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仮投下スレ
485
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:30:46 ID:wNsXvNik0
「サンダウン・キッドなのかな……?」
高原の言っていた外見と一致する。
彼の仲間もこうしてまた一人脱落していった訳だ。
戦って死んでいったであろう男に、イスラは羨望と嫉妬の念を抑えることができない。
何かを為そうとして死んでいった男に、イスラは自分もこうありたいと願う。
ヘクトルたちに出会って、多少心境の変化はあったとて、未だにイスラの死にたいという願望は消えない。
ただ、自殺して無為に死んで逝くより、何かを為して死にたいと思うようになっただけだ。
「おい! アンタッ!」
ビクリと、イスラの背中が跳ねた。
誰だろう、この声は。
聞きおぼえのない声が、背中の、それもすぐ真後ろから聞こえた。
あり得ないと、イスラは思う。
何故なら、今イスラのいる場所は荒野のど真ん中であり、今しがたまで、ここにはイスラたち三人しかいなかったこと。
さらに、新たな誰かが今ここに来たのなら、イスラはこうも易々と背後を取られたということになる。
もしも敵なら、ヤバい。
危機感を覚えたイスラはすぐさま腰にかかった剣に手をかけ、いつでも抜けるよう構えながら振り向いた。
するとそこにいたのは見た目にも重傷と判る異国風の装束に身を包んだ少女と、それを抱えるように立つこれまた見たこともないような奇抜な衣装の男。
女は気絶しているのであろう。
手と足に力が入っておらずダラリと投げ出されているのを、男が抱えているような体勢だ。
だが、それでイスラは警戒を緩めたりはしない。
後ずさりながら、剣を抜いて構え、誰何の声を上げる。
「誰だい?」
「待てよ、俺はやる気はねぇんだ! それよりもこの女が……リンディスが!」
「リンディス!? リンのことか!」
イスラの背後に来たヘクトルが大きな声を上げる。
どうやらヘクトルの知り合いらしい。
それでようやくイスラも若干剣を握っていた手の力を緩める。
ヘクトルはリンが男の手に抱えられた女がリンであることを確認すると、一目散に男に駆け寄る。
男から奪い取るようにリンを抱きかかえると、頬を軽く叩いてリンの意識を呼び起こそうとする。
「おい、リン! 聞こえるかリン!」
頬を叩きながら、リンの身体を見る。
酷い怪我だった。
全身が刃物のようなもので切り刻まれ、背中にも大きな刺し傷が空いている。
衣服はもうボロボロで、赤い血が衣服にジワリと染み込んでいる。
一番の怪我は、左目から垂れ流している血だ。
しかし、閉じられた瞼に傷はついてないように見えるし、瞼を切っただけでこの出血量はあり得ない。
となると、もう考えられることは一つしかない。
リンは目をやられたのだ。
しかも、この出血量から考えて相当深い傷。
おそらく……失明していることをヘクトルも肌で感じ取る。
誰がこんなことをと怒りがヘクトルに沸いてくるが、それよりもリンの声を聞くことが大切だ。
根気よくヘクトルはリンの意識を呼び覚まそうとする。
486
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:31:33 ID:wNsXvNik0
「……ぅ……ぁ……」
聞こえた。
確かにリンの声が今、聞こえた。
呻き声に近いが、リンが声を上げたのは確かだ。
逸る気持ちを抑え、ヘクトルはまた根気強くリンの意識を呼び覚まそうとする。
「おい、リン! 俺だ、ヘクトルだ! 聞こえるか!?」
「ぁ……ヘク……トル?」
「ああそうだ、俺だ! 一体何があった!? 誰にやられた!?」
「やられたって……私は……死んでない、わよ……」
「細かい間違いはどうでもいいだろうが! 誰に襲われたんだ!?」
ようやく、リンは残された右目を開け、ヘクトルと視線が合う。
そして、力なく笑みを浮かべる。
知り合いに会えたことに対する安堵の笑みだ。
そして、また気を失う。
気を失う直前にリンが発した言葉は、ヘクトルに何があったかを伝えるのに十分な内容だった。
「ジャファ……ル……」
◆ ◆ ◆
胸に当てていた手を、ロザリーは下ろす。
深く息をつき、問題なくメッセージが届いたことを確信した。
伝えたいことは伝えた。
ロザリーの言いたいことの全てを伝えきった。
あとはこれを聞いた人が、心正しき者であることを願うだけだ。
「終わった……の……?」
ニノの問いかけに、ロザリーは満足そうに肯定の意を示す。
ニノは素直に喜び、マリアベルはロザリーの肩に手を置き、労いの言葉をかける。
「うむ、よくやったぞロザリー。 と言うても、わらわにはちゃんと伝わったかは判らぬがな」
もしも失敗してたら、何もない空間に向かって何かを言うだけというすごく間の抜けた光景になるだろう。
三人とも、それはあえて考えないようにする。
少し魔力を消費したことによりロザリーは立ちくらみを覚えるが、ゲートホルダーを使ったときのあの感覚とは比較にならないほど楽だ。
充実感のある疲労、とも言うべきだろうか。
むろん今すぐに成果があがる行動ではないので、成功したとは一概には言えぬが、少なくとも自分にできることをやったという満足感はある。
そう考えると疲労もなんのその、次にやるべきことを速やかに実行に移す。
すぐに移動を開始して、次の逗留場所を探さねばならないのだ。
時刻は逢魔ヶ刻。
西の空に落ちていく太陽が茜色の光を放っている。
カラスがカァカァと鳴くはずのこの時間、飛ぶ鳥は一羽もいない。
少しずつ明度を落としていくその光は、いずれ輝きを失ってしまう。
487
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:32:51 ID:wNsXvNik0
今は黄昏。
そして、また、夜が来る。
暗い暗い、常しえの闇にも似た夜が。
もう少し時間が経てば、これより先はノーブルレッドの領域、夜だ。
だが、マリアベルの気分はあまり浮かれはしていなかった。
西の空にはしっかりと晴れ渡る空と茜色に染まる夕日があるのに、頭上の空はどんよりとしたものがあるからだ。
分厚い雲が垂れ込み、どっしりと重い空。
今や、空は曇天。
しかも、これは雨雲に間違いない。
雲が明滅する頻度も多くなってる。
灰色の雲からはゴロゴロと、遠雷が鳴っている。
それは誰かの叫びのように、あるいは、誰かの怒りのように。
気温がグングン下降していくのが三人にも分かる。
日が落ちているだけことだけが原因ではない。
これは、間違いなく気圧が低くなっているのも関係している。
吹きつける風に厳しさが増してくる。
ニノが、少しだけ身震いした。
ザワザワと、せわしなく木々が鳴り響く。
空気が湿り気を帯びてくる。
今にも泣き出しそうな空模様は、まもなく雨が降りそうなことを如実に表している。
いやな天気だなと、マリアベルは思わずにはいられない。
「どうやら、ここはオディオの言っておった雨の降る場所のようじゃの」
空を見上げながら、マリアベルが言う。
垂れ込める雨雲を見ると、気分が沈みそうだ。
太陽が隠されるからといって、雨の持つ陰鬱さが好きな訳でもない。
天候を操るという力が本当にオディオにあるのは、驚くべきことではない。
ロザリーの世界には、そういった呪文が実在するらしいからだ。
それならオディオが使えてもおかしくはない。
高位の呪文になると、なんと一瞬にして昼夜を逆転させることができるとか。
それを聞いたとき、マリアベルは喉から手が出るほどに、その呪文を会得したいと思ったくらいだ。
「早くどこかで雨宿りする場所を見つけないといけませんね」
ロザリーも雨の降る可能性を考慮してだろうか、自然と足の動くスピードが速くなっている。
濡れ鼠になって、風邪をひいたりするのはどうしても避けたい。
落ち葉で足を滑らせ、ささくれ立った木が皮膚に薄い傷を走らせ、地面から突き出た木の根に転びそうになる。
どこか分からない森の中を、助け合いながらとりあえず進んでいく三人。
どこにいるかも分からない不安感が鎌首をもたげて襲う。
それでも、歩みを止めることはない。
見知らぬ世界。
頭上に重くのしかかるのは暗い雨雲。
そしてここは誰かの命を奪うのが目的の殺人劇、バトルロワイアル。
そう、ここは魔王の支配する異界。
そんな異界の中、寄りそう三種の種族。
人間と、エルフと、ノーブルレッド。
人と人が同属でいがみ合う中、手を取り合うこの異なる種族の少女たち。
それは果たして、何を意味するのか――。
488
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:34:46 ID:wNsXvNik0
「おお、開けた場所に出たぞ。 さすがわらわよ、抜群の方向感覚じゃな」
「あれ……湖?」
「海だったら対岸が見えるはずもないじゃろう。 それにあの橋を見てみぃ」
ニノに対して、マリアベルが指を指して方角を示す。
その方向には、湖の東から西までを結ぶ一つの橋があった。
それに、うっすらと対岸も見える。
これ以上ない分かりやすいランドマークだ。
どうやら、C-7の神殿近くにいるらしい。
それさえ分かれば、あとは誰か襲撃者がいないことを祈りつつ、あそこを雨宿りの場所にするだけだ。
急いでいた歩みの速度を緩めて、湖の外周部分に沿って歩きながら橋を目指す。
透き通るほどの透明感のある湖の水。
残り少ない西日によって、それは見事な黄金の光を反射していた。
しかし、風によって湖面が激しく揺れているのが少しばかりもったいない。
「そろそろ、いいかもしれぬな……」
自分に言い聞かせるようにマリアベルが呟く。
その声はロザリーとニノの耳には入らない。
宿探しの目星もつき、あとはあそこに歩いていくだけ。
当面は暇だ。
ならばこそ――今がその話をする状況なのかもしれない。
隠すことは二人との間に壁を作ることだ。
そして、二人は惜しみない信頼を寄せてくれている。
それならば、マリアベルもそれに応えるべきなのだろう。
「神殿に着くまで、少し昔話をしてやろうか……」
それは、とてもとても長くて悲しい、英雄と呼ばれた一人の少女のお話。
◆ ◆ ◆
「すまねぇ……俺のせいでリンディスが……」
「いや、お前のせいじゃねえ……お前はよくやってくれた」
489
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:35:41 ID:wNsXvNik0
頭を下げるアキラに対して、ヘクトルは気にするなと返す。
何とか、一命は取り留めた。
決死の看病とアキラのヒールタッチのおかげだ。
今は容態が落ち着いたリンをおいて、三人の治療を同じくヒールタッチでしていた。
「俺は……奴を倒しに行く」
右手を誓いのように固く握り締め、ヘクトルが言う。
しかし、現実的な問題として、どうしようもない距離が壁となって立ちはだかる。
「どうやって行く?」
椅子に座ったブラッドが冷静に言う。
聞くところによると、アキラのテレポートはあくまで緊急回避用であり、思った場所に行けるほど精度はよくない。
ここに来たのも偶然だ。
テレポートを使わないとなると、かなりの距離を踏破しなければならない。
時間がかかればかかるほど、ジャファルともう一人他人の姿を模す特技を持った奴は遠ざかっていく。
「歩いてでも行くに決まってるだろ!」
「歩いていく必要は無い」
そう言うとブラッドに対して、ヘクトルは疑問の眼差しを向ける。
しかし、ブラッドはリンのベッドのそばに立っているアキラに体を向けた。
「アキラ、お前のいた村の地理は覚えてるか?」
「ん? あぁ、覚えてるよ。 忘れるはずがねぇ……」
何故かそこにあったのは幼い頃から過ごしてきた懐かしきチビッコハウス。
ミネアに扮した奴を追っていたときに見た町並みだって決して忘れやしない。
あれは子供の頃から毎日のように歩き、慣れ親しんだ町。
そう、あれこそはアキラの住んでいた日暮里の町だ。
小さい頃に鬼ごっこやかくれんぼを何度もして、路地裏の地理まで把握している。
何故そんなものがこんなとこにあるのかは分からない。
その言葉に、ブラッドは満足してあるものを差し出す。
490
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:36:30 ID:wNsXvNik0
「だったらテレポートジェムで行ける」
琥珀色に輝く結晶体のような物がブラッドの手に握られている。
一度行った町などの施設に、瞬時に飛んでいけるファルガイア製のアイテム。
これがあれば時間と距離の壁は易々と打破できる。
「どうしてそんな便利なもの今まで使わなかったんだい、ブラッドおじさん?」
イスラの当然の疑問にブラッドが事情を説明する。
元々ブラッドもこれを利用する気はあったのだ。
だが、深夜に出会った魔王のせいで河に飛び込む羽目になり、その後はヘクトルも知っているとおり町に寄る機会に恵まれなかっただけだ。
しかし、さすがにそんな便利なアイテム、しかも一つしかない貴重品を使わせるのはヘクトルも躊躇われた。
「いや、そこまでしてもらう義理はねえよ。 俺は一人で行く」
「いいから使え」
「いや、いいって! 第一お前はこれでアナスタシアの行きそうなところに跳べるじゃねえか!」
「いや、アナスタシアに接触してからもう半日近く経っている……追跡は難しい。 これを使う意義はまだそこまで時間が経ってない人間を追うのにある」
アナスタシアの捕捉を諦めた訳ではない。
西に行くといっても、それだけの情報でそれ以上は追跡が難しいだけのこと。
目の前にやるべきことがあるのだから、アナスタシアの説得だけを優先させる訳にもいかないのだ。
「僕は、ヘクトルについていくよ。 アナスタシアに会うなんてこっちから願い下げだからね」
壁際にもたれ掛っていたイスラも、テレポートジェムを使うのに賛成する。
ヘクトル一人でやるつもりだったのに、いつの間にか多くの仲間に恵まれている。
そのことに、ヘクトルは感謝した。
「行くぜ……行ってくるぜ、リン」
「待って……私も行く……」
「無理するな。 俺に任せてお前は寝てろ」
「ううん……ミネアは大やけどを負っても頑張っていたんだもの……私だって」
自分だけが寝ているわけにはいかない。
無理を言って、ヘクトルについていく。
そのことに納得したヘクトルはリンを軽々と肩にかついだ。
491
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:38:05 ID:wNsXvNik0
「ちょっ、何するのよヘクトル!」
「俺がおぶってやらあ。 女一人なんて気にもならねえ軽さだ」
「バカっ! 恥ずかしいわよ!」
「うっせえ! だったら置いてくぞ? 怪我人は大人しく休んでろよ」
「ヘクトル……」
「俺は強いんだよ。 お前一人くらいなんてどうってこたあねえ。 それによ……フロリーナが死んで、お前にも死なれたら目覚めが悪いだろうが」
「……うん、分かった」
「おし、じゃあ行くぞ」
肩に担ぐという方法だけはなんとかして欲しいものだ。
しかし、それ以外となるとお姫様だっことかしか浮かばないし、肩車など持っての外だ。
結局、それで納得することにした。
ガチャガチャと鎧の音が聞こえる。
昔は、それがうるさくて喧嘩もしたことあってけど、今となっては懐かしい思い出だった。
外に出ると、先に出ていたアキラたち三人は各自身体を揉み解し、あるいはストレッチなどの準備に余念がない。
屈伸運動をしているブラッドに、ヘクトルは近寄りながら声をかけた。
「どうだ? 身体の調子は?」
「悪くないな」
全身についた傷を見ながら、ブラッドが答える。
リンを担いでいることには、特に何か言う気はないらしい。
アキラにとりあえず開いている傷の治療だけはしてもらっているから、これ以上は無理しなければ体調が悪化することはない。
といっても、開いた傷を元通りに治したりするものではないが。
暗示に近いもので、傷の痛みを感じないようにさせたり、人間の持つ自己治癒能力を無意識に活発化させるだけだ。
ブラッドの回答にとりあえず満足し、次にヘクトルはイスラとアキラも見やる。
こちらの二人も問題は特にないようで、準備運動を終わらせて後は移動を待つばかりになっている。
物珍しそうにテレポートジェムを見るアキラに対し、ブラッドが使用方法を教える。
「それを持って、行きたい場所を念ずる。 それだけでいい。
行き先のイメージが難しいなら、行き先の町並みを思い浮かべながらでも、町の名を声に出しながらでもいい。 とにかくイメージが大切だ」
「なるほど、それなら朝飯前だぜ」
アキラは数々の超能力の使い手だ。
イメージを組み上げるのはお手の物。
ましてや、行き先は数々の思い出があるあの街。
アキラにとって、不安要素などあろうはずもない。
だが、自信ありのアキラに対して、ブラッドはある懸念を抱いていた。
492
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:38:57 ID:wNsXvNik0
「そんじゃ行くぜ。 お前らしっかり固まってろよ」
テレポートジェムを使う直前、アキラはミネアのことを考える。
短い付き合いだった。
自己紹介さえ満足にしてない、仲間と言えるかどうかも怪しかった間柄。
アイシャだってそうだ。
時間にすれば一時間にも見たいであろう時を、一緒に戦っただけ。
でも、それでいい。
人と人が繋がる理由はそれだけでいい。
目の前にある荒波を共に越えようと助け合う者たちは、それだけでもう仲間なのだ。
託された想いと絆という襷は、とても重い。
でも、決してそれを捨てたりはしようと思わなかった。
この荷物を背負って、ずっと歩き続けるつもりだ。
サンダウン・キッドの亡骸はリンを城下町に運ぶ前に確認した。
生まれた時代も着ている服も何もかも、統一性の欠片もない7人の奇妙なパーティー。
そんな中で、彼は最も寡黙な男だった。
だが、アキラは知っている。
彼の心の奥に秘められた熱き血潮と魂を。
彼の心を覗いたことのあるアキラは、サンダウン・キッドという男が自らを語らなくても、彼の性質を理解していた。
ああ、分かる、分かるとも。
きっと、サンダウン・キッドは何かを守ろうとしていたのだろう。
きっと、サンダウン・キッドは何かを守ろうとして戦っていたのだろう。
そして、魔王オディオを倒そうとしていたのだろうということが。
なら、それを俺が受け継いでやる。
こうして、またアキラの心の中に背負うべきものが一つ増えた。
人と人の思いを一つ、また一つと繋いでいけば、安易な方法に頼らなくても人はきっと一つになれる。
争いも苦しみもない未来をきっと掴み取れる。
「行くぜ!」
頭上にテレポートジェムを掲げ、アキラは行き先を思い浮かべる。
琥珀色のテレポートジェムが砕け、そこからいくつもの光の粒子が生まれると、四人の体を包み込む。
初めての経験に、ヘクトルとイスラは不思議な物を見るように、自分の体を包み込む光の粒子を見ていた。
イスラが自分の手を見ると、光の粒子に包まれた手は徐々に消えていく。
ヘクトルが自分の足を見ると、もう完全に消えて見えなくなっていた。
しかし、痛みなどは感じない。
493
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:39:45 ID:wNsXvNik0
「不思議な感覚だね……」
胸元まで来たテレポートジェムの光を見ながら、イスラが言う。
今この瞬間、消えている足は一足先に行き先に行っているのだろうか?
単純な疑問が浮かんでくる。
もうそろそろ、顔まで光に包まれてしまう。
まぁ、そんなことどうでもいいかと開き直って、このまま身を任せることにしたイスラ。
だが、琥珀色の光の色をしていた粒子が、一瞬だけ赤い光に変わる。
ブラッドが異変を察知して声を上げた。
「失敗だ! どこに飛ばされるか分からないから身構えていろッ!」
これがブラッドが唯一懸念していた材料だった。
テレポートジェムによる移動というのは、時折失敗することがある。
リルカなどは特にこのアイテムと相性が悪いらしく、よく全然違う場所に飛んでいたものだ。
だから、慣れない者がテレポートジェムやオーブを使う場合、迷子にならないよう熟練者についてもらったり、予備のジェムをたくさん持つのが常識なのだ。
今回はブラッドというテレポートジェムに慣れた人がいても、予備のジェムはない。
アキラがテレポートを使えるといっても、ファルガイア製のテレポートアイテムとは相性が抜群という訳にはいかなかった。
そう、四輪駆動の自動車が操縦できるからと言って、二輪車の扱いが同じ要領でできることがないように、
メラが使えるからと言って、ファイアの魔法をすぐに使えたりはしないのと同じ理屈だ。
「おい! じゃあ何処行く――」
ヘクトルが何かを言おうとするが、光はヘクトルの頭頂部まで包み、何も言えなくなる。
次いで、浮遊感を感じて、ものすごいスピードでどこかへ行ってるのだけが感覚として分かる。
一度発動を開始したテレポートジェムは、例え失敗しようと止まることは無かった。
◆ ◆ ◆
どうやら、勇者と英雄とは切っても切れない関係にあるらしい。
勇者も英雄も、ほぼ同じ意味を持つ言葉。
ならば、こうしてユーリルとアナスタシアが三度目の邂逅を果たすのは、もはや運命なのかもしれない。
アナスタシアのあるところユーリル在り。
ちょこの行こうとしていた教会にしばらく留まり遊んでいたら、ようやく涙も枯れ果て、幽鬼の様に彷徨うユーリルが来た。
アナスタシアとしても、こうまで縁のあるユーリルからはもう逃げるなり死んでもらうなりしたい。
だが、ちょこがユーリルに感情移入してしまった様子なのだ。
ほんの少し前のように、向かってくるユーリルをあしらいつつ、ちょこが友達になろうと喋る構図が再現されていた。
「ねっ、おにーさん。 おにーさん何て名前なの? ちょこはねー、ちょこって言うの!」
「うううう、うあっあああああああああああ!」
494
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:40:32 ID:wNsXvNik0
話が一向に進まない。
ちょこが友好的な対話を試みても、ユーリルはうめき声をあげるながら拳を振るうだけ。
そういった余裕綽々の態度がユーリルの癇に障るのだろうが、ちょこは気づいてない。
ちょこもまた、ユーリルからユーリル自身の存在意義を奪うことになっていることに。
「ねぇ、あなたどうするの? 私を殺して、どうするの? その先に何があるの? 何が――」
「うわあああああああああ! あっうっあああああああ!」
アナスタシアの声を遮るように、再びユーリルの絶叫が響く。
絶叫が響いた分だけ、ユーリルの攻撃も苛烈さを増していく。
しかし、それさえもちょこにとっては通じない。
酷く哀れだと、アナスタシアは思った。
反論できないことこそが、アナスタシアの言うことを認めていることにも気づいてない。
ユーリルは獣のような声を上げ、アナスタシアの言葉を遮ることしかできない。
言葉を発するという機能さえ失っているように見える。
いや、もうこれは獣のような、というより幼児退行現象にも似ていた。
正論を語り諭す母親に対して、泣き喚くことでしか反抗の意を示せないような子供。
自分が勇者であると自覚して、勇者として生きる以前のユーリル本人の人格が今の状態なのか。
そんなこと、もちろんアナスタシアの勝手な推測だ。
でも、それが正しい推測だとしたら、こんなにも小さい頃から彼は勇者という使命を背負い続けてきたのか。
どうすることも、ユーリルにはできないのだろう。
これから先、どうなるのかはユーリルにも分からないのだろう。
空っぽの心を満たすために、とりあえず直前までやっていたことに身を任せる。
とりあえずアナスタシアがいるから、殺そうとする。
それが終われば、今度こそユーリルの心に何も残らないはずなのにだ。
失意のどん底にある男が、とりあえず酒を呑んで気を紛らわせ、何かに八つ当たりするようなもの。
アナスタシアが絶望の鎌を振り上げ、ユーリルの方へ向かう。
「なら……こんなこと私が言うのもなんだけど……引導を渡してあげるのが私の役目なのね」
これは自分で蒔いた種だ。
ならば、刈り取るのも自分の責任であり役目なのだろう。
もうちょこがユーリルを殺すことはないだろうから。
もう三度目の出会い。
もう三回もこんなくだらないやり取りを繰り返してきた。
次は無い。
ジリジリとアナスタシアはちょことユーリルの方に向かい、機を窺う。
さっきのように、ちょこに邪魔はさせない。
残念ながら、ちょこの言葉ではユーリルを救うことも殺すこともできないのだ。
大きく、息を吸う。
アナスタシアは、戦った経験があの焔の災厄の間しかない。
いわば、素人に毛が生えたくらいの戦闘経験しかないのだ。
だが、ちょこに任せるだけではできないこともある。
そして、今こそがそのリスクを背負うべき時なのだろう。
『英雄』が『勇者』を、『勇者』が『英雄』を殺そうとする。
なんともおかしな話だと、アナスタシアは思った。
495
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:41:24 ID:wNsXvNik0
「ちょこちゃん!」
「なに〜?」
今このときだけ、アナスタシアとユーリルの心は通じ合った。
アナスタシアがちょこの名前を呼び、ちょこはそれに対して振り返る。
そこを、ユーリルは見逃さない。
最強バンテージによって極限まで筋力を高められたボディブローがちょこの体に突き刺さる。
「うわぁっ!」
ちょこが大きく吹っ飛ぶ。
普通の人間なら、肉体を貫通してもおかしくないほどの威力の拳でも、ちょこはちょっと痛い程度だ。
だが、それでいい。
始めから殺そうとは思っていない。
ちょこが吹き飛び、重力の法則により着地して、そこから恐るべき脚力でユーリルとアナスタシアの前に戻ってくる前の間。
そこに、決着をつけるだけのわずかな時間があればいい。
ユーリルとアナスタシアの間に障害物が無くなる。
ユーリルがまっすぐにアナスタシアを目指して疾駆する。
アナスタシアは思い出す、あのロードブレイザーと戦ったときのことを。
あの時のように、絶大な力を振るうことはできないけど。
あの時の経験はきっと、無駄にはなっていない。
恐れず相手に切りかかる勇気、相手の攻撃を避ける技術を思い出す。
大丈夫、私はやれる、幸せを掴み取ってみせる。
アナスタシアもまた、相手の命を刈り取らんと、絶望の鎌を持って走る。
勝負は一瞬。
それ以上はちょこの邪魔が入る。
残り10メートル。
ちょこがアナスタシアとユーリルのやろうとすることに気づく。
火の鳥を二人の間に放とうとするが、今撃てばもう二人とも巻き込んでしまう。
残り5メートル。
「ハアアアアアアアアアアアッ!」
数百年ぶりに出す、アナスタシアの裂帛の気合を伴った彷徨。
思い切り、鎌を振りかぶる。
「うあああああああああああッ!」
怨敵アナスタシアを殺すために、絶叫を上げるユーリル。
今こそ天空の剣を抜き放ち、大きく振りかぶる。
496
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:42:12 ID:wNsXvNik0
しかし、その瞬間。
二人の間に一粒の光の粒子が生まれた。
一粒だったはずの光の粒子はいつの間にか大量に溢れ出し、人の足の形成する。
足から、足首へ、足首から膝へ、膝から大腿部へ、次々と人間の形を成していく。
そこまでくれば、ファルガイア出身のアナスタシアには何が起こってるのか理解できる。
「誰か……テレポートしてるのッ!?」
光の中から足は8本生まれ、四人の者が転移してることが分かる。
アナスタシアもユーリルも、突然のことに足を止める。
振りかぶり、今にも下ろされんとしていた武器の勢いを必死で止める。
ユーリルは未経験の事態に、本能が停止を命じたから。
アナスタシアは、誰か一人でも傷つけたら残り三人ないし四人全員を敵に回してしまうから。
「な、何だ!?」
四人の内の誰かが叫ぶ。
ようやくちょこが着地して、地を蹴る。
ちょこも、危機感を覚え全速力で向かった。
しかし、ちょこがたどり着くには、刹那ほどの時間が足りなかった。
アナスタシアとユーリル、そして突如現れた4人を含めた計6人。
その6人を含む周囲の空間が揺らいだかと思うと、手品のように消え去ってしまった。
誰もいない地面に着地して、ちょこは呟く。
497
:
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:42:48 ID:wNsXvNik0
「おにーさん?」
誰もいない。
「おねーさん?」
誰もいない。
「どこー?」
誰もいない。
「かくれんぼ? ちょこ鬼になったの?」
誰もいない。
「ちょこ……ひとりなの?」
これがかくれんぼでないと、理解する。
「おねーさん、おにーさん……どこ?」
残酷な世界に、彼女の叫びは誰にも届かない。
【F-1教会付近 一日目 夕方】
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:腹部貫通(賢者の石+自動治癒で表面上傷は塞がっている)、全身火傷(中/賢者の石+自動治癒)
[装備]:黄色いリボン@アークザラッド2
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
0:おにーさんとおねーさんどこ?
1:おにーさん、助けてあげたいの
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
3:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は不明(少なくとも覚醒イベント途中までは進行済み)。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザ達の名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※意識が落ちている時にアクラの声を聞きましたが、ただの夢かも知れません。
オディオがちょこの記憶の封印に何かしたからかもしれません。アクラがこの地にいるからかもしれません。
お任せします。後々の都合に合わせてください。
498
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:45:22 ID:wNsXvNik0
マリアベルが語りを終える。
先導するマリアベルが話してきた内容は、とても重いものだった。
ロザリーは、今日一日で何度となく驚いてきた。
ここに来て、ロザリーは自分の常識の数々をひっくり返される。
雷呪文を扱えるのは勇者だけと言う常識、魔王を打ち砕くのは勇者という常識。
それらは常識でも何でもなく、単なる先入観や偏見でしかなった。
しかし、それを認めたくない自分がいるのも確かだ。
昨日までの常識は間違っていたんですよと言われて、はい分かりましたと言えるほど、度量が広い存在などそうはいない。
だが、どれだけ反論を考えても、マリアベルの言葉に対する有効な論は見当たらなかった。
だったら、ロザリーが勇者様と呼んでいたユーリルもまた、勇者を求める世界によって捧げられた生贄なのだろうか?
そう考えてしまう。
勇者の旅には、ほんの少しだけ同行した思い出がある。
勇者とその仲間の間には笑顔が耐えることはなく、戦闘の際にも強い信頼と絆が見て取れた。
でも、だからと言って問題ないと言えるのだろうか?
終わりよければ全てよしという結果論で語れる問題ではないのだ。
もしもこの先遠い未来、世界を再び暗雲が覆っても、勇者がなりたくもないのに勇者になっても、綺麗な思い出さえ作れば問題ないのだろうか。
ロザリーは、俯きながらそのことをずっと考えていた。
ニノは女だ。
だから、あまり関係ない話だと思っていた。
英雄譚に目を輝かせるのは男の子であって、自分には興味のない話だと思っていた。
しかし、本当にそうなのだろうか。
英雄とは絵本に描かれるような遠い存在ではなく、もっと身近なものではないのだろうか。
アナスタシアという、生きたいという思いが強かったが為に英雄になってしまった女の子と、ニノに何か違いはあるのだろうか。
下級貴族ではあったが、アナスタシアがアガートラームに選ばれたのは生まれた血筋が原因ではない。
ニノとは何の変わりも無い、今日を楽しく過ごして、明日起きて何をするか楽しみにして寝る普通の女の子だ。
英雄になりたくなくてもなってしまったマリアベルの友達、英雄になろうとしていた人たち、英雄の名を背負った人たち。
そんな『英雄』に向き合っていったアシュレーやマリアベルの冒険は、ニノの想像を絶していた。
「すまぬな……そなたらを困らせるつもりはないのじゃ」
ただ、そうやって逝った友達がいたことと、『英雄』という言葉を勘違いして欲しくなかっただけだ。
『英雄』とは決して綺麗な響きだけを持つ言葉ではないこと、『英雄』を特別視してほしくないということを伝えたかった。
「すごいよ……」
ニノがそう、口に出した。
「あたしには、そんな答え一生かかっても出せないよ……」
「何故じゃ?」
「だって、あたし馬鹿だもん……」
499
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:46:03 ID:wNsXvNik0
ニノには学がない。
政治も分からぬ。
読み書きだってつい最近覚えたばかりだ。
だから、今マリアベルが語っていった人たちのように、『英雄』に対する答えを見つけることは到底できないと思った。
ファルガイアを救うのはたった一人の『英雄』などではなく、ファルガイアに生きる全ての生きたいという思いだ。
だから、『英雄』なんかいらないと言ったアシュレー=ウインチェスター。
『英雄』とは何かを為そうとする人の心に等しく存在するもの。
そして、『英雄』とは勇気を引き出すための意志の体現だと言ったブラッド=エヴァンス。
どれもとても重く、一朝一夕では見つからない答え。
みんな必死に考えて考えて、答えが見つからない現実に何度も苦悩して、その果てにやっと導き出した回答なのだろう。
そんなもの、落ちこぼれの自分には逆立ちしたって答えが見つかるはずがないと、ニノは思っていた。
だが、先を歩くマリアベルは少しムッとした様子で言い返した。
「ニノよ、無知であることを自覚するのはよい。 じゃが無知であることを免罪符にしようとするな。
わらわは学ぼうとする無知は嫌いではないが、学ぶ気のない無知は好かぬ」
無知であることを免罪符にして答えを求めることを放棄すること、それこそが無知の極致だ。
アシュレーたちはみんな、『英雄』とは何かという問いに対して、それぞれの答えを見つけ出した。
そう、『英雄』に決まった答えなどない。
数学のように確たる答えもない、禅問答のようなものだ。
「お主が誰かを守る強さが欲しいのなら常に強くあろうとし、どうすれば誰かを守れることができるかを常に考えるのじゃ」
それは『英雄』に対してだけの問題ではない。
マリアベルの『人間とは何か?』というノーブルレッド永遠の命題と同じようなものだ。
決まった答えも返しの定型句もないような問題に直面した時でも、常に答えを探すことを忘れてはならない。
求める限り、答えは逃げていく。
求めない限り、答えは得られない。
ならば、答えを追い続けて、いつの日か掴み取るのだ。
己の無知を知り、なお答えを求める者。
それはもはや無知ではない。
ニノはしばらく内容を理解できなかったが、自分の頭の中で噛み砕いて、マリアベルの言葉を理解していく。
500
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:46:34 ID:wNsXvNik0
「うん、分かった。 じゃああたし、まず何をすればいいの?」
マリアベルはその答えに満足しつつ、答えを返す。
「まずは、進むこと。 それが一番じゃな」
『英雄』に対する答えを見つけるのも、仲間の死を悲しむのも、オディオに怒るのも、全ては進まないと始まらない。
だから、今は神殿で雨宿りをすることを始める。
「案ずるなニノ、ロザリーよ。 もう夜は近い。 繰り返される夜は全て我がノーブルレッドのものじゃ。
誰が居ようと来ようと負けはせぬわ」
振り返り、自信満々に言うマリアベル。
先の見えない不安に対する、マリアベルなりの励ましだ。
マリアベルの言われた言葉をしっかり理解し、もう『英雄』に対して向き合うニノ。
対するロザリーは、生きてきた年月がニノより長い分、常識という壁が少し分厚い。
マリアベルの言葉に間違いは無いと思うが、すぐに考えを切り替えることはできなかった。
常識というのはいつもは役立つが、それが脅かされると途端に厚い壁となって立ちふさがる。
ニノの純粋さが、少しだけロザリーは羨ましかった。
湖の外周部分に沿って歩き、ようやく橋の付近まで来た。
後は橋を渡るだけだ。
誰もが半分安心しかかっていたその時――
「助けて!!」
という声が聞こえてくる。
空模様は一層厳しさを増す。
雷が、そう遠くない場所に落ちた。
◆ ◆ ◆
行動方針は、村とその周辺を行ったり来たりで参加者を狩る。
探し人とのすれ違いを防ぐと同時に、知らない場所で戦うより多少土地勘のある場所で戦えるようになるからだ。
今は、再び村を離れて多少遠くまで出てきた。
生憎の空模様だというのに、先を行くジャファルはそんなことをまったく気にしてない。
当然かとシンシアは思う。
暗殺者にとっては、夜の闇は身を隠す絶好の隠れ蓑になる。
雨は足音や殺気も消してくれるから、夜の雨と暗殺者とは鬼に金棒の組み合わせ。
そこにジャファルが行くのはごく自然なことなのだろう。
シンシアも反対はしない。
言わば、これはジャファルのご機嫌取りのようなものだ。
さっき独断専行をした借りを帳消しにするという意味で、シンシアはジャファルの行く先に文句を言わずついていく。
501
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:47:11 ID:wNsXvNik0
いつか来る決別の時まで、お互いがお互いを利用しつくす。
そして、いつしかシンシアとジャファルは行動を共にする限り、必ずや戦わねばならない日が来る。
といっても、実力では圧倒的にジャファルが上だ。
ただの山育ちの娘と、一流の暗殺者のジャファル。
借り物の身体も決して弱くはないが、ジャファルとシンシアの間には埋めようのない戦闘経験の差があった。
しかし、シンシアも負けられはしない。
シンシアはシンシアにしかできないことをして、ジャファルの首を取ればいい。
例えば、シンシアは回復魔法を持っているのに対して、ジャファルは持ってない。
これは大きなアドバンテージだ。
言わば、戦闘で負傷した際のジャファルの生殺与奪の権利はシンシアのものだ。
まだまだ使えそうな怪我なら治してやり、もう使えそうになくなったら切り捨てればいい。
勇者の命を、こんな暗殺者に殺させてはならない。
勇者とは、決して絶やしてはならぬ灯火のようなもの。
世界に光をもたらすものが、こんなところで命を落としてはならないのだ。
その火を灯すために必要な負債や代償は、余すところなくシンシアが支払う。
シンシアは影。
光を際立たせる影。
綺麗事ばかりでは生きていけない世界で、正しき勇者に代わって悪を為す存在。
これは一人しか生き残れないバトルロワイアル。
未熟な勇者の卵のユーリルに、今はまだオディオのような巨悪は討つ力はない。
そう、シンシアの知るユーリルはまだまだ勇者としてヒヨッコ。
今は、シンシアがユーリルを守らねばならないのだ。
いずれ来る過酷な運命に旅立つユーリルのそばに、シンシアはいることはできない。
シンシアはせいぜいモシャスのような、多少珍しい呪文が唱えることができるくらい。
力不足なのだ。
だから、小さい頃からせめてユーリルには帰ってくる場所がここにあるんだと教えてあげるように務めた。
激しい戦いの連続で心が折れても、村で暮らした楽しい想い出が立ち上がる力となるように。
といっても、それは村の比較的年寄りの連中が言っていたことだ。
未来の勇者様の力になれるようとか、勇者だから大切に相手しろとか。
そんなの馬鹿らしいとシンシアは思う。
そんな年寄りに対して、いつもシンシアは言ってきた。
502
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:47:52 ID:wNsXvNik0
ユーリルはユーリルなの。
勇者様って名前じゃないわ、と。
そう言うと、大人たちはいつも苦笑していたのを思い出す。
ユーリルが勇者じゃなくても、シンシアはユーリルと仲良く暮らした。
なんて言ったって、同年代の子供がいないのだ。
仲良くならない方が難しい。
山奥の村では、みんなが家族なのだ。
家族。
それは絆。
家族。
決して裏切らない。
家族
血が繋がっていなくてもなれる。
人が少ないからこそ助け合い、血が繋がってなくても家族以上に絆が深かった。
楽しい想い出もたくさん作った。
虫を捕まえて、小川で水遊びをして、森の中でかくれんぼをした。
魔物の動きが活発になる前は、朝早くから夜遅くまで山の中を走り回った。
お城のある城下町なんかと違って、山奥の田舎村には何もない。
でも、何も無いけど、何も無いからこそ、いつも平和で村の笑顔が耐えることはなかった。
ユーリルはいつも口数が少なかった。
言葉少なく、そのことに不安を持つ大人もいた。
でも、誰よりもユーリルと長く暮らしたシンシアは知っている。
その数少ない言葉の端々から垣間見えたユーリルの優しさを。
きっと、ユーリルは勇者なんかよりもっといい職業があるんじゃないかなと思う。
ユーリルが勇者じゃなくて、このまま何も変わらないまま一生暮らせたらいいなと、何度考えたことか。
それに、きっと、恋してた。
でも、それを打ち明けるより前に魔物の軍団がついに村の居場所を突き止め、仮初めの平和は幕を閉じた。
シンシアの役目は決まっていた。
モシャスを唱え、勇者の身代わりとなること。
ユーリルの隠れた場所が見つからないことを祈りつつ、シンシアの命は絶たれた。
503
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:48:39 ID:wNsXvNik0
でも、何故かシンシアは二度目の生を与えられた。
それだけなら戸惑っていただろう。
何故よりにもよって私の命が?と。
しかし、ここにはあのユーリルの名前もあった。
ならば、シンシアのやることは決まっている。
今度もこの命を後の世の平和のため、ユーリルという家族であり世界の光でもある幼馴染を守るのだ。
そう、思っていた。
そう、思っていたのに。
そう、思って己の手を血に染めたのに。
新たな三人の目標を捕捉した時、ジャファルはついにシンシアに牙を剥く。
シンシアよりも先に三人のターゲットを見つけていたジャファルは、その内の一人を見たとき、ついに見つけたと確信した。
波紋一つ立たない水面のようだったジャファルの心が波打った。
何時も無表情、何時でも無感情のジャファルが唯一心乱れる存在、それがニノ。
決まった。
ニノを見つけた以上、ジャファルにシンシアのような女と手を組む理由はない。
あらかじめ決めていた作戦に従わず、抜け駆けした気質からもシンシアの危険性が伺える。
何より、どちらかが探し人を見つけるまでが手を組む期間だった。
ジャファルには運が味方し、シンシアにはしなかったのだろう。
振り向くと同時に、ジャファルはシンシアの心臓に刃を突き立てんとする。
シンシアの目には、前を歩くジャファルが音もなくフッと掻き消え、次の瞬間にはシンシアの腹にアサシンダガーが刺さっていたようにしか見えない。
心臓を避けたのは、シンシアもジャファルのことを逐一警戒していたため。
借り物の体の内臓が破壊されるのを、シンシアは名状しがたい激痛とともに感じた。
あわててジャファルを突き飛ばし、なんとか距離は離す。
ここに来て、シンシアもジャファルが同盟関係を解消して、襲ってきたのだと理解する。
突然ジャファルが心変わりしたか、あるいは見つけた三人の中に探し人がいたか、どっちも考えられる。
激しくシンシアは吐血する。
口元に手を当てても、なお零れるほどの出血だった。
来るべき時がついに来た。
そして、先手をとられてしまった。
回復呪文の効果が薄いここでは、一瞬の油断が致命傷になる。
シンシアはジャファルの追撃をかわす様にバギマの呪文を唱えると、見つけた三人の元へ地を蹴った。
単独でのジャファルの撃破は無理だ。
ならば、あの三人に助けを求めるしかない。
死ねない。
こんなところで死んでたまるか。
勇者を守るという責務があるのだ。
しかし、敵はあまりにもシンシアと実力差がありすぎる。
ミラクルシューズの恩恵はあるが、ジャファルがいつ背中に迫ってくるか分からない恐怖で、シンシアはみっともないくらいの大声で叫んだ。
「助けて!!」
◆ ◆ ◆
504
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:49:34 ID:wNsXvNik0
「ミネアさん!」
必死の形相で走ってくる女の顔に、ロザリーは見覚えがあった。
勇者の仲間の占い師の名前を呼ぶ。
その体からはおびただしいほどの血が見える。
マリアベルとニノが戦闘態勢に入る。
マリアベルが前に立ち、ニノは後ろへ。
誰かに襲われていることを三人とも感じ取る。
ミネアは後ろを向き、バギ系最高位の呪文を背後に放っていた。
「バギクロス!」
ロザリーのヴォルテックとは比較にならないほどの出力。
上空の雲に届くほどの竜巻を形成すると、竜巻はその行く先にあるすべてを切り刻み、吹き飛ばす。
木も草も砂も、削り取られ上空に舞う。
巨木がいくつか湖に落ち、水しぶきと大きな音を立てた。
しかし、敵は倒せてないようで、ミネアは再びこちらに走り寄ってくる。
マリアベルを先頭にして、三人がミネアのところへ駆ける。
その中で、ニノが一瞬だけその姿を見た。
木から木へと飛び移るその姿、気配を消して新たな遮蔽物へ身を隠すそのわずかな瞬間を、ニノは捉えた。
翻る闇のような黒衣、風になびく赤い髪、そして氷のように冷たい刃……それはニノの愛しき人、ジャファル。
ニノは襲っている相手が誰なのか認識した。
ニノが声を出す前に、再びジャファルは姿を消す。
ようやくジャファルを見つけたことに対するうれしさか、それともジャファルの今やってることに対する悲しさからか、ニノは泣きそうになった。
次に姿を現した時は、マリアベルたち三人全員がジャファルの姿を目撃した。
バギクロスをなんなく避けたジャファルはすでにシンシアに肉薄しており、右手に握られたアサシンダガ―をシンシアの背中に突き立てようとするところ。
「止めてーーーーーーーーーーーーっ!!」
悲痛な叫びをニノが漏らす。
ジャファルの顔がわずかに歪む。
だが、それで黒い牙最高の暗殺者に与えられる称号『四牙』を持つ男が止まったりはしなかった。
ミネアの背中に、ジャファルはアサシンダガ―を刺した。
ミネアが、力なくその場に倒れた。
そして、同時に。
アナスタシアとユーリルの争いの場に乱入してしまい、緊急回避にテレポートを使ったアキラたちがジャファルとニノたちの間に飛んできた。
◆ ◆ ◆
505
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:50:26 ID:wNsXvNik0
アキラのテレポートは、特に水のある場所に引き寄せられることが多い。
それはチビッコハウスのトイレだったり、お風呂場だったり、いつかに迷い込んだ不思議な迷宮も水路があった。
ならば神殿の泉……しかもアキラがアイシャを水葬したここに飛んでくるのは、極自然なことなのかもしれない。
飛んできたのはアキラ、ヘクトル、リン、イスラ、アキラ。
そして、アキラのテレポートに巻き込まれるようについてきたユーリルとアナスタシアの計7人。
「何が起こった……」
状況が分らないのはヘクトルとイスラとユーリルとアナスタシアとリン。
「アナスタシア・ルン・ヴァレリア……!?」
状況をいち早く理解しようとしているのはブラッド。
「ここは……アイシャの……ッ?」
そして、どこに飛んだかを把握したアキラ。
「ブラッド……お主一体どこから降ってき――アナスタシア……なのか……?」
突然の仲間とその集団の出現に驚き、そして数百年ぶりに再会したマリアベル。
「勇者様!」
そして、ユーリルとの出会いに驚くロザリー。
誰もが驚き戸惑う中、ジャファルだけが己の目的を行動に移していた。
ミネア――本当はシンシアだが――にかろうじて息があるものの、もはやジャファルの目的にミネアの殺害という項目はなくなった。
優先すべき事柄はただ一つ、ニノの保護。
ジャファルにも何が起きたのかは分らない。
突然7人もの人間が出現して、驚かないはずがない。
だが、分らなければ分らないでよかった。
それよりもニノの安否の確保が大事なのだから。
ニノ以外の人間など、ジャファルには興味も欠片もない。
あの7人の中に、ニノに対して敵意を向ける輩がいないとは限らない。
そして、7人も戸惑いの為動きを止めている。
ならば、好機は今しかない。
ミネアの身体から引き抜いたアサシンダガ―の血を拭うこともせず懐にしまい、ニノの元へ駆けだす。
それはニノとの間にいた7人、そしてニノの前にいたロザリーとマリアベルの障害物をすり抜け、あっという間に到着した。
ニノを肩に担ぎ、ジャファルは全速力でその場を離脱する。
「ニノッ!?」
「ジャファルっ! てめえ!」
追いかけようとするマリアベルより早く、リンを下ろしたヘクトルが駆け出しジャファルの後を追う。
リンも、拙い足取りでヘクトルの後ろに追走してた。
残されたブラッドが、マリアベルを制する。
「待て、マリアベル。 ヘクトルとリンはあの二人の知り合いだ。 任せてやれ」
「し、しかしのう……」
ニノが心配だ。
拉致されたということはニノに使い道があるということ。
そしてニノが言っていたジャファルの特徴とも一致する。
ニノの言葉が確かなら、ニノが殺される心配はまずないはずだが。
506
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:51:44 ID:wNsXvNik0
「それよりも、こちらの収集をつける方が先だ」
「ううう、ううううぅうううぅうう!」
獣のような呻き声を上げ、天空の剣を振り上げるユーリルを羽交い絞めにすることでなんとか抑え込んでいるブラッド。
そのユーリルの目には、アナスタシアしか映っていない。
確かにこの男をなんとか抑え、何故ブラッドたちがこうして来たのか説明してもらわなければならない。
それに、アナスタシアのことが気になる。
「アナスタシア……」
あの時、今よりもう少しマリアベルが若かった当時、最後の別れをしたときと同じ格好をしているアナスタシア。
夢でも幻でもなかった。
同姓同名の人物ではと、何度も考え直したアナスタシアの姿がそこにあった。
この数百年、別れてから今までマリアベルが何をしていたか聞いてもらいたかったし、マリアベルも聞かせて欲しかった。
胸が熱くなるのをマリアベルは感じる。
何を言おうか、何から言おうか。
いくつもの気持ちが重なりあって、すぐに言葉を紡ぐことはできない。
しかし、何故かアナスタシアは見つめるマリアベルから、そっと視線をそらした。
「アナスタシア……!」
アナスタシアに会いたくなかったのに、イスラはまた出会ってしまった。
会いたくないが故に、会いそうにないヘクトルに同行したのに、何故また出会ってしまうのか。
アナスタシアは、イスラなど眼中にないようであった。
ブラッドが抑えている錯乱気味の男を見るばかりで、目もくれない。
そのことが、少しだけイスラを苛立たせた。
「勇者様……」
呆然と、ロザリーは呟く。
重装甲の鎧を纏った男がニノを追うとのことだから、ロザリーもこちらにとどまった。
うめき声を上げながら、ブラッドの腕の中から抜け出そうとする勇者ユーリル。
かつてロザリーが見た、勇者の誇りに満ちたあの面影がどこにも見当たらない。
涙と鼻水と、あらゆる体液でグチャグチャになったユーリルの顔は泣いている子供のようだった。
それに、どうしてだろうか。
今のユーリルにはかつてのピサロに通じるものがある。
あの顔は、憎しみに囚われているように見える。
アナスタシアと、マリアベルが呼んだ女に対して、一心不乱にユーリルは剣を振る。
その人に何かされたのだろうか?
しかし、何かされたとしても、何がユーリルをここまで駆り立てるのだろう。
そのことが、ロザリーは気になった。
「何なんだよ……これはッ!」
ミネアの姿を取った襲撃者が死にそうなのを、アキラは見た。
恨みつらみはある。
しかし、死にそうな姿を見ると、何とも言えない気分になる。
「ふざけるんじゃねぇよ……こんな死に方……お前だって望んじゃいなかっただろうがッ!」
507
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:52:25 ID:wNsXvNik0
仇を取れなかったことに対する悔しさと、そもそもの元凶であるオディオへの怒りと、犬死にした女へのなんとも言えない感情。
それらがない交ぜになってアキラを襲っていた。
「ユー……リル?」
ハッと、ユーリルの動きが止まる。
ユーリルに聞き覚えのある声が耳に届いたから。
蚊の泣くようなか細い声だが、ユーリルは確かに聞いた。
声のする方向を向くと、さっきまでミネアの姿をしていたものが、いつの間にか別の人間の体に変わっている。
それはユーリルが勇者となるきっかけを作った襲撃事件で、勇者の身代わりとなった女の子。
それは幼い頃から山の中を駆け回り、大切な時間を過ごした幼なじみ。
シンシア。
「シンシアぁ!」
勇者になる前のユーリルを知っている、唯一の人間。
その人が、今瀕死の状態でうつ伏せに倒れていた。
アナスタシアのことも忘れ、ユーリルはシンシアに触れようとブラッドの腕の中で暴れた。
「離せ、離してくれ! シンシアが、シンシアが……シンシアがっ!」
先ほどまでとは打って変わって理性的な響きを持つ声に、知り合いらしいと推測したブラッドは手を離してしまった。
知人の今わの際の言葉を聞く権利を蹂躙するほど、ブラッドは薄情ではない。
ユーリルは急ぎシンシアに近寄って体を起こし、べホマの呪文をかけるが、完全に手遅れなことを悟る。
「シンシア! シンシア! しっかり!」
どうして今までシンシアを放っておいたのか、ユーリルは自責の念に駆られる。
昔と違って、今ならユーリルにはシンシアを守れる強さがあったのに。
今度は、自分が守る番だったのに。
またもユーリルは間に合わなかった。
シンシアはユーリルの昔を知っている唯一の人物だ。
そう、シンシアは山で過ごした家族なのだ。
勇者でない自分を暖かく迎え入れてくれるはずなのだ。
508
:
Famille
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:53:01 ID:wNsXvNik0
家族。
それは絆。
家族。
決して裏切らない。
家族
血が繋がっていなくてもなれる。
その、家族の命が今また失われようとしている。
ユーリルは、力いっぱいシンシアを抱きしめ、今にも消えかかっている命を繋ぎ止めようとしていた。
「ユーリル……」
最後の力を振り絞り、ユーリルの手を掴む。
それは、シンシアの知っている頃より、少し逞しくて太い気がした。
ようやく会えた。
泣きはらしているユーリルの優しさを、シンシアは嬉しいと思った。
そう、ユーリルはこんなにも優しい子なのだ。
この光を守るために、シンシアは手を汚した。
世界の希望を守るために、神様の教えに背く大罪を犯した。
もうすぐ、シンシアは神の下へ召される。
きっとシンシアは天国にはいけず、地獄の業火で何百年何千年と焼かれるだろう。
途方もなく痛いんだろう。
今感じている痛みの万倍の苦しさがそこにあるんだろう。
だけど、それでも構わなかった。
ただ、ユーリルの笑顔があれば、それだけで笑えて逝けた。
それだけで、地獄の責め苦に耐えられる気がした。
だから、最期に――
「笑って……ユーリル」
そう言った。
悲しいときに、笑えと突然言われてもユーリルは困った。
シンシアだけが、ユーリルの反応がおかしくて笑みを浮かべた。
「頑張って……」
もう、声を出す力もなくなってきた。
瞼が、すごく重い。
だから、これが最期の言葉。
「皆を救って……。 あなたは……勇者なんだから……」
ユーリルという光に賭けて、シンシアは手を汚した。
ユーリルの笑顔が見られるなら、どんな罰でも受ける気だった。
なのに。
たどり着いた先に、光はなかった。
あるのは、黒よりも黒い闇だった。
シンシアが最期に見たのは、どす黒い表情をしたユーリルの表情。
そして、シンシアの顔に振り下ろされるユーリルの拳とグロテスクな音。
ぐちゃり。
―――――え?
【シンシア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち 死亡】
【残り25人】
雨が。
最初の一粒がユーリルの頬に落ちた。
509
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:55:34 ID:wNsXvNik0
「ジャファル! 放して! あたしを放してよ!」
荷物を背負ったジャファルは、いつもの俊敏さが見られない。
しかも、背負った荷物は暴れるものだから尚更だ。
安全だと思われる距離まで離れて、ジャファルはニノを下ろした。
ジャファルが自分の言うことを聞いてくれたのかと安心したニノは、元の場所に戻ろうとする。
しかし、ジャファルはニノの腹に当身を喰らわせて意識を奪い取った。
不意の一撃に、ニノは予測も反応もできないまま気絶した。
そのまま倒れそうになるニノを、ジャファルはまた担ぐ。
これでいい。
ニノには悪いが、これで運びやすくなった。
ニノには、安全なところで目を覚ましてもらうことにする。
その際、ニノからどんな文句や弾劾の言葉が出ようと、ジャファルは甘んじて受け入れよう。
そう思ったとき、ジャファルは何者かの体当たりを受けていた。
吹き飛ばされるが、ジャファルは空中で綺麗に体を一回転させると、足から地に着地する。
懐からダガーを抜き出す。
そこにいたのは、かつてわずかな時間だけを過ごした人物――ヘクトル。
「オスティア候弟……」
「もう候弟じゃねえ。 オスティア候だ」
鋭い瞳で睨み付けるヘクトル。
再会して懐かしさのあまり談笑、とはいかない。
お互い、完全に相手を敵と認識している。
さらに、先刻ジャファルが仕留めそこなったリンが気絶したニノの体を起こしていた。
「おいジャファル。 お前、リンを襲ったか?」
「……」
肯定も否定もしない。
無表情で、ジャファルはいつヘクトルに攻撃するか探る。
ヘクトルは、それを肯定と受け取った。
ゼブラアックスを構えたヘクトルは、隙を見せないように畳み掛けた。
「ニノのためだな? こんなことやってんのは……」
「……そうだ」
これだ。
黙して語らずを地で行く男が、唯一饒舌になるのがニノ関連の時だった。
ヘクトルはゼブラアックスを思い切り地面に叩きつけ、怒りを露わにする。
あまりの勢いに、地面が少し揺れたのをリンは感じた。
「ニノは……こんなことして喜ぶ奴じゃねえだろうがっ!!」
「……」
ヘクトルの怒りを、無表情で受け流すジャファル。
そんなこと、ジャファルは百も承知だ。
ニノがそんなことを嫌っているのは、誰よりもジャファルが知っている。
だが、それがどうしたというのだ。
「覚えてるかジャファル……? エリウッドの信頼を裏切るなって言ったこと」
かつて、ネルガルの殺人道具に過ぎなかった時からニノを守るという使命を得たとき。
ジャファルはヘクトルから釘を差された。
レイラを初めとした、ヘクトルの多くの仲間をジャファルは殺している。
それが許されたのは、当時のジャファルはネルガルの意のままに動く道具でしかなかったこと。
ニノのために、改心すると誓ったからだ。
だから、エリウッドはジャファルを許せと、ヘクトルに言った。
ヘクトルも、ジャファルにレイラを殺された恨みがあるのに、とりあえず許した。
そう、ジャファルを許したのは、ジャファルがニノのために改心すると誓ったからだ。
「てめえは……てめえを許したエリウッドと、レイラを殺された俺とマシューの、そして……何よりニノの信頼を裏切った!!」
叩きつけられる言葉に、ジャファルの表情が少し揺らいだ。
「あの女の人……ジャファルの仲間じゃなかったの!?」
「必要なくなったから殺した。 それだけだ」
510
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:56:54 ID:wNsXvNik0
リンはシンシアが襲われる瞬間を目撃したわけではない。
ただ、仲間だったはずの血まみれの女を見捨てたことに対して、リンは怒った。
ジャファルは、それに対してもまるで興味がないように言い捨てた。
これ以上の問答は無用だと判断したジャファルは、影縫いも取り出し二つの短刀を構え、ヘクトルにあることを言う。
「俺は……フロリーナを殺した」
実際は違うが、事実とそう変わりはない。
シンシアがフロリーナを殺す瞬間を眉ひとつ動かさずに見ていた。
ニノの友達であり、ヘクトルの恋人であるを死を告げる。
リンの襲撃に加えて、フロリーナの殺害を認められたことに対して、ヘクトルは烈火のごとく怒った。
それでいい。
言葉は無用だ。
これから先、かわすのは刃だけでいい。
「来い、オスティア候。 俺はお前を殺す理由がある。 お前は俺を殺す理由がある。 必要なのはそれだけだ」
平和。
自由。
正しさ。
そんなもの、ジャファルはいらなかった。
ニノだけが、ジャファルの望む全てだった。
あの真っ直ぐで純真なニノの眼差しが閉じられることだけは、なんとしても避けたかった。
ジャファルに幸せと言うのが与えられるのなら、ニノにすべてを与えよう。
ジャファルは、光を掴んだはずだった。
だが、その光を、ジャファルは手放した。
ジャファルはもう一度闇になり、ニノという光を守る。
ヘクトルが走り出すのと、ジャファルが姿を消して闇に紛れたのは、同時のことだった。
雨が。
四人の髪を濡らしていた。
511
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:57:27 ID:wNsXvNik0
【C-7西側の橋より少し西 一日目 夕方】
【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:左目失明、心臓付近に背後からの刺し傷、全身に裂傷、疲労(大)
[装備]:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、拡声器(現実)
[道具]:毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、
デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ニノを起こす。
2:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
3:白い女性(アティ)が気になる。もう一度会い、話をしたい。
[備考]
※終章後参戦
※ワレス(ロワ未参加) 支援A
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(中)、気絶
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:気絶。
2:仲間との合流。
3:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
5:ジャファルを止めたい。
6:マリアベルたちのところに戻りたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)、疲労(中)、アルテマ、ミッシングによるダメージ
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、
基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒す!
1:ジャファルを倒す。
2:リン達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
4:セッツァーを信用したいが……。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、シャドウ、マッシュ、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、傷跡の痛み。
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、かくれみの@LIVEALIVE
[道具]:不明支給品0〜1、アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ヘクトルを殺してニノを確保する。
2:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
3:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
512
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:58:05 ID:wNsXvNik0
◆ ◆ ◆
雨が。
その場にいる者の熱を冷ましていく。
だが、ユーリルの心だけは、どれだけ雨にぬれても冷えることはない。
家族…………?
何だよそれ……。
家族……?
シンシアと僕は家族じゃなかったのか?
家族。
なのに、最期にかわした会話が、あんなもの……?
家族。
それは絆。
家族。
決して裏切らない。
家族
血が繋がっていなくてもなれる。
家族。
そうだったはずじゃないか。
家族。
でも……。
家族……!
家族って何だよ。
家族!!!!!
家族なら、もっと他にかわす言葉があったはずなのに!!
513
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:58:35 ID:wNsXvNik0
今こそユーリルは悟った。
僕たちは家族でも何でもなかった。
僕が大人に成長するまでの間育てるから、見返りとして世界を救えと。
そういう契約関係でしかなかったのだ。
僕一人が騙されて、勝手に幸せになっていただけ。
もうそうとしか考えられなかった。
ちょこの言葉を思い出す。
いいね君は……大切な家族がいて。
でも僕には……家族すらいなかったんだ!
家族の仮面を被った、滑稽な喜劇だったんだ!!
役者はたくさん。
村のみんなたち。
観客は一人。
僕一人。
そんな茶番を茶番だと気付かずに、ユーリルはずっと過ごしてきた。
知らなければどれほど幸せだっただろう。
仮初めとはいえ、ユーリルは確かに幸せを感じていたのだから。
知らないでいれば、勇者の誇りを胸に抱いて生きていけたのに。
勇者でいられれば、シンシアの二度目の死でも耐えられた。
その言葉を受け継いで、立派な勇者として魔王オディオを倒そうと誓えた。
勇者でいられれば、今頃友達を死なせることもなかった。
あの憎悪にまみれた男に、クロノたちと揃って四人仲良く討ち死にできたかもしれない。
それでもよかった。
勇者しての責務を果たそうとして、途中で死んだ方が今の何万倍もマシだった。
でも、勇者の本質を生贄だと教えられた今、ユーリルには何もなかった。
あるのは勇者になる前の、ささやかな思い出だけ。
そう思っていた。
しかし、それさえ偽りに満ちたものであった。
勇者であることを知らずに無意識に生きてきただけで、ユーリルは生まれてからずっと勇者だったのだ。
それを捨ててしまった今ここにいる空っぽの人間を形容するのに、ゴミという言葉以外に当てはまるものはない。
勇者になんかなりたくなかった。
平和に、ずっと平和に生きていたかった。
それなのに、シンシアの最期の言葉は、勇者であれという無意識の強制だった。
「あ、あ、あああああぁぁぁぁぁ……」
再び獣ような声がユーリルから漏れ始める。
もうユーリルの目には、シンシアが幼なじみの顔には見えなかった。
勇者であれ、勇者になれという呪詛にも似た言葉を繰り返す魔物に見えてきた。
楽しかった思い出を守るために、ユーリルはこのシンシアを否定する。
拳を叩きつけられた衝撃で頭蓋骨は割れ、眼球がスポンと飛び出る。
飛び出た眼球は、視神経をという糸と繋がったまま地面に落ちる。
それを見て、ユーリル以外の全員が後ずさった。
「ひぃッ!」」
特に、眼球と目が合ってしまったアナスタシアは吐き気を催す。
ボキリと、ユーリルはシンシアの首を捻じ切る。
陥没したシンシアの顔の、口があったと思われる場所から赤い泡がゴポリと漏れた。
そのまま胴体と別たれたシンシアの首を、ユーリルは思い切り近くに投げる。
時速200km/sを超えたスピードで木にぶつかったそれは、トマトのようにパーンと弾けた。
脳漿や色々な液体が潰れたトマトから流れる。
それが元は人の首だったと言われて、誰が信じられようか。
誰もが、動けなかった。
514
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:59:17 ID:wNsXvNik0
シンシアをシンシア『だったモノ』にユーリルはしていく。
ここにいたのはシンシアであることを否定するかのように。
「ウああああああああァァァああああAああaああ!!」
雨が。
激しさを増してきた。
腹部を素手で引き裂くと、みっしり詰まった臓器が飛び出る。
胃を鷲掴みにして握りつぶすと、中から酸味のある刺激臭がする。
長い大腸を引きずり出し、細かくちぎっては投げ、細かくちぎっては投げた。
拳を叩きつけるたびにぐちゃり、ぐちゃりと、音に水っぽさが増した。
拳を振り上げては下ろす、振り上げて下ろす。
ただその繰り返し。
拳を叩きつけ、こねて、臓器を掻き出す。
雨が、シンシアの体内にも降り注ぐ。
ユーリルの顔と衣服は、もはや返り血でビチャビチャだった。
だが、そんなものを気にする余裕さえないほど、今のユーリルは錯乱していた。
雨がユーリルの血を流しても流しても、新たな血液が付着した。
肝臓。
心臓、肺。
膵臓、腎臓、小腸。
胆嚢副腎脾臓頚椎鎖骨肩甲骨。
胸骨肋骨大腿骨指骨尺骨脛骨。
全てを粉々に砕く。
シンシアの全てをユーリルは否定する。
それでも飽き足らないのか、立ち上がってシンシア『だったモノ』を踏みつける。
「うわああああああああああああああああ!!」
ぶちゅり、ぶちゅり。
人間らしい原型がもうどこにもない。
それでも、ユーリルは足りない。
シンシアの肉片が平らになって踏む場所がなくなっても、足りない。
「ウッ……」
口元を押さえ、ロザリーは思う。
こんなの、人の死に方じゃない。
それに、何よりあの心優しい勇者ユーリルがこんなことをするとは信じられなかった。
しかも、末期の会話を聞く限り、知り合いのようだった。
何故そんなことが知り合いに対してできるのか、不思議でならない。
最期にシンシアというミネアの姿を取っていた女性が言っていたことを思い出す。
勇者たれ、と。
その言葉を聞いた時、ユーリルの拳が彼女の顔面を破壊した。
515
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/10(土) 23:59:51 ID:wNsXvNik0
もしかして、ロザリーはとんでもない思い違いをしていたのではないだろうか。
マリアベルの先刻語った英雄に関する話を嫌でも思い出す。
アナスタシアは、『英雄』になどなりたくなかったのだ、と。
勇者ユーリルは仲間と楽しい想い出を作っていたように見える。
けれど、それは導かれし者たちにとっては楽しい思い出であっても、ユーリル本人は楽しくないと感じていたら?
彼もまた時代と世界に選ばれてしまった勇者で、本当は勇者になりたくのかったのだとしたら?
本当のことはユーリルのことしか分からない。
それはロザリーの勝手な想像。
でも、これ以上死者を冒涜するのは見捨てておけなかった。
「お、お止めください勇者様! あなたはこんな方が出来る方では――」
肩に手を掴んで、ユーリルの凶行を止めようとする。
しかし、ユーリルはロザリーの体を突き飛ばし、吹き飛んだロザリーは後頭部を強かに打ち、意識を失った。
倒れたロザリーの体を抱き起こし、意識がないことを確認すると、マリアベルは事情を知っていそうなブラッドに詰問口調で聞いた。
「……どういうことじゃブラッド?」
「俺にも分からない。 ただ、貴女なら知っているのではないか?」
ブラッドもユーリルに出会ってから経った時間は、マリアベルと数秒ほどしか時間が違わない。
名前さえ知らない。
だから、ユーリルと一緒にいたであろう人に聞く。
ブラッドは、その人物の方向に振り返る。
「<剣の聖女>、アナスタシア・ルン・ヴァレリア」
イスラもマリアベルも、ブラッドもアキラも、アナスタシアの説明を求める目で見た。
だが、アナスタシアは目をそらし、責任逃れをした。
「わ、私は……知らないわ……」
いけないことだったのか。
そんなに『英雄』とは生贄だと言ったことが悪いのか。
責めるような目で見るみんなの視線が、アナスタシアは痛かった。
ちょこもいない今のアナスタシアは、素人に毛が生えた程度の力しかない。
そのことも、アナスタシアの答を鈍らせる原因となっていた。
今ユーリルと、その他の人と戦うことになったら?
死が、近づいてくるのをアナスタシアは感じ取る。
そこで、ユーリルの足がピタリと止まり、憤怒の形相でアナスタシアを睨み付けた。
516
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/11(日) 00:00:50 ID:s4eYsUDc0
知らないだと?
誰のせいでこうなった?
どうしたこうなったと思っているんだ?
全ての原因はシンシアではなく、お前にあるのではないか?
勇者は生贄だと知ったせいで、誰がこんなに苦しんだと思っている?
そうだ、倒すべきはシンシアだったモノではない。
この<剣の聖女>、アナスタシア・ルン・ヴァレリアではないか。
アナスタシア憎しの感情が、ユーリルの中で膨れ上がる。
そして、それが頂点に達したとき、ユーリルは天の怒りを呼んだ。
「アナスタシアあああああああああああああああああああああああ!!」
ユーリルの声に応えるように、大きな雷が落ちた。
しかし、それは正義の雷でも、覇者の雷でも、勇気の雷でも、勇者の雷でもなかった。
雷は、黒い燐光を帯びていた。
ユーリルの憎しみに染まったかのような黒い雷が、所構わず落ちて破壊を撒き散らす。
「殺して、殺してやる! アナスタシア・ルン・ヴァレリアああああああああああ!」
何故、何故なのだろうか。
マリアベルはアガートラームを見つけたとき、これを然るべき人物に渡すつもりだった。
しかし、今のアナスタシアにはその気があまりしない。
アナスタシアが今までに見せたことの無い表情をしていたから。
普通の少女として生きたいと願っていた少女に、暗いものを感じたから。
けれど、アナスタシアが守る対象なのは変わりない。
マリアベルがロザリーを誰かに任せるか、どこか安全なとこへ運ぼうとしたとき、さらなる事態が起こる。
「ロザリー!」
かの声は、魔族の若き王ピサロ。
ロザリーがいると分かって一心不乱に探し、疲労の果てに倒れ、そして起きたのがつい先ほどだ。
そこから再び捜索をすると、多数の人が集まっているところを発見。
近寄ってみれば、そこには愛しきロザリーの姿もある。
しかし、何やらロザリーは目を閉じられている。
しかも、衣服には血の跡と人間の姿。
それだけで、ピサロは何が起きたかを理解した。
517
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/11(日) 00:01:21 ID:s4eYsUDc0
「下等な人間風情が……ロザリーに何をしたァーーー!」
疾風のごとく駆ける。
怒りのあまり、ピサロには気づかない。
ロザリーの衣服の血が乾ききっていることにも。
雨雲で曇り、薄暗くなった空間ではそれも判別しづらい。
新手の登場に、イスラは舌打ちをしてピサロの進行方向に立ちはだかる。
どうも<剣の聖女>といると、ロクな目に会わないらしい。
やはりイスラはアナスタシアになど会いたくはなかった。
さらに、新手が現れる。
「カエル!?」
「魔王だと!?」
異形の騎士と、オディオとは違うもう一人の魔王も現れる。
「行けるか、カエル?」
「言われずとも、な……」
北に進路を取っていた彼らが黒い雷に惹かれたかのように姿を見せた。
「一体何人来るんだよッ!?」
アキラが迎撃の態勢を取りながら叫ぶ。
<剣の聖女>、アナスタシア・ルン・ヴァレリア。
堕ちた勇者、ユーリル。
魔族の王、ピサロ。
ガルディアを守る騎士、カエル。
オディオとは違う、もう一人の魔王。
ノーブルレッド、マリアベル。
スレイハイム解放戦線の『英雄』ブラッド・エヴァンス。
死にたがりの道化、イスラ。
怒りによって勇気を得し者、アキラ。
気絶したエルフ、ロザリー。
そして離れたところにオスティア候、ヘクトル。
キアラン候の孫娘にして、ロルカ族のリン。
黒い牙の暗殺者、ジャファル。
ロザリーと同じく、気絶した非力な少女、ニノ。
実に14人もの人間が集まっている。
シンシアも含めれば15人。
残り人数の半分近い人間がここに集まっているのだ。
518
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/11(日) 00:02:29 ID:s4eYsUDc0
ユーリル、ピサロ、カエルと魔王。
三方向から襲い掛かる敵に対して、逃走はもはや不可能にも思えた。
ならば、もう一つ残された方法をブラッドが提案する。
「アキラッ! テレポートはいけるか!?」
「分かんねぇ! いつでもいけるようにはするけどよ、ヘクトルたちが離れすぎてる! あいつら置いて行けねぇよッ!」
それもそうだ。
辛うじてここにいる人員をテレポートで離脱させても、ヘクトルたちがいる。
戻ってきたヘクトルたちが残された魔王たちの餌食にならないとは限らない。
ならば――
「戦うしかないということかッ!」
拳を、固く握り締める。
アナスタシアの護衛をしつつ、襲ってくる四人と戦う。
こちらもブラッドを含めてマリアベル、アキラ、イスラがいるが、戦闘力が互角かは分からない。
一人が倒れれば、残された人員もあっという間に死んでいくだろう。
マリアベルも戦闘の覚悟をした。
「正念場じゃぞッ!」
雨が。
本降りになって泥を跳ねさせる。
煙る雨の中、いくつもの戦いが、いくつもの想いを抱えて始まる。
「時間だ……」
その中で魔王オディオの声だけがよく響いた。
オディオの事前の予告どおり、激しい雨が戦場を濡らす。
降りだした雨は誰かの涙。
鳴りだした雷は誰かの怒り。
今、残り半数以上の人間を巻き込んだ戦いの幕は、火蓋を切って落とされた。
519
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/11(日) 00:03:03 ID:s4eYsUDc0
【C-7橋の近く 一日目 夕方(放送直前)】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
2:施設を見て回る。
3:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQⅣ、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンは一つ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
1:アナスタシアを殺す。 邪魔する人も殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
【C-6 森林 一日目 日中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。激怒
疲労(大)人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:基本支給品一式、データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:目の前にいる人間を殺す。
2:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿を確認しました。ロザリーの存在を知りました。
※参戦時期は5章最終決戦直後
※ロザリーが死んだと思ってます。
※一度気絶して起きたので、多少は回復してます。
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費。
[装備]:激怒の腕輪@クロノ・トリガー
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:とりあえず状況に対処。 テレポートの使用も考慮。
2:高原日勝、無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
520
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/11(日) 00:03:34 ID:s4eYsUDc0
【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ、気分が悪い (若干持ち直した) 、気絶
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:気絶
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※ロザリーの声がどの辺りまで響くのかは不明。
また、イムル村のように特定の地点でないと聞こえない可能性もあります。
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
0:眼の前の状況に対処。
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
8:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(中)、額と右腕から出血、アルテマ、ミッシングによるダメージ。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品1〜2個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:眼の前の状況に対処する。
2:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:セッツァーとマッシュの情報に疑問。以後セッツァーとマッシュは警戒。
4:再度遭遇したらケフカを倒す。魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。
521
:
Throwing into the banquet
◆SERENA/7ps
:2010/04/11(日) 00:04:04 ID:s4eYsUDc0
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:アルテマ、ミッシングによるダメージ、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み)
ドーリーショット@アークザラッドⅡ
鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:眼の前の状況に対処。
2:ケフカと再度遭遇したら確実に仕留める。
3:次にセッツァーとマッシュに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:眼の前の戦闘に参加。出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:眼の前の戦闘に参加。出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。
※ミラクルシューズ@FFIV、ソウルセイバー@FFIV がシンシアの死体付近に、
※基本支給品一式*3、ドッペル君@クロノトリガー、デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVEがシンシアの持っていたデイパックに入ってます。
デイパックはシンシアの死体付近にあります
522
:
SAVEDATA No.774
:2010/04/11(日) 01:40:32 ID:fb4Y35h20
投下乙!
感想は本投下時に
お気になさっていたことですが私も問題ないかと
それに雨降って水場もあるとこにカエル(魔王)来るのも自然だしw
523
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:14:03 ID:cU3tyE360
あるモンスターの胃袋の先。
暗い暗い洞窟の最奥。
俺は立ちすくんでいた。マントルのように胸中を巡る衝動を押し殺しながら。
ただひたすらに、眼前に広がる暗闇を真似し続けた。
「……」
真っ黒な孤独の中で、俺は外界の明るさに思いをはせる。
仲間たちとともに救った世界は、色に満ちあふれていた。
ケフカによって半壊させられた後ですらも、その力強い彩りは失われることはなかった。
あの旅路の中で、俺は何回の物真似をしただろうか。
すべてが出来事が懐かしく、すべての人間が恋しかった。
可能ならばもう一度、あの世界へ旅立ちたい。そして、色鮮やかな人間と言う生き物を、もっと。
そんな思いを押し殺しながら、俺はひとり寂しく闇を模倣する。
「……何の用だ?」
漆黒の暗闇より這い出てきた銀色に話しかける。
ロックやエドガーならともかく、まさかこの男が俺を訪ねてくるとは思いもしなかった。
驚きのあまり、そっけない態度を取ってしまった己をこっそりと戒める。
洞窟内のモンスターを一人でなぎ倒してきたのだろう、男は酷い格好をしていた。
高そうな服は汚れに汚れ、敵を貫き続けた槍もボロボロである。
とはいえ、奴自身はかすり傷一つ負ってはいない。さすがは世界を救いし仲間の一人だ。
「俺の物真似をしないか?」
まるで友人を海にでも誘うかのような軽い口調。
そのな事を伝えるために、遠路はるばるこのダンジョンを攻略してきたのか……。
俺は、この男の真意をはかりかねていた。
「お前は、今なにをしているんだ?」
相手の意図を探るつもりの一言。
だが、それを言い放った後で俺は気づいた。
エドガーたちが初めてここを訪れたときにも、俺はこんな台詞を吐いたはずだ。
ボロボロの格好で、しかも傷だらけになってここまでたどり着いた四人。
彼らに、俺は今したものと全く同じ質問をした。
その時の、あの得体の知れないモノを観察するような彼らの視線を俺は忘れない。
「俺は今、世界を飛び回っている」
そう返答した奴の笑顔を見て、俺は悟った。
あぁ、俺はこのギャンブラーの術中に嵌ってしまっていたのだ。
少しばかりの悔しさと急速に膨らむ高揚感を押し殺して、俺は続けた。かつてのように。
「そうか。世界を飛び回っているのか。
では、俺も世界を飛び回るというものまねをしてみるとしよう」
それを聞いて男は大声で笑う。「ちょうどクルーを募集していたんだ」と。
負けを認めた俺も一緒になって笑う。彼のモノマネをするふりをして。
俺は、ファルコン号の副船長となった。
それは、俺がこの殺し合いに参加する半年も前の出来事。
◆ ◆ ◆
頭上に広がるのは、先刻の戦いの傷跡。
アシュレー・ウィンチェスターが、鋼鉄の天井にこさえた大穴である。
そこから通じる大空を物憂げに見上げるのは、一人のものまね師。
物真似狂の彼にしては珍しいことだが、誰の真似をするでもなく『彼のままで』ぼぅっと天を眺めていた。
スクリーンに映し出された映像を鑑賞するかのように。
524
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:15:27 ID:cU3tyE360
「なんだよ、ここにいたのか」
彼の背中を見つけた赤毛の侍が語りかけた。
その乱暴な語り口は、傷だらけの城が生み出す退廃的な雰囲気すらも台無しにしてしまう。
暗殺者との戦いで主戦場となったこの部屋には未だに微かな熱気が残っていて、それを頬に感じたトッシュの目が一瞬だけギラついた。
「…………」
ゴゴはなにも答えなければ、振り向きもしない。
トッシュはそんな彼のすぐ後ろに立ち、同じように馬鹿でかい穴を覗き込んで、その先にあるのが何の変哲もない水色の空である事を確認した。
こうしているとまるで自分たちが大きな壷の中に住んでいて、その入り口から外の世界を覗き見ているかのような感覚にとらわれる。
頭を掻きながら無遠慮に大きく欠伸をすると、ゴゴの返事を待つことなく言葉を続けた。
「ナイトブレイザー……だったか。大したモンだよなァ」
「…………」
沈黙を守るゴゴへと一歩的に語りかけながら、降り注ぐ太陽光に目を細めるトッシュ。
巨大な円形を目の当たりにし、バニシングバスターとやらの出力の凄まじさを改めて実感する。
シャドウとの戦いの後、砂漠のフィガロ城に残されたのはトッシュとゴゴ、アシュレー、そしてトカ。
マトモな会話が期待できない爬虫類を除いた三名が行ったのは、情報交換……とは名ばかりの尋問。
アシュレーの体に流れる禍々しい気、そしてその邪の力が彼の身に起こした変化について、トッシュが全力の殺気を持ってして追求したのだ。
アシュレーの辿々しい説明を黙って聞き終えた侍。意外にも、彼はすんなりとその絵空事のような話を信用してしまった。
彼曰く「なんだか知らねえが、とにかくよし」。
思考放棄も甚だしいトッシュの反応に、アシュレーは思わず拍子抜けしてしまったようだ。
「だがなァ、ありゃあヤバいぜ。てめぇの身を滅ぼす力だ」
「…………」
トッシュの声のトーンが一段階低くなる。
彼は、変身したアシュレーが現前に現れた瞬間のことを思い返していた。
青年の中で蠢く、赤黒く禍々しい気。暗黒の支配者にも匹敵するほどの邪悪な力だった。
そして、その闇を必死にを押さえ込む蒼く透き通った気。
おそらくあれが、『果てしなき蒼』に眠る力だ。
この二色が織り成した奇跡が、あの凄まじい強さを誇る蒼炎のナイトブレイザー。
だがしかし、アシュレーが見せたあの変身は、蒼い力が邪悪な真紅をなんとか押さえ込んでいたからこそ可能な芸当である。
そして、その蒼い力は常に紅い力を押さえ込んでいるが故に、徐々に磨り減ってきている。
アクセスによってロードブレイザーの力を解放すれば、当然その磨耗は加速してしまう。それは気を読むことが出来るトッシュ自身がその目で確認した事実だ。
そう遠くないうちに、紅き魔神は蒼き牢をブチ破るだろう。
炎の災厄が解き放たれればどうなるか。それはトッシュにも分からないことだが、アシュレーが無事ですまないことだけは予想に難くなかった。
「俺の見立てではあと一度……いや、その一回でも長引けば危ないかもしれねぇな」
「…………」
恐ろしき未来をなんとも呑気な口調で宣告する。
それは、自分にはどうしようもないという諦めによるもの。
アクセスの多用が出来ない事実は、アシュレー自身が一番よく分かっているだろうから。
次に戦闘になったときは彼の負担を少しでも減らしてやろうと、トッシュはそれだけを心に誓い、この話題を打ち切ることにした。
「…………」
「…………」
それからしばらく、二人は雲を見上げていた。
あれはスライムみたいだな、あれはなかなか旨そうだと、真ん丸い空を流れてゆく白い塊を観察していた。
何をするわけでもなく、ただ穏やかな時間をかみ締めるように。
「…………なぁ、ゴゴ」
「………………なんだ」
沈黙に絶えかねたのか、トッシュが口火を切る。
彼らしくもないことだが、どうやら言葉を紡ぐのに苦心しているみたいであった。
相変わらず両者の視線のその焦点は、遥か上空で結ばれている。
「セッツァーは……やっぱり殺し合いに乗ってたのか?」
ゴゴの静かさにつられたかのように、そして空に漂う雲を真似るように、トッシュの口調は穏やかだ。
525
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:16:33 ID:cU3tyE360
トッシュによる尋問の後、ついに本当の情報交換が行われた。
そこで挙がったのは、トッシュとアシュレーが出会った、ある人物の名前。
アシュレーの物真似をしたゴゴは、安堵交じりの声でそのセッツァーという名前を復唱した。
だが、その男が彼らに伝えた人物情報を聞いた瞬間、ゴゴの様子は豹変する。
本当にアイツはそう言ったのか? と何度も二人に確認し、それが紛れもないセッツァーの言葉であると知ると、次第に彼の口数は少なくなっていった。
「仲間内でリーダーだったエドガーは『悪の暴君』。同じく仲間のティナは殺人鬼。
んで、一番危ねぇはずのケフカが『頼りになる正義の味方』ねぇ……」
トッシュが眉間の皺を増やしながらセッツァーの偽報を思い返す。
ゴゴの話では、エドガーは個性の強い仲間たちの纏めるリーダー格、言わばアークのような役割であったらしい。
そしてティナは自らを犠牲にしてでも誰かを助けようとする心優しい少女だ。トッシュは無法松を命がけで救ったその少女に、リーザのような印象を抱いた。
最後にケフカ。人を殺すことを屁とも思わない、吐き気を覚えるほどの悪鬼。
世界を崩壊に導いた残虐性はアンデルに近いものがあるが、その狂人っぷりは他の誰かを以ってして例えることは不可能だろう。
どいつもこいつもセッツァーの情報とはまるで違う人物だ。
シャドウとマッシュも結果的に彼らの人となりだけは正しく伝えているものの、かつての仲間のことを謳った内容とはとても思えない。
つまり、意図的に誤解を招くための罠。
あのギャンブラーの情報は、そうとしか考えられなかった。
「…………これで『間違いでした』はまかり通らねぇよなァ……」
直後、円形の空に大きいリンゴのような形をした雲が登場し、トッシュは小さく驚きの声を洩らした。
できれば回復果物であればいいなぁ……とくだらないことを脳味噌のド真ん中で考えていた。
「…………世界を救った後だ……」
突如発せられたのは、トッシュの物真似をしたゴゴの声。
侍はリンゴ雲の形のよさに感心しながら「おぅ」と空返事を返す。
「俺はセッツァーの船に乗り込んで、ヤツとふたりで世界を飛び回っていた」
何をするってわけじゃない。
各地を飛び回り、困ってる人は救って、困ってない人は飛行船に招き賭け事に興じた。
ただの放浪の旅。
でもゴゴはそれでよかった。
「半年の短けぇ間だったが、俺は幸せだった……」
トッシュの仲間にグルガという男がいる。
彼は、世界で一番歌が下手糞だった。
シャンテという一流の歌手の講習を受けても、それは一向に改善せず、エルクは彼の歌を「オーガロードのいびき」などと評していた。
ならば、今のゴゴの声は「ゴーストの囁き」だ。
弱々しいソレは、トッシュに語りかけるのではなく自分で思い出に浸るための言葉。
「いろんな場所へ行き、いろんな人間の物真似が出来んだぜ。こんな幸せなことはねぇ……」
「……そうかい」
トッシュはそんなゴゴを羨ましく感じていた。
世界を飛び回っていた事ではなく、見事に世界を救った事をだ。
青空のリンゴはもう天井に出来た穴からは見えない場所に流れてしまっていて、トッシュは少しだけそれを残念だと感じながら唾液を嚥下した。
「セッツァーは……仲間を貶めてまで願いを叶えようとする男じゃねぇ」
そう言ったゴゴの声が寂しそうなのは、けっして消えたリンゴ雲を惜しんだせいではないだろう。
悲しさを次第に増しながら、言葉は続く。
「だから俺には、なぜアイツがそんな嘘を言ったのか……」
「知るか」
ピシャリと。
叫ぶでもないトッシュの穏やかな一言は、見事な太刀筋でゴゴの予想を一刀両断した。
この男には刀の神でも宿っているのかと、物真似師は彼の言葉の切れ味に驚く。
正確には、彼に宿っているのは刀の精霊なのだが、大した違いはないだろう。
526
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:17:15 ID:cU3tyE360
「……はぁ?」
「考えたって分かるわけねぇだろ、ンなもん。
…………俺もお前も、そこんところはからっきしなんだからよ」
そう言ってトッシュは鼻息交じりで小さく笑った。
ゴゴはそんな彼の顔を訝しげに見やる。
「だったら会いに行くしかねぇだろ。探して、会って、直接問いただしてやろうぜ。
んでよ、セッツァーの答えが気に食わなきゃ、ブン殴ってやりゃあいいんだよ」
侍のまさかの返答にあっけに取られるゴゴ。
だが、その通り。彼の言うとおりだ。
考えたって答えは出るはずもない。
セッツァーは超一流のギャンブラーなのだ。その心のうちなど自分に計り知れるわけもないのだから。
「…………お、お前に言われなくても分かってんだよ、ンなこたぁよッ!」
侍の物真似をしながら強がって見せる。
トッシュとは、こういう男であった。
現在進行形で物真似をしているにも関わらず、ゴゴはそのことを忘れてしまっていた。
「じゃあ……行こうぜ……」
ゴゴに背を向け、ツカツカと歩き出すトッシュ。
その姿を見て、ゴゴは思い出した。
ついさっき、この城でこの男とこんなやりとりがあった。
「けじめを付けに、よ」
あのときと同じように力強い声で、トッシュの声が響く。
それを受けてゴゴは、あのときと同じように、ゆっくりと頷いた。
◆ ◆ ◆
「……どういうことだ?」
胡坐をかきながら、アシュレーが一人ごちた。
柔らかなカーペットに腰を下ろすと、途端に疲労が手足を襲う。
仕方ない。イレギュラーなアクセスを無理に行ったのだから。
「どうして我輩はこんなにもカッコいいのか…………ですと?」
「違うんだ」
表情一つ変えないで否定するアシュレー。
あまりにあっさりとした態度に、トカが地団駄を踏んで怒りを露わにする。
「あんだとッ! この我輩のフレッシュマンゴーの如し魅力を差し置いてまで科学することなど……あるはずがないトカッ!」
「実はこの地図なんだが……」
さすがアシュレー。狂トカゲの扱いには慣れたものである。
冷静に至急品の地図を広げると、地図のある箇所を指し示す。
「……ツレねぇな、唯一無二の我が相棒よ」
「うん、俺はお前の相棒じゃない。
実は、この部分から先には地下水路が続いていて、さらにその奥には古びた城が建っていたんだ」
ツツツ……と川を表す青色のラインの上をアシュレーの指が滑る。
神殿を出発した人差し指が、森を抜け、傾斜を逆流して、山頂付近のある部分で止まる。
そこで川は途切れていた。ここが、山の内部に広がる地下水路への入り口となる。
527
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:18:43 ID:cU3tyE360
「つまり、古代の科学により生まれしオーパーツやゲーパーツなどがテンコ盛りトカッ!
それは魔王オディオも隠しておかなくてはならない夢のサイエンス・パラダイスッ!」
「あぁ、そんなパラダイスがあれば素敵だな」
「そうだろうッ! そうだろ〜〜〜うッ!」
両手を掲げて小躍りを掲げるトカを相手に、成立するはずもない会話を律儀に続けるアシュレー。
そんな彼の姿は、頭のおかしいトカゲにも平等に接してあげる優しい青年に見えないこともない。
内心では彼は、一人で黙々と思考しなかったことを激しく後悔をしていたのだが……。
「そんなことより……問題なのは、何で地下の施設が一切地図に書かれていないのかだ」
「だからそれは、サイエンス・素敵・パラダイスを独り占めするため…………」
「オディオが殺し合いを促進させたいなら、こんなことはする必要がないはず。
ここに引きこもってしまえば、他の参加者に見つかる可能性はグッと低くなるよな……それはオディオも望まないはず…………」
もはや、トカとの意思疎通は放棄した。
ただ地図と睨めっこしながら、ひとりで持論を展開していく。
実は、アシュレーがたった今口にした疑念と全く同じものを、セッツァー・ギャッビアーニも浮かべ、考察していた。
彼がトッシュと別れてからアシュレーと出会う間の話である。
その時に彼が出した結論は、『気まぐれ』。
オディオは深く考えずに、適当にそのような施設と地図を作った。それがセッツァーの行き着いた答えであった。
「しかし、本当にサイエンス・素敵・パラダイスが広がっているとは、胸がうれしはずかし超新星爆発」
「……あぁ、スマンありゃウソだった。あそこは普通の廃墟ダンジョンらしいぞ」
高鳴るトカの胸に、極寒の冷水を浴びせる。
これでおとなしくなってくれれば、という期待をこめた残酷な鉄槌である。
ゴゴから聞いた話では、このフィガロ城は元々彼のいた世界のものだ。
参加者のひとりであるエドガー・ロニ・フィガロの持ち物であったらしい。
そしてあの古代の城も同じくゴゴの世界にあった建物で、フィガロ城の地下から通じる洞窟の最奥に存在していた。
「なんですとッ! それを知ってて我輩を弄んだトカ?!
この悪魔! 誰か〜、この人チカンよ、彼の双腕はワイセツアームズよ〜ッ!」
「…………はぁ……」
ついつい話しかけてしまったことを海よりも深く反省した。
もう限界が近い。このトカゲがいては、進むはずの思考も全然進まない。
業を煮やしたアシュレーは、一人で考えにふけるために、地図を脇に抱えて部屋を出て行こうとする。
「はら〜〜〜〜ッ! ちょっと待つトカッ! 一人にしないでッ!
いつかデリシャスな高級カブトムシをフルコースでご馳走するからよぉ〜〜〜ッ!」
去り逝く青年の右足にすがりつく悲劇の緑色。
邪魔だ邪魔だと、それを遠慮なしに蹴りまくるアシュレー。
おぉ、血も涙もない。外道ここに極まる。
「放すんだッ! もうアンタの時代は終わったんだッ!」
「そんなッ! 我輩とは遊ぶだったのねッ! 酷いッ! お腹の子リザードちゃんはどうなるのッ!
どこまででも、和式便器の中まででも、我輩は憑いて行きますぞ〜〜〜ッ!」
「あぁクソ! いい加減に…………」
あまりにしつこいスペース爬虫類に、堪忍袋の緒が切れ掛かる。
拳を振りかぶって、無理やりにでも振り払おうとした。どうせ死にはしないだろう。
だが結局、その拳がトカに振り下ろされることはなかった。
「…………ちょっと、待てよ…………『ついてくる』……だって?」
アシュレーの呼吸と動きが同時に止まる。
数秒後、雷に撃たれたかのように、その両目が見開かれた。
「……まさかッ!」
大声と共に振り返る。
勢い余って、すがり付いていたトカゲを蹴っ飛ばしてしまう。
528
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:19:55 ID:cU3tyE360
「はら〜〜〜〜ッ!」
吹き飛んだ宇宙人には目もくれず、早足で部屋の中央に進むと地図を広げた。
座り込んで地図を眺めると、思い浮かんだ可能性を整理する。
(オディオが欲しかったのは、『移動する城』だけなんじゃないか?
あの『古代の城』は、このフィガロ城に偶然ついてきただけ…………)
つまり、こういうことだ。
この殺し合いの主催者が、会場に必要としたのは……地中を走る城。
それだけがあれば、よかったのである。
しかしオディオは、この城と『その通り道』をまとめてこの島に持ってきた。
その周りの一帯の大地と一緒に。
その結果、『古代の城』と『地下の洞窟』が土地に紛れて一緒について来てしまった。
(だとしたら……オディオはあの城の存在を知らなかったんじゃないのか?)
そう考えれば、地図に地下施設が書かれていないことの辻褄は合う。
しかし、これはあくまで可能性。その仮定が正解かどうかは分からない。
しかも、たとえその通りだったとしても……オディオが参加者の動向をモニタリングしていれば、既に地下施設の存在には気づいているだろう。
だが、ここから導き出される可能性はそれだけじゃない。
(もし、他の世界から集められた施設が、フィガロ城以外にもあるならば……同じように……)
もしかしたら、他の施設もフィガロ城と同じように参加者のいた世界から持ってきたものである可能性がある。
それならば、古代の城と同じようにそれらの施設に『ついてきた』モノがあるかもしれない。
この島がいろんな世界のツギハギで構成されているのならば……オディオの知らないものがこの会場に紛れ込んでいるかも…………。
……………………。
…………。
「なにぃッ! ついに無限に広がる星の海に飛び立つ方法を考えたとは恐怖至極ぅッ!
しかし我輩には分かっているぞッ! そう、みんなスキスキ科学の子ッ!
さぁ声高に叫ぶのだッ! ブ〜ル〜コ〜……」
「……呼んでも来ないぞ」
いつの間にか復活したトカがアシュレーを現実に連れ戻す。
無意識にツッコミをいれることに成功した自分を、少しだけ嬉しく思ってしまった。
(流石に、考えすぎか……)
飛躍しすぎた思考を制して、大きなため息をつく。
全ては憶測なのだ。
地下施設のことをオディオが知らない?
フィガロ城の以外に、他の世界から持ってこられた施設がある?
そこにオディオの意図しない何かが紛れている?。
全ては証拠すらない、推測の産物だ。
それらはどうせ可能性の低い話だと、考察を中断して頭を休めることにした。
「ならばーーーやはり我輩にはプリティー科学アイドル、魔導アーマーちゃんしかない!
さぁ悩める化学の子供達に愛の手をーーーーッ!」
「やめるんだーーーッ!」
いざ、走り出さんとするトカ。
そんな彼を必死に食い止めるアシュレー。
二人が押し合いへし合いを繰り返す。
「その手を放してッ! 我輩なら魔導アーマーちゃんとひとつになるトカッ!」
「…………馬鹿なことはやめろッ! 偉大なる科学の子であるアンタには輝かしい未来が…………ってあれ?」
アシュレーは独特な世界観に完全に馴染んでいた。
リザード星人一味としてやっていけるほどに。
だから気がつかなかった。
…………自分たちに注がれていた、冷たい視線に。
529
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:21:23 ID:cU3tyE360
「「な、仲いいんだな…………お前ら……」」
トッシュとゴゴのユニゾンを聞きながら立ち尽くす。
彼らの声には、完全なる同情の念が込められていた。
「あ、ありがとう…………」
言い訳など出来るはずもなく、半笑いで答えを返すしかない。
隣を流し目で除くと、そこには満足そうに胸を張るトカゲ野郎がいた。
なんだか、すごく死にたくなった。
【G−3 フィガロ城 一日目 午後】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式×2、
焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:今後の方針を相談する
2:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
3:アリーナを殺した者を倒す
4:セッツァー、ケフカ、シャドウには警戒
5:アクセスは多用できない
※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※セッツァーの嘘に気がつきました。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
アティの意思は、徐々に磨り減っています。アクセスを行うとその消耗は加速します。
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:トッシュの物真似中
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ
ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:今後の方針を相談する
2:セッツァーに会い、問い詰める
3:ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
4:トカの物まねをし足りない
5:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期は本編クリア後
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
530
:
◆Rd1trDrhhU
:2010/04/20(火) 23:22:33 ID:cU3tyE360
【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ほそみの剣@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:今後の方針を相談
2: セッツァーを探す
3:必ずしも一緒に行動する必要はないがちょことは一度会いたい。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る?
6:基本的に女子供とは戦わない。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未完成です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※セッツァーの嘘に気がつきました。
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー(大破。一応少しずつ回復中?)@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
天命牙双(右)@幻想水滸伝Ⅱ、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ、
閃光の戦槍@サモンナイト3、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
2:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[備考]:
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。
531
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:49:20 ID:WPH7HQ/I0
お待たせしました。
規制されているのでこちらで投下します。
532
:
アシュレーのパーフェクト首輪教室
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:51:50 ID:WPH7HQ/I0
フィガロ城。
トカの襲撃から始まった一連の戦いの舞台になったその城は今また喧騒に包まれていた。
剣と剣が鬩ぎあう音でもなく。
拳と拳がぶつかり合う音でもなく。
魔法と魔法が激突する音でもない。
生活観溢れる日常の音に包まれていた。
トンテンカン、トンテンカン。
リズミカルな音を響かせ、トンカチが振るわれている。
作業主の名はトッシュ。
常日頃握っている剣を金槌に持ち替えて彼が行っている作業は天井の修復だ。
4人でこれからどうするかを相談した結果、彼らはフィガロ城に残ることを決定したのである。
それは主にゴゴの以下の主張が取り入れられたが故だった。
もしかすればどこかにテレポートしてしまったであろうビッキーが戻ってくるかもしれない。
真相を問いただしたいセッツァーの元へと赴くにはフィガロ城の地下潜行機能を使うのが一番時間の短縮になる。
トカはともかくアシュレーやトッシュに少女を見捨てるなどという選択肢は無い。
セッツァーに関しては4人中3人が当事者だ。
トッシュには無法松との約束もあったが、どの道今からでは間に合わない。
できるだけタイムロスを減らして行くにしろ、やはり城の潜行能力に頼るのが最良手だ。
調べたところによるとフィガロ城はA-6村にある壽商会というところの地下階層へと乗りつけることも可能らしい。
アシュレーがセッツァーと出会ったD-7にもわりかし近い位置取りで文句はなかった。
故に誰もゴゴの意見に反対することなく会議は滞りなく終了。
第三回放送までビッキー達を待った後、何事もなければフィガロ城でA-6村へと向かい、
座礁船まで歩いて行き松達と合流してセッツァーや仲間を探すことに決まった。
そこからは支給品の整理や交換の後、各自フィガロ城においてできることをなし始めた。
トッシュの場合は潜行の妨げになりかねない天井の大穴の修理だ。
この男、剣以外はからっきしダメかと思われがちだが、何気に手際がいい。
指名手配されていた為に拠点としていた大型飛行船を自らの手で修理しないといけなかった経験が役に立っているのである。
城の構造を熟知していたゴゴと、こんな時に備えてか蓄えられていた多くの資材があったのも穴を塞ぐ大きな助けとなっていた。
「ふう。とりあえずはこんなもんかあ?」
いささか見栄えは悪いがとりあえず地下に潜るくらいには問題ないまでに修復された天井を見上げ、トッシュは満足げに息を吐く。
そのタイミングを見計らってか横合いから飲み物の入った竹筒が差し出された。
「大したものだな」
隣でまじまじと天井を見つめるのは、もはや見慣れてしまったへんてこりんな姿をした物真似師、ゴゴ。
よせやい、と少し照れくさそうに笑いながらトッシュは水筒へと口をつける。
「酒じゃねえのかよ」
「安心しろ、そういうかと思って酒の方も調達しておいた」
どこか喜色を含んだ声でゴゴが左手に抱えていた幾多もの酒瓶を掲げる。
分かってるじゃねえかとトッシュも合わせて笑みを浮べた。
「んで、まさか酒集めばかりしていたわけじゃねえだろ。そっちの方の調子はどうなんでい?」
「順調「よくぞ聞いてくれたトカ! 皆さんお待ちかね、今、禁断の静寂を破って魔導アーマーが蘇るッ!」
「いや、俺はあんま待ってねえから。っつうかおい、おまけよりも先に報告しねえとならねえ大事なこと頼んでいただろ!?」
「はてなんのことやら。カルシウムが圧倒的に足りない赤毛男はほっといてさあさみなさんご一緒にッ!
せーの、まーどーうーアーマーッ!!」
「まーどーうーアーマーッ!!」
「って、ゴゴ、なにちゃっかり乗せられてんだ、てめ!」
「俺はゴゴ、物真似師だ」
「選べよ、物真似の対象くれえ! ああ、なんだかアシュレーの野郎の苦労ちが分かってきた気がすっぜ……」
533
:
アシュレーのパーフェクト首輪教室
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:52:27 ID:WPH7HQ/I0
頭を抱えるトッシュをよそに延々とテンションを上げ続けるトカとゴゴ。
果たして世界はこのままトカ空間に飲み込まれてしまうのか!?
否、断じて否!
混沌とした世界に颯爽と現れる救世主、その名もアシュレー・ウィンチェスター!
「出し渋ったままでいても出番なく終ってしまうんじゃないかな。ほら、無視される可能性も大いにあるブルコギドン的に」
「「はううっ!?」」
痛いところを突かれて蹲るトカともう一人。
そんな彼らを華麗にスルーしてアシュレーはトッシュと互いに憂いに満ちた瞳を交わし合った。
『その、なんだ。さっきは誤解して悪かった。大変なんだな、あんたも』
『あっはっは……。慣れてるから。うん、慣れたくなんかなかったけれどさ……』
一瞬で伝わるシンパシー。
がくりと肩を落とした二人とは逆に早くも立ち直ったトカとゴゴが共同作業の成果を前面へと押し出す。
それはトッシュも痛い目に合わされた魔導アーマーに違いなかったが、外見は恐竜じみた姿から翼竜じみた姿へと改装されていた。
そしてその感想は間違ってはいない。
飛ぶのだ、新しい魔導アーマーは!
改良点は主に次の三つ。
まずはトカに適正がないバイオブラスター、デジョネーター、コンフューザー、魔導ミサイルの4つは思い切ってオミット。
排除することで得たスペースに蒸気エンジンを参考に作られた新型エンジンを装着。
おじゃんにされた下半身は分解・再構築され脚部としてでなくバランサーとして作り直し、完成!
「「見よ、これぞ我輩と魔導アーマーの人と機械の垣根を越えた友情が産み出した奇跡の超兵器ッ!
我輩の設計した飛翔エンジン『やみくも』を搭載した生まれ変わりし魔導アーマーッ!
名を『スカイアーマー』ッ!」」
「と、飛ぶのかそれが? っつうかエンジン名がとてつもなく不安なのは俺の気のせいか?」
「すごい! さっそく実験を兼ねて本番に臨もうッ!」
「いやアシュレー、どっかへ飛んでいってもらいたいのは山々だが首輪の解体が先だろ!?」
そう、それこそがこの城に残るにあたってトッシュ達が最もやっておくべき作業。
元の世界から持ってこられたままの状態だからか、はたまた地下潜行中に故障が起きた時へのオディオからの配慮のつもりか。
専門的な工具や数多の資材が放置されていたのだ。
これを首輪の解析に活かさない手はない。
幸いというには御幣があるが、トッシュ達の手元には三つの主を失った首輪があった。
一つは言うまでもなくリルカ・エレニアックの形見。
残る二つはリオウとアティに嵌められていたもの。
二人の遺体を埋葬するにあたってトッシュが首輪を外すことを進言したのだ。
そんなくだらねえものを嵌められたままじゃおちおちあの世にもいけねえだろ、と。
これにはアシュレー達も深く頷き、埋葬前に首輪を外すこととなった。
もちろん死者の首を切断してなどという方法ではなく、首輪のほうをばらばらにして、だ。
死体にとはいえ装着されたままの首輪を解体すれば爆発してしまうのではという懸念もあったが、杞憂に終った。
主の死と共に機能が停止していたのかすんなりと外すことに成功したのである。
最も、解体作業を行ったトカが『ん、どこか間違えたトカか?』『はら〜〜〜〜〜ッ!?』などと常にあたふたしていたため、
トッシュ達は心休まる時がなかったのであるが。
それはそれとして今回の解析作業に使われたのはその後者の方、リオウとアティの首輪だった。
焼け焦げた後さえあるものの、殆ど原型を留めている絶好のサンプルであるリルカの首輪を消費するのは時期早々だと判断したからだ。
「そのことなんだがこれを見てくれないか?」
目の前になんだか変てこなものがごちゃごちゃしたものがいっぱい置かれる。
学のないトッシュも流石にそれらが首輪を解体しきったものだということくらいは理解したがそれ以上には分からない。
「覚えのあるものがあれば教えて欲しい」
534
:
アシュレーのパーフェクト首輪教室
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:53:04 ID:WPH7HQ/I0
そう言われても無理なものは無理だ。
ただでさえ悪い目つきをより悪くしてまでガン見するが知っている部品なんてこれっぽっちもない。
お手上げだった。
「わりい。力になれそうにねえ」
「これだから浅学な赤髪はダメなんだトカ」
「そういうならお前はさぞ役に立ったんだろなあ!」
「「……」」
「って、おい、ゴゴ、アシュレー、なんだその目は? ま、まさか」
「「残念ながら首輪の解体とその先で一番役に立ったのはそこの何かだ」」
「なっにいいい!?」
トッシュが驚くのも無理はないがトカはこれでもIQ1300の超天才なのだ。
性格にはとんでもなく問題はあるが彼を仲間にしようとしたリオウの判断は間違ってはいなかった。
それが今こうして実を結び首輪を外すことへの大きな一歩を刻みだしたのだから。
「これを見よッ!」
ぱんぱかぱ〜んという効果音が似合う動作でトカが七色に光る石をガラクタ群から拾い上げトッシュへと渡してくる。
見ろと言われてもただの綺麗な石ころだな程度の感想しか持てない彼に対して、後を継ぎアシュレーが説明を始めた。
「これは感応石っていう僕達の世界で使われていた通信用の道具なんだ。
人の思念を増幅し、固有のパルスに変換する性質を持っていて遠くまで音声や映像を飛ばすことができるんだ」
「ああ、思い起こすはかの魔法のテロリストオデッサの決起の日。
壇上に立ったヴィンちゃんが世界中に宣戦布告した時のこと。
呼ばれてなかったからただの捏造ではありますが」
「……つくづく利用されるだけだったんだな」
ぼそりとアシュレーの物真似をしてトカに突っ込みを入れるゴゴ。
その言葉にショックを受けよよよと泣き崩れるトカをスルーしつつトッシュは問いかける。
「通信機? んなもんがどうして首輪ん中に入ってんだ?」
「考えられるのは殺し合いを観賞するためと監視する為だ。
感応石が自動的に僕達の声や映像をオディオへと送っているんだと思う。一種の生放送だ」
それはオディオにとっても最優先事項だろう。
開幕を告げた時の口ぶりや放送の内容からしてもオディオは殺し合いの結果だけでなく過程をも気にかけている。
またオディオに抗おうとしている人間を監視する意味合いもあるはずだ。
実際首輪を外そうとしている人間もここにいる。
「なるほどな。っておいおい、それじゃあまずいんじゃねえか!?
思念を増幅するってえことは俺たちの考えがオディオに筒抜けってことじゃねえか!」
「それについては大丈夫だと思う。
感応石にある心と心を繋げる力。
それは文字通り心を繋げる――つまりは双方向通信なんだ。
今僕達はオディオの心を感じられない。ということはオディオの方も僕たちの心の中までは読めていない」
「おお、そいつは朗報だぜ!」
「けどその心を繋げたり意思を増幅したりする機能は監視以外にも利用されているみたいなんだ」
しかも三つも。
そう重く告げてアシュレーはまず右人差し指を立てた。
「一つ目。多分だけど言語の翻訳にも感応石が一躍買っている」
「言語だあ?」
「僕とトッシュ、ゴゴはそれぞれ別世界の人間だ。にも関わらず何の不都合もなくこうして言葉を交わせている。
ドラゴン次元の住人だったロンバルディアとも会話が可能だった前例はあるけれど、
彼の場合は僕達の世界でかなりの時間を過ごしていた。
その間に言葉を覚えていても不思議じゃない。
でも、僕達は違う。今日始めて会ったばかりなんだ」
「なるほどな。それなのに言葉が通じてるっるうことは……」
「感応石の意思を伝える力のおかげだと思う」
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:
アシュレーのパーフェクト首輪教室
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:53:36 ID:WPH7HQ/I0
言葉そのものでなくその言葉を発しているアシュレー達の意思を互いの首輪の感応石が送受信しているからだとすれば説明がつく。
このことに指摘したのは感応石を知っていたアシュレーでもトカでもなくゴゴだった。
物真似師として常に相手の一挙一動すら見逃すことなく観察していた彼は、
相手の口の動きと聞こえてくる言葉の間に不適合があることにかなり早くから気付けていたのだ。
「口の動きか。言われてみれば確かに違和感があるな。よく分かった。続けてくれ」
トッシュの反応に頷き、アシュレーは右中指を立てて話を続ける。
「二つ目。これは推測だけどオディオが死者を把握できているのも感応石のおかげかもしれない」
「人の思念が完全に途切れるのは死んだ時だけっつうことか?」
「そういうことさ。感応石が思念を増幅している時に出すパルスは石と持ち主それぞれで波長が少し違うんだ。
その反応を機械化何かでモニターしていてそれがキャッチできなくなった時、
オディオはその石の持ち主に死亡判定を出しているんだと思う」
音声だけなら、映像だけなら。
なんらかの手段で死を偽装できるかもしれない。
だが思念に関しては話は別だ。
おいそれとごまかせるものではないし、それこそ死にでもしない限り途絶えるものでもない。
オディオもそこに目をつけて生死の確認をしているのでは?
死した後に意志のある亡霊達に身体を乗っとられたアティという例もあったが、感応石は死者の念は受け付けない。
もしもそんな力があるのなら、今頃感応石が全国的に普及しているファルガイアは死者たちの声に溢れかえっていることだろう。
しかしながら現実にはそんな話、噂でさえ聞いたことがなかった。
感応石が生者と死者の念を取り間違えることがない証拠である。
「オディオにとっては好都合この上ないってことさ」
そこで一度アシュレーは言葉を切り、右薬指を立てて再び口を開く。
「僕達にとっては最も重要である三つ目に移ろう」
「爆弾のことだな」
「「「……」」」
「何だよ、また押し黙りやがって」
「トッシュ、一つ思い出して欲しい。さっき見せたばらばらにした首輪のことだ」
「言ったと思うが知っているものなんざ一つもねえぜ」
「そう、無いんだ。あるべきはずのものが。僕達誰もが知っていて、かつ、首輪の中に無ければならないものがッ!」
「めんどくせえ言い回しは無しだぜ。分かりやすく言ってくれ」
「爆弾が、無いんだ」
「……は?」
何を言っているんだ、こいつは?
爆弾が、無い?
トッシュを混乱が襲うも思い返してみれば言われた通りだ。
先ほどトッシュが見たパーツの中にはそれらしきものは一つもなかった。
剣にのみ生きてきたトッシュだが相棒であったシュウが爆発物のエキスパートであったこともありそれなりに馴染みはある。
攻撃が届かない敵に向かって腹立ち紛れに究極の爆弾を投げつけたことだってあった位だ。
だからこそそれらしきものを目にしたのなら、種類までは分からなくとも爆発物だと見抜くくらいはできたはずだ。
だというのに解体された首輪の部品の中にはトッシュに覚えのあるものは一つも無かった。
爆弾さえなかった。
536
:
SAVEDATA No.774
:2010/04/30(金) 19:54:09 ID:WPH7HQ/I0
「どういう、ことだ?」
唖然とした表情でトッシュが呟く。
まさか首輪の中に爆弾があるというのはオディオのはったりだったのか?
それはない。
オディオにそんなはったりをかます理由はなく、現に始まりの場で二人の人間が首輪の爆発で命を落としている。
何かがあるはずだ。
爆弾ではない。けれど爆弾と同様の何かが。
必死で頭を悩ませるトッシュにアシュレーも同意する。
「僕達も一度そこで行き詰った。爆弾から逃れようにもそれ自体が見つからないならどうしようもない。
必死で色々な可能性を追求した。かって僕が戦った爆弾型モンスターのようなパターンまで疑ったくらいだ。
けれどそのどれもこれもが納得のできる答えを導き出せなかった」
「そこで頼りになるのがこの頭脳。我輩は言いました。二度あることは三度あるどころか四度ある。
ここまで全部感応石に関係していたところを見るにもう全部感応石のせいにしてもよくね、科学的に? と」
「謝れ! てめえ科学に謝れ!」
思わずツッコミを入れてしまったトッシュの肩をゴゴが優しく叩く。
「トッシュ、それにアシュレーはこう返した」
「「すごいぞ、意外と間違っていないかもしれないッ!」」
「それでいいのか、科学!?」
「気持ちは分かるが落ち着いて今度はこれを見てくれ」
アシュレーが何かを握っていた左手を開いた瞬間、淡い光が漏れ出す。
その色は、碧。
トッシュの記憶にも新しいある亡霊が振るっていた刃の色。
「まさか、そいつは……」
「碧の賢帝(シャルトス)の破片だ。これがぎっしりと首輪の中に詰められていた」
「んな馬鹿な。あの魔剣はてめえが叩き斬ったんじゃなかったのか?」
「シャルトスを打ち直して創られたウィスタリアスがシャルトスと同時に存在していた以上、
一本しかないはずの剣が十本二十本ある可能性も否定できないんだ」
「まじかよ。つくづくでたらめだな、あの魔王は」
「それにありえないはずのものならもう一つある」
アシュレーの言葉に合わせゴゴがごちゃごちゃした物体をアピールせんと掲げ上げる。
一見すると動物の骨のように見えなくもないが、その割には機械的な箇所も見受けられた。
これまで同様トッシュにはその変てこなものを言い表す言葉がない。
「なんだこりゃ?」
「さっきからそのセリフばっかりであるな」
「うっせえ!」
トカの物真似で茶々を入れるゴゴに唾を撒き散らすトッシュ。
アシュレーはその様子に僅かに笑みを浮べるも、すぐに消してトッシュに答えを教えることにした。
「僕がかって塵も残さず吹き飛ばしたはずのあるドラゴンの化石なんだ」
「ドラゴン?」
「ドラゴンって言うのは……」
「待て待て待て! 俺の世界にもドラゴンはいる。それよりもどうしてここでドラゴンが出てくるんだ?
魔剣はともかくドラゴンは今までの流れと関係ねえんじゃねえか?」
「そうでもないんだ。僕達の世界ではドラゴンの化石はロストテクノロジーの産物で武器や機械の材料になるんだ。
それも使うものを選ばないとはいえ精神感応が必要な強力な物の材料にッ!
そして話を戻すけどあの魔剣はアティから譲り受けた知識からするに意思の強さでその力を増すらしいんだッ!」
「精神感応……? 意志で力を増す魔剣? そうか、それなら話が繋がる!」
537
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:54:56 ID:WPH7HQ/I0
トッシュの中でパズルのピースが噛みあう様に理解が浸透していく。
感応石、魔剣、そしてドラゴンの化石。
全てに共通するのがそれが人の意思に影響を受けるという特徴。
思念を増幅する石、心次第で力を増す剣、精神感応兵器。
それらを統合するにオディオが作ったこの首輪は首輪型の精神感応性兵器なのだ。
爆弾が仕込まれていたのではなく、首輪それ自体が強力無慈悲の爆発を生じさせるARMだったのだ。
部品に使われている魔剣の凄まじさならトッシュも体感したとおりだ。
天変地異さえも用意に起しかねない圧倒的な魔力のうねり。
あれが肌に密着した状態からぶつけられようものなら魔法が苦手なトッシュでなくとも一溜まりもない。
あまり想像したくない事態を思い浮かべてしまい、トッシュは苦い顔になる。
が、そこで一つの疑問に突き当たった。
「待てよ? 確かにあの剣の力は下手な精霊の力を上回るほどに凄かったが例えば同じ剣の力なら相殺できるんじゃねえか!」
アシュレーからナイトブレイザーに関して聞いた時、補足として語られた魔剣の話を思い出す。
シャルトスとウィスタリアスの他にもう一本キルスレスという魔剣があるらしい。
アシュレーも実際に見たというその剣の力があれば、或いは危険が伴う為軽々しくは使えないがアシュレーがアクセスしさえすれば。
首輪の爆発にも耐え切り、オディオの掌から逃れられるのでは?
鬼の首を取ったかのように嬉々として語るトッシュだったが、当の本人であるアシュレーは首を横に振るばかりだった。
「ただのドラゴンの化石なら僕もその方法を試みたかもしれない。
けれどトカの分析によると120%の確率でこの化石は超兵器グラウスヴァインの物だったんだッ!」
「ヴィンちゃんに頼まれてグラウスヴァイン召喚魔法陣のデータを検分したことのある我輩ですぞ?
100%では足りないレベルで間違いないトカあるトカ!
はて、そういえばあれがヴィンちゃんからあった最後の指令だったような?」
「トカゲ、てめえが仲間外れにされてた過去なんざどうでもいい!
それでその核兵器ってのはそんなにやべえものなのか?」
「やばいなんてものじゃない。星一つ吹き飛ばしかねない威力の爆弾だッ!」
「けっ、首輪爆弾の材料にするにはこれ以上ない素材っつうことかよ」
オディオは魔力爆発に耐えられそうな一部参加者への対策に首輪の火薬代わりを二重に用意していたのだ。
トカの行ったシミュレートによると爆発のプロセスはこんなところだ。
初めに感応石を通じ参加者のルール違反を知ったオディオが自らの感応石で爆破の思念を送る。
その思念に共感した首輪側の感応石が瞬時に首輪主のありとあらゆる思念を凡百かまわず最大限まで増幅。
発生した膨大なそれでいて統率されていない意思エネルギーにより魔剣とARMが共に暴走起動を起こす。
そして魔剣とARMが自らの発するエネルギーを制御できなくなる臨界点を一気に突破して。
暴発
圧倒的なまでの魔力と核の洗礼を受け、哀れ魔王のルールを破った人間は死に至る。
耐えるなどおこがましい。
逃れることなどできはしない。
科学と魔法、その二つの頂点に位置する暴力に同時に晒されるのだから。
538
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:55:39 ID:WPH7HQ/I0
「そんなにすげえものならホールで二人の人間が殺された時に俺達を巻き込むくれえの爆発が起きたんじゃねえのか?」
「首輪にはいくつかブラックボックスがあったんだ。
その中にバイツァダストのように爆発の余波を次元転移させる機構があるんだと思う」
「どうせなら爆発を丸ごと転移させて欲しいもんだぜ」
忌々しげに毒づいた後トッシュは髪をわしわしとかきむしる。
首輪のほぼ全容が見えたのは大きな前進だったが、その内容は想像以上に凶悪なものだった。
監視・盗聴完備な上に強力無比、オディオは指先一つ動かさずに爆発できる。
その悪夢じみた完璧さにトッシュは舌を打つ。
「私の意思次第で自在に爆発する首輪だたあよく言ったもんだぜ。
どうすんだ? 俺達の行動は全て監視されてんだろ。
あいつが思った途端に爆発するんじゃ防ぎようがねえじゃねえか」
「あきらめなければ何とかなるトカーッ!」
「あったりめえよ! 誰が諦めてやるかってんだ!
いざとなりゃあオディオが思うよりも先に斬るまでよ!」
半ば本気で言ったことだったがそれに応える声が脳裏に響いた。
『そうだ、諦めるのは速い』
男のような女のような声。
老人のようでいて若者らしくも思えるおかしな響きな声。
相反する矛盾を内包したその奇妙な声の持ち主はトッシュの目の前にいた。
「ゴゴ、何か言ったか?」
「気のせいだ」『何もないように振舞え。俺は今お前の心に直接話しかけている』
ゴゴはちらりとトッシュの右手を見る。
釣られて己が右手に視線を落とせば握ったままだった感応石がうっすらと輝いていた。
『オディオの方も僕たちの心の中までは読めていない』
ついさっき聞いたアシュレーの言葉がゴゴの物真似によって再生される。
そこまで言われてトッシュもゴゴの思惑をようやく感じ取りにやりと笑った。
そうだ、感応石の本来の用法、心を繋ぐその力を以て心の声で会話すればオディオといえど盗聴することはできまい。
『『なら、それを利用しない手はねえよなあ!』』
監視自体はされたままな為、首輪解除自体はすぐにはできないが、オディオに聞かれたくない相談をするには十分だった。
『よく思いついたな、こんな方法』
『オディオが感応石を使っているのならこちらも感応石を利用すればいい。簡単なモノマネだ』
どこか誇らしげに言った後ゴゴはアシュレーへと感応石を投げ渡す。
完全に解体した首輪が二つしかない以上、取得することのできた感応石の数もまた二つだ。
意思伝達できるのは自然と一対一の二人に限られてくる。
『確実とは言えないけれど首輪を無効化できる方法がいくつかある』
既にゴゴとトカには伝えたであろうことをアシュレーはトッシュにも伝える。
539
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:56:19 ID:WPH7HQ/I0
『聞かせてくれ』
『まずはARMSと魔剣にそれぞれ対処する方法だ。
僕の元の世界の仲間であるマリアベルならARMの構造には詳しいから核の方は無効化することも不可能じゃない。
魔剣だってアティから譲り受けた知識やキルスレスの入手、持ち主だというイスラって人が助けてくれればトッシュの言ったように相殺できる』
『次に首輪の中核である感応石にアプローチする方法だ。
僕達の世界には念話を専門にした術者であるテレパスメイジという職業が合ったんだ。
もしもそれに類似する能力を持つ思念術に長けた誰かを仲間にできれば感応石による監視や首輪の起爆をどうにかできるかもしれない』
『これら二つはここにいる僕達にはできない方法だ。
特にテレパスメイジの方はいるかどうかも分からない希望的観測に過ぎない』
『松達が集めてくれている面子の中にいりゃあいいんだがな』
『だから本命はこれから言う三つ目だ』
アシュレーはデイパックから地図を取り出し、トッシュ達三人に見えるように広く広げる。
トッシュ達四人が見てきたエリアや施設の情報を事細かに記載した地図。
そのうちの追記されていないまだ見ぬ地や深く調べることの無かった海底や遺跡を順々に指差していく。
『どんなに純度のいい感応石でもこんな小さな物じゃ通信範囲はたかが知れているんだ。
心を結んだ者同士ならともかく単純な通信機器として使うならこの島一帯すらカバーできない。
その欠点を補う為にはあるはずなんだ。
オディオ側の感応石と首輪の感応石の中継点になる巨大な感応石を設置したテレパスタワーのような施設が。
或いはその代わりになる何かがこの島のどこかに、僕達が知らない場所にある』
ならばすべきことはただ一つ。
『僕たちは何としてでもその施設を見つけ出して破壊するッ!』
皆を守らんとするアシュレーの宣言に
『おうっ!』
トッシュは力強く頷いた。
【G−3 フィガロ城 一日目 夕方】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(小)
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3
ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:放送まで城で待機。ビッキーを待つ。その後フィロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:セッツァーに会い、問い詰める
4:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期は本編クリア後
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
540
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:56:52 ID:WPH7HQ/I0
【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ほそみの剣@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、天罰の杖@DQ4、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを斬る。
1:放送まで城で待機。その後フィロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:セッツァーを探しルカを倒す
4:必ずしも一緒に行動する必要はないがちょことは一度会いたい。
5:基本的に女子供とは戦わない。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未完成です。
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ 、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、
焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:放送まで城で待機。ビッキーを待つ。その後フィロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
4:セッツァー、ケフカ、シャドウ、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
5:アクセスは多用できない
※参戦時期は本編終了後です。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、
現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
アティの意思は、徐々に磨り減っています。アクセスを行うとその消耗は加速します。
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、スカイアーマー@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
天命牙双(右)@幻想水滸伝Ⅱ、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
2:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[備考]:
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーはスカイアーマーに改修されました。が、トカ製な為妙なアレンジが施されていたり、いきなり調子が悪くなったりするかもしれません。
541
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 19:59:33 ID:WPH7HQ/I0
投下終了
どなたか代理投下お願いします
また今回は読んでの通り首輪についての話です
こちらの力量不足のせいで分かりにくいところや、何か気になるところがあるかもしれません
指摘や思うところがあれば是非是非おっしゃってください。では
542
:
◆iDqvc5TpTI
:2010/04/30(金) 20:32:47 ID:WPH7HQ/I0
代理投下、支援、ありがとうございました
543
:
◆SERENA/7ps
:2010/05/03(月) 17:50:28 ID:WtiMl/Us0
「ブタにはブタなりの小賢しい知恵があるらしいな……」
思えば、儚げなくせにどこか芯のある強さを秘めているのは、ジルに似ているところがあるかもしれない。
ロザリーの言うことにはほとんど聞く価値がなかったが、一つだけルカにとっても意義のある情報があった。
――オディオに屈さず、未来のために手を取り合える強さを、私は信じています。
――憎しみに流されず、悲しみ囚われず、互いに理解する心を。
――人間も、エルフも、魔族も、ノーブルレッドも。誰もが、抱いているのですから。
ノーブルレッド。
これだけならば、ルカには何のことか分からなかった。
しかし、人間とエルフと魔族と一緒に挙げられているのだから、種族名だということだけは分かる。
「世界は広いらしいな……」
人間もウイングボードもコボルトもたくさん殺してきたが、世界には未だ見ぬ種族がいるらしい。
純然たる赤を意味するノーブルレッド。
その種族を斬ったときの感触を、ルカは知りたくなった。
血の色は赤いのか、それともそれ以外の色なのか。
肉を切った感触は硬いのか柔らかいのか。
ウイングボードの翼のように、人にはない器官を備えているのか。
あるいは、コボルトのようにそもそも人間とは似てない種族なのか。
想像するだけで胸が躍る。
体中が未だ見ぬ種族を殺害せよと疼く。
「ふはははははははははははは!! 感謝するぞメスブタ! 貴様は俺に斬る新たな楽しみを教えた!」
ルカは殺しを止めない。
千人殺そうとも二千人殺そうとも満たされることのなかった渇きが、6人殺したくらいで満足するはずがない。
ここにいる53人全員をルカが殺したとしても、ルカは満たされることはないだろう。
彼の歩く道の先にあるのは、無数の屍が転がる戦場のみ。
それは、他ならぬルカ自身がよく知っている。
【F-2 中央 一日目 夕方】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]上半身鎧全壊、精神的疲労(大)、ダメージ大(頭部出血を始め全身に重い打撲・斬傷、口内に深い切り傷)
[装備]皆殺しの剣@DQIV、魔石ギルガメッシュ@FFVI
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×6、カギなわ@LIVE A LIVE、死神のカード@FFVI
魔封じの杖(4/5)@DQⅣ、モップ@クロノ・トリガー、スーパーファミコンのアダプタ@現実、
ミラクルショット@クロノトリガー、トルネコの首輪 、武器以外の不明支給品×1
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る2人及び、名を知らないアキラ、続いてトッシュ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
544
:
◆xFiaj.i0ME
:2010/05/06(木) 23:15:56 ID:DBQNABH20
さて、放送案仮投下しますー。
545
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/06(木) 23:16:48 ID:DBQNABH20
「……時間だ。
手を止めろ、などと言う意思も理由も無い。 せいぜい聞き逃さぬように注意することだ。
禁止エリアは
20:00からC-5 と I-6
22:00からE-1 と H-2
00:00からD-10 と G-7
そして、
高原日勝
マッシュ・レネ・フィガロ
ケフカ・パラッツォ
ミネア
シンシア
ビッキー
クロノ
以上の7名が、新たに死者の列に加わった。
速度が落ちた、などと無粋な事をいう必要は無いな。 何しろこれで死者は半数を超えたのだから。
もう半数とするか、まだ半数と取るか、いずれにせよ半分を過ぎた。 残された者たちはせいぜい奮起するがいい」
◇
事ここに至って、余計な事柄を述べる必要は無い。
遠くから響くのみの言葉など無くとも、今彼らを包む世界は雄弁に主張を続けている。
短く、事実のみを告げた。
……だが、それだけか?
「らしくもない……」
玉座の端を握る手の力が、僅かに強い。
僅かに感じるのは苛立ちか、それとも怒りか。
546
:
◆xFiaj.i0ME
:2010/05/06(木) 23:17:39 ID:DBQNABH20
――私の声が、届いていますか?
――届いているのなら、お願いです。どうか、耳を傾けてください。
――私の名は、ロザリー。魔王オディオによって、殺し合いをさせられている者の一人です。
――それでも、私は魔王の思惑に乗るつもりはありません。何があろうとも、傷つけ殺し合うなどと、あってはならないのです。
――私はかつて、この身に死を刻まれました。そのときの痛みと苦しみは、忘れられません。
――ですが、身に付けられた痛みよりも、迫りくる死の恐怖よりも辛い苦痛を、私は知っています
――何より辛かったのは、私の死をきっかけに、私の大切な方が、悲しみと憎しみに囚われてしまったことです。
――愛しいその方は私を殺めた人物だけでなく、人間という種族を滅ぼそうとしてしまいました。
――その方を陥れようとした悪意によって企てられた、謀略であったことに気づかずに。
――勇者様とそのお仲間のおかげで、私は再び生を受け、あの方を止めることができました。
――そんな経験を経て、私は、改めて実感したのです。
――何より辛かったのは、私の死をきっかけに、私の大切な方が、悲しみと憎しみに囚われてしまったことです。
――愛しいその方は私を殺めた人物だけでなく、人間という種族を滅ぼそうとしてしまいました。
――その方を陥れようとした悪意によって企てられた、謀略であったことに気づかずに。
――勇者様とそのお仲間のおかげで、私は再び生を受け、あの方を止めることができました。
――そんな経験を経て、私は、改めて実感したのです。
――命を奪う行為は悲しみを生み憎しみを育ててしまいます。悲しみと憎しみはまた別の悲しみと憎しみへと続いてしまいます。
――大切な人が亡くなり、悲しみに暮れている方もいらっしゃるでしょう。仇を討とうと、憎しみを抱いている方も少なくはないかもしれません。
――どうか、その大切な人のことを思い出してください。その人が、貴方のそんな姿を望んでいるはずがありません。
――殺し合いに乗ってしまった方々、少しだけでも考えてみてください。
――大切な人の死によって生まれる悲しみを、痛みを、苦しみを。
――憎しみを抱き刃を向けるのは止めにしましょう。憎しみは目を曇らせ、刃は取り合うべきを切り落とします。
――互いに傷つけ合い殺し合うのは止めにしましょう。私たちは、必ず手を取り合えるはずです。
――私は今、生きています。それは、たくさんの強く優しい方々に出会い、手を取り合えた証です。
――オディオに屈さず、未来のために手を取り合える強さを、私は信じています。
――憎しみに流されず、悲しみ囚われず、互いに理解する心を。
――人間も、エルフも、魔族も、ノーブルレッドも。誰もが、抱いているのですから。
――願わくば、私の声が多くの方々に。
――ピサロ様に、届きますように。
……否定する気は無い。
手を取り合う強さも、互いを理解しようとする心も。 それそのものは強く、美しい感情であったのは事実なのだから。
背中合わせに戦う友が、呼びかけに応えてくれたかつての英雄が、最後まで己を信じてくれた仲間が、そして何よりも、己を待ち続けている人が。
旅立ちの時も、戦いの日々にも、新たな仲間を得た時も、失意に囚われた時も、道が見えず闇雲に彷徨う時でも、一人になった後でさえ、力を与えてくれた。
547
:
◆xFiaj.i0ME
:2010/05/06(木) 23:18:18 ID:DBQNABH20
エルフの姫御。 強く、聡明な女性よ。
貴女は勘違いをしている。
貴女の声は決して届く事はない。
いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。
それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。
貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない。
かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。
哀れみはしない。
貴女は強い人だ。
かつて最後まで私の事を信じてくれた仲間のように。
その道を、信じ続けて死ねる者もいるのだから。
そして、だからこそ貴女には、今の貴女では決して理解することは出来ない。
貴女は何も知らない。
貴女は何も失っていない。 ただ失わせただけだ。
己の全てを賭して守りたい物を失ったその先、そこに何があるのか……貴女は何一つ知ってなどいないのだ。
それを知らぬ貴女の言葉は、その先にたどり着いたものには決して届きはしない。
貴女は、その真実を知らないのだ。
「……いや」
或いはそれが…それも、真実なのか。
理解にすら至らない場所。
生物としての根本的な差異。
貴女達には、貴女には、それが真実だったのか?
なあ、……シア……
貴女達は、我々とは根本的に違っていたのか?
いくら考えても、わからない。
私は、決して届かない、……届かなかった言葉を、こうして考え続けることしか出来ないのか?
548
:
◆xFiaj.i0ME
:2010/05/06(木) 23:20:48 ID:DBQNABH20
以上になります。
誤字脱字問題などございましたら指摘お願いします。
禁止エリアについては一応残りメンバーが集まり易いようなつもりで決めました。
どこか他に希望のエリアなどございましたら差し替えますー。
549
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/06(木) 23:45:06 ID:kGvVf5SI0
必要としていないものにしか届かない、か
言い得て妙だな、ほんと
GJです。禁止エリアも問題ないかと
550
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/07(金) 01:25:47 ID:CC.jGL9IO
仮投下乙です
魔王になったのにいまだにアリシアに未練残してたりするのがオディオなんですよね
禁止エリアもそれでいいかと思います
しかし禁止エリアになる時間は20、22、24時ではなく19、21、23時だったような?
さて放送案も出たし予約解禁は何時にする?
もう明日8日かあさって9日の0時でいいと思うんだがどうだろう?
551
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/07(金) 03:36:54 ID:GjQ8rJrE0
明後日9日0時に一票
552
:
◆xFiaj.i0ME
:2010/05/07(金) 13:09:15 ID:z0im6z5sO
感想ありがとうございます。
このまま問題無いようでしたら、予約解禁がどう転んでも大丈夫なように、今夜(22:00前後?)本投下します。
553
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/07(金) 13:10:26 ID:z0im6z5sO
と、
>>550
さんに指摘された時間のミスを直してから、ですorz
554
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/07(金) 19:27:48 ID:GjQ8rJrE0
◆xFiaj.i0ME氏、お疲れ様です
予約期間ですが明日の0:00という意見は土曜の深夜0:00ということですよね?
555
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/07(金) 19:43:32 ID:CC.jGL9IO
>>554
うん
556
:
SAVEDATA No.774
:2010/05/07(金) 20:27:08 ID:GjQ8rJrE0
それなら私も異存ありません
557
:
◆xFiaj.i0ME
:2010/05/07(金) 22:05:27 ID:zwQl1o7A0
さて、問題無さそうなので本投下してしまいますー。
558
:
◆xFiaj.i0ME
:2010/05/07(金) 22:09:30 ID:zwQl1o7A0
普通に規制中だったorz
どなたか以下の
>>545
の時間変更したもの、及び
>>546
、
>>547
の代理投下をお願いします。
「……時間だ。
手を止めろ、などと言う意思も理由も無い。 せいぜい聞き逃さぬように注意することだ。
禁止エリアは
19:00からC-5 と I-6
21:00からE-1 と H-2
23:00からD-10 と G-7
そして、
高原日勝
マッシュ・レネ・フィガロ
ケフカ・パラッツォ
ミネア
シンシア
ビッキー
クロノ
以上の7名が、新たに死者の列に加わった。
速度が落ちた、などと無粋な事をいう必要は無いな。 何しろこれで死者は半数を超えたのだから。
もう半数とするか、まだ半数と取るか、いずれにせよ半分を過ぎた。 残された者たちはせいぜい奮起するがいい」
◇
事ここに至って、余計な事柄を述べる必要は無い。
遠くから響くのみの言葉など無くとも、今彼らを包む世界は雄弁に主張を続けている。
短く、事実のみを告げた。
……だが、それだけか?
「らしくもない……」
玉座の端を握る手の力が、僅かに強い。
僅かに感じるのは苛立ちか、それとも怒りか。
559
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:00:19 ID:bQBPYIGA0
雨が降っている。
雨の匂いが辺りに満ちていく。
雨が降ると憂鬱になる。
そう言う人もいるだろう。
周りの環境が人の心に影響を与えるというのならば、人の心に周りの環境が答えると言うこともあるのではないだろうか?
そう、その雨は誰かの心を表しているようだ。
深い深い、悲しみの体現。
雨がざあざあと降り注ぐ。
ばたばたと絶え間なく地面に落ちて吸い込まれていく。
それは彼の涙だろうか?
彼はもう『勇者』では無くなってしまった。
持っていた伝説の武具からは輝きが消えていた。
聖なる雷を引き起こす力も失われた。
そう、『勇者』など何処にもいなかった。
ならば彼はどうするのだろうか?
何処にも『勇者』がいないなら自分がなる……と思えるだろうか?
思えまい。
彼はそんな『生贄』に過ぎない称号なんていらないのだから。
彼は今、『憎しみ』に支配されている。
世界から裏切られて魔王へと転生した勇者のように。
愛するものを殺され、自我を失ってなお人間を根絶やしにしようとした魔王のように。
『生きる』限り、『憎しみ』は『生まれる』。
人間(live)は誰もが悪魔(evil)になれる。
あるいはそれを超越した存在にさえ。
それは表裏一体。
鏡に映された現実。
切っても切れない関係。
彼は一体どのような道を選ぶのだろうか?
人間? 悪魔? 生贄? 勇者? 英雄? ゴミ?
それとも……?
どうなるにしろ結局の所それを決めるのは彼だ。
嘗ての彼の称号のように周りが決めるものではない。
今、彼は『勇者』のこだわりを完全に捨てた。
割り切ったのだ。自らが歩んできた空虚な人生を。
彼が彼女―――アナスタシア・ルン・ヴァレリアを憎むのは、いまや『勇者』に対する拘りから来るのではなく、ましてや空虚な心を埋めるためでもない。
アナスタシアが気に入らないから。
憎いから―――ただ、ただ憎いから。
理由なんて無い。
だから殺す。
ただそれだけだ。
☆
560
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:06:38 ID:bQBPYIGA0
「消し飛べえええええ!エビルデイイイイィィィィン!」
「滅びろおおおおおお!ジゴスパアアアァァァァクッ!」
天から落ちる黒い燐光を帯びた雷と地から天へと昇る地獄の雷が同時に迫ってくる。
一つだけでも絶大な威力だ。この黒い雷を二つもまともに受けては只じゃすまない。
それは全員が理解していた。
危機を感知し全力で離脱。
暴れ狂う破壊の嵐をやり過ごす。
「チッ……放送もまともに聞かねえとはな」
アキラは静かにそう呟く。
戦闘が始まろうとした直後のことだ。
突如、オディオによる定時放送が始まった。
魔王やカエルは放送間は攻撃を仕掛けてこなかった。
それも当然だ。二人には叶えたい望みがある。
死者の情報はともかく、禁止エリアの発表を聞き逃すわけにはいかない。
それは集中して聞いておかなければならない情報だ。
だから出来るだけ放送に耳を傾け、迫り来る脅威に対する迎撃にだけつとめていた。
だがユーリルとピサロはそんなものお構いなしに攻撃を仕掛けてきた。
二人とも完全に冷静さを欠いていた。
勿論、放送なんて二人は聞いてない。
今の二人を見れば判るほとんどの者がそう思うだろう。
事実、二人だけが聞かなかった。
ユーリルが死者の発表の時に少し反応しただけ。
それ以外の者たちは激しい攻撃に晒されながらも何とか放送を聞いていた。
故にピサロは気付かない。
未だロザリーが生きていると言うことに。
(それにしても……なんてやばいものを着けているんだ)
高原日勝。
さっきの放送で呼ばれた、妙な世界を共にした仲間。
最初に会ったときは驚いたものだ。
牢屋の中で筋トレしている筋肉質の男がいたのだから。
強くなりたい。
純粋にそんなことを考えていた男だった。
身体も心も鍛えていずれは『最強』へ―――。
彼はただひたすらに『最強』を目指していた。
その彼の愛用品である最強を冠するバンテージ。
装着者に圧倒的な力と体力を与えてくれる代物だ。
それが今、瞳を憎悪の色に染め凄まじい殺気を放つ緑の髪の青年―――ユーリルの手首に巻かれている。
おまけに物騒な剣まで持っている。
そんな剣戟をまともに受けたらおしまいだ。
ユーリルが高原を殺したかは判らないが、どっちみち放っておける存在じゃない。
戦い抜くッ!高原の分まで!
「邪魔をするなああああああッ―――」
(こっちに来やがった!)
アキラはアナスタシアとユーリルを結ぶ直線上にいた。
アナスタシアを殺すのに邪魔な男を滅さんと天空の剣を振りかぶるッ。
561
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:13:48 ID:bQBPYIGA0
(逸れろッ)
―――ひゅん。
しかし、ユーリルの剣戟はアキラ捉えることは敵わなかった。
体勢を立て直すユーリル。
……が動きが一瞬止まった。
その刹那ッ!
(うおおおおおおおおお!)
がつん。
一撃目。エルボー。
ユーリルの下顎にきれいに決まった。
ずどん。
二撃目。正拳突き。
ユーリルがたたらを踏む。
ガアアァン。
三撃目。裏回し蹴り。
喉笛にまともに蹴りを受けたユーリルが大きく吹き飛ぶ。
全ての攻撃がまともに入った。
ユーリルが攻撃する瞬間にアキラはスリートイメージを展開。
冷静でないユーリル……いやここまで来ればもう錯乱に近いだろう。
そんな状態の人間には効果覿面。
ユーリルは見事に方向感覚を狂わせられて必殺の斬撃を外した。
そのときアキラは絶好の反撃ポイントを見つけた。
激怒の腕輪の効果により反撃能力が上がっているのだ。
そしてホーリーゴーストを展開し、突如現れた聖なる霊に怯んだユーリルに連続攻撃を叩き込んだ。
ルクレチアで怪物達と命のやりとりをしてきたアキラの攻撃は並の男どころか、かなりの達人でも昏倒してもおかしくない威力だ。
「めちゃくちゃ硬いな……」
だが、アキラは気を緩めない。
ここにいる者はみんな『かなりの達人』で納まる者たちではない。
それに最強バンテージの効果で身体が硬くなっている。
大したダメージは与えていないだろう。
562
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:16:25 ID:bQBPYIGA0
―――ゆらあ。
ゆっくりと幽鬼のようにユーリルが立ち上がる。
相変わらず身の毛がよだつ殺気を放っている。
戦意が衰えている様子は全くない。
ほうら、効いてない。
アキラは静かに歯噛みした。
相手は身体能力こそ凄ましい、だがやや錯乱していることもあり攻撃を避けることはそれほど難しくない。
しかし当たれば一撃だ。これは精神的にきつい。
一方こちらは攻撃こそ当たるが、とにかく火力が足りず相手を倒しきれない。
もちろんユーリルも攻撃が当たらず地道に体力を削ってくるこちらを鬱陶しく思っているだろう。
だが、だからといって状況は好転しない。
第一敵は―――
「……アイスガ」
「ウォータガ!」
ユーリルだけじゃないのだから。
☆
空気中の水分とカエルによって生み出された水が一瞬で凝固。
魔王は一瞬で雨を氷の刃の嵐へと変貌させた。
ひょうが。
マールとカエルが使っていた連携技だ。
マールを上回る魔王の魔力と雨によって水分が増加していたことでそれを上回る巨大なひょうがを生み出していた。
それらが二人を除く全てのものに襲いかかる!
「クリメイションッ!」
声を放ったのは夜の覇者。
伝説のノーブルレッドであるマリアベルだ。
氷には火だ。
激しい氷の刃の嵐を地獄の業火で迎え撃つ!
―――バシュウ。
全て蒸発した。
冷気の強さには限界がある。
いくら二人技だろうと『完成した』魔法を迎え撃つなら不可能じゃない。
怖いのは堅さと速度、質量と鋭さだ。
地獄の業火が対抗できないわけがない!
「……霧がッ!」
氷を一瞬で気化させたことにより濃霧が発生。
これでは周りが見えにくい。
そのとき、霧を引き裂く一陣の疾風―――真空波が駆ける。
それはマリアベルとアキラを引き裂かんと迫るッ!
「……させんッ!」
「……させないよッ!」
銀髪の男―――ピサロが放った真空波の前に二人の男が立ちふさがる。
スレイハイム解放戦線の『英雄』ブラッド・エヴァンス!
紅の魔剣に選ばれた『適格者』イスラ・レヴィノス!
563
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:22:00 ID:bQBPYIGA0
「「はあッッ!!!!!」」
ブラッドが音速の突きでドラゴンクローを繰り出し、空気の壁をぶち破り真空波を弾く。
弾かれた真空波を魔界の剣でイスラが迎撃、弱められた真空波を完全にかき消すッ!
「……無事か」
「当然じゃ」
ユーリル、カエル、魔王、そしてピサロとおぼしき銀髪の男。
この四人各々がとてつもない戦闘能力を持っている。
こちらの四人と『戦闘力の単純な足し算』をすれば相手の方が強いだろう。
……だが、勝てないことはない。
今までの戦闘から判断するに手を組んでいるのはカエルと魔王のみ。
アナスタシアの護衛をするという不利こそ有るが、これは4対4ではなく4対2対1対1だ。
更にピサロとユーリルは冷静さを欠いている。
それに対してマリアベルとブラッドはカエルと魔王以上にお互いのフォローが出来るほど、共に戦い抜いてきた実績がある。
そしてイスラとアキラは空間把握能力に優れ、的確に動いている。
アキラのスリートイメージはこの乱戦状態に大きく貢献していた。
イスラはブラッドと共に一度戦っただけにも関わらず、こちらの空気を読んで行動している。
即席のチームだが連携は巧くとれている。
これなら勝てないことはない。
そう……あくまで『勝てないことはない』だが。
こちらの方に圧倒的に分があるというわけじゃない。
繰り返しになるが、四人とも凄まじい実力を持っている。
そう易々と勝てる相手じゃない。
せめて、後一人くらい少なくなれば何とかなりそうなのだが。
戦況がそれほど良くはない。
「じゃが……負けられぬッ!」
☆
―――轟ッ!
ピサロは疾風の如くアキラとの距離を詰め斬りかかってきた。
それはまさに剣の舞。
刹那に行われた六連。
「うわッ!うわッ」
スリートイメージを駆使して対応する。
だがそれだけじゃ間違いなく斬り刻まれる。
回避行動に集中する。
564
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:23:06 ID:bQBPYIGA0
一撃目のヨシユキの横薙ぎを身をひねって回避。
二撃目の頭部めがけたヴァイオレイターの突きを頭をずらして避ける。
三撃目のヨシユキの返す刃。無理な体勢で後ろに回避、バランスを崩す。
四撃目、追撃に振るわれたヨシユキ。転倒する事によって回避。
五撃目、アキラの喉めがけて突き立てるヴァイオレイター。横に転がる。目の前には地に突き立てられたヴァイオレイター。何かが腕にぶつかる。
六撃目、振り上げられたヨシユキ。上半身だけをを起こしたアキラ。
「小賢しい人間めッ!滅びろッ!」
(――――ッ!やばいッ。頼むッ。逸れてくれッ!)
間の悪いことに仲間はみな他の者の相手をしている。今からじゃフォローは間に合わない。
しかし、刃は完全に逸れることなく向かってくる。
「――――ちっくしょおおおおおッ!!!」
苦し紛れに腕を盾にする。
無駄だ。そんなものが盾として機能するはずがない。
腕に何かの圧力がかかる。
きっとヨシユキの刃だろう。
そのまま、盾とした腕ごとアキラを真っ二つに――――出来なかった。
「な……に……?」
ヨシユキはアキラの身体を引き裂くことは敵わなかった。
アキラの腕には――――天命牙双の片割れが握られていた。
ただ三人でいたいと少年の義姉のささやかな願いが、それでいて強い想いが込められたトンファー。
天命牙双――――ルカ・ブライトをも一度は討ち滅ぼした、天魁星の宿星を持つ少年の武器だ。
それは少年がルカと戦ったときよりも更に鍛えられていた。
鍛冶屋大師匠と呼ばれる超一流の鍛冶職人メースも使用したとされる究極のハンマーである――ゴールデンハンマー。
名鍛冶職人テッサイがゴールデンハンマーを使って極限まで強化しているのだ。
そのおかげでアキラは斬られずに済んだ。
補足をするならスリートイメージによって数度だけ剣の軌道がずれたこともアキラが助かった要因のになっていたが。
565
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:24:42 ID:bQBPYIGA0
「人間を――――」
今だ。
こいつをぶっ飛ばすなら今しかない。
反撃ポイント発見。
鳩尾に一撃だ。
サイコメトリー。
この武器に込められた残留思念を読み込む。
この武器の所持者の事や今まで辿った道筋などの詳しいことは判らない。
だが――――想いは伝わる。
それでいい。
ヨシユキを打ち払う。
天命牙双を腕の中で回転させる。
天魁星の少年ほどの技術はない。
――――ホーリーブロウ。
技術?
必要ない。
ただ――――。
(ただ俺も想いを込めればいい)
拳に想いを込めて――――。
「――――舐めんじゃねえッ!」
拳にありったけの想いを込め、天命牙双を携えたアキラのホーリーブロウがきれいに鳩尾に炸裂し、吹き飛ばされたピサロは見えなくなった。
☆
566
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:27:09 ID:bQBPYIGA0
「……サンダガ」
「エビルデインッ」
銀髪の男が遠くに弾き出されたのと同時に電撃が迫ってきた。
雨が降っているときに一番強まる属性は水じゃない――雷だ。
それをまともには受けられない。
イスラとブラッドが回避運動をとろうとする。
しかし、金髪ロングカールの美少女――マリアベル・アーミティッジはレッドパワーの魔力を練っていた。
――不敵な笑みを浮かべて。
タイミングが合った。
今なら十分いける。
「メイルシュトロームッ!」
カウンターで放たれた故に魔王とユーリルは対抗が間に合わない。
カエルは津波に対抗しうる魔法を持っていない。
メイルシュトロームはサンダガとエビルデインを呑み込んで三人に襲いかかるッ!
「「ぐあああああああッ」」
二人分の電撃を呑み込んだ津波だ。
それらは津波に帯電したとあっては魔力に強い魔王でさえ無視できないダメージだ。
しかし、流石と言うしかない。
魔王とユーリル。二人とも決して小さくないダメージを受けたにもかかわらず、押し流されずに耐えきった。
二人……?
カエルは?
「……上じゃッ!」
城下町での戦いを思い出し、カエルが上にジャンプして津波を回避したと推理。
マリアベルは空を見上げる……いた。
しかし、マリアベルの真上ではない。
イスラの真上にいた。
不意をつくなら、嘗て戦ったマリアベル以外の者を狙うのは当然だ。
虹色に輝く刀を煌めかせて。
☆
567
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:28:20 ID:bQBPYIGA0
「……くッ」
間に合うか?
微妙だな。
まあ、間に合わなかったところで死ぬだけだけどね。
死んだらどうなるかな?
僕は……?
この人達は……?
あ、駄目だ間に合わない。
「……させるかよッ!」
受け止めたのは額に傷のある出会ったばかりの少年だった。
いつのまにか持っていたトンファーで受け止めていた。
割り込んできたのはギリギリだ。
一歩遅ければアキラが斬られていた。
はははっ。
お人好しばっかりだ。
何でこんなヤツを庇うんだろう?
いや……この少年は僕がどんなやつか、僕が今までどんな酷いことをしてきたか知らないか。
まあ、どっちみちお人好しだ。
だってそうだろ?
出会って間もない見ず知らずの人間を庇うなんて。
あれ……?
そういえば僕もさっき誰かを――――。
「世話の焼けるッ」
続く刃で二人を両断しようとしたカエルが目に映ったブラッドが地面を強く蹴り上げる。
風を切り裂いて突き進むドラゴンクロー。
それを……打ち出すッ!
強い殺気を感じたカエルは攻撃動作をキャンセル防御態勢をとる。
カエルの刀は龍の爪を受け止める。
その衝撃によって吹き飛ぶ……が無様に倒れることなく難なく着地していた。
「戦場では何時死んでもおかしくないッ!気を抜くなイスラッ!」
「……わかったよ」
今はただこの状況に――――。
「アナスタシアッ!?」
マリアベルと呼ばれていた少女の声が聞こえた。
あの女――――アナスタシア・ルン・ヴァレリアがこの場から離れるべく駆け出していた。
今は放送前の時にあった包囲網が解除され、逃げるチャンスだ。
とはいえ、逃げるという行為が効果的なのは時と場合。
逃げる――――つまり追われる者。
背中を見せると言うこと。
少なからずリスクがある。
この状況は?
ロザリーと呼ばれた気絶した女性を含めた僕ら六人が逃げられる状況だろうか?
テレポートを考慮しなければ、それは難しいだろう。
ならどうしてあの女は逃げた……ああ、そうか。
全く持って気に入らない。
「僕たちは……囮か」
☆
568
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:32:48 ID:bQBPYIGA0
電撃の痺れに耐え、顔を上げる。
誰かがこの場から離れていくのが見えた。
あの女だ。
憎むべき存在、アナスタシア・ルン・ヴァレリアだ。
逃がさない。
殺す。
絶対に。
一片の容赦なく。
お前のせいで。
お前のせいでッ。
僕は、僕はッ。
――くすくす。
誰かが僕を嗤っている。
勇者じゃない。
ヤツはもういない。
誰かはわかっている。
背中から悪魔の羽を生やした偽りの幼馴染みだ。
いや……幼馴染みの『皮』を被った悪魔だッ。
さっきからうっとうしい。
圧倒的な不快感。
気持ち悪い。
その微笑みは、僕の心に反響して何度も何度も、僕の中を蹂躙した。
――くすくすくすくす。
……シンシア。
僕を嘲笑うのか。
そうだろうな。
所詮僕は操り人形だ。
家族なんていなかった。
あの楽しかった日々は。
穏やかで充実していた、何時までも続いて欲しいと思っていた日々はまやかし――幻想でしかなかった。
――くすくすくすくすくす。
その嫌な微笑みをやめろシンシア。
僕はもうお前達の操り人形にはならない。
お前達の大好きな『勇者』の同類である『英雄』を殺してやるよ。
――くすくすくすくすくすくす。
もう、僕の心から――。
イ ナ ク ナ レ 。
569
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:33:35 ID:bQBPYIGA0
「逃がさない……逃がさないぞ!アナスタシアァァァ!!!」
他の者など眼中になく、ただアナスタシアを殺すためにユーリルは駆け出す。
今の彼の見て勇者だと思う者はどれくらいいるだろう?
その顔はもう――。
☆
目が覚めたときに最初に目に入ったのはユーリルが恐ろしい表情で何処かに駆け出していく姿だった。
(……ユーリル様)
すぐにさっきの光景が思い出される。
命が無慈悲に蹂躙された光景。
そしてそれを引き起こしたユーリルの顔。
あの優しかったはずのユーリルの。
勇者の面影がない悪魔の表情をしたユーリルの顔。
気持ち悪い。
あんな死に方あんまりだ。
(……あの顔は)
あの人もあんな顔をしていた。
いけない。
このままじゃきっと取り返しのつかないことになる。
彼はあの人と同じ道を。
自我を失ってまで人間を滅ぼそうとしたあの人と同じ道を進もうとしている。
――止めなきゃ。
ユーリルが進む道の先に待っているのはきっと破滅。
今止めないと、周りの人達どころかユーリル自身も破滅する。
――きっと大丈夫。
彼は本当はとても優しい人。
あの人のように。
きっと助けることが出来る。
今のロザリーに周りの状況を把握する余裕はなかった。
城下町で戦ったカエルのことも見えていない。
駆け出すユーリルを見たロザリーは、ただユーリルを助けようと、ユーリルを追って駆けだした。
☆
「ロザリー!」
あっという間のことだった。
アナスタシアがどこかに駆けだして。
続けてユーリルと呼ばれていた緑の髪の青年がアナスタシアと同じ方向に走った。
そしていつの間にか気絶から回復したロザリーもユーリルの後を追った。
だが、カエルも魔王も後を追おうとも手を出そうともしない。
こちらを警戒してのことだろう。
そんなことをすれば、自分たちからの攻撃を受ける恐れがある。
自分たちとの位置関係はそう言った状況だったのだ。
570
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:34:57 ID:bQBPYIGA0
「マリアベルッ!俺にグレートブースターを掛け、すぐに後を追えッ!」
ブラッドはマリアベルに号令を掛ける。
マリアベルはすぐに、ブラッドの意図を理解した。
ロザリーのこと。
そしてアナスタシアの事も放っておけない。
ブラッドは一つの賭に出たのだ。
今のこちらの戦力数はマリアベルとアキラとイスラ、そしてブラッドの四人。
対して向こうはカエルと魔王の二人だ。
ここでマリアベルが欠けても、戦力数だけで見ればまだこちらが有利だ。
だが問題がある。
パーティバランス。
アキラの能力とマリアベルの能力は全く違う能力だ。
ここでのマリアベルの能力は代わりが効かない。
このメンバーのマリアベルの役割は大きいのだ。
自分が欠ければパーティバランスに勝る向こうが有利になる。
ならば何故マリアベルが選ばれたか?
その事も理解している。
ロザリーと一緒にいたことが一つ……そして。
「グレートブースター!」
ブラッド……おぬしの覚悟、受け取ったぞ。
ならば、わらわはその覚悟に応えよう!
回れ右。
既に三人とも見えなくなっている。
かまうものか。
見つけ出してみせる。
顔に叩き付けてくる雨粒を押しのけ、三人が向かった方向へファルガイアの支配者は疾風の如く駆けた。
☆
「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」
今までと比較にならないスピードでブラッドが魔王に迫る。
だが易々敗れる魔王じゃない。
魔王は素早く持っていた魔鍵で防御する。
今までに受けたブラッドの拳を大きく上回る衝撃が魔王を襲う。
だが魔王は衝撃に耐える。
ひとまず距離をとって魔法を唱えようとする。
「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」
しかし、魔王の前に立ちはだかるブラッドはその行動を許さないッ!
魔王が距離をとるより早くブラッドが距離を詰めて次なる拳を見舞う。
魔王は防御に専念してその拳を全て受ける。
強烈な衝撃が次々と伝わり手を痺れさせる。
571
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:35:52 ID:bQBPYIGA0
「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」
もうブラッドの周りには魔王しかいない。
ブラッドの作戦通りだ。
目的はカエルとの戦力の分散。
グレートブースター。
その恩恵を受けた者を能力を引き上げるレッドパワー。
力、体力、魔力、素早さを大きく引き上げる。
更に魔法は三回までなら属性を打ち消して反射できる。
見違えるくらいにパワーアップだ。
572
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:36:33 ID:bQBPYIGA0
だがこのレッドパワーには欠点がある。
このときに冷戦な判断が出来なくなってしまうことだ。
とはいえ、敵味方の区別がつかない狂戦士になると言うわけではない。
正確に言うなら集中力が必要な細かい作業が出来ないといったところだ。
例えばアームに心を繋げ、弾丸を撃ち出すこと、クレストグラフに魔力を込めるなどが出来なくなる。
つまり悪手となる可能性も秘めている。
先ほどの乱戦ではみんなの状況を把握しながら戦う必要があり、迂闊に使えなかった。
だがマリアベルが欠けるとなればパーティバランスは向こうが上。
だから『只、ひたすらに魔王に攻撃して』カエルと引き離さないといけない。
その為に必要だった。
カエルはこちらに近づけないように二人が食い止めている。
後はイスラを、アキラを、マリアベルを信じて、自分は魔王を倒すだけだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおッッーーーーーー!!!!!」
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
「俺の名前には意味があるッ!ここで死ぬわけにはいかないッ!」
『英雄』は駆け抜けるッ、『魔王』を倒すために。
【C-7 一日目 夜】
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(中)、額と右腕から出血、アルテマ、ミッシングによるダメージ、グレートブースター。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI 、パワーマフラー@クロノトリガー
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品0〜1個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:魔王を倒して仲間と合流。
2:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:セッツァーとマッシュの情報に疑問。以後セッツァーは警戒。
4:再度遭遇したら道化師(ケフカ)を倒す。魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:紅の暴君@サモンナイト3、不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:ブラッドを殺すなり、やり過ごすなりしてカエルと合流。
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける 。
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。
573
:
Devil Never Cry−君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:38:59 ID:bQBPYIGA0
☆
「ここは通行止めだよ、カエル」
魔王のフォローをするべく、二人が消えた先に向かおうとしたカエルだったが、それを簡単に許すイスラとアキラではなかった。
簡単にここは突破できないとカエルは思った。
「だいたい予想はついているけど、君、何で殺し合いに乗っているんだい?」
敵と会話できるだけの余裕が出来たイスラは静かに、しかし重く口を開いた。
目の前のカエルの事は灯台でクロノから聞いている。
クロノからはカエルは安全と聞いているが、目の前のカエルはどう見ても殺し合いに乗っている。
クロノが嘘を吐いた可能性はゼロではない。
でも恐らくは……だが嘘を言ったつもりはなかったのだろう。
目の前のカエルは先ほど出会ったケフカかもしれない道化師とは違う。
殺人に快楽を感じる者ではなく、痛みを感じれる者。
これでも、イスラは人を見る目には自信があるつもりだ。
マッシュも高原もクロノも悪いヤツには見えなかった。
マッシュとセッツァーの事も出会っていないセッツァーの方が怪しいと思っている。
それに仮にさっきの道化師がケフカだったとしたなら、マッシュの方が信頼に勝る。
勿論、全幅の信頼を寄せれるわけではない。
まあ、もっとも灯台で出会った三人は先ほどの放送で呼ばれてしまったが。
「蘇らせたい人でもいるのかい?」
イスラは軽口叩くように声を出す。
しかし、目は真剣その物だ。
クロノから聞いた限りじゃ、残るカエルの知り合いは魔王のみ。
魔王を守るために殺し合いに乗ったとは考えづらい。
ルッカかエイラが死んでしまったからだろう。
「……俺には守らなきゃならないものがある。取り戻さなければいけないものがある」
そうだ。
これは忠誠を誓った国のためなんかじゃない。
ガルディア王国の王国のためなんかじゃない。
只の自分のわがままだ。
自分の辿った歴史を否定されたくない。
サイラスの存在する王国歴600年を、クロノの存在する王国歴1000年を無かったことにしたくない。
だから、全て殺す。
それが今の自分のやること、存在意義。
「ふーん……『ならない』、『いけない』んだね」
「……ッ!そうだ……全て俺の意思だッ」
なるほど、とイスラは思った。
こいつはもう止められない。
こいつは嘗てとの自分と同じだ。
全て自分で選択し、覚悟を決めているようだけど、そうじゃない。
こいつはその『自分が選んだ道』に縛られている。
そう……自由なんかじゃないんだ。
守る?馬鹿馬鹿しい。
『守れなかった』の間違いだろう?
取り戻す?巫山戯るな。
失ってしまった者は他者の都合でどうこうしていいものじゃない。
自分の意思?笑わせるな。
こんな事を望んでないことぐらい見ればわかる。
その先に待っているのはきっと――。
574
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:39:39 ID:bQBPYIGA0
「何を言っても無駄だろうけど、一つだけ忠告しておくよ」
「……なんだ?」
「嘘の仮面……ペルソナをかぶり続けるといずれその嘘の仮面が本当になる。
その仮面ははがれずに顔にまとわりつく、その事をよく覚えておくんだね」
そう、わかっているのに見えない振りを続けると大切なものを見失う。
ヘクトルの言うこと全てに納得した訳じゃないが、その事は理解できた。
「……言いたいことはそれだけか?」
言葉は不要。
只、刃を交えるのみ。
イスラは苦笑いする。
判っていたことだ。
こいつが止まらないことは。
例え、自分が望む行動でなくても。
自由でなくても。
この道を『選んだ』の紛れもないカエルの強い意志なのだから。
「……覚悟ッ!」
☆
ガキンガキンと刃が交わる。
戦うのは一匹のカエルと二人の人間。
時に魔法を挟みながら、カエルは二人を殺すため剣を振るう。
(……強いな)
卓越した剣技だ。
これほどの剣の技量を持つものは片手で数えるほどしかイスラは知らない。
少なくとも自分よりは上。
アキラのサポートがあり何とか対応している。
更に魔法――つまり飛び道具も扱える。
だがこちらにも銃という名の飛び道具がある!
――バシュン。
イスラはドーリーショットの引き金を引く。
これはショットガンだ。
弾を曲げるなどの能力がない限りは遠くから撃てば全ては当たらない。
スプレイの様に広がる散弾とはそう言うものだ。
全て当てるにはゼロ距離で撃つしかない。
しかし、だ。
その性質上攻撃範囲は非常に広範囲だ。
つまり、適当に撃っても何発かは当たるのだ。
巧く使えば、相手の行動を大きく制限できるという利点がある。
それをイスラは狙った。
44マグナムは試し撃ちをしたところ、卓越した技術が必要そうだった。
反動も強く、扱いづらい。
連射も撃てて三連射ぐらいが限度だろう。
使うならショットガンだ。
575
:
Devil Never Cry−君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:40:21 ID:bQBPYIGA0
「ウォータガ!」
しかしカエルは対象の水をバリアとして呼び出す。
散弾の勢いが殺される。
威力も弾速も大きく削がれた。
水圧は思いがけない力を持っているものだ。
ドーリーショットは確かに高性能ショットガンだ。
全て当たればかなりの威力だろう。
しかし44マグナムのように一発一発の威力が非常に大きいかと言われればそうではない。
カエルは散弾の雨を潜り抜ける。
厄介な超能力少年は今の水流に流された。
カエルの予想外の行動に驚いた優男を仕留めるため強く地面を蹴る。
剣に持ち替える前に仕留めるッ!
「やばいッ!」
走る。
間に合え。
このままじゃイスラが危ない。
あのカエル野郎は既に間合いに入っている。
また目の前で人が死ぬ。
そんなのはもうごめんだ。
イスラが剣に持ち替えるのが見えた。
だめだ、遅い、間に合わない。
イメージを練り上げる。
間に合え間に合え間に合えッ!
そこでアキラは見た。
全てがスロー。
全てがコマ送りだった。
カエルが刀を振り上げる。
カエルが刀に力を込める。
それが振り下ろされる。
そして――――。
だ め だ 。
そう思ったアキラが見た一連の流れの最後のコマ。
それはカエルに先んじてカウンターの突きを放っていたイスラの姿だった。
それはまるで――――。
576
:
Devil Never Cry−君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:41:02 ID:bQBPYIGA0
「うおおおおおおおおッ」
見とれている場合じゃない。
命がかかっているんだ。
カエル野郎はあの突きを受け止めた。
まだ戦いは終わってない!
乾坤一擲、ド根性だ。
近くにあった大きめの石をぶん投げるッ!
「いけええええええええええええッ!」
☆
それは一瞬の出来事だった。
絶対に殺せると思った優男から不意に放たれた突き。
攻撃を強引に中断してそれを受け止める。
それほど重いとは思わなかった。
だが、速かった。
ただ、ただ、速かった。
そして飛んできた大きな石。
――――フリーランサー!
過去のトラウマが思い起こされる。
昔の話だ。
デナドロ山に登っていたときのこと。
俺はモンスターと戦っていた。
突如、飛んできた投石。
そこに生息するモンスター、フリーランサーが投げたものだった。
俺はその投擲をまともに受け崖から落ちた。
俺は奇跡的に助かった。
そして実戦の怖さを思い知らされた。
俺は怖くなった。実戦が。
魔物と戦う恐怖を乗り越えるには時間がかかった。
恐怖を乗り越えた俺は再びデナドロ山に挑んだ。
しかし、何時までも何時までも、あの悪夢のような投石は乗り越えられなかった。
だめだ。
恐ろしい。
恐ろしいだと?
巫山戯るな!
これぐらい恐れるようでは王国は救えない!
乗り越えるんだ!
過去の亡霊を!
俺は俺は俺は――――。
「うおおおおおおおおおおーーーーー!」
アキラは別に投擲の達人じゃない。
だが、アキラが装備しているいかりのリングのおかげで投擲能力は強化された。
カエルの眼前に石が迫る。
一刀両断。
石は真っ二つに両断された。
瞬時に魔法を練る。
ウォータガ。
それを壁にして撤退。
これ以上の無理は良くない。
魔王のいる方向は二人がいて進めない。
合流するなら回り道になるが仕方ない。
後方に撤退。
「……さらばだ」
【C-7 一日目 夜】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:魔王と合流。
2:魔王と共に全参加者の殺害。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
577
:
Devil Never Cry−君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:41:33 ID:bQBPYIGA0
☆
あのカエルはもう見えなくなってしまった。
魔王と同じ方向に進ませることは避けられたが、回り道するなりなんなりで解決できる。
こちらもあまり悠長にしていられない。
「俺達はどっちに行けばいいッ」
「……そうだね」
方向音痴であるアキラはイスラに指示を求めた。
しかし、ここは入り組んだ森。
みんなが消えた方向に向かって会えるとは限らない。
とはいえ向かった方向に行くのが堅実だ。
最もイスラとしてはアナスタシアには会いたくはないのが。
この混沌とした森で二人が選んだ道は――――?
【C-7 一日目 夜】
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:アルテマ、ミッシングによるダメージ、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み)
ドーリーショット(残り十発)@アークザラッドⅡ 、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、
44マグナム(残り六発)@LIVE A LIVE
鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:どうするか決める。
2:あの道化師(ケフカ)と再度遭遇したら確実に仕留める。
3:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費。 疲労(小)
[装備]:天命牙双(左)@幻想水滸伝Ⅱ、激怒の腕輪@クロノ・トリガー 、いかりのリング@FFⅥ
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:どうするか決める。
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)の仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
☆
578
:
Devil Never Cry−君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:42:04 ID:bQBPYIGA0
「うおおうッ」
「貴様……さっきの」
アナスタシアとロザリーを追っていたマリアベル。
しかし、最初に出会ったのはその二人のどちらでもなかった。
銀髪の青年――――魔王デスピサロ。
よりによってこいつと最初に出会うとは、と唸った。
コンディションはこちらの方がいい。
だが、それでもピサロは一対一で戦って易々勝ちをくれるレベルの強さじゃない。
というか、今はそんな暇じゃない。
早く二人を捜さないといけないのだ。
先ほどは完全に乱戦で会話をする暇はなかった。
だが今なら出来る。
無駄かもしれないが、戦闘になる前に先手を打った。
「待て!ロザリーは生きておる!」
マリアベルはロザリーから詳しくピサロのことを聞いていたこともあり、先ほどピサロが襲いかかってきた理由はすぐに理解できた。
無用な戦闘を避けるべく、強く訴えた。
しかし聞き入れてくれるか判らない以上、隙は全く見せなかったが。
「……何だと」
マリアベルに斬りかかろうとしたピサロの動きが止まる。
それはピサロにとって無視できない情報だったからだ。
それは、くだらない嘘、虚言、妄言だと割り切ることなど出来なかった。
目の前の女からは嘘を言っている様子は一切感じ取れない。
この目をピサロは知っている。
以前この付近で出会ったミネアも同じ目をしていた。
勿論ピサロは人間を信じることは出来ない。
それでもピサロはマリアベルの訴えに耳を貸す。
ミネアの時よりあっさりと。
なぜか?
ミネアの言うことは真実だったこと。
さきほどロザリーが死んだことを確認してないこと。
更に目の前の少女が自分が嫌いな人間ではなかったからだ。
自分に近い存在くらい一目で判る。
それにミネアの時も思ったことだが、その言葉が真実であって欲しいとどうしても思うのだ。
その希望に縋らずにはいられない。
「ならば、ロザリーは何処にいる!」
「わらわも探している所じゃ!」
「ロザリー!」
それを聞いた以上は、ここで無駄な戦闘をしている場合ではない。
一刻も早くロザリーを探さなければいけない。
ロザリーを探して守るべく、駆け出そうとする。
579
:
Devil Never Cry−君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:42:38 ID:bQBPYIGA0
「待たんかーーーー!」
ごっち〜〜〜〜ん☆
が、唐突に降ってきた金盥がピサロの頭に直撃。
なにをする、邪魔をするなと刃を向けるピサロ。
しかし、金盥を落としたマリアベルに戦闘する様子はない。
見れば一枚の紙を差し出していた。
「今までの禁止エリアをまとめた紙じゃ。受け取れ」
「……どういうつもりだ」
ピサロは訝しむ。
理解に苦しむ。
何故自分にここまでするか判らない。
「ロザリーも放送を聞いておらんからの、伝えて欲しいのじゃ」
簡単なことだ。
少なくともピサロがさっきの放送を聞いていないことは明白。
そしてロザリーも聞いていない。
この男が今すぐ自分と一緒に行動するとは思えない。
だからピサロが先にロザリーと出会ったときのために禁止エリアを教えた。
それにピサロが死んだらロザリーが悲しむ。
紙を受け取ったピサロは今度こそ駆けだした。
そしてマリアベルも行動再会だ。
今は放っておいても大丈夫だろう。
ロザリーを探すことを優先している今なら売られた喧嘩しか買わないはずだ。
ピサロは思った通りの危険人物だったが絶対に信じられる部分がある。
マリアベルはピサロを信じていた。
ピサロの愛を、ピサロのロザリーに対する愛を。
それだけは絶対に信じることが出来た。
☆
「はあ……はあ……」
駄目だ。あんな所にいたら死んでしまう。
みんながみんなとんでもない戦闘能力を持っていた。
守ってくれた方も、襲ってきた方も。
死にたくない。
ただその一心でアナスタシア・ルン・ヴァレリアはあの場から逃げ出した。
「……怖い」
怖い。
どうしよう。
逃げてしまった。
戻るべきだろうか?
怖い。
駄目。恐ろしい。
戻ったら殺される。
死にたくない。
怖い。
今、私はひとりぼっち。
ここで私を守ってくれた少女はいない。
私に戦う力なんて無い。
580
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:43:51 ID:bQBPYIGA0
戻る事なんて出来るはずがない。
アナスタシアが逃げた理由は襲ってくる者に殺されることを恐れただけじゃないからだ。
仮に襲撃者を全員倒したところでだ。
アナスタシアは間違いなく、マリアベル達に尋問される。
第一、ブラッドには自分のことを知られている。
隙をついて逃げるしかなかった。
「わたし……わたし……」
震えが止まらない。
沢山の人に私のことを知られてしまった。
私を守ってくれる少女もいない。
自分がこの先、生き残るのは絶望的に思えた。
バゴッオオオオオオオオオン!!!
すごい音が聞こえた。
音の発信源の方を向けばそこにあった木々が無惨にひしゃげた荒れ地になっていた。
その中心には――――。
「み つ け た」
悪魔がいた。
だめだ、怖い。
走り疲れた。
動悸が止まらない。
汗がじっとりと浮かぶ。
身体が震えて動かない。
これは、やっぱり罰なのかな。
少女を利用し、他者を殺して生き残ろうとした罰。
私だってあの時私を生贄にした人達と何も変わらない。
さっきだって守られてばかりで何もしなかった。
うん、きっと罰なのだろう。
でも、そんなの受け入れたくない!
581
:
イナクナリナサイ−彼女は微笑む
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:45:04 ID:bQBPYIGA0
「ああああああああああああああッ!!!」
絶望の鎌を取り出し応戦しようとするが遅い。
だめだ。斬られる。
私には助けてくれる白馬の王子様もいない。
善い魔法使いは近くにいない。
自業自得だろう。
私が彼をこんな風にしてしまったのだから。
彼は真の『勇者』にはなれなかった。
でも、私は裁かれるのか――――。
私は全てを受け入れ目を閉じた。
「あきらめるなどお主らしくないぞ、アナスタシア」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
目を開けてみる。
そこにいたのは白馬の王子様でも善い魔法使いでもなかった。
未来を奪われたあの戦いで私を助けてくれた存在。
マリアベルがアガートラームでユーリル君の剣を受け止めている光景だった。
「くっ、重い……」
足が地面に沈んでいる。
それほど重い一撃だったのだろう。
アガートラームだからこそ受け止められたのだ。
「ああああああああッ」
ユーリル君を弾き飛ばして距離を取った。
彼は瞳は相変わらず憎しみの色に染まっていた。
「なんで、なんで、そんなやつをかばうんだよッ。
そいつは『生贄』だ!殺して何が悪い!」
「……お主、あまりわらわを怒らせぬ方がよいぞ」
582
:
Devil Never Cry −君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:47:28 ID:bQBPYIGA0
ユーリル君が叫ぶ。
マリアベルはすごく怒っているみたい。
あの顔久しぶりに見たかも。
金髪の髪がフワフワ浮いている。
本気で怒ってるみたいね。
「あああああああああああああッ」
「アナスタシアは『英雄』でも『生贄』でもないッ!
わらわの大切な『親友』じゃああああああああああッ!」
スカイツイスター。
マリアベルが生み出した竜巻はユーリルを呑み込んで見えないところまで吹き飛ばした。
「アナスタシア」
マリアベルがこっちを見てきた。
私は目をそらした。
――――パン。
乾いた音が鳴る。
ぶたれたんだ。
マリアベルは賢い。
きっともう全て理解している。
当たり前か。
私は殺し合いに――――。
「己を否定するな、アナスタシア」
「え……?」
「お主、自分が『生贄』とユーリルに言ったのじゃろう?」
マリアベルは強くそう言った。
☆
583
:
Devil Never Cry −君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:48:08 ID:bQBPYIGA0
確かに『英雄』は綺麗なだけのものじゃない。
その事を判って貰うためにニノとロザリーにアナスタシアのことを話した。
決して、『英雄』が『生贄』に直結すると言いたかった訳じゃない。
アナスタシア。
少なくともお主は自分の意思で戦った。
自分を卑下するな。
自分の存在を見つめ直せ。
わらわはお主のことをよく知っている。
アシュレーがロードブレイザーを倒したときもお主は確かにいた。
わらわは判るあの時お主がいたことを。
おぬしは一人じゃない。
わらわはお主と繋いだ手を離すつもりはない。
少なくともお主はわらわにとっては――――。
「お主は『友達』じゃよ」
あああ、なんでさっき『親友』なんて言ったんじゃ。
ちゅうか、面と向かって言う『友達』もかなり恥ずかしいぞ。
「マリアベル……」
「ほれ」
倒れているアナスタシアに手を差し出す。
アナスタシアも右手を出す。
――――二人の少女の手は繋がれた。
【C-7 一日目 夜】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり?ちょこを『力』として利用する?
1:生きたい。
2:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2 、
ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2 、シンシアの首輪
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
0:ロザリーを見つけて近くの仲間と合流。その後アナスタシアから事情を聞く
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
8:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
※乱戦の中シンシアの首輪を回収しました。
☆
584
:
Devil Never Cry −君といつまでも
◆E8Sf5PBLn6
:2010/05/17(月) 00:50:21 ID:bQBPYIGA0
「クロノ……」
なんであいつには友達がいる?
僕には、僕には、僕には!
この世界はおかしい。
こんな世界いらない。
クロノのいない世界なんて。
「あれは……」
デイパックを見つけた。
中身を出してみる。
ドッペル君がある。
メイルシュトロームで吹き飛ばされたシンシアのデイパックの中身だ。
ユーリルはクロノと考えた考察を思い出す。
もしその通りだったらオディオに勝てるわけがない。
シンシアだって生き返ったことは確認された。
それにこれがあればクロノの事を助けれるかもしれない。
オディオの願いで助けられるかもしれない。
駄目だったらそれはそれでいい。
クロノがいない世界なんていらない。
初めての友達。
僕を認めてくれた存在。
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
助けないと。
「ユーリルさん……」
「ああ、ロザリーか……」
「泣いているんですか?」
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