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お題で文章を書くスレ

94幻想入りした名無しさん:2010/01/18(月) 21:22:00 ID:dg/Jiw8M0
その日は何度目かの空を飛ぶ訓練だった。
“拾われない置き傘”というあだ名をひっそりつけられている先生曰く、「飛びたいという強い気持ちがおまえらを大空へ飛ばす!」らしいのだが、わたしにはきれいさっぱり理解できない。
別に、浮遊魔法が扱えないというわけではないのだ。
それどころか浮遊魔法は得意中の得意だし、会得してしまえばその魔法の運用はまず間違いなくクラスでトップレベルになれる。
そんなわたしを他人は天才と呼び、わたしにも天才の自覚があった。
同時に天才というものはどこか欠落しているのが世の常であるのだが、自覚があるわたしもやっぱりというか、例外ではなかった。
「サギシマ! どうだ、飛べそうか?」
「まったくもっていつも通りです、ネヴィル先生」
スタイルがいいのにダサいジャージ。
髪質がいいのに大して手入れしない。
竹を割りすぎた大雑把の権化みたいな先生は、わたしのもとにやってくるなりそんなつまらない質問をする。
何がつまらないって、わたしがどう答えるかなんて見ればわかるからだ。
本当につまらないが、まったく、先生らしいうれしい気配りである。
「そうかそうか。あぁいや、いいんだぞサギシマ。おまえの心はいつも熱く、ゴウゴウと煮え滾っている。先生にはわかる。おまえはクールに見えて、その実は誰よりも燃え盛っているんだとな! そうだとも、だからこそおまえはおまえの思うまま、心のままいればいい! ……あっはっは! なぁに心配するなサギシマ! おまえはいつだって全ての魔法を体得し、完璧にこなしてきただろう!」
「はい。誠心誠意気ままに挑もうと思います。ありがとうござ……」
びゅうん!
先生の暑苦しい応援を根こそぎ吹っ飛ばすように吹いた突風に、わたしは思わずお礼の言葉を切った。
それは自然の風ではない。
駆け抜けた一陣の“風”は急激な方向転換から上昇すると、こちらを見下ろす格好になって目一杯怒鳴る。
「おいこらぁ! そのクソ眠たそうな目で凝視しやがれシロサギぃ! これがオレの“未来への扉(ノックトゥーグローリー)”だぁ! ひゃっほぉぉぉい!!」
“風”改め少女、長い黒髪をばさばさはためかせて高空超速無軌道飛行。
どう見ても危険なのに、わたしの先生はこういうのをちっとも咎めない。それどころか。
「おお! 楽しそうだなぁニコル! どうだ? 空は気持ちいいか!」
「サイッコウですよ先生! オレはきっと空を飛ぶために生まれて来たんじゃないかって思いますよ! だってこんなの、今までどんなにハイな魔法を使ったって得られなかった……――そうか、オレは鳥? そうだ、オレは鳥! イエス、アイアムアペンん!?」
ぎりぎりで自分の過ちに気づいたらしいばかニコル。
レイリア先生以上に暑苦しい……というより騒がしい黒髪(ばか)に思わず【堕ちろ】と命令しそうになる自分を間一髪で抑えて、わたしは自分の修行に戻る。
飛行に限らず、わたしは誰かの成功例を見ることで何かを得ることはない。
全然使えない状態と、完璧に使える状態の二つ。この両極端を飛び越えるきっかけを観察行為に見つけることがないのだ。
では何がわたしを端から端へ飛ばすのかというと……。
「お。なんかニコルの挙動が怪しくなってきたな。そりゃそうだ。あんだけ飛ばしたら魔力変換が追いつかない」
「……ほんとだ」
生徒墜落の危機を、先生は空を漂う凧でも眺めてるみたいな調子でのんびりと解説する。
ニコルの動きが途端に鈍くなって、上昇と下降を不規則に繰り返していた。
飛行するために必要な魔力が切れかかっている。
飛行機なんかで言えばエンジンの残量が少なくなって、プロペラの回る速さが一定しなくなり、推進力や浮揚力が失われていく段階。
このままでは堕ちる。
あの高さからの自由落下なら一歩間違わなければどこから落ちても即死だ。
「ばかニコル。まったくしょうがないな」
イメージするのは飛びたいと思う強い気持ち。
とん、と軽く地面を蹴るわたしは、それまでの時間が嘘だったように空へと舞い上がる。
使ってしまえば完璧に使う。
わたしが落下を始めたニコルを捉えるのに時間はかからなかった。
「これがわたしの“未来への翼(フェアリィウィング)”。言うことはある、ニコル?」
「……ちぇ。礼ぐらいは言ってやるよ」
頬を赤らめてニコルがぶつくさと呟く。
わたしが魔法を使えるようになるきっかけは、たとえばこんなハプニング。
幸いわたしのクラスはお調子者が多いから、こんな風なきっかけには事欠かない。
「うん。今日もサギシマはいつも通りだな。来週からは人をくすぐる魔法に入ろうかね」
まったく、本当にいつも通りでつまらないけれど。
そんな日々が、わたしはたまらなく楽しいのだ。


息抜き。
普段書かないノリで書くと暴走することがわかった。


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