したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

仮投下スレ

1名無しさん:2008/08/25(月) 03:37:05 ID:iY74nRCo0
SSの投下スレです。
SSの修正、SSの試験投下、避難所用投下にどうぞ

2オープニング案 ◆6XQgLQ9rNg:2008/08/26(火) 23:05:54 ID:6T0fgeTM0
 そこには、深く濃密な闇が広がっていた。
 果てなど感じられないその闇は、月や星が完全に消失した夜空のような混じり気のない漆黒そのもの。
 あるいは、あらゆる『黒』を蒐集し尽して凝り固めたような純然たる暗黒だった。
 その中にある玉座に、青年が一人腰掛けている。
 鎧を纏い剣を携えた彼の髪は金色で、瞳は黒い。
 その整った相貌は、過去に、勇気と慈愛によって輝いていた。
 故に彼――オルステッドは、こう呼ばれていた。
 勇者、と。
 その呼称は憧憬と尊敬の結晶であり、人々の希望だった。
 そのはず、だった。

 今この場に居るのは、勇者などではない。
 鮮やかだった金髪は褪せ、澄んでいた瞳は昏く淀んでいる。
 かつて溢れていた希望などは、微塵も存在しない。
 在るのは、人間に対する暗い感情だけだ。
 その美しい容貌は、絶望と憎悪で塗り固められている。
 もはや彼は、勇者オルステッドなどではない。
 遥か遠い太古から、彼方の未来に渡って存在する、『憎しみ』という感情の化身。
 憧憬と尊敬ではなく、恐怖と畏怖の結晶であり、人間に絶望を与える存在。

 魔王――オディオ。

 それこそが、今の彼だった。
 辺りの闇を見回し、オディオは思う。
 底知れぬ漆黒の闇は、人の心のようだ、と。
 そう。ヒトは皆、汚れ腐り切った心を持っているのだ。
 自らの欲望を満たすために、他者を傷つけ奪い殺すような、醜悪な心を持っている。
 たとえ、世界を救った勇者であろうとも。
 たとえ、戦を終結に導いた英雄であろうとも。
 例外など、存在しない。
 そうだ。
 今現在、闇の中で目を覚まし始めた様々な世界からの客人とて、例外ではない。
 覚醒していく人々を、オディオは黙って見下ろしている。

 絶望の宴の、始まりだった。

3オープニング案 ◆6XQgLQ9rNg:2008/08/26(火) 23:06:44 ID:6T0fgeTM0
 ◆◆
 
 水中から泡が浮上するように、人々の意識が戻ってくる。
 ぼんやりと瞼を持ち上げた彼らの目に映るのは、闇だけだった。
 まるで体に纏わり付いて心を蝕むような、底冷えのする暗黒が、魔物のように横たわっている。
 闇の中から、様々な物音や声がする。その多くは戸惑いや混乱、不安に満ちたものだった。

 ――ここが何処なのか、何故こんなところにいるのか。

 それらの疑念に応じるように、闇が薄まった。等間隔で並んでいた松明が、同時に灯っていく。
 炎は小さく、闇を払うには余りに弱々しい。しかし、なんとか周囲の様子が見渡せる程度には明るくなる。
 そこは、無機質さを感じさせる石造りの広間だった。謁見の間を髣髴とさせるが、不気味な印象は拭えない。
 一際大きな炎が二つ、音を立てて灯った。
 反射的にそちらへと視線が集中する。巨大な松明に挟まれた玉座と、そこに鎮座する男の姿があった。

 あらゆる動きが、止まった。
 男が猛烈な感情に満ちた瞳で、こちらを睥睨していたからだ。
 その感情は、背筋が震え上がるほどに強力な、憎悪だ。
 まるで、その感情が闇を生み出しているようだった。
 喧騒は自然と収束する。オディオが感じさせる深い憎悪が、あらゆる挙動を許さない。
 
「ようこそ、諸君。我は魔王、オディオ」
 静かな声音が、鼓膜を震わせる。その静けさとは裏腹に、圧倒的な威圧感を持った声だった。
 その声が、言い放つ。有無を言わさぬ意志を、剥き出しにして。
「これから君達には、殺し合いをしてもらう。最後の一人になるまでな」
 息を呑む気配が、各所に生まれた。
 戦慄が広間に伝播する。正気とは思えない男の言葉は、再びざわめきを呼び起こす。
 普段ならば一笑に付すような馬鹿げた宣言だ。
 だが男の、鋭く研ぎ澄まされた黒曜石のような瞳は、嘘や冗談の雰囲気など微塵も感じられない。
 それどころか、そういった揶揄の余地も存在していなかった。
 狂気の沙汰としか思えない発言に真実味を持たせているのは、たった一つの感情に他ならない。
 その感情は、純粋さやひたむきさすら感じさせる、真っ直ぐで濃密な憎悪だ。
 静謐ながら苛烈な憎悪は、オディオ以外の全員を縫い止めていた。

「……ふざ、けるな」
 その空気の中で、オディオに牙を剥いた者がいた。中華風の衣装に身を包んだその男に、視線が集中する。
「義破門団にも負けずとも劣らぬ外道め! ワン・タンナベ拳後継者の名において、成敗してくれるッ!!」
 赤茶色の髪を振り乱し、男――ワンが構える。右手を引き、左手の肘を玉座に向けた。
 それは一見、勇敢な行動に思える。
 だがその場に集ったほとんどの人物が悟っていた。
 彼の行動は勇敢なものではなく、激情に衝き動かされて冷静さを失した蛮勇でしかない、と。

4オープニング案 ◆6XQgLQ9rNg:2008/08/26(火) 23:07:43 ID:6T0fgeTM0
 ――よせ。やめろ! 落ち着け!!

 静止の声が飛ぶ。しかし、ワンは止まらない。
「ワン・タンナベ拳奥技! 怒髪天突拳!!」
 ワンの気迫と絶叫が大気を揺らし地を揺り動かす。
 赤茶色の髪が逆立ち、ワンの周りに闘気が具現化されていく。
 闇に浮かぶ、闘志と怒りの塊。
 気の弱い者なら、それを目の当たりにしただけで戦意を失してしまいそうな激怒の奔流。
 それを真正面から受け止めても、オディオは玉座から立ち上がらず、眉一つ動かさない。

「愚かな……」
 ただ呟いて、ゆったりと手を挙げる。
 たった、それだけの挙動で。
 闘気は霧消し、大気の揺らぎが消失し、圧力を抱いた怒りが嘘のように感じられなくなる。
 小さな炸裂音が鳴り、ワンの首が、吹き飛んでいた。

 時間が止まったように、間が生まれる。
 しかし、噴き出し続けている血液が、時の進行を証明していた。
 誰かが、悲鳴を上げた。
 それを皮切りにして津波のような狂乱が生じ、人々を押しつぶしていく。
 パニックに陥る彼らに、オディオは威圧感に満ちた声を叩きつけた。 
「彼と同じ末路を辿りたくなければ、勝手な真似は慎んで貰おう」
 その言葉の意味が伝わるにつれ、静寂が戻りゆく。
 すぐそばに迫った明確な死の気配が、人々をオディオに従わせる。
 しかし、ワンのすぐ側にいた青年は、オディオを無視してワンの骸へと目を向けていた。
 緑色の僧服を着たその青年は、ワンの命を呼び戻そうと、呪文を紡いでいる。
 頭が千切れ落ちるほどの大きな損壊を受けた遺体を蘇生させるのは、優秀な神官であっても不可能に等しい。
 そんなことなど、青年は百も承知だ。それでも彼は、ワンから離れない。
「クリフト! その人は、もう……ッ!」
 青年――クリフトの耳に、主である少女の声が届く。それは、搾り出すかのような悲痛な声色だった。
 普段ならば弱音めいた発言をしない彼女が、このように告げたのは、濃厚な憎悪に中てられたせいだろうか。
「……分かっています、姫様。しかし私は、神に仕える身。何もせず黙っているわけには参りません」
 そんな彼女を勇気付けるようにクリフトが応じた、その直後。

 再び、炸裂音が響いた。
 それに続く音は、酷く湿っぽい。
 びちゃり、と。
 ワンの遺体が作り出した血溜まりに、クリフトの首が、落下する。
 そして、ワンの身に折り重なるように、クリフトの体が、倒れ伏した。
 二人分の血液が床を汚し、鉄臭さが広がる。
 吐き気を催すほどの死の気配が、生者に触手を伸ばし心を侵していく。

5オープニング案 ◆6XQgLQ9rNg:2008/08/26(火) 23:08:24 ID:6T0fgeTM0
 
「クリ、フト……。クリフトォ――ッ!!」
 クリフトの主である少女を始めとして、絶叫が再発した。
 巻き起こった無数の悲鳴が、甲高い不協和音を奏でる。無数の感情が混ざり合い、広間を荒らしていく。 
「私の手で君達を殺めるのは本意ではない。故に、もう一度言う」
 全ての声音を鎮圧するような色濃い殺気が、オディオから沸き立つ。

「――勝手な真似をするな。従わぬ者の首は、直ちに吹き飛ぶと思え」
 
 既に二人の首が無慈悲に飛ばされている現状で、オディオに逆らう者は存在しなかった。
 波が引くように、喧騒は鳴りを潜めていく。それでも、彼らが平静を取り戻したわけでは、決してない。
 揺らめく炎だけが照らす薄闇の中で、鮮血が噴出する音だけが微かに響いていた。
「君達のには首輪が装着されている。私の意思次第で自在に爆発する首輪だ。今のように、な」
 暗に反逆の意志を刈り取りながら、オディオは淡々と言葉を継ぐ。
 その内容は、殺人ゲームとも呼べるバトルロイヤルの説明だった。

「説明が終わり次第、君達を無作為に、孤島の各所に転移させる。
 そこで、生存者が一人になるまで互いに殺し合って貰う。
 転移と同時に食料、水、地図や武器などは支給する。思うままに使い、命を奪い合え。
 死者は零時、六時、十二時、十八時に発表する。そして発表ごとに、進入禁止エリアを設ける。
 尚、孤島の外は最初から進入禁止エリアであることを覚えておけ。
 次に、禁止事項を挙げる。
 首輪を無理に外すこと。あるいは、首輪を破壊を試みること。進入禁止エリアに進入すること。
 これだけだ。これらに反した者の首輪は、爆発する。
 また、死者が出ない状況が二十四時間続いた場合、全ての首輪は爆発する」

 一挙に告げると、オディオは参加者となる人々を眺め眇める。
 静まり返った彼らに向ける威圧感はそのままで、オディオは口角を持ち上げた。

6オープニング案 ◆6XQgLQ9rNg:2008/08/26(火) 23:09:03 ID:6T0fgeTM0
「最後まで生き延びた者は褒美として、本来在るべき世界に帰してやろう。そして――」
 無表情だった相貌に、歪で昏い変化が現れる。
 戦慄を感じずにはいられない、凄惨な笑みだった。 

「どのような薄汚い欲望でもよい。何でも望みを叶えてやる。
 自らの欲を満たすのは、勝者に与えられた絶対的な権利なのだからなッ……!」

 歪んだ笑みから伺える感情は、やはり憎悪でしかない。
 あらゆる感情を憎悪に置き換えたような凄絶さで、オディオは言い放つ。

「さあ、存分に殺し合え。欲望のままに、醜く傷つけ合い惨めに奪い合い無様に壊し尽くせ!
 見知らぬ人間を信用するな。奴らは皆、自身の為ならば他者を蹴落とすことを由とするッ!
 仲間である人間を信用するな。奴らは皆、欲望に身を任せ裏切ることを厭わないッ!
 そして、思い知るがいい。人間の浅薄さを、愚劣さを、醜悪さをなッ!!」

 人間に対する、あらん限りの憎悪を叩きつけるようにして。
 苛烈で強烈で痛烈な感情を剥き出しにし、オディオが右手を振りかざす。

 それが、開幕の合図だった。多数の人影が、闇に包まれ消えていく。
 まるで、憎悪に呑み込まれるように、消えていく。

 その光景を、オディオは――オルステッドは、最後まで見つめていた。
 
【バトル・ロワイアル 開幕】

【ワン・タンナベ@LIVE A LIVE 死亡】
【クリフト@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち 死亡】

【残り 54名】

7テンプレ:2008/08/31(日) 02:00:37 ID:e7WJUyP60
このスレはRPGゲーム(SRPGゲーム)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画スレです。
作品の投下と感想、雑談はこちらのスレで行ってください。


RPGロワしたらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/


テンプレは>>2以降に

8テンプレ:2008/08/31(日) 02:01:18 ID:e7WJUyP60
参加者リスト

7/7【LIVE A LIVE】 
○高原日勝/○アキラ(田所晃)/○無法松/○サンダウン/○レイ・クウゴ/○ストレイボウ/○オディ・オブライト
7/7【ファイナルファンタジーVI】 
○ティナ・ブランフォード/○エドガー・ロニ・フィガロ/○マッシュ・レネ・フィガロ/○シャドウ/○セッツァー・ギャッビアーニ/○ゴゴ/○ケフカ・パラッツォ
7/7【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】 
○主人公(勇者)/○アリーナ/○ミネア/○トルネコ/○ピサロ/○ロザリー/○シンシア
7/7【WILD ARMS 2nd IGNITION】 
○アシュレー・ウィンチェスター/○リルカ・エレニアック/○ブラッド・エヴァンス/○カノン/○マリアベル・アーミティッジ/○アナスタシア・ルン・ヴァレリア/○トカ
6/6【幻想水滸伝II】 
○2主人公/○ジョウイ・アトレイド/○ビクトール/○ビッキー/○ナナミ/○ルカ・ブライト
5/5【ファイアーエムブレム 烈火の剣】 
○リン(リンディス)/○ヘクトル/○フロリーナ/○ジャファル/○ニノ
5/5【アークザラッドⅡ】 
○エルク/○リーザ/○シュウ/○トッシュ/○ちょこ
5/5【クロノ・トリガー】 
○クロノ/○ルッカ/○カエル/○エイラ/○魔王
5/5【サモンナイト3】
○アティ(女主人公)/○アリーゼ/○アズリア・レヴィノス/○ビジュ/○イスラ・レヴィノス

【残り54名】

9テンプレ:2008/08/31(日) 02:02:46 ID:e7WJUyP60
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAPのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に2エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0087.png

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

10テンプレ:2008/08/31(日) 02:03:24 ID:e7WJUyP60
【予約に関してのルール】
・したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行います。
・予約は必須です。予約せずに投下できるとしても、必ず予約スレで予約をしてから投下してください。
・修正期間は審議結果の修正要求から最大三日(ただし、議論による反論も可とする)。
・予約時にはトリップ必須です。また、トリップは本人確認の唯一の手段となります。トリップが漏れた場合は本人の責任です。
・予約破棄は、必ず予約スレでも行ってください。

【議論の時の心得】
・議論はしたらばの議論スレでして下さい。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。

【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全て議論スレで行う。本スレでは絶対に議論しないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は、修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
・誤字などは本スレで指摘してかまいませんが、内容議論については「問題議論用スレ」で行いましょう。
・「議論スレ」は毒吐きではありません。議論に際しては、冷静に言葉を選んで客観的な意見を述べましょう。
・内容について本スレで議論する人がいたら、「議論スレ」へ誘導しましょう。
・修正議論自体が行われなかった場合において自主的に修正するかどうかは、書き手の判断に委ねられます。
 ただし、このような修正を行う際には議論スレに一報することを強く推奨します

11名無しさん:2008/08/31(日) 02:04:04 ID:e7WJUyP60
【書き手の注意点】
・トリップ必須。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので必ず付けてください。
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない

書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
   その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効
 携帯からPCに変えるだけでも違います

12名無しさん:2008/08/31(日) 02:04:34 ID:e7WJUyP60
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。

13ダブル・ナイトメア ◆jtfCe9.SeY:2008/09/04(木) 22:08:44 ID:HUuOLlZk0
闇が全てを支配しているこの深い深い森の中。
その闇に溶け込むような全身が黒づくめの男がそこに居た。
木に寄りかかったまま微動だもしない。
まるで生きていないような錯覚に陥るような印象がある。

その男の名はシャドウ。
最もそれは本名ではない。
「影」を意味するその偽名。
それこそ今の彼を象徴するものだった。

そしてシャドウはただ考えていた。
オディオと名乗るもの。
そして死んでいった二人の人間。
極めつけは殺し合いの強制。
そんな傍から見たら非日常な風景。

その中でシャドウが選ぼうとする選択は……?

その時一つの風が吹いた。
風を受けざわめく木々。
木の葉が擦れ合う音が響く。

が。

その刹那。


「………………」

木々の間から飛び出す新たな影。
その動きはかまいたちの如き速さでシャドウの背後に迫る。
そしてその襲撃者は死神の鎌を振るうが如くシャドウの首筋に己の獲物である短刀を振るった。
神速の一撃。
それは迷うことなくシャドウの首を狩ろうとする。

「………………!」
「………………!?」

だが死神の鎌は首を刈ることができなかった。
シャドウはそれはたやすく自らの短刀で受けとめてていた。
振り返らず空気をだけを読み背中に短刀をやり死神の鎌を受け止めていたのだ。
ほんの刹那の事である。

「………………」

襲撃者は奇襲に失敗した事に驚きつつもすぐに撤退を開始する。
一撃で仕留められ無かったのだ、ここで無駄に戦闘して体力を失う事は下策と判断。
そして襲撃者にとってシャドウは同業者である判断した。
そう、その職業は一撃必殺を誓う「暗殺者」
それ故に撤退を選択した。
襲撃者の行動は迅速で一撃を振るって数十秒も立たないうちにまた闇へと姿を消した。

それをシャドウは追おうとしない。
シャドウも襲撃者が同業である事に気付き追いつくことは無理だと判断した為だ。

そしてほんの数分前と変わらない静寂がまた森を支配した。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

14ダブル・ナイトメア ◆jtfCe9.SeY:2008/09/04(木) 22:09:37 ID:HUuOLlZk0






襲撃者はシャドウから距離を置いて事を確認すると殺し合いが始まった時の事を思い出す。
名簿に最も大切な人の名前が書かれていた。
名前はニノ。
襲撃者――ジャファルにとって殺人以外に生きる意味をくれた大切な少女。
その大切なニノが殺し合いに巻き込まれていた。

ジャファルにとって自らが殺し合いに巻き込まれる事などいとわない。
何れ訪れる事だと。
暗殺を繰り返し続けて何れ自分も殺される。
それがこの殺し合いの舞台になるかもしれないだけの事。

だがニノはそうじゃない。
ニノは生きないと駄目だと。
ジャファルは唯そう思った。

だからジャファルは唯思う。

ニノを生かすと。

他の参加者を殺しニノを優勝させる。
それが不器用なジャファルがニノにできる事だと。
それしか考えられなかった。


「…………………………ニノ」

だからジャファルは行く。

「死神」の異名持つ自分の力でニノを生き残らせる為に。

唯。

唯。

その心にはそれしか宿らなかった。


【E-2 森林 一日目 深夜】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
2:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A時点から参戦




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

15ダブル・ナイトメア ◆jtfCe9.SeY:2008/09/04(木) 22:10:28 ID:HUuOLlZk0







(…………………………)

シャドウはジャファルの襲撃を退けた後森を用心に進んでいた。
この殺し合い。
シャドウにとっては唯の日常だった。
仕事と同意だと。
パートナーであるインターセプターがいない事は気がかりだったが。
でもシャドウはそれでも変わらなかった。
影に生きる者として。
選ぶ事は一つ。

殺し合いに乗り優勝する事。

もとい殺人に躊躇いなどない。
迷う事などなかった。
ここが死場になるかは自分の腕次第。
先ほどのジャファルの様な腕のたつ者が他にいるのら気を引き締めないといけないと。



「……………………」

そしてシャドウは行く。
己が悪夢に終止符を打てる事を期待して。

唯。
唯。
進んでいた。


【D-2 森林 一日目 深夜】
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:健康
[装備]:アッサシンズ@サモンナイト3
[道具]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いに乗り優勝する。
1:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
2:知り合いに対して……?
[備考]:
※名簿確認済み。

16癒しの乙女達と魅惑の支給品 ◆b1F.xBfpx2:2008/09/04(木) 22:30:07 ID:sbD4l98I0
褐色の肌に流れるような紫紺の髪の黒き百合―ミネアは神殿の中にいた。その手に持つのは、
参加者達に渡された支給品の一つである地図。光源無しで確認するのが困難であった為、彼女は危険を承知で
支給されたランタンの灯を灯したのだった。
(私の現在いる場所は、おそらくC-8という場所でしょうか…)
壁の少ない神殿から見える外の景色と地図の内容を照らし合わせて、現在位置を把握する。
次に参加者の名簿を開いて内容を把握する。一見淡々と行動しているように見えるが、それは同時に何か辛い現実から
目を背けようとしているようにも見えた。
(クリフトさん……)
思うのは先ほどの広間で死んでいった仲間の事。無残に殺された人を蘇生させようと懸命に呪文を唱えようとしたのは、
神官である彼らしい行動だった。なのに、あの魔王を名乗った青年は、遊び飽きた玩具を捨てるかように彼の首を刎ねたのだ。
(アリーナさん…きっと今泣いているかもしれないわ)
首を刎ねられた彼が密かに愛していた姫…アリーナは彼が死ぬところを目の前で見てしまったのだ。それが彼女にとってどれだけショックの大きいことなのかは計り知れない。
彼女もこの島のどこかに飛ばされているのなら、誰かが支えてやらなければ…
そのためにも、今は出来る限りの情報を集め、早く彼女や仲間と合流しなければならない。
ミネアは再び名簿に目を向ける。その時、誰かがすすり泣く声が聞こえはっと周囲を見渡した。


「うっうっ…先生…」
アリーゼは神殿の中央に設置されたテーブルの下で泣き続けていた。どうしてこんなことになってしまったのか、何故殺し合いなんてしなければいけないのか。
彼女自身、今までいくつもの困難を乗り越えてきていたが、さすがにこの理不尽な状況には耐えられなかった。
気が付いたらあの大広間にいて、オディオという男に殺し合いをしろと言われた。最初何がどうなっているのかわからなかったので、彼の言葉も
理解出来なかったが、直後に彼に逆らった男が殺され、男を生き返らせようとした(それも信じられなかったが)聖職者風の男の人も殺されて、
初めて今置かれている状況に気が付いたのだった。そしてすぐまた闇にのまれて、気が付いたら此処にいたのだ。
そこは自分のよく知った場所――集いの泉だった。
そこで、自分のいる場所を理解し傍に置かれたデイバックを見た途端、急に感情が溢れだした。不安、恐怖、疑問…いくつもの感情がこみ上げてきて、
涙となって頬から伝う。僅かな理性で人に見えるところにいるのは危険と判断してテーブルの下にもぐり、現在に至るわけである。
「私……殺し合いなんてっ……どうしたら…」
最近は改善されてきたものの、元々人見知りが激しく慣れない環境に弱い彼女には、この殺し合いというゲームは酷だった。
不安に押しつぶされながらただただ泣く事しかできなかった…。
「先生……」
「……どうしたの?」
ふいに声をかけられて、思わず「ひっ!」と声を上げてしまう。今の自分は武器も持っていない。もしこの人が殺し合いに乗ってたら…
そんな恐怖に駆られたアリーゼは、腰を抜かしながらもずるずると後ずさりした。
「こっ殺さないで……」
僅かな勇気を振り絞ってか細い声で拒絶する。しかし、それに対して女性と思われる声の主は、優しい言葉で返した。
「大丈夫よ、私はあなたを殺したりしないわ。だから落ち着いて…ね?」
暗い神殿の中で彼女の持ったランタンが、二人の姿を照らし出した。

17癒しの乙女達と魅惑の支給品 ◆b1F.xBfpx2:2008/09/04(木) 22:30:50 ID:sbD4l98I0
「…落ち着いた?」
「は…はい…怖がったりして、すみませんでした…」
「気にしなくていいわ。こんな状況じゃ怖くなっても仕方がないもの」
ミネアの優しさに安心したアリーゼは、彼女に寄り添うように備え付けられた椅子に座っている。
彼女を落ち着かせながら、お互いの情報を交換することにしたのだ。
話をしていくうちに、お互いが全く別の世界の住人であることが判明した。異世界の存在が身近にあるアリーゼはそれほど驚かなかったが、
ミネアの方はかなり驚かされた。自身も魔界と呼ばれるような地底世界に行ったことはあるが、完全な異世界となると話は別だった。
この殺し合いに参加している者達は、皆異世界から召喚されているのだろうか…だとしたら、あの魔王オディオという人物は、一体どれほどの
力を持っているのだろうか…。
「……ミネアさん?」
彼女の深刻な顔に、アリーゼが心配そうに顔を覗き込む。
「あ…ううん、大丈夫よ。少し考え事をしていただけだから…」
ミネアもそれに気付き、心配かけまいと明るく答えた。

それから二人は自分達の現在位置や殺し合いに参加している自分達の知り合いの事、これからの行動方針などについて話し合った。
「それじゃあお互いの知り合いは、私はユーリルさん、アリーナ、トルネコさん、ピサロさん、ロザリーさん。
 アリーゼちゃんはアティ先生、アズリアさん、イスラさん、ビジュさんね?それで、その中で注意した方がいいのは
 ビジュさんとイスラさんにピサロさん。ここまではいいわね?」
「はい、ビジュは多分こういうことには喜んで参加してしまいそうな感じがします。イスラは…何を考えているのかよくわからなくて…
 でも、二人共とっくに死んでいるはずなんです。なのにどうして…?」
「私の世界には、死者を蘇らせる呪文や道具があるの。あのオディオという人が私達を集められたのなら、私達の世界の道具を手に入れることもできるんじゃないかしら?
 とりあえず、その二人に会った時は気をつけるようにしましょう。ピサロさんもロザリーさんが無事なら大丈夫だとは思うけど、
 もしロザリーさんに何かあった時は、十分注意した方がいいと思うわ。」
ピサロは元々人間を憎んでいる。もし参加者の誰かにロザリーを殺されでもしたら、彼は暴走して皆殺しをするだろう。それだけは避けたいところである。
しかし、ロザリーを保護するにも、非力な自分達が大きく行動するのは危険だ。それにアリーゼの保護者であるアティと合流して、彼女を安心させてあげたい。
「……あの、ミネアさん」
ミネアが悩んでいると、アリーゼが声をかけてきた。その顔には何か決心したような雰囲気もある。
「あの…私は大丈夫ですから、先にロザリーさんを探しましょう。」
「え?」
思いがけない言葉に、一瞬戸惑うミネア。しかし、アリーゼを彼女の回答を待たずに続ける。
「このまま放っておいて、ロザリーさんが殺されたら、ピサロさんが乗ってしまうかもしれないんでしょう?だったら先にロザリーさんを見つけて、
 ピサロさんを安心させてあげた方が良いです。先生もアズリアもとても強いし、きっとまたすぐに会えますから…だから早くロザリーさんを…」
「わかった、わかったわ。あなたがそれでも大丈夫だと言うのなら、そうしましょう。でも、まず自分の身を守れるようにしないといけないわ。
 探す前に私達が死んでしまったら、元も子もないでしょう?」
なおも喋り続けようとするアリーゼを落ち着かせ、お互いの支給品を調べるように促した。焦る気持ちもわかるが、焦っていても良い事はない。

18癒しの乙女達と魅惑の支給品 ◆b1F.xBfpx2:2008/09/04(木) 22:32:42 ID:sbD4l98I0
まずは自分達の身を守れるようにしなければならない。場も静かになったところで、二人は支給品の確認をすることにした。
先にミネアが支給品を取り出す。出てきたのは、なんだかよくわからない鉄の道具と紫色の綺麗な宝石、それに首飾りだった。
「それって…もしかしてサモナイト石ですか?」
横で見ていたアリーゼが、宝石を指差しながら言った。
「サモナイト石?」
「はい。召喚術を使う時に使う魔法の石なんです。…ちょっと貸してもらえませんか?」
そう言ってアリーゼが手を差し出したので渡すと、彼女は宝石を両手で包み、瞑想を始めた。
「……やっぱりサモナイト石です。これは…天使ロティエルですね。」
「天使?その宝石で天使が呼べるの?」
はいと答えて、目を開けたアリーゼがサモナイト石を返す。そして、サモナイト石について説明した。
サモナイト石とは、アリーゼの世界であるリィンバウムに隣接した4つの世界のゲートを開き、そこに住む住人を召喚するのだという。
リィンバウムではサモナイト石は貴重ではあるが一般に認知されているものらしい。改めて、異世界の力の凄さを思い知らされた。


次にアリーゼが支給品を確認する。彼女の支給された品は、工具セットに毒蛾を模した装飾のされたナイフ、そして……
「………」
「…あの、これって一体…」
二人ともなんともいえない顔で、最後の支給品を見つめている。アリーゼの持つその品とは……





ブラジャーだった





どうみても女性用の下着にしか見えないそれを手にしたまま、二人は暫く何も言えないでいた。
すると、ブラジャーに引っかかっていた紙切れのようなものがすり抜け、カサリと地面に落ちた。
それに気付いた二人が紙切れを広げる。そこには短い文章でこう書かれていた。



『みわくのブラ…装備することでいろじかけの成功率UP』

19癒しの乙女達と魅惑の支給品 ◆b1F.xBfpx2:2008/09/04(木) 22:33:33 ID:sbD4l98I0
【C-8 神殿(集いの泉) 一日目 黎明】

【ミネア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:健康、唖然
[装備]:無し
[道具]:ブラストボイス@ファイナルファンタジーⅥ、天使ロティエル@サモンナイト3、サラのお守り@クロノトリガー、基本支給品一式
[思考]
基本:自分とアリーゼの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:いろじかけって……
[備考]
参戦時期は6章ED後です。

【アリーゼ@サモンナイト3】
[状態]:健康、泣いた事による疲労(小)、唖然
[装備]:なし
[道具]:工具セット@現実、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、みわくのブラ@クロノトリガー、基本支給品一式
[思考]
基本:自分とミネアの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:あっあのぅ……
[備考]
参戦時期はED後です。どのEDかはお任せします。(ただし、イスラEDではありません)

20 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:20:44 ID:7eewbtkA0
アク禁ためここに投下します

21 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:26:11 ID:7eewbtkA0
「どうして、こんな酷い事を……」
山の中を歩く少女はポツリと悲壮に満ちたため息を漏らす。
少女の中で思い浮かぶのは先ほどの光景。
オディオと名乗る主催者相手に勇敢に立ち向かった少年の死、そして無残な姿へと変貌した少年に駆け寄る神官の死。
二人の死にリーザの心境は複雑に交差する。
もしかしていたら、自分も彼らのようになっていたかもしれないのだ。

少年が死んだとき、リーザは彼らの死を呆然と眺めていた。
リーザは突然の事に呆気に捕らわれていたけど、思考が戻るとすぐに神官と同じように少年に駆け寄ろうとした。
シュウの「行くな」という言葉が耳朶を打つが、無我夢中に駆け寄ろうとしていた。
無理だと分かっていながらも、今ならまだ間に合うかもしれない。
そんな矛盾めいた願いの下、リーザは足を速めた。
でも、それは叶う事はなかった。

後、十数歩という目の前で、神官姿の男性の首が弾け飛んだのだ。
目に焼き付かれる陰惨な光景にリーザはわなわなと唇を震わせ、その場に崩れ落ちる。
「クリ、フト……。クリフトォ――ッ!!」と、彼の知人なのか、女性の叫び声が聞こえる。
とても親しい間柄だったのだろう、その声は悔しさと悲しさが入り混じった、とても聞くに堪えない悲しいものだった。
「そんな、どうして……」
リーザは放心状態のまま、ポツリと涙を混じらせ、言葉を漏らす。
そして、気づいたときには漆黒の広がる林の中にいた。

22 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:30:03 ID:7eewbtkA0
その光景を思い出すたび、リーザは思う。
クリフトと呼ばれる青年はただ少年の安否を気遣っただけなのだ。
私と同じように無理だと分かっていながらも、
少年のために傷を施しに行っただけなのに…無残にも殺されたのだ。
彼はたった一人だった。少年の一方的な惨殺の前に皆が恐れおののく状況の最中、
たった一人の救済者だったのだ。
勇敢で心優しい行為の目の前で、どうしてオディオはこんな酷い仕打ちを与えるだろうか。
多くの者は彼を命知らずの愚か者と感じるだろう。
でも、リーザは違った。彼の行いは勇敢で心優しいものだった。
この行為によって少年の魂は救われたに違いない。
だからこそリーザは決意する。
絶対に魔王オディオを許さないと。
そして、少年を慈しんだ彼のように―――皆を救いたい。
クリフトのように勇敢に立ち向かえるようになる。
一番最初に怪我人に駆け寄る強さを受け取りたい。
そう、リーザは心に誓ったのだった。

23 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:32:13 ID:7eewbtkA0
リーザはそんな決意を胸に詰め込み、また足を進める。
今、彼女が向かっているのはこの地点から最も近い砂漠の塔であった。
エルクやシュウ、トッシュ、ちょこを含む、
この殺し合いに乗らない人たちに会い、オディオに対抗する方法を考えなければなかった。
リーザは人が集まりそうなところへと茂みを掻き分け押し進んだ。
前方に広がるのは漆黒の闇。
不吉な予感を想像させる黒い空間にランプの明かりを照らし、道を切り開き、ただひたすら西に向かった。

その途中、不意に全身にへばりつく邪悪な気配がリーザを襲う。
誰に見られている。圧倒的な殺意を巡らし、今にも私に襲い掛からんとしている。

「誰!! 近くにいるのは!!」

リーザはまだ見ぬ監視者に対して声を大きくは張り上げる。
叫び声が森閑とした周囲に響き渡る。
そのとき、リーザの目の前に突然大男が姿を現す。
その男の姿は背丈二メートル以上ありそうなほど巨躯であり、
上半身は裸に髪型はスキンヘッド、そして、恐持ての顔つき。
外見上どう見ても友好的には見えない上に、常に付き纏う異質のオーラにリーザは一歩距離を引いた。

24 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:34:23 ID:7eewbtkA0
「よく気づいたな。女とはいえなかなか勘が鋭いな」

「あなたは何者ですか?」

異質なオーラを放つ男にリーザは問いかける。
それは名前を問う質問ではない。
この男自身の存在を問う質問。

「あなたから放たれる異質な力……人とは思えないその力……何者です?」

「ほう、そこまで分かるのか? 私が“人”ではないことが」

リーザの目の前にいるのは最強を目指すがうえに人を捨て、
己を魔人へと変貌させたオディ・オブライトであった。
オブライトは自分の正体を見破った少女に感心しながら、
リーザの全身を嘗め回すような目つきで見据え、呟く。

「勘がいいようだが、俺を満たすには少々物足りないな」

蛇を想わせる狡猾な視線に身震いを覚えながらも、リーザは言葉の意図を尋ねる。

「どう言う意味ですか?」

ニタニタと笑みを浮かべ、オブライトはか弱い少女を見下ろす。

25 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:36:55 ID:7eewbtkA0

「ふ、教えてやろうかぁ? お前の身体に興味があるのだ」

オブライトのおぞましい答えに吐き気と供にリーザはヒッと一瞬声を漏らした。
貞操の危機にナイフを構え、警戒心を高める。

「はっはっはっは、何を怯えているのだ? 勘違いするなよ…俺はただお前の戦闘能力に興味があるだけだ。
 ひょろひょろのガキ相手では俺の心は満たせない。
 『最強』を目指すためにも……己の『最強』を誇示すためにもなッ!!」

オブライトはリーザに見下したような高笑いをあげる。

「つまり、あなたは殺し合いに乗っていると?」

リーザは自分の不運を嘆きながらも問いかける。

「無論だ……だが、雑魚には興味がない。
 ただ俺が求めるのは『強者』のみだ。
 まあ、俺に歯向かうなら相手をしてやってもいいぞ…女」

そう、言葉を終わらせるとオブライトはこの殺し合いの最中、無防備に背を向け歩き出す。
完全に彼女から興味を失ったのだ。無防備にも背を向けたのはリーザに対する戦力外通告であった。
幸な事かリーザは魔人オディ・オブライトの魔の手から逃れたのであった。
リーザは漆黒の林の中へと消えていくオブライトの後ろ姿を黙って見つめていた。
現状況で戦闘すれば、敗北は必死であった。
リーザ自身戦闘能力はあるが、回復や魔法といった後方支援に適しているのだ。
ここで戦闘をするのは愚の骨頂ともいえる。

26 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:38:59 ID:7eewbtkA0

「止まりなさい」

だが、リーザは高らかに声を上げオブライトを引き止める。
オブライトは声に反応し、後ろを振り向く。

「殺し合いに乗るというなら私はあなたを止めます。
 仲間を傷つけさせないためにも私は全力で立ち向かいます」

そこにはナイフを前に構えるリーザがいた。
リーザは決意したのだ。
もうあんな悲しみを生まないためにも。
後悔しないためにも。
勇敢に立ち向かった人々の意思を無碍にしないためにも。
死の覚悟を決め立ち向かった。

27 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:40:55 ID:7eewbtkA0

リーザは宣戦布告と同時に魔法を詠唱の構えをとる。
唯一の攻撃呪文『アースクエイク』を唱える。
相手の距離は離した、この距離なら先手はこちらにある、そうリーザは考えていた。

「がががぁあああ!!」

と、言葉と同時にリーザの身体が宙を舞った。
一瞬の出来事であった。
気づいたら一気に間合いを詰められていた。
気づいたら胸部に男の豪腕が突きつけられていた。

「…うがぁ」

胸に重い衝撃が伝わる。
リーザはあまりの激痛にその場に蹲る。
その衝撃は呼吸器官を弾圧し、リーザの呼吸を見る見るうちに奪っていく。
リーザは見誤ったのだ。圧倒的な戦力差に開きあるという事に。
その巨躯に似合わぬ俊敏さで詰め寄ってくる速さを持っている事に。
そして、最大の敗因――――

「ふ、愚か者め、お前如きにこの俺が倒せると思ったのかッ?」

地面にひれ伏すリーザの腹を蹴り上げる。口元から吐血がにじみ出る。

「この状況下わざわざ宣戦布告する馬鹿がどこいるのだッ!!」

28 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:46:19 ID:7eewbtkA0
漆黒の森を駆け抜ける一つの足音。
静寂広がるこの森で騒ぎの声を聞きつけ、疾風のごとく駆けつける。
叫び声を聞きつけるといなや、足を奮い立たせ、全速力で声の方向へと進んだ。
暗闇慣れた目は次第に騒ぎの現状を目に焼き付けられる。
そこに見えるのは刺青の背中に大柄の男。
片手で何か持ち上げている?
その姿は空に蒼く光る月に照らされ、神に祈りを捧げているように見えた。
駆ける男は祈り手の先を見る。それは神に祈りを捧げているようなものではなかった。
それは、邪教の儀式のようだった。その手には……。
ヘクトルはそれを認識すると剣を引き抜き、一気に踏み込み、背を向ける男に縦に振りかぶる。

「このクソ野郎が!!」

ヘクトルの完全に男の脳天を捕らえる。アーマーナイトの鎧さえ貫ける剛の一撃が放たれる。
だが、その一撃は防がれる。

「何!!」

29 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:49:44 ID:7eewbtkA0
ヘクトルはあまりの突飛な出来事に驚愕する。
得意の武器である斧でないにしろ、ヘクトルの攻撃は豪腕の一撃。
その威力は相手を一刀両断できる凄まじいものだ。
だが、それを両腕に着けられた小手だけで防がれたのだ。
普段ならこの腕ごと叩き割る自信があるのだが。
目の前の出来事は驚愕としか言えない。

それもそのはず、男は装備する小手は名工――源氏の小手。
柔な武器では傷一つ付ける事が出来ない代物であった。

「ほう、気配の消し方といい、その踏み込みといい。
 この俺を楽しませてくれそうではないかッ!!」

すかさず、魔人オブライトは反撃の一撃を加える。
ヘクトルはそれを体の捌きで避け、間合いを離すため後ろに大きくステップする。

「つるっぱげ…てめぇ、女を殺したのか!?」

ヘクトルはオブライトを睨め付け、剣を構えながらじりじりと横に移動し、お互いに間合いを維持する。

「いい目をしている。多くの死線を潜った鋭い目つきだ」

「質問に答えろ、なぜ殺したんだ?」

「ああ、殺したどうかは分からんが、瀕死に違いないだろう。だが、勘違いしては困るな。
これは正統防衛だ。あちらから俺に立ち向かってきたのだよ」

「信じられると思うか」

激昂の限り睨み付けるヘクトルの気迫を無視し、言葉を続ける。

「信じるかどうかはお前しだいだ。それにしてもあまりで脆弱で反吐が出そうだった。
 つまらん女だった。……だが、お前は大いに楽しませてくれそうだ」

30 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:54:11 ID:7eewbtkA0

オブライトは地面を蹴って、ヘクトルへと踏み込み、鳩尾に掌打を打つ。
その踏み込みの速さは砲弾を連想させる。
突然の攻撃にヘクトルは咄嗟に剣を側面にして、その攻撃を防ぎ切るが、
その勢いを殺しきれず、ガードを崩す。
その瞬間、オブライトの掌打が連続して放たれる。
その威力は鎧に守られているにもかかわらず、大地がゆっくりと砕けるような衝撃が胸に伝わる。
オブライトにとって鎧など紙切れに過ぎないのだ。
長年修行した気の力によって、波紋の如く衝撃を浸透させる。
鎧通しと呼ばれる日本古来から伝わる技法。

ヘクトルの巨躯が軽々しく吹き飛ばされてしまう。
オブライトは追撃に入るべく、大きく跳ねとび、顔面目掛け拳を振り上げる。
地面を転がるヘクトルは体勢を立て直すと、同時に足と体を捌かせ、オブライトの打突ポイントをずらす。
オブライトの拳は目測の地点とは大きくずれ、地面に叩きつけられる。
拳の重圧によって、地面の枯葉が高く舞い上がる。
その一瞬の隙を狙い、ヘクトルの刃が首元を狙う。
普通ならここで決着が付くのだが、オブライトは両手を交差させ、小手で受けきる。
それはあまりに暴力じみた反射神経。人間の所蔵と思えない、人間の範疇を超えたものであった。

31 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 08:56:12 ID:7eewbtkA0

「クソが、人間とは思えねえぜ」

オブライトはすかさず無防備になった身体に前蹴りを食らわせる。
前蹴りのよって、宙に吹き飛ばされる最中、ヘクトルは焦っていた。
こんなところで、油を売っている場合ではないのだ。
すぐにでも、少女の安否を確認したいのだが、目の前の敵はあまりに規格外。
怪我人に構っていられるほど余裕はない。自分の死を覚悟せざるえないほど男は強い。
ヘクトルは苦戦を強いられていたのだ。
本来の得意の武器でない上に、付き纏う焦燥感。
その二つがじわじわとヘクトルを縛り付ける。

「どうしたあ? 動きが鈍くなってきたぞ?」

一方的な攻撃の前にヘクトルは防御のみに絞られる。
ヘクトルはこの不利な状況を打破する答えを搾り出す。
だが、その答えは―――

「はああああああああああッ!!」

拳と剣がぶつかり合う。
その瞬間、ヘクトルの唯一の武器鋼の剣が砕け散った。

―――金切り音と同時に闇の中へと消え去った。

32 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:01:10 ID:7eewbtkA0

ここからは一片の隙も与えない攻防であった。
いや、それは紛れも無く一方的な虐殺であった。
ヘクトルはなされるがまま、オブライトの攻撃を一身に受ける。
いくら抵抗しようが、ガードは崩され、全身のいたるところに拳を浴びせられる。
ヘクトルとはいえ、武器を失った時のために格闘術は一通り習っていた。だが、それを上回るオブライトの格闘術。
急所だけは何とか避わし、意識だけは失われないようにしていたが、そろそろ体力は限界に近づいて来ていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、まだ俺は倒れて…いやしねえぞ、つるっぱげが!!」

ヘクトルは立つのもやっとであった。
むしろ、生きているのすら不思議なほど満身創痍であった。
オブライトはにやりと頬を持ち上げ、止めの一撃を顔面に食らわせる。
顔面が陥没必至の一撃。
ヘクトルの死は確定的であった。

33 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:07:51 ID:7eewbtkA0
だが、それは確定することなく防がれる。

「なにぃッ!?」

足元から隆起した鋭い岩片がオブライトを襲う。
オブライト突然ことに足元の自由を奪われ、傷を負うが、
すぐに状況を理解するため周囲を見渡す。
そして、目に映るのは立つのもやっとの女がオブライトを見据える光景。

「女、よくも俺の邪魔を……」

オブライトはすぐにでも地を踏みしめ、リーザの元へと間合い詰めようとする。
だが、その一瞬の隙が。

「やらせはしないぜ!」

オブライトは振り向く。身体に何かが貼り付けられている。
それは、ハゲワシの羽に似た見た事もない代物。
『キメラの翼』が突きつけられていた。
その瞬間、翼が砕け散り、効果を及ぼす。
オブライトの巨躯が宙を舞う。
刹那、高速でどこか彼方に飛ばされたのだった。

34 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:12:33 ID:7eewbtkA0
ヘクトルは空高く舞い上がるオブライトを眺める。
奴の突然の驚きようは死に逝く自分にとって、手土産になるだろう。
エリウッド、リン、そして―――フロリーナ…すまねえ…俺はここで退場だ。
そう、思いながら、ヘクトルはそのまま大の字に倒れる。
肉体が軋みを上げ、自分だけが分かるレクイエムを奏でる。
そこに、ふらふらと身体を引きずって、ヘクトルの元に少女が駆け寄ってくる。
その全身の怪我は見るに痛々しい。
まあ、俺ほどじゃないけどな……。

「大丈夫か、すまねえな。もうちょっと早く駆けつければ無傷であんただけでも逃がせられたのによう」

「ごめんなさい、私のせいで……私のせいで…」

「へっ…俺が勝手にしでかしただけだ…それに女に泣かれるのは…。
 フロリーナだけで…じゅうぶんだ……かんべんしてくれ。
 まあ…また……泣かしてしまうけどよ」

そう、言葉を紡ぐと、心の中でもう一度最愛の者に謝った。
涙を浮かべるリーザは息も絶え絶えのヘクトルを見渡す。
立派に飾られた鎧に拳の跡が至るところに刻み込まれ、酷いものとなると捻り潰されているものもある。
それは明らかに相手の膂力の凄まじさを物語っていた。

35 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:15:54 ID:7eewbtkA0

「今すぐ、あなたを癒します。だから、心配しないで待っていてください」

「ああ……ありがてえ。いつでも待ってやらあ」

ヘクトルは悲しい嘘だと思っていた。ライブの杖もなしにすぐに傷を癒すことは不可能なのだ。
最後の最後まで俺を心配させまいとする心遣いだと。
だが、その認識は覆される。
リーザはその瀕死にヘクトルの姿を見ると詠唱の構えを取る。
優しい光がヘクトルの身体を包み込む。すると見る見るうちに傷が癒されていくのだ。
ヘクトルはライブの杖なしに魔法を使える事に驚愕し、リーザの顔を覗き込む。
その顔は汗だくで体調は優れていない。見る見るうちに生気が失っているようにすら見える。

「おい、お前!! 止めろ!! もしかしてお前……」

「ごめんなさい、いつもより…治癒力が…弱いの。
 でも…ホルンの魔女リーザ・フローラ・メルノが……。
 絶対に……あなたの傷を……治すわ…」

「止めろ!! 俺のことはいい!! あんたはあんたのこと心配するんだ!!」

36 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:17:42 ID:7eewbtkA0
ヘクトルは何度も声を張り上げ、治癒呪文を唱えるリーザを制する。
が、リーザは一心不乱に詠唱を続ける。
ヘクトルを『救う』ために。
あのときのように後悔はしないために。
クリフトのように勇敢になりたいために。
オブライトに打破された偽りの覚悟ではなく。
―――本物の覚悟を。
傷ついた身体を鞭打って唱え続けた。
これ以上魔力を使う事は死を意味していた。
だが、命を賭して、唱え続けた。

リーザの身体が大きく光ると、治癒力も大幅に増大し、
ヘクトルの満身創痍の身体は綺麗に治されていた。

「わ…たし…やり…ま……し………」

37 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:19:18 ID:7eewbtkA0

ヘクトルの元気な姿を確認すると、リーザは弱弱しい笑顔を見せ、その場に崩れ落ちた。
ヘクトルは崩れ落ちるリーザを咄嗟に抱える。金色の髪がさらさらと腕に流れ落ちる。
その身体はあまりに冷たく、軽かった。
紛れも無く死が訪れを意味していた。戦乱で何度も体験した人の死。
それが、今ここで訪れていた。

「おい!? どうしてなんだよ!! なぜあんたが死ぬ必要があるんだ。
 本当は俺が死ぬはずだった。それなのにどうして俺じゃなくてあんたが死ぬ事になるんだ。
 なぜだ……なぜなんだ!!」

ヘクトルは憤りと悲しみの入り混じった言葉を投げかける。
だが、腕の中の少女の耳には届かない。

少女は自分が救った者の腕の中で眠っている。
そのか細い死に顔は安らかのものだったのかは、彼女自身しか知らない。


【リーザ@アークザラッドⅡ 死亡】
【残り53名】

38 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:24:40 ID:7eewbtkA0
【F-5 森林 一日目 深夜】

【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)
[装備]:なし
[道具]:リーザの不明支給品1、聖なるナイフ@DQ、基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオをぶっ倒す。
1:仲間を集める。
2:オディ・オブライトを倒す。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※キメラの翼@DQは砕け散りました。
※鋼の剣@DQは刃が砕け散りました。

【??? 一日目 深夜】

【オディ・オブライト@LIVE A LIVE】
[状態]:両足に損傷(小程度)
[装備]:源氏の小手 @FF
[道具]:不明支給品1〜2個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:『最強』を目指すため最後まで生き残る。
1:強者と戦う、弱者には興味は無い
2:リーザを殺す
3:ヘクトルと再戦(生きていると思っていないが)
[備考]:
※魔法の存在を意識しました
※キメラの翼によって何処か遠くに飛ばされました(場所は次の書き手に任せます)

39 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 09:42:29 ID:7eewbtkA0
投下完了しました
タイトルは『遺志を継ぐもの』です

40 ◆O4VWua9pzs:2008/09/05(金) 19:22:19 ID:tLSDFSCE0
なんてこったいOTZ
代理投下された後なのに、致命的なミスをしてしまった
27と28の間にこれが抜けていた

オブライトは言う。
『最強』とはどんな状況下の中でも常に戦闘状態に構えるようにしなければならない。
食事の最中であろうが、酒を飲もうが、睡眠中であろうが、常にアンテナを張り巡らせ、戦いに備える。
日常的に闘気を張り巡らせるのだ。いかに強かろうが、隙を付かれ、殺されれば意味が無い。
死=敗北なのだ。
オブライトにとって油断は一切無い。

「覚悟が足りん……この雑魚がッ!!」

喉元を片手で掴み上げ、空中で首を締め上げる。

「あの世で後悔するがいいッ!! このオディ・オブライトに歯向かったことをッ!!」

首を締め上げられ、酸欠になりながらリーザは思った。
覚悟が足りない事を後悔していた。
オディオに殺された少年とクリフトを見て、決意していたはずなのに。
だが、魔人はその決意を暴力的に打破する。
私の決心はそんなものだったの?
意識を遠のくにつれ、後悔の念が更に湧き上がる。
私はまだ何も始まっていなかった。殺し合いをまだ意識していなかった。
次はそうならないようにする。だが、もう遅かった。
リーザは最後に思う。
ごめんなさい。皆私はもう…。
その言葉を心の中で言うとリーザは意識を失った。

+++


もし、wikiに収録された時、責任を持って直します

41神のみぞ知る ◆b1F.xBfpx2:2008/09/05(金) 23:04:41 ID:zUso7EiA0
暗い礼拝堂の中で、月の光に照らされて七色に輝くステンドグラスが眩しい…
僕は備え付けられた椅子にもたれかかりながら、ステンドグラスに描かれた女神を眺めていた。
女神は生きとし生けるもの全てに安らぎを与えるような微笑を浮かべている。でも、僕はその微笑を見ても別に安らぎはしなかった。
それは僕が一度死んで再び蘇った存在だからでも、元いた世界に神が存在せず、何かを崇めるような習慣がなかったからでもない。
微笑みを見ても何も感じない…ただそれだけだった。
「殺し合い、ねぇ……」
何気なく横に置いたデイバックから地図を取り出し、だらだらと端から端まで流し見た。
地図の端に教会という文字を見つけ、現在位置がF-1である事を知る。
口から出てくるのは溜め息ばかり。当然だ、僕にはそんなことに付き合う気も起きなかったのだから…。


僕はあの島でアティや姉さん達と対立し、最後まで共に歩む事を拒絶した。それは、僕の存在が皆を苦しめる事になると思っていたから。
小さい頃に無色の派閥によって一生病魔に苛まれる呪いを受け、家族から必要のない…邪魔な存在となった。
表面上は皆僕に優しく接してくれていたが、裏で厄介者扱いしていることはよくわかっていた。でも僕はそれを憎んだりはしなかった。
…むしろ悲しかった。悔しかった。周囲を苦しめてしまう自分が嫌だった。姉さんを軍人にしてしまう自分が憎くて仕方なかった…。
そこで僕は、自分の命を絶つ方法を探した。呪いの効果で自殺もできないこの命を絶つ方法を探し、そして見つけた。
二本の封印の魔剣の適格者となり、その魔剣の適格者同士ならば、お互いを殺す事ができるのだと。資格を持っていた自分は封印の魔剣を手に入れ、適格者となった。
魔剣の力で呪詛を抑えこむ事もできたので、更に行動範囲は増えた。後はもう一人の適格者を見つけて、自分を殺させるだけだった。
でも、僕を殺す事ができるもう一人の適格者のアティは、とんでもないお人よしだった。僕は彼女に僕を殺させようと何度も挑発して襲った。
だが、どれだけやっても彼女は僕を殺さなかった。僕が死んだ時に悲しまないようにと、姉さんの前でも卑劣な弟を演じて嫌われようとしたがだめだった。
結局、無色の派閥によって抑え込んでいた呪詛を解かれ、その反動によって死ぬという自分の計画を何一つ達成できない結末を迎えた。

42神のみぞ知る ◆b1F.xBfpx2:2008/09/05(金) 23:06:45 ID:zUso7EiA0
しかし、僕は確かに生きている…と言えるのだろうか?正確には、死んだのを無理矢理蘇らせられただけだ。あのオディオと名乗る魔王の手によって。
それにしても何故僕のような人間をわざわざ蘇らせて、こんな馬鹿げたことをさせるのやら。はっきり言って迷惑だった。
生きているだけで邪魔な存在だった自分が嫌で死んだというのに、今更呪いの解かれた状態で蘇ったところでどうなる?
姉さんやアティ達に会わせる顔があるわけがないじゃないか。第一何処とも知れない場所で、殺し合いに参加している時点で会えるわけがない。
じゃあどうすればいいのか……そんな事どうだっていい。僕が蘇っていることなんて姉さんが知るわけないんだし、死んでもいいかもしれない…
でも未だ誰も自分を殺しにやってこない。それじゃあ自殺でもしようかと思っても、不思議とやる気になれない。
「…名簿でも見てみるか」
それでもふと、他に誰が参加しているのか少し気になった。こんな馬鹿げたことに知り合いがいるとは思わなかったけど、
とりあえず名前だけでも知っておこうかと思った。
しかしそんな気持ちは、取り出した参加者名簿に目を通した時に変化することになる。
「……なんで姉さんの名前が?」
最初は見間違いかと思った。でも自分と同じ性も記載されていて、自分の名前のすぐ近くに書かれていたのだ。
更に近くにアティやビジュ(自分のように蘇ったのだろうか)など知っている名前もあった。これで別人だと思う方がおかしい。
何故だか知らないが、姉さん達もこの殺し合いの参加者であることは事実なのだ。
「とにかく姉さんを……」
と言いかけたところで、僕は動きを止めた。

…僕は今何を言いかけた?
(姉さんを助けに行かなきゃ…と)

誰を誰が助けに行くって?
(姉さんを……僕が…)

さっき自分で言ったじゃないか。僕に姉さん達に会う資格なんてないってさ…。
(それじゃあ姉さんを見殺しにするのか?)

それは……
(なら助けに行けばいいじゃないか…)

だから会うことなんて…
(だったら僕はどうするんだ?)

そのまま僕は暫く動かなかったが、ふとあることが思いついた。
僕が思いつた事は、誰とも共に行動せず、誰にも見られずにこの殺し合いを破壊する事。
首輪を解除し、ここから脱出してあの魔王を倒して姉さん達を解放する事。
その途中、危険分子…例えば殺し合いに乗った奴を見つけたら、排除する事。
これなら姉さん達に会わずに助けることができる。勿論絶対とは言えないが。
何にせよ、僕が姉さん達の前に現れない方がいいのは確かなんだ。
行動方針が決まったので、僕は早速準備に取り掛かった。まずは支給品の確認だ。
魔王を倒すのだから、武器がなくては話にならない。そう思い、自分に支給された品を確認する。
支給された武器は剣だった。禍々しくもどこか美しい輝きを放つ片刃の剣…少し前まで持っていた紅の暴君キルスレスを思い出させる剣だった。
僕はそれを手に持ち、荷物を纏めて教会を後にした。
僕の計画を知っているのは、微笑みを浮かべた女神だけだった……

43神のみぞ知る ◆b1F.xBfpx2:2008/09/05(金) 23:08:24 ID:zUso7EiA0
【F-1 教会 一日目 深夜】

【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:健康。
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品1〜2個(本人確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:誰にも見られずに首輪解除と脱出を行い、魔王オディオを倒してアズリア達を解放する。
1:首輪を解除する為に必要な道具または施設を探す。
2:途中危険分子(マーダー等)を見かけたら排除する。
3:極力誰とも会いたくない(特にアズリア達)
[備考]:
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。

44HUNTER×HUNTER   ◆iDqvc5TpTI:2008/09/06(土) 04:26:33 ID:8o6Z/Ke20
本スレで規制されたため、不足分込みの全文を、こちらで投下し直しておきます

45名無しさん:2008/09/06(土) 04:29:12 ID:8o6Z/Ke20
ただ、暗闇だけが広がっていた。
歩けども、歩けども、闇は晴れず、どこにも辿りつくことは無い。
それでも、何かから逃げるように光を求め、止まることなく進み続けた。

――エルク……

声が、聞こえた。
いつか、どこかで聞こえた声だった。
それまで自分以外には闇しか存在しなかった世界で、初めて他者を感じられたからか。
俺の足は自然とその声が聞こえる方へと進んでいた。

誰も、居ない。
前を、左右を、後ろを見渡せど、誰も、

「可哀相に、疲れてしまったんだねぇ」
「!?」

居た。

「生きるのなんて、つらい事なかりだ。こっちへおいで」
「父さん? ……母さんなの?」

死んだはずの母さんが。
殺されたはずの父さんが。
いつの間にか、俺の後ろに立っていた。
いや、父さんたちだけじゃない。

「ようっ、エルク」
「ジーン! 俺は……」
「わかっているさ。お前は俺達を殺した痛みを背負っていける程タフじゃない。生きるのなんかやめちまえ。楽になるぜ」
俺がこの手で殺した親友が。

「エルク、待っていたわ。此処で、一緒に暮らしましょ。此処はいいわよ、静かで」
好きだったのに助けられなかった少女が。

失った、全てが、そこには、あった。

きっとここは幸せな世界なのだろう。
それでも俺は、この幸せな夢に沈むわけにはいかなかった。

「ミリル、そうはいかないんだ」
ガルアーノは、俺達から全てを奪った奴はまだ生きているのだ。
故郷の村を焼き払ったアーク一味もだ。
俺は、あいつらを殺してみんなの仇を討つまでは死ねない!

「貴方は私の言いなりにならなきゃいけない筈よ。だって、私を殺したのは貴方だもの。ずーっと信じて待っていた貴方に殺された私の気持ちが解る?」
何も言い返すことはできない。
ミリルは、ずっとあの白い家で俺が助けに来るのを待っていてくれたのに。
逃げ出して、見捨てて。
俺は、そのことすら忘れていたのだ。
助けに行くと。必ず助けに行くと約束していたのに!

「私は、貴方を元の世界に戻しはしない」

――来たれよ…… 炎を操り闇を照らす者よ…… 人間に未だ幻想をいだく者よ…… いざなおう…… 真実を知らしめんために……

ああ、これは俺への罰なのか、ミリル……。

46名無しさん:2008/09/06(土) 04:29:52 ID:8o6Z/Ke20


眼を覚ました時、エルクは遂に自分が死んで地獄に落ちたのだと思った。
さしずめ玉座に座しているあの男は、俺を裁く閻魔なのだと。
そんな彼の認識は半分ハズレで、半分当たりであった。
彼は死んではおらず、されど、ここは地獄だ。
命を握られ、殺し合いを強要される世界。
これが地獄で無いというのなら、是非とも他の呼び方を教えてもらいたい。

「何でも望みを叶えてやる、か」
オディオと名乗った魔王の言葉を思い出す。
奴の言う通りなら、優勝さえすればどんな願いでも叶えてくれるらしい。
ジーンやミリルを生き返らせることも可能かもしれない。
それはとても甘い誘惑で、けれど、エルクは否定する。

無理だ。

玉座の間に集められていた人間にはシュウとリーザ、彼の仲間の姿もあった。
幼い少年、少女の姿もあった。
いくら願いを死んでしまった大切な人達を蘇らす為とはいえ、エルクには彼らを殺すことなんてできそうにもなかった。
もうその手は血で汚れてしまっているというのに。
なんて、偽善。

夢の中の彼らの言葉はいつまで経っても消えてはくれない。
蘇生の可能性を不意にした今、彼をより強く攻め立てていく。

「ちくしょう、俺は死んじまった方がいいってのか」
首筋に手を伸ばす。
そこには彼の命を脅かす無骨な枷が確かに巻きついていた。

これを引っ張れば、死ねる。

魔王に立ち向かった男のように。
命を繋ごうとした僧侶のように。
あるいはあの時のミリルのように。

爆発して、彼は死ぬ。

逝くのにあまりにも適した状況に、自然と渇いた笑みが零れそうになり、次の瞬間、凍りついた。

「死ぬのは貴様の勝手だが、その前にあたしの質問に答えてもらおうか」
「誰だ!?」
振り返った先には女がいた。

「――カノン」
薄汚れたマントと緑の髪を風になびかせて。

「……通り名だが、抱いて逝くにはそれで十分だろう?」
眼帯の女は自らの名を告げた。

47名無しさん:2008/09/06(土) 04:30:28 ID:8o6Z/Ke20


目の前に広がる光景にカノンは絶句していた。
その驚き様は魔王オディオによる宣告を受けた時や、名簿で『ある名前』を見つけた時と勝るとも劣らないものだった。
草木が覆い茂っているのだ。
これだけでは何のことかわからないかも知れないが、彼女の世界の住人からすれば驚くなと言う方が無理である。
カノンが本来住んでいた世界――ファルガイアの大地は枯れ果てていたからだ。
ところがどうだろう。
今、彼女が進んでいる森の木々は、行けども行けども途切れない。
ファルガイアにも全く緑が無かったわけでは無いが、これほどの範囲に渡って広がっている場所をカノンは知らない。

「馬鹿なッ、異世界だとでも言うのか!?」
思い返せばあの魔王もそれを匂わせることを言ってはいなかったか?
カノンは考える。
『最後まで生き延びた者には褒美として、本来在るべき世界に帰してやろう』
わざわざ『本来在るべき』とつけているのだ。
ここが異世界だという考えは、あながち的外れなものではないだろう。
そもそも、このような場所がファルガイアにあるのなら、
渡り鳥として世界各地を周って魔を祓っていた自分が噂にすら聞いたことが無いというのは、いくらなんでもあり得ない。

一応最後の確認とばかりに彼女は花園へと向かうことにした。
草木以上にファルガイアに縁の無い施設だ。
実在すればここがファルガイアではない何よりの証明になる。
位置も現在地から近く、地図に記載されているくらいなら人も集まっているかもしれないと判断してのことでもあった。

彼女が彼を見つけたのはその道中のことであった。
濃い茶色の髪の毛を逆立て赤いバンダナを巻いた青年が、何か思いつめているのは直ぐにわかった。
こちらのことにも気づかない程真剣な位にだ。
時折耳に届く独白からも覇気は感じられず、故に危険人物ではないと見なし声をかけてみたのである。

無論、一時たりとも気を抜かず、いつでも全身に施したギミックを解放できるようにした上でだが。

「アシュレー・ウィンチェスター、または魔王という男に出会わなかったか?」
「魔王? 何言ってんだ、それならてめえだってさっき会っただろが!」
それを聞きたいのはカノンも同じだ。
名簿に堂々と記載されている魔王という文字。
まさかオディオ本人が参加しているとは思えないが。
判断を保留しつつ、未だに眼を通していなかったらしい男に名簿を突き付ける。
知り合いの名前でも見つけたのか、男の顔に動揺が浮かぶも、カノンにとっては興味のないことだった。

――そう、例え殺し合いに放り込まれてもカノンがすることに変わりは無い。

「いや、俺が会ったのはあんたが初めてだ」
「そうか」
名簿を見終わった男の答えに、カノンは特に落胆はしなかった。
殺し合いに駆り出されてまだ間もないのだ。
初めから大して期待はしていない。
むしろ、次の問こそが本命だ。

「もう一つ。貴様の知り合いに『魔』はいるか?」
「……『魔』?」
「私は凶祓い(まがばらい)だ。モンスターや魔物、魔王といった『魔』を滅ぼす義務がある」
彼女は凶祓いだ。
そして、魔神を封じ、世界を救った英雄<剣の聖女>の末裔だ。
殺し合いに乗る気はない。
だが。

48名無しさん:2008/09/06(土) 04:30:59 ID:8o6Z/Ke20
(『魔』はあたしの手で滅ぼすッ!!)

「そのアシュレーという奴も『魔』なのか?」
質問に質問で返されたことに苛立ちはしたが、アシュレーの場合は特殊なパターンだ。
男から情報を得るためにも、カノンは説明することにした。

「正式には奴自身では無い。奴に降ろされた魔神がだ」
「降ろされた? そいつが自分でモンスターになったんじゃないのか!?」
「……そうだ。負の念に満ちかねないこの世界では、いつあの悪しき魔神が目を覚ますのかわからない」
「だから殺すっていうのか!」
降魔儀式に巻き込まれただけの被害者。
アシュレーのことをそう捉える人間がいるのもわかる。

(それでも、あたしは『魔』を許さぬッ! この身に流れる『血』に誓ってッ!!)

『魔王』とやらがオディオと別人であるのなら、そちらも斬るまでだ。
『魔王』だけでは無い。
この殺し合いに潜んでいる全ての魔を殺す。
自らに流れる『英雄』の血を証明する為に。
彼女自身が英雄になる為に。

――この地には、本物の『英雄』が、<剣の聖女>がいるのに?

カノンの脳裏で、栗色の髪の少女が囁く。
捨て去ったはずの過去が、彼女を揺さぶる。

――ねえ、ここにも、あたしの居場所は
(黙れッ!!)

「<剣の聖女>の末裔であるこのあたしには魔神を駆逐する宿命があるんだよッ!」
「そうかよ。なら――」
心に浮かんだ迷いから眼を逸らし血に縋るカノンに、男はようやく引き延ばしていた答えを告げる。

「俺はあんたを放っておくわけにはいかねぇ!!」
「なッ!?」
紅蓮の炎による拒絶という答えを。



49名無しさん:2008/09/06(土) 04:32:40 ID:8o6Z/Ke20


らしくない。
全く以てらしくなかった。
母さんも死んだ。父さんも殺された。ジーンも、ミリルも、殺した。
助けたかった人達はもういない。
けど、守りたい人達も、殺したい仇も、それを為そうとする自分もまだ生きているのだ。

(リーザ、シュウ、待ってろ、すぐ行く! アークの仲間、お前は俺が殺す!)
カノンの話に怒りを覚えるまでそんなことにも気づかなかった自分を叱咤する。
自殺してどうなる? 
失われた命は帰っては来ないのだ。
そしてそれは、アシュレーという男の命も同じだ。

「そいつはまだ間に合うかもしれねえだろ! 自分の意識を保ってんだろ! 大切な人だっているんじゃないのか!」
「言ったはずだ、それがあたしの宿命なのだとッ! ジャマする者であれば何であろうと斬り捨てるッ!」
魔神を降ろされたという男と、モンスターに改造された子ども達の姿が重なる。
ジーン、ミリル、アルヘレッド、名も知らない大勢の少年たち。
みんな、みんな、エルクが殺した。
今さらだとは思う。
これから先幾つの命を救っても、彼は罪から逃れられない。
その運命をずっと背負って生きていく。

それでも。
それが、誰かを助けたいと。
アシュレーを好きな人達を悲しませたくないと。
カノンに罪を背負わせたくないと。
もう二度と自分達のような悲劇を繰り返したくないと。
願ってはならない理由にはなりはしない!!

「血とか宿命とか、そんなてめえ自身がどこにもいねえ理由で殺すっていうのかよ!」
「黙れッ! 宿命を背負うことであたしは『あたし』を信じてこれたッ!
 貴様にはわかるまい、あやふやな自分を抱え込むという不安を!!」
「分らないでもないからこそ、あんたを止めてえんだよ!!」

50名無しさん:2008/09/06(土) 04:33:26 ID:8o6Z/Ke20
過去を無くしていた炎使いの頭上を、過去に縛られた女の刃が過ぎる。
カノンは速い。
エルクが知る中でも最速のシュウにも匹敵する。
炎を牽制に放ちつつ、エキスパンドレンジで夜道を照らし間合い開けようにも、一向に離れてはくれない。
支給品を確認し、何か武器になるものを手に取る暇を与えることなく、両の腕に展開した刃が振るわれエルクを襲う。
(あれが奴の支給品か! っち、あの物騒なものを受けるものが無くちゃ埒が明かねえ!)
まるで長年親しんだ獲物であるかのように、カノン本人の動きも熟練したものだった。
殺す気はないからと、加減が効く相手では無い。
僅かな躊躇の後、エルクは現状を打破するために勝負に出る。

「怒りの炎よ! 敵を焼き払えっ!!」
エクスプロージョン。
爆発の名を冠した炎は、先ほどまでのように渦とはならず、一瞬で炸裂し己が猛威を解放。
夜の闇に、紅蓮の華が咲き誇る。
「くッ!!」
火の粉と石が宙を舞う中、エルクの視界に爆発に呑まれるカノンの姿が映る。
無論、直撃しないよう、ややずらした位置に着弾させはした。
本命は爆炎ではなく爆風だ。
熱か衝撃で気絶してくれるのなら大成功。
そこまで上手くいかなくとも、吹き飛すことで距離は稼げたはずだ。
そう判断し、デイパックの中にエルクは手を伸ばす。

――カノンが、爆風に煽られるどころか、自ら爆発の中心に飛び込んだとも知らずに。



51名無しさん:2008/09/06(土) 04:34:01 ID:8o6Z/Ke20


『人間』に絶望し、『人間』であることを辞めた『魔王』は嘲笑う。
『英雄』に何の意味があるのだと?
かって『勇者』と称えた人物を、不要になればすぐに切り捨てるのが『人間』だ。
『英雄』など所詮人柱に過ぎないことを、彼は痛いほど知っていた。

だからだろうか?

『英雄』になる為に、『人間』を棄てた女に彼は与えた。
人ならざる者のにしか扱えないその二つの支給品を。



パワーユニットファイアバグ。
ARMの一種と踏んだ支給品がカノンの義体(シルエット)に力を与える。
展開された魔力の障壁は見事爆炎から彼女を守り切った。
狩るべき男は目を見開き、慌てて回避行動に移ろうとするが、もう遅い。
マジックシールドの対魔力は強力だが、種が割れれば簡単に手を打たれてしまう。
代償として彼女を襲う疲労も無視するにはやや重い。

故に、カノンは一気に勝負に出る。

義体と義体に仕込んだ武器のリミッターを限定解除。
人の身では耐えられない圧倒的な速度でカノンは駆ける。
軋む機械の身体。
悲鳴を上げる人の心。
その全ての痛みを棄て去って、一瞬で距離を詰め、神速の連撃を叩き込む。
愛用の短剣は取り上げられてはいるが、構わない。
今の彼女の右腕には変わりとばかりに唸りを上げる獲物がある。

『勇者』の名を冠する回転衝角が!

右方より大きく振りかぶられたドリルの一撃が、男の胴を打つ。
大振り故に、晒されるはずの隙を、機械の身体は強引にキャンセル。
地に崩れ落ち逝く身体に、左の拳を打ち込み、打ち上げる。

その神速の世界の中、男の腕が動き、デイパックから何かを取り出したのが見えた。

(かまわない。反撃される前に滅っするまでッ!!)

続けざまに左、右と鋼の鞭と化した回し蹴りで完膚なきまでに打ち据える。
距離をとるなどという愚は冒さない。
零距離で左のワイヤーナックルを叩き込む。

52名無しさん:2008/09/06(土) 04:34:37 ID:8o6Z/Ke20
「っぐ、ちく、しょおおっ……」

それで、全てが終わった。
炎使いの身体が拳ごとワイヤーで飛ばされ、川に落ちたのは誤算だったが、
幸い彼が直前まで手していたデイパックはカノンの足もとに転がっている。
反撃に用いようといていたらしい何かは共に流されてはいったが。

「赦せとは言わぬ」

慣れない武器、慣れない補助動力源を用いての戦闘行為だった為か、確信は持てない。
元より機械の身体では手応えは曖昧にしか感じられない。
しかし、あれだけの攻撃を立て続けに見舞ったのだ。
生きてはいまい。

「これも、『英雄』の血を証明する為だ」

当初の予定通り、カノンは花園に向かうことにする。
戦いの最中放たれた炎は、夜の闇の中ではかなり目立ったはずだ。
このままここに残り、やってきた者達と接触することも考えたが、疲労した状態で、危険人物に会うことは避けたかった。

――本当に? 会いたくないのは、本当に危険人物なのか?

「一人この手で殺したんだ。今更戻れはしないッ! あたしも、あたしの身体もッ!」

再び浮上する迷いを振り切り、デイパックを拾い、カノンは背を向ける。
平野に、過去に、自らの本当の願いにさえ。

【B-9 平野 一日目 深夜】
【カノン@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:精神的疲労(中)、ダメージ(微小)
[装備]:勇者ドリル@サモンナイト3(右腕)、Pファイアバグ@アークザラッドⅡ
[道具]:エルクの不明支給品1〜2個(未確認)、基本支給品一式×2
[思考]
基本:『魔』を滅ぼす。邪魔されない限りそれ以外と戦う気はない。ただし、邪魔者は排除する。
1:アシュレーを見つけて討つ。
2:アシュレー以外の『魔』も討つ。(現時点:オディオ、魔王)
3:まずは花園へ向かい1、2の為に情報を集める。
[備考]:
※参戦時期はエミュレーターゾーンでアシュレーと戦った直後です。
※彼女の言う『魔』とは、モンスター、魔物、悪魔、魔神の類の人外のことです。
※勇者ドリル、Pファイアバグは機械系の参加者及び支給品には誰(どれ)でも装備できるよう改造されています。
 Pファイアバグは今のところ、マジックシールドの使用可能が確認されています。
 他の術はお任せ。
※エルクの名前を知りません。死んだと思っています。
※エルクの発した炎がどのあたりまで見えたかはお任せ。夜なので目立ったかもしれませんが、エリアの端なので。

53名無しさん:2008/09/06(土) 04:35:08 ID:8o6Z/Ke20


(待ちやがれ……)

遠ざかるカノンに手を伸ばす。
変な話だった。
本当に腕を伸ばしているのは、カノンの方だというのに。

(傷が、癒えている……)

全快には程遠いが、貫かれたはずの傷が塞がっていた。
自然と一人の少女の顔が思い浮かぶ。

(リーザ……)

『モンスター』とも心を通わすホルンの『魔女』が微笑む。
いつかの日のヤゴス島での夜のように、伸ばした手を彼女が握ってくれた。

(頼む、無事でいてくれ……)

意識が闇に呑まれる。
手の中で、何かが砕け散る音が聞こえた。

【B-9 川 一日目 深夜】
【カノン@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:シュウとリーザを守り、オディオを倒す。
1:???
2:カノンを止める。

[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※どこに流されるかはお任せです。

アイオライト。
何の縁か彼の世界より持ち出された宝石がドリルに貫かれた彼の命を繋ぎとめた。
とはいえ、身体が回復した時に咄嗟にインビシブルを唱えていなければ、ガトリング・ワイヤーナックルで死んでいただろう。
アイオライトが救えるのは、あくまでも死に瀕したものであって、死んでしまったものは救えない。

その宝石の眠るバルバラードの地を訪れていない時間軸より呼び出されたエルクには知る由もないことだったが。

パリン。

制限により、回復能力を有する宝石はたった一度の使用で塵と化した。

54HUNTER×HUNTER   ◆iDqvc5TpTI:2008/09/06(土) 04:37:22 ID:8o6Z/Ke20
投下完了。>>49,>>50 が本スレ時の262と264の間に挟まる部分です。

55 ◆iDqvc5TpTI:2008/09/06(土) 05:02:54 ID:8o6Z/Ke20
たびたび申し訳ない。
49における
『アルヘレッド』を『アルフレッド』に修正
53における状態表を以下に修正。

【B-9 川 一日目 深夜】
【エルク@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:シュウとリーザを守り、オディオを倒す。
1:???
2:カノンを止める。

[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※どこに流されるかはお任せです。

56 ◆iDqvc5TpTI:2008/09/06(土) 05:06:32 ID:8o6Z/Ke20
……寝て出直すべきだ、俺。ほんと、ごめんなさい。
エルクの状態表、最終修正案

【B-9 川 一日目 深夜】
【エルク @アークザラッドⅡ】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:シュウとリーザを守り、オディオを倒す。
1:???
2:カノンを止める
3:トッシュを殺す

[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※どこに流されるかはお任せです。

57『アティの場合』  ◆x7pdsyoKoA:2008/09/07(日) 21:38:20 ID:/nAXJuSk0
「…もしかして、海賊達もこの島にいるのでしょうか?」
 海賊達のことを思い出し、彼らもこの島にいるのではないかと思い始める。
 自分がこの島に流れ着いた以上は、その可能性は多いにありうる。
 ならばこれ以上は悠長なことはしていられない。海賊達に対抗するための武器やコンパス等の雑貨をデイバッグに乱雑に収める。
 そしてアティは僅かばかりの逡巡みせて、おもむろに服を脱ぎ始めた。その行動は濡れた服はアリーゼ探索には不向きであるとの判断からである。
 水を吸い冷たくなった服は体温を奪い、重量を増す。一刻も早くアリーゼを見つけたいアティにとっては、これ以上のタイムロスは避けたかった。 
 海賊やこの島特有の野生動物やはぐれ召還獣がいるかもしれないと思ってしまう以上はなおのことである。
 だから彼女は服を脱ぐ。白く美しい肌を外にさらし、男達には見せられない下着一枚靴一足の格好となる。
 そんな姿から、すぐさま自分が持っているものよりも大きい白いコートを羽織る。服を脱がなければならない理由があっても、羞恥心がないわけではなかった。
 もし、予備のコートがなければ濡れたコートを使わなければいけなかった。乾いたコートが何故か荷物の中に入っていたのは幸いだ。
 遭難した以上は未知の樹液や直射日光から身を守るためのコートは必要なのだ。服のポケットに丸い石を入れ、その場に散らかった服を適当な木に引っ掛ける。
「今行きますからまっててね」
 アティはそう呟きながら当ても無く歩き始める。
 アリーゼとの約束を果たすために、親友を探すために、この地から脱出するために、彼女は進む。




【E-6 山 一日目 深夜】

【アティ@サモンナイト3 】
[状態]:疲労困憊。コートと眼鏡とパンツと靴以外の衣服は着用していない。
[装備]:白いコート、水の封印球@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式、はかいのてっきゅう@ドラクエⅣ
[思考]
基本:アリーゼを探す。
1:アズリアを探してアリーゼ探索に協力してもらう。
2:他の遭難者やビジュという軍人も探す。
3:舟を襲ってきた海賊や島にいるかもしれない召還獣等に警戒する。
4:アリーゼと共に帝都に行く。
5:アリーゼを見つけてから服を取りに戻る。
[備考]:
※参戦時期は一話で海に飛び込んだところから。
※E-6にあるどこかの木にアティのコートや上着や帽子などが掛っています。
※首輪の存在にはまったく気付いておりません。
※地図は見ておりません。

58 ◆x7pdsyoKoA:2008/09/07(日) 21:39:42 ID:/nAXJuSk0
猿さん喰らった。
だからこっち投下。
誰か後よろしくお願いします。



あと、なんかいろいろごめんなさい。

59 ◆jU59Fli6bM:2008/09/09(火) 20:41:49 ID:WvBUy6Rk0
眼下には物言わぬ肉塊となった少女の死体。それを照らすのは背後で赤く躍り狂う炎。
その辺りに撒き散らかされたのは、また例外もなく赤い、血。
鼻につくねっとりとした生臭さを味わうように、ルカはしばしの間それらを眺めていた。

「不思議なものだな。俺だけでなくあいつも、あの魔王とやらにもう一度生を与えられたということか……」

そう、彼もまた、死んだはずの人間だった。
自身の望んだ通りに悪を貫いた男は、この会場で目覚めた後も、いつもの感覚でいつも通り殺したのだった。

「だが、くだらんな……。再び得た命を他人の為に捨ててもいいとは。
弱い奴は死ぬ。逃げるだけの奴らに、生かす価値などありはしないわ!」

ルカは吐き捨てるように呟いた後、もう死体に用は無いとばかりに踵を返す。そして、河原の上を歩き始めた。
彼の目は横でごうごうと燃えさかる森さえも映さない。
ただ、名簿で見た名前が、ルカ・ブライトを打ち破った人物の名前が、彼の思考を支配していた。

「優勝したら元の世界に帰れる、か……。あいつらを始末して再びあの地を踏めるというのなら、それも面白いな」

ふと、ルカの口から笑い声が漏れる。
単調に音を刻む足の動きとは裏腹に、その声は段々と大きく、どす黒くなっていった。

「ふはは……ふはははははは!!! 覚悟して待っていろ、討ちとったはずの俺に殺される運命を!
そして貴様らも思い知れ、俺の味わった絶望をなッ!」

【ティナ・ブランフォード@ファイナルファンタジー6 死亡】
【残り50人】
【D-7 川 一日目 深夜】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康、どんぶらこ
[装備]潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[道具]基本支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考]基本:打倒オディオ1:ティナ……?2:アキラとティナの仲間を探す
[備考]死んだ後からの参戦です

※自分とティナの仲間について把握。ケフカを要注意人物と見なしています。


【D-7 河原 一日目 深夜】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝2】
[状態]健康
[装備]フレイムトライデント@アークザラッド2、魔封じの杖(4/5)@ドラゴンクエスト4
[道具]基本支給品一式*2、不明支給品0〜3(武器、回復道具は無し)
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た5人を優先
[備考]死んだ後からの参戦です

※魔封じの杖
 使うと相手にマホトーンの効果、回数制限有り。普通に杖としても使えます。
※D-7北東の森林で山火事が起きています。周りのエリアにも広がる可能性があります。

60Let's go XXXX (修正版) ◆FRuIDX92ew:2008/09/13(土) 23:06:45 ID:6FcGjRqE0
本スレ投下分>>492以降を以下の投下と差し替えます。

ルッカは幸運だったかもしれない。
あまり知られていない事実だがオートボウガンはなぜだかとても丈夫である。
精密な機械ということもあるのだが、素材が頑丈なのか、その理由は不明だがとても頑丈に出来ている。
頭や体、とにかく防具の代わりにすれば打撃に関しては無敵になれる、そこまで言い張れるほどだった。
実際、そんな酔狂なマネをするのは国王はおろかフィガロ兵の中にも一人もいなかったわけだが。

そんなことも知らずにルッカは反射的にオートボウガンで剣をはじこうとした。
結果、剣が生み出した破壊の余波を少し抑えるほど攻撃の無力化に成功したのだ。
そのままルッカはバックステップで間合いを離そうとするが、相手は尋常じゃない速度でその間合いを詰めてくる。
「ったく、面倒なもん付けてるわね!」
慣れない打撃をすれば、腕に付けているあの腕輪の効果で反撃を食らってしまう。
下手に打撃に回るよりかは、魔法を使ったほうがまだいいかもしれない。
あまり気乗りはしないが、彼女はオートボウガンを上手く使いギリギリで斬撃を避けながら魔法を唱える。
「……ファイガ!」
薄暗い森林に、大きめの火球が落ちる。その火球は火柱を立て、あたりの木々を飲み込んでいく。
このとき、何故かルッカはわざと襲撃者を外していた。その理由は後に判ることになる。
火柱に飲み込まれた木が音を立てて倒れこんでくる、道を塞がれた襲撃者も流石に怯んだ様だ。
このチャンスを物にするためにルッカは全速力で走る。後ろを振り向かずにただひたすらに。

「くっ……魔法か、面倒ね」
リンは驚いていた、目の前の少女が魔道書もなしに魔法を放ったことに。
爆発に多少怯んだものの、少女が逃げていく祭に立てた大きな足音を頼りに足を進める。
彼女の頭は、はじめは無かった思考で今は埋め尽くされている。
その思考は「殺戮」。
彼女が嫌っていた山賊にも似た下卑た笑いを浮かべながら、足音の方向へ駆ける。
剣はただ、怪しく禍々しく輝くだけ。

61Let's go XXXX (修正版) ◆FRuIDX92ew:2008/09/13(土) 23:07:43 ID:6FcGjRqE0



「ふぅ、ここまで逃げれば大丈夫……かな?」
必死で逃げてきた末に見つけた橋にとりあえず逃げ込むことにしたルッカ。
万が一の最悪のケースを考えて、彼女はあえてこの場所を逃げ場所に選んだのだ。
それでも、その最悪のケースが数分で訪れようとは考えて無かったかもしれなかったが。

目線の先には襲撃者、橋の上から見るとどうやら緑の長髪の女性のようだ。
その女性は今から橋に入らんとするところであり、自分は橋の半分ぐらいの距離の場所にいる。
魔法を使うのもいいが、今考えていることをやろうとするとフレアを唱えざるを得ない。
しかし、この距離でフレアを唱えきる自身は正直ない、フレア自体には飲み込まれないが次に起こる事に巻き込まれえる。
なにしろ、自分は殺人鬼ではないのだから万が一フレアが直撃して襲撃者が死んでしまったら個人的に後味が悪い。
無力化、もしくは襲撃者側の逃亡。それがルッカの望む道。それをかなえるには……これしかない。
ルッカは一つ大きな深呼吸をし、そして左手を差し出し手首を自分の方へと反らせて手招きをした。
右手は……静かにポケットの中に。
「さあ、さっさとかかって来なさいよ! 私を斬るつもりなんでしょう?!」
その言葉と同時に、女性は一気に駆ける。
「そんなに死にたいなら、殺してあげるわ!」
剣を構えながら馬の如き速さでルッカへの距離を詰める。
しかし、当のルッカは笑っていた。まるで勝利を確信した策士のように。
「はい……ビンゴ!」
多少の惜しみとともに、ルッカは不思議な物体を投げつける。
その物体は橋と衝突し、一瞬のうちに強力な爆発を生み出す。しかし、その爆風が二人を襲うことは無かった。
しかし、そこにあったはずの橋は物の見事に消え失せていた。
「ふふん……今回はサイエンスの勝ちってところね。
 理系特化をナメないでくれる?」
遠く離れた女性にルッカは完全に勝ち誇ったポーズで躍り出る。
さすがに遠くに見える女性も、この距離を飛び越すことは出来なかったのだろう。
そそくさと道筋を変更して森の中へと消えていった。
しかし、その際に悔しがるそぶりを見せずに消えていったのがルッカにとって気がかりだった。
……多少無理してでも足止めしておくべきだったのだろうか?
「……ま、そんなこと考えてもしょうがないし」
回れ右で後ろへと振り向くと、そこには大きな神殿が聳え立っていた。
神殿にはあまりいい思い出はないが、そこにいくしか道は無いのだから仕方が無い。
ルッカは目の前の神殿へと足を一歩ずつ動かす。

「魔王オディオだかなんだか知らないけど、見てなさいよ。
 こんな首輪、前進し続けるサイエンスの力で絶対解除してやるわよ!」

【C-8 橋の上 一日目 深夜】
【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:わずかながらの裂傷、疲労(中)
[装備]:オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード@LIVE A LIVE
[道具]:なし
[思考]
基本:首輪を解除する、打倒オディオはそれから
1:とりあえず神殿に逃げ込んでみる。
2:改造、首輪解除するための工具を探す。オートボウガン改造したい。
3:どこかで首輪を探す。
4:オートボウガンに書かれていた「フィガロ」の二人を探す(マッシュ、エドガー)
5:クロノ達と合流、魔王は警戒。
6:17ダイオードの更なる研究
[備考]:
※バイツァ・ダスト@WILD ARMS 2nd IGNITIONを使用したことにより、C-8東側の橋の一部が崩れ去りました。
※参戦時期はクリア後。 ララを救出済み。

62Let's go XXXX (修正版) ◆FRuIDX92ew:2008/09/13(土) 23:08:18 ID:6FcGjRqE0



魔法の件といい、リンはやはり驚きを隠せなかった。
まさか橋が倒壊するとは予想だにしていなかった。
「……どれぐらい斬れるのかな、これ」
そんなことをふと呟く。
しかし、次の瞬間には口が裂けそうなほどの笑みへと変わる。
人で試してみればいい、まだまだここには人がいっぱいいるんだから。
皆殺しの剣の殺意は止まらない。自身が滅ぶか、この場にいる人間を殲滅するまで。
次なる獲物を求めて彼女。否、剣は駆ける。

【C-9 橋の前 一日目 深夜】
【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:狂戦士、呪い、少し火傷
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV、激怒の腕輪@クロノ・トリガー
[道具]:不明支給品(0〜1)、基本支給品一式
[思考]
基本:打倒オディオ
皆殺しの剣による行動方針:見敵必殺
1:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
[備考]:
※参戦時期、支援状態は不明
※皆殺しの剣の殺意に影響されています、解呪魔法をかけるか剣を何らかの手段でリンの手から離せば正気には戻ります。

※C-8で爆発音がしました。神殿内部までには届かない程度です。
※C-9の中心部にルッカの基本支給品一式入りデイバッグが放置されています。

63太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:24:27 ID:XLcd0kZQ0
本スレ>>47から>>56までを以下の投下と差し替えます。

◆     ◆     ◆

さっきはあんなに明るかったの今は闇が広がっている。いや、それはいい。それよりも問題なのはこの島の空気だ。いやな感じがする。この憎しみに満ちた場は地獄の島と言うべきか。

「殺し合え…か」

とりあえず現状把握だ。地図とコンパスで場所を確認するとここはA-9らしい。続いて名簿の確認をして――私は愕然とした。

「イスラ…」

名簿には死んだはずのビジュの名前もあったが、それはまだ些細なことだ。島の住人のアリーゼに『あいつ』、そして――大切な弟の名前が載っていた。

「待っていろイスラ…。私が…」

守る。そう言おうとした所で思い出す。今までイスラがどんな気持ちで魔剣を振るってきたか。
それでは駄目だ。あの時と同じ。だったら――イスラに会ったら共に戦おう。あいつはわたしの自慢の弟だ、記憶なんてなくても戦える。

「後は支給品の確認か」

最初に引いたのは子供以上の大きさがありそうな――巨大な剣だった。

「ふっ!…くっ」

重いなんてレベルじゃない。なんなんだこの剣は、もしかしてあの魔剣の類だろうか。私には持つだけの資格がないのか…。強引に剣をデイパックに戻す。
次に出てきたのは槍だ。それもかなりの業物。少し扱ってみたところ少々癖はあるが、私にも使える物みたいだ。

(ん?まだ何かあるな…)

デイパックを探ろうとした時、遠くに炎が見えた。

(なんだ!)

しばらく、炎のあがった方を見ていた。次に起こったことは――爆発。
私は全力で走った。イスラが心配だし、危険人物を放っておけない。
途中、川に流されている一人の少年を見つけた。

(放っておけないな)

少年の手を掴んで引き上げる。気絶していて何も荷物を持っていないようだ。更に少年の胸には何かに貫かれた痕があった。何かあったのだろう。命に別状はなさそうだし、起きたら話を聞いてみよう。

64太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:25:51 ID:XLcd0kZQ0
◆     ◆     ◆

暗闇が広がっていた。いや闇黒の空間というべきだろう。その中に一人の少年が――エルクが佇んでいた。

「また……来ちまったのか」

なら、また来る。父さんに母さん、ジーンにミリルが。

「エルク……」
「ミリルか……」
「一方的にやられてたわね。これで理解した?あなたは誰も助けられない。さっきの人程度止めれなくてアーク達を殺す?そんなの無理よ」
「でも!」
「このまま私たちと暮らしましょ。拒むなら――」

闇の中から父さん、母さん、ジーンが現れる。

「貴方を殺してでもここにいてもらうわ!」

一方的だった。全身を貫かれ、切り刻まれ、心が死んでしまいそうだった。
いつの間にか俺は――氷漬けにされていた。

「貴方は、もう戻れない」

(俺はここで終わるのか?)

そう思った。

(駄目だ!駄目だ!)

必死にその考えを振り払う。

(違う……こいつらは違う。ミリル達じゃねぇ。俺の心の闇。俺の――弱い心!)

炎が駆ける!勝負は一瞬!闇は炎に呑まれ――消えた。

「エルク」
「!」
「やっと……闇を祓えたのね」
「お前の力で……大切な人を守れよ」
「お前はまだこっちに来るにははえーよ」
「エルク……これを」

渡されたのは一振りの剣と――炎だ。小さく、しかし確かな力を感じる『熱い』炎だった。

「あなたは、今までの貴方じゃない、貴方が進むのは闇の道じゃない。貴方は――闇を照らす炎!」

「「「「行きなさい!炎のエルク!!」」」」
「父さん、母さん、ジーン、ミリル……すまねえ。」

俺は駆ける、元いた場所へと。

「俺はもう迷わねえ!ありがとう!行ってくる!」

意識が覚醒する。

65太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:26:23 ID:XLcd0kZQ0
◆     ◆     ◆

「気がついたみたいだな。大丈夫か?うなされていたようだが」

エルクが意識を取り戻してはじめて聞いた言葉がそれだった。その声の主はエルクの知らない女性のものだった。

(俺、どうしたんだ)

考える、たしかミリル達と――違う!その前はたしか……。

(あれ?)

やたら体が重い、体を見ると全身ずぶ濡れで服が水を吸っていた。それを見て。

(そうだ!カノンと戦って川に落とされたんだ!)

だとしたら、俺はこの人に助けられたのか。そう結論付けたエルクは助けてくれた女性――アズリアに対し礼を述べる。

「ありがとう、あんたが助けてくれたんだな、俺はエルク、ハンターだ」
「初対面で年上の女性に『あんた』か、まあいい。私はアズリア……ただの女だ」

(敵意は無いようだな)

そう判断したアズリアは何があったか尋ねようとした時――脅威の魔人が姿を見せた。
キメラの翼によって飛ばされた魔人オディ・オブライトが。

「なっ!」

警戒する。当然だ、相手の規格外の闘気――この男の実力はどうみてもギャレオ位では手も足も出ないレベルだ。
更に男の体から発せられる血の臭い。私は槍を構え、ひとまず出方を伺った。

「ほう…、俺は槍など使わぬが……なかなかできるようだな。今の俺は少々機嫌が悪い。貴様が何と言おうと俺と戦ってもらうぞ。楽しませてくれよ……女ぁぁぁあああッ!!!」
「くっ!」

回避できない戦いだ。勝てるか?いや―――勝ってみせるッ!エルクのほうを見て叫ぶ。

「エルクッ!お前はまだ無理をするな!こいつは私が倒すッ!」

――戦闘開始。

66太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:27:06 ID:XLcd0kZQ0
◆     ◆     ◆

(速いッ!)

男の神速の一撃を槍で受け、捌く。――ギリギリだ。男の足が負傷していなかったらどうなっていたことか。パワー、スピード、体力、明らかに私より上。技量だけなら私がわずかに勝っているようだが――穿き慣れないスカートのせいで足が動かしづらい。
私が繰り出す突きも全てかわされ、捌かれる。そんな攻防がしばらく続き――男の一撃が私を吹っ飛ばした。

「ちッ!」

なんとか受けきれたか、それに多少距離も取れた。だが安堵している場合ではない。
分が悪い……。相手には回避するという選択肢がある。さらにあれだけの攻撃を受けながら槍に傷一つないが――私の体力が持ちそうに無かった。
長期戦はだめだ。勝つとしたら必殺の技による短期決戦!やるしかない―――槍による『紫電絶華』を!

「ああああああああッ!!!」

両者、駆ける。決着をつける為に。

アズリア・レヴィノスは武芸に秀でた天才である。リィンバウムに存在する武器はドリルを除けば一通り扱える。だがその中でも彼女と最も相性の良い武器は剣なのだ。
秘剣・紫電絶華――超高速の突きの乱舞。剣の天才である彼女ですらそれを会得するのに途方も無い時間をかけた。このレベルの突きは槍で放てるものでは無いのだ。
それでも彼女――アズリアはアズリア・レヴィノスすら成せなかったことに挑む。
この技は未完成の技だ。しかし彼女の強き想いを乗せた必殺の技!

「秘槍・紫電絶華!!!」

どががががががががががが!!!

「なにィッ!」

超高速の突きに男が驚く。……だが、それでも、男は私の突きを全て受けている。これで決まらなければ……負ける。
ひたすらに突く!突く!突く!
そして勝負は決する。

「がはっ!」

アズリアが吹き飛ばされて。

67太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:28:08 ID:XLcd0kZQ0
◆     ◆     ◆

アズリアが突然現れた男と戦っている時。俺はまともに動けなかった。まだ気分が悪い、体が重い、全身が痛む。体を動かそうと悪戦苦闘していると――男の拳がアズリアの胴に一撃を叩き込んでいた。
吹き飛ばされるアズリア。呼吸困難に陥っている。

「今の技、なかなかだったぞ女、おまえは『強者』だ。敬意を表して殺してやろう」

男がアズリアに近寄る。止めを刺すために。
俺はなにをやっている?こんなところでじっとしてるな、俺は、俺は……。


「炎のエルクだああああああああッ!!!!!!」


巨大というのもはばかられるほどの劫火がA-9エリアに火柱を突き立てた。

◆     ◆     ◆

「あれは……」

カノンは遠くに炎をみた。
あの炎、間違いないさっきの男のものだ。あの炎はロードブレイザーのような禍々しさが感じられない。ここまで強大では無かったが、さっきの男の炎も確かな『想い』が込められたものだった。
安堵した。あの男が生きていることに。あの男はけして死んだほうが良い人物ではなかったから。

「あまり、会いたくないな……」

だけどこちらにも、譲れないものがある。また会ったら戦うことになるだろう。
炎から逃げるように踵を反し花園に向かう。
程なくして―――狂気に満ちた殺人鬼に出会った。

皆殺しの剣の殺意に支配された少女リンディスに。

「……獲物」
「……魔か、どうやらその剣が本体のようだな」
「アハはハハはハはは、ころす、コロス、殺ス、殺す!」

リンディスがカノンを殺そうと剣を振りかざし、破壊の嵐を巻き起こす!
カノンは軽々とそれを回避し、自分と相手の戦力差を分析する。

『パワー』  かなりあるようだ。負けている気はしないが、警戒するだけの力はある。
『スピード』 これも常人とは思えないな。だが、私には遠く及ばない。
『技量』   論外だな。おそらくはあの剣のせいだろうが…。

結論―――少女自身が魔では無く、無力化の余裕があるならば少女を救おう。私は『英雄』の末裔だから。

一瞬で接近し、少女の鳩尾に一撃を叩き込む。
ここで激怒の腕輪の効果が発揮されなかったのは、カノンにとって幸運だった。
すぐさま下顎に追撃を加え――少女は完全に気絶した。

「さて、どうするか」

考える、この魔はあの魔神に比べたら小さなものだ。なんとかして助けられるだろう。だが正体がわからない以上、うかつに剣に手出しは出来ん。それに、手首を切るのも出来ればしたくない。

「ここからなら花園より神殿のほうが近いな」

カノンはリンディスの荷物と身に着けていた腕輪を回収し、神殿に向かった。リンディスを連れて。
神殿は人が集まりそうな場所だし、この剣のことを知っている者がいるかもしれない。そう思って。

68太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:29:49 ID:XLcd0kZQ0
「……壊れているな」

神殿に通じる橋の惨状を見てカノンはそう呟いた。

私一人ならともかく、この少女と共に跳ぶのは難しそうだ。カノンはそう判断し。

「ワイヤーナックル」

カノンの伸びた手は向かいの橋の欄干を掴んで、リンディスと共に壊れた橋を攻略した。

「着いたか」

まだ少女が目覚める気配は無い、気をつけておかないと。

(最悪、この子の手首を切ることになるかもしれないな)


【C-8 神殿入口 一日目 黎明】
【カノン@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:精神的疲労(小)、ダメージ(微小)
[装備]:勇者ドリル@サモンナイト3(右腕)、Pファイアバグ@アークザラッドⅡ、激怒の腕輪@クロノ・トリガー
[道具]:エルクの不明支給品1〜2個(未確認)、リンディスの不明支給品0〜1個(未確認)、基本支給品一式×3
[思考]
基本:『魔』を滅ぼす。邪魔されない限りそれ以外と戦う気はない。ただし、邪魔者は排除する。
1:少女(リンディス)を救う。そのための情報を得るため、神殿で人探し。(最悪、手首を切る)
2:アシュレーを見つけて討つ。
3:アシュレー以外の『魔』も討つ。(現時点:オディオ、魔王、皆殺しの剣)
4:少女(リンディス)の問題が解決したら花園へ向かい2、3の為に情報を集める。
5:あの男(エルク)には会いたくない。
[備考]:
※参戦時期はエミュレーターゾーンでアシュレーと戦った直後です。
※彼女の言う『魔』とは、モンスター、魔物、悪魔、魔神の類の人外のことです。
※勇者ドリル、Pファイアバグは機械系の参加者及び支給品には誰(どれ)でも装備できるよう改造されています。
※カノンは現在デイパックを三つ持っています。まとめていません。

【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:狂戦士、呪い、少し火傷 、気絶、ダメージ(中)
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV、
[道具]:なし
[思考]
基本:打倒オディオ
皆殺しの剣による行動方針:見敵必殺
1:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
[備考]:
※参戦時期、支援状態は不明
※皆殺しの剣の殺意に影響されています、解呪魔法をかけるか剣を何らかの手段でリンの手から離せば正気には戻ります。

69太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:30:20 ID:XLcd0kZQ0
◆     ◆     ◆

アズリアに止めを刺そうとしたオブライトを止めたのは、強大な『炎』だった。
圧倒的な力が魔人の興味を引いた。

「小僧……貴様、何者だ」
「俺は、炎の一族エルク・コワラピュール!炎のエルクだ!」
「おもしろい!楽しませてくれよ小僧おおおお!」

体が熱い、既にチャージ状態だ。
そういえばシュウに聞いたことがあるな。すげー威力の体術があると。
たしかやりかたは……、思い出した。ならやることは。

「リタリエイション」

小僧がなにかやろうとしてるみたいだが関係ない、骨法鉄砲をぶちこんでアクロDDOで止めを刺してやる。

――両者が交差する。

「父さんの力強さが!母さんの心が!ジーンの意思の力が!ミリルの想いが!シュウが教えてくれた技が!……そして、この俺の怒りがッ!てめえをぶっ飛ばす!!!」

リタリエイションにより反射神経が高められたエルクはオブライトの攻撃に対し反撃ポイントを瞬間的に分析。攻撃を見切って――チャージがかかっている炎の拳によるクロスカウンターを一方的にオブライトに叩き込んだ!!

「があああああああああ!!!!」

クロスカウンターの際に源氏の小手がオブライトの腕から外れ。
巨大な体が遥か彼方に吹き飛んでいく。そして―――魔人は海に落ちた。

「はあっ、はあっ、やったか…」
「すさまじい力を持っているなお前は」
「アズリア!大丈夫なのか!」
「ああ、槍のリーチのおかげで相手の拳を深く入れられずにすんだ、骨も全く問題ない」

エルクを見てみれば、ずぶ濡れだった服は完全に乾いていた。

(本当に炎のような奴だ…触ると火傷しそうだな)

アズリアはエルクを昔の仲間である海賊の頭――カイルと重ねた。
向こうは私を全く疑っていないようだ。信じていいか…。そう考えお互い情報交換しようとした時、エルクの手に剣が握られているのが見えた。

「エルク、そんな剣持っていたか?」
「ん?あれ?いつのまに!」

エルクの手には――『炎の剣』が握られていた。

70太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:31:40 ID:XLcd0kZQ0
◆     ◆     ◆

さて、エルクから情報の内容をまとめると、カノンなる者が魔を狩るために行動している。そしてアシュレーの中に魔神が存在していて、魔神を狩るためにアシュレーを狙っていること。
カノンの様子からするとアシュレー自身はおそらく信用なる者ということ。
リーザ、シュウの二人は絶対に信頼できること。
トッシュという者は世界中で指名手配されている極悪人でまず間違い無く殺し合いに乗っていること。

ここで考える、世界中で指名手配されているといわれているが。私は聞いたことが無い。彼が嘘を言っているようにも見えない。わたしがあの楽園にいる間に指名手配された?
いや、それよりもここがリィンバウムでなく彼もリィンバウムの者で無い。そう考えるほうが自然に思えた。
さきほどの炎…あの魔剣を超えかねない力、リィンバウムの力とは思えなかった。
それに、リィンバウムの人間の私が召喚されたんだ。おそらくあの魔王にとってリィンバウムは、リィンバウムにとってのロレイラル、シルターン、サプレス、メイトルパの様なものなのだろう。
エルクにサモナイト石などについて聞いてみると知らないと言う。ほぼ確定か…。
私の情報も伝える。島の仲間のことや異世界の可能性、一応ビジュのことも。

さっきの男が落とした荷物を回収して今後のことを考える。男の荷物と残った支給品の確認をすませ、男の荷物はエルクに渡す。
なるべく、人が集まりそうな場所に行きたいが…、何かあるかもしれないし、一番近い海辺の洞窟から行こう。
後は、槍での『紫電絶華』を完成させないといけないな。

こんな殺し合い乗ってたまるか。『あいつ』なら絶対に乗らない、『あいつ』ならどんな困難も乗り越える。

ふいに、太陽のように微笑みかけてくれる『あいつ』―――――アティの笑顔がよぎった。

(こういうときでも、笑顔だな…)

「エルク…これから、よろしくたのむ」

アズリアは笑った、太陽のように。

71太陽が呼んでいる(修正) ◆E8Sf5PBLn6:2008/09/28(日) 21:32:50 ID:XLcd0kZQ0
【A-9 東部、平野 一日目 黎明】

【炎と紫電】

【エルク@アークザラッドⅡ】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:炎の剣@アークザラッドⅡ
[道具]:オディ・オブライトの不明支給品1〜2個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなで力を合わせて、オディオを倒す。
1:とりあえずアズリアと、海辺の洞窟に向かう。
2:リーザ、シュウ、イスラ、アティ、アリーゼ と合流。
3:カノンを止める。
4:アシュレーは信頼できそう。
5:トッシュを殺す。
6:一応ビジュを警戒。
[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※アズリアとお互いの支給品を確認しました。
※A-9にでっかい火柱が立ちました。死角だらけの森林からは見えませんが、神殿からは見えたかもしれません。
※炎の剣@アークザラッドⅡを具現化しました。ただし一度限りの具現化です。

【アズリア@サモンナイト3 】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)
[装備]:ロンギヌス@ファイナルファンタジーVI 、源氏の小手@ファイナルファンタジーVI(やや損傷)
[道具]:アガートラーム@WILD ARMS 2nd IGNITION、不明支給品1個(確認済み)、ピンクの貝殻、基本支給品一式
[思考]
基本:力を合わせてオディオを倒し、楽園に帰る。
1:とりあえずエルクと、海辺の洞窟に向かう。
2:リーザ、シュウ、イスラ 、アティ、アリーゼと合流。
3:アシュレーは信頼できそう。
4:トッシュを警戒。一応ビジュも。
5:『秘槍・紫電絶華』の会得。
[備考]:
※参戦時期はイスラED後。
※軍服は着ていません。穿き慣れないスカートを穿いています。
※エルクとお互いの支給品を確認しました。

72剣と炎と召喚師  ◆iDqvc5TpTI:2008/10/04(土) 00:39:01 ID:bi9vIk920
現在投下中の最後の一レスです。
規制されましたので。

73名無しさん:2008/10/04(土) 00:39:36 ID:bi9vIk920


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:わずかながらの裂傷、疲労(中)、調査による精神的疲労(中)
[装備]:オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード@LIVE A LIVE
[道具]:なし
[思考]
基本:首輪を解除する、打倒オディオはそれから
1:接触する? 様子見? それとも逃げる?
2:改造、首輪解除するための工具を探す。オートボウガン改造したい。
3:どこかで首輪を探す。
4:オートボウガンに書かれていた「フィガロ」の二人を探す(マッシュ、エドガー)
5:クロノ達と合流、魔王は警戒。
6:17ダイオードの更なる研究
[備考]:
※バイツァ・ダスト@WILD ARMS 2nd IGNITIONを使用したことにより、C-8東側の橋の一部が崩れ去りました。
※参戦時期はクリア後。 ララを救出済み。
※C-9の中心部にルッカの基本支給品一式入りデイバッグが放置されています。
※機界ロレイラの技術の一部を解明し、物にしました。
※ミネア、アリーゼ、カノンの情報交換は聞いていません。





力が、欲しかった。
部族の仲間を、父を、母を奪ったあいつら――タラビラ山賊団に復讐するだけの力が。
そのためには、なんだってすると、私は誓った!
だから、こんなところで、倒れているわけにはいかない!

すうっと、リンディスの意識が覚醒へと向かっていく。
拡声器を通したアキラの声は、睡眠呪文により夢の世界へと落ちていた彼女の意識を呼び覚ますのに一躍買ったのだ。
幸か不幸か、完全に目を覚ますにはいささか遠く、半覚醒の為、殺意に呑まれきっていないこともあり、
目も開けず、身体も大きく動かしていない為、彼女が目覚めつつあることを、誰もまだ知らない……。


【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:狂戦士、呪い、少し火傷 、目覚めつつある、朦朧とした意識、ダメージ(中)
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV、みわくのブラ@クロノトリガー
[道具]:なし
[思考]
基本:打倒オディオ
皆殺しの剣による行動方針:見敵必殺
1:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
[備考]:
※参戦時期、支援状態は不明
※皆殺しの剣の殺意に影響されています、解呪魔法をかけるか剣を何らかの手段でリンの手から離せば正気には戻ります。
※みわくのブラで両手首を縛られた上、柱にくくりつけられています。
※意識が朦朧としている為、かえって剣の殺意と本来の意思が混濁しています。

74 ◆iDqvc5TpTI:2008/10/04(土) 00:56:04 ID:Y5ukw5qg0
代理投下感謝。ありがとうございます。投下、終了です。

75 ◆iDqvc5TpTI:2008/10/19(日) 17:55:28 ID:hbPvdnyQ0
拙作、白黒パッチワークにおいて、状態表に後に教会で合流することについて記入が漏れていました。
Wiki編集に伴い以下のように追加修正します。

クロノ
1:北に向かい、赤い光の真相を確かめる。

1:北に向かい、赤い光の真相を確かめる。その後教会に向かう。

1:灯台へと向かう

1:灯台へと向かい、その後教会へ。

また、クロノの思考欄の番号の重複も修正しました。

76 ◆iDqvc5TpTI:2008/11/03(月) 03:25:40 ID:iQhEnKV60
BIG−TOKAの誤字脱字、及び状態表でFF,DQの数字が逆になっているといったニアミスをWIKI収録につき修正しました。

77 ◆iDqvc5TpTI:2008/11/26(水) 21:20:48 ID:EgDo1PbQ0
「夜空」の誤字脱字、及び、句点の打ち方、カオスフレアをオメガフレアに、
ジョウイが何故だか持っているワルキューレの削除といった修正しました

78 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:38:03 ID:yXq0Niik0
規制されました。ここからこっちに投下します。
あとタイトル忘れてました。ここから入れます。

79本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:39:08 ID:yXq0Niik0
訳が分からない。私の腕の中には動かないアリーゼさんがいる。
なんで動かない?
――死んでいるから。
なんで死んでいる?
――この男に殺されたから。
なぜアリーゼさんが殺された?
――私を庇ったから。
また私のせいで命が失われた。私のせいで、私のせいで、私のせいで。

「ああAaあAAAああAAAあAAあAaa」

私は無力だ。
『力』が欲しい。
神でも悪魔でも魔王でもいい。

「こいつをぶちのめすためのチカラを与えてくれええええエエエぇぇェッ!!」

アティのの中の力――『碧の賢帝』の力が発現する。
アティの姿が変貌する。耳のような髪、白髪。
しかしなによりも違うのは―恐ろしいまでの殺気だった。
その時――アティの持っていた水の封印球が輝き出した。

リィンバウムの召喚は異世界とゲートで繋いで成り立つものー。そしてそのためには契約の石『サモナイト石』が必要だ。
紋章の封印球はサモナイト石とは違うものだ。
だが今のアティは強引に紋章と自分を繋ぐゲートを作る。
それも圧倒的な力――即ち『暴走召喚』。
本来、水の紋章は癒しの力だ。しかし『暴走召喚』により絶大な攻撃の力へと変貌するッ!!
起こったことは――大津波。

「AAああAaaaAaaAAあAAAaaあAaaAAああAaaッーーー!!!!」
「これはー。くっ『マヒャド』ッ!!」

迫り来る大津波に対抗するため、ピサロは周りに局地的に冷気を発生させ――津波を防いだ。

「たしかこっちにって、ええええええええーーーーーーー!!!」

アリーゼを追ってきてルッカとミネアが現れたが津波に巻き込まれ流されてしまった。
そして、始まる――アティとピサロの戦いが。

【C-7 森 一日目 早朝】

【アティ@サモンナイト3 】
[状態]:抜剣覚醒。コートと眼鏡とパンツと靴以外の衣服は着用していない。
    強い悲しみと激しい自己嫌悪と狂おしいほどの後悔。コートとブーツは泥と血で汚れている。
   水の紋章が宿っている。
[装備]:碧の賢帝@サモンナイト3、白いコート、
[道具]:基本支給品一式、はかいのてっきゅう@ドラクエⅣ
    モグタン将軍のプロマイド@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:????
1:AaaAAああAaaッーーー!!!
[備考]:
※参戦時期は一話で海に飛び込んだところから。
※首輪の存在にはまったく気付いておりません。
※地図は見ておりません。
※水の封印球@幻想水滸伝Ⅱは砕け散りました
※アリーゼを抱きかかえています。
※暴走召喚は媒体がないと使えません。
※アリーゼは天使ロティエル@サモンナイト3を装備しています。

80本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:39:58 ID:yXq0Niik0
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。
    疲労(やや大)人間に対する強烈な憎悪
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿は確認していません。またロザリーは死んでいると認識しています
※参戦時期は5章最終決戦直後

◆     ◆     ◆

リンは探していたあの3人を――否、自分の獲物を、だ。
そして見つけた――鎧を着た大男を。

(見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺)

猛スピードで迫るも、皆殺しの剣によって足運びの技術まで殺されていたため男はあっさり防いできた。

「はははははははははははは!!!貴様!!おもしろそうなものを持ってるじゃないか!!」

男が炎を放つ――私はその炎を回避するも追撃してきた男に槍で貫かれてしまった。

(もう、お前は駄目だな)

「えっ」

男が私から剣を奪おうとした時、頭の中から声が響いてきた。そして剣を奪われた瞬間『リンディス』の意識が覚醒した。

「感謝するぞ小娘!では死ねえッ」

その瞬間だ津波が来たのは。
私はそこで意識を失った。

◆     ◆     ◆

「どっちに行けばいいんだよ。ったく」
「うーん、多分こっち……かな?」

トッシュ、ナナミ、ビクトールは出口を目指し移動しながら自己紹介、これまでの経緯や仲間のことなど軽い情報交換を終わらせていた。
森の状態はかなり酷くなってきていて、まっすぐ進めない状態になっていた。こんな状態でコンパスは役に立たなかった。そのため長い間ふらふらすることになったのだ。
歩いていると川に辿り着いた。

「川か」
「さっきの時よりずいぶん流れが緩やかだな」
「えーと神殿はどっちかな」

川を目印に神殿に向かおうとしたがー。
そこに津波がやってきた。

◆     ◆     ◆

81本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:41:14 ID:yXq0Niik0
どっぱーん!!

「ぷはっ」

神殿の湖畔の上空に人影が2つ現れて、そのまま湖畔にダイブすることになった。
その2つの人影はテレポートによってルカから逃れてきた。カノンとアキラだ。
意識のあったアキラはカノンの安否を確認する。

「息は…あるみたいだな、間に合ってよかった」

とりあえずアキラはカノンを起こそうと思って、呼びかけたり揺すったりするものの起きる気配が無い。

「仕方ねえ、とりあえずここから出てそこの神殿に運ぶか」

アキラは出来たら動き回りたかったが、こんな状態の人を放っては置けない。だからとりあえず休めそうな場所として神殿に向かった。
アキラはひたすら待ったカノンが目覚めるのを、まだカノンは目覚めない。放送まで――後僅か。

【C-8 神殿(集いの泉@サモンナイト3) 一日目 早朝】

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、服が濡れている。
[装備]:なし
[道具]:拡声器(現実)、ランダムアイテム1〜2個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める
1:気絶している女性(カノン)が起きるまで神殿に待機。
2:他の参加者と接触する。
3:どうにかして首輪を解除する。
4:森であった邪悪(ルカ)を倒す。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※急いで支給品は確認しましたが、名簿の方は未だ出来ていません
※日勝、レイ、サンダウン、無法松が参戦している事に気付いてません
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付いていません
※ストレイボウの顔を見知っています
※拡声器はなんてことのない普通の拡声器です

【カノン@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:精神的疲労(中)、ダメージ(中)、気絶、『義体』に異常 、服が濡れている
[装備]:勇者ドリル@サモンナイト3(左腕)、Pファイアバグ@アークザラッドⅡ、
    激怒の腕輪@クロノ・トリガー、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品1〜2個(確認済み)、基本支給品一式×2
[思考]
基本:『魔』を滅ぼす。邪魔されない限りそれ以外と戦う気はない。ただし、邪魔者は排除する。
1:アシュレーを見つけて討つ。
2:アシュレー以外の『魔』も討つ。(現時点:オディオ、魔王、皆殺しの剣、ピサロ)
3:後に少女(リンディス)の問題解決の為にも花園へ向かい1、2の為に情報を集める。
4:森に火を放った男(ルカ)を倒す。
5:あの男(エルク)には会いたくない。

[備考]:
※参戦時期はエミュレーターゾーンでアシュレーと戦った直後です。
※彼女の言う『魔』とは、モンスター、魔物、悪魔、魔神の類の人外のことです。
※勇者ドリル、Pファイアバグは機械系の参加者及び支給品には誰(どれ)でも装備できるよう改造されています。
※エルクのデイパックを湖に捨てました。基本支給品はちゃっかりぱくっています。
※ミネア、アリーゼの知り合いや、世界についての情報を得ました。
 ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。

82本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:41:58 ID:yXq0Niik0
◆     ◆     ◆

「ううん……いったいなにが……ってあなた!!」

ミネアが目を覚ましたらそこには腹から血を流している少女リンディスが倒れていた。なぜか剣は持ってない呪いが解けたのだろうか。とにかくこのままにしておくと死んでしまう。すぐに回復呪文をかける。

「ベホマ!」

だが、一瞬で傷を完治させる呪文は気休めにしかならなかった。さらに言えばものすごく疲れる。

「力が弱まってる!」

でもこのままじゃこの子は――。

「だったら……ベホマ!ベホマ!ベホマ!ベホマ!ベホマ!ベホマ!」

ミネアはひたすら呪文を紡ぐ。傷が塞がるまで。その甲斐あって、なんとか命は助けられたようだ。もう少し処置が遅れていたら助からなかっただろう。

「これは……こたえたわ」

頭が痛い、ここでの回復呪文は大幅に弱まるみたいね。ここはどこかしら?ルッカさんともはぐれちゃったみたいだし。アリーゼちゃんも探さないといけないし、でもこの子をここに置いていくわけにも行かないしどうすればいいのかしら?

「前途多難ね……」

ミネアは溜息をついた。
傍らで眠る少女――遙かなる草原はまだ目覚めない。放送まで――後僅か。

【C-6  山 一日目 早朝】

【ミネア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:精神的疲労(大)、ずぶ濡れ
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ
[道具]:ブラストボイス@ファイナルファンタジーⅥ、基本支給品一式
[思考]
基本:自分とアリーゼ、ルッカの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:少女(リンディス)が起きるまで待つ。起きたら話を聞く。
2:アリーゼ、ルッカを探したい。
3:飛びだしたカノンが気になる
[備考]
※参戦時期は6章ED後です。
※アリーゼ、カノン、ルッカの知り合いや、世界についての情報を得ました。
 ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。
 また時間跳躍の話も聞いていません。
※回復呪文の制限に気付きました。

【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:少し火傷 、ダメージ(小)、腹に傷跡
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:打倒オディオ
1:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
[備考]:
※参戦時期、支援状態は不明
※みわくのブラは引きちぎられました。

◆     ◆     ◆

「ここには…地面が焼け焦げた跡しかないか」

トッシュの言う仲間はすでにここを離れた後のようだった。ここは平原――日が昇ってきた今はかなり遠くまで見渡せるようになった。だが周りを見ても人は見あたらない」

「うーん。俺が座礁船の方から来たから…こっちの洞窟にでも行っちまったのか?とりあえず、向かってみるか」

(ティナ、ビクトール、ナナミ、トッシュ、…アキラ無事でいろよ)

松は走る。悲劇を生まないために。
ひたすらに今自分に出来ることを――。

【A-9 平野 一日目 早朝】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6、不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考]
基本:打倒オディオ
1:エルクを探すため海辺の洞窟に向かってみる。
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。
3:第三回放送の頃に、ビクトールと合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナの仲間とビクトールの仲間とトッシュの仲間について把握。ケフカ、ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
 ジョウイを警戒すべきと考えています。

83本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:43:10 ID:yXq0Niik0
◆     ◆     ◆

「てててててて…ここはどこだ?」

周りは木だらけでいまどこにいるかわかんねえ。おまけにあいつらとはぐれてしまった。
さてどうするか、集合場所を決めているのだから無理に探さず新しい仲間を捜すべきか?
あいつ――トッシュの強さを目の当たりにした時、希望と絶望が見えた。
ルカを倒しうる力を持ったトッシュに希望が見えた、だがそんな男を簡単に連れてこれるオディオに対する絶望が見えた。
いよいよルカよりやばい参加者がいると言うのが現実味を帯びてきたかもしれない。早いうちに仲間を集めなければならない。
トッシュの話によれば奴の仲間は全員安全でその中にはシュウって奴がいるらしい。おそらく名簿は知り合いごとにまとめられているだろうから。俺が知っているシュウとは別人だろう。
奴の様子からすればとにかく『できる』男。そんな印象を受けた。
あそこまで奴が信頼している男だ。早いうちにあっておきたいな。

「後は、松…あいつにティナの事謝らねえとな」

松が起きた頃には――もしかしたら松を見つけた頃には手遅れだったのかもしれない。
だが、それでも自分はティナを助けられなかったのだ。その事実は変わらない。そのためにも―。

「生きなきゃ、な」

【D-8 森林 一日目 早朝】
【ビクトール@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]健康 、ずぶ濡れ
[装備]魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品0〜1(確認済)
[思考]
基本:打倒オディオ
1:アキラ・ティナの仲間・ビクトール・トッシュの仲間をはじめとして、ルカおよびオディオを倒すための仲間を探す。
2:第三回放送の頃に、無法松と合流するためA-07座礁船まで戻る。その時、松に謝る。
[備考]参戦時期はルカ死亡後のどこかです。詳細は後の書き手さんにお任せします。
※ティナの仲間とトッシュの仲間、アキラについて把握。ケフカを要注意人物と見なしています

◆     ◆     ◆

「どわあああああッ!!!、ちくしょう!!いつまでながされんだよ!!」

トッシュはよりによって津波によって山の下にあった水路まで流されてしまったのだ。未だ流された状態が続いている。いいかげんうんざりしてきた頃ようやく光が見えてきた。

「ひかりだ!」

そして、思いっきり水から放り出された。

「ぐおおおおッ!!」

数回バウンドして数十秒後――ようやく起きあがる。

「ここはどこだ?っな!しろぉ?なんでこんなすいろのさきにしろがあるんだよ!」

それにしてもこの男さっきからセリフがひらがなばっかりである。

「ってとりあえずナナミ達を探すか。でも出口ってどっちだ?」

突っ込みが届いたのか、修正に入ったようだ。喋れるじゃないか漢字。

「剣もどっかに落としちまったみてえだ、とりあえず散策するか」

散策を始めようとした時、何かが光った。

「ん、なんだ?………石?」

それは、ティナ・ブランフォードが残した『意志』――残された者達への『力』だった――。
拾わないといけない――そんな気がした。

【D-6 地下にある城(古代城@ファイナルファンタジーⅥ) 一日目 早朝】
【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、ずぶ濡れ、ナナミの弟
[装備]:ひのきの棒@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式 、ティナの魔石
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:あたりを散策し出口を探す。
2:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい(特にシュウ)
3:ナナミ達を探す。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
6:基本的に女子供とは戦わない。
7:あのトカゲ、覚えてろ……。
8:事が片づいたらナナミのケーキを食べる。

[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未修得です。
※C−6エリアのどこかにマーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣が落ちています。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※ティナは魔石になりました。

84本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:43:45 ID:yXq0Niik0
◆     ◆     ◆

「はあ、なんだってのよ一体。誰かがウォータガでも放ったのかしら?」

ルッカはミネアとアリーゼの捜索を続けていた。仲間がいないのはやっぱり寂しいものだし、首飾りを受け取った以上、借りを返さないといけない。
ふいにルッカの前に人影が現れる。狂皇子ルカ・ブライトだ。

「……何か用かしら?」
「分からんか?」

分かる、すっごい分かる。こいつの目、正気じゃないわ。おまけにさっきの子が持っていた剣までもってるし。
まずいことになったわね。さっきの子より遙かに強そうだわ。逃げようかな……。

逃げる――妥当な判断だ。だがルカ・ブライトは津波によって流されたアリーゼのデイパックを回収していた。その中身は――「工具セット」。ルッカが探しているものだった。
――ルッカはそれを知らない。

「ホーッホッホッホ、さいならッ!」
「逃がさんぞおおおおおおおおッ!!」


不意打ちで逃げたが、男は猛スピードで迫って来てぐんぐん距離を詰めてくる。
なんなのあいつ!鎧の重さを感じないわけ!速すぎるじゃない!
しかもリンの時と違って木々が燃えてしまったため撒くことが出来ない。――最悪だ。

(ここは、いちかばちかフレアで……)

フレアを放とうとした瞬間!

「花鳥風月百花繚乱竜虎万歳拳!!!」
「「!!」」

声のしたほうには一人の少女が立っていた。

「ほら!早く逃げて!!」

あの子、注意をそらすために!って目の前の男は迷わずあんたのほうに突撃してるじゃない!!
あ、逃げた。

……。
…………。
………………。

「って、恩の売り逃げは、気に入らないわ!!待ちなさい!!」

◆     ◆     ◆

(あーあ、わたしの方が無茶しちゃった)

でも、ここで死んでやる気はさらさら無い。ここにはリオウやジョウイがいる。
彼らを助けなければいけない。
それに…………新しくできた弟にケーキを作るという約束もある。
今、両手にある武器『天命牙双』に誓いを立てる。
決して負けないことを。

(私は、『お姉ちゃん』なんだからー!!!)

◆     ◆     ◆

(見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺見敵必殺)

「黙れ、耳障りだ。叩き壊すぞ」

(…………)

「貴様に操られて殺すのではない。俺は俺の想うまま、俺の望むまま『邪悪』に生きているから殺すのだ。豚は引っ込んでいろ」

ルカ・ブライトは皆殺しの剣の殺意をはね除けていた。彼の突き動かす『感情』――『オディオ』はそんなちっぽけなものでどうこうできるものではなかったのだ。
悲しき過去を持つ狂皇子はどこまでも続ける――『本気の嘘』を。

85本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:44:32 ID:yXq0Niik0
【C-7 森 一日目 早朝】

【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:わずかながらの裂傷、疲労(中)、調査による精神的疲労(中)、ずぶ濡れ
[装備]:オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード@LIVE A LIVE 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:なし
[思考]
基本:首輪を解除する、打倒オディオはそれから。
1:少女(ナナミ)を追いかけ男(ルカ)から助ける。
2:ミネアとアリーゼを探したい。
3:改造、首輪解除するための工具を探す。オートボウガン改造したい。
4:どこかで首輪を探す。
5:オートボウガンに書かれていた「フィガロ」の二人を探す(マッシュ、エドガー)
6:クロノ達と合流、魔王は警戒。
7:17ダイオードの更なる研究
8:魔王に『お守り』を返す。
[備考]:
※バイツァ・ダスト@WILD ARMS 2nd IGNITIONを使用したことにより、C-8東側の橋の一部が崩れ去りました。
※参戦時期はクリア後。 ララを救出済み。
※C-9の中心部にルッカの基本支給品一式入りデイバッグが放置されています。
※機界ロレイラルの技術の一部を解明し、物にしました。

【ナナミ@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:健康 、ずぶ濡れ、みんなのお姉ちゃん
[装備]:天命牙双@幻想水滸伝Ⅱ
[道具]:スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ルカから逃げる。
2:近くにいるであろう、トッシュ、ビクトールと合流。
3:リオウ、ジョウイと会いたい。
4:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
5:事が片づいたらトッシュにケーキを食べさせる。
[備考]:
※紋章の一つはフェロの紋章です。他の紋章に攻撃系のものはありません。
※トッシュとシュウ(幻想水滸伝Ⅱ)が知り合いだと思ってます。

【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]疲労(中)、思念による精神的疲労(中)
[装備]皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV、魔封じの杖(4/5)@ドラゴンクエストIV
[道具]フレイムトライデント@アークザラッドⅡ、工具セット@現実、基本支給品一式×3、不明支給品1〜3(武器、回復道具は無し)
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:ナナミを殺す。
2:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た5人を優先
3:あの狼(トッシュ)は自分の手で殺したい。
[備考]死んだ後からの参戦です
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※津波で濡れた体は炎で乾かしました。

86本気の嘘 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:45:11 ID:yXq0Niik0
◆     ◆     ◆

「先生、私…怒ってるんですよ。いつもいつも一人で何もかも背負い込んで、自分の事なんて省みずに周りに心配ばっかりかけて、わたしそんなに頼りないですか、話相手にもなりませんか。たしかに私は人見知りだし、召喚もうまくできないし、先生に迷惑を何度もかけました。わたしじゃ駄目なのかもしれません。でもあの島には頼りになるいい人がたくさんいたじゃないですか!誰も頼らない先生を見てるとイライラムカムカするんですよッ!でも、それでも私は先生のことが大好きです。大丈夫です――。先生ならきっと手を取り合えます。先生――最後に一つだけお願いがあります。もう一度笑ってください。また先生の笑顔を見せてください。私はいつでも先生のことを見守ってますから――」

【アリーゼ@サモンナイト3 死亡】

【残り45人】

※C−7エリアで大規模な津波が発生しました。そのため、山火事は完全に収まりました。

87 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:48:10 ID:yXq0Niik0
投下終了です。また自分は問題作を……。
ティナについては某所と同じネタだからまずければ削ります。

88 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 01:58:14 ID:yXq0Niik0
あ、すいません。リンの状態にもずぶ濡れがあります。

89『名無し』募集中!:2008/12/28(日) 01:59:31 ID:uDUYBY7c0
ごめんなさい。代理投下も規制されました。
誰か見てたらお願いします。

90『名無し』募集中!:2008/12/28(日) 02:06:12 ID:uDUYBY7c0
やっぱり代理いけました。すいません。
>>86
アリーゼの台詞に改行がないので「長すぎる行があります」って怒られて書き込みが出来ないのですが、どうしましょう?

91 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 02:12:59 ID:yXq0Niik0
すいません!!これでお願いします!

「先生、私…怒ってるんですよ。いつもいつも一人で何もかも背負い込んで
 自分の事なんて省みずに周りに心配ばっかりばっかりかけて、わたしそん
 なに頼りないですか、話相手にもなりませんか。たしかに私は人見知りだ
 し、召喚もうまくできないし、先生に迷惑を何度もかけました。わたしじ
 ゃ駄目なのかもしれません。でもあの島には頼りになるいい人がたくさん
 いたじゃないですか誰も頼らない先生を見てるとイライラムカムカするん
 ですよッ!でも、それでも私は先生のことが大好きです。大丈夫です――。
 先生ならきっと手を取り合えます。先生――最後に一つだけお願いがあり
 ます。もう一度笑ってください。また先生の笑顔を見せてください。私は
 いつでも先生のことを見守ってますから――」

【アリーゼ@サモンナイト3 死亡】

【残り45人】

※C−7エリアで大規模な津波が発生しました。そのため、山火事は完全に収まりました。

92 ◆E8Sf5PBLn6:2008/12/28(日) 02:16:00 ID:yXq0Niik0
代理投下ありがとうございます。

93 ◆E8Sf5PBLn6:2009/01/10(土) 09:38:55 ID:umUTgANs0
「本気の嘘」のアティの備考欄の追加などの修正をwikiにて行いました。

94傍らにいぬ君よ  ◆iDqvc5TpTI:2009/01/31(土) 22:26:14 ID:qfMafwh20
最後の最後に規制されてしまったので、以下、状態表の残り。
代理お願いします。或いは解除後に

【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:健康
[装備]:いかりのリング@ファイナルファンタジーⅣ、導きの指輪@ファイアーエムブレム 烈火の剣、 クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:エリクサー@ファイナルファンタジーⅥ、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める
1:ピサロ様を捜す
2:ひとまず南下してシュウの報告を待つ
3:ユーリル、アリーナ、トルネコ、ミネアたちとの合流
4:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※クレストグラフの魔法は不明です。


【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る
1:ジャファル、フロリーナを優先して仲間との合流
2:ひとまず南下してシュウの報告を待つ
3:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す
4:フォルブレイズの理を読み進めたい
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※クレストグラフの魔法は不明です。

95傍らにいぬ君よ  ◆iDqvc5TpTI:2009/01/31(土) 22:27:03 ID:qfMafwh20
以上、投下終了です。

96 ◆iDqvc5TpTI:2009/02/01(日) 00:44:53 ID:LeAzp8S60
代理投下感謝

97エドガー、『夜明け』を待つ ◆Rd1trDrhhU:2009/02/18(水) 02:58:15 ID:hlBLg/D20

「くっ……!」
しかしフロリーナは見習いと名乗っているとは言え、今や一流の天馬騎士である。
槍の扱いには長けていた。
それに、ペガサスナイトは矢に弱いのだ。
それこそ一撃でも掠ったらそれが致命傷となるほどに。
だから、戦場での咄嗟の判断力、動体視力は鍛えられていた。
最初にシャドウがエドガーに切りかかった瞬間こそ、精神的疲労と気の緩みで追うことは出来なかった。
だが、真正面から対峙して、敵が切りかかってくるのが分かっている今は違う。
集中さえしていれば、攻撃を絶対に凌げないというわけではないのだ。

今から刃を振り下ろしていたのでは間に合わない事を悟るなり、槍の刃が付いているのとは逆の柄の部分でシャドウの攻撃に対処する。
シャドウの手首に槍の持ち手の部分を当てると、そのまま反時計回りに回転させた。

「……ッ!」
シャドウの目に初めて焦りの色が浮かんだ。
別にシャドウがフロリーナのことを侮っていたのではない。
彼女が今まで見せていた以上の力を、ここにきて発揮したに過ぎない。
右下から振り上げる形で繰り出されたシャドウの右腕は、槍の回転に逆らえずに真上に引っ張られてしまう。
腕が伸びきると、今度はその勢いに上半身が上方向に釣られて背中を反らせる。

(ここだ!)
相手に隙ができた事を確認したフロリーナは、お留守になった下半身に狙いを定めた。
小さく屈んで体勢を低くし、同時に槍を相手のくるぶし目がけて放つ。
足払いを目的とした一撃なので『突く』ための直線攻撃ではなく、あくまでその軌道は『払う』ための弧を描いた回転運動。
そのため、相手に到達するまでに若干時間がかかるという欠点が生じてしまう。
加えて相手は熟練の忍者。俊敏性ならば、フロリーナが今までに相対した人物のなかでも5本の指に入るレベルだろう。
だから、フロリーナの槍の軌道によるその僅かながらの時間のラグも、シャドウにとって見れば大きな猶予となるだろう。
当たるかどうか……厳しい一撃。

だが、重ねて述べる事になるが、フロリーナもはやは一流といっていいレベルの天馬騎士である。
彼女の振るう槍は、そのあどけない姿からは想像もつかないほど速く、鋭い。
加えて技術面でもかなりの力量を持っており、今回の一撃も槍の端を持つのではなく中央部辺りを持って振るっていた。
これにより槍の速度を上げると共に、槍が描くこの大きさを小さくしてその軌道を短くしていた。
これらの工夫と、相手に引く事のなかった彼女の強い心が、『この一撃の命中』という結果を引き寄せた。

フロリーナの槍が、アサシンの足首を正確に叩く。
バランスを失ったシャドウの体が宙に浮く。
それも地面と並行に、空を見上げた格好という絶対の隙を晒した形で。
地面に触れてない以上、踏ん張る事もままならない。
それはつまり一切の攻撃も出来なければ、走って逃げる事すらできないという事!

(貰った……!)
シャドウの腹部へと全力で槍を突き立てる。
まるで、棺おけに眠る吸血鬼に木製の杭を打ち込むが如く。
突き立てるのを刃の方ではなく柄のほうにしたのは、彼女の優しさだろうか。
それとも未だ殺人に踏み出す勇気がないだけなのだろうか。

完璧なタイミング。
相手は避ける手立ても、反撃の手立ても有していないはず……!
絶対に命中するはず……。

そのはずだ………………。

…………。

……。

98エドガー、『夜明け』を待つ ◆Rd1trDrhhU:2009/02/18(水) 02:59:39 ID:hlBLg/D20

……そのはずだった。

問題は『固定観念』。

先述したように、フロリーナはシャドウの事を『ジャファルのようなアサシン』と認識していた。
機動力で相手をかく乱し、奇襲や暗殺などで確実に仕留めるタイプのアサシンだと。
その認識には一切の誤認はないだろう。
事実、シャドウはそのような戦術を得意としていた。

だが、それだけではないのだ。
先ほどのジャンプ攻撃もそうだ。
彼女の『アサシン』の認識を超えたような攻撃をシャドウは繰り出してきた。
そしてジャファルには出来ないが、シャドウには出来る攻撃がまだ幾つか存在していた。

その1つが投合。
野性の女戦死を仕留めた、シャドウの真骨頂だ。
彼にとっては暗殺以上の……言わば切り札。
その精度はウィルの弓矢以上に正確だ。

「……え?」
自分の顔面目がけてクルクルと回転しながら飛んできた短剣。
誰が? どこから?
そんな疑問がフロリーナの意識を支配する。
暗殺者の右腕に、あの短剣がないことを確認するまでは。

「く……! そんな……!」
咄嗟にシャドウへの攻撃を中断。
無理にでも体をくねらせて跳んできた刃の軌道から顔を反らす。
無理な体勢に腰が少しだけ痛んだが、そんな事を嘆いている場合じゃない。
出来るだけ体を捩ったつもりであったが、ナイフの先端がフロリーナの頬に赤い筋を刻んだ。
傷そのものは浅くダメージと呼べる程ですらないが、フロリーナの精神に与えたショックは大きい。
ツゥ……っと血が頬を垂れるのを感じながら、フロリーナは考えを巡らせる。
目の前の男は、宙に浮かされた不安定な状態から、あのような正確な投合を繰り出してきたというのか。
大した予備動作もなしに。
フロリーナに感づかれないほど素早く。
単なるアサシンの技能の1つと呼ぶにはあまりにも高いレベルの攻撃。
恐らく、これはシャドウが人生をかけて磨き続けた切り札……!
今のような窮地から脱却する為の隠し玉だ。
現にシャドウはこの投合でフロリーナの攻撃をやり過ごす事に成功している。
そして、これはフロリーナの『アサシンは近接攻撃しか持たない』という固定観念が生んだ失策でもある。

「……ま、まだッ!」
意外な攻撃に一瞬だけ臆したものの、直ぐに体勢を立て直して追撃の準備に入る。
相手は未だ宙に浮いた状態。
しかもその武器は先ほどの投合で失ってしまっている。
相変わらずアドバンテージは自分にある。
シャドウの脇腹めがけて槍を振るった。

さて、問題は『固定観念』だ。
シャドウにあって、ジャファルにない攻撃がもう1つある。
それが……。

「……サンダラ」
……魔法だ。
シャドウもナイフを避けられるのは予想していた。
だが、相手は確実に怯む。
その時間を使って呪文を詠唱してみせたのだ。

99エドガー、『夜明け』を待つ ◆Rd1trDrhhU:2009/02/18(水) 03:00:17 ID:hlBLg/D20

「……?」
フロリーナは自分の周りに黄色い蛇のようなものが旋回している事に気付く。
そして一歩遅れて悟る。
これは電気だと。
パチパチと音を鳴らし走る蛇は、次第に太く大きくなっていき……。
遂には天から雷を召還した。

「ぐ……きゃあああああああああああ!!!」
バチンと破裂音と共に、フロリーナの体を電流が暴れまわる。
攻撃動作に入っていたはずの体は「気をつけ」の姿勢で伸びきり、力の入らなくなった指からデーモンスピアが零れ落ちた。

彼女の世界では魔法とは魔術師が魔道書を読んで初めて使用できるものである。
しかし、シャドウの世界では違う。
魔石を持っていれば、誰でも魔法を習得する事が可能なのだ。
『アサシンは魔法が使えない』。
これもフロリーナが持っていた固定観念である。

「そん……な……」
シャドウはティナやセリスほど魔法を得意としてはいなかった。
よっていくらクリーンヒットしたとはいえ、彼のサンダラに一撃で致命傷を与えるほどの威力はない。

だが、シャドウにしてみればそれで充分だった。
元より魔法で止めをさす気など、彼には更々なかったのだから。
サンダラの雷が止む。
それを確認し、体制を立て直したシャドウは、足元がふらついたフロリーナに瞬時に接近する。
そして彼女の腹部に重い拳をめり込ませた。

「がはっ!」
魔法で体力が削られたところに更なる一撃。
たまらずフロリーナは膝をつき、手をついてゲホゲホと咳き込むしかない。

しかし、冷徹な暗殺者は苦しむ少女の口元を覆うように右手で彼女の顔を掴むと、そのまま体を持ち上げた。
「むぅ……!」
苦しげに歪む顔とは対照的に、だらりと伸びきる手足。
先ほど食らった魔法のせいで、その皮膚はところどころ焦げている。

(苦しい……! これは……私への罰なの?)
エドガーを見捨てて自分だけ逃げようとした。
この仕打ちは、そんなフロリーナへの罰なのか。
切られた頬から流れる血液に混じって、涙が彼女の頬を濡らした。

(助けて……ヘクトル様……!)
そんな願いも空しく、シャドウは彼女が落としたデーモンスピアを拾い上げる。
フロリーナも何とか逃げ出そうと試みるが、口元を塞がれ呼吸が出来ない苦しさと、戦闘のダメージで手足が思うように動かない。
そして暗殺者は一言も発することなく、彼女の心臓に狙いを定めて槍を振りかぶり……。

(誰か……助けて!)
そのまま……。

……。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ

「……ッ!」
(……え?)
受け入れる事ができない現実に絶望する少女を目覚めさせたのは、なんともファンシーな泣き声。
そう。横から飛んで来たのは、彼女のトラウマと言うべき……。

……大量のヒヨコ。

100エドガー、『夜明け』を待つ ◆Rd1trDrhhU:2009/02/18(水) 03:01:30 ID:hlBLg/D20

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ

銃口から産み出されたヒヨコたちは、ペシペシと暗殺者の腕に特攻を繰り返ては地面に落ちていく。
1匹1匹は大したダメージではなくとも、こうも連続でぶつかられるとその合計ダメージは馬鹿にはできない。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ

「……!?」
驚いたシャドウはヒヨコが跳んでくる方向である右を向いて、それを放っている犯人の顔を確認しようとする。
しかし、迫り来る黄色い雛鳥が邪魔で相手の顔も、その正確な位置すらも確かめる事ができない。
仕方なく、フロリーナを放してヒヨコの軌道から逃げ、犯人の顔を確認しようとした。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピ……

だが、次の瞬間にその必要はなくなった。
ヒヨコ部隊の怒涛の攻撃が止んだ次の瞬間……。

「ブリザラ!!!!」
シャドウにとって聞き馴染んだ声が響き渡る。
それと同時に青白い冷気がシャドウの黒衣を包み込み……。

「……しまッ!」
シャドウが始めて驚きの声を上げた。
だが、遅い。魔法は既に発動している。
カキィン! と心地よい音。
シャドウの全身を氷塊が閉じ込め、パキィン……と割れる。
魔法の直撃を受け、よろけたシャドウに乱入者の追撃が襲い掛かる。

彼の手から槍をもぎ取ると、その柄で彼の腹部を思い切り殴りつける。

「ぐが……!」
鎧のない体にクリーンヒットを受け、後方に勢いよく吹き飛ばされてしまう。
2バウンドした後、地面に転がって敵を仰ぎ見る。
追撃をしてくるのではないかと心配したが、どうやら少女の方へ駆け寄っていったようだ。

(甘いな……お前は。…………だが……)
吹き飛ばされた先には、幸運にも先ほど投げた短剣が転がっていた。
それを一目散に拾い上げると、体を起こし、膝をついて、息を整える事に集中した。
まだ……戦いは終わってはいない。


「大丈夫か? フロリーナ。よく頑張ったな」
シャドウを吹き飛ばした乱入者が倒れた少女に駆け寄る。
抱え起こすと少女の手首を取り、脈があるかを確認する。
トクトクと一定のリズムを確認すると、ふぅ……と安堵の溜め息を吐き出した。

「ヘクトル……さ、ま……?」
朝日の逆行で乱入者の顔が見えない。
朦朧とした意識の中、その姿を必死で確認しようとする。

「残念だが、俺は君の愛する王子様じゃない」
男の声がフロリーナの期待を打ち砕く。
残念な気持ちがフロリーナの心を満たしたが、不思議と不快感はない。

「もっとカッコいい王様さ」
前言撤回。
ニヤリとわらうキザ男に、多少の不快感を覚えた。

101エドガー、『夜明け』を待つ ◆Rd1trDrhhU:2009/02/18(水) 03:02:20 ID:hlBLg/D20

「なぁ、んだ……エ、ドガー、さ……ん……かぁ……」
そこまで言い終えると、少女は安心したのか、フッと気を失ってしまった。
少女の無事を確認したエドガーは、「ツレないなぁ……」と嘆きながらも彼女を大地へ静かに横たわらせる。

「堅い地面で申し訳ないが、もう少しだけ我慢してくれ。
 さて、シャドウ……」
血と涙で汚れた少女の頬を拭ってやると、立ち上がり、かつての仲間に呼びかける。
その視線は未だフロリーナを見つたままで、暗殺者には背を向けた状態だ。

「飛び道具での不意打ち……もとい、奇襲だったが……」
重くて使いにくいアルマーズを地面に投げ捨てる。
そして、シャドウから取り上げたデモンスピアを2,3回振るい、その具合を確かめた。

「まさか、卑怯とは言うまいね?」
シャドウの方を振り向くことなく、そう訊いた。

「…………」
対する暗殺者は何も答えない。
答えなどわざわざ言わなくても分かっている。

「そうか……。じゃあ、もう1つ訊いておこうか……」
そこまで言い放つと、今度はゆっくりとシャドウの方へと向き直った。
徐々に明らかになるその表情は……。

「なぜフロリーナから狙った?!!! 答えろッ!!!!」
……明らかな怒りで満ちていた。
あの状況……エドガーを追い詰めたあの状況で、シャドウはエドガーを放置してフロリーナを襲った。
戦局を考えれば、先にエドガーを殺したほうが得なはずだ。
なのに、わざわざエドガーに回復する間を与えてまで、少女を殺す事を選択したのだ。
そのことにエドガーは怒っていた。

「…………貴様が……」
問いかけられたアサシンは、今度は口を開いた。
ゆっくりと立ち上がったその暗殺者の顔が朝日に照らされる。

「貴様が、腑抜けの顔をしていたからだ……!」
彼の目もまた、怒りで満ちていた。

彼が……シャドウが殺害対象に余計な感情を抱いた事はただの一度としてなかった。
殺すものと殺されるもの。
その関係のみを見つめ、相手が誰であろうと殺すべき相手はその刃の下に切り伏せる。
それは相棒が死に、自らを『シャドウ』と名乗ったあの日から変わる事はない。

だが、先ほどエドガーと剣を交えたとき、彼の心は震えた。
殺す相手と見定めたはずの男。
しかしそれと同時に、その男は一緒に世界を救う旅をしてきた男。
ケフカを倒すたびをしていく中で、シャドウはエドガーの事を自分達のチームのリーダーだと見定めていた。
常に仲間の事を気にかけ、国王という立場にいながら決して驕らず、自分達と一緒に時を刻むことを選択した。
それは、シャドウにとってみれば、かつての相棒ビリーや、シャドウとなってからも心を許したインターセプターと同じ仲間。
信頼できる仲間だったのだ。

それこそ命を捨ててまで助けるほどに。

「それが、俺には許せなかった……」
だが、さっきのエドガーの振るった斧は『ブレて』いた。
自分達のリーダーとして剣を振るっていたときの真っ直ぐさはなく、そこにあったのは迷いに揺れた刃のみ。
自分の信頼した男は、国を失い、敵を見失い、目標を見失って……腑抜けていた。
自らの生き方に従い、この殺し合いに乗ると決めたシャドウにとって、それはとても許せる事ではない。
たとえ、それによってエドガーという強敵を容易く撃破できたとしても、だ。

102エドガー、『夜明け』を待つ ◆Rd1trDrhhU:2009/02/18(水) 03:03:53 ID:hlBLg/D20

だから、フロリーナを殺す事で、彼の怒りを誘発しようとした。
自分を憎ませてでも、かつての彼に出会いたかった。
あの頃のエドガーでなくては……戦う意味がないのだ。


「…………そうか……」
シャドウの言わんとしている事は分かる。
エドガー自身にも思い当たる節があったから。
『国王』としての自分の喪失、信頼していた仲間達との離別。
それにより、自分が成すべき使命を見失っていたのは事実。
目の前の男は、修羅の道に落ちようとも自分の人生を歩んでいる。
それに比べたら、今の自分はなんと情けない事か。



「だが…………」
シャドウが再び口を開く。

「さっきとは違い、今のお前には迷いがない」
「あぁ、お前とフロリーナに教えられたよ」
エドガーがデーモンスピアを高く掲げる。
その切っ先が朝日を反射し、鋭く輝く。
クルリと槍を半回転させると、そのまま勢い欲大地に突き刺した。

「俺はこの殺し合いに参加させられた、フロリーナのような若いやつらを導く!
 命を落とそうとも! 全てを失おうともだッ!」

金色の王は高らかに宣言した。
シャドウがフロリーナを殺すイメージが脳裏をよぎったとき。
彼は自分の使命を悟る。
かつてのように彼自身がリーダーになるのではない。
新たなリーダーを、新たな戦士を導く為に自分はいるのだと。
だから、彼はここで命を捨てる事を覚悟する。
若き者たちを導き、見守って、死のうと決心した。

「そしてこれが、その決心をした俺の最初の仕事だ」
ツカツカとシャドウの方へ歩み寄る。
地面に刺した槍を拾うことなく、丸腰の状態で。
対するシャドウも持っていた短剣を地面に捨て、彼が近づくのを静かに待った。

エドガーがシャドウの眼前で立ち止まる。
一瞬だけ。
拳を強く握り締めると、シャドウの頬目がけて渾身のパンチをお見舞いする。
「……ぐッ!」
「お前はフロリーナを傷つけ、殺そうとした! それだけは許せない。
 そのケジメだけはつけなきゃならないからな。
 …………そして……」
首を掲げ、シャドウの方へ左の頬を向ける。
そして左手の親指を立て、その頬を指差した。
エドガーの拳を食らってよろけていたシャドウだが、それを確認すると咳き込みながらもエドガーに向き直る。

シャドウもまた右の拳を強く握り締め、エドガーの顔に重いパンチをブチ込んだ。

「……ッつ〜!」
「…………これが……腑抜けていたお前へのケジメというわけか……」
口の端からツゥ……と血が流れ落ちたが、それを気にかけることなくニィと笑うエドガー。
それを確認したシャドウの口元、布で覆われてよく確認できなかったが、彼の口元が笑顔になった気がした。
このふざけた殺し合いの破壊を誓った男と、参加者の皆殺しを誓った男。
選んだ道は違えども、共に世界を救った絆はそう易々と千切れるものではなかった。

103エドガー、『夜明け』を待つ ◆Rd1trDrhhU:2009/02/18(水) 03:05:37 ID:hlBLg/D20



……と、その時だった。
その小汚い歌声が響き渡ったのは。

「『と』〜は、ト〜カゲの『と』〜!」

荒野の空気が一変した。
シャドウとエドガーが作り出したシリアスな空気はその一言で吹き飛ばされ、空間を支配したのはなんとも言えない独特な空気。

「『か』〜は、カマドウマ〜!」
朝日が昇ってから数時間は経過したはずである。
エドガーとフロリーナがフィガロ城を出発したときからずっと、辺りの空は白く周りの景色を見渡すのには何の支障もない。

「『げ』〜は、ゲスタパ・・・」
「誰だッ!!! ケフカか?!!!」
しかし、今叫んだエドガーの目には、真っ赤な背景に立つ真っ黒い怪獣が映っていた。
まるで戦隊モノの特撮で、怪獣が登場するシーンのような……。

「ケフカ? 毛〜深〜? 確かに我輩の科学を愛する心は、情熱という羽毛で包まれているトカいないトカッ!
 だがしかし諸君の愛してくれた我輩のボディは、ツルッツルのピカッピカの穢れ泣き豊満ボディッ!!」
ズシン……ズシン……と銀色の巨体がその姿を現す。
その頂点の操縦席には、緑色のなんとも気色の悪い生命体が鎮座していた。

「見よッ! このめくるめくハードSFの世界ッ!
 皆大好き銀色チャ〜ミングメカッ!
 プルコギドン〜? 知らんなそんなボンコツ眠り姫など!!
 これこそが、星の海へと帰るためッ! 我輩が造りし最高傑作ッ! その名も……」
「…………魔導アーマー……」
「なんだ、魔導アーマーか」
それはエドガーにもシャドウにも馴染み深い機械。
ガストラ帝国の技術の結晶。
魔法という奇跡を科学で再現した人類の英知の結晶である。

「わ〜〜おッ! エスパーなんて非科学的ッ! ステキッ!
 そうッ! これは皆さんお馴染みスター街道まっしぐら猫まっしぐらの人気メカッ!
 その名も……マ、マドゥ〜……? ……マジカル……」
「……魔導アーマーだ」
「そうッ! それそれッ! その味ッ! 魔導アーマーであるトカないトカッ!」
両腕を振り上げ、ガシィン……とポーズを決める魔導アーマーとその上の爬虫類(?)。
どうやら未知の科学との出会いが、彼のブッ壊れた精神を更におかしくしてしまったらしい。
エドガーたちの世界では、そこそこメジャーな発明だったりするのだが……。

「悲しいかな……科学の発展に尊い犠牲はつき物ッ!
 そうッ! これこそが正に尊厳死ッ! 感動で我輩、涙ちょちょ切れちゃうッ!
 と、言うわけで……我輩の優しさビーム発射〜ッ!」
人差し指(らしきもの)を天空に向けて掲げ叫ぶ。
叫び終わるのと同時に指を振り下ろし、赤のボタンを勢いよくプッシュした。
キュゥゥゥ……と心地の良い音と共に、赤みを帯びたエネルギーが魔導アーマーの胸部に集まっていく。
そして打ち出されたのは同じく赤色に光るレーザー。
炎の魔法の力を秘めた、ファイアビームである。

目の前のトカゲモンスターの狂人っぷりにポカンとしていたエドガーとシャドウ。
そんな2人の元へ一直線にビームが飛び込み……。
ドガンという爆発音とともに、巻き上がる土煙。

104灯火よ、迷えるものを導け  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/04(水) 21:41:48 ID:eDPh.LUU0
太陽が重い腰を上げ、世界に光が満ち始めたことで、川の水は漸く本来の煌きを取り戻しつつあった。
愛憎渦巻く殺し合いの場には似つかわしくない清流。
その傍らにはこれまた爽やかな景色には相応しくない光景が。

「おらっ、せい、でやっ!」

掛け声と共に武器を振るい宙を裂くは一人の男。
もしも貴公子と言うに相応しい彼の親友が同じことをしていたのなら、絵になる構図だっただろう。
しかし、男の外見も彼の得物も日の光を受け汗を舞い散らせるには粗暴で無骨すぎた。

「うおおおおりゃあああああああ!」

雄たけびを上げ戦斧を振り下ろしつつ男――ヘクトルはイメージする。
闇夜の中戦った一人の戦闘狂を。
ヘクトルの知る限り無手の格闘術をあそこまで昇華した例は存在しなかった。
度々戦乱が起こり平和が長続きせずにいたエルブ大陸だ。
武器を集団に持たせて手軽に戦力を増強する気風が、時間をかけ形成されていたのかもしれない。

(重量や柄の長さで取り回しに癖がある斧や槍じゃ不利だ。踏み込みは相手の方がはええ上に、密着さると捌きづれえ)

一度身体の動きを止め頭を回転させることに集中する。
懐に入られると上手く刃を当てられなくなるのは、ある程度の長さを持つ柄付きの武器の共通の弱点だ。
槍にしろ斧にしろ柄による打撃でもダメージを与えられなくはないが、やはり出は拳より遅い。

(逆に距離を開けての攻撃、特にあの硬い篭手や筋肉の鎧に影響されない魔法なら一方的優位に立てそうなんだが……)

打開策も浮かびはしたが、あいにく弓も魔法もヘクトルには使えない。
それなりに扱え、武闘家相手でも目立った弱点は見られない剣で立ち向かってもあのざまだ。
アルマーズ級の武器ならともかく、このまま斧を手に再戦してもむかつく話だが分が悪い。
故にヘクトルは未だ目覚めぬ男の回復を待つ傍ら修行することを選んだのだ。

(めんどくせえ! ようは懐に入られるより早く一撃で切り捨てりゃあいいだけだろが!)

シンプルイズベスト。
単純極まりない結論に達したヘクトルは訓練を続行する。
より速く、より強く。

そんな彼に握られた斧の刃に施された細工が陽光により浮き彫りになる。
どこかゼブラの模様に似た装飾通りにゼブラアクスと名づけられたその斧の本来の担い手は二人。
一人は奇しくも同じ時刻、同じ島で、付き合いでとはいえ修行をしている少年。
そしてもう一人は彼の未来の仲間である『ブラキアの英雄』。

だからだろうか?
ブラッドは夢を見た。『英雄』の夢を見た。




105灯火よ、迷えるものを導け  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/04(水) 21:42:37 ID:eDPh.LUU0


夢だということにはすぐに気付けた。
ここには居ないはずの男が、立つこともままならない男が、生き残っただけでも奇跡的な男が、健康そのものの姿で立っていたからだ。
『スレイハイムの英雄』。
真にその名で呼ばれるべき男を、俺は、そいつとの絆の証である名前で呼ぶ。

「ビリー……」
「ああ、お前が『ブラッド』だ」

ふと、デジャビュを感じた。
眠りについていた『勇気』のガーディアンロード、ジャスティーンを蘇らせた時のことだ。
あの時も自分は親友と対峙していた。
違うとすればただ一点。
今の俺は迷っているということのみだ。

「辿り着いたんだろ、俺のじゃない、お前自身の結論に」

そのことも、あいつはどうやらお見通しらしい。

「『英雄』なんてものは存在する必要なんてない、か」

かって目の前の親友に誇示した言葉だ。
何も『英雄』が不要な存在だということではない。
『英雄』とは『勇気』を引き出す為の意志の体現であり、迷いを振り払い、踏み出し進むべき道を示す導であるべきだという俺の持論だ。
与えられるのを待つのではなく、すがりつくのでもなく、人々がまとまり一つの目的を共にして未来を手に入れる。
そんな未来が俺にとっての願いであり、その願いに向かって俺は戦い続けた。
そして遂に、一瞬だけでも世界中の人々が心を一つに繋げ焔の厄災を打ち破ったことで、その導としての役割さえ『英雄』は――俺は終えたのだ。
我ながら幸せなことだと思う。
友と掲げた馬鹿げた理想を叶えることができたのだから。
だが、願いの成就は戦うことしか知らない俺から戦う理由を奪ってしまった。
青空に照らされた日常の下で戦い以外の生き方を知ろうとしていた最中今回の事件だ。
結果は先刻の通り。
闘争心の核を失ったふぬけた俺では魔王相手に手も足も出なかった。

106灯火よ、迷えるものを導け  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/04(水) 21:43:13 ID:eDPh.LUU0
「でも、この島なら、日常から外れた非日常の世界でなら、どうだ?」

魔王オディオにより強制された殺人遊戯。
イカレタ世界、いつかのように首にぶら下がる爆弾。
否応なしに俺にARMSとして戦った日々を思い出させる。
あの頃の俺は何の為に戦っていた?
アシュレーやティム、リルカのように愛する人のためか?
カノンやアーヴィングのように血の宿命に沿ってか?
マリアベルのように古き約束を守ろうとしてか?
違う。
オデッサの壊滅に伴い、過去は全て清算した。
既にあの時に、一度俺の戦いは終わっていた。
ならば何故、戦い続けた?
世界の平和を、人々を守るために戦ったのではなかったのか。

「そうだな。皮肉にも、どうやら答えは探すまでもなく与えられていたみたいだな」

ゲームマスターとは異なる魔王は言っていた。
失ったものを取り戻す、と。
裏を返せば、あの魔王はオディオに願いを叶えてもらう気さえなければ、普段は人を殺さぬ者かもしれないということだ。
いや、何はどうあれ魔王を名乗る人間相手にその考えが甘いというこは分かっている。
ただ、道に迷い誤った方向へと突き進みつつある者達や、望まぬ偽りを抱いてしまった者達もいるかもしれないことが分かれば十分だ。
説得する気は更々ない。
それは、俺の役目ではないからだ。
俺にできるのは戦うことのみ。
オディオの誘惑に屈することなく、人々を守るためにオディオとこの殺人遊戯相手に戦おうッ!

「行くのか?」
「ああ」

今一度、力そのものではなく力を束ねる象徴として。
『英雄』の勤めを果たしに。
何者にも負けない心の力、全ての人々に同じ力が備わっていることを知らしめよう。
俺達の望む明日は、英雄や魔王に与えられるものではなく自分達の手で掴み取るもの。
オディオの甘言に揺れる者達にそのことを身をもって示す。
それが、俺の新しい戦いだ。




107灯火よ、迷えるものを導け  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/04(水) 21:44:57 ID:eDPh.LUU0


斧の柄の上方を持ち突き出す。
斧の刃は厚く、こうすることで
まるで小さな盾が出現したように正面からなら見えよう。
本来は剣や槍や棍棒などの攻撃を防ぎ、受け流す為の動作だ。
攻撃の練習をひとしきり終えたヘクトルは、今度は仮想の拳撃相手に防御の特訓に取り掛かったのである。
襲いくる目に焼き付けた猛攻を受け流す。
砲弾の如き掌打を、死神のカマを思わせる真空二段蹴りを、脳天を揺るがす大打撃を。
受け流し受け流し受け流し――キレた。

「ああっ、めんどくせええええ! だいたい俺は守るより攻める方だろがあああああ!」

斧を大きく振りかぶり、一閃。
空想の敵は瞬く間に霧散し無へと帰す。
元来ヘクトルは気の長い方ではない。
加えて、彼は友か世界かと問われれば迷いなく友を選ぶと実の兄に評された男だ。
いわんや愛する者となら言うまでもない。
ネルガルとの戦いに明け暮れていた頃の彼なら、まず間違いなく見ず知らずのブラッドを置いてでも、フロリーナ達を探しに行っていた。
ここまで思いとどまってこれたのは、兄の後を継ぎリキアの盟主になったことで生まれた自制心、何よりも、命を救って果てた魔女の存在があってこそ。
けれども、それももう限界だ。

「待ってろよ、みんな! つるっぱげ、てめえもだ! 今度はさっきのようにはいかねえ、必ずぶっ倒す!」

右に斧を担ぎ直し、開いた左手で呑気に気を失ったままの首根っこを掴む。
少々荒っぽいことをしてでも叩き起こす、駄目だったなら担いででも行けばいい。
がっしりした身体つきのヘクトルをしても199cmを誇るブラッドの巨体を運ぶのは一筋縄には行きそうにないが、本人はどこまでも本気だ。
いや、ヘクトル自身からすればどうしてこの妙案にすぐに至らなかったのか不思議なくらいである。

「女一人守れなかったからって自信でも喪失してたのかよ、俺は。クソッ、らしくもねえ。最初っからこうするべきだったってえのに!」

思わず自分への愚痴が漏れる。
どこか弱気になっていたのかもしれない。
そんな考えを打ち破ったのは予想だにしていなかった人物の声。

「……即断は時に大切なものを見落とすことがある。
見直し、下準備をして臨めば、出遅れることはあっても得られるものは大きい」

見ると、今にも拳を叩き付けられんとしていた眠り姫ならぬ眠り野郎は地面とのキスも待たずに目を覚ましていた。

「なっ、てめえは!」

108灯火よ、迷えるものを導け  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/04(水) 21:45:29 ID:eDPh.LUU0
よくよく考えれば非常に誤解され兼ねない状況なのだが、お構いなしに斧を構えるヘクトルにブラッドは諸手を挙げる。
戦う意思のないことの表明だと見て取れるが、リーザやセッツァーの情報により媒介なしで魔法を使える人間がいることを知ったヘクトルは緊張を緩めない。
が、ブラッドは気にすることもなく口を開く。

「俺は『てめえ』なんて名前でもなければそこまで軽い人間でもない」

ヘクトルのぼやきから殺し合いに抗う意思を感じていたからだ。
魔王にやられたはずの傷の痛みはいささか退いているのも彼のおかげだろうと判断し、ブラッドは名乗る。

「俺はブラッド。スレイハイム軍の、そしてARMSの『ブラッド・エヴェンス』だ」

その名乗りを聞き、どうしてだろうか、ヘクトルは直感で理解した。
ブラッドが自身が目指す兄、前オスティア侯ウーゼルと同様、多くの人々の心を背負った人間なのだと。
大切な誰かの後を継いだという共通点から、何か感じるものがあったのかもしれない。

(これじゃあエリウッドの奴を笑えねえな)

すぐに他人を信じがちな親友の顔を思い浮かべ、ヘクトルも構えを解き笑みを浮かべる。

「そうかい。俺はヘクトル。オスティア候ヘクトルだ。よろしくな」
「ああ、こちらこそよろしく――ってとこかな?」

まあ、たまにはこういうのも悪くない。
にやりとしつつ返事をする男にデイパックを投げてよこしながらヘクトルはそう思った。

109灯火よ、迷えるものを導け  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/04(水) 21:46:09 ID:eDPh.LUU0

【H-6 北部、川辺 一日目 早朝】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、
     基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオをぶっ倒す。
1:仲間を集める。
2:ブラッドと情報交換しつつ、フロリーナ達を探す。つるっぱげも倒す
3:セッツァーをひとまず信用。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 ティナ、エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。



【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(中)
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:不明支給品1〜2個、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:仲間を集める。
2:ヘクトルと情報交換。
3:魔王を倒す。
[備考] ※参戦時期はクリア後。

110灯火よ、迷えるものを導け  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/04(水) 21:47:26 ID:eDPh.LUU0
以上、投下終了。


-----------------
冒頭に書き忘れてすみません。
規制に引っかかったため、気付いた方、代理投下お願いします。

111 ◆iDqvc5TpTI:2009/03/10(火) 17:40:59 ID:.SsrBgc20
勇者の強さ、人の弱さにおけるカエルの思考欄を修正
東に向かう→西に向かう

112 ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 21:59:13 ID:nhLGR3pwO
予約したアシュレーですが、内容に問題がありそうなのでこれから仮投下させて頂きます。

113夜空の果て ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 21:59:58 ID:nhLGR3pwO
 そこは、無限の荒野だった。
 天を見上げれば漆黒の空が際限なく広がり、地を見下ろせば、真っ白い大地が
何処までも続いている。
 遮蔽物など何一つ存在しないそこで、<英雄>が私の前に立ちはだかっていた

 事象の地平と呼ばれるそこで、青く長い髪を靡かせて、<英雄>が大剣を振り
かざす。

 すると、眩い光が生まれ出た。
 それはただの光ではない。
 人間の感情が、ファルガイアに住まう命の全てが詰め込まれた輝きだった。 

 圧倒的な輝きの奔流が、大挙して押し寄せてくる。
 その膨大な光は収束したかと思うと、一気に私を包み込んでいく。
 それは眩く熱い、“希望”に溢れた光だ。
 身が喰われ、蝕まれ、侵されていくのを感じる。
 それは痛みであり、恐怖であり、絶望だった。
 何よりも求め、欲し、喰らっていた感情が、他でもないこの私に迫り来る。
 無数の希望に体が食われ、カタチを保てなくなっていく。
 純然たる絶望が、私の中で肥大化していく。
 
 そして初めて、気付く。
 この身が震え怯えていることに、気が付いてしまう。

 このような馬鹿なことがあってなるものか。
 愚劣な人間ごときに、エサとなる感情を産み落としてくれる存在ごときに、こ
の私が気圧されているなどとあってはならぬ――!
 
『そうだ。貴様は奴らごときにやられるような矮小な存在ではない』
 
 ふと、音が聞こえた。それは、奇妙な声だった。

『災厄の名を冠した簒奪者、紅の焔であまねく生命を焼き尽くす魔神よ』

 人間の声にも、人間を超越したモノの声にも聞こえる、不可思議な音だった。
 二律背反を抱えた、正体不明のそれに、私は。
 
『誘おう。憎悪と悲哀と絶望に満ちた、極上の宴へと』

 心地よさを、覚えていた。
 痛みも恐怖も絶望も、その全てを払拭し塗り替えるほどの安息を、その声は与
えてくる。
 崩れ落ち消え行く私に、その声は“希望”を差し伸べてくれるようだった。
 
『人々の縋る愚かしい希望を、黒き焔で、完膚なきまでに焼き尽くすのだ……!


 滅びを前にしているというのに、私は、いつしか嗤っていた。
 消滅の恐怖など、もはや微塵も存在しない。
 聞こえてくる声に、全てを委ねようと決意した刹那。
 
 私の身は、光によって撃ち滅ぼされていた。
 
 ◆◆
 
 太陽が昇り始め、空が徐々に明るみを帯びている。
 それはまだ薄明かりと呼ぶのが相応しいようなか細いものだったが、鬱蒼とし
た森の中を歩き続けたアシュレーにとって、充分な光のように思えた。
 少なくとも、その破壊の爪跡を照らすには、朝焼けの光は眩しすぎた。
 駆け続けたことで荒くなった呼吸も、思わず詰まるほどの惨状が、眼前に広が
っている。
 今、アシュレーが佇む周囲の植物は、例外なく消し炭となっており、痛々しい
様相を呈していた。
 炭化した草木に囲まれた、巨大な焼け野原。
 その地表は焦土と化していて、地面が剥き出しになっていた。

114夜空の果て ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 22:02:57 ID:nhLGR3pwO
 焼け付くような、破壊の証。
 そこからは、生命の気配も亡者の呻きも捉えられない。
 そこは、驚くほど静かだった。
 音すらも破壊しつくされたのかと錯覚してしまうほどの、静けさが落ちていた。
 あらゆる存在を許さないような虚無の中から、何かを捜し求めるように、アシュレーは声を挙げる。
「誰か、いないかッ!?」
 叫びながら、視線をあたりに走らせる。
 だが、応じる者も人の姿も見つからない。
 焦りが背筋をなぞっていく。
 目の前で息を引き取っていく少女の姿と悲痛な声が思い起こされた。
 繰り返したくないと思う。手遅れになりたくないと願う。
 もはやここには結果しかない。
 破壊は既に過ぎ去ったものであり、その場に居合わせなかったアシュレーが、当事者になることなど不可能だ。
 それでも、あの紅の閃光を生んだ者や、破壊の力に呑み込まれた者がいるはずだった。
 これほどの暴力に晒されて、身体も生命も、何もかもが消し飛んでいる可能性が高くとも、アシュレーは、くまなく目を走らせる。
 かけらにしか見えない微かな希望も、決して見逃さないように。

 本来そこに立ち並んでいたはずの木々は軒並み薙ぎ倒されていて、見晴らしはよくなっている。
 だから、北に開いた穴をすぐに見つけられた。
 その穴は破壊によって作られた穴や、天然の洞窟にしては、人の手が入りすぎていた。
 一目見ればすぐに、遺跡の入り口と分かる。
 ところどころが風化し磨耗しているにもかかわらず、造りはしっかりとしていて、丈夫そうだった。
 そこにも人影は、見当たらない。
 だが、アシュレーは、その遺跡へと駆け出していた。
 ぽっかりと開いた入り口の前で、立ち止まる。
 供物のように捨て置かれたデイパックと、墓標のように突き立つ一振りの剣が、そこにはあった。
 
 禍々しい印象を与えてくる剣。
 アガートラームを聖剣とするなら、それはまさに魔剣だった。
 その刀身は、多くの血液を啜りつくしたかのように紅い。
 剣の下に悪魔が埋まっていると言われたら、信じてしまいそうなほどに、その剣は異常な雰囲気を醸し出していた。
 目を背けるように、アシュレーは転がっていたデイパックを見下ろす。
 この中に剣が入っていたのだろうか。
 もしそうだとするなら、剣やデイパックの持ち主はどうなったのだろうか。
 武器も支給品も投げ捨てて逃亡したのか、あるいは。
 先ほど見えた紅の閃光の中で命を落としてしまったのだろうか。
 後者の可能性の方が高く思えるのは、ファイナルバーストに酷似したあの光が、アシュレーの意識に焼きついていたからだった。
 何か手がかりを探そうと、デイパックに手を伸ばす。
 そうしたとき、もう一つ、何かが地面に落ちていることに気が付いた。
 小さな輪状のそれに手を伸ばし、触れてみる。

 指先に伝わったのは、硬い感触だった。

 それは、アシュレーの首筋に巻きついた、忌まわしき感触とよく似ていた。
 焼け焦げてさえいなければ、間違いなく、首で感じる質感と全く同じそれを、指に感じただろう。
 
 ――何故、そんなものがここに落ちている?
 
 掌から汗が一気に噴き出す。
 唾液が激しく分泌され、不愉快だった。
 思考が上手く働かない。
 意識が、最も在り得る可能性を回避しようとする。
 だが理性は、回避しようとした不吉な可能性を訴えかけてくる。
 あの眩い光を目にし大音響を耳にしたときから、ずっと感じていた不安感が、一気に現実味を増していく。
 溜まった唾を、嚥下する。
 緊張感が、心臓に鞭を打つ。

115夜空の果て ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 22:05:20 ID:nhLGR3pwO
 アシュレーは慎重に、落ちていた首輪を手に取った。
 オディオが持つ絶対的なアドバンテージである、爆弾付きの枷。
 それから解き放たれるためには、首輪そのものを解析する必要がある。
 当然、それは危険を伴う行為だ。
 命がかかっている以上、誰かの首に嵌められているままの首輪に手を入れるといったハイリスクな手段は避けたい。
 故にこのように、首輪のサンプルを入手できたのは幸いだといえる。
 それなのに、アシュレーは悔しげに歯を食い縛っていた。
 首輪だけがここに転がっている訳を考えると、そうせずにはいられなかった。
 希望的観測をするならば、首輪の制約から逃れた者がいたのかもしれない。
 しかし、とてもそうは思えなかった。
 外したにしては、首輪が綺麗過ぎたのだ。
 焼け跡はあるが、解体した形跡や壊れた跡は見当たらない。
 それに、仮に外すことができた人物がいたとしても、支給品を放置しておく理由が考えられない。
 となると、やはり。
 この首輪を付けられていた人物は、遺体すら残さず消滅した可能性が高くなってくる。
 首輪がこうして残っている事実を考えると、体が消滅したなど、不自然だといえなくもない。
 それでも、殺し合いの最中で誤爆防止や、参加者による解除防止のため、過度に丈夫に作ってあるとすれば、死体だけ消滅することもありえるのかもしれない。
 
 アシュレーは歯を食い縛り、強くディフェンダーを握り締めていた。
 硬い柄が五指と掌を圧迫し、痛みが生まれる。それを自覚しながらも、力を抜きはしない。
 その程度の痛みが何だというのだ。
 あのとき看取った少女や、ここで命を落としたと思われる誰かが負った痛みに比べれば、こんなもの痛みの範疇にすら入れられない。

 まただ。
 また、間に合わなかった。
 しかも今回は、託してくれた少女のときよりも遅い。
 看取るどころか、その遺体すらなくなってしまった後だったのだから。
 
 非常時に矢面に立つはずの自分が、こうして無傷で生きているのに、命の数は確実に減っている。

 ――こんな体たらくで、何がARMSだ……ッ。
 
 悔しさと無力さと情けなさがアシュレーを苛み、歯噛みする。
 強烈な負荷に、奥歯が、ぎりっと悲鳴を上げた。
 折れそうなほどに噛み締めた顎から、力を抜いて呼吸する。
 
 気分を切り替えなければならなかった。
 こんな状態では、救える命も救えない。
 散ってしまった命を軽んじるわけでは決してないが、過去に捉われて未来を蔑ろにしては、更に失敗と自己嫌悪を重ねてしまう。
 アシュレーは、瞑目する。
 ここで散った命に、祈りと哀悼を捧げるために。
 そして数秒の後、ゆっくりと、目を開ける。
 すると、突き立った一振りの剣が視界に映った。

116夜空の果て ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 22:07:18 ID:nhLGR3pwO
 ――これを持っていくことは、許されるだろうか。
 
 投げナイフの扱いには慣れているが、それよりも、ある程度の長さがある武器やARMの方が得意だった。
 殺し合いを是とする者や、怪獣の存在を考えると、ディフェンダーでは心もとない。
 もう少し頼りになる武器が欲しいところだった。
 手を伸ばし、柄に触れる。
 その剣は、未だ、熱を持っているような気がした。
 握る。
 その禍々しい剣に、見覚えなどない。
 だというのに、酷く懐かしいように思えた。
 迷いが消えない。
 その剣はやはり墓標に思える。
 これを手に取った瞬間、ここに居たはずの“誰か”の存在が消え去りそうで。
 ここで命を賭した“誰か”を冒涜するようで。
 引き抜くことが、躊躇われた。

 躊躇する時間が惜しいと分かっている。戦力的に見て、必要だと理解している。
 だがきっと、理屈ではないのだろう。
 自分の感覚を信じるように、アシュレーが、剣から手を離そうとした、その瞬間。

『――――――』

 突然、誰かの声が、響いてきた。
 それは、聴覚を通して聞こえるものではない。
 頭の中に直接響くような、心の中に入り込んでくるような、そんな声だった。
 その感覚を、アシュレーは知っている。
 そしてその声も、アシュレーは、知っている。
 
『抜かないのか? アシュレー・ウィンチェスター?』

 全神経を、戦慄が駆け抜ける。
 熱病を思わせる不愉快な熱さを孕んだ、その昏い声を、忘れられるはずがない。
 
「何故、お前が……ッ? 何処にいるッ!?」

 狼狽と驚愕に溢れた声で、アシュレーは中空に問う。
 いつしか、剣を握る手が小刻みに震えていた。
 
『お前に滅ぼされる、その瞬間に、魔王に導かれたのだよ。今はお前が握る、剣の中にいる。
 そして――』

 不吉な予感が勢いよく這い上がってくる。肌の上で害虫が蠢いているような怖気が背筋を撫でていく。
 急ぎ剣から離れようとするアシュレー。
 だが、魔剣は――そこに宿る災厄は、かつての依り代を逃さなかった。
 アシュレーの手に、真っ黒い靄が纏わり付いてくる。
 剣から手を離しても、遅い。
 朝陽の中に浮かび上がった黒い靄は、瞬時にアシュレーを包み込んでいく。
 振り払おうとしても、執拗にそれは纏わり付いてくる。
 痛みはない。
 苦しみもない。

 ただ、意識が遠のき、無意識に繋がろうとする。
 夢と現実の狭間に、アシュレーは足を踏み入れていく。
 眠りに落ちる間際によく似た不確かさだけが、そこにはあった。
 崖の間に張られたか細い綱の上を、命綱なしで渡るかのような不安感に苛まれる。

117夜空の果て ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 22:09:34 ID:nhLGR3pwO
『あの剣の中も悪くはなかったが、やはり生きた人間の方が良い。
 お前の不安、後悔、無力感、全てがダイレクトに伝わってくるぞ』
 
 内から声が響いてくる。
 昏い声の主は、魔神と呼ばれ人々に恐れられた存在のもの。
 焔の災厄。ロードブレイザー。
 絶対的存在との対話は、懐かしい感覚だというのに、少しも嬉しくはなかった

 
『お前に遭えたのは僥倖だ。かつて共にいただけあって、すぐに憑依することができたよ』
 
 対して、アシュレーの内的宇宙に宿ったロードブレイザーの声は、愉悦に震えている。
 
『魔剣の中、怨嗟と苦痛と絶望に満ち満ちた意識に包まれて、傷ついた私は眠っていることしかできなかった。
 そんな私を目覚めさせたのは、魔剣に“アクセス”してきた者だ。
 奴は、私が存在していることなど知りもしなかったのだろう。
 “アクセス”のおかげで、意識は活性化した。
 苦しみ、悶え、嘆き、怨み、憎み、妬み、嫉み、絶望。
 そんな意識の塊は、極上の糧だったよ。
 それらを喰らい、吸収することで、ある程度の力を取り戻せた。
 もっとも、実体を伴うどころか、かつて封印されていた頃にも及ばない。
 もう少し“アクセス”の時間が長ければ、更に意識体を貪れたのだがな。
 まだまだあの魔剣の中には、痛烈な意識が残っている』
 
 災厄は、饒舌だった。
 アシュレーに、絶望を突きつけるかのように。
 
『とはいえ、あの小娘には感謝している。
 だから剣に宿る意識と共に、私も少しばかり力を貸してやったのだが、奴では耐え切れなかったらしい』

 語られる声に、アシュレーは息を呑む。
 あの紅の閃光が、ファイナルバーストに酷似していたのも、ロードブレイザーの力を使ったとすれば頷ける。
 そしてその結果、おそらく、あの首輪の主は消滅したのだろう。
 小娘と、ロードブレイザーは称した。
 それが真実なら、アシュレーの遅さが、二人の少女に死を迎えさせてしまったことになる。
 迂闊さが、心にこびり付く。
 自己嫌悪に背を押され、八つ当たりをするように、アシュレーは口をつく。
 
「力を注ぎすぎたんじゃ、ないのか」

 想像以上に暗い声が、アシュレーの唇から落ちた。
 それに対するのは、愉快そうな魔神の笑みだった。 

『くくく……。いい声が出せるじゃないか、<英雄>。
 私は小娘の望みに応じただけだよ。恐らく、奴は私に気付いていないまま逝っただろうがな』

 さあ、と災厄は続けた。

『今一度、お前の中で力を蓄えさせて貰うとしよう。
 奪え。潰せ。壊せ。破れ。裂け。
 無論、力なら再び貸してやるぞ。次こそ『私』を取り戻すためになッ!』

 胸の奥が、黒い焔に晒され理性が焦がされる。
 炙り出され燻り出され煽られるのは、強烈な破壊衝動だ。
 力を伴って露になるその衝動は、アシュレーを飲み込み別の存在に成り代わろうとする。
 アガートラームが内的宇宙にない今、自身の力だけで魔神の侵食を抑えなければならない。
 アシュレーは胸を押さえ、息を吐き出した。
 責め苦によく似た声に抗うよう、意識を強く保ち手放さないようにする。
 魔神に屈しないために、自分が自分であるために。

 そんなアシュレーを、ロードブレイザーは、ただただ嘲笑う。

118夜空の果て ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 22:11:34 ID:nhLGR3pwO
『まあ、いいさ。今の私では、強引にお前を喰らうことすら叶わぬ。
 故に見守ろう。必要ならばいつでも呼ぶがいい。
 ――直にお前は、更に強い後悔と無力さを味わい、噛み締めることになる』

「どういう、意味だ……ッ!?」

 尋ねるても、含みを持たせた物言いを最後に、魔神の声は聞こえなくなる。
 同時に、意識が急激に浮上を始めた。
 まどろみが過ぎ去り、白昼夢が消えていく。
 世界が色を取り戻す。
 突き立った魔剣の存在が、現実に戻ってきたことを証明していた。

 結局、また遅かった。
 得られた情報は、小娘と呼ばれる年頃の少女が、命を散らしたことくらいだ。
 それがどんな人物なのかも、どんな思惑で戦っていたのか。
 彼女と対峙した相手が、何者なのか。
 何一つ、分かりはしない。
 ロードブレイザーに尋ねたところで、答えが返ってきそうにない。
 もう、ここに留まる理由はなくなった。

 先ほどはぐれてしまった道化師を探すか、あるいは、他の誰かを当てもなく探すか。
 考えながらも、アシュレーは、魔剣に背を向ける。
 
 次にそれに触れたら、大切なものを失い、戻れなくなるような気がした。
 
 夜空は果てを迎え、太陽が高さを増していく。
 世界は確かに時を刻んでいた。
 立ち止まることを許さないように、振り返ることを認めないように。
 無情に酷薄に、世界は回っていく――。
 
【F-7 遺跡(アララトスの遺跡ダンジョン)周辺 一日目 早朝】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康。後悔、無力さを感じている。
[装備]:ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0〜2個(確認済み)、基本支給品一式×2、
焼け焦げた首輪(リルカの首輪)
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:リルカやブラッドら仲間の捜索
2:他参加者との接触
3:アリーナを殺した者を倒す

※参戦時期は本編終了後です。
※道化師のような男(ケフカ)に猜疑心を抱いています。
※島に怪獣がいると思っています。
※内的宇宙にロードブレイザーが宿ったため、アクセスが可能になりました。
※焼け焦げた首輪が、リルカのものだとは気付いていません。

119 ◆6XQgLQ9rNg:2009/03/17(火) 22:13:11 ID:nhLGR3pwO
以上になります。
ところどころ改行がおかしくなってますね、すみません。
問題と思われるのは、紅の暴君にロードブレイザーが宿っていた点です。
自己リレーの上ご都合展開、更に、『夜空』の状態表に
>ミスティックの効果が切れている為、ただの剣です。
とある点から、前話無視になるのではと危惧しています。
遠慮のないご意見を頂ければ幸いです。

120 ◆iDqvc5TpTI:2009/03/20(金) 03:28:46 ID:wKUUnQhQ0
いつまで続くか、この規制。
すみません、誰か、代理投下お願いします。

121嘲律者  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/20(金) 03:29:58 ID:wKUUnQhQ0
ついてない。
まったくもってついてないとオイラは思う。
目の前には狂った男。

オイラの名は■■■。
種族で言うならタケシー。
霊界サブレスの住人にして――非常に癪だが召還獣だ。





愛憎渦巻き血風吹きすさぶこの地で、人は花を見て何を思う?
居並ぶ可憐な花びらに心奪われ、花畑に飛び込み遊ぶことで癒されるのだろうか。
いや、触れれば散り、引き抜けば枯れ果てるその儚さに、無力な我が身を重ねて嘆くかもしれない。
逆に、踏まれても踏まれても立ち上がり、陽の光を求めて気高く咲き誇る様に勇気付けられる者もあろう。
はたまた見たところで生き抜くには何の役にも立たないと、興味を示さず素通りする人とている。
そして、血に汚れることもなくのうのうと咲いている花々に怒りを覚える人間もまたしかり。
もっとも、その男は日頃から花も人も動物も全ての命が気に食わなかったのだが。

「キィーーーーッ! 人の気も知らずにお高く咲きやがってえええええ!」

色とりどりの花の中、風情を台無しにする奇声を上げる魔導士が一人。
ケフカ・パラッツォだ。
アシュレーの悪評を広めるにもまずは人と会う事が先決だと思い花園へとやってきたのである。
仮にも地図に名ありで記された施設。
それも何故か人間の多くはひ弱で仕方がない植物どもを愛でる癖がある。
ならば、何人か人が集まっていても不思議ではない。
そう思い、嘘の内容や、その効果が発揮され裏切られるアシュレーの醜態を考えつつ意気揚々とケフカはここまで歩いてきたのだ。

「クワァー! なのにどうして誰にも会わないー!」

見回せども見回せども人っ子一人いない。
思い通りにいかなかったという事実がケフカの心を苛立たせる。

「くっそー!! 腹が立つー! ちっくしょ、ちくしょう、ちくしょう、
 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、
 ちく、ちく、ちく、ちく、ちく、ちく、ちく、ちく、ちく、ちく、ちっっっっくしょーーーー!!」

いっそこのむかつく小奇麗な花畑を燃やしてやろうかと本気で考える。
三闘神の力を手に入れ大陸一つさえ引き裂ける今のケフカにとっては容易いことだ。
炎に蹂躙される花々。涙を流すこと叶わず、塵と化し消え逝く生命。
想像しただけでぞくぞくっとなる。堪らない。
その上火災に伴う煙を見た誰かが寄ってくるかもしれない。
一石二鳥とはまさにこのことだ。
ケフカは大仰な動作で両の腕を広げ、ファイガを唱えようとして――

やめた。

122嘲律者  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/20(金) 03:30:37 ID:wKUUnQhQ0
「ふんっ!  おもしろくない!」

そんな方法で人を集めたところで、放火魔の言うことなんて信じる人間がいるはずもない。
あたり前すぎることにぎりぎりで気付いたからだ。
ばれない様にやれば問題ないが、さっきはそれで危うく流れ弾で飛んできた剣に射されて死ぬとこだった。
その恐怖がケフカの衝動を引き止める。
ならば茎を折り、根を安息の地から引き抜き、文字通り千切っては投げるか?
腹部の痛みは流石に大分退いたとはいえ面倒だ、手間がかかり過ぎる。

「つまらん!! 大量の毒でもあればまとめて枯らせれるのにー!」

役立たず以下と切捨てはしたが皇帝の権力と財力は実に使い勝手が良かった。
帝国の為といえばすぐに欲しいものが手に入るまさに魔法のおもちゃ箱だった。
この殺人遊戯の支給品とてそれ位の融通は利いて欲しいものだとケフカは心中毒づく。
島の真ん中を通っているらしい川に毒を流し込めばどれだけの人間を殺しきれることやら。
とはいえ、ケフカは己が引き当てた支給品に満更でもなかった。

「しかしこの道具の仕組みを考えた奴は中々におもちろい奴でちゅねー」

取り出したおもちゃを前に子どもさながらにころっと気分を変える。
おもちゃとは先刻実験したばかりのサモナイト石。
威力こそ低いが使い道はあると踏んだそれを。
これでも一流の大魔導士であるケフカは暇つぶしとばかりに行きがかりに調べたことで新たな魅力を発見したのだ。
即ち、その使役の方法。

「脅迫、ですか。実に、じつうううに分かってます」

リィンバウムと呼ばれる世界で確立した技術、召喚術(サモーニング)。
近接する異世界より対象を呼び出し使役する力。
その要となるのは、契約で縛られた召還獣は主の意思によってしか元の世界に帰ることができないということである。
どれだけ強大な召還獣であろうとも主人に忠実なのは主にこれに起因するのだ。
地位や名誉や友や家族。別世界に放り出されるとはそれら全てを剥奪されるに等しい。
望まぬ殺傷や気に食わない命令に従ってでも元の世界に帰りたいと願うのは無理もないことである。

「ああ、そうだよ! 愛? 友情? 信頼? 忠誠? シンジラレナーイ!
 そんな下らないものを後生大事に抱えていたレオは殺した!
 アシュレー、お前も俺に騙され、遊ばれて死ね!
 ティナ、あなたには真の召還術の使い方を教えてあげましょう!」

取り込めるだけ取り込み三闘神の力も得た以上、幻獣は用済みだとしていたが、まだまだ絞れる方法はあったのだ。
幻獣界。幻獣達が引きこもっているかの特殊空間。
そこからこのサモナイト石による使役と同様の仕組みで幻獣達を引きずり出せば!

「さて、じゃあ次は近場の神殿にでも向かうんだじょー! 水で打撲痕も冷やせるのだ!!」

護衛獣、誓約者、原初の召還術。
両者の合意と信頼、絆の上で成り立つそれら召還術の高みを知らず、知ろうともしない道化師は上機嫌で進路を決める。
再び心に湧き上がるのは、出会った人間にどう接すれば一番愉快なことになるかという打算の数々。
それらが成就し、命も、夢も、希望も、全てが壊れていく光景に心が躍る。

「……フォッフォッ」

123嘲律者  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/20(金) 03:31:07 ID:wKUUnQhQ0
止まらない、止まらない。
笑え声が止まらない。

「フォッフォッフォフォッフォッフォフォォフォ!!」

花園に新たに加わった花一輪。
過剰なまでにカラフルなそれは、お約束に違わずどこまでも毒々しいものであった。


【E-9 花園 一日目 早朝】
【ケフカ・パラッツォ@ファイナルファンタジーⅥ】
[状態]:上機嫌。顔、腹部に痛み(退いてはいる)
[装備]:無し
[道具]:タケシー@サモンナイト3ランダム支給品0〜2個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:全参加者を抹殺し優勝。最終的にはオディオも殺す。
1:積極的には殺しにかからず、他の参加者を利用しながら生き延びる。
2:アシュレー・ウィンチェスターの悪評をばらまく。
3:2の為に神殿へと向かう
※参戦時期は世界崩壊後〜本編終了後。具体的な参戦時期はその都度設定して下さい。
 三闘神の力を吸収していますが、制限の為全ては出せないと思われます。
※サモナイ石を用いた召還術の仕組みのいくらかを理解しました。











呼び出された時、こりゃ駄目だと思ったね。
前の俺の主、ビジュもちょっとキテる奴だったけど、あっちのほうが全然上さ。
どっちも小悪党ではあんだけどスケールが違うっつうか、倫理を踏み越えたどころか置き去りにしちまってるというか。
やれやれ、つくづく主に恵まれない。
うっかりオイラを呼び出す前に石を壊されねえかな〜。
死ぬのや帰ってこれなくなるのはごめんだぜー。

――霊界サブレスにて あるタケシーのぼやきより――

124嘲律者  ◆iDqvc5TpTI:2009/03/20(金) 03:32:40 ID:wKUUnQhQ0
以上、投下終了

125 ◆iDqvc5TpTI:2009/03/20(金) 19:04:03 ID:.lSURW/Y0
代理投下、ありがとうございました

126 ◆iDqvc5TpTI:2009/03/21(土) 14:23:53 ID:j/T.P8Po0
自作の誤字及び覚え間違い訂正しました
召還→召喚
サブレス→サプレス

127 ◆xFiaj.i0ME:2009/03/29(日) 23:49:00 ID:zLLtelSg0

閉ざされた世界に声が降り注ぐ。
山に、森に、砂漠に、町に、城に、洞に、
重く、暗く、厳かな、不安を掻き立てる声が。
何処からともなく、それこそ太陽や雨が空から降り注ぐかのごとく、
刻まれた時を告げる声が、島に閉じ込められた者達に、等しく降り注ぐ。


「さて、時間だ……始めよう。
 まず禁止エリアを告げる。
 死者の名に気をとられて、気付かずに死なれては興ざめだからな。

 8時から
 10時から

 そして、死者の名だが……

 リーザ
 トルネコ
 アリーナ
 ティナ・ブランフォード
 レイ・クウゴ
 オディ・オブライト
 エイラ
 リルカ・エレニアック
 アリーゼ
 ナナミ
 ビジュ

 以上11名がその命を落としている。

 少し多いが、死者が出た事で私の声を聞いている者の命は、今日一日は保証されたのだ、喜ぶと良い。
 ああ、だがそんな言葉を言っても、お前たちは争いを止めはしないだろうな。
 親しきものの名を呼ばれたものよ、喜べ、仇は必ずこの島の中に居る。 だが、急がねばその者は他の者に殺されてしまうかもしれないぞ?
 己が手を血に染めた者は奮起せよ、最期まで残れなくてはそれも全て無意味だ。 時間が経てば経つほど、お前たちは不利になる。

 復讐の為に、己が欲望の為に殺しあうが良い、他者を憎み、生を奪い合うが良い。
 そして何より、お前たちをそのような境遇に追いやった、私を憎むがいい。
 己が内に存在する憎悪を込めて叫べ、
 この『オディオ』の名を!」




ふと、今は無き親友の姿を思い出す。

友の名誉と己の武勇を重んじ、主君への忠義と神の正義に生きる。
彼も、今彼と共に在る者も、こうしてその道に殉じている。
今の彼の姿もまた、彼本来のものに違いは無い。
だが、

“あの世でオレに詫び続けろオルスデットーーーーー!!”

あの時の叫び、あれもまた、彼の本質なのだ。
かつての自分は愚かだったのでは無い。
今の彼らも愚かではない。
ただ、無知なだけなのだ。

名誉とは復讐を導き
武勇とは暴力の別名で
忠義は何時しか重荷となり
正義は憎むべきものに成り果てる

その事実を、知らないだけなのだ。
上辺の美しさのみを求め、その奥に秘められた醜さに気付くことも無い。
いや、見えない、あるいは見ようとしないだけで、その存在を拒絶している。

だが、この殺し合いの中で、いずれ気付くだろう。
己が秘める、消えること無き感情に。

他でも無い、ここにその『実例』があるのだから。

128Avengers  ◆iDqvc5TpTI:2009/04/06(月) 03:57:05 ID:bsz21k920
本スレの分で投下終了です。
最後にさるさんくらったので

129 ◆iDqvc5TpTI:2009/04/06(月) 04:32:06 ID:bsz21k920
Avengersのミネアの状態表を下記のものに修正

【ミネア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:精神的疲労(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ
[道具]:基本支給品一式(紙、名簿欠落)
[思考]
基本:自分とアリーゼ、ルッカの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:リンと共に目の前の二人を止める(主にピサロ担当)
2:ロザリーがどうなったのかが気になる
3:ルッカを探したい。
4:飛びだしたカノンが気になる
[備考]
※参戦時期は6章ED後です。
※アリーゼ、カノン、ルッカの知り合いや、世界についての情報を得ました。
 ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。
 また時間跳躍の話も聞いていません。
※回復呪文の制限に気付きました。
※ブラストボイス@ファイナルファンタジーⅥは使用により機能を停止しました。

130 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/07(火) 01:42:42 ID:pW.NAfOk0

「誰かを護ンのは、難しいな……」
アークは凄い。
今更ながらそんなことを思う。
レジスタンスを率いた過去を以ってしても、自分はアークを越えられない。
剣技じゃない。魔法じゃない。
誰かを護るための力と、その使い方。
護れなかったときの苦しみに耐える心。
それらを兼ね備えているからこそ、アークは勇者足り得るのだろう。

「俺にゃぁ……コイツは振るえねぇ」
拾い上げた魔剣をディパックに仕舞う。
代わりに取り出したひのきの棒が、今の自分に相応しい。
ウィスタリアスを引き抜いた場所で白い瓦礫がガラガラと音を立てて崩れていくのを、トッシュは背中で感じていた。



【D-6 地下にある城(古代城@ファイナルファンタジーⅥ) 一日目 朝】
【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ひのきの棒@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式 、ティナの魔石 、果てしなき蒼@サモンナイト3
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:出口を探す。
2:果てしなき蒼は使わない。
3:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい(特にシュウ)。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
6:基本的に女子供とは戦わない。
7:あのトカゲ、覚えてろ……。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未修得です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※果てしなき蒼@サモンナイト3はトッシュやセッツァーを適格者とは認めません。
※セッツァーと情報交換をしました。ヘクトルと同様に、一部嘘が混じっています。
 エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。




【地下の施設について】
※D-7南部には地下水路入り口があり、D-6の古代城@ファイナルファンタジーⅥに繋がっています。
 さらに地下水路は途中で古代城への洞窟@ファイナルファンタジーⅥに分岐します。
 洞窟がどこに繋がっているのかは不明。
※これらの施設は全て地図には載っていません。

131 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/07(火) 01:44:32 ID:pW.NAfOk0
以上、投下終了です。
さるさん食らったので、誰か代理をお願いします。

地下の施設は、前の話と矛盾がないようにはしたのですが、分かりづらかったでしょうか?

132 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/07(火) 02:06:25 ID:pW.NAfOk0
代理投下してくださった方、ありがとうございます。

133 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/24(金) 04:12:16 ID:K7ZxrqGw0


【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:わずかながらの裂傷、疲労(小)、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード@LIVE A LIVE 、サラのお守り@クロノトリガー
[思考]
基本:首輪を解除する、打倒オディオはそれから。
1:目の前の男に対処する。
2:ナナミを埋葬したい。
3:ミネア、アリーゼ、ビッキー、ゴゴ、リオウたちと合流したい。ルッカ、ケフカ(名前は知らない) は警戒。
4:首輪の解除、オートボウガンの改造がしたい。そのための工具を探す。17ダイオードの更なる研究もしたい。
5:オートボウガンに書かれていた「フィガロ」の二人を探す(マッシュ、エドガー)
6:クロノ達と合流、魔王は警戒。でも魔王に『お守り』は返したい。
[備考]:
※バイツァ・ダスト@WILD ARMS 2nd IGNITIONを使用したことにより、C-8東側の橋の一部が崩れ去りました。
※参戦時期はクリア後。 ララを救出済み。
※C-9の中心部にルッカの基本支給品一式入りデイバッグが放置されています。
※機界ロレイラルの技術の一部を解明し、物にしました。
※ビッキーと情報交換をしましたが、リオウとは情報交換をし損ないました。
※北の城が別の場所から運ばれてきた物だという事に気付きました。


【場所不明 一日目 朝】
【ビッキー@幻想水滸伝2】
[状態]:健康、テレポート暴発中
[装備]:花の頭飾り
[道具]:不明支給品1〜3個(確認済み。回復アイテムは無し)、基本支給品一式
[思考]
基本:決めてない。どうしよう。
1:ふぇっくしゅ!
2:ルッカと一緒に北の城へ帰りたい。
[備考]
※参戦時期はハイランド城攻略後の宴会直前
※ルッカと情報交換をしました。
※テレポートは暴発したものなので、どこへ行くかも分かりません。少しだけなら時間も越えるかも。


【ケフカ・パラッツォ@ファイナルファンタジーⅥ】
[状態]:不機嫌、テレポート中
[装備]:無し
[道具]:タケシー@サモンナイト3ランダム支給品0〜2個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:全参加者を抹殺し優勝。最終的にはオディオも殺す。
1:な、なんだ?!
2:積極的には殺しにかからず、他の参加者を利用しながら生き延びる。
3:アシュレー・ウィンチェスターの悪評をばらまく。
※参戦時期は世界崩壊後〜本編終了後。具体的な参戦時期はその都度設定して下さい。
 三闘神の力を吸収していますが、制限の為全ては出せないと思われます。
※サモナイ石を用いた召喚術の仕組みのいくらかを理解しました。


◆     ◆     ◆


「よいしょ……っと。全く……」
眠ったリオウをベッドに運び、モノマネ師は一息つく。
少年が穏やかな寝息を立てているのを見て、静かに笑った。
ナナミならそうするからだ。
花園に行ったであろうビッキーたちを待つ間、することもないので近くの椅子に座って、今までの事を考えるとしよう。

134 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/24(金) 04:12:49 ID:K7ZxrqGw0

「これで2度目よね……」
ナナミの口調でゴゴが呟く。
彼には、あるポリシーがあった。
それは『その場にいない人物の真似はしないこと』。

人は常に変化していくものだ。

例えば、過去に旅をした仲間達の真似をしたとしても、それは現在の彼らの完璧な真似とはいえないだろう。
なぜなら、彼らは常に変化して生き続けているからだ。
同じように、この場にいない人間は、今どんな状況にいるか分からない。
そんな人物のモノマネをしても、不完全なものに終わるだけだ。
ゴゴは目で見たものしか真似したくないのだ。

だが、そのルールを既に2度も破ってしまった。
最初はリオウの真似をしたとき。
会った事もない人物のモノマネをした。
ビッキーから聞いた情報だけで構成されたにしてはかなりの出来栄えであっただろう。
だが、ナナミには見抜かれてしまった事からも分かるとおり、それは完璧なものではなかったのだ。

2度目は、今行っているナナミの真似だ。
死者のモノマネ。
こちらは実際に会った人物なので、出来栄えの方には問題はない。
しかし、彼のポリシーに大きく反するものである事には間違いはない。

なぜ、彼はそんな事をしてしまったのだろうか。
それは、彼のモノマネが完璧であるが故、だ。
1度目はビッキーの、2度目はルッカの精神が、それらのポリシーに反するモノマネをすることを強く望んだ。
彼が自分の主義に反したのは、彼女たちの願いを完璧に真似した結果なのである。

「……難しいものね」
でも、それも仕方ないか、とゴゴは思う。
彼女たちがそう望んだなら、それを実行するのが彼のモノマネだ。
それは仕方がないこと。

でも、それ以外の場合では、そこにいない人物の真似などするつもりはないが。

「…………さて、そろそろ……」
そろそろ、ナナミのモノマネをやめようか……。
彼はそう言おうとした。
先ほどモノマネに失敗したリオウが目の前にいる。
ゴゴは、彼の真似がしたかった。
ポリシーに会わない死者のモノマネを長く続けるのも限界だと思ったのだろう。

でも、彼はそれ以上は何も言わなかった。
『ナナミのモノマネを中断する』事をやめたのだ。

(……『もうちょっとだけ』……だったな……)
リオウが起きるまで、もう少しナナミでいよう。
静かに弟の寝顔を見続けよう。
それが彼女の願いだから。

(……モノマネに流されるのも悪くはないか)
そこでゴゴは気付いた。
人は面白い。
不完全だからこそ変わり続ける……そんな人間は面白いのだ。
だから、自分は人間のモノマネをするのが好きなのかもしれない。

135 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/24(金) 04:13:19 ID:K7ZxrqGw0

(……ならば……お前はなぜ……)
疑問の矛先は、先ほどこの島に響き渡った声の主。
彼はなぜ人間を恨むのだろうか。

(いや、考えるのは、やめにしよう)
そこで思考を止める。
今、自分はナナミなのだ。
ナナミの真似をしなくては……。

彼女が消えるその瞬間まで、彼女の願いを叶え続けなくては。

ナナミの真似をしながら、リオウの事を眺める。
そこで感じたのは、ほんの少しの物足りなさ。
ゴゴはその正体に気付いていた。
リオウの話を聞いていたら、足りないピースに気付いてしまったのだ。

だからゴゴは、寂しげに笑う。
彼女の願いを叶えてやれなかった事を、申し訳なく思いながら。
ゴゴはナナミがそうするだろうと思い……笑顔のまま数滴だけ涙を零した。

「ごめんね……ナナミ……」
彼女の願いは、リオウと『2人でいる』ことではなく……。



【A-3 北の城(フィガロ城) 一日目 朝】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:ナナミの物真似中、健康
[装備]:花の首飾り
[道具]:不明支給品1〜3個(確認済み。回復アイテムは無し)、基本支給品一式 、天命牙双(右)、
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:リオウが起きたら、彼の真似をする。
2:ビッキーたちの帰りを待つ。
3:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。


【リオウ(2主人公)@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:閃光の戦槍@サモンナイト3
[道具]:魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ、、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルに乗らず、オディオ打倒。
1:信頼できる仲間を集める。ジョウイ、ビクトールを優先。
2:ルカ・ブライトを倒す。
3:首輪をなんとかしたい。
4:エイラが残した『黒』という言葉が気になる
[備考]:
※名簿を確認済み。
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所へジョウイに会いに行く前です。
※ビッキーからナナミの死の状況を聞きました。
※第一回放送は聞いていません。

136 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/24(金) 04:15:38 ID:K7ZxrqGw0
以上投下終了。
申し訳ありません、誰か代理投下お願いします。

タイトルは「ビッキー、『過ち』を繰り返す」です。

137 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/24(金) 04:22:36 ID:K7ZxrqGw0
すいません、自分でいけました。

138本スレ>>228 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/26(日) 18:56:59 ID:kKqaTmsg0
雪を踏みしめるたびに、ザクザクと心地の良い音が聞こえる。
だが、それが何度彼の鼓膜を震わせようとも、彼の心を高揚させるには至らない。
目が痛くなるほど遥かに続く白景色の中を、少年は無心で歩き続けていた。
次々と心に浮かんでくる悲しみや怒り、焦燥といった感情を、必死で押し殺しながら……。
ただ、ただ、雪原に靴の跡を刻み続けていた。
目的地に向かって、一心不乱に。
そうでもしないと、彼の心は折れてしまう。

「また……ぼくは……」
先ほどの放送で呼ばれた名前……彼の目の前で死んだエイラという女性。
そしてもう1人……。
枯れたはずの涙がまた溢れて来そうになるのを感じ、少年は思考を停止した。

「…………はぁ……」
冷え切った空気の中では、無意識の溜め息すら白い煙として可視化される。
無心であれと思ってはいるのに、それによって自分が焦っている事を無理やり自覚させられてしまう。

(まだ、城は見えない……か……)
この広い雪原では、四方八方を見渡しても目に映る光景には変化はない。
地図を見たところで自分が今どこにいるのか、目的地まであとどのくらいあるのかすらも分からないのだ。
だから、少年の足跡が描いた軌跡は、まるでミミズが這うかのごとき曲線。
見えないゴールに向かって、永遠とも思える広き大地を、少年は精神と肉体を激しく消耗させながら歩いていく。

だがそれも、目的地である北の城を発見するまでのこと。

(あれは……)
遠くに城らしき灰色の物体を見つけた。
『白でもなく』、『黒でもなく』それは『灰色』だ。
洗い立てのシャツに付いた汚れのように、白い風景に一点だけ混じった異色。
それを見た少年の足取りはやや軽くなり、その表情にも余裕が見える。
いっそう強く大地に踏み込まれたのだろう、その足跡も一段とクッキリ残されていた。

(あれが城で間違いなさそうだけど…………)
少年が近づくに連れて、徐々にその巨体を露わにする鋼鉄の城。
その姿に少年は僅かな違和感を覚える。
あれが『城』であることは明らかであり、それに関しては文句のつけようがない。
だが、何かがおかしい。
この風景の中で、あの城だけが孤立しているというか『浮いている』印象だ。
まるで、異なる写真を切り貼りして作り出されたかのような不自然さ。
そんな不思議な感覚が胸に湧き上がったのだが、城の門を潜ったあたりで少年は考えるのをやめにした。

浮かんだ疑問を脳の隅の隅に追いやって、先ずは目先の状況に集中する。
城の中に人がいるとして、その人物が殺し合いに乗っていない人物だとは限らないからだ。
さらに、殺し合いに乗っていないとしても、自分のことを無害な人物だと信じてくれるとは限らない。
ありとあらゆる状況を考慮つつ、少年は慎重に城の扉を開ける。
冷たい扉は、ギィィ……と軋みながらも、スムーズに少年を中へと招き入れる。

「…………!」
城内部に人の気配を感じ、持っていた槍を強く握る。
その槍の先端は一部だけ紅い、冷えて固まった野生の血だろうが、やけに目立つ。
これでは中の人物に疑われてしまうのでは……と気になったのだが、時間も惜しいのでそのままにしておく。
今まで少年が接触した人物といえば、漆黒の暗殺者と瀕死の女性の2人のみだった。
マトモな人物に未だ遭遇できてない彼にしてみれば、中の人物に一刻も早く接触したいのだ。
槍を握りながら、足音を立てないように気をつけて廊下を歩く。
自分の知り合いだろうか、それとも殺人鬼だろうか……。
中の人物について様々な事を予想すると、不安で胸が締め付けられる。

だが、どれだけ思考したところで、予測する事はできはしなかった。

そこにいたのが、自分の義姉の死体だったとは。

139本スレ>>229 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/26(日) 18:57:59 ID:kKqaTmsg0

「この城、本当にスゴイわよ……」
目の前の巨大な装置を見上げて呟くのは、年齢性別全て不詳のモノマネ師。
眉間に人差し指を当て、有りもしない眼鏡をクイと押し上げる。

「そ! れ! も! さっき私が言ったセリフよ!」
ヒクヒクとこめかみに血管を走らせた少女。
彼女は怒っていた。
モノマネとはこうも不快なものなのか。
このゴゴとかいう人(?)は現在、自分の『モノマネ』とやらをしているらしい。
仕草から言葉遣い、果ては雰囲気に至るまで……悔しいがそっくりだ。
だがそれでも、いやだからこそ腹が立つ。
目の前に自分がもう1人いて、先ほど自分が行った行動や言った言葉をワザと真似してきやがるのだ。
本人は至って真面目なようではあるが、モノマネされてる側から見れば小馬鹿にされているようにしか思えない。

「なんなのよ……全く……」
深呼吸をして怒りに震える心を落ち着かせる。
こんなくだらない事を気にするよりも、目の前の素晴らしいサイエンスに集中する事が大事である。
そう自分に言い聞かせるものの……。

「なんなのよ……全く……」
ルッカの嘆きをゴゴが速攻でモノマネする。
完璧だ。
声色から抑揚まで、なにもかもを完璧にコピーしている。
あのマフラーの下に録音装置でも仕込んでいるのではないだろうか……。
横目でゴゴを見ると、相手もまた同じように流し目をこちらに向けていた。

(む! か! つ! く〜!)
必死に気にしまいと努めるが、どうしても隣のモノマネ人間が鼻について仕方がない。
発明で忙しさを極めたときには、『自分がもう1人いたら』などと考える事が何度かあった。
だが、もし自分がもう1人いたとしても、それはストレスの種にしかなり得ないらしい。
しかし、ビッキーは『ゴゴのモノマネはとても楽しかった』などと言っていた。
自分が神経質すぎるのか、それともビッキーが能天気すぎるのか……おそらく両方だろう。

「……そういえば、ビッキーは平気かしら?」
ナナミの死後しばらく、彼女たち3人は泣き続けていた。
特にナナミと知り合いであったビッキーのショックは大きく、泣き止んだ後でも彼女はかなり深く落ち込んでいた。
膝を抱えたまま座り込んで、こちらから話しかけても返事は少ない。
そんな彼女となんとか情報交換だけ済ませ、どうしようかと迷っていたときに、突如として響き渡ったのは魔王オディオの放送。
そこで呼ばれた名前に、ルッカの知り合いがいた。
共に戦った、野生の王女エイラ。
そして、神殿で出会った少女アリーゼ。

2人の名前が告げられたとき、ルッカは自分の足がグラ付いたのを感じた。
だが彼女は、泣き言を言い続ける両足を奮い立たせ、城内の探索を開始する。
落ち込んだビッキーを見ていられなかったこともあるが、それだけが理由ではない。
もちろんエイラやアリーゼ、ナナミの死は悲しい。だが、いつまでもその悲しみに囚われているわけにもいかないのだ。
ビッキーがあのような状態な今、自分がしっかりしなくてはいけない。
だから、気分転換も兼ねてこの城を見て回る事にしたのだ。
エイラの死を悲しむのは、彼女が立ち直ってからにしようと決めた。
元気になった彼女に、今度は自分が涙を拭ってもらおうと……。

「相当堪えていたみたいでしょうし……心配ね……」
腕組みをしたゴゴがルッカに同意する。
当たり前だ。今ゴゴは『ルッカと同じ事を考えている』のだから。
ゴゴの返事を聞いたルッカは、ビッキーの待つ玉座へ向かう。
ちなみに、今まで彼女たちがいたのは、この城の地下に位置する部屋で、城を動かす為の言わば制御室である。
尤も、ルッカたちは『ここが制御室である』事も知らなければ、そもそも『この城が動く』ことすら知らないのだが。

地下の制御室から地上の玉座へ向かう為に、階段をカツカツと上る。
石で造られた階段は異常な寒さであり、その事がルッカの疑念を確信へと変えた。

140本スレ>>235 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/26(日) 19:01:25 ID:kKqaTmsg0
「うん! ナナミちゃんはそういう子だよっ!」
その顔に、久しぶりの笑顔が戻る。
ビッキーは知っていた。
自分を犠牲にするリオウを、ナナミが憂いていた事を。
彼女は破天荒で、自分勝手な行動ばかりしているように見えて、本当は全部リオウのためにあろうとした行動だという事を。

「ルッカちゃんは優しいね」
「……ッ! さ、さぁ……そろそろ、ナナミを休ませてあげましょ!」
ルッカはまたもや真っ赤になって照れる。
当のビッキーに悪気はなく、ただ本心を嘘偽りなく述べただけなのだが。
照れを隠すために早めに作業に移りたいルッカは、ナナミの遺体を持ち上げる。

「あの、ルッカちゃん……それなんだけどね……」
ビッキーが上目遣いで、言いにくそうに言葉を詰まらせる。
だが、ナナミの身体を一瞥すると、意を決したように喋りだした。

「ナナミちゃんを冷たい雪の中に眠らせたくないの……。
 だから危険なのは分かってるけど……」
小さな声で「ダメかな?」と付け足した。
テレポートで花園まで飛んで行きたいということだろう。
勿論そんなことをすれば、危険人物に出会う確率は上がる。
それにビッキーのテレポートの精度も完璧ではない。
これは決して賢い選択ではない。
だから、ビッキーはあまり強い形でお願いする事は出来なかった。

「そのつもり。私からしたって命の恩人なんだから」
当たり前じゃない、と言わん気な顔で答えた。
ルッカのモノマネをしていた彼も、その事は了承済みであろう。

「ありがとールッカちゃん!」
ビッキーはそれを聞いて、笑顔を見せる。
感情を隠す事が出来ない彼女を、ルッカは羨ましく思う。

「……私は優しいのよ」
自慢するかのようなその言葉は、ビッキーにも聞こえないような小さな声だった。

「大丈夫ルッカちゃん?」
ビッキーが心配そうに首をかしげる。
さっきの放送で呼ばれたエイラとアリーゼは、確かルッカの知り合いだったはず。
ちなみに、彼女はリオウの目の前で、ゴゴのかつての仲間に殺された。
だが、リオウとの情報交換を後回しにしたルッカとビッキーは、その事をまだ知らない。

「……悲しむのは、後にしましょう」
大丈夫だとビッキーに笑顔を見せると、ルッカは気丈にそう告げた。
長生きは出来ないな、と予想はしていた。
エイラは強いが、まっすぐ過ぎる。
こういった殺し合いで生き残るには適さない性格なのだ。

それでも、エイラの名前が呼ばれたのはショックだ。
彼女は腕っ節も強かったが、その心も強く暖かかった。
冒険中はずっと彼女たちの支えになってくれていた。
その彼女が死んだ事実は、ルッカの足元をふらつかせる。

141本スレ>>236 ◆Rd1trDrhhU:2009/04/26(日) 19:02:22 ID:kKqaTmsg0

だが今はナナミを休ませるのが先だと考え、ルッカは彼女の事について今は考えない事にする。
別室ではゴゴが頑張ってくれている。
自分達にできる事をしなくては、ナナミにもエイラにも申し訳が立たない。

ルッカは一時的に、エイラの事を心の隅に追いやった。
だから、カエルが殺し合いに乗った可能性にも、気付く事はなかった……。

「それじゃあ……行くよ……」
「えぇ、大丈夫よ」
その返事を確認すると、ビッキーが「えいっ」と叫ぶ。
ほんの一瞬だった。
時空を越えるときとは違い、真っ暗な異次元を経由したりはしない。
ビッキーの声が響いたその刹那に、鼻に届いた七色の香り。
冷たい廊下が一瞬にして暖かな花園へと変化した。

「やった、成功!」
「うわ……何度見てもすごいわね」
色とりどりの景色の中、ビッキーが嬉しそうに小さくジャンプする。
太陽のような少女が、久しぶりの朝日を全身に浴びながら着地。
大地に降り立った彼女の足の下に、妙な感触があった。
同時に聞こえたのは「ぐぇぇ……」という声。

「あれ? あれれ?」
「ぐえええぇぇぇ!!!」
何事か……と言わんばかりにオロオロと辺りを見渡す少女。
彼女が身体を左右に振るたびに、その足が下の人物にめり込む。


「ちょっと、ビッキー……下……」
こういう行為で喜ぶ人間もいるにはいる、というか結構いるだろう。
しかし、彼女に今踏まれている人物にはそういう趣味はなかったらしい。
少女の下でもがいていた人物に気付いたルッカが、知らせようとしたのだが……時既に遅し。
爆発した怒りが、花園の空気を一変させた。

「いい加減に……シナサーーーーーイ!!!!」
「きゃっ!」
怒号と共に立ち上がったのは、奇妙な格好をした男。
まるでピエロのようだ、とルッカは思う。
足元から現れた人物に押しのけられたビッキーが、可憐な花の上に倒れこんだ。
そんな事は知ったことかと、被害者は次々と感情を叩きつける。

「おいコラ小娘! 人を足蹴にしておいて謝罪もなしか!!!」
咲き誇る命を地団太で殺しながら叫ぶ道化師。
名をケフカという。
かつて、ゴゴたちのいた世界を絶望で包み、今踏み殺している花々よりも多くの命を消し去ってきた悪魔だ。
とはいえ、今回ばかりはビッキーに非があるのだが……。

彼がこんなにも不機嫌なのには理由があった。
神殿に向かおうとしていた彼を立ち止まらせたのは、魔王オディオによる放送だ。
その中で彼が耳にしたのは1人の死者の名前。
ティナ・ブランフォード 。

笑いが止まらなかった。

ティナが死んだのだ。
あの忌々しい小娘が。

笑いが止まらなかった。

この花園の中で、彼はずっと笑っていた。
だが、その私服の時間を邪魔したのが、このドジなテレポート少女である。

「ご、ごめんなさい……。全然気付かなくって……」
「全く! 初対面の人間を踏んづけるなんて。
 サイテーなオンナですね〜!」
先ほどまでの笑顔から一転、シュンと落ち込んでしまった少女。
そんな少女を、ケフカは容赦なく責め続ける。
彼の口から罵声の言葉が出るたびに、ビッキーの顔が悲しみに歪む。。

「あのまま……私を殺すつもりだったんだな?! あー怖いコワーイ!!」
「ごめん、な……さ……ふぇ……ふぇぇ……」
「ふんっ! 泣き落としですか?! それで許されると……」
ついに言葉を詰まらせてしまった少女だが、それでもなおケフカは罵るのをやめようとはしない。
彼女の顔を覗き込んで、「どうせ嘘泣きなんでしょー」などという始末。

142ボボンガ ◆iDqvc5TpTI:2009/04/28(火) 03:06:52 ID:N4DmpSao0
規制されたのでこちらで。どなたか代理投下お願いします

143ボボンガ ◆iDqvc5TpTI:2009/04/28(火) 03:09:00 ID:N4DmpSao0
最初に動いたのは馬鹿だった。
極めつけの馬鹿だった。

「……っ! ……ッ!!」

仲間の死を告げる放送を耳にし、怒りや悲しみ、困惑に襲われていた3人。
その中の一人である日勝は。残る二人から距離を取ると突如一心不乱に身体を動かし始める。
打突――拳が宙を穿ち
 蹴撃――脚が空気をなぎ払い
  突進――踏み込みが大地を揺らす

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「……っ!?」

いきなりの日勝の奇行に先までとは別の意味で唖然とするクロノを尻目に、マッシュには分かる気がした。
自分達は格闘家だ。
やり場のない想いを発散するには身体を動かすことしか思いつけなかったのだろう。
ティナ。
ティナ・ランフォード。
全てに決着がついた世界で、知ったばかりの愛情を胸に抱き、ようやく人としての幸せな人生を歩みだしたはずの少女。
幻獣界との繋がりが途切れても、繋いだ絆を導とし、大好きな人たちのいる人間界に残った彼女は。
これからだったのだ。
新たな命を迎えたモブリスの村でのティナの普通の少女としての日々は。

「う、うう……。ちくしょう、家族を置いてったら駄目だろ、ティナ。お前、あの村のみんなの母さんなんだろ」

人一人が背負うには余りにも馬鹿げた国という大きなものを背負った兄の助けとなるべく磨いた力は、小さな少女一人救う機会すら掴めなかった。
そのことが悲しくて、惨めで、悔しくて。
いても立ってもいられず、マッシュも日勝の横に並び拳を振るうことを選んだ。
少しでも気が楽になるように。落ち着きを取り戻せるように。何より、もっともっとこれ以上失わないよう強くなるために。
だからこそ、日勝の隣に立ち、彼の顔を覗いたマッシュは我が目を疑った。

「ははっ」

日勝は、笑っていた。
心の底から楽しそうに笑みを浮かべていたのだ。
マッシュは急に日勝のことが信じられなくなった。
他人の命を奪ってヘラヘラ笑うやつは大バカ野郎なのではなかったのか?
仲間の死を知らされ何故笑っていられる?
行き場のない悲しみを取り込んで、怒りがぐるぐると心の中を駆け巡る。
気付いた時には考えるよりも早く日勝の襟元を掴み上げていた。

「ばかやろう! 悲しくないのかよ! どうしてこんな時に笑ってられるんだ!」

文字通りたった一人しか手に入れられない最強の称号を目指す男にとっては、結局は他人なんかどうでもいいというのか。
一度は奥義を教え込もうとまでしていただけに、自分の見込み違いにマッシュの失望感は増すばかり。
いや、果たして失望したのは日勝に対してだけだったろうか?
ティナを、少女一人さえ救えなかった自分自身の無力に対してではないのか?
ふつふつと湧き上がるそれらがない交ぜになった混濁した感情を吐き出すかのように、マッシュは拳を強く握り直し、

144ボボンガ ◆iDqvc5TpTI:2009/04/28(火) 03:09:38 ID:N4DmpSao0

「……駄目だっ」

打ち出すよりも速く割って入ったクロノに腕を掴まれる。
怒りに我を忘れかけていたとはいえ微塵も気配を察知させることなく自分の後ろを取ったクロノに、マッシュの武闘家としての本能が感嘆する。
それも一瞬、片腕の自由を奪われ殴ることのあたわなかったマッシュは怒鳴りあがく。

「止めるな、クロノ! 一発、いや、何十発も殴ってやらないと気がすまねええ!」
「それでも、だ」

鍛えていることが見て取れるクロノの腕を傷つけずに振りほどくことはマッシュからしても至難だった。
何よりも掴まれた腕を通して伝わる震えが、己が目を正面から見据える今にも泣き出しそうな瞳が、
クロノもまた果てのない悲しみを抱えていることを雄弁に語っていて。
マッシュには無碍に振り払うことができなかった。

「くそっ!」

掌を開き、日勝の服も解放する。
すると日勝は再び自分達から距離を置き、拳の型をなぞり出すのだ。
マッシュは怒りを通り越して呆れの域にまで達しかけ、そこでふと気付いた。
拳の、型?
直接拳を交えたからこそ断言できる。
日勝の格闘術は流派や型に囚われたものではない。
圧倒的な手数。
一つの道に染まらずバランスよく鍛え上げられた肉体と天賦の才からなるあらゆる武術のいいとこ取り。
それが日勝の強さの秘訣だったはずだ。
なのに。

今の日勝の一挙一動には確かな流れがあった。

「虎砲、精気法……っ!」

オーラキャノンの逆を思わせる体内への気の循環による回復法も。

「画竜天聖の陣っ!」

僅かなタメの後に放たれた拡散オーラキャノンじみた爆撃技も。

「心山拳奥義、旋牙連山けおわっ!?」

闘気が暴発して不発に終わった奥義も。
その全てが体系作られた一つの流派のものであることが、同じく一つの道に生きたマッシュには見て取れた。
そして思い出すのは日勝と拳を交えた直後に聞いた話。

――そう、このレイ・クウゴってのが俺の仲間ですんげえ強い格闘家なんだ。

あの時も、目の前の男は笑っていた。
本当に嬉しそうに、自らの仲間を、ライバルを。
誇っていたのだ。

145ボボンガ ◆iDqvc5TpTI:2009/04/28(火) 03:10:12 ID:N4DmpSao0

「すげえだろ? レイはさ。こんな技も使いこなしてたんだぜ?」

オーラの扱いを我が物にしたことで、心山拳も模倣できるかと思ったが、そうは甘くはなかったらしい。
日勝は天を仰ぐ。
心山拳の極意は山のごとく動じぬ精神、水の如くたおやかなる心を常とすること。
格闘じゃねえと反発しながらもこの地でも死んだというオディ・オブライトを自らも怒りのままに殺してしまった未熟な精神では、
明鏡止水のその極意にはまだ遠いようだ。

「あいつが強かったのは腕っ節だけじゃねえ。ここもさ」

左胸を拳で小突いて心の臓がある位置を示す。
日勝にとっても鍛えたいと思う場所を。

「そりゃさ。俺だって仇が目の前にいるのなら怒りや悲しみをぶつけるさ」

それが間違っているだなんて到底思わない。
正しき怒りを行動に移せるのもまた強さだ。

「けどさ、今はそうじゃねえ。一緒にいんのは仲間なんだからさ。
 だったら俺はあいつが、レイが心魂込めて磨いてきた武術がどんなのかを知ってもらうことを選ぶぜ!」

そうだ。怒るのもいい。悲しむのもいい。
だけど、その感情一色で、楽しかった思い出までも悲劇に染めてしまうのは駄目なのだ。
そんなのは死者への侮辱に過ぎない。
ならばどうすればいいのか? そんなこと、答えは決まりきっている。

「好きな奴らのことを話すんだ。笑顔なのは当然だろ?」

――心山拳は未だ絶えず。拳も想いもここにあり

本当にさもあたり前のことのように言ってのける馬鹿にマッシュは苦笑するしかなかった。
そして日勝の言葉が心に響いたのは、隣に立つクロノも同じだった。

「……マッシュ、俺を思いっきり日勝に向けて投げて欲しい」

突拍子もない発言だった。
けれども、手に持ったモップを掲げるクロノの様子に大体を察し、マッシュは大きく頷き抱え上げる。

「大切な誰かのことを知ってって欲しいと思っているのは、あいつだけじゃないって教えてやろう」
「ああ、たっぷり叩き込んでやろうぜ! メテオストライク!」

投げ飛ばしたクロノの後を追って、マッシュも日勝に向かって突撃する。
技という形では、自分にティナのことを伝えることはできない。
それがどうしたっ!
ティナと共に戦い抜いた自分の拳が応えてくれないはずがない。
自信を取り戻した拳が、マッシュには輝いているように見えた。
ちょうどいい。
自分の目に狂いは無かった。
日勝は自分の武闘家としての全てを、ダンカン流格闘術に込められた師と自分の想いを、継ぐに足る男だった。

「教えてやるさ。夢幻闘舞を、俺達の思い出ごとっ!」

時間を置いたことで疲労も少しはマシになり、事前にケアルガも使っておいた甲斐もあって、残像を残しつつマッシュは加速する。

146ボボンガ ◆iDqvc5TpTI:2009/04/28(火) 03:10:46 ID:N4DmpSao0
「……ハヤブサ斬り」

その彼の前方、クロノは空を行く。
吹きつける大気の壁との摩擦に肌が僅かに悲鳴を上げる。
その痛みすらも心地いいハヤブサ斬り特有の滞空感。
でも、記憶にあるものとはいくらか違う。
エイラの時はもっと速かった。
エイラの時はもっともっとずさんだった。
もうあの感覚を味わうことは二度とないのだと嫌でも身体で実感してしまった。
これが死別。
これが喪失。
かって自分がみんなに味合わせてしまった埋めがたい悲しみ。
マールが泣いたのも、ルッカが怒ったのも当然だ。
一秒一秒刻むごとに、エイラが居なくなってしまったという事実がのしかかってきて辛い。
この悲しみを乗り越えられたカエルは本当に勇者だと心から思う。
失った姉を取り戻す為に去っていった魔王の孤独が少しだけ身に染みる。
消え逝く未来に帰っていったロボは、何を思い最後を迎えたのだろうか?
そしてエイラは、エイラは……

「身体も心も強かったのは、エイラだって同じだっ!」

そのことをただただ知っていてもらいたかったから。
剣から持ち替えたモップを強く叩きつける。
相当痛いだろうに日勝はむしろ嬉しがって、直後に一人慌てていた。

「へっ、そうだよ、そうこなくっちゃな! 不射の射、試してっうおっ!? 後ろに回りこまれた!? これじゃあ撃てねえ!」

そのまま滑空の速度を殺すことなく日勝の後方やや離れたところに着地する。
ほんの少しだけだけど、鬱々と翳るだけだった気分に日が差した気がした。
思いっきり八つ当たりも込めて殴ったことで鬱憤を晴らせたというよりも、
もういなくなってしまったエイラのことを少しでも他人に知ってもらえたことが、嬉しかったのだろう。
ああ、そうだ。
エイラも感情表現が豊かで、思ったことがすぐに口や顔に出て、一緒にいるだけで自分もわくわくする人だった。
その笑顔を思い浮かべて、クロノは驚く。
思い出しても悲しいだけだと思っていたのに、無論悲しくないわけじゃないけれど、それでもやはり、いつものように自分自身の顔にまで笑みが広がっていたのだ。

「ああ……。こんなことでよかったんだな。誰かの死に沈む心を軽くするのって」

今もただボロボロの心で進み続けているのであろうユーリルを想う。
教会で再会したら、今度は情報交換としてじゃなくて、もっともっと亡くなったクリフトやトルネコ、アリーアについて話を聞こう。
悲しみで足を止めることを厭うなら、楽しいことをいっぱい話し合って先に進もう。
そうしたら、ユーリルの心を少しは救えるだろうから。もっともっと、どこか通じるもののある彼と仲良くなりたいから。
クロノは決心し、大切な過去の思い出と、希望溢れる未来の導を胸に、日勝の方へと振り返る。

「行くぞ、日勝! 次は俺の拳を受けてみろおおおおおおお!」
「おうよっ! アンタの奥義、受けきってみせる!」

まさにいい笑顔をした二人がぶつかり合うところだった。
クロノは目を細める。
汚しちゃ駄目な楽しいことは、思い出だけじゃなくて、今、この時間にもある。
仲間が死んだばかりなのに不謹慎だと言う人もいるかもしれないけれど、エイラならそんなことは言わないだろう。

――今日 クロ 友達 増えた うれしい日。飲め 食え 歌え 踊れ!

うん、そうだ。
二人が気が済むまで闘った後は、三人で鯛焼きを食べることにしよう。
ユーリルにも会って分けてあげたら喜んでくれるに違いない。
それまでに自分ももう一汗かくとしよう。
マッシュから聞いた魔石による魔法習得や、他の連携技のことも念頭に置き、クロノも再度、格闘の輪に身を投じる。
彼の顔からも笑みは消えず、浮かんだままだった。



――数分後、平野に寝そべり、鯛焼きを食べながら談笑する3人の男性の姿があったことは、言うまでもない。

147ボボンガ ◆iDqvc5TpTI:2009/04/28(火) 03:14:23 ID:N4DmpSao0



【G-2 平野北東部 一日目 朝】
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:心地よい疲労(小) ※ぶつかり合い分はミサワ焼きの回復効果で相殺
[装備]:サンダーブレード@FFⅥ
鯛焼きセット(鯛焼き*1、バナナクレープ×1)@LIVEALIVE、
魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:モップ@クロノ・トリガー、基本支給品一式×2(名簿確認済み、ランタンのみ一つ) 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ユーリルと合流する為教会へ向かう。その時は楽しい話をしたり、一緒に鯛焼きを食べたい。
2:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、ロザリーは発見次第保護)。
3:魔王については保留 。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
 この話におけるぶつかり合いで日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
 お任せします。 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?


【高原日勝@LIVE A LIVE】
[状態]:全身にダメージ(中)、背中に裂傷、心地よい疲労(中) ※ぶつかり合い分はど根性焼きで相殺
[装備]:なし
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:ユーリルと合流する為教会へ向かう。
2:武術の心得がある者とは戦ってみたい(特にレイ・クウゴ)
3:オディ・オブライトは俺がぶっ潰す(?)
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
 夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)


【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(中)、心地よい疲労(中) ※ぶつかり合い分はバナナクレープで相殺
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、ミラクルショット@クロノトリガー、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ユーリルと合流する為教会へ向かう。
2:首輪を何とかするため、機械に詳しそうなエドガー、ルッカを最優先に仲間を探す。
3:高原に技を習得させる。
4:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。

148ボボンガ ◆iDqvc5TpTI:2009/04/28(火) 03:16:36 ID:N4DmpSao0
以上、投下終了。
代理投下もありがとうございます

149SAVEDATA No.774:2009/04/29(水) 19:24:47 ID:FYhRfbzQ0
拙作ボボンガ、及び傍らに居ぬ君よ の誤字脱字、状態表を修正

150 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:23:29 ID:hFf1Q/tU0
(こんなレッドパワー、仲間を信じておらぬと使えぬわ……)

マリアベルは攻撃系のレッドパワーを選択することはしなかった。
ノーブルレッドの真の強さの秘密は、数多くの属性を持つ攻撃用のレッドパワーにあらず。
数々のロストテクノロジーと、搦め手を攻めるようなトリッキーなレッドパワーの数々
ロストテクノロジーは残念ながら今ここで披露はできないが、もう一つの強さは見せ付けようとマリアベルは思う。
それはトランプで言えば、ジョーカーでもキングでもエースでもない、8か7くらいの中途半端な手札。
でも、確かにその選択を間違ってない、今の状況においてはベストとも言える選択肢!
そのレッドパワーを唱えて、マリアベルの意識も途切れた。

◆     ◆     ◆

「バリバリキャンセラーッ!」
「……!? これは!?」

収束していたカエルの魔力が、カエルがなにかしたわけでもないのに急に霧散していった。
カエルが驚愕している間に、さらにサンダウンとニノが突っ込む。
サンダウンはナイフを、ニノは直接ゼーバーを撃ち込もうとする。
気がつけば、カエルは二人の射程範囲内。
ウォータガを使えなくなったことで、サンダウンとニノのどっちを迎撃するかの判断に一瞬迷う。
そのカエルの思考を、サンダウンとニノは読み取る。
別段、サンダウンとニノが超能力者という訳でもない。
おそらく同じ状況に置かれた人間なら十中八九その思考をするだろうから。
つまり、カエルの思考を読み取った二人の行動はまったく一緒。

どっちを先に迎撃するかって?

              そ   ん   な   の   ッ   !   !   !

「俺に決まってる……!」
                    「ッ!?」
                                    「あたしに決まってるよ!」

151 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:24:00 ID:hFf1Q/tU0
(俺が……負ける?)

カエルが敗北の二文字を予想する。
こんなところで潰えるほどの夢だったのだろうか。
もう俺はここで終わりなのだろうか。
否、有り得ない。
カエルはサイラスのことを思いだす。
姫の笑顔を思い出す。
仲間であると同時に、ガルディアを継ぐものであるマールのことも思い出す。
ガルディアに住む人々のことを思い出す。
それを思えば、今この状況など、窮地でもなんでもない。

(いや、負けられるか……!)

一度は諦めかけた体が動き出す。
カエルの中の熱い何かが、激しくカエルを突き動かす。
こんなところで死ねるものか、と。
バイアネットを振りかざし、サンダウン・キッドを袈裟斬りにしてしまう。
代償は、ニノのゼーバーによる左半身の負傷と、サンダウンのナイフによる刺し傷だ。
だが、それで終わりはしない。
サンダウンを完全に沈黙させたことを確認し、カエルは最後の一人ニノを殺そうと返す刀でバイアネットを振るう。

地に伏した存在が三つ。
三者、いずれも動くことはなく、流れ落ちる真っ赤な液体がその者の運命を示していた。
三人を致命傷に至らしめたその凶器、
バイアネットをその手に抱えたまま、男はニノに向かって突進する。
その心に微かな自嘲の念を浮かべて。
彼はかつて、正義感あふれる勇気ある若者だった。
魔王の邪悪なる所業に怒りの炎を燃やしていた。
だが、彼は、魔王の甘言に耳を貸してしまった。
魔王の誘いに、心を動かされてしまった。
だが、もう今更躊躇うことはない。
すでに三人斬った。
後戻りはできない。
する必要などない。
守りたいものがある限り、カエルは何度でも立ち上がる、立ち向かう。

(―――そうだ、俺は決めたんだ。必ず、ガルディアを取り戻してみせると―――!)

さしものカエルも体力が尽きかけるが、子供一人討ち取るのは容易い。
そう思っていた。
だが、ニノは健気に己を奮い立たせ、カエルに立ち向かっていく。

「まだ!」

152 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:24:32 ID:hFf1Q/tU0
ニノは諦めない。
サンダウンが斬られたとき、ニノは悲鳴をあげてサンダウンに駆け寄りたい衝動に駆られる。
でも、それはみんなの今までの行動を無駄にするものだと分かってたから、カエルと戦うことを優先した。

「クイック!」

身体能力を上げて、ゼーバーとメラの魔法を唱え続けて、カエルと戦い続ける。
ニノの双肩には、三人の命がかかっているのだ。
泣きたい衝動を抑えて、マリアベルは必死にカエルの攻撃を避け続ける。
みんなを失いたくないからこそ、ニノは頑張り続ける。
崩れ落ちそうになる足を叱り付けて、身も世もなく泣き叫びたい衝動を抑えて。

「負けない! 負けないから!」

弱い自分に負けたくないから。
カエルの猛攻を受けながら、ここで、またあたしのせいだと嘆くのは簡単だ。
でも、マリアベルは言った。
戦わないと、人が死ぬと。
ニノはもう誰にも死んで欲しくない。
家族を失ったときのような、つらい思いはしたくない。
自分を落ちこぼれじゃないと言ってくれた、ロザリーを死なせたくない。
足手まといでも一緒につれていってくれた、サンダウンを死なせたくない。
だから、ニノは戦う。
……でも、本当は今にも心が折れそうで。
だから、ニノは自分を勇気付ける言葉を唱える。

「へいき、へっちゃらッ!」

カエルの耳に、何故か二人分の声が重なって聞こえたのは何かの気のせいか。
リルカ・エレニアックが唱えていた言葉をニノが真似する。
震えそうな心を勇気付けて、暖かくしてくれる言葉だ。
言葉にしてみると、本当に元気が出てくるような感じがする。
もう駄目だ、と思っていた心が、あと少し頑張ろう、という気にさせてくれる。
こんなすごいおまじないのような言葉を知っているリルカは、やっぱり自分よりすごいと思う。
だから、残り少ない魔力が枯渇する、まで待つしかなかった膠着状況を打開するため、ニノは最後の手に出る。
ニノの指が――不意に光った。

153 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:25:06 ID:hFf1Q/tU0
「ゼーバー!」

ニノが魔力を展開して、ゼーバーの魔法を使う。
対するカエルも、ニノが最後の手段に出たことを悟り、気を引き締めてかかる。
ゼーバーの魔法は放たれることなく、ニノの手で発射する準備だけを整えている。
何か策があるのかと、カエルが攻撃を繰り出しながら考えると、ニノがそれをよけながらもう一度叫ぶ。

「ゼーバー! え……って、あれ?」

見れば、ニノの手に展開してあったゼーバーの魔力が宙に消えてなくなっていく。
ニノの脚が止まったこともあって、カエルはこれを相手の魔力切れと判断して、一気に勝負をかける。
カエルが銃床の部分で横殴りにして、ガードされたニノの華奢な腕ごと吹き飛ばす。

「あっ!」
「終わりだ」

体力の限界もあって、ニノは即座に起き上がることもできない。
チェックメイトだ。
せめてもの情けとして、苦しまず逝けるように心臓を一突きにしようとしたところ――

「お前がな……」

怒りを胸に秘めた、男の低い声が響く。



◆     ◆     ◆



カエルの足がピタリと止まる。
いや、止めさせられたのだ。
そこにいたのは両足でしっかりと大地を踏みしめ、リニアレールキャノンを構えるシュウの姿。
もしそこから一歩でもニノに近づけば、容赦なく撃つという意思がカエルにも感じられる。

「そんな物を隠していたか……」
「ああ、だが……あの時躊躇わずにお前に使っているべきだった……」

大柄な体格のシュウと比しても、その兵器の巨大さは目立つ。
凶悪さは一目瞭然、威力も推して知ることができる。
やはり、カエルは最初にシュウと戦った時のいやな予感が当たっていたと確信する。
おそらく、二人が最初に全力で戦えば、あれほど長期戦になることもなく、勝負はついただろう。
カエルはニノに斬りかかる体勢から、冷静にシュウの方に向き直る。
焦りはしない。
シュウが無言のままにリニアレールキャノンを撃たなかったからには、その巨大さに見合った威力があると推測する。
そして、その威力故にニノの巻き添えを懸念したのではないか、と。

154 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:25:43 ID:hFf1Q/tU0
カエルの読みは当たりで、シュウが問答無用に撃てなかったのは一度も試射したことがない故に、その威力を測りかねたから撃たない。
一度も使ったことがない、性能を確かめることもできない兵器など、まるでいつ爆発するか分からない爆弾のようなものだとシュウは自嘲する。

「去れ……」

だから、シュウは勧告で済ませる。
いいのか?と聞くカエルに対して、シュウはお前にかまっている時間より、そこの三人の治療に時間を割きたいと答える。
現時点でリニアレールキャノンを使う気になれない理由を、もっともらしい理由で隠すことも忘れない。
ニノは何もいうことなく二人のやり取りを見ている。
カエルはニノから手を引くことで、逃がしてもらえる条件を呑んで去ろうとする。
体力もそろそろ限界だったし、問題ない。
最後に、一言シュウに言ってやった。

「俺の……勝ちだな」
「……」

苦虫を噛み潰したような表情をシュウがする。
そうだ、今から再び、今度こそ手加減なしでやりあえば、シュウが勝っていたかもしれない。
だが、事実はそうならず、カエルを逃がす代わりに、ニノの命をようやく救えたに過ぎない。
シュウが慎重になりすぎた代償が、血だらけで倒れている三人。
そう、シュウは負けたも同然なのだ。

「カエル……」
(そういえば……)

カエルはいたたまれない気持ちになる。
そもそも、この男がいたからこそ、シュウとの戦闘は放棄したのだ。
自分とどこか似通っていると、そう思ったからこそ、去り際にアドバイスをした男がここにいた。

「ストレイボウか……」
「カエル……もうやめるんだ」

ストレイボウも悲痛な声を抑えることができない。
カエルがついに、人を手に掛けたのだ。
見れば、その中にはいたいけな女子供の姿もある。
かつての自分なら、その光景を見て笑ったかもしれないが、今はただただ胸が苦しかった。

「お前は、昔の俺と同じような道を歩んでいる……ッ」
「……そうかもしれないな」
「だったらッ!」
「だが、俺はもう戻らない。 分かるんだ。 俺はもう、誰を殺しても、なにをしても、何も感じることはないと」
「……悪いが、やるならよそでやってくれ。 時間が惜しい」

155 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:26:20 ID:hFf1Q/tU0
カエルとストレイボウの問答を聞いていたシュウが、未だリニアレールキャノンを構えたまま口をはさむ。
遠目にも、サンダウンたち三人が重傷なのが分かるからだ。
それを聞いたカエルは、背中を向けてマントを翻し、今度こそどこかへと去っていった。

「さらばだ……友よ」

そう、呟いて。

「何故だ……俺のことを友だって言ってくれるのに……どうしてッ!」

ストレイボウの嘆きが、ずっと聞こえてくるのが辛くて……。

カエルは、回復魔法を唱えながら逃げるように走り去っていった。

(カエルの耳とは……ずいぶんとよく聞こえる……)

戦いのときに役立っていたカエルの能力が、今はひどくうっとおしかった。

【I-9 城下町 一日目 午前】
【カエル@クロノトリガー】
[状態]:左上腕に『覚悟の証』である刺傷。 疲労(大)
[装備]:バイアネット(射撃残弾1)
[道具]:バレットチャージ1個(アーム共用、アーム残弾のみ回復可能)、基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:ここから離れる。
2:仲間を含む全参加者の殺害。
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

156 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:27:18 ID:hFf1Q/tU0
カエルが去った後は、三人で協力して、重傷の三人を横に並べて横たえた。
エリクサーを誰に使うかのが適切か、調べるためだ。
だが、残酷な結果が分かる。
サンダウン、ニノ、ロザリー、いずれも重傷。
しかも、全員意識を失っている。
それどころか、このままだと数分もしない内に死ぬことが発覚する。

「あたしのせいだ……」
「いや、俺のせいだ」
「いや、俺が……」

ニノが暢気に、カエルが武器を持ったまま説得をしようとしたから。
シュウが慎重になりすぎて、リニアレールキャノンを使うのを躊躇ったから。
ストレイボウがバイアネットをブライオンと交換しなかったが故に、カエルを引き止めることができなかったから、マルチブラストなどの弾で悲劇が起きた。
各々がそれぞれの理由で自分を責めるが、それは無駄な時間を過ごしただけに過ぎなくて。
決断の時間を迫られていた。



さて、ここでクイズをしよう。




死んでさえなければ、どんな傷でも治せるエリクサーが二つ。
今にも死にそうな重傷の患者が三人。
人間、エルフ、ノーブルレッド。





さあ、あなたならどうする?

157 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:34:38 ID:hFf1Q/tU0

……
………
…………
……………
………………
…………………
……………………
………………………
…………………………
……………………………

もはや使い捨てドッカンピストルも使い切ったサンダウンに、戦力を期待できない。
そう思ったニノは無慈悲に告げる。
「銃を持ってないガンマンなんて、南国のアイスホッケー部以下だよね♪」
その言葉に衝撃を受けたサンダウンは、急遽自分にも何かできることはないかと特訓を開始。

そしてついに得た新しい能力、それは催眠術!!!!!
催眠術を使って次からも大活躍できると意気込むサンダウン。
しかし、同じく新たな能力を会得しようとしてストレイボウもまた、催眠術を会得。
属性の被りを避けるため、ついに二人は決着をつけるべく激突する!

「暗示でお前は眠くなる!」
「いや、俺は暗示を自分にかけて眠くならないようにする!」
「お前は眠くなる!」
「いや、眠くならない!」
「眠くなる!」
「眠くならない!」
「眠くなる!」
「眠くならない!」
「眠くなる!」
「眠くならない!」
「眠くなる!」
「眠くならない!」
「眠くなる!」
「眠くならない!」

盛り上がっているか盛り上がってないかよく分からないバトルを繰り広げ、二人は意気投合する!

負けたサンダウンはキャラ被りを防ぐために、アニーのシミーズを手に入れた時の経験を生かし、女性の下着を盗む訓練に入る。

見事スカートめくり百人斬り達成なるか!? サンダウン・キッドの活躍に期待がかかる!

酒を飲んで、うにゅにゅと傷が再生していくサンダウン・キッドの生態についても迫るよ!

一方、シュウは無法松のハーレーをデイパックに回収し、一人修理を続けていた。

ついに修理が完了したバイクにまたがり、気分よくバイクをカッ飛ばし、彼はクールな言葉を叫ぶ!

「COOL! COOL! COOL! COOL! COOL! COOL! COOL! COOL! COOL! COOL!」

158 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:35:49 ID:hFf1Q/tU0
ラジカセを使ってしゃべる能力を習得し、クールなシュウにさらなるクール属性が身に付く。

場所は変わって、どこの城下町にも一つはあるであろう何の変哲もない宿屋。
女三人による平和な時間が流れていた。
ちょっと早めの朝食を準備し、テーブルには宿屋に置いてあった食器やカップを用意。
いい感じに焦げ目のついたトーストと、ゆで卵などの簡単な料理が並ぶ。
温められたミルクが鼻孔を刺激し、はしたなくもお腹が鳴る。
それをマリアベル、ロザリー、ニノ、三食分。
お世辞にも豪華とは言い難い食事。
どこにでもあるような、ごくごく日常における朝食の光景だった。
でも、それでいいのだ。
粗末な朝食でも、三人で笑いながら食べればおいしいのだから。
どんなに豪勢な食事も、温かい雰囲気の食卓にはかなわないのだから。

「えへへっ、いっぱいジャムつけてね♪」

ニノが上機嫌でマリアベルとロザリーに、イチゴジャムの入った瓶を渡す。
それを受け取ったロザリーはジャムの瓶を置いて、何故かフォークを取り出した。

「ニノちゃんにはこっちのジャムが似合いそうですね」

そしてそのままフォークをニノの手に思いっきり突き刺す。


ザ シ ュ ッ! !


「ひあああああああああーーーーーーーっ!?」

フォークはニノの手を貫通して、そのままテーブルに突き刺さった。

「あっ……ぐ、あああぁぁ……」

ニノはテーブルと繋がった自分の手をつかみ、激痛に悶え苦しんだ。
それを見て、マリアベルとロザリーはコロコロと笑いだす。

「おうおう、ニノの血の色は綺麗よのう」
「これで当分ジャムに困りそうにないですね」

そう、お楽しみはこれから。
一日はまだ始まったばかりなのだから。
ニノの苦しみはもっと加速する。


渦巻く熱気。
駆け抜ける嵐。
止まらない妄想ハイウェイ!

159 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:36:19 ID:hFf1Q/tU0
次回、RPGキャラバトルロワイアルは

『北方領土を取り戻せ!』
『多摩川の上流に落としてきた友情』
『伝説の樹の下で「やったか!?」と死亡フラグを叫ぶ』

の三本でお送りします。
お楽しみに!


【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:健康
[装備]:いかりのリング@ファイナルファンタジーⅥ、導きの指輪@ファイアーエムブレム 烈火の剣、 クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:エリクサー@ファイナルファンタジーⅥ、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:ピサロ様を捜す。
2:シュウの報告を待つ。
3:ユーリル、ミネアたちとの合流。
4:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※クレストグラフの魔法は不明です。

【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]



……………………………
…………………………
………………………
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……







――――なんて、サイコな展開にはなりませんのでご安心を。

160 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:37:05 ID:hFf1Q/tU0
◆     ◆     ◆



そこには、城下町を抜け、一人でカエルを追っているストレイボウの姿があった。
あの五人の仲間と別れて、一人で行動する理由はただ一つ。
やはり、カエルのことが気になったからだ。
しかし、もうカエルのことであの五人に協力は得られないだろう。
三人が殺されかかってしまったのだ。
だからストレイボウはやりたいことがあると、一人で行くことを選択した。
ふと、五人と別れ、最後に集合していた宿屋を出るときの会話を思い出す。

「聞いてくれないか……?」
「何でしょうか?」

見送りに出てくれたロザリーと会話する。
ロザリーを質問の対象に選んだのは、五人の中で一番人情の機微が分かりそうだったから。
シュウとサンダウンは暗そう、ニノとマリアベルはまだ子供(マリアベルはストレイボウよりも大人だが)だからだ。
この思いを伝えるにはどうすればいいのか聞いてみた。

「友に、伝えたい言葉があるんだ……」

友、と呼んだときのストレイボウの表情に暗い影が落ちるが、ロザリーはあえて触れない。
ロザリーは沈黙をもって、ストレイボウの次の言葉を促す。

「でも、どうすればこの言葉を伝えればいいのか分からない……俺は口が下手で……心も心底醜くて……
 あいつに伝えたい気持ちがあるのに……いつも言葉に詰まる。
 実際、あいつと何度か言葉を交わしたが、たぶん俺が思っていることの一割も、言いたいことは伝わってない……
 ……まるで女に告白したいのにできない女々しい男だな」
「そんなこと、ありませんよ……」
「……何?」
「そんなことありません。 私も、会いたい人がいます。 この心を伝えたい人がいます。
 でも、私も口下手で……本当に話したいことも話せないまま別れてしまいました……

だから、とロザリーが続ける。

「私は聖者のように、たった一言で誰かを悲しみから救ってあげることはできません。 そう、私の言葉はすごく軽い……。
 でも、だからこそ、私は何度でも言葉を重ねることしかできません。
 たとえ一晩中でも、夜明けまで重くなる瞼を擦りながら、欠伸を我慢しながらでも話したいと重います」

ああ、そうか、とストレイボウは思う。
自分は友を思うあまり、簡単な道に流されようとしていた。
誰とも誤解のなく打ち解けることのできるような、魔法のような言葉を探していた。
でも、それは所詮都合のいい幻想でしかない。
目の前のロザリーという女性は、自分の無力さを分かって、それでもなんとかしたいと模索している。
ロザリーの言うとおりだ。
一つの言葉が伝わらないなら、何度でも言葉を重ねればいい。
もしも運よくオディオと対峙することができれば、一度の謝罪で許されることなどないのだから。

「申し訳ありません……お力になれなくて……」
「いいや、参考になった……ところで、一つ聞きたいんだが、オディオについてどう思う?」
「え?」

161 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:38:00 ID:hFf1Q/tU0
突然の質問に、狐につままれた様な顔をするロザリー。
だからだろうか、答えに少し間が空いた。

「私はたぶんあの人の力で生き返りました……こんな私が言うのはどうかと思いますが……
 でも、こんなことをする人はやっぱり許せないと思います」
「そうか……」

その一言を最後に、ストレイボウは歩き出した。
ロザリーは今の一言に何か重要な意味があるのだろうかと考えるが、結論が出るには至らない。
代わりに、ストレイボウの背中に言葉を投げかける。

「ストレイボウさん! 私たちは仲間です……例え貴方がそう思っていなくても」
「ああ、俺もそう思っている」
「どうか、お元気で……」

ストレイボウは無言で去る。
そう、ストレイボウが言ったオディオについてどう思うかという質問は、ずっと考えていたことがあったからだ。
それは、オディオのことを話してしまいたいというもの。
自分こそが魔王オディオを生み出した元凶だと。
誰にも話さぬまま、醜い部分を心の奥にしまいこんでは、かつての繰り返しだ。
それを続けていれば、またあのどす黒い感情が自分を支配してしまうだろう。

そう、ストレイボウは第三者にいつか裁かれねばならないと考える。
ここにいる残った43名の中には極悪非道なオディオ討つべし、と憤慨している者も少なからずいるだろう。
それは当然の感情だ。
だが、だ。
同時に、オディオにそのようなことをさせるようにしてしまった者も、裁かれるべきではないだろうかと。
オディオを倒すという者がいるのならば、自分が止められることではないだろう。
しかし、ここにオディオ以上の、言わば諸悪の根源がいるのだ。
先にこの諸悪の根源を倒すのが道理ではなかろうか。
魂の牢獄に繋がれるのはオディオによる天罰。
では、第三者による裁きは?
考えるまでもない。

だが、今の自分にその勇気はない。
最初からそんな勇気があれば、ストレイボウもオルステッドも、こんなことにならなかったのだから。
お前のせいで、と誰かに掴み掛かられるのが怖い。
自分が裁かれるのが怖い。
この醜い心を誰かに打ち明けるのが怖い。

――罪滅ぼしのためでは無く、お前の意思で友を救えよ。

カエルの言葉が思いだされる。

(ああそうさ。 これは罪滅ぼしのためじゃなくて、俺自身が変わるためのものッ!

でも、誰かを救うことができたのならば、自分は変われるかもしれない、そう思う。
救いを求めている誰かに手を差し伸べることができれば、おなかをすかせている誰かにパンを差し出すことができれば、
あるいは悲しんでいる誰かに優しい言葉をかけてあげることができれば、寒くて凍えそうな誰かに温かい毛布を被せてあげることができれば、変われるかもしれない。
そう、オルステッドにかけていたような口先だけの偽りの言葉ではなく、心からの真心を届けることができれば。

162 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:38:41 ID:hFf1Q/tU0

(変わりたいんじゃない……変わるんだッ!)

決意とともに歩みだす。
闇はまだ……深い。


【I-9 城より西 一日目 早朝】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルの説得
2:戦力を増強しつつ、北の城へ。
3:勇者バッジとブライオンが“重い”
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っているかもしれません(名前は知りません)。




「皆の者。 これを見よ」

さて、瀕死の存在が三つ、エリクサーが二つ。
加えて回復呪文を唱えることのできる人間は皆無。
以上のような状況から、三人全員が助かって宿屋の地下室に集まっている理由を述べよう。
まずはエリクサーをサンダウン・キッドとロザリーに使う。
これで二人が完全に回復する。
このままではマリアベルが死ぬかと思われたが、実際はそうならず、事なきを得たのだ。
実際のところ、計算でやった訳ではない。
最後の最後に、マリアベルがわずかに意識を取り戻したのが命運を分けたのだ。
では回答しよう。
マルチブラストで蜂の巣にされたとき、マリアベルはニノに無断でやった行為を、今度は許可つきでやったのだ。
レッドパワーの一つ、「ライフドレイン」を使って回復したのだ。
その名の通り、他者の生命力を吸い取って、自身の生命力に還元するレッドパワーで、まずマリアベルは比較的元気なシュウとストレイボウから吸い取り回復。
さらに、自分にエリクサーは使う必要はないと言った上で、
エリクサーで完全回復したサンダウンとロザリーからも少しずつ生命力をもらい、マリアベルも復活という顛末になったのだ。
ライフドレインの生命力の還元の効率もよくなかったので、四人からいただいたと言う訳だ。
これは、マリアベルが回復呪文を使えるわけではないと言ったのがそもそもの騒動の原因。
だが、厳密な「回復」の定義に入るかといわれば微妙なので、マリアベルが言わなかった理由も残った四人は納得した。

163 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:39:35 ID:hFf1Q/tU0
「これは……旅の扉ですか……?」

記憶のデータベースにある知識と似たものがあったのか、ロザリーは呟いた。
また、マリアベルの知識に合わせれば、ライブリフレクターにも似ている。
地下室の一番奥には、ユラユラと空間が不安定にゆれている場所があるのだ。
マリアベルが得意げな顔をして、説明を開始する。
カエルとの戦闘時に、マリアベル宿屋を戦場にしたくなくて逃げたもう一つの理由がこれだったのだ。

「どうじゃ? わらわが発見したのよッ! しかも、これはノーブルレッドが近づいた時にしか見えん」
「本当?」
「見ておるがいい。 ほうら」

マリアベルは揺れる空間からある一定の距離を境界線として、一歩前に出て、一歩後ろに下がることを繰り返す。
空間は、たしかにマリアベルに反応しているようで、消えたり現れたりしている。
それを見てニノは素直にマリアベルすごいと喜び、サンダウンとシュウは胡散臭げな顔をする。
ロザリーが見たときはなかったというのも、マリアベルに反応して現れるのなら説明もつく。

「あのオディオも、ノーブルレッドの価値が少しは分かるようじゃ」

被りなおした着ぐるみを着たまま、マリアベルは得意げに腕を組んでうんうんと唸る。
しかし、サンダウンが冷静に意見を述べた。

「いや……少しおかしい
「何がじゃ?」
「もう一度やってみてくれ……今度はデイパックを置いてな……」
「……用心深い男よの」

言いながらマリアベル手に持ったデイパックを下ろし、もう一度さっきの目測で計った境界線で行ったり来たりをする。
しかし、今度は何も起こらなかった。
何故じゃッ、と叫ぶマリアベルを置いて、サンダウンはマリアベルの持っていたデイパックを少しだけ前に転がした。
すると、ノーブルレッド族のみに反応すると思われていた蜃気楼のような、不安定な空間が現れた。
それを見て、シュウがなるほどと頷く。
ニノとロザリーはまだ原因も分からず、マリアベルと不思議な顔をしている。

「……おそらく、支給品に反応している」

サンダウンが説明するより先に、シュウが口火を切った。
そして、マリアベルのデイパックに手を突っ込み、ゴソゴソと中身を探る。
出てきたのは、ゲートホルダーだった。

「参加者は全員平等のはず。 首輪を無理に外そうとすれば、爆発させられたりするようにな。
 その中で、ノーブルレッドだけにとか、特定の人種に反応するような仕掛けをするのはおかしい……」

つまりそういうことなのだと、シュウはゲートホルダーを持って、マリアベルの行ったり来たりしていた境界線を移動する。
たしかに、不思議な空間はシュウの持つゲートホルダーに反応していた。
その名のとおり、ゲートをホールドするもの。

164 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:40:16 ID:hFf1Q/tU0
……無論この恥ずかしい勘違いの一件で、わらわをたばかったオディオ許すまじ!とマリアベルが憤慨したのは言うまでもない。



◆     ◆     ◆



旅の扉のようでもあり、ライブリフレクターのようでもある、不思議な空間を前にして、五人の間で意見が交わされた。
それは、パーティを分割するべきだということ。
マリアベルが戦闘中に考えていたことだが、今ここにいる五人――仮にストレイボウを入れた六人でも――全員が後衛で戦うタイプ。集団で固まっても、思うように戦果がはかどらないのではないのかというものだ。
また、これだけ広大な島で生存者を探すには、一箇所に固まって探すには時間がかかる。
なにせ、24時間死者が出ない場合は全員が死ぬというルールなのだ。
短時間で効率よく探索するために、パーティ分割の案は全員が同意した。

問題はパーティ分割。
話し合った結果、綺麗に女三人と男二人に別れたのだ。
大丈夫かという男二人の疑問を、女同士の方が都合のいいこともある、とマリアベルは笑って飛ばした。
そして、恥ずかしながら、現時点で戦力的に最も心許ないサンダウン・キッドに、パワーマフラーと怒りの指輪が渡された。
初めて会ったときのように、サンダウンが石や何かを投げつけて攻撃すれば、多少は戦力になるという理由だ。
最後に、このゲートを使ってみるのも女三人に決まった。

「わらわの支給品だからのッ! わらわが持つのに何の異論もなかろう?」

とのこと。
これも慎重派の男二人がストップをかけようとするが、集団を形成した女性の独特の姦しさとパワーを発揮して押し切られた。

「なあに、ゲートがどこに繋がってても死んだりはせんだろう……」

そう行って、恐れることなくゲートに近づいていった。
ニノ、ロザリー、マリアベルが手を繋ぐ。
それぞれが違う場所に放り出されても困るという理由でだ。

「サンダウンおじさん、シュウさん! 行ってくるね!」
「では、行ってきます。 お二人もご無事で」
「シュウ、サンダウンッ! わらわの許可なく死ぬでないぞッ!」
「……」
「……」

無口な男二人の雰囲気に、これで誰かと接触したときに交渉ができるのかと、今度はマリアベルの方が心配になるが時すでに遅く。
ゲートに飛び込んだ三人は空間に呑まれ、二人の男からは見えなくなる。
ゲートホルダーの所持者がいなくなったことで、宿屋のゲートも跡形もなく消えていった。

少しして、無言で宿屋から出るシュウとサンダウン。
ストレイボウの向かった先とは別方向に歩き出す。
シュウが、ポツリと漏らした。

165 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:40:46 ID:hFf1Q/tU0
「俺は……マリアベルがライフドレインを使っていなければ、お前を切り捨てるつもりだった……」
「……俺とお前の立場が逆なら……俺もそうした……」

それは、二人が敵対しているから出た会話ではない。
寡黙な男二人に、奇妙な連帯感が出来上がる。

「もし、カエルに会ったら……あの武器がほしい」
「そうか」

カエルとの対戦でカエルが使っていたバイアネットを、サンダウンは思い出す。
マリアベルを蜂の巣にした弾といい、使い捨てのピストルを使って相殺した弾といい、ようやくサンダウンが見つけたまともな銃だ。
あれがあれば、戦力的にもっと活躍できる。
そういう旨をシュウに伝えて、シュウは了解した。

かくして、七人の運命の糸が絡まった物語はここで終わりを告げる。

シュウとマリアベルとストレイボウは再会の約束はしていない。
生きていて、オディオを倒すために行動していれば、いつか必ず会えると信じているから。

これからも、カエルのような心変わりをする者は必ずいる。

また、夜が明けて朝になったことで、本格的な行動を起こす人間が増え始める。

それぞれの胸にそれぞれの思惑を抱えて。

事態は、大きく動く。




【??? 一日目 午前】

【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。

166 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:41:19 ID:hFf1Q/tU0
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。

【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:ジャファル、フロリーナを優先して仲間との合流。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています

【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:ゲートを通り、どこかへ出た後は適当に移動して仲間や協力してくれる人物の捜索。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:アキラは信頼できる。 ピサロに警戒。カエルに一応警戒
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの先はどこ通じてあるか分かりません。島の施設のどこかかもしれないし、森の真ん中かもしれないし、時の狭間かそれ以外に行くかもしれません。
また、ゲートは何度も使えるのか等のメリット、デメリットの詳細も後続の書き手氏に任せます。

167 ◆SERENA/7ps:2009/04/30(木) 01:41:51 ID:hFf1Q/tU0
【I-8 城下町 一日目 午前】

【サンダウン@LIVE A LIVE】
[状態]:疲労(中) 衣服を斬りさかれた跡と血がベットリついてます
[装備]:いかりのリング@ファイナルファンタジーⅥ、パワーマフラー@クロノトリガー、アリシアのナイフ@LAL

[道具]:基本支給品一式、使い捨てドッカンピストル@クロノ・トリガー(残弾0)
[思考]
基本:殺し合いにのらずに、ここからの脱出
1:ロザリー、ニノ、シュウ、マリアベル、自分の仲間(アキラ、高原日勝)、また協力してくれる人材の捜索。
2:ピサロの捜索。
3:まともな銃がほしい(カエルの持つバイアネットに興味あり)
4: アキラを知るストレイボウにやや興味有り。
[備考]
参戦時期は最終編。魔王山に向かう前です。

【シュウ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:エリクサー@ファイナルファンタジーⅥ、紅蓮@アークザラッドⅡ、リニアレールキャノン(BLT1/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、オディオを倒す。
1:エルクたち、マリアベル、ニノ、サンダウン、ロザリーの仲間、協力してくれる人材を捜し合流。
2:この殺し合いについての情報を得る。
3:首輪の解除。
4:トッシュに紅蓮を渡す。
5:カエル、ピサロは警戒。アキラは信頼できる。
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※扇動を警戒しています。
※時限爆弾は現在使用不可です。
※『放送が真実であるかどうか』を疑っています。
※シュウとサンダウンがどこに行くかは後続の書き手氏に任せますが、
ストレイボウとは行き先が一緒にならないように別の方向です。

168シュウとカエルの修正パート  ◆SERENA/7ps:2009/05/02(土) 16:33:52 ID:5g8678Ec0



カエルの足がピタリと止まる。
いや、止めさせられたのだ。
そこにいたのは両足でしっかりと大地を踏みしめ、リニアレールキャノンを構えるシュウの姿。
もしそこから一歩でもニノに近づけば、容赦なく撃つという意思がカエルにも感じられる。

「そんな物を隠していたか……」
「ああ、だが……あの時躊躇わずにお前に使っているべきだった……」

用心深いシュウは、以前ストレイボウとカエルに出会ったときに、この武器の存在は隠していた。
切り札はできるだけ見せないようにしていたからだ。
だが、シュウはその武器を使うことに躊躇を覚えていた。
図らずもその威力を間近で見たことがある存在、マリアベルにこの元艦載式磁力線砲の威力のすごさを教えられてしまったから。
本来の持ち主、ブラッド・エヴァンスでさえも、この兵器を使う対象は大型の怪獣や戦艦のみに限っていたから。
リニアレールキャノンにつけられた、「元艦載式磁力線砲」の肩書は決して名前だけのものではない。
しかし、その大きすぎる威力がネックなのだ。
一回しか使えない連射性能の低さが、この場合は仇となり得るのだ。

テロ組織オデッサが旗艦、ヘイムダル・ガッツォー。
その対地攻撃兵器『アークスマッシャー』を一撃で使用不能に追い込むその威力。
まさに対『人』兵器ではなく、対『艦』兵器の領域に当たる。
もはや、一人の人間に対して撃つものではない。
オーバーキルもいいところだ。
もし実際に撃つことになって、カエルに当たれば、間違いなくその死体すら残さずにこの世から消し去ってしまうであろう。
だからこそ、これを撃つ環境はもっと別のところにある、そう考えてしまう。
残り43人、この中に間違いなく他人と手を取り合うことを否定し、己が欲望のままに進んで殺しをする存在がいる。
強大な力を持ち、一人や二人が組んでも、傷つけることすら叶わぬ存在がいるかもしれない。
そういった強大な存在を撃つために、この武器は温存しておくべきではないか。
様々な可能性が浮かび、シュウはこの武器を撃つことに対して踏ん切りがつかなかったから。

大柄な体格のシュウと比しても、その兵器の巨大さは目立つ。
凶悪さは一目瞭然、威力も推して知ることができると言えよう。
おそらく、最初に出し惜しみをせずに全力で戦えば、長期戦になることもなく、勝負はついただろう。

やはり、カエルは最初にシュウと戦った時のいやな予感が当たっていたと確信する。
シュウと最初に戦ったとき、カエルは終始押されていたと言ってもいい。
まさかシュウが体術のみを駆使して戦い、しかもリーチの面において有利なカエルの懐に入り込み、バイアネットの弾を撃つことすらできないとは思ってもいなかったからだ。
そして、それがシュウのやけっぱちの奇策ではなく、これがシュウ本人の戦闘スタイルだと理解するのに時間はかからなかった。
しかし、それだけがカエルの圧倒されていた理由ではない。
単純な考えだが、距離を詰められてバイアネットの弾等を撃つ機会が削がれたのなら、距離を離して攻撃すればいいのだから。

それはしない理由とは何か?
カエルが片腕につけた傷がハンデになっていた、というのもある。
長年戦ってきたカエルの戦士としての嗅覚が、何故だかこれがベストだと感じていたからだ。
シュウには出してないだけでまだ何かがあると、カエルは本能で感じ取る。
それを、カエルはシュウの戦い方、表面に現れた動作の機微だけで理解する。
必要以上に距離を離せば、その何かでやられると。
だから、接近戦で圧倒されながらも、ケアルガやヒールで根気良く回復し続け、戦い続けていたのだ。

カエルはニノに斬りかかる体勢から、冷静にシュウの方に向き直る。
焦りはしない。
シュウが無言のままにリニアレールキャノンを撃たなかったからには、その巨大さに見合った威力があると推測する。
そして、その威力故にニノの巻き添えを懸念したのではないか、と。
カエルの読みは当たりで、シュウが問答無用に撃てなかったのは一度も試射したことがない故に、その威力を測りかねたから撃たない。
一度も使ったことがない、性能を確かめることもできない兵器など、まるでいつ爆発するか分からない爆弾のようなものだとシュウは自嘲する。

169ストレイボウパート  ◆SERENA/7ps:2009/05/02(土) 16:35:08 ID:5g8678Ec0
そう、ストレイボウは第三者にいつか裁かれねばならないと考える。
ここにいる残った43名の中には、極悪非道なオディオ討つべし、と憤慨している者も少なからずいるだろう。
それは当然の感情だ。
だが、だ。
同時に、オディオにそのようなことをさせるようにしてしまった者も、裁かれるべきではないだろうかと。
オディオを倒したいという者がいるのならば、自分が止められることではないだろう。
しかし、ここにオディオ以上の、言わば諸悪の根源がいるのだ。
先にこの諸悪の根源を倒すのが道理ではなかろうか?
魂の牢獄に繋がれるのはオディオによる天罰。
では、第三者による裁きは?
考えるまでもない。

だが、今の自分にその勇気はない。
最初からそんな勇気があれば、ストレイボウもオルステッドも、こんなことにならなかったのだから。
お前のせいで、と誰かに掴み掛かられるのが怖い。
自分が裁かれるのが怖い。
この醜い心を誰かに打ち明けるのが怖い。
サンダウンにアキラのことを知っているかと聞かれた時に、こちらが一方的に顔と名前だけ知っているだけだ、としか返せなかったのもそのためだ。
もしも、かくかくしかじかでアキラのことを知り、その時貴方の姿も拝見しました、と言ってしまえば、サンダウンが自分のことを思い出すかもしれないから。
あの時、ストレイボウはアキラだけでなく、サンダウンの姿も見つけた。
思い出されてしまっては、オディオとの関係も聞かれ、芋づる式に真相が発覚する可能性もある。
だから、聞かれた時、怖くて曖昧な言葉で濁した。
少なくとも、今はまだ、それを打ち明ける勇気がないから。

――罪滅ぼしのためでは無く、お前の意思で友を救えよ。

カエルの言葉が思いだされる。

(ああそうさ。 これは罪滅ぼしのためじゃなくて、俺自身が変わるためのものッ!)

でも、誰かを救うことができたのならば、自分は変われるかもしれない、そう思う。
卑怯な自分を捨て去り、少しはまともな人間に変われるかもしれない。
救いを求めている誰かに手を差し伸べることができれば、おなかをすかせている誰かにパンを差し出すことができれば、
あるいは悲しんでいる誰かに優しい言葉をかけてあげることができれば、寒くて凍えそうな誰かに温かい毛布を被せてあげることができれば、変われるかもしれない。
そう、オルステッドにかけていたような口先だけの偽りの言葉ではなく、心からの真心を届けることができれば。

(変わり『たい』んじゃない……変わ『る』んだッ!)

決意とともに歩みだす。
闇はまだ……深い。


【I-9 城より西 一日目 午前】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルの説得
2:戦力を増強しつつ、北の城へ。
3:勇者バッジとブライオンが“重い”
4:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)

170サンダウンパート  ◆SERENA/7ps:2009/05/02(土) 16:36:00 ID:5g8678Ec0
カエルとの対戦でカエルが使っていたバイアネットを、サンダウンは思い出す。
マリアベルを蜂の巣にした弾といい、使い捨てのピストルを使って相殺した弾といい、ようやくサンダウンが見つけたまともな銃だ。
あれがあれば、戦力的にもっと活躍できる。
そういう旨をシュウに伝えて、シュウは了解した。

(そういえば……)

サンダウン・キッドは思い出す。
アキラという人物について知っているというストレイボウにそのことを聞いてみると、直接の面識はなくこっちが一方的に知っているだけだ、という回答が帰ってきた。
それ以上聞くことはしなかった。
元々サンダウンも、アキラがどういう人物か詳しく知らない。
アキラとは偶然色褪せた世界に同時に放り込まれ、協力していただけ。
ひょっとしたら有名な人物かもしれないが、無闇に素性を尋ねるのは荒野ではタブーだったので、それ以上聞くこともしていない。
まさかサンダウン本人も、ストレイボウがサンダウンすらも見たことあるとは予想だにせず。
サンダウン本人もストレイボウの姿を見たことがあると、思い出すことができない。
ストレイボウが囚われていたあの空間には、ストレイボウだけでなく、ルクレチアに住むすべての人間がいたのだ。
ルクレチアにいるすべての人間の姿を覚えてることなど、できないのだから。
ストレイボウに関しての詮索も、それ以上することはしなかった。
このあたり、シビアな世界に生きる男ならではの行動と言える。
そのサンダウンの気遣いが上手く働くのかは、現状では分かるはずもない。

かくして、七人の運命の糸が絡まった物語はここで終わりを告げる。

シュウとマリアベルとストレイボウは再会の約束はしていない。
生きていて、オディオを倒すために行動していれば、いつか必ず会えると信じているから。

これからも、カエルのような心変わりをする者は必ずいる。

また、夜が明けて朝になったことで、本格的な行動を起こす人間が増え始める。

それぞれの胸にそれぞれの思惑を抱えて。

事態は、大きく動く。

171 ◆6XQgLQ9rNg:2009/05/09(土) 20:36:41 ID:afWtXvdQ0
『トゥルー・ホープ』における、ルカの長髪という描写を修正しました。

172風雲フィガロ城 規制分 続き ◆iDqvc5TpTI:2009/05/18(月) 05:33:21 ID:z8vnbgpA0
「うおおっ!?」

何かがぶつかったような衝突音、遅れて振動。
洞窟は相当頑丈に作られていたのか、幸い落盤なんざはちっとも無かったが、相当な衝撃だった。
不意打ちとはいえ崩しかけちまったバランスを立て直し、即座に音のしたほうへと走る。
どう考えてもただ事じゃねえだろ、こりゃ!
まさか俺やセッツァー以外にもあの津波に巻き込まれて地下に流された奴らがいて、そいつらがおっぱじめやがったつうわけか!?
もしそこにエルクが首を突っ込んでたら。もしシュウの奴が関わってるとしたら。もしちょこの奴が馬鹿みてえに暴れているなら。
居ても立ってもいられず走り出す。

「こりゃあ……」

城だった。
どっからどう見ても目の前にあるのは城にしか見えなかった。
俺は迷いに迷った末に振り出しに戻ってきちまったのか?
いや、そうじゃねえ。
俺がさっきまでいた城と違い、この第二の地下の城は死んじゃいねえ。
傷が全くねえわけじゃねえが、きちんと手入れもされている。

「……オディオの中じゃ地下に城を建てるのがブームなのか?」

陰険根暗なあの野郎にゃあお似合いなこった。
正直未だにオディオのことはナナミから聞いた以上には思い出せねえが、殺し合いなんて馬鹿なことを考える奴だ。
そうに決まってらあ。

「さてと、正面の城門はしまってるみてえだが……」

あの轟音がこっちの方からしたのは確かだ。
多分中で誰かが闘ってるんだろ。
ならやることは一つだ。
城門を押し破るなり飛び越えるなりしてでも中に押し入るのみ!

173風雲フィガロ城 規制分 続き ◆iDqvc5TpTI:2009/05/18(月) 05:34:02 ID:z8vnbgpA0
【C−5北西 古代城への洞窟、移動してきたフィガロ城前 一日目 午前】
【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ひのきの棒@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式 、ティナの魔石 、果てしなき蒼@サモンナイト3
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:地下の城その2に乗り込む。地上への出口は一時後回し
2:果てしなき蒼は使わない。
3:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい(特にシュウ)。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
6:基本的に女子供とは戦わない。
7:あのトカゲ、覚えてろ……。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未修得です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※果てしなき蒼@サモンナイト3はトッシュやセッツァーを適格者とは認めません。
※セッツァーと情報交換をしました。ヘクトルと同様に、一部嘘が混じっています。
 エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。



※フィガロ城は蒸気機関を始動させることで地下施設間を城ごと潜行させ高速で自動地中移動できます。途中停止不可。
 遺跡ダンジョン、背塔螺旋だけではなく、古代城への洞窟など地図に載っていない地下施設にもいけます。
 一度この機能を使えば、次の放送後まで使用不可。
※D-7南部からは入れる地下水路は途中で古代城への洞窟とフィガロ城到着ポイント方面に分岐しています。


----------------------------------------
以上です。代理投下、お願いします

174 ◆iDqvc5TpTI:2009/05/18(月) 10:59:54 ID:z8vnbgpA0
規制分自分で投下できました

175SAVEDATA No.774:2009/05/21(木) 18:14:34 ID:1qrHkyzE0
風雲フィガロ城の収録に伴いゴゴの状態表修正。本スレでの指摘感謝

176 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:42:09 ID:zr1o2sfU0
暗殺者のおしごと-The style of assassin


悲しみも、不安も、恐怖も、辛さも……今はすべて忘れていよう。

何もかも、真っ白にして。

揺れるこの心も、これから先、私が選ばなければならない道も、いまだけは桃源郷の彼方。

そう、ここに嫌な物は何一つない。

苦手の男の人も、怖い魔王も、襲ってくる誰かも、ヒヨコも……。

あるのは何もかも忘れて、身を委ねたくなるような温かいものばかり。

うん、分かってるの。

それが私の我が儘だって。

リンとヘクトル様をお助けしないといけないのは分かってる。

でも、今はとても疲れていて。

ここに来てから誰かに心を許したこともなくて、ずっと緊張の糸を張り詰めていたから。

その緊張の糸が一気に切れたとき、どうしようもなく眠くなった。

痛みと疲れで、抗いがたい欲求が込み上げてきた。

だから、今だけはエドガーさんの背中を借りて眠った。

ずっと迷っている考え事を先送りにしてたけど……。

起きた後でそのことについてまた考えればいい。

性急な決断をしてもいいことは何もないから。

それに、罪もない誰かを殺すのはやっぱり気が引けるから……。

だから今はもっと深く、深く意識を沈める。

今だけはこの淡い温もりに浸っていよう。

そして、チョコレートのように甘い夢を見るの。

リンもヘクトル様も、ニノもいる素敵な夢を―――。

177 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:42:40 ID:zr1o2sfU0



◆     ◆     ◆



美しい女性だと、私――エドガーは一目見たその時から思った。
エメラルドグリーンの色を持つ、絹糸のような繊細な髪の毛も。
彼女の持つ、神秘的な雰囲気と佇まいも。
憂いを帯びたその表情でさえも、彼女の美しさを一層引き立てる要素に思えた。
幾多の女性を口説いてきた私でも、一瞬口説くことを忘れ思わずため息を漏らしてしまうほど。
それほどまでに、ティナ・ブランフォードは美しい女性だった。

でも、同時に幸の薄い女性だとも思った。
ガストラ帝国によって思考を奪われ、物言わぬ人形へと変えられ、したくもない人殺しをさせられたのだから。
記憶を失って、自分が何者であるかも分からない内から、失われた魔法を使えるという理由で特別視され、帝国への反抗組織「リターナー」へと協力を依頼された。
もちろんそこに、帝国と同盟しておきながら「リターナー」に協力していた私自身の計算や狙いもあったのだが。
そこから、目まぐるしく彼女の周囲を取り巻く状況は動き続け、ケフカを始めとする数々の敵と戦い続け、ようやく平和と幸せを手に入れたはずだ……はずだったんだ。
戦いの中で、幻獣と人間のハーフだったということが判明したティナ。
故に、と言うべきかは今となっては分かりようもないが、彼女は愛や恋といった感情を上手く認識できずにいた。
そういう概念がないのではない。
上手く認識できなかっただけなんだ。
だから、いつもそのことに苦しんでいた。
自分が他の人とどこか違うと、彼女は真剣に悩んでいた。

世界が崩壊した後、小さな村で暮らす内にようやく愛情などの自分に欠けていた感情の正体を知り、人としての幸せを得られるはずだったんだ。
でも、ティナに待っていたのは幸せな日々ではなく、未知の島での無念の死。
ああ……まったくもってやるせないな。
彼女に死なないといけないほどの、一体どんな罪があったというのか、誰か教えてくれるのなら教えてほしいものだ。
それに、許せないじゃないか。
ティナを殺した誰かも、こんなことをさせるオディオも、そして、仲間の死に駆け付けることもできなかった私の無能さも。

だから、俺は皆を纏め上げる『王』を探し求める。
『王』なんて大仰な肩書でなくともいい。
『リーダー』でも、『まとめ役』でもいいのだ。
とにかく初対面に等しい人間の間に生じる衝突や軋轢といったものを緩和し、オディオを倒すという目的に正しく導ける役目を持った逸材。
右も左も、どうすればいいかも分からないこの絶望の状況の中から、一筋の輝く希望を見いだせる存在。
そういった『王』を見つけ出すのがここでの俺の役目。

それに、それ以外にもやらないといけないことは多い。
例えば、ケフカへの対策。
ティナが死んだことにより、対ケフカへの重要な戦力が一つ失われてしまった。
幻獣と人間のハーフであるティナは、幻獣の力を解放する「トランス」を使えば、絶大な力を発揮できる。
無論、ティナ一人がトランスしたくらいであのケフカを倒せる訳ではないが……。
ティナやシャドウや私、セッツァー、そして弟であるマッシュや他の多くの仲間の力を合わせた上で、それでもギリギリの勝利だったのだ。
対ケフカにおいて、ティナは重要な戦力として計算していたが、大幅に修正を余儀なくされてしまった。

178 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:43:14 ID:zr1o2sfU0

……戦友が死んだ割にやけにドライじゃないかって? 
ああ、確かに人からは切り替えが早すぎだと思われるかもしれない。
でも、私は――エドガー・レネ・フィガロは国王であり、皆を導くと心に決めたのだから。
敵と対峙した時、睨みつけるだけでは敵は倒せないだろう?
それと同じで、誰かが死んだ時に悲しんでいるだけでは、オディオもケフカも倒せたりはしないのだ。
それに、ご心配なく……。
外見は平気なように見せかけているだけで、私自身内心では嵐のような感情がうねり狂っているのだから。
シャドウのこともあったし、平静なように見えて私自身も色々と思うことがある。
かつての私の仲間が、盤石の意思で統一されているということはない。
シャドウとは少しだけ心を通わせることができたが、それでもシャドウと私の目的が今のところ相反するものであることに否定の余地はない。
ケフカへの対策のこと、ここに集められた人間全員にはめられたこの窮屈で忌々しい首輪を外す方法の模索、
魔王オディオ打倒のこと、もっと多くの仲間を集めること、シャドウをはじめとする目的を異にする者への対処。
やらなければならないことは山積みだ。

でも、今は休憩の時間だ。
フロリーナが寝ているからな。
死者の発表の時間になっても、寝ていたままだった。
緊張の糸が一気に切れたのか、泥のように眠っている。
私も眠ってくれていた方が好都合なので、起こすこともしなかった。
開始から六時間経って、そろそろ睡眠が必要になってくる時間帯でもあったし、シャドウとの戦いの影響もあるだろう。
男性が苦手なようだから、もう一度私の目の前で眠ってくれ(安全のためであって、他意はない)と頼んだところで、素直に聞いてくれる確率も低い。
ここは起こすことなく熟睡してもらおう。
どうせこれから過酷な戦いがいくつも続くはずだ……フロリーナの戦いの相手が誰なのかは置いといて。
人間は睡眠しないと生きていけない動物だ。
いつか寝ないといけないのなら、今寝てもらった方がいい。

それに……この気持ちよさそうな寝顔を起こすのは紳士として躊躇われる。
ああ、若さとあどけなさと幼さと美しさとかわいさが同居したいい寝顔だった。
よほどいい夢でも見ているのだろうか?
少しくらい、この顔を私の前でもしてくれたらいいのになと思う。
警戒されるような、怪しいことはなにもしていないはずなのだがね。
ヘクトルという男の前でなら、こういう顔をしているのだろうか?
まぁヘクトルという男に会えば、その辺りのことも分かるだろう。

私は睡眠は後回しでいい。
元々、国王という激務についていたからな。
普通の人の半分以下の睡眠でも問題なく活動できるつもりだ。
だから、この村に着いてフロリーナを安全な場所に寝かせた後は、ある程度の探索はしておいた。
そして、村の中にある一番大きな家、壽商会(ことぶきしょうかい、と読む)の一室で機械弄りをさせてもらっている。
商会という名ではあるが、ここで何か売っていたような形跡は見受けられない。
どちらかというと、研究所とかそういった名称の方が適切なように思える。
ドリルもノコギリも、およそ工学的な道具類を全くもってなかった私が機械弄りをできている理由は、この壽商会に様々な工具類が置いてあったからだ。

そこにあった見たこともない技術系統に、マシンナリーとしての血がざわめいてしまった。
昭和ヒヨコッコ砲をみたときと同じ気持ちが湧き起こってきたのだ。
フロリーナが寝ていたこともあったし、私はここに置いてあったものを渡りに船とばかりに解体しては再度組み立てたりして、好奇心を満たしていった。
正直、最初にこの建物に入った時はこの家の持ち主のセンスを疑ったりしたものだ。
茶色い壁に、意味不明のオブジェクトが所狭しと並んでいたのだから。
変なお面があったり、いかがわしい模様の壺がいくつもあったり、ピンクのゾウがあったり、そんな訳の分からない物がいっぱいある中に木琴という常識的な楽器が一個だけ置いてあったり……。
およそ私の備えているセンスとか常識とかいったものでは、理解しがたい構成がされていた。
しかし、この私でさえ未知の部分といえる領域に踏み込んでいる技術だけは感心できる。
願わくば、この建物の主と酒を飲みながら、お互いの持つ機械の知識を大いに語り明かしたいものだ。
無論、その相手が美しい女性であるなら言うことはない。
相手が犯罪になる年齢でなければ、基本的に私はノーボーダー。
年齢で好きになる人の対象の範囲を狭めるのは愚かだと言うものだ。

179 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:43:45 ID:zr1o2sfU0

「ふぅ……」

カチャカチャと音を立てていた行為をやめ、夢中になっていた機械弄りを中断し一時休憩に入る。
現在のところ、私の好奇心を最も刺激しているのは「物質転送装置」なるものだ。
読んで字の如く、何かを遠い場所に転送できる装置のようだ。
しかもこの機械、おそらく人間でさえも転送できる設計がなされている。
マシンナリーとしての私の勘がそう告げている。
この機械でさえも夢中で解体していたところ、設計の随所にそういう意図が見受けられたからだ。
勘というのは当てずっぽうなどではなく、豊富な経験に裏打ちされた重要な能力の一つだ。
それを勘で悟った時、今度は私の好奇心と同時に使命感が膨れ上がってきた。
人間でさえも転送の対象に入るのなら、必ずやこれは我々の便利な移動手段になる。
森や山を越えるのは大幅に体力を消耗するからだ。
しかし、残念ながら解体していたこの機械の配線の構造などを見ていた時、少し設計に齟齬というか、不備を見つけてしまった。
便利な装置を見つけ無警戒に使用しようとした人間をはめるオディオの罠なのか、設計者の単なるミスなのかはよく分からない。
おそらく、このまま使用していれば、装置が壊れたり爆発してもおかしくなかったんじゃないかと思う。
私が一番に見つけたのは僥倖というものだろう。
しかも、ミスしていた部分は私の知識でもカバーできるものであった。
これ幸いとばかりに、私はそのミスの部分を直していたのだ。

「少し休憩するとしようかな」

神経をとがらせて作業していたため、少し疲れが残る。
大体工程の半分くらいは消化できたと思う。
特に作業に詰まったところもないが、機械弄りというのは精密な作業な要求されるから、見た目以上に疲れる。
背筋を伸ばして、伸びをする。
凝った肩や腰を揉み解しながら、もっと下の階層に階段を使って降りていく。
同じような間取りの部屋がを10回、カツカツと靴の音を立てながら降りた。
降りても降りても同じような空間が続いてたから、最初にこの階段を利用していたときは自分が同じ場所を延々ループさせられているような錯覚に陥った。
だが、数えながら階段を降りること10回目、私は無事ループさせられたのではなく、ちゃんと迷うことなく最下層にたどり着いた。

この壽商会を逗留場所に選んだのには、二つほど理由がある。
一つはさっきも言ったように私の好奇心を満たすため。
そして、もう一つは安全上の問題だ。
階段を降りても降りても同じような空間が続けば、同じ場所を延々と迷ってるような感覚に陥るのは分かるだろう。
そこで、人によっては何者かによる罠などの可能性も考え、階段を最下層まで降りきることなく、引き返す可能性もあるからだ。
また、誰かが襲ってきても、上の方の階層にいる私が敵を食い止めることができる。

フロリーナは最下層に横たえて寝かせてある。
睡眠という、生物に欠かせない欲求を満たす上で問題になるのが、寝込みを狙った襲撃。
ここはそんな安眠を貪る上で、ベストとは言えないがかなりの好条件だ。
最下層にたどり着きフロリーナの寝顔を盗み見ると、そこには先ほどと変わらない、安心しきった寝顔を浮かべていた。
多少寝心地は悪いだろうが、それは安全の確保という名目上、我慢して欲しい。

180 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:44:17 ID:zr1o2sfU0
そしてもう一つ、最下層の主とも言うべき物体と対面する。
それは私とフロリーナがここに来たときから、ずっと鎮座していた。
一言で形容するならば、「ブリキを材質に使った超巨大な魔導アーマー」か。
名前はブリキ大王というらしい。
大王……王である私よりも偉い存在なのか……などという他愛もない思考が過ぎる。
何故材質がブリキなのかはよく分からない。
確かに腐食しにくいという特性はあるが、それならミスリルなどを使ったほうがよさそうなものだが……。
ブリキ自体に何らかの儀式によって、効果や属性が付加されているのかもしれない。
それよりも、これを超巨大な魔導アーマーと呼称したのはちゃんと訳がある。
明らかに、これは戦闘を目的とした設計が成されているのだ……しかも、「肉弾戦」を主眼とした設計方法が。
もちろん、ミサイルやレーザーなどを射出するための機構らしきものはあるにはあるが、それはこの機械のメインウエポンではない。
頑丈に作られている巨大な腕と脚部は、明らかに物を掴むため巨体を支えるためというよりは、敵の破壊を目的にされている。
仮に魔導アーマーとこのブリキ大王が戦ったとき、それはもはや勝負とはいえない一方的な惨殺になるであろう。
勝者がどちらかは言うまでもない。
ガストラ帝国の物でもない、ましてや我がフィガロの物でもない。
そんな巨大な戦闘兵器がこの壽商会で沈黙して、訪れる客を待ち構えていた。
初めて見たとき、私は思わず圧倒されたものだ。
この兵器が襲ってくる可能性も懸念したが、頭部にあるコクピットらしき場所に誰かが乗り込まないと操縦できないようだ。

頭部に乗る方法はご丁寧にここの一階に丁寧に貼り紙がしてあった。
ちなみに貼り紙に書いてあったのはこうだ。
『ブリキ大王に乗る方法
 まず ピンクのゾウをさわり 
 本を読む。
 そして もっきんをたたき
 青いマスクをさわったら
 地下のブリキ大王を よ〜く
 おがむ(手を二回叩いてな〜む〜、と言う)
 しかる後、
 ちゃんと手をあらってから
 トイレにしゃがむのじゃ』
……一応、ゾウも本も木琴もマスクもトイレもあるにはあったが、何故ここまで面倒な方法なのかは理解に苦しむ。
有事の際に、ここまで複雑な手順を取る余裕があるのだろうか?
そうは言っても、実のところこの手順を忠実に試したわけではないが。
仮に、これで本当にブリキ大王が起動したとしても、操作法を誤って同じく最下層にいるフロリーナを踏み潰したりしては笑い話にもならないからだ。
それに、あの巨体が地下深くからどうやって地上に出るのかという疑問も尽きないが、ここは海岸近くにある建物。
これを海に通じていてそこから出てきたりする、というのは都合がよすぎる考えだろうか?
それも含めて、試すのはフロリーナが起きてからになるだろう。

181 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:44:55 ID:zr1o2sfU0
図らずも、使いこなせば強力な兵器と便利な装置が見つけられた私だが、未だに光明は見えない。
魔王オディオに対抗する足がかりも、首輪を外す目処もまだ立ってない。
ここにある設備なら多少は首輪の解析もできるかもしれないが、如何せんサンプルとなる首輪がない。
私自身やフロリーナの首輪を、首に嵌めたまま解析するのは言語道断だからだ。
さっきも確認したが、やることは本当に山積みだ。
だが、今の私はへこたれない。
やるべきことをキチンと思い出せたからな。
腑抜けていた時ならともかく、今の私には使命感がある。
それに戦友に――シャドウに誓ったからな。
我が弟であるマッシュも、その場にいたら腑抜けている私は私なんかじゃないと言っていただろう。
未だ眠りから覚めない眠り姫の寝顔を最後に拝んでから、決意を胸に秘めて私は階段昇っていった。



◆     ◆     ◆



私の名前はフロリーナ。
イリア天馬騎士団の見習いで、今はキアラン侯爵家に仕えているの。
傭兵稼業が盛んなイリアの天馬騎士団に入団するためには、ある一つの条件がある。
それは、「一定期間、他国の騎士団、または傭兵団に仕えた経験があること」
外で得た知識と経験は、必ずその人の血と肉になって役立つかららしい。
イリアにいるだけでは決して得られないものが手に入る。
だから、私もそれに習ってキアランの騎士隊に入隊した。
男の人が極端に苦手な私にとって、他所の騎士団はイリアと違って男の人ばかりで窮屈だったけど、
そこは親友のリン――今は主従の関係だからリンディス様と呼ばないといけないけど――がいる場所だから頑張れた。
男の人が嫌いなわけじゃないの、でも……どうしてか男の人が目の前にいると緊張して声がどもってしまって……直さないといけないのは分かってるけど……。

とにかく、リンがいたし、いつか立派な天馬騎士になってお姉ちゃんたちを喜ばせたいから、私はいつも頑張ってこれた。
極寒の地であるイリアは一年中雪が降り続け、作物がまともに実らないの。
主な稼ぎ口は他国で傭兵をするとか、そういうのしかない。
だから、イリアの人間は他国では嫌われることもある。
戦争好きだとか、人殺しが趣味だとか、そういう謂れのない嘲笑や侮蔑の対象にもなる。
昔は、そう言われるのが私もいやだった。
だって、そうでしょう?
人殺しとか言われてうれしい人間なんていないもの。
昔は、じゃあ皆で他の国に移り住めば傭兵なんかしなくてもいいって思ってたけど、それは現実的じゃないと、思春期を過ぎてから気がついた。
イリアは豪雪地帯だけど、かなりの人口が住んでいる。
そんな大量の職も持たない人間が安住の地を求めて他国に行くとどうなるか?
それは、つまり『難民』と呼ばれる存在になる。
働く気力と意志があっても、いきなり押し寄せてきた難民全てに衣食住そして労働環境を提供なんかできない。
結果として、已むに已まれぬ事情で犯罪に手を染める人間も増えて元の木阿弥になる。
それに、他国に移住しようとしてもお年寄りや病人など、したくてもできない人がいる。
私が小さな頃に考えていた素晴らしい考えは非現実的だったのだ。

182 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:45:35 ID:zr1o2sfU0
どれだけ嘲笑や侮蔑を受けても、イリアに積もる雪は決して融けてくれない。
私が将来の夢を考えるようになったのは、非情な現実を受け入れてからだった。
その頃には、二人のお姉ちゃんも見習いを終えて立派な天馬騎士になって、イリアの人にお金や食料を与えていた。
その姿を見て、傭兵という職業でも誰かを幸せにできると気がついて、私もお姉ちゃんたちのような立派な天馬騎士になることを夢見た。
すでに一部隊の隊長を任されるほどになったフィオーラお姉ちゃんや、いつもすごい金額を稼いできてくれるすご腕のファリナお姉ちゃんみたいになりたかった。
天馬騎士の道を志すようになってから、相棒である天馬のヒューイ、親友であるリンと出会って、楽しい時間があっという間に流れた。
そして、穏やかな時間が流れてから少し後に、激動の時間が待っていた。

切っ掛けはリンの部族がリン以外皆殺しにされてからだった。
無口だけど優しかったリンの父親も、どこかの貴族のお姫様みたいに綺麗だったリンの母親も、すべてが殺された。
そこから、リンがリキアの貴族の血筋を引いてることが分かって、キアランという領地に行くことになった。
そこにリンの祖父がいるという話をケントさんやセインさんに聞いたから。
リンのおじいさんと出会って、リンが侯爵の孫娘になってから、私もリンの傍にいたかったし、傭兵の経験を積む上でも一石二鳥だから、そこで働いた。
でも、同盟を組んでいるはずのラウス候の襲撃を受けてからまた状況は大きく変わり、いつの間にかネルガルという世界の平和を脅かす脅威と戦うことになっていた。
戦いの最中で、どこかで傭兵をしているはずのフィオーラお姉ちゃんともファリナお姉ちゃんとも再会して、ヘクトル様にも出会った。

世界が今度こそ平和を取り戻して、平穏な日々が待っているはずだったのに……。

でも、今はそれを考えるのはやめよう。
とても疲れているから。
リンかヘクトル様かどっちかしか生き残れないような過酷な戦いのことは今は忘れよう。
エドガーさんには悪いけど、今はこの想いに浸っていたい。

リンもヘクトル様も、フィオーラお姉ちゃんもファリナお姉ちゃんもニノもいるこの夢を見ていたい。
そこではリンとヘクトル様が私に笑いかけてくれている。
仲たがいしているはずのお姉ちゃんたちが手を取り合っている。
ニノと私が仲良くお話をしている。
リンが侯爵の娘なんていう堅苦しい身分から開放されて草原で笑っていて。
ヘクトル様が私に好きだと言ってくれて、私も好きだとハッキリと返事ができて。
お姉ちゃんたちと一緒に立派な天馬騎士になって、部隊を率いるようになって。
ニノとも変わらない友情をずっと続いて。
ああ、なんて素敵な夢なんだろう。
男の人が苦手のはずなのに、克服してヘクトル様とも真正面から話せる。
まだ未熟なのに、お姉ちゃんたちと肩を並べて戦えるようになってる
チョコレートのように甘い夢。
甘くて、甘くて、虫歯になってしまいそうなほどの楽しい夢。

183 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:46:30 ID:zr1o2sfU0






―――――――そんな夢が、不意に中断させられた――――――






胸に熱いものを感じて、私は飛び起きた。
夢から覚めたばかりで頭はボーッとしていて、辺りを見回してもここがどこなのか分からなかった。
でも、ようやく気がつく。

ああ、これは夢の続きなんだ――。

ものすごく大きなブリキの巨体がこの世に存在するはずないし、エドガーさんの背中に揺られていたのにエドガーさんもいない。
極めつけは、『もう一人』私がいることだ。
私は私、フロリーナが二人もこの世に存在するはずがない。
だから、これは怖い夢なのだと思った。
もう一人の私が紅いナイフを持っているのも、さっきから眠くてしょうがないのも、夢の続きだから。
そう、目を閉じればヘクトル様やリンがこっちにおいでと手招きしている。

(ああ、あそこにいかなくちゃ……)

私は再び意識を深くに沈める。
楽しい夢をまた見るために。
そして私は永遠の夢路へと旅立った。

永遠に……。

永遠に…………。

永遠に………………。




果たして彼女の何がいけなかったのだろうか?
決断の遅さが招いた事態なのか、それともエドガーたちを裏切ることを一瞬でも考えた罰なのか?
答えは分からない。
だが、彼女はこの上もなく幸せな死に方をしたと言える。
痛みをほとんど感じることもなく、苦しみを味わうこともなく、幸せな夢を見ながら死んだのだから。
そう、覚めることのない、永遠の旅へと――



◆     ◆     ◆



エドガーが最下層から戻ってきて、再び物質転送装置の修復をしていた頃だった。
階段を昇る音が一つ、エドガーの鼓膜を振るわせ感知する。
もとより、下の階にいる人間などフロリーナただ一人。
ようやく起きたかと、機械弄りを中断して服装を整えて、紳士らしい笑みで出迎えた。

184 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:47:07 ID:zr1o2sfU0
「やぁフロリーナ、目覚めはどうかな?」
「はい、大丈夫です」

寝ぼけた様子もなく、フロリーナはエドガーの問いにハッキリと答える。

「それよりも、大事な話があるんです」
「何かな? 私に話せることでよければ、何でも話して欲しい」
「じゃあそっちに行きますね」

昇って来た階段付近に留まっていたフロリーナが、無言でエドガーの傍に寄ってくる。
大事な話だから、傍で話をしたいということか。
そう思い、エドガーもフロリーナが近くに来るのを待っていた。
見れば、フロリーナの手には一本のナイフがある。
デーモンスピア、ダッシューズに続く、フロリーナの最後の支給品だとエドガーは推測していた。
眠りから覚めてみれば、傍に誰もいない状況では不安になって、支給されたナイフを護身用に持ったまま探索をしていた、というのは有り得ない可能性ではないからだ。そして、フロリーナがあと一歩踏み込めばエドガーに触れる距離まできたところで――

フロリーナが突如、右手に持っていたナイフで襲い掛かる!

しかし、エドガーもまた易々と死んだりはしない。
フロリーナの隠していた真意に元から気づいていたからだ。
大事な話をしたいからというのも、如何にも殺すために近づきたいという意図に見えたので、初めからエドガーは身構えていただけだ。
刹那の交差の瞬間、エドガーはナイフを持っていたフロリーナの手首を掴み取り事なきを得る。

「痛ッ! 離して!」
「そういう訳にはいかないな。 少なくともこれを離してもらうまでは」

エドガーがフロリーナの手首を強引に締め付け、フロリーナは痛みに震える声を漏らしながらナイフを手から離す。
金属音を立てて、ナイフが地面に落ちる。
徒手空拳でなら、フロリーナがエドガーに勝てる勝算はもうない。

思えば、フロリーナの行動は最初からおかしかった。
いきなり近づいて話をしようというのも、口調も、何もかもがおかしいのだ。
フィガロ城で、エドガーがフロリーナとお互いの知人などの情報を教え合おうとした際にも、多大な労力が強いられたのだ。
さらに、男が苦手なフロリーナのはずのフロリーナが、自分から近づきたいのというのもおかしな話。
口調ですら、一つの単語を喋るのにも時間がかかっていたフロリーナとは思えないほど、ハキハキとした口調だった。
エドガーでなくても、警戒するというものだろう。

「私は君の考えていることに気がついていた。 君自身は自分のことをどう思っているか知らないが、君は隠し事が極端に苦手なようでね」

つまり、来るべき時が来たのだと、エドガーは覚悟する。
フロリーナの中の天使と悪魔の戦いは、悪魔が勝利したのだと。
だが、恐れることはない。
フロリーナの心の中の葛藤はエドガーも出会ったときから知っていたし、今のエドガーには使命に燃える強い心がある。
そう、フロリーナのような人を殺すことを選んだ少女を正しく導くのも、エドガーのなすべき役割の一つなのだ。
いつまでも問題を先送りにしているより、今ここでフロリーナの葛藤をスッパリと清算させ、正しき道へと戻す方がいい。
つまり、エドガーにとって、ある意味この状況は好都合。

「安心してくれたまえ。 君の捜しているリンもヘクトルの名前もまだ呼ばれていない。 君はまだ大丈夫、戻れるんだ。 
 私がここでのことを口外しなければ、君はいつだって戻れるし、もちろん私も決して誰かに密告したりしないと、エドガー・ロニ・フィガロの名にかけて約束する」
 
そう、誰も殺していないし誰も傷つけてない。
感情に流され一時の過ちを犯しただけだと、諭すような口調でフロリーナに語りかける。
しかし、それは無駄な説得に過ぎない。
目の前にいる少女はそもそもフロリーナではないのだから。

185 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:47:40 ID:zr1o2sfU0

「離して!」

エドガーの力が緩んだ一瞬の隙をついて、フロリーナはエドガーの手を振り解き、逃げ出す。
昇ってきた階段を降り、再び最下層に行く。

(だが、逃げ場はないぞフロリーナ。 君は私と真正面から思いの丈をぶつけるしかないんだ!)

上に逃げたのならともかく、下に逃げては逃げ場がない。
一瞬で仕留める計画だったが、意外にも阻止されて狼狽するままとりあえず近くにあった階段を降りたか、エドガーはそう結論付ける。
移動スピードを高めるダッシューズも、逃げ場がないのではそもそも意味がない。
さぁ、うまくやれよエドガー。
皆を導くための、最初の一歩だ。
彼女を説得して、本当の意味での味方にする。
フロリーナから遅れること数秒、エドガーも最下層への階段を10回降りて、ついに追い詰める。
追い詰めたはずだ……そのはずだった。

しかし、目にしたのは――




胸から大量の出血をして、息絶えたフロリーナの姿。




「何だと……馬鹿な!?」

おかしい、なにもかもがおかしすぎる。
さすがのエドガーでさえも、混乱し、狼狽せざるを得ない。
何故自分自身を殺そうとした女が、少し目を離した隙間に死んでいるのか。
まさかエドガーを殺すべく行動を開始したのはいいが、いざやってみたら罪の意識に耐えかねて自殺したか?
その他にも様々な可能性を考えるが答えは出ない。

実際はフロリーナの死体にはおかしな点が多々ある。
自殺したのなら凶器を握り締めていないといけないのに持ってないこと。
フロリーナの手にはデーモンスピアもナイフも手元にない。
エドガーから逃げて自殺を測ったにしては、あまりにも死ぬのが早い。
出血の量が数秒前に胸を刺したにしてはあまりにも多すぎる。
最後にフロリーナが階段を降りていたとき、彼女の足には移動を速くするダッシューズではなく、ヘイストのかかるミラクルシューズを履いていたこと。
しかし、エドガーもこのまま混乱したままではいない。
いずれエドガーはフロリーナの死体にある不審な点を検証して、外部犯の可能性を見出すかもしれない。
エドガー・ロニ・フィガロとはそこまで優秀な男だから。
実際、彼が狼狽していたのもほんの一秒ほどだけ。
フロリーナが死んだ事実は悲しいものの、彼は国王たる責務を思い出し、すぐに立ち直っただろう。

だが……。

だが、しかしだ……。

186 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:48:14 ID:zr1o2sfU0





その一秒は……かくれみのを使っていた『暗殺者』にとって十分すぎる時間だった。





エドガーの背中から、暗殺者はそっと、音もなく心臓に刃を突き立てる。
一瞬の後、エドガーに思わず声を漏らしてしまうほどの激痛が走る。

「うぉ!?」

突如背中に襲い掛かった暗殺者の追撃を許さなかったのは、さすがエドガーといったところか。
前のめりに倒れそうになるが、気力で脚を動かし何者かからの攻撃範囲から離れる。

「何だ……一体何が!?」

激痛に顔を歪めながら振り返ったエドガーの前にいたのは、闇のような黒衣に身を包んだ赤い髪の少年……いや、青年か。
この青年は音も立てず、気配も感じさせることなくエドガーの背中を取った……。
これと似た雰囲気を持つ男とさっき会ったばかりのエドガーの心が、激しく警鐘を鳴らす。
目の前の男は、間違いなくシャドウと同じ暗殺者。
実力も、シャドウに勝るとも劣らないプロの中のプロだろう。
だからこそ、ヤバイ……。
シャドウがエドガーの前に姿を現したのは、エドガーとシャドウが知り合いだから。
では、何故エドガーの目の前に現れた新たな暗殺者は必殺の一撃を加えた後にも姿を消さず、姿を見せているか。

暗殺者がターゲットの目の前に姿を現すのはどんな時か?
ターゲットを殺すためか?
否、それは二流三流の暗殺者がやることだ。
ならば、一流の――真の暗殺者がターゲットに姿を見せるのはどんな時か?

(俺は……皆を導くと決めたんだ!)

致命傷を負わされながらも、意味不明の事態が連続して起こっても、アルマーズを構えるエドガーの判断力の高さは賞賛されてしかるべきだ。
心臓を深く貫かれても、己が使命を忘れない辺りはさすが国王といえよう。

187 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:48:54 ID:zr1o2sfU0

「うっ……おおおおおぉぉぉぉぉ!」

最後まで諦めず、アルマーズを持って暗殺者にエドガーは向かう。
だが、それは悲しいまでに無意味は抵抗だった。
話を元に戻そう。
一流の暗殺者がターゲットの前に姿を現すときとはどんな時か?
それはつまり、もう姿を隠す必要がないから。
暗殺者が仕事を終えたことを意味する。





―――――つまり、エドガーの命はもう―――――





僅かばかりの時が経って、壽商会のドアを開けて二人の男女――いや、今は男の二人組が出てきた。
暗殺組織『黒い牙』における最高の暗殺者に贈られる称号『四牙』の異名を持つ死神、ジャファル。
そして、死ぬ直前にフィガロ国王エドガー・ロニ・フィガロの姿を借りたシンシア。

エドガーにはいくつか誤算があった。
それはつまり、壽商会には自分とエドガー以外誰もいない、というもの。
実際は、エドガーがこの壽商会を訪れたとき、すでに先客がいたのだ。
だが、先客は身を隠すことのできる支給品『かくれみの』を使って、本来は一人用のこの隠密道具で器用に二人分の姿を隠し、エドガーの認識をやりすごしたのだ。
だが、エドガーもさるもの。
ジャファルとシンシアが身を隠してからも、一向に襲撃できる隙は見せなかった。
壽商会の探索をしていたときも、機械弄りをしているときも、いつ如何なるときも。
国王という立場上、暗殺の危険を知っているエドガーだからこその芸当だった。
また、フロリーナの安全を確保するため、常に注意を張り巡らせていたのもある。
だが、シャドウの殺気を察知できたのはエドガーの感覚の鋭さもさることながら、シャドウが知り合いだったというのがある。
エドガーの知らないプロ中のプロの暗殺者が隠密道具を使ったとき、さしものエドガーでもその気配を捉えるのは不可能だった。
以上のような理由から、ジャファルとシンシアはまずフロリーナを殺害し、フロリーナに化けたシンシアがエドガーを不意打ち。
失敗した場合は、逃げ出してフロリーナの死体を見せ付けて驚愕させ、その瞬間にジャファルが仕留めたのだ。

歩く二人の距離は依然として一定の距離が保たれたまま。
言葉だって交わすこともなく、無言のままに歩き続ける。
新たな戦利品、アルマーズはジャファルのデイパックの中に入り、デーモンスピア及び昭和ヒヨコッコ砲はエドガーになりすましたシンシアのデイパックに。
神将器アルマーズの威力の強大さを知っているジャファルは、これがレプリカでないことを確信すると、デーモンスピアとヒヨコッコ砲を譲る代わりにアルマーズをもらった。
使うアテはない。
ただ、これが誰かの手に渡るのだけは阻止しておきたいから。
フロリーナをシンシアが殺す瞬間を目の当たりにしても、ジャファルは眉ひとつ動かさずに見ていた。
ニノは悲しむだろうが、しょうがない。
男は黙々と、歩き続ける。
次なるターゲットを見つけるため。

188 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:49:29 ID:zr1o2sfU0

暗殺者にとって、ターゲットの氏素性は関係ない。
名のある剣士なら、剣を抜かせなければいい。
魔道士なら、魔法を唱える前にころせばいい。
国王だろうが、マシーナリーだろうが、やることは変わりない。









それが――暗殺。
相手の本領を発揮させることなく、仕留める者。








物質転送装置は完全に修復されることはなく。
古より伝わるブリキの巨人もまた目覚めることなく、新たな主を待つ。









【エドガー・ロニ・フィガロ@ファイナルファンタジー6  死亡】
【フロリーナ@ファイアーエムブレム 烈火の剣 死亡】

189 ◆SERENA/7ps:2009/05/30(土) 16:50:01 ID:zr1o2sfU0
【A-6 村 壽商会入口  一日目 朝】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@FFVI
[道具]:不明支給品1〜3(内一つはフロリーナの支給品で、武器ではない)アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
2:いずれシンシアも殺す。
3:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A時点から参戦


【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:モシャスにより外見と身体能力がエドガーと同じ
    肩口に浅い切り傷。
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
2:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す
3:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
4:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
[備考]:
※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。


※次にジャファルとシンシアがどこに行くかは、後続の書き手氏に任せます
※A-6村に壽商会@LIVEALIVEがあり、ブリキ大王と物質転送装置があります。
 物質転送装置の不具合はエドガーによって多少改善されましたが、それでも使用にはまだ不安が残ります。
※A-6村の壽商会、フロリーナの死体にはダッシュ―ズが履いたまま残っています。

190最後の最後で規制:2009/05/30(土) 17:19:09 ID:HElRdMpg0
代理投下終了
題名は 

暗殺者のおしごと-The style of assassin

とのこと

191 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:04:39 ID:15LnrOUE0
え〜っと、遅くなりましたが修正完了しました。
これはもうwikiに収録すべきか、それとも仮投下すべきかどっちがいいでしょうか?

今夜も忙しいため、17:30までに返事いただければwikiに自分で収録し、
時間までにお返事いただけない、もしくは仮投下して判断してもらってからの方がいいのであれば仮投下します


短くしたかったのに31.9kbでたぶんまた分割……orz

192 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:45:49 ID:15LnrOUE0
よく考えたらもう16時だった……
あと一時間半のうちに返事貰おうとかふざけたこと考えずにおとなしく仮投下します

193 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:49:37 ID:15LnrOUE0
タイトル  暗殺者のおしごと-The style of assassin


悲しみも、不安も、恐怖も、辛さも……今はすべて忘れていよう。

何もかも、真っ白にして。

揺れるこの心も、これから先、私が選ばなければならない道も、いまだけは桃源郷の彼方。

そう、ここに嫌な物は何一つない。

苦手の男の人も、怖い魔王も、襲ってくる誰かも、ヒヨコも……。

あるのは何もかも忘れて、身を委ねたくなるような温かいものばかり。

うん、分かってるの。

それが私の我が儘だって。

リンとヘクトル様をお助けしないといけないのは分かってる。

でも、今はとても疲れていて。

ここに来てから誰かに心を許したこともなくて、ずっと緊張の糸を張り詰めていたから。

その緊張の糸が一気に切れたとき、どうしようもなく眠くなった。

痛みと疲れで、抗いがたい欲求が込み上げてきた。

だから、今だけはエドガーさんの背中を借りて眠った。

ずっと迷っている考え事を先送りにしてたけど……。

起きた後でそのことについてまた考えればいい。

性急な決断をしてもいいことは何もないから。

それに、罪もない誰かを殺すのはやっぱり気が引けるから……。

だから今はもっと深く、深く意識を沈める。

今だけはこの淡い温もりに浸っていよう。

そして、チョコレートのように甘い夢を見るの。

リンもヘクトル様も、ニノもいる素敵な夢を―――。



◆     ◆     ◆

194 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:53:48 ID:15LnrOUE0



美しい女性だと、私――エドガーは一目見たその時から思った。
エメラルドグリーンの色を持つ、絹糸のような繊細な髪の毛も。
彼女の持つ、神秘的な雰囲気と佇まいも。
憂いを帯びたその表情でさえも、彼女の美しさを一層引き立てる要素に思えた。
幾多の女性を口説いてきた私でも、一瞬口説くことを忘れ思わずため息を漏らしてしまうほど。
それほどまでに、ティナ・ブランフォードは美しい女性だった。

でも、同時に幸の薄い女性だとも思った。
ガストラ帝国によって思考を奪われ、物言わぬ人形へと変えられ、したくもない人殺しをさせられたのだから。
記憶を失って、自分が何者であるかも分からない内から、失われた魔法を使えるという理由で特別視され、帝国への反抗組織「リターナー」へと協力を依頼された。
もちろんそこに、帝国と同盟しておきながら「リターナー」に協力していた私自身の計算や狙いもあったのだが。
そこから、目まぐるしく彼女の周囲を取り巻く状況は動き続け、ケフカを始めとする数々の敵と戦い続け、ようやく平和と幸せを手に入れたはずだ……はずだったんだ。
戦いの中で、幻獣と人間のハーフだったということが判明したティナ。
故に、と言うべきかは今となっては分かりようもないが、彼女は愛や恋といった感情を上手く認識できずにいた。
そういう概念がないのではない。
上手く認識できなかっただけなんだ。
だから、いつもそのことに苦しんでいた。
自分が他の人とどこか違うと、彼女は真剣に悩んでいた。

世界が崩壊した後、小さな村で暮らす内にようやく愛情などの自分に欠けていた感情の正体を知り、人としての幸せを得られるはずだったんだ。
でも、ティナに待っていたのは幸せな日々ではなく、未知の島での無念の死。
ああ……まったくもってやるせないな。
彼女に死なないといけないほどの、一体どんな罪があったというのか、誰か教えてくれるのなら教えてほしいものだ。
それに、許せないじゃないか。
ティナを殺した誰かも、こんなことをさせるオディオも、そして、仲間の死に駆け付けることもできなかった私の無能さも。

だから、俺は皆を纏め上げる『王』を探し求める。
『王』なんて大仰な肩書でなくともいい。
『リーダー』でも、『まとめ役』でもいいのだ。
とにかく初対面に等しい人間の間に生じる衝突や軋轢といったものを緩和し、オディオを倒すという目的に正しく導ける役目を持った逸材。
右も左も、どうすればいいかも分からないこの絶望の状況の中から、一筋の輝く希望を見出せる存在。
そういった『王』を見つけ出すのがここでの俺の役目。

それに、それ以外にもやらないといけないことは多い。
例えば、ケフカへの対策。
ティナが死んだことにより、対ケフカへの重要な戦力が一つ失われてしまった。
幻獣と人間のハーフであるティナは、幻獣の力を解放する「トランス」を使えば、絶大な力を発揮できる。
無論、ティナ一人がトランスしたくらいであのケフカを倒せる訳ではないが……。
ティナやシャドウに私、セッツァー、そして弟であるマッシュや他の多くの仲間の力を合わせた上で、それでもギリギリの勝利だったのだ。
対ケフカにおいて、ティナは重要な戦力として計算していたが、大幅に修正を余儀なくされてしまった。

……戦友が死んだ割にやけにドライじゃないかって? 
ああ、確かに人からは切り替えが早すぎだと思われるかもしれない。
でも、私は――エドガー・レネ・フィガロは国王であり、皆を導くと心に決めたのだから。
敵と対峙した時、睨みつけるだけでは敵は倒せないだろう?
それと同じで、誰かが死んだ時に悲しんでいるだけでは、オディオもケフカも倒せたりはしないのだ。
それに、ご心配なく……。
外見は平気なように見せかけているだけで、私自身内心では嵐のような感情がうねり狂っているのだから。
シャドウのこともあったし、平静なように見えて私自身も色々と思うところがある。
かつての私の仲間が、盤石の意思で統一されているということはない。
シャドウとは少しだけ心を通わせることができたが、それでもシャドウと私の目的が今のところ相反するものであることに否定の余地はない。
ケフカへの対策のこと、ここに集められた人間全員にはめられたこの窮屈で忌々しい首輪を外す方法の模索、
魔王オディオ打倒のこと、もっと多くの仲間を集めること、シャドウをはじめとする目的を異にする者への対処。
やらなければならないことは山積みだ。

195 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:55:13 ID:15LnrOUE0
でも、今は休憩の時間だ。
フロリーナが寝ているからな。
死者の発表の時間になっても、寝ていたままだった。
緊張の糸が一気に切れたのか、泥のように眠っている。
私も眠ってくれていた方が好都合なので、起こすこともしなかった。
開始から六時間経って、そろそろ睡眠が必要になってくる時間帯でもあったし、シャドウとの戦いの影響もあるだろう。
男性が苦手なようだから、もう一度私の目の前で眠ってくれ(安全のためであって、他意はない)と頼んだところで、素直に聞いてくれる確率も低い。
ここは起こすことなく熟睡してもらおう。
どうせこれから過酷な戦いがいくつも続くはずだ……フロリーナの戦いの相手が誰なのかは置いといて。
人間は睡眠しないと生きていけない動物だ。
いつか寝ないといけないのなら、今寝てもらった方がいい。

それに……あの気持ちよさそうな寝顔を起こすのは紳士として躊躇われた。
今フロリーナは私がいるこの部屋とは違う、下の階にある一室に横たえて眠ってもらっている。
ああ、あれは若さとあどけなさと幼さと美しさとかわいさが同居したいい寝顔だった。
よほどいい夢でも見ているのだろうか?
少しくらい、この顔を私の前でもしてくれたらいいのになと思う。
警戒されるような、怪しいことは何もしていないはずなのだがね。
ヘクトルという男の前でなら、こういう顔をしているのだろうか?
まぁヘクトルという男に会えば、その辺りのことも分かるだろう。

私は睡眠は後回しでいい。
元々、国王という激務についていたからな。
普通の人の半分以下の睡眠でも問題なく活動できるつもりだ。
だから、この村に着いてフロリーナを安全な場所に寝かせた後は、ある程度の探索はしておいた。
地図を見た時から分かっていたことだが、この村はかなり広大なようで潜伏する場所には事欠かない。
とは言っても、無数にある建物の中から無為無策で休憩、及び潜伏用の拠点を選んだりはしない。
様々な立地条件、もしもの時に撤退しやすい構造かどうか等を吟味させてもらった結果、この建物にお邪魔させてもらったわけだ。
そして、選んだのは村の中にある一番大きな家、壽商会(ことぶきしょうかい、と読む)。
長い時間をかけて拠点に選んだだけあって、ここは誰かが襲ってきても迎え討つことも、すぐに逃げ出せることもできるような立地条件になっている。
その一室で機械弄りをさせてもらっている。
商会という名ではあるが、ここで何か売っていたような形跡は見受けられない。
どちらかというと、研究所とかそういった名称の方が適切なように思える。
ドリルもノコギリも、およそ工学的な道具類を全くもってなかった私が機械弄りをできている理由は、この壽商会に様々な工具類が置いてあったからだ。

そこにあった見たこともない技術系統に、マシンナリーとしての血がざわめいてしまった。
昭和ヒヨコッコ砲をみたときと同じ気持ちが湧き起こってきたのだ。
フロリーナが寝ていたこともあったし、私はここに置いてあったものを渡りに船とばかりに解体しては再度組み立てたりして、好奇心を満たしていった。
正直、最初にこの建物に入った時はこの家の持ち主のセンスを疑ったりしたものだ。
茶色い壁に、意味不明のオブジェクトが所狭しと並んでいたのだから。
変なお面があったり、いかがわしい模様の壺がいくつもあったり、ピンクのゾウがあったり、そんな訳の分からない物がいっぱいある中に木琴という常識的な楽器が一個だけ置いてあったり……。
およそ私の備えているセンスとか常識とかいったものでは、理解しがたい構成がされていた。
しかし、この私でさえ未知の部分といえる領域に踏み込んでいる技術だけは感心できる。
願わくば、この建物の主と酒を呑みながら、お互いの持つ機械の知識を大いに語り明かしたいものだ。
無論、その相手が美しい女性であるなら言うことはない。
相手が犯罪になる年齢でなければ、基本的に私はノーボーダー。
年齢で好きになる人の対象の範囲を狭めるのは愚かだと言うものだ。

196 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:56:42 ID:15LnrOUE0

「ふぅ……」

カチャカチャと音を立てていた行為をやめ、夢中になっていた機械弄りを中断し一時休憩に入る。
現在のところ、私の好奇心を最も刺激しているのは「物質転送装置」なるものだ。
読んで字の如く、何かを遠い場所に転送できる装置のようだ。
しかもこの機械、おそらく人間でさえも転送できる設計がなされている。
マシンナリーとしての私の勘がそう告げている。
この機械でさえも夢中で解体していたところ、設計の随所にそういう意図が見受けられたからだ。
勘というのは当てずっぽうなどではなく、豊富な経験に裏打ちされた重要な能力の一つだ。
それを勘で悟った時、今度は私の好奇心と同時に使命感が膨れ上がってきた。
人間でさえも転送の対象に入るのなら、必ずやこれは我々の便利な移動手段になる。
森や山を越えるのは大幅に体力を消耗するからだ。
しかし、残念ながら解体していたこの機械の配線の構造などを見ていた時、少し設計に齟齬というか、不備を見つけてしまった。
便利な装置を見つけ無警戒に使用しようとした人間をはめるオディオの罠なのか、設計者の単なるミスなのかはよく分からない。
おそらく、このまま使用していれば、装置が壊れたり爆発してもおかしくなかったんじゃないかと思う。
私が一番に見つけたのは僥倖というものだろう。
しかも、ミスしていた部分は私の知識でもカバーできるものであった。
これ幸いとばかりに、私はそのミスの部分を直していたのだ。

「さて、少し休憩するとしようかな」

神経をとがらせて作業していたため、少し疲れが残る。
大体工程の半分くらいは消化できたと思う。
特に作業に詰まったところもないが、機械弄りというのは精密な作業な要求されるから、見た目以上に疲れる。
背筋を伸ばして、伸びをする。
凝った肩や腰を揉み解しながら、もっと下の階層に階段を使って降りていく。
同じような間取りの部屋を10回、カツカツと靴の音を立てながら降りた。
降りても降りても同じような空間が続いてたから、最初にこの階段を利用していたときは自分が同じ場所を延々ループさせられているような錯覚に陥った。
だが、数えながら階段を降りること10回目、私は無事ループさせられたのではなく、ちゃんと迷うことなく最下層にたどり着いた。

この壽商会を逗留場所に選んだのには、二つほど理由がある。
一つ目は言うまでもなく安全及び防衛上の問題。
二つ目ははさっきも言ったように私の好奇心を満たすため。
階段を降りても降りても同じような空間が続けば、同じ場所を延々と迷ってるような感覚に陥るのは分かるだろう。
そこで、人によっては何者かによる罠などの可能性も考え、階段を最下層まで降りきることなく、引き返す可能性もあるからだ。
また、誰かが襲ってきても、上の方の階層にいる私が敵を食い止めることができる。

197 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:57:14 ID:15LnrOUE0

フロリーナは最下層に横たえて寝かせてある。
睡眠という、生物に欠かせない欲求を満たす上で問題になるのが、寝込みを狙った襲撃。
ここはそんな安眠を貪る上で、ベストとは言えないがかなりの好条件だ。
最下層にたどり着きフロリーナの寝顔を盗み見ると、そこには先ほどと変わらない、安心しきった寝顔を浮かべていた。
多少寝心地は悪いだろうが、それは安全の確保という名目上、我慢して欲しい。

そしてもう一つ、最下層の主とも言うべき物体と対面する。
それは私とフロリーナがここに来たときから、ずっと鎮座していた。
一言で形容するならば、「ブリキを材質に使った超巨大な魔導アーマー」か。
名前はブリキ大王というらしい。
大王……王である私よりも偉い存在なのか……などという他愛もない思考が過ぎる。
何故材質がブリキなのかはよく分からない。
確かに腐食しにくいという特性はあるが、それならミスリルなどを使ったほうがよさそうなものだが……。
ブリキ自体に何らかの儀式によって、効果や属性が付与されているのかもしれない。
それよりも、これを超巨大な魔導アーマーと呼称したのはちゃんと訳がある。
明らかに、これは戦闘を目的とした設計が成されているのだ……しかも、「肉弾戦」を主眼とした設計方法が。
もちろん、ミサイルやレーザーなどを射出するための機構らしきものはあるにはあるが、それはこの機械のメインウエポンではない。
頑丈に作られている巨大な腕と脚部は、明らかに物を掴むため巨体を支えるためというよりは、敵の破壊を目的にされている。
仮に魔導アーマーとこのブリキ大王が戦ったとき、それはもはや勝負とはいえない一方的な惨殺になるであろう。
勝者がどちらかは言うまでもない。
ガストラ帝国の物でもない、ましてや我がフィガロの物でもない。
そんな巨大な戦闘兵器がこの壽商会で沈黙して、訪れる客を待ち構えていた。
初めて見たとき、私は思わず圧倒されたものだ。
この兵器が襲ってくる可能性も懸念したが、頭部にあるコクピットらしき場所に誰かが乗り込まないと操縦できないようだ。

頭部に乗る方法はご丁寧にここの一階に貼り紙がしてあった。
ちなみに貼り紙に書いてあったのはこうだ。
『ブリキ大王に乗る方法
 まず ピンクのゾウをさわり 
 本を読む。
 そして もっきんをたたき
 青いマスクをさわったら
 地下のブリキ大王を よ〜く
 おがむ(手を二回叩いてな〜む〜、と言う)
 しかる後、
 ちゃんと手をあらってから
 トイレにしゃがむのじゃ』
……一応、ゾウも本も木琴もマスクもトイレもあるにはあったが、何故ここまで面倒な方法なのかは理解に苦しむ。
有事の際に、ここまで複雑な手順を取る余裕があるのだろうか?
そうは言っても、実のところこの手順を忠実に試したわけではないが。
仮に、これで本当にブリキ大王が起動したとしても、操作法を誤って同じく最下層にいるフロリーナを踏み潰したりしては笑い話にもならないからだ。
それに、あの巨体が地下深くからどうやって地上に出るのかという疑問も尽きないが、ここは海岸近くにある建物。
ブリキ大王が出撃するための出口が海に通じていて、そこから出てきたりする、というのは都合がよすぎる考えだろうか?
それも含めて、試すのはフロリーナが起きてからになるだろう。

198 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:57:46 ID:15LnrOUE0
図らずも、使いこなせば強力な兵器と便利な装置が見つけられた私だが、未だに光明は見えない。
魔王オディオに対抗する足がかりも、首輪を外す目処もまだ立ってない。
ここにある設備なら多少は首輪の解析もできるかもしれないが、如何せんサンプルとなる首輪がない。
私自身やフロリーナの首輪を、首に嵌めたまま解析するのは言語道断だからだ。
さっきも確認したが、やることは本当に山積みだ。
だが、今の私はへこたれない。
やるべきことをキチンと思い出せたからな。
腑抜けていた時ならともかく、今の私には使命感がある。
それに戦友に――シャドウに誓ったからな。
我が弟であるマッシュも、その場にいたら腑抜けている私は私なんかじゃないと言っていただろう。
未だ眠りから覚めない眠り姫の寝顔を最後に拝んでから、決意を胸に秘めて私は階段昇っていった。



◆     ◆     ◆



私の名前はフロリーナ。
イリア天馬騎士団の見習いで、今はキアラン侯爵家に仕えている。
傭兵稼業が盛んなイリアの天馬騎士団に入団するためには、ある一つの条件がある。
それは、「一定期間、他国の騎士団、または傭兵団に仕えた経験があること」
外で得た知識と経験は、必ずその人の血と肉になって役立つかららしい。
イリアにいるだけでは決して得られないものが手に入る。
だから、私もそれに習ってキアランの騎士隊に入隊した。
男の人が極端に苦手な私にとって、他所の騎士団はイリアと違って男の人ばかりで窮屈だったけど、
そこは親友のリン――今は主従の関係だからリンディス様と呼ばないといけないけど――がいる場所だから頑張れた。
男の人が嫌いなわけじゃないの、でも……どうしてか男の人が目の前にいると緊張して声がどもってしまって……直さないといけないのは分かってるけど……。

とにかく、リンがいたし、いつか立派な天馬騎士になってお姉ちゃんたちを喜ばせたいから、私はいつも頑張ってこれた。
極寒の地であるイリアは一年中雪が降り続け、作物がまともに実らない。
主な稼ぎ口は他国で傭兵をするとか、そういうのしかない。
だから、イリアの人間は他国では嫌われることもある。
戦争好きだとか、人殺しが趣味だとか、そういう謂れのない嘲笑や侮蔑の対象にもなる。
昔は、そう言われるのが私もいやだった。
だって、そうでしょう?
人殺しとか言われてうれしい人間なんていないから。
昔は、じゃあ皆で他の国に移り住めば傭兵なんかしなくてもいいって思ってたけど、それは現実的じゃないと、思春期を過ぎてから気がついた。
イリアは豪雪地帯だけど、かなりの人口が住んでいる。
そんな大量の職も持たない人間が安住の地を求めて他国に行くとどうなるか?
それは、つまり『難民』、あるいは『流民』と呼ばれる存在になる。
働く気力と意志があっても、いきなり押し寄せてきた難民全てに衣食住そして労働環境を提供なんかできない。
結果として、已むに已まれぬ事情で犯罪に手を染める人間も増えて元の木阿弥になる。
それに、他国に移住しようとしてもお年寄りや満足に動けない病人など、したくてもできない人がいる。
私が小さな頃に考えていた素晴らしい考えは非現実的だったのだ。

199 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:59:25 ID:15LnrOUE0
とにかく、リンがいたし、いつか立派な天馬騎士になってお姉ちゃんたちを喜ばせたいから、私はいつも頑張ってこれた。
極寒の地であるイリアは一年中雪が降り続け、作物がまともに実らない。
主な稼ぎ口は他国で傭兵をするとか、そういうのしかない。
だから、イリアの人間は他国では嫌われることもある。
戦争好きだとか、人殺しが趣味だとか、そういう謂れのない嘲笑や侮蔑の対象にもなる。
昔は、そう言われるのが私もいやだった。
だって、そうでしょう?
人殺しとか言われてうれしい人間なんていないから。
昔は、じゃあ皆で他の国に移り住めば傭兵なんかしなくてもいいって思ってたけど、それは現実的じゃないと、思春期を過ぎてから気がついた。
イリアは豪雪地帯だけど、かなりの人口が住んでいる。
そんな大量の職も持たない人間が安住の地を求めて他国に行くとどうなるか?
それは、つまり『難民』、あるいは『流民』と呼ばれる存在になる。
働く気力と意志があっても、いきなり押し寄せてきた難民全てに衣食住そして労働環境を提供なんかできない。
結果として、已むに已まれぬ事情で犯罪に手を染める人間も増えて元の木阿弥になる。
それに、他国に移住しようとしてもお年寄りや満足に動けない病人など、したくてもできない人がいる。
私が小さな頃に考えていた素晴らしい考えは非現実的だったのだ。

でも、どれだけ嘲笑や侮蔑を受けても、イリアに積もる雪は決して融けてくれない。
私が将来の夢を考えるようになったのは、非情な現実を受け入れてからだった。
その頃には、二人のお姉ちゃんも見習いを終えて立派な天馬騎士になって、イリアの人にお金や食料を与えていた。
その姿を見て、傭兵という職業でも誰かを幸せにできると気がついて、私もお姉ちゃんたちのような立派な天馬騎士になることを夢見た。
すでに一部隊の隊長を任されるほどになったフィオーラお姉ちゃんや、いつもすごい金額を稼いできてくれるすご腕のファリナお姉ちゃんみたいになりたかった。
天馬騎士の道を志すようになってから、相棒である天馬のヒューイ、親友であるリンと出会って、楽しい時間があっという間に流れた。
そして、穏やかな時間が流れてから少し後に、激動の時間が待っていた。

切っ掛けはリンの部族がリン以外皆殺しにされてからだった。
無口だけど優しかったリンの父親も、どこかの貴族のお姫様みたいに綺麗だったリンの母親も、すべてが殺された。
そこから、リンがリキアの貴族の血筋を引いてることが分かって、キアランという領地に行くことになった。
そこにリンの祖父がいるという話をケントさんやセインさんに聞いたから。
リンのおじいさんと出会って、リンが侯爵の孫娘になってから、私もリンの傍にいたかったし、傭兵の経験を積む上でも一石二鳥だから、そこで働いた。
でも、同盟を組んでいるはずのラウス候の襲撃を受けてからまた状況は大きく変わり、いつの間にかネルガルという世界の平和を脅かす脅威と戦うことになっていた。
戦いの最中で、どこかで傭兵をしているはずのフィオーラお姉ちゃんともファリナお姉ちゃんとも再会して、ヘクトル様にも出会った。

世界が今度こそ平和を取り戻して、平穏な日々が待っているはずだったのに……。

でも、今はそれを考えるのはやめよう。
とても疲れているから。
リンかヘクトル様かどっちかしか生き残れないような過酷な戦いのことは今は忘れよう。
エドガーさんには悪いけど、今はこの想いに浸っていたい。

200 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 16:59:55 ID:15LnrOUE0
リンもヘクトル様も、フィオーラお姉ちゃんもファリナお姉ちゃんもニノもいるこの夢を見ていたい。
そこではリンとヘクトル様が私に笑いかけてくれている。
仲違いしているはずのお姉ちゃんたちが手を取り合っている。
ニノと私が仲良くお話をしている。
リンが公女なんていう堅苦しい身分から開放されて草原で笑っていて。
ヘクトル様が私に好きだと言ってくれて、私も好きだとハッキリと返事ができて。
お姉ちゃんたちと一緒に立派な天馬騎士になって、部隊を率いるようになって。
ニノとも変わらない友情をずっと続いて。
ああ、なんて素敵な夢なんだろう。
男の人が苦手のはずなのに、それが克服できていてヘクトル様とも真正面から話せる。
まだ未熟なのに、お姉ちゃんたちと肩を並べて戦えるようになってる
チョコレートのように甘い夢。
甘くて、甘くて、虫歯になってしまいそうなほどの楽しい夢。






―――――――そんな夢が、不意に中断させられた――――――






胸に熱いものを感じて、私は飛び起きた。
夢から覚めたばかりで頭はボーッとしていて、辺りを見回してもここがどこなのか分からなかった。
でも、ようやく気がつく。

ああ、これは夢の続きなんだ――。

ものすごく大きなブリキの巨体がこの世に存在するはずないし、エドガーさんの背中に揺られていたのにエドガーさんもいない。
極めつけは、『もう一人』私がいることだ。
私は私、フロリーナが二人もこの世に存在するはずがない。
ネルガルは死んだし、モルフがいるはずもない。
だから、これは怖い夢なのだと思った。
もう一人の私が紅いナイフを持っているのも、さっきから体が重くて眠くてしょうがないのも、夢の続きだから。
そう、目を閉じればヘクトル様やリンがこっちにおいでと手招きしている。

201 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:00:46 ID:15LnrOUE0

(ああ、あそこにいかなくちゃ……)

私は再び意識を深くに沈める。
楽しい夢をまた見るために。
そして私は永遠の夢路へと旅立った。

永遠に……。

永遠に…………。

永遠に………………。




果たして彼女の何がいけなかったのだろうか?
決断の遅さが招いた事態なのか、それともエドガーたちを裏切ることを一瞬でも考えた罰なのか?
答えは分からない。
だが、彼女はこの上もなく幸せな死に方をしたと言える。
痛みをほとんど感じることもなく、苦しみを味わうこともなく、幸せな夢を見ながら死んだのだから。
そう、覚めることのない、永遠の旅へと――。



◆     ◆     ◆



エドガーが最下層から戻ってきて、再び物質転送装置の修復をしていた頃だった。
階段を昇る音が一つ、エドガーの鼓膜を振るわせ感知する。
もとより、下の階にいる人間などフロリーナただ一人。
ようやく起きたかと、機械弄りを中断して服装を整えて、紳士らしい笑みで出迎えた。

「やぁフロリーナ、目覚めはどうかな?」
「はい、大丈夫です」

寝ぼけた様子もなく、フロリーナはエドガーの問いにハッキリと答える。

202 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:01:18 ID:15LnrOUE0

「それよりも、大事な話があるんです」
「何かな? 私に話せることでよければ、何でも話して欲しい」
「じゃあそっちに行きますね」

昇って来た階段付近に留まっていたフロリーナが、無言でエドガーの傍に寄ってくる。
大事な話だから、傍で話をしたいということか。
そう思い、エドガーもフロリーナが近くに来るのを待っていた。
見れば、フロリーナの手には一本のナイフがある。
デーモンスピア、ダッシューズに続く、フロリーナの最後の支給品だとエドガーは推測していた。
眠りから覚めてみれば、傍に誰もいない状況では不安になって、支給されたナイフを護身用に持ったまま探索をしていた、というのは有り得ない可能性ではないからだ。
そして、フロリーナがあと一歩踏み込めばエドガーに触れる距離まできたところで――

フロリーナが突如、右手に持っていたナイフで襲い掛かる!

しかし、エドガーもまた易々と死んだりはしない。
フロリーナの隠していた真意に最初から気づいていたからだ。
大事な話をしたいからというのも、如何にも殺すために近づきたいという意図に見えたので、初めからエドガーは身構えていただけだ。
刹那の交差の瞬間、エドガーはナイフを持っていたフロリーナの手首を掴み取り事なきを得る。

「痛ッ! 離して!」
「そういう訳にはいかないな。 少なくともこれを離してもらうまでは」

エドガーがフロリーナの手首を強引に締め付け、フロリーナは痛みに震える声を漏らしながらナイフを手から離す。
金属音を立てて、ナイフが地面に落ちた。
徒手空拳でなら、フロリーナがエドガーに勝てる勝算はもうない。

思えば、フロリーナの行動は最初からおかしかった。
いきなり近づいて話をしようというのも、口調も、何もかもがおかしいのだ。
フィガロ城で、エドガーがフロリーナとお互いの知人などの情報を教え合おうとした際にも、多大な労力が強いられた。
さらに、男が苦手なはずのフロリーナが、自分から男にわざわざ近づきたいのというのもおかしな話。
口調ですら、一つの単語を喋るのにも時間がかかっていたフロリーナとは思えないほど、ハキハキとした口調だった。
エドガーでなくても、警戒するというものだろう。

「私は君の考えていることに気がついていた。 君自身は自分のことをどう思っているか知らないが、君は隠し事が極端に苦手なようでね」

つまり、来るべき時が来たのだと、エドガーは覚悟する。
フロリーナの中の天使と悪魔の戦いは、悪魔が勝利したのだと。
だが、恐れることはない。
フロリーナの心の中の葛藤はエドガーも出会ったときから知っていたし、今のエドガーには使命に燃える強い心がある。
そう、フロリーナのような人を殺すことを選んだ少女を正しく導くのも、エドガーのなすべき役割の一つなのだ。
いつまでも問題を先送りにしているより、今ここでフロリーナの葛藤をスッパリと清算させ、正しき道へと戻す方がいい。
つまり、エドガーにとって、ある意味この状況は好都合。

「安心してくれたまえ。 君の捜しているリンもヘクトルの名前もまだ呼ばれていない。 君はまだ大丈夫、戻れるんだ。 
 私がここでのことを口外しなければ、君はいつだって戻れるし、もちろん私も決して誰かに密告したりしないと、エドガー・ロニ・フィガロの名にかけて約束する」

203 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:01:55 ID:15LnrOUE0
そう、誰も殺していないし誰も傷つけてない。
感情に流され一時の過ちを犯しただけだと、諭すような口調でフロリーナに語りかける。
しかし、それは無駄な説得に過ぎない。
目の前にいる少女はそもそもフロリーナではないのだから。

「離して!」

エドガーの力が緩んだ一瞬の隙をついて、フロリーナはエドガーの手を振り解き、逃げ出す。
昇ってきた階段を降り、再び最下層に行く。

(だが、逃げ場はないぞフロリーナ。 君は私と真正面から思いの丈をぶつけるしかないんだ!)

上に逃げたのならともかく、下に逃げては逃げ場がない。
一瞬で仕留める計画だったが、意外にも阻止されて狼狽するままとりあえず近くにあった階段を降りたか、エドガーはそう結論付ける。
移動スピードを高めるダッシューズも、逃げ場がないのではそもそも意味がない。
さぁ、うまくやれよエドガー。
皆を導くための、最初の一歩だ。
彼女を説得して、本当の意味での味方にする。
フロリーナから遅れること数秒、エドガーも最下層への階段を10回降りて、ついに追い詰める。
追い詰めたはずだ……そのはずだった。

しかし、目にしたのは――




胸から大量の出血をして、息絶えたフロリーナの姿。




「何だと……馬鹿な!?」

おかしい、何もかもがおかしすぎる。
さすがのエドガーでさえも、混乱し、驚愕せざるを得ない。
何故自分自身を殺そうとした女が、少し目を離した隙間に死んでいるのか。
まさかエドガーを殺すべく行動を開始したのはいいが、いざやってみたら罪の意識に耐えかねて自殺したか?
その他にも様々な可能性を考えるが答えは出ない。

204 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:02:26 ID:15LnrOUE0

実際はフロリーナの死体にはおかしな点が多々ある。
自殺したのなら、血に染まった凶器を握り締めていないといけないのに持ってないこと。
フロリーナの近くに転がっているデーモンスピアには血はついてない。
エドガーから逃げて自殺を測ったにしては、あまりにも死ぬのが早い。
出血の量が数秒前に胸を刺したにしてはあまりにも多すぎる。
最後にフロリーナが階段を降りていたとき、彼女の足には移動を速くするダッシューズではなく、ヘイストのかかるミラクルシューズを履いていたこと。
しかし、エドガーもこのまま混乱したままではいない。
いずれエドガーはフロリーナの死体にある不審な点を検証して、外部犯の可能性を見出すかもしれない。
エドガー・ロニ・フィガロとはそこまで優秀な男だから。
実際、彼が狼狽していたのもほんの一秒ほどだけ。
フロリーナが死んだ事実は悲しいものの、彼は国王たる責務を思い出し、すぐに立ち直っただろう。

だが……。

だが、しかしだ……。





その一秒は……かくれみのを使っていた『暗殺者』にとって十分すぎる時間だった。





エドガーの背中から、暗殺者はそっと、音もなく心臓に刃を突き立てる。
一瞬の後、エドガーに思わず声を漏らしてしまうほどの激痛が走る。

「うぉ!?」

突如背中に襲い掛かった暗殺者の追撃を許さなかったのは、さすがエドガーといったところか。
前のめりに倒れそうになるが、気力で脚を動かし何者かからの攻撃範囲から離れる。

「何だ……一体何が!?」

205 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:03:00 ID:15LnrOUE0

激痛に顔を歪めながら振り返ったエドガーの前にいたのは、闇のような黒衣に身を包んだ赤い髪の少年……いや、青年か。
この青年は音も立てず、気配も感じさせることなくエドガーの背中を取った……。
無言のままに、おそらくはエドガーを心臓を刺して赤く染まった短刀を構えている。
青年の顔面の筋肉は一切動くことなく、そこにはどんな表情も浮かんでいない。
これと似た雰囲気を持つ男とさっき会ったばかりのエドガーの心が、激しく警鐘を鳴らす。
目の前の男は、間違いなくシャドウと同じ暗殺者。
実力も、シャドウに勝るとも劣らないプロの中のプロだろう。
だからこそ、ヤバイ……。
シャドウがエドガーの前に姿を現したのは、エドガーとシャドウが知り合いだから。
では、何故エドガーの目の前に現れた新たな暗殺者は必殺の一撃を加えた後にも姿を消さず、姿を見せているか。

暗殺者がターゲットの目の前に姿を現すのはどんな時か?
ターゲットを殺すためか?
否、それは二流三流の暗殺者がやることだ。
ならば、一流の――真の暗殺者がターゲットに姿を見せるのはどんな時か?

(俺は……皆を導くと決めたんだ!)

致命傷を負わされながらも、意味不明の事態が連続して起こっても、フロリーナの死体の近くに転がってあったデーモンスピアを構えるエドガーの判断力の高さは賞賛されてしかるべきだ。
心臓を深く貫かれても、己が使命を忘れない辺りはさすが国王といえよう。

「うっ……おおおおおぉぉぉぉぉ!」

心臓の動悸、息切れ、眩暈、激しい出血……様々な症状がエドガーを襲う。
だが、最後まで諦めず、デーモンスピアを持って暗殺者にエドガーは向かう。
だが、それは悲しいまでに無意味は抵抗だった。

話を元に戻そう。
一流の暗殺者がターゲットの前に姿を現すときとはどんな時か?
それはつまり、もう姿を隠す必要がないから。
暗殺者が仕事を終えたことを意味する。





―――――つまり、エドガーの命はもう―――――

206 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:03:32 ID:15LnrOUE0





僅かばかりの時が経って、壽商会のドアを開けて二人の男女――いや、今は男の二人組が出てきた。
暗殺組織『黒い牙』における最高の暗殺者に贈られる称号『四牙』の一人、死神ジャファル。
そして、死ぬ直前にフィガロ国王エドガー・ロニ・フィガロの姿を借りたシンシア。

エドガーには誤算があった。
それはつまり、壽商会には自分とエドガー以外誰もいない、というもの。
実際は、エドガーがこの壽商会を訪れたとき、すでに先客がいたのだ。
エドガーは潜伏する場所をよく考えて選ばなければならないが、目にした敵すべて殺していくつもりのジャファルとシンシアは訪れる建物を選ぶ理由もない。
結果として、エドガーよりも遅れてこの村に到着したジャファルとシンシア二人は、エドガーたちよりも先に適当に選んだ建物である壽商会にたまたま潜入していた。
さらに、ジャファルとシンシアは身を隠すことのできる支給品『かくれみの』を使って、本来は一人用のこの隠密道具で器用に二人分の姿を隠し、エドガーの認識をやりすごしたのだ。
だが、エドガーもさるもの。
ジャファルとシンシアが身を隠してからも、一向に襲撃できる隙は見せなかった。
壽商会の探索をしていたときも、機械弄りをしているときも、いつ如何なるときも。
国王という立場上、暗殺の危険を知っているエドガーだからこその芸当だった。
また、フロリーナの安全を確保するため、常に注意を張り巡らせていたのもある。
しかし、シャドウの殺気を察知できたのはエドガーの感覚の鋭さもさることながら、シャドウが知り合いだったというのがある。
エドガーの知らないプロ中のプロの暗殺者が隠密道具を使ったとき、さしものエドガーでもその気配を捉えるのは不可能だった。
以上のような理由から、ジャファルとシンシアはまずフロリーナを殺害し、フロリーナに化けたシンシアがエドガーを不意打ち。
失敗した場合は、逃げ出してフロリーナの死体を見せ付けて驚愕させ、その瞬間にジャファルが仕留めたのだ。
寝ていて無防備な姿を晒していたフロリーナをしばらく生かしておいた理由は、利用価値を探るため。
フロリーナの実力を知っているジャファルはもし起きられても、天馬に乗ってないフロリーナを殺すのは簡単と判断し、如何に残るエドガーを殺すために使うかを考えていた。
かつて共に戦った存在でさえ、大切な人の友人でさえ、今のジャファルには誰かを殺すための材料でしかない。
そして、考えた結果は、シンシアのモシャスと併用しての、エドガーの油断を引き出す作戦。
口調や行動がおかしかったのはフロリーナがいよいよ決心したためでなく、単にシンシアがフロリーナの人間像を知らないため。
エドガーが感じたフロリーナの殺意は、シンシア本人の殺意。
皮肉にもフロリーナが脳内で繰り広げていたリンとヘクトルを生かすための葛藤は、シンシアがモシャスでフロリーナに化けた際の行動の違和感を消す迷彩にもなったのだ。

207 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:04:04 ID:15LnrOUE0

歩く二人の距離は依然として一定の距離が保たれたまま。
言葉だって交わすこともなく、無言のままに歩き続ける。
新たな戦利品、アルマーズはジャファルのデイパックの中に入り、デーモンスピア及び昭和ヒヨコッコ砲はエドガーになりすましたシンシアのデイパックに。
神将器アルマーズの威力の強大さを知っているジャファルは、これがレプリカでないことを確信すると、デーモンスピアとヒヨコッコ砲を譲る代わりにアルマーズをもらった。
使うアテはない。
ただ、これが誰かの手に渡るのだけは阻止しておきたいから。
フロリーナをシンシアが殺す瞬間を目の当たりにしても、ジャファルは眉ひとつ動かさずに見ていた。
シンシアにはフロリーナが知り合いだとも教えていない。
教える必要のない事柄だから。
ニノは悲しむだろうが、しょうがない。
男は黙々と、歩き続ける。
次なるターゲットを見つけるため。
ブリキ大王や物質転送装置のような胡散臭い道具に頼る気はない。
こと戦闘においては、今も昔も、ジャファルは極限まで鍛えられた己の暗殺の技量しか信じない。

暗殺者にとって、ターゲットの氏素性は関係ない。
名のある剣士なら、剣を抜かせなければいい。
魔道士なら、魔法を唱える前に殺せばいい。
国王だろうが、マシーナリーだろうが、やることは変わりない。









それが――暗殺。
相手の本領を発揮させることなく、仕留める者。








物質転送装置は完全に修復されることはなく。
古より伝わるブリキの巨人もまた目覚めることなく、新たな主を待つ。









【エドガー・ロニ・フィガロ@ファイナルファンタジー6  死亡】
【フロリーナ@ファイアーエムブレム 烈火の剣 死亡】
【残り40人】

208 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:04:47 ID:15LnrOUE0
【A-6 村 壽商会入口  一日目 朝】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@FFVI
[道具]:不明支給品1〜3(内一つはフロリーナの支給品で、武器ではない)アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
2:いずれシンシアも殺す。
3:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A時点から参戦


【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:モシャスにより外見と身体能力がエドガーと同じ
    肩口に浅い切り傷。
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
2:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す
3:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
4:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
[備考]:
※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。


※次にジャファルとシンシアがどこに行くかは、後続の書き手氏に任せます
※A-6村に壽商会@LIVEALIVEがあり、ブリキ大王と物質転送装置があります。
 物質転送装置の不具合はエドガーによって多少改善されましたが、それでも使用にはまだ不安が残ります。
※A-6村の壽商会、フロリーナの死体にはダッシュ―ズが履いたまま残っています。

209 ◆SERENA/7ps:2009/06/02(火) 17:06:54 ID:15LnrOUE0
仮投下終了しました。
問題ないかの判断をお願いします。

たぶんギリギリで前後編いくと思いますので、分割点は>>198

>私の名前はフロリーナ。

以降を後編でお願いします

210サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:15:23 ID:2Iqkrkpw0

サンダウンがハリケンショットを放った直後、ケフカもそれに合わせて魔法を放った。
それがあの竜巻。
シュウとの戦いに気を取られていたにも関わらず、あの短時間であんな大規模魔法を展開したことは、素直に尊敬に値する。
マリアベルたち3人と比較しても、かなり高位の魔術師であることが伺える。
あれならば、シュウが殺されかけていた事も納得である。

しかし、ルクテチアでありとあらゆる魔物を葬り去ってきた弾丸の嵐の前には、その魔法ですらも余りに非力すぎた。
竜巻などという2流の自然災害など、台風の前には木枯らしのようなもの。
道化師の最後の呪文は、弾丸の勢いを殺しきる事はできずに終わってしまった。

銃のプロフェッショナルのサンダウンなら分かる。
あの魔法によって殺された分の威力を差し引いたとしても、その威力はケフカを殺すには充分だった。
弾丸はケフカの胸を抉り、四肢を破壊し、頭を砕く。
おそらく道化師は、精肉後の家畜のように成り果てているに違いない。

(シュウの無事を確認したら、あいつも弔ってやらねば)
少しだけ感じた罪悪感をそうしてやりすごすと、気絶しているだろうシュウを探して歩き出した。
晴れかけていた土煙が不自然に揺れる。
直後に、鼓膜を響かせたのは、絶望の音。




「ア゙ァァァァァァ………………」




「……馬鹿……な!」
そんな彼の耳に届いてしまった声。
嘘だと思いたかった。
だが、幻聴なんかじゃない。




「ルゥゥゥゥゥゥ………………」




(あり得ない……!)
だが、声はハッキリと、土煙の中枢から。
それはつまり、竜巻の中心部から聞こえてきたという事で。
さらにそれは、魔法を放った張本人が喋っているという事である。




「デェェェェェェ………………」




「…………クッ!」
即座に銃を構える。
ハリケンショットを撃った後、弾を補充しておいて良かった。
即座に攻撃に移れるのだから。
だが、その神速も今回ばかりは役に立たなかった。

211サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:15:54 ID:2Iqkrkpw0




「マ゙ァァァァァァア゙ア゙ア゙ア゙ァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!!」




「……これ……は!」
銃を構えたその手が驚愕と絶望に固まった。
とてつもない勢いで噴出した汗が、44マグナムのグリップを湿らせる。
まるで、銃も一緒になって汗をかいているかのようだった。

ケフカが放ったトルネド。
あれも実はかなり高位の魔法で、対象の体力をゴッソリと奪い取る恐るべき破壊力を持つ。
また、ケフカがハリケンショットにその魔法をぶつけたのは、呪文を詠唱する時間が殆どなかったから。
ハリケンショットが自分に接近する前に放てる中で、最も高位の魔法を選んだのだ。
それであの威力。

ならば、ケフカが充分な余裕を持って繰り出した魔法はどれほどの威力なのだろうか。
その答えが、これ。

「う……うおおおおおおおお………………!!」
寡黙なサンダウンが、何年ぶりかになる大声をあげる。

何と形容すべきか。
もはや、ハルマゲドンだった。
あまりに巨大な爆破。

青白いエネルギーの半球はサンダウンを覆いつくし、その身体に無数の傷を刻んでいく。
そのひとつひとつが致命傷。
ハリケンショットを超える破壊力が、そこにあった。

(なぜ……生きている……!)
魔法という名を持借りた地獄が過ぎ去った後、そこには荒れた大地でポツンと倒れ付すサンダウンの姿。
草原の緑すらも、『アルテマ』は消滅させてしまっていたのだ。
身体に走る痛みを無視して、ガンマンは必死に考えを巡らせる。
ハリケンショットは必中で、その威力もケフカを殺しうるには申し分のないものであったはず。
道化師が生き残る術など存在していていないはずなのに。
生きながらえているだけでなく、魔法まで放っているではないか。

「ゲホッ! ウゲェ! ……ホントーに…………」
土煙から現れた道化師。
身体は血みどろで、口からは血液らしき赤黒いモノを吐き出している。
腹部や肩には、弾痕らしき穴さえ見受けられるのだ。
ハリケンショットは命中していたと見て間違いはないようだ。

(ならば……なぜ……)
サンダウンはが気付けなかったのも、仕方のない事ではある。
それは、彼の知らない概念だったから。
魔法を知るものには簡単な話。
プロテスを使った、それだけである。

「ホントーに、死ぬかと……思ったよ……」
ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……。
と、あり得ないほど口の端を吊り上げて笑う。
ハテナマークを顔に貼り付けたサンダウンに、血走った目を向けた。

212サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:16:25 ID:2Iqkrkpw0

「誇っていいんじゃないカナァー……」
フラフラと歩み寄るケフカからは、かなりの疲労とダメージが確認できた。
それでも、サンダウンを絶望が包む。
ハリケンショットで死ななかったのだ。
もう2度と、あれを撃つ暇など与えられない。

そして目の前の悪魔の強さ……。
たった一撃で、戦闘不能になってしまったのだ。
シュウは5分間も耐え続けていたというのに。

「あの忍者があと数秒稼いでいたらさぁ……
 君があと数秒早く引き金を引いていたらさぁ……」
ケフカの手に、冷気が宿る。
それが魔法である事も、自分に向けられていた事もサンダウンは分かっていた。
でも避ける術はない。
もう、どうしようもなかった。
それでも、諦めたくはなかった。
サンダウンはふらつく手で銃を構える。

「……君たちの勝ちだったよーーーん!!!!」
だが、それより先に、氷柱がサンダウンを包んで、割れる。
ただでさえ大怪我を負った体から、更に大量の血液が流れ出した。
右足が二度と使い物にならなくなったのが分かる。
ガンマンとしての生命は経たれたも同然。
それでも、サンダウンは諦めない。

「……ッぐ……まだ、だ……!」
右腕で、引き金を引く。
だが、震えた手で発射された弾丸は、あらぬ方向へ飛んでいく。
銃を引いた腕にかかった反動で、肩の骨が悲鳴を上げる。
もう、本当に打つ手はなかった。

「おっとォォォォ……アブナイナー。そんな悪い子には、オシオキだじょォォォ」
ケフカもかなりの体力を消耗しているのだろう。
その動きは鈍く、魔法1つを打つにもかなりの時間を必要としていた。
それでも、それがサンダウンにとっては好機にもなんにもなりはしない。
銃は当たらず、逃げる事も敵わないのだから。
だが、折れた足で、なんとか立ち上がろうと試みる。
まだ、サンダウンは戦うつもりでいた。

「まだ…………俺は…………」
感じたエネルギー。
これは、ビッキーを殺そうとした魔法である。
ビッキーを殺しそこなったので、サンダウンを同じ魔法で殺そうというつもりらしい。
傷口がヒリヒリと焼かれて痛む。
それでも、サンダウンは、魔法に焼かれるその瞬間まで、諦めるつもりはなかった。
シュウの繋いでくれた結果を、そう簡単には手放す気に離れなかった。

「……俺、は……まだ……」
魔法が全てを包んでから、サンダウンはようやく諦めた。
手の力を抜く。
愛銃がガランと、地面に落ちる。
ケフカを倒せなかった後悔と、シュウに対する申し訳なさだけが、その胸を支配していた。

「まだ…………」
本当に、悔しかった。
こんな気持ちは初めてだ。

213サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:17:11 ID:2Iqkrkpw0

「ならば、止まるな」
だから、その声は、幻影なのだろうとサンダウンは思った。
死ぬ直前に、脳が見せた幻なんだと。
絶望の衝撃の中で、そう『疑って』しまった。


◆     ◆     ◆


目を開ける。
そこには、ずっと自分たちを見守ってくれていた青空。
背中の感触を確かめる。
確かに、自分たちを支え続けていた大地がある。

(なぜ……生きている?)
自分の身体は未だ存在していた。
前にも増して痛みを上げる腕も。
使い物にならない足も。
そして、捨てたはずの銃も。
全てさっきと同じ状態で、現世で確かに脈打っていた。

「止ま、るな……サン……ダウ、ン・キッ…………ド……!」
忍者が、立っている。
刹那、全てを理解した。
あのシュウの声は夢ではなかったのだ。
情けない自分を庇って、ケフカの魔法をその身に受けたのだ。
こんな、自分勝手な男の為に。

「シュウ……お前……!」
「チクショー! しぶといゴキブリめ! 死ね! 死ね!」
ケフカが魔法を連発する。
疲労した魔導師から繰り出されるのは、どれも低級の魔法ばかり。
放たれた炎が、忍者の肉を抉る。
氷が、シュウの皮膚を剥ぎ取る。
雷が、男の意識をそぎ落とす。
それでも、全身を真っ赤に染めても、シュウは倒れない。

「お、まえ……の……ガァ! ……まも、り……たい……もの……グゥッ! ……とは……な、んだ…………」
容赦のない魔法は、男の身体を次々と破壊。
胸の筋肉を食らい尽くして、遂に破壊すべきその心臓を露出させた。

さっき、他でもないサンダウンがシュウに言った言葉。
『護りたいものがある』。
その一言で、シュウはハリケンショットなどという冗談みたいな話を信じてくれたのだ。
それの背中信じて、シュウはこんなになるまで戦ってくれたのだ。

「俺は…………」
ボロボロの右腕を見る。
何か寂しいと思ったら、銃が握られていないではないか。
慌てて地面に落としたそれを拾う。
それだけで、右半身全体に痛みが走った。
もう少しだけ頑張ってくれ、と銃に願いを込める。

『待っていたぞ』と、44マグナムはそっけなく答えた。

「ヒャヒャヒャヒャヒャ! これでオシマイです!」
ケフカの魔法が、シュウの心臓に放たれる。
もう、避ける事も、耐える事も忍者はしなかった。
氷が拳ほどの小さな臓器を包み込む。

214サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:18:19 ID:2Iqkrkpw0


ニノが笑う。
ロザリーが笑う。
マリアベルが笑う。
俺はそれを見ていた。

ビッキーが笑う。
俺はまだそれを見ていない。

それこそが、彼の答え。
その願いだけで充分だ。

『俺のいる、世界に戻りたい』だって?




          笑わせるな。




そんなこと、もうこれっぽっちも思ってはいない!
彼が果たすべき全ては、この悲しみの世界に在ったのだから!


「俺は……あの『笑顔』を護りたいだけだ……!」


パキン……と氷が割れる。
シュウの心臓を道連れにして。
その身体が一度だけ大きく跳ねて、前のめりに倒れこむ。

「やっとくたばりましたか! これで…………」
氷の呪文でシュウを殺害した道化師。
しつこい忍者をやっと始末できた事に、喜びの声を上げる。
だが、その歪んだ笑い顔が凍りつく。

「な……ら、ば……つ…………ら、ぬ………………け……!」
シュウが倒れる。
その言葉を残して。
その後ろから現れたのは、銃口だった。
さっきまでの照準の合わないソレとはまるで違う。
確実に道化師に狙いを定めた銃口が、そこにはあった。

(この距離なら……俺みたいな3流でも、外す事はない……!)
ガチリ、と撃鉄を下ろす。
同時に、身体のどこかで、ミシリ……と嫌な音がした。
だが、それでいい。
指先さえ動けば、それで構わないのだ。
指先さえ動けば、撃鉄を引ける。
指先さえ動けば、銃に命を与えられるのだ!

「ぐぎぎぎぎぃぃぃぃーーー!!! 次から次へと……死になさい!」
ケフカが魔法を展開する。
バチバチとピエロの両手から発生する、青緑色の光。
最後は、雷だった。
神速の銃と、電速の魔法の速さ比べ。

215サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:19:46 ID:2Iqkrkpw0

「食らえェ! サン…………」











「砕け散れッ!」











そんなもの、勝負にもならなかった。
ガンガンと二発。
その反動が、元々ボロボロだった右腕を完全に破壊。
大量の血液を撒き散らして、サンダウンがその場に倒れる。
四肢の殆どが砕け散った。
もう、長くはない。

「なにィィィィーーーー! グエッフ!!」
ダブルショットがケフカの腹部を直撃。
うち1発がその身体を貫通した。
たった1発では致命傷にはなりはしない。
あまりにしぶとい。恐るべき生命力だ。
ゲホゲホと血を吐き出しながらも道化師はまだ生きていた。
シュウが命を捨てて、サンダウンが全てを賭して……。
……それでもなお、ケフカには届かない。

「ケ……アルガ! くそ……ぐ……そォッ!」
この男の無尽蔵とも思える魔力が、ついに枯渇のときを迎えた。
最後に放たれた高位の回復魔法がケフカを包む。
だが、その回復魔法はオディオによって制限されている。
なんとか死は免れたものの、追撃を受ければ確実に死ぬ。
そこまでケフカは追い詰められていた。

「お……わ、りだ……」
そして、道化師の目に映ったのは、銃を左手に持ちかえたガンマン。
もう立ち上がることも出来ずに、上半身だけを起こして銃を構える。
右腕は肩から先が欠落しており、そこから血が垂れ流しになっていた。

力の入らない指で撃鉄を下ろして、グリップに力を込める。

「ヂ、ク……ショー! ク、ソォ! チ……グ、ジョウ!
 うぞ……だ! ご、んな゙…………の! ヂグ…………ジョ……!」
自分に向けられている銃口を忌々しげに睨み付ける。
そんなことしか、今のケフカには出来ない。
男の弾丸が確実に自分に死を与えるだろうことは、流石の狂人だって理解していた。

216サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:20:41 ID:2Iqkrkpw0

「く、た……ばれ…………バ、ケモ……ノ、が」
やっと終わる。
シュウとサンダウンの全力が……やっと悪魔に届く。その瞬間がやってきた。
心の中で、忍者と固い握手をかわす。
意を決すると、引き金に指をかけ、力を込めた。
……込めようとした。



「貴、様……何を、して……るんデスか?」
「何を、し……てる、んだ……?」



ガンマンと道化師の目が、驚愕で大きく見開かれる。
銃声の変わりに響いたのは、ケフカとサンダウンから同時に放たれた疑問。
その全く内容の同じ質問の対象は、少女だ。
まるでケフカを守るように、両手を広げてサンダウンに立ちはだかるビッキーに向けて放たれたものだった。

「……サンダウンさん。……もう、やめてください」
戦っている男たちを捜しながら、息を切らせて走り続けていた少女の息は荒い。
その呼吸の合間に、言葉は搾り出すように紡がれた。
流れた汗が、大地に流れる真っ赤な血を少しだけ洗い流した。

「自分……が、何を、して……るの、か……」
「分かってます」
少女の行動を、サンダウンは信じられなかった。
まるで異星人をみるかのごとく、間を丸くしている。
あのケフカは、少女を殺そうとした悪魔なのだ。
それを忘れてしまったとでも言うのだろうか。

「こむ……す、め……! なに、を、たくら……ん、デ……!」
「……もう、嫌なの!」
ケフカの方へ振り向いて少女が叫ぶ。
少女が涙が、サンダウンにはとてつもなく悲しかった。

「……おかしいよ。誰かを殺さなきゃ、未来がこないなんてさ」
「イカ、レて……るん、じゃ、ない……の……」
どの口がそんな事を言うのか。
ケフカが真っ赤な唾を吐き捨てる。
だが、サンダウンも同じ事を感じていた。
少女が、おかしくなってしまったのではないのかと。
この異常な状況で、ついにその未成熟な精神が崩壊してしまったのではないかと。

「どく……んだ。……でな、い……と……きみを……」
サンダウンが少女に銃を構える。
彼女がどんなつもりでこんな事をしているかとか、何を狙っているとかは、最早関係ない。
これは、シュウが命を捨ててまで繋いでくれた結末である。
自分の我侭に付き合ってくれた男の為にも、それをこんな形で終わらせるわけにはいかなかった。

「サンダウンさん、言いましたよね。『笑ってくれ』って……」
ガン、少女の言葉を待つことなく、1発の銃声。
『黙れ』と『どけ』を表した1発である。
それは、少女の顔を掠めて、その頬に一筋の赤を刻む。
ビッキーは驚いた拍子に一瞬目は瞑ったものの、悲鳴を上げることも、それ以上うろたえる事もなかった。

217サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:21:34 ID:2Iqkrkpw0

「た……の、む……ど、け……」
煙を吐き出す44マグナム。
脅しとは言え、少女に向けて銃を撃った事に酷く胸が痛む。
それでも、今ケフカを殺さなくては、また別の誰かが死ぬ。
絶望は、銃弾でしか打ち破れないのだ。
もう時間がない。もうまもなく、この身体は活動を終える。
銃の中には、もうあと2発しか弾丸は入っていない。

「でも、やっぱり私……笑えない。そこにいる皆が笑顔じゃなきゃ……笑えないよ」
「…………ッ!」
サンダウンの目が一瞬大きく開いて、すぐに静かに細められた。
脳裏に浮かんだのは、ビッキーの涙。
そして、『笑ってくれ』と頼んだ自分に向けられた、彼女のあの切なげな表情。

(そう……だったのか)
サンダウンはやっと気付いた。
少女が泣いていた理由。
彼女は誰かが死ぬのが嫌なんだ。
悪とか、正義とか関係ない。『誰か』が死んだら嫌なんだ。
たとえそいつが味方を殺した張本人でも、明日親友を殺すかもしれない殺人ピエロでも。

「…………し、かた、が……ない……」
馬鹿げていた。
そんな事で、この少女はシュウの切り開いた未来を台無しにしようとしているのだ。
サンダウンは銃やるに手をかける。
全てを終わらせるために。

「これ、で……お、わり……だ」
「…………くぅ!」
流石に怖くなったのか、目を閉じて震えるビッキー。
サンダウンは覚悟を決めると、握った銃に力を込めた。
その瞬間に……全ては決着。

少女が聞いたのは、銃声ではない。
カランカランと2回。

「……え?」
予想していなかった音。
少女が、涙で湿った目を開く。
そこには、愛銃のシリンダーを開いて、弾丸を排出したサンダウン。
引き金は、引かれなかった。
弾は、発射されなかった。

「な、らば……つ、らぬ……け」
それはシュウがサンダウンに送った言葉。
彼は、この言葉を残して、死んでいった。
シュウからサンダウンへ。そして、ビッキーへ。

立つ事ができないので、這って少女の元へ行こうとする。
それを察したビッキーが、サンダウンに歩み寄ってしゃがみこんだ。

「その……やさ、しさ……を」
少女の頬に手をかざす。
血がその顔に付着したが、少女は嫌な顔一つ見せなかった。
優しい子だ、とサンダウンは思う。

218サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:22:07 ID:2Iqkrkpw0

ケフカに懐柔が通用するか?
そんなはずはない。
十中八九、殺される。
そんな事はサンダウンも分かっている。

だけど、シュウは言った。『思いを貫け』と。
サンダウンは少女の笑顔を護りたかった。
そしてこれが、サンダウンが思いを貫く、唯一の方法。

「き、みは……な、にも…………ま……ち…………がっ……て………………は…………い…………な…………」
その言葉を最後に、サンダウンは力なく崩れ落ちた。
その上半身をビッキーが抱きとめる。
そして零れ落ちそうになった銃を、しっかりと握らせた。
彼の身体が硬直するまでずっと……。






後悔はないさ……。
最後の最後で、少女の笑顔を見ることができた。

後のやっかい事は、残った連中に押し付けるとしよう。

さて……それじゃあ、シュウに殴られに行くとするか……。


【シュウ@アークザラッドⅡ  死亡】
【サンダウン@LIVE A LIVE 死亡】
【残り38人】


◆     ◆     ◆


「……どう、する……つも、りだ?」
「決まってる……ふんっぬ! ……でしょ!」
血だらけのケフカの身体を抱え上げる。
子供のような性格をしてるくせに、その身体はやたらと重かった。
それでも少女は、泣き言も言わずに道化師を負ぶった。
お気に入りの服は、もう血だらけで見るも無残な状況である。

「シュウさん、サンダウンさん。ごめんなさい……もう少し待ってて」
本当だったら、彼らにも死んで欲しくなかった。
もっと早く辿り着けば、助けられたかもしれないのに……。

「お、まえ……バ、カで…………しょ……?」
少女は、命の恩人の死体を野ざらしにする。
生きているケフカの治療をする為である。
それがケフカには信じられなかった。
命を捨ててまで自分を助けた男達をほったらかしにして、自分を殺そうとした男を治療しようというのだ。

「ぜっ、たい……こ、ろし……て、やる…………から……な…………」
ケフカが殺意を全開にして宣言する。
屈辱だった。
殺されかけた上に、自分の代わりに命乞いをされ、更に治療までされる。
ハラワタが煮えくり返りそうであった。

219サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:22:49 ID:2Iqkrkpw0

「いいよ。殺しても」
走り続けて疲労が溜まった身体に、この重労働は酷だ。
ケフカも少女の疲労は理解している。
だからこそ、少女の行動が理解できなかった。

「その代わり、私で最後にしてね」
背中のケフカのほうも見ずにアッサリと答えると、「よいしょ」と一言。
どこへ行けばいいのか、開いた地図を開いて確認する。

「は……はは……シン、ジラ……レ、ナー……イ」
本当に、信じられない。
思わず、笑いがこみ上げてきた。
おかしな女に捕まったと、ケフカは後悔する。

「おい……血が……出、てる、ぞ…………」
ビッキーの肩から、出血しているのをケフカは確認した。
そして気付いた。
これは、自分が蹴り上げたときについたものだと。
大地と衝突したときに、怪我を負ったのだ。

「痛くない!」
そう叫ぶと、地図に再び目を通す。
そんなビッキーに道化師はもう1度「シンジラレナーイ」と告げて、意識を失った。

少女は白い花が好きだった。
少女を見守って死んだ男も、荒野に咲く白い花が好きだった。

もしかしたら、限り無く続く憎しみの連鎖を断ち切るのは、無数の銃弾ではなく……。

220サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:24:41 ID:2Iqkrkpw0
【I-8 荒野 一日目 昼】
【ビッキー@幻想水滸伝2】
[状態]:疲労(中)、服が血まみれ、肩から出血
[装備]:花の頭飾り
[道具]:不明支給品0〜2個(確認済み。回復アイテムは無し)、基本支給品一式
[思考]
基本:もう、誰も死んで欲しくない。
1:どこかの施設でケフカを治療する。
2:1の後、シュウとサンダウンを埋葬する。
3:ルッカと合流して、北の城に帰りたい。
[備考]
※参戦時期はハイランド城攻略後の宴会直前
※ルッカと情報交換をしました。
※現在位置を分かっていません。


【ケフカ・パラッツォ@ファイナルファンタジーⅥ】
[状態]:気絶、疲労(甚大)、全身に銃創
[装備]:無し
[道具]:タケシー@サモンナイト3ランダム支給品0〜2個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:全参加者を抹殺し優勝。最終的にはオディオも殺す。
1:目覚めたらビッキーを殺す。
2:積極的には殺しにかからず、他の参加者を利用しながら生き延びる。
3:アシュレー・ウィンチェスターの悪評をばらまく。
※参戦時期は世界崩壊後〜本編終了後。具体的な参戦時期はその都度設定して下さい。
 三闘神の力を吸収していますが、制限の為全ては出せないと思われます。
※サモナイ石を用いた召喚術の仕組みのいくらかを理解しました。
※現在位置を分かっていません。
※回復魔法の制限に気付きました。



※戦闘により、I-8の殆どが荒野になりました。
※いかりのリング@FFⅥ、パワーマフラー@クロノトリガー、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、
 44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE はI-8 中央部のサンダウンの死体に装備されたままで放置、
 紅蓮@アークザラッドⅡ、リニアレールキャノン(BLT1/1)@WA2 はそれぞれI-8か、またはその周辺に落ちています。
※シュウとサンダウンの死体はI-8 中央部に並んで放置されています。
 2人の死体は城下町から西の方向にありますが、初めからこの進路を取っていたかは不明。
 よって、彼らと別方向に進んだストレイボウが、西に進路をとっていたとしても問題はありません。

221 ◆Rd1trDrhhU:2009/06/07(日) 00:26:08 ID:2Iqkrkpw0
以上、投下終了です。

どなたか見ていらっしゃる方がいたら、代理投下をお願いします。

222 ◆iDqvc5TpTI:2009/06/07(日) 04:51:59 ID:R9.iwi/k0
沢山の感想と指摘感謝です。
160氏に指摘していただいた分は、まったくもってその通りで、WIKI収録時に修正しておきます

223Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg:2009/06/18(木) 23:47:59 ID:ob26IHjM0
 そのはずだ。
 そうに決まっている。

「下らぬ、妄言だ……」
 
 言い聞かせるように、呟く。
 胸中で、数え切れないほど、占い師の言葉を否定する。

 それなのに、ピサロは苛立ちとざわつきを押さえられなかった。
 どれだけ否定しようとしても、何度も違うと言い聞かせても。
 それでもピサロは、ミネアの声を完全に否定し切れなかった。
 何故ならば。
 心の片隅で願っていたのだ。
 小さく微かに、確かに望んで止まなかったのだ。
 
 ――ミネアの言葉が、真実であればよい、と。

 たとえ、血生臭い殺し合いの盤上であっても。
 今一度、温かくて、言葉を紡げて、微笑みかけてくれるロザリーと会いたいと、切望してしまっていた。
 もしも、ミネアの言葉が確かならば。
 また、ロザリーと同じ時間を共有し、同じ道を歩めるのなら。
 
 それは、どれほどまでに幸せなことだろうか。

 忌むべき人間の言葉から垣間見えた、不確かな事実でしかない。
 だがそれは、ピサロにとって、紛れもない希望だった。 
 その芽生えた希望を自ら摘み取ってしまいそうな気がして、ピサロは、ミネアの命を奪えなかった。
 だから、苛立ちを抱えながらも、止めを刺さず立ち去ったのだ。

 白い女――アティの存在は、それほど問題視していない。
 何故ならばピサロは、対峙していた少女一人殺せず、逃げるように走り去る、アティの後姿を見ていたからだ。
 その小さな後姿は、黎明に見た背中と重なっていた。
 結局のところ彼女は、下らない言葉しか吐けない、臆病で矮小な存在でしかないのだ。
 とはいえ無論、ミネアやその仲間、アティを始めとした参加者を――人間を、殺すつもりがなくなったわけでは決してない。
 優先順位が変わっただけのことだ。人間に心を許してなどいない。
 ただ、今のピサロを動かすのは、憎悪だけではなかった。
 それでも、苛々する。
 ひたすらに、苛々する。
 いつしか、ミネアに対する苛立ちだけではなくなっていた。
 ろくに名簿に目を通さず消し飛ばしたせいで、ロザリーの存在に気付けなかった自分自身を許せなかった。
 そして。
 憎むべき敵の言葉に希望を見出し、それに衝き動かされて走っている自分自身に、苛立っていた。
 余りにも愚かしいと、ピサロは自嘲する。

 結局、ミネアの言葉を信用してしまっている自分が、人間以上に愚かしく思えて、仕方がなかった。 
 
【B-7 森林 一日目 午前】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。
     疲労(大)人間に対する憎悪。自身に対する苛立ち。
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:ロザリーの捜索。
2:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿は確認していません。ロザリーが生きている可能性を認識しました。
※参戦時期は5章最終決戦直後

224Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg:2009/06/18(木) 23:50:06 ID:ob26IHjM0
 ◆◆
 
 呼吸がうまくできない。どんなに酸素を吸っても、胸が苦しくてたまらなかった。
 鼻の奥が詰まっている。瞳が濡れそぼっていてよく前が見えない。
 でも、苦しいのは、そのせいだけじゃない。
 荒い呼吸を繰り返し、それでもアティは走り続けていた。
 アティは逃げるように、絶え絶えの呼吸をしながら走っている。
 涙目になっていてまともに前が見えないが、走っている。
 それは、黎明の頃にレイを置き去りにしたときのアティと、酷似していた。
 そう、白い髪や碧の瞳は、いつしか元に戻っている。
 リンディスの諦めない説得が、剣に支配されたアティの意思を引っ張り上げていたのだ。
 アティの手に武器はない。
 元の姿に戻った際に、破壊の鉄球を手離していた。
 あんなものを持っていたら、走れなかったから。
 どこに向かっているのかなんて考えていない。
 そんなことを考えられるような余裕が、今のアティには欠片も存在しない。
 ただ。
 ただ、誰にも会いたくなくて、そして、逃げたかった。
 
 アリーゼが、死んだ。
 目の前で、命を落としてしまった。
 それも、アティを庇って、死んだのだ。
 
 ――私が、守らなきゃいけなかったのに……!
 
 無力だった。無様だった。無念だった。
 情けなかった。哀しかった。悔しかった。辛かった。
 だから。
 もっと強さがあればと思った。力が欲しいと望んだ。
 そうすればきっと、こんな想いをしなくて済むと思ったから。
 強く強く強く、願った。
 レイを、アリーゼを殺した男を、許せなかったから。
 心底憎いと、思ってしまったから。

 そして、その願いは、叶えられた。
 
 いつの間にか、圧倒的で強大な力をアティは手にしていた。
 その力は本当に強く、あの男と互角に戦うことができた。
 超重量の鉄球さえ軽々振り回せるようにもなったし、強力な術も行使できるようになった。
 だが、その代わりに。
 力は、殺意と破壊衝動で、アティの理性を塗りつぶしていった。
 アティを呑みこもうとするような強力さに抗えるほど、追い詰められた彼女の精神は丈夫ではなかった。
 その結果が、あの暴走だ。
 自分の意思で自分の身体を制御できない感覚は、とてつもなく恐ろしかった。
 禁忌とも呼べる行為に走る自分の身体を止められないのは、気が狂いそうなほどに恐ろしかった。
 
 いや。
 既にもう、何かが狂い始めているような気がした。
  
 確かに力を欲した。強さを求めた。
 だけどそれは、大切な人たちを守るための強さだ。
 なのに。
 それなのに。
 力を手にしたアティが取った行動は、彼女が最も望まないものだった。
 いくらレイやアリーゼの命を奪った男が相手でも、本当は殺したくなんてなかった。
 ましてや、殺意と破壊衝動に塗りつぶされたアティを救おうとしてくれた少女を殺したいなど、思うはずがなかった。

225Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg:2009/06/18(木) 23:52:11 ID:ob26IHjM0
 たとえここが、殺し合いを求められる場であっても、だ。
 だというのにアティは、魔剣に意識を支配され乗っ取られ侵食され、行動も衝動も抑えられなかった。
 もしも、ミネアとリンディスが割って入っていなかったら。
 もしも、リンディスが説得を諦めていたら。
 今頃、アティの手は血に塗れていたに違いない。
 
 自分自身がどうしようもなく狂っていくようで、震えが止まらない。
 自分が自分でなくなる感覚は、どうしようもないほどの、真っ黒な恐怖だった。
 まるで、足元から伸びる影が『アティ』になって、今の『アティ』が影になってしまうように思えた。
 アティ自身を、失ってしまうように感じられた。

 喪失の恐怖から逃れるように、アティは走る。
 怯えを、影を、自分の中にある『何か』を振り切るように、当てもなく走る。
 それでも、足元の影は、離れてくれるはずなどない。
 誰にも会いたくなかった。
 何かの拍子で、あの凶暴な自分が現れるか分からない。
 そうなったら、取り返しのつかないことを起こしてしまう可能性が高い。
 そうなったら、もう一度戻れるという保証は存在しない。
 もう二度と、自分を取り戻せなくなるのかもしれない。
 
 怖くて堪らなかった。
 恐怖は心にこびり付いていた。

「私は、どうなってしまうの……?」 

 震える問いに答えは返らない。
 だが、聞いている存在はアティの中にある。
 アティの中で、魔剣は、確かに声を聞いている――。

【C-6 森林 一日目 午前】
【アティ@サモンナイト3 】
[状態]:コートとパンツと靴以外の衣服は着用していない。
    強い悲しみと激しい自己嫌悪と狂おしいほどの後悔。コートとブーツは泥と血で汚れている。
    水の紋章が宿っている。疲労(大)ダメージ自体は目だってなし。
    自分が自分でなくなるような恐怖。
[装備]:白いコート
[道具]:基本支給品一式
    モグタン将軍のプロマイド@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:誰にも会いたくない。
1:当てもなく、自分の中の『何か』から逃げる。
[備考]:
※参戦時期は一話で海に飛び込んだところから。
※首輪の存在にはまったく気付いておりません。
※地図は見ておりません。
※暴走召喚は媒体がないと使えません。

※アリーゼの遺体、天使ロティエル@サモンナイト3、アティの眼鏡がC-7荒地に落ちています。
※C-6とC-7の境界に破壊の鉄球が落ちています。

226 ◆6XQgLQ9rNg:2009/06/18(木) 23:52:53 ID:ob26IHjM0
以上、投下終了です。

よろしければ、どなたか代理投下をお願いいたします。

227火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:40:34 ID:49ozBZrA0

無音。

二人の間には会話どころか音の一つすらない。

会話をする必要がないにしても、異常なまで静寂を保とうとする。

「喋っている暇があったらさっさと動け」と言わんばかりの空気を互いに漂わせている。



そう、彼等には「残り時間」が「無い」のだ。

足り「ない」のではない、「無い」のだ。

あとどれだけの時間、あの人は生きているのだろうか?

今、こうしている間にも危機が迫っているかもしれない。

明確な「残り時間」は存在しない。

焦っているようには見せていないが、二人とも焦っているのだ。

「終わり」が来るのが怖いから。

彼等は行く、彼等なりのやり方で大事な人を守るために。



村は、風が吹くだけ。

新たな獲物を求める二人の男女の姿を見守るように。

静かに、静かに、ただ吹くだけ。

228火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:41:18 ID:49ozBZrA0
一方、少年エルクには「残り時間」は無かった。
何かしたくて、でも何も出来なくて。
そうやってまごついている間にエルクの大切な人は、もう居なくなってしまった。
何も出来ないまま大切な人が死んでいった、自分の無力さが嫌になった。
今でも何かしたくて、でも何も出来なくて。

「ちくしょう……ちくしょう……」
口が開いても出てくるのは後悔の言葉たち。
感情の矛先を求めて、エルクは走る。

ひたすらに、ただひたすらに。

スタートもゴールもない、たどり着くべき場所すら分からない。
そこに何があるのかも、何が待っているのかも分からない。
分からないことだけ、分からないことしかない。

それでも、走るしかないのだから。



どれぐらい走っただろうか、そんなことも分からなくなるほど走った頃。
目の前には視界を覆うほど巨大で、とても不自然な状態の船があった。
何かしたい、とにかく何かしたい。
行動欲に満ちたエルクは、迷うことなく船の中へと入っていった。

――――ああ、この時にエルクは「終わり」へとたどり着いていたなんて。
      そんなことに気がつくわけも無くて。



船の中はエルクが思っていたより明るかった。
陸に乗り上げているだけで、船自体の機能は生きたままだった。

それよりも何よりも、エルクは気になっている。
「微かに血の臭いがする、怪我した奴が通ったかあるいは……」
もう一つの可能性を考える、それは最悪のパターンだ。
今のエルクとしてはどちらでもいい、とにかく間に合いたかった。
自分の行動が遅かった所為で、誰かが死んでいくのが嫌だった。
怪我人がいるなら出来る限り助けてやりたい。
最悪のパターンなら最悪の要素をぶっ潰す。
そんなことをずっと考えながら歩いているうちに、通路の先に人影がうっすらと浮かぶのが見えた。
その人影に対し、何の恐怖心も持たずに突っ込んでいくエルク。

そして曲がり角のあたりでその人影をついに視界にくっきりと捕らえた。
その人影はやや足早に船の一室に入って行った。
しっかりと後を追うエルク。ハンター稼業のおかげで尾行のようなことには多少慣れている。

――――このときから、エルクは一つの疑問を胸に抱えていた。

部屋は制御室のようだった。
様々な計器が所狭しと犇めき合い、船の状態を指し示している。
……もっとも、その計器たちも今はせかせかと動き回ることは無いのだが。

「なあ、アンタ。何してんだ?」
出来る限りの警戒をしつつ、エルクは計器の前に立つ金髪の人物に話しかける。
計器の前の人物は、ゆっくりとエルクのほうへ振り向く。

「ん? ああ、何かの暇つぶしになるかと……思ってね。
 それより、誰かにモノを尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀じゃないのかい?」
金髪の男性のキザったらしい言動に少し苛立つエルク。握り拳を硬くして、その場をなんとか堪える。
「エルク、俺の名前はエルクだ。で――」
「ジョウイ、私の名前はジョウイだ。ジョウイ・アトレイド。よろしくな、エルク君」
差し出された手に対し、渋りながらも握手を交わすエルク。
爽やかすぎるジョウイの笑顔が妙に苛立ってくる。

おかしい、何かがさっきからおかしい。

エルクの心の中に一つだけ、疑問点があった……。

229火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:41:48 ID:49ozBZrA0



「急げアズリア! 早くしねえとエルクの野郎がどっか行っちまうぞ!」
「分かっている! これでも十分急いでいるつもりだ!」
自らスピードを上げるといっても、やはり衣服がスカートである以上限度というものがある。
ズボンとスカートでの全力疾走。 どちらが早いかは言うまでも無い。
何度もスカートを引き裂きそうになりながら、ギリギリの所で立ち止まる。
度々石に躓き、草に絡まり、足を掬われても。
泥にまみれ、足には無数の擦り傷がつき、頬から血を流しても。
アズリアは決して立ち止まらず、まっすぐ前へと駆けていた。

ほんの僅かな不安を胸に抱いて。アズリアと松はひたすらにエルクの後を追った。

何故か、エルクの元へ向かえば向かうほど胸の不安が膨らんでいく。
一歩踏み込むたびに、一回りずつ大きくなっていく。
まるで綿菓子のように。ゆっくりと確実に大きくなる。

不安がアズリアの胸を埋め尽くしたときだった。
大きな船の前にたどり着いた。
松が何かを言っていたが、全く聞こえない。
気がつけば船の中に入って大声で叫んでいた。
エルクの名を、船全てが揺れるほど。

そうしないと、不安で押しつぶされそうだったから。

230火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:42:31 ID:49ozBZrA0
握手を終えた後、一息ついたエルクはなにやらブツブツと言いながらもジョウイを見ている。
ジョウイは爽やかな笑顔を絶やさずにエルクを見つめている。
それがひどく不快で、エルクの表情はさらに険しくなった。

「ところで、もう一人はどこにいるんだ?」
エルクが唐突に切り出した。
「…………何のことかな?」
何を言うんだと驚愕の色を浮かべるジョウイ。
すぐに平常心を繕うが既に遅かった。
その表情をエルクは見逃さずに拾う。
「ま、間違いならすいませんでした……と言うつもりだったんだけどねえ。
 どうも、図星のご様子みてぇだしな」
ゆっくりとエルクは剣を抜き、ジョウイへと突きつける。
剣を突きつけられてなおそれでもジョウイは動かない。
「答えろ、もう一人はどこにいる? そして何故隠す必要がある?」
切っ先がジョウイの喉元に少し潜り込んで来る。
少しでも動けばジョウイの喉は掻っ捌かれるだろう。
その絶望的な状況でジョウイは。

「バカね、もう隠す必要なんてないのよ」

エルクに歯を見せ付けるように笑ったのだ。

その意味を理解するのに一秒もかからなかった。
背後から突如として迫った気配を察知したからだ。

ジョウイの喉元から剣を引く動作。
2秒。

振向きざまに切り返す動作。
3秒。

襲撃者の姿を確認する動作。
4秒。

ああ、暗殺者には十分すぎる時間だった。
剣を引く動作の時点でもう対象に肉薄していたのだから。
考えもしなかった唯一の誤算はそう。



今回のターゲットは「精霊に守られていた」事だ。
心を裂くはずのナイフは空しくその加護に弾かれ。
絶対に食らうはずのなかった斬撃を貰ってしまう。

暗殺者の「作業」は至って美しく、そして簡潔だ。

しかし、機械と同じように「たった一つがおかしくなる」だけで全てが狂う。
そう、自身の安全さえも狂ってくる。

「やっぱり……出やがったか。 炎の精霊が守ってくれなかったら流石に危なかったぜ……」

炎の精霊の加護を受けたエルクだからこそ使いこなせる、ありとあらゆる攻撃を無効化する「インビジブル」

しかし、エルク自身は感じていた。このインビジブルを使う感覚の違和感を。
普段より魔力の消費が激しく、今の攻撃を防ぐ為の仕込みのせいで殆どの魔力を持っていかれてしまった。
恐らくもう使うことは出来ない。だが、二人目を表舞台に引き摺り下ろし深手を負わせることに成功したのだ。

231火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:43:45 ID:49ozBZrA0
「一つだけ、聞きたいことがある」
エルクは斬り付けた暗殺者の首筋に炎の剣を突きつける。
もちろん、背後への警戒を忘れてはいない。
ジョウイはエルクの気迫に押されているのかどうか、全く動く気配を見せない。

「今まで何人殺してきた」
暗殺者は下を向いている。

「その中に金髪で俺ぐらいの女はいるか」
暗殺者は下を向いたままだ。

痺れを切らしたエルクは暗殺者に蹴りを入れる。
そしてあと少し動けば首が斬れるといったところまで剣を突きつけ、暗殺者の頭を鷲づかみにする。
「答えろっつってんだよ!!」

それでも、暗殺者は動かない。
ついにエルクは暗殺者の首を切り落とそうとする。
が、それも済んでのところでとまる。

「ねえ、盛り上がってるところ悪いんだけど」
聞きなれた声が後ろから聞こえる。
毎日欠かさず、それも常に自分の周りで耳にする声が聞こえる。

「忘れてほしくないな、アタシのこと」
振向いて斬りかかろうとした剣が不意に止まる。
Why? それ何故か? 答えは簡単だ――――

「お……れ?!」
今度はエルクが驚愕の表情を浮かべる番だった。
斬りかかった際の返り血も、そっくりそのまま鏡写しのように「自分」が立っていたからだ。
そして首をはねるつもりで切りかかった剣は、見事に首元で止まっていた。

まるで自身のインビジブルのように。

相手の特技を模倣することの出来るモシャス。
特技さえ分かれば、加護などはどうでもいい。
そこまで「模倣」すれば良いのだから。

幸いにも魔力という問題点はフロリーナが残した支給品である祈りの指輪によって解消されてしまっていた。
不運にも自分の危機を救った技で自分がもう一度危機に陥ってしまったのだ。

そして、その時に生まれた隙を暗殺者は見逃さなかった。
再度ナイフを手に取り、エルクへと肉薄する。
そして、綺麗な弧を描きエルクの心臓へとナイフを突きたてる。

一連の動作、全てが重なった。

232火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:44:26 ID:49ozBZrA0
炎の精霊は、二度は守ってくれなかった。
エルクの心臓は無常にも抉り取られてしまったのだ。
勢い良く血を噴出し、エルクは前のめりに倒れる。

「やれやれ、ずいぶん危なかったじゃない。
 ……って、助けてもらっといてだんまりのつもり?」
エルクの姿をした何かが暗殺者へと駆け寄る。
「……別にお前の助けなど必要なかったがな」
「そう? にしては焦ってたみたいだけど?」

エルクにとっては至極どうでもいい会話が耳に入ってくる。
悔しかった、ただただ悔しかった。
一瞬の隙を突いて攻撃したはずなのに、一瞬の隙を突かれたのは自分だったのだ。
あの時暗殺者を殺していれば、ジョウイが疑惑の表情を浮かべた時点で切りかかっていれば。

――生きているやつに止めを刺さないのは傲慢なんだそうだぜ?

ああ、雷を操るハンターが言っていた。そんな言葉も聞いたことがある。
所詮自分は甘かった、そういうことなのだろう。

その事実が、悔しくて、悔しくて。

「で、しっかり殺したんでしょうね?」
「……心臓を抉られた人間が生きていられると思うか」
「あーはいはい、すいませんでしたね」

このまま、何も出来ずに死んでいくのか。
自分は、結局何もしないで死んでいくのか。

あの世のリーザになんて言えばいいのだろうか?
全く持ってカッコがつかない。

そんなことを、考えているときだった。

233火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:44:57 ID:49ozBZrA0



「エルクーーーーーーーーーーーーー!!」

船を揺るがしかねない咆哮とも取れる叫びが、エルクの耳に入る。
エルクはこの声を聞いたことがある。間違いない、アズリアの声だ。
自分の後を追ってここまで来たのだろう、しかしアズリアだけではこの暗殺者達の餌食になってしまう。

暗殺者達は今にも動き出そうとしている。
アズリアを、狩りに行くために。
「たの……む、に……げろ。 アズ、り、あ」

また、何もせずに終わるのか?
「もう……いヤだ」
ミリルも守れなかった。
「おれを……だレだと……おもってあが……る」
リーザも守れなかった。
「俺は……お、れは!!」
アズリアも守れない?

もう沢山だった。

「怒りの炎よぉぉぉぉおおおお!!!」
エルクの体が灼熱を纏い天空へと浮かび上がる。
そのエルクの体に共鳴するかのように炎の剣が輝く。
突如浮かび上がったエルクの体に暗殺者二人も戸惑いを隠せない。
「す……べ、てを……!!」
エルクの手がゆっくりと動く。
そのエルクに攻撃を仕掛けようとするが、既に遅かった。
「の、みこ、めぇぇぇぇぇええええええええええええ!!」
エルクが輝く、全ての視界を白く塗りつぶすほどに輝く!



大気は爆ぜ、炎は猛り、風が唸る。
船の全てを包み込み、目に付くもの全てを燃やし尽くしていく。



船は再び、海へと浮かんだのだ。



轟々と熱を上げる、炎の海へ――――

234火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:45:27 ID:49ozBZrA0
「……厄介なことになったわね」
あたり一面が炎に包まれ、立ち尽くしてしまったシンシアとジャファル。
「脱出しようにも、行き道がないわね」
肩をすくめるシンシアをよそに、基本支給品の水を全身に振り掛けるジャファル。
「四の五の言ってる暇があったら脱出するぞ」
ジャファルは心配するシンシアをよそにもう一つのナイフ、氷の刃を振り回しながら道を作っていた。
氷の刃の冷気は微弱なる物だ、猛り狂うエルクの炎は弱まらない。
それでもジャファルは出口へと向かっていった。

「……私は無敵になれるからいいけど、ね」

一瞬だけ、シンシアの脳裏に過ぎった考えがある。



深手を負ったジャファルを、ここで殺してやろうか?



【A-8 座礁船  一日目 昼】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:深めの斬り傷
[装備]:アサシンダガー@FFVI
[道具]:不明支給品0〜1、アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:船から脱出、可能なら侵入者の抹殺。
2:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
3:いずれシンシアも殺す。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A時点から参戦

【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:モシャスにより外見と身体能力がエルクと同じ
    肩口に浅い切り傷。
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFIV、
[道具]:ドッペル君@クロノトリガー、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE、祈りの指輪@DQ4
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:船から脱出、可能なら侵入者の抹殺。
2:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
3:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す
4:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
5:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
[備考]:
※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。

235火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:46:40 ID:49ozBZrA0



「エル……ク」

アズリアがエルクの名を叫び終わった後、一瞬で辺りが炎に包まれた。
コレほどまでに大規模な炎を出せるのはアズリアが知るうちでは今はエルクしかいない。
そしてこの炎からは何か意思のようなものを感じる。
大雑把にしか捉えられないが……エルクを少しだけ感じる。

「待て! アズリア!!」

気がつけばアズリアは炎の中を駆け出していた。
エルクが生きている事を願って、船の中を駆け出したのだ。
そしてそのアズリアを追う形になった無法松。
少し反応が遅れた所為でアズリアとの距離が開いてしまった。

「冷静になれよ……クソっ!!」

炎の勢いからして燃料タンクに引火するのは時間の問題だ。
船の機能がさっきまで生きていたことをみると、燃料はまだ入っている。
つまり、引火すれば全てが終わる。
仮にエルクが生きていたとしても、全てが終わる。

「アツくなるのは分かるけどよ……!!」

松は追う、ただひたすらに炎を掻き分けアズリアを追う。
最悪の、最悪のパターンを避けるために。

【A-8 座礁船  一日目 昼】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6、不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考]
基本:打倒オディオ
1:アズリアを止める。
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。
3:第三回放送の頃に、ビクトールと合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナの仲間とビクトールの仲間とトッシュの仲間について把握。ケフカ、ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
 ジョウイを警戒すべきと考えています。
※アズリアとはまだ情報交換をしていません。

【アズリア@サモンナイト3 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ロンギヌス@ファイナルファンタジーVI 、源氏の小手@ファイナルファンタジーVI(やや損傷)
[道具]:アガートラーム@WILD ARMS 2nd IGNITION、不明支給品1個(確認済み)、ピンクの貝殻、基本支給品一式
[思考]
基本:力を合わせてオディオを倒し、楽園に帰る。
1:エルクを探す。
2:シュウ、イスラ 、アティと合流。合流次第、皆を守る。
3:アシュレーは信頼できそう。
4:トッシュを警戒。
5:『秘槍・紫電絶華』の会得。
[備考]
※参戦時期はイスラED後。
※軍服は着ていません。穿き慣れないスカートを穿いています。
※無法松とはまだ情報交換をしていません。

236火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:47:17 ID:49ozBZrA0





よう。

カッコワリーことになっちまったかもしんねーけどよ。

最後の最後に、何か出来たんじゃねーかな。

三度目の正直ってやつじゃねえの?

……だっせえな、俺。

ミリルとリーザに、なんて言えば良いんだろうな。

まあ、後で考えるか。

【エルク@アークザラッドⅡ 死亡】

※炎の剣は砕け散りました。
※座礁船が大炎上しています。かくれみの@LAL、データタブレット@WA2、オブライトの支給品が炎に巻き込まれました

237火鳥「フレアバゼラード」 ◆FRuIDX92ew:2009/08/29(土) 00:47:47 ID:49ozBZrA0
投下終了です。

いろいろあってこんなモノになってしまいましたが、指摘等お待ちしております。

238 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 22:56:55 ID:cUGw/3ZQ0
いくつか気になるところがあるので仮投下します

239たったひとりの魔王決戦  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 22:57:52 ID:cUGw/3ZQ0
風が吹いていた。
地の底に引きずりこまれるような重く、不気味な風だった。
これが黒い風というものなのだろうか。
ルッカは対峙する銀の髪の男へと率直に問いかける。

「ねえ、あなたには今も聞こえるの? 黒き風の音が……」

黒い風。
類稀なる魔力を持つ男が凶兆を――多くは遠からず誰かに死が訪れることを予知した時に用いる表現。
転じて男が自らの手を汚すときにも行う死の宣告。

「……ああ」

故にその返答は男が自らと同じ称号を持つ絶対者が開いた悪魔の宴に興じている証拠に他ならない。
事前に聞いていた情報もあり、少女は動じることなく――少なくとも表向きは――頷いた。

「検討はついているけど理由、教えてくれないかしら?」
「…………」

他者に運命を握られることを嫌い、理不尽に暴虐をもって抗ってきた男が、大人しく他人の掌に乗せられている理由は唯一つ。
そのことを聡明な少女が推測できないはずがない。
男もそれを分かっているからこそ、数瞬の沈黙のあと、口を開いた。

「姉上を、サラを取り戻すためだ」
「……そう」
「ねえ、ジャキ。一つ聞いて欲しいことがあるの」

ルッカは切り出す、男を説得しうる研究中の一つの理論を。
それは極小ブラックホールを利用しての、“時のたまご”。
超重力の一点を自転させることにより、時空をすいよせ、全てをのみこむ特異点をリング状に変形させる。
これを次元転移のためのゲートとして利用すれば、異なる時空との行き来が可能となることを。
要点を絞った簡素な説明を聞き終えた魔王の内で一つの謎が解消された。

「……擬似ブラックホールを発生させられないのはそういうわけか。大方オディオの仕業だろうとは踏んではいたが」
「ブラックホールを!? そうね、魔力で生じさせたものに置き換えても理論は成り立つわ……」

魔王、しいては他の参加者を箱庭より開放する可能性をオディオは見逃さなかったのだ。
用意周到なオディオに悪態を吐きたくなるも、一先ず後回しだ。
ルッカはまだ魔王から説得自体への答えを聞いていない。

「それで? 言ったとおりこの理論が実用化されればオディオを頼らずともサラさんを助けにいけるかもしれないのだけど、まだ殺し合いを続ける気?」
「かもしれない、だ。今のところは机上の空論なのだろう。
 それに理論的には間違っていなかったとしても無数の時間軸や平行世界の中から一人の人間を探し出せる可能性は限りなく低いのではないか?」
「……否定はしないわ」

科学の限界。
悔しいけれどそれは確かに存在する。
いや、限界があるのは科学では無くそれを扱う人間の方か。
時の卵さえ推測の領域でしかない今のルッカは魔王の言葉を否定できなかった。
無論嘘をつくこともできたが、それはルッカの性格が、科学者としてのプライドが許さない。

「ならば答えは決まっている!」
「……分かったわ。じゃあその前にもう一つ。これ、返しておくわ」

袂を別つと今一度宣言した己に向かって放り投げられた何かを、魔王は大して警戒することなく右手でキャッチした。
ルッカの性格からこの状況でだまし討ちをするとは思えず、危険物では無いだろうと判断したからだ。
例え害をもたらす物でもどうにかできるという自信もあってのことだったが。
その魔王の顔が投げ寄こされた物の正体を確認して歪んだ。

240たったひとりの魔王決戦  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 22:58:25 ID:cUGw/3ZQ0
「これは、サラの……」

手の中に納まったそれを魔王が見間違えるはずは無かった。
虚空へと消えた姉が唯一つ残してくれたもの。
全てを奪ったラヴォスへの憎しみの炎を絶やさんがため、守ってくれると言ってくれた大好きな姉へと縋り付こうとした幼子の弱さ故に。
見知らぬ時代、人ならざる魔族の中での過酷な日々の中でいつ何時も手放さず身に着けていた首飾り。

「何のつもりだ?貴様ならこのペンダントに込められた姉上の力は重々承知しているだろう。それを敵である俺に渡すなどと」

姉は言葉通り傍におらずとも魔王のことを護ってくれた。
ペンダントに込められた祈りの力――毒や魔封といった災厄を撥ね退ける護りの力。
共に攻撃魔法を主体とする魔王とルッカが戦う上では確かに戦況に影響を与えない道具だが、有用な道具であることに変わりは無い。
敵となった相手へと無条件で渡すには余りに惜しい代物だ。
だというのに女は言う。笑みを添えて自分の行いになんら悔いはないとばかりに。

「関係ないわ。あなたが敵であることと、誰かが大切にしていた家族との思い出の品を返すこととはね」
「……そうか。貴様は、貴様たちはそういう奴らだったな。いいだろう、くれてやる」
「これって!」

今度はルッカが声を上げる番だった。
見るからに強そうな、その名もずばり究極のばくだんを5つたて続けに渡してきたのだ。
魔王にとってのペンダントとは違いルッカにとって思い入れのある物ではない。
しかしこれから始まる戦いにおいては間違いなくルッカの心強い戦力となる。

「一体いつからこんなにもサービスがよくなったのよ、魔王」
「ちょうどいいハンデだ。それに――」

それでも礼としては全く釣り合っていないくらいだからな。
ほんの僅かに笑みさえ零して見えたのは錯覚か。
そこに少しでも自分達との旅で培った何かがあってくれればと今から殺す相手に思ってしまったことにルッカは苦笑する。

「そう、なら遠慮は要らないわね。サイエンスを舐めてると痛い目見るわよ?」
「構わぬ。俺と同じ過ちを犯したくないのなら……、クロノを守りたいのなら……」

ペンダントを強く握り締め、友ではなく、されど敵でもなかった少女へと魔王は告げる。

「全力で来い、ルッカ・アシュティア。現代科学の担い手よ!」

空気中の水分が一瞬で凍結され魔王の背後にいくつもの氷柱が浮かび上がる。

「行くわよ魔王! カエルには悪いけどここでわたしがあなたを倒すわ」

ルッカの左手から迸った魔力が空気中の酸素を取り込み業火と化す。

「失ったものを取り戻すため」「もう二度と失わないために」

氷と炎。
取り戻すためと失わない為。
二つの相反する力と想いが

「「……勝負っ!!」」

森の木々を吹き飛ばしつつ中空で爆ぜ激突した。





少女を押しつぶさんとしていた氷塊が炎の嵐に飲み込まれ殆どが蒸発する。
男を焼き払おうと牙を剥いた炎もまたその時点で全てのエネルギーを失う。
二つの力の消失と同時に引き起こされたのは大量の蒸気の瀑布。
固体から一気に気化させられた氷の成れの果ての中煌く物があった。
水滴の散布に伴い現れるにはこれほどなくお似合いの虹という名を冠した剣が陽光を反射した光だった。
ジョウイ達を襲った時同様、アイスガを盾に魔王自身もまたルッカへと駆け出していたのだ。

241たったひとりの魔王決戦  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 22:59:02 ID:cUGw/3ZQ0
「……っ!」

だが己が魔法を囮に次の手を打っていたのは魔王だけではなかった。
エイラやクロノ程でもないが魔王が自分よりは遥かに接近戦に強いことはルッカも承知済み。

「ほぅ……、早くもここで使ってくるか」

魔王の進路を塞ぐように設置されていたのは数分前までは彼の持ち物であった究極のばくだん。
マジックバリアを以ってしても軽減できない対魔王の切り札にもなる道具を惜しむことなくルッカは使用したのだ。
気付かれても避けきられないように間を開けて投じられていた爆弾は勿論火を宿し爆発寸前の身。
咄嗟にダークボムで爆風を相殺しようとするも、一発の魔法では二つ分の威力は防ぎきれない。
マントで全身を包むように守ったことで飛散した破片による被害は抑えられたが、足は完全に止まってしまっていた。
その隙をルッカが逃すはずがない。

「くらいなさい、魔王!」

格好の的へと無数の矢の雨降り注ぐ。
常に使う鎌とは違い回転して弾くだけの柄の長さを持たない虹では到底払いきれない。
魔王は剣による迎撃を諦め、魔炎によって乱射された矢の一群を焼き払う。
それだけではない。
ルッカお得意の機械仕掛けの武器に魔王もまた対策たる一撃を返す。
古代ジール王朝で生まれた為魔力で動かない機械には詳しくない魔王だが、クロノ達との旅で一つ知ったことがある。

――精密機械は電気に弱い!

「……サンダガ」

天破雷咆。
駆ける魔王を中心に広がった幾条もの雷光が獲物を求め爪を伸ばす。
素早く金属でできたオートボウガンを上空に投げ捨て避雷針代わりにし寸前のところで回避するも、これでルッカは丸腰だ。
魔王の進軍を阻むものも、距離を詰めた魔王の刃を遮るものもない。

「……!!??」

筈だった。
刃が届く距離にルッカを収め、剣を振るった魔王の表情に明らかな驚愕が浮かぶ。

「……正気か?」
「マッドサイエンティストってのも悪くはないけれどね。あいにく私はいつでも正気よ!」

速度が乗り、止めることも叶わない刃は。
ルッカが剣を受け止めるために取り出した3つ目の究極の爆弾を断ち切る!
超至近距離の爆発から身を守るためにバランスを崩してでも大きく後ろに跳ぶことを選ぶしかなかった魔王に対し、
事前にプロテクトを唱え備えていたルッカの動きは早かった。
究極の爆弾はあくまでも当初の想定外の戦力。
真に対魔王にと当てにしていた兵器は別にある。
爆風の勢いに逆らうことなく吹き飛ばされたことで魔王と距離を取ると地面を転がりならデイパックに腕を入れ真の切り札を取り出した。

「さあこれからがサイエンスの真髄よ!」

聞こえた声に嫌なものを感じた魔王は、直後、勘が間違っていなかったことを理解する。
ルッカのデイパックから響くのは小さいなれど明らかに機械の駆動音。
開けられた蓋から伸びるコードの先には共に旅したロボの胸に搭載されていた放電兵装を思わせる17の電極。
魔王が知る由もないが、それは彼の生まれた世界とは異なる世界における未来の時代において誕生した『学び』『考える』ロボットに内装された究極の武器。
安易な使用を諌める為に装着者のOSを極限までに更新し、高度な判断の元初めて使用が許可される程だといえば、その危険性が分かるだろう。
無論機械ならぬ人の身では17ダイオードの付属ソフトの恩恵は受けられない。
が、問題ない。
天才ルッカ・アシュティアは十分すぎるほどの知恵と知識、そして何より優しさ(HUMANISM)を持っているのだから。

「蒸気機関スイッチオン! エネルギー充填完了!」

本来なら自立小型ロボット――キューブの内部電力で賄うはずのエネルギーをフィガロ城で作ったバッテリーから搾り取る。
潜行中に蒸気機関が壊れた時用の予備機関から作ったものな為使い捨て式だが、一度限りの使用なら問題ない。
5つの世界の技術が入り混じった集いの泉を調べて得たノウハウを以ってすれば異なる規格の二つの機械を合一させることも朝飯前だった。

バッテリーが唸りを上げ、17ダイオードの砲身が展開される。
整流作用により迸るは過剰なまでに生み出された電気の渦。
圧縮され、束ねられ、方向性を与えられた雷はロボのエレキアタックさえ上回る電荷量へと到達する!

「HUMANISMキャノン、いきなさい!」

号令とともに砲身を溶解しながら解き放たれるは、天より降り注ぐ陽光さえ染め上げる圧倒的な白。
大地を切り裂く雷の槍は少しでも威力を減衰させようとして唱えられた魔蝕の霧を易々と突破し魔王へと突き刺さる。

242たったひとりの魔王決戦  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 22:59:56 ID:cUGw/3ZQ0

「ぐがっ!?」

然しもの魔の王とて全身を一瞬にして駆け巡った高圧電流には耐え切れず膝を着く。
血液が沸騰しつくし、神経が残らず断ち切られたかのような衝撃だった。
目の前に火花が散る錯覚を起こしながら、魔王は身悶える。
否、錯覚ではない。
魔王の眼前には確かに破滅を呼ぶ赤い焔が集い始めていた。
ルッカの誇る最強魔法の予兆だと察知しても、感電した身体は動いてくれず痙攣するばかり。
詠唱の完了を妨害するどころか避けることも叶わないと判断し自由を取り戻せば即座に迎撃の魔法を唱えられるよう精神を集中することに努める。

それもまたルッカの計算の範囲内。

「今まで随分魔力を使ってくれたわよね? そんな魔力の少ない身で私のフレアを防げるかしら?」

全てはこの時のために。
離れた場所を攻撃するのに魔王は武器を使わない。
己が魔法の威力に絶対の自信を持っているからだ。
そう、威力。
確かに魔王の魔法はどれも高い破壊力を誇るものばかりだ。
が、その分一撃一撃が要する魔力も多い。
星を喰らう化け物、ラヴォスへの復讐の為だけに力を磨いてきた魔王は常に高みだけを目指して生きてきたのだら。
そこが付け入る隙となった。
無理に無茶を重ね己が魔力の消費を抑えつつ魔王に魔法を何度も唱えさせることに成功。
ジョウイから聞いた話を考えるに、ルッカと出会う前にも数度魔王は戦いをこなして来たことになる。
特にリルカという少女に対しては虎の子のダークマターまで使用したという。
それから後休憩したことを入れても恐らく今の魔王にはぎりぎり一発ダークマターを撃てるだけの魔力しか残っていまい。
そしてダークマター単発ではフレアには届かない。
魔法理論に加え、熱核融合の科学理論も取り入れたフレアにはその名に恥じぬ威力がある。
万全の状態ならファイナルバーストにそうしたようにマジックバリアを以って耐え抜けたろうが、今の彼は満身創痍。
ルッカの科学によるものだけではない。
ブラッドの拳が、リルカの魔法が。
魔王に刻んだARMSの意思がそこには残されていた。

「その怪我……。あなたが傷付けた人達が残していったものね」

苦悶の中、心を落ち着かせることに必死だからか、単に答える気がないだけか。
無言のまま動かない魔王を見下ろしルッカは思う。
もしも……もしもあの時、あの岬で。
クロノを失った悲しみのままに魔王を討っていれば一人の少女の命は失われなかったのではないのかと。
今、止めの一撃を放つことに涙なんか浮かべることもなかったろうにと。
知恵の実を食したアダムとイヴは楽園を追われた。
変えられないはずの過去を覆せると知ってしまったからこそ、優しい少女は苦しむ。
苦しんで、けれども得たものから目を逸らさず前を見る。

「なら、覚えておきなさい、魔王。あなたは敗れるのよ。私と、その人達に!」

全天に一際強く輝く魔を焼き払う神聖なものとされてきた星。
本物のそれとなんら遜色の無い無限熱量が空気を喰らいながら魔王へと迫る。
天と地の二つの太陽に照らされれば、いかな魔族といえど無事ではいられまい。

されど忘れる無かれ。
今、ここにいるのは太陽神殿の主が纏う炎さえ剥ぎ取る冥の力を従えし光の民だということを!

それは、大きなミスディレクション。
なまじラヴォスに魔力を吸い取られ弱体化した魔王と長く旅していたからこそ起きてしまった思い込み。
サンダガ、アイスガ、ファイガ、ダークボム、マジックバリア、ダークミスト、ブラックホール、ダークマター。
果たしてそれだけだったであろうか?
かって一度だけ少女が直接戦った魔王の手札は。
否。
足りない、魔王を魔王たらしめていた力はまだ他にもある。
魔王との戦いにおいて、特にルッカとマールが苦しめられた魔法があったではないか。
その力の名は――

「……バ、リア、チェンジ」

フレアが着弾する刹那苦しげに響いた言葉の意味を理解してルッカは唖然となる。
周囲の世界から色が抜け落ち、漆黒の闇が腐食をもたらす。
だがこんなものはこの魔法からすれば余波に等しい。
バリアチェンジとはその名の通り強力なバリアを張る魔法なのだ。
しかも万能性には欠けるがバリアの効果はマジックバリアよりも遥かに上だ。
何せ敵の魔法の威力を軽減するどころか、術者の体力に変換し吸収するのだから。

243たったひとりの魔王決戦  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:00:42 ID:cUGw/3ZQ0

「……これで仕切りなおしだな」

フレアの光が収まり、冥府の闇が晴れた森の中。
HUMANISMキャノンによる感電が無かったかのように立ち上がる魔王の姿を認めてルッカは舌を打つ。
仕切りなおし?
冗談じゃない。
確かにここまでやってきたことは無駄ではなかった。
魔王の魔力の大半を消耗させることに成功し、フレアを吸収した割には魔王の傷は大して癒えてはいない。
対してこちらは体力、魔力ともにまだまだ余裕がある。
至近距離で爆発物を扱ったことで服はぼろぼろで、眼鏡にも皹が入っているが魔王に比べればずっと軽症だ。

それでいながら戦いは完全にルッカの詰みだった。

失態だった。
殺し合いに参加された者達の時間軸の違いに気付けたのなら魔王もまたその例に当てはめて考えるべきだった。
自分達と旅していた時、魔王はラヴォスに力の多くを奪われ、本調子ではなかった。

その力が長き時をかけて回復したことで、或いはそもそも力を奪われる前の時間から呼び出されたことで使える可能性も考慮に入れておくべきだったのだ。
『仲間だった魔王』を殺す。
戦いたくないと甘える自分を説き伏せようと強く心に誓ったことが裏目に出た。
ルッカが立てた対策は無意識のうちに仲間だった頃の魔王の能力を基準にしたものと化してしまっていた。

バリアチェンジにも弱点が無いわけでは無い。
魔王ほどの天賦の才をもってしてもバリアを完璧にすることはできなかった。
火、水、天、冥。
一度にそれら全ての属性の魔法を防ぐことはできないのだ。
しかしその弱点も、火の魔法しか使えないルッカからすれば突きようが無かった。
ルッカが魔王のように複数の属性魔法を扱えさえできれば、せめて火属性以外の力を持つ仲間と共に挑んで居れば。
話はまた違ったかもしれない。
詮無きことだ。
誰も巻き込まないようにと止めようとした青年の手を振り切り一人で魔王と戦うことを選んだのはルッカなのだから。

もっとも、

「そうだね、仕切りなおしだ。ここからは君対僕とルッカの一対二になるんだから」

振り切られた青年がそのまま言われたとおり引き下がったのかは別の話だが。






え、と少女が声の主を確認するよりも早く薄暗い夜色の障壁を漆黒の刃が穿つ。
刃はすんなりとバリアを通り抜け魔王に到達。
迎撃せんと振るわれた虹に叩き落されるよりも炸裂し黒き衝撃波となりて魔王の血肉を抉る。

「魔女の連れの小僧か……。どうだ、その後の調子は?」
「最悪だよ。君に心置きなく黒き刃の紋章を味わってもらうにはちょうどいいくらいにね」
「ジョウ、イ? あなた、どうして」

244たったひとりの魔王決戦  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:01:16 ID:cUGw/3ZQ0

どうして、か。
魔王はここで倒しておくべき相手だから。
ビッキーを待とうにも一箇所に留まり続けていては情報収集にならないから。
損得勘定に基づいた理由がいくつも思い浮かんでは消える。
そのどれもが少なからずジョウイに魔王との再戦を選ばせる要因となったのは事実。
けれど最大の理由はもっと別の、一国の王としては失格な個人的感情によるものではなかったか?
自分とジョウイを庇い死んだナナミの姿が。自分を逃がすために死力を使い果たしたリルカの姿が。
ルッカに重るビジョンが浮かんでしまったからこそ、迷いの果てに追わずにはいられなかったのではなかったか。

『甘いよ!!!!!!少年!!!!!!!!!』

初めてすすんで手にかけた人の言葉がジョウイの脳裏をかすめる。
その通りだ。
いざという時に甘さを捨てきれず詰めを誤ってきた。
ただ、それでも。
その甘さを含めた全ての選んできた道に後悔だけはしてこなかった!

「いくよ、ルッカ。魔王を、ここで倒す!!」
「そうねよ、私にはフィガロの二人を探して首輪を外すって大仕事も残っているもの!」

命を削ることへの躊躇いを捨てたジョウイの手の甲で黒き刃の紋章が歓喜を上げる。
いかな属性にも染まらず赤と黒のみで形作られた刃は易々と魔王の障壁を引き裂いていく。
意気を取り戻したルッカも超過駆動により壊れたHUMANISMキャノンを魔王へと投げつける。
魔王もやられるがままではない。
掌から爆発的な濃紺の閃光を迸らせ、

「魔王ーッ!!」
「……どうやらつくづく今日は縁のある人間に出会う日らしい」

それをそのままルッカとジョウイの数十メートル後方、声を荒げ走り来る二人目の乱入者へと撃ち込む。

「カエル!?」

魔王への警戒を怠らないままルッカの声に振り返ってみれば後数メートルのところにそのものずばり剣を構えた蛙の姿が。
様々な亜人種が暮らす世界出身のジョウイは異様な容姿をすんなり受け入れる。
彼が注目したのはもっと別の部分。
魔王の名を呼ぶ声に込められた怒りを伴った殺気。
姿を見るや否や狙いを変えてまで魔王が攻撃したことも大きい。
二人の間に何らかの因縁があるのは誰の目にも明かだ。
加えて、事前にルッカから仲間の名前としてカエルのことを聞いていたのだ。
故にカエルの登場を魔王と戦う上で味方が増えたと喜んでしまった。

――甘いと、裏切り殺した人の言葉を思い出したばかりだというのに

「……っ!? ジョウイ、危なっ!」

ジョウイはデジャビュを感じた。
一人の少女が降り注ぐは数多の死の雨からジョウイを庇わんと覆いかぶさり代わりに全弾被弾する。
押し倒され地に伏せたジョウイに新たな影が落ちる。
咄嗟に上に載ったままの少女を抱きしめ、地を転がる。
直後、ジョウイが元居た位置に銃剣が突き刺し降り立つは異形の剣士。

「貴様、何のつもりだ……?」
「……俺と手を組め、魔王」

仲間だったはずの少女を撃ち貫いたカエルはそれが答えだと怨敵の疑問に提案で返す。
カエルのことをよく知る魔王にはにわかに信じがたいことであったが、続く言葉に納得がいった。

「俺は最後の一人になる。エイラを蘇らせ友と生きた時代を護る!」

ほんのかすかな過去の変化で未来が大きく変わることを、ルッカやカエルほどではないが魔王も多く見てきた。
他ならぬ魔王の差し向けた部下により先祖が殺されかけたせいで存在そのものが消えそうになったとおてんばな王女から文句を言われたこともある。
エイラの死によるガルディアの消失。
カエルの心を揺さぶった最悪の未来とそのことへの葛藤を魔王が想像するのは難しくなかった。

「……悪く無い話だ」

疑念さえ晴れてしまえばカエルの提案は魅力的なものだった。
遺跡で考えていた有用な仲間、その条件を見事にカエルは満たしている。
それにカエルの性格からして自分との決着は真っ向からつけに来る。
騙まし討ちをされないというのは精神的にありがたい。
組みたがっているのも、単なる戦力増強や余計な消耗の回避だけではなく、他の誰かに魔王を討たせない為だろう。
もっとも、目の前でルッカを奇襲したことで、その面の信頼はいささか下がりはしたが。

「よかろう。私達が最後の二人になるまで組む。それでいいな?」
「ああ。決着は他の参加者を殺した後、だ!」

カエルは一先ずの交渉の成立に喜ぶ顔もせずバレットチャージで弾丸を補充。
起き上がりルッカが息をしていることに安堵したジョウイへと銃弾を撃ち込む。
転がって避けた先を目で追い、魔導の力を引き出しながら魔王に叫ぶ。

245たったひとりの魔王決戦  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:01:47 ID:cUGw/3ZQ0

「手伝えっ!!」
「連携か。あの程度の魔法を放つのに私の手を煩わせるなと言いたいところだが、仕方が無い」

三度、ジョウイの直上に影が落ちる。
銃弾によるものでも、人によるものでもなく、影を生み出したのは大量の水。
滝の如く怒涛の勢いで流れ落ちる水は、半ばから凍りだし、巨大な三つの氷柱と化してジョウイ達へと降り注ぐ。
アイスガよりも大きく、鋭く、重い氷の塊の群れだ。
つらぬく者の名を冠したジョウイの迎撃の魔法さえも逆に貫く。

「くっ……う……ううっ、こんな時に、また力が……」

更に絶望は重なるもの。
不完全な紋章の連続使用の反動が来たのだ。
脱力感に襲われたのは一瞬で、ルッカも落とさずに済んだが、元よりオディオに呼び出される前の時点で限界間近だった身体だ。
目前へと迫った氷の天蓋に抗うすべはもう残されていなかった。

「すまない……」

ジョウイに許されたのはたった一言の謝罪だけだった。
守ってくれた少女への、守れなかった少女への、そして、再会を約束した友への。
ジョウイの姿が消える。
連なる氷の塊に押しつぶされて。
それで、全てが。終わ――らなかった。

「へっへっへっへ、やっと追いついたな」

ジョウイ達を下敷きにしたはずの一本がぐぐぐっと持ち上げられる。
寸前のところで氷河の刃は受け止められていたのだ、ジョウイのものよりもずっと強く、逞しい二本の腕に。
タイタンの紋章があって初めて可能な力技を披露したのはジョウイ、カエルに続く3人目の乱入者。

「正義の味方、ただいま参上ってな!」

いつかのキャロの街でのように、天狐星がそこに輝いていた。

246約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:06:04 ID:cUGw/3ZQ0
「ビクトールさん!?」
「おうよ!」

そういえばこいつに名前を呼ばれるのは久しぶりな気がするな。
なんてとりとめもないことをビクトールは考えながら熱を奪って仕方が無い氷塊を横に放り投げる。
素手で触っていたらしもやけどころじゃ済まなかったはずだ。
超低音に晒され、凍り、砕けて用を足さなくなった手袋に心底感謝する。
とはいえ、これからすることを思うと、手袋以外も新調する羽目になりそうで頭が痛い。
なにせルカ・ブライトを思わせる程の炎を平然と防ぐ男達を相手するのだから。

「ジョウイ、ここはおれが食い止める。お前達は逃げろ」

それも、一人で。

「そんな、魔王一人でも厄介な相手なのに、それを一人でなんて無茶だ!」
「ああ、分かってる。こいつらただの人間じゃねぇ。
 いや、外見からして人間離れしているが、とにかく強さがここまで届いてくるぜ。」
「だったらぼくとビクトールさんの二人で!!」
「ジョウイ、お前はよ。その嬢ちゃんを守ろうとしたんじゃなかったのか?」

ルッカさえ見捨てれば魔王とカエルの連携魔法をぎりぎりかわせた。
巻き込むことを厭わず黒き刃の紋章の最強の力を使えば一人逃げおおせるくらいはできたはずだ。
ビクトールが対応を決めかねているうちに走り出した時もそうだ。
ジョウイはビクトールが追いつくことを許さないほど、必死に全速力だった。
そこまでして救おうとした少女が死に瀕している。
にもかかわらず戦いにかまけて治療を怠ったら本末転倒だ。

ビクトールの言っていることは正しい。
正しいとおもって尚、ジョウイはもう一度誰かを置いて魔王から逃げたく無かった。
そのことを見透かしたかのようにビクトールは言葉を締める。

「それにおれはどうも女性を守りきるのは苦手みたいなんでな。……任せる」

ジョウイは黙って従うしかなかった。
ビクトールが守れなかった女性、そのうちの一人を殺したのは他ならぬジョウイだ。
その仇とも言える男に、ビクトールは言ったのだ。
任せると。

「おれは都市同盟が誇る優秀な軍師様公認のおせっかい焼きなんでな」

デイパックから奇妙な石を取り出し投げ渡す。
死に掛けの奴にでも持たせてやれといったことが書かれていた説明書が付いていたんだ、ほら見てみろ。
言って渡した裏返しの説明書には座礁船の文字。
ティナを守れなかった上に、ジョウイのことでも面倒をかけると松に心の中で謝る。

247約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:06:45 ID:cUGw/3ZQ0

「ビクトールさんもどうかご無事で!」
「なーに、大丈夫だ、心配するな。すぐに後を追う。行け!!! 死ぬなよ」
「逃がすか……。刻め、死の時計を!」
「やらせるかってんだ!」

髑髏の渦が飛来するも諸手を広げ立ちふさがったビクトールに大半が遮られ、かするに終わったジョウイはそのまま足を止めず走り去る。
南に向かったのが心配だったが、賢いジョウイのことだ、考えあってのことだろう。
これでいい。
後は足止めに励むまで。

「よう……、てめぇらの相手はおれだぜ?」
「大した魔力も持たぬ人間がよもやたった一人で我らの相手をすると?」
「そうだ、覚悟しやがれ!」

魔王が指摘したとおり、状況は二対一。
前衛に剣士、後衛に魔法使い。
定番だが敵の陣形は強力なものだった。
加えて剣士はビクトールがジョウイを説き伏せている間に、回復魔法を使っていた。
タッグとしては理想的と言えるだろう。
二人が組んだ理由も分かる。
だというのにビクトールは笑ったままだった。
二対一ならともかく、同じ二対二なら腐れ縁と組み、うるさい剣を握った自分が負ける姿が想像できなかったからだ。

「覚悟などとうにできている! 俺はお前達を殺し俺の願いを叶える!」
「あいにくと生き残る気満々さ。けどよ」

跳躍で得た落下速度を味方につけてのカエルの斬撃を見切り、カウンターの一撃を加える。
カエルは吹き飛ばされるも脚力を活かして無事着地。
その面に向かってビクトールは吐き捨てる。

「命さえ助かれば、願い事を叶えられれば、なんでも良いってもんじゃないのさ、少なくともおれはね」
「そうか。お前は俺よりよほど勇者に相応しい強い意志を持っているんだな」
「勇者? 違うね。俺はただの傭兵さ。人呼んで風来坊ビクトール! 耳ん中かっぽじってよおおっく覚えておきな!!」

カエルが頷き、魔王が興味なさげに鼻で笑う。
それを合図とするように、今度はビクトールが地を蹴りカエルへと大きく踏み出した。

「いくぜ! この心臓が破裂するまで、俺は戦いをやめんぞ!!」

248約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:07:17 ID:cUGw/3ZQ0















――悪いな、松。約束、少しばかり遅れそうだ














【ビクトール@幻想水滸伝Ⅱ 死亡】
【残り34人】

249約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:07:47 ID:cUGw/3ZQ0
「ハッ、ハッ、ハッ……!」

紋章の力を使ったからか普段よりも重い足に力を込めジョウイは森を走る。
逃げ延びるために、救うためにひたすら逃げる。
魔王達に行き先を悟られぬようあえて座礁船や北の城とは反対の方向である南の方向へと。
そうこうするうちに随分と南下したことに気付く。
どうやら追ってくる気配がないことに一先ず安堵。
だがどうする?
黒き刃の紋章は攻撃一辺倒の能力だ。
頭に宿しているバランスの紋章も、
ビクトールに渡された石はどうか?
駄目だ、見た限り目立った回復効果は見られない。
額に流れる汗を拭うことも惜しみ、ただただ思考の海に没頭するも打開策は浮かんでこない。
せめて出血だけでも止めようとズボンを切り裂き包帯代わりにしようとした矢先、足音がした。

「お、おい、あんた!」

息も絶え絶えに飛び込んできたのは必死にカエルに追いつこうとしていたストレイボウだ。
目に入った光景に体力があるとは言えない身体に鞭を打ったことで鳴りっぱなしだった心臓の鼓動が一気に冷える。
銃弾に傷ついた少女と、それを守るように睨み付けてくる青年。
数時間前に見たばかりの状況に嫌な予感が絶えなかった。

「なおり草か何かは!? 回復魔法は使えないのか!」

誰がやったと聞きたい心を必死に抑える。
変わろうと決めた、誰かを救おうと思った。
だったら、今は少女の命を助けることだけを考えろ。

「……すまない」

静かにジョウイは首を横に振る。
顔には僅かばかりの落胆も見て取れた。
ストレイボウの問いは彼自身も回復手段を持っていないと言っているも同様だったからだ。
そのジョウイの様子にストレイボウは己を責めた。
嫉妬に駆られ、ストレイボウに勝つことだけを考え、回復魔法に目もくれず、攻撃魔法ばかり習得していったツケがこんな所にも現れるとは!
鍛え抜かれた身体からして戦士であろうジョウイとは違い、自分は魔法使いなのに。
くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!
心の中で悪態を吐きつつも、ジョウイに習い纏っているローブでルッカの止血にかかる。
その時文字通り光明が射した。
眩くも暖かい碧色の光が。

250約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:08:21 ID:cUGw/3ZQ0

何故か胸が熱くなる優しい光に包まれて、ルッカはまどろむ。
ああ、これは、この暖かさは、欠けていた何かが、居なくなってしまった誰かが戻ってきた時のものだと。

でも、あの時、死の山で感じたクロノのあったかさには、ちょっと及ばないか。
きっと、私に向けられたものじゃないからだわ。
ねえ、クロノ。

消えそうな意識の中、カエルの戦う理由が聞こえてきた時、ああ、ついにきちゃったんだと思ったわ。
未来を変え、本来は生まれてくるはずだった命を奪った私達への裁きが。
皮肉よね。
その歴史の改変を防ごうとする誰かが、あのカエルだなんて。

散々今まで歴史を思い通りにしてきたルッカにカエルを非難することはできなかった。
仲間の進む修羅の道を黙っておとなしく受け入れることもよしとしなかった。
今一度少女は強く誓う。

私は止めるわ。
あなたもジャキもオディオも。
私にだって守りたい人が、引き寄せたい未来があるもの。
置いてきちゃったマールのとこまでクロノを連れ帰って、ロボがまた産まれてこれるよう研究に勤しむんだから……。

理屈抜きで全てを許す光の色に、大切な友達からもらった宝石の色を重ねて。
ルッカはいつの間にか手に持っていた石を強く握り締めた。




「身体が、癒されていく?」

なんだ、これは?
いくつもの疑問がジョウイの頭の中を埋め尽くす。
左手に光るものの正体が分からない……のではない。
何故それが自分の左手の甲で輝いているのかが理解できなかったのだ。
輝く盾の紋章。
黒き刃と対を成す友の右手に宿っていたはずの世界の始まりの力の片割れ。
彼ら二人の命を削り、されどぎりぎりの所で生きながらえさせていたのもまた紋章の力。
互いに争いその果てに一つに戻すことで始まりの紋章を得たものが残り、失ったものが死ぬ。
そうではなかったのか?
それが、どうして、どうして!?
始まりの紋章としてではないとはいえ、ぼくの手に宿っている!?
ジョウイには納得できなかった。
理由なんて一つしかないのに認めたくはなかった。

「まだぼく達は約束を果たしていないのに!!」

251約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:09:03 ID:cUGw/3ZQ0
天を仰ぎ絶叫する。
喜ぶべきことなのは分かっている。
今のジョウイは約束の場所でリオウに殺されるのを待っていた時とは違う。
オディオの力に新たな希望を見出し、再び刃を血に染め、罪を背負うことを決め立ち上がった。
相手が友でも手掛ける覚悟は決めていた……はずだった。

「ああああああああああああああああ!!」

止まることを知らない激情の渦に流されていたジョウイの肩をストレイボウが強く掴む。

「泣いている場合じゃないだろ!? 今の碧の光を使えばこの娘は助かるんじゃないのか!」

事情を知らないストレイボウにはジョウイを気遣う余地は無かった。
ジョウイもまた裏切り者で、でも、空間を越えて輝く盾の紋章が宿るという奇跡は消えることのなかった二人の友情が起こしたものとも知らずに。
変わろうとしている男は、変わろうとする焦りに囚われ、優しい言葉をかけるよりも誰かを救うという自分の願いを通そうとしてしまった。

もう叶うことのない願いを。


「そ、んな、死んで、る?」


早く、早くと急かし、少女の方へとジョウイの左腕を伸ばさせた時。
少女は、ルッカ・アシュディアは。

記憶石を握りしめたまま静かに息を引き取っていた。


【ルッカ@クロノ・トリガー 死亡】
【残り35人】


【G-8 森林 一日目 昼】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(中)、呆然
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
0:そんな……
1:カエルの説得
2:戦力を増強しつつ、北の城へ。
3:勇者バッジとブライオンが“重い”
4:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)

252約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:09:40 ID:cUGw/3ZQ0


【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治、激情
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:???
2:座礁船に行く?
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


※G-8 森林に記憶石@アークザラッドⅡを握ったルッカの死体と、
 基本支給品、究極のばくだん×2@アークザラッドⅡ入りのデイパックがあります。
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。





「……終わったか。言うだけのことはある渋とさだったな」

男は言葉通り心の臓を貫かれても止まらなかった。
ルッカを衰弱死させたヘルガイザーに体力を奪われ、ライジングノヴァに急所を撃ち抜かれて尚、突き進んだ。
振り下ろされた鈍器による打撃のなんと重かったことか。
得物が剣であったなら魔王かカエル、どちらかは断ち切られていたかもしれない。
現に強者二人をしてさえ空気が歪み赤いオーラを纏っているように幻視してしまったビクトールの最後の一撃は。
受け止めようと構えたバイアネットをひしゃげ折るに止まらず、そのままカエルの左肩を強打した。
後数秒わざと体勢を崩すのが間に合わなければ、今頃頭蓋をかち割られていたことだろう。
弾力と湿り気に富む蛙の身体、加えてマントが打点をずらしたことが功を奏し脱臼するだけで済んだのは幸いだった。
急いで応急処置をしなければならないことにかわりは無いが。
けれども異形の騎士は握ったままの銃剣の残骸を見つめたまま微動だにしない。

253約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:10:12 ID:cUGw/3ZQ0

「……」
「その剣はもう使い物にならぬな。使え」

魔王とてカエルが黙ったままの理由が武器の喪失を嘆いてのことでないことは重々承知している。
だからといって優しい言葉をかけてやる関係でもない。
一向に差し出した刀を受け取ろうとしないカエルに何も言わず、魔王は男の死体が握ったままの鈍器へと目を向ける。
見たことも無い道具だったが、魔王はその才覚から一目で銀色に輝く鍵が何らかの魔導具であることを見抜く。
ちょうどいい。
回収済みの魔剣は沈黙を保ったままだ。こちらの方を使うとしよう。

「……ファイガ」

命を失った身体は抵抗することなく炎の海に消えていく。
あれだけ何度も立ち上がり、熊の如くカエルと魔王の二人を薙ぎ払った姿が嘘のようだ。
図らずも火葬になってしまったが魔王にとってはどうでもよかった。
カエルの傍に刀を突き立てると、目論見どおり燃え尽きずに残った魔鍵を持ち上げる。
その時になってようやくカエルが動いた。

「墓のつもりか?」
「……少なくとも俺には死者を愚弄するような一文を墓石に刻む趣味は無い」

骨も残さず焼失した男の遺体跡に壊れた銃剣類を墓石代わりに置きながら、支給されたのが銃を兼ねた剣でよかったとカエルは思う。
剣では動きが鈍っていたかもしれない。
引き裂く肉の感触に耐え切れず断ち切りきれなかったかもしれない。
銃だから。
引き金を引けば最後弾が止まることのない銃だからこそ、俺はルッカを殺せた。
ああ、そうか。
それでか。
俺が知る飛び道具の担い手はルッカもマールも優しかったのか。
引き金の重さを理解できない人間が握っていい武器ではないのだ、銃も、弓も。

「……感傷だな」

カエルは虹の柄へと手を伸ばし、自嘲する。
銃や弓に限った話ではない。
いかな武器も本当は自分のような人間が握ってはいけないのだ。

「だから、許せとは言わない。恨め、クロノ。俺は、お前が未来を切り開いた刀で過去の為に人を殺すっ!」

地面に刺さったままの刀を引き抜く一瞬。
虹色の刀身に写った顔は酷く歪んで見えた。

――涙よ凍れ。今だけは流れるな。

254約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:10:48 ID:cUGw/3ZQ0

【F-8 荒野 一日目 昼】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
2:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

※F-8の森林の部分は主にルッカと魔王の戦いが原因で荒野になりました



※壊れてF-8荒野に破棄されたもの一覧
 オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード(+予備動力)@LIVE A LIVE、
 バイアネット@ワイルドアームズ2、使用済みバレットチャージ@ワイルドアームズ2

255 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:14:35 ID:cUGw/3ZQ0
投下終了

魔王の技や記憶石が通していいのか判断を仰ぎたく、仮にさせていただきました。
差し替えによる修正案はあります。気軽にご意見ください。

もちろん、その他の指摘、誤字脱字の報告も大歓迎です。では

256約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/06(日) 23:24:17 ID:cUGw/3ZQ0
と、すみません。

紅の暴君@サモンナイト3

を、魔王の道具欄に追加します

257約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:24:43 ID:Usp.5Yx60















――悪いな、松。約束、少しばかり遅れそうだ














【ビクトール@幻想水滸伝Ⅱ 死亡】
【残り34人】

258 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:38:43 ID:Usp.5Yx60
っと、すみません。
規制されましたので、続きはこちらに。
仮投下時と殆ど変化はありませんが
代理投下、できればお願いします。

以下、続き

259 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:39:15 ID:Usp.5Yx60















――悪いな、松。約束、少しばかり遅れそうだ














【ビクトール@幻想水滸伝Ⅱ 死亡】
【残り34人】














――悪いな、松。約束、少しばかり遅れそうだ














【ビクトール@幻想水滸伝Ⅱ 死亡】
【残り34人】

260 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:41:40 ID:Usp.5Yx60






「ハッ、ハッ、ハッ……!」

紋章の力を使ったからか普段よりも重い足に力を込めジョウイは森を走る。
逃げ延びるために、救うためにひたすら逃げる。
魔王達に行き先を悟られぬようあえて座礁船や北の城とは反対の方向である南の方向へと。
そうこうするうちに随分と南下したことに気付く。
どうやら追ってくる気配がないことに一先ず安堵。
だがどうする?
黒き刃の紋章は攻撃一辺倒の能力だ。
頭に宿しているバランスの紋章も、
ビクトールに渡された石はどうか?
駄目だ、見た限り目立った回復効果は見られない。
額に流れる汗を拭うことも惜しみ、ただただ思考の海に没頭するも打開策は浮かんでこない。
せめて出血だけでも止めようとズボンを切り裂き包帯代わりにしようとした矢先、足音がした。

「お、おい、あんた!」

息も絶え絶えに飛び込んできたのは必死にカエルに追いつこうとしていたストレイボウだ。
目に入った光景に体力があるとは言えない身体に鞭を打ったことで鳴りっぱなしだった心臓の鼓動が一気に冷える。
銃弾に傷ついた少女と、それを守るように睨み付けてくる青年。
数時間前に見たばかりの状況に嫌な予感が絶えなかった。

「なおり草か何かは!? 回復魔法は使えないのか!」

誰がやったと聞きたい心を必死に抑える。
変わろうと決めた、誰かを救おうと思った。
だったら、今は少女の命を助けることだけを考えろ。
そのストレイボウの意思もむなしく、静かにジョウイは首を横に振る。
同時に僅かばかりの落胆も見て取れた。
ストレイボウの問いは彼自身も回復手段を持っていないと言っているも同様だったからだ。
そのジョウイの様子にストレイボウは己を責めた。
嫉妬に駆られ、オルステッドに勝つことだけを考え、回復魔法に目もくれず、攻撃魔法ばかり習得していったツケがこんな所にも現れるとは!
鍛え抜かれた身体からして戦士であろうジョウイとは違い、自分は魔法使いなのに。
くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!
心の中で悪態を吐きつつも、ジョウイに習い纏っているローブでルッカの止血にかかる。
その時文字通り光明が射した。
眩くも暖かい碧色の光が。

261 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:42:33 ID:Usp.5Yx60





何故か胸が熱くなる優しい光に包まれて、ルッカはまどろむ。
ああ、これは、この暖かさは、欠けていた何かが、居なくなってしまった誰かが戻ってきた時のものだと。

でも、あの時、死の山で感じたクロノのあったかさには、ちょっと及ばないか。
きっと、私に向けられたものじゃないからだわ。
ねえ、クロノ。

消えそうな意識の中、カエルの戦う理由が聞こえてきた時、ああ、ついにきちゃったんだと思ったわ。
未来を変え、本来は生まれてくるはずだった命を奪った私達への裁きが。
皮肉よね。
その歴史の改変を防ごうとする誰かが、あのカエルだなんて。

散々今まで歴史を思い通りにしてきたルッカにカエルを非難することはできなかった。
仲間の進む修羅の道を黙っておとなしく受け入れることもよしとしなかった。
今一度少女は強く誓う。

私は止めるわ。
あなたもジャキもオディオも。
私にだって守りたい人が、引き寄せたい未来があるもの。
置いてきちゃったマールのとこまでクロノを連れ帰って、ロボがまた産まれてこれるよう研究に勤しむんだから……。

理屈抜きで全てを許す光の色に、大切な友達からもらった宝石の色を重ねて。
ルッカはいつの間にか手に持っていた石を強く握り締めた。

262 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:43:03 ID:Usp.5Yx60




「身体が、癒されていく?」

なんだ、これは?
いくつもの疑問がジョウイの頭の中を埋め尽くす。
左手に光るものの正体が分からない……のではない。
何故それが自分の左手の甲で輝いているのかが理解できなかったのだ。
輝く盾の紋章。
黒き刃と対を成す友の右手に宿っていたはずの世界の始まりの力の片割れ。
彼ら二人の命を削り、されどぎりぎりの所で生きながらえさせていたのもまた紋章の力。
互いに争いその果てに一つに戻すことで始まりの紋章を得たものが残り、失ったものが死ぬ。
そうではなかったのか?
それが、どうして、どうして!?
始まりの紋章としてではないとはいえ、ぼくの手に宿っている!?
ジョウイには納得できなかった。
理由なんて一つしかないのに認めたくはなかった。

「まだぼく達は約束を果たしていないのに!!」

天を仰ぎ絶叫する。
喜ぶべきことなのは分かっている。
今のジョウイは約束の場所でリオウに殺されるのを待っていた時とは違う。
オディオの力に新たな希望を見出し、再び刃を血に染め、罪を背負うことを決め立ち上がった。
相手が友でも手掛ける覚悟は決めていた……はずだった。

「ああああああああああああああああ!!」

止まることを知らない激情の渦に流されていたジョウイの肩をストレイボウが強く掴む。

「泣いている場合じゃないだろ!? 今の碧の光を使えばこの娘は助かるんじゃないのか!」

事情を知らないストレイボウにはジョウイを気遣う余地は無かった。
ジョウイもまた裏切り者で、でも、空間を越えて輝く盾の紋章が宿るという奇跡は消えることのなかった二人の友情が起こしたものとも知らずに。
変わろうとしている男は、変わろうとする焦りに囚われ、優しい言葉をかけるよりも誰かを救うという自分の願いを通そうとしてしまった。

263 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:43:46 ID:Usp.5Yx60
もう叶うことのない願いを。


「そ、んな、死んで、る?」


早く、早くと急かし、少女の方へとジョウイの左腕を伸ばさせた時。
少女は、ルッカ・アシュディアは。

記憶石を握りしめたまま静かに息を引き取っていた。


【ルッカ@クロノ・トリガー 死亡】
【残り35人】


【G-8 森林 一日目 昼】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(中)、呆然
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
0:そんな……
1:カエルの説得
2:戦力を増強しつつ、北の城へ。
3:勇者バッジとブライオンが“重い”
4:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)

【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治、激情
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:???
2:座礁船に行く?
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


※G-8 森林に記憶石@アークザラッドⅡを握ったルッカの死体と、
 基本支給品、究極のばくだん×2@アークザラッドⅡ入りのデイパックがあります。
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。
目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます。

264 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:45:01 ID:Usp.5Yx60




「……終わったか。言うだけのことはある渋とさだったな」

男は言葉通り心の臓を貫かれても止まらなかった。
ルッカを衰弱死させたヘルガイザーに体力を奪われ、ライジングノヴァに急所を撃ち抜かれて尚、突き進んだ。
振り下ろされた鈍器による打撃のなんと重かったことか。
得物が剣であったなら魔王かカエル、どちらかは断ち切られていたかもしれない。
現に強者二人をしてさえ空気が歪み赤いオーラを纏っているように幻視してしまったビクトールの最後の一撃は。
受け止めようと構えたバイアネットをひしゃげ折るに止まらず、そのままカエルの左肩を強打した。
後数秒わざと体勢を崩すのが間に合わなければ、今頃頭蓋をかち割られていたことだろう。
弾力と湿り気に富む蛙の身体、加えてマントが打点をずらしたことが功を奏し脱臼するだけで済んだのは幸いだった。
急いで応急処置をしなければならないことにかわりは無いが。
けれども異形の騎士は握ったままの銃剣の残骸を見つめたまま微動だにしない。

「……」
「その剣はもう使い物にならぬな。使え」

魔王とてカエルが黙ったままの理由が武器の喪失を嘆いてのことでないことは重々承知している。
だからといって優しい言葉をかけてやる関係でもない。
一向に差し出した刀を受け取ろうとしないカエルに何も言わず、魔王は男の死体が握ったままの鈍器へと目を向ける。
見たことも無い道具だったが、魔王はその才覚から一目で銀色に輝く鍵が何らかの魔導具であることを見抜く。
ちょうどいい。
回収済みの魔剣は沈黙を保ったままだ。こちらの方を使うとしよう。

「……ファイガ」

命を失った身体は抵抗することなく炎の海に消えていく。
あれだけ何度も立ち上がり、熊の如くカエルと魔王の二人を薙ぎ払った姿が嘘のようだ。
図らずも火葬になってしまったが魔王にとってはどうでもよかった。
カエルの傍に刀を突き立てると、目論見どおり燃え尽きずに残った魔鍵を持ち上げる。
その時になってようやくカエルが動いた。

「墓のつもりか?」
「……少なくとも俺には死者を愚弄するような一文を墓石に刻む趣味は無い」

骨も残さず焼失した男の遺体跡に壊れた銃剣類を墓石代わりに置きながら、支給されたのが銃を兼ねた剣でよかったとカエルは思う。
剣では動きが鈍っていたかもしれない。
引き裂く肉の感触に耐え切れず断ち切りきれなかったかもしれない。
銃だから。
引き金を引けば最後弾が止まることのない銃だからこそ、俺はルッカを殺せた。
ああ、そうか。
それでか。
俺が知る飛び道具の担い手はルッカもマールも優しかったのか。
引き金の重さを理解できない人間が握っていい武器ではないのだ、銃も、弓も。

265 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:45:32 ID:Usp.5Yx60

「……感傷だな」

カエルは虹の柄へと手を伸ばし、自嘲する。
銃や弓に限った話ではない。
いかな武器も本当は自分のような人間が握ってはいけないのだ。

「だから、許せとは言わない。恨め、クロノ。俺は、お前が未来を切り開いた刀で過去の為に人を殺すっ!」

地面に刺さったままの刀を引き抜く一瞬。
虹色の刀身に写った顔は酷く歪んで見えた。

――涙よ凍れ。今だけは流れるな。







【F-8 荒野 一日目 昼】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
2:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

※F-8の森林の部分は主にルッカと魔王の戦いが原因で荒野になりました

266 ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:46:06 ID:Usp.5Yx60



※壊れてF-8荒野に破棄されたもの一覧
 オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード(+予備動力)@LIVE A LIVE、
 バイアネット@ワイルドアームズ2、使用済みバレットチャージ@ワイルドアームズ2

267約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 00:46:40 ID:Usp.5Yx60
投下終了

268約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 01:21:43 ID:Usp.5Yx60







【F-8 荒野 一日目 昼】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
2:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

※F-8の森林の部分は主にルッカと魔王の戦いが原因で荒野になりました



※壊れてF-8荒野に破棄されたもの一覧
 オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード(+予備動力)@LIVE A LIVE、
 バイアネット@ワイルドアームズ2、使用済みバレットチャージ@ワイルドアームズ2

269約束はみどりのゆめの彼方に  ◆iDqvc5TpTI:2009/09/08(火) 01:22:28 ID:Usp.5Yx60
状態票最後の部分だけ再度規制に。
代理投下お願いします

270 ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:36:41 ID:QJKo4Dkc0
少し不安なので仮投下します

271メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:41:30 ID:QJKo4Dkc0
神殿を出発して、まず気になったのは目の前に広がる森の様子だった。
俺は無音の空間から、木が茂る山を眺めていた。

「……結構、でかかった気がしたんだけどな」

大きくうねりながら木々を飲み込んでいた炎。
それは既に姿を消し、代わりに焦げた木の黒が手前の緑の間から覗いている。
あれだけ燃え盛っていた炎は、いつの間にやら完全に鎮火していた。
さっきの男みたいなやべぇのがまだいるってことだろうか。それとも数人がかりで消したってだけだろうか。
どっちにしろ、このゲームに乗っているのかは分からないけど。
そういや、あの時使った拡声器の声は誰か聞いただろうか。
神殿には誰もいなかったから、無駄だったかもしれねぇなあ……。

いや、そんなのは大した問題じゃない。会えば分かる話だ。
俺は仲間を探してる。
森の中に人がいる、それだけで動く理由は十分なはずだ。

本当に問題なのは。

人のいる所まで辿り着けないことだ。







あんた……今、幸せか?


俺はもう、


疲れた。



(笑えねえ……)

心の底からそう思った。
心の底から全力で同意した。

272メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:42:01 ID:QJKo4Dkc0
いや、ないだろ。これはない。
木に寄りかかりながらぼそりと呟く。何度も否定はしてみた。悪態だってつきまくった。
だが駄目な物は駄目なようで。
水を含んでさらに足場の悪くなった森は、こちらを嘲笑うかのように依然として前に立ちふさがる。
今までその中を気力で進んできたんだ。だけれども。
足が疲れただけならまだいい。頭痛が痛い。間違った、頭痛は痛い。ん?
人がせっかく前に進もうとしてるのに足が言うこと聞かない。空気が重量を持ったかのように一息一息が苦しい。
そして、疲れが貯まる一方で進展は全く無い。
そんな悪循環ががりがりと気力を削いでいった。
立ち止まって振り返ってみる。まだ木々の向こうの神殿がうっすらと見える。って事は。
今まで、全然森の奥に入れないでこうしていたんだ。
人に会うどころじゃない。これじゃあ最悪、森から抜け出せなくて迷子だ。
……俺こんなに体力無かったっけ。
大体、迂闊にテレポートできないとか心読めないとか、この能力終わってるだろ。オディオの奴俺に恨みでもあるのか。
なんて、言っててもしょうがねえけど。

「道ぐらい、作ってくれてもいいじゃねえかよ……」

自然とため息が出る。
まあとにかく、人も見当たらない、移動もままならないで俺は途方に暮れていた。
そういえば、腹減ったし水も飲んでなかった。通りでふらふらするはずだ。
立ち止まりたくはなかったけれども、これは少し休んだほうがいいのかもしれない。

「……ったく」

……何だか、気持ちばかり急いでたのかもな。
悪態をつきながら、俺はゆっくりと木にもたれかかった。







「はぁ、はぁ、はぁ……」

どのくらい走っていただろうか。
あとどのくらいでこの森を抜けられるのだろうか。
私は神殿を目指して走っていた。
背の上のミネアの状態は変わらず深刻だった。それどころか体がだんだん冷たくなっていくように感じる。
不快な汗が、頬を這うように流れていった。
早く、早く薬か術士を見つけないと、手遅れになるかもしれない。
そう思うとたまらなくなった。

273メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:43:08 ID:QJKo4Dkc0
「誰か!」

込み上げる不安を吐き出すように、私は叫ぶ。

「誰かいませんか! 怪我人がいるの!!」

私の声は誰に届くこともなく、鬱蒼とした木々に虚しく吸い込まれるばかり。どれだけ叫んだところでそれは同じだった。
誰も現れない。誰も見つけられない。
術士や善人どころか、殺しに乗っている人さえも現れない現実。

当たり前か、こんなに広い会場なんだ。そう簡単に人に会えるはずがない。
そう、そんなことは分かってるのよ。でも、これじゃ――。

不安が重圧となって私を襲う。それがミネアの上から覆い被さっているような気がして、私は押し潰されそうになる。
ミネアを背負う手がちくちくと痺れる。汗ばんだ手の感覚が薄れてきた。
背負い直さないと。そう思って私は荒れた息で立ち止まる。
と、その時。
向こうの木の根元に、見慣れない色を見た気がした。……いや、確かに見えた。
私は半ば信じられないといった気持ちで近づく。

人だ。本当に人だ。変な格好だ。
今まであんなに探し求めてきたのに、いざ会うとこんな気持ちになるのもおかしな話だと思った。

「あなた、ちょっといい……」

声をかけ、思わず口をぽかんと開ける。
その男は眠っていた。殺し合いの場にもかかわらず、私があんなに必死になって叫んでいたにもかかわらず。
私は少しだけ苛立ちを覚えた。

「ちょっと!」
「あー……?」
「急いでるのよ! 起きてよ!」
「んー……。なんでー、ちゃんと人がいるじゃねーか」

私に気付くと、その男は嬉々として話を続けた。

「休んでみるもんだな。さっきまで寝てたらこれだもんよ」
「そんなことより! ……あなた、この殺し合いには乗ってる?」
「それを聞くか? ま、こんなナリじゃな……」

そう言うと彼は身に着けた武器を外し、デイパックと共に投げてよこした。
殺気は……感じない。まあ、道端で寝てるような人だし。殺し合いに乗っていないなら、こんなに嬉しいことはない。
……ただ、どう見ても回復術の使い手には見えないのが残念だ。
ミネアを地面に横たわらせて、私は投げられたデイパックに手をかける。

274メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:44:08 ID:QJKo4Dkc0
「俺のことはアキラでいーぜ」
「良かった。ねえ、薬か何か持ってない? 仲間を助けて欲しいの」
「薬は、ねーけど……」

ミネアの火傷の様子を見ながらアキラが答える。
確かに、それらしいものはない。中にあるのは、食料に水、変な機械、紙の束……。
そんな、とやっぱり、が同時に私の心に起きる。信じたくなくて、私はそれらを凝視し続けていた。

「その、ようね……」
「あー、ちょっとごめんよ」

私を見たアキラが苦笑いしたかと思うと、いきなり私の腕に触れた。
何事かと私は身じろぐ。そして何をしたかはすぐに分かった。
走っているうちに木の枝につけられた傷が、みるみるうちに消えていく。
私は呆然として腕をさすった。

「んー、まあ、事情は大体分かった。俺にやらせてくれねえか」
「……あなた、魔法使えるの?」
「いや、それとは少し違うけど……。そうだ、一つ頼んでいいか?」
「え?」

アキラが足元のデイパックから取り出し、渡してきたのはなにやら見慣れない機械だった。
ボタンを押せば声が大きくなる拡声器というものらしい。俺が治療する間、これを持って人探しをしてくれとのことだが。
それより、持ってけとは。私はここにいるつもりだったのだけれど。

「危ない奴がいたらこれを使って知らせてくれないか」
「……危ない奴?」
「まだ2人がいるかもしれないんだろ? あ、この先の神殿に行くなら気をつけろよ」
「神殿……! そこで何があったの?」
「いや、やべぇ男がいたんだ。戦闘になって、一人……死んだ。
もう神殿には誰もいねーけど、ここらへんにはまだそいつがいるかもしれないから」
「……そう、分かったわ」

275メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:45:07 ID:QJKo4Dkc0
神殿。そこに現れたという凄まじい力を持つ男。
断片的な、それでいて貴重な情報に私の心がわずかに揺れた。
私から皆殺しの剣を奪った男かもしれない。もっと聞けば、何か分かるかも知れない。
気にならないと言えば嘘になる。でも、今はミネアを優先しなければ。
正直ミネアの元を離れるのは、怖い。
そんな私の様子を楽しむように、目の前の男はにやりと笑う。

「俺が駄目だったら、その時はその時だが……。お前、俺を信用してねーだろ?」
「……信じていいのね?」
「ま、無理は言わないけどな。信じる気になったら、こいつを助けたいなら……、2,30分ほど後にまた会おーぜ」

一瞬、彼の言葉に刃のような鋭さを感じた。
それが何かはわからないけれど、彼の目は外見にそぐわず、真っ直ぐだった。
――どちらにしろ、今は彼に頼るしかない。
分かったわ、と呟き、私は踵を返した。

「あ、リンディス」
「……え?」
「そういや、こいつの名前は?」
「ミネア、よ」
「そうか」


ミネアの元を離れ、走りながら私は考える。
リンディス、と彼は確かに言った。
私はいつ本名を言ったのだろうか? そもそも、アキラに名乗っただろうか?
再びあの拭いきれない重圧が私を襲う。強くマーニ・カティを握り締める。
不安だった。何かが引っかかった。けれど、私は足を進めた。

神殿には誰もいないと言われた。
白い女の人やデスピサロも、あの様子では追い討ちを仕掛けてくるようには見えなかった。
この丸焦げの森に、まだ人がいるとも思えなかった。
ならばどうするか。そう考えて、私は真っ直ぐ西へ向かった。
先刻、2人と戦って荒れ地と化した――少女が倒れていたあの場所へ。

276メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:45:57 ID:QJKo4Dkc0
私たちが着く前に何があったかは分からない。
けれど、まだあどけなさが残るその少女の顔は、どこか寂しそうだった。
あの2人のどちらかと知り合いだったのだろうか。
そんなことを思いながら私は埋葬を進めた。
埋葬といっても、戦いで大きくえぐれた地面に彼女を寝かせ、葉や土で体を隠す程度のことしかできなかったけれども。
少女の傍らには、宝石のような石が落ちていた。
知り合いがいたなら、一緒に行動していた人がいるなら、形見になるかもしれない。
そう思って、私は宝石を拾い上げた。

「こんな弔い方でごめんなさい。どうか、安らかに……」

そして埋葬を終え、今私は走っている。
本当に、木ばかりだ。
右を見ても左を見ても、木が並んでいるだけ。
そんなの森だから当たり前なんだけれども、今の私にとっては邪魔でしかなかった。
この森に後押しされるように私の焦りはじわじわと高ぶっていく。
いっそ全部焼けてくれれば良かったのに。そんな気持ちにさえなってくる。
力任せに着けてきた木の印を頼りに、草を掻き分け、木の根を飛び越え、私は先ほど来た道を逆走していた。

神殿にも、行こうと思えばすぐに辿り着くことができた。
本当は寄りたい気持ちも強かったけれど、私にはあのまま少女の死体を野晒しにすることはできなかった。
神殿と反対方向なのが惜しいけど、今は仕方ない。
元々の目的だった皆殺しの剣については後回しにしていたから、神殿での経緯は詳しく聞かなかった。
私の気になっていた、アキラの言う危険人物は見受けられない。
人どころか鳥の一羽でさえ見当たらないし、当然なのかもしれないけど。
こればかりは、近くにいないことを祈るしかなさそうね。

私は支給された時計を見る。先ほどから経った時間が30分を越えている。
その時計は、時間が経てば経つほど私を不安にさせた。
アキラの言動が、遠回しに私をあの場から引き離そうとしているのには気づいていた。
そこには、私がいると駄目な理由が、隠したい理由があるはず。
私は、疑っている。
そんなことは分かってた。
アキラは、私に拡声器を持たせ、誰もいない森へと急かした。
彼は"運よく"現れて、"幸運なことに"回復術が使えた。
最初は自然と安心したはずだった。
嘘をついているような目ではないと、確かにそう思った。
けれども、今となっては曖昧な記憶に過ぎない。

もしも、私を遠ざけ、その間にミネアを殺すことが目的だったら。
――強い口調で私を行かせるはずだ。
もしも、私に持たせた拡声器が純粋に自滅を誘うための物だったら。
――私の居場所が割れるのはあっちにとっても有利なはずだ。

277メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:46:41 ID:QJKo4Dkc0
思考の渦の中で仮定と事実が交錯し、その奥から時折覗くのは過去の忌まわしい記憶。
他にも、彼には不可解な部分があった。
私達が戦ったのは二人だということ、私の名を知っていたこと。
信用するには、どうしても……。
そこまで考えて、私は頭を振る。そんなことは、そんなことは分かっている。
けれど、ミネアには時間がなかった。
アキラと会った時点で、ミネアの体温は微かに感じることしかできないほどに低下していた。
荒かった呼吸がだんだんと弱々しくなっていくのも、私は堪えられなかった。
彼を追い払ったところでミネアの運命は変わらないかもしれない。
そもそも、あの怪我を治せるか、再びミネアが目覚めることができるかどうかも分からないのだから。
結局私は、祈ることしかできなかった。

「ミネア……。どうか、生きてて……!」

その間にも、私は先ほどの場所に近づいている。
目印に付けた木の幹の傷が、力任せの雑な形に変わっていく。
まとわりついていた不安は徐々に危機感となって、きりきりと私の胸を締め付ける。
もしもミネアが死んだら。
そのifだけで、私の他の思考一切を止めるには十分だった。
そして、前方の木の間に見慣れたオレンジの布が横たわっているのが見えて――

――私は思わず、その場に立ち尽くした。



「…………え?」








『まあ、なんて綺麗なお花畑……』

『こんな場所もあるのね』

『そういえば私達、どこまで来たんだっけ?確か……』

『よっと!』

『あっ、もう!どこへ行くの?』

『ほらほら。早くしないと置いていっちゃうわよ』

『えっ、そんな!』

『あははは、捕まえてごらんなさぁい……』

『うふふふ、待ってよねえさぁん……』

278メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:47:44 ID:QJKo4Dkc0
や ば い。




今のミネアを表すのに、これより適任の言葉があるだろうか。
酷い状態なのは一目で分かりすぎるほど分かった。
首筋から肩を過ぎ、二の腕までを黒で覆うほどの火傷。そして、どう見ても一歩手前の心の中。
火傷は冷やせばいいんじゃねえの? とかそういうレベルじゃない。やばい。
俺はリンディスを半ば追い払うように遠ざけて、ミネアの傍に座った。

思わず目を背けたくなる大怪我に、思い切って水をかける。
消毒できればよかったのだが、酒は使い切ってしまったし仕方ない。
流れ落ちる水が焼ききれた肌を洗い流し、いつしか上腕は黒と白のまだらになっていた。
壊死した肌をぼろぼろと剥がしていくと、中から生気を失った土気色の肌が現れた。
それを見て俺は顔をしかめる。そして改めて思い知らされる。
この火傷は、普通なら医者に任せるしかないほどの大怪我なんだと。
体温は既に低く冷たくなってきていた。血の気の感じない寝顔は、死人と言っても差し支えがなさそうだ。
ミネアの上腕に近づけた俺の腕が止まる。
きっと、その肌に触れていいのか分からないんだと思った。
こんな森の中じゃ、どう見ても清潔とは言えない。なんとなく怖い。それもあるけれども。

正直、ヒールタッチではごまかす程度のこともできないだろうことを、自覚していた。
そもそも俺は医療に関してはさっぱりだ。正しい治療方法なんて知るはずがない。
回復を促進させることが本質のヒーリングで、全てどうにかなるものでもない。
ミネア自身の意識も無く、ただでさえ疲れて能力の効きが悪い今じゃ、こんな火傷は半分も治せないと。
そんなことは分かっていた。

「怪我の治療は無理、か」

だからこそ、笑ってみせる。

「それだけだと、思うなよ……」

リンは魔法かと聞いたが、魔法とは違う。超能力はイメージだ。
術の知識をもって、呪文を紡いで、そうなるように仕向けるのではない。直接相手に働きかける力だ。
例えば……、火傷を治療できなくても、ミネアの体に火傷を「忘れさせる」ことならできる。
下がった体温もフレイムイメージの要領で、思いっきり暖めてやればいい。
体が落ち着けば、なんとか奥にある意識を引っ張り出せれば、ヒーリングはそれからでも遅くない。
俺はミネアの額の上に手をかざす。
ミネアの脳に干渉して、無理やり俺の波長に合わせる。いわゆる「同調」を促す。
これが、今のショック状態を抑えるために、知識や力がなくても一番間違いの無い方法なはず。

279メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:48:48 ID:QJKo4Dkc0
その後は、医者でもないと……どうなるのか分からないけれど。
でも、何もしないなんてあり得なかった。
だからこそ、ミネアの意識に呼びかける。

「おい、お前……、ミネア!」

「聞こえるか? 聞こえたら、答えてくれ」

呼びかけても呼びかけても、なかなか俺の声は届かない。
意識は奥底に眠っているようで、先ほどのように読むのも精一杯だった。
心に直接呼びかけているんだから、少しくらい耳を貸してほしいものだが。
リンディスの心まで読まなきゃ良かったな。休んだから大丈夫だと思ったんだけどな。


「    」


何分経っただろうか。
額に針を刺されたような、鋭利な痛みが頭の中で響いた。
目の前の風景がかき混ぜられ、ゆっくりと1回転する。俺は慌てて片方の手で身体を支えた。
焼けつくような焦燥感が内臓を走り回る。俺は内心で舌打ちした。
ミネアの顔を見る。が、相変わらず生気が無い。
駄目だ。止まったら駄目だ。
俺がやると言ったんだから、こんな無理くらい――




『… …… …?』




……
……何だ?
今、





『姉さん?』

280メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:49:26 ID:QJKo4Dkc0
がくんと体が揺れた。
何かが聞こえた感覚と同時に。
顔にひやりと湿ったものが当たる。気付くと目の前にミネアの顔があった。それから俺は倒れたことに気付く。
息が苦しい。胃が大きな石でもつまってるかのように重い。
けれども、これは進展だと俺は確信する。

覚束ない意識に構わず、おもむろにミネアの手を握った。
組み上げるのは、痛みの消失、傷の完治、心の安定を促進させる、暖かいイメージ。癒しの思念。
今度は思念を強く強く送り込もうとして、意識を集中させる。
ミネアの身体はすぐに反応した。
同調した血液の流れが安定し、冷や汗は消え、手も徐々に暖かくなっていく。
俺はその状態に縄で縛りつけるように、必要以上に強く念じながら、再びミネアの意識を探る。
さっきのように2、3回呼び掛けるとすぐに、感情が動くのが分かった。
今ならいけるはずだ、そう思って。
俺は思念を送り込むのを止め、ミネアと対話するために全神経を傾けた。

「お、おい、聞こえるか!?」
『姉さん……じゃない……? あなた、誰? どこから話しかけているの?』
「そんなの今はどうだっていい! 目ぇ覚ますことに集中しろ!」

……声が届いた。
ミネアの感情が、目を白黒させているかのように上下に揺れる。
そして、ミネアの中から「姉さん」と呼ばれる人物のイメージが消えた。
困惑と動揺が嫌というほど伝わってきて、ぞくりと背筋に寒気が走るのを感じた。
こいつはこのまま夢でも見ながら死ぬつもりだったんだろうか。
直前の記憶を忘れたまま、この楽園を現実だと信じたまま。

『い、いきなり……、何なのよ。どういう意味?』
「そのまんまだ! お前が今まで何やってたか、よく考えろ。そんでなんとか起きてくれ!」

ミネアから伝わる感情に、苛立ちのようなものが加わる。
俺も焦ってるからなのか、こっちまで苛々してくる。

『何、言って……?だから私、ちゃんと起きてるじゃ……』

まあ、無理もないと思った。
ミネアが言いすくむと同時に花畑のイメージも消え、辺りは黒一色に変わった。

「……気ぃついたか?」
『起き、て……?』

281メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:50:39 ID:QJKo4Dkc0
困惑、動揺、苛立ち、焦燥、失望、疑問。それが突風のように吹き荒れ始めて、俺は顔をしかめた。
心が動くのはいい。意識の表層に浮かんでいけば、覚醒もそう遠くない。

『あ、れ?』

ただ、それはぶつぶつと穴が空いたようなノイズ混じりで。
俺は何故か、それがひどく不快に思えた。

『わた し……』
「……どうした?」
『そう、さ…っきまで森にいて、ぴサロさんとぁの白、いhいとと戦って……』

膨らんではしぼむような声、感度の低いラジオのような音。
なんだこれ、気持ち悪い。
それが聞き間違いとは思えなくて、俺は徐々に言い知れない不安を感じていた。
そしてそう考えている間にも、聴こえるのが声なのか雑音なのか、その違いさえも分からなくなっていく。

「お前、お前……何、言ってるんだよ。俺の声、聞こえるか?」

『私、そおとキ、気を……nあって……』

『そし……、リンさnい…うぉts……て……』

『……で■o……■■ッた■……り■■■ヲs■■■■』


『■…■■■■■■■ ■■  ■』


『                    』


「……え?」

意味が分からなかった。
俺はしばらく、呆然と眺めていることしかできなかった。
額がぐっしょりと濡れて、汗が頬を伝っていくのを感じる。

おかしな話だと思った。
握った手は暖かい。なのに、心のどこを探っても意識が見つからない。
俺は首を振った。さっきまですぐにも目覚めそうだったのに、そんなわけあるか、と。
俺は考えた。次に何をすればいいのかを。ミネアには動く気配が無いというのに。

282メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:51:30 ID:QJKo4Dkc0
ふと、頭の片隅が囁く。
そもそもこれ、暖かいか?俺がそう思ってるだけ、思いたいだけなんじゃねえのか、と。
俺は目を閉じる。どういう意味だ、と強がりを言い返した。
けれど、実際俺は確信が持てなくなっていた。心を読むわけでもないのに、手先に神経を集中させる。
手をほどく。ミネアの手は力なく地に着いた。
もう一度握る。その強ばった指先が俺の手のひらを突いた。
……暖かい?冷たいんじゃないのか?冷たいってなんだ?
俺の手が震えた気がした。それが何故かは分からないけど。
仕方ねえな。もっと回復しないと駄目なんだよな?

何度もミネアの心を読んでみる。反応は無い。
そりゃそうだ、意識がないんだから。
俺はそう思うと同時に首を傾げたくなった。そして疑問を感じたことも疑問に思った。
意識がない、と思ったことは間違っていないはず。
なのに、何がおかしい。
頭では何か気づいているのかもしれない。

……いるのかもしれない、だと?すぐ分かることじゃないのか。

吐く息が震えた。


こいつ、もう――




――死んでるのか?





目の前のミネアがぐにゃりと歪んだ。周りの木も巻き込んでそれはかき混ぜられていく。
不思議だった。まるで別の部屋からテレビの映像でも見るように、俺はその景色を見ていた。
誰かが俺の視界をいじっているのではないかとも思った。
目を開ける。ミネアはすぐそこにいる。
目を閉じると、一切の存在が感じ取れなくなる。
じゃあ俺はずっと、死体相手にこんな事やってたことになるのか?
ついさっきまであいつの心と話していたのに、それなのに。
死なせたくないと思った。恩人を助けて欲しいと、リンディスは言っていた。それなのに。

283メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:53:28 ID:QJKo4Dkc0
なんだか、笑いたくなった。
なんだか、怒りたくなった。


なんだか、叫びたくなった。


「ざけんじゃねーよ……」

ミネアにも俺自身にも当たるような呟き声が出る。
それを皮切りに、感情が爆発した。

「お前、死ぬのかよ。こんなところで、リンディスの思いも無駄にして死ぬのかよ!
 姉がいるんだろ? 帰る場所だってあるんだろ? 勝手に満足してくたばってんじゃねえよっ!」

異物が競り上がってくるような感覚で、息が詰まる。
咳き込みながら、構わず叫んだ。

「俺は……、帰りてえぞ。妹がいるんだ。俺がいてやらねえと、いけねえんだ。お前だって同じ……」

その時。
手のひらに何かが当たった。
そして、俺は確かに見た。ミネアの指先が動いたのを。

「……え」

心を読んでみるが、さっきまでと同様、意識は感じられない。
耳を澄ませてみる。
荒い呼吸が聞こえたが、これがミネアのはずがない。じゃあ、誰だろうか。
手を離そうとした。ミネアの指がまた動く。
驚いたのか、俺の指先がびくりと震えた。それきり動かす気になれなかった。

当然、死んでいるという訳じゃない。そして、蘇った訳でもない。
生きていて良かった。そう思うと同時に。
俺はなぜか怖くなった。
足元からじわじわと違和感が競り上がってくるような感覚。何かが頭の回路に引っ掛かっているような不快感。
ミネアの脈を感じ、俺は確信した。

頭のどこかで気づいていたけど、分からなかった正体。
今までなるべく考えないようにしていた。知らず知らずのうちに排除していた、もう一つの可能性。

284メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:54:05 ID:QJKo4Dkc0
「は」

「はは……」

何だ。

「何だよ……」

何て間違いしてたんだ。

ああ、そうか。



おかしいのは俺の方だったんだ。



限界なんて、とうに越えていた。
今倒れてろくに動けないのも、目の前が回り続けるのも、割れそうなほどの頭痛も。
ぶっ続けで読心術を使い、暗示をかけて、イメージを送り続けた結果だと。
そんな当然のことに、俺はようやく気付く。
そもそもそれを分かってたからリンディスを追いやったのではないか。
気付いて、一抹の疑問が生まれた。
じゃあ、こんな状態の俺がずっと思念を送って、ミネアに何も影響は無かったのだろうかと。
当然確かめることはできない。でも、それが気がかりに思えて。

その瞬間。

ぷっつりと、何かが切れる音を聞いた。

いや、本当に聞いたのかも分からなかった。痛みも無い、その感覚に違和感を覚える。
本当は音なんて鳴ってないのかもしれない。また勘違いでもしたのか。
そう思って目を開ける。

あれだけぐしゃぐしゃに混ざっていた世界が、静まっていた。
眩暈の激しさだけじゃない。頭の痛みも、胃の重さも、胸の苦しさも、心の動きも。
そんなもの初めから無かったかのように、音一つ無く静まっていた。
そして、照明を落としたかのように、周りの景色が徐々にフェードアウトしていく。

まずい。
そう思った時にはもう遅かった。
まだ駄目だと、もう少しなんだと訴えることもできずに。

次の瞬間、世界が暗転した。

285メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:56:02 ID:QJKo4Dkc0



「私、本当に帰って来れたのね?」

『何の話よ。旅はずっと前に終わったでしょ』

「ほら、えーっと……。あら、私今まで、どこかにいなかったっけ?」

『変なミネアね。帰りたかったの?』

「帰りたかったわ」

『トルネコさんはもういないのよ。アリーナだって、クリフトだっていない』

「……え?」

『勇者様にももう会えないかもしれない。全員が犠牲になって、やっと帰れるんだから』

「……それ以外に道はないの? 私は、他の方法を見つけたいわ」

『それで、今死にかけてるの? どっちにしろ同じことよ。その思いでも、人は殺せる』

『「それでも」』

『それでもあなたは、そんな無謀な生き方をし続けるのね?』
「それでも私は……、そうして皆と帰りたかった。姉さんのところに帰りたかった……!」







二人は隣り合って倒れていた。
いや、元々ミネアは体を横たえたままだから、そう言うには少し語弊がある。
何が起こったのか全然分からなくて、私は立ち尽くした。分かるのは、二人とも気を失っているということだけ。
我に返り、急いでその場へ駆け寄る。ミネアの顔を見て、身体に触れて、思わず身を引いた。

そのまま私の目はその隣へと移る。

「……ねえ、大丈夫? 何があったの!?」

私はアキラの肩を揺さぶる。ミネアに負けず劣らずぐったりとした身体は、何の動きも見せない。
心臓が早鐘を打つ。まさか、と上げたくなる声を押し殺す。
何度か呼びかけるとようやく、アキラはぼんやりと目を開けた。
私は息を飲む。先ほどから想像の付かないくらいに、虚ろな目と蒼白な顔が私を見ていた。

286メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:56:42 ID:QJKo4Dkc0
「あ……れ……?」
「大丈夫!?私よ、分かる?」

目が合い、私に気づいたと思うと、彼は苦しそうに顔を歪めた。

「あ……すまねえ。まだ……」

アキラがそう呟いたかと思うと、手を這わせて起き上がろうとするのが分かった。
私は咄嗟に手が出て、その肩を地面に押さえつけた。

「何、すんだ……。もう少し、なんだよ。だから……」
「……いいの。もういいのよ」
「どういう……ことだ?」

掠れた声が私の鼓膜を打つ。
何かが溢れてくるのを抑えるように、私の声は震えていた。

「ミネアは、……もう、大丈夫だから」
「……死んでないよな?」
「うん」
「……温かい、か?」
「うん」

大きなため息が漏れる。今までぴんと張りつめていた糸が切れるように感じた。
ミネアはまだ起きない。火傷も完治と言うには程遠い。
けれども、先程からは想像も付かないほど温かく、安らかな顔だった。
アキラを見ると、依然無表情なまま、こちらを向いてぼんやりと私を見ていた。
そしてまどろむように、彼の瞼は静かに下がっていき――

「ちょっと待って!まだ駄目!!」

瞬間、私は耐えきれず声を張り上げた。
アキラの身体がびくりと震え、忘れていたかのように私を見る。

「さ、叫ぶなよ、頭に響く……」
「だって!」

アキラは頭を押さえて、鬱陶しいといった調子で答える。
何故こうなったかは分からないけれど、一瞬そのまま死んでしまいそうにも見えた。
話しかけるのもためらわれて、しばらく、落ち着くまで私は空を見ていた。

287メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:57:55 ID:QJKo4Dkc0
「本当に大丈夫なの?」
「死にゃしねーよ、多分」
「ねえ、一つ聞かせて。あなたはミネアの回復をして……こうなったのよね?」
「……悪かったな」
「分かってたんでしょ?だから私を離したかったのね?」
「一つって言ったろ」

「……ごめんなさい」

答えはない。その代わりにアキラはまっすぐ私を見た。

「あなたは、ミネアを助けてくれたのに……。私、あなたを疑ってた。自分が、情けないわ……」

音がするほど強く歯を噛み締める。
私は無力だった。
いくら剣の腕に自身があっても、この状況では人を頼ることしかできない。
仕方ないことなのにそれがとても嫌で、自分の不甲斐なさに腹が立った。
アキラはそんな私を一瞥して、目を反らした。

「すまねーな」

もし俺で駄目だったら、と先刻アキラは言った。今になってみれば、最初からそういうつもりだったのだろう。
確かにその場にいたら、私も止めようとすると思う。
そして、誤解も当然だと思っていたから謝ったのだろうか。
こんなに疲労していなかったら、私も悪態の一つでもついていたのに。
なんだか変な会話だと、私は思った。

すると、思い出したように、アキラが話を切り出す。

「……そいつ背負って、街まで連れていけるか?」
「え?」
「怪我自体は、治ってねえから……」
「あなたを置いて……ってこと?」

そう言うと、アキラは何も聞こえなかったとでも言うように押し黙る。
冗談じゃない、と思った。いくらミネアを助けたいといっても、私にそんなことができるわけない。
ただでさえ何も礼ができていないというのに。

「……お断りするわ」
「そうか」

じゃあ、これからどうするんだ?
アキラの視線が刺さる。口は動いていないのに、そう言われたような気がした。
そう聞かず黙っているのは、私が答えられないのが分かっているからだろうか。
そう思うと、悔しくなった。

288メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:58:49 ID:QJKo4Dkc0
「なら一つ……賭けを、しねえか?」

視線を戻す。今まで無表情だったアキラが、にやりと笑みを浮かべた。
この状況で何ができるのだろう。期待する半面、少し嫌な予感がした。

「賭けを……?」
「ここから……テレポートする」





「俺さ……、時々思うんだ」
「このまま……こんな場所も飛び越えて、家に帰れたら、って……」








『ミネア』


『起きろよ』


「ミネア!」


「起きてよ!」


誰かの呼ぶ声がした。
ふわふわと漂う感覚のまま、私はそれを聞いていた。

289メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 18:59:44 ID:QJKo4Dkc0
夢の中には姉さんがいて、とても居心地が良くて。
私はしばらく目覚めたくないと思った。なのに無理やり起こしてくるのだもの。
声が聞こえなくなったと思ったら、次には全身を冷水に叩きつけられたような感覚。
驚いた。驚きました。思わず起きちゃったわ。
……もちろん、今は感謝しているけれど。



「ここは……?」

「ねえ、しっかりして……!」




開いた瞼の中へ我先にと光が潜り込む。目覚めたばかりの瞳はその量に対応しきれず、見えるもの全てを白で覆った。
そんな身体の動きを意識がただ傍観する。私は目の前の真っ白な世界に感心さえ
していた。
直後、目は耐えきれず瞼を閉じ、強い白から逃げ出す。
再び現れる暗闇。

(外を、見たいんだけど)

眩しい。
眩しい。
暗闇でしか生きられなくなったのかしら?
だったら、このまま地底でひっそり過ごすのもいいかも……。
頭の片隅から出てきた仮定を聞いて、ああ、疲れているなと思う。
うんざりして、無理やりにも目を開けた。
光に怯む瞼は抵抗を続ける。
開ける。閉じた。開けた。眩しい。暗い。明るい。白。黒。

私の意識はただ黒と白を観察している。他人事のように私の身体に居座って、じっと見ている。
やがて身体は一つの色を映し出すことに決めたのだろうか、しばらくすると視界全てが一色で染まっていた。

(周りが見たい)

どのくらい虚空を見つめていただろうか。
重い腰を上げるかのように、傍観していた意識がようやく動き出す。
右にも左にも茶があった。いや、これ、壁だったのね。

そういえば、さっきまでここに誰かいなかったかしら?
その時私は、いまこうやっているように……
暗い意識の底から、真っ暗な無音の空間から。
空を眺めていたような気がする。

290メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 19:00:41 ID:QJKo4Dkc0
(あ、頭が動いた)

確か、森でピサロさんと白い女の人と会って……。

(左腕の感覚が無い)

そういえば、こんなことさっきもあったような……?
というより、何で私はここで寝ているの?

(ああ。そうよ、そうだった)

私、何言ってるのかしら……。
酷い火傷して、今まで気絶してたのね。うっかり忘れるところだった。
さっきまでリンさんが話してたの、聞いていたのに。
でも、変な気分。こんな怪我したのに、私はまだ生きてたのね。



「ここは……」

「もしかして、街の中?」



ようやく目が慣れた頃にはもう、リンさんの姿はなかった。
代わりに見えるのは、規則正しく並ぶタイルに、水滴の張りつく浴槽。ここは風呂場なのかしら。
すぐに起き上がる気にはなれなかった。
またびしょ濡れになってしまった服が肌に張りつき、疲労感や倦怠感のようなものに変わっていた。
ただ目だけは、周りを見ようと世話しなく動く。
そういえば私は誰かを探している……はずだった。リンさんじゃない誰かを。
はずだったというのも、今ここには私しかいないから、そう言ってるだけだけれど。
そんなことを思っていると、扉の向こうから足音が近づいてきた。

「ミネア!」

上から、リンさんの声。
その声で私の中のぼやき声はかき消えた。

「リンさん?ここは……」
「ああ、良かった……!家の中よ。寝室もあったの。今、連れていくわ!」

言い終わるより早く、私の体はタオルを被り、リンさんに抱きかかえられる。
持ち上げられながら、私の目はリンさんの姿を追っていた。
すらりと伸びる足を過ぎ、ぴったりとした青い服と、揺れる緑の長い髪を経て、
焦りのような安堵のような表情を見た。
リンさんと目が合う。目を反らしたその顔が、ほんのりと紅くなるのに私は気付いた。
部屋を出て走りながら、リンさんは口を開く。

「ミネア、本当に良かったわ。そうだ、身体は、身体は大丈夫!?」

291メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 19:01:32 ID:QJKo4Dkc0
見慣れない天井を見ながら、私は内心首を傾げた。
正直、起き上がれないので体の様子がよく分からない。……そう、痛みがないのよね。
大火傷が何ともないのだから、大丈夫かと聞かれたら大丈夫ではないのだろうか。

「分かりません……。火傷した腕は全然感覚が無くて、動くかどうかも分からないのに……」

息を吸う。普通に話しているのに、何か違和感を感じた。
言葉を整理しているうちに次の部屋が開き、私はベッドの目の前にいた。

「なのに、意識はちゃんとしていて……。眠いとか全くなくて、今ずぶ濡れのはずなのに、身体が暑くて……」
「ミネア……?」

一言一言、ひどくゆっくりとした声が出た。
リンさんが私の腕に裂いたシーツを巻きながらも、不安そうに私を見る。
その時初めて、私は白黒まだらの自分の腕を見た。
そして、気づく。傷に触れられても感覚が分からないことに。あと――それを他人事のように眺めている私に。
そう、そうだわ。
本当は不安になるんじゃないかしら?
さっきまで死んでもおかしくなかったのに、体の不自然さに気づいたのに、変じゃないかしら?
そう思っても、心は何故か安心感で満たされていて、不思議と落ち着いていた。
単にぎりぎりの状態だと、こんな感じになるのかしら?

「私……、私、どうなっているの?これから大丈夫なんでしょうか?」

頭に浮かぶ純粋な疑問。
でも、本来ついてくるはずの感情は無くて、口から出るのも他人の言葉なのではないかと思えた。

「ミネア!」

タオルを私の体に巻いて、ぎゅっと、リンさんが私の手を握る。
身体の、手の暖かさは、確かに私に伝わってきた。

「大丈夫、大丈夫よ。ミネアはここで休んでいて。今度は……、私が守るから!」
「私は……え、リンさん?」

私が口を開いたときには、既にリンさんは走り出していた。部屋の外へ、風のような速さで。
私はベッドの上でその後ろ姿を見送るしかできなかった。
思わずため息が出る。

292メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 19:02:38 ID:QJKo4Dkc0
「ちっとも大丈夫じゃないみたいね……」

私は自分の手を見つめた。リンさんに腕を握られて、やっと気づいた。
私が火傷した、首筋から二の腕の部分全て、組織自体が焼け死んでしまっていることに。
だから痛みはもちろん、あらゆる感覚が分からないのだ。
火傷で壊死した部分を覗いた全ては、暖かさも、触れた感覚も当然分かる。
手首も指も一本一本動かせるし、肘から下なら無傷そのものだ。
火傷の軽い部分は……探したけれど、もう治っていた。変な話かもしれないけど、傷痕しかなかった。
ただ、体が熱いとか、変な気持ちとか、そういう理由はよくわからないけど……。

「これなら……」

私はベッドから降りた。そう、降りることができた。
ほら、立てるじゃない。
少しふらつくけど、意識して動かさないといけないけど、私は立てるし歩ける。
頭のぼうっとする感覚も、いつの間にやら消えていた。
そこまで確認して、ほっとため息が出る。そしてその瞬間から、私は身体より別のことが気になり始めていた。
まず、ここがどこなのか。どうしてこんな場所に飛ばされたのか。
リンが何も言わなかったのは不親切ではなく、単に分からなかったのだろう。
だから、今急いで出ていったのかしら?
あわてていたのはどうして?
何かもう一つ気になることがあったような気がして、私は部屋を見回した。

「……! あなた……!?」

(変な格好……)

第一印象はさておき、奥のベッドに見えたのは知らない男の人だった。
私はこの人の名前も知らない。でも声は知っている。
あの時確かに話をして、それより前にもどこかで聞いた気がした。それがどこなのかは分からないけれど。
でも一目見て分かった。この人こそが、先ほどから私が無意識に探していたその人だと。
そして、手のひらに残る暖かさ。これが、私を繋ぎ止めてくれたのだと私は気づく。
同時に、この人が倒れている理由も理解する。
理解して、肩身が狭くなった。私はそれも分からず、声を聞いても眠り続けてた気がしたから。

293メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 19:03:21 ID:QJKo4Dkc0
少しうつむくと、床のデイパックに私の目が留まった。
この人のものだろうか。気付くと私はそれに手を伸ばしていた。
勝手に覗くのはためらわれたけど、何だか中を見ないといけない気がして。

「っく……、よい、しょっ」

私は火傷の酷くないもう片方の手で、なんとかデイパックをベッドの上に引き寄せる。
すると、見覚えのあるものが転がり出た。
いや、見覚えのあるというには軽すぎるだろうか。
銀色のタロットカード。かつてそこに宿る魔力を戦闘にも使った、私の愛用の道具。
私はためらうことなく手を伸ばし、その一枚を引き抜く。

「こ、これって……」

思わず目を疑う。
これを引いた時、勇者様も笑ってたっけ。……だけど、まさか今出るなんて。

――くさった死体の、正位置。

「……昼寝しているとさがし物が出てきますが くさっているでしょう。
 セーターの毛玉にだまされそう。
 ラッキーナンバーは931。ラッキーカラーはえび茶色――

 ――案ずるより産むが易し、ですか」

産むが易しなんて。この状況で言うには、なんて無責任で軽々しい言葉だろう。
でも、誰に、何に対して言っているのかしら。私達三人のことなのかしら?
そもそも今のは、誰を占うか決めたわけでもない占い。本来ならこの結果は何にも使えない。
だけどそれを分かっているかのように、はっきりと未来を指し示すカードではなくて。そこに、私は少し引っかかった。
……まあ、このカードは気まぐれだから、深く考えても分かるわけもないのだけれど。

「そうよね。言っているうちは、気楽よね」

294メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 19:04:19 ID:QJKo4Dkc0
【A-5 村 チビッコハウス 一日目 昼】
【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:腹に傷跡 、焦りと不安、疲労(小)
[装備]:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣 、拡声器(現実)
[道具]:毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、 フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、
     デスイリュージョン@アークザラッドⅡ 、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ミネアを治療できる人、あるいは薬を急いで探す。
2:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
3:白い女性(アティ)が気になる。もう一度会い、話をしたい。
[備考]:
※終章後参戦
※ワレス(ロワ未参加) 支援A

【A-5 村 チビッコハウス寝室 一日目 昼】
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:気絶中。疲労(大)、精神的疲労(大)、神経衰弱
[装備]:激怒の腕輪@クロノ・トリガー
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1: -
2:ミネアを助ける。
3:高原日勝、サンダウン・キッド、無法松との合流。
4:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)の仇を取る。
5:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※拡声器はなんてことのない普通の拡声器です
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。

295メイジー・メガザル ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 19:05:16 ID:QJKo4Dkc0
【ミネア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:精神的疲労(中)。上腕、肩から胸元にかけて火傷(少し治療済み)、催眠中。
[装備]:ぎんのタロット@ドラゴンクエスト4
[道具]:基本支給品一式(紙、名簿欠落)
[思考]
基本:自分とアリーゼ、ルッカの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:十分に周りを警戒。リンとアキラの様子が気になる。
2:ロザリーがどうなったのかが気になる。
3:ピサロを説得し、行動を共にしたい。
4:ルッカを探したい。
5:飛びだしたカノンが気になる。
[備考]
※参戦時期は6章ED後です。
※アリーゼ、カノン、ルッカの知り合いや、世界についての情報を得ました。
 ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。
 また時間跳躍の話も聞いていません。
※回復呪文の制限に気付きました。
※ピサロがロザリーを死んだままであると認識していると思っています。
※アリーゼの遺体に気付いていません。
※暗示がかけられています。一定時間、火傷の影響を感じなくなります。


※アリーゼの死体はC-7に埋葬されました。
※A-5の村に、チビッコハウス@LIVEALIVEがあります。


【ぎんのタロット@ドラゴンクエスト4】
ミネアの専用武器。戦闘中に道具として使用するとさまざまな効果をもたらす。
カードを引いてみるまでは結果がいっさい予測できないので、中には味方に大ダメージを与えるものも。
普通に占いとしても使えます。

296 ◆jU59Fli6bM:2009/09/09(水) 19:14:48 ID:QJKo4Dkc0
投下終了です。予想より長くなってしまったかも。
超能力がよく分からないのですが、ゲームで描写が無いものも使って大丈夫でしょうか?
あと書いてから気付いたけれど、ぎんのタロットは扱いにくいですかね…
それ以外にも見落としがありそうで不安なので指摘あったらお願いします。

297SAVEDATA No.774:2009/09/09(水) 19:46:23 ID:pnc/lznw0
投下乙ー
RPG系は小説やノベルゲーム媒体のとは違い細部が分からないもの多いですもんえw
ひよこ砲や17ダイオードのように矛盾がないレベルでの独自解釈もロワの楽しみの一つです。
というわけで各種イメージを応用しての体温上げ等は問題もなかったかと。
ただ、同調してこちら側から声を心に届けられるのはどうなのかな?
まあ火や氷のイメージを押し付けるよりは声を届ける方が簡単っぽいけど。
下手にテレパシーとして乱用されないために、相手の意識が無い時にしか効きにくい、接触しないと使えないくらいの作中説明は付けておくべきかも

銀のタロットは普通に大丈夫かと
それこそ効果の描写は解釈で書けますし(即死は弱体化だけど)、何よりミネアの占いは面白いしねw

298FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:14:52 ID:x1by4xUo0

「……エルク、お前は何処に向かったんだ……」

アズリアと松は洞窟を飛び出したエルクを追いかけたものの一向に追いつける様子がない。
相手は様々な場所を駆け回るハンターだ。
その上、恐らくは魔法で移動力を上げている。
それに比べアズリアは元帝国軍隊長。
『自由に』駆け回ることは出来なかったし、隊長という立場から指揮を執らなければならず動き回ることに慣れてないのだ。
その上、今履いているスカートは走ることに向いて無いのだ。
これが何を意味するか?
つまり、エルクが走っている状態では差が開くことはあっても縮まることは無い。
エルクが止まらない限り追いつけないのだ。

そう……それだけならばまだ良かった。

アズリア達はエルクが何処に向かったか判らないのだ。
洞窟から西に向かって走り続けているが、もしかしたらエルクはこっちにはいないかもしれない。
B-9の橋を渡らずに神殿に向かった可能性もあるのだ。
そこでアズリアは松に声をかける。

「松ッ!頼みがある」
「………………」

しかし松からの返事はない。
声が届いてないのだろうか?

「松ッ!聞こえてるか?}
「あ?……ああ、すまない。なんだ?」
「別れるぞ」

その言葉を聞いた松は眉を顰めた。

「……やっぱり、信用できないか?}
「いや、そうじゃない」

299FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:16:49 ID:x1by4xUo0
なにも松と一緒にいたくないわけでは無い。
松が信頼の置ける人物であることは既に理解している。
しかし、エルクは何処に行ったか判らないのだ。
エルクを見つけるならば別れた方が効率がいい。
そう判断したからアズリアは松に二手に別れることを持ち掛けたのだ。

「何処に行ったか判らない以上、別れた方がいい。
 片方が座礁船を経由して村へ、もう片方は神殿方面の捜索。
 待ち合わせ場所さえ決めていれば――――――――――」
「なら俺が神殿の方に行く。待ち合わせ場所は第三放送の頃に座礁船でどうだ?」

言葉を言い終える前にそう返されてアズリアは少しながら驚いた。

「かなり先の話だな……何かあるのか?」
「ああ、実はオディオを倒すための仲間を集めている最中だったんだ。
 その待ち合わせ場所が座礁船。時間は第三放送の頃にって事だ。それでいいか?」
「……いいだろう」

待ち合わせをするには遅すぎる時間だ。
だがエルクが何時見つかるかも判らない。
二人ともエルクを見つけられずに合流することもあり得るのだ。
合流を急いてはいけないのかもしれない。
それにエルクだけでなく、イスラやアティも探さなければならない。
特にイスラは戦い方を知らない。
放送では呼ばれなかったが……それがいつまで続くか判らない。
恐らく誰かと一緒にいるから無事なのだろう。

「すまない松ッ!恩に着るッ!松……必ず」

情報を交換している時間はない。
それは今度会ったときに聞けばいい。
だから今は――――――――――

「ああ……再会の約束だ」

少し前にしたように、拳と拳を付き合わせる。
その瞬間に二人は別の方向に駆けだした。



300FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:18:01 ID:x1by4xUo0

このまま行けば森に入ることになる。
もう一度行くことになるのだ。
自分のスタート地点へ――――――――――

(バレなかったか……?)

無法松は別れ際アズリアに隠していた事があった。
見てしまったのだ。
雷を――――――地獄から昇るがごとき雷を。
自然現象では起こりえない黒き雷を。
深く、強い憎しみが込められた昏き雷を!
天が落とす雷と違って『それ』は光が届かないものだった。
『それ』は雷とは似て非なるものだったが本能が理解した。
『それ』は雷だと、地獄の雷だと!
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
見えたのは偶然だった。
だが一瞬とはいえ、目にしたら脳裏に焼き付く。
それを見て足こそ止めなかったものの呆然とした。
あの様子ではアズリアは気づいていないのだろう。
無法松はアズリアに話さなかった、地獄の雷を見たことを。

「すまない……アズリア」

エルクの力になりたいと言ったのは事実だ。
その言葉に嘘偽りはない。
だが、松も感じたのだ、アズリア同様に。
エルクを見つけることは困難だと。
そして見えた雷――――――
恐らくあの場所では戦闘が行われていることが予測される。
ティナは魔法で炎が出せると言っていた。
だったら人為的に雷が出せる者がいても不思議じゃない。
そこにアズリアが別れてエルクを探すことを提案した。
そこですぐさま神殿行きを希望して待ち合わせ場所を座礁船に、時間を第三放送時に決めた。

座礁船を待ち合わせ場所にしたのは、もともとそのために動いていたからだ。
オディオを打倒するためにビクトールから頼まれた自分の役目。
そもそも海辺の洞窟に向かったのもトッシュから頼まれたエルクへの呼びかけの為。
エルクは見つかる保証がない。焦って合流を急ぎすぎてもいけない。
それを伝えていれば生きている限りアズリアとは再会できる。

では神殿行きを希望したのは何故か?

一つ目――――――
恐らくは、村の方がエルクがいる確率は高いだろうと思ったから。
B-9の橋を渡って神殿の方に向かった可能性もある。
しかし洞窟から駆け出した直後の痕跡を考えたら村に向かったと考える方がしっくり来る。
そう――――――少しでも確率が高い方をアズリアに譲ったのだ。
確かにエルクの力にはなりたい。
それは本心だ。
だが、その役目はアズリアの方が相応しいのでは無いかとも思う。
もちろん、自分は自分でエルクを探して力になるつもりだ。

二つ目――――――
地獄から昇る黒き雷……。
神殿付近の森では戦闘が起こっている可能性が高い。
この島で安全な所なんて無いであろう。
だが神殿に向かう方が危険度は高い。
女を危険なところに向かわせることは昭和の男には出来るはずがなかった。

三つ目――――――
これは海辺の洞窟にいたときから考えていたことだ。
やはり、ティナはルカに殺されてしまったのだと。
覚悟はしていた……いや、その可能性は非常に高いと思った。
生きている可能性がある限りティナを探そうとしたのをビクトールが止め、代わりに探してくれた。
きっとビクトールが悪いんじゃない。
自分が目を覚ましたときには…………いや自分がビクトールに拾われた時には既に……。

――――――ティナは殺されていると。

301FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:18:31 ID:x1by4xUo0
そんな気はしていた。
あの森でティナは……。
なんだかんだで気になるのだ、あの森で何が起こったか。
山火事がどういう訳か鎮火している。何かあったのだろう。
ビクトールは放送で呼ばれてないがルカも呼ばれなかった。
そしてトッシュは生きているもののナナミが放送で呼ばれてしまった。
きっと森に向かったのだトッシュ達は。
自分が今生きているのはティナが守ってくれたからだ。
だから……もう一度向かわなければならない。
自分のスタート地点へ――――――真実を確かめに。

「あっちのほうだな……」

それなりに距離はあるものの凄まじい闘気がここまで届いてくる。
どうやら未だに戦闘中のようだ。
ビクトールやトッシュ、エルクが関わってる可能性がある……急ごう。

――――――こつん。

「…………なんだ?」

何かが足にぶつかった。
何かと思い、下に目を向ける。
それは石だとか木の根だとかそういうものではなかった。

「…………これは!」

――――――首輪。

ここに連れてこられた参加者に着けられている爆弾付きの枷。
それがどういう訳か『首輪だけ』が落ちていたのだ。

「何でこんな所に首輪が……?」

この首輪を着けられていた参加者はどうしたのか?

首輪を外した?
いや、首輪には弄られた後など無い。

体が丸ごと消滅した?
だがそれにしては争った形跡がない。
火事のせいで木はボロボロなもののそれほど大きな戦いがあったようには思えなかった。

「……っといけねえ。今は急がねえと、とりあえずこれは回収して……」

今は考え事をしてる場合じゃない。
すぐに気を取り直す。首輪を回収しようと手に取った瞬間――――――


突如発生した破壊の嵐!!!

「……なにッ!うおおおおおおおおッ!!!」

伐剣者が起こした圧倒的な暴風に、強烈な破壊の渦に――――松は巻き込まれた。

302FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:19:19 ID:x1by4xUo0


座礁船を探ってみたが誰もいない。
だったら次は村だ!!!

「おおおおおおおおおおッッ」

もうすぐ村だ。誰かいないか!

俺は……無力だ。
ミリル達だけでなくリーザも護れなかった。
だけど……何時までもそれを嘆いていては駄目なんだ!
誰かを護りたい。誰かを護れる力が欲しい!
人を……人を探さないと!

そこは『村』という割には異様に広かった。
俺は人を探す為に縦横無尽に動き回る。
全身の感覚を鋭くして、人の気配を探る。

一軒目――――誰もいない……。
二軒目――――ここにも……。
三件目――――静かだ……。

もう五十軒は回っただろうか?
誰も見つからず落胆する。
その時だ――――人の気配を感じたのは。

「そこに誰かいるんだろ……出てこいよ」

気配のする方向に声をかける。
……誰かいる。そして殺気がギンギンに届いてくる。
反応はない。
だが、間違いなく誰かがいる。
そう確信していた。

「隠れてんじゃねえッ!…………出てこいッ!!!」

語気を強めて、『そいつ』に叫んだ。
殺し合いを強要されている状況だ、隠れることは致し方ないかもしれない。
それでもエルクには『そいつ』が殺し合いに乗っている可能性が高いと踏んでいた。
エルクに向けられた殺気はそう思わせるには十分だった。


ほどなくして何もない空間から突如、一人の男が姿を現した。


「騒々しいね……これでいいかい?」

そこから出てきたのはエドガーの姿を借りたシンシアだ。
冷静を装っているものの、心臓はバクバクと警鐘を鳴らしている。
この状況で姿を見せると言うことは、自らを危険にさらすことだ。
相手が殺し合いに乗ってないなら姿を見せるのは問題無い。
なら殺し合いに乗った危険人物なら?
もしかしたらこの少年も自分たち同様に殺し合いに乗っているかもしれない。
自分は弱い。
奇襲による不意打ちや闇討ち。
騙し討ちなどの小細工を使わなければ、標的を殺せない。
真っ向勝負で勝てる参加者など片手の指で数えられるほどだろう。

303FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:19:57 ID:x1by4xUo0

それが例え、今の姿……エドガー・ロニ・フィガロのような優れた身体を持ってしても。

モシャス――――目視している者を模倣する呪文。
それでも、完全に模倣できる訳じゃない。
例えば、対象の記憶までは模倣できない。
つまり対象の技量は真似ることは出来ないのだ。

同じほどの腕の筋量を持つ二人のパンチの威力が必ずしも同じになるか?

否!
パンチは打ち方で威力が上がる。

同じほどの足の筋量を持つ二人の走力が必ずしも同じになるか?

否!
走り方の違いで走力は変わる。

モシャスは確かに強力な呪文だ。
だが……シンシアはモシャスで手に入れた身体を戦闘で完全に活かせない。
せめてシンシアがある程度、戦闘慣れしていれば話は違っただろう。

今まで出会った参加者は寝ていたフロリーナだけはよく判らなかったが、フロリーナ以外は全員、格上で有ることが見て取れた。
魔法の靴、ミラクルシューズを履いている事を考慮しても、この少年はおそらく格上――――

「この状況では……隠れるのも仕方ないだろう?私は――――」
「不意打ちを仕掛けようとしたから隠れました。私は殺し合いに乗っています……か?」

シンシアの言葉をエルクが繋いだ。
それを聞いたシンシアの顔に浮かんだのは明らかな動揺の色。
それは、はっきりエルクに見て取れた。

「……やっぱりか」

九割以上の確率でそうだろうと思ってはいた。
何せこの殺気だ。
それでも一応、カマをかけてみた。
結果は御覧の通りだ。

「てめえ……素人だろ。気配もバレバレ、殺気を消す事も出来ない……」

エルクは目の前の男の実力は『明らかな格下』と評価した。
身体を見てみればしっかりしている。
恐らく自分以上の死地を潜り抜けた『強者』だと思わせるぐらいに。
それでも格下としか思えなかった。
雰囲気や佇まいからそれが判る。
奇妙なことにその優れた身体と一致しないのが気がかりだが……。

「最も……そっちの奴はかなり出来るみたいだがな」



そ の 瞬 間 !



ガキンと金属と金属がぶつかる音が響く。
姿を現したのは『死神』の二つ名を持つ男、ジャファル。
エルクを殺そうと『死神』が振るった刃は、炎の剣によって受け止められていた。

「……よく気付いたな」
「伊達にハンターやってねえよ」



304FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:20:32 ID:x1by4xUo0

(あれか……座礁船は)

もうすぐ座礁船に着く。
エルク捜索の第一歩だ。

船がはっきり見えるようになった所で……私は愕然とした。

「……なッ……これは……海賊……船?」

それは私がよく知っている船だった。
私が世話になった海賊一家の……。
カイル一家の……船だ。

「これは……一体……」

これはなんだ?オディオはこんな物まで持ってきたのか?
もしかしたら状況は私が考えているより、ずっと深刻なのかもしれない。

「思考の海を漂うのは後だッ!!!」

今はエルクを探さなければ……。
船を探索してみるが誰も見つからない。
人が入った形跡が少しあるだけだ。

「エルクーーーーーーーーッ!!!」

大声で呼びかけてみる。
しかし、返事が無い。ここは無人船のようだ。

「ここにはいない……次は村か」

ここに入ったのがエルクなら村で会えるかもしれない。
座礁船、そして村。
両方を綿密に探索しているならB-5の禁止エリアを突っ切る時間は無い。

私は馴染みの有る船を後にして村に向かった。



305FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:24:19 ID:x1by4xUo0
ジャファルは素早くエルクと距離を開けて体勢を立て直した。
驚きはしない。
闇の中で完全な不意打ちを仕掛けたにも関わらず、容易く自分の短刀を受け止めた男がいたのだから。

数刻前のことだ。
ジャファルとシンシアはエドガー達を殺害した後、次の獲物を探そうと移動を開始した。
その矢先ににジャファルはエルクを捕捉した。
そこでひとまずは様子を見る為に『壽商会』の時のように二人で隠れ蓑に隠れた。

焦りすぎてはいけないことはシンシア同様、ジャファルも学習していた。
なにせシャドウだけならともかく、素人のシンシアにまで『暗殺』は失敗しているのだ。
それも闇の中、森の中という得意なフィールドで、だ。
今までジャファルは焦っていたのだ。
ジャファルが守りたいニノはすばらしい才能を持っているが、まだその才能の花は芽吹いたばかり……。
何時、殺されるか判らない……ジャファルが焦るのも無理はない。
だが、これまでの失態はさんざん自分が焦っていたことを自覚させられた。
故にまずは慎重に様子を見ようとしたが……。


――――そこに誰かいるんだろ……出てこいよ。

それでもエルクに気付かれてしまったが。
とりあえずシンシアだけが隠れ蓑の外に出た。
不意打ちを仕掛けるならジャファルの方が適任だからだ。
それにエルクが察知したのはシンシアだけだと思ったからだ。
しかしなぜか……。


――――最も……そっちの奴はかなり出来るみたいだがな。

エルクはジャファルにも気付いた。

……今回はエドガーを暗殺した時とは状況が違った。

まず、エルクの気配察知能力が高かった事。
エルクに戦い方を仕込んだのは超一流ハンターシュウだ。
シュウは格闘技、射撃術、忍術、盗賊の技などの様々な分野の戦闘のスペシャリストだ。
そしてその中の一つに『暗殺術』もある。嘗てのシュウは暗殺のプロだった。
最もハンターになってからは『暗殺術』を使う事は無かったが。
当然、エルクに『暗殺術』を仕込むことはしなかった。
だが、『暗殺術』に対抗する術はしっかりと仕込んでいたのだ。
エルクもシャドウの様に寝ているときでも周りの気配を察知出来るまでになっていたのだ。
現にエルクが寝ている時、それなりに場数を踏んでいるシャンテの気配に気付いた事実もある。
たとえ戦場じゃなくても自然に気配を消せるシュウと長く共にあったことも大きい。
それは、エドガーとシャドウの様な短い付き合いじゃないのだ。
五年もの歳月…………そして師弟関係。
状況は違う。

それに、『隙を見せない』ことに関してはエドガーが上だが、『人を探す』ことに関してはエルクの方が上なのだ。
『暗殺』――――それは常日頃起こるものではない。
フィガロ城の兵士は優秀で暗殺は滅多に起こらない。
勿論油断はしないものの、暗殺者に常に意識を持っていくわけではない。
……ならば暗殺が起こらないように隙を見せなければいい。
『狩られない者』として。
それに対してエルクは『ハンター』――――『狩る者』。
手配犯の気配を探る事なんて日常茶飯事だ。
そう……警戒意識の方向が違うのだ。

306FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:25:53 ID:x1by4xUo0
ジャファルは素早くエルクと距離を開けて体勢を立て直した。
驚きはしない。
闇の中で完全な不意打ちを仕掛けたにも関わらず、容易く自分の短刀を受け止めた男がいたのだから。

数刻前のことだ。
ジャファルとシンシアはエドガー達を殺害した後、次の獲物を探そうと移動を開始した。
その矢先ににジャファルはエルクを捕捉した。
そこでひとまずは様子を見る為に『壽商会』の時のように二人で隠れ蓑に隠れた。

焦りすぎてはいけないことはシンシア同様、ジャファルも学習していた。
なにせシャドウだけならともかく、素人のシンシアにまで『暗殺』は失敗しているのだ。
それも闇の中、森の中という得意なフィールドで、だ。
今までジャファルは焦っていたのだ。
ジャファルが守りたいニノはすばらしい才能を持っているが、まだその才能の花は芽吹いたばかり……。
何時、殺されるか判らない……ジャファルが焦るのも無理はない。
だが、これまでの失態はさんざん自分が焦っていたことを自覚させられた。
故にまずは慎重に様子を見ようとしたが……。


――――そこに誰かいるんだろ……出てこいよ。

それでもエルクに気付かれてしまったが。
とりあえずシンシアだけが隠れ蓑の外に出た。
不意打ちを仕掛けるならジャファルの方が適任だからだ。
それにエルクが察知したのはシンシアだけだと思ったからだ。
しかしなぜか……。


――――最も……そっちの奴はかなり出来るみたいだがな。

エルクはジャファルにも気付いた。

……今回はエドガーを暗殺した時とは状況が違った。

まず、エルクの気配察知能力が高かった事。
エルクに戦い方を仕込んだのは超一流ハンターシュウだ。
シュウは格闘技、射撃術、忍術、盗賊の技などの様々な分野の戦闘のスペシャリストだ。
そしてその中の一つに『暗殺術』もある。嘗てのシュウは暗殺のプロだった。
最もハンターになってからは『暗殺術』を使う事は無かったが。
当然、エルクに『暗殺術』を仕込むことはしなかった。
だが、『暗殺術』に対抗する術はしっかりと仕込んでいたのだ。
エルクもシャドウの様に寝ているときでも周りの気配を察知出来るまでになっていたのだ。
現にエルクが寝ている時、それなりに場数を踏んでいるシャンテの気配に気付いた事実もある。
たとえ戦場じゃなくても自然に気配を消せるシュウと長く共にあったことも大きい。
それは、エドガーとシャドウの様な短い付き合いじゃないのだ。
五年もの歳月…………そして師弟関係。
状況は違う。

それに、『隙を見せない』ことに関してはエドガーが上だが、『人を探す』ことに関してはエルクの方が上なのだ。
『暗殺』――――それは常日頃起こるものではない。
フィガロ城の兵士は優秀で暗殺は滅多に起こらない。
勿論油断はしないものの、暗殺者に常に意識を持っていくわけではない。
……ならば暗殺が起こらないように隙を見せなければいい。
『狩られない者』として。
それに対してエルクは『ハンター』――――『狩る者』。
手配犯の気配を探る事なんて日常茶飯事だ。
そう……警戒意識の方向が違うのだ。

307FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:26:33 ID:x1by4xUo0
それが、エドガーとエルクの最大の違いだ。
『壽商会』ではエドガーは人がいないという先入観から若干の油断があった。
ざっと辺りを見回しても人はいなかったのだから。
そして人がいないから安心と思い込んでしまった。
それは、エドガーの大きなミステイク。
確かにおぼろ丸の隠れ蓑の事などエドガーは知らない。
しかし……エドガーは『バニシュ』という魔法を知っていた。
姿を消して透明になれる魔法を。
エルクの様に周りの気配をきっちり探っていれば、少なくともシンシアには気付けたはずなのだ。

そしてエルク……。
エルクは冷静な状態では無かった。
だが、それは決して注意力散漫になっていた訳じゃない。
なにせ今の第一目的が、『誰でもいいから人を探す』だったのだから。

だから、素人のシンシアはあっさり見つけることが出来た。
その瞬間は確かに一人と思った。
だが、シンシアの目線などから判断して、『もう一人いる』と思ってしまったのだ。
もう一度気配を探ってみれば、シンシアの大きい殺気に隠れた極めて小さい殺気があった。
それがジャファルに気付いた経緯だ。

「お前ら……今まで何人殺した?」
(微かに血の匂いがする……。こいつらか?リーザを殺したのは……)

「俺と同い年ぐらいの大人しそうな茶髪の少女を知っているか?」

少年は暗殺者達に問う。
しかし、暗殺者達は問いに答えず臨戦態勢を取る。

「へっ……そうかよ。だったら実力行使だ!!!」

エルクの身体に光が降り注いだ。
炎の剣を構えて猛ダッシュ。

エルク、ジャファル、シンシア。
三人の戦いの火蓋が切って落とされた。



308FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:28:11 ID:x1by4xUo0

ジャファルとシンシアからすれば不意打ちで仕留められなかった以上、撤退したかった。
だが目の前の少年が撤退を許してくれない。
この少年……移動スピードが凄まじいのだ。
今が夜なら、あるいはここが森なら逃げ切れたかもしれない。
ジャファルはこの状況をどう打開するか考える。
正直戦いたくないのだ。
不意打ちでなければ心臓を突くのにもリスクがある。
人は心臓を突いても即死しない。
それは先ほどフロリーナと一緒にいた男が証明した。
あの時は背後からの不意打ちだったから成功しただけ。
例え、心臓を突いてもその時に大きな痛手を受ける可能性がある。
それほど、アサシンダガーは短い。


二人で再び隠れるという選択肢は?

却下。
二人で隠れ蓑を使った所でシンシアは簡単に気付かれる。
そんなことをしても無駄。


自分一人で隠れるのは?

却下。
シンシアはまだ使い道がある。
フロリーナを殺した時にそれは証明された。
今、見殺しにするのはいささかもったいない。
今は陽が昇っている。
暗殺者の時間じゃない。
少しでも戦力が必要。
それに、俺も一度見つかった。
暗殺者は一度見つかれば、感づかれ易くなる。
ある程度時間が立たなければやり過ごすことも不意打ちも難しい。


隠れるという選択は選べない。
更に言えば、先ほどの建物でかなりの時間、隠れることになった。
今は時間が惜しい。

(ここで仕留めるか、どうにかして撒く……か)

この男はシンシアを格下と見たからか俺ばかりを狙ってくる。
シンシアは手を出さない。
接近戦を仕掛けでもしたら殺される可能性が高いから当然か……。
戦うしかないか……。

「……いくぞ」

戦いは長引いた。
エルクの放った攻撃を全てジャファルは回避する。

309FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:29:07 ID:x1by4xUo0

エルクの攻撃は素早く、シンシアなら三十秒も持たなかっただろう。
しかし、攻撃が素直で単調。
高い技量をあまり活かせていない。
エルクが戦闘技術を習って、たかだか五年だ。
そんな攻撃が、暗殺組織【黒い牙】の最高の称号【四牙】の一人である【死神】ジャファルが見切れないはずがなかった。
幼き頃から地獄を見てきたのだから。

「りゃあああああああああああ。」
(ちッ!……ゆらゆらとうぜえ!)

剣を振るうも当たらない。
十発中十発が外れた。
ジャファルは揺れる陽炎のようにゆらゆらと。
エルクは攻撃対象がうまく定まらない。

「なっろー」

エルクはやや大振りの一撃を放つ。
それもジャファルは簡単に回避する。
そして、エルクのラッシュが収まる。
その瞬間、ジャファルは攻撃のために急接近する。
狙うは急所――――心臓だ。
死神の刃がエルクの心臓を捉え――――。





ひゅんッ!





……なかった。
ジャファルからやや離れたところにエルクは……いた。

エルクの攻撃はジャファルを捉えられない。
しかし同時にジャファルの攻撃も全てエルクには届かなかった。
その要因は幾つもあった。

超接近戦なら圧倒的にジャファルに分がある。何せ得物はダガーだ。
そしてエルクはそれを重々承知している。
攻撃射程は剣を持つエルクに分がある。
アサシンダガーは短すぎるのだ。
だからエルクは必要以上に近づかなかった。
――――近づきすぎると危険。
本能的にその事を感じたのだ。
これがシンシアの持つ最強クラスの忍者刀『影縫い』ならそこまで不利じゃなかった。
あるいはジャファルの真骨頂である二刀流だったなら、エルクが不利になっただろう。

310FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:31:30 ID:x1by4xUo0
そして『戦闘経験』の差。
それはエルクに分があった。
確かにジャファルはエルクより長く鍛練を積み、より多くの地獄を見てきた。
だが、ジャファルは暗殺者だ。
暗殺者は『基本的』には弱い者なのだ。
暗闇に乗じて、相手の不意を突いて、毒を使って、仲間と連繋して。
まともな手段じゃ勝てないから、勝てるようにいろいろと小細工する。
そして、暗殺の腕は『超一流』。
『超一流』故に、暗殺の成功率の高さ故に真っ向勝負をした経験があまり無いのだ。
そこが様々な攻撃手段を持つシャドウやシュウとの違いだ。
二人のように魔法や術は使えない。
シャドウの様な投擲技術は無い。
シュウとは違い、隙を突くことは出来ても隙を作ることは出来ない。
ジャファルは過去、仕事で大怪我をしたことがある。
仕事は成功したが、『暗殺』は失敗したのだ。
仕事中しくじって、標的に気付かれ戦闘になった。
幼き頃から鍛えた技術により標的は仕留めたが……大怪我をした。
何故【四牙】のジャファルが大怪我をしたか?
それは暗殺失敗時の経験がなかったからだ。
無論、同じ失敗は繰り返さない。
【四牙】の一人、ウルスラ率いる暗殺者達を真っ向から半壊させる実力を身につけ、リンディス、ヘクトル、エリウッドの軍に入って『戦闘経験』を培った。
だが、それでもエルクには及ばなかった。
エルクもジャファルの攻撃を見切れる。
ジャファルの動きを捉えられなくても、攻撃を仕掛ける場所は主に急所だからだ。
カノンの様にラッシュも仕掛けて来ない。
攻撃してくる場所が判れば見切ることも可能。

そして最大の理由。
エルクはこれまで自分を上回る身体能力を持つ者を身体能力強化の術で切り抜けてきた。
『魔人』オディ・オブライトを倒す決め手になった反射神経向上の術『リタリエイション』。
『紫電の剣姫』アズリアを降す決め手になった距離感縮小の術『エキスパンドレンジ』。
それらが今、重ね掛けをされているのだ。
リタリエイションでジャファルの攻撃を見切り、エキスパンドレンジで距離を調整する。
だからジャファルの攻撃がエルクに届かない。
だが、それらを駆使してもエルクの攻撃はジャファルに届かないのだ。
オディ・オブライトより慎重故、カウンターを叩き込めない。
アズリアとは得物が違うダガー故、距離を詰め切れない。

(くっそ!術を重ね掛けしてんのに!)
(……こいつ……出来る……)

お互いに決定打が無い。
このままじゃジリ貧……いや、ジャファルに分がある。
ジャファルの戦闘スタイルはエルクより遙かに疲労が小さいからだ。
エルクの動きには無駄が多い。



311FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:32:10 ID:x1by4xUo0

(どうすりゃいい?)

この男のスピードはシュウとは違う。
確かにすげー速いが『超スピード』と言うよりは『視覚の盲点』を突いて動いている感じだ。
スピードアップもないみたいだし、シュウより楽といえば楽なんだが……やりづれえ。
って言っても俺はシュウには一度も勝ったことが無い。
シュウより楽ってだけで勝てる理由にならねえ。
どうやら……こいつは俺より死地を潜り抜けてきてるみたいだ。
気を抜いたら……死ぬ!

「ああああああああッ!!!!!」

射程ギリギリから袈裟斬り。
ジャファルはすぐに応戦する。

そこでジャファルが選んだのは回避でも防御でもなく――――


――――キィン。

攻撃だった。

(なッ!ダガーで俺の剣を弾いただと!)

驚愕する。
エルクは『剣』を重力を味方に付けて『振り下ろした』のだ。
ジャファルはそれを『ダガー』で重力を敵に回し『振り上げた』に関わらず弾いたのだ。

何故そんなことが出来たのか?
このときのエルクは全力攻撃はしてない。
やれば隙が出来るからだ。
それに対してジャファルは全力で攻撃した。
だがそれは小さな理由。
エルクとて力ならジャファルに負けてない。
それだけではエルクの有利な条件を考えれば鍔競り合いがいいところだ。

そして大きな理由。
ジャファルは巧くエルクの理想打点ポイントを外して、自分の理想打点ポイントに合わせたからだ。
それはよほどの技量差がないと出来ない芸当――――

312FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:32:43 ID:x1by4xUo0
なかなか動かない戦況を打開するためにジャファルが仕掛けた奇策。
全力で攻撃した為、やや隙が出来たが、右手を大きく後方に持って行かれたエルクに比べれば、あまりにも小さな隙だった。


(……殺った)

今度こそ確信した。今なら心臓を突ける。
相手の状態を考えれば反撃も受けない。
だが…………

(!!!!!)

ジャファルはエルクの心臓を抉るのをあきらめて、その場から瞬時に離脱した。
それも仕方がないだろう。
全てを飲み込む炎の嵐が迫っていたのだから。

(……なんだと)

炎を回避して警戒レベルを高める。
これにはジャファルも流石に驚いた。
魔導書も無しに魔法を使ったことではない。
シンシアが魔導書無しで魔法を行使したのは既に知ってる。

驚いた理由は?
この少年は粗こそ有るが剣士として十分すぎるほどの力を持っている。
故に剣士だと思っていた。そうとしか思えなかった。
戦闘開始時にエルクが使った、エキスパンドレンジとリタリエイションの正体が分からなかったジャファルからすれば当然だろう。
だが、この少年はほぼノータイムでこれほどの炎を出した。
驚くだろう。ここまで剣を扱えて、これほどの魔法を行使したのだから。
そんなことが出来る者はエレブ大陸広しとはいえ聞いたことがなかった。

(……ここまで発動が速いとは……エルクとは大違いだ)

ニノと仲が良かった少年のことを思い出し、目の前の少年を素直に賞賛した。
あの大賢者アトスさえ、ここまで速く魔法発動は出来ない。

エルクは『剣』と『術』どちらかと言えば術の方が得意なのだ。
ここ五年で身につけたハンターとしての身体能力。
生まれたときから持っていた精霊の力。
どちらが強いかは推して知るべし。
そしてエルクの炎は魔導書やクレストグラフなどの技術による魔法ではない。
技術によるものなら使い手の技量により発動速度は変わる。
だが、エルクは『炎』そのものと言える存在。
身体の内に宿る純然たる『力』。
魔法発動の手順をすっ飛ばしているのだ。
よほど巨大な炎を使おうとしない限り発動は速い。
カノンのラッシュを潜り抜けて発動できるほどなのだから。

313FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:33:34 ID:x1by4xUo0
(……威力は十分。発動も速い……が、一度見てしまえば大した脅威じゃない)

まともには受けられない。
ジャファルの魔法耐性はそこまで高くないからだ。
それに炎は少し苦手……。
だが、当たらなければどうと言うことはない。
確かに発動は速い。
だが、炎が迫るスピードや炎の範囲は対処できるレベルだ。
それにエルクはわかりやすい。
エルクの動作の機微から何時、どのタイミングで、炎を発動する気なのか先を読むのは容易だ。

(……だがこれで室内戦は仕掛けられなくなったか……)

ここでエルクが炎を使ってくれたのはジャファルにとって幸運だった。
ジャファルはなんとかエルクを誘導して得意な室内戦に持ち込もうと思っていたからだ。
それを知らないまま室内に入ったと思うとゾッとする。
むしろ室内ではエルクの方が有利だからだ。
ジャファルは知っている……閉鎖空間、密閉空間での炎の恐ろしさを。
外から何十発と大砲を撃っても陥落させる事が出来ない強固な城でも、中から火を放てばあっさりと潰せる。
……そういうことだ。

(……アサシンダガーが少し溶けている。長期戦は無理か……)

エルクの武器は炎の剣。
それは、刃の鋭さで対象を切断するものでなく、熱で切断するものだ。
あまり打ち合うとアサシンダガーが使えなくなる。
ジャファルは時間を食いたくないこともあり、撤退の隙を探った。

(……ちッ!外したッ!)

炎が外れて、心の中で舌を打つ。
再び剣を構えてジャファルを見据える。
しばし続く睨み合い。
お互いに出方を伺っている。

そしてまた交差する。
急所を狙う。
術を打ち込む。
そんなことがどれだけ続いただろう。

そして、ふいに……横槍が入った。

「ギガデイン!」



314FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:34:15 ID:x1by4xUo0

ジャファルが目の前の少年と戦っているが私は手が出せない。
私は弱いから。
この身体が持ってしても。
魔法の靴を履いていても。
ジャファルにも少年にも勝てる気はしなかった。
私は多少呪文の心得があるだけの少女だから。
……私も少しは剣の稽古をしておけば良かったかも。
そうすれば、もっとまともに戦えたかもしれないのに。
確かにジャファルに加勢すれば少しは手伝えるかもしれない。
でも、私が殺される可能性を考えたら……よほど戦況が悪くならない限り、手を出さない方が賢明。

今、私がすることは少年の観察。
少年の実力を見極めて、今の身体とどちらが有用性が高いか、調べる事しか出来ない。
ある程度見た様子では、今の男の身体の方が優秀であると思う。
つまりモシャスを使う必要はない。

だったら私は何をすればいいの?
只見ているだけ?
ユーリルを助けたいんじゃなかったの?

何も出来ない自分が歯痒い。
その時だった。目の前の少年が強力な炎を出したのは。

(…………えっ?)

これは少し驚いた。
見るからに直情的で、頭に血が上りやすそうで、会心の一撃ばかり出してそうな少年が呪文を行使したのだから。

(モシャスする価値有りみたいね……)

呪文にはある程度は精通しているシンシアにとってエルクは、かなり有用性がある身体だった。
そこでモシャスを唱えようとするが、すんでの所で思いとどまる。

(……でも、待って……まさか……この身体も!)

今の身体を『検索』してみる。
自分の意識が身体を巡る。
エドガーの内なる魔力を調べてみる。
すると様々な呪文が中に秘められていた。

モシャスは記憶はコピーできないが、内なる力を調べることぐらいは出来るのだ。
そして、よほど手順が複雑でない限り、その力も模倣できる!

(これ……すごいじゃない。これなら援護できるかも……)

あの少年を倒すのに適切な呪文は……


『炎』――――却下。直撃したところで大して効かないだろう。


『冷気』――――却下。それ以上の炎で打ち消されて終わり。



(どれ……どれが)

『検索』を続ける。
そして、最適なものを見つけた。

(!!!…………なんで)

判らない……判らない。
何でこの男は勇者であるユーリルしか使えないはずの奇跡を起こせるのか。
この男は勇者?
なら、私は勇者を殺したの?
世界は滅ぶの?

(…………違う!……違う!勇者はユーリルだけ。この男は偽物……)

嫌な考えを振り払う。
守るべきはユーリルなんだから。
この男が雷を使えても関係ない!
私が勇者の影だから!

今は只、呪文を唱える。
炎の少年を殺すために。

「……サンダ」

発動時に自然に口走りそうになった言葉を飲み込む。
それじゃない、私が使う呪文は。

すぐに気を取り直して炎の少年を見据える。
勇者の影は放つ、勇者にしか使えない奇跡を。

「ギガデイン!」



315FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:35:49 ID:x1by4xUo0

「……また気を失ってたのか俺は」

森の中で無法松は目を覚ました。
気を失う直前のことを思い出す。
たしか強力な嵐に吹き飛ばされた。
それで無傷なのは運が良かったのだろう。
もたもたしている時間はないのに気絶してしまうとは。

「ここはどこだろうな……」

神殿の西の森だと思うが正確な位置はわからない。
さっきの戦闘音も聞こえなくなっている。

まずは、神殿に向かうのが賢明だろうか?


「移動するか……ん?」

自分が何かを握りしめていることに気が付いた。
首輪だ。
なぜこれを?
思い出せばすぐに出てきた。
気絶する直前に拾ったじゃないか。

「男 無法松……!無念を晴らしてみせるッ!」

デイバッグに首輪をしまう。
この首輪を着けていた参加者は死んでいるのだろう。
その人物の分まで戦うと松は心に誓った。


――――――最もその人物の意思は今もこの今で生き続けているが。


もしかしたら、ここで無法松が首輪を拾ったのも『彼女』の意思がもたらしたのかもしれない。

「……コンパス、コンパス」

とりあえずは東行きだ。東に行けば湖畔に着くはず。
そこまで行けば神殿に行くのは簡単だ。


――――――カサッ


(!!!!!)


音が聞こえて、身構える。
音の発生源を探れば、一人の女性が一心不乱に走っていた。

神殿とは逆の西の方向へ。

316FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:36:25 ID:x1by4xUo0

【C-6 山 一日目 昼】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6、不明支給品0〜2(本人確認済)
   ティナの首輪。 
[思考]
基本:打倒オディオ
1:誰だ……?
2:エルクを探して力になる。そのために神殿に行く?
3:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。
4:第三回放送の頃に、ビクトールやアズリアと合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナの仲間とビクトールの仲間とトッシュの仲間について把握。ケフカ、ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
 ジョウイを警戒すべきと考えています。
※アズリアとは座礁船のこと以外は情報交換をしませんでした。

【アティ@サモンナイト3】
[状態]:コートとパンツと靴以外の衣服は着用していない。
    強い悲しみと激しい自己嫌悪と狂おしいほどの後悔。コートとブーツは泥と血で汚れている。
    水の紋章が宿っている。疲労(大)、ダメージ自体は目だってなし。
    自分が自分でなくなるような恐怖。
[装備]:白いコート
[道具]:基本支給品一式
    モグタン将軍のプロマイド@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:誰にも会いたくない。
1:当てもなく、自分の中の『何か』から逃げる。
[備考]:
※参戦時期は一話で海に飛び込んだところから。
※首輪の存在にはまったく気付いておりません。
※地図は見ておりません。
※暴走召喚は媒体がないと使えません。
※無法松には気付いてません。

317罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:37:23 ID:x1by4xUo0


(……なッ!!!)

突如エルクを雷が襲う。
シンシアがサンダガを唱えたのだ。
迫る。輝く稲光が。
とっさに後ろに跳んでその場から離脱。
次の瞬間。ついさっきまで自分がいた場所に雷が落ちた。
エルクはどうにかサンダガを回避できた。

「危ねえ……」

当たらなかったものの、戦況が悪くなったと思わずにはいられない。
威力はそこまで脅威じゃない。
問題は当たれば一瞬は身体が麻痺する事だ。
その隙を目の前の暗殺者が逃すはずがない。
心臓を突かれて終わりだ。
更に言えば、炎では雷は防げない。
この場所に来てから何故か更に消費が大きくなったインビシブルしか手はない。
それ以外では回避一択しかないのだ。

雷を放ったキザ男を狙おうにも、この赤髪の男がそれを簡単に許してはくれないだろう。
これは厳しいな……

(こいつら……ん?)

術を使ったキザ男を睨む。
そこで感じた違和感。
わずかに辛そうな顔をしていた。
わずかだが確かに苦しそうな顔をしていた。
何処かで見たような顔……
何処で見たんだろう?
エルクはその顔を知っていた。

(…………シャンテ)

嘗てエルク達を救い、有益な情報を与え、裏切った女性。
そして、今はエルクの大切な仲間である女性。
そのシャンテの昔の顔に……似ている気がした。

シャンテは確かにエルクを裏切った。
だがそれはシャンテが悪人だったからではない。
シャンテは弟であるアルフレッドを助けたかったのだ。
どうしても助けたかったからエルク達を陥れた。
既にアルフレッドが殺されていると知らずに。

騙されたことを知ったシャンテはエルク達と一緒に戦いたいと、そう言ってきた。
弟のためとはいえ突き詰めてみてみれば、それは自分勝手な都合だろう。
誰かを助ける為に、誰かを犠牲にするなんて間違っているのだから。
でも、エルクはそれを受け入れた。

裏切られたと知った直後は激怒したものだ。
人の命をオモチャにする奴だと、そう思った。
でも、そうではないのだ。
その後、事情を聞いたエルクには理解できたのだ。
シャンテにとって弟がどれほど大切な存在だったか。

318罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:38:08 ID:x1by4xUo0
一度裏切ったシャンテを受け入れたのは、自分が直接殺した訳じゃないにしろ、自分がアルフレッドの死に関わっていたのが引け目になっていた事もある。
自分がしっかりしていればアルフレッドは死なずにすんだ。
だけど何よりも、シャンテの弟を思う気持ちが、大切な者を思う気持ちが伝わってきたから。
自分のような者を、もう出したくないという気持ちが伝わってきたから。

エルクは思った。
こいつは……守りたい者が、生きて欲しいと思う大切な存在がいるんじゃないかと。
もしかしたら……紅髪の男もそうかもしれない。

暗殺者の瞳を見据える。
見えた。
瞳の奥に眠る感情を。
心の奥に奥に押し込め閉じこめている感情を。

エルクにはそれが判る。
だって自分も同じだから。
そういう存在がいるから。
一人逃げ出した俺を、こんな俺を……今も守ってくれる大切な存在がいるから。
炎の剣を握る右手に力を込める。

「…………お前ら、何で殺し合いに乗ってるんだ?」

意を決してエルクは問いかけた。
二人の男は答えない。
言葉を続ける。

「……大切な人が、守りたい人がいるんじゃないのか?」

((――――――――――――ッ!))

微かに動揺が見てとれる。
思った通りだ。

「俺には判るんだよ。俺にも大切な人がいるからッ!
 ……こんな事はやめるんだッ!オディオを信用する気か!」

オディオを信用していいのか?
そんなことはシンシアもジャファルも判っている。
特にジャファルは悪人は平気で騙し、裏切ることを知っている。
あの女――――ソーニャがいい例だ。
願いを叶えることが出来る権利も嘘かもしれない。
いや、それだけならまだいい。
最悪、優勝してもそのまま殺されたり、もう一度同じ事をさせられることも考えられる。
それでも、この道を選んだ。
弱者であるシンシアから見ればオディオは勝てるわけがない圧倒的な存在に見えた。
強者であるジャファルから見れば、強者であるが故に、あのネルガルや古の火竜を上回るほどの存在であることが判った。

319罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:39:06 ID:x1by4xUo0

――――勝てない。ハッピーエンドは存在しない。


この道を……選ぶしかなかった。

「…………やめない。彼しか私達の世界は守れない。
 御伽話のように、みんなで魔王を倒すという夢物語は存在しない。
 君こそ私達の仲間にならないか?君にもいるのだろう?大切な人が、守りたい人が」

シンシアが口を開く。
エルクを勧誘する為に。
自分たちと同じように大切な人がいるなら、もしかしたら丸め込めるかもしれない。
既に何処かで四人、五人のチームもあるかもしれない。
それに殺し合いに乗っているシンシアにとって人手が多すぎても困るが、三人ぐらいなら利害一致のチームとして多すぎるほどではない。
それに実力もある。
ジャファルも説得できたし、この少年も……。

「断る!巫山戯てんじゃねえッ!なんだその『彼』ってのは?
 そいつに数多の屍の上に立つことを望んでんのかよ!
 彼しか世界を護れない?なんだよそれ、そいつは勇者様だってのか?
 面白い夢物語だな!ここで魔王を倒せない奴が世界なんて救えるか!」

返事はNO。
もう自分のような者を出したくない。
アズリアにも……大切な弟がいるんだ!

「……確かにそうだ。それは認めよう。
 私は彼に数多の屍の上に立ってでも生きていて欲しい。
 彼は弱い。君より遙かにね。
 だがそれは『今』の話だ。彼は強くなる。
 いずれはオディオを倒せるぐらいに成長するはずだ」

確かにエルクの言い分も判る。
この殺し合いで優勝する……それは魔王オディオに屈することを意味する。
仮に元の世界に帰れたとしても魔王オディオの脅威は消えない。

そして、今のユーリルに魔王を倒す力は無いとも思う。
ユーリルはまだメラもホイミも使えない……少し剣が達者なだけの少年だ。
実戦経験もなく、恐らく参加者の中ではかなり弱い方だろう。

なら仮にユーリルが優勝して、首輪が外れて元の世界に帰っても、世界は救われない?世界に平和は訪れない?
そんなことは無い。だってユーリルは勇者だ。
今は勝てなくても、いつかきっと世界に平和をもたらしてくれる。
勇者には、ユーリルにはそれだけの力があるはず。

「莫迦も休み休み言えッ!なぜみんなで力を合わせようとしないッ!!!
 彼が世界を救うって言ったな。彼でないと駄目だと……。
 気付いてるか……てめえはそいつにその役目を押しつけている。『生贄』にしてるんだッ!!!」

エルクは納得しない。
シンシアの言うことが判らない。
判りたくもない!

「――――――――――――ッ!
 なによ!なによ!……なにも知らないくせに!
 私は彼の為なら死ねるわ……『生贄』にだって喜んでなるわ!」

320罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:41:43 ID:x1by4xUo0
頭に来た。
感情的になってしまい、男の姿をしているのも忘れて普段の口調で声を出してしまう。
ムカつく。腹が立つ。
私が彼を『生贄』にしてる?
そんなはずはない!私はユーリルの為に『生贄』になったこともある!
そんなことがあっていいはずがない!
彼が『生贄』なんてことはあってはいけない!
彼は生きるべき人だから!

「黙れオカマ野郎!それが間違いだと言っているんだッ!!!
 『生贄』を出すことを前提で考えるなッ!!!
 大切な人だったら……一人にさせるんじゃねえッ!!!最後まで守り通せッ!!!」

(――――――――――――ッ!)

ジャファルの表情が変わる。
それは一瞬だったが、『少し』なんてレベルじゃなかった。
その瞬間さえはっきり見ていれば素人にも判るくらいに。
最もエルクにもシンシアにも、その表情を見られることはなかったが。

「…………何を言っても無駄のようね」

これ以上は時間の無駄。
もう話したくない。早くここから離れたい。
シンシアはジャファルに小声で話しかけた。

「…………ジャファル、逃げる方法があるわ……少し時間を稼いで」
「……わかった」

シンシアは魔法を放つ準備を始めた。
そして、ジャファルは短刀を構え、攻撃を仕掛けてくる。

(……なんでだよ)

ジャファルと刃を交えながらエルクは思った。
何でわかってくれないんだと。
悪いのはオディオだ。
とはいえ恐らく、こいつらはいままで人を殺しているであろう。
でも、リーザを殺したのがこいつらでないなら、許す気でいた。
出来たら説得したいと思っていたのに。

そして、刃を交えた二人が距離を取ったその時。

「エルク――――――――何処にいるッ!!!」

声がした。
エルクが聞き覚えのある声、アズリアの声。
声のする方向を見れば確かにアズリアがいた。
アズリアもエルクに気付いたようだ。
エルクは理解する。
きっと自分を追ってここまで来たのだと。

「……くッ!」

エルクはアズリアのいる方向に走った。
ここはアズリアの安全を確保する方が優先事項だ。
そして、隣に立って剣を構えた。

その為、ジャファルとシンシアは十分すぎる距離をとれた。
そして、シンシアの準備も整った。

321罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:42:53 ID:x1by4xUo0
エドガーはそこまで魔力は高い方じゃない。
エルクとは違い、後天的魔法会得者だ。
生まれつき魔法に縁のある者ではないのだ。
だが、その魔法の汎用性はエルクを遙かに上回る。
さまざまな幻獣から力を貰ってきたのだ。それも当然。
そしてエドガー達の世界では魔力が高くなくても高位魔法が使える。
魔力は威力に関係するだけで、それ相応の精神力さえあれば最上級魔法も使えるのだ。

そしてこれが、エドガーの持つ中で最も強い魔法――――――――――――







「メテオ!」






空から降り注ぐ無数の隕石。
一つ、一つは小粒だ。
だがまともに数十発も受ければ、只じゃすまない。
腐ってもメテオだ。
そして、その隕石はエルクとアズリアに向かってくる。

322罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:43:41 ID:x1by4xUo0


「おい……冗談だろ……」
「……なんだ……これは」

ここまで来れば驚愕せざるを得ない。
隕石を落とすなんてただ事じゃない。
特にエルクはシンシアを格下と見ていた。
こんな事が出来るとは到底思えない。

「避けるっきゃねえ!」

この隕石を焼き尽くすほどの炎ならある程度の時間がいる。
それを使う暇はない。
ならばと隕石の合間を無って移動する。
補助魔法が重ね掛けされてるエルクには何とかそれが出来る。
だがアズリアは――――――――――――

「――――――――――ッ!」

避けるのに苦心していた。
スカートはやはり慣れない。
目の前に少し大きめの隕石が迫っていた。

(避けられないなら……全て打ち落とす!)

ロンギヌスを構え、迎撃に備える。

「炎よ! 復讐の刃と化せ!!」

覚悟を決めたときだ。
突如身に降りかかる光。
元から高いアズリアの反射神経が更に高まる。感覚が研ぎ澄まされる。
エルクだ。
隕石を避けながら補助魔法を駆けてくれたのだ。
アズリアはエルクを一瞥して心の中で礼を言う。

(……いくぞ)

323罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:44:16 ID:x1by4xUo0




――――――その手から放たれるは。








「紫電…………」








――――――紫電の槍。








「絶華あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッ!!!!!」

324罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:45:17 ID:x1by4xUo0




「逃げられた……」

隕石が無くなった頃には既にジャファルとシンシアの姿は消えていた。
すぐに探そうと駆け出そうとしたエルクだったが……。

「……待て、私に一言も無しか?」

アズリアに腕を掴まれる。
そして…………。


――――――こつん。


軽い拳骨。

「私を置いていくな……寂しいだろう?」
「……アズリア」

身体を思い切り動かしたエルクは幾分冷静さを取り戻していた。
判っている。自分が勝手な行動をしたことぐらい。

「それとも、私が何時、何処で死んでも、
 誰かに殺されても、どうでもいいか?」
「そんなこと!」

そうだ、自分が離れている間にアズリアが殺されたらどうする。
俺はそんなことも考えないで……。

「すまない……アズリア」
「もう勝手な行動はしないな」

頷く。

「じゃあ指切りだ」

アズリアはエルクに指を差し出す。
子供がよくやるあれだ。

「……そんな子供扱いすんなよ」
「別にそんなつもりじゃなかったのだが……お前はまだ子供だろう?」

エルクは押し黙る。
どうにも強く言い返せない。
アズリアを置いていった引け目もあるが……なにか謎の力を感じる。
その強力な『お姉ちゃんパワー』にはさしものエルクも逆らえなかった。

「嘘を吐いたら拳骨百回をお見舞いする」
「……わかったよ」

「「ゆーびきりげんまん。うそついたら、げんこつひゃっかいみーまう。ゆびきった」」

約束を交わした。

……
…………
………………

325罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:46:02 ID:x1by4xUo0

「すまないが少し休憩しよう、流石に疲れた。
 それと今度は、しっかり放送を聞くように」

エルクと情報を交換したアズリアはそう言った。
慣れないスカートでここまで走ってきたアズリアの疲労は戦闘をこなしたエルクより大きくなっていたのだ。

「わかった」

エルクは了承した。
自分も疲れていたし、アズリアに無理をさせたのは自分だ。

エルクは気を引き締める。
まだあたりに、さっきの男達がいるかもしれないのだ。

「それとエルク、さっき魔法を掛けてくれて有難う」
「別に礼を言われるほどのことはしてねーよ」

――――――かくして、炎と紫電は再会した。

【A-6 村 一日目 昼】

【炎と紫電】

【エルク@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:炎の剣@アークザラッドⅡ
[道具]:データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
    オディ・オブライトの不明支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなで力を合わせて、オディオを倒す。
1:しばらく休憩。
2:シュウ、イスラ、アティと合流。
3:カノンを止める。
4:アシュレーは信頼できそう。
5:トッシュを殺す。
6:出来ればあの二人(ジャファル、シンシア)を止めたい。
7:第三回放送の頃に無法松と合流するためA-07座礁船に行く。
[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※データタブレットに入っている情報は不明です。
※アズリアから放送内容、無法松のことを聞きました。

【アズリア@サモンナイト3】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ロンギヌス@ファイナルファンタジーVI 、源氏の小手@ファイナルファンタジーVI(やや損傷)
[道具]:アガートラーム@WILD ARMS 2nd IGNITION、不明支給品1個(確認済み)、ピンクの貝殻、基本支給品一式
[思考]
基本:力を合わせてオディオを倒し、楽園に帰る。
1:しばらく休憩。
2:シュウ、イスラ 、アティと合流。合流次第、皆を守る。
3:アシュレーは信頼できそう。
4:トッシュ、村にいた二人(ジャファル、シンシア)を警戒。
5:『秘槍・紫電絶華』の会得。
6:第三回放送の頃に、無法松と合流するためA-07座礁船に行く。
[備考]
※参戦時期はイスラED後。
※軍服は着ていません。穿き慣れないスカートを穿いています。
※無法松とは座礁船のこと以外の情報交換をしませんでした。

326罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:46:47 ID:x1by4xUo0


(なんとか逃げられた……)

シンシアは心の中で安堵した。
これ以上あそこにはいたくないし
あの少年の顔も見たくなかった。

(流石に疲れたわね……)

無理もないだろう、あれほどの魔法を行使したのだ。
疲労が大きいのは当然だった。

(これからどうしようかしら?とりあえず村からは離れたいわね)

これからの行動を考えているとジャファルが声を掛けてきた。

「……向こうから誰か来る」

ジャファルが指し示した方向を見てみれば……人影が見える。
良く見えない。
よく目をこらしてみれば少しずつ見えるようになってきた。
その人影ががはっきり見えたとき……私は驚愕した。

(……そんな……!なんで……『あいつ』が……)

私が一度死んだときのことだ。
一瞬とはいえ、数多の魔物を率いていたあいつの顔を私は見ていた。
あいつの……『デスピサロ』の顔を!

すぐにジャファルに一緒に隠れるように促した。
やばい、あいつはやばい。
あいつの恐ろしさはよく知っている。
なんであいつがいるの?
この島は何なの?
あいつが超危険人物であることはジャファルも感じているようだ。
今からじゃ逃げられない。
やり過ごすことだけを考えろ。
殺気を消せ、何も考えるな、あの男に手を出そうと思うな!

327罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:47:21 ID:x1by4xUo0
「……隠れているつもりか?」

『あいつ』が真っ直ぐにこっちを見ながらそう言った。
終わった?
戦うしかない?

「すぐ出てくれば命は助けてやる……出てこい」

言われるままに隠れ蓑から出た。
ジャファルもだ。きっと気付いているだろう。
見れば、かなり疲労しているようだ。
今ならもしかしたら勝てるかもしれない。
……でも分はこちらの方が悪そうだ。
高く見積もって三割ぐらいだろう。
迂闊に手は出せない。

「ふん……。言うことを聞けば今回は見逃してやる。
 まず名簿を見せろ。そして荷物も全部だ。
 探している物以外はどうでもいい、とりあえず見せるだけでいい」
「信用できない……」

それもそうだ。
荷物を盗られたら、勝率が下がる。そして殺される。

「信用できないなら、その間私の荷物を預かってくれてかまわん」

今は言うことを聞くしかなかった。
こいつは信用しがたいが、それはオディオも同じ事。
今は言うことを聞くしか……なかった。

「ただし……荷物は一つずつだ」
「ふん……。かまわん」

名簿を寄越す。
男は一瞬で読んで、すぐこっちに投げ返した。

そしてまず、私の荷物を寄越す。
あいつは同時にあいつの荷物を寄越してきた。
あいつは私達を警戒しながらも荷物をチェックしている。
不公平感があるので私もあいつの荷物を見てやった。
そして荷物をチェックしたあいつは私の荷物を返してきた。
同時にジャファルもあいつに荷物を寄越した。

「ふん……はずれか」

ジャファルの荷物をチェックし終えたあいつはそう呟いた。
私はあいつに荷物を返した。あいつもジャファルに荷物を返してきた。
そしてあいつはその場を立ち去ろうとする、意外にも騙し討ちを仕掛けなかった。
九死に一生を得るとはこのことだ。

「……一つ聞いていいか?」

ジャファルは立ち去ろうとする男に声を掛けた。

「お前なら自分と大切な人、どちらかを犠牲にしなければならないとしたらどうする?」

それはいつもの彼らしからぬ質問――――――
堪えていたのだエルクの言葉が。

328罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:47:58 ID:x1by4xUo0



――――大切な人だったら……一人にさせるんじゃねえッ!!!最後まで守り通せッ!!!



この言葉がニノに言われている気がしたのだ。
エルクはどこかニノに似ていた……。
ジャファルはそう感じた。
顔や性格なんかは似ても似つかない。
でも、その本質が似ていた。
……孤独を拒む心。自分の様な冷たい心を温めてくれるような炎のような心を二人は持っていた。

ジャファルは知るよしもないがエルクとニノは境遇が似ていた。
力を持った一族に生まれ、力を持つ一族故に両親が殺された。
エルクは記憶を消され、大切な友達といられる居場所を見つけた。
ニノは幼すぎた故に記憶が無く、偽りの家族の中でも温もりを見つけた。
そして二人の新しい居場所も壊された。
その後エルクは優しいハンターに拾われ、今に至る。
その後ニノは自分を想ってくれる暗殺者に助けられ、今に至る。
……だから二人の本質が似ているのかもしれない。


そして改めて想ってしまう。
自分がやろうとしていることはニノがくれた感情を捨てるだけじゃないと言うことを。



――――ジャファル、あたしのこと離さないで。絶対、絶対、今度こそ約束だよ!



自分はニノとの約束を破ろうとしている。
ニノを優勝させる……それは自分が死ぬことを意味している。
俺は最低だ。
この島に来る前もニノと約束したにもかかわらず【疾風】に俺が死んだ時の為ニノの事を頼んでいる。
俺はニノを離そうとしている。

「答える気はない」
「そうか……」

俺は何を聞いている?
これが気の迷いというものか。

「ただ一つだけ言うなら、大切な存在を一人にする者は愚かだ」
(……俺は……愚か……か)

もう言うことは無いと男は歩き出した。

329罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:48:39 ID:x1by4xUo0

(助かった……)

あいつは村に向かっているようだ。
あいつの背中が遠ざかっていく。

(……これ、もしかしたら)

すぐにジャファルに一つのことを依頼する。
あいつと十分に距離をとる。
隠れ蓑を展開する。

まだ……まだ……もうちょっと離れないと。
これはちょっとした賭だ。
もしかしたら不発に終わるかもしれない。
あいつの背中を見据えながら私は呪文を唱えた。



「…………?」

ピサロがジャファル達と別れてしばらく歩いたとき、呪文の臭いがした
だが何も飛んでこない。
ジャファル達がいた場所を見てみれば誰もいないように見える。
だがピサロは気付いていた。
気配を探れば、さっきのように隠れている事ぐらいわかる。

「臆病者にはお似合いだな……ずっとそこで震えていろ」

ピサロは特に気にせず再び歩き出す。
呪文の臭いは気のせいだ。
疲労が大きすぎるせいだろう。

……
…………
………………

やった……。
すごい、この身体……。
あいつの……『デスピサロ』の身体を手に入れた!

(……利用させて貰うわ……あなたの身体)

シンシアはモシャスでピサロの身体を手に入れていた。
シンシアは賭に勝ったのだ。
ある程度距離をとらないとピサロが戻ってくる可能性があった。
でもモシャスの有効視認範囲は判らない。
だから成功するか判らなかったが、結果は御覧の通り。

無論、只モシャスを唱えても呪文の臭いに気付いたピサロが振り返る可能性があった。
だから隠れ蓑を使った。姿を見られないように。
ジャファルに頼んだことは『一緒に隠れる』こと。
二人で隠れていれば『只隠れているだけ』と思わせることも可能と思ったからだ。
そして、今の疲労しているピサロなら『呪文の臭いは気のせい』と思うのではないかと考えた。
気配を感じられていてもかまわなかった。
視認されなければ良かったのだから。

(そういえば、名簿を見てなかったわね)

今まで目を通していなかった名簿に目を通す。
デスピサロがいたことに驚いたからだ。
見ればデスピサロの名前がない……。
名簿では似た名前であるピサロとされているのだろうか?
更に目を通す。
もうこれ以上知ってる者はいないみたいだ。

「いくわよ……ジャファル」

――――道化と死神は行く。次の獲物を求めて。

330罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:49:18 ID:x1by4xUo0
【B-6 平野 一日目 昼】

【死神と道化】

【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(小)、表面には出してないがかなりの動揺。
[装備]:アサシンダガー@FFVI (少し溶けた)
[道具]:不明支給品1〜3(内一つはフロリーナの支給品で、武器ではない。また書物、剣、短刀、忍者刀は一つもない)
    アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:俺は……。
2:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
3:いずれシンシアも殺す。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A ラガルト支援B

【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(大)、モシャスにより外見と身体能力がピサロと同じ
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFVI
[道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:村から離れる。
2:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
3:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す 。
4:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
5:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
6:デスピサロはチャンスが来れば確実に殺す。
[備考]:
※名簿を確認しました。
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。
※肩の傷はミラクルシューズの効果で治りました。



331罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:51:56 ID:x1by4xUo0

「やはり……ロザリーがいる可能性は高いか……」

先ほど見せて貰った名簿には確かにロザリーの名前があった。
ユーリル、アリーナ、ミネア、トルネコと知った名前も。
トルネコの次にピサロ、その次がロザリーだ。
顔見知りごとに名簿が並んでいるならロザリーは自分の知るロザリーと考えるのが妥当だ。
ロザリーが生きている信憑性が高まったと言える。

なぜ死んだはずのロザリーが生きているのか?
その疑問についてはピサロはこう考えていた。

――――オディオが蘇生させた。

そう結論づけていた。
なにせ、ここに実例がある。
死んだはずの自分が生きているのだ。
ならばロザリーもそうだと考えるのが自然だ。
恐らくミネアは最初の広間でロザリーを確認していたのだろうと考える。

なら自分はどうする?

そんなことは決まっている!

ロザリーを今度こそ守り抜いてみせる!

そして……オディオを殺す。

最初は人間共の愚かさを、罪深さを、奴ら人間自身に、身をもって思い知らせたいと考えていた。
自分がこの茶番に付き合うのはいい。
『思い知らせる側』の役割だ。
だが、それならロザリーは?
何故ロザリーがこんな茶番に付き合わされる!
ロザリーに何の罪がある!
生き返らせたのがオディオだとしても決して許せることではない!

「私は……この茶番から降りさせて貰うぞ、オディオ」

自分が優勝するという選択はもう無い。
今度こそロザリーを守る。
もう死なせない。

332罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:54:35 ID:x1by4xUo0
そしてロザリーを優勝させるという選択も無い。
オディオが約束を守る保証はない。
願いの権利どころか生きて元の世界に帰れるかどうかも怪しい。
仮にロザリーが元の世界に帰れたとしてもだあまり意味がない。
あの世界には愚かな人間共が蔓延っている。
ならば私がロザリーを守らねばならない。
私とロザリーは共に帰らなければならない。

そしてピサロは考える。
自分はオディオを倒せるか?

――――倒せる。

そう判断した。
オディオを過小評価はしてない。
この島の参加者は手強い。
そのことからオディオがどれほど強大か判る。

――――だが、今のままじゃ難しい。

だから今のままじゃ難しいとも思っていた。
ピサロはどうやってオディオを倒す気なのか?

ピサロは今、自分がこの島に来る前より強くなったことを自覚していた。
この島に来る前はピサロは地獄の雷を扱えなかった。
自分を死に追いやったユーリルのギガソードをヒントにして。
レイ・クウゴという強敵との戦いを糧にして。
そして地獄の雷を扱えるようになったのだ。

そして今ならピサロは『アレ』を使えるかもしれないと考えた。
『アレ』ならオディオをも殺せるだろう。

文献でのみ知っている究極呪文。
その昔、カルベローナという国の魔女が使った力。
自らの魔力全てを暴走して爆発させる禁呪の中の禁呪。
一回使えば後が無く、魔力を全て使うので人類を滅ぼすのには向いてない。
だから、ピサロは『アレ』を習得するのをあきらめた。
使えなくてもいいと考えていたのだ。
だがその威力は『進化の秘法』すらをも凌駕する!
個人を殺すにはちょうどいい。

333罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:55:51 ID:x1by4xUo0
そしてピサロは、禁呪会得の為。
ヒントになりそうな強力な魔導書や呪文書を欲していた。
ジャファル達の荷物を確認したのはその為だ。

「後は、利用できる者を探すか……」

そして今のピサロは他の参加者との協力することも考えていた。
ピサロは『押せば人類全てが滅びるボタン』とロザリーのどちらを選ぶかと言えば、迷わずロザリーを選ぶ。
ロザリーへの『愛』は、人類への『憎しみ』を遙かに凌駕しているからだ。
嘗てロザリーを殺され大きく膨れ上がった『憎しみ』も『愛』を超えることはなかった。
そもそも、今のピサロの『憎しみ』の大部分は『愛』故に起こったものだ。

信用はしないが、利用する。
いくらなんでもロザリー以外の参加者全員が殺し合う意思有り、とは考えにくい。
弱者故に優勝は無理と判断し徒党を組んで脱出を狙い者もいるはず。
それにロザリーが今まで生きていることを考えたら誰かと行動しているはずだ。
完全に信用は出来ないが協力するのにはちょうどいい人物だ。
それに首輪のこともある。
仮に自分が解析出来たとしよう。
『首から外れた首輪』を解析して分解できたとしても。
『首に着けられたままの首輪』を外すとき、つまり本番の時だ。
その時同じ様に外せるとは限らない。
誰の首輪で実験すればいい?


ロザリー?
論外。

自分?
望ましくない。


つまりピサロは首輪を外す実験体が欲しいのだ。
ロザリーと自分が最初でなければ、誰が外してもかまわないと思っている。


それにオディオの言葉や赤い髪の女の力を考えれば参加者は様々な世界から集められていると考えることが出来る。
ロザリーを救うためには少しは大人にならないといけない。
異世界の人間は邪魔さえしなければ捨て置くか利用する。
ロザリーの情報を与えたミネアは借りがある。一時的に協力してやらないでもない。
それに勇者一行はもう半壊している。
最初の広間でクリフトが死んだ。
赤い髪の女との戦闘中に流れて、何とか聞き逃さなかった放送ではアリーナとトルネコが確かに呼ばれた。
人間は元の世界に帰ってから滅ぼせばいい。
今なら前より容易だろう。

だが……ユーリルは、ユーリルだけは許さん。
あいつさえ殺せば……今度こそ人類を滅ぼせる。
ユーリルがいない人類など敵ではない。
あいつだけはこの場で殺す!

ピサロは歩き出す今度こそ大切な存在を守る為に。

334罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:56:26 ID:x1by4xUo0


何故ピサロはジャファルとシンシアを見逃したのだろう?
ピサロがジャファルとシンシアを見逃したのは幾つもの理由があった。

一つ目。
もともとかなり疲労していたから。

二つ目。
禁呪使用の為に魔力を使いたくなかったから。

大きな理由である三つ目。
ピサロはロザリー殺害の共犯を知っている。
それは他ならぬ自分。
嘗て人間を滅ぼす為にロザリーの傍らにいなかった。
そしてロザリーは殺された。
自分がロザリーの傍らにいれば、ロザリーは死ななかった。

――――ただ一つだけ言うなら、大切な存在を一人にする者は愚かだ

ジャファルに言ったことは嘗ての愚かな自分に向けられた言葉なのだ。
もう同じ過ちは繰り返さない。
ロザリーを探すのが最優先にしなければならないからだ。

そして……四つ目。
これはピサロ自身も気付いていない。
更に言えばピサロが人間と協力する気になった一因にもなっている。
それはピサロが黎明に体験したこと。
それが今になって効いてきたみたいだ。
いや……もしかしたら理由になってないかもしれない。
……やはりここで語るのはよそう。


――――四つ目の答えは人間の心が込められた拳を受けた鳩尾だけが知っていた。

335罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 04:57:24 ID:x1by4xUo0

【B-6 平野 一日目 昼】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。
     疲労(大)、人間に対する憎悪(少し下がった?)、自身に対する苛立ち。
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済、書物は無し)、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを殺し、ロザリーと共に元の世界に帰る。人類を滅ぼすのはそれから。
1:ロザリーの捜索。まずは村へ。
2:利用できる人間を捜す。
3:首輪をどうにかしたい。
4:使えそうな魔導書や呪文書を持っている者がいれば殺してでも奪い取る。
5:呪文は極力使わない。
6:ユーリルは確実に殺す。その邪魔をする奴も殺す。
[備考]:
※名簿を確認しました。
※ロザリーが生きている可能性を認識しました。(可能性は高いと判断)
※参戦時期は5章最終決戦直後




これは魔王に踊らされている者達の物語。

エルクが殺そうとしているトッシュは、志を同じくする仲間だ。

アズリアが守りたいイスラは、この島で昔のようにのように一人で死のうとしている。

ジャファルが離そうとしているニノは孤独を拒み。

シンシアはユーリルが既に一度世界を救っていることを知らなくて。

ピサロはロザリー殺害の犯人に気付かず、人間を憎み続けている。


彼らはまだ踊っている……魔王の掌で

踊れ愚か者ども 殺戮の狂宴に





※A-6 村の民家の幾つかがシンシアのメテオに巻き込まれました。
※A-7 座礁船は海賊船@サモンナイト3です。

336罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 05:29:31 ID:x1by4xUo0
そしてロザリーを優勝させるという選択も無い。
オディオが約束を守る保証はない。
願いの権利どころか生きて元の世界に帰れるかどうかも怪しい。
仮にロザリーが元の世界に帰れたとしてもだあまり意味がない。
あの世界には愚かな人間共が蔓延っている。
ならば私がロザリーを守らねばならない。
私とロザリーは共に帰らなければならない。

そしてピサロは考える。
自分はオディオを倒せるか?

――――倒せる。

そう判断した。
オディオを過小評価はしてない。
この島の参加者は手強い。
そのことからオディオがどれほど強大か判る。

――――だが、今のままじゃ難しい。

だから今のままじゃ難しいとも思っていた。
ピサロはどうやってオディオを倒す気なのか?

ピサロは今、自分がこの島に来る前より強くなったことを自覚していた。
この島に来る前はピサロは地獄の雷を扱えなかった。
自分を死に追いやったユーリルのギガソードをヒントにして。
レイ・クウゴという強敵との戦いを糧にして。
そして地獄の雷を扱えるようになったのだ。

そして今ならピサロは『アレ』を使えるかもしれないと考えた。
『アレ』ならオディオをも殺せるだろう。

文献でのみ知っている究極呪文。
その昔、カルベローナという国の魔女が使った力。
自らの魔力全てを暴走して爆発させる禁呪の中の禁呪。
一回使えば後が無く、魔力を全て使うので人類を滅ぼすのには向いてない。
だから、ピサロは『アレ』を習得するのをあきらめた。
使えなくてもいいと考えていたのだ。
だがその威力は『進化の秘法』すらをも凌駕する!
個人を殺すにはちょうどいい。

337 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 05:32:30 ID:x1by4xUo0
やってしまった……すいません。
>>336はスルーでお願いします。

338 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 05:34:45 ID:x1by4xUo0
仮投下終了です。

書き込み損ねてました。すいません。
私寝ぼけてるみたいだ……

339 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/10(木) 16:09:28 ID:x1by4xUo0
すいません!
>>306もスルーでお願いします。
少し寝た方がいいかも……

340 ◆jU59Fli6bM:2009/09/11(金) 18:38:10 ID:uFrX7Gpw0
支援して下さった方ありがとうございます。
かなり半端なところで、さるさん喰らってしまいました。すみません。
>>281の下から10行目からなんですが…、どなたか代理してくれると嬉しいです。
変なところからで申し訳ないです。

341 ◆jU59Fli6bM:2009/09/11(金) 19:36:14 ID:uFrX7Gpw0
そして再びさるさんへ
本当にすみません、残り3レスどなたかお願いします

342 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:40:25 ID:W/BSEfdM0
これより、修正版を仮投下します。

343FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:41:44 ID:W/BSEfdM0
「……エルク、お前は何処に向かったんだ……」

アズリアと松は洞窟を飛び出したエルクを追いかけたものの一向に追いつける様子がない。
相手は様々な場所を駆け回るハンターだ。
その上、恐らくは魔法で移動力を上げている。
更に言えば、今履いているスカートは走ることに向いて無いのだ。
これが何を意味するか?
つまり、エルクが走っている状態では差が開くことはあっても縮まることは無い。
エルクが止まらない限り追いつけないのだ。

そう……それだけならばまだ良かった。

アズリア達はエルクが何処に向かったか判らないのだ。
洞窟から西に向かって走り続けているが、もしかしたらエルクはこっちにはいないかもしれない。
B-9の橋を渡らずに神殿に向かった可能性もあるのだ。
そこでアズリアは松に声をかける。

「松ッ!頼みがある」
「………………」

しかし松からの返事はない。
声が届いてないのだろうか?

「松ッ!聞こえてるか?}
「あ?……ああ、すまない。なんだ?」
「別れるぞ」

その言葉を聞いた松は眉を顰めた。

「……やっぱり、信用できないか?}
「いや、そうじゃない」

なにも松と一緒にいたくないわけでは無い。
松が信頼の置ける人物であることは既に理解している。
しかし、エルクは何処に行ったか判らないのだ。
エルクを見つけるならば別れた方が効率がいい。
そう判断したからアズリアは松に二手に別れることを持ち掛けたのだ。

「何処に行ったか判らない以上、別れた方がいい。
 片方が座礁船を経由して村へ、もう片方は神殿方面の捜索。
 待ち合わせ場所さえ決めていれば――――――――――」
「なら俺が神殿の方に行く。待ち合わせ場所は第三放送の頃に座礁船でどうだ?」

言葉を言い終える前にそう返されてアズリアは少しながら驚いた。

344FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:42:21 ID:W/BSEfdM0
「かなり先の話だな……何かあるのか?」
「ああ、実はオディオを倒すための仲間を集めている最中だったんだ。
 その待ち合わせ場所が座礁船。時間は第三放送の頃にって事だ。それでいいか?」
「……いいだろう」

待ち合わせをするには遅すぎる時間だ。
だがエルクが何時見つかるかも判らない。
二人ともエルクを見つけられずに合流することもあり得るのだ。
合流を急いてはいけないのかもしれない。
それにエルクだけでなく、イスラやアティも探さなければならない。
特にイスラは戦い方を知らない。
放送では呼ばれなかったが……それがいつまで続くか判らない。
恐らく誰かと一緒にいるから無事なのだろう。

「すまない松ッ!恩に着るッ!松……必ず」

情報を交換している時間はない。
それは今度会ったときに聞けばいい。
だから今は――――――――――

「ああ……再会の約束だ」

少し前にしたように、拳と拳を付き合わせる。
その瞬間に二人は別の方向に駆けだした。



このまま行けば森に入ることになる。
もう一度行くことになるのだ。
自分のスタート地点へ――――――――――

(バレなかったか……?)

無法松は別れ際アズリアに隠していた事があった。
見てしまったのだ。
雷を――――――地獄から昇るがごとき雷を。
自然現象では起こりえない黒き雷を。
深く、強い憎しみが込められた昏き雷を!
天が落とす雷と違って『それ』は光が届かないものだった。
『それ』は雷とは似て非なるものだったが本能が理解した。
『それ』は雷だと、地獄の雷だと!
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
見えたのは偶然だった。
だが一瞬とはいえ、目にしたら脳裏に焼き付く。
それを見て足こそ止めなかったものの呆然とした。
あの様子ではアズリアは気づいていないのだろう。
無法松はアズリアに話さなかった、地獄の雷を見たことを。

「すまない……アズリア」

345FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:42:56 ID:W/BSEfdM0
エルクの力になりたいと言ったのは事実だ。
その言葉に嘘偽りはない。
だが、松も感じたのだ、アズリア同様に。
エルクを見つけることは困難だと。
そして見えた雷――――――
恐らくあの場所では戦闘が行われていることが予測される。
ティナは魔法で炎が出せると言っていた。
だったら人為的に雷が出せる者がいても不思議じゃない。
そこにアズリアが別れてエルクを探すことを提案した。
そこですぐさま神殿行きを希望して待ち合わせ場所を座礁船に、時間を第三放送時に決めた。

座礁船を待ち合わせ場所にしたのは、もともとそのために動いていたからだ。
オディオを打倒するためにビクトールから頼まれた自分の役目。
そもそも海辺の洞窟に向かったのもトッシュから頼まれたエルクへの呼びかけの為。
エルクは見つかる保証がない。焦って合流を急ぎすぎてもいけない。
それを伝えていれば生きている限りアズリアとは再会できる。

では神殿行きを希望したのは何故か?

一つ目――――――
恐らくは、村の方がエルクがいる確率は高いだろうと思ったから。
B-9の橋を渡って神殿の方に向かった可能性もある。
しかし洞窟から駆け出した直後の痕跡を考えたら村に向かったと考える方がしっくり来る。
そう――――――少しでも確率が高い方をアズリアに譲ったのだ。
確かにエルクの力にはなりたい。
それは本心だ。
だが、その役目はアズリアの方が相応しいのでは無いかとも思う。
もちろん、自分は自分でエルクを探して力になるつもりだ。

二つ目――――――
地獄から昇る黒き雷……。
神殿付近の森では戦闘が起こっている可能性が高い。
この島で安全な所なんて無いであろう。
だが神殿に向かう方が危険度は高い。
女を危険なところに向かわせることは昭和の男には出来るはずがなかった。

346FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:43:34 ID:W/BSEfdM0
三つ目――――――
これは海辺の洞窟にいたときから考えていたことだ。
やはり、ティナはルカに殺されてしまったのだと。
覚悟はしていた……いや、その可能性は非常に高いと思った。
生きている可能性がある限りティナを探そうとしたのをビクトールが止め、代わりに探してくれた。
きっとビクトールが悪いんじゃない。
自分が目を覚ましたときには…………いや自分がビクトールに拾われた時には既に……。

――――――ティナは殺されていると。

そんな気はしていた。
あの森でティナは……。
なんだかんだで気になるのだ、あの森で何が起こったか。
山火事がどういう訳か鎮火している。何かあったのだろう。
ビクトールは放送で呼ばれてないがルカも呼ばれなかった。
そしてトッシュは生きているもののナナミが放送で呼ばれてしまった。
きっと森に向かったのだトッシュ達は。
自分が今生きているのはティナが守ってくれたからだ。
だから……もう一度向かわなければならない。
自分のスタート地点へ――――――真実を確かめに。

「あっちのほうだな……」

それなりに距離はあるものの凄まじい闘気がここまで届いてくる。
どうやら未だに戦闘中のようだ。
ビクトールやトッシュ、エルクが関わってる可能性がある……急ごう。

――――――こつん。

「…………なんだ?」

何かが足にぶつかった。
何かと思い、下に目を向ける。
それは石だとか木の根だとかそういうものではなかった。

「…………これは!」

347FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:44:06 ID:W/BSEfdM0
――――――首輪。

ここに連れてこられた参加者に着けられている爆弾付きの枷。
それがどういう訳か『首輪だけ』が落ちていたのだ。

「何でこんな所に首輪が……?」

この首輪を着けられていた参加者はどうしたのか?

首輪を外した?
いや、首輪には弄られた後など無い。

体が丸ごと消滅した?
だがそれにしては争った形跡がない。
火事のせいで木はボロボロなもののそれほど大きな戦いがあったようには思えなかった。

「……っといけねえ。今は急がねえと、とりあえずこれは回収して……」

今は考え事をしてる場合じゃない。
すぐに気を取り直す。首輪を回収しようと手に取った瞬間――――――


突如発生した破壊の嵐!!!

「……なにッ!うおおおおおおおおッ!!!」

伐剣者が起こした圧倒的な暴風に、強烈な破壊の渦に――――松は巻き込まれた。




座礁船を探ってみたが誰もいない。
だったら次は村だ!!!

「おおおおおおおおおおッッ」

もうすぐ村だ。誰かいないか!

俺は……無力だ。
ミリル達だけでなくリーザも護れなかった。
だけど……何時までもそれを嘆いていては駄目なんだ!
誰かを護りたい。誰かを護れる力が欲しい!
人を……人を探さないと!

348FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:44:58 ID:W/BSEfdM0
そこは『村』という割には異様に広かった。
俺は人を探す為に縦横無尽に動き回る。
全身の感覚を鋭くして、人の気配を探る。

一軒目――――誰もいない……。
二軒目――――ここにも……。
三件目――――静かだ……。

もう五十軒は回っただろうか?
誰も見つからず落胆する。

少し大きめの公園に出た。
その時だ――――人の気配を感じたのは。

「そこに誰かいるんだろ……出てこいよ」

気配のする方向に声をかける。
……誰かいる。そして殺気がギンギンに届いてくる。
反応はない。
だが、間違いなく誰かがいる。
そう確信していた。

「隠れてんじゃねえッ!…………出てこいッ!!!」

語気を強めて、『そいつ』に叫んだ。
殺し合いを強要されている状況だ、隠れることは致し方ないかもしれない。
それでもエルクには『そいつ』が殺し合いに乗っている可能性が高いと踏んでいた。
エルクに向けられた殺気はそう思わせるには十分だった。


ほどなくして何もない空間から突如、一人の男が姿を現した。


「騒々しいね……これでいいかい?」

そこから出てきたのはエドガーの姿を借りたシンシアだ。
冷静を装っているものの、心臓はバクバクと警鐘を鳴らしている。
この状況で姿を見せると言うことは、自らを危険にさらすことだ。
相手が殺し合いに乗ってないなら姿を見せるのは問題無い。
なら殺し合いに乗った危険人物なら?
もしかしたらこの少年も自分たち同様に殺し合いに乗っているかもしれない。
自分は弱い。
奇襲による不意打ちや闇討ち。
騙し討ちなどの小細工を使わなければ、標的を殺せない。
真っ向勝負で勝てる参加者など片手の指で数えられるほどだろう。

349FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:45:34 ID:W/BSEfdM0
それが例え、今の姿……エドガー・ロニ・フィガロのような優れた身体を持ってしても。

モシャス――――目視している者を模倣する呪文。
それでも、完全に模倣できる訳じゃない。
例えば、対象の記憶までは模倣できない。
つまり対象の技量は真似ることは出来ないのだ。

同じほどの腕の筋量を持つ二人のパンチの威力が必ずしも同じになるか?

否!
パンチは打ち方で威力が上がる。

同じほどの足の筋量を持つ二人の走力が必ずしも同じになるか?

否!
走り方の違いで走力は変わる。

モシャスは確かに強力な呪文だ。
だが……シンシアはモシャスで手に入れた身体を戦闘で完全に活かせない。
せめてシンシアがある程度、戦闘慣れしていれば話は違っただろう。

今まで出会った参加者は寝ていたフロリーナだけはよく判らなかったが、フロリーナ以外は全員、格上で有ることが見て取れた。
魔法の靴、ミラクルシューズを履いている事を考慮しても、この少年はおそらく格上――――

「この状況では……隠れるのも仕方ないだろう?私は――――」
「不意打ちを仕掛けようとしたから隠れました。私は殺し合いに乗っています……か?」

シンシアの言葉をエルクが繋いだ。
それを聞いたシンシアの顔に浮かんだのは明らかな動揺の色。
それは、はっきりエルクに見て取れた。

「……やっぱりか」

九割以上の確率でそうだろうと思ってはいた。
何せこの殺気だ。
それでも一応、カマをかけてみた。
結果は御覧の通りだ。

「てめえ……素人だろ。気配もバレバレ、殺気を消す事も出来ない……」

エルクは目の前の男の実力は『明らかな格下』と評価した。
身体を見てみればしっかりしている。
恐らく自分以上の死地を潜り抜けた『強者』だと思わせるぐらいに。
それでも格下としか思えなかった。
雰囲気や佇まいからそれが判る。
奇妙なことにその優れた身体と一致しないのが気がかりだが……。

350FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:46:16 ID:W/BSEfdM0
「最も……そっちの奴はかなり出来るみたいだがな」

そして一人の男がシンシアがいた空間と同じ場所から姿を現した。
【死神】の二つ名を持つ男――――ジャファル。
今は崩壊した暗殺組織【黒い牙】での最強の暗殺者達【四牙】の一人。

「……よく気付いたな」
「伊達にハンターやってねえよ」



(あれか……座礁船は)

もうすぐ座礁船に着く。
エルク捜索の第一歩だ。

船がはっきり見えるようになった所で……私は愕然とした。

「……なッ……これは……海賊……船?」

それは私がよく知っている船だった。
私が世話になった海賊一家の……。
カイル一家の……船だ。

「これは……一体……」

これはなんだ?オディオはこんな物まで持ってきたのか?
もしかしたら状況は私が考えているより、ずっと深刻なのかもしれない。

「思考の海を漂うのは後だッ!!!」

今はエルクを探さなければ……。
船を探索してみるが誰も見つからない。
人が入った形跡が少しあるだけだ。

「エルクーーーーーーーーッ!!!」

大声で呼びかけてみる。
しかし、返事が無い。ここは無人船のようだ。

「ここにはいない……次は村か」

ここに入ったのがエルクなら村で会えるかもしれない。
座礁船、そして村。
両方を綿密に探索しているならB-5の禁止エリアを突っ切る時間は無い。

私は馴染みの有る船を後にして村に向かった。



351FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:47:35 ID:W/BSEfdM0
ジャファルは自分がいることを見破った少年を見据えた。
驚きはしない。
闇の中で完全な不意打ちを仕掛けたにも関わらず、容易く自分の短刀を受け止めた男がいたのだから。
攻撃を仕掛けても良かったが……相手が身構えていた以上、いささか距離が有りすぎた。


数刻前のことだ。
ジャファルとシンシアはエドガー達を殺害した後、次の獲物を探そうと移動を開始した。
その矢先ににジャファルはエルクを捕捉した。
そこでひとまずは様子を見る為に『壽商会』の時のように二人で隠れ蓑に隠れた。

焦りすぎてはいけないことはシンシア同様、ジャファルも学習していた。
なにせシャドウだけならともかく、素人のシンシアにまで『暗殺』は失敗しているのだ。
それも闇の中、森の中という得意なフィールドで、だ。
今までジャファルは焦っていたのだ。
ジャファルが守りたいニノはすばらしい才能を持っているが、まだその才能の花は芽吹いたばかり……。
何時、殺されるか判らない……ジャファルが焦るのも無理はない。
だが、これまでの失態はさんざん自分が焦っていたことを自覚させられた。
故にまずは慎重に様子を見ようとしたが……。


――――そこに誰かいるんだろ……出てこいよ。

それでもエルクに気付かれてしまったが。
とりあえずシンシアだけが隠れ蓑の外に出た。
不意打ちを仕掛けるならジャファルの方が適任だからだ。
それにエルクが察知したのはシンシアだけだと思ったからだ。
しかしなぜか……。


――――最も……そっちの奴はかなり出来るみたいだがな。

エルクはジャファルにも気付いた。

……今回はエドガーを暗殺した時とは状況が違った。

352FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:48:43 ID:W/BSEfdM0
まず、エルクの気配察知能力が高かった事。
エルクに戦い方を仕込んだのは超一流ハンターシュウだ。
シュウは格闘技、射撃術、忍術、盗賊の技などの様々な分野の戦闘のスペシャリストだ。
そしてその中の一つに『暗殺術』もある。嘗てのシュウは暗殺のプロだった。
最もハンターになってからは『暗殺術』を使う事は無かったが。
当然、エルクに『暗殺術』を仕込むことはしなかった。
だが、『暗殺術』に対抗する術はしっかりと仕込んでいたのだ。
エルクもシャドウの様に寝ているときでも周りの気配を察知出来るまでになっていたのだ。
現にエルクが寝ている時、それなりに場数を踏んでいるシャンテの気配に気付いた事実もある。
たとえ戦場じゃなくても自然に気配を消せるシュウと長く共にあったことも大きい。
それは、エドガーとシャドウの様な短い付き合いじゃないのだ。
五年もの歳月…………そして師弟関係。
状況は違う。

それに、『隙を見せない』ことに関してはエドガーが上だが、『人を探す』ことに関してはエルクの方が上なのだ。
『暗殺』――――それは常日頃起こるものではない。
フィガロ城の兵士は優秀で暗殺は滅多に起こらない。
勿論油断はしないものの、暗殺者に常に意識を持っていくわけではない。
……ならば暗殺が起こらないように隙を見せなければいい。
『狩られない者』として。
それに対してエルクは『ハンター』――――『狩る者』。
手配犯の気配を探る事なんて日常茶飯事だ。
そう……警戒意識の方向が違うのだ。

それが、エドガーとエルクの最大の違いだ。
『壽商会』ではエドガーは人がいないという先入観から若干の油断があった。
ざっと辺りを見回しても人はいなかったのだから。
そして人がいないから安心と思い込んでしまった。
それは、エドガーの大きなミステイク。
確かにおぼろ丸の隠れ蓑の事などエドガーは知らない。
しかし……エドガーは『バニシュ』という魔法を知っていた。
姿を消して透明になれる魔法を。
エルクの様に周りの気配をきっちり探っていれば、少なくともシンシアには気付けたはずなのだ。

そしてエルク……。
エルクは冷静な状態では無かった。
だが、それは決して注意力散漫になっていた訳じゃない。
なにせ今の第一目的が、『誰でもいいから人を探す』だったのだから。

353FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:50:19 ID:W/BSEfdM0
だから、素人のシンシアはあっさり見つけることが出来た。
その瞬間は確かに一人と思った。
だが、シンシアの目線などから判断して、『もう一人いる』と思ってしまったのだ。
もう一度気配を探ってみれば、シンシアの大きい殺気に隠れた極めて小さい殺気があった。
それがジャファルに気付いた経緯だ。

「お前ら……今まで何人殺した?」
(微かに血の匂いがする……。こいつらか?リーザを殺したのは……)

「俺と同い年ぐらいの大人しそうな茶髪の少女を知っているか?」

少年は暗殺者達に問う。
しかし、暗殺者達は問いに答えず臨戦態勢を取る。

「へっ……そうかよ。だったら実力行使だ!!!」

エルクの身体に光が降り注いだ。
炎の剣を構えて猛ダッシュ。

エルク、ジャファル、シンシア。
三人の戦いの火蓋が切って落とされた。



ジャファルとシンシアからすれば不意打ちで仕留められなかった以上、撤退したかった。
だが目の前の少年が撤退を許してくれない。
この少年……移動スピードが凄まじいのだ。
今が夜なら、あるいはここが森なら逃げ切れたかもしれない。
この場所は見晴らしが良く広い。
シンシアを見殺しにすれば逃げることも出来たかもしれないが、相手は恐らくそこまでするほどの実力ではない。
シンシアはまだ使い道がある。
フロリーナを殺した時にそれは証明された。
今、見殺しにするのはいささかもったいない。
今は陽が昇っている。
暗殺者の時間じゃない。
少しでも戦力が必要。

ジャファルとシンシア……力の差がある故にある意味では『信頼』できる二人。
ジャファルにとってはシンシアは弱者、いつでも殺せる。
だが、弱者にもかかわらず役に立つ能力を持っている。
いつでも殺せて役に立つもの、まさに理想的だ。
シンシアにとってのジャファルは強者、今は殺せない。
だが、逆に言えばすぐに殺されることもない事も理解していた。
ジャファルはいつでも自分を殺すことが出来るのだから。
だからといって……いやだからこそ油断はしない。
だが、弱者である自分が生きて行くには戦力が必要。
ジャファルは十分な戦力を保持している。
まだ参加者が半分以上いるであろう現状では、お互いに見捨てるという選択肢はなかった。

354FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:51:22 ID:W/BSEfdM0
ジャファルはこの状況をどう打開するか考える。
正直戦いたくないのだ。
不意打ちでなければ心臓を突くのにもリスクがある。
人は心臓を突いても即死しない。
それは先ほどフロリーナと一緒にいた男が証明した。
あの時は背後からの不意打ちだったから成功しただけ。
例え、心臓を突いてもその時に大きな痛手を受ける可能性がある。
それほど、アサシンダガーは短い。


二人で再び隠れるという選択肢は?

却下。
二人で隠れ蓑を使った所でシンシアは簡単に気付かれる。
そんなことをしても無駄。


自分一人で隠れるのは?

却下。
これもシンシアを見殺しにすると言うことだ。
それに、俺も一度見つかった。
暗殺者は一度見つかれば、感づかれ易くなる。
ある程度時間が立たなければやり過ごすことも不意打ちも難しい。


隠れるという選択は選べない。
更に言えば、先ほどの建物でかなりの時間、隠れることになった。
今は時間が惜しい。

(ここで仕留めるか、どうにかして撒く……か)

この男はシンシアを格下と見たからか俺ばかりを狙ってくる。
シンシアは手を出さない。
接近戦を仕掛けでもしたら殺される可能性が高いから当然か……。
戦うしかないか……。

「……いくぞ」

355FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:52:10 ID:W/BSEfdM0
戦いは長引いた。
エルクの放った攻撃を全てジャファルは回避する。

エルクの攻撃は素早く、シンシアなら三十秒も持たなかっただろう。
しかし、攻撃が素直で単調。
高い技量をあまり活かせていない。
エルクが戦闘技術を習って、たかだか五年だ。
そんな攻撃が、暗殺組織【黒い牙】の最高の称号【四牙】の一人である【死神】ジャファルが見切れないはずがなかった。
幼き頃から地獄を見てきたのだから。

「りゃあああああああああああ。」
(ちッ!……ゆらゆらとうぜえ!)

剣を振るうも当たらない。
十発中十発が外れた。
ジャファルは揺れる陽炎のようにゆらゆらと。
エルクは攻撃対象がうまく定まらない。

二人は『戦闘経験』に差が有った。
戦闘経験の『量』の上ではエルクに分があった。
確かにジャファルはエルクより長く鍛練を積み、より多くの地獄を見てきた。
エルクはハンターだが、ジャファルは暗殺者だ。
暗殺者は『基本的』には弱い者なのだ。
暗闇に乗じて、相手の不意を突いて、毒を使って、仲間と連繋して。
まともな手段じゃ勝てないから、勝てるようにいろいろと小細工する。
そして、暗殺の腕は『超一流』。
『超一流』故に、暗殺の成功率の高さ故に真っ向勝負をした経験があまり無いのだ。
そこが様々な攻撃手段を持つシャドウやシュウとの違いだ。
二人のように魔法や術は使えない。
シャドウの様な投擲技術は無い。
シュウとは違い、隙を突くことは出来ても隙を作ることは出来ない。
ジャファルは過去、仕事で大怪我をしたことがある。
仕事は成功したが、『暗殺』は失敗したのだ。
仕事中しくじって、標的に気付かれ戦闘になった。
幼き頃から鍛えた技術により標的は仕留めたが……大怪我をした。
何故【四牙】のジャファルが大怪我をしたか?
それは暗殺失敗時の経験がなかったからだ。
リンディス、ヘクトル、エリウッドの軍に入って『戦闘経験』を培ったが、長い間ハンターとしてやってきたエルクの方が戦闘をこなしてきた。

356FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:52:49 ID:W/BSEfdM0
とはいっても、だ。
暗殺者は『基本的』には弱い者というのは今のジャファルには当てはまってない。
【四牙】の一人、ウルスラ率いる暗殺者達を真っ向から半壊させる実力を身につけている。
そして戦闘経験の『質』では圧倒的にジャファルが上なのだ。
エルクはたった五年で凄腕ハンターとして自立していることから考えればその才能は伺える。
だが主な活動場所は比較的治安がいいとされ、危険度が小さい東アルディア。
エルクに見合う実力を持った相手がいないのだ。
強いていえば戦闘の師であるシュウぐらいだが、それは組み手稽古の話。
命の危険はない。
つまりエルクは死闘というものをあまり知らない。
あったとしてもミリルとの戦いぐらいだろう。
そしてジャファル……。
彼は数多くの死闘をこなした。
特にネルガルとの最終決戦で戦ったモルフ達……。
戦いによって命を落とした【黒い牙】達。
ロイドやライナスと同じ姿をしたモルフ……。
あの戦いは死闘としか言えなかった。
そして、本物の死闘の上では戦闘経験の『量』以上に『質』が重要とされる。
只でさえ技量に圧倒的な差があるのだ。
エルクの力押しだけで何とかなる相手じゃない。

「なっろー」

エルクはやや大振りの一撃を放つ。
それもジャファルは簡単に回避する。
そして、エルクのラッシュが収まる。
その瞬間、ジャファルは攻撃のために急接近する。
狙うは急所――――心臓だ。
死神の刃がエルクの心臓を捉え――――。





ひゅんッ!





……なかった。
ジャファルからやや離れたところにエルクは……いた。

357FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:53:49 ID:W/BSEfdM0
(危ねえ……そうとう速いじゃねーか)

エルクの攻撃はジャファルを捉えられない。
しかし同時にジャファルの攻撃も全てエルクには届かなかった。
その要因は幾つもあった。

超接近戦なら圧倒的にジャファルに分がある。何せ得物はダガーだ。
そしてエルクはそれを重々承知している。
攻撃射程は剣を持つエルクに分がある。
アサシンダガーは短すぎるのだ。
だからエルクは必要以上に近づかなかった。
――――近づきすぎると危険。
本能的にその事を感じたのだ。

さらにジャファルの動きを捉えられなくても、攻撃を仕掛ける場所は主に急所ということは判った。
カノンの様にラッシュも仕掛けて来ない。
攻撃してくる場所が判れば見切ることも可能。

そして最大の理由。
エルクはこれまで自分を上回る身体能力を持つ者を身体能力強化の術で切り抜けてきた。
『魔人』オディ・オブライトを倒す決め手になった反射神経向上の術『リタリエイション』。
『紫電の剣姫』アズリアを降す決め手になった距離感縮小の術『エキスパンドレンジ』。
それらが今、重ね掛けをされているのだ。
リタリエイションでジャファルの攻撃を見切り、エキスパンドレンジで距離を調整する。
だからジャファルの攻撃がエルクに届かない。
だが、それらを駆使してもエルクの攻撃はジャファルに届かないのだ。
オディ・オブライトより慎重故、カウンターを叩き込めない。
アズリアとは得物が違うダガー故、距離を詰め切れない。

(くっそ!術を重ね掛けしてんのに!)
(……こいつ……出来る……)

強化の術の重ね掛けのおかげで、エルクはどうにか凌いでる。
だが、エルクを容易く殺す手段をジャファルは……いやシンシアは持っていた。

――――ミラクルシューズ。
速さを上げる『ヘイスト』
物理攻撃に強くなる『プロテス』
魔法攻撃に強くなる『シェル』
じわじわ傷を癒す『リジェネ』
それらが同時にかかるもの。
支給品中でも最高クラスの当たり支給品。
それをジャファルが装備していたなら今のエルクには凌ぐことすら不可能だった。

358FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:55:25 ID:W/BSEfdM0
だが、魔力的なものを持ってないジャファルはシンシアのミラクルシューズに気付いてない。
そして、シンシアもジャファルにミラクルシューズのことを話してない。
シンシアにとって、いずれジャファルは殺すべきもの。
そのジャファルにミラクルシューズの存在を知られること自体恐ろしい。
組む上ではある程度の手札は晒した方がいい。
だが、だからといって全ての手札を晒すのは不安がある。
ミラクルシューズはシンシアにとっての生命線だ。
現にこれがなければ、ジャファルの奇襲で殺されていた。
大して危機と思えない現状では、それをジャファルに装備させるという考えはなかった。

その為、お互いに決定打が無い。
このままじゃジリ貧……いや、ジャファルに分がある。
ジャファルの戦闘スタイルはエルクより遙かに疲労が小さいからだ。
エルクの動きには無駄が多い。
強化魔法のブーストを掛けてのラッシュだ。
このままでは、先にエルクの体力が尽きる。



(どうすりゃいい?あまり持たないぞ)

この男のスピードはシュウとは違う。
確かにすげー速いが『超スピード』と言うよりは『視覚の盲点』を突いて動いている感じだ。
対象に気付かれないように殺す……まさに暗殺者の動き。
どうやら……こいつは俺より死地を潜り抜けてきてるみたいだ。
気を抜いたら……死ぬ!


「ああああああああッ!!!!!」

射程ギリギリから袈裟斬り。
ジャファルはすぐに応戦する。

そこでジャファルが選んだのは回避でも防御でもなく――――


――――キィン。

攻撃だった。

359FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:56:12 ID:W/BSEfdM0
(なッ!ダガーで俺の剣を弾いただと!)

驚愕する。
エルクは『剣』を重力を味方に付けて『振り下ろした』のだ。
ジャファルはそれを『ダガー』で重力を敵に回し『振り上げた』に関わらず弾いたのだ。

何故そんなことが出来たのか?
このときのエルクは全力攻撃はしてない。
やれば隙が出来るからだ。
それに対してジャファルは全力で攻撃した。
だがそれは小さな理由。
エルクとて力ならジャファルに負けてない。
それだけではエルクの有利な条件を考えれば鍔競り合いがいいところだ。

そして大きな理由。
ジャファルは巧くエルクの理想打点ポイントを外して、自分の理想打点ポイントに合わせたからだ。
それはよほどの技量差がないと出来ない芸当――――

なかなか動かない戦況を打開するためにジャファルが仕掛けた奇策。
全力で攻撃した為、やや隙が出来たが、右手を大きく後方に持って行かれたエルクに比べれば、あまりにも小さな隙だった。


(……殺った)

確信した。今なら心臓を突ける。
相手の状態を考えれば反撃も受けない。
だが…………

(!!!!!)

ジャファルはエルクの心臓を抉るのをあきらめて、その場から瞬時に離脱した。
それも仕方がないだろう。
全てを飲み込む炎の嵐が迫っていたのだから。

(……なんだと)

炎を回避して警戒レベルを高める。
これにはジャファルも流石に驚いた。
魔導書も無しに魔法を使ったことではない。
シンシアが魔導書無しで魔法を行使したのは既に知ってる。

360FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:56:53 ID:W/BSEfdM0
驚いた理由は?
この少年は粗こそ有るが剣士として十分すぎるほどの力を持っている。
故に剣士だと思っていた。そうとしか思えなかった。
戦闘開始時にエルクが使った、エキスパンドレンジとリタリエイションの正体が分からなかったジャファルからすれば当然だろう。
だが、この少年はほぼノータイムで炎を出した。
驚くだろう。ここまで剣を扱えて、これほどの魔法を行使したのだから。
そんなことが出来る者はエレブ大陸広しとはいえ聞いたことがなかった。

エルクは『剣』と『術』どちらかと言えば術の方が得意なのだ。
ここ五年で身につけたハンターとしての身体能力。
生まれたときから持っていた精霊の力。
どちらが強いかは推して知るべし。
そしてエルクの炎は魔導書やクレストグラフなどの技術による魔法ではない。
技術によるものなら使い手の技量により発動速度は変わる。
だが、エルクは『炎』そのものと言える存在。
身体の内に宿る純然たる『力』。
魔法発動の手順をすっ飛ばしているのだ。
よほど巨大な炎を使おうとしない限り発動は速い。
カノンのラッシュを潜り抜けて発動できるほどなのだから。

(発動の速い炎……だが、一度見てしまえば大した脅威じゃない)

まともには受けられない。
ジャファルの魔法耐性はそこまで高くないからだ。
それに炎は少し苦手……。
だが、当たらなければどうと言うことはない。
確かに発動は速い。
だが、炎が迫るスピードは対処できるレベルだ。
フォルブレイズのような威力も範囲もない。
並の兵士やごろつきを倒すには十分だが……ジャファルには通じない。
それにエルクはわかりやすい。
エルクの動作の機微から何時、どのタイミングで、炎を発動する気なのか先を読むのは容易だ。

361FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:57:28 ID:W/BSEfdM0
(……だがこれで室内戦は仕掛けられなくなったか……)

ここでエルクが炎を使ってくれたのはジャファルにとって幸運だった。
ジャファルはなんとかエルクを民家に誘導して得意な室内戦に持ち込もうと思っていたからだ。
それを知らないまま室内に入ったと思うとゾッとする。
むしろ室内ではエルクの方が有利だからだ。
ジャファルは知っている……閉鎖空間、密閉空間での炎の恐ろしさを。
外から何十発と大砲を撃っても陥落させる事が出来ない強固な城でも、中から火を放てばあっさりと潰せる。
……そういうことだ。

(……アサシンダガーが少し溶けている。長期戦は無理か……)

エルクの武器は炎の剣。
それは、刃の鋭さで対象を切断するものでなく、熱で切断するものだ。
あまり打ち合うとアサシンダガーが使えなくなる。
ジャファルは時間を食いたくないこともあり、撤退の隙を探った。

(……ちッ!外したッ!)

炎が外れて、心の中で舌を打つ。
再び剣を構えてジャファルを見据える。
しばし続く睨み合い。
お互いに出方を伺っている。

(何か……何か手は)

マイトマインドで炎の威力を上げる?
炎の威力を上げても当たらなければ意味がない。

チャージで攻撃力を上げる?
同上。

(くそ……俺にもアズリアくらいの攻撃スピードが有れば……)

そしてまた交差する。
急所を狙う。
術を打ち込む。
そんなことがどれだけ続いただろう。

そして、ふいに……横槍が入った。

「サンダガ!」



362FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:58:00 ID:W/BSEfdM0
ジャファルが目の前の少年と戦っているが私は手が出せない。
私は弱いから。
この身体が持ってしても。
魔法の靴を履いていても。
ジャファルにも少年にも勝てる気はしなかった。
私は多少呪文の心得があるだけの少女だから。
……私も少しは剣の稽古をしておけば良かったかも。
そうすれば、もっとまともに戦えたかもしれないのに。
確かにジャファルに加勢すれば少しは手伝えるかもしれない。
でも、私が殺される可能性を考えたら……よほど戦況が悪くならない限り、手を出さない方が賢明。

今、私がすることは少年の観察。
少年の実力を見極めて、今の身体とどちらが有用性が高いか、調べる事しか出来ない。
ある程度見た様子では、今の男の身体の方が優秀であると思う。
つまりモシャスを使う必要はない。

だったら私は何をすればいいの?
只見ているだけ?
ユーリルを助けたいんじゃなかったの?

何も出来ない自分が歯痒い。
その時だった。目の前の少年が強力な炎を出したのは。

(…………えっ?)

これは少し驚いた。
見るからに直情的で、頭に血が上りやすそうで、会心の一撃ばかり出してそうな少年が呪文を行使したのだから。

(モシャスする価値有りみたいね……)

呪文にはある程度は精通しているシンシアにとってエルクは、かなり有用性がある身体だった。
そこでモシャスを唱えようとするが、すんでの所で思いとどまる。

(……でも、待って……まさか……この身体も!)

今の身体を『検索』してみる。
自分の意識が身体を巡る。
エドガーの内なる魔力を調べてみる。
すると様々な呪文が中に秘められていた。

363FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:58:39 ID:W/BSEfdM0
モシャスは記憶はコピーできないが、内なる力を調べることぐらいは出来るのだ。
そして、よほど手順が複雑でない限り、その力も模倣できる!

(これ……すごいじゃない。これなら援護できるかも……)

あの少年を倒すのに適切な呪文は……


『炎』――――却下。直撃したところで大して効かないだろう。


『冷気』――――却下。それ以上の炎で打ち消されて終わり。



(どれ……どれが)

『検索』を続ける。
そして、最適なものを見つけた。

(!!!…………なんで)

判らない……判らない。
何でこの男は勇者であるユーリルしか使えないはずの奇跡を起こせるのか。
この男は勇者?
なら、私は勇者を殺したの?
世界は滅ぶの?

(…………違う!……違う!勇者はユーリルだけ。この男は偽物……)

嫌な考えを振り払う。
守るべきはユーリルなんだから。
この男が雷を使えても関係ない!
私が勇者の影だから!

今は只、呪文を唱える。
炎の少年を殺すために。
魔力が巡る、自然とその魔法の名が出てくる。

「サンダガ!」



364FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 18:59:18 ID:W/BSEfdM0
「……また気を失ってたのか俺は」

森の中で無法松は目を覚ました。
気を失う直前のことを思い出す。
たしか強力な嵐に吹き飛ばされた。
それで無傷なのは運が良かったのだろう。
もたもたしている時間はないのに気絶してしまうとは。

「ここはどこだろうな……」

神殿の西の森だと思うが正確な位置はわからない。
さっきの戦闘音も聞こえなくなっている。

まずは、神殿に向かうのが賢明だろうか?


「移動するか……ん?」

自分が何かを握りしめていることに気が付いた。
首輪だ。
なぜこれを?
思い出せばすぐに出てきた。
気絶する直前に拾ったじゃないか。

「男 無法松……!無念を晴らしてみせるッ!」

デイバッグに首輪をしまう。
この首輪を着けていた参加者は死んでいるのだろう。
その人物の分まで戦うと松は心に誓った。


――――――最もその人物の意思は今もこの今で生き続けているが。


もしかしたら、ここで無法松が首輪を拾ったのも『彼女』の意思がもたらしたのかもしれない。


【C-6 山 一日目 昼】
【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6、不明支給品0〜2(本人確認済)
   ティナの首輪。 
[思考]
基本:打倒オディオ
1:東に行けばいいのか?
2:エルクを探して力になる。
3:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。
4:第三回放送の頃に、ビクトールやアズリアと合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナの仲間とビクトールの仲間とトッシュの仲間について把握。ケフカ、ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
 ジョウイを警戒すべきと考えています。
※アズリアとは座礁船のこと以外は情報交換をしませんでした。

365罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:00:06 ID:W/BSEfdM0


(……なッ!!!)

突如エルクを雷が襲う。
シンシアがサンダガを唱えたのだ。
迫る。輝く稲光が。
とっさに後ろに跳んでその場から離脱。
次の瞬間。ついさっきまで自分がいた場所に雷が落ちた。
エルクはどうにかサンダガを回避できた。

「危ねえ……」

当たらなかったものの、ただせさえ悪かった戦況がさ更に悪くなったと思わずにはいられない。
その雷の一番の問題は威力じゃない。
問題は当たれば一瞬は身体が麻痺する事だ。
その隙を目の前の暗殺者が逃すはずがない。
心臓を突かれて終わりだ。
更に言えば、炎では雷は防げない。
この場所に来てから何故か更に消費が大きくなったインビシブルしか手はない。
それ以外では回避一択しかないのだ。

雷を放ったキザ男を狙おうにも、この赤髪の男がそれを簡単に許してはくれないだろう。
これは厳しいな……

(こいつら……ん?)

術を使ったキザ男を睨む。
そこで感じた違和感。
わずかに辛そうな顔をしていた。
わずかだが確かに苦しそうな顔をしていた。
何処かで見たような顔……
何処で見たんだろう?
エルクはその顔を知っていた。

(…………シャンテ)

嘗てエルク達を救い、有益な情報を与え、裏切った女性。
そして、今はエルクの大切な仲間である女性。
そのシャンテの昔の顔に……似ている気がした。

シャンテは確かにエルクを裏切った。
だがそれはシャンテが悪人だったからではない。
シャンテは弟であるアルフレッドを助けたかったのだ。
どうしても助けたかったからエルク達を陥れた。
既にアルフレッドが殺されていると知らずに。

366罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:00:45 ID:W/BSEfdM0
騙されたことを知ったシャンテはエルク達と一緒に戦いたいと、そう言ってきた。
弟のためとはいえ突き詰めてみてみれば、それは自分勝手な都合だろう。
誰かを助ける為に、誰かを犠牲にするなんて間違っているのだから。
でも、エルクはそれを受け入れた。

裏切られたと知った直後は激怒したものだ。
人の命をオモチャにする奴だと、そう思った。
でも、そうではないのだ。
その後、事情を聞いたエルクには理解できたのだ。
シャンテにとって弟がどれほど大切な存在だったか。

一度裏切ったシャンテを受け入れたのは、自分が直接殺した訳じゃないにしろ、自分がアルフレッドの死に関わっていたのが引け目になっていた事もある。
自分がしっかりしていればアルフレッドは死なずにすんだ。
だけど何よりも、シャンテの弟を思う気持ちが、大切な者を思う気持ちが伝わってきたから。
自分のような者を、もう出したくないという気持ちが伝わってきたから。

エルクは思った。
こいつは……守りたい者が、生きて欲しいと思う大切な存在がいるんじゃないかと。
もしかしたら……赤髪の男もそうかもしれない。

暗殺者の瞳を見据える。
見えた。
瞳の奥に眠る感情を。
心の奥に奥に押し込め閉じこめている感情を。

エルクにはそれが判る。
だって自分も同じだから。
そういう存在がいるから。
一人逃げ出した俺を、こんな俺を……今も守ってくれる大切な存在がいるから。
炎の剣を握る右手に力を込める。

「…………お前ら、何で殺し合いに乗ってるんだ?」

意を決してエルクは問いかけた。
二人の男は答えない。
言葉を続ける。

367罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:01:33 ID:W/BSEfdM0
「……大切な人が、守りたい人がいるんじゃないのか?」

(――――――――――――ッ!)

微かに動揺が見てとれる。
思った通りだ。

「俺には判るんだよ。俺にも大切な人がいるからッ!
 ……こんな事はやめるんだッ!オディオを信用する気か!」

オディオを信用していいのか?
そんなことはシンシアもジャファルも判っている。
特にジャファルは悪人は平気で騙し、裏切ることを知っている。
あの女――――ソーニャがいい例だ。
願いを叶えることが出来る権利も嘘かもしれない。
いや、それだけならまだいい。
最悪、優勝してもそのまま殺されたり、もう一度同じ事をさせられることも考えられる。
それでも、この道を選んだ。
弱者であるシンシアから見ればオディオは勝てるわけがない圧倒的な存在に見えた。
強者であるジャファルから見れば、強者であるが故に、あのネルガルや古の火竜を上回るほどの存在であることが判った。


――――勝てない。ハッピーエンドは存在しない。


この道を……選ぶしかなかった。

「…………やめない。彼しか私達の世界は守れない。
 御伽話のように、みんなで魔王を倒すという夢物語は存在しない。
 君こそ私達の仲間にならないか?君にもいるのだろう?大切な人が、守りたい人が」

シンシアが口を開く。
エルクを勧誘する為に。
自分たちと同じように大切な人がいるなら、もしかしたら丸め込めるかもしれない。
既に何処かで四人、五人のチームもあるかもしれない。
それに殺し合いに乗っているシンシアにとって人手が多すぎても困るが、三人ぐらいなら利害一致のチームとして多すぎるほどではない。
それに実力もある。
ジャファルも説得できたし、この少年も……。

368罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:02:16 ID:W/BSEfdM0
「断る!巫山戯てんじゃねえッ!なんだその『彼』ってのは?
 そいつに数多の屍の上に立つことを望んでんのかよ!
 彼しか世界を護れない?なんだよそれ、そいつは勇者様だってのか?
 面白い夢物語だな!ここで魔王を倒せない奴が世界なんて救えるか!」

返事はNO。
もう自分のような者を出したくない。
アズリアにも……大切な弟がいるんだ!

「……確かにそうだ。それは認めよう。
 私は彼に数多の屍の上に立ってでも生きていて欲しい。
 彼は弱い。君より遙かにね。
 だがそれは『今』の話だ。彼は強くなる。
 いずれはオディオを倒せるぐらいに成長するはずだ」

確かにエルクの言い分も判る。
この殺し合いで優勝する……それは魔王オディオに屈することを意味する。
仮に元の世界に帰れたとしても魔王オディオの脅威は消えない。

そして、今のユーリルに魔王を倒す力は無いとも思う。
ユーリルはまだメラもホイミも使えない……少し剣が達者なだけの少年だ。
実戦経験もなく、恐らく参加者の中ではかなり弱い方だろう。

なら仮にユーリルが優勝して、首輪が外れて元の世界に帰っても、世界は救われない?世界に平和は訪れない?
そんなことは無い。だってユーリルは勇者だ。
今は勝てなくても、いつかきっと世界に平和をもたらしてくれる。
勇者には、ユーリルにはそれだけの力があるはず。

「莫迦も休み休み言えッ!なぜみんなで力を合わせようとしないッ!!!
 彼が世界を救うって言ったな。彼でないと駄目だと……。
 気付いてるか……てめえはそいつにその役目を押しつけている。『生贄』にしてるんだッ!!!」

エルクは納得しない。
シンシアの言うことが判らない。
判りたくもない!

「――――――――――――ッ!
 なによ!なによ!……なにも知らないくせに!
 私は彼の為なら死ねるわ……『生贄』にだって喜んでなるわ!」

頭に来た。
感情的になってしまい、男の姿をしているのも忘れて普段の口調で声を出してしまう。
ムカつく。腹が立つ。
私が彼を『生贄』にしてる?
そんなはずはない!私はユーリルの為に『生贄』になったこともある!
そんなことがあっていいはずがない!
彼が『生贄』なんてことはあってはいけない!
彼は生きるべき人だから!

「黙れオカマ野郎!それが間違いだと言っているんだッ!!!
 『生贄』を出すことを前提で考えるなッ!!!
 大切な人だったら……一人にさせるんじゃねえッ!!!最後まで守り通せッ!!!」

369罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:02:53 ID:W/BSEfdM0
(――――――――――――ッ!)
「…………何を言っても無駄のようね」

もう話したくない。早くここから離れたい。
早くユーリルも探したいのだ。
さっきの建物で相当な時間を食ってしまったし、これ以上ここにいるのは時間の無駄。
シンシアはジャファルに小声で話しかけた。

「…………ジャファル、逃げる方法があるわ……少し時間を稼いで」
「……わかった」

シンシアは魔法を放つ準備を始めた。
そして、ジャファルは短刀を構え、攻撃を仕掛けてくる。

(……なんでだよ)

ジャファルと刃を交えながらエルクは思った。
何でわかってくれないんだと。
悪いのはオディオだ。
とはいえ恐らく、こいつらはいままで人を殺しているであろう。
でも、リーザを殺したのがこいつらでないなら、許す気でいた。
出来たら説得したいと思っていたのに。

そして、刃を交えた二人が距離を取ったその時。

「エルク――――――――何処にいるッ!!!」

声がした。
エルクが聞き覚えのある声、アズリアの声。
声のする方向を見れば確かにアズリアがいた。
アズリアもエルクに気付いたようだ。
エルクは理解する。
きっと自分を追ってここまで来たのだと。

「……くッ!」

エルクはアズリアのいる方向に走った。
ここはアズリアの安全を確保する方が優先事項だ。
そして、隣に立って剣を構えた。

370罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:03:56 ID:W/BSEfdM0
その為、ジャファルとシンシアは十分すぎる距離をとれた。
そして、シンシアの準備も整った。

エドガーはそこまで魔力は高い方じゃない。
エルクとは違い、後天的魔法会得者だ。
生まれつき魔法に縁のある者ではないのだ。
だが、その魔法の汎用性はエルクを遙かに上回る。
さまざまな幻獣から力を貰ってきたのだ。それも当然。
そしてエドガー達の世界では魔力が高くなくても高位魔法が使える。
魔力は威力に関係するだけで、それ相応の精神力さえあれば最上級魔法も使えるのだ。

そしてこれが、エドガーの持つ中で最も強い魔法――――――――――――







「メテオ!」






空から降り注ぐ無数の隕石。
一つ、一つは小粒だ。
だがまともに数十発も受ければ、只じゃすまない。
腐ってもメテオだ。
そして、その隕石はエルクとアズリアに向かってくる。

371罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:04:38 ID:W/BSEfdM0
「おい……冗談だろ……」
「……なんだ……これは」

ここまで来れば驚愕せざるを得ない。
隕石を落とすなんてただ事じゃない。
特にエルクはシンシアを格下と見ていた。
こんな事が出来るとは到底思えない。

「避けるっきゃねえ!」

この隕石を焼き尽くすほどの炎ならある程度の時間がいる。
それを使う暇はない。
ならばと隕石の合間を無って移動する。
補助魔法が重ね掛けされてるエルクには何とかそれが出来る。
だがアズリアは――――――――――――

「――――――――――ッ!」

避けるのに苦心していた。
スカートはやはり慣れない。
目の前に少し大きめの隕石が迫っていた。

(避けられないなら……向かってくるもの、全て打ち落とす!)

ロンギヌスを構え、迎撃に備える。

「炎よ! 復讐の刃と化せ!!」

覚悟を決めたときだ。
突如身に降りかかる光。
元から高いアズリアの反射神経が更に高まる。感覚が研ぎ澄まされる。
エルクだ。
隕石を避けながら補助魔法を駆けてくれたのだ。
アズリアはエルクを一瞥して心の中で礼を言う。

(……いくぞ)

372罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:05:14 ID:W/BSEfdM0




――――――その手から放たれるは。








「紫電…………」








――――――紫電の槍。








「絶華あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッ!!!!!」

373罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:05:50 ID:W/BSEfdM0




「逃げられた……」

隕石が無くなった頃には既にジャファルとシンシアの姿は消えていた。
すぐに探そうと駆け出そうとしたエルクだったが……。

「……待て、私に一言も無しか?」

アズリアに腕を掴まれる。
そして…………。


――――――こつん。


軽い拳骨。

「私を置いていくな……寂しいだろう?」
「……アズリア」

身体を思い切り動かしたエルクは幾分冷静さを取り戻していた。
判っている。自分が勝手な行動をしたことぐらい。

「それとも、私が何時、何処で死んでも、
 誰かに殺されても、どうでもいいか?」
「そんなこと!」

そうだ、自分が離れている間にアズリアが殺されたらどうする。
俺はそんなことも考えないで……。

「すまない……アズリア」
「もう勝手な行動はしないな」

頷く。

「じゃあ指切りだ」

アズリアはエルクに指を差し出す。
子供がよくやるあれだ。

「……そんな子供扱いすんなよ」
「別にそんなつもりじゃなかったのだが……お前はまだ子供だろう?」

エルクは押し黙る。
どうにも強く言い返せない。
アズリアを置いていった引け目もあるが……なにか謎の力を感じる。
その強力な『お姉ちゃんパワー』にはさしものエルクも逆らえなかった。

「嘘を吐いたら拳骨百回をお見舞いする」
「……わかったよ」

「「ゆーびきりげんまん。うそついたら、げんこつひゃっかいみーまう。ゆびきった」」

約束を交わした。

……
…………
………………

「すまないが少し休憩しよう、流石に疲れた。
 それと今度は、しっかり放送を聞くように」

エルクと情報を交換したアズリアはそう言った。

「わかった」

エルクは了承した。
自分も疲れていたし、アズリアに無理をさせたのは自分だ。

エルクは気を引き締める。
まだあたりに、さっきの男達がいるかもしれないのだ。

「それとエルク、さっき魔法を掛けてくれて有難う」
「別に礼を言われるほどのことはしてねーよ」

――――――かくして、炎と紫電は再会した。

374罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:06:23 ID:W/BSEfdM0
【A-6 村 一日目 昼】

【炎と紫電】

【エルク@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(大)、中程度の魔力消費
[装備]:炎の剣@アークザラッドⅡ
[道具]:データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
    オディ・オブライトの不明支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなで力を合わせて、オディオを倒す。
1:しばらく休憩。
2:シュウ、イスラ、アティと合流。
3:カノンを止める。
4:アシュレーは信頼できそう。
5:トッシュを殺す。
6:出来ればあの二人(ジャファル、シンシア)を止めたい。
7:第三回放送の頃に無法松と合流するためA-07座礁船に行く。
[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※データタブレットに入っている情報は不明です。
※アズリアから放送内容、無法松のことを聞きました。

【アズリア@サモンナイト3】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ロンギヌス@ファイナルファンタジーVI 、源氏の小手@ファイナルファンタジーVI(やや損傷)
[道具]:アガートラーム@WILD ARMS 2nd IGNITION、不明支給品1個(確認済み)、ピンクの貝殻、基本支給品一式
[思考]
基本:力を合わせてオディオを倒し、楽園に帰る。
1:しばらく休憩。
2:シュウ、イスラ 、アティと合流。合流次第、皆を守る。
3:アシュレーは信頼できそう。
4:トッシュ、村にいた二人(ジャファル、シンシア)を警戒。
5:『秘槍・紫電絶華』の会得。
6:第三回放送の頃に、無法松と合流するためA-07座礁船に行く。
[備考]
※参戦時期はイスラED後。
※軍服は着ていません。穿き慣れないスカートを穿いています。
※無法松とは座礁船のこと以外の情報交換をしませんでした。



375罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:06:57 ID:W/BSEfdM0

(なんとか逃げられた……)

シンシアは心の中で安堵した。
これ以上あそこにはいたくないし
あの少年の顔も見たくなかった。

(流石に疲れたわね……)

無理もないだろう、あれほどの魔法を行使したのだ。
疲労が大きいのは当然だった。

(これからどうしようかしら?とりあえず村からは離れたいわね)

これからの行動を考えているとジャファルが声を掛けてきた。

「……向こうから誰か来る」

ジャファルが指し示した方向を見てみれば……人影が見える。
良く見えない。
よく目をこらしてみれば少しずつ見えるようになってきた。
その人影ががはっきり見えたとき……私は驚愕した。

(……そんな……!なんで……『あいつ』が……)

私が一度死んだときのことだ。
一瞬とはいえ、数多の魔物を率いていたあいつの顔を私は見ていた。
あいつの……『デスピサロ』の顔を!

すぐにジャファルに一緒に隠れるように促した。
やばい、あいつはやばい。
あいつの恐ろしさはよく知っている。
なんであいつがいるの?
この島は何なの?
あいつが超危険人物であることはジャファルも感じているようだ。
今からじゃ逃げられない。
やり過ごすことだけを考えろ。
殺気を消せ、何も考えるな、あの男に手を出そうと思うな!

「……隠れているつもりか?」

『あいつ』が真っ直ぐにこっちを見ながらそう言った。
終わった?
戦うしかない?

「すぐ出てくれば命は助けてやる……出てこい」

言われるままに隠れ蓑から出た。
ジャファルもだ。
さっきだって気付かれたのだ、すぐに出た方が利口。

あいつを見れば、かなり疲労しているようだ。
今ならもしかしたら勝てるかもしれない。
……でも分はこちらの方が悪そうだ。
迂闊に手は出せない。

376罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:15:23 ID:W/BSEfdM0
「ふん……。言うことを聞けば今回は見逃してやる。
 まず名簿を見せろ。そして荷物も全部だ。
 探している物以外はどうでもいい、とりあえず見せるだけでいい」
「信用できない……」

それもそうだ。
荷物を盗られたら、勝率が下がる。そして殺される。

「信用できないなら、その間私の荷物を預かってくれてかまわん」

今は言うことを聞くしかなかった。
こいつは信用しがたいが、それはオディオも同じ事。
今は言うことを聞くしか……なかった。

「ただし……荷物は一つずつだ」
「ふん……。かまわん」

名簿を寄越す。
男は一瞬で読んで、すぐこっちに投げ返した。

そしてまず、私の荷物を寄越す。
あいつは同時にあいつの荷物を寄越してきた。
あいつは私達を警戒しながらも荷物をチェックしている。
不公平感があるので私もあいつの荷物を見てやった。
そして荷物をチェックしたあいつは私の荷物を返してきた。
同時にジャファルもあいつに荷物を寄越した。

「ふん……はずれか」

ジャファルの荷物をチェックし終えたあいつはそう呟いた。
私はあいつに荷物を返した。あいつもジャファルに荷物を返してきた。
そしてあいつはその場を立ち去ろうとする、意外にも騙し討ちを仕掛けなかった。
九死に一生を得るとはこのことだ。

「……一つ聞いていいか?」

ジャファルは立ち去ろうとする男に声を掛けた。

「お前なら自分と大切な人、どちらかを犠牲にしなければならないとしたらどうする?」

それはいつもの彼らしからぬ質問――――――
堪えていたのだエルクの言葉が。



――――大切な人だったら……一人にさせるんじゃねえッ!!!最後まで守り通せッ!!!

377罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:16:44 ID:W/BSEfdM0
この言葉がニノに言われている気がしたのだ。
エルクはどこかニノに似ていた……。
ジャファルはそう感じた。
顔や性格なんかは似ても似つかない。
でも、その本質が似ていた。
……孤独を拒む心。自分の様な冷たい心を温めてくれるような炎のような心を二人は持っていた。

ジャファルは知るよしもないがエルクとニノは境遇が似ていた。
力を持った一族に生まれ、力を持つ一族故に両親が殺された。
エルクは記憶を消され、大切な友達といられる居場所を見つけた。
ニノは幼すぎた故に記憶が無く、偽りの家族の中でも温もりを見つけた。
そして二人の新しい居場所も壊された。
その後エルクは優しいハンターに拾われ、今に至る。
その後ニノは自分を想ってくれる暗殺者に助けられ、今に至る。
……だから二人の本質が似ているのかもしれない。


そして改めて思ってしまう。
自分がやろうとしていることはニノがくれた感情を捨てるだけじゃないと言うことを。



――――ジャファル、あたしのこと離さないで。絶対、絶対、今度こそ約束だよ!



自分はニノとの約束を破ろうとしている。
ニノを優勝させる……それは自分が死ぬことを意味している。
俺は最低だ。
この島に来る前もニノと約束したにもかかわらず【疾風】に俺が死んだ時の為ニノの事を頼んでいる。
俺はニノを離そうとしている。

「答える気はない」
「そうか……」

俺は何を聞いている?
これが気の迷いというものか。

「ただ一つだけ言うなら、大切な存在を一人にする者は愚かだ」
(……俺は……愚か……か)

とは言っても、俺はこの道は曲げない。
脱出の方が可能性が高いと確信しない限りは。
自分の独断でニノを孤独たとしても……俺はニノに生きていて欲しい。

もう言うことは無いと男は歩き出した。

378罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:17:39 ID:W/BSEfdM0
(助かった……)

あいつは村に向かっているようだ。
あいつの背中が遠ざかっていく。

(……これ、もしかしたら)

すぐにジャファルに一つのことを依頼する。
あいつと十分に距離をとる。
隠れ蓑を展開する。

まだ……まだ……もうちょっと離れないと。
これはちょっとした賭だ。
もしかしたら不発に終わるかもしれない。
あいつの背中を見据えながら私は呪文を唱えた。



「…………?」

ピサロがジャファル達と別れてしばらく歩いたとき、呪文の臭いがした
だが何も飛んでこない。
ジャファル達がいた場所を見てみれば誰もいないように見える。
だがピサロは気付いていた。
気配を探れば、さっきのように隠れている事ぐらいわかる。

「臆病者にはお似合いだな……ずっとそこで震えていろ」

ピサロは特に気にせず再び歩き出す。
呪文の臭いは気のせいだ。
疲労が大きすぎるせいだろう。

……
…………
………………

やった……。
すごい、この身体……。
あいつの……『デスピサロ』の身体を手に入れた!

(……利用させて貰うわ……あなたの身体)

379罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:18:13 ID:W/BSEfdM0
シンシアはモシャスでピサロの身体を手に入れていた。
シンシアは賭に勝ったのだ。
ある程度距離をとらないとピサロが戻ってくる可能性があった。
でもモシャスの有効視認範囲は判らない。
だから成功するか判らなかったが、結果は御覧の通り。

無論、只モシャスを唱えても呪文の臭いに気付いたピサロが振り返る可能性があった。
だから隠れ蓑を使った。姿を見られないように。
ジャファルに頼んだことは『一緒に隠れる』こと。
二人で隠れていれば『只隠れているだけ』と思わせることも可能と思ったからだ。
そして、今の疲労しているピサロなら『呪文の臭いは気のせい』と思うのではないかと考えた。
気配を感じられていてもかまわなかった。
視認されなければ良かったのだから。

(そういえば、名簿を見てなかったわね)

今まで目を通していなかった名簿に目を通す。
デスピサロがいたことに驚いたからだ。
見ればデスピサロの名前がない……。
名簿では似た名前であるピサロとされているのだろうか?
更に目を通す。
もうこれ以上知ってる者はいないみたいだ。

「いくわよ……ジャファル」

――――道化と死神は行く。次の獲物を求めて。

【B-6 平野 一日目 昼】

【死神と道化】

【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(小)、表面には出してないが若干の動揺。
[装備]:アサシンダガー@FFVI (少し溶けた)
[道具]:不明支給品1〜3(内一つはフロリーナの支給品で、武器ではない。また書物、剣、短刀、忍者刀は一つもない)
    アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:俺は……。
2:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
3:いずれシンシアも殺す。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A ラガルト支援B

【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(大)、モシャスにより外見と身体能力がピサロと同じ 、若干のイライラ。大程度の魔力消費。
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFVI
[道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:村から離れる。
2:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
3:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す 。
4:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
5:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
6:デスピサロはチャンスが来れば確実に殺す。
[備考]:
※名簿を確認しました。
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。
※肩の傷はミラクルシューズの効果で治りました。
※ミラクルシューズのことはジャファルに話してません。

380罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:19:03 ID:W/BSEfdM0


「やはり……ロザリーがいる可能性は高いか……」

先ほど見せて貰った名簿には確かにロザリーの名前があった。
ユーリル、アリーナ、ミネア、トルネコと知った名前も。
トルネコの次にピサロ、その次がロザリーだ。
顔見知りごとに名簿が並んでいるならロザリーは自分の知るロザリーと考えるのが妥当だ。
ロザリーが生きている信憑性が高まったと言える。

なぜ死んだはずのロザリーが生きているのか?
その疑問についてはピサロはこう考えていた。

――――オディオが蘇生させた。

そう結論づけていた。
なにせ、ここに実例がある。
死んだはずの自分が生きているのだ。
ならばロザリーもそうだと考えるのが自然だ。
恐らくミネアは最初の広間でロザリーを確認していたのだろうと考える。

なら自分はどうする?

そんなことは決まっている!

ロザリーを今度こそ守り抜いてみせる!

そして……オディオを殺す。

最初は人間共の愚かさを、罪深さを、奴ら人間自身に、身をもって思い知らせたいと考えていた。
自分がこの茶番に付き合うのはいい。
『思い知らせる側』の役割だ。
だが、それならロザリーは?
何故ロザリーがこんな茶番に付き合わされる!
ロザリーに何の罪がある!
生き返らせたのがオディオだとしても決して許せることではない!

「私は……この茶番から降りさせて貰うぞ、オディオ」

自分が優勝するという選択はもう無い。
今度こそロザリーを守る。
もう死なせない。

そしてロザリーを優勝させるという選択も無い。
オディオが約束を守る保証はない。
願いの権利どころか生きて元の世界に帰れるかどうかも怪しい。
仮にロザリーが元の世界に帰れたとしてもだあまり意味がない。
あの世界には愚かな人間共が蔓延っている。
ならば私がロザリーを守らねばならない。
私とロザリーは共に帰らなければならない。

381罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:19:51 ID:W/BSEfdM0
そしてピサロは考える。
自分はオディオを倒せるか?

――――倒せる。

そう判断した。
オディオを過小評価はしてない。
この島の参加者は手強い。
そのことからオディオがどれほど強大か判る。

――――だが、今のままじゃ難しい。

だから今のままじゃ難しいとも思っていた。
ピサロはどうやってオディオを倒す気なのか?

ピサロは今、自分がこの島に来る前より強くなったことを自覚していた。
この島に来る前はピサロは地獄の雷を扱えなかった。
自分を死に追いやったユーリルのギガソードをヒントにして。
レイ・クウゴという強敵との戦いを糧にして。
そして地獄の雷を扱えるようになったのだ。

そして今ならピサロは『アレ』を使えるかもしれないと考えた。
『アレ』ならオディオをも殺せるだろう。

文献でのみ知っている究極呪文。
自らの魔力全てを暴走して爆発させる禁呪の中の禁呪。
一回使えば後が無く、魔力を全て使うので人類を滅ぼすのには向いてない。
だから、ピサロは『アレ』を習得するのをあきらめた。
使えなくてもいいと考えていたのだ。
だがその威力は『進化の秘法』すらをも凌駕する!
個人を殺すにはちょうどいい。

そしてピサロは、禁呪会得の為。
ヒントになりそうな強力な魔導書や呪文書を欲していた。
ジャファル達の荷物を確認したのはその為だ。

「後は、利用できる者を探すか……」

そして今のピサロは他の参加者との協力することも考えていた。
ピサロは『押せば人類全てが滅びるボタン』とロザリーのどちらを選ぶかと言えば、迷わずロザリーを選ぶ。
ロザリーへの『愛』は、人類への『憎しみ』を遙かに凌駕しているからだ。
嘗てロザリーを殺され大きく膨れ上がった『憎しみ』も『愛』を超えることはなかった。
そもそも、今のピサロの『憎しみ』の大部分は『愛』故に起こったものだ。

信用はしないが、利用する。
いくらなんでもロザリー以外の参加者全員が殺し合う意思有り、とは考えにくい。
弱者故に優勝は無理と判断し徒党を組んで脱出を狙い者もいるはず。
それにロザリーが今まで生きていることを考えたら誰かと行動しているはずだ。
完全に信用は出来ないが協力するのにはちょうどいい人物だ。

382罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:20:51 ID:W/BSEfdM0
それに何よりも首輪のこともある。
仮に自分が解析出来たとしよう。
『首から外れた首輪』を解析して分解できたとしても。
『首に着けられたままの首輪』を外すとき、つまり本番の時だ。
その時同じ様に外せるとは限らない。
誰の首輪で実験すればいい?


ロザリー?
論外。

自分?
望ましくない。


つまりピサロは首輪を外す実験体が欲しいのだ。
ロザリーと自分が最初でなければ、誰が外してもかまわないと思っている。


それにオディオの言葉や赤い髪の女の力を考えれば参加者は様々な世界から集められていると考えることが出来る。
ロザリーを救うためには少しは大人にならないといけない。
異世界の人間は邪魔さえしなければ捨て置くか利用する。
ロザリーの情報を与えたミネアは借りがある。一時的に協力してやらないでもない。
それに勇者一行はもう半壊している。
最初の広間でクリフトが死んだ。
赤い髪の女との戦闘中に流れて、何とか聞き逃さなかった放送ではアリーナとトルネコが確かに呼ばれた。
人間は元の世界に帰ってから滅ぼせばいい。
今なら前より容易だろう。

だが……ユーリルは、ユーリルだけは許さん。
あいつさえ殺せば……今度こそ人類を滅ぼせる。
ユーリルがいない人類など敵ではない。
あいつだけはこの場で殺す!

ピサロは歩き出す今度こそ大切な存在を守るために。

383罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:21:36 ID:W/BSEfdM0


何故ピサロはジャファルとシンシアを見逃したのだろう?
ピサロがジャファルとシンシアを見逃したのは幾つもの理由があった。

一つ目。
もともとかなり疲労していたから。

二つ目。
禁呪使用の為に魔力を使いたくなかったから。

大きな理由である三つ目。
ピサロはロザリー殺害の共犯を知っている。
それは他ならぬ自分。
嘗て人間を滅ぼす為にロザリーの傍らにいなかった。
そしてロザリーは殺された。
自分がロザリーの傍らにいれば、ロザリーは死ななかった。

――――ただ一つだけ言うなら、大切な存在を一人にする者は愚かだ

ジャファルに言ったことは嘗ての愚かな自分に向けられた言葉なのだ。
もう同じ過ちは繰り返さない。
つまり、ロザリーを探す事を最優先にしなければならないからだ。

そして……四つ目。
これはピサロ自身も気付いていない。
更に言えばピサロが人間と協力する気になった一因にもなっている。
それはピサロが黎明に体験したこと。
それが今になって効いてきたみたいだ。
いや……もしかしたら理由になってないかもしれない。
……やはりここで語るのはよそう。


――――四つ目の答えは人間の心が込められた拳を受けた鳩尾だけが知っていた。


【B-6 平野 一日目 昼】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。
     疲労(大)人間に対する憎悪(少し下がった?)、自身に対する苛立ち。
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済、書物は無し)、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを殺し、ロザリーと共に元の世界に帰る。人類を滅ぼすのはそれから。
1:ロザリーの捜索。まずは村へ。
2:利用できる人間を捜す。
3:首輪をどうにかしたい。
4:使えそうな魔導書や呪文書を持っている者がいれば殺してでも奪い取る。
5:呪文は極力使わない。
6:ユーリルは確実に殺す。その邪魔をする奴も殺す。
[備考]:
※名簿を確認しました。
※ロザリーが生きている可能性を認識しました。(可能性は高いと判断)
※参戦時期は5章最終決戦直後

384罪な薔薇 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:22:10 ID:W/BSEfdM0



これは魔王に踊らされている者達の物語。

エルクが殺そうとしているトッシュは、志を同じくする仲間だ。

アズリアが守りたいイスラは、この島で昔のようにのように一人で死のうとしている。

ジャファルが離そうとしているニノは孤独を拒み。

シンシアはユーリルが既に一度世界を救っていることを知らなくて。

ピサロはロザリー殺害の犯人に気付かず、人間を憎み続けている。


彼らはまだ踊っている……魔王の掌で

踊れ愚か者ども 殺戮の狂宴に





※A-6 村の公園にシンシアのメテオが落ちました。
※A-7 座礁船は海賊船@サモンナイト3です。

385 ◆E8Sf5PBLn6:2009/09/12(土) 19:23:12 ID:W/BSEfdM0
修正版仮投下終了です。

386 ◆SERENA/7ps:2009/10/10(土) 22:28:08 ID:/luwcpGo0
あ、すいません。
さる規制かかったのでこっちに報告を
ユーリルの参戦時期を五章終了後だと勘違いしてました。
wiki収録時に本文および矛盾する場面の修正をします

387 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:05:42 ID:ZmiasApQ0
お待たせしました。これより修正したものを投下します

388 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:06:26 ID:ZmiasApQ0
勇者とはいかなるものを持ってして勇者と呼ばれるか?
少なくとも、自称するだけでは認められない。
それに見合ったものが必要だと、ユーリルは考えていた。

何故なら、『自称勇者』などは、掃いて捨てるほどいたのだから。
ちょっと他人より腕っ節が強くて、ちょっと他人に優しくすれば、勇者なんて名乗り放題だ。
勇者の持つネームバリューに目がくらみ、勇者を名乗って甘い汁を吸う連中なんてのをユーリルはいくつも目にしてきた。
だから、彼は勇者であろうと、誰よりも努力してきた。
口先だけの勇者などにはなるまいと邁進し続けた。

勇者は誰よりも強くあらねばならない。
魔王に正義の一太刀を浴びせる存在が、ひ弱な人間では話にならないから。
毎日の血のにじむような努力の果てに、彼は勇者と自ら名乗るのにふさわしき強さを手にいれた。

勇者は誰よりも勇気あるものでなければならない。
勇者とは、文字通り勇ましき者――勇気の体現者。
戦場では、誰よりも早く魔物の軍団に突撃して、皆を鼓舞しなければならないのだ。
皆を率いるリーダーが後方でふんぞり返って偉そうにしているだけでは、誰もついてこないから。
だから、アリーナやライアンとはいつも、倒した魔物の数を競い合っていた。

勇者は誰もやりたくないことも率先してやらなければならない。
仲間の首をねじ切って首輪を取るなんて誰だってやりたくはない。
ザオリクやザオラルが使えるようになれば、トルネコだって生きることができたかもしれない。
でも、首輪を外すには、首輪の構造を知らないといけない。
首輪の構造を知るためには、首輪がないといけない。
生きた人間の首輪で構造を調べるのは無理だ。
なら、死んだ人間でないといけない。
誰かの大切な人の首を折るのはできない。
ならば、勇者である自分の大切な人の首を使うしかないと考えた。
ネネやポポロには自分が謝らないといけないが。
それもまた勇者の務めなのだ。

勇者は泣いてはいけない。
弱気なところを見せては、士気に関わる。
人々が、民衆が望んでいるのは泣いている勇者ではなく、強くて笑顔を振りまく勇者だから。

勇者とは、勇者たるもの、勇者であるからには……。
そうして、いくつもの困難を乗り越え、勇者になる努力を続けたユーリルは、これ以上ないくらい完璧な勇者になった。
強く、優しく、酒も飲まず、女に見向きもせず、おごりに耽ることもなく。
だがしかし、それはもはやユーリルという個性はなく、勇者という仮面を被った生き物でしかなかった。
強迫観念めいたものがユーリルを突き動かした結果、彼は確かに世界を救ったのだ。
世界が平和を迎えることができてよかったと心の中で思いつつ、彼は滅んでしまった故郷へ戻る。
もう故郷には誰もいないけど、犠牲になって自分を守ってくれた人たちの死が無駄にはならなかったことを伝えたかったから。

それでよかった、それでよかったはずなのだ。
何も知らなければ、彼の心は苦しむことはなかった。
その後は平和なひと時を、いずれ見つける生涯の伴侶とともに静かに過ごすことができただろう。
剣の聖女に会わなければ、彼は己の存在意義を問うこともなかったのだ。

でも、出会ってしまった剣の聖女の言葉が、ユーリルに何時までも問いかける。
クロノとマッシュが唱えた誰でもお手軽に覚えられるサンダラが、ユーリルの拠り所を木っ端微塵に打ち砕く。
もはや、そこにいたのは勇者などではなく、単なる一人の人間。
剣を振ることさえ怖かった、無力な少年の姿だった。

389 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:07:26 ID:ZmiasApQ0



◆     ◆     ◆



なんだ、みんな強くて勇気ある人ばかりじゃないか。
なりたくもないのに勇者になった僕なんか、全然必要ないじゃないか。
アナスタシアの言葉に、未だ答えの一つも見出せない僕なんかお呼びじゃないんだ。
さっきからクロノが何か言ってるけど聞こえやしない。
僕はさっき見つけた適当な民家のベッドに腰掛けて、教会でクロノたちを待っていたときのように、何をする訳でもなくそこにいた。
しばらく、クロノは何か言っていた様だけど、気づかないうちにどこかへ行っていた。

もう、何もかもがどうでもいい。
オディオに言われた殺し合いも、僕を庇って嬲り殺しにされたはずのシンシアが生きていたことも全てがだ。
ここには強くてたくましい人がいっぱいいる。
僕が頑張らなくてもいいんだ。

ここで僕が得意げにライデインを披露しても、クロノやマッシュには笑われるだけ。
勇者など自称しても、その称号に意味などないことをアナスタシアとの会話で思い知った。

ここでは、僕は特別でもなんでもない。

ライデインが初めて使えたとき、僕は心の底から喜んだ。
仲間も惜しみない祝福をしてくれ、ようやく名実共に本物の勇者であると認められたんだ。
でも、ここではライデインを使えてもなんにもならない。
勇者だけが使える特権だと思っていたのは、実は特権でもなんでもなかった。

すごいね、みんな本当にすごいよ。
みんな戦う理由がちゃんと分かってて、それに見合った強さを持っているんだから。
本当の僕は全然強くなんかない。
魔物を戦うとき、本当はすごく怖かった。
次の瞬間には大きな顎が開かれ、魔物の鋭い爪や牙が僕の体を蹂躙するかもと思ったら気が気でなかった。
魔物が舌なめずりをして、涎を垂らすのを見ただけで足が震えそうになった。
きっと、あの魔物は僕を今日の晩御飯にしようとしているに違いない。
僕が負ければ、目の前にいる魔物はきっと僕の肉をしゃぶり尽くし、骨までバリバリ食べた後に満足げにゲップの一つもしているに違いない。
そう思うと、僕は何もかも放り出して逃げたくなる衝動に駆られた。
いや、それだけじゃない。
僕はそもそも、剣を持つことさえ怖かったんだ。

でも、僕しかいないのだから、そう自分に言い聞かせて、なんとか戦うことができた。
魔物を倒し終わったとき、いつも余裕の表情だったけど、本当は今すぐにでも怖さで泣き出しそうだったんだ。

人々は、僕のことを勇者様勇者様と呼んでおだてれば、勝手に魔王を倒してくれると思ってたのだろうか?
だとしたら、僕はとんでもない道化だ。
そんな道化でも世界を救ったのだから、少しは皆の役に立ったのか。
でも、誰も僕の苦しみを知らない、知ろうともしない。
そのことに、僕は怒りを覚えている。

なんで、僕だけがこんな苦しい思いをしなければならないんだ。
なんで、みんなで世界を守るために立ち上がらなかったんだ。
なんで、勇者なんてものが存在するんだ。
なんで、なんで、なんで……………………とめどなく『なんで』が溢れる。

……でも、もう終わってしまったことだ。
世界は救われ、そんな僕の叫びももはや意味を成さない。
言っても詮無きことなのだ。
勇者に全てを押し付けていただけだと、今更人々を責めても意味はないのだ。

そう、僕は頑張った。
頑張って頑張って頑張って、世界を守り抜いた。
勇者なんて、なりたくもないのになって頑張ったよ。

390 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:08:07 ID:ZmiasApQ0
ここにはマッシュがいる。
クロノも高原も、その他出会ったことのない人たちも話を聞く限り、強くていい人たちばかりだ。
僕が戦わなくても、皆が戦ってくれる。
僕が助けなくても、ロザリーやシンシアのようなか弱き人たちも助けてくれる。
僕がやらなくても、オディオは誰かが倒してくれる。
だったら、もう僕は必要ない。
そう、勇者である僕なんかいらないんだ。
僕は一度、世界を救った。
だから、たった一度くらいワガママを言わせてもらってもいいはずだ。
僕よりも勇者らしい人はたくさんいる。
そして、僕は勇者になんてなりたくなかったんだ。

だったら――



勇者なんて、やめてやる。




【D-1港町東部にある民家 一日目 昼】



【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(小)。『勇者』という拠り所を見失っており、精神的に追い詰められている。
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:何もする気が起きない。
1:勇者をやめる
2:何もかもどうでもいい
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※勇者をやめてどうするかは任せます。



【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:サンダーブレード@FFⅥ
鯛焼きセット(鯛焼き*1、バナナクレープ×1)@LIVEALIVE、
魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:モップ@クロノ・トリガー、基本支給品一式×2(名簿確認済み、ランタンのみ一つ) 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ユーリルが心配。 ユーリルと情報交換がしたいのだが……。
2:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、ロザリーは発見次第保護)。
3:魔王については保留 。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
 この話におけるぶつかり合いで日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
 お任せします。 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?

391 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:08:40 ID:ZmiasApQ0









「固くて太い肌色の棒を使って、白いものを遠くに飛ばすんだよ!」



とまぁユーリルがこんな苦悩を心の中で展開してる一方で、こんな展開もある訳で。



マッシュ・レネ・フィガロにとって、高原日勝が言ったその一言は青天の霹靂にも等しかった。
ピシッと周囲の空気が、あたかもブリザドでも放ったかのように凍りつき、マッシュはしばし返事に窮する。
というか、そもそも返事したくない。

(……落ち着け、落ち着くんだ俺。 まず俺はマッシュ・レネ・フィガロ。
 そして目の前のこいつは高原日勝。 オーケー、ここまでは問題ない)

マッシュが脳内で深呼吸を済ませ、状況の確認をしてしまう。
まず自分の名前の確認からしてしまうあたり、マッシュの動揺っぷりも推して知ることができるといえよう。
それほどまでに高原の言った一言は強烈だったのだ。
さらに、マッシュはそもそもどうしてこういう会話が飛び出してきたのか思い出すことにした。

(クロノとユーリルとはとりあえず、オディオの奴が死者の発表をするまで待つって決めたんだ)

クロノとユーリルとは、結局オディオによる二回目の死者の発表があるまで行動を共にすることにした。
チームを分割すること自体は高原もマッシュもやぶさかではない。
分割自体は発表の後にすればいいという考えたからだ。
理由はいくつかある。

まず、これはかなり特殊な事態だが、オディオによって高原たち四人以外のすべての人間の死者が発表された場合。
その場合はもう、仲間を集めるための分割が意味をなさなくなる。
二つ目に、これはかなり現実的な理由。
分割をする前に、近くにある港町の探索をしたかったというのがある。
発表までもう少し時間があったので、探索にちょうどいい時間だったのだ。
といっても、ユーリルは気分がすぐれないらしく、クロノと残って留守番をしている。
船があるかどうか、また、生存者の発見をかねた調査隊には高原とマッシュが選ばれた。
マッシュはユーリルの様子がおかしいことに気づいていたが、クロノに任せて、高原と一緒に行くことにしたのだ。
高原がユーリルの異常に気づいていたかは、マッシュの視点からでは分からない。

392 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:09:13 ID:ZmiasApQ0
(んで、時間も丁度いい感じに空いてたから、今いる場所から近い港町に俺と高原で探索に来て、それからそれから……)

港町の船着き場に足を踏み入れていた高原とマッシュ。
塩分を含んだ潮風が優しく二人を迎え入れる。
二人の眼に、はるか遠くにある水平線と水面に映った太陽が飛び込んでくる。
しかし、港町という名前ではあるものの、港町の象徴ともいえる船着き場には寂しさすら漂っていた。
なにしろ、船着き場にあるべき船が探しても探しても一艘もないのだ。
これは、船を使って海上に逃げるという方法を取らせないための、オディオの仕業だろうというのは二人にも容易に考えがついた。
この島から脱出することは不可能でも、ある程度陸から離れた場所まで船でいけば、襲撃を受ける可能性は格段に減るからだ。
とはいえ、二人はあまり落胆はしていない。
船が見つかるかも、というのはあくまでも希望的観測に過ぎなかったからだ。
高性能なボートどころか、粗末な手漕ぎの舟でも見つかれば儲けもの。
その程度の願望しか抱いてない。
むしろ、今回の探索の本命は船よりも、誰かに会うことができないかという望みだ。

(まあ船がないのは予想通りだったんだが……さすがに誰一人会えないと気が滅入るよなぁって高原と話してて)

しかし、彼らの努力も空しく、成果はまったくのなしに終わった。
船着場以外にも、さらにいくつも民家や怪しい場所の探索を進めたが、誰にも会うことなかったのだ。
生存者の発見には至らず、ついにクロノたちとの約束の時間が迫り、道を引き返さないといけなくなった。

(んで、高原が言いやがったんだ)

早くたくさんの人に会って、オディオを倒したいなと。
うん、まあ当然の思考だろうとマッシュも思った。
そのために多くの人間に会いたいというのはも分かる。
高原は未だ見ぬ格闘家との力比べ、技比べもしてみたかった様子だが、それに関してはマッシュにしても否定はできない。
高原ほどではないにせよ、やはりマッシュにも己より強いかも知れぬ格闘家を前にして、ボーっと突っ立っている趣味はない。
この辺はもう、最強を目指す格闘家のサガだ。
問題は、その後の高原の発言。

(集まった仲間たち大人数で何かやりたいな、だったか……)

マッシュは皆を信じることができるが、皆がマッシュやその他の人間を信じきれるとは限らない。
初対面の人間が不和や不信の種を抱えたまま、オディオに勝つことは難しいだろう。
そのために、大勢の人間で何かをなして、友情を深め合うの一つの手だろう。
同じ釜の飯を食べれば、自然と仲間意識は高められる。
同じように、何か一つのことを全員でやり遂げれば何をかいわんや、である。
マッシュも、こいつにしては気が利いたこと思いつくなと思ったものだ。

(俺がじゃあ何をやりたい?って聞いたら、ヤキュウしようぜ!って答えた)

野球。ベースボール。
高原のいる世界では割とメジャーなスポーツだが、マッシュには聞いたこともない言葉だった。
無論、マッシュにはどういうルールでやる遊びなのか疑問が発生したので聞いてみたのだ。
そして、返ってきた返事があれである。

393 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:09:46 ID:ZmiasApQ0



「固くて太い肌色の棒を使って、白いものを遠くに飛ばすんだよ!」



ちなみに、高原のこの発言を受けて、マッシュがここまで思い出すのにかかった時間は1.5秒。
生死のかかった修羅場を幾多も潜り抜けただけあって、驚異的な速度である。

(固くて太い肌色の棒を使って白いものって……なぁ……)

マッシュももう20台後半、さすがに10台前半の目覚めたばかりの若者のように飢えている訳ではないが、その説明だけを聞くととてもアレでナニな意味を想像してしまう。
念のために注意しておくが、マッシュの想像力が逞しいのではない。
野球やろうぜ!と言い出したものの、どういうルールか説明するにあたって、上手く言語化できなかった高原に非があるのだ。
当の高原本人は、自分がそんなアウトな発言をしたことに全く気づいてないが。

「お、おいちょっと待ってくれ高原。 それは女もできるのか?」

開いた手のひらを高原の前に出し、ちょっと待ったのジェスチャーをする。
もう片方の手は自分の頭に置いて、念のために自分に誤解がないか考えてみる。
状況が状況だ。
顔色一つ変えずに言った高原がふざけたことを言ってる可能性はない。
ならば、どこかにきっと誤解があったのだろうと、マッシュはできるだけ前向きに解釈する。

「ああ、できるぜ。 大体男がやるもんだけど、女だってできないことはないし」
「……タマは使うのか?」
「? ああ、球がないとそもそも飛ばせないからな」
「そりゃあな……タマがないとな……」

ハハハ、と乾いた笑みをマッシュが浮かべて、高原から一歩離れた。
誤解が誤解を呼ぶ誤解スパイラルがここに完成。
大体男がやるもん、太くて固い棒とタマを使って白いものを……そんな情報がマッシュの頭の中にグルグルと回っていく。
さらに9対9の総勢18人もの大人数でやるという情報も加わった。
マッシュの頭の中で、ヤキュウというスポーツがとてつもなくおぞましい何かへと進化していく。
そもそも、タマを使って白いものを飛ばすのではなく、白い球を遠くに飛ばすのだ。
なんらやましいところはないごく普通のゲームなのだが、神がかり的な勘違いをしてしまったマッシュの誤解を解くものはいない。

(たぶんアニキが聞いたら、全くもって信じられん、狂気の沙汰だとか吐き捨てるように言うんだろうな……)

まさか高原の世界では、そんなスポーツが一般的な行為として認知されているとは。
お互いの住む世界の間に、こうも文化風俗の隔たりがあるものかと、異文化コミュニケーションの難しさをマッシュは垣間見た。
もはやマッシュの中で、ヤキュウというスポーツはこんなルールになり果てていた。

大勢の屈強の男たちが固くて太い肌色の棒を手で握りしめ力強く速く振り、白いものを飛ばすゲーム。

「マッシュもやるだろ? もちろん」
「い、いや……遠慮しとくぜ……」
「なんだよ、つまんねぇな。 やってみたら楽しいと思うんだけどなぁ……」

思わず脳内でヤキュウが行われるリアルな光景を想像してしまって、すぐさまマッシュは忘れようと努力する。
絶対、ヤキュウなんてやらねぇからな!
帰路に着く間、マッシュの脳内をひたすらその言葉を反芻していたのであった。

394 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:10:20 ID:ZmiasApQ0




【D-1港町中央部 一日目 昼】




【高原日勝@LIVE A LIVE】
[状態]:全身にダメージ(小)、背中に裂傷(やや回復)
[装備]:なし
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:クロノ達の待っている家へ戻り、チームを分割する
2:武術の心得がある者とは戦ってみたい
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
 夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)
※ユーリルの装備している最強バンテージには気付いていません。




【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、ミラクルショット@クロノトリガー、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:クロノ達の待っている家へ戻り、チームを分割する
2:首輪を何とかするため、機械に詳しそうなエドガー、ルッカを最優先に仲間を探す。
3:高原に技を習得させる。
4:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。

395 ◆SERENA/7ps:2009/10/13(火) 13:12:59 ID:ZmiasApQ0
修正版投下終了しました。
修正したのはユーリルの参戦時期を間違えていた部分
メタ描写、パロ発言の削除、マッシュ側の描写の削減および細かい部分の修正です

お騒がせして申し訳ありませんでした。

396 ◆SERENA/7ps:2009/10/16(金) 14:31:35 ID:dSXbfL/A0
規制されてるのでこちらで

問題ないようでしたのでwikiに収録しました。
また、その際タイトルも若干問題ありと判断したので変えました
事後報告ですがご了承ください

397 ◆SERENA/7ps:2009/10/16(金) 14:38:09 ID:dSXbfL/A0
あっと、追加で
◆jU59Fli6bM氏の作品「メイジーメガザル」において、状態表では

A-5 村

となってますが、地図を見る限り村があるのはA-6ではないのかと思いましたのでここで言っておきます
こちらの見間違いでしたら申し訳ありません

398 ◆xFiaj.i0ME:2009/10/21(水) 00:15:47 ID:2lsnreMo0
『心の行く先』


四とは、最小の合成数である。
素数である2と3、素数ですら無い0と1の次に来る、最初の数。
無でしかないゼロ。
点としてのみの一次元。
平面として存在する二次元。
厚みを持ち、生命の存在する三次元。
では、四次元とは?
縦横高さの他に、『時間』を加えた概念とされる事もある。
四次元存在とは、時間をも超越した存在であると。
ただ、いずれにしろソレを証明する手段は無い。
二次元を俯瞰するのは三次元の存在であるように。
四次元の存在を知るのは、それ以上の次元を知る者のみだろう。

別に、大して意味のある話ではない。
ただ、『四』ならばたどり着けただろう、という話。
推測でも理論でもなく、唯の事実。
舞台の中の存在には知りえずとも、舞台を俯瞰する位置からなら知りえた事実。
仮に『四人』であったなら、知る事の出来た事実があった。
ただ、それだけのもの。

399 ◆xFiaj.i0ME:2009/10/21(水) 00:16:26 ID:2lsnreMo0


闇の中にまたたくは青白き灯火。
僅かにカビの匂いの漂う薄暗き回廊。
苔すら生えぬ石床には生命の気配すらなく。
多量の水気を含んだ空気は、どこまでも寒々として。
湿った空気の元である水路は何処から何処へ流れ行くのか。
ところどころ朽ちた石壁は、打ち捨てられた廃墟のそれであり。
その地に相応しい住人達は、そこにありながら最早誰にも省みられる事も無く。

手で触れども何も帰るものは無い。
この世の理は何一つ変わらない。
訴えかけられる無念を、誰が聞き届けようか。
後悔と悲しみは、唯一つの言葉を崇めるのみ。

そこにあるのは、憎しみ。
死者たちの声は、賛美歌のように唱和され、
『オディオ』という、至高の存在にして感情を崇め続ける。

だが、その声すら、誰にも届くことも無く。
時の流れすら無縁な墓所は、ただ静かに佇むのみ。



そんな光景を、目にした気がした。

「ここは、何処じゃ」
「何処かの建物の中、みたいだけど」

一瞬の情景。
白昼の幻。
目の前に広がるのは確かに石壁だが、そこには温かみを感じる。
朽ち果てるには未だ数十年の年月を必要とする建物。
ほんの数日前までは、明らかに人の手の入っていたと思しき建造物。
未だに生の脈動を感じさせるもの。

「あの……今のは」
「うむ、中々貴重な経験をしたの。 ライブリフレクターとはまた趣の異なる、わらわも今まで味わった事のない感覚であった。
 それほど嫌な感じは無いし、謀られたと思ったがこれはなかなかどうして、拾い物かもしれんの」
「あたしは、似たような感覚を知っているかな。
 ワープとかレスキューがあんな感じで。 でも感じる力はもっとずっと大きかったかな」
「むむ、そなたはあの『うにょーん』として『ふわっ』で『ぴょん!』という感覚を知っているというのか?」
「うん、あたしの知ってるのは『うにょーん』はそんなに感じないけど『ぽわっ』てして『ぴょん』て感じかな」
「ふむ、わらわの知っている装置だとああでは無いのじゃ。
 こう、『ピリッ』ときて『ビューン』として『ボワッ!』という感じがするもので……」

400 ◆xFiaj.i0ME:2009/10/21(水) 00:17:15 ID:2lsnreMo0
戸惑うロザリーを他所に、ニノとマリアベルはたった今通過したゲートの雑感を述べ合っている。
意味が判るような判らないような擬音をぶつけあう二人だが、ピヨリーにも一応その意味は感じ取れる。
ちなみに、ロザリーの知る旅の扉は『ぐにょぐにょ』で『ふにゃふにゃ』という感じなのだが、今の彼女の関心はそこには無い。

「嫌な感じでは……無い?」

その、最大の関心事は、その『ふわっ』と『ぴょん!』の間に感じた気配。
判りやすく言うならば、黒であって黒では無い奇妙な空間を通過する最中。
心の芯までも凍てつくような、寒々しい気配に対するもので。

「うむ。 わらわは別に何とも感じなかったが……酔いでもしたか?」
「酔うって、お酒じゃないんだし」
「いや、そなたらの知る技術においてはどうだかは判らぬが、実際にああいう転移装置に酔うという事はあるのだぞ」
「へー……ってあたし酔った事無いからわからんないや」
「ふむ、お子様じゃな。
 と、まあそれはさておき本当に酔ったのかロザリーよ。 顔色が悪いぞ?」
「い、いえ、酔ったという訳ではなくて……その」

マリアベルの心配も当然だろう。 今のロザリーの顔色は、重度の貧血でも起こしているかのように青白い。
まさか、何処か傷でも負っていたのかと、後ろでニノも、心配そうな表情を浮かべている。

「あの、お二人は、何か、その……墓……廃墟のような景色を見ませんでしたか?」
「廃墟?」

躊躇うように、恐れるようにロザリーが告げる。 その声には、微かな怯えが篭っていた。
だが、それはマリアベルにはまるで思い当たらない事。 隣のニノに顔を向けたが、彼女も首を横に振るだけだ。

「うーん……一瞬の事だったから、もしかしたらあたし達は見逃ちゃったのかもしれないけど」
「いや、わらわは目を瞑ってはおらんかった。 折角の経験なのじゃからそのような勿体無い事など出来んしの」

ニノの思いつきは、瞬時に否定される。
つまり、あの光景はロザリーのみが目にしたものである、という事になる。

「ふむ……そなたを疑う気はないが、慣れぬ感覚に幻覚でも見たという可能性もある。
 あまり気にすると余計に気分が悪くなる、という事もあるぞ?」

ロザリーはそのような嘘を付くような性格では無い事はこれまでで知れているし、顔色が悪いのも事実である。
だが、マリアベルとてはもう1つの現実的な意見を述べる事も忘れない。
実際、酔って具合の悪くなることも、幻覚を見るという事も、多々あるのだから。

「それなら、もう一度通ってみるとか?」
「それはイヤじゃ」
「え、何で?」
「わらわ達は今こっちに来たばかりなのじゃぞ。 こんなにすぐに戻ってみよ、シュウとサンダウンに笑われるわ。
 『寂しかったのか?』などと言われてみよ、わらわの誇りはどうなるのじゃ!
 それに、原因が明白な以上、それを繰り返すというのはいかがなものか」 

非常に簡単な提案に大して、誇り高きノーブル・ブラッドとしてそんな子供みたいな事は出来ん。 と主張するマリアベル。
どちらかと言うとそんな事を気にする方が子供っぽいと思ったが、ニノは黙っていた。 実に大人である。
とはいえ、マリアベルの言葉にも一応の意味はある。
ロザリーの症状がもし、『転送酔い』ならば(実際にそのような症状があるのかはさておき)もう一度それを行なうのは症状の悪化を招きかねない。
かといって、実際に何も感じなかったニノやマリアベルだけが再びゲートを潜ったとして、結果がある可能性はそう高く無い。

401 ◆xFiaj.i0ME:2009/10/21(水) 00:18:21 ID:2lsnreMo0
「……そうですね。 確かに私が幻をみたという可能性はあるかもしれません。
 それに、どうせあれを使用する機会はまだあるでしょうから、今すぐ確かめる必要は無いと思います」

どうするべきかと思案する二人に、多少顔色の持ち直したロザリーが言う。
後ろ向きな意見ではあるが、現状では他に良案があるという訳でもない。
何より、当人であるロザリーが酔いかもしれないと言うのだから、本当にそれだけなのかもしれない。

「ふむ、わらわとして賛成じゃな。 そなたにこれ以上体調を崩されても困る。
 一先ずわらわとニノが近くを見てくるから、そなたはここで休憩しておくのじゃ」
「ロザリーさん……顔色凄く悪いし、ゆっくりしててよ」
「ええ、申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます……」

心配そうなニノの言葉に微笑みを返して、ロザリーは壁にもたれかかる。
床には絨毯が引いてあるから、身体を冷やす恐れも無いだろう。

「それにしてもここは何処なのかのう。
 見たところかなり大きそうな建物であるし、この地図にも載っている施設だと思うが」
「ここは、何処かのお城に見えるけど。
 石壁はしっかりとしているし、所々に明かりが灯してあって、床には絨毯まで敷いてある。
 これだけしっかりした建物って、何処かの王城くらいじゃないかな?」
「ふむぅ、わらわの知るものとは多少違うが、ニノが知る知識でそれに近いならそうなのかもしれんな。
 地図によると城と名の付く建物はわらわたりのいた南東のを除くと北西のと、地下の城の2つじゃな。
 地下の城というのがどのようなものかはあまり想像つかんが、かすかに空気が流れている事から考えるとここは北西の城になるのかの。
 南東から北西、というのもバランスは取れているように見えるしの」

すぐに戻るから、とだけ告げて地図を取り出しながら、廊下へと向かう二人。
建物の外に出られれば、何処であるかも知れよう。
これだけ大きな建造物ならば、ロザリーを休ませる場所が見つかる可能性もある。
周辺に危険な人物が居ないとも限らないが、今のロザリーを連れ歩くほうがよほど危険である。
ゲートホルダーをマリアベルが預かっている以上、これ以上の体調の悪化は防げるだろう。
ほどなくして、二人の声は小さくなり、ロザリーの耳には届かなくなった。

そうして、そこでロザリーは小さく身震いをした。
幻覚?
ほんとうに、そうであって欲しい、そう考えながら。
出来るなら、もう一度あれを通りたいとも思えない。

あれはそう、
かつて味わった。

明確な、『死』の感触だったから。


【A-3/北の城跡地 一日目 午前】

【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ 気分が悪い
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……

[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。

402 ◆xFiaj.i0ME:2009/10/21(水) 00:19:06 ID:2lsnreMo0
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
0:付近の探索を行い、現在地と情報を集める。
1:ジャファル、フロリーナを優先して仲間との合流。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。


【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:付近の探索を行い、現在地と情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。

※南東の城下町のゲートは北西の城に繋がっていました。 再び同じ場所に戻れるのかは不明です。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度も使えるのか等のメリット、デメリットの詳細も後続の書き手氏に任せます。

※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレツィアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)

403 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:27:36 ID:E3LN9G.60
お待たせしました。
規制されてるのでこちらに投下します

404 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:28:49 ID:E3LN9G.60
さて、いつまでもここに留まっていては意味がない。
ちょこに、イスラは一緒に行けないことを適当な理由をつけて説明した後、アナスタシアは西進することにした。
自分の命を大事にせずに、死地を求めるような男の言った情報に従うのは気が進まないが、元々行ける方向が限られていたから仕方ない。
あの食べ物がもう食べられないことと、イスラも一緒に行けないことは残念がっていたようだが、しばらく歩いているうちに不満も言わなくなり、また無邪気な言動を見せ始めた。
それでいい、その方がアナスタシアには都合がいい。
ちょこには――外見とは裏腹に巨大すぎる魔力を秘めた少女には、まずアナスタシアを第一に考えてもらわねばならない。
仮にイスラと行動していて、イスラが見事ちょこを手なずけた場合には、厄介な事態が発生する。
緊急事態が発生して、イスラとアナスタシアのどちらかしか救えないような事態が発生した場合困るのだ。
そこで、ちょこに迷ってもらってはいけない。
ちょこには何が何でもアナスタシアを第一に考えてもらい、アナスタシアを守ることを至上の目的としてもらわねばならない。
だからこそ、ちょこに自分がいなくなったら悲しいかと、アナスタシアがいなくなったときのことを想像させ、ちょこに恐れを植えつけた。
一人ぼっちを嫌う少女に、何が何でもアナスタシア守ると誓わせた。

しかし、問題もあるといえばある。
どうやらちょこには同郷からの参加者がいたようだ。
オディオによる死者の宣告の時に、ちょこはリーザおねーさんだ!と反応していた。
そのリーザという女とちょこにどれだけの絆の深さがあるかは分からない。
ちょこにどういう関係の人だったか聞くと、リーザに会いたいとリーザのことを第一に考え始める可能性もあるからだ。
聞くに聞けなかった。
こんなことなら、燃やす前に名簿をちゃんと見ておくべきだったが、それはもう今更言ってもしょうがない
幸い、その少女はもう死んでしまったらしいが、まだちょこの知り合いはいる可能性もある。
他ならぬアナスタシア自身も、ブラッドやリルカと言った顔を知っている人間が参加させられていることを知っているからだ。

そういう意味では、イスラの情報に従って誰もいなかった西方へ脚を伸ばすのは悪くない。
誰かに会って、ちょこがその人物に懐くこともあるのだから。
出会った自分がちょこの知り合いならもう最悪だ。
マッシュやクロノという人物は北へ移動したようだし、会う確率も低そうだ。
また、人のいない方向へいけば、他の参加者が勝手に争って自滅していってくれる。
人間とは本当に愚かなもので、皆が一致団結すべきこんな時にも己の欲を優先させ、殺しあっている。
尤も、そのことについては、アナスタシアも否定はしないが。
何故なら、彼女もまた全ての人間が死に絶え、自分だけが生き残る未来を欲しているからだ。
彼らとの違いは積極的に戦場へ出るか否かの違いでしかない。

そして、誰よりも欲深きが故に、彼女は生き残ることを選択する。

『欲望』について、誰よりも理解が深いが故の獣道。
己の心の醜さを自覚して、なおもその道を進み続ける元・英雄。
彼女は昔と何一つ変わっていない。
生きたいという気持ちが誰よりも強かったために、アガートラームに選ばれて戦ったあの頃と。
姿も形も、服装も、胸に抱く気持ちも何もかも……。
状況が違うだけで、彼女は人類を救う<剣の聖女>にも他の人間全ての死を願う死神にもなれる。
これがファルガイアをかつて救った英雄の本当の姿。
口伝では伝えられることのなかった、アナスタシア・ルン・ヴァレリアの『欲望』の深さ。



◆     ◆     ◆

405 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:29:19 ID:E3LN9G.60



もう駄目だ。
もう我慢の限界だった。
もうこれ以上我慢なんてできない。
もう恥も外聞も知ったことではない。

ちょこの相手を適当にしつつ、海岸線に沿いつつ砂浜を西進していたアナスタシアはもはや己の欲求に耐えられなかった。
体中からあふれ出すこの感情に抗う術を、アナスタシアは持ち合わせてはいなかった。
先ほどから、アナスタシアを断続的に襲うある欲求があった。
その欲求ははじめは小さな波のようだったが、徐々に欲求は大きくなり、ついにはうねりを上げるほどの大波のごとくアナスタシアの心を刺激した。
もはや、止めることは誰にもできない。
それが心の堰を切った瞬間、アナスタシアは隣を歩くちょこに向かって満面の笑みを浮かべて、大きな声で言っていた。

「ちょこちゃん、泳ぎましょう!」

だって、これは反則的だ。
同じ砂のはずなのに、砂漠の砂と海岸沿いの砂浜を踏みしめる感触がまるで違う。
寄せては返すさざ波は、まるでアナスタシアを手招きしているかのようだ。
燦々と照らす太陽の光を受けて、透き通る海の色はまさにエメラルドグリーン。
それはまさにこの地上に残った最後の楽園。

無機質な空間で長い時を過ごしていたアナスタシアにとって、自然の息吹が感じられる母なる海はなによりも望んでいたものだ。
ちっぽけな川では決して得られることのないものが海にはある。
敵が来ても、大抵の敵はちょこを使えば迎撃が可能だから、心配はほとんどない。
海に来たからには、素敵な恋人と砂浜で追いかけっこをしたりしてみたかったが、アナスタシアはこの際贅沢はなしだと開き直る。

「泳ぐ? おねーさんもあのしょっぱいお水を飲みたいの? あれ全然おいしくないよー」

あの時の塩辛さを思い出したのか、ちょこが舌を出しながら嫌そうに答える。

「ふっふ〜ん、ちょこちゃん。 海の水は飲むものじゃないのよ。 まぁお姉さんに任せなさい」

ちっちっち、と指を振りながらアナスタシアはお姉さんぶって得意げにちょこに語る。
本音を言うと、アナスタシアにも泳いだ経験はないのだが。
アナスタシアも足がつくくらいの浅い川でしか遊んだ経験はない。
下級とはいえ、アナスタシアは一応貴族の生まれだからだ。
貴族の娘だから、やることは川や海での遊びよりもまず、作法や詩の練習をすることが多かった。
それに、貴族でなくとも、アナスタシアの住んでいたファルガイアにおいて、海で泳ぐ人はあまりいない。
人間のテリトリーである街から一歩出れば、そこは怪獣が闊歩する世界だからだ。
一度怪獣の世界に足を踏み入れると、バルーンなどの怪獣が何時でも何処にでも出没する。
そんな世界でのん気に海で泳ぐ人物はそうそういないのだ。

しかし、ここには怪獣がまるで出没しない。
魔王オディオはあくまで人間同士による殺し合いを望んでいるのだろうか、怪獣や魔物の類がまったくいないのだ。
そうとなれば、アナスタシアが海で泳ぐことを躊躇う理由はない。

406 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:30:13 ID:E3LN9G.60
「ちょこちゃん、そのバッグもう一度貸してくれる?」
「うん、いーよ!」

疑わずに、ちょこはアナスタシアにデイパックを差し出す。
アナスタシアも今回はちょこを騙す気はまるでないから問題ないのだが。
デイパックを受け取ったアナスタシアは、中身を探りあるものを引き出した。
最初にちょこと自分の支給品を入れ替えようとしたとき、真っ先に用なしと判断してちょこのデイパックに突っ込んだものだ。

「ほら、海水浴セット!」

男性用、女性用の水着を始めとして、浮き輪や体を拭くためのバスタオル数枚、日焼け止めのクリームまで入っていた。
さらに、子供用から大人用までサイズは様々、ワンピースタイプからビキニ、スクール水着まで種類は豊富だ。
いったいオディオは何を考えてこんなものを入れたのだろうか。
この支給品を見たとき、相当理解に苦しんだが、こうして活用できたのだからまぁよしとすることにしようと、アナスタシアはそう考えた。

「さぁ着替えましょ」

海の水にはあまりいい印象はないちょこだったが、これも新婚旅行の一環だと説明されると、一も二もなく頷いた。
スポーン!という気持ちいい音が聞こえてきそうなほどあっさりと服を脱ぎ、桃色のワンピースに身を包む。
ちょこが浮き輪に空気を入れようとする一方で、アナスタシアは水着のチョイスに悩んでいた。

「さて、どれを着ようかしらね……」

ハッキリ言って、ものすごく悩む事項だ。
特別見せたい異性がいるという訳ではないが、妙齢の女性にとって水着の選択というのは非常に重要な問題なのだ。

「というか、最近の子は進んでいるわねぇ……」

ヒモのような水着を掴み、アナスタシアは呟く。
アナスタシアの生きていた時代では考えられないほどの面積の少なさだ。
此方と彼方の狭間で、時折ファルガイアを覗いていたから、時代の流れと共に物事の価値観も文化も少しずつ変わっていったのはアナスタシアも知っている。
普段着一つとっても、アナスタシアの生きていた時代と今のファルガイアでは全然違うのだから、水着が違ってもおかしくはない。
だから、こういう水着があってもおかしくはないのだろう。
しかし、流行最先端の水着はなんというか、とても大胆だなとアナスタシアは思う。
こんなに肌を露出してしまっていいのだろうか。
今手に取っている水着なんかまさにそうで、肌を隠すのは胸部と臀部およびその周辺のわずかな部分のみだ。
一言で言えば、けしからん。
現代の性の乱れを嘆く老人のような考えがアナスタシアの頭に浮かぶが、すぐにそれは捨てる。
アナスタシアは現世にもう一度生を受けたのだ。
古臭い考えのままでは、いつまで経っても世間に馴染むことはできない。
そう、正しいのはこの水着のほうであって、間違っているのは自分の古臭い考えだと、アナスタシアは自分を納得させる。

「そう、これは仕方ないのよ」

ビキニタイプの水着を掴んだままゴクリと、生唾を飲む音がアナスタシアの喉から漏れる。
この水着を着た姿を想像するが、とても恥ずかしい。
顔から火がでそうなほど真っ赤に熱くなるのは、きっと気温のせいではない。
いっそ素っ裸の方がマシではないかとすら思える。
しかし、これはいわば社会復帰の一環だ。
古臭い価値観、偏見を捨てるための荒療治。
これを着ることによって、自分も流行の最先端に追いつくのだ。
見られる男もいないし、心配はない。
今進んでる方向に誰もいないはずだし、あれだけ悪態をついて別れたイスラが今更戻ってくる可能性もないはず。
嫌々、嫌々なのだと、自分に言い聞かせるように物陰に隠れて着替えを始める。

407 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:30:51 ID:E3LN9G.60
「まぁ、ちょっとくらいはこういう水着もいいな〜とか思ったりしないでもないけど」

悶々とした葛藤を繰り広げながらも、アナスタシアは着替えを終了した。
水色のビキニタイプだ。
セパレートのミニとどっちを着るか最後まで迷っていたが、こちらにした。

「うわ、恥ずかしい!」

自分で選んだものだが、やはり恥ずかしい。
女性的な体のラインが惜しげもなく晒されている。
思えば、こんなに肌をお日様の下に晒したのいつ以来だろうか。
そんなことを考えるアナスタシアだったが、やはり恥ずかしさが勝り、走って海に突撃することにした。
髪留めも外し、生まれてから一度も鋏を入れたことがないのでは、と思うような長さのアナスタシアの髪の毛が浮かび上がる。

「わーい! おねーさんムチムチプリンなの!」

浮き輪に空気を入れて待ちかねていたちょこを掴み、再び走り出す。
ちょこが言った言葉は幸か不幸かアナスタシアには届かなかった。
波打ち際に到達しても、アナスタシアは止まらない。
最初はバシャバシャと、次はザブザブと。
膝の辺りまで海水がきて辺りで、アナスタシアは静止。
そして次の瞬間、ちょこを下ろして全力で海へダイブを敢行。
アナスタシアは、海を抱擁する。
全身が海水に包まれ、お昼間際で高まっていた体温を海水が優しく冷ましていく。

「ぶはッ!!」

顔を上げて、思い切り空気を吸い込む。
なんという心地よさであろうか。
それは今まで食べたどんな極上の料理よりも、どんなに感動する物語を聞いたときよりもアナスタシアの心を満たした。
自由というものがこれほど素晴らしいものであったとは、思いもよらなかった。
この生を手放そうとするイスラと自分はやはり分かり合えない存在なのだと、改めて思いもした。

「おねーさん! あれ!」

ちょこが警戒の色を含んだ声をアナスタシアに投げかける。
何だろうと思うが、時すでに遅し。
いつの間にか眼前に迫っていた大きな波がアナスタシアに襲い掛かる。
波の高さは、実にアナスタシアの身長と同じほど。
深さはアナスタシアの膝ほどまでしかないほど浅いが、いきなりの不意打ちにアナスタシアは対処できるはずもない。

「ちょ……!」

408 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:31:33 ID:E3LN9G.60
ちょっと待ってよ、と言おうとしたが途中で波に飲まれてしまう。
叩きつけられた波は容赦なく足元をすくい、海の中でアナスタシアはどっちが上でどっちが下か分からなくなるほど混乱する。
ようやく自力で起き上がって、膝を突いたまま海面から顔を出したアナスタシアは盛大に咳き込む。
海水が喉の奥まで入り込んだのだ。
だが、それが不思議と気持ちいい。
我知らず、笑みが零れていた。
これは、この苦しみは記憶の遺跡では決して味わうことのできなかった感覚だ。
アナスタシアがちょこの方を見ると、こちらも被害は受けたようだが浮き輪を装着していたのが幸いだったようで、溺れることはなかった。

「ざっぷーん! ってきたあと海の中でぐるぐるーってしたのー!」

小さいちょこは海の中で回転させられたようで、先ほどと同じように海の水を飲んでしまっていた。
だが、咳き込むちょこを見ると、それさえも可笑しくて。
アナスタシアは心の底から笑った。
面積の少ない水着を着ている恥ずかしささえも、もはや忘れるほどに。

「おねーさんなんで笑ってるの? ねぇねぇ、面白いことあったの?」
「ふふっ、そうね……面白いわね」
「なにが面白いのー?」
「分からない? ならこうしてみれば分かるかも」

そう言うと、アナスタシアは両手を大きく広げ、大空に向かって大きく腹の底から声を出して叫ぶ。

「やっほーーーーーーーーーーーーーーー!」

叫びが大空に吸い込まれていく。
無限に広がる蒼穹がまるでアナスタシアの胸の中へ飛び込んできそうだ。
山彦が返ってくるわけでもないのに、アナスタシアは叫ばずにはいられなかった。
この自由を堪能せずにはいられなかった。
再び得た生を誰よりも謳歌したかった。
自分は確かにここにいると、世界中に宣言したかった。

ここには青く広がる空がある。
透き通る海がある。
小川のせせらぎが聞こえる。
アナスタシア以外にも人間がいる。
誰かいるということはとても素晴らしいことだ。
誰かを好きになるにしても嫌うにしても、まずは生きていないといけない。
人は、他者を介してようやく己の存在を認識できる。
誰もいない空間で生きるなんていうのは、死んでいるのと同義だ。
『欲望』を司るガーディアン、ルシエドではアナスタシアの心の寂しさを完全に埋めることは適わなかったのだ。


そう、彼女は今この瞬間、この生に酔っている、浸っている、溺れている……。


「やっほーーーーーーーーーーーーーーー!」

ちょこが真似して叫んでみるが、よく分からないようでアナスタシアに聞いてきた。

「うー、やっぱり分かんないのー」
「ちょこちゃんも大人になれば分かるかもね」
「本当!? 大人になるっていつ? すぐなれる?」
「うん。 すぐよ」
「わーいのー!」

409 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:32:21 ID:E3LN9G.60
ちょこの頭を撫でるアナスタシア。
その笑みには確かに聖女と呼ばれるだけの温かみがある。

それから、正午の数分前まで、アナスタシアとちょこはひたすら海水浴をして楽しんだ。
水の掛け合いをしたり、遠くまで泳いだり、海中でどっちが長い間息を止めてられるか勝負したり。
願っていた普通の女の子らしい遊びだ。
泳ぎの経験がないアナスタシアはバタ足か犬掻きに近い泳ぎだ。
クロールはもちろん、平泳ぎすらできないが、そんなことを咎めるものは誰一人としていない。
普通の少女らしい遊びをするアナスタシアとちょこ。
その間――わずか数時間の間のだが――のアナスタシアとちょこの気持ちを言い表すのは、残念ながらたった一言で足りてしまうのだった。
つまり――楽しかった、と。



◆     ◆     ◆



海から上がり、元の服装に着替えて髪を乾かしている最中、アナスタシアは心の中で思う。
自分は裁かれるのだろうか、と。

ユーリルに対して迷いを投げかける言葉を言った時を抜きにしても、そう思わずにはいられない。

ファルガイアを一度救ったのは、誰よりも『欲望』が強かったアナスタシア自身。
かつてファルガイアを救い<剣の聖女>と呼ばれたアナスタシアも、今ここで自分以外の全ての人の死を望むアナスタシアも、ちょこと無邪気に海水浴を楽しんだアナスタシアもすべて同一人物だ。

誰よりも生きたいがために、かつて焔の災厄と戦った彼女の行為は誰にも咎めることはできない。
たとえ、アナスタシアの行動原理が『欲望』に根差したものであってもだ。

では、今のアナスタシアはどうだろうか?
自分だけが生き残るために幼い少女を騙し、他の全ての人間の死を望む。
そこまで考えて、アナスタシアは自嘲せずにはいられない
なんという皮肉であろうか、と。

かつて、アナスタシアはアシュレーに言った。
『欲望』とは生きようとする意志の力ではないかと。
力は行使する人によって、奪うためのものにも守るためのものにもなる。
同じことが『欲望』にも言える。
食欲や睡眠欲を否定することはすなわち、生きることの放棄に他ならない。
性欲でさえも、後の世に子種を残すために必要な欲求だ。
誰かの食料を強引に奪うことや、異性に乱暴をはたらく行為が駄目なのであって、『欲望』そのものに罪はない。
『欲望』とは、決して忌避すべきものではないのだ、と。

410 ◆SERENA/7ps:2009/10/31(土) 19:33:39 ID:E3LN9G.60
今の自分は真っ黒ではないか。
生きたいという『欲望』に従って他者を滅ぼす。
かつて自分が忌避した生き方を、アナスタシアはなぞっているのだ。

(弱いなぁ……)

だが、それを自覚してもなお、その生き方を変えられない弱さもアナスタシアは持ち合わせていた。
またこの生を手放すことなど、絶対にしたくなかった。
焔の災厄の時にはいい方に転がった『欲望』が、今回は悪い方向に傾いている。

(たぶん、私は裁かれるんだろうな……)

神様とか天国とか地獄とか、最後の審判とかいうものがあったのなら、きっと自分は間違いなく裁かれるだろうとアナスタシアは思う。
願わくば、その審判が近い将来ではないことを願いつつ、アナスタシアは数分後に聞こえるであろうオディオの声を待つのであった。





【I-3 浜辺 一日目 昼】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:不明支給品0〜2個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:イスラから聞いた場所の実物を見にいく
2:施設を見て回る。
3:『勇者』ユーリルに再度出会ったら、もう一度「『勇者』とは何か」を尋ねる。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
※アシュレーやマリアベルも参加してるのではないかと疑っています。



【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品0〜2個(生き残るのに適したもの以外)、海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
1:おにーさんからもらったお菓子おいしかったの。また会いたいなー
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
[備考]
※参戦時期は不明。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザの名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。

411 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:45:06 ID:AnAlQbUs0
規制されてるのでこちらに投下します

412 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:47:14 ID:AnAlQbUs0
「ヘクトル、異常はないか?」
「ああ、こっちも異常なし」

ブラッドの声に、ヘクトルが退屈混じりの声で返事を返す。
ついでに、欠伸も混じった。
ヘクトルは欠伸を噛み殺しながら、森の中に混じり偵察を続けた。
ホルンの魔女に回復させられた時、疲労も消え去ったはずだが、退屈に殺されてしまいそうな気分になる。
眠たくもないのに眠気が襲ってくる。

ここは島の中央から南へと流れる川にかかった二つの橋のうち、南に位置する方。
アナスタシアとちょこによって、ひと時の空中遊泳を楽しむことになったブラッドとヘクトルは着地後、近くで見つけた橋の近くに陣取り、偵察をすることにした。
橋を渡っている人間からは見えず、されどこちら側からは橋を渡ろうとする人間はばっちり見える。
そういうポジションに腹ばいになって、深く静かに潜行するように、森の景色と一体化して未だ見ぬ人物との出会いを待つ。

「しっかしよ、本当に誰も来ねぇな。 本当に誰か来るのか?」
「来る。 この近辺に人がいるならほぼ確実にな」

ヘクトルの疑問に、ブラッドは視線は橋から離さず、そして確信に満ちた声で答える。
ゴツゴツとした岩を組み合わせたような肉体が違和感なく森の中に溶け込んでいる。
不平や不満を言わず、ただ黙々と、ただ一点を見つめて。
おそらく、相当場馴れしている。
ブラッドが偵察や監視という任務を数多くこなしていることをヘクトルは悟った。
泥まみれの戦場というものがブラッドという男には非常に馴染む。
ヘクトルもこういったことは初めてではないが、行動のあちこちにぎこちなさが残ってしまう。

「考えてもみろ。 9:00からはF-4とH-5が侵入禁止エリアになる。 西からこちらへ来ている人間は間違いなくこの橋を通る」

ブラッドに言われて、F-4とかH-5ってどこだっけ、とヘクトルが地図を取り出す。
程なくして、手に取った地図から言われた地点を見つけ出した。
ヘクトルがそれを見つけたのを確認して、ブラッドがさらに言葉を続ける。

「G-4、G-5のような砂漠を好き好んで通り抜ける人間はいない。 だとすると、残った道はここ。
 つまり、今俺たちがいるI-6の橋だけだ」
「すげぇな、地図が完璧に頭の中に入ってるのか?」
「基本だ。 地図を見れば地形が分かる。 地形を見ればどのような行動をとるべきか自ずと分かる。
 敵が待ち伏せをすることのできる場所、逆にこちらが待ち伏せするべき場所。 その他諸々も含めてな。
 地図が不正確である可能性もある以上、過信はできないが一定の指標にはなる」

粗野な外見を持っているが、ブラッドはとても思慮深い。
もちろん、見た目どおりの戦闘力と、内に秘めた熱い心も有しているが。
外見通りの豪放磊落な性格であるヘクトルとは、その意味においては対照的だ。

413 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:48:53 ID:AnAlQbUs0
「あー、そうだよな。 地図覚えるってのはやっておかないとマズイよな」

バツが悪そうに、ヘクトルが呟く。
もう、兄がいた頃のように好き勝手をやる訳にはいかない。
オスティア候としての立場を受け継いだ以上、武術ばかりを鍛えるということもできないのだ。
退屈な算術の時間に居眠りをするのも、学問所を抜け出して闘技場で戦闘の訓練だけをするのも駄目だ。
候弟という立場にありながら、そこまで奔放に生きてこれたのも、全ては亡くなった兄ウーゼルのおかげ。
正直、オスティア候なんて立場に興味も執着もないし、性に合わないとヘクトルは思う。
だが、名君と謳われた兄をヘクトルは尊敬しているし、家族としても好きだった。
兄に少しでも追いつけるよう、苦手なこともやっていかないといけない。
戦術論の基礎として、戦場の地形を頭に入れることもやらなければならないのだ。

「橋を渡らずに、直接渡河をする可能性は低い」

ヘクトルの呟きを敢えて流して、ブラッドがさらに続ける。
それはブラッドに対して向けられたものではないと感じたからだ。

「ヘクトル、お前も一軍を指揮する立場にあるなら分かるはずだ。 渡河こそが行軍中におけるもっとも危険な時間の一つだと」

人間は水という脅威に対してとても無力だ。
水かきもヒレもない、ましてやエラ呼吸もできない人間は河を渡る際、水の抵抗を大幅に受ける。
そんな中、弓矢や魔法の嵐を受けると、人間はどうしようもない。

「おっ、それなら分かるぜ。 なにしろ俺たちオスティアが誇るアーマーナイトの天敵だからな」

難攻不落と言われたオスティア城を守るのは、固い鎧に身を包んだアーマーナイトやジェネラルの群れ。
そう、鎧というのはとても固く、そして重い。
アーマーナイトにとって、天敵といえるものの一つが河なのだ。
重い鎧に身を包めば、いかな水練の達人とはいえ、泳ぐのは難しい。
鎧だけに限らず、水を吸い込んだ衣服というのは意外に重いのだ。
ヘクトルが今着込んでいる鎧も、重騎士並みの厚さと重さだ。
これを着たまま渡河をするのは、無茶が売りのヘクトルでもさすがに躊躇われる。

「重武装をした兵士が通るのが難しいだけではない。 通常、渡河というのは最大級の警戒の下行われる」

まずは本隊が河の付近で待機。 
偵察隊が周りを探索して、待ち伏せした敵部隊が確認。
先発隊が渡河を行い、無事対岸に着ければ、今度は先発隊がそのまま対岸付近を偵察。
そうして、ようやく本体が河を通ることができるのだ。

「多少でも身に覚えのあるものなら、直接の渡河というのはまずやらない」
「そんなもんか」

橋ならば、待ち伏せまたは襲撃されても、少なくとも走って逃げることはできる。
なす術もなく死ぬか、精一杯抗った後に死ぬかを選ぶとしたら、大抵の人間は後者を選ぶだろう。

414 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:49:40 ID:AnAlQbUs0
「しかし、こうも代わり映えの風景ばかり見てると飽きるよな」

待つのに飽きた末に、気絶していたブラッドを担いで運ぼうとしていたヘクトルだ。
こういった、地味な作業はとても苦手である。
一方、こうすることを提案したブラッドはさすがに文句一つ言わない。
勝利をもぎ取るのは、気の遠くなるような地道な積み重ねの結果だと知っているが為だ。

そして、時間は過ぎる。

すでに、お日様はかなり上の方に昇っていた。
ブラッドにとっては取るに足らない時間。
しかし、ヘクトルにとっては永遠にも思われる時間。
それでもヘクトルが我慢できたのは、新オスティア候としての自覚が芽生え始めているからかもしれない。

「来たぞ」
「マジだ。 本当に来たな」

見つけたのはブラッドだが、喜んでいるのはブラッドだ。
ようやく誰かに会えたことと、この退屈さから開放されることが交じり合った喜び。

「男一人か。 よし、俺が行ってくるぜ」
「ヘクトル、油断はするなよ」
「分かってるよ」

起き上がり、砂埃を落としてからヘクトルは見つけた男の方へ走っていった。
ブラッドは現在位置のままで待機。
何かあればすぐにヘクトルに加勢できるように。
また、来ている男に不審な行動を感じればすぐに対応できるように。

415 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:51:06 ID:AnAlQbUs0
◆     ◆     ◆



橋を渡っていた男、イスラ・レヴィノスはイライラしていた。
先ほど出会ったアナスタシアとの会話を思い出すだけで、怒りにも似た感情が湧き起こる。
彼女の言っていたことには確かに正論もあった。
だが、正論が人を救うとは限らない。
イスラ自身がどんな苦痛を味わい、惨めな思いをしてきたかを、聞いただけでしか知らない女にとやかく言われるのは不快でならなかった。
だから、彼は橋を渡るとき、軍で習った基本を忘れていた。
頭の中で、彼女に対する反論をずっと続けていた。
彼は警戒もせずに、ノコノコと橋を渡っていた。

「おーーーーい!」

もし、そこで待ち構えていたのが一人だけで勝ち残ることを選んだ者なら、イスラは殺されていたかもしれない。
しかし、運のいいことに橋の付近で待ち伏せていたのは青い髪に精悍な顔つき、そして中々に重たそうな鎧を身に着けた男――ヘクトルだった。
無警戒に走り寄ってくるヘクトルを見て、イスラは我に返り、すぐさま男の値踏みをする。
今まで会った中で言うと、マッシュや高原と似たようなタイプに見える。
要するに、腹の探り合いなどは苦手そうだと。

「いやぁー、ずっとここで誰か来るかと思って待ってたんだけどよ。 退屈で死にそうだったぜ」

イスラが特に警戒してる風に見えなかったため、ヘクトルは親しげに声をかけながら近寄る。
しかし、イスラは剣に手をかけ、柔和な笑みで静止の声をかけた。

「そこで止まってくれるかな? 僕としても、友好的な態度を装って近寄ってきた男に後ろから斬られたくはないからね」
「お、おおう。 ま、そりゃそうだな」

イスラとヘクトル、二人はギリギリの間合いで対峙する。
両者共に殺しあう気はないのだが、その言葉一つだけでは信用できないほどに、この世界は世知辛い。

「僕はイスラ。 イスラ・レヴィノス。 イスラでいいよ」
「ヘクトルだ」

とりあえず自己紹介だけは問題ないと思い、してみたもののそれで二人の距離が縮まるわけではない。
そのまましばし、お互いの距離を測りかねた二人は立ち尽くすが、イスラから歩み寄ることにした。

「とりあえず、このままじゃ埒が明かないから、お互いに質問を一つずつしていくってのはどうかな?」
「お、いいなそれ。 じゃあ俺からいいか?」
「どうぞ」
「まず、お前が最初にいたのはこの島のどこだ?」
「西のほうにある教会だよ。 特に変わったところはないごく普通の教会」
「なるほどな」

416 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:52:08 ID:AnAlQbUs0
まず、ヘクトルは当たり障りのない質問からはじめる。
これに対して、さほど重要性を感じないイスラは正直に答える。

「それじゃあ今度はこっちだね。 僕のことを捜してる人に出会わなかったかい?」
「誰かいるのか?」
「今は僕の質問の番だよ?」
「あ、わりぃな。 いなかったぜ」

イスラの質問は空振りに終わる。
アズリアと出会えば必ずやイスラを捜していると言うだろうから。

「おし、また俺だな。 お前、今まで誰かに会ったか?」
「会ったのは会ったね」
「本当か? 誰だ?」
「……高原日勝とマッシュ、そしてクロノっていう人たちかな。 全員男だよ」

問いに対するイスラの答えには若干間があった。
だが、ヘクトルはそれに気づかず、マッシュという男の名前に反応した。

「マッシュか! セッツァーが言ってた奴だな。 あの金髪で何とかっていう格闘技を使う」
「へえ、君はマッシュの知り合いにあったみたいだね。 セッツァーの名前なら僕もマッシュから聞いたよ」
「何だ何だ、セッツァーの知り合いのこと知ってるなら問題ないじゃねえか」

今度こそヘクトルはイスラに近寄り、体育会系のノリでイスラの肩をバンバンと叩く
イスラは、柔和な笑みを崩さないまま、ヘクトルの無用心さに多少呆れた。
自分の知り合いならともかく、知り合いの知り合いも信じられるというのはどういうことかと。

「そうなるね。 じゃあ僕らのやっていたのは意味なかったのかもしれないね」
「考えるとすっげえ間抜けなやり取りだったなおい」

しかし、ヘクトルは知らない。
セッツァーの瞳に奥に隠された真実を。
一手先ならともかく、二手も三手も先を見据えたセッツァーの戦略に気づけない。
もし、ここでさらにエドガーやティナの人物像について語り合えば、二人は相互の情報の認識に齟齬があることに気づいたかもしれない。
もし、イスラが出会ったのがマッシュではなくエドガーであったら、こうはならなかったかもしれない。

417 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:52:57 ID:AnAlQbUs0
全ては運。

ヘクトルとイスラがそれ以上語り合うことをしなかったのも、イスラが出会ったのがマッシュであったのも。
ギャンブルに生きる男、セッツァーが引き当てたカードは果たしてスペードのエースなのかジョーカーなのかあるいはそれ以外の何かなのか、今はまだ分からない。

「おーいブラッドー! 問題ないぜー!」

ヘクトルは無防備な背中をイスラに見せて、ブラッドを呼ぶ。
イスラはそのヘクトルの大きな背中を見て、ヘクトルをある程度信用することにした。
同時に、ヘクトルに対する認識を改める。
高原やマッシュとは似ているようで少し違うと。

「無闇に他人に背中を見せると危ないよ?」
「そん時はそん時だよ」

暗に自分が襲うかもしれないぞと言ってみたが、ヘクトルは気にしてないようだった。
こうして無防備な背中を晒している理由が、何となく他の人間とは違う気がするとイスラは思った。
仮に高原やマッシュが背中を晒しても、それは不意打ちされても対応できる自身と自負があったからだろうが、ヘクトルはそれとは少し違うような気がした。
確かにヘクトルにも実力はあるだろうが、だからといって己の実力をひけらかすように背中を見せているのとはまた違う。
殺されるようなら、所詮自分の人生はその程度のものだったのだという開き直りとも違う。

イスラはヘクトルの背中を見て、無防備だと思うより先に大きな背中だと思ったほどだ。
アティを見たときと同じような感覚。
あれは、あの背中は、導くものの背中だ。
仲間を率いて、率先して前に立ち、皆の期待に応える者の背中だ。
その背中を見ると、どんなに屈強な大男も小さな子供でさえもついていきたくなるような。
そうして、いつしか彼は大勢の人間の輪の中心にいて、笑っているのかもしれない。

だけど、そう感じてしまったのは一瞬だけのことだ。
それはまだ小さな、夜空に瞬く星のように儚い光。
けれど、何時かは強き光となって闇夜を照らすのかもしれない。
王道とは違う、未踏の道を歩むものの背中。
後に、兄ウーゼルに勝るとも劣らない名君と呼ばれる才能の片鱗をイスラは感じたのかもしれない。
そうして、自分自身がそういった人間には一生なれないことも意識した。
もちろん、当のヘクトルはそんなことを意識してないが。

「ブラッド・エヴァンスだ」
「イスラ・レヴィノス」

418 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:53:38 ID:AnAlQbUs0
ヘクトルよりも大柄なブラッドが現れて、イスラは邪気のない笑顔を維持したままブラッドの値踏みをする。
大柄な体躯、そして筋肉質な肉体の持ち主という点ではヘクトルと似ているが、ヘクトルよりも思慮深い性格に見えた。

「ブラッド、収穫だぜ。 こいつセッツァーが言ってたマッシュに会ったってよ」
「ほう」

目を細めるようにして、ブラッドがイスラを見る。
視線を受け止めながら、イスラが答えた。

「僕はやりたいことがあるから、一人にさせてもらってるんだけどね。 ユーリルっていう仲間もいるみたいだよ」

探るような視線だと、イスラはブラッドの視線を評する。
もっとも、ブラッド自身もそのつもりだったが。
与えられた情報を元に論理を組み立てるのは得意だが、ポーカーフェイスのやり取りはブラッドもそこまで得意ではない。
現状のイスラにそこまで不審な点を見つけることはできないので、ブラッドは本題に入ることにした。

「では、本題に入るか。 知っている限りの情報を教えてもらいたい。 もちろん、こちらも知っている情報は全て教える」
「ヘクトルに言ったのでほとんどだけどね。 教会で目覚めて、マッシュたちに会って、君たちにあった。 それくらいだよ」

イスラはアナスタシアのことは言わない。
協力関係にある人間でもないし、思い出すのは不快だったからだ。
まさかブラッドたちがアナスタシアの情報を欲しているとは知らないイスラは、しばらく経った後にようやくアナスタシアとヘクトルがイスラよりも前に接触していたことを知った。
が、しかし、今更正直に言っても仕方ないので黙っていることにした。

「アシュレー・ウインチェスター、カノン、マリアベル・アーミティッジは大丈夫だ。 俺が保証する。 
 トカについては保留だ。 あれは思考が全く読めない」
「こっちはリン、フロリーナ、ニノが安心だな。 危険かもしれないのがジャファルって暗殺者だ。 こいつと戦うときは要注意だぜ。
 ちょっと瞬きしている間に自分の首を切り裂かれてもおかしくないくらいの凄腕だ」
「アティ、アズリアくらいだね、僕は。 アズリアっていうのは名前を見れば分かると思うけど僕の姉さんだよ。 知っている人間で特に危険な人物はもういないかな
「リーザって名前に心当たりはあるか?」
「悪いけど、ないなあ……」
「そっか。 ならいいんだ……」

さらに、三人がそれぞれ捜して人間、そして危険だと思われる人間の情報を交換する。
ここでも、セッツァーの言っていた情報とマッシュの言っていた情報の違いが明らかにされることはなかった。
共通の知識として、確認するまでもないと三人が考えたため、そして優先すべきはARMSのメンバー、リンやフロリーナ、アズリアの名前を交換することだったからだ。

「さて、と。 こんなもんだな」

場所を橋の真ん中から再び人目につかない場所に変えて、お互いの情報の交換もあらかた終わった。
ヘクトルが凝った肩を揉み解しながら、立ち上がる。

「で、俺たちとは一緒に行けないんだな」
「うん、セッツァーがやりたいことがあったみたいに、僕にもやることがあるから」

419 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:54:26 ID:AnAlQbUs0
念のために確認するようなヘクトルの問いに、明確な意志でイスラが答えた。
セッツァーの時もそうだったし、ヘクトルは無理に引き止めることはしない。
こうして、オディオに対する反抗の意志を確認できただけでも収穫はあるからだ。
クロノたちと一緒に行かないことを選んだときのように、今回もイスラは単独行動を選ぶ。

「姉には、会う気はないのか?」
「……もちろん、会いたいよ。 でも、今はまだ会えない」
「何か、会えない理由でもあるのか?」
「うん、まぁね。 ちょっとした姉弟喧嘩中みたいなもので、会うのが気恥ずかしいんだよ」
「なら、いいけどよ」

そこで、ヘクトルの眼差しに寂しさと厳しさが混じったような感情が含まれる。

「喧嘩できるのも、お互いが元気なうちだけだぜ。 ある日突然、心臓だか脳だかにウッときてそのままポックリ逝くことだってあるんだ。
 ましてこんな状況ならなおさらだ。 今は会えないってんなら無理は言わないけど、いつか必ず会って仲直りしろよ」

兄、ウーゼルを襲う病魔の進行がもはや取り返しのつかないところまで進行してきた頃に、ようやく気づいたヘクトルの言葉は重い。
深い目をしたヘクトルの言葉はイスラの胸にもすうっと入り、染み込んだ。
そして、その言葉の意味を考え、刻み付ける。

「ああ、そうだね……」

表面上は肯定の意を示しつつ。
だが、それでもイスラはアズリアに会わないと決めた。
ヘクトルの言葉の意味を知り、ヘクトルが今言ったようなことを経験したのだろうとも想像はついた上でも。
死にたいというのは固い意志のもと、ずっと昔から思っていたことだ。
今更アズリアには会えない。
会って交わす言葉など、もうありはしないのだ。
イスラができるのは、二度目の生をアズリアのために使い、もう一度死ぬことだけなのだ。

「少し、いいか?」

と、そこで沈黙を保っていたブラッドが口を開く。

「何かな?」
「もし、アズリアという姉やアティが死んだら、お前はどうするつもりだ?」
「それは、もちろん――」

答えを言おうとしたイスラの口が、二の句を継げずに止まる。
ヘクトルとブラッドが何事かと問おうとした時、遅れて二人も状況を認識する。

420 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:55:13 ID:AnAlQbUs0
風と、振動と、強い光。

まずは、東の空に明滅する光が見えた。
真昼でもなお認識できるほどの光量は、破壊の相を色濃く帯びている。

続いて、風。
東側の木々だけがざわめくのを感じた。
もしも鳥が木に留まっていたら、上空に逃げ出しただろう。

そして、振動。

「――!?」
「今……揺れたか?」

口にしたのはヘクトル。
静止してなければ感じ取れないであろう程の微弱な振動だったが、三人とも確かに地面が揺れるのを感じた。
ブラッドとヘクトルは顔を見合わせると、すぐさま震源地へと向かって走り出した。

「悪い、イスラ!」

ブラッドがイスラに声をかける。
あれだけの大規模な爆発か何かを起こせる実力を持った者など、ちょこあたりしか今のところ心当たりはない。
アナスタシアがいればいいという期待と、アナスタシアがついに殺人に手を染めたりしないかという不安を抱きながら、ブラッドは走る。
しかし、ヘクトルの他に、イスラも追走していた。

「僕も行くよ。 進んで殺し合いをするような奴がいるなら戦わないといけないからね」

今回ばかりは、イスラもあの光に危機感を感じて同行することにした。
もしも、あの光がアズリアに向けられたら……。
そう思うと、倒さなければならないという気持ちがどこからか湧いてきて、自然にブラッドとヘクトルの後ろを追っていた。
それは一見、正義感に燃える行動に見える。



でも、本当にそうなのか?



「ありがてえ。 恩に着るぜ」

421 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:55:48 ID:AnAlQbUs0
イスラの行動に純粋に感謝をしつつ、ヘクトルはブラッドに負けないペースで走り出す。
だが、イスラは走っている最中、あることを考えていた。

アズリアが死んだ場合、自分はどうするのだろうか?と。

ブラッドに言われた時、答えに窮したのはあの光を見たせいだけではない。
純粋に、イスラはあの問いに対する答えを持ち合わせていなかったのだ。
その場合を考えるのを、脳が無意識に回避していたのだろうか。
アティもアズリアも、戦闘力やいざという時の行動力も目を見張るものがある。
だから、簡単には死なないと思う。
でも、死者は順調に増えている。
おそらく、あと少しで聞こえるオディオの死者の宣告時にも、また何人か死んでいるだろう。
そして、軍や暗殺者の部隊と懸命に渡り合っていた幼き少女でさえも、もう死んでいる。
あの島で死ななかったからといって、今回も死なない保証はどこの誰もしてくれやしない。
その上で、考える。

アティやアズリアが死んでいた場合、イスラ・レヴィノスはどうするのだろうか?

オディオを倒して生還して、レヴィノスの家を継ぐ?
そうだ、順当に考えれば、それが一番自然で妥当な考えだろう。
でも、理性とは違う別の何かはシックリこない、何かが違うといっている。
そうなった自分の姿を上手く想像できないのだ。
この島でさえ、誰とも友情を育むことなく一人で行動しようとしているイスラ・レヴィノスに、一体なにができるのだろうか?
それが自分の望んでいたことなのだろうか?
いや、違うと断言できる。
死にたいと思っていたイスラが生きて、生きたいと思っていたアズリアが死ぬなんて、絶対にあってはならない。

もう一度受けた生は、アズリアのために使うつもりだった。

イスラはここは自由だと、以前思った。
魔王に立ち向かうのも、その結果やられるのも自由。
自暴自棄になって首輪を外そうとして爆発しても自由。
逃げようとしても、何をしようとしてもここは自由なのだ。
でも、イスラはこの自由をアズリアのために使うと決めたのだ。
もしも、アズリアがこの先死ぬようなことがあれば――
もしも、もうアズリアが死んでいたのだとしたら――



使い道のない自由なんて、あったって何になるんだろう?







【I-6 橋付近 一日目 昼】

422 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:56:22 ID:AnAlQbUs0
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)、疲労(小)
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、
     基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオをぶっ倒す。
1:東へ向かう。
2:仲間を集める。
3:フロリーナ達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間を探す。つるっぱげも倒す
4:セッツァーをひとまず信用。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、エドガー、シャドウを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
※セッツァーとイスラと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 ティナ、エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。
※マッシュとセッツァー情報の食い違いに気づいていません。




【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(小)
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:不明支給品1〜2個、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:東へ向かう。
2:仲間を集める。
3:自分の仲間とヘクトルの仲間を探す。
4:魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
5:アナスタシアを救う。
[備考] ※参戦時期はクリア後。

423 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:57:36 ID:AnAlQbUs0
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み) 、ドーリーショット@アークザラッドⅡ
     鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:首輪解除と脱出を行い、魔王オディオを倒してアズリア達を解放した後安らかに死ぬ
1:東へ向かう。
2:途中危険分子(マーダー等)を見かけたら排除する。
3:エドガーとルッカには会った方がいいかな?
4:極力誰とも会わず(特にアズリア達)姿を見られないように襲われたり苦しんでいる人を助けたい。
5:今は姉さんには会えない………今は。
6:もしも姉さんが死んでいた場合は……?
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
※マッシュとセッツァーの情報の食い違いに気づいていません
※イスラたちが見たのはケフカによるアルテマの光です

424 ◆SERENA/7ps:2009/11/15(日) 00:58:59 ID:AnAlQbUs0
投下終了しました。
規制されてない方がいましたら代理投下お願いします
タイトルは使い道のない自由 でお願いします

425第二回定時放送 ◆SERENA/7ps:2009/11/21(土) 16:28:29 ID:t0FbRNhw0
時計の短針と長針が頂点でピッタリと重なる。
同時に、オディオは自身に与えられた役目をはたすべく、重い口を開けた。
玉座に腰を下ろしたまま喋るオディオの声は、深い憎しみに彩られている。
天から降り注ぐように、
地の底から響いてくるように、
あるいは、風に紛れてどこからともなく、
どんな場所にいようとも、この絶望という名の宴の参加者である限り逃れられないような、オディオの声が響く。

「時間だ……一度しか言わぬから心して聞くといい。
 まずは禁止エリアの発表だ。

 13時からI-1とD-3
 15時からB-9とA-5
 17時からF-10とJ-8

 そして、死者の名だ。

 カノン
 フロリーナ
 エドガー・ロニ・フィガロ
 シュウ
 サンダウン
 リオウ
 ビクトール
 ルッカ
 アズリア・レヴィノス
 エルク
 アティ

 前回と同じ11名がその命を落としている。
 変わらぬ勢いを持続してお前たちも嬉しいだろう。
 自分が生き延びる確率がまたも増えたのだ。
 胸に灯ったその感情の命ずるまま、すべて殺し尽くせ。

 なお、今回まで生き延びた者たちに少しだけ先のことを教えてやろう。
 18時より次の日の0時まで、特定のエリアにて雨を降らせる。
 水を己の領域とするものはそこにいく行くがよい。
 
 お前たちにも見えてきただろう、人間の本性が。
 分ってきただろう、隣にいる人間が何を考えているか。
 獣とて、必要な時以外殺しはせぬ。
 しかし、人間の欲は際限なく他者を巻き込む。
 
 ……ならば、勝ち続けろ。
 歴史とは、人生とは勝者の物語。
 敗者には、明日すらも与えられぬッ!
 信用するな、手を取り合うな、戦い続けろ、奪い尽くせ!
 53の屍の上に立ち、見事勝者になって己の望みを私に言うがいいッ!」







『勇者』と呼ばれ、人類を救った若者のことを思う。
人間の醜さを知らず、ただひた向きだった頃の自分と彼は似ていた。
無知だという点において。

自らが生贄だと知りもせず、ただ請われるままに勇者であり続けた若者。
自らのなすべきことに疑いを持たず、ただ人々の期待に応え続けた自分。

彼もまた、この島で人間の愚かさに気付き始めている。
『勇者』も『英雄』も単なる生贄でしかなく、
平和を願う心だけは一人前なのに、そのくせ自分で戦うことをしない他力本願な民衆によって祭り上げられた存在だということに。
勇者を、完全無欠の神のごとき超常の存在だと勘違いしている愚民に踊らされた哀れな若者。
彼を見るのは、とても気分がいい。
かつての自分を見ているかのようだった。

彼は傷ついているのではない。
自分がどういう存在だったのか、人間がどういうものか気付き始めているだけだ。
若者の心に生まれた小さな暗闇を、オディオは決して見逃さない。
何故なら、その暗闇の権化がオディオそのものだからだ。

口の端を凄惨に吊り上げて、魔王は笑う。
それは悪魔でさえも震えあがるような、底知れない憎しみを孕んだ笑みだった。

426 ◆iDqvc5TpTI:2009/12/02(水) 23:16:54 ID:1HuRQ4Ho0
◆SE氏、投下おつかれさまです。
さて、私の方も投下と行きたいところですがeo規制といくつか気になる点がある為仮投下させていただきます

427グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:19:30 ID:1HuRQ4Ho0
『時間だ……』

地下の世界に反響するその声にアシュレー・ウィンチェスターは気を引き締める。

今の彼の姿は数十分前の化物染みたものではない。
セッツァーに薦められた通り地下へと潜ったことが功を奏した。
誤解から他者に襲い掛かられることを気にしないでよくなったアシュレーは心を落ち着かせることに専念できた。
ロードブレイザーが宣言どおり邪魔をしなかったこともあり、何とか魔神の意識を抑え、人の姿に戻れるに至ったのである。

だがせっかくの努力もこの放送を超えられなければ元の木阿弥になる。
放送直後の時間に押し寄せてくる大切な誰かの死を知ったことで起きる悲しみや怒り。
前回の放送時はそれら大量の負の念を喰らい力を大きく取り戻したロードブレイザーに身体をのっとられかけた。
二度と同じ轍を踏むわけには行かない。
そう心に誓い覚悟を決めていた。

無駄だった。
アシュレーを嘲笑うかのように今回の放送でも前と変わらない死者の数とARMSのメンバーの名前がまた一人呼ばれてしまった。

『良かったではないか、アシュレー・ウィンチェスター』

前回同様多くの負の念を吸収できたことで表層意識へと浮かび上がってきた焔の災厄が語りかけてくる。

「何がだ……ッ!」
『放送だよ。聞いただろ、11人もの死者の名を。その中の一人としてあの禍祓いの女の名を』
「カノン……」

赤い義体に身を包んだ女渡り鳥の姿が心に浮かぶ。

『くくく……。そういえばそんな名前だったか?まあいい。
 もしも奴が生きてお前の前に現れていたら、今度こそお前も私ごと祓われていたかもしれないからな。
 かってにのたれ死んでくれたのは私にとってもお前にとっても幸運ではないか』

禍祓い。
魔を祓うことを専門としていた彼女と魔神を身に宿したアシュレーは初めはロードブレイザーの言うようにぶつかり戦いはした。
だけど、だからこそ。そこに憎みあう心は無かった。
ぶつかって、戦って、手を取り合って、共に戦うようになった。

「黙れッ! カノンは僕の仲間だ。幸運なわけがないだろッ!!」
「仲間? ふん、そうだな。そういえばあの時、奴はそれが理由でお前を殺せなかったな?
 だが果たして今回もそうだったのかな?
 奴は聖女の末裔であることの呪縛から逃れ、自らの本当の願いを知った。
 めでたい、実にめでたい話だ」

嘲りの気配を一切消すことなくロードブレイザーは続ける。

「だがな。だからこそ今度は英雄になろうとしてではなく、自らの居場所を守るために貴様を殺していたのではないか?
 自分の意思で。お前一人を犠牲にしてでも自分の居場所を、他の仲間を守ろうとな」

カノンが真に求めていたのは魔を祓い英雄になることではなかった。
スラムで生き、母からも英雄の血族たることを求められた誰に顧みられることの無かった少女が欲しかったのは居場所。
そしてやっと見つけた居場所こそがアシュレー達だったのだとスピリチュアル・ミューズの試練を超えた後ぶっきらぼうに言っていた。
その彼女が魔神の言うようにアシュレーを殺しに来るとは到底思えなかった。

428グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:20:55 ID:1HuRQ4Ho0

魔神からしてもこの程度の言葉でアシュレーを大きく惑わせられるとは踏んではいない。
自分の起こす一挙一動にアシュレーが僅かでも怒りや苛立ちを覚えれば儲けものだと遊び感覚で罵詈雑言を浴びせているのだ。

「ああ、それとも何だ?
 お前は死にたがっているのか? なら確かに残念だったな、ハハハハハッ!」
「そんなつもりは……無いッ!! 僕は……負けないッ。お前なんかに、負けはしないッ!!」

この言葉にも大した意味は無い。
確かにそれは一つの解決策ではある。
いくらか取り戻してきたとはいえ現状ではロードブレイザーに実体化する程の力は無い。
しかし言葉通り死にたがるくらいにアシュレーの生きる気力が低下していようものなら今頃ロードブレイザーは難なくアシュレーの身体を奪えている。
すべからく戯言だった。

故にアシュレーには延々と魔神から垂れ流され続けるいかなる言葉よりも同じ人間から発せられたその問いかけの方が重かった。


「てめえは、なんだ?」


フィガロ城に行き着いたアシュレーを迎えたのは、セッツァーから聞いて探していたトッシュの突き刺すような瞳だった。








薄暗い地下の世界に灯火が揺らめく。
フィガロ城の潜行が止むと同時に人の手に頼らず灯された蝋の炎。
迎えるべき主を失った光は城内の物を照らし、影を落としていく。
その影の中に一つ、明らかな厚みと質感を持つ異質な黒が紛れ込んでいた。

這うように蠢く幻影。
己が気配を一部たりとも漏らさないよう決して速くは無い動作で接近したそれは。
踏み込み一回で詰めれる距離に標的を捉えるや否や、それまでの緩慢な動作を捨て撃ち出された弩弓もかくやという勢いで襲い掛かる。
腕は弦、短刀は矢。
背後を取り、必殺の意のもと振り下ろしたアサッシンズは、

「チッ」

突如背に回された標的の剣に受け止められ首筋まで後一押しの位置で停止する。
まるで襲撃される瞬間を狙い済ましたかのような動きだった。
きっと本当に襲撃者の仕掛けるタイミングを把握していたのだろう。
暗殺者が此度命を狙ったのはそういう相手だ。

「……やはりお前には不意打ちは通用しないか、ゴゴ」

ゴゴの物真似は単に人や物の外見や動きを真似するだけに止まらない。
その性格に趣味や趣向も完全に把握し、外面だけでなく内面をも模倣する。
動きに中身が伴ってこその真の物真似だと考えているからである。
そんな彼からすれば城に潜みし襲撃者がシャドウとさえ分かっていれば、気配は読めずとも思考をトレースし襲撃に備えることは簡単だった。
そのトレースした思考の中には、シャドウが殺し合いに乗ったであろう理由も含まれている。
故に物真似師の口から紡がれた第一声は何故やどうしてといったものではなかった。

429グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:21:45 ID:1HuRQ4Ho0

「エドガーが、死んだ」

刃は依然薄皮一枚で到達する距離のまま。
しかし一切の怯えも動揺も含まず、ゴゴは今一番に言うべきことを誰かの真似ではないゴゴ自身として口にする。

「……知っている」

知らないはずが無かった。
幾ばくか前に流れたオディオの声は地下の世界へも分け隔てなく届いた。
否、たとえ地上にしか声が降り注がなかったとしても、シャドウがその名前を聞き逃すことは決して無かっただろう。

「ティナも、もう居ない」

ゴゴが着込んでいる何枚もの布を重ね合わせた服。
そのうちに見慣れた、それでいて見たことの無い物が挟まっていることにシャドウも気付いていた。
魔石だ。
魔法は真似するものであり、覚える気のないゴゴがどこか大事そうに装備していることからシャドウはその魔石が誰が変じたものかを察する。

「その魔石はどうした?」
「物真似の一環として剣の礼代わりにお前とさっき戦った男から譲り受けた」
「……そうか」
「泣かないのか? ビッキーも、ルッカも、リオウもこんな時涙を流していた」

ゴゴは問う、自分の何倍も長い時間をティナやエドガーと共に過ごしてきた男へと。
自らの知らない彼らを知っている男へとほんの少しの嫉みも込めて。

「泣き方なんてとうに忘れたさ」

相棒を、ビリーを見捨てたあの日から。
クライドは誰かの為に泣くこともできない影人形となった。
だから今感じているもやもやは悲しみ等ではなく大口を叩いた割りにあっさり死んだ強敵への怒りだ。
そうに決まっている。
だというのに。

「俺は今のお前だけは真似したくは無い」
「殺し合う気がないからか?」
「……涙を流してしまいそうだからだ」

ゴゴは背を向けたまま言った。
お前の心は泣いていると。
本当は泣きたがっているのだと。
これではお前の真似をしようものなら、本物と違い身体の方まで泣いてしまいそうだと。

そうなのだろうか?
分からない。
ただ、たとえそうだったとしても皆殺しをやめる気の無い自分にその資格はない。
或いは、この泣く資格が無いという考え方そのものが、ゴゴの言うように自分の本心を押し止めているが為なのか。
考えてもせんないことだ。
シャドウは自嘲気味に吐き捨てる。

430グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:22:31 ID:1HuRQ4Ho0

「……この三流物真似師が」
「一流すぎるのも考え物だと思って欲しい」

確かにとシャドウは心の底で嘆息する。
自らの選んだ生き方<<物真似師>>にどこまでも従事するその姿勢。
エドガーをリーダーと見定めたように、その一点ではシャドウはゴゴのことを認めていた。

「ふん。今日はよくしゃべるな。お前がそこまで口を利いたのは初めてだ」
「当たり前だ。その為にトッシュに無理を言ってお前の前に立ったんだ」

――すまない、トッシュ。リオウの仇を討つ前に少し俺に時間をくれ。俺はシャドウと話がしたい

聞き出したリオウを殺した人物の風体や特徴が顔見知りの一人に当て嵌まった時、そんな台詞を自然と口にしていた。
トッシュの方は予想通りだという顔だったが、当のゴゴ自身にとっては自分の出した要望が意外だった。
ティナやリオウ、放送で呼ばれたルッカとは違い、シャドウは既に存分に物真似をし尽くした対称だ。
たとえこの手で葬ることになっても悔いは残るまい。
だというのに。
ゴゴはけじめをつける前に僅かばかりの時でもいいからシャドウとゴゴとして話しをしたいと思った。
それが説得ならまだ理解はできた。
しかしシャドウが一度決めたなら最後までその自分を貫き通す男だということをゴゴは知っているし、リオウのことを許す気にはなれない。
よってゴゴが望んだものは意味の無い雑談以外の何物でもない。
実際シャドウと対面を果たし望みどおり話しはできたがそれで何かが変わったという気はしない。

そのはずなのだが。

ゴゴは戦う前に話せて良かったと思う。
もしかしたらシャドウもどこか同じように感じていたのかもしれない。
何故なら常に比べて饒舌なのはこの黒尽くめの男も人のことを言えないのだから。

シャドウにゴゴ。共に素顔を隠し、本心さえも別の何かで覆った二人。
物真似なんかしなくとも彼らは元よりどこか似ていた。

「そうか。だがおしゃべりはここまでだ。お前も俺も……言葉でなく自らが選んだ道で語る方が性に合っているだろう」

言葉と共に示し合わせたようにシャドウが大きく後退し、ゴゴが180度身体の向きを変えて相対する。

「いくぞ、物真似師」
「来い、暗殺者」

ここから先に言葉は要らない。
地下の城にて暗殺者と物真似師が交差する――




431グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:23:39 ID:1HuRQ4Ho0
ゴゴからリオウ殺害犯が彼の仲間だと聞かされた時、トッシュは思いのほか動じなかった。
僅か数分後にはきつく握り締めることになる拳にもこの時点では力を込めてはいなかった。

――そうか。んで、ゴゴ、お前はどうしたい?

呆けるでもなく食って掛かるでもなく冷静に返していた。
トッシュ自身、つい先日親父と慕っていた男に裏切られ、守りたかった故郷の顔なじみ達を切り殺されたからだろう。
もっともゴゴの推測によるとその殺人犯は彼の親父とは違って100%自らの意思で殺し合いに興じたようだが。
セッツァーから聞いた情報からしても多分その推測は間違ってはいない。

死んだ親父がキラーマシーンとして蘇らされるのと、共に戦った仲間が誰に操られるのでもなく大切になりえた誰かを殺すのこと。
どっちの方がマシなんだろな。
馬鹿げた疑問だ。
どっちも最悪なのに決まっている。

くだらないことを考えてしまった自分に心の中で唾を吐き捨て、ゴゴの訴えに耳を傾ける。
ゴゴが口にしたのは至極当然のことだった。
話がしたい。真摯な目でゴゴはそう言って来たのだ。

そうだろなぁ。
そりゃあそうだろ。
仲間だっつうなら話したい事や言いたいこともあるよな。

モンジとの決着だけは他人の手に譲れなかったあの時のトッシュのようにゴゴにもまたシャドウとの間に譲れぬ何かがあるのだろう。

その後二つの大きなきっかけがありトッシュは心を決めた。

「行って来な」

この男が仇を他人に譲ることなんてそうそうない。
が、今回はモンジとのことに加えて二つの要因が重なり、トッシュはゴゴに順を譲った。
ゴゴは一度頭らしき部分を下げた後シャドウが退いたと思われる方に走っていった。
これでいい。
下手すれば、いや、ゴゴの奴が手早く上手くやればトッシュはリオウの仇を討てなくなってしまうがしゃあねえなあっと我慢した。
正直言えばやはりこの手でリオウの仇は取りたいという未練はある。
彼はリオウのことを気に入っていたし、ナナミのことやビクトールのこともあった。
けれども出会えば刀を交えるしかないトッシュと違って、ゴゴにはもう一つシャドウと交えるものがある。
死んでしまった人間とは二度と交えることのできない心と言葉がある。

「――――」

言葉にならない音が口から漏れた。
呼んだところで返事が返ってくる事は一生無い大切な仲間達の名前だった。
トッシュにゴゴの願いを聞き入れさせる一因となった魔王の放送で呼ばれた者達の名前だった。

すまねえ。

簡単に死ぬわけねえとたかをくくり積極的に探さなかったこと。
彼らの命を奪ったのがシャドウならその仇さえも譲ってしまったこと。
悲しいのに、涙ではなくどうして死にやがったという怒りの言葉の方が先に飛び出そうなこと。
そういった感情を整理することを後回しにしてでもやらなければならないことがあること。

全部全部口に出さずにたった一言で謝って。
トッシュはゴゴを見送っていた視線をずらす。

「よお、待たせたな」

そこにはトッシュをこの場に残らせた決定打が立ちすくんでいた。

432グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:24:38 ID:1HuRQ4Ho0

「もう一度聞く。てめえは、なんだ?」

剣と言葉を突きつけた相手は一見ただの青年だった。
だがトッシュには青年を普通の人間としてみることができなかった。許されなかった。
見えるのだ、青年のうちに流れる気の流れが。
ロマリアの四将軍さえ可愛く思えるどす黒さを含んだ気の流れが!

「僕はARMSのアシュレー・ウィンチェスターです。あなたがトッシュさ「んなことを聞いてんじゃねぇえッ!!」」

そもそもこうもくっきりと気脈が見えていること自体おかしい。
人体に流れる気を精密に見極める技術が必要なモンジが開眼した奥義の域にトッシュは未だ至れていない。
それがこうもはっきりと見えるのは中てられているからだ。
アシュレーの内に潜む魔神ロードブレイザーのあまりに禍々しき毒気に!

その毒気は否応なくモンジの身体に救っていたネクロマンサーの邪気のことを思い出させる。
仲間の死を告げられたばかりだったことが更に胸糞悪い想像に拍車をかけた。

「てめえはロマリアの野郎の仲間か?」
「ロマリア? すまない。何を言っているのか分からない」
「とぼけんじゃねえッ!! 俺には見えてんだよっ、てめえの心んうちから溢れ出しているどすぐれえもんがッ!!」

数々の情報を手に入れていながらも異世界の存在を当然の如く考慮していないトッシュからすれば他に考えようが無かった。
出会った人間の中にアシュレーの知り合いが誰一人いなかったのも不運だった。

そして不幸は加速する。
誤解を補強してしまう出来事が起きてしまったのだ。

「ウゥオオオオオォォォォォォォォッ!!!!」

トッシュがねめつけるアシュレーの背後。
雄たけびを上げながらそいつはやってきた。

「もう一体いやがったか!」

ぽっかりと胸部に空いた穴。
白い肌と僅かな衣服を盛大に赤く染める渇ききった血液。
何を映すでもなくただただ緑色に輝くだけの硝子球のような眼。
生気と共に色さえも失ってしまったかの如く白い肌と髪。

その全てが全て生きているもののそれではなかった。

にも関わらずそれは生者のように二本の足で立ち蠢いていた。
女。
人間という種族に無理やり当てはめるならそいつは女。
かってアティと呼ばれた教師の成れの果ての姿だった。




433グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:26:21 ID:1HuRQ4Ho0
振り向くことの無かったセッツァー=ギャッビアーニは気づかなかった。
彼の背後、突き殺した死人同然だった女の身体に起きた異変に。
同時に彼は恐ろしく幸運だった。
一度も脚を止めることなく殺害現場から立ち去ったからこそ、そいつの標的にされなかったのだから。

ぴくりと、死んだはずの女の手が動いた。

のろりのろりと虚空へと伸ばされた腕には先程までは無かったはずの一本の剣が握られていた。
透き通る美しい碧の色に反した禍々しさを纏う剣。
碧の賢帝シャルトスである。
そしてかの魔剣には死に瀕した契約者を無理やりにでも助ける一つの能力があった。

死亡覚醒。

分かりやすい言語で名づけるならばそう表すべきか。
瀕死状態で意識の弱まった主に一瞬だが魔剣が取って代わり身体を操作し強制的に剣を召喚させその魔力で傷を癒させるのである。
棺桶に片足を突っ込んでいる状態からの回復でさえ全ての世界の始祖と想定される超常の存在から汲み上げる力をもってすれば容易い。
いや、たとえどれだけ手間のかかっても幾星霜を経て漸く見つけた自らの身体になりうる適格者を魔剣が死なせはしまい。

しかし、である。

アティは死んだ。
魔剣に生かされること無く死に果てた。

何故か?
非常に限定的とはいえ死者蘇生にも通じる力であることを嫌い、オディオが制限を課したからか?

違う。
それがただ単にリスクの無い延命機能だったのならオディオも魔剣に細工しただろう。
だが、魔剣による復活は剣に込められた数多の死者の念による精神侵食という副作用がある。
人間の愚かしさを知らしめんとしている魔王にとってはむしろ喜ばしい特性だ。
故に魔王は死亡覚醒については剣から流れ込む怨念の量を十数倍にした以外は一切の制約を課さなかった。

そして結果的にはそのたった一つの制約がアティの命を奪うこととなった。

魔剣の力は共界線から取り込む世界の力以外にも適格者の意志力にもよるところがある。
適格者が自らの行いや信念に迷えば急激に力を失う。
現にこの島にいるイスラ・レヴィノスの世界では彼に精神的に揺さぶられ続けたアティの剣はあっさりと折れている。
それほどまでに剣から適格者にだけではなく、適格者から魔剣へと及ぼす影響も大きいのだ。

さて、ここで思い出してみて欲しい。
セッツァーに殺された時のアティの精神状況を。

434グリーン・ディスティニー:2009/12/02(水) 23:27:13 ID:1HuRQ4Ho0

海賊に襲われ、嵐に呑まれ、オディオの説明も聞けずわけも分からないまま殺人遊戯に巻き込まれた。

――最初から散々なものだった。次々と起こる事態に心休まる時も無かっただろう

殺人者に己が信念を否定され、守ってくれた人を見殺しにし、守りたかった生徒も彼女の目の前で殺された。

――殺人遊戯の前に彼女の寄る辺であった理想は瓦解した。後には守りたかった人達の死骸しか残らなかった

遂には怒りのままに暴走。心と言葉を捨てあれだけ否定していた武力に頼り止めようとしてくれた草原の少女を傷付けた。

――他者を傷付けるたびにアティの心も傷ついた。傷つき罅割れ女は自他と向かい合うこと無く逃げ惑った

度重なる不幸。度重なる迷走。その果てに出会ってしまった男によって齎されたのは死。

――皮肉にも彼女の心は止めを刺された。彼女が信じて止まなかった言葉の力で

ああ、これのどこを見て強く輝く魂といえるだろうか?
罅割れて砕け散った心の破片。
暴力と言葉で蹂躙され尽くし自他の双方から否定されてしまったアイデンティティ。

そのような状態ではいかに強大な魔剣といえど力を発揮できるわけがないではないか。

砕け散ったアティの心に引きずられ力を落とした魔剣は適格者の死に間に合わなかった。


   間に合わなくとも主導権を握ることには成功してしまった。


何もおかしいことではない。
魔剣の存在した世界ではこの世に残った怨念がその想いの強さゆえに年月をかけて実体化して人を襲うこともあった。
魔剣の片割れに触れ魔神に憑依された男の世界でも狂気山脈という剣に染み込んだテロリストの首領の妄念が生前の姿をとって猛威を振るった。
上二つに比べれば実体化するのではなく単に死して間もない身体に乗り移り操ることのなんと容易いことか。
元からそういった機能が備わっていたこと。
加えて魔剣に封入されていた死者の嘆きがそれらを為すのに十分な年季を得ていたことも醜悪な奇跡を可能にする助けとなった。


それが更なる悪夢の始まり。
アティが死後見たイメージは決して幻影などではなかった。
襲い来た「ソレ」は剣の意思そのものだったのだ。

「gいぎゃh■pkl……」

人の耳では理解できない音階の声を発し、アティだったものが立ち上がる。
図らずも剣の悲願であった適格者を取り込むことには成功したが、その表情に愉悦は無い。
あるのは生きとし生ける者への憎しみのみ。

――憎いいぃ……っ
――恨めしいぃぃ……
――苦しい、よぉ……

所詮は死した身。
遠くないうちに剣から溢れ出る共界ごしの魔力により自壊するのは目に見えている。
無理したところで適格者が死んだ身ではろくな戦いもできはしない。

些細なことだ。
動ける時間が短かろうと長かろうとやることに変わりは無いのだから。

「ご”お”お”ろおおしいいいてえええやああるうううう!!」

殺してやる。
それこそが彼らの願い。
唯一にして至上の行動原理。

その決して渇くことの無い願望を叶えるために、亡霊伐剣者は命の集うフィガロ城に現れた。
或いは――それは蒼き魔剣が導いたからだったのかもしれない。

435BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:29:23 ID:1HuRQ4Ho0



知らないはずの顔だった。
人づてに聞いた誰にさえ当てはまらない女性だった。
なのにどうしてだろう。
アシュレーは奇声を上げる異形から目が離せなかった。

『クックック、それはきっと奴がお前と同じだからだよ、アシュレー・ウィンチェスター』
「……同じ?」

そうだ、同じだ。
同じなのだ。
白き異形の女の顔。
頬の筋肉が固定されたかのように一切変わらず張り付いているその表情が。
鏡に映ったプロトブレイザーとしての自分の姿を初めて眼にし絶望した時のアシュレーと。

「まさ、かッ!」
『気付いたか、アシュレー・ウィンチェスター? 
 そうとも、奴もまた我のような存在に憑かれたのだろうなあ。
 死んだのが憑かれた先か後かは知らんが。大方犯人はあの剣といったところか? 
 ほれ、覚えがあるのではないか? あの剣が発するおぞましい気配にッ!!』

分かる。
色も形も違うが今アシュレーが感じているのは紛れも無くあの時と同じ恐怖だった。
数時間前についぞ抜くことなく逃げるように置き去りにした魔剣。
やはり勘は正しかったのだ!
あれは、あの剣はロードブレイザーと同質の呪われた武器だったのだ!

『抜いてなくて助かったなあ、アシュレー。まあお前があの剣を放置したせいで他の誰かが生贄になったかもしれないのだがな』

魔神の皮肉に一気に心の臓が冷える。
そうだ、何故そのことを考えなかった!?
アシュレーが魔剣に感じた寒気は剣に降ろされたロードブレイザーのせいだけではなかった。
あの後誰かが剣を回収していたらその人に危機が及んでいることとなる。
最悪、アシュレー達の前に立ち塞がっている女性のように身体を乗っ取られている可能性もある。

どうする、どうすればいい?
我が身可愛さに逃げたツケを誰かに支払わせるわけにはいかない。
今から回収しに戻るか?
愚問だ。
気にかかるのは確かだがそれより先にしなければならないことがある。
死して尚恐らくは望まぬ戦いに駆り出された女性を止めねばならない。

「こ”お”お”わああしいいいてえええやああるうううう!!」

亡霊伐剣者から渦巻く暴風めいた魔力に飛ばされぬようアシュレーはディフェンダーを腰だめに構える。

『いいのか、我が力を使わないでも。手負いの獣は恐ろしいかもしれぬぞ?』

語りかけてくる魔神の声は無視。
吹きつけて来る風は目を開けることを阻むほどに強力だったが、
ロードブレイザーの言うとおりだったとしても、魔剣の犠牲者にこれ以上呪われた力を行使したくはなかった。

血と泥に塗れた足が踏み込んでくると共に碧の魔剣が叩きつけられる。
お世辞にも重いとは言えない一撃だった。
身体能力こそ魔力により強化されているが無理やり動かしている分、その力を上手く攻撃に転用する身のこなしが圧倒的に欠けていた。

だからアシュレーがたたらを踏んだのは剣撃自体にではない。
碧の魔剣をディフェンダーで受け流す一瞬、いくつもの声が流れ込んできたからだ。

436BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:30:40 ID:1HuRQ4Ho0

――ぎいやあぁぁぁっ!!
――いや……っ ひっ、あぁぁぁっ!!
――痛いぃぃっ!! し、死にたく……ながあぁぁぁっ!?

アシュレーが感じ取ってしまったのは魔剣の中核をなす亡者達の怨嗟の念だった。
剣の力に頼りすぎ剣の意識に飲み込まれつつある適格者にしか聞こえないはずのものだった。

ロードブレイザーだ。
負の感情を取り込み力に変える事ができるデミ・ガーディアンが魔剣に込められた憎悪を喰らいつつ、アシュレーへと内容を伝達しているのだ。

「くっ、これが、この人を飲み込んでしまった力なのかッ!?」

人間から取り込んだ負の念の総量だけなら魔剣はロードブレイザーには遠く及ばない。
島一つ分と星一つ分ではスケールが違いすぎる。
しかし一点のみ魔剣がロードブレイザーに勝っている部分があった。
魔剣は文字通り島の全ての痛み――山や木に川といった自然の痛みをも吸収していたのである。
ロードブレイザーから与えられたことの無い慣れぬ嘆きに動きを鈍らせるアシュレー。

亡霊伐剣者の肌の表層を這い回る碧の紋様が揺らめく。
刻一刻と形を変える光の刺青はどこか人間の表情のようで。
アシュレーには見下ろしてくる無数の顔が、お前も同じだ、仲間になれと叫んでいるような気がした。

その叫びをそれ以上の怒号が貫く。

「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」

体勢を崩しているアシュレーを尻目にトッシュが迎撃に放たれた魔力波を受け流しつつ亡霊伐剣者へと切り込んでいた。
何の冗談かその背に光るデイバックから零れ出たのは亡霊が持つのとそっくりの剣。
アシュレーは反射的にその蒼き剣へと手を伸ばし、直後予期せぬ衝撃に打たれ意識を失った。





亡霊伐剣者が死に逝く身体を無理やり引き摺り一目散にトッシュへと飛び掛る。
アシュレーを苦しめる亡霊伐剣者の姿がぶれ、知った誰かと重なっていく。
最初はモンジの顔だったそれが、次々と失ってしまった人々のものへと変わっていく。

もし、もしもだ。
ナナミが、リーザが、エルクが……シュウの野郎が親父やこいつみてえな形で姿を現したなら。

トッシュは想像してしまった。
殺人マシーンとしてでももう一度あいつらの顔を見ちまったのなら。

俺は――

きっと驚いて、

やっぱそう簡単にお前が死ぬわけねえよなって一瞬喜んじまって、

けれども一切迷うことなくぶった斬っるんだろうなぁ。

……ちきしょお。

ちきしょお、ちきしょお、ちきしょお。
ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、

「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」

437BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:31:49 ID:1HuRQ4Ho0

自分でも整理のつかない悔しさを怒号と化し、剣に乗せて渾身の一撃を叩き込む。
狙ったのは腹立たしいまでに目に付く気の集約点。
意識した上ではなかったが、その動作は彼が親父と慕っていたスメリア一の剣豪が編み出した奥義に似ていた。

――似ているだけで本物には届かない出来損ないの奥義だった

無意識のうちに繰り出したその技が、完成された形であったならば。
凝り固まっていた所を両断されたエネルギーは力を失い霧散したであろう。

そうはならなかった。

見ようとして見たのとひょんな弾みで見てしまったのでは気の流れを読む精度が違う。
しかもトッシュに流れを読むきっかけを与えたのは性質は核識では無くロードブレイザーだ。
いくら性質が似通っているとはいえ、両者は別物。
事象平面に潜むロードブレイザーを見るつもりで境界から流れ込む核識の意思を視認しようにも正確に捉えられるはずも無く。
僅かに目測を誤った刃は気の集うところではなく、気が流れている経路の方を断ち切ってしまう。

途端膨大な力は行き場を無くし、送り込まれる勢いのままにゴーストの体外へと溢れ出し氾濫する。
制御を失った大量のエネルギーが城の隅々にまで浸透していく。
地下の閉じられた城内に充満した魔力が飽和状態に達するまでにそう時間はかからなかった。





轟音と共に衝撃が走り天井が、壁が、床が、城のありとあらゆる部位が軋む。
揺さぶられたのはフィガロ城だけではない。
その中にいた人もまた等しく激しい振動に晒されることとなった。
ゴゴに頼まれリオウを弔おうとしていたトカもその一人だった。
制御室を漁って見つけてきたルッカが中身を持ち出したことで空になっていた予備動力炉を収めていた箱。
急造の棺代わりとしてそこに遺体を収めようとしていたトカは急な足場のぐらつきをもろに受け倒れてしまったのだ。

「な、何ですとー、この揺れは!?
 まさかまさかの巨大ロボが地下より現れる前兆!?
 であるなら我輩も呼ばねばなるまいッ! ブールーコーギードーンッ!
 さあさ、みなさんごいっしょにッ! ブールーコーギードーンッ!!」

が、当然のことながら一緒に声を上げてくれる人もいなければ、返ってくる巨大ロボの駆動音も無い。
無人の制御室に一人寂しく延々と声が木霊するのみ。

まあ一人とはいえ十人分くらい騒ぎ立てているのだが。

「じ、地震だーーーーッ!!」

これはまずい。
非常にまずい。
地底で生き埋めになった日には二度とお日様を拝めないこと間違いないしだ。
しかも悪いことには常ならばコロコロとコミカルに転がっていたであろうその矮躯は、運び途中だった遺骸に押しつぶされていた。
リオウは決して大柄ではないとはいえ、人の子程度のサイズしかないトカからすれば全身を覆って余りある大きさだ。
鍛え上げられていることもあって中々重いリオウの身体をどかすのはインドア派のトカには手間取ること必須である。

「いよいよもって大自然の反乱ッ! こいつぁ、一級品のハードSFだトカ。
 ……おのれ、あじなマネを。だがしかしッ! 我輩達にはあるではないか、科学の力がッ!
 そう、科学ッ! 科学が我輩を救うのだッ!! 
 ほら、ちょうどいい具合にあそこに緊急浮上レバーがあります。む、レバー?
 何故かその単語を口にするだけでほのかな頭痛が。全身もこうぴくぴくと。
 あれだトカ? 予知というものだですか?
 否、そんな迷信に躊躇していては人類に進化はこーっず! それ、ぽちっと……ひゃい!?」

438BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:32:35 ID:1HuRQ4Ho0

現状を打破しようと手短なスイッチに手を伸ばすも届かない。
というか手を伸ばす先にスイッチが無かったりする。
後ろだ。レバーはうつ伏せになったトカの後ろにあったのである。
人類からすれば打つ手なしの展開だった。
しかしトカはさっきまでとは打って変わって余裕綽々の笑顔だった。
彼は人間ではないからだ。

「ふっ、この程度の問題既に一度乗り越えておるわー!
 さあ出番ですぜい、しなやかにして、たおやかな我輩のシッポ!
 今度こそぽちっとな」

リザード星人特有のよくしなる長い尻尾を動かしてレバーを押す。
傷に響いて若干痛かったが、こんなもの、石像の口に尻尾を挟んで抜けなくなってしまった時に比べれば何とも無かった。

「ふう。これですこぶる良好ッ!
 我輩のおしげもなくさらしたまばゆいばかりの智将っぷりに、亡きリオウくんもきっとご満悦の様子?
 青春の虚像と我輩には、どこまで行っても追いつけぬものトカ。
 地下の世界のセミ達よ、さなぎ時代最後の思い出に、去り行く我輩らの姿を節穴同然のドングリまなこに焼き付けたまえ。
 アデュー、いつの日か星の海でッ!!」

程なくして鳴り響く駆動音を耳に、大したアクシデントも無くスイッチを入れられたという生涯でも数少ない功績に気をよくするトカ。
我が身に降りかかっていないだけで既に城内には問題人物だらけだということを彼は知る由も無かった。





いたる所で築き上げられた瓦礫の山が城が浮上する振動に揺れ、がらりがらりと音をたてる。
トッシュが頭を抑えつつ這い出てたのもそんな瓦礫の底からだった。

「っつう、いってえなあ」

飽和した魔力は爆発を起こしトッシュと伐剣ゴーストが居た位置を中心に周囲を球状にごっそりと破砕していた。
前後左右上下四方をだ。
その証拠に気配を感じ顔を上げてみれば呆れ顔で手を伸ばしてくる彼の仲間がいた。

「……随分と派手にやったものだな、トッシュ」

偶然にもトッシュ達はゴゴとシャドウが戦っていた階下まで落ちてきてしまったのだ。
ゴゴの身体や衣服に見られる傷、そして口は動かしつつも気を張り詰めたままな様子から戦っている最中だったことを察しトッシュは謝る。

「へっ、わりぃな。邪魔をしちまったかい?」
「問題ない。むしろちょうどいいタイミングだった。言いたいことは言った。後はけじめを取らせるだけだ」
「おっしゃあ!! そいつあいいところに乱入できたぜ! リオウの仇、やっぱ俺もこの手でとらねえと気がすまなかったからな」

手を借りて立ち上がったトッシュが浮かべたのは怒りと笑み。
変なところで器用な男だとゴゴは感心する。
感情に正直すぎるとむしろこうなるのか。
早速得た新たな情報に更新してトッシュの物真似に移行する。

「分かっているさ。焚きつけたのは俺なんだしよっ! にしてもこの爆発、何したんだ、てめえ」
「ちいっとばっかし厄介な乱入者も現れちまってな。けっ、噂をすればなんとやら。おいでなすったか!」

不協和音を撒き散らしながら魔力の風が吹き荒れ、トッシュが埋まっていたのとは別の瓦礫の山が爆ぜる。
舞い散る粉塵をものともせずゆらりと立ち上がるのは言うまでも無く伐剣者の亡霊だ。

「てめえトッシュ、厄介なもん連れて来やがって!」
「うっせえ!そういうならお前の方こそもうちょいあいつに傷を負わせておけ!」

トッシュを助け起こす間もゴゴが警戒していた方角。
二人を挟んで亡霊とは逆方向にシャドウは姿を現していた。
このままでは挟み撃ちにされてしまう。
素早く背中を合わせ、両者に剣を向けるトッシュとゴゴ。
されどことは単にシャドウに挟撃できる位置を取られただけでは済まなかった。

439BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:33:11 ID:1HuRQ4Ho0

「おい、何かやばそうなもん構えてやがるぞ! あいつ投擲の腕はどうなんだ!?」
「必殺必中だ!!」
「めちゃくちゃまずいじゃねえかあああ!」

ゴゴ同様ゴーストをゾンビと捉えたシャドウの判断は早かった。
敵二人に、敵も味方も無いアンデッドが一匹。
道を塞がれる形で逃げること叶わず、実質3人を相手にしなければならなくなったシャドウは遂にカードを切ったのだ。
クレッセントファング。
それこそがエイラから奪い取った最後の支給品にしてシャドウにとっては最強の支給品。

奇しくもある世界において修羅の道を歩んだ処刑人が使っていた武器と同じ名を冠した投擲具。
ただでさえ強力な月狼の牙を投擲のスペシャリストたるシャドウの腕で使用すれば、
かの一兆度の炎を操る百魔獣の王さえも半殺しにするは容易い。

ただ、抜け道もある。

「……幸いなことにあいつの投擲は精度を重視しているがために一人相手に使うのが前提だ」
「ああん? 何が言いたいんだ、てめえ」
「二手に分かれれば確実に一人は助かるはずだ。俺がつけた分の傷もある。もう一方を追おうとはしないだろう」

最善の結果を得れはしないが、確実に一人は生き残れる寸法だ。
そしてその一人とは恐らくゴゴではなくトッシュだ。
暗殺者が己が手の内を知り尽くしている輩を逃すはずも無い。
ゴゴとてそのことは承知の上だ。
分かっていて物真似を解いてまで提案したのだ。
だけどトッシュはふてぶてしい笑みを浮かべて申し出を一掃した。

「おい、ゴゴ。馬鹿言ってんじゃねえ。てめえ今俺の真似してんだろ? だったら俺がどういう奴か分かってんだろ」

さっき出会ったばかりで。
守りたかった人の敵の仲間でもある相手を。
トッシュは犠牲にすることを良しとしなかった。

面白い男だとゴゴは思った。
もっともっと真似してみたいと。
こいつの真似をし続ければ何だか炎の物まねをするのがより上手になりそうだとも。

「すまない。……いや、すまねえ。どうやら俺も焼きが回ったみてえだ!」

途中で物真似を再開して答える。
炎のように獰猛でけれどどこか清清しい笑い方は真似してみて気持ちいいものだった。

「へっ、わかりゃあいいんだよ。……てめえがどうしてんなことを言ったのかくれえは分かるつもりだ。
 だがよお、死んじまったらこれ以上誰も守れはしねえんだ」
「ああ。要するに選ぶべき道は一つだけってことだなッ!!」

合わせていた背を離し、二人は並び立つ。
目指すは前。死人が手招く後ろにではなく、生者が立ち塞がる前へと進め。

「「避けられないなら正面から斬り捨てるまでッ!!」」

異口同音。
重なるは心、重ねるは刃。
剣の柄に手をやり二人ともが生き延びる最高の未来を目指してシャドウの方へと疾駆する。

440BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:34:17 ID:1HuRQ4Ho0

ここが勝負どころなのはシャドウも変わらなかった。
シャドウにのみ狙いを絞ったことで、トッシュとゴゴは一時的にとはいえ二対一の形に持ち込めるようになる。
対してこのまま二人の接近を許せば彼らを背後から追いすがる亡霊伐剣者も含めた三人をシャドウは一度に相手しなければならなくなってしまう。
それだけは防がねばならない。

「シィィィィィイイイイイイイ……」

暗殺者らしからぬ雄叫びを上げ身体を引き絞る。
乾坤一擲。近づかれるより先に確実に仕留めなければ活路が無い以上、少しでも威力が上がるなら気合を入れることさえも怠れなかった。
イメージする。
この身は弓、我が心は弦。
放ち穿つは必殺の――駄目だ。
足りない、ただの弓矢のイメージでは足り無すぎるっ!!
もっとだ、もっと強い武器を。
暗示しなおせ。お前は知っているはずだ、複数体の的を一斉に射抜く機械の弓をっ!!
強敵が握っていたそれをっ!!

「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

この身は弩弓、我が心は撃鉄。
オートボウガンをイメージに添えクレッセントファングが撃ち出される。
高速回転する人が手にした最も古い狩猟用兵器は数多もの残像を巻き起こし軌道を決して読ませない。

必要ない。
トッシュとゴゴに元より避けるための軌道計算なんて不要だ。
望むは直線。
シャドウを切り伏せられる最短距離。
その射程上さえ開いていればそれでいい!

「「真空斬――」」

トッシュが走る動きさながらに剣を抜く。
軽さと鋭さを重視した細身の剣では受け止めるのは不利。
なればこそその軽さと鋭さが生きる神速の抜刀により生じる大気の刃にて切り裂くことこそ漢は選ぶ。
ゴゴもまた壊れた誓いの剣にてオリジナルと寸分のずれも無い動作で技を為す。
どころかリオウやルッカの物真似をして得た他人と合わせる呼吸を活かし、即興で連携技を成立させる!

「「――双牙っっっ!!!!」」

生じた衝撃波が重なり巨大な一つの刃となる。
一太刀でさえ大樹を容易く切断する真空の刃を二つ束ねたのだ。
並みの武具や防具では受け止めようにも持ち主ごと切断していたであろう。
だが真空斬・双牙が撃ち落さんとするのもまた一級品の上を行く超級の代物だった。

月狼牙の名に恥じぬ白銀色をした巨大な飛去来器が空を舞い逝く。
直進するのみの真空斬・双牙とは異なり三日月の刃は円形の軌跡を描き回転しながら飛翔する。
その姿は三日月ならぬ満月の如し。

そしてその一撃が満月であろうものなら衝撃波如きが抗えるはずは無い!
どれだけ勢いがあろうとも、花鳥風月と並び証されようとも所詮は風。
夜天に一際映える真円の星を揺るがすには至らない。
そもそも月とは真空状態の宇宙において浮かんでいるものなのだ。
突発的な真空波など敵ではない。

441BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:35:13 ID:1HuRQ4Ho0

豪ッ!!
真空斬が、引きちぎられた。
無残に、それでいて綺麗に。
双牙の名を冠された技は更に鋭き牙に食い殺された。

もう月狼の歩みを止めるものは居ない。
もうトッシュとゴゴに死から逃れる術は無い。

飛来するブーメランが二人の視界を埋め尽くす。
直感が無駄だと叫ぶのを無視して、希望を掴み取る為に二人は振り抜いたばかりの刃を引き戻す。
その背後からもう一つの脅威が迫り来る。
亡霊伐剣者。
消え逝く蝋燭の最後の輝きさながらに威力を増した暴風を纏って、死者が魔剣を振り上げる。
トッシュとゴゴにその剣に応戦する余裕は無い。
二人がかりで挑んで尚勝ち目の薄い戦いを挑む彼らは眼前のクレッセントファングに集中するしかなかった。
たとえ必殺を防いだところで無防備な背を亡霊に晒すのは致命的過ぎた。

なのに

二人は諦めることをよしとはしなかった。
最後まで剣と己と仲間に賭けた。
目を閉じることなく勝負の行方を追い続けた。

だから

彼らは見た。
挟撃されんとするまさにその時に飛び込んできた一筋の光を。
蒼い魔剣を掲げたヒーローの姿をッ!!


「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!アクセスッ!!!」





それはいつかの光景の再演だった。
極光に彩られた意識と無意識の狭間。
光の中に浮かぶ一人の女性。
彼女が口を開き、僕が今まで何度も何度も投げかけられた問いかけを口にする。

「あなたはもう知ってますよね。あなたが望んでいたもの。本当に守りたいものがなんなのかって」
「僕が望むのは平和な日常……。みんなの笑顔を、マリナの笑顔を、僕は守りたい」

僕はずっとその答えを抱いて生きてきた。
絶え間のない変化に触れて移ろい行くことはあったけど、それは僕の願いが僕と共に明日を歩み続けているということなんだ。
二十年間生きてきて、やっぱり僕は他に命をかけられるものを知らない。

――わたしにとって、アシュレーはアシュレーなんだから、ね……
  だい、じょうぶだよ ふたり、どんなに、離れていても
  アシュレーを見失ったりしないよ
  だから……アシュレーも、見失わないで……自分の、帰る、場所を……

だったらその日常に、マリナの為に命を賭けるのが僕だ。
魔神に再び蝕まれようと、この手に聖剣がなかろうと、その想いを抱いている限り僕はアシュレー・ウィンチェスターだッ!

442BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:37:12 ID:1HuRQ4Ho0

「その通りです。あなたのそれは正しい答えじゃないのかもしれない。
 独りよがりのわがままと何も変わらないのかもしれない……。
 だけどそれがあなたなんです。
 その答えはあなたにとっては満点です」

女の人が手を伸ばす中、宙にあの蒼い魔剣が現れる。
極光の世界を優しく包み込んでいく蒼い光に照らされた顔には憂いを浮べていたアナスタシアとは違い温かい笑みがあった。

「ウィスタリアス、私だけの剣。
 適格者であったとしても多分わたし以外には使えません。
 今覚醒できているのも、もう一人の私とこの剣の前身が近くにあるからこそです」

もう一人の私とこの剣の前身。
その言葉の意味に気がつきはっとなる。
剣の類似性にばかり気を取られていたけれど、確かに光の中の女性の顔立ちは魔剣の犠牲者のものとそっくりだった。

「ごめんなさい。あの子のことは本当は私が、私の持ち主であるあの子とは別世界のアティが眠らせてあげないといけないのは分かってます。
 けれど魔剣と引き離されたアティは異常に気付くことはできても、何が起きているのかさえ知りえません」

アティ。
その名前には覚えがあった。
カノンの名が最初に呼ばれた放送の最後の最後で告げられた名前だった。
そして同時にそれはこの人の名前でもあるということ。

「だからお願いです。みんなの笑顔を絶やすこの殺し合いを止めてください。
 私も力を貸します。戦う力にはなれないけれど、ハイネルさんが私にしてくれたように、私があなたの心を魔神から守ります。
 もしもあなたが私を信じてくれるなら。私に力を貸してくれるなら。
 剣を、果てしなき蒼(ウィスタリアス)を手にして……」

僕は、迷わなかった。
迷わずに握りしめた。

光の中の女性の右手を。

「え……?」
「力は貸したり借りたりするものじゃない。合わせるものだッ!!
 君が僕を守ってくれるというなら、今から僕達は仲間だ。一緒に、戦おうッ!」

彼女は笑った。笑って頷いてくれた。

そして僕達は剣を抜く。合わせたままの二人の手で。

「「アクセスッ!!!」」





443BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:38:22 ID:1HuRQ4Ho0
変身を遂げたアシュレーにシャドウとゴゴはその姿に一人の少女のことを重ねていた。
人と幻獣の間に生まれ、人形として扱われ、それでも最後には人としての心を得た少女のことを。
あの少女のように男もまた人ならざる身でありながらも人としての道を選んだのか。
修羅の道を歩む暗殺者と正体不明の物真似師は人としての心の輝きを眩しげに仰ぎ見る。

トッシュは仇に成り下がった親父から生前に託された大切な言葉を思い出していた。
『この世界には、こんな俺達にしか守れない者が、大勢いる。そいつを守っていく為に、お前は生きろ』
あんたもそうなのか? そんな邪悪なものに取り憑かれたあんたでしか守れないものの為に戦っているのか?
目に映る今のアシュレーの気の集中点には流れ込む黒い力も霞む程に煌く光が灯っていた。

ロードブレイザーは驚愕していた。
ありえない、何なのだこの姿は!?
変身したアシュレーの姿は魔神の知るどの形態にも当てはまらなかった。
姿だけならナイトブレイザーのそれだが、彩色は本来あるべき黒と赤とは真逆のものだった。

即ち白と蒼。
全てを飲み込む絶望の闇の如く黒かった装甲は青みのかかった白に染まり、
万物を焼き払う赤き炎を模していたマントやゴーグルといった細部パーツは母なる海の蒼を思わせる色に輝いている。
まるで手にした魔剣の色を写し取ったかのように。
新生したナイトブレイザーはどこか優しい
名づけるのならば――蒼炎。

“蒼炎のナイトブレイザー!!”

その背部装甲は大きく切り裂かれていた。
亡霊の凶刃からトッシュやゴゴを我が身一つで庇った代償だった。
決して軽くはないはずの傷だ。
纏っていたマフラーの半分は千切れとび、白かった装甲には真紅が滴っている。
そんな状態で蒼炎のナイトブレイザーはトッシュとゴゴの二人の間に立ち、二本の剣で共にクレッセントファングを受け止めていた。
右腕に握られしは使い慣れた破壊剣ナイトフェンサー。
そして左腕にあるのは蒼い、蒼い綺麗な刀身。
全てを包み込む母なる海のような暖かさすら感じさせる果てしなき蒼の色。
破壊の力で亡霊伐剣者を葬送することを拒んだアシュレーが創造した新しい剣。
ウィスタリアスを模したこの剣は、アシュレーとアティの絆の証だった。

「ウィスタリアスセイバーッ!!」

“救い切り開く蒼き剣”
蒼炎の騎士が声高らかに宣名するのを待っていたかのように、アシュレー達三人の背後で何かが崩れる音がした。
それは屍が屍に返る音。
ナイトブレイザーを斬りつけた碧の賢帝は、直後生成された救い切り開く蒼き剣によるカウンターで両断されていたのだ。

果たして冠した名前通りにアシュレーの一撃が魔剣に翻弄され続けた女性の魂にとって救いになったのかは分からない。
ただ、数多の呪いを発していた彼女の口は今際の際には一切の断末魔も漏らすことなく静かに閉じられたままだった。

アシュレーは振り返らなかった。
悲しみと悔しさを蒼炎の仮面で覆い隠し前を見据えていた。

「二人とも、伏せろッ!!」

蒼炎のナイトブレイザーの胸部装甲が展開される。
そこから溢れ出す光は魔剣から発する蒼き光とは違いただ敵を焼き尽くす為だけの禍々しきもの。

アシュレーの号令にトッシュとゴゴは一瞬顔を見合わせる。
クレッセントファングの勢いは死んではいない。
三人がかりで受け止めて尚、じわりじわりと剣の刃に食い込んできている。
伏せるのであれば二人分受け止めている牙城が緩むこととなる。
自殺行為も甚だしい。

構わない。
悩むまでも無かった。迷う必要もなかった。
トッシュはアシュレーを信じることにした。
ゴゴはそんなトッシュの真似をすることを選んだ。

「「後で話くらい聞かせろよ!」」

二人は同時に素早く身を伏せる。
その上を極太の光の矢が貫いていく。
黒騎士ナイトブレイザーに内蔵された決戦兵器にして蒼炎の騎士にも受け継がれた必殺の一撃。
人ならぬ魔神の論理によって実現した荷電粒子砲。
名を

「バニシングゥゥゥウ・バスタアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

444BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:38:53 ID:1HuRQ4Ho0

トッシュ達の命を刈り取る寸前だったクレッセントファングは光の奔流に打たれ押し戻されていく。
自らを投げ放った主、シャドウの方へと。
しかしブーメランが主の手に戻ることは無かった。
シャドウが手に取り盾として使うよりも早く、白き闇に呑まれて消し飛んだ。
もっともたとえ無事シャドウのもとへと辿り着いていたところで結果に変わりは無かっただろう。
クレッセントファングが光に消えた刹那の後に、暗殺者も滅びの焔の洗礼を受けたのだから。

世界が色を取り戻し、トッシュとゴゴが立ち上がった時。

そこには暗殺者の姿も白騎士の姿も無く、粒子加速砲が空けた大穴より差し込む陽光に照らされた一人の青年が立っているだけだった。



【G−3 砂漠に移動してきたフィガロ城 一日目 日中】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式×2、
    焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:トッシュ達ときちんと話がしたい
2:ブラッド、ケフカら仲間や他参加者の捜索
3:アリーナを殺した者を倒す

※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュを善人だと思い込んでいます。
 ケフカへの猜疑心が和らぎ、扱いにくいが善人だと思っています。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
 白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
 アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
 ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、
 現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
 

【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:トッシュの物真似中、ダメージ(小)、全身に軽い切り傷
[装備]:花の首飾り、疲労(中)、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:アシュレーの話しを聞く。
2:後に制御室へ戻り、トカと行動を共にする。
3:ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
4:トカの物まねをし足りない
5:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。

445BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:39:44 ID:1HuRQ4Ho0

【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(中)、全身に軽い打ち身
[装備]:ほそみの剣@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:話くらいは聞いてやっかな
2:リオウに免じて、トカゲも許してやろうか……?
3:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
6:基本的に女子供とは戦わない。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未完成です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※セッツァーと情報交換をしました。ヘクトルと同様に、一部嘘が混じっています。
 エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。

【G-3 フィガロ城城制御室 一日目 日中】
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、尻尾にダメージ小
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー(大破。一応少しずつ回復中?)@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
    天命牙双(右)@幻想水滸伝Ⅱ、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ、
    閃光の戦槍@サモンナイト3、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:とりあえず制御室で待ちつつリオウの遺体の下から抜け出る。
2:金髪キザ野朗(エドガー)や野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
3:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[備考]:
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。


※制御室に、蒼流凶星@幻想水滸伝Ⅱがいくつか落ちています。
※フィガロ城はあちこち損傷しています。

446BLAZBLUE:2009/12/02(水) 23:43:11 ID:1HuRQ4Ho0



バニシングバスターの光条に触れたクレッセントファングが溶解されていく。
いかな夜空の支配者といえど灼熱の太陽が相手では敵わない。

このままで光が到達すればシャドウもまた同様の末路を辿るのは目に見えていた。

「ああ、ようやくか……」

迫り来る白き闇を前に思う。
これで俺の悪夢は終るのだと。
ビリーの元へ行けるのだと。

今ならティナやエドガーも待っていてくれるだろう。

……エドガー?

――本当に俺はこのまま死んでもいいのか?

そうだ、エドガーは宣言した。
命を落とそうとも、全てを失おうとも、若きものを導くと。
だったらエドガーが死んだところであいつの誓いは続いていく。
あいつの意思に導かれた誰かが、あいつが残した何かが殺し合いを打破すればエドガーは誓いを果たしたことになる。

それに比べて俺はどうだ?
身一つしかない俺はここで死んだらどうなる?

……終わりだ。
俺が死ねばそこで俺の誓いは果たせなくなる。
戦友に応えることができなくなる。

ダメだ、俺はそのような結末を望まない。
友を裏切るのは二度と御免だ。

「俺は――」

ならば、足掻け。

「俺は、まだ」

死を受け入れるな。死に逃げるな。

「死ねない!!」

最後まで足掻いて見せろ!

皮肉なものだった。
ビリーを見捨てて以来どこか罪に苛まれ、死に惹かれていた俺がいざ死を前にすると生きようと欲していた。

考えてみれば何も不思議なことは無いのかもしれない。
俺は死そのものを願っていたのではなく、友の元へと行きたかっただけなのだ。

初めてだった。
ビリーが死んで以来初めて自ら何かを欲した。
自責の念から全てを捨て続けた俺が心の底から強く欲した。

――力が欲しい。己が生き方を貫き、友との誓いを叶えられるだけの力がっ!

『それがお前の欲望か?』

447DARKER THAN BLACK -黒の契約者-:2009/12/02(水) 23:44:29 ID:1HuRQ4Ho0

返ってくるはずの無い返事があった。

『刹那的な欲望だ。アナスタシアやアシュレーのように恒久的なものではない。
 叶え続けるものではなく、叶ってしまえば終わりの一時的な願いだ』

白に染め上げられたはずの世界にぽっかりと染みのように一点別の色が混ざっていた。
バニシングバスターの逆光を受けシルエットとしてしか捉えられないその姿は四足の獣。

「インター、セプター……?」

愛犬を思い出すも即座に否定する。
人語を解する賢い犬ではあったが、インターセプターは人語を操りはしなかった。

『だがだからこそか。一瞬の際に強く激しく燃え上がる様はいっそ心地いい。
 いいだろう、失望の魔王の手でアシュレーから引き離され、あの武器をミーディアム代わりとして支給されたのも何かの縁。
 貴様のうちからその欲望が昇華されるその日まで力を貸してやろう』

気がつけば世界はまた色を変えていた。
眼を焼かんとしていた灼光は失せ、紫苑の闇だけが広がっている。
その中心にいるインターセプターを思わせた獣は、よく見れば犬よりも狼に近かった。

「幻獣、なのか?」

狼からフェンリルを連想し俺は問いかける。
幻獣ならば言葉を話すのも納得ではある。
だが、狼は否定した。

『違うな。オレは欲望のガーディアン。人の強き欲望こそがオレの糧、オレの力の源ッ!!
オレに必要なのは血肉となりて、力となる誰よりも強き『欲望』ッ!!
さあ力を欲するならオレの名を呼ぶがいい。
お前の望みし誓いの成就を阻むあらゆる災厄から守る盾とならん。我が名は――』







紫の獣は宣言通りその身を盾にして俺を守った。
あいつが庇ってくれなかったら竜騎士の靴で窓から城の外の砂漠へと飛び出す間もなく蒸発していた。
その威容を思い出す。
一瞬だけとはいえ顕現したガーディアンは俺の知るどの幻獣にも劣らない力を持っていた。
あれが、欲望の力。
その力を我が物とした今、ついIFに想いを寄せてしまう。

ビリーを見殺しにした時、俺が強くあいつを救いたいと欲していれば、自分だけが助かる以外の道を選べたのだろうか?
クレッセントファングを相手に生き延びたあの三人のように。

過ぎた話だ。

過去は戻らない。クライドがビリーを見捨てた悔いは一生残り続けるだろう。
ならせめて俺は、シャドウはこの俺自身も友も裏切ることなく生き抜こう。

「行くぞ、ルシエド」

それが俺の『欲望』だ。

448DARKER THAN BLACK -黒の契約者-:2009/12/02(水) 23:45:04 ID:1HuRQ4Ho0

【G−3 砂漠 一日目 昼】
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:疲労(大)、全身に斬り傷、腹部にダメージ(小)、軽い火傷。
[装備]:アサッシンズ@サモンナイト3、竜騎士の靴@FINAL FANTASY6、ルシエド@WA2
[道具]:蒼流凶星@幻想水滸伝Ⅱ、基本支給品一式*2
[思考]
基本:戦友(エドガー)に誓ったように、殺し合いに乗って優勝する。
1:どこかで傷を癒す。
2:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
3:知り合いに対して……?
[備考]:
※名簿確認済み。
※ルシエドを使役することが可能になりました。シャドウの欲望の性質からインターセプターの代わりを果たします。
 一瞬だけ具現化させて攻撃から庇ってもらったり、敵に対して反撃させることができます。
 インターセプターより発動頻度は少ないですが、代わりに物理・魔法問わず庇ってくれる上に空中の敵にも反撃可能です。






『おぉぉぉのおおおれえええええええッ!!』

ロードブレイザーは激昂していた。
あらん限りの声で叫んでいた。
だがその声は今となってはアシュレーには届かない。
焔の魔神の意思は幽閉されてしまったのだから。
アシュレー・ウィンチェスターの内的宇宙に突き刺さる蒼き魔剣の中へと。

碧の賢帝(シャルトス)、紅の暴君(キルスレス)、果てしなき蒼(ウィスタリアス)。
これら3本の剣の本質は手にした者に莫大な力を与える宝剣、というわけではない。

世界を支える超存在――エルゴから流れ込む力をを人為的に制御することで世界の全てを支配できる人間「核識」。
魔剣はその核識や核識たりえる人物の意思を封じることでその膨大な力を振るえるようになったに過ぎない。
つまりだ。
剣自体の本領はその他者の意思を封印する能力の方にこそあるのだ。

果てしなき蒼に込められたアティの意識はその機能を利用した。
アクセスにより活性化されアシュレーを取り込もうと目論んだロードブレイザーを魔剣へと誘導。
取り込めるギリギリの範囲までを剣に閉じ込め封印することに成功したのである。

魔剣がロードブレイザーを封印する器足りえることは皮肉にもロードブレイザーを導いたオディオ自身が証明していた。

加えて他の二本とは違い果てしなき蒼に込められているのは怨念とは程遠い希望と優しさに満ちた強い意志。
絶望を力とするロードブレイザーにとっては糧にならないどころかマイナスにしかならない。

『行かせません』

今もアティの精神体はロードブレイザーが魔剣の戒めを破ろうとするのを防がんと両手を広げて立ち塞がっていた。
憎らしい。
これでは何のためにオディオに頼んでアシュレーの身体を乗っ取る障害になる欲望のガーディアンを引き離してもらったというのだッ!

449DARKER THAN BLACK -黒の契約者-:2009/12/02(水) 23:48:09 ID:1HuRQ4Ho0
思わぬ邪魔に怒り心頭に発するロードブレイザー。

無論これで全てが丸く収まったわけではない。
力を取り戻しつつあるロードブレイザーを封印しきるのは魔剣一本では不可能だった。
未だにアシュレーとロードブレイザーは繋がったままなのだ。
またアティの精神体もいつまでも存在し続けることはできない。
力を増していくロードブレイザーに適格者と引き離され内包する意思の補充が叶わない果てしなき蒼の精神体は徐々に力を削がれていく。
現に碧の賢帝を破壊した時に散った核識の残留思念を取り込んだことでロードブレイザーは既に果てしなき蒼を圧迫しだしている。
このまま何もせず手をこまねいていれば自ずと焔の災厄は魔剣を乗っ取り我が物とするだろう。
そうでなくとも心のバランスが崩れオーバーナイトブレイザーになろうものなら。
マリナのいないこの島では今度こそアシュレーは暴走を抑えられないかもしれない。

忘れる事なかれ。
災厄は未だ去らず。
恐怖せよ。
果てしなき蒼が果てるその時を。

450DARKER THAN BLACK -黒の契約者-  ◆iDqvc5TpTI:2009/12/02(水) 23:51:48 ID:1HuRQ4Ho0
仮投下完了
>>446がブレイブルーのままですが、ここからタイトルはDARKER THAN BLACK -黒の契約者-です。














では、一話限りとはいえゾンビな亡霊伐剣者、オリジナルな蒼炎のナイトブレイザー、
ルシエドの扱いの三つについてこのまま通していいのか意見をお願いします。
誤字脱字などの指摘も嬉しい限りです

451 ◆iDqvc5TpTI:2009/12/08(火) 00:02:14 ID:6E8kd6xc0

確証があったわけではない。
むしろはたから見れば余りにも馬鹿げた行いだっただろう。
だがシャドウには磨き続けたこの投擲技術以上に命を預けられるものはなかった。

「シャアアアアッ!!」

太陽石がバニシングバスターと激突する。
それは文字通り激突だった。
バニシングバスターの光線と衝突した瞬間、太陽石からその名に違わぬ太陽のエネルギーが開放されたのだ。
暗黒石に約六千五百万二千三百年もの時をかけて蓄積されたパワーが一気にだ!

星一つを焼き払う魔神の業火といえどそれだけの時の積み重なりを一蹴することはできなかった。
いずれも計測すら困難な程のエネルギーを持つ熱量が、その全てをぶつけ合い、反発し、瞬間的に放出される。
これがアシュレー達が見た爆発の正体だった。
彼らがシャドウの抗いに気づけなかったのも無理はない。
屋外で生じていたなら二エリア先にさえ軽く届くほど光は強いものだったのだ。

シャドウはこの機に乗じて目くらまし代わりの光に紛れて一度退こうと身を翻す。
その目がふと人影を捉えた。

――ゴゴにでも動きを読まれ先回りされたか?

真っ先に浮かんだ可能性に目を細めるが、よくよく見ればそれはあの奇特な衣装を来た仲間のものではなかった。
人間ですらなかった。
文字通り人間の、俺の影だった。
強烈な閃光によりフィガロ城の壁の表面に遮蔽物である俺の影をくっきりと残していたのだ。

その影が蠢きビリーの声で囁いてくる。
どうした、死なないのかと。
また俺を見捨てていくのかと。

――ああ、その通りだ。

過去は戻らない。クライドがビリーを見捨てた悔いは一生残り続けるだろう。
ならせめて俺は、シャドウはこの俺自身も友も裏切ることなく生き抜こう。

「だからお前はそこで眠っていろ、“死神”」

光が消えいく中、すんでのところで竜騎士の靴によっていつしか地上へと戻っていた城の外へと一気に跳び出す。
罪を背負い、逃げることを捨て、新たに芽生えた生きる意思を抱えて。







俺の背に死神はもういない。

452 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:00:49 ID:R7rFQoQ60
 少女の死体に土をかける。
 綺麗な白い肌を、少しずつ茶色が隠していく。
 まるでその存在ごと、大地の下に封じ込めてしまうかのように。

「……はぁ…………」
 両の手のひらで土をすくって、魔法で開けた大穴に横たわらせた少女の身体に乗せていく。
 それだけの単純な作業なのに、酷く心に疲労がたまる。
 一すくい毎に心がすり減らされていくのを、ストレイボウはひしひしと感じていた。
 それに呼応して、だんだんと身体の力までもが抜けていってしまう。
 抗いようのない虚脱感が自分を包んでいくのだ。

 ふと、死して尚艶やかさを保っている少女の顔から、小指の先ほどの土の塊が転がり落ちた。
 スゥゥ……と目元から頬を伝って、地面へと流れ落ちる。
 無力感に苛まれていたからだろうか。魔導師の目には、それが少女の流した涙に映った。
 黄土色の固形物は、大粒の涙に他ならない。

(すまない……な……)
 少女の頬に残された、茶色い一筋の涙の跡。
 これから土に包まれるのだから、そんな些細な汚れなど放っておいてもいいのだが……。
 それでもストレイボウは、冷たくなった頬を親指で一拭いしてやった。

(彼女が泣くのも当然だ)
 ちょっとは綺麗になった少女の顔を直視できずに目を伏せる。
 彼女の生い立ちも、彼女の死に様も、彼女の強さも、何にも知らない。
 その美しい死に顔意外……何も…………名前すら……。
 それでも確かな事がある。
 少女は若い。聡明そうな顔つきの中にも幾らかの幼さが残っていた。
 この子には、まだ可能性があったはずだ。
 混沌とした未来を変えてゆけるだけの可能性が。
 この絶望を覆すことのできる可能性が。

(本当に死ぬべきなのは、償いきれぬ罪を背負った俺じゃないか……!)
 なぜ、そんな少女が死ななくてはならなかったのだ。
 唇を噛み締める。
 虚脱に注ぎ込まれたのは、とろみを帯びた絶望。
 鉄の味がした。

 出会ったときには彼女は虫の息だったし、助けられる術など持ち合わせていなかった。
 だから、どうしようもなかったのだ。
 自分に責任があったわけじゃない。
 それでも……それでも、目の前で散り逝く命を前に何もできなかった自分が情けなくてならない。
 惨めで仕方がない。


(オルステッド。こんな俺を見て、お前は笑っているのだろうな……)
 誰もいるはずもない青空を見上げる。その遥か向こうに、彼がいる気がした。
 そこから、自分を嘲り笑う声が聞こえてきたような気がしたのだ。
 この殺し合いの主催者でもある男には、今の自分の姿が滑稽に見えるに違いない。
 得意のはずの攻撃魔法は糞の役にも立っておらず、未だこの無力な男は誰一人として救うこともできていない。
 この少女だけではない。
 ニノやマリアベル、ロザリー……血に染まった彼女たちを、ただ呆然と見ていることしかできないでいた。
 それどころか、信じていた男にすらも裏切られる始末。
 仲間だと信じていたはずカエルは外道へと墜ち、その凶刃を守るべきものたちに向けて振り下ろした。

 自分自身がかつて犯してしまった『友への裏切り』という罪が、そっくりそのままこの身に返ってきたのだ。
 これ以上ない喜劇。
 自分の業の上で踊る自分は、道化師そのものじゃないか。

(なんて、情けない……)
 もしかしたらこうして死体を埋葬しているのも本当は、少女を弔いたいのではなく自分の惨めさを地中に隠しこんでしまいたいだけなのかもしれない。
 また誰も救えなかったという事実から目を背けたいだけなのかもしれない。
 そんなことを、不意に思ってしまった。

(俺はもう、挫けそうだよ……)
 目の前が霞んで、身体にはもう力は入らない。
 死体を埋めることすらも、ままならないでいた。
 無理もない。どれだけ頑張っても空回りするばかりで、彼の心労は限界を超えていた。
 いつ倒れても、いつ挫けてもおかしくないところまで彼は来ていた。

(それでもまだ……)
 それでも彼は踏ん張っていた。頼りない二本の足で、それ以上に頼りない上半身を支えながら。
 倒れることなく、狂うことなく、今だ現世で戦っていた。
 ニノやマリアベル、ロザリーは生きている。
 シュウにサンダウンだっている。
 まだ、全ての希望が潰えたわけじゃない。

453 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:02:58 ID:R7rFQoQ60

(まだ、倒れるわけにはいかないんだよな)
 力を振り絞って、両手で土を掬い上げる。
 限界を迎えたはずの五体は、軋みをあげながらも彼の命令通りにちゃんと動いてくれていた。 

 ロザリーから貰った言葉がある。
 彼女はこんな罪にまみれた男を、仲間だと言ってくれた。
 そして、こんな男に道を示してくれた。
 彼女たちがまだ戦っているのに、自分がこんなところで挫けるわけにもいかない。

 少女の亡骸を冷たい自然の棺桶に眠らせると、ストレイボウは音もなく立ち上がる。
 不意に、視界が揺れた。
 酔っ払いのように二、三度よろける。
 それでも、泣き言を言う両足に鞭打って不自然なほどの大股で歩き出す。
 木に寄りかかり蹲ったまま一切動かない少年の元へと。

「そろそろ落ち着いたか? 話を聞きたい」
 少年に近づき、できるだけ刺激しないように声をかけた。
 少女の死を確認してから、ずっと彼はこうしてジッとしていた。
 ただのしかばねのように、話しかけても返事がないため、情報交換すらできない始末。
 おかげで、少女の名前すら知らないストレイボウが彼女の死体を埋める羽目になってしまった。

 少年がゆっくりと顔を上げる。
 木漏れ日を浴びた金髪が輝きながらユラユラと揺れた。
 それとは対照的なのは、輝きを失った瞳。
 焦点の合わさらない目線は、空虚の海を漂うばかり。

「俺はストレイボウ」
 焦りつつも静かに語りかけた。
 少年のうつろな目が自分の姿を捉えるのを待つことなく。
 しゃがみ込んで、蹲った少年と同じ目線に合わせる。
 もし少年が懐に隠し持ったナイフでも振るおうものなら、避ける術などないほどの至近距離。

 今声をかけている相手が悪人である可能性は低い。先ほどの彼は、死んだ少女を必死に助けようとしていたのだから。
 だが、彼が安全であるという確証だってない。
 さっきほどの慟哭も、もしかしたら演技なのかもしれないのだから。
 
(この殺し合いを渡り歩くには、ちょっと警戒心が足りないな)
 自身の行動をそう評価する。と、共に彼が思い出すのは、数時間前に殺し合いに乗った騎士の事。
 シュウの『カエルに気をつけろ』という助言に声を荒げて反論したものの、結局はあの忍者の言う通り。
 最終的には疑り深い男が正しく、信じ続けた男が馬鹿を見る羽目となったのだ。
 ひたすら後悔し、傷ついた。
 そのはずなのに、今彼は目の前の少年を信じようとしている。

「君の名前は?」
「……僕は…………」
 ストレイボウの姿を見つけた少年がゆっくりと唇を開く。
 獲物を待つ食虫植物のような緩慢な動作。
 それでも彼の口から紡がれるだろう言葉を、ストレイボウは待ち続けた。
 待つのは慣れている。
 オルステッドに殺されてからずっと……あの暗い洞窟の中で立ち尽くしていたのだから。

 ストレイボウは待ち続けるつもりだった。
 一時間でも、一日でも。
 やっとこちらの呼び掛けに答えてくれたのだから。
 一週間でも、一ヶ月でも。
 体力も精神も、とうに限界を超えている。
 一年でも、一世紀でも。
 それは、裏切り、裏切られた男に残された最後の意地であった。

454 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:03:42 ID:R7rFQoQ60

『時間だ……』
 しかし、現実は冷酷に彼の足掻きを踏み潰す。
 少年の声を待っていた魔法使いの鼓膜を震わせたのは、一番聞きたくなかった声。
 そして告げられたのは、待っていたはずの少年の名前などではなく……一番聞きたくなかった男たちの名前であった。


◆     ◆     ◆


 突然の爆発音に驚いて、久しぶりに顔を上げる。
 目に映るのは、一心不乱に穴を埋める男。
 魔術師らしき身なりの男が、ついさっき力尽きた少女の死体を埋葬してくれていた。
 どうやら今のは、遺体を眠らせるための穴を魔法で開けた音であったらしい。

(あの人…………)
 先ほどまで、ジョウイは自分を助けるために重傷を負ったルッカを助けようと奔走していた。
 あの魔術師はそのときに必死で手助けをしてくれた人物である。
 その時の様子を思い出す限り、彼はあの発明少女のことを知らなかったみたいであった。
 つまりあの男は、安全かどうかも分からない人間を助けてくれたのである。
 その人の良さにジョウイは幼馴染みの姿を思い出した。
 だからだろうか。あの魔術師に話しかけられても、返事をすることができなかった。
 言葉を返してしまったら、親友のことを思い出してまた泣き叫んでしまいそうで……。
 次々に襲い掛かる喪失という悲劇に、押しつぶされてしまいそうだったから。

(みんな、死んでしまったんだね……)
 目を伏せる。そうすれば、全てから逃げてしまえるような気がしたからだ。
 あの親切な魔術師からも、巡り合った人々が死んでいった悲しみからも。
 どこかで、この殺し合いを主催した魔王の高笑いが聞こえてくるようだった。

 自分と出会ってすぐに死んでしまった二人の少女。
 この狂宴の中で失った大切な人たち。

 ジョウイ・ブライトにとって、出会った人物は駒だった。
 全ての人物は、彼がこの殺し合いで自分が優勝するための踏み台でしかない。
 弱きものは利用し、強きものは同士討ちさせる。
 五十余人ばかり、理想のためならば安い代償、のはず。

 ジョウイ・アトレイドにとって、リオウとナナミは障害であった。
 直接は戦う覚悟だってできていた……彼ら二人もまた敵なのだから。
 自分の知らないどこかで勝手に死んでくれるならば……それはそれで。
 自らが手を下すよりはその方がずっとまし、のはず。

 それなのに。

「なんで僕は、こんなに……つらいんだ」
 かすれ声で呟きながら、何か求めるように天を仰ぐ。
 木々の隙間から見えるのは、誰もいない青空。
 夜空に溶けた魔法も、土に眠る炎も、天寿の星も、緑の盾もそこには存在しない。

 返事のない天を見上げるのがつらくなって、ジョウイは再び顔を伏せた。

 大地と睨めっこをしながら、流した涙の理由を探していた。

 ナナミの死体を前にしたとき、彼は確かに怒っていた。
 そしてリオウの死を知ったときには、泣き叫んだ。
 あの瞬間、彼は理想を忘れていた。
 あふれ出した感情の波が、目指していたはずの平和の国を脳の外まで押し流してしまった。

455 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:04:35 ID:R7rFQoQ60

 彼は考える。
 もしかしたら、理想なんてどうでもよくなってしまっていたのかもしれない、と。
 この殺し合いが始まったときから既に、そんな願いなんか捨ててしまったのでは……。
 敗れた願いをもう一度追うことよりも、もっと別の望みがあったのではないか?

 例えば、リオウとナナミと……。

(ダメだッ!)
 グッと強く目をつぶって、思い描いた可能性を必死に否定する。
 ……そんな勝手は許されない。
 この理想のために、どれだけ死んだ? どれだけ騙した? どれほどの人が悲しんだ?


 矛盾しているではないか。
 かつての戦いでは、何千何万の死を平和のための犠牲として片付けてきた。
 名もなき敵兵も、自軍の兵士も、ついてきてくれた家臣たちも。
 遺された者たちの悲痛な叫びも。
 それらのすべては未来のため。そう納得してきたのだから。
 自分だけが絶望し、未来をあきらめる事など許されない。
 何を失っても、どんな汚名に塗れようとも、理想のために走り続けないといけないのだ。

(そうだ……)
 顔を上げる。
 目の前で、あの魔術師が自己紹介をしている。
 彼はストレイボウと言う名前らしい。
 見ず知らずの人間のために、土塗れになってくれるようなお人よし。
 この男もまた、自身の理想のために戦い続けているに違いない。
 自らを犠牲にしても、この殺し合いを止めるつもりなのだろう。
 でなければ、落ち込んでいる子供とはいえ、安全かどうかも分からない人物にこんなにも不用意には近づかない。
 それができるのは、彼が危険を冒してでも誰かを救いたいと心に誓っているからだ。
 彼には覚悟がある。ジョウイにはそう見えた。
 それに比べて……。

「……僕は…………」
 不意にこぼれた声。
 誰に聞かせるでもない、ただの弱音。
 だけど、ストレイボウにも届いてしまったようだ。
 彼はジッと二の句を待ち続けている。

 このまま、この人に全てを吐き出してしまおうか。そんな考えが過る。
 争いのない国を造りたいこと。
 そのために優勝を狙っていること。
 そして、少女を騙した末に見殺しにしてしまったことも。
 そのくせ自分は覚悟が揺らいでしまっていることも。

 そうしたら正義に燃える魔術師はジョウイをどうするだろうか。
 殺し合いはいけないことだ、と説得してくれるのか?
 悪は成敗するべし、と殺そうとするかもしれない。
 可愛そうだから、と少年を優勝させるために殺し合いに乗ってくれる可能性だってゼロじゃない。

 そんな馬鹿な考えが現実逃避であることに気づいて、慌てて脳内から追い払おうとする。
 だけど、そうするよりも先に、彼は無理やり現実に引き戻された。

『時間だ……』
 魔王オディオの放送。
 ジョウイとの対話を試みていたストレイボウが立ち上がり、放送に耳を傾ける。
 それを確認した黒き刃の持ち主もまた、声の雨が降り注ぐ晴天を見上げる。
 力なく見上げた空。何故だかさっきよりもずっと不愉快に見えた。

456 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:06:18 ID:R7rFQoQ60




(ビクトールさん……やっぱり……)
 放送ではリオウとルッカに加え、ビクトールの名前も呼ばれた。
 魔王たち二人組に殺されたのだ。

 ついさっき親友の死に泣き崩れた少年。その彼に追い討ちをかけるのは、命の恩人である男の死の知らせ。



(そして魔王たちは生き残ったようだ……それ以外にも、まだ危険人物はたくさん残っている……まずいな……)

 しかし、今のジョウイにはさっきのような狼狽はない。

 あーでもない、こーでもない、と生き抜くためにどうすればいいのかを冷静に試行錯誤していた。

 彼にとって、優勝は夢でも目標でもなく、もはや義務だった。
 平和のためだと人々を散々悲劇に巻き込んでおいて、気が変わったから別の未来を目指します。
 そんな理屈がまかり通るわけがない。
 そんな無責任が許されるはずがない。

 だから忘れることにした。
 三人で描くはずだった幸せな未来を。
 一時の迷いであったのだと、記憶の奥底に封じ込めた。
 理想を揺るがす迷いとともに。


(……優勝しなくては。僕のために死んでいった人のためにも)
 スゥ……と立ち上がった。何かに操られるように。或いは亡霊が如く。
 一転してしっかりとした足取りで、ストレイボウに歩み寄る。
 背を向けたまま突っ立っている魔術師。ジョウイからでは、その表情を読み取ることはできない。

 もしかしたら、知り合いの名前が放送で呼ばれたのかもしれない。



「あの……」
「……急がなくては!」
 金髪の少年は、魔術師に接触を試みようとした。

 しかし、その呼びかけはストレイボウの叫び声にかき消された。

 蒼い長髪をなびかせながら振り返って走り出すが、焦るあまり真後ろにまで接近していたジョウイとぶつかってしまう。



「……え? ……ッ!」

「……ッ! す、すまない!」

 尻もちをついた少年を見て、ストレイボウは回りが見えていなかった事をようやく自覚したようだ。
 慌てて彼が差し伸べた手に、ジョウイは「大丈夫です」との言葉で答える。

 自力で軽々と立ち上がって、ズボンに付いた土を叩き落とそうとした。

 が、ルッカの血液で赤く染まってしまっていた事に気づいて、一瞬だけ目を細めると、すぐにストレイボウに向き直った。
 

「ストレイボウさん……でしたよね?」
「あぁ、すまなかった」
「いえ。気にしないでください」
 さっきまで呼びかけても反応がなかった少年が話しかけてきたことに多少驚きながらも、ストレイボウは改めて謝罪の言葉を述べた。

 その誠実さに笑顔で応じる。
 いつの間に、こんなに演技が上手くなったのだろう。最終的には、この男の死すらも望んでいるというのに。
 リオウと一緒だったころとは随分と変わってしまった。

 そんな自分自身が、酷く虚しく感じた。



「僕はジョウイ。ジョウイ・ブライトです」

 差し伸べた手をストレイボウが軽く握る。

 正義感だと思っていた魔法使いの手は随分と冷たかった。

457 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:07:55 ID:R7rFQoQ60


◆     ◆     ◆



 ジョウイと情報交換をしている間も、ストレイボウの鼓動は収まってはくれなかった。
 バクバクと自己主張する心臓を「大丈夫だ」となだめ続けていた。
 あのシュウが死んだ。
 この殺し合いを生き残るための技術ならば、誰よりも優れているはずの男が。
 サンダウンが死んだ。
 そのシュウさえも白旗を揚げるほどの腕を持つ最高のガンマンが。
 それほどの強者である男たちが二人とも殺されたのである。
 彼らと行動を共にしているはずの少女たちのことが心配で、気が気じゃなかった。

 本当ならば、この少年を無視してでも彼女たちの元へ駆けつけたかった。
 だが、少女たちを保護しようにも、その居場所すらわからない。
 ストレイボウがニノたちと分かれてから、もう既に数時間が経過していた。
 積極的に仲間集めに動いていた一団が、会場の隅に位置する城にあのまま引きこもり続けているはずもない。
 気が動転するあまり、勢いのままに当てもなく走り出そうとしてはみた。だが、スタート直後に少年を転倒させてしまうという有様だ。
 相変わらず空回り続けている自分自身に呆れ返るが、そのおかげで冷静さをとりもどすことはできた。

(大丈夫。彼女たちを信じよう)
 大量の唾を嚥下する。
 心配そうにこちらを覗き込んでいるジョウイに、ぎこちない笑みを返すことが彼にできる精一杯であった。
 落ち着いて考えてみれば、少女たちの名前は放送で呼ばれなかった。ということは、おそらくは命だけは助かっているということなのだろう。
 ……放送の時点では、の話ではあるが。
 もしかしたら、放送直後に殺されたのかもしれない。
 それとも、殺されていないだけでどこかに監禁されているのかもしれない。
 ストレイボウはできる事なら彼女たちの無事を一刻も早く確認したかった。

 しかし、ここまでずっと自分が空回りしてきていることは、ストレイボウも自覚していた。
『急がば回れ』の言葉を、熱暴走寸前の頭に刻み込む。
 今は無闇に南下して入れ違いになるよりも、ジョウイから情報を得ることが先決だ。

 その判断は正解だったかどうかは、今の彼には分からない。
 だが、有益な情報を入手できた事は確かであった。
 金髪の少年が言うには、この殺し合いに対抗する意志を持った参加者たちが次の放送までに北の座礁船に集うらしい。
 今から向かえば、集合時間には間に合う。
 少女たちもそこに向かっている可能性だって……僅かながら。

 さらに、重要な事がジョウイの口から告げられた。
 先ほどストレイボウが救えなかった少女……ルッカを殺したのは、皮肉にもストレイボウが追いかけていたカエルであった。
 どうやら、あの異形の騎士も北に向かっているようであった。

(俺は北へ向かう。少女たちよ生き延びてくれ……)
 ストレイボウは逡巡の末、座礁船と歩みを進めることにした。
 自分自身が変わる事を選択したのだ。
 それは、少女たちを切り捨てる結果になるのかもしれない。
 ロザリーが、仲間だと言ってくれたことを思い出す。
 仲間なら信じることも大切だと彼女の言葉に甘えて、自分自身を騙し込んだ。

(これで、いいんだよな……)
 いつかの光景。
 憎しみに震えたオルステッドが、国中の人間を殺して回っている。
 戦いに行く彼の背中を押してくれた村人も、彼に好意を抱いていた女も、最後まで彼を信じた少年も……憎悪の刃に倒れていった。
 自分のせいで親友が狂い、大切な人々が死んでいくその光景を特等席で見物させられていたのだ。
 そう簡単に忘れられるものじゃない。
 変わろうと誓った今だって、目を瞑れば嫌でも思い出す。

458 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:17:32 ID:R7rFQoQ60

 もし、次の放送であの少女たちの死が告げられたら……そのとき彼は耐えられるのだろうか。
 彼女たちを見捨てた自分を許せるのだろうか。

(もう、あのときのような悲劇は……)
 ストレイボウは未だ、死者に縛られ続けていた。
 いつかの悲劇を引きずっていた。
 彼が本当に変われるとしたら、その死者の繰り糸を断ち切ったときなのだろう。
 
 そしてそれは彼の目の前の少年も同じことだ。
 彼もまた、自身の掲げた『理想』の為に散った人々に縛られているのだから。


【G-8 森林 一日目 日中】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルの説得。
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き延びる。
2:ストレイボウと共に座礁船に行く。
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
5:僕の本当の願いは……。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾

459 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:22:45 ID:R7rFQoQ60




(ビクトールさん……やっぱり……)
 放送ではリオウとルッカに加え、ビクトールの名前も呼ばれた。
 魔王たち二人組に殺されたのだ。
 ついさっき親友の死に泣き崩れた少年。その彼に追い討ちをかけるのは、命の恩人である男の死の知らせ。

(そして魔王たちは生き残ったようだ……それ以外にも、まだ危険人物はたくさん残っている……まずいな……)
 しかし、今のジョウイにはさっきのような狼狽はない。
 あーでもない、こーでもない、と生き抜くためにどうすればいいのかを冷静に試行錯誤していた。
 彼にとって、優勝は夢でも目標でもなく、もはや義務だった。
 平和のためだと人々を散々悲劇に巻き込んでおいて、気が変わったから別の未来を目指します。
 そんな理屈がまかり通るわけがない。
 そんな無責任が許されるはずがない。

 だから忘れることにした。
 三人で描くはずだった幸せな未来を。
 一時の迷いであったのだと、記憶の奥底に封じ込めた。
 理想を揺るがす迷いとともに。

(……優勝しなくては。僕のために死んでいった人のためにも)
 スゥ……と立ち上がった。何かに操られるように。或いは亡霊が如く。
 一転してしっかりとした足取りで、ストレイボウに歩み寄る。
 背を向けたまま突っ立っている魔術師。ジョウイからでは、その表情を読み取ることはできない。
 もしかしたら、知り合いの名前が放送で呼ばれたのかもしれない。

「あの……」
「……急がなくては!」
 金髪の少年は、魔術師に接触を試みようとした。
 しかし、その呼びかけはストレイボウの叫び声にかき消された。
 蒼い長髪をなびかせながら振り返って走り出すが、焦るあまり真後ろにまで接近していたジョウイとぶつかってしまう。



「……え? ……ッ!」
「……ッ! す、すまない!」
 尻もちをついた少年を見て、ストレイボウは回りが見えていなかった事をようやく自覚したようだ。
 慌てて彼が差し伸べた手に、ジョウイは「大丈夫です」との言葉で答える。
 自力で軽々と立ち上がって、ズボンに付いた土を叩き落とそうとした。
 が、ルッカの血液で赤く染まってしまっていた事に気づいて、一瞬だけ目を細めると、すぐにストレイボウに向き直った。
 

「ストレイボウさん……でしたよね?」
「あぁ、すまなかった」
「いえ。気にしないでください」
 さっきまで呼びかけても反応がなかった少年が話しかけてきたことに多少驚きながらも、ストレイボウは改めて謝罪の言葉を述べた。
 その誠実さに笑顔で応じる。
>>456の改行がおかしかったので↓に訂正します。





 いつの間に、こんなに演技が上手くなったのだろう。最終的に自分は、この男の死すらも望んでいるというのに。
 リオウと一緒だったころとは随分と変わってしまった。
 そんな自分自身が、酷く虚しく感じた。

「僕はジョウイ。ジョウイ・ブライトです」
 差し伸べた手をストレイボウが軽く握る。
 正義感だと思っていた魔法使いの手は随分と冷たかった。

460 ◆Rd1trDrhhU:2010/01/08(金) 04:25:26 ID:R7rFQoQ60
すいません間違えました >>459は見なかったことにしてください。
>>456の改行がおかしかったので↓に訂正します。




(ビクトールさん……やっぱり……)
 放送ではリオウとルッカに加え、ビクトールの名前も呼ばれた。
 魔王たち二人組に殺されたのだ。
 ついさっき親友の死に泣き崩れた少年。その彼に追い討ちをかけるのは、命の恩人である男の死の知らせ。

(そして魔王たちは生き残ったようだ……それ以外にも、まだ危険人物はたくさん残っている……まずいな……)
 しかし、今のジョウイにはさっきのような狼狽はない。
 あーでもない、こーでもない、と生き抜くためにどうすればいいのかを冷静に試行錯誤していた。
 彼にとって、優勝は夢でも目標でもなく、もはや義務だった。
 平和のためだと人々を散々悲劇に巻き込んでおいて、気が変わったから別の未来を目指します。
 そんな理屈がまかり通るわけがない。
 そんな無責任が許されるはずがない。

 だから忘れることにした。
 三人で描くはずだった幸せな未来を。
 一時の迷いであったのだと、記憶の奥底に封じ込めた。
 理想を揺るがす迷いとともに。

(……優勝しなくては。僕のために死んでいった人のためにも)
 スゥ……と立ち上がった。何かに操られるように。或いは亡霊が如く。
 一転してしっかりとした足取りで、ストレイボウに歩み寄る。
 背を向けたまま突っ立っている魔術師。ジョウイからでは、その表情を読み取ることはできない。
 もしかしたら、知り合いの名前が放送で呼ばれたのかもしれない。

「あの……」
「……急がなくては!」
 金髪の少年は、魔術師に接触を試みようとした。
 しかし、その呼びかけはストレイボウの叫び声にかき消された。
 蒼い長髪をなびかせながら振り返って走り出すが、焦るあまり真後ろにまで接近していたジョウイとぶつかってしまう。

「……え? ……ッ!」
「……ッ! す、すまない!」
 尻もちをついた少年を見て、ストレイボウは回りが見えていなかった事をようやく自覚したようだ。
 慌てて彼が差し伸べた手に、ジョウイは「大丈夫です」との言葉で答える。
 自力で軽々と立ち上がって、ズボンに付いた土を叩き落とそうとした。
 が、ルッカの血液で赤く染まってしまっていた事に気づいて、一瞬だけ目を細めると、すぐにストレイボウに向き直った。

「ストレイボウさん……でしたよね?」
「あぁ、すまなかった」
「いえ。気にしないでください」
 さっきまで呼びかけても反応がなかった少年が話しかけてきたことに多少驚きながらも、ストレイボウは改めて謝罪の言葉を述べた。
 その誠実さに笑顔で応じる。
 いつの間に、こんなに演技が上手くなったのだろう。最終的に自分は、この男の死すらも望んでいるというのに。
 リオウと一緒だったころとは随分と変わってしまった。
 そんな自分自身が、酷く虚しく感じた。

「僕はジョウイ。ジョウイ・ブライトです」
 差し伸べた手をストレイボウが軽く握る。
 正義感だと思っていた魔法使いの手は随分と冷たかった。

461ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:20:50 ID:GQsakPo60
本スレの続きを投下させてもらいます

462 ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:21:45 ID:GQsakPo60

「だったら、おにーさん! ちょこと、友達になろ」

いつかの日、深い地の底で出会った精霊の勇者にそうしたように、ちょこは天空の勇者へと手を伸ばし、

「トモ……ダチ?」

同時に、ユーリルが見ようとしなかった聞こうとしなかった数刻前の出来事へと触れてしまった。

『ユーリル。日勝が教えてくれたんだ。野球って言うんだ』

ありありと過去の情景が心のなかに再生される。

『日勝は仲間との絆を深める為にやりたがってる。……日勝のことだからもっと単純にみんなでやれたら面白いからかもしれない』

マッシュ達が港の調査から戻ってきてからの一幕。

『それでいいいと思う。面白そうだから、楽しいから。その想いはきっと大事だと思う』

日勝達が出払っていた時同様、クロノはずっと笑顔でユーリルに話しかけていてくれた。

『……そしてそれは俺も同じだ。ユーリル。俺はお前と魔王を倒す仲間としてでだけでなく』

どころか心ここにあらずとなっていたユーリルに手を差し伸べてくれて、そして。そして。

『友達に、なりたいんだ。だから落ち着いたらでいい。一緒に遊ぼう』

ユーリルと友達になりたいと言ってくれた。
ユーリルが“勇者”だと知りながらも友達として相対し遊びに誘ってくれる人間なんていなかった。

(いなかったんだ……なのに)

ユーリルはクロノの手を掴めなかった。
“勇者”になって以来欲していたのだろう懐かしい情景への扉を自ら閉ざしてしまった。

463ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:22:52 ID:GQsakPo60

「あ、あああ……」
「おにーさん、大丈夫? どうしたの、どこか痛いの?」

最悪とは重なるもの。
クロノの手を掴めなかった罪悪感か、少女の手から逃れるように後ずさってしまったたユーリルは見た。
そのタイミングに合わせたようにユーリルはクロノ達を置いてきた港町の方角に巨大な竜が降り立つのを。
スヴェルグだ。
クロノ達が戦っていたE-2エリアとユーリル達が戦っていたH-2エリアは間に何を挟むこともなく直線上に位置するのだ。
マスタードラゴンを優に超える大きさを誇る上に光り輝くスヴェルグは嫌でも目に入った。
あんなものユーリルはクロノ達から存在を聞いていはいない。
それが意味することは即ち――

「あああああ、ああああああ、ああああああああ」

故郷が滅びる様を思い出したばかりのユーリルに楽観的観測なんて不可能だった。
クロノ達が巨龍に襲われている。
得られたかもしれない懐かしい日々が脅かされている。
大事な人が、友達が、また死ぬ。

「うわあああああああああああああああああああああああ!」

その恐怖に負けユーリルは跳んだ。
クロノ達の無事な姿を見て安心したいがためにルーラで港町へと再転移した。
あるいはそれは剣を突きつけてしまった少女からの逃亡でもあったのだろう。
ユーリルが“勇者”でも“抜け殻”でもなく人間だった日々。
彼は憎悪に駆られようとも人を殺したいなんて思ったことは一度もなかったのだから。






アナスタシアはため息を吐いた。
事態は何一つ解決していない。
ユーリルからアナスタシアへの憎悪は一切消え去ってはいないだろう。
ちょこがやったのはユーリルの憎悪を解消したのではなく、幸せになる方法を教えただけだ。
彼が見失っていた幸せを突きつけただけだ。
ユーリルが“勇者”として生きている時に振り返ろうとしなかった幸せ。
“勇者”を辞めてからも虚無感や憎悪が先行し思い出すことも忘れていた幸せ。
その幸せの名は――“日常”。
アシュレー・ウィンチェスターがそれ以上にイノチを賭けるものがないと断言したもの。
アナスタシア・ルン・ヴァレリアが数百年前に無くしてしまったもの。
“勇者”になる前はユーリルも当たり前のように甘受していた、失って初めて気付く大切なもの。

464ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:23:32 ID:GQsakPo60

アナスタシアはユーリルとクロノ達との関係を知らない。
だからどうして急にユーリルがルーラを使ったのかは分からない。

(封じていた感情をいっきに複数個も呼び起こされて錯乱したのかな)

ただ一つ確かなことは。
アナスタシアにとってもユーリルにとっても問題を先延ばしにしただけだということ。
ユーリルが再び“日常”に身を染める道を選ぶならやはりアナスタシアを殺した上で平和に暮らすというのが一番早い。
あれだけの憎しみを抱いたまま日々を穏やかに暮らすことなど不可能だからだ。
厄介なことにちょこがした父の話でも、父は復讐を完遂してしまっている。
その上失ったものの大切さを知った反動で余計に“生贄”にされたことへの憎悪の炎に油が注がれた可能性すらある。

けれど、アナスタシアが今この時を生き延びれたのは間違いなくちょこのおかげだった。
一人になるのが怖いという弱さを抱えつつも、誰も一人にしたくないという強さを併せ持っている幼き少女のおかげだった。
アナスタシアは賢者の石でちょこを治療しつつ、これまで何度かしてきた問いを口にする。

「ねえ、ちょこちゃん。あるところに世界を救う代わりに消えてしまった少女がいるの。ちょこちゃんはこの話を聞いてどう思う?」
「んっとねー、ちょこ、お弁当持ってそのおねーさんのところに遊びに行くの。それで一緒にハンバーグ食べるの」

予想もしていなかった答えにアナスタシアは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
そんなアナスタシアをよそに疲れきっていたのだろう、ちょこは癒しの光に包まれながら目を閉じ眠りについていた。
可愛らしい寝息を立て身を委ねてくるイノチの温かさを腕の中で感じつつふと呟く。
口元を嬉しげに緩めながら。

「そっか。王子様はいなかったけど、善い魔法使いはいたんだね……」


その日、剣の聖女は。
ほんの少しだけ救われた。


【H-2平野 一日目 午後】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:イスラから聞いた教会に行く。
2:施設を見て回る。
3:また現れるかもしれないユーリルは……。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーやマリアベルも参加してるのではないかと疑っています。

【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:腹部貫通(賢者の石+自動治癒で表面上傷は塞がっている)、全身火傷(中/賢者の石+自動治癒)
[装備]:黄色いリボン@アークザラッド2
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
1:おにーさん、助けてあげたいの
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
3:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は不明(少なくとも覚醒イベント途中までは進行済み)。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザ達の名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※意識が落ちている時にアクラの声を聞きましたが、ただの夢かも知れません。
 オディオがちょこの記憶の封印に何かしたからかもしれません。アクラがこの地にいるからかもしれません。
 お任せします。後々の都合に合わせてください。

465ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:25:53 ID:GQsakPo60


                                ▼



――INTERLUDE ファイナル幻想水滸伝――

極彩色の牢獄と黄金色の結界がせめぎ合っていた。
片や収縮し捕らえた獲物を圧殺しようとする球状の断罪の無限牢。
片やドーム状に展開し押し寄せる牢獄を内側から跳ね除けんとするシャイニング。
共に強大な光の力の発露は、しかし、徐々に、徐々に、無限牢がシャイニングを押込め始めている。
大天使七体が合一したスヴェルグとたった一人の人間にしか過ぎないクロノとでは魔力の保有量に差があり過ぎるのだ。

「……このままじゃ」

両手を天に掲げたままクロノは苦しげに呟く。
クイック、シャイニングと人が使える魔導の極地を連発した彼は見るからに疲労していた。
このままでは長く持たない。
押しつぶされるのは時間の問題だった。

「諦めるな、クロノ! お前の強さはそんなものなのか? 違うだろ!お前は力だけじゃねえ、ハートもつええはずだ!」
「日勝……」
「そうだぜ、クロノ。そこの馬鹿の言うとおりだ」

マッシュが自分達を守るべく光を放出しているクロノよりも前に出る。
そこは無限牢とシャイニングの境界線。
シャイニングが覆う守護領域と無限牢が支配する攻性領域の狭間。

「実はさ、俺も王様なんだ。だったらよ誰かの後ろなんかにいられるかってんだ」

ルカ・ブライトは国王だと名乗った。
そうかい、そいつはついていなかったな。
マッシュは見ず知らずのハイランド国民に同情した。
彼は知っている、誰よりも王として兄として立派だった男を。
きっとあの兄はこの夜明けも訪れない世界でも誰かを導かんとしていたはずだ。
マッシュは口元に強い、強い笑を浮かべる。
ならその弟で、紛いなりにも現フィガロ国王である自分がこのまま仲間達の危機を手を拱いて見ているわけにはいかない。
マッシュは一歩を踏み出した。
途端幾重にも編まれたマナの重圧がマッシュから体力を奪い取る。
重い。身体が思うように動かせない。

その上無限牢は文字通り無限を思わせる広大な牢獄だった。
何者の逃亡も許さないと何重にも空間を圧縮して生み出されているのだ。
外への距離は果てしなく遠い。

466ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:27:15 ID:GQsakPo60

それでもマッシュは前進を止めない。
今にも全てを引き裂こうとする闘気の嵐を身に纏い、マナの干渉を強引に遮断して突き進んだ。
歩みはいつしか疾走となり、闘気はいつしか猛虎を模していた。
巨大な虎が無限牢を踏破する。
爆裂するオーラの光は無限に続くはずの紫電の牢獄を遍く照らし染め上げる。
それほどまでに、閃光と呼ぶにはあまりにも荒々しく凄まじい。
音の壁を遥かに超えたスピードがマッシュに纏わせたソニックブーム。
それと闘気が混じり合い爆発を起こし無限牢を軋ませる。
マッシュが模しているのは虎だ。
天を支配する竜に並び立つ陸の王者だ!
聖鎧竜に抗えぬはずはない!

「俺は死なねえ! 死なせねえ! たとえ無限の檻に閉ざされようと、俺の力でこじあける!」

マッシュは手を伸ばす。
ただただ明日を掴むために前へ前へと。
無骨な腕だった。
力になると決めた兄一人守れない腕だった。
それでも兄を助けようと磨き続けた力は決して無駄なんかじゃなかった。
己の全てはこのためにあった。
誰かを救うため、守るために。

(見えた……)

超速の空間を走り続けたその果てに、遂に無限の終りへとマッシュは到達する。
限界を突破して開放し続けていたオーラは既に虎の形を失わんとしていた。
爪は砕け、四肢は吹き飛んでいた。
だがまだ牙はここにある。

「タイガァアアアブレイクッ!」

背を預けられる友もいる!

「……虎咆精気法」

虎は群れるはしないというがそんなのは知ったことか!

「今だああああああ! やれ、日勝!」
「心山拳奥義……」

マッシュが作った闘気の道を身体能力を極限まで活性化した日勝が突き進む。
明鏡止水。
力だけでなく心も最強を目指す男はあらゆる負の念を捨て去り遂にその境地へと至る。
心のなかに広がる水鏡に映るはただ一つのビジョン。
強い肉体とそれ以上に強い心により可能となる心山拳の最終奥義。
最後の継承者ごと失われたはずの拳が、今ここに蘇る!

467ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:27:46 ID:GQsakPo60

「旋牙連山拳ッ…!!」

マッシュに日勝とも劣らない闘気を噴出させた日勝がタイガーブレイクの蹴撃が入れた罅に拳を抉り込む。
咆哮、乱打はさらにスピードを上げ回転数を上げていく。
殴り、広げた穴を今度は蹴り飛ばす。
連なる山をも揺るがす連撃の嵐をあらゆる方向から一点に浴びせていく。
人知を超えた速度は終いには日勝を四人に分身させる。
見守るマッシュには分かる。
あれは残像などという生易しいものではない。
殴るという一念を何重にも重ねた闘気は現実に干渉するだけの質量を得ているのだ。

「フィイイニイイッシュ!」

東西南北四神招魂。
縦横無尽に交差した四人の日勝の拳が無限牢を一片の欠片も残さず打ち砕いた。
これで残る障害は迫り来る両巨腕のみ。
無限牢を破られたことで最大出力で直接握り潰しにかかってくるスヴェルグ。
マッシュと日勝はお互いににやりと笑を交わしそれぞれ満身創痍の身で左右の腕へと跳びかかった。
やることはこれまでと何も変わらない。
ただ倒れるまで殴り続けるのみ!

「「夢幻闘舞!!」」

それが格闘家の生き方なのだ。
ならば剣士は?
巨龍と打ち合い、強固な鎧に覆われたその体躯を前に拳が潰れ、足が折れてまで抗い続ける味方になんとする?
簡単だ。
剣を振り上げ下ろすのだ。
自身の数百倍の大きさの竜をも斬殺できるような、鎧ごと断ち切れるような巨大な剣を!

「幻獣、召喚……」

ルカがそうしたようにクロノも魔石を掲げありったけの魔力を込める。
違うのは召喚獣を従わせているルカと違いクロノはマッシュから幻獣とは心を通わせる仲間だと教えられたこと。
使役するのではなく絆を力に共に戦う仲間を今ここに。

「来てくれ、ギルガメッシュ!」

果たして聖鎧竜に匹敵するだけの巨人がどこからか姿を表す。
同時、降り注ぐは三本の剣。
うち一本を伝説の剣豪は抜き放つ。
かの剣こそ剣の中の剣、聖剣エクスカリバー。
スヴェルグが誇る聖鎧といえども同ランクの聖剣の前には無力。
両腕で白刃取りしようにも、食いついて離れない二人の格闘家に動きを封じられていた。

「「「いっけええええええええええええええ!」」」

振り下ろされる幻想の刃。
ハイロゥを輝かせスヴェルグは兜で受け止めようとするも拮抗は一瞬。
エクスカリバーは止まることなく聖鎧竜を縦一文字に両断する。
その友の偉業を祝福するように遥か空から翼を生やし鬣を靡かせる緑の鬼が飛来する。
最終幻想。
ギルガメッシュと親友エンキドウからなる強力無比の最強コンボ。
クロノ達三人の結束に相応しい召喚術の締めを飾るべく聖鎧竜の骸の奥にいるであろうルカに鎌鼬を見舞う。
大地を引き裂く真空の刃。
巻き起こされた粉塵が止み、巨大な傷跡を刻んだ大地の姿が浮かび上がってきた時

468ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:29:13 ID:GQsakPo60

――そこにルカ・ブライトはいなかった。

「……え?」

呆然としたクロノの眼前に口元を血に染めた狂笑の華が咲く。
ルカは自分をあの手この手で敗北寸前へと追い込んだ相手を過小評価してはいなかった。
聖鎧竜に攻撃を指示しながらも、より確実に葬るために自身も突撃を敢行していたのだ。
正気の沙汰とは思えない。
クロノ達がスヴェルグを打ち破れなければ間違いなく自らもかの強大な竜の攻撃の余波に巻き込まれていた。

構わなかった。
ルカ・ブライトには絶対の自信があった。
クイックを打ち破った時のように彼は心の奥底から信じていた。

――このおれの憎悪がたかだか聖鎧竜如きに討ち滅ぼせるものかっ!!!!!!

マッシュが他の二人をかばおうと両手を広げ立ち塞がるが無駄だ。
皆殺しの剣の前にはいかな盾も用をなさない。

「ルカナン」

一閃。
紙と化した肉の盾ごと魔炎の剣が全てを薙ぎ払う。



六つの肉塊が地へと落ちた。


▽                                ▼

469ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:29:52 ID:GQsakPo60


「はっ、はっ、はっ、は……!」

ユーリルは全速力で走っていた。
ルーラで文字通り跳んで戻った港町は焼け落ち廃墟と化していた。
あの竜のことといいただならぬ何かが起きたことは間違いない。
そしてユーリルにはその何かに心当たりがあった。
あの男だ。
見ているだけで本能的な恐怖を駆り立てられるような、獰猛極まりないあの男だ。
あの男がクロノ達と……っ!
それは気付いてしかかる展開だった。
ユーリルが見逃されたのはたまたまの話。
斬る価値もないと狂皇子に見限られるほどユーリルが空っぽだったからだ。
でもクロノ達は違う。
自分にはない何かをもっていて“勇者”という称号に縋るまでもなく自らの意思で世界を救う程の強さを持つ彼らなら。
あの男が見逃すはずはない。

(マッシュ、日勝、クロノッ! 無事で、無事でいてくれ!)

何をいまさら。
ユーリルの中で“勇者”が嗤う。
“勇者”なら仲間に危機を教えていた。
“勇者”なら皆殺しの剣の特徴も伝えていた。
そうはせずクロノ達を危機に陥れたのはユーリルが“勇者”を辞めたからじゃないか。


巨大な竜が見えた方向へと焦りにかられて逃げるように走る。
やがて拓けた平野でユーリルを待っていたのは二つの死体と一人の死にゆく人間だった。

「クロノ!」

ユーリルの声が聞こえたのだろう。
両手を前へと突き出し、のろのろと上半身を起こそうとしていたクロノは、安堵したかのような表情を浮かべユーリルを見た。
ユーリルは急ぎ駆け寄る。
近づくに従いユーリルの顔はみるみる険しくなる。
クロノにはあるべきはずのものがなかった。
身体の下半分が焼き切られていた。
これではザオラルもベホマも意味をなさない。
今のユーリルにクロノを救う術はない。
だというのに。
当の本人、クロノは笑っていた。
身体を抱き起こしたユーリルの腕の中で、笑のまま、爪は砕け、草と泥に汚れた両手を差し出してきた。
拳の先に揺れるのはクロノ同様ボロボロのデイパック。
クロノは何も言わない。
けれど、初めて会った時と同じように、ユーリルはクロノの目から彼の意思を読み取れた。

470ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:30:50 ID:GQsakPo60

「僕に、クロノ達三人が?」

ユーリルはクロノが掴んでいるデイパックを受け取ることを躊躇した。
これまでユーリルが人々から託されてきたものはどれもこれも少年の重りになるものだったからだ。
勇者の称号。魔王討伐の重責。全人類分の悲哀や恐怖や辛苦。自己犠牲の精神。
その事実がクロノの手を取ろうとしたユーリルの動きを遅くした。
なまじクロノ達三人がオディオを倒さんと意気込んでいたことを知っていたが故にためらってしまった。
そして、ユーリルが迷っているうちにクロノの命は燃え尽きた。

「……あ」

笑顔を浮かべたまま、クロノの瞳が力を失う。
ユーリルへと差し出していた腕も地に落ちる。
抱えられていたデイパックも転がって、ユーリルの前に中身を吐き出した。
最後にクロノが残してくれたものを。

それは魔王を倒すための剣じゃなかった。
見知らぬ誰かを守るための盾でもなかった。
傷ついても進むための鎧とも違った。

たい焼きとバナナクレープだった。
ただユーリルに笑って欲しいだけの、元気を出して欲しいだけの、
美味しいと喜んでもらいたいがだけの、甘い、甘いお菓子だった。



ユーリルは泣いた。
勇者になったあの日以来初めて声を出して延々と泣き続けた。
初めての友達がくれたお菓子はちっとも甘くなんてなかった。

471ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:31:36 ID:GQsakPo60
【E-2平野 一日目 午後】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQⅣ、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンは一つ)
[思考]
基本:???
1:???

[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。


【E-2荒野とE-3森林の境界 一日目 午後】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]上半身鎧全壊、精神的疲労(大)、ダメージ大(頭部出血を始め全身に重い打撲・斬傷、口内に深い切り傷)
[装備]皆殺しの剣@DQIV、魔石ギルガメッシュ@FFVI、王の書@サモンナイト3
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×6、カギなわ@LIVE A LIVE、死神のカード@FFVI
   魔封じの杖(4/5)@DQⅣ、モップ@クロノ・トリガー、スーパーファミコンのアダプタ@現実、
   ミラクルショット@クロノトリガー、トルネコの首輪
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る2人及び、名を知らないアキラ、続いてトッシュ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。


※聖鎧竜スヴェルグ及びギルガメッシュ、エンキドウという巨大召喚獣が激突したため、
 E-2エリア全域は荒野やら断層やらでひどいことになっています。
 当然両者の激突はかなり遠くからも目視可能だったと思われます。
※D-1港町は全焼しました。
※聖鎧竜スヴェルグ@サモンナイト3、サンダーブレード@FFⅥは破壊されました。
 表裏一体のコイン@FF6はマッシュの遺体の右手が握り締めています。バナナクレープ×1@LIVEALIVEは消費されました。

472ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:32:44 ID:GQsakPo60


                                ▼


――INTERLUDE QED――

時はほんの少しだけ遡る。
それは三人の死体から目星い支給品を回収したルカがE-3エリアへと去った後の物語。
生者のいなくなったはずの地で、しかし何かが音を立てていた。
人だった。胴より下を失った一人の少年だった。
少年――クロノは地を這っていた。
残った両腕を無くした足の代わりにし、大地を掴み、押しのけ、少しずつ、少しずつ進んでいた。
その姿を人々が見ればどう思うだろうか?
痛ましいと嘆くか。はたまた無様だと見下すか。
この場におけるただ一人の観客の感想はそのどちらでもなかった。
両手の腕力だけで身体を起こし、木々にもたれかたった青年――日勝にとっては地を這うクロノの姿はどこまでも輝いて見えた。

「お前も、そう思うだろ、マッシュ……」

咳き込み血を吐き出しながらも日勝は傍らに転がるマッシュへと話しかける。
返事はない。
当然だ、マッシュは日勝とクロノに残る命を注ぎ込み一足早くこの世を去ったのだから。

スパイラル・ソウル。

日勝がルカと戦うまでにマッシュからラーニングできなかった二つの技の一つ。
タイガーブレイク、スパイラルソウル共々命に関わる技だったため手合わせでは見こと叶わなかったのだ。
そのマッシュの二つの取っておきをこんな形とはいえ体感できたことを格闘家として日勝は素直に喜んだ。

「マッシュ、やっぱお前はすごい格闘家だったんだな」

傷はちっとも癒えてはいない。
魂を代償にしての蘇生絶技といえど上下に分断された身体を繋ぎ合わせるような力はない。
所詮は一時凌ぎ。
効果が発揮されるまで随分とタイムラグがあったとはいえこうして息を吹き返せただけでも十分に奇跡だ。
きっとマッシュは結果がどうなるかなんて考えもしなかったのだろう。
ただクロノや日勝に生きていて欲しい。
それだけを思い死にゆく中、命の炎を極限まで燃やし日勝達に分け与えたのだ。
あくまでも日勝の想像にしか過ぎないけれど、恐らく間違ってはいない。

473ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:33:54 ID:GQsakPo60

「あんがとよ、マッシュ」

聞こえていないことは分かっていても口にしたい言葉を口にしていけないはずはない。
強く右拳を握り締め、最後の最後まで自分の大切なものを守り通した男に礼を言う。

「お前のおかげで俺は最強になれる」

チカラではルカに負けてしまったけれど日勝が目指していた最強とはチカラだけの強さじゃない。
チカラと共に求めていたのはココロの強さ。
死にたくないという本能、チカラでも最強になりたかったという未練、生きていたいという欲望を超えられる強さ。
抱いたオモイを成し遂げるために一番大切なイノチさえ受け渡すことのできる強さ。
その強さを日勝は今手にしていた。

「俺の分も持ってけ、クロノ」

このままではいつ燃え尽きるかもしれないクロノのイノチの灯火。
クロノ一人分では到底そこに辿り着くまでに餅はしまい。
だけどそこに日勝の分を加えたら。
日勝が覚えたばかりのスパイラルソウルをもう一度クロノに使えば。
クロノは思わず前進を止めかけた。
これからなそうとしているのはあくまでもクロノ個人のオモイによるものだ。
なんとしても成し遂げたかったが、友の最後の時間を奪う気にはなれなかった。

「止まるな、クロノ。俺も、多分死んじまったマッシュもお前と想いは同じだぜ。
 勝手に置いていっちまうユーリルに、悲しみだけを置いていきたくねえ」

振り向いたクロノと日勝の目と目があう。
二人の瞳はここにはいない一人の姿を写していた。

「だから、行ってこい。あいつのハートに光を当てれんのは俺じゃなくてお前なんだ」

日勝は知っている。
クロノがユーリルにすぐ渡せるようにと二つ持っていたデイパックのうち一つに皆で食べたお菓子を分けて入れていたことを。
狂皇子に奪われないよう、一度死ぬ前に咄嗟に森の方にそれを投げ込んでいたことを。
クロノはユーリルのことをそこまで思っているのだ。
なら自分が行くよりもクロノが行ってくれた方がユーリルは喜んでくれる。
そう力強く断言した日勝だったが、本人の口から否定されてしまった。

「……日勝、マッシュが言ったこと忘れている。俺達で、だ」

474ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:34:35 ID:GQsakPo60
クロノは笑っていた。
大量の血を失い青白くなった顔に太陽も押し負けるような熱く明るい笑みを浮かべていた。
死にゆく時に笑える人間は強いという話は、どうやら本当だったようだ。
そんなことを思いつつ日勝もまた笑って答えた。

「はは、悪い。すぐ前のことなのに忘れちまうなんて、馬鹿だな、俺」
「……どうやら俺もそうみたいだ」
「そっか。じゃあマッシュの奴も仲間に入れてやらねえとな! 
 行こうぜ、馬鹿三人でよ! ユーリルに会いに!」

日勝がクロノへと手を伸ばす。
クロノも日勝へと手を伸ばした。
二人の両手の間には数メートルの距離が横たわっていたけれど。
その時確かに二人は強く拳を交し合った。

――スパイラル・ソウル

マッシュから貰ったイノチと自分のイノチ。
二つのイノチがクロノへと注がれていく光の中、日勝は思う。
技のネーミングセンスではマッシュの極めていたダンカン流が最強だったかもしれないと。
日勝はこれまで多くのものを受け継いできた。
ナムキャットの足技、グレート・エイジャの飛び技、ハンの関節技、ジャッキーの力、
モーガンのパワー、森部生士の奥義、レイ・クウゴの心山拳、マッシュ・フィガロの魂。
イノチもまたそうなのだろう。
人から人へ、オモイと共に受け継がれていくのだ。

(スパイラルソウル……連なり進む命って訳であってんのか? へへ、いい技名じゃねえか)

それを最後に日勝は光に溶ける。

475ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:35:30 ID:GQsakPo60








――かくしてイノチは受け継がれた














【クロノ@クロノ・トリガー 死亡】
【高原日勝@LIVE A LIVE 死亡】
【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI 死亡】

476ですろり〜イノチ〜  ◆iDqvc5TpTI:2010/02/28(日) 04:36:37 ID:GQsakPo60
以上で投下を終了します。
早朝間近ながらも多くの支援及び代理投下、ありがとうございました。
意見、感想あれば喜んでお受けします

477 ◆6XQgLQ9rNg:2010/04/03(土) 00:43:49 ID:Zk9h.Sjk0
規制につきこちらで続きを投下いたします。
どなたか代理投下していただけるとたすかります。

478壊れた心に貫く想い ◆6XQgLQ9rNg:2010/04/03(土) 00:44:22 ID:Zk9h.Sjk0
 ◆◆
 
 そこは、色とりどりの花々で満ちていた。
 数え切れないほどの種類の花が、それぞれの美しさを競い合うようにして咲き誇っている。
 一本一本の花から、殺し合いの場には似つかわしくない生命の息吹が感じられる。
 そんな花々に囲まれて、傷だらけの道化師が大の字になって倒れていた。

 彼――ケフカ・パラッツォは気付いていなかった。
 ビッキーが生きていたのだから、他の三人が生きていてもおかしくはないという事実に。
 気付かなかった理由。
 それもまた、ケフカは気付かない。

「ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう、ちく、しょう……」
 忌々しげな声が、花園に溶けていく。
 ケフカが苛立っている理由は、少なくない。
 たとえば、ミッシングを受けたのに男が生き延びていたこと。
 たとえば、大きすぎるダメージを受けて体が言うことを聞かないこと。
 たとえば。

 ――またもあの女に、救われてしまったこと。
 
 殺してやりたいほどに憎らしい。傷つけてやりたいほどに恨めしい。
 その想いは、ビッキーが手を伸ばすたびに、ただひたすらに深く大きくなっていく。
 ココロを壊してやりたかった。
 ハカイの愉快さを見せ付けてやりたかった。
 ビッキーだけは必ず最後まで生かしておいて、絶望を刻み込んでやりたかった。
 その欲望は、止め処なく膨れ上がっていて、ケフカはいつしか、ビッキーを生かしたままハカイすることに固執してしまっていた。
 故に、彼女の声が響いた瞬間、ケフカは無意識レベルで望んでしまったのだ。
 
 ビッキーを殺したくない、と。
 
 結果、破壊の顕現は通常よりも手加減され、その場にいる命を一つたりとも奪えなくなっていたのだ。
 
 透き通った青空が、何処までも広がっている。
 無数の花が、そよ風に身を躍らせている。
 それは、紛れもなく綺麗で優しい光景だった。
 しかしそれは、ケフカの大嫌いな光景でもある。
 
 壊したくて壊したくて壊したくて、堪らない。
 そうすればこの忌々しい苛立ちも、少しは晴れるだろう。
 痛む全身に命令し、右手を掲げた。
 炎を生み出し、今度こそ焼き払ってやる。
 そう思っても、願っても。
 掌に炎は、生まれない。
 無尽蔵に思われた魔力は、三人の戦士との戦いを経て枯渇してしまっていた。
 これではもう、回復魔法も使えない。
 先ほどの充足感が嘘のように、感じられるのは虚無感だけだった。

479壊れた心に貫く想い ◆6XQgLQ9rNg:2010/04/03(土) 00:46:14 ID:Zk9h.Sjk0
「ふん……」
 やはり、そうか。
 カタチあるものはいつか壊れる。
 イノチなんてものはいつか潰える。
 ユメは忘れてしまうものだしキボウは絶望への前触れに過ぎない。
 それはこの世界にすべからく存在する、絶対不変の掟。

 ならば結局、あの満たされた気持ちも、圧倒的な神の力でさえも。

 永遠に続くものであるはずが、なかったのだ。
 
「つまらん……」

 強い風に吹かれ、花弁がふわりと舞い上がる。
 その花弁は宙をたゆたい、道化師の顔にそっと着地する。
 
 なのに。
 ケフカ・パラッツォが、それを振り払うことは、なかった。
 
【ケフカ・パラッツォ@FINAL FANTASY Ⅵ 死亡】
【残り26人】

※E-9花園にケフカの遺体および、ランダム支給品1〜3個、基本支給品一式があります。

480 ◆6XQgLQ9rNg:2010/04/03(土) 00:48:06 ID:Zk9h.Sjk0
以上、投下終了です。支援してくださった方、ありがとうございました。
そしてタイトル変える場所を間違えたorz
本スレ>>285からタイトルが変わるということでお願いします…

481Fate or Desitiny or Fortune? ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:26:06 ID:wNsXvNik0
例えて言うなら、それは舵の利かない帆船のようだった。
舵を壊し、憎しみという風に吹かれるまま漂うユーリル号という船。
勇者という積荷を下ろして、ユーリルは身軽になれたはず。
だが、現実はなんと非情なことか。
どこにも行けず、どこにも行くかも分らず。
もう前にも後ろにも進めなくなってしまった。
今のユーリルには、羅針盤も海図も双眼鏡もない。
自分がどこに行けばいいのか、自分がどこにいるのか、自分の周りを見通せる余裕もない。
魔王という鬼ヶ島を目指すこともできなくなった。

ほんの少し前には、こんなこと考えられなかった。
勇者だったら、やらねばならないことが今も沢山あったはず。
勇者だったら、あの鎧に身を包んだ黒髪の男を放っておくはずがない。
勇者だったら、友達を見殺しにしてしまうこともなかったのだ。
勇者だったら、きっと今頃こんなところでこんなこともしていない。

なのに。
なのに、今のユーリルは勇者でも何でもない。
しかし、しかしだ。
もう、ユーリルは勇者として生きた時間が長すぎた。
いらないからと捨てたくせに、いつの間にか勇者という肩書きはユーリルという人間の根幹をなすものになってしまっていたのだ。
友達を失い、家族を失い、勇者という拠り所であり生きる力でもあるものも失った今のユーリルは外殻を残し、中身は空っぽの存在。
そんな隙間風の吹くユーリルの心に、憎しみという感情が吹き荒れるのは当然だった。

「ああああああああああああああ!!!!」
勇者は生贄なんだというアナスタシアの言葉に、怒り狂う。

「うわああああああああああああ!!!!」
友達を失ってしまった悲しみがユーリルの心を苛む。

「あああぁっぁぁあ、あうっあああ!!!」
そして、それらの感情がごちゃ混ぜになって泣く。

「アナスタシアアアアアアアアアア!!!」
そして、全ての元凶であるアナスタシアに対する憎しみ。

482 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:27:26 ID:wNsXvNik0
感情の暴風だった。
怒り、悲しみ、憎しみ、絶望。
それらの感情がユーリルの中で荒れ狂い、どんどん大きくなり、ユーリル自身にも制御がつかない。
それら全てを受け止めるには、勇者でなくなったユーリルという少年の心の容量では足りない。
渦巻き、うねりを上げ、身体の中に押しとどめておくことができない。
胸が張り裂けそうだった。
だから、ユーリルは叫ぶ。
喉が枯れ果てんばかりの嗚咽と絶叫を地面にに叩きつける。
膝を折り、両手も地面につけ、あらん限りの声をあげた。
クロノの亡骸が傍に転がったまま、埋葬することもしない。
いや、今のユーリルにはそんな選択肢さえ浮かんでいない。
ただ泣き、ただ叫ぶだけ。
感情のタガが外れた今、ユーリルは立ち上がることもできず、止めどなく流れる涙を拭うこともできない。
しかし、叫んでも叫んでも、気が晴れたり落ち着いたりすることはなかった。
ユーリルの心は決して満たされない。

太陽はいつもと変わらぬ光を投げかけてくるだけ。
風はユーリルを嘲笑するようにただ背中を撫でていくだけ。
大地は叩きつけられるユーリルの拳に反発を返してくるだけ。
友達のくれたお菓子は、ちっとも甘くない。
仲間との楽しかったはずの思い出は、色を褪せて消えていく。
空っぽの男には、世界でさえ優しくしてくれない。
その事実が、なお一層ユーリルを打ちのめした。



どれくらい経っただろうか、ユーリル自身はもはや覚えていない。
ただ、一生分の涙を流すのにかかる時間だけは経っていたと分かる。
それでも、涙というのは体中の水分を絞りつくしても足りないほどに流れるのだ。
そのうち。
泣いたまま、ユーリルは立ち上がる。
泣いたまま、ユーリルは歩き出す。
泣いたまま、ユーリルはどこかへ行く。

友達を殺してしまった罪から逃げるため。
クロノの最期の笑みを嫌でも思い出してしまうから。
恨み言一つ言わずに死んでいったクロノの優しさが、逆に痛かったから。

流れ、流れて。
足の動くままどこかへ。
どこへ行くのかなど、ユーリル本人が一番知りたかった。

483 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:28:56 ID:wNsXvNik0
「つまり、今はどっちの方が正しいかは保留するってこと?」
「そういうことだ」

疑問の種が芽吹き、するすると成長していく。
絶大な魔力を操り、あと一歩のところで逃してしまった男。
道化師のごとき面妖な格好をしたかの男が、本当にケフカ・パラッツォだったのか。

エドガー、ティナ、ケフカの人間像が全然違う。
マッシュとセッツァーが語ったこれら三人の人間像は真逆のものだった。
既知の情報であるため、確認しなかった情報が実は偽りに満ちていたことに、初めて三人は気づく。
もうここまでくれば、ブラッドもイスラもヘクトルもどういうことなのか分ってくる。
マッシュかセッツァーに嘘をつかれたか?
しかし、ブラッドはあくまで慎重な判断を下したのだ。

「根拠は?」
「例えば、エドガーという男が本当に世界を征服しようとしていたとする。 だが、肉親には甘い男なのかもしれない。
 そう考えると、マッシュがエドガーは安全だと言っていたのも納得できる」
「ケフカは? これは疑いようのないことだと思うけど?」
「まず第一に、ケフカとマッシュの関係が良好でない場合だ。 ケフカは普段優しいが、マッシュとだけは反りが合わない、などな。
 第二に、あれはそもそもケフカではなかった可能性もある。 あんな格好をした輩が何人もいるとは考えにくいがな。
 第三に、本来はまともな人間だったがこの異常な状況で精神を狂わせ、殺戮に悦楽を感じるようになったか、だ」
「それ、だいぶ苦しい根拠だと思うんだけどね……」
「あの道化師、暫定ケフカを庇おうとしていた少女は決して悪い女には見えなくてな……」
「単なるお人よしって可能性もあるよ? 騙されていただけとか」
「それも、俺の悪い女に見えなかったというのも全部推測だ。 そしてあの道化師がケフカだったかも状況証拠のみ。
 結論を出すには早い。 ただ、次にマッシュとセッツァーに会うときは警戒した方がいい。 そういうことだ」

イスラの質問に対し、次々とブラッドは答えていく。
ブラッドの答えには腑に落ちない点や苦しい点も多々あるが、帝国の諜報部に所属していたイスラも情報の真偽の確認が大事であるのは知っている。
実を虚と見せかけ、虚を実に見せる。
そうやって敵を欺き、また得られた情報の正誤を迅速に確認するのが諜報部の仕事の一つ。
何よりやってはいけないのが、間違った情報を真実だと鵜呑みにすることなのだ。
間違った情報ほど、もっともらしく見えるもの。
ここはイスラも折れて、マッシュとセッツァーのどっちが正しくてどっちが間違っている、といった極論ではなくブラッドの保留案に同意する。

484 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:29:50 ID:wNsXvNik0
「俺はなぁ……セッツァーが嘘を言っているとは思いたくないんだが……」

会話に加わっていなかったヘクトルがセッツァーのことを思い出しながら呟く。
ブラッドたちの言っていたことを聞いてなかったわけではないが、どうしてもセッツァーを疑いきることはできない。
怪我を負っていたブラッドを回復してくれた恩もある。
ブラッドが回復しなかったら、ブラッドはあのまま死んでリニアレールキャノンの一撃もなく、今頃ヘクトルはイスラと仲良くお陀仏になっていたかもしれない。
何より、正攻法を望むヘクトルはこんな大事な時に、陰でコソコソやるようなやり方は嫌いだ。
みんなで手を取り合って生きていかなければならない状況で、一人だけ甘い汁を吸おうという奴は大嫌いだ。
心情的に、どうしてもヘクトルはセッツァーを信じたい。
信じられるかどうかではなく、信じたいというのが本音だ。
エリウッドやリンとの旅の間、そういう疑惑や疑いといった言葉とは無縁だったからか、ヘクトルは人を疑うということをあまりしたくない。

「これは誰が一番強いかを決める戦いではない。 誰が最後まで生き残るかという戦いだ。 俺が生き残ってれば、誰かを殺してくれると考えたのかもしれないぞ」
「わーってるよ」

だがブラッドの言うこともまた一理ある。
ヘクトルも、次にマッシュかセッツァーに会ったときはそのことをキッチリ問い詰めるということを決めて、この場は納得した。

「では、この話はこれで終わりだ」 

ブラッドの声で、少しでも疲労と怪我を回復するため荒野に座り込んでいた三人の男たちが立ち上がる。
三人とも怪我も疲労も決して浅くはない。
だが、まだ立っていることはできる。
歩くことも、拳を握ることも、誰かのために戦うこともできる。
戦う意志だって少しも翳りを見せない。
それは死にたがっているイスラはともかく、ヘクトルとブラッドにとっては喜ばしいことだ。
おそらく、昼過ぎに見た光を作り出したのは、先刻戦った道化師によるものだと断定したブラッドたちは、次はアナスタシアを追うために西進することにした。
だが、その前にやることがある。

「念のために、この辺り一帯の探索もする」

いまだ戦闘の傷も癒えぬまま、三人の男たちは身体を半ば引きずりながらビッキーの埋葬とそれぞれ周囲の探索をした。
リニアレールキャノンのような強力な装備が、都合良く地面に落ちてるはずがない。
これは間違いなく死んだ誰かの支給品だと踏んだブラッドは、周囲の探索をイスラとヘクトルにも命じたのだ。
するとどうだ、数々の物品が見つかるではないか。
ナイフやマフラーや指輪……間違いなく誰かの支給品だと言える装備の数々が。
自分らが先立って目撃した光の跡が、この荒野なのは容易に想像がつく。
ということは、死者が出てもおかしくない。
さらに武器がその荒野に転がっていたのだ。
これで探索しない方がおかしい。
結果、支給品の数々が見つかった訳だ。
さらに、二人の男性の死体も。
見つけた銃はガンマン風の男に握りしめられており、明らかに死ぬ寸前まで戦っていたことを物語っている。
硬直した手から銃を抜き取るのに、イスラはかなりの力を必要とした。

485 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:30:46 ID:wNsXvNik0
「サンダウン・キッドなのかな……?」

高原の言っていた外見と一致する。
彼の仲間もこうしてまた一人脱落していった訳だ。
戦って死んでいったであろう男に、イスラは羨望と嫉妬の念を抑えることができない。
何かを為そうとして死んでいった男に、イスラは自分もこうありたいと願う。
ヘクトルたちに出会って、多少心境の変化はあったとて、未だにイスラの死にたいという願望は消えない。
ただ、自殺して無為に死んで逝くより、何かを為して死にたいと思うようになっただけだ。

「おい! アンタッ!」

ビクリと、イスラの背中が跳ねた。
誰だろう、この声は。
聞きおぼえのない声が、背中の、それもすぐ真後ろから聞こえた。
あり得ないと、イスラは思う。
何故なら、今イスラのいる場所は荒野のど真ん中であり、今しがたまで、ここにはイスラたち三人しかいなかったこと。
さらに、新たな誰かが今ここに来たのなら、イスラはこうも易々と背後を取られたということになる。
もしも敵なら、ヤバい。
危機感を覚えたイスラはすぐさま腰にかかった剣に手をかけ、いつでも抜けるよう構えながら振り向いた。
するとそこにいたのは見た目にも重傷と判る異国風の装束に身を包んだ少女と、それを抱えるように立つこれまた見たこともないような奇抜な衣装の男。
女は気絶しているのであろう。
手と足に力が入っておらずダラリと投げ出されているのを、男が抱えているような体勢だ。
だが、それでイスラは警戒を緩めたりはしない。
後ずさりながら、剣を抜いて構え、誰何の声を上げる。

「誰だい?」
「待てよ、俺はやる気はねぇんだ! それよりもこの女が……リンディスが!」
「リンディス!? リンのことか!」

イスラの背後に来たヘクトルが大きな声を上げる。
どうやらヘクトルの知り合いらしい。
それでようやくイスラも若干剣を握っていた手の力を緩める。
ヘクトルはリンが男の手に抱えられた女がリンであることを確認すると、一目散に男に駆け寄る。
男から奪い取るようにリンを抱きかかえると、頬を軽く叩いてリンの意識を呼び起こそうとする。

「おい、リン! 聞こえるかリン!」

頬を叩きながら、リンの身体を見る。
酷い怪我だった。
全身が刃物のようなもので切り刻まれ、背中にも大きな刺し傷が空いている。
衣服はもうボロボロで、赤い血が衣服にジワリと染み込んでいる。
一番の怪我は、左目から垂れ流している血だ。
しかし、閉じられた瞼に傷はついてないように見えるし、瞼を切っただけでこの出血量はあり得ない。
となると、もう考えられることは一つしかない。
リンは目をやられたのだ。
しかも、この出血量から考えて相当深い傷。
おそらく……失明していることをヘクトルも肌で感じ取る。
誰がこんなことをと怒りがヘクトルに沸いてくるが、それよりもリンの声を聞くことが大切だ。
根気よくヘクトルはリンの意識を呼び覚まそうとする。

486 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:31:33 ID:wNsXvNik0
「……ぅ……ぁ……」

聞こえた。
確かにリンの声が今、聞こえた。
呻き声に近いが、リンが声を上げたのは確かだ。
逸る気持ちを抑え、ヘクトルはまた根気強くリンの意識を呼び覚まそうとする。

「おい、リン! 俺だ、ヘクトルだ! 聞こえるか!?」
「ぁ……ヘク……トル?」
「ああそうだ、俺だ! 一体何があった!? 誰にやられた!?」
「やられたって……私は……死んでない、わよ……」
「細かい間違いはどうでもいいだろうが! 誰に襲われたんだ!?」

ようやく、リンは残された右目を開け、ヘクトルと視線が合う。
そして、力なく笑みを浮かべる。
知り合いに会えたことに対する安堵の笑みだ。
そして、また気を失う。
気を失う直前にリンが発した言葉は、ヘクトルに何があったかを伝えるのに十分な内容だった。

「ジャファ……ル……」



◆     ◆     ◆



胸に当てていた手を、ロザリーは下ろす。
深く息をつき、問題なくメッセージが届いたことを確信した。
伝えたいことは伝えた。
ロザリーの言いたいことの全てを伝えきった。
あとはこれを聞いた人が、心正しき者であることを願うだけだ。

「終わった……の……?」

ニノの問いかけに、ロザリーは満足そうに肯定の意を示す。
ニノは素直に喜び、マリアベルはロザリーの肩に手を置き、労いの言葉をかける。

「うむ、よくやったぞロザリー。 と言うても、わらわにはちゃんと伝わったかは判らぬがな」

もしも失敗してたら、何もない空間に向かって何かを言うだけというすごく間の抜けた光景になるだろう。
三人とも、それはあえて考えないようにする。
少し魔力を消費したことによりロザリーは立ちくらみを覚えるが、ゲートホルダーを使ったときのあの感覚とは比較にならないほど楽だ。
充実感のある疲労、とも言うべきだろうか。
むろん今すぐに成果があがる行動ではないので、成功したとは一概には言えぬが、少なくとも自分にできることをやったという満足感はある。
そう考えると疲労もなんのその、次にやるべきことを速やかに実行に移す。
すぐに移動を開始して、次の逗留場所を探さねばならないのだ。

時刻は逢魔ヶ刻。
西の空に落ちていく太陽が茜色の光を放っている。
カラスがカァカァと鳴くはずのこの時間、飛ぶ鳥は一羽もいない。
少しずつ明度を落としていくその光は、いずれ輝きを失ってしまう。

487 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:32:51 ID:wNsXvNik0
今は黄昏。
そして、また、夜が来る。
暗い暗い、常しえの闇にも似た夜が。
もう少し時間が経てば、これより先はノーブルレッドの領域、夜だ。

だが、マリアベルの気分はあまり浮かれはしていなかった。
西の空にはしっかりと晴れ渡る空と茜色に染まる夕日があるのに、頭上の空はどんよりとしたものがあるからだ。
分厚い雲が垂れ込み、どっしりと重い空。
今や、空は曇天。
しかも、これは雨雲に間違いない。
雲が明滅する頻度も多くなってる。
灰色の雲からはゴロゴロと、遠雷が鳴っている。
それは誰かの叫びのように、あるいは、誰かの怒りのように。
気温がグングン下降していくのが三人にも分かる。
日が落ちているだけことだけが原因ではない。
これは、間違いなく気圧が低くなっているのも関係している。
吹きつける風に厳しさが増してくる。
ニノが、少しだけ身震いした。
ザワザワと、せわしなく木々が鳴り響く。
空気が湿り気を帯びてくる。
今にも泣き出しそうな空模様は、まもなく雨が降りそうなことを如実に表している。
いやな天気だなと、マリアベルは思わずにはいられない。

「どうやら、ここはオディオの言っておった雨の降る場所のようじゃの」

空を見上げながら、マリアベルが言う。
垂れ込める雨雲を見ると、気分が沈みそうだ。
太陽が隠されるからといって、雨の持つ陰鬱さが好きな訳でもない。

天候を操るという力が本当にオディオにあるのは、驚くべきことではない。
ロザリーの世界には、そういった呪文が実在するらしいからだ。
それならオディオが使えてもおかしくはない。
高位の呪文になると、なんと一瞬にして昼夜を逆転させることができるとか。
それを聞いたとき、マリアベルは喉から手が出るほどに、その呪文を会得したいと思ったくらいだ。

「早くどこかで雨宿りする場所を見つけないといけませんね」

ロザリーも雨の降る可能性を考慮してだろうか、自然と足の動くスピードが速くなっている。
濡れ鼠になって、風邪をひいたりするのはどうしても避けたい。
落ち葉で足を滑らせ、ささくれ立った木が皮膚に薄い傷を走らせ、地面から突き出た木の根に転びそうになる。
どこか分からない森の中を、助け合いながらとりあえず進んでいく三人。
どこにいるかも分からない不安感が鎌首をもたげて襲う。
それでも、歩みを止めることはない。

見知らぬ世界。
頭上に重くのしかかるのは暗い雨雲。
そしてここは誰かの命を奪うのが目的の殺人劇、バトルロワイアル。
そう、ここは魔王の支配する異界。
そんな異界の中、寄りそう三種の種族。
人間と、エルフと、ノーブルレッド。
人と人が同属でいがみ合う中、手を取り合うこの異なる種族の少女たち。
それは果たして、何を意味するのか――。

488 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:34:46 ID:wNsXvNik0
「おお、開けた場所に出たぞ。 さすがわらわよ、抜群の方向感覚じゃな」
「あれ……湖?」
「海だったら対岸が見えるはずもないじゃろう。 それにあの橋を見てみぃ」

ニノに対して、マリアベルが指を指して方角を示す。
その方向には、湖の東から西までを結ぶ一つの橋があった。
それに、うっすらと対岸も見える。
これ以上ない分かりやすいランドマークだ。
どうやら、C-7の神殿近くにいるらしい。
それさえ分かれば、あとは誰か襲撃者がいないことを祈りつつ、あそこを雨宿りの場所にするだけだ。
急いでいた歩みの速度を緩めて、湖の外周部分に沿って歩きながら橋を目指す。
透き通るほどの透明感のある湖の水。
残り少ない西日によって、それは見事な黄金の光を反射していた。
しかし、風によって湖面が激しく揺れているのが少しばかりもったいない。

「そろそろ、いいかもしれぬな……」

自分に言い聞かせるようにマリアベルが呟く。
その声はロザリーとニノの耳には入らない。
宿探しの目星もつき、あとはあそこに歩いていくだけ。
当面は暇だ。
ならばこそ――今がその話をする状況なのかもしれない。
隠すことは二人との間に壁を作ることだ。
そして、二人は惜しみない信頼を寄せてくれている。
それならば、マリアベルもそれに応えるべきなのだろう。

「神殿に着くまで、少し昔話をしてやろうか……」

それは、とてもとても長くて悲しい、英雄と呼ばれた一人の少女のお話。



◆     ◆     ◆



「すまねぇ……俺のせいでリンディスが……」
「いや、お前のせいじゃねえ……お前はよくやってくれた」

489 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:35:41 ID:wNsXvNik0
頭を下げるアキラに対して、ヘクトルは気にするなと返す。
何とか、一命は取り留めた。
決死の看病とアキラのヒールタッチのおかげだ。
今は容態が落ち着いたリンをおいて、三人の治療を同じくヒールタッチでしていた。

「俺は……奴を倒しに行く」

右手を誓いのように固く握り締め、ヘクトルが言う。
しかし、現実的な問題として、どうしようもない距離が壁となって立ちはだかる。

「どうやって行く?」

椅子に座ったブラッドが冷静に言う。
聞くところによると、アキラのテレポートはあくまで緊急回避用であり、思った場所に行けるほど精度はよくない。
ここに来たのも偶然だ。
テレポートを使わないとなると、かなりの距離を踏破しなければならない。
時間がかかればかかるほど、ジャファルともう一人他人の姿を模す特技を持った奴は遠ざかっていく。

「歩いてでも行くに決まってるだろ!」
「歩いていく必要は無い」

そう言うとブラッドに対して、ヘクトルは疑問の眼差しを向ける。
しかし、ブラッドはリンのベッドのそばに立っているアキラに体を向けた。

「アキラ、お前のいた村の地理は覚えてるか?」
「ん? あぁ、覚えてるよ。 忘れるはずがねぇ……」

何故かそこにあったのは幼い頃から過ごしてきた懐かしきチビッコハウス。
ミネアに扮した奴を追っていたときに見た町並みだって決して忘れやしない。
あれは子供の頃から毎日のように歩き、慣れ親しんだ町。
そう、あれこそはアキラの住んでいた日暮里の町だ。
小さい頃に鬼ごっこやかくれんぼを何度もして、路地裏の地理まで把握している。
何故そんなものがこんなとこにあるのかは分からない。
その言葉に、ブラッドは満足してあるものを差し出す。

490 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:36:30 ID:wNsXvNik0
「だったらテレポートジェムで行ける」

琥珀色に輝く結晶体のような物がブラッドの手に握られている。
一度行った町などの施設に、瞬時に飛んでいけるファルガイア製のアイテム。
これがあれば時間と距離の壁は易々と打破できる。

「どうしてそんな便利なもの今まで使わなかったんだい、ブラッドおじさん?」

イスラの当然の疑問にブラッドが事情を説明する。
元々ブラッドもこれを利用する気はあったのだ。
だが、深夜に出会った魔王のせいで河に飛び込む羽目になり、その後はヘクトルも知っているとおり町に寄る機会に恵まれなかっただけだ。
しかし、さすがにそんな便利なアイテム、しかも一つしかない貴重品を使わせるのはヘクトルも躊躇われた。

「いや、そこまでしてもらう義理はねえよ。 俺は一人で行く」
「いいから使え」
「いや、いいって! 第一お前はこれでアナスタシアの行きそうなところに跳べるじゃねえか!」
「いや、アナスタシアに接触してからもう半日近く経っている……追跡は難しい。 これを使う意義はまだそこまで時間が経ってない人間を追うのにある」

アナスタシアの捕捉を諦めた訳ではない。
西に行くといっても、それだけの情報でそれ以上は追跡が難しいだけのこと。
目の前にやるべきことがあるのだから、アナスタシアの説得だけを優先させる訳にもいかないのだ。

「僕は、ヘクトルについていくよ。 アナスタシアに会うなんてこっちから願い下げだからね」

壁際にもたれ掛っていたイスラも、テレポートジェムを使うのに賛成する。
ヘクトル一人でやるつもりだったのに、いつの間にか多くの仲間に恵まれている。
そのことに、ヘクトルは感謝した。

「行くぜ……行ってくるぜ、リン」
「待って……私も行く……」
「無理するな。 俺に任せてお前は寝てろ」
「ううん……ミネアは大やけどを負っても頑張っていたんだもの……私だって」

自分だけが寝ているわけにはいかない。
無理を言って、ヘクトルについていく。
そのことに納得したヘクトルはリンを軽々と肩にかついだ。

491 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:38:05 ID:wNsXvNik0
「ちょっ、何するのよヘクトル!」
「俺がおぶってやらあ。 女一人なんて気にもならねえ軽さだ」
「バカっ! 恥ずかしいわよ!」
「うっせえ! だったら置いてくぞ? 怪我人は大人しく休んでろよ」
「ヘクトル……」
「俺は強いんだよ。 お前一人くらいなんてどうってこたあねえ。 それによ……フロリーナが死んで、お前にも死なれたら目覚めが悪いだろうが」
「……うん、分かった」
「おし、じゃあ行くぞ」

肩に担ぐという方法だけはなんとかして欲しいものだ。
しかし、それ以外となるとお姫様だっことかしか浮かばないし、肩車など持っての外だ。
結局、それで納得することにした。
ガチャガチャと鎧の音が聞こえる。
昔は、それがうるさくて喧嘩もしたことあってけど、今となっては懐かしい思い出だった。
外に出ると、先に出ていたアキラたち三人は各自身体を揉み解し、あるいはストレッチなどの準備に余念がない。
屈伸運動をしているブラッドに、ヘクトルは近寄りながら声をかけた。

「どうだ? 身体の調子は?」
「悪くないな」

全身についた傷を見ながら、ブラッドが答える。
リンを担いでいることには、特に何か言う気はないらしい。
アキラにとりあえず開いている傷の治療だけはしてもらっているから、これ以上は無理しなければ体調が悪化することはない。
といっても、開いた傷を元通りに治したりするものではないが。
暗示に近いもので、傷の痛みを感じないようにさせたり、人間の持つ自己治癒能力を無意識に活発化させるだけだ。
ブラッドの回答にとりあえず満足し、次にヘクトルはイスラとアキラも見やる。
こちらの二人も問題は特にないようで、準備運動を終わらせて後は移動を待つばかりになっている。
物珍しそうにテレポートジェムを見るアキラに対し、ブラッドが使用方法を教える。

「それを持って、行きたい場所を念ずる。 それだけでいい。 
 行き先のイメージが難しいなら、行き先の町並みを思い浮かべながらでも、町の名を声に出しながらでもいい。 とにかくイメージが大切だ」
「なるほど、それなら朝飯前だぜ」

アキラは数々の超能力の使い手だ。
イメージを組み上げるのはお手の物。
ましてや、行き先は数々の思い出があるあの街。
アキラにとって、不安要素などあろうはずもない。
だが、自信ありのアキラに対して、ブラッドはある懸念を抱いていた。

492 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:38:57 ID:wNsXvNik0
「そんじゃ行くぜ。 お前らしっかり固まってろよ」

テレポートジェムを使う直前、アキラはミネアのことを考える。
短い付き合いだった。
自己紹介さえ満足にしてない、仲間と言えるかどうかも怪しかった間柄。
アイシャだってそうだ。
時間にすれば一時間にも見たいであろう時を、一緒に戦っただけ。
でも、それでいい。
人と人が繋がる理由はそれだけでいい。
目の前にある荒波を共に越えようと助け合う者たちは、それだけでもう仲間なのだ。
託された想いと絆という襷は、とても重い。
でも、決してそれを捨てたりはしようと思わなかった。
この荷物を背負って、ずっと歩き続けるつもりだ。

サンダウン・キッドの亡骸はリンを城下町に運ぶ前に確認した。
生まれた時代も着ている服も何もかも、統一性の欠片もない7人の奇妙なパーティー。
そんな中で、彼は最も寡黙な男だった。
だが、アキラは知っている。
彼の心の奥に秘められた熱き血潮と魂を。
彼の心を覗いたことのあるアキラは、サンダウン・キッドという男が自らを語らなくても、彼の性質を理解していた。
ああ、分かる、分かるとも。
きっと、サンダウン・キッドは何かを守ろうとしていたのだろう。
きっと、サンダウン・キッドは何かを守ろうとして戦っていたのだろう。
そして、魔王オディオを倒そうとしていたのだろうということが。
なら、それを俺が受け継いでやる。

こうして、またアキラの心の中に背負うべきものが一つ増えた。
人と人の思いを一つ、また一つと繋いでいけば、安易な方法に頼らなくても人はきっと一つになれる。
争いも苦しみもない未来をきっと掴み取れる。

「行くぜ!」

頭上にテレポートジェムを掲げ、アキラは行き先を思い浮かべる。
琥珀色のテレポートジェムが砕け、そこからいくつもの光の粒子が生まれると、四人の体を包み込む。
初めての経験に、ヘクトルとイスラは不思議な物を見るように、自分の体を包み込む光の粒子を見ていた。
イスラが自分の手を見ると、光の粒子に包まれた手は徐々に消えていく。
ヘクトルが自分の足を見ると、もう完全に消えて見えなくなっていた。
しかし、痛みなどは感じない。

493 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:39:45 ID:wNsXvNik0
「不思議な感覚だね……」

胸元まで来たテレポートジェムの光を見ながら、イスラが言う。
今この瞬間、消えている足は一足先に行き先に行っているのだろうか?
単純な疑問が浮かんでくる。
もうそろそろ、顔まで光に包まれてしまう。
まぁ、そんなことどうでもいいかと開き直って、このまま身を任せることにしたイスラ。
だが、琥珀色の光の色をしていた粒子が、一瞬だけ赤い光に変わる。
ブラッドが異変を察知して声を上げた。

「失敗だ! どこに飛ばされるか分からないから身構えていろッ!」

これがブラッドが唯一懸念していた材料だった。
テレポートジェムによる移動というのは、時折失敗することがある。
リルカなどは特にこのアイテムと相性が悪いらしく、よく全然違う場所に飛んでいたものだ。
だから、慣れない者がテレポートジェムやオーブを使う場合、迷子にならないよう熟練者についてもらったり、予備のジェムをたくさん持つのが常識なのだ。
今回はブラッドというテレポートジェムに慣れた人がいても、予備のジェムはない。
アキラがテレポートを使えるといっても、ファルガイア製のテレポートアイテムとは相性が抜群という訳にはいかなかった。
そう、四輪駆動の自動車が操縦できるからと言って、二輪車の扱いが同じ要領でできることがないように、
メラが使えるからと言って、ファイアの魔法をすぐに使えたりはしないのと同じ理屈だ。

「おい! じゃあ何処行く――」

ヘクトルが何かを言おうとするが、光はヘクトルの頭頂部まで包み、何も言えなくなる。
次いで、浮遊感を感じて、ものすごいスピードでどこかへ行ってるのだけが感覚として分かる。
一度発動を開始したテレポートジェムは、例え失敗しようと止まることは無かった。



◆     ◆     ◆



どうやら、勇者と英雄とは切っても切れない関係にあるらしい。
勇者も英雄も、ほぼ同じ意味を持つ言葉。
ならば、こうしてユーリルとアナスタシアが三度目の邂逅を果たすのは、もはや運命なのかもしれない。
アナスタシアのあるところユーリル在り。
ちょこの行こうとしていた教会にしばらく留まり遊んでいたら、ようやく涙も枯れ果て、幽鬼の様に彷徨うユーリルが来た。
アナスタシアとしても、こうまで縁のあるユーリルからはもう逃げるなり死んでもらうなりしたい。
だが、ちょこがユーリルに感情移入してしまった様子なのだ。
ほんの少し前のように、向かってくるユーリルをあしらいつつ、ちょこが友達になろうと喋る構図が再現されていた。

「ねっ、おにーさん。 おにーさん何て名前なの? ちょこはねー、ちょこって言うの!」
「うううう、うあっあああああああああああ!」

494 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:40:32 ID:wNsXvNik0
話が一向に進まない。
ちょこが友好的な対話を試みても、ユーリルはうめき声をあげるながら拳を振るうだけ。
そういった余裕綽々の態度がユーリルの癇に障るのだろうが、ちょこは気づいてない。
ちょこもまた、ユーリルからユーリル自身の存在意義を奪うことになっていることに。

「ねぇ、あなたどうするの? 私を殺して、どうするの? その先に何があるの? 何が――」
「うわあああああああああ! あっうっあああああああ!」

アナスタシアの声を遮るように、再びユーリルの絶叫が響く。
絶叫が響いた分だけ、ユーリルの攻撃も苛烈さを増していく。
しかし、それさえもちょこにとっては通じない。

酷く哀れだと、アナスタシアは思った。
反論できないことこそが、アナスタシアの言うことを認めていることにも気づいてない。
ユーリルは獣のような声を上げ、アナスタシアの言葉を遮ることしかできない。
言葉を発するという機能さえ失っているように見える。
いや、もうこれは獣のような、というより幼児退行現象にも似ていた。
正論を語り諭す母親に対して、泣き喚くことでしか反抗の意を示せないような子供。
自分が勇者であると自覚して、勇者として生きる以前のユーリル本人の人格が今の状態なのか。
そんなこと、もちろんアナスタシアの勝手な推測だ。
でも、それが正しい推測だとしたら、こんなにも小さい頃から彼は勇者という使命を背負い続けてきたのか。

どうすることも、ユーリルにはできないのだろう。
これから先、どうなるのかはユーリルにも分からないのだろう。
空っぽの心を満たすために、とりあえず直前までやっていたことに身を任せる。
とりあえずアナスタシアがいるから、殺そうとする。
それが終われば、今度こそユーリルの心に何も残らないはずなのにだ。
失意のどん底にある男が、とりあえず酒を呑んで気を紛らわせ、何かに八つ当たりするようなもの。
アナスタシアが絶望の鎌を振り上げ、ユーリルの方へ向かう。

「なら……こんなこと私が言うのもなんだけど……引導を渡してあげるのが私の役目なのね」

これは自分で蒔いた種だ。
ならば、刈り取るのも自分の責任であり役目なのだろう。
もうちょこがユーリルを殺すことはないだろうから。
もう三度目の出会い。
もう三回もこんなくだらないやり取りを繰り返してきた。
次は無い。
ジリジリとアナスタシアはちょことユーリルの方に向かい、機を窺う。
さっきのように、ちょこに邪魔はさせない。
残念ながら、ちょこの言葉ではユーリルを救うことも殺すこともできないのだ。

大きく、息を吸う。
アナスタシアは、戦った経験があの焔の災厄の間しかない。
いわば、素人に毛が生えたくらいの戦闘経験しかないのだ。
だが、ちょこに任せるだけではできないこともある。
そして、今こそがそのリスクを背負うべき時なのだろう。
『英雄』が『勇者』を、『勇者』が『英雄』を殺そうとする。
なんともおかしな話だと、アナスタシアは思った。

495 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:41:24 ID:wNsXvNik0
「ちょこちゃん!」
「なに〜?」

今このときだけ、アナスタシアとユーリルの心は通じ合った。
アナスタシアがちょこの名前を呼び、ちょこはそれに対して振り返る。
そこを、ユーリルは見逃さない。
最強バンテージによって極限まで筋力を高められたボディブローがちょこの体に突き刺さる。

「うわぁっ!」

ちょこが大きく吹っ飛ぶ。
普通の人間なら、肉体を貫通してもおかしくないほどの威力の拳でも、ちょこはちょっと痛い程度だ。
だが、それでいい。
始めから殺そうとは思っていない。
ちょこが吹き飛び、重力の法則により着地して、そこから恐るべき脚力でユーリルとアナスタシアの前に戻ってくる前の間。
そこに、決着をつけるだけのわずかな時間があればいい。

ユーリルとアナスタシアの間に障害物が無くなる。
ユーリルがまっすぐにアナスタシアを目指して疾駆する。
アナスタシアは思い出す、あのロードブレイザーと戦ったときのことを。
あの時のように、絶大な力を振るうことはできないけど。
あの時の経験はきっと、無駄にはなっていない。
恐れず相手に切りかかる勇気、相手の攻撃を避ける技術を思い出す。
大丈夫、私はやれる、幸せを掴み取ってみせる。
アナスタシアもまた、相手の命を刈り取らんと、絶望の鎌を持って走る。
勝負は一瞬。
それ以上はちょこの邪魔が入る。

残り10メートル。
ちょこがアナスタシアとユーリルのやろうとすることに気づく。
火の鳥を二人の間に放とうとするが、今撃てばもう二人とも巻き込んでしまう。

残り5メートル。
「ハアアアアアアアアアアアッ!」
数百年ぶりに出す、アナスタシアの裂帛の気合を伴った彷徨。
思い切り、鎌を振りかぶる。
「うあああああああああああッ!」
怨敵アナスタシアを殺すために、絶叫を上げるユーリル。
今こそ天空の剣を抜き放ち、大きく振りかぶる。

496 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:42:12 ID:wNsXvNik0



しかし、その瞬間。



二人の間に一粒の光の粒子が生まれた。



一粒だったはずの光の粒子はいつの間にか大量に溢れ出し、人の足の形成する。
足から、足首へ、足首から膝へ、膝から大腿部へ、次々と人間の形を成していく。
そこまでくれば、ファルガイア出身のアナスタシアには何が起こってるのか理解できる。

「誰か……テレポートしてるのッ!?」

光の中から足は8本生まれ、四人の者が転移してることが分かる。
アナスタシアもユーリルも、突然のことに足を止める。
振りかぶり、今にも下ろされんとしていた武器の勢いを必死で止める。
ユーリルは未経験の事態に、本能が停止を命じたから。
アナスタシアは、誰か一人でも傷つけたら残り三人ないし四人全員を敵に回してしまうから。

「な、何だ!?」

四人の内の誰かが叫ぶ。

ようやくちょこが着地して、地を蹴る。
ちょこも、危機感を覚え全速力で向かった。
しかし、ちょこがたどり着くには、刹那ほどの時間が足りなかった。

アナスタシアとユーリル、そして突如現れた4人を含めた計6人。
その6人を含む周囲の空間が揺らいだかと思うと、手品のように消え去ってしまった。
誰もいない地面に着地して、ちょこは呟く。

497 ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:42:48 ID:wNsXvNik0
「おにーさん?」
誰もいない。

「おねーさん?」
誰もいない。

「どこー?」
誰もいない。

「かくれんぼ? ちょこ鬼になったの?」
誰もいない。

「ちょこ……ひとりなの?」
これがかくれんぼでないと、理解する。

「おねーさん、おにーさん……どこ?」
残酷な世界に、彼女の叫びは誰にも届かない。


【F-1教会付近 一日目 夕方】

【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:腹部貫通(賢者の石+自動治癒で表面上傷は塞がっている)、全身火傷(中/賢者の石+自動治癒)
[装備]:黄色いリボン@アークザラッド2
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
0:おにーさんとおねーさんどこ?
1:おにーさん、助けてあげたいの
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
3:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は不明(少なくとも覚醒イベント途中までは進行済み)。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザ達の名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※意識が落ちている時にアクラの声を聞きましたが、ただの夢かも知れません。
 オディオがちょこの記憶の封印に何かしたからかもしれません。アクラがこの地にいるからかもしれません。
 お任せします。後々の都合に合わせてください。

498Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:45:22 ID:wNsXvNik0
マリアベルが語りを終える。
先導するマリアベルが話してきた内容は、とても重いものだった。
ロザリーは、今日一日で何度となく驚いてきた。
ここに来て、ロザリーは自分の常識の数々をひっくり返される。
雷呪文を扱えるのは勇者だけと言う常識、魔王を打ち砕くのは勇者という常識。
それらは常識でも何でもなく、単なる先入観や偏見でしかなった。
しかし、それを認めたくない自分がいるのも確かだ。
昨日までの常識は間違っていたんですよと言われて、はい分かりましたと言えるほど、度量が広い存在などそうはいない。
だが、どれだけ反論を考えても、マリアベルの言葉に対する有効な論は見当たらなかった。
だったら、ロザリーが勇者様と呼んでいたユーリルもまた、勇者を求める世界によって捧げられた生贄なのだろうか?
そう考えてしまう。
勇者の旅には、ほんの少しだけ同行した思い出がある。
勇者とその仲間の間には笑顔が耐えることはなく、戦闘の際にも強い信頼と絆が見て取れた。
でも、だからと言って問題ないと言えるのだろうか?
終わりよければ全てよしという結果論で語れる問題ではないのだ。
もしもこの先遠い未来、世界を再び暗雲が覆っても、勇者がなりたくもないのに勇者になっても、綺麗な思い出さえ作れば問題ないのだろうか。
ロザリーは、俯きながらそのことをずっと考えていた。

ニノは女だ。
だから、あまり関係ない話だと思っていた。
英雄譚に目を輝かせるのは男の子であって、自分には興味のない話だと思っていた。
しかし、本当にそうなのだろうか。
英雄とは絵本に描かれるような遠い存在ではなく、もっと身近なものではないのだろうか。
アナスタシアという、生きたいという思いが強かったが為に英雄になってしまった女の子と、ニノに何か違いはあるのだろうか。
下級貴族ではあったが、アナスタシアがアガートラームに選ばれたのは生まれた血筋が原因ではない。
ニノとは何の変わりも無い、今日を楽しく過ごして、明日起きて何をするか楽しみにして寝る普通の女の子だ。
英雄になりたくなくてもなってしまったマリアベルの友達、英雄になろうとしていた人たち、英雄の名を背負った人たち。
そんな『英雄』に向き合っていったアシュレーやマリアベルの冒険は、ニノの想像を絶していた。

「すまぬな……そなたらを困らせるつもりはないのじゃ」

ただ、そうやって逝った友達がいたことと、『英雄』という言葉を勘違いして欲しくなかっただけだ。
『英雄』とは決して綺麗な響きだけを持つ言葉ではないこと、『英雄』を特別視してほしくないということを伝えたかった。

「すごいよ……」

ニノがそう、口に出した。

「あたしには、そんな答え一生かかっても出せないよ……」
「何故じゃ?」
「だって、あたし馬鹿だもん……」

499Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:46:03 ID:wNsXvNik0
ニノには学がない。
政治も分からぬ。
読み書きだってつい最近覚えたばかりだ。
だから、今マリアベルが語っていった人たちのように、『英雄』に対する答えを見つけることは到底できないと思った。
ファルガイアを救うのはたった一人の『英雄』などではなく、ファルガイアに生きる全ての生きたいという思いだ。
だから、『英雄』なんかいらないと言ったアシュレー=ウインチェスター。
『英雄』とは何かを為そうとする人の心に等しく存在するもの。
そして、『英雄』とは勇気を引き出すための意志の体現だと言ったブラッド=エヴァンス。
どれもとても重く、一朝一夕では見つからない答え。
みんな必死に考えて考えて、答えが見つからない現実に何度も苦悩して、その果てにやっと導き出した回答なのだろう。
そんなもの、落ちこぼれの自分には逆立ちしたって答えが見つかるはずがないと、ニノは思っていた。
だが、先を歩くマリアベルは少しムッとした様子で言い返した。

「ニノよ、無知であることを自覚するのはよい。 じゃが無知であることを免罪符にしようとするな。
 わらわは学ぼうとする無知は嫌いではないが、学ぶ気のない無知は好かぬ」

無知であることを免罪符にして答えを求めることを放棄すること、それこそが無知の極致だ。
アシュレーたちはみんな、『英雄』とは何かという問いに対して、それぞれの答えを見つけ出した。
そう、『英雄』に決まった答えなどない。
数学のように確たる答えもない、禅問答のようなものだ。

「お主が誰かを守る強さが欲しいのなら常に強くあろうとし、どうすれば誰かを守れることができるかを常に考えるのじゃ」

それは『英雄』に対してだけの問題ではない。
マリアベルの『人間とは何か?』というノーブルレッド永遠の命題と同じようなものだ。
決まった答えも返しの定型句もないような問題に直面した時でも、常に答えを探すことを忘れてはならない。

求める限り、答えは逃げていく。
求めない限り、答えは得られない。

ならば、答えを追い続けて、いつの日か掴み取るのだ。
己の無知を知り、なお答えを求める者。
それはもはや無知ではない。
ニノはしばらく内容を理解できなかったが、自分の頭の中で噛み砕いて、マリアベルの言葉を理解していく。

500Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:46:34 ID:wNsXvNik0
「うん、分かった。 じゃああたし、まず何をすればいいの?」

マリアベルはその答えに満足しつつ、答えを返す。

「まずは、進むこと。 それが一番じゃな」

『英雄』に対する答えを見つけるのも、仲間の死を悲しむのも、オディオに怒るのも、全ては進まないと始まらない。
だから、今は神殿で雨宿りをすることを始める。

「案ずるなニノ、ロザリーよ。 もう夜は近い。 繰り返される夜は全て我がノーブルレッドのものじゃ。
 誰が居ようと来ようと負けはせぬわ」

振り返り、自信満々に言うマリアベル。
先の見えない不安に対する、マリアベルなりの励ましだ。
マリアベルの言われた言葉をしっかり理解し、もう『英雄』に対して向き合うニノ。
対するロザリーは、生きてきた年月がニノより長い分、常識という壁が少し分厚い。
マリアベルの言葉に間違いは無いと思うが、すぐに考えを切り替えることはできなかった。
常識というのはいつもは役立つが、それが脅かされると途端に厚い壁となって立ちふさがる。
ニノの純粋さが、少しだけロザリーは羨ましかった。

湖の外周部分に沿って歩き、ようやく橋の付近まで来た。
後は橋を渡るだけだ。
誰もが半分安心しかかっていたその時――

「助けて!!」

という声が聞こえてくる。
空模様は一層厳しさを増す。
雷が、そう遠くない場所に落ちた。



◆     ◆     ◆



行動方針は、村とその周辺を行ったり来たりで参加者を狩る。
探し人とのすれ違いを防ぐと同時に、知らない場所で戦うより多少土地勘のある場所で戦えるようになるからだ。
今は、再び村を離れて多少遠くまで出てきた。
生憎の空模様だというのに、先を行くジャファルはそんなことをまったく気にしてない。
当然かとシンシアは思う。
暗殺者にとっては、夜の闇は身を隠す絶好の隠れ蓑になる。
雨は足音や殺気も消してくれるから、夜の雨と暗殺者とは鬼に金棒の組み合わせ。
そこにジャファルが行くのはごく自然なことなのだろう。
シンシアも反対はしない。
言わば、これはジャファルのご機嫌取りのようなものだ。
さっき独断専行をした借りを帳消しにするという意味で、シンシアはジャファルの行く先に文句を言わずついていく。

501Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:47:11 ID:wNsXvNik0
いつか来る決別の時まで、お互いがお互いを利用しつくす。
そして、いつしかシンシアとジャファルは行動を共にする限り、必ずや戦わねばならない日が来る。
といっても、実力では圧倒的にジャファルが上だ。
ただの山育ちの娘と、一流の暗殺者のジャファル。
借り物の身体も決して弱くはないが、ジャファルとシンシアの間には埋めようのない戦闘経験の差があった。

しかし、シンシアも負けられはしない。
シンシアはシンシアにしかできないことをして、ジャファルの首を取ればいい。
例えば、シンシアは回復魔法を持っているのに対して、ジャファルは持ってない。
これは大きなアドバンテージだ。
言わば、戦闘で負傷した際のジャファルの生殺与奪の権利はシンシアのものだ。
まだまだ使えそうな怪我なら治してやり、もう使えそうになくなったら切り捨てればいい。
勇者の命を、こんな暗殺者に殺させてはならない。

勇者とは、決して絶やしてはならぬ灯火のようなもの。
世界に光をもたらすものが、こんなところで命を落としてはならないのだ。
その火を灯すために必要な負債や代償は、余すところなくシンシアが支払う。

シンシアは影。
光を際立たせる影。
綺麗事ばかりでは生きていけない世界で、正しき勇者に代わって悪を為す存在。
これは一人しか生き残れないバトルロワイアル。
未熟な勇者の卵のユーリルに、今はまだオディオのような巨悪は討つ力はない。
そう、シンシアの知るユーリルはまだまだ勇者としてヒヨッコ。
今は、シンシアがユーリルを守らねばならないのだ。

いずれ来る過酷な運命に旅立つユーリルのそばに、シンシアはいることはできない。
シンシアはせいぜいモシャスのような、多少珍しい呪文が唱えることができるくらい。
力不足なのだ。
だから、小さい頃からせめてユーリルには帰ってくる場所がここにあるんだと教えてあげるように務めた。
激しい戦いの連続で心が折れても、村で暮らした楽しい想い出が立ち上がる力となるように。
といっても、それは村の比較的年寄りの連中が言っていたことだ。
未来の勇者様の力になれるようとか、勇者だから大切に相手しろとか。
そんなの馬鹿らしいとシンシアは思う。
そんな年寄りに対して、いつもシンシアは言ってきた。

502Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:47:52 ID:wNsXvNik0
ユーリルはユーリルなの。
勇者様って名前じゃないわ、と。

そう言うと、大人たちはいつも苦笑していたのを思い出す。
ユーリルが勇者じゃなくても、シンシアはユーリルと仲良く暮らした。
なんて言ったって、同年代の子供がいないのだ。
仲良くならない方が難しい。
山奥の村では、みんなが家族なのだ。

家族。
それは絆。

家族。
決して裏切らない。

家族
血が繋がっていなくてもなれる。

人が少ないからこそ助け合い、血が繋がってなくても家族以上に絆が深かった。
楽しい想い出もたくさん作った。
虫を捕まえて、小川で水遊びをして、森の中でかくれんぼをした。
魔物の動きが活発になる前は、朝早くから夜遅くまで山の中を走り回った。
お城のある城下町なんかと違って、山奥の田舎村には何もない。
でも、何も無いけど、何も無いからこそ、いつも平和で村の笑顔が耐えることはなかった。

ユーリルはいつも口数が少なかった。
言葉少なく、そのことに不安を持つ大人もいた。
でも、誰よりもユーリルと長く暮らしたシンシアは知っている。
その数少ない言葉の端々から垣間見えたユーリルの優しさを。
きっと、ユーリルは勇者なんかよりもっといい職業があるんじゃないかなと思う。
ユーリルが勇者じゃなくて、このまま何も変わらないまま一生暮らせたらいいなと、何度考えたことか。
それに、きっと、恋してた。
でも、それを打ち明けるより前に魔物の軍団がついに村の居場所を突き止め、仮初めの平和は幕を閉じた。
シンシアの役目は決まっていた。
モシャスを唱え、勇者の身代わりとなること。
ユーリルの隠れた場所が見つからないことを祈りつつ、シンシアの命は絶たれた。

503Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:48:39 ID:wNsXvNik0
でも、何故かシンシアは二度目の生を与えられた。
それだけなら戸惑っていただろう。
何故よりにもよって私の命が?と。
しかし、ここにはあのユーリルの名前もあった。
ならば、シンシアのやることは決まっている。
今度もこの命を後の世の平和のため、ユーリルという家族であり世界の光でもある幼馴染を守るのだ。

そう、思っていた。
そう、思っていたのに。
そう、思って己の手を血に染めたのに。

新たな三人の目標を捕捉した時、ジャファルはついにシンシアに牙を剥く。
シンシアよりも先に三人のターゲットを見つけていたジャファルは、その内の一人を見たとき、ついに見つけたと確信した。
波紋一つ立たない水面のようだったジャファルの心が波打った。
何時も無表情、何時でも無感情のジャファルが唯一心乱れる存在、それがニノ。

決まった。
ニノを見つけた以上、ジャファルにシンシアのような女と手を組む理由はない。
あらかじめ決めていた作戦に従わず、抜け駆けした気質からもシンシアの危険性が伺える。
何より、どちらかが探し人を見つけるまでが手を組む期間だった。
ジャファルには運が味方し、シンシアにはしなかったのだろう。
振り向くと同時に、ジャファルはシンシアの心臓に刃を突き立てんとする。
シンシアの目には、前を歩くジャファルが音もなくフッと掻き消え、次の瞬間にはシンシアの腹にアサシンダガーが刺さっていたようにしか見えない。
心臓を避けたのは、シンシアもジャファルのことを逐一警戒していたため。
借り物の体の内臓が破壊されるのを、シンシアは名状しがたい激痛とともに感じた。
あわててジャファルを突き飛ばし、なんとか距離は離す。
ここに来て、シンシアもジャファルが同盟関係を解消して、襲ってきたのだと理解する。
突然ジャファルが心変わりしたか、あるいは見つけた三人の中に探し人がいたか、どっちも考えられる。
激しくシンシアは吐血する。
口元に手を当てても、なお零れるほどの出血だった。

来るべき時がついに来た。
そして、先手をとられてしまった。
回復呪文の効果が薄いここでは、一瞬の油断が致命傷になる。
シンシアはジャファルの追撃をかわす様にバギマの呪文を唱えると、見つけた三人の元へ地を蹴った。
単独でのジャファルの撃破は無理だ。
ならば、あの三人に助けを求めるしかない。

死ねない。
こんなところで死んでたまるか。
勇者を守るという責務があるのだ。
しかし、敵はあまりにもシンシアと実力差がありすぎる。
ミラクルシューズの恩恵はあるが、ジャファルがいつ背中に迫ってくるか分からない恐怖で、シンシアはみっともないくらいの大声で叫んだ。

「助けて!!」



◆     ◆     ◆

504Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:49:34 ID:wNsXvNik0
「ミネアさん!」

必死の形相で走ってくる女の顔に、ロザリーは見覚えがあった。
勇者の仲間の占い師の名前を呼ぶ。
その体からはおびただしいほどの血が見える。
マリアベルとニノが戦闘態勢に入る。
マリアベルが前に立ち、ニノは後ろへ。
誰かに襲われていることを三人とも感じ取る。
ミネアは後ろを向き、バギ系最高位の呪文を背後に放っていた。

「バギクロス!」

ロザリーのヴォルテックとは比較にならないほどの出力。
上空の雲に届くほどの竜巻を形成すると、竜巻はその行く先にあるすべてを切り刻み、吹き飛ばす。
木も草も砂も、削り取られ上空に舞う。
巨木がいくつか湖に落ち、水しぶきと大きな音を立てた。
しかし、敵は倒せてないようで、ミネアは再びこちらに走り寄ってくる。
マリアベルを先頭にして、三人がミネアのところへ駆ける。
その中で、ニノが一瞬だけその姿を見た。
木から木へと飛び移るその姿、気配を消して新たな遮蔽物へ身を隠すそのわずかな瞬間を、ニノは捉えた。
翻る闇のような黒衣、風になびく赤い髪、そして氷のように冷たい刃……それはニノの愛しき人、ジャファル。
ニノは襲っている相手が誰なのか認識した。
ニノが声を出す前に、再びジャファルは姿を消す。
ようやくジャファルを見つけたことに対するうれしさか、それともジャファルの今やってることに対する悲しさからか、ニノは泣きそうになった。
次に姿を現した時は、マリアベルたち三人全員がジャファルの姿を目撃した。
バギクロスをなんなく避けたジャファルはすでにシンシアに肉薄しており、右手に握られたアサシンダガ―をシンシアの背中に突き立てようとするところ。

「止めてーーーーーーーーーーーーっ!!」

悲痛な叫びをニノが漏らす。
ジャファルの顔がわずかに歪む。
だが、それで黒い牙最高の暗殺者に与えられる称号『四牙』を持つ男が止まったりはしなかった。
ミネアの背中に、ジャファルはアサシンダガ―を刺した。
ミネアが、力なくその場に倒れた。



そして、同時に。



アナスタシアとユーリルの争いの場に乱入してしまい、緊急回避にテレポートを使ったアキラたちがジャファルとニノたちの間に飛んできた。



◆     ◆     ◆

505Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:50:26 ID:wNsXvNik0
アキラのテレポートは、特に水のある場所に引き寄せられることが多い。
それはチビッコハウスのトイレだったり、お風呂場だったり、いつかに迷い込んだ不思議な迷宮も水路があった。
ならば神殿の泉……しかもアキラがアイシャを水葬したここに飛んでくるのは、極自然なことなのかもしれない。
飛んできたのはアキラ、ヘクトル、リン、イスラ、アキラ。
そして、アキラのテレポートに巻き込まれるようについてきたユーリルとアナスタシアの計7人。

「何が起こった……」
状況が分らないのはヘクトルとイスラとユーリルとアナスタシアとリン。

「アナスタシア・ルン・ヴァレリア……!?」
状況をいち早く理解しようとしているのはブラッド。

「ここは……アイシャの……ッ?」
そして、どこに飛んだかを把握したアキラ。

「ブラッド……お主一体どこから降ってき――アナスタシア……なのか……?」
突然の仲間とその集団の出現に驚き、そして数百年ぶりに再会したマリアベル。

「勇者様!」
そして、ユーリルとの出会いに驚くロザリー。

誰もが驚き戸惑う中、ジャファルだけが己の目的を行動に移していた。
ミネア――本当はシンシアだが――にかろうじて息があるものの、もはやジャファルの目的にミネアの殺害という項目はなくなった。
優先すべき事柄はただ一つ、ニノの保護。
ジャファルにも何が起きたのかは分らない。
突然7人もの人間が出現して、驚かないはずがない。
だが、分らなければ分らないでよかった。
それよりもニノの安否の確保が大事なのだから。
ニノ以外の人間など、ジャファルには興味も欠片もない。
あの7人の中に、ニノに対して敵意を向ける輩がいないとは限らない。
そして、7人も戸惑いの為動きを止めている。
ならば、好機は今しかない。
ミネアの身体から引き抜いたアサシンダガ―の血を拭うこともせず懐にしまい、ニノの元へ駆けだす。
それはニノとの間にいた7人、そしてニノの前にいたロザリーとマリアベルの障害物をすり抜け、あっという間に到着した。
ニノを肩に担ぎ、ジャファルは全速力でその場を離脱する。

「ニノッ!?」
「ジャファルっ! てめえ!」

追いかけようとするマリアベルより早く、リンを下ろしたヘクトルが駆け出しジャファルの後を追う。
リンも、拙い足取りでヘクトルの後ろに追走してた。
残されたブラッドが、マリアベルを制する。

「待て、マリアベル。 ヘクトルとリンはあの二人の知り合いだ。 任せてやれ」
「し、しかしのう……」

ニノが心配だ。
拉致されたということはニノに使い道があるということ。
そしてニノが言っていたジャファルの特徴とも一致する。
ニノの言葉が確かなら、ニノが殺される心配はまずないはずだが。

506Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:51:44 ID:wNsXvNik0
「それよりも、こちらの収集をつける方が先だ」
「ううう、ううううぅうううぅうう!」

獣のような呻き声を上げ、天空の剣を振り上げるユーリルを羽交い絞めにすることでなんとか抑え込んでいるブラッド。
そのユーリルの目には、アナスタシアしか映っていない。
確かにこの男をなんとか抑え、何故ブラッドたちがこうして来たのか説明してもらわなければならない。
それに、アナスタシアのことが気になる。

「アナスタシア……」

あの時、今よりもう少しマリアベルが若かった当時、最後の別れをしたときと同じ格好をしているアナスタシア。
夢でも幻でもなかった。
同姓同名の人物ではと、何度も考え直したアナスタシアの姿がそこにあった。
この数百年、別れてから今までマリアベルが何をしていたか聞いてもらいたかったし、マリアベルも聞かせて欲しかった。
胸が熱くなるのをマリアベルは感じる。
何を言おうか、何から言おうか。
いくつもの気持ちが重なりあって、すぐに言葉を紡ぐことはできない。
しかし、何故かアナスタシアは見つめるマリアベルから、そっと視線をそらした。

「アナスタシア……!」

アナスタシアに会いたくなかったのに、イスラはまた出会ってしまった。
会いたくないが故に、会いそうにないヘクトルに同行したのに、何故また出会ってしまうのか。
アナスタシアは、イスラなど眼中にないようであった。
ブラッドが抑えている錯乱気味の男を見るばかりで、目もくれない。
そのことが、少しだけイスラを苛立たせた。

「勇者様……」

呆然と、ロザリーは呟く。
重装甲の鎧を纏った男がニノを追うとのことだから、ロザリーもこちらにとどまった。
うめき声を上げながら、ブラッドの腕の中から抜け出そうとする勇者ユーリル。
かつてロザリーが見た、勇者の誇りに満ちたあの面影がどこにも見当たらない。
涙と鼻水と、あらゆる体液でグチャグチャになったユーリルの顔は泣いている子供のようだった。
それに、どうしてだろうか。
今のユーリルにはかつてのピサロに通じるものがある。
あの顔は、憎しみに囚われているように見える。
アナスタシアと、マリアベルが呼んだ女に対して、一心不乱にユーリルは剣を振る。
その人に何かされたのだろうか?
しかし、何かされたとしても、何がユーリルをここまで駆り立てるのだろう。
そのことが、ロザリーは気になった。

「何なんだよ……これはッ!」

ミネアの姿を取った襲撃者が死にそうなのを、アキラは見た。
恨みつらみはある。
しかし、死にそうな姿を見ると、何とも言えない気分になる。

「ふざけるんじゃねぇよ……こんな死に方……お前だって望んじゃいなかっただろうがッ!」

507Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:52:25 ID:wNsXvNik0
仇を取れなかったことに対する悔しさと、そもそもの元凶であるオディオへの怒りと、犬死にした女へのなんとも言えない感情。
それらがない交ぜになってアキラを襲っていた。

「ユー……リル?」

ハッと、ユーリルの動きが止まる。
ユーリルに聞き覚えのある声が耳に届いたから。
蚊の泣くようなか細い声だが、ユーリルは確かに聞いた。
声のする方向を向くと、さっきまでミネアの姿をしていたものが、いつの間にか別の人間の体に変わっている。
それはユーリルが勇者となるきっかけを作った襲撃事件で、勇者の身代わりとなった女の子。
それは幼い頃から山の中を駆け回り、大切な時間を過ごした幼なじみ。
シンシア。

「シンシアぁ!」

勇者になる前のユーリルを知っている、唯一の人間。
その人が、今瀕死の状態でうつ伏せに倒れていた。
アナスタシアのことも忘れ、ユーリルはシンシアに触れようとブラッドの腕の中で暴れた。

「離せ、離してくれ! シンシアが、シンシアが……シンシアがっ!」

先ほどまでとは打って変わって理性的な響きを持つ声に、知り合いらしいと推測したブラッドは手を離してしまった。
知人の今わの際の言葉を聞く権利を蹂躙するほど、ブラッドは薄情ではない。
ユーリルは急ぎシンシアに近寄って体を起こし、べホマの呪文をかけるが、完全に手遅れなことを悟る。

「シンシア! シンシア! しっかり!」

どうして今までシンシアを放っておいたのか、ユーリルは自責の念に駆られる。
昔と違って、今ならユーリルにはシンシアを守れる強さがあったのに。
今度は、自分が守る番だったのに。
またもユーリルは間に合わなかった。
シンシアはユーリルの昔を知っている唯一の人物だ。
そう、シンシアは山で過ごした家族なのだ。
勇者でない自分を暖かく迎え入れてくれるはずなのだ。

508Famille ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:53:01 ID:wNsXvNik0
家族。
それは絆。

家族。
決して裏切らない。

家族
血が繋がっていなくてもなれる。

その、家族の命が今また失われようとしている。
ユーリルは、力いっぱいシンシアを抱きしめ、今にも消えかかっている命を繋ぎ止めようとしていた。

「ユーリル……」

最後の力を振り絞り、ユーリルの手を掴む。
それは、シンシアの知っている頃より、少し逞しくて太い気がした。
ようやく会えた。
泣きはらしているユーリルの優しさを、シンシアは嬉しいと思った。
そう、ユーリルはこんなにも優しい子なのだ。
この光を守るために、シンシアは手を汚した。
世界の希望を守るために、神様の教えに背く大罪を犯した。

もうすぐ、シンシアは神の下へ召される。
きっとシンシアは天国にはいけず、地獄の業火で何百年何千年と焼かれるだろう。
途方もなく痛いんだろう。
今感じている痛みの万倍の苦しさがそこにあるんだろう。
だけど、それでも構わなかった。
ただ、ユーリルの笑顔があれば、それだけで笑えて逝けた。
それだけで、地獄の責め苦に耐えられる気がした。
だから、最期に――

「笑って……ユーリル」

そう言った。

悲しいときに、笑えと突然言われてもユーリルは困った。

シンシアだけが、ユーリルの反応がおかしくて笑みを浮かべた。

「頑張って……」

もう、声を出す力もなくなってきた。
瞼が、すごく重い。
だから、これが最期の言葉。

「皆を救って……。 あなたは……勇者なんだから……」

ユーリルという光に賭けて、シンシアは手を汚した。
ユーリルの笑顔が見られるなら、どんな罰でも受ける気だった。

なのに。

たどり着いた先に、光はなかった。
あるのは、黒よりも黒い闇だった。

シンシアが最期に見たのは、どす黒い表情をしたユーリルの表情。
そして、シンシアの顔に振り下ろされるユーリルの拳とグロテスクな音。





ぐちゃり。





―――――え?

【シンシア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち 死亡】
【残り25人】




雨が。
最初の一粒がユーリルの頬に落ちた。

509 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:55:34 ID:wNsXvNik0
「ジャファル! 放して! あたしを放してよ!」

荷物を背負ったジャファルは、いつもの俊敏さが見られない。
しかも、背負った荷物は暴れるものだから尚更だ。
安全だと思われる距離まで離れて、ジャファルはニノを下ろした。
ジャファルが自分の言うことを聞いてくれたのかと安心したニノは、元の場所に戻ろうとする。
しかし、ジャファルはニノの腹に当身を喰らわせて意識を奪い取った。
不意の一撃に、ニノは予測も反応もできないまま気絶した。
そのまま倒れそうになるニノを、ジャファルはまた担ぐ。
これでいい。
ニノには悪いが、これで運びやすくなった。
ニノには、安全なところで目を覚ましてもらうことにする。
その際、ニノからどんな文句や弾劾の言葉が出ようと、ジャファルは甘んじて受け入れよう。

そう思ったとき、ジャファルは何者かの体当たりを受けていた。
吹き飛ばされるが、ジャファルは空中で綺麗に体を一回転させると、足から地に着地する。
懐からダガーを抜き出す。
そこにいたのは、かつてわずかな時間だけを過ごした人物――ヘクトル。

「オスティア候弟……」
「もう候弟じゃねえ。 オスティア候だ」

鋭い瞳で睨み付けるヘクトル。
再会して懐かしさのあまり談笑、とはいかない。
お互い、完全に相手を敵と認識している。
さらに、先刻ジャファルが仕留めそこなったリンが気絶したニノの体を起こしていた。

「おいジャファル。 お前、リンを襲ったか?」
「……」

肯定も否定もしない。
無表情で、ジャファルはいつヘクトルに攻撃するか探る。
ヘクトルは、それを肯定と受け取った。
ゼブラアックスを構えたヘクトルは、隙を見せないように畳み掛けた。

「ニノのためだな? こんなことやってんのは……」
「……そうだ」

これだ。
黙して語らずを地で行く男が、唯一饒舌になるのがニノ関連の時だった。
ヘクトルはゼブラアックスを思い切り地面に叩きつけ、怒りを露わにする。
あまりの勢いに、地面が少し揺れたのをリンは感じた。

「ニノは……こんなことして喜ぶ奴じゃねえだろうがっ!!」
「……」

ヘクトルの怒りを、無表情で受け流すジャファル。
そんなこと、ジャファルは百も承知だ。
ニノがそんなことを嫌っているのは、誰よりもジャファルが知っている。
だが、それがどうしたというのだ。

「覚えてるかジャファル……? エリウッドの信頼を裏切るなって言ったこと」

かつて、ネルガルの殺人道具に過ぎなかった時からニノを守るという使命を得たとき。
ジャファルはヘクトルから釘を差された。
レイラを初めとした、ヘクトルの多くの仲間をジャファルは殺している。
それが許されたのは、当時のジャファルはネルガルの意のままに動く道具でしかなかったこと。
ニノのために、改心すると誓ったからだ。
だから、エリウッドはジャファルを許せと、ヘクトルに言った。
ヘクトルも、ジャファルにレイラを殺された恨みがあるのに、とりあえず許した。
そう、ジャファルを許したのは、ジャファルがニノのために改心すると誓ったからだ。

「てめえは……てめえを許したエリウッドと、レイラを殺された俺とマシューの、そして……何よりニノの信頼を裏切った!!」

叩きつけられる言葉に、ジャファルの表情が少し揺らいだ。

「あの女の人……ジャファルの仲間じゃなかったの!?」
「必要なくなったから殺した。 それだけだ」

510 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:56:54 ID:wNsXvNik0
リンはシンシアが襲われる瞬間を目撃したわけではない。
ただ、仲間だったはずの血まみれの女を見捨てたことに対して、リンは怒った。
ジャファルは、それに対してもまるで興味がないように言い捨てた。
これ以上の問答は無用だと判断したジャファルは、影縫いも取り出し二つの短刀を構え、ヘクトルにあることを言う。

「俺は……フロリーナを殺した」

実際は違うが、事実とそう変わりはない。
シンシアがフロリーナを殺す瞬間を眉ひとつ動かさずに見ていた。
ニノの友達であり、ヘクトルの恋人であるを死を告げる。
リンの襲撃に加えて、フロリーナの殺害を認められたことに対して、ヘクトルは烈火のごとく怒った。
それでいい。
言葉は無用だ。
これから先、かわすのは刃だけでいい。

「来い、オスティア候。 俺はお前を殺す理由がある。 お前は俺を殺す理由がある。 必要なのはそれだけだ」

平和。
自由。
正しさ。
そんなもの、ジャファルはいらなかった。
ニノだけが、ジャファルの望む全てだった。
あの真っ直ぐで純真なニノの眼差しが閉じられることだけは、なんとしても避けたかった。
ジャファルに幸せと言うのが与えられるのなら、ニノにすべてを与えよう。

ジャファルは、光を掴んだはずだった。
だが、その光を、ジャファルは手放した。
ジャファルはもう一度闇になり、ニノという光を守る。
ヘクトルが走り出すのと、ジャファルが姿を消して闇に紛れたのは、同時のことだった。




雨が。
四人の髪を濡らしていた。

511 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:57:27 ID:wNsXvNik0
【C-7西側の橋より少し西 一日目 夕方】
【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:左目失明、心臓付近に背後からの刺し傷、全身に裂傷、疲労(大)
[装備]:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、拡声器(現実)
[道具]:毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、
     デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ニノを起こす。
2:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
3:白い女性(アティ)が気になる。もう一度会い、話をしたい。
[備考]
※終章後参戦
※ワレス(ロワ未参加) 支援A



【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(中)、気絶
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:気絶。
2:仲間との合流。
3:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
5:ジャファルを止めたい。
6:マリアベルたちのところに戻りたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。



【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)、疲労(中)、アルテマ、ミッシングによるダメージ
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、
     基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒す!
1:ジャファルを倒す。
2:リン達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
4:セッツァーを信用したいが……。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、シャドウ、マッシュ、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。


【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、傷跡の痛み。
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、かくれみの@LIVEALIVE
[道具]:不明支給品0〜1、アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ヘクトルを殺してニノを確保する。
2:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
3:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦

512 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:58:05 ID:wNsXvNik0




◆     ◆     ◆



雨が。
その場にいる者の熱を冷ましていく。
だが、ユーリルの心だけは、どれだけ雨にぬれても冷えることはない。

家族…………?
何だよそれ……。

家族……?
シンシアと僕は家族じゃなかったのか?

家族。
なのに、最期にかわした会話が、あんなもの……?

家族。
それは絆。

家族。
決して裏切らない。

家族
血が繋がっていなくてもなれる。

家族。
そうだったはずじゃないか。

家族。
でも……。

家族……!
家族って何だよ。

家族!!!!!
家族なら、もっと他にかわす言葉があったはずなのに!!

513 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:58:35 ID:wNsXvNik0
今こそユーリルは悟った。
僕たちは家族でも何でもなかった。
僕が大人に成長するまでの間育てるから、見返りとして世界を救えと。
そういう契約関係でしかなかったのだ。
僕一人が騙されて、勝手に幸せになっていただけ。
もうそうとしか考えられなかった。
ちょこの言葉を思い出す。
いいね君は……大切な家族がいて。
でも僕には……家族すらいなかったんだ!
家族の仮面を被った、滑稽な喜劇だったんだ!!

役者はたくさん。
村のみんなたち。

観客は一人。
僕一人。

そんな茶番を茶番だと気付かずに、ユーリルはずっと過ごしてきた。
知らなければどれほど幸せだっただろう。
仮初めとはいえ、ユーリルは確かに幸せを感じていたのだから。
知らないでいれば、勇者の誇りを胸に抱いて生きていけたのに。
勇者でいられれば、シンシアの二度目の死でも耐えられた。
その言葉を受け継いで、立派な勇者として魔王オディオを倒そうと誓えた。

勇者でいられれば、今頃友達を死なせることもなかった。
あの憎悪にまみれた男に、クロノたちと揃って四人仲良く討ち死にできたかもしれない。
それでもよかった。
勇者しての責務を果たそうとして、途中で死んだ方が今の何万倍もマシだった。
でも、勇者の本質を生贄だと教えられた今、ユーリルには何もなかった。
あるのは勇者になる前の、ささやかな思い出だけ。
そう思っていた。
しかし、それさえ偽りに満ちたものであった。
勇者であることを知らずに無意識に生きてきただけで、ユーリルは生まれてからずっと勇者だったのだ。
それを捨ててしまった今ここにいる空っぽの人間を形容するのに、ゴミという言葉以外に当てはまるものはない。
勇者になんかなりたくなかった。
平和に、ずっと平和に生きていたかった。
それなのに、シンシアの最期の言葉は、勇者であれという無意識の強制だった。

「あ、あ、あああああぁぁぁぁぁ……」

再び獣ような声がユーリルから漏れ始める。
もうユーリルの目には、シンシアが幼なじみの顔には見えなかった。
勇者であれ、勇者になれという呪詛にも似た言葉を繰り返す魔物に見えてきた。
楽しかった思い出を守るために、ユーリルはこのシンシアを否定する。

拳を叩きつけられた衝撃で頭蓋骨は割れ、眼球がスポンと飛び出る。
飛び出た眼球は、視神経をという糸と繋がったまま地面に落ちる。
それを見て、ユーリル以外の全員が後ずさった。

「ひぃッ!」」

特に、眼球と目が合ってしまったアナスタシアは吐き気を催す。
ボキリと、ユーリルはシンシアの首を捻じ切る。
陥没したシンシアの顔の、口があったと思われる場所から赤い泡がゴポリと漏れた。
そのまま胴体と別たれたシンシアの首を、ユーリルは思い切り近くに投げる。
時速200km/sを超えたスピードで木にぶつかったそれは、トマトのようにパーンと弾けた。
脳漿や色々な液体が潰れたトマトから流れる。
それが元は人の首だったと言われて、誰が信じられようか。
誰もが、動けなかった。

514 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:59:17 ID:wNsXvNik0
シンシアをシンシア『だったモノ』にユーリルはしていく。
ここにいたのはシンシアであることを否定するかのように。

「ウああああああああァァァああああAああaああ!!」

雨が。
激しさを増してきた。

腹部を素手で引き裂くと、みっしり詰まった臓器が飛び出る。
胃を鷲掴みにして握りつぶすと、中から酸味のある刺激臭がする。
長い大腸を引きずり出し、細かくちぎっては投げ、細かくちぎっては投げた。
拳を叩きつけるたびにぐちゃり、ぐちゃりと、音に水っぽさが増した。

拳を振り上げては下ろす、振り上げて下ろす。
ただその繰り返し。
拳を叩きつけ、こねて、臓器を掻き出す。

雨が、シンシアの体内にも降り注ぐ。
ユーリルの顔と衣服は、もはや返り血でビチャビチャだった。
だが、そんなものを気にする余裕さえないほど、今のユーリルは錯乱していた。
雨がユーリルの血を流しても流しても、新たな血液が付着した。

肝臓。
心臓、肺。
膵臓、腎臓、小腸。
胆嚢副腎脾臓頚椎鎖骨肩甲骨。
胸骨肋骨大腿骨指骨尺骨脛骨。
全てを粉々に砕く。
シンシアの全てをユーリルは否定する。
それでも飽き足らないのか、立ち上がってシンシア『だったモノ』を踏みつける。

「うわああああああああああああああああ!!」

ぶちゅり、ぶちゅり。
人間らしい原型がもうどこにもない。
それでも、ユーリルは足りない。
シンシアの肉片が平らになって踏む場所がなくなっても、足りない。

「ウッ……」

口元を押さえ、ロザリーは思う。
こんなの、人の死に方じゃない。
それに、何よりあの心優しい勇者ユーリルがこんなことをするとは信じられなかった。
しかも、末期の会話を聞く限り、知り合いのようだった。
何故そんなことが知り合いに対してできるのか、不思議でならない。
最期にシンシアというミネアの姿を取っていた女性が言っていたことを思い出す。
勇者たれ、と。
その言葉を聞いた時、ユーリルの拳が彼女の顔面を破壊した。

515 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/10(土) 23:59:51 ID:wNsXvNik0
もしかして、ロザリーはとんでもない思い違いをしていたのではないだろうか。
マリアベルの先刻語った英雄に関する話を嫌でも思い出す。
アナスタシアは、『英雄』になどなりたくなかったのだ、と。
勇者ユーリルは仲間と楽しい想い出を作っていたように見える。
けれど、それは導かれし者たちにとっては楽しい思い出であっても、ユーリル本人は楽しくないと感じていたら?
彼もまた時代と世界に選ばれてしまった勇者で、本当は勇者になりたくのかったのだとしたら?
本当のことはユーリルのことしか分からない。
それはロザリーの勝手な想像。
でも、これ以上死者を冒涜するのは見捨てておけなかった。

「お、お止めください勇者様! あなたはこんな方が出来る方では――」

肩に手を掴んで、ユーリルの凶行を止めようとする。
しかし、ユーリルはロザリーの体を突き飛ばし、吹き飛んだロザリーは後頭部を強かに打ち、意識を失った。
倒れたロザリーの体を抱き起こし、意識がないことを確認すると、マリアベルは事情を知っていそうなブラッドに詰問口調で聞いた。

「……どういうことじゃブラッド?」
「俺にも分からない。 ただ、貴女なら知っているのではないか?」

ブラッドもユーリルに出会ってから経った時間は、マリアベルと数秒ほどしか時間が違わない。
名前さえ知らない。
だから、ユーリルと一緒にいたであろう人に聞く。
ブラッドは、その人物の方向に振り返る。

「<剣の聖女>、アナスタシア・ルン・ヴァレリア」

イスラもマリアベルも、ブラッドもアキラも、アナスタシアの説明を求める目で見た。
だが、アナスタシアは目をそらし、責任逃れをした。

「わ、私は……知らないわ……」

いけないことだったのか。
そんなに『英雄』とは生贄だと言ったことが悪いのか。
責めるような目で見るみんなの視線が、アナスタシアは痛かった。
ちょこもいない今のアナスタシアは、素人に毛が生えた程度の力しかない。
そのことも、アナスタシアの答を鈍らせる原因となっていた。
今ユーリルと、その他の人と戦うことになったら?
死が、近づいてくるのをアナスタシアは感じ取る。
そこで、ユーリルの足がピタリと止まり、憤怒の形相でアナスタシアを睨み付けた。

516 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/11(日) 00:00:50 ID:s4eYsUDc0
知らないだと?
誰のせいでこうなった?
どうしたこうなったと思っているんだ?
全ての原因はシンシアではなく、お前にあるのではないか?
勇者は生贄だと知ったせいで、誰がこんなに苦しんだと思っている?

そうだ、倒すべきはシンシアだったモノではない。
この<剣の聖女>、アナスタシア・ルン・ヴァレリアではないか。
アナスタシア憎しの感情が、ユーリルの中で膨れ上がる。
そして、それが頂点に達したとき、ユーリルは天の怒りを呼んだ。

「アナスタシアあああああああああああああああああああああああ!!」

ユーリルの声に応えるように、大きな雷が落ちた。
しかし、それは正義の雷でも、覇者の雷でも、勇気の雷でも、勇者の雷でもなかった。


雷は、黒い燐光を帯びていた。


ユーリルの憎しみに染まったかのような黒い雷が、所構わず落ちて破壊を撒き散らす。

「殺して、殺してやる! アナスタシア・ルン・ヴァレリアああああああああああ!」

何故、何故なのだろうか。
マリアベルはアガートラームを見つけたとき、これを然るべき人物に渡すつもりだった。
しかし、今のアナスタシアにはその気があまりしない。
アナスタシアが今までに見せたことの無い表情をしていたから。
普通の少女として生きたいと願っていた少女に、暗いものを感じたから。
けれど、アナスタシアが守る対象なのは変わりない。
マリアベルがロザリーを誰かに任せるか、どこか安全なとこへ運ぼうとしたとき、さらなる事態が起こる。

「ロザリー!」

かの声は、魔族の若き王ピサロ。
ロザリーがいると分かって一心不乱に探し、疲労の果てに倒れ、そして起きたのがつい先ほどだ。
そこから再び捜索をすると、多数の人が集まっているところを発見。
近寄ってみれば、そこには愛しきロザリーの姿もある。
しかし、何やらロザリーは目を閉じられている。
しかも、衣服には血の跡と人間の姿。
それだけで、ピサロは何が起きたかを理解した。

517 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/11(日) 00:01:21 ID:s4eYsUDc0
「下等な人間風情が……ロザリーに何をしたァーーー!」

疾風のごとく駆ける。
怒りのあまり、ピサロには気づかない。
ロザリーの衣服の血が乾ききっていることにも。
雨雲で曇り、薄暗くなった空間ではそれも判別しづらい。

新手の登場に、イスラは舌打ちをしてピサロの進行方向に立ちはだかる。
どうも<剣の聖女>といると、ロクな目に会わないらしい。
やはりイスラはアナスタシアになど会いたくはなかった。
さらに、新手が現れる。

「カエル!?」
「魔王だと!?」

異形の騎士と、オディオとは違うもう一人の魔王も現れる。

「行けるか、カエル?」
「言われずとも、な……」

北に進路を取っていた彼らが黒い雷に惹かれたかのように姿を見せた。

「一体何人来るんだよッ!?」

アキラが迎撃の態勢を取りながら叫ぶ。

<剣の聖女>、アナスタシア・ルン・ヴァレリア。
堕ちた勇者、ユーリル。
魔族の王、ピサロ。
ガルディアを守る騎士、カエル。
オディオとは違う、もう一人の魔王。
ノーブルレッド、マリアベル。
スレイハイム解放戦線の『英雄』ブラッド・エヴァンス。
死にたがりの道化、イスラ。
怒りによって勇気を得し者、アキラ。
気絶したエルフ、ロザリー。

そして離れたところにオスティア候、ヘクトル。
キアラン候の孫娘にして、ロルカ族のリン。
黒い牙の暗殺者、ジャファル。
ロザリーと同じく、気絶した非力な少女、ニノ。

実に14人もの人間が集まっている。
シンシアも含めれば15人。
残り人数の半分近い人間がここに集まっているのだ。

518 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/11(日) 00:02:29 ID:s4eYsUDc0
ユーリル、ピサロ、カエルと魔王。
三方向から襲い掛かる敵に対して、逃走はもはや不可能にも思えた。
ならば、もう一つ残された方法をブラッドが提案する。

「アキラッ! テレポートはいけるか!?」
「分かんねぇ! いつでもいけるようにはするけどよ、ヘクトルたちが離れすぎてる! あいつら置いて行けねぇよッ!」

それもそうだ。
辛うじてここにいる人員をテレポートで離脱させても、ヘクトルたちがいる。
戻ってきたヘクトルたちが残された魔王たちの餌食にならないとは限らない。
ならば――

「戦うしかないということかッ!」

拳を、固く握り締める。
アナスタシアの護衛をしつつ、襲ってくる四人と戦う。
こちらもブラッドを含めてマリアベル、アキラ、イスラがいるが、戦闘力が互角かは分からない。
一人が倒れれば、残された人員もあっという間に死んでいくだろう。
マリアベルも戦闘の覚悟をした。

「正念場じゃぞッ!」

雨が。
本降りになって泥を跳ねさせる。

煙る雨の中、いくつもの戦いが、いくつもの想いを抱えて始まる。

「時間だ……」

その中で魔王オディオの声だけがよく響いた。
オディオの事前の予告どおり、激しい雨が戦場を濡らす。

降りだした雨は誰かの涙。
鳴りだした雷は誰かの怒り。

今、残り半数以上の人間を巻き込んだ戦いの幕は、火蓋を切って落とされた。

519 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/11(日) 00:03:03 ID:s4eYsUDc0
【C-7橋の近く 一日目 夕方(放送直前)】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
2:施設を見て回る。
3:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。




【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQⅣ、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンは一つ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
1:アナスタシアを殺す。 邪魔する人も殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。



【C-6 森林 一日目 日中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。激怒
    疲労(大)人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:基本支給品一式、データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:目の前にいる人間を殺す。
2:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿を確認しました。ロザリーの存在を知りました。
※参戦時期は5章最終決戦直後
※ロザリーが死んだと思ってます。
※一度気絶して起きたので、多少は回復してます。



【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費。
[装備]:激怒の腕輪@クロノ・トリガー
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:とりあえず状況に対処。 テレポートの使用も考慮。
2:高原日勝、無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。

520 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/11(日) 00:03:34 ID:s4eYsUDc0
【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ、気分が悪い (若干持ち直した) 、気絶
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:気絶
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……

[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※ロザリーの声がどの辺りまで響くのかは不明。
 また、イムル村のように特定の地点でないと聞こえない可能性もあります。



【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
0:眼の前の状況に対処。
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
8:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)



【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(中)、額と右腕から出血、アルテマ、ミッシングによるダメージ。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品1〜2個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:眼の前の状況に対処する。
2:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:セッツァーとマッシュの情報に疑問。以後セッツァーとマッシュは警戒。
4:再度遭遇したらケフカを倒す。魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。

521 Throwing into the banquet ◆SERENA/7ps:2010/04/11(日) 00:04:04 ID:s4eYsUDc0
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:アルテマ、ミッシングによるダメージ、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み)
    ドーリーショット@アークザラッドⅡ
    鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:眼の前の状況に対処。
2:ケフカと再度遭遇したら確実に仕留める。
3:次にセッツァーとマッシュに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。



【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:眼の前の戦闘に参加。出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。



【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:眼の前の戦闘に参加。出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。












※ミラクルシューズ@FFIV、ソウルセイバー@FFIV がシンシアの死体付近に、
※基本支給品一式*3、ドッペル君@クロノトリガー、デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVEがシンシアの持っていたデイパックに入ってます。
 デイパックはシンシアの死体付近にあります

522SAVEDATA No.774:2010/04/11(日) 01:40:32 ID:fb4Y35h20
投下乙!
感想は本投下時に
お気になさっていたことですが私も問題ないかと
それに雨降って水場もあるとこにカエル(魔王)来るのも自然だしw

523 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:14:03 ID:cU3tyE360
 あるモンスターの胃袋の先。
 暗い暗い洞窟の最奥。
 俺は立ちすくんでいた。マントルのように胸中を巡る衝動を押し殺しながら。
 ただひたすらに、眼前に広がる暗闇を真似し続けた。

「……」
 真っ黒な孤独の中で、俺は外界の明るさに思いをはせる。
 仲間たちとともに救った世界は、色に満ちあふれていた。
 ケフカによって半壊させられた後ですらも、その力強い彩りは失われることはなかった。
 あの旅路の中で、俺は何回の物真似をしただろうか。
 すべてが出来事が懐かしく、すべての人間が恋しかった。
 可能ならばもう一度、あの世界へ旅立ちたい。そして、色鮮やかな人間と言う生き物を、もっと。
 そんな思いを押し殺しながら、俺はひとり寂しく闇を模倣する。

「……何の用だ?」
 漆黒の暗闇より這い出てきた銀色に話しかける。
 ロックやエドガーならともかく、まさかこの男が俺を訪ねてくるとは思いもしなかった。
 驚きのあまり、そっけない態度を取ってしまった己をこっそりと戒める。

 洞窟内のモンスターを一人でなぎ倒してきたのだろう、男は酷い格好をしていた。
 高そうな服は汚れに汚れ、敵を貫き続けた槍もボロボロである。
 とはいえ、奴自身はかすり傷一つ負ってはいない。さすがは世界を救いし仲間の一人だ。

「俺の物真似をしないか?」
 まるで友人を海にでも誘うかのような軽い口調。
 そのな事を伝えるために、遠路はるばるこのダンジョンを攻略してきたのか……。
 俺は、この男の真意をはかりかねていた。

「お前は、今なにをしているんだ?」
 相手の意図を探るつもりの一言。
 だが、それを言い放った後で俺は気づいた。
 エドガーたちが初めてここを訪れたときにも、俺はこんな台詞を吐いたはずだ。
 ボロボロの格好で、しかも傷だらけになってここまでたどり着いた四人。
 彼らに、俺は今したものと全く同じ質問をした。
 その時の、あの得体の知れないモノを観察するような彼らの視線を俺は忘れない。

「俺は今、世界を飛び回っている」
 そう返答した奴の笑顔を見て、俺は悟った。
 あぁ、俺はこのギャンブラーの術中に嵌ってしまっていたのだ。
 少しばかりの悔しさと急速に膨らむ高揚感を押し殺して、俺は続けた。かつてのように。

「そうか。世界を飛び回っているのか。
 では、俺も世界を飛び回るというものまねをしてみるとしよう」
 それを聞いて男は大声で笑う。「ちょうどクルーを募集していたんだ」と。
 負けを認めた俺も一緒になって笑う。彼のモノマネをするふりをして。

 俺は、ファルコン号の副船長となった。
 それは、俺がこの殺し合いに参加する半年も前の出来事。


◆     ◆     ◆


 頭上に広がるのは、先刻の戦いの傷跡。
 アシュレー・ウィンチェスターが、鋼鉄の天井にこさえた大穴である。
 そこから通じる大空を物憂げに見上げるのは、一人のものまね師。
 物真似狂の彼にしては珍しいことだが、誰の真似をするでもなく『彼のままで』ぼぅっと天を眺めていた。
 スクリーンに映し出された映像を鑑賞するかのように。

524 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:15:27 ID:cU3tyE360

「なんだよ、ここにいたのか」
 彼の背中を見つけた赤毛の侍が語りかけた。
 その乱暴な語り口は、傷だらけの城が生み出す退廃的な雰囲気すらも台無しにしてしまう。
 暗殺者との戦いで主戦場となったこの部屋には未だに微かな熱気が残っていて、それを頬に感じたトッシュの目が一瞬だけギラついた。

「…………」
 ゴゴはなにも答えなければ、振り向きもしない。
 トッシュはそんな彼のすぐ後ろに立ち、同じように馬鹿でかい穴を覗き込んで、その先にあるのが何の変哲もない水色の空である事を確認した。
 こうしているとまるで自分たちが大きな壷の中に住んでいて、その入り口から外の世界を覗き見ているかのような感覚にとらわれる。
 頭を掻きながら無遠慮に大きく欠伸をすると、ゴゴの返事を待つことなく言葉を続けた。

「ナイトブレイザー……だったか。大したモンだよなァ」
「…………」
 沈黙を守るゴゴへと一歩的に語りかけながら、降り注ぐ太陽光に目を細めるトッシュ。
 巨大な円形を目の当たりにし、バニシングバスターとやらの出力の凄まじさを改めて実感する。


 シャドウとの戦いの後、砂漠のフィガロ城に残されたのはトッシュとゴゴ、アシュレー、そしてトカ。

 マトモな会話が期待できない爬虫類を除いた三名が行ったのは、情報交換……とは名ばかりの尋問。
 アシュレーの体に流れる禍々しい気、そしてその邪の力が彼の身に起こした変化について、トッシュが全力の殺気を持ってして追求したのだ。
 アシュレーの辿々しい説明を黙って聞き終えた侍。意外にも、彼はすんなりとその絵空事のような話を信用してしまった。
 彼曰く「なんだか知らねえが、とにかくよし」。
 思考放棄も甚だしいトッシュの反応に、アシュレーは思わず拍子抜けしてしまったようだ。



「だがなァ、ありゃあヤバいぜ。てめぇの身を滅ぼす力だ」

「…………」

 トッシュの声のトーンが一段階低くなる。

 彼は、変身したアシュレーが現前に現れた瞬間のことを思い返していた。

 青年の中で蠢く、赤黒く禍々しい気。暗黒の支配者にも匹敵するほどの邪悪な力だった。
 そして、その闇を必死にを押さえ込む蒼く透き通った気。
おそらくあれが、『果てしなき蒼』に眠る力だ。
 この二色が織り成した奇跡が、あの凄まじい強さを誇る蒼炎のナイトブレイザー。
 だがしかし、アシュレーが見せたあの変身は、蒼い力が邪悪な真紅をなんとか押さえ込んでいたからこそ可能な芸当である。
 そして、その蒼い力は常に紅い力を押さえ込んでいるが故に、徐々に磨り減ってきている。
 アクセスによってロードブレイザーの力を解放すれば、当然その磨耗は加速してしまう。それは気を読むことが出来るトッシュ自身がその目で確認した事実だ。
 そう遠くないうちに、紅き魔神は蒼き牢をブチ破るだろう。
 炎の災厄が解き放たれればどうなるか。それはトッシュにも分からないことだが、アシュレーが無事ですまないことだけは予想に難くなかった。

「俺の見立てではあと一度……いや、その一回でも長引けば危ないかもしれねぇな」
「…………」
 恐ろしき未来をなんとも呑気な口調で宣告する。
 それは、自分にはどうしようもないという諦めによるもの。
 アクセスの多用が出来ない事実は、アシュレー自身が一番よく分かっているだろうから。
 次に戦闘になったときは彼の負担を少しでも減らしてやろうと、トッシュはそれだけを心に誓い、この話題を打ち切ることにした。

「…………」
「…………」
 それからしばらく、二人は雲を見上げていた。
 あれはスライムみたいだな、あれはなかなか旨そうだと、真ん丸い空を流れてゆく白い塊を観察していた。
 何をするわけでもなく、ただ穏やかな時間をかみ締めるように。

「…………なぁ、ゴゴ」
「………………なんだ」
 沈黙に絶えかねたのか、トッシュが口火を切る。
 彼らしくもないことだが、どうやら言葉を紡ぐのに苦心しているみたいであった。
 相変わらず両者の視線のその焦点は、遥か上空で結ばれている。

「セッツァーは……やっぱり殺し合いに乗ってたのか?」
 ゴゴの静かさにつられたかのように、そして空に漂う雲を真似るように、トッシュの口調は穏やかだ。

525 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:16:33 ID:cU3tyE360

 トッシュによる尋問の後、ついに本当の情報交換が行われた。
 そこで挙がったのは、トッシュとアシュレーが出会った、ある人物の名前。
 アシュレーの物真似をしたゴゴは、安堵交じりの声でそのセッツァーという名前を復唱した。
 だが、その男が彼らに伝えた人物情報を聞いた瞬間、ゴゴの様子は豹変する。
 本当にアイツはそう言ったのか? と何度も二人に確認し、それが紛れもないセッツァーの言葉であると知ると、次第に彼の口数は少なくなっていった。

「仲間内でリーダーだったエドガーは『悪の暴君』。同じく仲間のティナは殺人鬼。
 んで、一番危ねぇはずのケフカが『頼りになる正義の味方』ねぇ……」
 トッシュが眉間の皺を増やしながらセッツァーの偽報を思い返す。
 ゴゴの話では、エドガーは個性の強い仲間たちの纏めるリーダー格、言わばアークのような役割であったらしい。
 そしてティナは自らを犠牲にしてでも誰かを助けようとする心優しい少女だ。トッシュは無法松を命がけで救ったその少女に、リーザのような印象を抱いた。
 最後にケフカ。人を殺すことを屁とも思わない、吐き気を覚えるほどの悪鬼。
 世界を崩壊に導いた残虐性はアンデルに近いものがあるが、その狂人っぷりは他の誰かを以ってして例えることは不可能だろう。
 どいつもこいつもセッツァーの情報とはまるで違う人物だ。
 シャドウとマッシュも結果的に彼らの人となりだけは正しく伝えているものの、かつての仲間のことを謳った内容とはとても思えない。
 つまり、意図的に誤解を招くための罠。
 あのギャンブラーの情報は、そうとしか考えられなかった。

「…………これで『間違いでした』はまかり通らねぇよなァ……」
 直後、円形の空に大きいリンゴのような形をした雲が登場し、トッシュは小さく驚きの声を洩らした。
 できれば回復果物であればいいなぁ……とくだらないことを脳味噌のド真ん中で考えていた。

「…………世界を救った後だ……」
 突如発せられたのは、トッシュの物真似をしたゴゴの声。
 侍はリンゴ雲の形のよさに感心しながら「おぅ」と空返事を返す。

「俺はセッツァーの船に乗り込んで、ヤツとふたりで世界を飛び回っていた」
 何をするってわけじゃない。
 各地を飛び回り、困ってる人は救って、困ってない人は飛行船に招き賭け事に興じた。
 ただの放浪の旅。
 でもゴゴはそれでよかった。

「半年の短けぇ間だったが、俺は幸せだった……」
 トッシュの仲間にグルガという男がいる。
 彼は、世界で一番歌が下手糞だった。
 シャンテという一流の歌手の講習を受けても、それは一向に改善せず、エルクは彼の歌を「オーガロードのいびき」などと評していた。
 ならば、今のゴゴの声は「ゴーストの囁き」だ。
 弱々しいソレは、トッシュに語りかけるのではなく自分で思い出に浸るための言葉。

「いろんな場所へ行き、いろんな人間の物真似が出来んだぜ。こんな幸せなことはねぇ……」
「……そうかい」
 トッシュはそんなゴゴを羨ましく感じていた。
 世界を飛び回っていた事ではなく、見事に世界を救った事をだ。
 青空のリンゴはもう天井に出来た穴からは見えない場所に流れてしまっていて、トッシュは少しだけそれを残念だと感じながら唾液を嚥下した。

「セッツァーは……仲間を貶めてまで願いを叶えようとする男じゃねぇ」
 そう言ったゴゴの声が寂しそうなのは、けっして消えたリンゴ雲を惜しんだせいではないだろう。
 悲しさを次第に増しながら、言葉は続く。

「だから俺には、なぜアイツがそんな嘘を言ったのか……」
「知るか」
 ピシャリと。
 叫ぶでもないトッシュの穏やかな一言は、見事な太刀筋でゴゴの予想を一刀両断した。
 この男には刀の神でも宿っているのかと、物真似師は彼の言葉の切れ味に驚く。
 正確には、彼に宿っているのは刀の精霊なのだが、大した違いはないだろう。

526 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:17:15 ID:cU3tyE360

「……はぁ?」
「考えたって分かるわけねぇだろ、ンなもん。
 …………俺もお前も、そこんところはからっきしなんだからよ」
 そう言ってトッシュは鼻息交じりで小さく笑った。
 ゴゴはそんな彼の顔を訝しげに見やる。

「だったら会いに行くしかねぇだろ。探して、会って、直接問いただしてやろうぜ。
 んでよ、セッツァーの答えが気に食わなきゃ、ブン殴ってやりゃあいいんだよ」
 侍のまさかの返答にあっけに取られるゴゴ。
 だが、その通り。彼の言うとおりだ。
 考えたって答えは出るはずもない。
 セッツァーは超一流のギャンブラーなのだ。その心のうちなど自分に計り知れるわけもないのだから。

「…………お、お前に言われなくても分かってんだよ、ンなこたぁよッ!」
 侍の物真似をしながら強がって見せる。
 トッシュとは、こういう男であった。
 現在進行形で物真似をしているにも関わらず、ゴゴはそのことを忘れてしまっていた。

「じゃあ……行こうぜ……」
 ゴゴに背を向け、ツカツカと歩き出すトッシュ。
 その姿を見て、ゴゴは思い出した。
 ついさっき、この城でこの男とこんなやりとりがあった。

「けじめを付けに、よ」
 あのときと同じように力強い声で、トッシュの声が響く。
 それを受けてゴゴは、あのときと同じように、ゆっくりと頷いた。


◆     ◆     ◆


「……どういうことだ?」
 胡坐をかきながら、アシュレーが一人ごちた。
 柔らかなカーペットに腰を下ろすと、途端に疲労が手足を襲う。
 仕方ない。イレギュラーなアクセスを無理に行ったのだから。

「どうして我輩はこんなにもカッコいいのか…………ですと?」
「違うんだ」
 表情一つ変えないで否定するアシュレー。
 あまりにあっさりとした態度に、トカが地団駄を踏んで怒りを露わにする。

「あんだとッ! この我輩のフレッシュマンゴーの如し魅力を差し置いてまで科学することなど……あるはずがないトカッ!」
「実はこの地図なんだが……」
 さすがアシュレー。狂トカゲの扱いには慣れたものである。
 冷静に至急品の地図を広げると、地図のある箇所を指し示す。

「……ツレねぇな、唯一無二の我が相棒よ」
「うん、俺はお前の相棒じゃない。
 実は、この部分から先には地下水路が続いていて、さらにその奥には古びた城が建っていたんだ」
 ツツツ……と川を表す青色のラインの上をアシュレーの指が滑る。
 神殿を出発した人差し指が、森を抜け、傾斜を逆流して、山頂付近のある部分で止まる。
 そこで川は途切れていた。ここが、山の内部に広がる地下水路への入り口となる。

527 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:18:43 ID:cU3tyE360

「つまり、古代の科学により生まれしオーパーツやゲーパーツなどがテンコ盛りトカッ!
 それは魔王オディオも隠しておかなくてはならない夢のサイエンス・パラダイスッ!」
「あぁ、そんなパラダイスがあれば素敵だな」
「そうだろうッ! そうだろ〜〜〜うッ!」
 両手を掲げて小躍りを掲げるトカを相手に、成立するはずもない会話を律儀に続けるアシュレー。
 そんな彼の姿は、頭のおかしいトカゲにも平等に接してあげる優しい青年に見えないこともない。
 内心では彼は、一人で黙々と思考しなかったことを激しく後悔をしていたのだが……。

「そんなことより……問題なのは、何で地下の施設が一切地図に書かれていないのかだ」
「だからそれは、サイエンス・素敵・パラダイスを独り占めするため…………」
「オディオが殺し合いを促進させたいなら、こんなことはする必要がないはず。
 ここに引きこもってしまえば、他の参加者に見つかる可能性はグッと低くなるよな……それはオディオも望まないはず…………」
 もはや、トカとの意思疎通は放棄した。
 ただ地図と睨めっこしながら、ひとりで持論を展開していく。

 実は、アシュレーがたった今口にした疑念と全く同じものを、セッツァー・ギャッビアーニも浮かべ、考察していた。
 彼がトッシュと別れてからアシュレーと出会う間の話である。
 その時に彼が出した結論は、『気まぐれ』。
 オディオは深く考えずに、適当にそのような施設と地図を作った。それがセッツァーの行き着いた答えであった。

「しかし、本当にサイエンス・素敵・パラダイスが広がっているとは、胸がうれしはずかし超新星爆発」
「……あぁ、スマンありゃウソだった。あそこは普通の廃墟ダンジョンらしいぞ」
 高鳴るトカの胸に、極寒の冷水を浴びせる。
 これでおとなしくなってくれれば、という期待をこめた残酷な鉄槌である。

 ゴゴから聞いた話では、このフィガロ城は元々彼のいた世界のものだ。
 参加者のひとりであるエドガー・ロニ・フィガロの持ち物であったらしい。
 そしてあの古代の城も同じくゴゴの世界にあった建物で、フィガロ城の地下から通じる洞窟の最奥に存在していた。

「なんですとッ! それを知ってて我輩を弄んだトカ?!
 この悪魔! 誰か〜、この人チカンよ、彼の双腕はワイセツアームズよ〜ッ!」
「…………はぁ……」
 ついつい話しかけてしまったことを海よりも深く反省した。
 もう限界が近い。このトカゲがいては、進むはずの思考も全然進まない。
 業を煮やしたアシュレーは、一人で考えにふけるために、地図を脇に抱えて部屋を出て行こうとする。

「はら〜〜〜〜ッ! ちょっと待つトカッ! 一人にしないでッ!
 いつかデリシャスな高級カブトムシをフルコースでご馳走するからよぉ〜〜〜ッ!」
 去り逝く青年の右足にすがりつく悲劇の緑色。
 邪魔だ邪魔だと、それを遠慮なしに蹴りまくるアシュレー。
 おぉ、血も涙もない。外道ここに極まる。

「放すんだッ! もうアンタの時代は終わったんだッ!」
「そんなッ! 我輩とは遊ぶだったのねッ! 酷いッ! お腹の子リザードちゃんはどうなるのッ!
 どこまででも、和式便器の中まででも、我輩は憑いて行きますぞ〜〜〜ッ!」
「あぁクソ! いい加減に…………」
 あまりにしつこいスペース爬虫類に、堪忍袋の緒が切れ掛かる。
 拳を振りかぶって、無理やりにでも振り払おうとした。どうせ死にはしないだろう。
 だが結局、その拳がトカに振り下ろされることはなかった。

「…………ちょっと、待てよ…………『ついてくる』……だって?」
 アシュレーの呼吸と動きが同時に止まる。
 数秒後、雷に撃たれたかのように、その両目が見開かれた。

「……まさかッ!」
 大声と共に振り返る。
 勢い余って、すがり付いていたトカゲを蹴っ飛ばしてしまう。

528 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:19:55 ID:cU3tyE360

「はら〜〜〜〜ッ!」
 吹き飛んだ宇宙人には目もくれず、早足で部屋の中央に進むと地図を広げた。
 座り込んで地図を眺めると、思い浮かんだ可能性を整理する。

(オディオが欲しかったのは、『移動する城』だけなんじゃないか?
 あの『古代の城』は、このフィガロ城に偶然ついてきただけ…………)
 つまり、こういうことだ。
 この殺し合いの主催者が、会場に必要としたのは……地中を走る城。
 それだけがあれば、よかったのである。
 しかしオディオは、この城と『その通り道』をまとめてこの島に持ってきた。
 その周りの一帯の大地と一緒に。
 その結果、『古代の城』と『地下の洞窟』が土地に紛れて一緒について来てしまった。

(だとしたら……オディオはあの城の存在を知らなかったんじゃないのか?)
 そう考えれば、地図に地下施設が書かれていないことの辻褄は合う。
 しかし、これはあくまで可能性。その仮定が正解かどうかは分からない。
 しかも、たとえその通りだったとしても……オディオが参加者の動向をモニタリングしていれば、既に地下施設の存在には気づいているだろう。
 だが、ここから導き出される可能性はそれだけじゃない。

(もし、他の世界から集められた施設が、フィガロ城以外にもあるならば……同じように……)
 もしかしたら、他の施設もフィガロ城と同じように参加者のいた世界から持ってきたものである可能性がある。
 それならば、古代の城と同じようにそれらの施設に『ついてきた』モノがあるかもしれない。
 この島がいろんな世界のツギハギで構成されているのならば……オディオの知らないものがこの会場に紛れ込んでいるかも…………。
 
 ……………………。

 …………。

「なにぃッ! ついに無限に広がる星の海に飛び立つ方法を考えたとは恐怖至極ぅッ!
 しかし我輩には分かっているぞッ! そう、みんなスキスキ科学の子ッ!
 さぁ声高に叫ぶのだッ! ブ〜ル〜コ〜……」
「……呼んでも来ないぞ」
 いつの間にか復活したトカがアシュレーを現実に連れ戻す。
 無意識にツッコミをいれることに成功した自分を、少しだけ嬉しく思ってしまった。

(流石に、考えすぎか……)
 飛躍しすぎた思考を制して、大きなため息をつく。
 全ては憶測なのだ。
 地下施設のことをオディオが知らない?
 フィガロ城の以外に、他の世界から持ってこられた施設がある?
 そこにオディオの意図しない何かが紛れている?。
 全ては証拠すらない、推測の産物だ。
 それらはどうせ可能性の低い話だと、考察を中断して頭を休めることにした。

「ならばーーーやはり我輩にはプリティー科学アイドル、魔導アーマーちゃんしかない!
 さぁ悩める化学の子供達に愛の手をーーーーッ!」
「やめるんだーーーッ!」
 いざ、走り出さんとするトカ。
 そんな彼を必死に食い止めるアシュレー。
 二人が押し合いへし合いを繰り返す。

「その手を放してッ! 我輩なら魔導アーマーちゃんとひとつになるトカッ!」
「…………馬鹿なことはやめろッ! 偉大なる科学の子であるアンタには輝かしい未来が…………ってあれ?」
 アシュレーは独特な世界観に完全に馴染んでいた。
 リザード星人一味としてやっていけるほどに。
 だから気がつかなかった。
 …………自分たちに注がれていた、冷たい視線に。

529 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:21:23 ID:cU3tyE360

「「な、仲いいんだな…………お前ら……」」
 トッシュとゴゴのユニゾンを聞きながら立ち尽くす。
 彼らの声には、完全なる同情の念が込められていた。

「あ、ありがとう…………」
 言い訳など出来るはずもなく、半笑いで答えを返すしかない。
 隣を流し目で除くと、そこには満足そうに胸を張るトカゲ野郎がいた。
 なんだか、すごく死にたくなった。


【G−3 フィガロ城 一日目 午後】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式×2、
    焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:今後の方針を相談する
2:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
3:アリーナを殺した者を倒す
4:セッツァー、ケフカ、シャドウには警戒
5:アクセスは多用できない
※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※セッツァーの嘘に気がつきました。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
 白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
 アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
 ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
 アティの意思は、徐々に磨り減っています。アクセスを行うとその消耗は加速します。


【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:トッシュの物真似中
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:今後の方針を相談する
2:セッツァーに会い、問い詰める
3:ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
4:トカの物まねをし足りない
5:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期は本編クリア後
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。

530 ◆Rd1trDrhhU:2010/04/20(火) 23:22:33 ID:cU3tyE360


【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ほそみの剣@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:今後の方針を相談
2: セッツァーを探す
3:必ずしも一緒に行動する必要はないがちょことは一度会いたい。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る?
6:基本的に女子供とは戦わない。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未完成です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※セッツァーの嘘に気がつきました。


【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー(大破。一応少しずつ回復中?)@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
    天命牙双(右)@幻想水滸伝Ⅱ、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ、
    閃光の戦槍@サモンナイト3、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
2:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[備考]:
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。

531 ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:49:20 ID:WPH7HQ/I0
お待たせしました。
規制されているのでこちらで投下します。

532アシュレーのパーフェクト首輪教室  ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:51:50 ID:WPH7HQ/I0
フィガロ城。
トカの襲撃から始まった一連の戦いの舞台になったその城は今また喧騒に包まれていた。
剣と剣が鬩ぎあう音でもなく。
拳と拳がぶつかり合う音でもなく。
魔法と魔法が激突する音でもない。
生活観溢れる日常の音に包まれていた。

トンテンカン、トンテンカン。
リズミカルな音を響かせ、トンカチが振るわれている。
作業主の名はトッシュ。
常日頃握っている剣を金槌に持ち替えて彼が行っている作業は天井の修復だ。
4人でこれからどうするかを相談した結果、彼らはフィガロ城に残ることを決定したのである。
それは主にゴゴの以下の主張が取り入れられたが故だった。
もしかすればどこかにテレポートしてしまったであろうビッキーが戻ってくるかもしれない。
真相を問いただしたいセッツァーの元へと赴くにはフィガロ城の地下潜行機能を使うのが一番時間の短縮になる。
トカはともかくアシュレーやトッシュに少女を見捨てるなどという選択肢は無い。
セッツァーに関しては4人中3人が当事者だ。
トッシュには無法松との約束もあったが、どの道今からでは間に合わない。
できるだけタイムロスを減らして行くにしろ、やはり城の潜行能力に頼るのが最良手だ。
調べたところによるとフィガロ城はA-6村にある壽商会というところの地下階層へと乗りつけることも可能らしい。
アシュレーがセッツァーと出会ったD-7にもわりかし近い位置取りで文句はなかった。
故に誰もゴゴの意見に反対することなく会議は滞りなく終了。
第三回放送までビッキー達を待った後、何事もなければフィガロ城でA-6村へと向かい、
座礁船まで歩いて行き松達と合流してセッツァーや仲間を探すことに決まった。
そこからは支給品の整理や交換の後、各自フィガロ城においてできることをなし始めた。
トッシュの場合は潜行の妨げになりかねない天井の大穴の修理だ。
この男、剣以外はからっきしダメかと思われがちだが、何気に手際がいい。
指名手配されていた為に拠点としていた大型飛行船を自らの手で修理しないといけなかった経験が役に立っているのである。
城の構造を熟知していたゴゴと、こんな時に備えてか蓄えられていた多くの資材があったのも穴を塞ぐ大きな助けとなっていた。

「ふう。とりあえずはこんなもんかあ?」

いささか見栄えは悪いがとりあえず地下に潜るくらいには問題ないまでに修復された天井を見上げ、トッシュは満足げに息を吐く。
そのタイミングを見計らってか横合いから飲み物の入った竹筒が差し出された。

「大したものだな」

隣でまじまじと天井を見つめるのは、もはや見慣れてしまったへんてこりんな姿をした物真似師、ゴゴ。
よせやい、と少し照れくさそうに笑いながらトッシュは水筒へと口をつける。

「酒じゃねえのかよ」
「安心しろ、そういうかと思って酒の方も調達しておいた」

どこか喜色を含んだ声でゴゴが左手に抱えていた幾多もの酒瓶を掲げる。
分かってるじゃねえかとトッシュも合わせて笑みを浮べた。

「んで、まさか酒集めばかりしていたわけじゃねえだろ。そっちの方の調子はどうなんでい?」
「順調「よくぞ聞いてくれたトカ! 皆さんお待ちかね、今、禁断の静寂を破って魔導アーマーが蘇るッ!」
「いや、俺はあんま待ってねえから。っつうかおい、おまけよりも先に報告しねえとならねえ大事なこと頼んでいただろ!?」
「はてなんのことやら。カルシウムが圧倒的に足りない赤毛男はほっといてさあさみなさんご一緒にッ!
 せーの、まーどーうーアーマーッ!!」
「まーどーうーアーマーッ!!」
「って、ゴゴ、なにちゃっかり乗せられてんだ、てめ!」
「俺はゴゴ、物真似師だ」
「選べよ、物真似の対象くれえ! ああ、なんだかアシュレーの野郎の苦労ちが分かってきた気がすっぜ……」

533アシュレーのパーフェクト首輪教室  ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:52:27 ID:WPH7HQ/I0

頭を抱えるトッシュをよそに延々とテンションを上げ続けるトカとゴゴ。
果たして世界はこのままトカ空間に飲み込まれてしまうのか!?
否、断じて否!
混沌とした世界に颯爽と現れる救世主、その名もアシュレー・ウィンチェスター!

「出し渋ったままでいても出番なく終ってしまうんじゃないかな。ほら、無視される可能性も大いにあるブルコギドン的に」
「「はううっ!?」」

痛いところを突かれて蹲るトカともう一人。
そんな彼らを華麗にスルーしてアシュレーはトッシュと互いに憂いに満ちた瞳を交わし合った。

『その、なんだ。さっきは誤解して悪かった。大変なんだな、あんたも』
『あっはっは……。慣れてるから。うん、慣れたくなんかなかったけれどさ……』

一瞬で伝わるシンパシー。
がくりと肩を落とした二人とは逆に早くも立ち直ったトカとゴゴが共同作業の成果を前面へと押し出す。
それはトッシュも痛い目に合わされた魔導アーマーに違いなかったが、外見は恐竜じみた姿から翼竜じみた姿へと改装されていた。
そしてその感想は間違ってはいない。
飛ぶのだ、新しい魔導アーマーは!
改良点は主に次の三つ。
まずはトカに適正がないバイオブラスター、デジョネーター、コンフューザー、魔導ミサイルの4つは思い切ってオミット。
排除することで得たスペースに蒸気エンジンを参考に作られた新型エンジンを装着。
おじゃんにされた下半身は分解・再構築され脚部としてでなくバランサーとして作り直し、完成!

「「見よ、これぞ我輩と魔導アーマーの人と機械の垣根を越えた友情が産み出した奇跡の超兵器ッ!
 我輩の設計した飛翔エンジン『やみくも』を搭載した生まれ変わりし魔導アーマーッ!
 名を『スカイアーマー』ッ!」」
「と、飛ぶのかそれが? っつうかエンジン名がとてつもなく不安なのは俺の気のせいか?」
「すごい! さっそく実験を兼ねて本番に臨もうッ!」
「いやアシュレー、どっかへ飛んでいってもらいたいのは山々だが首輪の解体が先だろ!?」

そう、それこそがこの城に残るにあたってトッシュ達が最もやっておくべき作業。
元の世界から持ってこられたままの状態だからか、はたまた地下潜行中に故障が起きた時へのオディオからの配慮のつもりか。
専門的な工具や数多の資材が放置されていたのだ。
これを首輪の解析に活かさない手はない。
幸いというには御幣があるが、トッシュ達の手元には三つの主を失った首輪があった。
一つは言うまでもなくリルカ・エレニアックの形見。
残る二つはリオウとアティに嵌められていたもの。
二人の遺体を埋葬するにあたってトッシュが首輪を外すことを進言したのだ。
そんなくだらねえものを嵌められたままじゃおちおちあの世にもいけねえだろ、と。
これにはアシュレー達も深く頷き、埋葬前に首輪を外すこととなった。
もちろん死者の首を切断してなどという方法ではなく、首輪のほうをばらばらにして、だ。
死体にとはいえ装着されたままの首輪を解体すれば爆発してしまうのではという懸念もあったが、杞憂に終った。
主の死と共に機能が停止していたのかすんなりと外すことに成功したのである。
最も、解体作業を行ったトカが『ん、どこか間違えたトカか?』『はら〜〜〜〜〜ッ!?』などと常にあたふたしていたため、
トッシュ達は心休まる時がなかったのであるが。
それはそれとして今回の解析作業に使われたのはその後者の方、リオウとアティの首輪だった。
焼け焦げた後さえあるものの、殆ど原型を留めている絶好のサンプルであるリルカの首輪を消費するのは時期早々だと判断したからだ。

「そのことなんだがこれを見てくれないか?」

目の前になんだか変てこなものがごちゃごちゃしたものがいっぱい置かれる。
学のないトッシュも流石にそれらが首輪を解体しきったものだということくらいは理解したがそれ以上には分からない。

「覚えのあるものがあれば教えて欲しい」

534アシュレーのパーフェクト首輪教室  ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:53:04 ID:WPH7HQ/I0

そう言われても無理なものは無理だ。
ただでさえ悪い目つきをより悪くしてまでガン見するが知っている部品なんてこれっぽっちもない。
お手上げだった。

「わりい。力になれそうにねえ」
「これだから浅学な赤髪はダメなんだトカ」
「そういうならお前はさぞ役に立ったんだろなあ!」
「「……」」
「って、おい、ゴゴ、アシュレー、なんだその目は? ま、まさか」
「「残念ながら首輪の解体とその先で一番役に立ったのはそこの何かだ」」
「なっにいいい!?」

トッシュが驚くのも無理はないがトカはこれでもIQ1300の超天才なのだ。
性格にはとんでもなく問題はあるが彼を仲間にしようとしたリオウの判断は間違ってはいなかった。
それが今こうして実を結び首輪を外すことへの大きな一歩を刻みだしたのだから。

「これを見よッ!」

ぱんぱかぱ〜んという効果音が似合う動作でトカが七色に光る石をガラクタ群から拾い上げトッシュへと渡してくる。
見ろと言われてもただの綺麗な石ころだな程度の感想しか持てない彼に対して、後を継ぎアシュレーが説明を始めた。

「これは感応石っていう僕達の世界で使われていた通信用の道具なんだ。
 人の思念を増幅し、固有のパルスに変換する性質を持っていて遠くまで音声や映像を飛ばすことができるんだ」
「ああ、思い起こすはかの魔法のテロリストオデッサの決起の日。
 壇上に立ったヴィンちゃんが世界中に宣戦布告した時のこと。
 呼ばれてなかったからただの捏造ではありますが」
「……つくづく利用されるだけだったんだな」

ぼそりとアシュレーの物真似をしてトカに突っ込みを入れるゴゴ。
その言葉にショックを受けよよよと泣き崩れるトカをスルーしつつトッシュは問いかける。

「通信機? んなもんがどうして首輪ん中に入ってんだ?」
「考えられるのは殺し合いを観賞するためと監視する為だ。
 感応石が自動的に僕達の声や映像をオディオへと送っているんだと思う。一種の生放送だ」

それはオディオにとっても最優先事項だろう。
開幕を告げた時の口ぶりや放送の内容からしてもオディオは殺し合いの結果だけでなく過程をも気にかけている。
またオディオに抗おうとしている人間を監視する意味合いもあるはずだ。
実際首輪を外そうとしている人間もここにいる。

「なるほどな。っておいおい、それじゃあまずいんじゃねえか!?
 思念を増幅するってえことは俺たちの考えがオディオに筒抜けってことじゃねえか!」
「それについては大丈夫だと思う。
 感応石にある心と心を繋げる力。
 それは文字通り心を繋げる――つまりは双方向通信なんだ。
 今僕達はオディオの心を感じられない。ということはオディオの方も僕たちの心の中までは読めていない」
「おお、そいつは朗報だぜ!」
「けどその心を繋げたり意思を増幅したりする機能は監視以外にも利用されているみたいなんだ」

しかも三つも。
そう重く告げてアシュレーはまず右人差し指を立てた。

「一つ目。多分だけど言語の翻訳にも感応石が一躍買っている」
「言語だあ?」
「僕とトッシュ、ゴゴはそれぞれ別世界の人間だ。にも関わらず何の不都合もなくこうして言葉を交わせている。
 ドラゴン次元の住人だったロンバルディアとも会話が可能だった前例はあるけれど、
 彼の場合は僕達の世界でかなりの時間を過ごしていた。
 その間に言葉を覚えていても不思議じゃない。
 でも、僕達は違う。今日始めて会ったばかりなんだ」
「なるほどな。それなのに言葉が通じてるっるうことは……」
「感応石の意思を伝える力のおかげだと思う」

535アシュレーのパーフェクト首輪教室  ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:53:36 ID:WPH7HQ/I0
言葉そのものでなくその言葉を発しているアシュレー達の意思を互いの首輪の感応石が送受信しているからだとすれば説明がつく。
このことに指摘したのは感応石を知っていたアシュレーでもトカでもなくゴゴだった。
物真似師として常に相手の一挙一動すら見逃すことなく観察していた彼は、
相手の口の動きと聞こえてくる言葉の間に不適合があることにかなり早くから気付けていたのだ。

「口の動きか。言われてみれば確かに違和感があるな。よく分かった。続けてくれ」

トッシュの反応に頷き、アシュレーは右中指を立てて話を続ける。

「二つ目。これは推測だけどオディオが死者を把握できているのも感応石のおかげかもしれない」
「人の思念が完全に途切れるのは死んだ時だけっつうことか?」
「そういうことさ。感応石が思念を増幅している時に出すパルスは石と持ち主それぞれで波長が少し違うんだ。
 その反応を機械化何かでモニターしていてそれがキャッチできなくなった時、
 オディオはその石の持ち主に死亡判定を出しているんだと思う」

音声だけなら、映像だけなら。
なんらかの手段で死を偽装できるかもしれない。
だが思念に関しては話は別だ。
おいそれとごまかせるものではないし、それこそ死にでもしない限り途絶えるものでもない。
オディオもそこに目をつけて生死の確認をしているのでは?
死した後に意志のある亡霊達に身体を乗っとられたアティという例もあったが、感応石は死者の念は受け付けない。
もしもそんな力があるのなら、今頃感応石が全国的に普及しているファルガイアは死者たちの声に溢れかえっていることだろう。
しかしながら現実にはそんな話、噂でさえ聞いたことがなかった。
感応石が生者と死者の念を取り間違えることがない証拠である。

「オディオにとっては好都合この上ないってことさ」

そこで一度アシュレーは言葉を切り、右薬指を立てて再び口を開く。

「僕達にとっては最も重要である三つ目に移ろう」
「爆弾のことだな」
「「「……」」」
「何だよ、また押し黙りやがって」
「トッシュ、一つ思い出して欲しい。さっき見せたばらばらにした首輪のことだ」
「言ったと思うが知っているものなんざ一つもねえぜ」
「そう、無いんだ。あるべきはずのものが。僕達誰もが知っていて、かつ、首輪の中に無ければならないものがッ!」
「めんどくせえ言い回しは無しだぜ。分かりやすく言ってくれ」



「爆弾が、無いんだ」



「……は?」

何を言っているんだ、こいつは?
爆弾が、無い?
トッシュを混乱が襲うも思い返してみれば言われた通りだ。
先ほどトッシュが見たパーツの中にはそれらしきものは一つもなかった。
剣にのみ生きてきたトッシュだが相棒であったシュウが爆発物のエキスパートであったこともありそれなりに馴染みはある。
攻撃が届かない敵に向かって腹立ち紛れに究極の爆弾を投げつけたことだってあった位だ。
だからこそそれらしきものを目にしたのなら、種類までは分からなくとも爆発物だと見抜くくらいはできたはずだ。
だというのに解体された首輪の部品の中にはトッシュに覚えのあるものは一つも無かった。
爆弾さえなかった。

536SAVEDATA No.774:2010/04/30(金) 19:54:09 ID:WPH7HQ/I0

「どういう、ことだ?」

唖然とした表情でトッシュが呟く。
まさか首輪の中に爆弾があるというのはオディオのはったりだったのか?
それはない。
オディオにそんなはったりをかます理由はなく、現に始まりの場で二人の人間が首輪の爆発で命を落としている。
何かがあるはずだ。
爆弾ではない。けれど爆弾と同様の何かが。
必死で頭を悩ませるトッシュにアシュレーも同意する。

「僕達も一度そこで行き詰った。爆弾から逃れようにもそれ自体が見つからないならどうしようもない。
 必死で色々な可能性を追求した。かって僕が戦った爆弾型モンスターのようなパターンまで疑ったくらいだ。
 けれどそのどれもこれもが納得のできる答えを導き出せなかった」
「そこで頼りになるのがこの頭脳。我輩は言いました。二度あることは三度あるどころか四度ある。
 ここまで全部感応石に関係していたところを見るにもう全部感応石のせいにしてもよくね、科学的に? と」
「謝れ! てめえ科学に謝れ!」

思わずツッコミを入れてしまったトッシュの肩をゴゴが優しく叩く。

「トッシュ、それにアシュレーはこう返した」

「「すごいぞ、意外と間違っていないかもしれないッ!」」

「それでいいのか、科学!?」
「気持ちは分かるが落ち着いて今度はこれを見てくれ」

アシュレーが何かを握っていた左手を開いた瞬間、淡い光が漏れ出す。
その色は、碧。
トッシュの記憶にも新しいある亡霊が振るっていた刃の色。

「まさか、そいつは……」
「碧の賢帝(シャルトス)の破片だ。これがぎっしりと首輪の中に詰められていた」
「んな馬鹿な。あの魔剣はてめえが叩き斬ったんじゃなかったのか?」
「シャルトスを打ち直して創られたウィスタリアスがシャルトスと同時に存在していた以上、
 一本しかないはずの剣が十本二十本ある可能性も否定できないんだ」
「まじかよ。つくづくでたらめだな、あの魔王は」
「それにありえないはずのものならもう一つある」

アシュレーの言葉に合わせゴゴがごちゃごちゃした物体をアピールせんと掲げ上げる。
一見すると動物の骨のように見えなくもないが、その割には機械的な箇所も見受けられた。
これまで同様トッシュにはその変てこなものを言い表す言葉がない。

「なんだこりゃ?」
「さっきからそのセリフばっかりであるな」
「うっせえ!」

トカの物真似で茶々を入れるゴゴに唾を撒き散らすトッシュ。
アシュレーはその様子に僅かに笑みを浮べるも、すぐに消してトッシュに答えを教えることにした。

「僕がかって塵も残さず吹き飛ばしたはずのあるドラゴンの化石なんだ」
「ドラゴン?」
「ドラゴンって言うのは……」
「待て待て待て! 俺の世界にもドラゴンはいる。それよりもどうしてここでドラゴンが出てくるんだ?
 魔剣はともかくドラゴンは今までの流れと関係ねえんじゃねえか?」
「そうでもないんだ。僕達の世界ではドラゴンの化石はロストテクノロジーの産物で武器や機械の材料になるんだ。
 それも使うものを選ばないとはいえ精神感応が必要な強力な物の材料にッ!
 そして話を戻すけどあの魔剣はアティから譲り受けた知識からするに意思の強さでその力を増すらしいんだッ!」
「精神感応……? 意志で力を増す魔剣? そうか、それなら話が繋がる!」

537 ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:54:56 ID:WPH7HQ/I0
トッシュの中でパズルのピースが噛みあう様に理解が浸透していく。
感応石、魔剣、そしてドラゴンの化石。
全てに共通するのがそれが人の意思に影響を受けるという特徴。
思念を増幅する石、心次第で力を増す剣、精神感応兵器。
それらを統合するにオディオが作ったこの首輪は首輪型の精神感応性兵器なのだ。
爆弾が仕込まれていたのではなく、首輪それ自体が強力無慈悲の爆発を生じさせるARMだったのだ。
部品に使われている魔剣の凄まじさならトッシュも体感したとおりだ。
天変地異さえも用意に起しかねない圧倒的な魔力のうねり。
あれが肌に密着した状態からぶつけられようものなら魔法が苦手なトッシュでなくとも一溜まりもない。
あまり想像したくない事態を思い浮かべてしまい、トッシュは苦い顔になる。
が、そこで一つの疑問に突き当たった。

「待てよ? 確かにあの剣の力は下手な精霊の力を上回るほどに凄かったが例えば同じ剣の力なら相殺できるんじゃねえか!」

アシュレーからナイトブレイザーに関して聞いた時、補足として語られた魔剣の話を思い出す。
シャルトスとウィスタリアスの他にもう一本キルスレスという魔剣があるらしい。
アシュレーも実際に見たというその剣の力があれば、或いは危険が伴う為軽々しくは使えないがアシュレーがアクセスしさえすれば。
首輪の爆発にも耐え切り、オディオの掌から逃れられるのでは?
鬼の首を取ったかのように嬉々として語るトッシュだったが、当の本人であるアシュレーは首を横に振るばかりだった。

「ただのドラゴンの化石なら僕もその方法を試みたかもしれない。
 けれどトカの分析によると120%の確率でこの化石は超兵器グラウスヴァインの物だったんだッ!」
「ヴィンちゃんに頼まれてグラウスヴァイン召喚魔法陣のデータを検分したことのある我輩ですぞ?
 100%では足りないレベルで間違いないトカあるトカ!
 はて、そういえばあれがヴィンちゃんからあった最後の指令だったような?」
「トカゲ、てめえが仲間外れにされてた過去なんざどうでもいい!
 それでその核兵器ってのはそんなにやべえものなのか?」
「やばいなんてものじゃない。星一つ吹き飛ばしかねない威力の爆弾だッ!」
「けっ、首輪爆弾の材料にするにはこれ以上ない素材っつうことかよ」

オディオは魔力爆発に耐えられそうな一部参加者への対策に首輪の火薬代わりを二重に用意していたのだ。
トカの行ったシミュレートによると爆発のプロセスはこんなところだ。
初めに感応石を通じ参加者のルール違反を知ったオディオが自らの感応石で爆破の思念を送る。
その思念に共感した首輪側の感応石が瞬時に首輪主のありとあらゆる思念を凡百かまわず最大限まで増幅。
発生した膨大なそれでいて統率されていない意思エネルギーにより魔剣とARMが共に暴走起動を起こす。
そして魔剣とARMが自らの発するエネルギーを制御できなくなる臨界点を一気に突破して。

暴発

圧倒的なまでの魔力と核の洗礼を受け、哀れ魔王のルールを破った人間は死に至る。
耐えるなどおこがましい。
逃れることなどできはしない。
科学と魔法、その二つの頂点に位置する暴力に同時に晒されるのだから。

538 ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:55:39 ID:WPH7HQ/I0
「そんなにすげえものならホールで二人の人間が殺された時に俺達を巻き込むくれえの爆発が起きたんじゃねえのか?」
「首輪にはいくつかブラックボックスがあったんだ。
 その中にバイツァダストのように爆発の余波を次元転移させる機構があるんだと思う」
「どうせなら爆発を丸ごと転移させて欲しいもんだぜ」

忌々しげに毒づいた後トッシュは髪をわしわしとかきむしる。
首輪のほぼ全容が見えたのは大きな前進だったが、その内容は想像以上に凶悪なものだった。
監視・盗聴完備な上に強力無比、オディオは指先一つ動かさずに爆発できる。
その悪夢じみた完璧さにトッシュは舌を打つ。

「私の意思次第で自在に爆発する首輪だたあよく言ったもんだぜ。
 どうすんだ? 俺達の行動は全て監視されてんだろ。
 あいつが思った途端に爆発するんじゃ防ぎようがねえじゃねえか」
「あきらめなければ何とかなるトカーッ!」
「あったりめえよ! 誰が諦めてやるかってんだ!
 いざとなりゃあオディオが思うよりも先に斬るまでよ!」

半ば本気で言ったことだったがそれに応える声が脳裏に響いた。

『そうだ、諦めるのは速い』

男のような女のような声。
老人のようでいて若者らしくも思えるおかしな響きな声。
相反する矛盾を内包したその奇妙な声の持ち主はトッシュの目の前にいた。

「ゴゴ、何か言ったか?」
「気のせいだ」『何もないように振舞え。俺は今お前の心に直接話しかけている』

ゴゴはちらりとトッシュの右手を見る。
釣られて己が右手に視線を落とせば握ったままだった感応石がうっすらと輝いていた。

『オディオの方も僕たちの心の中までは読めていない』

ついさっき聞いたアシュレーの言葉がゴゴの物真似によって再生される。
そこまで言われてトッシュもゴゴの思惑をようやく感じ取りにやりと笑った。
そうだ、感応石の本来の用法、心を繋ぐその力を以て心の声で会話すればオディオといえど盗聴することはできまい。

『『なら、それを利用しない手はねえよなあ!』』

監視自体はされたままな為、首輪解除自体はすぐにはできないが、オディオに聞かれたくない相談をするには十分だった。

『よく思いついたな、こんな方法』
『オディオが感応石を使っているのならこちらも感応石を利用すればいい。簡単なモノマネだ』

どこか誇らしげに言った後ゴゴはアシュレーへと感応石を投げ渡す。
完全に解体した首輪が二つしかない以上、取得することのできた感応石の数もまた二つだ。
意思伝達できるのは自然と一対一の二人に限られてくる。

『確実とは言えないけれど首輪を無効化できる方法がいくつかある』

既にゴゴとトカには伝えたであろうことをアシュレーはトッシュにも伝える。

539 ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:56:19 ID:WPH7HQ/I0
『聞かせてくれ』
『まずはARMSと魔剣にそれぞれ対処する方法だ。
 僕の元の世界の仲間であるマリアベルならARMの構造には詳しいから核の方は無効化することも不可能じゃない。
 魔剣だってアティから譲り受けた知識やキルスレスの入手、持ち主だというイスラって人が助けてくれればトッシュの言ったように相殺できる』

『次に首輪の中核である感応石にアプローチする方法だ。
 僕達の世界には念話を専門にした術者であるテレパスメイジという職業が合ったんだ。
 もしもそれに類似する能力を持つ思念術に長けた誰かを仲間にできれば感応石による監視や首輪の起爆をどうにかできるかもしれない』

『これら二つはここにいる僕達にはできない方法だ。
 特にテレパスメイジの方はいるかどうかも分からない希望的観測に過ぎない』
『松達が集めてくれている面子の中にいりゃあいいんだがな』
『だから本命はこれから言う三つ目だ』

アシュレーはデイパックから地図を取り出し、トッシュ達三人に見えるように広く広げる。
トッシュ達四人が見てきたエリアや施設の情報を事細かに記載した地図。
そのうちの追記されていないまだ見ぬ地や深く調べることの無かった海底や遺跡を順々に指差していく。

『どんなに純度のいい感応石でもこんな小さな物じゃ通信範囲はたかが知れているんだ。
 心を結んだ者同士ならともかく単純な通信機器として使うならこの島一帯すらカバーできない。
 その欠点を補う為にはあるはずなんだ。
 オディオ側の感応石と首輪の感応石の中継点になる巨大な感応石を設置したテレパスタワーのような施設が。
 或いはその代わりになる何かがこの島のどこかに、僕達が知らない場所にある』

ならばすべきことはただ一つ。

『僕たちは何としてでもその施設を見つけ出して破壊するッ!』

皆を守らんとするアシュレーの宣言に

『おうっ!』

トッシュは力強く頷いた。


【G−3 フィガロ城 一日目 夕方】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(小)
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:放送まで城で待機。ビッキーを待つ。その後フィロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:セッツァーに会い、問い詰める
4:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期は本編クリア後
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。

540 ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:56:52 ID:WPH7HQ/I0
【トッシュ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ほそみの剣@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、天罰の杖@DQ4、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを斬る。
1:放送まで城で待機。その後フィロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:セッツァーを探しルカを倒す
4:必ずしも一緒に行動する必要はないがちょことは一度会いたい。
5:基本的に女子供とは戦わない。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未完成です。

【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ 、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、
    焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:放送まで城で待機。ビッキーを待つ。その後フィロ城でA-6村に行き、座礁船へ
2:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
3:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
4:セッツァー、ケフカ、シャドウ、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
5:アクセスは多用できない
※参戦時期は本編終了後です。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
 白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
 アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
 ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、
 現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
 アティの意思は、徐々に磨り減っています。アクセスを行うとその消耗は加速します。

【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、スカイアーマー@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)
    天命牙双(右)@幻想水滸伝Ⅱ、基本支給品一式×2
[思考]
基本:リザード星へ帰る。
1:野蛮な赤毛男(トッシュ)を含む参加者と協力し、故郷へ帰る手段を探す。
2:もしも参加者の力では故郷に帰れないなら皆殺しにし、魔王の手で故郷に帰してもらう。
[備考]:
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーはスカイアーマーに改修されました。が、トカ製な為妙なアレンジが施されていたり、いきなり調子が悪くなったりするかもしれません。

541 ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 19:59:33 ID:WPH7HQ/I0
投下終了
どなたか代理投下お願いします
また今回は読んでの通り首輪についての話です
こちらの力量不足のせいで分かりにくいところや、何か気になるところがあるかもしれません
指摘や思うところがあれば是非是非おっしゃってください。では

542 ◆iDqvc5TpTI:2010/04/30(金) 20:32:47 ID:WPH7HQ/I0
代理投下、支援、ありがとうございました

543 ◆SERENA/7ps:2010/05/03(月) 17:50:28 ID:WtiMl/Us0
「ブタにはブタなりの小賢しい知恵があるらしいな……」

思えば、儚げなくせにどこか芯のある強さを秘めているのは、ジルに似ているところがあるかもしれない。
ロザリーの言うことにはほとんど聞く価値がなかったが、一つだけルカにとっても意義のある情報があった。

――オディオに屈さず、未来のために手を取り合える強さを、私は信じています。
――憎しみに流されず、悲しみ囚われず、互いに理解する心を。
――人間も、エルフも、魔族も、ノーブルレッドも。誰もが、抱いているのですから。

ノーブルレッド。
これだけならば、ルカには何のことか分からなかった。
しかし、人間とエルフと魔族と一緒に挙げられているのだから、種族名だということだけは分かる。

「世界は広いらしいな……」

人間もウイングボードもコボルトもたくさん殺してきたが、世界には未だ見ぬ種族がいるらしい。
純然たる赤を意味するノーブルレッド。
その種族を斬ったときの感触を、ルカは知りたくなった。
血の色は赤いのか、それともそれ以外の色なのか。
肉を切った感触は硬いのか柔らかいのか。
ウイングボードの翼のように、人にはない器官を備えているのか。
あるいは、コボルトのようにそもそも人間とは似てない種族なのか。
想像するだけで胸が躍る。
体中が未だ見ぬ種族を殺害せよと疼く。

「ふはははははははははははは!! 感謝するぞメスブタ! 貴様は俺に斬る新たな楽しみを教えた!」 

ルカは殺しを止めない。
千人殺そうとも二千人殺そうとも満たされることのなかった渇きが、6人殺したくらいで満足するはずがない。
ここにいる53人全員をルカが殺したとしても、ルカは満たされることはないだろう。
彼の歩く道の先にあるのは、無数の屍が転がる戦場のみ。
それは、他ならぬルカ自身がよく知っている。


【F-2 中央 一日目 夕方】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]上半身鎧全壊、精神的疲労(大)、ダメージ大(頭部出血を始め全身に重い打撲・斬傷、口内に深い切り傷)
[装備]皆殺しの剣@DQIV、魔石ギルガメッシュ@FFVI
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×6、カギなわ@LIVE A LIVE、死神のカード@FFVI
   魔封じの杖(4/5)@DQⅣ、モップ@クロノ・トリガー、スーパーファミコンのアダプタ@現実、
   ミラクルショット@クロノトリガー、トルネコの首輪 、武器以外の不明支給品×1
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る2人及び、名を知らないアキラ、続いてトッシュ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。

544 ◆xFiaj.i0ME:2010/05/06(木) 23:15:56 ID:DBQNABH20
さて、放送案仮投下しますー。

545SAVEDATA No.774:2010/05/06(木) 23:16:48 ID:DBQNABH20

「……時間だ。
 手を止めろ、などと言う意思も理由も無い。 せいぜい聞き逃さぬように注意することだ。

 禁止エリアは
 20:00からC-5 と I-6
 22:00からE-1 と H-2
 00:00からD-10 と G-7

 そして、
 高原日勝
 マッシュ・レネ・フィガロ
 ケフカ・パラッツォ
 ミネア
 シンシア
 ビッキー
 クロノ

 以上の7名が、新たに死者の列に加わった。
 速度が落ちた、などと無粋な事をいう必要は無いな。 何しろこれで死者は半数を超えたのだから。
 もう半数とするか、まだ半数と取るか、いずれにせよ半分を過ぎた。 残された者たちはせいぜい奮起するがいい」





事ここに至って、余計な事柄を述べる必要は無い。
遠くから響くのみの言葉など無くとも、今彼らを包む世界は雄弁に主張を続けている。
短く、事実のみを告げた。
……だが、それだけか?


「らしくもない……」

玉座の端を握る手の力が、僅かに強い。
僅かに感じるのは苛立ちか、それとも怒りか。

546 ◆xFiaj.i0ME:2010/05/06(木) 23:17:39 ID:DBQNABH20
――私の声が、届いていますか?
――届いているのなら、お願いです。どうか、耳を傾けてください。
――私の名は、ロザリー。魔王オディオによって、殺し合いをさせられている者の一人です。
――それでも、私は魔王の思惑に乗るつもりはありません。何があろうとも、傷つけ殺し合うなどと、あってはならないのです。
――私はかつて、この身に死を刻まれました。そのときの痛みと苦しみは、忘れられません。
――ですが、身に付けられた痛みよりも、迫りくる死の恐怖よりも辛い苦痛を、私は知っています
――何より辛かったのは、私の死をきっかけに、私の大切な方が、悲しみと憎しみに囚われてしまったことです。
――愛しいその方は私を殺めた人物だけでなく、人間という種族を滅ぼそうとしてしまいました。
――その方を陥れようとした悪意によって企てられた、謀略であったことに気づかずに。 
――勇者様とそのお仲間のおかげで、私は再び生を受け、あの方を止めることができました。
――そんな経験を経て、私は、改めて実感したのです。
――何より辛かったのは、私の死をきっかけに、私の大切な方が、悲しみと憎しみに囚われてしまったことです。
――愛しいその方は私を殺めた人物だけでなく、人間という種族を滅ぼそうとしてしまいました。
――その方を陥れようとした悪意によって企てられた、謀略であったことに気づかずに。 
――勇者様とそのお仲間のおかげで、私は再び生を受け、あの方を止めることができました。
――そんな経験を経て、私は、改めて実感したのです。
――命を奪う行為は悲しみを生み憎しみを育ててしまいます。悲しみと憎しみはまた別の悲しみと憎しみへと続いてしまいます。
――大切な人が亡くなり、悲しみに暮れている方もいらっしゃるでしょう。仇を討とうと、憎しみを抱いている方も少なくはないかもしれません。
――どうか、その大切な人のことを思い出してください。その人が、貴方のそんな姿を望んでいるはずがありません。
――殺し合いに乗ってしまった方々、少しだけでも考えてみてください。
――大切な人の死によって生まれる悲しみを、痛みを、苦しみを。
――憎しみを抱き刃を向けるのは止めにしましょう。憎しみは目を曇らせ、刃は取り合うべきを切り落とします。
――互いに傷つけ合い殺し合うのは止めにしましょう。私たちは、必ず手を取り合えるはずです。
――私は今、生きています。それは、たくさんの強く優しい方々に出会い、手を取り合えた証です。
――オディオに屈さず、未来のために手を取り合える強さを、私は信じています。
――憎しみに流されず、悲しみ囚われず、互いに理解する心を。
――人間も、エルフも、魔族も、ノーブルレッドも。誰もが、抱いているのですから。
――願わくば、私の声が多くの方々に。
――ピサロ様に、届きますように。


……否定する気は無い。
手を取り合う強さも、互いを理解しようとする心も。 それそのものは強く、美しい感情であったのは事実なのだから。
背中合わせに戦う友が、呼びかけに応えてくれたかつての英雄が、最後まで己を信じてくれた仲間が、そして何よりも、己を待ち続けている人が。
旅立ちの時も、戦いの日々にも、新たな仲間を得た時も、失意に囚われた時も、道が見えず闇雲に彷徨う時でも、一人になった後でさえ、力を与えてくれた。

547 ◆xFiaj.i0ME:2010/05/06(木) 23:18:18 ID:DBQNABH20
エルフの姫御。 強く、聡明な女性よ。
貴女は勘違いをしている。
貴女の声は決して届く事はない。 
いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。 
それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。
貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない。
かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。

哀れみはしない。
貴女は強い人だ。
かつて最後まで私の事を信じてくれた仲間のように。
その道を、信じ続けて死ねる者もいるのだから。

そして、だからこそ貴女には、今の貴女では決して理解することは出来ない。

貴女は何も知らない。
貴女は何も失っていない。 ただ失わせただけだ。
己の全てを賭して守りたい物を失ったその先、そこに何があるのか……貴女は何一つ知ってなどいないのだ。
それを知らぬ貴女の言葉は、その先にたどり着いたものには決して届きはしない。
貴女は、その真実を知らないのだ。

「……いや」

或いはそれが…それも、真実なのか。
理解にすら至らない場所。
生物としての根本的な差異。
貴女達には、貴女には、それが真実だったのか?

なあ、……シア……
貴女達は、我々とは根本的に違っていたのか?
いくら考えても、わからない。

私は、決して届かない、……届かなかった言葉を、こうして考え続けることしか出来ないのか?

548 ◆xFiaj.i0ME:2010/05/06(木) 23:20:48 ID:DBQNABH20
以上になります。
誤字脱字問題などございましたら指摘お願いします。
禁止エリアについては一応残りメンバーが集まり易いようなつもりで決めました。
どこか他に希望のエリアなどございましたら差し替えますー。

549SAVEDATA No.774:2010/05/06(木) 23:45:06 ID:kGvVf5SI0
必要としていないものにしか届かない、か
言い得て妙だな、ほんと
GJです。禁止エリアも問題ないかと

550SAVEDATA No.774:2010/05/07(金) 01:25:47 ID:CC.jGL9IO
仮投下乙です
魔王になったのにいまだにアリシアに未練残してたりするのがオディオなんですよね
禁止エリアもそれでいいかと思います
しかし禁止エリアになる時間は20、22、24時ではなく19、21、23時だったような?



さて放送案も出たし予約解禁は何時にする?
もう明日8日かあさって9日の0時でいいと思うんだがどうだろう?

551SAVEDATA No.774:2010/05/07(金) 03:36:54 ID:GjQ8rJrE0
明後日9日0時に一票

552 ◆xFiaj.i0ME:2010/05/07(金) 13:09:15 ID:z0im6z5sO
感想ありがとうございます。

このまま問題無いようでしたら、予約解禁がどう転んでも大丈夫なように、今夜(22:00前後?)本投下します。

553SAVEDATA No.774:2010/05/07(金) 13:10:26 ID:z0im6z5sO
と、>>550さんに指摘された時間のミスを直してから、ですorz

554SAVEDATA No.774:2010/05/07(金) 19:27:48 ID:GjQ8rJrE0
◆xFiaj.i0ME氏、お疲れ様です
予約期間ですが明日の0:00という意見は土曜の深夜0:00ということですよね?

555SAVEDATA No.774:2010/05/07(金) 19:43:32 ID:CC.jGL9IO
>>554
うん

556SAVEDATA No.774:2010/05/07(金) 20:27:08 ID:GjQ8rJrE0
それなら私も異存ありません

557 ◆xFiaj.i0ME:2010/05/07(金) 22:05:27 ID:zwQl1o7A0
さて、問題無さそうなので本投下してしまいますー。

558 ◆xFiaj.i0ME:2010/05/07(金) 22:09:30 ID:zwQl1o7A0
普通に規制中だったorz
どなたか以下の>>545の時間変更したもの、及び>>546>>547の代理投下をお願いします。


「……時間だ。
 手を止めろ、などと言う意思も理由も無い。 せいぜい聞き逃さぬように注意することだ。

 禁止エリアは
 19:00からC-5 と I-6
 21:00からE-1 と H-2
 23:00からD-10 と G-7

 そして、
 高原日勝
 マッシュ・レネ・フィガロ
 ケフカ・パラッツォ
 ミネア
 シンシア
 ビッキー
 クロノ

 以上の7名が、新たに死者の列に加わった。
 速度が落ちた、などと無粋な事をいう必要は無いな。 何しろこれで死者は半数を超えたのだから。
 もう半数とするか、まだ半数と取るか、いずれにせよ半分を過ぎた。 残された者たちはせいぜい奮起するがいい」





事ここに至って、余計な事柄を述べる必要は無い。
遠くから響くのみの言葉など無くとも、今彼らを包む世界は雄弁に主張を続けている。
短く、事実のみを告げた。
……だが、それだけか?


「らしくもない……」

玉座の端を握る手の力が、僅かに強い。
僅かに感じるのは苛立ちか、それとも怒りか。

559イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:00:19 ID:bQBPYIGA0
雨が降っている。

雨の匂いが辺りに満ちていく。
雨が降ると憂鬱になる。
そう言う人もいるだろう。

周りの環境が人の心に影響を与えるというのならば、人の心に周りの環境が答えると言うこともあるのではないだろうか?
そう、その雨は誰かの心を表しているようだ。
深い深い、悲しみの体現。

雨がざあざあと降り注ぐ。
ばたばたと絶え間なく地面に落ちて吸い込まれていく。
それは彼の涙だろうか?

彼はもう『勇者』では無くなってしまった。
持っていた伝説の武具からは輝きが消えていた。
聖なる雷を引き起こす力も失われた。

そう、『勇者』など何処にもいなかった。
ならば彼はどうするのだろうか?
何処にも『勇者』がいないなら自分がなる……と思えるだろうか?
思えまい。
彼はそんな『生贄』に過ぎない称号なんていらないのだから。

彼は今、『憎しみ』に支配されている。
世界から裏切られて魔王へと転生した勇者のように。
愛するものを殺され、自我を失ってなお人間を根絶やしにしようとした魔王のように。

『生きる』限り、『憎しみ』は『生まれる』。
人間(live)は誰もが悪魔(evil)になれる。
あるいはそれを超越した存在にさえ。
それは表裏一体。
鏡に映された現実。
切っても切れない関係。

彼は一体どのような道を選ぶのだろうか?
人間? 悪魔? 生贄? 勇者? 英雄? ゴミ?
それとも……?
どうなるにしろ結局の所それを決めるのは彼だ。
嘗ての彼の称号のように周りが決めるものではない。

今、彼は『勇者』のこだわりを完全に捨てた。
割り切ったのだ。自らが歩んできた空虚な人生を。
彼が彼女―――アナスタシア・ルン・ヴァレリアを憎むのは、いまや『勇者』に対する拘りから来るのではなく、ましてや空虚な心を埋めるためでもない。
アナスタシアが気に入らないから。
憎いから―――ただ、ただ憎いから。
理由なんて無い。
だから殺す。
ただそれだけだ。



560イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:06:38 ID:bQBPYIGA0
「消し飛べえええええ!エビルデイイイイィィィィン!」
「滅びろおおおおおお!ジゴスパアアアァァァァクッ!」

天から落ちる黒い燐光を帯びた雷と地から天へと昇る地獄の雷が同時に迫ってくる。
一つだけでも絶大な威力だ。この黒い雷を二つもまともに受けては只じゃすまない。
それは全員が理解していた。
危機を感知し全力で離脱。
暴れ狂う破壊の嵐をやり過ごす。

「チッ……放送もまともに聞かねえとはな」

アキラは静かにそう呟く。
戦闘が始まろうとした直後のことだ。
突如、オディオによる定時放送が始まった。
魔王やカエルは放送間は攻撃を仕掛けてこなかった。
それも当然だ。二人には叶えたい望みがある。
死者の情報はともかく、禁止エリアの発表を聞き逃すわけにはいかない。
それは集中して聞いておかなければならない情報だ。
だから出来るだけ放送に耳を傾け、迫り来る脅威に対する迎撃にだけつとめていた。
だがユーリルとピサロはそんなものお構いなしに攻撃を仕掛けてきた。
二人とも完全に冷静さを欠いていた。
勿論、放送なんて二人は聞いてない。
今の二人を見れば判るほとんどの者がそう思うだろう。
事実、二人だけが聞かなかった。
ユーリルが死者の発表の時に少し反応しただけ。
それ以外の者たちは激しい攻撃に晒されながらも何とか放送を聞いていた。
故にピサロは気付かない。
未だロザリーが生きていると言うことに。

(それにしても……なんてやばいものを着けているんだ)

高原日勝。
さっきの放送で呼ばれた、妙な世界を共にした仲間。
最初に会ったときは驚いたものだ。
牢屋の中で筋トレしている筋肉質の男がいたのだから。
強くなりたい。
純粋にそんなことを考えていた男だった。
身体も心も鍛えていずれは『最強』へ―――。
彼はただひたすらに『最強』を目指していた。
その彼の愛用品である最強を冠するバンテージ。
装着者に圧倒的な力と体力を与えてくれる代物だ。
それが今、瞳を憎悪の色に染め凄まじい殺気を放つ緑の髪の青年―――ユーリルの手首に巻かれている。
おまけに物騒な剣まで持っている。
そんな剣戟をまともに受けたらおしまいだ。
ユーリルが高原を殺したかは判らないが、どっちみち放っておける存在じゃない。
戦い抜くッ!高原の分まで!

「邪魔をするなああああああッ―――」
(こっちに来やがった!)

アキラはアナスタシアとユーリルを結ぶ直線上にいた。
アナスタシアを殺すのに邪魔な男を滅さんと天空の剣を振りかぶるッ。

561イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:13:48 ID:bQBPYIGA0
(逸れろッ)

―――ひゅん。

しかし、ユーリルの剣戟はアキラ捉えることは敵わなかった。
体勢を立て直すユーリル。
……が動きが一瞬止まった。
その刹那ッ!

(うおおおおおおおおお!)


がつん。

一撃目。エルボー。
ユーリルの下顎にきれいに決まった。

ずどん。

二撃目。正拳突き。
ユーリルがたたらを踏む。

ガアアァン。

三撃目。裏回し蹴り。
喉笛にまともに蹴りを受けたユーリルが大きく吹き飛ぶ。


全ての攻撃がまともに入った。
ユーリルが攻撃する瞬間にアキラはスリートイメージを展開。
冷静でないユーリル……いやここまで来ればもう錯乱に近いだろう。
そんな状態の人間には効果覿面。
ユーリルは見事に方向感覚を狂わせられて必殺の斬撃を外した。
そのときアキラは絶好の反撃ポイントを見つけた。
激怒の腕輪の効果により反撃能力が上がっているのだ。
そしてホーリーゴーストを展開し、突如現れた聖なる霊に怯んだユーリルに連続攻撃を叩き込んだ。
ルクレチアで怪物達と命のやりとりをしてきたアキラの攻撃は並の男どころか、かなりの達人でも昏倒してもおかしくない威力だ。

「めちゃくちゃ硬いな……」

だが、アキラは気を緩めない。
ここにいる者はみんな『かなりの達人』で納まる者たちではない。
それに最強バンテージの効果で身体が硬くなっている。
大したダメージは与えていないだろう。

562イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:16:25 ID:bQBPYIGA0
―――ゆらあ。

ゆっくりと幽鬼のようにユーリルが立ち上がる。
相変わらず身の毛がよだつ殺気を放っている。
戦意が衰えている様子は全くない。
ほうら、効いてない。
アキラは静かに歯噛みした。
相手は身体能力こそ凄ましい、だがやや錯乱していることもあり攻撃を避けることはそれほど難しくない。
しかし当たれば一撃だ。これは精神的にきつい。
一方こちらは攻撃こそ当たるが、とにかく火力が足りず相手を倒しきれない。
もちろんユーリルも攻撃が当たらず地道に体力を削ってくるこちらを鬱陶しく思っているだろう。
だが、だからといって状況は好転しない。
第一敵は―――

「……アイスガ」
「ウォータガ!」

ユーリルだけじゃないのだから。





空気中の水分とカエルによって生み出された水が一瞬で凝固。
魔王は一瞬で雨を氷の刃の嵐へと変貌させた。
ひょうが。
マールとカエルが使っていた連携技だ。
マールを上回る魔王の魔力と雨によって水分が増加していたことでそれを上回る巨大なひょうがを生み出していた。
それらが二人を除く全てのものに襲いかかる!

「クリメイションッ!」

声を放ったのは夜の覇者。
伝説のノーブルレッドであるマリアベルだ。
氷には火だ。
激しい氷の刃の嵐を地獄の業火で迎え撃つ!

―――バシュウ。

全て蒸発した。
冷気の強さには限界がある。
いくら二人技だろうと『完成した』魔法を迎え撃つなら不可能じゃない。
怖いのは堅さと速度、質量と鋭さだ。
地獄の業火が対抗できないわけがない!

「……霧がッ!」

氷を一瞬で気化させたことにより濃霧が発生。
これでは周りが見えにくい。
そのとき、霧を引き裂く一陣の疾風―――真空波が駆ける。
それはマリアベルとアキラを引き裂かんと迫るッ!

「……させんッ!」
「……させないよッ!」

銀髪の男―――ピサロが放った真空波の前に二人の男が立ちふさがる。
スレイハイム解放戦線の『英雄』ブラッド・エヴァンス!
紅の魔剣に選ばれた『適格者』イスラ・レヴィノス!

563イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:22:00 ID:bQBPYIGA0
「「はあッッ!!!!!」」

ブラッドが音速の突きでドラゴンクローを繰り出し、空気の壁をぶち破り真空波を弾く。
弾かれた真空波を魔界の剣でイスラが迎撃、弱められた真空波を完全にかき消すッ!

「……無事か」
「当然じゃ」

ユーリル、カエル、魔王、そしてピサロとおぼしき銀髪の男。
この四人各々がとてつもない戦闘能力を持っている。
こちらの四人と『戦闘力の単純な足し算』をすれば相手の方が強いだろう。

……だが、勝てないことはない。

今までの戦闘から判断するに手を組んでいるのはカエルと魔王のみ。
アナスタシアの護衛をするという不利こそ有るが、これは4対4ではなく4対2対1対1だ。
更にピサロとユーリルは冷静さを欠いている。
それに対してマリアベルとブラッドはカエルと魔王以上にお互いのフォローが出来るほど、共に戦い抜いてきた実績がある。
そしてイスラとアキラは空間把握能力に優れ、的確に動いている。
アキラのスリートイメージはこの乱戦状態に大きく貢献していた。
イスラはブラッドと共に一度戦っただけにも関わらず、こちらの空気を読んで行動している。
即席のチームだが連携は巧くとれている。
これなら勝てないことはない。

そう……あくまで『勝てないことはない』だが。

こちらの方に圧倒的に分があるというわけじゃない。
繰り返しになるが、四人とも凄まじい実力を持っている。
そう易々と勝てる相手じゃない。
せめて、後一人くらい少なくなれば何とかなりそうなのだが。
戦況がそれほど良くはない。

「じゃが……負けられぬッ!」



―――轟ッ!

ピサロは疾風の如くアキラとの距離を詰め斬りかかってきた。
それはまさに剣の舞。
刹那に行われた六連。

「うわッ!うわッ」

スリートイメージを駆使して対応する。
だがそれだけじゃ間違いなく斬り刻まれる。
回避行動に集中する。

564イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:23:06 ID:bQBPYIGA0
一撃目のヨシユキの横薙ぎを身をひねって回避。

二撃目の頭部めがけたヴァイオレイターの突きを頭をずらして避ける。

三撃目のヨシユキの返す刃。無理な体勢で後ろに回避、バランスを崩す。

四撃目、追撃に振るわれたヨシユキ。転倒する事によって回避。

五撃目、アキラの喉めがけて突き立てるヴァイオレイター。横に転がる。目の前には地に突き立てられたヴァイオレイター。何かが腕にぶつかる。

六撃目、振り上げられたヨシユキ。上半身だけをを起こしたアキラ。

「小賢しい人間めッ!滅びろッ!」
(――――ッ!やばいッ。頼むッ。逸れてくれッ!)

間の悪いことに仲間はみな他の者の相手をしている。今からじゃフォローは間に合わない。
しかし、刃は完全に逸れることなく向かってくる。

「――――ちっくしょおおおおおッ!!!」

苦し紛れに腕を盾にする。
無駄だ。そんなものが盾として機能するはずがない。
腕に何かの圧力がかかる。
きっとヨシユキの刃だろう。
そのまま、盾とした腕ごとアキラを真っ二つに――――出来なかった。

「な……に……?」

ヨシユキはアキラの身体を引き裂くことは敵わなかった。
アキラの腕には――――天命牙双の片割れが握られていた。
ただ三人でいたいと少年の義姉のささやかな願いが、それでいて強い想いが込められたトンファー。
天命牙双――――ルカ・ブライトをも一度は討ち滅ぼした、天魁星の宿星を持つ少年の武器だ。
それは少年がルカと戦ったときよりも更に鍛えられていた。
鍛冶屋大師匠と呼ばれる超一流の鍛冶職人メースも使用したとされる究極のハンマーである――ゴールデンハンマー。
名鍛冶職人テッサイがゴールデンハンマーを使って極限まで強化しているのだ。
そのおかげでアキラは斬られずに済んだ。
補足をするならスリートイメージによって数度だけ剣の軌道がずれたこともアキラが助かった要因のになっていたが。

565イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:24:42 ID:bQBPYIGA0
「人間を――――」

今だ。
こいつをぶっ飛ばすなら今しかない。
反撃ポイント発見。
鳩尾に一撃だ。

サイコメトリー。
この武器に込められた残留思念を読み込む。
この武器の所持者の事や今まで辿った道筋などの詳しいことは判らない。
だが――――想いは伝わる。
それでいい。

ヨシユキを打ち払う。
天命牙双を腕の中で回転させる。
天魁星の少年ほどの技術はない。



――――ホーリーブロウ。


技術?
必要ない。
ただ――――。

(ただ俺も想いを込めればいい)

拳に想いを込めて――――。

「――――舐めんじゃねえッ!」

拳にありったけの想いを込め、天命牙双を携えたアキラのホーリーブロウがきれいに鳩尾に炸裂し、吹き飛ばされたピサロは見えなくなった。



566イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:27:09 ID:bQBPYIGA0
「……サンダガ」
「エビルデインッ」

銀髪の男が遠くに弾き出されたのと同時に電撃が迫ってきた。
雨が降っているときに一番強まる属性は水じゃない――雷だ。
それをまともには受けられない。
イスラとブラッドが回避運動をとろうとする。
しかし、金髪ロングカールの美少女――マリアベル・アーミティッジはレッドパワーの魔力を練っていた。
――不敵な笑みを浮かべて。

タイミングが合った。
今なら十分いける。

「メイルシュトロームッ!」

カウンターで放たれた故に魔王とユーリルは対抗が間に合わない。
カエルは津波に対抗しうる魔法を持っていない。
メイルシュトロームはサンダガとエビルデインを呑み込んで三人に襲いかかるッ!

「「ぐあああああああッ」」

二人分の電撃を呑み込んだ津波だ。
それらは津波に帯電したとあっては魔力に強い魔王でさえ無視できないダメージだ。
しかし、流石と言うしかない。
魔王とユーリル。二人とも決して小さくないダメージを受けたにもかかわらず、押し流されずに耐えきった。

二人……?
カエルは?

「……上じゃッ!」

城下町での戦いを思い出し、カエルが上にジャンプして津波を回避したと推理。
マリアベルは空を見上げる……いた。
しかし、マリアベルの真上ではない。
イスラの真上にいた。
不意をつくなら、嘗て戦ったマリアベル以外の者を狙うのは当然だ。
虹色に輝く刀を煌めかせて。



567イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:28:20 ID:bQBPYIGA0
「……くッ」

間に合うか?
微妙だな。
まあ、間に合わなかったところで死ぬだけだけどね。
死んだらどうなるかな?
僕は……?
この人達は……?
あ、駄目だ間に合わない。

「……させるかよッ!」

受け止めたのは額に傷のある出会ったばかりの少年だった。
いつのまにか持っていたトンファーで受け止めていた。
割り込んできたのはギリギリだ。
一歩遅ければアキラが斬られていた。
はははっ。
お人好しばっかりだ。
何でこんなヤツを庇うんだろう?
いや……この少年は僕がどんなやつか、僕が今までどんな酷いことをしてきたか知らないか。
まあ、どっちみちお人好しだ。
だってそうだろ?
出会って間もない見ず知らずの人間を庇うなんて。
あれ……?
そういえば僕もさっき誰かを――――。

「世話の焼けるッ」

続く刃で二人を両断しようとしたカエルが目に映ったブラッドが地面を強く蹴り上げる。
風を切り裂いて突き進むドラゴンクロー。
それを……打ち出すッ!
強い殺気を感じたカエルは攻撃動作をキャンセル防御態勢をとる。
カエルの刀は龍の爪を受け止める。
その衝撃によって吹き飛ぶ……が無様に倒れることなく難なく着地していた。

「戦場では何時死んでもおかしくないッ!気を抜くなイスラッ!」
「……わかったよ」

今はただこの状況に――――。

「アナスタシアッ!?」

マリアベルと呼ばれていた少女の声が聞こえた。
あの女――――アナスタシア・ルン・ヴァレリアがこの場から離れるべく駆け出していた。
今は放送前の時にあった包囲網が解除され、逃げるチャンスだ。
とはいえ、逃げるという行為が効果的なのは時と場合。
逃げる――――つまり追われる者。
背中を見せると言うこと。
少なからずリスクがある。
この状況は?
ロザリーと呼ばれた気絶した女性を含めた僕ら六人が逃げられる状況だろうか?
テレポートを考慮しなければ、それは難しいだろう。
ならどうしてあの女は逃げた……ああ、そうか。
全く持って気に入らない。

「僕たちは……囮か」



568イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:32:48 ID:bQBPYIGA0

電撃の痺れに耐え、顔を上げる。
誰かがこの場から離れていくのが見えた。
あの女だ。
憎むべき存在、アナスタシア・ルン・ヴァレリアだ。

逃がさない。
殺す。
絶対に。
一片の容赦なく。

お前のせいで。
お前のせいでッ。
僕は、僕はッ。

――くすくす。

誰かが僕を嗤っている。
勇者じゃない。
ヤツはもういない。
誰かはわかっている。
背中から悪魔の羽を生やした偽りの幼馴染みだ。
いや……幼馴染みの『皮』を被った悪魔だッ。
さっきからうっとうしい。
圧倒的な不快感。
気持ち悪い。
その微笑みは、僕の心に反響して何度も何度も、僕の中を蹂躙した。

――くすくすくすくす。

……シンシア。
僕を嘲笑うのか。
そうだろうな。
所詮僕は操り人形だ。
家族なんていなかった。
あの楽しかった日々は。
穏やかで充実していた、何時までも続いて欲しいと思っていた日々はまやかし――幻想でしかなかった。

――くすくすくすくすくす。

その嫌な微笑みをやめろシンシア。
僕はもうお前達の操り人形にはならない。
お前達の大好きな『勇者』の同類である『英雄』を殺してやるよ。

――くすくすくすくすくすくす。

もう、僕の心から――。



イ  ナ  ク  ナ  レ  。

569イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:33:35 ID:bQBPYIGA0
「逃がさない……逃がさないぞ!アナスタシアァァァ!!!」

他の者など眼中になく、ただアナスタシアを殺すためにユーリルは駆け出す。

今の彼の見て勇者だと思う者はどれくらいいるだろう?
その顔はもう――。



目が覚めたときに最初に目に入ったのはユーリルが恐ろしい表情で何処かに駆け出していく姿だった。

(……ユーリル様)

すぐにさっきの光景が思い出される。
命が無慈悲に蹂躙された光景。
そしてそれを引き起こしたユーリルの顔。
あの優しかったはずのユーリルの。
勇者の面影がない悪魔の表情をしたユーリルの顔。
気持ち悪い。
あんな死に方あんまりだ。

(……あの顔は)

あの人もあんな顔をしていた。
いけない。
このままじゃきっと取り返しのつかないことになる。
彼はあの人と同じ道を。
自我を失ってまで人間を滅ぼそうとしたあの人と同じ道を進もうとしている。


――止めなきゃ。


ユーリルが進む道の先に待っているのはきっと破滅。
今止めないと、周りの人達どころかユーリル自身も破滅する。


――きっと大丈夫。


彼は本当はとても優しい人。
あの人のように。
きっと助けることが出来る。


今のロザリーに周りの状況を把握する余裕はなかった。
城下町で戦ったカエルのことも見えていない。
駆け出すユーリルを見たロザリーは、ただユーリルを助けようと、ユーリルを追って駆けだした。



「ロザリー!」

あっという間のことだった。
アナスタシアがどこかに駆けだして。
続けてユーリルと呼ばれていた緑の髪の青年がアナスタシアと同じ方向に走った。
そしていつの間にか気絶から回復したロザリーもユーリルの後を追った。

だが、カエルも魔王も後を追おうとも手を出そうともしない。
こちらを警戒してのことだろう。
そんなことをすれば、自分たちからの攻撃を受ける恐れがある。
自分たちとの位置関係はそう言った状況だったのだ。

570イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:34:57 ID:bQBPYIGA0
「マリアベルッ!俺にグレートブースターを掛け、すぐに後を追えッ!」

ブラッドはマリアベルに号令を掛ける。
マリアベルはすぐに、ブラッドの意図を理解した。
ロザリーのこと。
そしてアナスタシアの事も放っておけない。
ブラッドは一つの賭に出たのだ。
今のこちらの戦力数はマリアベルとアキラとイスラ、そしてブラッドの四人。
対して向こうはカエルと魔王の二人だ。
ここでマリアベルが欠けても、戦力数だけで見ればまだこちらが有利だ。
だが問題がある。

パーティバランス。
アキラの能力とマリアベルの能力は全く違う能力だ。
ここでのマリアベルの能力は代わりが効かない。
このメンバーのマリアベルの役割は大きいのだ。
自分が欠ければパーティバランスに勝る向こうが有利になる。

ならば何故マリアベルが選ばれたか?
その事も理解している。
ロザリーと一緒にいたことが一つ……そして。

「グレートブースター!」

ブラッド……おぬしの覚悟、受け取ったぞ。
ならば、わらわはその覚悟に応えよう!

回れ右。
既に三人とも見えなくなっている。
かまうものか。
見つけ出してみせる。
顔に叩き付けてくる雨粒を押しのけ、三人が向かった方向へファルガイアの支配者は疾風の如く駆けた。



「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

今までと比較にならないスピードでブラッドが魔王に迫る。
だが易々敗れる魔王じゃない。
魔王は素早く持っていた魔鍵で防御する。

今までに受けたブラッドの拳を大きく上回る衝撃が魔王を襲う。
だが魔王は衝撃に耐える。
ひとまず距離をとって魔法を唱えようとする。

「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

しかし、魔王の前に立ちはだかるブラッドはその行動を許さないッ!
魔王が距離をとるより早くブラッドが距離を詰めて次なる拳を見舞う。
魔王は防御に専念してその拳を全て受ける。
強烈な衝撃が次々と伝わり手を痺れさせる。

571イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:35:52 ID:bQBPYIGA0
「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!
打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!!!

「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!
押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出す押し出すッ!!!

「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

もうブラッドの周りには魔王しかいない。
ブラッドの作戦通りだ。
目的はカエルとの戦力の分散。

グレートブースター。
その恩恵を受けた者を能力を引き上げるレッドパワー。
力、体力、魔力、素早さを大きく引き上げる。
更に魔法は三回までなら属性を打ち消して反射できる。
見違えるくらいにパワーアップだ。

572イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:36:33 ID:bQBPYIGA0
だがこのレッドパワーには欠点がある。
このときに冷戦な判断が出来なくなってしまうことだ。
とはいえ、敵味方の区別がつかない狂戦士になると言うわけではない。
正確に言うなら集中力が必要な細かい作業が出来ないといったところだ。
例えばアームに心を繋げ、弾丸を撃ち出すこと、クレストグラフに魔力を込めるなどが出来なくなる。

つまり悪手となる可能性も秘めている。
先ほどの乱戦ではみんなの状況を把握しながら戦う必要があり、迂闊に使えなかった。
だがマリアベルが欠けるとなればパーティバランスは向こうが上。
だから『只、ひたすらに魔王に攻撃して』カエルと引き離さないといけない。
その為に必要だった。

カエルはこちらに近づけないように二人が食い止めている。
後はイスラを、アキラを、マリアベルを信じて、自分は魔王を倒すだけだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおッッーーーーーー!!!!!」

打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!
打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕く打ち砕くッ!!!

「俺の名前には意味があるッ!ここで死ぬわけにはいかないッ!」

『英雄』は駆け抜けるッ、『魔王』を倒すために。

【C-7 一日目 夜】
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(中)、額と右腕から出血、アルテマ、ミッシングによるダメージ、グレートブースター。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI 、パワーマフラー@クロノトリガー
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品0〜1個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:魔王を倒して仲間と合流。
2:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:セッツァーとマッシュの情報に疑問。以後セッツァーは警戒。
4:再度遭遇したら道化師(ケフカ)を倒す。魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:紅の暴君@サモンナイト3、不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:ブラッドを殺すなり、やり過ごすなりしてカエルと合流。
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける 。
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

573Devil Never Cry−君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:38:59 ID:bQBPYIGA0


「ここは通行止めだよ、カエル」

魔王のフォローをするべく、二人が消えた先に向かおうとしたカエルだったが、それを簡単に許すイスラとアキラではなかった。
簡単にここは突破できないとカエルは思った。

「だいたい予想はついているけど、君、何で殺し合いに乗っているんだい?」

敵と会話できるだけの余裕が出来たイスラは静かに、しかし重く口を開いた。
目の前のカエルの事は灯台でクロノから聞いている。
クロノからはカエルは安全と聞いているが、目の前のカエルはどう見ても殺し合いに乗っている。
クロノが嘘を吐いた可能性はゼロではない。
でも恐らくは……だが嘘を言ったつもりはなかったのだろう。
目の前のカエルは先ほど出会ったケフカかもしれない道化師とは違う。
殺人に快楽を感じる者ではなく、痛みを感じれる者。

これでも、イスラは人を見る目には自信があるつもりだ。
マッシュも高原もクロノも悪いヤツには見えなかった。
マッシュとセッツァーの事も出会っていないセッツァーの方が怪しいと思っている。
それに仮にさっきの道化師がケフカだったとしたなら、マッシュの方が信頼に勝る。
勿論、全幅の信頼を寄せれるわけではない。
まあ、もっとも灯台で出会った三人は先ほどの放送で呼ばれてしまったが。

「蘇らせたい人でもいるのかい?」

イスラは軽口叩くように声を出す。
しかし、目は真剣その物だ。

クロノから聞いた限りじゃ、残るカエルの知り合いは魔王のみ。
魔王を守るために殺し合いに乗ったとは考えづらい。
ルッカかエイラが死んでしまったからだろう。

「……俺には守らなきゃならないものがある。取り戻さなければいけないものがある」

そうだ。
これは忠誠を誓った国のためなんかじゃない。
ガルディア王国の王国のためなんかじゃない。
只の自分のわがままだ。
自分の辿った歴史を否定されたくない。
サイラスの存在する王国歴600年を、クロノの存在する王国歴1000年を無かったことにしたくない。
だから、全て殺す。
それが今の自分のやること、存在意義。

「ふーん……『ならない』、『いけない』んだね」
「……ッ!そうだ……全て俺の意思だッ」

なるほど、とイスラは思った。
こいつはもう止められない。
こいつは嘗てとの自分と同じだ。
全て自分で選択し、覚悟を決めているようだけど、そうじゃない。
こいつはその『自分が選んだ道』に縛られている。
そう……自由なんかじゃないんだ。

守る?馬鹿馬鹿しい。
『守れなかった』の間違いだろう?

取り戻す?巫山戯るな。
失ってしまった者は他者の都合でどうこうしていいものじゃない。

自分の意思?笑わせるな。
こんな事を望んでないことぐらい見ればわかる。

その先に待っているのはきっと――。

574イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:39:39 ID:bQBPYIGA0
「何を言っても無駄だろうけど、一つだけ忠告しておくよ」
「……なんだ?」
「嘘の仮面……ペルソナをかぶり続けるといずれその嘘の仮面が本当になる。
 その仮面ははがれずに顔にまとわりつく、その事をよく覚えておくんだね」

そう、わかっているのに見えない振りを続けると大切なものを見失う。
ヘクトルの言うこと全てに納得した訳じゃないが、その事は理解できた。

「……言いたいことはそれだけか?」

言葉は不要。
只、刃を交えるのみ。
イスラは苦笑いする。
判っていたことだ。
こいつが止まらないことは。
例え、自分が望む行動でなくても。
自由でなくても。
この道を『選んだ』の紛れもないカエルの強い意志なのだから。

「……覚悟ッ!」



ガキンガキンと刃が交わる。
戦うのは一匹のカエルと二人の人間。
時に魔法を挟みながら、カエルは二人を殺すため剣を振るう。

(……強いな)

卓越した剣技だ。
これほどの剣の技量を持つものは片手で数えるほどしかイスラは知らない。
少なくとも自分よりは上。
アキラのサポートがあり何とか対応している。

更に魔法――つまり飛び道具も扱える。
だがこちらにも銃という名の飛び道具がある!

――バシュン。

イスラはドーリーショットの引き金を引く。
これはショットガンだ。
弾を曲げるなどの能力がない限りは遠くから撃てば全ては当たらない。
スプレイの様に広がる散弾とはそう言うものだ。
全て当てるにはゼロ距離で撃つしかない。

しかし、だ。
その性質上攻撃範囲は非常に広範囲だ。
つまり、適当に撃っても何発かは当たるのだ。
巧く使えば、相手の行動を大きく制限できるという利点がある。
それをイスラは狙った。

44マグナムは試し撃ちをしたところ、卓越した技術が必要そうだった。
反動も強く、扱いづらい。
連射も撃てて三連射ぐらいが限度だろう。
使うならショットガンだ。

575Devil Never Cry−君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:40:21 ID:bQBPYIGA0
「ウォータガ!」

しかしカエルは対象の水をバリアとして呼び出す。
散弾の勢いが殺される。
威力も弾速も大きく削がれた。
水圧は思いがけない力を持っているものだ。

ドーリーショットは確かに高性能ショットガンだ。
全て当たればかなりの威力だろう。
しかし44マグナムのように一発一発の威力が非常に大きいかと言われればそうではない。

カエルは散弾の雨を潜り抜ける。
厄介な超能力少年は今の水流に流された。
カエルの予想外の行動に驚いた優男を仕留めるため強く地面を蹴る。
剣に持ち替える前に仕留めるッ!

「やばいッ!」

走る。

間に合え。
このままじゃイスラが危ない。
あのカエル野郎は既に間合いに入っている。
また目の前で人が死ぬ。
そんなのはもうごめんだ。
イスラが剣に持ち替えるのが見えた。
だめだ、遅い、間に合わない。
イメージを練り上げる。
間に合え間に合え間に合えッ!

そこでアキラは見た。
全てがスロー。
全てがコマ送りだった。


カエルが刀を振り上げる。


カエルが刀に力を込める。


それが振り下ろされる。


そして――――。


だ  め  だ  。

そう思ったアキラが見た一連の流れの最後のコマ。
それはカエルに先んじてカウンターの突きを放っていたイスラの姿だった。
それはまるで――――。

576Devil Never Cry−君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:41:02 ID:bQBPYIGA0
「うおおおおおおおおッ」

見とれている場合じゃない。
命がかかっているんだ。
カエル野郎はあの突きを受け止めた。
まだ戦いは終わってない!

乾坤一擲、ド根性だ。
近くにあった大きめの石をぶん投げるッ!

「いけええええええええええええッ!」




それは一瞬の出来事だった。
絶対に殺せると思った優男から不意に放たれた突き。
攻撃を強引に中断してそれを受け止める。
それほど重いとは思わなかった。
だが、速かった。
ただ、ただ、速かった。

そして飛んできた大きな石。

――――フリーランサー!

過去のトラウマが思い起こされる。
昔の話だ。
デナドロ山に登っていたときのこと。
俺はモンスターと戦っていた。
突如、飛んできた投石。
そこに生息するモンスター、フリーランサーが投げたものだった。
俺はその投擲をまともに受け崖から落ちた。
俺は奇跡的に助かった。
そして実戦の怖さを思い知らされた。
俺は怖くなった。実戦が。
魔物と戦う恐怖を乗り越えるには時間がかかった。
恐怖を乗り越えた俺は再びデナドロ山に挑んだ。
しかし、何時までも何時までも、あの悪夢のような投石は乗り越えられなかった。

だめだ。
恐ろしい。
恐ろしいだと?
巫山戯るな!
これぐらい恐れるようでは王国は救えない!
乗り越えるんだ!
過去の亡霊を! 
俺は俺は俺は――――。

「うおおおおおおおおおおーーーーー!」

アキラは別に投擲の達人じゃない。
だが、アキラが装備しているいかりのリングのおかげで投擲能力は強化された。
カエルの眼前に石が迫る。
一刀両断。
石は真っ二つに両断された。
瞬時に魔法を練る。
ウォータガ。
それを壁にして撤退。
これ以上の無理は良くない。

魔王のいる方向は二人がいて進めない。
合流するなら回り道になるが仕方ない。
後方に撤退。

「……さらばだ」

【C-7 一日目 夜】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:魔王と合流。
2:魔王と共に全参加者の殺害。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

577Devil Never Cry−君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:41:33 ID:bQBPYIGA0


あのカエルはもう見えなくなってしまった。
魔王と同じ方向に進ませることは避けられたが、回り道するなりなんなりで解決できる。
こちらもあまり悠長にしていられない。

「俺達はどっちに行けばいいッ」
「……そうだね」

方向音痴であるアキラはイスラに指示を求めた。
しかし、ここは入り組んだ森。
みんなが消えた方向に向かって会えるとは限らない。
とはいえ向かった方向に行くのが堅実だ。
最もイスラとしてはアナスタシアには会いたくはないのが。

この混沌とした森で二人が選んだ道は――――?

【C-7 一日目 夜】
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:アルテマ、ミッシングによるダメージ、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み)
    ドーリーショット(残り十発)@アークザラッドⅡ 、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、
    44マグナム(残り六発)@LIVE A LIVE
    鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:どうするか決める。
2:あの道化師(ケフカ)と再度遭遇したら確実に仕留める。
3:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費。 疲労(小)
[装備]:天命牙双(左)@幻想水滸伝Ⅱ、激怒の腕輪@クロノ・トリガー 、いかりのリング@FFⅥ
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:どうするか決める。
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)の仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。



578Devil Never Cry−君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:42:04 ID:bQBPYIGA0
「うおおうッ」
「貴様……さっきの」

アナスタシアとロザリーを追っていたマリアベル。
しかし、最初に出会ったのはその二人のどちらでもなかった。
銀髪の青年――――魔王デスピサロ。
よりによってこいつと最初に出会うとは、と唸った。
コンディションはこちらの方がいい。
だが、それでもピサロは一対一で戦って易々勝ちをくれるレベルの強さじゃない。
というか、今はそんな暇じゃない。
早く二人を捜さないといけないのだ。
先ほどは完全に乱戦で会話をする暇はなかった。
だが今なら出来る。
無駄かもしれないが、戦闘になる前に先手を打った。

「待て!ロザリーは生きておる!」

マリアベルはロザリーから詳しくピサロのことを聞いていたこともあり、先ほどピサロが襲いかかってきた理由はすぐに理解できた。
無用な戦闘を避けるべく、強く訴えた。
しかし聞き入れてくれるか判らない以上、隙は全く見せなかったが。

「……何だと」

マリアベルに斬りかかろうとしたピサロの動きが止まる。
それはピサロにとって無視できない情報だったからだ。
それは、くだらない嘘、虚言、妄言だと割り切ることなど出来なかった。
目の前の女からは嘘を言っている様子は一切感じ取れない。
この目をピサロは知っている。
以前この付近で出会ったミネアも同じ目をしていた。
勿論ピサロは人間を信じることは出来ない。
それでもピサロはマリアベルの訴えに耳を貸す。
ミネアの時よりあっさりと。

なぜか?
ミネアの言うことは真実だったこと。
さきほどロザリーが死んだことを確認してないこと。
更に目の前の少女が自分が嫌いな人間ではなかったからだ。
自分に近い存在くらい一目で判る。

それにミネアの時も思ったことだが、その言葉が真実であって欲しいとどうしても思うのだ。
その希望に縋らずにはいられない。

「ならば、ロザリーは何処にいる!」
「わらわも探している所じゃ!」
「ロザリー!」

それを聞いた以上は、ここで無駄な戦闘をしている場合ではない。
一刻も早くロザリーを探さなければいけない。
ロザリーを探して守るべく、駆け出そうとする。

579Devil Never Cry−君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:42:38 ID:bQBPYIGA0



「待たんかーーーー!」



ごっち〜〜〜〜ん☆



が、唐突に降ってきた金盥がピサロの頭に直撃。
なにをする、邪魔をするなと刃を向けるピサロ。
しかし、金盥を落としたマリアベルに戦闘する様子はない。
見れば一枚の紙を差し出していた。

「今までの禁止エリアをまとめた紙じゃ。受け取れ」
「……どういうつもりだ」

ピサロは訝しむ。
理解に苦しむ。
何故自分にここまでするか判らない。

「ロザリーも放送を聞いておらんからの、伝えて欲しいのじゃ」

簡単なことだ。
少なくともピサロがさっきの放送を聞いていないことは明白。
そしてロザリーも聞いていない。
この男が今すぐ自分と一緒に行動するとは思えない。
だからピサロが先にロザリーと出会ったときのために禁止エリアを教えた。
それにピサロが死んだらロザリーが悲しむ。

紙を受け取ったピサロは今度こそ駆けだした。
そしてマリアベルも行動再会だ。

今は放っておいても大丈夫だろう。
ロザリーを探すことを優先している今なら売られた喧嘩しか買わないはずだ。
ピサロは思った通りの危険人物だったが絶対に信じられる部分がある。
マリアベルはピサロを信じていた。
ピサロの愛を、ピサロのロザリーに対する愛を。
それだけは絶対に信じることが出来た。



「はあ……はあ……」

駄目だ。あんな所にいたら死んでしまう。
みんながみんなとんでもない戦闘能力を持っていた。
守ってくれた方も、襲ってきた方も。
死にたくない。
ただその一心でアナスタシア・ルン・ヴァレリアはあの場から逃げ出した。

「……怖い」

怖い。
どうしよう。
逃げてしまった。
戻るべきだろうか?

怖い。
駄目。恐ろしい。
戻ったら殺される。
死にたくない。

怖い。
今、私はひとりぼっち。
ここで私を守ってくれた少女はいない。
私に戦う力なんて無い。

580イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:43:51 ID:bQBPYIGA0
戻る事なんて出来るはずがない。
アナスタシアが逃げた理由は襲ってくる者に殺されることを恐れただけじゃないからだ。
仮に襲撃者を全員倒したところでだ。
アナスタシアは間違いなく、マリアベル達に尋問される。
第一、ブラッドには自分のことを知られている。
隙をついて逃げるしかなかった。

「わたし……わたし……」

震えが止まらない。
沢山の人に私のことを知られてしまった。
私を守ってくれる少女もいない。
自分がこの先、生き残るのは絶望的に思えた。



バゴッオオオオオオオオオン!!!


すごい音が聞こえた。
音の発信源の方を向けばそこにあった木々が無惨にひしゃげた荒れ地になっていた。
その中心には――――。


「み つ け た」


悪魔がいた。

だめだ、怖い。
走り疲れた。
動悸が止まらない。
汗がじっとりと浮かぶ。
身体が震えて動かない。

これは、やっぱり罰なのかな。
少女を利用し、他者を殺して生き残ろうとした罰。
私だってあの時私を生贄にした人達と何も変わらない。
さっきだって守られてばかりで何もしなかった。
うん、きっと罰なのだろう。
でも、そんなの受け入れたくない!

581イナクナリナサイ−彼女は微笑む ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:45:04 ID:bQBPYIGA0
「ああああああああああああああッ!!!」

絶望の鎌を取り出し応戦しようとするが遅い。

だめだ。斬られる。
私には助けてくれる白馬の王子様もいない。
善い魔法使いは近くにいない。
自業自得だろう。
私が彼をこんな風にしてしまったのだから。
彼は真の『勇者』にはなれなかった。
でも、私は裁かれるのか――――。
私は全てを受け入れ目を閉じた。


「あきらめるなどお主らしくないぞ、アナスタシア」


聞き慣れた声が聞こえてきた。
目を開けてみる。
そこにいたのは白馬の王子様でも善い魔法使いでもなかった。
未来を奪われたあの戦いで私を助けてくれた存在。
マリアベルがアガートラームでユーリル君の剣を受け止めている光景だった。

「くっ、重い……」

足が地面に沈んでいる。
それほど重い一撃だったのだろう。
アガートラームだからこそ受け止められたのだ。

「ああああああああッ」

ユーリル君を弾き飛ばして距離を取った。
彼は瞳は相変わらず憎しみの色に染まっていた。

「なんで、なんで、そんなやつをかばうんだよッ。
 そいつは『生贄』だ!殺して何が悪い!」
「……お主、あまりわらわを怒らせぬ方がよいぞ」

582Devil Never Cry −君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:47:28 ID:bQBPYIGA0
ユーリル君が叫ぶ。
マリアベルはすごく怒っているみたい。
あの顔久しぶりに見たかも。
金髪の髪がフワフワ浮いている。
本気で怒ってるみたいね。

「あああああああああああああッ」
「アナスタシアは『英雄』でも『生贄』でもないッ!
 わらわの大切な『親友』じゃああああああああああッ!」

スカイツイスター。
マリアベルが生み出した竜巻はユーリルを呑み込んで見えないところまで吹き飛ばした。

「アナスタシア」

マリアベルがこっちを見てきた。
私は目をそらした。

――――パン。

乾いた音が鳴る。
ぶたれたんだ。
マリアベルは賢い。
きっともう全て理解している。
当たり前か。
私は殺し合いに――――。

「己を否定するな、アナスタシア」
「え……?」
「お主、自分が『生贄』とユーリルに言ったのじゃろう?」

マリアベルは強くそう言った。



583Devil Never Cry −君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:48:08 ID:bQBPYIGA0
確かに『英雄』は綺麗なだけのものじゃない。
その事を判って貰うためにニノとロザリーにアナスタシアのことを話した。
決して、『英雄』が『生贄』に直結すると言いたかった訳じゃない。
アナスタシア。
少なくともお主は自分の意思で戦った。
自分を卑下するな。
自分の存在を見つめ直せ。
わらわはお主のことをよく知っている。
アシュレーがロードブレイザーを倒したときもお主は確かにいた。
わらわは判るあの時お主がいたことを。
おぬしは一人じゃない。
わらわはお主と繋いだ手を離すつもりはない。
少なくともお主はわらわにとっては――――。

「お主は『友達』じゃよ」

あああ、なんでさっき『親友』なんて言ったんじゃ。
ちゅうか、面と向かって言う『友達』もかなり恥ずかしいぞ。

「マリアベル……」
「ほれ」

倒れているアナスタシアに手を差し出す。
アナスタシアも右手を出す。

――――二人の少女の手は繋がれた。

【C-7 一日目 夜】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり?ちょこを『力』として利用する?
1:生きたい。
2:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。


【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2 、
    ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2 、シンシアの首輪
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
0:ロザリーを見つけて近くの仲間と合流。その後アナスタシアから事情を聞く
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
8:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
※乱戦の中シンシアの首輪を回収しました。



584Devil Never Cry −君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:50:21 ID:bQBPYIGA0
「クロノ……」

なんであいつには友達がいる?
僕には、僕には、僕には!

この世界はおかしい。
こんな世界いらない。
クロノのいない世界なんて。

「あれは……」

デイパックを見つけた。
中身を出してみる。
ドッペル君がある。
メイルシュトロームで吹き飛ばされたシンシアのデイパックの中身だ。

ユーリルはクロノと考えた考察を思い出す。
もしその通りだったらオディオに勝てるわけがない。
シンシアだって生き返ったことは確認された。
それにこれがあればクロノの事を助けれるかもしれない。
オディオの願いで助けられるかもしれない。
駄目だったらそれはそれでいい。
クロノがいない世界なんていらない。

初めての友達。
僕を認めてくれた存在。

クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ
クロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノクロノ

助けないと。

「ユーリルさん……」
「ああ、ロザリーか……」
「泣いているんですか?」

585Devil Never Cry−君といつまでも ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:53:16 ID:bQBPYIGA0
ロザリーはユーリルが泣いているようにしか見えなかった。
ものすごく辛そうに見えた。

「雨だよ」

いや、泣いてなんかいない。
悪魔は泣かない。

ユーリルはロザリーに向き直る。

「死んでくれ……」
「ユーリルさんッ!」

ひゅん、がきんッ!

猛スピードでユーリルはロザリーに斬りかかるが、ロザリーは殺せなかった。
そこには銀髪の男が佇んでいた。

「ピサロ様!」
「ロザリー!」

関係ない。まとめて殺せばいい。
ユーリルは剣を構え直す。
望むことはただ一つ、クロノ。君といつまでも。

火花散らす戦いが始まった。

【C-7 一日目 夜】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ 世界に対する憎悪。
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQⅣ、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×5(ランタンは4つ)、ドッペル君@クロノトリガー、デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:クロノを許容しない世界を許さない。
1:ピサロを殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。
※第三放送を聞き逃しました。
※勇者の雷が使えなくなった代わりに黒い雷(エビルデイン)を習得。

【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。激怒
    疲労(大)人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:基本支給品一式、データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
[思考]
基本:ロザリーを守る。
1:ユーリルを殺す。
[備考]:
※名簿を確認しました。
※参戦時期は5章最終決戦直後
※第三放送を聞き逃しました。

【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ、気分が悪い (若干持ち直した)
[装備]:クレストグラフ(ヴォルテック)@WILD ARMS 2nd IGNITION 、クレストグラフ(????)WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:戦いを止める。
1:はぐれた仲間と合流したい。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※第三放送を聞き逃しました。

※ミラクルシューズ@FFIV、ソウルセイバー@FFIVはメイルシュトロームにより何処かに流されました。

586 ◆E8Sf5PBLn6:2010/05/17(月) 00:57:23 ID:bQBPYIGA0
仮投下終了。

587SAVEDATA No.774:2010/05/17(月) 20:53:10 ID:yKswPaL.0
破棄了解しました

588 ◆iDqvc5TpTI:2010/05/17(月) 20:55:06 ID:yKswPaL.0
ミス
破棄了解しました

ご質問なされていた魔剣の件ですが仰る通りこちらの状態表への入れ忘れミスです
約束は碧の夢の彼方にで魔王が回収しているのでキルスレスは彼が所有しています
指摘ありがとうございました

589届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:32:29 ID:seA8qMPg0
朝方で支援も望めないのでこちらに投下しておきます

590届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:33:07 ID:seA8qMPg0
『貴女の声は決して届く事はない。 
 いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。 
 それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。
 貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない
 かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。』

夢と現の境界で誰かの声を聞いた気がする。
夢を渡る力が混線でも起こしたのだろうか?

ロザリーは実体のない世界で首を傾げる。
感応石を持ったまましてしまったオディオのロザリーへの独白が偶然ロザリーの力と相まって届いたのだということを彼女が知る由もない。
ただ、その言葉が自分のメッセージへの返答だということだけはおぼろげに察していた。

認めたくない言葉だった。
けれど安易に拒絶していい言葉だとも思えなかった。

その言葉には憐れみも、嘲りも、馬鹿にする響きも含まれていなかったからだ。
自分の言葉を受け、真摯に、心の底からこのメッセージを返してきてくれたのだとロザリーは受け取った。

そうなのかもしれませんね……。

ロザリーは俯く。
思い出すのは意識を失う前の記憶。
マリアベルから告げられた英雄の真実。
子どものように泣きじゃくり、憎しみを露わにする勇者。
ユーリルは勇者になんかなりたくなかったのではという想像。
もしそれが真実だとするならば。いや、紛れもなく真実なのだろう。なら。
手を取り合えると言った彼女自身が大切な恩人であるユーリルのことを理解できていなかったことになる。

メッセージが届かなかったのも当然ですね

自分にもできていないことを他人に求めたところで相手を納得させられないのは当然なのだ。
ロザリーは顔を上げる。
その顔に笑みは浮かんでいなかったが、しかし強い意志は宿ったままだった。

伝えたい心を伝えられない時にどうすればいいのか、ロザリーは既に答えを出していたではないか。
一つの言葉で伝わらないなら、何度でも言葉を重ねればいい。
理解できていなかったのなら、今度こそ真に手を取り合えるよう何度でもユーリルと語り合えばいい。

何度でも、何度でも、何度でも……




591届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:33:40 ID:seA8qMPg0


夜天より声が降り注ぐ。
人の心を穿ち、地へと打ちつける言葉の弾丸。
誰かの、知己の、仲間の、友の訃報を告げる声。
ある者は嘆き、ある者は怒り、ある者は笑い、ある者は喜ぶその声が幸いとしてピサロの想い人の名前を呼ぶことはなかった。
だというのにピサロの様子は先ほどまでと何も変わらない。
凶刃を納めることなく雨に沿うかのように熱を奪われた青い顔を晒し、怒りのままにイスラ達と刃を交えていた。

ピサロは放送など聞いていなかった。
激しさを増した雨音が耳に届くことを妨げたからか。
天地を跋扈する稲妻の轟音により異界の魔王の声が打ち消されたからか。
否。
元より今のピサロにはただ一人を除いていかな声も届きようがなかった。

ああ、もしも、もしも本当に。
ロザリーが死んでいてオディオにより名前を呼ばれていたならば。
一瞬、たかが一瞬といえどもピサロは立ち止まったかもしれないのに。
どれだけ憎悪に狂おうとも、どれだけ怒りに飲み込まれようとも。
ピサロがその名前に反応しないことなどありえないのだから。

――なんという皮肉

彼を凶行に駆りたてたのが愛するものの死ならば。
僅かな時なれど止め得たのも愛するものの死のみとは。

――なんという滑稽

愛するものは存命ですぐ傍らに転がっているというのに。
ピサロは手を伸ばそうともしない。
ロザリーを愛した魔族『ピサロ』ならたとえそれが死骸でも手を伸ばそうとしたであろう。
だがここにいるのはデスピサロ。
人間を憎み、滅ぼす為に一度は愛するものの記憶すら捨て去った復讐の魔王。

雨などという生易しいものではない。
若き魔王の心の中では嵐が吹き荒び雷が荒れ狂っていた。
その雷は

「カ、カエル、まさかお前がロザリーを!?」

飛び込んできた言葉を引き金に開放されることとなる。




592届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:34:17 ID:seA8qMPg0


戦況は膠着状況に陥っていた。
無力なアナスタシアと気絶しているロザリーを護るべく円陣を組んだブラッド達の一団を攻める側は切り崩すことができなかったのだ。
初期状況で北にユーリル、西にピサロ、南に魔王とカエル、東に逃げ場の無い建物と四方を完璧に囲っていたにも関わらず、だ。
さもありなん。
攻める側の四人はカエルと魔王を除いて協力関係ではなかった。
どころか互いが互いの敵でもあった。
潰し合ったのだ、守る側に攻め込みつつもこの四人は。

「貴様か、勇者っ! 貴様が、貴様がロザリーをっ!!」

ピサロからすればユーリルは勇者――ロザリーを殺した人間どもの守護者にして象徴だ。
真っ先に始末してやらなければ気が済まなかった。
彼に殺された直後からオディオに呼び出されたこともあり、ピサロがユーリルを殺さんとする理由は一切なかった。
その勇者が他ならぬ人間を目の敵にして殺そうとしていることを疑問に思うだけの冷静さは残っていなかった。

「うるさい、うるさい、うるさい! 僕を勇者と呼ぶなっ! 
 消えろ、消えろ、魔王! 殺させろ、アナスタシアを殺させろおおおッ!!」

ユーリルからしてもピサロは憎むべき相手だった。
アナスタシアがユーリルの幸せな幻想を完膚なきまでに砕いた下手人なら、ピサロはユーリルの現実的な不幸の直接の元凶なのだ。
エビルプリーストに謀られたからという事実は言い訳にはならない。
人間を根絶やしにせんとした魔王にして、予言に詠われた地獄の帝王を継ぐもの。
勇者の対存在。こいつさえいなければユーリルは勇者としてではなくユーリルとして生きられたのに。
その魔王があろうことか邪魔をする。アナスタシアを、英雄を殺すことの邪魔をする。
ピサロにはそのつもりがなくともユーリルにはまるでアナスタシアが、シンシアが、世界そのものが。
勇者たれと、呪詛を吐き強いているようにしか思えなかった。

「チッ、正真正銘勇者の剣か。バリアが剥がされるとは」

冷静さを保っていたカエルと魔王は最初こそは上手く立ち回れていた。
ユーリルがアナスタシアのことしか目に入っていなかったこと。
ピサロが人間の姿ではないカエルと耳の形がエルフにも見えなくもない魔王を後回しにしたこと。
二つの幸運が重なって当初危険人物から狙われることのなかった二人は攻撃側に加勢した。
正しくは便乗した。
他の参加者を減らしてくれる殺し合いにのった人物と現時点で敵対するメリットはない。
逆に優勝への大きな壁となり得る大集団をここで潰しておくことは非情に有益なものだと踏んでのことだった。
しかしながら話はそう上手くはいってくれなかった。
豪雨を味方につけ蛙の本領発揮とばかりに獅子奮迅の活躍をするカエルに負けじと魔王もまた豪雨を利用することを考えた。
それがいけなかった。
よりにもよって魔王が選んだのはサンダガの呪文。
魔王にとっては単に雨に濡れた相手になら常日頃以上に雷呪文が効果を発揮するだろうと思っての選択で他意はなかった。
実際ピサロやユーリルの雷は上昇した通電効果もあって猛威を振るっていた。
しかし、ユーリルからすれば話は別だ。
よりにもよってよく聞けば『魔王』と呼ばれる男が『友達』が使っていたのと同系統の『雷』呪文をこともなげに扱ったのだ。
アナスタシアには遥かに劣れど、ユーリルの殺意を買うには十分過ぎて、

「これが、勇者だと? こんな、こんな殺意に凝り固まったものが! 認めん、俺は認めん!」

そのユーリルの姿もまたカエルの怒りを買うには十二分だった。

593届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:34:51 ID:seA8qMPg0

混戦だった。
守る側が防御に集中している中で殺す側は守る側と殺す側両方を敵に回して疲労していった。
それが守る側の思惑であるとも知らずに。

「すごいや。おじさんの目論見通り大分ピサロだっけ、銀髪の動きが鈍ってきたよ。
 これならあいつを抜けて後ろの方で倒れているロザリーって人を起こしにいけるようになるのも時間の問題かな」
「ユーリルの方もじゃな。スリープいつでもいけるぞい?」

端からブラッド達は守り一徹の持久戦狙いであり、ユーリルとピサロを殺す気はなかった。
マリアベルの仲間の知り合いだと知ったブラッドが指示したのだ。
ピサロの誤解もいささか仕方がない状況だったことと。
アナスタシアが殺し合いに載っていたこともあり彼女を襲っていたからといってユーリルが悪だとは限らないこと。
甘いと抗議していたイスラもこの二つの理由と他大多数の賛成意見に渋々承知し作戦は決行された。
内容は以下の通りだ。
ピサロとユーリルを疲弊させきった後にマリアベルのスリープで眠らせ、残る二人を四人がかりで数の利で押し切る。
以上一文それだけだ。
いささかシンプルではあるが状況を鑑みるにベストなものではあった。
ピサロとユーリルは見るからに万全とは程遠い状態だった。
そんな身体で後先も考えずにあのペースで感情のままに暴れまわれば遠くないうちに倒れるだろう。
加えてこの豪雨。
生物が動くのに嫌でも必要な熱を奪う水に打たれっぱなしの状態では息切れするまでの時間も加速度的に早くなる。
そう推測した上でのブラッドの作戦は前述の潰しあいもあって大成功だった。

「時が来たら機を逃すな! アキラ、引き続きかく乱と回復を頼むッ!」
「任せな! あと一息ッ!」

そう、後一息。
傍目にはピサロとユーリルは限界まであと一息に思えた。

その一息が限りなく遠いものだったことを直後ブラッド達は思い知ることとなる。

「そこまでだ、魔王! リルカとルッカの仇、取らせてもら……ストレイボウさん!?」

新たに戦場へと踏み入れた二人組の人間、そのうちの一人ストレイボウをきっかけとして。




594届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:35:23 ID:seA8qMPg0
座礁船への道すがらに戦場へと辿り着いた瞬間、ストレイボウはジョウイの静止も振り切り駆け出していた。
心配していた少女たちと言葉を届けたい友。
両方が一度に見つかり、しかも交戦しているとあればいてもたってはいられなかった。
だがその速度が現場に近づくにつれみるみると落ちていく。
ストレイボウは歩くことも忘れ、その衝撃的な光景に打たれるしかなかった。

降り止まぬ雷雨の中倒れ臥す一人の少女。
忘れるはずがない、ストレイボウに道を示してくれたあの心優しき少女だった。
そのすぐそばで戦いを繰り広げるカエルとマリアベル。
姿も形もないニノに女性のものだったと思われる誰とも判別できない無残な骸。
第二回放送で告げられたシュウとサンダウンの死。
それら断片が半日前の光景と重なりストレイボウの中で最悪の想像が鎌首をもたげる。
信じると決めた。
裏切らないと決めた。
けれど一度膨れ上がった疑念を抑えることはできなかった。

「カ、カエル、まさかお前がニノとロザリーを!?」
「ストレイボウ、俺は」
「あ……。お、俺は。すまない、すまないカエル!」

どこか悲しげなカエルの声に状況が状況とはいえ友を疑ってしまったことを恥じるがもう遅い。
その一言が転機となった。
なってしまった。
ぴたり、と。
それまでカエルのことなど気にもかけていなかったピサロが動きを止める。

「人間……今、貴様、誰の名前を呼んだ? そこのカエルがロザリーを殺しただと……?」

荒れ狂っていた寸前までとはうって変わって抑揚を感じられないその声がかえって恐ろしかった。
ぎぎぎぎぎ、と首を動かしたピサロの目がストレイボウのそれとかち合う。
煮えたぎる闇が凝り固まり形をなしたかのような瞳にに射られてストレイボウは立ち竦む。
カエル以上に今の彼は蛇に睨まれた蛙だった。




595届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:35:54 ID:seA8qMPg0
一度目は偽りだった。
二度目は自身だった。
三度目は親友だった。
そして、四度。
否、五度、男は魔王と対峙する。

「答えろ、人間。そこのカエルが私のロザリーを殺したのかと聞いているッ!」

ストレイボウは押し黙るしかなかった。
自身がその答えを知らなかったからでもあるがそれ以上にピサロの表情から声に至るまで全てに表出している殺気が彼に沈黙を強いさせた。

殺される。
下手なことを言えば殺される。
カエルが、カエルがこの男に殺されてしまう!

それは正しい判断だ。
ピサロは殺す。
何よりも優先してロザリーを害したものを殺す。
今この場に限ればロザリーは死んでもおらず、彼女を傷つけたのもユーリルであったがそんなことは関係ない。
既に一度、カエルはロザリーを死の淵まで追い詰めたのだ。
それだけでピサロがカエルを殺すに理由としてはお釣りがくるほどだった。

「だんまり、か。そうか、そうか貴様だったのか。爬虫類の分際が、私のロザリーをっ!」

ストレイボウの沈黙を肯定と取ったのだろう。
ピサロの中からはもはや勇者もロザリーの周りでたむろする人間も消えていた。
有り余る憎悪の全てをカエルと、彼を庇うかのように黙り通した人間へと向けていた。

「お、落ち着いてくれ。あんたが誰かは知らないがまだそうと決まったわけじゃ」
「……」

自分の失言のせいで友が危機に陥いることを防ごうとしどろもどろになりながらも何とか声を出すストレイボウ。
無意識にピサロへの恐怖から逃れようという意図もあったのだろう、必死に舌を動かす彼とは対照的にカエルは口を閉ざしたままだ。
誤解こそ含まれてはいるがカエルがロザリーを殺そうとしたのは事実。
堕ちたとはいえど誇り高い彼には言い訳をする気などさらさらない。

「いいんだ、ストレイボウ」
「お、俺はこんなつもりじゃっ」
「分かっている。これは俺の身から出た錆だ」

ストレイボウにかけられた声からはカエルが本心からそう思っているということが伝わってくる。
それが余計に辛かった。

何を、何をやっているんだ、俺は!?

本当に何をやっているのだろう。
ストレイボウが後悔に沈む暇すらピサロは与えてはくれないというのに。

「異言はないようだな――よく、分かった。死ね」

596届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:36:26 ID:seA8qMPg0
ピサロの足元から幾条もの黒き魔腕が這い出でる。
瘴気を纏い、腐臭を漂わせ、悪鬼亡者がおぞましい雄叫びをあげる。
違う、あれは腕なんかじゃない。
ストレイボウは脳裏を侵した妄想から我に変える。
周囲の温度が上がっていた。
地獄の釜を思わせる金属臭が鼻腔をくすぐった。

なんだ、なんだこれは!?

答えはすぐに出た。
ビリビリと微弱な電流の先駆けを感じたのだ。
帯電していた。
ストレイボウだけではない。
カエルが。
ジョウイが、魔王が。
ピサロと彼らとの間に立ち塞がる壁たるユーリルが、アナスタシアが、ブラッドが、マリアベルが、イスラが。
電荷を帯びた空気の檻に閉じ込められ、その恐るべき光景を目に焼き付けられることとなった。

「ジゴ――」

魔界の王がもたらす熱量に耐え切れず、雨がことごとく蒸発し霧と化した。
次いで、その余りに激しすぎる魔力の流動に耐え切れないのか、大地が激しく鳴動した。
今やピサロの足元から立ち昇りきり、巨大な全長を誇示している黒き雷竜に怯えるかのように。
恐慌は伝染していく。
木々が黒一色に染まり崩れ去る。
集いの泉が干上がり湖底を晒す。
大気が揺らめき炎上し燃え上がる。
……早々雷どころではない。
地獄だ。
地獄そのものが現世へと顕現していた!
その地獄とは他の誰のものでもなくピサロのものだ。
愛する人を護れなかった後悔と、愛する人を奪われた怒りと、愛する人を奪った者達への憎しみと、
愛する人のいない世界で生きていかねばならぬ辛さと、愛する人のいない現実への嘆きが幾重にも幾重にも混ざり合った若き魔王の心象風景。

「――スパークッ!!」

その世界の君臨者、漆黒の雷竜が顎門を開く。
逆鱗に触れた者達に牙を穿ち立てる、それだけを王に誓い。
竜が蛇行を開始する。
一陣の矢となってカエルを、ストレイボウを、障害たる全ての敵を貫かんと。
虚無する激情が、解き放たれた。

「う、うわああああああああああああああああああああ!?」

夜の闇を更なる黒で汚しながら雷竜が迫る。
真っ直ぐ、真っ直ぐストレイボウとカエルの元へと向かって。
道中の雑物達を尾の一振るい、胴の一轢きで粉砕し文字通り雷そのものの鋭さをもって襲い来る。
ストレイボウは悲鳴を上げた。
彼自身が一流の魔法使いであるが故に分かってしまったジゴスパークの威力に。
あますことなく浴びせられたピサロからの憎悪の念に。

死ぬ、殺される、俺は、ここで!?

597届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:36:56 ID:seA8qMPg0
この錯乱は彼が克服しきれていない心の弱さによるものだけではない。
霊魂として過ごした時間が彼から戦士としての心の持ちようを奪い去ってしまっていた。
考えてもみて欲しい。
ストレイボウは死後気も遠くなるような時間を過ごして来た。
その間彼の心を占めていたのは友を裏切ったことへの悔いと弱き自らへの嫌悪ばかり。
戦いのことなど考えたこともなかったのだ。
再び肉体を得て友をこの手で止められる日が来ることになるなど思いもしなかったのだから。
或いは、それもまた弱さか。
霊魂の身では何もできないと自ら動くことを捨てただただ後悔の泥沼に浸かることを選んだ報いか。
数えることなど叶わぬ時の流れはストレイボウのなけなしの強さを――死と隣り合わせである戦場に立つ強ささえ磨耗させてしまった。
新兵も同然なのだ、今のストレイボウは。
そのことに、生き返って以来今に至るまで一度もまともな戦闘をこなしてこなかった為気付けなかったのは何たる不幸か。
ストレイボウは考えられる限り最悪の形で気付かされることになった。
死した身で長きを過ごすうちに忘却してしまっていた死への恐怖と対面するという形で。

「ブ、ブラ、ブラックアビスゥウウウウ!」
「駄目だ、ストレイボウさん、それじゃ打ち消せない!」

なればこそのこの愚行。
カウンター前提の魔法をあろうことか迎撃に使ってしまうとは。
傍らのジョウイや雷竜の行軍に巻き込まれたマリアベル達のように自らの身を護ることを優先に魔法を盾にしておけばよかったものを。
そうすればダメージの軽減程度にはなったし、何よりも自らのちっぽけさを目の当たりにすることもなかったろうに。

一秒もかからなかった。

深淵の名を冠したストレイボウの全長ほどある――つまるところ雷竜の爪程度の大きさしかない三つの黒塊は。
ストレイボウが言うところの究極魔法は。
たかが深淵を覗いただけの存在が地獄を見てきた魔王に勝てるはずがないと言わんばかりに、あっけなく地獄の雷の前に消し飛んだ。

「――――――あ」

魔の王が怒りのままに際限なく魔力を込めて撃ち出した魔法がいかにして常人の魔法使いの手で破れようか?
古来より、魔王を倒せるのは勇者だけだと決まっている。
ストレイボウも嫌なほどそのことは知っているではないか。

「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ!?」

この島にもう勇者はいない。
魔王に打ち勝てるものは一人が勇者であることを捨て、一人は魔王と手を組んだ。
ならば。
他に魔王に拮抗し得るものがいるとすれば、

「余計なことをしてくれたな、そこの人間……」

それは同じく魔王を名乗る者のだけだ。

「よせ、魔王。これは俺が撒いた種だ。手なら貸す、ストレイボウを責めるな」
「貴様の知り合いか? どうりで無様な姿がいつぞやの腰抜けに重なるわけだ。
 フッ、思い出話は後回しにしておくか。手助けは不要だ。この程度、私ひとりでどうとにでもなる」

着弾間近の電撃を胡乱げに見つめ赤きマントを靡かせて魔王がカエルの前に出つつみっともなく腰を抜かした魔術師を嬲る。
しかしストレイボウには魔王が投げつけてくるどんな嘲りの言葉よりも。

「……お前がそういうのならそうなのだろうな」

カエルのその言葉が痛かった。
魔王のことを信用してはいなくとも信頼していることがありありと分かってしまったから。

「カエル……」

598届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:38:19 ID:seA8qMPg0

縋るように発した声はカエルに届くことはなかった。
より強き力を持つ言葉に打ち消されて。

「地獄の雷よ。貴様も聞け、黒い風の泣く声を」

風が、吹いた。
魔王に向かって風が吹いた。
魔王の前後左右を護るように現れ回転し出した四つの魔力スフィア。
それらは万物を吹き飛ばすのではなく、巻き込むことで風を発生させていた。
ごうごう、豪豪、業業。
風は渦巻くたびに本来透明のはずのそれが黒と白に染められていく。
この地に漂う無念や絶望を、希望や祈りすらも次々と己が糧として飲み込んで、空間ごと大気中のマナを食らっているのだ。
世界に満ちたマナは魔王へと供物として捧げられ、大気が枯れ果て凍りつく。
絶対零度の風が吹き荒れるその世界はコキュートスのよう。
しかれば世界が凍結するのも道理。

「ダーク――」

風が、死んだ。
耳をつんざく悲痛な嘶きを最後に風が消失した。
風だけではない。色が、音が、匂いが消失した。
魔法陣が。
生命の力を奪い尽くした魔力スフィアが転じた魔方陣だけが。
地獄の浸食を妨げるかのように天と地に刻まれた白と黒の三角形の魔方陣だけが。
静止した灰色の世界を彩る結二つの色だった。

ジゴスパークがそうであったように。
全てが失われた寂しき世界こそが魔王の瞳に映る現世なのかもしれない。

「――マター」

現世を擬似的な冥界と化す禁術を完成させる呪文が響いた。





そこから先はアポカリプスの再現だった。
虚空にて、地獄と冥界が衝突する。
互いが互いに法則を上塗りしあい世界を書き換えていく侵し合い。
触れ合うたびに否定しあう存在の拒絶。
雷竜がのたうつ。全身をくねらせ、尾を振るい、爪牙を突き立て冥府の檻を震撼させる。
魔法陣が重なる。欠けた半身を補い六芒星に戻らんとして天地に横たわる雷を邪魔するなと圧壊していく。
見る間に地獄が罅割れ、冥界が砕かれ、竜が解け、魔法陣が崩れゆく。
時として数えるなら一秒にも満たない時間。
咲き誇った火花の数は計測不能。
世界が崩壊しているのだと言われたのなら誰もが間違いなく信じてしまうその光景は。
完膚なきまでに相殺しあった結果、始まりとは逆に、ひどく唐突に、何の予兆もなく、おぞましいほど静かに終焉を迎えた。

「……終わった、のか?」

誰かがようやっと呟いたのは雨が転じた霧が晴れた後だった

599届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:38:49 ID:seA8qMPg0



軋む身体を起こしつつ、ブラッドは作戦の失敗を悟った。
作戦自体に穴があったわけではない。
ただ一つ、見落としていたことがあっただけだ。

「時に魂は肉体を凌駕するものだったな」

どれだけ体力が尽きようとも。
どれだけ血肉が削がれようとも。
人は意志の力一つで立ち上がり、突き進むことができる。

「今のおぬしがいい例じゃの。全く無茶をしおってからに。
 ちょっとは夜のノーブルブラッドの強大さを信頼して欲しいものじゃの」
「済まなかったな。イスラ、鯛焼きセットの残りは?」
「さっきまでの持久戦で殆ど食べきってたからね。はい、ド根性焼き。これで最後だよ」

グレートブースターを自分ではなくアナスタシアに施し護ったマリアベルを、更に身を呈して庇ったブラッドは全身の火傷を一層悪化させていた。
ドラゴンクローでガードした顔を除き、皮膚もかなり深い部分まで炭化しておりド根性焼きでさえ回復が追いつかない。
直接狙われたのではなく巻き込まれただけでこの被害とは。
笑えない話だった。
が、納得できはした。
強気意志の力は破壊に転じることもできるのだ。
それがフォースとは真逆の暗き情念の力であるなら尚更に。

「アナスタシア、お主は誰よりもその恐ろしさを知っていよう」
「……炎の災厄は何度アガートラームで引き裂いても滅びなかったわ」

軽傷のマリアベルも立ち上がりながらアナスタシアへと問いかける。

「気付いておるか? 今のおぬしからは僅かにじゃがそのロードブレイザーと同じ匂いがしているということに」
「……」

ブラッドの作戦にイスラが難色を示したおりの説得でマリアベルはアナスタシアが殺し合いにのらんとしていたことを知った。
不思議と驚きはなかった。
そうと分かればアナスタシアにアーガートラームを渡すことを躊躇したことにも納得できる。
親友の生への渇望の強さは誰よりも理解しているし、生贄として捧げられた少女が今度は自分の為に生きようとしたことも想像がついた。
納得はできる。
理解もしている。
想像もつく。
よってマリアベルがアナスタシアへと抱いた感情は怒りではなく寂しさで、いやそれはやはり怒りだった。

何故自分達を信じてくれなかったのだと。
人殺しなどという普通でない道を選ばなくとも、ARMSならオディオを倒し、アナスタシアの命も救ってくれると信じて欲しかった。

600届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:39:20 ID:seA8qMPg0
夢想だ。
現にマリアベル達は未だ魔王を倒せず、かけがえのない仲間であるリルカにカノン、この地で出会ったシュウ達や見知らぬ誰かも救えなかった。
そもそもアナスタシアは名簿を燃やしてしまっていたという。
マリアベル達の存在を知らないのなら希望を抱きようがない。

それでも。
マリアベルはアナスタシアに名前を呼んでいて欲しかった。
助けてと言って欲しかった。
その一声があろうものならゴーレムのようにどこにいようと飛んで行ったのに。

それもまた戯言だった。
結局は焔の災厄との戦いでも、彼女が『アナスタシアのいる世界』へと跳ばされた後も、マリアベルは助けることができなかった。

「……欲望は、綺麗なものも、汚いものも、ある、わ」

アナスタシアは他人を利用はしても信じることができなくなっていた。
己だけを信じて誰かに助けを求めることを忘れていた。
無駄だと、焔の七日間で諦めてしまったから。
誰もアナスタシアを助けられなかった。
星の数程人はいるのに誰ひとりとしてアナスタシアを助けられなかった。
どころか大半が弱さを理由に助けに来ようともしなかった。
少女一人に全てを背負わせ、災厄が去った後には悲しむでもなく笑っていた。

『アナスタシアのいる世界』からそんな平和になった世界を覗いた時、アナスタシアはきっと大事な何かを失ってしまったのだ。
そんな少女がただ一人心の中で助けを期待した彼女と同じ『生贄』の少年は、

「あ……ぐ、あ、アナスタシアァァァ……死ねええっ!!」

アナスタシアが原因で壊れた。
アナスタシアよりもよっぽどロードブレイザーに近いものになり果てた。
怒り、苦しみ、憎しみ、悲しみ、呪い。
それら負の念に身も心も満たし尽くした殺戮者に。
ただロードブレイザーと決定的に違う点が一点あった。

悪意が欠けていた。

「なんだよ、まるでこっちが悪いみてえじゃねえか! 戦いづれえ!」

ユーリルに拳を打ち込む度にやるせなさが積もっていく。
読むまでもなくアキラに流れ込んでくるユーリルの心は怒りや苦しみや憎しみや悲しみや敵意や殺意で溢れてはいれども。
悪意は、悪意だけはなかった。
人をして邪悪と決定づける最大の要因が。
大小の差はあれどルカ・ブライトやクルセイダーズが纏って止まなかったものが一片足りとも存在していなかったのだ。

其は正しき嘆き。
其は正しき怒り。
其は正しき憎悪。
其は正しき呪い。

負の念自体は人間ならば誰でも持っている。
むしろ人が持つ当然の感情だ。抱いてしかるべき権利がある想いだ。
自分や松、死んでしまったレイやサンダウン、日勝を動かす想いでもあった。

「うわああああああああああああああああああああっ!!」

601届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:39:50 ID:seA8qMPg0
なればこそユーリルと剣を合わせた誰もが抱くのは悪への怒りではない。
共感だ。
マリアベルは孤独を。
ブラッドは友を護れなかった後悔を。
イスラは世界と自らへの呪詛を。
ユーリルという鏡に見た。
これもまた道理だ。
この世に負の感情を抱いたことのない人間などいはしない。
どのような聖人君子といえど誰かに、何かに怒りや憎しみを抱いたことはある。
だからこそ糾弾の矛先は迫り来る驚異にではなく護るべき者へと向けられる。

「もう一度問うぞ、アナスタシアよ。おぬしあやつに何をした?」
「僕からも聞くよ、アナスタシア。君は彼に何を言ったんだい?」
「……」

相変わらず返事はなかったがイスラには大体の予想がついていた。
大方自分の時のようにアナスタシアが目の前の少年へと言葉によって斬りつけたのだと。
イスラにとっては一種の信仰でもあり生きる意味でもありイスラそのものでもある死への願望を否定した時のように。
ユーリルの基盤となっていた何か彼にとっては命以上に大切なものへとアナスタシアは罅を入れてしまったのだと。
イスラは心を保つことができた。
不安定ながらも致命傷にならずには済んだ。
それは仲間がいたからだ。
素直には認めたくないことだが自分にはできない生き方をするヘクトルという人間に惹かれ、
アナスタシアに否定された今までの生き方以外に眼を向けるのも悪くはないと心のどこかで思うようになったからだ。
ならばユーリルは?
いなかったのだろう、きっと。
でなければ失ってしまったのだろう。
支えてくれる誰かを、導いてくれる誰かを。
それはもしかしたら彼自身が叩き殺したあの少女だったのかもしれない。
彼がその凶行に至ったのもまた……。

「僕はやっぱり君のことが大嫌いだ、アナスタシア」
「…………」
「いっそアキラに心をよんでもらおっか?」
「あんまし気はすすまねえけどな。それに今はそれどころじゃねえだろ」

痺れの残る手足でセルフヒールとヒールタッチによる自他の回復に専念していたアキラが注意を促す。
そうだ、今はそれどころではない。
驚異は何一つ去ってはおらず、持久戦を放棄しなければならない分振り出し以下だ。

「そうじゃな、まずはストレイボウ達との合流を急ぐべき……なのじゃが大人しくはさせてくれぬか」

手始めとしてカエルを殺しに行こうとするピサロをメイルシュトロームで押し流し距離を取ろうとするも、マヒャドで凍らされ失敗に終わる。
ユーリルのことも含め誰かが足止めに残らなければ南下することは叶わない。

「じゃが下手に戦力を割こうものなら……」
「けどどっちにしろこのままじゃ押し切られちまう。何でもいい、ブリキ大王みてえな一発逆転できる何かがあれば!」

無いもの強請りだとは分かっていても愚痴を零さないではいられなかった。
ピサロや魔王が見せた大火力に抗うような決定打がここにいるメンバーにはない。
持久戦中に回収したシンシアの装備やデイパックにもリニアレールカノン並の武器はなかった。

602届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:40:23 ID:seA8qMPg0
「魔王やピサロが連発してこないのを見るにおいそれと撃てないものであるとは信じたいがな」

我ながら慰めに過ぎないとは思う。
たとえ魔王が撃てなかったとしても彼らを倒せるとされる勇者が撃てないとは限らないのだ。
そうなれば迎撃手段のないブラッド達が被る被害は計り知れない。
たまたま別の敵が相殺してくれるなんて都合のいい話は何度も起こるはずがない。
力が足りない。
誰もが胸中でそう思い、

『力が……欲しいか?』

一人だけがその声を聞いた。

「ッ!?」
「人間そこをどけえええええッ!!」
「イスラ、ぼさっとしてんな!」

突如精神に響いたもう聞くはずのなかった声に動揺し動きを止めてしまったイスラにピサロの剣が突きつけられる。
間一髪アキラがアスリートイメージでピサロの方向感覚を乱し難無きを得たが、イスラはそれどころではなかった。

「キル、スレス?」

失われたはずの魔剣が、試しに呼んでみた時にはうんともすんとも反応がなかった魔剣が今更返事を寄こすとは想定外だった。
考えられる可能性とすれば魔剣は壊れてはおらず、イスラの方が死んだことで契約が解けてしまっていたということか。
それがこうして再び声が聞こえるということは。
魔剣はすぐそばにあるのだ。
足りない足りないと嘆くだけだった火力を補えるだけの力が、すぐ側に!
イスラの決断は早かった。

『力が……欲しいか?』
「ああ、欲しいね」
『適格者よ、力が欲しいのならば我を手にして継承せよ』

魔剣の副作用は身をもって体験していたが一度死んで契約がリセットされているなら剣の浸食もまた始めからのはずだ。
恐れることはない。
それよりも問題なのは魔剣が自身を手にしろと要求したことだ。
イスラの知る剣は契約していない適格者の元へと勝手に飛んでくることもできたはずだ。
これもオディオの仕業だろうか?
呼び寄せられないのなら地道に可能性を絞るしかなかった。

「アナスタシア、助かりたいのなら答えろ! 君は紅い剣を持っているか!?」
「ないわ、そんなもの。私の武器はこの鎌一つよ」
「やっぱそう上手くはいかないか」
「紅い剣じゃと? どういうことじゃ?」

マリアベルの疑問に矢継ぎ早にが要点だけを伝える。
紅の暴君、キルスレス。
それさえあればピサロや魔王に匹敵する力を振るえるようになると。
話を聞いたブラッドはすぐに戦力の二分を提案。
ブラッド達ではないとなると魔剣を持っているのはユーリル、カエル、魔王、ピサロ、ジョウイ、ストレイボウ達の誰かだ。
誰が持っているのかは分からない以上、総当たりで回収するしかない。

「戦力分担の話だがストレイボウ達の引き込みと魔剣の回収は俺とマリアベルで受け持とう」
「そうじゃの、カエルと魔王のコンビネーションはなっていないようでいてかなりのものじゃ。
 そんじょそこらの即席コンビでは太刀打ちできぬじゃろう」

その点元の世界からの仲間であるブラッドとマリアベルなら引けはとらない。
悩むまでもなく最善の一手だ。
冷静さを失っているピサロ達に対し絡め手に長けたアキラが有用なのも疑うべくはない。
問題がないわけではないが。

「その間僕達二人でアナスタシアを護りつつ、あの二人を抑えろって?」
「すまぬの。合流次第すぐにわらわ達の代わりにストレイボウ達を向かわせるので辛抱してくれい」

言うまでもなく半減した戦力でアナスタシアを護りつつ耐えられるかということだ。
この作戦が自分のためであることは重々承知ではあるが、嫌いな女を護らされることもあってイスラは苦言を零さずにはいられなかった。

「いっそ二人とも放って行ってもいいんじゃないかな?
 アナスタシアは殺し合いにのっているんだし、聞いた話じゃロザリーをピサロが害するとは思えないけど」

ぎろりとマリアベルに睨まれる。
マリアベルからしても殺し合いに乗った親友と気絶したままの新たな友人から離れるのは苦渋の判断なのだろう。

603届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:40:53 ID:seA8qMPg0

「イスラ、しのごの言ってんじゃねー!
 やるっつったらやるんだよ! これしかねえだろ!」

とはいえアキラが言うようにやるしかないのだ。
敵四人はどれも群を抜いた強敵で、ヘクトル達側の様子も分からない。
このままでは良くてじり貧だ。

「わかった、分かったよ。僕一人があーだこーだ言ってても仕方がないし。
 でも言ったからには成功させてよね、お・じ・さ・ん」

だったら頑張ってもらうしかない。

「無論だ。戦場で交わした約束は何よりも重い」

ブラッドが力強く頷きマリアベルと共に背を向ける。
ピサロもユーリルも二人を追うそぶりを見せなかった。
ユーリルの狙いはアナスタシアであり追う必要はなく、ピサロからするとカエルを殺すべく突破すべき人間が減った程度の認識だ。
残されたイスラとアキラの負担が二倍になるのに対し、ユーリルとピサロの負担は二分の一だ。
二倍どころか一気に四倍状況が苦しくなったが泣き言を言っている暇さえ二人にはない。

「イスラ、背中は預けるぜ」
「残念ながら間にアナスタシアがいるけどね。背中からざっくりこようものなら覚悟しておくんだね」
「ええ、分かってるわ」

かくして戦いは新たな局面を迎える。

【C-7橋の近く 一日目 夜】

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(極)、ダメージ(中)、精神疲労(極)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@FFVI、天空の剣(開放)@DQⅣ、湿った鯛焼き@LIVEALIVE
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンは一つ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。


【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:ダメージ(中)、激怒
    疲労(極)、人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:基本支給品一式、データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:ロザリーを殺したカエルを殺す
2:目の前にいる人間を殺す。
3:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※参戦時期は5章最終決戦直後
※ロザリーが死んだと思ってます。

604届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:41:26 ID:seA8qMPg0
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、賢者の石@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0〜1個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
2:施設を見て回る。
3:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(中)、ダメージ(中)。
[装備]:パワーマフラー@クロノトリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、ドッペル君@クロノトリガー、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロとユーリルが魔剣を持っているか確認。あれば奪う、なければ援軍や魔剣が来るまで抑える
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。


【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ、気分が悪い (若干持ち直した) 、気絶
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:気絶
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリルに心を何度でも伝えて真に手を取り合う。
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※ロザリーの声がどの辺りまで響くのかは不明。
 また、イムル村のように特定の地点でないと聞こえない可能性もあります。
※冒頭は感応石やテレパスタワーとロザリーの力の混戦の結果偶然一瞬だけ起きた出来事です。
 情報は何も得てません。


【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:不明支給品0〜1個(本人確認済み)、基本支給品一式×2
    ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロとユーリルが魔剣を持っているか確認。あれば奪う、なければ援軍や魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。

605届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:41:58 ID:seA8qMPg0



敵の大魔法を防ぎきったことを確認して魔王は大きく息を吐く。
口には決して出さないが整った顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。

「魔王、調子は?」
「問題ない。今の一合で分かった。魔力と魔法の扱い自体はかの魔王よりこの魔王の方が上だ。
 先刻のは怒りのままに半ば暴発状態で撃ったからこそのあの威力。
 狙ってやれるものではないだろうし何よりもうそれだけの魔力も残ってはいまい」

転じてそれは魔王の方にももう一度ダークマターを撃てるだけの魔力が残っていないということだ。
暗に示された事実をカエルは正しく受け取り北方へと向き直る。
夜はせっかく取り戻した静寂を再び剥奪され、光と喧騒に彩られていた。

「モチベーションの違いか、厄介だな」
「他人事か? 俺もお前も譲れない理由があるのは同じだ。奴らに劣りはしない」
「お前に言われるまでもないさ。俺は勝つ、勝たねばならないんだ」
「それでいい。足を引っ張ってもらっては困るからな。……さて」

カエルと対等に合わせていた視線を逸らし、魔王は尻餅をついたままのストレイボウを睥睨しつつ近づいてくる。
ストレイボウのせいで余計な魔力を使わされたことを魔王は許しはしない。
後ずさりするストレイボウは明らかに身体が震えていた。

「て、てめえか。てめ、えが、てめえがカエルを惑わしたのか」
「そう思うか? カエルが、この男が他人の意思に流されるよな男だと?
 思うなら思うで構わん。どうせ貴様はここで死ぬのだ」

ストレイボウ自身も支離滅裂なことを言っていることは承知していた。
カエルが去った時も、マリアベル達を彼が襲っていた時も、そこに魔王の影はちらついてはいなかった。
ただストレイボウがいて、ただカエルがいただけだった。
カエルが殺し合いにのったのはカエルが自分で選んだ道だというのは誤解しようがない。
それを認めたがらず他人のせいにしてしまいたかったのはストレイボウの我侭だった。
或いは嫉妬だったのかもしれない。
気を許しあってるとは到底思えず、嫌悪しあっている魔王とカエルだが、互いに強く認め合っているふちがあることへの。
魔王とカエルの間にしかとある宿敵という名の繋がり。
にわかな自分との友情がその前には色あせるように感じてしまってストレイボウは口を閉ざしてしまいかける。
言葉を、言葉を届けなければいけないのに。
一段一段積み上げてカエルの、オルステッドの心へと届けようと決意したのに。

駄目だ、ここで黙っては俺は一生カエルに謝れなくなる!

「カ、カエル。お、お前は俺の友で、俺はお前に謝らなければならなくて、お前のことを止めたくて」

ガチガチと歯がかちあって想いが言葉になるのを妨げる。
一歩一歩近づいてくる魔王の恐怖に言いたいこともまとまらない。
まとまらないまでも、言葉にならないまでも、必死にストレイボウは声を出し続けた。

「ストレイボウ。俺はもう戻れない。俺はこの手でルッカを、仲間を殺した」
「だ、だがそれも、それも、元はといえば、元はと、言え、ば」

魔王がストレイボウの元に辿り着く。

「元は、元はと言えば」

606届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:42:32 ID:seA8qMPg0
言葉は、止まった。
死ねば後はないというのに、ことここに来てさえオディオとの関係を明かすことがストレイボウにはできなかった。
息の根も、止まる。
無慈悲に振り下ろされたランドルフは貧弱な術師くらい難なく砕く。
魔鍵も、止まった。
間に割って入った回転する刃に弾かれ軌道を逸らした。

「随分と頼りになる仲間を連れてきたではないか、ジョウイ・アドレイ。
 そいつにリルカ・エレニアックやルッカ・アシュティアの代わりが勤まるとは思えんがな。
 あいつらなら今しがた見せたダークマターをも上回る魔法を撃てたものを」
「代わりなんかいない。人間に代わりなんかいない! ストレイボウさんは僕の仲間だ。
 魔王、リルカとルッカの仇、ここで討たせてもらうぞ!」

仲間、仲間か。
どの口が言ったものかとジョウイは自嘲する。
彼は裏切る気満々なのだ。
今だって直前まで上手くことを煽り魔王とピサロの潰し合いを引き起こせるかを考察していた。
割り込んでしまったのは口にしたようにリルカやルッカの敵討ちという面もあったが、
カエルとストレイボウの様子にかっての自分とリオウを重ねてしまったからもあっただ

ろう。
やってしまったからには仕方がない。
それに何の考えもなく魔王達に敵対する道を選んだわけでもない。

「できるかな、二度も私の前から尻尾を巻いて逃げた貴様に」
「できるさ、今の僕になら、僕達になら! 紋章よ……」
「ぬうっ!?」

真の紋章の片割れが光を放つ。
輝きを得たのはジョウイの『左』手の甲。
友より託された輝く盾の紋章が空に印を結び聖光にて魔王を射抜く。
魔王は平然と光を打ち払った。

「何をするかと思えばこの程度!」

派手さの割には与えられた傷は軽微で。
それだけ見れば笑われるのも無理はない。
だというのにジョウイもまた口に笑みを浮かべていた。

「この程度だ、魔王」
「違う、魔王、後ろだ!」

カエルが一足先に意味に気づき魔王に警告を促すが僅かに遅い。
魔王が振り向いた時彼の視界を埋め尽くしたのは緑の竜の爪だった。

「ふんッ!!」
「ぐぬっ!? ブラッド・エヴァンスか。なるほど、そういうことか」

魔王が苦々しげに舌を打つ。
ブラッドに邪魔されたからではない。
その身に魔王達が刻んだ傷の数々が碧の光に触れた途端にいくらかマシになるところを目にしたからだ。
しかもよく見れば癒しがブラッドの仲間全員に及んでいた。

607届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:43:04 ID:seA8qMPg0
「お前が魔王達の気を惹いてくれたおかげで助かった。名前を聞かせてくれないか?」
「僕はジョウイ・アドレイと言います」
「わらわはマリアベル、そっちの男はブラッドじゃ。ところでお主、リルカのことを知っておるようじゃが?」
「リルカは、僕を逃がして魔王に……」
「そうか。ジョウイ、」

責められるかとジョウイは覚悟した。
マリアベルとブラッド、どちらもジョウイを逃がすために死んだ少女のから聞いていた彼女の大切な仲間だったから。
けれど違った。ジョウイにかけられたのは予想もしていない言葉で。

「礼を言う」
「感謝する」

でも伝わった、

「仲間と共に戦ってくれたことに」
「友の死を憤ってくれたことに」

マリアベルとブラッドがどれだけリルカを想っていたのかは。
彼らの瞳には様々な感情が浮かんでいたが、ジョウイへの言葉には紛れもない感謝の気持ちが込められていた。

そして意味は違えど感謝の言葉はストレイボウにも向けられる。

「ストレイボウ、わららはおぬしにも礼を言おう」

ストレイボウは訳が分からなかった。
礼を言わなければいけないのは自分の方ではないか。
醜態を見せ殺されかけた自分をジョウイ、マリアベル、ブラッドが助けてくれた。
誰かを助けないといけない自分が、誰かを守って戦わないといけない自分が。
いざとなると助けられてばかりだった。
無力感に押しつぶされそうになるストレイボウをそれは違うとマリアベルは否定する。

「おぬしはわらわを助けてくれたわ。
 実はの、わらわも今おぬしと同じで友と喧嘩……、そうじゃの、ちょうどいい表現じゃ、喧嘩してての。
 ろくに口もきいておらんのだ」

ストレイボウの困惑は深まりっぱなしだった。
マリアベルも自分と似た悩みを抱えているということまではいい。
それと助けてくれたという言葉が繋がらない。
ロザリーがそうしてくれたようにアドバイスの一つ、していないではないか。
目でそう訴えるもマリアベルはよく聞けと語りかけを続けるばかり。

「せっかく数百年ぶりに再会できたのにの。親友が少し変わってしまっていたからといってわらわは拗ねておった。
 口を開けば責めるようなことばかり言ってしまったのじゃ」

そこで一度言葉をきり、マリアベルはストレイボウへと笑を浮かべる。

「それがなんとも馬鹿らしく思えた。人間であるおぬしがこれだけ頑張っているのを見るとの。
 わらわもおぬしのようにするべきじゃった。相手に言葉を、心を届けようとするべきじゃった」

それが、理由。
マリアベルがストレイボウに礼を言ったわけ。
何も人に道を示すのは言葉だけではない。
行動もまた人を導く。

「だ、だが、俺はそんな大層なものじゃない。まだちっとも届けられていない。隠していることだって、ある」
「それでも、じゃ。おぬしはちゃんとつたなくとも言葉を重ねていたではないか。
 わらわはまだ最初の一言も踏み出しておらんのに」

まったく、目を逸らされようと、あの時、胸の熱さを言葉にしておくべきじゃった。
悔いる少女はされど後悔に囚われてはいなかった。
笑にはまじりっけの一つもなかった。
眩しかった。

608届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:43:36 ID:seA8qMPg0
「おぬしのおかげでそのことに気付けた。わらわもおぬしをならって伝えようと思う。
 アナスタシアにわらわの心を何度も何度も何度もじゃ」

この笑みは親友との仲直りが叶うことへの希望であると同時に、ストレイボウへの感謝のためだけに浮かべられたものなのだと。
ストレイボウは唐突に理解した。
『義務』でもなく『贖罪』でもなく偶然に得られた結果だけれど。
すっとストレイボウは心と背が、僅かながらも軽くなったように思えて。

「それとその言葉をそなたに教えたロザリーじゃが、無事じゃ。大した怪我もせず生きておるわ。
 ピサロの奴があやつの身体に攻撃が当たらぬようしていたおかげでさっきの召雷呪文にも巻き込まれておらぬ」
「ロザリーが……? ああ……、良かった……」

また少し、何かが軽くなった気がした。
自分が助けたわけでも護ったわけでもないけれど良かったと心の底からストレイボウは安堵した。

「のう、ストレイボウ。ロザリーはこうも言ったそうじゃな。
 わらわ達は仲間だと。その通りじゃ、な?」

マリアベルが尻餅をついて後ずさる態勢のままのストレイボウに手をさしのべる。
ストレイボウは逡巡することなくその手を掴んだ。
また助けられたと、自分が助けなければいけないのにという念は、一時的にかもしれないが沸き上がってくることはなかった。
ストレイボウは立ち上がる。
彼を支えてくれる仲間を受け入れることによって。
それが贖罪の先に届く第一歩になるのかは今はまだ分からない。


【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルセイバー@FFIV
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFⅥ、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:魔剣の持ち主を確認。あれば手に入れる。なくともジョウイやストレイボウにはアキラたちの援軍に向かってもらいたい
2:付近の探索を行い、情報を集めつつ、 元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:首輪の解除。
4:ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
5:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)

609届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:44:14 ID:seA8qMPg0
【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身黒焦げ、ダメージ(極)、疲労(大)、額と右腕から出血。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI 、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVEが入ってます。
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品0〜1個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:魔剣の持ち主を確認。あれば手に入れる。なくともジョウイやストレイボウにはアキラたちの援軍に向かってもらいたい
2:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:セッツァーとマッシュの情報に疑問。以後セッツァーとマッシュは警戒。
4:ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

【E-8 一日目 午後】
【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(中)、罪の意識が大きすぎて心身に負担
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルの説得。
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません

610届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:44:45 ID:seA8qMPg0
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:輝く盾の紋章が宿ったことで傷と疲労は完治
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き延びる。
2:ストレイボウと共に座礁船に行く。
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
5:僕の本当の願いは……。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾

611届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 05:45:19 ID:seA8qMPg0
投下終了

612届け、いつか  ◆iDqvc5TpTI:2010/05/28(金) 07:12:54 ID:seA8qMPg0
む、流石に寝ぼけていたか
本スレ投下時は状態表のミスは直しておきます

613シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:35:21 ID:wXm0mWa.0
 少女の首を刈り取る。
 その使命を帯びて放たれたのは、暗殺者シャドウの一撃。
 細く白い首筋に向けて、アサッシンズが無遠慮に振り抜かれた。

「…………ッ?!」
 しかし刃は標的を切り裂くこと敵わず、『ひゅぅん』と情けない風斬り音を立てる。
 命中を確信していたはずの不意打ちが外れた。
 いや、外れたのではなく、回避された。親子ほども年のはなれた少女に、である。
 その予想だにしない事実に、流石のシャドウも驚きを隠せない。
 しかし、その動揺も一瞬のこと。
 すぐに体制を立て直し、少女に追撃をお見舞いする。
 左から右へと。音速をも超える横薙ぎ。

「あたらないのー!」
 少女は寝ぼけて立ちくらんだかの如く、上体を僅かに逸らせた。
 それが回避行動であるとシャドウが気づいたのは、短剣が空を斬ってから。
 またもや、必殺の攻撃が空振りに終わったことを認識した……が、ベテランの暗殺者はそれでも動じない。
 宙で身体を反転させ後方へと向き直り、相手からの反撃を警戒する。
 だが、それも杞憂に終わった。
 少女はまん丸いふたつの目玉を、シャドウに向けるばかり。
 攻撃を加えようとする気配はない。
 焼け野原と化した港町の中心で佇む彼女の姿は、一人残された戦災孤児のようでもある。

「…………スロウ」
 熟練のアサシンは、たった二戟で小娘の実力が並外れていることを認めた。
 彼が選択したのは、弱体化魔法。
 思いのほか詠唱に時間がかかったのは、この魔法をあまり使い慣れていないからだ。
 彼にとって『速さを殺すに値する敵』は殆ど存在しない。
 大抵の敵は、一撃の下に切り伏せてしまうのだから。
 全身を流れる魔力が僅かに消費された手ごたえを感じ、スロウがちゃんと発動したことを覚る。
 大気中に渦巻いた魔力が収束し、標的の周囲で淡く光った。
 自らを囲うように生まれ出た輝く粒子を、物珍しそうに見回す少女を光が包み込み……。

 ……霧散した。

 魔法が弾かれた。
 その事実が示すのは、両者の圧倒的な魔力差。
 シャドウがもともと魔法を不得手としていたこともあるだろう。
 が、そのことを差し引いたとしても、あの娘の魔力は相当高いものであると推測できる。
 少なくとも、ティナやセリスのレベルは超えていた。
 シャドウの攻撃を楽々とかわしてみせるほどの素早さを持っているにもかかわらず、だ。

(…………なるほど)
 分が悪い。
 歴戦の暗殺者の経験と勘が、そんな結論をはじき出した。
 それでも男はナイフを構える。
 まだレッドゾーンには至ってはいないと、ここは引き際ではないと、無言で宣言した。
 現在相対している人物は、シャドウが今まで経験した中でもトップクラスにやっかいな相手だろう。
 今のところ彼に有利な要素など、この少女が積極的に攻めてこない、という点くらいか。
 だが、彼女だって人間。きっとそれ以外にも必ず何か欠点を隠しているはずだ。

(その欠点を、連続攻撃の中で燻り出す……)
 右膝を折り、前傾姿勢。
 スケート競技のスタートのような構えだ。
 鋭い鷹の眼が、年端もいかない娘をロックオンする。
 敵意なき少女を殺さんと、武器を強く握り締めた。

614シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:36:29 ID:wXm0mWa.0

 戦友に誓いし勝利のために。
 その道程で殺してしまったツワモノたちに報いるために。
 バネと化した右足は、大地を蹴り上げ。
 その足音は、バケモノへと駆け出す小さな鬨の声となった。

 西に落ちかけていた太陽が、焦げた町を紅く照らす。
 まるで町が再び燃え始めたようで、シャドウは一瞬だけ高揚して……少しだけ恐怖した。

「ハァァ……ッ!」
 最初は真上から。
 振り下ろしたというよりは、叩きつけた。
 ジャブと呼ぶには、些か破壊力が勝ちすぎるか。
 それを少女はバックステップで易々と回避。
 力を込められた刃はあり余る勢いのままに地面へと……向かうことはなかった。
 静止したからだ。
 少女が後方へ退避したその瞬間に、待ってましたと言わんばかりにナイフはピタリと止まった。
 いかにシャドウの反応速度が神がかっているとはいえ、攻撃の成否を確認してからでは流石に不可能な動き。
 予め攻撃をキャンセルしておかなけば、こうはいかない。
 つまり、この一連の動作は攻撃が避けられることを前提としていた、言わば牽制だ。
 走るその速度は落とすことなく右肘を折り畳む。アサッシンズを胸元に構え、追撃の準備を刹那の間に完了させた。

「シュウおじさんより……はやいのー!」
 後ろ向きに走りながら両手を振り回し、キャッキャと笑う。
 殺気全開で迫りくる男を、笑顔で賞賛してみせた。皮肉ではなく、心からの賛辞だったのであろう。
 余裕と無邪気さがなせる業か。
 随分と舐めきった言動だが、シャドウはソレに不愉快な素振りなど見せることなく走り続ける。

「…………ッ!」
 少女との距離を調節した暗殺者は二撃目を繰り出す。
 助走の勢いを活かし、走り幅跳びのように『く』の字を描いて飛んだ。
 竜騎士の靴の力を借りた跳躍は、弾丸と見紛うほどの猛スピードで空に五十メートルの黒い放物線を描く。
 予想着地点には、左右に小さく括られた赤い髪。
 それを確認したシャドウは目標物を定めて片足を突き出した。
 足技、とび蹴りだった。
 しかし、クリーンヒットを狙ったにしては軌道が低い。
 実際、少女が小さくジャンプしただけで、簡単にやり過ごされてしまった。
 キックの体制のまま、敵の足下を潜り抜けてしまうシャドウ。
 失策だとしたら、世界一のアサシンにはあり得ないほどの初歩的なミス。
 しかし、違う。これはミスではない。
 この低空のとび蹴りすらも……彼のフェイントだ。
 スライディングと化したそのキックは、ガリガリと地面を削りながら滑走する。
 その反作用によって、助走によって生み出されたスピードも削り殺がれていった。
 ものの零コンマ五秒でブレーキに成功した彼は、少女の着地に合わせて足払いを放つ。

「うわぁッ!」
 さすがの怪物娘も、重力に逆らう術は持ち合わせていないらしい。
 突如として現れた漆黒の右足に着地を襲われ、身軽な身体は空中で半回転。
 頭を下にして落ちる少女の心臓目掛けて、短剣を全力で突き立てた。
 迫りくる銀の刃を目視した幼子は、慌てて自らの胸元で短い両手を交差させる。
 それは条件反射であったか、それとも冷静な判断に基づいた防御行動か……。

(……甘い)
 意図して防御したかどうかは関係ないと、シャドウは考えていた。
 放たれたソレは、あらん限りの力を込めた一振り。
 攻撃力が低いと一般的に評されているナイフだが、それでもシャドウの全力ならば鋼鉄の鎧をも砕き貫く。
 あんな細腕でどうこうできるシロモノではない。

 アサッシンズは速度を落とすことなく、小さな心臓目掛けて空を走る。
 勝利を確信したまま突き進むその切っ先が、少女の赤い衣服に接触しようとした……その瞬間に、それは起こった。

615シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:37:16 ID:wXm0mWa.0

「……グッ!?」
 シャドウが仰け反りながら呻く。
 攻撃は、背後から。
 無防備な背中目掛けて、回し蹴りらしき衝撃が二回。
 敵の気配など全く感じていなかったシャドウは、呼吸を整えることも忘れ、慌てて後方を振り返る。

(…………なにッ?)
 赤い髪に赤い靴。
 まさに今殺そうとしたはずの少女が、なぜか笑顔でそこに立っていた。

(なぜ、こいつが俺の後ろに……?)
 両手を腰の後ろで組み、楽しそうに身体を揺らす少女を睨みつける。
 鋭い目をさらに細めながら、これはどういう事だと思考を巡らせようとした。

「おじさん、ちょこと遊んでくれるの?」
 彼の脳が作業を開始するよりも早く、かん高い声がそれを阻む。
 それは、男の背後から発せたれたもの。
 それは男が振り向く前に向いていた方向で、つまり少女が『さっきまでいた』場所だ。
 シャドウはそれまで細めていた両の目を瞳孔ごと見開きながら、上半身だけを後方に向ける。
 ちょこと名乗った少女が確かに立っていた。
 上半身を元に戻すと、やはり前方にも彼女の姿。

(……そうか…………)
 前後に感じる、全く同じ気配。
 それを確認して初めて、これが分身の能力によるものだと理解するに至った。
 挟撃の状況はマズいと判断すると、竜騎士の靴の力を借りた跳躍で二人の少女との距離を確保する。
 それを追うこともせず、同じ顔の少女たちはくるくるとバレリーナのように踊った。
 男が着地すると同時に、少女のうちの一方、おそらく分身の方がフッと跡形も残さず消失。

(やはり……)
 フンと小さく鼻をならし、アサッシンズを握る指に力を込める。
 たったいま煙のように消滅したのは、シャドウの目すらも欺くほどの精巧な分身だ。
 そんなものを詠唱もなしに発現させるほどの魔力に、男は驚きを禁じ得ない。
 セリス、ティナよりも遥かに……おそらくケフカ以上の。

(…………ふむ……)
 構えを解くこともなく、殺気を鎮めることもしない。
 深い呼吸を繰り返しながら娘を観察し、冷静にその能力についておもんばかる。
 敵意全開のシャドウとは対照的に、少女は無邪気な笑みを浮かべて彼に手を振っていた。
 そのスピードと魔力は、男の知る人物の中でもトップクラスだ。
 そのことはシャドウも、ここまでのやり取りの中でハッキリと思い知らされていた。

 彼が次に考えたのは、その攻撃力。
 背中に残るダメージは大したことはない。そのことから、あの『ちょこ』とやらの筋力はそれほど高くないことが分かる。
 あの小さな体から繰り出されたものとしては異常な破壊力であるが、それでもわざわざ回復魔法をかける程ではなかった。
 おそらく、白兵戦が得意な部類ではない。
 そう、結論付けた。
 決定的な弱点とはいえないが、欠点らしきものは見つかったようだ。

(問題は……防御力……)
 濁った黒目が見据んとするのは、未だに不確定な要素。
 未だに確認しかねているソレは、暗殺においては最も重視すべきステータスだ。
 相手の強力な魔法を掻い潜り、その異常なスピードを捉えて攻撃を命中させたとして、果たして『ちょこ』はその一撃で絶命するのだろうか。
 もし、捨て身の一撃を放ったとして、それでも殺しきれなかったとしたら……。
 ケフカ並の防御力、体力を、あの娘が持っていたら……。

616シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:38:19 ID:wXm0mWa.0

(だが、しかしだ)
 おそらく、無敵というわけではだろうとシャドウは推測する。
 その根拠として考えるは、先ほどの分身。
 攻撃を回避できない状況に追い込まれた少女は、魔法を用いて反撃したのだ。
 なぜか。決まっている……ダメージを受けるからだ。
 心臓にナイフを突き立てられれば、あの化け物であっても無視できないほどのダメージになるはず。
 だから、避けた。
 尤も、それでキチンと死に至ってくれるかどうかは定かではないのだが……。

(仕方ない……)
 少女から目線を逸らすことはせずに、短剣を握っていない左手で自分のデイパックを漁りだす。
 暗殺者シャドウの真骨頂、投擲の準備。
 相手の防御力を明らかにするための、場合によってはそれだけで死に至らしめる可能性を秘めた……奥の手だ。

 彼が最初からこの技術を使わなかったのには訳があった。
 エドガーたちと旅をしていたときとは違って、この殺し合いでは圧倒的にアイテムの数が足りないのだ。
 彼の手持ち道具の中で、投げつけられそうなものなど片手の指で数え足るほどしかない。
 昔のようにポイポイと放りまくっていては、直ぐに素寒貧になってしまう。
 だから、この会場において彼が投擲を放つのは、ここぞと言う時だけ。

(ゆくぞ……マッシュ……エドガー……)
 取り出したのはワイングラス。
 ステムと呼ばれる部分、植物でいう茎にあたる所を、親指と中指で挟むように持つ。
 そのまま軽く力を込めると、ピシリと小さな断末魔をたてて綺麗に二つに割れ折れた。
 片方はテーブルに接する、平べったく円形状のプレート。もう一方は液体が注がれるボウルという部分だ。
 そのどちらからも、ステムが半分ずつ槍のように付属していた。
 プレートをデイパックに戻し、左手に残されたボウルを右手のアサッシンズと持ち換える。
 高く掲げて振りかぶると、内部に付着していた赤茶色の洋酒が地面にポタリと落ちた。
 それは戦友たちの死に涙を零しているようにも見えたが、少女の紅い血が流れる勝利の未来を予言しているかのようでもある。
 そうだとしたら、透明な容器が披露したその予言は……。

「…………何だ……これは……」
 その予言は、大ハズレもいいところ。
 シャドウは、投擲することすら許されなかった。
 辺りに散らばっていた瓦礫を次々と浮き上げる旋風。
 あまりの風力に、投擲の構えが崩れる。
 シャドウを驚愕させたのは、少女を中心として展開した竜巻。
 突風に混じって感じ取れる魔力が知らせる。『これは、あの少女の起こした災害である』と。
 たまらず両手を顔の前で交差させるが、絶え間ない風は容赦なくその隙間を潜り抜けて顔面にタックルをしかけてくる。
 瞼を開けていられないほどの勢いに、仲間がかつて使っていたトルネドという魔法を思い出した。
 思わず右手から力を抜いてしまう。
 ワイングラスは重力など忘れてしまったかのように舞い上がり、螺旋を描いて空に旅立った。

「……これ……は……ッ!」
 大気圏にまで達そうかとしているグラスから、竜巻の中心へとシャドウは視線を移した。
 そこには両の掌を大地に向け、全身から魔力を噴出する少女。
 完全に暴風を支配していた彼女は、風力をあげてシャドウすらも空に誘う。
 竜騎士の靴の力で逃げるべきだったと後悔した時にはもう遅い。
 不可避の範囲攻撃を前には、シャドウのスピードも反射神経も無用の長物だ。
 ついに男の足は地面から離れる。
 あとは成す術もなく、ワイングラスの後を追うだけだった。

(……打つ手……なし、か…………)
 あっけない幕引きであった。
 たった一発で敗北確定なのか、と自嘲する。
 ここから叩き落ちればどうなるのか。シャドウはそれを考えようとして、やめた。
 もうどうしようもない事だと。
 そう諦めつつも、アサッシンズを握り締める左手はまだ固く、強く。

617シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:39:25 ID:wXm0mWa.0

 彼は決して少女を侮っていたわけではない。
 これほどの広範囲に、これほどの破壊力の魔法を展開できるなど、誰が予想できただろうか。
 シャドウの戦闘スタイルは、牽制とスピードで撹乱しての一撃必殺狙い。
 それ故に、このような無差別破壊は起きないと言う前提の下で戦わなければならなかった。
 もし大規模魔法を食らってしまったら、致命傷に至らぬよう祈りながら耐え忍ぶ以外に道はない。
 だからこそ、獣ヶ原の洞窟でもキングベヒーモスのメテオに倒れた。
 だからこそ、アシュレーのバニシングバスターにも、惜しみなく太陽石で対応した。

(ひとりは……辛いな……)
 頭から落下。もう着地は不可能と判断した。
 剣に魔法を吸収してくれる仲間のことを思い出す。
 彼女さえいれば、こんなことにはならなかったのだろう。
 敵の魔法を同じもので相殺できるモノマネ師がいれば、トランスで敵の魔法ごと吹き飛ばせる少女さえいれば。
 この空よりも遥か高きを飛び回ったギャンブラーが、引き際を見極めてくれれば……。
 その拳で全てを砕く男が、自分たちを導いたその兄が、隠された道を開いてくれれば。
 そして……………………。

(眩しい……空だ……)
 太陽はビカビカと大地を照らし、滅んでしまった港町が紅くざわめく。
 闇夜に生きる影にとっては、その光景は不愉快で仕方がなかった。
 全てを照らそうとする夕陽も、それを迎合する廃墟も。

 ある仲間のことがいっそう強く思い返された。
 彼女なら、この光景すらも綺麗な景色として、キャンバスに描いてくれるのだろう。
 脳裏に浮かぶのは、赤い絵の具を染み込ませた筆でペタペタと白地を叩く少女の姿。
 思わず笑みをこぼしてしまったことに気づき、それを頭の中の幻想ごと殺した。
 自分が彼女の絵を見る権利などないのだ、と。
 目をつぶるその前にもう一度太陽を睨む。
 真っ赤な円形は、やはり気分のよいものでなく、おびただしい赤色を従えて世界を燃やしていた。
 恐ろしいほど、強く。



◆     ◆     ◆


「…………殺せ」
 仰向けで倒れたシャドウが、自らを見下ろしている少女に向けて告げる。
 あのまま地面に叩きつけられたはずなのだが、彼はまだ生きていた。
 それどころか手足の一本すら折れていない。
 何本かの肋骨が折れた程度で済んだのは、少女が手加減したからにほかならない。
 それでも彼の体力は大幅に削られ、すぐには立つことすら出来ずに咳き込むばかり。
 デイパックもどこかへ飛んでいってしまっては、もはや成す術もない。

「なんで?」
 真ん丸い目玉をリスのようにクリクリと輝かせ、少女は首を傾げる。
 赤い髪の毛がフワリと揺れた。
 荒れに荒れた焼け野原と彼女のあどけない姿はなんともミスマッチだ。

「……それが……勝者の、権利だ」
 少女の疑問には答えない。ただ彼は殺害を要求するのみ。
 もしも、体が動くなら……彼は逃げていただろう。
 誇りも何もかも投げ捨てて、生き抜くために逃げていた。
 だが、それが可能な状態にまで回復するには、かなりの時間を要する。
 彼女が動けない男を弄り殺すには十分すぎる程の時間だ。

618シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:41:12 ID:wXm0mWa.0

 シャドウは命乞いはしなかった。つまり彼は諦めたということだ。
 敵前で動けなくなったら死を選ぶ。
 それが暗殺者のルールだった。
 拷問されたうえに嬲り殺されるくらいなら、一思いに殺される方が多くの物を守って逝けるからだ。
 男のかつての相棒であるビリーも、最期までそれを望んでいた。
 逃げるシャドウの背中を睨めつけながら、ずっと。

「いやなのー!」
 しかし少女は、暗殺者の要望を笑顔できっぱりと拒否。
 なぜか楽しそうに男の周りをトテトテと走り回る。
 それをシャドウは鷹の目で睨みつけた。
 あらん限りの威圧感を込めて。

「……ならば……また、俺は……君を殺す……」
「んーん、ダメなの。おじさんは、今からちょこと遊ぶんだからー!」
「…………」
 なんて馬鹿げた会話をしているんだろう。
 その事を自覚するなり、己がやろうとしてる事がひどく無意味なものに思えてくる。
 暗殺者の生き方などを、年端の行かない少女が理解できるわけがない。
『ここで死ぬんだ』と早合点をした末に、そのような愚行を演じた自分自身をシャドウは諌めた。

 どこかでガラスの割れる音がする。
 それは、今になってやっと落ちてきたワイングラスの断末魔だった。

「…………後悔、するぞ……」
 脇腹に走る鋭い痛みに耐えながら、ため息混じりで吐き捨てた。
 少女に殺意も敵意もないのであれば、わざわざここで死を選ぶ必要もないと判断。
 ならば適当に彼女をあしらいながら回復するのを待って、逃げるなり、不意打ちで殺すなりするのが最良の選択肢だ。
 これで、何度目になるだろうか。
 また死に損なってしまった自分のしぶとさに、吐き気を催すほど感嘆した。

「後悔なんかしないもん!」
「…………そうか」
 もし、もう一度チャンスがあれば、シャドウは彼女を殺害することができるだろうか。
 ……無理だ。そんなこと自分には不可能だ、と彼は痛感していた。
 この娘の小さな身体には、シャドウにそう思わせるほどの力が秘められている。
 だから、彼女はこんなにも自信満々なのだろう。胸を張る少女を見ながら、シャドウはひとり納得する。
 強いから、絶対に負けない確信があるから……彼女はシャドウを殺さなくても後悔などしないのだろう。
 このとき、男はそう思っていた。

「おじさん……まだ痛い?」
「……問題ない」
 くだらん遊びにつきあわされるよりは、と。
 シャドウは地に臥したままで会話に応じる。
 それを受けて、少女はテコテコと彼の方に歩み寄り、真横に並んで腰を下ろした。
 たった今、自分のことを殺そうとした男の横に。
 その純真さは、暗き道を行く男には触れ得ぬもの。

「よかったのー」
 投げ出した両足をバタつかせることで、犬の尾よろしく喜びを表現する少女。
 実際に戦闘不能に追い込まれたシャドウですら、この子があの竜巻を起こした張本人だとは信じられない。

619シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:42:00 ID:wXm0mWa.0

「君は……」
「ちょこはちょこ!」
「…………ちょこは、ここで何を……」
 風に混じって、パラパラと瓦礫が砕ける音がする。
 港町は、無残な有様だった。
 無理もない。元より激戦のせいで廃墟同然だったところに、あの竜巻が起きたのだから。
 そんな中、町の外れに位置する場所に、たった一軒だけ無事なままで建っている家がある。
 運よく危機を脱したその民家に、シャドウは少しだけ親近感を抱いた。

「ちょこはね、おねーさんを探してたの」
「……誰だ?」
「ちょこ、おねーさんとけっこんしたの! ムチムチプリンなんだからー!」
 嬉しそうな顔で胸を張るが、シャドウには何がなんだか分からない。
 詳しく聞くのも面倒だと感じた彼は、適当に「そうか」と簡単な相槌を打った。
 他の参加者の情報など、敵見必殺を決め込んだ彼にしてみればそれほど有益なものではない。

「おじさんは?」
「…………?」
「おじさんは、何してたの?」
 男は、少女の質問の意図を汲み取れずにいた。
 幼い娘を不意打ちで仕留めようとした人間にする質問ではない。
 優勝を狙って、皆殺しを決行しているに決まってるではないか。

「…………人を……殺していた」
「なんで?」
 なおも傾き続ける太陽。空までもが燃える。
 訝しげに少女を見やったシャドウは、彼女の向こう側で赤く染まる空にかつての終末を思い出した。
 あの時の仲間達の悲しそうな顔、特にセッツァーの情けない顔は忘れたくても忘れられない。

「…………優勝して、生きるためだ」
「ゆうしょー? 競争でもしてるの?」
 首をかしげた少女の尖らせた唇を見て、シャドウは初めて気づいた。
 少女がこの殺し合いを理解していないことに。
 だから彼女はこんなにも呑気だったのだ。

 殺し合いのルールを教えるべきか、否か。
 シャドウは逡巡し、押し黙った。

「ゆうしょーするために、殺すの?」
「……………………」
「殺さないと、しんじゃうの?」
「…………あぁ」
 悲しそうな声で紡がれた質問に、これまた悲しそうな返答を投げ返す。
 彼のその短い呟きにどれほどの重みが込められていたのか、少女には計り知れない。
 シャドウ自身にも、分からないことなのだから。

「そっか」
「……理解、したのか?」
 相手の顔も見ずに、男は赤い空へと吐き捨てた。
 確かめると言うよりは、からかう様な口調。

「んーん。むずかしくて、ちょこ分かんない」
 先ほどまでキャッキャとはしゃぎ回っていたのとは一転して、落ち着いていた雰囲気をみせる。
 少女の変化に呼応したかのように、暴風の傷跡新しい港町跡もようやく落ち着きを取り戻す。
 海から久しぶりに吹き込んだ潮風が、二人の頬を撫で冷やした。

620シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:44:00 ID:wXm0mWa.0

「だろうな」
「でも、ちょこ知ってるよ」
 少女も、男に倣って天を仰ぐ。
 白い頬に差した朱は、夕陽が照らしたソレだろうか。

「誰かを殺したって、さいごにはね、ひとりぼっちになるだけなんだよ」
「……………………」
 シャドウに言い聞かせるために語られた言葉のはずだった。
 だけど、その声はか細く、自らの頭の中で反響させるために発せられたかのよう。

「ひとりは寂しいの……」
「……………………」
 シャドウは既に立ち上がれるまでに回復していた。
 しかし、寝そべったままで少女の二の句を待ち続けている。

「ほんとに、つらいんだから……」
 少女はもう、泣いているかのようで。
 シャドウがハッと、小さく息を吸い込む。

「…………殺したのか? 人を。」
 誰もが躊躇うだろうその質問。シャドウはそれを淡々と問いただした。
 彼は少しだけ少女に興味を持っていた。
 自分の娘ほどの年でありながら、自分と同じ咎を背負っているかもしれない少女に。

 その質問を受けたちょこは、何も言わず静かに俯く。
 首肯したわけではないのだが、その沈黙はもはや肯定したに等しい。

 それから、二分から三分ほどの間、両者ともに黙りこくっていた。
 逆に言ってしまえば、僅かそれだけの時間で静寂は打ち切られた。
 意を決したように一度だけギュッと目を瞑り、ゆっくりと開いてから、少女はポツポツと語りだす。

「…………ずっとずっと、昔にね」
「…………」

「ちょこ、知らなかったの」
「………………」
 
「ちょこのチカラを」
「……………………」

「気づいたら、村のみんなも……父さまも…………」
「…………君は……」

「ちょこ、ずっとひとりだった。寂しくてずっと泣いていたのよ」
「……………………」

 ユーリルに必死に語りかけた時とは違って、独白は淡々と。
 まるで、シャドウの淡白さが伝染したかのように。
 断片的とすら言えないほど、虫食いだらけの情報だった。
 それでもシャドウは、彼女の過去に何があったのかをおぼろげながら理解した。

 偶発的な力の暴走。
 それによって少女は大切な人々を死に至らしめ……。
 望まない殺戮により、幼い少女は長い孤独に苦しむこととなった。
 そんなところだろう。

621シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:44:49 ID:wXm0mWa.0

「…………だから、おじさんも…………」
「…………」
 言いかけたちょこの襟首をシャドウが掴んで、地面に押し倒す。
 小さく悲鳴をあげた少女の首筋を冷やしたのは、シャドウが宛てがったアサッシンズだった。
 魔法で反撃することも出来たのだろうが、彼女は男の目を見つめたまま動かないでいる。

「……だから、何だ?」
 研ぎ澄まされた目であった。
 その殺気は、最初に少女を奇襲したときから減衰することなく、その視線と同じくらいの鋭さを帯びている。

「…………おじさん……」
「だから、止まれと? だから今から生き方を変えろと?」
 首元に押し付けられた男の腕が少女を圧迫する。
 苦しそうに眉をしかめた彼女を、男は感情の篭っていない冷たい目で見下ろしていた。

「戦友への誓いを……破れと言うのか……!」
「………………………………」
 ギリリと、ちょこのに届いた耳障りの悪い音。
 男の口元からにじみ出た血液がマスクから滲んで少女の頬に垂れ、赤い斑点を形成する。
 両腕が自由なはずの彼女だが、その血を拭うことはしない。
 必死に感情を殺す男を、悲しそうな顔で見つめていた。

「俺は、生きて帰るために、皆殺しをすると誓った。
 君も……貴様も例外じゃない」
 その言葉に反して、一向に少女の首を引き裂こうとしないシャドウ。
 短剣をスライドする簡単な作業のはずなのに、彼の右手は一向に仕事を始めようとしない。
 それどころか、苦しげな少女を見て、押し付けている方の手を緩めてやる始末。

「ねぇ、おじさん……」
 上手く言葉が紡げないでいる男に代わり、ちょこが口を開いた。
 男も彼女の言葉を待っていたようであった。

「……寂しく、ないの?」
「……………………」
 ちょこの言葉を合図として、彼女の首元で待機してたアサッシンズがついに動いた。
 だがしかし、鋭い切っ先は張りのある肌を傷つけることなく、ゆっくりと少女から離れていく。
 シャドウは腰元に短剣をしまい込むと、押さえつけていた手から力を抜いて彼女を解放した。

「…………君も俺を殺さなかったな。これは、その報酬だ」
「ありがとうなの」
 シャドウが危害を加えないことを分かっていたかのように、ちょこは静かにだがはっきりと礼を述べる。
 服についた砂をパンパンと叩き落とす彼女を黙って見つめながら、男は焦げた大地に再び腰を下ろした。
 座った瞬間に、折れたあばら骨がキリキリと痛みをあげたが、眉一つ動かすことなくやり過ごす。

「…………寂しいさ」
 そうボソリと嘆いて、直後に吹いたそよ風を一瞬だけ堪能して、また口を開いた。
 背中の擦り傷に、潮風が沁みる。

「孤独であることを、忘れてしまいそうになる程に」
「そっか」
 ちょこは服を叩くのをやめて、シャドウの隣に腰掛ける。
 せっかく綺麗にしたスカートに、また大量の砂が張り付いた。
 シャドウはちょこの姿を横目で追いかけていたが、彼女と目が合うと直ぐに視線を逸らしてしまう。

「……君は…………娘に、似ている」
 数分間の沈黙の後であった。
 ふと、語りだすはシャドウの方。
 ちょこは朝一番のあくびをするように顔を上げて、彼を見る。

622シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:45:39 ID:wXm0mWa.0

「おじさん、お父さんなの?」
「あぁ。母親はもう死んだ」
 なぜ、そんなことを彼女に伝えるのか、シャドウ自身も不思議で仕方がなかった。
 一刻も早く退散して、また殺戮に戻らなくてはいけないはずなのに。

「その子のために帰るの?」
「…………いや……」
 答えにつまり、何も言えないでいる彼を、ちょこは静かに待ち続ける。
 男が真実を搾り出したのは、その三十秒後。
 長いとも短いとも言い難い間だ。

「……いや…………彼女は、父親の顔も…………。
 ………………死んだものと……思っている……」
「そうなの…………」
「人殺しだからな。そのほうが幸せだ」
 よくもここまでベラベラと喋るものだ。
 シャドウは心中で己に毒づく。
 彼は、自分自身の気持ちがどうなっているのかすら分からなくなっているのだろう。
 暗殺者として正しい行動がとれなくなっているほどに。
 それはおそらく、この少女のせいであり、かつての仲間たちのせいであり、彼がフィガロ城で殺した少年のせいでもあった。

「でも……それって………………」
「……待て。来るぞ」
 悲しそうに俯いた少女は、これまた悲しそうな声で男に反論しようとした。
 だがその言葉は、冷たく放たれたシャドウの声と、突如として辺りに広がった濁った殺気によって遮られてしまう。
 シャドウは、ズシリズシリと現れた人物のことを、象のように大きな男だと錯覚した。
 その男が放つ異常なプレッシャーのせいか。
 狂気を伴って現れた白い騎士。
 彼がニヤリと笑ったその瞬間に、焼け野原は『一触即発』の状態を経由することすらせずに、ダイレクトに戦場と化した。

「先ほどの竜巻は……お前か?」
 犬歯を剥き出しにして、敵対心を隠すことなく。
 尋ねられたシャドウは、それには答えず、腰元から取り出したナイフを回答とした。
 それを見て、騎士は嬉しそうに再びの笑みを浮かべる。

 狼は、餓えていた。
 数時間という長すぎる睡眠を経て、肉体的にも精神的にもある程度は回復。
 それに反比例して増幅するは、破壊欲。殺戮欲。
 人を、エルフを、ノーブルレッドとやらを。生けとし生きる全てを斬りたくて仕方がなくなっていた。

 そして狼は、歓喜していた。
 目の前に現れたのは、忍者らしき風貌の男。
 男の方から発せられるのは、修羅の道をいくものの『圧』。
 殺しがいがありそうだと、生唾を飲み込む。

 高揚した騎士は、デイパックを遥か遠くへ投げ捨てた。
 それは剣一本で殺してやるという、余裕じみた宣言だったのだろう。

「たやすく死んで……くれるなァッ!」
 小娘には目もくれず、ルカ・ブライトはアサシンに向けて走り出した。
 皆殺しの剣という、まるで彼の狂気を讃えるがために生まれ出でたような業物の柄を強く握りながら。

(次から……次へと……)
 一切の感情を消し、殺しのプロに一瞬で戻ったシャドウ。
 強者を前にしても彼に喜びはなく、ただ無心でアサッシンズを構えた。
 ただ、少しばかりの拭いきれない孤独感を抱えて。

623シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:47:05 ID:wXm0mWa.0

 男二人は、お互い真正面から相手へと直進する。
 だが、ぶつかり合いになれば、フィジカルで勝るルカに分があるのは誰が見ても明らか。
 だから、黒衣の暗殺者が正面から相手に挑むわけがない。その前に必ず何かを仕掛けるはずだ。
 そのことは、迎え撃つことになるルカも承知の上であった。

「そうだ、小細工を弄せッ!」
 シャドウへと突進しつつも、彼の出方を楽しみに待つ。
 こんなにも楽しそうなのは、戦いを楽しみたいからじゃない。
 単にルカは、敵が足掻く姿が見たいのだ。

「…………」
 しかし、シャドウはルカの期待に反し、全速力の直進を断行。
 特に策らしい動きを見せることなく、ルカの剣が届くかどうかの範囲にまで踏み込んだ。
 が、それでも彼は加速を続ける。
 アメフトの試合ばりのタックルをお見舞いしようとしているかの如く。

「……ふん」
 敵の無策っぷりにつまらなそうに鼻を鳴らしたルカは、シャドウへ向けて剣を横薙いだ。
 筋骨隆々の男ですら両手で振るのがやっとの剣を、まるで棒切れのように軽く扱う。
 ブゥゥンと大型獣のいびきの様な重低音は、運悪くその軌道上に存在してしまった空気の悲鳴か。
 それほどの速度での攻撃を繰り出しているにもかかわらず、放った張本人であるルカは踏ん張る様子すら見せない。
 仁王立ちのままで、一切の体軸をブラすことなく一連の動作を成功させていた。

 がぁん、と。
 金属同士がぶつかる衝撃音。
 宙を割り裂いて迫った皆殺しの一振りを、シャドウは素直に受け止めたのだ。

 シャドウという男は決して非力ではない。
 マッシュほどではないが、常人と比ぶれば異常なレベルの腕力を持っている。
 だとしても、彼の行動は無謀すぎた。
 いくらシャドウのパワーが世界で指折りだろうが、ルカのソレは異常者の中でも飛びぬけて異常。
 そして、その男の一閃のスピードもまた、同様に常識の範疇を遥かに超えていた。
 その二つが加算ではなく、乗算として計算され……。
 その解として得られた破壊力が、そっくりそのままシャドウが片手で握った小さなナイフにぶつけられる。
 耐えられる道理がなかった。
 一瞬の鍔迫り合いすら許されず、シャドウの体が容易く揺らぐ。

「吹き飛べ……蝿が……」
 もはやルカの顔に愉悦は見えず、期待はずれを演じた男を憎しみとも哀れみとも言えぬ表情で見据えていた。
 右腕をそのまま一気に払う。木の棒でヤキュウに興じるかのように。
 その軌道はややアッパー気味で、白球に見立てられた漆黒の男を空まで掬い上げた。
 もし、シャドウが体勢を崩したまま空に浮いてしまえば、ルカの追撃をかわすのは限りなく不可能に近い。
 チェックメイトを確信したルカの顔に、笑みが戻る。
 無様な男を、あざ笑っていた。

「ファイラ」
 だが、全てはシャドウの思惑通り。
 フェイントすらなしにルカに突っ込んでいったのも、彼の策のうちだ。
 上、下、左、右、斜、突、どの方向から攻撃が来てもいいように、彼は状況に応じた対処法を事前に用意していた。
 今回は、右下から左上への斜め一閃。
 それを確認した彼は、瞬時に、条件反射のレベルでカウンターの準備に移った。
 超破壊力を前に、下手に踏ん張ることはせずに、その勢いを上昇速度へと変ずる。
 そして、別れ際にお見舞いしたのは炎の魔法。
 もちろん、ダメージを期待してのことではない。
 彼が必要としたのは、爆炎によって舞い上がった土煙。

624シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:48:55 ID:wXm0mWa.0

「……ほぅ」
 ルカの、三度目の笑み。
 今度は最初と同じ種類の、男の実力に期待してのものだ。
 彼が評価したのは、敵の判断能力でも、突進の速度でも、もちろん魔法の威力でもない。
 ルカ・ブライトを唸らせたのは、シャドウの『精密さ』。
 敵の攻撃を受け止めて、それをそのまま移動の速度に利用すると言うのは、達人レベルのパワーコントロールを要求される荒業だ。
 僅かでも受け流す方向がズレれば、斬り付けられる勢いのままに身体は回転してしまう。
 寸分違わず攻撃を受け流して始めて、この一連の動きは成功する。
 それほどの高等技術を、攻撃が来る方向を確認してから、しかも『吹き飛ばされたように見せかけて』行ったのだ。
 ここまでのテクニックを有した戦士は、ハイランド王国にはルカも含めてただの一人も存在していなかった。

「フハハハハハハハ! そうだ! 足掻いて魅せろッ!」
 土煙で何も見えず。
 敵がどこから来るのかも予想がつかない。
 それでもルカは狂喜の中にいた。
 自分の知る中でも随一の戦闘技術を持つ男はどのように足掻くのが。
 どのような断末魔をあげるのか。
 それだけを考えて。自分の命の心配など一切することはなく。
 三度目の笑みは長く長く、彼の顔に張り付き続けた。

 そしてその表情を崩すことなく、彼は右腕を掲げる。
 その手が握る一振りが、上空から繰り出されたシャドウの必殺を難なく受け止めた。

「…………ッ?!」
 驚いたのは攻撃を繰り出したシャドウの方。
 騎士がシャドウの攻撃に感づいた様子は、全くなかったはず。
 視界は奪った。この土煙の中で相手の姿を確認するのは不可能だ。
 音だってない。足音はおろか、呼吸の音すらさせなかった。
 気配も殺した。そんなものはアサシンの基礎中の基礎。
 殺気も消した。これに関してはシャドウにしかできない芸当だ。
 一切の情報を断ち切られたにもかかわらず、瞬速の攻撃を防いだこの男。
 シャドウには、この男が予知能力を持っているとしか考えられなかった。

「当たり、だな」
 体勢変えずに、首だけ動かし上を向く。
 ドス黒い双眼が、澄んだ黒を捉えた。
 当然の話だが、ルカ・ブライトには予知能力などありはしない。
 それどころか、彼はいつどこから攻撃が来るのか、特定すらしていない。

 勘だった。

 ただ、『上から攻撃がくるような気がした』のだ。
 とはいえ、全くの当てずっぽうということでもない。
 この男にとって警戒すべきは、空からの攻撃だけ。
 いかに一騎当千の狂皇でも、脳天に刃物を叩き落されたらただではすまない。
 それ以外の方向からならば、たとえ一撃食らったとしても死なないという絶対の自信を彼は持っていた。
 だから、唯一の急所を防御したというわけだ。
 もっとも、そのタイミングに関しては完全なる勘であるのだが。

「それで、終わりか?」
 土煙が完全に消え去った後、空間を支配したのは黒い霧……のような悪意。
 黒い光を垂れ流す太陽のように、世界を恐怖で包み込む。
 目を合わせていたシャドウは、ソレを直接に浴びせられる。
 汗が垂れた。
 しかし水滴は地面に達することなく、ルカの『闘気』で蒸発する。

625シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:49:58 ID:wXm0mWa.0

「……まだ、だ……!」
 シャドウが集中すれば、冷や汗は瞬間に止まった。
 刃でルカに支えられ空中に静止していた状態から、バク宙で地上へと帰還する。
 着地と同時に、いつものように姿を消した。
 目にも留まらぬ速さで動く、シャドウの十八番だ。

「確かに、強がるだけはある」
 口端を歪め、余裕綽々といった風で褒め称えた。
 ルカの動体視力をもってしても、その姿をハッキリと追うことが出来ない。
 ところどころ、シャドウが方向転換した瞬間だけその姿が鮮明に映し出され、少し遅れて足音が届く。

「だが」
 右足を振り上げ、一歩を踏み出す形で地面に叩きつける。
 全力の四股は、大地を揺らすには至らないが、轟音を響かせながら空気を震わせた。
 皆殺しの剣を大地と平行に払う。
 銀色の刃がルカを中心とする半円を描いたころ、ピタリと急停止。
 空中で静止した剣先は、一寸の震えすら許されてはいなかった。

「俺を殺すにはまだ遅いぞ!」
 怒鳴りながら睨んだ先には、眼前に剣を突きつけられたシャドウ。
 たしかに彼は、ルカが相対した人物で最速には違いない。
 が、それでも、神経を研ぎ澄まし、全六感を駆使すればこのとおり。

「……見せてやろう」
 ひどく、楽しそうに。
 買ったばかりの玩具を嬉々として破壊する子供のように。
 シャドウを攻撃することなく、剣を収める。
 懐から取り出したのは、淡く輝く石。

「スピードも技術も、人の思いとやらも飲み込む…………」
「……ッ!」
 シャドウが目を見張り、息を呑む。
 男が取り出したのは、魔石だった。
 時空を超えて、幻獣を召喚する鍵となるアイテムだ。

「……悪というものをなッ!!!!」
 握り締めて高く掲げる。
 その美しい輝きは、しかし大規模破壊の宣告。
 赤き空を引き裂いて、三本の巨大な鉄塊が大地に降臨し、ルカさえ揺らせなかった大地を大きく震わせる。
 それは、剣だった。
 聖剣がひとつ。名刀がひとつ。なまくらがひとつ。

「…………クッ!」
 時空の割れ目から現れた巨大な武者を前にして、シャドウが思わず舌を打ち鳴らす。
 一歩一歩、小規模な地震を従えて登場したそれは、彼もよく知る幻獣。
 名を、ギルガメッシュと言う。
 天敵である回避不可能な攻撃を前にしても、諦めることなく構え続ける暗殺者。
 その男をターゲットだと見なしたギルガメッシュは、かつてを思い出したように一瞬だけ悲しそうに目を細め。
 三本のうちの一本、名刀マサムネを手に取った。

(不味い……な……)
 剣豪は、シャドウに手心を加える気はないようだ。
 それは、強者であるアサシンへの、ギルガメッシュなりの礼儀だったのかもしれない。
 大剣と呼ぶのも憚られるほどの大きさの刀を、さらに巨大な幻獣が振りかぶる。
 刀身が夕陽を反射して、赤く光る。
 シャドウは、その炎と見紛う程の紅刃に、何度目かの恐怖を覚えた。

626シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:50:50 ID:wXm0mWa.0

「ふはははははは! 燃える剣か!」
 自らの扱う技とよく似た光景に、「これはいい」と高笑う。
 しかし、ギルガメシュの集中が高まるとともに、その笑い声は次第に小さくなっていく。
 ついに男の顔から笑顔が消え、冷たい顔から憎悪のような感情が漏れ出した。
 それを合図として、召喚獣は巨剣をシャドウに叩きつける。

「…………苦しんで死ね」
 シャドウのファイラとはケタ違いの土煙が舞い上がる。
 茶色い粒子が視界を阻むが、ルカは知ったことかとその中へと歩みだした。
 何も見えない濁った濃霧の中を、ツカツカと一直線に進む。
 いつの間にか、ギルガメッシュはこの世界から消えてしまっていた。

「意外と、しぶといではないか」
 土煙が晴れ、景色が開ける。
 マサムネの一撃によって、完全に荒野と化した港町。
 その中心には、血まみれで倒れ臥すシャドウと、彼の胸元を踏みつけるルカ・ブライト。

「苦しむ時間が増えた……だけッ! だがッ! なァッ!」
「…………ッグゥ……!」
 言葉に合わせて、何度もシャドウを踏みつけるルカ。
 クロノたち三人を殺して以来の、久しぶりの獲物の登場に狂乱していた。
 五度目のスタンプの直後、シャドウが咳とともに口から大量の血液を吐き出した。
 内臓を損傷してしまったのだろう。

「無様だな。貴様の敗因……何だと思う?」
「グゥ……ごはぁッ!」
 潰された臓器が存在するであろう脇腹を、グリグリとつま先で押しつぶす。
 ルカの足が左右に揺れるたびに、シャドウが何度も吐血。
 崩壊した大地に、赤い血だまりを形成する。

「無差別破壊に耐える術を持たなかったことだ」
 ルカが剣を掲げる。
 頭か心臓か、トドメに刺し貫く部位を選別していた。
 どこが一番苦しいものかと考えながら。

「そんな様で……よく一人で生きてこられたものだ」
(ひ……とり…………)
 ルカが手に持つ剣をクルリと回転させ、下に向ける。
 もちろん、倒れた男に突き刺すためだ。
 シャドウは、自らの命に引導を渡さんとする凶刃に、目をくれようともしない。
 彼を思考へと誘ったのは、ルカの言葉の中にあった『ひとり』という単語。

「ふん、誰かに頼らぬと生きていけぬ。脆弱なブタめ」
(そう、いえば……だれ、か、も……)
 シャドウは必死に思い出そうとする。誰か『ひとり』を嘆いていた人物がいたことを。
 それが誰なのか、おそらく大事なことであるのだろうと。
 しかし、狂皇がそんな時間を与えるはずもなく。
 男の心臓に照準を定め。

「もういい。死ね」
 振り下ろした。一気に。
 その言葉をきいて、シャドウはやっと我に返り現実を見据える。
 暗殺者の両目が捉えたのは、自分に向けて突き進む剣先。

「く、そ……」
 自らに残された時間の少なさに恨み節を吐きながらも、必死にその人物が誰だったのかを記憶の中から探り出そうとする。
 シャドウの脳がその正体を突き止めたのは、ルカの剣が彼を絶命せしめんとするその瞬間であり…………。

627シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:51:56 ID:wXm0mWa.0

「だめなのーーーーッ!」
 少女の放った水塊が、ルカの攻撃をキャンセルした瞬間だった。
 狂騎士が、ちょこの魔法を食らって数百メートルも吹き飛ぶ。
 だが、手にした剣を取り落とすことなく、それほど大きなダメージも受けていないようだ。
 それは、少女の放った『パシャパシャ』が、相手を始末するためでなく弾き飛ばすことを目的としていたからだ。

(そ……う、だ。ちょ……こ……)
 その姿を確認した瞬間に、急に記憶が鮮明になった。
 たった今シャドウを助けたこの少女こそが、彼が求めていたその人。
 ひとりであることの悲しさをシャドウに吐露した張本人だ。

「小娘ェッ! ……そんなに死にたいかァッ!!!!」
 立ち上がったルカが吼える。
 こんな少女に極上の瞬間を中断されたことに、彼は激しい怒りを覚えていた。
 全開の殺意を彼女に浴びせる。
 普通の人間なら、それだけで泡を吹いて失神してしまうだろう。

「おじさん、立てる?」
「なん、と……か……な…………」
 血液交じりの堰をしながら、ゆっくりと立ち上がる。
 制限によって効き目の薄いケアルガを三回ほど唱えて、やっとシャドウは歩けるまでには回復した。

「それじゃ、逃げて」
 ジリジリとこちらの様子を伺いながら迫るルカ。
 ちょこはそれを睨みつつ、後ろに立つ男へと提案する。
 らしからぬ静かな口調が、彼女の覚悟の強さを物語っていた。
 シャドウはその言葉の意図が分からず、「なに?」と一言だけ。

「おじさんは、逃げるの。あの人は、ちょこが代わりに…………殺すから」
 シャドウと戦った時には見せることはなかった確かな戦意が、少女から漂っている。
 会話をしながらも集中を崩さず、いつでも魔法を展開できるように。

「だが、君は……さっき……」
 ちょこが殺しを嫌っていたことをシャドウは知っている。
 だから今彼女がアッサリと殺人を宣言したことに、戸惑いを禁じえない。
 シャドウの疑問に、ちょこは小さく笑ってから口を開く。

「ちょこね、ずっといい子になろうとしてたの。いい子になれば、死んだ父さまが救われるって信じてたから」
「ならば……!」

「おじさんには女の子がいるんだよね?」
「…………あぁ」
 シャドウは訝しげに、掠れた返事を返した。
 口の中には、未だ鉄の味が残っている。
 男の返事を聞いた直後、ちょこの張り詰めた戦意が一瞬だけ緩んだ。
 すぐに集中を取り戻すと、意を決したような、優しく説き伏せるような口調で続ける。

「その子、きっと泣いてるの」
「…………」
「会わない方が幸せだなんてちょこ信じない。ちゃんと抱きしめて欲しいに決まってるの。
 その子もおじさんもまだ生きてるんだよ? 家に帰れば会えるんだよ?」
 シャドウはなにも答えない。
 堰を切って流れ出した少女の言葉を、ジッと黙って聞いていた。

「だからおじさんは、ゆうしょうして家に帰るの。だったら……ちょこ、悪い子でいいよ」
「…………」
「もう、あんな寂しい思いをするのは、ちょこだけで十分なの」
 ちょこは『優勝』の意味も、なぜそのために人を殺すのかも知らない。
 ただ、顔も名前も分からない少女のために、戦おうとしていた。

628シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:52:54 ID:wXm0mWa.0

「それでは、君が……」
「いいの、もう」
 シャドウの言わんとしたことが分かったのだろう、その言葉を遮る。
 悲しそうに一度だけ赤い空を見上げて、息を飲み込んでから力強く言葉を続けた。

「死んじゃった人より、生きてる人の方が大切なのよ。
 父さまはもう死んじゃったから。生きてるあなたたちのために、ちょこは父さまを諦めなくちゃいけないの。
 ちょこが我慢すれば、その子が幸せになるんだから」
 それは、アークたちとの旅で学んだことだった。
 アークは後ろを振り向き絶望する人々に、前を向いて明日へと進むことを教え続けた。
 ちょこだって、そうだ。
 勇者たちと出会わなかったら、過去の惨劇と決着することなど永久に出来なかった。
 幻想の村を作って、幻想の村人と一緒に、仮初の絆を結んで満足していたことだろう。
 でも彼女は勇者との旅路の末に気づいた。
 死んでしまった人々は戻らない。
 破壊してしまった事実は消えない。
 それを知った少女は誓う。
 だから、せめていい子であろうと。
 胸を張って自慢できるような娘でになることで、彼女は父親に報いようとした。

 ちょこは、それすらも捨てようと決意する。
 人の苦しみを理解できる優しい子だからだろう。
 父親に愛してもらえなかった少女の苦しみが、痛いほどに。
 ちょこは、死んでしまった自分の父よりも、今生きている誰かの幸福を願える子だった。

「……ちょこ…………」
「行って。お願い」
 シャドウが逃げるべきか迷いながら、ジリジリと後ずさりをする。
 やがて、心を決めたかのように踵を返した。
 怪我のせいだけではないだろう、彼の足取りは重い。

「おじさん、ありがとなの」
 なぜ少女がお礼を言ったのか。
 今のシャドウにそれを理解することはできない。

「ククク……逃げるのか? 小娘を生贄にして!」
 ルカの罵倒する声。
 しかし、言葉ほどの怒りを覚えている風には見えない。
 彼の興味は、無様な敗北を喫した暗殺者から、異常な魔力を秘めた少女に移っていた。

「いいの。ちょこが決めたんだから! ちょこ、あなたを殺せるよ」
 ちょこが、一歩を踏み出す。
 ルカは、すでに彼女の魔法の射程範囲に踏み込んでいる。
 キナ臭さを感じ取ったのか、海風も今はまったく吹いてはおらず。
 焼け野原に遺された音は、少女と狂皇の息づかい、そして男がひとりで敗走する情けない足音だけだった。

「…………結局、ひとりになっちゃったの」
 気づいときには、仲間たちからはぐれて一人でこの島にいた。
 その後に出合ってからずっと一緒だったアナスタシアも、どこかへ行ってしまった。
 仲良くなれたと思っていたシャドウも、彼女を置いて行ってしまう。
 そして父親への報いも、棄て去ろうとしていた。

「仕方ないよね」
 誰に言うでもない、ちょこの嘆き。
 しかし、音のない戦場には遠くまで響いたものだ。
 泣き声に近いソレは、歩み遅く逃げるシャドウの耳にも届く。

629シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:54:46 ID:wXm0mWa.0

「ちょこ、いっぱい殺しちゃったんだから」
 シャドウは、それでも歩みを止めない。
 俺だってそうじゃないか。その言葉を伝えることもしなかった。

 ただ逃げる。
 戦友への誓いのために。
 自分の誇りも、誰かの悲しみもここに置き去りにして。
 照りつける夕陽から逃れるように。
 影は、東へ消えた。


◆     ◆     ◆


「どうした小娘ッ!」
 叫びと共に振り下ろされた剣だが、それが命中することはない。
 これで何度目になろうか。
 ルカの攻撃は全て悉く回避されていた。
 それでも、狂人の顔から笑みが消えないのは、余裕だからに他ならない。
 彼はまったくダメージを受けていないのだから。

「…………」
 一方、ちょこは攻めあぐねていた。
 ルカの攻撃が巧みだからとか、隙が見当たらないとか、そういったことではない。
 やはり、少女は殺せなかった。
 シャドウに殺害を宣言したはずなのに、まだその踏ん切りがつかないでいる。

「よくもあんな啖呵を切ったものだ!」
 捨て身の一撃は、またもや空振りに終わる。
 ルカは本気で攻めていた。
 にもかかわらず、その攻撃はかすりもしない。
 彼もまた、少女に決定打を与えられないでいた。

「ならば……もういい、失せろ」
「え?」
 先に痺れを切らしたのは、積極的に攻めていたルカの方。
 剣を収めて、あさっての方向に歩き出した。
 何事かと目を丸くする少女をよそに、ルカはカチャカチャと甲冑を鳴らして進む。

「俺は、あの男を殺しに行くとしよう」
 首だけで振り返って、笑う。
 してやったりといった顔であった。

「ダメなの!」
「そう遠くには行っていないはずだ。そうだ、森ごと焼き払うのも愉快だな!」
 少女の叫びもそ知らぬ顔で、ルカは再び彼女に背を向ける。
 ちょこは思わず男の後姿を全速力で追いかける。
 テコテコという可愛い足音が、異常に速いテンポで刻まれた。

「まってお兄さ……」
 慌てたちょこが、ルカの背中に追いすがろうとした時だった。
 殺意が、再び空間に充填する。
 一瞬で広がった黒く粘っこいオーラは、あらゆる生命を拒絶するかのように男の全身から這い出して。
 少女の身体で弾けた。

630シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:56:03 ID:wXm0mWa.0

「……う、ぁ…………」
 わき腹に全力の一撃を受けて、思わずうめき声がもれる。
 振り返る速度そのままに放たれたルカの大振りが、少女をついに捕まえた。
 男の破壊は少女の骨を砕き、内臓に損傷を与え、その体に十数センチ食い込んで止まっていた。
 ちょこの小さな口の端から赤い滴りがポタポタと垂れる。

「ぁ……い、たぁ……」
「……! ふ……ふははははは! なるほど、ただの小娘ではないらしい!」
 ひどく愉快そうに、もともと全開だったはずの瞳孔を限界以上に大きく剥く。
 ルカの一撃は、鎧を切り裂くどころか、騎兵を馬ごと一刀両断できるほどの破壊力を持っている。
 それが軽装の少女であれば、十人をまとめて一撃のもとに葬り去ることだって可能。
 だのに、この小娘はどうだ。
 刃が命中するなり、まずその表皮が剣の勢いの半分近くを削った。
 肉が残りの大部分をそぎ落とし、そして肋骨が完全に攻撃を受け止めてしまった。
 もはや、人間の防御力を遥かに超えている。

「やはり貴様を選んだのは正解だったようだ!」
「……んッ!」
 グチャリと耳障りの悪い音をたてて、血に染まった剣を少女のわき腹から引き抜く。
 身体に走った痛みに少女が蹲った。
 この少女は異形だ。
 人間ではない物の殺し心地を実感したいルカの顔が期待で歪む。
 剣をあらん限りに振り上げ、未だ動けないでいる少女へと狙いを定める。
 見下している男の目と、彼を見上げた少女の目が合った。
 声が出せない少女の口が「なんで?」と音無き言葉を刻む。
 三日月状に細められた両目が、それに対する男の回答であった。
 少女が絶望する間もなく、男のフルパワーが少女に向けて振り落とされる。

「……!? 炎か!」
 怯んだのはルカ・ブライト。
 突如登場した巨鳥を模した火炎が、男の身体を通過。
 驚きのあまり一瞬だけ動きを止めたものの、灼熱にその身を焼かれた男の表情は涼しいものだった。
 隙をついて距離をとった少女の姿を確認し、ゆっくりと歩み寄る。
 
「あなたは、もう壊れているの」
 ちょこは後ずさって、相手との間隔を一定に保つ。
 未だに迷っているのだろうか、積極的に攻勢に転じようとはしない。
 殺人への踏ん切りもつかないまま、男を睨みながら強がりを紡ぐ。

「ちょこは、あなたと戦うわ」
「ならば、殺しにこい! 今殺さねば……俺はもっと多くを殺すぞ!」
 男はちょこを挑発する。
 彼女が回避に徹すれば、ルカの攻撃があたることはほとんど無い。
 だが、少女に攻撃の意思があるならば、確実に生まれるだろう隙をついてその身体を鮮血で染め上げる自身があった。
 事実、戦闘のテクニックでは、ルカはちょこの遥か上をいっている。

「……分かってるの!」
 小さな両手を大地にかざし、魔力を送り込む。
 力を与えられたその地点の地面が急激に盛り上がり、男に向けて地盤の隆起が一直線に襲い掛かる。
 一メートルもの巨大な土塊が下方から襲い掛かる、非常に破壊力のある魔法だ。

「ククク……なんだそれは」
 ルカはあろうことか、その迫り来る魔法に向けて突進。
 信じがたいことに、彼は下からせり上げる大地をなぎ倒しながら突き進んでいた。
 高威力の魔法が、彼の肉体に少なくないダメージを与えていくが、ルカを止めるには至らない。
 盛り上がった土を拳で砕き、足でへし折りし、ついに少女の目の前まで到達した。

631シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:56:55 ID:wXm0mWa.0

「……え?」
 突如として眼前にあわられた男に、ちょこは思わず立ちすくむ。
 魔法を真っ向から打ち破ってくるなど、初めてのことだった。
 あのグルガでもここまではしないだろう。

「なめるな小娘ッ!」
 なぎ倒してきた土塊と同じように、少女に拳を飛ばす。
 彼女が数時間前に戦ったブラッド・エヴァンスよりも強力な打撃。
 ちょこもすぐに防御体制をとって、その拳を受け止めた。
 交差した細い腕でルカの大きな拳を耐えしのぐと、追撃がこないうちに反撃に転じる。

「……グっ! チィ……小賢しい真似をォッ!」
 後方に現れた分身とともにルカを挟み込んだちょこは、二人がかりの蹴りをお見舞いする。
 左右からの同時攻撃は、流石の狂皇も捌ききれない。
 数発ほど命中した少女の足技が、胴体にめり込む。
 だが問題は、肝心の蹴りの攻撃力が不足していたこと。
 そして彼女にとって一番の不幸は、ルカの防御力が並外れていたこと。

 男はダメージを恐れなかった。
 蹴られながら二人の少女の足首をそれぞれの手で掴む。

「つかまえたぞ……」
「…………きゃぁ!」
 悲鳴と共に、右腕に掴まれた方の少女が消える。
 残された左腕の少女は逆さづりで盛り上げられてしまった。
 ジタバタと暴れるちょこ。
 だが、彼女の足を掴む男の握力は強く、どれだけ少女が動いても緩む気配すらみせない。
 それどころか、逆に動くことで彼女の防御はおろそかになる。
 そこを狙って、ルカは左の拳を叩き込んだ。

「うわ!」
「…………ッ!」
 少女の固さに、ルカは拳に痺れを感じた。
 やはり……、と少女の不可解なまでの防御力を改めて実感する。
 このままでは、たとえ剣を突き刺してもこの娘を殺すことは不可能だろう。
 彼女の異常性を前に、ルカはますます気持ちを高ぶらせた。
 その思いを拳に込めて、何度も何度も少女を殴る。
 少女を確実に殺すために。

「わあ! うひゃあ! うわあ!」
 相変わらず、ルカは少女の人間とは思えない防御力を感じていた。
 ほとんどダメージを受けていないというのが、彼女の声に現れている。
 それでも拳を握り、さらに強く彼女を殴る。
 回数を重ねるごとに、パンチの威力は増し、その目は興奮からか次第に血走ってゆく。

「ぅ、うぅ……うぅッ! あうッ!」
 もう攻撃は二十回を超えただろうか。
 同じ部分へ殴打を食らい続け、確実にダメージは蓄積していたらしい。
 少女の声にも変化が生じていた。
 ちょこだって無敵じゃない。
 攻撃され続ければ体力は削られ、やがて人と同じように……死に至る。

「どうした? 苦しそうだ……なァッ!」
「ぉッ! ぉうっ! ぉー。ぁ……ぁ……」
 少女の守りを突破した手ごたえを感じ、ルカが殴る力にいっそうの力を込める。
 殴り方を微妙に変えて、楽器のようにさまざまな悲鳴を喘がせながら。
 やがて少女の悲鳴にも力がなくなっていき、ついに小さなうめき声しか発さなくなった。

632シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:57:31 ID:wXm0mWa.0

「そろそろ、死ねるか?」
「ッ! ッ! ッ!」
 殴ること六十発。
 ついに声を発することなく、痙攣するだけになった少女。
 その両目から涙が滴り、額を伝って髪の毛から大地へと落ちる。
 ルカはつま先で少女の腹を蹴り上げた。

「げはぁッ! ……ぁあぁあああぅぅ……!」」
 一瞬だけ大きく跳ね上がって、嘔吐する。
 血液が混じった吐瀉物が、逆さづりの少女の顔を汚した。
 これならもう殺せるだろうと、ルカは皆殺しの剣を取り出す。

「貴様を殺せば、次はあの男だ」
「お、じ……ざ…………ん……」
 涙やら血液やらでグシャグシャの顔を睨んでから、その剣を彼女の心臓に向けて突き刺そうとした。
 しかし、ルカの言葉に反応したちょこの魔力が渦巻く。
 少女は再び闘志を燃やした。
 離れ離れになった親子を助けるために。

「だ……め……な、の」
 現れたのは棺桶だった。
 ここまで追い込まれて、少女はやっと魔法を使うことを思いつく。
 地面から突き出した四角柱の塔のような棺が、ちょこを乗せて高くそびえ立った。
 思わず少女の足首を離してしまったことを、ルカは後悔する。

「けほっ……けほっ…………」
 棺の上で咳き込みながら、海水浴用タオルで顔を拭う。
 もう、殺す以外の選択肢はないのではないかと、少女は半ば諦めていた。

「……おじ、さん……は! ゆう、しょう、して……帰るんだからッ!」
「……! これはッ!」
 ルカが始めて、うろたえたような声をあげる。
 光魔法、キラキラ。
『今の』ちょこが使えるなかで、最強の魔法であった。
 棺から漏れ出た浄化の閃光。
 まばゆい光は絶対の殺傷力をもって、真っ赤な夕陽すらもかき消した。
 空間を余すところ無く埋め尽くした、少女の金色の怒り。

「く……ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
 光はルカの全身を傷つけながらも、体内に過剰なエネルギーを与えていく。
 行き場をなくすほどに膨れ上がった力は、男の身体を巡り、巡り。
 男の体内を中心とした激しい爆発を引き起こした。
 直後、金色の光が晴れていく。
 待ってましたと言わんばかりに、夕陽の赤が大地に舞い戻った。

「ぐ……貴様ぁ……ッ!」
 片膝をつき、荒い息をさせながら、ルカはちょこを睨みつける。
 口から血液を吐き出した後、剣を支えにして立ち上がる。

「あなたの負けよ。……あの人に手を出すなら、ちょこが許さない」
 ふらつきながらもルカを睨めつけていた。
 黄色いリボンの効果で、徐々にだが彼女の体力は回復している。
 一方のルカは、戦いが長くなればそれほどスタミナを消耗して不利になるはず。
 それを見据えて、彼女は勝負はついたと宣告した。

 しかし、ルカは彼女の警告を完全に無視。
 牛のように嘶いてから、剣を構えてちょこに襲い掛かった。

633シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:58:47 ID:wXm0mWa.0

「…………もう、やめて!」
 叫びと共に、大地が隆起。
 先ほどルカにアッサリと破られた『メキメキ』である。
 しかし、男が疲労した今となっては効果絶大。
 狂騎士は下から突き上げられる勢いのままに、数メートル跳ね上がって地面に衝突。

「…………ふはははははは! それでいい!」
 破壊力の高い魔法をその身に受けながら、またもやルカは立ち上がった。
 ここに来てもまだ一向に倒れる気配を見せない。
 むしろ、ルカ・ブライトにしてみれば、ここからが本番だった。
 何事もなかったと言わんばかりに、剣を抱えて突進する。

「殺して見せろッ! 小娘ッ!」
 ちょこがパシャパシャで迎え撃つ。
 魔法で作られた水塊が、ルカに向けて発射された。
 しかしルカはこれを一刀両断。
 その場で弾けた水を全身に浴びながら、ちょこへと肉薄し刃を振るう。

 頭部目掛けて繰り出された剣を、ちょこは避けることが出来ない。
 こめかみを右腕でガードすることで、急所へのダメージを避ける。

「…………くぅ……!」
 剣がぶつけられ、ちょこの腕はミシリと悲鳴を上げた。
 しかし、泣き言は言ってられない。
 男は本気で殺しにかかっている。
 ちょこも殺すつもりでいかなければ、やられてしまうほどに。

「それがどうしたッ!!」
 メラメラの炎鳥で迎撃しようとするが、ルカの進行を止めることは出来ない。
 炎を全身に纏ったままで、男は走り続けた。
 ルカの兜割りが振り下ろされる。
 ちょこは横に飛ぶことでそれをかわし、男の顔目掛けてとび蹴りを加えた。
 だが、やはり直接攻撃は期待できたものではない。
 ルカがちょこの足を掴んで、そのまま地面に叩きつける。

「ふぇっ!」
 地面に鼻をぶつけてしまい、鼻血がツーと垂れる。
 うつ伏せで倒れるその背中目掛けて、刃が突き立てられた。
 ちょこは地面を転がって凶刃の軌道から逃れると、ルカの横腹にパシャパシャを放つ。
 声もあげないで吹き飛んだ狂皇だが、宙返りからの見事な着地を披露して、懲りずに少女に向き直った。

「なんでなのー……?」
 ちょこが不思議そうに男を観察する。
 普通の人間なら、まとも動きを出来るほどの傷ではないはずだ。
 しかし、あの騎士は、以前と分からないほどの動きと、以前よりも強い気迫でもってちょこ首を狙ってきている。
 装備品で体力を常時回復しているはずのちょこの方が、息が上がってしまっていた。

「どうした? もう心が折れたのか?!」
 休むことなく少女を攻め立てようとするルカ。
 全身には、いくつもの生々しい傷跡が付けられている。
 だが、彼に疲れた様子はほとんど無い。

634シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 20:59:57 ID:wXm0mWa.0

 さて、突然だが、ルカ・ブライトの剣術は凄まじいものだ。
 そんなことは言うまでもないだろう。
 しかも、それでいて最強の召喚獣を扱えるほどの魔力も兼ね備えている。
 身体能力もこの殺し合いの参加者でトップレベルだ。
 そこまでの万能戦士でありながら、そのどれもが彼の長所足りえない。
 この男の真の恐ろしさは他にある。
 タフネス。
 持久力こそが彼の真骨頂。
 二十人弱の都市同盟の精鋭たちと戦っても、まだ剣を振り続けられるしぶとさ。
 戦場で何時間の激闘を演じようとも、一向にバテない体力。
 そのタフネスを発揮できる局面まで追い込まれて初めて、彼の本番が始まるのだ。

 ちょこのキラキラはそれを引き出した。
 が、そのために終わりない持久戦が始まることになる。
 ちょこは強いとはいえ少女の体。スタミナがあるとは決していえない。
 体力差は歴然だった。
 黄色いリボンのアドバンテージを埋めて余りあるほどに。

「まだっ!」
 少女が叫べば、急に風が吹きすさぶ。
 竜巻の魔法、ヒュルルーだ。
 決定打を命中させられないのなら、範囲攻撃を当てればいい。
 シャドウをしとめたときと同じパターンである。
 しかも、今度はそのときとは違い、手加減なしの全力で魔法を放つ。
 殺すことも厭わない一発だ。

 竜巻はルカすらも簡単に空へと巻き上げる。
 その高度は、ブラッドやシャドウのときより遥かに高く。最終的には命にかかわる高さまで。
 そして、無遠慮に固い大地へと叩き落した。

 ルカに遅れること数秒。
 ドサリと、デイパックがひとつ落ちてきた。
 シャドウとの戦いの前にルカが遠くへ投げ捨てたものだが、今の魔法でここまで飛んできたらしい。

 男の落下の衝撃によって辺りに生じた土煙が、少女の視界をふさぐ。
 彼女が男が倒れているだろう方向を、申し訳なさそうに見つめていた。
 悪い子になってしまったかもしれない後悔と、ほんの少しの安堵を抱いて。

「ふははははははははははははは!!!!」
 煙の奥から、笑い声。
 少女が驚きを隠そうともせず、まん丸な目を見開いた。
 男がまだ生きていたことに驚愕したわけではない。
 生きていてもおかしくはない、とは思っていた。
 しかし、笑う体力まで残されていたとは、さすがに予想だにしていなかった。

「残念だったなッ!」
 晴れかけた土煙の中から、ルカが突如として現れる。
 走るスタミナまでは残されていないだろうと思っていたちょこの反応が遅れた。
 その隙を突いて、ルカは皆殺しの剣を少女の腹部へと突き立てる。
 今のちょこに、この一撃を避けることは敵わない。
 ルカは命中を確信していた。

635シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:00:35 ID:wXm0mWa.0

 さて、得意の力押しで戦局を有利に進めていたルカ・ブライトだが、彼はたった一つだけミスを犯した。
 彼はある見当違いを起こしていたのだ。
 少女の能力について、である。
 ルカにタフネスと言う長所があるように、ちょこにもズバ抜けた強みがひとつある。
 スピードでも、防御力でもなく、魔力だ。
 ルカも、少女の魔力が高いことは重々承知のつもりでいた。
 それこそ、彼が過去に出会ったどの人物よりも高いと見込んで。
 だが、それでも彼は少女を過小評価していた。
 少女の魔力がもつ異常性は、ルカのタフネスがもつソレに匹敵するかそれ以上。
 ルカの評価の遥か上のそのまた上である。

 その見当違いが、さらなる決定的な勘違いを引き起こしてしまう。
 彼は、『キラキラ』を少女の『切り札』だと思い込んでいた。
 ちょうど自分の持っている魔石のような、『切り札』だと。
 もちろんあの魔法は、彼女の『奥の手』ではある。
 現在のちょこが使うことの出来る魔法の中で最高威力を誇っているのだから。
 しかし『切り札』、つまり一度しか使えない最終手段ではなかった。

「…………なッ!」
 こんどはルカが驚かされる番であった。
 大地から再び現れた、光の棺に。
 この魔法はかなりの魔力を消費する大技だ。
 にもかかわらず、少女が繰り返し放てるのはなぜか。
 簡単なことだ。少女の魔力の総量が途方も無く膨大であるからだ。

「これで、終わりなの」
 世界はもう一度金色に染まる。
 広範囲にわたる逃げ道の無い、超破壊魔法。
 ルカがこれを切り札だと勘違いしてしまうのも、仕方ないことなのかもしれない。
 そうほどまでに、少女の『キラキラ』は強力だったのだから。
 彼女は、真の紋章使いをも悠々凌ぐほどの大魔法使いであった。

「…………くくく……これは、愉快だ」
 ルカはやっと気づいた。
 彼女こそ、自分に勝ち得る唯一の人物であると。
 一対一で、ルカ・ブライトを殺すことが出来るただ一人の存在であると。
 そして、それに気づいて、彼は楽しそうに笑みを浮かべる。
 狂喜に顔を歪めたまま、金色の衝撃に身をゆだねていた。

「ぐ……ぐ、が…………」
 光が全て退散した後。
 夕陽が照らす静寂の中。
 ルカはもはやボロボロで、全身から血を噴出し……それでも二本の足で立っていた。
 剣を手放すことなく、戦意も途切れることもなく。

「…………流石に、効いたぞ……小娘……」
「ねぇ、お兄さん。もうやめにはできないの?」
 ちょこは、敵を殺さない解決策を最後まで模索していた。
 それに反応を示すことなく、ルカはゆっくりと彼女の方へ進む。
 少女はもう、距離を保ったりはしない。
 仁王立ちで男を迎え撃とうとしていた。

「もうお兄さんじゃ、ちょこには」
「勝てないとでも……」
 男が背中から取り出したのは、彼のデイパック。
 シャドウとの戦いの前に遠くへ放り投げたが、少女の竜巻で男の近くに偶然戻ってきてしまったものだ。
 手を突っ込んで、取り出したのは細長い木製の棒。
 取り出すなり、少女へ向けて振るう。

636シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:01:28 ID:wXm0mWa.0

「言いたいのか?」
「…………え?」
 不思議な光が少女を包む。
 直後、自らの身体に変化が起こったのをちょこは感じた。
 慌てて何らかの魔法を展開しようとするが……。
 だが、練り上げた魔力は奇跡を発現することなく、無情にも空気中に散っていく。

 魔封じの杖。
 少女の天敵ともいえるアイテムであった。

「そんな……」
「時の運、とはよくいったものだ……。だが……」
 絶望する少女に、男がジリジリとにじり寄る。
 少女は後ずさりをして、男から距離をとろうとしたが、どうにも力が出ない。

「それを引き寄せるのも…………君主の力……」
「……ん……ぇ…………」
 ルカが追いつき、少女の胸倉を掴んで持ち上げた。
 足を振り乱す少女をあざ笑いながら。

「…………」
「そして……重なるものだ。幸運も、不幸も」
 男の魔力が手のひらで収束する。
 それは、彼がついさっき覚えたばかりの術。
 魔石ギルガメッシュを所持したまま戦ったことで会得した補助魔法だ。

「ブレイブ」
 少女の『キラキラ』と同じ色。
 金色の光が男の足元から全身を包むように燃え上がる。
 光は男の力となり、その闘気をいっそう強くみなぎらせた。

「避けられるものなら……」
「あ…………」
 少女を真上に放り投げた。
 魔法を奪われた少女は、成すすべなく数メートル空を舞う。
 いままで、魔法でモンスターたちを吹き飛ばしてきた、しっぺ返しを受けるかのように。

「避けてみろッ!」
「……い、いや……だ……」
 ちょこが蚊の鳴くような拒絶を示したが、その声は誰にも届くことはない。
 もっとも、誰かがその声を聞いたところで、この一撃を止められるものなど……どこにもいない。
 悪魔の頑丈さを持つ彼女ですらも、これを食らったら一瞬で肉塊と化すことだろう。

 これこそが、『ブレイブ』のアシスト効果。
 攻撃力なんと三倍。
 ただでさえ規格外の破壊力が、である。
 それは、この男には絶対に与えてはならない魔法だった。

(………おじさん………ごめんね…………)
「豚のように鳴いて……死ねッ!!!!!」
 落下したちょこの腹部に、男の全力が叩きつけられる。
 反則に近い、威力。
 その衝撃は大地を大きく震わせ、ギルガメッシュの一撃よりも大きなクレーターを作る。
 爆音は少女の悲鳴すらかき消して。
 爆風は、少女の涙すら吹き飛ばし。
 最強の召喚獣をも超えるその一撃は、ただの通常攻撃であった。


◆     ◆     ◆

637シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:02:34 ID:wXm0mWa.0


 どこまで走ったのだろうか。
 背中から戦いの気配を感じなくなってからしばらくした頃、シャドウは足を止めた。
 気がつけばもう森の中。
 サラサラと木の葉が擦れ、風は植物特有の爽やかな匂いを運んでくる。

「ケアルガ」
 逃げながらずっとかけ続けた回復魔法。
 主催者が施したのだろう制限により、その回復量は著しく抑えられている。
 おかげで、傷があらかた消える頃には、シャドウの魔力はほとんど空っぽ。
 おまけに身体に溜まったこの疲労だけは、魔法で消えるものではない。
 耐え難い虚脱感を感じ、適当な木に身体を預けて腰を下ろす。
 うっかりと眠ってしまわないように気をつけながら、目を瞑って心地よいまどろみを味わった。
 ふぅ……と重い息を吐くと、両の腕すら鉛のように感じられる。

「……すまんな」
 彼の簡単な謝罪は、赤毛の少女に向けたものだ。
 圧倒的な強さを誇る騎士を前に、男は幼き少女を置き去りにして逃走した。
 優勝するための、選択だった。
 戦友に誓った勝利を求めるための。

「俺は、止まるわけには……いかん……」
 先ほどナイフを突きつけながら少女に吐いた言葉を、もう一度。
 今度は、自分に言い聞かせるかのように。
 仲間に、殺した人たちに報いるためにも、必ず優勝しなくてはならないと彼は心に刻む。
 しかし、彼にはひとつの課題があった。
 優勝のために、乗り越えなくてはならない障害が。

「弱点、か……」
 騎士にも指摘された、シャドウの欠点だ。
 高速移動からの奇襲や撹乱を主な戦法とする彼は、広範囲魔法に弱い。
 数刻前に喫した二度の敗北のその両方ともが、この弱点が原因だ。
 それだけではない。今までもシャドウは、同じような形で死にかけたことが何度もあった。
 だから、彼もその弱点を自覚していたはず。
 完璧な仕事を遂行しようとする彼が、なぜ今の今までこのような明らさまな欠点を改善しようとすらしなかったのか。

「分かっていたさ……」
 暴虐の騎士の言葉に、今更ながらに答える。
 なぜ、自分が致命的な弱点を放置していたのか、シャドウはその理由になんとなく気づいていた。
 ちょこの竜巻で吹き飛ばされた時……。
 少女の魔法を前に、成す術なく真っ赤な空へと舞い上げられ……。
 その瞬間、彼は思った。

 ひとりはつらいな、と。

「くだらない…………」
 理由なんか簡単だ、『彼の仕事じゃない』からだ。
 敵の魔法を打ち破る役目を担っていたのは、セリスの魔法剣だ。
 真っ向から打ち合うならば、ティナのトランス。
 ゴゴのモノマネもいいかもしれない。

 とにかく、彼が『それ』を求められることはなかった。

 だから対応などしなかった。
 他の仲間にまかせて、自分の長所を伸ばすことだけに専念すればいい。

 しかし、仲間と共にいる間はそれでよかったが、問題はその後だ。
 ケフカを倒して、世界を救ったその後はどうするつもりだったのか。
 仲間と別々の道を歩み、また孤独な暗殺者に戻ることを考えると、やはり目に見える欠点は克服すべきではなかったのか。

638シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:03:28 ID:wXm0mWa.0

「……飽いていたのだな、俺は」
 観念したように、ため息を吐き出す。
 取調室で刑事に追いつめられた犯人が、ついに自白を始めるがごとく。
 彼はもう疲れてしまっていた。
 たった一人の人生に。
 シャドウの弱点を仲間が埋め、仲間に不足しているところを彼が補う。
 そうやって支えあうことで生き抜いた旅路は、彼の心に変化を生じさせた。

「寂い、か……。…………この俺が」
 血にまみれた孤独はもう十分。
 そんな気持ちを、シャドウは心のどこかに感じていた。
 だからこそ魔大陸で、命の危険も省みず仲間を救った。
 生きるために、他人の命すらも奪ってきた男が、である。

 しかし、彼がその気持ちを直接的に表に出すことはなかった。
 彼の過去が血にまみれていたせいだ。
 多くの人を殺し、連れ添った相棒をも見捨て……終いには、娘を捨てた。
 それらは死神となって彼を攻め続ける。
 自分だけが望みを叶える事を、死神は許しはしなかった。
 罪を犯したなら、その報いを受けて永劫に孤独であるべきだと。
 だから、仲間たちにその思いを隠し続けた。
 戦友に黙って死ぬその時まで、ずっと胸の奥に秘め続けて。
 その声に縛られるままに、瓦礫の塔で逝った。

「刃も、曇るに決まっている……」
 その後、彼は魔王オディオによって生きかえされて、この殺し合いに強制参加させられることとなる。
 彼は、皆殺しを即決した。
 自らの心に根ざしていた希望から、目を背けるようにして。
 しかし、殺戮を心に誓ったにも関わらず、彼はエドガーもゴゴも斬ることが出来なかった。
 当たり前だ。
 心の最奥で、シャドウは彼らと共に生きたいと願っていたのだから。

 孤独な生き方しか許されないという十字架。
 共に旅した仲間との深い絆。
 この相反する二つを背負うことで生まれたのが、仲間を慕いながらも皆殺しを狙うという、全参加者の中でも特に歪な存在。
 そんなどうしようない矛盾を抱えた男こそが、今のシャドウであった。

(まだ、俺は…………)
 エドガーに誓うことで、迷いを断ち切ったつもりだった。
 もう、過去の絆と決別して、仲間を含む全ての人物を殺すことを決意したはずだった。
 ゴゴとの邂逅で、死神すらも乗り越えた。
 そしてマッシュの亡骸の前で、もう一度誓った。決して振り向かないと。
 だというのに。

「ちょこは……」
 呟いた名前。
 少女らしい可愛い名前なのに、何故か重々しく口内に反響する。
 あの少女との出会いが、全てを揺るがせた。

(あの少女は、俺と同じだ)
 シャドウが背負っている過去の罪。
 そして心密かに願っていた賑やかな未来への願望。
 その両方を、少女はそっくりそのまま抱えていたのだ。

 一人は嫌だと、願って、叫んで、足掻いて。
 でも、罪を背負った過去のせいで、結局は孤独の道しか歩むことが出来ない。
 まるで、鏡に映った自分を見ているようで、ひどく痛ましかった。

639シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:04:23 ID:wXm0mWa.0

(いや、違う。ちょこは、俺よりもずっと苦しんで、俺よりもずっと頑張っていた)
 少女は、大切な人たちを、自らの手で殺した。
 あの幼い心に圧し掛かった、孤独な人生を歩む負担。シャドウには計り知れない。

 少女は、誰かと手を繋ぐことを望んでいた。
 その絆への渇望を隠そうとすらしない。自分を殺そうとしたシャドウとも例外なく仲良くしようとした。

 そして少女は、全てが思い通りになるほどの力を持っているにもかかわらず、それに頼らず心で何とか人と通じ合おうとしている。
 彼女は、いい子であり続けようとしたのだ。
 それが、ちょこが幼い頭で必死に考えた、償いなのだろう。
 死んでしまった人に報い、罪と向き合うための。
 そして亡き父親を喜ばせるための弔いなのだろう。

「それなのに、彼女はそれすらも、捨てたのだ!」
 シャドウが珍しく声を張り上げる。
 治りきっていない肋骨が痛む。少女に負わせられた怪我だった。
 今、ちょこは騎士と戦っている。
 彼女は敵を殺すと宣言した。

(孤独な、血にまみれる生き方を選んだんだ)
 もう一度、人を殺す。
 そうすれば、少女は再び永い孤独を歩むことになるのだろう。
 もしかしたら、一人のままでこの会場で死んでいくのかもしれない。
 あの騎士に殺されてしまうのかもしれない。

(こんな、男の……ために……)
 全てはシャドウと、その娘のために。
 愚かにも自ら捨てた人生、未来。
 それらをもう一度拾い上げるチャンスを、彼に与えるために。
 少女は死者を想うことすらも諦めたのだ。

「…………マッシュ」
 木を支えにして、立ち上がった。
 視界がぼやけ、クラクラと立ちくらみを起こす。
 血が、足りなかった。

「俺は、このまま優勝したとして、胸を張って生きられるか?」
 東へ一歩、踏み出そうとする。
 少女と騎士が戦っているのとは、逆の方向。
 太陽がいない方向だ。
 しかし、体が上手く動いてくれない。
 膝から力が抜けて、地面に転がる。
 頭を振って、脳に鞭を打って、無理やりに身体を起こした。
 
「俺は背筋を伸ばせるか?」
 目の前に、死神がいた。
 ゴゴとの再開のおかげで消えたはずの死神を、シャドウは再び感じてしまっていた。
 そいつは、赤い絵の具を染みこませた筆を持って、男の行く手を阻み。
 彼女は、赤いベレー帽の下から覗く大きな両目で、悲しそうに男を睨みつけ。
 死神の指では、誰かの形見の指輪が、男を元気付けるように光り輝いて。
『どこへ行くんだよ』と攻めたてるような声が。
 シャドウは「そうだな……」と一言、死神に答えた後……。

「ふっ……ははは……」
 顎についた泥を拭って、大声で笑った。
 狂ったように、吹っ切れたように声をあげて。
 忍ぶことを忘れ、ひたすらに。

640シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:05:14 ID:wXm0mWa.0

「ふはははは……!」
 数秒ほど、らしくない高笑いを惜しげもなく披露する。
 これほど笑ったのは、『シャドウ』を名乗ってから初めてのことかもしれない。
 ひどく心が軽くなった。

「そんなわけ、ないよなァ……」
 このまま優勝したとしたら、とシャドウは考える。
 おそらく、彼はそれすらも罪の一つにカウントするのだろう。
 そして、また終わりのない孤独を自ら歩むことになる。
 殺して、背負って、また殺して、それも背負って。
 仲間に教えてもらった絆すらも、無駄にして。

(……貴様らのせいだぞ……マッシュ……エドガー……!)
 それが馬鹿げていると、今更になってやっと気づいた。
 わざと唇を噛み切って、血を流した。
 そいつを洋酒に見立てて、飲み込む。
 当然だが、鉄の味しかしない。

「確かに、たくさん殺した」
 ゆっくりと、木を支えにして後ろを振り向いた。
 眼光鋭く、笑みは絶やさず。
 恐れが無いと言えば嘘だ。
 だが、それを笑って受け止められるほど、彼の背中を押す力は強大だった。

「消えない罪だ」
 死神の気配を背に感じる。
 頼むから消えてくれるなよ。死神に願った。
 沈みかけの赤い夕陽が、彼の目に刺さる。
 全ての影を拒絶するような、雄々しい輝きであった。

「だから、一人にならなくちゃいけないのか?」
 少女に、返せなかった言葉。
 それを、馬鹿でかい紅のまん丸にぶつけた。
 ありったけの荒々しさを込めて。

(ふざけろ……!)
 男は怒っていた。
 犯した過ちに縛られて、生きたいように生きられなかった自分にも。
 男のために、犠牲となること選んだ少女にすらも。
 そして、それを甘んじて受け入れてしまった自分自身が、やはり一番憎い。

(一人が辛いなら、俺がその手を握ってやる……!)
 逃げないで、最初から素直に望めばよかったのだ。
 共にありたいと。
 仲間なら、答えてくれるに決まっていたのに。
 過去も、罪も、共に分かち合ってくれると、分かっていたのに。

「エドガー、みんな。俺に力をよこせ」
 仲間の一人、野生児が流した涙を思い出す。
 彼は言った。「父親が生きてる、それが幸せだ」と。
 そんなもんだよなとシャドウは笑う。
『絆』とは、『無条件に愛せるつながり』の事を言うのだから。

「お前たちを、裏切るための……力をッ!」
 西へ一歩。確かに踏み出す。
 柔らかな土の感触を、今になって初めて感じた気がした。
 男は、戦友たちに約束した。必ず優勝すると。
 彼は必死で進む。

641シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:06:36 ID:wXm0mWa.0

 その誓いを破るために。

(死神……君はそこで見ていろ)
 背中の少女に向けて宣言する。
 死神が何も言わずに頷いたのを、シャドウはその背で感じ取っていた。
 それが、シャドウにはとても頼もしいと思えた。
 孤独など、屁でもないと思えるほどに。

(俺の背中から……目を離すな)
 森を抜ければ、平野が開けた。
 戦場は近い。
 男の鼻が感じ取る。
 真っ赤な光が、緑の草原を赤く照らしていた。

(全てが終わったら……必ず君を……)
 臆することなく夕陽に向かう。
 紅い光を浴びながら、影はそれでも消えなかった。
 何かに押されるように、シャドウは歩みを速める。
 西へ西へと影は進んだ。
 少女の手を、握るために。 

(抱きしめにいく)
 死神は、静かに微笑んだ。


◆     ◆     ◆


 ルカのブレイブによる超攻撃の余波が去り、何度目かの静寂に包まれる港町跡。
 その爆撃にも等しい衝撃の震源地にあたる場所。
 ルカが誇らしげに大地に刻まれた傷跡を眺める。
 しかし、そこにあるべき少女の亡骸は見当たらなかったなかった。
 少女がなぜ死んでいないのか、周囲を見渡すと。
 百キロメートル以上先に、その原因を見つけた。
 夕陽に浮かぶは、黒いシルエット。

「貴様か……ッ!」
 ルカが忌々しげに、歯軋りをしながら男を睨みつける。
 また殺し損なったことに、苛立ちと憎悪を感じながら。




「…………おじさん」
 間一髪でシャドウに抱きとめられたちょこ。
 彼女は、なぜ彼がここにいるのか分からないでいた。
 細い指で、男の黒衣の胸の部分を引っ張ってみて、幻でないことを確認する。

「…………やはり、殺せなかったか……」
「……ごめんなさい…………ちょこ……」 
「いや、それでいい」
 少女が殺すのを躊躇ったのか。
 それとも騎士の実力が、ちょこを追い詰める程のものだったのか。
 おそらくは、その両方だろうとシャドウは予想。
 謝る少女の頭を撫でてやる。
 彼の手に感じられる暖かな感触は、確実に人間の熱だ。
 そして男の胸元にしがみ付くその姿は、幼子そのもの。
 にもかかわらず勇敢に狂騎士に立ち向かった彼女に、シャドウは無言で感心した。

642シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:07:43 ID:wXm0mWa.0

「後は、任せておけ……」
「……でも!」
 シャドウは少女を地に下ろし、自分の力で立たせる。
 ルカに向けて歩き出そうとした男の服を、ちょこが引っ張って引き止める。
 シャドウを心配しての行動だ。
 ルカがちょことの戦いで疲労していたこと、シャドウが少々の休憩をはさんだこと。
 その二つを加味したとしても、彼はルカには勝てない。

「……俺は負けない」
「……でも、でも!」
 少女の手を優しく解く。
 ちょこは何か言いたげだが、上手く言葉の整理がつけられない。
 シャドウは少女に背を向け、手持ちの道具を確認する。
 デイパックは、少女の竜巻を食らった時にどこかへ飛んでいってしまった。
 彼に残されているのは、この殺し合いの一番最初から彼を助けてきた二つのアイテム。
 アサッシンズと竜騎士の靴。それだけだ。
 ルカと戦うには、明らかに厳しい状況。
 それでも彼は、少女に勝利を宣言した。

「全てを……賭けるから……」  
 数十メートル先で構えるルカへと、一歩を踏み出す。
 竜騎士の靴があげた軋みは、無口な男の変わりに放たれた雄たけびだ。
 少女は、男の背中を不安そうに眺めるばかり。
 彼のその言葉は、強がりなのか。
 それとも、本気で自分が勝つと信じているのか。
 彼の背中を守る死神だけが、その真意を知っていた。

「今更ノコノコと……死にに来たかッ!」
 大ジャンプで迫るシャドウを迎えるは、狂皇、ルカ・ブライト。
 狼は怒っていた。
 久しぶりの殺人を何度も邪魔された苛立ちも、その憤りの一端を担っている。
 だがそれ以上の原因は、再び自分の前に立ちはだかったこの男にあった。
 先刻の無様な敗北を繰り返さんとしているその愚かさが、ルカの血液を急沸騰させていた。

「このルカ・ブライトに……貴様ごときが……!」
 皆殺しの剣が炎を纏う。
 この技によって焼け野原と化した港町が、一瞬だけざわめいたような気がした。
 魔力の高いちょこには使わなかったこの技だが、耐性の弱いシャドウには効果絶大だろう。
 そのうえブレイブによって攻撃力そのものも超強化済だ。
 命中、それ即ち即死だと言っていい。

「敵うなどと……思うなァッ!」
 兵器の域にまで達したソレが、一個人に向けて放たれた。
 炎の龍が、遥か空まで舞い上がる。
 その熱に曝され、世界は瞬く間に燃えさかった。
 いくつもの市街を焼き払ってきたルカには、見慣れたこの灼熱の光景。
 いつもと違うのは、これが一対一の戦いであるということ。
 国家同士の戦争とはワケが違う。
 国も関係なく、軍も階級もここには存在しない。
 だが、たった二人の男の戦いは、戦争並みの破壊をも引き起こす。

 焼け野原で始まったシビル・ウォー。
 ある男が、過去に捨てたものと向き合うための戦いだった。

643シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:08:14 ID:wXm0mWa.0




「…………おじさん……そんなぁ……」
 見つめた先であがった爆炎。
 エルクの炎ですら見劣りしてしまうほど轟々と。 
 その巨大な紅いドラゴンは、特攻した男の死を少女に確信させるには十分な大きさだった。
 ちょこが、絶望のあまり膝から崩れ落ちる。
 もし、魔法が使えたらと、自分の無力さを呪った。

「………あ………あぁッ!」
 しかし、彼女は視界の隅にその姿を確認した。
 流れる炎の合間を縫って跳ぶ、漆黒の影を。
 呼びかけようとしたが、少女は今になって男の名前を知らないことに気づいた。
 どうしようかと悩んだ挙句……。

「父さま! 頑張ってなのーーーーーッ!」
 男の背中と重なった幻影へと呼びかけた。
 それが彼に聞こえるのか、ちょこは少しだけ心配する。
 が、叫び続けているうちに、すぐにそんなことはどうでもよくなってしまった。
 この距離と炎じゃ届かないんだろうな、と薄々感じながら。
 少女は甲高い声を必死に枯らした。




「これで死なないとはな……!」
 ルカが周囲を走り回る男を評価し、少しだけその興味を再燃させた。
 男のスピードと精密さが、以前よりも増している。
 スピードは、おそらく『ブレイブ』のような補助魔法に過ぎない。
 しかし精密の方は、魔法でどうにかなるステータスではない。
 集中力、つまり心の持ちようだ。
 男の迷いが消えたことを知り、ルカは高揚した。
 敗戦から立ち上がった男を今度こそ完全に壊すべく、舌なめずりをする。

「さァッ! 今度は貴様の番だ」
 男を迎え撃つべく、五感を研ぎ澄ます。
 前回の戦いでは、集中したルカにシャドウのスピードは全く通用しなかった。
 精神の戸惑いを断ち切ったことにより、男はどこまで変わったのか。
 その男の真価を見極めるために、ルカはあえて防戦を選択。
 シャドウを捉えることに、全身全霊を注ぐ。

「そこかァ!」
 ルカの感覚が、敵を捕捉。
 探知した場所に、絶妙のタイミングで焔の剣を振るう。
 魔法で強化された剣の勢いは凄まじく、武器のリーチの約十倍に渡って炎が迸り。
 その軌道上の全ての存在を灰と化した。

 しかし、シャドウの消し炭はそこになく。
 ルカの感覚器官は確実に遅れをとっていた。
 アサッシンズはルカの頬に一筋の赤を刻む。
 一瞬遅れて脳に伝わる痛みを感じるまで、攻撃を受けたことにルカは気づかなかった。
 驚きと喜びにその目が大きく見開かれる。
 男の刃が、ついに狂皇に届いた瞬間であった。

「……………………」
 シャドウがジャンプをしてルカとの距離を確保。
 着地と同時に大きく息を吐く。
 顎の先から滴る玉汗が、つま先に落ちて弾けた。

644シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:09:09 ID:wXm0mWa.0

(……もっと……速く…………)
 かすり傷だが、ルカに一撃を加えることに成功したシャドウ。
 彼は自分の身体が軽くなったように感じていた。
 しかし実際は違う。軽くなったのではない。
 自身を縛っていた多くの枷から解き放たれたことで、彼本来のスピードに戻りつつあるのだ。

 しかし、ルカを翻弄してもそれでも彼はまだ速さを渇望していた。
 もっと軽く、もっと速く動くために。

(全てを……ぶつける……)
 そのためには、踏み込むことだ。
 敵の生み出す炎を恐れず、敵が振り回す剣を恐れず。
 ……死にすらも臆することなく。
 ブレーキをかけずに敵の懐に踏み込まなくてはならない。

(経験も……命も……誇りすらも……)
 スピードよりも、需要なのは精神力。
 相手の動きの隙間を縫うことにこだわる。
 投擲という選択肢がない以上、致命傷を叩き込むにはそれしかなかった。

(……なにもかも…………!)
 大きく息を吸い込んで、男は再び風を超える。
 背中に感じる温もりが、頼もしくて仕方ない。

「ふん。だいぶマシになったではないか!」
 精神の統一は崩すことなく、ルカが心底愉快そうに笑う。
 彼が口にした評価は皮肉ではない本心だ。
 今まで出会った敵の中で最も速く、鋭い攻撃。
 これが速さを司る真の紋章の効果だと言われたら、一瞬の疑いもなく信じてしまうほどに。

「だが、俺の首を刈れるかと言えば……ククク……」
 それでもルカは余裕を見せ続けた。
 この言葉もまた男の能力を正確に評したもので、決して油断などではない。
 ルカが過去に首を刎ねた者の中には、慢心してこそ君主であるなどと主張する輩もいた。
 彼がその言葉に感じたのは、吐き気をもよおすほどの嫌悪。
 気取りたいが為だけに吐き出されたような文句だ、と当時の彼はその美学を切り捨てた。
 慢心している自分に酔いたいだけならば、自室の鏡を前にポーズを決めていればよい。
 戦場で命の奪い合いをしている以上、彼はいつでも本気で殺す。
 犬も、老人も、稚児も。出来る限りの絶望を眺めるために。
 それが、『悪』たる男の信条だった。

「……ほぅ」
 シャドウのナイフが、ルカの二の腕に新たな傷を作る。
 さっきよりも深い。
 ルカは、焦った風もなく男の速さを称えるように唸ってみせた。
 彼は、本当に余裕があるからこのような態度を見せている。
 いくらシャドウが速くても、ルカの命を脅かすレベルにはまだ達していない。
 たとえあと何発命中したとしても、この程度の浅い傷ではルカを殺すことは出来ない。
 彼の無尽蔵とも思えるタフネスを突破するには、男のナイフは破壊力が足りなすぎたのだ。

 だから、シャドウは急所への一撃必殺を狙うはず。
 疲労が蓄積し、動きが精彩を欠いてしまう前に。
 今の彼の攻撃は、そのための布石。
 連続攻撃で隙を作り、最大限の威力の攻撃を叩き込むための。
 ルカもその狙いには気づいていたし、ルカがそう感づいたことをシャドウも察していた。

645シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:51:01 ID:wXm0mWa.0

 再び、シャドウの攻撃が。
 今度は脛を切り裂いた。
 徐々に威力を増す暗殺者の攻撃は既に、軽く血が噴出するまでのレベルにまで達していた。
 もうすぐだ。
 ルカの見立てでは、あと三回。
 今から数えて三回目の攻撃で、シャドウは必殺を狙いに来るとルカは予想する。

「では、こちらも攻撃させてもらうぞ!」
 防戦一方では、いずれ殺されかねないと踏んだルカ。
 攻勢に転じることで、男の動きを阻害する。
 繰り出すはもちろん業火の剣。
 ワンパターンではあるが、それも当然のこと。
 回数制限のないただの攻撃がこそ、彼の持ちうる中で最強の攻撃手段なのだから。

 まずは、闇雲に剣を振り回す。
 確実な攻撃が決められない以上、攻撃の範囲を広げることが得策だと考えてのことだ。
 ルカを中心に、まるで竜巻のように炎が渦巻いた。
 それはもう、大規模魔法と見紛うほど。
 もはや通常攻撃と呼んでいい規模ではなかった。

「…………ック……」
 無茶苦茶な攻撃を前に、シャドウの足が一瞬止まった。
 しかしすぐに建て直して、高熱の中を走り抜ける。
 リズムが崩れたこと、熱風を吸い込んでしまったことにより、シャドウの体力が削られる。
 元々ギリギリの線を走っていただけに、この誤算は無視できない。

(それでも……勝つ……)
 伸ばした腕が炎の壁を越える。
 握ったナイフの先端が、ルカのこめかみを抉った。
 ダメージと呼ぶにはあまりにも浅い。が、急所に一撃を入れることに成功した。
 すぐに反転し、次の攻撃へと移行する。

(彼女に……ちょこに……)
 炎の渦が消えた先で、ルカは既に剣を構えていた。
 振り下ろされた灼熱を、シャドウは斜め後ろへのステップで回避。
 十メートル近い炎柱が吹き上がり、大地がグラグラ揺れる。
 シャドウの着地が乱れたが、すぐに修正し全速全身。
 ルカの首筋へ、短剣を走らせた。
 少しばかり踏み込みすぎている。
 当たれば僥倖という一撃であった。

(俺のような人生を…………歩ませてたまるか!)
 大振りの隙をついた攻撃。
 常人であれば、攻撃を知覚することすら出来ないだろう。
 しかし、ルカは一騎当千の騎士だ。
 強引に上体を反らせて、ナイフから逃れる。
 この一撃は、空振りに終わった。
 しかし、元より『外れて当然』で放ったもの。

 すぐさまルカへと向き直り、追撃を浴びせるために突進する。
 無理な姿勢から戻ったばかりのルカは、碌に剣を構えることも出来ないだろうと。
 そして、この攻撃こそが、『三撃目』。
 ここでシャドウは必殺を狙うはずだ、とルカが予想した攻撃だ。

646シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:52:44 ID:wXm0mWa.0

(切り開くぞ……!)
「甘いなッ!」
 信じがたいことに、ルカはなんとか迎撃体勢を整えていた。
 シャドウの予想を大きく上回るほどの復帰の速さ。
 しかし、シャドウは引かない。
 ここが勝機であると信じて、暴虐の君主へと立ち向かう。
 敵の射程範囲ギリギリまで踏み込んで、シャドウが放ったのは……。

「サンダガ」
「なにッ!」
 なんと、魔法であった。
 シャドウの魔力が手のひらで渦巻き、青白い雷を生み出した。
 空から降り注ぐ細い雷光の狙う標的はルカではない。
 稲妻が落ちたのは、彼が構えている皆殺しの剣だった。

「豚がッ! 舐めた真似をォーーーッ!」
 まさか魔法など使うと思ってもいなかったルカ。
 彼の視界を白い閃光が覆う。
 これこそが、シャドウの目的。
 攻撃を繰り返すことで、ルカに『真っ向勝負』の意識を植え付け……。
 シャドウが魔法を使うという可能性を、ルカの脳から消し去った。
 そして、絶好のタイミングで彼の視界を塞ぐ。

(………………ここだッ!)
 背後に回ったシャドウが、ルカの背中へとナイフを走らせた。
 防御もなにもかも捨てて、敵の心臓を突き刺すことに全力を注いで。

「そ……こ、かァッ!!!」
 視力を取り戻したルカが、背後に顔を向ける。
 シャドウの姿がどこにも見えないことから、上か後方の二択だと判断したルカ。
 最終的に後方を選択した彼の勘は素晴らしかった。
 しかし、反撃に転じるには少しだけ手遅れ。
 ルカが身体を反転するより早く、アサッシンズが彼の心の臓を破壊するだろう。

「…………遅い……!」
 顔だけだが振り返ることが出来たことに、シャドウは内心驚いていた。
 流石ルカ・ブライトだと、人生最強の敵を静かに称えた。
 尊敬を込めて、ナイフを突き入れる。
 迷いない刃は、全ての介入をも受け付けない勢いで空気を切り裂く。
 振り返ることができない以上、ルカに手はない。
 シャドウの精密攻撃は、後ろ向きのままで受け止められるほど甘くはないのだから。
 ルカブライトは詰んでいる。
 少なくともシャドウは、そう思っていた。

「それで……俺をッ! 殺したッ!」
「………………ッ!」
「つもりかァーーーーッ!」
 信じがたい光景だった。
 剣が、飛んできた。
 それを、シャドウは手にした短剣で弾く。
 後ろ向きのままのルカが、迫り来るシャドウに対応する唯一の方法。
 それは、他でもないシャドウの真骨頂である投擲であった。

647シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:55:44 ID:wXm0mWa.0

「…………馬鹿、な……!」
 予想だにしない無茶苦茶な攻撃に、シャドウの足が止まる。
 あまりの衝撃に一瞬だけ立ちすくんでしまった。
 投擲のスペシャリストである彼は良く知っている。
 後ろ向きで、物を正確かつ高速に投げることの難しさが。
 狙った場所に投げるだけならば、シャドウの技術を持ってすれば可能なこと。
 しかし、剣のような重い物体をここまでの勢いを込めて後ろに投げることは、シャドウにすら不可能だった。
 全ては、ルカの剣術と胆力が成せる業。

「……ッ!」
 投擲に見とれてしまっていたことに気づき、シャドウが慌てて我に返る。
 ルカは既に眼前に迫っていて、彼の手にはシャドウが弾いたはずの皆殺しの剣が握られていた。
 シャドウが身体を捻って、なんとか回避しようとする。
 集中すれば、避けられない攻撃ではないはず。
 スピードはシャドウに分があるのだから。

「……しま…………ッ!」
 それは、不運だった。
 しかし、気をつれば未然に防げた事故でもあった。
 彼の視界を塞いだのは、水平線に落ちる直前の夕陽。
 太陽が、夜に追いやられるその前に、自らに逆らいし愚かな影へと制裁を加えたのだ。
 紅い光は、最後まで彼の敵だった。

 そして、先刻のルカの言葉の通り、不幸は重なるものだ。
 シャドウを守っていたヘイストの効果が、ついに消失した。

「…………がぁッ!!!!!」
 ルカの剣が、シャドウの左腕を切り裂く。
 二の腕から先が、一瞬で燃え尽きる。

 彼の左腕を奪った不幸は、夕陽と、ヘイストの効果切れの二つだった。
 その代わりだろうか。このとき、シャドウにとって幸運だったことがが二つある。
 一つはルカの補助魔法も切れていたこと。
 この攻撃が『ブレイブ』の恩恵を受けていたら、シャドウはたちまち焼死体と化していただろう。
 もう一つは、切り裂かれた部分が焼け爛れていたこと。
 これにより、傷口からの出血がほとんどなく、結果的にシャドウは即死を免れていた。

「…………ぅ……ぐッ……!」
 傷ついた左肩を抑えて膝をつくシャドウ。
 生きながらえることができたとは言え、ピンチであることには変わらない。
 元々ギリギリだったシャドウの体力は、そのほとんどをさっきの一撃で奪われてしまった。

「惜しかったなァッ!」
「グガァッ!」
 ルカの蹴りがシャドウの顎を蹴り上げる。
 数本の歯が砕け、血液とともに飛び散った。

「ゴッ!」
 宙に浮いた男の腹に、さらにルカが拳をめり込ませる。
 パンチを受けて吹き飛んだシャドウ。
 数十メートル空を跳んだ彼は、二、三度バウンドして、やっと停止。
 うつ伏せで男が倒れたのは、ちょこが待機していた場所のすぐ近く。 

「おじ……さん」
「くる、な……ッ! に……げ…………ろ……」
 片腕を喪失したシャドウを心配してちょこが駆け寄る。
 しかしシャドウがそれを掠れ声で制した。
 フラフラと立ち上がり、真っ赤な涎を吐きながら。

648シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:57:01 ID:wXm0mWa.0

(彼女だけでも、なんとか…………)
 土と血の混ざった味を感じながら、シャドウは悔しそうに呻く。
 彼は、動けないでいた。
 限界に近い体に鞭を撃って、なんとか剣を握る。
 投擲での敗北は、シャドウの体だけでもなく心にすらも傷を残した。

「さらばだ、暗殺者……」
「……………………クッ…………」
 ルカが剣を掲げてシャドウへの方へと進む。
 彼を完全に殺害するために。
 短剣を握るシャドウの右手から力が抜ける。
 アサッシンズは悲しそうに、コトリと地面に寝転んだ。
 それを取り上げようとして、シャドウは派手に転ぶ。
 片腕を喪失したことにより、バランス感覚が崩れたからだ。

 背中が、寒い、と。
 そう、シャドウは感じた。
 
「一度でも俺の後ろを取ったことを、誇りに思って…………死ね」
 もう夕陽はほとんど沈んでおり、その頂点だけが僅かに水平線から覗いていた。
 現世を、名残惜しむように。
 夜に、抗うように。
 男をあざ笑うように、太陽は空にしがみ付き続けた。

「……………また、貴様か」
「…………」
 ルカは心底不愉快そうに、シャドウを庇って前に出た少女を睨む。
 ルカは憎しみを込めて舌打ちをした。
 こいつらはどれだけ殺しを邪魔すれば気が済むのだ、と。
 少女を殺そうとすれば、男が阻む。
 男を始末しようとすると、このとおり。

「ふん。ならば、まとめて殺してやる」
 怒りを込めて、魔封じの杖を再び少女に向けて振る。
 これで、彼女にマトモな攻撃手段は無くなった。
 だが、ちょこは驚いた風もない。
 彼女は魔法を封じられる事など承知の上でシャドウを助けたのだから。

 シャドウは力を振り絞ってヨロヨロと立ち上がると、残された右腕でちょこを抱える。
 後方に何度か大ジャンプをしてルカから離れ、息を整えることに努めた。

「ちょこ……逃げろと……」
「やだ」
 右膝をつき、肩を揺らして息をするシャドウ。
 ちょこに、ここから離れるようにと促そうとした。
 だが、彼の言葉を遮って、ちょこが背を向けたままで語りだす。

「ここで逃げたら……ちょこ、ずっと後悔するもん」
「…………」
「ちょこ、嬉しかったの。おじさんが来てくれて」
「…………」
 シャドウが空を見上げる。
 東の空はもう夜が訪れていて、綺麗な星々が瞬き始めていた。
 久しぶりにまじまじと眺めた夜空を、彼はとても美しいものだと感じる。
 夕陽が落ちて、本格的な夜がやってくるのを心待ちにした。

649シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:57:42 ID:wXm0mWa.0

「あぁ、そうか」
 少女は一人だった。
 シャドウもそのことは知っている。
 育った村の人たちは、他でもない彼女自身がみんな殺してしまって。
 村の外で出会った人間も、結局は彼女の前からいなくなっていて。
 少女には誰もいなかった。

 でも……シャドウだけは、彼女の元へと戻ってきた。
 彼は命を賭けて、少女のために命を燃やした。
 それは、ちょこにとって初めての経験。
 自分のために命を捨てようとした人物など……もういるはずないと、彼女は思っていたのに。

(やっとたどり着いたよ。相棒)
 随分と、遠回りをした。
 最初から、答えを掴んでいたというのに。
 仲間と旅している間からずっと……今もそう……。
 その答えを実践しているではないか。

「なんて、簡単なことだったんだ……」
 さて、ここで問題だ。
 この男が、人生の大半をかけて悩み続けた問題だ。
 大切な相棒が、死にかけている。
 後ろからは、追っ手が沢山迫っていた。
 捕まって拷問されるのを恐れた彼は、『殺してくれ』と懇願する。
 その願いを聞き入れ、彼を殺すのが正解か?
 それとも、彼を放置して一人で逃げるのが正しいのか? 

 いや、正解はそのどちらでもない。
 長い人生のその先で、少女と共に男が導き出した回答は。

「死んでも、助ける…………!」
 真っ向から追手に立ち向かうのでもいい。
 囮になることで、相棒から敵を遠ざけるのもいい。
 自分が死んで仲間が助かるなら、迷うことなく死ねばよかったのだ。
 そして、生き延びることが出来たら、『殺せ』などと要求した相棒のことを思いっきり殴る。
 それこそが、この問題の唯一の答えだった。

 魔大陸で、仲間のために死んだこと。
 ちょこのために、命がけで戦ったこと。
 彼は既に、正解を二度も実演していた。
 最初から、本当に最初の最初から……答えは用意されていたのだ。

「そうだよ、おじさん」
 ちょこが柔らかに笑う。
 男の前に立ち、ルカへと立ち向かいながら。
 少女もまた、その答えを実践しようとしていた。

 手を繋ぐということに。
 絆を紡ぐということに。
 それに条件なんか無いということを。
 人殺しだって、関係ないということを。
 手を伸ばし続ければ、必ず誰かが掴んでくれることを。
 その全てを証明するために。
 少女は、死を覚悟で狂騎士と戦おうとしていた。

650シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 21:59:15 ID:wXm0mWa.0

「おじ、さん?」
 しかしシャドウは、それを許さなかった。
 右手一本で少女を抱える。
 全身から血を流しながら。
 耐え難い苦痛と戦いながら。

「ちょこ…………聞け……君はもう一人じゃない」
「おじさん……なに……言ってるの……?」
 今生の別れを告げるようなシャドウの口調。
 ちょこがどういうことか問いただそうとする。
 が、男はそれを無視して続けた。

    ちょこは、全てを捨てて男とその娘を救おうとした。
    父親を喜ばせるために『いい子』でい続けることも諦めた。
   『ひとり』の辛さを知っているから。
    シャドウとその娘に『ひとり』の辛さを味わって欲しくないから。
    だから少女は自分が手にした全てを捨てるのだ。

「命を賭けて君を護った男が、ここにいる」
「まって……ちょこも戦うの! ちょこ頑張るから!」
 ちょこが男の胸元にしがみ付いて懇願する。
 少女が健気な姿を見せれば見せるほど、男は覚悟を強くする。

    長い間、彼は迷っていた。
    相棒を見捨てた卑しさを、自らへの刃と変えて。
    その死神を、ずっと抱え続けて……悩み続けて。
    仲間と共に生きていたいと、ずっと望んでいたのに……言えなかった。
    でも、この少女が教えてくれた。
    手を伸ばせば掴んでくれるんだということを。

「ダメだ。ここは、君の戦場じゃない」
「い……や、だ。ちょ、こ……も、たた……か、う!」
 ちょこが大粒の涙を流す。
 必死にもがき暴れるが、男の腕は彼女を決して放そうとはしなかった。
 シャドウは少しだけかがんで、龍騎士の靴に力を込める。

    今度は、シャドウが全てを捨てる番だ。
    全てを捧げてくれた少女のために。
    血塗られた過去のせいで全ての絆から拒絶された少女に、絶対に切れない絆を与える。
    仲間たちが、シャドウにそうしてくれたように。
    自分と同じ人生を、少女に歩ませないために。
    シャドウはもう、長いこと生きたのだから。

「まだ……おじ、さん……の…………な、まえ、も……しら、ない」
「シャドウ」
「…………え?」
「シャドウ。それが俺の名だ」
 上手く腕を回して、少女の頭をなでてやる。
 その温もりが手のひらを伝わり、シャドウの心に活力を与える。
 朽ちかけた体が、軋みを上げて動き出した。

「きみは、きみが命を賭けて護りたい人を見つけるんだ」
「やだ、よ……ねえ……生き、て……おう、ちに…………かえっ……て、よ……」
 シャドウが力を込めると、龍騎士の靴はそれに応えた。
 今日一番の大ジャンプ。
 少女の竜巻よりも高く空へと飛び上がった。
 綺麗な夜空の、無数の星へ向けて。

651シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:00:28 ID:wXm0mWa.0

「あぁ、帰る。…………必ず……!」
「まっで! おじざん! まっでよッ!」
 シャドウがちょこの右足首を掴む。
 少女を投擲するために。
 少々荒っぽいが、これしか彼女を確実に逃がす方法が無いのだ。

「さよならだ」
「まって! おかわり! おじさん、おかわりなの!」
 ちょこが叫んだ『おかわり』という台詞。
 それは、彼女が消えゆく父親を呼び止めために使った言葉。
 シャドウにその意味が伝わることはなかったが、彼は黒いマスクの下で優しく微笑んでから。
 全力で少女を投擲した。
 遥か夜空高く、離れ離れになる二人。
 少女の目には、全てがスローモーションに映った。

「シャドウおじさん、絶対に生きてッ!」
 必死に手を伸ばす少女。
 しかし、シャドウはその手を握ることは無く。
 それを理解した少女は、頭から外した黄色いリボンを男へ託す。
 これは少女の専用アイテムで、他のものにとっては何の意味も持たない。
 それでも、意味がないと分かっていても。
 少女は男に握らせた。彼の勝利を願って。

「この手は、決して放さない」
 握りこぶしを突き出し、少女へと掲げた。
 少女も男に倣って、握りこぶしを突き出す。
 リボンはヒラヒラと、風に靡いて。
 失った彼の左手の代わりに、少女に手を振り続けているかのようだった。
 二人は離れてしまったが、両者はしっかりと手を握り続ける。
 死んでも、尚。

「必ず勝って! 家に帰るのッ!」
「あぁ。…………元気でな」
 二つの拳の距離が広がっていく。
 少女はずっとシャドウから目を放さなかった。
 彼が重力に従い落下を始めて、向こう側へ振り返っても。
 その背中に願いを込め続けていた。

 空中で反転したシャドウ。
 水平線の先、僅かに頭を覗かせた太陽を睨む。

(まだ、世界が恋しいか……!)
 これまで散々彼を苦しめ、その身を滅ぼさんとした恒星。
 いまだに、夜に堕ちきる意思を固めてはいないようだ。

(消えろ……お前の出番は終わったんだ……!)
 影は、ついに太陽に牙を向いた。
 口を使って黄色いリボンを器用に右手首に巻くと、途端に力が湧いてくる。
 紅い太陽を睨み、その場を明け渡すように要求した。

「今は星が輝く時間だッ!」
 男に気圧されるように、夕陽は水平線の下で眠りについた。
 本格的な夜が訪れる。
 美しい夜だ。
 希望の闇だ。
 海風は、死神と共に男の背中を押した。

652シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:01:10 ID:wXm0mWa.0





 地上に到達するなり、ルカの刃が襲い掛かる。
 シャドウは着地の反動を生かして飛び退き、それを回避。

「小娘を逃がしたか…………何を考えている」
「そうだな…………」
 シャドウが腰元からアサッシンズを取り出す。
 ナイフは星々輝く夜空の下で、かつてないほど美しい銀色を呈した。
 まるで、男の覚悟を、生き様を称えるかのように。

「…………老いてみたく、なったのだ」
 ルカに踏み込むため、両足に力を込める。
 竜騎士の靴がギチギチと唸る。
 今日一日ずっ酷使し続けたせいで、もうこの靴も限界を迎えていた。
 いつ壊れてもおかしくないほどに。
 もう少しだけ、頑張ってくれ。
 シャドウはナイフと靴に、そう呼びかける。
 アイテムたちは何も答えない。
 ただ、彼らが僅かに熱を帯びたのを、シャドウは確かに感じていた。

「そんな体で、たった一人で……俺に勝てると思ったかッ!!」
 顔中の皺で憎悪を表現する。
 ルカの目に映っているのは、ボロボロの男。
 立っているのすらやっとのはずの傷、そして疲労。
 それでも彼は、最強の敵に単身挑むことを決意した。
 まったく、不愉快だ。狂皇が吐き捨てる。
 ルカは剣を壊れんばかりに強く握り締めた。
 男を完膚なきまでに叩き潰し、二度と立ち上がれぬようにその身を砕き殺さんと。

(……ひとりじゃないさ)
 シャドウが肺中の空気を全て吐き出した後、大地を強く蹴って疾走する。
 何かに引っ張られたように、その身は軽い。

「…………なにッ?!」
 もはや、ルカの目にも捉えられない。
 男の動きは、先ほどよりも遥かに早く鋭かった。
 重傷を負っているにもかかわらずだ。
 ……違う、そうではない。
 重傷を負ってるのに速いのではなく、重傷を負っているから速いのだ。

 普通、片腕を落とされれば大量出血はもちろんのこと、その体のバランスも崩れて歩くどころではない。
 しかし、シャドウは出血はそれほどしておらず。
 バランスの修正も、この男なら容易いこと。
 むしろ、片腕という重りを捨てたことにより、そのスピードはよりいっそう研ぎ澄まされていた。
 音を超えるほどに、速く。

(俺には仲間がいる)
 シャドウのナイフがルカの肩を切り裂く。
 噴き出した鮮血がルカの頬を汚す。
 小細工のない、真っ向勝負であったはず。
 それなのに、ルカは男の動きを目視できなかった。
 その額から汗が垂れ落ちる。

653シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:04:30 ID:wXm0mWa.0

(死神が憑いてくれている)
「き、貴様ァッ!!!」
 ルカが、シャドウを追いかけて振り返る。
 その瞬間に、今度は足首に痛み。
 攻撃の方向すら分からなかった。
 ルカのこめかみに、青筋が浮かぶ。

(…………そして)
 次は頭から血が垂れた。
 ルカが最も警戒していたはずの場所へ、浅いが確実に一撃が入る。
 ルカ・ブライトは、完全に翻弄されていた。
 暴虐の限りを尽くした男が、狩られる側に回っているのだ。

(ちょこがこの手を握っている)
 完全にルカがシャドウを見失ったあたりで。
 シャドウは投擲の準備を始めた。
 ルカを確実に絶命足らしめる一撃を繰り出すために。
 彼の手にあるのはナイフが一本と靴が一足だけ。
 おそらく、これが最後の投擲になるだろう。
 右腕に力を込め、彼が投げたものは…………。

(さぁ、殺してみせろ!)
 ルカは、集中していた。
 シャドウを見失った瞬間、周囲に意識を集中させて次の攻撃に備えた。
 どんな攻撃が来ても、すぐさま回避して反撃に移ることができるように。
 シャドウが投擲のプロフェッショナルであることは、ルカは知らない。
 だが、ルカはナイフが飛んでくる可能性をも考慮していた。
 先刻シャドウが放った魔法のことを、覚えていたからだ。
 その場合は、すぐさまナイフを叩き落してやる、と。
 全身全霊をもって、シャドウの最後の攻撃を迎え撃つ。
 おそらく、ナイフを投げても彼にはもう命中しないだろう。
 完全に回避に徹したルカならば、百の弓矢すらも知覚してしまうのだから。

「そこかッ!」
 迫り来るモノをルカの感覚が捕捉した。
 それは、『攻撃』がルカに到達する数秒も先。
 回避するには十分過ぎる時間。
 受け止めることも、叩き落すことも可能だ。
 が、ルカはそれを避けなかった。

「ふざけるなよ……!」
 ルカが怒りを込めて言い放つ。
 目の前にあるのはシャドウの拳。
 ここに来て男が繰り出した攻撃は、ただのパンチだった。
 何が来るのかと集中していたルカにとって、その攻撃は期待はずれもいいところ。
 拳一つでどうこうできるほど、ルカ・ブライトは甘くない。

「そんな攻撃で、俺に傷の一つでも…………」
 あえてその拳を食らう。
 拳はルカの頬にめり込んだが、歯の一本すら抜き取ることはできない。
 シャドウの攻撃は、全くのノーダメージに終わる。
 ルカは、カウンターでシャドウへと斬撃を放とうとした。

654シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:06:48 ID:wXm0mWa.0

「付けられると思っ…………なにッ!」
 ルカの顔が驚愕に歪む。
 口をぽかぁんと開け、瞳孔を全開にして。
 攻撃を加えようとしても、シャドウがそこにいないのだ。
 ルカの頬を殴っているシャドウの右腕。
 その腕の先に、シャドウがいない。
 つまり、『腕だけが飛んできた』ということ。
 いわゆる、ロケットパンチであった。

 これこそがシャドウの『最後の投擲』。
 まず彼は、何も持たずに投擲の構えをした。
 そして、勢いよく徒手空拳の腕を素振り、その速度が最高潮に達したところで口にくわえたナイフで腕を切断。
 ルカに向けて、パンチを飛ばした。

「な…………!」
(言ったはずだ、全てを賭けると)
 両腕を失ったシャドウが、ルカの懐に潜り込む。
 最後の仕事を終えた竜騎士の靴が、ひび割れ、鈍い音を立てて壊れた。
 彼の口にはアサッシンズと黄色いリボン。
 剣を振り終わったルカは、絶対の隙を晒してしまっている。

 片腕を失って音速ならば、両腕を失ったシャドウは神速。
 もう、ルカにシャドウの攻撃を回避できる道理はない。

「なんだとォォォォーーーッ!」
(これが、全てを捨てた俺の……一撃だ)
 ルカの胸に、ナイフを突き刺した。
 もう、シャドウを遮るものは何もない。
 痛みも、苦しみも感じない。
 刃はその皮膚を裂き、肉を切り、骨を砕いて。
 そして……止まった。
 臓器を破壊すること敵わず。

「おし……かった、な」
 口から血を滴らせながら、ルカが笑う。
 その目は血走り、顔中には汗が滲んでいる。
 確実なダメージがあるのに、ルカは死んでいない。

 シャドウのナイフは、ルカの胸筋によって止められていた。
 心臓に到達する、あと数ミリ手前で。

「……ック!」
「貴様は、疲弊しすぎた」
 もし、彼にもう少し体力が残されていれば、ルカの筋肉を突破して彼を殺していただろう。
 もし、彼の左腕が残されていれば、口でくわえるよりも強くナイフを突き刺せただろう。
 もし、彼がデイパックを失っていなければ。
 もし、彼が少女と共に戦っていれば…………。
 考えても詮無きこと。
 これが、彼が望んだ戦いの、その結末なのだから。

「死ね。貴様は強かった。俺を殺し得るほどにな」
 皆殺しの剣の袈裟斬りが、シャドウの胴体を肩から斜めに傷つける。
 大量の生暖かい返り血が、ルカの全身に降りかかった。
 しかし、狂騎士は、その剣を止めようとはしない。
 致命傷を追ったシャドウに、更なる攻撃を加える。

655シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:08:02 ID:wXm0mWa.0

「……ガ……ぐ…………」
 腹部を真横に切り裂く一撃。
 傷口からだけでなく、シャドウは口からも大量の血液を吐く。
 悲鳴も、言葉もない。
 ただ、呻きながら紅い流体を垂れ流すのみ。 

「さらばだ」
 ルカが下から真上に剣を払う。
 刃は、シャドウの股下から右肩を走る。
 肉の朽ち果てる音が響いた。
 斬りつけられる勢いのままに、シャドウは宙へと飛ばされる。

(し……ぬ、の…………か…………)
 もう、男の命は尽きかけていた。
 絶命寸前の体で、空を見上げる。
 星空が、綺麗だった。
 孤独など、ありはしなかったと信じられるほどに。
 エドガーが信じたのは、夜明けだった。
 だがシャドウは、煌く星を信じていた。
 夜でなければ、彼は輝けないから。

(こ……れ、は……?)
 口内に違和感を感じたシャドウ。
 そこには、まだ、黄色いリボンがくわえられている。
 彼女は言った。
『必ず勝って、家に帰って』と。
 信じて、リボンを託したのだ。
 大粒の涙と共に。

(……まだ………終わっていないッ!)
「バ……サ、ク…………」
 傷ついた喉が、なんとか魔法を唱える。
 その命を、あらん限りに燃やすために。
 夕陽の落ちた空の下、男は紅く輝いた。
 致命傷を負って、意識すらもう定かではない。
 もしかしたら、その目には何も映っていないのかもしれない。
 それでも戦おうとするシャドウを、夜天から『スタープリズム』が静かに見守っていた。

(全てを、燃やす! 命すらもッ!)
 シャドウの体が急降下する。
 ルカを殺すために。
 唯一の武器であるアサッシンズは、ルカの胸に刺さったまま。
 竜騎士の靴だって壊れてしまった。
 彼には何もない。
 
 それでも、彼はルカへと進む。
 その闘志こそが、彼の唯一かつ最強の武器。

「…………なッ!」
 ルカの右耳に走る鋭い痛み。
 彼の耳を切り裂いたのは、幻想の刃。
 シャドウの気迫が見せた、幻の牙であった。
 つまり、現実には存在しない一撃。
 思い込み。
 シャドウのあまりの闘志が、偽りのダメージを現実のものとしてルカの脳に思い込ませたのだ。
 瀕死のシャドウにしかできない、防御力をも無視した攻撃。
 その名を、シャドウファングという。

656シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:10:23 ID:wXm0mWa.0

「…………グ……貴様……まだッ?!」
 死んだと思っていた男からのまさかの反撃。
 避け得ない、防御すらかなわない一撃に。
 ルカの脳が、激しいサイレンを鳴らす。
 大量の冷や汗をかきながら、ルカが必死に行ったこと。

(これは偽りだ! 嘘の刃だ! ニセモノだ!)
 それは、思い込みを解消すること。
 刃が存在しないのだと、自身の脳に言い聞かせることだ。

「こんな刃は存在せんのだァッ!!!!!」
 ルカが吼えるのと同時に、シャドウの幻の刃がその胴体を真っ二つに裂く。
 激しい痛みを感じながら、ルカはシャドウの体へと剣を思いっきり振りかぶる。
 重い一撃はシャドウの全身の骨を砕き、臓器を破壊し、ほとんどの血液を噴出させる。
 全力の剣を食らった彼の体は、町の外れまで一気に吹き飛ばされた。
 大地に激しく何度もバウンドしながら。

「ぐ……ごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 シャドウを今度こそ殺したルカ。
 体に走った猛烈な痛みに、叫び声をあげる。
 血を吐き、意識が落ちそうになっても、その脳に必死に命令を送る。
 男の気迫に騙されるな、と。

「ぐぅ……が………………はぁ……はぁ……!」
 頭を抱えて数秒悶絶した後、彼はゆっくりと立ち上がった。
 その胴体には、シャドウ最期の斬撃をなぞるように真っ赤な内出血の跡がクッキリと残されている。
 彼はシャドウの瀕死の一撃を乗り越えることに成功した。
 喜び勇んで歩き出そうとして、ルカは一度だけ惨めに転ぶ。
 立ち上がりかけて、そこで初めて気づく。
 右耳が失聴していた。
 シャドウファングの、一撃目のダメージが具現化したものだった。
 もし、ルカが脳へ指令を送ることをせず、そのままシャドウに斬りつけられていたら。
 おそらくは真っ二つにされるイメージに脳が騙され、絶命していたことだろう。

「俺、が……ここまで、追い、詰め、られ、る…………とは、な」
 胸に刺さったままのアサッシンズを抜いて地面に突き刺す。
 そして、使い物にならなくなった右耳を引きちぎり、そのナイフの傍へと放り投げた。
 自身にここまでの傷を与えた男の偉業を知らしめるかのごとく。
 深呼吸をしてから、ルカはフラフラと立ち上がる。
 一度だけシャドウが吹き飛んだ方向へ目をやると、その生死も確認することもなく、また新たな獲物を狙って歩き出した。


◆     ◆     ◆


 港町の郊外に位置する場所に立っている一軒の民家。
 こんな場所にあったために、この家は幾多の戦禍から免れていた。
 無傷で佇むその家の入り口。
 両腕のない瀕死の男が、外開きのドアに寄りかかって倒れている。

(負けた……のか)
 シャドウが霞んだ瞳で空を見上げる。
 血液を流しすぎたのだろう、彼の意識は朦朧としていた。
 生命活動を終えようとしている体から、次第に力が抜けていく。
 口にくわえた黄色いリボンが、はらりと落ちた。

657シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:11:16 ID:wXm0mWa.0

(ちょこ、すまんな……)
 リボンは男の血液で真っ赤になっていて、とてもじゃないが少女に返せる状態ではなかった。
 しかし、彼が心中で謝罪したのはそれが原因ではない。
 シャドウは少女に約束した。
 必ず勝つと。
 生きて、家に帰ると。
 しかし、彼はルカ・ブライトを追い詰めつつも敗北し、その生命に幕を引こうとしていた。
 この、燃え尽きた港町の外れで。
 誰もいない家の前で。

(もう、家には……帰れそうにない…………)
 抗いようのない虚脱感に、ついに目を閉じる。
 決して安らかとはいえない死が、男を包んだ。
 意識は闇に堕ちて行き、地獄に落ちる準備が始まったのだと男は悟る。

 奇跡は、彼の背後で起こった。

(…………あ……)
 扉が、開いた。
 中から出てきた死神は、静かに微笑んで彼を後ろから抱きしめる。
 暖かい感触を背中に感じて。
 どうしようもないほどの幸福感を感じて。
 男は逝った。

(……ただいま)
 おかえり。
 彼女はそう言って、男と共に夜空を見上げる。
 今宵の星は、綺麗だった。
 孤独など、かき消してしまうほどに。

658シャドウ、『夕陽』に立ち向かう ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:12:04 ID:wXm0mWa.0



 緊張と共にドアをノックする。
 自分の家なのに、変な話だと彼は笑った。
 ギィィ……と軋みをあげてドアが開かれる。
 同時に、扉の後ろから少女が胸に飛び込んできた。
 男は、太い両手で彼女を抱きしめ、その頭を撫でてやる。
 少女はグズグズ泣きながら、早口で思い出話を語り始めた。
 今まで失った時間を埋めるように。

 家の中に入って、後ろ手でドアを閉める。 
 部屋の奥からは、老人が怒鳴る声。
 男は笑って小さく頭を下げた。
 それを確認して、老人は外へと出て行く。
 すれ違い様に、男の肩をポンと優しく叩いた。

 台所ではシチューがコトコトと煮えていて、おいしそうな匂いが玄関まで届いてくる。
 何十年ぶりだろうか。
 あとで一緒に食べようと彼は少女に言う。
 少女は自信作だと、はしゃぎながら答えた。

 窓の外に目をやると、もう夕暮れ時。
 紅い光が名残惜しそうに世界を照らす。
 そして庭に目を移せば……。

 黄色い花が、背筋をしっかりと伸ばして、夕陽を睨んで咲き誇っていた。




【シャドウ@ファイナルファンタジーVI 死亡】
【残り21人】

※竜騎士の靴@FINAL FANTASY6 はシャドウの死体に装備されていますが、壊れています。
※黄色いリボン@アークザラッド2 はシャドウの死体の傍に落ちています。
※アサッシンズ@サモンナイト3はD-1 荒野(港町跡)に放置。傍にルカの右耳も落ちています。
※蒼流凶星@幻想水滸伝Ⅱ、基本支給品一式*2 洋酒、グラス(下半分) はシャドウのデイパックに入ったままで D-1のどこかに落ちています
 空から叩き落されたので、壊れているものもあるかもしれません。

659 ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:13:40 ID:wXm0mWa.0




【D-1 上空 一日目 夜】

【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:どうしよう……
0:……おじさん
1:おにーさん、助けてあげたいの
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
3:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は不明(少なくとも覚醒イベント途中までは進行済み)。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザ達の名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※意識が落ちている時にアクラの声を聞きましたが、ただの夢かも知れません。
 オディオがちょこの記憶の封印に何かしたからかもしれません。アクラがこの地にいるからかもしれません。
 お任せします。後々の都合に合わせてください。
※第三回放送を聞き逃しました。



【D-1 荒野(港町跡) 一日目 夜】

【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]上半身鎧全壊、精神的疲労(大)、ダメージ大(頭部出血を始め全身に重い打撲・斬傷、口内に深い切り傷)、胸部に刺し傷、右耳喪失
[装備]皆殺しの剣@DQIV、魔石ギルガメッシュ@FFVI
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×6、カギなわ@LIVE A LIVE、死神のカード@FFVI
   魔封じの杖(2/5)@DQⅣ、モップ@クロノ・トリガー、スーパーファミコンのアダプタ@現実、
   ミラクルショット@クロノトリガー、トルネコの首輪 、武器以外の不明支給品×1
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る2人及び、名を知らないアキラ、続いてトッシュ、ちょこ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※第三回放送を聞き逃しました。
※魔石ギルガメッシュより、『ブレイブ』を習得しました。

660 ◆Rd1trDrhhU:2010/06/27(日) 22:15:12 ID:wXm0mWa.0
以上、投下終了です。
代理投下、支援、本当にありがとうございます。
誤字や疑問点など、何かあれば言ってください。

661無法松、『酒』を求める ◆Rd1trDrhhU:2010/07/05(月) 20:26:20 ID:K.yN1AHk0
 大海原をたゆたういくつもの波。
 空を漂ういくつもの雲。
 無法松は、無心でそれらを眺めていた。
 彼の前を通り過ぎた波、雲。
 彼は気づくことはなかったが、その総数はそれぞれ二十九だ。
 それは、この殺し合いで今までに散っていた魂の数。

「……誰も、来ねぇな」
 座礁船の甲板から海を眺める。
 海面に反射した太陽の【光】が、無法松の目に【槍】のように突き刺さった。
 チクリと網膜に痛みを覚えて、思わず瞳を【拳】で拭う。
 数秒の後に視界を取り戻した無法松は、遥か西で紅く【燃える】太陽を改めて見る。
 まるで、待ちぼうけを食らっている事をあざ笑われたような気がして、彼は【心】に苛立ちを覚えた。

  【光】……この殺し合いが始まった直後、ある魔女もヘクトルという男を救うために癒しの光を放った。
       その代償として彼女は死んでしまうが、その意思はヘクトルにうけ継がれる事となった。

  【槍】……導かれし者たちの一人、中年の商人。彼をギャンブラーの槍が貫いた。
       商人は優しい父親だったが、他でもないその優しさこそが勝負師を殺し合いへと導いてしまった。

  【拳】……導かれし者たちの一人である少女が使う武器。彼女の拳はとても強かった。数々のモンスターを倒してきた。
       だが、道化師の魔法の前にはそれも通用せず、彼女は巨大な氷に包まれて命を落としてしまう。

  【燃える】……燃える森の中で、一人の少女が絶命した。幻獣と人間の間に生まれた美しい娘だ。
         彼女は無法松に全てを託し、たったひとりで狂騎士に戦いを挑んで倒れた。

  【心】……心山拳という拳法がある。その拳法の師範代である少女は、とても強い心を持っていた。
       彼女は最期まで人間の心を信じて、人間への憎悪を燃やす魔王と戦い抜いたのだった。

「…………あー! なんだってんだよ一体よぉ!」
 イラつくあまり、海に飛び込みたい衝動に駆られる。
 だが、そのまま流されて、【禁止エリア】に進入して死亡などとなっては、冗談では済まない。
 さすがの無法松も、そんな【原始人】の様な真似をするほど馬鹿ではなかった。
 地団太を踏み、船に八つ当たりする。
 座礁船はビクともせず、男のやり場のない怒りを全て受け止めた。

  【禁止エリア】……最強を目指す格闘家も、禁止エリアには勝てなかった。
           首輪が起こした爆発は小さなものではあったが、確実に彼の命を吹き飛ばした。

  【原始人】……原始に生きる女性。時空を旅して、世界を救った者たちの一人だ。豪快で優しく、そして強い人であった。
         彼女を殺したのは、漆黒の暗殺者が投擲した一本の槍。

662無法松、『酒』を求める ◆Rd1trDrhhU:2010/07/05(月) 20:27:11 ID:K.yN1AHk0
「トッシュ、何かあったんだな……」
 太陽が沈み【夜空】が訪れると同時に、無法松も冷静さを取り戻す。
 彼が待っていたのは、トッシュという侍。
 座礁船への集合を呼びかけた中で、唯一生き残っている人物だ。
 しかし彼は、約束の時間である【魔王】オディオによる第三回放送を過ぎても、一向に姿を見せない。
 トッシュは、約束を違えたり【嘘】をつくような男には見えなかった。
 ならば、彼は厄介ごとに巻き込まれてしまったのだろう。
 この会場には、【平気で人を殺すような外道】が大勢いるのだから。

  【夜空】……ある少女が、夜空に消えた。彼女は、魔剣に封じられし力を引き出し……我が物とした。
        しかし、強大な力は少女すらも食いつくしてしまう。彼女は消えゆく身体を奮い立たせ、最期まで魔王と戦いぬいた。

  【魔王】……ある魔王の剣が、少女を貫いた。彼女は幼いが芯が強く、召喚師としての多大なる才を秘めた娘であった。
        落ちゆく意識の中で彼女はずっと、自分の恩師を心配していた。

  【嘘】……少女の死を前に、ある物真似師が自らのポリシーに反してまで嘘をついた。その少女は姉であった。
       命が燃え尽きるその瞬間まで、姉であり続けた。その死は、実に多くの参加者に影響を与えることとなる。

  【平気で人を殺すような外道】……灯台で少年に殺された男も、こういう人間であった。人の命を命だとも思わず、弄んで楽しむような男。
                  最期は豚の真似をさせられて殺されるという、なんとも彼らしい終わり方だ。

「……仕方ねぇな」
 ただ、待ち続けているだけでは、時間の無駄である。
 何かすべきことはないものかと考えた無法松は、自分が船の上にいることを思い出した。
 もしかしたら、【酒】でも積んでいるのではないか。
 そんな【甘い】期待に背中を押されるようにして、無法松は船の内部を捜索することにした。
 船内に潜んでいるかもしれない敵からの【奇襲】には、十分気をつけながら。

  【酒】……超能力少年が、酒を湖に注いだ。命の歯車を止めた、機械仕掛けの女性への手向けだった。
       英雄になることに、人生をかけて拘り続けた女性。彼女は最期の最期で、少年から英雄と認められたのだった。

  【甘い】……天馬騎士見習いの少女が、甘い夢を見たまま逝った。彼女は自分が死んだことにも気づかなかった。
        気弱な少女にとっては、むしろその方が幸せだったのかもしれない。

  【奇襲】……世界を救った者たちのリーダーだった国王。彼も暗殺のプロの奇襲には太刀打ちできなかった。
        しかし、彼は絶命してもなお、手にした刃を振り続けた。戦友への誓いを、心の中で叫びながら。

「……ほぅ、意外と広いもんだな」
 カツカツと階段を下った先には、だだっ広い空間。
 木製の床は、歩くたびにギチギチと軋みをあげた。
 どこかから、隙間【風】が吹き込む。
 こんな安い作りでちゃんと【嵐】の海を抜けることができるのか、と無法松は心配になった。

  【風】……風を従えたハンターがいた。世界一疑り深い男。なのに彼は、起きるはずのない嵐を命がけで待ち続けた。
       嵐は現実のものとなり、男はその奇跡を起こした相棒に報いるために魂を燃やした。

  【嵐】……あるガンマンが起こした奇跡の銃技。男は、白い花が好きだった。そして彼は相棒と共に全てを賭けて最強の魔導師に挑む。
       あと一歩と言うところまで道化師を追い詰めたが、最期は少女を見守って力尽きた。

663無法松、『酒』を求める ◆Rd1trDrhhU:2010/07/05(月) 20:27:55 ID:K.yN1AHk0

「さて、鬼が出るか、蛇が出るか……ってなぁ」
 通路を【盾】のように塞いでいる蜘蛛の巣を払いのけて、無法松は幾つかある扉のうちのひとつを開ける。
 部屋の中は、特に目ぼしいものはなく、布団や空瓶などが【乱暴】に投げ捨てられていた。
 扉の近くに落ちていた【眼鏡】を踏み潰して、中に入る。
 壁にかかっているドクロマークを発見して、無法松はこれが海賊船であることを知った。

  【盾】……フィガロ城で死んだ少年。彼の腕で輝く紋章は、盾であった。誰かを守りたいという少年の思いを具現化したようでもある。
       そして彼は、その願いの通りに、紅き侍を癒して空へと旅立った。

  【乱暴】……無法松と、この座礁船で合流する約束をした男。彼は乱暴な性格だった。約束をよく破る男でもあった。
        異形の騎士と魔王を前に、彼は倒れた。この約束を守ることも、できなくなってしまった。

  【眼鏡】……眼鏡の少女。知性に溢れていたが、しかし彼女は優しさも忘れることはない。
        殺し合いに乗ったかつての仲間たちを止めるために自ら戦場へと向かい、最期は心地よい緑の光の中で眠りについた。

「……海賊なんてもんまで存在してやがんのかよ…………」
 無法松のいた世界で海賊行為などを行えば、たちまち【軍部】によって粛清されてしまう。
 おそらく、この海賊船のいた世界は、無法松のいた日本とはまったく違う常識を持っていたのだろう。

  【軍部】……無法松を守って死んだ女性は、軍人だった。男であるとか、女であるとか関係ない。
        民間人を守ることに全力を注いだ。隕石に押しつぶされるその瞬間まで。

「いろんな世界があるんだな」
 以前の彼ならば異世界の存在など信用できるはずがなかった。
 が、【魔法】なんてものを散々この目に見せられては、もうその存在を信じざるを得ない。
 ふと、金髪の男が【召喚】した隕石を思い出して、無法松は今一度悔しさを滲ませた。
 彼にとって、【女に犠牲になられる】ことは、とても許せることではない。

  【魔法】……炎の少年が、魔王の放った魔法を受けて消滅した。その幼い心は、やがて成長して世界を救うに至る。
        しかし、運命の輪は、彼にその機会を一切与えなかった。

  【召喚】……召喚師の女性。彼女は、最初からずっと逃げ続けていた。己の内にある感情と向き合うことを避け続けた。
        ギャンブラーは、それを良しとはしなかった。彼女を殺したのは彼女自身の弱さだったのだろう。

  【女に犠牲になられる】……メガザルという魔法を使う女性がいた。自らを犠牲にして他人を守る。彼女の優しさを体言するかのような魔法。
               そして彼女は、傷ついた仲間を救うため、何のためらいもなくその魔法を唱えて……力尽きた。

「ま、今は前に進むしかねぇよな」
 感傷的になった自分に気づいて、無法松は踵を返した。
 他の部屋を調べるため、次なる扉へとその足を伸ばす。
 彼女を犠牲にして生き延びてしまったことは、もう仕方のないこと。
 ならば、今は彼女の分まで戦うべきだ。
 それが、【命を託した】彼女の願いなのだろう。

  【命を託した】……スパイラルソウル。メガザルよりも少し荒々しい魔法。その使い手も、これまた荒々しい男。
           彼は、最強最悪の敵を前に、この技を使用。仲間に全てを預けて荒野に倒れた。

「この部屋は、酒蔵か?」
 次に踏み込んだ部屋は、【馬鹿】にたくさんの樽が積まれている部屋。
 辺りに漂う心地よい匂いに、無法松は【雷】に打たれたように跳ね上がって喜んだ。
 この中のどれかに酒が残っているかもしれないと、ひとつひとつ中身を確認していく。

  【馬鹿】……文字通り、馬鹿がいた。どうしようもないほどの馬鹿なのだ。それゆえに、全てを吸収できる男だ。
        彼もまた、仲間に命を託して倒れた。相棒がやったのと同じように。

  【雷】……無口な少年の得意魔法は雷。その得意技のせいで、ある勇者を絶望に追い込んでしまう。
       仲間から命を預かった彼は、死にゆく身体で必死でその勇者のところまで這い進み、最期の思いを手渡そうとした。

664無法松、『酒』を求める ◆Rd1trDrhhU:2010/07/05(月) 20:29:00 ID:K.yN1AHk0

「これで、【ご馳走】でもありゃあ最高なんだがなあ」
 などと、贅沢を口にしながら、樽を持ち上げていく無法松。
 思わず垂れてきた涎を飲み込む。
 半分ほど調べたが、今のところ全ての酒樽は空であった。
 だが、もう無法松には、酒が飲めないなどとは【信じられない】。
 どれかに必ず【本物の】酒が入っていると信じ、次々と酒樽をチェックしていく。

  【ご馳走】……少女は、争いが嫌いだった。みんなと笑顔でご馳走を食べることを望んでいた。
         その優しさは、狂人の壊れきったはずの心に孔を穿つ。その貫かれた思いは、確実に何かを変えたのだった。

  【信じられない】……『シンジラレナーイ』。狂った道化師の口癖。彼の心に、ある『毒』が注入された。
            その優しさは彼を蝕み……そしてついに、道化師はその感情に蝕まれて絶命するに至る。

  【本物の】……モシャス。誰かのニセモノになる魔法だ。少女はソレを駆使して幼馴染の少年を助けようとした。
         彼女はたった一度だけ、本物の思いを少年に伝える。しかし彼の『返答』は、彼女を粉々に砕いてしまった。

「ん? なんだこりゃ?」
 部屋の隅に置いてある樽を持ち上げたときだった。
 無法松は、その下の床に、何か絵のようなものが描かれていることに気がついた。
 蛇の這った跡のような、筆で適当に書きなぐったかのような不思議な模様。

「落書き……か?」
 無法松はよく分からないソレを無視して、アルコール探しに戻る。
 もう、彼の目には酒しか映ってはいなかったのだから。
 男は、目的のものを探して進む。
 明日のために、座礁船で仲間を待ち続けながら。
 たったいま目の前を通り過ぎた二十九には、気づくこともなく。



 さて、無法松が見たこの模様。
 これは落書きでもなければ、絵ですらない。
 実は、紋章である。
 転送の魔法が封じ込められた、紋章だ。

 この船は、ファーガスという海賊が所持していた船。
 ヘクトルたちが、『魔の島』へ渡るために乗った船でもある。
 この船は海賊船として活動しているかたわら、武器屋や道具屋を乗せて商売もさせていた。
 そして、この紋章もまた、ある店への入り口である。
 ヘクトルたちが使うことのなかった、ある店への。

 この紋章のことを魔王オディオが知っているかどうか。
 この先に通じているのが何なのか。
 それは、まだ誰にも分からない。
 しかし、たった一つだけ…………。

 セッツァー=ギャッビアーニが現在所持しているメンバーカードにも、全く同じ紋章が描かれている。
 それだけは、確実なことであった。

665無法松、『酒』を求める ◆Rd1trDrhhU:2010/07/05(月) 20:29:39 ID:K.yN1AHk0


【A-7 座礁船内部 一日目 夜】

【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康、全身に浅い切り傷
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:酒を探す。
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。 ただし、約束の時間が近いので探すのはできるだけ近辺で。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
 ジョウイを警戒すべきと考えています。



※A-7 座礁船の酒蔵の隅に、秘密の店への入り口があります。その先に何があるかは不明。

666 ◆Rd1trDrhhU:2010/07/05(月) 20:30:27 ID:K.yN1AHk0
以上、投下終了です。
代理投下してくださった方、本当にありがとうございます。

667 ◆Rd1trDrhhU:2010/07/05(月) 20:33:01 ID:K.yN1AHk0
支援してくださった方も、ありがとうございます。助かります。

668憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:53:08 ID:4nGbyjws0
規制につき代理お願いします

669憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:53:38 ID:4nGbyjws0

「これで借りは返したぞ」
「ち…っきしょう!」

地に落ちた刃をこれ見よがしに炎で熔解するルカにトッシュは舌を打つ。
まずいことになった。
感情を隠そうとしないトッシュの顔はありありとそう語っていた。

「トッシュ、俺の剣でもやはりダメか?」
「ねえよりはマシだがあのボロボロの剣じゃ同じ方法で叩き折られる」

刀で受け流す一瞬の接触だけで、ルカにはトッシュの剣を断ち切れるのだ。
これはトッシュにもできない芸当だ。
推測するに鍵は一息分の呼吸で三撃を成すあの技法。
あれを応用することで斬りかかる、受け流しに追いすがる、再度切り裂くの三手をトッシュの受け流しという一手に対して行ったのだろう。
武器破壊を防ぐには完全にかわしきるか大威力の斬撃に耐えうるほどの業物を使うしかない。
が、どちらの方法にも問題はある。
前者はルカ程の強敵を相手に大きく間を空ける避け方は隙を晒すことになりかねないし、また相手の隙を突ける機会も逃しがちになる。
後者はそもそも条件に合う業物がない。
壊れた誓いの剣もディフェンダーも天罰の杖も閃光の戦槍も。
武器の質としてはブレイブによる補正以前の素の皆殺しの剣に大なり小なり劣る。
せめて一度目の戦いの時のようにトッシュと相性がよく且つ名刀であるマーニ・カティがあれば話は別だったのだが。
ないものを強請ったところで意味はない。

――否

あるにはある。
目には目を、歯には歯を。
魔剣に抗するのに相応しい剣が一つ、トッシュ達にはあった。

「トッシュ、ゴゴッ!」
「やめろ! あいつを安々と起こすんじゃねえ!」

ルカだけではない。
ゴゴ達にとってもここは境界線なのだ。
この先にはシャドウが命を賭けて護った少女がいる。
ならば物真似という形で彼の意思を継いだゴゴは何が何でもルカを通すわけにはいかず。
今やこの地に一人となった元の世界からの仲間をトッシュも何としても死なせたくなかった。

「「この先に行かせるわけにはいかない!」」


だというのに。

670憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:54:33 ID:4nGbyjws0
狂皇はそれを許さない。

「ほう、それはこいつを護る為か?」

嘲笑い、狂った獣はそれをデイパックから投げ捨てる。
ごろりと。
砂上を転がって、否、転がりそびれたそれがこちらを向く。
転がらなかったのも無理はない。
それは球形をしていなかった。
人間のものとは違い前方に突き出た骨格を持つ生物の――生首だった。
赤茶色く濡れ染まり、ところどころ焼け爛れていたが、それはゴゴ達三人の誰も知る生物の生首だった。
間違いない。
あの強烈なキャラクターに触れてしまえば、非常に残念ながら誰しもその顔と名前を覚えてしまう。

「ふん。せめて虫ならば殺す価値もないと見逃してやったのだがな」

ぐちゃりと。
ゴゴが、アシュレーが手を伸ばし拾い上げようとした前でルカがそれを踏み砕く。

「爬虫類ならば鬱陶しくて殺したくもなる」

赤黒い血が滲み出し、ぶよぶよとした脳症が零れ出たそれは間違いなくトカのものだった。


【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】





嘘のようにあっけなく殺しても死にそうにないと思われていたリザード星人は死んだ。
原因は不運だったとしかいいようがない。
或いは自業自得と言うべきか。
ちょこをフィガロ城に送り届ける最中、エンジントラブルが発生し、スカイアーマーが暴走。
それがちょことの衝突のショックがプログラムを狂わせていたからかトカにはありがちの設計ミスだったのかは分からない。
分かっていることは一つだけ。
制御を失ったスカイアーマーはあろうことか城とは逆方向、つまりルカのいた方角へと飛んでいってしまったのだ。
下手に機動性がよかったせいでアシュレー達よりも随分速く遭遇。
結果はわざわざ言い直すまでもない。
トカは殺された。
狂皇子に殺された。

671憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:55:20 ID:4nGbyjws0

「飛んで火にいる夏の虫とはよくぞいったものだったぞ!
 小娘には逃げられてしまったがな。
 からくり仕掛けの女のように機械の方も壊れされていればよかったものを」

不幸中の幸い、ちょこは凶刃にかかることはなかった。
トカが殺されたことでスカイアーマーが本格的に制御を失いちょこを乗せたまま不規則な軌道で何処へと飛んでいったのだ。
そうなってしまえば飛ぶ手段のないルカには黙って見送るしかなかった。
ルカが感じた屈辱はかなりのものだっただろう。

だがそんなことはアシュレーには関係なかった。
彼が聞き逃せなかったのはただ一点。
からくり仕掛けの女というその言葉のみ。
その特徴に当てはまる人間を、既にこの世にはいない女性を、アシュレーは知っているッ!

「カノンも……。カノンもお前が殺したのかッ!」

邪悪そのものであるこの男と遭遇したのならカノンが戦いを挑まないはずがない。
自分の居場所を、仲間達を護る為に戦って戦って戦い抜いて、そして死んだのだ。
アシュレーはカノンが英雄の呪縛から逃れられていない時から連れて来られた事を知らない。
けれどもカノンという人間のことは確かによく知っていた。
だって彼女はアシュレーの思ったとおりに一人の少年を護って死んだのだから。
そしてアシュレーはそんな彼女の仲間なのだ。
誰かを護る為に、大切な人と居続ける為に戦う戦士なのだ。

ならばッ!

「知らんな、殺した奴が誰かなどと!
 豚に名前は過ぎたものだからな……!!」
「お前は、お前はそうやってこれまでも多くの人々を殺してきたのかッ!」
「ふははははははははは、分かっているではないか――ッ!!
 見たところ貴様達も少なくない人数を殺してきたようだが、俺は一人でその何百倍も殺したぞ!!!!」

もしとかたらとかればとかの考えは捨てろ。
先に待つ災厄に恐れ眼前の邪悪を滅ぼせないのは愚の骨頂。
ルカ・ブライトはロードブレイザーにも勝るとも劣らない脅威だ。
人を人として憎み、その上で豚を屠殺するかのように殺し続ける悪魔だ。
見たことのない明日を一つ、また一つと奪っていく絶望だッ!
一秒でも速くここで倒さなければならないッ!

アシュレーは剣をとる。
心の中で、蒼き魔剣の柄に右手を、そしてもう一本の魔剣に左手を添える。

672憎悪の空より来りて  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:56:00 ID:4nGbyjws0
「――来てくれ、ルシエドッ!」

アシュレーの手に一振りの剣が現れる。
欲望のガーディアンルシエド。
アシュレーの心の内に潜むロードブレイザーでもアティでもない三つ目の精神体。
血肉を持つ最後のガーディアン。
あまねく欲望を力とし剣の聖女と剣の英雄の二代に渡り共に戦ってくれた心強い戦友。
未来を切り裂くという意思に沿って剣へと化身している友を、アシュレーはトッシュへと託す。

「トッシュ、預かっていてくれ。同じ概念存在でもあるこの剣ならロードブレイザーが相手でも戦える」
「暴走したら俺にてめえを討てっつうのか? 負担を減らすこともできず、てめえの力になるにはてめえを殺すしかねえっつのか!」
「違うさ。言っただろ、預かってくれって。ちゃんと後で返してもらう為に君に預けるんだ。
 僕は諦めなんかしない。だからトッシュとゴゴも諦めないでくれッ」
「「約束だぞ!」」

力強い二重奏に背を押され、アシュレーは一歩を踏み出す。

――行くのか? 我が主、アシュレーよ

ああ、行くさ。
帰ってくるために、マリナにただいまを言いたいから。

――ではまた待つとしよう。かつてアナスタシアに頼まれお前を待っていた時のように

心の中でルシエドへ誓い、今度こそ蒼き魔剣を手にする。

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!! アクセスッ!!!」

アシュレーは果たす。
変身を。
最後のアクセスを。
蒼炎のナイトブレイザーの更に先。
より禍々しい鎧と白銀の炎を纏った蒼炎のオーバーナイトブレイザーへとッ!




673正しき怒りを胸に  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:56:35 ID:4nGbyjws0




魔人と狂人は交差する。
死の刃は接吻を交わす。
焔と炎は喰らい合う。
片や度重なる厄災を退け星一つを救った英雄。
片や人命をあますことなく奪わんとした邪悪。
相反する存在でありながらも、絶大な力を持つという一点でのみこれ以上になく近しい二人。
どのような力であろうと『力』そのものに善悪はない。
それを振るいし者によって善き力にも、悪しき力にもなる。
ルシエドがアシュレーと契約した日の言葉通りだった。

人の身一つで屍山血河を築いてきた狂った皇は天が味方すれば世界をも平定できた。
さすれば彼の人となりを知らぬ後世では英雄として讃えられたかもしれない。

魔神の力を限界まで開放した灼熱騎士は焔の厄災の分身となり得た。
人々を虐殺しつくし、果てに邪悪として倒滅される未来もあったのだ。

表裏一体。
世界を救う力も滅ぼす力も力の絶対値で見れば等価値だ。
今戦場で振るわれているのはそういった力なのだ。
一振りごとに歴史が揺らぎ、一薙ぎごとに世界が変わらざるをえない力なのだッ!

「ちきしょお、俺達は見ているだけしかできねえのか!?」

故に戦いに介入する術なく突っ立っているしかない男を誰が責めることができようか。
いつもいつでも英雄達の物語は万人の手の届かぬところで進んでいく。
だかこそ伝説はいつまでたっても伝説であり、物語の域を出ることはない。

「なんて、戦いだ……」

そしてそんな手の届くことのない物語だからこそ人の心を捉えて止まないのだ。
物真似師ならぬ凡百の人間であっても目を凝らして正邪の英雄の戦いを心に焼き付けようとしたであろう。
数秒も経たないうちに戦いの真実を、殺し合いの凄惨さを目の当たりにし目を背けることとなろうとも。

――砂漠を背負い英雄が行く
――森を焼き払い英雄が迎え撃つ

674正しき怒りを胸に  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:57:21 ID:4nGbyjws0

同時に繰り出すは一撃必殺。
微塵でも触れようものなら身命を根こそぎ吹き飛ばす必滅の刃。
双方共に頭部を狙った一撃を紙一重で首を捻りかわす。
唸りを上げて空を切る二発の剛剣。
ただしオーバーナイトブレイザーの得物は二刀。
間髪入れず残った剣をルカの心臓へと突き立てる。
それをルカは振り切ったはずの剣で迎撃。
どころかナイトフェンサーを弾いた剣が再び刃を返しアシュレーの胴を狙う。
一つの踏み込み、一つの呼吸の間にて振るわれる三度に及ぶ必殺の斬撃。
神速をも凌駕して魔速をも地獄に落とす真速の剣。
その常軌を逸した速度に、常軌を逸した存在であるナイトブレイザーは即応するッ!
かわす動作はしない。しても無駄だ。逃げに回るのはいつだって人間だ。
簒奪者たる魔人が人の真似をしようものなら真実人へと成り下がる。
選んだのは装甲の展開。今しも突き刺さろうとしていた刃は、自ら開放された装甲分空をかすめる。
僅か一拍分の時間稼ぎ。光速の砲撃を撃ち込む絶好の機会。
一秒とももたなかったクソッタレなチャンス。
ルカが消える。
時間を捻じ曲げ好機を奪い去る。
がら空きの背に叩き込まれる処刑の刃。
ナイトブレイザーすんでの所では装甲一枚を犠牲に躱す。
回避しざまに敵手の首へと貫き手を放つ。
肉一片を持っていく。

「ルカ・ブライトオオオオオオオオッ!!」
「この感覚……。そうか、俺としたことが忘れていた。
 クク、ハハハハハっ!! ちょうどいい、貴様を殺し貴様が宿しているそれを使わせてもらうぞ!!!」

幾度も、幾度も、幾度も。
人を終らせる一撃が、命を奪う人殺しの技が鬩ぎあう。
一度で終るはずの時間が延々と地獄のように続いていく。
殺し合い。
正しく、殺し合い。
殺すか殺されるかではなく互いに殺して殺して殺す。
一合ごとにルカ・ブライトは殺す。
一合ごとにアシュレー・ウィンチェスターは殺す。
肉片が飛ぶ。
装甲が舞う。
刃が零れる。
血を、汗を、鉄粉を撒き散らして。
幾条もの赤い線を走らせた戦士達が刃こぼれした剣を酷使する。
地が裂ける。
砂が吹き飛ぶ。
木々が消し飛ぶ。
英雄達の一秒一分の生存の代償に自然の命が削られていく。
生い茂っていた木々も。
寝そべっていた砂漠も。
聳えていた山々も。
今や等しく月面世界。
自然界に宿るという妖精の涙もとうに枯れ果てていることだろう。
たとえ枯れていなかったとしても。
鋼と鋼が衝突し響き渡らせる耳障りな音の前に、彼ら彼女らの泣く声は余すことなく飲み込まれていく。

675正しき怒りを胸に  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 04:57:55 ID:4nGbyjws0

「蹂躙しろっ、剣者よッ!!」
「ハイ・コンバイン、マディンッ!!」

聖剣を携えた伝説の剣豪が大地を抉る。
娘を守り続けた守護者の魔力が空を覆う。
二体の幻獣が相殺しい光に還っても二人はかまわず戦い続ける。

「オオオオオオオオオオオオッ!」
「死ねえいっ!!!!」

ありとあらゆる攻撃を意に介さず。
ありとあらゆる速度の追随を許さず。
ありとあらゆる防御を無に帰して。
強いとはこういうものだと言わんばかりに。
魔法がどうとか、剣技がどうとか、そういったものをどうでも良いと感じさせてしまうほど圧倒的な力をもって。
ただただ殺す、ただ殺す。

ルカ・ブライトは嗤っていた。
アシュレー・ウィンチェスターは笑っていなかった。
狂皇の炎は赤かった。
騎士の焔は蒼かった。
剣が炎を纏う。
剣より焔が撃ち出される。
相殺。
打消しでも相打ちでもなく拮抗でもなく相殺。
赤も蒼も等しく殺されて死ぬ。
死ぬ。
死ぬッ!!
死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ぬッ、死ねッ!!!!

護る為の力。どれだけ取り繕ってもやっていることは人殺し。
だからアシュレーは世界を護るとは言わない。
ただ彼の護りたい日常の為にだけ戦う。

奪うための力。奪うだけで得ることをしなければ飢えは永遠に癒されない。
だからルカは人殺しを好みはすれど、人殺しを楽しまない。
ただ自身が邪悪であり続ける為だけに戦う。

正と邪。
魔と人。
赤と蒼。
奪うと護る。

延々と、延々と続いていく螺旋。
交差しては弾き合うメビウスの輪。
されど。
∞の形に捻じれ続けた輪はいつしかもろくなり崩れ去る。
徐々に徐々にアシュレーが押し出したのだ。

676正しき怒りを胸に  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:02:10 ID:4nGbyjws0

「チィ……ッ!!」

ここに来て勝敗を分けたのは残存体力の差だった。
ルカがどれだけ非人間じみたタフネスさを誇ろうとも相手は言葉通りの人外の力を手にしたアシュレーだ。
人の負の念を食い物とし再生し続ける怪物と戦うには負の念の塊であるルカは相性が悪すぎた。

ただしそれはフィジカル面に限った話。
メンタル面ではむしろ逆。
ナイトブレイザーが回復するということは即ちロードブレイザーがルカから負の念を掬い上げ続けているということ。
ルカの身体がボロボロのように、アシュレーの心も穴だらけだった。

これ以上時間はかけられない。

共通の結論に辿り着き、アシュレーとルカが一度大きく距離をとる。
持久戦では都合が悪いというのなら。
選ぶべき手は一つしかない。

起こるべきだった永劫を。
叩き込むはずだった数多の刃を。
ただの一撃、ただの刹那に凝縮するッ!

「いくぞ……アシュレー!!!!!!!!!!」

金色の光が男の足元から、漆黒の闇が皆殺しの剣から、透明なる無が空間より溢れ出る。
光と闇と無は混じり合い、ルカの闘気と一体となる。
これより放つはブレイブ、ルカナン、クイックの三重奏からなる最強の一撃。
防ごうものなら護りを剥ぎ取る。
耐えようものなら押し斬り尽くす。
避けようものなら時すらねじ曲げ追いすがる。
防ぐことも叶わず、耐えることも許されず、避けるも不可能な必中必殺必滅の炎剣。
ばらばらになぞるだけなら誰にでもできて、一息で一つの技としてなすことはルカにしかできない、
ルカだけが使う事を許されたルカのみの絶技。

――剣が迫る

「ファイナル……」

ファイナルバーストでは間に合わない。
力で勝ろうとも先に殺されてしまえば意味がない。
時をも殺し、一足で三歩を刻む真速を前には魔神の腕はなんととろいことか。

――剣が迫る

「バニシング……ッ」

バニシングバスターでは押し切られる。
速度はあっても威力が足りない。
幻獣どころではない。魔神の息吹すら炎剣相手には火の子も同じだ。

――剣が迫る

677正しき怒りを胸に  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:02:43 ID:4nGbyjws0

故に。
それが唯一無二の正解だった。
ファイナルバーストでもバニシングバスターでも勝てないのなら。
速度か力かどちらかが欠けているというのなら。
二つの技を掛け合わせればいいッ!!

「バアーストォォォォォォオオオオオオオオオッ!!!!!!」

ナイトブレイザー“が”撃ち出される。
粒子加速砲の光に乗ってナイトブレイザー自身が弾丸の如く射出されるッ!
漆黒の闇を赤く、赤く駆逐しながら、騎士が羽ばたく。
開放された焔の力は翼持つ魔神の形をとってルカを纏う炎ごと天へと突き上げる。
地上で開放するには過ぎた力なれど遮る物も、巻き込む者もいない天ならばありったけを放出できる。
思うがまま力を振るうことを許された魔神はここぞとばかりに火力を増していく。
熱量の上昇は留まることを知らず。
同じ焔の身でありながらルカの炎さえ焼失させてゆく。

その現実離れした光景にもルカは興味も恐怖も感じなかった。

「所詮は一度殺された身。この程度か」

アシュレーの飛翔に突き上げられるがままただ空を見上げる。
夜天には人を冷たく見下ろす月の姿。
誕生以来人々の営みをずっと見てきたあの月は人間をくだらないものだと思っているのだろうか。

「ふん、この思考こそくだらんか」

焼きが回ったものだと炎に消え逝く中自嘲する。
一度目の死がそうだったように今のルカからは身を焦がし続けていた疼きが消えていた。
だからだろう。
これまでゆっくりと見上げることのなかった月夜などに現を抜かし馬鹿げたことを考えてしまったのは。

月、か。

夜、城攻め、瀕死、一対多、果ての決闘での敗北。
ここまで状況が重なっているのだ。
もしかすればかって死した日も月は輝いていたのかもしれない。

くだらぬ感傷だな。

ルカは吐き捨てるも月から目を離すことはない。
両足の感覚が消え、焔が身体を駆け上がってくることすらものともしない。

だったら、せいぜい見ていろ。
一度目の生で手をつけておきながら最後まで己が手ではやり遂げ切れなかったこと。
それがなされる瞬間を。
ルカ・ブライトという邪悪が境界線を一つ越えるその時を。

邪笑を浮かべる。
つられるかのように炎が嗤う。

678正しき怒りを胸に  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:03:19 ID:4nGbyjws0
「まだこんな力がッ!?」

ファイナルバーストの光に飲み込まれていたはずの紅蓮の炎が息を吹き返す。
今やルカ自身が炎だった。
自らが生む炎と自らを焼く焔の両方を取り込んだ一つの巨大な炎だった。
焔で象られた魔神より尚大きい炎の悪魔が両手を広げる。
己が力と速度を凌駕して心の臓に剣の杭を穿ったアシュレーを受け入れ祝福する。

「ぐあああああああああああッ!」

憎悪も、魔力も、身体も、命さえ炎にくべた男がアシュレーの身を焼く。
オーバーナイトブレイザーの装甲の隙間から進入した人の形を失った悪魔が笑う。

俺は! 俺が思うまま!
俺が望むまま!邪悪であったぞ!!

魂に響いた身の毛もよだつ宣言にアシュレーはようやく気付く。
焼かれているのは身体ではない。
破られたのは鎧ではない。

心だ。

ルカ・ブライトという邪悪が肉の壁も魔剣の護りも突破してアシュレー・ウィンチェスターの魂を喰らっているのだ。

人の形を失った邪悪が問う。
二度の生を最後まで思うがままに邪悪として生きた男が、自身の心の内に巣食う邪悪を抑え付けて生きてきた男に問う。

――貴様は、どうだ?

アシュレーは答えられない。
現在進行形で魔神が吸収しているルカの圧倒的な我に心を押しつぶされないようにするのだけで精一杯だった。
況やルカには幾つもの幾つもの負の怨念が纏わりついていた。
それは憎悪の獣がこれまでに殺してきた人間達のものだ。
この殺し合いでルカが殺してきた人数など可愛く思えるほどの、生涯を通して殺してきた人間達の嘆きだ。
一度の死などでは別たれないルカの魂に刻まれた怨嗟の声だッ!

「う、ぐ、あ、あ……」

ウィスタリアスが罅割れていく。
適格者なき魔剣単体ではロードブレイザーに加え、数千もの悪霊を封じ込む力は無かった。
魔剣が悪しき念に汚染されていく。
数百年前のシャルトスとキルスレスをなぞるかのように。
魔剣と仕手の魂が憎悪の波に壊されていく。

――アシュレーさん、気を確かにっ!?

679正しき怒りを胸に  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:03:50 ID:4nGbyjws0
アティの思念体が両断される。
敗因は彼女の心の中にほんの少しだけあったアリーゼを殺したルカへの怒りという負の感情。
仇敵の魂が魔剣に混在したことで活性化してしまったその一念がロードブレイザーにつけいれられる隙となった。
魔剣が、砕ける。
果てしなき蒼が、遂に果てるッ!

――ハイランド皇王ルカ・ブライトが命じる。さあ、目を覚ませ、異なる獣の紋章よっ!!!!

「あ、がっああああああああああAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」

炎が消える。
ルカ・ブライトが燃え尽きる。
焔が灯る。
ロードブレイザーが目を覚ます。

さあ、プロローグはここで終わりだ。
物語を始めよう。
邪悪を滅ぼした英雄が次なる邪悪となる。
そんなよくある物語を。
悲しみしか産まない物語を。

【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ 死亡】

680我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:04:35 ID:4nGbyjws0


 
暴走したスカイアーマーに投げ出されたちょこは一人砂漠をさ迷っていた。
砂漠の夜は一人で歩くには堪らなく寒かった。

『はーなーしーてー! ちょこも行くの! シャドウおじさんを助けにいくのー!』
『早まっては行けないトカ! 君みたいな若い子が命を粗末にしてはいけないッ!
 ミミズだって、オケラだって生きているから超カッコいいんだトカ。
 生きてるって信じられないくらい素晴らしい(ハートマーク)』

少し前までは一人じゃなかった。
騒がしい位によくしゃべる不思議生物が目を覚ましたちょこと一緒にいてくれた。

『わ、我輩は別にあんたのことなんか心配していないんだからねッ!』

なんだかんだ言いいつつもシャドウを助けようと自殺行為に走りがちなちょこを引き止めてくれた。

『おじさんは帰らなくちゃだめなの! 子どもが待ってるの!』
『帰りたいのは我輩も同じなのであるッ!
 その夢さえかなえられれば、人畜無害にして無病息災、子守りだってお手の物ッ!!
 ほ〜ら、いないいないばーッ!
 む? いないいないしているうちにはて、ここはいったいどこなんでしょう?
 両手で顔を覆っていては進路もわからねえし操縦もできねえじゃねえかッ!!」

トカも一緒だった。
シャドウと同じで帰るべき場所が、帰りたい世界があった。

『ゲーくんも今頃首を長くして待っているはず!
 何言ってんだ、あんた、登場話で見捨てたのにですと?
 それはそれ、これはこれ。メタなセリフ共々気にしちゃいけないトカ。
 ちょろくせぇ説教かまされるくらいなら、出直してくるトカッ!』

待っていてくれる不思議生物その2もいた。

なのに。
シャドウは死んだ、トカも死んだ。
ルカ・ブライトに殺された。
帰る場所のない少女一人を置いて死んでしまった。
帰る場所になってくれたかもしれない少女の心を強くしてくれた人達も死んでしまっていた。

「父さま。どうしてちょこはいつもおいてかれちゃうの?」

トッシュと再会した時からちょこはずっと嫌な予感を抱いていた。
彼がいたのだから他にも知り合いがいるかもしれないと。
リーザの名前を誰かが呼んでいた記憶もあってちょこはずっと気が気じゃなかった。
そんな少女にトカは教えてくれた。
彼らしくない比較的常識的な説明で。
この殺し合いのルールや死者の名前を。

「エルクおにーさん……。リーザおねーさん……。シュウおじさん……」

681我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:06:03 ID:4nGbyjws0

ちょこは覚えている。
ぶっきらぼうなようでいて温かかった炎の少年を。
モンスターとも心を通わせられる心優しい少女を。
無口で、けれどいつも側にいてくれた黒尽くめの男を。
みんな、みんな、みんな、ちょこと手を繋いでくれた人達。
伸ばした手を掴んでくれた大好きだった、ううん、今でも大好きな人達。
大好きなのに、アークやククルのように二度と手を繋げられなくなってしまった。

「寂しいよぉ」

どうして。
どうしてみんないなくなっちゃったの?
どうしてみんな殺し合ってしまったの?

帰りたかったから?
悪い子になってでも大切な人の所に帰りたかったから?

もし……、もしもそうならちょこはどうすればいいの?

「むずかしいこと、わかんないよ。わかりたく、ないよ……」

少女は一人の暗殺者をおうちに帰してあげたかった。
父を待つ娘に、自分のような寂しい想いをして欲しくなかった。
だから、シャドウが帰れるためならちょこは悪い子にだってなってみせると頑張った。
頑張って、頑張って。
でもやっぱり少女は人を殺すことができなかった。
誰かが悲しむから。
大切な人を奪われた今の少女のように誰かが悲しむと思ったから。
トッシュがこの地にいるとなれば尚更だ。
ちょこには選べない。
一人とその誰かを待つ家族の為に他の誰か全員と彼らを待つ家族を泣かせてしまう道を選べない。
帰るべきたった一人なんて選べない。

「一緒がいい。みんながいい。みんな、みんな、おうちにただいまってできるのが一番じゃないの?」

答えてくれる人はもういない。
問いかけは夜闇に消え、とぼとぼと歩き続ける少女だけが残された。





海が燃えていた。
火の海が広がっていたのではない。
文字通り、海が真紅に染まり燃え続けていた。

そもそもどうして海が目の前にあるのだろうか。
ゴゴは首を傾げる。
確かにゴゴと仲間達は海岸の近くで戦ってはいたがあくまでも海は遠方に見える程度だったはずだ。
手を伸ばせば触れられる位置に浜辺はなかったはずだ。
それがどうしたことか。
海はすぐそこまで押し寄せてきていた。
唸り、くねり、ゴゴを飲み込まんとしていた。
ゴゴは思わず一歩後ずさり、

682我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:06:35 ID:4nGbyjws0

「あ……」

ようやく、気付く。
真紅の海に奪われていた目を取り戻し、周囲を見回し、真相を理解する。

海が近づいてきていたのではなかった。
大地が焼失していたのだ。
ごっそりと。
綺麗さっぱりに。
溶けてなくなってしまっていたのだ。
ルカとの死力を尽くした戦いの末、アシュレーが墜落した地点を境として。

「そうだ、アシュレーは……?」

見事ルカを討ち果たした直後、力を使い果たしたのかアシュレーは墜落した。
かなりの高度からの落下だったはずだ。
無傷だとは思えない。
呆けている場合ではなかった。
早く、早く、アシュレーを見つけて治療しなければ!
不安と心配に駆られアシュレーの落下地点、炎の海の中心へと目を凝らす。
予想通り、そこに探し人はいた。

予想外の姿で炎の海の上に立っていた。

「アシュ、レー?」

ゴゴが困惑した声で名前を呼ぶ。
本当に目の前の人物はアシュレーなのだろうかと。
見た目からしてさっきまでの蒼炎のオーバーナイトブレイザーではなかった。
翼が生えていたのだ。
青白い全身とはてんでミスマッチな黒く巨大な翼が。
本来翼が生えうる背中からではなく、頭頂部から生えていることが余計に違和感を禁じえない。
変化があったのは外見だけではない。
仮面で覆われていようともナイトブレイザーの顔には常にアシュレーの感情が表出していた。
今は感じられない。
アシュレーの強さも、優しさも、温かさも。

その感想は間違いではなかった。

「ルウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

焔の朱に照らされて白銀の悪魔が咆哮する。
そこに込められている感情は一言では形容し尽くせなかった。
敵意、殺意、害意……ありとあらゆる攻撃的な衝動が交じり合っている。
ただ一つだけ確かな事はそれが敵に向ける声であるということ。
アシュレーは、アシュレーだったものは。
ゴゴを殺すべき敵だと認知しているッ!

「伏せろ、ゴゴ! そいつは、そいつはもうアシュレーじゃねええ!」

ゴゴより数瞬早く現実を受け入れたトッシュが未だつったったままのゴゴへと駆け寄り頭を押さえて無理やり伏せさす。
邪気で目が腐りそうだった。
蒼き光に護られていた時の面影は既にない。
一面の紅蓮。
オーバーナイトブレイザーからはそれ以外の色が感じられなかった。
そして禍々しいまでの紅蓮の気は徐々に漆黒を帯びながらも増大し、

「――ネガティブ、フレアッ!!!!!!」

解き放たれるッ!
赤い、朱い、紅蓮の焔が。
直線状の全てを薙ぎ払うッ!

683我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:07:39 ID:4nGbyjws0

否。

果たしてそれは焔と称せるものだっただろうか。
生易しい、あまりにも生易しすぎる。
焔などという言葉ではそれの脅威を現しきれない。
宇宙の法則すら軋ませるほどの膨大な負の念が凝り固められたネガティブフレアは最早質量さえ感じられた。
自然現象よりも物理現象、それも山レベルの大きさを誇る巨人が全力で殴ってきたと表す方がまだ想像しやすい。
だが違う。
島の南東部分をただの“試し撃ち”で吹き飛ばしたそれを正しく言い表す言葉は世界広といえど唯一つ。

――災厄

人は抗うこと叶わず、天も絶叫し、地も震撼させる彼の者の名は


&color(red){ 焔の災厄}

*&color(red){ロードブレイザー}

「……心地よい……。
 全盛期からすればたかが二割ほどの力の行使がこうも気持ちいいものだとはなッ!
 矮小な人間がちっぽけな兵器を作りたがる気持ちが少しだけ分かったよ」

ロードブレイザーは歓喜していた。
狂喜していたとも言っていい。
前回剣の聖女にやられた身体を修復するのにはアシュレーの内に身を潜めてから長い月日を要した。
それが此度はどうしたことか。
聖剣の邪魔が入らなかったとはいえ一日もかけずに本体である元ムア・ガルトの翼を完全に取り戻せようとは!
この調子なら本来の身体の実体化もそう遠くはないのかもしれない。

「クックックック。そういえばこの殺し合いで勝ち抜いたのなら何でも願いを叶えてもらえるのだったか?
 ならばオディオに私が完全復活するまで今回同様の殺し合いを何度でも開かせるのも一興かッ!
 あ奴なら悪い顔もしないだろう、フハハハハハハハハッ!」
「「く、勝手なこと、言ってんじゃねえ……」」
「ほう?」

ロードブレイザーは下界を見下ろす。
声がしてきたこと自体に驚きはしまい。
小ざかしくもトッシュ達がネガティブフレアを砂漠方面に逃げ込むことで避けたことくらい察知済みだ。
分からないことがあるとするならば一つ。
これだけの圧倒的な力を前にして人間はどうしてもうも足掻くのかということくらいだ。

「異世界といえども人間は変わらぬか。貴様らも私に抗い、未来を受け入れることを拒むというのか?」
「「拒むに決まってんだろが! こちとら暗黒の未来が嫌だから今まで戦ってきたんだ! 
  異世界だとかどうとか関係あるか!」」
「そうだな、失言であった。私がこうして蘇ったのもお前達人間が三千世界何処においても愚かしかったおかげだ」
「「勝手にきめつけんじゃねえ!」」

全く人間とはつくづく度し難い。
ロードブレイザーは翼を大きく羽ばたかせ、地に這う人間達を吹き飛ばす。
悪態をつきながらゴミのように転がるトッシュ達を心底侮蔑し、天に座したまま笑い飛ばす。

「そうかな? 人間のうちにこそもっとも強く、そして醜いエネルギーが渦巻いている……
 お前達自身、自らの世界での戦いの中で見てきたのではないか?
 それとも、異世界では邪悪なるものとは全て私のような人外だったとでも?
 ハッハッハ、それはそれはめでたい世界もあったものだッ!」

684我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:08:20 ID:4nGbyjws0
ぐっとトッシュとゴゴの言葉が詰まる。
言い返せなかった。
トッシュが戦っているロマリア帝国もゴゴ達が戦ったガストラ帝国もどちらも人間の王が率いているものだった。
神を吸収したケフカや、聖櫃に封印されている暗黒の支配者すらももとをただせば人間だ。
何よりも、何よりもだ。
もう一人いるではないか。
人間より転じた魔なるものが。
悪たる人間が魔になったのではなく、元は善なれども人間の悪に絶望し魔となった存在がッ!
ロードブレイザーは優越感に浸って言い放つ。
この島において当事者を除いては未だ彼しか知り得ない真相の一端をッ!

「この殺し合いなど最たるものではないかッ!
 開催したのも人間、殺したのも人間、我を蘇らせたのもまた人間ッ!
 いい加減に気付け。お前達人間が焔の未来を望んでいるということにッ!」
「「開催したのも人間、だと!?」」
「それも勇者と呼ばれた程のなッ!」

ロードブレイザーもそのことに気付いた時は驚いたものだ。
オディオがロードブレイザーの再生の足しにと寄越した負の想念。
それは紛れもなくオディオが人間の時の記憶の断片だった。
残念ながら断片なため手に入れられた情報は少なかったが、その中でもいくつか強い想いの込められた言葉は読み取れた。
『勇者』『アリシア』『オルステッド』『魔王』。
どれもこれもがロードブレイザーには馴染みのない言葉だ。
かろうじてアシュレーを通して見た名簿にオルステッドの名前があったのを覚えていた程度。
『勇者』という言葉を使ったのも『英雄』みたいなものだろうと解釈してのことだ。
特別な意味なんてない。

「……今、なんつった?」

しかし誰かにとって何ともない言葉が他の誰かには特別なこともあるのだ。
天空の勇者しかり。
異形の蛙騎士しかり。
焔の剣客またしかり。

「オディオが勇者だった? はっ、笑えねえ冗談だ」

トッシュにとって勇者とは即ちアークのことだった。
全てを愛し慈しむ心と全てを守る力を兼ね備えた青年。
人間と人間の明日を誰よりも強く信じ続けている人間ッ!
それが勇者だった。
トッシュにとっての勇者だった。
だから否定する。

「そいつは信じ続けられなかったんだろ。魔王になっちまったんだろ。
 なら、オディオは元から勇者なんかじゃなかったんだよ。
 ただの弱っちい人間だ。道を間違えちまった人間だ……」

オディオが勇者だったことを否定する。
この剣に賭けて。
アーク達と過ごした日々に賭けてッ!

「随分と勝手な言い草だな、人間。
 ストレイボウとやらにオディオの過去を聞いてもそう言い切れるのか?」
「言い切れるね。ついでにオディオにも教えてやるさ」


「人間の自らの過ちを正す勇気って奴をな!」




685我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:08:52 ID:4nGbyjws0


「いいだろう、正せるものならまずは私を正してみよッ! 
 人間の過ちの集合体であるこの私をッ!」

トッシュの売り言葉に気分を害し、ロードブレイザーが飛翔する。
翼を広げ、万一にもトッシュ達の攻撃が届かない高度まで空をぐんぐんと昇っていく。
狙うは高高度からの爆撃といったところか。
あの火力ならちょっとやそっと距離をとったところで威力の減衰はしまい。
つまりは自分は安全な場所から一方的に嬲り殺せるということだ。
実に理に叶いつつも嫌らしい戦法だった。

或いは。
それは二度も敗北をきしたが故にロードブレイザーが心の底では人間を恐れていたからか。
だとしたらまだまだ甘い。
小細工をいくら弄しようとも世の中には力尽くでぶち破ってくる者もいるのだ。

「ゴゴっ、一発分でいい、俺をあいつのところまで運んでくれ!」

アークのことをよく知らず、途中から物真似のしようがなくなっていたゴゴへとトッシュはとんでもないことを言い出した。
普通はできるかどうかを先に聞くもんじゃないのかと問うてみれば、

「てめえならやってくれるだろ?」

と来たもんだ。
それに是と答える自分も自分かと思ったが、この男に信頼されるのは中々にいい気分なのでよしとした。

「ただ飛ばした後のことは保証しないぞ」
「そこまで面倒はかけねえさ」
「そうか。なら遠慮無く行かせてもらう!」

ゴゴがトッシュの右足首を掴む。
シャドウがちょこにそうしたように、ゴゴもまたトッシュを投げる気なのだ。
何のために?
飛ばすためだ、トッシュをロードブレイザーのもとへ送り届けるためだ。
少々荒っぽいが、これ以上の方法は思いつかなかった。
何故ならこれはゴゴなりの縁担ぎ。
シャドウは見事投擲にてちょこを救った。
それを真似すれば魔神に身体を支配されているアシュレーも助けられるかもしれない。
そんな想いを物真似に込めてゴゴはトッシュから受け取ったジャンプシューズで大きく跳躍。

「これ以上高度を上げられると届かない。
 ぶっつけ本番だがいくぞ」
「おうッ!」

そのまま空中にてトッシュを打ち上げる。
もちろんこんな馬鹿な目論見、トッシュとゴゴより高い位置にいるロードブレイザーが気付かぬはずがない。
夜闇がどれだけ濃くとも魔神の目を阻害するには至らない。

「馬鹿めッ!」

回避しようがない空中へとわざわざ翼を持たぬ身でしゃしゃり出てきた獲物に魔神は炎弾の洗礼を浴びさせる。
ガンブレイズの弾幕はトッシュへと殺到。
全弾命中し、見事トッシュを

686我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:09:24 ID:4nGbyjws0

「――鬼心法……」

撃墜できないッ!
魔導アーマーやルカとの戦いに続き、精霊の加護が焔のダメージを軽減したのだ。

「ムア・ガルドのミーディアムか!?」

悪手を打ってしまったことを自覚し、焔による攻撃を止め双剣で迎え撃つロードブレイザー。
虚は突かれはしたが依然、空中における優位は魔神が保っている。
慌てることはない。

「エルク、力を貸しやがれ――炎の光よ。道を、照らせ!」

その優位は一瞬にして砕け散る。
ホルンの魔女直伝、エルク譲りの補助魔法による加速がロードブレイザーの思惑を外し、双剣を空振らせる。
懐にまんまと入り込んだトッシュはここぞとばかりに魔剣を翻す。
狙いは一つ、オーバーナイトブレイザーの頭頂部に生えた黒翼のみッ!

「竜牙剣ッ!」

刃が右翼を斬り裂く。
堅牢を誇るナイトブレイザーの装甲を足場もなく力も入らない空中抜刀で切り裂けたのは竜牙剣の特性によるものだった。
因果応報天罰覿面。
自他の状態に左右されずそっくりそのまま受けたダメージをそっくりそのまま相手にも押し付けるッ!

「くっ、うおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

矛盾の言葉そのままに自身が放った炎弾数発分の威力に翼を討たれ、ロードブレイザーが堕ちていく。
トッシュの目論見とは違い完全には翼を切り離すことはできなかったがあのダメージではしばらくは飛べまい。
地上戦ならまだ相手のしようがある。
何よりも空を飛ばれていてはどれだけ張り上げても声を届けようがないではないか。

「アシュレーッ!」

ロードブレイザーに剣を突き刺し喰らいついたままトッシュが言葉を紡ぐ。
トッシュを振り払おうとしたロードブレイザーの動きを突き刺したままの剣に気を流すことで抑える。
呪縛剣の派生型だ。
ロードブレイザーといえど完全体ではない身に直接体内に気を流されるのは堪えたのか、僅かに動きを鈍らせる。

「約束、果たしにきたぜ!
 これはてめえの剣だろ、返してやるから受け取りな!」

ロードブレイザーが再動する。
その度にトッシュは気を流しこみ続けた。
魔神の動きを止めるほどの膨大な気の放出がそう長く続くはずもない。
体内の気が枯れ果て、今度こそ魔神は自由を取り戻す。

「アシュレー、その力は護るための力じゃなかったのかよっ!」

幸いだったのは既に砂漠の大地がすれすれまでに迫っていたことか。
ナイトフェンサーがトッシュを捉える寸前で、トッシュは身を投げ出し砂漠をクッションに着地する。
ゴゴとは随分離れてしまったが仕方がない。
トッシュは一人でロードブレイザーを抑えこみ続ける覚悟を決める。

「人間がああああッ!!」

687SAVEDATA No.774:2010/07/09(金) 05:10:03 ID:4nGbyjws0
ロードブレイザーがナイトフェンサーを手に斬りかかってくる。
ロードブレイザーは強い。
力も、速度も、耐久力も。
ありとあらゆる面でトッシュを上回っている。
だが剣士としては下の下だ。
これまで圧倒的な破壊力にかまけて他者を葬ってきた魔神は技を磨く必要がなかった。
剣を使ったことさえなかった。
トッシュにとっては唯一の突破口だ。

「てめえといいオヤジといい何こんな奴にいいようにされてんだっ!」

舌を奮う、剣を振るう。
速さで勝るはずのロードブレイザーより尚速く剣を相手に届かせる。
ロードブレイザーの剣筋は恐ろしいほどに読みやすい。
生きる殺気ともいえる魔神は一挙一動ごとに殺気を先行させてしまうのだ。
次に脚で踏もうとする地面に、次に手を届かせようとする位置に、次に剣で薙ぎ払おうとする空間に。
トッシュはそこに先んじて割り込む。
ロードブレイザーの動きの起点を悉く潰していく。

「ぬうっ!」

左三間。
低背状態へ移行しての切り抜け。

――読めている

上方に抜けての肩口狙い。
反転後、首元を狙った二の太刀での剣撃。

――読めている

重心の片寄りからして踏み込んでからの右横凪。

――刀破斬

ルシエドがナイトフェンサーを叩き割る。
ロードブレイザーのがら空きの胴が晒された。
千載一遇のチャンス。
今なら斬れる。
聖櫃に封じられた邪悪にも匹敵する焔の災厄を。
斬れば死ぬ。
概念的存在とはいえ受肉している今なら斬って殺せるとアシュレーは言っていた。

「待て、私を殺せばアシュレーも死ぬぞッ!」

それは即ちアシュレー・ウィンチェスターを殺すということ。

「んなことするわけねえだろが。言っただろ、約束を果たしに来たと!」

688我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:10:55 ID:4nGbyjws0

アシュレーはまだ生きている。
まだ救える。
モンジとは違う。
ちょこの泣きそうな声が蘇る。
ちょこはシャドウを父と呼び家に帰らせたがっていた。
アシュレーが双子の父だと知ったなら、同じように帰らせようとしただろう。
ここでアシュレーを断てば魔神による悲しみから多くの人が救われる。
しかしそれは全てを救う道には繋がらない。
アシュレーを待つ妻や子に、ちょこが味わった寂しさを、自分が味わった怒りを押し付けてしまうことになる。
死んでも御免だ。
トッシュは振りぬく。
剣を握り締めたままの拳を。
アシュレーを覆う呪われた仮面を砕く為にッ!

「目ぇ、覚ましやがれってんだ!」

拳が炸裂する。
口下手なトッシュが言葉だけで届かないのなら衝撃ごと伝えやがれと全ての力と想いを込めて放った一打は。

されどトッシュに手応えを返すことはなかった。

「アシュレーへの遺言は終わったか?」

飛ぶことを封じられていたはずの魔神は悠然と羽ばたき、激突寸前だった拳を回避。
気がつけば竜牙剣が付けたはずの傷は跡形もなく塞がっていた。
負の念が渦巻く島の中においてロードブレイザーが自らの傷を癒すことなど一瞬で済むのだ。
それをこれまでしなかったのは魔神が体慣らしに戯れていただけに過ぎない。

ロードブレイザーの胸部装甲が展開される。
トッシュは咄嗟に斜線軸上から身を逸らそうとするも、遅い。
光速を誇る荷電粒子砲の前には余りにも遅すぎる。

「バニシングバスターッッッ!!」

三度、極光が夜天を吹き飛ばす。
夜が闇を取り戻した時、破滅の光が突き進んだ道には崩れ去った山脈と一人の男の身体が転がっていた。




689我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:11:27 ID:4nGbyjws0
ロードブレイザーは呆れ果てていた。
何とも人間はしぶといものだと。
バニシングバスターが直撃していたのなら北にそびえていた山脈のように塵一つ残さず消滅していたはずだ。
それが人間としての原型を留めているということは大方ルシエドの力でバニシングバスターを逸らそうとしたのだろう。
全く、無駄な努力をするものだ。
なるほど、即死こそ免れはした。
が、代償として腹部はその殆どを失っていた。
上半身と下半身が繋がっているのが奇跡なくらいだ。
放っておいてもまず助かるまい。

魔神は念のために止めをさしておこうと大地に降り立つ。
アシュレーの肉体での彼の仲間を殺せたことは大きな収穫だった。
これでアシュレーは新たな罪を背負った。
罪悪感もまたロードブレイザーの力となる負の感情だ。
万一レベルだった身体のコントロールを取り戻される可能性は億が一レベルへと激減した。
倒れ伏したトッシュへと近づいて行けば行くほどロードブレイザーは上機嫌になっていた。

だからだろう。
ようやく追いついき状況を把握し、トッシュを護らんとして立ち塞がったゴゴにロードブレイザーが取引を持ちかけたのは。

「私は今気分がいい。お前には私が世界を焼き尽くす物真似をする栄誉を与えよう。
 承諾するのならお前だけは生かしておいてやる。悪い話ではなかろう?」

オディオじきじきに呼ばれたとはいえロードブレイザーは厳密には参加者ではない。
一人勝ち残ったところで優勝者としては扱われないかもしれない。
だったら一人くらい正規の参加者を残しておいてやるのも悪くはない。
自身が殺そうが、他人が殺そうが、誰かの死はロードブレイザーの力となるのだから。

「……アシュレーは、アシュレー・ウィンチェスターは」

他人を切り捨てれば自分だけは生き残れる。
そのことに無様に心かき乱されることを期待していたロードブレイザーの耳をゴゴの静かな声がうつ。
予想外なことだったが、その声に含まれていた感情は困惑でも自己愛でもなく

「俺には真似しきれない人間だろう」

苦渋と羨望だった。
それもロードブレイザーの力となる感情の内の二つだ。
魔神は特に気分を害することなく先を促す。

「俺には帰りを待っていてくれる人がいない。
 大切な人のもとに帰るという物真似もできなければ、傍らにい続けるという物真似も護るという物真似もできない。
 どころかその感情を心の基盤にしているアシュレーの物真似のことごとくが不完全なものとなってしまう」

ぎりりと歯を食いしばる音がした。
災厄にとっては心地よい人が自らの限界に屈する音だ。
ここぞとばかりに魔神は囁きかける。

「くくく……。ならばやはり私の真似をすべきだ。
 アシュレーを救う理由などお前にはなかろう?
 むしろ好都合ではないか。 アシュレーが我に飲まれこの世からいなくなってしまえばお前が苦しむこともなくなるのだか「だが」!?」

690我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:12:10 ID:4nGbyjws0
有無を言わせずゴゴが割り込む。
己が命を握っている魔神に対し臆しもせず自分の矜持を叩きつける。
ロードブレイザーはいつの間にか会話の主導権を奪われていた。

「だからこそアシュレーの物真似は面白い。
 俺という個人のままでは持ちえぬものを持っているからこそあいつの物真似は面白い。お前と違ってな」
「なんだ、何を言っている」
「分かりやすく言ってやろうか」

覆面で顔が見えていないはずなのにロードブレイザーにはゴゴが浮かべているであろう表情がありありと伝わってきていた。
笑っている。
こいつは焔の厄災を前にしてあろうことか笑顔を浮かべていた。
それも親愛の情が籠ったものでも、作り笑顔でもなく、

「ロードブレイザー、お前はつまらない。
 世界の破滅だと? そんなことを考える奴はケフカで既に足りている」

ニヤリと唇を釣り上げて物真似師はロードブレイザーを嘲笑っているッ!

「我が提案を受け入れぬと。生き延びれる唯一のチャンスを逃がすというのかッ!?」
「くどいッ! 俺が誰の物真似をするかは俺自身が決めるッ!」

未だかってこのような人物がいただろうか?
ロードブレイザーを恐れるでもなく、否定するでもなく、見下し、哀れむ人物が。
身の程知らずにも程がある。
ロードブレイザーは悔いた。
気まぐれとはいえこのような下等生物に生き残る機会を与えようとした己を恥じた。

「ほざいたな、矮小な生命風情がッ! ならば貴様の言うつまらない存在の手で無様に死ねえいッ!」

両翼より生じさせた焔の中に愚かしい物真似師が消える。
最初からこうしていればよかったのだ。
ロードブレイザーは八つ当たり気味に焔をもう二発撃ち込む。
ただでさえ大きかった火の勢いは増し、森や教会も熔解させていく。
ここまでやればトッシュのように火に強くとも死んでいるだろう。

そう高を括っていたロードブレイザーの耳に、

「幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード」

自身が真似したい人物を自らの手で選び取った物真似師の声が響いた。





691我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:12:44 ID:4nGbyjws0



「ラフティーナだとッ!? いや、違うッ! だが、だがこれはッ!
 こいつから感じる忌々しい光は、あの愛のガーディアンロードそのものではないかッ!」

女神と間違われるのも無理はない。

ゴゴを護り、魔神の焔を跳ね返したのはそれはそれ美しい女性だった。
宝石のように輝く髪と肌という喩えが、喩えではなくそのまま事実として当てはまる女性だった。
衣服を一切纏っていないのも頷ける。
彼女の桜色のオーロラとでも評すべき髪や肌の美しさはありとあらゆる衣服や装飾品に勝っているのだから。

彼女は力強き者でもあった。
女性の両手に光が生じる。
とある道化師も使った究極魔法。
それを女性は一度に二つも詠唱していた。

最後に彼女は人間ではなかった。
幻獣でもなかった。
人間と幻獣とのハーフだった。
名をティナ・ブランフォードという。

「ティナ、また会えたな」

喜色を隠さずにゴゴがティナへと話しかける。
返事はない。
分かっていたことだ。
幻獣が魔石として残すのは力だけなのだ。
今ここにいるティナも、ティナが蘇ったわけではないことくらい百も承知だ。

だから十分だ。
言葉もなく、顔も向けず、だけど頷いてくれただけで十分だ。
ゴゴは物真似を開始する。
ティナの物真似を。
人と幻獣の狭間で揺れ、愛することを知った少女の真似を。

「アシュレー、忘れないで。愛するということを。あなたを待っている人達を」

もう二度とすることはないと思っていた声真似ができることをゴゴはトッシュに感謝しつつ、アシュレーに語りかける。

「マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
 そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく」

アシュレーの子どもたちも誰かと恋し、誰かを愛するのだろう。
そうして人間は子どもを産み、後へ後へと託していく。
親から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へ。
アシュレーの護りたかった世界、日常はこうして続いていく。
アシュレーだけのファルガイアはどんどんどんどん広がっていく。

ああ、そうか。
それは確かに護りたくなるほどに素晴らしいことだ。

ゴゴは一歩、アシュレー・ウィンチェスターという人間とティナ・ブランフォードという人間への理解を深めた。
物真似師としての最奥へと一歩、近づいた。

692我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:13:32 ID:4nGbyjws0

「だから、戻ってきて! 魔神に打ち勝って! 
 今ある命だけじゃなく、これから生まれてくる命もたくさんある。それを守るためにも!
 あなたは、あなたの家に帰ってあげて!」

その願いを叶えることができなかったティナの分までも。
マッシュやエドガーやシャドウ、ナナミやリオウにビッキー、ルッカにトカの分までも。
誰かが帰ってこないことの寂しさを知ったゴゴは目をつむり一度祈る。
次に目を開けた時にはゴゴの左右の手にもアルテマの光が宿っていた。
連続魔とアルテマと物真似による法外火力なアルテマ四連。
現段階でゴゴのできる最高の物真似の一つ。

「く、黙れ、黙れえッ!! バーミリオン、ディザスタァァァアアアアアッ!!」
「『アルテマッ!!』」

ロードブレイザーの最大火力とアルテマの光がぶつかる中、ティナの声が聞こえたのは。
きっと気のせいなんかじゃない。





いつからだろうか?
とぼとぼと一人砂漠を歩いていたちょこの耳にその歌が聞こえてきだしたのは。
静かで、途切れ途切れではあるけれど。
優しい、優しい歌だった。
幼子をあやし、幸せな夢を見せてくれる歌だった。
子守唄だ。

「ちょこ、知ってるの。ちょこが怖がったり寂しがったりして眠れない時に父さまも歌ってくれた……」

けれどどこか違う気がした。
歌詞が知らないものだとか、声が知らない人だとか、そんなんじゃないどこかが。
ちょこの知っている子守唄とは違っていた。

「なんでだろ。この人の子守唄もとってもとっても安心できるの。
 父さまが歌ってくれたのといっしょのはずなの。気になるの」

ちょこは歌を追いかけ始めた。
淋しげだった歩調は常の少女の元気なものへと戻っていた。
まるでそのことを喜ぶかのように。
子守唄は少しずつ、少しずつ、よりはっきりと聞こえるようになっていた。
その度にちょこの中で確信が生まれていく。
やっぱり父さまの歌とは違うと。
でも、父さまの歌とは違うけどこれはきっと子どものための歌なんだと。
ちょこは走った。
走り続けた。

不意に、歌に混じって別の誰かの声が聞こえた。

――幻獣召喚《ハイコンバイン》――ティナ・ブランフォード

693我ら魔を断つ剣をとる  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:14:04 ID:4nGbyjws0

「ティナおねーさん?」

それが歌を歌っているおねーさんの名前なのかな。
ちょこはなんとはなしに思った。
なんとはなしに思って、けれどどこか引っかかるところを感じた。

「ティナおねーさん、ティナおねーさん、ティナおねーさん?」

おかしいなと何度も何度も呟けど違和感は消えてなくならない。
しっくり来ないものを抱えて、ちょこはもやもやとしたまま戦場へと辿り着いた。
辿り着いて、その人を見て、これまでに生じていた疑問が一気に氷解した。

「おかー、さん……?」

自身の口から零れた言葉にちょこは驚く。
彼女は母親を知らない。
物心ついた時からずっと父親とだけ繰り返す時間の中で過ごしてきていた。
少女と表裏一体であるアクラだってそうだ。
ただ父だけを求めて生きていた。
ちょこという少女の世界に母親は完膚なきまでに存在していなかったのだ。

なのに。

「ティナおかーさん、ティナおかーさん、ティナおかーさん」

少女はティナのことをそう呼ぶ。
ティナがおかーさんなのだと確信して呼ぶ。
今まで使えなかった分を取り戻すかのように、嬉しそうにおかーさんと呼びつづける。

別にどこもおかしなことはない。
ちょこは子どもなのだから。
子どもがおかーさんのことを分からないわけがないのだ!

『マリナさんだけじゃない。あなたには二人の子ども達もいるのよ?
 そしてあなたが護りたい世界は、あなたが護りたい日常はこれからも広がり続けてく』

そして少女はおかーさんの声にもう一つ知る。
おかーさんが訴えかけている相手がおとーさんであることを。
シャドウと同じで子どもが待っているということを。

「ねえ、アクラ。アクラも知ってるよね。
 父さまのいない寂しさは。父さまのいてくれる温かさは」

ちょこはもう一人の自分に思いのままを伝える。

「ちょこは母さまを知らないけれど、きっと母さまがいたら二倍寂しがったり、二倍温かかったりしたと思うな」

だからね。
少女は続ける。

「やっぱりみんなおうちに帰れるのが一番なの! アクラも分かるよね。力を合わせてくれるよね」

分かりきった問いかけだった。
ちょこもアクラも元は同じ一人の少女で、誰よりも家族を愛していたのだから。
羽が舞う。
翼が広がる。
四つのアルテマの光芒へと一つの優しい闇が力を与える。

「闇に、還れ……」




694汝、無垢なる刃、デモンベイン  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:14:54 ID:4nGbyjws0



破壊の力のはずだ。
押し寄せてくる5つの魔法はどれもロードブレイザーの力となる破壊の力のはずだ。
それならば。
それならば何故ッ!
究極の光は還元の闇もこうも愛に溢れているのだッ!?
負の念を力とするロードブレイザーには猛毒にしかなりえない正の念。
バーミリオンディザスターと拮抗するその眩い光にロードブレイザーは恐怖した。
魔神を脅かしたのは外からの魔法だけではない。
装備したままだった魔石がどうしてか急に光ったかと思うと、内的宇宙のウィスタリアスまで輝きだしたのだ。
まずい。
ロードブレイザーはことこにきて自身が追い詰められていることを悟った。
屈辱を呑み込み、魔神は逃亡を選択。
魔法と焔がぶつかっているのとは逆の方向へと翼を広げ、
その先に

――剣者がいた



695汝、無垢なる刃、デモンベイン  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:15:24 ID:4nGbyjws0
夢とも現とも思える世界。
意識と無意識の狭間。
生と死との境界に。
男は一人存在していた。
白い闇に包まれて。
ここがどこか、自分が誰かも分からぬままに彼は立っていた。
胴の左半分を吹き飛ばされ、腸を臓物を黒く墨色に染めながらも。
ただ一つのことを成さんが為に地に膝を着くことを拒んでいた。

そこまでして男は何を願う?
彼の者の命を留め続ける未練とはいかなるものか?

護ることか?
違う。
救うことか?
違う。

それは確かに男が心底望むことではある。
生死の理を曲げて尚叶えるに値する想いではある。
だが無理だ。
無理なのだ。
男には誰かを護ることなど不可能、救うことなど不可能。
男にできることは今も昔も一つだけなのだ。
一つ。
ただ一つ。
それは何だ?
護ることか?
否。
救うことか?
否。
決まっている。
斬ることだ。

誰かを斬る以外男にできることなどなかったのだ。

だったらその行為に全てを託せ。
トッシュという人間の想いを、力を、命を賭けろ。
斬ることで護れ。
斬ることで救え。
斬ることで道を拓け。

して、その為に何を斬る?
して、その為に誰を斬る?

オヤジだ。
オヤジを斬らねばならない。

何よりも。
勇者に殺されてしまったのならオヤジは単なる悪として扱われる。
正しい戦いにより討たれた世界の敵として記憶される。
それは、駄目だ。
それだけは、許せない。
モンジは優しい男だった。
邪悪なんかではない、強く誇り高いトッシュの父だった。
モンジを世界の敵にしたくないのなら、本当のモンジを知るトッシュが。
他の誰でもないトッシュ・ヴァイア・モンジが斬らねばならないのだ。

696汝、無垢なる刃、デモンベイン  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:16:49 ID:4nGbyjws0

白い闇のみが広がっていたはずの世界に二刀を手にした剣鬼の姿が滲み出る。

そうだ、そうだった。
どうして忘れていた?
トッシュは嗤う。こんな大事なことを忘れていた自分を嗤う。

戦っていたのではないか、冥府魔道に落ちたオヤジと。

モンジが動く。
両の剣を突き出して。
モンジが駆ける。
押さえつけられていたダムが決壊するかのように、怒涛の速度をもって。
土を穿ち、その間合いを一間で詰める。

対するトッシュは不動。

不思議な感覚だった。
護りたかった人に剣を向けているというのに迷いも戸惑いもなかった。
救いたい家族を殺さねばならぬというのに悲しみも辛さもなかった。
仇たる敵と相対しているというのに怒りも憎しみもなかった。
静かだった。

ただモンジとモンジの剣だけが世界の全てだった。

――斬る

一足一刀の間合いに入り対の刃が振り抜かれる。
神速を超えた魔速、人ならぬ身になって得た人外の秘剣が十字を描きトッシュを四散させんとす。
刹那、遂にトッシュが動く。
後足が弾け、大地を蹴り押し、強引に身体ごと必殺の一太刀を前方へと押し込む。
パレンシアタワーでの一騎打ちにて終ぞ掴めなかった好機。
攻防一体の二刀流、その両の剣が防御を捨て攻撃に回され、トッシュの剣が魔を絶てる唯一のチャンスを逃してなるものか!

――斬る

爆ぜた雷の如き一刀が解き放たれる。
天空に舞う桜の花すら両断する速く鋭い一閃。
敵の先の機を奪いし刃は二刀を追い抜き空に煌く。
されど約束されたはずの勝利は不条理に阻まれる。
トッシュの敵は人ならぬ魔。
人界の摂理も常識も振り払い、全力で振り下ろされたはずの刀が人を超えた膂力により引き戻され一息で盾へと転ずる。
ここに勝負は決する。
トッシュの渾身の桜花爆雷斬は身体能力で勝る魔人の両剣の盾を貫くことは叶うまい。
二刀で受け止められ、うち一刀で跳ね除けられが関の山だろう。
魔人が見せた魔技を再現できるはずもない人の身ではルシエドを戻すよりも先に残る一刀にて斬り伏せられ終る。
努力は絶対の前に灰燼と帰し、人は魔の前に膝を着く。

打ち合うのであれば。
正面から打ち合うのであれば。

――――

魔剣ルシエドが“ほどける”。
実体が霞み陽炎のように揺らめく。
いかな達人といえど形無き剣を受け止めることは叶わず護りの剣は空しく空を切る。
心を無にし、その刃さえも無と帰した剣客の剣が双璧を超え懐に入り込む。
無念無想。明鏡止水。風光霽月。
怒りも憎しみもなくただ一念でのみ動いていたトッシュは遂に剣聖の域へと脚をかけた。
一徹の心。
無我ではなくその対極であったが、雑念を全て排除した点においては無我にも等しい心境――そこから出ずる一剣。
何も考えず、己を無とし。
己を無とし、世界と合一。
さすれば敵に心を読まれることはなく、己だけが敵の全てを掌握する。

697汝、無垢なる刃、デモンベイン  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:17:29 ID:4nGbyjws0

――見える

過った前回とは違い気の収束点を明確に捉えられている。
モンジが託してくれた剣の最奥は、仲間達がそうしてくれていたようにトッシュが切るべき敵をしかと示していた。
ならばこれより先はトッシュの仕事だ。
擬似的な無我を破棄し魂を再燃させる。

――斬る

刀身が蘇る。
“斬る”という想念を刃としルシエドが再び猛る。
ガーディアンブレードは想いを喰らい力に変える武器だ。
無我にて振るえば刃を保てなくなるのも道理なれば、炎の如く燃え盛る一念で振るえば万物を断つのもまた道理ッ!

「あばよ!!」

トッシュは斬った。
モンジを――魔を――ロードブレイザーを一刀のもとに断ち切った。
受け継がれし秘剣紋次斬りにて。
悲劇の物語はここに書き換えられるッ!







焔の災厄、ロードブレイザー。
彼の魔神を災厄たらしめている一因はその不死性にあった。
概念的な肉体は物理的攻撃を一切受け付けず。
魔法の域に達した超科学ですら肌の皮一枚を傷付けるの関の山。
そもそも負の意志が存在する限り無限の再生力を誇る彼にはいかな致命傷も致命傷足り得ない。
ロードブレイザーを倒さんと放たれる一撃一撃は、込められた怒りや恐怖、殺意や破壊の意思により彼を満たすだけに終るのだ。
故に無敵。
故に不滅。
剣の聖女がロードブレイザーを討滅ではなく封印で留めざる得なかったものこの不死性のせいだった。
数百年の時を経てロードブレイザーは遂に後のない死をもたらされかけることとなったがあれは例外中の例外だ。
ロードブレイザーの力の根源たる負の念。
それらを相殺しきるだけの世界中の人々の一丸となった希望の念が相手だったからこそロードブレイザーは真の意味で敗れたのだ。

こんなことはあってはならない。

698汝、無垢なる刃、デモンベイン  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:18:48 ID:4nGbyjws0

「馬鹿な……」

ロードブレイザーが。
星一つの全生命と釣り合うだけの力を秘めたデミガーディアンが。
たかが一人の人間に敗れることなど!

「ぐっがァァァアアアアアッ!」

ロードブレイザーの身体が霧散していく。
よりしろであるアシュレーの血肉を失った今、オーバーナイトブレイザーの姿を維持するだけの力がロードブレイザーにはなかった。
天をも焼かんとしていた黄金の炎は輝きを失い黒くどす黒くくすぶり続けるのみ。
強固を誇った装甲は罅割れ醜い中身を露呈させていた。
必死に残る力を掻き集め凝縮することで作り上げた紫色の筋肉を剥き出した白いボディを。
オーバープロトブレイザーとでも言うべきおぞましい姿を。

「認めん、認めんぞッ! ガーディアンブレードを手にしていたとはいえたかだか人間一人にこの私がッ!」

正確に言えばロードブレイザー自身が敗れたわけではない。
追い詰められはせども致命傷を与えたのはロードブレイザーの方だ。
だが、だがしかし、トッシュが切り拓いた道はロードブレイザーにとっては終焉へと導かれうるものだった。

「それは違うぞッ、ロードブレイザーッ!」

奴が、来る。
先刻までロードブレイザーの生命線だった寄り代が。
かってロードブレイザーに絶望を与えた人間の代表格が。
剣の英雄がやってくるッ!

「僕たちは、どんな時でも独りじゃないッ!!」

ロードブレイザーはアシュレー・ウィンチェスターの身体を失った。
けれどもそれはアシュレーの身体が破壊されたからではなかった。
破壊されたのはアシュレーとロードブレイザーを繋いでいた根ともパイプとも言える負の気の流れ。
トッシュはアクセスにより表出化した収束点を断ち切ることで魔神と人間の分離を成し遂げたのだ。
結果ロードブレイザーは未だ不完全な形で現世へと逃れなければならなくなり、

「アシュレー、ウィンチェスター……。その姿、その姿はッ!」

アシュレーは魔神から開放され万全の力を発揮できることとなる。
これまでロードブレイザーを押さえることに割いていた魔剣の力を。
果てしなき蒼の力をッ!

「アティが最後に残してくれたこの力で」

白と蒼に彩られた長衣をはためかせ。
蒼き魔剣を手にした人間が砂漠を歩む。

「トッシュが、ゴゴが、ちょこが、ティナが呼び覚ましてくれたこの心で」

その姿は魔神が恐れし英雄に似てはいれども。
風に流れる髪の色は白く。
背には蒼き光輪が輝いていた。

「ロードブレイザー、お前を討つッ!」

蒼き剣の英雄《セイバー》アシュレー、

ここに抜剣せり!

699汝、無垢なる刃、デモンベイン  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:21:05 ID:4nGbyjws0
【F-3 砂漠 一日目 真夜中】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康(抜剣により回復)、クラス:蒼き剣の英雄(サモナイ3でいう蒼き剣の勇者)
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、バヨネット
    焼け焦げたリルカの首輪、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:ロードブレイザーを今度こそ倒す
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、シャドウ、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※蒼き剣の英雄アシュレーは剣の英雄アシュレーの髪の毛を白く刺々しくして背に蒼い光輪を背負った姿です。
 あくまでも姿が剣の英雄に似ているだけで武器の都合上使用可能スキルは蒼き剣の勇者のもののみです。
 (暴走召喚・ユニット召喚・威圧・絶対攻撃)
 またあくまでもアティが残した力による覚醒なので効果が切れるともう二度と覚醒不可能です。
 変身がどの程度もつかなど思うところはお任せします。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)

【ロードブレイザー@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、オーバープロトブレイザー
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し
1:アシュレーを殺す
2:殺し合いの場に破滅をばら撒き負の念を吸収して完全復活を果たす
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーとして復活しきるには力も足りず時期も早すぎたため現状本来の力を出し切れていません。
 無論島に負の念が満ちれば満ちるほど力を取り戻していきます(強化&回復)。
 オーバープロトブレイザーは黒炎を纏ったプロトブレイザーっぽい姿です。
 元がロードブレイザーなのでナイトブレイザー、オーバーナイトブレイザー(魔剣ルシエド除く)、
 ロードブレイザーの技を使用できる可能性がありますがお任せします。

700――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:21:45 ID:4nGbyjws0
夜の砂漠に背を預けトッシュはただただ空を眺めていた。
冷たい月は、冴え冴えとしており、光に照らされる砂漠も昼間とはうって変わって冷え込んでいる。
やや強い砂交じりの風が頬を打ちなけなしの体温を奪っていく。
放っておいても出血多量で死ぬのにご苦労なこった。
笑いながらも耳を澄ます。
涼やかな空気の中をさやさやと何かが舞う音がする。
天を地を砂が海のように川のように流れているのだ。
川の流れは無数の波飛沫を煌かせながら、そ知らぬ顔でトッシュの傍らを過ぎ去っていく。
のろのろと手を伸ばしてみるも捕らえられるはずもなく砂は掌から零れ逝く。
月光と同じだ。
いかに風雅だと思いを寄せようともトッシュに掴めるものではなかった。

ふと見渡す限りの砂の絨毯を仄かに照らす光に陰りが生じる。

もはやろくに見えない目を凝らす。
視界は相変わらず霞がかったままだったが、ものにしたばかりの心眼が何とかその姿を捉えた。
月影に輪郭を描かれて、気の流れが人の形をなし幽かに浮かび上がってくる。

「よう、ゴゴ」
「……よう、トッシュ」

月を背負い見下ろしてくる影に手を伸ばす。
今度は掴めた。
傷に響かぬよう緩やかに引っ張り上げてくるゴゴの力を借りトッシュは半身を起こし胡坐をかく。
ゴゴが気絶したちょこを背負っているのが目に入り、もう一人の行方を尋ねる。

「アシュレーは、どうなった?」
「勝つ」

たった一言の短い返答。
それだけで十分だった。

「そうか」
「ああ」

いつまでも月を奪っていることに気が退けたのだろう。
ゴゴはトッシュの隣に腰を下ろし、膝を枕としちょこも地に寝かせ休ませる。

「何かして欲しいことはあるか?」

戦場で何度も耳にし、時には口にしたその言葉。
人間が使う最も重い定型句の意味をトッシュが誤解するはずがなかった。

トッシュは死ぬ。

もう間もなく。もしかしたら今すぐにでも。

「そうだなあ」

701――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:22:46 ID:4nGbyjws0

ちょこを頼むとはいう言葉を口にすることなく飲み込む。
ティナという人物の物真似だろうか。
友から託された少女の髪を優しげにすくうゴゴを見てわざわざ頼む必要がないと思った。
個人的な願いを優先することにする。

「酒。酒が飲みてえなあ」
「分かった」

とぽとぽと酒が注がれる音が聞こえる。
いい音だなと耳を澄ませる。
とぷりと、音が途切れた。

「あんがとよ」

ぎこちない動きで酒を受け取る。
月明かりを照り返す酒の水鏡は神秘的で、きらきらと輝いていた。
雅なもんだ。
骨を埋めたかったあの場所で飲むことは叶わなかったが月と砂漠を肴に酒を飲むのも悪くはねえ。
一気に飲み干すつもりで杯を口元まで持っていく。
風に温み豊かになった薫りが優しく鼻腔をくすぐる。
城に置いてあっただけあって申し分ない時代物のようだ。
ますます気をよくして念願の一口。
酒を口に含もうとして――そこで、止まった、止められた。
止まらざるを得なかった。

「待て。礼を言われるのはここからだ」

瞬間、世界が一変した。
寒色の空を優しい月明かりが包み込んでいく中、舞い散るは薄紅色の吹雪。
吹雪というには温かく、風雅で、見るものを捕らえて離さない、そんな美しさがあるそれは――花吹雪。
雪のように空を閉ざすことなく、故に月明かりを浴びることを許された桜の美しさは儚く気高いものだった。

「こいつあ……」

トッシュが知るどの景色よりも幻想的な光景に心を奪われる。
思わず感嘆の声を上げる合間にも、心地よい夜風に乗って桜の花びらが舞い降りる。
静かに、ふわりふわりと。
舞う花弁が数枚杯に落ちて、透き通る酒が波打った。
トッシュは我を取り戻す。

「どうなってんだ?」

砂漠のど真ん中にいきなり満開の桜の樹が現れたのだ。
驚かない方が無理がある。
不思議なことはもう一つ。
そもそもトッシュの目は一足先にあの世に踏み込んでいる。
最早色を区別などできようもないのにどうしてこうも鮮やかに桜の花の色を楽しめているのだろうか。

702――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:23:22 ID:4nGbyjws0

いや、そうか。
目が見えていないからこそか。

トッシュの中で合点がいった。
視覚が禄に働いていないからこそ、聴覚が、嗅覚が、触覚が、感覚が感じたものがリアルとして脳内に再生されているのだ。
桜がさもここにあるようなこの雰囲気が脳を騙し幻想の光景を見せているのだ。
誰の仕業かなど問うまでもない。
ゴゴだ。
幻術を使うでも魔術を行使するでもなく、月光を浴び咲き誇る桜の真似ただ一芸のみで一つの幻想の世界を構築して魅せたのだ。

ああ、そうだった。
こいつは心身の芯まで芯物真似師だ。
そのこいつが何かして欲しいことがあるかと聞いてきたのなら、それはして欲しい物真似があるのかということに他ならない。

トッシュが誰かのためにしてやれる唯一のことが斬ることならば、ゴゴが誰かの為にしてやれる唯一のことが物真似だ。
彼は成した。
ゴゴの問いの意味を汲んでやれなかったトッシュの返答をしかししかと受け止め最上の形で実現させた。
酒を呑みたいと願った友に、できうる限りで最高の酒が美味く感じる場を贈った。
物真似師として。
ただ物真似師として。

感嘆する。
物真似師のぶれない芯に、成した技にトッシュは舌を巻く。
同時に思う。
こいつは馬鹿だと。
酒を楽しく飲むのに一番大切なものを抜かしちまってどうすんだと。

「ゴゴ」

呼びかける。
月と、風と、砂と、桜に彩られた世界の中。

「どうした?」

声が返ってくる。
少女が夢見るすぐそばの誰もいない場所から。
完璧な物真似をしているが故に元となる存在の痕跡を綺麗さっぱり世界から消してのけている物真似師の声が。

「大切なもんが一つ抜けてるぜ?」
「……何?」

本当に分かっていないのだろう。
常のゴゴらしからぬ動揺した雰囲気が伝わってきてトッシュはおかしげに笑みを浮べる。
渡されたばかりの杯をゴゴなのであろう桜に向けて突きつけ返した。

「お前がいない。この世界には俺しかいない。
 一人で呑む酒もそりゃあ乙なもんだが気心の知れた誰かと呑む酒は最高だぜ?」

共に飲もうと。それがいっちゃんうめえんだと。
心身ともに桜の木になりきっている友へとトッシュは語りかける。

「そうか、そうだったな。俺としたことがもうろくしていたようだ」

703――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:23:53 ID:4nGbyjws0

ふっと世界に新たな色が加わる。
人一人分の気配が増える。
月と夜桜に彩られた宴の中に友が一人来訪する。

「すげえな。桜の真似をしたままかよ」
「これぐらい容易いことだ」

胸を張るゴゴにそうかよとトッシュが返し、また二人、同じ時を過ごしだす。
ゆったりと流れる時間にひやりと頬を撫でる風。
空想とは思えぬほどに命を輝かせる樹木に死にいく者と生き行く者は杯をかざす。
触れさせる訳でなくお互いに酒を揺らし、幻想の桜の花を眺める。

「トッシュ」
「ああ」
「桜は綺麗か?」
「たまげるくれえに」
「酒は美味そうか?」
「おうよ」
「俺は……お前の友になれただろうか?」
「あたりめえよ」

とりとめのない会話を交わす。
ただ仲間と共に居ることだけを味わう。
トッシュにとっては代え難い贅沢だ。
ずっと、奪われ続けた。
ずっと、失い続けた。
誰一人護れなかった。
それが最後には師の誇りにて仲間を救い友に見送られて逝くというのだから。

悪くは、ない。

目の前に杯が掲げられる。
同じようにトッシュも杯を掲げる。
二人、笑みを交し合い、今度こそ杯を口元に寄せた。
酒が口内を満たし、喉を通る。
冷たすぎないそれはほのかに甘いが嫌味はなく、寧ろ独特な苦味が重なって味わいに深みを持たせていた。

「ああ……」

ひらひらと桜が舞う。風が強くなったのか舞い手の数が増えている。
その光景にいつか見た景色が重なった。
トッシュにとっての桜の樹。
ダウンタウンでモンジや舎弟たち、街の人々に囲まれて酒盛りをしたあの樹と。
見れば幻想の世界にはモンジ達に混じってシュウやエルクやリーザ達もいた。
ナナミなんかゴゴの焼き蕎麦パンをばくばくとほうばっていて、隣ではリオウが困りがちな顔をして笑っている。
トッシュが今そうしているように。
誰も彼もが笑っていた。

何とも幸せな幻想を見たもんだ。
トッシュは一層笑う。
自嘲などではない本当の笑み。
未練たらたらだなとすさむのではなく気分がいいから笑うのだ。

残る酒を一気に飲み干し想う。

704――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:24:40 ID:4nGbyjws0
都合のいい夢を見たというならそいつは酒のせいだ。
たった一杯の酒に酔ってしまうっつうのもかっこわりい気もするがしかたねえじゃねえか。
だってよお、この酒は

「うめえなぁ」

本当にうめえんだから――


杯が落ちる。


風が吹く。


桜が散る。


炎が消える。



トッシュ・ヴァイア・モンジは静かに逝った。


【トッシュ・ヴァイア・モンジ@アークザラッドⅡ 死亡】


【G-3 砂漠 一日目 真夜中】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WA2、基本支給品一式)、焼きそばパン×4@現地調達
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:シャドウとトッシュより託されたちょこを護る。
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
※ティナの魔石の効果はティナがトランスした上で連続魔でのアルテマを撃つ感じです

705――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:25:14 ID:4nGbyjws0

【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)、気絶
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。

※魔剣ルシエド@WA2、天罰の杖@DQ4、基本支給品一式 が近くにあります

※ルカの所持品は全て焼失しました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2の施設、大地は焼失しました

706――トゥーソード  ◆iDqvc5TpTI:2010/07/09(金) 05:26:23 ID:4nGbyjws0
投下終了です
明日にでも自分でやるか代理投下お願いします
なにぶんつめこんだので誤字指摘もあれば喜んでお受けします

707修正 ◆jtfCe9.SeY:2010/07/14(水) 04:36:51 ID:uAZHIixk0
「……グッ……くっ……」

逃げていたジャファルだったが、積み重なったダメージによって思わず膝を突く。
ニノの攻撃が思いのほか身体にきていたようだ。
こんな所で、倒れてはいけない。
ニノを生かす為に、まだやらねばいけないのだ。
けれど、身体を動かそうにも動かない。
まだ、何も為してないのに。

そう、思った矢先だった。


「ケアルラ」

癒しの力が身体を少しだが癒していく。
身体に付いた傷が少し消えて、大分身体が楽になっている。。
ジャファルが驚き振り向くと其処には、銀髪の男が立っていた。

「例え、それがエゴだとしても、自分の信念、自分の意志を変えずにひたすらに突き進む者、進む事を止めない者、最後まで諦めない者……」

その男は笑いながら、ジャファルに語っている。
何か、納得したように。

「その者を、人は『勇者』と呼ぶのだろうか。ならば、お前は『勇者』に相応しいのかもな」
「お前は……?」
「セッツァー。ギャンブラーさ」
「そのギャンブラーが何故俺を助ける?」

ジャファルを勇者と呼んだセッツァーの行動がジャファルには読めない。
この男はヘクトルに与してたはず。
なのに、何故自分を助けるのだろうか。

「お前は、自分の手でその願いを、叶えようとしている。例えエゴと言われようとそれを止めない」
「……」
「自分を捨てる奴から見れば……こっちの方がよっぽどいいさ」

元々、限界を感じ始めていた。
自分の嘘がばれかけている事がヘクトルの解りやすい行動によって理解できたのだ。
そろそろこの殺し合いも終盤戦。新たに自分のみの振り方を考えなければならない。
その上で、ヘクトルの考え方にセッツァーは嫌悪感を示していた。
故に、ヘクトルについていくのは無理と思い始めた所に、ジャファルが現れた。
ジャファルの考えに、セッツァーは理解し、共感した所もある。
だからこそ、

「俺はこの殺し合いでお前と共に戦う事に賭ける! ベットするのは俺の命!」


今、ジャファルに全てを賭ける。

この殺し合いで最大の賭け。

彼が断れば、多少傷ついてるとはいえジャファルに勝てはしないだろう。
故に自分の命を賭けた、最大の賭け。



「伸るか反るか! どうする! ジャファル!」



そのセッツァーの言葉にジャファルは考える。
治癒していた事、そしてセッツァーが語る言葉。
全てを考え、そして。



「……乗った」



セッツァーは最大の賭けに勝ったのだ。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

708修正 ◆jtfCe9.SeY:2010/07/14(水) 04:37:49 ID:uAZHIixk0
「よし、こんなものだな」

セッツァーの声と共に、暫くの間続いた魔法が止まる。
ジャファルに堆積していた傷と疲れは、セッツァーの力によって大分回復していた。
ジャファルは腕を軽く回し、身体が十全である事を確認すると、既に次の行動を起こしていた。

「助かる。セッツァー、俺達は何処に行く?」
「そうだな……俺がどうやって行動していたか聞いてたよな?」

ジャファルは首肯し、少し前の話を思い出していた。
傷ついた身体の回復を行っていた間、少しでも時間を無駄にしない為にも情報交換を行っていたのだ。

そのセッツァーはジャファルがエドガーらしき人間を殺害したと聞いた時、驚いた。
驚いたと同時にこの男の強さも再び認識した、エドガーを殺せるような人間なのだ。相当な実力者である事には違いない。
エドガーが殺された、その事実は特にセッツァーを大きく動かす要素は無かった。
ちょっとした感傷はあったが、それまで。
何故ならば、セッツァーが今手に入れるべきは、大切な夢なのだから。
最悪自分の手で始末しなければいけない相手だった。
だからこそ、他人の手で死んだ事を幸運に思うべき。
そう、思って、セッツァーはエドガーの事を考える事をやめた。

今はそれよりも、夢をかなえるべきなのだから。


「……南から北上したと言ったな」
「ああ、東から来たというお前の行動も考えると、一つ提案がある」
「なんだ?」

セッツァーが思うにこの殺し合いは、もう既に後半戦に入っている。
殺し合いに乗る者、背く者どちらもかなりの数が減っているだろう。
その上で、自分達が勝ち抜く為に自分達が取るべき選択肢を考える。

「まず、もう無為な探索は止めだ。いくら行ってないとはいえ、今更南西の方向いってもしょうがないだろう?」
「ああ、そうだな」
「ならいっそ此処の周りをメインに動くとして……拠点を作らないか?」

そう、セッツァーが示したのは戦闘拠点だ。
殺しを行うにしても、何かしら休める場所、落ち合う場所があると非常に便利である。
それは殺し合いに背く者だけは無く、殺し合いに乗っているものも一緒だ。
例えはぐれたとしても、其処に行けばまた再びあえるだろう。
また、其処での篭城戦も可能である。
その事を、ジャファルもすぐに理解し、頷く。

「じゃあ、決まりだな」
「場所は何処にする?」
「……そうだな、まず北東の都合のいい位置にある座礁船に向かってみるか。それでどうだい?」
「構わない」
「よし、ならそれでいこう」


そして、進路は座礁戦へ。
二人の男は北に向かって駆け出していく。


そう、全ては


「さあ、叶えようじゃないか。俺達の夢を、願いを、な」


叶えたいものの為に、彼は歩みを止めず


――そして殺していく。

709修正 ◆jtfCe9.SeY:2010/07/14(水) 04:38:21 ID:uAZHIixk0
【C-7 北部 一日目 夜中】


【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:セッツァーと組む。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
3:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました


【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:絶好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)、
    シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣
    マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ、拡声器(現実)
    毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ジャファルと行動。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。

710 ◆jtfCe9.SeY:2010/07/14(水) 04:39:05 ID:uAZHIixk0
以上ジャファルとセッツァーの部分の修正版です。
確認の程、よろしくお願いします。

711SAVEDATA No.774:2010/07/14(水) 04:57:02 ID:jto66Yes0
修正お疲れ様です
確かに大乱戦で生き残りをだいたいは把握してるこいつらが今更探索するのもおかしいよなあ
しかし船かあ
松、よやくぼっち脱出だがはてさて……

712SAVEDATA No.774:2010/07/14(水) 07:04:16 ID:tA4ZHshw0
修正お疲れ様でした。
やっぱり冷静だな、この二人は……。
搦め手の怖さがよく伝わる、納得感の強い描写でした。

713SAVEDATA No.774:2010/07/14(水) 20:44:53 ID:XqcBATF20
◆jt氏修正乙です

流石というか何というか,2人とも冷静ですな
今後も怖い存在ですね.
松はどうなってしまうんだろう


さて,誤字などです.毎度毎度細かくてすみません

仮投下スレ
708 南西の方向いっても → 南西の方向へ行っても(或いは「南西へ行っても」)
   殺し合いに背くものだけは無く → 殺し合いに背くものだけでは無く
   進路は座礁戦へ → 進路は座礁船へ
   彼は歩みを止めず → 彼らは歩みを止めず

714SAVEDATA No.774:2010/07/14(水) 22:48:22 ID:uBNIVsUQ0
お疲れ様です

早くもメンバーカードと秘密の店がご対面か・・・
松はまだセッツァーの正体に気づいてないし状況は絶望的だけど
このまま死んだらいいとこ無しだからちょっと頑張って欲しいな

715 ◆MobiusZmZg:2010/07/18(日) 01:13:06 ID:I/mtESxw0
本スレでさるさんに引っかかってしまったので、以降のレスを投下いたします。
気付かれた方は、代理投下を行っていただけると助かります。

716いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:13:39 ID:I/mtESxw0
 そんな二人に対するアキラは、意識的な呼吸を数度繰り返した。
 アナスタシアにせよユーリルにせよ、言動をみるに難物といっていいだろう。
 そんな彼らに対して、アイシャのときのように、心を読み足りないものを補填してやれるのか。
 がむしゃらに戦うなか、様々なものを取りこぼし、いまや疲れきってさえいる自分が。
 知らなくても良かったであろう、ひとの心の裏側を知ってひねた自分が。

「出来ると、思うぜ。あんまり好きなやり方じゃねーが、なんとか……してみせる」

 そう思いながらも、ここに眠っているアイシャの生き様を思えば――。
 彼女と同じ場所に立っているアキラに、うなずく以外の選択肢など初めからなかったのかもしれない。
 加えて、《英雄》になる願いの裏に隠れていた彼女の強い望みこそが、背中を後押ししてくれる。
 口の端にのぼらせていたか否かの違いこそあれ、ユーリルについては彼女と同じ程度に望みが前面に出ていた。
 アナスタシアにせよ、ユーリルをあそこまで歪めたのかも知れない言葉をかけたのなら望みを読める望みはある。

 しかしながら、《英雄》のつぎに《勇者》がくるとは予想だに出来なかった。
 どうやらここでは、そうしたたぐいの言葉に縁があるらしい。

「いけるのかい?」
「ひとまずはな。ただ、いまの俺じゃあ間違いなく」

 格好をつけるべく口をつぐみかけて、やめる。
 意識を喪った者の体がいかに重いかくらいは、分かっているつもりだ。
 片方は非戦闘員、片方は敵対にかぎりなく近かったとはいえ、三人で二人を抱えるいま、ここに。
 いまのアキラがもつ最大の弱点に触れないでいては、笑うに笑えない結果を呼びうるのだから。

「あぁ。心を読んだあと……ひょっとしたら心を読んでる最中に、意識が落ちる。
 すまねぇ。情けねー話だが、ちょっとばかり力を使いすぎちまったんだ」

 アキラに出来ることといえば、困ったように笑ってみせることくらいだった。
 やせ我慢に他ならない笑みを見せるべく視線を上げれば、さみだる雨が泉に流れ込むさまが見える。
 ――アイシャのなきがらも、いま、同じ霖雨(りんう)をうけているのだろうか。
 気絶を避けるかのように、意識の間隙を埋めるかのような思考が止まない。
 ひとを降りそぼしてまだ足りないとばかりに手数の多くある雨滴と同じように、止むことがない。

「まったく……前途多難、だね」

 考えているようで、そのじつぼんやりしているのと変わらない思考を読まれたか。
 ほんの少しの棘を交えた口調にため息を交えて、イスラが雨の向こうを見やる。

「ストレイボウさんたちも、無事だといいんだけど――」

 ユーリルから少し遠い場所にアナスタシアを横たえたジョウイも、イスラと逆の方向につづく。
 彼らのあいだで二択をせまられたアキラは、第三の方角――。


 何者かの心を映したかのように晴れない雨をもたらす雲に、しいて視線を持ち上げた。

717いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:14:55 ID:I/mtESxw0
【C-7橋の近く 一日目 夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(極大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:ジョウイの言葉が、許せない
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(極大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える。可能ならばユーリルかアナスタシアの心を読む
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。

718いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:15:31 ID:I/mtESxw0
【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。

【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾


【C-7中心部 一日目 夜中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、MP0、人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:ロザリーを弔う
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。


【やぎのぬいぐるみ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
ギア(アクセサリー)の一種。致命に至る一撃から、一度だけ復活することが可能となる。
ただし、装備者の身代わりになったぬいぐるみは失われてしまう。


 ×◆×◇×◆×

719いきてしんで――(ne pas ceder sur son desir.):2010/07/18(日) 01:16:52 ID:I/mtESxw0
【7】










          ――――この袋小路からの抜け道を提供するのが「外的反省」だ。
          外的反省は、テクストの「本質」「真の意味」を到達不可能な彼方に
          追いやり、それを超越的な「物自体」にする。有限の主体であるわれ
          われの手に入るものはすべて、われわれの主観的視野によって変形
          された歪んだ反映であり、一部分である。<物自体>、すなわちテク
          ストの真の意味は永遠に失われているのである。










 ×◆×◇×◆×

720 ◆MobiusZmZg:2010/07/18(日) 01:17:36 ID:I/mtESxw0
以上で投下を終了します。
問題点や矛盾点、ご意見ご感想など、お寄せいただけると幸いです。

それと、下手すれば誤解を与えるかもしれないので一点のみ。
【0】【7】の惹句は、いずれもスラヴォイ・ジジェク著『イデオロギーの崇高な対象』に拠ります。
本文中に引用の表記を行ってみると衒学的にすぎる印象になっちゃったので、代わりにここで。
自分のオリジナルでないと分かるのが肝要なんで、wiki収録時にも元ネタのページあたりに明記しておきます。

721ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:15:46 ID:SZkbz1o20
お待たせしました、規制中もあってこちらで投下します

722SAVEDATA No.774:2010/08/12(木) 22:35:06 ID:SZkbz1o20
止まない雨が降り注ぐ中、二人の男が倒れていた。
片や気絶、片や絶命。
同じ“絶”の字を冠していながらも二つの言葉の持つ重みには天と地の差があった。
ブラッド・エヴァンスは死んだ。
襲撃者との戦いの中、果てた。

だが。
襲撃者の片割れにして魔王と組んでいる男、カエルは断言する。
勝ったのはブラッド・エヴァンスだ、と。

その証拠にどうだ。
今自分は押されている。
一度は三人がかりで向かってこられてさえ優勢に立つことができた夜の王に。
魔王との実力差を目の当たりにし膝をついたはずの魔道士に。
完膚なきまでに押し負けている。

「うあああああああああああああ!」

ストレイボウが“斬り込んでくる”。
魔道士たる身でありながら剣を手にし死んだブラッドの代わりに空いた前衛をこなさんと必死に食らいついてくる。
隠しようもない恐怖をグレートブースターによる強引な戦意高揚効果で押し切って。
脚を震わせ、剣を震わせ立ち向かってくる。
そのさまをどうして無様だとカエルに笑えようか。
かってカエルは自らを護り死んだ友から逃げた。
ストレイボウは逃げなかった。
みっともない姿を晒してでもブラッドが残した勇気を受け継ごうと手を伸ばし足掻いているのだ。

「ぐっ……」

強化魔法がかけられていることを差し引いても我武者羅に叩きつけられる剣のなんと重いことか。
ああ、そういえば。
この剣はストレイボウの様子からすればカエルにとってのグランドリオンのようなものだったではないか。
ならばその剣を手にしていること自体がストレイボウの覚悟の現れだ。
自らへの嘲りを込めて握った魔剣如きで押し返せるわけがない。
そもそも持ち主を選ぶ類であるこの魔剣は眠りについたままで、木刀にも劣っているのだから。

「まだだ、まだわらわ達の攻撃は終わっておらんぞッ!」

ストレイボウの突撃に負けた身体が幾多もの火球に狙い撃たれる。
体勢を崩された身では跳躍して回避することは困難。
かといって魔法に頼ろうにも、今は魔力を封じられた身だ。
打つ手なし。
大人しく我が身を穿つ魔法を耐え忍ぶしかない。
両腕を交差させ、炎に備え、

「ぬう!?」

723ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:35:59 ID:SZkbz1o20

そこに追撃が迫る。
あろうことかストレイボウに続きマリアベルまで前線に踊りでてきたのだ。
否、それは躍り出たなどという可愛いものではなかった。
投げ込んできたと称すべき乱暴極まりないものだった。
怒りのリングに隠された秘技、仲間ではなく自身を砲弾と化し投じる荒業によって一瞬にして距離を詰めたのだ。
そしてマリアベルの手にもまた一本、剣が輝いていた。

「でえいッ!」

ソウルセイバー、魂食いの剣。
ブラッドが指揮した先の持久戦時にマリアベルはその効果を正しく理解していた。
故に躊躇することなくファイアボルトの連撃により緩んだガードの隙間からカエルへと突き刺す。
たちまちカエルを襲うのは痛みではなく虚脱感。
その隙にとマリアベルが催眠呪文を唱えようとしていることを察知。
間一髪、覚悟の証たる傷を自ら拡げ、意識を覚醒させてマリアベルをはねのける。

「――潮時か」

吹き飛んだマリアベルを駆けこんできたストレイボウが受け止める中、カエルは勝つことに見切りをつけた。
このまま戦ったところでまず本願を達することは不可能だ、と。
マリアベルとストレイボウには勢いがある。
仲間ひとりの命と引き換えにして得た好機だ、それこそ命を賭けてでも掴みに来る。
対するカエルには勢いがない。
彼にしても何としても叶えねばならぬ願いはあるが、しかし、その願いを叶えるためには彼が生きていなければならない。
我が身を優先しなければならない現状、どうしても決死には届かず、勢いに劣ってしまうのだ。
加えてもし術師二人に勝てたとしても。
ストレイボウ達にはまだジョウイを初めとした仲間がいる。
北方での戦闘が収まったことは既に察知済みだ。
あれだけ激しく聞こえていた剣閃の音も、天を脅かす雷鳴の光も消えた。
殺気立った空気が霧散していることからも勝ったのはジョウイ達の方なのだろう。
混戦時に目にした彼らの戦いぶりからも、魔法を封じられた現状ではカエルに勝ち目はない。
であるならストレイボウ達を殺してジョウイ達を煽り説得の通じない討滅対象と見なされるわけにはいかない。

724ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:36:32 ID:SZkbz1o20

「結局のところ敗因は後を託せる仲間がいたかどうか、か。
 自ら斬り捨てておきながらざまあないぜ」

腕から力を抜き、カエルは剣をマントに収めた。

「カエル……? 話を、聞いてくれる気になったのか?」

臨戦態勢を解いたことを訝しみながらも、喜色を隠せずにはいられないストレイボウにカエルは首を横に振る。
違う、そうではない。
単に勝てないと悟ったから。
ここで死ぬわけには、または戦う力を奪われるわけにはいかなかったから。
それだけだ。
どころかストレイボウが己に抱いてくれている友情を、殺されないという確信を利用してこの場より逃げようとしているのだ。
堕ちたものだと嘲りながらもカエルは一跳びで魔王の元へと跳躍する。
こちらが武装解除したことで僅かに戦意を収めたマリアベルが再度呪文を唱えるよりも早く、カエルは“それ”を手にした。
魔鍵ランドルフ。
魔王曰く異世界への道を拓くことさえ可能な空間を操る魔具。
カエル達が逃げおおせるための文字通りの鍵。

「ランドルフ……? そうか、そういうことか。無駄じゃ。今、お主の能力は封じられておる」
「覚えておけ。魔王は抜け目のない男だ。こんなふうにな」

ランドルフは時に主の命なくして主を強制転移させるなど自立行動が可能である。
そのことを見抜いた魔王はランドルフに緊急脱出用の空間転移プログラムを施していたのだ。
追い詰められた時ようの術式だけあって、術者の魔力に頼らずランドルフ単体で転移は発動できるようになっている。
パワーシールであろうとアイテムの使用は制限できない点も突いた最上の脱出手段であった。

とはいえ欠点がないわけではない。
魔王自身が使えばもう少し自在に転移先を選べたであろうが、カエルにはそんな器用なことはできない。
せいぜい事前に設定された転移先――魔王が唯一立ち寄ったランドマークになる施設に跳ぶことが精一杯だ。
その転移先とは、

「F-07エリアの遺跡とは名ばかりダンジョン。その地下深くにてお前達を待つ」

言うが否やカエルはランドルフを掲げる。
待てと呼び止めるはマリアベル。
キルスレスのことも含め、人殺しの意思があるままカエル達を逃がすわけにはいかない。
武力行使によって止められないのであれば、言葉により逃走を思いとどまらせる他なかった。

725ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:37:07 ID:SZkbz1o20
「よいのか? わらわ達の目的はあくまでもオディオの討伐。
 待ちぼうけをくらってるお主達をほっぽりだして先にオディオめを倒してしまえば魔王はともかくお主と戦う理由はなくなるぞ?」

こちらを挑発するようにニヤリと笑うマリアベル。
真理だ。
魔王はともかくカエルにとっては願いを叶えてくれるオディオが倒されたとあっては無為に命を刈り取ることはできまい。
茫然自失と崩れ落ちるか、以前のように酒に逃げるか。
我ながら碌でも無い未来しか想像ができなかった。

だからそのような未来にならないよう挑発し返す。

「それは困るな。だがお前達は遺跡に来ざるを得ない」
「……なんじゃと?」

カエルはランドルフについて説明を受けた時に忠告してきた魔王の言葉をそのままマリアベルに伝える。
曰く、遺跡の最下層には恐ろしい何かがあると。

「何かとは何じゃ」
「さてな。生物だか無機物だかも分からん。しかしあいつは言っていた。
 自分をも上回る魔力を感じたと。信じられんことだがあの男がそう言うのなら事実なんだろう。
 そして魔王を上回る魔力の持ち主がそうそう居るとも思えん。
 いるとすればピサロと呼ばれていた男のように魔王同様に魔の王の称号を冠する者……」
「まさか!?」
「流石に本人だとは思っていないが、無関係とも思えんだろ?」
「……」

マリアベルが押し黙る。
それを無言の肯定だとカエルはとった。
これでいい。
これでストレイボウだけでなくマリアベル達もカエル達を追撃せざるを得ない。
こちらはそれを待ち構えていればいい。
地の底深くで傷を癒し、或いは罠さえ張り巡らせ、待っていればいい。

起動したランドルフが宙に浮く中、カエルは魔王を背負いストレイボウ達に背を向ける。

「カエル!」

その背に届けと発せられる声があった。
転移を思いとどまらせるためではない。
これまでのように自分の想いのみを投げかける言葉でもなかった。

「せめて教えてくれ! 全てを守る戦いを優先するとお前は言っていたな!
 お前は、お前は何を護ろうとしているんだ! 頼む!」

友の抱く想いを、友の秘めた想いを知って力になろうとしての言葉だった。
カエルは僅かに間を置き、それでもワームホールに飛び込みながら振り向くことなく答えた。

「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」

726ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:37:57 ID:SZkbz1o20







ブラッド・エヴァンスは灯火だった。
死だの罰だのを言い訳に諦めかけていたストレイボウに諦めるなと言ってくれた。
広く視野を持てとも、自分の意思を打ち立てろとも。
そして死んでいった。
自らの意思で、人を導き、仲間を護り、仲間の仇を討って死んでいった。

ああ、そうか。

ストレイボウはその死に様を、否、マリアベルの言うところの生き様を目にしようやっと馬鹿な加害妄想から脱することができた。

何が生きているだけで他の人間が死んでいく、だ。
巫山戯るな。

ブラッドが死んだのは他の誰のせいでもない。
ブラッドが自らの意思を貫き通した結果だ。
俺が、ちっぽけな俺ごときが、あの大きな男の生き死にを曲げることなどできるものか。

ストレイボウは自覚する。
結局はあの頃と変わっておらず自分のことしか見ていなかったのだと。
世界を自分中心にしか考えず、良いも悪いも他人のことも全て一方的にしか見ていなかったのだと。

広い視野で世界を見ろとはそういうことか。

思えば自分はカエルのことを何も知らない。
何も知らずに盲信して、いや、単に二度と友と戦いたくないという自分可愛さから剣を収めてくれと言い募るばかりだった。
何故と、どうして急に殺し合いにのったのかも、一度たりとも聞こうとはしなかった!

727ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:39:46 ID:SZkbz1o20

カエルが話を聞いてくれないのは当たり前ではないか。
他でもないストレイボウ自身がカエルの話しを聞こうとしていなかったのだから。
否、もしかすればそれはもっと質の悪いものかもしれない。

ストレイボウは思い至る。
自分の弱さに。
聞こうともしなかったのではなく聞きたくなかったのではと。
核心に迫る問いを投げかけることで得た返答が、カエルを引き戻せないと納得してしまうほどの力を持つものであることを恐れていたのではと。

馬鹿馬鹿しい話だ。
納得出来る理由があれば退いたと?
説得できないと分かれば辞めていたと?

そんな、そんな半端な想いで自分はカエルに対峙していたのか。

許せなかった。
諦めることをよしとしていた臆病な自分が許せなかった。
変わらなければならない。変わるんだ!
これまで何度も抱いた想いに行動を伴わせるべく、マリアベルに頼み身体強化を施してもらい前に出た。
覚悟の証としてブライオンも鞘から抜いた。
全てはカエルの声を聞くことの先である、カエルの心に触れるために。

なのに。

「国のためだ。友が護ろうとし、俺が愛したガルディアをなかった事にされないためだ」

ストレイボウはカエルの心中を知り早速後悔してしまった。
他の如何な理由でもここまで彼を動揺させはしなかっただろう。
だが、これだけは駄目だ。
この意思に対してだけはストレイボウは掛ける言葉が見つからなかった。
止めていいのかも分からなくなってしまった。

カエルが振り向くことなく消えて行ったのはストレイボウにとっては悲しいながらも幸いだった。
後悔と罪と絶望に彩られた顔を見せずにすんだのだから。
何よりも。
ストレイボウはカエルに合わせる顔がなかった。
友を騙し、王を殺させ、一つの国が滅ぶ原因を産み出したストレイボウには。

728ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:40:30 ID:SZkbz1o20
ブライオンが重い。
勇者の剣が元・魔王を責め立てるように手から零れ落ちる。

「くっ、ぐっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……っ!」

かって犯してしまった罪。
その罪を悔いているからこそ、カエルに殺し合うのを止めてくれという国を救うなと同義のことを訴え続けられるか分からなくなってしまった。
これまであれほど軽く吐き続けていた言葉のカエルにとっての重さを知り、ストレイボウは天へと絶叫する。
天は応えを返してはくれなかった。
ぽつぽつと雨を返すのみだった。
当たり前だ。
答えはストレイボウ自身の手で見つけ出せねばならないのだから。







ストレイボウは気付かない。
自らの罪とカエルのことに気を取られるあまり、マリアベルが自身以上に絶望を湛えた目でストレイボウを見つめていることに。

マリアベルは気付いてしまった。
どう足掻いてもストレイボウに待ち受けているのは悲劇だけだということに。

729ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:41:49 ID:SZkbz1o20
きっかけは些細なことだった。
カエルが去り際に発した言葉、そのある部分がどうしても頭に引っかかったのだ。

愛した国を“なかった事にされる”? どういうことじゃ?

これが単に愛した国を護るため、というのであれば疑問を抱きはしなかったであろう。
カエルは騎士だ。
祖国に危機が迫っているというのなら魔王オディオに縋りついてでも救おうというのは許容はできないが忠義の形としては納得出来……否。

マリアベルは思い直す。
そうだとしても変じゃなと。
ストレイボウ曰くカエルは最初はオディオを倒す気でいた。
もしカエルの祖国が危機に瀕していたとして、それはこの島に呼び出される前のことだ。
であるなら初めから殺し合いにはのっているべきだ。
願いを叶えてくれるオディオを倒そうとは思いもしないだろう。

それともオディオを倒すというのは演技じゃったか?

違う。
マリアベルは即座に否定する。
カエルはそういった嘘をつけるほど器用な男には見えない。
カエルの危険性を見抜いてたシュウには悪いが、少なくともあの時点では殺し合いにはのっていなかったと断定できる。
転じてそれは次にカエルと会い襲われるまでの間に彼の心境を変える何かがあったということ。

その何かとは?

ストレイボウの話では少なくとも彼の元をカエルが去った時点では殺し合いにはのっていなかったらしい。
その時ストレイボウが襲われていないのが何よりの証拠だろう。
つまりはその何かが起きたのは彼らが別れた更に後。
その条件に当てはまるものとして真っ先に思い浮かぶのはただ一つ。

放送だ。

カエルに初めて襲われた時、カエルが一人だったことからも現在組んでいる魔王に唆された線は薄い。
十中八九放送で誰か、国を護るというからには例えば王族が死んだのだろう。
名簿を確認した時のカエルの反応も護るべき王の名がそこにあったというのなら頷ける。
頷ける、が、恐らくはそれは正解の半分程度でしかない。

730ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:47:38 ID:SZkbz1o20

けれども。
まだましだ。
解決策がどれだけ気に食わないものであっても存在しているだけまだましだ。
カエルには、本人がどれだけ自分を許せなくなっても救いがある。
ストレイボウには、それがない。

――のう、ストレイボウ。わらわはこの推測をお主に伝えるべきじゃろうか?

歴史に起きた綻びをそのままにしておけば、過去の改変によりカエルは近いうちに消滅する。
“なかったことにされる国”に生まれたカエルは“なかったことにされる人間”として確定してしまう。
説得が成功した時、つまりはカエルが歴史の修正を断念した時。
それはストレイボウが自らの意思で友の存在を否定してしまうということになるのだ。

「笑えない、全くもって笑えない話ではないか。本当にカエル達を無視できればいいのじゃがのう……」

それが何の解決にもならないと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
叫び続けるストレイボウに釣られてマリアベルも夜空を見上げる。
零時が近づいたことで雨は小雨になり、ようやっとふりやもうとしているも、マリアベルの心は晴れそうになかった。




【C-7(D-7との境界付近) 一日目 真夜中】
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)※ただし魔力はソウルセイバー分回復済み、ダメージ(中)
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFⅥ、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:ストレイボウに残酷な推測を話すか否か。
2:ひとまずはイスラ達との合流。後、キルスレスの事も含め、魔王達を追撃?
3:付近の探索を行い、情報を集めつつ、元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
4:首輪の解除、ゲートホルダーを調べたり、アカ&アオも探したい。
6:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。 アナスタシアに渡したいが……?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。 レッドパワーはすべて習得しています。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)

731ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:49:41 ID:SZkbz1o20
すみません、729と730の間に欠落があります。
次の732を本投下時は間に挟んでください

732ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:50:15 ID:SZkbz1o20

マリアベルは思い出す。
名簿を見てひどく動揺していたカエルの表情を。
あの時は恋人の名前だとかトンチンカンなことを考えていたが、数時間前の自分を鏡で写してみてみろといってやりたい。
自分だって名簿を手にした時、何故、どうしてと訝しんだではないか。
亡き友の名を、“数百年も昔に死んだはずの友”の名を目にして慌てたではないか。

そう、数百年も前の。

カチリ、カチリとピースが当てはまっていく音がする。
カエルの言葉、名簿を見た時の彼の動揺、時を越えて存在する友人。
それらの要因を合わせてマリアベルは一つの推測を導き出す。
カエルが叶えたい願いとは即ち

“この殺し合いに巻き込まれて死んでしまったカエルの仲間であった遥か昔の王族、或いは救国の英雄を蘇らせること”

これなら全ての辻褄が合う。
過去の人物を仲間と呼ぶのは普通の人間には矛盾にしているように思われるが、考察主は不死の王。
マリアベルは自分同様カエルもまた不死者なのではと考えたのだ。
もちろん真実は違う。
カエルが過去の人間を仲間だと言ったのはとっさのでまかせではない事実であるが、彼らが時間を超えて旅をしていたからだ。
しかしここではそんな些細な勘違いは重要ではない。
大切なのはカエルが蘇らせようとしているのがマリアベルで言うところのアナスタシアだということだ。

例えば、例えば、だ。
あのアナスタシアがロードブレイザーを封印する前の時間から呼び出されており、しかも死んだとすれば?
言うに及ばず。
ファルガイアの歴史は変わる。
封印されることのなかったロードブレイザーにあらゆる命は蹂躙され、星は滅び、アシュレー達は生まれてこない。
これが現在に迫っている驚異なら良かった。
ブラッド、カノン、リルカを欠いたといえどマリアベルはアシュレーやティム、多くの仲間達と共に危機を乗り越えようと諦めることなく戦っただろう。
しかし既に過ぎ去った過去の危機が相手ではそうはいかない。
いかなノーブルレッドといえど干渉すること能わず、過去の改変より滅びを待つしかない。

カエルが直面している問題とはそういうものなのだ。
時も生死も超越できるかもしれないオディオの手を借りねば解決できない問題なのだ。

733ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:51:33 ID:SZkbz1o20


【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
 遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
 また、遺体付近に以下のものが落ちています。
 ・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
 ・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
 ・不明支給品0〜1個、基本支給品一式





734ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:52:17 ID:SZkbz1o20


【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:健康、疲労(大)、心労(超極大)、自己嫌悪
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエルを止めたいが、俺なんかに止める資格のある願いなのか?
2:戦力を増強しつつ、ジョウイと共に北の座礁船へ。
3:ニノたちが心配。
4:勇者バッジとブライオンが“重い”。
5:少なくとも、今はまだオディオとの関係を打ち明ける勇気はない。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません


※C-7(D-7との境界付近)にブラッドの遺体があります。
 遺体はドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI を握りしめており、にじ@クロノトリガーが刺さっています。
 また、遺体付近に以下のものが落ちています。
 ・昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
 ・リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
 ・不明支給品0〜1個、基本支給品一式





735ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:52:51 ID:SZkbz1o20
「魔王が警戒したわけだな……」

遺跡ダンジョン下層、地下五十階玉座の間。
ランドルフの転移によりこの地に踏み入った瞬間、カエルは眉を潜めた。
手にしていたキルスレスが独りでに震えだしたのだ。
まるで地下の何かに反応するかのように。
鮮血のように紅い刀身を更に鮮やかに輝かせ、鳴動すること収まらない。

「魔王が言う何かとはこの魔剣に関するものなのか? ……或いは」

魔剣に認められていないカエルだが、たった一つだけキルスレスについて分かっていることがあった。

「魔剣が反応せざるを得ないような巨大な思念が渦巻いているか」

それはこの剣もまた人の精神や意思に影響されるものだということ。
仮にも聖剣グランドリオンの担い手。
聖剣との共通点であるその性質を見抜くことは容易かった。

「む?」

と手にしていた剣から伸びた光がカエルを包むや否や、身体の中で魔力の滾りが再活性化する。
どうやらマリアベルにかけられていた能力封印が解けたらしい。
どころかケアルガを使ってもいないのに徐々に、本当に徐々にだが傷が癒えていく。
原因がこの心臓が脈打つように鼓動する真紅の光にあることは間違いなかった。

「そういうことか」

カエルは得心がいき、魔剣を一度大きく振るう。
予想通りストレイボウ達との戦闘では起きなかった衝撃波が発生し、巨大な玉座を吹き飛ばした。
どうやら地下の何かの影響でこの地では限定的ながらもカエルにも魔剣の力を引き出すことができるらしい。
もっとも同系統の武器を使い慣れてたカエルだからこそ魔剣の膨大な力を制御しきれたのだが。

「どうやら俺にはつくづくこの剣がお似合いらしい」

自嘲しつつも魔王を地に降ろし、回復呪文をかけようとしてふとそれが目に入った。
階段だ。
キルスレスで吹き飛ばした玉座の下に隠されていたのか、はたまたその衝撃がスイッチとなり隠し階段が姿を現したのか。
どちらかは分からないがついさっきまではなかった階段が確かにそこにはあった。
カエルは魔王の治療を中断。
一人魔剣を手に階段を下り、地の底へと降りていく。

その終着点にそれは鎮座していた。

736ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:53:40 ID:SZkbz1o20

「これは……虹色の貝殻? いや貝じゃねえ、石だ」

巨大な、あまりにも巨大な虹色に輝く石。
カエルは知る由もないがこれこそが感応石。
殺し合いの参加者を首輪の楔から解き放つ為に破壊を必須とされているそれ。
加えて、カエルの手には同じく首輪解除の鍵となる紅の暴君。

マリアベルの願いは届かない。
決戦は避け得なかった。



【F-7 遺跡ダンジョン最下層 一日目 真夜中】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(やや大)、疲労(大)、自動微回復中
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:出来る限り殺す。
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
※キルスレスの能力を限定的ながら使用可能となりました。
 開放されたのは剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚のみです。
 遺跡ダンジョン最下層からある程度離れると限定覚醒は解けてしまいます。


【F-7 遺跡ダンジョン地下五十階 一日目 真夜中】
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、瀕死、気絶
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[備考]
※参戦時期はクリア後です。ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。


※F-7 遺跡ダンジョン最下層に巨大な感応石が設置されています。
 尚、オディオの手で感応石に何らかの仕掛けがされている可能性や、他にも何か設置されている可能性もあります

737ハッピーエンドじゃ終わらない  ◆iDqvc5TpTI:2010/08/12(木) 22:54:57 ID:SZkbz1o20
投下終了
間の欠落といい、ストレイボウの状態表重複といい、ミスが多くて申し訳ありません
できればスレ立て&代理投下時に直しておいていただければありがたいです

738 ◆iDqvc5TpTI:2010/08/14(土) 17:42:48 ID:wAzuxsNM0
スレ立ての人及び代理投下してくれた方、ありがとうございました

739 ◆iDqvc5TpTI:2010/10/06(水) 18:45:05 ID:.zh9cZb60
闇からの呼び声の冒頭及び最後の部分、加えて指摘されたました誤字などの修正完了しました

740 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:17:13 ID:NGITva2Q0
こちらに続きを投下します

741 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:19:08 ID:NGITva2Q0
     ◆



「――――ほう?」

一方、湧き上がる破壊衝動を万物を溶かす焔へと変えて吐き出したロードブレイザーは、さしたる疲労もなく為した破壊の痕を見る。
島を東に貫いた粒子加速砲は、地表面に存在する全ての形あるモノを灼き払っていった。
焔の災厄と呼ばれていた全盛期からは程遠いが、それでも人を屠るには十分すぎる力であった。


だと言うのに。


「さすがは我が宿敵……いいぞ、そうでなくてはなッ!」

ロードブレイザーの魔眼は、溶けた大地に這い蹲る――しかし五体満足の英雄の姿を見出した。
その手には殊勝にも蒼い魔剣が握り締められている。
身体を灼かれながらもたった一つの希望を守り通すことには成功していたらしい。
笑声を漏らし、ロードブレイザーはゆっくりと彼に近づいていく。
飛ぶのではなく歩く。絶望を刻むように、砂を蹴立てて。

「く……う、うう……」

「正直、驚いたぞ。その小賢しい剣ごと消し飛ばしてやるつもりだったが、まさか耐え抜くとはな」

どうやって難を逃れたか、見当は付く。
直撃の瞬間、アシュレーは連続して氷結魔法を発動していた。
もちろん蒼剣の補助なしに発動した魔法では粒子加速砲を防ぐ盾には成り得ない。
アシュレーの狙いは空中に足場を作ること。それらを蹴り跳び、光輪の噴射と合わせて焔の軌跡から逃げ延びたのだ。

だが、それでも無傷ということは有り得なかったようだ。
身を包んでいた聖衣は半ばほど焼け落ち、無残な傷痕を夜気に晒している。
呼吸は弱々しく、指先は痙攣を繰り返す。
脅威が間近に迫っても立ち上がれもしない。

742 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:20:28 ID:NGITva2Q0
死線の底でかろうじて掴み取った果てしなき蒼は魔神によって蹴り飛ばされ、アシュレーの手を離れていく。
決着の瞬間――因縁の終わりがやってきたことを、ロードブレイザーは感じていた。

「思えば長かったな。剣の聖女から続く我らの戦いも……ここが終局だ。物悲しさすら感じるよ、アシュレー」

ナイトフェンサーを顕現させる。
油断はしない。なんとなれば、アシュレー・ウィンチェスターという男の真価は追い詰められたときこそ爆発するのだ。
全力を以て屠ってこそ、かつて自身を育てたこの男の恩に報いるというもの。


「心臓を抉り出し、喰らってやろう。私の血肉となるがいい……ルカ・ブライトと同じように」

「ま……だ、だ……ッ!」

「剣もなく、立ち上がることもできん。お前はよくやったよ、アシュレー」


いかに剣の英雄だとて、首を落とさば生きてはいられまい。


「さよなら、アシュレー・ウィンチェスター」


ナイトフェンサーが閃き、アシュレーの首を一刀の下に斬り落とす。
落ちて消えるが、儚き人の定めである。

「…………は」

重い肉塊が砂を散らす。
ロードブレイザーは傲然とソレを見下ろしていた。

743 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:23:31 ID:NGITva2Q0

「なん……だと……?」

肩から斬り落とされた、己自身の片腕を。


「が……がああああッ! ば、かな……ッ!?」


ロードブレイザーの前に、一振りの剣がある。
果てしなき蒼、ではない。
遥か南の地にあるはずの、いるはずの、


「ルシ、エド……?」


ガーディアンブレード・魔剣ルシエドが、純然たる敵意と共にロードブレイザーと相対していた。


「貴様……欲望の守護獣! 何故動ける!? 宿主はここにいたというのに!」

ルシエドはずっとアシュレーの裡にいた。だからこそ彼の呼びかけに応え剣となって顕現した。
だが、魔王の影響下にあるこの島では、一度剣として顕現させたのならそれはアシュレーの内的宇宙とは切り離された状態ということだ。
手元になければ呼び戻すことはできない。
またルシエドは唯一実体を保てる守護獣であるが、欲望を糧にするがゆえに他者の欲望が無ければ自ら動くことはできない。
ルシエドを戦力として数えたいのならばアシュレーがその場に行き命じなければならないはずだった。
だからこそ脅威として認識しつつも、この戦いの中でさほど気に留めていなかったのだ。

影狼は黙して語らない。
ただ、己を握る主の命を待つのみ。


そして、ロードブレイザーにはわからずとも。

アシュレー・ウィンチェスターにはわかる。わかっている。


ルシエドがここに来た理由を。
ルシエドがここに来れた理由を。
今、ルシエドが己に何を望んでいるのかも。


ハッキリと、わかっている。

744 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:28:11 ID:NGITva2Q0

「ああ……そう、だ……」


そして……、立ち上がる。

ロードブレイザーが最も恐れた男が、
人の身でありながら魔神へと食い下がる男が、
もはや死泉に腰まで浸かっている、放っておけば遠からず死に至る、そんな状態だというのに、


アシュレー・ウィンチェスターは、何度だって立ち上がる。


「どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!」


アシュレーは相棒たる剣を引き抜いた。
その掌には、蒼く輝く絆の証。


「いっしょに……戦っているんだッ……!」


ロードブレイザーが最も嫌う命の輝き、繋がり拡がる想いの糸。
その糸を手繰った先に、きっと、いてくれるのだ。




「そうだろ――ゴゴッ!!」




『当然だ』




応えた声は、物真似師のもの。
アシュレーの握り締める感応石が、遠く離れた友の心を届けてくれる。

745 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:30:21 ID:NGITva2Q0
     ◆


幾重もの衣で素顔を隠すその人物は、あるいは泣いていたのかもしれない。
今……友が逝った。
はたして彼は、辿り着きたい場所へ、辿り着けたのだろうか。


安らかな顔で、眠るようにトッシュは逝った。


ゴゴはその男の胸元へ、携えていた剣をそっと置いた。
トッシュは剣士だ。ならば、死出の道行にも剣が無ければ締まらないというもの。もう、ゴゴにしてやれることはこれくらいだ。
視線を転じ、昏倒したちょこを見やる。
トッシュの元々の仲間だと言う少女は、トッシュの死を知れば泣くのだろうか。
涙を知らないゴゴはどこかそれを羨ましいとさえ感じていた。


遠く離れた地で、アシュレーが戦っている。しかしゴゴに成す術は無い。
無論今すぐにでも駆けつけ共に戦いたいという想いはある。
だがちょこを置いて行く訳にはいかないし、身体の疲労も無視できない。
なにより、行ったところで何ができると言うのか。


英雄と魔神の戦いに、物真似師が介入する余地はどこにもない。


それを知っているから――握り締めた拳から血が滴るほどに痛感しているからこそ、ゴゴは動かない。
友の勝利を信じるしかない歯がゆさを噛み締めながらも、動けない。

「アシュレー……」

心をリンクさせる石を胸に、ゴゴは祈る。
石を通じてアシュレーの苦境は伝わってくる。
痛み、苦しみ、それらを圧する勝利への意思。

だが敵の力は強大だ。直に対面していなくてもわかる。
アシュレーは今、破壊の力そのものと戦っている。

時折り空を照らすあの光はどちらが放ったものか。
紅蓮が空を焦がすたびに友の無事を願い、蒼光が煌くたびに安堵する、その繰り返し。
ロードブレイザー、かの魔神の力は三闘神にすら匹敵するのではないか。
そんな化け物へ、友はたった一人で挑んでいる。

746 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:32:39 ID:NGITva2Q0
「……無力だ、俺は」

呟く言葉にも力はない。
そのときゴゴははっと顔を上げた。
アシュレーのいる場所からまっすぐ東へ、太陽と見紛うほどの朱金の灼熱が駆け抜けていくのが見える。
同時、感応石から伝わるアシュレーの石がひどく弱まった。

「アシュレー……!」

決着が着いたのかもしれない。
だが、あの攻撃を放ったのは十中八九ロードブレイザーだ。
あんなものを受けたのなら、いかに聖剣の加護があろうとも……。

「……助けなきゃ」

無駄と知りつつそれでもなお救援へ向かうか。
半ば本気でそれを考えていたゴゴの耳を、涼やかな声がくすぐった。
振り向けば、ちょこが目覚め立ち上がろうともがいている。
が、やはり連戦のダメージは大きいらしく生まれたての小鹿のように何度も転ぶ。そしてそのたびに立ち上がろうとする。

「ちょこ?」

「助けるの……おにーさんを……助けるの!」

痛みも苦しみも、何物も彼女を阻めない。
その瞳の輝きこそ、魔を討ち闇を払う力――希望であると、ゴゴは知っている。

だからこそ――ゴゴは、ちょこを気遣いはしなかった。


戦う意思がある。
守りたいと思う人がいる。
ならば、ゴゴがするべきことは一つッ!


「ちょこ。俺に力を貸してくれ。あいつを……友を、助けたいんだ」


物真似師が差し伸べた手を……、少女は、


「うんッ!」


強く、強く握り返した。

747 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:34:34 ID:NGITva2Q0
「あっ……狼さん?」

「ん?」


ゴゴの手を借りて立ち上がったちょこが、ゴゴの背後を見て驚きの声を上げた。
そこに、数秒前は確かにいなかった影がある。
毛並みも鮮やかな黒い狼。
だが野生のそれと違い、瞳には深い知性を湛えている。

「この子……知ってるの。おにーさんといっしょにいた」

「アシュレーと?」

狼はゴゴ達に構うことなく彼方の方角を睨み唸っている。
まるで用事が済むまで待っているように命じられた犬のようだ。
その視線を追って気付く。
狼が見ているのは、アシュレーがいると思しき方角であると。

「……お前は、アシュレーを待っているのか?」

疑念に駆られゴゴがそう問いかける。
すると狼はついと視線を巡らせる。首肯はしなかったが、それをゴゴは肯定と取った。
何者であろうと、目指す先が同じであるならば。
ゴゴが選ぶ言葉はやはりこれだ。

「手を貸してくれ」

音もなく現れた狼が途方もない力を秘めているのは見てわかる。
だが決して足を踏み出そうとはしない。
あるいは魔王に干渉されているのか、動けない理由でもあるのか。

「お願い、狼さん! ちょこ、おにーさんをおうちに帰してあげたいの!」

ちょこが狼の首を掴み、ガクガクと揺らす。
だがその言葉に嘘の成分は一欠片もない。

「俺はこれ以上友を失いたくはない。だから、頼む」

ゴゴは、かつて感じたことがないほどの渇望を吐き出す。
トッシュを目前で失った衝撃は、自分で思っている以上にゴゴという人間の根幹に影響を与えているらしい。

748 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:36:26 ID:NGITva2Q0


――幼く、それがゆえに透き通った心地よき欲望……いいだろう。俺を、アシュレーの元へ連れて行け!



突然頭に響いた声に、ちょこと二人して辺りを見回す。
だが当然誰もいない。

「あっ!」

いや、変化はあった。
狼が消えて、代わりに一振りの剣が突き立っている。
アシュレーがトッシュへ託した、あの約束の剣だ。

「そうか、お前がアシュレーの言っていた……いいだろう、やってみせるさ。見ていろ、トッシュ……ッ!」

連れて行けと言っている。
記憶の中で、あの赤毛の剣士が友を救えと吠え立てているッ!

魔狼ルシエドが剣、魔剣ルシエドを引き抜いた。
その柄から伝わる熱はトッシュが残したものと、今のゴゴなら信じられる。
刃から伝わる力は強大だ。これならなるほどあの魔神にすら届き得るだろう。

「行こう、おに……おじ? あれ? ちょこ、あなたのことなんて呼べばいいの?」

「む……」

ちょこに問われ、ゴゴは考える。
ゴゴの種族性別個人情報はトップシークレットだ。
それに、自分で応えるのでは芸がない。

「あいつ……シャドウを何と呼んでいたんだ?」

「えっと、おじさん、って」

「なら、俺もそれでいい」

「ゴゴおじさん……わかったのッ!」

ちょこは力いっぱい返事をしてさあ駆け出そうとし、ゴゴはそれを制止した。
走って行ったのでは間に合わない。
ちょこが飛べるのだとしてもまだ無理だ。
そもそも満身創痍の二人が行ったところで何ができるわけもなく。

だから。
ゴゴとちょこがするべきは、アシュレーの下へ馳せ参じることではない。

749 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:47:18 ID:NGITva2Q0

「ちょこ……俺を、空へ!」

大きく助走を取り、ゴゴは猛然と走り出す。
その手にしっかと友から託された魔剣を握り締めて。

「わかったの! 行くよ、ゴゴおじさんッ!」

時間が無いのは百も承知。
だからどうして、などとは聞かない。
ちょこはただ言われた通りに、ゴゴの望む通りに力を振り絞る。
魔力を風へと変換、凝縮、そして解放。


「――――飛んでけぇぇぇぇぇぇえええええええッ!」


ちょこの足元から風が――嵐が巻き起こる。

ちょこの視線の先、ゴゴが跳んだ。
ジャンプシューズで増幅された跳躍を――ゴゴは知らない。その靴は、アシュレーの友の物――ちょこの魔法が下から一気に押し上げる。

天へ昇る塔――風の階段は、物真似師を遥か高みへと連れて行ってくれる。


「……見えたッ!」

遮るもののない空の中で、ゴゴは、ゴゴの持つ感応石は、アシュレーの心の在り処を寸分違わず感じ取った。


準備は整った。
目的地もすぐそこだ。
未来を斬り拓く力は今、この手の中にある。



後は、そう――物真似を、するだけだ!

750 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:51:03 ID:NGITva2Q0

「シィィィィィイイイイイイイ……」


あいつのように――雄叫びを上げ、

     震える喉が、一層の気合を呼び起こす。


あいつのように――身体を引き絞り、

     ぎしぎしと骨が鳴り、手にした刃に極限の遠心力を注ぎ込む。


あいつのように――イメージを練り上げて、

     八竜だろうと闘神だろうと貫き通す無敵の投法、その始終をずっと傍で見てきた。



ゆえに、この一投こそは必殺必中ッ!
地平線の彼方にだって届くのだと確信しているッ!



――――――――――――――今だ、放て!




「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」



幻聴かもしれない。だがどうでもいい。
聞こえてきた声に従い、ゴゴは渾身の物真似を完遂した。


人体の限界を超えた跳躍。
雲すら吹き散らす嵐。
鍛え抜かれた技術。


三位一体となり打ち出された砲弾――魔剣ルシエドは。

風を超え、音を超え、光を超えて。

寸分の狂い無く。


魔神の右腕を斬り落とすことに、成功した。

751 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:55:00 ID:NGITva2Q0
落ちゆくゴゴは懐から感応石を取り出した。
か細い、だがハッキリと高鳴る友の鼓動が伝わってくる。


『どんなときでも……僕は、一人じゃ……ないッ……!』


結果がどうなったかなど目を閉じていてもわかる。
カノンとシャドウの力を借りて、ちょこが支え、ゴゴが送り出したトッシュの剣なのだ。
アシュレーに届かなかったはずが無い。


『いっしょに……戦っているんだッ……!』


友の声に力が戻る。
そうとも、共に戦っているさ。
伝わっただろう? 俺達の想いが。


『そうだろ……ゴゴッ!!』


「当然だ」


ゴゴは腕を組んで悠然と返答する。
近づいてくる大地の上に、両手をぶんぶんと振るちょこの姿が見て取れる。
物真似師は微笑み、そして、

――あいつを助けてやってくれ、友よ。

ルシエドと共に往ったもう一人の大切な仲間へと、願いを込めた。

752 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 19:57:04 ID:NGITva2Q0
     ◆



「ニンゲン風情が……どこまで図に乗るというのだ……ッ!」

「その人間が、繋ぎ束ねたこの力にッ! お前は今度も、何度でも敗れ去るんだッ!!」


右――清廉な光満ちる果てしなき蒼。
左――欲望を糧に尽きぬ力与える魔剣ルシエド。


剣の双翼を広げるは、立ち上がった蒼き剣の英雄。


「おおおおッ……おおおおおあああああああああああああああぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」


滾る想いを双剣に込め、アシュレーは飛翔する。
光輪はいまやドラゴンの推進器にすら匹敵すすらスター。アシュレーの求めに従い光の速度を叩き出す。
その力を最も強く炸裂させられる方法が、アシュレーの脳裏に浮かぶ。


描くは必勝への軌跡――、



「――――アークインパルスだッ!!」



一閃、振り下ろした果てしなき蒼が空を裂く。
二閃、薙ぎ払った魔剣ルシエドが大地を揺らす。


二刀が示す破邪の十字。
閃光の軌跡が交わるところ――すなわちロードブレイザーの存在点ッ!

「ぐ……あ、あああああああッ!!」

生み出した炎剣は一瞬で砕かれた。
翅の守りは紙ほどの抵抗も無く斬り裂かれた。
焔の壁は展開と同時に吹き散らされた。

「まだ……まだだッ、アシュレェェェェッッ!!」

それでもなお、魔神は膝を屈さない。
再生が完了したばかりの腕を突き出して、二度と再生ができないことすら覚悟して焔を凝縮させ、剣の侵攻を食い止めた。

753 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:01:39 ID:NGITva2Q0
ナイトフェンサーでは砕かれる。
ガンブレイズでは気休めにもならない。
バニシングバスターでは押し切られるのが関の山。
ファイナルバースト、ヴァーミリオンディザスター、ネガティブフレア――何もかも足りない!


ならば、

ならばこのロードブレイザーの持てる最大最高最強の火力で以て迎え撃つのみ!


「ファイナル……ッ!」

全身の装甲を開閉――否、内側からこじ開ける。
十、二十――百、二百――千の砲塔。


「……ヴァーミリオン……ッッ!!」

そこに自身の存在すらも揺らぐほどの力を充填する。
『この後』など考えていられない。
今この瞬間こそが、ロードブレイザーという存在の滅亡の危機なのだから。
アシュレーもまた全霊を込めた一撃を放っている。
ならばそれを凌いだときこそが、このロードブレイザーの勝利の瞬間に他ならないッ!


だから、

だからこその、

真っ向勝負ッ!


「…………フレアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!」


一兆度にすら達しようかという、焔と形容するのも理不尽な力の奔流が放たれた。
世界を七度滅ぼすに足る、破壊神の吐息。

迎え撃つアシュレーの二刀が再度の、最期の輝きを見せる。
搾り出すのは剣の燃料である魔力、欲望。そして担い手であるアシュレーの生命そのもの。

手を伸ばせば届く距離で、破邪の双剣と破滅の咆哮が激突する。
ロードブレイザーの渾身の砲撃は、アシュレーの振るう二刀に正面からぶつかってきた。

754 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:03:32 ID:NGITva2Q0

「……ロードブレイザー」

その、万物を消滅せしめる絶対破壊圏の只中で。


「確かにお前の言う通り、たった一人の悪意が世界を滅ぼすことがあるのかもしれない」

剣の英雄はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「でも、それを黙って見ているほど、僕らは、世界は弱くはないよ」

優しささえ感じさせる、ひどく穏やかな声音で。


「世界の破滅を止める力はいつだってそこにある。生きている、生きようとする、一つ一つの命の中に……」

焔を斬り裂き続ける果てしなき蒼に、亀裂が走った。


「……きっと、僕らは勝つよ。何度でも……」

魔剣ルシエドが、半ばから折れ飛んだ。


「だから……」

ここまで付き合ってくれた魔剣から手を離し、蒼剣の柄へと両手を添えて。


「だから」

押し込まれた蒼い魔剣は、魔神の核へと到達した。


「だから僕らは、お前を倒して明日へ行くんだ……!」

魔神の核を貫くと同時、果てしなき蒼が砕け散った。
背の光輪が閉じ、蒼き剣の勇者はただの人間へと回帰する。

755 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:04:39 ID:NGITva2Q0
アシュレーは倒れ伏す。
その髪は純白ではない、短く刈り込まれた彼本来の青い髪。

ロードブレイザーは立ち尽くす。
壊死した砲塔がぼろぼろと崩れ落ち、酷使した右腕が地に落ち瞬時に燃え尽きた。


立っているのはロードブレイザー。
すなわちそれは、


「私の……勝ちだ……アシュレー……ッ!」


勝者と敗者の、ありのままの姿だった。


「一歩……届かな……かった、な」

ゆらり、ロードブレイザーが残る左腕に焔をかき集めていく。
それは災厄と呼ばれた時代からすれば見る影も無く弱く儚い焔だが、英雄でも勇者でもない人間を跡形無く葬り去るには十二分の熱量だ。
それを見てもアシュレーは動かない、動けない。
もはや力を全て出し尽くし、一片の余力も残ってはいない。

「これで……」

振り上げた掌を――

「……貴様ぁ……!!」

だが、ロードブレイザーを押し留める影がある。
剣を折られ、胴体半ばから断ち割られた魔狼だ。
主の危機を察し、剣化を解いて喰らいついている。

「悪足掻きを……貴様の主はもう欲望を吐き出すことも無いのだぞッ!」


その、ロードブレイザーの言霊に……反応するように。
アシュレーは震える腕を懸命に伸ばす。

掴み取る……何を?

自分でもわからない。果てしなき蒼は砕かれ、ルシエドもまた傷ついた。
甚大な傷を受けたマディンは遠からず消え去るだろう。
ならばもう、本当に打つ手が無いではないか。

756 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:06:42 ID:NGITva2Q0

――諦めないで――


そのとき、ささやきが聞こえた。
知らない、でも懐かしい声……その声に力をもらって、アシュレーの指先が前進し、触れる。


ゴゴが託し、ルシエドが携えてきた最後の希望。
ティナ・ブランフォードが変化した、幻獣の魔石に。


――あなたの帰りを待っている人がいる――


待っている……僕を?
そうだ、僕は帰らなきゃ……。
子供が待ってる……男の子と女の子の双子が。
大切な人たちから名前をもらった、大切な宝物……。
そして、その子達を抱く、あの……。


「……マリ……ナ……!」


いつだってアシュレーの帰りを待ってくれていた。
優しく微笑んで、こう言ってくれた。


おかえりなさい、と。


そして僕はこう応えるんだ。


ただいま、マリナ。


でも……参ったな。
ここで眠ってしまったら、マリナにただいまと言えなくなってしまう。

それは困る。
世界の危機より、何よりも。
マリナのいるところこそ、アシュレーが求め、守りたいと願った……帰るべき場所なのだから。

757 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:10:12 ID:NGITva2Q0
ゆえに。

「だから……だからッ! こんなところで、死んでいる場合じゃないんだ……!」

立ち上がる。
何度だって立ち上がることができる。

日常に帰りたいというアシュレーの欲望は、決して果てることは無いのだから。


「……つくづく、お前には驚かされる……」


呆れたようなロードブレイザーの声。
もう眼が見えない。
もしかしたら、右腕も落ちているのかもしれない。感覚が無い。

「だが、もはや私に届く剣はない。諦めろ……穏やかに死なせてやることが、私からの手向けなのだ」

魔神が何か言っている。だが理解できない。耳に血が詰まっているからだろう。
ゆっくり……亀の歩みよりも遅く、アシュレーはその方向へと足を投げ出し続ける。
握り締めた魔石が温かな力をくれる。闇の中でも迷わずに歩く標となる。

「もはや言葉も解さんか……そんなお前は、見るに耐えん。燃え尽きるがいい」

攻撃が来る。ささやきに従い、掌中の石を魔神へと掲げた。
優しい光が壁となってアシュレーを守る。
殺到した焔は刹那に霧散し、彼の歩みを一瞬たりとも止められなかった。

「……待て、アシュレー。来るな……そこで止まれッ!」

続けて何度も解放される炎弾は、すべてティナの魔石が放つ光波によって防がれた。
アシュレーは知る由もないが、懐にあるマディンの魔石が娘の魔力に共鳴し、力を高めていた。
衝撃で尻餅をつく。だが、顔を砂で汚し、血を吐いてなお、アシュレーは前進を止めない。
唯一感覚の残る左腕を地に突き立て、殴りつける。
無様だろうと何だろうと構いはしない。こうして立ち上がれるのなら。

「なぜ……なぜ死なない! なぜ立ち上がる!? どこからそんな力が沸き上がってくるというのだ!?」

わかりきったことを聞くな、と唇を歪めた。
言ったのはお前だ。僕らの絆とルカの妄執と、どちらが強いのかって。
お前が今、僕を恐れているのなら……それは、つまり。

「僕らの、勝ちって……いうこと、だろう」

758 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:14:53 ID:NGITva2Q0
そして、全ての攻撃を封じられたロードブレイザーの前に、アシュレーは辿り着いた。
最後に残った唯一つの武器、バヨネットをその手に携えた、ただの人間が。

バヨネットの魔道ユニットを開き、ティナの魔石をセットする。
あの爬虫類(?)、さすがは天才と自称するだけのことはある。
撃墜王謹製のバヨネットには、持ち主がこんな状態になっているのに不調のふの字も見出せない。
今だけは素直に感謝しようと想った。

魔石から供給される魔力が銃身を、アシュレーの体内を駆け巡る。
これなら放てる――あの技を。



「さよなら、ロードブレイザー」

「止めろッ……止めてくれ、アシュレーッ!!」


ロードブレイザーの核、そこには果てしなき蒼が穿った亀裂がある。
今のアシュレーにはその空隙が、仲間達――アティ、ティナ、トッシュ、ゴゴ、ちょこ、そしてシャドウが開いてくれた、未来への扉に見える。
バヨネットの剣先を、僅かな隙間に潜り込ませた。


――フルフラット・アルテマウェポン。


言葉にならない小さな呟き。
弾倉内に魔石から伝えられた究極魔法、アルテマを装填……完了。



ゼロ距離。全弾、発射――炸裂。



爆発は少量――その大半を、ロードブレイザーの内的宇宙へと送り込んのだから。
概念存在であるロードブレイザーも傷つけ得る、たった一つの魔法。
その暴虐は、不死身の魔神をして、その存在意味を根こそぎ塗り潰していく。


「がああああ…………ぎっぎぎぐぐぐ、がが……がああああ、あああああああああ……ッッッ!
 消え……る……私、が……燃えて……アシュレ……滅びると……認めん……英雄……貴様が……アシュレェェッ……!」


やがてロードブレイザーの核が砕け散り、後を追うように形を保っていた身体も灰に――否、炎に変わり融けていく。
バヨネットを引き抜いたアシュレーは、これでようやく終わったのだと、静寂を取り戻した夜空を見上げて。

759 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:17:23 ID:NGITva2Q0



「アシュレー・ウィンチェスタアアアアァァァァッ! 貴様だけはぁ――――――――――――――ッ!!!」


その、彼の安堵した隙を、消え逝く魔神は見逃さなかった。
炎と化していく腕を懸命に伸ばし、突き出された鋭利な爪は――アシュレーの心臓を、真っ直ぐに貫いた。


直後、ロードブレイザーが、完全に……消滅する。

それを見送ったアシュレーはゆっくりと砂漠に腰を下ろし、仰向けになって星を見る。
不思議と痛みは無い。いや――心臓を砕かれる前に、既に死んでいたのだろう。
だからひどく穏やかな気持ちで、アシュレーはその結末を受け入れていた。


「ああ……きれいだ、な……」


感応石が何事かがなりたてているが、何を言っているのかがもう理解できない。
そして思い出したのは、かつてこの感応石をプレゼントしたときのことだ。
あのときもそう、笑って彼女は――。


「……ごめん、マリナ……もう、ただいまって……言え……な……」


星へ向かって伸ばした指は、何を掴むこともない。
魔神を討ち果たした人間の命の灯は、この瞬間に、消え失せた。




【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
【残り17人】

760 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:18:43 ID:NGITva2Q0


その決着が着いた頃。

ゴゴもまた、行動を開始していた。
トッシュと別れ、力を出し尽くし立っていることすら困難になったちょこを背負い、ゆっくりと砂漠を進む。

「おにーさん、大丈夫かなぁ……?」

「心配はいらん。あいつは勝つさ」

正直に言えば、ゴゴも疲労の限界にあった。
加えてアシュレーの無事を確かめることばかり考えていたため、ちょこの物真似をすることすら無意識のうちに忘れてしまっていた。

「うん!ちょこ、おじさんを信じるの!」

元気よくちょこは言うが、直後盛大に響いた空腹を示す腹の音に小さく赤面した。
ちょこを背負ったまま、ゴゴは片手で器用にバッグを探り目当てのものを取り出し渡す。

「これを食べるといい。アシュレーが作ったものだ」

「わぁ、おいしそうなの!」

渡された焼きそばパンを、ちょこは猛然と胃に収めていく。
ゴゴもまた一つ、かじる。
優しい味が広がる。疲れた身体に少しだけ力が戻ってきた。
これを前に食べたときは、隣にトッシュがいた。今はもういない。
それを寂しいとは思う。だが今この瞬間は、背中にいるちょこの軽い重さが忘れさせてくれる。

「う〜、もっと食べたいの……」

ちょこは三つの焼きそばパンをぺろりと平らげた。
材料さえあればゴゴが作ってやることもできる。アシュレーの調理の物真似をすればいい。

(しかし……それは何か、違う気がする)

この焼きそばパンはアシュレーが作ったからこの温かさがあるのだろう。
同じ材料、同じ作り方、同じ味であっても、決してアシュレーが作るものと同一ではないのだ。

「また、あいつに作ってもらえばいい」

「うん! ちょこ、おてつだいするの!」

ちょこは微塵もアシュレーの死を疑ってなどいない。
ずきり、と心が痛むのを感じる。



懐にある感応石は、少し前から何の反応も示さなくなっていた。



ゴゴはそれが何を意味するのかを努めて考えず、ひたすらに足を投げ出し続ける。
夜の砂漠に、砂を踏む音と少女の賑やかな声だけが響いていた。

761 ◆y.yMC4iQWE:2010/10/13(水) 20:19:32 ID:NGITva2Q0

【G-3 砂漠 一日目 深夜】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:花の首飾り、壊れた誓いの剣@サモンナイト3、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×3、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3、天罰の杖@DQ4
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:ちょことともにアシュレーを迎えにいく
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。


【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
4:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。

※トッシュの遺品はゴゴが回収しました。
※ルカの所持品は全て焼失しました
※トカの所持品はスカイアーマーの墜落、爆散に巻き込まれて灰になりました
※F-1〜J-1、及びF-2〜J-2、加えてE-3〜A-3の施設、大地は焼失し、海で埋まってます
 海はロードブレイザーがアシュレーと切り離された時点で鎮火しました
※F-3から東のラインの地表より上部全てが焼き払われました。

762 ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:34:46 ID:uvoOcX2w0
本スレは規制されているのでこちらに投下します。

763アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:35:46 ID:uvoOcX2w0
 ふらつきながらも立ち上がった少年。
 それに気づいたジョウイが彼に駆け寄り、倒れそうになったその肩を慌てて支える。
 疲弊したサイキッカーを労わって……というのも、ないわけではない。
 だが、ジョウイのこの行動は、やはり打算に基づいたものだ。
 アキラが今の今までユーリルに対して行っていたマインド・リーディングの結果を、彼は一刻も早く知りたかったのだ。

 勇者だったはずの少年に何が起こったのか。
 なぜ彼はアナスタシアを殺そうとしていたのか。
 彼女はいかなる方法で、英雄をここまで破壊したのか。
 それらのことは、同じく英雄にならんとしているジョウイにとっては知らなくてはならない真実だ。
 だから彼は、アキラがユーリルの心の中で入手した情報を、彼が気絶してしまわないうちに聞き出そうとしていた。

 しかし、アキラはジョウイに寄りかかることなく。
 差し出されたその手を振りほどいて、歩き出す。
 おぼつかない足取りで、静かに眠るアナスタアシアへと歩み寄った。

「アキラ……?」
「何か、書く、もん……ある……か?」
 アキラの突然の要求に、ジョウイは怪訝な顔を見せるほかない。
 同じく不思議そうな表情をしたイスラが、参加者全員に支給されていた筆記具を投げてよこす。
 心身ともに限界を迎えようとしていたアキラは、受けとり損なって地面に転がってしまった筆記具をゆっくりと拾った。
 そのまま眠る少女のもとへフラフラと進み、その頭の傍にかがみ込む。
 彼女の整った顔にかかっている艶やかな青い髪をかき上げると、その顔に筆記具を走らせた。
 震える手で何事かを書き込んだ後……。

「……へっ…………。ざまぁ、み、や……が、れ……」
 アキラは息を切らしながら一度だけ満足げに笑い。
 直後、意識を失って、静かに倒れた。
 何事かと駆け寄ったジョウイとイスラが、相も変わらず寝息を立てているアナスタシアの顔を覗き込む。

「なんだ……これは……?」
 ジョウイがわけが分からないと言った風で、片眉を上げる。
 それは、呪いなのか。
 あるいは何かの紋章なのであろうか。
 それとも、自分たちの知らない、新たな概念か。
 二人の少年は、少女に印された字がもつ意味を考えた。

 だが、彼らが真実にたどり着くことは決してありえない。
 まさか、少年たちは思いつきもしなかっただろう。
 実はその文字の正体は、アキラがいた世界で流行っていた……ただの……。

764アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:37:32 ID:uvoOcX2w0

「……僕が知るわけないだろ?」
 イスラが観念したように両手を掲げる。
 気絶した少女の額には、汚い筆跡で『肉』の一文字が刻まれていた。


【C-7橋の近く 一日目 真夜中】

【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡ、ビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。


【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

765アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:39:04 ID:uvoOcX2w0




◆     ◆     ◆


「こりゃまた……」
 アキラがユーリルの心象世界に降り立った瞬間、彼の足裏にはジクジクと鈍い痛みが走る。
 眉をしかめながら足元を見ると、立つべき地面がすべてイバラで作られていたではないか。

「勇者の道、か」
 その声に、思わずため息が混ざる。
 天を仰げば暗雲が支配する空。
 どこか遠くからは雷鳴が響く。
 遥か彼方には微かに光るぼやけた希望が。
 そして、足元には……イバラの道。
 この世界は、ユーリルの歩んできた『勇者』という生き様をそっくりそのまま反映しているのだろう。
 すべてを犠牲にして戦ってきた、その人生の在り方を。

「そりゃあ投げ出したくもなっちまうよな」
 この空間にたどり着く前、つまりユーリルの心にダイブした瞬間のこと。
 アキラは、ある映像を覗き見てしまう。
 それは、勇者だった少年の脳内で何度も何度も再生されてきた忌まわしい記憶だった。

 うす暗い部屋で、妖艶に微笑むアナスタシア。
 彼女のひざの上では、赤毛の少女がスヤスヤと眠っていた。
 緩やかな曲線を描く唇が穏やかに語りだす、ファルガイアの神話。
 その締めくくりに勇者に投げかけられた疑問。
 そして生まれた、殺意。
 ユーリルに降りかかった事の顛末を、アキラは断片的にだが知ることとなった。

「あの女の言いたいことは分かったよ」
 サイキッカーは、トゲだらけの道の途中でうずくまる少年に語りかけた。
 災難に見舞われた彼への、多少なりともの同情を感じながら。

「…………」
 このいびつな世界の持ち主が、ゆっくりと顔をあげた。
 焦点のあわないその瞳が、訪問者の少年を音もなく拒絶する。
 しかし、アキラは臆することもなく言葉を続けた。

「確かに、お前はイケニエだ」
 まるでトドメを刺すかのように冷たく、少年は聖女に同意する。
 口元に含ませた笑みすらも、聖女のソレの完璧な再現だった。
 弱りきっていたユーリルの目が吊り上がり、アキラに対する怒りを表す。
 ガラスの割れるような音と共に、何度目かの遠雷が落ちた。

「やりたくもねぇ勇者なんかやらされてよ。
 大事なモンも全部犠牲にして……。
 他のやつらといやぁ、お前に縋りつくだけだ」
「だったら……ッ!」
 かつてアナスタシアに突きつけられた地獄。
 その再来に耐え切れなくなったユーリルが、怒りをこめて口を開く。
 唇端から滴りおちた血液
が、大地のトゲをわずかに赤黒く染めた。

766アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:39:51 ID:uvoOcX2w0

「だったらどうすればよかったんだよッ!
 英雄が生贄なら、あの女の言うとおりなら……」
「ふざけんじゃねぇよ」
 堰を切ってあふれ出した感情のままに、ユーリルが矢継ぎ早に言葉を連ねる。
 アキラは悲鳴のようなソレを遮って、「はッ」と馬鹿にしたように笑った。

 憤怒のボルテージをさらに引き上げ、勇者は目を血走らせる。
 しかし、彼を見下したアキラもまた、静かな怒りの火を心に灯していた。

「俺は『お前はイケニエだ』とは言ったさ。
 だがな、『英雄はイケニエだ』とは一言も言ってねーぜ」
 アキラの目がギラギラと鋭く尖る。
 直後、彼を中心として、その足元に炎の渦が巻き起こった。
 少年を守るように生まれ出でた火炎は、大地に広がる毒々しい植物を焼き払い、消し炭と化して空へと舞い上げる。
 そのまますべてを焼き殺すと思われたが、炎はものの数秒で鎮火した。
 結果として、アキラの立っている付近のイバラだけが燃え尽きる。
 彼は、直径一メートルほどの焼け野原に立っていた。

「……?」
「わかんねーか?」
 ユーリルには、アキラが何をしたのかも、何を言っているのすらも理解できない。
 その頭上を巡り続ける疑問符をまったく解決できないでいる。
 そんな彼に、サイキッカーは躊躇いもなく決定打を放った。

「お前は英雄じゃねぇっつったんだよ」
「…………ッ!」
 直球で放たれた暴言に、ユーリルの怒髪が天を衝き。
 言葉にならない咆哮が、巨大な稲妻をアキラに落とす。
 しかし、落雷は少年を避けるように捻じ曲がり、イバラの一部を黒く焦がすだけ。
 サイキッカーは涼しい顔で。
 それでいて、その心は相も変わらず燃え盛っていた。

「ついでに言やぁ、あの女が言ってた『剣の聖女』とかいうのもな」
「なッ…………?」
 何もかもを否定するような。
 そのアキラの口ぶりに、ユーリルは呆気にとられる。
 胸中を支配していたはずの憎悪すらも置き去りにして。

「ヒーローってのはな……そんなんじゃねえ」
 アキラが遠い空で微かに輝く光を睨む。
 思い返すのは、小さなころに見た特撮ヒーローのこと。
 孤児院で子供たちと見た、名前も忘れたプロレスラーのこと。
 湖に眠った機械仕掛けの女のこと。
 そして父親を殺した男のこと。

「あいつらはな、ブッ壊れてんだよ……」
 自身が憧れたものたちの生き様を脳裏に甦らせ、アキラはかつての高揚感を再燃せしめる。
 彼らの暴力的ともとれる異常な信念に、少年の目は曇天を照らすほどに輝いた。

「使命も犠牲も人類も関係ない。
 やつらはただテメーが救いたいモンを救えりゃ満足なのさ。
 他のヤツらの態度を見て、身勝手だなんだと抜かしてるお前らは……ヒーローじゃねぇッ!
 それは、ただのイケニエだ……!」
「…………」
 アキラが見てきた英雄は、自分の命を顧みようとはしなかった。
 他人の顔色を伺うものなど、ただの一人もいなかった。
 感謝の一つも求めようとはしなかった。
 彼らにとって、人を助けるということは『趣味』と呼べるレベルのものでしかないのかも知れない。

767アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:40:47 ID:uvoOcX2w0

「そんなになるほど辛かったなら、勇者なんてやめちまえばよかったんだ」
「じゃあ……」
 我に返ったユーリルが、その心に怒りを呼び戻して立ち上がる。
 アキラのあまりの理不尽な理屈に、意義を申し立てるために。
 その姿は、勇者とは思えないほど頼りなく。
 衰弱しきった人間とは到底思えないほど、凛々しかった。

「じゃあ、世界を見捨てて逃げ出せばよかったのかよッ!?」
 喉を裂いてまで発したその叫びは、目の前の少年に向けてだけ発せられたものではない。
 彼を勇者に祭り上げたものたち。
 彼に頼るばかりで、何もしなかった人々。
 そして彼を勇者から引きずりおろしたアナスタシア。
 そのすべてに対して、彼の悲鳴は響いていた。

「助けたい人だけ助けて、残りの人たちの悲鳴は聞き流して……それでよかったのかッ!?」
「それでいいじゃねぇか。何がいけないんだ?」
 アキラが当然だと言わんばかりに胸を張る。
 彼の自信はその声にもハッキリと現れていた。
 ユーリルの鼓膜から伝わった振動が、全身を戦慄かせる。

「なッ……! じゃあ、救われない人たちはどうする?
 世界はどうなるッ?!」
「知るかよ」
 陰鬱としたユーリルの世界を切り裂くように。
 少年は正論をキッパリと切って捨てた。

「助けたくないなら仕方ねぇだろ。ヒーローのいねえ世界は滅ぶしかないんじゃねぇの?」
 アキラの言う『ぶっ壊れた者』。
 それは、見返りも感謝も求めずに、ただひたすらに救うもの。
 身勝手な弱者に怒りを覚えることもなく。孤独な戦場へも振り返らずに歩みだす。
 他の何を捨て去っても、大切なものだけは取りこぼさないもの。
 それを『ヒーロー』と、彼は呼ぶ。

 ブリキ大王は人類を、世界を救った。
 しかし、それは『ついで』だ。
 少年を、信念を、ひとりの女を、その女が愛した子供たちを。
 ある男が、それらを救った、その副産物として……人知れず世界は救われたのだ。

「そんな……そんなの……」
 ユーリルの体が震える。
 それは、アキラに気圧されたからではない。
 彼の世界が揺れる。
 サイキッカーの提示した可能性を殺すために。

「じゃあ聞くが、お前は『誰の』英雄になりたかったんだよ。
 世界の端っこにいる人間の生き死にまで、ぜーんぶテメーの力でどうにかするつもりだったのか?」
「…………」
 アキラが見てきた英雄たちにとって、「世界を救う」ことは手段であって目的ではない。
 自分が守りたい『誰か』にとっての英雄になることができれば、それでいいのだ。
 もちろん、その大切な『誰か』を救うために必要ならば、彼らは喜んで世界を救うだろう。
 しかし、その者たちにとって大事なことは、あくまでも『守る』こと。
 だからイケニエも糞もない。
 彼らは自らの欲望のまま、好き勝手に救っているのだから。
 自分のやりたいように、生きて、死んでいるのだ。

768アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:41:26 ID:uvoOcX2w0

「俺は、松の代わりに……あいつが守ったやつらのヒーローになりてぇ。
 そのためにオディオをぶっ飛ばして、自分の世界に返らなくちゃならねぇんだ」
 アキラが言う『松』という人物のことを、ユーリルは知らない。
 その代わりに、彼はある一人の人物の姿を強く思い出していた。
 それは、この殺し合いで、一番最初に出会った少年。
 無口ながら、熱い心を胸に秘めた男。

 彼は、普通の人間だった。
 勇者の血統も、悲劇の過去も一切持ち合わせてはいない。
 それなのに、彼は世界を救ってみせた。
 他の誰に導かれるでもなく。
 たったひとつ……自分の意思で。

「もう一度聞くぞ、お前は誰のヒーローなんだ?」
 ユーリルは、ぐうの音も出せない。
 アキラの質問に対する答えが見当たらない。
 彼は、誰の英雄でもなかったから。
 ただ、提示された使命に導かれるままに世界を救った。
 本当に大切な人は、勇者になる前に既に殺されていて。
 その人たちとの思い出も、今となっては仮初で。
 彼には、誰もいなかった。

「お前がイケニエになるのはお前の自由だ。勝手にしやがれ。
 だがな、俺の邪魔をすんなら」
 アキラが、用は済んだと言わんばかりに踵を返す。
 来た道をテクテクと歩き出した。
 ユーリルは、その背中をただ呆然と見つめている。

「あの背中を否定すんなら」
 数歩進んでから、ふと立ち止まったアキラ。
 振り返ることなく、立ちすくんでいる生贄に呼びかける。

「お前を叩きのめしてでも、俺は前へ進んでやる」
 静かに放たれた宣言は、ユーリルに対する警告のようでもあり。
 まるで、自分自身への誓いの言葉のようでもあった。
 一度だけ大きく深呼吸してから、アキラはまた再び歩き出す。

「なんなんだよ、アナスタシアもお前も……」
 去り行く少年に向けて、ユーリルが吐き出した言葉は反論でもなく。
 どうしようもない、やり場のない怒りは、表しきれるものではなく。
 クロノに対して感じてしまった確かな憧れは、誤魔化しようもなく。

「なんなんだよォッ!」
 ただ、無性に気に食わなかった。
 アキラのことが不愉快で仕方がない。
 彼に何一つ反論できなかったことが、とてつもなく悔しかった。

 こんなとき、クロノならどうするのだろうか。
 彼は誰の英雄だったのだろうか。
 ユーリルは、喉をズタズタに引き裂きながら、そんなことが気になっていた。

769アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:41:56 ID:uvoOcX2w0


【C-7橋の近く 一日目 真夜中】

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:アキラが気に食わない。
3:クロノならどうする……?
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。




◆     ◆     ◆


『エイユウッテナニ?』
 アナスタシアが、うるさい。
 ユーリルの心理世界からの帰り道にて。アキラはうんざりしていた。
 彼の表層心理は、この少女の声に支配されている。
 この空間では、同じ疑問が延々と鳴り響いていたのだ。

「俺が知るかっての」
 アキラが小さく毒づく。
 ユーリルには、好き勝手なことを言ってきた。
 だが、本当のところは、彼自身にもソレが正しいのかどうかは分からない。
 アキラだって、まだ誰の英雄にもなれてはいないのだから。

 無法松にも、アイシャにも、ミネアにも守られてしまった。
 ただ英雄の背中に隠れるばかりで、彼自身は誰のヒーローにもなれないでいる。

 ユーリルには、「立ちはだかるなら叩きのめす」などと啖呵を切ったものの……。
 ……彼の実力では、あの勇者には到底敵うはずもない。

 つまるところ、少年には課題が山積していたのだった。

「松……アンタいったい、どこで何をしてんだ?」
 しかし、それでも彼には希望があった。
 この島で、生きているだろう男であり、アキラが今度こそ救いたい人物だ。
 ユーリルと対話をしていく中で、彼はある決心をした。
 今度は自分が、無法松の英雄になろうと。
 そして、自分の世界に戻って、彼がしたように子供たちを守ると。

 それが、今の彼の支えであり。
 今まで散々守られ続けた少年が掲げる目標だ。
 その思いを胸に、彼はひたすら進む。

770アキラ、『光』を睨む ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:42:28 ID:uvoOcX2w0

 決心した矢先に、無法松が再び殺されてしまうことになるなどとは……彼は考えもしなかった。

『ドウイウソンザイナノ?』
「うるせーっての」
 文句を言っても、不愉快な声は止まず。
 ただイライラだけが募っていく。
 もともと、アナスタシアのことは好きではなかった。
 そしてユーリルの心にアクセスしたせいで、彼女に対する感情はすっかり嫌悪感へと変じてしまう。

 目覚めたら、倒れてしまう前に、なんとかしてアナスタシアに一泡吹かせてやろう。
 そう誓って、アキラはユーリルの心を後にした。


【C-7橋の近く 一日目 真夜中】

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:気絶中
2:無法松の英雄になる。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※無法松死亡よりも前です。
よって松のメッセージが届くとすれば、この後になります。

771 ◆Rd1trDrhhU:2010/11/10(水) 22:43:13 ID:uvoOcX2w0
以上、投下終了です。
代理投下してくださってる方、ありがとうございます。

772第四回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/11(土) 12:34:37 ID:cPsyFRUk0
 地上で繰り広げられた戦闘の終焉を待っていたかのように、分厚く濃厚だった雨雲が晴れていく。
 こびりついて消えない汚れに満ちた大地を押し流すかのような豪雨の気配が、天空には欠片も存在しなくなっていた。
 代わりに空を支配しているのは、青白い満月と数え切れない星の瞬きだ。
 夜天の王と兵の群れが見下ろす世界――たった一つの、箱庭めいた島には、夜に相応しい静けさが落ちている。
 まるで、好き勝手に喚き散らした後に、泣き疲れて寝息を立てる子どものようだった。
 そう、少し前まで。
 ほんの少し前まで、その島には狂乱めいた騒乱で溢れかえっていた。
 無数の感情がせめぎ合い意志がぶつかり合い想いが交錯した。
 その果てに、離別があり喪失があり過ぎた。
 希望や喜びや活力を覆い隠し押し潰してしまいそうなほどに、絶望や悲嘆や辛苦が多すぎた。
 そのせいだろう。
 世界が、疲れ切って眠っているかのように見えるのは。
 世界が、全身に負った傷を癒そうとしているかのように感じられるのは。
 世界が、ささくれ立った気持ちを整理したいと望んでいるかのように思えるのは。
 月が、傷ついた世界を慈しむように、たおやかな光を投げかけている。
 星たちが、疲弊した世界を慰めるように、絶えず瞬きを繰り返している。

 だが。
 この箱庭に人々を集めた王は、そのような平穏は与えない。
 憎しみに塗れた魔王が、そのような慈悲を容認するはずがない。
 まだ騒乱に参加すべき者がいるのだから。 
 
「――時間だ」

 大気が震え、無慈悲な声が響く。 
 
「もはや前口上などいるまい。しかと耳に焼き付けよ」

 粗野でもなく荒々しくもなく高圧的でもなく、乱暴さとはかけ離れた声音だ。
 それでも、その声は苛烈なほどの存在感と、竦み上がる様な威圧感に満ちていた。 
 
「まずは禁止エリアを発表する。
 1:00よりA-04、H-07、
 3:00よりC-08、E-10、 
 5:00よりE-04、I-03、
 以上だ」
 
 まるで声色そのものに力が宿っているようだった。
 それも月明かりを陰らせ星の瞬きを止めてしまいそうなほどの、人智を超えた力が、だ。
 そんな空恐ろしい声は、聴き手に現実を叩きつけるべく、続ける。
 
「では、死者の名を告げよう。
 リンディス
 シャドウ
 ブラッド・エヴァンス
 ロザリー
 トッシュ・ヴァイア・モンジ
 トカ
 ルカ・ブライト
 無法松
 ――以上、八名が朽ち果てた者たちだ」
 
 夜の暗さが一層深く濃密なったような錯覚に陥る。
 響き渡る声以外に、物音は聞こえない。
 その様はもはや穏やかさではなく、生命が滅び死に絶えたが故の静寂めいていた。
 だとしても、声の主は確信している。
 耳を傾けている者はいる、と。
 死体の山の上に佇み血液の河を掻き分ける者たちが確かに生きている、と。

773第四回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/11(土) 12:36:44 ID:cPsyFRUk0
「たった八名だと落胆するだろうか?
 八名もの数がと戦慄くだろうか?
 どちらにせよ、早いものだ。
 僅か二十四時間で、実に六割強の命が死神に魅入られたのだからな。
 だが、手を下したのは死神などではないのは理解しているだろう。
 諸君らが敵だと断じた者が、諸君らが仲間だと信じた者たちが。
 そして――諸君らこそが。
 命を奪い尽くしたのだ。
 時に大義名分を振りかざし、時に信念を盾として、時に欲望に忠実に。
 他者を蹴落とし踏み躙ったのだ。
 果たして諸君らには、他者を斬り捨ててまで立っている価値があるのか?
 果たして諸君らには、否定しつくした末に生き延びるだけの意味があるのか?
 もしあると言うのならば――」
 
 問いかける。
 答えなど返ってはこないと分かっていながら、それでも、感情のままに声は告げる。
 
「――全てを奪い尽くした上で、私の元に来るがいいッ!」

 ◆◆
 
 本当に早いものだと、オディオは思う。
 豪奢というよりも禍々しい玉座に背を預け、目を閉じる。
 視界を閉ざし想起するのは、二十四時間前から始まった殺戮劇。
 自らが催した殺戮劇は、予想を上回る速度で進行している。
 それはまるで、人間の業の深さや愚かさを体現しているかのように感じられた。
 参加者の中には、人間ではない者も数名混じっている。
 彼らはどう思っているのだろう。 
 そして人間は、彼らをどう思っているのだろう。
 同種族ですら争う人間が、異種族と手を取り合えるとは思えない。
 その証拠と言うように。
 夢にメッセージを込めたエルフの身は、彼女自身が愛する者と信頼する者によって灼かれたのだ。
 
 しかし、その一方で。
 絆を築き希望を抱き、巨悪を打ち破った者もいる。
 人間でありながら――否、人間であるからこそ、人間を強く憎悪した狂皇子も。
 負の感情を糧とし世界を紅に染め上げた災厄も。
 たったひとりの人間が相手では、滅び去りはしなかった。
 それは、人間が持つ力を、否定しきれないケースに他ならなかった。 

「それでも……」

 オディオの奥歯が、強く噛み締められる。
 ルカ・ブライトやロードブレイザーの死滅に口惜しさを覚えているわけではない。
 強い絆と希望の力で貴種守護獣を呼び起こし、再生したアシュレー・ウィンチェスターに忌々しさを覚えているわけではない。
 
「それでも、人間は決して愚かさを捨てられんのだ……ッ!」

 呻くような呟きに混じる、羨望めいた感情を拾う者は、誰一人存在しなかった。
 芽吹いたモノを振り払うように、オディオは瞼を開く。

774第四回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/11(土) 12:37:18 ID:cPsyFRUk0
 間もなく、この城に訪問者がやってくる。
 それが破壊と殺戮と蹂躙の果てに勝ち抜いた、たった一人の客人なのか。
 抗いの意志を絆で繋ぎ希望を抱いた、反逆者たちなのか。
 あるいは、皆が皆手を取り合えないまま、入り乱れて雪崩れ込んでくるか。
 
 どのように転ぶか不明な以上、準備が必要だ。
 たった一人の優勝者が現れなかった場合の準備――攻め込んでくる者たちを迎撃する準備が、だ。
 オディオは、ゆっくりと手を振りかざすと、青白い炎が音を立てて灯る。
 闇に揺らめく不気味な輝きに、美しい顔をした女たちが照らされる。
 ただしどれも、異形と呼んで差し障りのない姿だ。
 その数は、四。 

 一つは、四本の腕を持つ桃色の髪をした女。
 二本の腕の先端は人間のものと同じ。されど、残り二本の腕の先には無骨な岩石がぶら下がっている。
 岩石と人間の合成生物――クラウストロフォビア。

 一つは、漆黒の球体から上半身を生やした女。
 背から伸びる一対の翼で宙に浮くその姿は、あらゆる光を呑み込みそうなほどに気味が悪い。
 暗黒の分子で構成された生物――スコトフォビア。
 
 一つは、緑色の翼と尻尾を生やした女。
 上半身は人のものであるが、下半身は爬虫類めいた翼と尻尾で構成されている。
 器より出でし魔法生物――アクロフォビア。
 
 一つは、透き通る液体を纏った女。
 艶めかしい裸身に液体を絡ませるその姿は最も人間に近い。しかし、液体は絶えず女に絡みつき、同一の存在であると主張している。
 液体から作られた合成生物――フェミノフォビア。

 彼女らは、かつて。
 かつてオディオが、『オディオ』でなかった頃に、一人で戦った人形たち。
 その悪趣味な人形に、オディオは今も強く激しい嫌悪感を抱いている。
 こうして見るだけでも吐気を催すほどに、だ。 
 それでもオディオが彼女らを蘇らせたのは、手駒としてはそれなりに使えると踏んだためだ。
 人形は裏切らない。
 そう、決して、裏切らない。
 
「戦力を用意しろ。数と質は――」

 無表情で黙したままの人形たちに、オディオは指示を出す。
 先ほどの呟きを忘れるように、指示を出す――。

775 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/12(日) 22:05:12 ID:IYNoqvTc0
規制に巻き込まれてしまい本スレに書き込めませんので、こちらに第四回放送を投下いたします。
どなたか代理投下をして頂けますと幸いです。

776 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/12(日) 22:06:07 ID:IYNoqvTc0
 地上で繰り広げられた戦闘の終焉を待っていたかのように、分厚く濃厚だった雨雲が晴れていく。
 こびりついて消えない汚れに満ちた大地を押し流すかのような豪雨の気配が、天空には欠片も存在しなくなっていた。
 代わりに空を支配しているのは、青白い満月と数え切れない星の瞬きだ。
 夜天の王と兵の群れが見下ろす世界――たった一つの、箱庭めいた島には、夜に相応しい静けさが落ちている。
 まるで、好き勝手に喚き散らした後に、泣き疲れて寝息を立てる子どものようだった。
 そう、少し前まで。
 ほんの少し前まで、その島には狂乱めいた騒乱で溢れかえっていた。
 無数の感情がせめぎ合い意志がぶつかり合い想いが交錯した。
 その果てに、離別があり喪失があり過ぎた。
 希望や喜びや活力を覆い隠し押し潰してしまいそうなほどに、絶望や悲嘆や辛苦が多すぎた。
 そのせいだろう。
 世界が、疲れ切って眠っているかのように見えるのは。
 世界が、全身に負った傷を癒そうとしているかのように感じられるのは。
 世界が、ささくれ立った気持ちを整理したいと望んでいるかのように思えるのは。
 月が、傷ついた世界を慈しむように、たおやかな光を投げかけている。
 星たちが、疲弊した世界を慰めるように、絶えず瞬きを繰り返している。

 だが。
 この箱庭に人々を集めた王は、そのような平穏は与えない。
 憎しみに塗れた魔王が、そのような慈悲を容認するはずがない。
 まだ騒乱に参加すべき者がいるのだから。 
 
「――時間だ」

 大気が震え、無慈悲な声が響く。 
 
「もはや前口上などいるまい。しかと耳に焼き付けよ」

 粗野でもなく荒々しくもなく高圧的でもなく、乱暴さとはかけ離れた声音だ。
 それでも、その声は苛烈なほどの存在感と、竦み上がる様な威圧感に満ちていた。 
 
「まずは禁止エリアを発表する。
 1:00よりA-04、H-07、
 3:00よりC-08、E-10、 
 5:00よりE-04、I-03、
 以上だ」
 
 まるで声色そのものに力が宿っているようだった。
 それも月明かりを陰らせ星の瞬きを止めてしまいそうなほどの、人智を超えた力が、だ。
 そんな空恐ろしい声は、聴き手に現実を叩きつけるべく、続ける。
 
「では、死者の名を告げよう。
 リンディス
 シャドウ
 ブラッド・エヴァンス
 ロザリー
 トッシュ・ヴァイア・モンジ
 トカ
 ルカ・ブライト
 無法松
 ――以上、八名が朽ち果てた者たちだ」
 
 夜の暗さが一層深く濃密なったような錯覚に陥る。
 響き渡る声以外に、物音は聞こえない。
 その様はもはや穏やかさではなく、生命が滅び死に絶えたが故の静寂めいていた。
 だとしても、声の主は確信している。
 耳を傾けている者はいる、と。
 死体の山の上に佇み血液の河を掻き分ける者たちが確かに生きている、と。

777 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/12(日) 22:07:20 ID:IYNoqvTc0
「たった八名だと落胆するだろうか?
 八名もの数がと戦慄くだろうか?
 どちらにせよ、早いものだ。
 僅か二十四時間で、実に六割強の命が死神に魅入られたのだからな。
 だが、手を下したのは死神などではないのは理解しているだろう。
 諸君らが敵だと断じた者が、諸君らが仲間だと信じた者たちが。
 そして――諸君らこそが。
 命を奪い尽くしたのだ。
 時に大義名分を振りかざし、時に信念を盾として、時に欲望に忠実に。
 他者を蹴落とし踏み躙ったのだ。
 果たして諸君らには、他者を斬り捨ててまで立っている価値があるのか?
 果たして諸君らには、否定しつくした末に生き延びるだけの意味があるのか?
 もしあると言うのならば――」
 
 問いかける。
 答えなど返ってはこないと分かっていながら、それでも、感情のままに声は告げる。
 
「――全てを奪い尽くした上で、私の元に来るがいいッ!」

 ◆◆
 
 本当に早いものだと、オディオは思う。
 豪奢というよりも禍々しい玉座に背を預け、目を閉じる。
 視界を閉ざし想起するのは、二十四時間前から始まった殺戮劇。
 自らが催した殺戮劇は、予想を上回る速度で進行している。
 それはまるで、人間の業の深さや愚かさを体現しているかのように感じられた。
 参加者の中には、人間ではない者も数名混じっている。
 彼らはどう思っているのだろう。 
 そして人間は、彼らをどう思っているのだろう。
 同種族ですら争う人間が、異種族と手を取り合えるとは思えない。
 その証拠と言うように。
 夢にメッセージを込めたエルフの身は、彼女自身が愛する者と信頼する者によって灼かれたのだ。
 
 しかし、その一方で。
 絆を築き希望を抱き、巨悪を打ち破った者もいる。
 人間でありながら――否、人間であるからこそ、人間を強く憎悪した狂皇子も。
 負の感情を糧とし世界を紅に染め上げた災厄も。
 たったひとりの人間が相手では、滅び去りはしなかった。
 それは、人間が持つ力を、否定しきれないケースに他ならなかった。 

「それでも……」

 オディオの奥歯が、強く噛み締められる。
 ルカ・ブライトやロードブレイザーの死滅に口惜しさを覚えているわけではない。
 強い絆と希望の力で貴種守護獣を呼び起こし、再生したアシュレー・ウィンチェスターに忌々しさを覚えているわけではない。
 
「それでも、人間は決して愚かさを捨てられんのだ……ッ!」

 呻くような呟きに混じる、羨望めいた感情を拾う者は、誰一人存在しなかった。
 芽吹いたモノを振り払うように、オディオは瞼を開く。

778第四回放送 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/12(日) 22:10:35 ID:IYNoqvTc0
 間もなく、この城に訪問者がやってくる。
 それが破壊と殺戮と蹂躙の果てに勝ち抜いた、たった一人の客人なのか。
 抗いの意志を絆で繋ぎ希望を抱いた、反逆者たちなのか。
 あるいは、皆が皆手を取り合えないまま、入り乱れて雪崩れ込んでくるか。
 何にせよ、そろそろ頃合いだ。
 万が一のため、駒の配置は完了している。
 用意した駒のうち、思い起こしてしまうのは四つの異形の女たちだった。

 一つは、四本の腕を持つ桃色の髪をした女。
 二本の腕の先端は人間のものと同じ。されど、残り二本の腕の先には無骨な岩石がぶら下がっている。
 岩石と人間の合成生物――クラウストロフォビア。

 一つは、漆黒の球体から上半身を生やした女。
 背から伸びる一対の翼で宙に浮くその姿は、あらゆる光を呑み込みそうなほどに気味が悪い。
 暗黒の分子で構成された生物――スコトフォビア。
 
 一つは、緑色の翼と尻尾を生やした女。
 上半身は人のものであるが、下半身は爬虫類めいた翼と尻尾で構成されている。
 器より出でし魔法生物――アクロフォビア。
 
 一つは、透き通る液体を纏った女。
 艶めかしい裸身に液体を絡ませるその姿は最も人間に近い。しかし、液体は絶えず女に絡みつき、同一の存在であると主張している。
 液体から作られた合成生物――フェミノフォビア。

 彼女らは、かつて。
 かつてオディオが、『オディオ』でなかった頃に、一人で戦った人形たち。
 彼女らを最初に想起してしまうのは、強い信頼を置いているからではない。
 むしろ、真逆だ。
 その悪趣味な人形に、オディオは強く激しい嫌悪感を抱いている。
 他の駒には、一切の興味も感慨も持ち合わせてはいないのに、だ。
 強烈な感情は、その正負に関わらず強く印象付ける。
 そういう意味で、四つの人形は特別だった。
 オディオ自身の手で破壊したはずの彼女らを。
 吐気を催すほどに忌み嫌う彼女らを蘇らせたのは、手駒としてはそれなりに使えると踏んだためだ。 
 人形は、裏切らない。
 そう、決して、裏切らない。
 だから、それ故に。
 オディオは想わずにはいられない。
 
 ――人間は、自らが作りだした人形よりも劣っている、と。
 
 そう想わずには、いられない――。

779 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/12(日) 22:13:20 ID:IYNoqvTc0
以上、投下終了です。
フォビア以外の手駒や策については、後続の書き手諸氏にお任せです。
>>776-777にタイトルをつけるのを忘れてしまいました。すみません。

では、何かありましたらまたご遠慮なくお願いいたします。

780 ◆6XQgLQ9rNg:2010/12/13(月) 22:03:15 ID:q7DAuZmE0
仮投下してくださった方、ありがとうございましたー

781第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:43:59 ID:qCCNahKk0
お待たせしました、第四回放送・裏、投下します

782第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:45:03 ID:qCCNahKk0
上下の感覚すら掴めない空間を、アシュレーは漂っていた。
そこには何もなかった。
床もなければ壁もなく、空もなければ大地もない。
人造物も自然物も一切存在しない空間を満たすのは、ただ一つの色。
身体を失ったアシュレーが知覚できるただ一つのもの。
白。白い闇。
それを決して光と称さないのは、アシュレーが自分は死んだのだと思っているからだ。
アシュレーの脳裏を、彼が覚えている最後の光景が過る。
ぽっかりと穴の空いた心の臓。
ロードブレイザーと相討ち、地に伏せる自らの姿。
断言できる。自分は確かに死んだのだ。身体がないのもその証拠だろう。
なら、ここは所謂あの世なのかもしれない。

「……ごめん、マリナ。……ごめん、みんな」

アシュレーは戦い抜いた。
戦い、戦い、死に果てた。
その選択に悔いはない。
死をも覚悟して、アシュレーは命を賭けてきた。
自分の居場所に帰るために。帰りたい日常を護るために。その日常をなす大好きな人々と笑い合える世界を取り戻すために。
何度生まれ変わろうとも、何度あの時間をやり直そうとも、アシュレーは同じ道を選ぶと言い切れる。
ただ、それでも。
悔いはなくとも、嘆きはなくとも、寂しさはある。
もう二度と愛した人達に会えない。
もう二度とアシュレーの帰りを待っているであろう人に、ただいまを言ってあげれない。
そのことが堪らなく辛かった。
だから、アシュレーは歩くことにした。
かつて訪れたアナスタシアのいる世界のように、どこかに生者の世界と繋がっている所があるかもしれない。
生き返られるとまでは思っていないが、それでも言葉を届けることくらいはできるかもしれない。
いや、もしもそんな都合のいい場所がなかったとしても。

「マリナ」

その名を心に灯し続けよう。

「アーヴィング。アルテイシア」

もう二度と逢えなくとも。
もう二度と我が子を抱くことがなかろうとも。
アシュレーは、どんな時でも家族と共にあるのだから。

783第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:46:06 ID:qCCNahKk0
「…………大切な、誰か」

ふと、誰もいなかったはずの世界に、アシュレー以外の声が響く。
驚き目を凝らし、誰か居るのかと返すアシュレー。
すると、白一面の世界に墨の如く黒い点が滲み出た。
代わり映えのなかった世界に突如生じた異変。
元より、外の世界との接点を探していたアシュレーは、先の声のこともあり、黒点へと駆け寄っていく。
と、黒点との距離が縮まる度に、その正体が明らかになってきた。
それは黒ではなかった。
言うならばそれは緑か。
緑色の髪の少年だ。
点に見えたのは彼が蹲っていたから。
蹲り、一人泣き続けていたからだった。
アシュレーはそのことに気づくと走る速度を上げた。
そう、走る、だ。
少年へと駆け寄ろうとした時には、失ったはずの身体が生じていたのだ。
心なしか透けてはいるが、寸分違わずその身体はアシュレーのものだった。

(霊体だから融通が効くのかな?)

よくよく見れば少年の身体もまた透けていた。
空間より滲みでた点や、現状の自分を鑑みても、もしかすれば泣いている少年も既に死んでいるのかもしれない。
だったら慰めたところで何になる。
そんな考えはアシュレーの心の中には存在しない。
一人ぼっちが寂しいと、泣いている子どものように見えたから。
それだけでアシュレーが手を差し伸べるには十分だった。





当の少年――ユーリルは、誰かと会うことなんか望んではいなかった。
何故だか透明無形な存在になっていたはずが、声を出したら急に色形を得てしまったユーリルは、胡乱げに顔を上げる。
彼の目に映るのは、一人の見知らぬ男の姿。
この地にて一度も邂逅したことのない、どころか、仲間であったクロノ達から聞いた誰とも違う人物。
正しく、名も知らない、縁の全くない他人。
今、ユーリルが、最も目の当たりにしたくなかった存在。
かつて、ユーリルが、『勇者』が、救うべき存在として自らの命を賭けた存在。
『勇者』という幻想の存在意義――だったはずのもの。

(けれど、それは違うと、さっきの男は言った)

『誰の』英雄になりたかったのかと、ユーリルに問うた男がいた。
助けたい人以外は助けなくとも仕方がないと、男は言った。

784第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:46:56 ID:qCCNahKk0
(助けたい、誰か……)

そんなことを考え続けていたせいで、ユーリルは来訪者の声に反応してしまった。
マリナ。アーヴィング。アルテイシア。
それが今、ユーリルへと近づいてくる男にとっての戦う理由なのだろう。
男のことを何も知らないユーリルだが、それでも、彼が誰かの名前を呼んだ声に込めた想いは理解できた。
あれは家族を呼ぶ声だった。大切な誰かへと向ける声だった。
それも、もう会えない誰かへの。強い想いを込めた声だった。

(僕も、あんな声を出したことがある。あの日、村が襲われ、僕が『勇者』になったあの日に)

父の、母の、シンシアの名を泣き叫び、彼は勇者になることを誓ったのだ。

(そうさ、悩むまでもなく答えなんて出ていた。
 忘れるわけがない。ずっと、ずっと覚えてた。僕が助けたかったのは、僕が護りたかったのは)

今でこそ、ユーリルは在りし日々が偽りのものだったと悟っている。
家族だと信じていた人達も、好きだと思っていた幼なじみも。
誰も彼もがユーリルを勇者としてしか見ていなくて。
世界を救う見返りとして、形だけの愛情を注ぎこまれていたに過ぎなかった。

だがそれは、あくまでも半日程前に気付いたことだ。
あの日の、勇者になると決意したユーリルにとっては、あの村の人々こそが、本当に助けたかった誰かだったのだ。

(……ああ、あいつの言ったとおりだ。救いたい誰かがいてこそ『英雄』になれる。
 救いたかった誰かがいたからこそ、僕は『勇者』になった)

アナスタシアがそうであったように、ユーリルもまた特別でも何でもなかった。
勇者になる運命こそあれど、少なくとも、あの時まではユーリルはただの少年だったのだ。
世界のことなんて考えもしなかった。
ただ、大好きな人たちとずっと一緒にいたいと、それだけを考えていた。
だけど。
その願いは叶わなかった。
ユーリルは好きな人達と一緒に生きることも、一緒に死ぬことさえも許されなかった。
ただ一人、大好きなみんなの屍に護られて生き残ってしまった。
そして、そのことがユーリルに勇者になる決意をさせてしまった。
好きだった人達の犠牲を無駄なものにしたくはないと。
全てを犠牲に生かされてしまった自分は、彼らの望んだように人の為に生きなければならないと。
強迫観念に似た義務感に飲み込まれてしまった。

『皆を救って……。 あなたは……勇者なんだから……』

シンシアから零れ出た呪詛を思い返す。
何のことはない、そんなものはとっくの昔に、ユーリルの魂を侵していたのだ。
ユーリルはあの日、余すことなく聞いていたのだから。
魔物に殺されゆく両親が、村人が、シンシアが漏らす那由他もの悲鳴と怨嗟を。
いくら使命感で固めていようとも、彼らもまた当時のユーリル同様ただの人間だったのだ。
死を前にして、恐れや恨み言を残す者もいた。
いや、いなかったにしろ、隠れて震えているしかなかったユーリルには、
村人達の断末魔は彼らが死ぬ理由となった自分への憎悪としてしか聞こえなかった。
渇望し、それでも届かなかった生への憧憬と怨恨を。
一人だけ生き延びてしまったユーリルへとぶつけているようにしか聞こえなかったのだ。

785第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:47:39 ID:qCCNahKk0

(だけど、だけども。まだあの時の僕は『勇者』になりきれていなかった。だからこそ、そこに『僕』も存在していた)

ユーリルは勇者になるべく生を受けた。
ユーリルは完璧な勇者になった。
しかしながら、何度も述べたようにユーリルにも勇者でない時はあったのだ。
勇者になろうと思えば、誰にでも勇者になれるわけじゃない。
それはユーリルにも当てはまった。
あの日、あの時、あの瞬間。
勇者として旅立つ決意をした少年は、勇者になったばかりであり、勇者としては未熟極まりないものだった。
だからこそ。勇者として未熟だったからこそ。そこにはユーリルという一人の少年が残っていた。
故郷を失い、仲間もいない一人ぼっちの時間だったからこそ、彼を勇者として見る人々の声なき声も、意識しないで済んだのだ。
ならば。
その勇者の中に残されていたユーリルは、何を想い戦っていたのだろうか。
勇者という仮面を被りきれていなかった彼は、心の中で恐怖や悲しみに震え泣いているだけだったのだろうか。

違う、そうじゃない。

(僕は、僕は。確かに自分の意思で、どこかの誰かを助けたいと願っていた)

彼は泣きはすれども、震えるのではなく、その哀しみを闘志に変換して前へと進んだ。
自分が味わった別離の哀しみ。
それをもう他の誰にも味わって欲しくないと、あの日の少年は思ったのだ。
もう誰も殺させてなるものか。無理だ無謀だと言われようとも、世界中の人間ですら助けてみせると、そう誓ったのだ。
それは、自分の意思を殺してでも正しくなければならなかった勇者が抱いた、最後の最後の我侭だった。

(でも……)

今のユーリルには、かつての勇者ではないユーリル自身の誓いですら、他人のもののように思えてならなかった。

剣の聖女の声がリフレインする。
人々は何もしてくれなかったと。たった一人の『英雄』に全てを押し付けて生贄にしただけだと。

炎のサイキッカーの言葉が追随する。
助けたい人だけ助ければよかったのだと。そうすれば『生贄』なんかにはならなかったのだと。

その二つの言葉が、ユーリルに一つの疑問をもたらす。

「価値なんて、あったのか?」

786第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:48:16 ID:qCCNahKk0

果たして、価値なんてあったのだろうか。
彼が助けようとした人々は。
自身のように辛い思いをさせたくないと思った人々は。
せめて、大好きな人達の代わりにと贖罪のままに助けた人々は。

ユーリルが失った全てのものに釣り合うだけの、価値があったのだろうか。
助けたいと、思うに値する人達だったのだろうか。

「教えてくれ。教えてくれ、クロノ。君は、どうだったんだよ。誰の英雄だったんだよ。
 その誰かには、君が一度死んでまで護るだけの価値があったのかよ!?」

虚空へと叫ぶも答えは返ってこない。
返ってくいるはずがない。
ユーリルが護りたい誰かになれたはずの少年は既にこの世にいないのだから。
故に。

「価値など、ありはしない」

その声は。

「君が護りたかった人間にも。クロノが救った人間にも」

何かを言おうとした青髪の男よりも先に発されたその声は。

「教えてやろう、ユーリル」

友のものであるはずがなく。

「クロノが本来進むはずだったある一つの未来を」

クロノ自身さえ知りえぬあり得た未来を語ることのできる者は。

「彼は愛した女と結ばれ玉座につく。なにせ相手が一国の……っ王女だったからだ」

時空を支配する力を持つかの魔王以外にありはしない。

「だがその王国は僅か5年で滅ぶことになる」

ただ、ユーリルにはもはや、そんなことはどうでも良かった。

「彼が、クロノがラヴォスより救った人間どもの手でだッ!」

告げられた言葉の意味。
それを理解するや否や、彼の心は大きな衝撃に襲われ、それどころではなかったのだ。

「てめええ、オディオォォォォォっ!」

よって、魔王の名前を呼んだのはユーリルではなかった。
呆然としたままのユーリルを庇って入ったアシュレーのものでもなかった。
それは熱き心のサイキッカーの魂の雄叫びだった。
強く拳を握り締め、オディオへと強烈なパンチを見舞ったアキラのものだった。




787第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:48:51 ID:qCCNahKk0


「夢の世界までわざわざご苦労なこった」

アキラは他の人間達と違い、この世界がどういうものなのかを理解していた。
上下のない世界をふわふわと漂うその感覚を、アキラはよく知っていたからだ。
即ち、夢。
精神世界には近いけれども違うもの。
『誰か』の世界ではない、もっと広くて曖昧な世界。
個人の意識ではなく、雑多な人間の無意識からなる集合的無意識の世界。
だからこそ、この世界はミネアや、ユーリルの心に潜った時とは違い、個人が反映されてなく、あやふやなまでに真っ白なのだ。

「なに、君のように気絶している人物があまりにも多くてな。
 少々他の事情も重なって、今回に限り、夢の中でも放送をしてやろうと思ったまでだ」
「そうかよ。親切すぎて反吐が出るぜ」

アキラはオディオに刺さっていた拳を引きぬく。
刺さっていたとは比喩表現ではなく、そのままの意味だ。
所詮、ここは夢の世界。
アキラの身体も、オディオの身体も、虚像に過ぎないのだ。

「反吐がでるのは結構だが、精神世界でならともかく、ここは夢の世界だ。
 どれだけ殴られようとも、私の身も心も傷付きはしない」
「分かってるよ、んなことは。それでも俺は、てめえのことが気に食わねえ。その顔を見たらぶん殴りたくなるくれえになっ!」

アキラは強く拳を握り締め、追撃のパンチを放つ。
彼は心底腹がたっていた。
元よりオディオのことはボコボコに叩きのめすつもりでいた。
その相手が紛いなりにも顔見知りの人間を、絶望の淵に叩き込んだなら尚更だ。
アキラはユーリルへと目を向ける。
余程のことをオディオより告げられたのだろう。
ユーリルはアキラとアナスタシアを前にしても、虚空を見つめ、口を壊れた人形のように動かすだけだった。

「くそっ、くそっ、ちっきっっしょおおおおおお!」

アキラは怒りの炎を燃え上がらせ、際限なく拳を加速させるイメージを紡ぐ。
自分の声ををきっかけに自身を再認識し、偶発的に身体を得たアシュレーやユーリルとは違い、
アキラの身体は確固たる意思でイメージされたものだ。
色が透けていたりせず、外見上は、生身の身体に見劣りしない。
だが無駄だ。避ける素振りを見せないオディオだが、それもそのはずだ。
アキラが看破したように、ここはどこまでいっても夢の世界なのだ。
どれだけ拳を叩きつけようと、現実の肉体には響かない。
夢だろうが現実だろうが心を壊せる言葉に比べて、拳はあまりにも無力だった。

「気が済んだか?」

788第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:49:35 ID:qCCNahKk0

済むわけがない。
それでも、アキラはようやく拳を解いた。

「落ち着くんだ。今は、この少年を助けるほうが先だッ!」

冷静になれと、アキラを引き止める声があったからだ。
はっとしてアキラは声の主に顔を向ける。
ユーリルを背に庇いつつ、強い意思の篭った視線を向けてくる人物。
その容姿にアキラは心当たりがあった。

「あんた、まさかアシュレー・ウィンチェスターか?」
「!? どうして僕の名を? いや、そういう君は一体……」

ブラッドからテレポートジェムを貰い受ける前に交わした情報が、思いもかけずに役に立った。

「おっとわり。先に名乗るべきだったな。俺はアキラ。あんたのことはブラッドから聞いた。
 今はマリアベル……とも一緒にいるぜ」

一瞬、アナスタシアのことも告げようかと迷ったが、そこで妙案が思いつき、敢えて省略する。
事情が複雑な以上、たとえ夢の中であろうとも、オディオを前に悠長に会話してはいられない。

「ブラッドとマリアベルがッ!? なら君も」
「ああ、あんたの仲間だ。こいつを、オディオを倒そうとする仲間だ!」

アキラはそう口に出して宣言し、同時に心で語りかける。

『聞こえるか、アシュレー!』

口で話しているひまがないのなら、直接イメージを送ればいい。
ユーリルがオディオになんと言われたかまでは聞き取れはしなかったが、その前段階までの原因なら知っている。
自分が読んだユーリルの記憶や、知っている限りのユーリルとアナスタシアの今。
それをアキラはユーリルへとテレパシーで伝えようとする。
無論、都合よくサイキッカーではないであろう新たな仲間が、情報の洪水に流されないよう、少しずつ区切ってだ。
そこまで考えて、ふと、最悪の可能性に思い至る。

「オディオ、こんなことができるなんて、てめえもまさかサイキッカーなのか?」

それは魔王オディオもサイキッカーである可能性だ。
他人の夢を繋げ侵入する能力。
オディオが成したその力が、人の心に意識を通わせる自身の能力に似ていると思ったからだ。
冗談じゃない。
オディオに心をよまれてたまるか。
反抗が難しくなるとか、そんな理屈以前に、アキラの感情が、オディオに心を読まれることを嫌悪して。
アキラは問わずにはいられなかったのだ。




789第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:50:13 ID:qCCNahKk0
問わずにはいられない命題があるのは、オディオもまた同じだった。
本来であれば、彼が待つ城を訪れたものへと投げかけるはずだった問い。
しかし、殺し合いに招いた『勇者』が自らその疑問へと至った以上、予定を繰り越しても問題あるまい。
そう判断してオディオは口を開いた。

「……ちょうどいい。私からも君に問うとしよう。
 君は、一体何のために戦ってきたのだ……?」
「てめっ、質問に質問で返してるんじゃねえ!」
「安心しろ。これは君の先刻の問いの答えにも通ずる質問だ」

嘘は言っていない。
アキラが知りたいのはオディオがサイキッカーなのかどうか。
それはつまるところ、オディオがこうして夢に介入しているのは超能力によるものなのか否かということだ。
そしてそのアキラが知りたがっている手段というのは、この質問の答えと無関係ではない。

「くそっ、しのごの言ってんじゃねー!」
「答えられないようなことなのか? そんなはずはないだろう。
 君は世界を救った英雄だ。世界中の人々を護りたかったんじゃないのか?」
「違う。俺は自分の救いたかったものを救っただけだ」

同じことだ、同じことなのだ。
『誰か』を救おうとしたというのなら、お前も同じだ。
人間はいつか裏切る。人間は弱さを捨てられない。人間は他力本願に生きる。
そんな信用の出来ない他人を救う行為なぞ、『勇者』が世界を救わんとするのと同様、愚かしい行為でしかないのだ!
現に超能力者の少年が救いたいと言っている人物は、少年をずっと欺き続けてきたではないか。

「救いたかった? 理解できんな。無法松はお前の親の仇だろう? 
 しかもそのことを秘密にし、罪悪感から逃れたいが為だけに、お前や子ども達を利用していた」
「っ、それでも、あの背中は本物だ。俺達を護ってくれた松の生き様には嘘偽りなんてなかった」
「それもまた幻想だ。人は裏切る、裏切るのだ」

とりつく間もない突き放すアキラの即答を、オディオは静かなる怒りで両断する。

「君はさっき聞いたな。私はサイキッカーかと。答えは否だ。
 私は夢にメッセージを込めたエルフの女性の魔法に介入して、君達の夢を繋げ、言葉を届けているに過ぎない」

びくりと、ユーリルが痙攣を起こしたかのように一度大きく震える。
かのエルフはユーリルにとって、仲間のように比重の大きい存在でもなければ、アナスタシアやピサロのように憎むべき存在でもない。
先刻まであまりのショックに何の反応も示さなくなっていた少年を震えさせるには、本来なら役不足だ。
それでも彼が反応せざるを得なかったのは、オディオの声にクロノの国が滅ぼされたと話した時と、同じ感情が滲んでいたのを感じたからか。
その通りだ。これからオディオが告げるのは、少年を更に絶望に落としかねない事実なのだから。

「彼女は、ロザリーは死んだ。最愛の人の手にかかってだ……」

信じられないと、ユーリルが目を見開き、瞠目し、今度こそ動かなくなった。

「……っ!」

790第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:50:46 ID:qCCNahKk0
動きを止めてしまったのはアキラも同じだ。
あの時、イスラの意見を振り切ってでも、いなくなったロザリーを探しに行っていれば。
アキラは悔しさに一瞬、口をつぐんだ。

「これで分かっただろう。君達が守ろうとしているものに価値なんてない。
 ロザリーやクロノだけではない。
 この殺し合いへと招いた人間の中には、私が干渉するまでもなく、近い将来、人間に裏切られる者達が何人もいたのだ
 それでも君達は誰かを護るというのか?」

勇者と巫女が命懸けで封印した暗黒の支配者を復活させた科学の信徒が。
人間に絶望し、命の恩人であったオスティア王を殺してのけたベルンの王が。
自らを縛る呪いから解放されたいが為に、世界を巻き込み死のうとした真なる風の紋章の継承者が。
オディオの瞳の裏を掠めては消えていく。

「そうじゃないんだ、オディオッ! お前は間違っているッ!
 僕らは誰かに価値を求めて戦ってきたんじゃない……。
 護りたいと思う自分の意思に応えて戦ってきたんだッ!」

響き渡ったアシュレーの言葉に、今度はオディオの動きが止まる番だった。
一瞬で、オディオから表情が消え……きれていない。
僅かに苦虫を噛むような、或いはどこか懐かしいものを見た顔で、オディオは再び口を開く。

「そうだな。君ならばそう答えるだろうな。だがそれは君が勝者だからだ。
 君達二人は戦いに勝って、大切なものを手に入れた……。大切なものを護りきった。
 しかし私はこう思うのだ。それらも、しょせん一方的な欲望ではないのかと。
 自分にとって大切なもの、それを守るためならば 他者を傷つけていいのかと」

それは、意図して感情の起伏を抑えた声でありながら、ひどく心が漏れ出る声だった。
淡々と、とつとつと、オディオは言葉を並べていく。

「それが許されるならば、何故敗者は悪とされてしまうのだ。
 彼らもまた、自分の欲望のままに素直に行動しただけではないか。
 だというのに敗者には明日すらもない。歴史を作るのは勝者だからだ。勝った者こそが正義だからだ!」

つまるところそれは、オディオが開いた殺し合いと一緒だ。
勝者だけが全てを手に入れられる、それこそがこの世の真理なのだ。
アシュレー達はこの殺し合いを打破しようとしているが、それが何になる。
人は果てしなく欲望を抱く。
殺し合いの輪から抜けたとしても、人が人でいる限り、その先にあるのは新たな戦いでしかないのだ。
彼らが勝者なら尚更だ。勝者は生き続ける限り、数多の戦いを繰り広げ、勝ち抜いていく。
それは、勝者の勝利と同数の敗者を生み出すことに他ならない。
だからこそ。

791第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:53:10 ID:qCCNahKk0
「己の勝利に酔いしれ、敗者をかえりみないお前達は知らなければならなかったのだ。
 お前達もまた敗者足りえたのだと。お前達が否定した悪そのものだったのだとッ!!」

それが生前のロザリーが仲間と共に訝しみ、あと一歩のところまで迫っていた、この殺し合いにおける人選の謎の答えだった。
何故人間以外の種族が巻き込まれたのか? それは概ねロザリー達の推測通りだ。
足りなかったのは、どうして参加者たちは誰もが平穏とは程遠い戦いを経験していたのかという点だ。
戦力バランスを考えてなどというものではない。
オディオは殺戮劇の参加者を、何らかの戦いを勝ち抜いた者を中心に選んでいたのだ。
この世が勝者と敗者で二分されているというのなら、勝者同士を戦わせればいい。
そうすれば、数多の勝者も敗者となり、数多の正義も悪となる。
偽善は暴かれ、たった一人の、真の勝者だけが残る。
その真の勝者を、魔王オディオは心の底から祝福しよう。
たとえその者の願いが、全ての死者の蘇生であっても喜んで叶えよう。
何故なら、その真の勝者は嫌でも理解せざるをえないからだ。
自分の願いの為に、誰かを殺し、蹴落としたことを。
誰かを護るということも、結局は人を傷付けてでしか成し遂げられない罪に他ならないということを。

「お前にはピンと来ぬかもしれぬがな。
 アシュレー・ウィンチェスター。最たる勝者よ」

嫌味などではなく、羨望さえ感じる声でオディオはアシュレーを評する。
最たる勝者。
彼以上に殺し合いに招いた勝者の中で、この賞賛が似合う人間もいないだろう。
彼はオディオが唾棄した、何もしないで救いを求めるだけだった人々を、自らの意思で立ち上がらせた。
皆の心を一つにして、誰一人欠けさせることなく、未来を勝ち取った。
それは、きっと素晴らしい未来なのだろう。
あくまでも推測なのは、オディオにはファルガイアの未来を知る術はないからだ。
オディオは『憎しみ』という感情の化身である。
故にこそ、強き憎しみの力を持つ者がいれば、その存在を基点とし、時空の壁を越えて干渉できるのだ。
ただ、それは裏返せば、強き憎しみを抱く者がいない世界には干渉できないこととなる。
ファルガイアの未来はまさしくそれだった。
死に際のロードブレイザーを基点とし、オディオが干渉できたのはせいぜいその前後一年。
それ以降の未来、少なくともアシュレーの存命中には、オディオの媒介になる存在は現われはしなかった。

そして、その輝かしい未来を象徴するかのように。
アシュレーはこの殺し合いの最中でも、絆と希望を掲げ、数々の勝利をその手にした。

「フフフ……、ハハハハハ……、ハーッハッハッハッハア……!!
 そうだ、お前に私達、敗者のことが分かるはずもない。
 ロードブレイザーに再び勝ち、どころかルカ・ブライトまでも破ったお前には」

792第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:54:35 ID:qCCNahKk0

いつしかオディオはそれまでの静謐さをかなぐり捨て、大声をあげて笑っていた。
何もアシュレーを嘲笑ってのことではない。 
ただ『英雄』を否定した男が、誰よりも『英雄』と呼ぶに相応しいというその皮肉に、笑わざるを得なかったのだ。
かつてオディオが目指し、ユーリルも理想とした『勇者』。
その正解像とも言える人間を前に、泣くことも、怒ることもできないのなら、笑うしかないではないか。

(だが、だからこそ。私はお前を呼んだのだ。最たる勝者であるお前こそが、敗者を顧みねばならないのだ)

勝者に顧みさせようと招いた数人の敗者達は、既に多くは敗れはしたが、それでもまだ三人、残っている。
しかもそのうちの二人はオディオと同じく魔王の名を冠する者だ。
一人は先ほど口にしたピサロ。そしてもう一人こそ――。

「そうは思わないか、魔王ジャキよ」
「――貴様がその名前で私を呼ぶな。魔王たれと私に望んだのは貴様だろう」

人の名を捨て、されど魔の王としての名も持とうとはしない者。
一番呼んで欲しい人に名前を呼ばれない以上、そこに、文字の羅列としての価値しか見いだせない者。
魔王。
オディオの呼びかけに応える様に、魔王もまた夢の世界で虚像を纏った。





敗者だとか、勝者だとか、魔王にはどうとでもよかった。
彼は敗者だ。
一人ではジールにもラヴォスにも勝てず、クロノ達にも敗れた敗者だ。
彼は勝者だ。
宿敵とさえも手を組み、遂にはジールとも決着をつけ、ラヴォスをも倒した勝者だ。

(それがどうした)

魔王は負けた。負けて最愛の姉を奪われた。
魔王は勝った。勝ったところで姉は戻ってこなかった。
であるなら勝敗に意味なんてない。
一番大切なものを失ってしまったのなら、他の全てがどうなろうと意味はないのだ。
その全てには魔王自身も含まれている。
どう足掻いてもサラを取り戻せないというのなら、これからの魔王の生など無価値だ。
逆に言えば、どうにかしてサラを取り戻せるのであれば、魔王はその為に全てを賭けられる。
ならばここは境界線だ。
転がり込んできた最後のチャンス。
それが幻想か、そうでないのか、この機にオディオに確かめなければならない。

「私が聞きたいのはそんな御託ではない。確認させろ。お前は本当にどんな願いでも叶えられるのか?
 時空の彼方に消え去ったサラを、姉上を……。お前は見つけ出し、助けることができるのか?」

オディオに縋るしかない身とはいえ、魔王には彼の願望を成就させることがどれほど難しいか、身に染みて分かっていた。
助けるどころの話ではない。魔王は姉の居場所すら掴めていないのだ。
むしろそれこそが、魔王に立ち塞がっている最大の難関と言っていい。
時を超えることもできる。平行世界へも渡り歩ける。だがそれだけだ。
無限に広がる平行世界の、そのまた無限に綴られている時間軸。
サラが今も時の狭間を漂っているかもしれない以上、その全ての時空を探さねばならない。
それでは見つかるはずがない。
引いても引いても数が減らない無限の二乗個のくじの中から、たった一つの当たりくじを引き当てろと言うようなものだ。

793第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:57:10 ID:qCCNahKk0

「可能だ。いや、適任だと言っていい。私なら君の姉を救える」

そんな無理難題をふっかけて、すぐに解けると返されたのなら、人はどう思うだろうか。
喜ぶか。驚くか。違う。まずは疑うものだ。

「……根拠は」
「ある。彼女もまた、『オディオ』だからだ。私なら彼女が背負っているものを肩代わりすることができる」

加えて、その理由が要領を得ないものなら尚更に疑いが増す。

「彼女は今や生きとし生ける者全てを憎悪し、死を望んでいる」

オディオが語るサラが、魔王が知る心優しき姉とかけ離れていたのなら尚更だ。
崩れ行く海底神殿で彼女は魔王に言ったのだ。
彼女を生贄に捧げた母を、国を、恨まないで、と。
その彼女が憎んでいるという。人を、生命を、殺したいほどに憎んでいるという。
到底信じられるものではなかった。
だが魔王にはそれが妄言だと切り捨てることはできなかった。
どんなに優しい人でも、きっかけがあれば豹変してしまうと。
姉よりも先に、母の心をラヴォスに奪われた魔王は知っているからだ。
だから魔王にはオディオに続きを促すことしかできなかった。





「サラは、魔神のペンダントを手に、星を滅ぼす災厄、ラヴォスを止められうる希望の少年たちを逃がした」

それはどこかで聞いた物語だった。

「サラは、希望の少年達を逃がしたことと引換に、一人、時空を彷徨うこととなった」

それは生贄となった少女の物語だった。

「サラの心は、たった一人で悠久の時を過ごすことに耐え切れず、日に日に摩耗していった」

それは一人ぼっちになってしまった少女の物語だった。

「その果てに、サラは、自らの願いどおりに倒されたラヴォスの怨念に取り憑かれた」

それは『憎しみ』と出会ってしまった少女の物語だった。

「そして、サラは。全て消えてしまえばいいと願うようになった」

それは生贄の少女が、人殺しになる物語だった。

794第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 12:58:48 ID:qCCNahKk0
(ジャキくんのお姉さんは私とおんなじなんだ……)

アナスタシアは心の中で、オディオが語る物語にそんな感想を心の中で漏らした。
オディオの説明に納得したのか、魔王と呼ばれた男はこれ以上話すことはないと、虚像を解き、姿を消した。
あくまでもアナスタシアがずっとしていたように、居なくなったのではなく、見えなくなっただけなのだろうが。

(アシュレーくんは変わってないな)

姿を隠したまま、アナスタシアはアシュレーを見つめる。
アシュレーは殺し合いに呑まれることなく、オディオに真っ向から言い返していた。
アナスタシアとは違い、アシュレーは諦めることなく、この一日を戦って来たのだろう。
大好きな人達を守るために。最愛の人達のもとへと笑って帰るために。

(眩しいなあ……)

オディオが語った少女同様に磨耗しきったアナスタシアには、アシュレーはあまりにも眩しかった。

「さて、そろそろ魔法が解ける時間だ。放送を始めよう」

だからそのオディオの言語に、アナスタシアはほっとした。
よかったと、漸く終わるのだと。
姿を消したままであるとはいえ、自分が壊したユーリルと、自分がそうなりたかったアシュレーから、早く離れたかった。
夢の中にすら逃げられないなんて、文字通り、まさに悪夢だ。
オディオが死者の名前や禁止エリアを告げる声に合わせて、夢の世界の連結が解け、消滅していく。
アナスタシア達の意識が浮上し、いずれ目覚めることを意味していた。





彼ら彼女らが目を覚ました時、この夢のなかの出来事について何を想うのか。
今はまだ分からない。

795第四回放送・裏  ◆iDqvc5TpTI:2010/12/23(木) 13:02:37 ID:qCCNahKk0
以上、投下終了です。
ロワの開催理由への付け足しや、ユーリルに与えてしまった影響など、指摘・判断をお願いします。
尚、本作においてクロノ・クロスの内容に少々踏み行っていますが、
あくまでも、クロノトリガーの、PS版追加ムービーや、DS版隠しボスから分かる範囲に抑えたつもりです。

796 ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:36:38 ID:UDweb/y.0
それでは、2ch問題につき、こちらに本投下させていただきます

797Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:38:49 ID:UDweb/y.0
本来、深夜の砂漠は昼間とは打って変わって冷え込むものである。
されど、今、ゴゴ達が歩む砂漠は、快適とまではいかなくとも、心地良いと感じられる位には暖かかった。
戦いの余熱が未だ残っているからであろう。
無論その熱は、全てを憎み、破壊する、ルカやロードブレイザーの冷たい炎のものではない。
大切な絆を護りきった、トッシュとアシュレーの熱くも温かい炎の熱だ。
そう、ゴゴは信じている。

「温かい……な」

ああ、温かい。
肌に感じる熱も、心にくすぶる熱も、背負った命も、手を繋いだ少女も、全てがみんな、温かい。

「ゴゴおじさん大丈夫? 重くない?」

手を繋いだちょこが、ゴゴの背を見上げ聞いてくる。
つい先程まで少女に安寧を与えていてくれたその場所には、一人の男が背負われていた。
アシュレー・ウィンチェスターだ。
彼の勝利を信じ、迎えに行ったゴゴ達が目にしたのは、気を失い地に伏していたアシュレーだった。
そこでゴゴは、ちょこの、ちょこはもう大丈夫だからという言葉に甘え、少女を降ろし、男を背負うことにしたのである。

ただ、それからのゴゴの歩みは御世辞にも、順調であったとは言えなかった。
ちょこを背負っていた時でさえ、疲労の極みにあり、ゆっくりとしか歩けなかったゴゴだ。
少女よりもぐっと重い、鍛えた身体を持つ大人の男を運ぶとなると、行き以上に帰りはきつかった。

それでも。
ゴゴはこの重さを辛いとは思わなかった。

「大丈夫だ、ちょこ。命の重みだからな。重くて……当然だ」

生きている。
意識は未だ戻っていないが、背に感じる鼓動が示すように、アシュレーは生きている。
感応石の反応が消えた時には、その死をも覚悟していた友が生きている。
ならば、背の重みを好ましく思いこそすれ、苦行だと嘆くはずがない。

「うん、そうなの。おじさんの言うとおりなの。そこには、ティナおかーさんも、狼さん達もいるの〜!」

そうだったなと、ゴゴは頷く。
彼らがアシュレーを発見した時、アシュレーは意識を失っていさえしたが、傷一つない状態だった。
ロードブレイザーに無傷で勝利した――ということが考えられない訳でもなかったが。
それにしたってルカと対峙する前からあった、フィガロ城戦での傷まで跡形もなくなくなっていたのだから、怪しむなという方が無理だ。
もしかしたら、アシュレーは再びロードブレイザーに取り憑かれてしまったのではないか。
不可思議な全快を果たしていたアシュレーを前に、ロードブレイザーの治癒力を知るゴゴは、そう警戒してしまった。
トッシュが命を賭けて成した人と魔神の分離。
それを無駄にしてたまるかと、自身でも困難だと思える紋次斬りの物真似さえ決意した。
しかし、全てはゴゴの取り越し苦労だった。
人ならざる者達の声を聴くことのできるちょこが教えてくれたのだ。
狼さん達の声がする、と。
ティナおかーさんと、ティナおかーさんのおとーさんと、狼さんと、狼さんのおにーさんが、アシュレーおじさんを助けてくれたの、と。
子どもらしい独自の言葉で説明してくれたちょこの言葉を要約すると、ティナ達の魔力を借りて、
ルシエド達がアシュレーの傷や欠損を埋める形で実体化したとのことだ。
彼らガーディアンの実体化は、幻獣のそれとは違い、生きる者の強い心の力さえあれば実体化し続けることができるらしい。
アシュレー程の心の強さの持ち主なら、まず実体化が解除される心配はないだろう――とのことだ。

798Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:43:36 ID:UDweb/y.0

正直、ちょこが語ったことの半分以上を、ゴゴは理解できていない。
ゴゴにルシエド達の声を伝えてくれたちょこにしたって、難しいことはわかんないと首を傾げていた。
だが。
分からないことだらけでも、分かっていることならあった。
アシュレーは助けられたのだ。
幻獣とガーディアン、二組の家族の力によって。

(家族……か)

家族――それはアシュレーを救った力
家族――それはちょこが失ったもの
家族――それはシャドウに少女を護らせたもの

ふとゴゴは遠き日を想う。
正体不明を売りにはしているが、ゴゴとてれっきとした生命体だ。
生みの親はちゃんといるのだ。
当然、幼き頃には、彼ら、彼女らの中でゴゴも笑っていた。
友達と呼べるような存在だって確かにいた。
されど。
ゴゴはいつしか一人になっていた。
たった一人、物真似の道に生きていた。

何もそれは家族や友人が物真似に魅せられたゴゴに理解を示さなかったから――というわけではない。
ゴゴの物真似は時に人を楽しませ、時に人に笑顔を与えた。
ゴゴのファンになったと言う人々も沢山いた程だ。
それに、ゴゴからすれば物真似は自身の生き様なのであって、別に他人がどう思おうと構いはしなかった。

だからゴゴが一人になってしまったのは、単にその物真似への欲求と、追随する行動力があり過ぎたからに他ならない。
あれも真似したい。これも真似したい。まだ見ぬ何かを真似したい。
その願いがゴゴに一箇所に留まることをよしとさせなかった。
時には鳥や魚や魔列車の物真似をしているうちに、大陸を横断しきってしまったこともあったくらいだ。
そんなゴゴについて来れる存在なんて、ゴゴの故郷にも、旅先にもいなかった。
正しくゴゴは渡り鳥だったのだ。
誰の追随も許さず、心を許した者さえも置き去りにして、ただ高く遠くへと飛んでいく。
一人ぼっちの鳥だったのだ。
一人ぼっちの鳥……だったはずなのだ。
あの時までは。忘れもせぬあの時までは。

(あの時は驚いたものだ。まさか、俺以外にあんな辺鄙な地に来るものがいるなどと、思ってもいなかった)

世界中のありとあらゆる物を真似して行くうちに、地上には、ゴゴが真似したことのないものは少なくなってきていた。
たとえ同じ物や生物でも、一分一秒ごとに変わり続けていることくらい、物真似師であるゴゴは誰よりも知っている。
故に同じ対象を何度も何度も真似たところで、ゴゴが物真似を飽きることはない。
けれども、全く真似したことのないものへと想いを馳せたくなるのもまた、人情というものである。
そこでゴゴは、地上がダメなら、いっそ海中やら地中やらに潜ってみるのはどうだろうかと、思いたったのであった。
結果は、ゴゴにとって大変満足のいくものだった。
海の底や、大地の中には、ゴゴにとって未知の世界が広がっていた。
味を占めたゴゴは、それからもあちこちを旅しては様々な世界へと文字通り、没頭していったのであった。

799Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:47:47 ID:UDweb/y.0

その最果てが、小三角島の洞窟とゴゴが名付けた、とあるモンスターの胃袋の先に広がっていた世界だった。
モンスターに食われたと思ったら、不思議な洞窟に行き着いていたという話を旅路で聞いたゴゴは、
いてもたってもいられず早速食われてみたのであった。
それはもう、躊躇とか恐怖とかそんな言葉は全力で置いてきぼりにしてである。
実際、ゴゴは五体満足で目を覚まし、目的だった洞窟でたっぷりと物真似を満喫できたのだから結果オーライであった。
……結果オーライではあったのだが。
ここで流石のゴゴも予想だにしていなかった事態が発生した。
なんと、ゴゴが長き物真似道の末に辿り着いた人っ子一人来ないであろう洞窟に、ゴゴ以外の来訪者がこぞってやってきたのである。
このところ辺境や魔境にばかり出かけていたゴゴからすれば、それは久しぶり過ぎる他人との邂逅だった。

だからだろう。

ゴゴは問われるまでもなく、口を開いていた。
物真似師といえど人の子だ。
心のどこかでは人恋しさもあったのだろう。
ゴゴは名乗りも早々に、彼ら彼女らを物真似したいと思った。
そして、彼らが今何をしているのかを聞いた時。
ゴゴは彼らについていく決心をした。

『世界を救う』

そんな夢物語のようなことを力強く行ってのける彼らなら、ゴゴにでも置いて行かれはしないと思ったが為に。
こんな辺鄙な地へと故意か偶然かに赴くような彼らなら、ゴゴにもっと新たな世界を見せてくれるだろうと期待したが故に。

ゴゴは物真似をすることにした。
世界を救うという物真似をすることにした。

そうしてゴゴの何年か、十何年か、何十年かぶりの、一人じゃない旅が始まった。
ああ、だけど。

(もしかしたら、それ以前でさえ俺は一人ではなかったのかもしれないな)

どんなときでも、ひとりじゃないと、言い切った男がいた。
どんなときでも、ひとりじゃないと、頷いた自分がいた。

つまりは、そういうことなのだ。
どれだけ空間的な隔たりが横たわっていようと、どれだけ時間の壁が立ち塞がっていようと。
思い合う限り、忘れえぬ限り、人の繋がりは消えはしない。
ゴゴはそのことに気付くのに随分と遠回りをしてしまった。
ゴゴを笑って見送ってくれた故郷の家族や旅先の友達のことを、一方的に記憶の隅に追いやっていた。
もうそんなことはしない。
これからはゴゴも彼ら彼女らと共に生きていく。

(それが、俺のアシュレーの物真似だ)

背負ったアシュレーへと顔を向け、口には出さず、心に誓う。
そんなゴゴを祝福するように、ゴゴの目に目的地だった建物が映り込む。
フィガロ城。
ゴゴの仲間であるフィガロ兄弟の居城にして、トカが起動し、リオウが護ったトッシュが修繕した起動城塞。
死しても尽きぬ絆があると証明せんと、かの城は焔の厄災にも飲み込まれず、ゴゴ達を迎え入れたのであった。





800Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:52:32 ID:UDweb/y.0
「わ〜いの〜! ふかふかのベッドなの〜」

大分元気を取り戻し、ぴょんぴょんと隣のベッドの上で飛び跳ねるちょこを傍らに、ゴゴはアシュレーをベッドへと横たえていた。
勝手知ったる他人の家。
フィガロ城へと辿り着いたゴゴは、大勢が休憩することに向いている客間にちょこを案内。
眠ったままのアシュレーも運んできて、これから皆で休憩に入ろうとしているのである。
セッツァーのことが気になるところではあるが、今のゴゴとちょこはいつ倒れてもおかしくないような状態だ。
アシュレーとて外傷は見られぬものの、長く目を覚まさないところを見るに、疲労が溜まっているのかもしれない。
座礁船で待っていたはずの松という人物が死んでいた件もある。
以上のことより、ここはまず一休みして体勢を整えるべきだと判断してのことだ。
幸い、ゴゴが何度か上空に跳んだ時に見た光景から察するに、城の付近には誰もおらず、全員が休んでいても危険ではない。
ちょこが自然に話しかけた結果でも、もうここら一帯には誰もいないことは確かである。
まあ、ロードブレイザーが行ったような、広域破壊がまたひき起こされる可能性もある以上、油断は禁物ではあるのだが。
その点に関しても、フィガロ城の潜行機能である程度はかわせるだろう。
幸か不幸か、傷ついたフィガロ城は以前程には地中を高速では動けないため、裏をかえせば地中での滞在時間は増している。
身を休める為の拠点としては、これほど以上はない状態だ。

(エドガー達が護っていてくれていると――そう想っていいのだろうな)

アシュレーをベッドに寝かし終え、ゴゴもまた一息つく。
現状三人の中で一番傷を負っているのはゴゴだ。
アシュレーとちょこを気遣い、先に休ませはしたが、本当はゴゴ自身が一番最初に休まなければならなかったのだ。
ゴゴは億劫な動作で自らの服へと手を伸ばす。
ちょこが回復魔法を使えず、ゴゴがその物真似をできない以上、傷の手当は包帯や水といった原始的な手を使うしかない。
ゴゴはトッシュが残してくれた水で傷口を消毒しようと、正体がさらされない程度に、服を緩め始める。
と、その手が何かに触れて動きを止める。

それは首飾りだった。
小さな白い花で幾重にも編まれた首飾りだった。
友達になりたいと、ゴゴに言ってくれた少女からの、大切な贈り物だった。

だけど。

「おはなさんたち、元気ないね」

ちょこの言うとおりだ。
送り手である少女の死を追うように、綺麗な花弁を咲き誇らせていた花々は、すっかりしおれて生気が抜けていた。
ゴゴは慌てて、手にしていた水をかけてやるが、そんなものは雀の涙にしかならない。
花飾りを成す花々はどれも切り花だ。
此処に来るまでも、ゴゴは時より水をやってはいたが、度重なる激戦や、砂漠の暑さに揉まれては、小さな花の生命力など保つはずがない。
ビッキーが死んだ以上、物真似として着けっぱなしにする理由もなかったのだから、しまっておくべきだったか。
後悔すれどももう遅い。
寂しいことだが、この花達ともここでお別れ――

801Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:54:16 ID:UDweb/y.0

(……待て)

寂しさに傾きかけた心を慌てて引き起こす。
ゴゴの中で引っかかる点があったからだ。
さっき、ゴゴは花飾りが元気がないことを当然とした。
あれだけの戦いや、熱砂の中、ずっと身に着けっぱなしだったのだからと。
だがそれは、果たして当然の結果なのだろうか?
シャドウやルカ、ロードブレイザーを相手に立ち回り、多くの死者が出る程の戦いの中、か弱い花々がしおれる止まりで済んだことが当然だと?
そんなわけあるはずがない。
しおれるどころか、ちぎれ、吹き飛んでいてもおかしくない――どころかそうなっていないとおかしいくらいだ。
けれど、そうはならなかった。
小さな小さな白い花は、ずっとずっと、ゴゴの首元で揺れ続けていた。
傷つき、弱まって尚、強く可憐に咲き続けていた。
それはいったいどれだけの幸運が重なればなし得ることなのだろうか。
ゴゴはこれまでも花の真似をしてきた中で、花の強さを理解しているつもりではあったが、それでも驚かずにはいられなかった。

「はは、ははは。奇跡だ。小さな、奇跡だ」

驚きはいつしか笑い声になっていた。
笑うしかないほどに、ゴゴは驚き、その小さな奇跡を喜んだ。
そのゴゴに応えるように、また一つ、小さな奇跡が起こる。

「ゴゴ」

声がした。
少女のものではない声がした。
慌ててゴゴが振り向くとそこには身を起こしたアシュレーがいた。

「アシュレー……? 目が覚めたのか」

アシュレーおとーさん、やったのーっと飛びついてくる少女を受け止め、アシュレーは笑みを浮かべて頷く。

「ありがとう、ゴゴ。君や、トッシュや、ちょこや、ティナや、アティのおかげで僕は帰って来れた」

わしゃりとアシュレーはちょこの頭をなで、ゴゴにも礼を述べる。

「聞きたいことや、伝えたい事はいっぱいあるけど、でも、きっと、なんとなくだけど、僕はまず、君に教えてあげないといけないことがある」

そして彼は続ける、ゴゴの手元の花々を愛おしげに見つめて。
ゴゴと、花に、ティナの魔石から習得したのであろう癒しの光を放ちながら口にする。

「僕達の世界、ファルガイアでは『ちいさなはな』は幸運のお守りだと信じられているんだ。
 荒廃した世界に生きる僕達にとっては、そんな世界にも負けずに咲き誇る『ちいさなはな』は希望の象徴なんだ」

その言葉を聞いて、ゴゴは全てに納得した。
ああ、そうか。そういうことなのかと。
小さな小さな花飾りは、その幸運をもってして、枯れることなく、繋がったままここにある。
しかしながら真に幸運だったのは誰だろうか。
身につけていた首飾りが壊れてしまわないくらいに、致命傷をことごとく避け得ていたのは。

ゴゴだ。
ビッキーにこの首飾りをかけてもらったゴゴ本人だ。
ゴゴはずっと護られていたのだ。
あの一輪の花がもたらしてくれた幸運に。
ゴゴに、友達になるという物真似をさせてくれた始まりの少女に。
ずっとずっとずっと。

802Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:55:02 ID:UDweb/y.0

「アシュレー」

なら、ならば今こそ。
そのことに気付けた今ならば。

「俺達は、どんなときでもひとりじゃないんだな……」

ゴゴは前へと進める。
ビッキーに会えてよかったと心の底から思うことができる。

「当然だ」

幾時間か前にゴゴがしたのとそっくりそのままの返答。
アシュレーなりにゴゴの声を真似したそれを聞いて、ゴゴはニヤリと笑みを浮かべた。

「俺相手に物真似をするには十年早い」
「そうかな? 僕的には渾身のできだったんだけど」
「……まあ悪くはなかったな」

ぷいっとゴゴはそっぽを向きながら、手にした首飾りに力を込める。
ケアルラの光を受けた花は、元気を取り戻してはいたけれど。

「……あ」

ぽろり、ぽろりと、たったそれだけの動作で、繋がり合っていた花々が分かたれていく。
悲しげな声を出したちょこに、これでいいんだとゴゴは告げ、ばらばらになった花を拾う。

「アシュレー。目が覚めて早々に悪いが、この城の書庫から適当に紙や使えそうなものを取ってきてくれないか。
 俺達の、いや、より多くの人数分だ」
「紙を?」
「ああ。この花々を栞にしようと思うんだ。そしてお前やちょこにも、お守りがわりに持っていて欲しい」
「いいのか?」

ご本好きなの〜と、きゃっきゃっと喜ぶちょことは違い、アシュレーは聞き返してくる。

「いいんだ。花も、幸運も。独り占めにするものじゃない」

それに、ゴゴとビッキーの絆は、例え花飾りを解いてしまっても、ずっと、ずっと、繋がったままなのだから。




【G-3 フィガロ城 一日目 深夜】
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:小さな花の栞@RPGロワ、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×3、点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、閃光の戦槍@サモンナイト3、
    天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ
[思考]
基本:数々の出会いと共にある中で、物真似をし尽くす。
1:ひとまずは休憩しつつ、これからのことを考える
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ?
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:セッツァーに会い、問い詰める
5:人や物を探索したい
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。

803Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:56:43 ID:UDweb/y.0


【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(極)
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式、小さな花の栞@RPGロワ
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:おとーさんになるおにーさん家に帰してあげたい
2:おにーさん、助けてあげたいの
3:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。



【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康、気絶  希望の守護獣『ゼファー』、欲望の守護獣『ルシエド』を降霊
[装備]:バヨネット、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、焼け焦げたリルカの首輪、小さな花の栞@RPGロワ
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:オディオや、アキラなど、夢の中のできごとをみんなに話す。自分が何故全快しているのかも聞きたい。
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ?
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)
※心臓部に『希望のかけら』『欲望の顎』のミーディアムを内蔵しています。
※ティナの魔石よりケアルラを習得しました。他にもティナの魔石抜きで覚えれる魔法や、マディンの魔法を習得しているかもしれません。



【小さな花の栞@RPGロワ】
とある少女が物真似師の為に編んだ花飾りを、物真似師が仲間のためのお守りとして、幾つもの栞に作り直したもの。
少女は白い花が好きだった。
少女を見守って死んだ男も、荒野に咲く白い花が好きだった。
少女と友達になった物真似師も、その日、白い花を好きになった。

804Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/09(日) 23:57:19 ID:UDweb/y.0
以上で投下終了します

805Re:どんなときでも、ひとりじゃない  ◆iDqvc5TpTI:2011/01/10(月) 00:08:34 ID:l3gneZcU0
と、すみません
アシュレーの状態表に『気絶』が残ったままになっていました
収録時に消しておきます

806ドラゴンクエスト  ◆iDqvc5TpTI:2011/02/17(木) 01:13:32 ID:MPmFsTyc0
規制につき、代理投下お願いします

807ドラゴンクエスト  ◆iDqvc5TpTI:2011/02/17(木) 01:14:47 ID:MPmFsTyc0

つまりは、そういうこと。
無法松と同じく、アナスタシアという少女もまた、生き返ってなどいなかったのだ。

だから、だから。
神は死人が動き回ることを許さない。
今更に、生きることの意味を思い出したところで、もう遅い。

(これは、罰なのかな……)

アナスタシアは呆然と、目の前の輝く竜を見つめていた。
ユーリルが『勇者』であることを捨てた罰が、この竜への変貌だというのなら。
その竜に喰われることこそ、『勇者』を堕落せしめたアナスタシアへの罰。
散々自分のことを『生贄』だと嘆いた少女は、真実、今、神の『竜』へと差し出された『生贄』だった。

「くそっ、何が一体どうなってんだよ!?」
「人を輝く竜へと変える力……。まさか、あの覇王の紋章!?」

破滅の羽音を耳にし、ようやく我を取り戻したイスラとジョウイが、しかし、次の瞬間には吹き飛ばされる。
爪にて切り裂かれたのではない。尾にて薙ぎ払われたのでもない。
文字通り、二人は吹き飛ばされたのだ。白き『竜』の輝く吐息によって。
あまりにも出鱈目だった。
輝く『竜』はなんてことのない動作で、息を吸い、吹きかけただけだった。
それだけで、極低温の吹雪が巻き起こり、イスラとジョウイは近づくことも叶わず、地に伏せた。
せめて一矢報いようと射られた黒き刃も軽く尾にいなされる。

圧倒的だった。
圧倒的過ぎた。
ドラゴン。最強の幻想種。神の使い。
人如きでは、到底適うはずのない、絶対者。

彼を前にして、アナスタシアは震えていた。
恐怖。死への恐怖。
これが例え神罰であろうとも、アナスタシアは潔く受け入れることができなかった。
もう遅いとは分かっていても、因果応報だと理解していても。
アナスタシアの身体は、少しでも長く生きようと、一歩ずつ、一歩ずつ、後ずさった。
迫り来る『竜』がいるのとは逆方向の、神殿へと至る橋を後ずさった。
無駄なのに。
翼無き人の身では、翼ある『竜』からは逃れることなど不可能だというのに。
あっという間に距離が詰められる。
無様に、醜く、足掻いて、足掻いて、ようやく稼いだ数歩が、泡のように溶けて消える。

808ドラゴンクエスト  ◆iDqvc5TpTI:2011/02/17(木) 01:15:56 ID:MPmFsTyc0

「い……嫌、嫌ぁ」

ガタガタと、震えて悲鳴をあげても、アナスタシアを助けてくれる人間はもう誰もいない。
他人を利用してばかりで、他人の背に隠れてばかりで、友の手さえとろうとしなかった彼女は、いつの間にか一人ぼっちになっていた。

カタカタと、カタカタと。
手にした絶望の大鎌が震える。
それは地獄から迎えに来たと、彼女に死神が伝えているようで。
ガツンっと、背中に当たった何か硬い感触に思わず悲鳴を上げた。

何か。
それはなんてことのない壁だった。
アナスタシアの後退を妨げるように立ち塞がる、彼女の子孫の死地たる神殿の壁だった。

「死にたくない、私は、私は、まだ、生きていたいのッ!」

もはや、逃げ場すらない。
巨竜の顎はすぐそこまで迫っていて。
たとえ神殿の中に逃げこもうとしても、湖の中に飛び込もうとしても。
間違いなくアナスタシアが噛み殺される方が速い。

「ひぃっ……い、あ、あああ」

ガバリと、『竜』が大きく口を開いた。
口の中には底知れぬ闇が広がっていた。
アビスを、地獄の底が広がる闇が広がっていた。
その闇がアナスタシアを呑みこんでいく。
アナスタシアは目を瞑った。
闇を直視したくなくて、現実から逃げた。
数瞬後には全身に突き刺さるであろう牙による痛みで、現実に引き戻されることが分かっていても。
そうせざるを得なかったのだ。

だというのに。
一刻、一秒、数十秒。
アナスタシアを現実に引き戻すのに十分な時間が経とうとも、彼女を痛みが襲うことはなかった。
恐る恐る、アナスタシアは目を開ける。
否、正しくは、何がどうなったのかを認識した途端、少女の目は見開いていた。

809ドラゴンクエスト  ◆iDqvc5TpTI:2011/02/17(木) 01:44:52 ID:MPmFsTyc0
なにやらすぐに規制解除されたため、続きは自分で投下させていただきました

810 ◆wqJoVoH16Y:2011/05/15(日) 23:16:25 ID:cqjqO0vY0
規制がかかったためこちらに投下します。代理投下願います。

811アラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y:2011/05/15(日) 23:17:02 ID:cqjqO0vY0
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:若干持ち直した
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:目覚めたユーリル達に対処する。
2:カエル達を追い南下する。
3:ジャファルと一緒にいたい。
4:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
5:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。
※偵察に出たジョウイについてどう思っているかは不明です

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
2:アキラが気に食わない。
3:クロノならどうする……?
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。

812エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y:2011/05/15(日) 23:17:34 ID:cqjqO0vY0
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:気絶、疲労(大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪、キン肉マン
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(大)、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:気絶中
2:無法松の英雄になる。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
※無法松死亡よりも前です。
よって松のメッセージが届くとすれば、この後になります。

813エラスムスの邂光現象 ◆wqJoVoH16Y:2011/05/15(日) 23:18:24 ID:cqjqO0vY0
投下終了です。支援ありがとうございました。

814SAVEDATA No.774:2011/05/15(日) 23:24:31 ID:cqjqO0vY0
IDが残っているうちに。>>811はタイトルミスです。
エラスムスの邂光現象が正となります。すいません。

815SAVEDATA No.774:2011/05/15(日) 23:25:23 ID:NsxdIkW.0
本スレで代理投下しようとしましたが、自分も規制にかかりましたのでどなたか更なる代理投下お願いします
残りは>>812のみですので、一回で終わるはずです

816SAVEDATA No.774:2011/05/28(土) 10:43:12 ID:z5C7Zj2c0
本スレ落ちてしまった?

817 ◆Rd1trDrhhU:2011/06/22(水) 00:48:56 ID:dcBgw7YM0
「すべてッ! 殺してやるッ!」
 その音に負けぬほどの咆哮と共に、首輪を引きちぎる。
 力任せに破壊されたはずの首輪だが、ゴゴの命を奪うどころか爆発すらしなかった。
 今の彼がオディオの力をもある程度再現できているということだ。
 むき出しにされた、ヒトへの憎しみ。
 誰よりも仲間を想い、何よりも人間を愛したはずの魔物が放つ金色の殺意だった。




首輪の件は、以上のように修正します。
ここ以外の変更点はありません。

818SAVEDATA No.774:2011/06/23(木) 22:01:01 ID:KrQIBaYs0
>>817
修正おつです。分かりやすくなったかと思います。

819 ◆wqJoVoH16Y:2011/07/25(月) 22:54:16 ID:4EYPR1QQ0
本スレ518 〜夢に逃げている暇は無い。彼らには成すべきことがあるのだから。から


「魔王」
「撃って出るつもりか」
全てを悟ったかのように、魔王はカエルの言葉を待つまでもなく尋ねた。
カエルから聞いたことの顛末を鑑みれば、それほどの憎悪の具現が暴れたにも拘らずたった一人しか死んでいないということになる。
「この剣と石を通じて、鼓動が聞こえてくる。勇者の力はそれほどのものということだ」
悪い冗談かとも考えたが、勇者の座に近しいカエルの持つ確信はそれを補って余りある信頼があった。
そしてそのカエルが持つキルスレスもまた、深淵に呼応するようにその力を発露し始めていた。
操作とまではいかなくても、感応石と首輪によって構成される共界線に干渉することで生きた首輪の位置を“識る”ことができるようになったのだ。
「総勢9人の軍勢か。お前達が城に来た時よりも多いとはな」
カエルに連続でケアルガをかけてもらいながら、魔王は自身のダメージが消えていくのを確かめていた。
「10人だ。あの光が、真に勇者の輝きなら、な」
陽光に眼を細めるようにして、カエルは自嘲気味に言った。
首輪を持たぬあの憎悪は果たして参加者だったのだろうか。その生死は分からない。
だが、アレもまた“救われた”という確信だけがカエルの胸を打つ。
あの光を直視すれば誰もが認めるだろう。勇者とは“そういうもの”だと。

どくん。
胸の高鳴りを掻き毟る様に抑え、カエルは爬虫類の如く笑んだ。そういうものだからこそ――――目指す意味がある。
「好きにしろ。最早、数など瑣末だ。雑兵とはいえ、ここまで数が開いてしまえばな」
「手傷も多い、直ぐには動かないだろうが……待ち受けていては圧殺される」
大盤振る舞いの回復魔法を連発しても尚、カエルに疲れは見えなかった。
どくり、どくりと強まる鼓動が、体力のみならず魔力をも剣の所有者に勝手に供給している。
これならば、感応石から離れても共界線が繋がっている限りこの状態を維持できるだろう。供給源が何かなど、言うまでもない。
「叩くなら今を置いてない、か。放送を待つという手もあるが……これ以上死者を数える意味もないな」
「逆手に取るぞ。戦力差をひっくり返すならば確実に決める必要がある」
魔王が魔鍵に魔力を込めながら空いた手でカエルに触れ、伝えられた座標へと転移プログラムを構築する。
既に戦況はあの雨戦よりも悪化している。11人を彼ら2人で崩すのであれば、持てる全てを費やさなければならない。
マリアベル達は、全ての首輪と繋がるこの遺跡の本当の意味とそれによって強化されたキルスレスの認識力を知らない。
マリアベル達は、カエル達の快復が想像以上の速度で達成されたことを知らない。
マリアベル達は、カエル達が転移能力を保有していることを知っている。しかし、カエル達が“待つ”と思っている。

その空白の未知を全て用い放送に身構える敵軍勢を狙う―――――――転移電撃戦以外に、この劣勢を覆す術は無い。


以上のように修正します。よろしくお願いします。

820 ◆wqJoVoH16Y:2011/07/26(火) 07:50:47 ID:GkkKGP0Y0
上記の修正に誤りがありました。

誤:既に戦況はあの雨戦よりも悪化している。11人を彼ら2人で崩すのであれば、持てる全てを費やさなければならない。

正:既に戦況はあの雨戦よりも悪化している。C7にいる者達を彼ら2人で崩すのであれば、持てる全てを費やさなければならない。


よろしく願います。

821龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:01:18 ID:rH4aOhw20
既に太陽は御身の半分以上を海面から顕わにしていた。
空は僅かな星々が夜の名残をのこすだけで、紺色の空は青に転じようとしている。
雲はいち早く陽光を浴びて白く輝き、流れる風を受けて空を泳いでいた。
今日も暑く、長い日になるだろう。木々と葉に斑と隠れた森から見上げただけでもそう思うに十分な空だ。

そんな風戦ぐ森の中で、セッツァー=ギャッビアーニは寝ていた。
地面に茂った草を床に敷き、朝日の程良い熱を薄衣と自らに掛けて、手頃な厚さの書物を枕にして横になっている。
「随分と余裕だな。この殺し合いの中で他者の前で寝入るとは」
手頃な木々に腰かけたピサロは寝入ったセッツアーを嘲る。
その手に武器を備えている無粋を差し引いても、新緑の光の下で銀の髪を輝かせる男は、それだけで絵画のように世界に調和していた。
「こう見えても健康には気を使う方でね。幾夜を越えてギャンブルに興ずることもあるが、無駄な不養生を自慢する気もないのさ」
くく、と軽い嘲笑が森に木霊する。如何なギャンブラーといえど、自らの意識まで種銭にして眠り入るはずもない。
度胸と無謀の境を知る男は、眠ることなく、しかし限りなく眠りに近い形で休んでいた。
良く見ればその周囲にはパン屑の欠片が散っている。蟻が見れば、これ天恵と巣穴に運ぶだろう。
「私の眼前で眠るのは養生と言えるか?」
「ああ、言えるね。旦那が目を光らせている、これほど安心できる“今”なんてそうそう得られるもんじゃあない」
セッツァーは横になったまま、ガサゴソとデイバックの中を漁り、水と食料をピサロに向かって投げた。
信用の証のつもりだろうか。ピサロは何も言わず、水だけを手にして口に含んだ。
賭けの場では全神経を張り巡らせるが、一度張ればそこに疑いも迷いも見せない。
いつの間にか『旦那』とピサロを称する、この妙な愛嬌もまたセッツァーの処世である。

「腹が減ってはなんとやら。一度戻ったのは正解だったな」
「どうだかな。腹が膨れたところで、人が死ぬわけでもなかろう」

寝返りを打ったセッツァーの眼の先に、天罰の杖の触り心地を確かめていたピサロがいた。

ブリキ大王の上で幼い少女を撃破した彼らが一拍を置いて先ず向かったのは対主催がいるであろう南ではなく西だった。
その目的は、彼らの最大の障害と成り得るアシュレー=ウィンチェスターの必死だ。
ブリキ大王一台を使い潰してまで得たものが『“これならきっと”アシュレーは死んだ“だろう”』では割に合わない。
『アシュレーは死んだ』でなくてはならないのだ。事実は短い方が善い。
故に彼らは西へ赴き、偉大なる死体を探した。
当然、死体でなければ死体にするつもりで。死体であればどれほどの奇跡を以ても蘇らない死体にするつもりで。
結果から言えば、彼らは然程労苦することなく目的を達した。死体を辱める必要もなかった。
そこには、何の抑揚もなく“崩された”人間の部品があっただけだったのだから。
(ハロゲンレーザーを破った金色の光、人間の業とは思えない死体……まさか、な)
セッツァーが与えたダメージと死体に残った痕の帳尻が合わない事実は、容易に理解できた。
それはつまり、アシュレーを“殺し直した”バケモノがいたということだ。
そしてそのバケモノの名前は、簡単な消去法によって自ずと浮かびあがる。
ゴゴ、下の下の物真似野郎。セッツァーの知らない誰か。

セッツァーは瞼を閉じてその時をトレースしていた思考を遮断した。
感情は選択の精度を鈍らせる。直観は信ずるべきだが、思い込みはギャンブラーにとって最大の毒だ。
アシュレーを殺したのがゴゴであると決め打つことに何のメリットもない。とびきり染みた化物の参加者が1人いる。それだけで十分なのだ。

822龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:01:57 ID:rH4aOhw20
そう考えればアシュレーの武器と、デイバックを3つを入手できたのは“半分”僥倖と言えた。
武装の拡充、使い捨てできる糧抹の充達は確かに僥倖だ。
「余計なものさえなけりゃ、大満足だったんだがな。クソ」
栞を一枚指でヒラヒラさせるピサロの姿が面白くないのか、セッツァーは再び寝返りを打ってピサロから背を向けた。
確かに、あの花の栞が何枚もあったことは面白くない。
何故面白くないのかが理解できないことが、また面白くない。
面白くないのに捨てる気になれないのが、輪をかけて面白くない。
だが、何より面白くないのは振り向いた先にぽつねんと置かれた捩じれた首輪だった。

死体から回収されたものではない、明らかに首から引き千切られ、尚爆破していない首輪――――――“外された首輪”だ。

(もう外した奴が居やがる。オディオが大掛かりなアクションを起こしてないってことはまだ逃げた奴はいないだろうが……急ぐしかねえ)
1個出てきてしまえば、2個目を疑わぬ莫迦はいない。だが、勝者を目指す彼らは敗者の逃亡を許容できない。
首輪を外せる何某かの術が存在するという確かな光は、断固として摘まねばならないのだ。

「あまり焦りを表に出すな。お前が選んだ休息だろう。唯でさえ矮小な人間が、より小さく映るぞ」
「アンタがそれを言うのかい? あの光を見て、あれほどまでに取り乱した旦那が?」

そう言ってセッツァーがせせり笑おうとしたその瞬間、轟とピサロの手にあった栞が魔炎に包まれ、僅かに残った灰も手で握りつぶされた。
セッツァーは常と変らぬ素振りで鼻を鳴らしたが、その背中でつうと汗が垂れるのを感じた。
僅かなりともこの魔王と行動を共にしたセッツァーは、ピサロの理性と感情の境目を感覚的に理解し始めていた。
その上で、今のは踏み込み過ぎたと反省する。あと半歩踏み込んでいれば、この薄氷の如き盟約も一瞬で瓦解していただろう。

そう、本来ならばここで休息する暇は無かった。
アシュレーを倒し、少女を見逃した彼らは“先んじて遺跡に向かう心算だったのだ”。
それこそが、少女や物真似師を無理して追撃せず、敢えて見逃した理由だった。
ブリキ大王を用いるとはいえ3人を全員を倒そうとすれば何処かしらに無理が生じ、手傷を負う可能性があった。
故に彼らはその束ねた力をアシュレーの必滅に向け、残りには別の役割を与えたのだ。
それが、敢えて残党をヘクトル達の懐に潜り込ませること。
残党を意図的にもう一方のチームに送ることで、セッツァー達3人の存在を示し、ジョウイの計画をズラすことだ。
自分達の存在を知れば、容易にジョウイが目論む南征へと動けまい。後顧の憂いを絶つべくこちらを狙うことも考えるだろう。
ジョウイが獅子身中の虫である疑惑を含め、暫くは喧々諤々の云い合いが続くはずだ。
その隙に右脇を縫って遺跡へと先に入り魔王と同盟交渉を結ぶなり、いっそ遺跡を縦に潰す工作をするなり、優位を確保する。
そのハズだった。あの雷光を見るまでは。


『何故……何の故にだ、勇者よ! お前がそれだけの光を持っていたというなら、何故この光はロザリーに届かない……ッ!!』

823龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:02:42 ID:rH4aOhw20
あの時のピサロの慟哭をセッツァーの鼓膜が思いだす。
移動を進めようと先ず東に戻ってきた矢先、黎明に輝く空に見たのは、莫大な雷の塊だった。
セッツァーにとっては賭け先を変え得るに足る脅威として、ジャファルにとっては疎ましき光の極点としてしか映らなかったもの。
だがこの魔王にとっては、その痩躯を怒りに漲らせて尚足りぬ光だったのだろう。
あの眩き光が真の光だとしても、否、真の光だから故に“世界が光に充たされぬことを知ってしまう”。
当り前だ。全てが光に照らされることなど無い。
ここにジャファルという闇がいるように。太陽と空の全てを求めるセッツァーがいるように。光を失ったからこそピサロがここにいるように。
全ての夢が叶うことなど、無い。星の全てを照らすことができぬように、全てが救われることなど無いのだ。

「それを言われちゃあ仕様が無い。とりあえず、ジャファルの調査を待とうぜ。
 あれほどの現象が起きたのなら、場は大荒れのはずだ。出目の張り直しをするしかないさ」

なんしか気を静めたらしいピサロを見ながら、セッツァーは再び寝転がって空を仰ぐ。
あの雷光を見てから表向きは平生を保っているが、それが逆にピサロの中で何かを渦巻かせていると教えていた。
ここで動くのは不味い。そうしてセッツァーは冷静に冷酷に、休息と調査に目を張ったのだ。
この中で一番斥候に長けたジャファルに雷光の着弾点周囲の状況調査を願い、放送まで休息することを選んだのだ。

こうして、彼らは緩やかな夜明けの陽光の中で休息を取っている。これが最後の休息になると思っているかのように。

「そこまで気にするかい、旦那」
「……瑣末だ。勇者という名前にも、魔王という名前にも。この想いの前にはな」
燃え散った花の栞の灰の一抹が風に浚われ切るまでを見届けたピサロは、誰に語るでもなくそう言った。
例え勇者が全てを救うのであっても、対を成す魔王が誰かを救っては成らぬ道理は無い。
否、救いたいと言う願いの前には、勇者と魔王の違いなど瑣末だ。
『ピサロ』が『ロザリー』を願う。その想いの前には、たとえ勇者の光であっても邪魔は許されない。

「――――――――――名前、ねえ。“まさかあの女に感化されたか”旦那?」

強さを増す陽光に僅かに目を細め、セッツァーは不快を顕わに言った。
それを見たピサロが、最早値無しと鼻を鳴らして会話を打ち切る。
木漏れ日と木々のざわめく音だけが残り、セッツァーは再び瞼を閉じた。
その裏に浮かぶ、あの船で最後に起きた出来事を追い払いながら。

824龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:03:14 ID:rH4aOhw20
―――――・―――――・―――――

今は昔。セッツァーとジャファルがピサロと仮初の盟約を結び、アシュレー達を討たんとする前の話。
そう、同盟を組んだ彼らが未だアシュレー達かヘクトル達か、どちらを攻めるか決めかねていた時のことだ。

いずれにしても座礁船に居座ることに意味は無く、船を出ることにした彼ら。
発つ前の餞別とばかりに、彼らは何かめぼしいものが無いかと船内を物色していた。
ジャファルが言うにはこの船の造りは彼らの世界の海賊船のそれであり、その船内には武器屋や道具屋もあったという。
流石に死者の落とし物が見つかるとまでは期待できずとも、せめてもう一度調査をせずに出るは惜しい船だった。

「やはり、めぼしいものは無いか」
「流石にそこまでアンフェアでもないか。いや、あのオディオなら当然か」

金銀財宝はあれど、経済の意味が異なるこの場所ではそれは宝とは言えない。
あらかたの調査を終えたジャファルに、セッツァーは首をすくめて手をひらひらと泳がせた。
今までの放送からもあからさまに伝わるオディオの人間に対する憎悪。余りに強い憎悪は、逆に言えばどの人間にも等しい憎悪だった。
聖人であろうが、道化であろうが、魔王であろうが、幼女であろうが、勇者であろうが、人間である限り皆オディオの憎悪すべき対象なのだから。
故に、オディオが特定の誰かに過度に肩入れをするとは思えない。ある意味、オディオは黒一色のルーレットともいえる。
ならば、これ以上を思索と探索に費やしても仕様が無い。早々に調査を終えて、ヘクトル達の動向を抑えるべきか。

上から順に降りてゆき最後に辿り着いた酒蔵で、彼らはそのルーレットに僅かにあった『傷』を見つけた。
無法松があれほどに呑んでいた以上、酒蔵があることは承知だった。重要なのは、無法松が動かしに動かした樽の向こう、その紋章だった。

「紋章、魔力を備えると言うことは、唯の落書きではないな」
「これは……真逆、転移の紋章か?」

眇めるように紋章に流れる魔力を見定めたピサロと、その紋章に驚きを示すジャファル。
魔力と知識によって、唯の落書きは意味ある紋様となった。そして、ギャンブラーが手に取ったカードが、紋を門に変える。
「何か意味のあるサインだと思ったが、秘密の部屋への招待状ってか…?」
「まさか、ここにもあると言うのか。ブラックマーケットが」
紋章の周りの空間が歪み、秘密の店への扉が開く。
ブラックマーケット。選ばれた者だけが持つカードを持った者にのみ、戦場の何処かにある扉を開いて招く闇の市。
場所にもよるが、そこに並ぶ品はこの海賊船の品揃えとは比べ物にならないだろう。

「入るつもりか?」
歩を前に進めたセッツァーに、ピサロは大した感情もなく言い棄てた。危険を案じる要素は微塵もない。
「こんなものを用意してるってことは、何もありませんでしたってオチはないだろう。
 鬼が出るか蛇が出るか、俺達の新たな門出に運試しと行こうじゃないか」
そう言って、彼らは虚空の暖簾を潜る。
そこにいるのがある意味鬼であり、ある意味爬虫類であることも知らぬまま。

825龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:03:56 ID:rH4aOhw20
ブラックマーケットと言えば、どんなものを想像するだろうか。
銃火器、薬物、お花、内臓etcetc。それは莫大な金額を積んで買い取るものか、自分のLvを売って得るものか。
いずれにしても、その名の通りブラック―――――闇の黒を想像するだろう。
光射さぬ闇の世界の商い、その最前線。薄暗い路地に、微かな灯りだけを導に商いを行う。そんなところではないのだろうか。

「……俺の知っているブラックマーケットと違う」

ジャファルはニノの関わらぬ状況では珍しく露骨そうに厭な顔を浮かべ、ぼそりとそう洩らした。
そういう意味では、この光溢れる真っ赤な部屋構えは明らかに闇市とは程遠かった。
朱で染め上げられた壁と柱。掛け軸には人体の構造図や巨大な手相を記したものが並んでいる。
四角をグルグルと重ねたような仕切りがあるだけで、部屋はそれほど広くは無く、奥にもう一つ暖簾があるだけだ。
狭い、店というには余りにこじんまりとした店だった。
目ぼしそうなものは、壁に寄せられた木製の薬棚と本棚、店の中心に置かれた四本足の机。そして空いた椅子と―――――

「……あんなところに乳があるな」
「ああ、乳があるな」

机の奥に見えるどんもりと乗ったおっぱいに、セッツァーはチンチロリンで六面全部ピンのサマ賽を振られたような面をしながら吐き捨てた。
一方ピサロは、本気で有象無象の脂肪の塊としか見ていない目で、事実だけを反芻した。

見なかったことにして帰ろうか。決して相容れぬ3人は奇しくもこの時意見を同じくした。
酒蔵の酒精に当てられたのだろう。潮風を浴びて目を覚ませば、元通りになるはずだ。
そう思いたかったが、部屋全体から漂う酒の匂いと、小刻みに震える双丘を見てはここを現と認めるしかなかった。

「あ゛〜〜〜〜〜ひゅへもにょ〜〜〜〜〜? だぁんみゃじにゃひ〜〜〜 にゃは、にゃはははははは」

グイ、と反りかえった背中が弓なりにしなり、漸く乳から上の形が繋がる。
紅い蓮のような、誰が見ても異文化体系の衣装<チャイナドレス>。端正の整った顔にズリ下がった縁なし眼鏡。
ピサロのように細長く尖った異形種の耳。酒に蕩けても蠱惑的な瞳。

「ん〜〜〜、え゛……もひかひてぇ……ぉたおぎゃくざんんん〜〜〜?」

海賊船の酒蔵の中には、酒臭い店。酒臭い店の中には、酔っぱらった女店主。

「――――――えー、コホン。はぁーい。メイメイさんのお店へようこそぉ♪」

今更に取り繕ったような営業スマイルを現わしながら、店主はその屋号を掲げた。
この頭痛を忘れる為に酒を呑むべきか、酒にやられてこの頭痛を生んでいるのか、セッツァーは賭ける気にもならなかった。

826龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:05:00 ID:rH4aOhw20
「だーってさぁ、こうもお客が来ないと、これくらいしかすることないじゃない?」
店の主はケラケラと笑い、呑んでたらあぶり肉も欲しくなっちゃうわねぇなどと言いながら盃に充たした酒を呑む。
状況に追従し切れない客達は黙ってその盃が空になるのを待つしかなかった。
少なくとも、会員専用の秘密の店がが万人繁盛だったらそれはもう秘密でも何でもないだろう。
『いつでもどこでも気軽に利用出来ちゃう、それがメイメイさんのお店なのッ!』
とへべれけになって言われても、説得力が無い。どんな看板を掲げても偽り有りと云われるだろう。
「OK。アンタがアルコール中毒なのもここがどんな店なのかもとりあえず後回しだ。アンタ、誰だ?」
「私ぃ〜〜? メイメイさんはぁ、見ての通り、どこにでもいるぅ、普通の、敏腕せ・く・し・ぃ店主Aよぉ?」
やけにその4文字を強調して、店主は腕を上げて脇を見せつつ妙に腰をくねらす。
エドガーほどまでとは言わないが、マリアに扮したセリスを拐したセッツァーも女性の扱いは心得ている方である。
そのセッツァーが思った。いつ以来だろうか、女を本気で殴ってもいいかと思ったのは。
「あ、疑ってるでしょ〜〜〜。いいわ、ここで引いたら女もとい店主が廃るッ!」
その不満MaxHeartな表情を察したのか、店主は足元から何かを取りだそうとする。
3人は戦う気か、と僅かにそれぞれの武器に手を伸ばしたが殺意の無い店主の様子に、それ以上の動きは見せない。
「こうみえても私、占い師なのよ。貴方達が何者かは、店に入ってきたなりマルっとお見通しってなワケ」
「……入ってきたなり、仰向けで爆睡してたと思ったのは気のせいか。で、その証に俺達が誰だか当ててみせようってかい?」
眉間を揉みながら、セッツァーは辛うじて店主の云わんことを掴み取る。
まだ彼らは自分達が何者であるかを口にしていない。その中で賭士、暗殺者、魔王であることを一目見ぬいたということか。
「ふふーん。そういうこと。ここに来たのも何かの縁。お近づきの印にぃ、貴方達に必要なものをあげちゃう。はい、どーぞ!」
そう言ってメイメイは机の上に ド ン 、と何かを置いた。セッツァー達の視線が机に集まる。
それぞれの職種を見抜いたというのならば、出てくるのは武器か、はたまた彼らにしか扱えない道具か。
もし、それ以上のことまでも見抜いた証拠を出してくるならば、始末も厭わないという決意で彼ら3人は机の上の品を見た。

「地図にコンパス。筆記用具に水と食料。名簿でしょ、時計でしょ? 夜の為にランタンも入ってる―――――貴方達には必要なはずよ?」
そう言って、店主は3人分の新しいデイバックを出して酒で焼けた小さな腕を組んだ。
セッツァーが3人分のバックをぐい、と掴みあげる。

827龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:06:05 ID:rH4aOhw20
「貴方達も参加者……でしょ?」
天地開闢、森羅万象を眇めたような満面の微笑で店主は彼らを見た。
「有ってるが意味がねえじゃねえか!」
その言葉と共に、店主の頭上を3つのデイバックが覆い、落下する。
「…え? う、うひゃあ〜〜〜!!!!」
抗弁する暇もなく、椅子から転げ落ちた店主はデイバックの下敷きになってしまう。
この島にいるのであれば、54人中54人が参加者だろう。適当に言っても殆ど当たるに決まっている。
ルーレットで赤と黒に同額を賭けるようなもの、下手をすればカジノから追い出される賭け方だ。つまり、賭けにも占いにもなっていない。
「……もしや、特別なアイテムを得られると期待してたのか?」
「……してないな。ああ、してないとも」
ジャファルの問いに、セッツァーは広大な空の果てを見るようにして目を逸らした。
舌打ちをしながら、セッツァーは転げ落ちて「お、想ひ出がりょーくーしんぱんしゅにゅぅぅぅ……」とノびかけた女店主を見下した。
常のセッツァーならば相手が誰であれ、まず相手の価値を見極めているだろう。
あるいは、自分の夢にとって利になるか障害になるか、はたまた“それすらもできないか”を判断しているはずだ。
だが、眼の前の女の価値を彼は未だ見極められずにいる。価値がない訳ではない。ないかどうかさえ分からないのだ。
まるでオペラをブチ壊しにしかけたタコ野郎を思い出すほどに、掴みどころがない。
この店の中に充満する酒のせいか、ギャンブラーを常に救う直観、そのキレが僅かに鈍っているとさえ思う。
(スラムの女衒じゃあるまいに、何でこんな酔い潰れた女1人にここまで……?)
その時、セッツァーの鈍りかけた感覚が遅れて警報を発する。そうだ、この女は何故ここにいる?
セッツァーはピサロに名簿を渡す前にその名前を全て記憶している。そして“その中にメイメイという名前は無い”。
ならば55人目の来訪者? 否。この女はこの場所を自分の店といった。彼女が招かれざる客であるならば、
様々な世界の建造物を寄せ集めた何処の世界にも存在しないオディオの箱庭に、自分の店があるはずが無いのだ。
セッツァーが、床に突っ伏した女の首元をみて―――“そこに首輪が無かった”事実に、今更確信した。

(つまり、こいつは“招かれている”)
「戯れはそこまでにしておけ。私の眼はごまかせんぞ、竜の女よ」

その確信に呼応するようにピサロは口を開き、残る二人がピサロと店主の間で交互に視線を動かす。
「その身に纏う魔力、ドラゴラムによく似ている。竜が人に化けたか、少なくともヒトではあるまい」
ピサロが気付いたのは、セッツァーとは別の要素であった。酒精に紛れた微かなドラゴンの気配である。
だが、その総身をくまなく見渡しても人間そのものである店主を前に、ピサロはむしろその姿を、高位の変化魔法と見た。
そして、これほどの実力を持つ女を首輪も無しにオディオが野放しにしておく道理が無い。

「流石、一度進化の果てを見た御方は違うわねえ。そこのあたりは乙女のヒ・ミ・ツ、ってことで。
 でもぉ、呼ぶなら竜じゃなくて『龍』って言ってくれた方がお姉さん嬉しかったり」

828龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:06:42 ID:rH4aOhw20
にゃはは、と笑いながら立ち上がりグイと盃の酒を飲み干す女店主。
その振る舞いを見ても三人は気を抜くことなどできなかった。
「そう! メイメイさんは一見どこにでもいる、普通の、敏腕せ・く・し・ぃ店主A。
 ――――しかしてその実態は……『オルステッドさま』の忠実なるしもべで――――っすッ!」
後光でも発しそうなほどのポーズを決めながらメイメイは高らかにその正体を語るが、
3人は3人とも「誰だ、オルステッドって」という率直な疑問に気を取られた。
(オディオのことか? いや、オディオの配下にオルステッドって奴がいて、その手下って線もあるか)
「ほう、そりゃあ凄い。で、そんなアンタは何をするためにここにいるんだ?」
そこを問い詰めたところで優勝を目指す彼らにはさして意味が無い。
店主の調子に乗せられかけたが、あまり浪費できる時間もない。それよりもこの場所の役割をこそ聞くべきだろう。
漸くこの女の価値をテーブルに載せ始めたセッツァーは当然聞くべきことを聞いた。
特異な場所に配されており、ここに入るための符牒が支給されている以上、
ここを訪れた者に対してするべきことが言い渡されているはずだ。

「ふふふ、よくぞ聞いてくれましたぁ!
 このメイメイさんの使命、それは――――――それは?――――――にゃは、にゃはははは……」

堂々と胸を張ってそれを高らかに言おうとした店主が、途端に語気が弱まり、みるみる内に萎れていく。
「……忘れたのか?」「いや、この欠落の仕方だと最初から何も言われてないのかもな」
「にゃ、にゃにおう! そんなことあるわけにゃいじゃにゃい!」
毛並みを突然触られた猫のように店主はジャファルとピサロを威嚇するが、それは逆効果にしかならない。
「じゃあ、アンタここで今まで何してやがった。何でもいい、言ってみろ」
「何って……お酒飲んでー、お休みして―、お酒飲んで―、ツマミ食べて―、お酒飲んで―、お昼寝して―、それからぁ」
「もういい。呑んで寝るだけの簡単な仕事だってことはよっっく分かった」
自分の問いに指を折って答える店主を、セッツァーは制した。重ねて言うが、セッツァーも女性の扱い方は弁えている。
だから今、手持ちの水をありったけ顔面にブッかけてやろうと思っても、そこをぐっと堪えるのである。
幾らなんでもオディオ達がそのような自宅警備の真似事の為に龍種を置く訳が無い。
だが、真贋を見極めてきたセッツァーでも彼女の言動に嘘を感じることが出来なかった。ならば一体、この女の意味は…?

「ん、何やら莫迦にされた雰囲気。店主的に。それじゃあ、お店らしいことしちゃおっかしら?」

そう言った店主が店の奥から取りだしたのは、巨大なルーレットだった。
外周から半径の直線が引かれ、色の違う扇状のマスが作られている。
「運命の輪って言ってね。ま、軽い運試しのようなものよ。当たり所が良かったらステキな景品もつけちゃう!」
ダーツを1本差し出し、店主は蟲惑的な瞳を浮かべる。
このスチャラカなペースに着いていけずとも――あるいは、着いて行きたくなくとも――店主の云わんとすることは3人にも理解できた。
円の中の配色がそれぞれ異なり、そしてそれぞれの面積も異なる。恐らく面積の小さいものから順に1等から3等。
ダーツを投げて当たった場所に応じた賞品が手に入るのだろう。

「何を付けるつもりだ、龍よ。勿体ぶるからには、相応のものを配するのだろうな?」
およそこの手合いのイベントから最も縁遠かろうピサロが、試す様に店主に問いかけた。
当然、魔族の王たるピサロが賞品が気になって尋ねているなどということは無い。
本気で欲しいのであれば、名簿のように力づくで奪い取るのがピサロだ。
だが、未だ酒精の奥にその実力の底を見せぬこのドラゴン種を相手取るほど愚かではない。
この殺し合いの参加者でも、憎むべきヒトでもなく、ましてやオディオに通ずる存在であるというのならば手をかける理由もない。
ピサロ、そして残る二人も、優勝してオディオの報奨を得ようとしている以上、ここで参加者よりも厄介な存在に労力を割く訳にはいかないのだ。
「そうねぇ。そしたらぁ、上から順にぃ“貴方達にとって役に立つもの”をあげちゃうわ」
そういって店主は蕩けた目付きで指を幾度と振って、セッツァー・ジャファル・ピサロの順に指を射止める。
だからこそピサロはむしろこの龍が何を見て、何を考えているのかにこそ興味を持った。

829龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:07:28 ID:rH4aOhw20
「――だそうだが。どうする?」
ピサロはセッツァーの方を向き、その応手を伺う。1本しかないダーツ、そして景品はそれぞれにとって役立つ物。
誰が投げても、ダーツが何処に当たっても不和の要因になるだろう。
利害関係でしか成立していないこの即席チームに於いて、偏った利は害にしかならない。
このチームを呼び掛けたセッツァーの手腕こそが、図らずともこの女店主の手によって試されている。
「……外した場合は?」
「安心なさいな。ハズレでもタワシ位はあげちゃうから」
セッツァーが店主に問いかけ、その答えを聞いた後、指を顎に当てて考え込む。
既に「なんでタワシ?」などと口出しする気配もない。その眼は、魚が海に還ったように常の鋭い眼光を取り戻していた。
「外れて元々の話だ。ジャファル、お前に任せる」
「……待て、俺は……」
「俺もシャドウほど投躑が上手い訳じゃないしな。なら、一番得手そうな奴が投げるべきだろ。
 好きに狙いな。花束の一つくらい、当たるかもしれんぜ―――――、―――――――、―――。
 構わんな、ピサロの“旦那”?」

そう言ってセッツァーはジャファルに近付き、密着するような近さでダーツを手渡し、
ピサロに確認を求める。ピサロはそれが妥当な所か、とその選択を了と認めた。
誰の賞品が当たるにせよ、先ず的に当てられなければ話にならない。
であるならば剣を扱うピサロとギャンブラーであるセッツァーよりも、暗殺者であるジャファルが消極的適任ということか。

「誰が投げるかは決まったかしら? それじゃ、ルーレット・スタート!」
店主が扇子を広げると、ルーレットが独りでに動き出す。
如何な妖術を使ったのか、店主は扇を口元で戦がせるだけだ。
運命の輪が高速で回転する中、ジャファルはダーツを構えることなくだらりと腰に垂らしている。
しかしその眼光は鷹のように獲物を見定め、今にも喰いつかんと鬼気を発していた。
廻す、廻る。運命の輪が回る。弄ぶように輪廻が回向する。
翻弄されるその運命の渦から、たった一つの光を釣り上げる時を待つかのように、輪を見続ける。
「ちょっとぉ〜〜〜、慎重になるのは分かるけど、もう1分経っちゃうわよぉ……ってぇ!」
あまりの動の遅さに痺れを切らした店主が声をかけようとしたその時だった。
音もなく放たれたジャファルの一撃が運命の輪を穿つ。ジャファルの手から矢が離れた後、次第に輪はその回転数を落としていった。
暗殺者が貫いた運命、その色彩は――――――


「外した……だと……?」


ピサロがその結果に驚きを示す。自分のエリア<3等>が当たるとまで望むつもりはないが、真逆ルーレットにあたりもしないとは。
だが、どれだけ目を眇めようが凝らそうが突き刺さった場所は変わること無し。運命の一投は無情にも、光を掴むことはできなかった。
「あちゃー……ま、ま、こう言うこともあるわよ! 運勢なんてコロコロ変わるものだしねッ!
 っていうか、え、ちょ、タワシってウチの店にあったかしら……にゃ、にゃはははは……」
予想外過ぎる展開に、さしもの店主も動揺を隠せないらしい。
確かに、ジャファルは暗殺者とはいえその本分は接近からの瞬殺である。
ましてや今は殺しとは程遠い遊興。実力を発揮できるはずもない。
「ゴメンナサイ……探したけどタワシが無くって……その、ニボシで良かったら……」
店主はそう言って申し訳なそうにジャファルに魚臭い袋を渡す。善い出汁が取れそうな、猫も魚もまっしぐらの良質煮干である。
無言でそれを受け取るジャファルに、店主は乾いた笑いを浮かべながら手を振った。お帰りくださいという意味だろう。

「ちょっと待ちな。もうひと勝負、申し込むぜ」

830龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:08:14 ID:rH4aOhw20
だが、その意を分かった上で敢えてセッツァーが店主に話を斬り込んだ。
そのタイミングの良さに店主は面食らったが、直ぐに目を細めて否定を解答する。
「……気持ちは分かるけど、それはちょっと不味いわねえ。試したのはあくまで貴方達の運気。
 もう一回やれば当たるとか、それは純然たる天運とは言えないわ。残念だけど、貴方達はこの一回―――――!?」
「なら、これでどうだい?」
勝負を切り上げようとする店主の言葉を断ち切ったのは、セッツァーが取りだしたもう一つのカードだった。
シルバーカード、メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。
「スプリット。俺達に一回分の権利しかないと言うのなら―――――こいつで、そいつを“半額”にさせてもらおうッ!」
セッツァーが二本の指で投げ飛ばしたカードを店主は中空で掴み取り、マジマジと見つめる。
そして暫く考え込んでから、軽く溜息を付いてもう一本のダーツを取りだした。
「もしかしてぇ……最初から、こうするつもりだったぁ?」
「偶々さ。偶々、ポケットの中にあったもんでね」
そう言って、誰が投げるとかとのやり取りもなく、ダーツを手にしたセッツァーが運命のルーレットの前に立つ。
そう、運命を賭けると言うのならば、ダーツに意思を託すと言うのならば――――――この男以外に有り得ない。

「おっけぇ。ギャンブラーさんの力、何処まで届くか試してあげる。ルーレット、スタートッ!」

誰もそうだと言っていないのにセッツァーをギャンブラーと嘯く龍の店主が扇を開く、運命の輪が軋みを上げて太極を廻す。
本気で廻る世界に、人の意思など徹らぬと謳いあげるように。人はその回転に、ただただ翻弄されるしかないと笑うように。

「でも、それなら最初から貴方がやるべきだったわねえ。唯でさえ回転しているのに、
 ダーツが手元から離れて的に当たるまでの時間が分からないと何処で投げればいいか分からないわよ?」

店主が扇を煽いでギャンブラーの失策を笑う。最初から2回投げるつもりであったのならば2つとも自分で行うべきだった。
そうすれば、ひょっとすれば2人分の景品を得られたかもしれないのに。

「それとも、純粋に運を試すつもりかしら。さてま結果は―――――」
「1ツだけ教えてやる。メチルフォビア<アルコール恐怖症>」

軽口を吐きながら扇を再び戦がせる店主に、氷のように冷たい言の刃が突き刺さる。
まるで自分の喉元にそのダーツが穿たれかと錯覚するほどのギャンブラーの視線が、店主に突き刺さっていた。

「運命<こんなもの>は、ギャンブルとは言わねえんだよ。
 そいつを力でねじ伏せてからが、本当のギャンブルだ。分かったら――――」

セッツァーは運命の輪に見向きもしていない。その眼光は唯店主のその一点を見定めている。
当然だ。最初から何もかもを投げ出して運命などという“まやかし”にその身を委ねる者を女神は愛さない。
頭脳を、力を、己が持つありとあらゆる手管を用いてありとあらゆる運命を撥ね退け、
“その先に立ちはだかるもの”に、己が魂を賭してこそ、女神は漸く微笑む。

「“その特賞に当たったら、3つの景品を全部寄越しな”ッ!」

831龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:08:51 ID:rH4aOhw20
店主の扇が“三度戦いだ”刹那、セッツァーの腕が疾った。
美しいフォームだった。ジャファルも、ピサロさえも微かにそう思った。
力みも逸りも気後れもない、自然体の一投。何度投げようとも決して崩れることのないだろうフォーム。
そこに種族も職能の違いもない。どのような目的であれ、研鑽の果てにある結晶は美しい。
一体何百回、否、何万回投げればこれほどのスローが可能になるのか。

「真逆“本当に”最初から――――」
「ああ、ジャファルに言ったとも。外せと、伸ばせるだけルーレットを回させろと」

驚愕に龍眼を見開く店主を前に、セッツァーは不敵に笑う。回転数を下げていく的を、最早見てもいなかった。
一投目は完全なる“見”。そして万一賞品を手にして、有耶無耶に終了させられないように敢えて外した。
そして、セッツァーはたっぷり1分を用いて、魔力で回転するルーレットと扇子の同期に気付いたのだ。

「そっちじゃなくて、特賞の方なんだけどぉ?」
「言わなきゃ気付かねえと思ったか? それこそ、舐めるな」

これこそが、セッツァーの感性が成せた唯一の幸運だった。とっかかりは店主の試すような目つき。
シルバーカードで普通に二回賞品を得ても、誰かの不満を招くこの状況。
もし、それを以て彼らの動きを見極めようとするのであれば抜け道が有ってもおかしくは無い。
抜け道があるという前提でルーレットに目を凝らせば……3等の中に微かに紛れた、4色目。
回転数さえ目算が立てば、廻っていないも同然だ。自分のダーツの技量など、自分が一番信じている。

「生憎と、これでメシを喰ってきた。
 賽の目も、ルーレットも―――運命をねじ伏せられない程度の力で生きていける世界じゃないんでね」
「―――――――――お見事。特賞、大当たり!」

最早言うこと無し、と店主は扇子を閉じて勝者を宣言する。
ピサロが魔族を傅かせ、ジャファルが闇を統べると言うのならば。
セッツァーは、運命を跪かせる者―――――ギャンブラーなのだ。

832龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:09:50 ID:rH4aOhw20
「3等賞。先ずは貴方ね、カッコイイ魔王様ぁ?」
「フン。やはり見抜いていたか。その眼、魔眼か?」
ルーレットが片付けられ、テーブルを挟んで魔王と店主が向かい合う。
「ちょーっとばかし魅了の力はあるけど、そんな大したものじゃないわよぅ」
ピサロに魔眼と評された店主は眼鏡越しのその瞳でピサロの痩躯を見渡す。
くすんだ銀の髪、疲労の色を隠すことはできないが、その表情に充実する気力を見とって店主は満足気に頷いた。
「煩悶は乗り越えた、ということかしら。貴方の内に根差す想いが――――貴方の憎悪すべき人間にもあるということに」
「……それがどうした。誰が何を想おうが、この想いは私だけのものだ。そして、誰にも邪魔は出来ん」
それは、邪魔立てすれば貴様だろうと屠るのみという店主に向けての魔王のメッセージだった。
その暗喩に気付いてか気付かずか、店主は盃の酒に唇を湿らせ、そして言った。

「それでも、貴方はその想いを邪魔したわ。貴方と同じように、唯“逢いたい”と願った1人の生徒の想いをね」

店主の眼鏡の奥に1つの光景が映る。
もう逢えないと、さようならと別れた教師と生徒。
生徒は誓った。もう一度逢いに行くと、今度は私が貴女を救いに行くと。
その願いは叶うはずだった。それは歪んだ時の成就であろうとも、生徒の願いを叶えるはずだった。
だが、それは叶わなかった。雷の奥に観た勇者の虚像に怒り狂った、魔王の所業によって。
「勘違いしないでね? 恨み事を言いたい訳じゃないの。
 貴方の想いもまたヒトの夢であり、また誰かの想いによって叶わぬユメと成り得るということよ」
店主はぐいと酒を飲み干し、新しく酒を注ぐ。そして、それを魔王へ向かって伸ばした。
魔王は何も言わずに、それを受け取りワインとは違う透明な酒を眺める。

「【アリーゼ=マルティーニ】。その想いを胸に抱いて進むと言うのなら、貴方が砕いた想いの欠片くらいは抱えておきなさい」

魔族の王は、龍姫の言葉に応ずるでもなく激昂するでもなく、唯酒を呑むことで応じた。
呑み慣れない酒を一気に煽ったその味わいは、魔王にしか分からない。
その呑みっぷりに満足したのか、店主は微かに笑んで誓約の儀式を発動する。

「名は命、性は星。忘れないで。オルステッド様がオルステッド様でない意味を、魔王が真名で呼ばれない意味を。
 ―――――――“貴方がデスピサロでなく、ピサロとして名簿に刻まれた意味を”」

テーブルの上に召喚された宝箱を開いて、魔王は唯それを掴んだ。

833龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:10:43 ID:rH4aOhw20
「さて、お次は貴方ね? 暗殺者さん?」
「戯言など無用だ。品だけ渡せ」
拒否は認めぬとばかりに鋭い眼光を発しながらジャファルは店主に吐き捨てるが、
店主は何処吹く風と酒を飲みながらジャファルの身体をじろじろと眺める。
「その刺し傷、随分手酷くやられたのねえ。見てるこっちが痛くなっちゃう、にゃははは」
店主の何気ない笑いに、ジャファルは傷の痛みを錯覚した。
セッツァーのケアルラによって行動には支障ないレベルまで回復しているものの、
まだ一日と経っていない槍傷、この舞台で恐らく初めて喰らった直撃の記憶はジャファルにしっかりと刻まれていた。
「不思議なものね。どれだけ言葉を尽くしても届かないと思っても、たった一撃の槍が簡単に貴方の世界に証を遺す。
 貴方がたった一人以外の全てを望まずとも、彼女以外の全てが貴方に干渉する」
「……何が言いたい?」
無意識に脇腹を擦ろうとする右手を堪え、暗殺者は店主に向けて殺意を放つ。
何も知らぬ者が彼女の名前を口にしようものなら、刎ねてもいいとさえ思いながら。
「世界は広いということよ。このお酒でさえ極めようと思ったら、私でさえ道の途中。況や人の心は、ってね」

極めると言うことは、口にするほど簡単なことではない。ましてや武術など一朝一夕でどうなるものでもない。
それでも、それでも彼女はその事実を受け入れても前に進もうとした。
片腕しか使えずとも、剣でなければ振るえぬ技を、前に突き進むために技を究めようとした。
そこに至る感情を知ることはできずとも眼の前の傷をみれば、確かに刻まれた想いはここにある。

「【秘剣・紫電絶華】。世界は『光』と『闇』だけって訳でもないわ。貴方に刻まれた『雷』の本当の名前を忘れないで」

そう言って店主が渡した盃を、ジャファルは黙って見続けた。
清酒の澄み切った光を見つづけ、やがてジャファルはそれを無言で店主に返した。

「ありゃ、つれない。まあ、それもまた1つの答えよ。だけど気をつけて進みなさいな“若人”。
 お米と水でお酒は出来るけど、お酒から水を、お米を取り除くことはできない。
 例え出来たとしても、それは水でもお米でもお酒でもないものになる。貴方が作ろうとしてるのはそういうものよ」

そう言いながら召喚された宝箱の中身を、やはりジャファルは無言で受け取った。

834龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:11:16 ID:rH4aOhw20
そして、ギャンブラーと占い師が対峙する。
「最初は適当にしてたから、油断しちゃったわ。もしかして、カマをかけられちゃってた?」
「いや、最初は本気でアンテナが立ってなかったぜ。アンタが俺にとってどういう存在なのか、見極められなかったからな」
目を合わせずに酒をちびちびと啜る店主に、セッツァーは笑い返した。
「酔っ払いのフリにだまされた? 殺し合いに場違いな空気に乗せられた? この当たりの酒の匂いに狂わされた?
 ――――――違うね。その中に僅かに残った“アンタの敵意”こそが、最後まで分からなかった」
そう、それがセッツァーの感覚を鈍らせていたもの。理由の思いつかない一方通行の憎悪である。
「なあ、俺は一体アンタにとってどれほどの仇なんだい?」
「……安心なさいな。私が『護衛獣』である以上、オルステッド様の意に反することはできないの。
 それに、私には貴方を糾弾する資格はないし、するつもりもないしねぇ?」
にゃは、にゃはは、と酒に焼けた笑いを吐く店主。だが、その飲酒のペースが僅かに速まっていることをセッツァーは見逃さなかった。
「まあ、あんたには礼を言うぜ。ギャンブルの原点に立ち返られた。
 あのルーキーがどんな目論見だろうが、ヘクトル達が何を思おうが関係ない。
 その上で運命を越えてこそ、俺が夢を賭ける大勝負に相応しいってな」
「夢、夢ねえ。風を切って大空を駆ける――――――想像しただけで肴になるわ」
セッツァーの純粋な歓喜に、店主は愛想笑いを浮かべグイと盃の酒を飲み干す。そこには空の杯だけが残った。
「ありゃ、空っぽになっちゃった。これじゃお酒が呑めないじゃない」
空の杯を残念そうに見つめた後、店主は新しい酒瓶を取りだし並々と注いだ。
そこには表面張力限界まで満たされた杯が揺らめいている。
「空の杯には、またお酒を注げばいい。最初から満たされている杯なんてないのよ。
 いいえ。空の器にこそ、どんなお酒を注ごうかという趣がある」
セッツァーはそれを黙って聞いていた。自分が砕いた、2本の空き瓶を思い出しながら。

「―――――【アティ】よ。私がいつか呑もうと楽しみに取っておいたお酒のラベル。呑めなくなっちゃった以上は、仕方ないけどね」

しばしの無言が続く。机の上に置かれた酒をセッツァーは手に取ることもなく、店主は呑むこともなく永遠に似た1秒が連鎖する。
「これからもう一勝負ある。悪いが、酒に酔ってる暇はねえ」
「そ、残念ね。はい、一等賞」
店主は胸に手を入れて、小物をとりだす。それはダイスだった。
ただし、中に細工の施された――――『イカサマのダイス』が。

「貴方達のお酒が最後にどんな味になるか……機会があったら呑ませて頂戴な」
「ああ。機会があったらな」

セッツァーがそれを掴むと、店主は全ての役目を終えたとばかりに手を振った。
もうこの店には用事はない。目指すべきは、ルカ=ブライトを斃せしアシュレーの一党だ。
そうして3人は、入った入口へと進んでいった。

835龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:11:55 ID:rH4aOhw20
―――――・―――――・―――――

陽光が緩く照らす朝の森の中、セッツァーは思い出した過去を苦虫を噛み潰す様に堪えた。
そこに茂みを踏む音が鳴り、ピサロ共々立ち上がる。
「来たか、ジャファル。で、首尾は――――」
「既に交戦が始まっている」
戻るや否や、告げられたその一言は彼ら2人といえど震えを呼ぶものだった。ただし、驚愕と歓喜を綯交ぜにしたものとして。
簡潔明瞭なジャファルの斥候結果を具に聞きながら、彼ら3人は状況の大まかなるを把握した。
南の遺跡にいるはずの魔王とカエルが、攻め上がりに来たのだ。
魔王の大規模魔法で戦況が混交し過ぎて、流石のジャファルといえど遠間からではヘクトル達の全人数は把握し切れていなかった。
「奴らが団結して南に下りなくなったから、攻め上がりに来た? いくらなんでも早過ぎるだろう。監視能力でも持っているのか?」
「そんなことは然したる問題でもないだろう。これこそが貴様の望んだ好機とやらではないのか?」
考え込みかけたセッツァーをピサロの一言が引きもどす。重要なのは現状の答え合わせでなく、現状をどう生かすかだ。
セッツァーは持てる感性の全てを動員して、次の一手を弾き出した。

「当然、背後から攻める。ただし、放送が終わってからだ」
「……何故だ」

追いすがるようなジャファルの眼を、その感情ごと理解したような眼でセッツァーは見返した。
「魔王共の攻めたタイミングにもよるが、あのガキが中にいた以上俺達のことは知られていると考えた方がいい。
 恐らく、俺達が来ることも読まれてるだろう。
 かといってこのタイミングを逸して魔王共がやられれば今度は10人近い連中と俺達が正面からぶつかることになる」
拙速に攻めればカウンターを仕掛けられる恐れがあり、巧遅に失すれば唯一の勝機を失う。
突くべきは最適な“今”―――――――即ち敵の人数を全て掌握した直後、オディオによって仕切り直された刹那である。
「僅かな間を持たせて、緩急を縫うか。王道ではないが是非もない――――して、何処から攻める?」
ギャンブラーの采配にとりあえずの及第点を与えた魔王が、いよいよ確信へと切り込む。
彼ら3人が集ったのは、1人では如何ともしがたい彼我の差を埋める為だ。
3人の力を拡散させるのであれば、この盟約は全くの意味を成さない。
一度混戦に入ってしまえば致し方ないが、初撃は戦力を集中するべきである―――――彼らが唯一恐れる、人数の差を潰すために。

「決まっている。ニノだ」
「ッ!!」

その名が告げられた瞬間、ジャファルの身体が猫のように跳ねあがりセッツァーの喉元に刃を向ける。
だが、セッツァーは皮一枚を血に濡らしながらも気にしていないように言葉を紡ぐ。
「言葉が足りなかったな。先ずニノを確保するって意味だ。
 混戦のうちに死なれてるかもって思ったら、アンタも気が気じゃないだろう? だから、周囲を撃滅して気絶なりさせちまう。
 どうせその近くにはヘクトルもいる。不意を付ける最後の機会だ、そろそろアイツが望む黒い俺として出てやろうじゃないか」
そう言ってセッツァーはぐぐもった笑いを浮かべ、その意思に淀みがないことを見取ったジャファルは刃を下げる。
「……感謝する」
「なァに。俺はあんたと共に戦うことに賭けた。それだけだ―――――よく耐えてくれた、もう少しだけ我慢してくれ」
セッツァーはそう言ってジャファルの肩を力強く掴んだ。
そう、魔王の魔法がニノを襲った時、ジャファルは飛び出して魔王に攻め入ろうとさえ思ったのだ。
ニノに牙を向けるのであれば例え相手が誰であれ、立場がどうであれ知ったことではない。
距離があろうが無かろうが、この手で瞬殺してしまいたい―――その衝動を、ジャファルは堪えたのだ。
(まだ、ニノの傍にはオスティア候がいる。まだだ、もう少しだけ、ニノを頼む)
求めるはニノにとっての安らぎ。その為には、ここで衝動に駆られて暴れる訳にはいかない。少なくとも、今は。
だからこそ、セッツァーの指針はジャファルにとって天啓以外の何ものでもなかった。それ以外の選択肢はなかったと言える。

836龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:12:45 ID:rH4aOhw20
その意を固め誼を確かめ合う2人を尻目に、ピサロは寒気すら覚えた。
セッツァーにもジャファルにも、一切の淀みはない。アレは互いにとって確かな誓いなのだ。

―――――もし、これからの戦いでニノって奴と戦闘に入ったら、旦那の判断で消してくれないか?

だからこそ、ジャファルが斥候に出ていた時にセッツァーに持ちかけられた話が恐ろしい。
セッツァーは先のように寝転びながら、雲の数を数えるような気楽さでそうハッキリ言ったのだ。

―――――俺はジャファルに賭けた。それは間違いじゃねえ。あいつの夢は純粋で、信じるに足る。
     “だからこそ、ニノって奴が邪魔になる可能性が否定できねえ”。

彼ら3人は共に優勝を目指すと言う観点から利害を一致している。ただ、ジャファルだけはその指向性が僅かに彼らと違うのだ。
ニノはジャファルにとって刃を研ぐ石でもあり、刃を折る鉄でもあり、刃を誤らせる霧にもなるのだ。

―――――ニノって奴が無力な娘ならこうも迷わねえんだがな、いかんせん半端に力があるとなりゃ始末が悪い。
     ジャファルにとっても、俺達にとっても場を荒らすワイルドカードになりかねねえ。

唯でさえ殺し合いに乗る参加者が少ない現状、ニノを守るためにジャファルが他の殺戮者と相喰むことになればそれこそ眼も当てられない。
ならば、いっそ“ジャファルもセッツァー達と同じ形に”なってもらった方がいいのではないか、と。

―――――正直、ニノを殺すべきか生かすべきか読めない。どちらに賭けても、失うものも得られるものもある。
     俺じゃ判断が鈍っちまう。だから“旦那に任せたい”。

だからセッツァーは委ねた。ジャファルとニノの関係に全く興味の無いピサロを公平なダイスと見立てて、
その趨勢を賽に任せようとしたのだ。

(これが、ギャンブラーというものか。成程、人間に相応しい在り方だ)

ピサロは思惑を億尾にも出さず鼻息を鳴らす。
セッツァーの要望があろうがなかろうが、ロザリーへの道程を阻むものがいれば誰であれ屠るのみ。
それはニノという娘でも例外ではない。最も、その公平さこそをセッツァーは信じたのだろうが。

「アンタらも、まだあの店のアイテムを使わずに残してくれたようだしな。
 あのガキが俺達の装備を見誤ってくれてたら、更にラッキーな話だ」
セッツァー達はそう言って森を分けて進む。南へ、南へ。放送は近い。
「全く、あの店主サマサマだったな、まったく」
「……だが、お前はそれでよかったのか? “イカサマのダイスを放棄して”」
「なァに、やっぱりブリキ大王のような戦闘の道具は好まねえ。俺はこれで十分だよ」
ジャファルの問いに、セッツァーはポンポンと枕にしていた本を叩く。
唇を歪めたセッツァーに、ピサロは興味な下げに尋ねた。
「どういう風の吹きまわしだ? あの龍姫に感謝するなどとは」
「俺だって感謝したい時くらいあるさ。尤も―――――――――」

837龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:13:25 ID:rH4aOhw20
エキゾチックな異国の店。その中で店主はちびちびと酒を煽っていた。
その向かいには3つの杯が、呑むべき相手を待つかのように置かれている。
だが、その酒が飲み干されることが永遠に無いことを店主は知っていた。
「よりにもよって、二重誓約を仕掛けられるなんてねえ……メイメイさんもしてやられちゃったわ、ホント」
今さら、其れについて猛ろうと思えるほど彼女は若くはなかった。
それが人の選択である以上、避けられぬ離別も逆らえぬ命運もある。彼女は幾度となくそれを見てきたのだ。
「哀れメイメイさん、籠の中の鳥……誓約の鎖に縛られたかわいそうなオ・ン・ナ」
今の彼女の仮主は人の命運さえも捻じ曲げようとしている。それは運命の埒外、彼女としても承服は出来ない。
しかし、この牢獄に繋がれた以上、セッツァー達のように許可証でもない限り入ることも出来ない。
「にしても、あのギャンブラーやっぱり目聡いわね。真逆、アレを持っていくなんて」
彼らが退出しようとしたあの瞬間を、メイメイは眼を閉じて想起した。

――――――――――――――――悪いが、やっぱ要らねえわコレ。

それは、振った賽の目が全て役を成す悪魔のサイコロ。それをセッツァーはカラコロと地面に投げ捨てた。

――――――――――――――――アンタ言ったな? 1等は俺にとって役に立つ物だって。
                だったら……それは俺が選んでこそだと思わないか?

そう言って店主を見つめるセッツァーの眼は、およそ運命と呼ばれるものを生業にする全ての職業を否定する光を放っていた。
その眼光を携えたまま、カツカツと店主の横を通り過ぎて本棚に立つ。

――――――――――――――――俺は、これにする。この店で唯一、明らかにインテリアから浮いているこの本をな。

セッツァーが手に取ったものを見て、店主は驚愕した。その、錠前のついた本に。

「アレは私の店のものじゃない。アレがあることを私は知らなかった。
 ということは、オル様がここに置いてたってことだから―――――出したら不味いんじゃないの?」
ここは鳥籠、扉が開かぬ限り入れぬ封印。ならばそこにある書物もまた、封印されてしかるべきものなのだだろう。
だが、しばし考えてメイメイはまあ、良いかと酒を飲み直すことにした。
「これでオル様の企みが崩れるならそれまでだしぃ? ひょっとしたら持ってかれること計算済みかもだしぃ?
 メイメイさん、悪くありませ―ん。無実無罪でーす。にゃははははは」
少なくとも今はまだ鳥籠の中で待つしかない。来ないかもしれない時を待つために。
それがあの闇の中で輝く者達の導としてか、憎悪の闇の尖兵としてかは分からないが。

838龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:14:00 ID:rH4aOhw20
だが、世の中は酔夢ほど緩やかではない。
店主の後ろの本棚にある本の一冊が光り輝く。
その光に気付き、メイメイは気だるそうに本を手に取って開く。そしてその眠たげな眼を全開にした。
「夜族、高貴なる血……賢帝の破片にクラウスヴァイン、感応石……これって、首輪の?」
猛烈な勢いで書き変わる文章、そこに書き込まれていくのは首輪のことやこの世界に関する推察であった。
「にゃ、にゃにぃぃ〜〜〜!! 嘘、何でこんな場所に? よりにもよって? オル様の差し金? っていうか、不味い!」
店主は椅子を蹴飛ばしてセッツァー達が出て行った紋章へ手を伸ばす。
ここにコレがあった所で、あの島で戦う者達の役に立つことはない。何としても彼らの世界へ送り届けねばならない。

「何とか本だけでも送り届けないと…! 四界天輪、陰陽対極、龍命祈願、自在解門ッ!!
 心の巡りよ……希いを望む者たちに、導きの書を送り届けたまえ! 魔成る王命に於いて、疾く、為したまえ!」

剣指を刻み、呪文を唱えて店主は紋章に向けて力を送る。
だが、紋章はうんともすんとも言わず、本はいつまでも店の中にあった。
「え、なんで。幾らなんでもそれくらいのことは―――――――あ」
店主がその正解に気付いた時、酒で紅いはずの顔が真っ青になった。

―――――――ああ、機会が“あったら”な。

「ま、まさか……」

その脳裏に浮かんだのは、あのギャンブラーの最後の笑みだった。

「にゃ、にゃんとォォォォォォォォ―――――――――――ッ!!」


A−7の海岸。いち早く日の光を燦然と浴びて輝く海に、どこかの店主の慟哭が響いた気がした。
だが、それを聞くものなど誰もおらず。ただ“かつて船だった板”と既に薄い煙となった灰が残るだけ。

最早、座礁船と呼ばれたものは何処にもなかった。

839龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:14:34 ID:rH4aOhw20
「―――――――――尤も、もう逢うこともないだろうがな」

そう言って、座礁船を焼き海の藻屑へと還した張本人が獰猛な笑みを浮かべた。
彼らはあの店を出た後、即座に紋章の周囲を重点的に破壊し、更に酒蔵の残った酒を全て船に撒き、火術で焼き払ったのだ。
正確に言えば、火を付けた時点で彼らは対アシュレー戦に向けて行動を開始した。
燃え尽きるまで待っている理由も無かった。彼らの目的は、あの入口を完膚なきまでに破壊し尽くすことだったのだから。
「万が一、あのカード以外に入る術があって、俺達のようにアイテム渡されたら堪ったもんじゃねえしな」
入口をなくせばいい。
セッツァーが取った方法は至極明快だった。それに、この方法ならばあの店主を閉じ込める効果もあるだろう。
あの店主がオディオに忠誠を誓っているか、はたまた虎視眈々と裏切りの機会を待っているか。
どちらに転んでもセッツァーに利する要素は何もない。ならば、永遠に客の来ない店番をして貰うのが最良だ。
「そう言えば、何故お前はあの龍を毛嫌いする? 特に拘るようにも見えぬが」
「そりゃぁ、決まってる」
横を歩くピサロの何気ない問いに、セッツァーはさも当然のように答えた。

「自分で歩く路を決める俺<ギャンブラー>と、ここを進めと言うだけ言って自分で歩かない占い屋――――――――――相入れる訳がないのさ」

そう言い終わったセッツァー達の眼の前から木々が無くなる。
そこに広がるのはだだっ広いクレーターだった。そしてその遥か遠くで、魔法の煌めく光が陽光を超えて目に刺さる。

肌を刺す光、雨上がりにぬかるんだ熱。今日も暑くなると告げている。
セッツァーの口が歪む。魔王達の思わぬ奇襲によって、ジョウイがセッツァー達に伝えた計画は破綻したとみていい。
ここからは、恐らく最後になるだろうこの乱戦をどれだけ活かせるかが勝敗を握ることになる。

「さあ、俺達もカードを伏せるぜ。降りる奴なんていやしねえ。最高の、最高の賭けになりそうだ」

だからこそ、最後の作法だけは弁えよう。
汗にぬかるんだ掌を握り締める。慌ててカードを落とすなんて莫迦だけはゴメンだ。
そう言い聞かせるように、セッツァーは枕にしていた本をしっかりと握りしめた。
それは日記のようなものだった。古臭くはなく、かといって新しいものではなく。長年使ってきた日記という印象を受ける。
だが、それよりも眼を引くのが、巨大な錠前だった。
ピサロの魔力でも、物理的な解錠でも開かぬ錠前がこの日記のような本の中身を守り続けている。

唯分かるのは、表紙に書かれた、恐らくこの本の執筆者であろう名前――――――『Irving Vold Valeria』。

永遠に開かれること無い日記を手に掲げながら、セッツァーは高らかに謳う。ギャンブラーとして、1人の男として。
ああ、これだ。胸の動悸を確かめ、セッツァーは漸く自分の興奮を自覚する。
ありとあらゆる準備を整え、考え得る可能性を絞り出し、そして舞台に上る。
その時こそ、今こそ―――――――――最高のギャンブルとなるのだ。




「さあ、宣言しなオディオ! 『No more Bet―――――――――――It's a showdown』ッ!!」





日の出と共に、王の宣言と共に――――――――――これより、最後のゲームが幕を開ける。


今日も暑く、長い日になるだろう。

840龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:16:58 ID:rH4aOhw20
【C-7クレーター北端 二日目 早朝】

【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
    マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、基本支給品一式×1 メイメイさんの支給品(仮名)×1 ニボシ@サモンナイト3
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:放送後にヘクトル達に奇襲を仕掛ける。ただしニノの生存が最優先。
3:セッツァー・ピサロと仲間として組む。ジョウイの提案を吟味する?
4:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
5:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。

 【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
  メイメイさんのルーレットダーツ2等賞。メイメイさんが見つくろった『ジャファルにとって役に立つ物』。
  あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがジャファルが役に立つと思う物とは限らない。

【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) 回転のこぎり@FF6 フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
    天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3 、小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@???
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:放送後にヘクトル・ニノをメインに奇襲を仕掛ける。
2:ジャファル・ピサロと仲間として行動。ジョウイの提案を吟味する?
3:ゴゴに警戒。
4:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。

 【日記のようなもの@???】
  メイメイさんのルーレットダーツ1等賞のイカサマのダイスを放棄してセッツァ―が手にした『俺にとって役に立つ物』。
  メイメイさんの店にあった、場違いな書物。装丁から日記と思われる。
  専用の『鍵』がないと開かないらしい。著者名は『Irving Vold Valeria』。

841龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:17:33 ID:rH4aOhw20
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、心を落ち着かせたため魔力微回復、ミナデインの光に激しい怒り
    ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実  点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、
    天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ メイメイさんの支給品(仮名)×1 
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:放送後にゴゴ・ヘクトル達をメインに奇襲を仕掛ける。
2:セッツァー・ジャファルと一時的に協力する。
3:ニノという人間の排除は、状況により判断する
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。

 【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
  メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。
  あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがピサロが役に立つと思う物にとは限らない。


*座礁船の秘密の扉の先に、メイメイさんの店@サモンナイト3がありました。
 中にメイメイさんがいましたが、店共々どのような役目を持っているのかは不明。
 メイメイさんの目的は不明ですが、魔王オディオの『護衛獣』であるらしくオディオに逆らうことはできないようです。
 その中に、マリアベルの知識が書き込まれた1冊の本があります。

*座礁船が燃え尽きました。紋章も燃える前に完全に破壊されており、そこからメイメイさんの店に出入りすることは不可能です。

842龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/18(木) 03:19:39 ID:rH4aOhw20
仮投下終了です。

議題とこちらが考えるのは
・メイメイさん登場の是非
・アーヴィングの日記(と思われるもの)の是非

ですが、他にもありましたらそれも含めて審議願います。

843SAVEDATA No.774:2011/08/18(木) 04:56:01 ID:JGbs5nQY0
仮投下乙です。
個人的には問題はないと思います。
感想は本投下時に。

844SAVEDATA No.774:2011/08/18(木) 05:10:35 ID:dFHZwuDQ0
投下乙〜
感想は本投下時として、氏が気にしている点について、意見を述べさせて頂きます

・まず一つ目ですが……
え、メイメイさんって召喚獣だったの!?
俺は今ひどいネタバレを食らった

というのはともかくとして
メイメイさんが出てくるということ自体はよろしいかと
お店といえばメイメイさんなのには納得ですし
ただ、メイメイさんの正体が龍族云々というのはサモナイ3内では触れられていませんでしたよね?
1か2か4の話でしょうか?
これは後々、他の書き手がメイメイさんを把握するために、ほかシリーズのサモナイやらねばならないということにはならないですよね?
いえ、そこらへんは書き手諸氏が上手くやってくれると思いたいのですが
ただ、私のようにサモナイの3に疎い読み手をほったらかしにする危機もあるのでは
ちょうど最後にお店の出入りを封じられたこともあり、また、オディオが他人を信用しない以上、
護衛獣といえど、最後の最後まで召喚しないといった形で、これより先に本編に大きく絡ませないこともできますが

この一つ目の件に関しまして、メイメイさんの正体について知っている方の意見もお聞かせください
サモナイ3以外未把握の書き手や読み手が、うまいことはぐらかしたり、簡単な説明でついていける程度のものなのでしょうか?
今回の話の内容的に、メイメイさんの正体だという龍関係の要素を削ってもらっても成り立つ以上、そこら辺をぼかす形で修正してもらったほうが良いのでしょうか?



・次に二つ目の方ですが
こちらについては問題ないと思います
アーヴィングの日記はWA2ではどうやっても見れないものでしたが、今回の話の流れからして、その中身が見れないことこそに意味があるとも捉えれます
解錠されたとしても、内容をまっとうなアーヴィングの日記としてでっち上げることもできますし、オディオが置いていたことも考慮し中身が別ものであったとしても、不思議ではないかと
書き手の判断次第でこちらはどうとでもなると思われます

845SAVEDATA No.774:2011/08/18(木) 23:09:16 ID:QhBUSqVs0
お疲れ様でした。
他の方と同じく、感想については本投稿された際に。
それにしてもこの◆wqJoVoH16Y、ノリノリであるw

(1)メイメイさんについては、今後の書き手さんがどう扱うか次第だと思いますし
ロワのルールにも違反していないので特に問題ないと思います。

(2)日記の出典が???となっていますが、
アーヴィングの名が入っている以上、WA2と明記していいんじゃないでしょうか。
ロワの世界に来てから作成・改造したもの以外で
原作に存在しないアイテムが登場するのは初めてだと思うので、
WA2以外の世界の本にアーヴィングの名前が入っているというクロスオーバーは
ロワ的にアリなのか、という点が気になりました。

(3)FF6のセッツァーにとってWA2のアーヴィングの本は
ちょっと変わっているだけのただの本のはずで、
何故それを役に立つものだと思ったのかの説明が欲しいと思います。
一言ギャンブラーの勘という一文があるだけでも説得力が増すのではないでしょうか。

(4)セッツァーが不確実さを排除する一面がかなり強く押し出されているので
ギャンブラーというより策略家みたいな印象を受けました。
「賭ける」と言っているけど、完全に全てが計算されているような感じがして、
いまいち賭けている感じがしません…。
ダーツにしろ、ジャファルとの会話にしろ、どの辺りに不確実さを感じているのか見えにくいと思います。

(5)セッツァーのことばかりになりますが、
ニノの対応を完全にピサロ任せにするのはちょっとらしくないかなと思いました。
どっちに転んでもいいなら、皆殺しを狙うピサロにわざわざ依頼する意味はありませんし、
ニノが死んでくれた方が都合がいいなら、
ここはキッパリとニノが殺されるようにお膳立てしていくのがこのロワのセッツァーだと思います。

(6)最後に、護衛獣と二重誓約については用語の説明があると親切だと思います。
特に、二重誓約については、どの行動やセリフが二重誓約にあたるのか、
サモンナイトの召喚に関係がある用語ならば、
それを知らないはずの3人が何故二重誓約をしかけることができたのか、等の説明があると
一層理解しやすくなると思います。

846 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/19(金) 19:45:40 ID:URkjOJ9U0
皆さんご意見ありがとうございます。

>>844さん

>龍であるという情報ソース
確かにその通り、SN4になります。さほど重要な要素ではないと考え設定を使用しましが、脇が甘かったのも事実です。
念のため本投下の際にぼかすことにし、ある程度の情報をキャラクター紹介スレに乗せようとおもいます。

>>845さん

>(2)について
>>844さんが述べたような可能性を残すため、???で行きたいと思います。ご了承ください。

>(3)について
本文中、以下の文章にて説明したと考えます。

  >俺は、これにする。この店で唯一、明らかにインテリアから浮いているこの本をな。


>(4)について
 本文中にも書きましたが、セッツァーとしてはこの程度のミニゲームは乱数に委ねるレベルではないと考えてます。
 当たる確率が40%のものを、事前の準備で60%、80%と詰めていき、それでも残る不確定要素こそにこそ自分を賭けるのもギャンブラーかと。

>(5)について
 私の描写不足でした。申し訳ありません。
 死んでも生きてもどちらに転んでも良いとも、死んでくれた方が都合がいいとも記述したつもりはありませんでした。
 セッツァーがジャファルと共闘を組む上でニノの生死、またそのタイミングは非常に大きな要素であり、本文中の通りどちらを選ぼうともリスクもリターンも付きまといます。
 ですがこれは重要な要素であり、乱戦に突入する以上「どこかで転ばす覚悟」はしなければなりません。
 今後の展開次第でその天秤が動く可能性がありますが、現時点ではピサロという乱数に委ねた次第です。
 同盟を組んでいる以上、ともすればピサロが配慮する可能性もあるため、口にした、ということでした。

 セッツァーが語るニノの描写が他人事のように薄かったのが原因かもしれませんので、そこを修正したいと思います。

>(6)について
本文中で入り込んだ説明をすることが、逆に他の書き手の方に迷惑になるかもしれないのであっさりと流しました。
小ネタに類する箇所ですので、分からなくても触れずに行ける場所かと。

ただ、護衛獣はともかく二重契約はSN3の範囲外になることも事実です。
なのでメイメイさんのキャラクター紹介を書くときに部分で一行、用語説明を追加したいと思います。


以上で現状の質疑に対する回答を終えます。
見る限り、こちらが懸念していた二点に関してはおおむね問題ないとの意見と見受けますので、
土曜0時以降に一部修正後、本投下しようと考えます。
それまでも質疑は可能な限り受け付けますので、忌憚なく意見を願います。

以上です。

847845:2011/08/19(金) 20:59:49 ID:axrJO1Z20
>>846
長々と意見してしまったにも関わらず、
丁寧に対応していただきありがとうございます。

(2) から (6) までのご回答について、理解できました。
ご回答ありがとうございました。

848 ◆wqJoVoH16Y:2011/12/24(土) 08:06:36 ID:1Jk99KIo0
私がわたしを歩む時−I'm not saint−の修正をwikiにて行いました。

849 ◆wqJoVoH16Y:2012/01/29(日) 11:57:43 ID:BAf7eGEg0
本スレの指摘を受けて以下の2点について修正を行います。
この修正はwiki収録時に反映させたいと思います。

1.>>376 盾と刃が交わる時−The X trigger− 5

その世界に全ての悲しみがなくなれば、そこに救われぬ者はなく、
それを救う英雄はなく、英雄を欲する者たちもいない。
勝者と敗者のいない世界――――――それは即ち、争いのない世界。
即ち、真の理想の国に、英雄は“いない”のだ。

を削除します。(次の6番と重複するため)


2.アキラとピサロの状態表を以下のように修正します

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(極)疲労(極)肩口に傷 怨念に触れて精神ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、毒蛾のナイフ@DQ4 基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:何とかして、立ち上がる
2:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
3:首輪解除の力になりたいが、俺にこれを読めるのか……?
4:ジョウイに対処する
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。
※毒蛾のナイフ@DQ4が肩口に刺さっています


【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)ミナデインの光に激しい怒り ニノへの感謝
    ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(5枚)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実  点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)
    バヨネット、天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ メイメイさんの支給品(仮名)×1 
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:ヘクトル(?)を利用し、セッツァーと連携して参加者を殲滅する
2:セッツァーはとりあえず後回し
3:ジョウイは永く保たないはずなので、放置する
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:*確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
     ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック 
    *バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます

 【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
  メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。
  あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがピサロが役に立つと思う物とは限らない。

850 ◆wqJoVoH16Y:2012/01/29(日) 16:24:18 ID:BAf7eGEg0
指摘ありがとうございます。
また、セッツァーが回収したアナスタシアの所持品についてもミスがありましたので
それらについて以下のように修正します。

3.ストレイボウとゴゴ、アナスタシア、セッツァーの状態表を以下のように修正します

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極)、心労(中)勇気(大)ルッカの知識・技術を継承
[装備]:
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、基本支給品一式×2
[思考]
基本:魔王オディオを倒してオルステッドを救い、ガルディア王国を護る。  
1:この場を切り抜ける
2:ジョウイ、お前は必ず止めてみせる…!
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石によってルッカの知識・技術を得ました。完全再現ができるかは不明。

※首輪に使われている封印の魔剣@サモナイ3の中に 源罪の種子@サモサイ3 により
 集められた 闇黒の支配者@アーク2 の力の残滓が封じられています
 闇黒の支配者本体が封じられているわけではないので、精神干渉してきたり、実体化したりはしません
 基本、首輪の火力を上げるギミックと思っていただければ大丈夫です

※首輪を構成する魔剣の破片と感応石の間にネットワーク(=共界線)が形成されていることを確認しました。
 闇黒の支配者の残滓や原罪によって汚染されたか、そもそも最初から汚染しているかは不明。
 憎悪の精神などが感応石に集められ、感応石から遥か地下へ伸びる共界線に送信されているようです。

【ゴゴ@FFⅥ】
[状態]:気絶 疲労(大)瀕死 首輪解除 右腕損傷(大)気絶 出血多量 物真似に対する矜持
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE 、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンはひとつ)
    魔鍵ランドルフ(機能停止中)@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノ・トリガー
[思考]
基本:物真似師として、ただ物真似師として
1:そろそろ、目覚めないとな……
2:セッツァー…俺の声を、届かせてみせる!
3:“救われぬ”者を“救う”物真似、やり通す”
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と別の時間軸から来た可能性を知りました。
※内的宇宙のイミテーションオディオが紅の暴君に封印されたため、いなくなりました。
 再度オディオを物真似しない限り、オディオは発生しません。

851 ◆wqJoVoH16Y:2012/01/29(日) 16:27:00 ID:BAf7eGEg0
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:ダメージ(極)、疲労(極)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、重度失血 左肩に銃創(弾は排出済み)
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:感応石×3@WA2、ゲートホルダー@クロノトリガー、にじ@クロノトリガー
    基本支給品一式×2、
[思考]
基本::“自分らしく”生き抜き、“剣の聖女”を超えていく。
1:この場を切り抜ける
2:ゴゴを護り、ゴゴを助ける。
3:ジョウイへの対処を考える。
今までのことをみんなに話す
[参戦時期]:ED後
[備考]:
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※アナスタシアの身にルシエドが宿り、聖剣ルシエドを習得しました。
 他、ルシエドがどのように顕現し力となるかは、後続の書き手氏にお任せします。

【セッツァー=ギャッビアーニ@FFⅥ】
[状態]:魔力消費(中) ファルコンを穢されたことに対する怒り
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE烈火の剣、
    シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2 バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
    天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
    小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@??? ウィンチェスターの心臓@RPGロワ
    昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、
    アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV、ルッカのカバン@クロノトリガー、
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ヘクトル(?)を利用し、ピサロと連携して参加者を殲滅する
2:ジョウイに関してはもうゲームからの脱落者として考慮しない
3:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。
※ルッカのカバンには工具以外にルッカの技用の道具がいくらか入っています

852 ◆wqJoVoH16Y:2012/01/29(日) 21:56:58 ID:BAf7eGEg0
いえ、指摘ありがとうございます。
むしろ見落としてしまい申し訳ありません。
それと>>415さんも凄いイラストありがとうございます。
まさかこんな早くイラスト化されるとは考えもしてなくてうれしかったです。


それではセッツァー及びゴーストロードの状態表を以下のように修正します。

【セッツァー=ギャッビアーニ@FFⅥ】
[状態]:魔力消費(中) ファルコンを穢されたことに対する怒り
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ
    シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2 バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
    天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3 にじ@クロノトリガー、
    小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@??? ウィンチェスターの心臓@RPGロワ
    昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、
    アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV、ルッカのカバン@クロノトリガー、
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ヘクトル(?)を利用し、ピサロと連携して参加者を殲滅する
2:ジョウイに関してはもうゲームからの脱落者として考慮しない
3:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。
※ルッカのカバンには工具以外にルッカの技用の道具がいくらか入っています


【天雷の亡将@???】
[状態]:クラス『ゴーストロード』 左目消失 戦意高揚 胸に穴 アルマーズ憑依暴走 闘気 亡霊体 HP0%
[装備]:アルマーズ@FE烈火の剣(耐久度減。いずれにせよ2時間で崩壊) ラグナロク@FF6 勇者の左腕
[道具]:聖なるナイフ@DQ4、影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI マーニ・カティ@FE烈火の剣
[思考]
基本:オワレナイ……ダ、カラ……レ、ヲ……戦ワセロ……ッ!
1:戦う
2:肉を裂き、骨を砕き、生命を断つ
3:力の譲渡者(ジョウイ)には手を出さない

[備考]:
【ゴーストロード】
 亡霊君主。スキル『亡霊体』によって物理攻撃ダメージを半減し、
 近づくものをその怨念で射竦めるスキル『闘気』によって周囲の相手の移動を制限する最悪の前衛ユニット。
 ミスティックを通じて不滅なる始まりの紋章の力を注がれたアルマーズの無念が死体さえ動かす。
 過負荷によって既にアルマーズは崩壊を始めており、どうしたところでその存在は2時間も保たない。
 それでも、それでも理想を願うことは止められない。たとえ絶対に叶わない泡沫の影だとしても。

 *天雷の亡将の周囲に石細工の土台が暴走召喚によって大量召喚されています。
 *ビー玉は暴走召喚の触媒として壊れました
 *つらぬきのやり@FE烈火の剣は死体が最初に倒れていた場所(C7)に突き刺さったままです

853 ◆wqJoVoH16Y:2012/04/08(日) 15:37:27 ID:qP6X3Mpc0
前話拙作におきまして、
セッツァーの所持品にミスがありましたので修正しました。

・にじ@クロノトリガー を削除(アナスタシアと重複)
・マタンゴ@LAL   を追加(本文中で入手)

ならびに誤字も少々修正しました。

854 ◆wqJoVoH16Y:2012/08/25(土) 23:18:53 ID:qS4PCLgQ0
本スレ>>502

ご指摘ありがとうございます。ご指摘の点すべてこちらのミスでありますので、
wikiに掲載され次第修正いたします。

また、こちらでもアキラの所持品に清酒・龍殺しの空き瓶が、
セッツァーの所持品に壊れた蛮勇の武具がまだ残っていたのを確認しましたので、
これも合わせて修正したいと思います。

855 ◆6XQgLQ9rNg:2012/10/20(土) 07:27:11 ID:Vgu7eLC60
拙作、『Phalaenopsis -愛しいきみへ、愛するあなたへ-』にて、
状態表に場所と時間表記が漏れておりました。
以下、状態表に追記です。

【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 昼】

856 ◆wqJoVoH16Y:2012/12/16(日) 05:05:24 ID:jT4OIwKQ0
『魔王様、ちょっと働いて!』及び『リプレイ・エンピレオ』をwiki収録しました。
その際一部修正をしました。
ストーリーに支障ある部分ではないため、事後承諾ですがここに報告させていただきます。

857SAVEDATA No.774:2012/12/17(月) 05:47:58 ID:tp3JTUUE0
>>856
収録お疲れ様でした
一部修正も問題ないかと

858SAVEDATA No.774:2013/02/09(土) 21:59:28 ID:OCcwtd/c0
少し気が早いですがwikiに時系列順と投下順の目次を増設しました。
メニューとトップにはリンクを載せましたが他まで見ていないので、
何か気づいた方は適時対応願います。

859SAVEDATA No.774:2013/04/02(火) 00:01:16 ID:Zj6MYQ4I0
規制くらったのでこちらに続きを投下します

860刃の行方、剣の在り処19:2013/04/02(火) 00:02:04 ID:Zj6MYQ4I0
「龍には、無垢なる、たま、しひ……を……」

ずるりとその血塗れの左手から、狂気山脈が遂に手放された。
夥しい血液を胸から流しながら、カイエンが、幾人もの命を喰らい尽くした殺人剣が地に伏せる。
血の河と思えるほどの大量の血液は、まさに彼が歩み抜いた途そのものだった。
その血の向かうは竜の門。その扉の先にこそ、あの列車の終着駅があるのだと信じるかのように。

「諦めな、サムライ。その刀が血に飢えることは、もうない」

あと少しで血が門に触れようとしたとき、に大地に突き刺さった雷鳴剣がその血の流れを、断絶する。
狂気山脈を胸に深々と穿たれながら、フリックはその殺人剣に吐き捨てた。
愛し、喪ったものを取り戻したい。己を狂わせてでも成し得たいその願いは、痛いほどに理解できる。
だがそれでも、フリックにはそれを認めることはできなかった。
理由は分からない。
ただ1つわかることは、たとえ己が命を引き換えにしてでも、
その在り方を肯定する訳にはいかなかったということだけだ。
(ここ、まで、か……)
血の気と共に、フリックの身体が落ちていく。
寸断される意識では、その答えを掴むことなどできなかった。

「しっかりなさい! それでもわたくしの騎士なのッ!?」
だから、答えがその手を掴んだ。
剣ダコで厚くなったその手を、やわらかな両手が包み込む。
もう亡くなったと思った、守れなかったと思ってた命のあたたかさだった。
「ベ……ル……フラウ……」
返り血に塗れた顔を少女の涙が拭う。しな垂れた髪の香りが、血臭の中でも鼻腔を擽る。
何度も睨んできた瞳は、紅く輝いていた。
何度もくしゃくしゃと撫でてきた髪は、金髪ではなく銀髪になっていた。
右手に輝く月の紋章は、彼女がノーライフキングの一席であることを示していた。
「シエラ、おねえさまが、こどもは……生きろって、
 みんな……子供扱いして……っ、そのくせ、自分たちばっかり……勝手なんだから……!」
こぼれる涙を止めることなく、少女はキッと死の淵に瀕する己が騎士を見据えた。
たとえそれがものの弾みから出た約束であったとしても、稚拙で一方通行な契約であったとしても、
それだけが、人の道から零れ落ちた彼女をここまで運んできたのだ。
「死なせない。このまま終わらせたりなんかするものですか……!」
月の紋章が輝く。それが意味するのは、紋章の眷属への変生。
無論、ベルフラウにフリックを支配するつもりなど毛頭ない。ただ生きてほしいと、それだけを願った祈りだった。

「なあ、頼む。このまま……終わらせてくれないか」

861刃の行方、剣の在り処20:2013/04/02(火) 00:02:34 ID:Zj6MYQ4I0
牙をみせて怒鳴るベルフラウに、苦笑したようにフリックが首を振る。
その静かな瞳に、少女は否応にも騎士の決意の固さを悟るしかなかった。
「いや……いやよ……カイルも、スバルも、ミスミさまもいなくなって……
 サニアさんも、シエラお姉さまも……死んで……ルーシアも、その上、貴方までいなくなるなんて……」
それでも、少女はその手を強く握る。零れ落ちるものを溢すまいと包むように。
「ねえ、生きてよ。お願いだから、あの人を想い続けてもいいから……
 私の騎士じゃ、なくても、いいから……わたしを、ひとりに、しないで」
ただ一つのわがままで、少女は願った。
そのわがままを、フリックは震える腕を持ち上げて、指で拭う。

「……違うさ。お前には帰るべき場所が、あるだろう。俺は、それを守れたんだ。だから、違うのさ」

あの時、炎の家のなかで、全て燃え尽きたと思っていた。
あの兇刃と撃ち合ったことに意味などないのだと思っていた。
そうではない。そうではなかったのだ。
守れたのだ。かつて愛した過去<かのじょ>ではない、確かにここに在る現在を守れたのだ。
彼女がこうして泣ける今を、守り通せたのだ。

「だから、俺をこのまま、お前の騎士のまま終わらせてほしい」

この胸に充つる想いのまま、どうか。
ベルフラウは何も言わず、そっと手を離す。


「―――――――ありがとう。ベル」
「―――――――バカ。何度言っても、そう呼んでくれなかったくせに」


青き雷は、二人の主を剣に刻んで、門の向こうへと消えた。

【カイエン@FF6 死亡確認】

【フリック@幻想水滸伝2 死亡確認】

【竜の門前 二日目 昼】
【ベルフラウ@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)疲労(中)吸血鬼化
[装備]:ドリストンガン
[道具]:月の紋章
[思考]
基本:主催者を打倒し、島へと帰る
1:フリックを弔う
2:ロボ・マールという参加者と合流する
[参戦時期]:ED後
[備考]:シエラより月の紋章を継承しました。具体的な効果はお任せします。

862SAVEDATA No.774:2013/04/02(火) 00:04:24 ID:Zj6MYQ4I0
あ、間に合わんかった。
すんません。エイプリルフールネタのつもりでした。
その、上2レスは無かったことに。

863SAVEDATA No.774:2013/04/02(火) 00:43:07 ID:fO6OfWlA0
投下乙!
内容的に投票時のでっち上げテンプレ世界の続きだよね
カイエンは魔剣開眼でやばいことなってたけどそれを止めたのはフリックだったか
愛する人をなくしてるフリックだからこそだよなあ
竜の門の先に行こうとして狂ったのはネルガルをも重ねちまうぜ
フリックはようやく守れたんだね、お疲れ様
ベルは失いに失って、それでもこれから永遠を生きてくのか……
存在に触れられただけだったけどシエラ様もかっこよかったです

864SAVEDATA No.774:2013/04/02(火) 00:43:43 ID:fO6OfWlA0
上げ

865<ワタナベ>:<ワタナベ>
<ワタナベ>

866<ワタナベ>:<ワタナベ>
<ワタナベ>

867<ワタナベ>:<ワタナベ>
<ワタナベ>

868 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/05(土) 19:13:06 ID:0pRzyx4.0
拙作 No.00「帝国軍諜報部式特別訓練」にてリザーブ支給品に
イスラ装備済みのドーリーショット@アーク2が残っていたので
wiki上にて削除しました。

申し訳ありませんが、以降のSSにも反映願います。

869 ◆6XQgLQ9rNg:2013/10/05(土) 21:13:47 ID:aMPfrITA0
>>868
修正お疲れ様です。
こちらの方でも気付ければよかったですね、すみません。

「罪なる其の手に口づけを」のリザーブ支給品の修正を、あわせて行いました。

870 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/22(土) 22:31:58 ID:x/m2xucc0
拙作『其の敵の名は――』『響き渡れ希望の鼓動』をwiki収録しました
それに伴い、誤字等の誤りを修正いたしました

871 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/23(日) 22:58:39 ID:6Uh1MaSE0
拙作『其の敵の名は――』にて、部隊編成の枠の一部が漏れておりましたので、修正いたしました

872 ◆FRuIDX92ew:2014/10/13(月) 19:09:57 ID:dwcwVCk60
「一万メートルの景色」
批評を受けまして、誤字脱字修正、一部文脈がおかしかった箇所を修正しました

873SAVEDATA No.774:2014/11/05(水) 00:49:36 ID:ZL1fkChQ0
了解です

874SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:11:28 ID:nwge4aXk0
空に浮かぶ“魔法王国ジール”。




                                /ヽ
                            ,//   `ー-、
                         __r‐/ /  !  .ヽ \
                        __/   i ." i  !.、  ゙lゝ .l=ー..,i-、   √/冖l_/⌒/'ー、   _
                /∨ \/ `'-、 !.!  .|、│ ゙'‐ `  .ヽ !  ゙ン'⌒゛ /   `  ./  ..l゙''"゛ \,..ー、         メ\
                / ./  .i  \  ゙ニ=- ゙xX彡爻爻爻ミミ¬--爻炎ミ--xX爻ーui_爻X-.._ ,-゙ヽ、_`';;、___/ |.、 \
           //,/ / .l : -;;'"彡爻爻ミ璽目旧[]璽旧「幵幵冊龠彡爻爻ミXxレ! rv-'/ .,! .<゙ヽ_,゙ヽ_ `゙゙'ー龠爻ミXニ
   _心≧=─-'゙二‐┴-←''二=-‐、,,. ⌒`ー、璽幵「璽冊[]目高龠璽幵xx__xX爻ミミil!爻l/./ .ll,  .l  .`''-ミr ゙̄TTi冖 ̄ | /
  .l|_龠爻ミ‐x彡爻‐≠ニ'"゛/ | \.`゙''ー---..__xX「高[]龠爻ミミ''‐爻.-=―--二=ィ⊇_____爻爻炎二==-,,..ニi ! 八  /
  .ヽ i  ゝ__ `===ミ彡爻ミ/   !  `';;v-八´  `'-、爻iii,i...、二=爻(= ‐ 二 ≡= 三 =ニ ),龠龠爻ミミtr'"、.l iゞ'"  V
    ヽl ,i"´ =ヽ 一‐璽 ̄´彡爻炎ミー'l―xX彡爻爻爻ミミヽ二_ `゙゙'|‐===广==|:i:l''T゙゙゙゙゙| .i二___┬|l | l.,i"゙'ー、
     ∨ `-≠、彡傘ミr─-'" ̄´.! ゙''ーt- _x彡爻龠爻ミミ___ヽi,,ヽ  |  |    ,!:i:i .}  ! . /  l  .,!〃,,!,,/゛ ___/
          \ `゙─冖    i  l 八  ヽ l  .~ ̄´.i `゙゙TT´  ‐===二==- _ !:i:i  l l .l゙/  ,i.l  ./ l'゙/ ゙̄「 /
            \  、 l  .,.! ..l  .l   l l,  . l. .|,  |  ! .1`ー- -―┬‐ーイ゙j !:i:i  :! .U l / ! ,iレ~゛| /_/
            \ .l ll../ .`゙'-.l、 ゝ、 │\  \}     ! l.  八   | .ヽ| | .i:i:i ,,|、.| .|.! :! У    !/
                 マ  ,!     ヽ__ `''、 !  l  ..|八    |  `i !.、.l,  ! / .!,!゙-!:i:i ´ `.! .! ! /
                 ∨       \ l}  │ ! l │  " i  !.| l"..l  ./    i:i:i   ヽ.!/゙V
                          ∨ヽ,, ヽ .,゙ . '、.l,   .!  ゙U ., /      i:i:i
                            `'-.″ヽi,..>  .!   /∨     i:i:i
                                    ゛ ゙l、 ."./
                                      ヽ /
                                         ∨

875SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:12:00 ID:nwge4aXk0
偉大なる女王の元、魔導の力にて栄えた文明は――


           jl|
                                  (ェ)
                                  ()H()
                                  ,r:lll`,
                                 _ _ ,r'∩lll:.`,
                         〃´ .:.:.::::.:r'′.:.:;;;;;;;;;;`,
                        〃  }.::;′   .:.:.:;;;;;;;;;;;`,
                          ,'    ∩    .:.:.:;;;;;∩.;;`,                __ _
                   。    ,'    .: ..Ll:l_ __ _ ノ ノ.:;;;;;`、          , 戔戒.:.::::::::::::.`ヽ
                  (j)   j       l:|"´ ̄ ̄.:.::;:;;;;;;;;;;;;;;ヽ         く.:.:.:::::::::::::::<>::::::::::::`,
             r{}   .,rr{H}ュ:{;{;{;{; .:∩:; .:;;;; l;|   . :.:.:;:;:;;;;;;;;;;;;;;;;;;j        `1.:.:::::::::::::::::.:.:.:::::::::::}
         ェ‐‐─r王ュ"´.:.:.:.::::.:.:::.:.:::.:.::.:.:,ゞ-''"´¨く´``゙゙''´ヽ;;r'"´ 戉戔;:;、      `1'''¨````´゙゙`'.:.::::!
           ̄`了{:::.::::.:戔戔戉::::.::く´       ``ヾ.:.:.:::::::::::.:.rュ.:戔戔戔      `1     .:::::,r′
             ゙, ```'''ヾ:.:.:..:::.:'`',:'':'`:.:::.:.:. .:. :::::::.:.:::::::::::::::::::::::.::.:.:.:::::戔戉       `1    .::::r'′
            。    `1    ヾ::::.:.:,r'", -─‐--..、、`゙゙""´,r'.:.::::::.:.:.:.:.:.:.:::::.:レ          `1  .::r'′
       (ェ) {}      `1    `"´1'"´``ヾ.:.::::.:.::::.:`ヽ `1.:.:.::::::::.:.:.:.: r'"´r'′         ヽ,r'′
       ,r王H{}、、      `1   .:l:|     ``ヾ.:::.:::.:,r' 1レ''゙゙゙.:;;``゙゙´.:::;r'′
 , -‐{;{;{;{;;:::.::::.:::::.`ヽ      `1  ..:::l:|        `""゙´ :|:|  .;;  .::,r'′          __
〈::';::,;'.:::;;'.;.;'';.;;;.;'''.;;.;.;''.;〉     1 . : ::|:|::::.:.             :|:|  .:;′.:;r'′         r'´rュ.:.::.ヽ
. `1 ``゙゙''''''ー'---'‐'゙.::j !       レ'" |:|⌒ヽ        .::::|:|r'´``´゙´          _ノ.:.:.:::::::::::::::}
  `1        .:::j !           |:|   `1、     .::::::;r'|:|             ノ.:.:.::::::::::::::::r'′
   `1    .   .:::r'′        |:|      `1、.:::::::,;r'′|:|         ,.. -rュ .:.:.:::::.::戔戔戒
    `1     .:,r'′         |:|        `V'´   |:|      ,  .:´.::::::::.:.:.:.:::ojjjH::戔戒
     `ヾ   .:r'′           |:|             |:|     {.:.:.:.:.:.:.::::::::.:.:.:.::..:.:::::::::::::::ノ
       `''''゙′             |:|             |:|      ',¨```'''"´``ヽ.:.::::,r'",r'′

876SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:12:36 ID:nwge4aXk0
僅か一日で崩壊した。



                                              _
                                             /   `ー‐ 、
                                              |        }
                                             |   ◎????
                                                 \     /
                                                  `Y  /
                                   √i          ` ー'
                                    /  |         _
                                       /   \__      _ノ \
                                  \      ̄ヽ- '´  /
                                   \         /
                                     i  ◎広場   \
                                        ヽ          ̄}
                                      ヽ  ◎残された村
                                       ` <__/



     /`ー─z__
    {    ◎小さな洞窟
    ヘ       \
.      \_r─t_   /
            ̄

877SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:13:09 ID:nwge4aXk0
全ての始まりはある遺跡の探索中に発見された“門”にこそあった。
“竜の門”……。
こことは異なる世界、“ドラゴン次元”と繋がるとされていた伝説の門。
魔法の力に魅せられていた女王ジールは門の先にあるドラゴン次元をも侵略し、更なる力を手に入れようと目論んだ。

878SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:15:03 ID:nwge4aXk0
      ト、   , /|
                      V\/レ  レi
             ⌒ヾ ̄`丶∨  / / ̄ ̄\
.              / ̄ ̄\   Ⅵ/ /  _∠ ̄`丶
             ∠=,  ̄〕iト 、 _,. --  .,_  __\
.             厶イ /__「       Y__{ `丶
                  />' ≫==----==≪ ヽ\
                / / /  /く}/  Ⅵ‘, ∨∧.‘ ,
            / / /  弋_t、  ィッ_フ, ∨∧ ゚,
              / / / , 'iト、',  、 :i ,  _∧‘ , ‘, ゚,
.            ,' / ,:/i:γヽト .  ̄ .r:'厂Y゚ , ', .i  ',
          | i> 冖ト、Lノ_{iト 二 へ __ノ,. ==- _ |
.          ,. <      Y---==--- /     〕iト ,
.         ∠_____/==' ̄ ̄ ̄ゝ= 'ト _        \
       {/     ノ /   弋ー フ.   | { {_ ̄ ̄ ̄ ̄弋
.      γ´ ̄〕iト-- ' /!    `´::..  ..:}ト、\    _, - 二Y
      {'⌒ー- __,/:::::::ヽ   ,.:::::::.::::::::, ':::::::iト _ー _, ─‐┐|
       |:,   ` >=ミ_:::::::::::|       {::::::::::::::::::>'´   , i .|
       ||::〕iト .,//.//\:::::::ト .,__,.  !::::::::r<ハ  ,. =彡7 ,'|
       ||:::::::::八__,{ ト、/ ヽへ _{{ O }}_ 个Y´ ∨z=<::::::::::::i i !
       |.!::::::::::::::::::::::::} i ハ  |     |  | |{ i´:::::::::::::::::::::: l ,' |
.     |.|::::::::::::::::::::::/ ,:! {| | {    ,'  .| | } |}:::::::::::::::::::::::::| !|
.      | |:::::::::::::::::::: ヽ{.レ | |       ,'.   | | ト、!:::::::::::::::::::::::,' |.|
.      | |:::::::::::::::::::::::::|  .| |     ,'   | ||i,:::::::::::::::::::: ,' |.|
.      | |::::::::::::::::::::::: |   | |     ,'    | |   ',::::::::::::::::: i  | |
.      | |:::::::::::::::::::: : |  | | !  ,'     | |   ',:::::::::::::::::l ,' .|
      i| |:::::::::::::::::::::: |.  | | l   i.    ,' ,'   i::::::::::::::::| | |
...    || |:::::::::::::::::::::::|   | | ∨.:l    ,' ,'   |::::::::: : | | |
..    |.| |::::::::::::::::::::::|.   | |   Ⅵ.   | |.     i:::::::::::::::| | |
      | | |:::::::::::::::::::::|   | |    i    | |     |:::::::::::: | | |
      | | |::::::::::::::::::::|   .| |   i     | |.      |:::::::::::::| | |
      | ||:::::::::::::::::|    | |  .|    | |       |:::::::: : | | |
      | | .|:::::::::::::::: |.     | |      | |     |::::::::::::| | |
      | | |:::::::::::::: |     | |      | |     |::::::::::/ /   |
      | | .!:::::::::: : |    | |      | |.      |::::: / /  /
      | |  |:::::::::::: |    | |      | |       |:::::| |   |
      | |  |:::::::::::::|.     ,' ,'         | |      Ⅵj |  |
      | |  |::::::::::: |.     | |       | |        V ,    |
      | |  |::::::::::::|.    | |        | |        | |   |
      | ゚,  V::::::::|     | |           | |.       | |   |
      | ゚,  ∨::::|.    | |           | |.     | |   |
      |  ゚,  V: !    | |            | |     | |   |
      |   ゚,  ∨    | |         | |       | |   |
.     八  ∧  ∨   .| |             | |    ∧ ∨  ∧
.   __ノ\ ‘,  ‘,   | |          ||    ∧ ∨  ∧
.  /     :} .‘,  ‘,.  | |             | |.     ∧ ∨  ∧
  {    ̄   ,'  /  | |             | |      ∧ ∨  }
.    ̄〕iト . /   /ー-- | |             | | _ ,. 斗≦ ̄ ̄ ̄
         \_/     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

879SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:15:35 ID:nwge4aXk0
門の守護者レックナートはこれを阻もうとするも、門の封印に力を割いたままでは強大な魔法を駆使する女王を相手取るには叶わず、
開門を許してしまう。


       _,,,,--‐;;;;;;;;;;;;;;;;;;;‐---,,,_
          ,/:::::::::::::::::::::::::::::;;;;:::::::::::::::`i、
        ,/    .:::::::::::::::;/,`!;;::::::::::::::::i、
       ,/   .:::::::::::::::::::;/ || ::`!;;:::::::::::::::i、
       .i:::::::::::::::::::::::::::;;/   |;| :::`!;:::::::::::::::|.
       .!;::::::::::::::::::::;;/__    ||   ::`!;:::::::::::|
       !:: ::::::::::::::/:::....`ヽ、  '  ,,/"!;:::::::::|
       |: :::::::::::::|:::::....  `   ´  ...:::|::::::::|
       |   . ::::::|:::ー-‐‐''    `ー-‐|:::::::|
       .|  .:: :::::|:::       .i   :::|:::::::|
       i   .:::i :::::|:::       l.  .:::|:::::::|
      i   .::::| :::::|::::      ` ´   /|:::::::|
      .i  .:::::| :::::|::\   `´` ´ ./;;;;|:::::::|
      i.  .:::::| :::::|:::::::`ヽ、  ´´,/;;;;;;;;|:::::::|
   _,,.ノ:. .::::::|| .:::::|::::  :::`ヽ,-'´;;;;;;;;;;;;;;|::::::|
  /'´ ノ:::::..::::::::|| ::::::|::::    :::::|;;;;;;;;;;;;;;;:::;|::::::|
 /  ,/二二二| :::::::|ー‐-,,,,__|,::::::-'''" `ヽ;;;|
i'´ ,/\_   ノ:::::::::ノ         __,....-'''" `ヽ、

880SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:16:44 ID:nwge4aXk0

開かれし竜の門――

:::::::::|_ ィト,、_     |  |      |    ,イ  /|        | ヾ ヽ..|     ....|     |    _,,,,,!,,_,、_  |:::::::::::
:::ヾト炎イ ィ   ̄..ー-..|_|____.|.__{  〈.!_イ ̄ ̄ ̄ト,,_,ノ.  }_|____.__|..___..|-'''"´    |   .|:::::::::::
:::::::Y Y イ      |    |     ,,, イ ヽ   `.|      !   ..ノ`ヽ、   |       |     イ . 炎トィ}|:::::::::::
:::::::{ イ Yィ―┬--  .|    |   ./  、  ヘ` '''ー.{ ト、  ,イ }ー'7'" / ../ `ヽ  |       |_,,,,,,-ー`ヾ メY 〈|::::::::::
::::::∨―,、イ  .|   .`| ̄'' | ̄'''フ  ヽ  ヘ  ヘ '-ヽ` ! !´,イ‐.、 . /  /  /  \ ̄ ̄| ̄''''|  |    )ト爻 ∨|::::::::::
イ ̄ ̄ ̄ `ヽ .|    |   | イ  ヽ  ヽ  ン''"´ヘ   |.{  }.|   /` ヽ,、  /  /  \ |   |  |  / ̄ ̄ ̄ ̄ヽ:::::
!       ノ ―ー- .|― ./  ヽ  ヽ ,イ  ヽ ,,,ゝ―ヾ_ソ―く 、 /  ヾ  イ  イ  ヾ――|―'―‐!、       ノ:::::
..`ヽ   ,イ     ..|  /  ヽ  ` /  ヽ ,,イ|:::::::| |::::::| |:::::::| |::::: `ヽ /  ヽ イ  イ ヽ.. .|     |ヽ    イ´::::::
:::::ノ   ト、__    ..|ー/ 、  ` /  ヽ ,,イ ー| |= =| |=ニ| |= =| |= =| |= \/ ヽイ  __ ',ー |   __ | ノ    ト、::::::::
ィ       ヘ ̄''‐-| |  ` ヽ へ、 ./| |:::::::| |:::::::| |::::::| |:::::::| |:::::::| |:::::::| |' ,../', '"´  .', |'''" ̄|ィ ̄     ヘ::::::
         |    | | ―― |―‐ ,'ニ| |= =| |= =| |=ニ| |= =| |= =| |= =| |ニ',‐‐‐| ――.....| |   |        .|:::::
_______.| ._.ノ| | ―― |___|:::::| |:::::::| |:::::::| |::::::| |:::::::| |:::::::| |:::::::| |:: |__ | ―― .| |   |     ____|:::::
:::::::::|          | | ―― | _ _|ニ| |= =| |= =| |=ニ| |= =| |= =| |= =| |=:|_  _| ―― .| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄´  |:::::::::::::
:::::::::|          | | ―― |―ー|:::::| |:::::::| |:::::::| |::::::| |:::::::| |:::::::| |:::::::| |:: |―ー| ―― .| |          |:::::::::::::
:::::::::ト-....___ .._ノ| | ―― |___|ニ|_|= =|_|= =|_|ニ=|_|= =|_|= =|_|= =|_|=:|―ー| ―― .| ト-....___ .._ノ|:::::::::::::
:::::::::|          | | ―― | _  |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| _  | ―― .| |         

|:::::::::::::
:::::::::|          | | ―― |___|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|___| ―― .| ト-....___ .._

ノ|:::::::::::::
:::::::::ト-....___ .._ノ| | ―― |_   |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|  __| ―― .| |         

|:::::::::::::
:::::::::|          | | ―― |  _ |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|_  _| ―― .| |         

|:::::::::::::
:::::::::ト-....___ .._ノ| | ―― |___|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|ー―| ―― .| ト-....___ .._

ノ:::::::::::::


だが、女王が門をくぐるよりも早く、彼方より来訪者は来たれり。
それは伝承に残りし半生命半機械の生命体“ドラゴン”でもなければ、竜人“マムクート”ですらなかった。
見難く、見窄らしい容姿をした人のようで人で無きもの。
女王はこれを侮り殺そうとし、門の守護者はこれを訝しみ元の世界へと返そうとし――これに敗れた。
二人の強大なる魔法使いだけではない。
魔法文明そのものが異界より来たりし侵略者に成すすべなく敗北した。

881SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:17:24 ID:nwge4aXk0




           /                 ヽ
         ./                   .l
        ./;:;                    ..l
       /:;:;:;:           ,;;          .l
      ./:;:;:;;:;:          .;;;         ..l
      /:;:;:;:;;:;:;:          .;;;;           l
     ./:;:;:;:;;:;:;:;:;:,.--.、      .;;;;;         ,; .t
    /;:;:;:; .,,'':;:;://ヽ\ '';,,   .;;;;;        .,;;  .t
    ヽ,。-亠、 // 奉 .ヽ ヽ ヽ___;;;;;;       ,;;    t
     ヽ:::::::::l`'ー-----t'~ ̄ .,'\;;      ,;;      t
      .ヽ::::::t.  ,.' .i  ヽ `'ー‐' ./\.    ,;;      ;;t
       .ヽ,:::ヽ;'  i    ヽ   /  .\.  ,;;      .;;: ヽ
        .l::::i__.。-.'"      ヽ  .(入 ,;;      ;;:   l
       .ノ:::::::::l.、,     ,,;;;'’ i  ヽ , / .j      .;;:  ..l
      ./:::::::::::::.t .゙"゙"゙"゙"   i .   /  ,:'      .;;:   l
    /l:::::::::::::::::::::l.         i ./ ,。'   .,        l
   ./ . j:::::::::::::::::::::::l       ,イ~ /   ,,;;      .,,;:;:;:;:;;l
   .j  .j ::::::::::::::::::::::└-----ー'´ .l /    ,,;;     .,,;;'''  ,;;;;;t
   .l  ヽ:::::::::::::::::,。'´| ;:;:   ,.。'´    ,,;;    ,,;;'''   ,;;;;;  .~l_
   ヽ  .\ 。.'´  l :;: .,。'´ ,, ,, ,, ,,,;;:;:;:;:;:;:;:;''':::::::::....,;;;      \
  .,.。'"´\  |.!,、   `l~ ̄,, :.;          .            i


魔封じの者……。
いつしかそう呼ばれるようになった彼の前にはありとあらゆる魔法が無力だった。
魔法を封じられた人間たちは、魔封じの者が率いる“魔族”に蹂躙されるより他はなかった。

882SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:17:57 ID:nwge4aXk0



                              ,,-‐''''''コ‐
                             /    f′
         ィ‐-..、       ..、 , ..       |     ヽ、
         ヽ  ヽ、  |\│`┘ `‐"1     ゙l     丶、
 ..、      /  │   l、  _..‐'''''゙''''''''ー〜-''''′      \
 '((ゞュ..,,   /′   fヒ ,ィ"''┬'" ン‐一‐  ,'            '、
  ^<ノ´゙'Y=x1     下'"゙゙|广'' ゙ゝ,,,,ノ   │       __  v'广'ヽ、
   `ゝ../  ソ''+ 、_  '∟ 丿 ___-r=!tナt│ヽ     ,/‐'ヷY` ..  1、
    ゙'∟ ,,r'´  ,,广'┐ 〕゙彡(个- .. ''ィニnニ 、 '、    :,'|/´ /’ ,,n〉  |}
     ゙<′  /′ ,ト ゙゙{ぅトK {ユ=冖゙゙ ニ 冖' ゝ、_....ノ┘ ヽ―′ _丿
      ゙ヽ_../  _/゙'''+丈ノ'"  ..‐    `゙''′ `/ ゙゙\__  ニ_ 〈'、
       ゙''n,,-r冖-..、  ゙lトッァ∟....-'''"⌒ ̄ ニ"′  _.. ` ゙爻_│ ヽ、
              `ゝ `' │ 1っ''-----  フ'.. 、....┴'' ̄ ̄′  |
               ゙ー.. ∟ 'ゝ;<‐ ..ム_..r'´ .. ̄   .. ......、_..../
                _....几'、 フt-‐'''´´ '´  ''''..;jtミニて ̄´
              ____..r冖"心xコ=コ'、      _.. ´|lー 、`‐'、
        _ '、 ´ '´ _jfサl{つ 丿 `゙`ー:ョ-ー‐"   ||!  ゙'、 '、
        '、      :〔亅 `亡     ,'"エコ′  ノl′  ゙、│
        `ュ、    |テ〈`っ’ `''ー 、  ゝニソ   儿rっ--l..|l 、
        /     '⊥ jL,,_  ..∟___,,......jァア"⌒゙'<''ミ
.         丶_、   T〈ー卜 "''1  ´   _..ャ‐"      1 ミ
               ゛'っ__⊥ ゙l'、  ''‐  ..<ソ′        ` ゙l
                 ゙'xヽ、   .."/′           │
                   ゙''ー--l │            ヽ_
                       `∟             ゙゙ゝ
                        `ヽ          v-‐'''''
                         \      _,,_   ||
                          `''''\  '´  `―′
                             `''′


鋼を肉とし、水銀を血とした魔族たちは一夜にしてジール王国を滅ぼし、浮遊大陸を落下させることで多くの人命を奪った。
魔法を失くし、友を失くし、家族を失くし、国を失くした人間たちは――しかし希望を失ってはいなかった。
目には目を、機械には機械を。
三賢者の指導のもと、機械生命体ドラゴンの化石より魔法に代わりし力“ARM”を建造。
また、ジール王国の後を継ぎ新たに興った“ガストラ帝国”では魔法と機械を掛けあわせた魔導アーマーが開発された。

883SAVEDATA No.774:2016/04/01(金) 16:18:30 ID:nwge4aXk0


   /||  /~i          /~|
  /  ||  |  .|        ,."~~'ヽ.i
   ̄ ̄|| _|   |_,,,-───-[]-,,,,.,」|
     ┼|i ,」ー└ ヾ  ,--<'~`ゞ_ソ,.ト,
     |i,|i     _,-',_i__ノ\_∠)ニヽ_
     /||  -,-┴--, ム--i,_ソーソ__ノ |i  `ヽ、
    (  ゝ、_>=-,, ヾ;,=-) |゚  ゚i=<_」ー=-、ヾ;,.
     フ`,__ノi o |i ヾ  `inok[ニ>'"     ヽ, i
   /__   フ ヾ-"-'|_,,,/=-       __ | /
   ヾ'" `v--,/[;]>'ノノソ~'ー-ヽ、  ,,-=~~~~i;ソ
    \  |iー++-=<==-<)  )`ー‘ー#'_ノ ノ ノ-,_,-ー-,_
     |i__o    rー-<;::|i=<ヾ, ゝ `-=='"~  /    t-ヾ-,
      `iト  /ヾ   ヽL_ノ `ヾ, \r=' ̄ ̄\L_  /」--=ソ_
       Lノヾ  ヾ__] |   \_,,-#"~ゝ-'L_i |i ̄~^=-, ~=-,.
        Lノ ry'ヾ,;'''' \     i| ~=-,    ~-' ~`-,.  ~-,.  `i
         \_ソ\ \  \   ノL_;:   ,,,r=-ーi,__,  ~-=,  |i  |
        ノ”──ヽ  ヽ  ヽ  /_)  ヾ,  /; |i~^~^`=-`.=--,ヾ/ヾソ
       /,,.r======ヾ  i;、 |   ̄ ̄~  ̄~~"ー───'
       L/ `\___|i i ヾ ,i
       `--,_|i__|i_/ノ ヽi


人々はARMを手にし、魔導アーマーに乗り込み、魔族へと立ち向かう。

884エイプリルフール:2016/04/01(金) 16:19:15 ID:nwge4aXk0
今を生きる人間たちだけではない。



       Π
      へへ      巛
   ___/    \   ((口
  [/      \  ∠_ヽ
 []|'――,_________ヽ  ||/ 
  |  ゜ ゜ ゜ ゜ ゜.| O) ))
  ト、   (-)  (-)|//
 ∩)):)    (⌒ヽ|)
 ∪ノ.:|____入二二へヽ
 (| | ゜  ゜ ゜ ゜ ゜。个`
 O) ))__四_____________ノ
 |__|_|_/___/ヽ_____ヽ
 ヽ _/ /  ヽヽ、
  匚]⌒ヽ 冖γ > へ、
  >>>⌒|  ⌒---'―___\
    ∨

蘇った太古の機神ヂークベックが。


                    > ' ´ ̄`ヽ
                 ィニ/   >-ヽ、-\______
                   7// ',__/     ヽ. \//////////∧
          _, -< ヘ     {:r= 、   x....ヽ    ', >'////////7/ |
       人 Y iィ:ハ.ィ' ̄弋.ノ.ヘ__,ィ⌒Y _,. -チ'´>-=-、/l|//i|
      j_Y::V::j::斗 イ\ヽハミ----ゝ '彡ィ´ィ   /./    ヽ/iiリ
      ト、::彡'-:ノj´  >- 、ヘ=i キ==={(:::::ヘ  i .i {      ∨
      |>--- イi }  .! i::Y } >ty< ヽ::∧_ '., i l o  _ >∨
       乂   .イ..> ':| |::7 '   l:l:l   〃 i:::ハヽ ヽV> ´. -‐'´
          ̄     i|..' /  ol:l:l o  .k  ー ' ノ  `ヘ_ ,...V
                  | V  γ/./>x   >-<   /、_   ヘ
               /ヽ、゚ ゚ {-{|ニニ= \_,。...゚-‐/->'´ ヽヽ   7
           x<::::::::::Ⅹ、.', ', ニニチ 7√i:::::{:::{__,.ィ ハ', /
         イz__;::::<::| \V', == ィ/  V:弋i__,.ィ 7 ,′
        T´ー--t    _|::| |:::::>-<:::::| 〃>ヽム--イ イ
          i     j-≦   ヽ |:::::::::::::::::::::::l {{    ム:::___L_
         j、  /   V   .ヘ::::::::::::::::::::リ ̄`` t={゚     i
       7    ,ィ=x !     \:::::::::::/    | ',    イ
      ,.ィ`ヽ\i r- Vハ     ヽ イ    /ヽ ヽ、_ イ ト、
     /    ヽ V__ / _j               {  i   ___ i: }
   Y       /ー <            弋_ jイ,.:ニニニ=Yj
     ̄ ̄ ̄ ̄                  乂V     i
                               l       l
                                l     l
                               > 、_.ノ

遙かなる未来より送り込まれたロボが。

滅びゆく世界に生まれた小さな希望を護るため人類と肩を並べる。

885エイプリルフール:2016/04/01(金) 16:19:45 ID:nwge4aXk0
過去―現在―未来。
本来交わり得なかった3つの時間軸が一つとなる時、Zの合体機構と風魔手裏剣を装備した奇跡のからくり丸は顕現する。


     <='^'=ゝ         
      |◎o◎|       
   .l二[ ・ ・ ・ ]二l     
   || ./_|__|__|_ヽ ||  
  [l l]l____l[l l]  
   [] ヘ l |ll| l / .[]  
     └ |||| ┘     
       ゙゙゙       

果たして人類は明日をつかむことができるのか。

                    ∧                ∧
         /|          | ,|                 | ,|       |\
        / /|          |  \  ____,-,.=..=、-、____  ノ  |        |ヽ ヽ
       | / |           \_  ̄/ ,--、T,--、 |、 ̄ _ノ           |  ヽヽ
       | |  L             ̄`L.,. `ヘ_,※_,,ノ´ 、,..l´ ̄          _|   | |
      | |   /            /ノ__,-v'''^''v‐、__ゝゝ           ヽ    | |
      | |   |    ,-‐‐‐‐‐‐‐-(  ゝ.__ヾ'^=^//__ノ  )-‐‐‐‐‐‐‐、   |    | |
      | |   |    ヽ ̄~‐‐ 、  `',‐- ノ、 ̄ ̄,´ゝ-‐~´   ,.-‐~ ̄ノ  |   | |
       | |   |     ヽ  (ソヽ/""  ~~^ ^~~  ゙゙゙ヽヽ/ヾ| /    |    | |
       | |   |      / ,--、|         |       | ,‐‐、 〈     ,|    | |
        | |   |    _/ /===))ゝ____,...-‐↑‐-、.._____ノ)(===ヽ `‐;;、  l   | |
        | |  _|  ∠ヽ  |=l/ .|二=/´_..|__丶:=二|  ゝ=ノ /==ヽ |_  | |
         |__|__| ∠=:::::) /´|    |==|~  |  ̄|:==|   | ゝ ゝ===ヽ |__|__|
        /二二>==´ ノ 丿    ゝ=:|~ ̄l| ̄~~|::::=ノ    ゝ `‐`==<二二::ヽ
       ( /{ミ三∀__/ (____,.......-‐|_/ゝ__..|....._ノ\_|‐-........____) `ゝ∀三彡} | )
        \__|:::|二,         _/   /   `l    ゝ        `,二|:::|__ノ
           ~∨~´       ,..-‐'´ヽ_/  ,⊥  \___/ `‐、_         `~∨~
                  _,:::´ _,.......、 ヽ/´ `ヽ/=‐-、  `ヽ
                ┌⌒ヽ /====),<   _  >、====ヽ  /⌒ヽ
                 ,ゝ-'´ヽ|二=‐'´' ヽ二‐二/  ゞ二==|__人__ノ
                |   /Τ ̄    ゝ二ノ      Τヽ   `l
                |   |二_|               |二_|   |
                ,ヽ_____|二|                |二|_____/
            ∠lllll匚ノ   ̄ \             ノ    □lllllゝ
              ,〃)))\,、-'‐-<lllll\       ∠llllll>-‐-、/(((ヘ
              |/ ̄                         ̄\|


眠りより覚めし地獄の帝王が明かす魔族の悍ましき真実とは?

886エイプリルフール:2016/04/01(金) 16:20:16 ID:nwge4aXk0



            , - ュィ< ア≧ 、_
            ,{ / , 、 ヽ   ,--ヘ
          / ヾ ' ノ ≦-'≧=ミ ≦\__ ≧o 。_          r ミ  ―ミヽ
          ヽァ´、_{ ヽア>、_}    7 ̄マヽ ≧ 、      }マト  ― 、 ヽ
           {∨{XXXX =マ ヽ \≧o'      \  ヽ_ _ィ≧、     Y
              V r  ̄ ヽ  ノア ̄ 7 ヽ≧o。  ノ > ´  7   アミ     ヽ
           ィ ヘ ヽ ヽ ノ´  /   \ 、 ア´  /    j   / /        l
               Lヽ  /          V   .j     i / ./      {
             ` =={           {    |    ./}≦=- '     , ミ  .}
              r 、{ ヽ-- >‐ ミ ャ ´ /    ∨   Y       ./ ミ、 ≧
             , /|   } >― 、 ヽイ      ∨  }       {   \.|
           / ̄i .ト /{  \_  `L     /´≦i  i -=  ̄ ̄ .{    _|
           /  i j  /ヽ/   ` { | \  / ̄ ̄\ ヽ      ∨ ̄ マヽ
             j  i .l   { / ヽ ア ヽ{├ \ /      Vヽ     _ヘ  /_
          / -= i ./  .iY ヽイl    }\  }≧――― 、}  ヽ-==    ∨/
        //    l   r |  / \_/ \/ ̄ヽ    /_/、      \
     / ̄ >i  __j ̄ヽ ハィ 、 /  }  {\   \ イ     \      ア´
   /    i }´   ヽ{  ヘ| k  ヾ   ノ\ ヽ ヽ <  ̄ <     >― /
  /      |リム    ヽ  } lヽ r  ┤  \r ミ       l   /   / ̄ ̄ ̄
 /       マム--==≦ Y 7、{  \ ノ   /  ∨     |イ    /
./ _      マム      1        /     ヽ     |l   /
| /  > 、    マヽ  } ` =- ミ―― ミ /         ∨ ≧ ュ  { ∧
ゝ┼― ´ .l> ´   7    ./     ./         ∨   マi .iヽ∧
 ./  __j        <   ./     ヽ        /    ト .i \\
 l  /   リ    /    ヽヽr  ̄ ̄ ヽ       ム    | ヽi \\

ドラゴンロードの語る兵器として生まれし者が望んで欲し、渇いても、その身には得られなかったモノの答えとは?


そして謎に包まれた魔封じの者の正体は――?

887エイプリルフール:2016/04/01(金) 16:20:48 ID:nwge4aXk0


                    ____
                 x.:´: : : : : : : : : : :`: .、
                   /.: : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ
                  /.: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : i
            /_: :_: :_: :_: :_: : : : : : : : : : : : : : |
            \: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /
             \: : : : : : : : : : :_:_:_:_:_:_:_:_:_/、
                   \: : : : : : ;rくノ_:_:_:_:_:_:_:_:_i_
                `ー、―': :./ /  ____|__
                 r‐'/_:_:/ _/ /______|
                r| ̄  ./_/./_:_:_:_:_:_:_:_:_:_:_:_:|
              /|∟.......//._/:/.: : : : : : : : : : : :.\
     _____/  ,|__/ ./ : : /.: : : : : :r―――――'_,‐――――┐┐
    /      /  / / ./ : : /. : : : : : : : | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| l ̄ ̄ ̄ ̄¨.! !
  .  i  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'\/ : : /.:.:. : : : : : :./|          | l ̄ ̄ ̄.ヽ | |
   / /. :(/).: : : : :/. : : : >―´.: : : : : : : :./. : |        ヽヽ o  o i  ヽヽ
   i/iー-----― ´.: : : :/ : : : : : : : : : : /. : : : |        / / .o  o | / /
.  / : :l_:_:_:_:_:_:_:_:_:_:_,.....:´.: : : : :_;, . . -=≦\: : : : |______/_/       |./_/
  \: : : : : : : : : : : : : : _;,. .-=≦: : : : : : : : : : :\: : : : : : :`〈             ゙、
    `ー、: : : : _,,. .-=≦: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :.>、_:_:_:_:_:_:ヽ           . ゙、
      i\/.: : : : : : : : : : : : _;,. .-=≦≧=-;、/       i             \
      |  \: : : :.:_;,. . .-=≦: : : : : : : : : : / `ー------―|       / ̄ ̄ ̄ヽ
    /    \/.: : : : : : : : : : : : : : : : : i            '|      /____.  /
   /______\: : : : : : : : : : : : : : : : :.:|         /)ヽ   //.: : : : :/_/
   \____/Υ.: : : : : : : : : : : : : : : |           iУ)`ー<__ヽ; : : : : !
   γ´|_|__|ヽ  l: : : : : : : : : : : : : : : : :|           |(У)       i/ ̄ ̄ ̄\
    i  | | | |  i ヽ: : : : : : : : : : : : : :.:.: |______/ (У)     /      ◎  i


   私 ハ 誰 ダ ?

 オ 前 ハ 誰 だ ? ?


             
                     ―コギト・エルゴ・スム―

888エイプリルフール:2016/04/01(金) 16:22:07 ID:nwge4aXk0


                        ニンゲンヨ



                    ,イ                      r.7
       ____,.. ィ く ノ                     乂>‐,、____
        f´ラ'>、ゞv,ハ_)/       _,..  <> 、.,_       \! f' / ∨ヾ ヽ
      { { >'、/ヾラ >=- .,_,.. <' 7‐- ∧-‐ヾ >、.,__,. < >,. <\ >' } }
        ゞリイ \'  7-= ∠´/ 〉/ 7ー-f'.人',-‐ヾ´ 〉\`ヽ、_,. ヘ ヽr'' }} リ'
      /\ }}ー{`〕'ー-/_/f'ゝ./ `ー!‐-||..人_i!,. -|!¨´ i!/ヘ く ゝ_,.ヽ¨ル 7 /ヘ
      '-'''´ `¨ー、}!ー{  /','、 i!-..,j!   !!   ||   |!_,.ヘ'  〉-i!´ },.ィ!コ-‐'' `ヽ}
                \リー|-|!ゝ、|  |`¨ー|!,.ヘ |!-‐ |!  |!/ |!」|ー/-/
            ト、_>ナ/ !  |!ー-i|..,__i!   i!_,..|!-―|! ノ!ノー!' ,.ィ
            }レ' / 〉' ゝ'ー-ノ   |!∨|!   乂-‐ゝ'' ヘ´ \ヘ!
      、- .,_,.r''ヘ ラヽ!、 ゝ_イ `゙ー<__.>‐''  /_/ ri:}-‐' / ゝ、_,.ィー,
         ヽ >イ、 / >≧=イ r‐==、、   ,. ,.z==ミ、 ヾイリィヘ/、, ヘ' ィ´
        },イ /\ > /}!| |!  ◎ }|!ト   イi|! ◎  }| | !、 ∨/\ }トゝ
          {! /、ヽ /ー〈_.|,.ト、ゝ  _,.ノ|リ _ {i|!ゝ、  ' ノィ| ノ-‐{! r'' >、 }
          / 、 /-, -、 ゝ\!ーtr―=7//=\ヘー―,/=7!ノ'/,. -|}=-ゝ' /!
          |!/ `Y!  ヽi!' /ー|!-'ー/、i!ノ{¨}、iL}!ノーtr=7f, ィ!´  iY´ \J|
        ´   | レ=、ノト-.,,ノ|リ >イヽ 人.v.人∧ノ〈|!ゝ_,.>|!/¨ヽ|!
            |レーィ'` ー}-〉、j! ,イ 人 .リ  |!_ノ、| >''´ }|_,.ィー||、
           ,.ィ |L,.ィ|| ー《 {' r¨ゝ| `¨  ¨ |,.ィ¨, イ 》ー .||-.,_ノ! >{ヽ
         , < 〉- |L..イ| ,.イ》ー、>ー-:.,   ,.: -Yr_r-《 〉、 |L__|.|ィ'  >ノ\
         /  >< /ゝ 」! ー、</{ r/rY ::.  .:: fr,<〉}、/r一 Y|〃∨>'、  ヽ
         ` <  /` 、ヾ!\\〉∧ヘ しr,ーv―r,し/イ{ {´\ レ',.イ\,.ィ >''´
          `<  / >イ { レ'r、\ヽ __,、_ ィーイー,ー }  \ \ > ´
           `ー.,_ィ〈 | i  ゝ、_ュ ,、_,ィ rク_,.ノ¨´\  _,.> ¨´
                  `¨゙ <___/`ーニニィ、__\>''´


             ツクラレシ モノタチ ノ ニクシミ ト カナシミ ヲ シレ

889 Robot Panzer Grand  Royale:2016/04/01(金) 16:22:37 ID:nwge4aXk0
 Robot Panzer Grand  Royale 


参戦作品

【LIVE A LIVE】

【ファイナルファンタジーVI】

【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】

【WILD ARMS 2nd IGNITION】

【幻想水滸伝II】

【ファイアーエムブレム 烈火の剣】

【アークザラッドⅡ】

【クロノ・トリガー】

【サモンナイト3】


2016年4月1日 発売 未定!

890 Robot Panzer Grand  Royale:2016/04/01(金) 16:23:16 ID:nwge4aXk0
>>874-889
以上エイプリルフールネタでした

891SAVEDATA No.774:2016/04/02(土) 04:00:10 ID:Ip8EB9n.0
エイプリル乙。こじつけRPG、こういうの嫌いじゃないぜww


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板