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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第115話☆

1名無しさん@魔法少女:2012/12/13(木) 00:09:44 ID:6hLPLV4A
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所です。


『ローカル ルール』
1.他所のサイトの話題は控えましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

前スレ ☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第114話☆
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1341065580/

330ゆのゆり 1:2013/02/04(月) 00:04:54 ID:N.Cd9kWE
 時間の流れと周囲の空間。それらから切り離され封鎖された薄暗い空間。そこに少女のあえぎ声がこだまする。
「はうぅ、は、アアッ!アンっ!」
 ウェーブのかかった長い金髪があえぎに併せて大きく揺れる。白を基調とした上着は汗にぬれ、腰から下は、普段身に着けているズボンのようなスカートのような、不思議な形状の衣装は無く、裸身を晒している。
 少女の名はユーリ・エーベルヴァイン。つい先日までアースラが事態解決に奔走していた『砕け得ぬ闇事件』の、ある意味で中心にいた人物だ。
 その身体はまだ少女と呼ぶにも幼い。男に馬乗りになり、下からヴァギナをペニスで貫かれるその様は本来なら冒涜的であるのだが、
「ひゃぅぅっ!い、イイッ!あっはぁ!」
 表情には痛みと共に快楽が混ざる。声にも艶があり、幼女の姿とはひどくギャップがあった。また、彼女の胎内を蹂躙している相手もこの情景とはそぐわなかった。
 蜂蜜色の髪の、ユーリより少しだけ年上のような、こちらもセックスとはまだ縁遠い年頃の少年だ。女の子と見間違えられることもある顔つきは、ここでも男らしい獣欲の色は薄かったが、代わりにユーリの内側ではペニスが膨れ上がり、少女の内側を満たしていた。
「うあ、ユーリ。僕、もう――っ」
「は、はい!ユーノさん、わたし、また、またぁぁぁ!」
 すでに幾度目かの絶頂へと達したユーリの締め付けに自身もまた快感の頂点に突き上げられて。
 熱い射精感と共に、ユーノはこうなった経緯を思い返していた。

331ゆのゆり 2:2013/02/04(月) 00:07:38 ID:N.Cd9kWE
 第97管理外世界、青い星を眼下に捉えながら宇宙に浮かぶ次元航行艦アースラの内部のとある一角。
 元は犯人拘置用のスペースを――主に入れられた者たちが――改装したその部屋は、随分と明るい色調となり、最低限とはいえ家具もおかれたせいか元の姿を感じさせないくらいには変貌していた。
 その一角で、ユーノはユーリに自身がまとめた資料を手渡していた。
「――で、これが荒地の開墾方法についての資料。こっちは環境変動に対して改善というアプローチで対処した各世界についてのレポート集。あとは、一般的に過酷な環境に強いとされる植物の一覧表。今用意できるのはこれくらいかな」
「あ、ありがとうございますッ」
 つい先日までアースラが事態解決に奔走していた『砕け得ぬ闇事件』。事件自体は解決し、ユーリと、『紫天の魔導書』から生まれたマテリアルたちは、エルトリアという未確認世界で現地の環境復活を行うこととなっている。魔道生命体とはいえ強大な能力を持つ彼女らを管理局にスカウトする動きも無いではなかったが、様々な思惑と諸般の事情でエルトリアへの転移はOKとなった。
 ユーノも事件の際には「理のマテリアル」シュテルと一戦交えたり決戦時の結界構築に参加したりはしていたが、彼の仕事は解決後が本番だった。
 上層部ではユーリやマテリアル達が環境復活に“失敗”した時、また今回のような時間軸を遡ったり未確認世界へ転移したりという方法で事態解決を図るのではないかという恐れがあった。今回のように管理外世界や、強力な魔導師と知識豊富なバックヤードが1つどころに揃っていれば対処は可能だが、そうでなければ現地で大混乱を起こしかねない。
 そこで、「調べれば何でも見つかる」とも言われる『無限書庫』に司書として勤めるユーノに、事件解決にあたったついでに、環境復活に関する資料を取りまとめるように指示が出たのだ。もっともユーノは言われるまでも無く作業には着手していて、今日はそれを手渡しに来たのである。
「……これで、もっとエルトリアを助けることが出来ると思います。なんとお礼を言えばいいか」
「気にしないでよ。こういった手助けが僕の仕事だからね」

 資料を抱えてそう言うユーリに、ユーノは微笑みながら――内心ではかなり舞い上がっていた。
(か、かわいいっ……これが俗に言う『年下萌え』?)
 スクライアの集落でも最年少の世代だったユーノである。魔法学院でも無限書庫でも当然の如く自分が一番年下な状況に慣れていたユーノにとって、自分よりも幼い少女に素直に感謝されるというのはかなり珍しい経験となる。
 まして、宿した力「無限結晶エグザミア」こそ強大でも、その力に振り回された経験からどこか儚い印象を持ち、しかし確固とした意思で未来へ進もうとするその健気さは、ユーノのハートにどストライクだった。
 以前、クロノから「フェイトにお兄ちゃんと呼ばれてむずがゆい」と相談された時にはよく分からなかったが、確かにこのシチュエーションはツボに嵌ると抜け出せない。

 とはいえ、そういった素直な心情を表に出せば色々と問題があるのも理解している。煩悩めいた思考をマルチタスクの隅に追いやり、「頼れるお兄ちゃん」っぽい態度を心がける。
「それじゃあ、僕はこの辺で。追加で何か資料とかが必要なら遠慮なく声をかけてね」
 そう言うと、ユーリはふと思い出したように。
「そ、それなら。もう1つよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「私、ユーノさんの魔法を覚えたいんです!」
 そう言われて、ユーノは首をかしげた。こと魔法の力で言えば自分はユーリの足元にも及ばないはずだが。
「その、これから行くエルトリアでは、戦う為の魔法を使うことは無いはずです。ディアーチェやシュテル、レヴィに、アミタさんやキリエさんもいますから」
 ユーリに同道するマテリアル3人と、エルトリアから時間を超えてやってきた姉妹を思い出せば、なるほど納得だ。
「戦い以外の魔法を身につければ、みんなをもっと助けられると思うんです」
「それは、確かに」
「そしてユーノさんは、戦闘用以外の魔法をたくさん知っている。そうですよね?」
「うん。まあ他の人たちよりはその手の魔法は知っているつもりだけど――」
 言うまでも無く、今回の事件で解決にあたった魔導師はユーノを除けば全員が戦闘を前提とした魔導師だ。元から局員のクロノや『夜天の守護騎士』ヴォルケンリッター、戦闘魔導師として英才教育を受けたフェイトは言うに及ばず。なのはやはやてといったイレギュラーな形で魔導師となった2人も、むしろ戦闘に巻き込まれて魔導師となったせいか戦闘前提の魔法がほとんどだ。

332ゆのゆり 3:2013/02/04(月) 00:09:01 ID:N.Cd9kWE
「でも、エルトリアに転移するのはもうすぐなんでしょ?教えるにしても、まあ基礎の基礎だったら何とか、ってところだね」
 ましてデバイスを使わないユーノの魔法は、彼自身の調整もかなり加えられている。魔法形式の違いもあるし、なかなか時間が掛かりそうなことではある。
「はい。一から教わる時間はありません。だから、魔法を覚える最終手段を使うんです」
「最終手段?」
 なんとなく嫌な予感を覚える。それは、『闇の書事件』でリインフォース――あの頃は『闇の書の意志』だったが――がなのはのスターライトブレイカーを使った事とその理由が頭に浮かんだからだった。
「・・・・・・ユーノさんのリンカーコアから直接教わろうと」
 想像通りの解答に頭を抱える。『闇の書事件』でなのはやフェイトもリンカーコアを抜かれているが、その時は回復にそれなりの時間が掛かった。ユーノの回復力も2人ほどずば抜けていないし、何より無限書庫の整理開拓はまだまだ始まったばかりだ。
「う〜ん、さすがにリンカーコアを抜かれるのは……」
 ユーノの言葉に、今度はユーリが首をかしげた。
「いえ?リンカーコアを抜いたりはしませんよ?」
「?それじゃあ、どうやって」
「その、性交です」
 あまりにあっさりとしたユーリの答えに、ユーノはしばし活動を停止した。確かに古い文献などで、高難度の魔法を教授するにあたり身体を交えて行うという記述は散見されるが。
「えと、ユーリ?自分が何言ってるか、分かるよね?」
「勿論です!」
「じゃあ、そういうことをしたら、きっとシュテルたちが大騒ぎするって言う事も、分かるよね?」
 マテリアルの3人にとってユーリは同胞であり家族だ。そんなユーリを傷物にしようものなら、それこそ確実に命がない。だが、ユーリはといえば。
「あ。そういえばみんなからユーノさん宛に手紙を預かっています」
「――もしかして、もう彼女らに話ししてる?」
「はい。――これです」
 手渡された手紙を見ると。
『師匠、信じています。――よもやあなたが、我らの盟主、ユーリの願いを無碍にしない事を。シュテル・ザ・デストラクター』
『見てみたいな。ユーリが君みたいな魔法を使うところ。レヴィ・ザ・スラッシャー』
『我らが助けたユーリが今度は我らを助けたいと願っているのだ。我のユーリを一時預ける。不敬な真似はするな。P.S。思うところはあるが我もユーリに説得された身。気にするな。花畑で走馬灯を見るのはもうこりごり――や、やめよユーリ!ああ!弾幕が、弾幕が! ロード・ディアーチェ』
 ディアーチェの文の最後からおぞましいオーラを感じるが、それはともかく。
(断る方が命に関わるって――)
 何故だか青い空が見たくなった。見上げても無機質な天井が見えるだけだったが、瞼を閉じて青空を幻視する。
 覚悟を決めてユーリに向き直ると、すでにユーリの顔はすぐ間近だった。
「ちょ、待って。最後の覚悟を――ユ、ユーリ!」
 呼びかけに、ユーリは顔をユーノに寄せ、
「っ?!」
 有無を言わせず、唇を奪った。

333ゆのゆり 4:2013/02/04(月) 00:12:37 ID:N.Cd9kWE
 ユーノの唇を割り入って侵入したユーリの舌が、ユーノのソレを絡め取る。半ば本能的にユーノは舌を解こうとするが、それは却ってお互いの舌を絡ませることになった。そうしてしばらく。ユーリがようやく唇を離すと、お互いの唾液が銀の糸を引いて垂れた。
「あ、もしかして初めてでしたか?」
「……ゆーりははじめてではないのかな?」
「私も、初めてですよ」
 その割には上手だった、と思うユーノだったが、ユーリが呼吸を整える様子を見て、今度はユーノからユーリにキスをする。
「んんっ……ふぅ」
 そのまま背中からうなじ、腰と指を這わせる。ユーリも応じるようにユーノの背中に腕を回してより密着する。ユーノの指が蠢くごとに、少女からは甘い吐息が漏れた。
「――ユーリ、そろそろ」
「――はい」
 一度離れて、ユーリは下半身の衣装を脱ぎ捨てる。ユーノは、このままの空間ではマズイと思い封時結界を展開。外から異常を感知できないようにすると、自分も服を脱ぎ捨てた。
 鍛えていないので筋肉がガッチリしているわけではないユーノの身体だが、その股間のペニスにユーリが「え、」と声を漏らす。ユーノという少年の外見印象には似つかわしくない大きさの男根がそこにあった。
「す、すごいです……」
「正直な話、ココだけ立派でも恥ずかしいだけなんだけどね」
 そういいながら半裸のユーリを観察する。肌は白く透き通るようで、見た目の印象と同様に幼く可憐だった。が、その秘裂から、トロリと愛液が漏れているのが見える。
「で、では早速。教わらせていただきます!」
(これは教えるに入るのかなぁ)
 最後の最後に浮かんだ疑問は、馬乗りになったユーリにペニスが挿入された時、その快感で消えうせた。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ユーリは、最初から自身の快感を深めるような魔法を使っていたようだった。最初の挿入でユーノの男根に子宮口をノックされた時にはあっさりと絶頂してしまった。後はユーリ自身が快感に従ってピストンし、再び絶頂へと達する。
 そしてユーリの中に最初の射精をした時、ユーノは自分の魔力もまたユーリの中に抜けていく感覚を覚えた。
「ユーリ、今のが?」
 力尽きたのか胸元に倒れこんできたユーリに尋ねると、彼女はコクリと頷いた。
「は、はひぃ。これをくりかぇすと、ユーノさんの魔法をぉ身につけられるんです」
 息も絶え絶えの様子のユーリに、ユーノはふと劣情を覚えた。今しがた射精したペニスに、再び血流が集まっていくのが感じられる。
「じゃあ、ユーリ。今度は僕が攻めるよ」
「え?ああ?!」
 力の入らないユーリの体を起こして今度はユーノが上になる。上着に手を掛けて剥ぎ取ると、平らな胸で2つの突起が自己主張していた。
「かわいい」
 乳首をつまみ、弾き、薄い胸肉を寄せ集めるようにしてこねる。その度にユーリは甲高くあえぎ、ユーノを更に高ぶらせた。
 三度キスを交わしながらペニスを更に激しくピストンすると、ユーリは身体全体で跳ねるように反応した。
「むぐぅ、む、ウウンッ!ハァッ、アウゥゥッヒイ!は、はげしいっ!」
「ユーリ、すごくきれいだ!全身濡れて、いやらしいよ!」
 ユーノの限界もすぐに訪れる。ユーリが激しく膣を締め付けると、ユーノもそれに合わせて再びユーリの胎内を精液で満たす。
「ア、ア、アアッ。ま、またきたっぁ」
「ハ、ハァ、ハァ、ハァ。ご、ごめんねユーリ。まだ、収まらないや」
 ユーノも息絶え絶えなのだが、ペニスはその硬さを失いきっていない。まだユーノのペニスはユーリの柔肉を貪れる。

334ゆのゆり 5:2013/02/04(月) 00:14:10 ID:N.Cd9kWE
「はひぃっ!ふか、さっきよりも深いぃぃぃ!」
「これ、が。ユーリの一番奥ッ!あう、凄い感触……!」
 今ユーリは跪いた姿勢でユーノに犯されていた。その体勢ではユーリは更に奥深くまでユーノを迎え入れ、ユーノも招きに応じるように、子宮口の更に奥、最奥の秘所を味わっていた。
 両手は背後からユーノに掴まれ、背中に浮かび上がった魔力の翼、魄翼もチェーンバインドとストラグルバインドの混成拘束で縛り上げられ。
 それは少女と少年のまぐわいという域を超え、淫靡で背徳的な儀式とさえ映る。
 そしてその儀式も終わりが近づいてきていた。
 ユーリの背中から覆いかぶさるようにユーノが身体を密着させる。うなじに唇を這わせ、両手で胸元をいじくり、そしてヴァギナをこれまでにない勢いで抉りぬく。
「あ、ア、ア、ア、ア、ア、ア、アッ、アアッ!」
「い、イク、イク。全部、だすよぉ!」
 射精と合わせて魔力も注ぎこむような感覚。ユーリを奥底から蹂躙するという欲望と、この少女をこれ以上痛みにも性感にも犯したくないという気持ち。
 それらをない交ぜにして。
「ユーリ、受け取って!全部、ぜんぶぅ!」
「はい、ください!わたしにいっぱいぃぃぃぃ!」
 ドクン、という音が耳に聞こえた。そんな気がする程に。
 ユーリの中に注がれた精液は、少女の腹部を軽く膨らませるほどだった。ユーノがペニスを引き抜けば、ゴボリと白濁液が少女の秘裂からあふれ出した。
「はう、はぁ、はぁ……。おなか、あつい、です」
「……ごめん、途中から抑えが効かなくなった」
 四肢から力の抜けたユーリを優しく抱えて謝ると、ユーリはゆるゆると首を振った。
「お誘いしたのはわたしです。それに――」
「それに?」
「ユーノさんにも、エッチになる魔法をかけましたから」
 疲れきって、しかし悪戯に成功した子供の顔で笑うユーリに、ユーノはやれやれと苦笑し、ユーリを抱きかかえた。
 とりあえずは、人目につく前に2人とも身体を清めなければならなかった。


 闇に包まれたとある1室。照明の無いその部屋でも、モニターは明るく映像とそれを見ている人物を照らしている。
 『紫天の盟主』から一時アースラの人払いをお願いをされたその女性は、お願いを快諾する代わりに彼女に内緒でちょっとした仕掛けを施していた。モニターに映っているのはその「仕掛け」によって映された空間の映像だ。
 先ほどまで映像の中で少年少女が繰り広げていた痴態を一部始終眺めて、その人物はこう呟いた。
「若いっていいわねぇ」
 

 後日、某甘党提督の菓子のグレードが上がるのと同じ頃合で、管理世界の一部裏社会に、少年少女のハードSEX映像が流通することになるのだが。
 因果関係の真相を知るのは、きっとこの世で1人だけだろう。

(終わり)

335名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 00:19:28 ID:N.Cd9kWE
以上です。
当初はユーノ祭りに出そうと思っていたのですが、なかなかまとまらずに時期を外れてしまいました。
せっかくゲームに参加できたけどラスボスと関われなかったユーノですが、ドンパチの後でもしかしたら活躍できたかも、と妄想しながら書きました。

作中でユーノがユーリを「かわいい」と言ってますが、なのはは「漢前」、フェイトは「凛々しい」、はやては「お母」という印象が強いので特にユーリに対してそう意識した、というつもりです。

ありがとうございました。

336名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 00:21:01 ID:YFUPPTwk
>>334
珍しい組み合わせだけどなるほど納得、GJ!
……ってリンディさん何やってんだw

337名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 00:22:42 ID:3oyHxeuo
これは実にいいロリショタエロGJ!

338名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 00:36:29 ID:Vd9VU1a2
>>335
ごちそうさまでした。でもオチがひどいw

ちなみに時期は外れてないぜよ、今がまさにユーノ祭り期間中
祭りは開始宣言して、その後投下が途切れて終了宣言が出るまで。でも終了宣言出た後の飛び入りもおk
これまでの祭りは大体数日〜1週間前後くらいの期間だったんで、そんぐらいを目安としていただければ

339名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 00:47:16 ID:0Vp1KgXo
何やってんすか、リンディさんwww

乙でした

340名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 00:59:17 ID:BvRvasag
良いなぁ、ユーリとユーノのカップル
というか、マテリアルとユーリ達はエルトリアにユーノ連れてけば良い様な…
シュテルには夫(?)、レヴィには兄、ディアーチェには頼りになる配下(ディアーチェ視点)
ユーリに…何になるんだろう?エルトリア組に男性いないけど全員人外だよね?殖えないかな…
そしたら3期でヴィヴィオ消えちゃうかもだけど…まあ、何とかなるでしょ、きっと

341名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 22:07:34 ID:G1eULQ9k
>>335
実にエロいぞ!!GJ!!

342名無しさん@魔法少女:2013/02/04(月) 22:09:42 ID:3oyHxeuo
>>335
読み直して思ったんだが、やたら長い行があるのでもうちょっと改行した方が良いと思う
余計なお世話かも知れないが

343 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:26:58 ID:3OgJsu9s


どうも、ユーノ祭りにやってきました。

注意事項
 ・ユノフェです
 ・欝じゃありません

タイトル「女の子と男の子」

344野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:27:56 ID:3OgJsu9s
 
 侵入者に向かって、部屋の主は酒の入ったグラス片手に笑いかける。

「おや、これはこれは珍しい」

「……お酒臭いよ?」

「そりゃあ、飲んでいるからね」

「珍しいね」

「ん? 僕が飲んでいるところ? それとも、僕が酔っぱらっているところ? それとも、僕が振られたと認めたところ?」

「どれでもないよ」

「じゃあ、なんなのさ」

「ユーノが自棄になっているところだよ」

 フェイトの言葉に、ユーノはグラスを傾ける手を止める。
 そして、ああ、と苦笑気味に呟くと、グラスを置いた。
 空になったグラスの中で氷がかちゃりと音を立てて砕けたところで、ユーノはグラスから手を離し、自分の額をぴしゃりと叩いた。

「そうか。僕は自棄になってるのか」

「そうだね」

「うん、自棄になってる。そうだね」

345野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:28:27 ID:3OgJsu9s
 
 フェイト相手に繕ったところで仕方ない。
 これがヴィヴィオやヴィータ、スバルなら、何が何でも隠し通すところだ。
 はやてやクロノ、ザフィーラなら、もっと空気を読んで最初からここへは来ない。
 だけど、フェイトは特別だ。
 自分にとっても、彼女にとっても。

「昨日だったね」

 フェイトは、椅子を引きずるとユーノとテーブルを挟んで座り込む。

「うん。昨日だ」

 ユーノは新しいグラスを魔法で引き寄せると、フェイトの前に置き、グラスに酒を注いだ。

「なのはの結婚に乾杯」

「乾杯」

 二つのグラスが音を立てる。
 飲み干されるグラスの中身、新たに注がれる酒、空になるビン。
 瞬く間に空になる数本のビン。
 途中、呆れ顔でツマミを持ってきた使い魔がいたような気がしたけれど、よく覚えていない。

「それで、ユーノ?」

 ガラスのテーブルの頬をつけるとひんやりして気持ちいいことをフェイトは発見していた。

「どうして、なのはと結婚しなかったの?」

346野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:29:03 ID:3OgJsu9s
 
「付き合ってなかったから」

 きっぱり、とユーノは答える。

「だけど、ヴィヴィオのお父さんやってたよね」

「だったら、僕はフェイトとも結婚することになるわけだけど?」

「う」

 気まずい返事のフェイトは、テーブルに頭を寝かせたまま器用に余所を向く。

「付き合ってると、みんな思ってたよ」

「フェイトも?」

「なのはに聞くまでは、そう思ってた」

「異性であることさえ無視すれば、一番の友達だったよ。口幅ったいけど、なのはの魔法の師匠は一時期僕でもあったわけだし」

「だから、みんなそう思ってたんだよ。なのはが一番仲のいい男の人は、ユーノたったんだし」

 ユーノは椅子の背もたれに預けた身体ごと後ろに倒れた。
 低重力の室内では背中を強打することもなく、ユーノの身体はふわりと浮いたように漂う。
 空中であぐらをかいたような姿勢になると、ユーノは身体ごとくるりと回る。

347野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:29:40 ID:3OgJsu9s
 
「僕だって、なのはのことは好きだったよ」

「だったら……」

「好きだからと言って結婚には結びつかないさ」

 身体を起こしたユーノは再びグラスを掴む。

「僕には、なのはを縛り付けることしかできないから」

 空往く者を地に縛り付ける権利など自分にあるのか。とユーノは問うていた。
 それも、もっともっと昔に。
 もしかしたらなのはは、喜んで縛り付けられるのかも知れない。
 だとすれば……

 最悪だ。

 そんなユーノ・スクライアを、ユーノ・スクライアは許せない。
 高町なのはを地上に引き留める自分を、自分は許せない。
 愛し合うことで縛り付けてしまうのなら、いっそ愛さなければいい。

 それなら、とフェイトは言う。
 飛ばし続けてあげることは出来なかったのか。
 なのはを見守ることは出来なかったのか。
 飛び続ける彼女を待つことは出来なかったのか。

348野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:30:19 ID:3OgJsu9s
 
「無理だね」

 簡潔に、ひどくあっさりとユーノは答える。
 自分の性格は自分が一番よくわかっている。
 そんなことが出来る性格なら……
 黙って見守ることが出来るような性格なら、自分はそもそもなのはと知り合っていないだろう。
 そんな自分なら、ジュエルシードを追って地球に降りたりはしていないだろうから。

「なのはと適度に付き合うなんて、僕には無理だ」

 いっそ離れるか、それとも束縛するか、二つに一つ。
 自分が出来るのはそのどちらかだけだ。
 だから、離れることを選ぶ。
 束縛したとしても、なのはは受け入れてくれるだろう。だけど、それはもう、なのはじゃない。

「だから、これでいいんだよ」

「本当に、いいの?」

「うん」

 自棄でも放棄でもない。これは自分で考えた結論だ。
 何処にも文句は言えない、誰にも繰り言は言えない。自分が、自分のために出した結論なのだから。

「君なら、できるんだろうね」

349野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:30:58 ID:3OgJsu9s
 
「そうだね」

 素直にフェイトは答えた。
 放置でも束縛でもない、自分なら適度になのはを愛することが出来ると。
 放置も束縛も適度な距離も、愛情の深さとはなんの関係もない、ただの性格や立ち位置の問題だ。
 それは、共に戦ってきて、背中を預けたことすらある魔道師としての距離感であり、安心。そして信頼。

「だけど、私は女だよ?」

 ミッドチルダにもさすがに同性婚はない。ある意味では、地球の一部国家の方が進んでいるのだ。

「それに、私だけだしね」

 悲しげに、それでも何処か吹っ切れた調子で笑うフェイトを見つめるユーノの視線は優しい。
 別の意味で、フェイトの想いが決して成就しないことをユーノも知っている。
 フェイトはなのはが好きだ。どちらの意味でも。
 なのははフェイトが好きだ。一つだけの意味で。
 その差は永久に埋まらないことを、フェイトは知っている。そして、その差が存在することをなのはに知られてはならないことも。

「本当ならユーノにも、知られたくなかったんだけど」

「わかるさ」

「そうだね」

 同じ場所を、同じ場所から、同じ視線で見ていた二人だからこその言葉。
 だからこそ、二人にしかわからないもの、二人にしか通じ合わないものがある。

350野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:31:34 ID:3OgJsu9s
 
「僕たちにもう一度」

 二人はグラスを持ち上げる。

「乾杯」

 即座に干されるグラスの中身。

「時々思うんだ」

 お代わりを注ぎながら、フェイトは言葉を続けた。

「私がユーノだったら良かったのかなって」

「え? よく、わからないよ、フェイト」

「私が男だったら、なのはとの関係はどうなってたのかなって」

 地球にいた頃であれば、二人の関係はさほど変わらなかったかも知れない。
 だけど、六課に入ってからはどうだろう?
 少なくとも、ルームシェアはあり得なかっただろうことは、容易に想像できる。

「うん。フェイトなら、僕も安心だよ」

「あれ? いまのなのはの旦那様じゃ駄目なの?」

 肩を竦めてノーコメントのユーノ。駄目も何も、なのはの結婚相手が何処の誰なのか、それすらユーノは知ろうとしなかったのに。
 だからなのか、ユーノはフェイトの問いを無視していた。

351野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:32:26 ID:3OgJsu9s
 
「残念ながら、フェイトは女の人だから」

 あはっ、とフェイトは笑った。

「認めてくれるんだ、ユーノは」

「何を?」

「私が女の子だって」

「認めるも何も、現に女の子じゃないか」

「ユーノにとって、〝女の子〟はなのはだけなのかと思ってたよ」

 なにやら、おかしな方向に舵がきられているような気がする。

「そうかもしれないよ」

 だから、護りを固めたつもりだった。

「僕にとっては、なのはが唯一無比なのかも知れないよ」

「それならそれでいいよ」

 気のせいか、とユーノは思う。

352野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:32:57 ID:3OgJsu9s
 
 気のせいか、とユーノは思う。

「私にとっても、なのはは唯一無比だもの」

 良かった、とユーノが気を抜いた瞬間、

「気が合うね」

 フェイトがニヤリと笑ったように見えた。

「……ねえ、フェイト」

「なにかな?」

「お互いに、みっともない真似を晒すのだけは止めようよ」

 フェイトの目が細められる。
 
「わかってるよ」

 それなら、と言いかけたユーノを制するように、

「だけど、これがみっともない真似だってわかるのは、はやてとエイミィぐらいじゃないかなぁ?」

 おいちょっと待て、と立ち上がりかけたユーノの肩を素早く掴み、座り直させるフェイト。

「あの二人なら、黙っててくれるんじゃないかな?」

「……クロノとロッサも気付くんじゃないかな?」

「クロノは無理だよ」

353野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:33:32 ID:3OgJsu9s
 
 あっさりと義兄は切り捨てられた。
 じゃあヴェロッサはどうなのさ、と言いかけたユーノの口は塞がれる。フェイトの唇で。
 すぐに離れた唇が、ユーノの耳元で怪しく囁いた。

「なのはが一番だけど……ユーノは二番じゃ嫌?」

 その瞬間の動きを、ユーノは後に語った。
 自分は馬鹿で、どうしようもなく男だったと。

 








 翌朝、ユーノは改めてフェイトに尋ねる。

「なのはが一番だけど、フェイトは二番じゃ嫌かな?」

 しばし間を空けて、たっぷりの溜息と共にフェイトは答えた。

「……サイテーだね、男の子のユーノは」

 だけど、いいよ、と付け加えるのを忘れずに。

354野狗 ◆NOC.S1z/i2:2013/02/05(火) 22:35:06 ID:3OgJsu9s

 以上お粗末様でした





 








 構想段階では、なのはの結婚でなく、クロノとエイミィの結婚だった……

 つまり、ホモとブラコンの話だったことは内緒にしておこうと思います

355名無しさん@魔法少女:2013/02/06(水) 02:04:30 ID:qvq3L65o
>>354
GJ、ニヤリとできるいいユノフェだった
だが後書きで再び突っ込まずにはいられない。ホモとブラコンの話って何やねんw
しかも口に出した時点で内緒じゃないww

356名無しさん@魔法少女:2013/02/06(水) 03:20:49 ID:UEKKpovA
でもホモとブラコンの話だった方がエロい気がする

357黒天:2013/02/06(水) 16:08:22 ID:x2.F.qT6
ホモとブラコンの話って何よ。おいどんも気になるでごわす。
あと、なのはさんって他人の心の機微を読み取る能力低そうな気がするのは気のせい?
何というか、表面的な部分しか読み取れて居ないというか。
それはさて置き、少ししたら夜刀浦奇譚投下するです。

358夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:10:04 ID:x2.F.qT6
「・・・心地よい風だな」
「そうだね」
自らの身体を優しく撫でていく夜風の心地よさにザフィーラは眼を細め、アルフも相槌を打った。禍々しい空気が立ち込める街だと思っていたが、この夜風は悪くない。
夜風のおかげで、街に漂う漠然とした生臭さも幾らか和らいでいる。
暫くの間、街を見て回っていたが、不意にアルフの腹から音が鳴った。
「腹が減ったか」
「悪かったね、焼肉を十枚食ったのにアタシの腹はもう食い物を要求してるよ」
「気にするな、折角だから、近所の店で何か腹に詰めてから帰ろう」
適当な店が無いか、ザフィーラは辺りを見渡す。
彼らが居る場所は、個人経営の喫茶店が立ち並ぶ一画。
程なく、手頃そうな店を見つけた。
「あそこなんかどうだ?」
「時間的にあんまりお客さんが居ないみたいだし、あそこにするかね」


その喫茶店煉瓦造りで中々にモダンな外観をしており、扉を開けると、軽快なベルの音が出迎えてくれた。
「とりあえず、アタシは焼きソバとオレンジジュース」
「私はミネラルウォーターに、サイコロステーキを頼む」
二人用の席に着き、ザフィーラとアルフは店員にそれぞれメニューを頼んだ。
厨房に引き返していく店員の後姿を見送ると、ザフィーラは店内を見渡した。
ザフィーラとアルフ以外に客の姿は数人――恐らくは地元の若者達だろう。
距離的にそれ程、離れていないので、彼らの会話の内容が耳に入ってくる。


「という訳で、お姫様が居た場所には、後には魚が腐った様な匂いと、人間の物とは思えない様な足跡が残ってたんだと」
「うーん、何か眉唾物の話だな」
「でも、この頃、魚みたいな顔の連中を見かけたって話、よく聞くよな」
「ああ、特にあの“海神の森”の近くでだろ?」
「・・・あの森の地下には祭壇があって、この街の周辺から浚われてきた連中が生贄として海の神様に捧げられてるとか」
「イメージダウンだよなあ、只でさえ産業が無い街なのに」



その後、若者達は店を後にし、店内に居る客はザフィーラとアルフだけになった。
焼きソバを頬張りながら、アルフは向かいの席に座ったザフィーラに話しかけた。
「どう思う?」
「今の若者達の話か? あながち出鱈目でも無さそうだな。この街全体を取り巻いている陰惨な空気を見る限りではな」
サイコロステーキを食するのを中断したザフィーラは、重々しい口調で言った。
人外が跋扈しているという意味では、海鳴市もそうだが、この夜刀浦は更にその上をいっている。何というか、何百年にも渡って積もりに積もった怨念めいた物が渦巻き、得体の知れぬ圧迫感、閉塞感を感じる。まるで暗い海の底に居る様だった。
「というか海鳴市は、ここまで生臭い匂い漂ってないからね」
「この生臭さは原型が狼である我々には、少々きついな」
食事を続けながら、ザフィーラとアルフは顔をしかめた。
夜風が止んだのか、生臭い匂いが店の窓から入ってきて気持ちが悪い。
人間の嗅覚でも不快さを感じるのに、彼らにとってはこの生臭さはたまらない。
窓を閉めても、匂いは店内に残り、加速度的に食欲が失せてくる。
それでも根性で食え終え、店を出る。

359夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:10:52 ID:x2.F.qT6
「・・・この街に月村家が出資するらしいけど、それで少しはマシになるのかねえ」
「それは我々が関知する所ではないな。もう夜も遅い。旅館に戻ろう」
店を後にし、ザフィーラとアルフは『鷹樹庵』に続く道を歩き始めた。





そこは生臭い魚の臭いと潮の臭いで満ちていた。
薄暗く湿気を帯びた空間の中心には、満々と水を蓄えた巨大な地底湖があり、そこに夜刀浦の地下全体に広がる水脈から水が流れ込んできている。
その地底湖の手前には、不気味な装飾を施された祭壇があった。

空間の彼方此方から、嬲られる女達の嬌声が聞こえてくる。
女達を嬲っているのは、人間とはかけ離れた異形――半魚人だった。
瞬きしない眼を動かし、呪文の様な言葉を呟き、彼らは女達を穢している。
長時間に渡る陵辱の果て、限界に達した女の1人の精神が遂に崩壊した。
それを悟った半魚人達が、女を祭壇の上にあげ、その喉笛を刃で切り裂いた。
噴き出した鮮血は、祭壇を滴り落ち、地底湖に流れ込み、それに呼応する様に水面が不気味に泡立った。まるで地底湖その物が生贄を欲している様だった。
「ワレラが神の目覚めの時ハチカイ・・・」
半魚人の中でもリーダー格と思われる者が呟くと、残りの半魚人達が雄叫びをあげ、ドンドンと足を踏み鳴らす。



「神様か、連中が崇めとる神様やから、真っ当な神様やないんやろなあ」
「確かな恵みをもたらす神であるのは確かだ」
半魚人達から少し離れた所で、二人の男が言葉を交わしている。
1人は上等なスーツに身を包んだ、小太りな中年の男。
もう1人は中国風の衣を纏い、顔に奇怪な仮面をつけた男。
「確かな恵みか、確かにワシに、生贄と引き換えに黄金をくれるんやから悪い神様やないな。世の中は所詮、金や」
中年の男の背後には、黄金の装飾品―ー配下の連中を使って浚った女達を生贄に差し出して手に入れたーーーが山積みにされている。
「薄気味悪い装飾が施されとるが、溶かして鋳潰してしまえば問題は無いで」
「それは結構・・・私も神を復活させ、‘組織’の再興を図れるという物だ」
仮面の男がくぐもった声で哂い、視線を祭壇の方に向けた。
祭壇の上には、二人目の女――無論、陵辱の末、精神崩壊しているーーが乗せられ、喉笛を引き裂かれ、噴き出した鮮血が地底湖に流れ込み、それに呼応する様に湖の底からは得体の知れない唸り声が響き、空間内に反響した。


「‘神’の復活も間もなくだが、やはり完全なる覚醒には極上の生贄が必要だな」
「それなら、アテはあるで。丁度、ワシと同じ一族で、ワシよりも血の濃い奴がこの街に来ているんや。アイツなら申し分無いやろ。それで神様が復活した暁にはーー」
「勿論、貴方に特大の黄金を差し上げるとも」
祭壇の所で行われている惨劇を眺めながら、彼らは‘契約事項’を確認する。

360夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:12:19 ID:x2.F.qT6

「とはいっても‘神’の復活までに、油断は出来んがね」
「御神の小僧や退魔機関の連中なぞ恐れるに足らんやろ。こっちには本物の化物がついとるんやで。まして神様が復活してしまえば、人間風情に何が出来るんや」
下卑た笑みを浮かべる中年の男を、内心で侮蔑しながらも、仮面の男は適当に相槌を打った。とりあえず神の復活までは、協力体制をとっていた方が得策だった。

仮面の男が恐れているのは、この身体の‘持ち主’が所属していた組織を壊滅に追い込んだ青年剣士の事でも、下級の妖魔を討伐する退魔機関の事でも無い。


本来の‘自分’が率いていた‘組織’を滅ぼした者。
忌々しいーー偽りの‘神’である<光の巨人>を信仰する一族の少年。
その少年の気配を近くに感じる。向こうはこちらに気付いていない様だが。
「・・・念には念を入れておくか」
黄金の装飾品を愛でている中年の男を横目で見ながら、仮面の男は手で印を組み、忌まわしい術を行使し始めた。







忍は清楚な白のワンピースに身を包み、朝から夜刀浦の海辺の砂浜――昨夜、ユーノが居た場所の近くーーを恭也を引きつれて、散策していた。

「朝からテンションが高いな」
忍と反対の、黒一色の服装の恭也は眼を擦りながら苦笑した。
このテンションの高さは、いつもなら朝は動きが鈍い忍にしては珍しい事だ。
「だって、リインフォースが可愛くて・・・それで興奮して眠れなかったの」
「そうか」
「そうなのよ!! お風呂場でちょっと苛めすぎちゃったけど、あの可愛さは反則よね。おまけに朝食の時、ユーノ君の方をチラチラ見て、あれはユーノ君を強く意識してるわね。すずかに超強力なライバル出現ね」
訳知り顔で頷く忍を横目で見ながら、恭也は辺りの気配を探る。
魚が腐った様な生臭い臭いが漂い、何処と無く余所者を拒む空気がある。
何となく恭也は、視線を海とは反対側に向けた。

「・・・ザフィーラ達が昨日言っていた“海神の森”とやらか・・・」
鬱蒼と茂った木々不気味な存在感を放つ、黒い森。
朝陽を拒むかのような陰鬱な気配を放っている。
「海の神様を祀っていたから“海神の森”・・・土着宗教の一種といった所かしらね」
そんな恋人に何となく相槌を打っていた恭也だったが、背後に視線――それも明確な敵意が籠ったーーを感じ、その場に立ち止まり、振り向く。

視線の主は、夜刀浦の地元住人だが、その姿はかなり異様だった。
丸く大きな眼に、張り出した鰓。
肌はツギハギしたかの様に斑模様で、鮫肌。
不思議な事に彼らは子供の頃は普通の顔をしているが、年を経るにつれて徐々に顔が人間と魚を掛け合わせた物に変わっていくという。
夜刀浦の住民の半分近くにこの様な特徴が見られ、彼らは月村家の進出を快く思っていないらしい。

361夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:13:01 ID:x2.F.qT6
「インスマス面だったか」
事前にこの土地について、調べる過程で知った米国の港町インスマスでも似たような特徴の見られる者が居る事を恭也は思い出した。
インスマスの住人も排他的で、余所者に対しては敵意をむき出しにするという。
「恭也、何してるの、置いていくわよ」
「ああ、今行く」
敵意の籠った視線を背後に感じながら、恭也は駆け出した。
程なくして追いつくと、さり気なく忍を庇う様な位置を確保する。
「どうしたの、そんなに気を張り詰めなくてもいいじゃない。きっと余所者が自分達の土地に入り込んできたから不愉快に思っているだけよ。この街が活性化して、交流が深まれば、溝も無くなっていくわよ」
呑気な忍と並んで歩きながら、恭也は気を全身に張り巡らせる。
鍛え上げられた、御神の剣士としての直感が告げている。

―――‘この土地は危険だ。一刻も速く離れるべきだ’



未だに背後から粘ついた敵意の籠った視線を感じ、
「速く、ここから離れるぞ」
「え、ちょ、ちょっとっ!?」
恭也は自らの直感に従い、忍の手を掴み、足早に立ち去った。











飯綱製薬はそれなりの規模を持つ企業であり、その敷地内にある飯綱大学は医学部と薬学部が有名である。大学内には新旧2つの図書館があり、特に旧図書館は貴重な本の宝庫として有名であり、時には人外の侵入者もいるという。

「・・・余り大した情報はのってないな」
新図書館の閲覧コーナーの長机の上に本を積み上げ、その中の一冊を開き、ざっと眼を通してみるが、内容の大半はある意味で、ユーノが求める物ではなかった。
本当に必要な情報は、旧図書館にある。
だが旧図書館の蔵書を閲覧するには、特別の許可が要るらしく一般の利用者は入室すら出来ない。この辺りの仕組みは無限書庫の禁書区画と同じだ。
「現地の“専門家”に任せておいてもいいかな・・・」
本来、自分はこの世界では部外者だ。
異界より迫る怪異に対抗する機関は、この世界にも存在する筈。
彼らがこの地に蔓延る怪異を取り除いてくれるなら、それに越した事は無い。
だが、もし怪異が自分に近しい人々に忍び寄って来ていたらーー

何となく、ユーノはズボンのポケットに手をやり、軽く叩いた。
確かなーー怪異に対抗する為の‘力’――を秘めた物の手応えが伝わってくる。
「とりあえず、本を返してこよう」
借りていた本を返しに、ユーノは受付の方に向かい、司書の女性に手渡した。
司書の女性は長い黒髪に、ブルーグリーンの瞳が実に魅惑的で、動作の一つ一つが淑やかだ。地味な黒いスーツを着ていても、彼女が持つ気品が伝わってくる。
ユーノの周りの女性は美人揃いだが、彼女達とは質の違う美しさだ。
「・・・どうしましたか?」
「いえ、何でもありません」
平静を装い、ユーノは本の返却手続きを済ませる。
ふと背後に視線を感じると、黒いワンピース姿のすずかが頬を膨らませ、不機嫌そうな表情で立っていた。
「すずか、どうしたの?」
「・・・ユーノ君、葉弓さんに見とれちゃって・・・」
不穏な気配を醸し出す、すずかだったが不意にユーノの手を掴み、そのまま有無を言わせずにズンズンと引っ張っていく。
その様子を司書の女性は穏やかな笑みを浮かべ、軽く手を振りながら見送っていた。

362夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:13:45 ID:x2.F.qT6
「・・・葉弓さんに見とれて、ユーノ君たら鼻の下を伸ばしてだらしないよ」
「えーと、すずか、あの葉弓さんって、あの司書さんの事? 知り合いなの?」
「私というよりも、お姉ちゃんの知り合いかな。神咲葉弓さんって言うの。この大学の図書館で司書さんをやってるとは知らなかったけど」
不機嫌そうな表情は変わらずだが、すずかは律儀に答えてくれる。
すずかに引っ張られながら、ユーノは思考の海に沈む。
ユーノとしては、ただ単に葉弓に見とれていただけではない、彼女の立ち振る舞いは何らかの武術を修めているのか、全くの自然体でありながら、隙が無かった。
それに魔力とは違う力を感じさせた。妖魔と闘う機関の人間かもしれない。


いつの間にか、二人は図書館の入口近くまで来ていた。
「ユーノ君・・・葉弓さんの事考えて鼻の下伸ばしてる」
「え、すずか・・・何で怒ってるの?」
「・・・鈍感、ほら、私、お気に入りのワンピース着てるんだよ。ねえ、似合う?」
黒いワンピースの裾を翻し、すずかはその場で軽くステップを踏んだ。
軽やかに踊る姿は可憐で、将来が楽しみだと思わせてくれる。
「うん、似合ってるよ」
「それだけ?」
だがユーノの反応は実に淡白だった。
がっくりと肩を落とし、すずかはジト目でユーノを見遣る。
「やっぱり・・・リインフォースさんがいいの?」
「何でリインフォースが出てくるの?」
疑問符を浮かべるユーノに対し、すずかは溜息をついた。
内面外面共にリインフォースに匹敵する女性はそうは居ない。
だからこそ、すずかは危機感を感じているのだ。
もし、彼女がユーノを一人の男として意識してしまったら。
―――――最強の、なのはさえ凌駕する‘敵’になる。
すずかの女としての勘は告げていた。
――――今の段階でも、リインフォースは相当、ユーノを意識し、好意を持っている。

「だってリインフォースさん、凄い美人じゃない。あれ程の美人に気にかけて貰って、嬉しくなったりしないのかなって」
「嬉しいけど気にかけて貰わなくても僕は生きていけるし、リインフォースは八神家の皆との時間を大事にして欲しいんだ。消滅を免れたんだから僕なんか気にせずに」
何の感慨も抱かず、ユーノは言った。気にかけて貰えるのは嬉しい。
だが、それでリインフォースにとっての八神家の団欒の時間を奪ってはならない。
ずっと1人で生きてきたのだから、孤独は慣れている。
所詮、自分は高町家、八神家、ハラウオン家の団欒の輪に入っていけないのだから。

「無限書庫で仕事に没頭していれば、寂しさも気にならないしね」
「・・・でも寂しい事は確かなんでしょ。そうやって自分を押し殺していてもいい事無いんだよ。ほら、もうすぐお昼だからご飯食べよ」
ユーノの手を掴み、すずかは再び有無を言わせずに引っ張っていく。
その勢いの前に、ユーノは成す術なく引き摺られていった。

363夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:14:28 ID:x2.F.qT6
一方、リインフォースは窮地に立たされていた。
場所は夜刀浦にオープンしたブティック店。
その一角、女性用の下着が陳列されたーー要するに男性お断りのコーナーにて。
「さあ、リインフォース、この下着なんてどうかしら?」
「シルクでピンクでレースか・・・どうせなら、こっちの真紅の方が似合うんやないか?」
試着するリインフォース本人の意見そっちのけで、下着について議論する夜天の主と湖の騎士。暫し呆然としていたリインフォースだったが、おずおずと声をかける。
「あ、リインフォース、色はどんなんがええ?」
「え、色ですか? 出来れば、黒系の色がーー」
「黒か・・・それなら、この黒と紫を組み合わせた奴なんてどうや?」
「透かしが多くて、色っぽくて、かつ、お洒落なデザイン。はやてちゃん、もうどうせなら黒いストッキングもつけましょう」
「成る程、スラリと長い脚が際立つで、これでユーノ君もイチコロや。この組み合わせで陥落せん男はおらん!!」
妙に熱っぽく力説する夜天の主。
リインフォースの方は、呆気に取られた様子で眼を瞬かせている。
そんな彼女の手を、シャマルが掴み、試着室に引き摺っていく。

「あ、シャ、シャマルっ!!」
「さあ、この下着を着けて、この服に着替えなさい」
下着と服を手渡され、実にいい笑顔のシャマルによって試着室に有無を言わさない勢いで放り込まれる。
「・・・全く、我が主とシャマルは・・・」
渋々といった感じでリインフォースは下着を身につけ、服に袖を通していった。










「あれ、ユーノ君とすずかちゃんやないか」
近くのパン屋で買ったパンを頬張り、適当に二人でぶらついていると、白いワンピース姿のはやてと出くわした。
「・・・すずかのワンピースと似てるね。白と黒で色は違うけど」
「向こうの方にあるお店でしょ? 私もあそこでこのワンピース買ったんだ」
「そういえば、忍さんも白のワンピースやったね」
「えーと、はやてちゃんだけ?」
「いいや、シャマルとリインフォースも居るけど・・・」
はやてが視線を向けた方向には、二人の女性が何やら揉めているのが見える。
青いワンピース姿で親しみやすい近所のお姉さんといった雰囲気のシャマル、そして、リインフォースがシャマルに連れられてユーノの前にたった。
「あ・・・リ、リインフォース」
「そ、その、ユーノ、どうだ、私の格好はおかしくないか?」

頬を薄っすらと染め、リインフォースはおずおずといった感じで尋ねてきた。
黒のハイネックのシャツに、黒と緑のスカート、黒いストッキング、茶色のブーツ。
全体的に黒系統で纏めてあるが、それが彼女のクールさを際立たせ、大人の魅力を存分に引き出している。不安そうに指をつき合わせる仕草が実に可愛らしい。
「う、うん・・・凄く似合ってるよ」
「そ、そうか」
リインフォースに見惚れながら、ユーノはどうにか感想を口にし、リインフォースの方も嬉しそうに顔を綻ばせ、流麗な銀髪がサラサラと揺れる。

364夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:15:01 ID:x2.F.qT6
「何やらいい雰囲気ですな、シャマルさん」
「ええ、そうですね、はやてさん」
ユーノとリインフォースの様子を眺めながら、はやてとシャマルはゴシップ好きの近所のおばちゃんの如く話し込みーー


「ユーノ君・・・リインフォースさんといい雰囲気になってる」
フォースの暗黒面に堕ちた騎士の様な眼で、リインフォースを見るすずか。
近くの自販機で買っていたトマトジュースの缶が凄まじい怪力で握り潰され、中身が地面にポタポタと滴り落ちている。

「リインフォースさんのあの服・・・選んだの、はやてちゃん?」
底知れぬ重圧を秘めたすずかの声に、はやては背筋に冷たい物を感じ、息を飲む。
気のせいか、すずかの瞳が紅くーー血の色の様にーーなっている様な気がする。
「凄く・・・似合ってるよねぇ・・・大人の魅力満載で、胸も大きいし・・・」
「いや、すずかちゃんも将来はきっと、グラマーになると思うで、忍さんを見る限り」
「そうかなあ・・・」
「そうやって。んで将来、グラマーになったら、胸揉ませて」
「嫌、私の胸はユーノ君専用なの」
はやてのお願いを微塵の容赦も無くバッサリと斬り捨て、闇のオーラを纏ったすずかはトマトジュースの缶をゴミ箱に放り込んだ。










その後、ユーノ達は夜刀浦市内の博物館を訪れていた。
「この博物館も月村家の資本が入ってるんだよ」
誇らしげに語りながら、すずかはユーノの手を掴み、博物館の内部を案内する。
余り広くないが、掃除は行き届いて不潔という印象は無いのだが、陳列されているのは得体の知れない物が多く、博物館の内部の空気を澱ませている。
陳列されている品の中でーー1m前後の高さの石像がユーノの目に留まった。
「この像は?」
「この辺で信仰されている、豊漁を約束する海の神様の像だって」
すずかの答えに頷きながら、ユーノはガラスケース越しに、その像を見詰めた。
その像は実に奇妙で薄気味悪かった。分厚く弛んだ唇、ドンヨリと濁った眼、水かきのついた手足。それなのに、全体的な印象は忌々しいほど、人間に似ている。
石像の横には、像についての簡単な説明が書かれた札が置いてあった。
「・・・何々、この神像の名前はダゴン。古代ぺリシテ人に崇拝された海の神様と同じ名前だね。確か旧約聖書『士師記』第16章だったかな」
「凄い、すずか、よく知ってるね」
「えへへ、ありがとう、ユーノ君」
ほんのりと頬を染め、すずかが嬉しそうに笑う。
思わず、その笑みに見惚れるユーノだったが、背後に重圧を感じて振り返った。
「な、何、リインフォース」
「いや古代ベルカでも、似た様な神の話を聞いた事があったんでな」
「海の祟り神デイゴンの事かい? やっぱり世界を隔てても人間の意識には、共通するイメージがあるという事かな」
「昨日も似た様な事を言っていたな」
「そ、そうだったっけ・・・」
リインフォースの言葉に、昨夜、彼女のショーツと手で肉棒を扱かれた一件を不意に思い出したユーノの顔が赤くなり、その理由を察したリインフォースも頬を染めて眼をそらした。

365夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:15:46 ID:x2.F.qT6
むー、二人とも、昨日、何かあったの?」
「べ、別に何も無かったよ」
「そ、そうだぞ・・・別に何も無かった」
ジト眼を向けてくるすずかに対し、ユーノとリインフォースはきっぱりと否定するが、すずかは尚も疑惑の視線を向けてくる。

すずかの追及の視線から逃れ、数m移動したユーノの視界にガラスケースの中に納まった冠が飛び込んできた。この冠も実に奇妙で不気味だった。
金の様な材質で出来ており、その表面には幾何学模様や海を顕す模様が見事な技術で浮き彫りにされ、冠の天辺には蛸の様な怪物の飾りが不気味な躍動感を伴って据えられている。
「――ダゴンの冠か」
「知っているのか?」
「いや、説明が書いてあるから」
いつの間にか、横に並んで立っていたリインフォースに対し、ユーノは視線を解説が記された札に向けた。
「この冠は古来より、夜刀浦の宗教団体『堕魂教団』の司祭が祭事に用いてきた物であり、通称『堕魂の冠』と呼ばれる。要するに土着宗教の一種か」
「こっちの方に祭事の様子が描かれた掛け軸が掛かってるよ。かなり血生臭い宗教だったみたいだけど」
すずかが指差した壁に掛かった掛け軸には、確かに凄惨な光景が描かれている。

海に面した砂浜に設けられた祭壇の上に生贄として乗せられた女子供。
暗い海の底から現れ、生贄を丸呑みにしようとする巨大な怪物。
ひれ伏して怪物を拝む半魚人や人間の漁師達。

「・・・黒魔術の儀式みたい」
「本質は同じ事だよ。生贄を捧げて相応の対価を得る。これは何処の世界でも見られる。この掛け軸に描かれている通り、崇拝者達はダゴンに生贄を捧げ、その見返りとして、豊漁や黄金を得る。要するに『堕魂教団』は邪教の集団であり、夜刀浦は邪神崇拝者の拠点だったんだ」
掛け軸を眺めながら、ユーノは淡々と、だが確信を込めた口調で言った。
まるで全く同じ‘事例’を知っているかの様な口ぶりだ。
「随分とハッキリ言い切るのだな」
「・・・次元世界を見渡せば、似た事例は割とあるからね」
ユーノの言った事は正しい。古代ベルカでも大きな城や橋を造る時や、戦争で勝利を祈願する時、生贄を捧げる事があり、リインフォース自身、記憶は曖昧ではあるが、そういった場面を目撃した記憶は残っている。
だが、ユーノにそういう血生臭い場面に出くわす機会があったのだろうか。
陳列物を見て回るユーノを何となく見詰めながら、そんな事を考える。


「リインフォース、ユーノ君の事じっと見詰めて・・・そんなに気になるの?」
「ち、違うぞ。ただ、私達はユーノの事を何も知らないと思ってな」
「確かにそうね。ユーノ君の事を知らなくても、日常生活に支障は無いものね。知りたいと思うのは、彼に対して一定以上の好意を寄せてる場合よね」
意味深なシャマルの視線を受け、リインフォースの頬が朱に染まる。
雪の様に白い肌が、仄かに色付き、並の男なら、これで撃沈できそうだ。
「貴女が本気になれば、ユーノ君も落せると思うけど、もっと自信持ちなさい」
「―――そ、そんな事を言われても・・・」
「こういう時はユーノ君にお土産の1つでもねだって、自分の事を意識させるのが重要なんやで」
「わ、我が主、あ、あの・・・」
動揺するリインフォースの手を掴み、はやてはそのまま強引にユーノの所まで引っ張っていった。

366夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:17:04 ID:x2.F.qT6
「リインフォース、よかったやないか。ユーノ君にお土産買ってもらえて」
「わ、我が主、カ、からかわないで下さい・・・」
頬はおろか、耳まで真っ赤にしたリインフォースの豊かな胸元を飾っているのは、黒い長方形のペンダントだ。
ペンダント自体は夜刀浦の外れの土産物屋で売っていた物だが、造りそのものは悪くない。
長方形のそれぞれの面には、炎の柱を囲む五芒星が刻まれている。
ちなみにユーノは、すずかにも同じ物を買っている。

「邪悪な者の干渉を跳ね除けられる御守りらしいけど・・・中々お洒落よね」
「そういえば、五芒星が刻まれた御守りを身につけてる人、この辺り結構多い気がするんやけど」
シャマルの言葉に頷き、はやてが辺りを見渡すと、確かに五芒星をあしらったアクセサリーを身につけている人々が多い。
それだけでなく、彼方此方に五芒星が刻まれている。
家の軒先に木の棒で作られた五芒星がぶら下がっていたり、古い神社の鳥居に五芒星が刻まれていたりする。魔除けの様な物かもしれない。
「この辺りに住んどる人達の顔は普通やね。あの魚が腐った様な臭いもあまりきつくないし」
辺りを見渡すはやての言う通り、行き交う人々はあの魚や蛙の様な容姿をしておらず、生臭い臭いもそれ程強くは無い。
「やっぱり、五芒星が関係してるのかしら?」
丁度、シャマルの視線が向けた先――巨大な石碑が幾つも立っており、それら全てに五芒星が刻まれ、この石碑群は夜刀浦北部を囲む様に配置されている。

具体的には比較的、発展した北部に『鷹樹庵』や飯綱大学、夜刀浦博物館があり、廃墟だらけの寂れた南部に海神の森がある。
ちなみに魚や蛙の様な容姿をした者達が居住しているのも南部である。
「薄気味が悪い光景だな」
石碑群の向こうに広がる廃墟――人間の気配はしないのに、物音が響く――は魔導書の化身であるリインフォースの感覚からしても、実に薄気味が悪かった。


何処からか、潮風と共に異形が蠢く音が聞こえてきた。






「何で君がここに居るの?」
「初っ端からご挨拶だな」
夜刀浦の彼方此方を見て回り、夕刻に差し掛かる頃になって『鷹樹庵』に戻ると、一階ロビーで黒尽くめの執務官が仁王立ちしていた。
眉を顰めるユーノに対し、クロノも、ついこの前、模擬戦で敗北を喫した屈辱を表面上は隠して仏頂面で応じる。
「何らかの天変地異によって『深海教団』は壊滅していた」
「これで、この案件は一応、終了という事で、クロスケは休暇を取ってアタシ達はそれに便乗した訳、迷惑だった?」
「別に僕は迷惑じゃありませんよ。他の皆はどうか知りませんけど・・・」
クロノとユーノの会話に割り込んできたのは、リーゼロッテだった。
猫耳と尻尾は隠しているが、彼女自身が纏う気紛れな猫といった感じの快活な雰囲気は隠しきれていない。

367夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:17:37 ID:x2.F.qT6
「ユーノ、夕食の用意が出来たそう、あっ・・・!!」
「・・・そう、アンタもここに居たんだっけ」
夕食の準備が出来た事を告げに来たリインフォースの姿を視界に収めた途端、リーゼロッテの気配が剣呑な物に切り替わった。
「リーゼロッテ、止めろ」
「・・・・くっ!!」
クロノの静かだが、強い意志を秘めた声に、リーゼロッテは忌々しそうに顔を伏せた。それでもリインフォースに向けられる、明確な敵意。
『闇の書』の暴走によって愛弟子であるクライドを喪った事は、リーゼロッテにとって忘れられない傷なのだ。
「リインフォース、ちょっと、僕に付き合って」
「え、ユ、ユーノ・・・お、おいっ!?」
自らの過去に苛まれるリインフォースを見かねて、ユーノは彼女の手をとり、一気に走り出す。自然、リインフォースも引っ張られる形で走る羽目になる。


「て、手が・・・」
繋がれている手から伝わってくる温もりを感じ、リインフォースの胸が高鳴る。
走っている途中、シャマルとすれ違った気がしたが、よく覚えていなかった。







「はい、緑茶でよかったかな?」
「ああ、すまない」
『鷹樹庵』三階のユーノの部屋。
ユーノと向かい合う形で、卓袱台の前に行儀よく正座したリインフォースは、湯飲みに入った熱いお茶を啜り、深い息をついた。
「落ち着いた?」
「・・・その、気を使わせてしまったな」
リインフォースにとってはリーゼロッテ、リーゼアリアと夕食の席で顔を合わせる事は正直言って拷問に等しい。
「彼女達にとって『闇の書』そのものであった私の存在は忌まわしい物でしか無いのだな・・・」
絶世の美貌に暗い影を落とし、リインフォースは手の中の湯飲みを見詰める。
やはり『闇の書』の罪を背負って、自分は消えるべきだったのではないか。
『闇の書』の悪名は歴史に埋もれつつあるとはいっても、『闇の書』の暴走によって、人生を狂わされ、消えない憎しみを宿す者は確かに存在する。
リーゼロッテの憎悪に満ちた眼は、それを思い知らせるのに充分だった。
「君が消えた所で、罪は消える訳じゃないよ。仮に君が消えれば、『闇の書』の罪は、夜天の王であるはやてが背負うのだから」
「――――・・・!!」
ユーノの淡々とした言葉は深々とリインフォースの心を抉った。
「『闇の書』の罪を1人で背負い込んで行ける程、はやては強くない。きっと何処かで歪みが生じて壊れてしまう」
「つまり我が主が歪まない様に支えるのが、私の役目であり贖罪だと・・・?」
「別に難しく考える必要は無いよ。生きていれば、誰だって罪を背負うんだ。僕だって、なのはを魔法の世界に引き込んだ罪を背負ってるから」
自嘲する様にユーノは言う。
魔力の不適合で死に掛けていた時、未練がましく自分が助けを求めなければ、なのはは魔法を知らずにすんだ。自分などと関わらずにすんだ。

368夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:18:08 ID:x2.F.qT6
「僕が居なくても・・・フェイトはクロノが何とかしてくれたと思う。はやては難しかったかもしれない。でも、なのはは戦いを知らずに平和な生活を送る事が出来た筈だよ」
「魔法で戦う術を持たない高町は、ほぼ間違いなく、ヴィータの蒐集の餌食になっていたぞ。あれ程の魔力を秘めていれば、狙われない方がおかしい」
「それでもヴィータは、はやての未来を穢さない為に死人を出さない様にしていたし、フェイトやクロノもなのはを助けに来ただろう」

そこで言葉を切ったユーノは自分の湯飲みにお茶を注いで一気に飲み干す。

「仮にこの先、なのはが魔法を使って戦い続け、生命に関わる大怪我をしない保障が何処にある? そして大怪我を負った場合、僕との出会いを後悔して・・・僕の事を憎んだりしないのかな? アリサやすずか、それに高町家の人達は僕に『死んで償え』と言うのかな?」


「・・・お前の問いは、正直、答え様が無いな。高町が生命に関わる大怪我を負うかどうか現時点では解らないし、周りの者達がお前に憎しみを向けるかも定かではない。敢えて答えるならば『可能性としてはあり得る』という所か」
卓袱台の上に空になった湯飲みを置き、鞄の中からDVDと携帯型PCを取り出すユーノに対して、リインフォースは慎重に言葉を選んで答えた。

「そうだよね。ところで暇つぶし用に何枚かDVD持ってきたけど、見る?」
苦笑しながらユーノはDVDをリインフォースの前に並べた。
話題を切り替える意図は明らかだったが、敢えてリインフォースはそれに乗る事にした。夕食は後でいいとユーノがシャマルに伝えてあるので、問題は無い。
今、階下に降りていくとリーゼ姉妹と鉢合わせるだろう。
それは避けたい。彼女達と向き合うには、それなりに心の準備が必要だった。
眼前に並べられたDVDにリインフォースは視線を走らせる。

『戦場の戦乙女 超劇場版:壊』
『円盤王女ヴァルキリー 十二月の狂想曲』
『魔導機神マドカ・マギカ ホムホム復活編』
『装甲戦神ネクサス 金神群獣襲来』 




「私としては『戦場の戦乙女 超劇場版:壊』を希望する」
「うん、じゃあ、それから観よう」
リインフォースのリクエストに答えユーノはケースを開け、DVDをドライブにセットし、携帯型PCに接続した。



『世界の事なんて知るか、だが大佐だけは絶対に助けるんだ――!!』
『邪龍の群れが一撃で・・・機工天使にこんな力がっ!?』
『アザゼルは人の域を超えている・・・!!』
『あぁ、翼が、アザゼルの翼が広がって・・・!!』
『世界が終わるのね』

369夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:19:23 ID:x2.F.qT6
「面白かったな、続きが楽しみだ」
「う、うん・・・」
食い入る様に鑑賞していたリインフォースは、画面から眼を離すと満足そうに頷いた。気のせいか、ヒロインに対して異常に感情移入していた様な気もする。
ヒロインの外見は銀髪に紅眼で長身、巨乳とリインフォースと共通する要素が多かったので、それが原因かもしれない。
というよりもユーノとしては、いつもは物静かなリインフォースが握り拳まで作ってまで興奮する様子に唖然としていた。
「お前はどうだ、面白かったか?」
「う、うん、そういえばヒロインの軍服姿凛々しくてかっこよかったね。君が着たら似合いそうだよね」
「な、何を言っている・・・そ、そんな世迷言を」
唐突に話を振られたユーノは率直に思った事を口にするが、一方で話を振ったリインフォースはというと、ユーノの“世迷言”に思い切り動揺していた。
耳まで真っ赤にして、口をパクパクさせている。
「君って凄い美人でシグナムさんと一緒で軍服とか似あいそうだし」
「しょ、将の事を話題にするな、ば、馬鹿・・・」
不機嫌そうに呟くと、リインフォースは座布団を抱きしめ、密かに深い溜息を付いた。
年の離れた弟の様な少年の事で一喜一憂している自分が情けない。
とはいってもユーノの事が気になって放っておけない。
自分の気持ちを持て余しながら、リインフォースはユーノの方に視線を向けた。
彼は幾つかの部品――デバイスの部品だろう――を手に持っている。
「・・・デバイスの組み立てか?」
「無限書庫の司書達が使う、検索用のデバイスを作ってる」
実に簡潔な答えだ。確かに、ユーノの横にデバイスの部品が無造作に放り込まれた箱が置いてある。
部品の数は50個程だろうか。
質のいい物もあれば、悪い物もある。
「玉石混合だな」
「そうだね、デバイスショップでもジャンク品扱いの奴が半分くらいだから」

無限書庫は稼動したばかりの部署である。
当然、金も人も回ってこない。
それに関して、ユーノは文句を言わず、人事権を欲した。
『予算はいらない。その代わり局内外から自分がスカウトする人物を司書として採用する許可を頂きたい』
リンディやレティといった身近な高官達――所謂、ハラウオン閥――の力をユーノは当てにせず、独自のルートから司書となりうる人材を発掘した。
例えば、局内部からは実力はあるが、素行に問題がある者や見栄えのいい攻撃魔法は使えず、地味な補助魔法しか出来ない者。
局外部からはスクライア一族の若手、本が大好きな本の虫など。

現在の無限書庫の司書の大半は、ユーノが引っ張ってきた者達である。
局側が定めた採用基準――犯罪歴の有無などーーによる審査はあったが。
彼らの為に、ユーノはポケットマネーをはたいて、設計図と睨みあいながら、参考書を片手に持ち、デバイスを造っているのだ。

370夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:19:56 ID:x2.F.qT6
「ラミエル司書は、デバイスの基本形態は正四面体型にして、検索魔法の展開規模に応じて、変化する機能をつけよう。それから彼女は砲撃魔法の素養もあるから、自衛用の術式も組み込んでと・・・」
「確か、その司書は武装隊にも誘われていなかったか?」
「うん、それなのに『私は無限書庫で働きたいんです!!』と言われちゃった。彼女は僕がスカウトした訳でもないのに、無限書庫に来たんだ。凄い変わり者だね」
「きっと、彼女は無限書庫で検索魔法を駆使するお前に“英雄”の姿を見たのだろう」
いつの間にか、顔が触れ合う距離まで来ていたリインフォースに詰め寄られ、ユーノは思わずたじろぐ。少し目線を下げれば、彼女の圧倒的なボリュームを誇る胸が視界に飛び込んでくる上、微かに甘い香りが漂ってきて心臓に悪い。

「・・・それにしても、お前は司書の適性に合わせてデバイス作りをしているのか?」
「うん、待機形態も各人の好みに合わせてるんだ」
「1人では手間がかかって、大変だろう。私も手伝ってやる」
遠慮するユーノを強引に説き伏せ、床に広げられた設計図の一枚に目を通しながら、リインフォースは部品を組み合わせていく。
出来上がったのは、表紙に十字架を刻んだデザインの手帳型デバイス。
試しに起動させてみようと、魔力を送り込むが、起動しない。
「あ、それ、魔力をコアに送り込む回路が切れてるみたい。取り替えないと無理」
「成程、そうか」
ユーノの助言どおり、確かに回路を取り替えてみると、起動した。
このデバイスはとりあえず問題無さそうだと判断して、リインフォースは次のデバイスの組み立てに取り掛かった。
その後、二人でデバイスを組み立てていくのだが、現時点で無限書庫には数十人の司書が勤務しているのだ。彼ら全員の分となると、流石に時間がかかる。
「お前は数十人分のデバイスを一人で組み立てる気だったのか?」
「以前からコツコツとやってたし、司書の皆も手伝ってくれてたから、何個かは出来てるんだ。あと残ってるのは二十個程だよ。まぁ・・・徹夜すれば、大丈夫かなと」
あっけらかんと言い放つユーノに、リインフォースは改めて確信する。
ユーノは基本的に自分自身を大事にしないのだ。
強迫観念にも似た使命感や義務感で動き、常に他人を優先し、自分を省みない。
そんなユーノの在り方がリインフォースは無性に気に入らなかった。







英国の地方都市ブリチェスター。
グロウスターシャー州セヴァン川流域に広がる、見渡す限りの田園地帯に囲まれたのどかな都市であるが、バニングス家の資本投入によって、古きよき景観を残しつつ急速な発展を遂げつつあった。

371夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:20:28 ID:x2.F.qT6
「ふえー、色々なお店があるねえ」
「うん、お土産買って行かないとね」
なのはとフェイトは、古風な煉瓦造りの店が立ち並ぶ街中を散策していた。
その中でフェイトが特に個性的な店を見つけた。
店の前に黒い山羊の絵が描かれた看板が立っていて、店の中には年代物の食器や絵画が並べられている。どうやら骨董品を扱う店らしい。
「・・・『BLACK Goat Shop(黒山羊の店)』 だって。なのは、素敵な絵柄の食器があるよ。翠屋で使えないかな」
「ほんとだ、とりあえずお店の中に入ってみよう。通訳はレイジング・ハートお願いね」

相棒からの了解の返事を貰い、なのはは店の扉を開けた。



「いらっしゃい」
店の中に入ると、日本語での出迎えがあった事になのはとフェイトは驚き、その声があった方角に視線を向けた。
「そう驚く事はないだろう。そっちのお嬢さんはともかく、少なくとも君は日本人、母国の言葉がそんなに耳慣れないかい?」
豪華な装飾が施された机の上に悠然と腰掛けているのは、妙齢の女性だった。
長い黒髪を靡かせ、黒いスーツの上から白衣を無造作に羽織り、いかにも高級そうな葉巻を燻らせている。
「あ、いえ・・・外国で日本語を聞くとは思わなかったので」
「ふむ、この辺りは日本人観光客も割と来るのでね。私も言葉を覚えてしまったよ」
葉巻を咥えたまま、女性は立ち上がり、悠然とした足取りで、なのはとフェイトの方に近付いてくる。どうやら彼女がこの店の主らしい。
「見た所、土産物を買いに来たのかな?」
「は、はい・・・実はあそこに並べられている食器が気に入っちゃったんですけど、その具体的な値段が書いてないのが気になっちゃって」
言葉が通じる事に安堵したなのはが、店の一角の棚に置かれた食器に目を向けた。

「ほう、あの食器に目が向くとは大した物だ。あれはヴィクトリア王朝時代、貴族が使っていた物だよ。それなりの値段だが・・・持ち合わせはあるかね?」
「えーと、フェイトちゃん、お金貸してくれる?」
「うん、いいよ。これで足りるかな?」」
「少し足りないかも・・・」
なのはとフェイトの持ち合わせを全部足しても、女主人から提示された金額には少し足りなかった。あの食器がどうしても欲しいのに、届かない。
「ご、ごめんね・・・なのは」
「ううん、気にしないで、フェイトちゃん」
「・・・中睦まじいお二人さん、恋人同士かね」
二人の間に漂う百合百合しい空気を鋭く感じ取ったのか、女主人は紫煙を吐き出し、唐突に問いを投げてきた。
「え、そ、それはその・・・」
「わ、私とフェイトちゃんは・・・た、確かにそういう関係になりたいとは思っていますが」
「恋愛の形は人それぞれ。遠慮する事は無い。周りに受け入れられるかはさて置き」
最後に不穏な言葉をつけたし、女主人は短くなった葉巻を携帯用の灰皿に入れると、二本目の葉巻に火を灯した。
「・・・よし、ここはお二人の前途を祝福して、特別に半額にしてあげよう」
「え、本当ですか?」
「うむ、あの食器の価値を見抜いたお客さんは久しぶりだからね」
なのはから紙幣と硬貨を受け取り、女主人は手際よく食器を棚から移し、頑丈そうな木箱に入れ、食器の周りに綿を詰めていった。

372夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:21:00 ID:x2.F.qT6
「そういえばお昼近くなんだ」
「何処かのお店で食べていこうか」
『BLACK Goat Shop(黒山羊の店)』を後にしたなのはとフェイトは、キョロキョロと辺りを見渡してみると、黒い龍の看板がかかった中華料理店の前で手を振っている、大親友である金髪碧眼の少女の姿が目に入った。
「アリサちゃんだ」
「あそこのお店にしようか」
なのはとフェイトは頷きあい、親友が待っている中華料理店に向けて駆け出した。





「はい、ユーノ君、こっちの方の回路修復は終わったよ」
「ありがとう、すずか」
和気藹々といった感じで、デバイスの組み立てをしているユーノとすずか。
そんな彼らを、リインフォースは部品の錆を紙やすりで落としながら見詰めていた。
夜食を持ってきたシャマルとすずかが、デバイスの組み立てを手伝ってくれる事自体はいいのだが、何故、ユーノの隣をすずかが占拠しているのだろう。

「リインフォース、そんなにユーノ君とすずかちゃんが気になる?」
「・・・別にそこまで気になっているわけじゃない」
横で部品を雑巾で磨き上げているシャマルに対し、リインフォースは微かに頬を赤らめながら、顔を伏せた。紙やすりを動かす手は休めず、横目でユーノ達を観察する。
そう、別に気にしている訳ではないのだ。
ただ、すずかとユーノの距離は近すぎではないかとか、必要以上にすずかはユーノの手を握りすぎではないかとか、ユーノはデレデレしすぎではないかとか・・・そういった事について、少し物申したいだけだ。
「リインフォース、その部品、もう錆び全部落ちてるわよ」
「む、そうだな・・・次の部品を磨こう」
錆が落ちて新品同然に光輝く部品をシャマルに手渡し、リインフォースは次の部品を手に取った。当然の様に視線はユーノとすずかに向いたままで。



無言の眼差しによる圧力にユーノは顔を引き攣らせるしかない。
元々感情が顔に表れにくいリインフォースだが、今は明らかに不機嫌そうだ。
とはいっても、ユーノの方に思い当たる事は無く、何か起こらせる事でもしたのだろうかと不安になってくる。

一方、すずかはリインフォースの視線の意味を理解していた。
理解した上で、すずかはリインフォースの方に勝ち誇った様な笑みを向けた。
「・・・―――!! おや、こんな所に亀裂が・・・どうやら不良品が混じっていた様だな」
“真新しい亀裂”が入った部品を床に置き、リインフォースは目を瞑って深呼吸した。
落ち着け、自分は古代ベルカが誇る魔導書、この程度の挑発に乗ってはいけない。
そんな彼女に対し、すずかは更に第二撃を放つ。

373夜刀浦奇譚:2013/02/06(水) 16:21:32 ID:x2.F.qT6
「あ、ユーノ君、口の周りにスパゲッティのソースがついてるよ」
リインフォースに見せ付ける様に、すずかが手に持ったハンカチでユーノの口の周りを拭い、夜食で食べたスパゲッティのソースを拭き取った。
「もう・・・ユーノ君てば、だらしないんだから。やっぱりユーノ君には身の周りの世話をする人が必要だよね、うんうん」
わざとらしく頷きながら、すずかが意味ありげな視線をリインフォースに向ける。
その視線を受け、リインフォースの切れ長の紅瞳から光が消える。
彼女から禍々しい瘴気が吹き出し、その手の中の歯車が真っ二つになった。
リインフォースの横に座っているシャマルとしては、もう生きた心地がしない。
魔界の入口に踏み込みかけている同胞を何とかして貰おうと、シャマルは縋る様な瞳でユーノを見た。医務室でお世話になっている湖の騎士の視線に晒されるユーノだが、リインフォースの機嫌が悪い理由について考える。

―――きっとデバイスの組み立てを手伝っているのに、僕がデレデレとしていたから怒ってるんだ。謝らないと駄目だよね。


「ごめん、リインフォース」
「え、ナ、何を言っている、ユーノ?」
「デバイスの組み立てを手伝ってくれてたのに、だらしない態度取っちゃってごめん。きちんとするから許してください」
「あ、そ、その・・・そういう訳ではなくて・・・」
何処かピントのずれた解釈をしてデバイスの製作に没頭するユーノに対し、先程までの不機嫌そうな様子とは一転して、リインフォースはオロオロと視線を彷徨わせた。
そして、そんな彼らを眺めていた、シャマルとすずかは顔を見合わせ、重苦しい溜息をつき、蛍光灯が備え付けてある天井を見上げた。






「だから地球は狙われているのよ、蟹頭の異星人に!!」
「アリサ、お願いだから正気に戻って」
中華料理店『黒龍飯店』の席で、昼食の蟹炒飯を頬張りながら意味不明の事を言う、親友の金髪令嬢の奇行に、フェイトは麻婆豆腐を食す手を休め、頭を抱えた。

街の外れにある「悪魔の階」と呼ばれる岩山を見に行っていたらしく、アリサはきっとそこで幻覚を見たんだろう。この街は不穏な噂は確かに多いが、フェイトの印象ではのどかな田舎町。怪異が蠢いているなんて都市伝説に決まっている。
「アリサちゃん、異星人なんている訳無いよ。きっと疲れてるんだよ。この杏仁豆腐が凄く美味しいよ、アリサちゃんもどう?」
「もう、いいわ・・・」
魔法を使えるくせに、異星人の存在を信じないなのはに対し、アリサは溜息をつくと様々な国籍、人種の人々で混雑する店の喧騒をBGMに残りの蟹炒飯を掻きこんだ。
そんなアリサの横では、なのはとフェイトが百合百合しい空気を漂わせ、いちゃついている。アリサとしては、正直、果てしなくウザイのだが、友達のよしみで黙っていた。

それは彼女達にとって、なんてことは無い、日常。


―――例え、その薄皮一枚隔てた裏側で怪異が蠢いていたとしても。

374黒天:2013/02/06(水) 16:23:24 ID:x2.F.qT6
今日の投下、ここで終了です。
敵側にとらは組から出張してもらいました。
あと、アリサさんが見た物は一体何でしょうか。

375空の狐:2013/02/06(水) 20:16:50 ID:x5HcZJcY
黒天さんお疲れ様です。
変わらずのクトゥルフ節、ますます心配になります。
果たしてアリサはどうなってしまうんでしょうか……安心できねえ。

続いて僕も投稿させていただきます。
タイトル『ユーノくんのパンツ』
微エロ、変態ばかりです。

376『ユーノくんのパンツ』:2013/02/06(水) 20:17:50 ID:x5HcZJcY
 ユーノは悩んでいた。
「……ない」
 目の前に広がった自宅に存在するすべての衣服を睨む。
 現在、自分の服の中から、パンツ二枚、シャツが二枚なくなっていた。
 最初は些細なことだった。休みの日にユーノは纏めて洗濯をするのだが、洗濯をする時にふと気づいたのだ。パンツの数が一枚足りない。
 気づいた捜したものの、見つからなかったからユーノは失くしてしまったのだろうと思った。
 だが、次の洗濯の時に、その失くしたパンツが洗濯機の隙間から出てきた。ああ、なんだこんなところにあったから気づかなかったのかとユーノは見つかったことに安心して洗濯しようとしたら、今度はシャツが足らなかった。そして、後日たまたま他の洗濯ものに紛れていたので見つかった。
 これだけなら、単に普段不精しているからかなとユーノは考えたのだが……
「でも、それが定期的に起こるんだよなあ」
 ユーノの疑念はそれが定期的に起こることだった。
 短くて一週間、長くて一ヶ月の頻度でパンツかシャツが一枚か二枚なくなっていた。時に両方ともなくなることも。一度や二度なら偶然で済ますが、流石にこんなに何度も起きれば偶然じゃすまされない。
 いったいなぜ? それに気づいてからユーノは定期的に服のチェックをするようになっていた。
 なんだか気持ち悪い。なくなったり出てきたり、なんかの事件にでも巻き込まれたのか、それとも未知のロストロギアかとも思ったが、服がなくなる事件なんてあるわけないし。ロストロギアだとして、手元にそんなものはないし、今までに研究のため預かったものにもそんな妙な効果があるものなんてなかった。
「いったいなんなんだよ……」
 このおかしな事態にユーノはそう呟くしかなかった。

377『ユーノくんのパンツ』:2013/02/06(水) 20:18:36 ID:x5HcZJcY
「ていうことがあったんだよね」
「ふ、ふーん、そうなんだ」
「お、おかしなこともあるもんだね」
「大変だねユーノくん」
「気にしすぎじゃないのユーノ?」
 久しぶりに会う幼馴染たち――――なのは、フェイト、アリサ、すずかに話すと、そんな反応を返された。
 それもそうだろう。定期的に服がなくなったり現れたりなんて話にどう反応するべきなのか。振る話題を間違えたかなあとちょっとだけユーノは後悔する。
 なお、はやては残念ながら地上部隊に用事があっていない。顔がにやけていたからゲンヤと会うつもりなのだろう。
 それからお茶を一口飲んでから、なのはとフェイトはなんでか額にびっしりと汗が張り付いているのに気づいた。
「あれ? なのはちゃんとフェイトちゃん、なんでそんなに汗をかいてるの? もしかして心当たりがあるのかな?」
 すずかの問いかけにびくんと二人が反応する。
「ぜ、全然知らないよ。大人になってそんな犯罪行為をするなんて。ねえフェイトちゃん?」
「う、うん、仕事が忙しくてそんなことをする暇なんてあるわけないもんねなのは」
「……まあ、もしかしたら変質者の仕業かもしれないし、なにか対策考えなさいよ」
 と、アリサはユーノに警告する。
「うん、確かになんか対策考えないと」
 どこか挙動不審になったなのはたちを見ながら、ユーノとアリサとすずかは頷いた。

378『ユーノくんのパンツ』:2013/02/06(水) 20:19:06 ID:x5HcZJcY
 お茶会が終わってから、家に帰ってきたなのははそそくさと自室に駆け込んだ。フェイトも同じように自室に飛び込んだ。
 そして、鍵をかけてからベッドに突っ伏する。
「うー、ユーノくんが気づいちゃった。これからは気を付けないと」
 そういいながらなのははベッドの下へ手を突っ込む。
 そして、出てきたのは男物の下着、ぶっちゃけユーノのパンツだった。それになのはは顔を埋める。
「はあはあ、ユーノくんの臭いいいよお、これがない生活なんて考えられないの!」
 深呼吸して、たっぷりとユーノの残滓を肺一杯に満たす。
 一番親しい男の子。子供の頃はただ、横にいてくれて、その匂いを吸うだけで満足していた。
 だけど、大人になって、お互い仕事で隣にいられないようになってから、なのはは段々、あの匂いが恋しくなってしまった。
 できるなら、またユーノが隣にいてもらいたい。でも、そんなことできるわけがない。自分は教導隊のエースオブエース、ユーノは無限書庫司書長、共に戦場に立つことはないのだ。
 だから、なのははユーノのパンツの匂いを嗅ぐことで、ユーノが隣にいない寂しさを紛らわすようになってしまったのだった。
「うう、でももうだいぶ臭いがなくなっちゃったの。そろそろ新しいのに変えなくちゃ」
≪ですが、ユーノもすでに警戒してます。危険です≫
 レイジングハートが警告する。
 確かに、ユーノは気づいてしまったし、おそらく今日の自分の反応に疑いをかけているだろう。あと、気になるのはフェイト。あの反応は不可解だったから、もしかしたらなんか隠しているのかもしれない。
 だけど、
「そのくらいの障害で私は止められないの。ほら、レイジングハート。ユーノくんのパンツだよ」
≪Sweet smell……≫
 レイジングハートをパンツに押し付ける。残念ながらレイジングハートも変態だった。
「ああ、ここにユーノくんのフェレットさんがいたんだよね」
 べろべろとなのははパンツを舐める。仄かにしょっぱい味がした、気がした。
 そうしながらくちゅくちゅと自分を慰め始める。すでにユーノの匂いに興奮していたから、たっぷりと蜜を滴らせているそこをちょっと擦るだけで快感が走る。
「ああん、いいのユーノくんのパンツ、ユーノくんのパンツ!」
 ついには自分のショーツを破くような勢いで脱いでユーノのパンツに足を通し、上へ引き上げ、履いた。
「うふふ、私のあそこ、ユーノくんのフェレットさんと間接キスしているの」
 恍惚となのはは笑うとパンツの上から自慰し始めた。
 荒々しくスリットを擦って、溢れる蜜をパンツに吸わせる。
「あん、ユーノくんのパンツに私の恥ずかしいのが染み込んじゃってるの。これじゃあ洗っても私の臭いが着いちゃってユーノくんが気づいちゃうの」
 そうなれば終わりなのに、むしろそれがなのはを昂らせる。
「はあはあ、ユーノくん、ユーノくん、ユーノくん!!」
 そして、一番敏感な豆を潰し、潮を吹きながら絶頂した。
 荒く息を吐きながら、なのはは恍惚と余韻を味わった。

379『ユーノくんのパンツ』:2013/02/06(水) 20:19:43 ID:x5HcZJcY

「ま、またやっちゃったの……」
 目の前のどろどろのパンツになのはは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。いつもいつも興奮のあまりこんな変態行為をしてしまう。
 そして、終わるたびに自己嫌悪するのだけれども、それでも止められなかった。
「と、とりあえず、洗ってからこっそりユーノくん家に片付けなくちゃ!」
 すぐになのはは行動する。
 こっそり部屋を出て、隣のヴィヴィオが出てこないか警戒する。が、部屋からは『明日はトーマと映画館♪』と上機嫌な声と衣擦れがするから、明日のデートのための準備をしてると判断して静かに廊下を横断した。
「抜き足、差し足、千鳥足」
 そして、洗面所に着いて、
『あっ』
 先客のフェイトと鉢合わせした。
 その手にはなんかの体液でどろどろになったシャツが握られている。くんくんと鼻を鳴らせば、仄かな甘い匂いの中に、嗅ぎ慣れたユーノの匂い。
『ま、まさか……』
 どうやら同時に気づいたらしい。目の前にあるのがユーノのものだと。
「犯罪なのフェイトちゃん!」
「犯罪だよなのは!」
 ほぼ同時に二人は互いを批難し、
『人のこと言えないでしょ?!』
 同時に突っ込む。
 そして、少しの間睨み合ってから、二人ははあっと息を吐く。
「とりあえず、さっさと洗っちゃうの」
「そうだね。明日二人で返しに行こうね」
 二人はどろどろになったパンツとシャツを洗濯機に放り込んだ。

 翌日、なのはとフェイトはユーノ宅に侵入し、シャツとパンツを返そうとしたのだが、バニングス社製の新型侵入者探知システムに引っ掛かり、あっさりとユーノに捕まってしまったのだった。
 そして、二人の魔の手からパンツとシャツは回収されたのだが、まだ一枚ずつ足りなかった。
「違うのー! 今回はパンツ一枚しか持ってってないのー!!」
「私だってシャツ一枚だけだよー!!」
 そう二人は主張するものの、一度こんなことした以上、信じてもらえるわけがなかったのだった。
 そして、その肝心の行方不明のパンツとシャツは……

380『ユーノくんのパンツ』:2013/02/06(水) 20:20:19 ID:x5HcZJcY
 エルトリア、シュテルの自室。
「ふーふー師匠のパンツすごくいい匂いがします」
 愛おしそうにユーノのパンツの匂いを嗅ぐ星光の殲滅者。先日、ミッドに行く機会があったのだが、その時にこっそりとユーノの自宅から持ち出したのだ。
「ああ、もっともっと師匠の匂いを間近で堪能したいです。うう、そのためにもエルトリアの復興を急がなければ!」
 微妙に歪んだ形でシュテルはエルトリア再生の意思をさらに強めたのだった。

 そして、もう一つ。地球、月村邸。
「ふふふ、なのはちゃんもフェイトちゃんも甘いね。確かに、新鮮なユーノくんの香りを嗅ぎたい気持ちはわかるけど、そんな頻度でとっかえひっかえしてたら気づいちゃうに決まってるじゃない」
 すーっとすずかは一年間吸い続けたせいか、匂いが弱くなってしまったシャツに顔を埋めて深呼吸したのだった。



おまけ
『明日はトーマとデート、何着ていこうかな?』
 スピーカーから、ヴィヴィオの上機嫌そうな声が廊下に向けて流れている。
 そして、ヴィヴィオ本人は、
「うう、ママたちのせいだよ。私まで変態さんになっちゃったのは」
 すーっとヴィヴィオは愛しい人の匂いが染みついたシャツの匂いを嗅ぐ。
 スピーカーは母たちに自分の変態的行為を気づかれないようにするためのフェイクだった。
「はあ、トーマの匂い、すごくいいよお。汗の匂いですっごく興奮しちゃうのぉ。いいなあリリィはリアクトすれば嗅ぎ放題だもんなあ」
 ちょっとだけ友達であるリリィにヴィヴィオは嫉妬したのだった。

「はあ、ダメなのに私お姉ちゃんなのにトーマの匂いにくらくらする……」
 ナカジマ家でスバルはトーマの洗い立てのシャツに鼻を押し付けながら匂いを嗅いでいた。

「くんくん、はあ、毛づくろいしてもらった場所からザフィーラの匂いがする、あたしザフィーラの匂いに包まれてるんだ」
 狼形態でアルフは自分から立ち上るザフィーラの匂いを嗅いだ。

「うへへー、ゲンヤさんの髪やー!」
 どうやって入手したのか、はやてはゲンヤの白髪を舌でレロレロしていたのだった。

381空の狐:2013/02/06(水) 20:21:15 ID:x5HcZJcY
以上です。
気づけばユーノの周りにアリサ以外まともな女の子がいないことに……

382黒天:2013/02/06(水) 20:24:08 ID:x2.F.qT6
変態しか居ない。
>空の狐さん
どうもっす。アリサは今回、酷い目にはあいません。
メインは夜刀浦のメンバーですので、一人か二人、ラスボス復活のため、陵辱される女性伽羅が居ますが。
(一人は確定、もう一人は誰にしよう)

383名無しさん@魔法少女:2013/02/06(水) 21:45:49 ID:xgFFXA1U
>>374
『戦場の戦乙女 超劇場版:壊』
『円盤王女ヴァルキリー 十二月の狂想曲』
『魔導機神マドカ・マギカ ホムホム復活編』
『装甲戦神ネクサス 金神群獣襲来』 

相変わらずのクトゥルフ臭と本編より気になる小ネタですなw
次回も期待しております。

384黒天:2013/02/07(木) 10:33:51 ID:G1jripyg
>相変わらずのクトゥルフ臭と本編より気になる小ネタですなw
小ネタは息抜きで入れてます。

>CPはユーノとGODのユーリ
アダルトバージョンのムチムチボディになったユーリがユーノにほれて無邪気に甘えてくる展開とか考えちゃったじゃないか。

385ザ・シガー ◆PyXaJaL4hQ:2013/02/07(木) 17:35:52 ID:Y/DjA8Vo
投下します
>>167-171の続き
死にネタ 閲覧注意






高ケツ圧

386何故ユーノ・スクライアは死んだのか:2013/02/07(木) 17:36:31 ID:Y/DjA8Vo
何故ユーノ・スクライアは死んだのか


 ユーノ・スクライアは高町なのはと結婚し、高町ユーノとなった。
 彼は美人の妻と可愛くてパツキンロリで可愛いパツキンロリのヴィヴィオを義娘として幸せに暮らしていた。
 ただ一つ言える事、それは彼が重度の果てしなくもう治療の余地はないほどに完璧なロリコンであり、夜の営みの時は必ずなのはを九歳時に変身させて行うという事だった。

「あぁ〜! すごい! ユーノくんのフェレットさん凄いよぉ〜! もっと突き上げてぇ〜!!」

「うおおお!!! なのは! ロリマンなのはああああ!!」

 今日もまたベッドの上でユーノのフェレット(暗喩表現)はなのはのロリマン(直喩表現)の中で激しく暴れまわっていた。
 そんな時であった、突如としてドアが爆砕し何者かが室内に侵入してきたのだ。

「きゃぁ! だ、誰……って、フェイトちゃん!?」

 ユーノに馬乗りになりながら器用に振り返ったなのはは驚いた。
 そこに居たのはフェイト・T・ハラオウン、十年来の親友であった。
 バリアジャケット姿のフェイトは怒りの顔でずっぷしと結合して精液と愛液をぐちょどろにしているなのはとユーノを睨んだ。

「なのは! 私を捨ててそんな粗チンフェレットと結婚するなんて! この裏切り者!!」

 と彼女は叫んだ。
 フェイトはとんでもないガチレズでなのはに十年間片思いしていた。
 しかしなのははチンポのない女に興味はなく、世間体が良くて女顔で美形で苛めたり調教したり騎乗位しがいのあるユーノを選んだ。
 
「前にも言ったでしょフェイトちゃん、私は粗チンでもチンチンのある男の人がいいの!」

「ふぅん、それはこれを見ても言えるのかな」

「えぇえ!? そ、それは……!」

 なのはは驚いた。
 誇らしげに突き出したフェイトの腰から先にはなんとチンポがあった。
 それもただのチンポではない、全長30センチはくだらない代物だ。
 バナナのように反り返り、カリも高い名刀である。
 早くもなのはは涎をたらしてそのイチモツに目を輝かせた。

「どう? なのは! なのはのために手術してこさえたチンポだよ!!!」

「なんて女だ……わざわざチンポをつけるなんて……でも駄目だよフェイト! なのははもう僕のロリ嫁なんだ!」

「うるさいよ粗チンフェレット! なのははこう見えて巨根好きで……ひゃぉおおおおおおお!!!」

 フェイトが一瞬にしてだらしない雌顔で喘いだ。
 一体いつ移動したのか、ユーノの上からのいたなのはがその小さな口でフェイトのチンチンを咥えていた。
 ねっとりと舌を絡ませてしゃぶりながら我慢汁を啜り、むちむちの肉尻を掴んでホールド。
 そのまま脚を絡めて押し倒すや跨った。

「んほおおおおおおおおお!!!!!! しゅごいよフェイトちゃんのメガチンポぉおおおお!! 子宮のお口えぐってりゅのっほおおおおおおおおおおお!!!」

 速攻で白目を剥いたアヘ顔でチンポアクメを決めるなのは。
 なりこそロリだが彼女はどこへ出しても恥ずかしくない見事な淫乱痴女であった。
 ユーノの粗チンなどよりでかいふたチンポを選んだのである。
 これではユーノの立つ瀬がない。
 目の前でぬぅぅっちょりと腰をグラインドさせるレズセックスを前に彼は奮い立つ。
 しかし彼のチンコは貧弱が過ぎた。
 なにせ勃起しても小指くらいしかないのだ。
 あまりにも戦力的に乏しい。
 そこで彼は考えた。

「よし! これでいくぞなのは!!!!!」

「ひぎゅあああああああああああ!!!!!!! ふさふさのぶっといのがはいったのにょのほおおおおおお!!!!!!」

 なのはの尻から尻尾が生えた。
 いや、違う、それはユーノの尻尾だ。
 彼はなんとフェレットに変身してその全身をなのはの尻にぶちこんだのだ。
 強引なフェレットファックになのははマン汁を噴出して悦んだ。
 
「んにょのほおおおお!!! フェレットしゃんぶっといのっほおおおおおおお!!!!!! アナルマンコいっぱいりゃりょほおおおおおおおおおおお!!!!!」

 なのはは悦びアヘりながら腰を振り、フェイトのチンポはロリマンコをぶちぬき、ユーノのフェレットボディはケツマンコをぶちぬく。
 その時起こった悲劇は事故としか言いようがなかった。
 デカブツ二本を咥え込んだ穴はただでさえ狭かった上に、なのはは凄まじく深くイってしまったのだ。
 フェイトのデカチンとなのはのロリ穴は凄まじくきつかった。
 そしてなのははイっちゃった。
 きゅっと穴が締まった。
 それが悲劇の原因であったのだ。

 高町ユーノ、享年十九歳、死因:高ケツ圧。



終幕

387ザ・シガー ◆PyXaJaL4hQ:2013/02/07(木) 17:38:34 ID:Y/DjA8Vo
きっと自分以外の人はまじめにユーなのとか書くよね、だからイカレチンポな話書いても良いよね。

って按配でバカ話を書く男、それがシガー。

はい、その・・・サーセンwww

388黒天:2013/02/08(金) 09:54:06 ID:nRUsxkEI
これはひどい。俺のコーヒー牛乳返してよ。
あと死に方としては凄い恥ずかしいですね。
では、おいどんも投稿するでごわす。

389夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 09:55:59 ID:nRUsxkEI
『鷹樹庵』は、一階にある大浴場があるが、その他に広大な露天風呂がある。
温かい湯に浸かって満天の星空を眺めるのは、最高の贅沢だろう。
「宝石箱を散りばめた様だな・・・」
頭にタオルをのせ、湯船の中に鎮座する巨大な岩に背を預け、ザフィーラは心地良さそうな溜息をついた。
古代ベルカの戦乱時代、血みどろの戦場を駆け抜けていた頃、ここまで余裕を持って星空を眺めた事があっただろうか。時代が移り変わろうと、世界が変わろうと、きっと星々の輝きは変わらないのだろう。

ふと女性用の脱衣場から、誰かが歩いて来る気配を感じる。

「・・・ここの温泉の効能は疲労回復に効果があるそうだ」
「あら、それはいい事を聞いたわ」
タオル一枚のみを纏った姿で、リーゼアリアは微笑んだ。
長い茶色の髪をアップにし、薄闇に浮かび上がる姿は実に妖艶だった。
「失礼するわね」
軽く身体を洗い、リーゼアリアは湯船に身体を沈めた。
位置的には、ザフィーラと大きな岩を挟んで反対側にあたる。
「湯加減はどうだ?」
「悪くないわね」
ザフィーラと同じく、頭にタオルをのせ、リーゼアリアは簡潔な感想を述べた。
心地よさを示すかの様に、彼女の猫耳が小刻みに揺れた。
それに対して特に答えず、ザフィーラは目を瞑り、息をついた。
「そういえば・・・ロッテがリインフォースに食って掛かったみたいね。それに夕食の席でも、あの娘、貴方達を睨んで・・・御免なさい」
「気にする事は無い。お前達の方からすれば、当然の反応だ」
「そう言ってくれると、幾らかは救われるわ。私も貴方達に対する蟠りを捨てきれる訳でも無いけど・・・恨んでも憎んでもクライド君は帰ってこないわ」

だから、もうこの話題は終わりにする。
そんな意味を言外に込め、リーゼアリアは言葉を切った。
―――訪れる沈黙。



「それからリインフォース・・・随分変わったわね」
「ああ、アイツは変わった」
その沈黙を破ってリーゼアリアは口を開き、ザフィーラもその内容に同意する。
『闇の書の意思』は八神はやてに出会い、新たな名を貰い、呪いから解放された。

「・・・・“闇の書の意思”を呪われた宿命から解放し、“祝福の風”に生まれかわらせたのが、はやてならーーー」
「“祝福の風”に新たな生命と未来への希望を与えたのがスクライアか・・・」

今のリインフォースは実に感情豊かになった。
湖の騎士が作る産業廃棄物に呆れ返ったりーー
様々な本を読み漁り、長々と感想を述べて烈火の将をうんざりとさせたりーー
鉄鎚の騎士の秘蔵のアイスを勝手に食べてしまってオロオロしたりーーー
夜天の主の胸揉みの餌食になって身悶えたりーー


そして無限書庫に通っては、そこの長の少年のオーバーワーク振りを心配したりーー

「ところで・・・スクライアの情報処理能力は異常だな。我々の中で情報処理に長けているリインフォースとシャマルとて、ついていけないくらいだぞ」
以前、はやての足の治療についての情報探しも兼ねて無限書庫の業務を手伝った時、一度に検索できる本の数はザフィーラの場合、5冊が限界だった。
ちなみにシグナムとヴィータが3冊、シャマルが10冊、リインフォースが24冊。
それに対し、ユーノは50冊。リインフォースのほほ2倍。
おまけにそれだけの量の本を検索していても、情報の精度は落ちず、周りのサポートまでやってのける。

390夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 09:56:37 ID:nRUsxkEI
「私達だって似たような物よ。私が7冊、ロッテが4冊で限界だったんだから。そもそも検索魔法自体、スクライア一族発祥なのよ」
リーゼアリアの言葉にザフィーラは低く唸った。
確かにユーノの次に検索できる本の数が多かったのは、スクライア一族出身の司書で彼が確か40冊前後だった筈。
「身のこなしもかなりの物だったな。カートリッジを未使用だったとはいえ、ヴィータの一撃を防ぎ、その動きについていき、『闇の雷』にすら耐えて見せた」
「はっきり言ってユーノに決定的に足りないのは、攻撃力だけよ。支援の的確さと護りの堅さは今更言うまでもないし、あれで攻撃力も加われば、クロノでも返り討ちに出来るわよ」
「随分と高評価だな。確かにジュエルシードの一件でも、魔力不適合を起こしていなければ、事件の過程は変わっていただろう」
「攻撃力不足も応用でどうとでもなりそうだしね」

バインドで相手の首を絞めて窒息させる。
バリアを纏ったまま、相手に突進する。
結界の中に相手を閉じ込め、内部の気圧を変化させ、高山病に追い込む。
リーゼアリアが思いつく限りでも、これだけあるのだ。
他にも色々とやり方はだろう。ちなみに彼女の思考実験の中で、ユーノの“仮想敵”が某執務官だったのはご愛嬌だ。
というよりユーノは、ザフィーラとリーゼアリアが審判を務めた模擬戦で最後の方法を模擬戦で躊躇い無く実行に移し、某執務官を呼吸困難に追い込み、その後、バインドで縛り上げ、地面に叩きつけている。

「ふむ、あの戦いは心肺機能の差が勝負の決め手だったな。歴戦の執務官とて標高数千mの高所で戦った経験は無かっただろう」
「ユーノの場合、色々な場所にある遺跡に赴くから、空気が薄い場所でも平然としていられるんでしょう。それにしても、あの時のクロノの顔は見物だったわよね。顔面がもう蒼白を通り越して、土気色だったもの」
「私はそれ以上にあの後、容赦なく追い討ちをかけるスクライアが恐ろしかったが」
歴戦の猛者たるザフィーラとしても、あの時のユーノは恐ろしかった。
具体的には、呼吸困難で苦しむ某執務官ことクロノの鳩尾と脇腹に貫手。
何れも人体急所の1つであり、ここを攻撃されると息が止まる。
呼吸困難に拍車がかかったクロノの手から氷結の杖デュランダルを叩き落し、無手になった彼の右腕を集中攻撃して使用不能にさせる。
更に死角となった右脇腹に執拗に拳――ご丁寧に強固な障壁を纏わせーーを連続で叩き込み、体力をジワジワと奪う。
「・・・あれを卑怯とは言うまい。スクライアのとった戦術は実に理に適っていた。あれは寧ろ私としては賞賛したいくらいだな」

391夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 09:57:10 ID:nRUsxkEI
敵の動きを鈍らせ、武器を奪い取り、利き腕を使えなくさせ、体力を奪い取り、確実に追い込み、完全に‘敵’の息の根を止める。
戦場に生きたザフィーラとしては、それは当然の事であり、何も間違っていない。
ザフィーラが恐れたのは、ユーノが顔見知りに対して、それを実行したという事だ。
何の躊躇いも無く、無表情のままで。


「うーん、ユーノにとって、クロノは親しみを持つ相手だったかと言われると、私としては少し疑問だけどね。クロノ、ユーノの事を‘フェレットもどき’と馬鹿にしてたし」
「・・・場を和ませるジョークにしても、確かに出会って間もない相手に対して、使う言葉ではないな」
「ま、クロノも自分はエリートの執務官という事で驕りがあったという事かしら」
「それ以前に、スクライアにとってハラオウン執務官は敵という認識かもしれん」

主に無限書庫の業務中、大量の資料請求をしてくる敵として。
あの模擬戦の勃発した理由は資料請求の期限絡みだった筈。
結局、模擬戦自体はクロノの敗北で終わった。

疲弊の極致にあり、特攻してきたクロノの左鉤打ちをユーノは飛び上がってかわし、背後に回りこみ、首にバインドを何重にも絡め、そのまま締め落としたのだ。
クロノも砲撃魔法で応戦し、ユーノにそれなりの手傷を負わせてはいたが、実質的にユーノの圧勝といってよかった。




「何れにせよ、資料探しが得意なだけの少年ではないのよね。ま、それはさて置いて・・・リインフォースがあそこまで親身にユーノを心配するなんて意外だわ。魔導書という性質上、てっきり“八神はやて至上主義”を貫くとばかり」
「ふむ、アイツに限らず、我々は基本的に主はやてを優先する。だが、そればかりではない。我々だって気になる相手は出来るし、恋もする」
「・・・ふん、私以外にユーノの良さに気付く女が居るなんて」
不機嫌そうに口を尖らせ、リーゼアリアは指でお湯を弾き、身体をそらせた。
こんな事ならば、無限書庫で『闇の書』の情報を探している時、妨害の意味も込めて色仕掛けで迫って摘み食いしておけばよかった。
「何なら、今からスクライアに迫ってきてはどうだ?」
「遠慮しておくわ。正直、女としてリインフォースに勝てる気しないもの」
何処か寂しげに呟き、リーゼアリアは湯船から上がった。
瑞々しい肌の上を、水滴が滑り落ち、思わず息を飲む程の色香が立ち昇る。
「・・・それから、リインフォースに伝えておいて。ユーノを手に入れたいのなら、さっさと押し倒してベッドに引きずり込むのが手っ取り早いと、ね」
「伝えておこう、アイツが実行できるかはさて置き」
「あの娘、へタレなのね。あれだけのルックスとスタイルなのに」
リーゼアリアの裸身を見ない様に、目を瞑っているザフィーラに対し、リーゼアリアは心から愉快そうに笑い、女性用の脱衣場の方に歩いていった。

392夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 09:57:40 ID:nRUsxkEI
「随分とお楽しみだったみたいだね」
「いきなり何を言う」
リーゼアリアが露天風呂から上がった後、暫くして部屋に戻ってみると、同室に宿泊中の狼娘さんが拗ねていた。人間の娘の形態で犬耳をピンと立て、白い襦袢を纏い不機嫌そうにソファーにふんぞり返っている。
「あの猫姉妹の姉の方から聞いたよ。あんたと“露天風呂で楽しんだ”って」
「・・・紛らわしい言い回しを使ったな、楽しんだのは、会話だ」
「本当かい? アイツ、やたらと色っぽかったし・・・惚れてる相手が居るみたいな事を言ってたから、てっきりアンタと・・・」
そこでアルフは不安そうな面持ちで俯いてしまう。
耳も尻尾も彼女の気持ちを表すかのように、力無く垂れ下がっている。
「彼女、リーゼアリアに意中の相手が居るのは確かだが、それは私ではない」
「そ、そうかい・・・」
「私が選んだのはお前だ」
尚も不安そうなアルフを抱き寄せ、ザフィーラは彼女の頭を撫でた。
アルフは心地よさそうに目を細め、甘える様な声を漏らした。
「じゃ、じゃあ・・・証明してよ。この頃、ご無沙汰だったからさ」
ザフィーラの手の中から抜け出し、アルフは切なそうに頬を染め、襦袢を脱ぎ捨てた。露になる薄っすらと色づいた、下着のみを身につけた豊満な肢体。
薄暗い明かりの下で、とてつもなく妖艶に見える。

「解った、早速期待にこたえよう」
「ああ、それでいいよ。たっぷり可愛がっておくれ」
哀願する様な瞳で見上げてくるアルフは勢いよく、ザフィーラに抱きつくと、そのまま部屋に敷いてあった布団の上に押し倒した。

「もう、こんなになってるのかい」
ザフィーラに跨ったアルフは、薄紫色のショーツに包まれた尻を向け、既に鉄棒の様に固くなった肉棒を手に掴んでいた。所謂、69の体位だ。
「ビクビクと脈打ってるよ・・・」
アルフの熱い吐息を肉棒先端に感じ、肉付きのいい尻が揺れるのを目にして興奮が更に高まり、ザフィーラはそっとアルフの脚の付け根に手を這わせてみた。
「この下着、かなり豪勢な造りだな」
「気付いてくれたのかい・・・これ、アタシの勝負下着だよ」
素人目にも解る、繊細な装飾が施されたショーツ。
ザフィーラの視線を受け、アルフは恥ずかしそうに身体を揺すりながらもザフィーラの股間に躊躇無く顔を埋めていく。
「こうして・・・んふっ、んん・・・んちゅ・・・」
手の中の肉棒を懸命に扱きながら、アルフは舌先を鈴口に這わせてきた。
白魚の様な指が肉竿の表面を滑り、鈴口を湿った感触が襲う。
ザフィーラもお返しとばかりに、アルフの秘所を覆っていたショーツを横にずらすと、直接、割れ目を舌で刺激していく。

393夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 09:58:29 ID:nRUsxkEI
「ん、はぁ・・・あ、んあぁ・・・はむ、んむぅ・・・」
「もうこんなに濡れているぞ・・・れろ、ちゅぷっ・・・」
「な、中で動いて・・・ビクビクって、はっ・・んあぁんっ!」
ザフィーラの攻めに背中を逸らし、アルフは腰を奮わせる。
手に持った肉棒を刺激するのも忘れるくらい、舌攻めに身をくねらせている。
「・・・アタシばかり、気持ちよくなるなんて・・・はむっ、ん、んん・・・」
そうして意識を肉棒に集中させようとするアルフだが、ザフィーラは更に顔を埋めて、淫核に吸い付き、同時に尻肉をこね回した。
それによってアルフの意識は、再び肉棒から離れてしまう。
「・・・や、駄目ぇ・・・そこ、吸っちゃ駄目・・・や、やめなって、あ、んあぁ・・・」
手を動かす余裕も無く、ザフィーラにされるがまま、身悶えていく。
「ア、アンタがそうくるなら、こうしてやるんだから・・・」
「うおっ!?」
顎を引き、アルフは肉棒を口の中に咥えこんできた。
肉棒を咥えたまま、アルフは舌を咥内で這いまわす。
唾液の温かい感触と共に、舌のザラザラした感触まで伝わってくる。
「・・・あむ、凄く硬い・・・んむ、れろ、れろ・・・」
肉棒の熱さ、硬さを確かめる様に、舌で肉竿を舐めまわして来る。
唾液をたっぷりと塗し、竿全体を味わう様に咥内で動かし続ける。
「アタシが・・・アンタを気持ちよく・・・んむ、じゅる・・・」
ジュルジュルと音を立てアルフは肉棒に吸い付いている。
ザフィーラも負けじとアルフの秘所に吸い付く。
淫穴に舌を突っ込み、更に淫核にも断続的な刺激を加える。
「そ、そこは・・・んあぁ、んひぅ・・・ふぅ、はふっ・・・・んあ、あぁん・・・・」
「じゅる、淫らな汁が溢れて・・・ん、ちゅぱ・・・・はむ、んむっ・・・・・」
一心不乱にザフィーラとアルフは互いの性感帯を攻め立てていく。
余りの快感の為、ザフィーラの肉棒の先からは、既に先走りの汁が流れ出ていた。
同様にアルフの淫穴からも淫蜜がしとどに溢れ出し、ザフィーラの顔を濡らしていた。
「んぐっ・・・そこをそんなに吸っちゃ、んじゅる、あむ・・・口の中で大きくなってぇ・・・ア、アタシ、も、もういっちゃうよぉ・・・」
「むぅ・・そんなに強く扱かれては・・・・私も持たない・・・!!」
それから間もなくザフィーラとアルフは同時に絶頂に達していた。
アルフの咥内へと白濁の塊が吐き出される。
それでもアルフは口を離す事無く吐き出される精液を飲み込んでいった。
やがて、全て飲み干すと、口を離した。

394夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 09:59:00 ID:nRUsxkEI
「ふぅ・・・いっぱい出たねえ」
「ああ・・・」
口の端から白い物を零しながら、アルフが笑う。

「まだまだ・・・元気一杯だね。それじゃ、今度は・・・」
目を細めたアルフは身体を起こして、ザフィーラの前に跪き、そそり立った肉棒をその乳房の間に挟みこんだ。
「くっ・・・こ、これは・・・・!!」
「ん、はぁ・・・熱い・・・・・」
動きはぎこちないが、心地よく甘い弾力が肉棒の凸凹に合わせて形を変え、左右から挟みこんでくる。肉棒越しに伝わるアルフの鼓動。
肌の温もりと汗と、僅かに緊張するアルフを感じ取り、心の奥が仄かに暖かくなる。
揺れる乳房を押し上げる様に肉棒が屹立し、先走りが肌を汚していく。
「こうすれば・・・この肉の棒をこうやって・・・下から擦る様に・・・・・グリグリってぇ・・・」
肉棒の悦びを悟ったアルフは、更に乳房を差し出した。
左右の膨らみをこすり付けて、ザフィーラの弱点を探り当てる。
竿の凸凹の上には、柔かい乳房の感触だけでなく、コリコリした薄桃色の先端の感触も混じっている。固くしこった突起が幾度もカリを弾き、ザフィーラはその度に腰を前に突き出していた。
「・・・ん、あぁ・・・はふっ、んっ・・・もっと・・・・」
鈴口に口付けできそうな距離で、アルフが喘ぐ。
熱い吐息が絶えず吹きかかるのが堪らず、もっと淫らで強烈な愛撫が欲しくなる。
「・・・はぁ、何かして欲しい事あるかい?」
「そのまま・・・舐めてくれるか?」

395夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 09:59:38 ID:nRUsxkEI
一瞬の戸惑いの後、アルフは自分の胸元に顔を埋め、紅い舌先を伸ばしてきた。
谷間から肉棒の先端を、舌先がチロチロと舐めていく。
最初は掠るだけ。だが、二度、三度と繰り返される。
まるでミルクを舐める子犬みたいに、何度もーーー

「・・・ん、れろ、ちゅっ・・・そうかい、こうされると気持ちいいんだね」
最初は遠慮がちだったが、すぐに艶っぽい笑みを浮かべ、先端を攻める。
舌先を器用に鈴口に沿って往復させ、徐々に肉棒全体にも唾液を塗し、そのたわわな胸で肉竿を締め付けてきた。頭が痺れる程の刺激に、肉棒は震え、貪欲に猛る。
「んんっ・・・ココ、弱いんだね。ぴちゅ、んちゅ・・・れろ、れろ・・・」
弱点が集中していると知るや、執拗に先端を攻め立てていく。
咥内に唾液を含み、チュパチュパと肉棒の先端へ絡みつかせてくる。
時にはちゃんと根元まで舐め、先端まで往復して、自ら塗った潤滑油で乳房の圧迫も滑らかにしていた。潤滑油のおかげで、急激に乳房の密着が増していた。
「アタシの胸の中の・・・肉の棒、凄く熱い・・・ん、あぁ・・・・・」
竿全体を肌で包んだまま、フニフニと形を変えながら乳房が擦りあがってくる。
柔らかな感触が滑りながら、刺激を送り込んでくる。
往復の度に射精欲求がこみ上げてくるが、もっとこの快感に浸っていたくて堪える。
「速くしたら・・・いやらしい音鳴っちゃう・・・アタシの胸ぇ、いやらしい・・・でも、こうして舌で先っぽを・・・んちゅ、じゅる・・・」
「それはくぅ・・・」
速度と圧力を増した快感に腰奥から震え上がった。
だが、逃げられる体勢ではなく、絶頂が見え始めた肉棒に、アルフの献身的な奉仕が容赦なく襲いかかってくる。
「ん、はむぅ・・・いつでもイっていいんだよ・・・んちゅ、ちゅぱ・・・・」
はにかみながら乳房を差し出す。そんなアルフの表情にこそ危うく達してしまいそうになる。鈴口は素直に先走りを溢れさせ、アルフに舐め取ってほしいとテラテラと光る。
すると、すかさず柔かい舌が雫を掬い取っていく。
「ほら、もう意地を張らずに・・・出しちゃいなよ、れろ、んちゅ・・・」
大胆に乳房を擦らせ、淫らに揺らし、ビクビクと震えるカリを唇で弾き続ける。
アルフの、恥じらいと興奮に染まる顔。
淫らな表情に魅入る内、どんどん頭の芯が痺れていく。
「んちゅ・・・苦いのが溢れてきて、はむ・・・・アンタがイクとこ、見せてぇ・・・」
涎とも汗とも先走りとも知れぬ粘液で乳房をべったりと濡らしながら、アルフがそんな事を囁いた。それから先は無言で乳房と舌の動きに集中して、射精を促す様に激しく攻め立てーーー

396夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 10:00:16 ID:nRUsxkEI
「んむっ・・・ん、はあぁん、震えて・・・ごくっ・・・んちゅ、はむぅ・・・・」
「もう無理だ、持ちこたえられんっ!!」
限界を超えたザフィーラは本能の赴くままに白濁を吐き出していた。
乳房によって圧迫されていたせいか、凄まじい勢いでアルフの顔を打っている。
熱い白濁の樹液がアルフの顔をパックする。
アルフの生命力に満ちた美しい顔を、白濁の精液が汚しつくしていた。
だが、それで火照るアルフの肌も、喘ぐ声も、全てが淫らに思えてしまい、ザフィーラの雄の本能が昂ぶってしまう。
「ん、ちゅ・・・白くて濃いの、一杯出てきたねえ」
「すまん。こんなに出るとは・・・」
「別に気にしなくてもいいよ。ん、あむっ・・・」
徐に両の乳房を寄せたかと思うと、白濁をそこに溜めて舌を伸ばしていく。
音を立てて舐める、その光景に肉棒が敏感に反応を見せる。
まだまだ、コレで終わりではない。
「・・・どうし、あ、ふあぁん、ちょ、ちょっと・・・何するんだいっ!?」
「今度は私の番だ」
アルフの火照った身体を布団の上に横たえ、敢えてうつ伏せに寝てもらう事にした。
肉付きのいい尻がこちらに向く様に、手早く体勢を整える。
「・・・この格好、恥ずかしいじゃないか。まあ、アタシ達の場合、原型が狼だから、ある意味では、正しい形とはいえ・・・」
訳が解らぬまま、一瞬で四つん這いにされ、戸惑った様に振り返り、アルフは視線をザフィーラに向けている。尻を突き出して、秘所まで丸見えの格好。
「私としては、狼の本能からか、この体位が好みなのだが・・・駄目か?」
「ふっ、まぁ、しょうがないね。ほら、するんなら、さっさとしな」
『しょうがない奴だね』とでも言いたげな苦笑を浮かべ、アルフは尻と尻尾を振って、続きを促してくる。続きをしたい、その気持ちは双方同じだった。
「・・・ん、はぁ、んんっ・・・や、あぁん・・・・」
さらけ出された淫穴に指を少し突っ込んでみる。
ただ、それだけで、アルフは敏感に身体をしならせ、悩ましく喘ぐ。
思った以上の反応に指が止まるが、アルフの潤んだ声が先を催促する。
「は、速く・・・指じゃなくて・・・アンタの太いのを入れて・・・」
薄っすらと色づいた身体を切なそうに揺すり、アルフは懇願する。
それに答え、ザフィーラは優しくアルフの細い腰を掴み、ゆっくりと自らの一物を淫穴に宛がい、一気に貫いた。不躾な侵入者を追い出そうとするかの様に、アルフの淫筒がきつく締め付けてくる。擦れるだけで精を一気に奪い取られそうな狭い道を、確実に押し進め、肉竿を沈めていく。
「・・・あ、あぁ・・・ふあぁぁ・・・・ふ、太い・・・」
か細い声を漏らし、ビクビクとアルフは身悶える。彼女の状態に配慮してザフィーラは緩やかに肉棒を行き来させる。その度に淫蜜が結合部から零れ出した。
「ふあぁ・・・す、凄い・・・ゴリゴリって・・・ン、はうぅ・・・・き、気持ちいい・・・」
アルフの顔は快感で蕩け、熱い息を漏らしている。
ザフィーラは背中からアルフの2つの膨らみを鷲掴みにしていくと、アルフは切なそうに身体をビクビクと波打たせた。アルフの胸は実に素晴らしい弾力で、手にずっしりと来る重さがあり、揉み応えがある。
「・・・あ、んあぁ・・・そ、そんなに強く・・・はふぅん・・・・」
その形、大きさを確かめる様に、少し乱暴に揉みしだいてやると、アルフは甘い喘ぎを漏らし、小刻みに痙攣した。

397夜刀浦奇譚:2013/02/08(金) 10:01:00 ID:nRUsxkEI
「どうだ?」
「いい、いいよ・・・凄く気持ちいい・・・もっと、もっと激しく動いておくれ・・・」
要請に応じ、ザフィーラはアルフの腰を掴み、猛然と腰を突き出した。
最奥部まで肉棒を突きいれ、強烈に掘削する。
「あ、あぁ・・・・ぉ、奥に、奥に来てるぅ・・・硬いのが、奥にぃ・・・・」
肉襞が貪欲に吸い付き、肉棒の表面をザラザラと刺激する。
締め付けの具合も凄まじく、食い千切らんばかりの勢いだった。
瞬く間に射精欲求が高まっていく。
「あん・・・んあ、ふぅ、な、中に・・・出して、アタシの中を注ぎ込んでぇっ!!」
「・・・いいだろう、中に出すぞっ!!」
苛烈な掘削作業の果て、肉棒は引き抜かれる事なく、そのままアルフの中で果てていった。アルフの温もりを感じながら、それよりも遥かに熱い衝動を注ぎ込む。
「熱いのが来てるぅ・・・いい、いい・・・もっと欲しい、もっと突いてぇ・・・!!」
「了解した」
射精が終わっても、尚逞しい肉棒を一心不乱に動かし、白濁液で満たされた子宮を叩き上げる。収まりきれなかった白濁が結合部から流れ落ちる。
しかし、そんな事はお構い無しにザフィーラは文字通り猛る獣と化して、アルフを容赦なく突き続ける。アルフの方も自分から腰を振り、肉棒を締め上げる。
「ほら、アタシも動くからぁ・・・・もっと一杯、気持ちよくして、アタシがおかしくなっちゃうくらいに・・・ん、はぁうん・・・・!!」
尻肉をしっかり掴み、ザフィーラは狂った様に何度も肉棒をぶち込んだ。
もっと乱れたアルフが見たい、そんな想いからザフィーラは精液で淫蜜で満たされた子宮を肉棒でかき回す。アルフの内部は奥に行く程、狭かった。
更に肉棒を逃すまいと、そこから射精を促す様に肉襞が擦りあげてくる。
それが堪らないほど、気持ちよくザフィーラの射精欲求をもたらす。
「も、もう・・・駄目ぇ、アタシの中、ビクビクと震えてるぅ・・・」
またしても痙攣する様に、子宮の最奥が震え、それがザフィーラにとっては凄まじい快感であった。絶頂はもう直ぐそこだった。
再び肉棒の奥底から熱い物が競りあがってくる。
「ぐっ・・・ぐおぉぉっ!!」
圧倒的な快感の電流がザフィーラの全身を駆け巡り、勢い余って肉棒を引き抜いていた。飛び出した肉棒が淫核を擦りあげていった。
不意打ちを喰らったアルフは、その瞬間、絶頂に達していた。
「ぁ、アタシ・・・いっちゃったよぉ・・・・」
「私ももう限界だぞ」
今度の射精はアルフの肢体にぶちまけられた。
アルフは肩で息をしながら、降りかかる白濁のシャワーを受け止めていた。
射精が終わる頃には、アルフは全身真っ白になっていた。
「・・・凄い格好だな」
「誰のせいだと思ってるんだい、全く・・・」
全身白濁塗れのアルフは、未だに絶頂の余韻が消えないらしく、発情した雌狼の様な淫らな雰囲気を纏っている。ザフィーラはそんな彼女を抱きしめ、優しく口付けた。

398黒天:2013/02/08(金) 10:03:22 ID:nRUsxkEI
ここで一旦切ります。投下される方はご自由にどうぞ。
そういえばザフィアルのエロ書いたの初めてだった。
次回から戦闘パートになります。

399名無しさん@魔法少女:2013/02/08(金) 21:19:47 ID:Q2XJ5iVU
>>398

夜刀浦奇譚、楽しく拝読させて頂いています。
投稿間隔も早くて、読者としては物語の続きがすぐに読めるのは嬉しい限りなのですが、
読み返していて、これは物語のどの辺りだったか分からなくなることが多いので、
話数と投下番号を振って頂けると嬉しいです。

400黒天:2013/02/10(日) 10:02:27 ID:OVaBpspE
了解しました。タイトルの後に数字を入れて投稿してみます。

401アルカディア ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:37:57 ID:ODgWVm/I
人の居ない時間帯なので、投下をさせて頂きます。
かなり長い投下になりそうですので、ご注意をお願いします。

402アルカディア ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:39:57 ID:ODgWVm/I

 注意:この作品は非常に濃い鬱展開や暴力的描写、性描写などが含まれます。
    そのような倒錯的な描写を好まれない方は絶対に目を通さないようにして下さい。

    これらは、倒錯的嗜好の持ち主の読者様のために書かれたSSです。

    鬱展開や暴力描写などを許容できる方、ではなく好んで読まれる方のみ目を通されることをお勧めします。
    
    ユーノ祭り投稿作ですが、熱心なユーノファンの方には、この作品はお勧めできません。
    ユーなのやクロエイカップリングの作品を好まれる方にも、この作品は良くない影響を与える可能性があります。
    閲覧中に気分を悪くした方がいましたら、すぐに閲覧を中断して、原作、もしくはお好みの良SSなどを見て気分転換して下さい。

    作者自身、この作品には非道徳的な面が多く、二度とこのような作品は書くまいと反省しておりますが、
    一度書いてしまったものをお倉入りにするのも忍びず、恥知らずにも恐る恐る公開に踏み切らせて頂きました。
    この程度の温い描写で何を大袈裟に書いているのだと、読者の方に一笑に付して頂ければ、これ以上の幸いは御座いません。

403アルカディア ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:41:29 ID:ODgWVm/I
 春は、すぐそこまできていた。

 頬を撫でる風の掌は日に日に柔らかさを増し、ここ数日は心なしかアブラナの薫りをはらんでいた。
 長く茶色い稲株を晒していた休耕期の田園には、薄紅色のげんげの花が咲き乱れ、冬眠から目覚めた蜜蜂がその周りを取り囲んでせわしなく翅を羽ばたかせていた。
 海鳴の各所に絨毯のように広がるシロツメクサの花畑では、細い花茎の先に白く小さな冠がいくつも頭をもたげている。
 幼き頃に友人たちと花輪を作った記憶を思い出して白い花畑を覗き込むと、小さな四つ葉が背伸びをしていた。
 
 少女はそっと目を細めると、指先ほどの四つ葉を優しく摘み取り、胸ポケットに挿した。

 町の各所に溢れる春の息吹。 
 その欠片を拾い集めるように、少女は海鳴の町を軽やかな足取りで廻る。
 希望に満ちた微笑に、ほんの小さな憂いを落として。

 慣れ親しんだ筈の海鳴の町。あちらこちらで桜の木々が梢の先に小さな薄桃色の綻びを覗かせていた。
 あと二週間も経てば、そこら中で競うが如く満開の桜が咲き乱れる筈だ。
 何度繰り返しても変わらなかった、年月と自然の巡り。人の巡り。
 春は変化の季節だ。
 私立聖祥大学付属小学校に入学した幼き日のこと。かけがえなき友人達との出会い。
 春が巡るごとに繰り返された、進級とクラス替え。
 少女は軽く瞼を閉じるだけで、輝きに満ち満ちているこれまでの人生の思い出へと飛翔することができる。
 
 この世界に生を受けてから十五年。
 己はまだ幼過ぎると言っていいぐらいの若輩ものであることを少女は自覚しているけれど。
 彼女がこれまでに辿ってきた運命は決して平凡なものではなく、常人には決して計り知れない数奇な出会いと別れに満ちていた。


 その始まりの地は。

 少女は静かに足を止めた。
 そこは、とある臨海公園の一角だった。『海鳴』の名を表したかのように、潮騒の音を落ち付いて楽しめる市民の憩いと安らぎの場である。
 中央の大広場をぐるりと取り囲むように樹勢の良いソメイヨシノが立ち並び、毎年の春には花見の名所としても親しまれていた。
 しかし、少女が足を運んだそこは、誰もが足を止める大広場ではない。
 常緑樹による街路樹が鬱蒼とした緑の葉をこんもりと茂らせる、どこか裏路地めいた公園の脇道である。
 何の変哲もない小路。少女はそこを懐かしげに見渡した。  


 もう、あれから六年にもなるのか。あの鮮烈な出会いの日から。
 
 ――六年前の春の日。彼女が小学三年生に進級したばかりの四月。
 少女は、一匹のフェレットと出会った。ほんの小さな出会いのはずだった。けれども、それは彼女のみならず多くの人々の運命を変えた出会いで。

 彼女は胸に手を当て、若々しい春の息吹に満ちた公園の空気をその鼻腔に満たした。
 今まで暮らしてきた世界とは違う、もう一つの世界。その存在を知った時には、その輝きに目を奪われて、自分の生まれ育ったこの世界が色褪せたように思えたこともあったけれど。
 いざ旅立ちの日が近づくとなると、なんと名残惜しいのだろう。
 今日一日、この町のあちこちを巡って歩いたけれど。どこもかしこも、大切な思い出で溢れていた。
 これまで自分を育んでくれた、家族と、友人と、この町に。

 ありがとうございました、と心の中でそっと頭を下げた。 



「やっぱりここにいたんだね、なのは」

 ぽん、と肩に置かれた柔らかな掌。
 振り返ると、馴染みの少年の穏やかな笑顔があった。

「ユーノ君」

 少女――高町なのはは、振り向きざまに、最高の親愛と信頼を籠めた笑顔でそのかんばせを輝かせた。
 そして、ユーノの視線を誘うように、地の一点に瞳を落とした。
 なのはの肩に掌を乗せたまま、少年もじっとその場所を見つめた。
 全ての始まりの地。二人の運命の歯車が動き出した場所。
 二人の間に言葉は必要無かった。
 ただ、出会えたこの数奇な運命に感謝を捧げ、これからの未来の思った。
 なのはは、肩にユーノの掌の熱を感じていた。優しくて、心落ち着かせる彼らしい温かさを。

「行こう、みんなが待ってるよ」
「うんっ」

 なのはは頷くと、自分の肩の上にあったユーノの掌を壊れ物でも扱うかのようにそっと両手で包み、その指に己の指を絡めた。
 
「行こう、ユーノ君」
「う、うん」

 なのはに手を引かれ、頬を紅潮させながらユーノが歩き出す。
 最後に――なのははもう一度だけ公園を振り返り、己の運命が始まった場所に別れを告げるように、小さく手を振った。

404畜生道2 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:42:27 ID:ODgWVm/I
 新暦72年の春のことである。
 中学卒業を間近に控えたなのは達の、ミッドチルダ移住はすぐそこまで迫っていた。
 これまでも私立聖祥大学付属中学校に通う傍ら、魔導師としての活動も続けてきた三人だったが、中学校卒業を機にミッドチルダで魔導師業に専念することになったのだ。
 二足の草鞋を履いていたとは云え、今までの活動も決して生易しいものではなかった。
 新暦65年になのはとフェイトの二人が管理局の武装隊に入隊して以来、多くの過酷な試練が彼女たちを待ちうけていた。
 なのはの撃墜事件。度重なるフェイトの執務官試験への挑戦。
 ミッドに移住して専業の魔導師として活動することによって、彼女たちの戦いはより激しさを増していくだろう。
 それなのに、なのはの表情には不安や翳りは微塵もなく、ただただこれからの未来に対する希望の光に満ちていた。
 ユーノは、そんななのはの横顔を、直視しきれない眩しいものでも見るように、そっと目を細めて見つめていた。

「あ、帰ってきたきた」

 待ちくたびれたとばかりに手を振るのは、友人のアリサだ。

「もう、どこで何やってたのよ! さあ、とっととパーティを始めるわよ! わたしたち皆の中学卒業と、あんた達のミッドチルダ行きの記念パーティ!」
「えへへ、ごめんごめん」

 アリサ、すずかとその家族達、フェイト、クロノ、八神家の面々と、高町家の面々。
 中の良いいつもの面子が、パーティの会場として供されたバニングス家の庭に集っていた。
 ユーノがちらりとフェイトに視線を送ると、委細承知していると告げるような、穏やかな頷きが返ってきた。

「ユーノ、なのはのお目付け役、御苦労だったな。思ったより早く連れて帰ったじゃないか」
「当てが有ったからね」

 素っ気なくそう返事をすると、クロノはからかうような調子で続けた。

「二人の思い出の場所、というやつか?」

 びくり、と背筋が震えた。内心の動揺を悟られないように、

「いや、何となくなのはの行きそうな場所を廻っただけだよ。この町での彼女との付き合いは結構長いからね」

 と嘯くと、クロノは「ふーん」とだけ短く返し、それ以上の追及はして来なかった。
 心中で胸を撫で下ろしながら、ユーノはフェイトと言葉を交わすクロノの後ろ姿を見つめた。
 

『あの日、ユーノ君に会えて本当に良かったって、今でも思うんだ』

 何時のことだろう。あの場所を前にして、なのははそう語った。

『あの日、ユーノ君に会えたお陰で、フェイトちゃんや、はやてちゃんや、クロノ君や――ミッドチルダの、色んな人たちと出会えた、友達になれた』

 語りながら、屈託なく微笑むなのはの顔を、ユーノは忘れない。

『ユーノ君に出会えたから、今のわたしになれた。だから、ユーノ君には感謝してもしきれないんだ』  

 その掛け値なしの親愛の言葉に胸を刺されたような痛みを覚え、ユーノは胸中で頭を振ったものだ。
 
 ――違うよ、なのは。
 ――君に出会えたことこそ、僕の奇跡だった。あの日、君に会えて本当に良かった。
 ――君がレイジングハートを手にとったあの日。桜色の魔力光が溢れたあの瞬間。
 ――疲れてくすんでいた世界が色彩を帯びた。この世に、本当に輝けるものがあることを知ったんだ。
 

「それでは、これから聖祥大付属中学校卒業おめでとう&なのは、フェイト、はやての行ってらっしゃいパーティを始めます!」

 ユーノの回想は、高らかに宣言するアリサの声と、万雷の拍手の音に掻き消されていった。




             ○

405畜生道3 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:43:26 ID:ODgWVm/I
 ローレル・アップルヤードは無限書庫の新人司書である。
 ユーノ・スクライアの司書長就任に伴って、無限書庫は大きな内部改革が行われた。
 膨大なデータを死蔵するばかりだった巨大データベースが、必要に応じて臨機応変に資料を閲覧できる実働可能状態まで変革されたのである。
 ローレルはその改革の際に、外部からユーノに勧誘を受けた司書の一人であり、無限司書では一番の新参者である。
 しかし、彼女は持ち前の愛嬌と誠実な働きぶりで、司書達からの信頼は頗る篤く、ユーノの助手として働くこともしばしばだった。

「それにしても、ユーノ司書長は本当に凄い方ですよ」

 ユーノの指図に従って、本の山を抱えて右に左に歩きまわりながら、ローレルは幾度目か分からないユーノへの賛辞を口の端に上らせた。

「だって、この本棚、ユーノ司書長が改革を始めなかったら、ここからあっちまで、ぜ〜〜〜んぶ、迷宮の底に沈んでたんですよ!
 その上ミッドチルダ考古学界では一流の学士で名前が通ってますし、結界魔導師としても優秀で魔導師ランクも総合Aランク持ちなんですよね!?
 わたし、ユーノ司書長にこの無限書庫に採用して頂けて本当に良かったです。わたし、将来はユーノ司書長みたいな立派な司書になるのが目標なんです」

 屈託の無い笑顔で語るローレルに、ユーノはどこか寂しげな苦笑を返した。

「僕なんて、そんなに褒められたようなものじゃあ無いよ。無限書庫の探索だって、全体を見れば終わったのは1%にも満たない隅っこの浅い領域だけだからね。
 ……それに、魔導師としての僕なんて、二流がせいぜいだ。本当に凄い才能の持ち主に比べれば、僕なんて――」

 ユーノの口調が自嘲的な翳りを帯びた。ローレルは慌てて取り繕うよう手を振った。

「そ、そのユーノ司書長の言う、『本当に凄い才能の持ち主』って、あの高町なのはさんや、フェイト・テスタロッサさんのことですよね?」

 ユーノは、口の端に微かな苦笑を浮かべて肯定の意を示した。

「でもでも、お二人とも最初からAAAランクの魔力を持ってて、今ではSランク魔導師なんですよね!? そんなの、例外中の例外ですよ!
 そんな魔力量、持ってる方がおかしい、っていうか。わたしなんて、何年も試験にチャレンジしてるのに、未だにCランクなんですよ!」
 
 熱弁を揮うローレルの頭にポン、と掌を乗せると、

「今日はこのくらいにして、そろそろ上がろうか。ローレルもお疲れ様」

 と告げた。
 不承不承といった面持ちで口を噤んだローレルだったが、上目遣いにユーノを見上げて、

「確かに、ユーノ司書長は、そんな雲の上のエースの方たちに比べれば凡人だと思います。
 でも、わたしはそんなユーノ司書長の普通の人っぽさが好きですよ。なんていうか、親しみが持てて――ユーノ司書長?」

 どこか遠い瞳で無限書庫の深淵を覗きこんでいたユーノは、ローレルの呼びかけに我に返ったように振り向き、穏やかな微笑を浮かべた。
 眼鏡の下の優しげな眼はいつもと変わらぬユーノのそれで。
 ユーノの顔が、一瞬冷たく恐ろしげなものに見えたことは、単なる自分の錯覚だろうとローレルは自分に言い聞かせた。

「思ったより、まだ日が高いですね」

 無限書庫から出ると、ミッドチルダの春の陽光がユーノ達を照らし出した。
 爽快感がある半面、穴から追い出されたモグラになったような気もする。
 大きく伸びをしていていると、細い指先が柔らかくユーノの服の裾を摘まんだ。

「あのあの、ユーノ司書長、良ければ今日一緒にお食事とかは――」
 
 はにかみながらそう声をかける彼女の視界に、満面の笑顔で大きく手を振る、栗毛の女性の姿が映った。
 伸びた背筋、意志の強そうな瞳、自信に満ちた貌と、迷いの無い立ち姿。一目で分かった。彼女こそ、若きエース・オブ・エース、高町なのはだ。
 手を振りながら駆けてくる彼女に気圧されるように、ローレルは一歩後ろに退がった。
 
「ごめん、ローレル。今日はなのはと先約があるから、またね……」

 社交辞令程度の断わりの言葉を告げて、ユーノはなのはと歩き出す。
 その右手に、なのはが素早く己の左手を絡めたのをローレルは見逃さなかった。

「……何よ、司書長の言う通りじゃない。あんなの、勝てるわけないじゃない」

 残されたローレルはポツリと呟き、親指の爪を噛んだ。

406畜生道4 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:44:26 ID:ODgWVm/I
    ○




 中央区画の馴染みのレストランで食事をしながら、ユーノはどこか上の空だった。 

『でも、わたしはそんなユーノ司書長の普通の人っぽさが好きですよ。なんていうか、親しみが持てて』

 ローレルの声が、耳の奥で反響する。
 ――普通の人っぽさ、か。
 眼前のなのはの横顔をそっと見つめる。
 不屈の、エース・オブ・エース。その称号は、単に生れつきの魔力量によるものではない。
 その純粋で強固な意志。まるで、ピンクダイヤモンドの如き魂の輝き。
 それこそが、彼女をエース・オブ・エースたらしめている由縁だ。
 フェイトだってそれは同じこと。イエローサファイヤのような澄み切った怜悧さと、その奥に秘められた温かな優しさ。
 彼女達は、自分がどうやっても手の届かない、宝石の如き本物の輝きを持っている。 

 なのはは、胸元の大きく開いた紫色のワンピースに身を包んでいた。
 普段以上に女性らしさを感じさせる幼馴染の装いに、朴念仁とクロノにからかわれるユーノも、己の胸が高まるのを自覚していた。
 しかし、彼女の豊かな胸のふくらみの間に挟まれるようにして輝く、ネックレス代わりに吊られたレイジングハートを光沢を目にした瞬間、胸を騒がせる鼓動がすっと引いていくのがユーノには分かった。
 レイジングハート。高町なのはを象徴するように輝く、彼女の魔杖。
 自分では、ついぞ輝かせることができなかった、高級デバイス。
 あの日、海鳴でなのはが初めてレイジングハートを輝かせた瞬間、己の中で溢れた数々の感情。
 驚嘆。歓喜。賞賛。羨望。嫉妬。
 ――あの瞬間、疲れてくすんでいた世界が色彩を帯びた。この世に、本当に輝けるものがあると知ったんだ。
 ――空に輝く宝珠を見つけたあの瞬間、僕は自分の内に黒い井戸を掘った。
 ――どうして、僕はあんな風に輝くことが出来なかったんだろう。そんな、己の内から湧きだす真っ黒いコンプレックスを埋めて隠すための井戸を。
 
 そうして、僕は恥知らずなことに、今もこうして何食わぬ顔でなのはと話をしている。
 
「どうしたの、ユーノ君? わたしの顔に何かついてる?」

 なのはの一声で、ユーノは思考の隘路から引き戻された。 
 ――最近、もの思いに耽る時間が増えている。
 それがあまり良い兆候ではないことをユーノは自覚していたけれど、考えずにはいられなかった。
 自分は、なのはの隣に立つのに、相応しい人間ではないのではないか。自分如という人間は、エース・オブ・エースの翼の重荷にしかならないのではないだろうかと。

「もう、変なユーノ君」

 そう言いながら、なのはは見つめられていたことは満更でも無いと言うかのように、無邪気な笑顔を見せた。
 なのはやフェイトの隣に立つのに、相応しい人物がいるとすれば、それは一体どんなだろう?
 強くて、誠実で、質実剛健な男性。……それは、あっけないほど直ぐに思い当たった。
 
 クロノ・ハラオウン。

 時空管理局の提督であり、L級艦船「アースラ」艦長でもある。
 それでいて、魔導師としても一級のAAAランク。非の打ちどころの無い好漢である。
 クロノの強さは、なのはやフェイトのような、才能の輝きに恵まれた強さではない。
 そう、例えるならば、幾度も幾度も繰り返し鍛え上げた、玉鋼のような強さを持ったような男なのだ。

 ユーノがクロノと出会ったのは、六年前の、なのはとフェイトに出会ってから間もない日のことである。
 その時、クロノに対して言葉に出来ない反感のようなものを覚えたことを記憶している。
 あれは、フェレット野郎とからかわれたことに対する反感だけではない。
 そう。――己は、クロノ・ハラオウンという男が羨ましかったのだ。

「また黙っちゃって。ユーノ君、今日はどうしたの?」

 何でもないよ、と笑顔で返しながら、得体の知れない不安にユーノは怯えた。
 これまで、漠然と抱いていた、『自分ではなのはの隣に居られない』という不安と、才気に恵まれた友人達に囲まれていることのコンプレックス。
 それが自分の中で解体されることで、全く異なる感情へと変化している――そんな、得体の知れない不安だった。
 

       ○

407畜生道5 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:48:06 ID:ODgWVm/I

「珍しいね、君から僕に話があるなんて」

 馴染みの店で手振りだけで注文を済ませ、クロノは半ば自分の指定席となっている椅子に腰を預けた。
 店内には、クロノ達以外の客は居らず、無愛想な店主が独りグラスを磨いていた。
 対面に座ったユーノは、幾分強張った面持ちで、机の木目を見つめている。
 『どうも最近とユーノの様子がおかしい、何か悩み事があるようだ』となのはから聞いてはいたが、彼女の言に間違いは無かったらしい。
 程なくして運ばれてきたジンのグラスに唇を這わせながら、それとなく友人に視線を運ぶこと数分。
 クロノは無遠慮な言葉を投げかけるような真似はせずに、友人が口を開くのを優しく待った。
 店主は二人の間に流れる空気を静かに察して、店のBGMの選曲を落ち着いたクラシックへと換えた。
 クロノは無言で親友の表情を観察していたが、その瞳に強い決意を色があるのを見て、若干の安堵と、これから語られる言葉への期待に口の端を吊りあげた。

「はやての作ろうとしている部隊についてのことなんだ」

 ユーノの、第一声はそれだった。
 クロノは片眉を上げて、静かに続きを促した。

「はやての作ろうとしている部隊に、僕も参加できないかな?」
 
 言葉の意味と、ユーノがそれを口にした決意を余す所無く受け取って、クロノはその黒い瞳でユーノの翠眼を覗きこんだ。
 八神はやてが設立しようと現在奔走している部隊――古代遺物管理部機動六課(仮称)は、現在各方面から優秀な人材を集めている。
 まだ、後見人――カリム・グラシアや、レティ・ロウラン、そして当のクロノ・ハラオウンらが正式に決定したばかりで、部隊の組織に関しては白紙に近い状態だ。
 確実なのは、司令部を総隊長である八神はやてが、2つのフォワード部隊をそれぞれ、航空戦技教導隊と本局から出向扱いになっているなのはとフェイトが隊長として指揮するということだけだ。
 
 構成人数は約50人程度を予定しているが、カリムやクロノらのみが知る、「ある事情」によって、小規模ながら優秀な人員が求められているのだ。
 実戦に携わるフォワード部隊については、Sランク相当の手練を5人という、不自然なほど充実した保有戦力によって、当面は新人の育成を行う余裕があるだろうと予想されている。

 フェイトが保護したプロジェクトFの被害者の少年。
 同じくフェイトが保護した、ル・ルシエ出身の竜召喚士の少女。

 なのはも、陸士訓練学校や陸上警備隊で何人か見所のある新人を見繕っているらしい。

 出生や経歴に事情にある人材は、敬遠されることも多い。
 だが、はやては、出生経歴関係無しに――寧ろ、事情のある子供達の社会復帰の助けにもなるとして――優秀な人材を集めて、部隊を組織しようとしている。
 
 そこに、ユーノ・スクライアという魔導師が活躍する余地があるかと問われたなら――

「ふむ、それは、部隊の後見人を務める身としては、願っても無い話だけどね」

 努めて、クロノは私情を表に出さずに、ゆっくりと言葉を選びながら事務的な口調で続けた。

「知っての通り、フォワード部隊の隊長を務めるなのは達には、大幅な魔力制限が加えられることになる予定だ。
 彼女達の実力なら魔力制限下でも可能な限りの最高のパフォーマンスを発揮することができる筈だ。
 それでも――君が部隊に入ってくれれば、有事の際には、報告を受けて制限解除の決定を下すことしかできない僕達より、もっと小回りを利かせて彼女達の力になれるだろう」

 何より――。そこで言葉を区切り、ジンのグラスを傾けて、クロノ頬を緩めた。

「結界や捕縛に長けた君なら、すぐにでも部隊の即戦力として戦うことができる。
 フォワード部隊のフルバックなんて似合いじゃないかな。君のその豊かな学識を生かして、新人たちの座学の講師を務めてくれてもいい。
 なのはやフェイト達も、きっと喜ぶだろう。彼女達も、君がいればきっと心強いはずだ」

408畜生道6 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:50:29 ID:ODgWVm/I
 予想していなかった過大な賛辞に、かあ、と頬が紅潮するのをユーノは感じていた。
 このフェレット野郎――
 そんな風にからかわれていたのは、幼少時代の過日の話。
 この好漢は、クロノは、自分を見てくれている。評価してくれている。
 そう考えるだけで、どれだけ冷静に努めようとしても頬は上気し、心臓の鼓動は高まる一方だった。

「それで――本業の方はどうするんだい、無限書庫の司書長さん?」

 どう考えているんだ?
 見透かしたように、クロノは目を細める。
 考えていない筈など無かった。
 理想を語るよりも先に、まずこの眼前に横たわる如何ともせん自分の現実を打開しなければ、ここから一歩も進めないことぐらい、ユーノはとうに承知していた。
 
 ユーノは手つかずだったオレンジジュースを一気に飲み干すと、コースターに叩きつけるようにして机を揺らした。

「部隊が本格的に活動を開始するのは、おそらく三年後の新暦75年。
 その三年間で、十年分の成果を出して見せる。
 その三年間で、優秀な人材を集め、未だ混沌から抜け出せない無限書庫を体系立てて整理し、僕抜きでも資料の発掘と整理が進められるように、無限書庫を改革して見せる!
 はやての部隊は実験的な部隊だから、実働期間は恐らく一年間だ。
 その一年間のみの、無限書庫からの出向という扱いにしてもらっても構わない。

 それでも――駄目かい?」

 クロノの瞳が、俄かに見開かれた。
 グラスの底の僅かな残りを飲み干して、酒精混じりの溜息を吐く。

「少し、君が分からなくなってきたよ、ユーノ。
 君がはやての部隊に来てくれる――それは、こちらとしてもいい話なんだ。
 一年間の実験部隊だ、お偉方相手に横車を押さなくても、三年後までにそれなりの成果を出して貰えれば、きっとすんなり出向は通るよ。
 君ならそれぐらい計算できているはずだ。
 それなのに――どうしてそんな苦行のような条件を、自分に課さないといけないんだ?」

 ユーノは、普段の彼からは想像もつかないような熱の籠った視線で、クロノの黒い瞳を覗きこんだ。

「僕の、覚悟を知って欲しかったからだよ」
「覚悟?」

 心当たりがない、とばかりに、クロノは首を傾けた。

「僕は、君達に追い付きたい。君達に並べるような、何者かになりたい」

 その言葉は、やはり、クロノにとって理解出来ないものだったからだ。
 
「ずっと、こんな負け犬のような気分でいるのは厭なんだ。
 自分にとって誇れることが、なのは達と一緒に戦えたことだけ、なんてのは厭なんだよ。
 これ以上、なのはや君に離されていくのは厭なんだ!」
「魔導師としての適性は、人それぞれだ。
 たとえ、空戦で君がなのはに勝てなかったとしても、君には君の良さが――」
「そんな話じゃないんだよっ」

 激情を露にしたユーノを宥めるように、クロノはその肩に両手を置いて、額がぶつかりそうな距離で視線を交えた。

「分かった。全部、最後まで僕が聞くから、最後まで話してくれ」

 すう、と息を小さく吹くと、溜め込んだ悔恨を吐き出すかのように、ユーノはぽつぽつと語り出した。

「駄目だったんだ。無限書庫で何年働いても、多少人に褒められるような成果を出したとしても。
 この仕事が嫌いってわけじゃないんだよ。いや、僕の性格にも能力にもピッタリの、最高の職場だ。
 価値のある尊い仕事だってことも解ってる。きっと、これ以上の職場はどこを探してもなだろう。
 それでも――駄目だったんだ。働いてる途中に、なのはや君と一緒に戦っていた頃の思い出ばかり浮かんできてしまう。
 なのはや君が働いてるところを想像をすると、僕はこんな所で何をしてるんだろう、ってそんなことばかり考えてしまう。
 昔も、君達と一緒に戦った時も、何時の間にか僕は置いてけぼりで――」
「そんなことは無かった筈だ。なのはに魔法の手ほどきをしたのは君だし、闇の書事件の時も、君が無限書庫で探索してくれたお陰で、解決の手がかりが掴めた」

 遠い目で。うっとりとしたような表情で、ユーノは呟いた。

409畜生道7 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:52:55 ID:ODgWVm/I

「ジュエルシード事件に、闇の書事件。悲しい事も辛い事も沢山あったけど、……今思い出すと、懐かしいし、楽しかったよね」
「……ああ、楽しかったな」

 数瞬の逡巡の後に、クロノは静かにそう首肯した。

「僕はあの頃から――君にフェレット野郎と呼ばれていたあの頃から、一歩も進めなかったんだ。
 自分が、君やなのはに劣る人間としか思えなくなった。君達を基準にしないと、物事が量れなくなってしまったんだ」
「――どうして、そんなことに」

 呆然と呟くようクロノに、ユーノは眼鏡を押し上げ、滴り落ちる涙を子供っぽい仕草で手の甲で擦りながら首を振った。

「どうしてなのかは、僕自身も解らない。
 ただ――僕は、君達が羨ましかった。ずっと、君達のようになりたかったんだ……
 でも、もうそんなのは厭だ。なれもしない君達の背中ばかりを見つめる続けるのは厭なんだよ。
 僕は――僕になりたい。君やなのはやフェイトに胸を張れる、自分を君達と比べなくても独りで立てる、自分自身になりたいんだ」

 親友のあまりに重い告白をクロノは唇を震わせながら聞いていた。
 ――こいつは、こんな悩みを独り抱えていたというのか? それも、出会ってから、ずっと。
 ――なのはは、ユーノが何か悩みが有るんじゃないかと言っていた。
 ――こいつは、ずっと悩んでいた、その徴がありながら、自分は気付くことも出来なかった……

「どうして、今まで――」
 
 問いかかって、口を噤んだ。
 これ程の告白を――劣等感の対象である自分に対して行うことは、一体どれだけの覚悟が要っただろう、と。

「いや、すまない。よく話してくれた」
「悪かったね、クロノ。詰らない悩みを聞かせてちゃって。女々しいよな、僕」

 ユーノは目を真っ赤にして、弱々しく微笑んだ。
 クロノは迷い無く、男にしては華奢すぎる肩を抱きしめた。

「すまない、気付いてやれなくて。
 君が自分の事をどう評価しているかは知らない。それは、君が自分で決めることだ。
 それでも。
 僕は、君が僕やなのはやフェイト達に劣った人間だなんて、一度たりとも思ったことはない。
 ユーノ・スクライア。君は、僕が親友に呼ぶに値する、立派な男だと心の底から信じてる。
 だから――そんなに、自分を卑下しないで。自分を大事にして欲しい。
 そして、早く君自身の力で、君の自信と誇りを、取り戻して欲しい。
 僕に出来ることがあれば、何だって言ってくれ。君のためなら、何だって協力するから。

 ――それから。
 ずっと謝ろうと思ってたんだ。
 昔、君のことを『フェレット野郎』だなんて悪口を言って、本当にすまなかった」

 ユーノは暫し呆然としていたが、

「謝るなよ、そんな昔のことで……」

 そう言って、もう少しだけ、涙を流した。




     ○

410畜生道8 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:54:41 ID:ODgWVm/I



 ユーノは、自宅にアパートに戻ると椅子に腰を落とし、愛用のコーヒーサーバーに湯を注いだ。
 膝を抱えて座りこみながら、クロノの言葉を思い出して、また少しだけ泣いた。

 ユーノの自室は、無限書庫の司書長らしく、機能的に整理されていながらも、雑多な本に溢れていた。
 中でも、机に高々と積まれている一連の本は明らかに書店で市販されているものではなく、長い年月を蓄えた稀覯書としての趣を備えていた。
 いや。それらは稀覯書の域にすら留まらない。
 見るものが見れば、一目で解っただろう。
 魔導書。それも、かなり古く解読困難な部類の品々である。
 無限書庫からの発掘品だった。
 元来、無限書庫は図書館としての機能も兼ね備えた施設である。
 正当な手続きを踏めば、禁書の類でもなければ大抵の本は持ちかえることができる。
 これらは別段、司書長としての職権を乱用したものではなく、他の一般の書籍と同様に、ユーノが借りて帰った品々だ。
 尤も、専門家でさえ解読困難なこれらの魔導書を、話題のビジネス書の如き気安さで借り帰るなど、ユーノ・スクライア以外には不可能だろうが。
 
 ユーノはそれをひょいと片手にとると、新聞の三面記事でも流し見るかのような手つきでパラパラと捲りながら、卓上のノートに書き写し始めた。
 原始的な手段だが、魔方陣などに存在する魔力の流れを身体で理解するためには、この方法が最も手っとり早い。
 なのはらも学校で習った基礎中の基礎だ。
 しかし、いくら読書魔法を使用した速読を得意としているとは言え、専門家でも一ページ読み進めるのに数週間かかるレベルの難解な魔導書を、この速度で理解を伴って読み進めるなど、
 
 全く、常軌を逸脱した才としか言いようが無い。
 
 だが当人にそんな意識はまるで無く、ただ己の学習のみに専心している。
 この数年、デスクワークにかかりきりで、実戦の場から離れてしまった己。
 それを自分なりに補うために必要なのは、戦闘訓練ではなく、得意分野をユニークスキルへと成長させることだ。
 ユーノは、そう判断した。
 学んでいる内容は、現在はもう失われてしまった、過去の魔導術式。
 魔力を緻密に編み込むことによって、変わらぬ魔力量でより強力な束縛を可能とするバインド。
 魔力糸にAMF近似のエネルギーを纏っており、攻撃にも防御にも利用できる糸の檻。もしかしたら、なのはやフェイトクラスの魔導師も拘束できるかもしれない。
 なのはのディバインバスタークラスの攻撃魔法の直撃にも耐えられる、バリアタイプの防御魔法。
 秘匿性の高い封時結界。魔力の残り香さえ残さず、「そこに結界があった」ということさえ周囲に知らせない、最高位の結界。

 自分がどれだけ強力な――危険なものを学んでいるのか、知ってか知らずか。ユーノは只管に書に没頭する。



 数時間が過ぎた。
 ユーノは年寄りじみた仕草で肩を回し、嘆息を一つ漏らすと、ベッドに顔を埋めるようにして身体を預けた。
 眠気覚ましに濃く煮出したコーヒーは、既に冷めきっている。
 疲労に身体を預けるようにぐったりしていたユーノだったが、もぞり、と腕を伸ばすと、右手でベッドの下をまさぐった。
 
 取りだしたのは、一冊の雑誌だ。
 どこにでもある、駅前にでも売っていそうなありふれたポルノ雑誌だった。

 ユーノはうつ伏せたまま、無言でベルトのバックルを外してジッパーを下げた。
 女顔と友人から揶揄されることも多いユーノだが、多感な年頃の少年である。
 時折、こうして自慰に耽ることもあった。

 適当な頁を開き、無言で性器を擦り上げる。
 回数は、週に1、2回。
 ユーノにとって、自慰とは熱の籠らない、ただ自分の性欲を鎮静化させるためだけの事務的な行為だった。
 用いるポルノにも、頓着はない。特に偏った性的嗜好は無く、雑誌の中のありふれたセックスアピールをその場限りの対象とした。

 無論、身近に性的魅力に溢れた女性が居なかったわけではない。
 ユーノは出会った時から、なのはを異性として意識していたし、フェイトもはやても、周囲の異性の中では抜きんでて魅力的な女性だった。
 二次性徴の真っただ中のこの数年、ユーノがなのは達を女として意識しなかった筈がない。
 健全な少年なら、自慰の妄想の相手に供するのが普通の――ごく当然の、一般的な心理だっただろう。

411畜生道9 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:55:57 ID:ODgWVm/I

 だが、ユーノはそれを退けた。禁忌とした。

 ユーノにとって、なのはやフェイト達は、己の理想なのだ。尊敬すべき相手なのだ。
 崇高な――もしかしたら、宗教的崇拝にも近いかもしれない感情を、ユーノはなのは達に抱いている。
 そんな相手を、自分の自慰の妄想に供することなど、できよう筈も無かった。
 己が、なのは達に性的魅力を感じることすら、自分の汚点と信じ、己を下衆な人間だと蔑み続けてきた。
 そうして、ユーノは時折鬱屈した性欲を、顔の無いポルノ雑誌の女優相手に、機械的に吐き出すのが常だった。

 ところが、この日、ユーノの感情は己でも制御できないほどに昂り、熱を帯びていた。

『ユーノ・スクライア。君は、僕が親友に呼ぶに値する、立派な男だと心の底から信じてる』

 脳裏に、落ち着いたやや低い声と、自分を抱きしめる逞しい腕の感触が甦った。

「くろのっ……」

 意識しないうちに、その名が口から零れ落ちた。
 逞しい腕が、広い肩が、自分より一回りは高い背丈が。
 両肩に掌を置かれた時の熱が、額がくっつきそうなぐらい顔を近づけられた瞬間の、唇の光沢が、意志の強い黒い瞳が。
 次々と、洪水のように脳裏に溢れ出した。

「クロノ、クロノっ!」

 その名を繰り返し呼んだ。その度に、ユーノの秘所は固く反り返り熱を増した。
 
『昔、君のことを「フェレット野郎」だなんて悪口を言って、本当にすまなかった』

 クロノに耳元で囁かれているような錯覚がして、頭がくらくらとした。

「クロノ、クロノ、クロノ、クロノ、クロノ――――――っっっっっ!!」

 吼えるようにその名を叫びながら、ユーノは己の下腹に精をぶちまけた。
 それは、未だかつてユーノが味わったことの無い、強烈な快感だった。
 恍惚のあまり、口角から垂落ちるよだれを拭いもせずに、ユーノは口を半開きにして虚空に荒い息を吐き出した。

 射精が終わり、冷静さを取り戻した時に脳裏に去来したのは、まずは罪悪感だった。
 あの好漢を――クロノ・ハラオウンを、自分はあろうことか、自慰の妄想に供してしまった。
 その事実は、ユーノにとって、頬に迄鳥肌が立つ程の恐怖と後悔をもたらした。
 涙と鼻水を流しながら、次に抱いたのは、「どうして、」という困惑だった。
 自分はゲイではない。過去の自慰でも、男性を使用したことなど無い。それが、どうして今日に限って。

 だが時間が経つにつれ、困惑はさもありなんという納得へと変化していった。
 しっかりと意識を始めたのは最近のこと。
 だが、ずっと無意識に感じていた。意識に上らせるのを避けていた。

 自分は、なのは達の隣に立つには相応しく無い人間だという劣等感。
 なら、どんな人間ならいいのか? という問いと、クロノ・ハラオウンという答え。
 ユーノは、ずっとクロノのことを意識していた。
 クロノのようになりたいという羨望。
 クロノが羨ましいという嫉妬。
 最初に意識していた筈の相手は、なのはだった。
 それが、劣等感と嫉妬、羨望、あらゆる感情が歪みに歪んで縺れるうちに、その対象をクロノへと変えていったのだ。
 最後の引き金となったのは、今日のあれである。

「ごめんよ、クロノ」

 自分の醜さに怯えて震え、涙しながら、胸中で親友に詫びた。
 もう、こんな愚かな真似はしまいと、二度と、二度としまいと、固く胸に誓った。
 しかし。

「クロノっ」

 その名を呼ぶ度に、クロノのことを意識する度に、ユーノの性器は固さを取り戻し、再び熱く脈打ち始めるのだった。
 先ほど脊髄を駆け上った、麻薬よりも遥かに甘い快楽が脳裏に甦る。
 
「もう一度だけ、もう一度だけだ……」

 血走った目で性器を扱きながら、ユーノはうわごとのようにそう呟き続けた。

「ごめん、クロノ、どうして僕はこんなっ、こんなっ!」

 噛み締めた唇から、血が滴り落ちた。
 ――その行為がユーノの日課に堕ちるのは、ごく当然の結末だった。

412畜生道10 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:57:34 ID:ODgWVm/I
 
     ○ 


 その日は、晴天の霹靂のようにやってきた。
 いや、それは正しくはないだろう。
 ユーノはその日が来ることを、ずっと前から予期していたのだから。

 いつもと変わらない日常業務。本局と通信をしながら、無限書庫の浅い層で解析と検索を続けていた時のことだ。

『ユーノ、そっちのデータはどうだ?』

 通信越しのクロノの声に、

「もう解析を進めてる。なのはたちが戻るころには出そろうよ」

 朝飯前、とばかりに解析作業を続けながらユーノは軽やかに応じた。
 ……クロノを相手に、外面を取り繕うことにも慣れてしまった。
 数日は、罪悪感と羞恥心から、クロノの前で面を上げることが出来なかったというのに。
 クロノはユーノの異変に対して、好意的な解釈をして優しく接した。
 その変調の、真の原因を知らずに。

「はいよ、ユーノ」

 子供程の体躯のアルフが、古書籍の束を抱えて持ってきた。
 手が空いているというので、今日は助手を頼んでいるのだ。

「ありがとうアルフ。
 それにしても、アルフも、もうそっちの姿が定着しちゃったね」
「あー、まーね」

 狼の姿でフェイトと共に戦っていた使い魔は、微笑を口元に浮かべた。

「フェイトの魔力を食わない状態を追及してたらこーなっちゃってな。
 あたしはフェイトを守るフェイトの使い魔だけど、フェイトはもう十分強いしひとりじゃないし。
 ずっと傍にいて守るだけが守り方じゃないし。
 ――家の中のことやるのも結構楽しいし」

 新しい自らの生き方を見つけ、自分の道を誇りを持って歩んでいる使い魔に、ユーノは微かな嫉妬を覚えた。

「来年にはクロノとエイミィも結婚する予定だし、子供とか生まれたらもっと忙しくなるしね」

 その言葉に、ユーノの時間は停止した。
 ――今、何て言った?
 結婚? クロノと、エイミィが?
 エイミィ・リミエッタ。アースラでオペレーターを務めるクロノの幼馴染だ。
 確かに、昔から仲は良かったようだが。
 だけど、
 だけど、
 だけど、
 
 凡人じゃないか!?
 ユーノは胸中で悲鳴を上げる。
 どこにでもいる、ごく普通の女だ。別段突出した才もない、幾らでも代わりがいる、量産品の如きオペレーターだ。
 なのはやフェイト達の持つ宝石のような輝きも、クロノの持つ磨き上げた鋼の美しさもない。
 クロノ・ハラオウンという男に、到底釣り合わない凡婦! それがどうしてクロノの妻に――
 
 果てしなく混乱するユーノに頓着することなく、当のエイミィは秘密をばらしたアルフに口を尖らせる。

『ア〜ル〜フ〜、その話はまだ秘密だってー……』
「あー、まあ、いいじゃん」

413畜生道11 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:58:37 ID:ODgWVm/I
 焼けた鉄の塊を飲み込むような覚悟で、努めて、平静を保った。

「ええと……、おめでとうございます」

 苦笑交じりに、そんな如才ない言葉が出てくる自分が悔しかった。

『うう……、ありがとう……』

 モニターの向こうで、ばつが悪そうに顔を背けていたクロノに、ユーノは声をかけた。

「クロノも、やっと決心したんだね」
『まあ、色々とな』

 クロノは気恥ずかしそうに、けれど幸せそうに、微笑を浮かべて顔を伏せた。
 ――何より悔しいのが。
 ユーノ自身が、そのことを知っていたことだ。
 クロノもユーノも色恋話を好まない性格だったので、本人達から付き合っているという話を直接聞いたことは一度も無かった。
 けれど。
 休日に二人で歩いているクロノとエイミィを幾度と見かけたことがある。
 朴念仁のクロノが、エイミィに渡すクリスマスプレゼントを熱心に選んでいたことも知っている。
 きっと、知っていたのはアルフだけではないだろう。
 なのはも、フェイトも、そして自分自身でさえ、クロノとエイミィが恋人同士であることは、解っていた筈なのだ。
 ただ――誰も、それを言葉にして明言したことは一度も無かったから。
 だから、ユーノはずっと、その事実から目を逸らし続け、無かったことにしていたのだ。
 だが今、全ての真実は白日の下に晒された。言葉として明確な形を持った。
 もう、ユーノの心に逃げ場など無かった。

『というか』

 話を逸らそうとするかのように、エイミィはユーノに問うた。

『そーゆーユーノくんは、なのはちゃんと、ホントに何もないの?」

 ユーノは、にっこりと温和な微笑を浮かべた。
 それは、親友であるクロノが見ても、普段と何ら変わらない、いつもの柔らかな微笑だった。

「なのはは、僕の恩人で、大事な幼馴染みです。友達ですけど、それだけですよ、本当に」

 エイミィは嘆息を漏らす。

『まあ、2人とも仕事好きだしねぇ。まだ当分先かな、そういう話は』

 残念そうに眉尻を下げるその顔は、陽気でお節介焼きの、いつものエイミィだった。


   ○

414畜生道12 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 15:59:31 ID:ODgWVm/I

 なのはの魔力光にも似た、薄い桜色のコットンのワンピースと、バリアジャケットを思わせる、白いウールのカーディガン。
 大きく開いた胸元には、血の雫のような赤いレイジングハート。
 サイドポニーの髪を結えるリボンには、細かい意匠がこらしてある。
 なのはは普段からメイクを好まず、必要な時にも最小限に留めているが、この日は明るいピンクのルージュをその小ぶりな唇に引いていた。
 ――ユーノは最近、自分に会いに来る時のなのはの服装が以前に比べて派手になっていたことには気付いていたけれど、その日はいつにも増して艶やかな装いだった。

「なのは……似合ってるよ、その服」

 食事を共にする男のエチケットとして、軽くそのいでたちを誉めると、なのはの顔は瞬時に朱に染まった。

「本当! ありがとう、ユーノ君」

 屈託のない――まるで、出会ったあの頃と変わらない、少女のような微笑だった。
 
「う、うん。……何にしようか……」

 気恥ずかしさを隠すように、レストランのメニューにぞんざいに目を通しながら、ちらちらとなのはに視線を送る。
 ――今日のなのはは、どこか変だった。浮ついたような雰囲気で、サイドポニーの髪を指先に巻きつけ、ちらちらとこちらに視線を返してくる。

「ね、ねえ、ユーノ君、最近さ、わたし、色んな服を試してみてるんだけど……ユーノ君の好みの服って、どんなかな?」

 間を潰そうと口にしたお冷を、思わず吹き出してしまうところだった。
 本当に、今日のなのはは変だと、ユーノは訝しげになのはを見つめた。

「うーん。この前の紫色のワンピースも似合ってたけど、今日の組み合わせも凄く素敵だと思うよ。
 上手く言えないけど、……すごく、なのはらしさが出てていいと思う」

 咄嗟に口にした当たり障りも無い褒め言葉だったが、なのはは嬉しくて堪らない、とばかりに顔をほころばせた。

「あのね、クロノ君から聞いたの」
「クロノから?」

 一瞬、クロノの前で晒してしまった醜態を思い出す。
 しかし、クロノは友人の秘密や恥を誰かに吹聴する男ではないと、ユーノは即座に思いなおした。
 言いたいことははっきりと口に出すのが普段のなのはの性格だったが、この日は妙に歯切れが悪く、両の人差し指を絡ませるようにして、吶々と言葉を続けた。

「あのね……はやてちゃんの部隊のこと」
「ああ、そのことか」

 それで、ユーノはなのはの変調に対して合点がいった。

「わたし、凄く嬉しかったの。ユーノ君が来てくれる、って聞いて。
 ――ユーノ君が、わたし達と一緒に戦いたいって、言ってくれて。
 わたしも、フェイトちゃんも、はやてちゃんも、みんな不安を抱えてたんだと思う。部隊なんて、初めてのことだから。
 でも、ユーノ君が一緒に戦ってくれるなら、わたし、もう怖いものなんてないよ!」

 そう言って、なのはは両手でぎゅっとユーノの手を握り締めた。

「クロノ君から聞いたよ。ユーノ君、わたし達と一緒に戦うために、凄い覚悟をしてくれてるって。
 ミッドチルダに来て、わたし、時々不安になることもあったんだ。ここは、今までのわたしが歩いてきた道と、繋がってる場所なのかな、って。
 でも、ユーノ君が一緒にいてくれるなら、わたしはいつだって大丈夫。
 ここが、あの日ユーノ君と出会ってから歩いてきた道と地続きの場所だって、心の底から信じられる、安心できるんだ」

 なのはは、恥ずかしそうに頭を掻いた。
 どうやら、クロノはユーノの告白の中の、都合のいい部分だけを抜き出してなのはに聞かせたらしい。
 ユーノは苦笑する。

「まったく、クロノはしょうがない奴だな。全部話しちゃうなんて」
「そうそう、クロノ君のことだよ」
 
 なのはは、身を乗り出すようにしてユーノに語りかけた。

「ユーノ君も聞いた? クロノ君とエイミィさんのこと」

 ゴシップ好きは女の性らしい。内心うんざりしながら、ユーノはなのはの話題に付き合うことにした。

「ああ、まったく、めでたいことだよね」
「うんうん、良かったよね、クロノ君とエイミィさん。あの二人なら、きっと幸せになれるよね!」

 感極まったように声を上げるなのはに、ユーノは段々と自分が苛立っていくのを自覚していた。

「素敵だなあ、結婚かあ……。ねえねえ、結婚式はいつするのかな?
 エイミィさんの花嫁姿、早く見てみたいなあ……」

 胆の奥でぐるりと渦巻くものを押さえながら、ユーノはぞんざいな相打ちを続ける。
 
「クロノ君とエイミィさん、どんな風にして恋人同士になったのかなあ」

 まったく、付き合ってられない。何か適当に理由をつけて席を立とうした瞬間。
 なのはは特大の爆弾を落とした。

415畜生道13 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:00:34 ID:ODgWVm/I

「ねえ、ユーノ君――わたし達の関係も、そろそろ、少し変えてもいいんじゃないかな?」

 その言葉の真意を理解するのに、数巡の思考を必要とした。
 ユーノの沈黙を、どう受け取ったのだろうか。
 なのはは、自分を鼓舞するかのように、そっと作り笑いの微笑を浮かべた。
 いつも気丈な少女だった。その両手が、テーブルの上で不安に震えていた。

「わたし、ユーノ君のことが好きだったの。会った時から、ずっと好きだった――」

 その告白は、ユーノにとって、クロノとエイミィの婚約よりも予想外の出来事だった。
 ユーノにとって、なのはとは崇敬する対象であり、どこまで行っても、恋愛対象とはほど遠い――
 否、自分が恋愛対象とすることを許せない相手だったからだ。
 
「エイミィさんに、アドバイスして貰ったんだ。
 ユーノ君、にぶちんさんだから、わたしから告白しないと、ずっとお友達のままかもしれないぞ、って。
 ――えへへ」

 照れくさそうに額を掻くなのはは、確かに魅力的な少女だ。男なら、こんな少女に告白されて、頷かない朴念仁はいないだろう。
 けれども。
 ユーノの宿痾とも言うべき感情が、胸の中でぐるりと蠢いた。
 自分が、こんな魅力的な、輝かしい少女の隣に居られる筈がない。
 自分なんて、なのはにもフェイトにも及ばない、下賤な凡夫だ。
 己のことを気にかけてくれている親友を、自慰の妄想に使うような、畜生にも劣る最低の男だ。
 それを、どうして、己が最も美しいと尊敬する少女の隣に並べて飾れよう。
 なのはの隣に立つのに相応しい男、それは、あのクロノ・ハラオウンの如き男しか有り得ない。
 ――それが、ユーノの信奉する、最も美しい未来像。
 だが、もうそれが実現されることは無い。全て失われた。崩れ去ってしまったのだ。
 エイミィ・リミエッタという、無能にして厚顔無恥な女によって。

「迷惑だね」

 ユーノの口から発せられた言葉は、自分でも驚くほど冷え切っていた。

「なのは、君は僕の大事な友達だ。でも――それ以上の感情を、君に抱いたことはないよ」

 ぽかん、となのはは凍りついたような表情でユーノの顔を見つめていた。

「ユーノ、君」

 ぎゅっと、下唇を噛むと、なのははふにゃあ、と顔を緩ませて、無理矢理な笑顔を形作った。

「そっかあ、そうだよねえ、いきなりそんなこと言われても、困るよねえ、あはは。
 迷惑かけちゃったかあ、あはは、ごめんねえ、ユーノ君……あはは……、あれ、あれ」

 気丈な作り笑いを浮かべながら、幾筋も、幾筋も、大粒の涙が、なのはの頬を伝い落ちていった。
 なのははそれを拭い、何でも無かったかのように両手を振って取り繕い、気丈に微笑む。
 それでも涙は止まらず、次から次へと、なのはの両目から零れ落ちていった。

「ねえ、ユーノ君」

 零れる涙を拭いながら、鼻声でなのはは問うた。

「わたし達、これからも友達だよね?」

 ユーノはなのはの肩を優しく叩き、力強く頷いた。

「当たり前だろ――君は、僕の大事な友達だ」

 なのはは、安心したかのように、真っ赤になった目を弓にした。

「そっか……えへへ、良かった。ありがとう、ユーノ君」

 感謝の言葉と微笑みを残して、なのはは独り席を立った。
 入れ替わるように、注文していた料理がテーブルへと運ばれてきた。
 なのはが泣きながら席を立つ姿を目にしたのだろう。ウェイターは訝しげな視線をちらとユーノに送り、伝票を差し込んでいった。
 ユーノは湯気立てる料理が冷めきるまで、独りテーブルで呆然と虚空を見つめていた。

「僕は、死ぬべきだ」

 膝の上の拳は、青褪める程に握り締められ、ぶるぶると小刻みに震え続けていた。



     ○

416畜生道14 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:01:58 ID:ODgWVm/I

「あの女のせいだ。
 あの女のせいだ。
 あの女のせいだ。あの女のせいだ。あの女のせいだ。
 凡人の分際で、クロノに取り入ろうとしたせいだ。
 何一つ取り得もない、街を歩けばゴキブリのようにそこらで見かける、平凡な女の癖にっ」

 ユーノは、独り事を呟きながら、いつもの自慰を開始した。
 端正に片づけられていた部屋は無残に散らかり、花畑のように自慰で使用した黄ばんだチリ紙で溢れていた。
 卓上に重ねられていた貴重な魔導書の山は崩れ落ち、代わりに卓上を占めるのは、クロノの写真やクロノの写り込んだ雑誌の切り抜きだ。
 偏執的なまでに集められた数々のクロノたち。
 それに囲まれて、ユーノは己の性器を激しく扱き上げた。

『ユーノ』

 妄想の中で、クロノはユーノを抱きしめ、そのおとがいをそっと持ち上げ、口づけを交わす。
 決して太くはないが、しっかりと筋肉のついた腕で抱きしめ、クロノはユーノを愛撫していく。
  
 ……これが、誤った妄執であることなど、最初から承知していた。

 だけど。
 ふと、疑問に思う。
 己は、クロノを抱きたいのか、クロノに抱かれたいのか。

「どちらでもいいか、クロノなら」

 自嘲じみた笑みを浮かべて、ユーノは再び自慰に没頭した。
 ユーノの妄想は具体性を失い、ただどろどろと己に絡みつく「クロノ」のイメージへと変化していった。
 このまま、性感の高まりと共に、妄想とクロノと同時に精を放つのが、ユーノの自慰の常だった。
 
 ところが、この日は妄想にいつもは入らないノイズが混じった。
 エイミィ・リミエッタ。
 クロノに抱き伏せられ、嬌声をあげるエイミィの姿が、脳裏に広がったのだ。
 ゆっくりとエイミィの性器を愛撫するクロノ。クロノの逞しい性器を口に含むエイミィ。
 クロノはエイミィの豊満な乳房をゆっくりと揉みしだき、片足を優しく持ち上げて己自身を――、
 妄想が無限に広がっていく。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、とうしてあの女が!!」

 ユーノは眼鏡を外して壁に叩きつけ、ガリガリと美しい金髪を掻きむしった。
 息を落ち着かせ、もう一度クロノと自分で妄想を始めようとする。
 しかし――何度思い浮かべてと、クロノに組み伏されるのは自分ではなく、あのエイミィなのだ。
 だって。
 
 自分とクロノの妄想は、本当にどうしようもない、己の下卑た欲望から生まれた下らない妄想だが。
 クロノとエイミィの性交は、恐らく本当に行われただろうことなのだ。

 壁の時計を目にする。
 もう、夜の10時をまわっていた。
 もしかしたら、クロノは今この瞬間もエイミィと抱き合っているかもしれない。セックスしているかもしれない。
 想像するだけで気が狂いそうになって、ユーノは再び叫び声をあげた。

 ドンドン。

 唐突に玄関を叩いた音が、ユーノを正気の世界へと引き戻した。
 誰だろう? 自分の部屋を訪れる相手がいるとすれば、なのはか、――それともクロノか。
 期待に胸を高まらせて、玄関の扉を開けると、アパートの隣人が怯えたような顔をして立っていた。

「すみません、もう夜も遅いので、少し静かにして頂けませんか……」

 おそるおそる、それだけを伝え、隣人はそそくさと去っていった。
 ユーノを見る視線は、以前までの優しい隣人に向ける親しげなものではなく、紛れもない、狂人を見る目だった。
 思わぬ中断に驚かされたが、ユーノはそれでも自慰を再開しようとした。
 払っても払ってもエイミィの顔は浮かび上がった。
 不思議なことに、自分の意中の相手でないにも関わらず、性器は今までと同様に、いや、今までにも増して固く屹立していた。
 不意に、ユーノの脳裏に閃きが浮かんだ。

 ――そうだ。この女の顔が消えないのなら。
 ――僕が、クロノの代わりに犯してやればいいんだ。
 ――僕が、クロノの代わりに、このエイミィ・リミエッタを!!

 数時間後、己の精液に塗れ、ユーノは息を荒げていた。
 素晴らしい時間だった。己がクロノと交わるのではなく、己がクロノの代わりとなることを想像しただけで――
 ユーノの欲望は途絶えることなく、幾度も幾度も繰り返し精を放ち続けた。

 それでも、まだ足りない。
 ユーノは不満げな色を瞳に浮かべ、卓上に転がっていた、一冊の魔導書を手に取った。

417畜生道15 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:02:53 ID:ODgWVm/I

         ○
 


 ――ユーノの取った行動を端的に述べよう。
 第97管理外世界に転移したユーノ・スクライアは、海鳴市から離れた土地に移動し、インターネットで目星をつけておいたペットショップに入店。
 己のフェレット形態に良く似た姿のフェレットを買い求めた。
 一般的に流通している品種とは多少異なる部位も多かったが、流通していた個体数が多かったため、瓜二つと言ってよい程似た個体を買い求めることができた。
 
 ユーノは購入したフェレットのサイズや特徴などを確認すると、迷いの無い手つきで予め用意していた薬物を首筋に注射し、毒殺した。
 その後、死体をアタッシュケースに詰め、遺跡発掘の名目で末端の管理外世界に移動。
 
 作業を、開始した。

 術式自体は、取り立てて変わった所の無い、使い魔の作成術式である。
 人造魂魄の憑依、依り代となるフェレットの肉体の蘇生、魔力リンクの作成。
 直接戦闘には不向きなユーノだが、補助的な魔法の技能の一部は高町なのはをも凌駕する。
 事前に入念な下調べと準備を行ってきたユーノにとって、使い魔の作成は特にこれといった困難を感じない簡単な作業だった。
 使い魔はただ存在するだけで主の魔力を消費する。 
 そのために、作成の際には契約として使い魔が成すべき目的を定め、それに合わせた適度な能力を設定することが重要となる。
 フェイトの従えているアルフなどは、己の分身として働く非常に高度な使い魔であるが、ユーノが求めていたのは、アルフのような汎用性の高い上級使い魔ではない。
 自分の乏しい魔力量でも使役できる、単一能。
 擬似的な知能を与え、自分が常日頃から使用している探索魔法や、情報整理魔法を使用できるように転写する。
 最後に、仕込んだ変身魔法を実行させ、その姿が自分と寸分違わぬことを隈なく確かめた。
 その後、単純な思考ロジックを組み立て、話し掛けられた際に己と良く似た返答を行うように、指示を行った。
 そう。

 ごく短時間、自分の影武者となることにのみ特化した使い魔を作成し、秘匿したのである。

 なのはやクロノといった親しい友人たちを長時間に亘って欺き続けることは、出来ないかもしれない。
 けれども、付き合いの短い無限書庫の同僚たちなら、忙しく仕事に没頭しているような演技をさせれば、十分に騙しきれるだろう。
 
 本物のこの自分には及ばないが、無限書庫の司書として、そこそこの実務もこなせるように仕込んである。
 新人のローレルなどよりは余程有能な司書として働くことが出来る筈だ。
 足りない分は、今晩少々残業をして明日のために備えよう。
 思いを巡らせるユーノの瞳は、これまで近しい友人達も誰一人目にしたことの無い、冷たい翠色に輝いていた。



        ○

418畜生道16 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:05:00 ID:ODgWVm/I


 買い物帰りに、近所の公園のベンチで一休みをするのがエイミィ・リミエッタの日課だった。
 ベンチに座り、時に携帯プレイヤーで好みの音楽に耳を傾け、時に手持ちの文庫本を読み進めたりもする。
 公園で鬼遊びやかくれんぼに興じる子供たちの姿を見るのが、エイミィが好きだった。
 柔らかな頬を赤く上気させて、全身で感情を表現しながら、走り回る子供達。
 エイミィは、そっと自分の下腹を撫でた。
 ……自分とクロノの間に子供が授かったら、あんな風に元気に逞しく育ってくれるだろうか? 
 うん。きっと元気に育ってくれるだろう。
 ――だって、クロノくんとあたしの子供なんだから。
 そう自分の中で納得して、エイミィは頬を染めた。
 ――あたしったら、何て気が早いことを考えてるんだろう。はしたない。
 胸に手を当て気を落ち着かせ、自分を宥めようしているのにも拘わらず、ついつい頬が緩んでしまう。
 仕方のないことだろう。
 エイミィは今まさに、人生の春を迎えていた。長らく付き合ってきた恋人のクロノからのプロポーズ。
 もっと先のことだと思っていたのに。幼馴染の自分でさえ予想もしなかった熱い求婚を受けて、喜ばない筈がない。
 式の日取りはどうしよう、会場はどうしよう、ドレスはどうしよう。
 ユーノやなのはのような親しい人間にはなし崩しのように知られてしまったけれど、親族友人達にはどうやって報せよう!
 頬が緩み、ついつい鼻歌まで歌ってしまいたいような気分になる。
 仕方のないことだろう。
 エイミィは、ぐるりと馴染みの公園を見まわした。
 春の香は消えかけ、若葉が木々の梢に萌え出でている。
 結婚して家庭に入れば、こうして買い物帰りにここで一休みする機会も、自然と減っていくのだろう。
 それを考えれば、少し寂しくもある。

 ――随分、もの思いに耽っていたらしい。
 夕日は西の嶺に消えかけ、街灯の火があちこちで燈り始めている。
 随分、遅くなってしまった。
 空を見上げれば、夕焼け空は灰色に濁り、通り雨を予告するような水気を含んだ風が吹きつけてきた。
 エイミィはベンチから腰を上げた。
 公園のあちこちで見かけていた遊ぶ子供達の姿は、もう影一つ見当たらない。
 ――さっきまであんなに沢山いたのに。きっと、暗くなったからお家に帰ったんでしょう。

 
 あたしも、はやく、かえらなきゃ。


 家路に向けて歩きだしたエイミィの口元を、後ろから男の掌がそっと塞いだ。

「?」

 よく状況の掴めていないエイミィの耳元に、男が囁いた。
 
「動くな」

 瞬時に事態を了解したエイミィの全身を、氷のような悪寒が貫いた。
 どうする? どうする? 管理局の非常時の緊急マニュアルにも、このような状況を想定したものがあった。
 エイミィにとって可能な選択肢は――絶対服従のみ。
 魔導師でも戦闘員でもないエイミィには、一切の反撃の手段は無い。
 素人が下手に反撃などして犯人を刺激すれば、命に係る事態になりかねない。
 だから、どんなことがあっても、犯人に逆らうような真似をしてはいけないと、きつく戒められていた。

 エイミィは粛々と犯人の指示に従った。
 両手を後ろ手にまわされ、手錠をかけられた。猿轡を噛まされた。
 恐怖に満ち満ちた時間を、エイミィは心の中で最愛の婚約者の名前を繰り返し唱えながら耐え忍んだ。
 幸いだったのは、犯人が魔導師ではなかったことだ。
 犯人が魔導師ならば、封時結界を張り、外部からの行き来を遮断した上、手錠などではなく、バインドで全身を束縛された筈だ。
 だから。
 だから、きっと誰かが通りかかる。誰かが自分を見つけて、助けを読んでくれる。
 ――エイミィは、愚かにもそう考えていた。

 犯人は、全身を黒い服に包んだ、不気味な男だった。
 背丈は丁度、クロノと同じぐらい。そんな些細なことに、エイミィは苛立ちを感じた。
 目出し帽をすっぽりと頭からかぶり、その顔と表情は伺い知ることができない。
 ただ、血走った瞳が爛々と狂気を湛えてエイミィを見据えていた。
 犯人――ユーノ・スクライアは、見せつけるようけるようにポケットナイフを取り出して、その刃をちらつかせた。
 今回の犯行に当たって、偽装には細心の注意を払ってある。変身魔法による体格の変形、声色の偽装。
 そして、使用した結界は、ユーノの発掘した秘中の秘。
 それが結界であるということを、魔導師にすら悟らせない、最高に秘匿性の高い結界である。
 エイミィがそれに気付かなかったのは当然といえば当然だ。しかし、エイミィは一般人の犯行であることを確信して、通行人が通りかかる瞬間を待ち続けた。

419畜生道17 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:06:43 ID:ODgWVm/I

 ユーノはナイフをちらつかせながら、エイミィを彼女の愛用のベンチの傍の石畳に押し倒した。
 恐怖に震える彼女を満足げに見下ろすと、その刃で緩慢にエイミィの服を首筋から股下にかけて切り裂いていった。
 ここに至って、犯人の目的が単なる物取りや傷害ではないことを、エイミィがはっきりと理解した――理解できてしまった。

「んんっ……」

 今まで、震えながらも気丈に犯人を睨みつけていたエイミィが、顔を歪めて涙を零した。
 彼女の脳裏に去来したのは、犯人への恐怖か。それとも、これまでの輝かしいクロノとの思い出か。
 歯を食いしばるエイミィの顔面を、ユーノは唇から瞼まで獣のように舐め上げた。
 粘り気のある唾液が、エイミィの唇を汚した。幾度も、クロノから優しい口づけを受けた唇を。
 
「ひぃ」

 猿轡を噛み締め、頤を上げて白い喉元を晒しながら、エイミィは呻いた。
 彼女は恐怖と不快感と、それ以上の屈辱に、必死で耐えていた。
 ユーノの舌は、ねっとりとエイミィの乳房を這いまわり、徐々に股間へ向かって降りていく。
 エイミィは、ナメクジと百足の群れにでも這いまわられているように、不快げに顔を歪めた。
 小雨が、ぽつり、ぽつり地面に黒い染みを作りはじめた。
 夜気に晒されたエイミィの裸体にも、容赦なく雨粒が降り注ぐ。

 ユーノは思う存分にエイミィを辱め、その顔が屈辱に歪み、恐怖に震えるのを愉しんだいた。
 しかし、その瞳の奥に希望の灯火を残していることに気づき、不快げに目だし帽の舌の顔を歪めた。
 きっと、信じているのだ、この女は――クロノがきっと、助けてくれる。
 かっと、激情の炎がユーノの奥で燃え上がった。
 玩弄して屈辱に泣き噎ぶ顔を愉しむのはもうやめだ。助けなど来ないと――クロノはお前如きを助けないと教えてやる。
 ユーノは感情を昂らせれば昂らせるほど、頭の奥が冷えていくのを感じていた。
 
 この女から、何もかもを奪ってやる。

 ぐい、とユーノは落ちつた動きでエイミィの両足を押し開いた。
 エイミィの秘所が、冷たい外気に晒された。


 瞬間、エイミィは緊急時のマニュアルの内容も忘れて、全身全霊の力を籠めて、犯人の鳩尾を蹴り飛ばした。
 これから犯人に犯されるのだと思った瞬間に、脳裏に浮かんだクロノの顔が、エイミィに火事場の馬鹿力を与えていた。
 不意をつかれたのか、ユーノは毬のように跳ね飛び、公園の芝生へと転がった。
 両手を縛られたままエイミィは立ちあがり、必死に駆けだした。
 鳩尾を蹴り飛ばされたユーノは、芝生の上で嘔吐にえずいていた。
 今なら逃げられるかもしれない、そんな希望が、エイミィの足を動かしていた。

 公園の構造は熟知していた。最短経路で出口に向かえば、二分と経たないうちに、外に出られる筈だった。
 エイミィは走って、走って、走って――この公園はこんなに広かったっけ? と疑問を抱き、
 その瞬間、後ろから突き飛ばされるようにしてユーノに取り押さえられた。
 後ろ手に縛られていたエイミィは受け身も取れず、石畳みに顔面から倒れ伏した。
 
「舐めた真似をしやがって」

 目だし帽の中の瞳は、憤怒と狂気に血走っていた。
 ユーノはゆっくりとポケットナイフを取り出し、悪戯をした子供をお仕置きするように、エイミィの顔面を切りつけた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 猿轡を噛まされ、エイミィが声無き悲鳴を上げる。
 力任せに顔面に叩きつけられた刃は、運よく猿轡の一端を切り落としていた。
 エイミィの口許から、はらりと猿轡にしていた布片が舞い落ちる。
 その機を逃さず、エイミィは金切り声を上げて叫んだ。

「嫌、嫌ああああっ、誰か、助けてぇ、クロノ、クロノ、クロノっ!」
「その名前をお前が呼ぶなよっ」

 ユーノは理不尽な怒りを露に、組み伏せているエイミィの顔面を切りつける。
 犯人は子供の落書きのように、縦に横に、エイミィの端正な顔を切り裂いていった。
 エイミィは苦痛を恐怖に叫びながら、周囲へ助けを求め、クロノの名を呼び続けた。

420畜生道18 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:08:43 ID:ODgWVm/I
 
 ユーノは鬱陶しげに耳を押さえ、嗜虐的な笑みを浮かべると、顔を隠していた目だし帽を脱いだ。

「そんなに叫ぶなよ、僕ならここにいるよ」
「……嘘、クロ、ノ」

 エイミィが喉を詰まらせた。
 顔中を無残に切り裂かれ、視界の殆どは血で滲んでいても、見紛う筈はない。
 憎むべき犯人の顔は、エイミィの最愛の人、クロノ・ハラオウンと瓜二つだった。
 だが、その瞳は、愛すべき婚約者の優しげな目とはまるで似つかず、

「違う、あなたはクロノなんかじゃない!」

 愛する人の姿を汚した唾棄すべき犯人に、心底からの軽蔑と憎悪を籠めて、エイミィは叫んだ。
 ユーノは、獣じみた唸り声を上げ、怒りを剥き出しにして、エイミィの口中にポケットナイフを差し込んで、乱暴に掻き混ぜた。
 もはや言葉にもならない悲鳴と泣き声が漏れる。

「黙れ、僕はクロノだ、今だけは僕がクロノ・ハラオウンなんだ!
 お前のような凡人がっ、クロノの隣にいる資格なんてないんだ!
 イイザマだ! ははっ、二度と見られない顔にしてやった。
 でも、クロノがそんな程度で君を捨てるような男じゃない。例えどんなに傷物になったとしても――
 いや、傷物になればなるほど、君を深く愛するだろう!
 結局、損をするのは僕じゃないか!
 被害者面するなよ! クロノに愛されてるくせに! それ以上何か欲しいんだ!」

 口から泡を吹きながら叫ぶ言葉は、まるで人間の喋り方の体を為しておらず、獣の唸りのようだった。
 内容も支離滅裂で、まるで意味が通っていない。
 エイミィには、ユーノが何を言っているのか、寸分すらも聞きとれなかった。
 顔中の切創から流れだした血糊でエイミィの顔面は埋め尽くされ、その視界は完全に闇に閉ざされた。

 ユーノは、目の前の女がもはや何の脅威にもならないことを確認して、冷たく見下ろした。

 ――何故、クロノがこの女を選んだのかわからない。何の価値もない凡婦だ。
 ――ただ。
 ――どんな辛い時も、絶望的な時も、この女だけは、笑っていた気がする。

 血まみれのポケットナイフを投げ捨てる。
 両の掌を広げると、どちらも毒々しい程の朱に染っていた。

 ――自分が、狂いかけていることは、解っている。
 ――自分が、間違っていることも、解っている。

 己の顔を撫でると、生臭い鉄の香りがした。
 クロノ・ハラオウンそのものの己の顔を、ペタリ、ペタリとユーノは撫で続ける。

 ――なのは、クロノ。僕は、本当に君達が好きだったんだ、憧れていたんだ。
 ――本当に、君達のようになりたかったんだ。
 ――でもこれで、色々無くしてしまうだろう。
 ――僕の未来、僕の思い出、僕の矜持、僕の友達。

 顔が血で汚れるのも構わず、ユーノは己の顔を押さえる。

 ――クロノ、僕は君になった。君になれた。
 ――今日一日の、偽物の君に過ぎないけれどね。
 ――代わりに、僕が本当の意味で君のようになれる可能性は、完全に失われてしまったけれど。
 ――いいんだ、どうせ僕なんかが、君の隣に並べる可能性なんて、最初から無かったに違いないんだから。

 無残な姿で横たわるエイミィに視線を落とす。

 ――クロノ、君には本当に悪いと思ってるんだ。
 ――けれども。

 ユーノのズボンの下で、性器が熱を持って頭を擡げる。
 これだけの凄惨な場にありながら、ユーノはかついてない興奮に胸を高まらせていた。
 もはや阻む力もないエイミィの両足を掴み、ぐいと押し広げた。
 宝石でも愛でるように、その性器に顔を近づけ、うっとりと頬を緩める。

「ここに、クロノが……」

 その事を考える度に、背筋に電流が駆け抜けるような衝撃が走り、すぐにでも果ててしまいそうになる。
 ユーノは獣のように息を荒げながら、限界まで怒張した己の性器を取り出した。

 ――けれども。
 ――この女を通じてでも、クロノ、君と繋がりたいという欲望を、僕は押さえきれそうにない。

 
 ユーノははち切れそうな己自身をエイミィの入り口にそっとあてがった。
 弱々しくエイミィが地面を掻き、小さな悲鳴を上げる。
 ユーノは、そのまま己の欲望に身を任せた。

421畜生道19 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:09:50 ID:ODgWVm/I


  ○


 
 全てが終わっても、エイミィは身体を縮めて、無残な姿で凍えそうな子猫のように震えていた。
 簒奪者である筈のユーノの顔には、達成感の欠片もなく、空虚な瞳で小雨の降りしきる公園の暗がりを見つめていた。
 ユーノはぼんやりとした視線を、凌辱され尽くされた彼女の秘所に落とす。
 そこに流れる、見まごうことなき純潔の証の血を見つめて、静かに嘆息をする。

「婚約者相手に、結婚するまで貞節を守るだなんて、生真面目な君らしいや」

 小雨は徐々に雨脚を強め、情事の熱の冷め行くユーノの肌を、容赦なく打ちつけた。
 ……全てを幣として差し出して、遂にユーノは何一つとして手に入れられなかった事を悟った。



      ○



「はじめまして、モコ・グレンヴィルです。今日からこの無限書庫でお世話になります」

 少女は勢い良く頭を下げた。

「じゃあ、分からないことがあれば、当面はわたしに聞いてね」
「はい、よろしくお願いしますっ、ローレル先輩」

 ところで、とモコは目を輝かせてローレルに訊ねた。
 
「こちらの無限書庫には、名物になってる凄い司書長さんがいるって聞いたんですが……?」

 その言葉を聞いた職員一同の表情に、苦々しい翳りが生まれたのにモコは気付かなかった。

「ああ、彼ね……」

 そう呟くローレルの言葉の端には、諦めの響きがあった。
 ローレルは手早く手元の端末に、ユーノ・スクライアの顔写真と公開されている個人情報を表示して、モコに突きつけた。

「はい、これがうちの名物司書長、ユーノ・スクライアさんね。もし廊下ですれ違うことでもあったら挨拶しといて。
 ……と言いたいところだけど、そんな機会はまず無いでしょうね」

 モコは、ユーノの顔写真を食い入るように見つめて、瞳を輝かせた。

「うわあ、司書長さん、凄いイケメンじゃないですかぁ!
 齢もあたしと幾つも変わらないし、こんな大きな施設の司書長さんなら年収も凄そうだし、あたし、アタックしちゃおうかなあ!」

 その言葉を聞いて、ローレルは気まずそうに目を逸らして頬を掻いた。

「う、うん、まあ、わたしもちょっと前まではそう思ってたんだけどね」
「? ユーノ司書長、なにか酷い欠点でもあるんですか? 女癖が悪いとか……」
「そういう訳じゃないんだけど、ちょっとね……」

 ローレルに耳打ちされた内容を聞いて、可笑しくて堪らないとばかりにモコは吹き出した。

「何それ、変〜なの! やっぱり、天才肌の人って変人ばっかりなんでしょうかね?」

 やってられない、とばかりにローレルは宙を仰ぐ。

「そうそう、天才サマの考えてることはわたしら凡人には分からんわ。
 せっかく猫被って媚売ってたわたしが馬鹿みたいじゃん。
 あ〜あ、どこかに金持ちでいい男、いないかな〜」


     ○

422畜生道20 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:13:40 ID:ODgWVm/I

 ……その後、ユーノは唯ひたすらに無限書庫での仕事に没頭するようになっていた。
 エイミィ・リミエッタを襲った不幸な事件について、彼女の友人たちは共に悲しみ、義憤した。
 彼女の婚約者であるクロノ・ハラオウンは長期の休暇を申請し、心身に深い傷を負ったエイミィに優しく寄り添い、共に悲しみに身を浸した。
 管理局の担当機関による必死の捜索が行われたが、犯人の足取りは未だ掴めていない。
 目撃者はなく、魔力の残存反応も見られなかったため、非魔導師の一般人による通り魔的な突発的凶行と見られている。
 被害者の証言から、犯人が変身魔法を使った可能性も示唆されたが、数々の状況証拠は一般人による犯行であることを示していた。
 エイミィ・リミエッタが犯人の素顔を目にしたのはごく短時間であり、その最中に顔面に対する複数の切創を加えられていることから、エイミィの見たクロノの顔は、恐慌状態に陥った彼女が見た錯覚だろうと結論づけられた。
 ユーノ・スクライアが捜査の容疑者の線上に浮かぶことは一度として無かった。
 当然と言えば当然だろう。あまりに動機が存在しない上に、犯行の時間帯には盤石なアリバイが存在していたからだ。

 
 影武者を務めた使い魔は、誰一人その存在を知られることなく、ユーノに契約を解除されて塵として消えた。
 ユーノの社会的信用は極めて高く、わざわざ使い魔を作成してアリバイを作らなくとも、彼に嫌疑の瞳が向けられることは無かっただろう。
 なら、何故ユーノは自分の似姿の使い魔などを作ったのか。
 それは、狂い、歪みきっていたが、彼なりの美意識だったのだろう。
 ユーノは、クロノ・ハラオウンになりたかった。クロノ・ハラオウンになった。
 ならば、その時、ユーノ・スクライアという人間が、自分の他に存在していなければならなかったのだ。
 その行為の真意を知るものは無く、知られる必要も無かっただろう。
 だって、それはどこまで行っても、ユーノのマスターベーションに過ぎないのだから。


 ユーノへの取り調べは、エイミィ、もしくはクロノに怨みを抱くものがいないかを尋ねるごく短いものに留まった。
 取り調べの最中、ユーノは内心の恐怖と罪悪感を隠し通した。
 全てを吐露してしまうことで楽になれたのかもしれないが、その時にクロノやなのはが自分にどんな視線を向けるのか。
 考えただけで、ユーノの心は萎縮し、ただただ口を噤むことしか出来なかった。
 結論から言えば、エイミィ・リミエッタを暴行した犯人は捕まらなかった。
 非常に高い検挙率を誇る現在のミッドチルダの官憲を欺ききったユーノの特製の結界は、矢張り凡夫の及ぶものでは無かったということが、最も皮肉な形で証明されたことになる。

 しかし、二度目は無いだろう。
 ユーノがどこかでもう一度同じ術式を使用すれば、それがエイミィ暴行事件の犯行で使用されたものと同一であることを管理局は見抜くだろう。
 再びなのはの隣で戦うために編み上げた秘蔵の結界術式は、ただ婦女暴行の為だけに使用されて、永久に祓うことの出来ない穢れに染まることになった。
 
 ――もう二度と、好きとは言えない。好きと言っていた自分が許せない。 
 ――もう二度と、自分の中のどんな過去も思い出も、愛でることなど許せない。
 ――もう二度と、こんな自分が何かを誇ることなどあってはならない。

423畜生道21 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:14:30 ID:ODgWVm/I

 誇りも、夢も、思い出も、希望も、自分の全てを捨て去っても、償いきれない罪。
 なのは達の出身地、第97管理外世界には、「お天道様に顔向けできない」という言葉がある。
 人倫の道を踏み外した人間を謗る慣用句である。それは、正に自分の事だとユーノは臍を噛みしめる。
 幾度、自殺を考えたことだろう。
 薄汚い自分の命一つでは何の贖いになるとも思えないが、少なくとも楽になることだけはできる。
 自分を苛み続けている、今この苦悩から逃れる。その為だけに命を絶とうという甘やかな誘惑が、幾度脳裏を過ったことか。
 しかし、ユーノの中の冷静で打算的な部分が、この誘惑を退けた。
 今ここで命を絶てば、間違いなく一種の変死として扱われる。
 ただでさえエイミィの事件の直後で管理局が神経質になっている頃合いなのだ。
 ユーノの死後、動機の解明や殺人の可能性の調査、そして今までユーノが無限書庫の司書長として残した成果の業務整理など、様々な形での司直の介入が予想される。
 
 その結果として、自分の犯した罪が明るみに晒されるだろうことが、ユーノには容易に予想できた。
 
 クロノやなのはに己の罪行を知られて見下げ果てられるのは、「死んでもいや」なのだ。
 何という醜悪な自己愛なのだろう。何て見下げ果てた卑屈な自尊心なのだろう。
 
 無限書庫の底の暗闇の中で、ユーノは幾晩も罪悪感と自己嫌悪で噎び泣いた。

 天才達の間でコンプレックスに悩まされてきたユーノ・スクライアという人間は、今ここに、己の価値の全てを喪失した。 
 もう、百の成果も、千の賞賛も、ユーノの心に仄かな焔すら燈すことは無い。
 ユーノ・スクライアという器は、完全に罅割れてしまったのだ。
 もう、何を注いでも満たされることはない。


 残された道は、無限に逃避を続けるのみ。
 司書業に専念し、自分が適切に管理を続ける限り、件の結界術式が外部に漏れる心配はない。
 ――自分の罪行が、明るみに出ることはないと。

  
 償いきれぬ、己の罪の重さから逃げるかのように。
 全てから、なにより自分自身から逃げるかのように、ユーノ・スクライアは人の姿を捨て、フェレットとして無限書庫の底に潜り続ける。
 数週間が過ぎても、数ヶ月が過ぎても、――ユーノはただフェレットとして無限書庫に潜り続けた。
 その働きぶりには無限書庫の司書の誰もが舌を巻き、ユーノの成果をは過去100年の捜索結果を凌駕するものとして、数多くの賞賛を浴び、業績に伴う褒章が決定された。
 しかし、ユーノは受賞式を欠席し、代理としてローレル・アップルヤードが出席した。
 再三に亘る司書達の説得にも耳を貸さず、ユーノは授賞式の当日もフェレットとして無限書庫の捜索に没頭していたという。
 希有な才能を持った無限司書の司書長は、稀代の変人であるとの噂がミッドチルダの各地で囁かれ、その奇癖の原因を憶測する下世話な噂が各地で流れたが、真相に至るものは存在しなかった。
 部隊への参入の話など、最初から無かったかのように立ち消えた。
 外の世界では、目まぐるしく時代は流れ続ける。機動六課の結成、ジェイル・スカリエッティ事件――幾つも大きな事件が、なのはやクロノ達を翻弄したが、ユーノは全てに無関心だった。
 請われることがあればすぐさま必要な資料を検索して提出したが、己から外界に関わることは一切なく、過去の友人達はそんなユーノを案じて声をかけていたが、ユーノがそれに応じることは二度と無く、やがては交流も失われていった。
 事件で心身に深い傷を負ったエイミィだったが、ミッドチルダの最先端の医療と、献身的なクロノの介護の甲斐あって、その後、時折笑顔を浮かべる程度には恢復していることを追記しておく。
 三年遅れのささやかな結婚式が営まれたが、当然のようにそこにはユーノの姿は無かった。
 今日も、ユーノはただひたすら、子鼠が車輪を回すかのように、フェレットの姿で書庫の探索に没頭し続けている。

424畜生道22 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:15:55 ID:ODgWVm/I


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  ちくしょう‐どう〔チクシヤウダウ〕【畜生道】

1 仏教で、六道の一。悪業の報いによって死後に生まれ変わる畜生の世界。
2 非道徳的な情事、性交。近親相姦。


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 エピローグ


 ミッドチルダの無限書庫の底には、一匹のフェレットがいる。
 かつては人であった筈のフェレットだ。
 そう遠くない昔、一つの出会いがあった。フェレットと一人の少女の出会いだ。
 その小さな出会いは、多くの次元世界を救ったのかもしれない。――しかし、当のそのフェレットは救わなかった。
 非凡なる才能を持っていた筈のフェレットは、だがしかし、余りに輝かしい才の持ち主を直視し過ぎたせいで、己の才を信ずることができなかった。
 フェレットは、今日もその四つ足で地を這い、黒く濡れた鼻をひくつかせ、黴の香の漂う古書の匂いを小さな胸に吸い込んだ。
 狭く苦しい筈の書架の隙間も、マフラー程度の大きさの身体のフェレットから見れば広過ぎる。
 フェレットは虚ろに、何処までも茫漠と続く書庫の隙間に視線を彷徨わせた。
 ――小動物そのものの貌からは、何の表情も読み取ることもできない。
 円く小さな黒い瞳をしばたたかせ、フェレットは手近な書に視線を落とした。



 ミッドチルダの無限書庫の底には、一匹のフェレットがいる。
 かつては人であった筈のフェレットだ。
 ……だがそれも、今となっては昔の話。


 ――己は人に非ず。心根賤しき、けだものなり。


 フェレットは自らをそう戒めて、今日も深く暗い窖の底で小さな体を丸め、ただ一匹、本の頁を捲っている。


 END.

425アルカディア ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:21:13 ID:ODgWVm/I
お目汚し、大変失礼いたしました。
お気分を害された方などいらっしゃりましたら、お気に入りのSSなどで気分転換をされて下さい。

ユーノ祭りの中、このようなユーノを貶めるようなSSを書いてしまい、申し訳ありません。
作者なりの歪んだユーノへの愛が籠められています。

さて、大変盛況なユーノ祭りですが、このような後味悪いSSで〆るのは申し訳ないので、
これからも、後味のよい素敵なSSを皆さまどんどん投下されて下さい!

426名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 17:18:04 ID:QUC/9T7U

 惜しみなくGJ

 単なる欝のための欝なら中指立てて読み飛ばすのだけど、きっちり読ませる欝ほど恐ろしいモノはない

427名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 19:15:14 ID:2tbTF836
狂気というか病的というか……GJでした
最初ユーノにとってのレイハさんは「輝き」だったのに後半では「血の雫」か
初めは穏やかなはじまりだったのにどうしてこうなった

428名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 19:35:48 ID:cA8e50ps
万感の想いを込めて、最高だった、と言いたい。

正に至高の欝。

後味が悪くて心地よいとはなんちゅうアンビバレンツやろうなぁ・・・アルカディア氏の筆致の冴えはいつも本当に痺れる。

429名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 22:11:17 ID:TLm37nGM
いやぁ、すごい…。
読み物で久しぶりに震えとドキドキがきました。
今夜眠れるかな?




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