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仮投下スレ
587
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/17(月) 20:53:10 ID:yKswPaL.0
破棄了解しました
588
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/17(月) 20:55:06 ID:yKswPaL.0
ミス
破棄了解しました
ご質問なされていた魔剣の件ですが仰る通りこちらの状態表への入れ忘れミスです
約束は碧の夢の彼方にで魔王が回収しているのでキルスレスは彼が所有しています
指摘ありがとうございました
589
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:32:29 ID:seA8qMPg0
朝方で支援も望めないのでこちらに投下しておきます
590
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:33:07 ID:seA8qMPg0
『貴女の声は決して届く事はない。
いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。
それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。
貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない
かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。』
夢と現の境界で誰かの声を聞いた気がする。
夢を渡る力が混線でも起こしたのだろうか?
ロザリーは実体のない世界で首を傾げる。
感応石を持ったまましてしまったオディオのロザリーへの独白が偶然ロザリーの力と相まって届いたのだということを彼女が知る由もない。
ただ、その言葉が自分のメッセージへの返答だということだけはおぼろげに察していた。
認めたくない言葉だった。
けれど安易に拒絶していい言葉だとも思えなかった。
その言葉には憐れみも、嘲りも、馬鹿にする響きも含まれていなかったからだ。
自分の言葉を受け、真摯に、心の底からこのメッセージを返してきてくれたのだとロザリーは受け取った。
そうなのかもしれませんね……。
ロザリーは俯く。
思い出すのは意識を失う前の記憶。
マリアベルから告げられた英雄の真実。
子どものように泣きじゃくり、憎しみを露わにする勇者。
ユーリルは勇者になんかなりたくなかったのではという想像。
もしそれが真実だとするならば。いや、紛れもなく真実なのだろう。なら。
手を取り合えると言った彼女自身が大切な恩人であるユーリルのことを理解できていなかったことになる。
メッセージが届かなかったのも当然ですね
自分にもできていないことを他人に求めたところで相手を納得させられないのは当然なのだ。
ロザリーは顔を上げる。
その顔に笑みは浮かんでいなかったが、しかし強い意志は宿ったままだった。
伝えたい心を伝えられない時にどうすればいいのか、ロザリーは既に答えを出していたではないか。
一つの言葉で伝わらないなら、何度でも言葉を重ねればいい。
理解できていなかったのなら、今度こそ真に手を取り合えるよう何度でもユーリルと語り合えばいい。
何度でも、何度でも、何度でも……
▼
591
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:33:40 ID:seA8qMPg0
夜天より声が降り注ぐ。
人の心を穿ち、地へと打ちつける言葉の弾丸。
誰かの、知己の、仲間の、友の訃報を告げる声。
ある者は嘆き、ある者は怒り、ある者は笑い、ある者は喜ぶその声が幸いとしてピサロの想い人の名前を呼ぶことはなかった。
だというのにピサロの様子は先ほどまでと何も変わらない。
凶刃を納めることなく雨に沿うかのように熱を奪われた青い顔を晒し、怒りのままにイスラ達と刃を交えていた。
ピサロは放送など聞いていなかった。
激しさを増した雨音が耳に届くことを妨げたからか。
天地を跋扈する稲妻の轟音により異界の魔王の声が打ち消されたからか。
否。
元より今のピサロにはただ一人を除いていかな声も届きようがなかった。
ああ、もしも、もしも本当に。
ロザリーが死んでいてオディオにより名前を呼ばれていたならば。
一瞬、たかが一瞬といえどもピサロは立ち止まったかもしれないのに。
どれだけ憎悪に狂おうとも、どれだけ怒りに飲み込まれようとも。
ピサロがその名前に反応しないことなどありえないのだから。
――なんという皮肉
彼を凶行に駆りたてたのが愛するものの死ならば。
僅かな時なれど止め得たのも愛するものの死のみとは。
――なんという滑稽
愛するものは存命ですぐ傍らに転がっているというのに。
ピサロは手を伸ばそうともしない。
ロザリーを愛した魔族『ピサロ』ならたとえそれが死骸でも手を伸ばそうとしたであろう。
だがここにいるのはデスピサロ。
人間を憎み、滅ぼす為に一度は愛するものの記憶すら捨て去った復讐の魔王。
雨などという生易しいものではない。
若き魔王の心の中では嵐が吹き荒び雷が荒れ狂っていた。
その雷は
「カ、カエル、まさかお前がロザリーを!?」
飛び込んできた言葉を引き金に開放されることとなる。
▼
592
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:34:17 ID:seA8qMPg0
戦況は膠着状況に陥っていた。
無力なアナスタシアと気絶しているロザリーを護るべく円陣を組んだブラッド達の一団を攻める側は切り崩すことができなかったのだ。
初期状況で北にユーリル、西にピサロ、南に魔王とカエル、東に逃げ場の無い建物と四方を完璧に囲っていたにも関わらず、だ。
さもありなん。
攻める側の四人はカエルと魔王を除いて協力関係ではなかった。
どころか互いが互いの敵でもあった。
潰し合ったのだ、守る側に攻め込みつつもこの四人は。
「貴様か、勇者っ! 貴様が、貴様がロザリーをっ!!」
ピサロからすればユーリルは勇者――ロザリーを殺した人間どもの守護者にして象徴だ。
真っ先に始末してやらなければ気が済まなかった。
彼に殺された直後からオディオに呼び出されたこともあり、ピサロがユーリルを殺さんとする理由は一切なかった。
その勇者が他ならぬ人間を目の敵にして殺そうとしていることを疑問に思うだけの冷静さは残っていなかった。
「うるさい、うるさい、うるさい! 僕を勇者と呼ぶなっ!
消えろ、消えろ、魔王! 殺させろ、アナスタシアを殺させろおおおッ!!」
ユーリルからしてもピサロは憎むべき相手だった。
アナスタシアがユーリルの幸せな幻想を完膚なきまでに砕いた下手人なら、ピサロはユーリルの現実的な不幸の直接の元凶なのだ。
エビルプリーストに謀られたからという事実は言い訳にはならない。
人間を根絶やしにせんとした魔王にして、予言に詠われた地獄の帝王を継ぐもの。
勇者の対存在。こいつさえいなければユーリルは勇者としてではなくユーリルとして生きられたのに。
その魔王があろうことか邪魔をする。アナスタシアを、英雄を殺すことの邪魔をする。
ピサロにはそのつもりがなくともユーリルにはまるでアナスタシアが、シンシアが、世界そのものが。
勇者たれと、呪詛を吐き強いているようにしか思えなかった。
「チッ、正真正銘勇者の剣か。バリアが剥がされるとは」
冷静さを保っていたカエルと魔王は最初こそは上手く立ち回れていた。
ユーリルがアナスタシアのことしか目に入っていなかったこと。
ピサロが人間の姿ではないカエルと耳の形がエルフにも見えなくもない魔王を後回しにしたこと。
二つの幸運が重なって当初危険人物から狙われることのなかった二人は攻撃側に加勢した。
正しくは便乗した。
他の参加者を減らしてくれる殺し合いにのった人物と現時点で敵対するメリットはない。
逆に優勝への大きな壁となり得る大集団をここで潰しておくことは非情に有益なものだと踏んでのことだった。
しかしながら話はそう上手くはいってくれなかった。
豪雨を味方につけ蛙の本領発揮とばかりに獅子奮迅の活躍をするカエルに負けじと魔王もまた豪雨を利用することを考えた。
それがいけなかった。
よりにもよって魔王が選んだのはサンダガの呪文。
魔王にとっては単に雨に濡れた相手になら常日頃以上に雷呪文が効果を発揮するだろうと思っての選択で他意はなかった。
実際ピサロやユーリルの雷は上昇した通電効果もあって猛威を振るっていた。
しかし、ユーリルからすれば話は別だ。
よりにもよってよく聞けば『魔王』と呼ばれる男が『友達』が使っていたのと同系統の『雷』呪文をこともなげに扱ったのだ。
アナスタシアには遥かに劣れど、ユーリルの殺意を買うには十分過ぎて、
「これが、勇者だと? こんな、こんな殺意に凝り固まったものが! 認めん、俺は認めん!」
そのユーリルの姿もまたカエルの怒りを買うには十二分だった。
593
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:34:51 ID:seA8qMPg0
混戦だった。
守る側が防御に集中している中で殺す側は守る側と殺す側両方を敵に回して疲労していった。
それが守る側の思惑であるとも知らずに。
「すごいや。おじさんの目論見通り大分ピサロだっけ、銀髪の動きが鈍ってきたよ。
これならあいつを抜けて後ろの方で倒れているロザリーって人を起こしにいけるようになるのも時間の問題かな」
「ユーリルの方もじゃな。スリープいつでもいけるぞい?」
端からブラッド達は守り一徹の持久戦狙いであり、ユーリルとピサロを殺す気はなかった。
マリアベルの仲間の知り合いだと知ったブラッドが指示したのだ。
ピサロの誤解もいささか仕方がない状況だったことと。
アナスタシアが殺し合いに載っていたこともあり彼女を襲っていたからといってユーリルが悪だとは限らないこと。
甘いと抗議していたイスラもこの二つの理由と他大多数の賛成意見に渋々承知し作戦は決行された。
内容は以下の通りだ。
ピサロとユーリルを疲弊させきった後にマリアベルのスリープで眠らせ、残る二人を四人がかりで数の利で押し切る。
以上一文それだけだ。
いささかシンプルではあるが状況を鑑みるにベストなものではあった。
ピサロとユーリルは見るからに万全とは程遠い状態だった。
そんな身体で後先も考えずにあのペースで感情のままに暴れまわれば遠くないうちに倒れるだろう。
加えてこの豪雨。
生物が動くのに嫌でも必要な熱を奪う水に打たれっぱなしの状態では息切れするまでの時間も加速度的に早くなる。
そう推測した上でのブラッドの作戦は前述の潰しあいもあって大成功だった。
「時が来たら機を逃すな! アキラ、引き続きかく乱と回復を頼むッ!」
「任せな! あと一息ッ!」
そう、後一息。
傍目にはピサロとユーリルは限界まであと一息に思えた。
その一息が限りなく遠いものだったことを直後ブラッド達は思い知ることとなる。
「そこまでだ、魔王! リルカとルッカの仇、取らせてもら……ストレイボウさん!?」
新たに戦場へと踏み入れた二人組の人間、そのうちの一人ストレイボウをきっかけとして。
▼
594
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:35:23 ID:seA8qMPg0
座礁船への道すがらに戦場へと辿り着いた瞬間、ストレイボウはジョウイの静止も振り切り駆け出していた。
心配していた少女たちと言葉を届けたい友。
両方が一度に見つかり、しかも交戦しているとあればいてもたってはいられなかった。
だがその速度が現場に近づくにつれみるみると落ちていく。
ストレイボウは歩くことも忘れ、その衝撃的な光景に打たれるしかなかった。
降り止まぬ雷雨の中倒れ臥す一人の少女。
忘れるはずがない、ストレイボウに道を示してくれたあの心優しき少女だった。
そのすぐそばで戦いを繰り広げるカエルとマリアベル。
姿も形もないニノに女性のものだったと思われる誰とも判別できない無残な骸。
第二回放送で告げられたシュウとサンダウンの死。
それら断片が半日前の光景と重なりストレイボウの中で最悪の想像が鎌首をもたげる。
信じると決めた。
裏切らないと決めた。
けれど一度膨れ上がった疑念を抑えることはできなかった。
「カ、カエル、まさかお前がニノとロザリーを!?」
「ストレイボウ、俺は」
「あ……。お、俺は。すまない、すまないカエル!」
どこか悲しげなカエルの声に状況が状況とはいえ友を疑ってしまったことを恥じるがもう遅い。
その一言が転機となった。
なってしまった。
ぴたり、と。
それまでカエルのことなど気にもかけていなかったピサロが動きを止める。
「人間……今、貴様、誰の名前を呼んだ? そこのカエルがロザリーを殺しただと……?」
荒れ狂っていた寸前までとはうって変わって抑揚を感じられないその声がかえって恐ろしかった。
ぎぎぎぎぎ、と首を動かしたピサロの目がストレイボウのそれとかち合う。
煮えたぎる闇が凝り固まり形をなしたかのような瞳にに射られてストレイボウは立ち竦む。
カエル以上に今の彼は蛇に睨まれた蛙だった。
▼
595
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:35:54 ID:seA8qMPg0
一度目は偽りだった。
二度目は自身だった。
三度目は親友だった。
そして、四度。
否、五度、男は魔王と対峙する。
「答えろ、人間。そこのカエルが私のロザリーを殺したのかと聞いているッ!」
ストレイボウは押し黙るしかなかった。
自身がその答えを知らなかったからでもあるがそれ以上にピサロの表情から声に至るまで全てに表出している殺気が彼に沈黙を強いさせた。
殺される。
下手なことを言えば殺される。
カエルが、カエルがこの男に殺されてしまう!
それは正しい判断だ。
ピサロは殺す。
何よりも優先してロザリーを害したものを殺す。
今この場に限ればロザリーは死んでもおらず、彼女を傷つけたのもユーリルであったがそんなことは関係ない。
既に一度、カエルはロザリーを死の淵まで追い詰めたのだ。
それだけでピサロがカエルを殺すに理由としてはお釣りがくるほどだった。
「だんまり、か。そうか、そうか貴様だったのか。爬虫類の分際が、私のロザリーをっ!」
ストレイボウの沈黙を肯定と取ったのだろう。
ピサロの中からはもはや勇者もロザリーの周りでたむろする人間も消えていた。
有り余る憎悪の全てをカエルと、彼を庇うかのように黙り通した人間へと向けていた。
「お、落ち着いてくれ。あんたが誰かは知らないがまだそうと決まったわけじゃ」
「……」
自分の失言のせいで友が危機に陥いることを防ごうとしどろもどろになりながらも何とか声を出すストレイボウ。
無意識にピサロへの恐怖から逃れようという意図もあったのだろう、必死に舌を動かす彼とは対照的にカエルは口を閉ざしたままだ。
誤解こそ含まれてはいるがカエルがロザリーを殺そうとしたのは事実。
堕ちたとはいえど誇り高い彼には言い訳をする気などさらさらない。
「いいんだ、ストレイボウ」
「お、俺はこんなつもりじゃっ」
「分かっている。これは俺の身から出た錆だ」
ストレイボウにかけられた声からはカエルが本心からそう思っているということが伝わってくる。
それが余計に辛かった。
何を、何をやっているんだ、俺は!?
本当に何をやっているのだろう。
ストレイボウが後悔に沈む暇すらピサロは与えてはくれないというのに。
「異言はないようだな――よく、分かった。死ね」
596
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:36:26 ID:seA8qMPg0
ピサロの足元から幾条もの黒き魔腕が這い出でる。
瘴気を纏い、腐臭を漂わせ、悪鬼亡者がおぞましい雄叫びをあげる。
違う、あれは腕なんかじゃない。
ストレイボウは脳裏を侵した妄想から我に変える。
周囲の温度が上がっていた。
地獄の釜を思わせる金属臭が鼻腔をくすぐった。
なんだ、なんだこれは!?
答えはすぐに出た。
ビリビリと微弱な電流の先駆けを感じたのだ。
帯電していた。
ストレイボウだけではない。
カエルが。
ジョウイが、魔王が。
ピサロと彼らとの間に立ち塞がる壁たるユーリルが、アナスタシアが、ブラッドが、マリアベルが、イスラが。
電荷を帯びた空気の檻に閉じ込められ、その恐るべき光景を目に焼き付けられることとなった。
「ジゴ――」
魔界の王がもたらす熱量に耐え切れず、雨がことごとく蒸発し霧と化した。
次いで、その余りに激しすぎる魔力の流動に耐え切れないのか、大地が激しく鳴動した。
今やピサロの足元から立ち昇りきり、巨大な全長を誇示している黒き雷竜に怯えるかのように。
恐慌は伝染していく。
木々が黒一色に染まり崩れ去る。
集いの泉が干上がり湖底を晒す。
大気が揺らめき炎上し燃え上がる。
……早々雷どころではない。
地獄だ。
地獄そのものが現世へと顕現していた!
その地獄とは他の誰のものでもなくピサロのものだ。
愛する人を護れなかった後悔と、愛する人を奪われた怒りと、愛する人を奪った者達への憎しみと、
愛する人のいない世界で生きていかねばならぬ辛さと、愛する人のいない現実への嘆きが幾重にも幾重にも混ざり合った若き魔王の心象風景。
「――スパークッ!!」
その世界の君臨者、漆黒の雷竜が顎門を開く。
逆鱗に触れた者達に牙を穿ち立てる、それだけを王に誓い。
竜が蛇行を開始する。
一陣の矢となってカエルを、ストレイボウを、障害たる全ての敵を貫かんと。
虚無する激情が、解き放たれた。
「う、うわああああああああああああああああああああ!?」
夜の闇を更なる黒で汚しながら雷竜が迫る。
真っ直ぐ、真っ直ぐストレイボウとカエルの元へと向かって。
道中の雑物達を尾の一振るい、胴の一轢きで粉砕し文字通り雷そのものの鋭さをもって襲い来る。
ストレイボウは悲鳴を上げた。
彼自身が一流の魔法使いであるが故に分かってしまったジゴスパークの威力に。
あますことなく浴びせられたピサロからの憎悪の念に。
死ぬ、殺される、俺は、ここで!?
597
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:36:56 ID:seA8qMPg0
この錯乱は彼が克服しきれていない心の弱さによるものだけではない。
霊魂として過ごした時間が彼から戦士としての心の持ちようを奪い去ってしまっていた。
考えてもみて欲しい。
ストレイボウは死後気も遠くなるような時間を過ごして来た。
その間彼の心を占めていたのは友を裏切ったことへの悔いと弱き自らへの嫌悪ばかり。
戦いのことなど考えたこともなかったのだ。
再び肉体を得て友をこの手で止められる日が来ることになるなど思いもしなかったのだから。
或いは、それもまた弱さか。
霊魂の身では何もできないと自ら動くことを捨てただただ後悔の泥沼に浸かることを選んだ報いか。
数えることなど叶わぬ時の流れはストレイボウのなけなしの強さを――死と隣り合わせである戦場に立つ強ささえ磨耗させてしまった。
新兵も同然なのだ、今のストレイボウは。
そのことに、生き返って以来今に至るまで一度もまともな戦闘をこなしてこなかった為気付けなかったのは何たる不幸か。
ストレイボウは考えられる限り最悪の形で気付かされることになった。
死した身で長きを過ごすうちに忘却してしまっていた死への恐怖と対面するという形で。
「ブ、ブラ、ブラックアビスゥウウウウ!」
「駄目だ、ストレイボウさん、それじゃ打ち消せない!」
なればこそのこの愚行。
カウンター前提の魔法をあろうことか迎撃に使ってしまうとは。
傍らのジョウイや雷竜の行軍に巻き込まれたマリアベル達のように自らの身を護ることを優先に魔法を盾にしておけばよかったものを。
そうすればダメージの軽減程度にはなったし、何よりも自らのちっぽけさを目の当たりにすることもなかったろうに。
一秒もかからなかった。
深淵の名を冠したストレイボウの全長ほどある――つまるところ雷竜の爪程度の大きさしかない三つの黒塊は。
ストレイボウが言うところの究極魔法は。
たかが深淵を覗いただけの存在が地獄を見てきた魔王に勝てるはずがないと言わんばかりに、あっけなく地獄の雷の前に消し飛んだ。
「――――――あ」
魔の王が怒りのままに際限なく魔力を込めて撃ち出した魔法がいかにして常人の魔法使いの手で破れようか?
古来より、魔王を倒せるのは勇者だけだと決まっている。
ストレイボウも嫌なほどそのことは知っているではないか。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ!?」
この島にもう勇者はいない。
魔王に打ち勝てるものは一人が勇者であることを捨て、一人は魔王と手を組んだ。
ならば。
他に魔王に拮抗し得るものがいるとすれば、
「余計なことをしてくれたな、そこの人間……」
それは同じく魔王を名乗る者のだけだ。
「よせ、魔王。これは俺が撒いた種だ。手なら貸す、ストレイボウを責めるな」
「貴様の知り合いか? どうりで無様な姿がいつぞやの腰抜けに重なるわけだ。
フッ、思い出話は後回しにしておくか。手助けは不要だ。この程度、私ひとりでどうとにでもなる」
着弾間近の電撃を胡乱げに見つめ赤きマントを靡かせて魔王がカエルの前に出つつみっともなく腰を抜かした魔術師を嬲る。
しかしストレイボウには魔王が投げつけてくるどんな嘲りの言葉よりも。
「……お前がそういうのならそうなのだろうな」
カエルのその言葉が痛かった。
魔王のことを信用してはいなくとも信頼していることがありありと分かってしまったから。
「カエル……」
598
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:38:19 ID:seA8qMPg0
縋るように発した声はカエルに届くことはなかった。
より強き力を持つ言葉に打ち消されて。
「地獄の雷よ。貴様も聞け、黒い風の泣く声を」
風が、吹いた。
魔王に向かって風が吹いた。
魔王の前後左右を護るように現れ回転し出した四つの魔力スフィア。
それらは万物を吹き飛ばすのではなく、巻き込むことで風を発生させていた。
ごうごう、豪豪、業業。
風は渦巻くたびに本来透明のはずのそれが黒と白に染められていく。
この地に漂う無念や絶望を、希望や祈りすらも次々と己が糧として飲み込んで、空間ごと大気中のマナを食らっているのだ。
世界に満ちたマナは魔王へと供物として捧げられ、大気が枯れ果て凍りつく。
絶対零度の風が吹き荒れるその世界はコキュートスのよう。
しかれば世界が凍結するのも道理。
「ダーク――」
風が、死んだ。
耳をつんざく悲痛な嘶きを最後に風が消失した。
風だけではない。色が、音が、匂いが消失した。
魔法陣が。
生命の力を奪い尽くした魔力スフィアが転じた魔方陣だけが。
地獄の浸食を妨げるかのように天と地に刻まれた白と黒の三角形の魔方陣だけが。
静止した灰色の世界を彩る結二つの色だった。
ジゴスパークがそうであったように。
全てが失われた寂しき世界こそが魔王の瞳に映る現世なのかもしれない。
「――マター」
現世を擬似的な冥界と化す禁術を完成させる呪文が響いた。
▼
そこから先はアポカリプスの再現だった。
虚空にて、地獄と冥界が衝突する。
互いが互いに法則を上塗りしあい世界を書き換えていく侵し合い。
触れ合うたびに否定しあう存在の拒絶。
雷竜がのたうつ。全身をくねらせ、尾を振るい、爪牙を突き立て冥府の檻を震撼させる。
魔法陣が重なる。欠けた半身を補い六芒星に戻らんとして天地に横たわる雷を邪魔するなと圧壊していく。
見る間に地獄が罅割れ、冥界が砕かれ、竜が解け、魔法陣が崩れゆく。
時として数えるなら一秒にも満たない時間。
咲き誇った火花の数は計測不能。
世界が崩壊しているのだと言われたのなら誰もが間違いなく信じてしまうその光景は。
完膚なきまでに相殺しあった結果、始まりとは逆に、ひどく唐突に、何の予兆もなく、おぞましいほど静かに終焉を迎えた。
「……終わった、のか?」
誰かがようやっと呟いたのは雨が転じた霧が晴れた後だった
599
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:38:49 ID:seA8qMPg0
▼
軋む身体を起こしつつ、ブラッドは作戦の失敗を悟った。
作戦自体に穴があったわけではない。
ただ一つ、見落としていたことがあっただけだ。
「時に魂は肉体を凌駕するものだったな」
どれだけ体力が尽きようとも。
どれだけ血肉が削がれようとも。
人は意志の力一つで立ち上がり、突き進むことができる。
「今のおぬしがいい例じゃの。全く無茶をしおってからに。
ちょっとは夜のノーブルブラッドの強大さを信頼して欲しいものじゃの」
「済まなかったな。イスラ、鯛焼きセットの残りは?」
「さっきまでの持久戦で殆ど食べきってたからね。はい、ド根性焼き。これで最後だよ」
グレートブースターを自分ではなくアナスタシアに施し護ったマリアベルを、更に身を呈して庇ったブラッドは全身の火傷を一層悪化させていた。
ドラゴンクローでガードした顔を除き、皮膚もかなり深い部分まで炭化しておりド根性焼きでさえ回復が追いつかない。
直接狙われたのではなく巻き込まれただけでこの被害とは。
笑えない話だった。
が、納得できはした。
強気意志の力は破壊に転じることもできるのだ。
それがフォースとは真逆の暗き情念の力であるなら尚更に。
「アナスタシア、お主は誰よりもその恐ろしさを知っていよう」
「……炎の災厄は何度アガートラームで引き裂いても滅びなかったわ」
軽傷のマリアベルも立ち上がりながらアナスタシアへと問いかける。
「気付いておるか? 今のおぬしからは僅かにじゃがそのロードブレイザーと同じ匂いがしているということに」
「……」
ブラッドの作戦にイスラが難色を示したおりの説得でマリアベルはアナスタシアが殺し合いにのらんとしていたことを知った。
不思議と驚きはなかった。
そうと分かればアナスタシアにアーガートラームを渡すことを躊躇したことにも納得できる。
親友の生への渇望の強さは誰よりも理解しているし、生贄として捧げられた少女が今度は自分の為に生きようとしたことも想像がついた。
納得はできる。
理解もしている。
想像もつく。
よってマリアベルがアナスタシアへと抱いた感情は怒りではなく寂しさで、いやそれはやはり怒りだった。
何故自分達を信じてくれなかったのだと。
人殺しなどという普通でない道を選ばなくとも、ARMSならオディオを倒し、アナスタシアの命も救ってくれると信じて欲しかった。
600
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:39:20 ID:seA8qMPg0
夢想だ。
現にマリアベル達は未だ魔王を倒せず、かけがえのない仲間であるリルカにカノン、この地で出会ったシュウ達や見知らぬ誰かも救えなかった。
そもそもアナスタシアは名簿を燃やしてしまっていたという。
マリアベル達の存在を知らないのなら希望を抱きようがない。
それでも。
マリアベルはアナスタシアに名前を呼んでいて欲しかった。
助けてと言って欲しかった。
その一声があろうものならゴーレムのようにどこにいようと飛んで行ったのに。
それもまた戯言だった。
結局は焔の災厄との戦いでも、彼女が『アナスタシアのいる世界』へと跳ばされた後も、マリアベルは助けることができなかった。
「……欲望は、綺麗なものも、汚いものも、ある、わ」
アナスタシアは他人を利用はしても信じることができなくなっていた。
己だけを信じて誰かに助けを求めることを忘れていた。
無駄だと、焔の七日間で諦めてしまったから。
誰もアナスタシアを助けられなかった。
星の数程人はいるのに誰ひとりとしてアナスタシアを助けられなかった。
どころか大半が弱さを理由に助けに来ようともしなかった。
少女一人に全てを背負わせ、災厄が去った後には悲しむでもなく笑っていた。
『アナスタシアのいる世界』からそんな平和になった世界を覗いた時、アナスタシアはきっと大事な何かを失ってしまったのだ。
そんな少女がただ一人心の中で助けを期待した彼女と同じ『生贄』の少年は、
「あ……ぐ、あ、アナスタシアァァァ……死ねええっ!!」
アナスタシアが原因で壊れた。
アナスタシアよりもよっぽどロードブレイザーに近いものになり果てた。
怒り、苦しみ、憎しみ、悲しみ、呪い。
それら負の念に身も心も満たし尽くした殺戮者に。
ただロードブレイザーと決定的に違う点が一点あった。
悪意が欠けていた。
「なんだよ、まるでこっちが悪いみてえじゃねえか! 戦いづれえ!」
ユーリルに拳を打ち込む度にやるせなさが積もっていく。
読むまでもなくアキラに流れ込んでくるユーリルの心は怒りや苦しみや憎しみや悲しみや敵意や殺意で溢れてはいれども。
悪意は、悪意だけはなかった。
人をして邪悪と決定づける最大の要因が。
大小の差はあれどルカ・ブライトやクルセイダーズが纏って止まなかったものが一片足りとも存在していなかったのだ。
其は正しき嘆き。
其は正しき怒り。
其は正しき憎悪。
其は正しき呪い。
負の念自体は人間ならば誰でも持っている。
むしろ人が持つ当然の感情だ。抱いてしかるべき権利がある想いだ。
自分や松、死んでしまったレイやサンダウン、日勝を動かす想いでもあった。
「うわああああああああああああああああああああっ!!」
601
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:39:50 ID:seA8qMPg0
なればこそユーリルと剣を合わせた誰もが抱くのは悪への怒りではない。
共感だ。
マリアベルは孤独を。
ブラッドは友を護れなかった後悔を。
イスラは世界と自らへの呪詛を。
ユーリルという鏡に見た。
これもまた道理だ。
この世に負の感情を抱いたことのない人間などいはしない。
どのような聖人君子といえど誰かに、何かに怒りや憎しみを抱いたことはある。
だからこそ糾弾の矛先は迫り来る驚異にではなく護るべき者へと向けられる。
「もう一度問うぞ、アナスタシアよ。おぬしあやつに何をした?」
「僕からも聞くよ、アナスタシア。君は彼に何を言ったんだい?」
「……」
相変わらず返事はなかったがイスラには大体の予想がついていた。
大方自分の時のようにアナスタシアが目の前の少年へと言葉によって斬りつけたのだと。
イスラにとっては一種の信仰でもあり生きる意味でもありイスラそのものでもある死への願望を否定した時のように。
ユーリルの基盤となっていた何か彼にとっては命以上に大切なものへとアナスタシアは罅を入れてしまったのだと。
イスラは心を保つことができた。
不安定ながらも致命傷にならずには済んだ。
それは仲間がいたからだ。
素直には認めたくないことだが自分にはできない生き方をするヘクトルという人間に惹かれ、
アナスタシアに否定された今までの生き方以外に眼を向けるのも悪くはないと心のどこかで思うようになったからだ。
ならばユーリルは?
いなかったのだろう、きっと。
でなければ失ってしまったのだろう。
支えてくれる誰かを、導いてくれる誰かを。
それはもしかしたら彼自身が叩き殺したあの少女だったのかもしれない。
彼がその凶行に至ったのもまた……。
「僕はやっぱり君のことが大嫌いだ、アナスタシア」
「…………」
「いっそアキラに心をよんでもらおっか?」
「あんまし気はすすまねえけどな。それに今はそれどころじゃねえだろ」
痺れの残る手足でセルフヒールとヒールタッチによる自他の回復に専念していたアキラが注意を促す。
そうだ、今はそれどころではない。
驚異は何一つ去ってはおらず、持久戦を放棄しなければならない分振り出し以下だ。
「そうじゃな、まずはストレイボウ達との合流を急ぐべき……なのじゃが大人しくはさせてくれぬか」
手始めとしてカエルを殺しに行こうとするピサロをメイルシュトロームで押し流し距離を取ろうとするも、マヒャドで凍らされ失敗に終わる。
ユーリルのことも含め誰かが足止めに残らなければ南下することは叶わない。
「じゃが下手に戦力を割こうものなら……」
「けどどっちにしろこのままじゃ押し切られちまう。何でもいい、ブリキ大王みてえな一発逆転できる何かがあれば!」
無いもの強請りだとは分かっていても愚痴を零さないではいられなかった。
ピサロや魔王が見せた大火力に抗うような決定打がここにいるメンバーにはない。
持久戦中に回収したシンシアの装備やデイパックにもリニアレールカノン並の武器はなかった。
602
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:40:23 ID:seA8qMPg0
「魔王やピサロが連発してこないのを見るにおいそれと撃てないものであるとは信じたいがな」
我ながら慰めに過ぎないとは思う。
たとえ魔王が撃てなかったとしても彼らを倒せるとされる勇者が撃てないとは限らないのだ。
そうなれば迎撃手段のないブラッド達が被る被害は計り知れない。
たまたま別の敵が相殺してくれるなんて都合のいい話は何度も起こるはずがない。
力が足りない。
誰もが胸中でそう思い、
『力が……欲しいか?』
一人だけがその声を聞いた。
「ッ!?」
「人間そこをどけえええええッ!!」
「イスラ、ぼさっとしてんな!」
突如精神に響いたもう聞くはずのなかった声に動揺し動きを止めてしまったイスラにピサロの剣が突きつけられる。
間一髪アキラがアスリートイメージでピサロの方向感覚を乱し難無きを得たが、イスラはそれどころではなかった。
「キル、スレス?」
失われたはずの魔剣が、試しに呼んでみた時にはうんともすんとも反応がなかった魔剣が今更返事を寄こすとは想定外だった。
考えられる可能性とすれば魔剣は壊れてはおらず、イスラの方が死んだことで契約が解けてしまっていたということか。
それがこうして再び声が聞こえるということは。
魔剣はすぐそばにあるのだ。
足りない足りないと嘆くだけだった火力を補えるだけの力が、すぐ側に!
イスラの決断は早かった。
『力が……欲しいか?』
「ああ、欲しいね」
『適格者よ、力が欲しいのならば我を手にして継承せよ』
魔剣の副作用は身をもって体験していたが一度死んで契約がリセットされているなら剣の浸食もまた始めからのはずだ。
恐れることはない。
それよりも問題なのは魔剣が自身を手にしろと要求したことだ。
イスラの知る剣は契約していない適格者の元へと勝手に飛んでくることもできたはずだ。
これもオディオの仕業だろうか?
呼び寄せられないのなら地道に可能性を絞るしかなかった。
「アナスタシア、助かりたいのなら答えろ! 君は紅い剣を持っているか!?」
「ないわ、そんなもの。私の武器はこの鎌一つよ」
「やっぱそう上手くはいかないか」
「紅い剣じゃと? どういうことじゃ?」
マリアベルの疑問に矢継ぎ早にが要点だけを伝える。
紅の暴君、キルスレス。
それさえあればピサロや魔王に匹敵する力を振るえるようになると。
話を聞いたブラッドはすぐに戦力の二分を提案。
ブラッド達ではないとなると魔剣を持っているのはユーリル、カエル、魔王、ピサロ、ジョウイ、ストレイボウ達の誰かだ。
誰が持っているのかは分からない以上、総当たりで回収するしかない。
「戦力分担の話だがストレイボウ達の引き込みと魔剣の回収は俺とマリアベルで受け持とう」
「そうじゃの、カエルと魔王のコンビネーションはなっていないようでいてかなりのものじゃ。
そんじょそこらの即席コンビでは太刀打ちできぬじゃろう」
その点元の世界からの仲間であるブラッドとマリアベルなら引けはとらない。
悩むまでもなく最善の一手だ。
冷静さを失っているピサロ達に対し絡め手に長けたアキラが有用なのも疑うべくはない。
問題がないわけではないが。
「その間僕達二人でアナスタシアを護りつつ、あの二人を抑えろって?」
「すまぬの。合流次第すぐにわらわ達の代わりにストレイボウ達を向かわせるので辛抱してくれい」
言うまでもなく半減した戦力でアナスタシアを護りつつ耐えられるかということだ。
この作戦が自分のためであることは重々承知ではあるが、嫌いな女を護らされることもあってイスラは苦言を零さずにはいられなかった。
「いっそ二人とも放って行ってもいいんじゃないかな?
アナスタシアは殺し合いにのっているんだし、聞いた話じゃロザリーをピサロが害するとは思えないけど」
ぎろりとマリアベルに睨まれる。
マリアベルからしても殺し合いに乗った親友と気絶したままの新たな友人から離れるのは苦渋の判断なのだろう。
603
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:40:53 ID:seA8qMPg0
「イスラ、しのごの言ってんじゃねー!
やるっつったらやるんだよ! これしかねえだろ!」
とはいえアキラが言うようにやるしかないのだ。
敵四人はどれも群を抜いた強敵で、ヘクトル達側の様子も分からない。
このままでは良くてじり貧だ。
「わかった、分かったよ。僕一人があーだこーだ言ってても仕方がないし。
でも言ったからには成功させてよね、お・じ・さ・ん」
だったら頑張ってもらうしかない。
「無論だ。戦場で交わした約束は何よりも重い」
ブラッドが力強く頷きマリアベルと共に背を向ける。
ピサロもユーリルも二人を追うそぶりを見せなかった。
ユーリルの狙いはアナスタシアであり追う必要はなく、ピサロからするとカエルを殺すべく突破すべき人間が減った程度の認識だ。
残されたイスラとアキラの負担が二倍になるのに対し、ユーリルとピサロの負担は二分の一だ。
二倍どころか一気に四倍状況が苦しくなったが泣き言を言っている暇さえ二人にはない。
「イスラ、背中は預けるぜ」
「残念ながら間にアナスタシアがいるけどね。背中からざっくりこようものなら覚悟しておくんだね」
「ええ、分かってるわ」
かくして戦いは新たな局面を迎える。
【C-7橋の近く 一日目 夜】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(極)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQⅣ、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンは一つ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:ダメージ(中)、激怒
疲労(極)、人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:基本支給品一式、データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:ロザリーを殺したカエルを殺す
2:目の前にいる人間を殺す。
3:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※参戦時期は5章最終決戦直後
※ロザリーが死んだと思ってます。
604
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:41:26 ID:seA8qMPg0
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
2:施設を見て回る。
3:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(中)、ダメージ(中)。
[装備]:パワーマフラー@クロノトリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、ドッペル君@クロノトリガー、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロとユーリルが魔剣を持っているか確認。あれば奪う、なければ援軍や魔剣が来るまで抑える
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ、気分が悪い (若干持ち直した) 、気絶
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:気絶
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリルに心を何度でも伝えて真に手を取り合う。
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※ロザリーの声がどの辺りまで響くのかは不明。
また、イムル村のように特定の地点でないと聞こえない可能性もあります。
※冒頭は感応石やテレパスタワーとロザリーの力の混戦の結果偶然一瞬だけ起きた出来事です。
情報は何も得てません。
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式×2
ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロとユーリルが魔剣を持っているか確認。あれば奪う、なければ援軍や魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
605
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:41:58 ID:seA8qMPg0
▼
敵の大魔法を防ぎきったことを確認して魔王は大きく息を吐く。
口には決して出さないが整った顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。
「魔王、調子は?」
「問題ない。今の一合で分かった。魔力と魔法の扱い自体はかの魔王よりこの魔王の方が上だ。
先刻のは怒りのままに半ば暴発状態で撃ったからこそのあの威力。
狙ってやれるものではないだろうし何よりもうそれだけの魔力も残ってはいまい」
転じてそれは魔王の方にももう一度ダークマターを撃てるだけの魔力が残っていないということだ。
暗に示された事実をカエルは正しく受け取り北方へと向き直る。
夜はせっかく取り戻した静寂を再び剥奪され、光と喧騒に彩られていた。
「モチベーションの違いか、厄介だな」
「他人事か? 俺もお前も譲れない理由があるのは同じだ。奴らに劣りはしない」
「お前に言われるまでもないさ。俺は勝つ、勝たねばならないんだ」
「それでいい。足を引っ張ってもらっては困るからな。……さて」
カエルと対等に合わせていた視線を逸らし、魔王は尻餅をついたままのストレイボウを睥睨しつつ近づいてくる。
ストレイボウのせいで余計な魔力を使わされたことを魔王は許しはしない。
後ずさりするストレイボウは明らかに身体が震えていた。
「て、てめえか。てめ、えが、てめえがカエルを惑わしたのか」
「そう思うか? カエルが、この男が他人の意思に流されるよな男だと?
思うなら思うで構わん。どうせ貴様はここで死ぬのだ」
ストレイボウ自身も支離滅裂なことを言っていることは承知していた。
カエルが去った時も、マリアベル達を彼が襲っていた時も、そこに魔王の影はちらついてはいなかった。
ただストレイボウがいて、ただカエルがいただけだった。
カエルが殺し合いにのったのはカエルが自分で選んだ道だというのは誤解しようがない。
それを認めたがらず他人のせいにしてしまいたかったのはストレイボウの我侭だった。
或いは嫉妬だったのかもしれない。
気を許しあってるとは到底思えず、嫌悪しあっている魔王とカエルだが、互いに強く認め合っているふちがあることへの。
魔王とカエルの間にしかとある宿敵という名の繋がり。
にわかな自分との友情がその前には色あせるように感じてしまってストレイボウは口を閉ざしてしまいかける。
言葉を、言葉を届けなければいけないのに。
一段一段積み上げてカエルの、オルステッドの心へと届けようと決意したのに。
駄目だ、ここで黙っては俺は一生カエルに謝れなくなる!
「カ、カエル。お、お前は俺の友で、俺はお前に謝らなければならなくて、お前のことを止めたくて」
ガチガチと歯がかちあって想いが言葉になるのを妨げる。
一歩一歩近づいてくる魔王の恐怖に言いたいこともまとまらない。
まとまらないまでも、言葉にならないまでも、必死にストレイボウは声を出し続けた。
「ストレイボウ。俺はもう戻れない。俺はこの手でルッカを、仲間を殺した」
「だ、だがそれも、それも、元はといえば、元はと、言え、ば」
魔王がストレイボウの元に辿り着く。
「元は、元はと言えば」
606
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:42:32 ID:seA8qMPg0
言葉は、止まった。
死ねば後はないというのに、ことここに来てさえオディオとの関係を明かすことがストレイボウにはできなかった。
息の根も、止まる。
無慈悲に振り下ろされたランドルフは貧弱な術師くらい難なく砕く。
魔鍵も、止まった。
間に割って入った回転する刃に弾かれ軌道を逸らした。
「随分と頼りになる仲間を連れてきたではないか、ジョウイ・アドレイ。
そいつにリルカ・エレニアックやルッカ・アシュティアの代わりが勤まるとは思えんがな。
あいつらなら今しがた見せたダークマターをも上回る魔法を撃てたものを」
「代わりなんかいない。人間に代わりなんかいない! ストレイボウさんは僕の仲間だ。
魔王、リルカとルッカの仇、ここで討たせてもらうぞ!」
仲間、仲間か。
どの口が言ったものかとジョウイは自嘲する。
彼は裏切る気満々なのだ。
今だって直前まで上手くことを煽り魔王とピサロの潰し合いを引き起こせるかを考察していた。
割り込んでしまったのは口にしたようにリルカやルッカの敵討ちという面もあったが、
カエルとストレイボウの様子にかっての自分とリオウを重ねてしまったからもあっただ
ろう。
やってしまったからには仕方がない。
それに何の考えもなく魔王達に敵対する道を選んだわけでもない。
「できるかな、二度も私の前から尻尾を巻いて逃げた貴様に」
「できるさ、今の僕になら、僕達になら! 紋章よ……」
「ぬうっ!?」
真の紋章の片割れが光を放つ。
輝きを得たのはジョウイの『左』手の甲。
友より託された輝く盾の紋章が空に印を結び聖光にて魔王を射抜く。
魔王は平然と光を打ち払った。
「何をするかと思えばこの程度!」
派手さの割には与えられた傷は軽微で。
それだけ見れば笑われるのも無理はない。
だというのにジョウイもまた口に笑みを浮かべていた。
「この程度だ、魔王」
「違う、魔王、後ろだ!」
カエルが一足先に意味に気づき魔王に警告を促すが僅かに遅い。
魔王が振り向いた時彼の視界を埋め尽くしたのは緑の竜の爪だった。
「ふんッ!!」
「ぐぬっ!? ブラッド・エヴァンスか。なるほど、そういうことか」
魔王が苦々しげに舌を打つ。
ブラッドに邪魔されたからではない。
その身に魔王達が刻んだ傷の数々が碧の光に触れた途端にいくらかマシになるところを目にしたからだ。
しかもよく見れば癒しがブラッドの仲間全員に及んでいた。
607
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:43:04 ID:seA8qMPg0
「お前が魔王達の気を惹いてくれたおかげで助かった。名前を聞かせてくれないか?」
「僕はジョウイ・アドレイと言います」
「わらわはマリアベル、そっちの男はブラッドじゃ。ところでお主、リルカのことを知っておるようじゃが?」
「リルカは、僕を逃がして魔王に……」
「そうか。ジョウイ、」
責められるかとジョウイは覚悟した。
マリアベルとブラッド、どちらもジョウイを逃がすために死んだ少女のから聞いていた彼女の大切な仲間だったから。
けれど違った。ジョウイにかけられたのは予想もしていない言葉で。
「礼を言う」
「感謝する」
でも伝わった、
「仲間と共に戦ってくれたことに」
「友の死を憤ってくれたことに」
マリアベルとブラッドがどれだけリルカを想っていたのかは。
彼らの瞳には様々な感情が浮かんでいたが、ジョウイへの言葉には紛れもない感謝の気持ちが込められていた。
そして意味は違えど感謝の言葉はストレイボウにも向けられる。
「ストレイボウ、わららはおぬしにも礼を言おう」
ストレイボウは訳が分からなかった。
礼を言わなければいけないのは自分の方ではないか。
醜態を見せ殺されかけた自分をジョウイ、マリアベル、ブラッドが助けてくれた。
誰かを助けないといけない自分が、誰かを守って戦わないといけない自分が。
いざとなると助けられてばかりだった。
無力感に押しつぶされそうになるストレイボウをそれは違うとマリアベルは否定する。
「おぬしはわらわを助けてくれたわ。
実はの、わらわも今おぬしと同じで友と喧嘩……、そうじゃの、ちょうどいい表現じゃ、喧嘩してての。
ろくに口もきいておらんのだ」
ストレイボウの困惑は深まりっぱなしだった。
マリアベルも自分と似た悩みを抱えているということまではいい。
それと助けてくれたという言葉が繋がらない。
ロザリーがそうしてくれたようにアドバイスの一つ、していないではないか。
目でそう訴えるもマリアベルはよく聞けと語りかけを続けるばかり。
「せっかく数百年ぶりに再会できたのにの。親友が少し変わってしまっていたからといってわらわは拗ねておった。
口を開けば責めるようなことばかり言ってしまったのじゃ」
そこで一度言葉をきり、マリアベルはストレイボウへと笑を浮かべる。
「それがなんとも馬鹿らしく思えた。人間であるおぬしがこれだけ頑張っているのを見るとの。
わらわもおぬしのようにするべきじゃった。相手に言葉を、心を届けようとするべきじゃった」
それが、理由。
マリアベルがストレイボウに礼を言ったわけ。
何も人に道を示すのは言葉だけではない。
行動もまた人を導く。
「だ、だが、俺はそんな大層なものじゃない。まだちっとも届けられていない。隠していることだって、ある」
「それでも、じゃ。おぬしはちゃんとつたなくとも言葉を重ねていたではないか。
わらわはまだ最初の一言も踏み出しておらんのに」
まったく、目を逸らされようと、あの時、胸の熱さを言葉にしておくべきじゃった。
悔いる少女はされど後悔に囚われてはいなかった。
笑にはまじりっけの一つもなかった。
眩しかった。
608
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:43:36 ID:seA8qMPg0
「おぬしのおかげでそのことに気付けた。わらわもおぬしをならって伝えようと思う。
アナスタシアにわらわの心を何度も何度も何度もじゃ」
この笑みは親友との仲直りが叶うことへの希望であると同時に、ストレイボウへの感謝のためだけに浮かべられたものなのだと。
ストレイボウは唐突に理解した。
『義務』でもなく『贖罪』でもなく偶然に得られた結果だけれど。
すっとストレイボウは心と背が、僅かながらも軽くなったように思えて。
「それとその言葉をそなたに教えたロザリーじゃが、無事じゃ。大した怪我もせず生きておるわ。
ピサロの奴があやつの身体に攻撃が当たらぬようしていたおかげでさっきの召雷呪文にも巻き込まれておらぬ」
「ロザリーが……? ああ……、良かった……」
また少し、何かが軽くなった気がした。
自分が助けたわけでも護ったわけでもないけれど良かったと心の底からストレイボウは安堵した。
「のう、ストレイボウ。ロザリーはこうも言ったそうじゃな。
わらわ達は仲間だと。その通りじゃ、な?」
マリアベルが尻餅をついて後ずさる態勢のままのストレイボウに手をさしのべる。
ストレイボウは逡巡することなくその手を掴んだ。
また助けられたと、自分が助けなければいけないのにという念は、一時的にかもしれないが沸き上がってくることはなかった。
ストレイボウは立ち上がる。
彼を支えてくれる仲間を受け入れることによって。
それが贖罪の先に届く第一歩になるのかは今はまだ分からない。
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルセイバー@FFIV
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFⅥ、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:魔剣の持ち主を確認。あれば手に入れる。なくともジョウイやストレイボウにはアキラたちの援軍に向かってもらいたい
2:付近の探索を行い、情報を集めつつ、 元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:首輪の解除。
4:ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
5:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
609
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:44:14 ID:seA8qMPg0
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身黒焦げ、ダメージ(極)、疲労(大)、額と右腕から出血。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI 、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVEが入ってます。
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品0〜1個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:魔剣の持ち主を確認。あれば手に入れる。なくともジョウイやストレイボウにはアキラたちの援軍に向かってもらいたい
2:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:セッツァーとマッシュの情報に疑問。以後セッツァーとマッシュは警戒。
4:ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。
【E-8 一日目 午後】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(中)、罪の意識が大きすぎて心身に負担
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルの説得。
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
610
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:44:45 ID:seA8qMPg0
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き延びる。
2:ストレイボウと共に座礁船に行く。
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
5:僕の本当の願いは……。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
611
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 05:45:19 ID:seA8qMPg0
投下終了
612
:
届け、いつか
◆iDqvc5TpTI
:2010/05/28(金) 07:12:54 ID:seA8qMPg0
む、流石に寝ぼけていたか
本スレ投下時は状態表のミスは直しておきます
613
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:35:21 ID:wXm0mWa.0
少女の首を刈り取る。
その使命を帯びて放たれたのは、暗殺者シャドウの一撃。
細く白い首筋に向けて、アサッシンズが無遠慮に振り抜かれた。
「…………ッ?!」
しかし刃は標的を切り裂くこと敵わず、『ひゅぅん』と情けない風斬り音を立てる。
命中を確信していたはずの不意打ちが外れた。
いや、外れたのではなく、回避された。親子ほども年のはなれた少女に、である。
その予想だにしない事実に、流石のシャドウも驚きを隠せない。
しかし、その動揺も一瞬のこと。
すぐに体制を立て直し、少女に追撃をお見舞いする。
左から右へと。音速をも超える横薙ぎ。
「あたらないのー!」
少女は寝ぼけて立ちくらんだかの如く、上体を僅かに逸らせた。
それが回避行動であるとシャドウが気づいたのは、短剣が空を斬ってから。
またもや、必殺の攻撃が空振りに終わったことを認識した……が、ベテランの暗殺者はそれでも動じない。
宙で身体を反転させ後方へと向き直り、相手からの反撃を警戒する。
だが、それも杞憂に終わった。
少女はまん丸いふたつの目玉を、シャドウに向けるばかり。
攻撃を加えようとする気配はない。
焼け野原と化した港町の中心で佇む彼女の姿は、一人残された戦災孤児のようでもある。
「…………スロウ」
熟練のアサシンは、たった二戟で小娘の実力が並外れていることを認めた。
彼が選択したのは、弱体化魔法。
思いのほか詠唱に時間がかかったのは、この魔法をあまり使い慣れていないからだ。
彼にとって『速さを殺すに値する敵』は殆ど存在しない。
大抵の敵は、一撃の下に切り伏せてしまうのだから。
全身を流れる魔力が僅かに消費された手ごたえを感じ、スロウがちゃんと発動したことを覚る。
大気中に渦巻いた魔力が収束し、標的の周囲で淡く光った。
自らを囲うように生まれ出た輝く粒子を、物珍しそうに見回す少女を光が包み込み……。
……霧散した。
魔法が弾かれた。
その事実が示すのは、両者の圧倒的な魔力差。
シャドウがもともと魔法を不得手としていたこともあるだろう。
が、そのことを差し引いたとしても、あの娘の魔力は相当高いものであると推測できる。
少なくとも、ティナやセリスのレベルは超えていた。
シャドウの攻撃を楽々とかわしてみせるほどの素早さを持っているにもかかわらず、だ。
(…………なるほど)
分が悪い。
歴戦の暗殺者の経験と勘が、そんな結論をはじき出した。
それでも男はナイフを構える。
まだレッドゾーンには至ってはいないと、ここは引き際ではないと、無言で宣言した。
現在相対している人物は、シャドウが今まで経験した中でもトップクラスにやっかいな相手だろう。
今のところ彼に有利な要素など、この少女が積極的に攻めてこない、という点くらいか。
だが、彼女だって人間。きっとそれ以外にも必ず何か欠点を隠しているはずだ。
(その欠点を、連続攻撃の中で燻り出す……)
右膝を折り、前傾姿勢。
スケート競技のスタートのような構えだ。
鋭い鷹の眼が、年端もいかない娘をロックオンする。
敵意なき少女を殺さんと、武器を強く握り締めた。
614
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:36:29 ID:wXm0mWa.0
戦友に誓いし勝利のために。
その道程で殺してしまったツワモノたちに報いるために。
バネと化した右足は、大地を蹴り上げ。
その足音は、バケモノへと駆け出す小さな鬨の声となった。
西に落ちかけていた太陽が、焦げた町を紅く照らす。
まるで町が再び燃え始めたようで、シャドウは一瞬だけ高揚して……少しだけ恐怖した。
「ハァァ……ッ!」
最初は真上から。
振り下ろしたというよりは、叩きつけた。
ジャブと呼ぶには、些か破壊力が勝ちすぎるか。
それを少女はバックステップで易々と回避。
力を込められた刃はあり余る勢いのままに地面へと……向かうことはなかった。
静止したからだ。
少女が後方へ退避したその瞬間に、待ってましたと言わんばかりにナイフはピタリと止まった。
いかにシャドウの反応速度が神がかっているとはいえ、攻撃の成否を確認してからでは流石に不可能な動き。
予め攻撃をキャンセルしておかなけば、こうはいかない。
つまり、この一連の動作は攻撃が避けられることを前提としていた、言わば牽制だ。
走るその速度は落とすことなく右肘を折り畳む。アサッシンズを胸元に構え、追撃の準備を刹那の間に完了させた。
「シュウおじさんより……はやいのー!」
後ろ向きに走りながら両手を振り回し、キャッキャと笑う。
殺気全開で迫りくる男を、笑顔で賞賛してみせた。皮肉ではなく、心からの賛辞だったのであろう。
余裕と無邪気さがなせる業か。
随分と舐めきった言動だが、シャドウはソレに不愉快な素振りなど見せることなく走り続ける。
「…………ッ!」
少女との距離を調節した暗殺者は二撃目を繰り出す。
助走の勢いを活かし、走り幅跳びのように『く』の字を描いて飛んだ。
竜騎士の靴の力を借りた跳躍は、弾丸と見紛うほどの猛スピードで空に五十メートルの黒い放物線を描く。
予想着地点には、左右に小さく括られた赤い髪。
それを確認したシャドウは目標物を定めて片足を突き出した。
足技、とび蹴りだった。
しかし、クリーンヒットを狙ったにしては軌道が低い。
実際、少女が小さくジャンプしただけで、簡単にやり過ごされてしまった。
キックの体制のまま、敵の足下を潜り抜けてしまうシャドウ。
失策だとしたら、世界一のアサシンにはあり得ないほどの初歩的なミス。
しかし、違う。これはミスではない。
この低空のとび蹴りすらも……彼のフェイントだ。
スライディングと化したそのキックは、ガリガリと地面を削りながら滑走する。
その反作用によって、助走によって生み出されたスピードも削り殺がれていった。
ものの零コンマ五秒でブレーキに成功した彼は、少女の着地に合わせて足払いを放つ。
「うわぁッ!」
さすがの怪物娘も、重力に逆らう術は持ち合わせていないらしい。
突如として現れた漆黒の右足に着地を襲われ、身軽な身体は空中で半回転。
頭を下にして落ちる少女の心臓目掛けて、短剣を全力で突き立てた。
迫りくる銀の刃を目視した幼子は、慌てて自らの胸元で短い両手を交差させる。
それは条件反射であったか、それとも冷静な判断に基づいた防御行動か……。
(……甘い)
意図して防御したかどうかは関係ないと、シャドウは考えていた。
放たれたソレは、あらん限りの力を込めた一振り。
攻撃力が低いと一般的に評されているナイフだが、それでもシャドウの全力ならば鋼鉄の鎧をも砕き貫く。
あんな細腕でどうこうできるシロモノではない。
アサッシンズは速度を落とすことなく、小さな心臓目掛けて空を走る。
勝利を確信したまま突き進むその切っ先が、少女の赤い衣服に接触しようとした……その瞬間に、それは起こった。
615
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:37:16 ID:wXm0mWa.0
「……グッ!?」
シャドウが仰け反りながら呻く。
攻撃は、背後から。
無防備な背中目掛けて、回し蹴りらしき衝撃が二回。
敵の気配など全く感じていなかったシャドウは、呼吸を整えることも忘れ、慌てて後方を振り返る。
(…………なにッ?)
赤い髪に赤い靴。
まさに今殺そうとしたはずの少女が、なぜか笑顔でそこに立っていた。
(なぜ、こいつが俺の後ろに……?)
両手を腰の後ろで組み、楽しそうに身体を揺らす少女を睨みつける。
鋭い目をさらに細めながら、これはどういう事だと思考を巡らせようとした。
「おじさん、ちょこと遊んでくれるの?」
彼の脳が作業を開始するよりも早く、かん高い声がそれを阻む。
それは、男の背後から発せたれたもの。
それは男が振り向く前に向いていた方向で、つまり少女が『さっきまでいた』場所だ。
シャドウはそれまで細めていた両の目を瞳孔ごと見開きながら、上半身だけを後方に向ける。
ちょこと名乗った少女が確かに立っていた。
上半身を元に戻すと、やはり前方にも彼女の姿。
(……そうか…………)
前後に感じる、全く同じ気配。
それを確認して初めて、これが分身の能力によるものだと理解するに至った。
挟撃の状況はマズいと判断すると、竜騎士の靴の力を借りた跳躍で二人の少女との距離を確保する。
それを追うこともせず、同じ顔の少女たちはくるくるとバレリーナのように踊った。
男が着地すると同時に、少女のうちの一方、おそらく分身の方がフッと跡形も残さず消失。
(やはり……)
フンと小さく鼻をならし、アサッシンズを握る指に力を込める。
たったいま煙のように消滅したのは、シャドウの目すらも欺くほどの精巧な分身だ。
そんなものを詠唱もなしに発現させるほどの魔力に、男は驚きを禁じ得ない。
セリス、ティナよりも遥かに……おそらくケフカ以上の。
(…………ふむ……)
構えを解くこともなく、殺気を鎮めることもしない。
深い呼吸を繰り返しながら娘を観察し、冷静にその能力についておもんばかる。
敵意全開のシャドウとは対照的に、少女は無邪気な笑みを浮かべて彼に手を振っていた。
そのスピードと魔力は、男の知る人物の中でもトップクラスだ。
そのことはシャドウも、ここまでのやり取りの中でハッキリと思い知らされていた。
彼が次に考えたのは、その攻撃力。
背中に残るダメージは大したことはない。そのことから、あの『ちょこ』とやらの筋力はそれほど高くないことが分かる。
あの小さな体から繰り出されたものとしては異常な破壊力であるが、それでもわざわざ回復魔法をかける程ではなかった。
おそらく、白兵戦が得意な部類ではない。
そう、結論付けた。
決定的な弱点とはいえないが、欠点らしきものは見つかったようだ。
(問題は……防御力……)
濁った黒目が見据んとするのは、未だに不確定な要素。
未だに確認しかねているソレは、暗殺においては最も重視すべきステータスだ。
相手の強力な魔法を掻い潜り、その異常なスピードを捉えて攻撃を命中させたとして、果たして『ちょこ』はその一撃で絶命するのだろうか。
もし、捨て身の一撃を放ったとして、それでも殺しきれなかったとしたら……。
ケフカ並の防御力、体力を、あの娘が持っていたら……。
616
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:38:19 ID:wXm0mWa.0
(だが、しかしだ)
おそらく、無敵というわけではだろうとシャドウは推測する。
その根拠として考えるは、先ほどの分身。
攻撃を回避できない状況に追い込まれた少女は、魔法を用いて反撃したのだ。
なぜか。決まっている……ダメージを受けるからだ。
心臓にナイフを突き立てられれば、あの化け物であっても無視できないほどのダメージになるはず。
だから、避けた。
尤も、それでキチンと死に至ってくれるかどうかは定かではないのだが……。
(仕方ない……)
少女から目線を逸らすことはせずに、短剣を握っていない左手で自分のデイパックを漁りだす。
暗殺者シャドウの真骨頂、投擲の準備。
相手の防御力を明らかにするための、場合によってはそれだけで死に至らしめる可能性を秘めた……奥の手だ。
彼が最初からこの技術を使わなかったのには訳があった。
エドガーたちと旅をしていたときとは違って、この殺し合いでは圧倒的にアイテムの数が足りないのだ。
彼の手持ち道具の中で、投げつけられそうなものなど片手の指で数え足るほどしかない。
昔のようにポイポイと放りまくっていては、直ぐに素寒貧になってしまう。
だから、この会場において彼が投擲を放つのは、ここぞと言う時だけ。
(ゆくぞ……マッシュ……エドガー……)
取り出したのはワイングラス。
ステムと呼ばれる部分、植物でいう茎にあたる所を、親指と中指で挟むように持つ。
そのまま軽く力を込めると、ピシリと小さな断末魔をたてて綺麗に二つに割れ折れた。
片方はテーブルに接する、平べったく円形状のプレート。もう一方は液体が注がれるボウルという部分だ。
そのどちらからも、ステムが半分ずつ槍のように付属していた。
プレートをデイパックに戻し、左手に残されたボウルを右手のアサッシンズと持ち換える。
高く掲げて振りかぶると、内部に付着していた赤茶色の洋酒が地面にポタリと落ちた。
それは戦友たちの死に涙を零しているようにも見えたが、少女の紅い血が流れる勝利の未来を予言しているかのようでもある。
そうだとしたら、透明な容器が披露したその予言は……。
「…………何だ……これは……」
その予言は、大ハズレもいいところ。
シャドウは、投擲することすら許されなかった。
辺りに散らばっていた瓦礫を次々と浮き上げる旋風。
あまりの風力に、投擲の構えが崩れる。
シャドウを驚愕させたのは、少女を中心として展開した竜巻。
突風に混じって感じ取れる魔力が知らせる。『これは、あの少女の起こした災害である』と。
たまらず両手を顔の前で交差させるが、絶え間ない風は容赦なくその隙間を潜り抜けて顔面にタックルをしかけてくる。
瞼を開けていられないほどの勢いに、仲間がかつて使っていたトルネドという魔法を思い出した。
思わず右手から力を抜いてしまう。
ワイングラスは重力など忘れてしまったかのように舞い上がり、螺旋を描いて空に旅立った。
「……これ……は……ッ!」
大気圏にまで達そうかとしているグラスから、竜巻の中心へとシャドウは視線を移した。
そこには両の掌を大地に向け、全身から魔力を噴出する少女。
完全に暴風を支配していた彼女は、風力をあげてシャドウすらも空に誘う。
竜騎士の靴の力で逃げるべきだったと後悔した時にはもう遅い。
不可避の範囲攻撃を前には、シャドウのスピードも反射神経も無用の長物だ。
ついに男の足は地面から離れる。
あとは成す術もなく、ワイングラスの後を追うだけだった。
(……打つ手……なし、か…………)
あっけない幕引きであった。
たった一発で敗北確定なのか、と自嘲する。
ここから叩き落ちればどうなるのか。シャドウはそれを考えようとして、やめた。
もうどうしようもない事だと。
そう諦めつつも、アサッシンズを握り締める左手はまだ固く、強く。
617
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:39:25 ID:wXm0mWa.0
彼は決して少女を侮っていたわけではない。
これほどの広範囲に、これほどの破壊力の魔法を展開できるなど、誰が予想できただろうか。
シャドウの戦闘スタイルは、牽制とスピードで撹乱しての一撃必殺狙い。
それ故に、このような無差別破壊は起きないと言う前提の下で戦わなければならなかった。
もし大規模魔法を食らってしまったら、致命傷に至らぬよう祈りながら耐え忍ぶ以外に道はない。
だからこそ、獣ヶ原の洞窟でもキングベヒーモスのメテオに倒れた。
だからこそ、アシュレーのバニシングバスターにも、惜しみなく太陽石で対応した。
(ひとりは……辛いな……)
頭から落下。もう着地は不可能と判断した。
剣に魔法を吸収してくれる仲間のことを思い出す。
彼女さえいれば、こんなことにはならなかったのだろう。
敵の魔法を同じもので相殺できるモノマネ師がいれば、トランスで敵の魔法ごと吹き飛ばせる少女さえいれば。
この空よりも遥か高きを飛び回ったギャンブラーが、引き際を見極めてくれれば……。
その拳で全てを砕く男が、自分たちを導いたその兄が、隠された道を開いてくれれば。
そして……………………。
(眩しい……空だ……)
太陽はビカビカと大地を照らし、滅んでしまった港町が紅くざわめく。
闇夜に生きる影にとっては、その光景は不愉快で仕方がなかった。
全てを照らそうとする夕陽も、それを迎合する廃墟も。
ある仲間のことがいっそう強く思い返された。
彼女なら、この光景すらも綺麗な景色として、キャンバスに描いてくれるのだろう。
脳裏に浮かぶのは、赤い絵の具を染み込ませた筆でペタペタと白地を叩く少女の姿。
思わず笑みをこぼしてしまったことに気づき、それを頭の中の幻想ごと殺した。
自分が彼女の絵を見る権利などないのだ、と。
目をつぶるその前にもう一度太陽を睨む。
真っ赤な円形は、やはり気分のよいものでなく、おびただしい赤色を従えて世界を燃やしていた。
恐ろしいほど、強く。
◆ ◆ ◆
「…………殺せ」
仰向けで倒れたシャドウが、自らを見下ろしている少女に向けて告げる。
あのまま地面に叩きつけられたはずなのだが、彼はまだ生きていた。
それどころか手足の一本すら折れていない。
何本かの肋骨が折れた程度で済んだのは、少女が手加減したからにほかならない。
それでも彼の体力は大幅に削られ、すぐには立つことすら出来ずに咳き込むばかり。
デイパックもどこかへ飛んでいってしまっては、もはや成す術もない。
「なんで?」
真ん丸い目玉をリスのようにクリクリと輝かせ、少女は首を傾げる。
赤い髪の毛がフワリと揺れた。
荒れに荒れた焼け野原と彼女のあどけない姿はなんともミスマッチだ。
「……それが……勝者の、権利だ」
少女の疑問には答えない。ただ彼は殺害を要求するのみ。
もしも、体が動くなら……彼は逃げていただろう。
誇りも何もかも投げ捨てて、生き抜くために逃げていた。
だが、それが可能な状態にまで回復するには、かなりの時間を要する。
彼女が動けない男を弄り殺すには十分すぎる程の時間だ。
618
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:41:12 ID:wXm0mWa.0
シャドウは命乞いはしなかった。つまり彼は諦めたということだ。
敵前で動けなくなったら死を選ぶ。
それが暗殺者のルールだった。
拷問されたうえに嬲り殺されるくらいなら、一思いに殺される方が多くの物を守って逝けるからだ。
男のかつての相棒であるビリーも、最期までそれを望んでいた。
逃げるシャドウの背中を睨めつけながら、ずっと。
「いやなのー!」
しかし少女は、暗殺者の要望を笑顔できっぱりと拒否。
なぜか楽しそうに男の周りをトテトテと走り回る。
それをシャドウは鷹の目で睨みつけた。
あらん限りの威圧感を込めて。
「……ならば……また、俺は……君を殺す……」
「んーん、ダメなの。おじさんは、今からちょこと遊ぶんだからー!」
「…………」
なんて馬鹿げた会話をしているんだろう。
その事を自覚するなり、己がやろうとしてる事がひどく無意味なものに思えてくる。
暗殺者の生き方などを、年端の行かない少女が理解できるわけがない。
『ここで死ぬんだ』と早合点をした末に、そのような愚行を演じた自分自身をシャドウは諌めた。
どこかでガラスの割れる音がする。
それは、今になってやっと落ちてきたワイングラスの断末魔だった。
「…………後悔、するぞ……」
脇腹に走る鋭い痛みに耐えながら、ため息混じりで吐き捨てた。
少女に殺意も敵意もないのであれば、わざわざここで死を選ぶ必要もないと判断。
ならば適当に彼女をあしらいながら回復するのを待って、逃げるなり、不意打ちで殺すなりするのが最良の選択肢だ。
これで、何度目になるだろうか。
また死に損なってしまった自分のしぶとさに、吐き気を催すほど感嘆した。
「後悔なんかしないもん!」
「…………そうか」
もし、もう一度チャンスがあれば、シャドウは彼女を殺害することができるだろうか。
……無理だ。そんなこと自分には不可能だ、と彼は痛感していた。
この娘の小さな身体には、シャドウにそう思わせるほどの力が秘められている。
だから、彼女はこんなにも自信満々なのだろう。胸を張る少女を見ながら、シャドウはひとり納得する。
強いから、絶対に負けない確信があるから……彼女はシャドウを殺さなくても後悔などしないのだろう。
このとき、男はそう思っていた。
「おじさん……まだ痛い?」
「……問題ない」
くだらん遊びにつきあわされるよりは、と。
シャドウは地に臥したままで会話に応じる。
それを受けて、少女はテコテコと彼の方に歩み寄り、真横に並んで腰を下ろした。
たった今、自分のことを殺そうとした男の横に。
その純真さは、暗き道を行く男には触れ得ぬもの。
「よかったのー」
投げ出した両足をバタつかせることで、犬の尾よろしく喜びを表現する少女。
実際に戦闘不能に追い込まれたシャドウですら、この子があの竜巻を起こした張本人だとは信じられない。
619
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:42:00 ID:wXm0mWa.0
「君は……」
「ちょこはちょこ!」
「…………ちょこは、ここで何を……」
風に混じって、パラパラと瓦礫が砕ける音がする。
港町は、無残な有様だった。
無理もない。元より激戦のせいで廃墟同然だったところに、あの竜巻が起きたのだから。
そんな中、町の外れに位置する場所に、たった一軒だけ無事なままで建っている家がある。
運よく危機を脱したその民家に、シャドウは少しだけ親近感を抱いた。
「ちょこはね、おねーさんを探してたの」
「……誰だ?」
「ちょこ、おねーさんとけっこんしたの! ムチムチプリンなんだからー!」
嬉しそうな顔で胸を張るが、シャドウには何がなんだか分からない。
詳しく聞くのも面倒だと感じた彼は、適当に「そうか」と簡単な相槌を打った。
他の参加者の情報など、敵見必殺を決め込んだ彼にしてみればそれほど有益なものではない。
「おじさんは?」
「…………?」
「おじさんは、何してたの?」
男は、少女の質問の意図を汲み取れずにいた。
幼い娘を不意打ちで仕留めようとした人間にする質問ではない。
優勝を狙って、皆殺しを決行しているに決まってるではないか。
「…………人を……殺していた」
「なんで?」
なおも傾き続ける太陽。空までもが燃える。
訝しげに少女を見やったシャドウは、彼女の向こう側で赤く染まる空にかつての終末を思い出した。
あの時の仲間達の悲しそうな顔、特にセッツァーの情けない顔は忘れたくても忘れられない。
「…………優勝して、生きるためだ」
「ゆうしょー? 競争でもしてるの?」
首をかしげた少女の尖らせた唇を見て、シャドウは初めて気づいた。
少女がこの殺し合いを理解していないことに。
だから彼女はこんなにも呑気だったのだ。
殺し合いのルールを教えるべきか、否か。
シャドウは逡巡し、押し黙った。
「ゆうしょーするために、殺すの?」
「……………………」
「殺さないと、しんじゃうの?」
「…………あぁ」
悲しそうな声で紡がれた質問に、これまた悲しそうな返答を投げ返す。
彼のその短い呟きにどれほどの重みが込められていたのか、少女には計り知れない。
シャドウ自身にも、分からないことなのだから。
「そっか」
「……理解、したのか?」
相手の顔も見ずに、男は赤い空へと吐き捨てた。
確かめると言うよりは、からかう様な口調。
「んーん。むずかしくて、ちょこ分かんない」
先ほどまでキャッキャとはしゃぎ回っていたのとは一転して、落ち着いていた雰囲気をみせる。
少女の変化に呼応したかのように、暴風の傷跡新しい港町跡もようやく落ち着きを取り戻す。
海から久しぶりに吹き込んだ潮風が、二人の頬を撫で冷やした。
620
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:44:00 ID:wXm0mWa.0
「だろうな」
「でも、ちょこ知ってるよ」
少女も、男に倣って天を仰ぐ。
白い頬に差した朱は、夕陽が照らしたソレだろうか。
「誰かを殺したって、さいごにはね、ひとりぼっちになるだけなんだよ」
「……………………」
シャドウに言い聞かせるために語られた言葉のはずだった。
だけど、その声はか細く、自らの頭の中で反響させるために発せられたかのよう。
「ひとりは寂しいの……」
「……………………」
シャドウは既に立ち上がれるまでに回復していた。
しかし、寝そべったままで少女の二の句を待ち続けている。
「ほんとに、つらいんだから……」
少女はもう、泣いているかのようで。
シャドウがハッと、小さく息を吸い込む。
「…………殺したのか? 人を。」
誰もが躊躇うだろうその質問。シャドウはそれを淡々と問いただした。
彼は少しだけ少女に興味を持っていた。
自分の娘ほどの年でありながら、自分と同じ咎を背負っているかもしれない少女に。
その質問を受けたちょこは、何も言わず静かに俯く。
首肯したわけではないのだが、その沈黙はもはや肯定したに等しい。
それから、二分から三分ほどの間、両者ともに黙りこくっていた。
逆に言ってしまえば、僅かそれだけの時間で静寂は打ち切られた。
意を決したように一度だけギュッと目を瞑り、ゆっくりと開いてから、少女はポツポツと語りだす。
「…………ずっとずっと、昔にね」
「…………」
「ちょこ、知らなかったの」
「………………」
「ちょこのチカラを」
「……………………」
「気づいたら、村のみんなも……父さまも…………」
「…………君は……」
「ちょこ、ずっとひとりだった。寂しくてずっと泣いていたのよ」
「……………………」
ユーリルに必死に語りかけた時とは違って、独白は淡々と。
まるで、シャドウの淡白さが伝染したかのように。
断片的とすら言えないほど、虫食いだらけの情報だった。
それでもシャドウは、彼女の過去に何があったのかをおぼろげながら理解した。
偶発的な力の暴走。
それによって少女は大切な人々を死に至らしめ……。
望まない殺戮により、幼い少女は長い孤独に苦しむこととなった。
そんなところだろう。
621
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:44:49 ID:wXm0mWa.0
「…………だから、おじさんも…………」
「…………」
言いかけたちょこの襟首をシャドウが掴んで、地面に押し倒す。
小さく悲鳴をあげた少女の首筋を冷やしたのは、シャドウが宛てがったアサッシンズだった。
魔法で反撃することも出来たのだろうが、彼女は男の目を見つめたまま動かないでいる。
「……だから、何だ?」
研ぎ澄まされた目であった。
その殺気は、最初に少女を奇襲したときから減衰することなく、その視線と同じくらいの鋭さを帯びている。
「…………おじさん……」
「だから、止まれと? だから今から生き方を変えろと?」
首元に押し付けられた男の腕が少女を圧迫する。
苦しそうに眉をしかめた彼女を、男は感情の篭っていない冷たい目で見下ろしていた。
「戦友への誓いを……破れと言うのか……!」
「………………………………」
ギリリと、ちょこのに届いた耳障りの悪い音。
男の口元からにじみ出た血液がマスクから滲んで少女の頬に垂れ、赤い斑点を形成する。
両腕が自由なはずの彼女だが、その血を拭うことはしない。
必死に感情を殺す男を、悲しそうな顔で見つめていた。
「俺は、生きて帰るために、皆殺しをすると誓った。
君も……貴様も例外じゃない」
その言葉に反して、一向に少女の首を引き裂こうとしないシャドウ。
短剣をスライドする簡単な作業のはずなのに、彼の右手は一向に仕事を始めようとしない。
それどころか、苦しげな少女を見て、押し付けている方の手を緩めてやる始末。
「ねぇ、おじさん……」
上手く言葉が紡げないでいる男に代わり、ちょこが口を開いた。
男も彼女の言葉を待っていたようであった。
「……寂しく、ないの?」
「……………………」
ちょこの言葉を合図として、彼女の首元で待機してたアサッシンズがついに動いた。
だがしかし、鋭い切っ先は張りのある肌を傷つけることなく、ゆっくりと少女から離れていく。
シャドウは腰元に短剣をしまい込むと、押さえつけていた手から力を抜いて彼女を解放した。
「…………君も俺を殺さなかったな。これは、その報酬だ」
「ありがとうなの」
シャドウが危害を加えないことを分かっていたかのように、ちょこは静かにだがはっきりと礼を述べる。
服についた砂をパンパンと叩き落とす彼女を黙って見つめながら、男は焦げた大地に再び腰を下ろした。
座った瞬間に、折れたあばら骨がキリキリと痛みをあげたが、眉一つ動かすことなくやり過ごす。
「…………寂しいさ」
そうボソリと嘆いて、直後に吹いたそよ風を一瞬だけ堪能して、また口を開いた。
背中の擦り傷に、潮風が沁みる。
「孤独であることを、忘れてしまいそうになる程に」
「そっか」
ちょこは服を叩くのをやめて、シャドウの隣に腰掛ける。
せっかく綺麗にしたスカートに、また大量の砂が張り付いた。
シャドウはちょこの姿を横目で追いかけていたが、彼女と目が合うと直ぐに視線を逸らしてしまう。
「……君は…………娘に、似ている」
数分間の沈黙の後であった。
ふと、語りだすはシャドウの方。
ちょこは朝一番のあくびをするように顔を上げて、彼を見る。
622
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:45:39 ID:wXm0mWa.0
「おじさん、お父さんなの?」
「あぁ。母親はもう死んだ」
なぜ、そんなことを彼女に伝えるのか、シャドウ自身も不思議で仕方がなかった。
一刻も早く退散して、また殺戮に戻らなくてはいけないはずなのに。
「その子のために帰るの?」
「…………いや……」
答えにつまり、何も言えないでいる彼を、ちょこは静かに待ち続ける。
男が真実を搾り出したのは、その三十秒後。
長いとも短いとも言い難い間だ。
「……いや…………彼女は、父親の顔も…………。
………………死んだものと……思っている……」
「そうなの…………」
「人殺しだからな。そのほうが幸せだ」
よくもここまでベラベラと喋るものだ。
シャドウは心中で己に毒づく。
彼は、自分自身の気持ちがどうなっているのかすら分からなくなっているのだろう。
暗殺者として正しい行動がとれなくなっているほどに。
それはおそらく、この少女のせいであり、かつての仲間たちのせいであり、彼がフィガロ城で殺した少年のせいでもあった。
「でも……それって………………」
「……待て。来るぞ」
悲しそうに俯いた少女は、これまた悲しそうな声で男に反論しようとした。
だがその言葉は、冷たく放たれたシャドウの声と、突如として辺りに広がった濁った殺気によって遮られてしまう。
シャドウは、ズシリズシリと現れた人物のことを、象のように大きな男だと錯覚した。
その男が放つ異常なプレッシャーのせいか。
狂気を伴って現れた白い騎士。
彼がニヤリと笑ったその瞬間に、焼け野原は『一触即発』の状態を経由することすらせずに、ダイレクトに戦場と化した。
「先ほどの竜巻は……お前か?」
犬歯を剥き出しにして、敵対心を隠すことなく。
尋ねられたシャドウは、それには答えず、腰元から取り出したナイフを回答とした。
それを見て、騎士は嬉しそうに再びの笑みを浮かべる。
狼は、餓えていた。
数時間という長すぎる睡眠を経て、肉体的にも精神的にもある程度は回復。
それに反比例して増幅するは、破壊欲。殺戮欲。
人を、エルフを、ノーブルレッドとやらを。生けとし生きる全てを斬りたくて仕方がなくなっていた。
そして狼は、歓喜していた。
目の前に現れたのは、忍者らしき風貌の男。
男の方から発せられるのは、修羅の道をいくものの『圧』。
殺しがいがありそうだと、生唾を飲み込む。
高揚した騎士は、デイパックを遥か遠くへ投げ捨てた。
それは剣一本で殺してやるという、余裕じみた宣言だったのだろう。
「たやすく死んで……くれるなァッ!」
小娘には目もくれず、ルカ・ブライトはアサシンに向けて走り出した。
皆殺しの剣という、まるで彼の狂気を讃えるがために生まれ出でたような業物の柄を強く握りながら。
(次から……次へと……)
一切の感情を消し、殺しのプロに一瞬で戻ったシャドウ。
強者を前にしても彼に喜びはなく、ただ無心でアサッシンズを構えた。
ただ、少しばかりの拭いきれない孤独感を抱えて。
623
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:47:05 ID:wXm0mWa.0
男二人は、お互い真正面から相手へと直進する。
だが、ぶつかり合いになれば、フィジカルで勝るルカに分があるのは誰が見ても明らか。
だから、黒衣の暗殺者が正面から相手に挑むわけがない。その前に必ず何かを仕掛けるはずだ。
そのことは、迎え撃つことになるルカも承知の上であった。
「そうだ、小細工を弄せッ!」
シャドウへと突進しつつも、彼の出方を楽しみに待つ。
こんなにも楽しそうなのは、戦いを楽しみたいからじゃない。
単にルカは、敵が足掻く姿が見たいのだ。
「…………」
しかし、シャドウはルカの期待に反し、全速力の直進を断行。
特に策らしい動きを見せることなく、ルカの剣が届くかどうかの範囲にまで踏み込んだ。
が、それでも彼は加速を続ける。
アメフトの試合ばりのタックルをお見舞いしようとしているかの如く。
「……ふん」
敵の無策っぷりにつまらなそうに鼻を鳴らしたルカは、シャドウへ向けて剣を横薙いだ。
筋骨隆々の男ですら両手で振るのがやっとの剣を、まるで棒切れのように軽く扱う。
ブゥゥンと大型獣のいびきの様な重低音は、運悪くその軌道上に存在してしまった空気の悲鳴か。
それほどの速度での攻撃を繰り出しているにもかかわらず、放った張本人であるルカは踏ん張る様子すら見せない。
仁王立ちのままで、一切の体軸をブラすことなく一連の動作を成功させていた。
がぁん、と。
金属同士がぶつかる衝撃音。
宙を割り裂いて迫った皆殺しの一振りを、シャドウは素直に受け止めたのだ。
シャドウという男は決して非力ではない。
マッシュほどではないが、常人と比ぶれば異常なレベルの腕力を持っている。
だとしても、彼の行動は無謀すぎた。
いくらシャドウのパワーが世界で指折りだろうが、ルカのソレは異常者の中でも飛びぬけて異常。
そして、その男の一閃のスピードもまた、同様に常識の範疇を遥かに超えていた。
その二つが加算ではなく、乗算として計算され……。
その解として得られた破壊力が、そっくりそのままシャドウが片手で握った小さなナイフにぶつけられる。
耐えられる道理がなかった。
一瞬の鍔迫り合いすら許されず、シャドウの体が容易く揺らぐ。
「吹き飛べ……蝿が……」
もはやルカの顔に愉悦は見えず、期待はずれを演じた男を憎しみとも哀れみとも言えぬ表情で見据えていた。
右腕をそのまま一気に払う。木の棒でヤキュウに興じるかのように。
その軌道はややアッパー気味で、白球に見立てられた漆黒の男を空まで掬い上げた。
もし、シャドウが体勢を崩したまま空に浮いてしまえば、ルカの追撃をかわすのは限りなく不可能に近い。
チェックメイトを確信したルカの顔に、笑みが戻る。
無様な男を、あざ笑っていた。
「ファイラ」
だが、全てはシャドウの思惑通り。
フェイントすらなしにルカに突っ込んでいったのも、彼の策のうちだ。
上、下、左、右、斜、突、どの方向から攻撃が来てもいいように、彼は状況に応じた対処法を事前に用意していた。
今回は、右下から左上への斜め一閃。
それを確認した彼は、瞬時に、条件反射のレベルでカウンターの準備に移った。
超破壊力を前に、下手に踏ん張ることはせずに、その勢いを上昇速度へと変ずる。
そして、別れ際にお見舞いしたのは炎の魔法。
もちろん、ダメージを期待してのことではない。
彼が必要としたのは、爆炎によって舞い上がった土煙。
624
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:48:55 ID:wXm0mWa.0
「……ほぅ」
ルカの、三度目の笑み。
今度は最初と同じ種類の、男の実力に期待してのものだ。
彼が評価したのは、敵の判断能力でも、突進の速度でも、もちろん魔法の威力でもない。
ルカ・ブライトを唸らせたのは、シャドウの『精密さ』。
敵の攻撃を受け止めて、それをそのまま移動の速度に利用すると言うのは、達人レベルのパワーコントロールを要求される荒業だ。
僅かでも受け流す方向がズレれば、斬り付けられる勢いのままに身体は回転してしまう。
寸分違わず攻撃を受け流して始めて、この一連の動きは成功する。
それほどの高等技術を、攻撃が来る方向を確認してから、しかも『吹き飛ばされたように見せかけて』行ったのだ。
ここまでのテクニックを有した戦士は、ハイランド王国にはルカも含めてただの一人も存在していなかった。
「フハハハハハハハ! そうだ! 足掻いて魅せろッ!」
土煙で何も見えず。
敵がどこから来るのかも予想がつかない。
それでもルカは狂喜の中にいた。
自分の知る中でも随一の戦闘技術を持つ男はどのように足掻くのが。
どのような断末魔をあげるのか。
それだけを考えて。自分の命の心配など一切することはなく。
三度目の笑みは長く長く、彼の顔に張り付き続けた。
そしてその表情を崩すことなく、彼は右腕を掲げる。
その手が握る一振りが、上空から繰り出されたシャドウの必殺を難なく受け止めた。
「…………ッ?!」
驚いたのは攻撃を繰り出したシャドウの方。
騎士がシャドウの攻撃に感づいた様子は、全くなかったはず。
視界は奪った。この土煙の中で相手の姿を確認するのは不可能だ。
音だってない。足音はおろか、呼吸の音すらさせなかった。
気配も殺した。そんなものはアサシンの基礎中の基礎。
殺気も消した。これに関してはシャドウにしかできない芸当だ。
一切の情報を断ち切られたにもかかわらず、瞬速の攻撃を防いだこの男。
シャドウには、この男が予知能力を持っているとしか考えられなかった。
「当たり、だな」
体勢変えずに、首だけ動かし上を向く。
ドス黒い双眼が、澄んだ黒を捉えた。
当然の話だが、ルカ・ブライトには予知能力などありはしない。
それどころか、彼はいつどこから攻撃が来るのか、特定すらしていない。
勘だった。
ただ、『上から攻撃がくるような気がした』のだ。
とはいえ、全くの当てずっぽうということでもない。
この男にとって警戒すべきは、空からの攻撃だけ。
いかに一騎当千の狂皇でも、脳天に刃物を叩き落されたらただではすまない。
それ以外の方向からならば、たとえ一撃食らったとしても死なないという絶対の自信を彼は持っていた。
だから、唯一の急所を防御したというわけだ。
もっとも、そのタイミングに関しては完全なる勘であるのだが。
「それで、終わりか?」
土煙が完全に消え去った後、空間を支配したのは黒い霧……のような悪意。
黒い光を垂れ流す太陽のように、世界を恐怖で包み込む。
目を合わせていたシャドウは、ソレを直接に浴びせられる。
汗が垂れた。
しかし水滴は地面に達することなく、ルカの『闘気』で蒸発する。
625
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:49:58 ID:wXm0mWa.0
「……まだ、だ……!」
シャドウが集中すれば、冷や汗は瞬間に止まった。
刃でルカに支えられ空中に静止していた状態から、バク宙で地上へと帰還する。
着地と同時に、いつものように姿を消した。
目にも留まらぬ速さで動く、シャドウの十八番だ。
「確かに、強がるだけはある」
口端を歪め、余裕綽々といった風で褒め称えた。
ルカの動体視力をもってしても、その姿をハッキリと追うことが出来ない。
ところどころ、シャドウが方向転換した瞬間だけその姿が鮮明に映し出され、少し遅れて足音が届く。
「だが」
右足を振り上げ、一歩を踏み出す形で地面に叩きつける。
全力の四股は、大地を揺らすには至らないが、轟音を響かせながら空気を震わせた。
皆殺しの剣を大地と平行に払う。
銀色の刃がルカを中心とする半円を描いたころ、ピタリと急停止。
空中で静止した剣先は、一寸の震えすら許されてはいなかった。
「俺を殺すにはまだ遅いぞ!」
怒鳴りながら睨んだ先には、眼前に剣を突きつけられたシャドウ。
たしかに彼は、ルカが相対した人物で最速には違いない。
が、それでも、神経を研ぎ澄まし、全六感を駆使すればこのとおり。
「……見せてやろう」
ひどく、楽しそうに。
買ったばかりの玩具を嬉々として破壊する子供のように。
シャドウを攻撃することなく、剣を収める。
懐から取り出したのは、淡く輝く石。
「スピードも技術も、人の思いとやらも飲み込む…………」
「……ッ!」
シャドウが目を見張り、息を呑む。
男が取り出したのは、魔石だった。
時空を超えて、幻獣を召喚する鍵となるアイテムだ。
「……悪というものをなッ!!!!」
握り締めて高く掲げる。
その美しい輝きは、しかし大規模破壊の宣告。
赤き空を引き裂いて、三本の巨大な鉄塊が大地に降臨し、ルカさえ揺らせなかった大地を大きく震わせる。
それは、剣だった。
聖剣がひとつ。名刀がひとつ。なまくらがひとつ。
「…………クッ!」
時空の割れ目から現れた巨大な武者を前にして、シャドウが思わず舌を打ち鳴らす。
一歩一歩、小規模な地震を従えて登場したそれは、彼もよく知る幻獣。
名を、ギルガメッシュと言う。
天敵である回避不可能な攻撃を前にしても、諦めることなく構え続ける暗殺者。
その男をターゲットだと見なしたギルガメッシュは、かつてを思い出したように一瞬だけ悲しそうに目を細め。
三本のうちの一本、名刀マサムネを手に取った。
(不味い……な……)
剣豪は、シャドウに手心を加える気はないようだ。
それは、強者であるアサシンへの、ギルガメッシュなりの礼儀だったのかもしれない。
大剣と呼ぶのも憚られるほどの大きさの刀を、さらに巨大な幻獣が振りかぶる。
刀身が夕陽を反射して、赤く光る。
シャドウは、その炎と見紛う程の紅刃に、何度目かの恐怖を覚えた。
626
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:50:50 ID:wXm0mWa.0
「ふはははははは! 燃える剣か!」
自らの扱う技とよく似た光景に、「これはいい」と高笑う。
しかし、ギルガメシュの集中が高まるとともに、その笑い声は次第に小さくなっていく。
ついに男の顔から笑顔が消え、冷たい顔から憎悪のような感情が漏れ出した。
それを合図として、召喚獣は巨剣をシャドウに叩きつける。
「…………苦しんで死ね」
シャドウのファイラとはケタ違いの土煙が舞い上がる。
茶色い粒子が視界を阻むが、ルカは知ったことかとその中へと歩みだした。
何も見えない濁った濃霧の中を、ツカツカと一直線に進む。
いつの間にか、ギルガメッシュはこの世界から消えてしまっていた。
「意外と、しぶといではないか」
土煙が晴れ、景色が開ける。
マサムネの一撃によって、完全に荒野と化した港町。
その中心には、血まみれで倒れ臥すシャドウと、彼の胸元を踏みつけるルカ・ブライト。
「苦しむ時間が増えた……だけッ! だがッ! なァッ!」
「…………ッグゥ……!」
言葉に合わせて、何度もシャドウを踏みつけるルカ。
クロノたち三人を殺して以来の、久しぶりの獲物の登場に狂乱していた。
五度目のスタンプの直後、シャドウが咳とともに口から大量の血液を吐き出した。
内臓を損傷してしまったのだろう。
「無様だな。貴様の敗因……何だと思う?」
「グゥ……ごはぁッ!」
潰された臓器が存在するであろう脇腹を、グリグリとつま先で押しつぶす。
ルカの足が左右に揺れるたびに、シャドウが何度も吐血。
崩壊した大地に、赤い血だまりを形成する。
「無差別破壊に耐える術を持たなかったことだ」
ルカが剣を掲げる。
頭か心臓か、トドメに刺し貫く部位を選別していた。
どこが一番苦しいものかと考えながら。
「そんな様で……よく一人で生きてこられたものだ」
(ひ……とり…………)
ルカが手に持つ剣をクルリと回転させ、下に向ける。
もちろん、倒れた男に突き刺すためだ。
シャドウは、自らの命に引導を渡さんとする凶刃に、目をくれようともしない。
彼を思考へと誘ったのは、ルカの言葉の中にあった『ひとり』という単語。
「ふん、誰かに頼らぬと生きていけぬ。脆弱なブタめ」
(そう、いえば……だれ、か、も……)
シャドウは必死に思い出そうとする。誰か『ひとり』を嘆いていた人物がいたことを。
それが誰なのか、おそらく大事なことであるのだろうと。
しかし、狂皇がそんな時間を与えるはずもなく。
男の心臓に照準を定め。
「もういい。死ね」
振り下ろした。一気に。
その言葉をきいて、シャドウはやっと我に返り現実を見据える。
暗殺者の両目が捉えたのは、自分に向けて突き進む剣先。
「く、そ……」
自らに残された時間の少なさに恨み節を吐きながらも、必死にその人物が誰だったのかを記憶の中から探り出そうとする。
シャドウの脳がその正体を突き止めたのは、ルカの剣が彼を絶命せしめんとするその瞬間であり…………。
627
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:51:56 ID:wXm0mWa.0
「だめなのーーーーッ!」
少女の放った水塊が、ルカの攻撃をキャンセルした瞬間だった。
狂騎士が、ちょこの魔法を食らって数百メートルも吹き飛ぶ。
だが、手にした剣を取り落とすことなく、それほど大きなダメージも受けていないようだ。
それは、少女の放った『パシャパシャ』が、相手を始末するためでなく弾き飛ばすことを目的としていたからだ。
(そ……う、だ。ちょ……こ……)
その姿を確認した瞬間に、急に記憶が鮮明になった。
たった今シャドウを助けたこの少女こそが、彼が求めていたその人。
ひとりであることの悲しさをシャドウに吐露した張本人だ。
「小娘ェッ! ……そんなに死にたいかァッ!!!!」
立ち上がったルカが吼える。
こんな少女に極上の瞬間を中断されたことに、彼は激しい怒りを覚えていた。
全開の殺意を彼女に浴びせる。
普通の人間なら、それだけで泡を吹いて失神してしまうだろう。
「おじさん、立てる?」
「なん、と……か……な…………」
血液交じりの堰をしながら、ゆっくりと立ち上がる。
制限によって効き目の薄いケアルガを三回ほど唱えて、やっとシャドウは歩けるまでには回復した。
「それじゃ、逃げて」
ジリジリとこちらの様子を伺いながら迫るルカ。
ちょこはそれを睨みつつ、後ろに立つ男へと提案する。
らしからぬ静かな口調が、彼女の覚悟の強さを物語っていた。
シャドウはその言葉の意図が分からず、「なに?」と一言だけ。
「おじさんは、逃げるの。あの人は、ちょこが代わりに…………殺すから」
シャドウと戦った時には見せることはなかった確かな戦意が、少女から漂っている。
会話をしながらも集中を崩さず、いつでも魔法を展開できるように。
「だが、君は……さっき……」
ちょこが殺しを嫌っていたことをシャドウは知っている。
だから今彼女がアッサリと殺人を宣言したことに、戸惑いを禁じえない。
シャドウの疑問に、ちょこは小さく笑ってから口を開く。
「ちょこね、ずっといい子になろうとしてたの。いい子になれば、死んだ父さまが救われるって信じてたから」
「ならば……!」
「おじさんには女の子がいるんだよね?」
「…………あぁ」
シャドウは訝しげに、掠れた返事を返した。
口の中には、未だ鉄の味が残っている。
男の返事を聞いた直後、ちょこの張り詰めた戦意が一瞬だけ緩んだ。
すぐに集中を取り戻すと、意を決したような、優しく説き伏せるような口調で続ける。
「その子、きっと泣いてるの」
「…………」
「会わない方が幸せだなんてちょこ信じない。ちゃんと抱きしめて欲しいに決まってるの。
その子もおじさんもまだ生きてるんだよ? 家に帰れば会えるんだよ?」
シャドウはなにも答えない。
堰を切って流れ出した少女の言葉を、ジッと黙って聞いていた。
「だからおじさんは、ゆうしょうして家に帰るの。だったら……ちょこ、悪い子でいいよ」
「…………」
「もう、あんな寂しい思いをするのは、ちょこだけで十分なの」
ちょこは『優勝』の意味も、なぜそのために人を殺すのかも知らない。
ただ、顔も名前も分からない少女のために、戦おうとしていた。
628
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:52:54 ID:wXm0mWa.0
「それでは、君が……」
「いいの、もう」
シャドウの言わんとしたことが分かったのだろう、その言葉を遮る。
悲しそうに一度だけ赤い空を見上げて、息を飲み込んでから力強く言葉を続けた。
「死んじゃった人より、生きてる人の方が大切なのよ。
父さまはもう死んじゃったから。生きてるあなたたちのために、ちょこは父さまを諦めなくちゃいけないの。
ちょこが我慢すれば、その子が幸せになるんだから」
それは、アークたちとの旅で学んだことだった。
アークは後ろを振り向き絶望する人々に、前を向いて明日へと進むことを教え続けた。
ちょこだって、そうだ。
勇者たちと出会わなかったら、過去の惨劇と決着することなど永久に出来なかった。
幻想の村を作って、幻想の村人と一緒に、仮初の絆を結んで満足していたことだろう。
でも彼女は勇者との旅路の末に気づいた。
死んでしまった人々は戻らない。
破壊してしまった事実は消えない。
それを知った少女は誓う。
だから、せめていい子であろうと。
胸を張って自慢できるような娘でになることで、彼女は父親に報いようとした。
ちょこは、それすらも捨てようと決意する。
人の苦しみを理解できる優しい子だからだろう。
父親に愛してもらえなかった少女の苦しみが、痛いほどに。
ちょこは、死んでしまった自分の父よりも、今生きている誰かの幸福を願える子だった。
「……ちょこ…………」
「行って。お願い」
シャドウが逃げるべきか迷いながら、ジリジリと後ずさりをする。
やがて、心を決めたかのように踵を返した。
怪我のせいだけではないだろう、彼の足取りは重い。
「おじさん、ありがとなの」
なぜ少女がお礼を言ったのか。
今のシャドウにそれを理解することはできない。
「ククク……逃げるのか? 小娘を生贄にして!」
ルカの罵倒する声。
しかし、言葉ほどの怒りを覚えている風には見えない。
彼の興味は、無様な敗北を喫した暗殺者から、異常な魔力を秘めた少女に移っていた。
「いいの。ちょこが決めたんだから! ちょこ、あなたを殺せるよ」
ちょこが、一歩を踏み出す。
ルカは、すでに彼女の魔法の射程範囲に踏み込んでいる。
キナ臭さを感じ取ったのか、海風も今はまったく吹いてはおらず。
焼け野原に遺された音は、少女と狂皇の息づかい、そして男がひとりで敗走する情けない足音だけだった。
「…………結局、ひとりになっちゃったの」
気づいときには、仲間たちからはぐれて一人でこの島にいた。
その後に出合ってからずっと一緒だったアナスタシアも、どこかへ行ってしまった。
仲良くなれたと思っていたシャドウも、彼女を置いて行ってしまう。
そして父親への報いも、棄て去ろうとしていた。
「仕方ないよね」
誰に言うでもない、ちょこの嘆き。
しかし、音のない戦場には遠くまで響いたものだ。
泣き声に近いソレは、歩み遅く逃げるシャドウの耳にも届く。
629
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:54:46 ID:wXm0mWa.0
「ちょこ、いっぱい殺しちゃったんだから」
シャドウは、それでも歩みを止めない。
俺だってそうじゃないか。その言葉を伝えることもしなかった。
ただ逃げる。
戦友への誓いのために。
自分の誇りも、誰かの悲しみもここに置き去りにして。
照りつける夕陽から逃れるように。
影は、東へ消えた。
◆ ◆ ◆
「どうした小娘ッ!」
叫びと共に振り下ろされた剣だが、それが命中することはない。
これで何度目になろうか。
ルカの攻撃は全て悉く回避されていた。
それでも、狂人の顔から笑みが消えないのは、余裕だからに他ならない。
彼はまったくダメージを受けていないのだから。
「…………」
一方、ちょこは攻めあぐねていた。
ルカの攻撃が巧みだからとか、隙が見当たらないとか、そういったことではない。
やはり、少女は殺せなかった。
シャドウに殺害を宣言したはずなのに、まだその踏ん切りがつかないでいる。
「よくもあんな啖呵を切ったものだ!」
捨て身の一撃は、またもや空振りに終わる。
ルカは本気で攻めていた。
にもかかわらず、その攻撃はかすりもしない。
彼もまた、少女に決定打を与えられないでいた。
「ならば……もういい、失せろ」
「え?」
先に痺れを切らしたのは、積極的に攻めていたルカの方。
剣を収めて、あさっての方向に歩き出した。
何事かと目を丸くする少女をよそに、ルカはカチャカチャと甲冑を鳴らして進む。
「俺は、あの男を殺しに行くとしよう」
首だけで振り返って、笑う。
してやったりといった顔であった。
「ダメなの!」
「そう遠くには行っていないはずだ。そうだ、森ごと焼き払うのも愉快だな!」
少女の叫びもそ知らぬ顔で、ルカは再び彼女に背を向ける。
ちょこは思わず男の後姿を全速力で追いかける。
テコテコという可愛い足音が、異常に速いテンポで刻まれた。
「まってお兄さ……」
慌てたちょこが、ルカの背中に追いすがろうとした時だった。
殺意が、再び空間に充填する。
一瞬で広がった黒く粘っこいオーラは、あらゆる生命を拒絶するかのように男の全身から這い出して。
少女の身体で弾けた。
630
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:56:03 ID:wXm0mWa.0
「……う、ぁ…………」
わき腹に全力の一撃を受けて、思わずうめき声がもれる。
振り返る速度そのままに放たれたルカの大振りが、少女をついに捕まえた。
男の破壊は少女の骨を砕き、内臓に損傷を与え、その体に十数センチ食い込んで止まっていた。
ちょこの小さな口の端から赤い滴りがポタポタと垂れる。
「ぁ……い、たぁ……」
「……! ふ……ふははははは! なるほど、ただの小娘ではないらしい!」
ひどく愉快そうに、もともと全開だったはずの瞳孔を限界以上に大きく剥く。
ルカの一撃は、鎧を切り裂くどころか、騎兵を馬ごと一刀両断できるほどの破壊力を持っている。
それが軽装の少女であれば、十人をまとめて一撃のもとに葬り去ることだって可能。
だのに、この小娘はどうだ。
刃が命中するなり、まずその表皮が剣の勢いの半分近くを削った。
肉が残りの大部分をそぎ落とし、そして肋骨が完全に攻撃を受け止めてしまった。
もはや、人間の防御力を遥かに超えている。
「やはり貴様を選んだのは正解だったようだ!」
「……んッ!」
グチャリと耳障りの悪い音をたてて、血に染まった剣を少女のわき腹から引き抜く。
身体に走った痛みに少女が蹲った。
この少女は異形だ。
人間ではない物の殺し心地を実感したいルカの顔が期待で歪む。
剣をあらん限りに振り上げ、未だ動けないでいる少女へと狙いを定める。
見下している男の目と、彼を見上げた少女の目が合った。
声が出せない少女の口が「なんで?」と音無き言葉を刻む。
三日月状に細められた両目が、それに対する男の回答であった。
少女が絶望する間もなく、男のフルパワーが少女に向けて振り落とされる。
「……!? 炎か!」
怯んだのはルカ・ブライト。
突如登場した巨鳥を模した火炎が、男の身体を通過。
驚きのあまり一瞬だけ動きを止めたものの、灼熱にその身を焼かれた男の表情は涼しいものだった。
隙をついて距離をとった少女の姿を確認し、ゆっくりと歩み寄る。
「あなたは、もう壊れているの」
ちょこは後ずさって、相手との間隔を一定に保つ。
未だに迷っているのだろうか、積極的に攻勢に転じようとはしない。
殺人への踏ん切りもつかないまま、男を睨みながら強がりを紡ぐ。
「ちょこは、あなたと戦うわ」
「ならば、殺しにこい! 今殺さねば……俺はもっと多くを殺すぞ!」
男はちょこを挑発する。
彼女が回避に徹すれば、ルカの攻撃があたることはほとんど無い。
だが、少女に攻撃の意思があるならば、確実に生まれるだろう隙をついてその身体を鮮血で染め上げる自身があった。
事実、戦闘のテクニックでは、ルカはちょこの遥か上をいっている。
「……分かってるの!」
小さな両手を大地にかざし、魔力を送り込む。
力を与えられたその地点の地面が急激に盛り上がり、男に向けて地盤の隆起が一直線に襲い掛かる。
一メートルもの巨大な土塊が下方から襲い掛かる、非常に破壊力のある魔法だ。
「ククク……なんだそれは」
ルカはあろうことか、その迫り来る魔法に向けて突進。
信じがたいことに、彼は下からせり上げる大地をなぎ倒しながら突き進んでいた。
高威力の魔法が、彼の肉体に少なくないダメージを与えていくが、ルカを止めるには至らない。
盛り上がった土を拳で砕き、足でへし折りし、ついに少女の目の前まで到達した。
631
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:56:55 ID:wXm0mWa.0
「……え?」
突如として眼前にあわられた男に、ちょこは思わず立ちすくむ。
魔法を真っ向から打ち破ってくるなど、初めてのことだった。
あのグルガでもここまではしないだろう。
「なめるな小娘ッ!」
なぎ倒してきた土塊と同じように、少女に拳を飛ばす。
彼女が数時間前に戦ったブラッド・エヴァンスよりも強力な打撃。
ちょこもすぐに防御体制をとって、その拳を受け止めた。
交差した細い腕でルカの大きな拳を耐えしのぐと、追撃がこないうちに反撃に転じる。
「……グっ! チィ……小賢しい真似をォッ!」
後方に現れた分身とともにルカを挟み込んだちょこは、二人がかりの蹴りをお見舞いする。
左右からの同時攻撃は、流石の狂皇も捌ききれない。
数発ほど命中した少女の足技が、胴体にめり込む。
だが問題は、肝心の蹴りの攻撃力が不足していたこと。
そして彼女にとって一番の不幸は、ルカの防御力が並外れていたこと。
男はダメージを恐れなかった。
蹴られながら二人の少女の足首をそれぞれの手で掴む。
「つかまえたぞ……」
「…………きゃぁ!」
悲鳴と共に、右腕に掴まれた方の少女が消える。
残された左腕の少女は逆さづりで盛り上げられてしまった。
ジタバタと暴れるちょこ。
だが、彼女の足を掴む男の握力は強く、どれだけ少女が動いても緩む気配すらみせない。
それどころか、逆に動くことで彼女の防御はおろそかになる。
そこを狙って、ルカは左の拳を叩き込んだ。
「うわ!」
「…………ッ!」
少女の固さに、ルカは拳に痺れを感じた。
やはり……、と少女の不可解なまでの防御力を改めて実感する。
このままでは、たとえ剣を突き刺してもこの娘を殺すことは不可能だろう。
彼女の異常性を前に、ルカはますます気持ちを高ぶらせた。
その思いを拳に込めて、何度も何度も少女を殴る。
少女を確実に殺すために。
「わあ! うひゃあ! うわあ!」
相変わらず、ルカは少女の人間とは思えない防御力を感じていた。
ほとんどダメージを受けていないというのが、彼女の声に現れている。
それでも拳を握り、さらに強く彼女を殴る。
回数を重ねるごとに、パンチの威力は増し、その目は興奮からか次第に血走ってゆく。
「ぅ、うぅ……うぅッ! あうッ!」
もう攻撃は二十回を超えただろうか。
同じ部分へ殴打を食らい続け、確実にダメージは蓄積していたらしい。
少女の声にも変化が生じていた。
ちょこだって無敵じゃない。
攻撃され続ければ体力は削られ、やがて人と同じように……死に至る。
「どうした? 苦しそうだ……なァッ!」
「ぉッ! ぉうっ! ぉー。ぁ……ぁ……」
少女の守りを突破した手ごたえを感じ、ルカが殴る力にいっそうの力を込める。
殴り方を微妙に変えて、楽器のようにさまざまな悲鳴を喘がせながら。
やがて少女の悲鳴にも力がなくなっていき、ついに小さなうめき声しか発さなくなった。
632
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:57:31 ID:wXm0mWa.0
「そろそろ、死ねるか?」
「ッ! ッ! ッ!」
殴ること六十発。
ついに声を発することなく、痙攣するだけになった少女。
その両目から涙が滴り、額を伝って髪の毛から大地へと落ちる。
ルカはつま先で少女の腹を蹴り上げた。
「げはぁッ! ……ぁあぁあああぅぅ……!」」
一瞬だけ大きく跳ね上がって、嘔吐する。
血液が混じった吐瀉物が、逆さづりの少女の顔を汚した。
これならもう殺せるだろうと、ルカは皆殺しの剣を取り出す。
「貴様を殺せば、次はあの男だ」
「お、じ……ざ…………ん……」
涙やら血液やらでグシャグシャの顔を睨んでから、その剣を彼女の心臓に向けて突き刺そうとした。
しかし、ルカの言葉に反応したちょこの魔力が渦巻く。
少女は再び闘志を燃やした。
離れ離れになった親子を助けるために。
「だ……め……な、の」
現れたのは棺桶だった。
ここまで追い込まれて、少女はやっと魔法を使うことを思いつく。
地面から突き出した四角柱の塔のような棺が、ちょこを乗せて高くそびえ立った。
思わず少女の足首を離してしまったことを、ルカは後悔する。
「けほっ……けほっ…………」
棺の上で咳き込みながら、海水浴用タオルで顔を拭う。
もう、殺す以外の選択肢はないのではないかと、少女は半ば諦めていた。
「……おじ、さん……は! ゆう、しょう、して……帰るんだからッ!」
「……! これはッ!」
ルカが始めて、うろたえたような声をあげる。
光魔法、キラキラ。
『今の』ちょこが使えるなかで、最強の魔法であった。
棺から漏れ出た浄化の閃光。
まばゆい光は絶対の殺傷力をもって、真っ赤な夕陽すらもかき消した。
空間を余すところ無く埋め尽くした、少女の金色の怒り。
「く……ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
光はルカの全身を傷つけながらも、体内に過剰なエネルギーを与えていく。
行き場をなくすほどに膨れ上がった力は、男の身体を巡り、巡り。
男の体内を中心とした激しい爆発を引き起こした。
直後、金色の光が晴れていく。
待ってましたと言わんばかりに、夕陽の赤が大地に舞い戻った。
「ぐ……貴様ぁ……ッ!」
片膝をつき、荒い息をさせながら、ルカはちょこを睨みつける。
口から血液を吐き出した後、剣を支えにして立ち上がる。
「あなたの負けよ。……あの人に手を出すなら、ちょこが許さない」
ふらつきながらもルカを睨めつけていた。
黄色いリボンの効果で、徐々にだが彼女の体力は回復している。
一方のルカは、戦いが長くなればそれほどスタミナを消耗して不利になるはず。
それを見据えて、彼女は勝負はついたと宣告した。
しかし、ルカは彼女の警告を完全に無視。
牛のように嘶いてから、剣を構えてちょこに襲い掛かった。
633
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:58:47 ID:wXm0mWa.0
「…………もう、やめて!」
叫びと共に、大地が隆起。
先ほどルカにアッサリと破られた『メキメキ』である。
しかし、男が疲労した今となっては効果絶大。
狂騎士は下から突き上げられる勢いのままに、数メートル跳ね上がって地面に衝突。
「…………ふはははははは! それでいい!」
破壊力の高い魔法をその身に受けながら、またもやルカは立ち上がった。
ここに来てもまだ一向に倒れる気配を見せない。
むしろ、ルカ・ブライトにしてみれば、ここからが本番だった。
何事もなかったと言わんばかりに、剣を抱えて突進する。
「殺して見せろッ! 小娘ッ!」
ちょこがパシャパシャで迎え撃つ。
魔法で作られた水塊が、ルカに向けて発射された。
しかしルカはこれを一刀両断。
その場で弾けた水を全身に浴びながら、ちょこへと肉薄し刃を振るう。
頭部目掛けて繰り出された剣を、ちょこは避けることが出来ない。
こめかみを右腕でガードすることで、急所へのダメージを避ける。
「…………くぅ……!」
剣がぶつけられ、ちょこの腕はミシリと悲鳴を上げた。
しかし、泣き言は言ってられない。
男は本気で殺しにかかっている。
ちょこも殺すつもりでいかなければ、やられてしまうほどに。
「それがどうしたッ!!」
メラメラの炎鳥で迎撃しようとするが、ルカの進行を止めることは出来ない。
炎を全身に纏ったままで、男は走り続けた。
ルカの兜割りが振り下ろされる。
ちょこは横に飛ぶことでそれをかわし、男の顔目掛けてとび蹴りを加えた。
だが、やはり直接攻撃は期待できたものではない。
ルカがちょこの足を掴んで、そのまま地面に叩きつける。
「ふぇっ!」
地面に鼻をぶつけてしまい、鼻血がツーと垂れる。
うつ伏せで倒れるその背中目掛けて、刃が突き立てられた。
ちょこは地面を転がって凶刃の軌道から逃れると、ルカの横腹にパシャパシャを放つ。
声もあげないで吹き飛んだ狂皇だが、宙返りからの見事な着地を披露して、懲りずに少女に向き直った。
「なんでなのー……?」
ちょこが不思議そうに男を観察する。
普通の人間なら、まとも動きを出来るほどの傷ではないはずだ。
しかし、あの騎士は、以前と分からないほどの動きと、以前よりも強い気迫でもってちょこ首を狙ってきている。
装備品で体力を常時回復しているはずのちょこの方が、息が上がってしまっていた。
「どうした? もう心が折れたのか?!」
休むことなく少女を攻め立てようとするルカ。
全身には、いくつもの生々しい傷跡が付けられている。
だが、彼に疲れた様子はほとんど無い。
634
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 20:59:57 ID:wXm0mWa.0
さて、突然だが、ルカ・ブライトの剣術は凄まじいものだ。
そんなことは言うまでもないだろう。
しかも、それでいて最強の召喚獣を扱えるほどの魔力も兼ね備えている。
身体能力もこの殺し合いの参加者でトップレベルだ。
そこまでの万能戦士でありながら、そのどれもが彼の長所足りえない。
この男の真の恐ろしさは他にある。
タフネス。
持久力こそが彼の真骨頂。
二十人弱の都市同盟の精鋭たちと戦っても、まだ剣を振り続けられるしぶとさ。
戦場で何時間の激闘を演じようとも、一向にバテない体力。
そのタフネスを発揮できる局面まで追い込まれて初めて、彼の本番が始まるのだ。
ちょこのキラキラはそれを引き出した。
が、そのために終わりない持久戦が始まることになる。
ちょこは強いとはいえ少女の体。スタミナがあるとは決していえない。
体力差は歴然だった。
黄色いリボンのアドバンテージを埋めて余りあるほどに。
「まだっ!」
少女が叫べば、急に風が吹きすさぶ。
竜巻の魔法、ヒュルルーだ。
決定打を命中させられないのなら、範囲攻撃を当てればいい。
シャドウをしとめたときと同じパターンである。
しかも、今度はそのときとは違い、手加減なしの全力で魔法を放つ。
殺すことも厭わない一発だ。
竜巻はルカすらも簡単に空へと巻き上げる。
その高度は、ブラッドやシャドウのときより遥かに高く。最終的には命にかかわる高さまで。
そして、無遠慮に固い大地へと叩き落した。
ルカに遅れること数秒。
ドサリと、デイパックがひとつ落ちてきた。
シャドウとの戦いの前にルカが遠くへ投げ捨てたものだが、今の魔法でここまで飛んできたらしい。
男の落下の衝撃によって辺りに生じた土煙が、少女の視界をふさぐ。
彼女が男が倒れているだろう方向を、申し訳なさそうに見つめていた。
悪い子になってしまったかもしれない後悔と、ほんの少しの安堵を抱いて。
「ふははははははははははははは!!!!」
煙の奥から、笑い声。
少女が驚きを隠そうともせず、まん丸な目を見開いた。
男がまだ生きていたことに驚愕したわけではない。
生きていてもおかしくはない、とは思っていた。
しかし、笑う体力まで残されていたとは、さすがに予想だにしていなかった。
「残念だったなッ!」
晴れかけた土煙の中から、ルカが突如として現れる。
走るスタミナまでは残されていないだろうと思っていたちょこの反応が遅れた。
その隙を突いて、ルカは皆殺しの剣を少女の腹部へと突き立てる。
今のちょこに、この一撃を避けることは敵わない。
ルカは命中を確信していた。
635
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:00:35 ID:wXm0mWa.0
さて、得意の力押しで戦局を有利に進めていたルカ・ブライトだが、彼はたった一つだけミスを犯した。
彼はある見当違いを起こしていたのだ。
少女の能力について、である。
ルカにタフネスと言う長所があるように、ちょこにもズバ抜けた強みがひとつある。
スピードでも、防御力でもなく、魔力だ。
ルカも、少女の魔力が高いことは重々承知のつもりでいた。
それこそ、彼が過去に出会ったどの人物よりも高いと見込んで。
だが、それでも彼は少女を過小評価していた。
少女の魔力がもつ異常性は、ルカのタフネスがもつソレに匹敵するかそれ以上。
ルカの評価の遥か上のそのまた上である。
その見当違いが、さらなる決定的な勘違いを引き起こしてしまう。
彼は、『キラキラ』を少女の『切り札』だと思い込んでいた。
ちょうど自分の持っている魔石のような、『切り札』だと。
もちろんあの魔法は、彼女の『奥の手』ではある。
現在のちょこが使うことの出来る魔法の中で最高威力を誇っているのだから。
しかし『切り札』、つまり一度しか使えない最終手段ではなかった。
「…………なッ!」
こんどはルカが驚かされる番であった。
大地から再び現れた、光の棺に。
この魔法はかなりの魔力を消費する大技だ。
にもかかわらず、少女が繰り返し放てるのはなぜか。
簡単なことだ。少女の魔力の総量が途方も無く膨大であるからだ。
「これで、終わりなの」
世界はもう一度金色に染まる。
広範囲にわたる逃げ道の無い、超破壊魔法。
ルカがこれを切り札だと勘違いしてしまうのも、仕方ないことなのかもしれない。
そうほどまでに、少女の『キラキラ』は強力だったのだから。
彼女は、真の紋章使いをも悠々凌ぐほどの大魔法使いであった。
「…………くくく……これは、愉快だ」
ルカはやっと気づいた。
彼女こそ、自分に勝ち得る唯一の人物であると。
一対一で、ルカ・ブライトを殺すことが出来るただ一人の存在であると。
そして、それに気づいて、彼は楽しそうに笑みを浮かべる。
狂喜に顔を歪めたまま、金色の衝撃に身をゆだねていた。
「ぐ……ぐ、が…………」
光が全て退散した後。
夕陽が照らす静寂の中。
ルカはもはやボロボロで、全身から血を噴出し……それでも二本の足で立っていた。
剣を手放すことなく、戦意も途切れることもなく。
「…………流石に、効いたぞ……小娘……」
「ねぇ、お兄さん。もうやめにはできないの?」
ちょこは、敵を殺さない解決策を最後まで模索していた。
それに反応を示すことなく、ルカはゆっくりと彼女の方へ進む。
少女はもう、距離を保ったりはしない。
仁王立ちで男を迎え撃とうとしていた。
「もうお兄さんじゃ、ちょこには」
「勝てないとでも……」
男が背中から取り出したのは、彼のデイパック。
シャドウとの戦いの前に遠くへ放り投げたが、少女の竜巻で男の近くに偶然戻ってきてしまったものだ。
手を突っ込んで、取り出したのは細長い木製の棒。
取り出すなり、少女へ向けて振るう。
636
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:01:28 ID:wXm0mWa.0
「言いたいのか?」
「…………え?」
不思議な光が少女を包む。
直後、自らの身体に変化が起こったのをちょこは感じた。
慌てて何らかの魔法を展開しようとするが……。
だが、練り上げた魔力は奇跡を発現することなく、無情にも空気中に散っていく。
魔封じの杖。
少女の天敵ともいえるアイテムであった。
「そんな……」
「時の運、とはよくいったものだ……。だが……」
絶望する少女に、男がジリジリとにじり寄る。
少女は後ずさりをして、男から距離をとろうとしたが、どうにも力が出ない。
「それを引き寄せるのも…………君主の力……」
「……ん……ぇ…………」
ルカが追いつき、少女の胸倉を掴んで持ち上げた。
足を振り乱す少女をあざ笑いながら。
「…………」
「そして……重なるものだ。幸運も、不幸も」
男の魔力が手のひらで収束する。
それは、彼がついさっき覚えたばかりの術。
魔石ギルガメッシュを所持したまま戦ったことで会得した補助魔法だ。
「ブレイブ」
少女の『キラキラ』と同じ色。
金色の光が男の足元から全身を包むように燃え上がる。
光は男の力となり、その闘気をいっそう強くみなぎらせた。
「避けられるものなら……」
「あ…………」
少女を真上に放り投げた。
魔法を奪われた少女は、成すすべなく数メートル空を舞う。
いままで、魔法でモンスターたちを吹き飛ばしてきた、しっぺ返しを受けるかのように。
「避けてみろッ!」
「……い、いや……だ……」
ちょこが蚊の鳴くような拒絶を示したが、その声は誰にも届くことはない。
もっとも、誰かがその声を聞いたところで、この一撃を止められるものなど……どこにもいない。
悪魔の頑丈さを持つ彼女ですらも、これを食らったら一瞬で肉塊と化すことだろう。
これこそが、『ブレイブ』のアシスト効果。
攻撃力なんと三倍。
ただでさえ規格外の破壊力が、である。
それは、この男には絶対に与えてはならない魔法だった。
(………おじさん………ごめんね…………)
「豚のように鳴いて……死ねッ!!!!!」
落下したちょこの腹部に、男の全力が叩きつけられる。
反則に近い、威力。
その衝撃は大地を大きく震わせ、ギルガメッシュの一撃よりも大きなクレーターを作る。
爆音は少女の悲鳴すらかき消して。
爆風は、少女の涙すら吹き飛ばし。
最強の召喚獣をも超えるその一撃は、ただの通常攻撃であった。
◆ ◆ ◆
637
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:02:34 ID:wXm0mWa.0
どこまで走ったのだろうか。
背中から戦いの気配を感じなくなってからしばらくした頃、シャドウは足を止めた。
気がつけばもう森の中。
サラサラと木の葉が擦れ、風は植物特有の爽やかな匂いを運んでくる。
「ケアルガ」
逃げながらずっとかけ続けた回復魔法。
主催者が施したのだろう制限により、その回復量は著しく抑えられている。
おかげで、傷があらかた消える頃には、シャドウの魔力はほとんど空っぽ。
おまけに身体に溜まったこの疲労だけは、魔法で消えるものではない。
耐え難い虚脱感を感じ、適当な木に身体を預けて腰を下ろす。
うっかりと眠ってしまわないように気をつけながら、目を瞑って心地よいまどろみを味わった。
ふぅ……と重い息を吐くと、両の腕すら鉛のように感じられる。
「……すまんな」
彼の簡単な謝罪は、赤毛の少女に向けたものだ。
圧倒的な強さを誇る騎士を前に、男は幼き少女を置き去りにして逃走した。
優勝するための、選択だった。
戦友に誓った勝利を求めるための。
「俺は、止まるわけには……いかん……」
先ほどナイフを突きつけながら少女に吐いた言葉を、もう一度。
今度は、自分に言い聞かせるかのように。
仲間に、殺した人たちに報いるためにも、必ず優勝しなくてはならないと彼は心に刻む。
しかし、彼にはひとつの課題があった。
優勝のために、乗り越えなくてはならない障害が。
「弱点、か……」
騎士にも指摘された、シャドウの欠点だ。
高速移動からの奇襲や撹乱を主な戦法とする彼は、広範囲魔法に弱い。
数刻前に喫した二度の敗北のその両方ともが、この弱点が原因だ。
それだけではない。今までもシャドウは、同じような形で死にかけたことが何度もあった。
だから、彼もその弱点を自覚していたはず。
完璧な仕事を遂行しようとする彼が、なぜ今の今までこのような明らさまな欠点を改善しようとすらしなかったのか。
「分かっていたさ……」
暴虐の騎士の言葉に、今更ながらに答える。
なぜ、自分が致命的な弱点を放置していたのか、シャドウはその理由になんとなく気づいていた。
ちょこの竜巻で吹き飛ばされた時……。
少女の魔法を前に、成す術なく真っ赤な空へと舞い上げられ……。
その瞬間、彼は思った。
ひとりはつらいな、と。
「くだらない…………」
理由なんか簡単だ、『彼の仕事じゃない』からだ。
敵の魔法を打ち破る役目を担っていたのは、セリスの魔法剣だ。
真っ向から打ち合うならば、ティナのトランス。
ゴゴのモノマネもいいかもしれない。
とにかく、彼が『それ』を求められることはなかった。
だから対応などしなかった。
他の仲間にまかせて、自分の長所を伸ばすことだけに専念すればいい。
しかし、仲間と共にいる間はそれでよかったが、問題はその後だ。
ケフカを倒して、世界を救ったその後はどうするつもりだったのか。
仲間と別々の道を歩み、また孤独な暗殺者に戻ることを考えると、やはり目に見える欠点は克服すべきではなかったのか。
638
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:03:28 ID:wXm0mWa.0
「……飽いていたのだな、俺は」
観念したように、ため息を吐き出す。
取調室で刑事に追いつめられた犯人が、ついに自白を始めるがごとく。
彼はもう疲れてしまっていた。
たった一人の人生に。
シャドウの弱点を仲間が埋め、仲間に不足しているところを彼が補う。
そうやって支えあうことで生き抜いた旅路は、彼の心に変化を生じさせた。
「寂い、か……。…………この俺が」
血にまみれた孤独はもう十分。
そんな気持ちを、シャドウは心のどこかに感じていた。
だからこそ魔大陸で、命の危険も省みず仲間を救った。
生きるために、他人の命すらも奪ってきた男が、である。
しかし、彼がその気持ちを直接的に表に出すことはなかった。
彼の過去が血にまみれていたせいだ。
多くの人を殺し、連れ添った相棒をも見捨て……終いには、娘を捨てた。
それらは死神となって彼を攻め続ける。
自分だけが望みを叶える事を、死神は許しはしなかった。
罪を犯したなら、その報いを受けて永劫に孤独であるべきだと。
だから、仲間たちにその思いを隠し続けた。
戦友に黙って死ぬその時まで、ずっと胸の奥に秘め続けて。
その声に縛られるままに、瓦礫の塔で逝った。
「刃も、曇るに決まっている……」
その後、彼は魔王オディオによって生きかえされて、この殺し合いに強制参加させられることとなる。
彼は、皆殺しを即決した。
自らの心に根ざしていた希望から、目を背けるようにして。
しかし、殺戮を心に誓ったにも関わらず、彼はエドガーもゴゴも斬ることが出来なかった。
当たり前だ。
心の最奥で、シャドウは彼らと共に生きたいと願っていたのだから。
孤独な生き方しか許されないという十字架。
共に旅した仲間との深い絆。
この相反する二つを背負うことで生まれたのが、仲間を慕いながらも皆殺しを狙うという、全参加者の中でも特に歪な存在。
そんなどうしようない矛盾を抱えた男こそが、今のシャドウであった。
(まだ、俺は…………)
エドガーに誓うことで、迷いを断ち切ったつもりだった。
もう、過去の絆と決別して、仲間を含む全ての人物を殺すことを決意したはずだった。
ゴゴとの邂逅で、死神すらも乗り越えた。
そしてマッシュの亡骸の前で、もう一度誓った。決して振り向かないと。
だというのに。
「ちょこは……」
呟いた名前。
少女らしい可愛い名前なのに、何故か重々しく口内に反響する。
あの少女との出会いが、全てを揺るがせた。
(あの少女は、俺と同じだ)
シャドウが背負っている過去の罪。
そして心密かに願っていた賑やかな未来への願望。
その両方を、少女はそっくりそのまま抱えていたのだ。
一人は嫌だと、願って、叫んで、足掻いて。
でも、罪を背負った過去のせいで、結局は孤独の道しか歩むことが出来ない。
まるで、鏡に映った自分を見ているようで、ひどく痛ましかった。
639
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:04:23 ID:wXm0mWa.0
(いや、違う。ちょこは、俺よりもずっと苦しんで、俺よりもずっと頑張っていた)
少女は、大切な人たちを、自らの手で殺した。
あの幼い心に圧し掛かった、孤独な人生を歩む負担。シャドウには計り知れない。
少女は、誰かと手を繋ぐことを望んでいた。
その絆への渇望を隠そうとすらしない。自分を殺そうとしたシャドウとも例外なく仲良くしようとした。
そして少女は、全てが思い通りになるほどの力を持っているにもかかわらず、それに頼らず心で何とか人と通じ合おうとしている。
彼女は、いい子であり続けようとしたのだ。
それが、ちょこが幼い頭で必死に考えた、償いなのだろう。
死んでしまった人に報い、罪と向き合うための。
そして亡き父親を喜ばせるための弔いなのだろう。
「それなのに、彼女はそれすらも、捨てたのだ!」
シャドウが珍しく声を張り上げる。
治りきっていない肋骨が痛む。少女に負わせられた怪我だった。
今、ちょこは騎士と戦っている。
彼女は敵を殺すと宣言した。
(孤独な、血にまみれる生き方を選んだんだ)
もう一度、人を殺す。
そうすれば、少女は再び永い孤独を歩むことになるのだろう。
もしかしたら、一人のままでこの会場で死んでいくのかもしれない。
あの騎士に殺されてしまうのかもしれない。
(こんな、男の……ために……)
全てはシャドウと、その娘のために。
愚かにも自ら捨てた人生、未来。
それらをもう一度拾い上げるチャンスを、彼に与えるために。
少女は死者を想うことすらも諦めたのだ。
「…………マッシュ」
木を支えにして、立ち上がった。
視界がぼやけ、クラクラと立ちくらみを起こす。
血が、足りなかった。
「俺は、このまま優勝したとして、胸を張って生きられるか?」
東へ一歩、踏み出そうとする。
少女と騎士が戦っているのとは、逆の方向。
太陽がいない方向だ。
しかし、体が上手く動いてくれない。
膝から力が抜けて、地面に転がる。
頭を振って、脳に鞭を打って、無理やりに身体を起こした。
「俺は背筋を伸ばせるか?」
目の前に、死神がいた。
ゴゴとの再開のおかげで消えたはずの死神を、シャドウは再び感じてしまっていた。
そいつは、赤い絵の具を染みこませた筆を持って、男の行く手を阻み。
彼女は、赤いベレー帽の下から覗く大きな両目で、悲しそうに男を睨みつけ。
死神の指では、誰かの形見の指輪が、男を元気付けるように光り輝いて。
『どこへ行くんだよ』と攻めたてるような声が。
シャドウは「そうだな……」と一言、死神に答えた後……。
「ふっ……ははは……」
顎についた泥を拭って、大声で笑った。
狂ったように、吹っ切れたように声をあげて。
忍ぶことを忘れ、ひたすらに。
640
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:05:14 ID:wXm0mWa.0
「ふはははは……!」
数秒ほど、らしくない高笑いを惜しげもなく披露する。
これほど笑ったのは、『シャドウ』を名乗ってから初めてのことかもしれない。
ひどく心が軽くなった。
「そんなわけ、ないよなァ……」
このまま優勝したとしたら、とシャドウは考える。
おそらく、彼はそれすらも罪の一つにカウントするのだろう。
そして、また終わりのない孤独を自ら歩むことになる。
殺して、背負って、また殺して、それも背負って。
仲間に教えてもらった絆すらも、無駄にして。
(……貴様らのせいだぞ……マッシュ……エドガー……!)
それが馬鹿げていると、今更になってやっと気づいた。
わざと唇を噛み切って、血を流した。
そいつを洋酒に見立てて、飲み込む。
当然だが、鉄の味しかしない。
「確かに、たくさん殺した」
ゆっくりと、木を支えにして後ろを振り向いた。
眼光鋭く、笑みは絶やさず。
恐れが無いと言えば嘘だ。
だが、それを笑って受け止められるほど、彼の背中を押す力は強大だった。
「消えない罪だ」
死神の気配を背に感じる。
頼むから消えてくれるなよ。死神に願った。
沈みかけの赤い夕陽が、彼の目に刺さる。
全ての影を拒絶するような、雄々しい輝きであった。
「だから、一人にならなくちゃいけないのか?」
少女に、返せなかった言葉。
それを、馬鹿でかい紅のまん丸にぶつけた。
ありったけの荒々しさを込めて。
(ふざけろ……!)
男は怒っていた。
犯した過ちに縛られて、生きたいように生きられなかった自分にも。
男のために、犠牲となること選んだ少女にすらも。
そして、それを甘んじて受け入れてしまった自分自身が、やはり一番憎い。
(一人が辛いなら、俺がその手を握ってやる……!)
逃げないで、最初から素直に望めばよかったのだ。
共にありたいと。
仲間なら、答えてくれるに決まっていたのに。
過去も、罪も、共に分かち合ってくれると、分かっていたのに。
「エドガー、みんな。俺に力をよこせ」
仲間の一人、野生児が流した涙を思い出す。
彼は言った。「父親が生きてる、それが幸せだ」と。
そんなもんだよなとシャドウは笑う。
『絆』とは、『無条件に愛せるつながり』の事を言うのだから。
「お前たちを、裏切るための……力をッ!」
西へ一歩。確かに踏み出す。
柔らかな土の感触を、今になって初めて感じた気がした。
男は、戦友たちに約束した。必ず優勝すると。
彼は必死で進む。
641
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:06:36 ID:wXm0mWa.0
その誓いを破るために。
(死神……君はそこで見ていろ)
背中の少女に向けて宣言する。
死神が何も言わずに頷いたのを、シャドウはその背で感じ取っていた。
それが、シャドウにはとても頼もしいと思えた。
孤独など、屁でもないと思えるほどに。
(俺の背中から……目を離すな)
森を抜ければ、平野が開けた。
戦場は近い。
男の鼻が感じ取る。
真っ赤な光が、緑の草原を赤く照らしていた。
(全てが終わったら……必ず君を……)
臆することなく夕陽に向かう。
紅い光を浴びながら、影はそれでも消えなかった。
何かに押されるように、シャドウは歩みを速める。
西へ西へと影は進んだ。
少女の手を、握るために。
(抱きしめにいく)
死神は、静かに微笑んだ。
◆ ◆ ◆
ルカのブレイブによる超攻撃の余波が去り、何度目かの静寂に包まれる港町跡。
その爆撃にも等しい衝撃の震源地にあたる場所。
ルカが誇らしげに大地に刻まれた傷跡を眺める。
しかし、そこにあるべき少女の亡骸は見当たらなかったなかった。
少女がなぜ死んでいないのか、周囲を見渡すと。
百キロメートル以上先に、その原因を見つけた。
夕陽に浮かぶは、黒いシルエット。
「貴様か……ッ!」
ルカが忌々しげに、歯軋りをしながら男を睨みつける。
また殺し損なったことに、苛立ちと憎悪を感じながら。
「…………おじさん」
間一髪でシャドウに抱きとめられたちょこ。
彼女は、なぜ彼がここにいるのか分からないでいた。
細い指で、男の黒衣の胸の部分を引っ張ってみて、幻でないことを確認する。
「…………やはり、殺せなかったか……」
「……ごめんなさい…………ちょこ……」
「いや、それでいい」
少女が殺すのを躊躇ったのか。
それとも騎士の実力が、ちょこを追い詰める程のものだったのか。
おそらくは、その両方だろうとシャドウは予想。
謝る少女の頭を撫でてやる。
彼の手に感じられる暖かな感触は、確実に人間の熱だ。
そして男の胸元にしがみ付くその姿は、幼子そのもの。
にもかかわらず勇敢に狂騎士に立ち向かった彼女に、シャドウは無言で感心した。
642
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:07:43 ID:wXm0mWa.0
「後は、任せておけ……」
「……でも!」
シャドウは少女を地に下ろし、自分の力で立たせる。
ルカに向けて歩き出そうとした男の服を、ちょこが引っ張って引き止める。
シャドウを心配しての行動だ。
ルカがちょことの戦いで疲労していたこと、シャドウが少々の休憩をはさんだこと。
その二つを加味したとしても、彼はルカには勝てない。
「……俺は負けない」
「……でも、でも!」
少女の手を優しく解く。
ちょこは何か言いたげだが、上手く言葉の整理がつけられない。
シャドウは少女に背を向け、手持ちの道具を確認する。
デイパックは、少女の竜巻を食らった時にどこかへ飛んでいってしまった。
彼に残されているのは、この殺し合いの一番最初から彼を助けてきた二つのアイテム。
アサッシンズと竜騎士の靴。それだけだ。
ルカと戦うには、明らかに厳しい状況。
それでも彼は、少女に勝利を宣言した。
「全てを……賭けるから……」
数十メートル先で構えるルカへと、一歩を踏み出す。
竜騎士の靴があげた軋みは、無口な男の変わりに放たれた雄たけびだ。
少女は、男の背中を不安そうに眺めるばかり。
彼のその言葉は、強がりなのか。
それとも、本気で自分が勝つと信じているのか。
彼の背中を守る死神だけが、その真意を知っていた。
「今更ノコノコと……死にに来たかッ!」
大ジャンプで迫るシャドウを迎えるは、狂皇、ルカ・ブライト。
狼は怒っていた。
久しぶりの殺人を何度も邪魔された苛立ちも、その憤りの一端を担っている。
だがそれ以上の原因は、再び自分の前に立ちはだかったこの男にあった。
先刻の無様な敗北を繰り返さんとしているその愚かさが、ルカの血液を急沸騰させていた。
「このルカ・ブライトに……貴様ごときが……!」
皆殺しの剣が炎を纏う。
この技によって焼け野原と化した港町が、一瞬だけざわめいたような気がした。
魔力の高いちょこには使わなかったこの技だが、耐性の弱いシャドウには効果絶大だろう。
そのうえブレイブによって攻撃力そのものも超強化済だ。
命中、それ即ち即死だと言っていい。
「敵うなどと……思うなァッ!」
兵器の域にまで達したソレが、一個人に向けて放たれた。
炎の龍が、遥か空まで舞い上がる。
その熱に曝され、世界は瞬く間に燃えさかった。
いくつもの市街を焼き払ってきたルカには、見慣れたこの灼熱の光景。
いつもと違うのは、これが一対一の戦いであるということ。
国家同士の戦争とはワケが違う。
国も関係なく、軍も階級もここには存在しない。
だが、たった二人の男の戦いは、戦争並みの破壊をも引き起こす。
焼け野原で始まったシビル・ウォー。
ある男が、過去に捨てたものと向き合うための戦いだった。
643
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:08:14 ID:wXm0mWa.0
「…………おじさん……そんなぁ……」
見つめた先であがった爆炎。
エルクの炎ですら見劣りしてしまうほど轟々と。
その巨大な紅いドラゴンは、特攻した男の死を少女に確信させるには十分な大きさだった。
ちょこが、絶望のあまり膝から崩れ落ちる。
もし、魔法が使えたらと、自分の無力さを呪った。
「………あ………あぁッ!」
しかし、彼女は視界の隅にその姿を確認した。
流れる炎の合間を縫って跳ぶ、漆黒の影を。
呼びかけようとしたが、少女は今になって男の名前を知らないことに気づいた。
どうしようかと悩んだ挙句……。
「父さま! 頑張ってなのーーーーーッ!」
男の背中と重なった幻影へと呼びかけた。
それが彼に聞こえるのか、ちょこは少しだけ心配する。
が、叫び続けているうちに、すぐにそんなことはどうでもよくなってしまった。
この距離と炎じゃ届かないんだろうな、と薄々感じながら。
少女は甲高い声を必死に枯らした。
「これで死なないとはな……!」
ルカが周囲を走り回る男を評価し、少しだけその興味を再燃させた。
男のスピードと精密さが、以前よりも増している。
スピードは、おそらく『ブレイブ』のような補助魔法に過ぎない。
しかし精密の方は、魔法でどうにかなるステータスではない。
集中力、つまり心の持ちようだ。
男の迷いが消えたことを知り、ルカは高揚した。
敗戦から立ち上がった男を今度こそ完全に壊すべく、舌なめずりをする。
「さァッ! 今度は貴様の番だ」
男を迎え撃つべく、五感を研ぎ澄ます。
前回の戦いでは、集中したルカにシャドウのスピードは全く通用しなかった。
精神の戸惑いを断ち切ったことにより、男はどこまで変わったのか。
その男の真価を見極めるために、ルカはあえて防戦を選択。
シャドウを捉えることに、全身全霊を注ぐ。
「そこかァ!」
ルカの感覚が、敵を捕捉。
探知した場所に、絶妙のタイミングで焔の剣を振るう。
魔法で強化された剣の勢いは凄まじく、武器のリーチの約十倍に渡って炎が迸り。
その軌道上の全ての存在を灰と化した。
しかし、シャドウの消し炭はそこになく。
ルカの感覚器官は確実に遅れをとっていた。
アサッシンズはルカの頬に一筋の赤を刻む。
一瞬遅れて脳に伝わる痛みを感じるまで、攻撃を受けたことにルカは気づかなかった。
驚きと喜びにその目が大きく見開かれる。
男の刃が、ついに狂皇に届いた瞬間であった。
「……………………」
シャドウがジャンプをしてルカとの距離を確保。
着地と同時に大きく息を吐く。
顎の先から滴る玉汗が、つま先に落ちて弾けた。
644
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:09:09 ID:wXm0mWa.0
(……もっと……速く…………)
かすり傷だが、ルカに一撃を加えることに成功したシャドウ。
彼は自分の身体が軽くなったように感じていた。
しかし実際は違う。軽くなったのではない。
自身を縛っていた多くの枷から解き放たれたことで、彼本来のスピードに戻りつつあるのだ。
しかし、ルカを翻弄してもそれでも彼はまだ速さを渇望していた。
もっと軽く、もっと速く動くために。
(全てを……ぶつける……)
そのためには、踏み込むことだ。
敵の生み出す炎を恐れず、敵が振り回す剣を恐れず。
……死にすらも臆することなく。
ブレーキをかけずに敵の懐に踏み込まなくてはならない。
(経験も……命も……誇りすらも……)
スピードよりも、需要なのは精神力。
相手の動きの隙間を縫うことにこだわる。
投擲という選択肢がない以上、致命傷を叩き込むにはそれしかなかった。
(……なにもかも…………!)
大きく息を吸い込んで、男は再び風を超える。
背中に感じる温もりが、頼もしくて仕方ない。
「ふん。だいぶマシになったではないか!」
精神の統一は崩すことなく、ルカが心底愉快そうに笑う。
彼が口にした評価は皮肉ではない本心だ。
今まで出会った敵の中で最も速く、鋭い攻撃。
これが速さを司る真の紋章の効果だと言われたら、一瞬の疑いもなく信じてしまうほどに。
「だが、俺の首を刈れるかと言えば……ククク……」
それでもルカは余裕を見せ続けた。
この言葉もまた男の能力を正確に評したもので、決して油断などではない。
ルカが過去に首を刎ねた者の中には、慢心してこそ君主であるなどと主張する輩もいた。
彼がその言葉に感じたのは、吐き気をもよおすほどの嫌悪。
気取りたいが為だけに吐き出されたような文句だ、と当時の彼はその美学を切り捨てた。
慢心している自分に酔いたいだけならば、自室の鏡を前にポーズを決めていればよい。
戦場で命の奪い合いをしている以上、彼はいつでも本気で殺す。
犬も、老人も、稚児も。出来る限りの絶望を眺めるために。
それが、『悪』たる男の信条だった。
「……ほぅ」
シャドウのナイフが、ルカの二の腕に新たな傷を作る。
さっきよりも深い。
ルカは、焦った風もなく男の速さを称えるように唸ってみせた。
彼は、本当に余裕があるからこのような態度を見せている。
いくらシャドウが速くても、ルカの命を脅かすレベルにはまだ達していない。
たとえあと何発命中したとしても、この程度の浅い傷ではルカを殺すことは出来ない。
彼の無尽蔵とも思えるタフネスを突破するには、男のナイフは破壊力が足りなすぎたのだ。
だから、シャドウは急所への一撃必殺を狙うはず。
疲労が蓄積し、動きが精彩を欠いてしまう前に。
今の彼の攻撃は、そのための布石。
連続攻撃で隙を作り、最大限の威力の攻撃を叩き込むための。
ルカもその狙いには気づいていたし、ルカがそう感づいたことをシャドウも察していた。
645
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:51:01 ID:wXm0mWa.0
再び、シャドウの攻撃が。
今度は脛を切り裂いた。
徐々に威力を増す暗殺者の攻撃は既に、軽く血が噴出するまでのレベルにまで達していた。
もうすぐだ。
ルカの見立てでは、あと三回。
今から数えて三回目の攻撃で、シャドウは必殺を狙いに来るとルカは予想する。
「では、こちらも攻撃させてもらうぞ!」
防戦一方では、いずれ殺されかねないと踏んだルカ。
攻勢に転じることで、男の動きを阻害する。
繰り出すはもちろん業火の剣。
ワンパターンではあるが、それも当然のこと。
回数制限のないただの攻撃がこそ、彼の持ちうる中で最強の攻撃手段なのだから。
まずは、闇雲に剣を振り回す。
確実な攻撃が決められない以上、攻撃の範囲を広げることが得策だと考えてのことだ。
ルカを中心に、まるで竜巻のように炎が渦巻いた。
それはもう、大規模魔法と見紛うほど。
もはや通常攻撃と呼んでいい規模ではなかった。
「…………ック……」
無茶苦茶な攻撃を前に、シャドウの足が一瞬止まった。
しかしすぐに建て直して、高熱の中を走り抜ける。
リズムが崩れたこと、熱風を吸い込んでしまったことにより、シャドウの体力が削られる。
元々ギリギリの線を走っていただけに、この誤算は無視できない。
(それでも……勝つ……)
伸ばした腕が炎の壁を越える。
握ったナイフの先端が、ルカのこめかみを抉った。
ダメージと呼ぶにはあまりにも浅い。が、急所に一撃を入れることに成功した。
すぐに反転し、次の攻撃へと移行する。
(彼女に……ちょこに……)
炎の渦が消えた先で、ルカは既に剣を構えていた。
振り下ろされた灼熱を、シャドウは斜め後ろへのステップで回避。
十メートル近い炎柱が吹き上がり、大地がグラグラ揺れる。
シャドウの着地が乱れたが、すぐに修正し全速全身。
ルカの首筋へ、短剣を走らせた。
少しばかり踏み込みすぎている。
当たれば僥倖という一撃であった。
(俺のような人生を…………歩ませてたまるか!)
大振りの隙をついた攻撃。
常人であれば、攻撃を知覚することすら出来ないだろう。
しかし、ルカは一騎当千の騎士だ。
強引に上体を反らせて、ナイフから逃れる。
この一撃は、空振りに終わった。
しかし、元より『外れて当然』で放ったもの。
すぐさまルカへと向き直り、追撃を浴びせるために突進する。
無理な姿勢から戻ったばかりのルカは、碌に剣を構えることも出来ないだろうと。
そして、この攻撃こそが、『三撃目』。
ここでシャドウは必殺を狙うはずだ、とルカが予想した攻撃だ。
646
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:52:44 ID:wXm0mWa.0
(切り開くぞ……!)
「甘いなッ!」
信じがたいことに、ルカはなんとか迎撃体勢を整えていた。
シャドウの予想を大きく上回るほどの復帰の速さ。
しかし、シャドウは引かない。
ここが勝機であると信じて、暴虐の君主へと立ち向かう。
敵の射程範囲ギリギリまで踏み込んで、シャドウが放ったのは……。
「サンダガ」
「なにッ!」
なんと、魔法であった。
シャドウの魔力が手のひらで渦巻き、青白い雷を生み出した。
空から降り注ぐ細い雷光の狙う標的はルカではない。
稲妻が落ちたのは、彼が構えている皆殺しの剣だった。
「豚がッ! 舐めた真似をォーーーッ!」
まさか魔法など使うと思ってもいなかったルカ。
彼の視界を白い閃光が覆う。
これこそが、シャドウの目的。
攻撃を繰り返すことで、ルカに『真っ向勝負』の意識を植え付け……。
シャドウが魔法を使うという可能性を、ルカの脳から消し去った。
そして、絶好のタイミングで彼の視界を塞ぐ。
(………………ここだッ!)
背後に回ったシャドウが、ルカの背中へとナイフを走らせた。
防御もなにもかも捨てて、敵の心臓を突き刺すことに全力を注いで。
「そ……こ、かァッ!!!」
視力を取り戻したルカが、背後に顔を向ける。
シャドウの姿がどこにも見えないことから、上か後方の二択だと判断したルカ。
最終的に後方を選択した彼の勘は素晴らしかった。
しかし、反撃に転じるには少しだけ手遅れ。
ルカが身体を反転するより早く、アサッシンズが彼の心の臓を破壊するだろう。
「…………遅い……!」
顔だけだが振り返ることが出来たことに、シャドウは内心驚いていた。
流石ルカ・ブライトだと、人生最強の敵を静かに称えた。
尊敬を込めて、ナイフを突き入れる。
迷いない刃は、全ての介入をも受け付けない勢いで空気を切り裂く。
振り返ることができない以上、ルカに手はない。
シャドウの精密攻撃は、後ろ向きのままで受け止められるほど甘くはないのだから。
ルカブライトは詰んでいる。
少なくともシャドウは、そう思っていた。
「それで……俺をッ! 殺したッ!」
「………………ッ!」
「つもりかァーーーーッ!」
信じがたい光景だった。
剣が、飛んできた。
それを、シャドウは手にした短剣で弾く。
後ろ向きのままのルカが、迫り来るシャドウに対応する唯一の方法。
それは、他でもないシャドウの真骨頂である投擲であった。
647
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:55:44 ID:wXm0mWa.0
「…………馬鹿、な……!」
予想だにしない無茶苦茶な攻撃に、シャドウの足が止まる。
あまりの衝撃に一瞬だけ立ちすくんでしまった。
投擲のスペシャリストである彼は良く知っている。
後ろ向きで、物を正確かつ高速に投げることの難しさが。
狙った場所に投げるだけならば、シャドウの技術を持ってすれば可能なこと。
しかし、剣のような重い物体をここまでの勢いを込めて後ろに投げることは、シャドウにすら不可能だった。
全ては、ルカの剣術と胆力が成せる業。
「……ッ!」
投擲に見とれてしまっていたことに気づき、シャドウが慌てて我に返る。
ルカは既に眼前に迫っていて、彼の手にはシャドウが弾いたはずの皆殺しの剣が握られていた。
シャドウが身体を捻って、なんとか回避しようとする。
集中すれば、避けられない攻撃ではないはず。
スピードはシャドウに分があるのだから。
「……しま…………ッ!」
それは、不運だった。
しかし、気をつれば未然に防げた事故でもあった。
彼の視界を塞いだのは、水平線に落ちる直前の夕陽。
太陽が、夜に追いやられるその前に、自らに逆らいし愚かな影へと制裁を加えたのだ。
紅い光は、最後まで彼の敵だった。
そして、先刻のルカの言葉の通り、不幸は重なるものだ。
シャドウを守っていたヘイストの効果が、ついに消失した。
「…………がぁッ!!!!!」
ルカの剣が、シャドウの左腕を切り裂く。
二の腕から先が、一瞬で燃え尽きる。
彼の左腕を奪った不幸は、夕陽と、ヘイストの効果切れの二つだった。
その代わりだろうか。このとき、シャドウにとって幸運だったことがが二つある。
一つはルカの補助魔法も切れていたこと。
この攻撃が『ブレイブ』の恩恵を受けていたら、シャドウはたちまち焼死体と化していただろう。
もう一つは、切り裂かれた部分が焼け爛れていたこと。
これにより、傷口からの出血がほとんどなく、結果的にシャドウは即死を免れていた。
「…………ぅ……ぐッ……!」
傷ついた左肩を抑えて膝をつくシャドウ。
生きながらえることができたとは言え、ピンチであることには変わらない。
元々ギリギリだったシャドウの体力は、そのほとんどをさっきの一撃で奪われてしまった。
「惜しかったなァッ!」
「グガァッ!」
ルカの蹴りがシャドウの顎を蹴り上げる。
数本の歯が砕け、血液とともに飛び散った。
「ゴッ!」
宙に浮いた男の腹に、さらにルカが拳をめり込ませる。
パンチを受けて吹き飛んだシャドウ。
数十メートル空を跳んだ彼は、二、三度バウンドして、やっと停止。
うつ伏せで男が倒れたのは、ちょこが待機していた場所のすぐ近く。
「おじ……さん」
「くる、な……ッ! に……げ…………ろ……」
片腕を喪失したシャドウを心配してちょこが駆け寄る。
しかしシャドウがそれを掠れ声で制した。
フラフラと立ち上がり、真っ赤な涎を吐きながら。
648
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:57:01 ID:wXm0mWa.0
(彼女だけでも、なんとか…………)
土と血の混ざった味を感じながら、シャドウは悔しそうに呻く。
彼は、動けないでいた。
限界に近い体に鞭を撃って、なんとか剣を握る。
投擲での敗北は、シャドウの体だけでもなく心にすらも傷を残した。
「さらばだ、暗殺者……」
「……………………クッ…………」
ルカが剣を掲げてシャドウへの方へと進む。
彼を完全に殺害するために。
短剣を握るシャドウの右手から力が抜ける。
アサッシンズは悲しそうに、コトリと地面に寝転んだ。
それを取り上げようとして、シャドウは派手に転ぶ。
片腕を喪失したことにより、バランス感覚が崩れたからだ。
背中が、寒い、と。
そう、シャドウは感じた。
「一度でも俺の後ろを取ったことを、誇りに思って…………死ね」
もう夕陽はほとんど沈んでおり、その頂点だけが僅かに水平線から覗いていた。
現世を、名残惜しむように。
夜に、抗うように。
男をあざ笑うように、太陽は空にしがみ付き続けた。
「……………また、貴様か」
「…………」
ルカは心底不愉快そうに、シャドウを庇って前に出た少女を睨む。
ルカは憎しみを込めて舌打ちをした。
こいつらはどれだけ殺しを邪魔すれば気が済むのだ、と。
少女を殺そうとすれば、男が阻む。
男を始末しようとすると、このとおり。
「ふん。ならば、まとめて殺してやる」
怒りを込めて、魔封じの杖を再び少女に向けて振る。
これで、彼女にマトモな攻撃手段は無くなった。
だが、ちょこは驚いた風もない。
彼女は魔法を封じられる事など承知の上でシャドウを助けたのだから。
シャドウは力を振り絞ってヨロヨロと立ち上がると、残された右腕でちょこを抱える。
後方に何度か大ジャンプをしてルカから離れ、息を整えることに努めた。
「ちょこ……逃げろと……」
「やだ」
右膝をつき、肩を揺らして息をするシャドウ。
ちょこに、ここから離れるようにと促そうとした。
だが、彼の言葉を遮って、ちょこが背を向けたままで語りだす。
「ここで逃げたら……ちょこ、ずっと後悔するもん」
「…………」
「ちょこ、嬉しかったの。おじさんが来てくれて」
「…………」
シャドウが空を見上げる。
東の空はもう夜が訪れていて、綺麗な星々が瞬き始めていた。
久しぶりにまじまじと眺めた夜空を、彼はとても美しいものだと感じる。
夕陽が落ちて、本格的な夜がやってくるのを心待ちにした。
649
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:57:42 ID:wXm0mWa.0
「あぁ、そうか」
少女は一人だった。
シャドウもそのことは知っている。
育った村の人たちは、他でもない彼女自身がみんな殺してしまって。
村の外で出会った人間も、結局は彼女の前からいなくなっていて。
少女には誰もいなかった。
でも……シャドウだけは、彼女の元へと戻ってきた。
彼は命を賭けて、少女のために命を燃やした。
それは、ちょこにとって初めての経験。
自分のために命を捨てようとした人物など……もういるはずないと、彼女は思っていたのに。
(やっとたどり着いたよ。相棒)
随分と、遠回りをした。
最初から、答えを掴んでいたというのに。
仲間と旅している間からずっと……今もそう……。
その答えを実践しているではないか。
「なんて、簡単なことだったんだ……」
さて、ここで問題だ。
この男が、人生の大半をかけて悩み続けた問題だ。
大切な相棒が、死にかけている。
後ろからは、追っ手が沢山迫っていた。
捕まって拷問されるのを恐れた彼は、『殺してくれ』と懇願する。
その願いを聞き入れ、彼を殺すのが正解か?
それとも、彼を放置して一人で逃げるのが正しいのか?
いや、正解はそのどちらでもない。
長い人生のその先で、少女と共に男が導き出した回答は。
「死んでも、助ける…………!」
真っ向から追手に立ち向かうのでもいい。
囮になることで、相棒から敵を遠ざけるのもいい。
自分が死んで仲間が助かるなら、迷うことなく死ねばよかったのだ。
そして、生き延びることが出来たら、『殺せ』などと要求した相棒のことを思いっきり殴る。
それこそが、この問題の唯一の答えだった。
魔大陸で、仲間のために死んだこと。
ちょこのために、命がけで戦ったこと。
彼は既に、正解を二度も実演していた。
最初から、本当に最初の最初から……答えは用意されていたのだ。
「そうだよ、おじさん」
ちょこが柔らかに笑う。
男の前に立ち、ルカへと立ち向かいながら。
少女もまた、その答えを実践しようとしていた。
手を繋ぐということに。
絆を紡ぐということに。
それに条件なんか無いということを。
人殺しだって、関係ないということを。
手を伸ばし続ければ、必ず誰かが掴んでくれることを。
その全てを証明するために。
少女は、死を覚悟で狂騎士と戦おうとしていた。
650
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 21:59:15 ID:wXm0mWa.0
「おじ、さん?」
しかしシャドウは、それを許さなかった。
右手一本で少女を抱える。
全身から血を流しながら。
耐え難い苦痛と戦いながら。
「ちょこ…………聞け……君はもう一人じゃない」
「おじさん……なに……言ってるの……?」
今生の別れを告げるようなシャドウの口調。
ちょこがどういうことか問いただそうとする。
が、男はそれを無視して続けた。
ちょこは、全てを捨てて男とその娘を救おうとした。
父親を喜ばせるために『いい子』でい続けることも諦めた。
『ひとり』の辛さを知っているから。
シャドウとその娘に『ひとり』の辛さを味わって欲しくないから。
だから少女は自分が手にした全てを捨てるのだ。
「命を賭けて君を護った男が、ここにいる」
「まって……ちょこも戦うの! ちょこ頑張るから!」
ちょこが男の胸元にしがみ付いて懇願する。
少女が健気な姿を見せれば見せるほど、男は覚悟を強くする。
長い間、彼は迷っていた。
相棒を見捨てた卑しさを、自らへの刃と変えて。
その死神を、ずっと抱え続けて……悩み続けて。
仲間と共に生きていたいと、ずっと望んでいたのに……言えなかった。
でも、この少女が教えてくれた。
手を伸ばせば掴んでくれるんだということを。
「ダメだ。ここは、君の戦場じゃない」
「い……や、だ。ちょ、こ……も、たた……か、う!」
ちょこが大粒の涙を流す。
必死にもがき暴れるが、男の腕は彼女を決して放そうとはしなかった。
シャドウは少しだけかがんで、龍騎士の靴に力を込める。
今度は、シャドウが全てを捨てる番だ。
全てを捧げてくれた少女のために。
血塗られた過去のせいで全ての絆から拒絶された少女に、絶対に切れない絆を与える。
仲間たちが、シャドウにそうしてくれたように。
自分と同じ人生を、少女に歩ませないために。
シャドウはもう、長いこと生きたのだから。
「まだ……おじ、さん……の…………な、まえ、も……しら、ない」
「シャドウ」
「…………え?」
「シャドウ。それが俺の名だ」
上手く腕を回して、少女の頭をなでてやる。
その温もりが手のひらを伝わり、シャドウの心に活力を与える。
朽ちかけた体が、軋みを上げて動き出した。
「きみは、きみが命を賭けて護りたい人を見つけるんだ」
「やだ、よ……ねえ……生き、て……おう、ちに…………かえっ……て、よ……」
シャドウが力を込めると、龍騎士の靴はそれに応えた。
今日一番の大ジャンプ。
少女の竜巻よりも高く空へと飛び上がった。
綺麗な夜空の、無数の星へ向けて。
651
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:00:28 ID:wXm0mWa.0
「あぁ、帰る。…………必ず……!」
「まっで! おじざん! まっでよッ!」
シャドウがちょこの右足首を掴む。
少女を投擲するために。
少々荒っぽいが、これしか彼女を確実に逃がす方法が無いのだ。
「さよならだ」
「まって! おかわり! おじさん、おかわりなの!」
ちょこが叫んだ『おかわり』という台詞。
それは、彼女が消えゆく父親を呼び止めために使った言葉。
シャドウにその意味が伝わることはなかったが、彼は黒いマスクの下で優しく微笑んでから。
全力で少女を投擲した。
遥か夜空高く、離れ離れになる二人。
少女の目には、全てがスローモーションに映った。
「シャドウおじさん、絶対に生きてッ!」
必死に手を伸ばす少女。
しかし、シャドウはその手を握ることは無く。
それを理解した少女は、頭から外した黄色いリボンを男へ託す。
これは少女の専用アイテムで、他のものにとっては何の意味も持たない。
それでも、意味がないと分かっていても。
少女は男に握らせた。彼の勝利を願って。
「この手は、決して放さない」
握りこぶしを突き出し、少女へと掲げた。
少女も男に倣って、握りこぶしを突き出す。
リボンはヒラヒラと、風に靡いて。
失った彼の左手の代わりに、少女に手を振り続けているかのようだった。
二人は離れてしまったが、両者はしっかりと手を握り続ける。
死んでも、尚。
「必ず勝って! 家に帰るのッ!」
「あぁ。…………元気でな」
二つの拳の距離が広がっていく。
少女はずっとシャドウから目を放さなかった。
彼が重力に従い落下を始めて、向こう側へ振り返っても。
その背中に願いを込め続けていた。
空中で反転したシャドウ。
水平線の先、僅かに頭を覗かせた太陽を睨む。
(まだ、世界が恋しいか……!)
これまで散々彼を苦しめ、その身を滅ぼさんとした恒星。
いまだに、夜に堕ちきる意思を固めてはいないようだ。
(消えろ……お前の出番は終わったんだ……!)
影は、ついに太陽に牙を向いた。
口を使って黄色いリボンを器用に右手首に巻くと、途端に力が湧いてくる。
紅い太陽を睨み、その場を明け渡すように要求した。
「今は星が輝く時間だッ!」
男に気圧されるように、夕陽は水平線の下で眠りについた。
本格的な夜が訪れる。
美しい夜だ。
希望の闇だ。
海風は、死神と共に男の背中を押した。
652
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:01:10 ID:wXm0mWa.0
地上に到達するなり、ルカの刃が襲い掛かる。
シャドウは着地の反動を生かして飛び退き、それを回避。
「小娘を逃がしたか…………何を考えている」
「そうだな…………」
シャドウが腰元からアサッシンズを取り出す。
ナイフは星々輝く夜空の下で、かつてないほど美しい銀色を呈した。
まるで、男の覚悟を、生き様を称えるかのように。
「…………老いてみたく、なったのだ」
ルカに踏み込むため、両足に力を込める。
竜騎士の靴がギチギチと唸る。
今日一日ずっ酷使し続けたせいで、もうこの靴も限界を迎えていた。
いつ壊れてもおかしくないほどに。
もう少しだけ、頑張ってくれ。
シャドウはナイフと靴に、そう呼びかける。
アイテムたちは何も答えない。
ただ、彼らが僅かに熱を帯びたのを、シャドウは確かに感じていた。
「そんな体で、たった一人で……俺に勝てると思ったかッ!!」
顔中の皺で憎悪を表現する。
ルカの目に映っているのは、ボロボロの男。
立っているのすらやっとのはずの傷、そして疲労。
それでも彼は、最強の敵に単身挑むことを決意した。
まったく、不愉快だ。狂皇が吐き捨てる。
ルカは剣を壊れんばかりに強く握り締めた。
男を完膚なきまでに叩き潰し、二度と立ち上がれぬようにその身を砕き殺さんと。
(……ひとりじゃないさ)
シャドウが肺中の空気を全て吐き出した後、大地を強く蹴って疾走する。
何かに引っ張られたように、その身は軽い。
「…………なにッ?!」
もはや、ルカの目にも捉えられない。
男の動きは、先ほどよりも遥かに早く鋭かった。
重傷を負っているにもかかわらずだ。
……違う、そうではない。
重傷を負ってるのに速いのではなく、重傷を負っているから速いのだ。
普通、片腕を落とされれば大量出血はもちろんのこと、その体のバランスも崩れて歩くどころではない。
しかし、シャドウは出血はそれほどしておらず。
バランスの修正も、この男なら容易いこと。
むしろ、片腕という重りを捨てたことにより、そのスピードはよりいっそう研ぎ澄まされていた。
音を超えるほどに、速く。
(俺には仲間がいる)
シャドウのナイフがルカの肩を切り裂く。
噴き出した鮮血がルカの頬を汚す。
小細工のない、真っ向勝負であったはず。
それなのに、ルカは男の動きを目視できなかった。
その額から汗が垂れ落ちる。
653
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:04:30 ID:wXm0mWa.0
(死神が憑いてくれている)
「き、貴様ァッ!!!」
ルカが、シャドウを追いかけて振り返る。
その瞬間に、今度は足首に痛み。
攻撃の方向すら分からなかった。
ルカのこめかみに、青筋が浮かぶ。
(…………そして)
次は頭から血が垂れた。
ルカが最も警戒していたはずの場所へ、浅いが確実に一撃が入る。
ルカ・ブライトは、完全に翻弄されていた。
暴虐の限りを尽くした男が、狩られる側に回っているのだ。
(ちょこがこの手を握っている)
完全にルカがシャドウを見失ったあたりで。
シャドウは投擲の準備を始めた。
ルカを確実に絶命足らしめる一撃を繰り出すために。
彼の手にあるのはナイフが一本と靴が一足だけ。
おそらく、これが最後の投擲になるだろう。
右腕に力を込め、彼が投げたものは…………。
(さぁ、殺してみせろ!)
ルカは、集中していた。
シャドウを見失った瞬間、周囲に意識を集中させて次の攻撃に備えた。
どんな攻撃が来ても、すぐさま回避して反撃に移ることができるように。
シャドウが投擲のプロフェッショナルであることは、ルカは知らない。
だが、ルカはナイフが飛んでくる可能性をも考慮していた。
先刻シャドウが放った魔法のことを、覚えていたからだ。
その場合は、すぐさまナイフを叩き落してやる、と。
全身全霊をもって、シャドウの最後の攻撃を迎え撃つ。
おそらく、ナイフを投げても彼にはもう命中しないだろう。
完全に回避に徹したルカならば、百の弓矢すらも知覚してしまうのだから。
「そこかッ!」
迫り来るモノをルカの感覚が捕捉した。
それは、『攻撃』がルカに到達する数秒も先。
回避するには十分過ぎる時間。
受け止めることも、叩き落すことも可能だ。
が、ルカはそれを避けなかった。
「ふざけるなよ……!」
ルカが怒りを込めて言い放つ。
目の前にあるのはシャドウの拳。
ここに来て男が繰り出した攻撃は、ただのパンチだった。
何が来るのかと集中していたルカにとって、その攻撃は期待はずれもいいところ。
拳一つでどうこうできるほど、ルカ・ブライトは甘くない。
「そんな攻撃で、俺に傷の一つでも…………」
あえてその拳を食らう。
拳はルカの頬にめり込んだが、歯の一本すら抜き取ることはできない。
シャドウの攻撃は、全くのノーダメージに終わる。
ルカは、カウンターでシャドウへと斬撃を放とうとした。
654
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:06:48 ID:wXm0mWa.0
「付けられると思っ…………なにッ!」
ルカの顔が驚愕に歪む。
口をぽかぁんと開け、瞳孔を全開にして。
攻撃を加えようとしても、シャドウがそこにいないのだ。
ルカの頬を殴っているシャドウの右腕。
その腕の先に、シャドウがいない。
つまり、『腕だけが飛んできた』ということ。
いわゆる、ロケットパンチであった。
これこそがシャドウの『最後の投擲』。
まず彼は、何も持たずに投擲の構えをした。
そして、勢いよく徒手空拳の腕を素振り、その速度が最高潮に達したところで口にくわえたナイフで腕を切断。
ルカに向けて、パンチを飛ばした。
「な…………!」
(言ったはずだ、全てを賭けると)
両腕を失ったシャドウが、ルカの懐に潜り込む。
最後の仕事を終えた竜騎士の靴が、ひび割れ、鈍い音を立てて壊れた。
彼の口にはアサッシンズと黄色いリボン。
剣を振り終わったルカは、絶対の隙を晒してしまっている。
片腕を失って音速ならば、両腕を失ったシャドウは神速。
もう、ルカにシャドウの攻撃を回避できる道理はない。
「なんだとォォォォーーーッ!」
(これが、全てを捨てた俺の……一撃だ)
ルカの胸に、ナイフを突き刺した。
もう、シャドウを遮るものは何もない。
痛みも、苦しみも感じない。
刃はその皮膚を裂き、肉を切り、骨を砕いて。
そして……止まった。
臓器を破壊すること敵わず。
「おし……かった、な」
口から血を滴らせながら、ルカが笑う。
その目は血走り、顔中には汗が滲んでいる。
確実なダメージがあるのに、ルカは死んでいない。
シャドウのナイフは、ルカの胸筋によって止められていた。
心臓に到達する、あと数ミリ手前で。
「……ック!」
「貴様は、疲弊しすぎた」
もし、彼にもう少し体力が残されていれば、ルカの筋肉を突破して彼を殺していただろう。
もし、彼の左腕が残されていれば、口でくわえるよりも強くナイフを突き刺せただろう。
もし、彼がデイパックを失っていなければ。
もし、彼が少女と共に戦っていれば…………。
考えても詮無きこと。
これが、彼が望んだ戦いの、その結末なのだから。
「死ね。貴様は強かった。俺を殺し得るほどにな」
皆殺しの剣の袈裟斬りが、シャドウの胴体を肩から斜めに傷つける。
大量の生暖かい返り血が、ルカの全身に降りかかった。
しかし、狂騎士は、その剣を止めようとはしない。
致命傷を追ったシャドウに、更なる攻撃を加える。
655
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:08:02 ID:wXm0mWa.0
「……ガ……ぐ…………」
腹部を真横に切り裂く一撃。
傷口からだけでなく、シャドウは口からも大量の血液を吐く。
悲鳴も、言葉もない。
ただ、呻きながら紅い流体を垂れ流すのみ。
「さらばだ」
ルカが下から真上に剣を払う。
刃は、シャドウの股下から右肩を走る。
肉の朽ち果てる音が響いた。
斬りつけられる勢いのままに、シャドウは宙へと飛ばされる。
(し……ぬ、の…………か…………)
もう、男の命は尽きかけていた。
絶命寸前の体で、空を見上げる。
星空が、綺麗だった。
孤独など、ありはしなかったと信じられるほどに。
エドガーが信じたのは、夜明けだった。
だがシャドウは、煌く星を信じていた。
夜でなければ、彼は輝けないから。
(こ……れ、は……?)
口内に違和感を感じたシャドウ。
そこには、まだ、黄色いリボンがくわえられている。
彼女は言った。
『必ず勝って、家に帰って』と。
信じて、リボンを託したのだ。
大粒の涙と共に。
(……まだ………終わっていないッ!)
「バ……サ、ク…………」
傷ついた喉が、なんとか魔法を唱える。
その命を、あらん限りに燃やすために。
夕陽の落ちた空の下、男は紅く輝いた。
致命傷を負って、意識すらもう定かではない。
もしかしたら、その目には何も映っていないのかもしれない。
それでも戦おうとするシャドウを、夜天から『スタープリズム』が静かに見守っていた。
(全てを、燃やす! 命すらもッ!)
シャドウの体が急降下する。
ルカを殺すために。
唯一の武器であるアサッシンズは、ルカの胸に刺さったまま。
竜騎士の靴だって壊れてしまった。
彼には何もない。
それでも、彼はルカへと進む。
その闘志こそが、彼の唯一かつ最強の武器。
「…………なッ!」
ルカの右耳に走る鋭い痛み。
彼の耳を切り裂いたのは、幻想の刃。
シャドウの気迫が見せた、幻の牙であった。
つまり、現実には存在しない一撃。
思い込み。
シャドウのあまりの闘志が、偽りのダメージを現実のものとしてルカの脳に思い込ませたのだ。
瀕死のシャドウにしかできない、防御力をも無視した攻撃。
その名を、シャドウファングという。
656
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:10:23 ID:wXm0mWa.0
「…………グ……貴様……まだッ?!」
死んだと思っていた男からのまさかの反撃。
避け得ない、防御すらかなわない一撃に。
ルカの脳が、激しいサイレンを鳴らす。
大量の冷や汗をかきながら、ルカが必死に行ったこと。
(これは偽りだ! 嘘の刃だ! ニセモノだ!)
それは、思い込みを解消すること。
刃が存在しないのだと、自身の脳に言い聞かせることだ。
「こんな刃は存在せんのだァッ!!!!!」
ルカが吼えるのと同時に、シャドウの幻の刃がその胴体を真っ二つに裂く。
激しい痛みを感じながら、ルカはシャドウの体へと剣を思いっきり振りかぶる。
重い一撃はシャドウの全身の骨を砕き、臓器を破壊し、ほとんどの血液を噴出させる。
全力の剣を食らった彼の体は、町の外れまで一気に吹き飛ばされた。
大地に激しく何度もバウンドしながら。
「ぐ……ごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
シャドウを今度こそ殺したルカ。
体に走った猛烈な痛みに、叫び声をあげる。
血を吐き、意識が落ちそうになっても、その脳に必死に命令を送る。
男の気迫に騙されるな、と。
「ぐぅ……が………………はぁ……はぁ……!」
頭を抱えて数秒悶絶した後、彼はゆっくりと立ち上がった。
その胴体には、シャドウ最期の斬撃をなぞるように真っ赤な内出血の跡がクッキリと残されている。
彼はシャドウの瀕死の一撃を乗り越えることに成功した。
喜び勇んで歩き出そうとして、ルカは一度だけ惨めに転ぶ。
立ち上がりかけて、そこで初めて気づく。
右耳が失聴していた。
シャドウファングの、一撃目のダメージが具現化したものだった。
もし、ルカが脳へ指令を送ることをせず、そのままシャドウに斬りつけられていたら。
おそらくは真っ二つにされるイメージに脳が騙され、絶命していたことだろう。
「俺、が……ここまで、追い、詰め、られ、る…………とは、な」
胸に刺さったままのアサッシンズを抜いて地面に突き刺す。
そして、使い物にならなくなった右耳を引きちぎり、そのナイフの傍へと放り投げた。
自身にここまでの傷を与えた男の偉業を知らしめるかのごとく。
深呼吸をしてから、ルカはフラフラと立ち上がる。
一度だけシャドウが吹き飛んだ方向へ目をやると、その生死も確認することもなく、また新たな獲物を狙って歩き出した。
◆ ◆ ◆
港町の郊外に位置する場所に立っている一軒の民家。
こんな場所にあったために、この家は幾多の戦禍から免れていた。
無傷で佇むその家の入り口。
両腕のない瀕死の男が、外開きのドアに寄りかかって倒れている。
(負けた……のか)
シャドウが霞んだ瞳で空を見上げる。
血液を流しすぎたのだろう、彼の意識は朦朧としていた。
生命活動を終えようとしている体から、次第に力が抜けていく。
口にくわえた黄色いリボンが、はらりと落ちた。
657
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:11:16 ID:wXm0mWa.0
(ちょこ、すまんな……)
リボンは男の血液で真っ赤になっていて、とてもじゃないが少女に返せる状態ではなかった。
しかし、彼が心中で謝罪したのはそれが原因ではない。
シャドウは少女に約束した。
必ず勝つと。
生きて、家に帰ると。
しかし、彼はルカ・ブライトを追い詰めつつも敗北し、その生命に幕を引こうとしていた。
この、燃え尽きた港町の外れで。
誰もいない家の前で。
(もう、家には……帰れそうにない…………)
抗いようのない虚脱感に、ついに目を閉じる。
決して安らかとはいえない死が、男を包んだ。
意識は闇に堕ちて行き、地獄に落ちる準備が始まったのだと男は悟る。
奇跡は、彼の背後で起こった。
(…………あ……)
扉が、開いた。
中から出てきた死神は、静かに微笑んで彼を後ろから抱きしめる。
暖かい感触を背中に感じて。
どうしようもないほどの幸福感を感じて。
男は逝った。
(……ただいま)
おかえり。
彼女はそう言って、男と共に夜空を見上げる。
今宵の星は、綺麗だった。
孤独など、かき消してしまうほどに。
658
:
シャドウ、『夕陽』に立ち向かう
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:12:04 ID:wXm0mWa.0
緊張と共にドアをノックする。
自分の家なのに、変な話だと彼は笑った。
ギィィ……と軋みをあげてドアが開かれる。
同時に、扉の後ろから少女が胸に飛び込んできた。
男は、太い両手で彼女を抱きしめ、その頭を撫でてやる。
少女はグズグズ泣きながら、早口で思い出話を語り始めた。
今まで失った時間を埋めるように。
家の中に入って、後ろ手でドアを閉める。
部屋の奥からは、老人が怒鳴る声。
男は笑って小さく頭を下げた。
それを確認して、老人は外へと出て行く。
すれ違い様に、男の肩をポンと優しく叩いた。
台所ではシチューがコトコトと煮えていて、おいしそうな匂いが玄関まで届いてくる。
何十年ぶりだろうか。
あとで一緒に食べようと彼は少女に言う。
少女は自信作だと、はしゃぎながら答えた。
窓の外に目をやると、もう夕暮れ時。
紅い光が名残惜しそうに世界を照らす。
そして庭に目を移せば……。
黄色い花が、背筋をしっかりと伸ばして、夕陽を睨んで咲き誇っていた。
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI 死亡】
【残り21人】
※竜騎士の靴@FINAL FANTASY6 はシャドウの死体に装備されていますが、壊れています。
※黄色いリボン@アークザラッド2 はシャドウの死体の傍に落ちています。
※アサッシンズ@サモンナイト3はD-1 荒野(港町跡)に放置。傍にルカの右耳も落ちています。
※蒼流凶星@幻想水滸伝Ⅱ、基本支給品一式*2 洋酒、グラス(下半分) はシャドウのデイパックに入ったままで D-1のどこかに落ちています
空から叩き落されたので、壊れているものもあるかもしれません。
659
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:13:40 ID:wXm0mWa.0
【D-1 上空 一日目 夜】
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:どうしよう……
0:……おじさん
1:おにーさん、助けてあげたいの
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
3:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は不明(少なくとも覚醒イベント途中までは進行済み)。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザ達の名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※意識が落ちている時にアクラの声を聞きましたが、ただの夢かも知れません。
オディオがちょこの記憶の封印に何かしたからかもしれません。アクラがこの地にいるからかもしれません。
お任せします。後々の都合に合わせてください。
※第三回放送を聞き逃しました。
【D-1 荒野(港町跡) 一日目 夜】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]上半身鎧全壊、精神的疲労(大)、ダメージ大(頭部出血を始め全身に重い打撲・斬傷、口内に深い切り傷)、胸部に刺し傷、右耳喪失
[装備]皆殺しの剣@DQIV、魔石ギルガメッシュ@FFVI
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×6、カギなわ@LIVE A LIVE、死神のカード@FFVI
魔封じの杖(2/5)@DQⅣ、モップ@クロノ・トリガー、スーパーファミコンのアダプタ@現実、
ミラクルショット@クロノトリガー、トルネコの首輪 、武器以外の不明支給品×1
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る2人及び、名を知らないアキラ、続いてトッシュ、ちょこ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※第三回放送を聞き逃しました。
※魔石ギルガメッシュより、『ブレイブ』を習得しました。
660
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/06/27(日) 22:15:12 ID:wXm0mWa.0
以上、投下終了です。
代理投下、支援、本当にありがとうございます。
誤字や疑問点など、何かあれば言ってください。
661
:
無法松、『酒』を求める
◆Rd1trDrhhU
:2010/07/05(月) 20:26:20 ID:K.yN1AHk0
大海原をたゆたういくつもの波。
空を漂ういくつもの雲。
無法松は、無心でそれらを眺めていた。
彼の前を通り過ぎた波、雲。
彼は気づくことはなかったが、その総数はそれぞれ二十九だ。
それは、この殺し合いで今までに散っていた魂の数。
「……誰も、来ねぇな」
座礁船の甲板から海を眺める。
海面に反射した太陽の【光】が、無法松の目に【槍】のように突き刺さった。
チクリと網膜に痛みを覚えて、思わず瞳を【拳】で拭う。
数秒の後に視界を取り戻した無法松は、遥か西で紅く【燃える】太陽を改めて見る。
まるで、待ちぼうけを食らっている事をあざ笑われたような気がして、彼は【心】に苛立ちを覚えた。
【光】……この殺し合いが始まった直後、ある魔女もヘクトルという男を救うために癒しの光を放った。
その代償として彼女は死んでしまうが、その意思はヘクトルにうけ継がれる事となった。
【槍】……導かれし者たちの一人、中年の商人。彼をギャンブラーの槍が貫いた。
商人は優しい父親だったが、他でもないその優しさこそが勝負師を殺し合いへと導いてしまった。
【拳】……導かれし者たちの一人である少女が使う武器。彼女の拳はとても強かった。数々のモンスターを倒してきた。
だが、道化師の魔法の前にはそれも通用せず、彼女は巨大な氷に包まれて命を落としてしまう。
【燃える】……燃える森の中で、一人の少女が絶命した。幻獣と人間の間に生まれた美しい娘だ。
彼女は無法松に全てを託し、たったひとりで狂騎士に戦いを挑んで倒れた。
【心】……心山拳という拳法がある。その拳法の師範代である少女は、とても強い心を持っていた。
彼女は最期まで人間の心を信じて、人間への憎悪を燃やす魔王と戦い抜いたのだった。
「…………あー! なんだってんだよ一体よぉ!」
イラつくあまり、海に飛び込みたい衝動に駆られる。
だが、そのまま流されて、【禁止エリア】に進入して死亡などとなっては、冗談では済まない。
さすがの無法松も、そんな【原始人】の様な真似をするほど馬鹿ではなかった。
地団太を踏み、船に八つ当たりする。
座礁船はビクともせず、男のやり場のない怒りを全て受け止めた。
【禁止エリア】……最強を目指す格闘家も、禁止エリアには勝てなかった。
首輪が起こした爆発は小さなものではあったが、確実に彼の命を吹き飛ばした。
【原始人】……原始に生きる女性。時空を旅して、世界を救った者たちの一人だ。豪快で優しく、そして強い人であった。
彼女を殺したのは、漆黒の暗殺者が投擲した一本の槍。
662
:
無法松、『酒』を求める
◆Rd1trDrhhU
:2010/07/05(月) 20:27:11 ID:K.yN1AHk0
「トッシュ、何かあったんだな……」
太陽が沈み【夜空】が訪れると同時に、無法松も冷静さを取り戻す。
彼が待っていたのは、トッシュという侍。
座礁船への集合を呼びかけた中で、唯一生き残っている人物だ。
しかし彼は、約束の時間である【魔王】オディオによる第三回放送を過ぎても、一向に姿を見せない。
トッシュは、約束を違えたり【嘘】をつくような男には見えなかった。
ならば、彼は厄介ごとに巻き込まれてしまったのだろう。
この会場には、【平気で人を殺すような外道】が大勢いるのだから。
【夜空】……ある少女が、夜空に消えた。彼女は、魔剣に封じられし力を引き出し……我が物とした。
しかし、強大な力は少女すらも食いつくしてしまう。彼女は消えゆく身体を奮い立たせ、最期まで魔王と戦いぬいた。
【魔王】……ある魔王の剣が、少女を貫いた。彼女は幼いが芯が強く、召喚師としての多大なる才を秘めた娘であった。
落ちゆく意識の中で彼女はずっと、自分の恩師を心配していた。
【嘘】……少女の死を前に、ある物真似師が自らのポリシーに反してまで嘘をついた。その少女は姉であった。
命が燃え尽きるその瞬間まで、姉であり続けた。その死は、実に多くの参加者に影響を与えることとなる。
【平気で人を殺すような外道】……灯台で少年に殺された男も、こういう人間であった。人の命を命だとも思わず、弄んで楽しむような男。
最期は豚の真似をさせられて殺されるという、なんとも彼らしい終わり方だ。
「……仕方ねぇな」
ただ、待ち続けているだけでは、時間の無駄である。
何かすべきことはないものかと考えた無法松は、自分が船の上にいることを思い出した。
もしかしたら、【酒】でも積んでいるのではないか。
そんな【甘い】期待に背中を押されるようにして、無法松は船の内部を捜索することにした。
船内に潜んでいるかもしれない敵からの【奇襲】には、十分気をつけながら。
【酒】……超能力少年が、酒を湖に注いだ。命の歯車を止めた、機械仕掛けの女性への手向けだった。
英雄になることに、人生をかけて拘り続けた女性。彼女は最期の最期で、少年から英雄と認められたのだった。
【甘い】……天馬騎士見習いの少女が、甘い夢を見たまま逝った。彼女は自分が死んだことにも気づかなかった。
気弱な少女にとっては、むしろその方が幸せだったのかもしれない。
【奇襲】……世界を救った者たちのリーダーだった国王。彼も暗殺のプロの奇襲には太刀打ちできなかった。
しかし、彼は絶命してもなお、手にした刃を振り続けた。戦友への誓いを、心の中で叫びながら。
「……ほぅ、意外と広いもんだな」
カツカツと階段を下った先には、だだっ広い空間。
木製の床は、歩くたびにギチギチと軋みをあげた。
どこかから、隙間【風】が吹き込む。
こんな安い作りでちゃんと【嵐】の海を抜けることができるのか、と無法松は心配になった。
【風】……風を従えたハンターがいた。世界一疑り深い男。なのに彼は、起きるはずのない嵐を命がけで待ち続けた。
嵐は現実のものとなり、男はその奇跡を起こした相棒に報いるために魂を燃やした。
【嵐】……あるガンマンが起こした奇跡の銃技。男は、白い花が好きだった。そして彼は相棒と共に全てを賭けて最強の魔導師に挑む。
あと一歩と言うところまで道化師を追い詰めたが、最期は少女を見守って力尽きた。
663
:
無法松、『酒』を求める
◆Rd1trDrhhU
:2010/07/05(月) 20:27:55 ID:K.yN1AHk0
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか……ってなぁ」
通路を【盾】のように塞いでいる蜘蛛の巣を払いのけて、無法松は幾つかある扉のうちのひとつを開ける。
部屋の中は、特に目ぼしいものはなく、布団や空瓶などが【乱暴】に投げ捨てられていた。
扉の近くに落ちていた【眼鏡】を踏み潰して、中に入る。
壁にかかっているドクロマークを発見して、無法松はこれが海賊船であることを知った。
【盾】……フィガロ城で死んだ少年。彼の腕で輝く紋章は、盾であった。誰かを守りたいという少年の思いを具現化したようでもある。
そして彼は、その願いの通りに、紅き侍を癒して空へと旅立った。
【乱暴】……無法松と、この座礁船で合流する約束をした男。彼は乱暴な性格だった。約束をよく破る男でもあった。
異形の騎士と魔王を前に、彼は倒れた。この約束を守ることも、できなくなってしまった。
【眼鏡】……眼鏡の少女。知性に溢れていたが、しかし彼女は優しさも忘れることはない。
殺し合いに乗ったかつての仲間たちを止めるために自ら戦場へと向かい、最期は心地よい緑の光の中で眠りについた。
「……海賊なんてもんまで存在してやがんのかよ…………」
無法松のいた世界で海賊行為などを行えば、たちまち【軍部】によって粛清されてしまう。
おそらく、この海賊船のいた世界は、無法松のいた日本とはまったく違う常識を持っていたのだろう。
【軍部】……無法松を守って死んだ女性は、軍人だった。男であるとか、女であるとか関係ない。
民間人を守ることに全力を注いだ。隕石に押しつぶされるその瞬間まで。
「いろんな世界があるんだな」
以前の彼ならば異世界の存在など信用できるはずがなかった。
が、【魔法】なんてものを散々この目に見せられては、もうその存在を信じざるを得ない。
ふと、金髪の男が【召喚】した隕石を思い出して、無法松は今一度悔しさを滲ませた。
彼にとって、【女に犠牲になられる】ことは、とても許せることではない。
【魔法】……炎の少年が、魔王の放った魔法を受けて消滅した。その幼い心は、やがて成長して世界を救うに至る。
しかし、運命の輪は、彼にその機会を一切与えなかった。
【召喚】……召喚師の女性。彼女は、最初からずっと逃げ続けていた。己の内にある感情と向き合うことを避け続けた。
ギャンブラーは、それを良しとはしなかった。彼女を殺したのは彼女自身の弱さだったのだろう。
【女に犠牲になられる】……メガザルという魔法を使う女性がいた。自らを犠牲にして他人を守る。彼女の優しさを体言するかのような魔法。
そして彼女は、傷ついた仲間を救うため、何のためらいもなくその魔法を唱えて……力尽きた。
「ま、今は前に進むしかねぇよな」
感傷的になった自分に気づいて、無法松は踵を返した。
他の部屋を調べるため、次なる扉へとその足を伸ばす。
彼女を犠牲にして生き延びてしまったことは、もう仕方のないこと。
ならば、今は彼女の分まで戦うべきだ。
それが、【命を託した】彼女の願いなのだろう。
【命を託した】……スパイラルソウル。メガザルよりも少し荒々しい魔法。その使い手も、これまた荒々しい男。
彼は、最強最悪の敵を前に、この技を使用。仲間に全てを預けて荒野に倒れた。
「この部屋は、酒蔵か?」
次に踏み込んだ部屋は、【馬鹿】にたくさんの樽が積まれている部屋。
辺りに漂う心地よい匂いに、無法松は【雷】に打たれたように跳ね上がって喜んだ。
この中のどれかに酒が残っているかもしれないと、ひとつひとつ中身を確認していく。
【馬鹿】……文字通り、馬鹿がいた。どうしようもないほどの馬鹿なのだ。それゆえに、全てを吸収できる男だ。
彼もまた、仲間に命を託して倒れた。相棒がやったのと同じように。
【雷】……無口な少年の得意魔法は雷。その得意技のせいで、ある勇者を絶望に追い込んでしまう。
仲間から命を預かった彼は、死にゆく身体で必死でその勇者のところまで這い進み、最期の思いを手渡そうとした。
664
:
無法松、『酒』を求める
◆Rd1trDrhhU
:2010/07/05(月) 20:29:00 ID:K.yN1AHk0
「これで、【ご馳走】でもありゃあ最高なんだがなあ」
などと、贅沢を口にしながら、樽を持ち上げていく無法松。
思わず垂れてきた涎を飲み込む。
半分ほど調べたが、今のところ全ての酒樽は空であった。
だが、もう無法松には、酒が飲めないなどとは【信じられない】。
どれかに必ず【本物の】酒が入っていると信じ、次々と酒樽をチェックしていく。
【ご馳走】……少女は、争いが嫌いだった。みんなと笑顔でご馳走を食べることを望んでいた。
その優しさは、狂人の壊れきったはずの心に孔を穿つ。その貫かれた思いは、確実に何かを変えたのだった。
【信じられない】……『シンジラレナーイ』。狂った道化師の口癖。彼の心に、ある『毒』が注入された。
その優しさは彼を蝕み……そしてついに、道化師はその感情に蝕まれて絶命するに至る。
【本物の】……モシャス。誰かのニセモノになる魔法だ。少女はソレを駆使して幼馴染の少年を助けようとした。
彼女はたった一度だけ、本物の思いを少年に伝える。しかし彼の『返答』は、彼女を粉々に砕いてしまった。
「ん? なんだこりゃ?」
部屋の隅に置いてある樽を持ち上げたときだった。
無法松は、その下の床に、何か絵のようなものが描かれていることに気がついた。
蛇の這った跡のような、筆で適当に書きなぐったかのような不思議な模様。
「落書き……か?」
無法松はよく分からないソレを無視して、アルコール探しに戻る。
もう、彼の目には酒しか映ってはいなかったのだから。
男は、目的のものを探して進む。
明日のために、座礁船で仲間を待ち続けながら。
たったいま目の前を通り過ぎた二十九には、気づくこともなく。
さて、無法松が見たこの模様。
これは落書きでもなければ、絵ですらない。
実は、紋章である。
転送の魔法が封じ込められた、紋章だ。
この船は、ファーガスという海賊が所持していた船。
ヘクトルたちが、『魔の島』へ渡るために乗った船でもある。
この船は海賊船として活動しているかたわら、武器屋や道具屋を乗せて商売もさせていた。
そして、この紋章もまた、ある店への入り口である。
ヘクトルたちが使うことのなかった、ある店への。
この紋章のことを魔王オディオが知っているかどうか。
この先に通じているのが何なのか。
それは、まだ誰にも分からない。
しかし、たった一つだけ…………。
セッツァー=ギャッビアーニが現在所持しているメンバーカードにも、全く同じ紋章が描かれている。
それだけは、確実なことであった。
665
:
無法松、『酒』を求める
◆Rd1trDrhhU
:2010/07/05(月) 20:29:39 ID:K.yN1AHk0
【A-7 座礁船内部 一日目 夜】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康、全身に浅い切り傷
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:酒を探す。
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。 ただし、約束の時間が近いので探すのはできるだけ近辺で。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
ジョウイを警戒すべきと考えています。
※A-7 座礁船の酒蔵の隅に、秘密の店への入り口があります。その先に何があるかは不明。
666
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/07/05(月) 20:30:27 ID:K.yN1AHk0
以上、投下終了です。
代理投下してくださった方、本当にありがとうございます。
667
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/07/05(月) 20:33:01 ID:K.yN1AHk0
支援してくださった方も、ありがとうございます。助かります。
668
:
憎悪の空より来りて
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:53:08 ID:4nGbyjws0
規制につき代理お願いします
669
:
憎悪の空より来りて
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:53:38 ID:4nGbyjws0
「これで借りは返したぞ」
「ち…っきしょう!」
地に落ちた刃をこれ見よがしに炎で熔解するルカにトッシュは舌を打つ。
まずいことになった。
感情を隠そうとしないトッシュの顔はありありとそう語っていた。
「トッシュ、俺の剣でもやはりダメか?」
「ねえよりはマシだがあのボロボロの剣じゃ同じ方法で叩き折られる」
刀で受け流す一瞬の接触だけで、ルカにはトッシュの剣を断ち切れるのだ。
これはトッシュにもできない芸当だ。
推測するに鍵は一息分の呼吸で三撃を成すあの技法。
あれを応用することで斬りかかる、受け流しに追いすがる、再度切り裂くの三手をトッシュの受け流しという一手に対して行ったのだろう。
武器破壊を防ぐには完全にかわしきるか大威力の斬撃に耐えうるほどの業物を使うしかない。
が、どちらの方法にも問題はある。
前者はルカ程の強敵を相手に大きく間を空ける避け方は隙を晒すことになりかねないし、また相手の隙を突ける機会も逃しがちになる。
後者はそもそも条件に合う業物がない。
壊れた誓いの剣もディフェンダーも天罰の杖も閃光の戦槍も。
武器の質としてはブレイブによる補正以前の素の皆殺しの剣に大なり小なり劣る。
せめて一度目の戦いの時のようにトッシュと相性がよく且つ名刀であるマーニ・カティがあれば話は別だったのだが。
ないものを強請ったところで意味はない。
――否
あるにはある。
目には目を、歯には歯を。
魔剣に抗するのに相応しい剣が一つ、トッシュ達にはあった。
「トッシュ、ゴゴッ!」
「やめろ! あいつを安々と起こすんじゃねえ!」
ルカだけではない。
ゴゴ達にとってもここは境界線なのだ。
この先にはシャドウが命を賭けて護った少女がいる。
ならば物真似という形で彼の意思を継いだゴゴは何が何でもルカを通すわけにはいかず。
今やこの地に一人となった元の世界からの仲間をトッシュも何としても死なせたくなかった。
「「この先に行かせるわけにはいかない!」」
だというのに。
670
:
憎悪の空より来りて
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:54:33 ID:4nGbyjws0
狂皇はそれを許さない。
「ほう、それはこいつを護る為か?」
嘲笑い、狂った獣はそれをデイパックから投げ捨てる。
ごろりと。
砂上を転がって、否、転がりそびれたそれがこちらを向く。
転がらなかったのも無理はない。
それは球形をしていなかった。
人間のものとは違い前方に突き出た骨格を持つ生物の――生首だった。
赤茶色く濡れ染まり、ところどころ焼け爛れていたが、それはゴゴ達三人の誰も知る生物の生首だった。
間違いない。
あの強烈なキャラクターに触れてしまえば、非常に残念ながら誰しもその顔と名前を覚えてしまう。
「ふん。せめて虫ならば殺す価値もないと見逃してやったのだがな」
ぐちゃりと。
ゴゴが、アシュレーが手を伸ばし拾い上げようとした前でルカがそれを踏み砕く。
「爬虫類ならば鬱陶しくて殺したくもなる」
赤黒い血が滲み出し、ぶよぶよとした脳症が零れ出たそれは間違いなくトカのものだった。
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
▽
嘘のようにあっけなく殺しても死にそうにないと思われていたリザード星人は死んだ。
原因は不運だったとしかいいようがない。
或いは自業自得と言うべきか。
ちょこをフィガロ城に送り届ける最中、エンジントラブルが発生し、スカイアーマーが暴走。
それがちょことの衝突のショックがプログラムを狂わせていたからかトカにはありがちの設計ミスだったのかは分からない。
分かっていることは一つだけ。
制御を失ったスカイアーマーはあろうことか城とは逆方向、つまりルカのいた方角へと飛んでいってしまったのだ。
下手に機動性がよかったせいでアシュレー達よりも随分速く遭遇。
結果はわざわざ言い直すまでもない。
トカは殺された。
狂皇子に殺された。
671
:
憎悪の空より来りて
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:55:20 ID:4nGbyjws0
「飛んで火にいる夏の虫とはよくぞいったものだったぞ!
小娘には逃げられてしまったがな。
からくり仕掛けの女のように機械の方も壊れされていればよかったものを」
不幸中の幸い、ちょこは凶刃にかかることはなかった。
トカが殺されたことでスカイアーマーが本格的に制御を失いちょこを乗せたまま不規則な軌道で何処へと飛んでいったのだ。
そうなってしまえば飛ぶ手段のないルカには黙って見送るしかなかった。
ルカが感じた屈辱はかなりのものだっただろう。
だがそんなことはアシュレーには関係なかった。
彼が聞き逃せなかったのはただ一点。
からくり仕掛けの女というその言葉のみ。
その特徴に当てはまる人間を、既にこの世にはいない女性を、アシュレーは知っているッ!
「カノンも……。カノンもお前が殺したのかッ!」
邪悪そのものであるこの男と遭遇したのならカノンが戦いを挑まないはずがない。
自分の居場所を、仲間達を護る為に戦って戦って戦い抜いて、そして死んだのだ。
アシュレーはカノンが英雄の呪縛から逃れられていない時から連れて来られた事を知らない。
けれどもカノンという人間のことは確かによく知っていた。
だって彼女はアシュレーの思ったとおりに一人の少年を護って死んだのだから。
そしてアシュレーはそんな彼女の仲間なのだ。
誰かを護る為に、大切な人と居続ける為に戦う戦士なのだ。
ならばッ!
「知らんな、殺した奴が誰かなどと!
豚に名前は過ぎたものだからな……!!」
「お前は、お前はそうやってこれまでも多くの人々を殺してきたのかッ!」
「ふははははははははは、分かっているではないか――ッ!!
見たところ貴様達も少なくない人数を殺してきたようだが、俺は一人でその何百倍も殺したぞ!!!!」
もしとかたらとかればとかの考えは捨てろ。
先に待つ災厄に恐れ眼前の邪悪を滅ぼせないのは愚の骨頂。
ルカ・ブライトはロードブレイザーにも勝るとも劣らない脅威だ。
人を人として憎み、その上で豚を屠殺するかのように殺し続ける悪魔だ。
見たことのない明日を一つ、また一つと奪っていく絶望だッ!
一秒でも速くここで倒さなければならないッ!
アシュレーは剣をとる。
心の中で、蒼き魔剣の柄に右手を、そしてもう一本の魔剣に左手を添える。
672
:
憎悪の空より来りて
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:56:00 ID:4nGbyjws0
「――来てくれ、ルシエドッ!」
アシュレーの手に一振りの剣が現れる。
欲望のガーディアンルシエド。
アシュレーの心の内に潜むロードブレイザーでもアティでもない三つ目の精神体。
血肉を持つ最後のガーディアン。
あまねく欲望を力とし剣の聖女と剣の英雄の二代に渡り共に戦ってくれた心強い戦友。
未来を切り裂くという意思に沿って剣へと化身している友を、アシュレーはトッシュへと託す。
「トッシュ、預かっていてくれ。同じ概念存在でもあるこの剣ならロードブレイザーが相手でも戦える」
「暴走したら俺にてめえを討てっつうのか? 負担を減らすこともできず、てめえの力になるにはてめえを殺すしかねえっつのか!」
「違うさ。言っただろ、預かってくれって。ちゃんと後で返してもらう為に君に預けるんだ。
僕は諦めなんかしない。だからトッシュとゴゴも諦めないでくれッ」
「「約束だぞ!」」
力強い二重奏に背を押され、アシュレーは一歩を踏み出す。
――行くのか? 我が主、アシュレーよ
ああ、行くさ。
帰ってくるために、マリナにただいまを言いたいから。
――ではまた待つとしよう。かつてアナスタシアに頼まれお前を待っていた時のように
心の中でルシエドへ誓い、今度こそ蒼き魔剣を手にする。
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!! アクセスッ!!!」
アシュレーは果たす。
変身を。
最後のアクセスを。
蒼炎のナイトブレイザーの更に先。
より禍々しい鎧と白銀の炎を纏った蒼炎のオーバーナイトブレイザーへとッ!
▽
673
:
正しき怒りを胸に
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:56:35 ID:4nGbyjws0
魔人と狂人は交差する。
死の刃は接吻を交わす。
焔と炎は喰らい合う。
片や度重なる厄災を退け星一つを救った英雄。
片や人命をあますことなく奪わんとした邪悪。
相反する存在でありながらも、絶大な力を持つという一点でのみこれ以上になく近しい二人。
どのような力であろうと『力』そのものに善悪はない。
それを振るいし者によって善き力にも、悪しき力にもなる。
ルシエドがアシュレーと契約した日の言葉通りだった。
人の身一つで屍山血河を築いてきた狂った皇は天が味方すれば世界をも平定できた。
さすれば彼の人となりを知らぬ後世では英雄として讃えられたかもしれない。
魔神の力を限界まで開放した灼熱騎士は焔の厄災の分身となり得た。
人々を虐殺しつくし、果てに邪悪として倒滅される未来もあったのだ。
表裏一体。
世界を救う力も滅ぼす力も力の絶対値で見れば等価値だ。
今戦場で振るわれているのはそういった力なのだ。
一振りごとに歴史が揺らぎ、一薙ぎごとに世界が変わらざるをえない力なのだッ!
「ちきしょお、俺達は見ているだけしかできねえのか!?」
故に戦いに介入する術なく突っ立っているしかない男を誰が責めることができようか。
いつもいつでも英雄達の物語は万人の手の届かぬところで進んでいく。
だかこそ伝説はいつまでたっても伝説であり、物語の域を出ることはない。
「なんて、戦いだ……」
そしてそんな手の届くことのない物語だからこそ人の心を捉えて止まないのだ。
物真似師ならぬ凡百の人間であっても目を凝らして正邪の英雄の戦いを心に焼き付けようとしたであろう。
数秒も経たないうちに戦いの真実を、殺し合いの凄惨さを目の当たりにし目を背けることとなろうとも。
――砂漠を背負い英雄が行く
――森を焼き払い英雄が迎え撃つ
674
:
正しき怒りを胸に
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:57:21 ID:4nGbyjws0
同時に繰り出すは一撃必殺。
微塵でも触れようものなら身命を根こそぎ吹き飛ばす必滅の刃。
双方共に頭部を狙った一撃を紙一重で首を捻りかわす。
唸りを上げて空を切る二発の剛剣。
ただしオーバーナイトブレイザーの得物は二刀。
間髪入れず残った剣をルカの心臓へと突き立てる。
それをルカは振り切ったはずの剣で迎撃。
どころかナイトフェンサーを弾いた剣が再び刃を返しアシュレーの胴を狙う。
一つの踏み込み、一つの呼吸の間にて振るわれる三度に及ぶ必殺の斬撃。
神速をも凌駕して魔速をも地獄に落とす真速の剣。
その常軌を逸した速度に、常軌を逸した存在であるナイトブレイザーは即応するッ!
かわす動作はしない。しても無駄だ。逃げに回るのはいつだって人間だ。
簒奪者たる魔人が人の真似をしようものなら真実人へと成り下がる。
選んだのは装甲の展開。今しも突き刺さろうとしていた刃は、自ら開放された装甲分空をかすめる。
僅か一拍分の時間稼ぎ。光速の砲撃を撃ち込む絶好の機会。
一秒とももたなかったクソッタレなチャンス。
ルカが消える。
時間を捻じ曲げ好機を奪い去る。
がら空きの背に叩き込まれる処刑の刃。
ナイトブレイザーすんでの所では装甲一枚を犠牲に躱す。
回避しざまに敵手の首へと貫き手を放つ。
肉一片を持っていく。
「ルカ・ブライトオオオオオオオオッ!!」
「この感覚……。そうか、俺としたことが忘れていた。
クク、ハハハハハっ!! ちょうどいい、貴様を殺し貴様が宿しているそれを使わせてもらうぞ!!!」
幾度も、幾度も、幾度も。
人を終らせる一撃が、命を奪う人殺しの技が鬩ぎあう。
一度で終るはずの時間が延々と地獄のように続いていく。
殺し合い。
正しく、殺し合い。
殺すか殺されるかではなく互いに殺して殺して殺す。
一合ごとにルカ・ブライトは殺す。
一合ごとにアシュレー・ウィンチェスターは殺す。
肉片が飛ぶ。
装甲が舞う。
刃が零れる。
血を、汗を、鉄粉を撒き散らして。
幾条もの赤い線を走らせた戦士達が刃こぼれした剣を酷使する。
地が裂ける。
砂が吹き飛ぶ。
木々が消し飛ぶ。
英雄達の一秒一分の生存の代償に自然の命が削られていく。
生い茂っていた木々も。
寝そべっていた砂漠も。
聳えていた山々も。
今や等しく月面世界。
自然界に宿るという妖精の涙もとうに枯れ果てていることだろう。
たとえ枯れていなかったとしても。
鋼と鋼が衝突し響き渡らせる耳障りな音の前に、彼ら彼女らの泣く声は余すことなく飲み込まれていく。
675
:
正しき怒りを胸に
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 04:57:55 ID:4nGbyjws0
「蹂躙しろっ、剣者よッ!!」
「ハイ・コンバイン、マディンッ!!」
聖剣を携えた伝説の剣豪が大地を抉る。
娘を守り続けた守護者の魔力が空を覆う。
二体の幻獣が相殺しい光に還っても二人はかまわず戦い続ける。
「オオオオオオオオオオオオッ!」
「死ねえいっ!!!!」
ありとあらゆる攻撃を意に介さず。
ありとあらゆる速度の追随を許さず。
ありとあらゆる防御を無に帰して。
強いとはこういうものだと言わんばかりに。
魔法がどうとか、剣技がどうとか、そういったものをどうでも良いと感じさせてしまうほど圧倒的な力をもって。
ただただ殺す、ただ殺す。
ルカ・ブライトは嗤っていた。
アシュレー・ウィンチェスターは笑っていなかった。
狂皇の炎は赤かった。
騎士の焔は蒼かった。
剣が炎を纏う。
剣より焔が撃ち出される。
相殺。
打消しでも相打ちでもなく拮抗でもなく相殺。
赤も蒼も等しく殺されて死ぬ。
死ぬ。
死ぬッ!!
死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ねッ!!!!
護る為の力。どれだけ取り繕ってもやっていることは人殺し。
だからアシュレーは世界を護るとは言わない。
ただ彼の護りたい日常の為にだけ戦う。
奪うための力。奪うだけで得ることをしなければ飢えは永遠に癒されない。
だからルカは人殺しを好みはすれど、人殺しを楽しまない。
ただ自身が邪悪であり続ける為だけに戦う。
正と邪。
魔と人。
赤と蒼。
奪うと護る。
延々と、延々と続いていく螺旋。
交差しては弾き合うメビウスの輪。
されど。
∞の形に捻じれ続けた輪はいつしかもろくなり崩れ去る。
徐々に徐々にアシュレーが押し出したのだ。
676
:
正しき怒りを胸に
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:02:10 ID:4nGbyjws0
「チィ……ッ!!」
ここに来て勝敗を分けたのは残存体力の差だった。
ルカがどれだけ非人間じみたタフネスさを誇ろうとも相手は言葉通りの人外の力を手にしたアシュレーだ。
人の負の念を食い物とし再生し続ける怪物と戦うには負の念の塊であるルカは相性が悪すぎた。
ただしそれはフィジカル面に限った話。
メンタル面ではむしろ逆。
ナイトブレイザーが回復するということは即ちロードブレイザーがルカから負の念を掬い上げ続けているということ。
ルカの身体がボロボロのように、アシュレーの心も穴だらけだった。
これ以上時間はかけられない。
共通の結論に辿り着き、アシュレーとルカが一度大きく距離をとる。
持久戦では都合が悪いというのなら。
選ぶべき手は一つしかない。
起こるべきだった永劫を。
叩き込むはずだった数多の刃を。
ただの一撃、ただの刹那に凝縮するッ!
「いくぞ……アシュレー!!!!!!!!!!」
金色の光が男の足元から、漆黒の闇が皆殺しの剣から、透明なる無が空間より溢れ出る。
光と闇と無は混じり合い、ルカの闘気と一体となる。
これより放つはブレイブ、ルカナン、クイックの三重奏からなる最強の一撃。
防ごうものなら護りを剥ぎ取る。
耐えようものなら押し斬り尽くす。
避けようものなら時すらねじ曲げ追いすがる。
防ぐことも叶わず、耐えることも許されず、避けるも不可能な必中必殺必滅の炎剣。
ばらばらになぞるだけなら誰にでもできて、一息で一つの技としてなすことはルカにしかできない、
ルカだけが使う事を許されたルカのみの絶技。
――剣が迫る
「ファイナル……」
ファイナルバーストでは間に合わない。
力で勝ろうとも先に殺されてしまえば意味がない。
時をも殺し、一足で三歩を刻む真速を前には魔神の腕はなんととろいことか。
――剣が迫る
「バニシング……ッ」
バニシングバスターでは押し切られる。
速度はあっても威力が足りない。
幻獣どころではない。魔神の息吹すら炎剣相手には火の子も同じだ。
――剣が迫る
677
:
正しき怒りを胸に
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:02:43 ID:4nGbyjws0
故に。
それが唯一無二の正解だった。
ファイナルバーストでもバニシングバスターでも勝てないのなら。
速度か力かどちらかが欠けているというのなら。
二つの技を掛け合わせればいいッ!!
「バアーストォォォォォォオオオオオオオオオッ!!!!!!」
ナイトブレイザー“が”撃ち出される。
粒子加速砲の光に乗ってナイトブレイザー自身が弾丸の如く射出されるッ!
漆黒の闇を赤く、赤く駆逐しながら、騎士が羽ばたく。
開放された焔の力は翼持つ魔神の形をとってルカを纏う炎ごと天へと突き上げる。
地上で開放するには過ぎた力なれど遮る物も、巻き込む者もいない天ならばありったけを放出できる。
思うがまま力を振るうことを許された魔神はここぞとばかりに火力を増していく。
熱量の上昇は留まることを知らず。
同じ焔の身でありながらルカの炎さえ焼失させてゆく。
その現実離れした光景にもルカは興味も恐怖も感じなかった。
「所詮は一度殺された身。この程度か」
アシュレーの飛翔に突き上げられるがままただ空を見上げる。
夜天には人を冷たく見下ろす月の姿。
誕生以来人々の営みをずっと見てきたあの月は人間をくだらないものだと思っているのだろうか。
「ふん、この思考こそくだらんか」
焼きが回ったものだと炎に消え逝く中自嘲する。
一度目の死がそうだったように今のルカからは身を焦がし続けていた疼きが消えていた。
だからだろう。
これまでゆっくりと見上げることのなかった月夜などに現を抜かし馬鹿げたことを考えてしまったのは。
月、か。
夜、城攻め、瀕死、一対多、果ての決闘での敗北。
ここまで状況が重なっているのだ。
もしかすればかって死した日も月は輝いていたのかもしれない。
くだらぬ感傷だな。
ルカは吐き捨てるも月から目を離すことはない。
両足の感覚が消え、焔が身体を駆け上がってくることすらものともしない。
だったら、せいぜい見ていろ。
一度目の生で手をつけておきながら最後まで己が手ではやり遂げ切れなかったこと。
それがなされる瞬間を。
ルカ・ブライトという邪悪が境界線を一つ越えるその時を。
邪笑を浮かべる。
つられるかのように炎が嗤う。
678
:
正しき怒りを胸に
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:03:19 ID:4nGbyjws0
「まだこんな力がッ!?」
ファイナルバーストの光に飲み込まれていたはずの紅蓮の炎が息を吹き返す。
今やルカ自身が炎だった。
自らが生む炎と自らを焼く焔の両方を取り込んだ一つの巨大な炎だった。
焔で象られた魔神より尚大きい炎の悪魔が両手を広げる。
己が力と速度を凌駕して心の臓に剣の杭を穿ったアシュレーを受け入れ祝福する。
「ぐあああああああああああッ!」
憎悪も、魔力も、身体も、命さえ炎にくべた男がアシュレーの身を焼く。
オーバーナイトブレイザーの装甲の隙間から進入した人の形を失った悪魔が笑う。
俺は! 俺が思うまま!
俺が望むまま!邪悪であったぞ!!
魂に響いた身の毛もよだつ宣言にアシュレーはようやく気付く。
焼かれているのは身体ではない。
破られたのは鎧ではない。
心だ。
ルカ・ブライトという邪悪が肉の壁も魔剣の護りも突破してアシュレー・ウィンチェスターの魂を喰らっているのだ。
人の形を失った邪悪が問う。
二度の生を最後まで思うがままに邪悪として生きた男が、自身の心の内に巣食う邪悪を抑え付けて生きてきた男に問う。
――貴様は、どうだ?
アシュレーは答えられない。
現在進行形で魔神が吸収しているルカの圧倒的な我に心を押しつぶされないようにするのだけで精一杯だった。
況やルカには幾つもの幾つもの負の怨念が纏わりついていた。
それは憎悪の獣がこれまでに殺してきた人間達のものだ。
この殺し合いでルカが殺してきた人数など可愛く思えるほどの、生涯を通して殺してきた人間達の嘆きだ。
一度の死などでは別たれないルカの魂に刻まれた怨嗟の声だッ!
「う、ぐ、あ、あ……」
ウィスタリアスが罅割れていく。
適格者なき魔剣単体ではロードブレイザーに加え、数千もの悪霊を封じ込む力は無かった。
魔剣が悪しき念に汚染されていく。
数百年前のシャルトスとキルスレスをなぞるかのように。
魔剣と仕手の魂が憎悪の波に壊されていく。
――アシュレーさん、気を確かにっ!?
679
:
正しき怒りを胸に
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:03:50 ID:4nGbyjws0
アティの思念体が両断される。
敗因は彼女の心の中にほんの少しだけあったアリーゼを殺したルカへの怒りという負の感情。
仇敵の魂が魔剣に混在したことで活性化してしまったその一念がロードブレイザーにつけいれられる隙となった。
魔剣が、砕ける。
果てしなき蒼が、遂に果てるッ!
――ハイランド皇王ルカ・ブライトが命じる。さあ、目を覚ませ、異なる獣の紋章よっ!!!!
「あ、がっああああああああああAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
炎が消える。
ルカ・ブライトが燃え尽きる。
焔が灯る。
ロードブレイザーが目を覚ます。
さあ、プロローグはここで終わりだ。
物語を始めよう。
邪悪を滅ぼした英雄が次なる邪悪となる。
そんなよくある物語を。
悲しみしか産まない物語を。
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ 死亡】
680
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:04:35 ID:4nGbyjws0
▽
暴走したスカイアーマーに投げ出されたちょこは一人砂漠をさ迷っていた。
砂漠の夜は一人で歩くには堪らなく寒かった。
『はーなーしーてー! ちょこも行くの! シャドウおじさんを助けにいくのー!』
『早まっては行けないトカ! 君みたいな若い子が命を粗末にしてはいけないッ!
ミミズだって、オケラだって生きているから超カッコいいんだトカ。
生きてるって信じられないくらい素晴らしい(ハートマーク)』
少し前までは一人じゃなかった。
騒がしい位によくしゃべる不思議生物が目を覚ましたちょこと一緒にいてくれた。
『わ、我輩は別にあんたのことなんか心配していないんだからねッ!』
なんだかんだ言いいつつもシャドウを助けようと自殺行為に走りがちなちょこを引き止めてくれた。
『おじさんは帰らなくちゃだめなの! 子どもが待ってるの!』
『帰りたいのは我輩も同じなのであるッ!
その夢さえかなえられれば、人畜無害にして無病息災、子守りだってお手の物ッ!!
ほ〜ら、いないいないばーッ!
む? いないいないしているうちにはて、ここはいったいどこなんでしょう?
両手で顔を覆っていては進路もわからねえし操縦もできねえじゃねえかッ!!」
トカも一緒だった。
シャドウと同じで帰るべき場所が、帰りたい世界があった。
『ゲーくんも今頃首を長くして待っているはず!
何言ってんだ、あんた、登場話で見捨てたのにですと?
それはそれ、これはこれ。メタなセリフ共々気にしちゃいけないトカ。
ちょろくせぇ説教かまされるくらいなら、出直してくるトカッ!』
待っていてくれる不思議生物その2もいた。
なのに。
シャドウは死んだ、トカも死んだ。
ルカ・ブライトに殺された。
帰る場所のない少女一人を置いて死んでしまった。
帰る場所になってくれたかもしれない少女の心を強くしてくれた人達も死んでしまっていた。
「父さま。どうしてちょこはいつもおいてかれちゃうの?」
トッシュと再会した時からちょこはずっと嫌な予感を抱いていた。
彼がいたのだから他にも知り合いがいるかもしれないと。
リーザの名前を誰かが呼んでいた記憶もあってちょこはずっと気が気じゃなかった。
そんな少女にトカは教えてくれた。
彼らしくない比較的常識的な説明で。
この殺し合いのルールや死者の名前を。
「エルクおにーさん……。リーザおねーさん……。シュウおじさん……」
681
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:06:03 ID:4nGbyjws0
ちょこは覚えている。
ぶっきらぼうなようでいて温かかった炎の少年を。
モンスターとも心を通わせられる心優しい少女を。
無口で、けれどいつも側にいてくれた黒尽くめの男を。
みんな、みんな、みんな、ちょこと手を繋いでくれた人達。
伸ばした手を掴んでくれた大好きだった、ううん、今でも大好きな人達。
大好きなのに、アークやククルのように二度と手を繋げられなくなってしまった。
「寂しいよぉ」
どうして。
どうしてみんないなくなっちゃったの?
どうしてみんな殺し合ってしまったの?
帰りたかったから?
悪い子になってでも大切な人の所に帰りたかったから?
もし……、もしもそうならちょこはどうすればいいの?
「むずかしいこと、わかんないよ。わかりたく、ないよ……」
少女は一人の暗殺者をおうちに帰してあげたかった。
父を待つ娘に、自分のような寂しい想いをして欲しくなかった。
だから、シャドウが帰れるためならちょこは悪い子にだってなってみせると頑張った。
頑張って、頑張って。
でもやっぱり少女は人を殺すことができなかった。
誰かが悲しむから。
大切な人を奪われた今の少女のように誰かが悲しむと思ったから。
トッシュがこの地にいるとなれば尚更だ。
ちょこには選べない。
一人とその誰かを待つ家族の為に他の誰か全員と彼らを待つ家族を泣かせてしまう道を選べない。
帰るべきたった一人なんて選べない。
「一緒がいい。みんながいい。みんな、みんな、おうちにただいまってできるのが一番じゃないの?」
答えてくれる人はもういない。
問いかけは夜闇に消え、とぼとぼと歩き続ける少女だけが残された。
▽
海が燃えていた。
火の海が広がっていたのではない。
文字通り、海が真紅に染まり燃え続けていた。
そもそもどうして海が目の前にあるのだろうか。
ゴゴは首を傾げる。
確かにゴゴと仲間達は海岸の近くで戦ってはいたがあくまでも海は遠方に見える程度だったはずだ。
手を伸ばせば触れられる位置に浜辺はなかったはずだ。
それがどうしたことか。
海はすぐそこまで押し寄せてきていた。
唸り、くねり、ゴゴを飲み込まんとしていた。
ゴゴは思わず一歩後ずさり、
682
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:06:35 ID:4nGbyjws0
「あ……」
ようやく、気付く。
真紅の海に奪われていた目を取り戻し、周囲を見回し、真相を理解する。
海が近づいてきていたのではなかった。
大地が焼失していたのだ。
ごっそりと。
綺麗さっぱりに。
溶けてなくなってしまっていたのだ。
ルカとの死力を尽くした戦いの末、アシュレーが墜落した地点を境として。
「そうだ、アシュレーは……?」
見事ルカを討ち果たした直後、力を使い果たしたのかアシュレーは墜落した。
かなりの高度からの落下だったはずだ。
無傷だとは思えない。
呆けている場合ではなかった。
早く、早く、アシュレーを見つけて治療しなければ!
不安と心配に駆られアシュレーの落下地点、炎の海の中心へと目を凝らす。
予想通り、そこに探し人はいた。
予想外の姿で炎の海の上に立っていた。
「アシュ、レー?」
ゴゴが困惑した声で名前を呼ぶ。
本当に目の前の人物はアシュレーなのだろうかと。
見た目からしてさっきまでの蒼炎のオーバーナイトブレイザーではなかった。
翼が生えていたのだ。
青白い全身とはてんでミスマッチな黒く巨大な翼が。
本来翼が生えうる背中からではなく、頭頂部から生えていることが余計に違和感を禁じえない。
変化があったのは外見だけではない。
仮面で覆われていようともナイトブレイザーの顔には常にアシュレーの感情が表出していた。
今は感じられない。
アシュレーの強さも、優しさも、温かさも。
その感想は間違いではなかった。
「ルウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
焔の朱に照らされて白銀の悪魔が咆哮する。
そこに込められている感情は一言では形容し尽くせなかった。
敵意、殺意、害意……ありとあらゆる攻撃的な衝動が交じり合っている。
ただ一つだけ確かな事はそれが敵に向ける声であるということ。
アシュレーは、アシュレーだったものは。
ゴゴを殺すべき敵だと認知しているッ!
「伏せろ、ゴゴ! そいつは、そいつはもうアシュレーじゃねええ!」
ゴゴより数瞬早く現実を受け入れたトッシュが未だつったったままのゴゴへと駆け寄り頭を押さえて無理やり伏せさす。
邪気で目が腐りそうだった。
蒼き光に護られていた時の面影は既にない。
一面の紅蓮。
オーバーナイトブレイザーからはそれ以外の色が感じられなかった。
そして禍々しいまでの紅蓮の気は徐々に漆黒を帯びながらも増大し、
「――ネガティブ、フレアッ!!!!!!」
解き放たれるッ!
赤い、朱い、紅蓮の焔が。
直線状の全てを薙ぎ払うッ!
683
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:07:39 ID:4nGbyjws0
否。
果たしてそれは焔と称せるものだっただろうか。
生易しい、あまりにも生易しすぎる。
焔などという言葉ではそれの脅威を現しきれない。
宇宙の法則すら軋ませるほどの膨大な負の念が凝り固められたネガティブフレアは最早質量さえ感じられた。
自然現象よりも物理現象、それも山レベルの大きさを誇る巨人が全力で殴ってきたと表す方がまだ想像しやすい。
だが違う。
島の南東部分をただの“試し撃ち”で吹き飛ばしたそれを正しく言い表す言葉は世界広といえど唯一つ。
――災厄
人は抗うこと叶わず、天も絶叫し、地も震撼させる彼の者の名は
&color(red){ 焔の災厄}
*&color(red){ロードブレイザー}
「……心地よい……。
全盛期からすればたかが二割ほどの力の行使がこうも気持ちいいものだとはなッ!
矮小な人間がちっぽけな兵器を作りたがる気持ちが少しだけ分かったよ」
ロードブレイザーは歓喜していた。
狂喜していたとも言っていい。
前回剣の聖女にやられた身体を修復するのにはアシュレーの内に身を潜めてから長い月日を要した。
それが此度はどうしたことか。
聖剣の邪魔が入らなかったとはいえ一日もかけずに本体である元ムア・ガルトの翼を完全に取り戻せようとは!
この調子なら本来の身体の実体化もそう遠くはないのかもしれない。
「クックックック。そういえばこの殺し合いで勝ち抜いたのなら何でも願いを叶えてもらえるのだったか?
ならばオディオに私が完全復活するまで今回同様の殺し合いを何度でも開かせるのも一興かッ!
あ奴なら悪い顔もしないだろう、フハハハハハハハハッ!」
「「く、勝手なこと、言ってんじゃねえ……」」
「ほう?」
ロードブレイザーは下界を見下ろす。
声がしてきたこと自体に驚きはしまい。
小ざかしくもトッシュ達がネガティブフレアを砂漠方面に逃げ込むことで避けたことくらい察知済みだ。
分からないことがあるとするならば一つ。
これだけの圧倒的な力を前にして人間はどうしてもうも足掻くのかということくらいだ。
「異世界といえども人間は変わらぬか。貴様らも私に抗い、未来を受け入れることを拒むというのか?」
「「拒むに決まってんだろが! こちとら暗黒の未来が嫌だから今まで戦ってきたんだ!
異世界だとかどうとか関係あるか!」」
「そうだな、失言であった。私がこうして蘇ったのもお前達人間が三千世界何処においても愚かしかったおかげだ」
「「勝手にきめつけんじゃねえ!」」
全く人間とはつくづく度し難い。
ロードブレイザーは翼を大きく羽ばたかせ、地に這う人間達を吹き飛ばす。
悪態をつきながらゴミのように転がるトッシュ達を心底侮蔑し、天に座したまま笑い飛ばす。
「そうかな? 人間のうちにこそもっとも強く、そして醜いエネルギーが渦巻いている……
お前達自身、自らの世界での戦いの中で見てきたのではないか?
それとも、異世界では邪悪なるものとは全て私のような人外だったとでも?
ハッハッハ、それはそれはめでたい世界もあったものだッ!」
684
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:08:20 ID:4nGbyjws0
ぐっとトッシュとゴゴの言葉が詰まる。
言い返せなかった。
トッシュが戦っているロマリア帝国もゴゴ達が戦ったガストラ帝国もどちらも人間の王が率いているものだった。
神を吸収したケフカや、聖櫃に封印されている暗黒の支配者すらももとをただせば人間だ。
何よりも、何よりもだ。
もう一人いるではないか。
人間より転じた魔なるものが。
悪たる人間が魔になったのではなく、元は善なれども人間の悪に絶望し魔となった存在がッ!
ロードブレイザーは優越感に浸って言い放つ。
この島において当事者を除いては未だ彼しか知り得ない真相の一端をッ!
「この殺し合いなど最たるものではないかッ!
開催したのも人間、殺したのも人間、我を蘇らせたのもまた人間ッ!
いい加減に気付け。お前達人間が焔の未来を望んでいるということにッ!」
「「開催したのも人間、だと!?」」
「それも勇者と呼ばれた程のなッ!」
ロードブレイザーもそのことに気付いた時は驚いたものだ。
オディオがロードブレイザーの再生の足しにと寄越した負の想念。
それは紛れもなくオディオが人間の時の記憶の断片だった。
残念ながら断片なため手に入れられた情報は少なかったが、その中でもいくつか強い想いの込められた言葉は読み取れた。
『勇者』『アリシア』『オルステッド』『魔王』。
どれもこれもがロードブレイザーには馴染みのない言葉だ。
かろうじてアシュレーを通して見た名簿にオルステッドの名前があったのを覚えていた程度。
『勇者』という言葉を使ったのも『英雄』みたいなものだろうと解釈してのことだ。
特別な意味なんてない。
「……今、なんつった?」
しかし誰かにとって何ともない言葉が他の誰かには特別なこともあるのだ。
天空の勇者しかり。
異形の蛙騎士しかり。
焔の剣客またしかり。
「オディオが勇者だった? はっ、笑えねえ冗談だ」
トッシュにとって勇者とは即ちアークのことだった。
全てを愛し慈しむ心と全てを守る力を兼ね備えた青年。
人間と人間の明日を誰よりも強く信じ続けている人間ッ!
それが勇者だった。
トッシュにとっての勇者だった。
だから否定する。
「そいつは信じ続けられなかったんだろ。魔王になっちまったんだろ。
なら、オディオは元から勇者なんかじゃなかったんだよ。
ただの弱っちい人間だ。道を間違えちまった人間だ……」
オディオが勇者だったことを否定する。
この剣に賭けて。
アーク達と過ごした日々に賭けてッ!
「随分と勝手な言い草だな、人間。
ストレイボウとやらにオディオの過去を聞いてもそう言い切れるのか?」
「言い切れるね。ついでにオディオにも教えてやるさ」
「人間の自らの過ちを正す勇気って奴をな!」
▽
685
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:08:52 ID:4nGbyjws0
「いいだろう、正せるものならまずは私を正してみよッ!
人間の過ちの集合体であるこの私をッ!」
トッシュの売り言葉に気分を害し、ロードブレイザーが飛翔する。
翼を広げ、万一にもトッシュ達の攻撃が届かない高度まで空をぐんぐんと昇っていく。
狙うは高高度からの爆撃といったところか。
あの火力ならちょっとやそっと距離をとったところで威力の減衰はしまい。
つまりは自分は安全な場所から一方的に嬲り殺せるということだ。
実に理に叶いつつも嫌らしい戦法だった。
或いは。
それは二度も敗北をきしたが故にロードブレイザーが心の底では人間を恐れていたからか。
だとしたらまだまだ甘い。
小細工をいくら弄しようとも世の中には力尽くでぶち破ってくる者もいるのだ。
「ゴゴっ、一発分でいい、俺をあいつのところまで運んでくれ!」
アークのことをよく知らず、途中から物真似のしようがなくなっていたゴゴへとトッシュはとんでもないことを言い出した。
普通はできるかどうかを先に聞くもんじゃないのかと問うてみれば、
「てめえならやってくれるだろ?」
と来たもんだ。
それに是と答える自分も自分かと思ったが、この男に信頼されるのは中々にいい気分なのでよしとした。
「ただ飛ばした後のことは保証しないぞ」
「そこまで面倒はかけねえさ」
「そうか。なら遠慮無く行かせてもらう!」
ゴゴがトッシュの右足首を掴む。
シャドウがちょこにそうしたように、ゴゴもまたトッシュを投げる気なのだ。
何のために?
飛ばすためだ、トッシュをロードブレイザーのもとへ送り届けるためだ。
少々荒っぽいが、これ以上の方法は思いつかなかった。
何故ならこれはゴゴなりの縁担ぎ。
シャドウは見事投擲にてちょこを救った。
それを真似すれば魔神に身体を支配されているアシュレーも助けられるかもしれない。
そんな想いを物真似に込めてゴゴはトッシュから受け取ったジャンプシューズで大きく跳躍。
「これ以上高度を上げられると届かない。
ぶっつけ本番だがいくぞ」
「おうッ!」
そのまま空中にてトッシュを打ち上げる。
もちろんこんな馬鹿な目論見、トッシュとゴゴより高い位置にいるロードブレイザーが気付かぬはずがない。
夜闇がどれだけ濃くとも魔神の目を阻害するには至らない。
「馬鹿めッ!」
回避しようがない空中へとわざわざ翼を持たぬ身でしゃしゃり出てきた獲物に魔神は炎弾の洗礼を浴びさせる。
ガンブレイズの弾幕はトッシュへと殺到。
全弾命中し、見事トッシュを
686
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:09:24 ID:4nGbyjws0
「――鬼心法……」
撃墜できないッ!
魔導アーマーやルカとの戦いに続き、精霊の加護が焔のダメージを軽減したのだ。
「ムア・ガルドのミーディアムか!?」
悪手を打ってしまったことを自覚し、焔による攻撃を止め双剣で迎え撃つロードブレイザー。
虚は突かれはしたが依然、空中における優位は魔神が保っている。
慌てることはない。
「エルク、力を貸しやがれ――炎の光よ。道を、照らせ!」
その優位は一瞬にして砕け散る。
ホルンの魔女直伝、エルク譲りの補助魔法による加速がロードブレイザーの思惑を外し、双剣を空振らせる。
懐にまんまと入り込んだトッシュはここぞとばかりに魔剣を翻す。
狙いは一つ、オーバーナイトブレイザーの頭頂部に生えた黒翼のみッ!
「竜牙剣ッ!」
刃が右翼を斬り裂く。
堅牢を誇るナイトブレイザーの装甲を足場もなく力も入らない空中抜刀で切り裂けたのは竜牙剣の特性によるものだった。
因果応報天罰覿面。
自他の状態に左右されずそっくりそのまま受けたダメージをそっくりそのまま相手にも押し付けるッ!
「くっ、うおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
矛盾の言葉そのままに自身が放った炎弾数発分の威力に翼を討たれ、ロードブレイザーが堕ちていく。
トッシュの目論見とは違い完全には翼を切り離すことはできなかったがあのダメージではしばらくは飛べまい。
地上戦ならまだ相手のしようがある。
何よりも空を飛ばれていてはどれだけ張り上げても声を届けようがないではないか。
「アシュレーッ!」
ロードブレイザーに剣を突き刺し喰らいついたままトッシュが言葉を紡ぐ。
トッシュを振り払おうとしたロードブレイザーの動きを突き刺したままの剣に気を流すことで抑える。
呪縛剣の派生型だ。
ロードブレイザーといえど完全体ではない身に直接体内に気を流されるのは堪えたのか、僅かに動きを鈍らせる。
「約束、果たしにきたぜ!
これはてめえの剣だろ、返してやるから受け取りな!」
ロードブレイザーが再動する。
その度にトッシュは気を流しこみ続けた。
魔神の動きを止めるほどの膨大な気の放出がそう長く続くはずもない。
体内の気が枯れ果て、今度こそ魔神は自由を取り戻す。
「アシュレー、その力は護るための力じゃなかったのかよっ!」
幸いだったのは既に砂漠の大地がすれすれまでに迫っていたことか。
ナイトフェンサーがトッシュを捉える寸前で、トッシュは身を投げ出し砂漠をクッションに着地する。
ゴゴとは随分離れてしまったが仕方がない。
トッシュは一人でロードブレイザーを抑えこみ続ける覚悟を決める。
「人間がああああッ!!」
687
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/09(金) 05:10:03 ID:4nGbyjws0
ロードブレイザーがナイトフェンサーを手に斬りかかってくる。
ロードブレイザーは強い。
力も、速度も、耐久力も。
ありとあらゆる面でトッシュを上回っている。
だが剣士としては下の下だ。
これまで圧倒的な破壊力にかまけて他者を葬ってきた魔神は技を磨く必要がなかった。
剣を使ったことさえなかった。
トッシュにとっては唯一の突破口だ。
「てめえといいオヤジといい何こんな奴にいいようにされてんだっ!」
舌を奮う、剣を振るう。
速さで勝るはずのロードブレイザーより尚速く剣を相手に届かせる。
ロードブレイザーの剣筋は恐ろしいほどに読みやすい。
生きる殺気ともいえる魔神は一挙一動ごとに殺気を先行させてしまうのだ。
次に脚で踏もうとする地面に、次に手を届かせようとする位置に、次に剣で薙ぎ払おうとする空間に。
トッシュはそこに先んじて割り込む。
ロードブレイザーの動きの起点を悉く潰していく。
「ぬうっ!」
左三間。
低背状態へ移行しての切り抜け。
――読めている
上方に抜けての肩口狙い。
反転後、首元を狙った二の太刀での剣撃。
――読めている
重心の片寄りからして踏み込んでからの右横凪。
――刀破斬
ルシエドがナイトフェンサーを叩き割る。
ロードブレイザーのがら空きの胴が晒された。
千載一遇のチャンス。
今なら斬れる。
聖櫃に封じられた邪悪にも匹敵する焔の災厄を。
斬れば死ぬ。
概念的存在とはいえ受肉している今なら斬って殺せるとアシュレーは言っていた。
「待て、私を殺せばアシュレーも死ぬぞッ!」
それは即ちアシュレー・ウィンチェスターを殺すということ。
「んなことするわけねえだろが。言っただろ、約束を果たしに来たと!」
688
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:10:55 ID:4nGbyjws0
アシュレーはまだ生きている。
まだ救える。
モンジとは違う。
ちょこの泣きそうな声が蘇る。
ちょこはシャドウを父と呼び家に帰らせたがっていた。
アシュレーが双子の父だと知ったなら、同じように帰らせようとしただろう。
ここでアシュレーを断てば魔神による悲しみから多くの人が救われる。
しかしそれは全てを救う道には繋がらない。
アシュレーを待つ妻や子に、ちょこが味わった寂しさを、自分が味わった怒りを押し付けてしまうことになる。
死んでも御免だ。
トッシュは振りぬく。
剣を握り締めたままの拳を。
アシュレーを覆う呪われた仮面を砕く為にッ!
「目ぇ、覚ましやがれってんだ!」
拳が炸裂する。
口下手なトッシュが言葉だけで届かないのなら衝撃ごと伝えやがれと全ての力と想いを込めて放った一打は。
されどトッシュに手応えを返すことはなかった。
「アシュレーへの遺言は終わったか?」
飛ぶことを封じられていたはずの魔神は悠然と羽ばたき、激突寸前だった拳を回避。
気がつけば竜牙剣が付けたはずの傷は跡形もなく塞がっていた。
負の念が渦巻く島の中においてロードブレイザーが自らの傷を癒すことなど一瞬で済むのだ。
それをこれまでしなかったのは魔神が体慣らしに戯れていただけに過ぎない。
ロードブレイザーの胸部装甲が展開される。
トッシュは咄嗟に斜線軸上から身を逸らそうとするも、遅い。
光速を誇る荷電粒子砲の前には余りにも遅すぎる。
「バニシングバスターッッッ!!」
三度、極光が夜天を吹き飛ばす。
夜が闇を取り戻した時、破滅の光が突き進んだ道には崩れ去った山脈と一人の男の身体が転がっていた。
▽
689
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:11:27 ID:4nGbyjws0
ロードブレイザーは呆れ果てていた。
何とも人間はしぶといものだと。
バニシングバスターが直撃していたのなら北にそびえていた山脈のように塵一つ残さず消滅していたはずだ。
それが人間としての原型を留めているということは大方ルシエドの力でバニシングバスターを逸らそうとしたのだろう。
全く、無駄な努力をするものだ。
なるほど、即死こそ免れはした。
が、代償として腹部はその殆どを失っていた。
上半身と下半身が繋がっているのが奇跡なくらいだ。
放っておいてもまず助かるまい。
魔神は念のために止めをさしておこうと大地に降り立つ。
アシュレーの肉体での彼の仲間を殺せたことは大きな収穫だった。
これでアシュレーは新たな罪を背負った。
罪悪感もまたロードブレイザーの力となる負の感情だ。
万一レベルだった身体のコントロールを取り戻される可能性は億が一レベルへと激減した。
倒れ伏したトッシュへと近づいて行けば行くほどロードブレイザーは上機嫌になっていた。
だからだろう。
ようやく追いついき状況を把握し、トッシュを護らんとして立ち塞がったゴゴにロードブレイザーが取引を持ちかけたのは。
「私は今気分がいい。お前には私が世界を焼き尽くす物真似をする栄誉を与えよう。
承諾するのならお前だけは生かしておいてやる。悪い話ではなかろう?」
オディオじきじきに呼ばれたとはいえロードブレイザーは厳密には参加者ではない。
一人勝ち残ったところで優勝者としては扱われないかもしれない。
だったら一人くらい正規の参加者を残しておいてやるのも悪くはない。
自身が殺そうが、他人が殺そうが、誰かの死はロードブレイザーの力となるのだから。
「……アシュレーは、アシュレー・ウィンチェスターは」
他人を切り捨てれば自分だけは生き残れる。
そのことに無様に心かき乱されることを期待していたロードブレイザーの耳をゴゴの静かな声がうつ。
予想外なことだったが、その声に含まれていた感情は困惑でも自己愛でもなく
「俺には真似しきれない人間だろう」
苦渋と羨望だった。
それもロードブレイザーの力となる感情の内の二つだ。
魔神は特に気分を害することなく先を促す。
「俺には帰りを待っていてくれる人がいない。
大切な人のもとに帰るという物真似もできなければ、傍らにい続けるという物真似も護るという物真似もできない。
どころかその感情を心の基盤にしているアシュレーの物真似のことごとくが不完全なものとなってしまう」
ぎりりと歯を食いしばる音がした。
災厄にとっては心地よい人が自らの限界に屈する音だ。
ここぞとばかりに魔神は囁きかける。
「くくく……。ならばやはり私の真似をすべきだ。
アシュレーを救う理由などお前にはなかろう?
むしろ好都合ではないか。 アシュレーが我に飲まれこの世からいなくなってしまえばお前が苦しむこともなくなるのだか「だが」!?」
690
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:12:10 ID:4nGbyjws0
有無を言わせずゴゴが割り込む。
己が命を握っている魔神に対し臆しもせず自分の矜持を叩きつける。
ロードブレイザーはいつの間にか会話の主導権を奪われていた。
「だからこそアシュレーの物真似は面白い。
俺という個人のままでは持ちえぬものを持っているからこそあいつの物真似は面白い。お前と違ってな」
「なんだ、何を言っている」
「分かりやすく言ってやろうか」
覆面で顔が見えていないはずなのにロードブレイザーにはゴゴが浮かべているであろう表情がありありと伝わってきていた。
笑っている。
こいつは焔の厄災を前にしてあろうことか笑顔を浮かべていた。
それも親愛の情が籠ったものでも、作り笑顔でもなく、
「ロードブレイザー、お前はつまらない。
世界の破滅だと? そんなことを考える奴はケフカで既に足りている」
ニヤリと唇を釣り上げて物真似師はロードブレイザーを嘲笑っているッ!
「我が提案を受け入れぬと。生き延びれる唯一のチャンスを逃がすというのかッ!?」
「くどいッ! 俺が誰の物真似をするかは俺自身が決めるッ!」
未だかってこのような人物がいただろうか?
ロードブレイザーを恐れるでもなく、否定するでもなく、見下し、哀れむ人物が。
身の程知らずにも程がある。
ロードブレイザーは悔いた。
気まぐれとはいえこのような下等生物に生き残る機会を与えようとした己を恥じた。
「ほざいたな、矮小な生命風情がッ! ならば貴様の言うつまらない存在の手で無様に死ねえいッ!」
両翼より生じさせた焔の中に愚かしい物真似師が消える。
最初からこうしていればよかったのだ。
ロードブレイザーは八つ当たり気味に焔をもう二発撃ち込む。
ただでさえ大きかった火の勢いは増し、森や教会も熔解させていく。
ここまでやればトッシュのように火に強くとも死んでいるだろう。
そう高を括っていたロードブレイザーの耳に、
「幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード」
自身が真似したい人物を自らの手で選び取った物真似師の声が響いた。
▽
691
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:12:44 ID:4nGbyjws0
▽
「ラフティーナだとッ!? いや、違うッ! だが、だがこれはッ!
こいつから感じる忌々しい光は、あの愛のガーディアンロードそのものではないかッ!」
女神と間違われるのも無理はない。
ゴゴを護り、魔神の焔を跳ね返したのはそれはそれ美しい女性だった。
宝石のように輝く髪と肌という喩えが、喩えではなくそのまま事実として当てはまる女性だった。
衣服を一切纏っていないのも頷ける。
彼女の桜色のオーロラとでも評すべき髪や肌の美しさはありとあらゆる衣服や装飾品に勝っているのだから。
彼女は力強き者でもあった。
女性の両手に光が生じる。
とある道化師も使った究極魔法。
それを女性は一度に二つも詠唱していた。
最後に彼女は人間ではなかった。
幻獣でもなかった。
人間と幻獣とのハーフだった。
名をティナ・ブランフォードという。
「ティナ、また会えたな」
喜色を隠さずにゴゴがティナへと話しかける。
返事はない。
分かっていたことだ。
幻獣が魔石として残すのは力だけなのだ。
今ここにいるティナも、ティナが蘇ったわけではないことくらい百も承知だ。
だから十分だ。
言葉もなく、顔も向けず、だけど頷いてくれただけで十分だ。
ゴゴは物真似を開始する。
ティナの物真似を。
人と幻獣の狭間で揺れ、愛することを知った少女の真似を。
「アシュレー、忘れないで。愛するということを。あなたを待っている人達を」
もう二度とすることはないと思っていた声真似ができることをゴゴはトッシュに感謝しつつ、アシュレーに語りかける。
「マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく」
アシュレーの子どもたちも誰かと恋し、誰かを愛するのだろう。
そうして人間は子どもを産み、後へ後へと託していく。
親から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へ。
アシュレーの護りたかった世界、日常はこうして続いていく。
アシュレーだけのファルガイアはどんどんどんどん広がっていく。
ああ、そうか。
それは確かに護りたくなるほどに素晴らしいことだ。
ゴゴは一歩、アシュレー・ウィンチェスターという人間とティナ・ブランフォードという人間への理解を深めた。
物真似師としての最奥へと一歩、近づいた。
692
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:13:32 ID:4nGbyjws0
「だから、戻ってきて! 魔神に打ち勝って!
今ある命だけじゃなく、これから生まれてくる命もたくさんある。それを守るためにも!
あなたは、あなたの家に帰ってあげて!」
その願いを叶えることができなかったティナの分までも。
マッシュやエドガーやシャドウ、ナナミやリオウにビッキー、ルッカにトカの分までも。
誰かが帰ってこないことの寂しさを知ったゴゴは目をつむり一度祈る。
次に目を開けた時にはゴゴの左右の手にもアルテマの光が宿っていた。
連続魔とアルテマと物真似による法外火力なアルテマ四連。
現段階でゴゴのできる最高の物真似の一つ。
「く、黙れ、黙れえッ!! バーミリオン、ディザスタァァァアアアアアッ!!」
「『アルテマッ!!』」
ロードブレイザーの最大火力とアルテマの光がぶつかる中、ティナの声が聞こえたのは。
きっと気のせいなんかじゃない。
▽
いつからだろうか?
とぼとぼと一人砂漠を歩いていたちょこの耳にその歌が聞こえてきだしたのは。
静かで、途切れ途切れではあるけれど。
優しい、優しい歌だった。
幼子をあやし、幸せな夢を見せてくれる歌だった。
子守唄だ。
「ちょこ、知ってるの。ちょこが怖がったり寂しがったりして眠れない時に父さまも歌ってくれた……」
けれどどこか違う気がした。
歌詞が知らないものだとか、声が知らない人だとか、そんなんじゃないどこかが。
ちょこの知っている子守唄とは違っていた。
「なんでだろ。この人の子守唄もとってもとっても安心できるの。
父さまが歌ってくれたのといっしょのはずなの。気になるの」
ちょこは歌を追いかけ始めた。
淋しげだった歩調は常の少女の元気なものへと戻っていた。
まるでそのことを喜ぶかのように。
子守唄は少しずつ、少しずつ、よりはっきりと聞こえるようになっていた。
その度にちょこの中で確信が生まれていく。
やっぱり父さまの歌とは違うと。
でも、父さまの歌とは違うけどこれはきっと子どものための歌なんだと。
ちょこは走った。
走り続けた。
不意に、歌に混じって別の誰かの声が聞こえた。
――幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード
693
:
我ら魔を断つ剣をとる
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:14:04 ID:4nGbyjws0
「ティナおねーさん?」
それが歌を歌っているおねーさんの名前なのかな。
ちょこはなんとはなしに思った。
なんとはなしに思って、けれどどこか引っかかるところを感じた。
「ティナおねーさん、ティナおねーさん、ティナおねーさん?」
おかしいなと何度も何度も呟けど違和感は消えてなくならない。
しっくり来ないものを抱えて、ちょこはもやもやとしたまま戦場へと辿り着いた。
辿り着いて、その人を見て、これまでに生じていた疑問が一気に氷解した。
「おかー、さん……?」
自身の口から零れた言葉にちょこは驚く。
彼女は母親を知らない。
物心ついた時からずっと父親とだけ繰り返す時間の中で過ごしてきていた。
少女と表裏一体であるアクラだってそうだ。
ただ父だけを求めて生きていた。
ちょこという少女の世界に母親は完膚なきまでに存在していなかったのだ。
なのに。
「ティナおかーさん、ティナおかーさん、ティナおかーさん」
少女はティナのことをそう呼ぶ。
ティナがおかーさんなのだと確信して呼ぶ。
今まで使えなかった分を取り戻すかのように、嬉しそうにおかーさんと呼びつづける。
別にどこもおかしなことはない。
ちょこは子どもなのだから。
子どもがおかーさんのことを分からないわけがないのだ!
『マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく』
そして少女はおかーさんの声にもう一つ知る。
おかーさんが訴えかけている相手がおとーさんであることを。
シャドウと同じで子どもが待っているということを。
「ねえ、アクラ。アクラも知ってるよね。
父さまのいない寂しさは。父さまのいてくれる温かさは」
ちょこはもう一人の自分に思いのままを伝える。
「ちょこは母さまを知らないけれど、きっと母さまがいたら二倍寂しがったり、二倍温かかったりしたと思うな」
だからね。
少女は続ける。
「やっぱりみんなおうちに帰れるのが一番なの! アクラも分かるよね。力を合わせてくれるよね」
分かりきった問いかけだった。
ちょこもアクラも元は同じ一人の少女で、誰よりも家族を愛していたのだから。
羽が舞う。
翼が広がる。
四つのアルテマの光芒へと一つの優しい闇が力を与える。
「闇に、還れ……」
▽
694
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:14:54 ID:4nGbyjws0
▽
破壊の力のはずだ。
押し寄せてくる5つの魔法はどれもロードブレイザーの力となる破壊の力のはずだ。
それならば。
それならば何故ッ!
究極の光は還元の闇もこうも愛に溢れているのだッ!?
負の念を力とするロードブレイザーには猛毒にしかなりえない正の念。
バーミリオンディザスターと拮抗するその眩い光にロードブレイザーは恐怖した。
魔神を脅かしたのは外からの魔法だけではない。
装備したままだった魔石がどうしてか急に光ったかと思うと、内的宇宙のウィスタリアスまで輝きだしたのだ。
まずい。
ロードブレイザーはことこにきて自身が追い詰められていることを悟った。
屈辱を呑み込み、魔神は逃亡を選択。
魔法と焔がぶつかっているのとは逆の方向へと翼を広げ、
その先に
――剣者がいた
▽
695
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:15:24 ID:4nGbyjws0
夢とも現とも思える世界。
意識と無意識の狭間。
生と死との境界に。
男は一人存在していた。
白い闇に包まれて。
ここがどこか、自分が誰かも分からぬままに彼は立っていた。
胴の左半分を吹き飛ばされ、腸を臓物を黒く墨色に染めながらも。
ただ一つのことを成さんが為に地に膝を着くことを拒んでいた。
そこまでして男は何を願う?
彼の者の命を留め続ける未練とはいかなるものか?
護ることか?
違う。
救うことか?
違う。
それは確かに男が心底望むことではある。
生死の理を曲げて尚叶えるに値する想いではある。
だが無理だ。
無理なのだ。
男には誰かを護ることなど不可能、救うことなど不可能。
男にできることは今も昔も一つだけなのだ。
一つ。
ただ一つ。
それは何だ?
護ることか?
否。
救うことか?
否。
決まっている。
斬ることだ。
誰かを斬る以外男にできることなどなかったのだ。
だったらその行為に全てを託せ。
トッシュという人間の想いを、力を、命を賭けろ。
斬ることで護れ。
斬ることで救え。
斬ることで道を拓け。
して、その為に何を斬る?
して、その為に誰を斬る?
オヤジだ。
オヤジを斬らねばならない。
何よりも。
勇者に殺されてしまったのならオヤジは単なる悪として扱われる。
正しい戦いにより討たれた世界の敵として記憶される。
それは、駄目だ。
それだけは、許せない。
モンジは優しい男だった。
邪悪なんかではない、強く誇り高いトッシュの父だった。
モンジを世界の敵にしたくないのなら、本当のモンジを知るトッシュが。
他の誰でもないトッシュ・ヴァイア・モンジが斬らねばならないのだ。
696
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:16:49 ID:4nGbyjws0
白い闇のみが広がっていたはずの世界に二刀を手にした剣鬼の姿が滲み出る。
そうだ、そうだった。
どうして忘れていた?
トッシュは嗤う。こんな大事なことを忘れていた自分を嗤う。
戦っていたのではないか、冥府魔道に落ちたオヤジと。
モンジが動く。
両の剣を突き出して。
モンジが駆ける。
押さえつけられていたダムが決壊するかのように、怒涛の速度をもって。
土を穿ち、その間合いを一間で詰める。
対するトッシュは不動。
不思議な感覚だった。
護りたかった人に剣を向けているというのに迷いも戸惑いもなかった。
救いたい家族を殺さねばならぬというのに悲しみも辛さもなかった。
仇たる敵と相対しているというのに怒りも憎しみもなかった。
静かだった。
ただモンジとモンジの剣だけが世界の全てだった。
――斬る
一足一刀の間合いに入り対の刃が振り抜かれる。
神速を超えた魔速、人ならぬ身になって得た人外の秘剣が十字を描きトッシュを四散させんとす。
刹那、遂にトッシュが動く。
後足が弾け、大地を蹴り押し、強引に身体ごと必殺の一太刀を前方へと押し込む。
パレンシアタワーでの一騎打ちにて終ぞ掴めなかった好機。
攻防一体の二刀流、その両の剣が防御を捨て攻撃に回され、トッシュの剣が魔を絶てる唯一のチャンスを逃してなるものか!
――斬る
爆ぜた雷の如き一刀が解き放たれる。
天空に舞う桜の花すら両断する速く鋭い一閃。
敵の先の機を奪いし刃は二刀を追い抜き空に煌く。
されど約束されたはずの勝利は不条理に阻まれる。
トッシュの敵は人ならぬ魔。
人界の摂理も常識も振り払い、全力で振り下ろされたはずの刀が人を超えた膂力により引き戻され一息で盾へと転ずる。
ここに勝負は決する。
トッシュの渾身の桜花爆雷斬は身体能力で勝る魔人の両剣の盾を貫くことは叶うまい。
二刀で受け止められ、うち一刀で跳ね除けられが関の山だろう。
魔人が見せた魔技を再現できるはずもない人の身ではルシエドを戻すよりも先に残る一刀にて斬り伏せられ終る。
努力は絶対の前に灰燼と帰し、人は魔の前に膝を着く。
打ち合うのであれば。
正面から打ち合うのであれば。
――――
魔剣ルシエドが“ほどける”。
実体が霞み陽炎のように揺らめく。
いかな達人といえど形無き剣を受け止めることは叶わず護りの剣は空しく空を切る。
心を無にし、その刃さえも無と帰した剣客の剣が双璧を超え懐に入り込む。
無念無想。明鏡止水。風光霽月。
怒りも憎しみもなくただ一念でのみ動いていたトッシュは遂に剣聖の域へと脚をかけた。
一徹の心。
無我ではなくその対極であったが、雑念を全て排除した点においては無我にも等しい心境――そこから出ずる一剣。
何も考えず、己を無とし。
己を無とし、世界と合一。
さすれば敵に心を読まれることはなく、己だけが敵の全てを掌握する。
697
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:17:29 ID:4nGbyjws0
――見える
過った前回とは違い気の収束点を明確に捉えられている。
モンジが託してくれた剣の最奥は、仲間達がそうしてくれていたようにトッシュが切るべき敵をしかと示していた。
ならばこれより先はトッシュの仕事だ。
擬似的な無我を破棄し魂を再燃させる。
――斬る
刀身が蘇る。
“斬る”という想念を刃としルシエドが再び猛る。
ガーディアンブレードは想いを喰らい力に変える武器だ。
無我にて振るえば刃を保てなくなるのも道理なれば、炎の如く燃え盛る一念で振るえば万物を断つのもまた道理ッ!
「あばよ!!」
トッシュは斬った。
モンジを――魔を――ロードブレイザーを一刀のもとに断ち切った。
受け継がれし秘剣紋次斬りにて。
悲劇の物語はここに書き換えられるッ!
▽
焔の災厄、ロードブレイザー。
彼の魔神を災厄たらしめている一因はその不死性にあった。
概念的な肉体は物理的攻撃を一切受け付けず。
魔法の域に達した超科学ですら肌の皮一枚を傷付けるの関の山。
そもそも負の意志が存在する限り無限の再生力を誇る彼にはいかな致命傷も致命傷足り得ない。
ロードブレイザーを倒さんと放たれる一撃一撃は、込められた怒りや恐怖、殺意や破壊の意思により彼を満たすだけに終るのだ。
故に無敵。
故に不滅。
剣の聖女がロードブレイザーを討滅ではなく封印で留めざる得なかったものこの不死性のせいだった。
数百年の時を経てロードブレイザーは遂に後のない死をもたらされかけることとなったがあれは例外中の例外だ。
ロードブレイザーの力の根源たる負の念。
それらを相殺しきるだけの世界中の人々の一丸となった希望の念が相手だったからこそロードブレイザーは真の意味で敗れたのだ。
こんなことはあってはならない。
698
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:18:48 ID:4nGbyjws0
「馬鹿な……」
ロードブレイザーが。
星一つの全生命と釣り合うだけの力を秘めたデミガーディアンが。
たかが一人の人間に敗れることなど!
「ぐっがァァァアアアアアッ!」
ロードブレイザーの身体が霧散していく。
よりしろであるアシュレーの血肉を失った今、オーバーナイトブレイザーの姿を維持するだけの力がロードブレイザーにはなかった。
天をも焼かんとしていた黄金の炎は輝きを失い黒くどす黒くくすぶり続けるのみ。
強固を誇った装甲は罅割れ醜い中身を露呈させていた。
必死に残る力を掻き集め凝縮することで作り上げた紫色の筋肉を剥き出した白いボディを。
オーバープロトブレイザーとでも言うべきおぞましい姿を。
「認めん、認めんぞッ! ガーディアンブレードを手にしていたとはいえたかだか人間一人にこの私がッ!」
正確に言えばロードブレイザー自身が敗れたわけではない。
追い詰められはせども致命傷を与えたのはロードブレイザーの方だ。
だが、だがしかし、トッシュが切り拓いた道はロードブレイザーにとっては終焉へと導かれうるものだった。
「それは違うぞッ、ロードブレイザーッ!」
奴が、来る。
先刻までロードブレイザーの生命線だった寄り代が。
かってロードブレイザーに絶望を与えた人間の代表格が。
剣の英雄がやってくるッ!
「僕たちは、どんな時でも独りじゃないッ!!」
ロードブレイザーはアシュレー・ウィンチェスターの身体を失った。
けれどもそれはアシュレーの身体が破壊されたからではなかった。
破壊されたのはアシュレーとロードブレイザーを繋いでいた根ともパイプとも言える負の気の流れ。
トッシュはアクセスにより表出化した収束点を断ち切ることで魔神と人間の分離を成し遂げたのだ。
結果ロードブレイザーは未だ不完全な形で現世へと逃れなければならなくなり、
「アシュレー、ウィンチェスター……。その姿、その姿はッ!」
アシュレーは魔神から開放され万全の力を発揮できることとなる。
これまでロードブレイザーを押さえることに割いていた魔剣の力を。
果てしなき蒼の力をッ!
「アティが最後に残してくれたこの力で」
白と蒼に彩られた長衣をはためかせ。
蒼き魔剣を手にした人間が砂漠を歩む。
「トッシュが、ゴゴが、ちょこが、ティナが呼び覚ましてくれたこの心で」
その姿は魔神が恐れし英雄に似てはいれども。
風に流れる髪の色は白く。
背には蒼き光輪が輝いていた。
「ロードブレイザー、お前を討つッ!」
蒼き剣の英雄《セイバー》アシュレー、
ここに抜剣せり!
699
:
汝、無垢なる刃、デモンベイン
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:21:05 ID:4nGbyjws0
【F-3 砂漠 一日目 真夜中】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康(抜剣により回復)、クラス:蒼き剣の英雄(サモナイ3でいう蒼き剣の勇者)
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、バヨネット
焼け焦げたリルカの首輪、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:ロードブレイザーを今度こそ倒す
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、シャドウ、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※蒼き剣の英雄アシュレーは剣の英雄アシュレーの髪の毛を白く刺々しくして背に蒼い光輪を背負った姿です。
あくまでも姿が剣の英雄に似ているだけで武器の都合上使用可能スキルは蒼き剣の勇者のもののみです。
(暴走召喚・ユニット召喚・威圧・絶対攻撃)
またあくまでもアティが残した力による覚醒なので効果が切れるともう二度と覚醒不可能です。
変身がどの程度もつかなど思うところはお任せします。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)
【ロードブレイザー@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、オーバープロトブレイザー
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し
1:アシュレーを殺す
2:殺し合いの場に破滅をばら撒き負の念を吸収して完全復活を果たす
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーとして復活しきるには力も足りず時期も早すぎたため現状本来の力を出し切れていません。
無論島に負の念が満ちれば満ちるほど力を取り戻していきます(強化&回復)。
オーバープロトブレイザーは黒炎を纏ったプロトブレイザーっぽい姿です。
元がロードブレイザーなのでナイトブレイザー、オーバーナイトブレイザー(魔剣ルシエド除く)、
ロードブレイザーの技を使用できる可能性がありますがお任せします。
700
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:21:45 ID:4nGbyjws0
夜の砂漠に背を預けトッシュはただただ空を眺めていた。
冷たい月は、冴え冴えとしており、光に照らされる砂漠も昼間とはうって変わって冷え込んでいる。
やや強い砂交じりの風が頬を打ちなけなしの体温を奪っていく。
放っておいても出血多量で死ぬのにご苦労なこった。
笑いながらも耳を澄ます。
涼やかな空気の中をさやさやと何かが舞う音がする。
天を地を砂が海のように川のように流れているのだ。
川の流れは無数の波飛沫を煌かせながら、そ知らぬ顔でトッシュの傍らを過ぎ去っていく。
のろのろと手を伸ばしてみるも捕らえられるはずもなく砂は掌から零れ逝く。
月光と同じだ。
いかに風雅だと思いを寄せようともトッシュに掴めるものではなかった。
ふと見渡す限りの砂の絨毯を仄かに照らす光に陰りが生じる。
もはやろくに見えない目を凝らす。
視界は相変わらず霞がかったままだったが、ものにしたばかりの心眼が何とかその姿を捉えた。
月影に輪郭を描かれて、気の流れが人の形をなし幽かに浮かび上がってくる。
「よう、ゴゴ」
「……よう、トッシュ」
月を背負い見下ろしてくる影に手を伸ばす。
今度は掴めた。
傷に響かぬよう緩やかに引っ張り上げてくるゴゴの力を借りトッシュは半身を起こし胡坐をかく。
ゴゴが気絶したちょこを背負っているのが目に入り、もう一人の行方を尋ねる。
「アシュレーは、どうなった?」
「勝つ」
たった一言の短い返答。
それだけで十分だった。
「そうか」
「ああ」
いつまでも月を奪っていることに気が退けたのだろう。
ゴゴはトッシュの隣に腰を下ろし、膝を枕としちょこも地に寝かせ休ませる。
「何かして欲しいことはあるか?」
戦場で何度も耳にし、時には口にしたその言葉。
人間が使う最も重い定型句の意味をトッシュが誤解するはずがなかった。
トッシュは死ぬ。
もう間もなく。もしかしたら今すぐにでも。
「そうだなあ」
701
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:22:46 ID:4nGbyjws0
ちょこを頼むとはいう言葉を口にすることなく飲み込む。
ティナという人物の物真似だろうか。
友から託された少女の髪を優しげにすくうゴゴを見てわざわざ頼む必要がないと思った。
個人的な願いを優先することにする。
「酒。酒が飲みてえなあ」
「分かった」
とぽとぽと酒が注がれる音が聞こえる。
いい音だなと耳を澄ませる。
とぷりと、音が途切れた。
「あんがとよ」
ぎこちない動きで酒を受け取る。
月明かりを照り返す酒の水鏡は神秘的で、きらきらと輝いていた。
雅なもんだ。
骨を埋めたかったあの場所で飲むことは叶わなかったが月と砂漠を肴に酒を飲むのも悪くはねえ。
一気に飲み干すつもりで杯を口元まで持っていく。
風に温み豊かになった薫りが優しく鼻腔をくすぐる。
城に置いてあっただけあって申し分ない時代物のようだ。
ますます気をよくして念願の一口。
酒を口に含もうとして――そこで、止まった、止められた。
止まらざるを得なかった。
「待て。礼を言われるのはここからだ」
瞬間、世界が一変した。
寒色の空を優しい月明かりが包み込んでいく中、舞い散るは薄紅色の吹雪。
吹雪というには温かく、風雅で、見るものを捕らえて離さない、そんな美しさがあるそれは――花吹雪。
雪のように空を閉ざすことなく、故に月明かりを浴びることを許された桜の美しさは儚く気高いものだった。
「こいつあ……」
トッシュが知るどの景色よりも幻想的な光景に心を奪われる。
思わず感嘆の声を上げる合間にも、心地よい夜風に乗って桜の花びらが舞い降りる。
静かに、ふわりふわりと。
舞う花弁が数枚杯に落ちて、透き通る酒が波打った。
トッシュは我を取り戻す。
「どうなってんだ?」
砂漠のど真ん中にいきなり満開の桜の樹が現れたのだ。
驚かない方が無理がある。
不思議なことはもう一つ。
そもそもトッシュの目は一足先にあの世に踏み込んでいる。
最早色を区別などできようもないのにどうしてこうも鮮やかに桜の花の色を楽しめているのだろうか。
702
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:23:22 ID:4nGbyjws0
いや、そうか。
目が見えていないからこそか。
トッシュの中で合点がいった。
視覚が禄に働いていないからこそ、聴覚が、嗅覚が、触覚が、感覚が感じたものがリアルとして脳内に再生されているのだ。
桜がさもここにあるようなこの雰囲気が脳を騙し幻想の光景を見せているのだ。
誰の仕業かなど問うまでもない。
ゴゴだ。
幻術を使うでも魔術を行使するでもなく、月光を浴び咲き誇る桜の真似ただ一芸のみで一つの幻想の世界を構築して魅せたのだ。
ああ、そうだった。
こいつは心身の芯まで芯物真似師だ。
そのこいつが何かして欲しいことがあるかと聞いてきたのなら、それはして欲しい物真似があるのかということに他ならない。
トッシュが誰かのためにしてやれる唯一のことが斬ることならば、ゴゴが誰かの為にしてやれる唯一のことが物真似だ。
彼は成した。
ゴゴの問いの意味を汲んでやれなかったトッシュの返答をしかししかと受け止め最上の形で実現させた。
酒を呑みたいと願った友に、できうる限りで最高の酒が美味く感じる場を贈った。
物真似師として。
ただ物真似師として。
感嘆する。
物真似師のぶれない芯に、成した技にトッシュは舌を巻く。
同時に思う。
こいつは馬鹿だと。
酒を楽しく飲むのに一番大切なものを抜かしちまってどうすんだと。
「ゴゴ」
呼びかける。
月と、風と、砂と、桜に彩られた世界の中。
「どうした?」
声が返ってくる。
少女が夢見るすぐそばの誰もいない場所から。
完璧な物真似をしているが故に元となる存在の痕跡を綺麗さっぱり世界から消してのけている物真似師の声が。
「大切なもんが一つ抜けてるぜ?」
「……何?」
本当に分かっていないのだろう。
常のゴゴらしからぬ動揺した雰囲気が伝わってきてトッシュはおかしげに笑みを浮べる。
渡されたばかりの杯をゴゴなのであろう桜に向けて突きつけ返した。
「お前がいない。この世界には俺しかいない。
一人で呑む酒もそりゃあ乙なもんだが気心の知れた誰かと呑む酒は最高だぜ?」
共に飲もうと。それがいっちゃんうめえんだと。
心身ともに桜の木になりきっている友へとトッシュは語りかける。
「そうか、そうだったな。俺としたことがもうろくしていたようだ」
703
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:23:53 ID:4nGbyjws0
ふっと世界に新たな色が加わる。
人一人分の気配が増える。
月と夜桜に彩られた宴の中に友が一人来訪する。
「すげえな。桜の真似をしたままかよ」
「これぐらい容易いことだ」
胸を張るゴゴにそうかよとトッシュが返し、また二人、同じ時を過ごしだす。
ゆったりと流れる時間にひやりと頬を撫でる風。
空想とは思えぬほどに命を輝かせる樹木に死にいく者と生き行く者は杯をかざす。
触れさせる訳でなくお互いに酒を揺らし、幻想の桜の花を眺める。
「トッシュ」
「ああ」
「桜は綺麗か?」
「たまげるくれえに」
「酒は美味そうか?」
「おうよ」
「俺は……お前の友になれただろうか?」
「あたりめえよ」
とりとめのない会話を交わす。
ただ仲間と共に居ることだけを味わう。
トッシュにとっては代え難い贅沢だ。
ずっと、奪われ続けた。
ずっと、失い続けた。
誰一人護れなかった。
それが最後には師の誇りにて仲間を救い友に見送られて逝くというのだから。
悪くは、ない。
目の前に杯が掲げられる。
同じようにトッシュも杯を掲げる。
二人、笑みを交し合い、今度こそ杯を口元に寄せた。
酒が口内を満たし、喉を通る。
冷たすぎないそれはほのかに甘いが嫌味はなく、寧ろ独特な苦味が重なって味わいに深みを持たせていた。
「ああ……」
ひらひらと桜が舞う。風が強くなったのか舞い手の数が増えている。
その光景にいつか見た景色が重なった。
トッシュにとっての桜の樹。
ダウンタウンでモンジや舎弟たち、街の人々に囲まれて酒盛りをしたあの樹と。
見れば幻想の世界にはモンジ達に混じってシュウやエルクやリーザ達もいた。
ナナミなんかゴゴの焼き蕎麦パンをばくばくとほうばっていて、隣ではリオウが困りがちな顔をして笑っている。
トッシュが今そうしているように。
誰も彼もが笑っていた。
何とも幸せな幻想を見たもんだ。
トッシュは一層笑う。
自嘲などではない本当の笑み。
未練たらたらだなとすさむのではなく気分がいいから笑うのだ。
残る酒を一気に飲み干し想う。
704
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:24:40 ID:4nGbyjws0
都合のいい夢を見たというならそいつは酒のせいだ。
たった一杯の酒に酔ってしまうっつうのもかっこわりい気もするがしかたねえじゃねえか。
だってよお、この酒は
「うめえなぁ」
本当にうめえんだから――
杯が落ちる。
風が吹く。
桜が散る。
炎が消える。
トッシュ・ヴァイア・モンジは静かに逝った。
【トッシュ・ヴァイア・モンジ@アークザラッドⅡ 死亡】
【G-3 砂漠 一日目 真夜中】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3
ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WA2、基本支給品一式)、焼きそばパン×4@現地調達
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:シャドウとトッシュより託されたちょこを護る。
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
※ティナの魔石の効果はティナがトランスした上で連続魔でのアルテマを撃つ感じです
705
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:25:14 ID:4nGbyjws0
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)、気絶
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※魔剣ルシエド@WA2、天罰の杖@DQ4、基本支給品一式 が近くにあります
※ルカの所持品は全て焼失しました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2の施設、大地は焼失しました
706
:
――トゥーソード
◆iDqvc5TpTI
:2010/07/09(金) 05:26:23 ID:4nGbyjws0
投下終了です
明日にでも自分でやるか代理投下お願いします
なにぶんつめこんだので誤字指摘もあれば喜んでお受けします
707
:
修正
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:36:51 ID:uAZHIixk0
「……グッ……くっ……」
逃げていたジャファルだったが、積み重なったダメージによって思わず膝を突く。
ニノの攻撃が思いのほか身体にきていたようだ。
こんな所で、倒れてはいけない。
ニノを生かす為に、まだやらねばいけないのだ。
けれど、身体を動かそうにも動かない。
まだ、何も為してないのに。
そう、思った矢先だった。
「ケアルラ」
癒しの力が身体を少しだが癒していく。
身体に付いた傷が少し消えて、大分身体が楽になっている。。
ジャファルが驚き振り向くと其処には、銀髪の男が立っていた。
「例え、それがエゴだとしても、自分の信念、自分の意志を変えずにひたすらに突き進む者、進む事を止めない者、最後まで諦めない者……」
その男は笑いながら、ジャファルに語っている。
何か、納得したように。
「その者を、人は『勇者』と呼ぶのだろうか。ならば、お前は『勇者』に相応しいのかもな」
「お前は……?」
「セッツァー。ギャンブラーさ」
「そのギャンブラーが何故俺を助ける?」
ジャファルを勇者と呼んだセッツァーの行動がジャファルには読めない。
この男はヘクトルに与してたはず。
なのに、何故自分を助けるのだろうか。
「お前は、自分の手でその願いを、叶えようとしている。例えエゴと言われようとそれを止めない」
「……」
「自分を捨てる奴から見れば……こっちの方がよっぽどいいさ」
元々、限界を感じ始めていた。
自分の嘘がばれかけている事がヘクトルの解りやすい行動によって理解できたのだ。
そろそろこの殺し合いも終盤戦。新たに自分のみの振り方を考えなければならない。
その上で、ヘクトルの考え方にセッツァーは嫌悪感を示していた。
故に、ヘクトルについていくのは無理と思い始めた所に、ジャファルが現れた。
ジャファルの考えに、セッツァーは理解し、共感した所もある。
だからこそ、
「俺はこの殺し合いでお前と共に戦う事に賭ける! ベットするのは俺の命!」
今、ジャファルに全てを賭ける。
この殺し合いで最大の賭け。
彼が断れば、多少傷ついてるとはいえジャファルに勝てはしないだろう。
故に自分の命を賭けた、最大の賭け。
「伸るか反るか! どうする! ジャファル!」
そのセッツァーの言葉にジャファルは考える。
治癒していた事、そしてセッツァーが語る言葉。
全てを考え、そして。
「……乗った」
セッツァーは最大の賭けに勝ったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
708
:
修正
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:37:49 ID:uAZHIixk0
「よし、こんなものだな」
セッツァーの声と共に、暫くの間続いた魔法が止まる。
ジャファルに堆積していた傷と疲れは、セッツァーの力によって大分回復していた。
ジャファルは腕を軽く回し、身体が十全である事を確認すると、既に次の行動を起こしていた。
「助かる。セッツァー、俺達は何処に行く?」
「そうだな……俺がどうやって行動していたか聞いてたよな?」
ジャファルは首肯し、少し前の話を思い出していた。
傷ついた身体の回復を行っていた間、少しでも時間を無駄にしない為にも情報交換を行っていたのだ。
そのセッツァーはジャファルがエドガーらしき人間を殺害したと聞いた時、驚いた。
驚いたと同時にこの男の強さも再び認識した、エドガーを殺せるような人間なのだ。相当な実力者である事には違いない。
エドガーが殺された、その事実は特にセッツァーを大きく動かす要素は無かった。
ちょっとした感傷はあったが、それまで。
何故ならば、セッツァーが今手に入れるべきは、大切な夢なのだから。
最悪自分の手で始末しなければいけない相手だった。
だからこそ、他人の手で死んだ事を幸運に思うべき。
そう、思って、セッツァーはエドガーの事を考える事をやめた。
今はそれよりも、夢をかなえるべきなのだから。
「……南から北上したと言ったな」
「ああ、東から来たというお前の行動も考えると、一つ提案がある」
「なんだ?」
セッツァーが思うにこの殺し合いは、もう既に後半戦に入っている。
殺し合いに乗る者、背く者どちらもかなりの数が減っているだろう。
その上で、自分達が勝ち抜く為に自分達が取るべき選択肢を考える。
「まず、もう無為な探索は止めだ。いくら行ってないとはいえ、今更南西の方向いってもしょうがないだろう?」
「ああ、そうだな」
「ならいっそ此処の周りをメインに動くとして……拠点を作らないか?」
そう、セッツァーが示したのは戦闘拠点だ。
殺しを行うにしても、何かしら休める場所、落ち合う場所があると非常に便利である。
それは殺し合いに背く者だけは無く、殺し合いに乗っているものも一緒だ。
例えはぐれたとしても、其処に行けばまた再びあえるだろう。
また、其処での篭城戦も可能である。
その事を、ジャファルもすぐに理解し、頷く。
「じゃあ、決まりだな」
「場所は何処にする?」
「……そうだな、まず北東の都合のいい位置にある座礁船に向かってみるか。それでどうだい?」
「構わない」
「よし、ならそれでいこう」
そして、進路は座礁戦へ。
二人の男は北に向かって駆け出していく。
そう、全ては
「さあ、叶えようじゃないか。俺達の夢を、願いを、な」
叶えたいものの為に、彼は歩みを止めず
――そして殺していく。
709
:
修正
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:38:21 ID:uAZHIixk0
【C-7 北部 一日目 夜中】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:セッツァーと組む。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
3:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:絶好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)、
シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣
マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ、拡声器(現実)
毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ジャファルと行動。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
710
:
◆jtfCe9.SeY
:2010/07/14(水) 04:39:05 ID:uAZHIixk0
以上ジャファルとセッツァーの部分の修正版です。
確認の程、よろしくお願いします。
711
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 04:57:02 ID:jto66Yes0
修正お疲れ様です
確かに大乱戦で生き残りをだいたいは把握してるこいつらが今更探索するのもおかしいよなあ
しかし船かあ
松、よやくぼっち脱出だがはてさて……
712
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 07:04:16 ID:tA4ZHshw0
修正お疲れ様でした。
やっぱり冷静だな、この二人は……。
搦め手の怖さがよく伝わる、納得感の強い描写でした。
713
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 20:44:53 ID:XqcBATF20
◆jt氏修正乙です
流石というか何というか,2人とも冷静ですな
今後も怖い存在ですね.
松はどうなってしまうんだろう
さて,誤字などです.毎度毎度細かくてすみません
仮投下スレ
708 南西の方向いっても → 南西の方向へ行っても(或いは「南西へ行っても」)
殺し合いに背くものだけは無く → 殺し合いに背くものだけでは無く
進路は座礁戦へ → 進路は座礁船へ
彼は歩みを止めず → 彼らは歩みを止めず
714
:
SAVEDATA No.774
:2010/07/14(水) 22:48:22 ID:uBNIVsUQ0
お疲れ様です
早くもメンバーカードと秘密の店がご対面か・・・
松はまだセッツァーの正体に気づいてないし状況は絶望的だけど
このまま死んだらいいとこ無しだからちょっと頑張って欲しいな
715
:
◆MobiusZmZg
:2010/07/18(日) 01:13:06 ID:I/mtESxw0
本スレでさるさんに引っかかってしまったので、以降のレスを投下いたします。
気付かれた方は、代理投下を行っていただけると助かります。
716
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:13:39 ID:I/mtESxw0
そんな二人に対するアキラは、意識的な呼吸を数度繰り返した。
アナスタシアにせよユーリルにせよ、言動をみるに難物といっていいだろう。
そんな彼らに対して、アイシャのときのように、心を読み足りないものを補填してやれるのか。
がむしゃらに戦うなか、様々なものを取りこぼし、いまや疲れきってさえいる自分が。
知らなくても良かったであろう、ひとの心の裏側を知ってひねた自分が。
「出来ると、思うぜ。あんまり好きなやり方じゃねーが、なんとか……してみせる」
そう思いながらも、ここに眠っているアイシャの生き様を思えば――。
彼女と同じ場所に立っているアキラに、うなずく以外の選択肢など初めからなかったのかもしれない。
加えて、《英雄》になる願いの裏に隠れていた彼女の強い望みこそが、背中を後押ししてくれる。
口の端にのぼらせていたか否かの違いこそあれ、ユーリルについては彼女と同じ程度に望みが前面に出ていた。
アナスタシアにせよ、ユーリルをあそこまで歪めたのかも知れない言葉をかけたのなら望みを読める望みはある。
しかしながら、《英雄》のつぎに《勇者》がくるとは予想だに出来なかった。
どうやらここでは、そうしたたぐいの言葉に縁があるらしい。
「いけるのかい?」
「ひとまずはな。ただ、いまの俺じゃあ間違いなく」
格好をつけるべく口をつぐみかけて、やめる。
意識を喪った者の体がいかに重いかくらいは、分かっているつもりだ。
片方は非戦闘員、片方は敵対にかぎりなく近かったとはいえ、三人で二人を抱えるいま、ここに。
いまのアキラがもつ最大の弱点に触れないでいては、笑うに笑えない結果を呼びうるのだから。
「あぁ。心を読んだあと……ひょっとしたら心を読んでる最中に、意識が落ちる。
すまねぇ。情けねー話だが、ちょっとばかり力を使いすぎちまったんだ」
アキラに出来ることといえば、困ったように笑ってみせることくらいだった。
やせ我慢に他ならない笑みを見せるべく視線を上げれば、さみだる雨が泉に流れ込むさまが見える。
――アイシャのなきがらも、いま、同じ霖雨(りんう)をうけているのだろうか。
気絶を避けるかのように、意識の間隙を埋めるかのような思考が止まない。
ひとを降りそぼしてまだ足りないとばかりに手数の多くある雨滴と同じように、止むことがない。
「まったく……前途多難、だね」
考えているようで、そのじつぼんやりしているのと変わらない思考を読まれたか。
ほんの少しの棘を交えた口調にため息を交えて、イスラが雨の向こうを見やる。
「ストレイボウさんたちも、無事だといいんだけど――」
ユーリルから少し遠い場所にアナスタシアを横たえたジョウイも、イスラと逆の方向につづく。
彼らのあいだで二択をせまられたアキラは、第三の方角――。
何者かの心を映したかのように晴れない雨をもたらす雲に、しいて視線を持ち上げた。
717
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:14:55 ID:I/mtESxw0
【C-7橋の近く 一日目 夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(極大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:ジョウイの言葉が、許せない
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(極大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える。可能ならばユーリルかアナスタシアの心を読む
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
718
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:15:31 ID:I/mtESxw0
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
【C-7中心部 一日目 夜中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、MP0、人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:ロザリーを弔う
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。
【やぎのぬいぐるみ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
ギア(アクセサリー)の一種。致命に至る一撃から、一度だけ復活することが可能となる。
ただし、装備者の身代わりになったぬいぐるみは失われてしまう。
×◆×◇×◆×
719
:
いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.)
:2010/07/18(日) 01:16:52 ID:I/mtESxw0
【7】
――――この袋小路からの抜け道を提供するのが「外的反省」だ。
外的反省は、テクストの「本質」「真の意味」を到達不可能な彼方に
追いやり、それを超越的な「物自体」にする。有限の主体であるわれ
われの手に入るものはすべて、われわれの主観的視野によって変形
された歪んだ反映であり、一部分である。<物自体>、すなわちテク
ストの真の意味は永遠に失われているのである。
×◆×◇×◆×
720
:
◆MobiusZmZg
:2010/07/18(日) 01:17:36 ID:I/mtESxw0
以上で投下を終了します。
問題点や矛盾点、ご意見ご感想など、お寄せいただけると幸いです。
それと、下手すれば誤解を与えるかもしれないので一点のみ。
【0】【7】の惹句は、いずれもスラヴォイ・ジジェク著『イデオロギーの崇高な対象』に拠ります。
本文中に引用の表記を行ってみると衒学的にすぎる印象になっちゃったので、代わりにここで。
自分のオリジナルでないと分かるのが肝要なんで、wiki収録時にも元ネタのページあたりに明記しておきます。
721
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:15:46 ID:SZkbz1o20
お待たせしました、規制中もあってこちらで投下します
722
:
SAVEDATA No.774
:2010/08/12(木) 22:35:06 ID:SZkbz1o20
止まない雨が降り注ぐ中、二人の男が倒れていた。
片や気絶、片や絶命。
同じ“絶”の字を冠していながらも二つの言葉の持つ重みには天と地の差があった。
ブラッド・エヴァンスは死んだ。
襲撃者との戦いの中、果てた。
だが。
襲撃者の片割れにして魔王と組んでいる男、カエルは断言する。
勝ったのはブラッド・エヴァンスだ、と。
その証拠にどうだ。
今自分は押されている。
一度は三人がかりで向かってこられてさえ優勢に立つことができた夜の王に。
魔王との実力差を目の当たりにし膝をついたはずの魔道士に。
完膚なきまでに押し負けている。
「うあああああああああああああ!」
ストレイボウが“斬り込んでくる”。
魔道士たる身でありながら剣を手にし死んだブラッドの代わりに空いた前衛をこなさんと必死に食らいついてくる。
隠しようもない恐怖をグレートブースターによる強引な戦意高揚効果で押し切って。
脚を震わせ、剣を震わせ立ち向かってくる。
そのさまをどうして無様だとカエルに笑えようか。
かってカエルは自らを護り死んだ友から逃げた。
ストレイボウは逃げなかった。
みっともない姿を晒してでもブラッドが残した勇気を受け継ごうと手を伸ばし足掻いているのだ。
「ぐっ……」
強化魔法がかけられていることを差し引いても我武者羅に叩きつけられる剣のなんと重いことか。
ああ、そういえば。
この剣はストレイボウの様子からすればカエルにとってのグランドリオンのようなものだったではないか。
ならばその剣を手にしていること自体がストレイボウの覚悟の現れだ。
自らへの嘲りを込めて握った魔剣如きで押し返せるわけがない。
そもそも持ち主を選ぶ類であるこの魔剣は眠りについたままで、木刀にも劣っているのだから。
「まだだ、まだわらわ達の攻撃は終わっておらんぞッ!」
ストレイボウの突撃に負けた身体が幾多もの火球に狙い撃たれる。
体勢を崩された身では跳躍して回避することは困難。
かといって魔法に頼ろうにも、今は魔力を封じられた身だ。
打つ手なし。
大人しく我が身を穿つ魔法を耐え忍ぶしかない。
両腕を交差させ、炎に備え、
「ぬう!?」
723
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:35:59 ID:SZkbz1o20
そこに追撃が迫る。
あろうことかストレイボウに続きマリアベルまで前線に踊りでてきたのだ。
否、それは躍り出たなどという可愛いものではなかった。
投げ込んできたと称すべき乱暴極まりないものだった。
怒りのリングに隠された秘技、仲間ではなく自身を砲弾と化し投じる荒業によって一瞬にして距離を詰めたのだ。
そしてマリアベルの手にもまた一本、剣が輝いていた。
「でえいッ!」
ソウルセイバー、魂食いの剣。
ブラッドが指揮した先の持久戦時にマリアベルはその効果を正しく理解していた。
故に躊躇することなくファイアボルトの連撃により緩んだガードの隙間からカエルへと突き刺す。
たちまちカエルを襲うのは痛みではなく虚脱感。
その隙にとマリアベルが催眠呪文を唱えようとしていることを察知。
間一髪、覚悟の証たる傷を自ら拡げ、意識を覚醒させてマリアベルをはねのける。
「――潮時か」
吹き飛んだマリアベルを駆けこんできたストレイボウが受け止める中、カエルは勝つことに見切りをつけた。
このまま戦ったところでまず本願を達することは不可能だ、と。
マリアベルとストレイボウには勢いがある。
仲間ひとりの命と引き換えにして得た好機だ、それこそ命を賭けてでも掴みに来る。
対するカエルには勢いがない。
彼にしても何としても叶えねばならぬ願いはあるが、しかし、その願いを叶えるためには彼が生きていなければならない。
我が身を優先しなければならない現状、どうしても決死には届かず、勢いに劣ってしまうのだ。
加えてもし術師二人に勝てたとしても。
ストレイボウ達にはまだジョウイを初めとした仲間がいる。
北方での戦闘が収まったことは既に察知済みだ。
あれだけ激しく聞こえていた剣閃の音も、天を脅かす雷鳴の光も消えた。
殺気立った空気が霧散していることからも勝ったのはジョウイ達の方なのだろう。
混戦時に目にした彼らの戦いぶりからも、魔法を封じられた現状ではカエルに勝ち目はない。
であるならストレイボウ達を殺してジョウイ達を煽り説得の通じない討滅対象と見なされるわけにはいかない。
724
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:36:32 ID:SZkbz1o20
「結局のところ敗因は後を託せる仲間がいたかどうか、か。
自ら斬り捨てておきながらざまあないぜ」
腕から力を抜き、カエルは剣をマントに収めた。
「カエル……? 話を、聞いてくれる気になったのか?」
臨戦態勢を解いたことを訝しみながらも、喜色を隠せずにはいられないストレイボウにカエルは首を横に振る。
違う、そうではない。
単に勝てないと悟ったから。
ここで死ぬわけには、または戦う力を奪われるわけにはいかなかったから。
それだけだ。
どころかストレイボウが己に抱いてくれている友情を、殺されないという確信を利用してこの場より逃げようとしているのだ。
堕ちたものだと嘲りながらもカエルは一跳びで魔王の元へと跳躍する。
こちらが武装解除したことで僅かに戦意を収めたマリアベルが再度呪文を唱えるよりも早く、カエルは“それ”を手にした。
魔鍵ランドルフ。
魔王曰く異世界への道を拓くことさえ可能な空間を操る魔具。
カエル達が逃げおおせるための文字通りの鍵。
「ランドルフ……? そうか、そういうことか。無駄じゃ。今、お主の能力は封じられておる」
「覚えておけ。魔王は抜け目のない男だ。こんなふうにな」
ランドルフは時に主の命なくして主を強制転移させるなど自立行動が可能である。
そのことを見抜いた魔王はランドルフに緊急脱出用の空間転移プログラムを施していたのだ。
追い詰められた時ようの術式だけあって、術者の魔力に頼らずランドルフ単体で転移は発動できるようになっている。
パワーシールであろうとアイテムの使用は制限できない点も突いた最上の脱出手段であった。
とはいえ欠点がないわけではない。
魔王自身が使えばもう少し自在に転移先を選べたであろうが、カエルにはそんな器用なことはできない。
せいぜい事前に設定された転移先――魔王が唯一立ち寄ったランドマークになる施設に跳ぶことが精一杯だ。
その転移先とは、
「F-07エリアの遺跡とは名ばかりダンジョン。その地下深くにてお前達を待つ」
言うが否やカエルはランドルフを掲げる。
待てと呼び止めるはマリアベル。
キルスレスのことも含め、人殺しの意思があるままカエル達を逃がすわけにはいかない。
武力行使によって止められないのであれば、言葉により逃走を思いとどまらせる他なかった。
725
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:37:07 ID:SZkbz1o20
「よいのか? わらわ達の目的はあくまでもオディオの討伐。
待ちぼうけをくらってるお主達をほっぽりだして先にオディオめを倒してしまえば魔王はともかくお主と戦う理由はなくなるぞ?」
こちらを挑発するようにニヤリと笑うマリアベル。
真理だ。
魔王はともかくカエルにとっては願いを叶えてくれるオディオが倒されたとあっては無為に命を刈り取ることはできまい。
茫然自失と崩れ落ちるか、以前のように酒に逃げるか。
我ながら碌でも無い未来しか想像ができなかった。
だからそのような未来にならないよう挑発し返す。
「それは困るな。だがお前達は遺跡に来ざるを得ない」
「……なんじゃと?」
カエルはランドルフについて説明を受けた時に忠告してきた魔王の言葉をそのままマリアベルに伝える。
曰く、遺跡の最下層には恐ろしい何かがあると。
「何かとは何じゃ」
「さてな。生物だか無機物だかも分からん。しかしあいつは言っていた。
自分をも上回る魔力を感じたと。信じられんことだがあの男がそう言うのなら事実なんだろう。
そして魔王を上回る魔力の持ち主がそうそう居るとも思えん。
いるとすればピサロと呼ばれていた男のように魔王同様に魔の王の称号を冠する者……」
「まさか!?」
「流石に本人だとは思っていないが、無関係とも思えんだろ?」
「……」
マリアベルが押し黙る。
それを無言の肯定だとカエルはとった。
これでいい。
これでストレイボウだけでなくマリアベル達もカエル達を追撃せざるを得ない。
こちらはそれを待ち構えていればいい。
地の底深くで傷を癒し、或いは罠さえ張り巡らせ、待っていればいい。
起動したランドルフが宙に浮く中、カエルは魔王を背負いストレイボウ達に背を向ける。
「カエル!」
その背に届けと発せられる声があった。
転移を思いとどまらせるためではない。
これまでのように自分の想いのみを投げかける言葉でもなかった。
「せめて教えてくれ! 全てを守る戦いを優先するとお前は言っていたな!
お前は、お前は何を護ろうとしているんだ! 頼む!」
友の抱く想いを、友の秘めた想いを知って力になろうとしての言葉だった。
カエルは僅かに間を置き、それでもワームホールに飛び込みながら振り向くことなく答えた。
「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」
726
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:37:57 ID:SZkbz1o20
▽
ブラッド・エヴァンスは灯火だった。
死だの罰だのを言い訳に諦めかけていたストレイボウに諦めるなと言ってくれた。
広く視野を持てとも、自分の意思を打ち立てろとも。
そして死んでいった。
自らの意思で、人を導き、仲間を護り、仲間の仇を討って死んでいった。
ああ、そうか。
ストレイボウはその死に様を、否、マリアベルの言うところの生き様を目にしようやっと馬鹿な加害妄想から脱することができた。
何が生きているだけで他の人間が死んでいく、だ。
巫山戯るな。
ブラッドが死んだのは他の誰のせいでもない。
ブラッドが自らの意思を貫き通した結果だ。
俺が、ちっぽけな俺ごときが、あの大きな男の生き死にを曲げることなどできるものか。
ストレイボウは自覚する。
結局はあの頃と変わっておらず自分のことしか見ていなかったのだと。
世界を自分中心にしか考えず、良いも悪いも他人のことも全て一方的にしか見ていなかったのだと。
広い視野で世界を見ろとはそういうことか。
思えば自分はカエルのことを何も知らない。
何も知らずに盲信して、いや、単に二度と友と戦いたくないという自分可愛さから剣を収めてくれと言い募るばかりだった。
何故と、どうして急に殺し合いにのったのかも、一度たりとも聞こうとはしなかった!
727
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:39:46 ID:SZkbz1o20
カエルが話を聞いてくれないのは当たり前ではないか。
他でもないストレイボウ自身がカエルの話しを聞こうとしていなかったのだから。
否、もしかすればそれはもっと質の悪いものかもしれない。
ストレイボウは思い至る。
自分の弱さに。
聞こうともしなかったのではなく聞きたくなかったのではと。
核心に迫る問いを投げかけることで得た返答が、カエルを引き戻せないと納得してしまうほどの力を持つものであることを恐れていたのではと。
馬鹿馬鹿しい話だ。
納得出来る理由があれば退いたと?
説得できないと分かれば辞めていたと?
そんな、そんな半端な想いで自分はカエルに対峙していたのか。
許せなかった。
諦めることをよしとしていた臆病な自分が許せなかった。
変わらなければならない。変わるんだ!
これまで何度も抱いた想いに行動を伴わせるべく、マリアベルに頼み身体強化を施してもらい前に出た。
覚悟の証としてブライオンも鞘から抜いた。
全てはカエルの声を聞くことの先である、カエルの心に触れるために。
なのに。
「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」
ストレイボウはカエルの心中を知り早速後悔してしまった。
他の如何な理由でもここまで彼を動揺させはしなかっただろう。
だが、これだけは駄目だ。
この意思に対してだけはストレイボウは掛ける言葉が見つからなかった。
止めていいのかも分からなくなってしまった。
カエルが振り向くことなく消えて行ったのはストレイボウにとっては悲しいながらも幸いだった。
後悔と罪と絶望に彩られた顔を見せずにすんだのだから。
何よりも。
ストレイボウはカエルに合わせる顔がなかった。
友を騙し、王を殺させ、一つの国が滅ぶ原因を産み出したストレイボウには。
728
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:40:30 ID:SZkbz1o20
ブライオンが重い。
勇者の剣が元・魔王を責め立てるように手から零れ落ちる。
「くっ、ぐっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……っ!」
かって犯してしまった罪。
その罪を悔いているからこそ、カエルに殺し合うのを止めてくれという国を救うなと同義のことを訴え続けられるか分からなくなってしまった。
これまであれほど軽く吐き続けていた言葉のカエルにとっての重さを知り、ストレイボウは天へと絶叫する。
天は応えを返してはくれなかった。
ぽつぽつと雨を返すのみだった。
当たり前だ。
答えはストレイボウ自身の手で見つけ出せねばならないのだから。
▽
ストレイボウは気付かない。
自らの罪とカエルのことに気を取られるあまり、マリアベルが自身以上に絶望を湛えた目でストレイボウを見つめていることに。
マリアベルは気付いてしまった。
どう足掻いてもストレイボウに待ち受けているのは悲劇だけだということに。
729
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:41:49 ID:SZkbz1o20
きっかけは些細なことだった。
カエルが去り際に発した言葉、そのある部分がどうしても頭に引っかかったのだ。
愛した国を“なかった事にされる”? どういうことじゃ?
これが単に愛した国を護るため、というのであれば疑問を抱きはしなかったであろう。
カエルは騎士だ。
祖国に危機が迫っているというのなら魔王オディオに縋りついてでも救おうというのは許容はできないが忠義の形としては納得出来……否。
マリアベルは思い直す。
そうだとしても変じゃなと。
ストレイボウ曰くカエルは最初はオディオを倒す気でいた。
もしカエルの祖国が危機に瀕していたとして、それはこの島に呼び出される前のことだ。
であるなら初めから殺し合いにはのっているべきだ。
願いを叶えてくれるオディオを倒そうとは思いもしないだろう。
それともオディオを倒すというのは演技じゃったか?
違う。
マリアベルは即座に否定する。
カエルはそういった嘘をつけるほど器用な男には見えない。
カエルの危険性を見抜いてたシュウには悪いが、少なくともあの時点では殺し合いにはのっていなかったと断定できる。
転じてそれは次にカエルと会い襲われるまでの間に彼の心境を変える何かがあったということ。
その何かとは?
ストレイボウの話では少なくとも彼の元をカエルが去った時点では殺し合いにはのっていなかったらしい。
その時ストレイボウが襲われていないのが何よりの証拠だろう。
つまりはその何かが起きたのは彼らが別れた更に後。
その条件に当てはまるものとして真っ先に思い浮かぶのはただ一つ。
放送だ。
カエルに初めて襲われた時、カエルが一人だったことからも現在組んでいる魔王に唆された線は薄い。
十中八九放送で誰か、国を護るというからには例えば王族が死んだのだろう。
名簿を確認した時のカエルの反応も護るべき王の名がそこにあったというのなら頷ける。
頷ける、が、恐らくはそれは正解の半分程度でしかない。
730
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:47:38 ID:SZkbz1o20
けれども。
まだましだ。
解決策がどれだけ気に食わないものであっても存在しているだけまだましだ。
カエルには、本人がどれだけ自分を許せなくなっても救いがある。
ストレイボウには、それがない。
――のう、ストレイボウ。わらわはこの推測をお主に伝えるべきじゃろうか?
歴史に起きた綻びをそのままにしておけば、過去の改変によりカエルは近いうちに消滅する。
“なかったことにされる国”に生まれたカエルは“なかったことにされる人間”として確定してしまう。
説得が成功した時、つまりはカエルが歴史の修正を断念した時。
それはストレイボウが自らの意思で友の存在を否定してしまうということになるのだ。
「笑えない、全くもって笑えない話ではないか。本当にカエル達を無視できればいいのじゃがのう……」
それが何の解決にもならないと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
叫び続けるストレイボウに釣られてマリアベルも夜空を見上げる。
零時が近づいたことで雨は小雨になり、ようやっとふりやもうとしているも、マリアベルの心は晴れそうになかった。
【C-7(D-7との境界付近) 一日目 真夜中】
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)※ただし魔力はソウルセイバー分回復済み、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFⅥ、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:ストレイボウに残酷な推測を話すか否か。
2:ひとまずはイスラ達との合流。後、キルスレスの事も含め、魔王達を追撃?
3:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
4:首輪の解除、ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
6:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。 レッドパワーはすべて習得しています。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
731
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:49:41 ID:SZkbz1o20
すみません、729と730の間に欠落があります。
次の732を本投下時は間に挟んでください
732
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:50:15 ID:SZkbz1o20
マリアベルは思い出す。
名簿を見てひどく動揺していたカエルの表情を。
あの時は恋人の名前だとかトンチンカンなことを考えていたが、数時間前の自分を鏡で写してみてみろといってやりたい。
自分だって名簿を手にした時、何故、どうしてと訝しんだではないか。
亡き友の名を、“数百年も昔に死んだはずの友”の名を目にして慌てたではないか。
そう、数百年も前の。
カチリ、カチリとピースが当てはまっていく音がする。
カエルの言葉、名簿を見た時の彼の動揺、時を越えて存在する友人。
それらの要因を合わせてマリアベルは一つの推測を導き出す。
カエルが叶えたい願いとは即ち
“この殺し合いに巻き込まれて死んでしまったカエルの仲間であった遥か昔の王族、或いは救国の英雄を蘇らせること”
これなら全ての辻褄が合う。
過去の人物を仲間と呼ぶのは普通の人間には矛盾にしているように思われるが、考察主は不死の王。
マリアベルは自分同様カエルもまた不死者なのではと考えたのだ。
もちろん真実は違う。
カエルが過去の人間を仲間だと言ったのはとっさのでまかせではない事実であるが、彼らが時間を超えて旅をしていたからだ。
しかしここではそんな些細な勘違いは重要ではない。
大切なのはカエルが蘇らせようとしているのがマリアベルで言うところのアナスタシアだということだ。
例えば、例えば、だ。
あのアナスタシアがロードブレイザーを封印する前の時間から呼び出されており、しかも死んだとすれば?
言うに及ばず。
ファルガイアの歴史は変わる。
封印されることのなかったロードブレイザーにあらゆる命は蹂躙され、星は滅び、アシュレー達は生まれてこない。
これが現在に迫っている驚異なら良かった。
ブラッド、カノン、リルカを欠いたといえどマリアベルはアシュレーやティム、多くの仲間達と共に危機を乗り越えようと諦めることなく戦っただろう。
しかし既に過ぎ去った過去の危機が相手ではそうはいかない。
いかなノーブルレッドといえど干渉すること能わず、過去の改変より滅びを待つしかない。
カエルが直面している問題とはそういうものなのだ。
時も生死も超越できるかもしれないオディオの手を借りねば解決できない問題なのだ。
733
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:51:33 ID:SZkbz1o20
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
また、遺体付近に以下のものが落ちています。
・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
・不明支給品0〜1個、基本支給品一式
▽
734
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:52:17 ID:SZkbz1o20
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
また、遺体付近に以下のものが落ちています。
・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
・不明支給品0〜1個、基本支給品一式
▽
735
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:52:51 ID:SZkbz1o20
「魔王が警戒したわけだな……」
遺跡ダンジョン下層、地下五十階玉座の間。
ランドルフの転移によりこの地に踏み入った瞬間、カエルは眉を潜めた。
手にしていたキルスレスが独りでに震えだしたのだ。
まるで地下の何かに反応するかのように。
鮮血のように紅い刀身を更に鮮やかに輝かせ、鳴動すること収まらない。
「魔王が言う何かとはこの魔剣に関するものなのか? ……或いは」
魔剣に認められていないカエルだが、たった一つだけキルスレスについて分かっていることがあった。
「魔剣が反応せざるを得ないような巨大な思念が渦巻いているか」
それはこの剣もまた人の精神や意思に影響されるものだということ。
仮にも聖剣グランドリオンの担い手。
聖剣との共通点であるその性質を見抜くことは容易かった。
「む?」
と手にしていた剣から伸びた光がカエルを包むや否や、身体の中で魔力の滾りが再活性化する。
どうやらマリアベルにかけられていた能力封印が解けたらしい。
どころかケアルガを使ってもいないのに徐々に、本当に徐々にだが傷が癒えていく。
原因がこの心臓が脈打つように鼓動する真紅の光にあることは間違いなかった。
「そういうことか」
カエルは得心がいき、魔剣を一度大きく振るう。
予想通りストレイボウ達との戦闘では起きなかった衝撃波が発生し、巨大な玉座を吹き飛ばした。
どうやら地下の何かの影響でこの地では限定的ながらもカエルにも魔剣の力を引き出すことができるらしい。
もっとも同系統の武器を使い慣れてたカエルだからこそ魔剣の膨大な力を制御しきれたのだが。
「どうやら俺にはつくづくこの剣がお似合いらしい」
自嘲しつつも魔王を地に降ろし、回復呪文をかけようとしてふとそれが目に入った。
階段だ。
キルスレスで吹き飛ばした玉座の下に隠されていたのか、はたまたその衝撃がスイッチとなり隠し階段が姿を現したのか。
どちらかは分からないがついさっきまではなかった階段が確かにそこにはあった。
カエルは魔王の治療を中断。
一人魔剣を手に階段を下り、地の底へと降りていく。
その終着点にそれは鎮座していた。
736
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:53:40 ID:SZkbz1o20
「これは……虹色の貝殻? いや貝じゃねえ、石だ」
巨大な、あまりにも巨大な虹色に輝く石。
カエルは知る由もないがこれこそが感応石。
殺し合いの参加者を首輪の楔から解き放つ為に破壊を必須とされているそれ。
加えて、カエルの手には同じく首輪解除の鍵となる紅の暴君。
マリアベルの願いは届かない。
決戦は避け得なかった。
【F-7 遺跡ダンジョン最下層 一日目 真夜中】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(やや大)、疲労(大)、自動微回復中
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
※キルスレスの能力を限定的ながら使用可能となりました。
開放されたのは剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚のみです。
遺跡ダンジョン最下層からある程度離れると限定覚醒は解けてしまいます。
【F-7 遺跡ダンジョン地下五十階 一日目 真夜中】
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、瀕死、気絶
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。
※F-7 遺跡ダンジョン最下層に巨大な感応石が設置されています。
尚、オディオの手で感応石に何らかの仕掛けがされている可能性や、他にも何か設置されている可能性もあります
737
:
ハッピーエンドじゃ終わらない
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/12(木) 22:54:57 ID:SZkbz1o20
投下終了
間の欠落といい、ストレイボウの状態表重複といい、ミスが多くて申し訳ありません
できればスレ立て&代理投下時に直しておいていただければありがたいです
738
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/08/14(土) 17:42:48 ID:wAzuxsNM0
スレ立ての人及び代理投下してくれた方、ありがとうございました
739
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/10/06(水) 18:45:05 ID:.zh9cZb60
闇からの呼び声の冒頭及び最後の部分、加えて指摘されたました誤字などの修正完了しました
740
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:17:13 ID:NGITva2Q0
こちらに続きを投下します
741
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:19:08 ID:NGITva2Q0
◆
「――――ほう?」
一方、湧き上がる破壊衝動を万物を溶かす焔へと変えて吐き出したロードブレイザーは、さしたる疲労もなく為した破壊の痕を見る。
島を東に貫いた粒子加速砲は、地表面に存在する全ての形あるモノを灼き払っていった。
焔の災厄と呼ばれていた全盛期からは程遠いが、それでも人を屠るには十分すぎる力であった。
だと言うのに。
「さすがは我が宿敵……いいぞ、そうでなくてはなッ!」
ロードブレイザーの魔眼は、溶けた大地に這い蹲る――しかし五体満足の英雄の姿を見出した。
その手には殊勝にも蒼い魔剣が握り締められている。
身体を灼かれながらもたった一つの希望を守り通すことには成功していたらしい。
笑声を漏らし、ロードブレイザーはゆっくりと彼に近づいていく。
飛ぶのではなく歩く。絶望を刻むように、砂を蹴立てて。
「く……う、うう……」
「正直、驚いたぞ。その小賢しい剣ごと消し飛ばしてやるつもりだったが、まさか耐え抜くとはな」
どうやって難を逃れたか、見当は付く。
直撃の瞬間、アシュレーは連続して氷結魔法を発動していた。
もちろん蒼剣の補助なしに発動した魔法では粒子加速砲を防ぐ盾には成り得ない。
アシュレーの狙いは空中に足場を作ること。それらを蹴り跳び、光輪の噴射と合わせて焔の軌跡から逃げ延びたのだ。
だが、それでも無傷ということは有り得なかったようだ。
身を包んでいた聖衣は半ばほど焼け落ち、無残な傷痕を夜気に晒している。
呼吸は弱々しく、指先は痙攣を繰り返す。
脅威が間近に迫っても立ち上がれもしない。
742
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:20:28 ID:NGITva2Q0
死線の底でかろうじて掴み取った果てしなき蒼は魔神によって蹴り飛ばされ、アシュレーの手を離れていく。
決着の瞬間――因縁の終わりがやってきたことを、ロードブレイザーは感じていた。
「思えば長かったな。剣の聖女から続く我らの戦いも……ここが終局だ。物悲しさすら感じるよ、アシュレー」
ナイトフェンサーを顕現させる。
油断はしない。なんとなれば、アシュレー・ウィンチェスターという男の真価は追い詰められたときこそ爆発するのだ。
全力を以て屠ってこそ、かつて自身を育てたこの男の恩に報いるというもの。
「心臓を抉り出し、喰らってやろう。私の血肉となるがいい……ルカ・ブライトと同じように」
「ま……だ、だ……ッ!」
「剣もなく、立ち上がることもできん。お前はよくやったよ、アシュレー」
いかに剣の英雄だとて、首を落とさば生きてはいられまい。
「さよなら、アシュレー・ウィンチェスター」
ナイトフェンサーが閃き、アシュレーの首を一刀の下に斬り落とす。
落ちて消えるが、儚き人の定めである。
「…………は」
重い肉塊が砂を散らす。
ロードブレイザーは傲然とソレを見下ろしていた。
743
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:23:31 ID:NGITva2Q0
「なん……だと……?」
肩から斬り落とされた、己自身の片腕を。
「が……がああああッ! ば、かな……ッ!?」
ロードブレイザーの前に、一振りの剣がある。
果てしなき蒼、ではない。
遥か南の地にあるはずの、いるはずの、
「ルシ、エド……?」
ガーディアンブレード・魔剣ルシエドが、純然たる敵意と共にロードブレイザーと相対していた。
「貴様……欲望の守護獣! 何故動ける!? 宿主はここにいたというのに!」
ルシエドはずっとアシュレーの裡にいた。だからこそ彼の呼びかけに応え剣となって顕現した。
だが、魔王の影響下にあるこの島では、一度剣として顕現させたのならそれはアシュレーの内的宇宙とは切り離された状態ということだ。
手元になければ呼び戻すことはできない。
またルシエドは唯一実体を保てる守護獣であるが、欲望を糧にするがゆえに他者の欲望が無ければ自ら動くことはできない。
ルシエドを戦力として数えたいのならばアシュレーがその場に行き命じなければならないはずだった。
だからこそ脅威として認識しつつも、この戦いの中でさほど気に留めていなかったのだ。
影狼は黙して語らない。
ただ、己を握る主の命を待つのみ。
そして、ロードブレイザーにはわからずとも。
アシュレー・ウィンチェスターにはわかる。わかっている。
ルシエドがここに来た理由を。
ルシエドがここに来れた理由を。
今、ルシエドが己に何を望んでいるのかも。
ハッキリと、わかっている。
744
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:28:11 ID:NGITva2Q0
「ああ……そう、だ……」
そして……、立ち上がる。
ロードブレイザーが最も恐れた男が、
人の身でありながら魔神へと食い下がる男が、
もはや死泉に腰まで浸かっている、放っておけば遠からず死に至る、そんな状態だというのに、
アシュレー・ウィンチェスターは、何度だって立ち上がる。
「どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!」
アシュレーは相棒たる剣を引き抜いた。
その掌には、蒼く輝く絆の証。
「いっしょに……戦っているんだッ……!」
ロードブレイザーが最も嫌う命の輝き、繋がり拡がる想いの糸。
その糸を手繰った先に、きっと、いてくれるのだ。
「そうだろ――ゴゴッ!!」
『当然だ』
応えた声は、物真似師のもの。
アシュレーの握り締める感応石が、遠く離れた友の心を届けてくれる。
745
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:30:21 ID:NGITva2Q0
◆
幾重もの衣で素顔を隠すその人物は、あるいは泣いていたのかもしれない。
今……友が逝った。
はたして彼は、辿り着きたい場所へ、辿り着けたのだろうか。
安らかな顔で、眠るようにトッシュは逝った。
ゴゴはその男の胸元へ、携えていた剣をそっと置いた。
トッシュは剣士だ。ならば、死出の道行にも剣が無ければ締まらないというもの。もう、ゴゴにしてやれることはこれくらいだ。
視線を転じ、昏倒したちょこを見やる。
トッシュの元々の仲間だと言う少女は、トッシュの死を知れば泣くのだろうか。
涙を知らないゴゴはどこかそれを羨ましいとさえ感じていた。
遠く離れた地で、アシュレーが戦っている。しかしゴゴに成す術は無い。
無論今すぐにでも駆けつけ共に戦いたいという想いはある。
だがちょこを置いて行く訳にはいかないし、身体の疲労も無視できない。
なにより、行ったところで何ができると言うのか。
英雄と魔神の戦いに、物真似師が介入する余地はどこにもない。
それを知っているから――握り締めた拳から血が滴るほどに痛感しているからこそ、ゴゴは動かない。
友の勝利を信じるしかない歯がゆさを噛み締めながらも、動けない。
「アシュレー……」
心をリンクさせる石を胸に、ゴゴは祈る。
石を通じてアシュレーの苦境は伝わってくる。
痛み、苦しみ、それらを圧する勝利への意思。
だが敵の力は強大だ。直に対面していなくてもわかる。
アシュレーは今、破壊の力そのものと戦っている。
時折り空を照らすあの光はどちらが放ったものか。
紅蓮が空を焦がすたびに友の無事を願い、蒼光が煌くたびに安堵する、その繰り返し。
ロードブレイザー、かの魔神の力は三闘神にすら匹敵するのではないか。
そんな化け物へ、友はたった一人で挑んでいる。
746
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:32:39 ID:NGITva2Q0
「……無力だ、俺は」
呟く言葉にも力はない。
そのときゴゴははっと顔を上げた。
アシュレーのいる場所からまっすぐ東へ、太陽と見紛うほどの朱金の灼熱が駆け抜けていくのが見える。
同時、感応石から伝わるアシュレーの石がひどく弱まった。
「アシュレー……!」
決着が着いたのかもしれない。
だが、あの攻撃を放ったのは十中八九ロードブレイザーだ。
あんなものを受けたのなら、いかに聖剣の加護があろうとも……。
「……助けなきゃ」
無駄と知りつつそれでもなお救援へ向かうか。
半ば本気でそれを考えていたゴゴの耳を、涼やかな声がくすぐった。
振り向けば、ちょこが目覚め立ち上がろうともがいている。
が、やはり連戦のダメージは大きいらしく生まれたての小鹿のように何度も転ぶ。そしてそのたびに立ち上がろうとする。
「ちょこ?」
「助けるの……おにーさんを……助けるの!」
痛みも苦しみも、何物も彼女を阻めない。
その瞳の輝きこそ、魔を討ち闇を払う力――希望であると、ゴゴは知っている。
だからこそ――ゴゴは、ちょこを気遣いはしなかった。
戦う意思がある。
守りたいと思う人がいる。
ならば、ゴゴがするべきことは一つッ!
「ちょこ。俺に力を貸してくれ。あいつを……友を、助けたいんだ」
物真似師が差し伸べた手を……、少女は、
「うんッ!」
強く、強く握り返した。
747
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:34:34 ID:NGITva2Q0
「あっ……狼さん?」
「ん?」
ゴゴの手を借りて立ち上がったちょこが、ゴゴの背後を見て驚きの声を上げた。
そこに、数秒前は確かにいなかった影がある。
毛並みも鮮やかな黒い狼。
だが野生のそれと違い、瞳には深い知性を湛えている。
「この子……知ってるの。おにーさんといっしょにいた」
「アシュレーと?」
狼はゴゴ達に構うことなく彼方の方角を睨み唸っている。
まるで用事が済むまで待っているように命じられた犬のようだ。
その視線を追って気付く。
狼が見ているのは、アシュレーがいると思しき方角であると。
「……お前は、アシュレーを待っているのか?」
疑念に駆られゴゴがそう問いかける。
すると狼はついと視線を巡らせる。首肯はしなかったが、それをゴゴは肯定と取った。
何者であろうと、目指す先が同じであるならば。
ゴゴが選ぶ言葉はやはりこれだ。
「手を貸してくれ」
音もなく現れた狼が途方もない力を秘めているのは見てわかる。
だが決して足を踏み出そうとはしない。
あるいは魔王に干渉されているのか、動けない理由でもあるのか。
「お願い、狼さん! ちょこ、おにーさんをおうちに帰してあげたいの!」
ちょこが狼の首を掴み、ガクガクと揺らす。
だがその言葉に嘘の成分は一欠片もない。
「俺はこれ以上友を失いたくはない。だから、頼む」
ゴゴは、かつて感じたことがないほどの渇望を吐き出す。
トッシュを目前で失った衝撃は、自分で思っている以上にゴゴという人間の根幹に影響を与えているらしい。
748
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:36:26 ID:NGITva2Q0
――幼く、それがゆえに透き通った心地よき欲望……いいだろう。俺を、アシュレーの元へ連れて行け!
突然頭に響いた声に、ちょこと二人して辺りを見回す。
だが当然誰もいない。
「あっ!」
いや、変化はあった。
狼が消えて、代わりに一振りの剣が突き立っている。
アシュレーがトッシュへ託した、あの約束の剣だ。
「そうか、お前がアシュレーの言っていた……いいだろう、やってみせるさ。見ていろ、トッシュ……ッ!」
連れて行けと言っている。
記憶の中で、あの赤毛の剣士が友を救えと吠え立てているッ!
魔狼ルシエドが剣、魔剣ルシエドを引き抜いた。
その柄から伝わる熱はトッシュが残したものと、今のゴゴなら信じられる。
刃から伝わる力は強大だ。これならなるほどあの魔神にすら届き得るだろう。
「行こう、おに……おじ? あれ? ちょこ、あなたのことなんて呼べばいいの?」
「む……」
ちょこに問われ、ゴゴは考える。
ゴゴの種族性別個人情報はトップシークレットだ。
それに、自分で応えるのでは芸がない。
「あいつ……シャドウを何と呼んでいたんだ?」
「えっと、おじさん、って」
「なら、俺もそれでいい」
「ゴゴおじさん……わかったのッ!」
ちょこは力いっぱい返事をしてさあ駆け出そうとし、ゴゴはそれを制止した。
走って行ったのでは間に合わない。
ちょこが飛べるのだとしてもまだ無理だ。
そもそも満身創痍の二人が行ったところで何ができるわけもなく。
だから。
ゴゴとちょこがするべきは、アシュレーの下へ馳せ参じることではない。
749
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:47:18 ID:NGITva2Q0
「ちょこ……俺を、空へ!」
大きく助走を取り、ゴゴは猛然と走り出す。
その手にしっかと友から託された魔剣を握り締めて。
「わかったの! 行くよ、ゴゴおじさんッ!」
時間が無いのは百も承知。
だからどうして、などとは聞かない。
ちょこはただ言われた通りに、ゴゴの望む通りに力を振り絞る。
魔力を風へと変換、凝縮、そして解放。
「――――飛んでけぇぇぇぇぇぇえええええええッ!」
ちょこの足元から風が――嵐が巻き起こる。
ちょこの視線の先、ゴゴが跳んだ。
ジャンプシューズで増幅された跳躍を――ゴゴは知らない。その靴は、アシュレーの友の物――ちょこの魔法が下から一気に押し上げる。
天へ昇る塔――風の階段は、物真似師を遥か高みへと連れて行ってくれる。
「……見えたッ!」
遮るもののない空の中で、ゴゴは、ゴゴの持つ感応石は、アシュレーの心の在り処を寸分違わず感じ取った。
準備は整った。
目的地もすぐそこだ。
未来を斬り拓く力は今、この手の中にある。
後は、そう――物真似を、するだけだ!
750
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:51:03 ID:NGITva2Q0
「シィィィィィイイイイイイイ……」
あいつのように――雄叫びを上げ、
震える喉が、一層の気合を呼び起こす。
あいつのように――身体を引き絞り、
ぎしぎしと骨が鳴り、手にした刃に極限の遠心力を注ぎ込む。
あいつのように――イメージを練り上げて、
八竜だろうと闘神だろうと貫き通す無敵の投法、その始終をずっと傍で見てきた。
ゆえに、この一投こそは必殺必中ッ!
地平線の彼方にだって届くのだと確信しているッ!
――――――――――――――今だ、放て!
「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
幻聴かもしれない。だがどうでもいい。
聞こえてきた声に従い、ゴゴは渾身の物真似を完遂した。
人体の限界を超えた跳躍。
雲すら吹き散らす嵐。
鍛え抜かれた技術。
三位一体となり打ち出された砲弾――魔剣ルシエドは。
風を超え、音を超え、光を超えて。
寸分の狂い無く。
魔神の右腕を斬り落とすことに、成功した。
751
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:55:00 ID:NGITva2Q0
落ちゆくゴゴは懐から感応石を取り出した。
か細い、だがハッキリと高鳴る友の鼓動が伝わってくる。
『どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!』
結果がどうなったかなど目を閉じていてもわかる。
カノンとシャドウの力を借りて、ちょこが支え、ゴゴが送り出したトッシュの剣なのだ。
アシュレーに届かなかったはずが無い。
『いっしょに……戦っているんだッ……!』
友の声に力が戻る。
そうとも、共に戦っているさ。
伝わっただろう? 俺達の想いが。
『そうだろ……ゴゴッ!!』
「当然だ」
ゴゴは腕を組んで悠然と返答する。
近づいてくる大地の上に、両手をぶんぶんと振るちょこの姿が見て取れる。
物真似師は微笑み、そして、
――あいつを助けてやってくれ、友よ。
ルシエドと共に往ったもう一人の大切な仲間へと、願いを込めた。
752
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 19:57:04 ID:NGITva2Q0
◆
「ニンゲン風情が……どこまで図に乗るというのだ……ッ!」
「その人間が、繋ぎ束ねたこの力にッ! お前は今度も、何度でも敗れ去るんだッ!!」
右――清廉な光満ちる果てしなき蒼。
左――欲望を糧に尽きぬ力与える魔剣ルシエド。
剣の双翼を広げるは、立ち上がった蒼き剣の英雄。
「おおおおッ……おおおおおあああああああああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」
滾る想いを双剣に込め、アシュレーは飛翔する。
光輪はいまやドラゴンの推進器にすら匹敵すすらスター。アシュレーの求めに従い光の速度を叩き出す。
その力を最も強く炸裂させられる方法が、アシュレーの脳裏に浮かぶ。
描くは必勝への軌跡――、
「――――アークインパルスだッ!!」
一閃、振り下ろした果てしなき蒼が空を裂く。
二閃、薙ぎ払った魔剣ルシエドが大地を揺らす。
二刀が示す破邪の十字。
閃光の軌跡が交わるところ――すなわちロードブレイザーの存在点ッ!
「ぐ……あ、あああああああッ!!」
生み出した炎剣は一瞬で砕かれた。
翅の守りは紙ほどの抵抗も無く斬り裂かれた。
焔の壁は展開と同時に吹き散らされた。
「まだ……まだだッ、アシュレェェェェッッ!!」
それでもなお、魔神は膝を屈さない。
再生が完了したばかりの腕を突き出して、二度と再生ができないことすら覚悟して焔を凝縮させ、剣の侵攻を食い止めた。
753
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:01:39 ID:NGITva2Q0
ナイトフェンサーでは砕かれる。
ガンブレイズでは気休めにもならない。
バニシングバスターでは押し切られるのが関の山。
ファイナルバースト、ヴァーミリオンディザスター、ネガティブフレア――何もかも足りない!
ならば、
ならばこのロードブレイザーの持てる最大最高最強の火力で以て迎え撃つのみ!
「ファイナル……ッ!」
全身の装甲を開閉――否、内側からこじ開ける。
十、二十――百、二百――千の砲塔。
「……ヴァーミリオン……ッッ!!」
そこに自身の存在すらも揺らぐほどの力を充填する。
『この後』など考えていられない。
今この瞬間こそが、ロードブレイザーという存在の滅亡の危機なのだから。
アシュレーもまた全霊を込めた一撃を放っている。
ならばそれを凌いだときこそが、このロードブレイザーの勝利の瞬間に他ならないッ!
だから、
だからこその、
真っ向勝負ッ!
「…………フレアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!」
一兆度にすら達しようかという、焔と形容するのも理不尽な力の奔流が放たれた。
世界を七度滅ぼすに足る、破壊神の吐息。
迎え撃つアシュレーの二刀が再度の、最期の輝きを見せる。
搾り出すのは剣の燃料である魔力、欲望。そして担い手であるアシュレーの生命そのもの。
手を伸ばせば届く距離で、破邪の双剣と破滅の咆哮が激突する。
ロードブレイザーの渾身の砲撃は、アシュレーの振るう二刀に正面からぶつかってきた。
754
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:03:32 ID:NGITva2Q0
「……ロードブレイザー」
その、万物を消滅せしめる絶対破壊圏の只中で。
「確かにお前の言う通り、たった一人の悪意が世界を滅ぼすことがあるのかもしれない」
剣の英雄はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「でも、それを黙って見ているほど、僕らは、世界は弱くはないよ」
優しささえ感じさせる、ひどく穏やかな声音で。
「世界の破滅を止める力はいつだってそこにある。生きている、生きようとする、一つ一つの命の中に……」
焔を斬り裂き続ける果てしなき蒼に、亀裂が走った。
「……きっと、僕らは勝つよ。何度でも……」
魔剣ルシエドが、半ばから折れ飛んだ。
「だから……」
ここまで付き合ってくれた魔剣から手を離し、蒼剣の柄へと両手を添えて。
「だから」
押し込まれた蒼い魔剣は、魔神の核へと到達した。
「だから僕らは、お前を倒して明日へ行くんだ……!」
魔神の核を貫くと同時、果てしなき蒼が砕け散った。
背の光輪が閉じ、蒼き剣の勇者はただの人間へと回帰する。
755
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:04:39 ID:NGITva2Q0
アシュレーは倒れ伏す。
その髪は純白ではない、短く刈り込まれた彼本来の青い髪。
ロードブレイザーは立ち尽くす。
壊死した砲塔がぼろぼろと崩れ落ち、酷使した右腕が地に落ち瞬時に燃え尽きた。
立っているのはロードブレイザー。
すなわちそれは、
「私の……勝ちだ……アシュレー……ッ!」
勝者と敗者の、ありのままの姿だった。
「一歩……届かな……かった、な」
ゆらり、ロードブレイザーが残る左腕に焔をかき集めていく。
それは災厄と呼ばれた時代からすれば見る影も無く弱く儚い焔だが、英雄でも勇者でもない人間を跡形無く葬り去るには十二分の熱量だ。
それを見てもアシュレーは動かない、動けない。
もはや力を全て出し尽くし、一片の余力も残ってはいない。
「これで……」
振り上げた掌を――
「……貴様ぁ……!!」
だが、ロードブレイザーを押し留める影がある。
剣を折られ、胴体半ばから断ち割られた魔狼だ。
主の危機を察し、剣化を解いて喰らいついている。
「悪足掻きを……貴様の主はもう欲望を吐き出すことも無いのだぞッ!」
その、ロードブレイザーの言霊に……反応するように。
アシュレーは震える腕を懸命に伸ばす。
掴み取る……何を?
自分でもわからない。果てしなき蒼は砕かれ、ルシエドもまた傷ついた。
甚大な傷を受けたマディンは遠からず消え去るだろう。
ならばもう、本当に打つ手が無いではないか。
756
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:06:42 ID:NGITva2Q0
――諦めないで――
そのとき、ささやきが聞こえた。
知らない、でも懐かしい声……その声に力をもらって、アシュレーの指先が前進し、触れる。
ゴゴが託し、ルシエドが携えてきた最後の希望。
ティナ・ブランフォードが変化した、幻獣の魔石に。
――あなたの帰りを待っている人がいる――
待っている……僕を?
そうだ、僕は帰らなきゃ……。
子供が待ってる……男の子と女の子の双子が。
大切な人たちから名前をもらった、大切な宝物……。
そして、その子達を抱く、あの……。
「……マリ……ナ……!」
いつだってアシュレーの帰りを待ってくれていた。
優しく微笑んで、こう言ってくれた。
おかえりなさい、と。
そして僕はこう応えるんだ。
ただいま、マリナ。
でも……参ったな。
ここで眠ってしまったら、マリナにただいまと言えなくなってしまう。
それは困る。
世界の危機より、何よりも。
マリナのいるところこそ、アシュレーが求め、守りたいと願った……帰るべき場所なのだから。
757
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:10:12 ID:NGITva2Q0
ゆえに。
「だから……だからッ! こんなところで、死んでいる場合じゃないんだ……!」
立ち上がる。
何度だって立ち上がることができる。
日常に帰りたいというアシュレーの欲望は、決して果てることは無いのだから。
「……つくづく、お前には驚かされる……」
呆れたようなロードブレイザーの声。
もう眼が見えない。
もしかしたら、右腕も落ちているのかもしれない。感覚が無い。
「だが、もはや私に届く剣はない。諦めろ……穏やかに死なせてやることが、私からの手向けなのだ」
魔神が何か言っている。だが理解できない。耳に血が詰まっているからだろう。
ゆっくり……亀の歩みよりも遅く、アシュレーはその方向へと足を投げ出し続ける。
握り締めた魔石が温かな力をくれる。闇の中でも迷わずに歩く標となる。
「もはや言葉も解さんか……そんなお前は、見るに耐えん。燃え尽きるがいい」
攻撃が来る。ささやきに従い、掌中の石を魔神へと掲げた。
優しい光が壁となってアシュレーを守る。
殺到した焔は刹那に霧散し、彼の歩みを一瞬たりとも止められなかった。
「……待て、アシュレー。来るな……そこで止まれッ!」
続けて何度も解放される炎弾は、すべてティナの魔石が放つ光波によって防がれた。
アシュレーは知る由もないが、懐にあるマディンの魔石が娘の魔力に共鳴し、力を高めていた。
衝撃で尻餅をつく。だが、顔を砂で汚し、血を吐いてなお、アシュレーは前進を止めない。
唯一感覚の残る左腕を地に突き立て、殴りつける。
無様だろうと何だろうと構いはしない。こうして立ち上がれるのなら。
「なぜ……なぜ死なない! なぜ立ち上がる!? どこからそんな力が沸き上がってくるというのだ!?」
わかりきったことを聞くな、と唇を歪めた。
言ったのはお前だ。僕らの絆とルカの妄執と、どちらが強いのかって。
お前が今、僕を恐れているのなら……それは、つまり。
「僕らの、勝ちって……いうこと、だろう」
758
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:14:53 ID:NGITva2Q0
そして、全ての攻撃を封じられたロードブレイザーの前に、アシュレーは辿り着いた。
最後に残った唯一つの武器、バヨネットをその手に携えた、ただの人間が。
バヨネットの魔道ユニットを開き、ティナの魔石をセットする。
あの爬虫類(?)、さすがは天才と自称するだけのことはある。
撃墜王謹製のバヨネットには、持ち主がこんな状態になっているのに不調のふの字も見出せない。
今だけは素直に感謝しようと想った。
魔石から供給される魔力が銃身を、アシュレーの体内を駆け巡る。
これなら放てる――あの技を。
「さよなら、ロードブレイザー」
「止めろッ……止めてくれ、アシュレーッ!!」
ロードブレイザーの核、そこには果てしなき蒼が穿った亀裂がある。
今のアシュレーにはその空隙が、仲間達――アティ、ティナ、トッシュ、ゴゴ、ちょこ、そしてシャドウが開いてくれた、未来への扉に見える。
バヨネットの剣先を、僅かな隙間に潜り込ませた。
――フルフラット・アルテマウェポン。
言葉にならない小さな呟き。
弾倉内に魔石から伝えられた究極魔法、アルテマを装填……完了。
ゼロ距離。全弾、発射――炸裂。
爆発は少量――その大半を、ロードブレイザーの内的宇宙へと送り込んのだから。
概念存在であるロードブレイザーも傷つけ得る、たった一つの魔法。
その暴虐は、不死身の魔神をして、その存在意味を根こそぎ塗り潰していく。
「がああああ…………ぎっぎぎぐぐぐ、がが……がああああ、あああああああああ……ッッッ!
消え……る……私、が……燃えて……アシュレ……滅びると……認めん……英雄……貴様が……アシュレェェッ……!」
やがてロードブレイザーの核が砕け散り、後を追うように形を保っていた身体も灰に――否、炎に変わり融けていく。
バヨネットを引き抜いたアシュレーは、これでようやく終わったのだと、静寂を取り戻した夜空を見上げて。
759
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:17:23 ID:NGITva2Q0
「アシュレー・ウィンチェスタアアアアァァァァッ! 貴様だけはぁ――――――――――――――ッ!!!」
その、彼の安堵した隙を、消え逝く魔神は見逃さなかった。
炎と化していく腕を懸命に伸ばし、突き出された鋭利な爪は――アシュレーの心臓を、真っ直ぐに貫いた。
直後、ロードブレイザーが、完全に……消滅する。
それを見送ったアシュレーはゆっくりと砂漠に腰を下ろし、仰向けになって星を見る。
不思議と痛みは無い。いや――心臓を砕かれる前に、既に死んでいたのだろう。
だからひどく穏やかな気持ちで、アシュレーはその結末を受け入れていた。
「ああ……きれいだ、な……」
感応石が何事かがなりたてているが、何を言っているのかがもう理解できない。
そして思い出したのは、かつてこの感応石をプレゼントしたときのことだ。
あのときもそう、笑って彼女は――。
「……ごめん、マリナ……もう、ただいまって……言え……な……」
星へ向かって伸ばした指は、何を掴むこともない。
魔神を討ち果たした人間の命の灯は、この瞬間に、消え失せた。
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
【残り17人】
760
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:18:43 ID:NGITva2Q0
その決着が着いた頃。
ゴゴもまた、行動を開始していた。
トッシュと別れ、力を出し尽くし立っていることすら困難になったちょこを背負い、ゆっくりと砂漠を進む。
「おにーさん、大丈夫かなぁ……?」
「心配はいらん。あいつは勝つさ」
正直に言えば、ゴゴも疲労の限界にあった。
加えてアシュレーの無事を確かめることばかり考えていたため、ちょこの物真似をすることすら無意識のうちに忘れてしまっていた。
「うん!ちょこ、おじさんを信じるの!」
元気よくちょこは言うが、直後盛大に響いた空腹を示す腹の音に小さく赤面した。
ちょこを背負ったまま、ゴゴは片手で器用にバッグを探り目当てのものを取り出し渡す。
「これを食べるといい。アシュレーが作ったものだ」
「わぁ、おいしそうなの!」
渡された焼きそばパンを、ちょこは猛然と胃に収めていく。
ゴゴもまた一つ、かじる。
優しい味が広がる。疲れた身体に少しだけ力が戻ってきた。
これを前に食べたときは、隣にトッシュがいた。今はもういない。
それを寂しいとは思う。だが今この瞬間は、背中にいるちょこの軽い重さが忘れさせてくれる。
「う〜、もっと食べたいの……」
ちょこは三つの焼きそばパンをぺろりと平らげた。
材料さえあればゴゴが作ってやることもできる。アシュレーの調理の物真似をすればいい。
(しかし……それは何か、違う気がする)
この焼きそばパンはアシュレーが作ったからこの温かさがあるのだろう。
同じ材料、同じ作り方、同じ味であっても、決してアシュレーが作るものと同一ではないのだ。
「また、あいつに作ってもらえばいい」
「うん! ちょこ、おてつだいするの!」
ちょこは微塵もアシュレーの死を疑ってなどいない。
ずきり、と心が痛むのを感じる。
懐にある感応石は、少し前から何の反応も示さなくなっていた。
ゴゴはそれが何を意味するのかを努めて考えず、ひたすらに足を投げ出し続ける。
夜の砂漠に、砂を踏む音と少女の賑やかな声だけが響いていた。
761
:
◆y.yMC4iQWE
:2010/10/13(水) 20:19:32 ID:NGITva2Q0
【G-3 砂漠 一日目 深夜】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×3、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3、天罰の杖@DQ4
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:ちょことともにアシュレーを迎えにいく
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※トッシュの遺品はゴゴが回収しました。
※ルカの所持品は全て焼失しました
※トカの所持品はスカイアーマーの墜落、爆散に巻き込まれて灰になりました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2、加えてE-3〜A-3の施設、大地は焼失し、海で埋まってます
海はロードブレイザーがアシュレーと切り離された時点で鎮火しました
※F-3から東のラインの地表より上部全てが焼き払われました。
762
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:34:46 ID:uvoOcX2w0
本スレは規制されているのでこちらに投下します。
763
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:35:46 ID:uvoOcX2w0
ふらつきながらも立ち上がった少年。
それに気づいたジョウイが彼に駆け寄り、倒れそうになったその肩を慌てて支える。
疲弊したサイキッカーを労わって……というのも、ないわけではない。
だが、ジョウイのこの行動は、やはり打算に基づいたものだ。
アキラが今の今までユーリルに対して行っていたマインド・リーディングの結果を、彼は一刻も早く知りたかったのだ。
勇者だったはずの少年に何が起こったのか。
なぜ彼はアナスタシアを殺そうとしていたのか。
彼女はいかなる方法で、英雄をここまで破壊したのか。
それらのことは、同じく英雄にならんとしているジョウイにとっては知らなくてはならない真実だ。
だから彼は、アキラがユーリルの心の中で入手した情報を、彼が気絶してしまわないうちに聞き出そうとしていた。
しかし、アキラはジョウイに寄りかかることなく。
差し出されたその手を振りほどいて、歩き出す。
おぼつかない足取りで、静かに眠るアナスタアシアへと歩み寄った。
「アキラ……?」
「何か、書く、もん……ある……か?」
アキラの突然の要求に、ジョウイは怪訝な顔を見せるほかない。
同じく不思議そうな表情をしたイスラが、参加者全員に支給されていた筆記具を投げてよこす。
心身ともに限界を迎えようとしていたアキラは、受けとり損なって地面に転がってしまった筆記具をゆっくりと拾った。
そのまま眠る少女のもとへフラフラと進み、その頭の傍にかがみ込む。
彼女の整った顔にかかっている艶やかな青い髪をかき上げると、その顔に筆記具を走らせた。
震える手で何事かを書き込んだ後……。
「……へっ…………。ざまぁ、み、や……が、れ……」
アキラは息を切らしながら一度だけ満足げに笑い。
直後、意識を失って、静かに倒れた。
何事かと駆け寄ったジョウイとイスラが、相も変わらず寝息を立てているアナスタシアの顔を覗き込む。
「なんだ……これは……?」
ジョウイがわけが分からないと言った風で、片眉を上げる。
それは、呪いなのか。
あるいは何かの紋章なのであろうか。
それとも、自分たちの知らない、新たな概念か。
二人の少年は、少女に印された字がもつ意味を考えた。
だが、彼らが真実にたどり着くことは決してありえない。
まさか、少年たちは思いつきもしなかっただろう。
実はその文字の正体は、アキラがいた世界で流行っていた……ただの……。
764
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:37:32 ID:uvoOcX2w0
「……僕が知るわけないだろ?」
イスラが観念したように両手を掲げる。
気絶した少女の額には、汚い筆跡で『肉』の一文字が刻まれていた。
【C-7橋の近く 一日目 真夜中】
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
765
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:39:04 ID:uvoOcX2w0
◆ ◆ ◆
「こりゃまた……」
アキラがユーリルの心象世界に降り立った瞬間、彼の足裏にはジクジクと鈍い痛みが走る。
眉をしかめながら足元を見ると、立つべき地面がすべてイバラで作られていたではないか。
「勇者の道、か」
その声に、思わずため息が混ざる。
天を仰げば暗雲が支配する空。
どこか遠くからは雷鳴が響く。
遥か彼方には微かに光るぼやけた希望が。
そして、足元には……イバラの道。
この世界は、ユーリルの歩んできた『勇者』という生き様をそっくりそのまま反映しているのだろう。
すべてを犠牲にして戦ってきた、その人生の在り方を。
「そりゃあ投げ出したくもなっちまうよな」
この空間にたどり着く前、つまりユーリルの心にダイブした瞬間のこと。
アキラは、ある映像を覗き見てしまう。
それは、勇者だった少年の脳内で何度も何度も再生されてきた忌まわしい記憶だった。
うす暗い部屋で、妖艶に微笑むアナスタシア。
彼女のひざの上では、赤毛の少女がスヤスヤと眠っていた。
緩やかな曲線を描く唇が穏やかに語りだす、ファルガイアの神話。
その締めくくりに勇者に投げかけられた疑問。
そして生まれた、殺意。
ユーリルに降りかかった事の顛末を、アキラは断片的にだが知ることとなった。
「あの女の言いたいことは分かったよ」
サイキッカーは、トゲだらけの道の途中でうずくまる少年に語りかけた。
災難に見舞われた彼への、多少なりともの同情を感じながら。
「…………」
このいびつな世界の持ち主が、ゆっくりと顔をあげた。
焦点のあわないその瞳が、訪問者の少年を音もなく拒絶する。
しかし、アキラは臆することもなく言葉を続けた。
「確かに、お前はイケニエだ」
まるでトドメを刺すかのように冷たく、少年は聖女に同意する。
口元に含ませた笑みすらも、聖女のソレの完璧な再現だった。
弱りきっていたユーリルの目が吊り上がり、アキラに対する怒りを表す。
ガラスの割れるような音と共に、何度目かの遠雷が落ちた。
「やりたくもねぇ勇者なんかやらされてよ。
大事なモンも全部犠牲にして……。
他のやつらといやぁ、お前に縋りつくだけだ」
「だったら……ッ!」
かつてアナスタシアに突きつけられた地獄。
その再来に耐え切れなくなったユーリルが、怒りをこめて口を開く。
唇端から滴りおちた血液
が、大地のトゲをわずかに赤黒く染めた。
766
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:39:51 ID:uvoOcX2w0
「だったらどうすればよかったんだよッ!
英雄が生贄なら、あの女の言うとおりなら……」
「ふざけんじゃねぇよ」
堰を切ってあふれ出した感情のままに、ユーリルが矢継ぎ早に言葉を連ねる。
アキラは悲鳴のようなソレを遮って、「はッ」と馬鹿にしたように笑った。
憤怒のボルテージをさらに引き上げ、勇者は目を血走らせる。
しかし、彼を見下したアキラもまた、静かな怒りの火を心に灯していた。
「俺は『お前はイケニエだ』とは言ったさ。
だがな、『英雄はイケニエだ』とは一言も言ってねーぜ」
アキラの目がギラギラと鋭く尖る。
直後、彼を中心として、その足元に炎の渦が巻き起こった。
少年を守るように生まれ出でた火炎は、大地に広がる毒々しい植物を焼き払い、消し炭と化して空へと舞い上げる。
そのまますべてを焼き殺すと思われたが、炎はものの数秒で鎮火した。
結果として、アキラの立っている付近のイバラだけが燃え尽きる。
彼は、直径一メートルほどの焼け野原に立っていた。
「……?」
「わかんねーか?」
ユーリルには、アキラが何をしたのかも、何を言っているのすらも理解できない。
その頭上を巡り続ける疑問符をまったく解決できないでいる。
そんな彼に、サイキッカーは躊躇いもなく決定打を放った。
「お前は英雄じゃねぇっつったんだよ」
「…………ッ!」
直球で放たれた暴言に、ユーリルの怒髪が天を衝き。
言葉にならない咆哮が、巨大な稲妻をアキラに落とす。
しかし、落雷は少年を避けるように捻じ曲がり、イバラの一部を黒く焦がすだけ。
サイキッカーは涼しい顔で。
それでいて、その心は相も変わらず燃え盛っていた。
「ついでに言やぁ、あの女が言ってた『剣の聖女』とかいうのもな」
「なッ…………?」
何もかもを否定するような。
そのアキラの口ぶりに、ユーリルは呆気にとられる。
胸中を支配していたはずの憎悪すらも置き去りにして。
「ヒーローってのはな……そんなんじゃねえ」
アキラが遠い空で微かに輝く光を睨む。
思い返すのは、小さなころに見た特撮ヒーローのこと。
孤児院で子供たちと見た、名前も忘れたプロレスラーのこと。
湖に眠った機械仕掛けの女のこと。
そして父親を殺した男のこと。
「あいつらはな、ブッ壊れてんだよ……」
自身が憧れたものたちの生き様を脳裏に甦らせ、アキラはかつての高揚感を再燃せしめる。
彼らの暴力的ともとれる異常な信念に、少年の目は曇天を照らすほどに輝いた。
「使命も犠牲も人類も関係ない。
やつらはただテメーが救いたいモンを救えりゃ満足なのさ。
他のヤツらの態度を見て、身勝手だなんだと抜かしてるお前らは……ヒーローじゃねぇッ!
それは、ただのイケニエだ……!」
「…………」
アキラが見てきた英雄は、自分の命を顧みようとはしなかった。
他人の顔色を伺うものなど、ただの一人もいなかった。
感謝の一つも求めようとはしなかった。
彼らにとって、人を助けるということは『趣味』と呼べるレベルのものでしかないのかも知れない。
767
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:40:47 ID:uvoOcX2w0
「そんなになるほど辛かったなら、勇者なんてやめちまえばよかったんだ」
「じゃあ……」
我に返ったユーリルが、その心に怒りを呼び戻して立ち上がる。
アキラのあまりの理不尽な理屈に、意義を申し立てるために。
その姿は、勇者とは思えないほど頼りなく。
衰弱しきった人間とは到底思えないほど、凛々しかった。
「じゃあ、世界を見捨てて逃げ出せばよかったのかよッ!?」
喉を裂いてまで発したその叫びは、目の前の少年に向けてだけ発せられたものではない。
彼を勇者に祭り上げたものたち。
彼に頼るばかりで、何もしなかった人々。
そして彼を勇者から引きずりおろしたアナスタシア。
そのすべてに対して、彼の悲鳴は響いていた。
「助けたい人だけ助けて、残りの人たちの悲鳴は聞き流して……それでよかったのかッ!?」
「それでいいじゃねぇか。何がいけないんだ?」
アキラが当然だと言わんばかりに胸を張る。
彼の自信はその声にもハッキリと現れていた。
ユーリルの鼓膜から伝わった振動が、全身を戦慄かせる。
「なッ……! じゃあ、救われない人たちはどうする?
世界はどうなるッ?!」
「知るかよ」
陰鬱としたユーリルの世界を切り裂くように。
少年は正論をキッパリと切って捨てた。
「助けたくないなら仕方ねぇだろ。ヒーローのいねえ世界は滅ぶしかないんじゃねぇの?」
アキラの言う『ぶっ壊れた者』。
それは、見返りも感謝も求めずに、ただひたすらに救うもの。
身勝手な弱者に怒りを覚えることもなく。孤独な戦場へも振り返らずに歩みだす。
他の何を捨て去っても、大切なものだけは取りこぼさないもの。
それを『ヒーロー』と、彼は呼ぶ。
ブリキ大王は人類を、世界を救った。
しかし、それは『ついで』だ。
少年を、信念を、ひとりの女を、その女が愛した子供たちを。
ある男が、それらを救った、その副産物として……人知れず世界は救われたのだ。
「そんな……そんなの……」
ユーリルの体が震える。
それは、アキラに気圧されたからではない。
彼の世界が揺れる。
サイキッカーの提示した可能性を殺すために。
「じゃあ聞くが、お前は『誰の』英雄になりたかったんだよ。
世界の端っこにいる人間の生き死にまで、ぜーんぶテメーの力でどうにかするつもりだったのか?」
「…………」
アキラが見てきた英雄たちにとって、「世界を救う」ことは手段であって目的ではない。
自分が守りたい『誰か』にとっての英雄になることができれば、それでいいのだ。
もちろん、その大切な『誰か』を救うために必要ならば、彼らは喜んで世界を救うだろう。
しかし、その者たちにとって大事なことは、あくまでも『守る』こと。
だからイケニエも糞もない。
彼らは自らの欲望のまま、好き勝手に救っているのだから。
自分のやりたいように、生きて、死んでいるのだ。
768
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:41:26 ID:uvoOcX2w0
「俺は、松の代わりに……あいつが守ったやつらのヒーローになりてぇ。
そのためにオディオをぶっ飛ばして、自分の世界に返らなくちゃならねぇんだ」
アキラが言う『松』という人物のことを、ユーリルは知らない。
その代わりに、彼はある一人の人物の姿を強く思い出していた。
それは、この殺し合いで、一番最初に出会った少年。
無口ながら、熱い心を胸に秘めた男。
彼は、普通の人間だった。
勇者の血統も、悲劇の過去も一切持ち合わせてはいない。
それなのに、彼は世界を救ってみせた。
他の誰に導かれるでもなく。
たったひとつ……自分の意思で。
「もう一度聞くぞ、お前は誰のヒーローなんだ?」
ユーリルは、ぐうの音も出せない。
アキラの質問に対する答えが見当たらない。
彼は、誰の英雄でもなかったから。
ただ、提示された使命に導かれるままに世界を救った。
本当に大切な人は、勇者になる前に既に殺されていて。
その人たちとの思い出も、今となっては仮初で。
彼には、誰もいなかった。
「お前がイケニエになるのはお前の自由だ。勝手にしやがれ。
だがな、俺の邪魔をすんなら」
アキラが、用は済んだと言わんばかりに踵を返す。
来た道をテクテクと歩き出した。
ユーリルは、その背中をただ呆然と見つめている。
「あの背中を否定すんなら」
数歩進んでから、ふと立ち止まったアキラ。
振り返ることなく、立ちすくんでいる生贄に呼びかける。
「お前を叩きのめしてでも、俺は前へ進んでやる」
静かに放たれた宣言は、ユーリルに対する警告のようでもあり。
まるで、自分自身への誓いの言葉のようでもあった。
一度だけ大きく深呼吸してから、アキラはまた再び歩き出す。
「なんなんだよ、アナスタシアもお前も……」
去り行く少年に向けて、ユーリルが吐き出した言葉は反論でもなく。
どうしようもない、やり場のない怒りは、表しきれるものではなく。
クロノに対して感じてしまった確かな憧れは、誤魔化しようもなく。
「なんなんだよォッ!」
ただ、無性に気に食わなかった。
アキラのことが不愉快で仕方がない。
彼に何一つ反論できなかったことが、とてつもなく悔しかった。
こんなとき、クロノならどうするのだろうか。
彼は誰の英雄だったのだろうか。
ユーリルは、喉をズタズタに引き裂きながら、そんなことが気になっていた。
769
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:41:56 ID:uvoOcX2w0
【C-7橋の近く 一日目 真夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:アキラが気に食わない。
3:クロノならどうする……?
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
◆ ◆ ◆
『エイユウッテナニ?』
アナスタシアが、うるさい。
ユーリルの心理世界からの帰り道にて。アキラはうんざりしていた。
彼の表層心理は、この少女の声に支配されている。
この空間では、同じ疑問が延々と鳴り響いていたのだ。
「俺が知るかっての」
アキラが小さく毒づく。
ユーリルには、好き勝手なことを言ってきた。
だが、本当のところは、彼自身にもソレが正しいのかどうかは分からない。
アキラだって、まだ誰の英雄にもなれてはいないのだから。
無法松にも、アイシャにも、ミネアにも守られてしまった。
ただ英雄の背中に隠れるばかりで、彼自身は誰のヒーローにもなれないでいる。
ユーリルには、「立ちはだかるなら叩きのめす」などと啖呵を切ったものの……。
……彼の実力では、あの勇者には到底敵うはずもない。
つまるところ、少年には課題が山積していたのだった。
「松……アンタいったい、どこで何をしてんだ?」
しかし、それでも彼には希望があった。
この島で、生きているだろう男であり、アキラが今度こそ救いたい人物だ。
ユーリルと対話をしていく中で、彼はある決心をした。
今度は自分が、無法松の英雄になろうと。
そして、自分の世界に戻って、彼がしたように子供たちを守ると。
それが、今の彼の支えであり。
今まで散々守られ続けた少年が掲げる目標だ。
その思いを胸に、彼はひたすら進む。
770
:
アキラ、『光』を睨む
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:42:28 ID:uvoOcX2w0
決心した矢先に、無法松が再び殺されてしまうことになるなどとは……彼は考えもしなかった。
『ドウイウソンザイナノ?』
「うるせーっての」
文句を言っても、不愉快な声は止まず。
ただイライラだけが募っていく。
もともと、アナスタシアのことは好きではなかった。
そしてユーリルの心にアクセスしたせいで、彼女に対する感情はすっかり嫌悪感へと変じてしまう。
目覚めたら、倒れてしまう前に、なんとかしてアナスタシアに一泡吹かせてやろう。
そう誓って、アキラはユーリルの心を後にした。
【C-7橋の近く 一日目 真夜中】
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:気絶中
2:無法松の英雄になる。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※無法松死亡よりも前です。
よって松のメッセージが届くとすれば、この後になります。
771
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/11/10(水) 22:43:13 ID:uvoOcX2w0
以上、投下終了です。
代理投下してくださってる方、ありがとうございます。
772
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/11(土) 12:34:37 ID:cPsyFRUk0
地上で繰り広げられた戦闘の終焉を待っていたかのように、分厚く濃厚だった雨雲が晴れていく。
こびりついて消えない汚れに満ちた大地を押し流すかのような豪雨の気配が、天空には欠片も存在しなくなっていた。
代わりに空を支配しているのは、青白い満月と数え切れない星の瞬きだ。
夜天の王と兵の群れが見下ろす世界――たった一つの、箱庭めいた島には、夜に相応しい静けさが落ちている。
まるで、好き勝手に喚き散らした後に、泣き疲れて寝息を立てる子どものようだった。
そう、少し前まで。
ほんの少し前まで、その島には狂乱めいた騒乱で溢れかえっていた。
無数の感情がせめぎ合い意志がぶつかり合い想いが交錯した。
その果てに、離別があり喪失があり過ぎた。
希望や喜びや活力を覆い隠し押し潰してしまいそうなほどに、絶望や悲嘆や辛苦が多すぎた。
そのせいだろう。
世界が、疲れ切って眠っているかのように見えるのは。
世界が、全身に負った傷を癒そうとしているかのように感じられるのは。
世界が、ささくれ立った気持ちを整理したいと望んでいるかのように思えるのは。
月が、傷ついた世界を慈しむように、たおやかな光を投げかけている。
星たちが、疲弊した世界を慰めるように、絶えず瞬きを繰り返している。
だが。
この箱庭に人々を集めた王は、そのような平穏は与えない。
憎しみに塗れた魔王が、そのような慈悲を容認するはずがない。
まだ騒乱に参加すべき者がいるのだから。
「――時間だ」
大気が震え、無慈悲な声が響く。
「もはや前口上などいるまい。しかと耳に焼き付けよ」
粗野でもなく荒々しくもなく高圧的でもなく、乱暴さとはかけ離れた声音だ。
それでも、その声は苛烈なほどの存在感と、竦み上がる様な威圧感に満ちていた。
「まずは禁止エリアを発表する。
1:00よりA-04、H-07、
3:00よりC-08、E-10、
5:00よりE-04、I-03、
以上だ」
まるで声色そのものに力が宿っているようだった。
それも月明かりを陰らせ星の瞬きを止めてしまいそうなほどの、人智を超えた力が、だ。
そんな空恐ろしい声は、聴き手に現実を叩きつけるべく、続ける。
「では、死者の名を告げよう。
リンディス
シャドウ
ブラッド・エヴァンス
ロザリー
トッシュ・ヴァイア・モンジ
トカ
ルカ・ブライト
無法松
――以上、八名が朽ち果てた者たちだ」
夜の暗さが一層深く濃密なったような錯覚に陥る。
響き渡る声以外に、物音は聞こえない。
その様はもはや穏やかさではなく、生命が滅び死に絶えたが故の静寂めいていた。
だとしても、声の主は確信している。
耳を傾けている者はいる、と。
死体の山の上に佇み血液の河を掻き分ける者たちが確かに生きている、と。
773
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/11(土) 12:36:44 ID:cPsyFRUk0
「たった八名だと落胆するだろうか?
八名もの数がと戦慄くだろうか?
どちらにせよ、早いものだ。
僅か二十四時間で、実に六割強の命が死神に魅入られたのだからな。
だが、手を下したのは死神などではないのは理解しているだろう。
諸君らが敵だと断じた者が、諸君らが仲間だと信じた者たちが。
そして――諸君らこそが。
命を奪い尽くしたのだ。
時に大義名分を振りかざし、時に信念を盾として、時に欲望に忠実に。
他者を蹴落とし踏み躙ったのだ。
果たして諸君らには、他者を斬り捨ててまで立っている価値があるのか?
果たして諸君らには、否定しつくした末に生き延びるだけの意味があるのか?
もしあると言うのならば――」
問いかける。
答えなど返ってはこないと分かっていながら、それでも、感情のままに声は告げる。
「――全てを奪い尽くした上で、私の元に来るがいいッ!」
◆◆
本当に早いものだと、オディオは思う。
豪奢というよりも禍々しい玉座に背を預け、目を閉じる。
視界を閉ざし想起するのは、二十四時間前から始まった殺戮劇。
自らが催した殺戮劇は、予想を上回る速度で進行している。
それはまるで、人間の業の深さや愚かさを体現しているかのように感じられた。
参加者の中には、人間ではない者も数名混じっている。
彼らはどう思っているのだろう。
そして人間は、彼らをどう思っているのだろう。
同種族ですら争う人間が、異種族と手を取り合えるとは思えない。
その証拠と言うように。
夢にメッセージを込めたエルフの身は、彼女自身が愛する者と信頼する者によって灼かれたのだ。
しかし、その一方で。
絆を築き希望を抱き、巨悪を打ち破った者もいる。
人間でありながら――否、人間であるからこそ、人間を強く憎悪した狂皇子も。
負の感情を糧とし世界を紅に染め上げた災厄も。
たったひとりの人間が相手では、滅び去りはしなかった。
それは、人間が持つ力を、否定しきれないケースに他ならなかった。
「それでも……」
オディオの奥歯が、強く噛み締められる。
ルカ・ブライトやロードブレイザーの死滅に口惜しさを覚えているわけではない。
強い絆と希望の力で貴種守護獣を呼び起こし、再生したアシュレー・ウィンチェスターに忌々しさを覚えているわけではない。
「それでも、人間は決して愚かさを捨てられんのだ……ッ!」
呻くような呟きに混じる、羨望めいた感情を拾う者は、誰一人存在しなかった。
芽吹いたモノを振り払うように、オディオは瞼を開く。
774
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/11(土) 12:37:18 ID:cPsyFRUk0
間もなく、この城に訪問者がやってくる。
それが破壊と殺戮と蹂躙の果てに勝ち抜いた、たった一人の客人なのか。
抗いの意志を絆で繋ぎ希望を抱いた、反逆者たちなのか。
あるいは、皆が皆手を取り合えないまま、入り乱れて雪崩れ込んでくるか。
どのように転ぶか不明な以上、準備が必要だ。
たった一人の優勝者が現れなかった場合の準備――攻め込んでくる者たちを迎撃する準備が、だ。
オディオは、ゆっくりと手を振りかざすと、青白い炎が音を立てて灯る。
闇に揺らめく不気味な輝きに、美しい顔をした女たちが照らされる。
ただしどれも、異形と呼んで差し障りのない姿だ。
その数は、四。
一つは、四本の腕を持つ桃色の髪をした女。
二本の腕の先端は人間のものと同じ。されど、残り二本の腕の先には無骨な岩石がぶら下がっている。
岩石と人間の合成生物――クラウストロフォビア。
一つは、漆黒の球体から上半身を生やした女。
背から伸びる一対の翼で宙に浮くその姿は、あらゆる光を呑み込みそうなほどに気味が悪い。
暗黒の分子で構成された生物――スコトフォビア。
一つは、緑色の翼と尻尾を生やした女。
上半身は人のものであるが、下半身は爬虫類めいた翼と尻尾で構成されている。
器より出でし魔法生物――アクロフォビア。
一つは、透き通る液体を纏った女。
艶めかしい裸身に液体を絡ませるその姿は最も人間に近い。しかし、液体は絶えず女に絡みつき、同一の存在であると主張している。
液体から作られた合成生物――フェミノフォビア。
彼女らは、かつて。
かつてオディオが、『オディオ』でなかった頃に、一人で戦った人形たち。
その悪趣味な人形に、オディオは今も強く激しい嫌悪感を抱いている。
こうして見るだけでも吐気を催すほどに、だ。
それでもオディオが彼女らを蘇らせたのは、手駒としてはそれなりに使えると踏んだためだ。
人形は裏切らない。
そう、決して、裏切らない。
「戦力を用意しろ。数と質は――」
無表情で黙したままの人形たちに、オディオは指示を出す。
先ほどの呟きを忘れるように、指示を出す――。
775
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:05:12 ID:IYNoqvTc0
規制に巻き込まれてしまい本スレに書き込めませんので、こちらに第四回放送を投下いたします。
どなたか代理投下をして頂けますと幸いです。
776
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:06:07 ID:IYNoqvTc0
地上で繰り広げられた戦闘の終焉を待っていたかのように、分厚く濃厚だった雨雲が晴れていく。
こびりついて消えない汚れに満ちた大地を押し流すかのような豪雨の気配が、天空には欠片も存在しなくなっていた。
代わりに空を支配しているのは、青白い満月と数え切れない星の瞬きだ。
夜天の王と兵の群れが見下ろす世界――たった一つの、箱庭めいた島には、夜に相応しい静けさが落ちている。
まるで、好き勝手に喚き散らした後に、泣き疲れて寝息を立てる子どものようだった。
そう、少し前まで。
ほんの少し前まで、その島には狂乱めいた騒乱で溢れかえっていた。
無数の感情がせめぎ合い意志がぶつかり合い想いが交錯した。
その果てに、離別があり喪失があり過ぎた。
希望や喜びや活力を覆い隠し押し潰してしまいそうなほどに、絶望や悲嘆や辛苦が多すぎた。
そのせいだろう。
世界が、疲れ切って眠っているかのように見えるのは。
世界が、全身に負った傷を癒そうとしているかのように感じられるのは。
世界が、ささくれ立った気持ちを整理したいと望んでいるかのように思えるのは。
月が、傷ついた世界を慈しむように、たおやかな光を投げかけている。
星たちが、疲弊した世界を慰めるように、絶えず瞬きを繰り返している。
だが。
この箱庭に人々を集めた王は、そのような平穏は与えない。
憎しみに塗れた魔王が、そのような慈悲を容認するはずがない。
まだ騒乱に参加すべき者がいるのだから。
「――時間だ」
大気が震え、無慈悲な声が響く。
「もはや前口上などいるまい。しかと耳に焼き付けよ」
粗野でもなく荒々しくもなく高圧的でもなく、乱暴さとはかけ離れた声音だ。
それでも、その声は苛烈なほどの存在感と、竦み上がる様な威圧感に満ちていた。
「まずは禁止エリアを発表する。
1:00よりA-04、H-07、
3:00よりC-08、E-10、
5:00よりE-04、I-03、
以上だ」
まるで声色そのものに力が宿っているようだった。
それも月明かりを陰らせ星の瞬きを止めてしまいそうなほどの、人智を超えた力が、だ。
そんな空恐ろしい声は、聴き手に現実を叩きつけるべく、続ける。
「では、死者の名を告げよう。
リンディス
シャドウ
ブラッド・エヴァンス
ロザリー
トッシュ・ヴァイア・モンジ
トカ
ルカ・ブライト
無法松
――以上、八名が朽ち果てた者たちだ」
夜の暗さが一層深く濃密なったような錯覚に陥る。
響き渡る声以外に、物音は聞こえない。
その様はもはや穏やかさではなく、生命が滅び死に絶えたが故の静寂めいていた。
だとしても、声の主は確信している。
耳を傾けている者はいる、と。
死体の山の上に佇み血液の河を掻き分ける者たちが確かに生きている、と。
777
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:07:20 ID:IYNoqvTc0
「たった八名だと落胆するだろうか?
八名もの数がと戦慄くだろうか?
どちらにせよ、早いものだ。
僅か二十四時間で、実に六割強の命が死神に魅入られたのだからな。
だが、手を下したのは死神などではないのは理解しているだろう。
諸君らが敵だと断じた者が、諸君らが仲間だと信じた者たちが。
そして――諸君らこそが。
命を奪い尽くしたのだ。
時に大義名分を振りかざし、時に信念を盾として、時に欲望に忠実に。
他者を蹴落とし踏み躙ったのだ。
果たして諸君らには、他者を斬り捨ててまで立っている価値があるのか?
果たして諸君らには、否定しつくした末に生き延びるだけの意味があるのか?
もしあると言うのならば――」
問いかける。
答えなど返ってはこないと分かっていながら、それでも、感情のままに声は告げる。
「――全てを奪い尽くした上で、私の元に来るがいいッ!」
◆◆
本当に早いものだと、オディオは思う。
豪奢というよりも禍々しい玉座に背を預け、目を閉じる。
視界を閉ざし想起するのは、二十四時間前から始まった殺戮劇。
自らが催した殺戮劇は、予想を上回る速度で進行している。
それはまるで、人間の業の深さや愚かさを体現しているかのように感じられた。
参加者の中には、人間ではない者も数名混じっている。
彼らはどう思っているのだろう。
そして人間は、彼らをどう思っているのだろう。
同種族ですら争う人間が、異種族と手を取り合えるとは思えない。
その証拠と言うように。
夢にメッセージを込めたエルフの身は、彼女自身が愛する者と信頼する者によって灼かれたのだ。
しかし、その一方で。
絆を築き希望を抱き、巨悪を打ち破った者もいる。
人間でありながら――否、人間であるからこそ、人間を強く憎悪した狂皇子も。
負の感情を糧とし世界を紅に染め上げた災厄も。
たったひとりの人間が相手では、滅び去りはしなかった。
それは、人間が持つ力を、否定しきれないケースに他ならなかった。
「それでも……」
オディオの奥歯が、強く噛み締められる。
ルカ・ブライトやロードブレイザーの死滅に口惜しさを覚えているわけではない。
強い絆と希望の力で貴種守護獣を呼び起こし、再生したアシュレー・ウィンチェスターに忌々しさを覚えているわけではない。
「それでも、人間は決して愚かさを捨てられんのだ……ッ!」
呻くような呟きに混じる、羨望めいた感情を拾う者は、誰一人存在しなかった。
芽吹いたモノを振り払うように、オディオは瞼を開く。
778
:
第四回放送
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:10:35 ID:IYNoqvTc0
間もなく、この城に訪問者がやってくる。
それが破壊と殺戮と蹂躙の果てに勝ち抜いた、たった一人の客人なのか。
抗いの意志を絆で繋ぎ希望を抱いた、反逆者たちなのか。
あるいは、皆が皆手を取り合えないまま、入り乱れて雪崩れ込んでくるか。
何にせよ、そろそろ頃合いだ。
万が一のため、駒の配置は完了している。
用意した駒のうち、思い起こしてしまうのは四つの異形の女たちだった。
一つは、四本の腕を持つ桃色の髪をした女。
二本の腕の先端は人間のものと同じ。されど、残り二本の腕の先には無骨な岩石がぶら下がっている。
岩石と人間の合成生物――クラウストロフォビア。
一つは、漆黒の球体から上半身を生やした女。
背から伸びる一対の翼で宙に浮くその姿は、あらゆる光を呑み込みそうなほどに気味が悪い。
暗黒の分子で構成された生物――スコトフォビア。
一つは、緑色の翼と尻尾を生やした女。
上半身は人のものであるが、下半身は爬虫類めいた翼と尻尾で構成されている。
器より出でし魔法生物――アクロフォビア。
一つは、透き通る液体を纏った女。
艶めかしい裸身に液体を絡ませるその姿は最も人間に近い。しかし、液体は絶えず女に絡みつき、同一の存在であると主張している。
液体から作られた合成生物――フェミノフォビア。
彼女らは、かつて。
かつてオディオが、『オディオ』でなかった頃に、一人で戦った人形たち。
彼女らを最初に想起してしまうのは、強い信頼を置いているからではない。
むしろ、真逆だ。
その悪趣味な人形に、オディオは強く激しい嫌悪感を抱いている。
他の駒には、一切の興味も感慨も持ち合わせてはいないのに、だ。
強烈な感情は、その正負に関わらず強く印象付ける。
そういう意味で、四つの人形は特別だった。
オディオ自身の手で破壊したはずの彼女らを。
吐気を催すほどに忌み嫌う彼女らを蘇らせたのは、手駒としてはそれなりに使えると踏んだためだ。
人形は、裏切らない。
そう、決して、裏切らない。
だから、それ故に。
オディオは想わずにはいられない。
――人間は、自らが作りだした人形よりも劣っている、と。
そう想わずには、いられない――。
779
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/12(日) 22:13:20 ID:IYNoqvTc0
以上、投下終了です。
フォビア以外の手駒や策については、後続の書き手諸氏にお任せです。
>>776-777
にタイトルをつけるのを忘れてしまいました。すみません。
では、何かありましたらまたご遠慮なくお願いいたします。
780
:
◆6XQgLQ9rNg
:2010/12/13(月) 22:03:15 ID:q7DAuZmE0
仮投下してくださった方、ありがとうございましたー
781
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:43:59 ID:qCCNahKk0
お待たせしました、第四回放送・裏、投下します
782
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:45:03 ID:qCCNahKk0
上下の感覚すら掴めない空間を、アシュレーは漂っていた。
そこには何もなかった。
床もなければ壁もなく、空もなければ大地もない。
人造物も自然物も一切存在しない空間を満たすのは、ただ一つの色。
身体を失ったアシュレーが知覚できるただ一つのもの。
白。白い闇。
それを決して光と称さないのは、アシュレーが自分は死んだのだと思っているからだ。
アシュレーの脳裏を、彼が覚えている最後の光景が過る。
ぽっかりと穴の空いた心の臓。
ロードブレイザーと相討ち、地に伏せる自らの姿。
断言できる。自分は確かに死んだのだ。身体がないのもその証拠だろう。
なら、ここは所謂あの世なのかもしれない。
「……ごめん、マリナ。……ごめん、みんな」
アシュレーは戦い抜いた。
戦い、戦い、死に果てた。
その選択に悔いはない。
死をも覚悟して、アシュレーは命を賭けてきた。
自分の居場所に帰るために。帰りたい日常を護るために。その日常をなす大好きな人々と笑い合える世界を取り戻すために。
何度生まれ変わろうとも、何度あの時間をやり直そうとも、アシュレーは同じ道を選ぶと言い切れる。
ただ、それでも。
悔いはなくとも、嘆きはなくとも、寂しさはある。
もう二度と愛した人達に会えない。
もう二度とアシュレーの帰りを待っているであろう人に、ただいまを言ってあげれない。
そのことが堪らなく辛かった。
だから、アシュレーは歩くことにした。
かつて訪れたアナスタシアのいる世界のように、どこかに生者の世界と繋がっている所があるかもしれない。
生き返られるとまでは思っていないが、それでも言葉を届けることくらいはできるかもしれない。
いや、もしもそんな都合のいい場所がなかったとしても。
「マリナ」
その名を心に灯し続けよう。
「アーヴィング。アルテイシア」
もう二度と逢えなくとも。
もう二度と我が子を抱くことがなかろうとも。
アシュレーは、どんな時でも家族と共にあるのだから。
783
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:46:06 ID:qCCNahKk0
「…………大切な、誰か」
ふと、誰もいなかったはずの世界に、アシュレー以外の声が響く。
驚き目を凝らし、誰か居るのかと返すアシュレー。
すると、白一面の世界に墨の如く黒い点が滲み出た。
代わり映えのなかった世界に突如生じた異変。
元より、外の世界との接点を探していたアシュレーは、先の声のこともあり、黒点へと駆け寄っていく。
と、黒点との距離が縮まる度に、その正体が明らかになってきた。
それは黒ではなかった。
言うならばそれは緑か。
緑色の髪の少年だ。
点に見えたのは彼が蹲っていたから。
蹲り、一人泣き続けていたからだった。
アシュレーはそのことに気づくと走る速度を上げた。
そう、走る、だ。
少年へと駆け寄ろうとした時には、失ったはずの身体が生じていたのだ。
心なしか透けてはいるが、寸分違わずその身体はアシュレーのものだった。
(霊体だから融通が効くのかな?)
よくよく見れば少年の身体もまた透けていた。
空間より滲みでた点や、現状の自分を鑑みても、もしかすれば泣いている少年も既に死んでいるのかもしれない。
だったら慰めたところで何になる。
そんな考えはアシュレーの心の中には存在しない。
一人ぼっちが寂しいと、泣いている子どものように見えたから。
それだけでアシュレーが手を差し伸べるには十分だった。
▽
当の少年――ユーリルは、誰かと会うことなんか望んではいなかった。
何故だか透明無形な存在になっていたはずが、声を出したら急に色形を得てしまったユーリルは、胡乱げに顔を上げる。
彼の目に映るのは、一人の見知らぬ男の姿。
この地にて一度も邂逅したことのない、どころか、仲間であったクロノ達から聞いた誰とも違う人物。
正しく、名も知らない、縁の全くない他人。
今、ユーリルが、最も目の当たりにしたくなかった存在。
かつて、ユーリルが、『勇者』が、救うべき存在として自らの命を賭けた存在。
『勇者』という幻想の存在意義――だったはずのもの。
(けれど、それは違うと、さっきの男は言った)
『誰の』英雄になりたかったのかと、ユーリルに問うた男がいた。
助けたい人以外は助けなくとも仕方がないと、男は言った。
784
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:46:56 ID:qCCNahKk0
(助けたい、誰か……)
そんなことを考え続けていたせいで、ユーリルは来訪者の声に反応してしまった。
マリナ。アーヴィング。アルテイシア。
それが今、ユーリルへと近づいてくる男にとっての戦う理由なのだろう。
男のことを何も知らないユーリルだが、それでも、彼が誰かの名前を呼んだ声に込めた想いは理解できた。
あれは家族を呼ぶ声だった。大切な誰かへと向ける声だった。
それも、もう会えない誰かへの。強い想いを込めた声だった。
(僕も、あんな声を出したことがある。あの日、村が襲われ、僕が『勇者』になったあの日に)
父の、母の、シンシアの名を泣き叫び、彼は勇者になることを誓ったのだ。
(そうさ、悩むまでもなく答えなんて出ていた。
忘れるわけがない。ずっと、ずっと覚えてた。僕が助けたかったのは、僕が護りたかったのは)
今でこそ、ユーリルは在りし日々が偽りのものだったと悟っている。
家族だと信じていた人達も、好きだと思っていた幼なじみも。
誰も彼もがユーリルを勇者としてしか見ていなくて。
世界を救う見返りとして、形だけの愛情を注ぎこまれていたに過ぎなかった。
だがそれは、あくまでも半日程前に気付いたことだ。
あの日の、勇者になると決意したユーリルにとっては、あの村の人々こそが、本当に助けたかった誰かだったのだ。
(……ああ、あいつの言ったとおりだ。救いたい誰かがいてこそ『英雄』になれる。
救いたかった誰かがいたからこそ、僕は『勇者』になった)
アナスタシアがそうであったように、ユーリルもまた特別でも何でもなかった。
勇者になる運命こそあれど、少なくとも、あの時まではユーリルはただの少年だったのだ。
世界のことなんて考えもしなかった。
ただ、大好きな人たちとずっと一緒にいたいと、それだけを考えていた。
だけど。
その願いは叶わなかった。
ユーリルは好きな人達と一緒に生きることも、一緒に死ぬことさえも許されなかった。
ただ一人、大好きなみんなの屍に護られて生き残ってしまった。
そして、そのことがユーリルに勇者になる決意をさせてしまった。
好きだった人達の犠牲を無駄なものにしたくはないと。
全てを犠牲に生かされてしまった自分は、彼らの望んだように人の為に生きなければならないと。
強迫観念に似た義務感に飲み込まれてしまった。
『皆を救って……。 あなたは……勇者なんだから……』
シンシアから零れ出た呪詛を思い返す。
何のことはない、そんなものはとっくの昔に、ユーリルの魂を侵していたのだ。
ユーリルはあの日、余すことなく聞いていたのだから。
魔物に殺されゆく両親が、村人が、シンシアが漏らす那由他もの悲鳴と怨嗟を。
いくら使命感で固めていようとも、彼らもまた当時のユーリル同様ただの人間だったのだ。
死を前にして、恐れや恨み言を残す者もいた。
いや、いなかったにしろ、隠れて震えているしかなかったユーリルには、
村人達の断末魔は彼らが死ぬ理由となった自分への憎悪としてしか聞こえなかった。
渇望し、それでも届かなかった生への憧憬と怨恨を。
一人だけ生き延びてしまったユーリルへとぶつけているようにしか聞こえなかったのだ。
785
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:47:39 ID:qCCNahKk0
(だけど、だけども。まだあの時の僕は『勇者』になりきれていなかった。だからこそ、そこに『僕』も存在していた)
ユーリルは勇者になるべく生を受けた。
ユーリルは完璧な勇者になった。
しかしながら、何度も述べたようにユーリルにも勇者でない時はあったのだ。
勇者になろうと思えば、誰にでも勇者になれるわけじゃない。
それはユーリルにも当てはまった。
あの日、あの時、あの瞬間。
勇者として旅立つ決意をした少年は、勇者になったばかりであり、勇者としては未熟極まりないものだった。
だからこそ。勇者として未熟だったからこそ。そこにはユーリルという一人の少年が残っていた。
故郷を失い、仲間もいない一人ぼっちの時間だったからこそ、彼を勇者として見る人々の声なき声も、意識しないで済んだのだ。
ならば。
その勇者の中に残されていたユーリルは、何を想い戦っていたのだろうか。
勇者という仮面を被りきれていなかった彼は、心の中で恐怖や悲しみに震え泣いているだけだったのだろうか。
違う、そうじゃない。
(僕は、僕は。確かに自分の意思で、どこかの誰かを助けたいと願っていた)
彼は泣きはすれども、震えるのではなく、その哀しみを闘志に変換して前へと進んだ。
自分が味わった別離の哀しみ。
それをもう他の誰にも味わって欲しくないと、あの日の少年は思ったのだ。
もう誰も殺させてなるものか。無理だ無謀だと言われようとも、世界中の人間ですら助けてみせると、そう誓ったのだ。
それは、自分の意思を殺してでも正しくなければならなかった勇者が抱いた、最後の最後の我侭だった。
(でも……)
今のユーリルには、かつての勇者ではないユーリル自身の誓いですら、他人のもののように思えてならなかった。
剣の聖女の声がリフレインする。
人々は何もしてくれなかったと。たった一人の『英雄』に全てを押し付けて生贄にしただけだと。
炎のサイキッカーの言葉が追随する。
助けたい人だけ助ければよかったのだと。そうすれば『生贄』なんかにはならなかったのだと。
その二つの言葉が、ユーリルに一つの疑問をもたらす。
「価値なんて、あったのか?」
786
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:48:16 ID:qCCNahKk0
果たして、価値なんてあったのだろうか。
彼が助けようとした人々は。
自身のように辛い思いをさせたくないと思った人々は。
せめて、大好きな人達の代わりにと贖罪のままに助けた人々は。
ユーリルが失った全てのものに釣り合うだけの、価値があったのだろうか。
助けたいと、思うに値する人達だったのだろうか。
「教えてくれ。教えてくれ、クロノ。君は、どうだったんだよ。誰の英雄だったんだよ。
その誰かには、君が一度死んでまで護るだけの価値があったのかよ!?」
虚空へと叫ぶも答えは返ってこない。
返ってくいるはずがない。
ユーリルが護りたい誰かになれたはずの少年は既にこの世にいないのだから。
故に。
「価値など、ありはしない」
その声は。
「君が護りたかった人間にも。クロノが救った人間にも」
何かを言おうとした青髪の男よりも先に発されたその声は。
「教えてやろう、ユーリル」
友のものであるはずがなく。
「クロノが本来進むはずだったある一つの未来を」
クロノ自身さえ知りえぬあり得た未来を語ることのできる者は。
「彼は愛した女と結ばれ玉座につく。なにせ相手が一国の……っ王女だったからだ」
時空を支配する力を持つかの魔王以外にありはしない。
「だがその王国は僅か5年で滅ぶことになる」
ただ、ユーリルにはもはや、そんなことはどうでも良かった。
「彼が、クロノがラヴォスより救った人間どもの手でだッ!」
告げられた言葉の意味。
それを理解するや否や、彼の心は大きな衝撃に襲われ、それどころではなかったのだ。
「てめええ、オディオォォォォォっ!」
よって、魔王の名前を呼んだのはユーリルではなかった。
呆然としたままのユーリルを庇って入ったアシュレーのものでもなかった。
それは熱き心のサイキッカーの魂の雄叫びだった。
強く拳を握り締め、オディオへと強烈なパンチを見舞ったアキラのものだった。
▽
787
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:48:51 ID:qCCNahKk0
「夢の世界までわざわざご苦労なこった」
アキラは他の人間達と違い、この世界がどういうものなのかを理解していた。
上下のない世界をふわふわと漂うその感覚を、アキラはよく知っていたからだ。
即ち、夢。
精神世界には近いけれども違うもの。
『誰か』の世界ではない、もっと広くて曖昧な世界。
個人の意識ではなく、雑多な人間の無意識からなる集合的無意識の世界。
だからこそ、この世界はミネアや、ユーリルの心に潜った時とは違い、個人が反映されてなく、あやふやなまでに真っ白なのだ。
「なに、君のように気絶している人物があまりにも多くてな。
少々他の事情も重なって、今回に限り、夢の中でも放送をしてやろうと思ったまでだ」
「そうかよ。親切すぎて反吐が出るぜ」
アキラはオディオに刺さっていた拳を引きぬく。
刺さっていたとは比喩表現ではなく、そのままの意味だ。
所詮、ここは夢の世界。
アキラの身体も、オディオの身体も、虚像に過ぎないのだ。
「反吐がでるのは結構だが、精神世界でならともかく、ここは夢の世界だ。
どれだけ殴られようとも、私の身も心も傷付きはしない」
「分かってるよ、んなことは。それでも俺は、てめえのことが気に食わねえ。その顔を見たらぶん殴りたくなるくれえになっ!」
アキラは強く拳を握り締め、追撃のパンチを放つ。
彼は心底腹がたっていた。
元よりオディオのことはボコボコに叩きのめすつもりでいた。
その相手が紛いなりにも顔見知りの人間を、絶望の淵に叩き込んだなら尚更だ。
アキラはユーリルへと目を向ける。
余程のことをオディオより告げられたのだろう。
ユーリルはアキラとアナスタシアを前にしても、虚空を見つめ、口を壊れた人形のように動かすだけだった。
「くそっ、くそっ、ちっきっっしょおおおおおお!」
アキラは怒りの炎を燃え上がらせ、際限なく拳を加速させるイメージを紡ぐ。
自分の声ををきっかけに自身を再認識し、偶発的に身体を得たアシュレーやユーリルとは違い、
アキラの身体は確固たる意思でイメージされたものだ。
色が透けていたりせず、外見上は、生身の身体に見劣りしない。
だが無駄だ。避ける素振りを見せないオディオだが、それもそのはずだ。
アキラが看破したように、ここはどこまでいっても夢の世界なのだ。
どれだけ拳を叩きつけようと、現実の肉体には響かない。
夢だろうが現実だろうが心を壊せる言葉に比べて、拳はあまりにも無力だった。
「気が済んだか?」
788
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:49:35 ID:qCCNahKk0
済むわけがない。
それでも、アキラはようやく拳を解いた。
「落ち着くんだ。今は、この少年を助けるほうが先だッ!」
冷静になれと、アキラを引き止める声があったからだ。
はっとしてアキラは声の主に顔を向ける。
ユーリルを背に庇いつつ、強い意思の篭った視線を向けてくる人物。
その容姿にアキラは心当たりがあった。
「あんた、まさかアシュレー・ウィンチェスターか?」
「!? どうして僕の名を? いや、そういう君は一体……」
ブラッドからテレポートジェムを貰い受ける前に交わした情報が、思いもかけずに役に立った。
「おっとわり。先に名乗るべきだったな。俺はアキラ。あんたのことはブラッドから聞いた。
今はマリアベル……とも一緒にいるぜ」
一瞬、アナスタシアのことも告げようかと迷ったが、そこで妙案が思いつき、敢えて省略する。
事情が複雑な以上、たとえ夢の中であろうとも、オディオを前に悠長に会話してはいられない。
「ブラッドとマリアベルがッ!? なら君も」
「ああ、あんたの仲間だ。こいつを、オディオを倒そうとする仲間だ!」
アキラはそう口に出して宣言し、同時に心で語りかける。
『聞こえるか、アシュレー!』
口で話しているひまがないのなら、直接イメージを送ればいい。
ユーリルがオディオになんと言われたかまでは聞き取れはしなかったが、その前段階までの原因なら知っている。
自分が読んだユーリルの記憶や、知っている限りのユーリルとアナスタシアの今。
それをアキラはユーリルへとテレパシーで伝えようとする。
無論、都合よくサイキッカーではないであろう新たな仲間が、情報の洪水に流されないよう、少しずつ区切ってだ。
そこまで考えて、ふと、最悪の可能性に思い至る。
「オディオ、こんなことができるなんて、てめえもまさかサイキッカーなのか?」
それは魔王オディオもサイキッカーである可能性だ。
他人の夢を繋げ侵入する能力。
オディオが成したその力が、人の心に意識を通わせる自身の能力に似ていると思ったからだ。
冗談じゃない。
オディオに心をよまれてたまるか。
反抗が難しくなるとか、そんな理屈以前に、アキラの感情が、オディオに心を読まれることを嫌悪して。
アキラは問わずにはいられなかったのだ。
▽
789
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:50:13 ID:qCCNahKk0
問わずにはいられない命題があるのは、オディオもまた同じだった。
本来であれば、彼が待つ城を訪れたものへと投げかけるはずだった問い。
しかし、殺し合いに招いた『勇者』が自らその疑問へと至った以上、予定を繰り越しても問題あるまい。
そう判断してオディオは口を開いた。
「……ちょうどいい。私からも君に問うとしよう。
君は、一体何のために戦ってきたのだ……?」
「てめっ、質問に質問で返してるんじゃねえ!」
「安心しろ。これは君の先刻の問いの答えにも通ずる質問だ」
嘘は言っていない。
アキラが知りたいのはオディオがサイキッカーなのかどうか。
それはつまるところ、オディオがこうして夢に介入しているのは超能力によるものなのか否かということだ。
そしてそのアキラが知りたがっている手段というのは、この質問の答えと無関係ではない。
「くそっ、しのごの言ってんじゃねー!」
「答えられないようなことなのか? そんなはずはないだろう。
君は世界を救った英雄だ。世界中の人々を護りたかったんじゃないのか?」
「違う。俺は自分の救いたかったものを救っただけだ」
同じことだ、同じことなのだ。
『誰か』を救おうとしたというのなら、お前も同じだ。
人間はいつか裏切る。人間は弱さを捨てられない。人間は他力本願に生きる。
そんな信用の出来ない他人を救う行為なぞ、『勇者』が世界を救わんとするのと同様、愚かしい行為でしかないのだ!
現に超能力者の少年が救いたいと言っている人物は、少年をずっと欺き続けてきたではないか。
「救いたかった? 理解できんな。無法松はお前の親の仇だろう?
しかもそのことを秘密にし、罪悪感から逃れたいが為だけに、お前や子ども達を利用していた」
「っ、それでも、あの背中は本物だ。俺達を護ってくれた松の生き様には嘘偽りなんてなかった」
「それもまた幻想だ。人は裏切る、裏切るのだ」
とりつく間もない突き放すアキラの即答を、オディオは静かなる怒りで両断する。
「君はさっき聞いたな。私はサイキッカーかと。答えは否だ。
私は夢にメッセージを込めたエルフの女性の魔法に介入して、君達の夢を繋げ、言葉を届けているに過ぎない」
びくりと、ユーリルが痙攣を起こしたかのように一度大きく震える。
かのエルフはユーリルにとって、仲間のように比重の大きい存在でもなければ、アナスタシアやピサロのように憎むべき存在でもない。
先刻まであまりのショックに何の反応も示さなくなっていた少年を震えさせるには、本来なら役不足だ。
それでも彼が反応せざるを得なかったのは、オディオの声にクロノの国が滅ぼされたと話した時と、同じ感情が滲んでいたのを感じたからか。
その通りだ。これからオディオが告げるのは、少年を更に絶望に落としかねない事実なのだから。
「彼女は、ロザリーは死んだ。最愛の人の手にかかってだ……」
信じられないと、ユーリルが目を見開き、瞠目し、今度こそ動かなくなった。
「……っ!」
790
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:50:46 ID:qCCNahKk0
動きを止めてしまったのはアキラも同じだ。
あの時、イスラの意見を振り切ってでも、いなくなったロザリーを探しに行っていれば。
アキラは悔しさに一瞬、口をつぐんだ。
「これで分かっただろう。君達が守ろうとしているものに価値なんてない。
ロザリーやクロノだけではない。
この殺し合いへと招いた人間の中には、私が干渉するまでもなく、近い将来、人間に裏切られる者達が何人もいたのだ
それでも君達は誰かを護るというのか?」
勇者と巫女が命懸けで封印した暗黒の支配者を復活させた科学の信徒が。
人間に絶望し、命の恩人であったオスティア王を殺してのけたベルンの王が。
自らを縛る呪いから解放されたいが為に、世界を巻き込み死のうとした真なる風の紋章の継承者が。
オディオの瞳の裏を掠めては消えていく。
「そうじゃないんだ、オディオッ! お前は間違っているッ!
僕らは誰かに価値を求めて戦ってきたんじゃない……。
護りたいと思う自分の意思に応えて戦ってきたんだッ!」
響き渡ったアシュレーの言葉に、今度はオディオの動きが止まる番だった。
一瞬で、オディオから表情が消え……きれていない。
僅かに苦虫を噛むような、或いはどこか懐かしいものを見た顔で、オディオは再び口を開く。
「そうだな。君ならばそう答えるだろうな。だがそれは君が勝者だからだ。
君達二人は戦いに勝って、大切なものを手に入れた……。大切なものを護りきった。
しかし私はこう思うのだ。それらも、しょせん一方的な欲望ではないのかと。
自分にとって大切なもの、それを守るためならば 他者を傷つけていいのかと」
それは、意図して感情の起伏を抑えた声でありながら、ひどく心が漏れ出る声だった。
淡々と、とつとつと、オディオは言葉を並べていく。
「それが許されるならば、何故敗者は悪とされてしまうのだ。
彼らもまた、自分の欲望のままに素直に行動しただけではないか。
だというのに敗者には明日すらもない。歴史を作るのは勝者だからだ。勝った者こそが正義だからだ!」
つまるところそれは、オディオが開いた殺し合いと一緒だ。
勝者だけが全てを手に入れられる、それこそがこの世の真理なのだ。
アシュレー達はこの殺し合いを打破しようとしているが、それが何になる。
人は果てしなく欲望を抱く。
殺し合いの輪から抜けたとしても、人が人でいる限り、その先にあるのは新たな戦いでしかないのだ。
彼らが勝者なら尚更だ。勝者は生き続ける限り、数多の戦いを繰り広げ、勝ち抜いていく。
それは、勝者の勝利と同数の敗者を生み出すことに他ならない。
だからこそ。
791
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:53:10 ID:qCCNahKk0
「己の勝利に酔いしれ、敗者をかえりみないお前達は知らなければならなかったのだ。
お前達もまた敗者足りえたのだと。お前達が否定した悪そのものだったのだとッ!!」
それが生前のロザリーが仲間と共に訝しみ、あと一歩のところまで迫っていた、この殺し合いにおける人選の謎の答えだった。
何故人間以外の種族が巻き込まれたのか? それは概ねロザリー達の推測通りだ。
足りなかったのは、どうして参加者たちは誰もが平穏とは程遠い戦いを経験していたのかという点だ。
戦力バランスを考えてなどというものではない。
オディオは殺戮劇の参加者を、何らかの戦いを勝ち抜いた者を中心に選んでいたのだ。
この世が勝者と敗者で二分されているというのなら、勝者同士を戦わせればいい。
そうすれば、数多の勝者も敗者となり、数多の正義も悪となる。
偽善は暴かれ、たった一人の、真の勝者だけが残る。
その真の勝者を、魔王オディオは心の底から祝福しよう。
たとえその者の願いが、全ての死者の蘇生であっても喜んで叶えよう。
何故なら、その真の勝者は嫌でも理解せざるをえないからだ。
自分の願いの為に、誰かを殺し、蹴落としたことを。
誰かを護るということも、結局は人を傷付けてでしか成し遂げられない罪に他ならないということを。
「お前にはピンと来ぬかもしれぬがな。
アシュレー・ウィンチェスター。最たる勝者よ」
嫌味などではなく、羨望さえ感じる声でオディオはアシュレーを評する。
最たる勝者。
彼以上に殺し合いに招いた勝者の中で、この賞賛が似合う人間もいないだろう。
彼はオディオが唾棄した、何もしないで救いを求めるだけだった人々を、自らの意思で立ち上がらせた。
皆の心を一つにして、誰一人欠けさせることなく、未来を勝ち取った。
それは、きっと素晴らしい未来なのだろう。
あくまでも推測なのは、オディオにはファルガイアの未来を知る術はないからだ。
オディオは『憎しみ』という感情の化身である。
故にこそ、強き憎しみの力を持つ者がいれば、その存在を基点とし、時空の壁を越えて干渉できるのだ。
ただ、それは裏返せば、強き憎しみを抱く者がいない世界には干渉できないこととなる。
ファルガイアの未来はまさしくそれだった。
死に際のロードブレイザーを基点とし、オディオが干渉できたのはせいぜいその前後一年。
それ以降の未来、少なくともアシュレーの存命中には、オディオの媒介になる存在は現われはしなかった。
そして、その輝かしい未来を象徴するかのように。
アシュレーはこの殺し合いの最中でも、絆と希望を掲げ、数々の勝利をその手にした。
「フフフ……、ハハハハハ……、ハーッハッハッハッハア……!!
そうだ、お前に私達、敗者のことが分かるはずもない。
ロードブレイザーに再び勝ち、どころかルカ・ブライトまでも破ったお前には」
792
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:54:35 ID:qCCNahKk0
いつしかオディオはそれまでの静謐さをかなぐり捨て、大声をあげて笑っていた。
何もアシュレーを嘲笑ってのことではない。
ただ『英雄』を否定した男が、誰よりも『英雄』と呼ぶに相応しいというその皮肉に、笑わざるを得なかったのだ。
かつてオディオが目指し、ユーリルも理想とした『勇者』。
その正解像とも言える人間を前に、泣くことも、怒ることもできないのなら、笑うしかないではないか。
(だが、だからこそ。私はお前を呼んだのだ。最たる勝者であるお前こそが、敗者を顧みねばならないのだ)
勝者に顧みさせようと招いた数人の敗者達は、既に多くは敗れはしたが、それでもまだ三人、残っている。
しかもそのうちの二人はオディオと同じく魔王の名を冠する者だ。
一人は先ほど口にしたピサロ。そしてもう一人こそ――。
「そうは思わないか、魔王ジャキよ」
「――貴様がその名前で私を呼ぶな。魔王たれと私に望んだのは貴様だろう」
人の名を捨て、されど魔の王としての名も持とうとはしない者。
一番呼んで欲しい人に名前を呼ばれない以上、そこに、文字の羅列としての価値しか見いだせない者。
魔王。
オディオの呼びかけに応える様に、魔王もまた夢の世界で虚像を纏った。
▽
敗者だとか、勝者だとか、魔王にはどうとでもよかった。
彼は敗者だ。
一人ではジールにもラヴォスにも勝てず、クロノ達にも敗れた敗者だ。
彼は勝者だ。
宿敵とさえも手を組み、遂にはジールとも決着をつけ、ラヴォスをも倒した勝者だ。
(それがどうした)
魔王は負けた。負けて最愛の姉を奪われた。
魔王は勝った。勝ったところで姉は戻ってこなかった。
であるなら勝敗に意味なんてない。
一番大切なものを失ってしまったのなら、他の全てがどうなろうと意味はないのだ。
その全てには魔王自身も含まれている。
どう足掻いてもサラを取り戻せないというのなら、これからの魔王の生など無価値だ。
逆に言えば、どうにかしてサラを取り戻せるのであれば、魔王はその為に全てを賭けられる。
ならばここは境界線だ。
転がり込んできた最後のチャンス。
それが幻想か、そうでないのか、この機にオディオに確かめなければならない。
「私が聞きたいのはそんな御託ではない。確認させろ。お前は本当にどんな願いでも叶えられるのか?
時空の彼方に消え去ったサラを、姉上を……。お前は見つけ出し、助けることができるのか?」
オディオに縋るしかない身とはいえ、魔王には彼の願望を成就させることがどれほど難しいか、身に染みて分かっていた。
助けるどころの話ではない。魔王は姉の居場所すら掴めていないのだ。
むしろそれこそが、魔王に立ち塞がっている最大の難関と言っていい。
時を超えることもできる。平行世界へも渡り歩ける。だがそれだけだ。
無限に広がる平行世界の、そのまた無限に綴られている時間軸。
サラが今も時の狭間を漂っているかもしれない以上、その全ての時空を探さねばならない。
それでは見つかるはずがない。
引いても引いても数が減らない無限の二乗個のくじの中から、たった一つの当たりくじを引き当てろと言うようなものだ。
793
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:57:10 ID:qCCNahKk0
「可能だ。いや、適任だと言っていい。私なら君の姉を救える」
そんな無理難題をふっかけて、すぐに解けると返されたのなら、人はどう思うだろうか。
喜ぶか。驚くか。違う。まずは疑うものだ。
「……根拠は」
「ある。彼女もまた、『オディオ』だからだ。私なら彼女が背負っているものを肩代わりすることができる」
加えて、その理由が要領を得ないものなら尚更に疑いが増す。
「彼女は今や生きとし生ける者全てを憎悪し、死を望んでいる」
オディオが語るサラが、魔王が知る心優しき姉とかけ離れていたのなら尚更だ。
崩れ行く海底神殿で彼女は魔王に言ったのだ。
彼女を生贄に捧げた母を、国を、恨まないで、と。
その彼女が憎んでいるという。人を、生命を、殺したいほどに憎んでいるという。
到底信じられるものではなかった。
だが魔王にはそれが妄言だと切り捨てることはできなかった。
どんなに優しい人でも、きっかけがあれば豹変してしまうと。
姉よりも先に、母の心をラヴォスに奪われた魔王は知っているからだ。
だから魔王にはオディオに続きを促すことしかできなかった。
▽
「サラは、魔神のペンダントを手に、星を滅ぼす災厄、ラヴォスを止められうる希望の少年たちを逃がした」
それはどこかで聞いた物語だった。
「サラは、希望の少年達を逃がしたことと引換に、一人、時空を彷徨うこととなった」
それは生贄となった少女の物語だった。
「サラの心は、たった一人で悠久の時を過ごすことに耐え切れず、日に日に摩耗していった」
それは一人ぼっちになってしまった少女の物語だった。
「その果てに、サラは、自らの願いどおりに倒されたラヴォスの怨念に取り憑かれた」
それは『憎しみ』と出会ってしまった少女の物語だった。
「そして、サラは。全て消えてしまえばいいと願うようになった」
それは生贄の少女が、人殺しになる物語だった。
794
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 12:58:48 ID:qCCNahKk0
(ジャキくんのお姉さんは私とおんなじなんだ……)
アナスタシアは心の中で、オディオが語る物語にそんな感想を心の中で漏らした。
オディオの説明に納得したのか、魔王と呼ばれた男はこれ以上話すことはないと、虚像を解き、姿を消した。
あくまでもアナスタシアがずっとしていたように、居なくなったのではなく、見えなくなっただけなのだろうが。
(アシュレーくんは変わってないな)
姿を隠したまま、アナスタシアはアシュレーを見つめる。
アシュレーは殺し合いに呑まれることなく、オディオに真っ向から言い返していた。
アナスタシアとは違い、アシュレーは諦めることなく、この一日を戦って来たのだろう。
大好きな人達を守るために。最愛の人達のもとへと笑って帰るために。
(眩しいなあ……)
オディオが語った少女同様に磨耗しきったアナスタシアには、アシュレーはあまりにも眩しかった。
「さて、そろそろ魔法が解ける時間だ。放送を始めよう」
だからそのオディオの言語に、アナスタシアはほっとした。
よかったと、漸く終わるのだと。
姿を消したままであるとはいえ、自分が壊したユーリルと、自分がそうなりたかったアシュレーから、早く離れたかった。
夢の中にすら逃げられないなんて、文字通り、まさに悪夢だ。
オディオが死者の名前や禁止エリアを告げる声に合わせて、夢の世界の連結が解け、消滅していく。
アナスタシア達の意識が浮上し、いずれ目覚めることを意味していた。
▽
彼ら彼女らが目を覚ました時、この夢のなかの出来事について何を想うのか。
今はまだ分からない。
795
:
第四回放送・裏
◆iDqvc5TpTI
:2010/12/23(木) 13:02:37 ID:qCCNahKk0
以上、投下終了です。
ロワの開催理由への付け足しや、ユーリルに与えてしまった影響など、指摘・判断をお願いします。
尚、本作においてクロノ・クロスの内容に少々踏み行っていますが、
あくまでも、クロノトリガーの、PS版追加ムービーや、DS版隠しボスから分かる範囲に抑えたつもりです。
796
:
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:36:38 ID:UDweb/y.0
それでは、2ch問題につき、こちらに本投下させていただきます
797
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:38:49 ID:UDweb/y.0
本来、深夜の砂漠は昼間とは打って変わって冷え込むものである。
されど、今、ゴゴ達が歩む砂漠は、快適とまではいかなくとも、心地良いと感じられる位には暖かかった。
戦いの余熱が未だ残っているからであろう。
無論その熱は、全てを憎み、破壊する、ルカやロードブレイザーの冷たい炎のものではない。
大切な絆を護りきった、トッシュとアシュレーの熱くも温かい炎の熱だ。
そう、ゴゴは信じている。
「温かい……な」
ああ、温かい。
肌に感じる熱も、心にくすぶる熱も、背負った命も、手を繋いだ少女も、全てがみんな、温かい。
「ゴゴおじさん大丈夫? 重くない?」
手を繋いだちょこが、ゴゴの背を見上げ聞いてくる。
つい先程まで少女に安寧を与えていてくれたその場所には、一人の男が背負われていた。
アシュレー・ウィンチェスターだ。
彼の勝利を信じ、迎えに行ったゴゴ達が目にしたのは、気を失い地に伏していたアシュレーだった。
そこでゴゴは、ちょこの、ちょこはもう大丈夫だからという言葉に甘え、少女を降ろし、男を背負うことにしたのである。
ただ、それからのゴゴの歩みは御世辞にも、順調であったとは言えなかった。
ちょこを背負っていた時でさえ、疲労の極みにあり、ゆっくりとしか歩けなかったゴゴだ。
少女よりもぐっと重い、鍛えた身体を持つ大人の男を運ぶとなると、行き以上に帰りはきつかった。
それでも。
ゴゴはこの重さを辛いとは思わなかった。
「大丈夫だ、ちょこ。命の重みだからな。重くて……当然だ」
生きている。
意識は未だ戻っていないが、背に感じる鼓動が示すように、アシュレーは生きている。
感応石の反応が消えた時には、その死をも覚悟していた友が生きている。
ならば、背の重みを好ましく思いこそすれ、苦行だと嘆くはずがない。
「うん、そうなの。おじさんの言うとおりなの。そこには、ティナおかーさんも、狼さん達もいるの〜!」
そうだったなと、ゴゴは頷く。
彼らがアシュレーを発見した時、アシュレーは意識を失っていさえしたが、傷一つない状態だった。
ロードブレイザーに無傷で勝利した――ということが考えられない訳でもなかったが。
それにしたってルカと対峙する前からあった、フィガロ城戦での傷まで跡形もなくなくなっていたのだから、怪しむなという方が無理だ。
もしかしたら、アシュレーは再びロードブレイザーに取り憑かれてしまったのではないか。
不可思議な全快を果たしていたアシュレーを前に、ロードブレイザーの治癒力を知るゴゴは、そう警戒してしまった。
トッシュが命を賭けて成した人と魔神の分離。
それを無駄にしてたまるかと、自身でも困難だと思える紋次斬りの物真似さえ決意した。
しかし、全てはゴゴの取り越し苦労だった。
人ならざる者達の声を聴くことのできるちょこが教えてくれたのだ。
狼さん達の声がする、と。
ティナおかーさんと、ティナおかーさんのおとーさんと、狼さんと、狼さんのおにーさんが、アシュレーおじさんを助けてくれたの、と。
子どもらしい独自の言葉で説明してくれたちょこの言葉を要約すると、ティナ達の魔力を借りて、
ルシエド達がアシュレーの傷や欠損を埋める形で実体化したとのことだ。
彼らガーディアンの実体化は、幻獣のそれとは違い、生きる者の強い心の力さえあれば実体化し続けることができるらしい。
アシュレー程の心の強さの持ち主なら、まず実体化が解除される心配はないだろう――とのことだ。
798
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:43:36 ID:UDweb/y.0
正直、ちょこが語ったことの半分以上を、ゴゴは理解できていない。
ゴゴにルシエド達の声を伝えてくれたちょこにしたって、難しいことはわかんないと首を傾げていた。
だが。
分からないことだらけでも、分かっていることならあった。
アシュレーは助けられたのだ。
幻獣とガーディアン、二組の家族の力によって。
(家族……か)
家族――それはアシュレーを救った力
家族――それはちょこが失ったもの
家族――それはシャドウに少女を護らせたもの
ふとゴゴは遠き日を想う。
正体不明を売りにはしているが、ゴゴとてれっきとした生命体だ。
生みの親はちゃんといるのだ。
当然、幼き頃には、彼ら、彼女らの中でゴゴも笑っていた。
友達と呼べるような存在だって確かにいた。
されど。
ゴゴはいつしか一人になっていた。
たった一人、物真似の道に生きていた。
何もそれは家族や友人が物真似に魅せられたゴゴに理解を示さなかったから――というわけではない。
ゴゴの物真似は時に人を楽しませ、時に人に笑顔を与えた。
ゴゴのファンになったと言う人々も沢山いた程だ。
それに、ゴゴからすれば物真似は自身の生き様なのであって、別に他人がどう思おうと構いはしなかった。
だからゴゴが一人になってしまったのは、単にその物真似への欲求と、追随する行動力があり過ぎたからに他ならない。
あれも真似したい。これも真似したい。まだ見ぬ何かを真似したい。
その願いがゴゴに一箇所に留まることをよしとさせなかった。
時には鳥や魚や魔列車の物真似をしているうちに、大陸を横断しきってしまったこともあったくらいだ。
そんなゴゴについて来れる存在なんて、ゴゴの故郷にも、旅先にもいなかった。
正しくゴゴは渡り鳥だったのだ。
誰の追随も許さず、心を許した者さえも置き去りにして、ただ高く遠くへと飛んでいく。
一人ぼっちの鳥だったのだ。
一人ぼっちの鳥……だったはずなのだ。
あの時までは。忘れもせぬあの時までは。
(あの時は驚いたものだ。まさか、俺以外にあんな辺鄙な地に来るものがいるなどと、思ってもいなかった)
世界中のありとあらゆる物を真似して行くうちに、地上には、ゴゴが真似したことのないものは少なくなってきていた。
たとえ同じ物や生物でも、一分一秒ごとに変わり続けていることくらい、物真似師であるゴゴは誰よりも知っている。
故に同じ対象を何度も何度も真似たところで、ゴゴが物真似を飽きることはない。
けれども、全く真似したことのないものへと想いを馳せたくなるのもまた、人情というものである。
そこでゴゴは、地上がダメなら、いっそ海中やら地中やらに潜ってみるのはどうだろうかと、思いたったのであった。
結果は、ゴゴにとって大変満足のいくものだった。
海の底や、大地の中には、ゴゴにとって未知の世界が広がっていた。
味を占めたゴゴは、それからもあちこちを旅しては様々な世界へと文字通り、没頭していったのであった。
799
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:47:47 ID:UDweb/y.0
その最果てが、小三角島の洞窟とゴゴが名付けた、とあるモンスターの胃袋の先に広がっていた世界だった。
モンスターに食われたと思ったら、不思議な洞窟に行き着いていたという話を旅路で聞いたゴゴは、
いてもたってもいられず早速食われてみたのであった。
それはもう、躊躇とか恐怖とかそんな言葉は全力で置いてきぼりにしてである。
実際、ゴゴは五体満足で目を覚まし、目的だった洞窟でたっぷりと物真似を満喫できたのだから結果オーライであった。
……結果オーライではあったのだが。
ここで流石のゴゴも予想だにしていなかった事態が発生した。
なんと、ゴゴが長き物真似道の末に辿り着いた人っ子一人来ないであろう洞窟に、ゴゴ以外の来訪者がこぞってやってきたのである。
このところ辺境や魔境にばかり出かけていたゴゴからすれば、それは久しぶり過ぎる他人との邂逅だった。
だからだろう。
ゴゴは問われるまでもなく、口を開いていた。
物真似師といえど人の子だ。
心のどこかでは人恋しさもあったのだろう。
ゴゴは名乗りも早々に、彼ら彼女らを物真似したいと思った。
そして、彼らが今何をしているのかを聞いた時。
ゴゴは彼らについていく決心をした。
『世界を救う』
そんな夢物語のようなことを力強く行ってのける彼らなら、ゴゴにでも置いて行かれはしないと思ったが為に。
こんな辺鄙な地へと故意か偶然かに赴くような彼らなら、ゴゴにもっと新たな世界を見せてくれるだろうと期待したが故に。
ゴゴは物真似をすることにした。
世界を救うという物真似をすることにした。
そうしてゴゴの何年か、十何年か、何十年かぶりの、一人じゃない旅が始まった。
ああ、だけど。
(もしかしたら、それ以前でさえ俺は一人ではなかったのかもしれないな)
どんなときでも、ひとりじゃないと、言い切った男がいた。
どんなときでも、ひとりじゃないと、頷いた自分がいた。
つまりは、そういうことなのだ。
どれだけ空間的な隔たりが横たわっていようと、どれだけ時間の壁が立ち塞がっていようと。
思い合う限り、忘れえぬ限り、人の繋がりは消えはしない。
ゴゴはそのことに気付くのに随分と遠回りをしてしまった。
ゴゴを笑って見送ってくれた故郷の家族や旅先の友達のことを、一方的に記憶の隅に追いやっていた。
もうそんなことはしない。
これからはゴゴも彼ら彼女らと共に生きていく。
(それが、俺のアシュレーの物真似だ)
背負ったアシュレーへと顔を向け、口には出さず、心に誓う。
そんなゴゴを祝福するように、ゴゴの目に目的地だった建物が映り込む。
フィガロ城。
ゴゴの仲間であるフィガロ兄弟の居城にして、トカが起動し、リオウが護ったトッシュが修繕した起動城塞。
死しても尽きぬ絆があると証明せんと、かの城は焔の厄災にも飲み込まれず、ゴゴ達を迎え入れたのであった。
▽
800
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:52:32 ID:UDweb/y.0
「わ〜いの〜! ふかふかのベッドなの〜」
大分元気を取り戻し、ぴょんぴょんと隣のベッドの上で飛び跳ねるちょこを傍らに、ゴゴはアシュレーをベッドへと横たえていた。
勝手知ったる他人の家。
フィガロ城へと辿り着いたゴゴは、大勢が休憩することに向いている客間にちょこを案内。
眠ったままのアシュレーも運んできて、これから皆で休憩に入ろうとしているのである。
セッツァーのことが気になるところではあるが、今のゴゴとちょこはいつ倒れてもおかしくないような状態だ。
アシュレーとて外傷は見られぬものの、長く目を覚まさないところを見るに、疲労が溜まっているのかもしれない。
座礁船で待っていたはずの松という人物が死んでいた件もある。
以上のことより、ここはまず一休みして体勢を整えるべきだと判断してのことだ。
幸い、ゴゴが何度か上空に跳んだ時に見た光景から察するに、城の付近には誰もおらず、全員が休んでいても危険ではない。
ちょこが自然に話しかけた結果でも、もうここら一帯には誰もいないことは確かである。
まあ、ロードブレイザーが行ったような、広域破壊がまたひき起こされる可能性もある以上、油断は禁物ではあるのだが。
その点に関しても、フィガロ城の潜行機能である程度はかわせるだろう。
幸か不幸か、傷ついたフィガロ城は以前程には地中を高速では動けないため、裏をかえせば地中での滞在時間は増している。
身を休める為の拠点としては、これほど以上はない状態だ。
(エドガー達が護っていてくれていると――そう想っていいのだろうな)
アシュレーをベッドに寝かし終え、ゴゴもまた一息つく。
現状三人の中で一番傷を負っているのはゴゴだ。
アシュレーとちょこを気遣い、先に休ませはしたが、本当はゴゴ自身が一番最初に休まなければならなかったのだ。
ゴゴは億劫な動作で自らの服へと手を伸ばす。
ちょこが回復魔法を使えず、ゴゴがその物真似をできない以上、傷の手当は包帯や水といった原始的な手を使うしかない。
ゴゴはトッシュが残してくれた水で傷口を消毒しようと、正体がさらされない程度に、服を緩め始める。
と、その手が何かに触れて動きを止める。
それは首飾りだった。
小さな白い花で幾重にも編まれた首飾りだった。
友達になりたいと、ゴゴに言ってくれた少女からの、大切な贈り物だった。
だけど。
「おはなさんたち、元気ないね」
ちょこの言うとおりだ。
送り手である少女の死を追うように、綺麗な花弁を咲き誇らせていた花々は、すっかりしおれて生気が抜けていた。
ゴゴは慌てて、手にしていた水をかけてやるが、そんなものは雀の涙にしかならない。
花飾りを成す花々はどれも切り花だ。
此処に来るまでも、ゴゴは時より水をやってはいたが、度重なる激戦や、砂漠の暑さに揉まれては、小さな花の生命力など保つはずがない。
ビッキーが死んだ以上、物真似として着けっぱなしにする理由もなかったのだから、しまっておくべきだったか。
後悔すれどももう遅い。
寂しいことだが、この花達ともここでお別れ――
801
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:54:16 ID:UDweb/y.0
(……待て)
寂しさに傾きかけた心を慌てて引き起こす。
ゴゴの中で引っかかる点があったからだ。
さっき、ゴゴは花飾りが元気がないことを当然とした。
あれだけの戦いや、熱砂の中、ずっと身に着けっぱなしだったのだからと。
だがそれは、果たして当然の結果なのだろうか?
シャドウやルカ、ロードブレイザーを相手に立ち回り、多くの死者が出る程の戦いの中、か弱い花々がしおれる止まりで済んだことが当然だと?
そんなわけあるはずがない。
しおれるどころか、ちぎれ、吹き飛んでいてもおかしくない――どころかそうなっていないとおかしいくらいだ。
けれど、そうはならなかった。
小さな小さな白い花は、ずっとずっと、ゴゴの首元で揺れ続けていた。
傷つき、弱まって尚、強く可憐に咲き続けていた。
それはいったいどれだけの幸運が重なればなし得ることなのだろうか。
ゴゴはこれまでも花の真似をしてきた中で、花の強さを理解しているつもりではあったが、それでも驚かずにはいられなかった。
「はは、ははは。奇跡だ。小さな、奇跡だ」
驚きはいつしか笑い声になっていた。
笑うしかないほどに、ゴゴは驚き、その小さな奇跡を喜んだ。
そのゴゴに応えるように、また一つ、小さな奇跡が起こる。
「ゴゴ」
声がした。
少女のものではない声がした。
慌ててゴゴが振り向くとそこには身を起こしたアシュレーがいた。
「アシュレー……? 目が覚めたのか」
アシュレーおとーさん、やったのーっと飛びついてくる少女を受け止め、アシュレーは笑みを浮かべて頷く。
「ありがとう、ゴゴ。君や、トッシュや、ちょこや、ティナや、アティのおかげで僕は帰って来れた」
わしゃりとアシュレーはちょこの頭をなで、ゴゴにも礼を述べる。
「聞きたいことや、伝えたい事はいっぱいあるけど、でも、きっと、なんとなくだけど、僕はまず、君に教えてあげないといけないことがある」
そして彼は続ける、ゴゴの手元の花々を愛おしげに見つめて。
ゴゴと、花に、ティナの魔石から習得したのであろう癒しの光を放ちながら口にする。
「僕達の世界、ファルガイアでは『ちいさなはな』は幸運のお守りだと信じられているんだ。
荒廃した世界に生きる僕達にとっては、そんな世界にも負けずに咲き誇る『ちいさなはな』は希望の象徴なんだ」
その言葉を聞いて、ゴゴは全てに納得した。
ああ、そうか。そういうことなのかと。
小さな小さな花飾りは、その幸運をもってして、枯れることなく、繋がったままここにある。
しかしながら真に幸運だったのは誰だろうか。
身につけていた首飾りが壊れてしまわないくらいに、致命傷をことごとく避け得ていたのは。
ゴゴだ。
ビッキーにこの首飾りをかけてもらったゴゴ本人だ。
ゴゴはずっと護られていたのだ。
あの一輪の花がもたらしてくれた幸運に。
ゴゴに、友達になるという物真似をさせてくれた始まりの少女に。
ずっとずっとずっと。
802
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:55:02 ID:UDweb/y.0
「アシュレー」
なら、ならば今こそ。
そのことに気付けた今ならば。
「俺達は、どんなときでもひとりじゃないんだな……」
ゴゴは前へと進める。
ビッキーに会えてよかったと心の底から思うことができる。
「当然だ」
幾時間か前にゴゴがしたのとそっくりそのままの返答。
アシュレーなりにゴゴの声を真似したそれを聞いて、ゴゴはニヤリと笑みを浮かべた。
「俺相手に物真似をするには十年早い」
「そうかな? 僕的には渾身のできだったんだけど」
「……まあ悪くはなかったな」
ぷいっとゴゴはそっぽを向きながら、手にした首飾りに力を込める。
ケアルラの光を受けた花は、元気を取り戻してはいたけれど。
「……あ」
ぽろり、ぽろりと、たったそれだけの動作で、繋がり合っていた花々が分かたれていく。
悲しげな声を出したちょこに、これでいいんだとゴゴは告げ、ばらばらになった花を拾う。
「アシュレー。目が覚めて早々に悪いが、この城の書庫から適当に紙や使えそうなものを取ってきてくれないか。
俺達の、いや、より多くの人数分だ」
「紙を?」
「ああ。この花々を栞にしようと思うんだ。そしてお前やちょこにも、お守りがわりに持っていて欲しい」
「いいのか?」
ご本好きなの〜と、きゃっきゃっと喜ぶちょことは違い、アシュレーは聞き返してくる。
「いいんだ。花も、幸運も。独り占めにするものじゃない」
それに、ゴゴとビッキーの絆は、例え花飾りを解いてしまっても、ずっと、ずっと、繋がったままなのだから。
【G-3 フィガロ城 一日目 深夜】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:小さな花の栞@RPGロワ、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×3、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3、
天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ
[思考]
基本:数々の出会いと共にある中で、物真似をし尽くす。
1:ひとまずは休憩しつつ、これからのことを考える
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ?
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
803
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:56:43 ID:UDweb/y.0
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式、小さな花の栞@RPGロワ
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康、気絶 希望の守護獣『ゼファー』、欲望の守護獣『ルシエド』を降霊
[装備]:バヨネット、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、焼け焦げたリルカの首輪、小さな花の栞@RPGロワ
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:オディオや、アキラなど、夢の中のできごとをみんなに話す。自分が何故全快しているのかも聞きたい。
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ?
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)
※心臓部に『希望のかけら』『欲望の顎』のミーディアムを内蔵しています。
※ティナの魔石よりケアルラを習得しました。他にもティナの魔石抜きで覚えれる魔法や、マディンの魔法を習得しているかもしれません。
【小さな花の栞@RPGロワ】
とある少女が物真似師の為に編んだ花飾りを、物真似師が仲間のためのお守りとして、幾つもの栞に作り直したもの。
少女は白い花が好きだった。
少女を見守って死んだ男も、荒野に咲く白い花が好きだった。
少女と友達になった物真似師も、その日、白い花を好きになった。
804
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/09(日) 23:57:19 ID:UDweb/y.0
以上で投下終了します
805
:
Re:どんなときでも、ひとりじゃない
◆iDqvc5TpTI
:2011/01/10(月) 00:08:34 ID:l3gneZcU0
と、すみません
アシュレーの状態表に『気絶』が残ったままになっていました
収録時に消しておきます
806
:
ドラゴンクエスト
◆iDqvc5TpTI
:2011/02/17(木) 01:13:32 ID:MPmFsTyc0
規制につき、代理投下お願いします
807
:
ドラゴンクエスト
◆iDqvc5TpTI
:2011/02/17(木) 01:14:47 ID:MPmFsTyc0
つまりは、そういうこと。
無法松と同じく、アナスタシアという少女もまた、生き返ってなどいなかったのだ。
だから、だから。
神は死人が動き回ることを許さない。
今更に、生きることの意味を思い出したところで、もう遅い。
(これは、罰なのかな……)
アナスタシアは呆然と、目の前の輝く竜を見つめていた。
ユーリルが『勇者』であることを捨てた罰が、この竜への変貌だというのなら。
その竜に喰われることこそ、『勇者』を堕落せしめたアナスタシアへの罰。
散々自分のことを『生贄』だと嘆いた少女は、真実、今、神の『竜』へと差し出された『生贄』だった。
「くそっ、何が一体どうなってんだよ!?」
「人を輝く竜へと変える力……。まさか、あの覇王の紋章!?」
破滅の羽音を耳にし、ようやく我を取り戻したイスラとジョウイが、しかし、次の瞬間には吹き飛ばされる。
爪にて切り裂かれたのではない。尾にて薙ぎ払われたのでもない。
文字通り、二人は吹き飛ばされたのだ。白き『竜』の輝く吐息によって。
あまりにも出鱈目だった。
輝く『竜』はなんてことのない動作で、息を吸い、吹きかけただけだった。
それだけで、極低温の吹雪が巻き起こり、イスラとジョウイは近づくことも叶わず、地に伏せた。
せめて一矢報いようと射られた黒き刃も軽く尾にいなされる。
圧倒的だった。
圧倒的過ぎた。
ドラゴン。最強の幻想種。神の使い。
人如きでは、到底適うはずのない、絶対者。
彼を前にして、アナスタシアは震えていた。
恐怖。死への恐怖。
これが例え神罰であろうとも、アナスタシアは潔く受け入れることができなかった。
もう遅いとは分かっていても、因果応報だと理解していても。
アナスタシアの身体は、少しでも長く生きようと、一歩ずつ、一歩ずつ、後ずさった。
迫り来る『竜』がいるのとは逆方向の、神殿へと至る橋を後ずさった。
無駄なのに。
翼無き人の身では、翼ある『竜』からは逃れることなど不可能だというのに。
あっという間に距離が詰められる。
無様に、醜く、足掻いて、足掻いて、ようやく稼いだ数歩が、泡のように溶けて消える。
808
:
ドラゴンクエスト
◆iDqvc5TpTI
:2011/02/17(木) 01:15:56 ID:MPmFsTyc0
「い……嫌、嫌ぁ」
ガタガタと、震えて悲鳴をあげても、アナスタシアを助けてくれる人間はもう誰もいない。
他人を利用してばかりで、他人の背に隠れてばかりで、友の手さえとろうとしなかった彼女は、いつの間にか一人ぼっちになっていた。
カタカタと、カタカタと。
手にした絶望の大鎌が震える。
それは地獄から迎えに来たと、彼女に死神が伝えているようで。
ガツンっと、背中に当たった何か硬い感触に思わず悲鳴を上げた。
何か。
それはなんてことのない壁だった。
アナスタシアの後退を妨げるように立ち塞がる、彼女の子孫の死地たる神殿の壁だった。
「死にたくない、私は、私は、まだ、生きていたいのッ!」
もはや、逃げ場すらない。
巨竜の顎はすぐそこまで迫っていて。
たとえ神殿の中に逃げこもうとしても、湖の中に飛び込もうとしても。
間違いなくアナスタシアが噛み殺される方が速い。
「ひぃっ……い、あ、あああ」
ガバリと、『竜』が大きく口を開いた。
口の中には底知れぬ闇が広がっていた。
アビスを、地獄の底が広がる闇が広がっていた。
その闇がアナスタシアを呑みこんでいく。
アナスタシアは目を瞑った。
闇を直視したくなくて、現実から逃げた。
数瞬後には全身に突き刺さるであろう牙による痛みで、現実に引き戻されることが分かっていても。
そうせざるを得なかったのだ。
だというのに。
一刻、一秒、数十秒。
アナスタシアを現実に引き戻すのに十分な時間が経とうとも、彼女を痛みが襲うことはなかった。
恐る恐る、アナスタシアは目を開ける。
否、正しくは、何がどうなったのかを認識した途端、少女の目は見開いていた。
809
:
ドラゴンクエスト
◆iDqvc5TpTI
:2011/02/17(木) 01:44:52 ID:MPmFsTyc0
なにやらすぐに規制解除されたため、続きは自分で投下させていただきました
810
:
◆wqJoVoH16Y
:2011/05/15(日) 23:16:25 ID:cqjqO0vY0
規制がかかったためこちらに投下します。代理投下願います。
811
:
アラスムスの邂光現象
◆wqJoVoH16Y
:2011/05/15(日) 23:17:02 ID:cqjqO0vY0
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:若干持ち直した
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:目覚めたユーリル達に対処する。
2:カエル達を追い南下する。
3:ジャファルと一緒にいたい。
4:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
5:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。
※偵察に出たジョウイについてどう思っているかは不明です
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:アキラが気に食わない。
3:クロノならどうする……?
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
812
:
エラスムスの邂光現象
◆wqJoVoH16Y
:2011/05/15(日) 23:17:34 ID:cqjqO0vY0
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:気絶中
2:無法松の英雄になる。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※無法松死亡よりも前です。
よって松のメッセージが届くとすれば、この後になります。
813
:
エラスムスの邂光現象
◆wqJoVoH16Y
:2011/05/15(日) 23:18:24 ID:cqjqO0vY0
投下終了です。支援ありがとうございました。
814
:
SAVEDATA No.774
:2011/05/15(日) 23:24:31 ID:cqjqO0vY0
IDが残っているうちに。
>>811
はタイトルミスです。
エラスムスの邂光現象が正となります。すいません。
815
:
SAVEDATA No.774
:2011/05/15(日) 23:25:23 ID:NsxdIkW.0
本スレで代理投下しようとしましたが、自分も規制にかかりましたのでどなたか更なる代理投下お願いします
残りは
>>812
のみですので、一回で終わるはずです
816
:
SAVEDATA No.774
:2011/05/28(土) 10:43:12 ID:z5C7Zj2c0
本スレ落ちてしまった?
817
:
◆Rd1trDrhhU
:2011/06/22(水) 00:48:56 ID:dcBgw7YM0
「すべてッ! 殺してやるッ!」
その音に負けぬほどの咆哮と共に、首輪を引きちぎる。
力任せに破壊されたはずの首輪だが、ゴゴの命を奪うどころか爆発すらしなかった。
今の彼がオディオの力をもある程度再現できているということだ。
むき出しにされた、ヒトへの憎しみ。
誰よりも仲間を想い、何よりも人間を愛したはずの魔物が放つ金色の殺意だった。
首輪の件は、以上のように修正します。
ここ以外の変更点はありません。
818
:
SAVEDATA No.774
:2011/06/23(木) 22:01:01 ID:KrQIBaYs0
>>817
修正おつです。分かりやすくなったかと思います。
819
:
◆wqJoVoH16Y
:2011/07/25(月) 22:54:16 ID:4EYPR1QQ0
本スレ518 〜夢に逃げている暇は無い。彼らには成すべきことがあるのだから。から
「魔王」
「撃って出るつもりか」
全てを悟ったかのように、魔王はカエルの言葉を待つまでもなく尋ねた。
カエルから聞いたことの顛末を鑑みれば、それほどの憎悪の具現が暴れたにも拘らずたった一人しか死んでいないということになる。
「この剣と石を通じて、鼓動が聞こえてくる。勇者の力はそれほどのものということだ」
悪い冗談かとも考えたが、勇者の座に近しいカエルの持つ確信はそれを補って余りある信頼があった。
そしてそのカエルが持つキルスレスもまた、深淵に呼応するようにその力を発露し始めていた。
操作とまではいかなくても、感応石と首輪によって構成される共界線に干渉することで生きた首輪の位置を“識る”ことができるようになったのだ。
「総勢9人の軍勢か。お前達が城に来た時よりも多いとはな」
カエルに連続でケアルガをかけてもらいながら、魔王は自身のダメージが消えていくのを確かめていた。
「10人だ。あの光が、真に勇者の輝きなら、な」
陽光に眼を細めるようにして、カエルは自嘲気味に言った。
首輪を持たぬあの憎悪は果たして参加者だったのだろうか。その生死は分からない。
だが、アレもまた“救われた”という確信だけがカエルの胸を打つ。
あの光を直視すれば誰もが認めるだろう。勇者とは“そういうもの”だと。
どくん。
胸の高鳴りを掻き毟る様に抑え、カエルは爬虫類の如く笑んだ。そういうものだからこそ――――目指す意味がある。
「好きにしろ。最早、数など瑣末だ。雑兵とはいえ、ここまで数が開いてしまえばな」
「手傷も多い、直ぐには動かないだろうが……待ち受けていては圧殺される」
大盤振る舞いの回復魔法を連発しても尚、カエルに疲れは見えなかった。
どくり、どくりと強まる鼓動が、体力のみならず魔力をも剣の所有者に勝手に供給している。
これならば、感応石から離れても共界線が繋がっている限りこの状態を維持できるだろう。供給源が何かなど、言うまでもない。
「叩くなら今を置いてない、か。放送を待つという手もあるが……これ以上死者を数える意味もないな」
「逆手に取るぞ。戦力差をひっくり返すならば確実に決める必要がある」
魔王が魔鍵に魔力を込めながら空いた手でカエルに触れ、伝えられた座標へと転移プログラムを構築する。
既に戦況はあの雨戦よりも悪化している。11人を彼ら2人で崩すのであれば、持てる全てを費やさなければならない。
マリアベル達は、全ての首輪と繋がるこの遺跡の本当の意味とそれによって強化されたキルスレスの認識力を知らない。
マリアベル達は、カエル達の快復が想像以上の速度で達成されたことを知らない。
マリアベル達は、カエル達が転移能力を保有していることを知っている。しかし、カエル達が“待つ”と思っている。
その空白の未知を全て用い放送に身構える敵軍勢を狙う―――――――転移電撃戦以外に、この劣勢を覆す術は無い。
以上のように修正します。よろしくお願いします。
820
:
◆wqJoVoH16Y
:2011/07/26(火) 07:50:47 ID:GkkKGP0Y0
上記の修正に誤りがありました。
誤:既に戦況はあの雨戦よりも悪化している。11人を彼ら2人で崩すのであれば、持てる全てを費やさなければならない。
正:既に戦況はあの雨戦よりも悪化している。C7にいる者達を彼ら2人で崩すのであれば、持てる全てを費やさなければならない。
よろしく願います。
821
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:01:18 ID:rH4aOhw20
既に太陽は御身の半分以上を海面から顕わにしていた。
空は僅かな星々が夜の名残をのこすだけで、紺色の空は青に転じようとしている。
雲はいち早く陽光を浴びて白く輝き、流れる風を受けて空を泳いでいた。
今日も暑く、長い日になるだろう。木々と葉に斑と隠れた森から見上げただけでもそう思うに十分な空だ。
そんな風戦ぐ森の中で、セッツァー=ギャッビアーニは寝ていた。
地面に茂った草を床に敷き、朝日の程良い熱を薄衣と自らに掛けて、手頃な厚さの書物を枕にして横になっている。
「随分と余裕だな。この殺し合いの中で他者の前で寝入るとは」
手頃な木々に腰かけたピサロは寝入ったセッツアーを嘲る。
その手に武器を備えている無粋を差し引いても、新緑の光の下で銀の髪を輝かせる男は、それだけで絵画のように世界に調和していた。
「こう見えても健康には気を使う方でね。幾夜を越えてギャンブルに興ずることもあるが、無駄な不養生を自慢する気もないのさ」
くく、と軽い嘲笑が森に木霊する。如何なギャンブラーといえど、自らの意識まで種銭にして眠り入るはずもない。
度胸と無謀の境を知る男は、眠ることなく、しかし限りなく眠りに近い形で休んでいた。
良く見ればその周囲にはパン屑の欠片が散っている。蟻が見れば、これ天恵と巣穴に運ぶだろう。
「私の眼前で眠るのは養生と言えるか?」
「ああ、言えるね。旦那が目を光らせている、これほど安心できる“今”なんてそうそう得られるもんじゃあない」
セッツァーは横になったまま、ガサゴソとデイバックの中を漁り、水と食料をピサロに向かって投げた。
信用の証のつもりだろうか。ピサロは何も言わず、水だけを手にして口に含んだ。
賭けの場では全神経を張り巡らせるが、一度張ればそこに疑いも迷いも見せない。
いつの間にか『旦那』とピサロを称する、この妙な愛嬌もまたセッツァーの処世である。
「腹が減ってはなんとやら。一度戻ったのは正解だったな」
「どうだかな。腹が膨れたところで、人が死ぬわけでもなかろう」
寝返りを打ったセッツァーの眼の先に、天罰の杖の触り心地を確かめていたピサロがいた。
ブリキ大王の上で幼い少女を撃破した彼らが一拍を置いて先ず向かったのは対主催がいるであろう南ではなく西だった。
その目的は、彼らの最大の障害と成り得るアシュレー=ウィンチェスターの必死だ。
ブリキ大王一台を使い潰してまで得たものが『“これならきっと”アシュレーは死んだ“だろう”』では割に合わない。
『アシュレーは死んだ』でなくてはならないのだ。事実は短い方が善い。
故に彼らは西へ赴き、偉大なる死体を探した。
当然、死体でなければ死体にするつもりで。死体であればどれほどの奇跡を以ても蘇らない死体にするつもりで。
結果から言えば、彼らは然程労苦することなく目的を達した。死体を辱める必要もなかった。
そこには、何の抑揚もなく“崩された”人間の部品があっただけだったのだから。
(ハロゲンレーザーを破った金色の光、人間の業とは思えない死体……まさか、な)
セッツァーが与えたダメージと死体に残った痕の帳尻が合わない事実は、容易に理解できた。
それはつまり、アシュレーを“殺し直した”バケモノがいたということだ。
そしてそのバケモノの名前は、簡単な消去法によって自ずと浮かびあがる。
ゴゴ、下の下の物真似野郎。セッツァーの知らない誰か。
セッツァーは瞼を閉じてその時をトレースしていた思考を遮断した。
感情は選択の精度を鈍らせる。直観は信ずるべきだが、思い込みはギャンブラーにとって最大の毒だ。
アシュレーを殺したのがゴゴであると決め打つことに何のメリットもない。とびきり染みた化物の参加者が1人いる。それだけで十分なのだ。
822
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:01:57 ID:rH4aOhw20
そう考えればアシュレーの武器と、デイバックを3つを入手できたのは“半分”僥倖と言えた。
武装の拡充、使い捨てできる糧抹の充達は確かに僥倖だ。
「余計なものさえなけりゃ、大満足だったんだがな。クソ」
栞を一枚指でヒラヒラさせるピサロの姿が面白くないのか、セッツァーは再び寝返りを打ってピサロから背を向けた。
確かに、あの花の栞が何枚もあったことは面白くない。
何故面白くないのかが理解できないことが、また面白くない。
面白くないのに捨てる気になれないのが、輪をかけて面白くない。
だが、何より面白くないのは振り向いた先にぽつねんと置かれた捩じれた首輪だった。
死体から回収されたものではない、明らかに首から引き千切られ、尚爆破していない首輪――――――“外された首輪”だ。
(もう外した奴が居やがる。オディオが大掛かりなアクションを起こしてないってことはまだ逃げた奴はいないだろうが……急ぐしかねえ)
1個出てきてしまえば、2個目を疑わぬ莫迦はいない。だが、勝者を目指す彼らは敗者の逃亡を許容できない。
首輪を外せる何某かの術が存在するという確かな光は、断固として摘まねばならないのだ。
「あまり焦りを表に出すな。お前が選んだ休息だろう。唯でさえ矮小な人間が、より小さく映るぞ」
「アンタがそれを言うのかい? あの光を見て、あれほどまでに取り乱した旦那が?」
そう言ってセッツァーがせせり笑おうとしたその瞬間、轟とピサロの手にあった栞が魔炎に包まれ、僅かに残った灰も手で握りつぶされた。
セッツァーは常と変らぬ素振りで鼻を鳴らしたが、その背中でつうと汗が垂れるのを感じた。
僅かなりともこの魔王と行動を共にしたセッツァーは、ピサロの理性と感情の境目を感覚的に理解し始めていた。
その上で、今のは踏み込み過ぎたと反省する。あと半歩踏み込んでいれば、この薄氷の如き盟約も一瞬で瓦解していただろう。
そう、本来ならばここで休息する暇は無かった。
アシュレーを倒し、少女を見逃した彼らは“先んじて遺跡に向かう心算だったのだ”。
それこそが、少女や物真似師を無理して追撃せず、敢えて見逃した理由だった。
ブリキ大王を用いるとはいえ3人を全員を倒そうとすれば何処かしらに無理が生じ、手傷を負う可能性があった。
故に彼らはその束ねた力をアシュレーの必滅に向け、残りには別の役割を与えたのだ。
それが、敢えて残党をヘクトル達の懐に潜り込ませること。
残党を意図的にもう一方のチームに送ることで、セッツァー達3人の存在を示し、ジョウイの計画をズラすことだ。
自分達の存在を知れば、容易にジョウイが目論む南征へと動けまい。後顧の憂いを絶つべくこちらを狙うことも考えるだろう。
ジョウイが獅子身中の虫である疑惑を含め、暫くは喧々諤々の云い合いが続くはずだ。
その隙に右脇を縫って遺跡へと先に入り魔王と同盟交渉を結ぶなり、いっそ遺跡を縦に潰す工作をするなり、優位を確保する。
そのハズだった。あの雷光を見るまでは。
『何故……何の故にだ、勇者よ! お前がそれだけの光を持っていたというなら、何故この光はロザリーに届かない……ッ!!』
823
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:02:42 ID:rH4aOhw20
あの時のピサロの慟哭をセッツァーの鼓膜が思いだす。
移動を進めようと先ず東に戻ってきた矢先、黎明に輝く空に見たのは、莫大な雷の塊だった。
セッツァーにとっては賭け先を変え得るに足る脅威として、ジャファルにとっては疎ましき光の極点としてしか映らなかったもの。
だがこの魔王にとっては、その痩躯を怒りに漲らせて尚足りぬ光だったのだろう。
あの眩き光が真の光だとしても、否、真の光だから故に“世界が光に充たされぬことを知ってしまう”。
当り前だ。全てが光に照らされることなど無い。
ここにジャファルという闇がいるように。太陽と空の全てを求めるセッツァーがいるように。光を失ったからこそピサロがここにいるように。
全ての夢が叶うことなど、無い。星の全てを照らすことができぬように、全てが救われることなど無いのだ。
「それを言われちゃあ仕様が無い。とりあえず、ジャファルの調査を待とうぜ。
あれほどの現象が起きたのなら、場は大荒れのはずだ。出目の張り直しをするしかないさ」
なんしか気を静めたらしいピサロを見ながら、セッツァーは再び寝転がって空を仰ぐ。
あの雷光を見てから表向きは平生を保っているが、それが逆にピサロの中で何かを渦巻かせていると教えていた。
ここで動くのは不味い。そうしてセッツァーは冷静に冷酷に、休息と調査に目を張ったのだ。
この中で一番斥候に長けたジャファルに雷光の着弾点周囲の状況調査を願い、放送まで休息することを選んだのだ。
こうして、彼らは緩やかな夜明けの陽光の中で休息を取っている。これが最後の休息になると思っているかのように。
「そこまで気にするかい、旦那」
「……瑣末だ。勇者という名前にも、魔王という名前にも。この想いの前にはな」
燃え散った花の栞の灰の一抹が風に浚われ切るまでを見届けたピサロは、誰に語るでもなくそう言った。
例え勇者が全てを救うのであっても、対を成す魔王が誰かを救っては成らぬ道理は無い。
否、救いたいと言う願いの前には、勇者と魔王の違いなど瑣末だ。
『ピサロ』が『ロザリー』を願う。その想いの前には、たとえ勇者の光であっても邪魔は許されない。
「――――――――――名前、ねえ。“まさかあの女に感化されたか”旦那?」
強さを増す陽光に僅かに目を細め、セッツァーは不快を顕わに言った。
それを見たピサロが、最早値無しと鼻を鳴らして会話を打ち切る。
木漏れ日と木々のざわめく音だけが残り、セッツァーは再び瞼を閉じた。
その裏に浮かぶ、あの船で最後に起きた出来事を追い払いながら。
824
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:03:14 ID:rH4aOhw20
―――――・―――――・―――――
今は昔。セッツァーとジャファルがピサロと仮初の盟約を結び、アシュレー達を討たんとする前の話。
そう、同盟を組んだ彼らが未だアシュレー達かヘクトル達か、どちらを攻めるか決めかねていた時のことだ。
いずれにしても座礁船に居座ることに意味は無く、船を出ることにした彼ら。
発つ前の餞別とばかりに、彼らは何かめぼしいものが無いかと船内を物色していた。
ジャファルが言うにはこの船の造りは彼らの世界の海賊船のそれであり、その船内には武器屋や道具屋もあったという。
流石に死者の落とし物が見つかるとまでは期待できずとも、せめてもう一度調査をせずに出るは惜しい船だった。
「やはり、めぼしいものは無いか」
「流石にそこまでアンフェアでもないか。いや、あのオディオなら当然か」
金銀財宝はあれど、経済の意味が異なるこの場所ではそれは宝とは言えない。
あらかたの調査を終えたジャファルに、セッツァーは首をすくめて手をひらひらと泳がせた。
今までの放送からもあからさまに伝わるオディオの人間に対する憎悪。余りに強い憎悪は、逆に言えばどの人間にも等しい憎悪だった。
聖人であろうが、道化であろうが、魔王であろうが、幼女であろうが、勇者であろうが、人間である限り皆オディオの憎悪すべき対象なのだから。
故に、オディオが特定の誰かに過度に肩入れをするとは思えない。ある意味、オディオは黒一色のルーレットともいえる。
ならば、これ以上を思索と探索に費やしても仕様が無い。早々に調査を終えて、ヘクトル達の動向を抑えるべきか。
上から順に降りてゆき最後に辿り着いた酒蔵で、彼らはそのルーレットに僅かにあった『傷』を見つけた。
無法松があれほどに呑んでいた以上、酒蔵があることは承知だった。重要なのは、無法松が動かしに動かした樽の向こう、その紋章だった。
「紋章、魔力を備えると言うことは、唯の落書きではないな」
「これは……真逆、転移の紋章か?」
眇めるように紋章に流れる魔力を見定めたピサロと、その紋章に驚きを示すジャファル。
魔力と知識によって、唯の落書きは意味ある紋様となった。そして、ギャンブラーが手に取ったカードが、紋を門に変える。
「何か意味のあるサインだと思ったが、秘密の部屋への招待状ってか…?」
「まさか、ここにもあると言うのか。ブラックマーケットが」
紋章の周りの空間が歪み、秘密の店への扉が開く。
ブラックマーケット。選ばれた者だけが持つカードを持った者にのみ、戦場の何処かにある扉を開いて招く闇の市。
場所にもよるが、そこに並ぶ品はこの海賊船の品揃えとは比べ物にならないだろう。
「入るつもりか?」
歩を前に進めたセッツァーに、ピサロは大した感情もなく言い棄てた。危険を案じる要素は微塵もない。
「こんなものを用意してるってことは、何もありませんでしたってオチはないだろう。
鬼が出るか蛇が出るか、俺達の新たな門出に運試しと行こうじゃないか」
そう言って、彼らは虚空の暖簾を潜る。
そこにいるのがある意味鬼であり、ある意味爬虫類であることも知らぬまま。
825
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:03:56 ID:rH4aOhw20
ブラックマーケットと言えば、どんなものを想像するだろうか。
銃火器、薬物、お花、内臓etcetc。それは莫大な金額を積んで買い取るものか、自分のLvを売って得るものか。
いずれにしても、その名の通りブラック―――――闇の黒を想像するだろう。
光射さぬ闇の世界の商い、その最前線。薄暗い路地に、微かな灯りだけを導に商いを行う。そんなところではないのだろうか。
「……俺の知っているブラックマーケットと違う」
ジャファルはニノの関わらぬ状況では珍しく露骨そうに厭な顔を浮かべ、ぼそりとそう洩らした。
そういう意味では、この光溢れる真っ赤な部屋構えは明らかに闇市とは程遠かった。
朱で染め上げられた壁と柱。掛け軸には人体の構造図や巨大な手相を記したものが並んでいる。
四角をグルグルと重ねたような仕切りがあるだけで、部屋はそれほど広くは無く、奥にもう一つ暖簾があるだけだ。
狭い、店というには余りにこじんまりとした店だった。
目ぼしそうなものは、壁に寄せられた木製の薬棚と本棚、店の中心に置かれた四本足の机。そして空いた椅子と―――――
「……あんなところに乳があるな」
「ああ、乳があるな」
机の奥に見えるどんもりと乗ったおっぱいに、セッツァーはチンチロリンで六面全部ピンのサマ賽を振られたような面をしながら吐き捨てた。
一方ピサロは、本気で有象無象の脂肪の塊としか見ていない目で、事実だけを反芻した。
見なかったことにして帰ろうか。決して相容れぬ3人は奇しくもこの時意見を同じくした。
酒蔵の酒精に当てられたのだろう。潮風を浴びて目を覚ませば、元通りになるはずだ。
そう思いたかったが、部屋全体から漂う酒の匂いと、小刻みに震える双丘を見てはここを現と認めるしかなかった。
「あ゛〜〜〜〜〜ひゅへもにょ〜〜〜〜〜? だぁんみゃじにゃひ〜〜〜 にゃは、にゃはははははは」
グイ、と反りかえった背中が弓なりにしなり、漸く乳から上の形が繋がる。
紅い蓮のような、誰が見ても異文化体系の衣装<チャイナドレス>。端正の整った顔にズリ下がった縁なし眼鏡。
ピサロのように細長く尖った異形種の耳。酒に蕩けても蠱惑的な瞳。
「ん〜〜〜、え゛……もひかひてぇ……ぉたおぎゃくざんんん〜〜〜?」
海賊船の酒蔵の中には、酒臭い店。酒臭い店の中には、酔っぱらった女店主。
「――――――えー、コホン。はぁーい。メイメイさんのお店へようこそぉ♪」
今更に取り繕ったような営業スマイルを現わしながら、店主はその屋号を掲げた。
この頭痛を忘れる為に酒を呑むべきか、酒にやられてこの頭痛を生んでいるのか、セッツァーは賭ける気にもならなかった。
826
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:05:00 ID:rH4aOhw20
「だーってさぁ、こうもお客が来ないと、これくらいしかすることないじゃない?」
店の主はケラケラと笑い、呑んでたらあぶり肉も欲しくなっちゃうわねぇなどと言いながら盃に充たした酒を呑む。
状況に追従し切れない客達は黙ってその盃が空になるのを待つしかなかった。
少なくとも、会員専用の秘密の店がが万人繁盛だったらそれはもう秘密でも何でもないだろう。
『いつでもどこでも気軽に利用出来ちゃう、それがメイメイさんのお店なのッ!』
とへべれけになって言われても、説得力が無い。どんな看板を掲げても偽り有りと云われるだろう。
「OK。アンタがアルコール中毒なのもここがどんな店なのかもとりあえず後回しだ。アンタ、誰だ?」
「私ぃ〜〜? メイメイさんはぁ、見ての通り、どこにでもいるぅ、普通の、敏腕せ・く・し・ぃ店主Aよぉ?」
やけにその4文字を強調して、店主は腕を上げて脇を見せつつ妙に腰をくねらす。
エドガーほどまでとは言わないが、マリアに扮したセリスを拐したセッツァーも女性の扱いは心得ている方である。
そのセッツァーが思った。いつ以来だろうか、女を本気で殴ってもいいかと思ったのは。
「あ、疑ってるでしょ〜〜〜。いいわ、ここで引いたら女もとい店主が廃るッ!」
その不満MaxHeartな表情を察したのか、店主は足元から何かを取りだそうとする。
3人は戦う気か、と僅かにそれぞれの武器に手を伸ばしたが殺意の無い店主の様子に、それ以上の動きは見せない。
「こうみえても私、占い師なのよ。貴方達が何者かは、店に入ってきたなりマルっとお見通しってなワケ」
「……入ってきたなり、仰向けで爆睡してたと思ったのは気のせいか。で、その証に俺達が誰だか当ててみせようってかい?」
眉間を揉みながら、セッツァーは辛うじて店主の云わんことを掴み取る。
まだ彼らは自分達が何者であるかを口にしていない。その中で賭士、暗殺者、魔王であることを一目見ぬいたということか。
「ふふーん。そういうこと。ここに来たのも何かの縁。お近づきの印にぃ、貴方達に必要なものをあげちゃう。はい、どーぞ!」
そう言ってメイメイは机の上に ド ン 、と何かを置いた。セッツァー達の視線が机に集まる。
それぞれの職種を見抜いたというのならば、出てくるのは武器か、はたまた彼らにしか扱えない道具か。
もし、それ以上のことまでも見抜いた証拠を出してくるならば、始末も厭わないという決意で彼ら3人は机の上の品を見た。
「地図にコンパス。筆記用具に水と食料。名簿でしょ、時計でしょ? 夜の為にランタンも入ってる―――――貴方達には必要なはずよ?」
そう言って、店主は3人分の新しいデイバックを出して酒で焼けた小さな腕を組んだ。
セッツァーが3人分のバックをぐい、と掴みあげる。
827
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:06:05 ID:rH4aOhw20
「貴方達も参加者……でしょ?」
天地開闢、森羅万象を眇めたような満面の微笑で店主は彼らを見た。
「有ってるが意味がねえじゃねえか!」
その言葉と共に、店主の頭上を3つのデイバックが覆い、落下する。
「…え? う、うひゃあ〜〜〜!!!!」
抗弁する暇もなく、椅子から転げ落ちた店主はデイバックの下敷きになってしまう。
この島にいるのであれば、54人中54人が参加者だろう。適当に言っても殆ど当たるに決まっている。
ルーレットで赤と黒に同額を賭けるようなもの、下手をすればカジノから追い出される賭け方だ。つまり、賭けにも占いにもなっていない。
「……もしや、特別なアイテムを得られると期待してたのか?」
「……してないな。ああ、してないとも」
ジャファルの問いに、セッツァーは広大な空の果てを見るようにして目を逸らした。
舌打ちをしながら、セッツァーは転げ落ちて「お、想ひ出がりょーくーしんぱんしゅにゅぅぅぅ……」とノびかけた女店主を見下した。
常のセッツァーならば相手が誰であれ、まず相手の価値を見極めているだろう。
あるいは、自分の夢にとって利になるか障害になるか、はたまた“それすらもできないか”を判断しているはずだ。
だが、眼の前の女の価値を彼は未だ見極められずにいる。価値がない訳ではない。ないかどうかさえ分からないのだ。
まるでオペラをブチ壊しにしかけたタコ野郎を思い出すほどに、掴みどころがない。
この店の中に充満する酒のせいか、ギャンブラーを常に救う直観、そのキレが僅かに鈍っているとさえ思う。
(スラムの女衒じゃあるまいに、何でこんな酔い潰れた女1人にここまで……?)
その時、セッツァーの鈍りかけた感覚が遅れて警報を発する。そうだ、この女は何故ここにいる?
セッツァーはピサロに名簿を渡す前にその名前を全て記憶している。そして“その中にメイメイという名前は無い”。
ならば55人目の来訪者? 否。この女はこの場所を自分の店といった。彼女が招かれざる客であるならば、
様々な世界の建造物を寄せ集めた何処の世界にも存在しないオディオの箱庭に、自分の店があるはずが無いのだ。
セッツァーが、床に突っ伏した女の首元をみて―――“そこに首輪が無かった”事実に、今更確信した。
(つまり、こいつは“招かれている”)
「戯れはそこまでにしておけ。私の眼はごまかせんぞ、竜の女よ」
その確信に呼応するようにピサロは口を開き、残る二人がピサロと店主の間で交互に視線を動かす。
「その身に纏う魔力、ドラゴラムによく似ている。竜が人に化けたか、少なくともヒトではあるまい」
ピサロが気付いたのは、セッツァーとは別の要素であった。酒精に紛れた微かなドラゴンの気配である。
だが、その総身をくまなく見渡しても人間そのものである店主を前に、ピサロはむしろその姿を、高位の変化魔法と見た。
そして、これほどの実力を持つ女を首輪も無しにオディオが野放しにしておく道理が無い。
「流石、一度進化の果てを見た御方は違うわねえ。そこのあたりは乙女のヒ・ミ・ツ、ってことで。
でもぉ、呼ぶなら竜じゃなくて『龍』って言ってくれた方がお姉さん嬉しかったり」
828
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:06:42 ID:rH4aOhw20
にゃはは、と笑いながら立ち上がりグイと盃の酒を飲み干す女店主。
その振る舞いを見ても三人は気を抜くことなどできなかった。
「そう! メイメイさんは一見どこにでもいる、普通の、敏腕せ・く・し・ぃ店主A。
――――しかしてその実態は……『オルステッドさま』の忠実なるしもべで――――っすッ!」
後光でも発しそうなほどのポーズを決めながらメイメイは高らかにその正体を語るが、
3人は3人とも「誰だ、オルステッドって」という率直な疑問に気を取られた。
(オディオのことか? いや、オディオの配下にオルステッドって奴がいて、その手下って線もあるか)
「ほう、そりゃあ凄い。で、そんなアンタは何をするためにここにいるんだ?」
そこを問い詰めたところで優勝を目指す彼らにはさして意味が無い。
店主の調子に乗せられかけたが、あまり浪費できる時間もない。それよりもこの場所の役割をこそ聞くべきだろう。
漸くこの女の価値をテーブルに載せ始めたセッツァーは当然聞くべきことを聞いた。
特異な場所に配されており、ここに入るための符牒が支給されている以上、
ここを訪れた者に対してするべきことが言い渡されているはずだ。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれましたぁ!
このメイメイさんの使命、それは――――――それは?――――――にゃは、にゃはははは……」
堂々と胸を張ってそれを高らかに言おうとした店主が、途端に語気が弱まり、みるみる内に萎れていく。
「……忘れたのか?」「いや、この欠落の仕方だと最初から何も言われてないのかもな」
「にゃ、にゃにおう! そんなことあるわけにゃいじゃにゃい!」
毛並みを突然触られた猫のように店主はジャファルとピサロを威嚇するが、それは逆効果にしかならない。
「じゃあ、アンタここで今まで何してやがった。何でもいい、言ってみろ」
「何って……お酒飲んでー、お休みして―、お酒飲んで―、ツマミ食べて―、お酒飲んで―、お昼寝して―、それからぁ」
「もういい。呑んで寝るだけの簡単な仕事だってことはよっっく分かった」
自分の問いに指を折って答える店主を、セッツァーは制した。重ねて言うが、セッツァーも女性の扱い方は弁えている。
だから今、手持ちの水をありったけ顔面にブッかけてやろうと思っても、そこをぐっと堪えるのである。
幾らなんでもオディオ達がそのような自宅警備の真似事の為に龍種を置く訳が無い。
だが、真贋を見極めてきたセッツァーでも彼女の言動に嘘を感じることが出来なかった。ならば一体、この女の意味は…?
「ん、何やら莫迦にされた雰囲気。店主的に。それじゃあ、お店らしいことしちゃおっかしら?」
そう言った店主が店の奥から取りだしたのは、巨大なルーレットだった。
外周から半径の直線が引かれ、色の違う扇状のマスが作られている。
「運命の輪って言ってね。ま、軽い運試しのようなものよ。当たり所が良かったらステキな景品もつけちゃう!」
ダーツを1本差し出し、店主は蟲惑的な瞳を浮かべる。
このスチャラカなペースに着いていけずとも――あるいは、着いて行きたくなくとも――店主の云わんとすることは3人にも理解できた。
円の中の配色がそれぞれ異なり、そしてそれぞれの面積も異なる。恐らく面積の小さいものから順に1等から3等。
ダーツを投げて当たった場所に応じた賞品が手に入るのだろう。
「何を付けるつもりだ、龍よ。勿体ぶるからには、相応のものを配するのだろうな?」
およそこの手合いのイベントから最も縁遠かろうピサロが、試す様に店主に問いかけた。
当然、魔族の王たるピサロが賞品が気になって尋ねているなどということは無い。
本気で欲しいのであれば、名簿のように力づくで奪い取るのがピサロだ。
だが、未だ酒精の奥にその実力の底を見せぬこのドラゴン種を相手取るほど愚かではない。
この殺し合いの参加者でも、憎むべきヒトでもなく、ましてやオディオに通ずる存在であるというのならば手をかける理由もない。
ピサロ、そして残る二人も、優勝してオディオの報奨を得ようとしている以上、ここで参加者よりも厄介な存在に労力を割く訳にはいかないのだ。
「そうねぇ。そしたらぁ、上から順にぃ“貴方達にとって役に立つもの”をあげちゃうわ」
そういって店主は蕩けた目付きで指を幾度と振って、セッツァー・ジャファル・ピサロの順に指を射止める。
だからこそピサロはむしろこの龍が何を見て、何を考えているのかにこそ興味を持った。
829
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:07:28 ID:rH4aOhw20
「――だそうだが。どうする?」
ピサロはセッツァーの方を向き、その応手を伺う。1本しかないダーツ、そして景品はそれぞれにとって役立つ物。
誰が投げても、ダーツが何処に当たっても不和の要因になるだろう。
利害関係でしか成立していないこの即席チームに於いて、偏った利は害にしかならない。
このチームを呼び掛けたセッツァーの手腕こそが、図らずともこの女店主の手によって試されている。
「……外した場合は?」
「安心なさいな。ハズレでもタワシ位はあげちゃうから」
セッツァーが店主に問いかけ、その答えを聞いた後、指を顎に当てて考え込む。
既に「なんでタワシ?」などと口出しする気配もない。その眼は、魚が海に還ったように常の鋭い眼光を取り戻していた。
「外れて元々の話だ。ジャファル、お前に任せる」
「……待て、俺は……」
「俺もシャドウほど投躑が上手い訳じゃないしな。なら、一番得手そうな奴が投げるべきだろ。
好きに狙いな。花束の一つくらい、当たるかもしれんぜ―――――、―――――――、―――。
構わんな、ピサロの“旦那”?」
そう言ってセッツァーはジャファルに近付き、密着するような近さでダーツを手渡し、
ピサロに確認を求める。ピサロはそれが妥当な所か、とその選択を了と認めた。
誰の賞品が当たるにせよ、先ず的に当てられなければ話にならない。
であるならば剣を扱うピサロとギャンブラーであるセッツァーよりも、暗殺者であるジャファルが消極的適任ということか。
「誰が投げるかは決まったかしら? それじゃ、ルーレット・スタート!」
店主が扇子を広げると、ルーレットが独りでに動き出す。
如何な妖術を使ったのか、店主は扇を口元で戦がせるだけだ。
運命の輪が高速で回転する中、ジャファルはダーツを構えることなくだらりと腰に垂らしている。
しかしその眼光は鷹のように獲物を見定め、今にも喰いつかんと鬼気を発していた。
廻す、廻る。運命の輪が回る。弄ぶように輪廻が回向する。
翻弄されるその運命の渦から、たった一つの光を釣り上げる時を待つかのように、輪を見続ける。
「ちょっとぉ〜〜〜、慎重になるのは分かるけど、もう1分経っちゃうわよぉ……ってぇ!」
あまりの動の遅さに痺れを切らした店主が声をかけようとしたその時だった。
音もなく放たれたジャファルの一撃が運命の輪を穿つ。ジャファルの手から矢が離れた後、次第に輪はその回転数を落としていった。
暗殺者が貫いた運命、その色彩は――――――
「外した……だと……?」
ピサロがその結果に驚きを示す。自分のエリア<3等>が当たるとまで望むつもりはないが、真逆ルーレットにあたりもしないとは。
だが、どれだけ目を眇めようが凝らそうが突き刺さった場所は変わること無し。運命の一投は無情にも、光を掴むことはできなかった。
「あちゃー……ま、ま、こう言うこともあるわよ! 運勢なんてコロコロ変わるものだしねッ!
っていうか、え、ちょ、タワシってウチの店にあったかしら……にゃ、にゃはははは……」
予想外過ぎる展開に、さしもの店主も動揺を隠せないらしい。
確かに、ジャファルは暗殺者とはいえその本分は接近からの瞬殺である。
ましてや今は殺しとは程遠い遊興。実力を発揮できるはずもない。
「ゴメンナサイ……探したけどタワシが無くって……その、ニボシで良かったら……」
店主はそう言って申し訳なそうにジャファルに魚臭い袋を渡す。善い出汁が取れそうな、猫も魚もまっしぐらの良質煮干である。
無言でそれを受け取るジャファルに、店主は乾いた笑いを浮かべながら手を振った。お帰りくださいという意味だろう。
「ちょっと待ちな。もうひと勝負、申し込むぜ」
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:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:08:14 ID:rH4aOhw20
だが、その意を分かった上で敢えてセッツァーが店主に話を斬り込んだ。
そのタイミングの良さに店主は面食らったが、直ぐに目を細めて否定を解答する。
「……気持ちは分かるけど、それはちょっと不味いわねえ。試したのはあくまで貴方達の運気。
もう一回やれば当たるとか、それは純然たる天運とは言えないわ。残念だけど、貴方達はこの一回―――――!?」
「なら、これでどうだい?」
勝負を切り上げようとする店主の言葉を断ち切ったのは、セッツァーが取りだしたもう一つのカードだった。
シルバーカード、メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。
「スプリット。俺達に一回分の権利しかないと言うのなら―――――こいつで、そいつを“半額”にさせてもらおうッ!」
セッツァーが二本の指で投げ飛ばしたカードを店主は中空で掴み取り、マジマジと見つめる。
そして暫く考え込んでから、軽く溜息を付いてもう一本のダーツを取りだした。
「もしかしてぇ……最初から、こうするつもりだったぁ?」
「偶々さ。偶々、ポケットの中にあったもんでね」
そう言って、誰が投げるとかとのやり取りもなく、ダーツを手にしたセッツァーが運命のルーレットの前に立つ。
そう、運命を賭けると言うのならば、ダーツに意思を託すと言うのならば――――――この男以外に有り得ない。
「おっけぇ。ギャンブラーさんの力、何処まで届くか試してあげる。ルーレット、スタートッ!」
誰もそうだと言っていないのにセッツァーをギャンブラーと嘯く龍の店主が扇を開く、運命の輪が軋みを上げて太極を廻す。
本気で廻る世界に、人の意思など徹らぬと謳いあげるように。人はその回転に、ただただ翻弄されるしかないと笑うように。
「でも、それなら最初から貴方がやるべきだったわねえ。唯でさえ回転しているのに、
ダーツが手元から離れて的に当たるまでの時間が分からないと何処で投げればいいか分からないわよ?」
店主が扇を煽いでギャンブラーの失策を笑う。最初から2回投げるつもりであったのならば2つとも自分で行うべきだった。
そうすれば、ひょっとすれば2人分の景品を得られたかもしれないのに。
「それとも、純粋に運を試すつもりかしら。さてま結果は―――――」
「1ツだけ教えてやる。メチルフォビア<アルコール恐怖症>」
軽口を吐きながら扇を再び戦がせる店主に、氷のように冷たい言の刃が突き刺さる。
まるで自分の喉元にそのダーツが穿たれかと錯覚するほどのギャンブラーの視線が、店主に突き刺さっていた。
「運命<こんなもの>は、ギャンブルとは言わねえんだよ。
そいつを力でねじ伏せてからが、本当のギャンブルだ。分かったら――――」
セッツァーは運命の輪に見向きもしていない。その眼光は唯店主のその一点を見定めている。
当然だ。最初から何もかもを投げ出して運命などという“まやかし”にその身を委ねる者を女神は愛さない。
頭脳を、力を、己が持つありとあらゆる手管を用いてありとあらゆる運命を撥ね退け、
“その先に立ちはだかるもの”に、己が魂を賭してこそ、女神は漸く微笑む。
「“その特賞に当たったら、3つの景品を全部寄越しな”ッ!」
831
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:08:51 ID:rH4aOhw20
店主の扇が“三度戦いだ”刹那、セッツァーの腕が疾った。
美しいフォームだった。ジャファルも、ピサロさえも微かにそう思った。
力みも逸りも気後れもない、自然体の一投。何度投げようとも決して崩れることのないだろうフォーム。
そこに種族も職能の違いもない。どのような目的であれ、研鑽の果てにある結晶は美しい。
一体何百回、否、何万回投げればこれほどのスローが可能になるのか。
「真逆“本当に”最初から――――」
「ああ、ジャファルに言ったとも。外せと、伸ばせるだけルーレットを回させろと」
驚愕に龍眼を見開く店主を前に、セッツァーは不敵に笑う。回転数を下げていく的を、最早見てもいなかった。
一投目は完全なる“見”。そして万一賞品を手にして、有耶無耶に終了させられないように敢えて外した。
そして、セッツァーはたっぷり1分を用いて、魔力で回転するルーレットと扇子の同期に気付いたのだ。
「そっちじゃなくて、特賞の方なんだけどぉ?」
「言わなきゃ気付かねえと思ったか? それこそ、舐めるな」
これこそが、セッツァーの感性が成せた唯一の幸運だった。とっかかりは店主の試すような目つき。
シルバーカードで普通に二回賞品を得ても、誰かの不満を招くこの状況。
もし、それを以て彼らの動きを見極めようとするのであれば抜け道が有ってもおかしくは無い。
抜け道があるという前提でルーレットに目を凝らせば……3等の中に微かに紛れた、4色目。
回転数さえ目算が立てば、廻っていないも同然だ。自分のダーツの技量など、自分が一番信じている。
「生憎と、これでメシを喰ってきた。
賽の目も、ルーレットも―――運命をねじ伏せられない程度の力で生きていける世界じゃないんでね」
「―――――――――お見事。特賞、大当たり!」
最早言うこと無し、と店主は扇子を閉じて勝者を宣言する。
ピサロが魔族を傅かせ、ジャファルが闇を統べると言うのならば。
セッツァーは、運命を跪かせる者―――――ギャンブラーなのだ。
832
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:09:50 ID:rH4aOhw20
「3等賞。先ずは貴方ね、カッコイイ魔王様ぁ?」
「フン。やはり見抜いていたか。その眼、魔眼か?」
ルーレットが片付けられ、テーブルを挟んで魔王と店主が向かい合う。
「ちょーっとばかし魅了の力はあるけど、そんな大したものじゃないわよぅ」
ピサロに魔眼と評された店主は眼鏡越しのその瞳でピサロの痩躯を見渡す。
くすんだ銀の髪、疲労の色を隠すことはできないが、その表情に充実する気力を見とって店主は満足気に頷いた。
「煩悶は乗り越えた、ということかしら。貴方の内に根差す想いが――――貴方の憎悪すべき人間にもあるということに」
「……それがどうした。誰が何を想おうが、この想いは私だけのものだ。そして、誰にも邪魔は出来ん」
それは、邪魔立てすれば貴様だろうと屠るのみという店主に向けての魔王のメッセージだった。
その暗喩に気付いてか気付かずか、店主は盃の酒に唇を湿らせ、そして言った。
「それでも、貴方はその想いを邪魔したわ。貴方と同じように、唯“逢いたい”と願った1人の生徒の想いをね」
店主の眼鏡の奥に1つの光景が映る。
もう逢えないと、さようならと別れた教師と生徒。
生徒は誓った。もう一度逢いに行くと、今度は私が貴女を救いに行くと。
その願いは叶うはずだった。それは歪んだ時の成就であろうとも、生徒の願いを叶えるはずだった。
だが、それは叶わなかった。雷の奥に観た勇者の虚像に怒り狂った、魔王の所業によって。
「勘違いしないでね? 恨み事を言いたい訳じゃないの。
貴方の想いもまたヒトの夢であり、また誰かの想いによって叶わぬユメと成り得るということよ」
店主はぐいと酒を飲み干し、新しく酒を注ぐ。そして、それを魔王へ向かって伸ばした。
魔王は何も言わずに、それを受け取りワインとは違う透明な酒を眺める。
「【アリーゼ=マルティーニ】。その想いを胸に抱いて進むと言うのなら、貴方が砕いた想いの欠片くらいは抱えておきなさい」
魔族の王は、龍姫の言葉に応ずるでもなく激昂するでもなく、唯酒を呑むことで応じた。
呑み慣れない酒を一気に煽ったその味わいは、魔王にしか分からない。
その呑みっぷりに満足したのか、店主は微かに笑んで誓約の儀式を発動する。
「名は命、性は星。忘れないで。オルステッド様がオルステッド様でない意味を、魔王が真名で呼ばれない意味を。
―――――――“貴方がデスピサロでなく、ピサロとして名簿に刻まれた意味を”」
テーブルの上に召喚された宝箱を開いて、魔王は唯それを掴んだ。
833
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:10:43 ID:rH4aOhw20
「さて、お次は貴方ね? 暗殺者さん?」
「戯言など無用だ。品だけ渡せ」
拒否は認めぬとばかりに鋭い眼光を発しながらジャファルは店主に吐き捨てるが、
店主は何処吹く風と酒を飲みながらジャファルの身体をじろじろと眺める。
「その刺し傷、随分手酷くやられたのねえ。見てるこっちが痛くなっちゃう、にゃははは」
店主の何気ない笑いに、ジャファルは傷の痛みを錯覚した。
セッツァーのケアルラによって行動には支障ないレベルまで回復しているものの、
まだ一日と経っていない槍傷、この舞台で恐らく初めて喰らった直撃の記憶はジャファルにしっかりと刻まれていた。
「不思議なものね。どれだけ言葉を尽くしても届かないと思っても、たった一撃の槍が簡単に貴方の世界に証を遺す。
貴方がたった一人以外の全てを望まずとも、彼女以外の全てが貴方に干渉する」
「……何が言いたい?」
無意識に脇腹を擦ろうとする右手を堪え、暗殺者は店主に向けて殺意を放つ。
何も知らぬ者が彼女の名前を口にしようものなら、刎ねてもいいとさえ思いながら。
「世界は広いということよ。このお酒でさえ極めようと思ったら、私でさえ道の途中。況や人の心は、ってね」
極めると言うことは、口にするほど簡単なことではない。ましてや武術など一朝一夕でどうなるものでもない。
それでも、それでも彼女はその事実を受け入れても前に進もうとした。
片腕しか使えずとも、剣でなければ振るえぬ技を、前に突き進むために技を究めようとした。
そこに至る感情を知ることはできずとも眼の前の傷をみれば、確かに刻まれた想いはここにある。
「【秘剣・紫電絶華】。世界は『光』と『闇』だけって訳でもないわ。貴方に刻まれた『雷』の本当の名前を忘れないで」
そう言って店主が渡した盃を、ジャファルは黙って見続けた。
清酒の澄み切った光を見つづけ、やがてジャファルはそれを無言で店主に返した。
「ありゃ、つれない。まあ、それもまた1つの答えよ。だけど気をつけて進みなさいな“若人”。
お米と水でお酒は出来るけど、お酒から水を、お米を取り除くことはできない。
例え出来たとしても、それは水でもお米でもお酒でもないものになる。貴方が作ろうとしてるのはそういうものよ」
そう言いながら召喚された宝箱の中身を、やはりジャファルは無言で受け取った。
834
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:11:16 ID:rH4aOhw20
そして、ギャンブラーと占い師が対峙する。
「最初は適当にしてたから、油断しちゃったわ。もしかして、カマをかけられちゃってた?」
「いや、最初は本気でアンテナが立ってなかったぜ。アンタが俺にとってどういう存在なのか、見極められなかったからな」
目を合わせずに酒をちびちびと啜る店主に、セッツァーは笑い返した。
「酔っ払いのフリにだまされた? 殺し合いに場違いな空気に乗せられた? この当たりの酒の匂いに狂わされた?
――――――違うね。その中に僅かに残った“アンタの敵意”こそが、最後まで分からなかった」
そう、それがセッツァーの感覚を鈍らせていたもの。理由の思いつかない一方通行の憎悪である。
「なあ、俺は一体アンタにとってどれほどの仇なんだい?」
「……安心なさいな。私が『護衛獣』である以上、オルステッド様の意に反することはできないの。
それに、私には貴方を糾弾する資格はないし、するつもりもないしねぇ?」
にゃは、にゃはは、と酒に焼けた笑いを吐く店主。だが、その飲酒のペースが僅かに速まっていることをセッツァーは見逃さなかった。
「まあ、あんたには礼を言うぜ。ギャンブルの原点に立ち返られた。
あのルーキーがどんな目論見だろうが、ヘクトル達が何を思おうが関係ない。
その上で運命を越えてこそ、俺が夢を賭ける大勝負に相応しいってな」
「夢、夢ねえ。風を切って大空を駆ける――――――想像しただけで肴になるわ」
セッツァーの純粋な歓喜に、店主は愛想笑いを浮かべグイと盃の酒を飲み干す。そこには空の杯だけが残った。
「ありゃ、空っぽになっちゃった。これじゃお酒が呑めないじゃない」
空の杯を残念そうに見つめた後、店主は新しい酒瓶を取りだし並々と注いだ。
そこには表面張力限界まで満たされた杯が揺らめいている。
「空の杯には、またお酒を注げばいい。最初から満たされている杯なんてないのよ。
いいえ。空の器にこそ、どんなお酒を注ごうかという趣がある」
セッツァーはそれを黙って聞いていた。自分が砕いた、2本の空き瓶を思い出しながら。
「―――――【アティ】よ。私がいつか呑もうと楽しみに取っておいたお酒のラベル。呑めなくなっちゃった以上は、仕方ないけどね」
しばしの無言が続く。机の上に置かれた酒をセッツァーは手に取ることもなく、店主は呑むこともなく永遠に似た1秒が連鎖する。
「これからもう一勝負ある。悪いが、酒に酔ってる暇はねえ」
「そ、残念ね。はい、一等賞」
店主は胸に手を入れて、小物をとりだす。それはダイスだった。
ただし、中に細工の施された――――『イカサマのダイス』が。
「貴方達のお酒が最後にどんな味になるか……機会があったら呑ませて頂戴な」
「ああ。機会があったらな」
セッツァーがそれを掴むと、店主は全ての役目を終えたとばかりに手を振った。
もうこの店には用事はない。目指すべきは、ルカ=ブライトを斃せしアシュレーの一党だ。
そうして3人は、入った入口へと進んでいった。
835
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:11:55 ID:rH4aOhw20
―――――・―――――・―――――
陽光が緩く照らす朝の森の中、セッツァーは思い出した過去を苦虫を噛み潰す様に堪えた。
そこに茂みを踏む音が鳴り、ピサロ共々立ち上がる。
「来たか、ジャファル。で、首尾は――――」
「既に交戦が始まっている」
戻るや否や、告げられたその一言は彼ら2人といえど震えを呼ぶものだった。ただし、驚愕と歓喜を綯交ぜにしたものとして。
簡潔明瞭なジャファルの斥候結果を具に聞きながら、彼ら3人は状況の大まかなるを把握した。
南の遺跡にいるはずの魔王とカエルが、攻め上がりに来たのだ。
魔王の大規模魔法で戦況が混交し過ぎて、流石のジャファルといえど遠間からではヘクトル達の全人数は把握し切れていなかった。
「奴らが団結して南に下りなくなったから、攻め上がりに来た? いくらなんでも早過ぎるだろう。監視能力でも持っているのか?」
「そんなことは然したる問題でもないだろう。これこそが貴様の望んだ好機とやらではないのか?」
考え込みかけたセッツァーをピサロの一言が引きもどす。重要なのは現状の答え合わせでなく、現状をどう生かすかだ。
セッツァーは持てる感性の全てを動員して、次の一手を弾き出した。
「当然、背後から攻める。ただし、放送が終わってからだ」
「……何故だ」
追いすがるようなジャファルの眼を、その感情ごと理解したような眼でセッツァーは見返した。
「魔王共の攻めたタイミングにもよるが、あのガキが中にいた以上俺達のことは知られていると考えた方がいい。
恐らく、俺達が来ることも読まれてるだろう。
かといってこのタイミングを逸して魔王共がやられれば今度は10人近い連中と俺達が正面からぶつかることになる」
拙速に攻めればカウンターを仕掛けられる恐れがあり、巧遅に失すれば唯一の勝機を失う。
突くべきは最適な“今”―――――――即ち敵の人数を全て掌握した直後、オディオによって仕切り直された刹那である。
「僅かな間を持たせて、緩急を縫うか。王道ではないが是非もない――――して、何処から攻める?」
ギャンブラーの采配にとりあえずの及第点を与えた魔王が、いよいよ確信へと切り込む。
彼ら3人が集ったのは、1人では如何ともしがたい彼我の差を埋める為だ。
3人の力を拡散させるのであれば、この盟約は全くの意味を成さない。
一度混戦に入ってしまえば致し方ないが、初撃は戦力を集中するべきである―――――彼らが唯一恐れる、人数の差を潰すために。
「決まっている。ニノだ」
「ッ!!」
その名が告げられた瞬間、ジャファルの身体が猫のように跳ねあがりセッツァーの喉元に刃を向ける。
だが、セッツァーは皮一枚を血に濡らしながらも気にしていないように言葉を紡ぐ。
「言葉が足りなかったな。先ずニノを確保するって意味だ。
混戦のうちに死なれてるかもって思ったら、アンタも気が気じゃないだろう? だから、周囲を撃滅して気絶なりさせちまう。
どうせその近くにはヘクトルもいる。不意を付ける最後の機会だ、そろそろアイツが望む黒い俺として出てやろうじゃないか」
そう言ってセッツァーはぐぐもった笑いを浮かべ、その意思に淀みがないことを見取ったジャファルは刃を下げる。
「……感謝する」
「なァに。俺はあんたと共に戦うことに賭けた。それだけだ―――――よく耐えてくれた、もう少しだけ我慢してくれ」
セッツァーはそう言ってジャファルの肩を力強く掴んだ。
そう、魔王の魔法がニノを襲った時、ジャファルは飛び出して魔王に攻め入ろうとさえ思ったのだ。
ニノに牙を向けるのであれば例え相手が誰であれ、立場がどうであれ知ったことではない。
距離があろうが無かろうが、この手で瞬殺してしまいたい―――その衝動を、ジャファルは堪えたのだ。
(まだ、ニノの傍にはオスティア候がいる。まだだ、もう少しだけ、ニノを頼む)
求めるはニノにとっての安らぎ。その為には、ここで衝動に駆られて暴れる訳にはいかない。少なくとも、今は。
だからこそ、セッツァーの指針はジャファルにとって天啓以外の何ものでもなかった。それ以外の選択肢はなかったと言える。
836
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:12:45 ID:rH4aOhw20
その意を固め誼を確かめ合う2人を尻目に、ピサロは寒気すら覚えた。
セッツァーにもジャファルにも、一切の淀みはない。アレは互いにとって確かな誓いなのだ。
―――――もし、これからの戦いでニノって奴と戦闘に入ったら、旦那の判断で消してくれないか?
だからこそ、ジャファルが斥候に出ていた時にセッツァーに持ちかけられた話が恐ろしい。
セッツァーは先のように寝転びながら、雲の数を数えるような気楽さでそうハッキリ言ったのだ。
―――――俺はジャファルに賭けた。それは間違いじゃねえ。あいつの夢は純粋で、信じるに足る。
“だからこそ、ニノって奴が邪魔になる可能性が否定できねえ”。
彼ら3人は共に優勝を目指すと言う観点から利害を一致している。ただ、ジャファルだけはその指向性が僅かに彼らと違うのだ。
ニノはジャファルにとって刃を研ぐ石でもあり、刃を折る鉄でもあり、刃を誤らせる霧にもなるのだ。
―――――ニノって奴が無力な娘ならこうも迷わねえんだがな、いかんせん半端に力があるとなりゃ始末が悪い。
ジャファルにとっても、俺達にとっても場を荒らすワイルドカードになりかねねえ。
唯でさえ殺し合いに乗る参加者が少ない現状、ニノを守るためにジャファルが他の殺戮者と相喰むことになればそれこそ眼も当てられない。
ならば、いっそ“ジャファルもセッツァー達と同じ形に”なってもらった方がいいのではないか、と。
―――――正直、ニノを殺すべきか生かすべきか読めない。どちらに賭けても、失うものも得られるものもある。
俺じゃ判断が鈍っちまう。だから“旦那に任せたい”。
だからセッツァーは委ねた。ジャファルとニノの関係に全く興味の無いピサロを公平なダイスと見立てて、
その趨勢を賽に任せようとしたのだ。
(これが、ギャンブラーというものか。成程、人間に相応しい在り方だ)
ピサロは思惑を億尾にも出さず鼻息を鳴らす。
セッツァーの要望があろうがなかろうが、ロザリーへの道程を阻むものがいれば誰であれ屠るのみ。
それはニノという娘でも例外ではない。最も、その公平さこそをセッツァーは信じたのだろうが。
「アンタらも、まだあの店のアイテムを使わずに残してくれたようだしな。
あのガキが俺達の装備を見誤ってくれてたら、更にラッキーな話だ」
セッツァー達はそう言って森を分けて進む。南へ、南へ。放送は近い。
「全く、あの店主サマサマだったな、まったく」
「……だが、お前はそれでよかったのか? “イカサマのダイスを放棄して”」
「なァに、やっぱりブリキ大王のような戦闘の道具は好まねえ。俺はこれで十分だよ」
ジャファルの問いに、セッツァーはポンポンと枕にしていた本を叩く。
唇を歪めたセッツァーに、ピサロは興味な下げに尋ねた。
「どういう風の吹きまわしだ? あの龍姫に感謝するなどとは」
「俺だって感謝したい時くらいあるさ。尤も―――――――――」
837
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:13:25 ID:rH4aOhw20
エキゾチックな異国の店。その中で店主はちびちびと酒を煽っていた。
その向かいには3つの杯が、呑むべき相手を待つかのように置かれている。
だが、その酒が飲み干されることが永遠に無いことを店主は知っていた。
「よりにもよって、二重誓約を仕掛けられるなんてねえ……メイメイさんもしてやられちゃったわ、ホント」
今さら、其れについて猛ろうと思えるほど彼女は若くはなかった。
それが人の選択である以上、避けられぬ離別も逆らえぬ命運もある。彼女は幾度となくそれを見てきたのだ。
「哀れメイメイさん、籠の中の鳥……誓約の鎖に縛られたかわいそうなオ・ン・ナ」
今の彼女の仮主は人の命運さえも捻じ曲げようとしている。それは運命の埒外、彼女としても承服は出来ない。
しかし、この牢獄に繋がれた以上、セッツァー達のように許可証でもない限り入ることも出来ない。
「にしても、あのギャンブラーやっぱり目聡いわね。真逆、アレを持っていくなんて」
彼らが退出しようとしたあの瞬間を、メイメイは眼を閉じて想起した。
――――――――――――――――悪いが、やっぱ要らねえわコレ。
それは、振った賽の目が全て役を成す悪魔のサイコロ。それをセッツァーはカラコロと地面に投げ捨てた。
――――――――――――――――アンタ言ったな? 1等は俺にとって役に立つ物だって。
だったら……それは俺が選んでこそだと思わないか?
そう言って店主を見つめるセッツァーの眼は、およそ運命と呼ばれるものを生業にする全ての職業を否定する光を放っていた。
その眼光を携えたまま、カツカツと店主の横を通り過ぎて本棚に立つ。
――――――――――――――――俺は、これにする。この店で唯一、明らかにインテリアから浮いているこの本をな。
セッツァーが手に取ったものを見て、店主は驚愕した。その、錠前のついた本に。
「アレは私の店のものじゃない。アレがあることを私は知らなかった。
ということは、オル様がここに置いてたってことだから―――――出したら不味いんじゃないの?」
ここは鳥籠、扉が開かぬ限り入れぬ封印。ならばそこにある書物もまた、封印されてしかるべきものなのだだろう。
だが、しばし考えてメイメイはまあ、良いかと酒を飲み直すことにした。
「これでオル様の企みが崩れるならそれまでだしぃ? ひょっとしたら持ってかれること計算済みかもだしぃ?
メイメイさん、悪くありませ―ん。無実無罪でーす。にゃははははは」
少なくとも今はまだ鳥籠の中で待つしかない。来ないかもしれない時を待つために。
それがあの闇の中で輝く者達の導としてか、憎悪の闇の尖兵としてかは分からないが。
838
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:14:00 ID:rH4aOhw20
だが、世の中は酔夢ほど緩やかではない。
店主の後ろの本棚にある本の一冊が光り輝く。
その光に気付き、メイメイは気だるそうに本を手に取って開く。そしてその眠たげな眼を全開にした。
「夜族、高貴なる血……賢帝の破片にクラウスヴァイン、感応石……これって、首輪の?」
猛烈な勢いで書き変わる文章、そこに書き込まれていくのは首輪のことやこの世界に関する推察であった。
「にゃ、にゃにぃぃ〜〜〜!! 嘘、何でこんな場所に? よりにもよって? オル様の差し金? っていうか、不味い!」
店主は椅子を蹴飛ばしてセッツァー達が出て行った紋章へ手を伸ばす。
ここにコレがあった所で、あの島で戦う者達の役に立つことはない。何としても彼らの世界へ送り届けねばならない。
「何とか本だけでも送り届けないと…! 四界天輪、陰陽対極、龍命祈願、自在解門ッ!!
心の巡りよ……希いを望む者たちに、導きの書を送り届けたまえ! 魔成る王命に於いて、疾く、為したまえ!」
剣指を刻み、呪文を唱えて店主は紋章に向けて力を送る。
だが、紋章はうんともすんとも言わず、本はいつまでも店の中にあった。
「え、なんで。幾らなんでもそれくらいのことは―――――――あ」
店主がその正解に気付いた時、酒で紅いはずの顔が真っ青になった。
―――――――ああ、機会が“あったら”な。
「ま、まさか……」
その脳裏に浮かんだのは、あのギャンブラーの最後の笑みだった。
「にゃ、にゃんとォォォォォォォォ―――――――――――ッ!!」
A−7の海岸。いち早く日の光を燦然と浴びて輝く海に、どこかの店主の慟哭が響いた気がした。
だが、それを聞くものなど誰もおらず。ただ“かつて船だった板”と既に薄い煙となった灰が残るだけ。
最早、座礁船と呼ばれたものは何処にもなかった。
839
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:14:34 ID:rH4aOhw20
「―――――――――尤も、もう逢うこともないだろうがな」
そう言って、座礁船を焼き海の藻屑へと還した張本人が獰猛な笑みを浮かべた。
彼らはあの店を出た後、即座に紋章の周囲を重点的に破壊し、更に酒蔵の残った酒を全て船に撒き、火術で焼き払ったのだ。
正確に言えば、火を付けた時点で彼らは対アシュレー戦に向けて行動を開始した。
燃え尽きるまで待っている理由も無かった。彼らの目的は、あの入口を完膚なきまでに破壊し尽くすことだったのだから。
「万が一、あのカード以外に入る術があって、俺達のようにアイテム渡されたら堪ったもんじゃねえしな」
入口をなくせばいい。
セッツァーが取った方法は至極明快だった。それに、この方法ならばあの店主を閉じ込める効果もあるだろう。
あの店主がオディオに忠誠を誓っているか、はたまた虎視眈々と裏切りの機会を待っているか。
どちらに転んでもセッツァーに利する要素は何もない。ならば、永遠に客の来ない店番をして貰うのが最良だ。
「そう言えば、何故お前はあの龍を毛嫌いする? 特に拘るようにも見えぬが」
「そりゃぁ、決まってる」
横を歩くピサロの何気ない問いに、セッツァーはさも当然のように答えた。
「自分で歩く路を決める俺<ギャンブラー>と、ここを進めと言うだけ言って自分で歩かない占い屋――――――――――相入れる訳がないのさ」
そう言い終わったセッツァー達の眼の前から木々が無くなる。
そこに広がるのはだだっ広いクレーターだった。そしてその遥か遠くで、魔法の煌めく光が陽光を超えて目に刺さる。
肌を刺す光、雨上がりにぬかるんだ熱。今日も暑くなると告げている。
セッツァーの口が歪む。魔王達の思わぬ奇襲によって、ジョウイがセッツァー達に伝えた計画は破綻したとみていい。
ここからは、恐らく最後になるだろうこの乱戦をどれだけ活かせるかが勝敗を握ることになる。
「さあ、俺達もカードを伏せるぜ。降りる奴なんていやしねえ。最高の、最高の賭けになりそうだ」
だからこそ、最後の作法だけは弁えよう。
汗にぬかるんだ掌を握り締める。慌ててカードを落とすなんて莫迦だけはゴメンだ。
そう言い聞かせるように、セッツァーは枕にしていた本をしっかりと握りしめた。
それは日記のようなものだった。古臭くはなく、かといって新しいものではなく。長年使ってきた日記という印象を受ける。
だが、それよりも眼を引くのが、巨大な錠前だった。
ピサロの魔力でも、物理的な解錠でも開かぬ錠前がこの日記のような本の中身を守り続けている。
唯分かるのは、表紙に書かれた、恐らくこの本の執筆者であろう名前――――――『Irving Vold Valeria』。
永遠に開かれること無い日記を手に掲げながら、セッツァーは高らかに謳う。ギャンブラーとして、1人の男として。
ああ、これだ。胸の動悸を確かめ、セッツァーは漸く自分の興奮を自覚する。
ありとあらゆる準備を整え、考え得る可能性を絞り出し、そして舞台に上る。
その時こそ、今こそ―――――――――最高のギャンブルとなるのだ。
「さあ、宣言しなオディオ! 『No more Bet―――――――――――It's a showdown』ッ!!」
日の出と共に、王の宣言と共に――――――――――これより、最後のゲームが幕を開ける。
今日も暑く、長い日になるだろう。
840
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:16:58 ID:rH4aOhw20
【C-7クレーター北端 二日目 早朝】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、基本支給品一式×1 メイメイさんの支給品(仮名)×1 ニボシ@サモンナイト3
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:放送後にヘクトル達に奇襲を仕掛ける。ただしニノの生存が最優先。
3:セッツァー・ピサロと仲間として組む。ジョウイの提案を吟味する?
4:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
5:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。
【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
メイメイさんのルーレットダーツ2等賞。メイメイさんが見つくろった『ジャファルにとって役に立つ物』。
あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがジャファルが役に立つと思う物とは限らない。
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) 回転のこぎり@FF6 フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3 、小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@???
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:放送後にヘクトル・ニノをメインに奇襲を仕掛ける。
2:ジャファル・ピサロと仲間として行動。ジョウイの提案を吟味する?
3:ゴゴに警戒。
4:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。
【日記のようなもの@???】
メイメイさんのルーレットダーツ1等賞のイカサマのダイスを放棄してセッツァ―が手にした『俺にとって役に立つ物』。
メイメイさんの店にあった、場違いな書物。装丁から日記と思われる。
専用の『鍵』がないと開かないらしい。著者名は『Irving Vold Valeria』。
841
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:17:33 ID:rH4aOhw20
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、心を落ち着かせたため魔力微回復、ミナデインの光に激しい怒り
ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実 点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、
天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ メイメイさんの支給品(仮名)×1
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:放送後にゴゴ・ヘクトル達をメインに奇襲を仕掛ける。
2:セッツァー・ジャファルと一時的に協力する。
3:ニノという人間の排除は、状況により判断する
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。
【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。
あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがピサロが役に立つと思う物にとは限らない。
*座礁船の秘密の扉の先に、メイメイさんの店@サモンナイト3がありました。
中にメイメイさんがいましたが、店共々どのような役目を持っているのかは不明。
メイメイさんの目的は不明ですが、魔王オディオの『護衛獣』であるらしくオディオに逆らうことはできないようです。
その中に、マリアベルの知識が書き込まれた1冊の本があります。
*座礁船が燃え尽きました。紋章も燃える前に完全に破壊されており、そこからメイメイさんの店に出入りすることは不可能です。
842
:
龍の棲家に酒臭い日記
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/18(木) 03:19:39 ID:rH4aOhw20
仮投下終了です。
議題とこちらが考えるのは
・メイメイさん登場の是非
・アーヴィングの日記(と思われるもの)の是非
ですが、他にもありましたらそれも含めて審議願います。
843
:
SAVEDATA No.774
:2011/08/18(木) 04:56:01 ID:JGbs5nQY0
仮投下乙です。
個人的には問題はないと思います。
感想は本投下時に。
844
:
SAVEDATA No.774
:2011/08/18(木) 05:10:35 ID:dFHZwuDQ0
投下乙〜
感想は本投下時として、氏が気にしている点について、意見を述べさせて頂きます
・まず一つ目ですが……
え、メイメイさんって召喚獣だったの!?
俺は今ひどいネタバレを食らった
というのはともかくとして
メイメイさんが出てくるということ自体はよろしいかと
お店といえばメイメイさんなのには納得ですし
ただ、メイメイさんの正体が龍族云々というのはサモナイ3内では触れられていませんでしたよね?
1か2か4の話でしょうか?
これは後々、他の書き手がメイメイさんを把握するために、ほかシリーズのサモナイやらねばならないということにはならないですよね?
いえ、そこらへんは書き手諸氏が上手くやってくれると思いたいのですが
ただ、私のようにサモナイの3に疎い読み手をほったらかしにする危機もあるのでは
ちょうど最後にお店の出入りを封じられたこともあり、また、オディオが他人を信用しない以上、
護衛獣といえど、最後の最後まで召喚しないといった形で、これより先に本編に大きく絡ませないこともできますが
この一つ目の件に関しまして、メイメイさんの正体について知っている方の意見もお聞かせください
サモナイ3以外未把握の書き手や読み手が、うまいことはぐらかしたり、簡単な説明でついていける程度のものなのでしょうか?
今回の話の内容的に、メイメイさんの正体だという龍関係の要素を削ってもらっても成り立つ以上、そこら辺をぼかす形で修正してもらったほうが良いのでしょうか?
・次に二つ目の方ですが
こちらについては問題ないと思います
アーヴィングの日記はWA2ではどうやっても見れないものでしたが、今回の話の流れからして、その中身が見れないことこそに意味があるとも捉えれます
解錠されたとしても、内容をまっとうなアーヴィングの日記としてでっち上げることもできますし、オディオが置いていたことも考慮し中身が別ものであったとしても、不思議ではないかと
書き手の判断次第でこちらはどうとでもなると思われます
845
:
SAVEDATA No.774
:2011/08/18(木) 23:09:16 ID:QhBUSqVs0
お疲れ様でした。
他の方と同じく、感想については本投稿された際に。
それにしてもこの◆wqJoVoH16Y、ノリノリであるw
(1)メイメイさんについては、今後の書き手さんがどう扱うか次第だと思いますし
ロワのルールにも違反していないので特に問題ないと思います。
(2)日記の出典が???となっていますが、
アーヴィングの名が入っている以上、WA2と明記していいんじゃないでしょうか。
ロワの世界に来てから作成・改造したもの以外で
原作に存在しないアイテムが登場するのは初めてだと思うので、
WA2以外の世界の本にアーヴィングの名前が入っているというクロスオーバーは
ロワ的にアリなのか、という点が気になりました。
(3)FF6のセッツァーにとってWA2のアーヴィングの本は
ちょっと変わっているだけのただの本のはずで、
何故それを役に立つものだと思ったのかの説明が欲しいと思います。
一言ギャンブラーの勘という一文があるだけでも説得力が増すのではないでしょうか。
(4)セッツァーが不確実さを排除する一面がかなり強く押し出されているので
ギャンブラーというより策略家みたいな印象を受けました。
「賭ける」と言っているけど、完全に全てが計算されているような感じがして、
いまいち賭けている感じがしません…。
ダーツにしろ、ジャファルとの会話にしろ、どの辺りに不確実さを感じているのか見えにくいと思います。
(5)セッツァーのことばかりになりますが、
ニノの対応を完全にピサロ任せにするのはちょっとらしくないかなと思いました。
どっちに転んでもいいなら、皆殺しを狙うピサロにわざわざ依頼する意味はありませんし、
ニノが死んでくれた方が都合がいいなら、
ここはキッパリとニノが殺されるようにお膳立てしていくのがこのロワのセッツァーだと思います。
(6)最後に、護衛獣と二重誓約については用語の説明があると親切だと思います。
特に、二重誓約については、どの行動やセリフが二重誓約にあたるのか、
サモンナイトの召喚に関係がある用語ならば、
それを知らないはずの3人が何故二重誓約をしかけることができたのか、等の説明があると
一層理解しやすくなると思います。
846
:
◆wqJoVoH16Y
:2011/08/19(金) 19:45:40 ID:URkjOJ9U0
皆さんご意見ありがとうございます。
>>844
さん
>龍であるという情報ソース
確かにその通り、SN4になります。さほど重要な要素ではないと考え設定を使用しましが、脇が甘かったのも事実です。
念のため本投下の際にぼかすことにし、ある程度の情報をキャラクター紹介スレに乗せようとおもいます。
>>845
さん
>(2)について
>>844
さんが述べたような可能性を残すため、???で行きたいと思います。ご了承ください。
>(3)について
本文中、以下の文章にて説明したと考えます。
>俺は、これにする。この店で唯一、明らかにインテリアから浮いているこの本をな。
>(4)について
本文中にも書きましたが、セッツァーとしてはこの程度のミニゲームは乱数に委ねるレベルではないと考えてます。
当たる確率が40%のものを、事前の準備で60%、80%と詰めていき、それでも残る不確定要素こそにこそ自分を賭けるのもギャンブラーかと。
>(5)について
私の描写不足でした。申し訳ありません。
死んでも生きてもどちらに転んでも良いとも、死んでくれた方が都合がいいとも記述したつもりはありませんでした。
セッツァーがジャファルと共闘を組む上でニノの生死、またそのタイミングは非常に大きな要素であり、本文中の通りどちらを選ぼうともリスクもリターンも付きまといます。
ですがこれは重要な要素であり、乱戦に突入する以上「どこかで転ばす覚悟」はしなければなりません。
今後の展開次第でその天秤が動く可能性がありますが、現時点ではピサロという乱数に委ねた次第です。
同盟を組んでいる以上、ともすればピサロが配慮する可能性もあるため、口にした、ということでした。
セッツァーが語るニノの描写が他人事のように薄かったのが原因かもしれませんので、そこを修正したいと思います。
>(6)について
本文中で入り込んだ説明をすることが、逆に他の書き手の方に迷惑になるかもしれないのであっさりと流しました。
小ネタに類する箇所ですので、分からなくても触れずに行ける場所かと。
ただ、護衛獣はともかく二重契約はSN3の範囲外になることも事実です。
なのでメイメイさんのキャラクター紹介を書くときに部分で一行、用語説明を追加したいと思います。
以上で現状の質疑に対する回答を終えます。
見る限り、こちらが懸念していた二点に関してはおおむね問題ないとの意見と見受けますので、
土曜0時以降に一部修正後、本投下しようと考えます。
それまでも質疑は可能な限り受け付けますので、忌憚なく意見を願います。
以上です。
847
:
845
:2011/08/19(金) 20:59:49 ID:axrJO1Z20
>>846
長々と意見してしまったにも関わらず、
丁寧に対応していただきありがとうございます。
(2) から (6) までのご回答について、理解できました。
ご回答ありがとうございました。
848
:
◆wqJoVoH16Y
:2011/12/24(土) 08:06:36 ID:1Jk99KIo0
私がわたしを歩む時−I'm not saint−の修正をwikiにて行いました。
849
:
◆wqJoVoH16Y
:2012/01/29(日) 11:57:43 ID:BAf7eGEg0
本スレの指摘を受けて以下の2点について修正を行います。
この修正はwiki収録時に反映させたいと思います。
1.
>>376
盾と刃が交わる時−The X trigger− 5
その世界に全ての悲しみがなくなれば、そこに救われぬ者はなく、
それを救う英雄はなく、英雄を欲する者たちもいない。
勝者と敗者のいない世界――――――それは即ち、争いのない世界。
即ち、真の理想の国に、英雄は“いない”のだ。
を削除します。(次の6番と重複するため)
2.アキラとピサロの状態表を以下のように修正します
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(極)疲労(極)肩口に傷 怨念に触れて精神ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、毒蛾のナイフ@DQ4 基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:何とかして、立ち上がる
2:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
3:首輪解除の力になりたいが、俺にこれを読めるのか……?
4:ジョウイに対処する
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。
※毒蛾のナイフ@DQ4が肩口に刺さっています
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)ミナデインの光に激しい怒り ニノへの感謝
ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(5枚)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実 点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)
バヨネット、天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ メイメイさんの支給品(仮名)×1
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:ヘクトル(?)を利用し、セッツァーと連携して参加者を殲滅する
2:セッツァーはとりあえず後回し
3:ジョウイは永く保たないはずなので、放置する
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:*確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック
*バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます
【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。
あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがピサロが役に立つと思う物とは限らない。
850
:
◆wqJoVoH16Y
:2012/01/29(日) 16:24:18 ID:BAf7eGEg0
指摘ありがとうございます。
また、セッツァーが回収したアナスタシアの所持品についてもミスがありましたので
それらについて以下のように修正します。
3.ストレイボウとゴゴ、アナスタシア、セッツァーの状態表を以下のように修正します
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極)、心労(中)勇気(大)ルッカの知識・技術を継承
[装備]:
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、基本支給品一式×2
[思考]
基本:魔王オディオを倒してオルステッドを救い、ガルディア王国を護る。
1:この場を切り抜ける
2:ジョウイ、お前は必ず止めてみせる…!
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石によってルッカの知識・技術を得ました。完全再現ができるかは不明。
※首輪に使われている封印の魔剣@サモナイ3の中に 源罪の種子@サモサイ3 により
集められた 闇黒の支配者@アーク2 の力の残滓が封じられています
闇黒の支配者本体が封じられているわけではないので、精神干渉してきたり、実体化したりはしません
基本、首輪の火力を上げるギミックと思っていただければ大丈夫です
※首輪を構成する魔剣の破片と感応石の間にネットワーク(=共界線)が形成されていることを確認しました。
闇黒の支配者の残滓や原罪によって汚染されたか、そもそも最初から汚染しているかは不明。
憎悪の精神などが感応石に集められ、感応石から遥か地下へ伸びる共界線に送信されているようです。
【ゴゴ@FFⅥ】
[状態]:気絶 疲労(大)瀕死 首輪解除 右腕損傷(大)気絶 出血多量 物真似に対する矜持
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE 、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンはひとつ)
魔鍵ランドルフ(機能停止中)@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノ・トリガー
[思考]
基本:物真似師として、ただ物真似師として
1:そろそろ、目覚めないとな……
2:セッツァー…俺の声を、届かせてみせる!
3:“救われぬ”者を“救う”物真似、やり通す”
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と別の時間軸から来た可能性を知りました。
※内的宇宙のイミテーションオディオが紅の暴君に封印されたため、いなくなりました。
再度オディオを物真似しない限り、オディオは発生しません。
851
:
◆wqJoVoH16Y
:2012/01/29(日) 16:27:00 ID:BAf7eGEg0
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:ダメージ(極)、疲労(極)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、重度失血 左肩に銃創(弾は排出済み)
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:感応石×3@WA2、ゲートホルダー@クロノトリガー、にじ@クロノトリガー
基本支給品一式×2、
[思考]
基本::“自分らしく”生き抜き、“剣の聖女”を超えていく。
1:この場を切り抜ける
2:ゴゴを護り、ゴゴを助ける。
3:ジョウイへの対処を考える。
今までのことをみんなに話す
[参戦時期]:ED後
[備考]:
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※アナスタシアの身にルシエドが宿り、聖剣ルシエドを習得しました。
他、ルシエドがどのように顕現し力となるかは、後続の書き手氏にお任せします。
【セッツァー=ギャッビアーニ@FFⅥ】
[状態]:魔力消費(中) ファルコンを穢されたことに対する怒り
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE烈火の剣、
シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2 バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@??? ウィンチェスターの心臓@RPGロワ
昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、
アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV、ルッカのカバン@クロノトリガー、
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ヘクトル(?)を利用し、ピサロと連携して参加者を殲滅する
2:ジョウイに関してはもうゲームからの脱落者として考慮しない
3:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。
※ルッカのカバンには工具以外にルッカの技用の道具がいくらか入っています
852
:
◆wqJoVoH16Y
:2012/01/29(日) 21:56:58 ID:BAf7eGEg0
いえ、指摘ありがとうございます。
むしろ見落としてしまい申し訳ありません。
それと
>>415
さんも凄いイラストありがとうございます。
まさかこんな早くイラスト化されるとは考えもしてなくてうれしかったです。
それではセッツァー及びゴーストロードの状態表を以下のように修正します。
【セッツァー=ギャッビアーニ@FFⅥ】
[状態]:魔力消費(中) ファルコンを穢されたことに対する怒り
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ
シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2 バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3 にじ@クロノトリガー、
小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@??? ウィンチェスターの心臓@RPGロワ
昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、
アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV、ルッカのカバン@クロノトリガー、
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ヘクトル(?)を利用し、ピサロと連携して参加者を殲滅する
2:ジョウイに関してはもうゲームからの脱落者として考慮しない
3:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。
※ルッカのカバンには工具以外にルッカの技用の道具がいくらか入っています
【天雷の亡将@???】
[状態]:クラス『ゴーストロード』 左目消失 戦意高揚 胸に穴 アルマーズ憑依暴走 闘気 亡霊体 HP0%
[装備]:アルマーズ@FE烈火の剣(耐久度減。いずれにせよ2時間で崩壊) ラグナロク@FF6 勇者の左腕
[道具]:聖なるナイフ@DQ4、影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI マーニ・カティ@FE烈火の剣
[思考]
基本:オワレナイ……ダ、カラ……レ、ヲ……戦ワセロ……ッ!
1:戦う
2:肉を裂き、骨を砕き、生命を断つ
3:力の譲渡者(ジョウイ)には手を出さない
[備考]:
【ゴーストロード】
亡霊君主。スキル『亡霊体』によって物理攻撃ダメージを半減し、
近づくものをその怨念で射竦めるスキル『闘気』によって周囲の相手の移動を制限する最悪の前衛ユニット。
ミスティックを通じて不滅なる始まりの紋章の力を注がれたアルマーズの無念が死体さえ動かす。
過負荷によって既にアルマーズは崩壊を始めており、どうしたところでその存在は2時間も保たない。
それでも、それでも理想を願うことは止められない。たとえ絶対に叶わない泡沫の影だとしても。
*天雷の亡将の周囲に石細工の土台が暴走召喚によって大量召喚されています。
*ビー玉は暴走召喚の触媒として壊れました
*つらぬきのやり@FE烈火の剣は死体が最初に倒れていた場所(C7)に突き刺さったままです
853
:
◆wqJoVoH16Y
:2012/04/08(日) 15:37:27 ID:qP6X3Mpc0
前話拙作におきまして、
セッツァーの所持品にミスがありましたので修正しました。
・にじ@クロノトリガー を削除(アナスタシアと重複)
・マタンゴ@LAL を追加(本文中で入手)
ならびに誤字も少々修正しました。
854
:
◆wqJoVoH16Y
:2012/08/25(土) 23:18:53 ID:qS4PCLgQ0
本スレ
>>502
氏
ご指摘ありがとうございます。ご指摘の点すべてこちらのミスでありますので、
wikiに掲載され次第修正いたします。
また、こちらでもアキラの所持品に清酒・龍殺しの空き瓶が、
セッツァーの所持品に壊れた蛮勇の武具がまだ残っていたのを確認しましたので、
これも合わせて修正したいと思います。
855
:
◆6XQgLQ9rNg
:2012/10/20(土) 07:27:11 ID:Vgu7eLC60
拙作、『Phalaenopsis -愛しいきみへ、愛するあなたへ-』にて、
状態表に場所と時間表記が漏れておりました。
以下、状態表に追記です。
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 昼】
856
:
◆wqJoVoH16Y
:2012/12/16(日) 05:05:24 ID:jT4OIwKQ0
『魔王様、ちょっと働いて!』及び『リプレイ・エンピレオ』をwiki収録しました。
その際一部修正をしました。
ストーリーに支障ある部分ではないため、事後承諾ですがここに報告させていただきます。
857
:
SAVEDATA No.774
:2012/12/17(月) 05:47:58 ID:tp3JTUUE0
>>856
収録お疲れ様でした
一部修正も問題ないかと
858
:
SAVEDATA No.774
:2013/02/09(土) 21:59:28 ID:OCcwtd/c0
少し気が早いですがwikiに時系列順と投下順の目次を増設しました。
メニューとトップにはリンクを載せましたが他まで見ていないので、
何か気づいた方は適時対応願います。
859
:
SAVEDATA No.774
:2013/04/02(火) 00:01:16 ID:Zj6MYQ4I0
規制くらったのでこちらに続きを投下します
860
:
刃の行方、剣の在り処19
:2013/04/02(火) 00:02:04 ID:Zj6MYQ4I0
「龍には、無垢なる、たま、しひ……を……」
ずるりとその血塗れの左手から、狂気山脈が遂に手放された。
夥しい血液を胸から流しながら、カイエンが、幾人もの命を喰らい尽くした殺人剣が地に伏せる。
血の河と思えるほどの大量の血液は、まさに彼が歩み抜いた途そのものだった。
その血の向かうは竜の門。その扉の先にこそ、あの列車の終着駅があるのだと信じるかのように。
「諦めな、サムライ。その刀が血に飢えることは、もうない」
あと少しで血が門に触れようとしたとき、に大地に突き刺さった雷鳴剣がその血の流れを、断絶する。
狂気山脈を胸に深々と穿たれながら、フリックはその殺人剣に吐き捨てた。
愛し、喪ったものを取り戻したい。己を狂わせてでも成し得たいその願いは、痛いほどに理解できる。
だがそれでも、フリックにはそれを認めることはできなかった。
理由は分からない。
ただ1つわかることは、たとえ己が命を引き換えにしてでも、
その在り方を肯定する訳にはいかなかったということだけだ。
(ここ、まで、か……)
血の気と共に、フリックの身体が落ちていく。
寸断される意識では、その答えを掴むことなどできなかった。
「しっかりなさい! それでもわたくしの騎士なのッ!?」
だから、答えがその手を掴んだ。
剣ダコで厚くなったその手を、やわらかな両手が包み込む。
もう亡くなったと思った、守れなかったと思ってた命のあたたかさだった。
「ベ……ル……フラウ……」
返り血に塗れた顔を少女の涙が拭う。しな垂れた髪の香りが、血臭の中でも鼻腔を擽る。
何度も睨んできた瞳は、紅く輝いていた。
何度もくしゃくしゃと撫でてきた髪は、金髪ではなく銀髪になっていた。
右手に輝く月の紋章は、彼女がノーライフキングの一席であることを示していた。
「シエラ、おねえさまが、こどもは……生きろって、
みんな……子供扱いして……っ、そのくせ、自分たちばっかり……勝手なんだから……!」
こぼれる涙を止めることなく、少女はキッと死の淵に瀕する己が騎士を見据えた。
たとえそれがものの弾みから出た約束であったとしても、稚拙で一方通行な契約であったとしても、
それだけが、人の道から零れ落ちた彼女をここまで運んできたのだ。
「死なせない。このまま終わらせたりなんかするものですか……!」
月の紋章が輝く。それが意味するのは、紋章の眷属への変生。
無論、ベルフラウにフリックを支配するつもりなど毛頭ない。ただ生きてほしいと、それだけを願った祈りだった。
「なあ、頼む。このまま……終わらせてくれないか」
861
:
刃の行方、剣の在り処20
:2013/04/02(火) 00:02:34 ID:Zj6MYQ4I0
牙をみせて怒鳴るベルフラウに、苦笑したようにフリックが首を振る。
その静かな瞳に、少女は否応にも騎士の決意の固さを悟るしかなかった。
「いや……いやよ……カイルも、スバルも、ミスミさまもいなくなって……
サニアさんも、シエラお姉さまも……死んで……ルーシアも、その上、貴方までいなくなるなんて……」
それでも、少女はその手を強く握る。零れ落ちるものを溢すまいと包むように。
「ねえ、生きてよ。お願いだから、あの人を想い続けてもいいから……
私の騎士じゃ、なくても、いいから……わたしを、ひとりに、しないで」
ただ一つのわがままで、少女は願った。
そのわがままを、フリックは震える腕を持ち上げて、指で拭う。
「……違うさ。お前には帰るべき場所が、あるだろう。俺は、それを守れたんだ。だから、違うのさ」
あの時、炎の家のなかで、全て燃え尽きたと思っていた。
あの兇刃と撃ち合ったことに意味などないのだと思っていた。
そうではない。そうではなかったのだ。
守れたのだ。かつて愛した過去<かのじょ>ではない、確かにここに在る現在を守れたのだ。
彼女がこうして泣ける今を、守り通せたのだ。
「だから、俺をこのまま、お前の騎士のまま終わらせてほしい」
この胸に充つる想いのまま、どうか。
ベルフラウは何も言わず、そっと手を離す。
「―――――――ありがとう。ベル」
「―――――――バカ。何度言っても、そう呼んでくれなかったくせに」
青き雷は、二人の主を剣に刻んで、門の向こうへと消えた。
【カイエン@FF6 死亡確認】
【フリック@幻想水滸伝2 死亡確認】
【竜の門前 二日目 昼】
【ベルフラウ@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)疲労(中)吸血鬼化
[装備]:ドリストンガン
[道具]:月の紋章
[思考]
基本:主催者を打倒し、島へと帰る
1:フリックを弔う
2:ロボ・マールという参加者と合流する
[参戦時期]:ED後
[備考]:シエラより月の紋章を継承しました。具体的な効果はお任せします。
862
:
SAVEDATA No.774
:2013/04/02(火) 00:04:24 ID:Zj6MYQ4I0
あ、間に合わんかった。
すんません。エイプリルフールネタのつもりでした。
その、上2レスは無かったことに。
863
:
SAVEDATA No.774
:2013/04/02(火) 00:43:07 ID:fO6OfWlA0
投下乙!
内容的に投票時のでっち上げテンプレ世界の続きだよね
カイエンは魔剣開眼でやばいことなってたけどそれを止めたのはフリックだったか
愛する人をなくしてるフリックだからこそだよなあ
竜の門の先に行こうとして狂ったのはネルガルをも重ねちまうぜ
フリックはようやく守れたんだね、お疲れ様
ベルは失いに失って、それでもこれから永遠を生きてくのか……
存在に触れられただけだったけどシエラ様もかっこよかったです
864
:
SAVEDATA No.774
:2013/04/02(火) 00:43:43 ID:fO6OfWlA0
上げ
865
:
<ワタナベ>
:<ワタナベ>
<ワタナベ>
866
:
<ワタナベ>
:<ワタナベ>
<ワタナベ>
867
:
<ワタナベ>
:<ワタナベ>
<ワタナベ>
868
:
◆wqJoVoH16Y
:2013/10/05(土) 19:13:06 ID:0pRzyx4.0
拙作 No.00「帝国軍諜報部式特別訓練」にてリザーブ支給品に
イスラ装備済みのドーリーショット@アーク2が残っていたので
wiki上にて削除しました。
申し訳ありませんが、以降のSSにも反映願います。
869
:
◆6XQgLQ9rNg
:2013/10/05(土) 21:13:47 ID:aMPfrITA0
>>868
修正お疲れ様です。
こちらの方でも気付ければよかったですね、すみません。
「罪なる其の手に口づけを」のリザーブ支給品の修正を、あわせて行いました。
870
:
◆6XQgLQ9rNg
:2014/02/22(土) 22:31:58 ID:x/m2xucc0
拙作『其の敵の名は――』『響き渡れ希望の鼓動』をwiki収録しました
それに伴い、誤字等の誤りを修正いたしました
871
:
◆6XQgLQ9rNg
:2014/02/23(日) 22:58:39 ID:6Uh1MaSE0
拙作『其の敵の名は――』にて、部隊編成の枠の一部が漏れておりましたので、修正いたしました
872
:
◆FRuIDX92ew
:2014/10/13(月) 19:09:57 ID:dwcwVCk60
「一万メートルの景色」
批評を受けまして、誤字脱字修正、一部文脈がおかしかった箇所を修正しました
873
:
SAVEDATA No.774
:2014/11/05(水) 00:49:36 ID:ZL1fkChQ0
了解です
874
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:11:28 ID:nwge4aXk0
空に浮かぶ“魔法王国ジール”。
/ヽ
,// `ー-、
__r‐/ / ! .ヽ \
__/ i ." i !.、 ゙lゝ .l=ー..,i-、 √/冖l_/⌒/'ー、 _
/∨ \/ `'-、 !.! .|、│ ゙'‐ ` .ヽ ! ゙ン'⌒゛ / ` ./ ..l゙''"゛ \,..ー、 メ\
/ ./ .i \ ゙ニ=- ゙xX彡爻爻爻ミミ¬--爻炎ミ--xX爻ーui_爻X-.._ ,-゙ヽ、_`';;、___/ |.、 \
//,/ / .l : -;;'"彡爻爻ミ璽目旧[]璽旧「幵幵冊龠彡爻爻ミXxレ! rv-'/ .,! .<゙ヽ_,゙ヽ_ `゙゙'ー龠爻ミXニ
_心≧=─-'゙二‐┴-←''二=-‐、,,. ⌒`ー、璽幵「璽冊[]目高龠璽幵xx__xX爻ミミil!爻l/./ .ll, .l .`''-ミr ゙̄TTi冖 ̄ | /
.l|_龠爻ミ‐x彡爻‐≠ニ'"゛/ | \.`゙''ー---..__xX「高[]龠爻ミミ''‐爻.-=―--二=ィ⊇_____爻爻炎二==-,,..ニi ! 八 /
.ヽ i ゝ__ `===ミ彡爻ミ/ ! `';;v-八´ `'-、爻iii,i...、二=爻(= ‐ 二 ≡= 三 =ニ ),龠龠爻ミミtr'"、.l iゞ'" V
ヽl ,i"´ =ヽ 一‐璽 ̄´彡爻炎ミー'l―xX彡爻爻爻ミミヽ二_ `゙゙'|‐===广==|:i:l''T゙゙゙゙゙| .i二___┬|l | l.,i"゙'ー、
∨ `-≠、彡傘ミr─-'" ̄´.! ゙''ーt- _x彡爻龠爻ミミ___ヽi,,ヽ | | ,!:i:i .} ! . / l .,!〃,,!,,/゛ ___/
\ `゙─冖 i l 八 ヽ l .~ ̄´.i `゙゙TT´ ‐===二==- _ !:i:i l l .l゙/ ,i.l ./ l'゙/ ゙̄「 /
\ 、 l .,.! ..l .l l l, . l. .|, | ! .1`ー- -―┬‐ーイ゙j !:i:i :! .U l / ! ,iレ~゛| /_/
\ .l ll../ .`゙'-.l、 ゝ、 │\ \} ! l. 八 | .ヽ| | .i:i:i ,,|、.| .|.! :! У !/
マ ,! ヽ__ `''、 ! l ..|八 | `i !.、.l, ! / .!,!゙-!:i:i ´ `.! .! ! /
∨ \ l} │ ! l │ " i !.| l"..l ./ i:i:i ヽ.!/゙V
∨ヽ,, ヽ .,゙ . '、.l, .! ゙U ., / i:i:i
`'-.″ヽi,..> .! /∨ i:i:i
゛ ゙l、 ."./
ヽ /
∨
875
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:12:00 ID:nwge4aXk0
偉大なる女王の元、魔導の力にて栄えた文明は――
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ェ‐‐─r王ュ"´.:.:.:.::::.:.:::.:.:::.:.::.:.:,ゞ-''"´¨く´``゙゙''´ヽ;;r'"´ 戉戔;:;、 `1'''¨````´゙゙`'.:.::::!
 ̄`了{:::.::::.:戔戔戉::::.::く´ ``ヾ.:.:.:::::::::::.:.rュ.:戔戔戔 `1 .:::::,r′
゙, ```'''ヾ:.:.:..:::.:'`',:'':'`:.:::.:.:. .:. :::::::.:.:::::::::::::::::::::::.::.:.:.:::::戔戉 `1 .::::r'′
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(ェ) {} `1 `"´1'"´``ヾ.:.::::.:.::::.:`ヽ `1.:.:.::::::::.:.:.:.: r'"´r'′ ヽ,r'′
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〈::';::,;'.:::;;'.;.;'';.;;;.;'''.;;.;.;''.;〉 1 . : ::|:|::::.:. :|:| .:;′.:;r'′ r'´rュ.:.::.ヽ
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`1 . .:::r'′ |:| `1、.:::::::,;r'′|:| ,.. -rュ .:.:.:::::.::戔戔戒
`1 .:,r'′ |:| `V'´ |:| , .:´.::::::::.:.:.:.:::ojjjH::戔戒
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`''''゙′ |:| |:| ',¨```'''"´``ヽ.:.::::,r'",r'′
876
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:12:36 ID:nwge4aXk0
僅か一日で崩壊した。
_
/ `ー‐ 、
| }
| ◎????
\ /
`Y /
√i ` ー'
/ | _
/ \__ _ノ \
\  ̄ヽ- '´ /
\ /
i ◎広場 \
ヽ  ̄}
ヽ ◎残された村
` <__/
/`ー─z__
{ ◎小さな洞窟
ヘ \
. \_r─t_ /
 ̄
877
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:13:09 ID:nwge4aXk0
全ての始まりはある遺跡の探索中に発見された“門”にこそあった。
“竜の門”……。
こことは異なる世界、“ドラゴン次元”と繋がるとされていた伝説の門。
魔法の力に魅せられていた女王ジールは門の先にあるドラゴン次元をも侵略し、更なる力を手に入れようと目論んだ。
878
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:15:03 ID:nwge4aXk0
ト、 , /|
V\/レ レi
⌒ヾ ̄`丶∨ / / ̄ ̄\
. / ̄ ̄\ Ⅵ/ / _∠ ̄`丶
∠=,  ̄〕iト 、 _,. -- .,_ __\
. 厶イ /__「 Y__{ `丶
/>' ≫==----==≪ ヽ\
/ / / /く}/ Ⅵ‘, ∨∧.‘ ,
/ / / 弋_t、 ィッ_フ, ∨∧ ゚,
/ / / , 'iト、', 、 :i , _∧‘ , ‘, ゚,
. ,' / ,:/i:γヽト .  ̄ .r:'厂Y゚ , ', .i ',
| i> 冖ト、Lノ_{iト 二 へ __ノ,. ==- _ |
. ,. < Y---==--- / 〕iト ,
. ∠_____/==' ̄ ̄ ̄ゝ= 'ト _ \
{/ ノ / 弋ー フ. | { {_ ̄ ̄ ̄ ̄弋
. γ´ ̄〕iト-- ' /! `´::.. ..:}ト、\ _, - 二Y
{'⌒ー- __,/:::::::ヽ ,.:::::::.::::::::, ':::::::iト _ー _, ─‐┐|
|:, ` >=ミ_:::::::::::| {::::::::::::::::::>'´ , i .|
||::〕iト .,//.//\:::::::ト .,__,. !::::::::r<ハ ,. =彡7 ,'|
||:::::::::八__,{ ト、/ ヽへ _{{ O }}_ 个Y´ ∨z=<::::::::::::i i !
|.!::::::::::::::::::::::::} i ハ | | | |{ i´:::::::::::::::::::::: l ,' |
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. | |:::::::::::::::::::: ヽ{.レ | | ,'. | | ト、!:::::::::::::::::::::::,' |.|
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| | |:::::::::::::|. ,' ,' | | Ⅵj | |
| | |::::::::::: |. | | | | V , |
| | |::::::::::::|. | | | | | | |
| ゚, V::::::::| | | | |. | | |
| ゚, ∨::::|. | | | |. | | |
| ゚, V: ! | | | | | | |
| ゚, ∨ | | | | | | |
. 八 ∧ ∨ .| | | | ∧ ∨ ∧
. __ノ\ ‘, ‘, | | || ∧ ∨ ∧
. / :} .‘, ‘,. | | | |. ∧ ∨ ∧
{  ̄ ,' / | | | | ∧ ∨ }
.  ̄〕iト . / /ー-- | | | | _ ,. 斗≦ ̄ ̄ ̄
\_/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
879
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:15:35 ID:nwge4aXk0
門の守護者レックナートはこれを阻もうとするも、門の封印に力を割いたままでは強大な魔法を駆使する女王を相手取るには叶わず、
開門を許してしまう。
_,,,,--‐;;;;;;;;;;;;;;;;;;;‐---,,,_
,/:::::::::::::::::::::::::::::;;;;:::::::::::::::`i、
,/ .:::::::::::::::;/,`!;;::::::::::::::::i、
,/ .:::::::::::::::::::;/ || ::`!;;:::::::::::::::i、
.i:::::::::::::::::::::::::::;;/ |;| :::`!;:::::::::::::::|.
.!;::::::::::::::::::::;;/__ || ::`!;:::::::::::|
!:: ::::::::::::::/:::....`ヽ、 ' ,,/"!;:::::::::|
|: :::::::::::::|:::::.... ` ´ ...:::|::::::::|
| . ::::::|:::ー-‐‐'' `ー-‐|:::::::|
.| .:: :::::|::: .i :::|:::::::|
i .:::i :::::|::: l. .:::|:::::::|
i .::::| :::::|:::: ` ´ /|:::::::|
.i .:::::| :::::|::\ `´` ´ ./;;;;|:::::::|
i. .:::::| :::::|:::::::`ヽ、 ´´,/;;;;;;;;|:::::::|
_,,.ノ:. .::::::|| .:::::|:::: :::`ヽ,-'´;;;;;;;;;;;;;;|::::::|
/'´ ノ:::::..::::::::|| ::::::|:::: :::::|;;;;;;;;;;;;;;;:::;|::::::|
/ ,/二二二| :::::::|ー‐-,,,,__|,::::::-'''" `ヽ;;;|
i'´ ,/\_ ノ:::::::::ノ __,....-'''" `ヽ、
880
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:16:44 ID:nwge4aXk0
開かれし竜の門――
:::::::::|_ ィト,、_ | | | ,イ /| | ヾ ヽ..| ....| | _,,,,,!,,_,、_ |:::::::::::
:::ヾト炎イ ィ  ̄..ー-..|_|____.|.__{ 〈.!_イ ̄ ̄ ̄ト,,_,ノ. }_|____.__|..___..|-'''"´ | .|:::::::::::
:::::::Y Y イ | | ,,, イ ヽ `.| ! ..ノ`ヽ、 | | イ . 炎トィ}|:::::::::::
:::::::{ イ Yィ―┬-- .| | ./ 、 ヘ` '''ー.{ ト、 ,イ }ー'7'" / ../ `ヽ | |_,,,,,,-ー`ヾ メY 〈|::::::::::
::::::∨―,、イ .| .`| ̄'' | ̄'''フ ヽ ヘ ヘ '-ヽ` ! !´,イ‐.、 . / / / \ ̄ ̄| ̄''''| | )ト爻 ∨|::::::::::
イ ̄ ̄ ̄ `ヽ .| | | イ ヽ ヽ ン''"´ヘ |.{ }.| /` ヽ,、 / / \ | | | / ̄ ̄ ̄ ̄ヽ:::::
! ノ ―ー- .|― ./ ヽ ヽ ,イ ヽ ,,,ゝ―ヾ_ソ―く 、 / ヾ イ イ ヾ――|―'―‐!、 ノ:::::
..`ヽ ,イ ..| / ヽ ` / ヽ ,,イ|:::::::| |::::::| |:::::::| |::::: `ヽ / ヽ イ イ ヽ.. .| |ヽ イ´::::::
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ィ ヘ ̄''‐-| | ` ヽ へ、 ./| |:::::::| |:::::::| |::::::| |:::::::| |:::::::| |:::::::| |' ,../', '"´ .', |'''" ̄|ィ ̄ ヘ::::::
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ノ:::::::::::::
だが、女王が門をくぐるよりも早く、彼方より来訪者は来たれり。
それは伝承に残りし半生命半機械の生命体“ドラゴン”でもなければ、竜人“マムクート”ですらなかった。
見難く、見窄らしい容姿をした人のようで人で無きもの。
女王はこれを侮り殺そうとし、門の守護者はこれを訝しみ元の世界へと返そうとし――これに敗れた。
二人の強大なる魔法使いだけではない。
魔法文明そのものが異界より来たりし侵略者に成すすべなく敗北した。
881
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:17:24 ID:nwge4aXk0
/ ヽ
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ヽ,。-亠、 // 奉 .ヽ ヽ ヽ___;;;;;; ,;; t
ヽ:::::::::l`'ー-----t'~ ̄ .,'\;; ,;; t
.ヽ::::::t. ,.' .i ヽ `'ー‐' ./\. ,;; ;;t
.ヽ,:::ヽ;' i ヽ / .\. ,;; .;;: ヽ
.l::::i__.。-.'" ヽ .(入 ,;; ;;: l
.ノ:::::::::l.、, ,,;;;'’ i ヽ , / .j .;;: ..l
./:::::::::::::.t .゙"゙"゙"゙" i . / ,:' .;;: l
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.l ヽ:::::::::::::::::,。'´| ;:;: ,.。'´ ,,;; ,,;;''' ,;;;;; .~l_
ヽ .\ 。.'´ l :;: .,。'´ ,, ,, ,, ,,,;;:;:;:;:;:;:;:;''':::::::::....,;;; \
.,.。'"´\ |.!,、 `l~ ̄,, :.; . i
魔封じの者……。
いつしかそう呼ばれるようになった彼の前にはありとあらゆる魔法が無力だった。
魔法を封じられた人間たちは、魔封じの者が率いる“魔族”に蹂躙されるより他はなかった。
882
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:17:57 ID:nwge4aXk0
,,-‐''''''コ‐
/ f′
ィ‐-..、 ..、 , .. | ヽ、
ヽ ヽ、 |\│`┘ `‐"1 ゙l 丶、
..、 / │ l、 _..‐'''''゙''''''''ー〜-''''′ \
'((ゞュ..,, /′ fヒ ,ィ"''┬'" ン‐一‐ ,' '、
^<ノ´゙'Y=x1 下'"゙゙|广'' ゙ゝ,,,,ノ │ __ v'广'ヽ、
`ゝ../ ソ''+ 、_ '∟ 丿 ___-r=!tナt│ヽ ,/‐'ヷY` .. 1、
゙'∟ ,,r'´ ,,广'┐ 〕゙彡(个- .. ''ィニnニ 、 '、 :,'|/´ /’ ,,n〉 |}
゙<′ /′ ,ト ゙゙{ぅトK {ユ=冖゙゙ ニ 冖' ゝ、_....ノ┘ ヽ―′ _丿
゙ヽ_../ _/゙'''+丈ノ'" ..‐ `゙''′ `/ ゙゙\__ ニ_ 〈'、
゙''n,,-r冖-..、 ゙lトッァ∟....-'''"⌒ ̄ ニ"′ _.. ` ゙爻_│ ヽ、
`ゝ `' │ 1っ''----- フ'.. 、....┴'' ̄ ̄′ |
゙ー.. ∟ 'ゝ;<‐ ..ム_..r'´ .. ̄ .. ......、_..../
_....几'、 フt-‐'''´´ '´ ''''..;jtミニて ̄´
____..r冖"心xコ=コ'、 _.. ´|lー 、`‐'、
_ '、 ´ '´ _jfサl{つ 丿 `゙`ー:ョ-ー‐" ||! ゙'、 '、
'、 :〔亅 `亡 ,'"エコ′ ノl′ ゙、│
`ュ、 |テ〈`っ’ `''ー 、 ゝニソ 儿rっ--l..|l 、
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. 丶_、 T〈ー卜 "''1 ´ _..ャ‐" 1 ミ
゛'っ__⊥ ゙l'、 ''‐ ..<ソ′ ` ゙l
゙'xヽ、 .."/′ │
゙''ー--l │ ヽ_
`∟ ゙゙ゝ
`ヽ v-‐'''''
\ _,,_ ||
`''''\ '´ `―′
`''′
鋼を肉とし、水銀を血とした魔族たちは一夜にしてジール王国を滅ぼし、浮遊大陸を落下させることで多くの人命を奪った。
魔法を失くし、友を失くし、家族を失くし、国を失くした人間たちは――しかし希望を失ってはいなかった。
目には目を、機械には機械を。
三賢者の指導のもと、機械生命体ドラゴンの化石より魔法に代わりし力“ARM”を建造。
また、ジール王国の後を継ぎ新たに興った“ガストラ帝国”では魔法と機械を掛けあわせた魔導アーマーが開発された。
883
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/01(金) 16:18:30 ID:nwge4aXk0
/|| /~i /~|
/ || | .| ,."~~'ヽ.i
 ̄ ̄|| _| |_,,,-───-[]-,,,,.,」|
┼|i ,」ー└ ヾ ,--<'~`ゞ_ソ,.ト,
|i,|i _,-',_i__ノ\_∠)ニヽ_
/|| -,-┴--, ム--i,_ソーソ__ノ |i `ヽ、
( ゝ、_>=-,, ヾ;,=-) |゚ ゚i=<_」ー=-、ヾ;,.
フ`,__ノi o |i ヾ `inok[ニ>'" ヽ, i
/__ フ ヾ-"-'|_,,,/=- __ | /
ヾ'" `v--,/[;]>'ノノソ~'ー-ヽ、 ,,-=~~~~i;ソ
\ |iー++-=<==-<) )`ー‘ー#'_ノ ノ ノ-,_,-ー-,_
|i__o rー-<;::|i=<ヾ, ゝ `-=='"~ / t-ヾ-,
`iト /ヾ ヽL_ノ `ヾ, \r=' ̄ ̄\L_ /」--=ソ_
Lノヾ ヾ__] | \_,,-#"~ゝ-'L_i |i ̄~^=-, ~=-,.
Lノ ry'ヾ,;'''' \ i| ~=-, ~-' ~`-,. ~-,. `i
\_ソ\ \ \ ノL_;: ,,,r=-ーi,__, ~-=, |i |
ノ”──ヽ ヽ ヽ /_) ヾ, /; |i~^~^`=-`.=--,ヾ/ヾソ
/,,.r======ヾ i;、 |  ̄ ̄~  ̄~~"ー───'
L/ `\___|i i ヾ ,i
`--,_|i__|i_/ノ ヽi
人々はARMを手にし、魔導アーマーに乗り込み、魔族へと立ち向かう。
884
:
エイプリルフール
:2016/04/01(金) 16:19:15 ID:nwge4aXk0
今を生きる人間たちだけではない。
Π
へへ 巛
___/ \ ((口
[/ \ ∠_ヽ
[]|'――,_________ヽ ||/
| ゜ ゜ ゜ ゜ ゜.| O) ))
ト、 (-) (-)|//
∩)):) (⌒ヽ|)
∪ノ.:|____入二二へヽ
(| | ゜ ゜ ゜ ゜ ゜。个`
O) ))__四_____________ノ
|__|_|_/___/ヽ_____ヽ
ヽ _/ / ヽヽ、
匚]⌒ヽ 冖γ > へ、
>>>⌒| ⌒---'―___\
∨
蘇った太古の機神ヂークベックが。
> ' ´ ̄`ヽ
ィニ/ >-ヽ、-\______
7// ',__/ ヽ. \//////////∧
_, -< ヘ {:r= 、 x....ヽ ', >'////////7/ |
人 Y iィ:ハ.ィ' ̄弋.ノ.ヘ__,ィ⌒Y _,. -チ'´>-=-、/l|//i|
j_Y::V::j::斗 イ\ヽハミ----ゝ '彡ィ´ィ /./ ヽ/iiリ
ト、::彡'-:ノj´ >- 、ヘ=i キ==={(:::::ヘ i .i { ∨
|>--- イi } .! i::Y } >ty< ヽ::∧_ '., i l o _ >∨
乂 .イ..> ':| |::7 ' l:l:l 〃 i:::ハヽ ヽV> ´. -‐'´
 ̄ i|..' / ol:l:l o .k ー ' ノ `ヘ_ ,...V
| V γ/./>x >-< /、_ ヘ
/ヽ、゚ ゚ {-{|ニニ= \_,。...゚-‐/->'´ ヽヽ 7
x<::::::::::Ⅹ、.', ', ニニチ 7√i:::::{:::{__,.ィ ハ', /
イz__;::::<::| \V', == ィ/ V:弋i__,.ィ 7 ,′
T´ー--t _|::| |:::::>-<:::::| 〃>ヽム--イ イ
i j-≦ ヽ |:::::::::::::::::::::::l {{ ム:::___L_
j、 / V .ヘ::::::::::::::::::::リ ̄`` t={゚ i
7 ,ィ=x ! \:::::::::::/ | ', イ
,.ィ`ヽ\i r- Vハ ヽ イ /ヽ ヽ、_ イ ト、
/ ヽ V__ / _j { i ___ i: }
Y /ー < 弋_ jイ,.:ニニニ=Yj
 ̄ ̄ ̄ ̄ 乂V i
l l
l l
> 、_.ノ
遙かなる未来より送り込まれたロボが。
滅びゆく世界に生まれた小さな希望を護るため人類と肩を並べる。
885
:
エイプリルフール
:2016/04/01(金) 16:19:45 ID:nwge4aXk0
過去―現在―未来。
本来交わり得なかった3つの時間軸が一つとなる時、Zの合体機構と風魔手裏剣を装備した奇跡のからくり丸は顕現する。
<='^'=ゝ
|◎o◎|
.l二[ ・ ・ ・ ]二l
|| ./_|__|__|_ヽ ||
[l l]l____l[l l]
[] ヘ l |ll| l / .[]
└ |||| ┘
゙゙゙
果たして人類は明日をつかむことができるのか。
∧ ∧
/| | ,| | ,| |\
/ /| | \ ____,-,.=..=、-、____ ノ | |ヽ ヽ
| / | \_  ̄/ ,--、T,--、 |、 ̄ _ノ | ヽヽ
| | L  ̄`L.,. `ヘ_,※_,,ノ´ 、,..l´ ̄ _| | |
| | / /ノ__,-v'''^''v‐、__ゝゝ ヽ | |
| | | ,-‐‐‐‐‐‐‐-( ゝ.__ヾ'^=^//__ノ )-‐‐‐‐‐‐‐、 | | |
| | | ヽ ̄~‐‐ 、 `',‐- ノ、 ̄ ̄,´ゝ-‐~´ ,.-‐~ ̄ノ | | |
| | | ヽ (ソヽ/"" ~~^ ^~~ ゙゙゙ヽヽ/ヾ| / | | |
| | | / ,--、| | | ,‐‐、 〈 ,| | |
| | | _/ /===))ゝ____,...-‐↑‐-、.._____ノ)(===ヽ `‐;;、 l | |
| | _| ∠ヽ |=l/ .|二=/´_..|__丶:=二| ゝ=ノ /==ヽ |_ | |
|__|__| ∠=:::::) /´| |==|~ |  ̄|:==| | ゝ ゝ===ヽ |__|__|
/二二>==´ ノ 丿 ゝ=:|~ ̄l| ̄~~|::::=ノ ゝ `‐`==<二二::ヽ
( /{ミ三∀__/ (____,.......-‐|_/ゝ__..|....._ノ\_|‐-........____) `ゝ∀三彡} | )
\__|:::|二, _/ / `l ゝ `,二|:::|__ノ
~∨~´ ,..-‐'´ヽ_/ ,⊥ \___/ `‐、_ `~∨~
_,:::´ _,.......、 ヽ/´ `ヽ/=‐-、 `ヽ
┌⌒ヽ /====),< _ >、====ヽ /⌒ヽ
,ゝ-'´ヽ|二=‐'´' ヽ二‐二/ ゞ二==|__人__ノ
| /Τ ̄ ゝ二ノ Τヽ `l
| |二_| |二_| |
,ヽ_____|二| |二|_____/
∠lllll匚ノ  ̄ \ ノ □lllllゝ
,〃)))\,、-'‐-<lllll\ ∠llllll>-‐-、/(((ヘ
|/ ̄  ̄\|
眠りより覚めし地獄の帝王が明かす魔族の悍ましき真実とは?
886
:
エイプリルフール
:2016/04/01(金) 16:20:16 ID:nwge4aXk0
, - ュィ< ア≧ 、_
,{ / , 、 ヽ ,--ヘ
/ ヾ ' ノ ≦-'≧=ミ ≦\__ ≧o 。_ r ミ ―ミヽ
ヽァ´、_{ ヽア>、_} 7 ̄マヽ ≧ 、 }マト ― 、 ヽ
{∨{XXXX =マ ヽ \≧o' \ ヽ_ _ィ≧、 Y
V r  ̄ ヽ ノア ̄ 7 ヽ≧o。 ノ > ´ 7 アミ ヽ
ィ ヘ ヽ ヽ ノ´ / \ 、 ア´ / j / / l
Lヽ / V .j i / ./ {
` =={ { | ./}≦=- ' , ミ .}
r 、{ ヽ-- >‐ ミ ャ ´ / ∨ Y ./ ミ、 ≧
, /| } >― 、 ヽイ ∨ } { \.|
/ ̄i .ト /{ \_ `L /´≦i i -=  ̄ ̄ .{ _|
/ i j /ヽ/ ` { | \ / ̄ ̄\ ヽ ∨ ̄ マヽ
j i .l { / ヽ ア ヽ{├ \ / Vヽ _ヘ /_
/ -= i ./ .iY ヽイl }\ }≧――― 、} ヽ-== ∨/
// l r | / \_/ \/ ̄ヽ /_/、 \
/ ̄ >i __j ̄ヽ ハィ 、 / } {\ \ イ \ ア´
/ i }´ ヽ{ ヘ| k ヾ ノ\ ヽ ヽ <  ̄ < >― /
/ |リム ヽ } lヽ r ┤ \r ミ l / / ̄ ̄ ̄
/ マム--==≦ Y 7、{ \ ノ / ∨ |イ /
./ _ マム 1 / ヽ |l /
| / > 、 マヽ } ` =- ミ―― ミ / ∨ ≧ ュ { ∧
ゝ┼― ´ .l> ´ 7 ./ ./ ∨ マi .iヽ∧
./ __j < ./ ヽ / ト .i \\
l / リ / ヽヽr  ̄ ̄ ヽ ム | ヽi \\
ドラゴンロードの語る兵器として生まれし者が望んで欲し、渇いても、その身には得られなかったモノの答えとは?
そして謎に包まれた魔封じの者の正体は――?
887
:
エイプリルフール
:2016/04/01(金) 16:20:48 ID:nwge4aXk0
____
x.:´: : : : : : : : : : :`: .、
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γ´|_|__|ヽ l: : : : : : : : : : : : : : : : :| |(У) i/ ̄ ̄ ̄\
i | | | | i ヽ: : : : : : : : : : : : : :.:.: |______/ (У) / ◎ i
私 ハ 誰 ダ ?
オ 前 ハ 誰 だ ? ?
―コギト・エルゴ・スム―
888
:
エイプリルフール
:2016/04/01(金) 16:22:07 ID:nwge4aXk0
ニンゲンヨ
,イ r.7
____,.. ィ く ノ 乂>‐,、____
f´ラ'>、ゞv,ハ_)/ _,.. <> 、.,_ \! f' / ∨ヾ ヽ
{ { >'、/ヾラ >=- .,_,.. <' 7‐- ∧-‐ヾ >、.,__,. < >,. <\ >' } }
ゞリイ \' 7-= ∠´/ 〉/ 7ー-f'.人',-‐ヾ´ 〉\`ヽ、_,. ヘ ヽr'' }} リ'
/\ }}ー{`〕'ー-/_/f'ゝ./ `ー!‐-||..人_i!,. -|!¨´ i!/ヘ く ゝ_,.ヽ¨ル 7 /ヘ
'-'''´ `¨ー、}!ー{ /','、 i!-..,j! !! || |!_,.ヘ' 〉-i!´ },.ィ!コ-‐'' `ヽ}
\リー|-|!ゝ、| |`¨ー|!,.ヘ |!-‐ |! |!/ |!」|ー/-/
ト、_>ナ/ ! |!ー-i|..,__i! i!_,..|!-―|! ノ!ノー!' ,.ィ
}レ' / 〉' ゝ'ー-ノ |!∨|! 乂-‐ゝ'' ヘ´ \ヘ!
、- .,_,.r''ヘ ラヽ!、 ゝ_イ `゙ー<__.>‐'' /_/ ri:}-‐' / ゝ、_,.ィー,
ヽ >イ、 / >≧=イ r‐==、、 ,. ,.z==ミ、 ヾイリィヘ/、, ヘ' ィ´
},イ /\ > /}!| |! ◎ }|!ト イi|! ◎ }| | !、 ∨/\ }トゝ
{! /、ヽ /ー〈_.|,.ト、ゝ _,.ノ|リ _ {i|!ゝ、 ' ノィ| ノ-‐{! r'' >、 }
/ 、 /-, -、 ゝ\!ーtr―=7//=\ヘー―,/=7!ノ'/,. -|}=-ゝ' /!
|!/ `Y! ヽi!' /ー|!-'ー/、i!ノ{¨}、iL}!ノーtr=7f, ィ!´ iY´ \J|
´ | レ=、ノト-.,,ノ|リ >イヽ 人.v.人∧ノ〈|!ゝ_,.>|!/¨ヽ|!
|レーィ'` ー}-〉、j! ,イ 人 .リ |!_ノ、| >''´ }|_,.ィー||、
,.ィ |L,.ィ|| ー《 {' r¨ゝ| `¨ ¨ |,.ィ¨, イ 》ー .||-.,_ノ! >{ヽ
, < 〉- |L..イ| ,.イ》ー、>ー-:., ,.: -Yr_r-《 〉、 |L__|.|ィ' >ノ\
/ >< /ゝ 」! ー、</{ r/rY ::. .:: fr,<〉}、/r一 Y|〃∨>'、 ヽ
` < /` 、ヾ!\\〉∧ヘ しr,ーv―r,し/イ{ {´\ レ',.イ\,.ィ >''´
`< / >イ { レ'r、\ヽ __,、_ ィーイー,ー } \ \ > ´
`ー.,_ィ〈 | i ゝ、_ュ ,、_,ィ rク_,.ノ¨´\ _,.> ¨´
`¨゙ <___/`ーニニィ、__\>''´
ツクラレシ モノタチ ノ ニクシミ ト カナシミ ヲ シレ
889
:
Robot Panzer Grand Royale
:2016/04/01(金) 16:22:37 ID:nwge4aXk0
Robot Panzer Grand Royale
参戦作品
【LIVE A LIVE】
【ファイナルファンタジーVI】
【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】
【WILD ARMS 2nd IGNITION】
【幻想水滸伝II】
【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
【アークザラッドⅡ】
【クロノ・トリガー】
【サモンナイト3】
2016年4月1日 発売 未定!
890
:
Robot Panzer Grand Royale
:2016/04/01(金) 16:23:16 ID:nwge4aXk0
>>874-889
以上エイプリルフールネタでした
891
:
SAVEDATA No.774
:2016/04/02(土) 04:00:10 ID:Ip8EB9n.0
エイプリル乙。こじつけRPG、こういうの嫌いじゃないぜww
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