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仮投下スレ
189
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 13:59:19 ID:fd5X.Pk20
「そうか、それは有難いな」
「……」
「探す手間が省ける」
三橋は亀田にやれと言われた仕事を破棄することはできない。
それは身体を支配する回路を埋め込まれているからではない。
何度も言うことになってしまったが、三橋自身がそれをしたくないからだ。
亀田の願いは叶えてあげたいし、亀田に喜んでほしいし褒美も貰いたい。
今までそうすることによって亀田に付き合ってきたのだ。
「多分、彼がアンタぐらいの年になったらそんな感じなんやろうな」
「なに?」
「ちょっと三橋さんが知り合いと似とってな。嘘をつくのがヘタクソなところとか」
「……」
「ドヘタクソや。気が良すぎて人を不幸にする嘘をつくことが出来ん人間や。
……びっくりやで、うちの知り合いとよう似とるで」
目の前の大江という少女の言葉が終ると同時に飛びかかる。
何となく不快だった。
目の前の少女の見透かしたような眼が三橋の癇に障るのだ。
目の前の少女のまるで三橋が善人で、無理をしていると言わんばかりの言葉に苛立ったのだ。
そうだ、鋼もそんな眼をして、そんな言葉を放っていた。
憐れむような、懐かしがるような、まっすぐな眼を。
諭すような、引き留めるような、綺麗な言葉を。
そんな眼は、そんな言葉は今の三橋にとって不快な物でしかない。
「おっと……」
三橋の突進を少女は紙一重で、しかし余裕をもって避ける。
やはり格闘技、それも動き方からして空手に近い物をやっているようだ。
空手、そう高校時代のクラスメートである元空手部の村上海士や他の空手部員の動きと似ている。
何度も空手部に乗りこんだ記憶の中の部員が目の前の少女のように動いていた。
ただ、今の動きにそれだけでは説明のつかない妙な感じを覚えた。
どう妙なのだ、と聞かれるとうまく答えられないが、とにかく妙だった。
とは言え、戦いの最中に思考に大部分を取られるのは危険。
三橋は相手を観察しながら距離を取り直す。
190
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:00:06 ID:fd5X.Pk20
「なっ……!?」
「悪いけど、少し眠ってもらうで」
だが、距離を取ろうとする三橋よりも早く、少女は三橋の眼前に『ノーモーション』で迫ってきた。
訳が分からない、とはこういうことを言うのだろう。
足を動かした様子はなかった。
腕を振った様子はなかった。
肩が動いた様子はなかった。
しかし、少女の身体によって風が切られていく感触は覚えた。
目の前の少女は身体を動かさずに、体を動かしたのだ。
唖然としているところを、素早く突き出された少女の掌底が三橋の顎を捉える。
顎に押されるような感触が続き、そして突き出されるような衝撃が頭に長く響いていく。
ぐらぐらと、世界が横に横にとずれていくような感覚を初めて覚えた。
「こいつは……!?」
「かぁ……!」
接近戦という鬼の手を突き刺すチャンスも忘れて転がるように逃げる。
少女は意外そうな、それでいて複雑な顔をして三橋を眺めている。
「今の感触……サイボーグ?!」
少女の驚愕に歪んだ顔と何処か悲痛な声に対して、三橋は言葉を返さない。
正確に言うならば言葉を返す余裕がない。
立っていることすら危うい状況、気を失わなかったのが最大の幸運。
この状況はマズイ。
先ほどの動きを見るに正面からでは少女が迫ってくるのを悟るのは難しい。
「……くそっ!」
ならばここは引くしかない。
戦うにしても満足に動けない今の状況は危険だ。
殺される可能性はまずないとは言え、気絶すれば鬼の手を奪われる可能性は高い。
鋼から奪った支給品ならば、間違いなく殺すことができる。
きちんと発動して命中すれば人を十回殺しても余り得るほどの強力な武器なのだから。
ただ、回数制限とライターを使うことを抜いても準備に時間がかかること、そして場所を選ぶこと。
この三つの条件から今は使うことが出来ない。
故に現状は鬼の手が唯一の武器と言ってもいいだろう。
「あ、ちょい待ちや!」
191
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:00:42 ID:fd5X.Pk20
水族館の作りは完璧ではないがある程度は把握している。
水族館と言う割には、ここはあまり入り組んだ場所ではない。
出入り口付近の一階ではなく、地下のトンネルや入り組んだ鑑賞水槽の傍を逃げ回るのが得策だろう。
幸いにも、この水族館は出入り口が複数ある施設だ。
逃げ切れる可能性が高い。
その利を生かして何とか逃げ回る、一瞬で考えれる策なんてそれぐらいのものだろう。
だが、三橋は逃げ切れるという確信に近い思いがあった。
三橋の体は走力パーツで強化してある、今の三橋の足は特別速くもないが遅くもない。
だが、そのスピードの基準は下手をすればプロをも凌ぐ超人揃いの裏野球大会が基準。
地の利+単純なスピード差、逃げることに重点を置けばほぼ安泰に近い確率で逃げ切れる。
しかし、少女は三橋のそんな計算を軽く無視し迫ってくる。
「くぅ……!」
「進藤ちゃんと約束したさかいな……とは言え、サイボーグや。悪いけどマジでいくで」
少女は三橋のスピードを簡単に上回り、正面へと立ち塞がる。
やはりおかしい。
確かに股下の長さとしなやかな身体ならばそれ相応のスピードは出るだろう。
だが、幾らなんでも速すぎる。
身体能力が優れている優れていない、鍛えている鍛えていない、とかそんなレベルではない。
何かがある、三橋が見落としている何かが。
「っ!」
だが、少女は三橋の思考に割り込むように蹴りを入れてくる。
鋭く速い、三橋は不様に階段を転げ落ちていった。
身体に鈍い痛みが広がる。
迫ってきている、何度も言うがこのスピードはあまりにも速すぎる。
目を放していたのはわずかな間、階段を駆け降りる音も聞こえなかった。
飛び降りた着地の音も小さい。
まるで高所から飛び降りてきたような、そんなスピードだ。
「!?」
192
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:01:31 ID:fd5X.Pk20
不格好を承知でとにかく適当に鬼の手を振り回す。
当たりはしなかったが、向こうが距離を取るために離れてくれた。
恐らく鬼の手が非常にマズイ物だと悟ったのだろう。
劣勢に追い込まれた三橋がこの隙を逃すわけがなかった。
素早く振り返り、大急ぎで地下を駈けていく。
自分ではあの少女に勝てはない、それを三橋はハッキリと理解した。
戦略的撤退や仕切り直しなんて綺麗なものではない。
はっきりとした逃亡、恥も外聞もない行動。
三橋は体裁もなく懸命に走って行く。
目指すは別出入り口。
その瞬間、デイバックから二つの筒を取り出す。
一つは熱湯に入れ替えたペットボトル、振りまくだけで虚を突くことはできるだろう。
一つは三橋の切り札、鋼の元の支給品、恐らくこの殺し合いの中で最も強力な武器。
(あの子、早めに殺しておきたいな……)
接近戦しか出来ない三橋にとってあの少女はかなり相性が悪い相手だ。
銃器を手に入れればまた別だが、鬼の手を当てることすら出来ない現状はかなりまずい。
故に、三橋は一方の筒を静かに開いた。
◆ ◆ ◆
浜野 朱里は水族館に来ていた。
手に持つは六尺棒とデイパックだけ。
いつも肌身離さず持っていた武器は全て奪われた。
そう思うとひどく不安になる。
戦力の低下、という面での不安もあるだろう。
だが、姉妹たちとの繋がりであるものが奪われた、ということが何処となく空虚感を覚えた。
193
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:02:02 ID:fd5X.Pk20
「……」
朱里は無言で、それでいて周囲を警戒しながら水族館の中へと入っていく。
理由は単純、先ほどの電話の主、三橋一郎を殺しに来たのだ。
参加者を減らしてくれる存在だが、紫杏を殺すようなことは断じてあってはならない。
大江和那は……保留だ。あまり考えたくない。
とにかく、紫杏と合流するにもとにかく動く必要がある。
ならば、危険要素も排除しておこうと考えたのだ。
不意打ちならば殺せる、銃を持っていない人間ならば確実に殺せる。
都合のいいことに、先ほどから音が聞こえる。
しかも複数で地を蹴る音と壁にたたきつけられる音。
間違いなく戦闘、ならばやることは一つ。
決着のついたところを横合いから思いきり殴りつける、それで終わりだ。
(下を駆ける音……一方が逃げ出して終わりか。なら、ためらう必要はないわね)
聞こえた音がした場所は階段の踊り場。
大丈夫だ、素手で行ける。
そう判断し素早く駆ける。殺すのに一分もかけない、数秒でケリをつける。
「なっ……!?」
だが、廊下の角を曲ったときに見つけた階下に想像もしなかった姿で身体を固まらせてしまう。
うすい青色を基調としたブレザー、そして190センチを軽く超える身長とそれに似合わない童顔。
その姿を朱里はよく知っている。
神条 紫杏とは別の意味で殺すことを躊躇う人物。
思えば高校時代で共に居ることが多かったかも知れない人物、大江和那だ。
「……お、おー、ようやっと見つけたで朱里」
「カズ……」
和那が少し驚いた表情を浮かべた後、手を上げてカツカツと階段を昇りながら話しかける。
戦闘のためか額から汗が流れている上、言葉にも疲れを感じさせる。
朱里はその様子にはっきりとした言葉を返せない。罪悪感に似た、らじくない感情が胸に渦巻いていく。
「走太くんと真央に聞いたで。アホなことやっとるらしいやないか」
「…………」
「誤解や、とは言わんのか?」
「……言わないわ。どうせアンタ信じないでしょ」
「信じるかもしれへんで?」
「嘘ね。アンタ、そう言うことは無駄に鋭いんだから」
194
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:02:47 ID:fd5X.Pk20
吐き捨てる様に朱里は言葉を投げかける。
和那は相変わらず笑みを浮かべたままだ。
ひどく気分が悪い、まるでお前には私を殺せないと言われているようだ。
「退いてほしいの、カズ。ここに居る男に用があってね」
「三橋さんを殺すんか?」
「知らないのなら教えてあげるわ。その三橋って言う男は」
「殺し合いに乗ってんのやろ? そんなん知っとるで」
なら、と口を開こうとするところを和那の笑みで遮られる。
いつにも増して大江和那という女が余裕を持っている。
こんな状況だと言うのに、その余裕が朱里には不思議だった。
「朱里、うち少し考えたんや」
「……なにをよ?」
「どうにかして、殺し合い以外の方法でここから生きて帰れんかなって」
「はっ!」
その言葉に思わず笑ってしまう。
余裕ぶっている割には言葉は理想もいいところだ。
和那の言葉からは具体的な策を感じることが出来ない。
甘い、とことん甘い。
「アンタ馬鹿? いや、馬鹿だったわね。なら聞いてあげるわカズ。
首輪はどうするの?どうやってこの島から出るの?我威亜党とか言う頭のイカレた連中はどうするの?
少なくともこの三つは考えてるんでしょ?」
「そんなん、後で考えればええ」
「はぁ?」
あまりの返答に朱里は思わず、意味が分からない、と言った気持ちを表情に出してしまう。
この三つが解消されるのなら、朱里は喜んで殺し合いを放棄しよう。
最も、襲いかかってくる相手はその限りではないが。
「なあ、朱里。そうやないんや、そんな仕方なしに殺すとかやりたくないんや。
うちはまだ高校生のガキンチョや。お前や紫杏や彼と一緒に笑い合うような年ごろや。
それでええし、それだけで構わへん。
朱里、うちは完全無欠のハッピーエンド以外お断りや。
死ぬんは畳の上で息子やら娘やら孫やら曾孫やらに囲まれて死ぬって決めとるからな」
「……そんなの、無理に決まってるじゃない」
強く否定したいはずなのに、朱里はかすれた小さな声が漏れるように出ただけだった。
何故かはわからない。
おかしいとは思う。だが、否定することが出来ない。
195
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:03:32 ID:fd5X.Pk20
「アンタは……私たちは、そんな平凡な日常なんて送れないのよ。
大げさな話じゃ決してないわ。
死ぬまで戦って、死ぬまで利用されて、死ぬ時は誰にも知られずにひっそりと、よ。
私たちはね、生きるために死ぬまで戦うなんて馬鹿なことしか出来ない類の生き物なのよ」
「アホなこと言うなや、そんなん抗ってみなぁ分からんやないか」
「無理よ、私とアンタはいつか死んじゃうの。
もちろん死ぬ場所はアンタの言う畳の上でじゃないわ。
打ちっぱなしの冷たいコンクリートの上で、誰にも見届けられず惨めに死ぬの。
……そういうものなのよ。アンタはどうなるかは知らないけど、私は間違いなくそう死ぬわ」
「そんな、そんな悲しいこと言うなや」
つかつか、と足音を立てながら朱里の目前まで和那が迫る。
人一倍背の高い和那と人一倍背の低い朱里の差は子供と大人以上のもの。
見上げる朱里の険しい目線と見下げる和那の笑っている目がかち合う。
そして沈黙が数瞬だけ続き、再び和那が口を開いた。
「朱里が居らんなったらうちは誰にツッコめばいいんや」
「関係ないわね、何度も言うけど私たちはドライな関係のはずよ。
アンタが思ってるような幸せな関係じゃないわ」
「朱里がどう言おうと、うちらはダチや。
うちがボケた時は朱里が突っ込んで、朱里がボケた時はうちが突っ込む。そうやろ?」
「……アンタねぇ」
「言っとくけど、これだけは譲らんで。朱里のやってることはうちにはどうしても許容出来んかってな。
どうしても進みたい言うんやったらうちの屍を越えて行きぃ!」
カッカッカ、と愉快気に笑いながら立塞がるように朱里の前に出る。
恐らくここをやり過ごしても死ぬまで追いかけてくるだろう。
それに、喧嘩は慣れたものだ。
思えば喧嘩と稽古の違いはあれど、会うたびに殴り合っていたのだ。
やるしかない、とため息を吐きながら身構える。
何故か六尺棒は、使う気になれなかった。
デイパックを地面へと落として和那を見据える。
最初に相対した時よりも威圧感を持っており、何処か余裕も感じさせる。
この一年弱の間で何倍も大きく成長したのだろう。
そう素直に思えると目の前の天才だ。
ふと蘇るのは、朱里と和那の通っている保険医でありジャジメントの一員でもある桧垣という男の言葉。
『貴方の代わりなら幾らでもいる』
この貴方と言うのは朱里だけを指している、決して和那のことを言っているわけではない。
熟練しているとはいえアンドロイドである朱里が、未熟ではあるとはいえ超能力者である和那を。
間違っても壊すような真似をするなと、そう言っているのだ。
196
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:04:26 ID:fd5X.Pk20
そう考えていると、和那が迫ってくる。
身体を動かさずに、不自然な体勢で迫って来ているのは、こちらに向かって『落ちてきている』からだ。
彼女が朱里側へと落ちてきた原因となった超能力。
それは『和那本人にかかる重力の向きを変える』という能力。
単純な、それでいて強力な能力。
一山幾らのアンドロイドに過ぎない朱里とは比べ物にならない貴重な戦力だ。
だが、朱里は簡単に和那の拳を避わし当てるだけのジャブとはいえカウンターを入れた。
「くぅ……!」
この勝負、朱里は負けるとは思っていない。
勝率的に見れば六分四分、低く見積もっても精々割合が逆になるぐらいのものだろう。
何故なら、朱里には和那がいつ落ちてくるかぐらいなら分かるのだ。
落ちると言う動作は思っているよりも恐ろしいものだ。
想像してみればわかる、僅か10メートルとは言えそこから飛び降りるのだ。
幾ら和那が慣れているとはいえ、落ちる瞬間は身を強張らせる。
それは僅かな動きだが、構えが固められている和那が強張らせれば直ぐに見抜くことが出来る。
旧式だとはいえ朱里は戦闘用にカスタムされているサイボーグだ。
手数で言えば互角、単純な速さならば向こうが上。
だが、和那よりも朱里の方が目も良ければ耐久も優れている。
負ける要素が見当たらない、と言うほどではないが朱里が優位に立っているのは間違いない。
「てりゃい!」
「……」
腹にカウンターに入れたと言うのに、和那は体勢を崩したままで上段蹴りを入れる。
無茶な体勢で放った蹴り、だが異常なまでに重い蹴りだ、防いだ腕がビリビリと痺れを覚える。
彼女の能力は移動のためだけでなく攻撃にも転じることが出来る。
恐ろしいことに、能力を応用すれば彼女は真上に向かって体重を乗せた攻撃も出来る。
他にも掴んだだけでも骨を折ることも出来るし、超上空へ持ち上げて落とすことも出来る。
その上、和那自身が優れた武術家でもある。
恐らく槍、もしくはそれに準じた武器があれば間違いなく朱里は簡単に抑え込まれるだろう。
朱里に本来の武装を入れたとしても、難しいところだ。
そこまで考えた思わず笑みが浮かぶ。
最初はそれほどの差はなかった。
たとえ槍を持っていたとしても朱里の方が完全に上回っていた。
それは覚悟の問題とか以前の単純な技能の差が故だ。
変わってしまった。
目の前の少女はあの最低の世界で立派に生きていける程に強くなっているのだ。
197
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:05:07 ID:fd5X.Pk20
蹴りの衝撃をそのままに、痛みを逃がすように後ろへと蹴りの勢いに任せて飛ぶ。
衝撃を逃がすために後ろへと飛ぶ、言葉にすると馬鹿らしいものだ。
しかし、それぐらい出来なくてはあの世界で近接戦闘など出来はしない。
二・三メートルほど飛ばされ、階段を転がり落ちる。
鈍い痛みに襲われながら体を立て直そうとするが、和那は既に目の前に迫ってきていた。
機動力では和那が明らかに上回っていると認めざるを得ない。
そして間髪をおかずに朱里の顔に強い蹴りが叩き込まれる。
容赦はない、もちろん容赦なんてしていたらその隙に反撃している。
階段の踊り場の壁に大きく叩きつけられて、肺の中の空気を全て吐き出す。
だが、それが助かった。
痛みには慣れている、追撃のために目の前に迫っていた和那。
その蹴りに対して、滑るようにしゃがみ込んで躱わす。
完全に避け切れず頭に僅かに蹴りが決まるが、その痛みを無視するように足払いをかける。
和那が強制的に重心を低くするところを狙って攻撃を入れようとするが――――
「……ちっ」
だが、それは決まりはしなかった。
和那の重力を操る能力で朱里とは逆方向に向かって『落ちて』いったからだ。
急な動作だったためか、上手く着地できずに背中を壁に思いきり叩きつけられる。
それでも朱里のワン・ツーをまともに食らうよりは何倍もマシだっただろう。
もし決まっていたら痛みのあまり見せた隙で良いように責められていただろう。
とは言え、結果は同じだ。
朱里もこれで決まるとは思っていなかったし、そこで手を止めるつもりなどさらさらない。
和那には劣るとはいえ素早い動きで迫る。
まずは鳩尾に拳を入れて動きを止め、次に意識を刈り取る顎への一撃。
これで終わりだ。
これで終わらせて、人を殺しに行く。
そこまで考えて、ふと思考に意識をやってしまう。
結局自分はどうしたいのだ、と朱里は考えてしまったのだ。
和那を殺す、という選択肢が浮かばなかった。
おかしい、明らかに自分はおかしい。
これが神条紫杏ならばまだ分かる、神条紫杏は浜野朱里が命を懸けてでも守るべきだと思った対象だ。
だが、何故大江和那を殺すという選択肢が浮かばなかったのだ。
「朱里ぃぃぃぃ!」
その声にはっ、とさせられる。
動きが鈍っている、このままではマズイ。
直ぐに動きに集中させようとするが、もう遅い。
198
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:06:33 ID:fd5X.Pk20
伸ばした朱里の腕が届くよりも速く、和那は懐に潜り込み、全体重をこめた拳を顎へと打ち上げた。
瞬間、この意識を刈り取られそうなほど痛烈な一撃で、抱えていたもやもやの正体を何となく理解した。
それは、今はもう懐かしい記憶と春先に起こった二つの大事な記憶。
そのどちらも痛みに襲われる中の、朱里にとって忘れることのできない記憶だ。
―――――それは、かけがえのない姉妹を失った記憶と、かけがえのない親友が出来た記憶。
199
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:07:05 ID:fd5X.Pk20
どうして偽名を使う際に和那の名前を使わなかったかが分かった。
――――それは不快だからではなく、友達を利用するような真似をしたくなかったから。
どうして三橋に紫杏だけでなく和那も殺すと言われた時に不快な感情が生まれたか分かった。
――――それは和那が朱里にとって、居なくなって欲しくない人物だったから。
どうして和那を殺すと言う選択肢が浮かばなかったかの分かった。
――――それは浜野朱里にとって、大江和那は大切な友人だから。
200
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:08:59 ID:fd5X.Pk20
ふらつく足元。ぐらぐらと揺れる脳髄。力の籠らない身体。
和那は警戒するように朱里を見ている。
それとは対照的に朱里は口元を弛ませる。
おかしくてたまらなかった。
朱里にとって大切なのは自分だけのはずだった。
大切だと思った姉妹はもう死んでしまい、さらにその姉妹は朱里に生きていて欲しいと思ったから。
だと言うのに、今は大切なものが自分以外にも出来てしまっている。
「……カズ」
「なんや」
未だに警戒を解こうとしない。
思ったよりも自分は信用されていないようだと朱里は少しおかしくなる。
まあ、この友人兼弟子とこれから親交を深めるのも悪くない、とも思った。
「とりあえず、お腹空いたから何か食べましょうか」
「――――! ああ、ええで!」
一瞬で警戒を解いて駆け寄ってくる和那。
それがどうにもおかしくて朱里は思わずクスリと口を動かすだけとはいえ笑みが浮かぶ。
一度笑みがこぼれるともう止められない。
クスリと笑うだけでなく大口を開けて笑いが零れる。
和那はその様子を見て一瞬だけキョトンとした顔を見せるが、すぐに釣られるように笑いだす。
朱里と和那自身にも何故笑っているのかよく分からない。
ただ、おかしくて楽しくて、とても嬉しいと言うことだけは分かっている。
笑いを止めようとはしない。
まるで二人は凱歌を歌いながら故郷へと帰る兵士のようだ。
彼女たちの笑いは事務室にたどり着くまで続いた。
「は、ははは……あー、おかし」
「なんやねんいきなり笑いだして」
事務室のソファーに腰かけて二人は僅かに出た涙を裾で拭う。
数十秒ほど笑いをおさめることに時間をかける。
事務室はソファーと作業用の机、そして監視カメラと意外と広い作りになっている。
「……なんやえらい荒れとるなぁ」
「三橋って奴が漁ったんでしょうね」
「そう言えば、朱里。なんで三橋さんのこと知ってるの?」
201
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:09:41 ID:fd5X.Pk20
意外そうな顔と声で和那は朱里を見る。
朱里は眉をひそめ機嫌の悪そうな声で答える。
あまり良い関係とは言えないようだ。
「殺し合いに乗ってるそうよ。……まあ、アンタも知ってるけど」
「あー、まあ朱里が来るまでどつきあったし。って、そう言えばなんで朱里はそれを知ってんの?」
「これでここに連絡した時に、ね」
朱里はデイパックから名刺大の厚みのある機械を隣に座っている和那の膝に放り投げる。
少し慌てた様子で和那は受け取り、それをじっと眺めて確かめるように呟く。
「ケータイ……?」
「その中に入ってた番号の一つがここでね。それで掛けたら三橋で出たってわけ。
殺し合いに乗らないとアンタや紫杏を殺すーとか言う意味不明な脅しかけられたわ」
「あー、これで進藤ちゃんや曽根村さんに電話したんか」
「……知ってたの?」
少しだけ、朱里の声の調子が沈み和那からも目を逸らす。
殺し合いに乗っていた、と言うことに負い目を感じているのだろう。
「ああ、構わへん構わへん。幸いっていうんかな、死んだ人も怪我した人も居らんし。
ほら、あれや。大事なんはこれからのことやーってよく言うやろ?」
「べ、別に後悔とかそういうわけじゃ……!」
「照れへんでもええって。それよりはよメシでも食お。お腹ペコペコやねん」
大げさに腹を押さえて、机の上に置かれていたカップ麺を眺める。
しょうゆ、塩、味噌、トンコツと何でも揃っているが和那はとりあえずと言った様子で塩を手に取った。
「朱里は何にするー? 色々あるでー」
「私は……しょうゆでいいわ」
「りょーかい」
その言葉を聞くと魔法瓶に手を伸ばして素早くお湯を注いで行く。
流れるような手慣れた動作だ。
そして、いつの間にか他のカップ麺から抜き取った大量のかやくを入れていく。
和那の突然の行動に驚いたのか朱里が目を大きく見開く。
202
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:11:45 ID:fd5X.Pk20
「な、何やってんの、アンタ?」
「んー、どうにもすきっ腹で……かやく大量に入れて補おうと」
「なら二個食べればいいじゃない」
「阿呆! 乙女がそんなカロリー無視できるかい!」
「……って言うか、それって美味しいの?」
「よう知らんけど、まあ具沢山でお得度高いやん」
無茶苦茶な論理を言いながら和那はソファーに腰掛ける。
朱里としてはそのようなマニュアルから逸脱した冒険をする気にはならない。
朱里は大人しく平均水量平均時間で行くことにする。
未来の可能性の一つにそんなえり好みすら出来なくなることを知らずに。
「お、出来たみたいやで」
「少し早くない?」
「そうか? まあ、少々構わんやろ」
「……よっぽどお腹空いてるのね」
「あー、どうにも疲れやすくてな……なんかいつもより疲れやすいわ、歳かな?」
「言ってなさいよ」
カップ麺と同じ場所に仕舞われていた割り箸を取り出して、蓋を開ける。
その瞬間、湯気が顔に当たり思わず頭を下げる。
いずれにしろ美味しそうなものだと言うことは確かだ。
割り箸を二つに割り、同じタイミングで麺を啜る。
「おお、美味い」
「そうね」
「けど、ちょっとスープが少ないんがなー」
「……かやくを入れ過ぎなのよ」
「んー、まあ美味いから別にええか」
「アンタが構わないって言うのなら別に良いけど……それよりこれからどうするかよ」
まったりとした空気の中で朱里が真剣な顔で切り出す。
和那は麺をすすりながら目だけを動かして朱里の話を聞く。
そんな呑気な和那に特に注意をするわけでもなく、朱里はラーメンを啜りながら話を続ける。
「一先ず紫杏と合流ね。悪いけど他の奴を信用は出来ないわ」
「んー、確かに紫杏は心配やな。あれでも一応ただの女子高生やし」
神条紫杏、朱里がいま最も安否の確認を急ぎたい人物。
朱里が命に代えてでも守ると決めた、ただ一人の人間だ。
紫杏は朱里のことを友達だと思っているようだが、やはり朱里からすると主従の関係だ。
主が紫杏で従者が朱里、やはりそれが一番しっくりと来る。
そして、その紫杏は殺し合いに乗っている可能性が高い。
自身の能力と現状を考えた結果、生き残る可能性が殺し合いに高いから乗った。
神条紫杏と言う女はそれを平然と考え、平然と実行に移せる一面を持っている。
203
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:12:25 ID:fd5X.Pk20
だからこそ朱里が紫杏に入れ込むのだが、やはりそれは少しマズイ。
和那を殺したくない、と朱里ははっきりと認識してしまった。
殺し合いに乗る手伝いは出来ない。
となれば、残された手段は説得しかない。
骨は折れるだろうが、やるしかない。
覚悟をきめて、話を次に進める。
「その後は……とりあえず首輪ね。
紫杏もさすがに工学系には詳しくないからこれは私が担当するしかないわね」
「おー、頼りになるのー!」
「茶化すんじゃないわよ、大事な話なんだから。
とりあえず、方針らしい方針なんてこんなものでしょ……あと、アイツも探すの?」
「あったり前や! もちろん十波君だけとちゃうで! 全員で生きて帰るんや!」
「はいはい……でも、正直意外ね。
私はなんだかんだでアンタはかなりドライな奴だと思ってたんだけど」
朱里の描く和那は、馬鹿ではあるが人の感情の機微には鋭くそれを計算して動くタイプの人間だ。
いわゆる世渡りの上手いタイプ。
夢もあまり見ず、人は汚い部分を持っていることを知っているはず。
なのに、全員で生きて帰る、という言葉を放つのはひどく意外だった。
「……これは全部あのメガネの所為やろ。
殺し合いに乗った奴を心からなんて恨めんわ、しゃあない部分が大きすぎる。
もちろん、だからって全部許せるわけやない。
知り合い殺されたらうちもキレるし、多分思いっきりぶん殴らな気が済まん。
でも、それだけや。間違ったと認めて立ち直ろうとするんやったら喜んで助けたる。
それでええと思うんや。憎んだり憎まれたりとか……そんなん、辛いだけや。
まあ、あのメガネの場合は話は別やけどな。
警察にぶち込むぐらいはしたるわ。
悪どいことやって、刑務所から出てきたら死ぬまで思いっきりぶん殴り続けるけどな!」
「ふーん……」
正直、甘い話だなと朱里は思う。
簡単に立ち直れるわけがないし、そんなことをしていたら時間がいくらあっても足りない。
だけど和那の気持ちは分かる。
和那は妥協したくないのだろう。
喧嘩の最中に喋った『ハッピーエンド以外お断り』という言葉。
きっとそれが和那が動く理由の根っこになっているのだろう。
実際はまだ六時間しか経っていないというのに相当数の人間が死んでいるのだ。
たとえ運よく生き残ってもハッピーエンドなんて口が裂けても言えない。
彼女はどんなに辛いことがあっても、和那自身の力が及ぶ限りハッピーエンドを目指すだろう。
204
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:13:23 ID:fd5X.Pk20
「まあ、良いんじゃない。ところでアンタは面白い情報でもないの?」
「あ、あるであるで!」
嬉しそうに声を上げる和那、その様子は人懐っこい大型犬を思わせる。
そんなことを朱里が思っているのを気付いていないようで、嬉々として口を開く。
「なんでもなぁ、あのメガネはタイムマシンをもっとるらしいで!」
「………………………………………………………はあ?」
空いた口がふさがらない、とはこういうことを言うのだろう。
タイムマシン、実にファンタジーだ。
そんなものがあるわけがない、現実にネコ型ロボットは作られる気配すらないのだ。
その代わりと言わんばかりに殺人機械、アンドロイドは大量に作られているが。
と言うか、多分ネコ型ロボットが作られるのはずっと後だろう。
高性能AIを搭載するならメイドロボよりも戦略兵器の方が先に作られる。
それは歴史を振り返れば簡単に分かることだ。
「なにそれ頭湧いてるんじゃない?」
「き、きついなぁ。でもでも、たぶんマジやで? 現にうちが五人も昔の人と会ったんやから」
「馬鹿にされてんじゃないの?」
朱里に取りつく島もない。
端からあり得ないと言う考えで話を進めるのだからそれも仕方ない。
と言うより、よっぽどのことがなければ向こうがからかっていると思うのが普通とも言える。
「いや、でもやで、よー考えてみ。
あり得んことが続いてるんやから、それぐらいのことがあってもおかしゅうないやろ」
「あり得ないものはあり得ません」
「ほら、超能力かもしれへんで? ジャジメントかて全部知ってるわけやないんやろ?」
「そんなヤバいのがあれば目につくわよ……多分」
「いや、でもタイムマシン的な力があれば未来から来たってことだってあり得るやろ?」
「うっ……!」
「それに皆が皆うちと会ったとき口裏合わせとる様子はなかったで。
第一、二人に至ってはうちにそのことを教えた人と会ってもおらへんかった」
「……でもねぇ」
確かに和那の言い分も通らないわけではない。
同時に変な理論をでっち上げる人間の言葉を鵜呑みして、辺りの人間からはあまり触れられないようにされている可能性も同じくらいある。
正直な話なら朱里は和那が痛い人間だと思われている可能性の方が高いと思っている。
205
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:14:08 ID:fd5X.Pk20
だが、だからと言って流してもいい話題ではない。
全くあり得ないということ言い切ることが出来ない。
そして、和那はここに来る前に曽根村と言う男と進藤と言う女に出会ったとも言っていた。
つまり二人組が同時に質問されて、タイムマシンの存在を認めたということだ。
鼻で笑うことも出来ない。
出来ないが、やはり信じることは理性が拒む。
「……まあ、考える余地がないわけじゃないわね。今は置いておくけど」
「冷たいなあ……んで、どうするんや?」
「あんたの口ぶりだと仲間が居るのよね」
「居るでー! 八神さんに真央に走太くん!」
「ふぅん……」
真央と言うのは恐らく黒猫のことだろう。
確か和那は『真央と走太くんを襲った』と言っていた。
それに真央、マオ、つまり猫だ。
安直ではあるが黒猫という肩書きに合う。
あの正義の味方を自称する女なら殺し合いになんて乗らないだろう。
信用は出来る、出来るがやはり和那や紫杏ほどではない。
だが、残りの二人はどうか分からない。
一方は子供だから、なんて言い捨てれるわけがない。
子供は簡単に残酷になれる。純粋で我儘な子供はある意味殺し合いに向いてると言えなくもない。
最初に亀田に反抗したような子供の方が少ないのだ。
大人も安全とは言えない、騙すことに慣れているのだから。
ただ、大人は勝手に考えすぎてくれるから楽だ。
「とりあえず、紫杏を探しましょ。それから考えたんで良いでしょ」
「せやな、んじゃさっさとメシ食おうか」
和那の言葉に朱里は頷き、同時に二人はカップを持ち上げて流し込むように具とスープを胃に収めていく。
真面目な話、乙女のやることではない。
花も恥じらうどころかゴミ漁りの鴉もビックリの荒々しさだ。
カップ麺と割り箸、その他のゴミは片付けずに無遠慮に机の上に置いておく。
どうせ亀田の用意した会場だ。
わざわざ綺麗にするのも馬鹿らしい。
「さ、行くわよ。アンタが居れば車なんかよりよっぽど便利だから助かるわ、少し怖いけど」
「悪い、それ出来へん」
「……はぁ?」
「なんや、ひどい疲れるんよ。いつもは歩くよりも楽なぐらいやのに。
正直、今も三橋さんと朱里との喧嘩で結構動き回ったさかい眠りたいぐらいお疲れやで」
「……ふぅん。しょうがないわね、歩いて行くわよ」
206
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:14:40 ID:fd5X.Pk20
ここで和那が嘘をつくわけもない。
先ほどの食事は情報交換も兼ねていたから問題ない。だが、移動時間を延ばす意味はない。
無駄な時間を惜しいことぐらい和那も分かるだろう。
恐らく本気で疲れを感じているのだ。
「カズ、これ持ってなさい」
「っと……棒か。へえ、結構頑丈なええ奴やん」
六尺棒を手渡すと感触を確かめると、満足そうにほほ笑んだ。
これで戦闘は楽になった。
朱里が危険になったとも言えるが、和那の疲れが酷いと言う言葉が本当ならば体力を抑える必要がある。
ならば、全身自体が凶器の朱里よりも、天才とは言えただの人である和那が武器を持つのは当然だ。
「後は、道具を一つに纏めておきましょう。無駄な荷物は邪魔よ」
「つまり、じゃんけんやな!」
「……なに言ってんの?」
「じゃんけんで荷物持ちを決める、これは常識やろ、常識!」
「……まあ、別にいいけど」
「おっしゃ、いくでー! 最初はグー、じゃんけん、ぽん!」
和那が出した手はグー、朱里が出した手はパー。
結果は朱里の大勝利。
ニコリともせずにデイパックの口を開き、和那のデイパックに物を詰め込んでいく。
支給品一式、携帯電話、塩素系合成洗剤、酸性洗剤、油、ライター。
これですべて。
そのデイパックを見るからにしょげている和那へと押しつけるように投げつける。
「問題は色々あるわ……首輪とか面倒くさいことのこの上ないわね」
「……ま、大丈夫やろ!
なんてたってうちらは地上最強のコンビ、ファーレンガールズやからな!」
その言葉にピタリと足を止める。
その様子に和那は先ほどはしょげていた顔を、どうした、と言わんばかりに上から眺めてくる。
朱里は額をぴくぴくと痙攣させながら、ゆっくりと口を開いた。
不自然に頬が吊り上っているのがまた不気味だ。
「……ちょっと待ちなさいよアンタ! それ、意味分かって――――――――――――
◆ ◆ ◆
207
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:15:15 ID:fd5X.Pk20
水族館に満たされたのは、爆音。
水族館に広がったのは、閃光。
崩れていく。
魚を鑑賞する、と言う趣をもった娯楽施設は無惨にも崩れていく。
端目から見れば、何が起こったのか理解できなかっただろう。
沈んでいくのだ、巨大な水族館が地中へと。
見るものが見れば『奇跡だ』と呻くだろう。
見るものが見れば『秘密基地だ!』と喜びを露わにするだろう
見るものが見れば『爆発か……』と冷静に分析するだろう。
そう、これは奇跡でも基地の変形でもない。
人が起こした夢のない破壊行動、爆発。
それは『トンネルバスター』という兵器が起こした一つの施設と二人の人間を巻き込んだ一つの爆発。
208
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:15:57 ID:fd5X.Pk20
◆ ◆ ◆
三橋一郎は大きな窓を鬼の手でぶち破り、そこから外へと出る。
足場は安定している。
西側の窓のため、ここをまっすぐに進めば病院やホテルへとたどり着けるはずだ。
『逃走経路』を確かめて、ようやく準備完了。
そして、壊した窓から階下、つまり地下へと目がけてライターを投げ込み猛ダッシュで離れる。
その瞬間――――爆音が響き、水族館が沈んでいった。
それは支給品、トンネルバスターの仕業。
無色無臭の空気と混じり合うことによって非常に高い爆発性を持つガス。
三橋に勝手は一切分からないが、それが強力な兵器であることは説明書を読むことで理解した。
そして、ライターを用意し、ガスの充満した地下へと放り投げる。
轟音と共に建物を支えていた柱が崩壊し、さらにトンネルバスター自体の威力で地面を壊していく。
綺麗に水族館が地面へと沈みこんでいく。
ある意味壮観だった。
これに巻き込まれたら生きて出ることは不可能だ。
予想以上に強力だ、つくづく自分が手に入れて良かったと思わせる支給品だ。
あの少女から支給品を奪えなかったのは非常に残念ではあるが、贅沢は言ってられない。
わけの分からない動き方をする少女を確実に殺せて良かったとも考えるべきだ。
しかも、音から判断するに少女は直前に誰かと殺し合っていた。
事務室に入っているのが見えたことから和解したようだが、そんなことは関係ない。
トンネルバスターを使って殺す人間が増えただけだ。
「これで……五人目か」
ポツリ、と呟く。
一人目は名も知らぬ青年、二人目はアルベルト、三人目は鋼、四人目と五人目は大江和那と顔も名前も知らない人間。
僅か八時間の間で五人もの人間に手をかけた。
それなのに普通に動けているということが三橋自身にも少しだけ意外だった。
びくびくと怯えることもなく、驚くほど冷静に物を考えて動いている。
「これも、亀田くんの仕業かな……」
209
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:16:35 ID:fd5X.Pk20
頭に浮かんだのは亀田によって体内に埋め込まれた回路のことだ。
これは思考を縛ることはできないが、身体を自由に動かすことが出来ると言う回路。
絶対服従回路とでも言うべきか。
そんなものがあるのなら、思考を誘導する回路があってもおかしくはない。
それを埋め込まれたのではないかと三橋は疑ったのだ。
「……はは、でも、それはないな」
そんな物があるのならとっくに使っているはずだ。
使っているのなら使っているで、人を殺したときに抱く嫌な気持ちを覚える意味も分からない。
だから、これは自分自身の意志で選んだ行動だ。
亀田の思いに応えたいと言う三橋自身の意志で、五人の人間を殺したのだ。
三橋は少しだけ沈んだ水族館を見る。
この惨状は自分の仕業。
沈んだ水族館には三つの死体が埋まっている。
大江和那の死体と、鋼毅の死体と、名も顔も知らぬ人間の死体。
その全てがお魚さんの仲間入りだ。
次に鬼の手に目を移し、自分のやったことを再確認する。
血に染まりさらに禍々しさを増した鬼の手。
武器と言うものは血を吸うことで妖艶な雰囲気を放つのだと三橋は初めて知った。
正しい使用法をしてこそ道具は輝くと言うことなのだろう。
210
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:17:06 ID:fd5X.Pk20
僅かに考え込む。
思えばこの仕事をしてから考えることが多くなった。
(……殺すだけだ、今はとにかくそれだけを考えよう)
眠れば悪夢にうなされるだろう。
だが、しっかりと仕事をこなせば亀田の感謝の言葉で幸せになれる。
三橋は僅かに俯いた後、すぐにそこを立ち去った。
【H-6/水族館付近/一日目/午前】
【三橋一郎@パワプロクンポケット3】
[状態]:打撲 エネルギー70%
[装備]:鬼の手、パワーと走力の+パーツ一式、豪力
[道具]:支給品一式×2、予備バッテリー
[参戦時期]亀田の乗るガンダーロボと対決して敗北。亀田に従わされしばらく経ってから
[思考]
基本:亀田の命令に従いバトルロワイヤルを円滑に進めるために行動する。
1:少しだけ休んでから移動する。
2:参加者を積極的に探して殺す。
3:もしも相手がマーダーならば協力してもいい。
4:亀田に対する恐怖心。
[備考]
※萩原(名前は知らない)は死んだと思っています。
※大江和那と浜野朱里(名前と姿が一致しない)が死んだと思っています。
※大江和那の能力の詳細を一切知りません
※トンネルバスターは一回分です
【トンネルバスター@パワプロクンポケット10(11?)】
浜野朱里の体内に内蔵された高性能の爆破兵器。
無色無臭のガスで人間が察知するのはまず不可能。
威力は強大で廃ビルとは言えその半分を狙って壊すことが出来る。
平地で単純に爆破させるよりも建築物を壊して二次災害を起こす方が強い。
取り扱いも楽で場所を選ぶことを除けば便利な兵器である。
ただし、ガスは朱里の尻から出る。
今回は缶に詰め込み支給した。
211
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:17:49 ID:fd5X.Pk20
◆ ◆ ◆
「朱里ぃぃぃ!!」
和那は大声で叫びながら積み重なった瓦礫を紙切れのように吹き飛ばしていく。
これも重力を操る能力の応用。
強く瓦礫も自分自身だと思いこめば、自分が落ちて行く方向に吹き飛ぶ。
これは普通に使うよりも集中しなければいけないため、疲労が大きいが構った事ではない。
六尺棒をテコの原理で上手く使いながら探索を続ける。
あの時、朱里が何か言おうとした瞬間、凄まじい音と同時に地面が沈んでいった。
如何に優れたアンドロイドであろうと、足場が崩れてしまえばなにも出来はしない。
しかし、和那は確かに感じた。
自分の背中に痛いほどに叩きつけられた平手を。
そのおかげで速く反応出来た。
和那は思わず地面が崩れた瞬間に能力を使い、瓦礫の下敷きになることは免れたのだ。
最も直撃を免れただけで、水族館の瓦解に巻き込まれ怪我を負っている。
それでも生きている、和那は生きている。
動けるのなら、朱里を探すしかない。
僅かに涙で潤む目を拭いもせずに瓦礫を退けていく。
大きな瓦礫が少ないのがせめてもの救いだ。
「うっさいわねぇ……」
数分ほど朱里の名前を叫びながら探索を続けていると、何処からか声が聞こえる。
その声を和那が間違えるわけもない。
不機嫌そうな高い声色、ここ一年間毎日聞いていた声だ。
間違えるわけがない。
間違えるほど和那は薄情な人間ではないのだ。
212
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:18:44 ID:fd5X.Pk20
「朱里!」
今まで以上の大声で呼びかけ、声のする方向へと駆ける。
瓦礫が積み重なった影に朱里が倒れていた。
顔をしかめているものの、声を出せることから大事ではないと思いほっと息をつく。
「あんまり大声出さないでよ、うるさいから」
「え、あ、いや、その、すまん」
「……で、なんでアンタはこんな所に居るの?」
「そら、朱里が心配で――――」
「あー、良いから、そう言うの。私は……まあ、もういいから」
「……朱里? ……って、な!?」
和那は朱里の顔から胴体に視線を下げていく。
そこに異様な見覚えのない物体があった。
朱里の身体のちょうど真ん中に一本の短い、しかし確かな鉄筋のようなものが刺さっている。
それに気づいているはずなのに、朱里は何ともないように話をしている。
「多分、下の階に爆弾仕込んだわね。瓦礫に巻き込まれるとはまだまだ甘い」
「……嘘やろ、朱里」
「本当よ、爆発なら何回かやったことあるんだから」
「そっちやないわアホ!」
「……だからうるさいって言ってるでしょ」
「どうなっとるんか分かっとるんか!?」
「分かってるわ、わかってるから、聞きなさい」
端目から見ればひどくおかしな光景だろう。
煤で汚れているとはいえ比較的軽症な和菜がうろたえ、瓦礫にサンドイッチされ鉄筋で貫かれた朱里が落ち着きを払っている。
普通ならばどちらもうろたえるものだろう。
だと言うのに、朱里は相変わらず平然とした口調で和那を諭すように言葉を続ける。
「……多分、下手人は三橋ね。超能力者って可能性はあるけど十中八九支給品でしょ。
数は……分かんないわね。アンタはさっき言ってた仲間と合流しなさい」
「朱里はどうすんねん!」
「あー、私は……まあ、なんとかするわよ。なんとか」
「なんとかってなんやねん!」
「聞きなさい!」
「……!」
213
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:19:51 ID:fd5X.Pk20
落ち着いた声から一転、大声で和那を諌める。
「……アンタ、言ったわよね。皆で帰る、って。なら、三橋を止めてみなさいよ。
それさえ出来ないならアンタはただのホラ吹きに過ぎないわよ」
「せ、せやかて朱里が……!」
「私は大丈夫よ、ちょっと最近アンタ私のこと舐めてない?
言っとくけどね、こんな怪我なんて軽傷よ軽傷。足がなくなって初めて重傷って言うのよ。
幸いと言うか私は頑丈だから、って言うかこれぐらい喋れてる時点で察しなさい」
「……」
「ほら、早く行きなさいよ。アンタならこの島一周するのですら二十分もかからないでしょ?
その体力温存するためにも、こんなところでこんなことやってる場合じゃないでしょ」
「……すまん、朱里。パッとやってパッと帰ってくるさかい」
「駄目駄目、手抜きせずにじっくりとやりなさいよ。
あと、紫杏を探すことも忘れないでよ!」
ここで初めて朱里は笑い、じたばたと手を動かす。
和那は笑いもしなければ、その姿を見もしない。
ただ、俯いた状態で立ち尽くしていた。
それを十数秒ほど続けていたが、和那の体が急に中へと浮いていく。
急スピードだ、どんどんと和那の体が瓦解した水族館から離れていく。
空へと、そう、空へと落ちていく。
高さにして約50メートル、これほどの長距離落下は和那は滅多にしない。
恐怖心は不思議となかった。
きっと、空が綺麗に晴上がっている所為だろう。
本当に晴上がっている。
雲と言う遮るもののない、気を失いそうなほど真っ青な空と、東の空に堂々とまばやく太陽。
どこまでも落ちていけそうだ。
少しだけ、何処までも広がる空を呆ける様に眺めた後、涙が零れた。
何故、涙が流れているのかは理解している。
それは大切な親友を失ってしまったから。
和那だって馬鹿ではない、朱里の言葉がすべて嘘だってことぐらいは分かっている。
だけど朱里は先に行けと言った。
「……行こか」
214
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:20:24 ID:fd5X.Pk20
ぽつりと呟き、手元の六尺棒をぎしりと音が鳴るほどに強く握りしめて重力の方向を変化させる。
先ほどまで顔が圧で痛いほどに猛スピードで落下していところを、一瞬の間もなく逆方向へと落下する。
急な重圧で思わず胃の中のものを吐き出しそうになるが、ぐっと噛みしめて
そして地面から約五メートル、その瞬間に重力の方向の変更を交互に行っていく。
地面に身体を打ちつけないためとはいえ、やはり少し体は辛いところがある。
ゆっくりと立ち上がるが、身体を起き上がるよりも早く膝が抜ける。
「なっ……!?」
頭が痛む。
身体が、ではない。頭が痛むのだ。
こんなことは初めてのことだ。
いや、思い返してみると初めてではないことに和那は気付く。
これはあの夜の時と同じ。
朱里との喧嘩で一矢報いた時と同じ感覚。
頭がぐらぐらと揺らされているような感覚と体に力が全く入らない現状。
気絶する!、とここでようやく気付いた。
疲れだけだからと思って甘く見ていた。
体中に残る痛みとガンガン揺らされる意識。
(せ、せや、せめて携帯で連絡を……!)
朱里が詰め込んだデイパックの中にある携帯電話の存在を思い出し、破くようにデイパックの口を開ける。
ひっくり返すようにして中を漁っていく、出てくるものは食料や水やメモ用紙と言った要らないものばかり。
ようやく見つけた
「電話帳……! 病……い……ん……」
だが、そこまで。
携帯を開いたまま、沈んだ水族館をバックにして。
和那は半強制的に意識を手放してしまった。
【G-6/水族館/一日目/午前】
【大江和那@パワプロクンポケット10】
[状態]:全身打撲、疲労(大)、気絶
[装備]:六尺棒
[道具]:支給品一式×2、不明支給品1〜3、携帯電話、塩素系合成洗剤、酸性洗剤、油、ライター
[思考]
基本:バトルロワイヤルを止める。
1:……………(気絶中)
2:朱里ぃ……
3:病院へと戻る。
【備考】
※重力操作にかけられた制限の存在に漠然と気付きました。
215
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:21:08 ID:fd5X.Pk20
○ ○ ○
カズの気配が消える。
どうやら足音がしないことから重力操作で立ち去ったらしい。
馬鹿なカズ、無駄な体力の消費を避けるべきなのに。
しかし、体中からずきずきと鈍い痛みが広がって辛いことこの上ない。
上半身、というか口は簡単に動くのに下半身は既に動かないということは回路のショートだろう。
人間で言うなら脊髄の損傷か。
しかも、なんだか視界がふらふらと揺れているような気がする。
……何度考えても致命的な傷だ、そのうち死んでしまうと言う怪我の典型だ。
ぺらぺらと喋ったのも少し不味かったかも知れない。
ふむ……カズに嘘をついてしまったか。
まあ、嘘も方便と言う奴だ。
悪いことには違いないが、カズもそのうち納得してくれるだろう。
紫杏……どうしているのだろうか?
頭のいい紫杏はきっと悩んでいるだろう。
紫杏をサポートするのもカズに任せてしまったのも申し訳のないことの一つだ。
不思議とさっぱりとした気持ちで満たされていく。
そのことに申し訳がない気持ちも出てくる。
216
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:21:38 ID:fd5X.Pk20
姉妹の亡骸を越えて今まで生きてきたのに、その命を自分勝手な理由で捨ててしまった。
怒っているだろうか?
私としてはやはり姉妹は大事な人たちだ。
その人たちを裏切ったとも取れなくもない行動だ。
駄目だ、ネガティブになり過ぎている。
逆に考えてみよう、私が姉妹の立場だとしたら、どう思う?
……許すな、きっと許す。
喜ぶかどうかは微妙だが、多分許す。
悪いことをしたわけではない。
私は後悔なんてせずに、私がしたいと思ったことをやった。
うん、後悔もない。
後は死ぬだけだ。
死ぬことは怖いが、あのままジャジメントの手駒として生きるのも嫌なものがある。
そう言えば、死んだ後はどうなっているのだろうか?
死後の世界とかいう奴があるのだろうか?
それなら、姉妹に会って謝ろう、死んでしまって御免、って。
その後、胸を張って友達が出来たと言おう。
それとも、天国ではなく来世とかいう奴に直行なのだろうか?
ならば、もし来世なんてものがあって、アンドロイドにもそれがあるのなら。
どうか、次は皆でただの人間に―――――
【浜野朱里@パワプロクンポケット10 死亡】
【残り40人】
※水族館が沈没しました。
※浜野朱里の死体と鋼毅の死体は水族館に埋まっています。
217
:
FALLEN GIRLS
◆7WJp/yel/Y
:2009/07/05(日) 14:22:38 ID:fd5X.Pk20
投下終了です……
途中……凄く、誤爆しました……orz
長文誤爆ほど恥ずかしいものはない……orz
誤字脱字、ほか展開についての指摘をお願いします
218
:
本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:03:21 ID:1/egJpbcO
こんばんは。
・初投下であること。
・ゲリラ投下であること。
・本編にほんのちょっとしか関係ないこと。
といった理由により、こちらに投下したいと思います。
219
:
私の背中には羽がある。◇本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:05:41 ID:1/egJpbcO
空高く昇った満月を、とあるビルの一室から見上げていた。
今私のいる部屋は、社長室。
四つの壁のうちの一つがガラス張りの窓になっていて、部屋には、高そうな机や椅子が置かれている。
私はそのガラス張りの窓から見える満月を眺めていた。
『あの人』もこの月を見ているだろうか?と想いながら
私はこの会社の社長。昨年冬に先代の社長であるお父様の跡を継いで、この会社の社長に就任した。
私の会社は、ここ十数年でIT企業として、急成長した会社。
オオガミやジャジメントほどではないが、世界中に支社も持ってる。
ふぅ、と私はため息をついて椅子に座った。
社長就任後は忙しくて、大好きな本もあまり読めていない。かなり不満だ。
それに、時々、私はいつまでたっても自分の羽でカゴの外を、自由な空を飛び回れないんじゃないかと不安になる。逃げたくなる。
だけど、私は決して俯かない。逃げない。
カゴの外には、今の不自由な空の上には、『あの人』がいるから……
220
:
私の背中には羽がある。◇本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:07:05 ID:1/egJpbcO
カゴの中で、物心ついた時から背負わされた鎖に縛られ、羽を広げる事を諦めて、誰かがそれを引きちぎってくれる事を待っていた私に、鎖を引きちぎるのは自分自身だという事、もがく事を教えてくれた『あの人』。
未来の決められていた世界、感情なんか二の次だった世界から私を連れ出して欲しいと言ったら、
「君が望むなら、この世界から連れ出してあげる。」
と約束してくれた。
私の鎖の正体を教えたら、
「そんなの無視すればいい。自分の道を歩けばいいじゃないか。」
と言ってくれた。
羽を広げようとしてもダメで、諦めかけた時、
「羽が動かせないからなんだ?
前に進む事は、自分の道を進むって事は鎖を引きちぎる事だけじゃない!
それを引きずりながらでも、人は進む事ができるんだ!
空を飛べなくたって俺達は地を歩いていける。」
と励ましてくれた。
221
:
私の背中には羽がある。◇本スレPARTpart3の367
:2009/10/17(土) 23:08:08 ID:1/egJpbcO
物心ついた時から歩かされていた道で、みんなが同じ方向を指差す中で、
ただ一人、初めて違う方向を指差してくれた。
生きてきて、初めて良かったと思える幸せな時間、毎日が特別な日々をくれた。
彼のその言葉の一つ一つが私の羽を大きくしてくれた。
彼との幸せな日々が私の羽に鎖を背負っても飛び回れる力をくれた。
机の引き出しを開けて、大事に使っている枝折りを手に取る。
私の誕生日に、『あの人』からもらった四つ葉のクローバーの枝折り。
今までで一番温かかった、心のこもったプレゼント。
私の宝物。
この宝物を見て、あの幸せだった日々、あの聖夜を思い出す。
そうすれば、私の羽に力が戻ってくる。
私はまた上を目指して羽を広げられる。
いつか、『あの人』と肩を並べて飛べるように。
私の羽に縛り付けられた鎖は、まだ私には重すぎるけど、
いつか必ず、自由な空へ羽ばたいて『あの人』の元へ……
そう約束したから……
222
:
私の背中には羽がある。◇本スレPARTpart3の367
:2009/10/17(土) 23:11:30 ID:1/egJpbcO
◇ ◇ ◇ ◇
ここは、どこだろう?
何もない。本当に何もない草原。
ただ、見上げれば、無限の空が広がっている。
気づけば、私の背中には、羽がある。
でも、その羽には鎖が何重にも縛り付けられていた。
一つのグループ企業の社長という鎖。
試しに、羽を広げようとする。
羽は……広がった。
次に、羽ばたいてみる。
…少し飛べた。
もっと強く羽ばたいてみる。
もっと高く飛べた。
もっと、もっと強く羽ばたいてみる。
もっと、もっと高く飛べた。
でも、ある高さまで来て、急に、一段と羽が重くなった。
私は、そのまま、地に落ちた。
羽が痛む。
「……………さ…。」
けど、大丈夫。
羽が傷つくことは恐れないと決めたから。
223
:
私の背中には羽がある。◇本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:14:20 ID:1/egJpbcO
「……………さん。」
もう一度、羽ばたいてみる。
だけど、またあの高さまで来て、地に落ちた。
私はまだ、不自由な空にいるのだろうか?
「………り…さん。」
そういえば、さっきから誰かが私を呼んでる気がする。
「………お…り…さん。」
上からだ。
誰だろう?と上を見上げる。
そこにいたのは……
「……維織さん。」
「九条……くん?」
九条くんだ。
何でここにいるのか、何で九条くんにも羽があるのかなんて、どうでも良かった。
ただ、九条の飛んでる高さまで行きたくて、痛む羽を羽ばたかせる。
あと少し、もう少しで九条くんの元へ。
幸せだった日々、九条くんの言葉、九条くんへの想い、
それらを力に変えて羽ばたく。
そして、やっと、
「九条くん……」
「維織さん……」
この時をどれだけ待ちわびたか。
224
:
私の背中には羽がある。◇本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:16:36 ID:1/egJpbcO
今私は、九条くんと一緒の高さを飛んでいる。
話したい事がたくさんある。
社長になってからの事。
少し前に読んだ本の事。
料理のレパートリーが増えた事。
最近、少しずつ笑えるようになった事。
私が何を話そうか悩んでいると、九条くんが話し始めた。
「維織さん……俺は、維織さんに謝らないといけないことがあるんだ。」
「え?」
九条くんが私に謝る事ってなんだろう?
「……維織さん……俺は、君が俺の元に来る時まで待ってるって約束したけど……」
そこまで言って、九条くんは俯いた。
こんな九条くんを見るのは初めてだ。
「……その約束を守れそうにないんだ。」
「え?」
何を言ってるんだろう、九条くんは。
九条くんが約束を破る?
そんな事、一度もなかった。
第一、私は九条くんと同じ所にいる。
225
:
私の背中には羽がある。◇本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:18:40 ID:1/egJpbcO
「覚えてる?維織さん。
俺が鎖を引きちぎるのは自分自身だって言った事。
でも人はその鎖を背負っても歩いていけるって言った事。」
「覚えてる。忘れるわけないよ。
そして、今私は自分の鎖をそのまま背負って飛んで、九条くんと同じ所にいる。」
「ありがとう、維織さん。
君はもう自分の道を歩いていける。君の意志で、君の力で。」
「……うん。」
本当に、九条くんはさっきから何を言ってるんだろう?
これじゃまるで……
「維織さんのカレー…美味しかったなぁ…」
別れのあいさつみたい。
「維織さんのピアノ…上手だったなぁ…」
よく見ると、九条くんの目が充血している。
「維織さんの…満漢全席…食べたかっ…たなぁ…」
九条くんは、涙をこらえているのだろうか?
「会えなくなる前に、維織さんの最高の笑顔…見たかったなぁ…」
「え?」
会えなくなるって、どうゆう事?
226
:
私の背中には羽がある。◇本スレPartの367
:2009/10/17(土) 23:22:22 ID:1/egJpbcO
「じゃあね、維織さん。
もう、会えないけど…俺は、君が無限の空を自由に飛び回る事を心から願っているから…」
そこまで言って、九条くんは、更に高い所に飛んで行こうとした。
「待って!」
九条くんがこっちを向いた。
さっきから何を言ってるの?
もう会えないって何?
どこに行くの?……
ダメだ。聞きたいことが多すぎる。
だから……
私は笑って見せた……九条くんが見たいと言った、私の笑顔を。
今できる、最高の笑顔を。
また、「笑うのが下手だね」って九条くんに言われるだろうか?
「……ありがとう。最高の笑顔だよ………維織………」
そう言って九条くんは飛び去ってしまった。
どこか満ち足りたような、でもなんだか寂しそうな顔をして………
私も、九条くんを追って行こうとしたけど…
また急に羽が重くなって……また、地に落ちた……
227
:
私の背中には羽がある。◇本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:23:27 ID:1/egJpbcO
◇ ◇ ◇ ◇
そこで私は目を覚ました。
どうやら、私は、眠っていたようだ。
さっきのは夢だったらしい。
変な夢だ。
あれは何だったのだろう?
コンコンとドアをノックして、秘書が入ってきた。
「社長、応接室にて雪白家のお嬢様がお待ちです。」
「わかった。今行く。」
九条くんの身に何かあったのだろうか?
もう会えないってどうゆう事だろう?
最後に見せたあの顔は何を意味していたのだろう?
私は、四つ葉のクローバーの枝折りを、机の引き出しにしまい、社長を後にする。
先ほどまで見えていた満月は雲が差して見えなくなっていた……
228
:
本スレPart3の367
:2009/10/17(土) 23:24:33 ID:1/egJpbcO
投下終了です。
九条が死亡時に、彼女に対する描写が無かったので書きたくなったんです。
ただ、完全ド素人ということでこのような番外編的なストーリーにしました。
誤字脱字、矛盾など指摘お願いします。
初めてストーリーというものを書いたので、たくさん指摘していただければうれしいです。
辛口採点大歓迎。
229
:
◆n7WC63aPRk
:2009/10/23(金) 17:49:20 ID:6Oss7pxI0
さるさんくらったので、こちらに投稿します。
本スレ
>>463
からの続きです。
230
:
ガラスの普通
◆n7WC63aPRk
:2009/10/23(金) 17:50:25 ID:6Oss7pxI0
運よく命中したのか、二人の目の前で爆発が起こると、あたりに煙が立ち込める。
爆発による被害はなかったが、しばらく煙があたりを覆っており、その煙が晴れたときには、
そこに野丸の姿はなく、動かなくなった巨大なクワガタが転がっているだけであった。
「一体なんだったのよ……」
「さあ……。とりあえず仕留めそこなったわね」
「ええ……。でもあいつはもう完全に壊れてたわ。ほっといても勝手に死ぬわよ。
とりあえず……銃を置いていったみたいだから、回収しておいて頂戴。あたしは少し休むから。
……ああ疲れた……」
そういうと、白瀬は左肩を抑えて消防署の中へと入っていく。
愛も野丸の忘れ物を拾うと、後に続いた。
【D-2/消防署/一日目/午前】
【白瀬芙喜子@パワプロクンポケット8表】
[状態]左肩に刺し傷
[装備]ベレッタM92(6/15)
[道具]支給品一式×3(不明支給品0〜2)、予備弾倉×5、さおりちゃん人形@パワポケ6裏、ケチャップ(残り1/4程度)、煙幕@パワポケ5裏×2
[思考]基本:優勝する
1:戦力増強のため弱者から倒す、強者は後回し。
2:八神を最優先で殺す。
3:愛と行動するが、灰原と合流できそうならば愛から灰原に乗り換える。
4:過去の人間が居るってことは……未来の人間も居るってことかしらね?
[備考]
※未来や過去から集められてるのではないかと思っています。
※灰原に関しては作り直したのか、過去から浚ったかのどちらかだと思っています。
【愛@パワプロクンポケット5裏】
[状態]右脇腹に傷(応急処置済み)
[装備]ウージー
[道具]支給品一式
[思考] 基本:自分が生き残ることが第一。
1:未来……ピンと来ないわね。
2:生き残るためなら、他の人間を殺すのもやむ終えない。
3:一先ずは白瀬と共に行動するが、白瀬への警戒を怠らない。
[備考]
※参加者はそれぞれ違う時間から誘拐されたと何となく理解しました。
231
:
ガラスの普通
◆n7WC63aPRk
:2009/10/23(金) 17:52:57 ID:6Oss7pxI0
☆
野丸太郎はひたすら走っていた。
どれくらい時間は経過したかわからない。
右肩とわき腹からはまだ血が流れている。
でももう痛みなど感じない。
さっきのあの女の人の言葉が頭から離れない。
「普通にはなれないのよ」
「あんたは最初から失格ってわけ」
「あんたは普通じゃない」
「ウソだ。ウソだ。ウソだ。ウソだ…………」
何度も声に出してその言葉を否定するのだが、それが頭から消えることはなかった。
だから、ひたすらに走る。
忘れるまで走り続けてやる。
そのうち、草むらに入り、丘を登り、森の中へと入った。
もう30分は走ってきた。それでもあの言葉は野丸の頭の中を侵食し続ける。
「ウソだ……そんなことない……僕は……普通なんだ!!」
野丸が大声で、高らかに叫んだときだった。
232
:
ガラスの普通
◆n7WC63aPRk
:2009/10/23(金) 17:53:34 ID:6Oss7pxI0
『ピー、ピー』
「……え?」
昼間なのに静かな森の中に、電子音が鳴り響く。
『爆発まで、30秒です』
「え……なんで……あ……」
野丸は数時間前まで眺めていた地図を思い出す。
最初にいた商店街から西に歩いてきて、消防署であの女の人に出会った。
そしてつい先ほど、あの人に言われたことを忘れようと思い切って走っていった方角は……商店街の反対側――西だった。
そしてその方角にずっと進んでいくならば―――。
―――禁止エリア
それに気がついた野丸は、ガタガタと足を震わせてその場に崩れ落ちる。
しかし、あきらめきれない野丸は、地面を這い、雑草を掻き分けて、森の外を目指す。
そうしている間にも、25秒、20秒、15秒と、無常にも首輪は時を刻んでいく。
「だ、誰か……出して……ここから出してください! 出して……助けて!」
いくら叫んでもその声は誰にも届くことなく、空しく森の中に響いていく。
「僕は……まだ普通に……普通に……普通にならなくちゃいけないんだ……だから……」
必死に地べたを這いずり回る。先ほど銃撃を受けた傷口に土が入ったり、草が摺れたりするが、そんな痛みはもう感じない。
『残り10秒です。9,8,7……』
「なんで……なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ……」
『残り5秒です。4、3、……』
「僕は……僕は…………普通になりたかっただけなのに…………」
仰向けに倒れた野丸の目からは一筋の涙が流れ出す。
そしてそれがスイッチであったかのように、首輪が小さな音を立てて爆発する。
パタリと倒れ、動かなくなった野丸だったが、その目からは涙が流れ続けていた。
【野丸 太郎@パワプロクンポケット7 死亡】
233
:
ガラスの普通
◆n7WC63aPRk
:2009/10/23(金) 17:55:10 ID:6Oss7pxI0
以上で投下終了です。
久しぶりで長くなってしまいました。
ご意見等あればよろしくお願いします。
234
:
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 19:55:02 ID:sOxzgRvM0
初投下であるため、ひとまずこちらの方に仮投下させていただきます。
235
:
人間になりたい犬
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 19:56:26 ID:sOxzgRvM0
上川は、ぼんやりと一人の男を眺めていた。
その視線の先には、全く緊張感の感じられない顔で床に寝そべっている男が1人。
先ほどから上川やわん子が動こうとしているのに、その男は起き上がる気配すら見せない。
今までに、上川は何度か説得を試みている。
状況を伝え、これからの方針を説明し、なんとか動いてくれないかと頼む。
しかしその度に、カネオからは生返事が返ってくるだけ。
もちろん、無理矢理カネオを引きずって動かす事はできる。
だが、上川の疲労も完全には回復していないのだ。そんな無駄なことで体力を消費したくはない。
あくまでそれは最終手段、できれば説得だけで事態を収拾させたいところだ。
(しかしコイツ、扱いにくい奴だな…)
普通の説得が通用しないとなると、方法を変えるしかない。
上川はそう思い、口を開いた。
「…とにかく、いつまでもこんな山の中にいるわけにもいかないだろ?」
「む〜ん、そうは言っても動けないものはしょうがないんだな〜」
もっともこの返答は、上川も想定済みだ。
そして次に、そばに居たわん子に矛先を向ける。
「…それにほら、わん子ちゃんの友達も探さないといけないしね」
「タツヤさんの言うとおりだワン!早く走太君を探すんだワン!」
上川の予想通り、今まで黙っていたわん子はすぐさま同意した。
色々とカネオに対する恨みもあったのだろう、その語勢はかなり強い。
方法を変える−−つまり、わん子に矛先を向けるのだ。
それによって2対1の状況を作り出し、2人がかりで説得しようという魂胆だ。
まあカネオの性格からして、上川もそう上手くいくとは思っていなかったが。
「む〜ん…しょうがないんだな〜」
しかし上川の予想に反し、カネオがゆっくりと立ち上がる。
それを見届け、上川は安堵した。
(…相変わらずよく分からん奴だな。
さすがに形勢の悪さを感じたのか、それとも単に腹具合が落ち着いただけか?
…まあ、今はカネオを動かせただけで良しとするか)
236
:
人間になりたい犬
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 19:57:41 ID:sOxzgRvM0
だがその一方で、一つ危惧しなければならない点がある。
走太関連の事ばかりでわん子を誘導していると、困った事態に追い込まれるかもしれないのだ。
(もし万が一、走太とあのガキが再会してしまったらどうなる?
その途端、走太関連の誘導が効果を失うんじゃないか?)
例えば、上川が「走太を探す為に港へ行こう」と提案する。
しかしその道中で走太と再会してしまうと、わん子にとっては港へ行く意味が無くなるのだ。
そうなると、上川は港へ行く新しい理由を探さねばならなくなる。
(だが理由がコロコロ変わっては、いくらガキとはいえ怪しまれるかもしれんな…
最悪の場合、今まで積み上げてきた信頼関係にヒビが入る恐れもある。
今までは信頼を得るために話題に出してきたが、これから走太の話題を出すのはできるだけ避けた方が無難だな)
とはいえ、あまり走太の話題を避け続けるのも、それはそれで逆効果だろう。
走太の話題を出しすぎても駄目、出さなくても駄目。
上川自身、ここまで難しい舵取りを迫られるとは思わなかった。
港へ向かう道中、その辺りはよく考えておく必要があるだろう。
(…まあ相手がガキなのを考えると、そこまで心配する必要はないのかもしれんがな。
とにかく用心しておくに越した事は無いだろう)
そこまで考えをまとめたところで、そばの2人に声をかける。
「じゃあ、そろそろ出発するか」
それを合図に、3人は研究所の外へ出た。
久々に外の明るさを感じ、上川は思わず目を細める。
(ひとまず、この山を下りるのが第一だな)
上川の目的は、あくまでこのゲームからの「脱出」だ。
頼りになる仲間、そして首輪を外せる人間とは出会っておきたい。
そして、山よりも平地の方が、人と会える可能性は高い。
危険人物と鉢合わせしてしまう事も考えられるが、それを怖がっていても仕方がない。
どの道、首輪を外せなければ死んでしまうのだ。多少の危険には目を瞑るべきだろう。
237
:
人間になりたい犬
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 19:58:48 ID:sOxzgRvM0
「まず、この山を下りようと思う。
山道は予想以上に体力を消耗するものだし、できるだけ早く平地に行ったほうがいいからね」
そして少し考えた後、上川は付け加える。
「…ああ、それと、3人が別れ別れにならないようにしないといけないな。
とりあえず、わん子ちゃんはオレのデイパックを掴んでくれるかい?」
そう言うと同時に上川は後ろに手を回し、カネオの黄色いコートを掴む。
これで、3人が1つに繋がった事になる。
もちろんこれは、カネオが勝手に「飛んで」逃げてしまう危険性を防ぐためだ。
研究所の中で試した限りでは、カネオは複数を同時に「飛ばす」ことはできなかった。
片手が塞がってしまうのは痛いが、ここでカネオを逃がすわけには行かない。
(とりあえず、今打てる手はこのくらいだな)
そう判断し、上川は何気なく後ろを振り返った。
見ると、わん子は相変わらず暗い面持ちで歩いている。
よく考えると、さっきから殆ど口を開いている様子がない。
もっとも、ゆっくり考えをまとめたい上川にとって、それは好都合だ。
だが、さすがにわん子の気分が塞ぎすぎるのも困る。
最悪の場合、肝心な時になって上川の言葉に耳を貸さない恐れもある。
時々は会話を交わし、適度に気分を晴らしてやる方がいいだろう。
(…そうなると、できるだけ早く話題を振っておいたほうがいいな。
危険人物と出会ってから話を始めるのでは遅すぎる)
そして、話題もできるだけ選んだ方がいい。
なるべくわん子が明るくなりそうな、それでいてあまり話が長引かない話題。
「…わん子ちゃん、ちょっと質問していいかい?」
「もちろんだワン」
「もし1つだけ願いが叶うとしたら、わん子ちゃんはどうする?」
少し考えて、上川はこう聞いた。
わん子を誘導するための、新しい理由を探す目的も兼ねて。
238
:
人間になりたい犬
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 19:59:40 ID:sOxzgRvM0
● ● ●
わん子は考えていた。
上川に聞かれた質問に対する答えは、すでに用意できている。
−−もう1度、あの世界に戻りたい。
−−そしてできることなら、ずっと人間として生きていきたい。
それが、今のわん子の心からの願いだった。
今となっては全てが手遅れだけど、そう思わずにはいられない。
人間として過ごした生活は、とても楽しかったから。
…でもそれを言って、上川は信じてくれるだろうか?
頭が変だと思われて、見捨てられはしないだろうか?
今のわん子にとって、それはたまらなく怖い。
「…それは秘密だワン」
結局、言い出そうとしても声が出なかった。
…いや、言い出す勇気が無かったのかもしれない。
「そうか。
ゴメンね、いきなり変なことを聞いちゃって」
上川が言う。
それを聞き、わん子は何となく申し訳なく思った。
(…でも、タツヤさんにはいつか言いたいワン)
信じてもらえるかどうかは関係ない。
今の時点では、上川だけが、唯一信頼できる人なのだから。
そして、信頼できる人にいつまでも本当の事を隠し通したくはないから。
幼いが故言葉にはできないけれど、それがわん子の本心だった。
239
:
人間になりたい犬
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 20:00:54 ID:sOxzgRvM0
● ● ●
「む〜ん、ボクは食べ物が欲しいんだな〜」
「…お前、まだ食い足りないのか?」
上川は小さくため息をつく。
この調子では、またカネオが余計な事をしでかすかもしれない。
(やれやれ…いつになったらオレの心配のタネは無くなるんだ?)
上川はもう1度、今度ははっきりとため息をついた。
【B−3/研究所付近/1日目/朝】
【上川 辰也@パワプロクンポケット8】
[状態]:疲労中、走力+5
[装備]: 走力5@パワポケ3、ヒーローのスカーフ@パワポケ7、拳銃(麻酔弾)予備カートリッジ×3@パワポケ8
[参戦時期]美空生存ルート、ルナストーン引き渡し後
[道具]:支給品一式、レッドローズの衣装@パワポケ8、ヒーローのスカーフ三個@パワポケ7、本@パワポケ8裏、『人間の潜在能力の開発』に関する資料@パワプロクンポケット4、黒い板@パワポケロワオリジナル
[思考・状況]
基本:殺し合いからの脱出
1:仲間を集める。
2:首輪を詳しく調べたい。
3:山を下りた後港に向かい、脱出方法が無いかを調べる。
4:頼もしい仲間を集めたらカネオに催眠術をかける。
[備考]
※黒幕に大神がいると可能性があると考えています。
※首輪の考察をしました。
考察した内容は以下の通りです。
1:首輪には爆発物が仕掛けられている。
2:首輪には位置情報を送信する機能ある。
3:移動した位置が禁止エリアなら爆破の為の電波を流され爆発する。
4:盗聴機能や小型カメラが首輪に仕掛けてあると予想しました。
※現在カメラ対策としてスカーフを首に巻いています。
※考察の内容が当たっているかは不明です。
※わん子からパワポケダッシュの登場人物に付いての知識を得ました。
わん子の事をオオカミつきだと考えています。 ヒゲの神様(野球仙人)の事を記憶を操作する能力を持っている人間だと予想しました。
※暗示催眠の能力は制限のせいで使う度に疲労が伴います、使用しすぎると疲れて気絶するかも知れません。
※能力に制限がかかっている事に気付きました。
情報を引き出す時や緊急時以外は使用を出来るだけ控えるつもりです。
※黒野鉄斎が研究していた『人間の潜在能力の開発』に関する資料を発見しました、機械は反応しません。
それが我威亜党の目的と関係あるかどうかは『全くの不明』です。
※我威亜党、野球人形、探偵の名前を本で見つけました。
本については我威亜党の誰かが書いたお遊びだと思っています。
※資料の最後に書かれていた『黒野鉄斎』が主催側の人間だと思っています。
※ここに置かれている全ての資料が『ミスリード』である可能性もあると思っています。
※研究所においてあった本には様々なジャンルの本があります。
240
:
人間になりたい犬
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 20:01:36 ID:sOxzgRvM0
【芽森 わん子@パワポケダッシュ】
[状態]:疲労小、仲間が出来て嬉しい。
[装備]:ヒーローのスカーフ@パワポケ7、モップ@現実
[参戦時期]:わん子ルート、卒業直後
[道具]:支給品一式(食料はキムチと何か)、ヒーローの衣装セット@パワポケ7、ヒーローのスカーフ四個@パワポケ7
[思考・状況]
基本:殺し合いから脱出する。
1:タツヤさんに付いてく。
2:走太君を探したい。
3:いつか、タツヤさんに自分の正体を打ち明けたい。
【カネオ@パワプロクンポケット9裏】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]リュックサック、ヒーローのスカーフ@パワポケ7
[思考]
1:まだまだ食べ足りないんだな〜
2:弟たちを探す。
3:春香に会ったら、『おしおき』をする。
[備考]
※参戦時期は9裏主人公の戦艦に最初に乗り込んできた後です。
※春香の名前は知りません。また春香の見た目に関する情報も、暗かったために曖昧です。
※テレポートをすると疲れが溜まる事を認識しました。
テレポートの移動距離に関する制限は認識していません、またテレポートの制限の度合いは以降の書き手にお任せします。
※名簿は見ていません。
※現在は他の2人とデイパック経由で繋がっているため、テレポートはできません。
241
:
人間になりたい犬
◆1WZThYdb3Q
:2009/10/25(日) 20:05:57 ID:sOxzgRvM0
以上で投下終了です。
私自身こういった企画に参加するのは初めてなので、
ぜひ辛口の評価をお願いします。
243
:
あ
:2009/11/26(木) 14:18:05 ID:RxgRdSK.0
/_____ \〟 > |
|/⌒ヽ ⌒ヽヽ | ヽ > _______ |
| / | ヽ |─| l  ̄ |/⌒ヽ ⌒ヽ\| |
/ ー ヘ ー ′ ´^V _ | ^| ^ V⌒i
l \ / _丿 \ ̄ー ○ ー ′ _丿
. \ ` ー ´ / \ /
>ー── く / ____ く
/ |/\/ \  ̄/ |/\/ \ 同じスレではこのままだけど
l l | l l l | l 違うスレにコピペするとスネ夫がドラえもん
ヽ、| | ノ ヽ、| | に変わる
244
:
ういういういういうい
:2009/11/26(木) 14:19:28 ID:RxgRdSK.0
さっそくおまじないです。 恋を語らず何を語らず?とゆう世の中ですがこのコピペを必ず5つのレスに書き込んでください。あなたの好きな人に10日以内に告白されます。嘘だと思うんなら無視してください。ちなみにあなたの運勢がよかったら5日以内に告白&告白OKされます
245
:
名無しのバットが火を噴くぜ!
:2010/01/01(金) 05:56:54 ID:Q4BALrx.0
そんな仕事あんのか!って思ってて調査してみたら月収100万超えたオレ
http:\/wanpi.tamatamanigittayo .com/5w8z1n9.html
246
:
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:23:37 ID:ao5EiLQwO
九条英雄と野崎維織の外伝モノを投下したものです。
それでは投下します。
本スレは規制中のようなのでこちらに投下します。
パソコンは苦手なので携帯からの投下になります。
見にくかったらすいません。
本編は初投下のひよっこなので至らない部分があると思いますが、よろしくお願いします。
247
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:26:07 ID:ao5EiLQwO
八神総八郎が病院を出た後、神条紫杏は考えていた。
それは『このグループから離れるか、否か』ということ。
今まで彼女は、その場の選択を他人に任せる様に行動してきた。
しかし、ここにきて彼女は自らの意志で行動を起こそうとしていた。
理由は、その場の選択を他人任せてきたことにより、今まで一度としてグループ内の主導権を握れていないからだ。
これはジャジメントが自分に課した試練なのである。
最後の1人になるにしても、全員を束ねて脱出するにしても、主導権を握れないことには話にならない。
しかし今さらこのグループの主導権を握るのは至難の業だ。
このグループは、今はここにはいないが、病院に人を集めた八神、それと四路智美が主に中心となって動いている。
八神と四路は大人で、落ち着きがあり、ある程度の戦う力も持っているようだった。
対して紫杏は八神より年下…それ以前にこのグループで最年少で、戦う力は皆無。
八神達に比べたら全く頼りない。
そんな紫杏がこのグループで主導権を握るのはかなり無理がある。
確かに、紫杏は一高校の自治会長を勤めた身だ。上に立つ人間のあるべき人格(すがた)も知っている。
248
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:27:22 ID:ao5EiLQwO
しかし、紫杏は自分と同い年か、それより下の人間の上に立ったことはあっても、自分より年長の者の上に立ったことはなかった。
つまり、紫杏には、同世代の上に立つ力はあっても、年長者の上に立つ力はないのである。
そんな紫杏がこの殺し合いの場で主導権を握り、トップに立つにはどうすればいいか?
紫杏はそれを考え、一つの案にたどり着く。
それは、一度このグループを離れ、自分と同世代のグループを作り、後でこのグループと合流したとき、
同世代グループのトップとして八神達以上、最低でも八神達と同等の立場にのし上がるというもの。
しかし、この案には一度1人にならなければならないという問題がある。
今のグループに同世代の人間がいないからだ。
同世代の人間が1人でもいれば、その人間と2人でグループを離れるのだが…
この近くには、パーカーの女の子を始め危険人物が多い。
そんな場所を1人で行動するのは自殺行為だ。
また、同世代のグループが必ず作れるとは限らないし、例え作れたとして必ずトップに立てるとも限らない。
(朱里の力が欲しいな)
自治会で自分と共に働いてくれた、心を許した数少ない親友。
彼女は強化人間だ。彼女がいてくれれば心強いと紫杏は思った。
249
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:29:55 ID:ao5EiLQwO
「曽根村さん」
「何でしょう?」
「カズ…大江和那に会ったと言っていたな?それはいつだ?」
「第1回放送の後、わりとすぐですかね?」
時計を見て今の時刻を確認する。
10時過ぎ。
第1回放送は早朝6時である。
(カズが病院を出てから少なくとも4時間か…未だ朱里を見つけられないでいるのか、それとも…)
「神条さん、どうかしましたか?」
「いえ…少し…同級生ですから…」
「まさかあなたまで病院を出るとか言わないわよね?」
すかさず智美が横やりを入れる。
「…………」
「何よ、その間は」
「すまないな、四路さん。私も1人で行動させてもらうことにする」
「はあ!?」
「な、何言ってるでやんすか!?ちょっと待つでやんす!」
「もう決めたことだ」
紫杏の発言にその場にいた者は例外なく驚いた。
…いや、ただ1人、荒井紀香を除いて…
グループ内で最年少と思われる少女が1人で行動すると言い出したのだから、この反応は当然と言える。
「せめて理由を聞かせてくれないかしら?」
「ふむ…」
250
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:31:01 ID:ao5EiLQwO
理由は簡単だ。このままこのグループにいても、トップには立てないだろう。
たとえこのままこのグループにいて、殺し合いの場から脱出できたとしても、自分がトップでなければジャジメントは自分を見放すだろう。
そればかりか、ジャジメントの裏の顔を知っている人間として処分するだろう。
つまりこのグループと共に行動を続けることは、この殺し合いの場でのみ命をつなぐその場しのぎでしかないのだ。
ここでアクションを起こして、成功しない限り、紫杏に後はない。
もちろんこんな事を他人に言う紫杏ではない。
「カズと朱里の漫才があまりにも長いんでな。止めに行こうと思う」
「それは、あなた1人でやらなきゃいけないこと?」
「私の身勝手で皆さんを危険にさらす訳にはいかないからな」
「あなたにできるの?」
「私は一応、高校で自治会長をやっていたんだ。2人はそのときの側近みたいなものでね。私の指示には従ってくれると思うが」
251
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:33:16 ID:ao5EiLQwO
「1人で行動したとして、2人を見つけるより先に危険人物に出くわしたらどうするの?」
「口は上手い方だと自負している。何とか言いくるめるさ」
「さっきのパーカーの女の子みたいに話が通じない相手なら?」
「それなら私はそこまでの人間だったということだ」
そう、そこまでの人間だったということ。この状況を1人で乗り越えない限りジャジメントに処分されてしまう。
「急に死にたがりにでもなったのかしら?」
「私はこの世にもう未練はない。死を受け入れる心構えはできている」
紫杏ありとあらゆるものを捨ててジャジメントに入ることを決めた。
最高の校風を作るべく奔走した高校も、愛した人でさえも。
「そんなさびしいこと言うなでやんす。生きていれば、きっと幸せなこともあるでやんす」
「あたしはもう幸せになることは諦めたんだ!」
そう、諦めたのだ。十波から離れることを決めたあの時、紫杏は自分が幸せになることを諦めた。
「「「……………」」」
「すまない。少し感情的になってしまった」
「いいわよ。行きなさい」
「オーナー!?」
「頭がかたい人みたいだし、何を言ってもきかないわ。勝手にしなさい」
「すまない、四路さん。必ず後で合流する」
「それなら第3回放送までにホテルPAWAに来なさいな。そこに私が集めた仲間が全員来るはずだから」
「わかった」
「あと、三橋一郎という男に気をつけて下さい。彼は真っ赤で凶悪な右腕をしてるのですぐにわかると思います。」
「曽根村さんもありがとうございます」
そう言って紫杏は荷物をまとめ始めた。
252
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:35:14 ID:ao5EiLQwO
「しあん…」
「ほるひすか、世話になったがしばらくお別れだ。みんなを頼むぞ」
「ほるひすだよ。ころさないけどひともまもるよ」
「うむ。その意気だ」
そして席を立つ。
「銃はいるかしら?」
「いらないな。私は銃に関しては素人だ。弾数も限られているし、『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』というわけにもいかないからな。それに先も言ったが、私の身勝手で皆さんを危険にさらす訳にはいかない。」
智美の問いにそう返すと紫杏は病院を後にした。
はっきり言えば怖い。
『死を受け入れる心構えはできている』といったが、それは仮面をかぶった『私』の本心であって、小心者の『あたし』の本心ではない。
『死ぬのは怖いことだ』、『死にたくない』これが小心者の『あたし』の本心。
しかしこのグループにいたんでは、必ず自分は破滅する。
1人で行動したところで破滅を免れた訳ではないが、しかし成功するかもしれない。その確率はまさに『箱の中の猫』である。
そう『あたし』に言い聞かせて、神条紫杏は『私』の道を歩き始めた。
253
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:36:30 ID:ao5EiLQwO
【F-6/病院/一日目/昼】
【神条紫杏@パワプロクンポケット10】
[状態]:健康
[装備]:バット
[道具]:支給品一式、詳細名簿、ノートパソコン(バッテリー消耗小)、駄菓子数個
[思考]まずは朱里と合流したいな…
基本:どのようにも動ける様にする。
1:自分と同世代のグループを作りそのトップに立つ
2:生きて帰って平山の言葉を伝える。
3:出来ることならカズと朱里、十波には死んでほしくない。が、必要とあらば……
[備考]
※この殺し合いをジャジメントによる自分に対する訓練か何かだと勘違いしています
※芳槻さらを危険人物と認識しました。
※島岡の荷物は、島岡を殺害した者に持ち去られただろうと判断しました。
※小波走太一行とは情報交換を行っていません。
【四路智美@パワプロクンポケット3】
[状態]:嫌な汗が背中に伝わっている。
[装備]:拳銃(ジュニア・コルト)、バット
[道具]:支給品一式、ダイナマイト5本
[思考・状況]基本:二度と三橋くんを死なさない。
1:三橋くんが殺し合いに乗った……か。
2:十波典明の言葉を丸っきり信用するわけではないが、一応警戒。
3:亀田の変貌に疑問?
[備考]
※メカ亀田を危険人物を判断しました。
※ピンクのパーカーを着た少女を危険人物と判断、作業着を着た少女を警戒。
※探知機は呪いの人形に壊されました。
【曽根村@パワプロクンポケット2】
[状態]:右手首打撲
[装備]:ナイフ、ブロウニング拳銃(3/6、予備弾数30発)、バット
[道具]:支給品一式×3、魔法の杖@パワプロクンポケット4裏
[思考]
基本:漁夫の利で優勝を目指す
1:一先ず病院で休憩。
[備考]
※タイムマシンの存在を聞かされていません。
254
:
偉人の選択
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:37:26 ID:ao5EiLQwO
【凡田大介@パワプロクンポケット2】
[状態]:全身に打撲
[装備]:お守り、バット
[道具]:支給品一式、鍵
[思考・状況]基本:ガンダーロボを救出したい
1:基本人殺しはしたくない。
2:九条を信頼、そして心配。
[備考]
※七原、真央、走太と軽い情報交換をしました。
【ほるひす@パワプロクンポケット6表】
[状態]:表面が焦げてる、悲しみ?
[装備]:バット
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]基本:ころさないし、ひともまもるよ。
1:こうし……ひらやま……しあん……
【荒井紀香@パワプロクンポケット2】
[状態]:全身のところどころに軽い火傷、体力消耗(小)
[装備]:バット
[道具]:支給品一式、野球人形
[思考]基本:二朱くんに会う。
1:二朱君との愛の営みを邪魔するひとは容赦しないです。
2:あの女(夏目准)が二朱君を手にかけていたら仇をとる。
[備考]
※第一回放送に気付いていません。
【萩原新六@パワプロクンポケット6】
[状態]:左腕欠損、腹部に軽度の切り傷、貧血(中)
[装備]:バット
[道具]:支給品一式 、野球用具一式(ボール7球、グローブ8つ)@現実
野球超人伝@パワプロクンポケットシリーズ、パワビタD@パワプロクンポケットシリーズ、左腕
[思考・状況]
1:???
255
:
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/24(日) 18:40:32 ID:ao5EiLQwO
以上、投下終了です。
感想、誤字脱字、矛盾などの指摘点をお願いします。
できれば本スレでお願いします。
256
:
名無しのバットが火を噴くぜ!
:2010/01/25(月) 21:00:37 ID:iMfRvbm.O
乙です
投下してあげたいが俺も携帯wスマン
257
:
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/25(月) 21:46:17 ID:rk1uWRloO
投下してから丸1日コメントがなかったので、怖かったです。
自分が投下したものが良かったのか、悪かったのか、それさえもわからないというのは怖いものです。
自分もこれからは他の人が投下したら、できるだけ早く、必ずコメントしようと思います。
んで実は後もう1話を考案中。
まだ予約できるほどの見通しは立っていませんが、近い内に予約入れて投下しようと思います。
258
:
名無しのバットが火を噴くぜ!
:2010/01/26(火) 23:52:26 ID:4dEvectMO
なんという速筆w
wktkしながら待ってます!
259
:
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:29:30 ID:5FkF/zDU0
規制中でしたので、ひとまずこちらの方に投下させていただきます。
260
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:31:15 ID:5FkF/zDU0
一人の少女が歩いている。
焦ったような、でもどこか楽しそうな表情を浮かべながら。
また別の場所で、一人の男も歩いている。
やはり焦っているが、彼の表情はどことなく暗い。
そこに浮かんでいるのは、不安と、心配と、ほんの少しの恐怖。
――だが、二人は同じ事を考えている。
一方が、もう一方の事を。
ある日突然失踪した、一人の人間の事を。
―そして、信頼していた、「家族」の事を。
261
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:32:06 ID:5FkF/zDU0
● ● ●
茜は、先ほど逃げてきた道を引き返していた。
理由は単純、あの多人数の集団を追いかけるためだ。
細かい人数は数えていないものの、最低でも5人は居ただろう。
あいつらを殺せば、また優勝に一歩近づける。
そう考えると、茜の頬が自然と緩む。
では、どうやって追いかけるか。
あの集団と会った所に戻り、それから同じ方向に進めばいい。
方向さえ合っていれば、少なくとも遠ざかる事はないはずだ。
もちろん、危険なのは百も承知だ。
さっきだって、一歩間違えば死んでしまったかもしれない。
東が油断したから、東が怪我をしていたから、あの危機から逃げ出せたのだ。
もう一度あんな状況に陥って、助かる保証はない。
でも、茜が逃げるわけにはいかない。
兄は、茜を信じてこの殺し合いに参加させたのだから。
再び三人で笑って過ごすという夢を、茜に託したのだから。
それを裏切るなど、彼女には到底できない。
だから茜は、あの集団の後を追う。
傍目に見れば、彼女の選択は決して利口ではない。
だが彼女にとって、そんなものは関係無い。
あくまで茜が、茜にとっての最良の決断をしただけのことだ。
262
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:32:55 ID:5FkF/zDU0
● ● ●
病院を後にした八神は、凡田たちが来た方向へと歩みを進めていた。
凡田と会った後、茜がどこまで逃げたのかは分からない。
そんなわけで、八神がその方向へと向かったのに理由は無い。
茜の体力ではそんなに遠くまで逃げられないはず、根拠らしい根拠はそれだけだ。
そして彼の心は、相変わらずある事に囚われていた。
茜が殺し合いに乗っている。
それは認めたくない事実だが、目を背けるのは危険だ。
――でも、何故?
確かにあの人形のような茜なら、言われるがままになっている可能性はある。
何も考えられないまま、ただ従っているというわけだ。
それならまだ、説得できる可能性はある。
ただ、はっきり言ってこの線は薄い。
「殺しあえ」と言われてそれに乗る、そんな行動力が今の茜にあるのだろうか。
となると、やはり進んで乗っている可能性が高い。
そう、限りなく高い。
だが、ここで彼の思考はストップする。
これ以上考えることを、彼の心が拒む。
そしてまた、彼の思考は振り出しに戻る。
八神らしくないことではあるが、事実その繰り返しだった。
――しかし今度は、「何か」に思考が遮られた。
(…あれは?)
彼の視線の片隅に、一つの人影。
そちらに視線を向けて、八神はようやく気づいた。
パーカーを来た少女が、狂ったような笑みを浮かべながら、こちらへ向かっていることに。
263
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:33:42 ID:5FkF/zDU0
● ● ●
――なんでお兄ちゃんがこんな所に?
茜が八神を見つけた時、最初に思ったのはそれだった。
私を参加させたのはお兄ちゃんなのに、なんでここにいるんだろう?
だが茜は、すぐに思い当たる。
(…そうか、私を励ましに来たんですね。
やっぱりお兄ちゃんは優しいです!)
もちろん、これは勝手な推測にすぎない。
だが茜にとって、それが事実なのかどうかは関係ない。
自分の信じたいものを信じる、彼女はそれで幸せだから。
「お兄ちゃん!こんな所でどうしたんですか?」
茜は満面の笑みを浮かべて、八神の元へ駆け寄った。
「あ、茜…?」
八神の顔に、驚きの色が浮かぶ。
病院を出て数分しか経っていないのだから、まあ当然だ。
八神自身、こんなに早く見つかるとは思っていなかったのだろう。
見ると、八神が何か喋ろうとしている。
だが茜は、それより前に口を開く。
そして茜は口にする。
きっと、兄が待ち望んでいるであろう言葉を。
きっと、兄が喜んでくれるであろう言葉を。
「大丈夫です、アカネは立派にやってますよ。
もう、3人も殺しましたから」
264
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:34:14 ID:5FkF/zDU0
● ● ●
予想はしていた。
こんな状況で、茜がまともでいられるはずがないと。
それでも、やはり八神の視界はグラリと揺れる。
ニコニコと笑っている茜の表情と、放たれた言葉の内容が一致しない。
だからこそ、妙な真実味がある。
今まで考えまいとしてきた事実が、実感として伝わってくるのが分かる。
思わず、顔が歪む。
だが、茜はお構いなしに話し続ける。
「お兄ちゃん、安心してください。
絶対、優勝してみせますから!」
その言い方に、少し引っかかる。
安心?
俺が?
(…やっぱり、何か勘違いしてるのかな)
まあ、不思議な話ではない。
無理矢理この殺し合いと俺を結び付けようとしている、そんなところだろう。
だからこそ、どうやって説得すればいいのか分からない。
こんな状態の茜にはどんな言葉も届かないことを、八神は知っている。
でも、それが茜の説得を放棄する理由にはならない。
届かないと分かっていても、言葉を投げかけずにはいられない。
「茜…なんで、こんな殺し合いに乗ったんだ?」
自分でも、ストレートすぎる問いだと思う。
知らず知らずのうちに、動揺していたのかもしれない。
「なんで、って…
お兄ちゃんとお姉ちゃんと、もう一度楽しく過ごすためですよ」
その言葉で、ようやく合点がいった。
茜は優勝を目指している。
俺とリンと、三人で過ごしていたあの頃に戻るために。
265
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:35:22 ID:5FkF/zDU0
―――無茶だ。
八神の知っている範囲でさえ、白瀬も灰原も参加している。
いくらなんでも、一般人である茜に勝ち目はない。
「…茜…本気で言ってるのか?」
「何言ってるんですか?茜はいつだって本気ですよ」
茜の口調は、いつもと変わらない。
だからこそ、怖い。
交渉の場は何度も経験しているはずなのに、口の中が乾き、言葉に詰まる。
「…自信はあるのか?」
「そんなの関係ないです。
お兄ちゃんのために、お姉ちゃんのために、私は優勝しなきゃいけないんです」
「…無茶だよ。
お前はまだ高校生だ。…それにほら、運動は苦手なんだろ?」
何言ってんだ、と自分でも思う。
俺が言いたいのは、そんなことじゃないのに。
「…お兄ちゃん、どうしたんですか?
そんなに茜のことが心配ですか?」
でも茜が信じようとしている事を否定すれば、またあの時のように壊れてしまいそうで、怖い。
だから、必要以上に遠回しな表現になってしまうのだろう。
曖昧な言葉では、茜には届かないと分かっているのに。
「でも、私は大丈夫ですよ」
無邪気に笑っている茜を見ると、無性に辛い。
目の前にいる少女に、どんな言葉をかけていいのか分からない。
266
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:36:09 ID:5FkF/zDU0
「…じゃ、私はこの辺で行きますね。
お兄ちゃん、待っててくださいね!」
そう言い残して駆けだした茜を、しばらくの間ぼんやりと眺めていた。
少ししてハッとし、慌てて追いかける。
追いかけても辛いだけだ。
見なかったことにして、ここを立ち去ってしまえばいい。
―でも、俺にはできない。
ただの自惚れかもしれない。
でも、茜を救えるのは、きっと俺だけなんだから。
【F-6/路上/一日目/昼】
【八神総八郎@パワプロクンポケット8表】
[状態]:健康
[装備]:コルトガバメント(6/7)、バット
[道具]:なし
[思考]基本:茜とリンを説得する。
1:茜を追う。
2:バトルロワイヤルを止める。
3:白瀬、灰原が殺し合いに乗ったのでは?と疑っている。
[備考]
※走太と真央から、彼らにこれまでであった話を聞きました。
※荻原との話でタイムマシンの存在を確信。
※茜ルートBAD確定後、日本シリーズ前からの参戦。
【高坂 茜@パワプロクンポケット8】
[状態]:幸せ、早く殺したい、右手首打撲
[装備]:機関銃、冬子のスタンガン@パワプロクンポケット8
[道具]:支給品一式、アップテンポ電波、予備弾セット(各種弾薬百発ずつ)
[思考・状況]基本:みんな殺して幸せな家庭を取り戻す。
1:人を殺すために人の居るところへと向かう。
267
:
交錯
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/27(水) 22:36:47 ID:5FkF/zDU0
● ● ●
一方、茜を追跡していた灰原も、八神の存在に気づいていた。
この状況では、間違いなく邪魔になるであろう存在。
あの少女が八神に説得されてしまう、それだけは避けたい。
だが、ここで始末するには危険が大きすぎる。
灰原が持っているのは、刀と銃剣だけ。
戦闘慣れしている八神が銃を持っていれば、苦戦は免れないだろう。
いくら灰原が人間離れしたスピードを持っているとはいえ、何らかの怪我を負ってしまうのは間違いない。
そんなことを考えていると、少女が走り出したのが目に入った。
八神が追っているところを見ると、幸いなことに説得されたわけではないようだ。
さて、ここで灰原は決断を迫られる。
このまま茜を追うか、病院へと向かうか。
一瞬だけ考えた後、灰原は後者を選んだ。
八神と合流した以上、最早あの少女には期待できないだろう。
それなら、自分が動くしかない。そう思っての決断だ。
一瞬の選択は、時に失策を招く。
彼のこの選択がどちらに転ぶのか分かるのは、まだ先のお話。
【F-7/一日目/午前】
【灰原@パワプロクンポケット8】
[状態]:健康
[装備]:正宗、銃剣
[道具]:支給品一式、ムチ、とぶやつ(エネルギー切れ)、ボールオヤジ、催涙スプレー@現実
[思考]基本:優勝し、亀田の持つ技術をオオガミグループへと持ち帰る。
1:病院の方向へ向かった集団を追う。
2:見敵必殺、ただし相手が複数いる場合など確実に殺せないと判断した時は見逃す。
3:白瀬に指示を与えたい。
4:喋るボール(ボールオヤジ)を持ち帰る。
268
:
名無しのバットが火を噴くぜ!
:2010/01/27(水) 22:38:02 ID:5FkF/zDU0
以上で投下終了です。
お手数おかけしますが、どなたか代理投下していただければ有り難いです。
269
:
名無しのバットが火を噴くぜ!
:2010/01/27(水) 22:50:14 ID:GA72Q4DsO
投下乙です。
八神は、果たして茜を止められるのか?
病院組の運命は?
続きがとても気になります。
270
:
◆1WZThYdb3Q
:2010/01/28(木) 20:40:23 ID:qWWKGGA.0
失礼しました、一つ修正です…
灰原の状態表を、【F-7/一日目/午前】→【F-6/一日目/昼】に変更です。
前回、今回と、ご迷惑おかけして申し訳ありません。
271
:
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:29:59 ID:Qz2jZ/mwO
さるさんくらいながらも、第2部までは本スレに投下完了できたのですが、再びさるさん…orz
本スレにて途中支援して下さった方ありがとうございました。
第3部はこちらに投下します。
どなたか本スレに代理投下していただけたら幸いです。
272
:
CHERRY BLOSSOM〜戻らない歯車〜
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:32:20 ID:Qz2jZ/mwO
◆ ◆ ◆ ◆
さらが撃たれた。
少し時間がかかったが十波は理解した。
「さ、ら……?」
仰向けに倒れたさらの名を呼ぶ。
既にさらを中心として真っ赤な血の池ができ始めている。
「うわああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!
さら!!!!さらあぁぁ!!!!!」
さらのもとに片膝をついてしゃがみ込み、力の抜けたさらの身体を起こす。
傷口からは鮮血が溢れ続けている。
「と、十波……君……」
「っ!?さら!?」
「ごめん…なさい……十波…君…
せっか…く……私を…心配…して…来て…くれたのに……
こんなことに…なって…しまって。」
さらが申し訳無さそうに謝る。
それに対して十波は首を横に振る。
「さら!お前は悪くない。
俺がもっと、もっと早く来ていれば!
そうだ、血を、血を止めなくちゃ」
273
:
CHERRY BLOSSOM〜戻らない歯車〜
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:33:52 ID:Qz2jZ/mwO
「残念……ですね…
やっと…他の…人を信じる…ことが…できると…思った…のに……
やっと…十波…君に…会え…たのに……
もう…お別れ…なんて…」
「しっかりしろ!さら!お別れなんて言うな!
この島を抜け出したら、二人でいろんな所に行って、いろんなものを見て、一緒に笑うんだ!
お前は俺が助ける!」
十波はユニフォームを脱いでさらの傷口にあてがい、止血を試みる。
しかし貫通した傷口から溢れる血は止まることをしらない。
「何…で……泣い…て…るん…ですか……十波…君…?
この…青空…の…下…では……笑顔…じゃ…ないと……ダメ…なん…でしょ……?
こんな…いい…天気…の…日に……こんな…青空…の…下…で……泣いて…る…人は……バカ…ですよ……?」
さらは十波に笑いかける。
顔中痣だらけで腫らしているし、血の気が引いて蒼白になってきているが、
さららしい、可愛らしい、とても穏やかな笑顔。
十波は先ほどから流れる涙を慌てて拭う。
「そ、そうだよな!涙なんか流して俺バカだよな!
こんなにいい天気なのに…」
十波がさらの手を握る。
祈るように、強く、強く、強く。
274
:
CHERRY BLOSSOM〜戻らない歯車〜
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:34:29 ID:Qz2jZ/mwO
「なぁ、さら…
俺、プロ野球選手になれたんだ。
今年から大活躍して新人王とかいっぱいタイトル穫るんだ。
だから…さら、テレビで、できれば球場に来て、俺の活躍見ててくれよ!」
「…?……十波…君…は…まだ……高校…生…でしょ……?
気が……早い…です…よ……?
でも……わかり…まし…た…十波…君…
私…いっ…ぱい……いっぱい……応援…します…約束…です……
だか…ら…十波…君…も……頑張…るって…約束…して…下さい…」
「あぁ、約束だ」
2人はお互いの手を強く握り、約束をかわす。
それは、果たされることはない約束。
しかし2人は約束をかわす。
果たされることはないとわかっていても、認めたくないから。
「……十波…君……大……好……き……」
「さら……?さら!!
さらぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!!!」
さらは目を閉じ、永遠の眠りについた。もう二度と目覚めることはない。
最期に紡いだ言葉は遅すぎる告白の返事。
至福の時は、桜の花ようにあっという間に散った。
十波の悲痛な叫びが晴れ渡る空の下、虚しく響き渡った……
【芳槻さら@パワプロクンポケット10 死亡】
【残り34名】
275
:
CHERRY BLOSSOM〜戻らない歯車〜
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:35:24 ID:Qz2jZ/mwO
【F-3/学校/北側校舎屋上/一日目/昼】
【十波典明@パワプロクンポケット10】
[状態]:「人を信じる」という感情の復活?
さらを失ったことによる大きな喪失感、右上腕に怪我
[装備]:バタフライナイフ、青酸カリ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]基本:???????
[備考]
1:さらルート攻略中に他の彼女ルートにも手を出していた可能性があります。
2:たかゆきをタケミの作ったロボットだと思っています。
3:タケミを触手を出す事の出来る生き物で、殺し合いに乗っていると思っています。
4:高坂茜とメカ亀田の名前を知りません。
5:さらが過去から連れてこられた、と思いました。
※北側校舎屋上に十波が蹴飛ばした機関銃(残弾中程度)が落ちています。
※本当に「人を信じる」という感情が復活したかは、後続の書き手さんにお任せします。
復活しなかった場合、
1:信頼できる人間とは「何故自分と手を組むのか、その理由を自分が理解できる人物」を指します。
2:逆に「自分の理解できない理由で手を組もうとする人間には裏がある」と考えてます。
の記述をお忘れなく。
276
:
CHERRY BLOSSOM〜戻らない歯車〜
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:36:22 ID:Qz2jZ/mwO
◆ ◆ ◆ ◆
「こんのダボ!!あんた自分が何やったかわかってんのか!?」
中庭を挟んで南側の校舎の屋上で和那は紫杏を取り押さえていた。
ライフルは奪い取って中庭に投げ捨てた。
「……………」
「なんとか言えや!紫杏!」
「……………くく」
「?」
「くくく……あはははははははっ」
「な、何笑てんねん!?」
神条紫杏は笑った。笑うしかなかった。
人を殺めるという過ちを犯した自分に。
早くも決心が揺らいでしまった自分に。
屋上の扉を開いた瞬間、彼女の愛した男、十波典明の声がした。
声のする方を見ると確かに十波がそこにいた……芳槻さらと一緒に……
(?)
何かを話しているようだった。
紫杏は自慢ではないが地獄耳だ。
ゆえに十波のこの言葉を拾ってしまった。
『俺はさらが好きだ!』
(!?)
277
:
CHERRY BLOSSOM〜戻らない歯車〜
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:37:07 ID:Qz2jZ/mwO
そこからの行動は彼女自身でも驚くくらいスムーズだった。
ライフルを構え、スコープを覗いて芳槻さらの背中に照準を合わせる。
引き金を引く。一筋の光が芳槻さらを貫いた。
自然と涙が流れたが、手は震えなかった。
何故こんなことをしてしまったんだろう?
何故こんなことができてしまったのだろう?
何故涙が流れたのだろう?
芳槻さらに対する嫉妬の念のせいか?
自分のことを『愛している』と言ってくれた、十波の裏切りに対する怒りのせいか?
まだ心のどこかで幸せを、
十波と共に生きるという幸せを望んでいるのだろうか?
もう後戻りしないと、幸せにはならないと決めたはずなのに…
『同世代のグループを作ってトップに立つ』という本来の目的も見失って、
何故その足を止めてしまったのだろう?
神条紫杏には、わからなかった。
278
:
CHERRY BLOSSOM〜戻らない歯車〜
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:38:10 ID:Qz2jZ/mwO
【F-3/学校/南側校舎屋上/一日目/昼】
【神条紫杏@パワプロクンポケット10】
[状態]:脱力感、両ひじ、背中に軽いうちみ
[装備]:バット(デイパックの中)
[道具]:支給品一式、詳細名簿、ノートパソコン(バッテリー消耗小)、駄菓子数個
[思考]?????
基本:どのようにも動ける様にする。
1:自分と同世代のグループを作りそのトップに立つ?
2:生きて帰って平山の言葉を伝える。
3:出来ることならカズと十波には死んでほしくない。が、必要とあらば……
[備考]
※この殺し合いをジャジメントによる自分に対する訓練か何かだと勘違いしています。
※島岡の荷物は、島岡を殺害した者に持ち去られただろうと判断しました。
※小波走太一行とは情報交換を行っていません。
【大江和那@パワプロクンポケット10】
[状態]:全身打撲、疲労(中)
[装備]:六尺棒
[道具]:支給品一式×2、不明支給品0〜1、携帯電話、塩素系合成洗剤、酸性洗剤、油、ライター
[思考]
基本:バトルロワイヤルを止める。
1:紫杏!?
2:病院へと戻る。
【備考】
※重力操作にかけられた制限の存在に漠然と気付きました。
※桧垣東児特性しあわせ草エキスは一本きりです。
※学校の中庭に和那の投げ捨てたレーザーライフル(残り電力90%)
が落ちています。
【宇宙連邦特製レーザーライフル@パワプロクンポケット9裏】
風の強い惑星フローラでも長距離射撃ができるように製造されたライフル。
フローラ配属の連邦兵士に支給されている。
連邦兵士(中尉)曰わく、2km先の標的も一発とのことだが、おそらく訓練したらの話。
だが、高性能であることは間違いない。
文字通り実体弾ではなくレーザーが発射される。
本ロワ内では充電式とする。1回発射するごとに10〜25%電力を消費。
消費電力は発射距離によって異なる。
電力を0から100%充電するのにかかる時間、どれくらいの発射距離でどれくらいの電力を消費するか、の裁量は後続の書き手さんにお任せします。
279
:
◆jnvLTxNrNA
:2010/01/28(木) 23:41:53 ID:Qz2jZ/mwO
以上で投下終了です。
誤字脱字、矛盾などの指摘点をお願いします。
280
:
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/16(火) 11:45:38 ID:KpuqDs3E0
第二回放送案投下します
281
:
第二回放送
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/16(火) 11:48:25 ID:KpuqDs3E0
〜〜〜〜〜〜〜♪
諸君、天を見上げたまえ!
お天道様が諸君らの生を称えるかのように燦然と輝いているであろう!
生を実感出来る喜びを存分に噛みしめつつ、二回目の放送である!
まずは定例通り禁止エリアの発表。
引っかかった間抜けな人間も居ないようで吾輩は大変満足である。
それではこれより一時間後、『午後一時』より禁止エリアとなるエリアは。
B-4
F-4
G-1
以上の三つである!
良いであるか、例によって一時間後であるぞ?
くどいように思えるかもしれんが命に関わることであるからな!
おおっと、今回は無駄口を叩きはせんさ。
さて、それでは皆がお待ちかねとなっている死者の発表であるな。
知り合いは死んでおらんと良いなあ、まあ結局殺さなければならないであるがな!
では、いくであるぞ。
東優
九条英雄
黒野鉄斎
進藤明日香
二朱公人
野丸太郎
浜野朱里
芳槻さら
この七人、たったの七人である。
この結果は誠に遺憾であるなぁ、最初の滑り出しと比べて半数にも減っているである。
とは言え、着実に人数が減っているという点は評価できるである。
逆に言えばそこだけしか評価出来ないとも言えるであるがな。
まあ、吾輩から言えるのはたったひとつだけ。
精々最後の一人まで頑張ることである!
それでは第二回目となる放送、これにて終了であーる!
残り34名の皆は頑張るのであるぞ!
282
:
第二回放送
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/16(火) 11:50:01 ID:KpuqDs3E0
◆ ◆ ◆
「ふぅ……」
チバヤシ公爵は六時間に一度の放送を終えて軽く息をつく。
今の仕事に不満があるわけではない。
本人としては結構ノリノリでこの放送の時間をまだかまだかと待ち遠しく思っているほどだ。
逆に言ってしまえば、今は手持ち無沙汰と言うことになる。
六時間に一度の放送、それだけが我威亜党幹部であるチバヤシ公爵の現在に与えられた仕事らしい仕事である。
「チキン男爵、お茶」
「へいへい……何が悲しくて幹部になってまで茶汲みなんてやらなくちゃいけないんだろうなぁ」
チキン男爵は軽くため息を出しながら、荒っぽくチバヤシ公爵の前へとお茶を差し出す。
チバヤシ公爵は、うむ、と頷きながらお茶を口に含む。
だが、よっぽど渋かったのか大きく表情を歪めてチキン男爵を睨みつける。
そんな視線も何処吹く風、チキン男爵は思い出したように口を開く。
「んで、業務連絡。秋穂侯爵の仕事は完全に終わったってよ」
「ほう! ……で、具体的にあやつは何をやっていたのだ?」
「さあな……新種の生物兵器か? それとも怪しげな黒魔術か?」
「ふむ……」
チバヤシ公爵は亀田皇帝と秋穂侯爵だけが知る秘密の任務。
思えば――――いや、最初から感じていのだが――――亀田皇帝だけが知る秘密というものは多すぎる。
チバヤシ公爵も、秋穂侯爵も、あやか伯爵も、チキン男爵も、全員が体良く利用されているのが現状だ。
「……まぁ、利用価値があるうちは尻馬に乗っかかるに限るであるな」
「あん? なにか言ったか?」
「茶汲みをしているのは情けなくもあの間抜けな探偵に世界各地で負けたのが原因なのだ、と言ったのである」
「ぐっ……!」
聞くんじゃなかった、と顔をしかめながらチキン男爵が下がっていく。
その後ろ姿をニヤニヤと眺めながら、彼が入れた不味い茶を口に含む。
「さてはて……あと何時間で終わるであるかね……」
283
:
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/16(火) 11:51:18 ID:KpuqDs3E0
投下終了です
本スレは、一日待って指摘がなかったら立てようと思います
284
:
名無しのバットが火を噴くぜ!
:2010/03/16(火) 19:26:12 ID:xKOfkTUsO
あれ? 禁止エリアに踏み込んだアホっていなかったっけ?
285
:
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/16(火) 20:14:25 ID:KpuqDs3E0
……そうでした、修正しておきますorz
大変失礼しました
286
:
>>281差し替え
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/18(木) 18:19:30 ID:psZgvb6w0
〜〜〜〜〜〜〜♪
諸君、天を見上げたまえ!
お天道様が諸君らの生を称えるかのように燦然と輝いているであろう!
生を実感出来る喜びを存分に噛みしめつつ、二回目の放送である!
まずは定例通り禁止エリアの発表。
あ〜れほど言ったのに引っかかた間抜けが居たであるの巻。
吾輩、自分の言葉を無視されるのはあまり好きではない性質ではないである。
もちろん、だからどうしろと言うわけではないであるよ?
諸君らも好き好んで禁止エリアに突っ込むわけがないであるし。
我輩たち我威亜党は、禁止エリアを減らす、なんてことをする気はさらさらないである。
故に吾輩に出来ることなんてこうして注意をうながすことだけであるからな。
……それではこれより一時間後、『午後一時』より禁止エリアとなるエリアの発表である。
メモの準備は出来てるであるな? それでは、発表する!
B-4
F-4
G-1
以上の三つである!
良いであるか、例によって一時間後であるぞ?
くどいように思えるかもしれんが命に関わることであるからな!
おおっと、今回は無駄口を叩きはせんさ。
さて、それでは皆がお待ちかねとなっている死者の発表であるな。
知り合いは死んでおらんと良いなあ、まあ結局殺さなければならないであるがな!
では、いくであるぞ。
東優
九条英雄
黒野鉄斎
進藤明日香
二朱公人
野丸太郎
浜野朱里
芳槻さら
この七人、たったの七人である。
この結果は誠に遺憾であるなぁ、最初の滑り出しと比べて半数にも減っているである。
とは言え、着実に人数が減っているという点は評価できるである。
逆に言えばそこだけしか評価出来ないとも言えるであるがな。
まあ、吾輩から言えるのはたったひとつだけ。
精々最後の一人まで頑張ることである!
それでは第二回放送、終了であーる!
287
:
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/18(木) 18:26:45 ID:psZgvb6w0
では、日付が変わる前にはスレを立ててきます
288
:
◆7WJp/yel/Y
:2010/03/18(木) 23:50:34 ID:psZgvb6w0
立てました
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/pokechara/1268923277/
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