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仮投下スレ
685
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:08:52 ID:4nGbyjws0
「いいだろう、正せるものならまずは私を正してみよッ!
人間の過ちの集合体であるこの私をッ!」
トッシュの売り言葉に気分を害し、ロードブレイザーが飛翔する。
翼を広げ、万一にもトッシュ達の攻撃が届かない高度まで空をぐんぐんと昇っていく。
狙うは高高度からの爆撃といったところか。
あの火力ならちょっとやそっと距離をとったところで威力の減衰はしまい。
つまりは自分は安全な場所から一方的に嬲り殺せるということだ。
実に理に叶いつつも嫌らしい戦法だった。
或いは。
それは二度も敗北をきしたが故にロードブレイザーが心の底では人間を恐れていたからか。
だとしたらまだまだ甘い。
小細工をいくら弄しようとも世の中には力尽くでぶち破ってくる者もいるのだ。
「ゴゴっ、一発分でいい、俺をあいつのところまで運んでくれ!」
アークのことをよく知らず、途中から物真似のしようがなくなっていたゴゴへとトッシュはとんでもないことを言い出した。
普通はできるかどうかを先に聞くもんじゃないのかと問うてみれば、
「てめえならやってくれるだろ?」
と来たもんだ。
それに是と答える自分も自分かと思ったが、この男に信頼されるのは中々にいい気分なのでよしとした。
「ただ飛ばした後のことは保証しないぞ」
「そこまで面倒はかけねえさ」
「そうか。なら遠慮無く行かせてもらう!」
ゴゴがトッシュの右足首を掴む。
シャドウがちょこにそうしたように、ゴゴもまたトッシュを投げる気なのだ。
何のために?
飛ばすためだ、トッシュをロードブレイザーのもとへ送り届けるためだ。
少々荒っぽいが、これ以上の方法は思いつかなかった。
何故ならこれはゴゴなりの縁担ぎ。
シャドウは見事投擲にてちょこを救った。
それを真似すれば魔神に身体を支配されているアシュレーも助けられるかもしれない。
そんな想いを物真似に込めてゴゴはトッシュから受け取ったジャンプシューズで大きく跳躍。
「これ以上高度を上げられると届かない。
ぶっつけ本番だがいくぞ」
「おうッ!」
そのまま空中にてトッシュを打ち上げる。
もちろんこんな馬鹿な目論見、トッシュとゴゴより高い位置にいるロードブレイザーが気付かぬはずがない。
夜闇がどれだけ濃くとも魔神の目を阻害するには至らない。
「馬鹿めッ!」
回避しようがない空中へとわざわざ翼を持たぬ身でしゃしゃり出てきた獲物に魔神は炎弾の洗礼を浴びさせる。
ガンブレイズの弾幕はトッシュへと殺到。
全弾命中し、見事トッシュを
686
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:09:24 ID:4nGbyjws0
「――鬼心法……」
撃墜できないッ!
魔導アーマーやルカとの戦いに続き、精霊の加護が焔のダメージを軽減したのだ。
「ムア・ガルドのミーディアムか!?」
悪手を打ってしまったことを自覚し、焔による攻撃を止め双剣で迎え撃つロードブレイザー。
虚は突かれはしたが依然、空中における優位は魔神が保っている。
慌てることはない。
「エルク、力を貸しやがれ――炎の光よ。道を、照らせ!」
その優位は一瞬にして砕け散る。
ホルンの魔女直伝、エルク譲りの補助魔法による加速がロードブレイザーの思惑を外し、双剣を空振らせる。
懐にまんまと入り込んだトッシュはここぞとばかりに魔剣を翻す。
狙いは一つ、オーバーナイトブレイザーの頭頂部に生えた黒翼のみッ!
「竜牙剣ッ!」
刃が右翼を斬り裂く。
堅牢を誇るナイトブレイザーの装甲を足場もなく力も入らない空中抜刀で切り裂けたのは竜牙剣の特性によるものだった。
因果応報天罰覿面。
自他の状態に左右されずそっくりそのまま受けたダメージをそっくりそのまま相手にも押し付けるッ!
「くっ、うおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
矛盾の言葉そのままに自身が放った炎弾数発分の威力に翼を討たれ、ロードブレイザーが堕ちていく。
トッシュの目論見とは違い完全には翼を切り離すことはできなかったがあのダメージではしばらくは飛べまい。
地上戦ならまだ相手のしようがある。
何よりも空を飛ばれていてはどれだけ張り上げても声を届けようがないではないか。
「アシュレーッ!」
ロードブレイザーに剣を突き刺し喰らいついたままトッシュが言葉を紡ぐ。
トッシュを振り払おうとしたロードブレイザーの動きを突き刺したままの剣に気を流すことで抑える。
呪縛剣の派生型だ。
ロードブレイザーといえど完全体ではない身に直接体内に気を流されるのは堪えたのか、僅かに動きを鈍らせる。
「約束、果たしにきたぜ!
これはてめえの剣だろ、返してやるから受け取りな!」
ロードブレイザーが再動する。
その度にトッシュは気を流しこみ続けた。
魔神の動きを止めるほどの膨大な気の放出がそう長く続くはずもない。
体内の気が枯れ果て、今度こそ魔神は自由を取り戻す。
「アシュレー、その力は護るための力じゃなかったのかよっ!」
幸いだったのは既に砂漠の大地がすれすれまでに迫っていたことか。
ナイトフェンサーがトッシュを捉える寸前で、トッシュは身を投げ出し砂漠をクッションに着地する。
ゴゴとは随分離れてしまったが仕方がない。
トッシュは一人でロードブレイザーを抑えこみ続ける覚悟を決める。
「人間がああああッ!!」
687
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/09(金) 05:10:03 ID:4nGbyjws0
ロードブレイザーがナイトフェンサーを手に斬りかかってくる。
ロードブレイザーは強い。
力も、速度も、耐久力も。
ありとあらゆる面でトッシュを上回っている。
だが剣士としては下の下だ。
これまで圧倒的な破壊力にかまけて他者を葬ってきた魔神は技を磨く必要がなかった。
剣を使ったことさえなかった。
トッシュにとっては唯一の突破口だ。
「てめえといいオヤジといい何こんな奴にいいようにされてんだっ!」
舌を奮う、剣を振るう。
速さで勝るはずのロードブレイザーより尚速く剣を相手に届かせる。
ロードブレイザーの剣筋は恐ろしいほどに読みやすい。
生きる殺気ともいえる魔神は一挙一動ごとに殺気を先行させてしまうのだ。
次に脚で踏もうとする地面に、次に手を届かせようとする位置に、次に剣で薙ぎ払おうとする空間に。
トッシュはそこに先んじて割り込む。
ロードブレイザーの動きの起点を悉く潰していく。
「ぬうっ!」
左三間。
低背状態へ移行しての切り抜け。
――読めている
上方に抜けての肩口狙い。
反転後、首元を狙った二の太刀での剣撃。
――読めている
重心の片寄りからして踏み込んでからの右横凪。
――刀破斬
ルシエドがナイトフェンサーを叩き割る。
ロードブレイザーのがら空きの胴が晒された。
千載一遇のチャンス。
今なら斬れる。
聖櫃に封じられた邪悪にも匹敵する焔の災厄を。
斬れば死ぬ。
概念的存在とはいえ受肉している今なら斬って殺せるとアシュレーは言っていた。
「待て、私を殺せばアシュレーも死ぬぞッ!」
それは即ちアシュレー・ウィンチェスターを殺すということ。
「んなことするわけねえだろが。言っただろ、約束を果たしに来たと!」
688
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:10:55 ID:4nGbyjws0
アシュレーはまだ生きている。
まだ救える。
モンジとは違う。
ちょこの泣きそうな声が蘇る。
ちょこはシャドウを父と呼び家に帰らせたがっていた。
アシュレーが双子の父だと知ったなら、同じように帰らせようとしただろう。
ここでアシュレーを断てば魔神による悲しみから多くの人が救われる。
しかしそれは全てを救う道には繋がらない。
アシュレーを待つ妻や子に、ちょこが味わった寂しさを、自分が味わった怒りを押し付けてしまうことになる。
死んでも御免だ。
トッシュは振りぬく。
剣を握り締めたままの拳を。
アシュレーを覆う呪われた仮面を砕く為にッ!
「目ぇ、覚ましやがれってんだ!」
拳が炸裂する。
口下手なトッシュが言葉だけで届かないのなら衝撃ごと伝えやがれと全ての力と想いを込めて放った一打は。
されどトッシュに手応えを返すことはなかった。
「アシュレーへの遺言は終わったか?」
飛ぶことを封じられていたはずの魔神は悠然と羽ばたき、激突寸前だった拳を回避。
気がつけば竜牙剣が付けたはずの傷は跡形もなく塞がっていた。
負の念が渦巻く島の中においてロードブレイザーが自らの傷を癒すことなど一瞬で済むのだ。
それをこれまでしなかったのは魔神が体慣らしに戯れていただけに過ぎない。
ロードブレイザーの胸部装甲が展開される。
トッシュは咄嗟に斜線軸上から身を逸らそうとするも、遅い。
光速を誇る荷電粒子砲の前には余りにも遅すぎる。
「バニシングバスターッッッ!!」
三度、極光が夜天を吹き飛ばす。
夜が闇を取り戻した時、破滅の光が突き進んだ道には崩れ去った山脈と一人の男の身体が転がっていた。
▽
689
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:11:27 ID:4nGbyjws0
ロードブレイザーは呆れ果てていた。
何とも人間はしぶといものだと。
バニシングバスターが直撃していたのなら北にそびえていた山脈のように塵一つ残さず消滅していたはずだ。
それが人間としての原型を留めているということは大方ルシエドの力でバニシングバスターを逸らそうとしたのだろう。
全く、無駄な努力をするものだ。
なるほど、即死こそ免れはした。
が、代償として腹部はその殆どを失っていた。
上半身と下半身が繋がっているのが奇跡なくらいだ。
放っておいてもまず助かるまい。
魔神は念のために止めをさしておこうと大地に降り立つ。
アシュレーの肉体での彼の仲間を殺せたことは大きな収穫だった。
これでアシュレーは新たな罪を背負った。
罪悪感もまたロードブレイザーの力となる負の感情だ。
万一レベルだった身体のコントロールを取り戻される可能性は億が一レベルへと激減した。
倒れ伏したトッシュへと近づいて行けば行くほどロードブレイザーは上機嫌になっていた。
だからだろう。
ようやく追いついき状況を把握し、トッシュを護らんとして立ち塞がったゴゴにロードブレイザーが取引を持ちかけたのは。
「私は今気分がいい。お前には私が世界を焼き尽くす物真似をする栄誉を与えよう。
承諾するのならお前だけは生かしておいてやる。悪い話ではなかろう?」
オディオじきじきに呼ばれたとはいえロードブレイザーは厳密には参加者ではない。
一人勝ち残ったところで優勝者としては扱われないかもしれない。
だったら一人くらい正規の参加者を残しておいてやるのも悪くはない。
自身が殺そうが、他人が殺そうが、誰かの死はロードブレイザーの力となるのだから。
「……アシュレーは、アシュレー・ウィンチェスターは」
他人を切り捨てれば自分だけは生き残れる。
そのことに無様に心かき乱されることを期待していたロードブレイザーの耳をゴゴの静かな声がうつ。
予想外なことだったが、その声に含まれていた感情は困惑でも自己愛でもなく
「俺には真似しきれない人間だろう」
苦渋と羨望だった。
それもロードブレイザーの力となる感情の内の二つだ。
魔神は特に気分を害することなく先を促す。
「俺には帰りを待っていてくれる人がいない。
大切な人のもとに帰るという物真似もできなければ、傍らにい続けるという物真似も護るという物真似もできない。
どころかその感情を心の基盤にしているアシュレーの物真似のことごとくが不完全なものとなってしまう」
ぎりりと歯を食いしばる音がした。
災厄にとっては心地よい人が自らの限界に屈する音だ。
ここぞとばかりに魔神は囁きかける。
「くくく……。ならばやはり私の真似をすべきだ。
アシュレーを救う理由などお前にはなかろう?
むしろ好都合ではないか。 アシュレーが我に飲まれこの世からいなくなってしまえばお前が苦しむこともなくなるのだか「だが」!?」
690
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:12:10 ID:4nGbyjws0
有無を言わせずゴゴが割り込む。
己が命を握っている魔神に対し臆しもせず自分の矜持を叩きつける。
ロードブレイザーはいつの間にか会話の主導権を奪われていた。
「だからこそアシュレーの物真似は面白い。
俺という個人のままでは持ちえぬものを持っているからこそあいつの物真似は面白い。お前と違ってな」
「なんだ、何を言っている」
「分かりやすく言ってやろうか」
覆面で顔が見えていないはずなのにロードブレイザーにはゴゴが浮かべているであろう表情がありありと伝わってきていた。
笑っている。
こいつは焔の厄災を前にしてあろうことか笑顔を浮かべていた。
それも親愛の情が籠ったものでも、作り笑顔でもなく、
「ロードブレイザー、お前はつまらない。
世界の破滅だと? そんなことを考える奴はケフカで既に足りている」
ニヤリと唇を釣り上げて物真似師はロードブレイザーを嘲笑っているッ!
「我が提案を受け入れぬと。生き延びれる唯一のチャンスを逃がすというのかッ!?」
「くどいッ! 俺が誰の物真似をするかは俺自身が決めるッ!」
未だかってこのような人物がいただろうか?
ロードブレイザーを恐れるでもなく、否定するでもなく、見下し、哀れむ人物が。
身の程知らずにも程がある。
ロードブレイザーは悔いた。
気まぐれとはいえこのような下等生物に生き残る機会を与えようとした己を恥じた。
「ほざいたな、矮小な生命風情がッ! ならば貴様の言うつまらない存在の手で無様に死ねえいッ!」
両翼より生じさせた焔の中に愚かしい物真似師が消える。
最初からこうしていればよかったのだ。
ロードブレイザーは八つ当たり気味に焔をもう二発撃ち込む。
ただでさえ大きかった火の勢いは増し、森や教会も熔解させていく。
ここまでやればトッシュのように火に強くとも死んでいるだろう。
そう高を括っていたロードブレイザーの耳に、
「幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード」
自身が真似したい人物を自らの手で選び取った物真似師の声が響いた。
▽
691
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:12:44 ID:4nGbyjws0
▽
「ラフティーナだとッ!? いや、違うッ! だが、だがこれはッ!
こいつから感じる忌々しい光は、あの愛のガーディアンロードそのものではないかッ!」
女神と間違われるのも無理はない。
ゴゴを護り、魔神の焔を跳ね返したのはそれはそれ美しい女性だった。
宝石のように輝く髪と肌という喩えが、喩えではなくそのまま事実として当てはまる女性だった。
衣服を一切纏っていないのも頷ける。
彼女の桜色のオーロラとでも評すべき髪や肌の美しさはありとあらゆる衣服や装飾品に勝っているのだから。
彼女は力強き者でもあった。
女性の両手に光が生じる。
とある道化師も使った究極魔法。
それを女性は一度に二つも詠唱していた。
最後に彼女は人間ではなかった。
幻獣でもなかった。
人間と幻獣とのハーフだった。
名をティナ・ブランフォードという。
「ティナ、また会えたな」
喜色を隠さずにゴゴがティナへと話しかける。
返事はない。
分かっていたことだ。
幻獣が魔石として残すのは力だけなのだ。
今ここにいるティナも、ティナが蘇ったわけではないことくらい百も承知だ。
だから十分だ。
言葉もなく、顔も向けず、だけど頷いてくれただけで十分だ。
ゴゴは物真似を開始する。
ティナの物真似を。
人と幻獣の狭間で揺れ、愛することを知った少女の真似を。
「アシュレー、忘れないで。愛するということを。あなたを待っている人達を」
もう二度とすることはないと思っていた声真似ができることをゴゴはトッシュに感謝しつつ、アシュレーに語りかける。
「マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく」
アシュレーの子どもたちも誰かと恋し、誰かを愛するのだろう。
そうして人間は子どもを産み、後へ後へと託していく。
親から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へ。
アシュレーの護りたかった世界、日常はこうして続いていく。
アシュレーだけのファルガイアはどんどんどんどん広がっていく。
ああ、そうか。
それは確かに護りたくなるほどに素晴らしいことだ。
ゴゴは一歩、アシュレー・ウィンチェスターという人間とティナ・ブランフォードという人間への理解を深めた。
物真似師としての最奥へと一歩、近づいた。
692
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:13:32 ID:4nGbyjws0
「だから、戻ってきて! 魔神に打ち勝って!
今ある命だけじゃなく、これから生まれてくる命もたくさんある。それを守るためにも!
あなたは、あなたの家に帰ってあげて!」
その願いを叶えることができなかったティナの分までも。
マッシュやエドガーやシャドウ、ナナミやリオウにビッキー、ルッカにトカの分までも。
誰かが帰ってこないことの寂しさを知ったゴゴは目をつむり一度祈る。
次に目を開けた時にはゴゴの左右の手にもアルテマの光が宿っていた。
連続魔とアルテマと物真似による法外火力なアルテマ四連。
現段階でゴゴのできる最高の物真似の一つ。
「く、黙れ、黙れえッ!! バーミリオン、ディザスタァァァアアアアアッ!!」
「『アルテマッ!!』」
ロードブレイザーの最大火力とアルテマの光がぶつかる中、ティナの声が聞こえたのは。
きっと気のせいなんかじゃない。
▽
いつからだろうか?
とぼとぼと一人砂漠を歩いていたちょこの耳にその歌が聞こえてきだしたのは。
静かで、途切れ途切れではあるけれど。
優しい、優しい歌だった。
幼子をあやし、幸せな夢を見せてくれる歌だった。
子守唄だ。
「ちょこ、知ってるの。ちょこが怖がったり寂しがったりして眠れない時に父さまも歌ってくれた……」
けれどどこか違う気がした。
歌詞が知らないものだとか、声が知らない人だとか、そんなんじゃないどこかが。
ちょこの知っている子守唄とは違っていた。
「なんでだろ。この人の子守唄もとってもとっても安心できるの。
父さまが歌ってくれたのといっしょのはずなの。気になるの」
ちょこは歌を追いかけ始めた。
淋しげだった歩調は常の少女の元気なものへと戻っていた。
まるでそのことを喜ぶかのように。
子守唄は少しずつ、少しずつ、よりはっきりと聞こえるようになっていた。
その度にちょこの中で確信が生まれていく。
やっぱり父さまの歌とは違うと。
でも、父さまの歌とは違うけどこれはきっと子どものための歌なんだと。
ちょこは走った。
走り続けた。
不意に、歌に混じって別の誰かの声が聞こえた。
――幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード
693
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:14:04 ID:4nGbyjws0
「ティナおねーさん?」
それが歌を歌っているおねーさんの名前なのかな。
ちょこはなんとはなしに思った。
なんとはなしに思って、けれどどこか引っかかるところを感じた。
「ティナおねーさん、ティナおねーさん、ティナおねーさん?」
おかしいなと何度も何度も呟けど違和感は消えてなくならない。
しっくり来ないものを抱えて、ちょこはもやもやとしたまま戦場へと辿り着いた。
辿り着いて、その人を見て、これまでに生じていた疑問が一気に氷解した。
「おかー、さん……?」
自身の口から零れた言葉にちょこは驚く。
彼女は母親を知らない。
物心ついた時からずっと父親とだけ繰り返す時間の中で過ごしてきていた。
少女と表裏一体であるアクラだってそうだ。
ただ父だけを求めて生きていた。
ちょこという少女の世界に母親は完膚なきまでに存在していなかったのだ。
なのに。
「ティナおかーさん、ティナおかーさん、ティナおかーさん」
少女はティナのことをそう呼ぶ。
ティナがおかーさんなのだと確信して呼ぶ。
今まで使えなかった分を取り戻すかのように、嬉しそうにおかーさんと呼びつづける。
別にどこもおかしなことはない。
ちょこは子どもなのだから。
子どもがおかーさんのことを分からないわけがないのだ!
『マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく』
そして少女はおかーさんの声にもう一つ知る。
おかーさんが訴えかけている相手がおとーさんであることを。
シャドウと同じで子どもが待っているということを。
「ねえ、アクラ。アクラも知ってるよね。
父さまのいない寂しさは。父さまのいてくれる温かさは」
ちょこはもう一人の自分に思いのままを伝える。
「ちょこは母さまを知らないけれど、きっと母さまがいたら二倍寂しがったり、二倍温かかったりしたと思うな」
だからね。
少女は続ける。
「やっぱりみんなおうちに帰れるのが一番なの! アクラも分かるよね。力を合わせてくれるよね」
分かりきった問いかけだった。
ちょこもアクラも元は同じ一人の少女で、誰よりも家族を愛していたのだから。
羽が舞う。
翼が広がる。
四つのアルテマの光芒へと一つの優しい闇が力を与える。
「闇に、還れ……」
▽
694
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:14:54 ID:4nGbyjws0
▽
破壊の力のはずだ。
押し寄せてくる5つの魔法はどれもロードブレイザーの力となる破壊の力のはずだ。
それならば。
それならば何故ッ!
究極の光は還元の闇もこうも愛に溢れているのだッ!?
負の念を力とするロードブレイザーには猛毒にしかなりえない正の念。
バーミリオンディザスターと拮抗するその眩い光にロードブレイザーは恐怖した。
魔神を脅かしたのは外からの魔法だけではない。
装備したままだった魔石がどうしてか急に光ったかと思うと、内的宇宙のウィスタリアスまで輝きだしたのだ。
まずい。
ロードブレイザーはことこにきて自身が追い詰められていることを悟った。
屈辱を呑み込み、魔神は逃亡を選択。
魔法と焔がぶつかっているのとは逆の方向へと翼を広げ、
その先に
――剣者がいた
▽
695
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:15:24 ID:4nGbyjws0
夢とも現とも思える世界。
意識と無意識の狭間。
生と死との境界に。
男は一人存在していた。
白い闇に包まれて。
ここがどこか、自分が誰かも分からぬままに彼は立っていた。
胴の左半分を吹き飛ばされ、腸を臓物を黒く墨色に染めながらも。
ただ一つのことを成さんが為に地に膝を着くことを拒んでいた。
そこまでして男は何を願う?
彼の者の命を留め続ける未練とはいかなるものか?
護ることか?
違う。
救うことか?
違う。
それは確かに男が心底望むことではある。
生死の理を曲げて尚叶えるに値する想いではある。
だが無理だ。
無理なのだ。
男には誰かを護ることなど不可能、救うことなど不可能。
男にできることは今も昔も一つだけなのだ。
一つ。
ただ一つ。
それは何だ?
護ることか?
否。
救うことか?
否。
決まっている。
斬ることだ。
誰かを斬る以外男にできることなどなかったのだ。
だったらその行為に全てを託せ。
トッシュという人間の想いを、力を、命を賭けろ。
斬ることで護れ。
斬ることで救え。
斬ることで道を拓け。
して、その為に何を斬る?
して、その為に誰を斬る?
オヤジだ。
オヤジを斬らねばならない。
何よりも。
勇者に殺されてしまったのならオヤジは単なる悪として扱われる。
正しい戦いにより討たれた世界の敵として記憶される。
それは、駄目だ。
それだけは、許せない。
モンジは優しい男だった。
邪悪なんかではない、強く誇り高いトッシュの父だった。
モンジを世界の敵にしたくないのなら、本当のモンジを知るトッシュが。
他の誰でもないトッシュ・ヴァイア・モンジが斬らねばならないのだ。
696
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:16:49 ID:4nGbyjws0
白い闇のみが広がっていたはずの世界に二刀を手にした剣鬼の姿が滲み出る。
そうだ、そうだった。
どうして忘れていた?
トッシュは嗤う。こんな大事なことを忘れていた自分を嗤う。
戦っていたのではないか、冥府魔道に落ちたオヤジと。
モンジが動く。
両の剣を突き出して。
モンジが駆ける。
押さえつけられていたダムが決壊するかのように、怒涛の速度をもって。
土を穿ち、その間合いを一間で詰める。
対するトッシュは不動。
不思議な感覚だった。
護りたかった人に剣を向けているというのに迷いも戸惑いもなかった。
救いたい家族を殺さねばならぬというのに悲しみも辛さもなかった。
仇たる敵と相対しているというのに怒りも憎しみもなかった。
静かだった。
ただモンジとモンジの剣だけが世界の全てだった。
――斬る
一足一刀の間合いに入り対の刃が振り抜かれる。
神速を超えた魔速、人ならぬ身になって得た人外の秘剣が十字を描きトッシュを四散させんとす。
刹那、遂にトッシュが動く。
後足が弾け、大地を蹴り押し、強引に身体ごと必殺の一太刀を前方へと押し込む。
パレンシアタワーでの一騎打ちにて終ぞ掴めなかった好機。
攻防一体の二刀流、その両の剣が防御を捨て攻撃に回され、トッシュの剣が魔を絶てる唯一のチャンスを逃してなるものか!
――斬る
爆ぜた雷の如き一刀が解き放たれる。
天空に舞う桜の花すら両断する速く鋭い一閃。
敵の先の機を奪いし刃は二刀を追い抜き空に煌く。
されど約束されたはずの勝利は不条理に阻まれる。
トッシュの敵は人ならぬ魔。
人界の摂理も常識も振り払い、全力で振り下ろされたはずの刀が人を超えた膂力により引き戻され一息で盾へと転ずる。
ここに勝負は決する。
トッシュの渾身の桜花爆雷斬は身体能力で勝る魔人の両剣の盾を貫くことは叶うまい。
二刀で受け止められ、うち一刀で跳ね除けられが関の山だろう。
魔人が見せた魔技を再現できるはずもない人の身ではルシエドを戻すよりも先に残る一刀にて斬り伏せられ終る。
努力は絶対の前に灰燼と帰し、人は魔の前に膝を着く。
打ち合うのであれば。
正面から打ち合うのであれば。
――――
魔剣ルシエドが“ほどける”。
実体が霞み陽炎のように揺らめく。
いかな達人といえど形無き剣を受け止めることは叶わず護りの剣は空しく空を切る。
心を無にし、その刃さえも無と帰した剣客の剣が双璧を超え懐に入り込む。
無念無想。明鏡止水。風光霽月。
怒りも憎しみもなくただ一念でのみ動いていたトッシュは遂に剣聖の域へと脚をかけた。
一徹の心。
無我ではなくその対極であったが、雑念を全て排除した点においては無我にも等しい心境――そこから出ずる一剣。
何も考えず、己を無とし。
己を無とし、世界と合一。
さすれば敵に心を読まれることはなく、己だけが敵の全てを掌握する。
697
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:17:29 ID:4nGbyjws0
――見える
過った前回とは違い気の収束点を明確に捉えられている。
モンジが託してくれた剣の最奥は、仲間達がそうしてくれていたようにトッシュが切るべき敵をしかと示していた。
ならばこれより先はトッシュの仕事だ。
擬似的な無我を破棄し魂を再燃させる。
――斬る
刀身が蘇る。
“斬る”という想念を刃としルシエドが再び猛る。
ガーディアンブレードは想いを喰らい力に変える武器だ。
無我にて振るえば刃を保てなくなるのも道理なれば、炎の如く燃え盛る一念で振るえば万物を断つのもまた道理ッ!
「あばよ!!」
トッシュは斬った。
モンジを――魔を――ロードブレイザーを一刀のもとに断ち切った。
受け継がれし秘剣紋次斬りにて。
悲劇の物語はここに書き換えられるッ!
▽
焔の災厄、ロードブレイザー。
彼の魔神を災厄たらしめている一因はその不死性にあった。
概念的な肉体は物理的攻撃を一切受け付けず。
魔法の域に達した超科学ですら肌の皮一枚を傷付けるの関の山。
そもそも負の意志が存在する限り無限の再生力を誇る彼にはいかな致命傷も致命傷足り得ない。
ロードブレイザーを倒さんと放たれる一撃一撃は、込められた怒りや恐怖、殺意や破壊の意思により彼を満たすだけに終るのだ。
故に無敵。
故に不滅。
剣の聖女がロードブレイザーを討滅ではなく封印で留めざる得なかったものこの不死性のせいだった。
数百年の時を経てロードブレイザーは遂に後のない死をもたらされかけることとなったがあれは例外中の例外だ。
ロードブレイザーの力の根源たる負の念。
それらを相殺しきるだけの世界中の人々の一丸となった希望の念が相手だったからこそロードブレイザーは真の意味で敗れたのだ。
こんなことはあってはならない。
698
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:18:48 ID:4nGbyjws0
「馬鹿な……」
ロードブレイザーが。
星一つの全生命と釣り合うだけの力を秘めたデミガーディアンが。
たかが一人の人間に敗れることなど!
「ぐっがァァァアアアアアッ!」
ロードブレイザーの身体が霧散していく。
よりしろであるアシュレーの血肉を失った今、オーバーナイトブレイザーの姿を維持するだけの力がロードブレイザーにはなかった。
天をも焼かんとしていた黄金の炎は輝きを失い黒くどす黒くくすぶり続けるのみ。
強固を誇った装甲は罅割れ醜い中身を露呈させていた。
必死に残る力を掻き集め凝縮することで作り上げた紫色の筋肉を剥き出した白いボディを。
オーバープロトブレイザーとでも言うべきおぞましい姿を。
「認めん、認めんぞッ! ガーディアンブレードを手にしていたとはいえたかだか人間一人にこの私がッ!」
正確に言えばロードブレイザー自身が敗れたわけではない。
追い詰められはせども致命傷を与えたのはロードブレイザーの方だ。
だが、だがしかし、トッシュが切り拓いた道はロードブレイザーにとっては終焉へと導かれうるものだった。
「それは違うぞッ、ロードブレイザーッ!」
奴が、来る。
先刻までロードブレイザーの生命線だった寄り代が。
かってロードブレイザーに絶望を与えた人間の代表格が。
剣の英雄がやってくるッ!
「僕たちは、どんな時でも独りじゃないッ!!」
ロードブレイザーはアシュレー・ウィンチェスターの身体を失った。
けれどもそれはアシュレーの身体が破壊されたからではなかった。
破壊されたのはアシュレーとロードブレイザーを繋いでいた根ともパイプとも言える負の気の流れ。
トッシュはアクセスにより表出化した収束点を断ち切ることで魔神と人間の分離を成し遂げたのだ。
結果ロードブレイザーは未だ不完全な形で現世へと逃れなければならなくなり、
「アシュレー、ウィンチェスター……。その姿、その姿はッ!」
アシュレーは魔神から開放され万全の力を発揮できることとなる。
これまでロードブレイザーを押さえることに割いていた魔剣の力を。
果てしなき蒼の力をッ!
「アティが最後に残してくれたこの力で」
白と蒼に彩られた長衣をはためかせ。
蒼き魔剣を手にした人間が砂漠を歩む。
「トッシュが、ゴゴが、ちょこが、ティナが呼び覚ましてくれたこの心で」
その姿は魔神が恐れし英雄に似てはいれども。
風に流れる髪の色は白く。
背には蒼き光輪が輝いていた。
「ロードブレイザー、お前を討つッ!」
蒼き剣の英雄《セイバー》アシュレー、
ここに抜剣せり!
699
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:21:05 ID:4nGbyjws0
【F-3 砂漠 一日目 真夜中】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康(抜剣により回復)、クラス:蒼き剣の英雄(サモナイ3でいう蒼き剣の勇者)
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、バヨネット
焼け焦げたリルカの首輪、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:ロードブレイザーを今度こそ倒す
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、シャドウ、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※蒼き剣の英雄アシュレーは剣の英雄アシュレーの髪の毛を白く刺々しくして背に蒼い光輪を背負った姿です。
あくまでも姿が剣の英雄に似ているだけで武器の都合上使用可能スキルは蒼き剣の勇者のもののみです。
(暴走召喚・ユニット召喚・威圧・絶対攻撃)
またあくまでもアティが残した力による覚醒なので効果が切れるともう二度と覚醒不可能です。
変身がどの程度もつかなど思うところはお任せします。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)
【ロードブレイザー@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、オーバープロトブレイザー
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し
1:アシュレーを殺す
2:殺し合いの場に破滅をばら撒き負の念を吸収して完全復活を果たす
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーとして復活しきるには力も足りず時期も早すぎたため現状本来の力を出し切れていません。
無論島に負の念が満ちれば満ちるほど力を取り戻していきます(強化&回復)。
オーバープロトブレイザーは黒炎を纏ったプロトブレイザーっぽい姿です。
元がロードブレイザーなのでナイトブレイザー、オーバーナイトブレイザー(魔剣ルシエド除く)、
ロードブレイザーの技を使用できる可能性がありますがお任せします。
700
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:21:45 ID:4nGbyjws0
夜の砂漠に背を預けトッシュはただただ空を眺めていた。
冷たい月は、冴え冴えとしており、光に照らされる砂漠も昼間とはうって変わって冷え込んでいる。
やや強い砂交じりの風が頬を打ちなけなしの体温を奪っていく。
放っておいても出血多量で死ぬのにご苦労なこった。
笑いながらも耳を澄ます。
涼やかな空気の中をさやさやと何かが舞う音がする。
天を地を砂が海のように川のように流れているのだ。
川の流れは無数の波飛沫を煌かせながら、そ知らぬ顔でトッシュの傍らを過ぎ去っていく。
のろのろと手を伸ばしてみるも捕らえられるはずもなく砂は掌から零れ逝く。
月光と同じだ。
いかに風雅だと思いを寄せようともトッシュに掴めるものではなかった。
ふと見渡す限りの砂の絨毯を仄かに照らす光に陰りが生じる。
もはやろくに見えない目を凝らす。
視界は相変わらず霞がかったままだったが、ものにしたばかりの心眼が何とかその姿を捉えた。
月影に輪郭を描かれて、気の流れが人の形をなし幽かに浮かび上がってくる。
「よう、ゴゴ」
「……よう、トッシュ」
月を背負い見下ろしてくる影に手を伸ばす。
今度は掴めた。
傷に響かぬよう緩やかに引っ張り上げてくるゴゴの力を借りトッシュは半身を起こし胡坐をかく。
ゴゴが気絶したちょこを背負っているのが目に入り、もう一人の行方を尋ねる。
「アシュレーは、どうなった?」
「勝つ」
たった一言の短い返答。
それだけで十分だった。
「そうか」
「ああ」
いつまでも月を奪っていることに気が退けたのだろう。
ゴゴはトッシュの隣に腰を下ろし、膝を枕としちょこも地に寝かせ休ませる。
「何かして欲しいことはあるか?」
戦場で何度も耳にし、時には口にしたその言葉。
人間が使う最も重い定型句の意味をトッシュが誤解するはずがなかった。
トッシュは死ぬ。
もう間もなく。もしかしたら今すぐにでも。
「そうだなあ」
701
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:22:46 ID:4nGbyjws0
ちょこを頼むとはいう言葉を口にすることなく飲み込む。
ティナという人物の物真似だろうか。
友から託された少女の髪を優しげにすくうゴゴを見てわざわざ頼む必要がないと思った。
個人的な願いを優先することにする。
「酒。酒が飲みてえなあ」
「分かった」
とぽとぽと酒が注がれる音が聞こえる。
いい音だなと耳を澄ませる。
とぷりと、音が途切れた。
「あんがとよ」
ぎこちない動きで酒を受け取る。
月明かりを照り返す酒の水鏡は神秘的で、きらきらと輝いていた。
雅なもんだ。
骨を埋めたかったあの場所で飲むことは叶わなかったが月と砂漠を肴に酒を飲むのも悪くはねえ。
一気に飲み干すつもりで杯を口元まで持っていく。
風に温み豊かになった薫りが優しく鼻腔をくすぐる。
城に置いてあっただけあって申し分ない時代物のようだ。
ますます気をよくして念願の一口。
酒を口に含もうとして――そこで、止まった、止められた。
止まらざるを得なかった。
「待て。礼を言われるのはここからだ」
瞬間、世界が一変した。
寒色の空を優しい月明かりが包み込んでいく中、舞い散るは薄紅色の吹雪。
吹雪というには温かく、風雅で、見るものを捕らえて離さない、そんな美しさがあるそれは――花吹雪。
雪のように空を閉ざすことなく、故に月明かりを浴びることを許された桜の美しさは儚く気高いものだった。
「こいつあ……」
トッシュが知るどの景色よりも幻想的な光景に心を奪われる。
思わず感嘆の声を上げる合間にも、心地よい夜風に乗って桜の花びらが舞い降りる。
静かに、ふわりふわりと。
舞う花弁が数枚杯に落ちて、透き通る酒が波打った。
トッシュは我を取り戻す。
「どうなってんだ?」
砂漠のど真ん中にいきなり満開の桜の樹が現れたのだ。
驚かない方が無理がある。
不思議なことはもう一つ。
そもそもトッシュの目は一足先にあの世に踏み込んでいる。
最早色を区別などできようもないのにどうしてこうも鮮やかに桜の花の色を楽しめているのだろうか。
702
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:23:22 ID:4nGbyjws0
いや、そうか。
目が見えていないからこそか。
トッシュの中で合点がいった。
視覚が禄に働いていないからこそ、聴覚が、嗅覚が、触覚が、感覚が感じたものがリアルとして脳内に再生されているのだ。
桜がさもここにあるようなこの雰囲気が脳を騙し幻想の光景を見せているのだ。
誰の仕業かなど問うまでもない。
ゴゴだ。
幻術を使うでも魔術を行使するでもなく、月光を浴び咲き誇る桜の真似ただ一芸のみで一つの幻想の世界を構築して魅せたのだ。
ああ、そうだった。
こいつは心身の芯まで芯物真似師だ。
そのこいつが何かして欲しいことがあるかと聞いてきたのなら、それはして欲しい物真似があるのかということに他ならない。
トッシュが誰かのためにしてやれる唯一のことが斬ることならば、ゴゴが誰かの為にしてやれる唯一のことが物真似だ。
彼は成した。
ゴゴの問いの意味を汲んでやれなかったトッシュの返答をしかししかと受け止め最上の形で実現させた。
酒を呑みたいと願った友に、できうる限りで最高の酒が美味く感じる場を贈った。
物真似師として。
ただ物真似師として。
感嘆する。
物真似師のぶれない芯に、成した技にトッシュは舌を巻く。
同時に思う。
こいつは馬鹿だと。
酒を楽しく飲むのに一番大切なものを抜かしちまってどうすんだと。
「ゴゴ」
呼びかける。
月と、風と、砂と、桜に彩られた世界の中。
「どうした?」
声が返ってくる。
少女が夢見るすぐそばの誰もいない場所から。
完璧な物真似をしているが故に元となる存在の痕跡を綺麗さっぱり世界から消してのけている物真似師の声が。
「大切なもんが一つ抜けてるぜ?」
「……何?」
本当に分かっていないのだろう。
常のゴゴらしからぬ動揺した雰囲気が伝わってきてトッシュはおかしげに笑みを浮べる。
渡されたばかりの杯をゴゴなのであろう桜に向けて突きつけ返した。
「お前がいない。この世界には俺しかいない。
一人で呑む酒もそりゃあ乙なもんだが気心の知れた誰かと呑む酒は最高だぜ?」
共に飲もうと。それがいっちゃんうめえんだと。
心身ともに桜の木になりきっている友へとトッシュは語りかける。
「そうか、そうだったな。俺としたことがもうろくしていたようだ」
703
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:23:53 ID:4nGbyjws0
ふっと世界に新たな色が加わる。
人一人分の気配が増える。
月と夜桜に彩られた宴の中に友が一人来訪する。
「すげえな。桜の真似をしたままかよ」
「これぐらい容易いことだ」
胸を張るゴゴにそうかよとトッシュが返し、また二人、同じ時を過ごしだす。
ゆったりと流れる時間にひやりと頬を撫でる風。
空想とは思えぬほどに命を輝かせる樹木に死にいく者と生き行く者は杯をかざす。
触れさせる訳でなくお互いに酒を揺らし、幻想の桜の花を眺める。
「トッシュ」
「ああ」
「桜は綺麗か?」
「たまげるくれえに」
「酒は美味そうか?」
「おうよ」
「俺は……お前の友になれただろうか?」
「あたりめえよ」
とりとめのない会話を交わす。
ただ仲間と共に居ることだけを味わう。
トッシュにとっては代え難い贅沢だ。
ずっと、奪われ続けた。
ずっと、失い続けた。
誰一人護れなかった。
それが最後には師の誇りにて仲間を救い友に見送られて逝くというのだから。
悪くは、ない。
目の前に杯が掲げられる。
同じようにトッシュも杯を掲げる。
二人、笑みを交し合い、今度こそ杯を口元に寄せた。
酒が口内を満たし、喉を通る。
冷たすぎないそれはほのかに甘いが嫌味はなく、寧ろ独特な苦味が重なって味わいに深みを持たせていた。
「ああ……」
ひらひらと桜が舞う。風が強くなったのか舞い手の数が増えている。
その光景にいつか見た景色が重なった。
トッシュにとっての桜の樹。
ダウンタウンでモンジや舎弟たち、街の人々に囲まれて酒盛りをしたあの樹と。
見れば幻想の世界にはモンジ達に混じってシュウやエルクやリーザ達もいた。
ナナミなんかゴゴの焼き蕎麦パンをばくばくとほうばっていて、隣ではリオウが困りがちな顔をして笑っている。
トッシュが今そうしているように。
誰も彼もが笑っていた。
何とも幸せな幻想を見たもんだ。
トッシュは一層笑う。
自嘲などではない本当の笑み。
未練たらたらだなとすさむのではなく気分がいいから笑うのだ。
残る酒を一気に飲み干し想う。
704
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:24:40 ID:4nGbyjws0
都合のいい夢を見たというならそいつは酒のせいだ。
たった一杯の酒に酔ってしまうっつうのもかっこわりい気もするがしかたねえじゃねえか。
だってよお、この酒は
「うめえなぁ」
本当にうめえんだから――
杯が落ちる。
風が吹く。
桜が散る。
炎が消える。
トッシュ・ヴァイア・モンジは静かに逝った。
【トッシュ・ヴァイア・モンジ@アークザラッドⅡ 死亡】
【G-3 砂漠 一日目 真夜中】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3
ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WA2、基本支給品一式)、焼きそばパン×4@現地調達
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:シャドウとトッシュより託されたちょこを護る。
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
※ティナの魔石の効果はティナがトランスした上で連続魔でのアルテマを撃つ感じです
705
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:25:14 ID:4nGbyjws0
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)、気絶
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※魔剣ルシエド@WA2、天罰の杖@DQ4、基本支給品一式 が近くにあります
※ルカの所持品は全て焼失しました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2の施設、大地は焼失しました
706
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:26:23 ID:4nGbyjws0
投下終了です
明日にでも自分でやるか代理投下お願いします
なにぶんつめこんだので誤字指摘もあれば喜んでお受けします
707
:
修正
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:36:51 ID:uAZHIixk0
「……グッ……くっ……」
逃げていたジャファルだったが、積み重なったダメージによって思わず膝を突く。
ニノの攻撃が思いのほか身体にきていたようだ。
こんな所で、倒れてはいけない。
ニノを生かす為に、まだやらねばいけないのだ。
けれど、身体を動かそうにも動かない。
まだ、何も為してないのに。
そう、思った矢先だった。
「ケアルラ」
癒しの力が身体を少しだが癒していく。
身体に付いた傷が少し消えて、大分身体が楽になっている。。
ジャファルが驚き振り向くと其処には、銀髪の男が立っていた。
「例え、それがエゴだとしても、自分の信念、自分の意志を変えずにひたすらに突き進む者、進む事を止めない者、最後まで諦めない者……」
その男は笑いながら、ジャファルに語っている。
何か、納得したように。
「その者を、人は『勇者』と呼ぶのだろうか。ならば、お前は『勇者』に相応しいのかもな」
「お前は……?」
「セッツァー。ギャンブラーさ」
「そのギャンブラーが何故俺を助ける?」
ジャファルを勇者と呼んだセッツァーの行動がジャファルには読めない。
この男はヘクトルに与してたはず。
なのに、何故自分を助けるのだろうか。
「お前は、自分の手でその願いを、叶えようとしている。例えエゴと言われようとそれを止めない」
「……」
「自分を捨てる奴から見れば……こっちの方がよっぽどいいさ」
元々、限界を感じ始めていた。
自分の嘘がばれかけている事がヘクトルの解りやすい行動によって理解できたのだ。
そろそろこの殺し合いも終盤戦。新たに自分のみの振り方を考えなければならない。
その上で、ヘクトルの考え方にセッツァーは嫌悪感を示していた。
故に、ヘクトルについていくのは無理と思い始めた所に、ジャファルが現れた。
ジャファルの考えに、セッツァーは理解し、共感した所もある。
だからこそ、
「俺はこの殺し合いでお前と共に戦う事に賭ける! ベットするのは俺の命!」
今、ジャファルに全てを賭ける。
この殺し合いで最大の賭け。
彼が断れば、多少傷ついてるとはいえジャファルに勝てはしないだろう。
故に自分の命を賭けた、最大の賭け。
「伸るか反るか! どうする! ジャファル!」
そのセッツァーの言葉にジャファルは考える。
治癒していた事、そしてセッツァーが語る言葉。
全てを考え、そして。
「……乗った」
セッツァーは最大の賭けに勝ったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
708
:
修正
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:37:49 ID:uAZHIixk0
「よし、こんなものだな」
セッツァーの声と共に、暫くの間続いた魔法が止まる。
ジャファルに堆積していた傷と疲れは、セッツァーの力によって大分回復していた。
ジャファルは腕を軽く回し、身体が十全である事を確認すると、既に次の行動を起こしていた。
「助かる。セッツァー、俺達は何処に行く?」
「そうだな……俺がどうやって行動していたか聞いてたよな?」
ジャファルは首肯し、少し前の話を思い出していた。
傷ついた身体の回復を行っていた間、少しでも時間を無駄にしない為にも情報交換を行っていたのだ。
そのセッツァーはジャファルがエドガーらしき人間を殺害したと聞いた時、驚いた。
驚いたと同時にこの男の強さも再び認識した、エドガーを殺せるような人間なのだ。相当な実力者である事には違いない。
エドガーが殺された、その事実は特にセッツァーを大きく動かす要素は無かった。
ちょっとした感傷はあったが、それまで。
何故ならば、セッツァーが今手に入れるべきは、大切な夢なのだから。
最悪自分の手で始末しなければいけない相手だった。
だからこそ、他人の手で死んだ事を幸運に思うべき。
そう、思って、セッツァーはエドガーの事を考える事をやめた。
今はそれよりも、夢をかなえるべきなのだから。
「……南から北上したと言ったな」
「ああ、東から来たというお前の行動も考えると、一つ提案がある」
「なんだ?」
セッツァーが思うにこの殺し合いは、もう既に後半戦に入っている。
殺し合いに乗る者、背く者どちらもかなりの数が減っているだろう。
その上で、自分達が勝ち抜く為に自分達が取るべき選択肢を考える。
「まず、もう無為な探索は止めだ。いくら行ってないとはいえ、今更南西の方向いってもしょうがないだろう?」
「ああ、そうだな」
「ならいっそ此処の周りをメインに動くとして……拠点を作らないか?」
そう、セッツァーが示したのは戦闘拠点だ。
殺しを行うにしても、何かしら休める場所、落ち合う場所があると非常に便利である。
それは殺し合いに背く者だけは無く、殺し合いに乗っているものも一緒だ。
例えはぐれたとしても、其処に行けばまた再びあえるだろう。
また、其処での篭城戦も可能である。
その事を、ジャファルもすぐに理解し、頷く。
「じゃあ、決まりだな」
「場所は何処にする?」
「……そうだな、まず北東の都合のいい位置にある座礁船に向かってみるか。それでどうだい?」
「構わない」
「よし、ならそれでいこう」
そして、進路は座礁戦へ。
二人の男は北に向かって駆け出していく。
そう、全ては
「さあ、叶えようじゃないか。俺達の夢を、願いを、な」
叶えたいものの為に、彼は歩みを止めず
――そして殺していく。
709
:
修正
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:38:21 ID:uAZHIixk0
【C-7 北部 一日目 夜中】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:セッツァーと組む。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
3:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:絶好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)、
シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣
マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ、拡声器(現実)
毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ジャファルと行動。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
710
:
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:39:05 ID:uAZHIixk0
以上ジャファルとセッツァーの部分の修正版です。
確認の程、よろしくお願いします。
711
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 04:57:02 ID:jto66Yes0
修正お疲れ様です
確かに大乱戦で生き残りをだいたいは把握してるこいつらが今更探索するのもおかしいよなあ
しかし船かあ
松、よやくぼっち脱出だがはてさて……
712
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 07:04:16 ID:tA4ZHshw0
修正お疲れ様でした。
やっぱり冷静だな、この二人は……。
搦め手の怖さがよく伝わる、納得感の強い描写でした。
713
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 20:44:53 ID:XqcBATF20
◆jt氏修正乙です
流石というか何というか,2人とも冷静ですな
今後も怖い存在ですね.
松はどうなってしまうんだろう
さて,誤字などです.毎度毎度細かくてすみません
仮投下スレ
708 南西の方向いっても → 南西の方向へ行っても(或いは「南西へ行っても」)
殺し合いに背くものだけは無く → 殺し合いに背くものだけでは無く
進路は座礁戦へ → 進路は座礁船へ
彼は歩みを止めず → 彼らは歩みを止めず
714
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 22:48:22 ID:uBNIVsUQ0
お疲れ様です
早くもメンバーカードと秘密の店がご対面か・・・
松はまだセッツァーの正体に気づいてないし状況は絶望的だけど
このまま死んだらいいとこ無しだからちょっと頑張って欲しいな
715
:
◆MobiusZmZg
:2010/07/18(日) 01:13:06 ID:I/mtESxw0
本スレでさるさんに引っかかってしまったので、以降のレスを投下いたします。
気付かれた方は、代理投下を行っていただけると助かります。
716
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:13:39 ID:I/mtESxw0
そんな二人に対するアキラは、意識的な呼吸を数度繰り返した。
アナスタシアにせよユーリルにせよ、言動をみるに難物といっていいだろう。
そんな彼らに対して、アイシャのときのように、心を読み足りないものを補填してやれるのか。
がむしゃらに戦うなか、様々なものを取りこぼし、いまや疲れきってさえいる自分が。
知らなくても良かったであろう、ひとの心の裏側を知ってひねた自分が。
「出来ると、思うぜ。あんまり好きなやり方じゃねーが、なんとか……してみせる」
そう思いながらも、ここに眠っているアイシャの生き様を思えば――。
彼女と同じ場所に立っているアキラに、うなずく以外の選択肢など初めからなかったのかもしれない。
加えて、《英雄》になる願いの裏に隠れていた彼女の強い望みこそが、背中を後押ししてくれる。
口の端にのぼらせていたか否かの違いこそあれ、ユーリルについては彼女と同じ程度に望みが前面に出ていた。
アナスタシアにせよ、ユーリルをあそこまで歪めたのかも知れない言葉をかけたのなら望みを読める望みはある。
しかしながら、《英雄》のつぎに《勇者》がくるとは予想だに出来なかった。
どうやらここでは、そうしたたぐいの言葉に縁があるらしい。
「いけるのかい?」
「ひとまずはな。ただ、いまの俺じゃあ間違いなく」
格好をつけるべく口をつぐみかけて、やめる。
意識を喪った者の体がいかに重いかくらいは、分かっているつもりだ。
片方は非戦闘員、片方は敵対にかぎりなく近かったとはいえ、三人で二人を抱えるいま、ここに。
いまのアキラがもつ最大の弱点に触れないでいては、笑うに笑えない結果を呼びうるのだから。
「あぁ。心を読んだあと……ひょっとしたら心を読んでる最中に、意識が落ちる。
すまねぇ。情けねー話だが、ちょっとばかり力を使いすぎちまったんだ」
アキラに出来ることといえば、困ったように笑ってみせることくらいだった。
やせ我慢に他ならない笑みを見せるべく視線を上げれば、さみだる雨が泉に流れ込むさまが見える。
――アイシャのなきがらも、いま、同じ霖雨(りんう)をうけているのだろうか。
気絶を避けるかのように、意識の間隙を埋めるかのような思考が止まない。
ひとを降りそぼしてまだ足りないとばかりに手数の多くある雨滴と同じように、止むことがない。
「まったく……前途多難、だね」
考えているようで、そのじつぼんやりしているのと変わらない思考を読まれたか。
ほんの少しの棘を交えた口調にため息を交えて、イスラが雨の向こうを見やる。
「ストレイボウさんたちも、無事だといいんだけど――」
ユーリルから少し遠い場所にアナスタシアを横たえたジョウイも、イスラと逆の方向につづく。
彼らのあいだで二択をせまられたアキラは、第三の方角――。
何者かの心を映したかのように晴れない雨をもたらす雲に、しいて視線を持ち上げた。
717
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:14:55 ID:I/mtESxw0
【C-7橋の近く 一日目 夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(極大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:ジョウイの言葉が、許せない
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(極大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える。可能ならばユーリルかアナスタシアの心を読む
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
718
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:15:31 ID:I/mtESxw0
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
【C-7中心部 一日目 夜中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、MP0、人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:ロザリーを弔う
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。
【やぎのぬいぐるみ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
ギア(アクセサリー)の一種。致命に至る一撃から、一度だけ復活することが可能となる。
ただし、装備者の身代わりになったぬいぐるみは失われてしまう。
×◆×◇×◆×
719
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:16:52 ID:I/mtESxw0
【7】
――――この袋小路からの抜け道を提供するのが「外的反省」だ。
外的反省は、テクストの「本質」「真の意味」を到達不可能な彼方に
追いやり、それを超越的な「物自体」にする。有限の主体であるわれ
われの手に入るものはすべて、われわれの主観的視野によって変形
された歪んだ反映であり、一部分である。<物自体>、すなわちテク
ストの真の意味は永遠に失われているのである。
×◆×◇×◆×
720
:
◆MobiusZmZg
:2010/07/18(日) 01:17:36 ID:I/mtESxw0
以上で投下を終了します。
問題点や矛盾点、ご意見ご感想など、お寄せいただけると幸いです。
それと、下手すれば誤解を与えるかもしれないので一点のみ。
【0】【7】の惹句は、いずれもスラヴォイ・ジジェク著『イデオロギーの崇高な対象』に拠ります。
本文中に引用の表記を行ってみると衒学的にすぎる印象になっちゃったので、代わりにここで。
自分のオリジナルでないと分かるのが肝要なんで、wiki収録時にも元ネタのページあたりに明記しておきます。
721
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:15:46 ID:SZkbz1o20
お待たせしました、規制中もあってこちらで投下します
722
:
SAVEDATA No.774
:2010/08/12(木) 22:35:06 ID:SZkbz1o20
止まない雨が降り注ぐ中、二人の男が倒れていた。
片や気絶、片や絶命。
同じ“絶”の字を冠していながらも二つの言葉の持つ重みには天と地の差があった。
ブラッド・エヴァンスは死んだ。
襲撃者との戦いの中、果てた。
だが。
襲撃者の片割れにして魔王と組んでいる男、カエルは断言する。
勝ったのはブラッド・エヴァンスだ、と。
その証拠にどうだ。
今自分は押されている。
一度は三人がかりで向かってこられてさえ優勢に立つことができた夜の王に。
魔王との実力差を目の当たりにし膝をついたはずの魔道士に。
完膚なきまでに押し負けている。
「うあああああああああああああ!」
ストレイボウが“斬り込んでくる”。
魔道士たる身でありながら剣を手にし死んだブラッドの代わりに空いた前衛をこなさんと必死に食らいついてくる。
隠しようもない恐怖をグレートブースターによる強引な戦意高揚効果で押し切って。
脚を震わせ、剣を震わせ立ち向かってくる。
そのさまをどうして無様だとカエルに笑えようか。
かってカエルは自らを護り死んだ友から逃げた。
ストレイボウは逃げなかった。
みっともない姿を晒してでもブラッドが残した勇気を受け継ごうと手を伸ばし足掻いているのだ。
「ぐっ……」
強化魔法がかけられていることを差し引いても我武者羅に叩きつけられる剣のなんと重いことか。
ああ、そういえば。
この剣はストレイボウの様子からすればカエルにとってのグランドリオンのようなものだったではないか。
ならばその剣を手にしていること自体がストレイボウの覚悟の現れだ。
自らへの嘲りを込めて握った魔剣如きで押し返せるわけがない。
そもそも持ち主を選ぶ類であるこの魔剣は眠りについたままで、木刀にも劣っているのだから。
「まだだ、まだわらわ達の攻撃は終わっておらんぞッ!」
ストレイボウの突撃に負けた身体が幾多もの火球に狙い撃たれる。
体勢を崩された身では跳躍して回避することは困難。
かといって魔法に頼ろうにも、今は魔力を封じられた身だ。
打つ手なし。
大人しく我が身を穿つ魔法を耐え忍ぶしかない。
両腕を交差させ、炎に備え、
「ぬう!?」
723
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:35:59 ID:SZkbz1o20
そこに追撃が迫る。
あろうことかストレイボウに続きマリアベルまで前線に踊りでてきたのだ。
否、それは躍り出たなどという可愛いものではなかった。
投げ込んできたと称すべき乱暴極まりないものだった。
怒りのリングに隠された秘技、仲間ではなく自身を砲弾と化し投じる荒業によって一瞬にして距離を詰めたのだ。
そしてマリアベルの手にもまた一本、剣が輝いていた。
「でえいッ!」
ソウルセイバー、魂食いの剣。
ブラッドが指揮した先の持久戦時にマリアベルはその効果を正しく理解していた。
故に躊躇することなくファイアボルトの連撃により緩んだガードの隙間からカエルへと突き刺す。
たちまちカエルを襲うのは痛みではなく虚脱感。
その隙にとマリアベルが催眠呪文を唱えようとしていることを察知。
間一髪、覚悟の証たる傷を自ら拡げ、意識を覚醒させてマリアベルをはねのける。
「――潮時か」
吹き飛んだマリアベルを駆けこんできたストレイボウが受け止める中、カエルは勝つことに見切りをつけた。
このまま戦ったところでまず本願を達することは不可能だ、と。
マリアベルとストレイボウには勢いがある。
仲間ひとりの命と引き換えにして得た好機だ、それこそ命を賭けてでも掴みに来る。
対するカエルには勢いがない。
彼にしても何としても叶えねばならぬ願いはあるが、しかし、その願いを叶えるためには彼が生きていなければならない。
我が身を優先しなければならない現状、どうしても決死には届かず、勢いに劣ってしまうのだ。
加えてもし術師二人に勝てたとしても。
ストレイボウ達にはまだジョウイを初めとした仲間がいる。
北方での戦闘が収まったことは既に察知済みだ。
あれだけ激しく聞こえていた剣閃の音も、天を脅かす雷鳴の光も消えた。
殺気立った空気が霧散していることからも勝ったのはジョウイ達の方なのだろう。
混戦時に目にした彼らの戦いぶりからも、魔法を封じられた現状ではカエルに勝ち目はない。
であるならストレイボウ達を殺してジョウイ達を煽り説得の通じない討滅対象と見なされるわけにはいかない。
724
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:36:32 ID:SZkbz1o20
「結局のところ敗因は後を託せる仲間がいたかどうか、か。
自ら斬り捨てておきながらざまあないぜ」
腕から力を抜き、カエルは剣をマントに収めた。
「カエル……? 話を、聞いてくれる気になったのか?」
臨戦態勢を解いたことを訝しみながらも、喜色を隠せずにはいられないストレイボウにカエルは首を横に振る。
違う、そうではない。
単に勝てないと悟ったから。
ここで死ぬわけには、または戦う力を奪われるわけにはいかなかったから。
それだけだ。
どころかストレイボウが己に抱いてくれている友情を、殺されないという確信を利用してこの場より逃げようとしているのだ。
堕ちたものだと嘲りながらもカエルは一跳びで魔王の元へと跳躍する。
こちらが武装解除したことで僅かに戦意を収めたマリアベルが再度呪文を唱えるよりも早く、カエルは“それ”を手にした。
魔鍵ランドルフ。
魔王曰く異世界への道を拓くことさえ可能な空間を操る魔具。
カエル達が逃げおおせるための文字通りの鍵。
「ランドルフ……? そうか、そういうことか。無駄じゃ。今、お主の能力は封じられておる」
「覚えておけ。魔王は抜け目のない男だ。こんなふうにな」
ランドルフは時に主の命なくして主を強制転移させるなど自立行動が可能である。
そのことを見抜いた魔王はランドルフに緊急脱出用の空間転移プログラムを施していたのだ。
追い詰められた時ようの術式だけあって、術者の魔力に頼らずランドルフ単体で転移は発動できるようになっている。
パワーシールであろうとアイテムの使用は制限できない点も突いた最上の脱出手段であった。
とはいえ欠点がないわけではない。
魔王自身が使えばもう少し自在に転移先を選べたであろうが、カエルにはそんな器用なことはできない。
せいぜい事前に設定された転移先――魔王が唯一立ち寄ったランドマークになる施設に跳ぶことが精一杯だ。
その転移先とは、
「F-07エリアの遺跡とは名ばかりダンジョン。その地下深くにてお前達を待つ」
言うが否やカエルはランドルフを掲げる。
待てと呼び止めるはマリアベル。
キルスレスのことも含め、人殺しの意思があるままカエル達を逃がすわけにはいかない。
武力行使によって止められないのであれば、言葉により逃走を思いとどまらせる他なかった。
725
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:37:07 ID:SZkbz1o20
「よいのか? わらわ達の目的はあくまでもオディオの討伐。
待ちぼうけをくらってるお主達をほっぽりだして先にオディオめを倒してしまえば魔王はともかくお主と戦う理由はなくなるぞ?」
こちらを挑発するようにニヤリと笑うマリアベル。
真理だ。
魔王はともかくカエルにとっては願いを叶えてくれるオディオが倒されたとあっては無為に命を刈り取ることはできまい。
茫然自失と崩れ落ちるか、以前のように酒に逃げるか。
我ながら碌でも無い未来しか想像ができなかった。
だからそのような未来にならないよう挑発し返す。
「それは困るな。だがお前達は遺跡に来ざるを得ない」
「……なんじゃと?」
カエルはランドルフについて説明を受けた時に忠告してきた魔王の言葉をそのままマリアベルに伝える。
曰く、遺跡の最下層には恐ろしい何かがあると。
「何かとは何じゃ」
「さてな。生物だか無機物だかも分からん。しかしあいつは言っていた。
自分をも上回る魔力を感じたと。信じられんことだがあの男がそう言うのなら事実なんだろう。
そして魔王を上回る魔力の持ち主がそうそう居るとも思えん。
いるとすればピサロと呼ばれていた男のように魔王同様に魔の王の称号を冠する者……」
「まさか!?」
「流石に本人だとは思っていないが、無関係とも思えんだろ?」
「……」
マリアベルが押し黙る。
それを無言の肯定だとカエルはとった。
これでいい。
これでストレイボウだけでなくマリアベル達もカエル達を追撃せざるを得ない。
こちらはそれを待ち構えていればいい。
地の底深くで傷を癒し、或いは罠さえ張り巡らせ、待っていればいい。
起動したランドルフが宙に浮く中、カエルは魔王を背負いストレイボウ達に背を向ける。
「カエル!」
その背に届けと発せられる声があった。
転移を思いとどまらせるためではない。
これまでのように自分の想いのみを投げかける言葉でもなかった。
「せめて教えてくれ! 全てを守る戦いを優先するとお前は言っていたな!
お前は、お前は何を護ろうとしているんだ! 頼む!」
友の抱く想いを、友の秘めた想いを知って力になろうとしての言葉だった。
カエルは僅かに間を置き、それでもワームホールに飛び込みながら振り向くことなく答えた。
「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」
726
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:37:57 ID:SZkbz1o20
▽
ブラッド・エヴァンスは灯火だった。
死だの罰だのを言い訳に諦めかけていたストレイボウに諦めるなと言ってくれた。
広く視野を持てとも、自分の意思を打ち立てろとも。
そして死んでいった。
自らの意思で、人を導き、仲間を護り、仲間の仇を討って死んでいった。
ああ、そうか。
ストレイボウはその死に様を、否、マリアベルの言うところの生き様を目にしようやっと馬鹿な加害妄想から脱することができた。
何が生きているだけで他の人間が死んでいく、だ。
巫山戯るな。
ブラッドが死んだのは他の誰のせいでもない。
ブラッドが自らの意思を貫き通した結果だ。
俺が、ちっぽけな俺ごときが、あの大きな男の生き死にを曲げることなどできるものか。
ストレイボウは自覚する。
結局はあの頃と変わっておらず自分のことしか見ていなかったのだと。
世界を自分中心にしか考えず、良いも悪いも他人のことも全て一方的にしか見ていなかったのだと。
広い視野で世界を見ろとはそういうことか。
思えば自分はカエルのことを何も知らない。
何も知らずに盲信して、いや、単に二度と友と戦いたくないという自分可愛さから剣を収めてくれと言い募るばかりだった。
何故と、どうして急に殺し合いにのったのかも、一度たりとも聞こうとはしなかった!
727
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:39:46 ID:SZkbz1o20
カエルが話を聞いてくれないのは当たり前ではないか。
他でもないストレイボウ自身がカエルの話しを聞こうとしていなかったのだから。
否、もしかすればそれはもっと質の悪いものかもしれない。
ストレイボウは思い至る。
自分の弱さに。
聞こうともしなかったのではなく聞きたくなかったのではと。
核心に迫る問いを投げかけることで得た返答が、カエルを引き戻せないと納得してしまうほどの力を持つものであることを恐れていたのではと。
馬鹿馬鹿しい話だ。
納得出来る理由があれば退いたと?
説得できないと分かれば辞めていたと?
そんな、そんな半端な想いで自分はカエルに対峙していたのか。
許せなかった。
諦めることをよしとしていた臆病な自分が許せなかった。
変わらなければならない。変わるんだ!
これまで何度も抱いた想いに行動を伴わせるべく、マリアベルに頼み身体強化を施してもらい前に出た。
覚悟の証としてブライオンも鞘から抜いた。
全てはカエルの声を聞くことの先である、カエルの心に触れるために。
なのに。
「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」
ストレイボウはカエルの心中を知り早速後悔してしまった。
他の如何な理由でもここまで彼を動揺させはしなかっただろう。
だが、これだけは駄目だ。
この意思に対してだけはストレイボウは掛ける言葉が見つからなかった。
止めていいのかも分からなくなってしまった。
カエルが振り向くことなく消えて行ったのはストレイボウにとっては悲しいながらも幸いだった。
後悔と罪と絶望に彩られた顔を見せずにすんだのだから。
何よりも。
ストレイボウはカエルに合わせる顔がなかった。
友を騙し、王を殺させ、一つの国が滅ぶ原因を産み出したストレイボウには。
728
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:40:30 ID:SZkbz1o20
ブライオンが重い。
勇者の剣が元・魔王を責め立てるように手から零れ落ちる。
「くっ、ぐっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……っ!」
かって犯してしまった罪。
その罪を悔いているからこそ、カエルに殺し合うのを止めてくれという国を救うなと同義のことを訴え続けられるか分からなくなってしまった。
これまであれほど軽く吐き続けていた言葉のカエルにとっての重さを知り、ストレイボウは天へと絶叫する。
天は応えを返してはくれなかった。
ぽつぽつと雨を返すのみだった。
当たり前だ。
答えはストレイボウ自身の手で見つけ出せねばならないのだから。
▽
ストレイボウは気付かない。
自らの罪とカエルのことに気を取られるあまり、マリアベルが自身以上に絶望を湛えた目でストレイボウを見つめていることに。
マリアベルは気付いてしまった。
どう足掻いてもストレイボウに待ち受けているのは悲劇だけだということに。
729
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:41:49 ID:SZkbz1o20
きっかけは些細なことだった。
カエルが去り際に発した言葉、そのある部分がどうしても頭に引っかかったのだ。
愛した国を“なかった事にされる”? どういうことじゃ?
これが単に愛した国を護るため、というのであれば疑問を抱きはしなかったであろう。
カエルは騎士だ。
祖国に危機が迫っているというのなら魔王オディオに縋りついてでも救おうというのは許容はできないが忠義の形としては納得出来……否。
マリアベルは思い直す。
そうだとしても変じゃなと。
ストレイボウ曰くカエルは最初はオディオを倒す気でいた。
もしカエルの祖国が危機に瀕していたとして、それはこの島に呼び出される前のことだ。
であるなら初めから殺し合いにはのっているべきだ。
願いを叶えてくれるオディオを倒そうとは思いもしないだろう。
それともオディオを倒すというのは演技じゃったか?
違う。
マリアベルは即座に否定する。
カエルはそういった嘘をつけるほど器用な男には見えない。
カエルの危険性を見抜いてたシュウには悪いが、少なくともあの時点では殺し合いにはのっていなかったと断定できる。
転じてそれは次にカエルと会い襲われるまでの間に彼の心境を変える何かがあったということ。
その何かとは?
ストレイボウの話では少なくとも彼の元をカエルが去った時点では殺し合いにはのっていなかったらしい。
その時ストレイボウが襲われていないのが何よりの証拠だろう。
つまりはその何かが起きたのは彼らが別れた更に後。
その条件に当てはまるものとして真っ先に思い浮かぶのはただ一つ。
放送だ。
カエルに初めて襲われた時、カエルが一人だったことからも現在組んでいる魔王に唆された線は薄い。
十中八九放送で誰か、国を護るというからには例えば王族が死んだのだろう。
名簿を確認した時のカエルの反応も護るべき王の名がそこにあったというのなら頷ける。
頷ける、が、恐らくはそれは正解の半分程度でしかない。
730
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:47:38 ID:SZkbz1o20
けれども。
まだましだ。
解決策がどれだけ気に食わないものであっても存在しているだけまだましだ。
カエルには、本人がどれだけ自分を許せなくなっても救いがある。
ストレイボウには、それがない。
――のう、ストレイボウ。わらわはこの推測をお主に伝えるべきじゃろうか?
歴史に起きた綻びをそのままにしておけば、過去の改変によりカエルは近いうちに消滅する。
“なかったことにされる国”に生まれたカエルは“なかったことにされる人間”として確定してしまう。
説得が成功した時、つまりはカエルが歴史の修正を断念した時。
それはストレイボウが自らの意思で友の存在を否定してしまうということになるのだ。
「笑えない、全くもって笑えない話ではないか。本当にカエル達を無視できればいいのじゃがのう……」
それが何の解決にもならないと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
叫び続けるストレイボウに釣られてマリアベルも夜空を見上げる。
零時が近づいたことで雨は小雨になり、ようやっとふりやもうとしているも、マリアベルの心は晴れそうになかった。
【C-7(D-7との境界付近) 一日目 真夜中】
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)※ただし魔力はソウルセイバー分回復済み、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFⅥ、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:ストレイボウに残酷な推測を話すか否か。
2:ひとまずはイスラ達との合流。後、キルスレスの事も含め、魔王達を追撃?
3:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
4:首輪の解除、ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
6:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。 レッドパワーはすべて習得しています。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
731
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:49:41 ID:SZkbz1o20
すみません、729と730の間に欠落があります。
次の732を本投下時は間に挟んでください
732
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:50:15 ID:SZkbz1o20
マリアベルは思い出す。
名簿を見てひどく動揺していたカエルの表情を。
あの時は恋人の名前だとかトンチンカンなことを考えていたが、数時間前の自分を鏡で写してみてみろといってやりたい。
自分だって名簿を手にした時、何故、どうしてと訝しんだではないか。
亡き友の名を、“数百年も昔に死んだはずの友”の名を目にして慌てたではないか。
そう、数百年も前の。
カチリ、カチリとピースが当てはまっていく音がする。
カエルの言葉、名簿を見た時の彼の動揺、時を越えて存在する友人。
それらの要因を合わせてマリアベルは一つの推測を導き出す。
カエルが叶えたい願いとは即ち
“この殺し合いに巻き込まれて死んでしまったカエルの仲間であった遥か昔の王族、或いは救国の英雄を蘇らせること”
これなら全ての辻褄が合う。
過去の人物を仲間と呼ぶのは普通の人間には矛盾にしているように思われるが、考察主は不死の王。
マリアベルは自分同様カエルもまた不死者なのではと考えたのだ。
もちろん真実は違う。
カエルが過去の人間を仲間だと言ったのはとっさのでまかせではない事実であるが、彼らが時間を超えて旅をしていたからだ。
しかしここではそんな些細な勘違いは重要ではない。
大切なのはカエルが蘇らせようとしているのがマリアベルで言うところのアナスタシアだということだ。
例えば、例えば、だ。
あのアナスタシアがロードブレイザーを封印する前の時間から呼び出されており、しかも死んだとすれば?
言うに及ばず。
ファルガイアの歴史は変わる。
封印されることのなかったロードブレイザーにあらゆる命は蹂躙され、星は滅び、アシュレー達は生まれてこない。
これが現在に迫っている驚異なら良かった。
ブラッド、カノン、リルカを欠いたといえどマリアベルはアシュレーやティム、多くの仲間達と共に危機を乗り越えようと諦めることなく戦っただろう。
しかし既に過ぎ去った過去の危機が相手ではそうはいかない。
いかなノーブルレッドといえど干渉すること能わず、過去の改変より滅びを待つしかない。
カエルが直面している問題とはそういうものなのだ。
時も生死も超越できるかもしれないオディオの手を借りねば解決できない問題なのだ。
733
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:51:33 ID:SZkbz1o20
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
また、遺体付近に以下のものが落ちています。
・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
・不明支給品0〜1個、基本支給品一式
▽
734
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:52:17 ID:SZkbz1o20
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
また、遺体付近に以下のものが落ちています。
・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
・不明支給品0〜1個、基本支給品一式
▽
735
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:52:51 ID:SZkbz1o20
「魔王が警戒したわけだな……」
遺跡ダンジョン下層、地下五十階玉座の間。
ランドルフの転移によりこの地に踏み入った瞬間、カエルは眉を潜めた。
手にしていたキルスレスが独りでに震えだしたのだ。
まるで地下の何かに反応するかのように。
鮮血のように紅い刀身を更に鮮やかに輝かせ、鳴動すること収まらない。
「魔王が言う何かとはこの魔剣に関するものなのか? ……或いは」
魔剣に認められていないカエルだが、たった一つだけキルスレスについて分かっていることがあった。
「魔剣が反応せざるを得ないような巨大な思念が渦巻いているか」
それはこの剣もまた人の精神や意思に影響されるものだということ。
仮にも聖剣グランドリオンの担い手。
聖剣との共通点であるその性質を見抜くことは容易かった。
「む?」
と手にしていた剣から伸びた光がカエルを包むや否や、身体の中で魔力の滾りが再活性化する。
どうやらマリアベルにかけられていた能力封印が解けたらしい。
どころかケアルガを使ってもいないのに徐々に、本当に徐々にだが傷が癒えていく。
原因がこの心臓が脈打つように鼓動する真紅の光にあることは間違いなかった。
「そういうことか」
カエルは得心がいき、魔剣を一度大きく振るう。
予想通りストレイボウ達との戦闘では起きなかった衝撃波が発生し、巨大な玉座を吹き飛ばした。
どうやら地下の何かの影響でこの地では限定的ながらもカエルにも魔剣の力を引き出すことができるらしい。
もっとも同系統の武器を使い慣れてたカエルだからこそ魔剣の膨大な力を制御しきれたのだが。
「どうやら俺にはつくづくこの剣がお似合いらしい」
自嘲しつつも魔王を地に降ろし、回復呪文をかけようとしてふとそれが目に入った。
階段だ。
キルスレスで吹き飛ばした玉座の下に隠されていたのか、はたまたその衝撃がスイッチとなり隠し階段が姿を現したのか。
どちらかは分からないがついさっきまではなかった階段が確かにそこにはあった。
カエルは魔王の治療を中断。
一人魔剣を手に階段を下り、地の底へと降りていく。
その終着点にそれは鎮座していた。
736
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:53:40 ID:SZkbz1o20
「これは……虹色の貝殻? いや貝じゃねえ、石だ」
巨大な、あまりにも巨大な虹色に輝く石。
カエルは知る由もないがこれこそが感応石。
殺し合いの参加者を首輪の楔から解き放つ為に破壊を必須とされているそれ。
加えて、カエルの手には同じく首輪解除の鍵となる紅の暴君。
マリアベルの願いは届かない。
決戦は避け得なかった。
【F-7 遺跡ダンジョン最下層 一日目 真夜中】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(やや大)、疲労(大)、自動微回復中
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
※キルスレスの能力を限定的ながら使用可能となりました。
開放されたのは剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚のみです。
遺跡ダンジョン最下層からある程度離れると限定覚醒は解けてしまいます。
【F-7 遺跡ダンジョン地下五十階 一日目 真夜中】
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、瀕死、気絶
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。
※F-7 遺跡ダンジョン最下層に巨大な感応石が設置されています。
尚、オディオの手で感応石に何らかの仕掛けがされている可能性や、他にも何か設置されている可能性もあります
737
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:54:57 ID:SZkbz1o20
投下終了
間の欠落といい、ストレイボウの状態表重複といい、ミスが多くて申し訳ありません
できればスレ立て&代理投下時に直しておいていただければありがたいです
738
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/14(土) 17:42:48 ID:wAzuxsNM0
スレ立ての人及び代理投下してくれた方、ありがとうございました
739
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/10/06(水) 18:45:05 ID:.zh9cZb60
闇からの呼び声の冒頭及び最後の部分、加えて指摘されたました誤字などの修正完了しました
740
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:17:13 ID:NGITva2Q0
こちらに続きを投下します
741
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:19:08 ID:NGITva2Q0
◆
「――――ほう?」
一方、湧き上がる破壊衝動を万物を溶かす焔へと変えて吐き出したロードブレイザーは、さしたる疲労もなく為した破壊の痕を見る。
島を東に貫いた粒子加速砲は、地表面に存在する全ての形あるモノを灼き払っていった。
焔の災厄と呼ばれていた全盛期からは程遠いが、それでも人を屠るには十分すぎる力であった。
だと言うのに。
「さすがは我が宿敵……いいぞ、そうでなくてはなッ!」
ロードブレイザーの魔眼は、溶けた大地に這い蹲る――しかし五体満足の英雄の姿を見出した。
その手には殊勝にも蒼い魔剣が握り締められている。
身体を灼かれながらもたった一つの希望を守り通すことには成功していたらしい。
笑声を漏らし、ロードブレイザーはゆっくりと彼に近づいていく。
飛ぶのではなく歩く。絶望を刻むように、砂を蹴立てて。
「く……う、うう……」
「正直、驚いたぞ。その小賢しい剣ごと消し飛ばしてやるつもりだったが、まさか耐え抜くとはな」
どうやって難を逃れたか、見当は付く。
直撃の瞬間、アシュレーは連続して氷結魔法を発動していた。
もちろん蒼剣の補助なしに発動した魔法では粒子加速砲を防ぐ盾には成り得ない。
アシュレーの狙いは空中に足場を作ること。それらを蹴り跳び、光輪の噴射と合わせて焔の軌跡から逃げ延びたのだ。
だが、それでも無傷ということは有り得なかったようだ。
身を包んでいた聖衣は半ばほど焼け落ち、無残な傷痕を夜気に晒している。
呼吸は弱々しく、指先は痙攣を繰り返す。
脅威が間近に迫っても立ち上がれもしない。
742
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:20:28 ID:NGITva2Q0
死線の底でかろうじて掴み取った果てしなき蒼は魔神によって蹴り飛ばされ、アシュレーの手を離れていく。
決着の瞬間――因縁の終わりがやってきたことを、ロードブレイザーは感じていた。
「思えば長かったな。剣の聖女から続く我らの戦いも……ここが終局だ。物悲しさすら感じるよ、アシュレー」
ナイトフェンサーを顕現させる。
油断はしない。なんとなれば、アシュレー・ウィンチェスターという男の真価は追い詰められたときこそ爆発するのだ。
全力を以て屠ってこそ、かつて自身を育てたこの男の恩に報いるというもの。
「心臓を抉り出し、喰らってやろう。私の血肉となるがいい……ルカ・ブライトと同じように」
「ま……だ、だ……ッ!」
「剣もなく、立ち上がることもできん。お前はよくやったよ、アシュレー」
いかに剣の英雄だとて、首を落とさば生きてはいられまい。
「さよなら、アシュレー・ウィンチェスター」
ナイトフェンサーが閃き、アシュレーの首を一刀の下に斬り落とす。
落ちて消えるが、儚き人の定めである。
「…………は」
重い肉塊が砂を散らす。
ロードブレイザーは傲然とソレを見下ろしていた。
743
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:23:31 ID:NGITva2Q0
「なん……だと……?」
肩から斬り落とされた、己自身の片腕を。
「が……がああああッ! ば、かな……ッ!?」
ロードブレイザーの前に、一振りの剣がある。
果てしなき蒼、ではない。
遥か南の地にあるはずの、いるはずの、
「ルシ、エド……?」
ガーディアンブレード・魔剣ルシエドが、純然たる敵意と共にロードブレイザーと相対していた。
「貴様……欲望の守護獣! 何故動ける!? 宿主はここにいたというのに!」
ルシエドはずっとアシュレーの裡にいた。だからこそ彼の呼びかけに応え剣となって顕現した。
だが、魔王の影響下にあるこの島では、一度剣として顕現させたのならそれはアシュレーの内的宇宙とは切り離された状態ということだ。
手元になければ呼び戻すことはできない。
またルシエドは唯一実体を保てる守護獣であるが、欲望を糧にするがゆえに他者の欲望が無ければ自ら動くことはできない。
ルシエドを戦力として数えたいのならばアシュレーがその場に行き命じなければならないはずだった。
だからこそ脅威として認識しつつも、この戦いの中でさほど気に留めていなかったのだ。
影狼は黙して語らない。
ただ、己を握る主の命を待つのみ。
そして、ロードブレイザーにはわからずとも。
アシュレー・ウィンチェスターにはわかる。わかっている。
ルシエドがここに来た理由を。
ルシエドがここに来れた理由を。
今、ルシエドが己に何を望んでいるのかも。
ハッキリと、わかっている。
744
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:28:11 ID:NGITva2Q0
「ああ……そう、だ……」
そして……、立ち上がる。
ロードブレイザーが最も恐れた男が、
人の身でありながら魔神へと食い下がる男が、
もはや死泉に腰まで浸かっている、放っておけば遠からず死に至る、そんな状態だというのに、
アシュレー・ウィンチェスターは、何度だって立ち上がる。
「どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!」
アシュレーは相棒たる剣を引き抜いた。
その掌には、蒼く輝く絆の証。
「いっしょに……戦っているんだッ……!」
ロードブレイザーが最も嫌う命の輝き、繋がり拡がる想いの糸。
その糸を手繰った先に、きっと、いてくれるのだ。
「そうだろ――ゴゴッ!!」
『当然だ』
応えた声は、物真似師のもの。
アシュレーの握り締める感応石が、遠く離れた友の心を届けてくれる。
745
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:30:21 ID:NGITva2Q0
◆
幾重もの衣で素顔を隠すその人物は、あるいは泣いていたのかもしれない。
今……友が逝った。
はたして彼は、辿り着きたい場所へ、辿り着けたのだろうか。
安らかな顔で、眠るようにトッシュは逝った。
ゴゴはその男の胸元へ、携えていた剣をそっと置いた。
トッシュは剣士だ。ならば、死出の道行にも剣が無ければ締まらないというもの。もう、ゴゴにしてやれることはこれくらいだ。
視線を転じ、昏倒したちょこを見やる。
トッシュの元々の仲間だと言う少女は、トッシュの死を知れば泣くのだろうか。
涙を知らないゴゴはどこかそれを羨ましいとさえ感じていた。
遠く離れた地で、アシュレーが戦っている。しかしゴゴに成す術は無い。
無論今すぐにでも駆けつけ共に戦いたいという想いはある。
だがちょこを置いて行く訳にはいかないし、身体の疲労も無視できない。
なにより、行ったところで何ができると言うのか。
英雄と魔神の戦いに、物真似師が介入する余地はどこにもない。
それを知っているから――握り締めた拳から血が滴るほどに痛感しているからこそ、ゴゴは動かない。
友の勝利を信じるしかない歯がゆさを噛み締めながらも、動けない。
「アシュレー……」
心をリンクさせる石を胸に、ゴゴは祈る。
石を通じてアシュレーの苦境は伝わってくる。
痛み、苦しみ、それらを圧する勝利への意思。
だが敵の力は強大だ。直に対面していなくてもわかる。
アシュレーは今、破壊の力そのものと戦っている。
時折り空を照らすあの光はどちらが放ったものか。
紅蓮が空を焦がすたびに友の無事を願い、蒼光が煌くたびに安堵する、その繰り返し。
ロードブレイザー、かの魔神の力は三闘神にすら匹敵するのではないか。
そんな化け物へ、友はたった一人で挑んでいる。
746
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:32:39 ID:NGITva2Q0
「……無力だ、俺は」
呟く言葉にも力はない。
そのときゴゴははっと顔を上げた。
アシュレーのいる場所からまっすぐ東へ、太陽と見紛うほどの朱金の灼熱が駆け抜けていくのが見える。
同時、感応石から伝わるアシュレーの石がひどく弱まった。
「アシュレー……!」
決着が着いたのかもしれない。
だが、あの攻撃を放ったのは十中八九ロードブレイザーだ。
あんなものを受けたのなら、いかに聖剣の加護があろうとも……。
「……助けなきゃ」
無駄と知りつつそれでもなお救援へ向かうか。
半ば本気でそれを考えていたゴゴの耳を、涼やかな声がくすぐった。
振り向けば、ちょこが目覚め立ち上がろうともがいている。
が、やはり連戦のダメージは大きいらしく生まれたての小鹿のように何度も転ぶ。そしてそのたびに立ち上がろうとする。
「ちょこ?」
「助けるの……おにーさんを……助けるの!」
痛みも苦しみも、何物も彼女を阻めない。
その瞳の輝きこそ、魔を討ち闇を払う力――希望であると、ゴゴは知っている。
だからこそ――ゴゴは、ちょこを気遣いはしなかった。
戦う意思がある。
守りたいと思う人がいる。
ならば、ゴゴがするべきことは一つッ!
「ちょこ。俺に力を貸してくれ。あいつを……友を、助けたいんだ」
物真似師が差し伸べた手を……、少女は、
「うんッ!」
強く、強く握り返した。
747
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:34:34 ID:NGITva2Q0
「あっ……狼さん?」
「ん?」
ゴゴの手を借りて立ち上がったちょこが、ゴゴの背後を見て驚きの声を上げた。
そこに、数秒前は確かにいなかった影がある。
毛並みも鮮やかな黒い狼。
だが野生のそれと違い、瞳には深い知性を湛えている。
「この子……知ってるの。おにーさんといっしょにいた」
「アシュレーと?」
狼はゴゴ達に構うことなく彼方の方角を睨み唸っている。
まるで用事が済むまで待っているように命じられた犬のようだ。
その視線を追って気付く。
狼が見ているのは、アシュレーがいると思しき方角であると。
「……お前は、アシュレーを待っているのか?」
疑念に駆られゴゴがそう問いかける。
すると狼はついと視線を巡らせる。首肯はしなかったが、それをゴゴは肯定と取った。
何者であろうと、目指す先が同じであるならば。
ゴゴが選ぶ言葉はやはりこれだ。
「手を貸してくれ」
音もなく現れた狼が途方もない力を秘めているのは見てわかる。
だが決して足を踏み出そうとはしない。
あるいは魔王に干渉されているのか、動けない理由でもあるのか。
「お願い、狼さん! ちょこ、おにーさんをおうちに帰してあげたいの!」
ちょこが狼の首を掴み、ガクガクと揺らす。
だがその言葉に嘘の成分は一欠片もない。
「俺はこれ以上友を失いたくはない。だから、頼む」
ゴゴは、かつて感じたことがないほどの渇望を吐き出す。
トッシュを目前で失った衝撃は、自分で思っている以上にゴゴという人間の根幹に影響を与えているらしい。
748
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:36:26 ID:NGITva2Q0
――幼く、それがゆえに透き通った心地よき欲望……いいだろう。俺を、アシュレーの元へ連れて行け!
突然頭に響いた声に、ちょこと二人して辺りを見回す。
だが当然誰もいない。
「あっ!」
いや、変化はあった。
狼が消えて、代わりに一振りの剣が突き立っている。
アシュレーがトッシュへ託した、あの約束の剣だ。
「そうか、お前がアシュレーの言っていた……いいだろう、やってみせるさ。見ていろ、トッシュ……ッ!」
連れて行けと言っている。
記憶の中で、あの赤毛の剣士が友を救えと吠え立てているッ!
魔狼ルシエドが剣、魔剣ルシエドを引き抜いた。
その柄から伝わる熱はトッシュが残したものと、今のゴゴなら信じられる。
刃から伝わる力は強大だ。これならなるほどあの魔神にすら届き得るだろう。
「行こう、おに……おじ? あれ? ちょこ、あなたのことなんて呼べばいいの?」
「む……」
ちょこに問われ、ゴゴは考える。
ゴゴの種族性別個人情報はトップシークレットだ。
それに、自分で応えるのでは芸がない。
「あいつ……シャドウを何と呼んでいたんだ?」
「えっと、おじさん、って」
「なら、俺もそれでいい」
「ゴゴおじさん……わかったのッ!」
ちょこは力いっぱい返事をしてさあ駆け出そうとし、ゴゴはそれを制止した。
走って行ったのでは間に合わない。
ちょこが飛べるのだとしてもまだ無理だ。
そもそも満身創痍の二人が行ったところで何ができるわけもなく。
だから。
ゴゴとちょこがするべきは、アシュレーの下へ馳せ参じることではない。
749
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:47:18 ID:NGITva2Q0
「ちょこ……俺を、空へ!」
大きく助走を取り、ゴゴは猛然と走り出す。
その手にしっかと友から託された魔剣を握り締めて。
「わかったの! 行くよ、ゴゴおじさんッ!」
時間が無いのは百も承知。
だからどうして、などとは聞かない。
ちょこはただ言われた通りに、ゴゴの望む通りに力を振り絞る。
魔力を風へと変換、凝縮、そして解放。
「――――飛んでけぇぇぇぇぇぇえええええええッ!」
ちょこの足元から風が――嵐が巻き起こる。
ちょこの視線の先、ゴゴが跳んだ。
ジャンプシューズで増幅された跳躍を――ゴゴは知らない。その靴は、アシュレーの友の物――ちょこの魔法が下から一気に押し上げる。
天へ昇る塔――風の階段は、物真似師を遥か高みへと連れて行ってくれる。
「……見えたッ!」
遮るもののない空の中で、ゴゴは、ゴゴの持つ感応石は、アシュレーの心の在り処を寸分違わず感じ取った。
準備は整った。
目的地もすぐそこだ。
未来を斬り拓く力は今、この手の中にある。
後は、そう――物真似を、するだけだ!
750
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:51:03 ID:NGITva2Q0
「シィィィィィイイイイイイイ……」
あいつのように――雄叫びを上げ、
震える喉が、一層の気合を呼び起こす。
あいつのように――身体を引き絞り、
ぎしぎしと骨が鳴り、手にした刃に極限の遠心力を注ぎ込む。
あいつのように――イメージを練り上げて、
八竜だろうと闘神だろうと貫き通す無敵の投法、その始終をずっと傍で見てきた。
ゆえに、この一投こそは必殺必中ッ!
地平線の彼方にだって届くのだと確信しているッ!
――――――――――――――今だ、放て!
「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
幻聴かもしれない。だがどうでもいい。
聞こえてきた声に従い、ゴゴは渾身の物真似を完遂した。
人体の限界を超えた跳躍。
雲すら吹き散らす嵐。
鍛え抜かれた技術。
三位一体となり打ち出された砲弾――魔剣ルシエドは。
風を超え、音を超え、光を超えて。
寸分の狂い無く。
魔神の右腕を斬り落とすことに、成功した。
751
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:55:00 ID:NGITva2Q0
落ちゆくゴゴは懐から感応石を取り出した。
か細い、だがハッキリと高鳴る友の鼓動が伝わってくる。
『どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!』
結果がどうなったかなど目を閉じていてもわかる。
カノンとシャドウの力を借りて、ちょこが支え、ゴゴが送り出したトッシュの剣なのだ。
アシュレーに届かなかったはずが無い。
『いっしょに……戦っているんだッ……!』
友の声に力が戻る。
そうとも、共に戦っているさ。
伝わっただろう? 俺達の想いが。
『そうだろ……ゴゴッ!!』
「当然だ」
ゴゴは腕を組んで悠然と返答する。
近づいてくる大地の上に、両手をぶんぶんと振るちょこの姿が見て取れる。
物真似師は微笑み、そして、
――あいつを助けてやってくれ、友よ。
ルシエドと共に往ったもう一人の大切な仲間へと、願いを込めた。
752
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:57:04 ID:NGITva2Q0
◆
「ニンゲン風情が……どこまで図に乗るというのだ……ッ!」
「その人間が、繋ぎ束ねたこの力にッ! お前は今度も、何度でも敗れ去るんだッ!!」
右――清廉な光満ちる果てしなき蒼。
左――欲望を糧に尽きぬ力与える魔剣ルシエド。
剣の双翼を広げるは、立ち上がった蒼き剣の英雄。
「おおおおッ……おおおおおあああああああああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」
滾る想いを双剣に込め、アシュレーは飛翔する。
光輪はいまやドラゴンの推進器にすら匹敵すすらスター。アシュレーの求めに従い光の速度を叩き出す。
その力を最も強く炸裂させられる方法が、アシュレーの脳裏に浮かぶ。
描くは必勝への軌跡――、
「――――アークインパルスだッ!!」
一閃、振り下ろした果てしなき蒼が空を裂く。
二閃、薙ぎ払った魔剣ルシエドが大地を揺らす。
二刀が示す破邪の十字。
閃光の軌跡が交わるところ――すなわちロードブレイザーの存在点ッ!
「ぐ……あ、あああああああッ!!」
生み出した炎剣は一瞬で砕かれた。
翅の守りは紙ほどの抵抗も無く斬り裂かれた。
焔の壁は展開と同時に吹き散らされた。
「まだ……まだだッ、アシュレェェェェッッ!!」
それでもなお、魔神は膝を屈さない。
再生が完了したばかりの腕を突き出して、二度と再生ができないことすら覚悟して焔を凝縮させ、剣の侵攻を食い止めた。
753
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:01:39 ID:NGITva2Q0
ナイトフェンサーでは砕かれる。
ガンブレイズでは気休めにもならない。
バニシングバスターでは押し切られるのが関の山。
ファイナルバースト、ヴァーミリオンディザスター、ネガティブフレア――何もかも足りない!
ならば、
ならばこのロードブレイザーの持てる最大最高最強の火力で以て迎え撃つのみ!
「ファイナル……ッ!」
全身の装甲を開閉――否、内側からこじ開ける。
十、二十――百、二百――千の砲塔。
「……ヴァーミリオン……ッッ!!」
そこに自身の存在すらも揺らぐほどの力を充填する。
『この後』など考えていられない。
今この瞬間こそが、ロードブレイザーという存在の滅亡の危機なのだから。
アシュレーもまた全霊を込めた一撃を放っている。
ならばそれを凌いだときこそが、このロードブレイザーの勝利の瞬間に他ならないッ!
だから、
だからこその、
真っ向勝負ッ!
「…………フレアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!」
一兆度にすら達しようかという、焔と形容するのも理不尽な力の奔流が放たれた。
世界を七度滅ぼすに足る、破壊神の吐息。
迎え撃つアシュレーの二刀が再度の、最期の輝きを見せる。
搾り出すのは剣の燃料である魔力、欲望。そして担い手であるアシュレーの生命そのもの。
手を伸ばせば届く距離で、破邪の双剣と破滅の咆哮が激突する。
ロードブレイザーの渾身の砲撃は、アシュレーの振るう二刀に正面からぶつかってきた。
754
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:03:32 ID:NGITva2Q0
「……ロードブレイザー」
その、万物を消滅せしめる絶対破壊圏の只中で。
「確かにお前の言う通り、たった一人の悪意が世界を滅ぼすことがあるのかもしれない」
剣の英雄はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「でも、それを黙って見ているほど、僕らは、世界は弱くはないよ」
優しささえ感じさせる、ひどく穏やかな声音で。
「世界の破滅を止める力はいつだってそこにある。生きている、生きようとする、一つ一つの命の中に……」
焔を斬り裂き続ける果てしなき蒼に、亀裂が走った。
「……きっと、僕らは勝つよ。何度でも……」
魔剣ルシエドが、半ばから折れ飛んだ。
「だから……」
ここまで付き合ってくれた魔剣から手を離し、蒼剣の柄へと両手を添えて。
「だから」
押し込まれた蒼い魔剣は、魔神の核へと到達した。
「だから僕らは、お前を倒して明日へ行くんだ……!」
魔神の核を貫くと同時、果てしなき蒼が砕け散った。
背の光輪が閉じ、蒼き剣の勇者はただの人間へと回帰する。
755
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:04:39 ID:NGITva2Q0
アシュレーは倒れ伏す。
その髪は純白ではない、短く刈り込まれた彼本来の青い髪。
ロードブレイザーは立ち尽くす。
壊死した砲塔がぼろぼろと崩れ落ち、酷使した右腕が地に落ち瞬時に燃え尽きた。
立っているのはロードブレイザー。
すなわちそれは、
「私の……勝ちだ……アシュレー……ッ!」
勝者と敗者の、ありのままの姿だった。
「一歩……届かな……かった、な」
ゆらり、ロードブレイザーが残る左腕に焔をかき集めていく。
それは災厄と呼ばれた時代からすれば見る影も無く弱く儚い焔だが、英雄でも勇者でもない人間を跡形無く葬り去るには十二分の熱量だ。
それを見てもアシュレーは動かない、動けない。
もはや力を全て出し尽くし、一片の余力も残ってはいない。
「これで……」
振り上げた掌を――
「……貴様ぁ……!!」
だが、ロードブレイザーを押し留める影がある。
剣を折られ、胴体半ばから断ち割られた魔狼だ。
主の危機を察し、剣化を解いて喰らいついている。
「悪足掻きを……貴様の主はもう欲望を吐き出すことも無いのだぞッ!」
その、ロードブレイザーの言霊に……反応するように。
アシュレーは震える腕を懸命に伸ばす。
掴み取る……何を?
自分でもわからない。果てしなき蒼は砕かれ、ルシエドもまた傷ついた。
甚大な傷を受けたマディンは遠からず消え去るだろう。
ならばもう、本当に打つ手が無いではないか。
756
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:06:42 ID:NGITva2Q0
――諦めないで――
そのとき、ささやきが聞こえた。
知らない、でも懐かしい声……その声に力をもらって、アシュレーの指先が前進し、触れる。
ゴゴが託し、ルシエドが携えてきた最後の希望。
ティナ・ブランフォードが変化した、幻獣の魔石に。
――あなたの帰りを待っている人がいる――
待っている……僕を?
そうだ、僕は帰らなきゃ……。
子供が待ってる……男の子と女の子の双子が。
大切な人たちから名前をもらった、大切な宝物……。
そして、その子達を抱く、あの……。
「……マリ……ナ……!」
いつだってアシュレーの帰りを待ってくれていた。
優しく微笑んで、こう言ってくれた。
おかえりなさい、と。
そして僕はこう応えるんだ。
ただいま、マリナ。
でも……参ったな。
ここで眠ってしまったら、マリナにただいまと言えなくなってしまう。
それは困る。
世界の危機より、何よりも。
マリナのいるところこそ、アシュレーが求め、守りたいと願った……帰るべき場所なのだから。
757
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:10:12 ID:NGITva2Q0
ゆえに。
「だから……だからッ! こんなところで、死んでいる場合じゃないんだ……!」
立ち上がる。
何度だって立ち上がることができる。
日常に帰りたいというアシュレーの欲望は、決して果てることは無いのだから。
「……つくづく、お前には驚かされる……」
呆れたようなロードブレイザーの声。
もう眼が見えない。
もしかしたら、右腕も落ちているのかもしれない。感覚が無い。
「だが、もはや私に届く剣はない。諦めろ……穏やかに死なせてやることが、私からの手向けなのだ」
魔神が何か言っている。だが理解できない。耳に血が詰まっているからだろう。
ゆっくり……亀の歩みよりも遅く、アシュレーはその方向へと足を投げ出し続ける。
握り締めた魔石が温かな力をくれる。闇の中でも迷わずに歩く標となる。
「もはや言葉も解さんか……そんなお前は、見るに耐えん。燃え尽きるがいい」
攻撃が来る。ささやきに従い、掌中の石を魔神へと掲げた。
優しい光が壁となってアシュレーを守る。
殺到した焔は刹那に霧散し、彼の歩みを一瞬たりとも止められなかった。
「……待て、アシュレー。来るな……そこで止まれッ!」
続けて何度も解放される炎弾は、すべてティナの魔石が放つ光波によって防がれた。
アシュレーは知る由もないが、懐にあるマディンの魔石が娘の魔力に共鳴し、力を高めていた。
衝撃で尻餅をつく。だが、顔を砂で汚し、血を吐いてなお、アシュレーは前進を止めない。
唯一感覚の残る左腕を地に突き立て、殴りつける。
無様だろうと何だろうと構いはしない。こうして立ち上がれるのなら。
「なぜ……なぜ死なない! なぜ立ち上がる!? どこからそんな力が沸き上がってくるというのだ!?」
わかりきったことを聞くな、と唇を歪めた。
言ったのはお前だ。僕らの絆とルカの妄執と、どちらが強いのかって。
お前が今、僕を恐れているのなら……それは、つまり。
「僕らの、勝ちって……いうこと、だろう」
758
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:14:53 ID:NGITva2Q0
そして、全ての攻撃を封じられたロードブレイザーの前に、アシュレーは辿り着いた。
最後に残った唯一つの武器、バヨネットをその手に携えた、ただの人間が。
バヨネットの魔道ユニットを開き、ティナの魔石をセットする。
あの爬虫類(?)、さすがは天才と自称するだけのことはある。
撃墜王謹製のバヨネットには、持ち主がこんな状態になっているのに不調のふの字も見出せない。
今だけは素直に感謝しようと想った。
魔石から供給される魔力が銃身を、アシュレーの体内を駆け巡る。
これなら放てる――あの技を。
「さよなら、ロードブレイザー」
「止めろッ……止めてくれ、アシュレーッ!!」
ロードブレイザーの核、そこには果てしなき蒼が穿った亀裂がある。
今のアシュレーにはその空隙が、仲間達――アティ、ティナ、トッシュ、ゴゴ、ちょこ、そしてシャドウが開いてくれた、未来への扉に見える。
バヨネットの剣先を、僅かな隙間に潜り込ませた。
――フルフラット・アルテマウェポン。
言葉にならない小さな呟き。
弾倉内に魔石から伝えられた究極魔法、アルテマを装填……完了。
ゼロ距離。全弾、発射――炸裂。
爆発は少量――その大半を、ロードブレイザーの内的宇宙へと送り込んのだから。
概念存在であるロードブレイザーも傷つけ得る、たった一つの魔法。
その暴虐は、不死身の魔神をして、その存在意味を根こそぎ塗り潰していく。
「がああああ…………ぎっぎぎぐぐぐ、がが……がああああ、あああああああああ……ッッッ!
消え……る……私、が……燃えて……アシュレ……滅びると……認めん……英雄……貴様が……アシュレェェッ……!」
やがてロードブレイザーの核が砕け散り、後を追うように形を保っていた身体も灰に――否、炎に変わり融けていく。
バヨネットを引き抜いたアシュレーは、これでようやく終わったのだと、静寂を取り戻した夜空を見上げて。
759
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:17:23 ID:NGITva2Q0
「アシュレー・ウィンチェスタアアアアァァァァッ! 貴様だけはぁ――――――――――――――ッ!!!」
その、彼の安堵した隙を、消え逝く魔神は見逃さなかった。
炎と化していく腕を懸命に伸ばし、突き出された鋭利な爪は――アシュレーの心臓を、真っ直ぐに貫いた。
直後、ロードブレイザーが、完全に……消滅する。
それを見送ったアシュレーはゆっくりと砂漠に腰を下ろし、仰向けになって星を見る。
不思議と痛みは無い。いや――心臓を砕かれる前に、既に死んでいたのだろう。
だからひどく穏やかな気持ちで、アシュレーはその結末を受け入れていた。
「ああ……きれいだ、な……」
感応石が何事かがなりたてているが、何を言っているのかがもう理解できない。
そして思い出したのは、かつてこの感応石をプレゼントしたときのことだ。
あのときもそう、笑って彼女は――。
「……ごめん、マリナ……もう、ただいまって……言え……な……」
星へ向かって伸ばした指は、何を掴むこともない。
魔神を討ち果たした人間の命の灯は、この瞬間に、消え失せた。
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
【残り17人】
760
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:18:43 ID:NGITva2Q0
その決着が着いた頃。
ゴゴもまた、行動を開始していた。
トッシュと別れ、力を出し尽くし立っていることすら困難になったちょこを背負い、ゆっくりと砂漠を進む。
「おにーさん、大丈夫かなぁ……?」
「心配はいらん。あいつは勝つさ」
正直に言えば、ゴゴも疲労の限界にあった。
加えてアシュレーの無事を確かめることばかり考えていたため、ちょこの物真似をすることすら無意識のうちに忘れてしまっていた。
「うん!ちょこ、おじさんを信じるの!」
元気よくちょこは言うが、直後盛大に響いた空腹を示す腹の音に小さく赤面した。
ちょこを背負ったまま、ゴゴは片手で器用にバッグを探り目当てのものを取り出し渡す。
「これを食べるといい。アシュレーが作ったものだ」
「わぁ、おいしそうなの!」
渡された焼きそばパンを、ちょこは猛然と胃に収めていく。
ゴゴもまた一つ、かじる。
優しい味が広がる。疲れた身体に少しだけ力が戻ってきた。
これを前に食べたときは、隣にトッシュがいた。今はもういない。
それを寂しいとは思う。だが今この瞬間は、背中にいるちょこの軽い重さが忘れさせてくれる。
「う〜、もっと食べたいの……」
ちょこは三つの焼きそばパンをぺろりと平らげた。
材料さえあればゴゴが作ってやることもできる。アシュレーの調理の物真似をすればいい。
(しかし……それは何か、違う気がする)
この焼きそばパンはアシュレーが作ったからこの温かさがあるのだろう。
同じ材料、同じ作り方、同じ味であっても、決してアシュレーが作るものと同一ではないのだ。
「また、あいつに作ってもらえばいい」
「うん! ちょこ、おてつだいするの!」
ちょこは微塵もアシュレーの死を疑ってなどいない。
ずきり、と心が痛むのを感じる。
懐にある感応石は、少し前から何の反応も示さなくなっていた。
ゴゴはそれが何を意味するのかを努めて考えず、ひたすらに足を投げ出し続ける。
夜の砂漠に、砂を踏む音と少女の賑やかな声だけが響いていた。
761
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:19:32 ID:NGITva2Q0
【G-3 砂漠 一日目 深夜】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×3、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3、天罰の杖@DQ4
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:ちょことともにアシュレーを迎えにいく
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※トッシュの遺品はゴゴが回収しました。
※ルカの所持品は全て焼失しました
※トカの所持品はスカイアーマーの墜落、爆散に巻き込まれて灰になりました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2、加えてE-3〜A-3の施設、大地は焼失し、海で埋まってます
海はロードブレイザーがアシュレーと切り離された時点で鎮火しました
※F-3から東のラインの地表より上部全てが焼き払われました。
762
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:34:46 ID:uvoOcX2w0
本スレは規制されているのでこちらに投下します。
763
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:35:46 ID:uvoOcX2w0
ふらつきながらも立ち上がった少年。
それに気づいたジョウイが彼に駆け寄り、倒れそうになったその肩を慌てて支える。
疲弊したサイキッカーを労わって……というのも、ないわけではない。
だが、ジョウイのこの行動は、やはり打算に基づいたものだ。
アキラが今の今までユーリルに対して行っていたマインド・リーディングの結果を、彼は一刻も早く知りたかったのだ。
勇者だったはずの少年に何が起こったのか。
なぜ彼はアナスタシアを殺そうとしていたのか。
彼女はいかなる方法で、英雄をここまで破壊したのか。
それらのことは、同じく英雄にならんとしているジョウイにとっては知らなくてはならない真実だ。
だから彼は、アキラがユーリルの心の中で入手した情報を、彼が気絶してしまわないうちに聞き出そうとしていた。
しかし、アキラはジョウイに寄りかかることなく。
差し出されたその手を振りほどいて、歩き出す。
おぼつかない足取りで、静かに眠るアナスタアシアへと歩み寄った。
「アキラ……?」
「何か、書く、もん……ある……か?」
アキラの突然の要求に、ジョウイは怪訝な顔を見せるほかない。
同じく不思議そうな表情をしたイスラが、参加者全員に支給されていた筆記具を投げてよこす。
心身ともに限界を迎えようとしていたアキラは、受けとり損なって地面に転がってしまった筆記具をゆっくりと拾った。
そのまま眠る少女のもとへフラフラと進み、その頭の傍にかがみ込む。
彼女の整った顔にかかっている艶やかな青い髪をかき上げると、その顔に筆記具を走らせた。
震える手で何事かを書き込んだ後……。
「……へっ…………。ざまぁ、み、や……が、れ……」
アキラは息を切らしながら一度だけ満足げに笑い。
直後、意識を失って、静かに倒れた。
何事かと駆け寄ったジョウイとイスラが、相も変わらず寝息を立てているアナスタシアの顔を覗き込む。
「なんだ……これは……?」
ジョウイがわけが分からないと言った風で、片眉を上げる。
それは、呪いなのか。
あるいは何かの紋章なのであろうか。
それとも、自分たちの知らない、新たな概念か。
二人の少年は、少女に印された字がもつ意味を考えた。
だが、彼らが真実にたどり着くことは決してありえない。
まさか、少年たちは思いつきもしなかっただろう。
実はその文字の正体は、アキラがいた世界で流行っていた……ただの……。
764
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:37:32 ID:uvoOcX2w0
「……僕が知るわけないだろ?」
イスラが観念したように両手を掲げる。
気絶した少女の額には、汚い筆跡で『肉』の一文字が刻まれていた。
【C-7橋の近く 一日目 真夜中】
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
765
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:39:04 ID:uvoOcX2w0
◆ ◆ ◆
「こりゃまた……」
アキラがユーリルの心象世界に降り立った瞬間、彼の足裏にはジクジクと鈍い痛みが走る。
眉をしかめながら足元を見ると、立つべき地面がすべてイバラで作られていたではないか。
「勇者の道、か」
その声に、思わずため息が混ざる。
天を仰げば暗雲が支配する空。
どこか遠くからは雷鳴が響く。
遥か彼方には微かに光るぼやけた希望が。
そして、足元には……イバラの道。
この世界は、ユーリルの歩んできた『勇者』という生き様をそっくりそのまま反映しているのだろう。
すべてを犠牲にして戦ってきた、その人生の在り方を。
「そりゃあ投げ出したくもなっちまうよな」
この空間にたどり着く前、つまりユーリルの心にダイブした瞬間のこと。
アキラは、ある映像を覗き見てしまう。
それは、勇者だった少年の脳内で何度も何度も再生されてきた忌まわしい記憶だった。
うす暗い部屋で、妖艶に微笑むアナスタシア。
彼女のひざの上では、赤毛の少女がスヤスヤと眠っていた。
緩やかな曲線を描く唇が穏やかに語りだす、ファルガイアの神話。
その締めくくりに勇者に投げかけられた疑問。
そして生まれた、殺意。
ユーリルに降りかかった事の顛末を、アキラは断片的にだが知ることとなった。
「あの女の言いたいことは分かったよ」
サイキッカーは、トゲだらけの道の途中でうずくまる少年に語りかけた。
災難に見舞われた彼への、多少なりともの同情を感じながら。
「…………」
このいびつな世界の持ち主が、ゆっくりと顔をあげた。
焦点のあわないその瞳が、訪問者の少年を音もなく拒絶する。
しかし、アキラは臆することもなく言葉を続けた。
「確かに、お前はイケニエだ」
まるでトドメを刺すかのように冷たく、少年は聖女に同意する。
口元に含ませた笑みすらも、聖女のソレの完璧な再現だった。
弱りきっていたユーリルの目が吊り上がり、アキラに対する怒りを表す。
ガラスの割れるような音と共に、何度目かの遠雷が落ちた。
「やりたくもねぇ勇者なんかやらされてよ。
大事なモンも全部犠牲にして……。
他のやつらといやぁ、お前に縋りつくだけだ」
「だったら……ッ!」
かつてアナスタシアに突きつけられた地獄。
その再来に耐え切れなくなったユーリルが、怒りをこめて口を開く。
唇端から滴りおちた血液
が、大地のトゲをわずかに赤黒く染めた。
766
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:39:51 ID:uvoOcX2w0
「だったらどうすればよかったんだよッ!
英雄が生贄なら、あの女の言うとおりなら……」
「ふざけんじゃねぇよ」
堰を切ってあふれ出した感情のままに、ユーリルが矢継ぎ早に言葉を連ねる。
アキラは悲鳴のようなソレを遮って、「はッ」と馬鹿にしたように笑った。
憤怒のボルテージをさらに引き上げ、勇者は目を血走らせる。
しかし、彼を見下したアキラもまた、静かな怒りの火を心に灯していた。
「俺は『お前はイケニエだ』とは言ったさ。
だがな、『英雄はイケニエだ』とは一言も言ってねーぜ」
アキラの目がギラギラと鋭く尖る。
直後、彼を中心として、その足元に炎の渦が巻き起こった。
少年を守るように生まれ出でた火炎は、大地に広がる毒々しい植物を焼き払い、消し炭と化して空へと舞い上げる。
そのまますべてを焼き殺すと思われたが、炎はものの数秒で鎮火した。
結果として、アキラの立っている付近のイバラだけが燃え尽きる。
彼は、直径一メートルほどの焼け野原に立っていた。
「……?」
「わかんねーか?」
ユーリルには、アキラが何をしたのかも、何を言っているのすらも理解できない。
その頭上を巡り続ける疑問符をまったく解決できないでいる。
そんな彼に、サイキッカーは躊躇いもなく決定打を放った。
「お前は英雄じゃねぇっつったんだよ」
「…………ッ!」
直球で放たれた暴言に、ユーリルの怒髪が天を衝き。
言葉にならない咆哮が、巨大な稲妻をアキラに落とす。
しかし、落雷は少年を避けるように捻じ曲がり、イバラの一部を黒く焦がすだけ。
サイキッカーは涼しい顔で。
それでいて、その心は相も変わらず燃え盛っていた。
「ついでに言やぁ、あの女が言ってた『剣の聖女』とかいうのもな」
「なッ…………?」
何もかもを否定するような。
そのアキラの口ぶりに、ユーリルは呆気にとられる。
胸中を支配していたはずの憎悪すらも置き去りにして。
「ヒーローってのはな……そんなんじゃねえ」
アキラが遠い空で微かに輝く光を睨む。
思い返すのは、小さなころに見た特撮ヒーローのこと。
孤児院で子供たちと見た、名前も忘れたプロレスラーのこと。
湖に眠った機械仕掛けの女のこと。
そして父親を殺した男のこと。
「あいつらはな、ブッ壊れてんだよ……」
自身が憧れたものたちの生き様を脳裏に甦らせ、アキラはかつての高揚感を再燃せしめる。
彼らの暴力的ともとれる異常な信念に、少年の目は曇天を照らすほどに輝いた。
「使命も犠牲も人類も関係ない。
やつらはただテメーが救いたいモンを救えりゃ満足なのさ。
他のヤツらの態度を見て、身勝手だなんだと抜かしてるお前らは……ヒーローじゃねぇッ!
それは、ただのイケニエだ……!」
「…………」
アキラが見てきた英雄は、自分の命を顧みようとはしなかった。
他人の顔色を伺うものなど、ただの一人もいなかった。
感謝の一つも求めようとはしなかった。
彼らにとって、人を助けるということは『趣味』と呼べるレベルのものでしかないのかも知れない。
767
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:40:47 ID:uvoOcX2w0
「そんなになるほど辛かったなら、勇者なんてやめちまえばよかったんだ」
「じゃあ……」
我に返ったユーリルが、その心に怒りを呼び戻して立ち上がる。
アキラのあまりの理不尽な理屈に、意義を申し立てるために。
その姿は、勇者とは思えないほど頼りなく。
衰弱しきった人間とは到底思えないほど、凛々しかった。
「じゃあ、世界を見捨てて逃げ出せばよかったのかよッ!?」
喉を裂いてまで発したその叫びは、目の前の少年に向けてだけ発せられたものではない。
彼を勇者に祭り上げたものたち。
彼に頼るばかりで、何もしなかった人々。
そして彼を勇者から引きずりおろしたアナスタシア。
そのすべてに対して、彼の悲鳴は響いていた。
「助けたい人だけ助けて、残りの人たちの悲鳴は聞き流して……それでよかったのかッ!?」
「それでいいじゃねぇか。何がいけないんだ?」
アキラが当然だと言わんばかりに胸を張る。
彼の自信はその声にもハッキリと現れていた。
ユーリルの鼓膜から伝わった振動が、全身を戦慄かせる。
「なッ……! じゃあ、救われない人たちはどうする?
世界はどうなるッ?!」
「知るかよ」
陰鬱としたユーリルの世界を切り裂くように。
少年は正論をキッパリと切って捨てた。
「助けたくないなら仕方ねぇだろ。ヒーローのいねえ世界は滅ぶしかないんじゃねぇの?」
アキラの言う『ぶっ壊れた者』。
それは、見返りも感謝も求めずに、ただひたすらに救うもの。
身勝手な弱者に怒りを覚えることもなく。孤独な戦場へも振り返らずに歩みだす。
他の何を捨て去っても、大切なものだけは取りこぼさないもの。
それを『ヒーロー』と、彼は呼ぶ。
ブリキ大王は人類を、世界を救った。
しかし、それは『ついで』だ。
少年を、信念を、ひとりの女を、その女が愛した子供たちを。
ある男が、それらを救った、その副産物として……人知れず世界は救われたのだ。
「そんな……そんなの……」
ユーリルの体が震える。
それは、アキラに気圧されたからではない。
彼の世界が揺れる。
サイキッカーの提示した可能性を殺すために。
「じゃあ聞くが、お前は『誰の』英雄になりたかったんだよ。
世界の端っこにいる人間の生き死にまで、ぜーんぶテメーの力でどうにかするつもりだったのか?」
「…………」
アキラが見てきた英雄たちにとって、「世界を救う」ことは手段であって目的ではない。
自分が守りたい『誰か』にとっての英雄になることができれば、それでいいのだ。
もちろん、その大切な『誰か』を救うために必要ならば、彼らは喜んで世界を救うだろう。
しかし、その者たちにとって大事なことは、あくまでも『守る』こと。
だからイケニエも糞もない。
彼らは自らの欲望のまま、好き勝手に救っているのだから。
自分のやりたいように、生きて、死んでいるのだ。
768
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:41:26 ID:uvoOcX2w0
「俺は、松の代わりに……あいつが守ったやつらのヒーローになりてぇ。
そのためにオディオをぶっ飛ばして、自分の世界に返らなくちゃならねぇんだ」
アキラが言う『松』という人物のことを、ユーリルは知らない。
その代わりに、彼はある一人の人物の姿を強く思い出していた。
それは、この殺し合いで、一番最初に出会った少年。
無口ながら、熱い心を胸に秘めた男。
彼は、普通の人間だった。
勇者の血統も、悲劇の過去も一切持ち合わせてはいない。
それなのに、彼は世界を救ってみせた。
他の誰に導かれるでもなく。
たったひとつ……自分の意思で。
「もう一度聞くぞ、お前は誰のヒーローなんだ?」
ユーリルは、ぐうの音も出せない。
アキラの質問に対する答えが見当たらない。
彼は、誰の英雄でもなかったから。
ただ、提示された使命に導かれるままに世界を救った。
本当に大切な人は、勇者になる前に既に殺されていて。
その人たちとの思い出も、今となっては仮初で。
彼には、誰もいなかった。
「お前がイケニエになるのはお前の自由だ。勝手にしやがれ。
だがな、俺の邪魔をすんなら」
アキラが、用は済んだと言わんばかりに踵を返す。
来た道をテクテクと歩き出した。
ユーリルは、その背中をただ呆然と見つめている。
「あの背中を否定すんなら」
数歩進んでから、ふと立ち止まったアキラ。
振り返ることなく、立ちすくんでいる生贄に呼びかける。
「お前を叩きのめしてでも、俺は前へ進んでやる」
静かに放たれた宣言は、ユーリルに対する警告のようでもあり。
まるで、自分自身への誓いの言葉のようでもあった。
一度だけ大きく深呼吸してから、アキラはまた再び歩き出す。
「なんなんだよ、アナスタシアもお前も……」
去り行く少年に向けて、ユーリルが吐き出した言葉は反論でもなく。
どうしようもない、やり場のない怒りは、表しきれるものではなく。
クロノに対して感じてしまった確かな憧れは、誤魔化しようもなく。
「なんなんだよォッ!」
ただ、無性に気に食わなかった。
アキラのことが不愉快で仕方がない。
彼に何一つ反論できなかったことが、とてつもなく悔しかった。
こんなとき、クロノならどうするのだろうか。
彼は誰の英雄だったのだろうか。
ユーリルは、喉をズタズタに引き裂きながら、そんなことが気になっていた。
769
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:41:56 ID:uvoOcX2w0
【C-7橋の近く 一日目 真夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:アキラが気に食わない。
3:クロノならどうする……?
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
◆ ◆ ◆
『エイユウッテナニ?』
アナスタシアが、うるさい。
ユーリルの心理世界からの帰り道にて。アキラはうんざりしていた。
彼の表層心理は、この少女の声に支配されている。
この空間では、同じ疑問が延々と鳴り響いていたのだ。
「俺が知るかっての」
アキラが小さく毒づく。
ユーリルには、好き勝手なことを言ってきた。
だが、本当のところは、彼自身にもソレが正しいのかどうかは分からない。
アキラだって、まだ誰の英雄にもなれてはいないのだから。
無法松にも、アイシャにも、ミネアにも守られてしまった。
ただ英雄の背中に隠れるばかりで、彼自身は誰のヒーローにもなれないでいる。
ユーリルには、「立ちはだかるなら叩きのめす」などと啖呵を切ったものの……。
……彼の実力では、あの勇者には到底敵うはずもない。
つまるところ、少年には課題が山積していたのだった。
「松……アンタいったい、どこで何をしてんだ?」
しかし、それでも彼には希望があった。
この島で、生きているだろう男であり、アキラが今度こそ救いたい人物だ。
ユーリルと対話をしていく中で、彼はある決心をした。
今度は自分が、無法松の英雄になろうと。
そして、自分の世界に戻って、彼がしたように子供たちを守ると。
それが、今の彼の支えであり。
今まで散々守られ続けた少年が掲げる目標だ。
その思いを胸に、彼はひたすら進む。
770
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:42:28 ID:uvoOcX2w0
決心した矢先に、無法松が再び殺されてしまうことになるなどとは……彼は考えもしなかった。
『ドウイウソンザイナノ?』
「うるせーっての」
文句を言っても、不愉快な声は止まず。
ただイライラだけが募っていく。
もともと、アナスタシアのことは好きではなかった。
そしてユーリルの心にアクセスしたせいで、彼女に対する感情はすっかり嫌悪感へと変じてしまう。
目覚めたら、倒れてしまう前に、なんとかしてアナスタシアに一泡吹かせてやろう。
そう誓って、アキラはユーリルの心を後にした。
【C-7橋の近く 一日目 真夜中】
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:気絶中
2:無法松の英雄になる。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※無法松死亡よりも前です。
よって松のメッセージが届くとすれば、この後になります。
771
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:43:13 ID:uvoOcX2w0
以上、投下終了です。
代理投下してくださってる方、ありがとうございます。
772
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/11(土) 12:34:37 ID:cPsyFRUk0
地上で繰り広げられた戦闘の終焉を待っていたかのように、分厚く濃厚だった雨雲が晴れていく。
こびりついて消えない汚れに満ちた大地を押し流すかのような豪雨の気配が、天空には欠片も存在しなくなっていた。
代わりに空を支配しているのは、青白い満月と数え切れない星の瞬きだ。
夜天の王と兵の群れが見下ろす世界――たった一つの、箱庭めいた島には、夜に相応しい静けさが落ちている。
まるで、好き勝手に喚き散らした後に、泣き疲れて寝息を立てる子どものようだった。
そう、少し前まで。
ほんの少し前まで、その島には狂乱めいた騒乱で溢れかえっていた。
無数の感情がせめぎ合い意志がぶつかり合い想いが交錯した。
その果てに、離別があり喪失があり過ぎた。
希望や喜びや活力を覆い隠し押し潰してしまいそうなほどに、絶望や悲嘆や辛苦が多すぎた。
そのせいだろう。
世界が、疲れ切って眠っているかのように見えるのは。
世界が、全身に負った傷を癒そうとしているかのように感じられるのは。
世界が、ささくれ立った気持ちを整理したいと望んでいるかのように思えるのは。
月が、傷ついた世界を慈しむように、たおやかな光を投げかけている。
星たちが、疲弊した世界を慰めるように、絶えず瞬きを繰り返している。
だが。
この箱庭に人々を集めた王は、そのような平穏は与えない。
憎しみに塗れた魔王が、そのような慈悲を容認するはずがない。
まだ騒乱に参加すべき者がいるのだから。
「――時間だ」
大気が震え、無慈悲な声が響く。
「もはや前口上などいるまい。しかと耳に焼き付けよ」
粗野でもなく荒々しくもなく高圧的でもなく、乱暴さとはかけ離れた声音だ。
それでも、その声は苛烈なほどの存在感と、竦み上がる様な威圧感に満ちていた。
「まずは禁止エリアを発表する。
1:00よりA-04、H-07、
3:00よりC-08、E-10、
5:00よりE-04、I-03、
以上だ」
まるで声色そのものに力が宿っているようだった。
それも月明かりを陰らせ星の瞬きを止めてしまいそうなほどの、人智を超えた力が、だ。
そんな空恐ろしい声は、聴き手に現実を叩きつけるべく、続ける。
「では、死者の名を告げよう。
リンディス
シャドウ
ブラッド・エヴァンス
ロザリー
トッシュ・ヴァイア・モンジ
トカ
ルカ・ブライト
無法松
――以上、八名が朽ち果てた者たちだ」
夜の暗さが一層深く濃密なったような錯覚に陥る。
響き渡る声以外に、物音は聞こえない。
その様はもはや穏やかさではなく、生命が滅び死に絶えたが故の静寂めいていた。
だとしても、声の主は確信している。
耳を傾けている者はいる、と。
死体の山の上に佇み血液の河を掻き分ける者たちが確かに生きている、と。
773
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/11(土) 12:36:44 ID:cPsyFRUk0
「たった八名だと落胆するだろうか?
八名もの数がと戦慄くだろうか?
どちらにせよ、早いものだ。
僅か二十四時間で、実に六割強の命が死神に魅入られたのだからな。
だが、手を下したのは死神などではないのは理解しているだろう。
諸君らが敵だと断じた者が、諸君らが仲間だと信じた者たちが。
そして――諸君らこそが。
命を奪い尽くしたのだ。
時に大義名分を振りかざし、時に信念を盾として、時に欲望に忠実に。
他者を蹴落とし踏み躙ったのだ。
果たして諸君らには、他者を斬り捨ててまで立っている価値があるのか?
果たして諸君らには、否定しつくした末に生き延びるだけの意味があるのか?
もしあると言うのならば――」
問いかける。
答えなど返ってはこないと分かっていながら、それでも、感情のままに声は告げる。
「――全てを奪い尽くした上で、私の元に来るがいいッ!」
◆◆
本当に早いものだと、オディオは思う。
豪奢というよりも禍々しい玉座に背を預け、目を閉じる。
視界を閉ざし想起するのは、二十四時間前から始まった殺戮劇。
自らが催した殺戮劇は、予想を上回る速度で進行している。
それはまるで、人間の業の深さや愚かさを体現しているかのように感じられた。
参加者の中には、人間ではない者も数名混じっている。
彼らはどう思っているのだろう。
そして人間は、彼らをどう思っているのだろう。
同種族ですら争う人間が、異種族と手を取り合えるとは思えない。
その証拠と言うように。
夢にメッセージを込めたエルフの身は、彼女自身が愛する者と信頼する者によって灼かれたのだ。
しかし、その一方で。
絆を築き希望を抱き、巨悪を打ち破った者もいる。
人間でありながら――否、人間であるからこそ、人間を強く憎悪した狂皇子も。
負の感情を糧とし世界を紅に染め上げた災厄も。
たったひとりの人間が相手では、滅び去りはしなかった。
それは、人間が持つ力を、否定しきれないケースに他ならなかった。
「それでも……」
オディオの奥歯が、強く噛み締められる。
ルカ・ブライトやロードブレイザーの死滅に口惜しさを覚えているわけではない。
強い絆と希望の力で貴種守護獣を呼び起こし、再生したアシュレー・ウィンチェスターに忌々しさを覚えているわけではない。
「それでも、人間は決して愚かさを捨てられんのだ……ッ!」
呻くような呟きに混じる、羨望めいた感情を拾う者は、誰一人存在しなかった。
芽吹いたモノを振り払うように、オディオは瞼を開く。
774
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/11(土) 12:37:18 ID:cPsyFRUk0
間もなく、この城に訪問者がやってくる。
それが破壊と殺戮と蹂躙の果てに勝ち抜いた、たった一人の客人なのか。
抗いの意志を絆で繋ぎ希望を抱いた、反逆者たちなのか。
あるいは、皆が皆手を取り合えないまま、入り乱れて雪崩れ込んでくるか。
どのように転ぶか不明な以上、準備が必要だ。
たった一人の優勝者が現れなかった場合の準備――攻め込んでくる者たちを迎撃する準備が、だ。
オディオは、ゆっくりと手を振りかざすと、青白い炎が音を立てて灯る。
闇に揺らめく不気味な輝きに、美しい顔をした女たちが照らされる。
ただしどれも、異形と呼んで差し障りのない姿だ。
その数は、四。
一つは、四本の腕を持つ桃色の髪をした女。
二本の腕の先端は人間のものと同じ。されど、残り二本の腕の先には無骨な岩石がぶら下がっている。
岩石と人間の合成生物――クラウストロフォビア。
一つは、漆黒の球体から上半身を生やした女。
背から伸びる一対の翼で宙に浮くその姿は、あらゆる光を呑み込みそうなほどに気味が悪い。
暗黒の分子で構成された生物――スコトフォビア。
一つは、緑色の翼と尻尾を生やした女。
上半身は人のものであるが、下半身は爬虫類めいた翼と尻尾で構成されている。
器より出でし魔法生物――アクロフォビア。
一つは、透き通る液体を纏った女。
艶めかしい裸身に液体を絡ませるその姿は最も人間に近い。しかし、液体は絶えず女に絡みつき、同一の存在であると主張している。
液体から作られた合成生物――フェミノフォビア。
彼女らは、かつて。
かつてオディオが、『オディオ』でなかった頃に、一人で戦った人形たち。
その悪趣味な人形に、オディオは今も強く激しい嫌悪感を抱いている。
こうして見るだけでも吐気を催すほどに、だ。
それでもオディオが彼女らを蘇らせたのは、手駒としてはそれなりに使えると踏んだためだ。
人形は裏切らない。
そう、決して、裏切らない。
「戦力を用意しろ。数と質は――」
無表情で黙したままの人形たちに、オディオは指示を出す。
先ほどの呟きを忘れるように、指示を出す――。
775
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:05:12 ID:IYNoqvTc0
規制に巻き込まれてしまい本スレに書き込めませんので、こちらに第四回放送を投下いたします。
どなたか代理投下をして頂けますと幸いです。
776
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:06:07 ID:IYNoqvTc0
地上で繰り広げられた戦闘の終焉を待っていたかのように、分厚く濃厚だった雨雲が晴れていく。
こびりついて消えない汚れに満ちた大地を押し流すかのような豪雨の気配が、天空には欠片も存在しなくなっていた。
代わりに空を支配しているのは、青白い満月と数え切れない星の瞬きだ。
夜天の王と兵の群れが見下ろす世界――たった一つの、箱庭めいた島には、夜に相応しい静けさが落ちている。
まるで、好き勝手に喚き散らした後に、泣き疲れて寝息を立てる子どものようだった。
そう、少し前まで。
ほんの少し前まで、その島には狂乱めいた騒乱で溢れかえっていた。
無数の感情がせめぎ合い意志がぶつかり合い想いが交錯した。
その果てに、離別があり喪失があり過ぎた。
希望や喜びや活力を覆い隠し押し潰してしまいそうなほどに、絶望や悲嘆や辛苦が多すぎた。
そのせいだろう。
世界が、疲れ切って眠っているかのように見えるのは。
世界が、全身に負った傷を癒そうとしているかのように感じられるのは。
世界が、ささくれ立った気持ちを整理したいと望んでいるかのように思えるのは。
月が、傷ついた世界を慈しむように、たおやかな光を投げかけている。
星たちが、疲弊した世界を慰めるように、絶えず瞬きを繰り返している。
だが。
この箱庭に人々を集めた王は、そのような平穏は与えない。
憎しみに塗れた魔王が、そのような慈悲を容認するはずがない。
まだ騒乱に参加すべき者がいるのだから。
「――時間だ」
大気が震え、無慈悲な声が響く。
「もはや前口上などいるまい。しかと耳に焼き付けよ」
粗野でもなく荒々しくもなく高圧的でもなく、乱暴さとはかけ離れた声音だ。
それでも、その声は苛烈なほどの存在感と、竦み上がる様な威圧感に満ちていた。
「まずは禁止エリアを発表する。
1:00よりA-04、H-07、
3:00よりC-08、E-10、
5:00よりE-04、I-03、
以上だ」
まるで声色そのものに力が宿っているようだった。
それも月明かりを陰らせ星の瞬きを止めてしまいそうなほどの、人智を超えた力が、だ。
そんな空恐ろしい声は、聴き手に現実を叩きつけるべく、続ける。
「では、死者の名を告げよう。
リンディス
シャドウ
ブラッド・エヴァンス
ロザリー
トッシュ・ヴァイア・モンジ
トカ
ルカ・ブライト
無法松
――以上、八名が朽ち果てた者たちだ」
夜の暗さが一層深く濃密なったような錯覚に陥る。
響き渡る声以外に、物音は聞こえない。
その様はもはや穏やかさではなく、生命が滅び死に絶えたが故の静寂めいていた。
だとしても、声の主は確信している。
耳を傾けている者はいる、と。
死体の山の上に佇み血液の河を掻き分ける者たちが確かに生きている、と。
777
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:07:20 ID:IYNoqvTc0
「たった八名だと落胆するだろうか?
八名もの数がと戦慄くだろうか?
どちらにせよ、早いものだ。
僅か二十四時間で、実に六割強の命が死神に魅入られたのだからな。
だが、手を下したのは死神などではないのは理解しているだろう。
諸君らが敵だと断じた者が、諸君らが仲間だと信じた者たちが。
そして――諸君らこそが。
命を奪い尽くしたのだ。
時に大義名分を振りかざし、時に信念を盾として、時に欲望に忠実に。
他者を蹴落とし踏み躙ったのだ。
果たして諸君らには、他者を斬り捨ててまで立っている価値があるのか?
果たして諸君らには、否定しつくした末に生き延びるだけの意味があるのか?
もしあると言うのならば――」
問いかける。
答えなど返ってはこないと分かっていながら、それでも、感情のままに声は告げる。
「――全てを奪い尽くした上で、私の元に来るがいいッ!」
◆◆
本当に早いものだと、オディオは思う。
豪奢というよりも禍々しい玉座に背を預け、目を閉じる。
視界を閉ざし想起するのは、二十四時間前から始まった殺戮劇。
自らが催した殺戮劇は、予想を上回る速度で進行している。
それはまるで、人間の業の深さや愚かさを体現しているかのように感じられた。
参加者の中には、人間ではない者も数名混じっている。
彼らはどう思っているのだろう。
そして人間は、彼らをどう思っているのだろう。
同種族ですら争う人間が、異種族と手を取り合えるとは思えない。
その証拠と言うように。
夢にメッセージを込めたエルフの身は、彼女自身が愛する者と信頼する者によって灼かれたのだ。
しかし、その一方で。
絆を築き希望を抱き、巨悪を打ち破った者もいる。
人間でありながら――否、人間であるからこそ、人間を強く憎悪した狂皇子も。
負の感情を糧とし世界を紅に染め上げた災厄も。
たったひとりの人間が相手では、滅び去りはしなかった。
それは、人間が持つ力を、否定しきれないケースに他ならなかった。
「それでも……」
オディオの奥歯が、強く噛み締められる。
ルカ・ブライトやロードブレイザーの死滅に口惜しさを覚えているわけではない。
強い絆と希望の力で貴種守護獣を呼び起こし、再生したアシュレー・ウィンチェスターに忌々しさを覚えているわけではない。
「それでも、人間は決して愚かさを捨てられんのだ……ッ!」
呻くような呟きに混じる、羨望めいた感情を拾う者は、誰一人存在しなかった。
芽吹いたモノを振り払うように、オディオは瞼を開く。
778
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:10:35 ID:IYNoqvTc0
間もなく、この城に訪問者がやってくる。
それが破壊と殺戮と蹂躙の果てに勝ち抜いた、たった一人の客人なのか。
抗いの意志を絆で繋ぎ希望を抱いた、反逆者たちなのか。
あるいは、皆が皆手を取り合えないまま、入り乱れて雪崩れ込んでくるか。
何にせよ、そろそろ頃合いだ。
万が一のため、駒の配置は完了している。
用意した駒のうち、思い起こしてしまうのは四つの異形の女たちだった。
一つは、四本の腕を持つ桃色の髪をした女。
二本の腕の先端は人間のものと同じ。されど、残り二本の腕の先には無骨な岩石がぶら下がっている。
岩石と人間の合成生物――クラウストロフォビア。
一つは、漆黒の球体から上半身を生やした女。
背から伸びる一対の翼で宙に浮くその姿は、あらゆる光を呑み込みそうなほどに気味が悪い。
暗黒の分子で構成された生物――スコトフォビア。
一つは、緑色の翼と尻尾を生やした女。
上半身は人のものであるが、下半身は爬虫類めいた翼と尻尾で構成されている。
器より出でし魔法生物――アクロフォビア。
一つは、透き通る液体を纏った女。
艶めかしい裸身に液体を絡ませるその姿は最も人間に近い。しかし、液体は絶えず女に絡みつき、同一の存在であると主張している。
液体から作られた合成生物――フェミノフォビア。
彼女らは、かつて。
かつてオディオが、『オディオ』でなかった頃に、一人で戦った人形たち。
彼女らを最初に想起してしまうのは、強い信頼を置いているからではない。
むしろ、真逆だ。
その悪趣味な人形に、オディオは強く激しい嫌悪感を抱いている。
他の駒には、一切の興味も感慨も持ち合わせてはいないのに、だ。
強烈な感情は、その正負に関わらず強く印象付ける。
そういう意味で、四つの人形は特別だった。
オディオ自身の手で破壊したはずの彼女らを。
吐気を催すほどに忌み嫌う彼女らを蘇らせたのは、手駒としてはそれなりに使えると踏んだためだ。
人形は、裏切らない。
そう、決して、裏切らない。
だから、それ故に。
オディオは想わずにはいられない。
――人間は、自らが作りだした人形よりも劣っている、と。
そう想わずには、いられない――。
779
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:13:20 ID:IYNoqvTc0
以上、投下終了です。
フォビア以外の手駒や策については、後続の書き手諸氏にお任せです。
>>776-777
にタイトルをつけるのを忘れてしまいました。すみません。
では、何かありましたらまたご遠慮なくお願いいたします。
780
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/13(月) 22:03:15 ID:q7DAuZmE0
仮投下してくださった方、ありがとうございましたー
781
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:43:59 ID:qCCNahKk0
お待たせしました、第四回放送・裏、投下します
782
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:45:03 ID:qCCNahKk0
上下の感覚すら掴めない空間を、アシュレーは漂っていた。
そこには何もなかった。
床もなければ壁もなく、空もなければ大地もない。
人造物も自然物も一切存在しない空間を満たすのは、ただ一つの色。
身体を失ったアシュレーが知覚できるただ一つのもの。
白。白い闇。
それを決して光と称さないのは、アシュレーが自分は死んだのだと思っているからだ。
アシュレーの脳裏を、彼が覚えている最後の光景が過る。
ぽっかりと穴の空いた心の臓。
ロードブレイザーと相討ち、地に伏せる自らの姿。
断言できる。自分は確かに死んだのだ。身体がないのもその証拠だろう。
なら、ここは所謂あの世なのかもしれない。
「……ごめん、マリナ。……ごめん、みんな」
アシュレーは戦い抜いた。
戦い、戦い、死に果てた。
その選択に悔いはない。
死をも覚悟して、アシュレーは命を賭けてきた。
自分の居場所に帰るために。帰りたい日常を護るために。その日常をなす大好きな人々と笑い合える世界を取り戻すために。
何度生まれ変わろうとも、何度あの時間をやり直そうとも、アシュレーは同じ道を選ぶと言い切れる。
ただ、それでも。
悔いはなくとも、嘆きはなくとも、寂しさはある。
もう二度と愛した人達に会えない。
もう二度とアシュレーの帰りを待っているであろう人に、ただいまを言ってあげれない。
そのことが堪らなく辛かった。
だから、アシュレーは歩くことにした。
かつて訪れたアナスタシアのいる世界のように、どこかに生者の世界と繋がっている所があるかもしれない。
生き返られるとまでは思っていないが、それでも言葉を届けることくらいはできるかもしれない。
いや、もしもそんな都合のいい場所がなかったとしても。
「マリナ」
その名を心に灯し続けよう。
「アーヴィング。アルテイシア」
もう二度と逢えなくとも。
もう二度と我が子を抱くことがなかろうとも。
アシュレーは、どんな時でも家族と共にあるのだから。
783
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:46:06 ID:qCCNahKk0
「…………大切な、誰か」
ふと、誰もいなかったはずの世界に、アシュレー以外の声が響く。
驚き目を凝らし、誰か居るのかと返すアシュレー。
すると、白一面の世界に墨の如く黒い点が滲み出た。
代わり映えのなかった世界に突如生じた異変。
元より、外の世界との接点を探していたアシュレーは、先の声のこともあり、黒点へと駆け寄っていく。
と、黒点との距離が縮まる度に、その正体が明らかになってきた。
それは黒ではなかった。
言うならばそれは緑か。
緑色の髪の少年だ。
点に見えたのは彼が蹲っていたから。
蹲り、一人泣き続けていたからだった。
アシュレーはそのことに気づくと走る速度を上げた。
そう、走る、だ。
少年へと駆け寄ろうとした時には、失ったはずの身体が生じていたのだ。
心なしか透けてはいるが、寸分違わずその身体はアシュレーのものだった。
(霊体だから融通が効くのかな?)
よくよく見れば少年の身体もまた透けていた。
空間より滲みでた点や、現状の自分を鑑みても、もしかすれば泣いている少年も既に死んでいるのかもしれない。
だったら慰めたところで何になる。
そんな考えはアシュレーの心の中には存在しない。
一人ぼっちが寂しいと、泣いている子どものように見えたから。
それだけでアシュレーが手を差し伸べるには十分だった。
▽
当の少年――ユーリルは、誰かと会うことなんか望んではいなかった。
何故だか透明無形な存在になっていたはずが、声を出したら急に色形を得てしまったユーリルは、胡乱げに顔を上げる。
彼の目に映るのは、一人の見知らぬ男の姿。
この地にて一度も邂逅したことのない、どころか、仲間であったクロノ達から聞いた誰とも違う人物。
正しく、名も知らない、縁の全くない他人。
今、ユーリルが、最も目の当たりにしたくなかった存在。
かつて、ユーリルが、『勇者』が、救うべき存在として自らの命を賭けた存在。
『勇者』という幻想の存在意義――だったはずのもの。
(けれど、それは違うと、さっきの男は言った)
『誰の』英雄になりたかったのかと、ユーリルに問うた男がいた。
助けたい人以外は助けなくとも仕方がないと、男は言った。
784
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:46:56 ID:qCCNahKk0
(助けたい、誰か……)
そんなことを考え続けていたせいで、ユーリルは来訪者の声に反応してしまった。
マリナ。アーヴィング。アルテイシア。
それが今、ユーリルへと近づいてくる男にとっての戦う理由なのだろう。
男のことを何も知らないユーリルだが、それでも、彼が誰かの名前を呼んだ声に込めた想いは理解できた。
あれは家族を呼ぶ声だった。大切な誰かへと向ける声だった。
それも、もう会えない誰かへの。強い想いを込めた声だった。
(僕も、あんな声を出したことがある。あの日、村が襲われ、僕が『勇者』になったあの日に)
父の、母の、シンシアの名を泣き叫び、彼は勇者になることを誓ったのだ。
(そうさ、悩むまでもなく答えなんて出ていた。
忘れるわけがない。ずっと、ずっと覚えてた。僕が助けたかったのは、僕が護りたかったのは)
今でこそ、ユーリルは在りし日々が偽りのものだったと悟っている。
家族だと信じていた人達も、好きだと思っていた幼なじみも。
誰も彼もがユーリルを勇者としてしか見ていなくて。
世界を救う見返りとして、形だけの愛情を注ぎこまれていたに過ぎなかった。
だがそれは、あくまでも半日程前に気付いたことだ。
あの日の、勇者になると決意したユーリルにとっては、あの村の人々こそが、本当に助けたかった誰かだったのだ。
(……ああ、あいつの言ったとおりだ。救いたい誰かがいてこそ『英雄』になれる。
救いたかった誰かがいたからこそ、僕は『勇者』になった)
アナスタシアがそうであったように、ユーリルもまた特別でも何でもなかった。
勇者になる運命こそあれど、少なくとも、あの時まではユーリルはただの少年だったのだ。
世界のことなんて考えもしなかった。
ただ、大好きな人たちとずっと一緒にいたいと、それだけを考えていた。
だけど。
その願いは叶わなかった。
ユーリルは好きな人達と一緒に生きることも、一緒に死ぬことさえも許されなかった。
ただ一人、大好きなみんなの屍に護られて生き残ってしまった。
そして、そのことがユーリルに勇者になる決意をさせてしまった。
好きだった人達の犠牲を無駄なものにしたくはないと。
全てを犠牲に生かされてしまった自分は、彼らの望んだように人の為に生きなければならないと。
強迫観念に似た義務感に飲み込まれてしまった。
『皆を救って……。 あなたは……勇者なんだから……』
シンシアから零れ出た呪詛を思い返す。
何のことはない、そんなものはとっくの昔に、ユーリルの魂を侵していたのだ。
ユーリルはあの日、余すことなく聞いていたのだから。
魔物に殺されゆく両親が、村人が、シンシアが漏らす那由他もの悲鳴と怨嗟を。
いくら使命感で固めていようとも、彼らもまた当時のユーリル同様ただの人間だったのだ。
死を前にして、恐れや恨み言を残す者もいた。
いや、いなかったにしろ、隠れて震えているしかなかったユーリルには、
村人達の断末魔は彼らが死ぬ理由となった自分への憎悪としてしか聞こえなかった。
渇望し、それでも届かなかった生への憧憬と怨恨を。
一人だけ生き延びてしまったユーリルへとぶつけているようにしか聞こえなかったのだ。
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