しているようだが、性質は使徒と同じだ。
その強力な力に慢心し、自分が何者よりも優れていると思っている。
だからこそ、そこに付け入る隙がある。

(俺をすぐに殺しておかなかったこと、後悔させてやるぜ化け物...!)

ふつふつと、静かに、着実に殺意と怨念を滾らせるガッツ。
そんな彼の耳に届いたのは、喘ぎにも似た声。

(...?)

ゆっくりと顔を動かし、声の出所を確認するも、視界が霞み全貌を拝むことはできない。
彼の目に映るのは、ふたつの影だった。
ひとつは女らしい繊細な輪郭で、もう一つは引き締まった男らしい輪郭。
やがて影はその距離を縮め、男の影が無理矢理押し倒し、蹂躙しようとする。

その光景が。


―――見ないで...

かつて愛した女が。

かつての友だった『化け物』に。

自分の目の前で陵辱され、奪われたあの時と脳裏で重なった。


瞬間。


ガッツの身体は弾けるように駆け出した。

痛みも。痺れも。思考も。

己を縛る枷を全て排除し、ただただ【あの時】を殺すためだけに武器を取る。

憤怒と憎悪で振るわれた丸太は、かつての『友』をかき消し、その先にいた怪物をも吹き飛ばした。


768 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:32:36 XRuwJnsI0

「ぐあっ!」
「あ...?」

地面を滑る雅を、丸太を握り締めていた己の両腕を見て、ガッツは思わず呆けた声を漏らす。

あの時もそうだった。
聖鉄鎖騎士団に捕らえられ、脱走のために連れ出した女団長、ファルネーゼが馬の怪物に犯されそうになった時。
その姿が、グリフィスに陵辱されたキャスカに重なり、激情がガッツの全てを支配し、気がつけば馬の首を切り裂いていた。
特段助ける義理もない癖にだ。

しかも今回に至っては面識すらない少女だ。
キャスカのことは、自分が考えている以上に根深いものになっているのだろう。

(...気付けには反吐が出るほど充分だがな)

いまのやり取りで痺れはだいぶ吹き飛んだ。
疲労は隠し切れないが、死体同然で転がっているよりはマシだろう。

「驚いたぞ。まさか吸血後にそれほど動けるとはな...お前の目は奴らによく似ているよ。私を楽しませてくれるあの男達と」
「知るかよ」
「私は人間は嫌いだが、お前のような強く有能な者は別だ。なんとしても手に入れたい」

瞬く間に雅の怪我は再生し、1分にも満たないうちに戦況はリセットされる。
未だ雅の優位は揺るがない。
しかし。
僅かにでも時間が経過したということは、だ。


「まずは貴様の手足をもぐとしよう。そして私の血を受け入りゃぶッ!?」

雅と同じ人外である彼女が、魂の抜かれた身体を有する彼女の意識が彼岸の彼方より舞い戻るには充分すぎる。

復活するなり雅の顔面へと膝蹴りの奇襲を浴びせたほむらは、捕まらぬようすぐに後方へと跳躍しガッツの隣りへと並び立つ。


769 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:33:11 XRuwJnsI0

「なんだ、ピンピンしてるじゃねえか」
「......」

すぐに矛先を向けないことから、ガッツには敵対意思がないとほむらは判断する。
その上で、このまま雅と戦い勝機はあるか―――かなり薄いと見て間違いないだろう。
ガッツは言わずもがな、ほむらにも余裕があるわけではない。
いまの疲弊しきっているほむらが動けているのは、痛覚やその他の感覚を全て遮断しているためである。
無論、魔力を消費する上に長くは続かない代物だ。
このまま戦えば先に果てるのは自分達であるのは明白だ。

(それに...不安要素はまだある)
「いっちねんせいになったら、一年生になったら〜」

ほむらの不安要素であるひでがスキップしながら現れる。
ぬらりひょんから受けた傷も半分ほどは癒え、こうして雅のもとへと舞い戻ってきたのだ。

「あれぇ?おじさんどうしたのぉ」
「あいつは白髪の仲間か」

丸太を構えなおすガッツを、ほむらは咄嗟に手で制す。

「待って。あいつに手を出しては駄目。...大丈夫。こちらから手出しさえしなければなんともないわ」
「どういうことだ」
「あいつは、自分に手を出した者だけを攻撃する。こちらから何もしなければ、あれはただのでくの坊よ」
「そうかい」

こちらから攻撃しなければ無害な存在。
それを避けるというのは、言い換えれば、攻撃の幅が狭まるということだ。
仮に雅を追い詰めたところで、ひでを盾にでも使われれば非情に厄介であり、不意の一撃で戦局が覆される可能性もある。
なんともやりにくい相手だ。ガッツは素直にそう認めざるをえなかった。

(チッ、奴等を殺すにしても分が悪すぎる。一旦退くしかねえか)

戦とはただ闇雲に攻めるだけではない。攻める時には攻め、退くべき時は退く。
雅を仕留められぬまま撤退するのは歯がゆいが、このまま戦ったところでジリ貧だ。

(問題は、あいつがおめおめと逃がしてくれるか)

仮にこのまま背を向け走り出したところで、自分は既に満身創痍の身であり、且つあの超音波かブーメランでいとも容易く捕まるだろう。


770 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:33:35 XRuwJnsI0

(どうにかして奴の隙を作りてえが...)
「聞いて」

まるでガッツの思考を読んでいたかのようなタイミングだった。
ほむらはガッツにしか聞こえないほどの小声で言葉をかけた。

「マントを少し借りるわ」
「あ?」
「これからあいつの隙を作る。そこから先の判断はあなたに任せるわ」
「......」

なにか策があるとでもいうのか。
だとしたら、どんな。
聞きたいのは山々だが、いまは眼前に敵がいる状況。
相手へと戦略が漏れ、チャンスを潰してしまえば目も当てられない。
そのため、ガッツはマントを渡すことにした。

ほむらにマントが手渡された瞬間だった。

バサリ。ほむらは突如、ガッツの眼前にマントを投げつける。

同時に。

左腕の盾から取り出すのは、筒状の物体。

それがほむらの手を離れ、地面に落ち、閃光があたり一面を覆う。

それを目撃したもの達は一様にして目が眩み、世界が暗闇に包まれる。

ただ一人、マントで視界を塞がれていたガッツを除いて。


771 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:33:54 XRuwJnsI0

「ッ...どういうこった」

顔に被さりそうになったマントを引き剥がし、キョロキョロと周囲を見渡せば、自分と気絶している祥子を除けば皆が目を押さえ悶えているこの現状だ。
そう言葉を漏らしてしまっても仕方のないことである。

(よくわからねえが...これがあいつの言ってた『策』か)

この状況を生み出した経緯は不明だが、今この時が最大の好機であるのは間違いない。
ガッツは気絶している祥子を肩に乗せ、後方にいる奈々たちのもとへと駆け寄る。

「うぅ...目が、目が...」
「聞け。今からここを離れる。あの妙な術を俺に使え」
「え?えと...」
「悪いがチンタラ説明している暇はねえんだ」

奈々は暗い視界の中で、とにかくガッツの頼みに従い、彼へと端末の魔法をかける。

「!...へえ、こいつはいい」

淡い光に包まれると共に、ガッツの身体から気だるさが抜け、胸のうちから溢れるような高揚感が高まっていく。
ガッツは祥子をロックに無理矢理預け、疲弊しきっている奈々と倒れ付している雫を小脇に抱きあげ、その歩みを進める。

その後に、祥子を強制的に押し付けられたロックも続く。
視界こそはまだ晴れてはいないものの、ガッツの鎧の衣擦れ音が嫌でも耳に届くため、どうにかガッツの後を追うことができた。

戦場から逃走する最中、ガッツはピタリと立ち止まり、一度だけ振り返る。

暁美ほむら。
先ほどマントを貸した少女は、既に姿を消していた。

「いい根性してるぜ、あのガキ」

ガッツが視界を遮るマントを取った時にはもう彼女の姿はなかった。
方法こそは不明だが、彼女が消えて、自分達が取り残されていたのは、早い話が囮だろう。
自分を利用したことを責めるつもりはない。
同盟すら組んでいない関係だ。まんまと利用される方が悪い。それに、宣言通りに雅の隙を作っただけでも感謝すべきなのかもしれない。

ただ、そんな理屈の傍らで、次に会ったら必ずシめると心中で呟いた。


772 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:34:28 XRuwJnsI0



「おじさん」
「チィッ...」

雅の視界が晴れた時にはもう誰の姿もなかった。
スタングレネード。
彼岸島では見られなかったその武器ゆえに、対応が遅れ隙が生じてしまった。

クン、クンと鼻を鳴らしてみる。

匂いがする。そう遠くない距離から、血の匂いが。
流石にあの短時間では遠くまでいけなかったのだろう。

雅はニイ、と口角を吊り上げた。

「ひで。私に頭を寄せろ」


773 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:34:50 XRuwJnsI0


「ゼヒッ、ぜひっ...ぁっ...」

息は絶えだえに、心臓は激しく波打ち。
まるで巨大な十字架を括り付けられているかのような重い身体を引きずり、ほむらはその歩を進める。

失敗だ。
あのまま放って置けばまどかに危害が加わる。
そう察し、雅を殺すために奇襲をかけたが結果は散々だ。
弾薬を悪戯に消費し、体力を大幅に減らされ、レイプされかけ、魔力も削られてしまった。
せめてもう少し武器が、他の参加者とあらかじめ協力ができれば。
そんな後悔が幾度となく脳裏を過ぎる。

(あいつは必ず倒さなければいけない...けれど、いまは一刻も早く離れないと...)

キ――ン キ――ン キ――ン キ――ン

「くっ!」

耳鳴りに脳髄を刺激される。
まただ。吸血されている時にも感じたが、またあの音波が発せられたようだ。
距離が離れているため深刻なものではないが、思わず足を止めるには充分な威力だ。

(ああして闇雲に発して足を止めるのを待っているのかしら...だとしたら、尚更止まってはいられない)

耳鳴りが止んだ。
しかし、脳髄を刺激した痛みはまだ痕を残している。
それでも足を止めるわけにはいかない。
魔力も体力も有限だ。下手に消費するわけにはいかない。
戦いの傷跡と生来の疾患に苛まれつつも、魔力は使わず、覚束ない足取りで、ほむらは下北沢の出口を目指す。











「いけないお姉さんなのら、ペンペン☆」


774 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:35:43 XRuwJnsI0

ズダン、とほむらの顔面に衝撃が走る。
何者かに背後から襲われ、地面に組み伏せられたのだ。

「無駄な抵抗はやめちくり〜」

(この声は...間違いない、ひで!)

頭を押さえつけられているため確認できないが、背中にかかる体重に、ほむらは自分の背にひでが乗っていると認識する。
小学生を名乗る全裸の男に密着されている事実に嫌悪を抱き、振り払おうとするもひでは微動だにしない。
魔法少女の力を持ってしてもまるで歯が立たないのだ。

(何故こいつが...私は手を出していないのに!)
「私の脳波干渉(サイコジャック)はただ苦痛を与えるのではない。ある程度の時間、対象の脳に干渉し続ければ、私の忠実な僕にできるのだよ」

近寄ってくる足音と共に、ほむらの心の声に答えるかのように響く声。
聞き間違えるはずもない。雅のものである。

「ひで、暁美ほむらの顔を上げさせろ」

(これは...もう逃げられそうもないわね)

現状を顧みて、ほむらは観念する。
自分は今度こそ雅に犯され、絶望の果てに散るのだろう。

(好きにしなさい...そのときが、あなたの最後よ、雅)

その絶望こそが、ほむらに残された最後の武器。
ソウルジェムの完全な穢れによる魔女化である。

(私の魔女がどの程度の強さなのかはわからない...けれど、あなたはただでは生かさないわ)

自然と、雅へと向ける視線に敵意と憎悪が込められる。
その視線を知ってか知らずか。
雅は笑みを浮かべつつ彼女を見下していた。


775 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:36:18 XRuwJnsI0

沈黙が流れる。
やがて、口を開いたのは雅だった。

「早まっているようだが、私はここでお前をどうこうしようというつもりはない」
「...え?」
「魔法少女という特異性、あの躊躇いのない見事な奇襲、散々陵辱されかけても折れぬ精神、そしてこの状況でなお私に敵意を向けるその眼差し...私はお前を気に入ったのだよ」

雅の突然の賞賛にほむらは呆気をとられる。
彼を裏切り、あそこまでした自分を気に入ったとはどういうことか。
ならばこの状況はなんなのか。

ほむらがその答えを知る前に、雅は、懐からペットボトルを取り出し地面へと置く。

「......?」

疑問符を浮かべるほむらとひでに構わず、雅はブーメランで己の手首を切りつけた。

トクッ、トクッ、トクッ。

流れる血液は零れることなくペットボトルへと注がれていく。

「私の血液は感染し、体内へと取り込んだ者を吸血鬼と化す。その効果はお前もその目で見ただろう」

ほむらの脳裏にバットマンの覆面を被った男の顔が過ぎる。
確かにあの男は雅により致命傷を与えられたあと、血を振り掛けられた途端に吸血鬼と化した。
その結果があの地獄絵図だ。そんな危険な代物をボトルに入れてなんのつもりだろうか。

「これをお前にやろう。これがあればお前はいつでも吸血鬼を生み出せる」
「なっ」
「ほんとぉ?」

驚愕するほむらととぼけた表情を浮かべるひで。
そんな二人に構わず、雅は再び口を動かす。

「これは気に入った者への私なりの慈悲だ。...なに、吸血鬼になることを恐れる必要はない。
これを取り込めば、私ほどではないが不死身に近い身体を手に入れ、人間の数倍の頑丈さと力強さを手に入れることができる。
死に行く者にかけ蘇らせることも可能だ」

「...!」

ほむらの目に動揺が走る。
吸血鬼の血。それがもたらすメリットに、微かに心揺れたのだ。
それでも、人間の血を取り込まなければならない点を考えれば、やはり取り込む気は起きないのだが。


776 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:37:44 XRuwJnsI0

「とはいえ、このままタダで渡すのは裏切りの対価がない...そこで」

雅の人差し指がほむらの額に添えられる。

「貴様に、奴隷の烙印を刻ませてもらおう」

ギ ギ ギ

一瞬のことだった。
雅の人差し指が下ろされ、その線に沿い皮膚が裂け、血が吹き出す。
ほむらが自分の顔に切り傷を入れられたと知った時にはもう遅い。
激痛が、ほむらの脳内を支配した。

「あ、ぐああああああ!!」
「アハハハハハハハハハハ!中々お似合いじゃないか!」

少女の悲鳴と怪物の笑い声が、下北沢の街に響き渡る。
悶えるほむらをひでに押さえつけさせ、雅の右掌がほむらの口を塞ぐように被される。

「その傷を見る度にお前は私のことを思い出す。再び出会ったとき、お前は私に服従を誓うか?殺しに来るか?好きにするといい。さあ、私を楽しませてみろ、暁美ほむら」

相も変わらず薄ら笑いを浮かべる雅に、ほむらの心にドス黒い感情が沸き始める。
まどかのことを抜きにしてでも殺してやりたいという、純粋な殺意と憎悪が。


ドォン、と音が鳴り響く。


「ハッ。まだ暴れている者がいるようだ。その様で巻き込まれればひとたまりもないだろう...ひで、離してやれ」

雅の指示通りにひではほむらを解放し、二人は悠々と戦闘音のもとへと歩き出す。


777 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:38:39 XRuwJnsI0

ほむらはそんな二人の背を憎憎しげに見つめる。
殺せるものなら今すぐにでも殺してやりたい。
けれど、いまの自分では不可能だ。

(雅を倒すためには、私の力だけでは不可能。味方につけられるとしたら――)

知己たちを思い浮かべる。

巴マミならば。あの強さに大砲、なにより戦闘の巧みさで奴を倒せるかもしれない。
佐倉杏子ならば。接近戦に最も秀でた彼女ならば、再生させる間もなく殺しきれるかもしれない。
美樹さやかならば。回復魔法を有効的に使えば雅にも匹敵できるかもしれない。

佐倉杏子は怪しいものの、他二人は正義感の強い人たちだ。
雅の凶悪性を知れば放って置くことはないだろう。

(当面は彼女達やあの丸太の男、そして雅が言っていた宮本明という男を探すべきね)

血液の入ったペットボトルをデイバックに入れ、よろよろと覚束ない足取りで、ほむらは雅たちとは逆の方向へと歩いていく。


『君はどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせるのかい?』

不意に、キュゥべえの言葉が脳裏を過ぎった。
暁美ほむらが魔法少女となったあの時の言葉が。

自分は奴に対して答えた。鹿目さんとの出会いをやり直したいと。

そして。

『彼女に護られるわたしじゃなくて、彼女を護る私になりたい』

「......」

雅には敵わないから、他者の力を借りる。
至極真っ当であり合理的な考えだ。

だから、この方針は間違ってはいないはずだ。

なのに。

それを酷く悔しく思ってしまう。

結局、自分は誰かに頼らなければ、己の身すら満足に護れやしない。
役立たずだったあの頃となにも変わっていない。

視界が滲み、傷だらけの頬を、一筋の涙が伝い落ちた。


778 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:40:13 XRuwJnsI0






雅と他の参加者たちの戦い。
その一部始終をビルの屋上から凝視するのは、岡八郎。
彼は、支給品のひとつである双眼鏡で戦況を把握していた。

「...ありえへん」

思わず呟いてしまう。
それは信じられぬものを見た、という類のものではなく。
事態の一連の流れを見て、だ。

「俺は正しく行動したはずや...なのに、なぜこうなる」

始め、岡はロックと組んでいた。
そこにガッツ、奈々と雫という戦力が新たに現れ、ミッションの達成も楽になると踏んでいた。
だが、雅とぬらりひょん。この二つの強大な敵に挟まれたために、討伐は困難となり、戦力は軒並みダウン。
自分もその煽りを受けてしまう前に、イチ早く姿をくらました。
しかし、だ。

結果は見ての通り、ガッツは再び立ち上がり、犠牲者も出さずに退散してみせた。
この戦いから、あの五人の団結は言わずもがな、暁美ほむらもよほどのことがない限り彼らを率先して排除するようなことはしなくなっただろう。

つまりは、あの男は、ロックは『ガッツ』と『雫』と『奈々』、そして間接的に『暁美ほむら』という戦力を手に入れたことになる。

もしも岡があの場に留まっていれば、その恩恵に授かることが出来ただろう。

「だが、なんであいつはあの場に留まることができた?」

ロックは武器すらない正真正銘の一般人だ。
野崎祥子に次いで、あの場では弱い部類の人間である。
そんな男が、何故あそこに留まれた?
まさかガッツが再び立ち上がることを、暁美ほむらが脱出可能な武器を持っていたことを知っていた、若しくは感づいていた?


779 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:40:46 XRuwJnsI0

「んなの、何万分の一の確率や。それに賭けてあの場に留まるなんざ正気の沙汰やない」

自分の所属する、キチ○イだらけの大阪チームですらもう少しマトモな思考を持っている。
よもや、あの男は底抜けのお人よしなのか―――いや、違う。
もしそうならば、ガッツやほむらが噛まれている時に、なにかしらのアクションを起こしたはずだ。
だが、あの男は『なにもしなかった』。あの戦いを遠目で見たとき、誰かが指摘しなければ存在に気付かれないほどになにもしようとしなかった。

「あいつは...賭けたんゆうか?自分の命を掛け金(チップ)に、やつらが戦況を打破することに」

そんな賭けをする必要などない。
ただ逃げ出すだけなら、雅がほむらに気を取られているうちに、岡に便乗して離れればいいだけのことなのだから。

「まさかあいつは、賭け(ソレ)自体を楽しんでいたいうんか?」

あの場に留まるのは、怪物を乗り切れば大きなリターンが見込める大博打。
岡に従い、あの場から離れれば、リターンこそは少ないものの、リスクも少ない普遍的な選択肢。

ロックはそれを自然に行い、前者をとっていた。
まるでギャンブル中毒者(ジャンキー)だ。
あのままずっと一緒に行動していれば破滅は免れなかっただろう。

「...俺も見る目がないな」

表面上だけを見て、手を組むに値すると思い込んでいた。
だが、その実彼はとんでもない厄病神だ。
今のうちに手を切れたのは幸運だったかもしれない。


780 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:41:44 XRuwJnsI0

迂闊な自分を嗜めつつ、双眼鏡を雅たちからぬらりひょんへと移す。
レンズ越に、肉片が蠢き肉体が再構築されていく。
たちまち肉片は固まり、その姿を成していく。
髑髏の顔に、筋肉が剥き出しの体、背中に生える無数の棘と、どこか死神を連想させるような出で立ちだった。

「チッ、やっぱ手を出さんくて正解やったな」

万が一にも視線がかち合うのを嫌い、一旦双眼鏡をデイバックに仕舞い、これからの行動を考える。

(今回はこのまま退散した方がよさそうやな)

雅にぬらりひょん。この両者は、ガンツのミッションの点数で例えれば、間違いなく100点に届きうる存在だろう。
片方に気をとられ、万が一にもこの二人とかち合うハメになれば目も当てられない。
ここは大人しく、武器と戦力を充実させ、改めて不意打ちで殺しにかかるべきだ。

当面の目的を定め、岡は静かに立ち上がる。




ズ ン ッ



そんな彼の背後で振動が起こる。


岡の背に冷や汗がドッと溢れ、鼓動はかつてないほどに波を刻み出す。


「ふーっ、ふーっ」



荒い息遣いが鼓膜を刺激する。
何者かが背後にいる―――確かめなくては。


781 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:42:42 XRuwJnsI0

「はっ、はっ」

岡の呼吸が乱れ始める。

振り向け。

嫌だ。

振り向くんだ。

ダメだ。

動いてくれ。

やめてくれ。

合理性と逃避反応、相反する二つの感情がせめぎ合い、岡の身体から自由を奪う。

ギ、ギ、ギ、と歯車のような音が聞こえた―――気がする。

世界の、宇宙の、いやもっと大きなところかもしれない。
本来ならば、自分では到底感知できないような、概念染みた巨大ななにか。
その『なにか』、例えるなら『運命』の歯車を、自分が聞いてしまったというのか。

―――だとしたら。

動かなかった身体が、ゆっくりと動き出す。

―――結末は、もう決まっている。

まるで、あらかじめそうなるように決められていたかのように。

ここで振り返り背後の敵の正体を、ぬらりひょんであると認識したそのとき。


「見つけた」


岡八郎は、ここで死ぬ。


782 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:43:18 XRuwJnsI0

ダンッ

振り向きざまに、床を強く踏み込み、拳を放つ。
ピンポンと通信教育で習った空手で鍛えられたその腕の振りは、容赦なくぬらりひょんの腹部を捉えた。
常人ならば悶絶し意識が飛ぶであろう威力も、ぬらりひょんを倒すには遠く及ばない。

お返しだと言わんばかりに、ぬらりひょんもまた拳を握り、突き出す。
型もへったくれもない、力任せに振るわれた拳が、スーツ越しに岡の腹部へと突き刺さり―――激しく吹き飛ばされた。

「ッ!!」

岡は、内臓への圧迫感と共に地上へと吹き飛ばされていく。
為す術もなく地面へと叩きつけられ、小さなクレーターが刻まれる。

岡はすぐに立ち上がり、ぬらりひょんの追撃へと備える。

(このスーツやなかったら死んどったな...)

もしもこのハードスーツを着ていなければ間違いなく死んでいた。
スーツの頑強さに感謝し、迫り来るぬらりひょんを迎え撃つ。

掌をかざし、標的へと向けてレーザーを放つ。
ぬらりひょんの腹部をレーザーが貫通する―――が、勢い止まらず。
ぬらりひょんの目が光り、岡のもの以上の太さの光線が放たれる。

寸でのところでそれをかわした岡のもとへぬらりひょんが着地する。

一瞬の視線の交差の後、交わされるは拳での殴りあい。


783 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:45:37 XRuwJnsI0

互いに打って、かわし、また打って、かわし。

しかし、実力は如何ともしがたい。
片や、一撃でも受ければ致命的。
片や、いくら受けようが認識している間ならばいくらでも再生が効く。
なによりも差があるのは、パワー。
岡の拳は、いくら放とうともぬらりひょんを殺すに至らないが、ぬらりひょんは数度当てればそれでスーツはオシャカにできる。

(俺は、どこで間違ったんや)

バキリ、とハードスーツの右腕が折れる。

(俺はいつも通りにやった。合理的に、確実に狩れるように)

左拳の突きはかわされ、がら空きになった腹部へと蹴撃を見舞われる。

(もしもあの時、ガッツたちを助ける賭けに乗っ取ったら、もう少しやりようはあったんか?)

身体が宙に浮き吹き飛ばされる。

(ロック【あいつ】の賭けに付き合わんかったから、助かる運命から外れてしまった―――とでもいうんか。ふざけるなや)

離れ際に、岡はレーザーを放ち地面を穿ち、砂煙が舞い上がる。
これで奴の視界は塞がれた。
チャンスは今だ。ここで逃げるしかない。

岡が立ち上がり、駆け出そうとしたそのとき。

ベチャリ。なにかが高速で飛来し、岡の身体に衝撃が走る。

(あいつ...死体を...!)

死体。それは、雅やひでがホモコーストを起こし、且つ惨殺した者達のものだ。

全身が真っ赤に彩られるのと共に、ドロリと耳元から液体が漏れ出る。
スーツの限界だ。
ぬらりひょんの投げたTNOKの遺体による一撃が、スーツをオシャカにしたのだ。

ゾクリ、と背筋が寒くなる。
その寒気とは裏腹に、身体の内が熱を帯びる。
この震えが止まらないほどの奇妙な感覚はなんだ。
かつて味わった死に、本能が恐怖しているとでもいうのか。

(俺は―――)

砂塵を掻き分け、閃光が走る。
その光に何も出来ぬまま、岡八郎の身体は貫かれた。


784 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:46:09 XRuwJnsI0



雅が戦場へと辿りついた時には全てが終わっていた。
またもや身体を変化させていたぬらりひょん。
彼の右手には、下半身を分断された岡八郎が掴まれていた。

その姿を見たひでは、先ほどの戦いでのトラウマが蘇ったかのように身体を震わせ始めた。

「恐いんだよもぉ〜(素)」
「離れていろひで。お前では手に負えなかったのだろう」
「ほんとぉ?」

あの老人と戦わなくていいのかという期待を込めた眼差しで見つめてくるひでを受け流し、雅はぬらりひょんへと意識を移す。

「ふーっ、ふーっ」
「ハッ、いい様じゃないか」
「人のことは...ふーっ、言えんだろう...ふーっ」

互いに再生能力を有している二人。
だが、片や全身を血で濡らし、片や常に息を切らしている状態。
端から見れば満身相違というほかない。
その実、疲労を除けば傷は癒えているため見た目ほどの消耗はないのだが。

「お前は非常に興味深い生物だよ。どうだ、私のもとにつかないか?」
「断る」
「ハッ、だろうな。先ほどは邪魔が入ったが、私もお前とはしっかりと決着をつけておきたいと思っていた」


785 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:48:31 XRuwJnsI0

互いに軍団を率いる頭領である。
そんな二人が相手の傘下に入るなどありえぬことだ。

雅がブーメランを構え、ぬらりひょんの拳が握り締められる。

殺気がぶつかり合い、空気を支配する。

「あぁ、出る!ああ〜」

その圧迫感に耐え切れず、ひでは小便を漏らすが誰も構わない。

雅を。
ぬらりひょんを。

殺す。

再生を続ける怪物同士の、終わりの見えぬ戦いが再び始まる。



そして。



狩人は、再び牙を剥いた。


786 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:49:15 XRuwJnsI0

パシッ。


唐突だった。
岡の上半身が手を動かし、頭部を掴む手を振り払った。
呆気にとられるぬらりひょんと雅、そしてひで。

岡八郎は生きていた。

本人が知る由もないが、彼の口内には牙を生やし、眼球は赤黒く変色していた。
吸血鬼と化したTNOKの血を取り入れたことで吸血鬼になり、上半身のみでの生存を果たしたのだ。

己の異変の原因こそはわからなかったが、しかし、これを好機と見た岡は、激痛に耐えつつ、呼吸を止め密かに機を窺っていた。
その機を――ぬらりひょんが別の対象に気を向けたこのときを待っていたのだ。

(俺は7回クリアした男、岡八郎や!!)

自分がこうなる宿命だったなど認めない。
幾度もガンツの任務をクリアしたという自負は、誰にも譲れない。

己の身体が地に着く前に、残された両手でぬらりひょんの身体を這い上がる。

赤い首輪の参加者を殺せば脱出できる。

今回の任務はそれだ。

いまここでぬらりひょんを殺せば、ギリギリ助かるかもしれない。
その微かな希望に賭けて、岡はその手を伸ばす。
その先にあるのは、首輪。

ピンポンと空手で鍛えられた拳は、見事首輪に命中し―――爆ぜた。


びちゃびちゃと飛び散るぬらりひょんの肉片。
爆風の余波を受け、残された身体の大部分を殺がれ地に落ちた岡八郎。
彼らの流した血は地面に大きな血溜まりを作り上げた。

しんとした静寂に包まれる。

再生も、崖っぷちの生存もなく、たっぷり十分ほどが経過した。

岡八郎の賭けは端から成立などしておらず。

彼らが動くことはもうなかった。


787 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:49:42 XRuwJnsI0

「は...?」

目の前で起きた出来事が信じられず、雅の声が漏れる。

ぬらりひょんの強さと再生能力の上出来さは認めていた。
それこそ、自分と同等であると。

だが、彼は死んでしまった...のだろう。
ここまで待って、一切動く気配がないのだから。
岡の奇襲で、首輪を爆発させられて、死んだ。

なんとも呆気ない。
これが自分と互角に戦ったあのぬらりひょんの結末なのか?

そっと、己の首輪に手を触れる。

(今まで私は、何度死んでいた?)

ガッツとの戦いを、暁美ほむらの奇襲を、岡との問答を振り返る。

もしもガッツの丸太が、微かに逸れて首輪に当たっていたら。
もしも暁美ほむらが頭部ではなく首輪を撃ちぬいていたら。
もしも岡八郎が、雅が与えた猶予の時間で首輪を攻撃していたら。

気がつけば、彼は幾度となく死の瀬戸際にいた。彼の余裕と遊び心は、ひとつ間違えればぬらりひょんのように無様な骸を晒していたのだ。


788 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:50:33 XRuwJnsI0

「ハ、ハハハ...」

雅の口から笑い声がこぼれ出す。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

大口を開けて木霊する雅の笑い声。
さすがのひでもこの状況での自殺行為にはドン引きする様子を見せる。

雅は、死への恐怖で正気を失った―――のではない。

「ガハハハハハ!ガハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハハハハハ―――なあ、楽しいと思わないか、ひで」

ピタリと笑い声が止まる。

「?」
「今まで私を追い詰めたのは明と篤だけだった。それ以外の者が束になってかかろうが、死の危険など一切なかった。つまらないものだったと言い換えてもいい。
それがどうだ。この殺し合いでは、あのあっさりと気絶させた子供ですら私を殺しうる手段を持っている。こんなスリルは二度と味わえないだろう」

自らが死ぬ可能性があるというのに楽しげに語る雅に、ひでは困惑の顔を浮かべる。
SM系統のAVに出ておきながら、自己防衛でおじさんの虐待を妨害し撮影をも遅らせるひでにスリルなど理解できるはずもない。

「感謝するぞ、この催しに招いた者よ。ただ殺すのはつまらん。私が勝ち抜いた暁には、お前達にもこのスリルを多分に味あわせてやるとしよう」

人の気配が薄れた下北沢に、帝王の笑い声が木霊する。



そして、どこからかノイズが走り―――放送が流れ始める。




【岡八郎@GANTZ 死亡確認】
【ぬらりひょん@GANTZ 死亡確認】


789 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:51:53 XRuwJnsI0

【F-6/下北沢〜下北沢近辺/早朝/一日目】

※赤首輪について
強い衝撃を受けると爆発し、如何な参加者でも死に至ります。
爆発の範囲はあまり広くありませんが、側にいると余波を受けて多大なダメージを受けます。
また、赤首輪を爆発させた場合は特典を使用することはできません。



【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:疲労(大)、全身打撲(多大、再生中)、出血(極大、再生中)、失禁、イカ臭い。
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す
0:雅についていく
1:このおじさんおかしい...(小声)、でも好き



【雅@彼岸島】
[状態]:身体の至る箇所の欠損(再生中)、頭部出血(再生中)、疲労(大)、弾丸が幾つか身体の中に入っている。
[装備]:鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:バトルロワイアルのスリルを愉しむ
1:主催者に興味はあるが、もしも会えたら奴等から主催の権利を奪い殺し合いに放り込んで楽しみたい。
2:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
3:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
4:あのMURとかいう男はよくわからん。
5:丸太の剣士(ガッツ)、暁美ほむらに期待。楽しませて欲しい。


※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※魔法少女・キュゥべえの情報を共有しました
※首輪が爆発すれば死ぬことを認識しました。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、右頬に痣、右肩に銃創、失禁、ノーパン、貧血(大、ただし魔力である程度再生中)、身体に痺れ(多少の行動には問題ない程度には取れている)、額から左頬にかけての傷。
[装備]:ソウルジェム、ひでのディバック、雅の血液の入ったボトル、スタングレネード@現実(ひでの支給品)
[道具]:サブマシンガン
[思考・行動]
基本方針:まどかを生還させる。その為なら殺人も厭わない
0:この場を離れ、早急にまどかを探し出す
1:いまは無理だが、雅は必ず排除する
2:雅を倒す戦力が欲しい。候補は美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子、宮本明、丸太の男(ガッツ)。


790 : TOP OF THE WORLD(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:52:30 XRuwJnsI0

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(大) 、出血(中)、失禁、身体に痺れ(多少の行動には問題ない程度には取れている)
[装備]:ゴドーの甲冑@ベルセルク、青山龍之介の丸太@彼岸島
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:使徒共を殺し脱出する。
0:この場から離れる。
1:化け物を殺す
2:ドラゴン殺しが欲しい
3:己の邪魔をする者には容赦しない。
4:あの女(ほむら)は次にあったらとりあえずシめておくか。


※参戦時期はロスト・チルドレン終了後です。
※トロールをいつもの悪霊の類だと思っています。




【野崎祥子@ミスミソウ】
[状態]:擦り傷、疲労(中〜大)、頬に痣、気絶
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:今度こそお姉ちゃん(春花)を独りぼっちにしない。
0:お姉ちゃんと合流する。
1:ガッツと...

※参戦時期は18話以降です。


【岡島緑郎(ロック)@ブラックラグーン】
[状態]:健康、不安(小)
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する。
0:この場から離れる。
1:レヴィとバラライカと合流できればしたいが...暴れてないといいけど
2:岡はどこに行ったのだろう

※参戦時期は原作九巻以降です。



【羽二重奈々@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、不安(大)
[装備]:魔法の端末(シスターナナ)@魔法少女育成計画
[思考・行動]
基本方針:雫と共に生き残る。


【亜柊雫@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、右腕粉砕骨折、気絶
[装備]:魔法の端末(ヴェス・ウィンタープリズン)
[思考・行動]
基本方針:奈々と共に生き残る


791 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/02/15(木) 18:53:03 XRuwJnsI0
投下終了です


792 : 名無しさん :2018/02/17(土) 18:08:24 NCjPmyqA0
投下乙です

ガッツとほむほむを苦も無く圧倒する雅様凄ェ!配下のひでもクッソ頑丈で厄介なマーダーチームですねクォレハ…
岡さんはぬらりと相討って脱落。本人が思ったようにロック達と強力すべきだったのか、それともロックと組んだ時点で運がつきたのか


793 : 名無しさん :2018/02/18(日) 00:23:18 EiU/B9E60
投下乙です
熱い戦いからのあっけない幕切れ、寂寥感を感じずにはいられません
実のところ雅様は屈指の強マーダーチームを形成したことになりそうですね
ところでひでの状態表に雅が好きと書いてあるんですけどひでは女の子だった……?


794 : 名無しさん :2018/02/18(日) 01:24:25 VDBkyxe20
ひで女の子説はクッソ気持ち悪いのでNG


795 : 名無しさん :2018/02/18(日) 01:33:21 WMU/zclY0
投下乙です
戦闘狂も一般人もホモも戦士もそれぞれ己のやり方で全力で戦ったのには手に汗握りました
変わらぬ運命と変わる運命、首輪一つで死ぬと悟った雅の今後の動向はどうなるのでしょうか


796 : ◆EPxXVXQTnA :2018/02/19(月) 22:05:39 VQYvAIT20
投下乙です。
兄貴の大作に書き手汁を2回も出したので
ひで、雅、野崎祥子、ガッツ、岡島緑郎、羽二重奈々、亜柊雫 NPC枠を予約します


797 : ◆EPxXVXQTnA :2018/02/24(土) 01:52:32 fvunTVLI0
突然ですが予約破棄します


798 : 名無しさん :2018/02/24(土) 01:57:29 gy22IipI0
悲しいなぁ…
機会があったらまた書いて、どうぞ


799 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/15(木) 02:11:08 V6Vfs9yg0
上条当麻、ラ・ピュセル、如月左衛門、吉良吉影を予約します


800 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:29:05 yvm0f5Ig0
投下します


801 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:32:08 yvm0f5Ig0

SMバー平野で医療品を探していた上条当麻は、目を覚ました少年、岸部颯太の応急手当をしていた。
軟膏や氷など、ある程度のものは揃っていたためさほど苦労せずに施せそうなのは幸いだろう。

「......」
「......」

互いの名前を交わし合った後、黙々と手当を進める二人の間には気まずい沈黙が流れていた。
颯太が目を覚ましたのは、ちょうど当麻が股間を握っていた時であった。
恐怖でヒッ、と喉を鳴らした颯太と慌てて手を離し弁明を捲し立てた当麻。
当然、現場は混沌と化したのだが、虐待おじさんがいないことを確認した颯太はへたへたと壁に背を預け、当麻の弁明をどうにか聞き入れていた。

聞かされた内容は『介抱しようとしたらスッ転んで偶然股間を掴んでしまった』。

創作物でのお約束のような事柄を聞かされた颯太は訝しんだが、当麻の傍らに置いてあった医療道具の存在から、少なくとも介抱しようとしてくれたのは嘘ではないと信用し、手当を任せていた。
ただ、如何にハプニングといえど見ず知らずの他人に股間を弄られては壁ができるのは摂理。
当麻も当麻でほんのり固く感じた気がする少年の股間を触ってしまった直後に気さくに振る舞うことなど不可能。
それ以前に下手に接すれば『ホモのレベル0、少年を襲う』などとあらぬ風評被害を広められてしまう。
そんなことは避けたいに決まっている。殺し合いという環境であるということもそうだが、好みのタイプは寮の管理人のお姉さんなイチ男子高校生としてもだ。


そんな二人の間に沈黙が流れてしまうのもまた仕様がないことだろう。

(と、とりあえず葛城さんみたいに悪い人じゃ...ないんだよな?)

チラチラと当麻を見つつ、颯太は信頼を秤にかける。
当麻は気まずそうな雰囲気を醸しつつも、先程から丁寧に手当を施してくれている。
もしも彼がおじさんのように異常性癖者であれば気まずそうにもしないし、クラムベリーのような暴君であれば手当すらしてくれない。
殺し合いに乗った者であれば、わざわざここまで手を尽くす必要もないだろう。
未だに股間に残る感触に恐怖は抱くが、だからといってこのままでは非常によろしくない。
自分にとっても、彼にとっても、いまもこの会場のどこかで怯えているであろう小雪にとってもだ。

「あ、あの!」
「は、はいっ!?」

突然の大声に、当麻の身体がビクリと跳ね上がる。
自分でも驚くほどに出てしまった声に動悸が高まる。
いけない。これではハプニングを責めるように思われてしまう。
自分が聞きたいのはそんなことではない。聞きたいことは...


802 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:32:34 yvm0f5Ig0

「えっと、上条...さんでいいのかな。上条さんは僕に会う前に誰かに会いませんでしたか!?特に、こう、全体的に白い印象が強い女の子とか!」

またも出てしまった大声に、『しまった、僕はなにをやっているんだ』と頭を抱えそうになるが、その必死さが逆に功を制したのか。
当麻からは先程の低姿勢な表情は消え失せ、真剣な面持ちに変わった。

「いや、俺が会ったのはまだ岸辺達だけだ。支給品を使ってたまたまこの家を見つけたんだ」
「そう、ですか...」

もしも小雪と彼が出会っていたら。
そんな淡い期待を込めたが、そこまで都合よくいくはずもなかった。
考え方を変えれば、彼女と当麻が出会っていなかったのはむしろ幸運だったかもしれない。
無垢な彼女に、あんな破廉恥で不様な醜態を晒すハメにならなかったのだから。

「なら、僕は行きます...手当、ありがとうございました」

傷ついた身体に鞭をうち歩き出す。
クラムベリーの時のように後々にまで影響するような怪我ではなかったのは幸いか。
走ろうと思えばいまからでもすんなり走れそうだ。
しかし、そんな颯太の当麻は右腕で掴み押しとめる。

「待てよ。お前が探してる奴の居場所にあてとかはあるのか」
「......」
「だったら」
「離してくれっ!」

当麻の気遣いを嬉しく思う反面、一刻も早く小雪と合流したいという颯太の衝動は抑えられない。
もしも小雪が葛城の毒牙にかかってしまえば、いやそれ以上にあのクラムベリーと小雪が遭遇してしまえば。
その悪寒がついて離れない。
だから、ここは彼を振り払ってでも先を急ぐ。
端末を手にし、魔法少女ラ・ピュセルへと変身する。

キュピーン。

それは、颯太が魔法少女に変身した音ではなかった。
当麻の右腕は。異能力をうち消す『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。
その能力は颯太の使用する魔法の端末にも影響を及ぼした。
それとは知らずに自分が変身したと思い込んでいる颯太は、魔法少女の力で振りほどこうとする。


803 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:32:59 yvm0f5Ig0

「のわっ!?」
「えっ、わあっ!」

魔法少女にならなければ所詮は男子中学生の力だ。
結果、振りほどくには至らず当麻を引き寄せる形になり、バランスを崩した颯太は背中から倒れ込み当麻はそれに覆いかぶさる形になる。

そして。

「ったた...あっ」

ピッタリと重なる下半身。布越しに擦れあうふたつの肉棒。
片やスポーツで、片や潜り抜けてきた死線により引き締まった胸板は押し付けられた先端同士を布越しに掠めあい。
吐息がかかるほどに近づくは二人の顔。
颯太の、当麻の、互いの鼓動がドキドキと激しく波打ち、頬を紅潮させ、そして―――

「ッ、わ、悪い!」

当麻は慌てて飛び退き、颯太もまたすぐに立ち上がりはだけた服のズレを直す。
二人は互いの感触に顔を真赤に染め、未だ高鳴る鼓動を収めるために左胸に手をあてる。

いまの一件を意識しないよう、二人は互いに背を向ける。

颯太は胸に手をあてつつ思う。

(なんで変身できないんだ。そ、そういえばファヴからは魔法少女の正体を知られちゃいけないって聞いたけど...だから変身できないのか?だとすれば僕はこれからどうすれば...!)

己の失態を嘆きつつも、チラリ、と当麻の背へと視線を向ける。

おかしい...おじさんに触られた時は嫌な気持ちしかなかったのに。
どうして僕は...彼に対しては、こんなにもドキドキしているんだ。

かつてシスターナナやトップスピード等魔法少女たちの露出度に悶々としていた感覚に近く、しかし確かに違っている気もする。
そんな得も知れぬ気持ちに、思春期の少年、岸部颯太はただただ戸惑っていた。


804 : 名無しさん :2018/03/22(木) 23:33:44 yvm0f5Ig0

当麻は胸に手をあてつつ思う。

つい押し倒す形になってしまった颯太。
シャツがはだけ、息を切らし、ほんのりと頬を染める彼の姿が何故かとても色っぽく見えた。
もしもあのまま見つめ合っていればその薄紅の唇へとおそらく...

(いや、ワタクシ上条当麻にそっちの気はありませんことよ!?)

脳内で己を必死に自制しつつも耐え切れず、頭をブンブンと振るう。

記憶喪失であるために自分の性癖も完全には把握できてはいないが、金髪巨乳お姉さんの胸に顔を埋めた時にはちゃんと男子らしい反応ができた。
具体的に言えば、ぶつかったお詫びは握手とキスのどちらがいいという質問で、キスがいいですと答えることができたくらいだ。

確かに颯太は可愛らしい顔立ちをしている。だが、彼は女ではない。れっきとした男だ。
自分の下半身についているブツもついているし、身体だって女の子みたいなものではなくそこそこに引き締まっている。
そう、相手は男だ。いくら可愛くとも男だ。声が明らかに少女的なものといえど男なのだ。どんなに愛くるしくとも男である。

(落ち着け、思考がわけわからなくなっている。そうだ、相手は男だ。男だ。男なんだ!!)

何度も言い聞かせ、ようやく顔の火照りが収まった当麻は改めて颯太へと向き合う。

「さっきの続きだけど、俺にも探したい奴はいるんだ。だからまずは落ち着いて話し合おう」
「でも...」
「別れて行動するにしても、一緒に行動するにしても。お互いに探してる奴の名前とか特徴とか、支給品に使えそうなのがないかとか、最低限知らなきゃいけないこともあるだろ」
「う...」

いつもなら、こういった切羽詰った場面で無茶をするのは自分であり、周囲の、特にインデックスや小萌先生らに心配をかけてしまうものだ。
だが、いま目の前に自分以上に無謀に突っ走ろうとする者がいれば彼も止める側になる。かつて御坂が己の命を一方通行に差し出し妹達を助けようとした時もそうだった。
ただ、今回はあの時の彼女とは違い言葉だけで大人しくなったためだいぶ楽ではあるが。

「んじゃ、まずお前から...さっき言ってた白っぽい女の子の名前は?」
「...スノーホワイト。背は小さめの女の子で、たぶん僕みたいに赤い首輪を嵌められてる。それとクラムベリーには絶対に気をつけてくれ。あいつは物凄く危険で、僕も一度殺されかけた」
「クラムベリーか...森の音楽家なんてついてるから穏やかな感じかと思ったけどとんでもなくヤバイ奴みたいだな」
「その上実力もかなり高い。僕の知る中で一番厄介なやつだ。あと僕を苛めてたのは葛城蓮さん。名簿にはないけど、『虐待おじさん』っていうあだ名みたいなのがあの人のことらしい。上条さんの方は?」
「俺が探してるのは御坂美琴と白井黒子。二人とも中学生だが、御坂は電撃使いで、白井は瞬間移動を使える。一方通行って奴もいるが、こいつは能力は知ってるがこの殺し合いでどう動くかはよく分からない。
ただ、もしも殺し合いを止めるのに協力してくれればかなり頼もしいだろうな。...俺はあまり気が進まないけど」

電撃、瞬間移動。それらを纏めたような『能力』という単語。
聞きなれはするものの、その創作染みたものに颯太は思わず首を捻る。


805 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:34:25 yvm0f5Ig0

当麻は胸に手をあてつつ思う。

つい押し倒す形になってしまった颯太。
シャツがはだけ、息を切らし、ほんのりと頬を染める彼の姿が何故かとても色っぽく見えた。
もしもあのまま見つめ合っていればその薄紅の唇へとおそらく...

(いや、ワタクシ上条当麻にそっちの気はありませんことよ!?)

脳内で己を必死に自制しつつも耐え切れず、頭をブンブンと振るう。

記憶喪失であるために自分の性癖も完全には把握できてはいないが、金髪巨乳お姉さんの胸に顔を埋めた時にはちゃんと男子らしい反応ができた。
具体的に言えば、ぶつかったお詫びは握手とキスのどちらがいいという質問で、キスがいいですと答えることができたくらいだ。

確かに颯太は可愛らしい顔立ちをしている。だが、彼は女ではない。れっきとした男だ。
自分の下半身についているブツもついているし、身体だって女の子みたいなものではなくそこそこに引き締まっている。
そう、相手は男だ。いくら可愛くとも男だ。声が明らかに少女的なものといえど男なのだ。どんなに愛くるしくとも男である。

(落ち着け、思考がわけわからなくなっている。そうだ、相手は男だ。男だ。男なんだ!!)

何度も言い聞かせ、ようやく顔の火照りが収まった当麻は改めて颯太へと向き合う。

「さっきの続きだけど、俺にも探したい奴はいるんだ。だからまずは落ち着いて話し合おう」
「でも...」
「別れて行動するにしても、一緒に行動するにしても。お互いに探してる奴の名前とか特徴とか、支給品に使えそうなのがないかとか、最低限知らなきゃいけないこともあるだろ」
「う...」

いつもなら、こういった切羽詰った場面で無茶をするのは自分であり、周囲の、特にインデックスや小萌先生らに心配をかけてしまうものだ。
だが、いま目の前に自分以上に無謀に突っ走ろうとする者がいれば彼も止める側になる。かつて御坂が己の命を一方通行に差し出し妹達を助けようとした時もそうだった。
ただ、今回はあの時の彼女とは違い言葉だけで大人しくなったためだいぶ楽ではあるが。

「んじゃ、まずお前から...さっき言ってた白っぽい女の子の名前は?」
「...スノーホワイト。背は小さめの女の子で、たぶん僕みたいに赤い首輪を嵌められてる。それとクラムベリーには絶対に気をつけてくれ。あいつは物凄く危険で、僕も一度殺されかけた」
「クラムベリーか...森の音楽家なんてついてるから穏やかな感じかと思ったけどとんでもなくヤバイ奴みたいだな」
「その上実力もかなり高い。僕の知る中で一番厄介なやつだ。あと僕を苛めてたのは葛城蓮さん。名簿にはないけど、『虐待おじさん』っていうあだ名みたいなのがあの人のことらしい。上条さんの方は?」
「俺が探してるのは御坂美琴と白井黒子。二人とも中学生だが、御坂は電撃使いで、白井は瞬間移動を使える。一方通行って奴もいるが、こいつは能力は知ってるがこの殺し合いでどう動くかはよく分からない。
ただ、もしも殺し合いを止めるのに協力してくれればかなり頼もしいだろうな。...俺はあまり気が進まないけど」

電撃、瞬間移動。それらを纏めたような『能力』という単語。
聞きなれはするものの、その創作染みたものに颯太は思わず首を捻る。


806 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:35:02 yvm0f5Ig0

先に動いたのは颯太だった。

「その、僕は上条さんの言ってたような異能力についてはよくわからないんだ。よければ見せてくれると嬉しいかな...って」

颯太は可能な限り、当麻を気遣う言葉を選びぬいた。
空想をすることを否定するつもりはない。空想は創作やサッカーの練習をする上でも大切なことだ。

ただ、いまソレに縋るのはかなり危険である。
有りえもしない超常現象を信頼し、いざ現実に直面したのが戦闘中などという悲劇が起こりかねないからだ。
だから、いまここでその幻想を壊さなければならない。自分は超能力者なんかじゃない、という現実を突きつけるのだ。

対する当麻は、困ったように頬を掻きながら返答した。

「...俺、レベル0なんだ。持ってるのは幻想殺し(イマジンブレイカー)って、この右手で触れた異能力を打ち消す能力だけ。だから、ここで見せてみろっていうのも難しいんだよな」

颯太はうっ、と喉を詰まらせる。
マズイ。彼の妄想癖はかなり深刻だ。
どうあがいても自分を『超能力に携わる人間』として扱いたいらしい。他の人には電撃使いや瞬間移動なんて派手な能力を付与し、自分には能力を打ち消すなんて地味な能力を捏造してまでだ。
能力を打ち消す能力なんて、どうやって『ない』と証明すれば...

(そうだ、さっきは変身できなかったけど、魔法少女が正体を知られると変身できないルールは、まだ生きてるのかな)

もしも魔法少女に変身できれば、彼に触れさせることで、幻想殺しなんて能力がないことを証明できる。

それだけではない。
現状、魔法少女の変身は颯太の生命線だ。
もしも赤首輪の颯太がこの先ずっと変身できなければただのカモでしかない。
たまたま上条が優しく、その気のない人間だったからこうして無事なものの、いまは殺し合いだ。
命惜しさに狙ってくる者もいるだろう。

(いますぐに変身して確かめたい...けど)

チラ、と上条へと視線を向ける。
相手は自分よりも年上の男であり、魔法少女モノとは無縁そうな風貌をしている。


807 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:35:44 yvm0f5Ig0

(そうなると、僕が魔法少女なことを知られちゃうんだよなぁ)

岸辺颯太は魔法少女が大好きだ。
魔法少女モノのアニメや漫画を見ては、性的興奮を醸し出す...という訳ではない。
純粋に、好きな作品の趣向が、そこに込められた神秘性や勇気のようなヒーローの象徴がすきなのだ。

だが、日本と言う国は漫画やアニメに富んでいる一方で、マイノリティーな趣向に厳しい国でもある。
元の世界で魔法少女が好きなことを周囲に隠してきた。男子中学生が魔法少女を好んでいるなどと知られれば、どんな噂が立てられるか溜まったものではないからだ。
少なくとも、イイ噂などなく悪い方向のものだけだと断言できよう。
実際、もしも目の前の当麻が魔法少女ものが好きだと公言すれば、まず最初は奇異的な目で見てしまうだろう。

そして、最終的には変態の烙印を押され二度とあのサッカー部としての青春を歩めなくなることだろう。
だが、そのリスクを孕んでいても、自分が異端だと理解していても、魔法少女への愛情と情熱は止めることができない。

魔法少女を愛する(重ねて言うが性的な意味ではない)心は決して失わない。同じく魔法少女愛好家の小雪以外の人にはこのままバラさず、墓まで持っていければ理想だろう。


そもそも女の子に変身するというだけでもかなり恥ずかしいものだ。
そのため、ここで魔法少女に変身するのはやはり躊躇われてしまう。

(...いや、いまは生死がかかっているんだ。恥を恐れてなんになる)

もしもこうして恥を恐れている内に小雪が危険人物、特に葛城なんかに襲われたら身も蓋もない。
多少の恥は忍んで書き捨てだ。

「上条さん」

当麻の両肩を掴みながら、真剣な眼差しで真っ直ぐに見据える。

「これからなにが起ころうとも、決して変な目でみないでほしい」
「あ、ああ」

あまりにも強張った表情の颯太に押され、当麻は理由も知らぬままつい同意してしまう。

肩から手を離し、くるりと背を向けた颯太のマジカルフォンが輝きはじめる。

(行こう―――変身)

颯太の身体を淡い光が包み込み、衣装と姿が変わっていくのを見て颯太はひとまず安堵する。
先ほどは魔法の端末が不調だったのか、それとも『正体を知られてはいけない』ルールに反していたのか変身できなかったが、今回は無事に変身することができた。
このバトルロワイアルがファヴの管理から離れているせいなのかはわからないが、いまはただこの幸運に感謝するべきだろう。

クルリ、と振り向けば、目の前で起きた光景に思わず目を瞬かせていた当麻が視界に入る。
少年が文字通り少女になったのだ。己が目を疑うのも無理はない。

「えと、その姿は?」
「...僕は、魔法少女なんです」

魔法少女。再び聞かされたそのファンタスティックな単語はますます当麻を混乱に陥れる。
岸辺颯太は間違いなく男だった。不慮の事故とはいえ触れて確かめたのだから間違いない。
だが、眼前に立つ巨乳の美少女竜騎士は間違いなく少年が変化したもので。
少年なのに少女という矛盾する両者を見事に体現しているのだ。困惑するなと言う方が無理な注文だろう。


808 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:37:01 yvm0f5Ig0

(海原に化けてたあいつが使ってたアステカの魔術みたいなものなのか?)
「さて。それでは触ってみてください」
「え?」
「僕に触れてみれば、幻想殺しを証明できますよね」
「ああ、なるほど」

明らかに摩訶不思議なものに触れることで証明する。これほど解りやすい方法もないだろう。

「よし。じゃあ触るぞ」

当麻の右手が女騎士へと伸ばされていく。
あと数センチで触れるというところで―――ピタリと止まった。

(なんだこの...得も言えない背徳感のようなものは)

鼓動がドキドキと波打つのを実感する。
自分に触れられるのを待つ巨乳美少女に手を伸ばす男子高校生。
今の絵面を顧みれば、どう見ても如何わしいソレである。

(土御門や青髪ピアス、特に青髪ピアスが今の光景を見たら泣いて喜びそうだな)
「そ、その幻想殺しって触るのは胸じゃないといけないんですか」
「えっ、いや、そういうわけじゃ」

颯太の指摘で自分の視線が自然と彼(彼女?)の胸に泳いでいたことを理解する。
そして、遅れて当麻と颯太の顔が見る見るうちに赤くなっていく。
幻想殺しの効果の有無以上に、互いに羞恥心が沸いて出てきてしまったのだ。

(む、胸じゃなくてもいいが、こうなってくると恥ずかしさが...)

せめて御坂やインデックスのように多少の喧騒があれば勢いで触りやすいのだが、こうも受身になられれば手を出しづらくなってしまう。

(は、早く触ってくれ...でないと恥ずかしさで死にそうだ)

颯太もまた、現状を顧みて顔に出るほどの羞恥に襲われる。
思い返せば、自分のこの姿を鏡で最初に見たときは多少なりともやましい心を抱いてしまった。
その容姿で触ってほしいなどと頼めば、明らかに如何わしいソレである。


809 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:37:24 yvm0f5Ig0

少年達は葛藤する。
己の内に潜む悪魔に。雄の本能に。
他の誰も見ていないが故に、倫理という自身を律する鎖を生み出す。

「―――よし、行くぞ!」

やがて、決意したかのようにそう強く切り出したのは、上条当麻。彼に応えるように、ラ・ピュセルは力強く頷く。
ここに第三者がいれば、たかだか能力を調べるだけで馬鹿馬鹿しい、と思う者もいるだろう。
だが、彼らは思春期の少年だ。彼らにとっては女体に触れる(触れられる)という行為は真剣に成らざるを得ないものなのだ。

当麻の腕が伸ばされ、ラ・ピュセルへとゆっくりと迫る。

ガチャコン。

触れる直前、階下の開閉音が二人の意識を奪い去る。

何者かがやってきた。

ラ・ピュセルはだんびらを手にし、当麻は淫夢くんを肩に乗せて臨戦態勢に入る。
だが、ラ・ピュセルの脳裏にはあの影が過ぎる。
自分を虐待したあの男、葛城蓮の背中が。

(っ...)

想起される忌まわしき記憶に全身が震え上がる。

(ダメだ。このままじゃロクに戦えそうにない。震えを止めなきゃ...)

ここで葛城が上がって来るなら好都合だ。
倒して無力化してしまえばそれで終わりだ。小雪にその暴威が届くこともない。
なのに、震えは止まってくれない。本能であの男に恐怖してしまう。

(止めるんだ...止め...)

「あんまり根詰めるなよ」

ぽふり、と頭に掌が乗せられる。

「さっきまでは一人だったかもしれないけど、今は俺がいる。あのおっさんが来ても、もうあんなことはさせねえから」

かけられる言葉に、身体が熱くなるのを感じる。
それは先ほどまでのどぎまぎとしたものではなく、彼の左掌から伝わる温もりの延長線上のようなものだ。
気がつけば、震えは収まりつつあった。

ギシ ギシ ギシ

急がず、しかし慎重にというほどでもない間隔で鳴る軋みは、来訪者が近付いていることを実感させる。

この部屋に扉はない。つまり、階段をあがれば即座に対面するのだ。

ゴクリ、と唾を飲み込む音が鳴る。

ほどなくして―――来訪者はその姿を露にした。


810 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:37:57 yvm0f5Ig0



「食事、だと?」

野獣邸からさほど時間も経たぬ内に、そう提案した吉良に、左衛門は上記の言葉を投げかけた。

「ああ。私は規則正しい生活を旨にしていてね。こんな深夜に連れてこられ、ただでさえ生活リズムを狂わされて困っているんだ。朝食くらいはしっかりと摂っておかなくっちゃあな」

なにを戯けたことを、と言いかけた左衛門だが、お構いなしに傍の木に腰掛け、うまい棒を取り出し頬張る吉良を見てその言葉を飲み込む。

「食事といってもこんなものしかないからすぐに終わるがね。わざわざ足を止めたのは、歩き食いのような下品な行為が嫌いだからさ。食事はやはり腰を落ち着けて食べるのがいい」

吉良はうまい棒をゆっくりと租借し、味を堪能する。

「懐かしい味だ...特別好きだった訳じゃあないが、感慨深いものを感じるなぁ。左衛門、きみも食べておくといい」
「...それは、食糧なのか?」
「駄菓子とはいえ食糧であることは間違いないだろう。とはいえ、これだけではお腹は満たされないし、ちゃんとした健康的な食事が摂りたいものだが」
「...だがし?」

まるで未知の言語を聞いたかのような反応を示す左衛門に、吉良は思わず眉を顰める。
自分とて嗜むほどでもないため精通している訳ではないが、そんな自分から見ても、駄菓子の存在自体を知らないとはよほど歪んだ家庭で育ったとしか思えない。
知らない、ではなく食べたことがない、なら納得もできるのだが。

「ふーっ...左衛門、ひょっとしてそれはギャグのつもりかな?だとしたら、一度会話の基礎から学ぶといい。急に私にフられても反応に困るだけなんだ」
「ぎゃぐ...とはなにかのう」

もはや煽られてるのではないかとすら思えるほどズレていく会話。
普通の者ならば、ここで会話を打ち切り、極力、左衛門に話しかけないようにするだろう。
だが、吉良は良くも悪くも細かいことが気になる性質だった。
かつて、その手で倒した広瀬康一が、靴下を片方だけ反対に履いていたのを見つけたとき。彼は、すぐに跡形もなく消し飛ばすつもりだったのに、康一の靴下を自らの手で履き直させた。
何故か。抱いた違和感はすぐにでも消すことが、彼の心の平穏に繋がっているからだ。


811 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:38:46 yvm0f5Ig0

(よく考えれば『左衛門』なんて時代劇でしか聞かないような名前じゃあないか。果たしてこれは本当に奴の名なのか?)

振り返り、自分の常識と照らし合わせれば、左衛門からはますます違和感が溢れ出して行く。
その口調に、時代劇染みた着物。そしてなにより、遭遇時の攻撃への躊躇いの無さ。
思い返せば返すほど、左衛門という男が自分の常識では測れなくなっていく。

そしてそれは左衛門も同じ事で。
顔立ちからして異国の者ではなく日本の人間であることはわかる。
だが、その装いは農民でも武士でもなく明らかに異国のものなのだ。
加えて、吉良は自分の知らないものをさも当たり前のように使いこなしている。
情報という面においては何者よりも優れている忍を差し置いてだ。


(わからん...いま、私達の間になにが起きている?それとも私がどうかしてしまったとでもいうのか?)
「左衛門...今日は1999年7月15日...そうだろう?」
「なにを...言っている。それは慶長何年の話だ」


ますます困惑にのまれていく二人。
吉良は、やたらと情報通な父との別行動を悔やむ他なかった。

(待てよ...いま左衛門は慶長と言ったな。それをそのまま信じるのなら、彼は過去の人間ということになる。もしやとは思うが、左衛門は私と生きてきた時間が違うのか?)

突拍子もない話だが、もしも如月左衛門が吉良の生きてきた時代よりも前に暮らしていた人間だったとしたら。
この発想に至れたのは、吉良が実際に過去の人間が現代に残る例を知っているからだ。
とはいっても、それは数年ばかりのもの―――即ち、先ほど別れた実父、吉良吉鷹のことだが。
しかし、彼も見方を変えれば『過去から来た人間』と定義できるだろう。

「左衛門。いま私達の間にあるズレを埋めるとしよう」

まだ仮説ではあるが、吉良は己の下した結論を左衛門へと語る。
最初こそは疑いの眼差しを向けていた左衛門だが、根拠を語られる度に疑念は薄れていき、次第に吉良の説へと信頼を傾けていく。


812 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:39:08 yvm0f5Ig0

「そなたが三百年以上先の人間、か...信じる他はなさそうだ」

吉良が未来を生きる人間ならば。
真っ先に聞きたいのは甲賀と伊賀の戦いの結末だ。果たして未来へと存在を残したのは何れかか。
それらを問おうとした口は、しかし噤まれる。

いまここでそれを聞けば、自分が忍びの者であるのを晒すことになる。
それはならない。忍びはあくまでも影から国を支えるものであり、表に出ることは許されぬからだ。

「なにはともあれ、これで私達の間のわだかまりは解けたという訳だ。きみと私の常識が違うことだけを頭にいれておけばいい」

常識の相違とは争いの火種になる。ましてや時間が切羽詰った時に、各々の常識が対極にあれば尚更だ。
吉良も左衛門もそれは望まない。共闘はするものの、足を引っ張られては元も子もない。
二人が互いに求めるのはひとつ。自分ひとりでは手に余りそうな者を討ち、自身の生きた時代へと帰ることだけだ。

二人は休憩を切り上げ、周囲の探索を始める。

「吉良よ」

程なくし、左衛門が片膝を地に着け、地面を凝視する。

「足跡じゃ。それも、まだ新し目のな」
「ふむ。...これでは赤首輪のものか、それともそれ以外の参加者のものか...判断はできないな」
「現状は不明、か。ワシはこの足跡を追う。お主はどうする」
「私も共に行こう。きみに先走られても困るしな」

うむ、と左衛門は頷き、可能な限り気配を殺しつつ足跡を辿っていく。
やがて足跡が辿りついたのはSMバー平野であった。


813 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:39:30 yvm0f5Ig0

左衛門と吉良は小さく頷きあい、音を立てぬようゆっくりとドアノブに手をかける。

が。

ガチャコン。

扉の施錠音が思いのほか響き、思わず二人は硬直してしまう。

「...そなたの時代の戸はこうもやかましいのか」
「そういう訳じゃないが...今ので気付かれたかもしれないな。退こうか?」
「いや。戸が開いてから微かに話し声が聞こえた。恐らく二人。となれば、わしらと同じ考えかもしれん」
「...ならば、接触しておくとしよう」

二人はSMバーに足を踏み入れ、ゆっくりと上階へと向かう。

極力気配を殺しているのだが、この家の仕様なのか、床を踏みしめる度にやたらと大きく軋む音が鳴ってしまう。
これでは既に先住者に警戒されていることだろう。
シアーハートアタックを送り込むことはできるが、今回の目的はあくまでも接触。
皆が野獣先輩のように寛大な対応をとってくれるとは限らないため、シアーハートアタックを行使するつもりはなかった。

相手側から攻撃を仕掛けられても対応できる程度の備えをしつつ、二人は階段を上がっていく。

たどり着くのは踊り場。

そこから覗く部屋に佇むのは、美少女とツンツン頭の少年だった。

吉良の目は、ソレに釘付けになった。


814 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:40:14 yvm0f5Ig0




警戒する当麻とラ・ピュセルの前に現れたのは男二人。
一人は着物姿の和風な男、もう一人はスーツにネクタイと、サラリーマンという単語がよく似合う男だった。

両者とも虐待おじさんのような強面ではなく、端正な顔立ちの男だった。一見では嫌悪感や不信感は抱かず、温和で誠実そうな雰囲気すら窺える。
二人はほっと胸を撫で下ろす。が、しかし、ここは殺し合い。見かけで判断を下すのは愚の骨頂だ。
二人はすぐに気を引き締めなおし、男たちと向き合う。
着物姿の男―――左衛門は二人の警戒心に応じ、細い目を薄く開き袖に袖に手を入れる。
だが、スーツの男―――吉良はなにも反応を示さない。敵意や警戒心を剥きだすこともなく、ただ立ち尽くしているのだ。

その姿を不審に思った当麻たちと左衛門は、思わず吉良へと視線を向ける。

そんなことはお構いなしに吉良はただ立ち尽くしていた。

見惚れていたのだ。眼前の少年少女に。その、言葉に形容できないほど素晴らしい手に。
少年の理想の全てが詰め込まれた魔法少女と、異能を打ち消す浄化の力が宿る幻想殺しに。

そして、吸い込まれるように魅入っていた吉良の興奮という名の器は限界を越え。

「ヌッ」

ビクン、と小さく仰け反った。

当麻の肩の淫夢くんの眼が怪しく光り、ヴォー...と小さく鳴いた。


815 : 素晴らしい世界 ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:40:53 yvm0f5Ig0

【E-5/街(下北沢、SMバー平野)/一日目/早朝】

【ラ・ピュセル(岸部颯太)@魔法少女育成計画】
[状態]全身に竹刀と鞭による殴打痕、虐待おじさん及び男性からの肉体的接触への恐怖、同性愛者への生理的嫌悪感(極大)、水で濡れた痕、精神的疲労(大)、上条への好意
[装備]
[道具]基本支給品、だんびら@ベルセルク
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探す
0:虐待おじさんこわい。
1:なんだこのおじさん!?
2:襲撃者は迎撃する

※虐待おじさんの調教により少し艶かしくなったかもしれません。


【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品、淫夢くん@真夏の夜の淫夢、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:なんだこのおっさん!?
1:御坂、白井と合流できれば合流したい。
2:一方通行には注意しておく。
3:他者を殺そうとする者を止めてまわる。

※淫夢くんは周囲1919㎝圏内にいるホモ及びレズの匂いをかぎ取るとガッツポーズを掲げます。以下は淫夢くんの反応のおおまかな基準。
・ガッツポーズ→淫夢勢、白井黒子、暁美ほむら、ハードゴアアリス、佐山流美のような同性への愛情及び執着が強く異性への興味が薄い者。別名淫夢ファミリー(風評被害込み)。
・アイーン→巴マミ、DIO、ロシーヌのような、ガチではないにしろそれっぽい雰囲気のある者たち(風評被害込み)。
・クソザコナメクジ→その他ノンケ共(妻子や彼女持ち込み)。
判定はガバガバです。また、参加者はこの判定を知らされていないため、参加者間ではただの参加者探知機という認識になっています。
※吉良がガッツポーズに分類された可能性があります。




【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、下着が濡れている、賢者モード、ラ・ピュセルと上条当麻の手に心酔に近い好意。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×1、ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出...したいが...ここは天国だ...抜け出すべきなのだろうか...?
0:なんて素晴らしい手だ...!
1:少女(ラ・ピュセル)の手はこの世のものとは思えないほど美しい。上条当麻(少年)の右手は私が触れることすらおこがましく思えるほど神秘的だ。
2:如月左衛門、という奴と同行。秘密を知られたら殺す(最悪、スタンドの存在がバレるのはセーフ)が今は頼れる味方だ。
3:こんなゲームを企画した奴はキラークイーンで始末したい所だ…
4:野獣の扱いは親父に任せる。できればあまり関わりたくない。
5:左衛門の手も結構キレイじゃないか?
6:最優先ではないが、空条承太郎はできれば始末しておきたい。


[備考]
※参戦時期はアニメ31話「1999年7月15日その1」の出勤途中です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。
※絶頂したことで冷静さを取り戻しました。


【如月左衛門@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:特筆点無し
[装備]:甲賀弾正の毒針(30/30)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出
0:吉良...なんなんじゃこいつは
1:吉良吉影という男と同行。この男、予想以上に強いのでは…?
2:甲賀弦之介、陽炎と会ったら同行する。
3:野獣先輩からは妙な気配を感じるのであまり関わりたくはない。
4:赤首輪の女子がいるが、さてどうするか
[備考]
※参戦時期はアニメ第二十話「仁慈流々」で朱絹を討ち取った直後です。
※今は平常時の格好・姿です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。


816 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/03/22(木) 23:42:15 yvm0f5Ig0
投下終了です
たぶんあと5、6話くらいで放送に入ると思うのでそれまでに書きたいことがある人はお早めに


817 : 名無しさん :2018/03/23(金) 01:26:40 Pa4UNtoQ0
投下乙です

何だこのホモ回!?(驚愕)KMJUさんがホモになるとMSK姉貴が闇堕ちしちゃう、ヤバいヤバい…
KR兄貴がビンビンでいらっしゃる、誰か綺麗な手を与えて差し上げろ


818 : 名無しさん :2018/03/23(金) 09:36:09 4gos0ZnQ0
SRIKRK「あのエテ公類人猿がお姉様を諦めホモ堕ちすると聞いて」


819 : 名無しさん :2018/03/24(土) 19:44:57 o8h2laqk0
吉良の彼女が男になっちゃう!(現様並感)
川尻形態って事は妻子持ちですが…クゥーン…


820 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:31:22 AfUGQEuc0
ゲリラ投下します


821 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:32:36 AfUGQEuc0

月下に照らされた美丈夫二人と彼らの頭上を浮遊する異形。
甲賀弦之介、DIO、ロシーヌの三人は歩きながらの情報交換に勤しんでいた。

「ふむ...つまり、でぃお殿の側の黄金色の御仁は、そなたが操る傀儡だと」
「ああ。この能力は私以外にも多くの人間が持っていてね。『側に立つもの』から取って『スタンド』、と私は呼んでいる」
「すたんど...それが何故『側に立つ』を意味するかは解らぬが、そういった由来があるのじゃな」
「...?」

眉を顰めるDIOに、弦之介は自分の言葉に御幣があったのではないかと察し、すぐに謝罪の言葉を述べる。

「あいや済まぬ。でぃお殿の国を貶めるつもりはなく、単にわしが無知な身の上のため...」
「いや、気を害したわけではないんだ。少し、きみの言葉に引っかかっていただけだ」

ううむ、と顎に手をやり思考を奔らせる。

(スタンド...『stand』。この言葉を立つという意味で捉えられぬ者が果たしてどれほどいる?)

自分は直接に日本へと上陸した記憶はない。
しかしそれでも、ある程度の常識的な教養は伝聞で学んでいる。
『STAND』という言葉に触れる機会は決して少なくはないだろう。

(この男がその希少な側であればそれだけだが...どう見てもそうは見えない)

弦之介は言動が多少時代がかってはいるものの、最低限の会話が成立する程度には常識を身につけているように窺える。
そんな彼が『STAND』の単語にすら触れたことがないなどとあり得るのだろうか。

「ロシーヌ、きみは英語は得意かな?」
「英語?なにそれ」


キョトンとした表情で聞き返すロシーヌに、DIOはまたしてもううむと思考を奔らせる。

(ロシーヌが田舎の出なのは雰囲気でわかる...だが、それでも英語という概念すら知らないというのはありえない)

いくら辺境の外れに住んでいたとしてもだ。
テレビやラジオなど、いくらでも外国語という言葉自体に触れる機会はある。
だが、弦之介もロシーヌも、まるで存在自体を知らないかのような言動を発している。


822 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:32:59 AfUGQEuc0

(考えられる可能性は三つ。一つ目は彼らが嘘をついている。二つ目は彼らが本当に外国語に触れる機会すらなかった。
三つ目は、そもそも外国語という概念がないか...といったところか)

まず一つ目の可能性はかなり低いと見てもいいだろう。
仮に無知を装い騙そうとしているとしてもだ。スタンドの名称の由来の認知を欺く必要性はないに等しい。
嘘をつき隙を作ろうとするにしてもこんな無意味なもので隙が生じるはずもない。

(となると、2と3...あるいはこの両方だろうか)

もしも、極端に外国の文化を排他する風習があったとしてもだ。
それでもテレビやラジオ、新聞といった情報媒体のある現代で全てを隠し通すのは困難きわまる。
それこそ、前時代に住んでいなければ不可能だろう。

(そう...前時代的だ。特に弦之介というこの男は)

DIOは日本の知識に精通しているわけではない。
しかし、年齢からして空条承太郎や花京院典明とさして違わないだろう彼の口調や衣装は、明らかに前時代的なものだ。
それこそ、映画やドラマなんかで見られるサムライそのものだ。
彼が単なるそういう趣味を持ったものだとも思ったが、この殺し合いの場においてもそのキャラ造りを優先することはないだろう。
となれば、彼のこの振る舞いは素だと見て間違いない。

そしてロシーヌ。
彼女についてはそもそも住む世界が違うような印象も受ける。
彼女の姿形や言語の知識についてだけでなく、雅の語った吸血鬼とも自分とも異なる異様さを放っているのだ。

(ううむ...どうしてもこの違和感が拭えん。もう少し情報が必要か...)

ここでDIOが承太郎のように弦之介が過去の人間であると解が出せなかったのも無理からぬ話だ。
承太郎・春花・朧は全員が日本人であるのに対してDIOら三人は皆が異なる国籍の者。
現代ならまだしも、幾つもの他国の歴史を正確に把握している者はそうはいない。せいぜい、目に付いたものは覚えている、程度だ。
そんな彼らが時代考証に発想が至れるはずもなく。
悶々とするDIOの後を着いてくる二人という構図のまま、その歩を進める。

「でぃお殿、そなたはどこへ向かっているのだ?」
「私は陽の光が大の苦手でね、それを防げる場所を探しているんだ」
「それならあそこなんかいいんじゃない?」

ロシーヌが触手で指す方向。そこには、施設への入り口を示す看板が立てかけられている。
その施設は―――

「ほう、地下通路か...悪くない」


823 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:33:39 AfUGQEuc0



ただただ恐怖のまま一心不乱に逃げる小黒妙子。
恐怖を抱きつつも、最善の策を脳内で模索し続けるジョン・コナー。
腰に手をあてながら、小刻みなステップで駆けるMUR。

彼らのしんがりを守るのは、イタリアンギャングであるブローノ・ブチャラティだ。


「『スティッキィ・フィンガーズ!!』」

迫りくる脅威、姫に対して放たれるはスタンドの拳。
高速で動く姫の怒りの形相に叩き込まれるが、しかし相手は高速で動く巨体。
殴りつけた腕は勢いのまま弾かれ、ブチャラティの身体が空に舞う。
一見すればただ返り討ちにあっただけ。

だが、彼にとってはその一撃で充分だ。

拳の痕になぞらえるかのように、姫の身体にジッパーが刻まれる。

殴った箇所に開閉可能なジッパーを取りつける。
それがブローノ・ブチャラティのスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』の能力である。

この取りつけたジッパーを開ききれば、身体は分断され行動も困難を余儀なくされる。
当然、分断された部位は脳から離れているために動かすことが出来ない。
つまりは事実上の"必殺"の能力である

(ここからの問題は...如何にあのジッパーを開ききるか、だ)

高速で移動する物体の1部に触れ、手を振り下ろす。
言葉にすれば単純なことだが、行動に表すのは非常に難しいことでもある。
このまま正面から馬鹿正直に立ち向かえば、まず間違いなく弾き飛ばされるだけだろう。

(本当なら、逃げ回って隙を伺いたいところだが...俺の勘が告げている。それで状況が好転する訳ではないと)

ブチャラティは己のスタンドを使用する中で、奇妙な違和感を覚えた。
本来の力を出そうとすると、何者かに押さえつけられ制御されるような、そんな違和感だ。
その影響は確実に出ており、姫へと取り付けたジッパーは本来のコンディションで作れる7割程度の大きさに収まっている。


824 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:34:11 AfUGQEuc0

(おそらくこのぶんでは、ジッパーをつけられている時間も短くなっているはずだ)

塵も積もれば山となるという諺がある。
この諺に当てはめるなら、ブチャラティの小さなジッパーでも何度も積み重なれば必殺のものになってしまう。
もしもブチャラティのジッパーが、付けてから消えるまでの制限時間が無かったとしたら、制限の意味が無くなり戦闘でかなり優位に立つことが出来る。
あくまでも赤首輪の参加者を優位に立たせたいであろう主催者からしてみれば避けたいことのはずだ。
故に、制限時間はあると考えておくのが吉だろう。

(!...さっそくか)

ブチャラティの取り付けたジッパーは既に消失が始まっていた。
おそらく取り付けた範囲を維持できるのは1分とないだろう。

(このまま隙を伺いつつジッパーの消失と競い『姫』を倒すのは不可能だ。先に力尽きるのは俺だろう)

姫の活動時間がどの程度かはわからないが、少なくとも、姫からの一撃が致命的なモノとなり、攻撃をかわしつつ隙を伺わなければならないブチャラティと、いくら壁に激突しようとも怯みもしない姫では体力と耐久力に差がありすぎる。
それらが劣るものであれば、長期戦は圧倒的に不利。
だが短期戦に持ち込むにはブチャラティが逃がしている三人がネックとなる。
彼らを守りつつ姫に短期戦の賭けを持ちかけるのは、ブチャラティが負けた時のこと、姫による二次災害に巻き込まれるリスクが高すぎるのだ。


(このまま全員無傷というのは虫がよすぎるか...なら)

ブチャラティは三人へと振り返り叫ぶ。

「ジョン!タエコとMURを任せたぞ!」

名指しで呼ばれたジョンは一瞬動きを止めるも、その力強い言葉に頷き共に走る2人を先導する。

(きっとブチャラティはなにか策があるんだ。それは僕らがいるとできないことで、1人で立ち向かった方が確実なんだろう)

ジョンとブチャラティは決して深い交友関係にあるわけではない。
出会ってまだ1時間と経過していないのだから当然だ。
だが、ジョンはブチャラティがどういう男なのかはなんとなくだが理解していた。
彼は他者の為に戦える人間であり、そこには確固たる信念と矜持があると。
そんな人間に頼まれれば、それを信じるのが最善の策である。


825 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:34:41 AfUGQEuc0

(あの中で最も精神的に余裕のあったジョンならば彼らを導けるだろう)

ジョンの思考は的を得ていた。
ブチャラティは、彼1人でなければ成り立たない勝負に出ようとしていた。

(俺は奴と目が合った。ならば狙いはまずは俺のはず)

もしも2つの肉が10m先と50m先の地点に1つずつ置かれていたとしたら、わざわざ50m先の肉から取る者はいない。
『姫』も生物である以上、その法則には抗えないはずだ。
ならば、いまの姫の獲物はブチャラティということになる。

(勝機は一瞬...!)

ブチャラティの策は至って単純。ジッパーで姫の頭部を閉じ込め動きを封じることだ。
一瞬でも封じ込めさえすればもう後はこちらのもの。
ジッパーをとりつけバラバラになるまで拳を叩き込むだけだ。

無論、失敗して体当たりでも食らえばひとたまりもない。
仮に死なずとも、その後に捕食されるのは想像に難くない。

失敗は死。
その極限においても、彼の指はいささかも震えない。
迫り来る姫へと見せ付けるように、ブチャラティはジッパーを壁にとりつける。
幅にして、約4mもの巨大なジッパーだ。
制限のかけられた中では上出来だろう。

(どうにか奴の顔が入る程度には作れた...次は奴を誘い込む!)

姫とぶつかるまであと3mにまで近付いたその瞬間、ブチャラティは地を蹴りジッパーの中へと飛び込み壁に潜む。
そうすれば、姫の注意はこちらに向く。そして姫が自分を追い、ジッパーへと顔を入れたその瞬間に、壁から抜け出し背後をとる。
これが成功すれば、殺せなくとも形成は一気に逆転するはずだ。

いつ姫が突っ込んできても対処できるようにスティッキーフィンガーズは拳を握り締める。

が。

ブチャラティは見た。
穴の中で、一寸も変わらない速さで通り過ぎる巨大な影を。


826 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:35:50 AfUGQEuc0

(馬鹿な...奴は目が合った者を襲うのではなかったのか!?)

姫はいくら接近しようとも、目を合わさない限り襲っては来なかった。
故に、目が合ったブチャラティが獲物であり、標的はこちらに移る。
加えて姫にとって最も邪魔な存在は、しんがりを務めスタンドを有するブチャラティであり、無視の出来ない存在といえよう。
それが無視された。何故?

(まさか...奴は...!)

ブチャラティは重大な勘違いをしていたことを理解する。
姫がブチャラティを狙うというのは間違いではない。
だがそれは獲物を排除し終えてからだ。
その最初の獲物は、壁を溶かしてまで追ってきた獲物は誰だったか。

声を張り上げ、その名を呼ぶ。

「逃げろ、MURァァァァァァ――――!!!!」

叫びと同時、スティッキィ・フィンガーズの拳が蠢く姫の身体へと放たれる。
ラッシュを放とうとするが、しかし、高速で動く姫の身体はスティッキィ・フィンガーズの拳を弾き、皮膚を裂き血を噴出させる。
無論、それで攻撃を止める男ではない。だが、激痛と物理的法則は著しく攻撃力と勢いを裂き、結果、姫を減速させるにも至らない。

必死の抵抗空しく、彼の成果は姫の身体にジッパーがひとつ取り付けただけだった。

「二人とも、早く走るんだ!」

ブチャラティが失敗したことを悟ったジョンは二人を急かす。
ジョンの呼びかけに応えるかのように、MURは相変わらずの腰に手を当てながらの小刻みなステップでそのまま速度を上げる。

「ぜひっ、ぜひっ...!」

一方の妙子は、既に息を激しく切らしており、目つきを除けば可憐ともいえた面影がないほど形相が崩れ、足元もおぼつかなくなっている。
単純な体力不足もそうだが、殺し合いというこの状況を吹き飛ばすほどの姫という恐怖は必要以上に彼女の体力を奪っていたのだ。

「早く、早く!!」
「ちょ、まっ...」

そんな一般人が長時間走り続ければどうなるか。
足元が交差し蹴躓き、前のめりに倒れてしまう。
昔、テレビドラマかホラー映画で見た光景が脳裏をよぎる。
巨大な霊だかモンスターだかに追われていた主人公の一団の中で、最後尾を走っていた男が躓き転んでしまうのだ。
もはやお約束といえるかもしれないと思えるほど、違う作品でありながら似たようなシチュエーションが多々見受けられた。
そしてそんな彼らの末路といえば。

「あ」

己もその道を辿るであろうと予感した脳が、身体を凝り固める。
一瞬の出来事がスローモーションに見える。


827 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:36:27 AfUGQEuc0

「スティッキィ・フィンガァァァァズ!!!」

傷つきながらも、追いつけないとわかっていながらも、それでも全力で姫を止めようとするブチャラティ。

「早く立って!!立つんだ妙子!!」

迫ってくる姫にいよいよ恐怖が湧き上がりもうロクに動けないだろうに、それでも必死に呼びかけるジョン。

倒れる妙子を目で追いながらも、離れていくMUR。
ただ、先の糾弾とこの状況を省みれば、彼を責める気にはなれなかった。

「グエエエエエエエ!!」

いよいよ迫ってくる、死を齎す脅威。
その巨大な口内に螺旋のように立ち並ぶ歯が、奈落のように浮かぶ漆黒が、目前にまで迫る。
姫の狙いはMURであるため、それが自分に向けられている訳ではなくとも、彼女に生を諦めさせるには充分すぎた。

妙子に許されたのは、あと瞬きひとつで己をズタボロの肉塊にするモノを悲鳴をあげることすらなく呆然と見つめることだけだった。

恐怖も驚愕もない。

まるで他人事のようだった。
不思議と痛みはなかった。感じていないだけかもしれないが。
浮遊感にと共に己の視界が反転し、自分をはね飛ばしたであろう姫を見下ろしていた。

視界の端には、浮かぶジョンとMURも見える。
彼らも自分と同じく吹き飛ばされてしまったのだろうか。
自分が転んだ所為でこんな目に遭ってしまったのだとしたら、とんだ迷惑をかけてしまった、となんとなく思い心の中で小さく詫びる。

驚愕に目を見開くブチャラティの顔が見える。
会ったばかりなのにあそこまで傷ついても逃がそうとしてくれた彼には素直にお礼を言わなくちゃと、そんな場違いな感想が思い浮かび、消えていく。

この会場に連れてこられている野崎春花の顔が浮かび、それを打ち消すかのように視界と意識が落下する。

ふわり、とそんな擬音が着きそうなほど静かな着地だった。
どころか、不思議な温もりすら感じられるほどだった。

「へへっ、ナイスキャッチ大成功〜」

「よくやったぞロシーヌ。...スタンド使いに童話にでも出てきそうな怪物...実に興味深いな」

その現象が、突如現れた女型の異形と、いつの間にか姫の背に金髪の男が成したものであることを、彼の呟きを聞きようやく理解できた。


828 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:37:10 AfUGQEuc0



バァン、と音を立て、姫が壁に衝突し、通路に震動が走る。

「おっと...ここでは足場が不安定だな。ロシーヌ、その子達を一旦下ろしてくれ」
「ほーい」

金髪の男―――DIOは、かろやかに跳躍し、乗っていた姫の背中からその足を離す。
それに続き、ロシーヌは抱えていたジョンと妙子の二人を地面へとゆっくり下ろした

「ギッ!ギエエッ!」

獲物を見失った姫がキョロキョロと見回す中、DIOはジョンと妙子の傍に降り立った。

「私の名はDIO。この子はロシーヌだ。手荒い助け方になってすまなかったね」
「あ、いやそんな...」

紳士然としたDIOの物腰につられ、妙子も思わず敬語になってしまう。
DIOは全身を包む黄色い服と、格好こそ奇抜ではあるものの、顔立ちは非情に整っており、身体も筋肉質ではあるがただ闇雲に鍛えたのではなく美しいラインを描いている。
いうなれば高級な彫刻とでも言うべきだろうか。
彼の容姿はそれほどまでに完成されたものだった。
だが。

「君達から少し話を伺いたいのだが...いいかな?」

その凍りつくような双眸に、二人の背に旋律が走る。
これはブチャラティのように真っ直ぐにこちらを見据えるものではない。
クラスの連中が野崎春花に対して向けるような敵意の篭った目ではない。
そしてターミネーターの無感情な目ともまた違う。

まるで自分達をひとつのモノとしか捉えていない。
そんな見下し、冷めた視線が、恐怖と共に奇妙な感覚を腹から引きずり出そうとしてくる。
この人に認められたい、そんな狂信的ななにかを誘発させるようだ。
カリスマ、とでもいうべきだろうか。妙子とジョンは、DIOからそんな空気を感じ取っていた。


829 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:37:57 AfUGQEuc0

「すっげえ痛かったゾ...」

彼らの意識に、頭を押さえながらぼやくMURの声が割ってはいる。
どうやら彼だけはキャッチされずにそのまま落下したようだ。

「DIO、助けるならもっと優しくして欲しかったゾ」
「...ロシーヌの体格では彼ら二人を抱えるのが限度だったのでね」
「嘘付け絶対できたゾ」

MURのねっとりとした声が、DIOの帝王然とした空気を浸食していく。
気のせいか、先ほどまで穏やかであったDIOの表情に陰りが見えているようにも見える。

「無事か、三人とも」

遅れて合流したブチャラティは、三人の身を案じるとDIOへと向き合う。

「あなた達が彼らを助けてくれたのか」
「ああ。きみがあまりにも必死だったのでね。ひとまずあの怪物に食われるのを防がせてもらったよ」
「...礼を言わせてくれ」

言葉とは裏腹に、ブチャラティは警戒態勢をとる。
妙子ら三人を救ってくれた感謝の念はあれど、彼もDIOが発する異様なオーラを、そして彼とロシーヌの首に巻かれた赤い首輪に嫌が応でも警戒心を引き出されるのだ。
あからさまではないが、今までのジョンたちへの接し方とは雰囲気が変わったのが三人にも伝わった。

DIOはそのブチャラティの対応にも気分を害することもなく、どころか非情に穏やかな口調で彼へと語りかける。

「そんなに警戒することはないさ。私はきみの能力に興味があってね」
「俺の能力...?」

「ギ エ エ エ エ エ !!」

問答を断ち切るかのように、DIOの背後から襲い掛かる姫。


830 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:38:33 AfUGQEuc0

「!!しまった!!」

DIOに気をとられ、完全に姫への対応の遅れてしまったブチャラティは、咄嗟にスティッキィ・フィンガーズの腕を発現させ、姫を殴りつけようとする。

だが、それよりも早く姫の頭部が跳ね上がった。
アッパーカット。
姫の顎をカチ上げたのは、たくましい金色の腕。
それは、DIOの背後に立つ像から放たれたものだった。

「スタンド使い...!?」
「見てのとおりだ。私もきみと同じ『力』を持っている。どうかな、ひとつ私とお話を...ムッ」

背後からの殺気に、DIOが振り返る。
姫だ。DIOのスタンド、『世界』のアッパーカットにもさして怯まず、再び襲い掛かったのだ。

「おっお〜、がんじょー」
「くっ」

DIOはふわりとした跳躍で、ロシーヌは妙子とジョンを抱き上げ、その後ろにいた男は横に跳び、ブチャラティはMURの手を引き体当たりをかわす。
バァン、と音を立て通路が揺れる。
しかし姫は止まらず。再び目的であるMURへとぐるりと顔を向ける。

「フン、化け物め...このDIOの邪魔をするというのなら!!」

『世界』が姫の頬を右拳で撃ちぬき、速度が緩むのと同時、残る左拳で逆の頬を殴りつける。

「フンフンッ!!」

そのままボクサーのジャブのように小さくそして速く拳を姫の顔へと撃ち出す。

「ギィヤッ!」
「中々丈夫だが...痺れを晴らすウォーミングアップにはちょうどいい!」

打ち出される拳は速度を増し、常人では無数にすら映るほどの速さで両拳のラッシュが繰り出される。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァ――――!!」

あの姫が一方的に滅多打ちにされている。
この事実に、ジョンも妙子も言葉を失っていた。
同時に。
凶悪な笑みを浮かべながら拳を放ち続けるこの男に本性を垣間見た。


831 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:39:22 AfUGQEuc0

パァン、と音が響き、姫の状態が大きく反り返る。
パンチとていつまでも繰り出せるものではない。DIOのラッシュがこの時終わったのだ。
並大抵の者ならばこれで命を散らしているだろう。
しかし

「グッ、ギィッ」
「ッ!チィッ」

姫は命を落としていないどころか、戦意すら衰えていない。まともにダメージがあるのかすら怪しい有様だ。
その事実にDIOは苛立ち、面倒な敵だと素直に思わざるをえなかった。

(こんな知性もなにもないカスに負けるはずもない...が、始末に手間取るのも事実。空条承太郎や雅との戦いを前に無駄な消耗は避けたい)

幸い、出口はさほど遠くはない。ここは適当に相手をしつつ退くべきだろうか。
DIOがそんなことを思っていた折だ。

「でぃお殿、先ほどの立て札通りならば、奴と眼を合わせてはならんそうじゃな」

突如、ずい、と進み出てきた美丈夫、甲賀弦之介にブチャラティら四人は思わず面食らう。
彼は最初からいたのだが、しばし沈黙していたのに加え、DIOの存在感のために彼ら四人に認識されていなかったのだ。

「あれを姫と呼びたくないものだが、この状況から見ればそうだろう」
「...あいわかった。ここはわしに任せてくれぬか」

言うが早いか、DIOとロシーヌを含めた6人を背に、一人姫と対峙する弦之介。
その無謀な行為を止めようとするブチャラティだが、しかしその言葉がつむがれることはない。

ざわり、と弦之介が纏う空気が一変する。

6人は、迫り来る巨大な姫よりも、弦之介の背が巨大に思える錯覚に陥る。

「ギイィアアア!!」

大きく開かれる姫の漆黒の口。

迫る死への脅威にも弦之介は微塵も動かない。

そして。






「見よ、『姫』」


832 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:39:47 AfUGQEuc0

――――!

皆の身体にビリッ、と雷に撃たれたような感触が奔る。

痛みはない。

しかし、気を抜けば甲賀弦之介に意識を吸い込まれるような奇妙な感覚に陥る。

それは姫も例外ではない。否、直視している姫だからこそ、なお強い感覚に陥っている。

その魔眼に、姫の怒りの形相は青ざめ、恐怖したかのように震えだす。

「ギッ、ギィッ」

突如、悶え始める姫。額に脂汗を滲ませながらそれを見つめる弦之介。

数十秒ほどだろうか。その場で悶えていた姫は、その身体を弦之介から離すかのように、凄まじい速さで後退していく。

振り返ることのできるスペースまで達したところで、わき目も振らず振り返り、暗闇へと姿を消していった。

シン...と静寂の空気に包まれる。

「ぐっ...」

息を乱し、ガクリ、と膝をつく弦之介に、遅れてジョンが気遣うように声をかける。


833 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:40:16 AfUGQEuc0

「だ、大丈夫?」
「立たせてやれよ?(イケボ)」

ジョンとそれに便乗したMURの肩を借りつつ、弦之介はよろよろと立ち上がる。

(やはり...仕留められなんだか)

ロシーヌとの戦いにより弦之介に燻っていた違和感はここで確かなものになる。
間違いなく自分の瞳術はかなりの制限をされている。
如何様にかはわからないが、いまの弦之介の疲労を顧みれば一目瞭然だ。
ロシーヌとの一戦では、彼女は自滅こそしたものの、大した怪我もなく、自身の疲労も普段の比ではなかった。
今回は更にその制限が尾を引いており、疲労はロシーヌとの戦いの倍以上は蓄積され、しかも姫は自滅にすら至らず逃走しただけだ。
もしも戦い続ければ敗北したのはどちらか、想像に難くない。


(ロシーヌにも使っていたあの技か...なるほど、どうやら本調子ではないだけでなく、かなり負担を強いられているようだ)

弦之介の焦燥は、傍に立つDIOにも伝わっていた。
地下通路に着くまでは弦之介も己の技については殆ど口を割らなかったが、大まかに正体は掴みかけてきた。
おそらく、弦之介のあの技は、眼を見た者を筆頭に害する類のモノなのだろう。
そして、そんな能力がなんの制限もなしに放置されているとは思えない。
恐らく自分のスタンドのように、しかもあの疲労具合を考えればかなりの重制御をされていることも窺える。

(そこまで気にかけなければならない能力者をわざわざ参加者にするとは、主催はよほどこの男へ恨みを抱く者らしい)

DIOとしてはこの殺し合いの主催はこれから先も干渉してくる可能性を考えれば、倒しておきたいと思っている。
現状、一切が不明の主催の正体を知ることはその一歩となる。弦之介から情報を聞き出せば、主催の正体のある程度の推測は可能だろう。

「さて。ひとまずは落ち着いたところだ...きみたちも交えて、6人で改めて情報を交換したいと思うが...いいかな?」

「......」

ブチャラティは考える。
現状、DIOとその同行者はこちらに危害を加えていない。
だが、先ほどの自分の警戒心を嘘だと断じることもできない。
そして、DIOという存在は勿論、ロシーヌの存在や弦之介の技にしてもそうだ。
両者とも、スタンド使いという括りでは為しえない者たちだ。
そんな彼らと、このまま手の届く距離にいていいのだろうか―――?


834 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:40:38 AfUGQEuc0
「なんにせよ、ひとまずDIOたちが来た道へ戻るゾ」

そう口火を切ったのはMURだった。

「何故ここではダメなのかな?」
「さっきの姫がまた来た時に、ここでは逃げ切れないかもしれないからだゾ。このお侍さんもだいぶ辛そうだし、さっきみたいにはいかないと思うゾ。入り口...つまり出口の近くならすぐに逃げ出せる」

珍しく強い口調でDIOへと意見するを意外に思いつつ、MURの提案にブチャラティも同意する。

「俺も賛成だ。足を止めるのはこの地下通路を抜け姫を退けてからだ」
「ぼ、僕もそう思うよ」
「あたしも...」
「でぃお殿...わしからも頼む。いま再び姫に襲われるわけにはいかぬ」
「そうだよ(便乗)」

「んー、私はどっちでもいいけどどうするのおじちゃん」
「...仕方あるまい」

DIOとしては日光を防げる場所でもあるこの地下通路で主導権を握りたかったが、5対2で無理強いをすれば心象を悪くするというもの。
実際、MURの言うとおりいま姫に来られるのは面倒でもある。
ならばここは素直に賛同するのが吉とDIOは判断した。

(...ひとまずは保留、か)

やはり現状ではDIOという男の人物像を捉え切ることはできない。
ひとまずは出口へと向かうために、一同は歩みを進める。


(しかし何故だ?口調も言葉遣いも違うというのに...なぜこのDIOという男からはジョルノに似た気配を感じるんだ?)


835 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:40:59 AfUGQEuc0
【H-6/一日目/地下通路/早朝】



※地下通路内に何か所か電燈のスイッチがあるようです。
電燈が点くと視界が広くなる反面、当然『姫』と目が合いやすくなります。
※瞳術の影響で姫が地下通路の底に帰りました。参加者へのマーキングも現在は離れています。



【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:頭にたんこぶ、恐怖、不安
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0;情報交換をする。
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。
3:同行者たちへの不安感。このまま便乗するのはマズい?
4:『姫』には要警戒。
5:DIOと出会ってしまったゾ...

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。



【小黒妙子@ミスミソウ】
[状態]:疲労(中)、不安、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:とにかく死にたくない。
0:情報交換をする。
1:野崎を...助けなくちゃ、ね。
2:『姫』には要警戒。
3:もしかして私が一番足手まとい?

※参戦時期は佐山流美から電話を受けたあと。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。



【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。
0:情報交換をする。
1:T-800と合流する。
2:T-1000に要警戒。
3:『姫』には要警戒。

※参戦時期はマイルズと知り合う前。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。



【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(中)、冷や汗
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:情報交換する。ただしDIOへの警戒は怠らない。
1:弱者を保護する。
2:『姫』には要警戒。

※参戦時期はアバッキオ死亡前。
※DIOにジョルノと似た気配を感じています


836 : 目が逢う瞬間(とき) ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:41:18 AfUGQEuc0

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】 
[状態]:疲労(中)、身体のところどころに電撃による痺れ(我慢してる)、出血(右腕、小〜中、再生中)、両脚にありたちによる攻撃痕(小〜中、再生中)
[装備]:
[道具]:基本支給品。DIOのワイン@ジョジョの奇妙な冒険、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには手段は択ばない。 
0:情報交換をする。
1:主催者は必ず殺す。
2:赤首輪の参加者を殺させ脱出させる実験を可能な限り行いたい。
3:空条承太郎には一応警戒しておく。
4:不要・邪魔な参加者は効率よく殺す。
5:MUR...?知らんなぁ
6:弦之介の謎の技に興味。


※参戦時期は原作27巻でヌケサクを殺した直後。
※DIOの持っているワインは原作26巻でヴァニラが首を刎ねた時にDIOが持っていたワインです。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※肉の芽を使用できますが、制限により効果にはかなり差異が生じます。
特に赤首輪の参加者、精神が強い者、肉体的に強い者などには効き目が薄いです。



【ロシーヌ@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)、額に肉の芽
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 好きにやる。
0:とりあえずはDIOおじさんについていく

※参戦時期は少なくともガッツと面識がある時点です。
※肉の芽が植えつけられていますが、肉の芽自体の効力が制限で弱まっています。
現在は『DIOを傷つけない』程度の忠誠心しかありません。



【甲賀弦之介@バジリスク】
[状態]:疲労(大)、右肩に刺し傷。
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する(ただし赤首輪の殺害を除く)。
0:情報交換する。
1:陽炎と合流する。朧を保護し彼女の真意を確かめる。
2:薬師寺天膳には要警戒。
3:極力、犠牲者は出したくない。
4:脱出の協力者を探す。
5:“すのぅほわいと”を守る?


837 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/04/13(金) 00:41:44 AfUGQEuc0
投下終了です


838 : 名無しさん :2018/04/14(土) 06:24:05 4nfXBLaE0
投下乙です

やはりスタンド使いは引かれ合う…
MURに内心苛々してそうなDIO様すき


839 : 名無しさん :2018/04/19(木) 23:40:02 fUXir.eI0
この先MURが知将大先輩として活躍する可能性が微レ存…?


840 : 名無しさん :2018/04/28(土) 23:12:36 Qj5x85360
投下乙です
遠縁があるスタンド使い二人の会合の先も気になりますが
DIOをイラつかせるMURに草


841 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:33:16 m5JeMYSU0
投下します


842 : 不死者は朝の夢を見る ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:33:49 m5JeMYSU0
巨大な瓦礫に腰をかけ、傷ついた身体の再生を待ちつつ思いを馳せる。
あの加藤という男の話では、ワイアルドのように一度死んだ者が参加者として選ばれている可能性があるそうだ。

それ自体はかまわない。
でなければ、死んだはずのあの男がなぜここにいるのかが説明がつかないからだ。

問題は―――

「なぜ俺がここにいるか、だ」

ここまで数多の戦場を渡り歩いてきた。
時には重傷を負ったこともある。
そのいずれでも死した覚えはないが、ワイアルドの話を信じれば、ヤツもまた死んだ覚えはないという。

ならば、俺はどうだ。
俺もまた、何者かに屠られたというのか。
充足した戦いの中で力尽きたというのか。

ならば知りたい。
自分を斃した者は何者か。如何な強者なのか。

それを知るにはやはり闘争を重ねる他ない。

望むところだ。

我の求めしものはただひとつ―――



バサリ


843 : 不死者は朝の夢を見る ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:34:08 m5JeMYSU0

立ち上がろうとした俺の耳に、羽ばたきの音が届く。

このような時間に鴉か、となんとなく空を見上げ―――目を疑った。

あたりを照らすのは朝日ではなく燃えるような夕焼け。
使途であるこの俺ですら目を奪われるほどの淀みの中を、鴉は鳴きながら旋回する。

馬鹿な。いま、なにが起きているのというのか。

困惑を隠せない俺の前に鴉が群がり、なにかを包み込むように巨大な塊を象る。

何故か、俺はその塊を除けることができず、ただそれがもたらすなにかを見つめていた。

やがて、鴉たちが飛び発ち内包物が露になる。

現れたのは俺と同じほどの巨大な白い鷹だった。

「こ...これは!?」

俺は思わずそう零していた。
その輝きに、圧迫感に、戸惑わずにはいられなかった。


844 : 不死者は朝の夢を見る ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:34:40 m5JeMYSU0

―――これはお前のまどろみの中。夢と現の溶け合う領域。

頭の中に声が響く。何故か、俺にはこの声が眼前の鷹のものだと確信していた。

「お前は...!まさか...!何故!?」

そう、自然に口を突いて出た言葉自体に俺の困惑はさらに深まる。
俺はこの鷹を知っているのか?ならばこの鷹は何者だ?

―――お前が求めたものは言葉ではない、不死者よ
「!」

鷹の言葉に、ふと我に帰る。

「...確かに」

そうだ。俺の相手が何者かなどはすべて二の次。

「我の求めしはただひとつ、強者!絶対の強者のみ!!」

強者との闘争。それこそが、俺のすべてである。
俺は使途本来の姿に戻り、鷹へと踊りかかり、咆哮とともに、腕を振りかぶる。

十全の殺意と闘気を込め、鷹めがけて振り下ろす。

鷹は微動だにしない。

俺の爪がその頭部に触れようとしたその瞬間、鷹は飛び立つ。

腕を、脇をかすめ、俺が触れることなく奴は通り抜けていった。

瞬間。

俺の腕が、残った角が、頭部が裂け―――意識は、途絶えた。






【ゾッド@ベルセルク 死亡】


845 : 不死者は朝の夢を見る ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:35:02 m5JeMYSU0


「ッ!?」

気づけば、辺りには明るみがさしつつあり、鴉など一匹たりとも痕跡すらなかった。
いま見たものは全て虚像...そう判断する他ない。

馬鹿な。アレが夢だというのか。

キョロキョロと見回す俺の頭部から、熱いなにかが垂れる。
血だ。皮膚が裂け、詰まったものが流れてきたのだ。

「やはり現実...否」

血の出処は、あの人形遣いの打撃により刻まれた箇所と一致している。
やはりあの鷹との闘いが現実か虚像かは断定できない。

「いずれにせよ、あの鷹こそが、俺を死に至らしめた要因―――ということか?」

わからない。わからないが...

「面白い」

自然と頬が緩む。

「鷹よ。貴様は魔に身を落として漸く俺を葬ることができたが...あの男は己の力だけでこの俺をあそこまで追い詰めたぞ」

あの鷹は、確かにこの不死のゾッドを容易く葬った。
だが、この宴にて女子供を救うために立ちはだかった男は、魔に関する者ではないにも関わらず、この身に消えぬ傷跡を打ち込み生き延びてみせた。

「貴様が俺になにを望むかは知らん。だが、いま俺の魂を震わすのは貴様ではなくあの男よ」

俺へと死を齎すほどの魔に縋った強者よりも、己の力ひとつで戦うあの男の闘いの方が自分を充足させてくれた。
もしも小娘の妨害がなければ戦い果てたのは俺かもしれないと思わせるほどにだ。
きっと、この宴にはあの男以外にも素晴らしき猛者は居るはずだ。
それらを全て食らい、より高みに上ったところで―――再び貴様と相対しよう。

傷は癒えてきた。
完治にはほど遠いが、この傷が齎す喜びすらも消えぬうちに新たな闘争へと馳せ参じよう。

我、戦う故に我あり。

新たな闘いの火種はどこぞある!


846 : 不死者は朝の夢を見る ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:35:40 m5JeMYSU0



不死者は強大な力を持つ鷹に忠誠を誓う。それが彼の本来の運命だった。

だが、彼は敗北を悟ってもなお鷹への忠誠は浮かばず。

彼もまた変わりつつあるのかもしれない。

この宴に呼ばれ、なにより空条承太郎という、己の運命を切り開き巨悪に勝利を収めた男と拳を交えて。

意気揚々と歩き出す不死者の背をジッと見つめていた鷹は、その存在を知られることなく静かに飛び去った。





【I-4/街/一日目/早朝】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:全身にダメージ(中〜大)、疲労(小)、右角破損、頭部にダメージ(小)
[装備]:日本刀@現実
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:闘争を繰り広げる。
0:とにかく戦う。
1:行動を始める。
2:空条承太郎には強い興味。春花の持つベヘリットにも少し興味。
3:ガッツと出会えれば再び戦う。

※参戦時期はグリフィスに忠誠を誓う前。
※加藤が二度死んでいることを聞きました。


847 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:36:50 m5JeMYSU0
投下終了です
続けて投下します


848 : そして私は晴れ渡る空へと憧れる ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:37:42 m5JeMYSU0

「ごめんね、私なんかの背中じゃ居心地悪いでしょ」

背中でうな垂れる彼女に言葉をかけるも、返答はない。

重たい。背中の彼女が、二度と動かない彼女が、彼女から流れていた熱い血が、いやに重たく感じる。
けれど投げ出すわけにはいかない。投げ出したくなんてない。

これは、私が犯した罪の証だから。彼女のくれた優しさに報いなくちゃいけないから。

「ねえ、あいつは言ってたわよね。引き金を引いた以上は代償を払うべきだって」

DIOと相対したとき、私はあいつへと敵意を向けた。
それはあの蟻もHSIさんも同じで、本能的にあいつへと身を委ねてはいけないことを感じていたのだろう。
言い訳にしかならないが、あの時の私たちの判断は間違ってはいないと思う。

「けど、あの時引き金を引いたのは間違いなく私。私なのよ」

どこかで自惚れがあったのかもしれない。
自分が曲がりなりにもLEVEL5なことに。なにより、自分より格上であるはずの赤首輪のありくんを見て。
自分でもなんとかできるかもしれないと心の片隅で思ってしまったのかもしれない。

本能が警鐘を鳴らしているのなら、きっとあそこで二人を連れて逃げるべきだったのだろう。
ありくんにもHSIさんにも力を借りれば逃げ出すこともできたはずだ。
けれど私は撃ってしまった。引き金を引いてしまったんだ。

「なのにさ、なんであなたは最期に負けないでって応援してくれたのかな」

HSIさんがわたしを恨む余地は山ほどあった。
けれど、あの子は最期まで私を庇い背負い続けてくれた。
泣き言ひとつ言わず、私を励ますために微笑み続けてくれた。
まるであいつのように。かつて私の悪夢を打ち殺してくれたあの<<ヒーロー>>のように。


849 : そして私は晴れ渡る空へと憧れる ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:39:00 m5JeMYSU0
「本当は、私みたいなのじゃなくて、あなたみたいな子が生き残るべきなのにね」

HSIさんのことを除いても、私にはやはり罰せられるべき罪がある。
私のDNAを使って生み出され実験のために消費された一万人の妹達(シスターズ)。
あいつは、上条当麻は「実験は確かに間違っていたが、妹達が生まれてきたことだけは誇るべきだ」と言ってくれた。
その言葉には大いに救われたけれど、だからといって罪自体が消えた訳じゃない。
罰せられるのならば、やはり彼女よりも自分のほうである。

「でも、だからって止まる訳にはいかないわよね」

それでも逃げるわけにはいかない。彼女に負けないでと託されたのだから。

「負けないで、か。...うん、まずはあなたの姉妹?でいいのかな。写真の子を探さないと」

ありくんや偽HSIさんの探していた写真のHSIさんにそっくりな女の子の探索。
私は彼女の保護を第一とした。
DIOを倒し仇をとるのはその後だ。彼女達の無念は必ず晴らしてみせる。

(...私に、出来るのかな)

胸に不安が過ぎる。
それはDIOが強いから、だとかそんな次元の話じゃなくて。
そもそも私に人を殺せるか、という問題だ。
この会場からDIOがリタイアすれば、仇をとれるだけではなく上条(あいつ)と黒子の負担もかなり少なくなる。
この会場での『リタイア』は命を落とすか、赤い首輪の参加者を殺すことだ。
後者は絶対にだめだ。DIOを止めるために他の参加者を犠牲にしていいなんてまかり通らない。
ならば必然的に前者を選ばざるをえない。
電磁砲を、再び血に染めなければならない。

「...やらなくちゃ、ね」

恐怖はある。嫌悪感もある。
けれど、こんなことをあの二人に押し付ける訳にはいかない。
汚れ仕事は、私のようなヤツがやればいい。

「あっ、あそこに町が...もうすぐゆっくりできるからもう少し待っててね」

あの町ならば安全な場所も多いだろう。
私は、覚束ない足取りをどうにか整え、町へと向かうのだった。



【Fー6/下北沢近辺/一日目/早朝】


【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)、顔面にダメージ(中〜大)、腹部にダメージ(中〜大)、鼻血(中)、歯が数本欠けている、混乱 、精神的疲労(絶大)、ありくんを殺してしまった罪悪感、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:首輪レーダー コイン×5(集落で拾った)。
[思考・行動]
基本方針:生きる(脱出も検討)。 まだ膝は折らない
0:偽HSIさんを安全な場所で埋葬する。
1:偽HSIさんとありくんの望みを叶えるため、本物のHSIさんを探し出す
2:当麻と黒子を探したい。
3:DIOは必ず倒す。でも、私に殺人ができるのかな...?


850 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/17(木) 00:40:55 m5JeMYSU0
投下終了です

千手観音、スノーホワイト、リンゴォ、ゆうさく、スズメバチを予約します


851 : 名無しさん :2018/05/17(木) 21:45:23 W4hJmzuk0
投下乙です

黄金の精神を持った男との出会いはゾッドの今後にどう影響していくのだろうか
折れずに立ち上がったMSK姉貴は対主催者の鑑。会場にNPCと化したHSIさんが居る可能性が微レ存…?


852 : 名無しさん :2018/05/21(月) 00:38:11 KE2xo2WY0
そういえばこの企画にHSI姉貴いませんでしたね……
偽物とアリくんはいるのに本人はいないのか(困惑)

ところでこういう単独で自分の気持ちと向き合うしっとりとした独白の話が投下されると企画が中盤を迎えたって気持ちになりませんか?


853 : 名無しさん :2018/05/21(月) 02:32:30 GoR0zLNk0
◆ZbV3TMNKJw氏は書き手の鏡を。毎回氏のssが投下される度に当職の身が震える
当職はここまで闘争ロワを書き続けてきた氏を当職は尊敬するナリ
HSI姉貴はきっと下北沢のどこかに存在すると予想させ、パズルのピースが埋まっていく
始まりはホモでした。このロワは淫夢が参加していたことが全ての基点だった
そこで最終的に出会ったのが◆ZbV3TMNKJw氏だった
ホモなき書き手に力を。書き手なき界隈に活気を
貴方の側に読み手がいますを




感謝


854 : 名無しさん :2018/05/21(月) 14:01:38 M8T.eK/g0
唐突な尊師で草


855 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/26(土) 00:07:23 mz4Nv8UM0
予約を延長します


856 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:14:07 RxVgKodc0
投下します


857 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:15:42 RxVgKodc0
―――ゆうさく(デケデケデケデケ


「いまなにか聞こえませんでしたか?」
「いや?ずっと気を張ってるから疲れたんだろう」


スズメバチとの決着を着けにいく。
そう決意し飛び出していったリンゴォを追ったスノーホワイトとゆうさく。
スタンド使いとはいえ、生身としては人間的な能力しか有していないリンゴォと魔法少女であるスノーホワイトでは、身体能力は比べるべくもない。
故に、素直に彼を追っていれば追いつける。その筈だった。
しかし...

「ここにもいない」
「あのおっさんふざけんなよ。どれだけ速いんだよ」

彼らはリンゴォを見失っていた。
スノーホワイトが、彼女に比べると比較的身体能力に劣るゆうさくを気遣いながら探索していたことを考慮しても、彼らがリンゴォを見失うのは早かった。
彼が去ってから一分にも満たぬ間にだ。


「スノーホワイト、困っている人の声は?」
「いまはまだなんとも...」
「じゃあこのあたりにはリンゴォはいないんだな」
「いえ、彼が困ってないならわたしの魔法から外れることもあります」



スノーホワイトの魔法は『困っている人の声』が聞こえるものである。
探索には便利な魔法だが、探し人がなにかしらの強い気持ち、それも困っているという限定的な条件にしか反応しないという欠点もある。
つまり、スズメバチに屈辱を晴らすといったリンゴォの声すら聞こえないということは、とうに魔法の有効範囲から抜け出しているか、あるいは彼はまだスズメバチに遭遇しておらず、危険な状況には陥っていないか、という可能性が高い。


858 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:16:07 RxVgKodc0

ホッ、とする反面、彼女の不安はとどまることを知らない。
リンゴォが自身の信念に従う男だというのは先のやりとりで思い知らされた。
だから、本来なら彼の決着という名の戦いにスノーホワイトが関与するべきではないのかもしれない。
しかしそれでも誰にも死んでほしくなんてないから。
ただただその想いだけが、彼女の身体を、信念を突き動かす。

そんな彼女の優しさはゆうさくにも伝わっており。
彼女の健気さは、恩人ということを除いても、一人の男として是非とも手助けしてやりたいと思えるほどだった。

スノーホワイトの無垢なる献身が、ゆうさくの不安を和らげていた、ともいえよう。

だからだろうか。

偶然、彼の視界に入る道端に落ちていたテンガロンハット。
それに思わず気をとられてしまったのは。

なにかの罠だとか、この辺りでなにかがあったのだろうか、という疑念よりも先に「誰かが落としてしまったのか」と気遣いの心が浮かんでしまったのは。

ゆうさくがテンガロンハットを拾うため、その歩みを進める。

1歩。2歩。3歩。

普段の歩き方と変わらないその歩調は、あっという間にテンガロンハットとの距離を縮めていく。

そして眼前のそれを拾おうとし手を伸ばしたそのときだ。


859 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:16:37 RxVgKodc0

『においが...する...』

スノ-ホワイトの脳裏に声が届く。
魔法で感知した「困っている人の声」が。

あわてて振り返るスノーホワイト。
その先には、自分に背を向けるゆうさくのみ。

『やつを...なくては...ちゅうい...かんき...』

注意喚起。
かつて聴いた、普段は常用しない単語に背筋が怖気立つ。

いる。
間違いなく、アレが近くに潜み彼を狙っている。

だが、どこで。

声の聞こえた方角。

その先で、帽子を拾おうとしたゆうさくの姿が視界に入るや否や、彼女の身体は弾丸の如く弾けた。

「あんっ」

スノーホワイトに背中から押し倒され前のめりに倒れるゆうさく。

ビンッ

その頭上を、高速で通り過ぎた小さな影。

自分を押し倒した少女に声をかける間もなく、ゆうさくはソレと対面する。



ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン


己と同じ顔を持つ死神、スズメバチと。


860 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:17:21 RxVgKodc0

「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ↑↑↑」

恐怖のあまり微振動と共に悲鳴が上ずるゆうさく。
まさかここにきて、こんなタイミングでスズメバチと遭遇することになろうとは。

ビンビンビンビンビン

スズメバチは己の身体を苛む痛みすら吹き飛ぶほどに狂喜した。
気を失いほどなくしてゆうさくと出会えるとは。
一刻も早くヤツを刺し、注意喚起を済ませて脱出せねば。

ゆうさくが構える間もなく迫るスズメバチ。
恐怖に震えるゆうさくに、ソレを避ける術はない。

―――ポフッ

突き出される尻の針を防ぐは、突如ゆうさくとの間に突き出されたデイバックの布地。
その主、スノーホワイトはそのままデイバックを振りぬきスズメバチを吹き飛ばす。


錐揉み状に吹き飛ばされる中、スズメバチは旋回することで衝撃を緩和しどうにか停止。


ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ


怒りのままに空中で停止し、スノーホワイトを睨み付ける。
またか。
またあの少女は邪魔をしようというのか。

ならば刺してやる。ゆうさくを守る以上、お前はただの敵だ。


(こんな短時間で遭遇してたら俺のケツイ壊れちまうよ!)

ゆうさくの鼓動が恐怖で高鳴る。
この短時間、広大な会場で既にスズメバチと二度も遭遇している。
やはり自分は逃がれられないのか。
どうあがいても、死すべき運命(カルマ)だというのか。
嫌だ。そんなの、嫌だ―――


「逃げてください、ゆうさくさん」

俯いていたゆうさくは思わず顔を上げる。
スノーホワイト。彼女は、ゆうさくを庇うようにあのスズメバチと真っ向から対峙していた。


861 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:17:45 RxVgKodc0

「冗談やめてくださいよ。早くきみもエスケープしてくださいよ」
「...逃げても、このハチはゆうさくさんを追ってきます。だから、ここで止めるしかないんです」
「でも」
「それに、ここにあのスズメバチがいる限り、リンゴォさんの『決闘』は果たされていない...リンゴォさんも無事だと思うんです。だから、私が残って戦うのが一番いいんです」

スノーホワイトの言葉を受け、ゆうさくは考える。
確かにあのスズメバチはどんな状況でも自分をずっと追いかけてくる。
ならば、彼女の言うとおり二手に別れて、万が一の全滅は避けるべきだ。

だが、それでいいのか。
その背からも震えがハッキリと伝わるほど恐怖を抱いている彼女に押し付け逃げるだけでいいのか。

否。それは一人の大人として決して是とすべき行為ではない。

かといって、このまま刺されるのを待つのは怖すぎる。

「待っててくれ、必ず助けを連れてくる!絶対に刺されるんじゃないぞ!」


そこでゆうさくがとった行動は、救助を呼ぶこと。
今の自分達の装備では、二人がかりでもあのスズメバチを駆除することは困難。
ならば、スズメバチ駆除のプロフェッショナルを探し出し力を借りるべきだ。


走り去っていくゆうさくを背中で感じながらスノーホワイトは拳を握り締める。

怖い。

眼前のハチは、何度もゆうさくを殺してきた存在だ。
本当ならば、自分もどこかへ逃げ出したいくらいだ。

『ありがとうございます』

けれど。
ゆうさくのあの時のお礼は、清く正しく美しくあろうとする魔法少女の精神を刺激した。
ここでわが身可愛さに全てを投げ出せば、もう二度と魔法少女として立ち上がることはできないだろう。
きっと、生き返った岸辺颯太にも顔向けできやしない。
だから戦う。他者を守る為に力を振るう。

(私が食い止めるんだ...私が...!)

全ては、抱いた理想に基づいて。


862 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:18:25 RxVgKodc0



「一方通行...」

スノーホワイトとゆうさくを撒いたリンゴォは、求めていた者の一人、一方通行と相対していた。
彼は既に息絶えていた。苦悶とも、恍惚とも名状しがたい形相で、地に伏していた。
やはり、あのハチに刺されたとき、彼の最期は定められていたのだろう。

「...お前が息絶えたところで、俺達の決闘に偽りはない。勝者はお前で、敗者は俺だ」

生き残った方が勝者、だなどと言い訳をするつもりはさらさらない。
あの決闘、間違いなく自分は完膚なきまでに負け、一方通行は完全なる勝利を収めたのだ。

決闘の後始末を穢したハチへと、殺意の炎が再び湧き上がる。
斃さねばならない。あのハチと公正な決闘の上でだ。

だが、その前にやることがある。

「お前からすれば不本意なのだろうが...敗者には敗者なりのケジメがある」

リンゴォは一方通行の亡骸の傍に転がるデイバックからスコップを取り出し、穴を掘り始める。

ザクッ、ザクッ。

埋葬。
今まで、決闘に勝利する度に、相手の墓を掘り遺体を埋葬してきた。
それが勝者の務め。決闘に相対した者への礼儀でもある。

それを、敗北した自分が穴を掘り、勝者を埋葬しようというのだからおかしな話だ。

(だが、敗者になりきれなかった俺には、勝者を野ざらしにさせてはならない義務がある。ただの自己満足にしか過ぎないだろうがな)

人一人ほどの大きさの穴が掘れたところで、その手を休め一方通行の遺体を横たわらせる。
見開かれた瞼を閉じさせ、硬直しつつある身体を無理のない体勢に直し、土を被せていく。


863 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:18:55 RxVgKodc0

「あらあ、イイ男じゃない」

一方通行の遺体に土を被せ終えたところでかけられるは女の声。
その妙に上ずった声に微かに生理的嫌悪を抱きつつ振り返る。
瞬間、リンゴォは目を見開き身体を強張らせた。

なんせ、その声の主は、銅像めいた異形だったのだから。

「こ、こんばんわ〜、お友達になりましょ」

口角を吊り上げつつかざされる灯篭。
リンゴォの背筋に怖気が走り、とっさにひざを屈める。

瞬間。

熱線が走り、リンゴォの頭上を通り抜けていく。

「......!」

リンゴォの腕が震え始める。
それは、いつもの戦う前に起こるものとはまったく別種の恐怖。

「あの人はずいぶん怯えてるみたいだね、南さん。うふふ、大丈夫よぉ、すぐに終わるから〜」

如何な生物でも抱く、計り知れない脅威への本能的な警鐘。

(初めてだ...こんな生物と戦うのは)

今まで、普通のガンマンのみならず、スタンド使いともかなりの戦いを経験してきた。
だが、相手はいずれも人間であり、この会場で出会った二人の赤首輪、ゆうさくとスノーホワイトも人間により近かった。
この銅像は彼ら、ひいてはスズメバチのような虫ともまったく違う。

自分の知る生命体の何れにも当てはまらない、根源的な脅威を、リンゴォは銅像から感じ取っていた。


864 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:19:25 RxVgKodc0

(...構わない。相手が人間でなくとも、困難な壁があるのなら、それを試練と受け入れ乗り越えることこそが男の世界)

リンゴォの震えはまだ収まらない。
相手は未知数の相手だ。しかし、だからといって己に課したルールを捻じ曲げ尻尾を巻いて逃げるような真似は、それは口先だけのうそつきの行為だ。
ならば、いつも通り、公正なる果し合いとして望むまで。

「...自己紹介をさせていただく。俺の名はリンゴォ」

ダンッ

聞き終える前に、銅像が地を蹴り駆け出す。

(果し合いなどするつもりもない、か)

リンゴォは、銃を手にする。
相手は速い。しかし、それに物怖じせず、射程距離に入るまで銃は構えない。

5・4・3・2・1...侵入。

拳銃は抜かれ、弾丸が発射される。
その間、わずか1秒にも満たないほどの早業だ。
銅像は、弾丸が眼前に迫るその直前で跳躍して回避。

そのまま足を突き出し、リンゴォのもとへと落下するが、それを迎え撃つかのように第二射を放つ。
弾丸は、突き出された足の裏へと着弾。しかし、銅像は苦悶の表情を浮かべることもなく、勢いはいっさい殺さず、リンゴォの足元の地面を砕き砂塵を巻き上げた。

視界を覆う砂塵を掻き分け、銅像の手が伸びる。

リンゴォは為すすべなく首根っこをつかまれ、地面に叩きつけられた。

「ゴフッ」

舞い上がる鮮血。
内臓を痛め、口から吹き上がった血が、雨のようにリンゴォ自身へと降りかかる。

「脆いわねえ。ああ脆い。仕方ないよ南さん。あのスーツさえなければ人間なんてこんなものさ」

ニマニマと笑みを浮かべる銅像に嫌悪を抱きつつ、リンゴォは銃を握り締め弾丸を放つ。
狙うは頭部。それも、重傷は確実の額ど真ん中だ。
弾丸は確かに額に着弾。しかし、銅像は意にも介さず笑みを絶やさない。

「ざ〜んねん、私達にこんなものは効かないのでしたぁ」

リンゴォの首にかけられる力が増し、器官が悲鳴を上げる。
終わりだ。自分は、一方通行やスズメバチとの闘いになんの決着も着けられぬまま息絶えるのだ。
リンゴォ・ロードアゲインはひとり静かにそう悟った。

「これから一緒になるんだから教えてあげる。この身体の名前は千手観音。以後、よろしくね」


865 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:20:59 RxVgKodc0

「リンゴォさん!」

響く、己の名を呼ぶ声に、視線をそちらに向ける。
あの静謐な男らしいフェイス。なにより、スズメバチとまったく同じ顔の男。
間違いない。ゆうさくである。

「おい、てめえ何してんだよ、こんなことしてタナトス...タダで済むと思ってんのかよ!」
「またまたいい男じゃない。あなたともお友達になりたいわぁ」
「いいから離せよ!」
「去れ...この果し合いにお前は...」
「待っててね、この人を食べたら次はあなただから」

千手観音の灯篭が掲げられ、光を伴い始める。
それを見たゆうさくは駆け出し、千手観音を止めようとする。

「よせ...!」

リンゴォの掠れた声はゆうさくには届かない。
このまま突っ込めば、ゆうさくは間違いなく熱線の餌食となる。
それを知らないゆうさくは、躊躇いなく突き進み、千手観音へと肉薄する。

そして、無情にも熱線は放たれ、ゆうさくの胸板を貫いた。



「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ↑↑↑」

喘ぎと共に微振動し青ざめていくゆうさく。

「アーイクッ...」

ち〜ん

どこからか響く鈴の音と共に、ゆうさくの身体が45度傾いた。

『無謀な特攻には気をつけよう!』

そして軽快な音楽と共に空は漆黒に覆われ、燦然と輝く上記の文字のもと、三人に分裂したゆうさくは真顔でシャツ越しに乳首を弄っていた。


866 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:21:51 RxVgKodc0

「???」

さしもの千手観音も、眼前の光景に疑問符を浮かべ動きが硬直する。


「「「てめえふざけんなよ、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ」」」

分裂したゆうさくたちが同じセリフと共に再び駆け出す。

灯篭を掲げ、発射される熱線は三人のゆうさくの胸板を貫いた。



「「「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ↑↑↑」」」

喘ぎと共に微振動し青ざめていく三人のゆうさく。

「アーイクッ...」

ち〜ん

どこからか響く鈴の音と共に、三人のゆうさくの身体が45度傾いた。

『射程外からの遠距離攻撃には気をつけよう!』

そして軽快な音楽と共に空は再び漆黒に覆われ、燦然と輝く上記の文字のもと、三人ずつ、計九人に分裂したゆうさくは真顔でシャツ越しに乳首を弄っていた。


「えぇ...」

流石に困惑の色を隠せない千手観音に構わず三度走りだす9人のゆうさく。
ならば今度は、と接近してきたゆうさくの腹部を蹴り上げ吹き飛ばす。
千手観音の力で蹴り上げれば、並大抵の人間ならばそれだけで死に至る。

「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ↑↑↑」

吹き飛ばされた先で悶絶するゆうさくを他所に、残る8人のゆうさくが千手観音を囲みささやきかける。

「ちょっと座れよ」
「お前、いい太股してんじゃーん」
「乳首感じるんでしたよね?」
「どうだぁ、逃げまくって汗まみれになった腋のニオイは」
「俺の乳首...舐めてくれよ...」
「俺のチンコ舐めてくれよ...」
「もう我慢できねえ...お前のチンポ、ぶち込んでくれよ」
「お前のデカマラ突っ込んでくれよ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

千手観音の取り込んだ一人、南京子の女性部分がゆうさくの囁きに嫌悪から拳を振りぬき8人のゆうさくを纏めて吹き飛ばす。

「「「「「「「「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ↑↑↑」」」」」」」」


喘ぎと共に微振動し青ざめていく八人のゆうさく。

「「「「「「「「アーイクッ...」」」」」」」」

ち〜ん

どこからか響く鈴の音と共に、八人のゆうさくの身体が45度傾いた。

『唐突な性交渉には気をつけよう!』

そして軽快な音楽と共に空は再び漆黒に覆われ、燦然と輝く上記の文字のもと、更に三人ずつ、計二十七人に分裂したゆうさくは真顔でシャツ越しに乳首を弄っていた。

「なんなのよあんたはあああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」

千手観音の額に筋が走り、迫り来るゆうさくたちをひたすらに狩り続ける。

その度に注意喚起と共に増殖していくゆうさくを、怒りのままにただただ狩り続ける千手観音の図がそこにあった。


867 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:22:30 RxVgKodc0

千手観音から解放されたリンゴォは、虚空へと喚き散らしている千手観音を呆然と見つめていた。

「なにをした?」
「俺の力で幻覚を見せてるだけだ。下手に触れると目が覚めるから気をつけてくれ」

理屈はわからないが、いま千手観音に起きている異常はゆうさくが引き起こしたもので間違いないようだとリンゴォは確信する。
ならば。

カチリ。

「―――ッ!!」

額に突きつけられる銃口に、ゆうさくののどがヒッと鳴る。

「なぜ邪魔をした」

ゆうさくの身体が震え始めるも、その双眸だけはしっかりとリンゴォを見据えている。
ゆうさくとてわかっていたのだ。リンゴォは決闘に重きを置く男。
ゆうさくからしてみれば、あの千手観音との闘いは決闘とはいえないほとんど私刑(リンチ)染みたものでしかなかったが、それでもリンゴォにとっては果し合いには変わらない。
そんな男の戦いを邪魔すれば、こうなることはなんとなく察していたのだ。

それでもなおリンゴォを救ったのは、彼に頼みがあるからだ。

いまこの場では、リンゴォくらいにしか出来ない頼み事が。

「スノーホワイトを助けてほしい」
「なに?」
「あの子はあのスズメバチと戦っている。だが、一人ではとてもじゃないが厳しいものがある。頼む、あの子を助けてくれないか」
「......」

リンゴォは、数秒の沈黙の後、そっと銃をおろした。


868 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:23:02 RxVgKodc0

「やつが選んだ道ならば...俺には関係のないことだ」

くるりと背を向けつつ言い放ったリンゴォ。
その言葉に、ゆうさくの感傷はマグマのように噴き上がった。

「てめえ調子に乗ってんじゃねーぞ!」

力づくで振り向かせ、地面へと己の身体諸共押し倒すゆうさく。

「ごふっ」
「意地張ってるだけじゃどうしようもないんだよ!ちゃんと誠意見せてくれよ!」

ゆうさくはリンゴォの胸倉をつかみ上げ、唾と共に怒声を浴びせる。

「何で恩人の手助けひとつできないんだよ?男の世界だとか決着だとか、なんでも綺麗な言葉で済むと思ってんだろ?」

「...離せ」

「おたく、あの子に礼を言ったんだろ?ならあの子が困ってたら助けるのが誠意ってモンだろ」
「恩のひとつも返せないヤツが男だなんだと偉ぶるんじゃねえよ!親の顔が見てみてえわ、ったくよぉ」

「離せと言っている」

ガッ。

リンゴォの掌がゆうさくの口元を覆い、呼吸を塞ぐ。

「もふっ!?」
「結果を逸るな」

驚き硬直したゆうさくを退け、リンゴォはパンパンと服を掃いつつ立ち上がる。

「後でお前にはあの銅像との闘いを穢した罰は受けてもらう。だが、それはやるべきことをやってからだ」
「!...ハイ、喜んで」


869 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:23:28 RxVgKodc0




ビビビビビビビビビビビビビビビビビビ

蜂と魔法少女がにらみ合う。

ゆうさくが去ってから既に5分は経過している。

彼らは互いに一度たりとも動いていない。

この少女を殺さなければ進めない。

この蜂からゆうさくさんを守らなくちゃいけない。

互いにやるべきことはわかっている。だが、彼らの現状はそれを容易くは許してくれない。

スズメバチは一方通行の攻撃の余波やホルホースの攻撃で傷つき体力の消耗も激しい。
この広い会場、この身体で、果たしてゆうさくに再び遭遇できるのか。
よしんぼできたとしてもすぐに逃げられてしまえばどうしようもない。
故に、最小限最大の効率でこの少女を殺し、少しでも体力を温存しなければならない。


スノーホワイトは武器を持たない魔法少女だ。
もしもこの場にいるのがラ・ピュセルであれば、その伸縮自在の剣でやりようはいくらでもあっただろう。
だが、徒手空拳ではスズメバチの針を防ぐのは困難であり、一撃必殺であるが故に一度でも受けるわけにはいかない。
支給品である発煙弾も、スズメバチを見失う可能性がある以上、下手に使えば逆効果だ。

そんな二人の現状が、この硬直状態を作り上げていた。


870 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:24:09 RxVgKodc0

(まだ...動けない...)

にらみ合いの緊張感で、スノーホワイトの背に冷や汗が伝う。

(ゆうさくさんはどこまで逃げられたかな)

ここは曲りなりにも殺し合いの場だ。
スズメバチ以外にも危険な存在はいるのかもしれない。
できれば他の優しい人、それこそそうちゃんのような人と合流してくれればいいのだが。

(とにかく、いまはわたしのできることをやらなくちゃ)

いま、スノーホワイトが出来ること。それは、このスズメバチを倒すことである。
倒す―――それ即ち、スズメバチを気絶させ拘束すること。
スノーホワイトは機を伺う。確実に、スズメバチを無力化させることのできるその瞬間を。

【死にたくない】

「え?」

声が届いた。
ゆうさくに酷似した、スズメバチの『困った声』が。


871 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:24:39 RxVgKodc0

【早くゆうさくを刺さなくちゃ...注意喚起してこんなところから抜け出さなくちゃ...!】

それは心からの叫びだった。
ゆうさくを刺すためだけに生きているような奇天烈な存在とは思えない、素裸な悲鳴だった。

「...死にたく、ないの?」

そんな救いを求める声を、魔法少女・スノーホワイトが見過ごせるはずもなかった。

ビビビビビビビビ

【死にたくない...怖い...】

(この蜂も私と同じだ...この殺し合いを怖がってる...)

スズメバチとて巻き込まれた参加者の一人だ。
死を恐れ、生を望む、自分となにも変わらない被害者だ。
だったら...

ゴクリ、と唾を飲み込み、彼女は意を決した。

「一緒に、脱出しませんか」

ピタリ、と羽音が鳴りやんだ。


872 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:25:09 RxVgKodc0

「死にたくないのは当たり前です。あなただけじゃない。私だって、死ぬのは怖い」
「でも、だからって、ゆうさくさんを殺すなんてだめです!ゆうさくさんだって、巻き込まれた被害者なんですよ!」

人が殺される。
それは対象が自分でなくても、近しい人ならば絶望に打ちひしがれ悲しみに暮れる他なくなるほど悲しいことなのは身に染みてわかっている。
岸辺颯太が死んだと聞かされたとき、自分もそうだったのだから。

「ゆうさくさんにだって悲しむ家族がいるんです。...私達はまだなにもやってない。なのに、こんな全部を諦めるようなことはやめましょうよ。みんなで力を合わせれば、きっと...」

スズメバチとは本来、人間に駆除の対象とされる生物である。
いまのスノーホワイトは、そんな生物と共に手を携え生き残ろうと訴えかけている。
なんとも珍妙な光景だろう。
だがそれでも、颯太やシスターナナ達のような憧れの魔法少女で在り続けたい。

その想いは、スズメバチ相手でも揺らぐことはなかった。

「......」

沈黙が訪れる。
草木をざわめかせる風が、スノーホワイトの身体を冷やしていく。

――――ビンビンビン

羽音が再び鳴り始める。
しかし、そのスピードは、ゆうさくを刺そうとした速さには程遠く。
まるで友好的に歩み寄っているようにすら思えるほどゆっくりだった。

ゆうさくを刺すという執念じみた声も、死に怯える声も、もうスノーホワイトには聞こえなかった。


873 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:26:43 RxVgKodc0

(わかってくれた...!)

スノーホワイトの瞳から涙が滲み出す。
例え、どんなに不条理なルールでも。例え、どんなに理不尽な世界でも。
人を想う心があれば、必ず解りあうことができる。
現実は、そんなに甘くないことはわかっている。
けれど、いまこのときだけでも、その甘く優しい夢を叶えられる。
そう実感すれば、涙を抑えることはできなかった。

「一緒に、生き残りましょう」

チクッ

差し出した手は、繋がれなかった。

「え...」

乳首に刺された針が抜かれると、スノーホワイトの身体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。

「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ」
(なんで...)

思わず漏れ出る喘ぎ声に振り向きもせず、スズメバチは羽音と共に飛び去っていく。
スズメバチの心の声が聞こえなくなったのは、恐怖や困惑が消え、スノーホワイトに賛同したからではない。

獲物が無防備な姿を晒したために、殺すと決めただけのことである。

なにもできない。
ただただ凍りつくような寒気だけが、彼女の全てを支配する。

「あ...逝...」

涙と共に流れる嗚咽が、彼女の意識を消していく。

最期に届いたのは、誰かの声。

「それが『死』だ。その恐怖を他者に与えることを受け入れられなければ、お前は―――」

どこかで聞いた、男の声。


【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画 死亡】カチリ


874 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:28:15 RxVgKodc0

(わかってくれた...!)

スノーホワイトの瞳から涙が滲み出す。
例え、どんなに不条理なルールでも。例え、どんなに理不尽な世界でも。
人を想う心があれば、必ず解りあうことができる。
現実は、そんなに甘くないことはわかっている。
けれど、いまこのときだけでも、その甘く優しい夢を叶えられ―――。

「えっ―――」

走馬灯のように、乳首を刺された像が脳裏に浮かび上がる。
ゆっくりと近づいてくるスズメバチが、ただの奇天烈な存在ではなく、死を運ぶ死神にすら見えてきてしまう。

「ひっ!」

全身が震え上がり、伸ばした手を思わず引っ込める。
怖い。
痛みが。蘇る寒気が。あの孤独感が。受け入れ難い嫌悪感が。

「ゃ...こないで...!」

瞳から涙があふれ出す。
安堵からくる暖かいものではなく、恐怖で凍てつくような涙が。

尻もちすらつくスノーホワイトにお構いなしに、スズメバチは前進を続ける。

身体の自由すら奪うほどの恐怖に、スノーホワイトは涙と共に瞼を閉じた。

ドゥオン

銃声が響く。

弾丸は、スノーホワイトの頭上を、スズメバチの頬を横切り虚空へと消えた。

「これで借りは返した。まだ言いたいことはあるか?」
「いいえ、バッチリ」

スノーホワイトは、瞼を開け、振り返る。

リンゴォ・ロードアゲインとゆうさく。

スノーホワイトの目には、二人の男の姿が、弱者を守る騎士のようにすら見えた。


875 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:29:47 RxVgKodc0

「立てるか、スノーホワイト」
「ゆうさく、さん、リンゴォ、さん...」
「悪い。助けを呼びにいったけど近くにはリンゴォさんしかいなくて...」
「...やはり、お前たちは戦場(ここ)にいるべきではない。受身の対応者は下がっていろ」

スノーホワイトを気遣うゆうさくを下がらせ、リンゴォはスズメバチと対峙する。

ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン

スズメバチは、獲物を屠るのを邪魔されたことに苛立ったのか、空をジグザグと飛び回りリンゴォを威嚇する。

「...本来ならば、『果し合い』の横槍は俺の望むところではない」

リンゴォは静かに蜂へと語りかける。

「だが、先ほどのは闘いとすら言えなかった。スノーホワイトは自ら戦意を放棄した。お前はそれを受け入れず彼女を刺した。こんなものを闘いとはいえないだろう」
「もちろん、決闘ではないとはいえ、お前がやつを殺すこと自体に文句は言えまい。逆も然り。決闘でなければ、俺がいつあいつへの借りを返そうが問題はない...違うか?」

知ったことか。
スズメバチが殺意を伴った速さで接近する。

ドゥオン

放たれた弾丸はスズメバチの脇を過ぎ虚空に消える。
見えなかった。引き金を引いた瞬間すらまったく感知できなかった。
その抜き打ちの早さに、スズメバチは警戒心を引き上げ、一旦距離を空ける。

「今のも威嚇だ。ここでお前を撃ち殺せば『公平』ではなくなるからな」
「リ、リンゴォさん」
「スノーホワイト」

振り返ることなくかけられる声に、スノーホワイトは思わずビクリと震え上がる。


876 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:31:20 RxVgKodc0

「俺はお前を否定する訳ではない。お前がそのやり方でこの先何人の人間を救おうが、それを咎めることなどしない。だが」
「俺は『公正』なる果し合いを完遂し、人として未熟なこの俺を聖なる領域へと高める。その儀式を譲るつもりは毛頭ない」
「どうしても納得できなればせめて知ってくれ。世の中には、決して交わらない道があるということを」

そう言うリンゴォの手は震えている。
やはり、まだ拭いきれていない。
果し合い前の恐怖や緊張も、スズメバチへの恐れも。

フゥ、と息を吐き呼吸を整える。

「...自己紹介をさせていただく」

そして臨む。
自らを高める為の公正なる果し合いへと。

「オレの名はリンゴォ・ロード・アゲイン。配られた支給品はこの一八七三年型コルトのみで、使用する武器はこれだけだ」
「オレのスタンドの能力の名は『マンダム』。ほんの6秒。それ以上長くもなく短くもなく。キッカリ『6秒』だけ時を戻すことができる」
「だが...お前は一方通行のように能力者ではない。故に、この能力は使わない」

一方通行への果し合いに臨んだとき。
リンゴォは己が圧倒的に不利であるにも関わらず、能力を行使した。
それは、一方通行もまた公正なる果し合いを望み、リンゴォだけが能力を使わぬまま負ければ、それは彼への『公正』さを欠く為である。
だから、この果し合いでは能力は使わない。正真正銘、銃だけで果し合いへと赴く。

時刻は早朝をまわり、太陽が昇り始める。

「よろしくお願い申し上げます」

男の目にはもう、一点の曇りもない。
光り輝く道は、すぐそこにあるとわかっているのだから。


877 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:31:49 RxVgKodc0

【F-3/一日目/早朝】

【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、怒り、全身傷だらけ。死への恐怖。
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:注意喚起のためにゆうさくを刺す。邪魔者も刺す。

0:ゆうさくを刺す。邪魔するならこのダンディなひげ男も刺す。
1.白い少女(スノーホワイト)に激怒。
2.ビンビンビンビンビンビン……チクッ


【リンゴォ・ロード・アゲイン@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、脇腹に銃創、精神的疲労(大)、両腕にスズメバチの毒液による炎症(大)、ずぶ濡れ
[装備]:一八七三年型コルト@ジョジョの奇妙な冒険 スティールボールラン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:公正なる果し合いをする。
0:ハチと決着をつける
1:一方通行との果し合いに決着をつける
2:受け身の対応者に用はない
3:千手観音との果し合いに決着をつける。




【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】疲労(絶大)
【道具】基本支給品、ランダム支給品1
【行動方針】
基本:希望感じるんでしたよね?
0:スズメバチには気を付けよう!
1:スノーホワイトを保護する。
2:スズメバチ対策をする。
3:スノーホワイトに協力する。

※注意喚起という形で幻術を使うことができます。
効果は以下のとおりです。
・対象(最大でも2人まで)に注意喚起(ゆうさくが三人に増えて乳首を弄る礼のアレ)の幻惑を見せることができる。ただしゆうさくの体力は大幅に減る。
・一度魅入られると倒す度にゆうさくは増えていく。
・注意喚起を見せられている者はその間に攻撃されても幻惑のゆうさくがダメージを肩代わりしてくれる(その場合はゆうさくの幻惑が消滅する)。幻惑が肩代わりってこれもうわかんねえな
・最大継続時間は10分にも満たない。
・スズメバチにはこの幻惑が効かず、使ったが最後、ゆうさく本体が刺されてしまう。



【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】死への恐怖(絶大)
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない…
0:死ぬの...怖い...
1:同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2:そうちゃん…
※参戦時期はアニメ版第8話の後から
※一方通行の声を聴きました。
※死への恐怖を刻まれました。


878 : 交わることなき道しるべ ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:33:06 RxVgKodc0


『展開からの置いてきぼりには気をつけよう!』

「やかましわああああああああ!!」


【E-4/一日目/早朝】

【千手観音(宮藤清)@GANTZ】
[状態]:健康、人間に対する激しい殺意、殺すと三人に増えて己の乳首をまさぐり注意喚起してくるゆうさくの幻影に取り付かれている
[装備]:(燈籠レーザー)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1〜3 、銃剣@とある魔術の禁書目録(南京子の支給品)
[思考・行動]
基本方針:黒服を含めた全参加者を皆殺しにする。元の世界(ミスミソウの方)に戻ったら全員殺す。
0:なんだこのおっさん!?
1:同胞を殺した黒服(ガンツメンバー)は優先的に殺害。
2:友達を増やす(参加者を殺して脳を食べる)。


※参戦時期は宮藤吸収後で加藤勝の腕を切断する直前です
※南京子の知識と記憶を手に入れました。
※南京子と宮藤清の記憶が同居しています。


879 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/05/31(木) 00:34:11 RxVgKodc0
投下終了です
そろそろ放送に入ろうと思いますので、1週間予約が入らなければ放送を予約します


880 : 名無しさん :2018/05/31(木) 00:52:14 1FTcVIg60
投下乙です

やっぱりゆうさくは人間の鑑じゃないか!どこぞの汚物や池沼も見習って、どうぞ
スノーホワイトの乳首を刺したクソノンケスズメバチ君ほんとひで


881 : <削除> :<削除>
<削除>


882 : ◆EPxXVXQTnA :2018/06/07(木) 10:43:46 RVNxYwSk0
暁美ほむら 予約します


883 : ◆EPxXVXQTnA :2018/06/07(木) 11:21:40 RVNxYwSk0
投下します


884 : 第三の選択肢 ◆EPxXVXQTnA :2018/06/07(木) 11:26:05 RVNxYwSk0
暁美ほむらは憎悪する。
 自分の顔に醜い烙印を刻み、弄んだ雅に、首輪などで殺しを強制する主催者に、
 そして何より、大切な人を、最愛と言っていい彼女をこんな理不尽から救い出せない、力及ばない自分自身に対しての怒りが、当面の危機を脱したほむらを駆り立てる。
 もはやちょっとした戦場と言っていい有り様の下北沢を背に、ほむらは一先ず休息をとる。本音を言えば、直ぐ様にでもまどかを探しにいきたいのだが、いかに魔法少女と言えども下北沢での激戦で受けた精神的・肉体的な苦痛はそう無視できるものでもない。
 
「……ッ!」

 途端に痛みだす傷に悲鳴が溢れる。

(状況は振り出しに戻ったわね。……これからどう立ち回るにせよ、武器も、人手も、策も、何もかもが足りない)

 雅とついでにひでへの殺意を膨らませながら、以下にあの怪物たちを打倒できるのかを推測する。
 
(本当に悔しいけど… この血は、今の私にとっての切り札"ジョーカー"。扱いには気を付けないと)

 盛り会う吸血鬼のホモたちを思い出してしまい、ただでさえ悪い気分がより悪くなったが、雅の血液が如何なる結果をもたらすのかは、下北沢で十分に証明された。
 これをうまく扱えば、場合によっては赤首輪でさえも殺せるかもしれない。
 もっとも、まどかに危険が及ばない形で使うことが大前提である以上、いささか危険すぎる代物だが。

 結論として、まず求めるべきは人だ。
 集団を形成する利点は、(囮にしたとはいえ)ガッツたちとの共闘で実感した。
 雅を倒すために、まずは戦力が欲しい。
 まず知り合いで望みがあるのは美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子たちだ。
 比較的善人であるさやかとマミならば事情を説明すれば手を貸してくれる可能性が高く、杏子も理があれば望みはある。
 次に可能性があるのは宮本明と、先程の丸太の男(ガッツ)。
 丸太の男については先程の戦いでのツテで共闘を申し込むのは可能だろうが、雅と対等に殴りあっていた不死身の怪物(ぬらりひょん)も、もしかしたらまだそこらを彷徨いているのかもしれないのだ。今から下北沢に戻るのは自殺行為に等しい。
 暁美ほむらは過酷な運命に抗う過程で、幾度もの修羅場を越えてきた歴戦の戦士でもある。いまだ傷は深いが、まどかへの思いを糧に立ち直りつつあった。
 しかし、ここはバトルロワイアルの舞台。
 傷を癒しつつ、冷静に思考を巡らせている時にも、変化は訪れるものだ。

「フフっ、ほむらぁ!」

 聞き覚えのない声。
 硬直と共に顔をあげると、ーー目があった
 魔女のような帽子にスカート、感情の読み取れない糸目。
 そして、右手にきらりと光る包丁。
 見知らぬ少女が、ほむらを見下ろしていた。

(まさか、ここまで接近されて気がつかないなんて……っ!)

 謎の少女の気配遮断に驚愕しつつ、ほむらは咄嗟に銃口を向ける。
 銃を突きつけられてもなお、眼前の少女は狼狽えずに平静だった。
 それが堪らなく不気味な感情を抱かせたが、それを飲み込み、問いかける。

「貴女…… 何者?なぜ私の名前を知っているの?」

「こんにちは、ジョーカー役のSZと申します。」

 ジョーカー。
 通常はトランプの道化のイラストや、どこぞの犯罪界の道化王子を連想するが、
 ここでの意味合いは"主催者と通じている者"であることを示す。

 ほむらがその言葉を解する前に、相手は行動を起こした。 
 一瞬の隙に、凄まじい敏捷さで距離をつめた女は、携えた包丁をほむらの首筋に……ではなく、ほむらのソウルジャムに擦り合わせた。
 
 ほむらの背筋が凍りついた。
 この女は、魔法少女の弱点を知っているっーー!!
 ソウルジャムは魔法少女の魂の器そのものであり、生命線である。
 魔法少女にとって生身の肉体がラジコンであるならば、ソウルジャムはそのリモコン。
 壊されれば、死ぬ。


885 : 第三の選択肢 ◆EPxXVXQTnA :2018/06/07(木) 11:27:06 RVNxYwSk0
「なんてね、ふふ」

 大成功!と言いたげな言葉と同時に、刃が離れる。
 訝しむほむらに構わず、悪戯が成功した子供のごとく少女は無邪気に笑っていた。

「今ここで貴女と殺りあってもいいけど、私は所詮NPC。殺りすぎちゃうと首を飛ばされかねないからね」

 おどけた仕草で首もとの首輪(赤ではない)を指し示し、SZと名乗った少女は会釈する。

「改めまして……SZと申します。
 この度のバトル・ロワイアルではジョーカーとして、このゲームを円滑に進めるためのお仕事をしております」

 主催の手先!告げられた言葉にほむらの警戒心が一気に高まる。
 それを察したのか、SZは困ったような顔で言葉を続けた。

「……まぁまぁ、そう警戒しないでよ。私はただの伝言役みたいなものだから。
 頑張ってる君に、主催者からのプレゼントだって。受け取って」

 語りながらSZが懐から取り出したのは、手のひらサイズの黒玉であった。
 彼女は妙な威圧感を醸し出すそのアイテムを、困惑するほむらに構わず押し付ける。

「これは……何?」
「さぁ?詳しくは知らされていないので……端末とかじゃないですかね?」

 随分といい加減な説明に空気を読んだのか、タイミングよく、ブゥン、という機械音の後に、黒玉の表面に文字が浮かび上がる。端末という言葉は当たっていたらしい。
 その文字をほむらは無意識のうちに読み上げる。

「……緊急ミッション?」

 

『こいつらのどれかをたおちてくだちい

 あきらさん
 こんがりふぇいす
 じょうたろうさん
 ジュッセンパイヤー 

 黒玉には四人の男女の似顔絵と、渾名らしき名が表示されていた。そして、ほむらの視線はその下の文面に釘付けになった。

 

 クリアとくてん
 記憶を消して、鹿目まどかと元の世界へ帰還する』


 見逃せるわけが無い。元の世界への帰還という、赤首輪討伐にのみ許される筈の報酬が別の形で提示されているのだ。
 しかしほむらに訪れたのは、歓喜ではなく、困惑であった。
 なぜこのタイミングで主催が介入してきたのか、という最もな疑問が素直な心境だ。

「これはどういうことかしら?」
「さぁ? 私はただそれを渡してくれ、としか言われて無いので」
 
 それじゃあ、私はこれで。と無責任に一言告げると、SZはほむらに背を向けると瞬時に姿を眩ました。
 その逃げ足の早さ! 歴戦の魔法少女でさえも追えない敏捷さであった。


「……なんなのよ、一体」

 ひとり残されたほむらは、意味深な目で黒玉を見つめる。
 この降って沸いたような選択に彼女がどういう選択をするのかは、まだ分からない。


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、右頬に痣、右肩に銃創、失禁、ノーパン、貧血(大、ただし魔力である程度再生中)、身体に痺れ(多少の行動には問題ない程度には取れている)、額から左頬にかけての傷。緊急ミッションへの困惑と疑念
[装備]:ソウルジェム、ひでのディバック、雅の血液の入ったボトル、スタングレネード@現実(ひでの支給品)、黒玉@GANTZ
[道具]:サブマシンガン
[思考・行動]
基本方針:まどかを生還させる。その為なら殺人も厭わない
0:この場を離れ、早急にまどかを探し出す
1:いまは無理だが、雅は必ず排除する
2:雅を倒す戦力が欲しい。候補は美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子、宮本明、丸太の男(ガッツ)。
4:緊急ミッション……?

【黒玉について】
実写版GANTZに登場するアイテム。
手のひらサイズの端末であり、今回は主催から配信される緊急ミッションが表示されている。
これ1つだけなのか他に何かしら配られているのかは不明。

【緊急ミッション】
内容は参加者である宮本明、バラライカ、空条承太郎、野獣先輩のうち一人の殺害。
報酬は鹿目まどかとの生還らしいが、主催がそれを守るのかは未知数。
どういった意図で行われているのかも現時点では不明である。


【SZ姉貴(NPC件ジョーカー)@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
 下北沢周辺に配置されているNPCの一人で、風評被害により淫夢入りした某ヴォイスドラマ企画のキャラクターである。
ホモからはサイコパス扱いされており、それによりBB劇場では殺人鬼役になることが多く、死ゾ姉貴と呼ばれることも。
チェーンソーや包丁でよく他キャラクターを拷問・殺害するが、雑魚専として描写される事も多くそこまで強くはない。
今回は主催の手先(ジョーカー)としてゲームの運営の指示で動いている。
他にジョーカーとして動いているNPCが居るのかもしれない(居るとは言ってない)


886 : ◆EPxXVXQTnA :2018/06/07(木) 11:27:58 RVNxYwSk0
投下終了です


887 : 名無しさん :2018/06/07(木) 15:53:11 RLNZBpbU0
投下乙です
今のほむらならホイホイ♂緊急ミッションに乗りそう(小並)
この面子だと野獣先輩が色んな意味で一番ヤバいですね…


888 : 名無しさん :2018/06/09(土) 01:04:05 MCwcYRAI0
投下乙です。
当然の権利のように主催が介入してくるのはこのロワらしいですが、それをNPCにやらせることで参加者間ではフラットにするというのは思いつきませんでした。
ほむらもダメージと引き換えに手札も揃ってきてここからどういう展開になるかわかりません。
ところで別に対主催らしいことは何一つしていない上に元から狙われやすい赤首輪であるにも関わらずミッションの対象にされる野獣先輩はいったい前世で何をやらかしたんでしょうか。
ホモビに出ただけで色んなところでデスゲームに巻き込まれるなんてなかなかできることじゃないよ。


889 : 名無しさん :2018/06/09(土) 02:06:44 56YXF51I0
さすやじゅは草
お兄様は学校では評価されないが仲間からは持ち上げられる=野獣先輩もホモの兄貴たちからは評価されないが、淫夢厨からは人気者扱い
野獣先輩はお兄様だった…?


890 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:45:07 QP4qjn2s0
投下乙です

ミッションの面子だと
明さん→まどかの友達+ギロチンで台風を作れる男
承太郎→時間停止能力者+無敵のスタープラチナ
バラライカ→筋金入りの軍人マフィア+大量の忍者もち
野獣先輩→数多の可能性を秘めた男

と返り討ち必須な面子でベリーハードってレベルじゃありませんね。
記憶を消すのも対象がまどかかほむらかが書かれていませんし、前者ならまだしも後者ならほむらのソウルジェムが濁ることまったなし。
目の前の奇跡を吊り下げ本質を隠す、どこぞの契約者を思い出すミッションです。


放送話を投下します


891 : 第一回放送 ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:45:48 QP4qjn2s0

黒い球の置かれたとある一室。

気がついた時には、俺達はそこにいた。

誰が、どうやって。

その答えを知る間もなく、ヤツは言った。

「今日はきみたちにお願いがあって集まってもらったぽん」

白と黒の混じったヌイグルミみたいなヤツは、フワフワと浮かびながらそう言った。


892 : 第一回放送 ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:46:26 QP4qjn2s0




「冷えた身体が温まるぜ」

ズズッ。
配られた豚汁を啜り、俺は空腹を満たしていた。

美味い。
数多の豚汁を啜り数多の数多の豚汁を評価してきた豚汁ソムリエ、という訳ではないが、これが非常に美味い。
猛吹雪の中、凍った池に突き落とされた身には、よりいっそうそのうまみが染み渡る。

空腹を満たし終えた俺は、フゥ、と一息をつく。
主催の立場である俺だが、この6時間ずっと参加者の様子を把握していた訳じゃない。
俺だって人間だ。どんなに楽しいことでも集中力がずっと続くわけじゃない。
学校の授業が1時間にも満たなずに休憩を挟むのがいい例だ。...学校の授業を楽しいと感じたことはロクにないけれども。
とにかく、何事を為すにも適度な休息が必要だということだ。
これからの人生を左右するイベントが待ち受けているとなればなおさらだ。

「さてと」

6時間といえば、そろそろ俺達の出番だ。
参加者の連中に報せ、反応を伺い、潰しあいが起きやすいように環境を整える。
それが俺達主催者の役割だ。

思わず、ほほが緩んでしまう。
あのクソ田舎で押さえつけられてきた退屈という檻は、俺たちを欲求不満に陥れる。
それを発散させるには刺激的なものでなければいけない。
退屈に飼いならされていれば、それだけ強力な刺激を。

だから、俺にとってこの立場は最高だった。

自分はそこそこ安全に、俺を撃ったあのクソ女を含む多くの人間の闘いや疑念、死という刺激を絶え間なく受信できるこの殺し合いの主催という立場は。

けれど。

(問題は、俺と同じ立場の奴らか)

ハッキリ言って、俺と同じく連れてこられた奴らはどいつもこいつも得体が知れなくて気味が悪い。
なにが目的なのか。なんで連れてこられたのか。なにが出来るヤツらなのか。なにもかもがわからない。
そんな奴らと同じ建物にいると思うと不安と胸騒ぎでせっかくの楽しみも薄らいでしまう。
特にあの白髪のヤツだ。
なにもかもを見据えたような立ち振る舞いは、何故か目をひきつけられるのが余計に不気味に感じてしまう。


893 : 第一回放送 ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:46:58 QP4qjn2s0

(けど、いまはあいつらともよろしくやらねえとな)

人付き合いが上手い方ではないことは自覚している。けれど、俺が生き残るためにはそうする他はない。
いまは少しでも懐に入れるよう立ち回り、情報を手に入れるしかない。

コンコン、とドアを叩く。

特に返事もないので、ドアノブを捻り部屋へと入った。


『ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン、チクッ』

『あ、あ、ア、あ、アあ、あ』

「ハ、ハハハハハハハ!!笑わせてくれるぜあの小僧!なんて死に方してんだ!はぁ〜腹痛ぇ」

笑っていた。
顔の半分に刺青を入れた目つきのヤバイおっさんは、男の顔がついたスズメバチに刺される白い男の映像を見て笑い転げていた。

「おっさん、そろそろ」
「あ?っと、もうこんな時間かよ。つっても、俺がやる意味もなくなっちまったしなぁ...おい、俺の代わりに放送やっとけ」
「...いいのかよ。送られてきた指示書じゃ、あんたの名前が書いてあっただろ」
「いーんだよ。あっちからすりゃ、適当に俺の名前を挙げただけで意味なんざねえ。放送をテメーがやろうが大した違いもねえだろ」
「...まあ、いいけど」

おっさんは満足気で邪悪な笑みを浮かべると、一時停止していたビデオの再生を再開した。

俺はドアを閉じて部屋を後にする。

予想外だが好都合だ。
俺の声を聞けば、あの女の状況は一変するはず。

俺達を殺しておきながら、ぬくぬくと遊んでやがるあの女に村八分の地獄を叩きつけてやるチャンスだ。

放送室。マイクやその他よくわからない機器があるこの部屋が、会場に放送を届ける場所だ。
俺は呼吸を整え、アナウンス用のボタンにスイッチを入れる。
マイクを手に取り、初めての放送を開始した。


894 : 第一回放送 ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:48:18 QP4qjn2s0



あー、ごきげんようおめーら。
誰だって顔をしてると思うが、この殺し合いの進行役を勤めてるヤツだってことを認識してくれればそれでいい。
まあ、中には俺を知ってる奴らもいるが、別に連れの奴らに教えてもらっても構いやしねえよ。そんなことで首輪の爆破なんてしねえから。

今回は、初めての放送ってことで情報量も多いから、メモなりなんなりしておきな。聞き逃しても繰り返し放送はしねえ。



じゃ、まずは参加者じゃねえ奴らについてだ。
オメーらの中に、名簿に載っていない奴らと遭遇したヤツもいるだろ?
そいつらの多くはNPC...条件付きだが、味方にすることも敵にまわすこともできる、まあ、人型の資源みたいなものだ。好きに扱ってくれ。
ただ、何人か参加者でも名簿に載ってないやつらもいる。ホル・ホース、ありくん、スズメバチ、千手観音、如月左衛門、隊長。
この六人はただの記載漏れで、普通の参加者と同じ扱いになるから気をつけろよ。
ああ、あとついでにだが、NPC、特に首輪がついてる奴らの中にはたまに道具を持ってるヤツも混じってるから、ブッ殺して道具を奪うのもありだ。


次に、地図と禁止エリアについてだ。
今まで、地図には地形だけが書かれてたが、今回の放送でもう少し詳細を加える。たとえば、D-1には村がある。みたいな具合にな。
情報の更新の仕方は簡単だ。デイバックに地図を入れて、触らずに5分放置。そうすりゃ、詳細が書かれた地図ができあがってるはずだ。

禁止エリアってのは、ここに踏み込むと首輪が反応して爆発するってエリアだ。
この殺し合い自体の制限時間だと思ってくれりゃいい。
エリアは地図のマス目に倣って仕切られていて、放送ごとに増えてく寸法だ。増える数はその時々で変わるから注意しろよ。

じゃあ、今回の禁止エリアを発表するぞ。

今回の禁止エリアはC-2、E-8、J-3だ。

もう一度言うぞ。C-2、E-8、J-3だ。覚えたな?
今回は三つだから、放送終了から2時間後にC-2、その2時間後にE-8、更に2時間後にJ-3に禁止エリアとなる。
忘れ物があるやつは早めに済ませておけよ。


895 : 第一回放送 ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:49:07 QP4qjn2s0

最後に脱落者だ。これから放送毎に死んだ奴らを読み上げてく。
もし知った名前があれば、これから身の振り方を考えるんだな。

今回の放送までに死んだのは

薬師寺天膳
志筑仁美
南京子
一方通行
ありくん
巴マミ
レヴィ
岡八郎
ぬらりひょん

以上の9人だ。

お前ら、いくら強制されてるからってこんな短時間で9人も殺すとか不謹慎すぎるだろ。まだルールもハッキリしてなかったってのにどんだけ欲求不満だよ。
まあでも正しいぜ。殺し合いを手っ取り早く終わらせるなら全部殺すのが一番手っ取り早い。

そんで、最初のセレモニーのときに言い忘れてたんだが、この殺し合いに優勝したときについてだ。
この殺し合いに優勝したヤツには、どんな願いも叶える権利が与えられる。
莫大な金、世界を支配する力、死んだやつの蘇生...叶えられない願いはないと約束してやる。
金ならまだしも死んだやつが生き返るとかありえねーって声もあるだろうが、ソイツは安心しな。
俺を殺したやつが参加者に紛れてるからそいつに聞けばいい。つまり、俺の存在自体がその証拠ってことだ。
ただ、赤首輪の参加者を殺して脱出した場合は、権利の放棄と見なされ願いを叶えることはできねえから注意しな。
あ、NPCにはその権利はねえから。

赤首輪を殺して安全に脱出するか、命をかけたギャンブルに挑むのか、それは自分で決めるんだな。 
...まあ、俺を殺したオメーなら答えはもう出てるんだろうが。オメーのせいで殺し合い巻き込まれた連中の為にも頑張らねえとな。


あぁっと、肝心なことを忘れてた。
赤首輪の報酬を手に入れる条件だけどな、報酬を受け取る権利が与えられるのは『一番近くにいた、赤首輪を殺したやつだと認識されたとき』だ。
なんの苦労もしてないやつが武器も持たずに楽して脱出、なんてつまらねーパターンは認められねえから。
もちろん、結果が気に入らなけりゃ認識が完了するまでにその裁定を覆すこともできる。どうやって覆すかは、まあオメーらで考えてくれ。それもお楽しみのひとつだからな。


今回はここまでだ。この放送は6時間ごとに行う。だから、次に新しい情報を聞けるのは6時間後ってことだ。聞き逃すんじゃねーぞ。じゃあな、オメーら。

精精、頑張るこった。


896 : 第一回放送 ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:49:58 QP4qjn2s0





プツン、という音と共に放送が終わり静寂が訪れる。

(放送は確か木原とかいう男の担当だったはずだが...まあ、些細なことだな)

私は、チラ、と左腕に嵌めた腕時計を見つめ、秒針を数える。

(私が放った遣いが目標と接触して10分...もしあの行為が違反を犯しているのなら、なんらかのアクションがあるはずだ)

私は、間接的にとはいえ参加者に接触...特定の参加者に肩入れをした。
これは、主催という立場であることを顧みれば、越権行為と見なされ、即時処断されてもなんらおかしくないだろう。
だが、未だになんの動きもなし。
あの程度であれば問題のない範囲なのか、それとも誰も私の行為に気がついていないのか。
あるいは、私に提案を持ちかけたあの女が動いているのか。

(あの女、何者だ?まるで私がどう動くかを知っていたかのように協力を持ちかけてきたが...)

わからないのは協力を持ちかけてきたことだけではない。あの女は、何故か接触する相手までも指定してきたのだ。
その上、指定した参加者の能力は、見事に私の望みを叶えるのに相応しかった。
なぜだ?なぜ、あの女はああもわたしの望みへの最適解を提示できる?

...なんにせよ。
これであの暁美ほむらという少女が空条承太郎を始末ないし疲弊させることが出来れば、それだけDIOの勝率は上がる。
聞けば、暁美ほむらの能力は時間の停止。
時間に干渉できる能力者が何人もいては彼も不愉快に思うだろう。空条承太郎と暁美ほむら。この二人が共倒れになるのが理想的な形だが、そこまで甘い幻想を抱くべきではないだろう。

DIOを倒し、幾多のジョースター家の末裔に影響を与えたあの男さえ消えてしまえば。
呼ばれた彼の手下がホル・ホースなどという金で雇われたチンピラではなくヴァニラ・アイスやペットショップ、ジョンガリAらなどであればもっと円滑に進んだだろうが、それでもだ。
彼は必ず道を切り開き勝利を手にする。

私にできるのは、その時の為に備えることだけだ。

(DIO、私は信じている。きみが全てを乗り越え、打ち砕き、天国へと至ることを)


897 : 第一回放送 ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:50:29 QP4qjn2s0





薬師寺天膳
志筑仁美
南京子
一方通行
ありくん
巴マミ
レヴィ
岡八郎
ぬらりひょん

脱落者の名前を反芻する。

「あの名が呼ばれた、か」

わしの口角が思わず吊り上る。
如何にして息絶えたかはわからぬが、これでいい。
これでわしも動きやすくなったというもの。

「はてさて。此度の争乱、あやつでも勝ち残るのは容易ではない。この地獄にて如何に立ち回るか、見物じゃなあ」

争忍の乱においては、あやつにも強力な護衛がいた。
じゃが、ここは見知らぬ実力者が溢るる蟲毒の壺。あの時のように易々とは残れまい。
本来ならば、びでおかめらとやらであやつの最期まで見届けたいが、わしにはわしで主催としての任務がある。
おいそれと参加者と接触もできぬため、口惜しいが、やつへの報復をこの手で達することは困難じゃ。

それでも構わぬ。この殺陣を完遂し、全てに決着をつければわしの願いは叶うのだから。


898 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/11(月) 18:51:29 QP4qjn2s0
放送話投下終了です


追加ルールまとめ
①地図が更新される。
②赤首輪の報酬を手に入れることができるのは『赤首輪が死んだ時に一番近くにいた参加者』である。
また、報酬の黒球が出現するまでは、参加者たちの手でその情報を『更新』することは可能である。

つまりどういうこと?こういうこと

赤首輪のゆうさくを、スズメバチが乳首を刺し、バラライカが遠距離から拳銃で殺したとき。

この時、報酬の権利はゆうさくの一番近くにいたスズメバチに渡る。

これに不満を持ったバラライカが、スズメバチがゆうさくの首を切り離し赤首輪の内側のスイッチに触れる前にスズメバチを殺す。

そうなると、ゆうさく撃墜の報酬の権利はバラライカに渡る。


といった具合である。


899 : 名無しさん :2018/06/11(月) 23:56:52 IaRqRgrk0
投下乙です

明らかになった主催者の面々。どいつもこいつもゲロ以下の臭いがプンプンしやがる外道じゃないか(憤怒)
間宮が生きてるということは春花の今後にどう影響するんだろう…


900 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:13:48 nrruZIWE0
投下します


901 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:14:25 nrruZIWE0
「フフ、ハハハハ...」
「...なにがおかしい、DIO」

くつくつと笑う帝王に、イタリアンギャングは問いかける。
俺たちはただ情報交換をしただけだ。それのなにが可笑しいのだと。

「いや、失礼...こう見えてそれなりに生きているが、ここまで多種多様なモノと触れることになるとは思っていなくてね。
吸血鬼、電撃使い、未来からやってきた殺人サイボーグ、500年以上前のサムライ、妖精。そして...私と同じスタンド使い」
「...確かに、まるで映画のような面子だな」
「だが、それでも私が一番興味があるのはきみだよブローノ・ブチャラティ」
「なに?」

DIOの金髪がざわざわと蠢く。

「ブローノ・ブチャラティ。きみは『引力』を信じるか?」
「引力...?」
「『スタンド使いは引かれ合う』...これだけ多種多様の『異常』が蔓延る中で、私たちスタンド使いが出会えたことにはなにか意味があるのではないだろうか」
「...なにが言いたいんだ」
「きみという人間と仲良くなれる、という確信があるんだ。まだ出会って1時間も経っていないのにな。それは、きみの方も同じじゃあないのか?」

図星だった。
ブチャラティにとって、このDIOは警戒するに値する男だ。
なのに、その一方で、この男ならば共に歩みたい、安心して接することが出来るという奇妙な感情がふつふつと湧き上がっていた。
まるで、既にこの男のことを知っていたかのように。幾多もの死線を乗り越えた仲間のように。
DIOがブチャラティに惹かれているように、ブチャラティもまた、DIOに惹かれつつあったのだ。

なにより、ブチャラティの脳裏に過ぎるのは―――

「DIO...あんたに家族はいないか?例えば、そう、弟や息子なんかは...」
「ほう...やはりきみは興味深い。どうだろう、ここはひとつ私と『友達』にならないか?」

ペロリ、とDIOが上唇を舐めると、ブチャラティの背筋に悪寒が走る。
駄目だ。このままでは、ヤツに飲まれ―――


902 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:14:47 nrruZIWE0

「おっ、待てい」

そんな間伸びた声が、DIOの形成した空気を打ち壊す。

「こんな限られた空間なら似たようなヤツと出会うのは引力だとか運命だとかそんな胡散臭いものじゃなく必然だゾ。近くに配置されてたなら尚更だよなぁ?」
「...いまは、ブチャラティに話しているのだが」
「そんな話よりいまは殺し合いと姫への対策を練るのが先決ゾ」
「......」

DIOの顔に陰りが募っていくのを見た弦之介は、とっさにMURへ言及する。

「みうら殿。何事にも適材適所というものがある。まずは、わしらの技が如何なものかを知らねば策はうてんのじゃ」
「あっ、そっかぁ。DIO、済まなかったゾ。話を続けルるぉ」
「...ああ」

MURは一歩退き、出口の付近に立つも、話に割って入られたこの空気では先ほどまでの雰囲気など保つことなどできない。
いまや、DIOの帝王としての風格は薄れ、ブチャラティを勧誘する空気ではなくなっていた。

この機に、静観していたジョンが会話の主導権を得るために、交換した情報を纏めることにした。

「えーっと、とりあえず危険なヤツらをまとめるとこんな感じかな」

ジョンの名簿に、危険人物と称された『薬師寺天膳』『空条承太郎』『雅』『御坂美琴』『T-1000』の五人の名前に赤の下線が引かれる。

「5人か...思ったよりも少ないや」

「バカ。あたしたち7人の情報だけじゃ参加者の半分も知れてないでしょ」

「それに首輪のこともまだなにも進んでいない。とにかく他の参加者や施設にも立ち寄り情報を集めるべきだ」

「とくれば、この人数で固まっていても仕方ないやもしれぬな」

「じゃーバラけるの?私はもっと遊びたいし一人でも平気だけど」

「ふむ。これだけの戦力がいるならそれでもいいかもしれないな」

「そうだよ(便乗)」

わいのわいのと会話に熱を帯びていき、今後の行動方針が大まかに決まったときだった。


『あー、ごきげんようおめーら』

放送の、鐘が鳴った。


903 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:15:09 nrruZIWE0




「ふむ...9人か」

放送を聞き終えたDIOは、得られた情報を脳内で整理する。
死者数。禁止エリア。新たな参加者と報酬の獲得方法。優勝の特典の明示。
まず、死者だが、彼にとって思い入れのある者は特にいないため、影響はなく。
死者に反応を見せたのは二人。

一人は小黒妙子。
教師である南京子が呼ばれたことに対しては、聞いた当初こそ目が見開かれたものの、特段顔色が悪くなるようなこともなかった。
どうやら彼女にとって南京子はさほど重要な存在ではなかったようだ。

もう一人は甲賀弦之介。
薬師寺天膳という男が殺されたことに多少驚きの表情を浮かべていた。
が、それだけで、天膳の名を口にすることもなく、悲しみの色を浮かべることもなく。
危険人物に挙げるあたりからも、こちらも特に親しい仲ではなかったようだ。
それよりも彼は、新たに判明した『如月左衛門』という名に反応を示していた。だが、それは嫌悪や警戒ではなくむしろ相手への心配にも似たもの。
聞けば、同郷の者ということらしい。腕の立つ者ではあるが、早急に合流したいとのことだった。



次いで禁止エリア。
この制度は、実質的には殺し合いにおける時間制限のようなものだ。
いくら埋まりきるには時間がかかるとはいえ、制限があるのとないとでは参加者の焦りように大きな差が出る。
だから、この制度自体にはさほど異議はない。

(問題はなぜ最初にそのルールを明かさなかったか...だ)

この殺し合いが始まってから既に6時間が経過している。
6時間。もしも、制限時間のことを知らされていれば、この6時間の間に殺し合いに乗る人数は増えていたかもしれない。
よしんぼ増えないとしても、後から提示するメリットはあまりない。
だが、なぜ主催はわざわざ後から追加という形をとったのか。

(まあ、答えはもう出ているようなものだが)


904 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:15:34 nrruZIWE0

「...よし。ではこれからの方針を確認する」
『あの放送でわかったことがある』

ブチャラティが口頭で方針を伝える傍ら、右手でペンをはしらせる。
一同はブチャラティの意図を察し、耳を傾けつつ筆談に意識を裂いた。

「俺たちはこれから3手に別れようと思う」
『おそらくあの少年は殺し合いについて把握しきれていない』

紙に書かれた内容に、DIO以外の面子の頭に疑問符が浮く。
主催なのに殺し合いについて把握しきれていないとはどういうことなのか。

「班のリーダーは、DIO、ゲンノスケ、俺だ。この3人なら大概のことに対処できるからだ」
『最初のセレモニーの男が彼だったのならば、禁止エリアや施設の記載、6人もの参加者の漏れなど、肝心なミスが多すぎる。
わざわざこんな催しを開くほどの熱意があるやつにしては、少し大雑把すぎないか?』
「...班は、どうやって決めるの?」
『確かに。僕だったら、こんな些細なミスは早く直してもっと完全に仕上げてから殺し合いを始めると思う』

ブチャラティに続き、ジョンも筆談に加わる。

「なるべく戦力は均等に分担したい。それは今から話し合うが...」
『それをしなかったのは、あの少年が主催に急遽用意された存在である可能性が高い。彼の裏の何者かが、彼に指示を出している。そう考えるのが妥当だろう』

放送の少年の裏に潜む存在。
その陰謀めいた響きに、ジョンと妙子はゴクリと唾を飲んだ。


905 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:16:10 nrruZIWE0

『ただ、そうであるならばむしろチャンスだ。奴らの連携は決して固くはない。付け入る隙は多大にある』
「だったら...いや、なんでもないわ」
「どうした?」
「なんでもないったら」

真宮をうまく引き込めないか、と妙子は口に出しかけたが、それはナイと自身で否定ししまいこんだ。
真宮は確かに同郷のクラスメイトだ。だが、日ごろからボウガンを携帯し、鴉や猫を撃ち殺しているようなイカレだ。
そんなヤツを引き込めたとしても裏切らない保障はどこにもなく、そもそもあいつなら望んで協力してても不思議じゃない。
なにより、あんなヤツと知り合いだと知られればそれだけで立場が危うくなるかもしれない。
そんなのはゴメンだ。なぜあんなヤツに足を引っ張られなければならないのだ。
だったら、黙っているのが吉。妙子は、真宮のことは口外しないよう決心した。


「ではまずは希望を聞こう。そこから組み分けをしようと思う」
「ポッチャマはブチャラティに着いていきたいゾ」

間髪いれず、MURが希望を述べる。

「ポッチャマは見ての通り、赤首輪でもあまり目立ったところがないゾ。
日光が駄目なDIOは地下に行くが、姫とまた出会えば足手まといにしかならないし、弦之介は技を連発できないから狙われやすいポッチャマといると負担が大きい。
なら、ポッチャマは安定して戦えるブチャラティと行くのが最善だゾ」
「...僕も、姫は相手にできないと思うから、地下以外かな」
「あたしもジョンと同じでいいよ」

MURに続き、ジョンと妙子も便乗するかのように、地下以外を希望する。

「ねー、なんで私はリーダーじゃないの?」
「きみは赤首輪だし、まだ子供だからだ」
「ムー、なんだか舐められてるみたいでヤダ!」

ロシーヌはスネたように頬を膨らませ、羽を広げ飛びあがる。

「じゃあ私がいっぱい集めてやれば負けを認めるよね!」
「待てロシーヌ!」
「ヤダね、妖精は自由なんだい!!」

ブチャラティの制止も聞かず、ロシーヌは飛び去ってしまう。


906 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:16:29 nrruZIWE0

「心配はいらない。ロシーヌは強い子だ。それは弦之介がよくわかっているだろう」
「ウム。あの速さを捕らえられる者はそうはいまい」
「しかし、これで私が一人か。...まあ、特に問題はない。そのまま続けてくれ」

DIOに促されるまま、弦之介は頷き口を開く。

「では、わしが妙子殿とじょん殿を引き受けたい。そなたたちがよければだが」
「いいの?」
「わしより未来を生きているというおぬしたちの話をもっと聞きたいのじゃ」

ジョンがよろしく、と手を差し出し、弦之介もまたそれに応じて手を握り返す。
妙子はそのまま、ジョンに習う形で、弦之介へと着いていくことにした。

かくして、3班と自由行動一人という構図が完成した。

「ではこれより、探索を開始する。第三回放送後にここに集まれ。全員、生きて帰るぞ!!」

ブチャラティの宣戦と共に、探索は始まった。


907 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:17:04 nrruZIWE0



ロシーヌは微かにイラついていた。
ブチャラティにリーダーの資格がないと烙印を押されたこと。子供扱いされたこと。
なにより、誰も自分を追おうとしないこと。

それほどまでに自分の存在はどうでもいいというのか。
妖精はたいしたことのないものだと軽んじられているのか。

「いいもん。わたしだけでもいっぱい人と会ってDIOに褒められて...あれぇ?」

自分で口に出して違和感に気づく。
妖精とは自由な生き物だ。なにかを食べるのも、寝るのも、遊ぶのも、なにもかもに縛られないまさに風のような存在だ。
だというのに、自分はまるでDIOに褒められるために動くと言ったような気がした。
それではまるでDIOに褒められるために飛んでいるようではないか。

果たしてそれが自由なのか。それは縛られているのと同じではないのか。

数秒だけ考えたロシーヌは、まぁいいかと違和感と疑問を脳裏から消した。






「......」
「どうしたたえこ殿」
「ん...なんでもないわ」

妙子は、歩みを進めながらも、DIOが降りていった地下通路を見つめていた。
別れた途端に、彼のことが気になってしまうのだ。
決して弦之介とジョンに不満があるわけじゃない。

ただ、『本当に自分はこちらでいいのか』『本当は彼についていくべきではなかったのか』という不安に駆られているだけだ。

妙子は気づいていない。
春花を襲った悲劇の発端になってしまったという罪悪感。
その罪から逃れたいという微かな『悪』の芽が、DIOに惹かれつつあったことに。

だが、見方を変えれば彼女は幸運だったのかもしれない。
もしも、DIOの興味がブチャラティや弦之介たちではなく、彼女に向けられていたら。
人間のか弱き悪意の芽に気づかれていたら。

彼女は『悪の救世主』に魅了されていたかもしれないのだから。


908 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:17:24 nrruZIWE0




コツ、コツ、コツ。

地下を叩く靴の音が木霊する。

(ブローノ・ブチャラティ。彼はやはり優秀だ)

DIOは、放送についての意見をあえてブチャラティに語らせていた。
理由として、彼という男がどこまでできるのかを知りたかったのが大きい。
結果、ブチャラティはDIOが推測していたことをほぼそのまま語っていた。
あの短い間であそこまで出来れば上出来だ。是非とも部下に引き入れたい人材である。

(怪物のロシーヌ、絶対防御に近い弦之介、そしてブローノ・ブチャラティにホル・ホース...フフフ)

これだけの戦力があれば、ジョースター家はもちろん、主催や雅たちにも引けはとらないだろう。
この結果に、DIOは概ね満足していた。
自分ひとりがこうして行動するハメになったこと以外は。

もちろん、力づくで支配することもできた。
だが、『空条承太郎、御坂美琴、雅は敵である』というせっかく撒いた種を活かすには穏便に済ませておくべきだと判断し、この場では引き下がることにしたのだ。
当然、奴等に勝てる自信がないわけじゃない。あの三人を相手にしても最後まで立つのは自分だ。
だが、それでも主催を支配するには余力を残しておく必要もある。
三人を相手にしたせいで主催に辿りつけなかった、などという展開にでもなれば目も当てられないからだ。

とはいえ、やはり一人で行動するハメになったのは、あの男の存在が大きい。
考えが全く読めない男、MUR。
あの不意に人の調子を狂わせる男と離れられたのは幸運だと捉えてもいいかもしれない。

DIOは独り、地下通路へとその身を沈めていく。






(うまくいったゾ)

ブチャラティと共に行動することになったMURは内心で安堵した。
MURの狙いは、自身の安全を確保すること。
そのために必要なのは、ブチャラティを確保し、それ以外の戦力外とDIOと別行動をとることだ。
最初にDIOと出会ったときから彼の危うげなオーラは感じ取っており、今ですら歴戦の戦士であるブチャラティをも飲み込む勢いだった。
だが、あの男が素直に脱出を望むかと問われれば決してないと言い切れる。
あの男は悪質なホモビの監督以上に、人間を使い捨ての道具にしか捉えていない。そういう目をしている。
おそらく、あの男が飽きれば瞬く間に参加者たちは殺されていくだろう。
だから、DIOを一人にした。これ以上、DIOに飲まれる者が出る前に、多くの参加者と触れ、一刻も早い脱出を成し遂げる為に。

ジョンと妙子が自分たちに同行しなかったのは幸いだ。彼らはブチャラティと違いなんの能力も持たない人間。
そんな人間が赤首輪の参加者と関われば、いつかは殺害による脱出を目論んでしまう。
だからこそ、こうして別れて行動するよう、姫の危険性をさり気なく刷り込み、見事に別行動を成立させたのだ。

ブチャラティに着いていきたいと申し出たのは、DIOと一緒にきた弦之介よりも、全力で皆を逃がそうとしていたブチャラティの方が信頼が出来たからだ。

全ては順調に進んでいる。
この流れに便乗し続けて生きたいとMURは切に願った。


909 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:17:57 nrruZIWE0

【H-6/一日目/朝】

※以下の情報を共有しました。ただし信用度は個人差があります。
・危険人物:雅、空条承太郎、御坂美琴、薬師寺天膳、T-1000
友好:朧、如月左衛門、陽炎、ホル・ホース、T-800、野崎春花
保留:宮本明、相場晄

・第三回〜第四回放送までの間にここに集合する



【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:MURと探索する。
1:弱者を保護する。
2:『姫』には要警戒。

※参戦時期はアバッキオ死亡前。
※DIOにジョルノと似た気配を感じています



【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:頭にたんこぶ
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0;ブチャラティと探索する。
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。
3:『姫』には要警戒。


※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。



【小黒妙子@ミスミソウ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:とにかく死にたくない。
0:弦之介と探索する。
1:真宮が殺し合いを開いたの?
2:野崎を...助けなくちゃ、ね。
3:『姫』には要警戒。
4:もしかして私が一番足手まとい?

※参戦時期は佐山流美から電話を受けたあと。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。
※若干DIOに惹かれています。


910 : それぞれの分岐点 ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:19:26 nrruZIWE0


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。
0:弦之介と探索する。
1:T-800と合流する。
2:T-1000に要警戒。
3:『姫』には要警戒。

※参戦時期はマイルズと知り合う前。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。




【甲賀弦之介@バジリスク】
[状態]:疲労(大)、右肩に刺し傷。
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する(ただし赤首輪の殺害を除く)。
0:ジョン、妙子と探索する。
1:陽炎と左衛門と合流する。朧を保護し彼女の真意を確かめる。
2:極力、犠牲者は出したくない。
3:脱出の協力者を探す。
4:“すのぅほわいと”を守る?



【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】 
[状態]:疲労(中)、身体のところどころに電撃による痺れ(我慢してる)
[装備]:
[道具]:基本支給品。DIOのワイン@ジョジョの奇妙な冒険、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生き残る。そのためには手段は択ばない。 
0:地下から新たに記された施設を巡る。
1:主催者は必ず殺す。
2:赤首輪の参加者を殺させ脱出させる実験を可能な限り行いたい。
3:空条承太郎には一応警戒しておく。
4:不要・邪魔な参加者は効率よく殺す。
5:MURめ...
6:弦之介の謎の技に興味。
7:ホル・ホースも来ているのか

※参戦時期は原作27巻でヌケサクを殺した直後。
※DIOの持っているワインは原作26巻でヴァニラが首を刎ねた時にDIOが持っていたワインです。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※肉の芽を使用できますが、制限により効果にはかなり差異が生じます。
特に赤首輪の参加者、精神が強い者、肉体的に強い者などには効き目が薄いです。



【ロシーヌ@ベルセルク】
[状態]:疲労(小)、額に肉の芽
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針: 好きにやる。
0:情報をたくさん手に入れ妖精が優れていることを示す。

※参戦時期は少なくともガッツと面識がある時点です。
※肉の芽が植えつけられていますが、肉の芽自体の効力が制限で弱まっています。
現在は『DIOを傷つけない』程度の忠誠心しかありません。


911 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:20:25 nrruZIWE0
続いて投下します


912 : 療養提案おじさん ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:21:08 nrruZIWE0
「グーグー...カンノミホ...」
「......」

放送を聞き終えた虐待おじさんは、背負っていた野獣を優しく地に降ろし、石段に腰をあずける。

(9人か...本当にこいつは殺し合いなんだな)

ゲーム開始から6時間。おじさんはそのほとんどを趣味に費やしていたが、まさかこの短時間で9人もの死者が出ているとは思わなかった。

(ラ・ピュセルくんはどうやら無事みたいだな)

数時間前に調教したクッソ可愛い少年、ラ・ピュセルの名前が呼ばれなかったことにホッと胸を撫で下ろす。
彼はとてつもない逸材だ。
幼い顔立ちや声音はもちろん、喘ぎや悲鳴、仕草の一挙動の全てが的確に調教者の股間に響いてくる。
そんな逸材をこんな殺し合いで失うのは非常に惜しい。
元の場所へと連れ帰り、是非とも平野店長やタクヤさんを含むACceed三銃士で調教し直してやりたいところだ。

(そのためには、なによりもまず俺が生きて帰らねえと)

殺し合いにおける、『優勝せずとも生還できる権利』と新たに提示された『禁止エリアという時間制限』。
この二つの要素は、確実に参加者間で焦りと疑念を生じさせ、殺し合いを加速させてしまうだろう。
そうなれば、赤首輪である自分や野獣、ラ・ピュセルはまず間違いなく標的となる。
かといって、自分たちが殺戮者にまわればそれこそ主催の思う壺。
虐待は好きだが殺戮は好まないおじさんは、首輪を外し、主催を倒すというあくまでも王道の脱出を目標としていた。

(そのために必要なのは...)

傍らで安眠する野獣へと視線をチラと移す。
野獣先輩。
ホモビ界の中でもある種の伝説と化した可能性の獣。
主催と対峙した時、必ず必要となるのは未だ未知数であるこの男の力が不可欠だ。
いまは、COATとACceedの垣根を捨て、共に打倒主催者の道を歩むほかないだろう。

「爺さん」
『なんじゃ?』
「オレはこれからコイツを連れて、新しく地図に記された病院に向かうつもりだ。あんたはどうする?」
『ワシは...お前についていこう。その男を放っておくわけにもいかんしな。構わんな?』
「あ、いっスよ」

写真の親父、吉良吉鷹もまたおじさんに賛同する。
愛する息子、吉影の身が心配ではあるものの、その息子に野獣を見張っていてほしいと頼まれたのだ。
当然、彼の頼みを断ることなどできず、野獣の観察を継続することにしたのだ。
それに、いずれは吉影も使うことになるかもしれない病院を先に散策し、安全に使えるようにしておくのも親の役目だ。
おじさんが野獣を病院に連れて行くのは、吉鷹からしても好都合でしかなかったのだ。

休憩を終えたおじさんは、再び野獣を背負い、写真の親父と共に東へと歩き出す。

目指すは病院。その背の『希望』は未だ目を覚まさない。


913 : 療養提案おじさん ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:21:33 nrruZIWE0


【E-5/住宅街(下北沢)/朝】



【野獣先輩@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:背中の皮膚に少し炎症、疲労(大)、身体の中に矢@ジョジョの奇妙な冒険が入っている。気絶
[装備]:吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険、
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:気の向く(性欲を満たす)ままに動く
1:気絶中
2:吉良と左衛門犯したい...犯したくない?
[備考]
※毒物をぶち込まれると即死性ではないかぎり消化・排出することができる。排出場所は勿論シリ。
※殺し合いを認識しました。
※吉良(川尻の顔)と左衛門の顔をそれぞれKMR、遠野に似てると思い込んでいます。
※吉鷹の持っていた矢@ジョジョの奇妙な冒険が野獣先輩の尻の中へ吸収されました。異変があるかはヨクワカンナイケドネ



【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]興奮、頬にダメージ(小) 疲労(小)
[装備]日本刀詰め合わせ@彼岸島
[道具]基本的支給品、鞭と竹刀とその他SMセット(現地調達品)、吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険。
[思考]
基本:可愛い男の子の悶絶する顔が見たい
0:殺しはしないよ。おじさんは殺人鬼じゃないから。
1:野獣を病院へと運ぶ。殺し合いが進んでいるようなので、なるべく主催を倒すために行動する。
2:また会ったらラ・ピュセルを調教する。 元の世界で平野店長やタクヤさん(KBTIT)と共に調教したい。
3:あのウニ頭の少年(上条)も可愛い顔をしているので調教する。
4:気合を入れ直すためにひでを見つけたらひでを虐待する。
[備考]
※参戦時期はひでを虐待し終わって以降
※ラ・ピュセルを女装した少年だと思っています


914 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/02(月) 23:22:14 nrruZIWE0
投下終了です


915 : 名無しさん :2018/07/03(火) 07:30:19 eArz7Hjs0
投下乙です

DIOお得意のホモ勧誘を論破するMURは知将だってはっきり分かんだね
居眠りうんこが目覚める時は新たな戦いが起こりそう(こなみ)


916 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/06(金) 00:36:27 gAD.WTdw0
投下します


917 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/06(金) 00:37:20 gAD.WTdw0
トイレの傍の民家で、ハチに襲われた状況を整理していたホル・ホース、宮本明、鹿目まどかの三人。
そんな彼らのもとにも容赦なく放送の声は響き渡った。


「うそ...マミさん...仁美ちゃん...」

巴マミと志筑仁美。
放送で呼ばれたその名前は、まどかの心をひどく動揺させていた。

巴マミ。
まどかが魔法少女を知るキッカケとなった先輩。
彼女の背中は大きく、誰かの為に戦い続ける彼女の存在は、まどかにとっては心底敬愛すべきものに映っていた。
それと同時に、彼女が教えてくれた本当の気持ち。寂しさと戦い続けてきた彼女の本音を聞いたとき、隣で支えてあげたい。共に手をとりあっていきたいと思わずにはいられなかった。
魔女との戦いで命を落としてしまった後も、彼女の存在はずっと色濃く残り続けていた。

志筑仁美。
さやかと同じく、小さい頃からの大切な友達で、いつも三人一緒だった。
登下校も、クラスでも、遊ぶ日も。いつも一緒だった。
上条恭介とのことで彼女とさやかと壁が出来てしまったときは、気まずさから疎遠になりつつあったけれど。
それでも、またいつかもとに戻れると信じていた。

けれど。
二人は放送で呼ばれてしまった。死んだのだと。
嘘だと思いたい。でも、ここで嘘をつく意味なんてないから。

悲しめばいいのか。怒ればいいのか。憎めばいいのか。
もう頭の中がぐちゃぐちゃでどうすることもできなかった。

そんな彼女の意識外で、明はスッ、スッ、と指でジェスチャーをし、それを確認したホル・ホースはコクリと頷き共に部屋をあとにした。

ひとりきりになった部屋で、まどかの目からはようやく水分が滲み出し、頬を伝ってようやく嗚咽が漏れ出した。

そして。
ただ、ただ、泣いた。
なんで死んでしまったのかだとか、誰が殺したのかだとか。怒りとか憎しみとか。
そういったものは全て後回しになって。

大好きな人たちが死んでしまったことが、彼女たちにもう二度と会えないことが。言葉にできないぐしゃぐしゃな感情が。
ただ、ただ、涙となって溢れ出し、止めることすらできやしない。

気がつけば、まどかは子供のように声を挙げて泣き出していた。


918 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/06(金) 00:37:45 gAD.WTdw0



まどかの泣き声が響き渡る。
明は、その声を背に受けながら、入り口に陣取り、ドラゴンころしを携え周囲を警戒していた。
一方、ホル・ホースは物陰に身を潜め、明とは逆の方角の警戒に努めている。

「よかったのかい、旦那。こういう時は慰めの言葉のひとつもかけてやるべきじゃねえのか?」
「...いまはそっとしておいてやれ。感情を誤魔化さない時間も必要だ」

大切な者を失った悲しみ。明はそれを痛いほどわかっている。
だからこそ、死地にあっては彼らの死を乗り越えなければならない。
かといって、下手な慰めの言葉は葛藤を生みかえってまどかの負担になってしまう。
ならば、こうして彼女を一人にして思うがままに感情を発散させてやるべきだ。
その間は、自分たちが護ってやればいい。

「...ま、旦那がそう言うならそれでいいけどよ」

一方のホル・ホースは明の判断に半ば納得はしていなかった。
確かに明の考えも間違いではない。だが、それはあくまで戦士の持論である。
まどかは周囲の環境こそは異常だが、それを除けばただの一般人。
ああいった少女は感情の捌け口を求めるのが常であり、優しい言葉を求めている。
いまの彼女にこそ、このホル・ホースの話術が効果覿面なのだ。
...まあ、そんな己の考えを押し付けてせっかく手に入れられた頼りになる『相棒』と仲違いすることもないので、今回は明に従っているが。

(それよりも問題は俺のほうだぜ...これから先は出会ってきた奴等への対応は慎重にやらねえとなぁ)

シェンホアとの情報交換で、ホル・ホースは他の参加者の名簿に自分は載ってないという希望を見出していた。
もしもその通りであれば、承太郎やDIOは自分についての情報を他の参加者に伝えていないことになる。
つまり、奴等に実際に遭遇する前に、赤首輪の参加者を倒すなりなんなりで脱出してしまえばそれで万歳な結果になるということだ。

しかし、こうして放送で存在を広められてしまえばその手段に縋る難易度は格段に跳ね上がる。
DIOは気が向けばこちらも有利になるよう他の参加者にも好印象な情報を共有してくれる可能性はある。
だが、承太郎はヤバイ。あいつは必ず警戒するよう呼びかける。もしそうなれば、ここにいる明とまどかとの協力体制も危うくなるかもしれない。
そのため、他の参加者に会ったらこれまで以上に懇切丁寧に対応するべきだろう。

数分ほど経過しただろうか。
まどかの泣き声は聞こえなくなり、二人がそっと室内を覗き込めば、スゥスゥと可愛らしい寝息を立てるまどかが横たわっていた。


919 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/06(金) 00:38:15 gAD.WTdw0

「だいぶ疲れちまったようだな。...まあ、吸血鬼に襲われたぶんもあるんだ。仕方ねえェか」
「そういうアンタも奴等に噛まれていただろう」
「俺は男一匹の風来坊なんでね。精神的には嬢ちゃんよりはマシなのさ」

承太郎とDIOについては言及しない。
どういう関係性なのかを問われれば返答に困ること間違いなしだし、DIOに至っては吸血鬼に憎しみを抱いている明に話すのは憚れるからだ。
余計なことは漏らさない、これがホル・ホース流の処世術のひとつだ。

「旦那よ、当然ここから移動するんだろうが、嬢ちゃんは俺が背負ってくぜ」
「いいよ。あんたも疲れてるだろ」
「いや、明の旦那にはいざって時にその剣を振り回してもらわなきゃならねえ。その点、俺は嬢ちゃんを背負ってても『皇帝』ならさっきみてえに旦那をサポートするぶんには大した問題はねえ」
「...わかった。まどかはあんたに任せるよ」

こうして相棒の好感度をさりげなくあげていくのも彼なりの処世術のポイントである。

「それで、旦那よ。これからどこへ向かう?」
「ひとまずは病院に向かおう」
「病院...そいつはまたなんでだ?」
「あそこならそこまで遠くないし、ハチにやられたあんたの腕に効く薬もおいてあるかもしれない」
「確かに、このままじゃチト痒いからな。しかし先に中央付近の町に出なくてよかったのかい?」
「あんたの出会った蜂が邪鬼かもしれないからだ」

邪鬼(オニ)。その効きなれぬ単語にホル・ホースは思わず疑問符をうかべる。

「邪鬼は、人間の血を吸わなかった吸血鬼の慣れの果てだ。異形に姿を変えるだけじゃなく、身体能力が向上したり妙な体質になったりするんだ。
俺の知ってる限りだと、硫酸の母乳を噴出す奴や、腹から自分の顔のついたゴキブリを産み出すやつなんかがいた」
「げ、ゲェ〜ッ。想像しただけで気色悪ィな」
「だから、あんたが受けた毒液も早めに治療してもらった方がいい。もしかしたらマーキングみたいなものかもしれないしな」
「マジかよ...」

ただでさえトレードマークのテンガロンハットを捨ててきてしまったというのに、邪鬼の話を聞き更に萎えてしまったホル・ホース。
まあ、彼としてはまだどこへ向かうべきかが目星がついていないため、病院へ行くのに反対するつもりもなかった。

あのぶっきらぼうな承太郎が怪我人をわざわざ運びそのまま付き添うとは思えず、更に言えば、こんな早い段階であの最強格のスタンド『スタープラチナ』を有してなお病院が必要な事態に陥るとは思えない。
精精、寄ったとしても怪我人を病院へ連れて自分は別行動をとるだろう。

ならばここで明に従い病院へと向かうのは『吉』だ。
ホル・ホースはまどかを背負い、明と共に歩き出す。

だが、彼は知らない。
DIO以外にも空条承太郎を脅かせる者がまだいること。
その怪物に承太郎は重傷を負わされたこと。
そして、ホル・ホースがぶっきらぼうと証した空条承太郎は、弱者の保護と共に未だ病院で療養していたことを。


920 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/06(金) 00:38:52 gAD.WTdw0

【G-2/一日目/朝】

【宮本明@彼岸島】
[状態]:雅への殺意、右頬に傷。
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]: 不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 雅を殺す。
0:ホル・ホースとまどかを病院に連れて行く。
1:吸血鬼を根絶やしにする。
2:ホル・ホース及びまどかとしばらく同行する(雅との戦いに巻き込むつもりはない)
3:邪魔をする者には容赦はしない。
4:隊長...まさかな

※参戦時期は47日間13巻付近です。
※シェンホアと情報交換をしました。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、失禁、疲労による睡眠
[装備]: 女吸血鬼の服@現地調達品、破れかけた見滝原中学の制服
[道具]: 不明支給品0〜1、小黒妙子の写真@ミスミソウ
[思考・行動]
基本方針: みんなと会いたい。
0:ほむらとの合流。さやか、杏子が生きているのを確かめたい。
1:明とホル・ホースと同行する。
2:あの子(ロシーヌ)の雰囲気、どこかで...?
3:マミさん...仁美ちゃん..そんな...!

※参戦時期はTVアニメ本編11話でほむらから時間遡航のことを聞いた後です。
※吸血鬼感染はしませんでした。
※シェンホアと情報交換をしました。

【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労 (大)、精神的疲労(大)、失禁、額に軽傷、スズメバチの毒液による腫れ
[装備]:吸血鬼の服@現地調達品、いつもの服、ポッチャマ...のヌイグルミ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ、
[道具]:不明支給品0〜1、大きめの葉っぱ×5
[思考・行動]
基本方針: 脱出でも優勝でもいいのでどうにかして生き残る
0:できれば女は殺したくない。
1:しばらく明を『相棒』とする。
2:DIOには絶対に会いたくない。
3:まどかを保護することによっていまの自分が無害であることをアピールする(承太郎対策)。
4:そういやこいつら、スタンドが見えているのか
5:とりあえず病院に向かう。...まあ、流石に承太郎がいることはねえだろう。

※参戦時期はDIOの暗殺失敗後です。
※赤い首輪以外にも危険な奴はいると認識を改めました。
※吸血鬼感染はしませんでした。
※シェンホアと情報交換をしました。


921 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/06(金) 00:39:16 gAD.WTdw0
投下終了です


922 : 名無しさん :2018/07/06(金) 01:11:23 56qAYPtQ0
投下乙です

このまま病院に行けば承りチームと出会ってしまうのか
吸血鬼と因縁のある対主催屈指の強者の出会いはどんなものになるのだろうか


923 : ◆EPxXVXQTnA :2018/07/09(月) 07:23:59 P91obOCg0
野崎春花、空条承太郎、朧、虐待おじさん、野獣先輩 予約します


924 : ◆EPxXVXQTnA :2018/07/09(月) 07:42:03 P91obOCg0
すみません諸事情で破棄します


925 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:48:42 iqvGhIUg0
投下します


926 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:49:31 iqvGhIUg0

風が吹き、草木が優しく囁く。
そんな緑溢れる大地をゆったりと散策する少女二人。
一人は、可憐な容姿と纏うバラがファンシーな色気を醸し出しており、もう一人は赤髪に長袖のパーカー、ホットパンツとどこかボーイッシュな雰囲気を醸し出している。
傍目からは、少女二人と自然の調和というひとつの絵でも描きたくなる衝動に駆られるほどに見栄えする光景に見えなくもない。

それに反して会話はひどく物騒なものではあるが。

「佐倉杏子。あなたは北で戦ったと言っていましたがなぜ中央を目指すのですか?」
「あいつもそれなりに怪我をしてたし、あんな派手な騒ぎがあったところに留まるとは思えない。なら、どうせなら他にも人が集まりそうな中央から潰していった方が得ってわけさ」
「なるほど。一理ありますね」

とまあ、こんな具合である。
それもそのはず。なんせ彼女たちはその可憐な容姿とは裏腹に、自分たちよりも非力であろう『人間』を狩りに行こうとしているのだから。
一人は新たなる戦いの為に。一人は生きる為に。少女二人はこれよりその道を朱に染めんと進む。

「ん」

ピクリ、とクラムベリーの耳が動く。
クラムベリーが捉えたのは、足音と話し声。
間違いない。参加者を捕捉したのだ。

「どうやら近くに参加者がいるようですね。こちらに向かっているようです」
「あんたの魔法でわかるんだっけか。このまま歩いてればいいか?」
「ええ。数分もあれば姿が見えると思います」

場所は森。まだ太陽が昇りきっておらず薄暗がりのため中までは認識できないが、距離もさほど遠くはないため来訪者の判明も時間の問題だ。

「何人だ」
「二人...いえ、足音はひとつ...話し声もしているのでこちらに気がついている様子もないのですが...」

足跡が聞こえないとなれば、片方は背負われているのか。
なんにせよ構わない。『人間』であれば狩るだけだ
二人は、速さを抑えることなく堂々と歩む。
片や来訪者に期待を寄せ、片や己の襲撃のパターンを脳裏に張り巡らせ。
ほどなくして、二人は来訪者に遭遇する。

来訪者は、二人の存在を認識したところでようやく止まり、杏子もまたそんな来訪者の正体に小さくため息をついた。

「さ、佐倉杏子...!」
「悪い、クラムベリー。いまは手をださないでくれ。一応あたしの知り合いだ」

来訪者は、杏子もよく知る魔法少女、美樹さやかだった。


927 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:49:54 iqvGhIUg0



「さやか、あのハンペン顔はよかったのか?」
「...仕方ないよ。ああも炎を吐かれたら近づきようがないし」

アリスと別れたさやかは、まどか達の探索に時間を割いていた。
できれば、ワイアルドから助けてくれたモズグスの力になりたいとは思っていたが、炎の勢いが存外強力であり、近づくことすら敵わない状況であったため、断念せざるをえなかった。
それでも、炎の下手人が敵方であるワイアルドなら多少無茶をしてでも加勢したかもしれないが、撒いたのはモズグスその人。
さやか達を近づけまいとしているのか、それほど周りが見えない人なのか...少なくとも、遭遇時に抱いた好印象はかなり薄まっていた。
それも、さやかが加勢を諦めた理由のひとつである。

(とにかく、いまはまどかを探さなきゃ...)

ほどなくして、さやかと隊長は二つの人影を確認。距離が近づくにつれ、その正体も認識する。
一人は知らない女性だったが、もう一人はさやかの知り合い、佐倉杏子だった。


「あんた、その恰好...!」

さやかは、土煙で汚れた杏子の服を見て警戒心を高める。
理由はわからないが、彼女も誰かと交戦したのだと。

「ナリはあんたが言えたことじゃないだろ。あんたこそその様はどうしたんだよ」

かくいうさやか自身も、いや、杏子と比べれば明らかにさやかの方が傷つき薄汚れている。
全身に刻まれた擦り傷、ところどころが破れた衣類、乾いてはいるもののこびり付いている血。
さやかの知り合いでなければ、警戒しない方がおかしいレベルの惨状である。

「待つんじゃ、ワシらは殺し合いには乗っておらん!」

ひょこ、とさやかの背から顔を出し、隊長が制止の声を挙げる。
しかし、さやかはともかく杏子は最初から戦闘の構えとってはいなかった。

「こんな状況だ。戦いのひとつがあってもおかしくないさ。...そんな弱そうな爺さんを連れてるあたり、本当にあんたは殺し合いには乗ってないみたいだな」
「誰が弱そうな爺じゃ!ワシはこう見えても雅様の誇り高きしんえ」
「...乗ってないよ。そういうあんたはどうなのさ」
「遮るな!」
「あたしか?あたしは―――」

『あー、ごきげんようおめーら』

杏子の声をかき消すように、天より声が鳴り響いた。


928 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:50:13 iqvGhIUg0

「な、なによこれ!?」
「おそらく、参加者に現状を報せるための定期的な連絡でしょう」
「なんじゃお前は」
「森の音楽家クラムベリーです。いまは佐倉杏子と行動を共にしています」
「ど、どうも...」

杏子とは対照的に割りと礼儀正しく挨拶をしてきたクラムベリーに思わずあっけにとられながらも、彼女の佇まいから、もしかしたら杏子は杏子で殺し合いを止めるためにクラムベリーと共に行動していたのかなと頭の片隅に思い浮かべる。
が、そんな想いもすぐに塗りつぶされる。


『最後に脱落者だ。これから放送毎に死んだ奴らを読み上げてく』

「――――!」

脱落者。即ち、この約6時間ほどで死んだものたち。
これから呼ばれる一人の親友の名に腹を括り、未だ行方の知れぬ親友たちが呼ばれるかもしれない緊張で、さやかと隊長はごくりと唾を飲み込んだ。
そんな緊張の面持ちの二人とは対照的に、クラムベリーも杏子もさして変わらない佇まいで放送に耳を傾けていた。


『今回の放送までに死んだのは』

ドクン、とさやかの心臓が跳ねる。

『薬師寺天膳、志筑仁美』

呼ばれた。覚悟していたぶんの痛みが、さやかの心臓を締め付けた。

『南京子。一方通行』

呼ばれない。呼ばれない。

『ありくん』

呼ばれない。

『巴マミ』

呼ばれ―――

それ以降の情報は、さやかの耳から全て零れ落ちていった。

気がついたときには、もう放送は終わっていた。


929 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:51:00 iqvGhIUg0

「おい、さやか大丈夫か」
「マミ、さんが」

隊長の呼びかけも耳から通り抜けて行き、ようやく彼女の名前を口に出せたかと思えば、抑えきれない震えがさやかを襲う。

なんで死んだ。なんで死んだ。なんで死んだ。

頭の中はそればかりで、悲しみ悼むべき涙も出やしない。本当に生き返ったのかという疑問も遥か彼方に飛んでいってしまった。

なんで死んだ。誰が殺した。誰が殺した。誰が

「殺したのは『人間』ですよ」

まるでさやかの脳内を読み取ったかのようにポツリと呟いたのはクラムベリー。
今まで微笑を携えていた彼女の顔も、その一瞬だけは確かに険しいものとなっていた。

「あんた、マミさんのことを知ってるの?」
「はい。わずかではあるものの、実に充実した時間を過ごさせていただきました」
「なら、教えて...マミさんになにがあったの!?」
「構いませんよ。ですがその前に...」

クラムベリーはそこで言葉を切り、北―――下北沢近辺の方角に視線を向け静止する。

「また参加者か?」
「ええ。人数は二人、それもかなり無用心に、堂々とこちらに向かってきています」
「さっきの放送を聞いた上でそれなら、よほどの馬鹿か、腕に自信があるのか」

納得しているかのように話す二人にさやかと隊長は困惑する。

「え、えっと...」
「私の能力ですよ。詳しくは教えませんが、歩いてくる者くらいは判別できます」
「なら逃げんのか?お前たちもワシらと同じ赤首輪じゃろう」
「こっちに真っ直ぐ向かってくるならここで待ってればいいだろ。変に隠れる必要もない」

堂々と佇む杏子とクラムベリーに倣い、来訪者の現れるであろう方角に目を凝らすさやかと隊長。
ほどなくして、さやか達の耳にも微かな足音が届き、来訪者の輪郭もおぼろげながら浮かび上がってきた。

そして、その姿が明確になり、さやかの背に凍りつくような怖気が走る。


930 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:51:37 iqvGhIUg0

さやかがその肉眼で捉えたのは二人の異様な男。

一人は一糸纏わぬ、文字通り全裸にランドセルという冒涜的な格好でスキップをする筋肉質な青年。
もう一人は白髪にタキシードの、どこかヴィジュアルバンドのような服装の男。

一目で異物だとわかる前者はともかく、後者は服装だけなら若干時代錯誤を感じる程度のものだろう。

だが、白髪の男がなによりも異様だったのは、口元を覆う赤黒い血液。
なにより、その手に持つだれかの残骸が、男の異様さと異常さを際立たせていた。

白髪の男は、四人のもとへたどり着くなり、ニイと口角を吊り上げた。

「これはこれは大層なお出迎えではないか」

眼前の男の放つ醜悪な気と異様さに、さやかは思わず変身し剣を構える。

「み、雅様!」

そんな彼女の背から隊長の声が響き渡る。
雅。その名は、確かに隊長から聞いていたものだ。

「雅様、ご無事でなによりです」
「ハッ、お前か」

目の前の男の異様さに気がついていないはずがないだろうに、朗らかに話しかける隊長に、さやかは困惑してしまう。

「た、隊長...?」
「よかったなさやか。これでもう安泰だ。こんなに早い段階で雅様と合流できるなど、なんて運がいい」
「いや、それよりも、その...」

隊長が嫌々媚を売ってるとは思えない。
なのに、たとえ信頼のおける者だとしても、眼の前の惨状を見てなぜ平気でいられるのか。
なぜ、いまが彼にとって当然とでもいうかのように平然としていられるのか。
さやかの中では、そんな隊長への複雑な感情が滲み始めていた。


931 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:52:06 iqvGhIUg0

「...何者だ、あんた」

いまの雅の姿を見れば、流石に杏子も警戒心を露にし、いまにも槍を突きつけんばかりに睨みをきかせる。

「ぼくひで」

だが答えたのはひでだった。

「あんたじゃねえよ。いや、あんたもわけがわからねえけどさ。...で、改めて聞かせてもらうけど、あんた何者だ」
「私の名は雅。吸血鬼の王だ」

吸血鬼。その単語に、杏子は思わず鼻で笑ってしまう。
別に彼を馬鹿にしたわけではないのだが、教会の出であるため、吸血鬼のような怪物の創作話はそれなりに馴染みのあるものだった。
雅がそれを名乗ったものだからつい噴出してしまったのだ。

「それで、その吸血鬼様がなんのようだ?」
「なに。血の匂いがしたのでね。どんな輩がきたのか見に来ただけだ」
「そうかい」

パァッ、と光が身体を包み、杏子の服が魔法少女のものに変わる。
その光景に、突きつけられる槍と殺意に雅は一切の動揺もなく笑みを深める。

「早まるな。なにも今すぐ戦りあおうというわけではない。私は珍しいものには目がなくてな。この機会に赤首輪の人外とは話をしてみたいと思っている」
「話、ねえ。どうするクラムベリー」
「構いませんよ。興味があるのは私も同じですから」
「だ、そうだ。あたしも構わないよ」

雅に全く物怖じせずに言葉を交わす杏子とクラムベリー。
そんな二人を見てさやかは戸惑うも、話だけなら、と遅れて了承する。

「おっと、忘れるところだった」

雅はひょいと右手に持った腕の形をした残骸を掲げ、口が耳元まで裂けるほど開き。

ガブッ。

血を撒き散らしながらバリバリと豪快な音を立てて噛み砕いた。

一連の流れとその際のご満悦な表情を見て、ドン引きしつつさやかは思った。

こいつとは絶対に相容れない、と。


932 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:52:31 iqvGhIUg0



数分後。
情報交換の場を設けた5人の赤首輪たちは身を隠すこともなく、その場で輪となって。

「ぽかぽかして気持ちいいのら」

その輪から外れて、ひではひとりご満悦な表情を浮かべつつ日向ぼっこを始め、気持ちよかったのかそのまま寝息を立てて昼寝を始めてしまった。


「雅様。あれは新しい邪鬼ですか?」
「いや、拾っただけだ。私にもよくわからん...さて、ひでのことはともかくだ」

雅はジロリと一同を見回し、笑みを浮かべる。

「揃いも揃って幼い女とは。まさか貴様たち、暁美ほむらと同じ魔法少女ではあるまいな」

"魔法少女"と"暁美ほむら"の単語に、杏子の目つきは鋭くなり、さやかの心臓がドキリと跳ね上がる。

「あんた、あいつと会ったのか」
「つい先ほどまでは共に行動していたのだがな。結局牙を剥いてきたので返り討ちにしてやったよ。その証拠に奴隷の印も刻んでやった。...仲間だったか?」
「別に仲間じゃないさ」

嫌らしく笑みを浮かべる雅に対し、杏子は依然変わらず。
しかし、彼女の醸し出す空気が変わっていたのは誰もが感じ取っていた。

「おっと、恐い恐い。あんまり恐いからつい手を出してしまいそうだ」
「下らない茶番は止めな。殺されたいなら別だけどさ」
「コラッ、雅様になんて大それた口を!さやか、友達ならなんとかいってやれ!」
「ごめん、隊長。あたしから見てもあいつを止める気にはならないよ」

さやかは決してほむらと仲が良いわけではないし、むしろ警戒しているほどだ。
しかし、だからといって痛めつけたことを嬉々として語る男に肩入れをしようとは思わないし、それに苛立つ杏子の方がまともだとも思っている。
だから、ここで杏子が雅を殴り飛ばしたとしても止める言葉は持てないだろう。


933 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:52:50 iqvGhIUg0

「佐倉杏子の言う通りですね。私たちは茶番を楽しむ為に留まっているわけではありません」

そんな空気の中、険悪な空気を醸す二人に割って入ったのはクラムベリーだった。

「私には目的があります。確かに赤首輪の人外には興味がありますが、だからといって無駄なお喋りに時間を費やしたくはありません」
「ほう。そこまで急ぐ目的とはなんだ?」
「この場における、『人間』の排除。その後に赤首輪の参加者だけで闘争を繰り広げ決着をつけることです」

クラムベリーの宣言に、さやかは息を呑む。
『人間』の撲滅。それだけでなく、赤首輪の参加者間で脱出するための協力ではなく、赤首輪同士での戦い。
今まで大人しかった彼女からそんな物騒な言葉を聞かされたのだ。予想外にもほどがあり、驚愕するばかりで怒ることすらできなかった。

「弱者がロクに戦いもせず、疲弊した強者を屠る...これほどつまらないことはないでしょう。あんな不愉快な想いは二度と味わいたくないのですよ」
「奇遇だな。私も人間は嫌いでね。無意味に恐れ、無意味に嫌う。そんな愚かな生き物たちには心底呆れ果ててしまったよ」

クラムベリーだけでなく、雅もまた人間の抹殺を宣言する。

(そんな...こいつらを放っておいたら、まどかが...!)

さやかの背を冷や汗が伝う。
もしもこの二人を放っておき、まどかが遭遇してしまえば。
考えるまでもない。ただでさえ争いを嫌うまどかだ。為すすべもなく殺されてしまう。

(そんなの嫌だ...)


さやかの手に自然と力が込められる。
この二人はここで止めなければまどかが被害を被るかもしれない。
クラムベリーも雅もその実力は未知数だ。おそらく一人で挑んでも勝てはしないだろう。
だが、二人なら。この場にいるもう一人の魔法少女、佐倉杏子と組めば勝機はあるかもしれない。

(杏子...!)

もとは、皆の幸せを願っていた彼女なら。共に、目の前の悪鬼たちと戦ってくれるかもしれない。
さやかは期待と懇願を込めて視線を投げかけた。
その先には

「いいこと言うじゃん、あんた」

かつて戦った時に見せたものよりも邪悪な笑みがそこにあった。


934 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:53:18 iqvGhIUg0


「大した力も信念も無いくせに、自分と違えば足を引っ張ることしか考えない。あたしもそんな奴等は大嫌いさ」
「ハッ。ならば、お前たちの目的は私と同じということか」
「ああ。あんな奴等を護るなんざ死んでもゴメンだね。さっさと殺すなり結界に放り込んで魔女の餌にするなりした方が世のためさ」

言ってのけた。
杏子もまた、嘘偽りなく『人間を狩る』ことを宣言した。

「な、なに言ってるのさ杏子!」

さやかは思わず叫んでしまう。
彼女は確かに利己的な魔法少女だ。
けれど、それにはそう為らざるをえない過去があり、冷徹なだけでもなかった。
実際、彼女は傍にいたまどかを攻撃するような素振りも見せなかったし、直接人間を魔女の結界に放り込んでいたとも聞いていない。
それを杏子は『する』と言ったのだ。さやかが反射的に声をあげても仕方のないことだろう。

「なに言ってるもクソもない。前にも言ったはずだろ、あたしはあたしの為だけに魔法を使うって」
「でも、あんたは...!」
「知ったような口を利いてんじゃねえよ。あんたがあたしのなにを知ってるのさ」

さやかはグッ、と言葉を詰まらせる。
杏子の過去は確かに彼女の一面だが、それが彼女の全てであるはずがないし、この殺し合いが始まってからの彼女のこともまだ知らない。
果たして彼女は、過去の経験から人間を殺すほど嫌いだったのか、それともこの殺し合いで嫌いになってしまったのか。
もしも後者だとしたらそれは何故?

―――殺したのは『人間』ですよ

ふとクラムベリーの言葉が脳裏を過ぎる。
巴マミを殺したのは『人間』だった。
それをクラムベリーが知るのは、マミが殺された場面を彼女が知っているからだ。
そんな彼女と杏子は共に行動していた。

となれば。

(まさか―――)

「青髪の娘。貴様は、『人間』を護るということでいいんだな?」


935 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:53:42 iqvGhIUg0

さやかが解に辿り着くのとほぼ同時、雅の問いかけが被せられ、思考の停止を余儀なくされる。
かつての魔法少女の真実を知る前なら、躊躇わず感情のままに肯定することが出来ただろう。

けれど、さやかもまた知っている。
この世には救いたくない人間なんていくらでもいる。
自分に尽くしてくれる女を消耗品の道具としてしか見ない男や、仁美を殺した少年、そしてあの巴マミを殺した者。
彼らの影が、さやかに躊躇いを喚起させる。

「あ、あたしは...」

言い淀む。
この四面楚歌から逃れるためなら、他の三人と同様に人間の撲滅を宣戦すればいい。
嘘でも真でもそう同意してしまえばそれだけで済む話だ。
けれども、いつも自分を気遣ってくれた親友が、こんな狂宴においても友情に殉じてくれた親友の影が、嘘をつくことすら押し止めてくれる。

「ハッ。まあいいがな」

さやかの返答を待たずして、雅は目を瞑り薄ら笑いを浮かべる。

「貴様が人間を護ろうが狩ろうが、私が楽しめるならば構わない。せっかくの機会だ。明以外にも楽しませてくれる者がいれば歓迎しよう」

雅の意外な言動に、さやかはキョトンとしてしまう。
てっきり、自分に反する者はすべからく排除するつもりだと思っていたが、彼の言動を要約すればそういうつもりでもないらしい。
であれば、最悪三対一の構図になりかねない現状、退くべきかもしれない。

「ただ」

その微かな気の緩みを突いたかのように。

「自衛できるほどの力も持たん輩であれば別だがな」

雅のブーメランはさやか目掛けて投擲された。

「なっ!?」

あまりにも唐突な襲撃に、さやかは反射的に構えていた剣を盾にする。
甲高く鳴り響く金属音。
その衝撃に、踏ん張る為の力すら込められていなかったさやかの足はたたらを踏み数歩の後退と共に勢いよく尻餅をついてしまう。


936 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:54:10 iqvGhIUg0

「くあっ」
「どうした?貴様はそんなものか?」

戻ってきたブーメランをパシ、と掴み、雅はゆったりと歩を進める。

「そうならば貴様は不合格といわざるをえんな。他の参加者に食われる前に私が糧にしてやろう」
「ッ...のぉっ!」

飛び退き体勢を立て直すさやか。
雅は、ブーメランを持つ腕を振り上げ再び投擲し、さやかへの追撃を―――しなかった。
放たれた方向は左。目標は―――クラムベリー。

顔を傾け躱されたブーメランは、空を旋回し再び雅の手元に戻る。

「なんのつもりですか?」
「なに、ただのテストだよ。果たして貴様らが私に従うに値する強さがあるかどうかのな。いまのをかわせたあたり、そこの娘よりは素質がありそうだ」
「わかりやすい解説に感謝します」

上から目線の物言いに対しても、クラムベリーは不快感を顔に出さない。
どころか、浮かべていた微笑は崩れ、凶悪さすら醸し出す笑みへと変わる。

「お返しに私も試させて頂きましょうか。あなたが、巴マミのように私の闘争に足る存在であるかを」

タンッ、と跳躍し、雅との距離を詰めると同時、腹部に放たれるクラムベリーの拳。
雅は躱す素振りすら見せず、防御すらとらず、迫る拳をまともに受け、後方に吹き飛ばされた。

「み、雅様ァァァァ!!」

響く隊長の叫びも空しく、パラパラと砂粒が舞い降りる。


937 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:55:30 iqvGhIUg0

「その程度ですか?あなたこそ、口の割には実力不足の言葉が似合いそうですが」
「これは手厳しい。ならば、貴様の不満を打ち消す程度には頑張らねばな」

立ち上がり、口元を伝う血を拭い、ブーメランで切り掛かる雅。
振り下ろされる凶器に対し、クラムベリーは素手で立ち向かう。
ブーメランと盾のように翳された左腕はカキン、と音を鈍く響かせる。

クラムベリーは、右の拳を固め、雅目掛けて振るおうとするも、その雅の姿は確認できず。

僅かにブーメランへと意識が向いた刹那で何処へ消えたのか。

その解を出す前に、クラムベリーの右拳は、背後にまわっていた雅へと振るわれた。

パァン、と小気味良い音と共に鮮血が舞い、雅の上体がよろめいた。

「ぐがっ」

堪らず呻く雅に放たれるは、クラムベリーの後ろ回し蹴り。
無防備な胸板に振るわれたソレは、再び雅を後方に吹き飛ばし地面を舐めさせる。

「ッ!」

同時、拳に走る痛み。
見れば、叩き込んだ拳の皮が千切られ、中の肉が露出し血が流れ出していた。

「フム。なかなか美味いじゃないか」

もごもごと口を動かす雅を見て、クラムベリーは理解する。
拳を叩き込んだあの瞬間、雅に皮を食い破られたのだと。

(面白い)

クラムベリーの笑みは愉悦に染まる。
やはり戦いは同等の力で行われるのが最良だ。
眼前の男は自分の望む闘争に相応しい存在であるようだ。

もっと味わいたい。もっと拳を重ねあいたい。今すぐにでもあの男を蹂躙したい。

(けれど、私はひとつの闘争で満足はしたくない)

湧き上がる闘争の衝動を抑え、クラムベリーはフゥ、と一息をつく。


938 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:56:01 iqvGhIUg0


(す、すごい...)
「5秒」

眼前の攻防の激しさに呆気にとられていたさやかに、クラムベリーは囁くように語りかける。

「あなたが起き上がるまでにかかった時間です。巴マミは本気でない時でも3秒以内には立ち上がっていましたよ」
「あんた...?」
「巴マミは美しく、気高く、強い魔法少女でした。あなたはまだ未熟です。いま喰らったところで甲斐がない。その実が熟す時を心待ちにしています」

自分の言いたいことを告げるだけ告げると、クラムベリーは駆け出し、雅もまたそれを迎え撃つ。
互いの力量は既に測ったのだ。互いに、ここで仕留めるつもりもないのだが、クラムベリーは巴マミとの、雅はぬらりひょんとの戦いでの消化不良感を満たさずにいられなかった。

「まったく...勝手に盛り上がっちゃってさ」

闘争という名のじゃれあいを遠目で眺めつつ、呆れたようにため息をつく杏子。
杏子にとって闘争など合理的に進め、さっさと片付けるべきものである。
いまの段階で雅にもクラムベリーにも争う理由などないというのに、ああも徒に体力を消耗する気がしれない。

(まあ、あのぶんじゃ気が済んだら終わるだろ)

あほくさ、と杏子は退屈そうに欠伸をする。


939 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:56:19 iqvGhIUg0

「...それで、あんたはどうするのさ」

ジロリ、と視線をさやかに移し、雅に代わり杏子が問いかけなおす。

「あんたの友達が人間で、ここに連れて来られてるのは知ってる。あいつらはどうかは知らないが、あたしはわざわざあいつまで狩るつもりはないよ」
「!」
「なに意外そうな顔してるのさ。あたしは自分のためだけに戦うって言っただろ。あんたの友達なんて殺すつもりも護るつもりもないさ。
それに、クラムベリーはともかく雅はあたしも気に入らない。ここで殺しはしないが、精精、同盟だけ結んで一緒に行動はしないだろうね」

杏子はまどかを殺すつもりがない。
それだけで、さやかの葛藤は薄らいでいく。
そもそもの話、葛藤の大半がまどかの存在なのだ。
彼女の安全が確保されていれば、この会場の『人間』を排除することに反論する意義も薄くなる。

同盟するにしても、雅とクラムベリーはともかく、杏子ならまだ信頼はおける。
ならば、杏子と同盟を組み、『人間』を排除しマミと仁美の仇をとることこそが最善の道なのではないだろうか。

(でも...)

けれど、もしも他の『人間』がもっとまともな者が多かったら。そのまともな者がまどかと親しい関係になっていれば。
自分としてはその人も助けたい。この殺し合いが終わってもまどかと共に一緒にいてほしい。
だが、彼らは違う。たとえ同盟者の友人であっても躊躇いなく殺すだろう。
彼らは良し悪しに関わらず、『人間』が嫌いなのだから。
彼らに同行し、いざというときにだけ止めるという芸当も、実力に差がある自分にはできまい。
唯一自分の味方をしてくれそうな隊長も、雅がいればあちらについてしまうことも考えれば、この選択肢は茨の道となるのは想像に難くない。

(あたしは...どうしたい?あたしは...)


940 : 人間なんて ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:58:24 iqvGhIUg0

【G-6/一日目/朝】


【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:疲労(大)、全身打撲(再生中)、出血(極大、再生中)、イカ臭い。お昼ね中。
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す
0:雅についていく
1:このおじさんおかしい...(小声)、でも好き



【雅@彼岸島】
[状態]:身体の至る箇所の欠損(再生中)、頭部出血(再生中)、疲労(大)、弾丸が幾つか身体の中に入っている。
[装備]:鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:バトルロワイアルのスリルを愉しむ
1:主催者に興味はあるが、もしも会えたら奴等から主催の権利を奪い殺し合いに放り込んで楽しみたい。
2:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
3:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
4:あのMURとかいう男はよくわからん。
5:丸太の剣士(ガッツ)、暁美ほむらに期待。楽しませて欲しい。
6:ひとまずクラムベリーとの『テスト』で欲求不満を解消する。

※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※魔法少女・キュゥべえの情報を共有しました
※首輪が爆発すれば死ぬことを認識しました。
※ぬらりひょんの残骸を捕食しましたが、身体に変化はありません。


【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中〜大)、全身及び腹部にダメージ(中〜大) 、出血(中)、両掌に水膨れ、静かな怒り、右拳損傷(戦いにあまり支障なし)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2 巴マミの赤首輪(使用済み)
[行動方針]
基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
0:ひとまず雅との『テスト』で欲求不満を解消する。
1:杏子と組む。共に行動するかは状況によって考える。
2:一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。が、状況によっては容赦なく交戦する。
3:ハードゴア・アリスは惜しかったか…
4:巴マミの顔を忘れない。
5:佐山流美は見つけ次第殺す。




【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、雅への不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1、鮫島精二のホッケーマスク@彼岸島
[思考・行動]
基本方針:どんな手段を使ってでも生き残る。そのためには殺人も厭わない。
0:さやかの返答を聞く。答えにいっては一緒に行動してやるかもしれない。
1:クラムベリーと協定し『人間』を狩る。共に行動するかは状況によって考える。
2:鹿目まどか、暁美ほむらを探すつもりはない。


※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。
※魔法少女の魔女化を知りましたが精神的には影響はありません。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意、モズグスへの警戒心(中)
[装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢
[道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:危険人物を排除する。
1:人間を狩るか、狩らないか...
2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。
3:マミさん...


※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。
※スノーホワイトが自分とは別の種の魔法少女であることを聞きました。
※朧・陽炎の名前を聞きました。
※マミが死んだ理由をなんとなく察しました。

【隊長@彼岸島】
[状態]:疲労(大)、出血(小)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)、頭部に火傷
[装備]:
[道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢
[思考・行動]
基本方針:明か雅様を探す。
0:雅様と会えた!
1:明とも会えたら嬉しい。
2:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。

※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。
※朧・陽炎の名前を聞きました。


941 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 22:58:50 iqvGhIUg0
投下終了です


942 : 名無しさん :2018/08/16(木) 00:17:03 B56tUHeE0
投下乙です

さやかちゃんロクな対主催者に会えてなくてかわいそう、かわいそうじゃない?
異物だの邪鬼扱いされるひでに草


943 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:15:43 dZZyPa0Y0
久しぶりに投下します。


944 : I wanna be...(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:16:49 dZZyPa0Y0




リンゴォ・ロードアゲインという男にとって、果し合いとは刹那に終わるものである。
短期決戦の方が得意だから、というわけではない。
ただ、相手を殺せる武器を持ち、死を厭わぬ覚悟を有している男同士がぶつかれば、自然と決着は早く着いてしまうの

だ。

それはこの場においても変わらない。
例えあいてが蟲だとしても、彼の戦いは変わらない。

故に。

リンゴォとスズメバチ。
これが果し合いである以上、どちらが勝者にせよ、あと数分の内に屍を晒すことになるだろう。

ザッ。ザッ。

距離を詰めるたびに動悸が増し、手も震え始める。
それらは全て恐怖の表れでもある。
本来ならば、未熟者の証だと恥ずべきことなのだろう。

だが、この場においてはリンゴォはそれでよかった。

もともと、彼は自分が未熟であることを否定はしていない。
未だ自分が未熟者であるからこそ、彼は決闘で生き残り、己を高めていく意味を為せる。

つまり。

この戦いは、今までとなんら変わりない『己を高めるための戦い』であるということだ。


ビンビンビンビンビン

スズメバチにとって、己の命が懸かった戦いなど皆無に等しい。
何故なら、スズメバチとはゆうさくを刺し、注意喚起を促すための存在であり、途中でいくら反抗されても最終的には

ゆうさくを刺し画面から消えるというオチはお約束な展開だった。
だが、このバトルロワイアルではそうはいかない。定番のオチが用意されていない以上、自分が死ねば、そこで全てが

終わり、ゆうさくを刺すこともできなくなる。
そんな窮地にあって、初めてスズメバチは恐怖を抱き、生への執着が芽生えていた。

つまり。

スズメバチは、ここにきて、ようやく初めての闘争に臨むことになるのだ。


945 : I wanna be...(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:17:25 dZZyPa0Y0

ビンビンビン

ザッ ザッ

近づいていく、互いの射程距離。
先に動いた方が負けなのか、あるいは勝利か。
それすらもわからない中で―――――動いたのは、スズメバチだった。

ブリュッ ボンッ。


ひくついた臀部から発射される毒液は、極小の水滴である。眼前まで来てようやく輪郭がわかる程度の大きさだ。
空気中に撒布されるそれは、決して容易く視認できるものでなければ紙一重で避けられるものでもない。
身体能力的には人間の域を脱していないリンゴォならばなおさらだ。

回避は困難。そして、皮膚が弱いリンゴォであれば飛沫であれど受けたくないものである。それは、リンゴォ自身も理

解している。

だからこそ、彼は敢えて踏み込んだ。

空いている左手で視界は保持したまま顔の前で盾のように構え、顔へのダメージを減らし、踏み込むことで首元を狙っ

たモノを服へとずらしたうえでだ。

驚愕で動きの止まったスズメバチの隙を突き、リンゴォは右手の銃を構え発射する。
その殺気を感じ取り、瞬時に後退するスズメバチ。
いくらゆうさくの顔がついているとはいえ、曲がりなりにもスズメバチだ。弾丸が発射される直前に距離をとることは

容易い。

更に、その離れ際に飛ばされた毒液をかわせるはずもなく。
液は、リンゴォの目、鼻、口元に付着し更なる激痛を齎した。


946 : I wanna be...(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:17:52 dZZyPa0Y0

その光景を見ていたゆうさくの頬を冷や汗が伝う。

(ま、まずいですよ...)

現状、どう見てもリンゴォに勝ち目はない。
リンゴォの武器は銃であるのに対して、スズメバチはあの一撃必殺の針と毒液。

射程距離自体はリンゴォの銃の方が長いが、実際に有効打となる距離自体はスズメバチの毒液の方が勝っている。
加えて、スズメバチは小柄でスピードもあり、小回りが利くのに対して、リンゴォは細身とはいえそこそこの体格だ。
動き回る小さな的と動きの少ない大きな的では断然後者の方が当てやすい。
あのスズメバチが接近をためらうほどの射撃の腕前は流石というべきだが、それでもスズメバチを捉えるには足りない


だが、リンゴォは退かない。それが彼の流儀であり生き方だから。

ならば、彼を助けるために邪魔をする権利などあるはずもない。
この場は彼に託して去るのが吉だろう。

ゆうさくは、未だうずくまるスノーホワイトへと視線を向ける。

だが、そこにいたのは彼のよく知る純白の少女ではなく、茶髪のごく平凡な少女だった。

「えっ、スノーホワイト?その姿は...」
「へ、あ、あれ?」

ゆうさくに言われて、変身が解除されていたことにようやく気がつく。
魔法少女のスノーホワイトではなく、女子中学生の姫河小雪の姿になっていたことに。


947 : I wanna be...(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:18:17 dZZyPa0Y0

「お、おかしいな。変身を解いてなんかないのに」

そう。ここで彼女が変身を解くメリットなどどこにもない。
変身さえしてしまえば身体能力は、大幅に増し、多少の刺激にも耐性がつき、疲労も感じにくくなる。
だが、彼女は解いてしまった。
己の意思ではなく、スズメバチにもたらされた死への恐怖が無意識のうちにそうさせた。
変身してしまえば、あのスズメバチに向き合わなければならなくなる。あの"死"により近づいてしまう。

それを本能で察してしまったからこそ、全身が震え、魔法の端末へと伸ばされた指は止まってしまう。

(は、早く、はやく変身しないと)

変身して――――どうする。

リンゴォを護る。どうやって。
彼は自ら望んで戦っている。スズメバチも、自分が生きるために必死になっている。
言葉でどうにかなるものではない。そんな彼らをどう助けろというのか。

...方法は、ある。
リンゴォを殺させず、スズメバチも殺さなくて済む方法が。
けれど、身体が、心が否定する。あんな恐怖を味わいたくないと悲鳴を挙げる。

でも、動かなきゃいけない。清く正しく美しい魔法少女にならなければいけない。

(私が、私は―――)

震える指が液晶にかざされる。

瞬間。

温もりが、彼女の掌を包んだ。

「...恐いときは恐いっていえばいい」
「ゆうさく、さん...」

ゆうさくは、そっと優しく重ねた掌から魔法の端末をそっと掠め取った。

「なにを」
「子供は大人に頼ればいいんだ」

ゆうさくは小雪に微笑みかける。
彼女には、そんな彼の笑顔が太陽よりも眩いものに見えた。


948 : I wanna be...(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:18:54 dZZyPa0Y0

幾度もの攻防の後。

リンゴォは蹲りもだえ苦しんでいた。
もとより肌の弱い彼にとっては、先の片腕の犠牲だけでも耐え切れるようなものではなかったのだから当然だ。

息を切らしつつ、齎されるであろう毒針へと備える。
ここから相打ちに持ち込むことはできるかもしれない。だが、彼はその結末を認めない。
勝者には糧を。敗者には死を。それが彼にとっての果し合いであり、それは自分も例外ではない。
あのスズメバチは見事に生死の境界線においてリンゴォを下したのだ。

(すまないな...一方通行。せめて横槍の清算はさせておきたかったのだが)

事の発端は、スズメバチが不意打ちで一方通行を殺害したことからだ。
ならばこそ、せめてこのハチを討ち取ることで彼との果し合いの穢れを祓いたかった。

だが、如何な背景を抱いていようとも負ければそれまでだ。

今まで自分が果し合いの果てに命を奪ってきた者たちにどんな背景があるかはわからない。

平凡ながらも温かい家庭があったのかもしれない。
幼い頃から夢見ていた職に手を就けたかもしれない。
多くの部下を抱えた有望な上司だったかもしれない。
幼い頃の虐待を乗り越えてきたかもしれない。
困っている人々の助けに己の全てを費やしてきたかもしれない。


そんな背景があるかもわからない人々をリンゴォは葬ってきた。
そんな自分だけが、己の望みを完遂できるなどとは思っていない。


敗者は勝者の糧になる。
それが彼の定めた果し合いのルールであれば、彼にそれを違う資格はない。

ふと、脳裏に浮かんだスノートワイトの顔と誰かの影をかき消すように、眼を瞑り毒針を受け入れようとした。









そのとき、なにかが変わった。


949 : 恩人を護るためにスズメバチに刺されるゆうさく ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:19:58 dZZyPa0Y0


リンゴォは、異変を肌で感じ取った。
眼を開ければ、そこにはスズメバチの姿はない。

『あー、ごきげんようおめーら。誰だって顔をしてると思うが、この殺し合いの進行役を勤めてるヤツだってことを認

識してくれればそれでいい』

流れ始めた放送も耳に入らない。

ビンビンビンビンビンビン


背後より、一定のリズムで奏でられる羽音に、リンゴォは思わず振り向いた。

そこには、自分にトドメを刺すことなく通り過ぎていったスズメバチの背中。
そして、その向かう先には、ゆうさくが己の胸元をまさぐり立ち尽くしていた。


馬鹿な、と思う暇すらなくスズメバチはゆうさくへと近づいていく。


「ダメ...」

小雪は必死に声を絞り出す。
ゆうさくがやろうとしていることはわかってしまったから。

「やめて...!」

それは彼女が考えていたことだから。
本来なら、か弱き人々を護る魔法少女の役目だから。

今すぐに駆け出し、ゆうさくを護らなければいけない。
しかし、死への恐怖が彼女の膝を笑わせ、ロクに力をこめることすら出来ず転んでしまう。


950 : 恩人を護るためにスズメバチに刺されるゆうさく ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:20:29 dZZyPa0Y0


ビンビンビンビンビンビン



そんな彼女に申し訳ないと思いつつ、ゆうさくはスズメバチへと向き合う。

(恐い)

何度経験しても決して慣れぬこの恐怖。
本当なら逃げ出したい。どうにかして生き延びたい。
けれど、そうやって逃げ続ければ、今回のスノーホワイトやリンゴォのように被害は拡大していく。
彼女のような、『普通』の女の子にまで死の恐怖を植えつけてしまう。

(そんなことをして生き残っても、カミさんに顔向けできないもんな)

ならば、『死』の経験者である自分がこうするのがベストだろう。


ビンビンビンビンビンビン


(リンゴォさん。勝手だけど、あの子のことを頼むよ)

スズメバチの向こう側で、なにかを叫ぼうとしているリンゴォに微笑みかける。
お互い、信頼と呼べるものを築くには共に過ごした時間は短すぎる。
しかし、彼ならば、なんだかんだ言っても彼女に救われた恩は返してくれると、先の救援を見て確信していた。
少なくとも、あの仏像のようなヤツと遭遇した時、彼女を護れる可能性があるのは非力な自分ではなく彼だ。



ビンビンビンビンビンビン


ついに目前にまでやってきた。
嫌だ。恐い。やめておけばよかった。
そんな後悔が瞬時に駆け巡り、泣き出しそうになる心を、しかし噛み潰す。

スズメバチの針が乳首に迫る。


951 : 恩人を護るためにスズメバチに刺されるゆうさく ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:20:59 dZZyPa0Y0

「逃げてゆうさくさん!!!」

喉が潰れんほどの小雪の絶叫を受けた瞬間、フッとゆうさくの身体が軽くなったような気分になる。

(いや、軽くなったのは―――ここrチクッ。

「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ↑↑↑」

乳首を刺されたゆうさくは微振動と共に悲鳴が上ずり青ざめていく。

ビンビンビンビンビンビン

もはや自分の仕事はここまでだと言わんばかりに悠々と飛び去っていくスズメバチ。

ゆうさくの脳裏からはもはやスズメバチのことなど消えうせ、代わりに様々な人々の声が飛び交っていた。


『草』
『あーイクッ』
『乳首感じるんでしたよね』
『こいついつも刺されてんな』
『あーねんまつ』
『ウ ン チ ー コ ン グ』

どれもが聞き覚えのある言葉だった。
言葉の主との面識は一切ない。
しかし、彼らは人が死にそうだというのにゆうさくが刺されるといつも嘲笑し、嗤っていた。
最初のうちはなぜ嗤うのかと怒りを抱いたが、死を繰り返すうちに残ったのは、恐怖と傍観だけだった。
例え死への結末が定められていても、誰も助けてなどくれない。彼らは笑うだけだから。
自分の死は彼らにとっての玩具だから。飽きたらその存在すら忘れてしまう程度のものだから。


全身から力が抜ける。何百万と刻まれた、死への虚脱感。

なにも変わらないいつもの最期の光景の中、彼は穏やかに微笑んだ。

なぜなら。

「ゆうさく...さん...!」

笑われるだけだった彼の死を悲しみ嘆く者がいることを知れたから。

涙を流してくれた彼女の存在は、絶望と死の輪廻の中の一筋の『救い』となったから。






「アー逝くッ」

ちーん。




『同作品のジンクスには気をつけよう!』(♪陽気なBGM)



【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ 死亡】


952 : :I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:22:30 dZZyPa0Y0




暗闇が晴れ、三人に増えたゆうさくも消え、最後の注意喚起が終わった。
少女はただ縋りつき、すすり泣き、倒れた男の名を呼び続けていた。

そんな光景を、リンゴォはただ呆然と眺めていた。

「......」

ゆうさくが刺されたとき、リンゴォは動かなかった――いや、動けなかった。
なにか運命的な力が働いた部分もあるにはあるが、それ以上に、見とれていたのだ。
ゆうさくの端整で誠実な顔立ち―――その背後の輝きに。

(あいつのしたことは...公正なる果し合いへの侮辱だ)

そう。
戦いの横槍はリンゴォの理念に最も反し軽蔑すべき行為だ。
故に、ゆうさくの行いには怒りしか覚えない―――本来の自分ならば。

だが、ゆうさくには嫌悪を感じなかった。
彼がリンゴォとスノーホワイトを救ったのは事実だろう。そのことへの感謝の念があるとでもいうのか?
公正なる果し合いを謡いながら、結局は保身を重んじ我が身が可愛いだけの男に過ぎなかったとでもいうのか?

『ちげぇだろ』
「ッ!?」

振り返る。そこには誰もいない。
辺りをキョロキョロと見回しても、いるのは少女1人と骸だけ。

(幻聴か...?)

『保身ならあのホモかガキを真っ先に殺せば済む話さ。なンでてめえが動けなかったか...そンな真っ当な理由なんか

じゃねェ』
「......」

声は間違いなく、あの男、一方通行のものだ。
彼は死んだ。
これが幻聴であることを認識しつつも、その声から意識を離すことができず聞き入ってしまう。

『もう一度聞いてやるぜ、リンゴォ・ロードアゲイン。テメェは俺を殺してなにになりたかったんだ?』
(俺が、なりたかった、もの...)

あの時の一方通行の言葉が、哀れむような眼が脳内でぐるぐると渦巻く。
公正なる果し合いのもと、男の世界に殉じ生きてきた。その果てに生き残っていれば、確かな『男』として完成される

筈だ。そこには一片の迷いもなく、この道を進んだ後悔もない。

ならばいまの状況はなんだ。ゆうさくに見惚れていた自分はなんだ。
あの男の死は、自分の道とは違う答えを示しているとでもいうのか?

(わからない...俺には...)


953 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:22:59 dZZyPa0Y0

――――ビンビンビンビンビンビンビンビン


「ぇ...」

悪魔の羽音が鳴り響き、小雪の声が小さく漏れる。
顔をあげれば、そこにはゆうさくと同じ顔―――ゆうさくが己の命と引き換えに脱出させた筈のスズメバチが迫ってき

ていた。



ゆうさくを刺したあと、スズメバチは困惑していた。
ゆうさくは刺した。先ほどのSSタイトルのオチとしてゆうさくも注意喚起して散った。
あとはいつものように画面からフェードアウトし、この殺し合いのルールに従えば晴れて生還できるはずだった。
だが、主催からはなんのアクションもない。脱出できる気配など微塵もない。


『赤首輪を殺して安全に脱出するか、命をかけたギャンブルに挑むのか、それは自分で決めるんだな』

少年の声が響き渡る。
そういえばさっきからなにか話していた気がするが、ゆうさくを刺すのに夢中でほとんど聞いていなかった。

『あぁっと、肝心なことを忘れてた。赤首輪の報酬を手に入れる条件だけどな、報酬を受け取る権利が与えられるのは

「一番近くにいた、赤首輪を殺したやつだと認識されたとき」だ』

!?

少年は衝撃の事実を告げた。
赤首輪を殺しただけでは脱出できないというそれを忘れちゃ...駄目だろ!と言いたくなるような新事実だ。
つまり、ゆうさくを刺したあといつも通りに飛び去ってしまった自分には脱出の権利はないということだ。

―――てめえふざけんなよ、こんなポカして主催が勤まると思ってんのかよ

そう非難を浴びせてもどうにもならない。
もはやスズメバチが生還する方法は―――

『もちろん、結果が気に入らなけりゃ認識が完了するまでにその裁定を覆すこともできる。どうやって覆すかは、まあ

オメーらで考えてくれ。それもお楽しみのひとつだからな』

あった。
生き残れる方法は、まだ、すぐ側に。

―――あの時、ゆうさくに最も近い位置にいたのは、小娘だ。ヤツを殺せば、赤首輪の権利は自分のものだ。

スズメバチは急いで引き返し、再び赤首輪である姫河小雪の前に姿を現した。


954 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:23:36 dZZyPa0Y0

そんな事情を知らず、放送をロクに聞けていなかった小雪の腹部から髪先まで怖気が走る。
ゆうさくは命をかけてスズメバチを脱出させ、リンゴォと自分、そしてスズメバチまでも救おうとしてくれた。
けれど、スズメバチが脱出できていないということは、その行為が失敗したということ。

つまり

「―――――!」

ゆうさくの死は、ただの無駄死に―――


ザリッ

泣き喚きかけた小雪の耳に、音が届いた。
西部劇のガンマンが、ここぞとばかりに土を踏みしめるような、どこか頼もしき足音が。

「リンゴォ、さん」
「......」

リンゴォは、小雪に背を見せるようスズメバチに立ちはだかっていた。
小雪には、まるで映画のヒーローのように大きな背中だった。

「駄目、です...リンゴォ、さん」

そんな傷ついた身体で戦ったら殺されちゃう。
そう続けようとした言葉も喉からしゃくりあげる嗚咽が踏み潰す。

止める言葉もないまま、スズメバチが急接近し、再び戦いが始まる。
光景は同じ、されど両者の内面は全く違う。



―――あんな傷ついた雑魚ヒゲには遅れをとるはずもない。少女の方も、腑抜けているいまがチャンスだ。

スズメバチは生きて帰れるという焦燥の元、先ほどまでの冷静さは鳴りを潜めている。

一方でリンゴォもまた、先刻までとはまるで違っていた。

(何度も敗れ、命を救われ、恥知らずにも勝者に銃を向ける...なんて最低な男だ)

自分だけが何度も立ち上がる権利を与えられ、己の課したルールでさえ破っている。
いまの行為は、この戦いはまるで公正ではない。そんな自分を汚らわしく思う。
だというのに、何故いつもの震えがないのか。
何故、こうも肩が軽いのか。
何故、ゆうさくのあの輝きが脳裏にこびりついて離れないのか。

(...知りたい)

いまのリンゴォは、公正なる果し合いのため定めた己のルールさえ護れなかった敗北者だ。
『男の世界』において存在すら許されぬ愚物だ。生きた屍だ。
ならば。
男を捨てれば、男の世界を忘れ去れば。
こんな自分にもなにかが見えるのか。一方通行の問いへの答えは出るのか。

『テメェは俺を殺してなにになりたかったんだ?』

(俺の目指していたものとはなんなのか―――この弾丸で、見極める)


955 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:24:05 dZZyPa0Y0

瞬間。

リンゴォの、スズメバチの視界には全ての光景がスローモーションに映った。
スズメバチの射程距離。
肛門がヒクつき、毒液がまさに発射されんとした瞬間、リンゴォの銃が抜かれ構えられた。
スズメバチもリンゴォ自身も驚愕する。そこはまだ射程距離外だろうに、と。
いま撃てば弾丸は大きく外れ、スズメバチに掠りもしないだろう。

だが、リンゴォは引き金を引いた。
自分でもわからない。だが、奇妙な確信があった。これでいい、と。

放たれた弾丸は、真っ直ぐに飛んでいく。

互いの思考を挟む余地なしに。

スズメバチの肛門がヒクつくももう遅い。

弾丸はスズメバチの首輪に着弾し―――爆ぜた。

その身体が四散した瞬間、スズメバチの肛門からウルトラマンが死ぬときに射精する要領で放たれる。
毒液ではなく、毒針。
その必殺の武器は、リンゴォの乳首に刺さり、ガクリ、と膝を着かせた。

刹那の戦いの果てに、勝者はいなかった。


956 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:25:15 dZZyPa0Y0



リンゴォは自分が死ぬことを自覚する。
これでは相打ちだ。いま、己のスタンド『マンダム』で時を戻せばそんな決着もなかったことになり、勝者であるスズ
メバチに殺され『公正なる果し合い』を完遂できるだろう。

だが、もうそんな気にはなれなかった。
この結末に納得しているかのように、先ほどまでの力が嘘のように消えていく。

「......」

一方通行の問いの答えはまだ出ていない。
あと数秒の命、空虚のまま終えるのも、己の道を、信念を違えた敗北者らしい最期だろう。
脱力感に包まれリンゴォの瞼が閉ざされていく。

「駄目!」

投げかけられた叫びにリンゴォの意識が薄らと向けられる。
その半分ほど閉じられた視界に映るのは、涙を浮かべる少女。

「死なないでリンゴォさん!!」

少女の涙が零れ落ち、リンゴォの鼻筋を通り瞳にまで垂れていく。
その水滴を、温もりを感じた瞬間、リンゴォの脳裏に走馬灯のように光景が流れ出す。

戦場から脱走した父が死に、その煽りを受け裏切り者と蔑まれ、貧困の中、足手まといのはずの自分を連れて共に遠方
へ逃げてくれた母と二人の姉たちとの。
病床に伏せることが多くとも、呆れず多くの病院にあたってくれた母との。
口の中を切り呼吸困難に陥った自分の手を優しく握ってくれた姉たちとの。

そんな光景が、とめどなく流れていき、彼女たちとの過去が、眼前で涙を流す少女やゆうさくと重なっていく。

そして解った気がした。ゆうさくから感じた輝きは、自己犠牲の美などではない。
彼女たちから与えられたような、打算も何もない温もりであることを。
戦いの前にいつも起こる震えは、その一歩を踏み出す度にかつてのソレから遠ざかるのを恐れていたのかもしれないこ
とを。
もしかしたら...公正なる果し合いにおいてわざわざ排除するような自分の能力『マンダム』も、そんな過去を欲する
が故に発現したものなのかもしれないことを。


957 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:26:51 dZZyPa0Y0

「みと...る...もの、か...」

リンゴォの声にならぬ呟きと共に、ツゥ、と涙が頬を伝う。

人としてこの世の糧となるため。
そうして幾つもの屍を築いてきたうえで、自分が欲したものが、『男の世界』などではなくこんな生ぬるいものだった

などと。
自分の信じた道が嘘だったなどと。
ゆうさくを止められなかったのは、彼に見せ付けられた無償の愛情が己の汚れた光輝く道よりも高潔であったからなど

と。
最期の攻防において、自分の為ではなく他者の為に戦ったからこそ、射程距離外からスズメバチに当てる芸当ができた

のだと。
ふざけるな。
そんなもの認めてたまるものか。...なのに、心のどこかで安らいでいくのを感じてしまう。

「ぁ...逝...く...ッ」

閉じられた瞼の裏で浮かび上がった一方通行が、同情や自嘲の混じった複雑で寂しげな笑みを浮かべ、そこでリンゴォ

の意識は闇に落ちた。


...リンゴォ・ロードアゲインが最期に見出したものが、欲したものが真か虚構かはもう誰にもわからない。

彼の頬を伝った涙は、少女が流したものなのか。彼自身のものなのか。それすらも知るものはいない。

解ることはただひとつ。

目の前の現実に対して、少女があまりにも無力だったこと。

男たちが仮に救いを感じていたとしても、それが少女には伝わらなかったこと。

だから、少女はただ泣き喚くことしかできなかった。



【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ 死亡】
【リンゴォ・ロード・アゲイン@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】


958 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:27:40 dZZyPa0Y0

【F-3/一日目/朝】

【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】死への恐怖(絶大)、ゆうさくやリンゴォを喪った悲しみ(極大)
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない…
0:???
1:同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2:そうちゃん…
※参戦時期はアニメ版第8話の後から
※一方通行の声を聴きました。
※死への恐怖を刻まれました。
※変身が解かれている状況です。
※ゆうさくを殺した人物及びスズメバチを殺した人物と認識されました。が、スズメバチは首輪を爆破されて死んだた
めスズメバチの分の権利を行使することは不可能です。


959 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:28:51 dZZyPa0Y0

...

...

...

...

...

...


―――ビンビンビンビンビン

また、この音が聞こえてきた。戻ってきてしまった。

やはり恐い。どうしても慣れることなんてできやしない。

きっと、俺の死を悲しむヤツなんてどこにもいないのかもしれない。

でも、あの時彼女が流してくれた涙は、充分に俺を救ってくれた。

それだけで俺もまだやっていける。

...俺は君を応援してるよ。いつかきみが笑えるようにと。

だから、絶対に死ぬんじゃないぞ、スノーホワイト。

じゃあな!


960 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:29:22 dZZyPa0Y0

...

...

...

...

...

...


あれ?音が、やnnnnnnnnnnn――――A problem has been detected and windows has been shut down
to prevent damage to your computer.

The problem seems to be caused by the following file: setupdd.sys

PAGE_FAULT_IN_NONPAGED_AREA

If this is the first time you've seen this stop error screen,
restart your computer. If this screen appears again,follow these
steps:

Check to make sure any new hardware or software is properly
installed. If this is a new installation,ask your hardware or
software manufacturer for any windows updates you might need.

If problems continue,disable or remove any newly installed
hardware or software. Disable BIOS memory options such as
caching or shadowing.

If you need to use Safe Mode to remove or disable components,
restart your computer,press F8 select Advanced Startup Options,
and then select Safe Mode.

Technical information :
*** stop;0x00000050(0xFC659060,0x00000000,oxFC659060,0x00000000)
***setupdd.sys -Address F763BB1D base at F76150000, Datestamp 3b7dB507


961 : I wanna be...(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:29:50 dZZyPa0Y0

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―――本日は、御アクセス頂き、まことにありがとうございます。
大変申し訳ありませんがこの動画は××の為、ご覧になることができません。
またの御アクセスをお待ちしております。


【スズメバチに刺されるゆうさく@真夏の夜の淫夢シリーズ 削除】






ずずずっずぞぞぞぞ〜

ぷはー

今日もイイ天気

デュフフフ


962 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/10/12(金) 00:30:17 dZZyPa0Y0
投下終了です


963 : 名無しさん :2018/10/12(金) 03:01:09 O2PpUml.0
投下乙です。ゆうさくとスズメバチはどちらもホモガキによる宿命に捕らわれていた被害者だったのかもしれませんね…
リンゴォは男の世界を目指していた自分の方向性に一つの答えを見出だしたようで…これって、勲章ものですよ
スノーホワイトは参戦時期の都合上こうなるのもしょうがないね、でもここから一転攻勢できる素質はあるから魔法少女どうにかしろ(無責任)
ラストの文は巧く説明できないけど背筋がぞわっときた。ヴォイスドラマ企画がこのゲームに関わっている可能性が微粒子レベルで存在する…?


964 : 名無しさん :2018/10/12(金) 04:42:25 Gn0Yvv/k0
投下乙ナス!
途中のタイトルであっ(察し)となり、その後のゆうさくの死に涙がで、出ますよ…
そんなホモの生き様を見たリンゴォも最期には救われたのだろうか…幻想として登場し答えを示してくれた一方さんのナイスアシストいいゾ〜これ
そしてこのロワの黒幕は某美大落ち姉貴だった…?


965 : 名無しさん :2018/10/14(日) 14:12:42 fpxjjIbs0
投下乙です。
なんだこの人間賛歌は、たまげたなあ……
ゆうさくをとりまく因縁が収束しここだけで一つの物語の終着点になっているのがいいですね。


966 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/14(水) 23:57:22 kwudH58o0
感想ありがとうございます。
このロワが立てられてからもう2年です。とても早いです。投下します


967 : ジレンマ ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/14(水) 23:58:03 kwudH58o0

「左衛門さんたちも殺し合いには反対なんだな?」
「ウム。ワシにも仲間がおる。彼奴らを捨て置くことはできんからのう」

SMバー平野の一室で遭遇した当麻とラ・ピュセル、左衛門と吉良の二組は、互いに名乗ったあと、腰を落ち着かせつつ情報交換に勤しんでいた。

「そういう主らも、乗っておらんということは仲間がおるのじゃな?」
「ああ。俺もこいつも探してる奴らがいる」

当麻はさりげなくラ・ピュセルを自分の後ろに置き、己の身体を盾にしつつ話を進める。

「みんなこいつと同じくらいの歳の女の子なんだが、どこかで見てないか?」
「いや、ワシらはくさそうな男と会っただけじゃ」
「くさそうって...臭いが独特とかじゃなくって?」
「うむ。別に匂いが強いわけではないのだが、なぜか『くさそう』と思ってしまう男じゃ」
「言ってることがよくわからないな...吉良さん、あんたから見てどうなんだ?」

当麻がこれまで会話に加わっていなかった吉良に質問をふるも、吉良の返答はない。
ただ呆然と彼方を見つめているだけだ。

「...おーい、吉良さん?」
「......」
「吉良さん」
「ッ...す、すまない。すこしボーっとしてしまっていた。私も殺し合いに賛同するつもりはない。家に戻りたいとは思うが、他の人を殺してまでは」
「その話はもう終わっておる」
「そ、そうか。ええと、なんの話だったかな?」
「吉良さんたちが会った男は『くさい』わけじゃなくて『くさそう』と思う男なのかって話だ」
「ああ。あながち間違っていないんじゃないか?」

明らかに動揺している吉良に、当麻とラ・ピュセル、左衛門までもが訝しげな目を向ける。
その視線を受けた吉良は、ふぅ、と小さく息を吐き、額に手を添えた。

「君達が疑うのも無理はない。ただ、私は見ての通り普通のサラリーマンで、こんな経験は初めてなんだ。恐怖はあるし、緊張もしている。それ故に常に最善を尽くせるわけじゃない。その辺りは理解してもらいたい」

先程とは一転、うって変わって落ち着いたその様子に、当麻もラ・ピュセルも一層不審感を抱く。
が、本当にパニックに陥った一般人の可能性も顧み、二人はひとまずその不信感を頭から振り払った。

「...わかった。悪い、吉良さん」
「いや、この中で年長者は私なんだ。もう少ししっかりしなくちゃあな」

吉良が大きく息を吸い、改めて情報を整理していたその時だった。


『あー、ごきげんようおめーら』


突如、天より響いたその声に、四人は思わず天井を仰ぐ。


968 : ジレンマ ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/14(水) 23:58:26 kwudH58o0


「な、なんだ?」
「どうやら放送の様だ。何を伝えるかまではわからないが、この殺し合いに関することで間違いないだろう」

吉良の考え通り、声の主は殺し合いについて不足していたヶ所を説明し、ルールとして付け加えた。
その過程で、左衛門が記載漏れされていたことが判明したが、当麻たちがそこにツッコむ暇もなく放送は続けられる。

『今回の禁止エリアはC-2、E-8、J-3だ』
「ふむ。ここからはどこも遠い。煽りを喰らう事も無さそうじゃ」

左衛門がそうぼやけば、次いで知らされるのは死者の名だ。

『薬師寺天膳
志筑仁美
南京子
一方通行』
「!」

一方通行。その名が呼ばれた瞬間、当麻は思わず息を呑んだ。
あの学園都市第一位の男が、死んだ。
その身を持って彼の脅威を体験していた当麻は、衝動のまま壁を殴りつけようとするも、その腕は吉良に掴み止められた。

「それは徒に手を傷付けるだけだ」
「......」

沸騰した当麻の脳内が些か落ち着きを取り戻し、思考もどうにか平静になる。

「...悪い、吉良さん」

そう彼に謝り、ふぅ、とひといきつく。

一方通行。
かつて、御坂美琴の複製(コピー)である妹(シスターズ)を一万人殺した男。
当麻は彼と戦い、勝利を収めたことがある。
が、それは当麻の右手の幻想殺しと御坂たちの協力があってこそだ。
本来ならば、学園都市一位に恥じぬ『最強』を誇った男には間違いない。
その男が、死んだ。おそらくだが、誰かに斃された。
当麻のように幸運が重なったか、あるいはなんらかの不運が重なったか。
一方通行が殺し合いに乗ったのか、あるいは乗った者に狙われたのか。
なにもかもわからないが、いまの当麻が言えることはひとつ。

(どうしてあいつに勝てるくらいの力がありながら、こんな殺し合いを肯定しちまうんだよ!)


969 : ジレンマ ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/14(水) 23:58:48 kwudH58o0

もし一方通行が殺し合いに乗っていなかった場合、殺した者は殺人肯定者に他ならない。
彼に勝てるほどの力がありながら、殺し合いに乗る―――その力を守るために使えば、犠牲者なくして殺し合いを止めることができるかもしれないのに。
それに、死亡者は一方通行だけではない。
全員を聞き遂げたわけではないが、少なくとも複数人の殺人肯定者がいるはずだ。

(はやくこんなバカげたことは止めねえと)

人を殺す。
如何な事情であれ、それは多くの悲しみを生み出す所業に他ならない。
当麻は決して正義の味方ではないし絶対的なヒーローなんかでもない。
ただ、人が悲しみ傷つくのが嫌なだけの人間だ。
だから、この会場にいる御坂や黒子、ここにいる岸部たちやその仲間が涙を流す前に、殺し合いをぶち壊さなければいけない。
当麻の拳は、無意識のうちに強く握りしめられていた。

そんな彼の背中を見て、ラ・ピュセルは静かに唇をかみしめていた。

(僕は最低だ)

彼が放送を聞いて真っ先に思ったことは、『小雪が無事でいてよかった』だ。
それ自体は悪いことではない。問題は、その後だ。

(きっと、僕は小雪が呼ばれなかったことに安心して、死んだ9人も『思ったよりも少なくてよかった』と思ったに違いない)

本当なら、当麻のように犠牲になった人々を悼むべきなのに。
彼は、おじさんに虐待されたためか、あるいは既に死に瀕した経験があるためか、自分の周りのことしか見れなくなっていた。

(しっかりしろ、岸部颯太!もっと周りを見るんだ!この殺し合いを止めて、皆で笑顔で帰る!それが魔法少女だろう!)

パンパンと、己の頬を叩き、ラ・ピュセルは気を引き締め直した。


970 : ジレンマ ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/14(水) 23:59:17 kwudH58o0
そんな各々に動揺する当麻とラ・ピュセルを余所に、左衛門は顎に手をやりつつこれからの方針を考えていた。

(薬師寺天膳め。あやつ死におったか)

薬師寺天膳。
この殺し合いに連れてこられる前に豹馬が仕留めていたはずが、何故かこの殺し合いにも連れてこられていた男。
如何な術者かと不気味に思っていたが、まさかこんな短時間で討たれるとは。
あまりにも呆気ないというか、やはり他愛のない男だったのだろうか。

(まあよい。これであやつは確実に死んだ。となれば、伊賀の者は朧のみか)

能力は不明であるが、恐らくは伊賀の忍びの纏め役であった天膳の死亡は大きい。
朧は破幻の瞳にさえ注意しておけばただの小娘、実質的な戦力としては皆無。
それに比べ、こちらはまだ弦之介、陽炎、そして自分が残っている。弦之介も盲目とはいえ、心眼の心得があるため充分に戦力となるため、優勢なのは間違いなく甲賀だ。

(とはいえ、ワシらが帰れなければそれも意味なし...ここでこの小娘を殺して先に脱出することも出来るが...)

現状、赤首輪であるラ・ピュセルもそれを護衛する当麻も気が動転し隙だらけだ。
ここで毒針のひとつでも飛ばせば問題なくラ・ピュセルを殺すことができるだろう。

(ただ、現状では小娘との距離は吉良が一番近い。あの妙な人形を掻い潜り、奴を含めた三人を始末するのは骨が折れる)

吉良がラ・ピュセルの傍にいる以上、脱出の権利は吉良に譲ることになる。
それでは殺す意味がない。
それに、陽炎はともかく弦之介を置いて先に帰還するのは憚られる。
彼の目が視えぬのもそうだが、彼は性分が穏やかすぎるきらいがある。
その性格上、薬師寺天膳のような好戦的な相手ならいざ知らず、ここにいる上条当麻のような者がいればそちらの意見を優先してしまうだろう。

(まあそういう性分だからこそ、朧が伊賀者でなければと思いつつも見届けようとした者がいるのじゃがのう)

無論、弦之介とてただ甘いだけの男ではなく、非情にならなければならない時はしっかりと忍びらしく徹することはできる。
ただ、そこに至るまでの時間が長い懸念は消しきれないため、可能な限り迅速な判断を促すためにも合流してから彼を脱出させてやるべきだろう。

(なんにせよまずは弦之介様と陽炎との合流じゃな)

甲賀者としてにせよ、個人的な感情にせよ、やはり二人を捨てることはできぬ。
左衛門は、ひとまずはラ・ピュセルの首輪は狙うまいと決めた。

そして、吉良は。

「すまない。少し、トイレに行かせてもらえないか。改めて殺し合いだと聞かされると聊か身体が強張ってしまってね」


971 : ジレンマ ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:00:05 4lQCR5ME0




ラ・ピュセルに案内されたトイレにて、吉良は欲望を発散していた。

(まったく、上条当麻め。あの右手の価値に気が付いていないのか。危うくあの神のごとく清浄な手が傷つくところだったじゃないか)

ゴシゴシ、と吉良の右手が上下し吉良の息遣いも次第に荒くなっていく。

(ラ・ピュセル...あの可愛らしい手...上条当麻の右手...っく)

吉良の手の速さが増していき、呼吸は喘ぎにも似たものに変わってゆく。

そして。

「うっ!...あふぅ〜」

あっという間に、果てた。

そそりあがった欲望を全て吐きだした吉良は、少しの余韻に浸った後、トイレットペーパーで丁寧に処理をし、既に濡れていた下着を履き替え、手をキチンと洗いトイレを後にする。

「待たせたね。それではこれからの方針を決めることにしよう」

同行者たちの前に姿を現した彼の顔は、既にイチサラリーマンの仮面へと切り替わっていた。


972 : ジレンマ ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:00:49 4lQCR5ME0



【E-5/街(下北沢、SMバー平野)/一日目/早朝】

【ラ・ピュセル(岸部颯太)@魔法少女育成計画】
[状態]全身に竹刀と鞭による殴打痕、虐待おじさん及び男性からの肉体的接触への恐怖、同性愛者への生理的嫌悪感(極大)、水で濡れた痕、精神的疲労(大)、上条への好意
[装備]
[道具]基本支給品、だんびら@ベルセルク
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探す
0:虐待おじさんこわい。
1:これからの方針を決める
2:襲撃者は迎撃する

※虐待おじさんの調教により少し艶かしくなったかもしれません。


【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品、淫夢くん@真夏の夜の淫夢、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:これからの方針を決める。
1:御坂、白井と合流できれば合流したい。
2:一方通行を斃した奴には警戒する。
3:他者を殺そうとする者を止めてまわる。

※淫夢くんは周囲1919㎝圏内にいるホモ及びレズの匂いをかぎ取るとガッツポーズを掲げます。以下は淫夢くんの反応のおおまかな基準。
・ガッツポーズ→淫夢勢、白井黒子、暁美ほむら、ハードゴアアリス、佐山流美のような同性への愛情及び執着が強く異性への興味が薄い者。別名淫夢ファミリー(風評被害込み)。
・アイーン→巴マミ、DIO、ロシーヌのような、ガチではないにしろそれっぽい雰囲気のある者たち(風評被害込み)。
・クソザコナメクジ→その他ノンケ共(妻子や彼女持ち込み)。
判定はガバガバです。また、参加者はこの判定を知らされていないため、参加者間ではただの参加者探知機という認識になっています。
※吉良がガッツポーズに分類された可能性があります。




【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、スッキリ、ラ・ピュセルと上条当麻の手に心酔に近い好意、新しいパンツ(白ブリーフ)。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×1、ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出...したいが...ここは天国だ...抜け出すべきなのだろうか...?
0:これからの方針を決める。
1:少女(ラ・ピュセル)の手はこの世のものとは思えないほど美しい。上条当麻(少年)の右手は私が触れることすらおこがましく思えるほど神秘的だ。
2:如月左衛門、という奴と同行。秘密を知られたら殺す(最悪、スタンドの存在がバレるのはセーフ)が今は頼れる味方だ。
3:こんなゲームを企画した奴はキラークイーンで始末したい所だ…
4:野獣の扱いは親父に任せる。できればあまり関わりたくない。
5:左衛門の手も結構キレイじゃないか?
6:最優先ではないが、空条承太郎はできれば始末しておきたい。



[備考]
※参戦時期はアニメ31話「1999年7月15日その1」の出勤途中です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。
※絶頂したことで冷静さを取り戻しました。


【如月左衛門@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:特筆点無し
[装備]:甲賀弾正の毒針(30/30)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:弦之介や陽炎と合流してから赤首輪の参加者を殺して脱出。
0:これからの方針を決める。
1:吉良吉影という男と同行。この男、予想以上に強いのでは…?
2:甲賀弦之介、陽炎と会ったら同行する。
3:野獣先輩からは妙な気配を感じるのであまり関わりたくはない。
4:ラ・ピュセルは現状では狙わない。
[備考]
※参戦時期はアニメ第二十話「仁慈流々」で朱絹を討ち取った直後です。
※今は平常時の格好・姿です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。


973 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:03:02 4lQCR5ME0
投下終了です。

空条承太郎、野崎春花、朧、西丈一郎、相場晄を予約します


974 : 名無しさん :2018/11/15(木) 00:20:00 99TIN3e.0
投下乙です
三人がシリアスやってる中でKR兄貴はナニやってんですかね…。こいつ凄ェ変態だぜ?


975 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:27:21 CDCJ2sNE0
投下します


976 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:27:43 CDCJ2sNE0

「ヒィィィ!」

朧の悲鳴に、春花は慌てて振り返る。
彼女の身になにかあったのか、その不安は、ウィーンという機械の音にかき消される。

「う、腕が潰され...!」

涙目でばたばたと暴れる朧の腕は、血圧計に飲み込まれていた

「......」

春花は、その様子を見てなんとなく事情を察した
手分け...といっても、向かい合わせの棚だが、少し目を離した際に、朧が血圧計を見つけた。
彼女の生きた時代にはこのようなものはなかった。
それで、好奇心から手を入れてボタンを押してしまい、パニックを引き起こしてしまったのだろう

悲鳴を聞きつけ、バァン、と勢いよく戸を開けた承太郎も、その光景を見て察し、溜め息をついた

「春花殿、空条殿、私の腕が、腕が物の怪に!」
「...止めてやれ、野崎」

春花がコクリと頷き停止ボタンを押すと、朧の腕の圧力は瞬く間に引いてゆき、穴から腕を引き抜くと、腰が抜けたのかヘタヘタと座り込んでしまった

「な、なんでございますかこれは」
「これは血圧計っていうの」
「け、けつあつけい?」
「健康を見るために使うものだよ」

春花の説明に、食いつくように朧は聞き入る。
そんな二人の様子を見て、承太郎はここは春花に任せてもいいだろうと判断し、静かに部屋を後にする。

「ここに腕をこうして...」
「ほ、本当に大丈夫なのですか?」
「ちゃんと安全に計れるように作られてるから」

春花がボタンを押すと、血圧計は、通された腕を締め付け始める。
朧は奇妙な圧迫感にあわあわと戸惑うも、空いた手に重ねられた春花の掌の温もりに心を落ち着かせる。

数十秒の締め付けの後、解れていく圧迫感に朧ははふぅと大きなため息をついた。

「こ、これでよろしいので?」
「うん。あとはここの数値を見て...」
「えっと、百二十五と七十六...これはよい結果なのでございますか?」
「え?えっと...ごめんなさい、私もよくわからない」
「左様でございますか。...しかし、なんともまあ...」

朧の眼がキラキラと輝き始める。
彼女の生きる時代においては、未だ電気すら通っていない。
そんな彼女にとって、この病院に溢れる機器は未知の世界そのものであり、否が応にも興を惹かれざるをえない。


977 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:28:23 CDCJ2sNE0

「こ、これはどうやって使うのですか?」
「体重計だね。ここに乗れば...」
「!針が動きました」

それからも、新しいものを見つけては子供のように目を輝かせ、ハシャぐ朧を見て、春花の口元がおぼろげに緩む。

(しょーちゃんも、昔はこんな感じだったっけ)

春花の妹、祥子。彼女はああ見えてよく周りに気を配り、イジめられていても毅然として振る舞っていることが多かった。
都会から田舎に引っ越してからは、今度は春花がイジメられ始め、祥子に元気づけられていたので、こうして純粋に楽しいと思える時間が随分久しぶりだった。

「春花殿。未来の世界とは、こんなに素晴らしいもので溢れているのですか?」

朧の何気ない一言に、春花の胸がズキリと痛んだ。
朧は純粋に文化と技術を楽しんでいるだけで、他意などない。朧の指す素晴らしいものとは、文字通りモノであり、春花の背景にはなんら関係のないことだ。
けれど、春花は自分の世界を『素晴らしいもの』とは決して言えなかった。「うん、そうだよ」と朧を満足させる嘘すらつけなかった。
それを口にするには、彼女は汚れ、汚されすぎた。

頬を伝う汗に気が付いた朧は、自分がなにか失言してしまったと悟り、慌てて頭をさげる。

「もう、申し訳ございませぬ。私は、なにか触れてはならぬことに...」
「ううん、違うの。朧さんは、なにも悪くないから」

首を横に振り、朧を慰めようとする彼女の微笑みは、決して負担を与えまいとする作り物の笑みだった。

「野崎、朧」

不意にかけられた声に二人が振り返ると、承太郎が部屋の入り口に立っていた。

「ガキが二人向かってきている。お前たちの知り合いかどうか確認しな」

承太郎に促され、廊下から外の様子を伺う。
その姿を確かめた時、春花の目は大きく見開かれた。

「相場くん...!」


978 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:28:58 CDCJ2sNE0




「野崎!」

入り口から駆けつけてきた春花を見つけるなり、相場は満面の笑みを浮かべて駆け出す。
二人の距離はあっという間に縮まり、抱きしめあう。

「無事でよかった...」
「おまえこそ。ずっと心配してたんだ」

互いに目じりに涙を浮かべながら言葉を掛け合う二人。
そんな二人の姿を、朧は目元を拭いながら微笑み祝福し、承太郎はなにかを探るように鋭い目つきで観察し、西丈一郎は退屈そうに眺めていた。

「野崎、その耳は...」
「たいしたことはないから大丈夫。...相場くんこそ、大丈夫なの?」
「こんなのはかすり傷みたいなものさ」

相場と春花が互いに労わりあう脇で、承太郎は西との情報交換にとりかかっていた。

「オメーたちも誰かに襲われたのか」
「さあね。俺も後からコイツと合流したから、なにがあったのか詳しくは知らねえ」
「......」

承太郎の目付きが訝しげなものになる。

その対象は、西ともう一人―――相場晄。

「空条殿?」
「相場、野崎。再会を喜んでるところ悪いが―――」
『あー、ごきげんようおめーら』

承太郎が抱き合う二人に声をかけようとした瞬間、どこからかノイズがはしり少年の声が流れ出す。
一同が一斉に空を見上げる中、ただ一人、春花だけは「ぇ」、と小さく漏らした。

嬉々として語る少年の声が鳴りやむと、一同の間にしばしの静寂が訪れた。


979 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:29:28 CDCJ2sNE0

「空条殿、いまのは...」

おどおどと問いかける朧を皮切りに、承太郎と西、各自考察していた者たちも口を開いていく。

「いまの奴が、この殺し合いの主催...最初のセレモニーで首輪を爆破した男ってとこだろう」
「ですが、声が違っておりましたが」
「声を変える方法なんざいくらでもある。セレモニーの奴ではなくとも、関係者であることは確かだ」
「あの煽りっぷりからして、脅されて協力させられてるっつーわけでもなさそうだな」
「ああ。あれはどう聞いても交流のある参加者に向けての挑発だ。ソイツがわかれば主催のこともわかりそうだが...どうした野崎。顔色が悪いんじゃあねえか?」

承太郎からかけられた言葉に、春花の身体がドキリと跳ね上がる。
青ざめ、震えているその様は誰が見ても異常だった。

「あの放送の声、ちょうどお前達の年齢に近く聞こえたがお前達はどう思う?」
「そんなもの偶然だ」

震えの止まらない春花に代わり、相場が割って入り承太郎を睨みつける。

「参加者が60人近くいるんだぞ。同じ年くらいの奴なんていっぱいいるさ。震えてるのだって、南先生が死んじまったからだ」
「そうか。俺はその先生とやらと親しい仲だとは聞いちゃいねえが」
「身近な人が死んだんだぞ。親しくなくても恐くなるのは当たり前だ」
「...かもな。その割には、お前は野崎と比べてずいぶん冷静な気もするが」
「...あんたなにがいいたいんだ。まさか、あんな放送で野崎を疑ってるんじゃないだろうな」

承太郎と相場、二人の睨み合いは空気を張り詰めさせ、緊張感を漂わせる。
朧などは、二人を諌めることすらできず、ただおろおろと戸惑うことしかできないほどだ。

「ま、疑われるのは仕方ねーだろ」

そんな空気もお構いなしに、西はサラリと割って入る。


980 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:30:28 CDCJ2sNE0

「あの放送の後にその怯えようだ。なにか知ってると思わない奴が馬鹿だろ」
「西、お前...!」
「おいおい、俺は当然のことを言っただけだぜ。なにもやましいことがないならそいつがそうと言えばいいだけじゃねえか」

西の軽い調子の反論に、相場はぐっと黙り込む。
実際、承太郎や西の疑惑は間違っていない。
あの放送の後にこんな反応をされて疑うなというほうが無茶というものだ。
かくいう自分も、春花の境遇を知っていれば、復讐をしていてもおかしくはないと思う。
放送の間宮の言うとおりに殺してはいないにせよ、春花が奴らに手を挙げたのはおそらく事実だ。
しかし、だからといって、春花が責められるのを黙って見ていられるはずもない。
隠蔽でもなんでもいい。今は矛先を変えなければ。

「...ん」

そんな相場の思案は、春花の震える声で無に帰した。

「放送の声は、間宮くんで、間違いないと思う」
「ッ、野崎、おまえ...?」
「ごめんね、相場くん。でも、伝えなくちゃいけないから。みんなにも、相場君にも」
「野崎...やめろ。そんなことしたら、おまえ...!」
「あーウゼェ。話してくれんならそれでいいじゃん。イチイチ水さしてんじゃねえよ」
「西ィ!」

相も変わらず薄ら笑いを浮かべつつ煽る西に激昂する相場。

「...話しな、野崎」

騒ぐ二人を他所に、承太郎は春花に話を続けるように促した。
春花は小さくうなずくと、重々しくその口を開いた。

「間宮君は、私が殺したクラスメイトです」


981 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:31:09 CDCJ2sNE0



春花は全てを語った。
相場以外のクラスメイトに度の過ぎた迫害をされていたこと。
そのクラスメイト達に家に放火され、家族を焼き殺されたこと。
そのクラスメイト達を、次々に殺していったこと。
漏れ出しそうになる感情を噛み潰しながら、その全てを。

春花が語り終えた時、室内はシンとした静寂に包まれた。

「野崎...お前は悪くない。悪くないんだよ」

最初に口を開いたのは相場だった。
春花を抱きしめ、目を瞑り、そう囁いた。

(違う)

けれど、春花に湧きあがるのはどうしようもない罪悪感で。

「前にも言っただろ。俺がついてる。なにがあっても一緒に耐えるって」

心から心配してくれる相場の言葉も嬉しい反面、それを受け入れてはいけない気持ちも湧き上がってくる。
元凶は自分であり、復讐に手を染め穢れていったのも自分の責任だ。
それでも手を差し伸べてくれる相場の姿はひどく輝いて見えて。
だからこそ彼を巻き込んではいけない―――そんな自己否定に陥りつつあった。

「野崎」

承太郎は春花を真っ直ぐに見据えて言う。
春花は、浴びせられるであろう糾弾を覚悟し、俯き、ぎゅっと口元を噤んだ。

「確認しておくが、お前の周囲じゃ、『スタンド能力』や『怪物』の影はなかったんだな?」
「...うん」
「なら、これ以上聞くことはねえ。この殺し合いに関してはお前がシロで、ヤツの背後でなにかが手を引いているのがわかったからな」


982 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:32:10 CDCJ2sNE0

えっ、と小さくもらし、春花は思わず顔を上げる。

「お前がヤツを殺したのが悪だとか正義だとかは、お前自身が納得していればいいことだ。俺が口を出す問題じゃあねえ」
「でも、私のせいで」
「俺がお前について知っているのは、身を挺しても朧を助けたことだけだ。それまでの過程は知ったことじゃねえ。
...あの放送で、どう動くかはお前が決めればいい。俺の敵にまわるなら容赦はできねえがな」

承太郎の言葉は、受け取りようによっては厳しいものだった。
春花の復讐を肯定するでもなく否定するでもなく、また、放送を聞かされてからの行動も突き放しもつき合わせもせず。
解を与えられるのではなく、全てを己で決めろと言ってのけたのだ。

かくいう承太郎の仲間にも、復讐を遂行した者がいた。
J・P・ポルナレフ。彼は、最愛の妹を殺され、己の人生を『犯人に死の報いを与える』という復讐に費やし、完遂した。
彼も犯人もスタンド使い同士とはいえ、殺人は殺人。仮にスタンド能力を法廷において裁けるのなら、犯人もそうだがポルナレフも間違いなく有罪だろう。

だが、承太郎も他の仲間たちも、彼の行動はともかく復讐心自体を否定したことはなかった。
それは、ポルナレフが自身で選び『納得』していたからだ。
いくら犯人を殺しても、妹が蘇るわけではない。そんなことはわかっている。
だからといって、妹の、己の無念に全て折り合いをつけ、忘れ去り生きていくことはできなかった。
自己満足でもいい。全ての因縁に決着を着ける覚悟で、彼は自ら復讐に望んだのだ。

だから、承太郎も春花を責めるようなことはしなかった。
謂れのない迫害を受け、家族を殺され。それを全て耐え続けて生きることができるかできないか。
春花は後者だった。それだけのことであり、ただでさえ部外者である承太郎が口を挟むことではない。
後は彼女の問題。ただ、それだけのことだ。

承太郎は踵を返し歩を進めることで、一同に改めて棟内で情報の共有をするように無言で促した。

(部外者だからそうやって大口叩けるんだ)

相場は、承太郎の背を睨みながら、内心で毒を零した。
あの学校でのことをその身で体験すればそんなことは言えなくなる。

あの学校での虐めは、完全に度を越していた。
放火の件がなくとも、証拠を揃えた上で警察にでも告発すれば、すぐにでも学校自体が閉鎖するほどのものだ。
相場も、常に野崎の味方をして、クラスメイト達に止めろと直接訴えたことがあるが、それでも虐めはとまらなかった。


983 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:32:27 CDCJ2sNE0

力が強ければいいだとか、あいつらを殴ればいいだとか、そんな単純な問題ではなくあの村そのものがどこか狂っていたのだ。

「野崎、あの人の言うことなんか...」

承太郎の言葉に揺らいでいるであろう春花を気にかけ、振り向いた時だった。

「野崎...?」

彼は見た。見てしまった。

今まで黒く濁っていた彼女の目に、微かに光が宿っていたことに

(なんで、そんな目をしてるんだよ)

そう。それは、この殺し合いにおいて、相場が取り戻せなかったもの。
家族が殺される前まで、相場に見せていたものと酷似した目だった。

「...ごめん、どうかした?」

ようやく相場の呼びかけに気がついた春花は、小首を傾げて相場を見つめる。

そんな彼女に、相場は。

「いや、なんでもない。少しは元気になれたみたいでよかったよ」

微かな微笑みで答えた。


984 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:32:56 CDCJ2sNE0



「コイツはウォータークーラーって言ってな。ボタンを押せば飲み水が出てくる」

棟内での情報交換を終えた後、朧と春花は西と共に施設の散策を再開していた。

「んっ...冷たくて美味しゅうございます。後世にはこのような物があるとは...朱絹に教えればさぞ喜ぶことでしょう」
「...あんた、マジで江戸時代の人間なのか」

西は、情報交換の場でそう聞かされてはいたものの、やはり半信半疑であったため、こうして散策にかこつけて確かめようとしていた。
結果、この純粋なリアクションだ。仮に演技派の女優といえど、こうまで時代知らずの言動がとれるとは思えない。
西の中で、朧への疑念はほとんど晴れていた。

「どーりで思ったよりも平静でいられるわけだ...なあ野崎」

突如、話を振られた春花は、つい、えっ、と声を漏らす。

「江戸時代ならそりゃ今よりも殺人も多いだろうし、オメーの話くらいじゃ動じねえのも納得だよな」
「......」
「そんな目で見るなよ。俺はむしろお前とは仲良くなれると思ってるんだぜ」

西は、春花の話を聞いたとき、親近感を抱いていた。
彼も元の世界において、虐めにあっていた。堂々と陰口を叩かれたり、頭上から机を落とされたりなんてのも日常茶飯事だ。
...尤も、彼の場合は環境以上に、普段からの高慢ちきな態度や猫を殺すような言動のせいであるが。

ともかく、彼からしてみれば、虐めなんてものは、無能な弱者が理解できぬ才能を恐れての自己防衛にすぎない。
春花の話も、その弱者が自分達を強者だと勘違いして、イキがって、返り討ちにあっただけの話だ。
とりたてて騒ぐようなことでもない。

「あいつらを殺したとき、どうだった?スカッとしたか?自分はあいつらよりも優れてるって優越感に浸れたか?」
「...どうだろうね」
「あっそ、つまんねーの」


985 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:33:41 CDCJ2sNE0

西は、春花の反応が思ったよりも薄いことに、つまらなさそうに口を尖らせ思考を切り替えた。

(過去からの人間か。面白そうなことをしてくれるじゃねえか)

西は、朧という過去からの人物の存在を知ったとき、胸を高鳴らせた。
過去の人間の複製。それ自体は、ガンツのおいても可能だった。
しかし、それはあくまでもあの黒球が干渉し始めてからのこと。
数年、数十年前ならまだしも、何百年前の人間に干渉するのは不可能だった。

(ガンツでさえできない過去への干渉...最高じゃねーの)

過去を支配する―――都合の悪い、つまらない筋書きの歴史を改変し、己の求める結果へと導く。
そんなゲームにおけるチート技を手に入れるのだから、いうなればそれは、ひとつの世界を手中に収めるのに等しい。

それだけではない。

(この殺し合いってヤツに少し興味がわいてきたぜ。...この力を手に入れ、俺がこのくだらねえ世界を支配してやる)

西は、くつくつと静かに笑みを零した。


(天膳...)

朧は、放送で呼ばれた天膳のことを気にかけていた。
というのも、彼が呼ばれて悲しいという感情よりも、そもそも彼が本当に死んでいるかどうかへの疑問故だ。

(天膳は不死の忍び...また、いつものようにひょっこりと顔を出す気がしてなりませぬ)

天膳は今まで幾度も死んできた。
時には身内の勘違いで刺され、時には熊に襲われ、時には情事に溺れた隙を付かれ。
だが、その度に彼はあの不適な笑みを携え姿を現した。
だから、この殺し合いにおいてもまた現れるだろうという安心感故か、そこまで悲しみを感じず、涙も流せなかった。

そんな天膳のことはさておき、朧が気にかけるのはやはり弦之介のことだった。

(弦之介様がこのびょういんの道具を見たらなんと思うのやら)

普段は落ち着き払っている彼も、自分と同じような反応をするのだろうか。
そんな様子を思い浮かべたら、ちょっぴりおかしくなり、つい笑みがこぼれてしまった。


「私が、納得していればいい...」

春花は、ポツリとつぶやく。承太郎の言葉を、『納得』を理解するために。

たとえば、自分が復讐に踏み切らず、あの雪の中で殺されていたら。
きっと、相場以外のクラスメイト達は、あの事件を笑い話にでもして、反省することもなくヘラヘラと過ごすだろう。
そして、春花達のことなどすっかり忘れ、下手をすればまた同じように誰かを迫害し、殺すのを繰り返すのは想像に難くない。
自分や家族達は、果たしてそれを納得できるだろうか。

(納得なんて、できない)

思い返せば返すほど、あの燃え盛る家が怒りと無念を訴えかけてくる。
あの惨劇を引き起こした連中がなんの罰もなく幸せになる姿を考えると、それだけで気が狂いそうになる。
自分の復讐が正しかったとはまだ思えない。
それでも、己の復讐心が否定されるものではなかったことは、ほんのちょっぴりだけ、春花の気持ちを軽くした。


986 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:34:35 CDCJ2sNE0




「聞きたいことがあります」

窓際で見張りを兼ねた休養をとっていた承太郎に相場が呼びかけた。

「間宮の背後で誰かが意図を引いてるって話...なんでそう思ったんですか?」
「推測する根拠ならいくらでもある。第一に、ヤツはお前たちと同じ環境の人間だ。そんな奴が時系列さえ無視して参加者を集められるはずがねえし、そんな能力を持っていながら野崎に殺されるのも解せねえ」

承太郎は、相場へと振り向かず、窓から外の様子を伺ったまま話を続ける。

「第二にこの殺し合いの補足についてだ。地図の更新、参加者の記載漏れ、参加者外の存在、まともに殺し合いに乗った際のメリット...多すぎだ。
ひとつならいざ知らず、ルールを決めた本人がこれだけの重要な情報を幾つも話し忘れるのは考えにくい。
なら、あのガキがなにかの力を使ったと考えるよりも誰かがその力を与えたと考えるのが妥当だ」

相場の靴がコツ、コツ、と床を叩きながら承太郎へと近づいていく。

「...すごいな、あんたは。俺なんかそこまで冷静に分析できなかったし、野崎に気を配ることもできなかった」
「ソイツは見込み違いだ。俺はあいつに気を配ったつもりはねえ。必要だったから聞いただけだ」

承太郎は迫る音にも反応はしない。
相場へ視線すら向けずじっと外を眺めていた。

「空条さんから見て、野崎はどう思いますか?」
「なにが言いたい」
「女の子としてですよ。数時間を共にしたんです。少しは下心とかあったりして」
「くだらねえ。この状況でそんなことを気にしている場合か」
「...そうですよね」
「そんなことより、オメーに聞きたいことがある」


コツ、コツ、コツ。

手を伸ばせば届く距離にまで近づいても、承太郎はやはり振り向かない。
じれったくなる感情を抑えつつ、相場は手のひらに力を込めた。

「相場」

突如呼ばれた名前に、振り上げかけた腕はピタリと止まった。

「話をする時は刃物を仕舞えと習わなかったか」

承太郎は一度たりとて相場の方を向いてはいない。
だが、確かに相場の手にはボウガンの矢が握り締められていた。


987 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:34:54 CDCJ2sNE0

「...ちょっと手入れをしようとしたけど、落としたら危ないよな」

相場は苦笑を交えつつ、矢をそっとバッグに仕舞った。

「それで、俺に聞きたいことってなんですか?」

承太郎の隣に並び、外を眺めながら微笑みを貼り付ける。
その様は、端から見れば友好的な関係を作ろうとする好青年に相違ない。

「オメーは赤首輪に襲われたと言っていたな」
「ええ。仁美さんがいなかったらきっと俺も」
「その割には野崎の姿を見るまで急いだ様子も見られなかったが」

この時、承太郎は初めて相場へと視線を向けた。
疑念をふんだんに含んだ敵意の証明として。

「...俺の言ったことが嘘だとでも?」
「さあな。ただ、二人がかりで、人一人に手負いを逃がせる時間稼ぎをされる程度の奴らが赤首輪なのかと思ってな」
「...もしかしたら、支給品にイイものが入ってたのかもしれない」
「かもしれねえな」

同意の言葉とは裏腹に、承太郎の視線は一切揺らいでいない。
実際、彼の中では、上記の推測から、既に『先に赤首輪に手を出したのは相場だ』とほとんど確定していた。
現状、承太郎が相場に手を出していないのは、春花の身内だという点が大きい。
あとは精精、赤首輪の二人が、触れずとも参加者を狩ろうとしていた連中かどうかという点くらいのものだ。

―――尤も、その一線も、最大の証人である美樹さやかと隊長から話を聞き、彼が納得すれば消えうせてしまうのだが。


そしてそれは相場も理解している。
睨みさえ利かせずとも、承太郎の言葉は言外に訴えていたからだ。
次はない、と。


988 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:35:22 CDCJ2sNE0

(やっぱり、『邪魔』だなコイツは)

相場は好青年の仮面を被りつつも、承太郎への嫉妬と憎悪を滾らせていた。

春花はこの殺し合いにおいて、自分と再会してもその顔に明るみがさすことはなかった。
だが、承太郎の『自分が納得すればいい』という言葉を聞いてからは、幾分かは表情も柔らかくなった。
きっと、彼女の目には承太郎はヒーローかなにかに見えたことだろう。
そう。自分でもできなかったことを、この男はやってのけたのだ。
春花に恋心すら持たない癖に、彼女の気を惹きつけ、自分から離そうとする。
これを邪魔者と言わずなんと言うべきか。

(ただ、強さやスタンドとかいう超能力は必要だ)

人柄はともかくとして、戦力としては間違いなく一級品。あの青髪の女と上半身だけの老人にも負けやしない。
どこか知らない場所であの女たちと共倒れ、或いは彼がさっさと脱出しこの会場から消え去ってくれるのが理想だろう。

(殺さなくてもいい...とにかく、こいつを春花から離さないと...!)

相場は心中で、そう密かに決意する。

春花にとっての家族も交際相手もヒーローも、全てこの相場晄だけでいいのだから。


989 : Sign ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:38:17 CDCJ2sNE0



【H-3/一日目/早朝/病院】



【西丈一郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ポンの兄の拳銃@彼岸島
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:赤首輪の参加者を狙い景品を稼ぐ。装備が充実したら赤首輪の参加者を殺すなり優勝なりして脱出する。
0:邪魔する者には容赦しない。
1:相場は利用できるだけ利用したいが、戦力にあてができれば捨てる。
2:いまは準備を整える。
3:岡が死んだので使えそうな手ごまを探したい。現状の有力候補は承太郎。

※参戦時期は大阪篇終了後。
※承太郎、春花、朧と情報交換をしました。

【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ、承太郎への嫉妬と春花がなびく可能性への不安
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
1:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
2:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
3:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
4:カメラがあれば欲しい。
5:西はなにかこの殺し合いについて関与しているのか?
6:空条承太郎は始末したい。最低でも、春花とは切り離したい。

※参戦時期は18話付近です。
※承太郎、春花、朧と情報交換をしました。




【朧@バジリスク〜甲賀忍法帳〜】
[状態]:腹部にダメージ(中)、疲労(中〜大)
[装備]:リアカー(現地調達品)
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と会いたい
0:春花の手当てをする。どうにかして共に行動して欲しいが...
1:脱出の協力者を探す。
2:陽炎には要注意。天膳にも心は許さない。
3:天膳が呼ばれたが...正直信じられない。

※参戦時期は原作三巻、霞刑部死亡付近。
※春花、承太郎と情報を交換しました。
※天膳はまた蘇るのだろうと思っています。
※西、相場と情報交換をしました。


【野崎春花@ミスミソウ】
[状態]:右頬に切り傷・右耳損傷・出血(中)、頭部から消毒の匂い
[装備]:ベヘリット@ベルセルク
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:祥子を救い、佐山流美を殺す。その後に自分も死ぬ。
0:できれば一人で動きたいけど...
1:祥子、相葉の安全を確保する。
2:小黒さんは保留。


※参戦時期は原作14話で相場と口付けを交わした後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※朧、承太郎と情報を交換しました。
※西、相場と情報交換をしました。

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ、出血(止血処置済み)、帽子から消毒の匂い
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:主催者の言いなりにならない。
1:ある程度休憩をとったら行動を開始する。
2:DIO・先程の化け物(ゾッド)・ホル・ホースには要警戒。
3:相場には警戒。西にも要注意。

※参戦時期は三部終了後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※春花、朧と情報を交換しました。
※西、相場と情報交換をしました。


990 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/24(土) 01:38:45 CDCJ2sNE0
投下終了です


991 : 名無しさん :2018/11/24(土) 02:33:35 R24JXCjI0
投下乙です

相場の犯行をほぼ看破する承りは流石だ。
水面下でドロドロし始めたこのチームはこれからどうなるんだろう


992 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:48:25 MsaVgdOs0
投下します


993 : ガラス玉 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:49:16 MsaVgdOs0



暗い、暗い闇の中。
誰もいない闇の中で、私は一人ぼっちになっている。
ここはどこだろう。
わからない。わからないからこそとても恐い。
私は叫んだ。お父さんの、お母さんの、お姉ちゃんの、●●●の名前を。
けれど誰も答えてくれなかった。私の声だけが空しく響いていた。
立ち止まっていても心細いだけなので、とにかく足だけでも動かした。

前に進んでいるのかもわからないけれど、とにかく歩き続けた。

ずっと、ずっと、ずっと。

どれくらい歩いたかもわからない。

でも、ようやく見つけた。お父さんとお母さんだ。
二人とも笑顔で手を振ってくれてる。
あんまりにも嬉しくなって、思わず駆け出した。飛びついた。
お父さんたちは抱きしめてくれた。暖かかった。
もしかしたらお姉ちゃんもここにいるかもしれない。
探しに行こうよ、と顔をあげたら暖かいのが熱くなった。

お父さんとお母さんの身体が燃えていた。

逃げて。熱い。助けて。早く離れて。早く!

お父さん達から色んな言葉が漏れ出して。
私は必死に火の中からお父さん達を引っ張りだそうとしたけれど、どうやっても炎は離れてくれない。
叩いて、被さって、どれだけ頑張っても火は消えてくれない。
やがてお父さんもお母さんも真っ黒になって、動かなくなった。


994 : ガラス玉 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:49:35 MsaVgdOs0

あんまりにもあんまりすぎたせいで、どれだけ悲しくても言葉も涙も出なかった。
違う。私も真っ黒けになってたからなにもできないんだ。
そして『私』が倒れて動かなくなるのを私は見届けていた。

五体満足な私は、うう、とか、ああ、とか嗚咽を漏らすのが精一杯だった。

燃え尽きた『私』たちの向こう側がぼんやりと光った。

映し出されたのは、真っ白な雪景色の山の中。
そこにいるのはお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんは真っ赤な身体になっていた。色んなところが痣だらけだった。私が作った首飾りを握り締めて泣いていた。
今にも散ってしまいそうなほど、フラフラとした足取りで、山の奥へと歩いていく。
お姉ちゃんは謝っていた。
自分のことなんか無視して、ずっと色んな人に謝り続けていた。

謝らなくてもいい。だから、一緒に帰ろう。帰って、一緒に頑張って生きよう。
そう手を引こうとしても、お姉ちゃんは変わらなかった。
お姉ちゃんは私に気づいていなかった。
もう、苦しみすぎて、どうしようもできなかったんだ。

そして、やがてお姉ちゃんも倒れて、動かなくなって、その身体も雪に埋もれていった。

なにもできない。
お父さんも。お母さんも。お姉ちゃんも。
大好きな人たちになにもできないまま、私は立ち尽くすことしかできない。


995 : ガラス玉 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:49:57 MsaVgdOs0

―――あーあ、死んじまったよあいつら。


声がした。あまり聞きなれない、でも聞きたくない声が。
恐る恐る振り返ると、そこには多くの人がいた。
全員同じ年くらいの、男の子と女の子のグル-プだ。


―――人ってあんな風に死ぬんだ。やだなーこわいなー


女の子の一人が、そんな風にケラケラと笑い出すと、他の人たちもつられてゲラゲラ笑い出す。

わたしのお腹の奥のほうから頭まで、言葉に出来ないものがぐつぐつと湧き上がってくる。
なにがそんなにおかしい。殺したお前たちが、なにがおかしくて笑うんだ。
私は叫び、飛び掛る。
許せない。許してたまるものか!その一念が身体を動かした。

けれど。

集団の中から伸びた腕がひとつ、私の喉元を掴み、締め上げ、止められた。

憎い。苦しい。届かない、悔しい。

色んなものが混ざって、涙が頬を伝ったそのときだ。


「        」

なにか声が聞こえた。
苦しい中でも、その声は私を冷静にさせて。締め付けてくる腕の手触りに覚えがあることに気がついて。

「全部、しょーちゃんが役立たずなせいだよ」

お姉ちゃんの恨めしげな目を見た瞬間、私の意識は落ちていった。


996 : ガラス玉 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:50:25 MsaVgdOs0




「―――――――ッ!!」

がばり、と勢いよく起き上がる。
思わず思い切り吸い込んでしまった空気を苦し紛れに吐き出した。 

「駄目よ、ジッとしてなくちゃ」

祥子の顔を覗き込む奈々と雫と視線が交わる。

「あ...えっと」
「どういう状況かわからないわよね。いいわ、説明してあげる。雫もついでにね」
「頼むよ」

奈々は、祥子たちが気絶した後のことをおおまかに語った。
雅たちから逃げ切れたこと、見つけた空き家で身を潜め身体を休めていたところで放送があったこと。
その放送で、新たな追加ルールや死者の発表があったこと。
その情報を聞いた祥子の頭を真っ先に占めたのは春花のことだった。

「お、お姉ちゃんは?お姉ちゃんは大丈夫!?」
「ええ。呼ばれなかったわ」

祥子は春花の無事にホッと胸をなでおろす。

「ただ...私達と一緒にいた岡さんは...」

その奈々の一言で、祥子の安堵は瞬く間に冷え切り全身に怖気が走る。
さっきまで一緒にいた人が死んだ。それも、チームの中でも強者の部類にいたものがだ。
この事実は、春花の安否を不安視させるには充分すぎた。


997 : ガラス玉 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:51:03 MsaVgdOs0

「...すまない、肝心なところで気を失ってしまっていた」
「仕方ないわ。彼らは、人の手におえる者たちじゃない」
「だが、危険なのはあいつらだけじゃない」

この数時間で9人死んでいるということは、それだけ殺し合いに乗った者の数も多いということ。
無論、雅やぬらりひょんのような好戦的な者とは限らないし、正当防衛で殺してしまった者もいるかもしれない。

しかし、だ。

新たに設けられた時間制限や死者は否が応にも不安と焦燥を掻き立て疑念を蔓延させる。
少なくとも、どの参加者にもこの数時間以上の困難が待ち受けているには違いないだろう。

そして、その不安は、幼子には充分に当てはまることで。

「ガッツは?ガッツは、どこ?」

祥子は思わず彼の名を呼ぶ。
性格は全然違うけれど、どこかお姉ちゃんに似た男の名を。

「ガッツさんならロックさんと一緒に入り口に」

聞き終える前に、祥子は入り口へと駆け出す。
会いたい。会わなくちゃいけない。
だって、そうしないとあの人もお姉ちゃんみたいに独りになってしまうから。

扉を開けた。彼はそこにいた。

彼は、座ったままの姿勢で壁に背を預け、穏やかな表情で眠っていた。


998 : ガラス玉 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:51:31 MsaVgdOs0

「さっき眠ったんだ」

ガッツの向かい側に座りながら、ロックはぼんやりとした表情で言った。

「あいつとの戦いでよっぽど疲れてたんだろう。放送を聞く前に眠ってしまったよ」

祥子は、ガッツの顔を覗き込み、その様子を伺う。
昔のものも今のものもぜんぶひっくるめて全身が傷だらけで、汗や血の異臭もほんのりと漂ってきて。

彼の傷に触れようとして手を伸ばしたけれど、ようやく訪れた束の間の平穏を崩してはいけないと思い引っ込める。

はじめにガッツと出会ったとき、祥子は彼を春花のように独りぼっちにさせたくなくて側についてまわった。
けれど、自分は彼になにが出来た。ただこうして徒に力を震わせて、護られていただけじゃないのか。
ガッツも春花も、自分なんて必要としていないんじゃないのか。

(...私は、なにができるんだろう)

本当に、このまま側にいるだけでなにか出来るのか。
あるいは。
春花やガッツが傷つくのは、自分の無力さが原因ではないのか。

(どうすればいいんだろう、私は...)

少女の内なる問いかけに答えることが出来るのは誰もいない。
答えは、彼女自身が示すしかないのだから。


999 : ガラス玉 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 00:52:11 MsaVgdOs0



「......」

ロックは虚空を見つめ黄昏ていた。

レヴィと岡八郎が死んだ。
放送で名前を呼ばれただけで、まだ死が確定したわけじゃない...なんて希望はもてなかった。
殺し合いが始まってまだ数時間。こんな初歩的な段階で、死者の誤認なんて肝心なポカをするはずが無い。
二人は間違いなく死んでしまったのだと理解するしかなかった。

岡とはまだ知り合ったばかりであまり思い入れはないものの、先ほどまで共に行動していた者が死んだと聞かされればクるものはある。
だが、それ以上に彼の頭を占めていたのは、レヴィのことだった。

レヴィ。
彼女とのファーストコンタクトはロクなものではなかった。
上からの指示で重要機密を運んでたらそれを強奪されて。
彼女の上司はそれで終わりにしてくれる筈だったのに、独断で身代金用の人質にされて。
しかも、その件で上司と彼女がモメた時には「捨てればいいんだろうが」と逆ギレして本当に殺されかけた。

最初はコイツは本当に女なのかと疑うような破天荒ぶりに面を食らっていた。

けれど。ラグーン商会の一員になって、彼女と共に行動するようになってからは、なんとなく彼女という人間がわかってきた。

確かに彼女は下品で、戦いぶりはアクション映画みたいに豪快で、ガサツで、短気で、暴力的で、金にもがめつい狂犬という名がお似合いな女だ。
かと思えば、子供に混じって遊ぶような純粋さや、自分の過去に触れられると激怒する繊細さや、ロックが理不尽に殴られた時には静かに怒るような面も持ち合わせていて。

そんな彼女の色んな面を見られるほど、ロックにとってレヴィは生活のひとつになっていた。


1000 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/30(日) 01:01:50 MsaVgdOs0
続きは次スレに投下します


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