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803
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:44:28 ID:QLWl8pgc0
「菜月には同情して下さるんですか……」
「うむ。ワシをおじいちゃんと呼び、一度たりとも疑いの目を向けなかったのは小娘だけじゃ」
さぁ、罪悪感に苛めと菜月の話を出したがさくらに怯む様子はない。
「菜月がもう少し強ければ、竜也さんではなくあの子を利用していましたか?」
しかし、それを責められたところでもうどうなるものでもないと半ば開き直りさくらへ告白する。
「確かにな、そのとおりじゃわい。ワシに取って都合の良い者を利用した。密かに駒としたのはおまえさんだけでは無いぞ」
「でしょうね」
「それでどうする。おまえさんが知ったところで竜也の罪悪感と、先程植え付けた信頼は消えんぞ。のぅ」
弱者の仮面は脱いだ。狡猾さを隠す必要もない。ブクラテスは舐めるようにさくらの顔を見下ろした。
「もう一度言いますが、糾弾するつもりはありません。私がお伺いしたいのは、その先です。つまり今後2手先3手先まで考えがおありですか?」
出し抜けに力強く積極的にさくらは考えを口にする。
「考えじゃと……」
「ありませんよね。あなたはここまでを、チーフはずっと先を、竜也さんは現状を……。
そして私に到っては何も見えていなかった。これが今の私たちです」
たじろぐのはブクラテスの方だった。目の前に座っているのはただの弱い女では無い。
「このままでロンを倒せるでしょうか。いえ、このままではロンに辿り着くことさえ困難では?」
(この女、ワシを見極めようとしておるのか?)
そう、老獪な樽学者ブクラテスが、今一度さくらに真価を値踏みされている。
「見てのとおり私はすでに戦力外、いっそ楽になれたらと、そう思いました。マーフィーが私を憎んでくれていれば、それが大義名分になりますし」
弱さも、狡さも、
「私の生い立ちや、もちろんロンに洗脳されたことも関係しているんでしょうけど」
そして辛さも、
「死ぬより怖いと思ったんです」
すべてをさらけ出したその言葉、ブクラテスは胸を衝かれたようにさくらの顔をじっと見つめた。
「心は折れ、戦えず、守られるだけの……。そんな人形のような存在になるのが死ぬよりも怖かったんです」
さくらはブクラテスを真っ直ぐ見つめ、もう一度告げた。
先に眼をそらしブクラテスは溜息をついた。
「生きる術をワシから学んだ、か?」
「いえ、ただきっかけを頂いただけです。
傷ついた自分を人を操るための手段にするという発想は私にはありませんでした。
ある意味あなたの狡猾さは、ロンと対等に戦うためには必要です」
804
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:45:06 ID:QLWl8pgc0
「ふん」
と腹を揺すらせ首を振る。だがブクラテスの表情に今までの狡猾さはない。
「ずいぶんと高くついたのう。老いぼれを動かす代償が」
「その代償に値すると思っています。その頭脳、誤った方向に使われているのは惜しい。そうですよね」
「……この樽学者に説教とは、全く対したおなごじゃわい。あの朴念仁は幸せ者じゃな」
さくらは肯定も否定もせず、クスッと小さく笑った。
☆
(あの扉の向こうにチーフたちが居る)
ツヤの無い銀色の薄い扉のその先で、明石と竜也がさくらたちを待っている。
目を閉じた瞼の裏に、二人の顔が浮かんで来る。
(もう大丈夫です。樽学者ブクラテスを動かすことは出来ました。これからだって私にはきっと……)
そう大丈夫だと自分に言い聞かせながら深呼吸を一つ吐き出した。
それから、さくらはゆっくりと目を開けた。
ふと落とした視線が捕らえたのは脚を伝う血液の跡。
素肌に付着した血液はすでに乾き始め深い赤に変わり、その表面は光を帯びて艶やかなエナメルのような光彩を放つ。
白い脚と深い赤が成す鮮やかなコントラストは、どことなく異様にも扇情的にも見える。
(これは落としておくべきですね)
さくらは扉を開こうとするブクラテスを呼び止めた。
「待ってください。申し訳ありませんが、もう少しだけ時間を頂いてもよろしいですか?」
ブクラテスは振り返り、素直に疑問を口にした。
「なんじゃ?まだ何かあるとでもいうのか」
「いいえ、付着した血液を落としておきたくて。服やブーツは落としようがありませんが……」
幸い服やブーツに付いた血液はさほど目立つほどでもない。さくらは視線を横へ動かした。
確か向こうへ伸びる通路はレストルームに繋がっているはず。
「そうじゃな。よかろう」
ブクラテスは腹を揺すりながら椅子に腰を降ろした。
「それでは少し失礼します」
返事の代わりに後ろからブクラテスの咀嚼の音が響いてきた。
通路へ出るとすぐ、赤い女性のマークと黒いレストルームの刻印が施された金のプレートが目に入った。
その奥に同じプレートが装飾された白い扉があった。
肩でその扉を押し開けると、一枚の姿鏡がさくらを迎えた。
☆
「よくもあれだけの量を平らげたもんじゃわい」
チーズケーキ一つで音を上げたブクラテスからは、さくらの食べっぷりは想定外のまだ外だ。
「まぁ、良いがのう」
少し休息を取るつもりでブクラテスは瞼を閉じ、残った片手で頬杖を付いた。
(思わぬ事態に転んだが、ワシにとってこれほど都合の良いことはあるまい)
もう我が身は安泰、そう言っても過言では無いだろう。
なぜなら今回の一件でブクラテスは信頼の種を蒔くことに成功したのだから。
(罪悪感に加え、信頼が育てば……)
竜也に植え付けたその二つ、それが決して解けぬ強固な呪縛に育つまで。
805
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/11(日) 11:46:43 ID:QLWl8pgc0
我が身に替えても、ブクラテスを守らなければならないという呪縛へ育つまで。
(後は慎重に種を育てあげねばならんわ。のう、さくら?ワシを導いてくれて感謝するぞ)
眼鏡の下の瞼が薄く開いた。
(さて……)
その瞳が覗くのは『毒』
懐から取り出された『毒』だった。
(ロンが謀ってワシに支給していたとすれば……。いや、まぁ良い。これが奥の手となるか、または免罪符となるやは、まだ解らぬのじゃからな)
☆
銀色に光るカランを上げてハンドペーパーを水に浸そうとするが中々上手く行かずにいる。
右手の包帯はすでに濡れてしまい、裾から解けかけてしまっていた。
「仕方がありませんね……。後で巻き直さないと」
ペーパー数十枚を費やして、やっと上手に腿へ濡らしたペーパーを乗せられた。
痛みの分を差し引いても指が無いことが、こんな些細なことさえ困難にしてしまう。
何度も何度も、何度も何度も何度も。
そう何度もハンドペーパーを擦り付けて。
いやハンドペーパーなどすぐに原形を無くし、実際は殆ど右手の包帯が血液を拭き取ったのだ。
そのせいで包帯は水を吸って重くなり、力を入れすぎたのか内から血が滲みだした。
「……仕方がありません」
再び呟いて、包帯の緩みを治そうと歯で垂れ下がった端を噛んだ。
さっきと同じように、思うように上手くいかない。
左手を添え、繰り返すこと数回。
やっと締まりつつある包帯を、力を入れて引っ張った。
「痛っ」
包帯を締めると痛みが電流のように駆け巡った。
手の甲や平だけで無く、なぜか指先まで。そう確かに人差し指の先まで。
「……?」
さくらは端をくわえたまま、しゅるしゅると包帯を解いてみた。
指は無い。
微かに開いた口から、ぼとっと包帯が足元に落ちた。
指の無い手を、目の高さまで持ち上げてひらひらと裏表を見比べる。
指は無いのに。
何故か、まだ人差し指だけは残っているかのように感覚があった。
鏡に写してみても指だけは鏡に写らない。
指のあった場所に写っているのはさくらの細い首元だけだ。
傷一つない白い首元だけが鏡に写っている。
つーーーーっ、つーーっ。
さくらは鏡に写る自分の首に×印を描いた。
「…………ここだと言ったじゃないですか……」
つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。
つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。
目印を付けるように、強調するように何度か×印を引くとさくらの顔はすっかり赤いペイントに塗り潰された。
「あぁ、いけませんね。早く包帯、巻き治していただかないと……」
くるりと鏡に背を向けさくらはレストルームを後にした。
☆
「お待たせしました」
部屋に戻ったさくらとブクラテスは明らかに様子が違っていた。
特にさくらはうつろだった瞳に力が戻り、声も少し明瞭になったようだ。
解けた包帯を巻き直しているとさくらが口を開いた。
「少しお話が……。まずマーフィーについてです。私以外に危害を加えるとは考えがたいですが、彼をこのまま苦痛に晒してはおけません。私、マーフィーを捜してきます」
竜也は手を留め、無理だと言わんばかりに割って入る。
「何言ってるんだよ、さくらさん。その怪我じゃ」
「なので申し訳ありませんが竜也さん、手伝って頂けますか?」
さくらは毅然とした態度を崩さず告げる。
「ロンに打ち勝てば彼の苦悩もなくなります。仲間を取り戻せばマーフィーの苦悩は」
問い掛けるように明石と竜也を見つめる。
その表情から汲み取った明石が力強く頷く。
「いいだろう。竜也頼む」
806
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/11(日) 11:47:15 ID:QLWl8pgc0
「では、チーフはブクラテスさんと修理を、説明はすでにしてあります」
「おいおい待て」
とブクラテスが割って入る。
「明石はおまえさんが連れて行け。どうも使いにくくて叶わん」
さくらは少し考え、
「ですが、アクセルラーの修理ですし。やはりチーフが適任では?」
ブクラテスが即座に否定する。
「ワシを誰だと思うておる?」
「誰ってブクラテスさん……」
追いてけぼりをくらった竜也は口ごもる。
明石が竜也の肩に手を置いて、
「腐っても樽学者、さすがだな」
と笑う。
「ふん、樽の中味は腐ったぐらいが丁度いいんじゃ。醸造されていい頃合いじゃわい」
「では、チーフ」
「よし、行くぞ!」
ブクラテスに笑顔を送り駆けていくさくらと、さくらを見つめるブクラテスの表情に。
「一体、どうしたんだよ。まぁ良いことなんだろうけど」
ぽつりと竜也は呟いた。
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:健康。30分程度変身不能。
[装備]:アクセルラー、聖剣ズバーン、スコープショット(暁)
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。その為に仲間を探す。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
第三行動方針:さくらと共にマーフィーを捜す。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:十指欠損、応急処置、消毒済み。回復しているようには見えるが?
[装備]:スコープショット(菜月)@轟轟戦隊ボウケンジャー、Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:@轟轟戦隊ボウケンジャー、婚約指輪の入ったクッキーの袋、基本支給品(菜月)、竜也のペットボトル1本。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:マーフィーを捜す。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※両手の指を失いました。
※未確認支給品(暁確認済)は婚約指輪の入ったクッキーの袋でした(忍風戦隊ハリケンジャー 巻之13「ヒゲと婚約指輪」より)
807
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/11(日) 11:47:46 ID:QLWl8pgc0
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:右腕切断、応急処置、消毒済み
[装備]:毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とデイパック、首輪探知機 、さくらのアクセルラー(要修理)、
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:今のところさくらに協力。
第二行動方針:明石とアクセルラーの修理
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:健康。良い意味で動揺
[装備]:
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ロンを倒す。
第一行動方針:これ以上の犠牲は絶対に起こさせない。
第二行動方針:出来れば殺し合いをしている者を止めたい。
※首輪の制限を知りました。 明石やさくらと情報交換を終えました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
※ブクラテスとさくらの様子にとまどい
※盗聴の可能性を認識
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。混乱により回路に負担が掛かっている状態。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どうすればいいのかわからない
※無意識的にさくらへ襲い掛かった状態です。
808
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 13:59:09 ID:???0
Star where you lead me ――― The green star & Hygiene Charon in Pluto
マーフィーが駆けて行く。
―――なぁ、マーフィーちゃん。うちと一緒にシュリケンジャーを捜そう?
シュリケンジャーは、ホンマに信頼できる仲間やから。さくらさんみたいな事は絶対ない。うちが保証する ―――
時折ノイズの混じる回路の中をおぼろの声が駆け巡る。
―――…ごめんな。うちはやっぱり一緒にいけんよ。だって………
悲しい言葉を打ち消すように、ただひたすら駆けて行く。
行く先には黒煙。
だがそれはまだ見えない、エリアのずっと向こう。
そして、そこへ向かって同じように歩みを進める者、一人。
☆
(う、うん……。あぁ、そうだミーは……捕まっちゃったんだっけ)
明かり取りの天窓から刺す太陽の光はオレンジ。伸びる影の長さから大体の時刻は割り出せる。
(ということは倒れてからそう時間はたって無いか………………)
ならば制限解除までこのまま寝て置くのも一つの手だとシュリケンジャーはまどろみ始める。
(と、待てよ、そうだ。倒れた時ミーは………………!!!!!!!!!)
怒りがすぐにシュリケンジャーを覚醒させた。
(ガッデム!それから素顔を晒していたってことだ!見張りは?素顔を見られたからにはすぐにでもっ)
サラマンデスと共に七色の布で縛られ床に寝かされている。
(随分重い布だね。ジーザス、一体何なんだ!)
シュリケンジャーは知るよしも無いがそれは聖聖縛。
激気技でのみ顕在させうる聖なる布。不闘を誓う拳聖たちの激気で織り上げた布である。
(うーん。ミー一人の力では破るのは無理か。だけどお坊ちゃまはまだぐっすりお休みだ)
サラマンデスは随分夢見が悪いのか顔には苦痛が浮かんでいる。
状況を読むに連れて冷静さを取り戻す。
(オッケー、焦りは禁物。どうせ今回限りのお付き合いさ。最後には皆死んでもらうんだからね)
場所は独立した倉庫か。用具が盛りだくさんだ。さて……見張りは2人。そしてもう……一個?)
苛立ちを隠し切れず爪を噛んだり物に当たり散らすメレ。
そしてメレ当たられる頻度が抜群に高いビビデビ。
そして、シオンの死を悼み後悔の念を口に出す裕作。
(HAHAHA!人選ミスもいいところだね。これなら隙が出来るのも時間の問題さっ)
シュリケンジャーの読みとおりか、否か。メレが苛立ちの矛先を裕作にも向けるのに時間は掛からなかった。
「いつまでもうるっさいわね!グダグダ言ってる暇があんなら首輪解除してきなっ!」
ビビデビをバレーボールさながら裕作へアタック。
「おい、俺に八つ当たりかよ」
「こんな奴ら、アタシ一人で充分よ!」
跳ね返ったボール、いやビビデビを、すぐにでも出て行けと言わんばかりに、もう一度裕作へ叩き付ける。
「メレ!おまえまさか、壬琴の言ったとおり」
「アイツが何言おうと関係ないわ」
「まさか、意識のないヤツをわざわざ起こして意識が無くなるまで殴る気……痛てっ!」
メレは裕作を倉庫から叩きだし、重い扉を閉ざす。
「おい!待てよっ」
ドアを叩く裕作。怒りに肩で息をしながらメレが呟く。
「アイツ……!後で覚えてなさいよ」
「ビビ〜。それに壬琴様はそんな物好きはアイツぐらいだろうと笑ってたデビ〜……グェッ!!」
メレは無言でビビデビに回し蹴りを放つ。
「メレ!開けろ、開けろって!」
裕作はドアを叩くがメレは聞かず、後ろ手で扉を締めシュリケンジャーたちを睨む。
「話を聞けばいいんでしょ?わかってるわよ!だからアタシ一人でいい。あんたも幻気喰らいたく無かったら、さっさと消えな!」
裕作は諦めたのか、
「また後で来るぜ」
そう言ったのを最後にドアを叩く音が止んだ。
(さぁて、チャンス到来)
コロコロと転がって来たビビデビとシュリケンジャーの目が合う。
ビビデビが声を上げないように、シュリケンジャーは飛び切りのスマイルでウインクを送った。
☆
「まぁ、かい摘まんで言えばこんなところだ」
壬琴が言い終わると同時にヒカルと映士から溜息が漏れた。
壬琴の周りに、菜摘、ヒカル、映士が座り、囲んだデスクには集められた支給品が並んでいた。
「さて、もう構わないだろう。これは俺が預かるぜ」
壬琴が手を伸ばしたのは、小さな鍵。小津麗に支給されここに辿りついた用途不明の小さな鍵だ。
「……あ、もしかして」
思い当たった菜摘が声を上げた。
809
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:00:12 ID:???0
そう。これが無かったゆえに、別々に支給されたがゆえに……。
実際に菜摘が爆笑したのは壬琴の行動だったのだが、どちらにしろ壬琴に取っては苦い記憶。
「あぁそうだぜ!ダイノハープのキーだ。俺が預かるのに文句はないだろ?」
余計なことは言うなとばかりに菜摘に睨みを聞かせる。
そこへ。
「悪い。締め出されちまった」
罰の悪い顔で裕作が部屋に入って来た。
「どういうこと?」
菜摘の隣に裕作は座り事情を話す。
「ふふっ、それで締め出されたの?」
「あぁ」
頭を掻く裕作に、ニヤリと笑う壬琴。映士は関心が無いのか足を投げ出して目を閉じていた。
ふと、菜摘はヒカルがやけに浮かない顔をしていると気付く。
声を掛けようとすると壬琴が立ち上がった。
「グレイが帰って来るまで俺は休憩させてもらうぜ。もう話すことも無いしな」
「あーっと。オッケーわかったわ」
次元虫を取り除くのはいくら天才外科医といえど簡単ではないだろう。
壬琴も無傷とは言えない。
異論を唱える者はいなかった。
「ボクも少し一人で考えたいことがあってね」
ヒカルも席を立ち部屋を後にした。
「ちょっとゴメン……すぐ戻るね」
菜摘はヒカルを追いかけ、部屋には裕作と映士が残った。
「ねぇ、ヒカル。ちょっといい?」
屋上へ続く階段で菜摘はヒカルを呼び止めた。
「ドモンのことも……。深雪さんのことも……。何て言っていいのか解らないけど……」
菜摘はそっとポケットからメモを取り出しヒカルに握らせる。
そして人差し指を口に当て、声に出さないで読んでとジェスチャーで伝えた。
ヒカルは一度メモに視線を落とした。そして黙って頷き、メモをポケットにしまった。
「あれで以外と壬琴が力になってくれると思うわ」
そう告げて菜摘は階段を駆け下りた。
☆
「アタシが気付かないとでも思ってんの?」
後ろ手に扉を閉めたまま、メレが低い声で呟く。
(ミーに言ってるのか?それともビビデビ?)
薄目のままシュリケンジャーは様子を覗う。
「いい?ホントのことを言いなさい。別にアタシはアイツらのことなんて何とも思っちゃいない。
どうせ即席で作った戦隊だもの。あんなカクシターズにこれ以上付きあってやる義理なんて……ないわ!」
メレは重い扉に内側から南京錠を掛けた。
「だからさっさと話すのよ。アンタたちは何なの?なんで?!」
メレはシュリケンジャーに駈け寄り髪を掴んで顔を上げさせる。
「なんでシオンを殺したのか言ってみな!そうしたら殺してあげるから!!!」
(思った通り激情型だね。そう来られればそうeasy☆)
シュリケンジャーはメレを見据え恭しく口を開いた。
「メレ様、ご無事で何より」
驚いたメレは思わず手を離す。
「何なの、アンタ」
「驚かせてソーリー。ユーのハニー、理央は……ぐあっ!」
理央は……まで言うとメレの鉄拳が飛んできた。
「ったくどいつもこいつも、ワタシが理央様の名前を出せばコロッと騙されると思ってんの!!」
皆考えることは同じかと、シュリケンジャーは笑いを堪えながら。
「ち、違うよガール。理央はミーにとって言わば恩人だから、だからユーにはせめて最後に敬意を示したくて」
「理央様に恩ってどういうこと?」
訝ってはいるがやはりメレはメレ。こちらに乗ってきたようだ。
「この事は一方的にミーが恩を感じているに過ぎない。理央はミーの友人を、ここで殺された友人の敵を取ってくれたのさ」
「敵を?」
「聞いてくれるかい?捕まった以上ミーも覚悟は出来ている。理央に礼を言えないかわりに、せめてユーに聞いてもらいたい」
「……わかったわ。ただし話が終われば殺す。いいわね」
「オーケイ。落ち着いて最初から話そう」
まずは、最初に出合ったジルフィーザ。そしてスワンとの出会い。ロンに姿を変え、サンヨと組んだこと。
途中、いずれ対決するだろうブドーと接近。その後、江成仙一に成り変わり理央に宇宙サソリを植え付け……。
ここまで話すとメレの鉄拳が飛んできた。
810
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:01:12 ID:???0
「もういい、アンタ死にな!」
「ノ〜!まだ続きがある。聞きたくないのかい?理央はユーの名を叫んでいたんだ!」
「アタシを?理央様が、アタシをですって」
────俺は…俺は死なないッッ!! メレェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
もう一度宇宙サソリの話を頭から。
その後に恩人と知ると付け加え、出合ったガイ、禁止エリアでのこと、サラマンデスとジルフィーザのことも。
もちろん推測される理央の居場所をさりげなく伝えるのも忘れずに。
そして物語は渦中のスタジアムへ。
自らの見たすべての真実を克明に、その中に混ぜるほんの少しの偽り。
「筋書きはこうだよ。ミーはドモンに協力したのさ。しばらくは手を組んで優勝を目指すつもりでいたんだ。
ミーが浅見竜也に成りすましシオンを油断させたところでドモンが殺害。
しかし、やはり優勝目的とはいえドモンに元仲間を殺すことは出来なかった。
だからミーが代わってシオンを殺害した。だけど、ドモンは後悔したんだ。亡くなったシオンに縋り付いて号泣していた」
「それでアンタは邪魔になったドモンを殺したのね」
「いや、ドモンがミーに殺してくれと懇願したのさ。ミーはOKしたよ。
仲間も殺せず自分も殺せず、余りにもドモンが気の毒だったからね。
だから偽装したのさ。せめてドモンが覚悟の死を遂げたのだと、思ってもらえるようにね。
殺し合いに乗ったんだから、ミーは悪役で構わない。本当はね、ドモンのために誰にも言うつもりはなかった。
だけどこの口はもうすぐに閉ざされる。恩のある理央の一番近い人の手によってね。
もし聞いて貰えるなら、ドモンたちのことを黙っていて欲しい。ユーが黙っていてくれるならドモンやシオン、彼等の名誉は守ることができる」
「アンタはなんで殺し合いに乗ったのよ」
メレは立ち上がりシュリケンジャーに背を向けた。
「掛け替えの無い大切なモノを守るためさ。ユーなら、解るだろう」
モノでも、物でも、者でもいい。解釈はメレに任せるつもりだ。
「大切な者……」
「ユーならどうする理央が死んだら、理央のいる星が腐って行くとしたら」
「理央さまが死んだら……。私が生きている意味なんてないわ」
「ユーはこのまま彼等と共に戦隊を組んで戦うのかい?」
目を伏せたままのメレ。答えは無い。
「……そうか。このまま行けば、ユーと理央は闘うことになるね」
堪らずにメレはシュリケンジャーへ振り向く。
「どうしてワタシに?!話したところでアンタには何の徳にもならないじゃない」
「いいんだベイビー。ただ意図せぬところで作った借りを、目に見える形で返すなんて恩着せがましいじゃないか」
唇をかみ締めるメレ。落ちるのは時間の問題だ。
「メレ、ユーとは違う形で出会いたかった。ドモンとユーでは覚悟の度合いが違う。さぁ、話は終わりだ。殺ってくれ」
「覚悟は出来てるってわけね」
「グッバイ、メレ。検討を祈るよ。殺し合いに乗るにしても……。敢えて、違う道を選ぶとしてもね」
☆
菜摘が階段を下ったところに裕作が立っていた。
壁を背にして菜摘を待っていたようだった。
「ヒカルは?」
「え、ヒカルは屋上に行ったけど」
「何か用事だったのか?」
「ううん。別に……」
口ごもる菜摘に裕作の視線はヒカルを捜すように階段をなぞった。
(ゴメン。裕作に隠し事とかそういうわけじゃないわよ。ロンに聞かれたくなかっただけなの)
菜摘は心の中であやまる。
「……あいつ、ショックだよな」
「うん。でも大丈夫、うん」
菜摘は一人納得したように頷きながら、裕作の背中を押した。
「あのな、菜摘。ヒカルとの話が済んでいるなら、俺もちょっといいか?」
「ええ、いいけど」
少し思いつめたように裕作は口元に手を当てた。
「シオンのクロノチェンジャーだけどな。おまえどう思う?浅見竜也に渡すのが一番だよな」
「ええ、それが一番でしょうね」
「それがいいってのは解るさ、だが……壊しちまおうかと思ってる」
「壊す!なんで!?」
驚く菜摘の肩を裕作は掴んだ。
811
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:02:31 ID:???0
「理由はあるんだ。おまえにこんなこと言うのは……」
ここまでは決められた台詞を読むように話す裕作だったが中々続きを口に出来ないようだ。
「辛いことを思い出させるようで心苦しいが……」
裕作が口ごもる理由は、菜摘の仲間だった陣内恭介のことだろう。
恭介はタイムブルーに変身したネジブルーに惨殺された。
シオンのクロノチェンジャーが同じように殺し合いの道具にされるのが、きっと裕作は堪らないのだ。
菜摘にもその気持ちは痛いほど解る。
「解るよ。シオンのクロノチェンジャーを殺し合いの道具にしたくない、でしょう」
微笑んだまま、裕作の心を読むように菜摘が言うと、ホッとしたように裕作の手から力が抜ける。
「悪い。おまえに言わせるなんてな」
「ううん」
菜摘は軽く首を振る。 アイテムが揃うのは両刃の剣。有利にもなる代わりに、奪われれば……。
シオンの物だったからこそ。だからこそ裕作は殺し合いの道具にしたくなかったのだ。
「裕作の気持ち、みんな解ってくれるわ、大丈夫よ」
「ありがとな、ずっと考えてたんだ。だがどう伝えりゃいいか難しくてな。メレにも言おうとしてたんだが……」
「メレもツライのよ。泣き出さないだけメレは偉いよ」
「そうだな。メレに言われたよ。ウジウジしてる暇があるなら首輪解除しろって、さっさとしないと幻気食らわすってな」
「あははははっ、怖っ」
「なぁ、それで気がついたんだが……」
裕作は偶然にもそこで手掛かりを得たようだ。
「メレは俺達のように何かを使って変身するわけじゃない。アイツの変身、幻気充填は幻気を具現化した物だろう」
「そうか、この首輪も仕組みは一緒かも知れないのね。もしそうなら首輪解除はメレに協力してもらうべきだわ」
「あぁ、その上で科学の発達している世界のグレイの意見も聞いてみたい」
「うん、あとヒカルにも。シオンが言ってたの。発達した科学は魔法と見分けがつかない、そしてその逆もありうるって!」
解らなかったことが糸が解れるように見えてきた。
駆けだしたい気分だった。
「戻ろう!」
菜摘と裕作は部屋へ急いだ。
☆
「やるじゃないか」
メレが出ていって数分後、倉庫の扉が開いた。
開けたのは白衣を着た男──仲代壬琴だった。
「オーノー!聞いていたとは人が悪いね。メレを追いかけなくてもいいのかい?」
「俺は一人でやりたいようにやっているだけだぜ。メレを追いかけて祭に乗り遅れるのはごめんだからな」
殺し合いを祭とは、さすがは何の躊躇も無く死ねと刃を振り下ろせる男だ、とシュリケンジャーは内心感心する。
「だけど、ユーは言われたことはないかい?遊びが過ぎて本来の目的を見失わないことだってね」
思い当たるのか壬琴は反発するように好戦的な口調で言った。
「悪いがゲームは存分に楽しませてもらうのが俺だからな、何ならおまえも乗ってみるか?」
壬琴は指でコインを弾く。
キンと煌きながらコインが回る。シュリケンジャーはそれを目で追いながら静かに言った。
「ゲームならユーがこの部屋に入って来た時から、もうとっくに始まっているよ 」
「何だと?」
「まっ、肝心のゲームマスターがまだ気がついていないようだけど……」
壬琴はサラマンデスに視線を向ける。
「そうだな、弱い奴に用はない。ソイツならおまえよりは面白そうだ。」
また壬琴はコインを弾いた。シュリケンジャーは首を横にゆっくりと首を振った。
「フ〜、ユーは解っていないね。ユーの言う弱いヤツ。イエ〜ス、弱者ほど時に思い切った行動を起こすモノさ☆」
「あん?縛られているおまえに何が出来る?目から光線でも出そうってのか」
壬琴は気付いていないようだった。
先程から壬琴とシュリケンジャーの間で世話しなく視線を動かしている存在に。
「HAHAHAHA!強気だね。そうやっていつも誰かを見下してきたんだろう。
ま、そういうタイプに限って自分勝手にふらっと消えるものさ。そして誰も不思議に思わない」
眉を顰めながらコインを弾き、そこで壬琴は初めて気付く。
812
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:03:51 ID:???0
「ビビデビ?……おまえっ…………!」
「ビビッ。ビビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
コインは床へ落ちる。
「あわわわわわわ、わわわわわわわわわわわわわわわ〜やってしまったデビーーー!!!!」
昏倒しそうになるビビデビへすかさず賞賛を送る。
「ブラボー!!!助けてくれると思っていたよ。メレが出ていった時からね。さぁこれを解くのを手伝って!」
「ビビ〜!」
震える手で聖聖縛を解くビビデビ。
「随分辛い思いをしていたようだけど、もう大丈夫さ☆」
そう言ってビビデビを力いっぱい抱きしめた。
「うう、でもとっさのことで何処に飛ばしたか解らないデビ〜」
「オールライト大丈夫さ、きっと遠くに行ってしまったよ」
ビビデビを腕にシュリケンジャーはほくそ笑む。
まずラッキーだったのはメレが上手く乗ってくれたこと。
メレはシュリケンジャーの撒いた疑念を自ら確かめに向かった。
そして出て行く時、ビビデビに二人を禁止エリアに向けて飛ばすように命令。
だがビビデビは考え倦ねいているようで実行に至らなかった。
まだメレが殺し合いに乗ったかどうかはさだかではない。
しかしメレはシュリケンジャーを自ら始末しなかった。だがビビデビに任せた。やはり揺れ動いているのは否めない。
どちらにしても、理央とぶつかり合ってくれれば楽になるのだが。
「ビビデビ、きっとユーも殺し合いを加速させる支給品ってところだろう?違うかい」
(七海と同じようにね)
心の中で苦い笑いが込み上げた。
七海が参加者同士に疑念を抱かせる材料とされた時から、おそらく同じような支給品が紛れているだろうとは読んでいた。
「そうデビー!!うぅ、やっと本来の持ち主へ出会えたデビーーーー!」
「ユーは優勝へ導いてくれる天使。まさにエンジェルというわけだね」
さぁ、山は一つ乗り越えた。ここからがまさに暗躍の時。
「Get up!サラマンデス」
シュリケンジャーはサラマンデスを揺り起こす。
「さぁ、イッツァミラクル!ショータイムの始まりさ」
☆
部屋に残された映士は退屈そうにアイテムを手に取っていた。
全員が部屋を出て、部屋に残ったのは映士一人。
当たり前の話だが、デスクには最初と同じ状態で支給品が並べられていた。
手持ち無沙汰になった映士が何気なしに一つ手に取ったところで怒鳴られる道理などない。
だから裕作とて、始めから声を荒げるつもりなど全くなかった。
ただ偶然それがシオンのクロノチェンジャーだった。
そして裕作と映士とは、まだ数えるほども言葉を交わしていなかった。
「おまえ、何をしている?」
裕作の発した言葉には明らかな刺があった。
映士の手からシオンのクロノチェンジャーが滑り落ちる。
「まるで俺様が奪うような言い方だな」
映士の言葉にも刺が混じる。
最悪の言葉のキャッチボールだ。
菜摘はクロノチェンジャーを拾い二人の間に割って入った。
「止めなさいよ。二人とも、言い方ってものがあるでしょう」
「あぁ悪かった」
菜摘に諌められ、素直に両手を上げ謝る裕作。そうした上で。
「なぁあんた、俺の独断で悪いがそいつは殺し合いの道具に使って欲しく無い。頼む」
映士は一度、菜摘を見てから裕作へ目を合わせ、尋ねる。
「最初から使う気なんざさらさらないがな、理由は何だ?」
「持ち主の遺志を尊重したくてね」
「へぇ」
映士は馬鹿にしたように顎をしゃくりあげた。
「遺志とはねぇ。笑わせてくれるな」
「何の事だ?」
「惚けるなよ。安らかに眠った者を冒涜するような真似をしてるのはてめぇだろ!」
「映士!何言ってるのよ?」
止める菜摘。だが怒りに任せて映士は吐き捨てる。
「コイツは使わせないが死者の首を切り落とすとはな!!」
裕作と菜摘の顔が強張る。
この時、3人は全く噛み合ってはいなかった。
映士は深雪を、
裕作はドギーを、
菜摘はサーガインを、
滑稽なほどにすべてバラバラのパーツで……。
だが歯車は絡み合い廻り始める。
「だが、あの首輪は託されたんだ!」
「託されただと?ずいぶん都合のいい解釈じゃねえか。ふざけんじゃねぇ!」
侮蔑を込めて映士が言い放つ。
813
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:04:27 ID:???0
「だって仕方ないじゃない。そうでしょう!?」
「菜摘!おまえ、本当にそう思って……」
映士の言葉は割れるガラスの粉砕音に掻き消された。
「なッ……!?」
ガラスの破片が部屋中に降り注ぐ。
窓を突き破った誰かが転がり込んで来たのだ。
勢いのままその人影はデスクを薙ぎ倒しその中で蹲った。
裕作が駆け寄る。
「おい!大丈夫か」
転がり込んで来たのは壬琴だった。
「……メレのヤロー!いい……度胸じゃ……ねぇか」
無理に起き上がろうとする壬琴を裕作が止める。
「何があった?」
「ビビデビ……ガァッ…俺を飛ばし……」
そのまま壬琴は意識を失った。
☆
断続的に耳を打つ爆発音。噴出した炎で窓ガラスが面白いほど割れて行く。
三方から立ち上った火の手は壁伝いに広がり勢いを増してやがて建物全体を飲み込むだろう。
鳴り響く非常ベルに混じって聞こえる声には動揺が覗える。
(オーケイ。いい具合に花火が上がった)
即席の発火装置にしてはすばらしい効果だった。
倉庫に眠っていたヒーター、アルコールランプにスプレー缶。
発火元には不自由しなかった。
事務室、印刷室、山ほどの用紙に窓を覆うカーテン。
可燃物もまたしかり。
(地味〜な裏方作業だったけどね。お坊ちゃまの力は温存しておいてもらわないと)
☆
「菜摘、壬琴とここに居てくれ」
「映士?」
「待て、ヒカルを捜しに行くなら俺も行くぜ」
「ヒカルは俺様が捜しに行く。引っ込んでろ」
「何!」
「止めてよ!」
「……あぁ、そうだな。仲間割れしてる場合じゃないよな……。まさかメレがとは思うが、俺は向こうを見てくる」
「二人とも待ってよ。一人じゃ危ないわ!バラバラになったら……」
菜摘の忠告は非常ベルに掻き消される。睨み合った裕作と映士は反発する磁石のように左右に走り去った。
「バラバラになったら思うツボじゃない……」
ポツンと取り残された菜摘はアクセルキーを握りしめた。
せめて壬琴だけとは離れちゃいけない。部屋へ戻ろうと振り返った目の前に、
「ビビデビ!いつからそこに居たわけ?」
「ビビデビビ〜」
ビビデビが居たのだ。何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。
「何笑ってんのよ。って言うか大丈夫?」
ふわふわしていたビビデビの動きがぴたりと止まる。
「……なにがデビか?」
「壬琴を飛ばしちゃったりしてさ」
菜摘の目には哀れみが浮かんでいた。
「うん、やっちゃったわね……。覚悟の上なんでしょうけど」
「ぐっ、まるで死に行く者を見るような目で見るなデビ!」
ビビデビは手にした黄色のハンマーを構えた。
「ビビッ!これが何だか解るデビ?ビビデビはもうオマエらの言いなりにはならないデビッ!」
「きゃ……!!
ビビデビがクエイクハンマー叩きつけるとリノリウムの床が波立ったように揺れた。
「やっ止めなさよ!危ない!!」
「止めないデビ。ビビデビ様を虐げた報いを、今こそ受けるがいいデビ!」
よろけながら菜摘が突っ込む。
「ちょっと!わたしがビビデビに何したっていうのよ!」
「ビビビビビ……オマエは……」
考えるビビデビ。
「うーーーー!止めようとしなかったデビ!」
「はぁ〜〜?自分のしたこと棚に上げてふざけんじゃないわよ!」
「ウルサイッウルサイデビ!ま〜だ自分の立場が解らないようデビッ。思い知らせてやるビビ!超忍法ビビデビ撃!」
クルクルと駒のように回転しながら菜摘を殴りつける。
「アアアッ!!」
弾かれた菜摘の身体は床に叩き付けられゴロゴロと転がった。
「くっ……!何とか、何とかしなきゃ」
額から流れる血を拭いビビデビの隙を狙う。
「ビビビビビ〜〜〜どうにもならないデビ!ビビデビ様の力思い知るがいい」
(それあんたの力でもなんでもないわよ、奪っちゃえばおしまいじゃない!!)
菜摘はツッコミの言葉を噛み殺す。
814
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:04:58 ID:???0
(今、ビビデビはMAXで増長してる。ここは、一発ガツンと……よし一か八かね)
「そろそろ留めデビッ!最後はフルスイングデビ!!超忍法ビビデビホームラン!!!」
クエイクハンマーを振り上げるビビデビ。
菜摘は驚いた顔でパッと横を向いた。
「あ、壬琴!」
「ビッ!」
ビビデビの背筋がピンと延び、瞬時に顔が青ざめた。
アワアワと外を仰ぎ見るビビデビの隙を逃さず、菜摘はアクセルキーを掲げる。
「激走っ!」
その声と共にアクセルブレスへキーをオン。
「アクセルチェンジャー!」
唸るエンジン音に包まれ菜摘はイエローレーサーへ。
「戦う交通安全ッ、カーレンジャー!タアッ」
「だ、騙したデビ?オノレ〜〜!」
すかさずクエイクハンマーを構えるビビデビ。
だがイエローレーサーはスライディングで一瞬の内にビビデビへ肉薄する。
「バイブレード!フルパワーモード!!」
振り上げると同時にグリップを引きパワー全開。そのままビビデビ目掛けバイブレードを振り抜いた。
「グオエェ〜ッッ!!」
吹っ飛ばされたビビデビはピンボールさながら左右の壁に激突を繰り返す!
「グエッグエッグエッグエッ!」
「ヤアーーッ!」
イエローレーサーはダッシュ。
ビビデビを追い抜きざまにホルスターから銃を抜き放つ。
「オートブラスター!」
光弾がビビデビの後頭部へ着弾。
撃ち落とされたビビデビはイエローレーサーの前へ転がる。ボヨン。
「今ね!」
イエローレーサーの胸の高さ、まさに絶好の位置でビビデビのボディがバウンドした。
「ナックルボンバー!!!」
電撃を帯びたパンチをビビデビの頭へ突き当てる。
「良いコの交通安全!廊下で野球なんて許さないわよ!!」
「オオオオマエだって廊下走ってるデビビビビビビーーー」
摩擦により白煙を立てながら廊下を滑るビビデビ。
「ギャアアアアアアアーーッ!」
叫び声と破壊音、ビビデビは防火壁を破壊して階段を転がって行った。
☆
「さ〜て、どういうことか聞かせなさいよ!メレは?アイツらは何処なの?」
パキパキと指を鳴らしながらビビデビの前に立ちはだかるイエローレーサー。
「……言うわけないデビ!」
「あ、コラ!逃げるな」
スイーッと浮き上がるビビデビ。
イエローレーサーは慌てて足を掴もうとするが、ビビデビは割れた窓ガラスの隙間をゴキブリのように素早く擦り抜けた。
「ビビビビビ〜覚えてろ〜デビ〜〜」
浮上しながら捨て台詞を吐く。
「あんたもね!」
マスクの中でぺロッと舌を出して菜摘は壬琴の元へ引き返した。
☆
ドアに嵌め込まれたガラスからデスクに手をついて立っている壬琴が見える。
「壬琴!良かった。気がついたのね」
「あぁ……」
壬琴はデスクに置きっぱなしだったアイテムをより分けているようだった。
イエローレーサーのまま隣に並ぶと、壬琴は露骨に怪訝な顔をした。
「あぁ、変身したのはビビデビが襲って来たからよ」
815
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:05:36 ID:???0
「アイツ……」
苦々しくは言うものの、追いかけてボコボコにする訳でもないようだ。
何となく腑に落ちないが気に止めはしなかった。
「クエイクハンマーを持っていたけど、他にも何か持って行ってない?」
「さぁな。俺は今、気が付いんだぜ?」
「そうか……まぁ、いいか」
(あれだけハデに戦ったのに、気が付か無かったんだ)
その時、イエローレーサーの変身が解けた。
「10分か、もしもの時はアレを使うしかないか」
「アレ?」
「アレってほら、それとほら一緒の…タイム……」
菜摘は言葉を濁した。
壬琴は惚けているのか気にしない様子でシオンのクロノチェンジャーをポケットに入れようとしていた。
「ねぇ、壬琴。シオンのクロノチェンジャーを使う気?」
「……?」
さっぱり話が読めないように壬琴は黙っている。
「それ。殺し合いの道具にしたくないって裕作が言っていたのよ」
「だから?」
「私も同意したの。壬琴もシオンと裕作の気持ちわかってくれるわよね」
「は?なんで俺が聞かなきゃならないんだ」
「壬琴いい加減にしないと怒るわよ。仲間じゃない!」
「ククッ」
壬琴は肩を揺すらせて笑っている。菜摘には笑いの意図が解らない。
「仲間だと?まぁ、あいつらはともかく、まさか俺とおまえが?」
「何言ってるのよ、まさかまだアバレーサーが気に入らないとかいうつもり?」
強気で返してみたが、凄く嫌な空気だ。
菜摘の足は無意識に後退りする。
「アンキロベイルスを殺したおまえと俺がか?」
「え?」
耳を疑った。でも聞き間違いではなかった。胸倉を捕まれ――――
「ずっと、狙ってたんだぜ?誰にも疑われずにおまえを始末できるのをな。いつかこんな時が来るだろうってな!狙ってたんだよ!!」
――――そのまま壁へ力一杯に押し付けられた。
「かはっ……」
菜摘は苦しげに咳込むが壬琴は押さえつける手を緩めない。
「もう一度聞くぜ!?アンキロベイルスを殺・し・た!オ・マ・エ・と!!なんで仲間なんだ?」
「……!み…壬琴?!」
笑いを浮かべながら菜摘の首を締めて行く。
「で、息が何だって?」
菜摘の瞳に涙が浮かぶ。
抵抗する気力さえ削がれたように、菜摘の腕がダラリと脱力していった。
☆
「何で殺さないデビ?」
窓の外から覗き込んだビビデビが尋ねた。
「後々の事を考えればね。生かしておいたほうがいいだろ」
「壬琴さ……いや仲代壬琴とぶつけるためデビか?」
「そうさ。仲代壬琴にはヒールになってもらう。彼のキャラなら疑いを晴らそうなんて努力はしないだろうしね」
シュリケンジャーは壬琴の顔で笑った。
「OK.ユーももう一仕事だ」
「ビビッ」
軽く敬礼してシュリケンジャーの手から赤いツナギを受け取る。
「これを来てうろつけばイイデビ?」
「そうしたら後はミーが最後の仕上げと行くよ。終わったらメレを追ってくれ」
「わかったデビ!シュリケンジャー様も頑張るデビ」
「サンキュー!ビビデビ。ユーは本当に良く働いてくれる」
菜摘のウィークポイントをシュリケンジャーに教えたのもビビデビだ。
ここまで来てスネに傷を持たない者などいない。
ビビデビとシュリケンジャーはニヤリと笑みを交わす。
「問題はお坊ちゃんさ。せめて言われたとおりに待機してるといいけど」
待機場所は始めに捕らえられていた倉庫の裏手の焼却炉。
お坊ちゃんに命じたのは待機なのだが。
「ま、ミーが点けた以外に火の手は上がっていないしね。オッケーだろう。大人しく待っていてくれた分、最後にはハデに動いてもらうさ」
「そうビビ〜」
「じゃあ、ビビデビ。再会とお互いの検討を祈って☆バイバーイ」
手を振ってシュリケンジャーは窓からスッと消え去った。
「……シュリケンジャー様も大変デビ〜。だけど〜」
赤いツナギを手にビビデビは倒れている菜摘を見て爆笑した。
「コイツい〜いキミデビ!」
予想以上に自分を痛め付けた菜摘。今は惨めにTシャツと下着姿で床に転がっている。
「ビビ〜!名案が浮かんだデビ〜〜」
ビビデビは後ろにあるロッカーへフワフワと飛んだ。鼻歌を歌いながらロッカーを物色しはじめる。
「ビビ〜あったデビ」
816
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:06:13 ID:???0
すぐに目当ての物は見つかった。
それをパサリ、と菜摘の上へ掛けた。
白衣に包まれた菜摘が大きな種に見えた。
「これでお坊ちゃまが失敗してもオッケーデビ。コイツの他に誰か生き残ったらビビビ〜。仲代壬琴はもっと疑われるデビ〜ビビデビビ〜」
大切な種に栄養を。これからどんな芽を出すのだろう。そして、どんな花を咲かせるのだろうか。
☆
「くそっ、どこ行っちまったんだヒカル!」
屋上にヒカルの姿が見えない。
しかし階下に居た様子も無かったのだ。
3方から上がる炎は勢いを増して行く。
先程聞こえた地鳴りのような音と粉砕音の発生源は、おそらく壬琴と菜摘の居る場所の近く。
焦りが映士の胸を衝く。
「一旦戻らねぇと!だが……」
映士はもう一度、辺りを捜索する。
給水塔の影、突き出た排気口、囲われたフェンスの裏まで、ぐるりと辿った。
「ヒカル、いねぇのか?ヒカル!」
誰もいない、否、視界の端、自分が通って来たドアの辺りで赤い物が動いた。
「誰だ!菜摘か?」
赤からまず連想したのは菜摘だ。
いや、菜摘ならば声を掛けるはずではないか?
「出てきやがれ!」
映士は大股でドアへ近づくが、去った後なのか見間違いだったのか誰の姿もない。
階段を駆け降りる音は聞こえないかと耳を澄ますが、非常ベルが邪魔をする。
「チッ、聞こえねぇか……。違う……誰の声だ!」
非常ベルに混じって微かな呻き声が聞こえた。
「ヒカルか!どこだ?」
「え、映士…かい?」
声は上から聞こえる。
「待ってろ!今行く」
ヒカルはドアの上、階段を囲う屋根の部分にいるようだ。
映士は壁に埋め込まれた鉄の梯子をよじ登った。
ヒカルが頭を押さえて倒れている。
「あの偽者ヤローにやられたのか?」
「解らない……。火の手が上がって、それが何か見極めようとしていたら、下で凄い音がしただろう。
戻ろうとしてドアを開けたら、誰かに殴りつけられて。非常ベルのせいで物音に気付かなかった」
「やった奴は見てねぇんだよな?」
「あぁ、すまない」
映士はヒカルに肩を貸し身体を持ち上げる。
「……おいヒカル、ジャケットはどうした?」
「え?」
ヒカルは自分の身体へ視線を落とす。
「……奪われちまったようだな、くそっ。急いで戻るぜ」
「あぁ、アイツがボクに成り済ましている。菜摘が心配だ」
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!映士は心の中で何度も吐き捨てた。
(もう菜摘は……。菜摘は殺されてるかもしれねぇ!)
あの時、映士には聞こえていたのだ。バラバラになるなという菜摘の声が。
映士は痛烈に後悔しながらヒカルと共に階段を駆け降りた。
「菜摘!」
駆け寄って呼吸を確かめる。まだ息がある。
白衣は被せてあるがツナギを脱がされている。
命があったことにはほっとしたが、その姿を見てすぐに怒りが勝った。
菜摘に掛けられた白衣、屋上で横切った赤い者の正体。そして奪われたヒカルのジャケット。
「あのヤローの仕業か!」
捕まえたはずの二人は?この炎はあいつらの?壬琴とメレは、ビビデビは?
「考えても仕方がねぇ!」
映士は窓からカーテンを引き千切ると菜摘の身体を包んだ。
「しばらくはこれで我慢してくれ菜摘。ヒカル、火が回る前に行くぜ」
菜摘を抱え階段を駆け下りる。
「ヒカル、菜摘と先に逃げてくれ。俺様は他のヤツを」
「解った。後何処かで落ち合おう」
「スタジアムに行っててくれ。たのむヒカル、絶対に離れるなよ。菜摘を起こしてすぐ逃げろ!」
炎を突っ切って映士は、メレが居たはずの倉庫へ向かった。
☆
「なぜ殺してしまわない?」
(オーノー!ビビデビと質問が同じとは。それじゃあ上に立てないぜ〜)
半ば飽きれつつも、シュリケンジャーは答を返す。
「次が楽になるようにさ。彼らはね、自責の念というのが強いのさ。 すべての正義も信頼も無くなって、丸裸になればどうなると思う?」
「ふん、回りくどいな……」
サラマンデスは言い捨てるとシュリケンジャーに背を向けた。
「ヘイ、サラマンデス、どこへ行くんだい?」
「知れたことだ。女は貴様の言うように泳がせるのもいいだろう。この期に残りを始末する」
「ン〜もしかしてリベンジかな。制限中だろう。持って行くといい」
ゴウライチェンジャーを渡しウインクした。
817
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:06:46 ID:???0
「フーゥ、全く対したお坊ちゃんだ。こういうのはお膳立てが大事なんだけどね……おっと、サラマンデス、ウエイト」
去ろうとするサラマンデスをシュリケンジャーは呼び止める。
こちらに近づいてくるのは、一度見たら忘れられないシルエット。
シュリケンジャーはサラマンデスに囁く。
「そっちの様子はミーが見に行こう。ユーにお客さんだよ」
☆
裕作は走る。
倉庫まで後もう少し、そこへ前方からやって来る人影が見えた。
咄嗟に身を隠す裕作。気付かれぬように覗けば、走って来たのはヒカルだった。
「おい、ヒカル?なんでここに……。おまえ屋上にいたんだろう……?」
「あぁ、だけどメレが出て行くのが見えたからね。確かめに降りたんだが……」
「あいつ等は?」
「居なかった。たぶんこの炎もヤツらの仕業だ。他の皆は?」
裕作は一瞬どう答えるか躊躇った。
「映士はおまえを捜しに屋上へ行った。俺は倉庫の様子を確かめにね」
「なら戻ろう。壬琴や菜摘も部屋に?」
戻ろうとするヒカルの手を裕作が掴む。
「おまえ、ヒカルだよな」
「何を言ってるんだ。当たり前じゃないか」
ヒカルは邪険に裕作の手を振りほどく。
何故だ?必要以上に刺々しく感じるのは、もしかしたら変装を見抜かれないためでは無いだろうか。
「もしかして、あの変装の得意な男だと思っているのか?冗談じゃない!」
「証明できるか?」
「証明できるかだって?ふざけないでくれ。キミのほうこそ本当に裕作なのか?この炎の中一人で行動するのなんておかしいだろう」
牽制代わりにポケットのケイタイザーに手を掛けるが制限中なのが悔やまれる。
「ヒカル、もし本物なら聞かせてくれ。何でサーガインを殺したんだ?」
ヒカルの端正な顔が歪んだ。
そして裕作の胸を指差して激昂した。
「何故だと、キミも本物なら自分の胸に手を当てて聞いてみればいい!キミも同意したんだろう。深雪さんの遺体から首輪を奪うことに!
ボクとドモンがどれだけ苦しんだか解るのか?!」
「俺はそんなことは知らない!言うはずがないだろう」
即座に反論するがヒカルは首をふった。
「……まぁいいさ。しらばっくれているのかどうかは、映士に聞いてみよう」
裕作は振り返る。そこには映士が立っていた。
「知らねぇ言うはずがねぇか、さっきは自分で認めておいてどういうことだ」
「待ってくれ映士。さっきの事とは話が噛みあって無い、そうだろう!」
裕作は映士に駆け寄る。
「映士、ボクを信じてくれ!」
ヒカルも映士に訴える。
二人の間に立つ映士は、まず裕作に目を遣り、次にヒカルへ目を向けた。
「裕作、下がってろよ。制限時間だろ」
映士は裕作を軽く制し、ヒカルに向き合う。
「残念だったな。ヒカルはジャケットを奪われている。俺様はそのことを知っているのさ!」
「なっ、映士待ってくれ!」
後ずさりするヒカル。
「往生際が悪いぜ!」
映士はブレスのキーを押す。
「 ゴーゴーチェンジャー、スタートアップ!」
眩い光に包まれ、映士はボウケンシルバーに変身した。
「偽者ヤローが!」
祐作を背に庇いながらボウケンシルバーはサガスナイパーの照準を定める。
「サガスナイパー!」
光線が逃げるヒカルの足元を浚って行く。
「くっ……。仕方ない」
ヒカルはグリップフォンを取り出す。
「ゴール・ゴル・ゴルディーロ!」
太陽のエレメントに包まれるヒカル。
「天空勇者マジシャイン!!」
そしてマジシャインへと姿を変える。
「なっ!変身したってことはこっちのヒカルが本物なのか?」
驚いた裕作へ映士が叫ぶ。
「まだ解らねぇぜ!そいつは魔法の鎧だが、魔法が使えなきゃ使えねぇシロモノじゃあねぇしな !!」
言い捨てるとボウケンシルバーは錫杖型へ変形させたサガスナイパーを横に振るった。
「サガスラッシュ!!」
「よせ映………ウアァァァッ……!」
横薙ぎの一閃に払われマジシャインの胸から火花が弾ける。
818
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:07:16 ID:???0
「グッ……。話を聞いてくれ」
蹌踉めきながらマジシャインは胸に手を当てる。
「なんだ?言っておくがてめぇを許すつもりはねぇぜ。どんな理由があろうがな!」
切り掛かかるボウケンシルバーの柄元を、マジシャインは両手をクロスし受けとめ叫ぶ。
「違う!ボクがヒカルだ」
「いい加減にしやがれ」
ボウケンシルバーはマジシャインを突き放し間合いを取る。
マジシャインは手を前に突きだし、ボウケンシルバーを止める。
「映士!広間でキミが最初に居た場所は、門から向かって左手奥、広間の隅だ。そうだろう」
「だからどうした?たまたまてめぇも近くに居たんだろう」
「そうじゃない。これはキミから聞いたんだ。そしてボクはキミに聞いた。もし広間でボクに自分の知らない未来の話をされたら信じられるかい、と」
ボウケンシルバーはまだ構えを解かない。
「この話を誰かにしたかい?ボクはしていない。そしてキミはこう言ってくれただろう」
「「俺様は信じる」」
マジシャインとボウケンシルバーの声が重なる。
「悪りィ!ヒカル!!」
構えを解き、ボウケンシルバーは剣先を降ろす。
「ちくしょう、でも菜摘が危なねぇことに変わりはねぇ!」
「話してくれ!」
「菜摘に何があったんだい!?」
事の顛末を訊ねる裕作とマジシャイン。
映士は菜摘をヒカルの偽者に渡して来たのだ。
「くそ、早く菜摘の所へ戻らねぇと!」
走り出す3人。そこで誰かが呼び止める声がした。
「その必要はないぜ。菜摘なら無事だ。今の所はな、手を出さないでもらっているのさ」
「おまえ、壬琴!」
声を上げるボウケンシルバー。
「待て本物か?おまえ」
尋ねる裕作を笑い飛ばす壬琴。
「はははッ、俺が本物だろうが偽者だろうがどうだっていいだろう。一つ教えておいてろうか。俺は最初からゲームをしていたのさ」
「ゲーム?」
問い返すヒカル。
「あぁ、殺し合いには乗らない。俺が本当にそう思っていると、5人騙せるか。
5人騙せたら、今度は殺し合いにスカウトしてくるヤツに乗ってやろうってな。おまえらのおかげで目標オーバーだ。と言うわけさ、行くぜ!」
信じられないものを見るようだった。
「クロノチェンジャー!」
壬琴が嵌めていたのはクロノチェンジャー。壬琴の身体をグリーンの粒子が包んで行く。
「やめろ!」
裕作が叫ぶ。その前に出たのは映士だ。
「アイツは俺がやる。ヒカル頼む、もう一人のヤツから菜摘を」
「映士、しかし……」
「つべこべ言ってる時間はねぇ!ヒカル頼む」
マジシャインは頷いて菜摘の元へ走り去る。
怒りに震える裕作。
今ほど制限を無力に感じたことは無い。
映士はタイムグリーンになった壬琴の前に立ちはだかる。
「安心しろ裕作、俺様が必ず取り戻してやる!行くぜっ!!!!!」
☆
「客だと、誰かと思えば」
サラマンデスは振り返る。
こちらに歩み寄る巨躯は忘れようがない忌まわしい兄の姿だ。
憎悪か憤怒か、身体に猛々しいオーラ纏いサラマンデスを凝視し歩み寄る。
「これはこれは兄上。まだこのサラマンデスに未練がおありですか?」
「未練か……。未練と言えば未練よな……」
「ふ、笑止。貴様が未練に思うは母上グランディーヌのことであろう!
一度は死に、ここでも屠られ……。まだなお、母上の寵愛を欲するとはどこまで貪欲なのだ」
憤りのままに兄と対峙するサラマンデス。
ジルフィーザは、ただ静かに問いかける。
「そこまでにこの冥王が疎ましいか?」
「疎ましいなど、そのような言葉では生ぬるいわ。消え失せろ、塵一つ存在を残さずにな」
ククク、ジルフィーザの肩が揺れ微かな声が漏れる。
819
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:09:22 ID:???0
「許せ、愚かだが愛しい弟よ。このジルフィーザ、母上のため、そして何より貴様自身のために……」
泣いているのか、笑っているのかジルフィーザ自身も気付かぬ声だった。
そして反転。
「サラマンデスッ!!!!この冥王ジルフィーザ。冥王の名にかけて貴様を叩き臥せてくれるわ!!」
地の底から、いやまさしく冥府から響く咆吼。
サラマンデスは刹那たじろぐも、すぐさまゴウライチェンジャーを構える。
「笑わせるな!一度落ちた冥王に負けはせぬ!貴様など玩具相手で充分だ!!!ゴウライシノビチェンジ!!!」
サラマンデスは鍬形の装甲を身に纏う。
「クワガライジャー!」
腕を唸らせジルフィーザへ迫る。
「逝け!ジルフィーザァァァァァァッ!」
叫びながら喉元目掛け手刀を突き出す。
ジルフィーザは身動きできぬまま……。否、旋風の如く身体を反転させ避ける。
「おのれ!」
クワガライジャー振り向きざまに薙ぎ払う。
だがすでにジルフィーザは駆け抜けた後だった。
一足飛びで踏み込んでクワガライジャーは次々と切り込んでいく。
それをジルフィーザは手にした杖で捌き払う。
「愚かな、シュリケンジャー如きの甘言に惑わされ破滅の道を進むか!」
「ほざけ!」
同時に、ジルフィーザは杖を振り下ろし、クワガライジャーは手刀を突き上げる。
両者は弾き飛ばされ、数メートル挟んで再び対峙する。
先に仕掛けたのはクワガライジャー。
「破滅の道を歩むのは貴様だ!タアアアアァァァァッーーーーーーーーーー!!!!」
怒気を発し、叫びながら自らの腕を二つの刀と化しジルフィーザへ向かい真っ直ぐに飛んだ。そのまま両腕を引き構え即座に突き立てる。
「ハーハッハハハハァーーーーー!どうです兄上、これがあなたがくびり殺そうとした赤子だ!!貴様が疎み、恐れた、これがサラマンデスだァーーー!」
数歩後退しながらも、それを受けきり大音声で吼えるジルフィーザ。
「甘い!これしきの打撃が龍冥王とは片腹痛い。見るがいい!!」
ジルフィーザの掌より出現せし光球がクワガライジャーへ急迫する。
咄嗟に身を翻し、僅かな動作で打撃を繰り出すクワガライジャー。
ジルフィーザもまた寸前の間合いでクワガライジャーへと杖を振るう。
「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッーーーーーーー!!!!!!」
重なり合う二つの声と、躯を抉る鈍い音が不協和音を奏でた。
☆
「サガスナイパー!」
逆袈裟に切り上げてくる切っ先を間一髪避けるタイムグリーン。
怒りはMAX、フルパワーで切り掛かってくるボウケンシルバーに思いの他、苦戦を強いられていた。
(待ったく、冥王ブラザーズのおかげで予定が狂った)
もとよりこちらの相手はサラマンデスにさせるはずだった。
そのサラマンデスは追ってきたジルフィーザと戦闘中。
先程のジルフィーザの気迫ではサラマンデス一人では心許ない。
早く駆けつけてジルフィーザこそここで討つべきだというのに。
(さっさと終わらせるにはどんな手がいいかな)
逸る気持ちを抑え手を思案する。
早く終わらせなければならないもう一つの理由。それは制限だった。
タイムグリーンの変身解除後、シュリケンジャーになるまでは数分のタイムラグがあるのだ。
(たかが数分されど数分だからね)
加えて手負いの身。長引けば長引くほど敗北の可能性は高くなる。
「ヤアアアアーーーーーッ」
ボウケンシルバーが滑るように間合いを詰め、燕返しにサガスナイパーを振るってきた。
(くッ、中々やるね。パワーファイターかと思えば、スピードも鈍くない)
後方へ跳躍し攻撃を避ける。
(だけどタイムグリーンの方がスピードじゃ負けない。さぁ、メンタルはどうかな?)
さらに疾走して自らの距離まで間合いを取った。
「ハーーーーーーーーッ!タァーーーー!!」
低く構えた状態から地を這う蜘蛛の如く砂煙を上げボウケンシルバーへ近づき放つ。
「ベクターエンドビート9!」
ダブルベクターが、時計の9時を刺す。大振りに揺れる針がボウケンシルバーへ切り掛かる。
「ダアアアアーーーッ!!そんなもんで俺様が倒れるかよッ!喰らいやがれ!!!」
ボウケンシルバーはサガスナイパーを引き構える。
820
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:10:00 ID:???0
そして煌めきながら真っ直ぐ突き出されるは、鋭い打突。
だが、
「何っ……!!」
驚愕の声を上げたのはボウケンシルバー。
ボウケンシルバーが貫いたのは只の木片だった。
「HAHAHAHA!掛かったね!」
仕掛けたのはタイムグリーン。 超忍法抜け身を応用したまで。
ただしスーツは脱がず、木片に身を移しただけ。
そしてボウケンシルバーを抜き去ってその向こうの標的まで一気に詰め寄る。
そう、砂煙に片手で顔を覆い、立った今気付いた裕作へ。目を見開いて標的は自分だと気付いた裕作へ。
「や……止めろーーーーーーー!!!」
叫ぶボウケンシルバーの声に耳は貸さず。
容赦なく、躊躇なく、ダブルベクターの刃先を裕作の生身へ向ける。夕陽と炎に刃先を橙色に煌めかせ。
「サガストライク!!!」
光の銃弾はタイムグリーン捕らえたはず。
否。
タイムグリーンは元より忍者、加えてスーツの特性を生かしただけ。
盾となった裕作は、声も無く白目を向いて倒れて行く。
「あ……、う、嘘だろ……」
茫然自失。声を上げるのはボウケンシルバー。予想通りに弱いメンタル。
音も無く摺り足で近づき静かに放つ必殺は……。
「ボルパルサー」
文字通り、ぽっかり胸に穴が空いたボウケンシルバー。
「HAHAHAHAHAHA」
タイムグリーンは低く笑い、サラマンデスの元へと踵を返す。
その背後に、ゆらりと亡霊のような影と声。
「まだ……。終わりじゃ…ねぇ……」
ゆっくりと振りかぶり、シルバーブレイザーをタイムグリーンのマスクに突き立てたのは裕作。
だが悲しいかな、生身の力では傷をつけること叶わない。
「頼む……シオンの、シオンのスーツ……なんだよ」
そう言いながらもう一度マスクへシルバーブレイザーを突き立てた。
ずるり、それは涙を浮かべた裕作の身体が地に倒れ込む音。
「お坊ちゃんの様子を見に行かなきゃね」
溜息混じりに背を向けるシュリケンジャー。
亡霊はもう一人。背後へ忍び寄る。
「悪いが……俺様は……諦めが悪くてなぁああああああーーーー…………。やっぱ…無理か……」
ダブルベクターの切れ味は最高。
無言で薙ぎ払えはそれだけで終わりだった。
残心を示すタイムグリーンも、最期に浮かべた映士の寂しげな笑いには、ジョークの一つも出てこなかった。
☆
「一体どういうつもりだ!」
クワガライジャーは怒声を発した。
二人の攻撃がぶつかり合うかと思われた瞬間。
ジルフィーザは杖を振るわずクワガライジャーを受け止めるように両手を拡げた。
寸前でクワガライジャーは攻撃の手を弛めたがジルフィーザの胸に両手の甲までが食い込んでいる。
それを抜こうとするクワガライジャーの両腕をがっしりとジルフィーザが掴んでいるのだ。
まるで自らがクワガライジャーの両手を胸に突き刺すように、クワガライジャーの両手を抱え込んでいる。
「サラマンデス……」
ジルフィーザの目に怒りは無い。ただ突き抜ける空のようだ。刹那そう感じたクワガライジャーはそれを即座に否定する。
「何を謀る!ジルフィーザ」
ただ空のようなその双眸から何故か眼を離せずにいる。
「今、貫いたのはこのジルフィーザであり、おまえ自身だ。憎悪の中で生まれたサラマンデスはたった今死んだのだ。
ドロップ、この手でおまえの手を握らず、なぜ俺はおまえの首を絞めたのであろう……」
クワガライジャーの仮面の下で、ドロップは思い出す。
「愚かだ…愚かな……」
かつて感じた愛おしいぬくもり、そっと置かれた兄の暖かな手を。
「この……愚かな兄と同じ道を辿るな。何が冥王か、何を持って王か……。母上の愛に目が眩み。何も映さぬ眼を持って何が王か……!」
胸を付くこの感情は何なのだ。認めるわけにはいかない。冥王は2人はいらないのだ。
821
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:11:08 ID:???0
「なっ、貴様何を」
ジルフィーザの片手がクワガライジャーのマスクへ。
「兄として男として道を示してやれず……。済まぬ。強くなったな弟よ」
蘇る。頬を撫でる、兄の大きな手。その手は今マスク越しにドロップの頬を撫でている。
「花は土へ、雨は水へ、死者は死者へ還る。その前にドロップ、道を誤るおまえを。いや、もう一度この手で撫でてやりたかった」
本当は知っている。
知っているのだ。
幼い自分を撫でたその手を。
「兄……上…」
ジルフィーザの胸からそっと腕を引き抜く。ふと、気付く気配にクワガライジャーは身構える。
「今更、兄弟仲良くお涙頂戴とは笑わせるねっ」
そこにはベクターハーレーを構えるタイムグリーンがいた。
タイムグリーンは初動が遅れたクワガライジャー目掛け、間髪入れずに斬りかかって来た。
「おのれ!」
怒りを漲らせたジルフィーザが杖を構え、クワガライジャーを突き放した。
「ここはこのジルフィーザに任せ退けィ!ドロップ」
「ヘイ、麗しい兄弟愛だね」
背後へ肉薄したタイムグリーンはジルフィーザの腕から杖を奪い取った。
「YA!」
そのままジルフィーザの太股へその杖を突き刺す。
「グワッ……!」
灼熱の痛みにジルフィーザは呻きを漏らす。
本来ならばこれしきの痛み、跳ね付ければ終わりのはず、しかし制限が切れたのだ。身体が沈んで行く。
だがジルフィーザは耐え足を踏みしめ叫ぶ。
「何をしている。ドロップ退け!」
無力さを思い知らしめるかのように、タイムグリーンは杖を深く深く突き立てジルフィーザを地へ張り付ける。
「謀反を企てられるのは君主としてのユーに魅力が無かった。それは解ったみたいだね。そして……」
跳躍したタイムグリーンは、クワガライジャーの背後に廻り背中へ手刀を振り下ろした。
「グアッッ!」
サラマンデスの纏っていた鍬形の装甲が解けた。
「君主を平気で裏切る真似は、忍としてのミーが許せない」
倒れるサラマンデスの耳元でゆっくりと囁いた。
「ヘイお坊ちゃま。ユーはここで死んだほうがいい。サイマ一族のためにもね☆」
言うや跳躍して一瞬で距離を取る。
「グッ、おのれ!我が弟を愚弄するか」
怒りを表にしたのはサラマンデスでは無くジルフィーザだった。
「ビンゴだろうジルフィーザ!ユーたちでは一族を引っ張る力なんてナッシング。さぁ、兄弟仲良く冥土で反省会でもするといい」
「弟には指一本触れさせぬ!」
「ホワイ?止められると思うかい」
ジルフィーザへ身体を向けた瞬間、パンッという音と共にタイムグリーンの頭が除ける。
すぐにもう一度。
パンッ!
タイムグリーンに向けられていたのは一つ目のライフル銃。
ジルフィーザがライフルを構えタイムグリーンを狙い撃ったのだ。
「オーノー!ジルフィーザ。それは余りにも無茶な攻撃だ。」
軽く嘲りながらマスクの目元を指でパンッと弾く。
ジルフィーザは無言でもう一度引き金を弾く。
「ヘイ、冥王のプライドはどう……」
パンッ。軽い音がマスクを弾く。
「いらぬ。プライドなどいらぬわ」
パンッ!再度引き金を引いたジルフィーザは、倒れているサラマンデスに一度視線を落とした。
退け、ジルフィーザの眼が言っている。
「なら望みどおりジルフィーザ、ユーから送ってあげるよ」
タイムグリーンはツインベクターを構えた。
不意にサラマンデスへ振り返り、
「さぁ、どうするサラマンデス。ラストチャンスだ。ユーはまだ若いし、まだまだ可能性がある。ミーに付くならブラザーの命がある内に言うんだね」
怒りに拳を握りしめ炎柱を立ち上げながらサラマンデスが叫ぶ。
「ウワアアアアアアーーーー!」
「HAHAHAHA、なんてね☆いくらユーでもこれは嘘だって解るはずだね。
どうやら制限が解けたみたいだけど。でもそんな炎!ミーには火遁の術ほど効かな……」
パンッ。
また同じように軽い音だった。
だが次にピシッと異質な音がマスク全体に走った。
サラマンデスの炎が迫っていた。
822
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:12:49 ID:???0
渦を巻き龍の如く眼前へ襲い掛かる炎の圧力でタイムグリーンのマスクは粉々に砕け舞い散った。
サラマンデスが叫ぶと同時にジルフィーザは最後の銃弾を放ったのだ。
「グアア………………ッッアアアーーーーーーッ!!!!」
炎がマスクの中の素顔を舐めるように広がり焼いていく。
「ン………グァアアアーーーー!ァオ……ノーーーー!」
のたうちまわりながらタイムグリーンは変身を解除した。
「ウ……グッ……」
呻き声を上げ立ち上がろうと膝を付いた。
ガクリと、体勢が崩れた時。
「……!?」
スルスルッ。
そうホットミルクに張った皮膜を、スプーンに絡めて剥ぎ取るように、むしろそれより滑らかに。
焼け爛れた皮膚がシュリケンジャーの頬から落ちる。
「…………」
シュリケンジャーは声も出さず地に流れた素顔を見つめ、やがて狂ったように笑い始めた。
「HAHAHAHAHA!!!!HAHAHAHAHAAAAAA!!!!!!!!ガッデム!背後は炎!前には冥王ブラザーズ!ミーは万事休すだ!」
シュリケンジャーの制限が解けるまで後たった数分だった。そして奇しくもゴウライチェンジャーはサラマンデスの手にある。
「だが敢えてサンキューと言っておくよ?素顔を晒して死なずに済むそれだけが救い……。このシュリケンジャー!引き際は自ら引くさ☆さらば」
シュリケンジャーは身を翻し炎の中へ飛び込む。
御前様と心で名を呼び命の尽きる時を迎えようとした。
だが一陣の風のように、炎を突き進む影が現れた。
悲しげな遠吠えを発し飛び込もうとしたシュリケンジャーを背に乗せ駆ける。
「兄上!あれは」
「ぬう、マーフィー!?」
驚愕の声をあげるジルフィーザ。
「マーフィー?ユーがミーを助けてくれたんだね」
マーフィーの首に抱き着いたシュリケンジャーは笑いながら懐に手を忍ばせた。
「うーん、やっぱりミーはまだ死ぬには早いようだ。ヘイマーフィーご褒美だ!」
シュリケンジャーは奪った支給品からキーボーンを取り出しポンと放り投げた。マーフィーはキーボーンをジャンピングキャッチ。
そして変形して行く。
「HAHAHAHA!」
眼窩が飛び出るほどシュリケンジャーは興奮した笑いを立てた。
「アイムラッキー!ユーアーグレイト!!」
バズーカへ変形したマーフィーはシュリケンジャーの腕へ。
「OKマーフィー!行くぜ、アイツらは悪者だ!GOー!!」
バズーカとなったマーフィーから光弾が発射される。
幾重もの光の触手が一斉に獲物目掛けて伸びて行くようだ。
「グアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
両手を限界まで広げ、ジルフィーザは身がすくむほどの雄叫びを上げた。
「あ、兄上ェーーーーーーーーッ!!!!」
サラマンデスの叫びとジルフィーザの雄叫びが重なる。
魂さえも震わせる炎の中の共鳴。
そして着弾と共に視界は真っ白に染まった。
「ミーもこの傷だし。一旦ここでグッバイさ。次に合う時はユーの知らない顔だけどね!」
真っ白な世界に、シュリケンジャーの声が韻を残した。
☆
「……ウ……ウウググアアアアーーーーー!……何故?何故だ」
悲痛な叫びが反響する。
ジルフィーザの前に腹部に穴の開けられたサラマンデスが立っていた。
「め……冥王…今……しばらくの…お待ち……を」
話すのもままならぬサラマンデスは、ジルフィーザに突き立てられた杖を抜こうと手を伸ばした。
「何故……。何故だ、退けと言ったはず……」
サラマンデスはただ首を横に振った。
杖を掴み、引き抜こうと力を入れるたび、サラマンデスの身体からは夥しい血液が飛び散った。
「何故だ。ドロップ!」
それでも力任せに引き抜き、杖をジルフィーザへ握らせる。
ふらり、力尽きたかサラマンデスは前へ倒れ込んだ。
823
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:13:27 ID:???0
ジルフィーザが抱き起こそうとするもそれを片手で制す。
そしてそのままジルフィーザへ向かい跪いたのだ。
「とり急ぎご報告を……」
麗、美希、ティターン、そしてドロップのために命を落とした巽纏。
ジルフィーザと出会えた後からここまで。そしてシュリケンジャーの狙い。
知りうるすべてをつぶさに克明にサラマンデスは語り上げた。
全てを語り終え、ついにサラマンデスは崩折れる。
咄嗟に手を差し伸べるジルフィーザを再び制す。
「せめて、最期は誇り高きサイマ一族として、冥王にお仕えして逝かせて頂きたいのです」
明瞭な声ではっきりと告げる。
「貴様の忠義、確かに受け取った……」
「ありがたき幸せ」
そのまま目を閉じて逝くつもりだった。
「どうぞ、冥王。私に……構わず…。お進みくだ…さい」
「うむ……」
だが去りゆく兄の背中をもう一目だけ、と。
霞む視界で見つめ、大きく息を吐く。
これが最期の言葉になるかもしれない。兄の大きな背に向け、サラマンデスは声を振り絞った。
「御武運…を……」
もう役目は終わった。
爪先から徐々に力が抜けていくようだった。
「……!?」
倒れ行くサラマンデスを受け止めたのは大地ではなく力強い腕。
力の抜けていく身体を抱き留める腕がある。
「許せ、おまえの望むままに送ってやれぬ、この愚かな兄を……」
サラマンデスの肩をジルフィーザが抱き留める。
「死ぬなっ、死ぬな……。死なないでくれ!愛しい我が弟……ドロップッ!」
――――……見つけ…た。お兄……ちゃん。
ジルフィーザの腕の中で最期にサラマンデスは穏やかに、微笑んだ。
「ねぇ。お姉ちゃん、見える?これが兄上。ボクのお兄ちゃん…だよ……」
事切れる前だった。
誰にも聞こえないほどのほんの小さな声で、はにかみながらドロップが呟いたのは。
【高丘映士 死亡】
【童鬼ドロップ 死亡】
【早川裕作 死亡】
残り18名
824
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:14:35 ID:???0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。理由不明のイライラ。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:シュリケンジャーの話を頼りに理央の元へ。
第二行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)に復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
メレの(他一品と表記)不明支給品は聖聖縛@獣拳戦隊ゲキレンジャーでした。
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。ビビデビにやられました飛行中です。
[装備]:ダイノマインダー、ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー 、ダブルゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、
[道具]:なし
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:次元虫の解体手術を行う予定でしたが……。
第二行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第三行動方針: 首輪の解析。
備考:ダイノハープを見つけました(麗へ支給された何かの鍵でした)アバレブラックへの変身が可能となります。
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。 2時間能力発揮不可能。
[装備]:なし
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:シュリケンジャーの配下として動く。
第二行動方針:メレを追う。
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:健康。現在は素顔。 顔面全体重度の火傷。 シュリケンジャーへ後数分、タイムグリーンへ2時間変身不可能。
[装備]:スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー 、シュリケンボール 、クロノチェンジャー(タイムグリーン、マスクが割れています)
[道具]:知恵の実、映士の不明支給品(確認済)、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式×4(水なし)SPD隊員服(セン)
キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、両方表のコイン
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。 それがだめならアレの消滅を願う。
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
・集められた支給品一式の内、炎の騎馬@忍風戦隊ハリケンジャー、はG6エリアに放置されています。
825
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/05/26(水) 17:24:24 ID:???0
そして。
急に嗚咽がやんだかと思うと、
「ねぇ〜〜〜〜。ヒカルぅ、正義って何?」
虚ろな瞳で菜摘は言った。
「菜摘?」
「ねぇ、正義って何なんだろう。映士たちにこんな事したヤツを殺してやりたいよ」
「やめてくれないか、映士たちがなんて思う」
「私たちが今までしてきた事の逆を考えれば、私たちは何なの?私たちって正義って言えるの?」
菜摘の剣幕に口ごもるヒカル。
正義とは、問われて明確な答がなぜか見付からない。
ただ掛ける言葉も無く、肩に手を置こうと菜摘に近づいた瞬間、ヒカルの足は止まった。
思わず振り返らずには居られないほどの恕気を背後に感じた。
「どうした。答えないのか?聞かせてもらおう人間よ、貴様等の言う正義とは、何だ……」
黄金色の体躯、悪魔のような翼と角を持った男、ジルフィーザは弟ドロップの亡骸を胸に抱えていた。
一瞬、逃げるか?否か?どちらを取るかと考えが脳裏を横切るが、力無く座り込んだままの菜摘をつれて逃げ切れるとも言い切れない。
「菜摘、下がっていてくれ。正義をボクにそれを聞いてどうする?満足できなければボクたちを殺すのか」
「満足?殺すだと?そのような言葉では生温いわ!!滅ぶがいい人間どもなど!弟の命の代償は星を丸ごと潰したとて到底足りぬわ!!!」
ジルフィーザが動く。
唸り声と共に振り上げた杖の先はヒカルの脇腹を狙う。
一瞬の出来事だった。杖の先が直撃する直前、ヒカルはサンジェルに姿を変えとっさに呪文を詠唱する。
「プロミネンスシュート!」
視界全体を包むほどの光がジルフィーザへ向かって収束を始める。
「ジンライシノビチェンジ!!」
ゴウライチェンジャーを装着し距離をつめるジルフィーザ。
炎を背に二人は対峙して、そして……。
826
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/05/26(水) 17:24:59 ID:???0
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。 1時間半マジシャインに変身不能
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー 深雪の残したメモ
[思考]
基本方針:時間を戻し、歴史の修正を行う。(情報を映士、深雪へ伝える。世界の崩壊を止めるための死に場所は広間)
第一行動方針:歴史の修正を行うための準備をする(情報集め)
第二行動方針:菜摘を捜す。
第三行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。また、映士から情報を得ました。
マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:胸、太股に深い傷。ドロップを失い深い悲しみと怒り 一時間半能力開放不可
[装備]:杖 、ゴウライチェンジャー(クワガ)@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、予備弾装(催涙弾5発)、サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(バンキュリア)
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの死に深い悲しみ
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。 Tシャツと下着姿。カーテンを纏った状態です。 一時間程度イエローレーサーに変身出来ません。
[装備]:アクセルブレス 、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:なし
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:気絶中
第二行動方針:仲間(シグナルマン)を探す。
備考:
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。
※菜摘の衣服はG6エリアで燃えたと思われます。首輪(ドギー、深雪、アンキロ)、サーガインの死体(首輪付き)はG6エリアに放置されています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと裕作から掻い摘んだ説明は受けました。
827
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:46:17 ID:???0
規制中のようなので、こちらに投下いたします。
828
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:46:56 ID:???0
宙に浮かんだかのような浮遊感。だが、それを感じたのも一瞬のこと。
重力という何者も抗えない力に押され、壬琴の身体は真っ逆様に落ちていく。
地面を覆うのは不幸にもアスファルト。
クッションになるようなものはなく、このまま自由落下に任せれば、壬琴の白いコートが赤一色に染まるのは免れないだろう。
「ちっ!」
自らが置かれている状況を把握した壬琴は、懐から蝙蝠を模した扇を取り出す。
「ゲキファン!」
広げた扇に空力を集め、重力に逆らうように方向をコントロールする。
すると、たちまち落ちる一方だった壬琴の身体は反転し、弧を描いた。
後はゆっくりと落下していけばいい。
危機を回避したことに、壬琴は心中でホッと息を吐く。
だが、その瞬間、壬琴の右半身を衝撃が襲った。
何事かと視線を向けると、粉々に砕け散った看板が眼に入った。
それは壬琴にしては有り得ないほどの単純なミス。
浮かび上がった身体は、集まった力の差でわずかに右にそれ、突出した看板に自ら衝突したのだ。
(馬鹿な)
動揺は連鎖を引き起こす。
右の翼を失った鳥は、いくら左の翼で羽ばたこうとも飛べはしない。
結果、壬琴はアスファルトの地面に叩き付けられた。
「ぐぉっ!」
壬琴の口から血反吐混じりのくぐもった悲鳴が上がる。
高さが修正されたおかげで白いコートが染まるのは免れたが、受けた痛みは軽いものではなかった。
応急処置をした胸部や腹部の傷にも影響を及ぼすことだろう。
「……やってくれるじゃねぇか、ビビデビッ!」
痛みを堪えながら、この現状に陥れた相手の名を口にする。
「シュリケンジャーに乗せられたか?それにしたって、どこかのワニよりかは余程、優秀な奴だ。この借りは返してやるぜ」
壬琴は自らの拳を力強く握ると、一息で立ち上がった。
身体が休息が欲しいと悲鳴を上げるが、身体の主たる壬琴はそれを叱責する。
「ようやく面白くなりそうだ。あいつらが俺がいない間に何をするつもりか。俺があいつらの立場だったら何をするか。……ときめくぜ」
829
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:47:43 ID:???0
壬琴は最悪の展開を思い描き、口元に笑みを浮かべた。
▽
アスファルトの道にマシンハスキーを走らせる蒼太。
ネジブルーたちとの一戦の後、道すがらに目にしたスタジアムの探索を収穫なしで終え、彼は今、暁たちの下へ帰還している最中だ。
さくらの気持ちを察し、別行動をとってからおよそ6時間。
気持ちを切り替えるには足りないかも知れないが、暁との交流には充分な時間だろう。
それでさくらが立ち直ってくれるのを祈るのみだ。
ディパックからアクセルテクターが消え去ったことは確認した。
それは暁が変身した証であり、変身が必要とされる事態が起こったことの証左。
暁のことだ。事態の鎮静化は間違いないだろうが、これから2時間の間、彼は無防備になる。
戻ると決めた以上は急ぐに越したことはない。蒼太はアクセルを噴かした。
だが、そんなときに限って、厄介事は舞い込むもの。
エンジン音を聞きつけたのか、ビルの陰から白いコートの男が蒼太の前に姿を現す。
「よぉ」
殺し合いの場だというのに、まるでタクシーを止めるような気安さで手を上げる男。
蒼太はその男の名前だけは把握していた。仲代壬琴だ。
進路を遮る壬琴に、已む無く、蒼太はブレーキをかけ、彼の前で停止した。
「何か用ですか?それなりに急いでるんですけど」
彼が目的か気になりつつも、あえて積極的に関わろうとせず、おざなりな対応をする蒼太。
壬琴はその態度を特に気にした様子もなく、左手を差し出す。
「地図を貸せ。ちょいと調べたいことがあってな」
「地図?ああ、道に迷ってるんですか。なら、どうぞ」
蒼太から地図を受け取ると、壬琴は直ぐに眼を通し始めた。
「なんなら、プレゼントしますよ、それ。今は単独行動中ですけど、もう直ぐ仲間と合流予定なんです」
壬琴のスタンスを見極めようと、蒼太はふたつの餌をぶら下げる。
殺し合いに乗っているのなら単独行動という餌に、脱出を目指しているのなら仲間という餌に喰いついて来るはずだ。
「でも、タクシー代わりはご免ですよ。バイクに乗る時は、後部座席に乗せるのは女の子だけって決めてるんで」
830
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:49:22 ID:???0
軽口を叩き、相手の反応を見遣る。だが、壬琴はこちらの言葉を気にした様子は見せず、見終わった地図を投げ返す。
「知りたいことはわかった。じゃあな」
そして、別れの言葉を口にすると、蒼太の横を通り過ぎ、そのまま去って行った。
▽
「こいつは派手にやったもんだ」
黒く煤けた大地に、壬琴は感嘆の声を漏らす。
道に迷い、それ相応の時間が経ってしまったとはいえ、1人が使える時間が10分ということに変わりはない。
そして、突然の第三者が紛れ込まない限り、シュリケンジャー側の戦力は精々2人と1匹。対して、こちらは4人。
だが、スタジアムと似たこの有様を見れば、どちらが戦局を有利に進めたかは明らかだ。
周辺を歩きながら、壬琴は更に思考をめぐらせる。
死体らしきものは見えない。骨まで残さず燃やし尽くされたのか、誰かが回収したのか、それとも、誰も死ななかったのか。
しかし、この場に生存者の姿も見えないということは菜摘らにとってあまり愉快な結果にならなかったことは想像に難しくない。
「この有様じゃあ、ここにいても無駄だな。さて、これからどうするか」
「じゃあ、僕と一緒に行動するのはどうです?」
ひとり言に対して返された言葉に、壬琴は驚きもせず、声の主の方を向いた。
「なんだ、付いて来やがったのか」
振り向けばそこにいたのは蒼太だった。
蒼太は相変わらずの飄々とした様子で言葉を紡ぐ。
「そりゃあ、あんな態度取られれば気になるでしょ、仲代壬琴さん」
「ほぉ、俺のことを知っているのか。誰から聞いた?」
「別に誰からも。ここに飛ばされるのはあいうえお順だったでしょ。僕は最後の方だったんで、顔と名前を覚えているだけですよ。
ああ、僕は最上蒼太っていいます」
「で、その蒼太さんは仲間と合流するつもりじゃなかったのか」
「そのつもりだったんだけど、まあ、連絡は取り合ってるし、色々あって、特に急いでいないんですよ。
それより、今はあなたの方が気になる。殺し合いに乗ってはいないようですし、かといって積極的に仲間集めをしている風でもない。
仲代さんが何を目的に動いているのか、僕が一番気になっているのはそこです」
「べらべらとよくしゃべる野郎だ」
「そりゃあ、おしゃべりはコミュニケーションの基本ですから」
831
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:51:16 ID:???0
「へっ。まあ、いい。俺の目的はロンを倒し、このゲームを破壊することだ。
だが、生憎とゲームの難易度は高くなさそうなんでな。ちょっと、面白くなるように細工した。
殺し合いに乗った連中が、ゲームクリア寸前の俺を標的にするようにな」
「で、その結果がこれですか」
「まあ、そういうことだ」
蒼太としては多少の皮肉を交えた言葉だったか、壬琴に動じた様子はない。
深い悲しみに呆けているわけでも、比類なき強さで表に出さないよう堪えているわけでもない。
・・・・
(なるほど、そういう人ってことか。昔の僕と同じタイプかな)
昔の自分。冒険のスリルやドキドキを求め、そのためには何を犠牲にすることも厭わなかった。
壬琴からはそんな昔の自分と同じ匂いがする。
しかし、だからといって、IT企業の社長の時のようにお節介を焼くつもりは毛頭ない。
殺し合いに乗っているのならともかく、今の彼は敵か味方かの二元論でいえば、味方の方に天秤は傾く。
それに仲間として考えるのは危険だが、パートナーとして捉えれば、壬琴は申し分ない。
「とりあえず、さっきも言いましたけど、僕と一緒に行動しませんか?
仲代さんに色々聞きたいこともありますし、逆に僕から話せることもある」
早速、蒼太は勧誘の言葉を口にする。
壬琴は蒼太のにやけ顔をまるで値踏みするかのように観察し、じっくり考えると言葉を返した。
「いいだろう。ただし、俺には約束がある。まずはそちらを優先させてもらう」
「その約束の内容を聞いても?」
「賭けに負けちまったんでな、ここで解体手術をやらされることになっていた。
そいつが患者をここに連れ戻る手筈になっていたんだが――」
そこで壬琴は思い当たる。ここに死体が見当たらない理由についてだ。
「ちっ、俺がいない間に入れ違いになったか?そうなると厄介なことだぜ」
面倒くさそうに天を仰ぐ壬琴。
「仲代さん、もう少し詳しく教えてください」
端的にしか言葉にしない壬琴に、蒼太は情報の開示を求める。
832
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:55:25 ID:???0
そして、語られた情報は蒼太の顔を渋いものに変えた。
▽
「ここか」
「ええ」
蒼太と壬琴は共にバイクを走らせ、H6の海岸エリアまで移動していた。
蒼太が乗るバイクの後部座席に壬琴は乗っていない。
炎の騎馬。白鳥スワンに支給され、長い間、シュリケンジャーが利用していたバイクだ。
人も支給品も、全てが失われたと思われていた焼け野原に、唯一残されていた支給品。
その名の通り、炎に耐性でもあったのか、炎の騎馬はそのフォルムに一切の破損もないままに残されていた。
結果、壬琴は炎の騎馬に跨り、蒼太は男を後部座席に乗せることもなく、手早く移動することができていた。
「で、あれがそのオブジェか」
壬琴は目的の物に目を向ける。
タイトルを付けるとすれば、『機械兵と獣』とでもすればいいのだろうか。
コンクリートのようなもので塗り固められた機械兵と獣が激しく争っていた。
「はっ、立派なもんだ。口ほどにもないのはお互い様だったってわけだ」
わざわざ海岸エリアまで足を進めた理由。それは壬琴の話に上がった人物に蒼太が心当たりがあったからだ。
オブジェとなった機械兵の名前はグレイ。壬琴が待っていた約束の相手だ。
「で、これはどうやったら解けるんだ」
オブジェを一頻り観察した後、壬琴は蒼太に問いかける。蒼太はその問いにあっさりと首を振る。
「解除するためには特殊な薬剤が必要みたいですけど、残念ながら」
「そうか。じゃあ、仕方ねぇな」
壬琴は懐から、ダイノコマンダーを取り出す。
アバレブラックへの変身、それが最適な解だと判断したからだ。
だが、対になる鍵、ダイノハーブを構えたところで、壬琴の動きが固まる。
(流石にこれはあんなことにはならねぇだろうな?)
壬琴の脳裏に過ぎるのはクロノチェンジャーを使用した時の苦い記憶。
同系の型のないダイノコマンダーといえども、スーツがアバレイエローにすり替えられてはいないかと、杞憂とも言える事柄に不安を覚えてしまう。
そんなことを知らない蒼太は、壬琴の躊躇いに訝しげな表情を浮かべていた。
833
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:56:49 ID:???0
「ちっ、爆竜チェンジ!」
意を決し、壬琴はダイノハーブをダイノコマンダーに差し込むと、シリンダーを回転させた。
すると、それに反応して、ダイノコマンダーは壬琴のダイノガッツを引き出し、彼の身体をアバレスーツで包んでいく。
「無敵の剛毅木訥、アバレブラック!……で、間違いないようだな」
自分の身に纏った黒いアバレスーツにひとまず安堵する壬琴――アバレブラック。
そして、アバレブラックの鋭い眼光は再びオブジェへと移る。
「さて、やるとするか。ダイノスラスター!」
アバレブラックはダイノスラスターの柄にある目盛りを炎に合わせる。
そして、地面に突きつけると、グレイとネジビザールの彫像に向けて構える。
「ファイヤーインフェルノ!」
アバレブラックの呼びかけに応え、ダイノスラスターから炎が噴き出る。
噴出した炎は一直線に大地を走り、オブジェを包み込んだ。
燃え盛る炎は苛烈に彫像を熱する。その炎を瞳に映し、待つこと数秒。
「ガァァァァッ!!」
野獣の叫びが響き渡り、青色の獣が炎から飛び出る。
そして、それとほぼ同時に黒色の機械兵も炎から姿を見せた。
炎から逃げ出した二体は一瞬にして置かれている状況を判断すると、ネジビザールは吹雪を呼び、グレイは腕に内蔵された銃をアバレブラックへと向ける。
「待ちな、グレイ。俺だ」
引かれ掛けた引き金が止まる。
一瞬にして、アバレブラックが仲代壬琴とグレイは判断した。
だが、その横にいたのは自分を固めた張本人である蒼太。
壬琴の裏切りも警戒し、一歩引いたまま、彼は状況を見据える。
「へっ、まあ説明は後でしてやるよ。とりあえずそこで見てな」
グレイから向けられる視線からその意図を察したアバレブラックは、一笑に付すと、吹雪で炎を沈下したネジビザールに視線を移す。
「なんだい、いつの間にか増えてるね?まあ、いいや。まとめて氷漬けにしてやるよ!」
ネジビザールは吹雪の勢いを強める。冷えた空気が伝わり、生身の蒼太を凍えさせる。
「仲代さん、早くさっきのを。このままじゃあ凍ってしまう」
蒼太の声にネジビザールは余裕の笑みを浮かべる。
「無駄だよ。俺の氷はあの程度の炎じゃあ、掻き消せない」
だが、余裕では壬琴も負けてはいない。仮面の下で彼もまた余裕の笑みを浮かべると、ダイノスラスターの柄を動かした。
834
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:58:50 ID:???0
「スプラッシュインフェルノ!」
ダイノスラスターの呼びかけに応え、どこからともなく発生した大量の水がネジビザールの足元から吹き出る。
水はネジビザールから発せられる冷気に当てられ、一瞬にして凍りつき、彼の身体を拘束する氷の縛となる。
「どうだ?」
「へぇ、なるほどね。だけど、こんなもので俺を閉じ込めたつもり?」
ネジビザールの言う通り、能力の制限下ならいざ知らず、氷での拘束など、わずかな足止めにしかならない。
しかし、そんなことはアバレブラックも承知の上。
「ああ、だから最後の仕上げだぜ。グランドインフェルノ!」
地面に突き刺さるダイノスラスター。途端に地面は二つに割れ、落下するネジビザールをその顎に抱え込んだ。
「ぐっ、ぐがっ」
割れ目に拘束されたネジビザールは力を込め、脱出を計るが、グレイ戦での負傷もあり、身動きをとることができない。
そんなネジビザールの首に、ダイノスラスターの剣先が触れる。
「氷と大地の併せ技だ。流石のお前も脱出には時間がかかるだろうなぁ。チェックメイトだ」
「くっ」
(時間稼ぎさえできれば、まだ逆転の目はある。ディパックの中にあるクロノチェンジャー、あれさえあれば)
ネジビザールに残された作戦。それは以前、手錠で拘束されたときとほぼ同じだ。
人間の姿を取れば、その身体は縮み、隙間が出来る。そして、その瞬間、タイムイエローに変身し、ここから脱出する。
一縷の望みに賭け、ネジビザールはクロノチェンジャーを取り出そうとする。
だが、評決のときは早くも訪れた。
「……と、言いたいところだが、今のところ、お前を殺す気は更々ない」
アバレブラックはダイノスラスターを引っ込め、グレイと蒼太の元へと戻っていく。
折角のチャンスを棒に振るアバレブラックの態度に、ネジビザールの手も止まる。
「貴様、また見逃すつもりか」
ネジビザールが疑問の声を上げるより先にグレイがアバレブラックへと詰め寄った。
「言ったじゃねぇか。それが俺のここでのルールだ」
アバレブラックがその言葉を言うや否や、グレイはハンドグレイザーを撃つ。
狙いはネジビザールの眉間。抜き撃ちに近い銃撃だったが、狙いは1ミリのずれもなく正確だった。
だが、その銃撃は届かない。
835
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:59:36 ID:???0
「貴様!」
ハンドグレイザーから銃弾が飛び出る瞬間、アバレブラックが彼の腕を跳ね上げていた。
「おいおい、いきなり撃つなんて、もう少し冷静にいこうじゃねぇか」
「……!」
無言のまま、グレイの鉄拳がアバレブラックに放たれる。
それを悠々と避けるアバレブラック。
「遅ぇな。蝿が止まるぜ」
グレイも放ったと同時にそのことに気付いた。
本調子の自分では考えらない遅さの拳。制限の時が来たのだ。
だが、そこでグレイは奇妙なことに気付く。彼の体内時計が刻んでいた時間と首輪の制限が掛かったと思われる時間とは大きな差異があった。
その事実はグレイの冷静さを取り戻させる。
「壬琴、どうして、お前がここにいる?」
「やっと冷静になりやがったか?そいつがお前たちを固めたことを聞いたのさ。だから、俺がわざわざ迎えに来たってわけだ」
そいつのところでアバレブラックは蒼太を指す。
指された蒼太は補足するかのように言葉を続けた。
「グレイさんも、ネジブルーさんも、僕にとって、敵か味方かはっきりしなかったんで、動きを止めさしてもらいました。
お二人なら、死ぬこともないかな〜なんて」
この場には不釣合いなほど、フレンドリーな話方をする蒼太。
固めたことに謝意を持っているのかと、グレイは思ったが、同時にそんなことはどうでもよいとも思っていた。
グレイが留意しているのは固まっている間は制限が掛からなかったという事実。
(ならば、外す方法は……)
「で、並樹瞬はどうした?こいつに聞いたんだが、粉々に砕け散ったそうじゃねぇか。じゃあ、俺との賭けも終わりってことでいいのか」
考え事に傾倒し始めたグレイを、アバレブラックが引き戻す。
「それは俺もはっきりさせたいね」
「おや、意外と早かったな」
ネジビザールも地割れからの脱出に力ずくで成功し、グレイの前に再び立った。
逃げるチャンスでもあったというのに、並樹瞬の安否を優先したことに、彼の執着の度合いが伺える。
「………」
蒼太も無言のまま、グレイをじっと見詰めている。
836
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:02:54 ID:???0
その表情からは彼の思惑を計ることはできないが、彼も並樹瞬のことが気になっているのは確かなのだろう。
「……付いて来い」
グレイは全員にその場からの移動を促すと、瞬を隠した場所へと歩き出す。
今までいた場所から、並樹瞬を隠した倉庫まではほんの数分の距離。
だが、数分と雖も、彼らにとっては生死の関わる時間だ。
まず、ネジビザールの制限時間が過ぎ、彼は姿を人間のものに変える。
ネジビザールにとって怪物の姿は元々のものだ。制限下で解除されるようなものではないのだが、彼は人間の姿であることを選んだ。
いつでもタイムイエローに変身できるようにするためだ。
既に両腕のクロノチェンジャーは隙を見て、タイムブルーの物からタイムイエローの物へと変えてある。
続いて、アバレブラックの制限時間が過ぎたことで、4人全員が制限下に入った。
自然と場に緊迫した空気が流れる。もし、誰かが制限中の力とは別の力を持っていれば、一方的な虐殺が可能だからだ。
(さぁて、誰か動くか?今は優勝派にとって絶好のチャンスだ。もっともその時はアバレキラーで返り討ちにしてやるがな)
(こいつ、本当にメガブルーを殺してないんだろうねぇ?不利と悟って俺の制限時間までの時間稼ぎとか?まあ、もっとも俺には切り札があるけどねぇ、ギャハ)
(制限下に入った以上、私に打つ手はない。今は時が過ぎるのを待つしかないが……不確定要素が1人)
(みんな、ダンマリか。やれやれ、これからどう動くにしたって、情報収集はしておきたいんだけどな)
この4人に共通して言えるのは、誰もがそれぞれに仲間意識を持っていないこと。あるのは利害と打算。
酷く不安定なその集団は程なくして、目的の場所へと辿り着く。
「ここだ。だが、どうやら遅かったようだ」
倉庫の入り口。両引き戸になっているそこは強力な力で中から抉じ開けられたように、大きく拉げていた。
他の3人が困惑しつつも、中に入ってみれば、倉庫の一室には焚き木の痕と多量の水が残されているだけで、次元獣の姿はどこにもない。
「おい、まさか、こんなものを見せて誤魔化すつもりかい?」
目的のものがないと知り、ネジブルーが怒りの声を上げる。
「誤魔化してなどいない。私は氷を溶かすために、ここで火を熾した。その火が氷を溶かし、並樹瞬の身を自由にすることに成功したのだろう。
そして、並樹瞬は私の指示通り、北へと向かった」
拉げた扉を指すグレイ。ネジブルーは忌々しげな表情を浮かべると、直ぐに踵を返す。
「まあ、メガブルーが生きてるかどうかは数分後の放送でわかる。今は捕まえることが先決だよね」
「ちょっと待ちな」
「なんだい、急いでるんだけど」
駆け出す寸前のネジブルーに壬琴から制止の声が上がる。
「お前の目的はなんだ?並樹瞬って奴にえらく拘っているようだが、そいつと何かしたいのか?」
837
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:04:21 ID:???0
「ひゃは!俺はね、あいつに一度殺されてるんだよ。だけど、そんな奇跡はもう二度と起こらない。
バラバラに引き裂いて、俺の方が上っていうことをメガブルーに証明してやるんだ」
その光景を想像したのか、不機嫌だったネジブルーの顔はあっという間に愉悦に染まる。
「ふふっ、それなら、さっさと証明すればよかったじゃねぇか。チャンスはあったんだろ?」
「……今のあいつはメガブルーじゃないよ」
愉悦の表情が一瞬にして固まる。
「今のあいつと戦っても単純な攻撃ばっかりでまったく楽しくない。
だから俺は最後の二人になるまで生き残って、あいつを元のメガブルーに戻してもらうんだ。
……そうだね、キミたちを優先するのもいいかもね。今のキミたちなら全員殺害するのに、1分とかからないだろうし」
ネジブルーは左腕のクロノチェンジャーに手を添える。
グレイはライフルを取り出し、蒼太はスコープショットを手に取った。
だが、壬琴は腕を組んだまま、一言だけ口にする。
「俺なら元のメガブルーに戻せるぜ」
ピタリとネジブルーの動きが止まる。
「それは本当かい?」
「ああ、本当だ。俺がこのグレイとつるんでいるのは賭けに負けたからなんだが、その負けたときの条件がメガブルーから次元虫を取り出すってやつだ。
グレイの話によると、次元虫というのを取り出せば、元に戻るらしいぜ。なあ、グレイ」
心の中で絶対とは言わないと呟きつつも素直に肯くグレイ。
「どっちが確実で、かつ近道だと思う?
全員を殺さなきゃいけない上に、約束を守るかもわからないロンを信じるか。
何のメリットもないのに、こんなことに奔走するはめになってとっとと終わらせたい俺を信じるか」
「………」
空気を介してネジブルーが揺れているのが伝わる。もう一息といったところだ。
「別に俺もここでお前とやり合ってもいいんだが、お前の凍らせる力は次元虫の解体手術を楽にしてくれそうだ。
できれば俺も手術は失敗させたくねぇが……さあ、どうする?」
壬琴は左腕に付けられたダイノマインダーを見せる。
(これでもまだ向かって来るような奴なら用はねぇ)
交錯する視線。
ネジブルーは壬琴の眼を見据え、一頻り考えた後、クロノチェンジャーに添えられた手をゆっくりと下ろした。
838
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:06:25 ID:???0
「いいよ、お前が心の奥底で何を考えてるのかは知らないけど、今はそれに乗ってやるよ。
メガブルーを見つけ出し、次元虫とやらを取り出すまでね。もっともその後はどうなるか知らないけどね」
殺気は漲らせつつも、戦闘の意思がないことを示すように、ネジブルーは道を開ける。
「とりあえず、瞬くんを助け出すまでは同盟成立ってことかな。じゃあ、時間も勿体無いし、早速移動しましょう」
蒼太の言葉に誰も異論はなく、身支度を整え、ひとりずつ、倉庫から出て行く。
全員が倉庫から出たとき、早くも問題が持ち上がった。バイクの存在だ。
制限下にある彼らとバイクの速度には雲泥の差がある。
素早く移動したいなら、乗らないという選択は有り得ない。
だが、バイクは2台。対して人数は4人。
2人乗りすればいい話ではあるのだが、運転する側は、相手に背中を見せることになり、無防備状態に陥る。
バイクで移動することを選択するなら、信頼で結ばれていない彼らにとっては誰が運転するかは大きな問題になる。
しかし、その問題はあっさり解決へと導かれた。
「僕と仲代さんが運転で、僕のバイクにはネジブルー、仲代さんのバイクにはグレイが乗るってことでいいですか?」
その提案に蒼太を除く3人は一瞬、言葉を失う。
聡い彼らは、2人がバイクで先行することを唯一無二の解決策として考えていた。
話し合うことがあるとすれば、誰が先行するか。ただ、これも変身手段を残している仲代壬琴とネジブルーで決定だと思っていた。
だが、蒼太は彼らとは違う選択を提案した。
効率の面では間違いなくベストの選択だ。だが、リスクの面で取ることは出来ない選択でもあった。
「おいおい正気かい?俺を後ろに乗せるなんて、うっかりその首、掻っ切っちゃうかも知れないよ?」
「そうだぜ、大体、お前、男は後ろに乗せないんじゃなかったのか?」
「………」
ふたりから皮肉めいた批判が飛ぶ。グレイも言葉にはしないもののどことなく、呆れたような表情だ。
しかし、蒼太は笑みを崩さない。
「大丈夫でしょ。小物なら眼の前にぶら下がった餌に後先考えずに喰いつくでしょうが、目的のためなら呉越同舟も厭わないほど聡いなら今は餌に喰いついてもデメリットの方が大きいのはわかるはずだ。
でしょ?」
「へぇ、言うねぇ」
ネジブルーは牽制も兼ねた蒼太の言葉に、始めて蒼太に興味を抱く。
「もっとも仲代さんの言う通り、男を後部座席に乗せなきゃいけないのは僕にとっては相当苦渋の選択なんですけどね」
「けっ」
あっさりと皮肉を返されたことに壬琴は不満そうだ。
839
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:09:15 ID:???0
「ただし、放送までは徒歩ということで。悪いけど、グレイの言葉を完全に信じたわけじゃないんで」
「……勝手にしろ」
グレイの言葉に嘘があれば、よしんばなかったとしても、放送で並樹瞬の名が呼ばれれば、ネジブルーは理性をなくした獣と化すことは眼に見えている。
この場にいる4人は皆冷静で、皆賢く、皆どこかおかしかった。
▽
放送の時間までは徒歩。
その条件の元、壬琴たち4人は北への道を若干速いペースで歩いていた。
並樹瞬を助けるという共通認識の下、彼らは結集している。
だが、助けた後の行動について考えを巡らせば、4通りのビジョンが描かれていた。
壬琴は首輪について考える。
グレイは自分がオブジェとなっている間、首輪も機能していなかったことに気付いたようだが、それは他の3人も気付いていた。
だが、もっとも真実に近いのは自分だと壬琴は思っていた。
(首輪の機能はコンクリートで固めるだけで容易に止められた。
おそらく、ダイノガッツで抑え込んだり、ネジブルーの凍結能力で凍らせたりする程度で機能自体は止められるはずだ。
その状態で無理矢理外して爆発するかどうかは賭けだが、案外、それも抑えられるんじゃねぇか?)
壬琴の推理には一応の根拠もある。
それはアンキロベイルスの死に様。制限は首輪にではなく、この空間自体にあるという仮説。
(首輪を解除する=死に繋がるというのなら、別に首輪のセキュリティをそこまで頑強にする必要はねぇ。
むしろ必死こいて解除した奴の希望から絶望に変わる面を見るために、わざと隙を作っておいてもよさそうなもんだ。
――俺ならそうする)
口を歪め、ニヤリと悪どい笑みを浮かべる。
(なら、後は首輪を外す実験を誰か適当な奴でするだけだな。それさえ裏づけが取れれば後は簡単だ。
ロンのところに乗り込んで、捻じ伏せてやればいい)
更に笑みを深くする壬琴。蒼太が一瞬、チラリと見るが、直ぐに眼を逸らす。
それに気付かず、壬琴は心の中で雄々しく、宣言する。
(これで全てのピースは揃った。解体手術が終われば、ラストバトルの始まりだぜ、ロン)
「グッ……」
840
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:16:10 ID:???0
不意に右肩に激痛が走る。応急処置に問題はなかった。だが、応急処置は応急処置であって、治療ではない。
それに加え、アバレブラックに変身しての必殺技の連発でダイノガッツを大量に消費している。
(へっ、肝心なところで運に見放されるのは一回死んでも治らねぇか。まあ、そんな状態もときめくがな)
壬琴の表情は傷の痛みに対しても変わらず笑っていた。
▽
(私は何をやっているのだ?)
グレイはそう自分に問いかける。
ネジブルーを倒すためにグレイは単独行動を取った。
そのはずだったのに、今、自分はその憎い仇と共に道を歩んでいる。
並樹瞬を救うための仮初めのチーム。そう自分に言い聞かせるが、憤りは誤魔化せない。
壬琴は隙を見て、グレイの耳元で囁いた。
「次元虫の解体手術が終われば、あいつとの契約は完了なのは俺たちも同じだ。後はお前の好きにすればいい」
それはありがたい慰めの言葉だったが、慰めの言葉を受ける現状に惨めさを感じた。
(シオン、借りを返すためにはどうすればいい。私は……)
▽
(〜♪〜〜〜♪)
ネジブルーは上機嫌だった。
優勝しなければ、戦えないと思っていた真のメガブルーと戦える機会が早々に巡ってきそうだったからだ。
強敵との戦いが楽しいのは事実だ。だが、やはりメガブルーはネジブルーにとっては別格なのだ。
100人の強敵を戦うより、メガブルーを切り裂く方が何倍も魅力的だ。
(そうだ。俺が優勝したら、不死のメガブルーを願おうかな?何度殺しても何度殺しても何度何度何度何度何度何度何度
何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何
度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度
殺してもいいようにさ。きっとメガブルーなら殺される度に新しい策略で俺を楽しませてくれるだろうから。ギャハハハッ!)
彼の頭の中にはメガブルーしかいない。
841
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:21:43 ID:???0
彼にとって、首輪の秘密など、頭に残す価値もない、どうでもいいことだった。
▽
(さて、なんか妙な集団に潜りこんだけど、これからどうしようかな)
自分もその妙な集団の一員という自覚があるのか、ないのか、蒼太はそんなことを考える。
(とりあえず瞬くんが助かるなら、それまでは一緒に行動してみるとするか。
それまでに彼らの人となりもよくわかるだろう。それからが元スパイの腕の見せ所かな)
仲代壬琴、グレイ、ネジブルー、誰もお互いのことを信頼している様子はない。
こんな関係の集団で疑心暗鬼を煽ったところで、然したる効果はないだろう。
とにかくまずは情報集めだ。
(まあ皆とんでもなく無口みたいだから、骨は折れそうだけどね)
そう嘆きつつも、蒼太は今の現状に楽しさを覚えていた。
842
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:27:01 ID:???0
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:アバレブラックに2時間変身不能。肩部、腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済ですが……?)。
[装備]:ダイノマインダー、ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー 、ダブルゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、
[道具]:炎の騎馬@忍風戦隊ハリケンジャー
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:瞬を見つけ、次元虫の解体手術を行う。
第二行動方針:首輪の解析。
第三行動方針:ロンに戦いを仕掛ける。
第四行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
[備考]
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪の外し方を思いつきました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
843
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:27:47 ID:???0
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3後
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:健康。ボウケンブルーに1時間変身不能。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:現在のチームと一緒に並樹瞬を探す。その後、次元虫の解体手術。
第二行動方針:壬琴、グレイ、ネジブルーの人となりを見極め対処する。
第三行動方針:目的を果たす為、ロンの出した条件を飲む。
第四行動方針:チーフと合流。
[備考]
※首輪がデュアルクラッシャーで無効化可能であることを知りました。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。明石、さくらと情報交換を行いました。
844
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:28:53 ID:???0
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:2時間の能力制限。タイムブルーに2時間変身不能。全身に打撲、切り傷あり。背骨に深刻なダメージ。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー(黄)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、ドライガン@忍風戦隊ハリケンジャー、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン
ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
スフィンクスの首輪、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す。
第一行動方針:並樹瞬を生き返らせ決着をつける。
[備考]
※首輪がデュアルクラッシャーで無効化されていたことを知りました。
※2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。
※タイムブルーのクロノスーツは破損により、スーツとしての役割は期待出来ません。
845
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:29:28 ID:???0
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:2時間の能力制限。身体中に切傷。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数2発)
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘。
第一行動方針:瞬を見つけ、次元虫の解体手術を行う。
第二行動方針:ネジブルーを倒す。
第三行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
[備考]
※首輪がデュアルクラッシャーで無効化されていたことを知りました。
※2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
※氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
846
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:43:22 ID:???0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などがあればお願いします。
847
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/20(金) 07:25:28 ID:???O
>>846
投下GJです。
方針が異なる一癖も二癖もある4人が同じ目的の為手を組む展開にドキドキハラハラしながら読み読ませてもらいました。
更に今後を占う伏線の数々に妄想を掻き立てられました。
改めてGJです(*^o^*)
848
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/22(日) 13:48:20 ID:???C
投下GJです!
感想が遅くなってしまい、申し訳ありません
まさかの呉越同舟、腹の探り合いが何故か楽しくワクワクしました。
先の展開の見えなさがかえって次の展開へのドキドキ感を掻き立てます。
面白かった!重ねてGJです!
849
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:29:09 ID:???0
感想ありがとうございます。
未だ、規制が解かれませんので、こちらに投下いたします。
850
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:29:44 ID:???0
「HAHA、改めて見るとこれは酷い」
シュリケンジャーは鏡で自分の顔を見て思わず呟いた。
その顔は爛れ、膨れ、腫れ、抉れ、元の顔の面影を微塵にも残していなかった。
酷すぎて、思わず笑いがこぼれるほどだ。
「これでミーは名実共に顔のない忍者になったわけだ。でも、これは慣れていない人にとってはとてもショッキングだ」
顔を触り、ゆっくりとこねる。
それだけで彼の顔は表情のないラバーマスクを付けたような状態に変わる。
(さ〜て、誰の顔にしようかな。………そうだ、彼にしよう)
眼は細め、鼻は高くもなく低くもなく、風貌はどことなく幼さを残している。
そうそう、髪を緑色にすることを忘れてはいけない。
「これで顔の方はオッケー、えーと、声は確か……ううん、あー、あー、ああーーっと、ドモンさん。ドモンさーん。
うん、これでよしっと。後は体系を少し小さめに変えれば………………………………よーし、完成だ」
その場で軽くターンを行い、最後の確認を行う。
問題ない。その姿は誰がどうみても、シオンそのものであった。
「折角、彼の変身アイテムを手に入れたんだ。当面はこの姿でいくとするか」
準備を終えたシュリケンジャーが振り向くと、マーフィーがこちらをじっと見詰めている。
その顔はあまりの変わり身に驚いているようにシュリケンジャーには見えた。
「HEY、マーフィー、驚いているのかい?これがミーの特技のひとつさ♪」
膝を折り、マーフィーに話しかける。
「でも、ユーなら、ミーがどんなに姿を変えてもわかるね?流石のミーも匂いまでは変えることはできない。
ユーが敵に回ってたらと思うと恐ろしいけど、逆にユーが味方ならこれほど相性のいいパートナーもいない。
何せ、ユーはミーを識別できるのだからね☆」
シュリケンジャーはマーフィーを一撫ですると立ち上がる。
「さて、もう進むとしようか。種は蒔いた。けど、まだ蒔けるスペースは残ってる」
陽はほとんど落ち、間も無くすれば夜の闇に包まれることになるだろう。それまでに行動を起こしておきたい。
851
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:30:26 ID:???0
放送も間近だというのに、シュリケンジャーは歩みを止める気はなかった。
▽
「遭遇するとすれば、この辺りだと思うけど」
「バウ!」
シュリケンジャーが歩を進めたのは都市G7エリアと砂漠G8エリアの境。
戦局は佳境に入っている。
この期に及んで、マップ端で静観を決め込もうとする者は皆無だろう。
少し頭を働かせれば、禁止エリアが密集している都市エリアがフィナーレの舞台であることはわかるはずだ。
生き残った参加者は必ずこの周辺に集まる。
シュリケンジャーの狙いはこれからその舞台に上がるであろう参加者を操ること。
殺すのか、仲間に引きこむのか、疑念を植えつけるのか、それは相手次第だが、まだ標的は残っているはずだ。
「さて、誰か引っかかってくれるかな?」
忍者の鍛えられた鋭い眼で辺りを観察し、マーフィーの鼻で匂いを探る。
十分ほど、そうしていただろうか。マーフィーがバウと鳴いた。
どうやら何者かの匂いを嗅ぎ付けたらしい。
「オーケー、マーフィ!さあ、ミーをユーが嗅ぎ付けた参加者のところまで案内しておくれ」
マーフィーに命令するシュリケンジャー。
だが、マーフィーは動こうとしない。
「うん?どうしたんだいマーフィ??」
グルルと低い唸り声を上げ、警戒の様子を見せるマーフィー。
シュリケンジャーも馬鹿ではない。
マーフィーの反応を見て、彼が察知した参加者が相当の危険人物であることを悟る。
「なるほどね。一筋縄じゃいかない相手ってわけだ。でもね、そんな危険人物なら顔ぐらい見ておかないと」
(それに、そういう奴に限って、根は単純だったりするものさ)
852
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:33:35 ID:???0
シュリケンジャーは宇宙サソリに打ち勝った男の顔を思い出し、クスリと笑った。
▽
マーフィーに誘導され、道を進む。
言うまでもなく、動きはあくまで慎重に。
程なくして、シュリケンジャーは人影を発見する。
黒い服が闇に紛れ、ともすれば見逃しそうになるが、夜目が効くシュリケンジャーには何の問題もない。
それに、例え夜目が効かなかったとしても、余程鈍感な者でなければ、彼に気付かないということはありえない。
(たった数時間の間に何があったんだ?あの時とはまるで違う)
男から立ち昇る強烈な闘気。むせ返りそうなほどに濃厚なそれは、気弱な者ならば触れただけで意識を手放すことだろう。
実際、シュリケンジャーもそれなりの距離を取っているというのに、咽喉が渇いていくのを感じた。
(困ったね。昔の彼ならいざ知らず、今の彼は引きこむことも、疑念を植えつけるのも無理だ。
残る選択肢はふたつ。今、殺すか。後で殺すか。その判断をするためには……)
思考するシュリケンジャー。そのとき、不意に男が腕を上げた。
その拳には何時の間にか半月型の道具が握られ、こちらに曲面を向けている。
まるで、弓を構えているかのように。
(シット!)
既に気付かれていることを覚ったシュリケンジャーは反射的に飛んだ。
瞬間、道具から放たれた無数の光弾がシュリケンジャーがいた場所に着弾し、破砕音を響かせる。
(マーフィーは!?)
「バウ!」
着弾の位置より外れた場所から聞こえる声。
どうやら、マーフィーも離脱に成功したようだ。安堵するシュリケンジャー。
だが、危機が去ったわけではない。急ぎ、プランを構築する。
(……ばれてしまったものは仕方ないか)
「ハッ!」
掛け声を上げ、大きくジャンプする。
ジャンプした先は男の目の前。男とシュリケンジャーの視線が交錯した。
「やあ、理央、久しぶりだね」
853
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:34:05 ID:???0
シュリケンジャーは再会した男――理央に明るい声を掛けた。
▽
ブドーを倒した理央は南西へと歩を進めた。
特に理由はない。強いて言うなら、その方向から戦いの気配を感じ取ったためか。
理央の頭からはセンとの約束はきれいさっぱり消え去っている。
今の彼の脳内を占めるのは"正義感"のみ。弱気を助け、悪を挫く、非常にシンプルな思考だけ。
そして、彼は進む道すがら、シュリケンジャーと再会した。
「やあ、理央、久しぶりだね」
そう気安く声を掛ける眼の前の人物に理央は見覚えがない。
久しぶりというからには第三者からの紹介というわけではないだろう。
理央は必死で記憶の引き出しを探るが該当者はいない。
もっとも、顔を自在に変えられる知り合いなら2人ほどいるか。
「ああ、この顔じゃあピンと来ないか。じゃあ――この声ならどうかな?」
男にしては高めの声が更に高くなる。その声の主はやはり顔を自在に変えられる知り合いのひとりだ。
「その声、貴様、シュリケンジャーか」
「イエ〜ス♪いかにも天空忍者シュリケンジャーさ!」
理央はシュリケンジャーが肯定した瞬間、拳を打ち込んだ。
その手に握られていた自在剣・機刃はキバショットからキバクローへと一瞬で姿を変えている。
だが、シュリケンジャーも軽口は叩きながらも警戒は怠っていない。
理央の拳を後方抱え込み宙返り、所謂バク宙で悠然とかわす。
「ウエ〜イト。ユーの気持ちもわかるが、少しはミーの話を聞いてくれてもいいんじゃないかい?」
「改心したとでも言うつもりか」
「ザッツライト!まさにその通りさ☆」
シュリケンジャーは理央に、彼が理央の元から去った後の経緯を簡単に説明する。
勿論、その話の所々には嘘が混じっていた。
曰く、理央と分かれたシュリケンジャーは、殺し合いに乗ったドロップと出会いチームを組むも、敗北。
その後、囚われの身になるも説得を受け、改心。
だが、残念なことにドロップと裏切りの機を狙っていた仲代壬琴の策略にチームは崩壊。
854
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:34:36 ID:???0
そして、散り散りになった仲間を探していたときに理央と再会した。
「この顔はね、その時に死んでしまったシオンという男のモノなんだ。
彼は他の人がミーを疑う中、ただひとり純粋にミーを信じてくれた。
そして、最期にはタイムグリーンに変身するための道具まで託してくれた」
そう言って、両腕に付けたクロノチェンジャーを見せる。
「そのような戯言を信用しろというのか」
「疑いはごもっとも。だけど、こんな場じゃあ、正義が悪に、悪が正義に転身してもおかしくない。
大体、ユーも人のことを言えたものじゃない、だろ?」
「………」
黙る理央にシュリケンジャーはもう一押しと、切り札を切る。
「まあ、ミーのことを信じられないのは仕方ないよ。でも、ユーもメレの言うことなら信じるんじゃないかい?」
メレという名前に、理央の厳しさ一辺倒だった瞳にわずかに優しさが混じる。
「実はメレはユーを探すためにチームが崩壊する前に離脱しているんだ。だから、どこに言ったか大体の見当はつく。
どうだい、彼女を探し当てるまでの間だけでもミーと一緒に行動するのは?
それでユーのその眼でミーが正義か悪か確かめてみればいい」
いかに権謀術数をつくしたところで、理央の疑念が晴れることはないだろう。
だが、正義の味方は疑念を持っているだけでは行動には移さない。
そこに付け入る隙が生まれる。
「そうか、わかった」
「ヘーイ、わかってくれたかい」
やはりメレのことを持ち出したのが効果的だったのかとシュリケンジャーは内心で笑みを浮かべる。
この協調関係は長くはもたないだろうが、その間に理央から情報を引き出せれば。
「えっ?」
間の抜けた声が口から漏れる。同時に浮かび上がる身体。
不覚にも理央の蹴りが胸に届いたのだと気付いたのは、ビルの外壁に叩き付けれた後のことだった。
「ぐぅ、な、何をするんだ理央!?」
「知れたこと。貴様にはここで退場してもらう。お前のように甘言を弄する奴はロンだけで沢山だ。
何より、メレを餌に俺の心を操ろうなど、断じて許してはおけん!!」
シュリケンジャーは自分の失敗に気付く。
理央とメレの絆は強い。メレの時と同じく、一方を餌にすれば容易く操れるものだと思っていた。
855
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:35:16 ID:???0
しかし、それが落とし穴。理央はメレをダシに使われたことで激昂した。
どうやら、彼らの絆はシュリケンジャーが考えていた以上に強固なようだ。
(まったく、ラヴラヴ過ぎるのも考え物だね)
心の中で悪態を吐きつつ、シュリケンジャーは理央への対処を考える。
元々、こちらも理央を篭絡しようとは考えていない。
理央と一緒に行動するというのはニトログリセリンを持ったまま移動しているようなものだ。
いつ大爆発に巻き込まれるかわからない。
それでも協力するかのような動きを見せたのは単にあることを確認するための時間稼ぎがしたかっただけのこと。
できないならできないで、打つ手は残されている。
「クロノ――」
シュリケンジャーは腕につけたクロノチェンジャーに手を添える。
だが、その動きに理央は即座に反応する。
「させん!」
理央はキバクローを二つに分割し、キバナイフにすると、一閃させる。
火花を上げ、ボトリと落ちる。
理央の狙いは正確にクロノチェンジャーのブレス部分を切断していた。
「チッ」
続いて、理央はキバナイフを一つに戻すと、残った方の手でシュリケンジャーの身体を強引に大地へと叩きつける。
「グェッ」
蛙が潰れたような声を上げるシュリケンジャー。
理央はそのまま馬乗りになると、キバカッターを彼の脳天を狙い、構えた。
「マーフィー!!」
「バウ!!」
呼びかけに応え、どこからともなく現れたマーフィーは、閃光のような速度で理央に体をぶち当てる。
怯む理央。それはわずかな隙であったが、理央の拘束から抜け出し、シュリケンボールを構えるには充分な時間だ。
「天空!シノビチェンジ!!」
シュリケンボールの内部が高速で回転し、発生したゆらぎエネルギーが彼の身体をシノビスーツに包む。
緑の体躯に黄金の鎧を身に纏う天空忍者、シュリケンジャーの戦闘スタイルである。
変身したシュリケンジャーに理央は追撃を諦め、構えを取る。
シュリケンジャーは理央のその姿を見て笑った。
856
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:38:34 ID:???0
「HAHAHA!語るに落ちるとは今のユーのことを言うのかな?
これでやっと確信がもてたよ。ユーは今、変身できない!」
シュリケンジャーの変身に対し、理央が構えるだけで行動を取らないのが何よりの証拠だ。
それに加え、理央は例え相手が卑劣漢だったとしても、手合わせを臨むタイプ。
そんな理央がわざわざ変身を妨害する理由はそれぐらいのもの。
「さて、理央。ミーは変身できないからって、容赦はしないよ。元々、ミーの目的は君の抹殺だ。
ユーが制限下でどれだけ戦えるか見せてもらうよ!」
シュリケンズバットを振りかぶり、理央に襲い掛かるシュリケンジャー。
理央の先手に対してのお返しとでも言うのか、ビルの外壁に向けてバット状態のシュリケンズバットを横薙ぎに振るう。
理央はキバカッターでシュリケンズバットの一撃を防御するが、勢いを殺しきれず、シュリケンジャーの狙い通りに外壁へと叩き付けられた。
その威力は理央の時とは比べ物にはならない。
シュリケンジャーはパワーで押すタイプではないが、それでも変身前の理央を凌ぐパワーは持っている。
その証拠に理央が叩き付けられた外壁は、そのあまりの威力に理央型の風穴が空いていた。
「くっ!」
理央は苦し紛れにキバショットに変形させた機刃から光弾を放つが、あっさりとシュリケンズバットに弾かれる。
「時間稼ぎでもしたいのかい?なら、ミーが思っているより、制限が解除される時間は短いのかな。
まっ、油断して逃げられても困るから、即座に始末するけどね」
シュリケンジャーの予測通り、理央の制限が解けるまで残り30分程度。理央はわずかな時間を乗り切れば、変身が可能になる。
だが、シュリケンジャーに油断はない。
「ユーの敗因はミーの篭絡に乗ってこなかったことさ。メレを愚弄されたことによる一時の感情に流されて、ミーとの戦闘を始めてしまった。
それとも自信があったのかい?ミーの変身を止めることが出来るって?HAHAHA、浅慮な男だ」
止めを刺すべく、シュリケンジャーはシュリケンズバットに隠された刃を抜く。
これでお終い。シュリケンジャーは自分の勝利を確信し、理央の絶望した表情を見た。
ところが、そこには絶望はなく、逆に自身に満ちた笑みを浮かべていた。
「浅慮?それは貴様の方だろ。
例え、変身したとはいえ、貴様の攻撃を受け流せないと思うか?貴様程度の力で壁をぶち破れると思うのか?
――ふん!」
理央が壁を叩く。すると、その一撃に壁は耐えられず、即座に粉々に砕け散った。
「な!ユーは制限中じゃなかったっていうのか」
確かに理央は変身しなくても制限さえなければ、臨気を操り、戦うことが出来る。
変身アイテムがなくとも、戦えていた真咲美希のようなものだ。
857
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:39:26 ID:???0
だが、今の理央に起こっている現象はそういったものではない。
「いいや、貴様の言うとおり、未だ小癪な制限は掛かっている。
だが、俺は理解したのだ。この制限を掛けているものの正体。首輪の役割を。
理解すれば、この程度の芸当は容易い」
理央は幻気を取り込み、幻獣拳の使い手となった。
そうすれば途端にこの空間の仕組みが見えてくる。空間に密集した幻気。その幻気の動き、流れ。
幻獣拳の使い手とはいえ、有象無象の輩ではわからぬそれを理央は理解する。
いや、理解したというのはやや語弊があるかも知れない。
理解したその仕組みについて、理央は言葉にすることはできない。
なぜなら理央にとって、それは声帯を震わせるかのように、そういうものだと認識したものだからだ。
それは凡人には到底到達できない高み。彼が幻獣王の器たる事由。
「そして、もうわずらわしい時間制限も終わりだ。俺は今、幻気すらも平伏させる」
理央の身体から闘気が噴出す。その闘気は徐々に可視できるものへと変化し、黄金と闇に彩られ始める。
それは再会したときからシュリケンジャーが感じていたものより、更に生々しく、更に雄々しく、更に恐々としたものだった。
当てられたシュリケンジャーの咽喉に吐瀉物が駆け、反射的にシュリケンジャーは膝を折る。
「ウォォォォォォォッッッッ!!!」
獣のように咆哮する理央。
高まる幻気は異物である首輪を激しく振動させていた。
「い、一体、何を?」
「ハァ!」
気勢を上げると同時に理央の首元で大きな爆発が起こった。
以前、理央がナイとメアに語った首輪の解除方法。
――例えこの首輪がどんな爆発を起こそうが、それを上回る臨気で防御すればいい。――
理央はそれを実践したのだ。
その爆発は煙を濛々と棚引かせ、理央の姿を隠した。
闘気のプレッシャーが消え去り、シュリケンジャーは息を荒げながらも立ち上がる。
自滅したのかと、わずかな希望を抱くシュリケンジャー。
だが、突如として吹いた一陣の風は煙を吹き飛ばし、抱いていた希望が如何に虚しいものだったかを思い知らせる。
858
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:42:58 ID:???0
「強きこと、猛きこと、世界において無双の者、我が名は幻獣王リオ」
以前、シュリケンジャーが見た姿とは異なる金色の姿。
幻獣王となった彼の首に首輪は見当たらなかった。
(逃げるしかない)
シュリケンジャーは踵を返すと、一目散に逃げ出す。
とにかく疾く疾く疾く。シュリケンジャーは自分に授けられた力の全てを使って、走る。
だが、それは無駄な足掻きに過ぎなかった。
突如として、目の前に現れる手。
それはシュリケンジャーの頭を掴むと、強制的にその場へと留めさせる。
「どこへ行く気だ?もうお前に逃げ場などない」
「ぐっ!ッッッ、フェ、フェイスチェンジ!!」
握られた頭を支点にシュリケンジャーの顔半分がグルリと半回転する。
流石のリオもこれには驚き、わずかだが握りが甘くなる。
シュリケンジャーは金色の鎧を身体のバネを使い、リオの頭に覆い被せると、その隙を狙って、シュリケンズバットを突き刺す。
「プラズマ剣!プリーーーズ!!!」
声に反応したシュリケンズバットから強烈な電撃が流れ、リオの身体を蹂躙する。
「マーフィー!!」
シュリケンジャーの呼びかけに、マーフィーは再び体当たりを敢行する。
プラズマ剣と合わせた攻撃は流石に効いたのか、リオの手がシュリケンジャーを放した。
シュリケンジャーは地面に転がり、間合いを開けると、キーボーンを取り出し、空へと投げる。
それをタイミングよく咥えたマーフィーはたちまちディーバズーカへとその姿を変えた。
「テメェもくたばりやがれ!!」
一切の迷いも、溜めもなく、即座に引き金を引かれる。
放たれる必殺の光弾は一直線にリオへと向かった。
着弾すると同時に轟音が響き渡り、大きな炎が上がる。
周辺の巻き込まれた建物は瓦礫となり、雨となって降り注いだ。
「どうでぃ!!」
顔が変わり、口調も変わったシュリケンジャーが勝鬨を上げる。
だが、その心の中は口にした言葉とは裏腹なものだった。
(来るな!来るな!!来るな!!!)
859
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:44:22 ID:???0
必死に願うシュリケンジャー。しかし、現実は非常だ。
「中々の攻撃だったぞ」
炎を背にゆっくりと前進するリオ。その身体には傷ひとつ付いていないように見える。
「無傷だと!?」
「フッ、流石の俺も今の攻撃にはそれなりの傷を受けていたやも知れん。
だが、場所が悪い。ここは幻気が満ち溢れた空間だ。
この場において、今の俺は水を得た魚。鉄壁の防御に加え、多少の傷は即座に治療される」
その見本を見せるかのように、リオは自らの手の甲に、爪で傷を付ける。
すると、どうだろうか。その傷に黄金の光が集まったかと思うと、たちどころになくなってしまった。
「そして、今の俺の力がどうなっているか、言うまでもあるまい」
ゆっくりと前進するリオ。もはやシュリケンジャーに打つ手は残されていなかった。
▽
「ゴボッ」
ひとりの男が仰向けに大地に倒れていた。
彼の身体には身体中に打撲の痕があり、関節は有り得ない方向に曲がっている。
口からは多量の血が溢れており、内蔵も無事ではないことを示していた。
どんな名医が診たところで、もはや彼の死は確定的だろう。
彼の顔は火傷により酷く爛れていた。これでは彼が何者かはわからない。
だが、仮に彼の顔が無傷だったとしても、誰も彼が何者だったか知る者はいない。
なぜなら、彼はこの場に残る誰にもその顔は見せなかったのだから。
「バウ」
そんな彼に銀色のロボット犬がゆっくりと近づく。
ボロボロになっても匂いは変わらない。犬はどんな状態でも主であることを判別していた。
「マー…フィ」
男が犬の名前を呼ぶ。
息も絶え絶えで言葉に感情を宿らせることはもはや叶わなかったが、彼は怒っていた。
彼はこの有様となった戦いで敗北を悟ると、マーフィーを逃がすことに専念した。
誰が優勝するか。
860
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:45:21 ID:???0
自らの脱落が確定した時点で既に興味のないことだったが、自分を屠る奴だけは優勝させてはいけない人物だと思ったからだ。
せめて誰かの力になりますように。そんな願いと共に送り出したのだが、マーフィーは戻ってきた。
「ゴー……マーフィ…ゴー」
マーフィーをこの場から遠ざけようと、言葉を紡ぐ。
だが、その願いは叶うことはなかった。
マーフィーの頭が誰かの手に掴まれる。
刹那の後、マーフィーの頭は男に降り注ぐ銀色の雨となった。
やはりかと、もはや見ることさえ億劫になり、男は眼を閉じた。
止めを刺さず生かされていたのは餌にするため。そして、今、彼は餌としての役割も終えた。
身体に残されたわずかな生命力を結集させ、必死に口を動かし、声帯を震わせる。
「………ミー…は……後悔…していない……忍びとは…元々外道……つ、仕える主君によって……善にも悪にもなる……
たまたま今回は…マーダーに……なったけどね……でも……ユーは…ユーは違う……ミーを倒して…正義ぶっているけど……
ユーは紛れもなく……悪…だ……ユーの力は…邪気……に…満ち溢れている……笑えるね…ユーは……とても滑稽だよ……
HA……」
ぐちゅりと彼の頭が潰れる。
いくつもの顔を持つ忍者は、最後に顔を失くし、散った。
【マーフィーK−9 破壊】
【シュリケンジャー 死亡】
残り17人
861
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:46:42 ID:???0
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:G-7都市 1日目 夕方
[状態]:左胸に深い切り傷。残酷剣による中程度のダメージ。
ロンへの強い怒り。幻気と闇により精神が侵食+戦闘力増幅。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:弱者を救ってやりたい。
[備考]
※首輪を外しました。身体的には幻気による悪影響はないようです。
※シュリケンジャー死体(スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、シュリケンボール)と
支給品一式(知恵の実、映士の不明支給品、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式×4(水なし)SPD隊員服(セン)、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、両方表のコイン)、
クロノチェンジャーはG-7都市エリアに放置されました。
862
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:55:34 ID:???0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などがあれば、よろしくお願いします。
今回の投下で、次回放送までに自分が投下できる作品は以上になります。
863
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 04:40:01 ID:???O
投下GJでございます。
気になった点を一つ、
シュリケンジャーが不意打ちを食らい、壁に打ちつけられた場面で
『両腕に付けられたクロノチェンジャー・・・』
とありますが、クロノチェンジャーは片方だけでOKなので本スレ投下等の際は修正をば。
物語は大きく動き出しましたね♪
シュリケンジャーご苦労様(泣)でもまだ彼が残したモノは死んでないかも!?
と、妄想しつつ放送以降の物語も期待しております!
864
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/25(水) 08:07:41 ID:???0
感想ありがとうございます。
クロノチェンジャーの個所については修正いたしますが、
私用により今週の日曜までネットに触れることができませんのでご連絡いたします。
ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。
865
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 09:02:00 ID:???0
投下乙です。
なんだろう……対主催でしかもトップクラスの強さの理央が全然頼もしくないww
スモーキーやらマーフィーやら支給品ブレイカーになってますね(それも戦隊側の)
それだけにビビデビとズバーンは気をつけてほしいですw
なんだか勘違いマーダーの毛があるという点では白化ブドーも危険っぽいかも
シュリケンジャーは少し哀れな最期……。
たとえ本当に改心してても殺されたでしょうね。
866
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 20:20:19 ID:???0
2作とも代理投下いたします。
867
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 20:42:27 ID:???0
さるさん規制されました。
どなたか続きの代理投下お願いします。
868
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/26(木) 00:09:00 ID:???0
解除されたと思われますので
続きを投下致します。
869
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/30(月) 01:18:36 ID:???0
投下、感想ありがとうございます。
「両腕に〜」については「左の腕に〜」に修正を行い、まとめサイトを更新いたしました。
870
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/09/03(金) 20:28:25 ID:EgByd3pg0
遅ればせながら、まとめ更新乙です。
次で放送かなぁ。
871
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/09/29(水) 17:49:42 ID:6IDAkwfA0
もうマーダーってネジブルーしかいないな
872
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/01(金) 12:13:28 ID:RuW4kN7g0
確かにマーダーは死にすぎてるなぁ……
そろそろ主催側から打開策が出てくる頃か?
さくらと理央はマーダーに転べるキャラだが
873
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/02(土) 00:44:03 ID:0XRhFDO.0
ロンのことだからな
874
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/02(土) 14:48:44 ID:jIK37pJU0
放送でうまく主催側参加者を配備するのがいいと思う
……というか、放送まだ?
875
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/03(日) 18:22:59 ID:l3oN6xss0
主催者側の参加者はラディゲでいいと思う
876
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/03(日) 22:47:33 ID:???0
広げるならともかく、書き手が少ないこの状況で参加者は増やさない方がいいと思う。
877
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/04(月) 10:20:19 ID:???0
こちらでこれ以上続けるのも何なので、一旦議論スレの方に場所を移動しましょう。
878
:
第三回放送案
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:19:56 ID:???0
仲間の死であったり、敵の死であったり。
誰の死であろうと、それは悼むべきものである。
──慣れるまでは。
敵の死には慣れてきた彼らだが、味方の死には慣れていなかった。
もう、慣れた頃だろうか。
六時間ごとに知らされる仲間の死を、受け入れ、いつしか何も感じなくなってしまう頃だろうか。
一回目の放送では、伊能真墨、ウルザード、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア。
二回目の放送では、サーガイン、サンヨ、陣内恭介、巽マトイ、冥府神ティターン、ドギー・クルーガー、フラビージョ、真咲美希。
もはや、そんな死は何年も前の話であるかのように、何も感じずいられるか。
新しい死を、どう受け取るか。
879
:
第三回放送案
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:20:28 ID:???0
【第三回放送】
『皆さん、こんばんは。第三回定時放送の時間です。
殺し合いの好きな方は、もう何人も殺している頃でしょう。残念ながら苦手という方も、今から順調に殺していけば、生き残ることができますからご安心を。
……おっと、この言い方ではここまで頑張って殺し合ってくれた人間に失礼というものですね。今から始める人間が圧倒的に不利だというのは事実ですが、何もしないよりずっとマシ、とそういう言い方が誰にとっても過不足ないといったところでしょうか?
それでは、まず死亡者の発表から始めましょう。
クエスター・ガイ、シオン、シュリケンジャー、高丘映士、ドモン、童鬼ドロップ、早川裕作、日向おぼろ、間宮菜月
以上9名のゲーム脱落を連絡します。
彼らの知り合いの方、まだ彼らの命は完全に失われたわけではありません。周りの人間を殺せば……ええ、彼らの生存を保証しましょう。
皆さん、絶望を希望に変えて明るく、楽しく、元気よく殺し合ってください。
それでは次に禁止エリアの発表です。
……皆さんももうすぐ眠りに就く頃でしょうが、このエリアで寝ていると目覚めることはありませんからよく聞いておいてください。
19時に■■■■
21時に■■■■
23時に■■■■
以上が次の放送までに新しく設定される禁止エリアです。
さて、残るは17人。参加者の半分以上が別の場所へ旅立ってしまいました。
ここまで生き残っているあなたたちはラッキーマンです。そのラッキー、うまく死なないように考えて使ってもらえると幸いです。
それでは、また6時間後に再び皆さんにこの放送を聞いてもらえることを願って……』
─────
880
:
第三回放送案
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:21:09 ID:???0
友。敵。仲間。兄弟。
彼には──ロンには無いもの。
それを失う人間の怒りと悲しみ。
それをもっと聞きたい。
それをもっと見せて欲しい。
それが無いことを羨むほどに、悲しんで、怒ってもらいたい。
881
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:22:33 ID:???0
以上、仮投下終了です。
882
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/12(火) 20:46:06 ID:sjgf.gfU0
投下お疲れ様でした。
GJ
883
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/20(水) 12:47:28 ID:???0
そろそろ禁止エリアに関する議論をしたいんですが、まだ人が集まらないみたいですね……
884
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/22(金) 16:50:16 ID:CJ41RJVM0
どこかありますか?
と、これは議論スレむきですね
885
:
デリート
:デリート
デリート
886
:
デリート
:デリート
デリート
887
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/12/23(木) 09:32:52 ID:???0
名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:G-7都市 1日目 夜
[状態]:胸、太股に深い傷。ドロップを失い深い悲しみと怒り
[装備]:杖、ドロップの亡骸
[道具]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、予備弾装(催涙弾5発)、サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(バンキュリア)
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:シュリケンジャーを殺した可能性のある者は無差別に殺す。
第二行動方針:ヒカルに若干の興味。
※時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:G-7都市 1日目 夜
[状態]:左胸に深い切り傷。残酷剣による中程度のダメージ。
ロンへの強い怒り。幻気と闇により精神が侵食+戦闘力増幅。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:弱者を救ってやりたい。
第三行動方針:闇に負けない。
裏の行動方針:参加者を殺す。
[備考]
※首輪を外しました。身体的には幻気による悪影響はないようです。
※自らが闇と幻気に侵食されつつあることに気づきました。
※シュリケンジャー死体(スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、シュリケンボール)と
支給品一式(知恵の実、映士の不明支給品、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式×4(水なし)SPD隊員服(セン)、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、両方表のコイン)、
クロノチェンジャーはG-7都市エリアに放置されました。
888
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/12/23(木) 09:33:44 ID:???0
さるさんにつき以上、投下終了です。
どなたか状態表の代理投下をお願いします。
889
:
◆gry038wOvE
:2011/01/20(木) 16:23:10 ID:zwQAkDu60
とりあえず仮投下します。
890
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:24:24 ID:???0
樽学者ブクラテスと浅見竜也。
二人がこうして二人だけになるのは何度目だろう。
「さて、あと一分ほどで放送じゃな。少し手を休めるとするか」
ブクラテスは表面上、アクセルラーの外面をさまざまな角度から眺めている。
竜也に工具の調達を任せたものの、まずは分解せずに外面から理解しておかねばならない。
破損を起こしたのは外面からの衝撃によるものだ。どの部分が破壊されているのかも、粗方検討はつく。
外面から見て、内面に影響を及ぼしたであろう部分を重点的に修理しなければならない。
「手を休めるって……まだ何もしてないじゃないか」
「ふん、破損箇所の確認も立派な修理じゃわい」
無闇やたらと分解すれば良いというものでもない。
こんな未知の道具を下手に分解すれば、おそらくは二度と元に戻すことはできまい。
ましてや、このアクセルラーが開発されたのはさくらによるとギンガマンの歴史よりも未来。
内蔵されている部品も少し発達したものという可能性もある。そもそもブクラテスは携帯電話などというものを知らないのだ。
「なら、お前がやってみるか? 竜也」
と、アクセルラーが差し出されるが竜也はそれを軽く上げた両手と苦笑で拒否する。
こういうのはシオンが専門だ。竜也の専門は空手で、決して工具の修理ではない。
まあ、トゥモローリサーチでシオンの手伝いをしたことも少なからずあったから、きわめて苦手というわけでもないだろう。
実際に、必要な工具も自分で選んで済ませてある。
「俺は手伝うだけだよ。……俺がやったら、二度と戻らなくなる」
「だろうな。なら、黙って見ておれ」
891
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:25:44 ID:???0
といいつつも、ブクラテスは別の準備を開始する。
竜也が既に一通り放送の準備を終えているのに対して、ギリギリまでアクセルラーを眺めていたブクラテスは鉛筆や地図の類を用意していない。
万が一にでも竜也と離れた場合は、これらの道具に必要事項が記載されていないのは痛い。
「それは俺がやっておくよ」
竜也がブクラテスのデイパックを掴み、中身を取り出す。
やはり気が利く男だ、と何度目かの再確認をする。
まあ、ブクラテスのように片腕を欠損した老人がデイパックから地図や筆記用具を取り出すのを黙って見ているほど、冷たい人間も珍しい。
そういう意味では竜也も普通の人間なんだろう。
利用する側という観点で見ても、ブクラテスはこうして世話を焼いてくれる竜也に何か一言言っておくべきだろう。
「すまんのぅ、竜也」
「いえ」
元はと言えば、その片腕の欠損は自分の不注意が原因なのだから。
『皆さん、こんばんは。第三回定時放送の時間です』
そして、そんな会話の中断をするかのように、放送が始まる。
ロンが挑発してゲームの進行を促す『不要な部分』は聞き流す。
今更何を──とも思わない。それこそ、今更だ。
『それでは、まず死亡者の発表から始めましょう』
『クエスター・ガイ』
『シオン』
『シュリケンジャー』
『高丘映士』
『ドモン』
『童鬼ドロップ』
『早川裕作』
『日向おぼろ』
『間宮菜月』
892
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:26:19 ID:???0
────ああ、やっぱりか。
未来へ送り返したはずのシオンとドモン。
彼らを安全な場所へ送ったはずが、夢の通りになった。二人はどうやらここで死んでしまったらしい。
人の精神というのは、時に不思議な夢を見せることもあるのだろうか。
動物には予知能力なるものが存在しているらしいが、これもその一つなのだろう。
名簿の名前が妙に角々しくて、その名前の隣にバツを書く気にはならなかった。
ブクラテスには必要な情報として、ブクラテスの名簿にバツ印をつけた。それだけでもう、申し訳なかった。
彼らは大切な仲間だ。
タイムレンジャーであると同時に、日常も彼らと同居し、共に貧乏を分かち合った仲間である。
女好きなドモン、純粋無垢なシオン。
決して欠けていい存在ではなかっただろう。
涙は流れなかった。
どうしてだろうか。
夢の中で枯れてしまったのか。
(俺……シオンやドモンが死んだのに、泣けないのかよ…………)
決して泣かないという心象はプラスにはならなかった。
それに、日向おぼろや間宮菜月の名前も心に突き刺さる。
既に克服した話ではあるが、やはり忘れかけた頃に聞く二つの名前は傷口を開く。
高丘映士はどんな人間かは知らないが、ボウケンジャーの一員だった男らしい。
また一人、頼もしい仲間となりえた人間が知らぬところで死んでしまった。
シュリケンジャーが死んでしまったのは意外である。
できれば逮捕という形でどうにかしたかったが、仲間たちの死に比べて小さい死となってしまうのは必然だろう。
シュリケンジャーは殺し合いに乗っていたのだから。
「気に病むな、竜也。これだけの戦死者が出たが、明石やさくらの目的を考えればすぐにまた会えるじゃろう」
明石暁と西堀さくら。二人の冒険者の目的は仲間たちの蘇生。
その為に、ある意味で殺し合いに乗り、ロンを倒すという方針を確立させている。
「ああ、わかってる。だけど、やっぱり許せないんだ……。シオンやドモンや菜月ちゃん、他にもたくさん人が死んで……。
それに、マーフィーみたいに追い詰められて、さくらさんみたいに怪我をして困ってる人もいる。だから、俺は────」
この拳を、どう使うか。
その答えは、放送を通しても変わらない。
893
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:27:06 ID:???0
「お前は力もあって優しいからな。だが、まずは生き残ることとワシを守ることに専念するんじゃ。でなきゃお前自身の目的も果たせずに終わる」
「ああ。まずは二人が来るまでに作業を終わらせよう」
竜也はそう言って、放送の終了を待った。
禁止エリアもしっかり書き込んである。これでこの時間に終わらせる作業は終わった。
次は、アクセルラーの修理である。
とはいえ、現状では竜也にできることはまずない。
まだ、ブクラテスはアクセルラーの周囲を軽く見渡す程度の作業しかしていないからだ。
「俺は少し、向こうで外の様子を見ることにします」
作業場となっていた厨房から出て、竜也が洋菓子たちが置いてあるレジに向かう。
ブクラテスとしては、一定の頻度で首輪探知機を確認したいから竜也が迂闊に外に出るのは好都合といったところである。
その手順通り、ブクラテスは首輪探知機を取り出した。
二つの点はブクラテスと竜也を示すもの────そして。
「…………ん? まずい! 近くに参加者がおる!」
今の竜也に武器はなく、当然ブクラテスも戦う力を持ってはいない。
その探知された相手がもし、殺し合いに乗っていたら……。
ブクラテスの腕を奪ったブドーはまだ生きている。ブドーという可能性もあれば、他の危険人物の可能性も否めない。
「単独で行動しているようじゃ。来た方角から考えても、明石やさくらじゃないぞい!」
894
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:28:04 ID:???0
ここで竜也を失うわけにはいかない。
ブクラテスが焦っているのは、気づかぬうちにその点がかなり近くまで接近していたからだ。
洋菓子屋の構造上、ガラスの中は筒抜け。素早く隠れなければ相手に居場所を察知される。
もし、向こう側から見て自分以外の参加者がいることに気づいたら……?
襲うという行為に出る輩もいる。
それは、同時に中から外の様子が見えるということでもある。
ブクラテスは素早く厨房を出て、ガラスの向こう側を気にかけた。
「あれ? ブクラテスさん」
厨房から出てきたブクラテスの様子に疑問を感じた竜也はそう言ってこの行動の理由を問おうとするが、ブクラテスとしてはそれを気にしている場合ではない。
竜也は気づいていないが、ガラスの外にいたのは────
(ヤツは……ブドーッ!!!?)
めがねとガラスの向こう側にいる、いかにも武士気質の怪人。
それはまさしく、ブクラテスのかつての仲間である剣将ブドーである。
「隠れろ竜也!」
必死で隠れようとしているブクラテスだが、竜也から見てその姿は『洋菓子の中に何故か置いてある樽』に見える。
ワインが置いてあるわけではないので、違和感が大きい。
竜也も何故、ブクラテスがそう言い出したのかわからず、隠れようにも隠れる場所がない。
「……誰かいるのか?」
(マズイ…………ッ!!!!!)
ブドーが洋菓子店に近づいてくる。
彼と店内は恐ろしいほどのミスマッチだが、もはやシュールに浸っている段階ではない。
対策も練れないうちに、ブドーはそのドアを開けてしまった。
「拙者は剣将ブドーという者でござる。今は殺し合いに乗ってはいない」
と、ブドーが名乗るが、二人は彼について既に知っている。
竜也の中ではブドーというマーダーの存在はブクラテスの口頭で示されたものだが、彼の言葉はブクラテスからの情報に矛盾している。
無論、現段階で信憑性が高いのは実際に腕を失っているブクラテスだが。
「……ん? ご老人?」
「ギクッ!!」
こそこそとブドーから距離を遠ざけていく樽に心当たりがないはずはなかった。
元の世界の仲間であり、ここでも一度は会った相手。
樽学者ブクラテス。かつてブドーの所属していた宇宙海賊バルバンの知恵である。
895
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:28:34 ID:???0
「わ、わしは何もしとらんぞ!! 貴様がバルバンを追われるのは、わしの来た時代よりもっと後のことじゃ!」
「何を言っている、ご老人。今は拙者もロンを倒すべく参った身。ご老人の右腕の落とし処はきっちりつけさせていただくつもりでござる」
「な、何ぃ……?」
最初に組もうと提案したときの野生的なブドーとはまるで別人。
剣を抜く様子もなく、ブドーはただブクラテスに償いの目を向けていた。
「ご老人が拙者に敵意を持つことは仕方のないこと。不服ならば今ここで拙者を討っても構いはせん」
ブクラテスはサングラス越しにブドーをいぶかしげに見つめる。
ブドーの性格を考えるなら、ここでこのようにブクラテスや竜也を騙すような真似をするとは思えない。
ましてや、ブクラテスが非力であることはブドーも知っている。最初に出あったときのように、剣を抜いて首を斬れば終わる話だろう。
「生憎じゃが、ワシにはそんな力はない。知っておるじゃろ?
どういうつもりかは知らんが、お前のような信用できない相手を置いておくわけにはいかんからな。手早くここから出て行ってもらおう」
ブドーが普段通りのブドーに戻ったことを悟ると、ブクラテスも強気に出る。
どちらにせよ、一度自分を襲ったブドーを安易に信用するわけにもいかないし、今は竜也がいれば充分と見える。
信用できない相手をわざわざ手元に置くような段階ではなかった。
「待てよブクラテス。このブドーさんは仮にも殺し合いに乗ってないっていうんだろ?」
だが、第三者の竜也はそんな心情を知る由もない。
姿形を見る限りでは、到底竜也と同じ人間とは思えないが、それが全ての判断基準ではない。
態度を見ても、竜也やブクラテスを襲う気配はまるでないと言える。
それなら、置いてもいいのではないかと竜也は思った。
「ついさっきまで周りの全てが信じられなかったお前が何を言う」
「それは……」
これを責められると、竜也としても痛い。
この話は竜也が迷っていた時期の話で、今の竜也はそこまで周囲に不信を持っていなかった。
多感な過去を責められるのは誰であっても嫌だろう。
それに、竜也としてもブドーが仲間に入ったところで安心はできない。不信感が再び現われる可能性だってある。
「つまりは、お前とは組めんのじゃ。ブドーよ」
896
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:29:10 ID:???0
ブクラテスは結論をブドーに伝える。
確かに竜也もブクラテスの腕を奪った者を憎く思っていたし、目の前の相手ははっきり言って異形。
そうした自分の不信感を思うと、ブクラテスの結論にこれ以上反対はできなかった。
「……仕方があるまい。元はといえば拙者が引き起こしたこと」
ブドーとしてもブクラテスが自分を拒絶するのは想定内。
おそらく、ブクラテスは何よりも保身を考える可能性が高いだろうと考えていた。
ブドーとしても合流したい相手は彼らではなく、ヒカルである。
そう思うと、ここで無理に一緒になる必要はなくなるかに見える。
だが────
「だが、その右腕の借りは返させて貰いたい」
自分が行ったかつての借りの一つを洗い流したいという気持ちも強かった。
ブドー自身が自分の意思で行った悪であり、そのときブクラテスがどれだけの痛みを受けたかはわからない。
かつての仲間にそれだけのことをしてしまったのである。
その精算を何らかの方法で果たしたい、と今のブドーは思っていた。
「だから無理だと言っておろうに! ──────いや、」
ブクラテスも考える。
この状況下、ブドーはやはり現段階で殺し合いに乗っていないという可能性が高いだろう。
だが、一度は信頼を裏切って腕を奪った者。またいつスタンスを転じて裏切るかはわからない。
竜也以外の護衛もなく、明石とさくらを待つだけのブクラテスにとっても、ブドーを引き入れるかは微妙な話。
周囲の意見はこの場では役に立たないし、自分で考えるしかないだろう。
そうした結果で、
「やはり、お前も戦力になるかもしれんな」
そう告げる。
それに応えてブドーは一礼する。
だが、そんな一方でブクラテスはその結果を導き出した思考を再び思い返していた。
(ここで使ってしまうのも惜しいが、悪く思わんでくれブドー。ワシはお前を信用できんのじゃ)
毒薬。
ブクラテスの支給品は仲間を殺す道具。
ブドーはおそらく利用し甲斐のある相手だが、明石やさくらが帰ってきた頃には不要となるだろう。
彼らが帰ってきた時、最低でもこの男だけは殺さなければならない。
隙を見計らって、ブドーに毒を盛ればこの不安感も消し去られるだろう。
ただ、ひたすらに不安と不信が渦巻いていく。
ブクラテスの周囲は、信用に餓えていた。
897
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:29:45 ID:???0
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-7都市 1日目 夜
[状態]:右腕切断、応急処置、消毒済み
[装備]:毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とデイパック、首輪探知機 、さくらのアクセルラー(要修理)、工具類
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:今のところさくらに協力。
第二行動方針:竜也とアクセルラーの修理
第三行動方針:明石とさくらが帰ってきたときはブドーを切り捨てる。
第四行動方針:場合によっては毒薬を使って……。
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 夜
[状態]:健康。良い意味で動揺
[装備]:
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ロンを倒す。
第一行動方針:これ以上の犠牲は絶対に起こさせない。
第二行動方針:出来れば殺し合いをしている者を止めたい。
※首輪の制限を知りました。 明石やさくらと情報交換を終えました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
※ブクラテスとさくらの様子にとまどい
※盗聴の可能性を認識
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:E-7都市 1日目 夜
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。全身打撲。2時間の能力制限
[装備]:手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。マジランプ@魔法戦隊マジレンジャー
[思考]
基本方針:スモーキーの願いに報いる。
第一行動方針:生きる。殺し合いに乗らない。ヒカルと合流する。
第二行動方針:ブクラテスへの非礼を何らかの形で詫びる。
第三行動方針:武器の調達。
※首輪の制限に気が付きました。
898
:
さつまいも モンブラン レシピ
:2013/11/30(土) 15:39:14 ID:???0
仮投下・一時投下専用スレッド - スーパー戦隊 バトルロワイアルinしたらば さつまいも モンブラン レシピ
http://www.pslcbi.com/montblanc.html
899
:
ほしを護るは名無しの使命
:2021/04/15(木) 05:28:37 ID:TAXjRPtM0
岩下明美
900
:
ツイ子
:2022/05/24(火) 03:39:59 ID:???0
奈良敬子
901
:
ツイ子
:2022/05/24(火) 03:42:44 ID:???0
去来川舞
902
:
ツイ子
:2022/05/24(火) 03:45:09 ID:???0
畔上里央
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