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仮投下・一時投下専用スレッド
1
:
名無しさん
:2008/02/19(火) 12:52:00
仮投下・一時投下用スレです。
本スレに直接投下するのは、ためらわれる場合や、
規制がかかった時にお使い下さい。
2
:
赤と黒
◆i1BeVxv./w
:2008/02/25(月) 21:07:59
さるさん規制のため、早速ですが、使わせていただきます。
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:不明
[状態]:不明
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:?
【名前】ロン@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:広間(マップ外)
[状態]:健康。
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:願いを叶える力があることを参加者に明示する。
3
:
赤と黒
◆i1BeVxv./w
:2008/02/25(月) 21:08:35
【名前】バンキュリア@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage18(ブランケン死亡)後
[現在地]:C-8森林 1日目 深夜
[状態]:多少の打撲。ナイとメアに分離中。2時間一体化不能。
[装備]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:予備弾装。その他、支給品一式。
[思考]
第一行動方針:ロンから距離を取る。その後の行動については特に定めていません。
備考
・バンキュリアは首輪の制限を知りました。
・予備弾装に催涙弾や消滅の緋色が含まれているかは後の方にお任せします。
【名前】サンヨ@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:ロンと一緒
[現在地]:C-8森林 1日目 深夜
[状態]:能力発揮済。2時間戦闘不能。
[装備]:なし
[道具]:未確認。
[思考]
第一行動方針:ロンの指示に従い、しばらく様子見。
備考
・伊能真墨の支給品はスワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャーでした。
・真墨のディパック、アクセルラー、その他諸々は真墨の死体と共に置き去りにされています。
4
:
赤と黒
◆i1BeVxv./w
:2008/02/25(月) 21:09:36
以上です。
誤字、脱字、指摘事項、感想などありましたら、お願いいたします。
5
:
名無しさん
:2008/02/25(月) 21:21:14
追記、いきなり長文勘弁。
次は短めに書く予定です。
6
:
オールド・ジェネレーションズ
◆i1BeVxv./w
:2008/03/08(土) 23:59:40 ID:???
さるさん規制のため、お借りいたします。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-7森林 1日目 深夜
[状態]:健康。能力発揮済。2時間戦闘不能。
[装備]:妖刀ギラサメ、筆と紙
[道具]:不明
[思考]
基本方針:戦う。
第一行動方針:優勝を目指す。
第二行動方針:仙一と再会時には必ず殺す。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:C-7森林 1日目 深夜
[状態]:右腕切断。簡単な応急処置済み。
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機。毒薬。切断された右腕。基本支給品とディパック
[思考]
第一行動方針:仙一を利用して、生き残る。
7
:
オールド・ジェネレーションズ
◆i1BeVxv./w
:2008/03/09(日) 00:00:13 ID:???
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-7森林 1日目 深夜
[状態]:健康。能力発揮済。1時間程度戦闘不能。
[装備]:SPライセンス
[道具]:不明(確認済)
[思考]
第一行動方針:仲間たちと合流する
第二行動方針:ブクラテスの手当てと情報交換
備考:センの支給品、バーツロイド@特捜戦隊デカレンジャーは破壊されました。他に支給されているかはお任せします。
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康。若干混乱気味。
[装備]:アクセルラー
[道具]:未確認
[思考]
第一行動方針:仲間たちを探す
8
:
オールド・ジェネレーションズ
◆i1BeVxv./w
:2008/03/09(日) 00:00:56 ID:???
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などありましたらお願いいたします。
9
:
夢×命×未来
◆i1BeVxv./w
:2008/03/12(水) 02:14:36
最近のさるさんは厳しい。
巽マトイの状態表です。
【名前】巽マトイ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:未来戦隊タイムレンジャーvsゴーゴーファイブ後
[現在地]:G-7都市 1日目 深夜
[状態]:健康。変身中。
[装備]:ゴーゴーブレス、レスキューロープ
[道具]:確認済み。
[思考]
基本行動方針:みんなを救う
第一行動方針:瞬の手当て
10
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:12:06
本スレで書き込もうとしたらアクセスエラーになってました。
申し訳ないですが感想と投下をこちらでさせてください。
名前: ◆MGy4jd.pxY
E-mail: sage
内容:
>>585
GJです!
来たな。スモーキー、良い清涼剤になってくれそうです。
菜月も竜也といれば安心かな?
>>590
GJ!
ヒカルはまだ結婚する前なんですね。
麗と会った時が楽しみです。
ちょっと期限を過ぎてしまいましたが、自分も只今より投下させてもらいます。
11
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:13:13
G−1エリア、遺跡の外れにある朽ち果てた塔にスフィンクスは佇んでいた。
かつては見張り台として使われていたのだろう。
天高くそびえ立つ塔の上部には、いくつもの大きな窓があった。
入り口に燈った燭台の微かな光をたよりに、スフィンクスは一枚の紙切れに目を走らせていた。
「いいですね。この状況ではとても役に立ちます」
スフィンクスが読んでいたのは、支給品の説明書だった。
コホン、咳ばらいを一つしてデイバックから支給品である『拡声器』を取り出した。
拡声器には、何故かハズレと書かれた紙が張り付けられていたが、スフィンクスは支給品に恵まれたと思った。
「私は冥府神スフィ……ん?おかしいですね。説明書によれば声が大きくなるはずですが」
もう一度、説明書を取り出した時、何者かの声が聞こえた。
「ねぇ、それスイッチ入って無いんじゃないの?」
突然の声にスフィンクスは身構え、辺りに視線を走らせた。
声が聞こえたのは遺跡の中心部へと続く回廊方角だった。
女が一人こちらに歩いてくる。黒いスーツにハイヒール、いかにもキャリアウーマンといった風貌だ。
「おまえは?」
「あなた、一体何をするつもりなの?」
女はスフィンクスの言葉を遮り、カツカツとヒールの音を響かせ近付いて来た。
「私が先に質問しているのです。質問は質問で返すべきではありません」
一見只の人間のようだが、たとえ人間のなりをしていてもロンのように悪意を持った者もいる。
スフィンクスは拡声器をウィズダムカノン持ち替え、獅子を模したその銃口を女に向けた。
「銃口を向けられたまま、まともに話をするつもりはないわ。勇気がどうとか言っていたけれど、それを餌に騙すつもりだったのね!」
女は黒豹の様にひらりとバックステップを踏んだ。
確かに、女の言う事は正論だった。
拳を構えてはいるが、すぐに襲いかかってこないのも悪意の無い証拠だろう。
スフィンクスは、銃口を下げ非礼を謝った。
「確かにおまえの言う通り、手荒なまねをしました。騙すつもりなど無い。私はただ、この戦いを止めるべく勇気ある者を集めようとしていたのです」
12
:
阿修羅の如く
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:15:28
*
良かった。
お互いの自己紹介が済んだ頃、美希は心から安堵していた。
名簿に乗っていた通り、スフィンクスは人間に好意的だった。
美希のデイバックに、名簿は二枚あった。
一方は他の者と同じ名前だけが記載された物であったが、もう一つの名簿は各人の写真や性格、思考が詳細に書かれた物であった。
他にバックに入っていたのは、水や食料などの基本的な支給品一式。
そして殺し合いの為に用意された忍者刀、それを使って美希にはやらなければならない事があった。
美希は逸る気持ちを抑え、スフィンクスに笑顔を見せた。
「いくら拡声器を使ってもここじゃ声が通らないんじゃない?もっと高い所に行かなきゃダメね」
そう言ったのは、スフィンクスを塔の中へ誘い出す為だ。
周りには美希とスフィンクス以外見当たらなかったが、出来るだけ一目に着くのは避けたかった。
何故なら……
*
その日も、いつもと何も変わらない一日になる筈だった。
朝、美希はいつもと同じ慌ただしい一日の始まりを向かえた。
朝食の支度を整え、娘のなつめを起こす。
寝覚めの悪い娘と日課である軽い口ゲンカをした後、優しいパパにゴミ出しを依頼する。
朝食を終え、少し機嫌の治った彼女の髪をブルーのゴムで結い上げる。
鏡の中で満足気に、なつめの笑顔が弾けた。
出掛け際のなつめにハンカチを渡し、今日は遅くなりそうだと告げた後、黒いキャリアスーツに身を包み意気揚々とスクラッチ社へ向かった。
忙しい一日、時間はあっと言う間に過ぎた。
商品開発、拳聖との打ち合わせ、その残務処理に追われ、気が付けば部署には美希以外、誰もいなかった。
ノートパソコンから目を離すと、チカチカと残像が浮かび上がった。
一日酷使した体も目も、疲労はピークに達していた。
目頭を抑え瞼を閉じる。
残業疲れの居眠りは、ほんの一瞬だったように思う。
だが、眠りから目が覚めた時、美希はあの広間に横たわっていたのだ。
13
:
阿修羅の如く
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:16:02
そして、首輪によって生殺与奪権をロンに握られた者達が一人また一人、死刑台へ向かう囚人のように門の向こうへ消えた。
抵抗すれば、広間に死体がもう一体増えるだけなのは明白だった。
美希に成す術は無く、デイバックを受け取り門の前に立った。
門をくぐる直前ロンは言った。
「あなたは戦わなければならないのです。なつめさんを失いたくなければね」
振り向いた時には遅かった。
薄笑いを浮かべたロンは闇の中へと消え、美希の伸ばした手は虚しく空を掴んだだけだった。
「一体なつめに何をしたって言うの……」
ただの脅しだ。
証拠など、何も無いのだ。
『証拠』その言葉をキーワードに、薄笑いを浮かべたロンの顔、手渡されたデイバック、記憶の断片が次々と脳裏を過ぎった。
「そうだ。私だけ、直接手渡されたわ」
背中に担いだデイバックが、急に悪意を持つ生き物のように悍ましく思えた。
震える手で、美希はガサガサとデイバックの中身を辺りへぶちまけた。
水、パン、武器である忍者刀、二種類の名簿、そしてバックの奥底になつめが大好きなキャラクターのハンカチが入っていた。
ハンカチには『何か』が包まれている。
美希は、ぐっと唾を飲み込み、ハンカチを広げた。
包まれていたのは、ブルーのゴムで束ねた一房の髪の毛だった。
頭をハンマーで叩かれたような衝撃が走った。
「なんで?どうして?なつめのハンカチと髪の毛がここにあるのよ!」
ツヤツヤした髪の手触り、ブルーのゴム、ハンカチ、どれも今朝、美希が触れた物と同じだった。
「なつめは何処なの!答えなさい!!ロン!」
美希は遺跡の石壁を力任せに叩き続けた。
答えは返る筈も無く、美希の叫びは闇へ吸い込まれていく。
ロンが言ったのは脅しでは無かった。
他の参加者達とは違い、美希にロンはデイバック直接を手渡した。
美希には手渡す必要があったのだ。
14
:
阿修羅の如く
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:17:20
美希を駒に、殺し合いを円滑にさせる為に……
叩き続けた拳の感覚がなくなった頃、美希は絶望と言う地獄の中に座り込んでいた。
皮肉にも、絶望に叩き落としたのもロンだったが、そこから這い上がる希望の光をもたらしたのも彼だった。
『勝ち残った者の願いを叶える』頭の中でをロンの声がした。
悪魔の囁きだった。
だが、なつめを救うには、それに一縷の希望を掛けるしかなかった。
なつめを失う訳にはいかない。どんな事をしてでも絶対に勝ち残らなければならない。
美希は、降ろされた蛛の糸を掴んだのだ。
*
美希とスフィンクスは塔の上へと続く長い階段を登っていた。
中程まで進んだあたりで、後を歩いていたスフィンクスが不意に立ち止まった。
「美希、おまえは見ましたか?長い間雨ざらしにされていた、この塔の石壁の角は丸みを帯びていました。私はそれを見た時、思ったのです。
長い長い年月、時に激しく、時に柔らかな雨の一粒一粒が、繰り返し繰り返し遺跡の固い岩壁を砕くように……
この悪しき戦いも、一人一人の勇気と絆を持って打ち砕く事が出来るのだと」
「勇気と絆ね、人の思いの中で最も強い思いだわ。特に親子の絆ほど強い思いはないわ」
「私はその思いを知っています。かつて破壊神ンマに勇気と絆で勝利したブレイジェルの家族が教えてくれたのです。殺されたブレイジェルの為にも、この愚かな戦いを止めなければならない」
スフィンクスの声が沈んだ。殺されたブレイジェルを悼んでいるのだろう。
美希は気付かない振りをして話を続けた。
「私にも娘がいるのよ。生意気盛りで喧嘩ばかりだけど、あの子の為なら何だって出来るわ。早く、この戦いを終わらせてなつめの所へ行かなくちゃね」
「おまえの娘なら一度会ってみたいものです。人間の絆、そこに溢れる勇気。私は信じていています。そして、もっと知りたいのです」
そう言うと、スフィンクスは美希を追い越し、階段を駆け上がった。
15
:
阿修羅の如く
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:20:07
*
見張りの窓から見える月は大きく、手を伸ばせば届きそうだった。
吹き付ける風に、スフインクスの聖衣がふわりと揺れた。
風が吹いている闇の向こうへ、スフィンクスは勇気と希望を届けようとしていた。
手にした拡声器から、風に乗せて届けようとしていた。
窓に向かって、力強く一歩一歩進んで行く。
スフィンクスには、光が見ているのだろう。
だが、美希には何も見えなかった。
いや、見てはいけないのだ。
ここで躊躇すれば、なつめはどうなる?
美希は刀を握り締めた。これまでに無い程の力を込めて硬く握り締めた。
「待って、スフィンクス」
スフィンクスは、何の疑問も持たず振り返った。刹那、美希は大きく一歩踏み込み、刃を横一閃に薙ぎ払った。
輝く月の光を受けて刀の表面がキラリと光った。
刀の切れ味は最高だった。
手応えは軽く、まるでゼリーを斬りつけた様だった。
美希に後悔する隙を与えず、一瞬で刀は鞘に収まった。
スフィンクスは大きく目を見開いて美希を凝視していた。
その目には恐怖も苦痛も無く、ただ『なぜ?』と美希に訴えていた。
「言ったでしょう。なつめの為なら何だって出来るって……」
ズルリと音を立ててスフィンクスの首が胴体から離れる。
ズシャッ。
切断面と小石が混じり合う不快な音が塔に響いた。
首を失った胴体はピクピクと痙攣し、ゆっくりと後に倒れ、石畳を砕いた。
美希は視線を落とし、胴体の傍らに転がる首だけになったスフィンクスの顔を見つめた。
息絶えたスフィンクスの瞳は光こそ失っていたが、スカラベのように碧く澄んでいた。
綺麗だと思った。
どうして、こんな事になったのだろうとも思った。
16
:
阿修羅の如く
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:20:45
美希は開かれたままのスフィンクスの瞼を、右手でそっと閉じた。
永遠の眠りに付いたスフィンクスの首元で、金色の首輪が美希を誘うように煌めきを放っていた。
首輪の解除方法を突き止めれば、善悪どちらの者にも餌になるだろう。
首輪を抜き取り、ポケットに仕舞うと美希は暗い静かな階段を降りていった。
外はまだ夜の静寂に包まれていた。
「まず、一人」
名簿のスフィンクスのページをビリビリと切り裂き燭台の炎に焼べる。
残り41人。
一人で殺せる数は限りがある。この中の誰を利用するか。誰を殺すか。選択を誤れば二度となつめは帰らない。
スフィンクスを殺した美希に、もう戻る道は無かった。
愛娘を救う為、美希は修羅道を選んだ。黒髪を靡かせ刀を片手に美希は走り出す。
その姿、阿修羅の如く。
【名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:G-1遺跡 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]:闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式×2、拡声器、詳細付名簿
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る
第一行動方針:利用できる者は利用する、そうでない者は殺す。
17
:
阿修羅の如く
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/14(金) 00:25:26
以上です。
誤字脱字、指摘、感想よろしくお願いいたします。
18
:
名無しさんより愛を込めて
:2008/03/14(金) 00:38:27
代理で本スレ投下してましたが、最後に規制が入ってしまいました。
どなたか、続きをお願いします。
19
:
◇ZLtnhXzy0
:2008/03/15(土) 11:24:09
規制が入りました。
どなたか続きをお願いします。
20
:
◇ZLtnhXzy0
:2008/03/15(土) 11:24:44
『…………………………………………』
「考え付く限り、なるべく惨めで見苦しい死に様を演出します…
他の参加者の嗜虐を煽るような…そんな無様な死に様を晒すのです」
元・自衛官の彼女の肩書きはサバイバル戦となる今回のゲームの中で際立つ存在だ。
あの明石暁に次ぐ現SGS財団創設のスペシャリストチームボウケンジャーのナンバー2。
その冷静な思考力と高い判断力を持つ彼女の死はゲームに大きな波紋を投げかけるだろう。
これ以上ない極上の生け贄だ。
「お願いといいましたがね…貴方の意思など関係ありません。これは決定事項で絶対に覆らない…
わたしからあなたへの至上命令です…わかったならもう一度、貴方のこのゲームでの役割を教えていただけますか?…わたしの操り人形…」
『ゲームの円滑な進行及びその過熱に拍車をかけるために、なるべく無残で惨めな死を選択し実行することです…
わたしの命を持って速やかな運営を目指すことが今回の至上ミッションです……』
「…よろしい。では、いきなさい…あぁ、アタック! でしたか? そして死になさい、西堀さくら」
21
:
◇ZLtnhXzy0
:2008/03/15(土) 11:25:17
ロンがおどけて指を鳴らす。それを合図にさくらは弾かれた様に前へと進む。
身体に金色の首輪を嵌められ、精神(こころ)に視認できぬ枷を嵌められさくらは自らの歩む道がグリーンマイルとも知らずに歩みだす。
「記憶は霞のように消えているはずですが、わたしが彼女の心のスイッチを押すだけでいとも簡単に自らを差し出す奴隷に変わることでしょう…」
「相当、腹が立ったんだネ、さっきの男…」
「えぇ。あの見透かしたような眼…気に入りません。あのしたり顔がどんな驚愕の表情へ変貌するか楽しみです…」
「回りくどいヨ、ロン。あの男の目の前であの女のきれいな顔を吹き飛ばしてやればいいのに…」
ロンはその問いには答えなかった。
彼は人間を虐げながら、その一方で人間を恐れている。一度、敗れた彼だからこそ感じる恐怖。
「彼女はあくまでゲームの駒として死ななければ意味がありません。弄び方を間違えば、その怒りの矛先の向かう先は我々です。それでは、ゲームにならない。あくまで箱庭の中で踊ってもらわねば、ね」
「お前の悪い癖ヨ。回りくどくて陰湿ネ」
さくらの運命についてあれこれ思索をはじめているのだろうか。
いや、あるいはもう既に決定しているのか。
人が抗えぬ神域に潜む悪意の権化は、ふらふらと所定の場所へとおぼつかない足取りで向かうさくらの背を眺めながらほくそ笑んだ。
22
:
◇ZLtnhXzy0
:2008/03/15(土) 11:25:50
【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:H-2港/古小屋 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本方針:殺し合いから生き延びる。
第一行動方針:女性(さくら)と情報交換を完了。当面の目的は仲間作り。気合は十分。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:H-2港/古小屋 1日目 深夜
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり)
[装備]:アクセルラー
[道具]:ガラスの靴、虫除けスプレー、虹の反物の切れ端
[思考]
基本方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:恭介と共闘して仲間を増やす。このゲームのルールを把握する。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
23
:
◇ZLtnhXzy0
:2008/03/15(土) 11:31:16
また、大変申し訳ないのですが、本スレ605と606の内容が反対です。
申し訳ありませんが、まとめる際は逆にして掲載してください。
24
:
◇ZLtnhXzy0
:2008/03/15(土) 16:40:50
掲載&代理アップありがとうございました。
助かりました。
25
:
◆Jl6p3hq0eU
:2008/03/15(土) 19:35:46
本スレでトリップつけました。
重ね重ね無知ですみません。
26
:
◆L3kdlaSWMo
:2008/03/15(土) 19:38:53
あ、こっちか。
27
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/17(月) 12:43:05
「阿修羅の如く」の修正箇所になります。
やはり一日延長して推敲を重ねるべきだったと反省しております。
完成度が低いにもかかわらず、暖かい感想、指摘、代理投下、ありがとうございました。
まとめ氏にはお手数を掛けます。よろしくお願い致します。
本スレ
>>592
の
入り口に燈った燭台の微かな光をたよりに、スフィンクスは一枚の紙切れに目を走らせていた。
を
入り口に燈った燭台の微かな光をたよりに、スフィンクスは一枚の紙切れに書かれた文字を辿っていた。
>>594
の
そう言ったのは、スフィンクスを塔の中へ誘い出す為だ。
を
そう言ったのは、スフィンクスを塔の中へ誘い込む為だ。
>>597
の
スフィンクスには、光が見ているのだろう。
を
スフィンクスには、光が見えているのだろう。
>>598
の
残り41人。
を
残り40人。
以上です。
28
:
まとめ氏さま……お願いいたします
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/27(木) 16:54:06
大変申し訳ありません「阿修羅の如く」にてもう一箇所間違いがありました。
お手数ですが修正していただけませんでしょうか?
本当にすみません。
「おまえの娘なら一度会ってみたいものです。人間の絆、そこに溢れる勇気。私は信じていています。そして、もっと知りたいのです」
を
「おまえの娘なら一度会ってみたいものです。人間の絆、そこに溢れる勇気。私は信じています。そして、もっと知りたいのです」
29
:
◆i1BeVxv./w
:2008/03/28(金) 00:23:55
まとめサイトの更新とあわせて、文章の修正も反映しました。
遠慮は無用ですので、修正の他にも加筆とかあるときはご遠慮なく。
wiki方式よりまとめサイトを推したのは私ですので、責任と覚悟はしていますです。はい。
30
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/03/28(金) 11:36:46
ありがとうございます。
これからも度々お願いするかと思います。
よろしくです。
31
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/03/30(日) 00:52:09
申し訳ありません。
改めて後日、「眠れる冥王」の修正版を投下予定でございます。
お詫び申し上げます。
32
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/04/04(金) 17:48:54
まとめ氏様、申し訳ありません。
「献身と勘違い」のおかしな点に気付きましたので、修正をお願いできませんか?
修正版
【クエスター ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:腕にそれなりに痛む程度の火傷 2時間戦闘不可
[装備]:グレイブラスター 釵一本
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:とりあえず、川でも探すか
第二行動方針:ボウケンジャーを片付けて、ついでに優勝を目指す
ガイはメレと交戦していますから、本来は2時間戦闘不可のはずでした。
気が付くのが遅くなって申し訳ありません。
お手数ですがお願い致します。
ただ、◆.6Hqkk7dyk様の眠れる冥王 修正版に影響しなければ良いのですが・・・
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
33
:
◆i1BeVxv./w
:2008/04/06(日) 21:36:03
遅ればせながら修正いたしました。
34
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/04/08(火) 22:42:43
期限を大幅にオーバーしましたが、投下します。
35
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/04/08(火) 22:43:20
ゴードムエンジンと機械の体にアシュの魂を宿せし者クエスター・ガイ。
獣を模った黒い装甲が月光に照らし出される。
胸部には緑の宝玉が埋め込まれ、中国の武人を思わせるような意匠が取り入れられている。
その姿はあたかも、『大神龍が存在している世界』の住人を彷彿とさせていた。
「右腕がまだ痛みやがる。水場を探さねえとな」
ペットボトルに入っていた真水で傷口を冷やしたおかげか、痛みは和らいだように見える。
右腕の装甲を水で急激に冷やしたためか、黒く焼け焦げた箇所にごく僅かなひび割れが入っていた。
「時間が経てばこんな傷ぐらい治るだろ。……さてと」
その僅かな装甲のひび割れに気付くはずもなく、彼は平然とした口振りでディバックに入ってあるアイテムを確認する。
「支給品でも確認すっかあ」
彼に支給されたアイテム。1つはライオンを象った黄色のハンマー『クエイクハンマー』
参加者名簿に含まれていない戦士が主に使用する武器だった。
説明書が付属されており、注意深く最後まで読む事にした。
「これは『ドライガン』・『ソニックメガホン』と連結させる事によって、より強力な武器『クエイクガジェット』が
完成します……か。ククク、そうこなくっちゃな!!」
仮面の奥で含み笑いを浮かべ、これから起こるであろう惨劇に胸を膨らませる。
確かに彼にとっては、他の参加者の命を奪い尚且つ、自身の武装を強化できる事が魅力的だったのだろう。
36
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/04/08(火) 22:43:53
「今度は逃がさねえ。……必ずな」
忌々しげに言葉を吐き捨て、彼は今まさに『獲物』を見つめる。
標的は水色の服を着た少女と白い服を着た少年。
この殺し合いの場では、ありとあらゆる存在が等しい立場に置かれている。ただ、支配者たる者を除いては。
「(ロン、覚悟しとけよ。次はテメェの番だ)」
「森を出たら、ママの居場所を知っている人に見つかるかもしれない」
突然、ドロップが口を開く。その口調は弱々しく、不安に満ちていた。
幼くして理不尽な殺し合いの場に招待されたのだ。正常な精神を保つのがやっとの状況で。
目の前で父を殺された彼女自身も同じだった。
そうした不安を打ち消そうと、麗はドロップにある言葉を授ける。
『勇気が魔法をくれる』
彼女は何よりもその言葉の意味を噛み締めていた。
「大丈夫。私がドロップの身を守ってみせるから。だから、いつも心に勇気を持って!」
「…ありがとう。だから、お姉ちゃんも頑張って!」
麗は、ドロップを母や兄弟の元に連れて行くために山を降りる事を決意する。森には殺人者が潜んでいる可能性が高いからだ。
そしてまた、彼女にとってドロップの泣き顔を見るのは辛いのだから。
「必ず、兄弟やママの所に連れて帰るからね」
37
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/04/08(火) 22:45:56
予感は的中した。草木を踏みしだいて現われた黒い装甲と一体化した男。
「……ここはお姉さんに任せて!!」
「でも…、どうするの……?」
「お姉さんもすぐにドロップに追いつく。だから、早くここから逃げて!!」
彼女の叫びをよそに、全速力で通り過ぎていくドロップ。
「この子には手を出さないで!この殺し合いに乗っているのなら、容赦はしない!」
「安心しろ。ガキに興味はねえ。だが、テメェはここで死ぬんだからな」
青の魔法使いに向けられた悪意の矛先。果たして、この困難を跳ね除ける事は出来るのであろうか。
「……もう、追いかけて来ないのかな」
2人の姿が遠ざかるまで逃げ切ったドロップ。しばらくして、安心した様子で付近の木陰で身を休めていた。
しかし、どこからか呼ぶ声が聞こえる。かすかだか、確かに東南からその声は聞こえてきた。
「……誰かが呼んでいる。行かなきゃ」
38
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/04/08(火) 22:48:35
【クエスター ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:B-4森林 1日目 黎明
[状態]:腕にそれなりに痛む程度の火傷 右腕の装甲にごく僅かなひび割れ 1時間戦闘不可
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー、釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る
第一行動方針:気に入らない奴を殺す
第二行動方針:水場を探す
参考:1本目のペットボトルを半分消費しました。
【名前】小津麗@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage47 結婚式の途中
[現在地]:B-4森林 1日目 黎明
[状態]:健康
[装備]:マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー 、何かの鍵、支給品一式
[思考]
基本方針:ドロップの身を守る
第一行動方針:装甲と一体化した男(ガイ)を倒す
第二行動方針:ドロップと共にみんなで元の世界に帰る
39
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/04/08(火) 22:49:27
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:C-4森林 1日目 黎明
[状態]:二時間は能力を使えません
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本方針:ママと兄弟に会わなきゃ
第一行動方針:東南へ向かう
第二行動方針:麗と再び合流する
40
:
◆.6Hqkk7dyk
:2008/04/08(火) 22:52:20
投下完了。
まとめサイトに掲載する際は「冥王星を継ぎし者」と改題してください。
41
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/12(土) 14:57:02
大変申し訳ありませんでした。
読み返して前話の把握不足と全体的な描写不足と反省いたしました。
指摘箇所と全体的に描写を加筆しました。
よろしくお願いいたします。
まとめ氏、お手数ですがこちらと差し替えていただけますでしょうか。
以下本文です。
42
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/12(土) 14:57:59
――ちくしょ……落ちる!!
閃光、爆風、そして……
落ちて行く体を止めようと、瞬はぐんと手を伸ばす。
だが、何も掴める筈も無く、その手は空しく宙を泳いだ。
途端、もがく体を強い痛みが制す。
(痛ッ!)
痛みがあやふやだった頭を瞬時に現実へ引き戻した。
(なんだよ、これ……)
頬はジンジンと焼けるような熱さを放ち。
激しく脈打つ血流は、一拍ごとに痛みに拍車を駆け、ドクンドクンと皮下で暴れまわる。
顔面に入り混じる痛みと熱さ。
その源である、瞬の右頬に湿った生臭い『何か』が張り付いている。
濡れたタオルようにべたり、と隙間無く密着する感触。
(気持ち悪い……)
それを退けようと手を掛けると、筋張った男の手に触れた。
(誰だ、誰なんだ。まさか、さっきの黒装束!?)
サッと全身から血の気が引いた。
逃れようと、体を捩り仰け反る。
その度に腕に、足に、筋肉にビキビキと裂けるような激痛が走る。
苦痛を伴う抵抗も、無情なる手の主に許す気は無いようだ。
動けば動くほど、顔面はより強く押さえつけられていった。
(こいつ、頭を撃った仕返しにこのまま潰す気だ!)
生きたまま、意識のあるまま、潰される。
不当な行為の報復とはいえ最悪の結末、血の気が引く処では無い。全身が粟立った。
男は力を緩めぬまま、必死にもがく瞬の肩を押さえつけた。
「オイ、動くな!傷口が開いちまうだろっ」
瞬の耳元すぐの所で、男が怒鳴った。
続けて肩を叩かれる。
「しっかりしろ!もう出血も止まる」
その声と共に顔面を覆っていた物が反転した。
ふわっと優しく顔を包んだのは白いタオルだった。
切れ端は瞬の血液で赤く染まっていた。
自分を気遣う生身の感触に、瞬はやっと今の状況を理解した。
(助けてくれたのか?)
そう言ったつもりだったが、意志に反して言葉にならない。
「うぁ〜〜ッ」
苦しげな呻き声が、口から漏れただけだった。
「無理に喋らなくていい。頷くだけでいいんだ。自分が誰か解るか?何が起きたか覚えてるか?」
瞬は言われるがまま頷いた。そして、声を振り絞りやっとの思いで言葉を紡ぐ。
「あぁ……あの…黒い…奴は?」
「心配すんな。もう大丈夫だ!」
不安を打ち消す快活な声が返ってきた。その声に瞬は、目を覆っていたタオルを退けた。
白い十字で飾られた赤い仮面、バイザーの下で精悍な男が微笑んでいた。
安堵した瞬は、腹の底から大きく息を吐いた。
そして痛みに身を任せ再び意識を失った。
43
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/12(土) 14:59:28
‡
意識を失っていた瞬は柔らかなソファーの上で目を覚ました。
暫く見慣れない天井を見つめていたが、天井から壁は、壁から室内全体へゆっくりと視線を動かした。
窓に吊されたロールブラインドの隙間から見える看板の文字でここが瞬の居たビルの一階であることが解った。
それ以外に、何も得る物はない。
絨毯敷きにソファーとテーブルがあるだけで『応接室』そう呼んで来客を迎えるには些か殺風景な部屋だった。
壁には絵画一枚飾られておらず、粗末な掛け時計が部屋の主のように鎮座していた。
掛時計の白い文字盤に浮かび上がる針が示すのはちょうど午前4時。
明け方が近いとはいえ、窓の外はまだ薄暗く、ロールブラインドで遮蔽された室内は、常夜灯と隙間から差し込む街頭の明かりがぼんやりと照らしていた。
ソファーと対で置かれたテーブルの上には、瞬を助けた男が用意しておいたのか、蓋の開いたミネラルウォーターのペットボトルがあった。
ゴクリ、瞬の喉が鳴った。
熱風で喉を焼かれたのか、口の中はカラカラだった。
喉の渇きを潤そうと、瞬はペットボトルに手を伸ばした。
ズキン!
電撃が走ったように体が痛んだ。
体を縮めた拍子に、手がペットボトルを弾いた。ペットボトルは床に転がり絨毯に水が染み込んでいく。
喉に染みこみ、唇を潤すはずだった水。
見る内に水溜まりが広がった。
(ちくしょう!一人戦うたびに、こんなにリスクを負ったんじゃ洒落にならない)
手を伸ばす、体を起こす、何でもない日常の動作さえも鈍痛が伴う。
施された応急処置が良かったのか出血こそ止まっていたが、全身に出来た痣は腫れて熱を持っていた。
喉の渇き、生まれて初めて味わう苦痛、それは沸々とやり場のない怒りへ変わる。
苦痛に耐える支えはただ一つ。
『夢を叶える』
それだけだった。
「気が付いたか?」
ペットボトルとタオルを手に、さっきの男が奥のドアから出てきて瞬に声を掛けた。
オレンジ色のレスキュー隊服の男、彼はゴーレッド、巽マトイと名乗った。
(レスキュー隊か。俺たちの税金で働いてるんだから助けて当然だよな)
そう、瞬は当然、自分を襲った黒装束をゴーレッドなるマトイが倒し、その後、助けてくれたのだろうと思った。
(俺をこんな目に合わせたんだ。倒されて、いや、殺されて当然、ざまあみろだ)
参加者を殺すことを考えても、良心の痛みなどもう感じなかった。
マトイは床に転がった空のボトルを見て察したのか、瞬にもう一本のミネラルウォーターを差し出した。
瞬は両手で受け取りゴクゴクと喉を鳴らし一気に飲み干した。
人心地付いた瞬は、マトイをジッと見つめた。
44
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/12(土) 15:00:20
(とりあえず礼ぐらい言っとくか)
「あの、俺、並木瞬です。助けてくれて、ありがとうございました」
「あぁ、瞬、よろしくな。だが俺はお前を助けたんじゃねぇ、お前の世界の未来を助けたんだ。
見た所、学生みたいだが、左手に着けてる『それ』見てピンと来たぜ。お前も平和を守るために戦ってんだろ?」
マトイは瞬の左手に装着されたデジタイザーを指差した。
(世界の未来を助ける?平和を守るために戦う?そんな事に使うんじゃない。俺の夢を叶えるために使うんだ)
瞬はデジタイザーに視線を落とし、フッと鼻で笑った。
「俺は、メガレンジャー、メガブルーでした」
「でしたって何だよ?あぁ、平和が戻ったのか」
「いえ、降りるつもりだったんです。だからこれは、もう俺にとってここで身を守るための道具でしかないんです」
「はぁ?」
訳が分からないと言った様子のマトイに、瞬は成り行きでメガレンジャーになった事、そしてこのバトルに巻き込まれ、黒装束に襲われるまでの経緯を話した。
無論、自分から狙撃した事は伏せておくことにした。
「俺の知り合いはいないし、どうしたものかとビルの屋上で様子を探ってたんです。その時、襲われて」
「わかんねぇな」
それまで黙って聞いていたマトイが眉を顰め口を挟んだ。
「何がですか?」
今度は瞬が眉を顰める。
「お前を襲った意味がだよ。あいつはお前の手当を頼むと言っていたぜ」
マトイの言葉は瞬にとって意外な一言だった。
(手当を頼むだって?どうなってるんだ。あいつを倒したんじゃないのか?)
先程の黒装束が生きていて、しかも殺し合いに乗っていないとすれば、瞬が狙撃したことを隠しているのは、後に自分の首を絞めることになりかねない。
(こんな事に巻き込まれたんだ。わざとじゃない、威嚇のつもりだったと言えば責めはしないだろう)
瞬は後悔しているように俯いたまま重々しく低い声で言った。
「身を守ろうと、銃を構えていたんです」
「構えて……へぇ。それで急に向かってきた奴が怖くなっちまって銃口を向けたってのか?あいつがお前を殺す気だったならわからねぇでもねえがな……本当にそれだけか?」
マトイの声が微妙に変化した。
瞬は焦った。言うべきではなかった。頭に命中したのは隠しておいた方がいいだろう。
「威嚇のつもりで一発撃ったのが、狙われているように思ったのかもしれません」
突然、マトイの右手が瞬の胸ぐらに伸びた。
庇おうと出した腕を掴まれ、体ごとマトイの顔のすぐ近くまで引き寄せられた。
「殺し合いに乗っていようが無かろうが、誰だっていきなり銃で撃たれたら反撃するだろうよ!」
「ここは、殺し合いの場なんだ。自分の命を守ろうとするのがいけないんですか!」
その答えに激高したマトイは勢いよく手を突き放す。
瞬は冷たい水の染み込んだ絨毯の上に尻餅を付くような格好で無様に転倒した。
45
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/12(土) 15:01:12
荒い息をしたマトイが上から瞬を睨み付けた。
「自分のことばかり言ってるんじゃねぇ!まるで解ってねぇようだな。いいか、たとえお前がいやいやメガネなんとかって奴になったとしてもなぁ!
俺たちは武器を持つ限り、それを持つ怖さと命を守る責任だけは、絶ッ対に忘れちゃいけないんだよ!」
マトイは言い放つと、瞬に背を向ける形で、反対側のソファーの端へどかりと腰を下ろした。
瞬ものろのろと体を起こし、ソファーへずり上がった。
瞬にだって、マトイが言うことが正しいのは心の隅で解っている。
だがマトイに掴まれた右腕が痛み、 濡れた学生ズボンの裾からジワジワ這い上がってくる冷たさと不快感は払拭しきれない。
それは更なる怒りに変わり、瞬の心で留まる。
(右手が使えなくなったら、CGが描けなくなったらどうしてくれるんだよ!)
瞬はマトイの背を見つめ、左手のデジタイザーに手を掛けた。
(その背中にメガトマホークを突き立ててやろうか?)
けれど、何とかその衝動を抑えた。
激情に駆られて変身コードを押したところで、この体ではまともに戦える筈が無いのだから……
項垂れた瞬の心を見透かしたようにマトイが振り返った。
「瞬、一つ言っとくがな。やたらむやみに変身するなよ」
心中を気付かれたかと思ったが、マトイの表情に怒りは微塵もなかった。
マトイは冷静な口調で言葉を続けた。
「お前を助けてる途中、いきなり着装前の姿に戻ったんだ。その後、何度か試したんだが着装できなかったぜ。
まさか一回こっきりしか変身できねぇ訳ねぇし。朝には元に戻ってると思うがな。多分首輪のせいだろうな」
瞬は何も言わず黙ったまま、マトイから視線を外した。
マトイの視線は、いたわるように瞬の傷の上を流れ、溜息と共に床に落ちた。
気まずさと空気の重さに耐えきれなかったのか、マトイが口を開いた。
「お前が銃を構えたって、確かに無理はねえかもな。俺だって、まだ何がなんだかわかんねぇよ」
マトイは頭を掻きむしると、デイバックから名簿を出して何人かに印を付けた。
「俺の知り合いは印の通りだ。○は信頼できる奴だ。×のドロップ、こいつはだめだ。△は……俺の知ってるジルフィーザなら話のわからねぇ奴じゃないが」
マトイは人差し指でトン、トンとドロップとジルフィーザの文字を叩いた。
「俺もよくわからねんだよ。この二人は本当なら存在するはず無いんだ。 このジルフィーザとドロップは確かに俺たちが倒したんだからよ」
「……何で俺に話すんですか」
マトイの意図が飲み込めず瞬は問い返した。
46
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/12(土) 15:02:10
「何でって作戦だよ、作戦。二人で同じ正義の戦士を捜し出してロンって奴を倒すんだよ。そうだ、さっきの奴はお前の知り合いって事にしとくから」
どうやら、マトイは瞬と行動を共にする気でいるらしいが……
「顔も見てないし名前も知らないのに何で俺の知り合いなんだよ」
「いちいちうるさいね、瞬は。お前は他に知り合いいないんだからいいじゃねぇか」
何だよ、それ。
訳の分からないマトイ節に瞬は軽く吹き出しそうになった。
腹は立ったし痛い思いもした。夢を叶える目的のためには正義の戦士など不必要だが傷付いた体だ。
回復するまではマトイを利用する。それが一番ベストだ。
「……まぁ、いいか」
「あぁ、い〜んだよ。気合いで乗り切ればさ、気合いで。まっ、とりあえず朝まで休憩としようぜ」
そう言うとマトイはソファーにゴロンと横になった。
お気楽なその姿に、瞬も一気に肩の力が抜けた。
(気合いとか正義だとか勝手に言ってるけど、俺は夢を叶える事は絶対に諦めない。
これからの事は悪いけど、傷の具合と成り行き次第で決めさせてもらうよ。それまで頼んだよ、マトイさん)
ちらりとマトイの横顔に目をやり、瞬は再び柔らかいソファーに身を委ねた。
【名前】並木瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:全身打撲、応急処置済み
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って、夢を叶える
備考:瞬のディパックはG-7エリアのどこかに吹き飛ばされました。中身が無事かは不明です。
また、中身の内容は不明ですが、瞬は確認済みです。
瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
変身制限があることを知りました。
【名前】巽マトイ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:未来戦隊タイムレンジャーvsゴーゴーファイブ後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康、仮眠中
[装備]:ゴーゴーブレス、レスキューロープ
[道具]:確認済み。
[思考]
基本行動方針:みんなを救う、気合いで乗り切る
第一行動方針:仲間を見付けてロンを倒す
備考:変身制限があることに気が付きました。
47
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/12(土) 15:04:52
以上です。
本筋は変わりないかと思います。
誤字脱字、指摘をどうぞよろしくお願いいたします。
48
:
青い炎とレスキュー魂(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/13(日) 11:13:06
失礼いたしました。誤字がありました。
>>43
の
>暫く見慣れない天井を見つめていたが、天井から壁は、壁から室内全体へゆっくりと視線を動かした。
を
>暫く見慣れない天井を見つめていたが、天井から壁へ、壁から室内全体へゆっくりと視線を動かした。
49
:
◆i1BeVxv./w
:2008/04/14(月) 09:04:54
>>47
遅ればせながら修正いたしました。
描写が追加され、よりわかりやすくなったと思います。
50
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/14(月) 11:15:22
いつもお世話になります。
次回作楽しみにしております。
51
:
◆7.egbPFHBY
:2008/04/16(水) 00:55:02
本スレからの指摘がありましたので、以下の文を
>「(ロン、覚悟しとけよ。次はテメェの番だ)」
と
「森を出たら、ママの居場所を知っている人に見つかるかもしれない」
の間に挿入してください。
殺人者に狙われているとも知らず、ドロップは家族の事を話し合っていた。
「ところで、君には家族はいないのかな?」
「兄が2人と、姉が1人かな。……恐らく、1人はここに呼ばれているかもしれない」
更にドロップは、兄弟が1人呼ばれたことを彼女に告げる。
「その兄弟の名前は何というの?」
「……ジルフィーザ。金色のお兄ちゃんがそう言っていた気がする」
聞いた名前はとても普通の人間とは思えない物だ。それでも彼女の考えが変わる事は無い。
「どんな存在であろうと、兄弟である事に変わりは無いの。きっと家族に会えるって!」
52
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/28(月) 12:25:17
誤字がありました。
本スレ
>>799
小津勇なる人物。剣技と魔法、共に優れた誇り高く魔法使いで、インフェルシアの冥獣帝ン・マを倒した天空聖者の一人だったと言う。
は
小津勇なる人物。剣技と魔法、共に優れた誇り高き魔法使いで、インフェルシアの冥獣帝ン・マを倒した天空聖者の一人だったと言う。
申し訳ありません。
53
:
◆i1BeVxv./w
:2008/04/29(火) 13:10:43
修正しました!
54
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/04/30(水) 03:50:28
ありがとうございます!
55
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/04/30(水) 21:43:46
まとめ氏様、また修正をお願いできますか?
独白の
第Ⅱ行動方針→第二行動指針に訂正していただけませんか?
というか、なんでローマ数字orz 己の目は節穴か>自分
本当、度々で申し訳ありません。
56
:
◆i1BeVxv./w
:2008/05/01(木) 01:33:10
修正しました!
57
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/05/01(木) 04:30:56
超今さらなんですが……
美希の道具にスフィンクスの首輪を記載していませんでした。
節穴とはまさに俺の事です。
本当に申し訳ございません。
58
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/05/01(木) 06:59:24
ありがとうございました
59
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/05/02(金) 13:30:54
ありがとうございました。
そして更新乙です!
60
:
◆i1BeVxv./w
:2008/05/03(土) 05:27:40
>>59
更新連絡し忘れてました。
自分も繋ぐとき気付いてたのに、うっかりしてました。。。
61
:
真紅の同志・修正版
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 13:47:01
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前は─。
そして、その装着者の名前は─。
西へ向かった冒険者たちは、早速、凄い物を発見した。
「ニャンだこりゃ?」
木に金色の斧が刺さっていたのだ。両刃の斧で、とても強そうだが、どう考えても一般的な斧ではない。
「プレシャス? …でも、ハザードレベルはないよ」
この斧はナイトアックスといって、宇宙海賊バルバンの船長、ゼイハブを倒す事が出来る唯一の武器である。
星から授かった力、「アース」がある者は触ることすらも出来ないというデメリットもあるが、この戦いにはアースを持つ者はいない。つまり、最高の武器なのだ。
だが、そんな強力な武器を簡単に入手させられるほどロンは優しくなかった。
「痛っ!」
触れない。菜月の手に電流が走った。菜月の手を嫌っているのだろうか。贅沢な斧だ。
「どれどれ…俺なら触れるけど」
竜也はナイトアックスを木から抜いて見せた。実はこのナイトアックスはロンによって、現代の地球人以外の者が触ることが出来ないよう細工されていたのだ。
レムリア人であるために現代の地球人と体質の違う菜月は触ることが出来ない。もちろん、マジトピアの火山の煙から生まれたスモーキーも。この中では、ただ一人、竜也のみが触れることが出来るのだ。
「折角菜月ちゃんが身を守るために使えると思ったんだけどな…」
62
:
真紅の同志・修正版
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 13:47:52
すみません。投下します。
63
:
真紅の同志(修正版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 13:49:00
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前は─。
そして、その装着者の名前は─。
西へ向かった冒険者たちは、早速、凄い物を発見した。
「ニャンだこりゃ?」
木に金色の斧が刺さっていたのだ。両刃の斧で、とても強そうだが、どう考えても一般的な斧ではない。
「プレシャス? …でも、ハザードレベルはないよ」
この斧はナイトアックスといって、宇宙海賊バルバンの船長、ゼイハブを倒す事が出来る唯一の武器である。
星から授かった力、「アース」がある者は触ることすらも出来ないというデメリットもあるが、この戦いにはアースを持つ者はいない。つまり、最高の武器なのだ。
だが、そんな強力な武器を簡単に入手させられるほどロンは優しくなかった。
「痛っ!」
触れない。菜月の手に電流が走った。菜月の手を嫌っているのだろうか。贅沢な斧だ。
「どれどれ…俺なら触れるけど」
竜也はナイトアックスを木から抜いて見せた。実はこのナイトアックスはロンによって、現代の地球人以外の者が触ることが出来ないよう細工されていたのだ。
レムリア人であるために現代の地球人と体質の違う菜月は触ることが出来ない。もちろん、マジトピアの火山の煙から生まれたスモーキーも。この中では、ただ一人、竜也のみが触れることが出来るのだ。
「折角菜月ちゃんが身を守るために使えると思ったんだけどな…」
64
:
真紅の同志(修正版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 13:51:02
「まあ若いの、そんなにめげるな。黄色いのはお前が守れば良いニャ」
「そうだな。とにかく、あの炎の方へ向かおう」
─ドモン、シオン、お前らは一体どこにいるんだ? 俺はお前らを見送る事ができなかったのか?
竜也は考えながら煙を見ていた。その右手には金色の斧が握られていた。
剣将ブドーは2人の男女をじっと見ていた。女の手にはランプ。男の手には両刃の斧。
そして、ブドーの手には、妖刀ギラサメ。その刃は確かに、2人の男女に向いていた。
「あの男、見たところかなりの腕だ。勝負がしたい…」
喜怒哀楽の感情表現が得意でないブドーも、そのとき、ニヤリと笑っていた。
ビュン! 何かが風を切る音が聞こえた。矢だ。
「何だこれ…果たし状…ドモンにもシオンにもこんなもの貰うようなことした覚えないぞ」
「それは拙者からでござる」
後ろから声がする。2人は同時に振り向いた。そこにいたのは、背中にカイトのようなものがついた、怪人。チョンマゲなど、とても日本的に見える。時代は違うが。
「貴様…なかなかの腕を持っている。拙者は貴様と勝負がしたい」
「何を勝手ニャことを…!!」
「待ってスモーキー、こいつはロンダーズの囚人かもしれない。シオンやドモンがいるということはロンダーズ囚人がいてもおかしくないんだ」
そんなときに、菜月とスモーキーはのんきに
「ねえ、猫さん、ロンダーズ囚人って知ってる?」
「俺はそんなもの知らないニャ。ロンの仲間か…?」
そんなことを話していた。
竜也はロンダーズという言葉は既に充分流通しているので知らない者はいないと思った。それだけに、菜月とスモーキーは驚いていた。
(まさか、シオンみたい─地球人に似た─なうちゅ…異星人もいるんじゃないか?)
スモーキーを見る。うん。そうだ。異星人もいる。菜月もそうなのだろう。地球によく似た星に住んでいたのだろう。
「おい、貴様、人の話を聞いているのか? そうだ、拙者は剣将ブドーと申す。貴様は何でござるか?」
「浅見竜也だ。できれば、戦いたくない」
ブドーは止むを得ない、という顔をして、剣を菜月に向けた。
「戦わぬと云うのなら、その娘の首が飛ぶ事になるかもしれんぞ?」
65
:
真紅の同志(修正版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 13:55:25
ブドーとしては、非力な女子供にはあまり手を出したくはなかった。
今度ばかりは、菜月も流石に顔色を変える。まるで竜也に会う前の、さっきまでの菜月だ。
竜也はそれを見てすぐに
「しょうがない…戦うよ。ただし、俺に勝ったときは、菜月ちゃんを守ってやってくれ。頼む」
「それで貴様と戦う事が出来るならば…いたしかたあるまい」
そう、強さを極めるのが彼の目的。優勝するまでは、守っても構わないだろう。
それに、竜也を見てピンと来た。この戦いには、こんな奴がたくさんいる。仙一もそうだ。
勝ち残れるかはわからない。それに、さっきも思ったが、なるべく女子供に手出しはしたくない。
「約束だぞブドー。絶対に菜月ちゃんを守ってやってくれ」
まるで負ける事を前提に言っているようだった。きっと、竜也もブドーがどれほどの戦士なのかわかっているのだろう。そして、自分よりたくましいと言う事は、自分より、菜月を守ることが出来る。
竜也は、左手のVコマンダーを口の前に持ってきた。
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前はタイムファイヤー。
そして、その装着者の名前は浅見竜也。武器は右手のナイトアックスと、DVディフェンダー。
1体1の真剣勝負。だが─ブドーには制限がある。一体、この勝負はどうなるのか。それは、誰にもわからない。
この時、竜也は知らなかった。ユウリの手がかりが、身近にあったことを。
菜月のデイパックの奥に、タイムピンクに変身するためのクロノチェンジャーがあったことを。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康 広間にドモンとシオンが居た事へのとまどい タイムファイヤーに変身中 ブドーと戦闘直前
[装備]:Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー、ナイトアックス@星獣戦隊ギンガマン、矢一本
[道具]:確認済み、ペットボトルのうち1本は菜月に渡しています。 果たし状
[思考・状況]
基本行動方針:戦いに反対
1,ブドーとの真剣勝負(勝利条件は「圧縮冷凍」)
2,仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
3,菜月の仲間を探す
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。 他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
※ナイトアックスは、地球人でないと触れないように細工されています。
※ブドーをロンダーズ囚人だと思っています。
66
:
真紅の同志(修正版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 13:56:35
すみません。
>>65
修正です。
67
:
真紅の同志(修正版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 13:58:22
ブドーとしては、非力な女子供にはあまり手を出したくはなかった。
今度ばかりは、菜月も流石に顔色を変える。まるで竜也に会う前の、さっきまでの菜月だ。
竜也はそれを見てすぐに
「しょうがない…戦うよ。ただし、俺に勝ったときは、菜月ちゃんを守ってやってくれ。頼む」
「それで貴様と戦う事が出来るならば…いたしかたあるまい」
そう、強さを極めるのが彼の目的。優勝するまでは、守っても構わないだろう。
それに、竜也を見てピンと来た。この戦いには、こんな奴がたくさんいる。仙一もそうだ。
勝ち残れるかはわからない。それに、さっきも思ったが、なるべく女子供に手出しはしたくない。
「約束だぞブドー。絶対に菜月ちゃんを守ってやってくれ」
まるで負ける事を前提に言っているようだった。きっと、竜也もブドーがどれほどの戦士なのかわかっているのだろう。そして、自分よりたくましいと言う事は、自分より、菜月を守ることが出来る。
竜也は、左手のVコマンダーを口の前に持ってきた。
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前はタイムファイヤー。
そして、その装着者の名前は浅見竜也。武器は右手のナイトアックスと、DVディフェンダー。
1体1の真剣勝負。だが─ブドーには制限がある。一体、この勝負はどうなるのか。それは、誰にもわからない。
この時、竜也は知らなかった。ユウリの手がかりが、身近にあったことを。
菜月のデイパックの奥に、タイムピンクに変身するためのクロノチェンジャーがあったことを。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康 広間にドモンとシオンが居た事へのとまどい タイムファイヤーに変身中 ブドーと戦闘直前
[装備]:Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー、ナイトアックス@星獣戦隊ギンガマン、矢一本
[道具]:確認済み、ペットボトルのうち1本は菜月に渡しています。 果たし状
[思考・状況]
基本行動方針:戦いに反対
1,ブドーとの真剣勝負(勝利条件は「圧縮冷凍」)
2,仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
3,菜月の仲間を探す
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。 他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
※ナイトアックスは、地球人でないと触れられないように細工されています。
(菜月の場合は現代の地球人と体質が違うために触れません)
※ブドーをロンダーズ囚人だと思っています。
68
:
真紅の同志(修正版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/03(土) 14:02:21
【間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task14後
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:ナイトアックスのせいで右手に火傷 竜也やスモーキーのお陰で大分安心
[装備]:アクセルラー(ボウケンイエロー)@轟轟戦隊ボウケンジャー、スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー(未確認)
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1,真剣勝負、竜也を応援
2,シオン、ドモン、巽マトイを探す
3,ロンダーズ?
※スモーキーの参戦時期はボウケンジャーVSスーパー戦隊後です。
※竜也かブドー、この勝負に勝ったほうと行動することになっています。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康 2時間戦闘不能 タイムファイヤー(竜也)と戦闘直前
[装備]:妖刀ギラサメ、筆と紙、弓、矢(本数不明)
[道具]:不明
[思考・状況]
基本行動方針:戦う
1,竜也と戦う
2,勝った場合、菜月を守る(約束は果たす)
3,優勝を目指す
(ただし、非力な女子供は基本的に攻撃したくないと考えています。ブクラテスは非力ですが、ダイタニクス復活のために、まずは仲間を殺す決意が必要だと思ったからと考えられます)
4,仙一と再会時には必ず殺す
69
:
真紅の同志(恐らく完全版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/04(日) 18:01:10
投下します。
70
:
真紅の同志(恐らく完全版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/04(日) 18:02:14
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前は─。
そして、その装着者の名前は─。
西へ向かった冒険者たちは、早速、凄い物を発見した。
「ニャンだこりゃ?」
木に金色の斧が刺さっていたのだ。両刃の斧で、とても強そうだが、どう考えても一般的な斧ではない。
「プレシャス? …でも、ハザードレベルはないよ」
この斧はナイトアックスといって、宇宙海賊バルバンの船長、ゼイハブを倒す事が出来る唯一の武器である。
星から授かった力、「アース」がある者は触ることすらも出来ないというデメリットもあるが、この戦いにはアースを持つ者はいない。つまり、最高の武器なのだ。
だが、そんな強力な武器を簡単に入手させられるほどロンは優しくなかった。
「痛っ!」
触れない。菜月の手に電流が走った。菜月の手を嫌っているのだろうか。贅沢な斧だ。
「どれどれ…俺なら触れるけど」
竜也はナイトアックスを木から抜いて見せた。実はこのナイトアックスはロンによって、現代の地球人以外の者が触ることが出来ないよう細工されていたのだ。
レムリア人であるために現代の地球人と体質の違う菜月は触ることが出来ない。もちろん、マジトピアの火山の煙から生まれたスモーキーも。この中では、ただ一人、竜也のみが触れることが出来るのだ。
「折角菜月ちゃんが身を守るために使えると思ったんだけどな…」
71
:
真紅の同志(恐らく完全版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/04(日) 18:03:17
「まあ若いの、そんなにめげるな。黄色いのはお前が守れば良いニャ」
「そうだな。とにかく、あの炎の方へ向かおう」
─ドモン、シオン、お前らは一体どこにいるんだ? 俺はお前らを見送る事ができなかったのか?
竜也は考えながら煙を見ていた。その右手には金色の斧が握られていた。
剣将ブドーは2人の男女をじっと見ていた。女の手にはランプ。男の手には両刃の斧。
そして、ブドーの手には、妖刀ギラサメ。その刃は確かに、2人の男女に向いていた。
「あの男、見たところかなりの腕だ。勝負がしたい…」
喜怒哀楽の感情表現が得意でないブドーも、そのとき、ニヤリと笑っていた。
ビュン! 何かが風を切る音が聞こえた。矢だ。
「何だこれ…果たし状…ドモンにもシオンにもこんなもの貰うようなことした覚えないぞ」
「それは拙者からでござる」
後ろから声がする。2人は同時に振り向いた。そこにいたのは、背中にカイトのようなものがついた、怪人。チョンマゲなど、とても日本的に見える。時代は違うが。
「貴様…なかなかの腕を持っている。拙者は貴様と勝負がしたい」
「何を勝手ニャことを…!!」
「待ってスモーキー、こいつはロンダーズの囚人かもしれない。シオンやドモンがいるということはロンダーズ囚人がいてもおかしくないんだ」
そんなときに、菜月とスモーキーはのんきに
「ねえ、猫さん、ロンダーズ囚人って知ってる?」
「俺はそんなもの知らないニャ。ロンの仲間か…?」
そんなことを話していた。
竜也はロンダーズという言葉は既に充分流通しているので知らない者はいないと思った。それだけに、菜月とスモーキーは驚いていた。
(まさか、シオンみたい─地球人に似た─なうちゅ…異星人もいるんじゃないか?)
スモーキーを見る。うん。そうだ。異星人もいる。菜月もそうなのだろう。地球によく似た星に住んでいたのだろう。
「おい、貴様、人の話を聞いているのか? そうだ、拙者は剣将ブドーと申す。貴様は何でござるか?」
「浅見竜也だ。できれば、戦いたくない」
ブドーは止むを得ない、という顔をして、剣を菜月に向けた。
「戦わぬと云うのなら、その娘の首が飛ぶ事になるかもしれんぞ?」
72
:
真紅の同志(恐らく完全版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/04(日) 18:14:51
強さを磨くためには、弱者も狩らなければならない。ひょっとしたら弱者を生かしておいて損をすることもある。
今度ばかりは、菜月も流石に顔色を変えた。まるで竜也に会う前の、さっきまでの菜月だ。
竜也はそれを見てすぐに
「しょうがない…戦うよ。ただし、俺に勝ったときは、菜月ちゃんを守ってやってくれ。頼む」
「断わる。拙者は裏切り者とはいえ元・宇宙海賊バルバンの行動隊長だ。ここであやつを守ることとなれば拙者は完全に裏切り者となる」
「じゃあ…せめて、見逃してくれないか? 1回だけでいいんだ…! 頼む!」
「それで貴様と戦う事が出来るならば…いたしかたあるまい」
それを聞いたあと、竜也は、菜月の方に体を向け、ゴニョゴニョと何か耳打ちした。
どうやら、左腕のブレス─Vコマンダーを指差して何か言っていた。自分が負けた時のために、身を守る道具、つまり変身道具の使い方を教えていたのだ。
(何を話しているのだ…! 早く勝負をするのだ!)
再び、竜也がブドーの方へ体を向け、
「約束だぞブドー。絶対に菜月ちゃんを見逃してやってくれ」
まるで負ける事を前提に言っているようだった。きっと、竜也もブドーがどれほどの戦士なのかわかっているのだろう。しかも、わざわざ果たし状を送ってくるような律儀な男。約束を破る可能性は低いだろう。
竜也は、左手のVコマンダーを口の前に持ってきた。
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前はタイムファイヤー。
そして、その装着者の名前は浅見竜也。武器は右手のナイトアックスと、DVディフェンダー。
1体1の真剣勝負。だが─ブドーには制限がある。一体、この勝負はどうなるのか。それは、誰にもわからない。
この時、竜也は知らなかった。ユウリの手がかりが、身近にあったことを。
菜月のデイパックの奥に、タイムピンクに変身するためのクロノチェンジャーがあったことを。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康 広間にドモンとシオンが居た事へのとまどい タイムファイヤーに変身中 ブドーと戦闘直前
[装備]:Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー、ナイトアックス@星獣戦隊ギンガマン、矢一本
[道具]:確認済み(ペットボトルのうち1本は菜月に渡しています)、ブドーからの果たし状
[思考・状況]
基本行動方針:戦いに反対
第一行動方針:ブドーとの真剣勝負(勝利条件は「圧縮冷凍」)
第二行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第三行動方針:菜月の仲間を探す
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。 他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
※ナイトアックスは、地球人でないと触れられないように細工されています。
(菜月の場合は現代の地球人と体質が違うために触れません)
※ブドーをロンダーズ囚人だと思っています。
※首輪があるため、圧縮冷凍が可能かは不明です。
73
:
真紅の同志(恐らく完全版)
◆eQMz0gerts
:2008/05/04(日) 18:18:59
【間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task14後
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:ナイトアックスのせいで右手に火傷 竜也やスモーキーのお陰で大分安心
[装備]:アクセルラー(ボウケンイエロー)@轟轟戦隊ボウケンジャー、スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー(未確認)
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
第一行動方針:真剣勝負、竜也を応援
第二行動方針:シオン、ドモン、巽マトイを探す
第三行動方針:ロンダーズ?
※スモーキーの参戦時期はボウケンジャーVSスーパー戦隊後です。
※Vコマンダーの使い方を覚えました。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康 2時間戦闘不能 タイムファイヤー(竜也)と戦闘直前
[装備]:妖刀ギラサメ、筆と紙、弓、矢(本数不明)、「復讐の 刃がセンを 叩き斬る」と書かれた紙
[道具]:不明
[思考・状況]
基本行動方針:戦う
1,竜也と戦う
2,勝った場合、菜月を1回だけ見逃す
3,優勝を目指す
4,仙一と再会時には必ず殺す
74
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/05(月) 15:06:10
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前は─。
そして、その装着者の名前は─。
西へ向かった冒険者たちは、早速、凄い物を発見した。
「ニャンだこりゃ?」
木に金色の斧が刺さっていたのだ。両刃の斧で、とても強そうだが、どう考えても一般的な斧ではない。
「プレシャス? …でも、ハザードレベルはないよ」
この斧はナイトアックスといって、宇宙海賊バルバンの船長、ゼイハブを倒す事が出来る唯一の武器である。
星から授かった力、「アース」がある者は触ることすらも出来ないというデメリットもあるが、この戦いにはアースを持つ者はいない。つまり、最高の武器なのだ。
だが、そんな強力な武器を簡単に入手させられるほどロンは優しくなかった。
「痛っ!」
触れない。菜月の手に電流が走った。菜月の手を嫌っているのだろうか。贅沢な斧だ。
「どれどれ…俺なら触れるけど」
竜也はナイトアックスを木から抜いて見せた。実はこのナイトアックスはロンによって、現代の地球人以外の者が触ることが出来ないよう細工されていたのだ。
レムリア人であるために現代の地球人と体質の違う菜月は触ることが出来ない。もちろん、マジトピアの火山の煙から生まれたスモーキーも。この中では、ただ一人、竜也のみが触れることが出来るのだ。
「折角菜月ちゃんが身を守るために使えると思ったんだけどな…」
菜月はボウケンイエローとして活躍していたらしいが、今のままでは当然、身を守るために何か必要だろう。それに、ボウケンイエローというものの強さは全く知らない。
ひょっとしたら、彼女の妄想だったり、幼い頃にやったヒーローごっこの続きかもしれない。
まあ、自分も「タイムレンジャー」「ゴーゴーファイブ」の2つのヒーローを知っているし、ロンも最初にゲキレッドがどうのと、言っていた。そういう戦士を信じないわけではないが、うじゃうじゃいるとも思えない。
75
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/05(月) 15:07:06
失礼しました。
3度目の修正投下を行います。
76
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/05(月) 15:09:09
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前は─。
そして、その装着者の名前は─。
西へ向かった冒険者たちは、早速、凄い物を発見した。
「ニャンだこりゃ?」
木に金色の斧が刺さっていたのだ。両刃の斧で、とても強そうだが、どう考えても一般的な斧ではない。
「プレシャス? …でも、ハザードレベルはないよ」
この斧はナイトアックスといって、宇宙海賊バルバンの船長、ゼイハブを倒す事が出来る唯一の武器である。
星から授かった力、「アース」がある者は触ることすらも出来ないというデメリットもあるが、この戦いにはアースを持つ者はいない。つまり、最高の武器なのだ。
だが、そんな強力な武器を簡単に入手させられるほどロンは優しくなかった。
「痛っ!」
触れない。菜月の手に電流が走った。菜月の手を嫌っているのだろうか。贅沢な斧だ。
「どれどれ…俺なら触れるけど」
竜也はナイトアックスを木から抜いて見せた。実はこのナイトアックスはロンによって、現代の地球人以外の者が触ることが出来ないよう細工されていたのだ。
レムリア人であるために現代の地球人と体質の違う菜月は触ることが出来ない。もちろん、マジトピアの火山の煙から生まれたスモーキーも。この中では、ただ一人、竜也のみが触れることが出来るのだ。
「折角菜月ちゃんが身を守るために使えると思ったんだけどな…」
菜月はボウケンイエローとして活躍していたらしいが、今のままでは当然、身を守るために何か必要だろう。
それに、ボウケンイエローというものの強さは全く知らない。ひょっとしたら、彼女の妄想だったり、幼い頃にやったヒーローごっこの続きかもしれない。
まあ、自分も「タイムレンジャー」「ゴーゴーファイブ」の2つのヒーローを知っているし、ロンも最初にゲキレッドがどうのと、言っていた。そんな珍しいものがうじゃうじゃいるとも思えない。
77
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/05(月) 15:13:51
「まあ若いの、そんなにめげるな。黄色いのはお前が守れば良いニャ」
「そうだな。とにかく、あの炎の方へ向かおう」
─ドモン、シオン、お前らは一体どこにいるんだ? 俺はお前らを見送る事ができなかったのか?
竜也は考えながら煙を見ていた。その右手には金色の斧が握られていた。
剣将ブドーは2人の男女をじっと見ていた。女の手にはランプ。男の手には両刃の斧。
そして、ブドーの手には、妖刀ギラサメ。その刃は確かに、2人の男女に向いていた。
「あの男、見たところかなりの腕だ。勝負がしたい…」
初心に返り、強さを極める事が自分の目的。ならば、強き者を倒すのだ。
ビュン! 何かが風を切る音が聞こえた。矢だ。
「何だこれ…果たし状…ドモンにもシオンにもこんなもの貰うようなことした覚えないぞ」
「それは拙者からでござる」
後ろから声がする。2人は同時に振り向いた。そこにいたのは、背中にカイトのようなものがついた、怪人。チョンマゲなど、とても日本的に見える。時代は違うが。
「貴様…なかなかの腕を持っている。拙者は貴様と勝負がしたい」
「何を勝手ニャことを…!!」
「待ってスモーキー、こいつはロンダーズの囚人かもしれない。シオンやドモンがいるということはロンダーズ囚人がいてもおかしくないんだ」
そんなときに、菜月とスモーキーはのんきに
「ねえ、猫さん、ロンダーズ囚人って知ってる?」
「俺はそんなもの知らないニャ。ロンの仲間か…?」
そんなことを話していた。
竜也はロンダーズという言葉は既に充分流通しているので知らない者はいないと思った。それだけに、菜月とスモーキーは驚いていた。
(まさか、シオンみたい─地球人に似た─なうちゅ…異星人もいるんじゃないか?)
スモーキーを見る。うん。そうだ。異星人もいる。菜月もそうなのだろう。地球によく似た星に住んでいたのだろう。
「おい、貴様、人の話を聞いているのか? 拙者は剣将ブドー。貴様の名を教えろ」
「浅見竜也だ。できれば、戦いたくない」
ブドーは「フン」と言ったあと、剣の刃を菜月に向けた。
「戦わぬと云うのなら、その娘の血を見ることになるかもしれんぞ?」
78
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/05(月) 15:27:50
強さを磨くためには、弱者も狩らなければならない。ひょっとしたら弱者を生かしておいて損をすることもある。
今度ばかりは、菜月も流石に顔色を変えた。まるで竜也に会う前の、さっきまでの菜月だ。
竜也はそれを見てすぐに
「しょうがない…戦うよ。ただし、俺に勝ったときは、菜月ちゃんを守ってやってくれ。頼む」
「断わる。拙者は裏切り者とはいえ元・宇宙海賊バルバンの行動隊長だ。ここであやつを守ることとなれば拙者は完全なる裏切り者と化す」
「じゃあ…せめて、見逃してくれないか? 1回だけでいいんだ…! 頼む!」
「フン。拙者は優勝し、ダイタニクスを復活させるという目的がある。拙者はバルバンの夢を散らせぬため、参加者を問答無用で殺す!」
「そうか…なら、絶対に倒す! だが、その前にちょっと待ってくれ」
竜也は、菜月の方に体を向け、ゴニョゴニョと何か耳打ちした。
どうやら、左腕のブレス─Vコマンダーを指差して何か言っていた。自分が負けた時のために、身を守る道具、つまり変身道具の使い方を教えていたのだ。
(何を話しているのだ…! 早く勝負をするのだ!)
再び、竜也がブドーの方へ体を向け、
「剣将ブドー…俺はお前を逮捕する!」
竜也は、左手のVコマンダーを口の前に持ってきた。
「タイムファイヤー!!」
友の声詰まるそのブレスに、男は、自分の声を詰め込んだ。
その声は男の姿を炎に変えた。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前はタイムファイヤー。
そして、その装着者の名前は浅見竜也。武器は右手のナイトアックスと、DVディフェンダー。
「もう一度言う! 剣将ブドー! 時間保護法違反により、お前を逮捕する!
タイムエンブレムは無いが、そのマスクの奥に眠る目は、光り輝いていた。
1体1の真剣勝負。だが─ブドーには制限がある。一体、この勝負はどうなるのか。それは、誰にもわからない。
この時、竜也は知らなかった。ユウリの手がかりが、身近にあったことを。
菜月のデイパックの奥に、タイムピンクに変身するためのクロノチェンジャーがあったことを。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康 広間にドモンとシオンが居た事へのとまどい タイムファイヤーに変身中 ブドーと戦闘直前
[装備]:Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー、ナイトアックス@星獣戦隊ギンガマン、矢一本
[道具]:確認済み(ペットボトルのうち1本は菜月に渡しています)、ブドーからの果たし状
[思考・状況]
基本行動方針:戦いに反対
第一行動方針:ブドーとの真剣勝負(勝利条件は「圧縮冷凍」)
第二行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第三行動方針:菜月の仲間を探す
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。 他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
※ナイトアックスは、地球人でないと触れられないように細工されています。
(菜月の場合は現代の地球人と体質が違うために触れません)
※ブドーをロンダーズ囚人だと思っています。
※首輪があるため、圧縮冷凍が可能かは不明です。
79
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/05(月) 15:41:14
逃げようとは思っていた。だが、体は思うように動かない。竜也の勝利を信じていたからかもしれない。
竜也も逃げろなどと言わなかった。自分の勝利を確信しているのだろうか。そして、もし彼女が逃げたとしても、ブドーのような奴がいるかもしれない。それを危険視しているのだろうか。
じゃあ、Vコマンダーの説明は何のために…? 竜也は、ボウケンイエローの力を信じていた。その力で、きっと、Vコマンダーも手に入れてくれると。
ありえないほど強い、最強の戦士が生まれると。
「大丈夫ニャ。あの若いのが負けても超強い俺様が絶対に黄色いのを守ってみせるニャ」
スモーキーも竜也と菜月の強さを信じていたからこんな気楽に言えたのだろう。ブドーには悪いが。
【間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task14後
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:ナイトアックスのせいで右手に火傷 竜也やスモーキーのお陰で大分安心
[装備]:アクセルラー(ボウケンイエロー)@轟轟戦隊ボウケンジャー、スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー(未確認)
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
第一行動方針:真剣勝負、竜也を応援
第二行動方針:シオン、ドモン、巽マトイを探す
第三行動方針:ロンダーズ?
※スモーキーの参戦時期はボウケンジャーVSスーパー戦隊後です。
※Vコマンダーの使い方を覚えました。
【スモーキーの思考】
黄色いの(菜月)を守る。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-6森林 1日目 深夜
[状態]:健康 約2時間戦闘不能 タイムファイヤー(竜也)と戦闘直前
[装備]:妖刀ギラサメ、筆と紙、弓、矢(本数不明)、「復讐の 刃がセンを 叩き斬る」と書かれた紙
[道具]:不明
[思考・状況]
基本行動方針:戦う
第一行動方針:竜也と戦う
第二行動方針:勝った場合、菜月を殺す
第三行動方針:優勝を目指す
第四行動方針:仙一と再会時には必ず殺す
80
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/08(木) 19:22:11
投下します。
81
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/08(木) 19:26:29
西へ向かった冒険者たちは、早速、凄い物を発見した。 炎は既に治まっている。それでも彼らは炎のあった場所に向かおうとしている。
「ニャンだこりゃ?」
木に金色の斧が刺さっていたのだ。両刃の斧で、とても強そうだが、どう考えても一般的な斧ではない。 こういう神秘的な感じがする武器は、菜月の専門だ。
「プレシャス? …でも、ハザードレベルはないよ」
この斧はナイトアックスといって、宇宙海賊バルバンの船長、ゼイハブを倒す事が出来る唯一の武器である。
星から授かった力、「アース」がある者は触ることすらも出来ないというデメリットもあるが、この戦いにはアースを持つ者はいない。つまり、最高の武器なのだ。
だが、そんな強力な武器を簡単に入手させられるほどロンは優しくなかった。
「痛っ!」
触れない。菜月の手に電流が走った。菜月の手を嫌っているのだろうか。腹が立つほど贅沢な斧だ。
「どれどれ…俺なら触れるけど」
竜也は言いながら、ナイトアックスを木から抜いて見せた。実はこのナイトアックスはロンによって、現代の地球人以外の者が触ることが出来ないよう細工されていたのだ。
レムリア人であるために現代の地球人と体質の違う菜月は触ることが出来ない。もちろん、マジトピアの火山の煙から生まれたスモーキーも。この中では、ただ一人、竜也のみが触れることが出来るのだ。
「折角菜月ちゃんが身を守るために使えると思ったんだけどな…」
菜月がいくらボウケンイエローだからと言って、変身前ではただの女の子(に見える)。竜也はとにかく、彼女の身を守るものがほしかった。友の形見のVコマンダーは渡せないが。
「まあ若いの、そんなにめげるな。黄色いのはお前が守れば良いニャ」
竜也は、ちょっと考えてから
「そうだな。とにかく、あの炎のあった方へ向かおう」
と言った。
(ドモン、シオン、お前らは一体どこにいるんだ? 俺はお前らを見送る事ができなかったのか?)
竜也は考えながら煙を見ていた。その右手にはナイトアックスが握られていた。
82
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/08(木) 19:28:30
□
剣将ブドーは2人の男女をじっと見ていた。女の手にはランプ。男の手には両刃の斧。ブドーは男がそれを手に入れるあたりから、目をそちらに向けていた。
あれを使えば、かなり有利になれる。あの刃が何人分の血を見せるだろう。とても楽しみだ。
不意打ちをして、その男から奪えばいい。だが、
「あの男、見たところかなりの腕だ。勝負がしたい…」
初心に返り、強さを極める事が自分の目的。ならば、竜也のような強者を倒すのだ。
ブドーは、デイパックから、弓矢と筆と紙を取り出し、紙に何か書いた。
『果たし状』
□
ビュン! 何かが風を切る音が聞こえた。矢だ。
「何だこれ…果たし状…俺、誰かに貰うようなことした覚えないぞ」
「それは拙者からでござる」
竜也たちの後ろから声がする。2人は同時に振り向いた。そこにいたのは、背中にカイトのようなものがついた、怪人。チョンマゲ、和服など、とても日本的に見える。時代は違うが。
「貴様…なかなかの腕を持っている。拙者は貴様と勝負がしたい」
「何を勝手ニャことを…!!」
スモーキーはランプから頭を出して、ブドーを睨む。
「待ってスモーキー、こいつはロンダーズの囚人かもしれない。シオンやドモンがいるということはロンダーズ囚人がいてもおかしくないんだ」
竜也がスモーキーを止めると共に、菜月はスモーキーに
「ねえ、猫さん、ロンダーズ囚人って知ってる?」
「俺はそんなもの知らないニャ」
竜也にはロンダーズという言葉を知らないというのは、考えられなかった。ロンダーズはコソコソせずに、堂々と金を奪い、堂々と人を殺害してきた。
それに、既に最近では大量のゼニットが一般人を殺害するなどの破壊活動を行っている。知らないとしたら、竜也の思考の中では、異世界の人間、異星人、過去の人間…。過去の人間、というのが竜也として一番簡単な答えだった。
ロンが未来人ならば、色んな時代の人間を呼ぶ事が出来る。
とにかく、自分の状況を考えて思考を変え、ブドーに対して言った。
「なあ、俺は戦いたくないんだ! 戦わずに済むんならそうしたい」
ブドーは「フン」と言ったあと、ギラサメの刃を菜月に向けた。
「戦わぬと言うのなら、その娘の血を見ることになるかもしれんぞ?」
弱者を生かしておいて、得になることはないだろう。もしかしたら、それが仇となり、敗北へ導かれる事もある。そのためにも、ブドーは菜月を消す事にしていた。
そう、ブドーから見れば、菜月はただの女子。弱者だ。だが、生かしておいて得になることはない。ならば─。
今度ばかりは、菜月も流石に顔色を変えた。まるで、竜也と会う前に戻ったみたいだ。
「その首、貰うぞ」
83
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/08(木) 19:33:17
それと同時に何か、大きな声が聞こえた。既に頭の中で走馬灯が回っている菜月の耳には、その声は入らなかったが。
ギラサメの刃は、菜月を斬らなかった。かわりに、真紅の炎の戦士が斬られた。強化服のお陰で、ダメージは低い。しかも、ブドーは制限により、強化服に大ダメージを与えられるほど強くない状態だった。
「しょうがない…戦うよ。ただし、俺に勝ったときは、菜月ちゃんを見逃してやってくれ。頼む」
と言い、ブドーをにらんだ。
(こやつもギンガマンのように強くなることが出来るのか。それも拙者を倒したギンガレッドと同じ炎の戦士とは…)
ブドーがんなことを考えている間に菜月は変身した竜也を見た。
マスクやスーツの、炎のような情熱。対して、ベルトのエンブレムの、氷のような冷静。どこか気になるソイツの名前はタイムファイヤー。
その装着者の名前は浅見竜也。滝沢直人の遺志を継ぐ者。ブドーの考えどおり、炎の戦士。
さっき聞こえた声は、「タイムファイヤー!」と言っていた。友の声詰まるVコマンダーに、彼は新たに自分の声を詰め込んだのだ。
「姿を変えたな。改めて名を名乗れ」
「タイムファイヤーだ。2代目のな…」
「そうか。ならば2代目のタイムファイヤーが眠る場所はここになるだろう」
次の瞬間、ブドーのギラサメが、強烈な光により、美しく映えた。
「俺はお前を絶対に倒す! いや、逮捕する!」
ナイトアックスを持っているほうでない手─左手のタイムエンブレムが暗闇の中で唯一光った。
「菜月ちゃん! できれば安全なところに逃げるんだ!」
タイムファイヤーの言葉は、今はあまり意味が無かった。
「大丈夫! だって菜月、強き冒険者、ボウケンイエローだもん!」
その言葉は前に聞いたときよりも自信に満ちていた。竜也の強さを信じる心もあるのだが、彼女には、いつの間にか、自分の強さを信じる心が芽生えていた。
ボウケンレッド、ボウケンブルー、ボウケンブラック、ボウケンピンク、そしてタイムファイヤーといった頼もしい姿を見てきて、自分だけかっこ悪いはずがない。そうであってはいけないのだ。
84
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/08(木) 19:37:50
スーパー戦隊は人を守るために存在するのだから。
「そうだニャ。もしものときは超強い俺様がこいつを守ってやるニャ」
それに対してタイムファイヤーは、仮面の中で笑顔を浮かべていた。
そして同じ時、ブドーは『ボウケンイエロー』という名前に反応していた。
(まさかこの女子もギンガマンのような能力を持っているのか…!? この戦いは強敵揃いということか…。ダイタニクスは復活できるのか?
部下たちよ…拙者は、お前らのところに戻る前にやることがある。待っていてくれ…)
1体1の真剣勝負。一体、この勝負はどうなるのか。その答えは、タイムファイヤーの炎のような情熱と、氷のような冷静さが導き出してくれるだろう。
□
この時、竜也は知らなかった。ユウリの手がかりが、身近にあったことを。
菜月のデイパックの奥に、タイムピンクに変身するためのクロノチェンジャーがあったことを。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:B-6森林 1日目 黎明
[状態]:斬られた部分に小ダメージ 広間にドモンとシオンが居た事へのとまどい タイムファイヤーに変身中 ブドーと戦闘直前
[装備]:Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー、DVディフェンダー、タイムエンブレム(タイムファイヤー)、ナイトアックス@星獣戦隊ギンガマン、矢一本
[道具]:確認済み(ペットボトルのうち1本は菜月に渡しています)、ブドーからの果たし状
[思考・状況]
基本行動方針:戦いに反対
第一行動方針:ブドーを逮捕(圧縮冷凍)する
第二行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第三行動方針:菜月の仲間を探す
第四行動方針:B-5エリアに向かう
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。 他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
※ナイトアックスは、地球人でないと触れられないように細工されています。
(菜月の場合は現代の地球人と体質が違うために触れません)
※ブドーをロンダーズ囚人だと思っています。
※首輪があるため、圧縮冷凍が可能かは不明です。
85
:
真紅の同志
◆eQMz0gerts
:2008/05/08(木) 19:40:45
【間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task14後
[現在地]:B-6森林 1日目 黎明
[状態]:ナイトアックスのせいで右手に火傷 自信を持ちました
[装備]:アクセルラー(ボウケンイエロー)@轟轟戦隊ボウケンジャー、スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー(未確認)
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
第一行動方針:真剣勝負、竜也を応援
第二行動方針:シオン、ドモン、巽マトイを探す
第三行動方針:B-5エリアに向かう
※スモーキーの参戦時期はボウケンジャーVSスーパー戦隊後です。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-6森林 1日目 黎明
[状態]:健康 1時間〜2時間程度戦闘不能 タイムファイヤー(竜也)と戦闘直前
[装備]:妖刀ギラサメ、筆と紙、弓、矢(本数不明)、「復讐の 刃がセンを 叩き斬る」と書かれた紙
[道具]:不明
[思考・状況]
基本行動方針:戦う
第一行動方針:竜也と戦う
第二行動方針:勝った場合、菜月を殺す
第三行動方針:優勝を目指す
第四行動方針:仙一と再会時には必ず殺す
86
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/08(木) 19:43:48
以上。投下終了です。
81,82にタイトルを入れ忘れました。すみません。
87
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/05/09(金) 01:00:23
本スレの
>>888
の所、読み返してちょっと分かりにくいかと思うので修正させて頂きます。
「だめよ!来ちゃだめっ……」
最高の気分をぶち壊され、激高したネジブルーは拡声器を奪い返すと右腕を振るって美希を殴り飛ばした。
美希は地上スレスレで体を半転し、受け身をとった。こちらを向いた顔はニヤッと不敵に笑っている。
を
「だめよ!来ちゃだめっ!!」
最高の気分をぶち壊され、激高したネジブルーは拡声器を奪い返すと右腕を振るって美希を殴り飛ばした。
美希は体が倒れる寸前でひらりと半転し受け身をとった。こちらを向いた顔はニヤッと不敵に笑っている。
88
:
◆i1BeVxv./w
:2008/05/11(日) 00:37:06
まとめサイト更新に合わせて、修正を反映しました。
89
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/05/11(日) 20:11:27
いつもありがとうございます。
90
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/20(火) 18:22:07
修正投下します。
91
:
第二の遊び
◆eQMz0gerts
:2008/05/20(火) 18:24:39
『メガブルウゥゥゥゥッ〜!どこにいるんだ?早く出て来いよ〜。
でないと、お前の代わりにここにいる美希って女とドロップって子供の身体を少しずつ、切り刻んでい……!!』
一緒に行動すると決めた直後だった。
機械で増幅された妙な声。男の声だ。
『だめよ!来ちゃだめっ!!』
今度は40代くらいの女性の声。悪いが、シオンにとっての人質イメージとは違う。
『メガブルー、必ず来いよ〜今度は俺の番なんだ。三時間待って来なかったら死ぬのはこいつらだからね。待ってるよ、メガブルー!ヒャハハハハッ』
彼らの耳に放送が入った時、同時に怒声が廃工に響き渡った。そろそろ、電球も切れかけている電球が、軽く揺れた。
「くそっ! 趣味の悪い奴め! シオン、彼女たちを助けに行くぞ!」
ドギーの声だ。ここでグレイの名を挙げないのは、まだ信用していないからだろう。
「グッ!」
その怒声も、すぐに腹の激痛へと変わった。生々しい血の色が見えてきている包帯が、その痛みをシオンに伝えてくる。
「その怪我だと無理はよくないですよ。……それにしても、この放送、どうやらこの付近から聞こえてるみたいですね。様子を見て、それから考えましょう」
様子を見るくらいならドギーの体にも障らないだろうし、放送を聞いて怒ってやって来る者もいるだろう。それに、浅見竜也、ドモンならばこれを聞いて駆けつける可能性が高いというのもあった。
92
:
第二の遊び
◆eQMz0gerts
:2008/05/20(火) 18:27:41
それは彼らが心配だからかもしれない。彼らが放送の男にやられてしまったら……そう考えると、体が勝手に動いてしまう。
「グレイさん、ドギーさん、行きましょう」
シオンがそう言ったとき、グレイとドギーの足音が聞こえた。グレイの足音は、いかにも機械らしい音を立てている。
「グレイさんも来てくれるんですね」
「……俺はお前に借りを返すために着いて行くまでだ」
シオンはこの時思った。
(グレイさんは、僕に借りを返したら、この戦いに乗るのかな……?)
グレイがシオンたちよりも少しばかり早く、廃工の出入り口まで進んだ。シオンも廃工の出入り口まで行くと、廃工の中ではしない、潮の臭いと、海の青が見えた。
そして、シオンは思い出した。自分の第二の故郷を。
「ロンはこの綺麗な景色さえも殺し合いの道具にしているんですね」
「ああ、許せないな」
ドギーが言ってしまったために、同じようなことを言おうとしたグレイはやめた。
グレイとしても、こういう美しいものは嫌いではなかった。
コインでない、彼の電子頭脳は、「ロンを倒す」。それがしたかったのだった。
(これは……遊びだ。私の好きなようにやればいい)
彼は、ロンを倒すために戦うことを決意した。
93
:
第二の遊び
◆eQMz0gerts
:2008/05/20(火) 18:28:55
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル 支給品一式
[思考]
第一行動方針:放送の男(ネジブルー)の様子を見てから、どうするか決める。
第二行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
第三行動方針:ロンを倒す。
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:放送の男(ネジブルー)の様子を見てから、どうするか決める。
第二行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
第三行動方針:グレイとドギーの仲が険悪なので、なんとか懐柔したい。
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)
[装備]:マスターライセンス
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:放送の男(ネジブルー)の様子を見てから、どうするか決める。
第二行動方針:傷が癒えるまでの安全の確保、グレイへの警戒は解いていない。
第三行動方針:スワンを探す。
94
:
第二の遊び
◆eQMz0gerts
:2008/05/20(火) 18:31:06
以上。投下終了です。
あと、申し訳ありませんが修正点があります。
>>そろそろ、電球も切れかけている電球が、軽く揺れた。
は
>>そろそろ電気も切れかけている電球が、微かに揺れた。
にしてください。
95
:
第二の遊び
◆eQMz0gerts
:2008/05/21(水) 16:03:44
指摘を受けたので、
>>「くそっ! 趣味の悪い奴め! シオン、彼女たちを助けに行くぞ!」
を
>>「くそっ! 趣味の悪い奴め! 君──シオンと言ったな。彼女たちを助けに行こう!」
に修正してください。
96
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/23(金) 16:42:31
超短編になってしまいましたが、修正投下します。
97
:
◆eQMz0gerts
:2008/05/23(金) 17:06:48
『メガブルウゥゥゥゥッ〜!どこにいるんだ?早く出て来いよ〜。
でないと、お前の代わりにここにいる美希って女とドロップって子供の身体を少しずつ、切り刻んでい……!!』
彼ら三人が一緒に行動すると決めた直後だった。
機械で増幅された妙な声。男の声に聞こえる。
『だめよ!来ちゃだめっ!!』
今度は40代くらいの女性の声。悪いが、シオンにとっての人質イメージとは違う。
『メガブルー、必ず来いよ〜今度は俺の番なんだ。三時間待って来なかったら死ぬのはこいつらだからね。待ってるよ、メガブルー!ヒャハハハハッ』
□
彼らの耳に放送が入った時、同時に怒声が廃工に響き渡った。そろそろ、電気も切れかけている電球が、微かに揺れた。
「趣味の悪い奴め!」
「酷すぎます! ……そんな、子供まで人質にして!」
シオンは前に誘拐されたことがある。だから、人質に気持ちなんかもよくわかった。
それを思うと可哀想で仕方がない。
「グッ!」
ドギーの怒声は、すぐに腹の激痛へと変わった。生々しい血の色が見えてきている包帯が、その痛みをシオンに伝えてくる。
「ドギーさん、なるべく安静にしててください。……それにしても、さっきの放送、結構はっきり聞こえましたよね? もしかして、この近くから聞こえてるんじゃないですか?」
ドギーにもグレイにもそんな感じがしていた。もっとも、どちらから聞こえているかははっきりわからなかったが。
「とにかく、残酷ですが、彼女たちを助けるのは後回しにしましょう。
……今は、メガブルーっていう人を信じるしかないですね」
ドギーも警察として、彼女たちを放っておくのは残酷だと思ったが、自分は怪我をしているし、シオンも戦闘能力があるかわからない。歳から考えるとないだろう。
シオンを連れて行けば、どうなるかわからない。連れて行かなければ、グレイとかいうロボットに殺されているかもしれない。
そして、このケガでは、絶対にグレイに勝てない。
嫌な言い方だが、彼らは彼女たちを見捨てるのである。
「仕方がないな……」
ドギーは下を向いて申告な表情を浮かべていた。
「スワンを探すのも危険だな。今は止めた方が良いか……」
ドギーは傷を治すことに専念し、シオンとグレイはそれを待つだけ。
この三人組の行動はまだまだ先かもしれない……。
98
:
残酷な決断
◆eQMz0gerts
:2008/05/23(金) 17:12:38
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル 支給品一式
[思考]
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す
その後の方針は未定。上記の目的を果たした後は殺し合いを再開するのか、それとも……
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
第二行動方針:グレイとドギーの仲が険悪なので、なんとか懐柔したい。
第三行動方針:放送の男の人質の美希とドロップを助けたい。
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)
[装備]:マスターライセンス
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:傷が癒えるまでの安全の確保、グレイへの警戒は解いていない。
第二行動方針:スワンを探す。
第三行動方針:放送の男の人質の美希とドロップを助けたい。
三人組は、ドギーの傷が治るまで無闇に行動しないことにしています。
99
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/05/26(月) 16:36:54
空気を読まずに失礼します。
いつもお世話になります。大変申し訳ありません。誤字を修正申告します。
未来はヒカルの手の中 の
デイバックから二つを取り出し、3枚のゼニボム手のひらで広げて見せ、カラフルな文字で所狭しと装飾された雑誌を明石に手渡した。
を
デイバックから二つを取り出し、3枚のゼニボムを手のひらで広げて見せ、カラフルな文字で所狭しと装飾された雑誌を明石に手渡した。
100
:
◆i1BeVxv./w
:2008/05/28(水) 00:04:50
反映しました!
101
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/05/28(水) 17:35:16
まとめ氏ありがとうございました。
102
:
桃色天然娘
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/02(月) 19:37:10
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-6海岸 1日目 黎明
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、後は不明(確認済)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:声の正体を探りに行く。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
【名前】胡堂小梅@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回後
[現在地]:J-6海岸 1日目 黎明
[状態]:右足首を捻挫、手に軽い打撲、砂まみれ
[装備]:SPライセンス、拳銃(シグザウエル)、後は不明(確認済)
[道具]:不明(確認済)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:映士を待つ。
103
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/02(月) 19:38:28
最後の最後で規制に引っかかってしまいました。
お願いします。
104
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/02(月) 19:47:33
以上です。
誤字脱字、矛盾などご指摘がありましたら、お願い致します。
105
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/04(水) 01:06:03
代理投下ありがとうございました。
まとめ氏様、誤りがあった為、まとめ収録の際に、修正をお願いできますか。
桃色天然娘
それぞれの世界の事→それぞれの組織の事
お手数をおかけいたしますが、お願いします。
106
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/04(水) 12:11:26
大変申し訳ありません。
ご指摘いただいた本スレの
>>77
の修正です。
>悪夢から目覚めると白衣が包帯に代わりに体に巻きつけられていた。
を
>悪夢から目覚めると白衣が包帯代わりに体に巻きつけられていた。
そしてもう一箇所自己申告させていただきます。
>>91
>誰に言うわけでもなく、すべて人に向けて思う。
正しくは
>誰に言うわけでもなく、すべての人に向けて思う。
でした。
本当に申し訳ございません。
107
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/04(水) 12:34:31
【名前】白鳥スワン@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:第46話『プロポーズ・パニック』後
[現在地]:B-9森 1日目 黎明
[状態]:全身打撲。背中に大ダメージ。内蔵損傷。
[装備]:SPライセンス
[道具]:炎の騎馬、支給品一式
[思考]
基本方針:気絶中
状態表、修正後です。
108
:
◆i1BeVxv./w
:2008/06/04(水) 23:58:06
お二方のSSと、ついでに自分の誤字脱字も修正の上、まとめサイト更新しました。
109
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/05(木) 00:04:06
まとめ氏様、ありがとうございました。
110
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/05(木) 08:37:41
感謝いたします。まとめ氏
111
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:32:06
人差し指に灯した炎に口に咥えた煙草を近づける。
そのままゆっくりと息を吸い、紫煙を燻らせていく。
表情のないはずの顔に思考を満たした満足げな表情が僅かなりとも見えるのは気のせいだろうか。
辺りに広がる煙草独特の匂いに西堀さくらは露骨に顔をしかめて見せた。
「ここがどこだか分かっているんですか! 敵に気づかれたらどうするんです!?」
さくらの非難を聞いているのか、聞いていないのか、グレイはもう一度大きく息を吸い込んだ。
「隠れる必要などない。戦って奪い返せばいい…それだけのことだろう?」
事も無げにややくぐもった低い声を上げる。
二本の指の間に煙草を挟んだまま視線をさくらと合わせようともしない。
眉間にきつく皺を寄せ、さくらは目の前の黒い装甲の男を睨み付けた。
両者の間に流れる険悪なムードからは、二人が殺し合いを始めないのが不自然にすら思えてくる。
全ては1時間ほど前にはじまった。
112
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:32:45
「絶対に俺は助けに行くぞ! 絶対だ!!」
グレイの索敵により、何者かが『メガブルー』を呼び出し、殺し合いをはじめようとしていることはほぼ間違いがない事実であった。
あろうことか、そのための人質を用意して。
陣内恭介はすぐにでも助けに行くべきだと主張した。
人質はどちらも面識のない人物であったが、囚われの身で死と隣り合わせの恐怖を味わうものを見捨てておけるはずはなかった。
特に恭介はメガブルー…並木瞬を知っている。友の危機を見過ごすわけにはいかなかった。
「駄目だ。戦いには俺が行く。お前たちはここに残れ」
先ほどまで黙していたグレイが急に口を開いた。
「おい! 貴様!! 戦いに行くんじゃない! 人質となったものたちを救出に行くんだ!!
履き違えるな!!!」
傷の痛みを押してドギーがグレイを牽制する。
両者の視線が交わる。
「……どちらにしても貴様がいては足手まといだ。ここに残ってもらおう。異論は聞くつもりはない」
「なんだと!!」
「止めてください、二人とも!! 今ここで争っても仕方がないでしょう!?」
一触即発の雰囲気に耐え切れずシオンが場を収めようと必死で二人を説き伏せにかかる。
だが。両者の間の溝は埋まりそうもなかった。
それに、傍らの恭介はいまにも飛び出していきそうな雰囲気だ。
「確かに…怪我人を連れて行くリスクは大きいといわざる終えないでしょうね」
喧騒の場にさくらの静かな、しかし鋭い声が響く。
113
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:33:27
全員の注目がさくらへと注がれる。
「敵の罠に全員で挑むというのはあまり利口な選択とはいえません」
努めて事務的に冷静な口調でさくらは続けた。
「ま・待ってくれ! 西堀君、君はこいつ一人を行かせるのに賛成するというのか!?」
痛みを押してドギーが反意を示す。
「それも反対です。人質がいる状況で単独で挑むのもまた愚かな選択といわざる終えません。
よほどの策でもない限りは…です。あなたはそうした権謀術数に長けたタイプとは思えませんし」
冷ややかな視線を向けられたグレイはふいっと顔をさくらから背けた。
「じゃあどうすればいいんだ!!」
苛立ちの声を上げる恭介にさくらは涼やかに言い放った。
「簡単です。人質の救出には私が同行します」
「な・なに!? き・君が…?!」
「さくらさん!!」
ドギーとシオンが驚きの声を上げる。恭介も目を丸くしてさくらを見た。
なんでもない風を装いながら、グレイもまた僅かに顔を揺らした。
「ドギー署長は深手を負っています。いくら“地獄の番犬”とはいえ、人質を庇っての戦闘行為を行えるとは思えません。
加えて高名な彼の命を狙う不届きな輩の出現も大いに考えられます。
残るにしても護衛は必要です」
「それだったらシオンがいる! 俺まで残る意味はない!!」
恭介が自分をはずしたことを強くなじりながらさくらへ詰め寄る。
「もう、いい…」
場を制したのは意外にもグレイだった。
「そこの女はドギー・クルーガー…貴様同様、俺を信用していない。
俺が人質を放って戦闘を始めることを警戒している…喰えん女だ」
感情を読ませず押し黙るさくらを一瞥して言う。
「そんな…みんなこうして出会えたのに…」
「…俺には守ることよりも壊すことの方が性に合ってる…そういうことだ、シオン」
「恭介さん、分かってください。戦力をこれ以上分散させるのは危険です。お願いです、ドギー署長とシオンさんを守ってあげてください…それができるのは恭介さん、あなただけです」
114
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:34:10
「守る…か…しかし、合って間もない連中をよくそこまで信頼できたものだな。
一人になったあの男にシオンとやつが二人掛かりで襲い掛かるとは思わなかったのか?」
グレイの問いかけにさくらは立ち止まらずに答えた。
「それはありえません。ドギー署長は怪我を負っています。なのにシオンさんは彼を見捨てることはせず、労わりともに行動しています。
こんな状況下でいくら実力者とはいえ怪我人を抱え込む決断はそうそうできるものではありません。そんな彼が今更恭介さんを襲う理由なんてあるはずがない…私はそう判断しました」
さくらもまたグレイの問いかけに目線をあわせようともしない。
「…むしろ、分からないのはあなたです。グレイ」
さくらは立ち止まりグレイと始めて正面から向き合った。
「…………――」
「私たちの星は様々な勢力の侵攻を受けてきました…宇宙、地底……そして異次元。
中でも激しかった戦いとして記録に残るのが私たちの住む三次元と隣り合わせに存在する裏次元からの侵略者…『次元戦団バイラム』」
「………………――――」
「バイラムの詳細なデータはその根拠が我々人類をしていまだ立ち入れぬ領域の異次元にあること…それに組織壊滅後の今となっては殆どが謎のままです…直接相対した鳥人戦隊でさえ、その全貌を知るには至らなかった……
ですが、その戦いを生き抜いた者の僅かな証言から、人間を虫けらのように冷徹に処理する漆黒の殺戮マシーンが存在していたとの記録が後世の私たちに伝えられています…その者の名は…“グレイ”」
「…知っていたのか……」
正体を看破されても動じる素振り一つ見せない。刺す様なさくらの眼差しを一身に受けてもグレイは身じろぎもしなかった。
「何が目的なんです?! なぜ、あの二人と行動をともにしていたんです!!」
目的。
天を仰ぎながらグレイはその言葉の響きをひどく空虚に感じていた。
115
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:34:49
『次はあなたです…グレイ』
始まりの空間。全てが黒に包まれたその場所で。
『あなたがその気になれば…バイラムの再興もまたかなうでしょう…場合によってはその領袖となることも……―』
「…政治に興味はない。生身の連中の気苦労を散々見てきたものでな…」
『失礼。あなたはそんなことに関心を抱くような方ではありませんでしたね……それでは…
マリアを甦らせると言うのはいかがでしょう? あなたの腕の中で崩れた女の身体と心を今一度
現世に甦らせるのです……今度はあなたの永久の伴侶として』
―マリア。彼女の温もりが腕の中から消えていくその刹那までをグレイは克明に記憶している。
機械のグレイに忘却はありえない。恐らく何百年、何千年たってもあの瞬間を昨日のように鮮明に思い出すのだろう。それは、確かに痛みといえるのかもしれなかった。
「いかがです?」
男の誘いは甘美に満ちていた。男はグレイに期待していた。
無論、ゲームを率先して盛り上げるマーダーとして。
ガイ、ネジブルーに並ぶ純粋に戦いを愉しむ者として。
そのために彼がもっとも強い目的意識を持ってゲームに臨めるタイミングを選んだのだ。
だが。
「そうした誘いならばレッドホークを呼ぶべきだったな…ロンとやら。餌で釣るならばブラックコンドルでも用意してもらったほうが有難かったぞ」
グレイの返答はロンにとってひどく意外なものだった。
これまで、ロンの誘いに迷いを見せなかったのは明石暁をはじめほんの数人だけだったからだ。
「…フフ…だが安心しろ。俺は戦いに乗ってやる……精々、貴様の始めたこの馬鹿げたゲームの駒として立ち回ってやろう…俺は戦えさえすれば…後は……どうでもいい」
呆気にとられるロンを横目にグレイは人間で言う“笑み”に近い感情を見せた。
グレイにとってロンが何を画策しようがどうでもいいことだった。
参加者の多くが脅威を感じている金色の首輪も生命に関する執着が限りなく薄らいだ、今のグレイにはどうというものでもない。
116
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:35:31
「目的は何だと聞いているんです!! バイラムの再興ですか!?」
さくらの穿つ問いかけにグレイは淡々と答えた。
「組織はもう、関係ない。ラディゲはまだやるつもりらしいが、バイラムはもう終わりだ。
それは後の時代の貴様らの存在が証明している」
「時間軸のずれに気づいていたんですか!」
グレイの意外な返答にさくらは思わず聞き返していた。
「当然だ。あれだけ話の噛み合わない連中と喋っていれば馬鹿でも気づく。
加えて戦闘力の発揮にも制限が加えられているな。最初は身体の故障かと思ったが、
十分ほどの戦闘後、全身のあらゆる武装にきっかり二時間なんの反応もなかった。
シオンはおれをそのままに修復したといった。
やつの腕は確かだ。原因は恐らくはこの首輪の効果だと考えて間違いあるまい」
「二時間…それが時間制限の正確な時間だと?」
「お前たち生身より時間には正確なはずだ」
確かにロボットであるグレイの時間を計る正確さは参加者の間でも随一だろう。
「それをなぜ私に?」
「…理由はない」
「納得できません」
再び両者の間に緊張が走る。
「お前の目的は俺と争うことか? 人質の救出とやらが最大の目的だろう。俺をやつらから遠ざける意図も合ったように感じられるな」
「それともう一つ…あなたを霧払いに人質を救出する腹です。異論はありませんよね?」
「無論」
その時だった。
天空に高揚した男の声が轟いたのは。
117
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:36:22
『参加者の皆さん、おはようございます。ゲームは楽しんでいただけているでしょうか? 何事かとお思いでしょうが私の話に少々耳を傾けていただければ幸いです』
「これは…」
「あぁ。…奴の声だ」
間違いなかった。このゲームの主催者ロンの丁寧だが陰湿な響きを持つ声が四方全てから聞こえてくる。
『早速ですが、提示連絡をいたします。ゲームを始めてから亡くなられた方が既に6名。
なかなか順調な滑り出しです。やや偏った被害状況になっているのが若干面白みに欠けますが…
それは今後に期待しましょう』
どこから聞こえてくるのか、全く方向がつかめない。参加者全員の頭に直接メッセージを流し込んでいるらしい。
『それでは…皆さん天を仰いでいただきたい。これより、なくなられた6名の方の死に際をダイジェストでお送りしたいと思います。無論、手を下された方の秘匿権は責任を持って守らせていただくのでご安心を!
それでは、最初の犠牲者…伊能真墨さんの最後をとくとご覧頂きましょう…大空のビジョンをどうぞ心行くまでご堪能ください…―』
視界一杯に繰り広げられるボウケンブラック…伊能真墨の姿。
やがて彼は変身を解かれ、地面へ這い蹲る。
必死でアクセルラーを起動させようともがく彼の頭上に迫る大きな足。
「そんな…!! 真墨…!!」
真墨の頭が強い圧迫を受けて徐々にひしゃげていく。そして、鮮血と共に爆ぜた。
「そんな…そんな……! 真墨が…真墨が……!!」
愕然とした。膝の力が抜ける。
そのまま地面に座り込んだ。あれほど警戒していたグレイに背を向けても全く意に介さない。
『ご遺体はC-8エリアにそのまま安置しています。関係者で弔いたい方はどうぞご自由に。
ショックを受けられた方、気を落とさずに。大丈夫、すぐ生き返りますよ。あなたがこのゲームに勝ちさえすればいい話です。すぐに何もなかったように蘇りますよ…あなたが勝ちさえすれば…ね』
「そんな…本当に…死んでしまうなんて…」
「知り合いなのか?」
グレイはボウケンブラックを知らない。
だが、黒を纏う戦士の死に様はあまり見ていて気持ちのいいものではなかった。
『では続きまして――…』
先ほどまでとは打って変わってさくらには強い動揺が生まれている。
とても戦いに臨める状態ではない。
「…行きましょう……」
さくらが小さく言葉を発する。
「何だと…」
「行きましょう…私たちには人質となった方の救出という“目的”があります。こんなところで立ち止まっている暇はありません」
振り向いた顔は既に先ほどの毅然としたさくらだった。
仲間の死をまざまざと見せ付けられたショックなどおくびにもださない。
「…いいのか」
何に、対してなのか口にしたグレイにも良く分からない。
だが、さくらは自らに課せられたミッションに対しどこまでも忠実だった。
本物の機械であるグレイが驚くほどの冷静さで。
だが、その手は僅かに震えている。グレイはさくらのかすかな、ほんのかすかに残った恐怖を見てみぬ振りをした。
118
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/13(金) 22:39:00
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり)
[装備]:アクセルラー
[道具]:ガラスの靴、虫除けスプレー、虹の反物の切れ端
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:恭介たちと共闘して仲間を増やす。このゲームのルールを把握する。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:未定。第一行動方針を果たした後の行動は決めていない
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
現在はさくらと共に人質を救出すべくネジブルーの元へ。
以上です。代理アップをお願いできるでしょうか?
タイトルは「奇妙な二人」で。
119
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/14(土) 00:44:16
>118
投下お疲れ様です。
ロンの囁きを断ち切るグレイ、
内心の動揺を押し隠そうとするさくら姐さんの描写がとても良かったです。
ただ、放送に関しては、話し合わせて頂きたい事がありますので、
一度、書き手交流スレに来ていただいてもよろしいですか?
120
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/14(土) 01:40:37
>>118
まずは感想からGJ!
さくらさん。ちょっとずつ精神的にダメージを受けてる感じがしてきました。
グレイの動向で戦隊ロワ自体が大きく変わってしまいそうですね。
放送も欝面白かったです。
ロンは楽しくてしかたがないんでしょうね。
放送についての意見は向こうに書きます。
121
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/14(土) 04:24:27
了解しました。
116まででSSは終わらせてください。
122
:
◆5h3T6s3PXc
:2008/06/14(土) 23:17:12
書き忘れましたが、二人の居場所はG5エリアに修正してください。
申し訳ありません。
123
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/06/14(土) 23:54:01
投下お疲れ様です。
放送が入る。というところで終わる事になりますが、そのままになさいますか?
124
:
◆i1BeVxv./w
:2008/06/15(日) 02:10:25
投下乙です。
人質に対して、さくらとグレイのスタンスの違いによる話の進み方がなんとも秀逸でした。
いくつか指摘を
・放送箇所に関しては、私個人の意見ですが、削除するのではなく、放送投下後に再投下されてはどうかなと思います。
・回想での登場とはいえ、恭介、シオン、ドギーも登場している以上は予約するべきだと思いました。
・グレイの一人称は「私」です。
以上です。
125
:
兄!起つ
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/15(日) 20:06:28
「待て!闇雲に走るのは危険だ」
そこは、スラムと呼ぶに相応しい薄汚れた街だった。
ゴミ溜と汚水に塗れた路地を走るは二つの影。
冥府神ティターンは懸命にマーフィーK9を追っていた。
「待てと言うのに!」
マーフィーを見失わぬよう追いかければ、辺りへ払う注意が疎かになる。
ティターンの声に焦りが混じり、その手には力が篭る。
無防備に街へ踊りでれば殺してくれと言わぬばかりの状況だ。
先程の狙撃にしても弱者が我が身を守ろうとしたが為か、殺し合いに乗ったが為かは解らない。
ただ一つ学んだのは、互いに殺し合いに乗っていよういまいが、その意志に関わらず命を落としかねないと言う事。
守ると決めた命。
ティターンはその命を懸命に追っていた。
当のマーフィーはティターンの声など気にかけるようすもなく、泥水を跳ね上げ一目散に駆けて行く。
「どこかを目指しているようだが……」
スピードに乗ったマーフィーは大きく弧を描き、角を左へ曲がる
そこから先は一本道。
スラムを隔離する煉瓦の壁がマーフィーの行く手を遮りその姿を見失わずに済んだ。
一向に差は縮まらない。
一歩、その先の一歩をより大きく踏み出し、巨体とは思えぬ速さでマーフィーを追った。
道はいつか別れる。別れれば見失う
ティターンは歩を緩めず進む。
やがて左方向は砂漠、右方向は採石場へと続く別れ道へ差し掛かる。
行く先に迷ったマーフィーの足が止まるのを逃さず、一息で駆け寄り後ろから優しく抱きかかえた。
そして自分の目線まで軽々と持ち上げ、諭すように語りかけた。
「俺は無益な殺生は好まない。だが、ここは殺し合いの場なのだ。いつ襲われるかわからない。
無闇に走り回られては困る。どこかで朝まで身を隠そう、解るか?」
ティターンの気持ちを汲んだのか、マーフィーは「バゥ」と一声鳴くと大人しくなった。
126
:
兄!起つ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/15(日) 20:08:51
§
「お前の名は、マーフィーと言うのか」
やっと支給品の詳細に目を通したティターンは、マーフィーを従え採石場の方向へ足を進めた。
数十メートル切り出された岩肌と切り出した山積みの岩とが強固な城のようにそびえている。
城下町の如く点在した炭坑夫たちの休憩所も見える。
その横にもいくつか小屋があり、身を隠すに適当な、とりあえずの安息の場としては充分な地形だった。
小屋の一つを目指し歩きながら、ティターンは胸の中でひとりごちた。
(あの人間はどうしただろう。もう一人の男の手当が間に合えばよいが……)
ティターンの思考はマーフィーの唸り声で中断された。
何事かとマーフィーをみやったティターンの足下が陰った。
山積みの岩の向こうから瓦礫を、踏みつける重い足音が近づいてくる。
「貴様……人の姿をしているが、人ではあるまい」
その声の主は闇を従え、瓦礫の上を闊歩する。
威風堂々たるその姿は、冥府神さながらの威厳とカリスマを備えていた。
この男とやり合えば、どちらも無事ではすまない。ダゴンやイフリートにも匹敵する。
胃の府へスゥーッと冷たい物が落ちる。
ティターンはマーフィーを退かせ男と対峙した。
「我が名は、冥府神ティターン」
「冥府神だと?」
ティターンの名乗りを男が嘲笑い、遮った。
「冥を司るのは、この冥王ジルフィーザただ一人!神などいらぬわ!!」
言い放つやジルフィーザは瓦礫を蹴り高く跳躍した。
飛礫を舞い上げ、月光を侵食する禍々しきその姿。ティターンの背を戦慄が走る。
「逃げろ!時間はこのティターンが稼ぐ」
マーフィーへ叫ぶ。
その頭上には崩れ落ちる飛礫。
ティターンは手を翳し、鉄壁の防御『ディオネを守る壁』でマーフィーをガードした。
127
:
兄!起つ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/15(日) 20:12:42
カカッっと爪音を響かせ走り行くマーフィーを見届けたティターン。
一足飛びに切り立つ岩盤を駆け上がり、ジルフィーザと同じ高さへ跳躍する。
ジルフィーザは鎌形の刃が左右枝のようについた杖の上部を持ち、刃を煌めかせ斬りかかる。
ティターンは己が槍、『ウラノスとガイアの怒り』にて下方から雷型の刃先で斬り止める。
腕に伝わるズシリとした重み。
空気を震わせ弾け飛ぶ火花。
ガキンッ!
金属音が耳を劈く。
ジルフィーザは衝撃をバネにより高く跳ぶ。
片やティターンは衝撃により地へ弾かれた。
ジルフィーザは片手に持ち換えた杖で円形を描きながら斬りを止めずにティターンの間際へ着地した。
ティターンは下がりかわす。
だが、間髪いれずに次の突きが迫る。
しなる杖先が獲物を狙う蛇のようにティターンを追う。
ティターンは体を右向きにして、槍の刃先に左手を添えジルフィーザの一撃を捌く。
「いつまでもかわし続けられまい!」
ジルフィーザはティターンの喉元目掛け、突く。
右後ろへ飛び避けるティターン。
右肩すぐのところで先端の髑髏が口惜しげに空を切る。
髑髏が向こうへ引き寄せられるように遠のく。
否、遠のいたように見えただけだ。
突きを避けられたジルフィーザが、腕をしならせ刃を返し横一閃に斬ってきたのだ。
しかし一瞬早くティターンは上体を低く下げ、ジルフィーザの腕の下へ滑り込む!
ウラノスとガイアの怒りを背中に沿わすように逆手で握り、そのまま左足を踏ん張り左肩を突き出した。
攻撃をかわされ前方へ崩れてくるジルフィーザの腹部へ体当たりを食らわそうと踏み込む。
ジルフィーザは素早く杖を下げそれを受けとめ、ティターンを押し戻そうと腰を落とし堪える。
「もう退け。俺は殺し合いには乗るつもりはない!」
「!」
力と力がぶつかり合う。冥府を司る王と神とのぶつかり合い。
踏みつけた小石が砕けた音を引金に、激闘を制す為ティターンは体を捻りジルフィーザの力の方向をずらす。
右腕の方の刃を下手から掬い上げ、ジルフィーザがそれを避けると共に、ティターンは数歩後退り距離をとる。
掌を空へ掲げ雷型の槍先より出現し光球を両者の間へ放った。
砂煙を上げ光球が爆ぜる。
互いの姿は煙に紛れ、しばし両者とも動けずにいた。
128
:
兄!起つ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/15(日) 20:14:16
先に動いたのはジルフィーザ。
杖の刃を上手に構えティターンへにじり寄る。
ティターンは構えず、両手を拡げ戦意など皆無だと体で表した。
「マーフィーを守りたいだけだ。俺は、無益な殺生は好まぬ」
緊迫した空気の中、刃を下げずにジルフィーザが問う。
「……誰かと出合ったか?」
切羽詰まった声にティターンは直感した。ジルフィーザは殺し合いに乗っていない。自分は試されている。
刺すような視線を感じながら、真正面からジルフィーザを見据え、その問いに答えた。
「二人の、若い男と……」
「ならば、もう貴様に用はない」
ジルフィーザはゆっくりと刃を降ろし、ティターンに背を向け立ち去ろうとした。
「誰を捜している?」
「弟を、我が末弟ドロップを捜さなければならん」
振り返ったジルフィーザは巨漢に似合わぬ小さな溜息を吐いた。
「なぜ襲ってきたのだ?」
「ドロップの身を危険にさらす芽は刈り取らねばならん。
ティターンよ、お前が血と争いを好むとしたら、手を止めず殺していた。刃を交えねば、それはわからぬ。
「弟の命を守る為か……」
「争いに乗っていないと確実にわかるまでは、迂闊にドロップの名を明かす訳にもいかぬ」
ジルフィーザの表情から先程までの険しさが消えていた。
そこにあったのは、冥王の比類無い威圧感をぬぐい去った、家族の無事を渇望する兄の顔だった。
兄には弟妹を支える義務がある。
『命を守る』 その決意の源となった芳香とオニイチャンとの出会いに思いを馳せた。
姿は違えど長兄たる者、その思いは同じ。
「オニイチャン……」
無意識に呟く。
いつの間にか側へ戻って来ていたマーフィーがスッとティターン背後へ身を隠した。
129
:
兄!起つ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/15(日) 20:14:55
一瞬の間の後、ジルフィーザの怒声が鼓膜を打った。
「黙れ!オニイチャン、だと…… このジルフィーザを愚弄するか!」
眼を見開き、ジルフィーザが再び斬りかかってきた。
後ろへ退け反り、辛うじて切っ先をかわす。
「ジルフィーザ、お前の事ではない!」
ティターンは言い放ち、右足に力を込め身構えた。
ジルフィーザはそれに答えず無言のまま杖を横へ払った。
来る。見切れぬ速さではない!
思った瞬間、ジルフィーザの杖が脇腹をとらえた。
体がくの字に折れ、激痛に脇腹が痺れティターンは堪らず膝を折った。
そのまま肩を掴まれ力任せに横へ薙ぎ倒される。
素早く立ち上がるも、上から振り下される攻撃から逃げ場はなかった。
両腕をクロスに構えウラノスとガイアの怒りを盾に受ける。
軽い、とばかりに弾き返し、回転を加えた槍裁きで攻防一体の構えをとる。
「愚弄などしているか。オニイチャンとは、俺に誰かを支えてみたいと思わせたトモダチなのだ!」
「……」
無言のまま、尚も杖を振るうジルフィーザをティターンは訝む。
一合、二合、絶え間なく打ち据えるジルフィーザだが攻撃に冴えが無い。
迫り合う槍の金音も、闇に散る火花も先程とは格段に相違がある。
じりじりと後退しながら、ジルフィーザの目を見据えれば、その顔には苦悶が浮かぶ。
だが、冴えが無いのはティターンも同じ。
何故か、きぐるみを着たように体が重く、見切れる攻撃もかわせずにいた。
ジルフィーザが威勢よく払った蹴りに、ティターンは横様に倒され、両者の距離が大きく開いた。
ティターンは上体だけを起こし、肩で息をつく。
両者とも力、速さ、戦闘能力の何もかもが落ちている。
「気付いたか……ティターンよ」
「うむ……」
ジルフィーザの問いに頷くと、ティターンは『ウラノスとガイアの怒り』に気を集中し、刃先を上へ掲げた。
雷の集まる感触も熱も感じられ無かった。
「一体、どういう事なのだ」
「察しつかぬか、 我らに架せられしこの首輪に仕掛けがあると……」
「ロンに嵌められた、この首輪に?」
ティターンは首輪をさすった。ジルフィーザは頷き言葉を続けた。
「能力を封じ込めば、力なき人間でさえも我らを縊り殺す事が出来る……
急がねば。竜族の血を引くと言え、ドロップはまだ赤子なのだ」
ジルフィーザはティターンを一瞥すると背を向けた。
「待て!俺も一緒に行こう。
赤子とあらば、捨ておくなど出来ない。俺の見知った者たちもいる。その者たちの手を借りれば早い。
無論赤子に刃を向けるような真似などしない」
弟を思う、ジルフィーザは命の重さを知っている。
支え合う思いは繋がっていくのだ。
「好きにするがいい」
ジルフィーザは振り返りもせず先を行く。
ティターンは出しかけた右手のやり場に少し困ったが、共に歩くマーフィーの頭を撫でジルフィーザの後に付いた。
『握手をすると友達になれる』
芳香とオニイチャンの声を、頭の中で辿りながら。
130
:
兄!起つ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/15(日) 20:15:30
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:H-8採石場 1日目 黎明
[状態]:2時間戦闘不可。
[装備]:杖
[道具]:確認済
[思考]
第一行動方針:ドロップを探す。
第二行動方針:ロンを殺す。
備考:首輪の制限があることに気が付きました。
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:H-8採石場 1日目 黎明
[状態]:2時間戦闘不可。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー、ディパック、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:ジルフィーザと共にドロップを捜す。
第二行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。
131
:
兄!起つ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/15(日) 20:16:18
以上です。大変申し訳ありませんでした。
132
:
◆i1BeVxv./w
:2008/06/20(金) 02:18:04
さるさん記載のため、こちらに投下いたします。
お手すきでしたら、代理投下をお願いいたします。
やはり夜中に投下はするもんじゃない。。。
133
:
ニアミス
◆i1BeVxv./w
:2008/06/20(金) 02:18:34
しかし、明石は港町へと繋がる道ではなく、G3エリアへの道を進み始めた。
「待ってくれ、どこへいくつもりだ」
当然、制止の声を掛けるヒカル。
「気になることがある。塔から見た時、向こうに祠のようなものが見えた。
迷宮にはセオリーがあると言ったが、祠のある場所は知っている奴は行きやすく、知らない奴は行きにくいそんな場所にあった。
妙な場所にあるとは思わないか?」
平時なら耳を傾けてもいいが、ヒカルにとって、今はどうでもいい内容だった。
出口を前にしていることが余計にヒカルの心をかき乱す。
「明石、優先すべきことは探索より仲間の捜索だ。そんなこと今は放っておいて一刻も早く進むべきだ。違うかい?」
「……なら少し待っていてくれ。すぐに確認してくる」
そう言うと今度はヒカルが止める間もなく、明石は駆け出した。
ヒカルは溜息を吐き、すぐに帰るといった明石の言葉を信じ、待つしかなかった。
一応、今の今までヒカルは待っていた。しかし、それももう限界だ。
「どうする、待つか?」
裕作の問いかけにヒカルは否定の言葉を口にする。
「……いや、行こう。明石はひとりでもなんとかする男だ。ここにはメッセージを残しておけばいい」
グリップフォンにマジチケットを挟むと、ヒカルは呪文を唱えた。魔力を込められ、輝きを放つマジチケット。
明石が来れば、メッセージを伝える仕掛けだ。
ヒカルはその場にマジチケットを残すと、裕作らと共に歩き出した。一刻も早く、麗と深雪に会いたい。その一心だった。
だが、ヒカルは気づいていない。彼らが去った10分後、マジチケットは光を失うと、弾けて消えた。
能力制限。それは魔法使いたる彼には重く圧し掛かっていた。
▽
ヒカルと分かれた明石はG3エリアにある祠への道をひた走っていた。
ヒカルの考えはもっともだった。一刻も早く戻るため、明石は速度を上げる。
いや、それは理由の2割。8割は別の理由だ。
ひとつ気づいたことがある。
少なくともこの遺跡は実際に存在しているものなのだろう。
素人がこの殺し合いのために適当にでっち上げたものではない。卓越した知識を備えた何者かが何らかの意図を持って設計したものだ。
その意図に気づいた時、明石は走らずにはいられなかった。
134
:
ニアミス
◆i1BeVxv./w
:2008/06/20(金) 02:19:06
全ては明石の胸に宿る熱き冒険魂のため。
「この中だな」
全力で走った甲斐もあり、程なくして明石は祠の前へと佇んでいた。
祠にはその重要性を示すかのように、豪華な装飾と観音開きの扉が設けられている。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか」
アクセルラーを使い、トラップがないことを一通り確認した後、明石は扉に手を掛けた。
宝を確認するこの瞬間。カァーっと熱くなる瞬間だ。
開かれる扉。その奥には黒いアンモナイトの化石のようなものが置かれていた。
実際に眼にしたことはなかったが、存在が確認されているプレシャスは明石の頭脳に刻まれている。
明石はそれが何か、瞬時に判断した。
「暗黒の鎧か。ハザードレベルは……予想以上だな」
暗黒の鎧、ダイノアースからもたらされた禁断のアイテム。装着したら最後、永遠に戦い続ける凶戦士になってしまう呪われた鎧だ。
明石はアクセルラーのカバーを回し、サーチモードからコマンドモードへと変形させる。
「ボウケンジャー!スタートアップ!!」
アクセルラーのタービンを回転させることで、パラレルエンジンの力を宿したアクセルスーツを身にまとい、瞬時にボウケンレッドへと変身する明石。
本来ならプレシャスの回収がボウケンジャーたる自分の使命。だが、暗黒の鎧は相当に危険なプレシャス。
それにここにあるということはロンが殺し合いを促進させる目的で置いたものだろう。
「これはここで破壊する!アクセルテクター!!!」
ボウケンレッドの叫びに応じ、瞬く間に装着される銀色の鎧。
「デュアルクラッシャー!」
続けて、左腕を掲げるとその手にはデュアルクラッシャー・ミキサーヘッドが握られる。
ボウケンレッドは抱え込むようにデュアルクラッシャーを構え、暗黒の鎧を狙った。
「ミキサーヘッド!」
引き金を引くと同時に勢いよく回りだす三つの銃身。後は対象を固める特殊光弾が放たれるのを待つだけだ。
だが、ボウケンレッドにとって、想定外のことが起こった。
135
:
ニアミス
◆i1BeVxv./w
:2008/06/20(金) 02:19:38
アクセルテクターを装着しているというのに、勢いよく回転する銃身の反動が抑えられない。
「くっ、これは……」
やがて、発射される特殊光弾。その反作用にボウケンレッドは弾き飛ばされ、遺跡の壁に叩きつけられる。
「どういうことだ、これは」
幸運なことに発射された光弾は暗黒の鎧に命中したが、これではデュアルクラッシャーをドリルヘッドにしての使用は行えないだろう。
「アクセルテクター解除!」
ボウケンレッドはアクセルテクターを解除し、胸部に納められた物を確認する。この症状、考えられる原因はひとつしかない。
「やはり」
本来なら火竜の鱗が収納されているはずの胸部には、ご丁寧にも『残念』という文字が書かれた紙が入っていた。
「事前に抜いておいたというわけか。やるな、ロン」
火竜の鱗がないアクセルテクターは、それなりに頑丈な鎧でしかない。デュアルクラッシャーの反動を抑えるには火竜の鱗が必須なのだ。
恐らくそのことを知り、自分への嫌がらせのつもりで鱗を抜いたのだろう。
だが、考えてみれば、今の時点で気づいたのは幸運といえるかも知れない。
(これは俺が持っておくとするか。少なくとも俺と同じミスをすることは防げるはずだ)
ディパックにアクセルテクターを入れ、ボウケンレッドは改めて暗黒の鎧に向かって構える。
デュアルクラッシャーに頼らなくても、破壊だけなら充分に可能。
「ボウケンボー!」
頭部のライトによって、形作られる赤きマジックハンド。更に内部から刃から飛び出し、瞬時にボウケンジャベリンへとそのフォルムを変える。
ボウケンレッドは、ボウケンジャベリンを天高く振り上げると、力強く振り回し始めた。
「うぉぉぉぉっ!!!」
たちまち立ち昇る真っ赤な炎。そして、その炎はボウケンジャベリンの刃へとその力を宿した。
「ジャベリンクラッシュ!」
叫びと共に袈裟懸けに振り下ろされた一撃は置かれた祠ごと、暗黒の鎧を切り裂く。
刹那、暗黒の鎧は爆発に包まれ、この世界から消滅した。
「ミッション完了だな」
満足気に煙を上げる祠を見遣ると、ボウケンレッドは徐に踵を返し、元来た道を走り始めた。
ヒカルの元へと帰るためだ。
スーツによって強化された肉体は、変身する前とは雲泥の差のスピードをボウケンレッドに与える。
5分と経たない内にボウケンレッドは遺跡の出口へと辿り着いていた。
しかし、辺りを見渡すが、ヒカルはどこにも見当たらない。
「先に行ったのか。せっかちな奴だ」
自分のことを棚に上げ、ぼやくボウケンレッド。
「書置きのひとつでもしておいて欲しかったが……追うとするか」
ボウケンレッドは変身したまま、南へと進んでいった。
その道の先に誰もいないと知らぬまま。
136
:
ニアミス
◆i1BeVxv./w
:2008/06/20(金) 02:20:21
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:G-2遺跡 1日目 早朝
[状態]:健康。ボウケンレッドに変身中。
[装備]:アクセルラー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー、アクセルテクター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:南下して港町へと進み、ヒカルと合流する。
第二行動方針:ヒカルとの記憶の齟齬を解決する。
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:H-3港町 1日目 早朝
[状態]:健康。2時間魔法の使用不可
[装備]:グリップフォン
[道具]:月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ブレイジェルの遺志を継ぎ、殺し合いを止める。
第一行動方針:小津深雪との合流のため市街地へ。その間、早川裕作、サーガインと情報交換。
第二行動方針:小津麗の安全を確保する。
第三行動方針:ティターンに対して警戒。
第四行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
137
:
ニアミス
◆i1BeVxv./w
:2008/06/20(金) 02:20:56
【名前】五の槍サーガイン@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三中(ガインガイン敗北後、サンダールに敗れる前)
[現在地]:H-3港町 1日目 早朝
[状態]:健康。クグツの胸部に凹み。
[装備]:巌流剣、ドライガン@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンの打倒
第一行動方針:首輪を手に入れて、解除方法を模索する。
第二行動方針:しばらく裕作、ヒカルと共に行動。
備考:2時間の制限に気づきました。サーガインの場合、2時間制限中はまともにクグツを操縦できません。
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:34話後
[現在地]:H-3港町 1日目 早朝
[状態]:健康。
[装備]:ケイタイザー、木造の台車(お手製)
[道具]:フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー、火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他1品
[思考]
第一行動方針:サーガインの力になる
備考:2時間の制限に気づきました。自分にも適用されることを予想しています。
メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
138
:
ニアミス
◆i1BeVxv./w
:2008/06/20(金) 02:21:37
以上です。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、他指摘事項などありましたら、宜しくお願いします。
139
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/06/20(金) 02:32:17
代理投下をしていましたが、さるさん規制くらいました。
どなたか、続きをお願いします。
◆i1BeVxv./w様
行数でエラーが出てしまった為、勝手ながら2つに分けてしまいました。
申し訳ありません。
140
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 00:20:12
さるさん規制くらいました。こちらに投下させてください。
141
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 00:20:44
大きく息を吐き出し、呼吸を整えたセンは草むらに投げ出されたSPライセンスを探し始めた。
後でサンヨ斬られた片手を押さえ、ズズッと前に進んだ。
「……なんで、サンヨを殺さないヨ」
「警察官だから、人殺しはしない。まだ、裁かれていない者をデリートするのは僕の仕事じゃない」
「馬鹿な、男ネ〜!!」
サンヨが猛った。力強く走り寄る足音に身をかわしたが遅い。
肩と右脚の内側を抱え上げられ、頭からその場に投げ落とされた。
鎖の繋がれていた方の肘を、全体重と恨みを乗せたサンヨの足が砕く。
そのまま坂道を転げ落ちるように体中に絶え間なく激痛が走る。
サンヨが一蹴り一蹴り毎に力を込め、加えながら蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。
「そろそろ、オシマイにするヨ」
「ぐっ……残念ながら、打た…れ……強い…んだよ、俺は」
「ソイツと同じに頭を踏み潰してやるヨ」
言葉とは真逆に動きの止まったセンの頭蓋骨にサンヨの足が掛かる。
「そこまでじゃ!!センから離れねば貴様の命はない!!」
ブクラテスの声が響いた。
声だけだと強そうなんですね。ブクラテスさん。まさか助けに来てくれるとは……
沈みそうな意識の中でセンは思った。
「命びろいしたネ。その腕は、ロンに治して貰うといいヨ〜。サンヨは、早くロンに首輪、外シテモラウネ」
サンヨが囁いた。とてもじゃないが良い夢は見られそうもなかった。
142
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 00:21:30
‡
「あのまま、都市へ向かうべきだったか……」
胎児のように体を丸め、口元から鮮血を流すセンの姿を目にしたブクラテスは心の底から後悔していた。
ブクラテスの切断された右腕の治療の為、二人は都市で病院を探すつもりでいた。
エリアの外れで見付けた探知機の反応は4つ。
4人とも全員が殺し合いに乗ったとは思えなかった。
様子を見に行くというセンに従いブクラテスは暗く見通しのきかない森へ反応を追って走りだした。
いくらか走り、木々ばかりの視界の先に揺れている人影が見えた。
銃声と共に、花火でも上がったような歓声が沸いた。
ダンスを躍るように揺れている大柄な影と、銃口を向ける女と俯せに倒れ頭の潰れた死体をまさぐる女がいた。
センは突然逆立ちし、また突然元に戻ると、大柄な者を助ける手筈と囮となった後、落ち合う場所をブクラテスに耳打ちした。
ブクラテスはその場所へは行かず、付かず離れずセンの反応を見失わぬよう距離をとった。
離れすぎれば、ブクラテスに近づく探知機の反応がセンの物かどうか判断が付かなくなる。
やがて反応は2つ別れ、戻ってきてみればセンの頭が、助けようとした者に砕かれようとしていたのだ。
「セン……誰か人を呼んで来よう。動くでないぞ」
「腕…一本…ぐら……い、大丈夫です。ブク…ラテスさんだって……」
センはそれだけ言うと目を閉じた。
ブクラテスは溜息と共に立ち上がり、草叢からSPライセンスを拾い上げセンの手へ握らせた。
弱々しくSPライセンスを握ったセンの姿に、ブクラテスは『センはもう利用できない』と思い至った。
今のセンは最初に出会った女と同じ、利用するどころか足手まといにすぎない。
だが、センのおかげで利用できそうな人物のあてはできた。
センの仲間、顔は知らずともセンと同じ着衣に身を包んだ人物ならば利用できる。
悪く、思わんでくれ。
これ以上ここに居るのはブクラテスにとって、最早時間の無駄でしかなかった。
143
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 00:24:15
‡
その気配に理央が気付いたのは、砂漠を抜け森に続く道を独り歩いていた時だった。
森の奥から怯えた女の気配を微かに、だが、確かに感じ取った。
「……まさか」
ドクドクと心臓を打つ鼓動の一拍ごとに、スワンに焼かれた亡骸、広間で無残に散った名も知らぬ男、バックを手にした美希、それをほくそ笑むロンの姿が沸き上がる。
最後に浮かんだのは門の向こうへ消えるメレの横顔と細い肩。
もし、メレに何かあれば……
理央の胸に、親を殺され、己の半生を狂わされた怒りをも越える熱く激しい怒りが渦をなし逆巻く。
理央は五感を研ぎ澄ませ気配を目指して駆け出した。
森の奥から二人の少女が何者かに追われるように生きを切らし、こちらに向かって駆けてくる。
理央の姿を見た二人は竦み上がり立ちすくんだ。
逡巡しているような二人に、理央が声をかけようとした時。
「た、助けて、ワタシたちサンヨってヤツに襲われて……」
「ヤツはどこにいる!」
「待って、アイツならもうどっか行っちゃったし……それより」
「ワタシたち〜」
「味方になってくれる人を捜してて」
「貴様、何者だ?」
「アナタは、広間でロンに向かって行ってた。理央……様、ですよね」
「ですよね」
頼りなく自分に助けを求める二人の女。理央は不審な眼で少女を睨み据えた。
だが、理央の、その眼の奥に敵意はなかった。
144
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 00:24:54
‡
フゥ、上手くいったね、メア。
あの変な背の高い男に、制限時間のハッタリは効かないし、ばらしちゃうしでどうなるかと思ったけど上手く行って良かったよ〜
森を出てすぐ、広間でロンとやり合ってた理央ってヤツ会ったのはびっくりしたけど……
とりあえずワタシたちを受け入れそうな感じだけど。
でも、いざという時は、あの背の高いヤツから奪った支給品のサイコマッシュで〜メッロメロのフッニャフニャにしちゃって〜
思い通りに動かせばいいよね、ねぇ?メア。
【名前】サンヨ@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:ロンと一緒
[現在地]:B-8森林 1日目 黎明
[状態]:全身打撲、無数の刺し傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:ロンの指示に従い、しばらく様子見。
第二行動方針:首輪を外してもらう。
備考
・伊能真墨の支給品はスワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャーでした。
・真墨のディパック、アクセルラー、その他諸々は真墨の死体と共に置き去りにされています。
・サンヨの支給品はデュエルボンドソード、マジカルチェーン@魔法戦隊マジレンジャーでした。
・制限が2時間であることを知っています。
【名前】バンキュリア@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage18(ブランケン死亡)後
[現在地]:D-8森林 1日目 黎明
[状態]:多少の打撲。ナイとメアに分離中。
[装備]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:予備弾装(銃弾10発、催涙弾5発、消滅の緋色1発)サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー支給品一式。
[思考]
第一行動方針:ロンから距離を取る。その後の行動については特に定めていません。
備考
・バンキュリアは首輪の制限を知りました。
・予備弾装に催涙弾や消滅の緋色が含まれているかは後の方にお任せします。
・制限が2時間であることを知っています。
145
:
NIGHTMARE
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 00:27:21
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-8森林 1日目 黎明
[状態]:左肘複雑骨折、全身打撲。
[装備]:SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:仲間たちと合流する
第二行動方針:気絶中。
備考
・センの支給品、バーツロイド@特捜戦隊デカレンジャーは破壊されました。サイコマッシュはバンキュリアの元へ
・制限が2時間であることを知っています。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:D-8森林 1日目 黎明
[状態]:健康。ロンへの怒り
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:この二人は……
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:C-7森林 1日目 黎明
[状態]:右腕切断。簡単な応急処置済み。
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機。毒薬。切断された右腕。基本支給品とディパック
[思考]
第一行動方針:利用できる相手を捜す。
第二行動方針:センは足手まといになる。
146
:
Nightmare
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 00:29:57
以上です。誤字脱字、矛盾指摘感想いただければありがたいです。
タイトルは Nightmare でお願いします。
147
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/06/25(水) 00:31:36
ごめんなさい、
>>146
を代理投下する前に以上ですと書いちゃいました。
修正したいところですが、丁度さるさん記載。
重ねて申し訳ない。。。
148
:
◆i1BeVxv./w
:2008/06/25(水) 02:20:39
さるさん規制のため、状態表のみですが、こちらに投下いたします。
149
:
◆i1BeVxv./w
:2008/06/25(水) 02:22:19
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:聖獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:映士のディパックの中
[状態]:健康。2時間の間、能力発揮不可。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまで人形のフリ。
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:J-6海岸 1日目 黎明
[状態]:健康。菜摘に振り回され、若干調子が出ない?
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:高岡映士に起こったことに興味。
第二行動方針:アンキロベイルスを探す。
第三行動方針:志乃原菜摘と共に行動。
150
:
◆i1BeVxv./w
:2008/06/25(水) 02:23:36
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、他指摘事項、感想などがありましたら、宜しくお願いします。
151
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 11:22:48
【名前】バンキュリア@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage18(ブランケン死亡)後
[現在地]:D-8森林 1日目 黎明
[状態]:多少の打撲。ナイとメアに分離中。
[装備]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:予備弾装(銃弾10発、催涙弾5発、消滅の緋色1発)サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー支給品一式。
[思考]
第一行動方針:ロンから距離を取る。その後の行動については特に定めていません。
備考
・バンキュリアは首輪の制限を知りました。
・予備弾装に催涙弾や消滅の緋色が含まれているかは後の方にお任せします。
・制限が2時間であることを知っています。
152
:
151は間違いです
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/25(水) 11:34:52
151は間違えて修正前の状態表を乗せてしまいました。
本スレ
>>220
のご指摘通り
真澄 ではなく 真墨 です。
申し訳ございません。
本スレ
>>240
のご指摘について、なぜ予備弾装の記載をしたかというと、
状態表から
>・予備弾装に催涙弾や消滅の緋色が含まれているかは後の方にお任せします。
の一文を削除するのを忘れておりましたのと、
>>213
にて
>残弾は銃弾が11発、催涙弾が5発、消滅の緋色と説明書のある弾が1発あった。
と記載しておりますので、状態表にも反映させた次第です。
後を考えて、予備弾装が無いほうが良いか、記載したほうが良いか意見をお願いします。
153
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/25(水) 19:21:32
お二方とも、投下GJです。最高に面白かったです。
感想は本スレにて。
まとめ氏様、桃色天然娘にて口調のおかしな点に気付きました。
「馬鹿な事言ってないでとっとと負ぶされ!」→ 「馬鹿な事言ってないでとっとと負ぶさりやがれ!」
いつもいつも、お手間を取らせて恐縮ですが修正をお願い致します。
本当に申し訳ありません。
154
:
◆i1BeVxv./w
:2008/06/25(水) 23:38:29
>>152
予備弾奏の記載は後々リレーするときに楽になりますので、必要かと思います。
また、もう1つ指摘箇所を見つけましたので記載いたします。
バンキュリアとリオの現在地であるD-8エリアが砂漠ではなく森林となっておりました。
>>153
感想ありがとうございます。
修正箇所は早速、反映いたしました。
ご確認ください。
155
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/06/26(木) 00:47:56
いつも速い対応ありがとうございます。
お手数をお掛けしました。
156
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:02:19
いつも申し訳ありません。
状態表および誤字脱字等を修正したものを投下させていただきます。
157
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:02:58
「ヤバイよ〜これからどうしよう。早くインフェルシアに帰りたいよ」
「……」
「あ〜もう!ン・マ様が復活してたらあんな奴、ギッタンギッタンのメッタメタにしちゃうのに。ねぇ、メア」
「……」
いつもなら、メアの相槌が入る。
なのに、メアは黙ったまま。
バンキュリアが寂しさから身を二つに分けて以来、それぞれをナイ・メアと呼び合い幾多の時を重ねて来た。
メアが返事を返さないのは、初めての事だった。
「メア?」
ナイはメアの顔を覗き込んだ。
メアは大きな目をギラつかせ、月明かりの下では漆黒に見える唇を噛んでいる。
「メア……」
ナイはそっとメアの肩を抱き寄せた。
ナイはメアで、メアはナイ、元々身体一つのバンキュリアなのだから、メアの抱いている不安はナイの本心。
ナイも同じ不安を抱いている。
でも不安に震えていても、状況は何一つ変わらない。
ナイは考えた。自分に与えられた称号の意味を。
クイーンバンパイア――――それが人々に畏怖され、自らのプライドの証でもある称号。
(そうよ、ワタシたちはクイーンバンパイア、妖幻密使バンキュリア)
気を奮い立たせたナイは、メアの手を握り無理矢理はしゃいだ声を出した。
「大丈夫だよ〜アタシたち、不死身のクイーンバンパイアじゃん?」
「……だよね」
返事を返してくれた物の、メアの声はまだ沈んだまま。
ナイはメアの瞳を見つめ宥めた。
いつも通りの声で。
「ねぇナイ、さっき殺されたアイツいたじゃん」
「さっきの……あの黒いヤツ」
「そう、アイツの首輪取っちゃお!」
「……アイツの首輪〜」
「そう、アイツの首輪取っちゃって〜」
「取っちゃって〜?」
158
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:03:42
「それを囮に、バカな参加者に味方のふりして近づいて」
「うん、うん」
「首輪を外す方法を探さして、こ〜んな首輪、さっさと外しちゃお!」
「だね〜。さっさと外しちゃお〜、外しちゃお」
「だって、ワタシたちは妖幻密使!味方のふりなんて簡単」
「間単だよね〜」
密使、それは密かに任務を遂行する使者。
妖幻密使、それがバンキュリアに与えられたもう一つの称号だった。
ナイはメアの手を握り、二人寄り添いながら来た道を戻る。
真墨の骸に残る首輪を奪う為に。
ロンの片腕であるサンヨ、それに広間にいた憎たらしい魔法使い達、素のバンキュリアでさえも手強い者達。
制限下に於いてなら、なおの事『強敵』と呼べる存在。
それに打ち勝つ為に……
いや、それよりも何よりも自分自身の身を守る為に、まず首輪を外さなければならない。
これが首に有る限り、自分の生死はロンに左右される。
(ロン、アイツはヤバイ。もしかしたら、ン・マ様と同じぐらい……)
笑顔を浮かべながらも、ナイは背筋を走る悪寒を抑えられなかった。
ふと、メイが立ち止まり、慈しむようにそっとナイの首輪を擦った。
どうすればいい?
ナイは自分自身であるメアに問う。
「メア。首輪外した後、どうする?いつまでも、味方のふりするのもムカつくよね」
「ムカつく、ムカつく」
「そうだ、ロンに使えちゃうってのは?ハハハ……」
「アハハハ……」
ロンは、勝ち残った者の願いを叶えると言った。
吸い付きたくなる、甘い蜜。
だが、甘い蜜には罠がある。
蜜で飼い慣らされても、首輪を嵌められたままであれば、生殺与奪はロン握られたまま。
最後の一人まで生き残れたとしても『元の世界に帰る』その願いさえ、叶えてくれる保証など皆無。
皆、蜜には寄ってくる。だが、その味が苦ければ離れて行くのが世の常。
ナイは視線を泳がせた後、首輪を擦るメアの手に手を重ね言った。
「なんてね。アイツ自分の仲間のサンヨってヤツにも首輪嵌めてたぐらいだし…あっ、もしかして」
「もしかして、サンヨが〜」
「いらなくなっちゃったとか?」
「「ザマーミロ〜」」
「アタシたちを吹っ飛ばしたサンヨ、もし今度会ったら〜」
「「やっちゃおうか!」」
ナイとメアはサンヨを嘲笑い、ロンに感じた恐怖を振り払った。
159
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:04:38
‡
『今度会ったら』
今度とお化けは滅多に遭遇できない物。
そう言った観点から見ればナイとメアは非常に運が良い。
だが、真墨の屍体のある場所まで戻った二人は、実際に遭遇した『今度』という奴に目を剥いた。
「げ、ちょっとアイツ、まだいるよ?」
「まじ?」
「ねぇ、アイツもワタシたちと同じで、まだ制限解けてないよね……」
「解けてない。解けてない」
「良い事思い付いちゃったよ。メアがアイツ目掛けて催涙弾を打って〜」
「うん、うん」
「アイツが泣いてる間にアタシが首輪を取って、メイが止めを刺す」
「それ、いいね〜」
メアは銃弾を催涙弾に詰めかえた。
後一時間は、サンヨも制限時間内。
力が使えないならば、武器を持つ自分たちにも勝気はある。
残弾は銃弾が11発、催涙弾が5発、消滅の緋色と説明書のある弾が1発あった。
制限下の相手ならば催涙弾で視界を奪い、銃口の先端に光るナイフで刺し殺すのは難しくないように思う。
限りある予備の銃弾は出来るだけ取って置きたい。
一発たりとも無駄にしたくなかった。
「完璧だよね」
「だよね〜」
ナイとメアは木の影からサンヨの様子を伺う。
闇の中で、こちらに気付いたサンヨの頭が動くのがわかった。
「やっちゃいな!」
サンヨが立ち上がった、ナイがそう思った時、メイがライフルの弾金を引いた。
――パン!
銃声と火花が闇の中に散った。
サンヨは一瞬仰け反り、打たれた胸を抑え低く呻き声をあげる。
白い煙がサンヨの上半身を包む。
そして煙の中で、のた打ち回りながら激しく咳込みはじめた。
「「やったね!」」
ナイとメアの歓声がハモる。
よろめきながら闇の中へ消えて行こうとするサンヨの大柄なシルエットを逃さず、メアは突進し先端のナイフで袈裟がけに切り付けた。
ナイフは刃を煌めかせ、本能的に顔を庇ったサンヨの右手を切り裂く。
160
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:07:12
次の攻撃を避けようと後退したサンヨは、真墨の頭であった血溜まりに足を取られよろけた。
「前…ガ、見えな……いヨ」
サンヨはぎくしゃくと腕を動かし、じゃくじゃくと骨を砕き、血に滑る足取りで奇妙なピエロのダンスを踏んでいる。
ナイとメアは可笑しくて笑い転げた。
「キャハハハハ。大成功、やったね!」
「早く首輪さがしちゃお!」
「オッケー!何これ、キモ〜イ」
メアはサンヨを突き飛ばし、暗がりにしゃがんで、血溜まりの中の首輪を探す。
横で、ザシュッザシュッとリズムを刻みながら、メアはサンヨの腕、肩、体へと執拗にナイフを突き立てる。
その度に催涙弾で焼かれた喉からサンヨの掠れた声が漏れた。
「あったあった、メア!あったよ!」
「おっ、やったね」
「ついでにサンヨの支給品も、貰っちゃお」
メアはサンヨのデイバックに手を伸ばした。
一瞬、真墨の防弾チョッキを思い出し手を伸ばしかけたが、血をたっぷり吸ったそれを着たいと思わなかった。
「なになに?『マジカルチェーン』と『デュエルポンドソード』……剣によって勝負が決した時にのみ、チェーンは解消する。だって」
「何、それ?」
メアは右手で剣を持ち、両側に腕輪が着けられた数メートルほどの長さの古びた鎖を左手でシャラシャラと振り回した。
ナイの視線が鎖に動き、ナイフの切っ先がサンヨから一瞬離れる。
その隙を突いたサンヨは蜥蜴のように地を這い、必死にそこから逃げようとした。
だが、行く手をナイが先回りし塞く。
遅れてメアがマジカルチェーンの片輪をサンヨの右腕に嵌めた。
メアが血で汚れた手を黒いスカートで拭いながら、ナイは銃口を向けながら言った。
「おっと、逃がさないよ〜」
「逃がさないよ〜」
「さっきは、よくもふっ飛ばしてくれたよね」
「「せーの」」
ナイとメアは鎖の反対側を力任せに引っ張った。
つんのめるようにサンヨが立ち上がると、ぐるぐると真墨の周囲を回り勢いづいた所でパッと鎖を離す。
サンヨの身体はそのまま突進し、止まる事なく大木に叩き付けられた。
サンヨは「グェッ」と、かえるのような一声を発し、そのまま仰向けに倒れた。
161
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:08:16
数メートル後ろから、ナイとメアはその姿に腹を抱えて笑った。
「アハハ、弱っち〜。だからロンにも見切られるんだよ」
「だよね〜」
サンヨは倒れたまま、未だ掠れた声を搾り反論した。
「ロ…ン…がサンヨを、見……切るはずな…いヨ」
その言葉に二人は堪えきれずピョンピョンと跳ねた。
「まだ気付いてないよ、コイツ。おっかし〜。じゃあなんでアンタも首輪を嵌められてんの?」
「そうそう」
「違うヨ……これは、ハンデヨ〜」
サンヨはムクリと上体を起こした。
立ち上がろうと膝を突き、崩れ、手を突き、崩れ、そして四つん這いになりながらナイとメアから顔を背けず、起き上がろうとしている。
「サンヨは…何故だか死なない……不死身ヨ〜」
酷くおどけた口調だった。
メアは自分の心が震えるのを誤魔化すよう、歪んだ笑みをサンヨに向けた。
ナイはライフルの催涙弾を黒い銃弾に詰め換えサンヨに狙いを定めた。
「アハハ、そんなの首輪がなければの話だって。それに不死身なのは、アタシたちだけでいいよ!」
「「逝っちまいな〜」」
メアがライフルの引金に指を掛けた。
その時、右後方から誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「誰?!……まさか、またロンが来たんじゃないよね」
「ないよね」
ナイとメアはライフルをそちらに向け、足音を追って走り進む。
その時、後ろで鎖がジャランと音を立てた。
162
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:09:20
方向転換したナイとメアは顔を見合わせる。
「「何?!」」
四つん這いになったサンヨの手首の鎖がピンと張る。
サンヨの体がナイとメアが進んだ真逆、左後ろへ引きずられて行く。
「「え?」」
追っていた足音が遠ざかって行く。
繋がった鎖の先を持つのは背の高い男。
あちらはフェイント。
自分たちが真墨に仕掛けたような単純な手に嵌められたのだ。
ナイとメアは唇を噛んだ。
「ブクラテスさんが注意を引いて、俺が助ける。単純だけど引っ掛かってくれたね」
‡
「何コイツ〜、ムカつく!」
「ムカつく!」
「で、アンタ変身もしないで助けにきたってわけ?変身しないの」
「しないの〜」
二人は武器を手にニヤニヤと笑いながら、挑むような視線を投げつける。
センは構えたままで、タクトのように人差し指を振る。
「それは君達だっておなじだろ?何か特殊な能力が在るはずだろうに、それを使わず武器で攻撃している。すなわち、一度能力を発揮して今は制限されている」
「さぁ、どうかな?ワタシたち、もうそろそろ2時間経つし〜」
「経つしね〜」
「2時間……へぇ、制限時間は2時間なんだ。思ったより短かったな。なら、俺はもう変身できるって訳だ」
「あっマズイ!コイツ知らないのに言っちゃったよ」
「言っちゃったよ〜」
「殺し合いに乗った上に、笑いながら嬲り殺しにしようなんて、宇宙警察地球署、江成仙一が許さない!」
センはSPライセンスを握り締めナイとメアに吼える。
形勢が不利と分かった途端、ナイとメアは違う違うとばかりに手を振った。
「ま、ま、待ってよ。何か勘違いしてない?ワタシたちはこの黒い奴の首輪を貰おうとしただけで〜」
「殺したのはソイツ〜」
「ソイツは広間にいたロンの片腕、サンヨだよ。ほら、よく見てよ」
「何だって、ロンの片腕?」
センの傍らでうずくまっていたサンヨの体がぐらりと揺れた。次の瞬間、サンヨはセンに襲い掛かる。
ナイが二人に向けてライフルを打った。
銃弾はサンヨの振り上げた腕に当たり、そのまま後ろへ昏倒した。
こそこそと、ナイが近づいてマジカルチェーンの片側をセンの左腕に嵌める。
メアはデュエルポンドソードを右腕に握らせ、傍らにあったセンのデイバックを担いだ。
「ワタシたち、ホントはまだ制限時間中だから〜ソイツの事はアンタに」
「任せるよ〜」
163
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:09:54
「剣によって勝負が決した時にのみ、チェーンは解消するんだって。だからさっさと〜」
「「殺しちゃいな〜」」
待て!センがそう言いかけた時、サンヨがナイとメアに向かって駆けだしていた。
踏み止まろうとセンは踏ん張る。
SPライセンスのスイッチをチェンジモードにセット。
エマージェンシーを発声。否、その寸前、振り向きざまに放ったサンヨの回し蹴りがセンの側頭部を捕らえた。
ズンと脳天を突き抜ける衝撃、継いで背中に鈍く重い打撃。
SPライセンスがセンの手から滑り落ち、サンヨがそれを蹴りで弾き飛ばす。
センはふらつく頭を押さえ、体制を立て直し、SPライセンスを取り戻そうとサンヨから距離をとる。
サンヨは腕に鎖を巻き付け距離を縮めてきた。
センが身を捩り、鎖を引き戻した瞬間。腕がもぎ取られるかと思う力で強引に引っ張られる。
だが、この時を待っていたセンは身体の力を抜いた。
絶対的に力が上回っているのはサンヨ、同じ力で対抗しようとしても無理な話。
センが優っているのは洞察力と集中力。隙をついた一瞬の逆転を狙う。
引き寄せられる力を助走代わりに地面を蹴り上げる。
センの身体が空中で前方に回転し、重さとスピードを乗せた剣がサンヨの上腕を撫で斬る。
一拍置いて、サンヨの腕と体が左右に分かれ、ドサリと地に転がった。
その瞬間、二人をつなぐ鎖もシャンと音を立てて砕け散った。
大きく息を吐き出し、呼吸を整えたセンは草むらに投げ出されたSPライセンスを探し始めた。
後でサンヨは斬られた片手を押さえ、ズズッと這った。
「……なんで、サンヨを殺さないヨ」
「警察官だから、人殺しはしない。まだ、裁かれていない者をデリートするのは僕の仕事じゃない」
「馬鹿な、男ネ〜!!」
サンヨが立ち上がり猛った。力強く走り寄る足音に身をかわしたが、遅い。
肩と右脚の内側を抱え上げられ、頭からその場に投げ落とされた。
鎖の繋がれていた方の肘を、全体重と恨みを乗せたサンヨの足が砕く。
続いて坂道を転げ落ちるように体中に絶え間なく激痛が走る。
サンヨが一蹴り一蹴り毎に力を込め、加えながら蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。
「そろそろ、オシマイにするヨ」
「ぐっ……残念ながら、打た…れ……強い…んだよ、俺は」
「ソイツと同じに頭を踏み潰してやるヨ」
言葉とは真逆に動きの止まったセンの頭蓋骨にサンヨの足が掛かる。
「そこまでじゃ!!センから離れねば貴様の命はない!!」
勇ましくブクラテスの声が響いた。
「命びろいしたネ。その腕は、ロンに治して貰うといいヨ〜。サンヨは、早くロンに首輪、外シテモラウネ」
サンヨが囁き、闇の中へ姿を消す。
目の前に転がるサンヨの腕と砕かれた死体。
とてもじゃないが良い夢は見られそうもない。
沈みそうな意識の中でセンは思った。
164
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:10:24
‡
「あのまま、都市へ向かうべきだったか……」
胎児のように体を丸め、口元から鮮血を流すセンの姿を目にしたブクラテスは心の底から後悔していた。
ブクラテスの切断された右腕の治療の為、二人は都市で病院を探すつもりでいた。
都市へ向かう途中、エリアの外れで見付けた探知機の反応は4つ。
様子を見に行くというセンに従い、ブクラテスは暗く見通しのきかない森へ反応を追って走りだした。
4人とも全員が殺し合いに乗ったとは思えなかったからだ。
いくらか走り反応まであと少しの所で、木々ばかりの視界の先に揺れている人影が見えた。
パン!という銃声と共に、花火でも上がったような歓声が沸いた。
ダンスを躍るように揺れている大柄な影と、それに銃口を向ける女と、頭の潰れた死体をまさぐる女がいた。
センは突然逆立ちし、また突然元に戻ると、大柄な者を助ける手筈と囮となった後、落ち合う場所をブクラテスに耳打ちした。
ブクラテスはその場所へは行かず、付かず離れずセンの反応を見失わぬよう距離をとった。
離れすぎれば、ブクラテスに近づく探知機の反応がセンの物かどうか判断が付かなくなる。
やがて反応は2つに別れ、戻ってきてみればセンの頭が、助けようとした者に砕かれようとしていたのだ。
「セン……誰か人を呼んで来よう。動くでないぞ」
「腕…一本…ぐら……い、大丈夫です。ブク…ラテスさんだって……」
センはそれだけ言うと目を閉じた。
ブクラテスは溜息と共に立ち上がり、草叢からSPライセンスを拾い上げ、センの手へ握らせた。
弱々しくSPライセンスを握ったセンの姿に、ブクラテスは『センはもう利用できない』と思い至った。
今のセンは最初に出会った女と同じ、利用するどころか足手まといにすぎない。
だが、センのおかげで利用できそうな人物のあてはできた。
センの仲間、顔は知らずともセンと同じ着衣に身を包んだ人物ならば利用できる。
悪く、思わんでくれ。
これ以上ここに居るのはブクラテスにとって、最早時間の無駄でしかなかった。
‡
その気配に理央が気付いたのは、砂漠を抜け森に続く道を独り歩いていた時だった。
森の奥から怯えた女の気配を微かに、だが、確かに感じ取った。
「……まさか」
ドクドクと心臓を打つ鼓動の一拍ごとに、スワンに焼かれた亡骸、広間で無残に散った名も知らぬ男、バックを手にした美希、それをほくそ笑むロンの姿が沸き上がる。
最後に浮かんだのは門の向こうへ消えるメレの横顔と細い肩。
もし、メレに何かあれば……
理央の胸に、親を殺され、己の半生を狂わされた怒りをも越える熱く激しい怒りが渦をなし逆巻く。
理央は五感を研ぎ澄ませ気配を目指して駆け出した。
森の奥から二人の少女が何者かに追われるように生きを切らし、こちらに向かって駆けてくる。
理央の姿を見た二人は竦み上がり立ちすくんだ。
逡巡しているような二人に、理央が声をかけようとした時。
「た、助けて、ワタシたちサンヨってヤツに襲われて……」
「ヤツはどこにいる!」
「待って、アイツならもうどっか行っちゃったし……それより」
「ワタシたち〜」
「味方になってくれる人を捜してて」
「貴様、何者だ?」
「アナタは、広間でロンに向かって行ってた。理央……様、ですよね」
「ですよね」
頼りなく自分に助けを求める二人の女。理央は不審な眼で少女を睨み据えた。
だが理央の、その眼の奥に敵意はなかった。
165
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:11:11
‡
フゥ、上手くいったね、メア。
あの変な背の高い男に、制限時間のハッタリは効かないし、うっかりばらしちゃうしでどうなるかと思ったけど上手く行って良かったよ〜
森を出てすぐ、広間でロンとやり合ってた理央ってヤツ会ったのはびっくりしたけど……
とりあえずワタシたちを受け入れそうな感じ。
でも、いざという時は、あの背の高いヤツから奪った支給品のサイコマッシュで〜メッロメロのフッニャフニャにしちゃって〜
思い通りに動かせばいいよね、ねぇ?メア。
【名前】サンヨ@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:ロンと一緒
[現在地]:B-8森林 1日目 黎明
[状態]:全身打撲、無数の刺し傷、右腕切断。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:ロンの指示に従い、しばらく様子見。
第二行動方針:首輪を外してもらう。
備考
・伊能真墨の支給品はスワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャーでした。
・真墨のディパック、アクセルラー、その他諸々は真墨の死体と共に置き去りにされています。
・サンヨの支給品はデュエルポンドソード、マジカルチェーン@魔法戦隊マジレンジャーでした。
・サンヨの腕とデュエルポンドソードは真墨の死体の傍らに放置されています。
・制限が2時間であることを知っています。
【名前】バンキュリア@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage18(ブランケン死亡)後
[現在地]:D-8砂漠1日目 黎明
[状態]:多少の打撲。ナイとメアに分離中。
[装備]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:予備弾装(銃弾10発、催涙弾5発、消滅の緋色1発)サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式、真墨の首輪。
[思考]
第一行動方針:首輪を外す。
第二行動方針:理央の様子を見る。
備考
・バンキュリアは首輪の制限を知りました。
・制限が2時間であることを知っています。
166
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:12:08
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-8森林 1日目 黎明
[状態]:左肘複雑骨折、全身打撲。
[装備]:SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:仲間たちと合流する
第二行動方針:気絶中。
備考
・センの支給品、バーツロイド@特捜戦隊デカレンジャーは破壊されました。
サイコマッシュは@特捜戦隊デカレンジャーはバンキュリアの元へ。
・制限が2時間であることを知っています。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:D-8砂漠 1日目 黎明
[状態]:健康。ロンへの怒り
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:この二人は……
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:C-7森林 1日目 黎明
[状態]:右腕切断。簡単な応急処置済み。
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機。毒薬。切断された右腕。基本支給品とディパック
[思考]
第一行動方針:利用できる相手を捜す。
第二行動方針:センは足手まといになる。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
167
:
Nightmare(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/06/26(木) 12:12:44
以上です。
よろしくお願いいたします。
168
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/07/09(水) 21:59:09
さるさん規制のためこちらに投下します。
169
:
ミッションスタート!最高のアイテムを追え!
◆MGy4jd.pxY
:2008/07/09(水) 21:59:54
ドン!もう一度クエイクハンマーを地に叩きつけた。
衝撃に二人は再度弾かれる。
天空の花を手に、その男は都市の方向へ駆けて行った。
どこかへ身を隠したか、遠くへ行ってしまったか?
二人は男の姿を見失ってしまった。
「あいつ、クエイクハンマー使った後、痛いって言っとったな」
「クエイクハンマー?」
「そう、あれは吼太の武器や。その後、痛いって言ってたやろ?」
その言葉に頷いて、悔しげに男の消えた方を見ながら蒼太は言った。
「えぇ、今は相手にしてやれないとも……。それに、僕がボウケンジャーと知っていましたね」
蒼太は名簿を取り出す。広間で自分の名を呼ばれるまでに、参加者ほとんどの名前と顔を記憶したらしい。
「最初の方で、名前を呼ばれていた。これだ!」
指した名は、クエスター・ガイ。蒼太には心当たりがないようだった。
「蒼太くんのことを知ってるヤツ。あれが変身した姿なんか、あのままの姿かどうかは、わからんけど……」
おぼろは考えを整理するため、一呼吸置いた。
「見るからに粗野で好戦的なヤツ。なのに、戦わず逃げた。おそらく、ごっつい傷を負うてるんやわ」
次の言葉を蒼太が繋ぐ。
「戦える状態であれば、天空の花を奪うついでに、僕らを倒してバリサンダーを奪うはずだ」
「そうや。そんな手負いの状態なら、J−10エリアまで行くのもしんどいんちゃう?だから焦らんでも良いと思う。先回りして、二人であいつから天空の花を取り戻そ!」
「……おぼろさん?」
俄然やる気を出したおぼろに、蒼太が戸惑う。
おぼろはキリッと、ひどく厳しい顔を作った。
「そう、うちも蒼太くんをサポートする。この、一鍬ちゃんのイカヅチ丸でな。愛を凍らせるやなんて絶対に阻止したる。さぁ、ミッションスタートや!」
「了解!天空の花を回収する。ですね」
「ほな、蒼太くん行くでぇ〜」
その時から、おぼろの中でイカヅチ丸が『身を守るための武装』ではなく『愛を守るための武装』となった。
170
:
ミッションスタート!最高のアイテムを追え!
◆MGy4jd.pxY
:2008/07/09(水) 22:00:30
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:C-4森 1日目 黎明
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする
※首輪の制限に気が付きました。
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:C-4森 1日目 黎明
[状態]:良好。1時間半ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る
※首輪の制限に気が付きました。
【クエスター ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:C-4森 1日目 黎明
[状態]:全身に裂傷。かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。
ただし、精神的には高揚感あり。戦いを心底楽しんでいます。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー、釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式(麗のものは全て搾取済み) 天空の花
[思考]
基本方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る
第一行動方針:天空の花を持って、J−10エリア『叫びの塔』へ
第二行動方針:気に入らない奴を殺す。一人殺しました。
参考:1本目のペットボトルを半分消費しました。
171
:
ミッションスタート!最高のアイテムを追え!
◆MGy4jd.pxY
:2008/07/09(水) 22:01:20
以上です。誤字脱字、指摘、感想等よろしくお願いします。
172
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/07/17(木) 23:16:03
さるさんに引っかかってしまいました
173
:
一時の休息
◆Z5wk4/jklI
:2008/07/17(木) 23:17:08
◆
「コーラで良かったかな?」
「お、どうも。持ち合わせないいんじゃ?」
「非常時だから勘弁してもらった……少し反省した……」
受け取るとひやりとした感触が手に伝わる。少なくとも数日放置されていたという事はなさそうだ。
プルタブを開け、胃に流し込む。口の中で炭酸が弾けた。
「すまない事をしてしまった」
スモーキーを胸に抱えこんだまま眠る菜月に目をやると、シグナルマンは深い溜息を吐いた。
「まあ、菜月ちゃんに何も無くて良かったよ。俺もうっかりしてた」
もし、ブクラテスに彼女に危害を加える気があったらと思うと、ぞっとしなかったが。
「さて、これからどうする?」
「本官はペガサスの一般市民を保護しなければ。できればメレさんにも謝りたいんだが」
「俺は仲間を探したい。それに菜月ちゃんの仲間も探してあげなきゃな」
「だが、怪我人を放ってはおけない。あの傷はきちんと手当しなくては」
頷くと竜也は地図を広げ、中央を指し示した。
「とりあえず、朝になったら街の中心部に行こう。病院なんかはだいたい中心街にあるはずだから。それに人も集まりやすい」
「了解した」
174
:
一時の休息
◆Z5wk4/jklI
:2008/07/17(木) 23:17:43
◆
どうやら、上手くいったようじゃな。
寝たふりをしながら二人の会話に聞き耳を立てていたブクラテスは、内心でひとりごちた。
彼らに話した事にほとんど嘘はない。だが、伏せておいた事もある。
実のところ、ブクラテスは竜也達が建物の中に足を踏み込んだ時から、首輪探知機によってその存在に気付いていた。
それでも逃げ出さずデイバックの底に探知機を隠してあそこに潜んでいたのは、センの代わりになる者が必要だったから。
戦う力を持たず、怪我を負った自分がいつまでも単独行動をしていては、遠からず殺し合いに乗った者の餌食になる。
センと同じ着衣の者を探したが、そんなに簡単に見つかるわけもなかった。
それ故にとどまった。
そして、あの場で菜月の姿を垣間見たブクラテスは賭けにでた。
ああまで怯えていた娘がのん気にも風呂に入ろうなどと考えるとは思えない。
大方、先程までの自分のようにお人よしの人間を見つけて、守られているのだろう。
あの娘は足手まといにしかならないだろうが、その連れは利用できるかも知れない。
そう考えるとブクラテスは菜月の注意をひくために、そっと物音を立てた。
◆
そして、今に至る。
思ったとおり、娘の連れはお人よしそうな人間だった。
あまり抵抗も無く自分を受け入れ、あまつ、病院へ連れていこうとさえしている。
とりあえずは、信用しても良さそうだった。
だが、首輪探知機の事、そして置き去りにしてしまったセンの事は伏せておく事にした。
もう、先程のような危うい場に首を突っ込みたくはなかった。
センの事は考えると気がとがめたが、これ以上、足手まといは増やせない。
―――恨むでないぞ、セン―――
心の中で小さく詫びると、ブクラテスは身体を休めるために睡魔に身を委ねた。
175
:
一時の休息
◆Z5wk4/jklI
:2008/07/17(木) 23:18:26
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:D-5 都市 1日目 早朝
[状態]:健康。湯上り。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:メレの支給品(中身は不明)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す
第一行動方針:ブクラテスを病院へ連れて行く
第二行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第三行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考:クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:D-5 都市 1日目 早朝
[状態]:健康。まだ僅かに怯えあり。湯上り。就寝中。
[装備]:アクセルラー、スコープショット、マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:竜也の仲間を探す
【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:D-5 都市 1日目 早朝
[状態]:健康。マジランプの中。就寝中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルと麗を探す
第一行動方針:菜月を守る
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:D-5 都市 1日目 早朝
[状態]:健康。少し凹み気味。湯上り。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(1個使用済み)数は不明、その他は不明。メレの釵。
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:ブクラテスを病院へ連れて行く
第二行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第三行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:D-5 都市 1日目 早朝
[状態]:右腕切断。簡単な応急処置済み。湯上り。
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機。毒薬。切断された右腕。基本支給品とディパック
[思考]
第一行動方針:竜也とシグナルマンは利用できそうだ。
第二行動方針:首輪探知機とセンの伏せて置く。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
176
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/07/17(木) 23:20:32
以上です。
誤字脱字、矛盾点の指摘、ご感想などよろしくお願いいたします。
177
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/07/17(木) 23:21:11
仮投下は以上です。
お手数ですがよろしくお願いいたします
178
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:45:58
バイバイさるさん。
こちらに投下いたします。
179
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:46:30
ブドーは一目散に逃げ出す。ギラサメもなく、制限が掛かっている今、勝ち目はない。
「はぁはぁ、はぁはぁ」
場所は森の中。高くそびえ立つ木々が自分を守ってくれるはずと、ブドーは懸命に森の奥へと進んでいく。
ところが――
「無駄よ」
何時の間にかブドーの眼前へとバンキュリアは移動していた。
そして、即座にライフルの引き金が引かれる。
「ぬぅわ」
放たれた銃弾がブドーの肩を貫通した。白装束が彼の身体から流れ出た血に染まる。
「確かに上空から狙うのは木が邪魔くさいけど、こうやって正面からだったら、思い通りに狙えるわ。
気づいてる?あんたの乱れた呼吸。凄く聞き取りやすいわ」
ナイとメアの時ならいざ知らず、今ならば、相手の気配を探ることは容易い。
「き、貴様」
「あなたは終わりよ、ブドー」
バンキュリアの姿が、ブドーの記憶の中にいる女と重なった。
――― あんたは見限られたのよ。バルバンにも、運にも ―――
(メドウメドウ……)
ライフルより銃弾が放たれる。その銃弾はまっすぐにブドーの額へと向かい、砕いた音を轟かせた。
▽
「ふふっ、軽いわね。さて、あんまり遅くなっても不審がられるし、さっさと理央の下に戻ろうかしら」
ブドーの死体に背を向け、ディパックにライフルを収めようとするバンキュリア。
180
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:47:04
「獲物を追う猟師は前後不覚に陥りやすい。なるほど、客観的に見れば、あの時の拙者がどれだけ愚かだったかよくわかる」
だが、死んだはずのその男の声が森へと響いた。
バンキュリアは急いで後ろを振り向く。そこには死んだはずのブドーが雄々しく立っていた。
「あんた死んだはずじゃ」
「どうやら拙者には運が味方しているらしい」
ブドーの手からギラサメの破片が滑り落ちる。
相手に止めを刺すなら、頭部か胸を狙うはず。そして、最初の一撃はブドーの後頭部を狙ったものだった。
ブドーはバンキュリアがライフルを構えた瞬間、反射的に右手に持ったギラサメで頭部を庇った。
その結果、先にギラサメへと命中した銃弾は弾道を変え、ブドーの頭部への着弾を防いだのだ。
「拙者は終わらぬ。汚名を返上せずに死んでは、それこそ散っていった配下の者たちに顔向けできん」
いつの間にかブドーの左手にはビンが握られていた。
「そのためなら、信念など不要。手段など選ばぬ」
ブドーは両手で拍手するように叩き、ビンを割ると、その中の液体を手へと染み込ませた。
「なに格好つけてるのかしら」
生きていたことには驚いたが、所詮ブドーは制限内。恐れるに足りずとバンキュリアは再度、ライフルを構えた。
「今度こそ死にな」
だが、銃弾はブドーには届かず、弾かれることになる。
「ゲキセイバー」
ブドーの両手にしっかりと握られた一対の剣。
薄刃ならではの柔軟性と高い強度を併せ持つ必殺の剣ゲキセイバー。
ブドーはまるでオールを漕ぐように振るい、ライフルの玉を弾いたのだ。
「そんな馬鹿な。あんた、制限中でしょう」
「逞しき匠の技を托す薬。貴様のライフルと同じく、支給品によって得られた力は輝きを失わぬようだな」
「くっ」
バンキュリアは状況の悪化を悟りながらも、逃げずにライフルを構える。一方のブドーはゲキセイバーを合身させ、一対から一本の刀にする。
「双剣合身」
181
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:47:36
バンキュリアへと迫るブドー。だが、ライフルの引き金は一瞬早く引かれた。
――カチャ
「弾切―」
「ゲキセイバー残酷剣!」
一閃するブドーの刃。
「貴様程度の首を落とすことなど、制限があろうとも……容易い」
悲鳴を上げる間もなく、バンキュリアの首はポロリと落ちた。
それと同時に主を失った身体も力なく崩れ落ちる。
「ゲキセイバー……中々悪くのない刀だ」
ブドーはゲキセイバーから血を振り払うと、ピクピクと小刻みに動くバンキュリアの手からライフルとディパックを奪った。
「これも使いこなしてみせよう。拙者の勝利のためにな」
ブドーは短冊と筆を取り出し、句を記すと、それをバンキュリアの身体へと置き、その場から去っていった。
――悲願への 道程長く まず一首――
▽
(んんっ……あれ?私は一体)
一時間程の時が流れ、バンキュリアは意識を取り戻した。
(そ、そうだ私はブドーに首を斬られて)
意識すれば見開かれたままの眼から自分の身体が見えた。
首のない自分の身体に息を呑んだが、それより重要な事実にバンキュリアは考えを移す。
(首を落とされたのに生きてる。それに結構時間が経っているはずなのに分離していない)
木々の間から差しこむ光が時間の流れを示す。
それはバンキュリアが首輪の制限から解き放たれたことを示していた。
(ほほほっ、やはりクイーンバンパイアの私を滅ぼすなんて、無理だったようね。
こんなことなら、最初から首輪を外しちゃえばよかったわ)
そんな時、バンキュリアの視界に何者かの足が映った。
182
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:48:08
その何者かは身体を屈めると、その顔をバンキュリアの瞳へと映す。
「どうも」
(ロン!)
「そろそろ放送を行う時間ですので、死人のチェックへと参りました」
(死人?私はまだ死んでないわよ)
「厳密にはあなたはまだ死んでいません。いえ、不死身のあなたを殺すことなど誰にも出来ないでしょう。
でも、首輪が外れた時点であなたはこのゲームから脱落したのです」
(調子に乗ってんじゃないわ。今すぐあなたを殺してあげる)
「何か反抗的なことを考えているようですが……無・駄・ですよ。だって、あなた動けないでしょ?」
ロンの言う通り、その意識とは裏腹にバンキュリアの頭は何の反応も返さない。
(そういえば口も動かせないし、瞬きもできない)
瞳さえも動かせない現状にようやくバンキュリアは何かおかしいことに気付く。
「あなただけにこの首輪の本当の性能を教えてあげます。内緒ですよ?」
そんな焦りを知ってか知らずか、淡々としゃべり続けた。
「首輪の性能は5つ。まずは首輪は形状を自在に変えられます。
これを小さくすることで小津勇を絞殺し、二つに分けることで、あなたのような特異な参加者に対応しました。
2つ目に無理矢理外そうとすると爆発します。これはメモに書いてある通りです。
3つ目にこの首輪の位置を私は常に知ることができます。
ブクラテスという参加者にはその仕組みを利用した支給品を与えていますので、範囲は限定されますが、彼も知ることが出来ますよ。
4つ目にこの首輪は音声を私に伝えてくれます。つまり、あなたたちの会話は筒抜けというわけです。
ここまではいいですね?」
ロンはわざわざ大地に伏すと、横になっているバンキュリアから見て、下から上へと舐めるようにバンキュリアの顔を見た。
「さて、肝心の5つ目ですが、この首輪はあなたたちへのゲンギの影響を最小限に抑え、10分間だけ一切の制限なくあなたたちの能力を使えるようにしてくれます」
(どういうことよ、それ?)
183
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:51:25
「わかりませんか。この首輪は酸素ボンベのような役割を果たしています。酸素ボンベなしに、海に長時間潜ることはできないでしょ?
実際にあなたたちの能力を抑えているのは私がゲンギで作り出したこの空間。首輪は空間の効果をコントロールしてるに過ぎないということです。
つまりぃ、首輪が外れたあなたはその影響をまとめに受けているということですよ」
(!!!)
ようやくバンキュリアは自らが置かれている状況を理解した。
バンキュリアはこの首輪を外せば自分の力は戻るものだと思っていた。だからこそ、生き続けられている自分は制限から開放されたものだと思っていた。
だが、実際は違う。
「この空間には幻気を持つもの以外を拒み、排除しようとする瘴気が敷き詰められているのです。まあ毒みたいなものですね。
よって、この首輪なしでは、多少の個人差はありますが、この空間では生きることは出来ない。
ただ、あなたは幸運なことに不死身でしたので、こうして私の話を聞くことが出来ているというわけです」
(何が幸運よ。それなら死んだ方がマシじゃない!)
「苦しいでしょうね〜、不死身であるが故に意識だけが自由になる今の状況は。
そうですね、差し詰めその状況は圧縮冷凍のような状態でしょうか?」
嘲るようなロンの声。バンキュリアはロンの例えの意味はわからなかったが、このままだと自分は一生この状態で生き続けることは嫌でもわかった。
そして、この状況を何とかすることが出来るのが、目の前のこの男しかないことも。
(ロン、私を解放して。脱落したのなら、もう私は必要ないでしょ?)
ロンに通じているかは定かではないが、必死に助勢を願うバンキュリア。ロンはにやりと笑うと徐に立ち上がった。
「まあ、数日待っていなさい。優勝者が決まれば、この空間は閉じられます。その時にはっきりしますよ。
あなたがこの空間と共に消滅するか。はたまた、生き続けるかがね……ご武運を」
(待ちなさい、ロン!待ちなさいよ!)
ロンは黄金色のもやになるとその場から消えていく。
(待って!助けて!ロン!ロン!!)
バンキュリアは何もできず。ただ、心の中で叫び続けるしかなかった。
【バンキュリア 脱落】
残り36名
184
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:52:39
【名前】バンキュリア@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage18(ブランケン死亡)後
[現在地]:C-7森林 1日目 早朝
[状態]:首だけでなにも出来ず。不死身が故に意識だけはあり。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:なし
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:C-7森林 1日目 早朝
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。肩に銃弾による傷。能力発揮済。2時間戦闘不能。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー。予備弾装(銃弾7発、催涙弾5発、消滅の緋色1発)。支給品一式(ブドー&バンキュリア)。真墨の首輪。
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:リオを倒せるほどに強くなる。
第二行動方針:優勝を目指す。
第三行動方針:仙一と再会時には必ず殺す。
※首輪の制限に気が付きました。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:D-7市街地 1日目 早朝
[状態]:健康。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。2時間変身不能。
[装備]:なし
[道具]:変幻自在剣・機刃、支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:ナイとメアを待つ。
185
:
◆i1BeVxv./w
:2008/08/06(水) 23:54:49
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などあればお願いします。
二点ほど、セルフ突っ込み。
>(強き者はいついかなる時も隙を見せない。猛き者は弱き者を決して見捨てない)
強き者と猛き者が逆になってました。
あと、ブドーの至急品の筆と紙ですが、筆と短冊に訂正いたします。
ご迷惑おかけして申し訳ありません。
186
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:18:35
すみません。
やっと完成しました。では投下します。
187
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:20:05
「ウメコ!お前、何やってんだ?!」
映士は叫んだ。
ウメコは笑っていた。いたずらを見つけられた子供のように、ただ無邪気な笑顔で笑っていた。
そして……
▽ ▽ ▽
ウメコを捜し始めてから二時間近く経つ。
映士の後を追って菜摘、壬琴の二人は、アンキロベイルス捜索をひとまず中断し、ウメコ捜索に加わった。
言葉を交わし情報を交わし、共に行動したこの二時間で映士は『口はともかく、悪いヤツ等じゃねぇ』と感じ始めていた。
怪我をした小梅が、そう遠くには行けまい。
その三人の憶測は見事に外れ、一向に小梅は見つからなかった。
時間が立てば立つほど小梅の危険は色濃くなる。
30分ほど前から三人は海岸近くの公園を拠点とし、三方に分かれウメコを捜していた。
市街地方面を捜索した映士は空振りに終わったのを落胆しつつ。
「アイツ等が見つけてくれてりゃ、いいんだが」
そんな微かな期待を抱き、合流地点の公園へ急いだ。
「こっちにはいなかったわ。そっちも、だめだったみたいね」
公園のフェンス越しに菜摘が叫んだ。
一足先に戻っていたのは菜摘一人。壬琴の姿は見えない。
「ったく。一体どこへ行っちまいやがったんだ!」
口にした苛立ちが身体と直結。
条件反射のように、映士は公園の入り口にあったゴミ箱を思いっきり蹴飛ばした。
「ちょっと!気持ちは分かるけど大人気ないわよ」
菜摘に言われるまでもない。
ゴミ箱を蹴っ飛ばしたところで、小梅が見つかるわけでも気持ちが落ち着くわけでもない。
苛立ちが増すだけだった。
顔を上げると、ごみ箱の転がった先に険しい顔でこちらを見ている壬琴がいた。
そして映士は、溜まっていた汚水の飛沫が掛かった壬琴の白いスーツを見て『大人気なかった』と改めて思った。
(コイツ等には付き合ってもらった礼ぐらいは言わねぇと、と思ってたのに俺様とした事がやっちまった……。しかもよりによって白かよ)
すまなねぇな。天性の俺様気質の映士には珍しく、謝罪の言葉を素直に口に出しかけた時。
それを遮ったのは、壬琴の辛辣な視線と言葉。
「手がかりもなく走り回ったあげく、苛立ち紛れに八つ当たりか?」
純白のスーツに着いた汚れを払いながら、壬琴は映士に向け遠慮なく冷たい視線を浴びせる。
その視線に謝罪の言葉など、即座に彼方へ吹き飛んだ。
確かに悪いのは自分だ。しかし、映士に壬琴の冷たい視線を受け流す余裕はない。
小梅が見つからない焦りも拍車を掛け、映士の口から出たのは本心と掛け離れた皮肉まじりの謝罪。
「悪かったな、走り回るしか能がなくてよ。他に何か方法あんのか!」
映士はデイバックをかなぐり捨てる。
落ちた拍子に人形が「ビビィ〜」と小さな音を鳴らし、パンは四方に転がり大きく形を変えた。
それに映士は構わず壬琴の前へつかつかと進み寄った。
「笑ってねぇで、答えやがれ!」
壬琴は半ば呆れたようにフンと映士を鼻先で笑っている。
その態度に映士は、さらに皮肉で返した。
「いい方法が思いつかねぇのか?ならこれ使えよ。誰でも大天才になれるぜ」
映士が壬琴に向かって投げつけたのは葡萄によく似たプレシャス『知恵の実』
アホのアクタ神が食べて天才になった件のプレシャスである。
一緒に投げつけられた支給品詳細に目を通した壬琴の口元が見る見る歪む。
「……おもしれぇじゃねぇか」
「だろ、使えよ」
「だが自分に使おうという知恵はなかった訳か。哀れだな」
「何だと!」
映士は壬琴に掴みかかろうとしたが、菜摘がそれを許さない。
菜摘が映士と壬琴の仲裁に入るのはこれで三度目。
188
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:20:53
すっかりタイミングを掴んだ菜摘は、既のところで二人を制す。
「いーかげんにしなさいよ。壬琴!映士。あなたもよ」
「キロキロ〜!二人ともいい加減にするキロ!」
映士は壬琴の胸倉に伸ばし掛けた手を、大きく後ろへ振り回し、溜息をついた。
「壬琴、手を洗って来たらどう?映士は、散らかした荷物片付けて」
菜摘は壬琴を遊具の向こうにある水飲み場へ追いやり、辺りに散らばったバックの中身を拾い始めた。
この人形なんだろう?とブツブツ言う声を背に、映士は心の中で言い損ねた礼を切り出すタイミングを計っていた。
そして口に出しかけた時。アンキロベイルスの呟きが聞こえた。
「きっともうその辺りにはいないキロ。こっちも早く助けに来て欲しいキロ〜」
「ついでといっちゃあなんだけど、あなたの事もちゃんと捜してるでしょ。でも、どこ行ったんだろうね。もう二時間も捜してるのに……」
菜月の声が少し沈んだ。
これ以上、こいつらに付き合ってもらう訳にはいかねぇ。映士はわざとぶっきらぼうに言い放つ。
「付き合ってくれなんて頼んだ覚えはねえぜ」
「急にどうしたの?」
上手く言えないもどかしさに歯軋りした。
驚いた菜摘に背を向け『付き合わせちまって悪かった』映士は口の動きだけで言ってみた。
声には出せない。いつもそうだ。
そして次に出る一声は決まっている。周囲の人間を撥ね付ける言葉だ。
「もういい。後は俺様一人で捜す。お前らはさっさとアンキロベイルスを捜してやれよ」
映士は無意識に、傷ついた子供のように鼻にくしゃっと皺を寄せた。
「あれ?ちょっと、何拗ねてんの?映士ってほんと素直じゃないね。くくっ、あははっ」
菜摘の声に少しも嘲笑めいたものは感じられなかった。
「ねぇ、良い方へ考えようよ。三人いるんだもの。そうすればきっと良い方法だって思いつくわよ」
笑い飛ばされた事で菜摘の言葉が、気が抜けた心へ素直に沁みた。
「そうだな」
映士は呟き、照れ隠しに空を仰いだ。
白んできた空には雲一つない。
夜明け前のまだ冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、やけに清々しい気持になった。
「仲代のヤツを呼んでくる」
映士は空から菜摘へ視線を落とした。
菜摘の代わりにそこに居たのは、悪魔をデフォルメした人形とコロッケパンだった。
「菜摘……?」
たった数秒、空を仰いでいた間に菜摘の姿が消えていた。
菜摘の居たはずの場所には人形とコロッケパンがあるだけ。
(目を離したのは一瞬だ。一体何がどうなってやがる)
人形とコロッケパン、小梅と菜摘がぐるぐる頭を駆け巡る。
放心した映士の肩を、戻って来た壬琴が掴んだ。
「おい!菜摘が……」
消えちまった。と発する前に、壬琴の拳が映士の頬を殴りつけた。
手加減なしの痛烈な一撃。映士は切れた唇を手の甲で拭った。
「何しやがる!」
「菜摘に何をした?」
壬琴は震える手で人形を掴み言った。
「俺様じゃねぇ!俺は何もしてねぇ!!」
「信じられるとでも思うか?」
壬琴が大声で怒鳴り、手にした人形を放り投げた。
人形は十数メートル後ろの雑草だらけの地面に転がった。
正直に話したとして、壬琴を納得させられるとは思えなかった。
それほどまでに壬琴は全身で怒りを表にしている。
胸倉を捕まれ引き寄せられた。
争う時間が惜しいのと疑われている悔しさとが胸で入り混じる。
「やめろ!」
映士は壬琴の手を掴み引き離そうとした。
「そのままでいい。聞け」
急に声のトーンを落とし壬琴が言った。
「俺がお前達から目を離して、呑気に手を洗っていたとでも思っているのか?」
壬琴はそのまま胸を掴んだ力を弱めずに言葉を続ける。
「怪しいのはあの人形だ。お前が余程の馬鹿でない限り自分から疑われる真似はしないはずだ?
俺はアンキロベイルスを捜す。菜摘と繋がっているのはヤツだけだ。
二時間後、俺達はここに戻る。
お前はウメコとやらを捜し、あれがなんなのか突き止めろ」
映士は壬琴の言う『あれ』、悪魔をデフォルメした人形に目をやる。
雑草の隙間から覗く二つの目が、じっとこちらを見ているようだった。
「表情が固いぜ」
壬琴に指摘され、映士は自分の頬を撫でた。
(ならよく考えたら俺様の殴られ損じゃねぇか)
映士は公園を去る壬琴の背中を睨んだ。
189
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:21:25
▽ ▽ ▽
(ビッッ!)
ビビデビは強く頭を掴まれ、危うく声を出しそうになった。
そして頭からさかさまにバックに詰め込まれた。
映士の自分に対する扱いがぞんざいな気がしたが、それも仕方がないとビビデビは思っていた。
(ビビィ〜!自棄になってるデビ〜。今は我慢してやるデビ〜)
ビビデビは気晴らしに、菜摘を飛ばしてやった後の二人の様子を思い出す。
特に傑作だったのはビビデビの横を通り過ぎる際に映士に放った壬琴の捨て台詞。
『菜摘が見つからなければ殺す』
見つからなければだと?
足を負傷した小梅は空へ向けて、菜摘は海へ向けて飛ばしてやった。
運が良ければもう死んでいるかもしれない。
もしそうだったら?
(ビビィィィ〜!ビビビィィ〜!)
しばらくは込み上げる笑いを押える事に専念しなければならないようだ。
まだ、笑うわけにはいかない。
こんな暗闇の中で、笑うわけにはいかない。
ビビデビには見えていた。再びネジレシアで笑う自分の姿が……
それが現実となるまでは、笑うわけにはいかないのだ。
▽ ▽ ▽
「ん、冷った〜い。何!」
目の前に広がるのは荒々しい波と岩肌。
岩肌に当たった波しぶきが絶え間なく体に降り掛かってくる。
菜摘がいたのは頭上の岩壁にぽっかりと穴の開いた半洞窟の中。
「洞窟……って、なんでこんな所に!?」
「どうしたキロ?」「……た…ロ」
「とうしたもこうしたも、私だって解んないわよ」
たった今までいた公園とは、まったく違う景色に囲まれていたのだ。
(どういう事?さっきまで映士と喋ってて……)
菜摘は状況を思い返した。
拗ねた映士を慰めようと、わざと視線を合わせずに荷物を片付けていた。
怪しいのは、あの時。ウメコの人形を持ち上げ目を合わせた時、フッと意識が遠のいた。
「あの子悪魔みたいな人形が絶対怪しい。きっとウメコって子がいなくなったのもあの人形のせいね!」
そうと解ればこんな所でグズグズしてはいられない。
「早く戻らなくちゃ!」
「オイ!菜摘。何かオカシイキロ。声が二重に聞こえるキロ!」「…こ……るキロ…」
言われてみれば、アンキロベイルスの声が二重に聞こえている。
「声が反響してるんじゃない?洞窟みたいな所だから……」
ふと自分で出した答えに疑問が生じた。
なぜ、アンキロベイルスの声だけ?どうして自分の声は二重に聞こえないのか?
「ちょっと待って」
菜摘はダイノコマンダーを外し、大声で叫んだ。
「アンキロベイルス!聞こえる〜?オッケー!」
「…こえ…るキロ…オ…ケ……ロ」
通信を切っても微かだが確かに声が聞こえる。
アンキロベイルスはここにいる。
菜摘は洞窟内を見渡す。
明るくなりかけた空の光を、透き通った海が反射していた。
その光にぼんやりと照らされた、怪獣のような奇怪な形をした岩の群。
この中の内の一つかしら?
菜摘は再びダイノコマンダーを装着しアンキロベイルスに話しかけた。
「ねぇ、爆竜っていうぐらいだから相当大きな物を予想してるんだけどあなた大きさはどれくらいなの?」
「ビルぐらいの大きさだキロ」
「……そんな大きな物が隠れられそうな場所はないわよ」
「金色の首輪をつけられて、今は人間ぐらいの大きさになってるキロ!」
「それならそうと早く言いなさい!」
(急がなきゃね)
足元の水位が僅かだが上がってきている。
潮が満ちる前に、この岩の中からアンキロベイルスを見つけ出さなければならない。
菜摘はダイノコマンダーをアクセルブレスに付け替えた。
190
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:22:52
▽ ▽ ▽
小梅は痛む身体を引きずりながら海岸を目指していた。
手元に地図もなく、方向が正しいのかさえも解らないが、小梅は自分の感と潮の香りを頼りに歩を進める。
挫いた足のおかげで休みながら行くしかなく。映士の元へ戻るのに随分時間がかかっていた。
(あの人形、変だよね。映士さん持ってなきゃいいけど……)
人形を手に取った時、身体が中に浮いたような感覚に囚われた。
はっと我に返ると、小梅の身体は空中に浮き上がっていた。
そして次の瞬間、地面に引き寄せられるように小梅の身体は落下し始める。
悲鳴を上げる事も出来ず、息を呑むしかなかった。
だが運よく落ちた先は木々が生い茂る場所。
枝葉がクッションがわりに小梅を包み、幸運にも負った傷は深くなかった。
「でも、もういないかな?映士さん」
か細い声で言う。
もう空が明るくなりかけていた。
『メガブル〜……』
(子どもを人質に取るなんてサイテー!)
それに気を取られて後ろから近づく足音に気付くのが遅れた。
少し先に見える教会の方から背の高い男が近づいて来る。
誰?向こうは気付いたかもしれない。
小梅は反射的に身を隠そうとした。
「きゃっ」
挫いた足に力が入らず小梅は転んだ。
(痛いな〜今日何度目だろう。そんな場合じゃないや、見つかる!)
身体を傾け男から見えない位置で、ポケットのシグザウエルを右手でしっかり握る。
「怪我してんのか?見せてみなよ」
それがドモンの第一声だった。
ドモンは緩んでいた足のテーピングを巻き治し、穏やかな口調で話した。
タイムレンジャーと言う肩書きも手伝って、小梅はドモンを信用してしまった。
いつしか乗せられるように変身アイテムの話になり、小梅はSPライセンスを取り出しドモンに見せた。
「へぇ、これが?」
ドモンは小梅の手からSPライセンスを抜いた。
「ちょっとドモンさん」
少しあわてて取り返そうとするとドモンはSPライセンスをウメコの手の届かない位置まで掲げた。
「ウメコさん、変身に制限があるのをもちろん知らないよな」
「制限?」
「あぁ、二時間に一度しか戦えない。さっきの話じゃまだ戦ってないみたいだし。だから、これ持ってられると困るんだ」
意図を飲み込んだ小梅は、顔から血の気が引くような気がした。
ドモンはそのまま振りかぶってSPライセンスを思いきり遠くへ投げた。
その隙に小梅は教会へ向かって走った。
一歩事に全身を激痛が走る。
後をドモンが早足で追ってくる。
ドモンは殺し合いに乗っていたのだ。
カッと全身が熱くなる。
SPライセンスは後で回収するしかない。
まずはドモンの拘束、もしくは自分の安全の確保。
胸の奥で警告音が鳴っている。
シグザウエルだけでは変身したドモンに太刀打ち出来ない。
すぐに変身しないのは制限のせいか?
小梅ぐらいなら素手で充分だと思われているのかもしれない。
接近戦なら障害物のある建物の中なら仕掛けにくい。
小梅の銃の腕を差し引いても有利だと思えた。
教会まであと少しの砂浜。
小梅は不自然に放置された黒い物を目にした。
「深雪さん、だよ」
「……この人、あなたが殺したの?」
シグザウエルの撃鉄を起こす。
ドモンとの距離は20メートルほど。
射撃に自信はないが、当たらない距離ではない。
191
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:23:53
生身の人間を撃たなければならないかもしれない。緊張が全身を支配した。
「俺を救うために……死んだんだ。一番愛していた男の首輪を爆発させて……」
ドモンの肩が震えていた。
「俺は決めたんだ。深雪さんに家族との幸せな生活をプレゼントするって。そのためなら 」
ドモンは悲しい決意を湛えた目で、小梅に向かって一歩踏み出した。
小梅は思う。
その時ドモンさんの心は壊れてしまったんだ。だから殺し合いに乗ったんだ。と……。
私は殺されるわけにも逃げるわけにもいかない。今、ドモンを止めなければ、ドモンはまた誰かを狙う。
それがもし自分を捜している仲間だったら?
それがさっき助けてくれた映士だったら?
それがセンだったなら?
(ううん、誰だろうと関係ない。危険とわかっていても、人々を守るためなら飛び込んでいく。それが私たちデカレンジャーの使命)
仲間のため、そしてドモンのために……
ように、私が止めて見せる。
「だめよ、動かないで、話を聞いて!」
小梅は叫んだ。
「命がけでを救った人の心を踏みにじらないで!」
「……深雪さんの心を踏みにじるだって・」
「そうよ!あなたには生きてほしい!殺し合いなんてしないで、タイムレンジャーで、そのままでいて欲しいのが望みだったのよ!」
とても悲しそうに笑い、ドモンが答えた。
「そうかもしれないな。もし、そうだとしても俺は殺し合いを降りない。深雪さんの家族の幸せは俺が望む願いだ」
「だめ!罪を侵してしまう前にやめて。愛する人が望むのがそれだったら?」
ドモンは首を振った。
「深雪さんは死んだ!それは、もう、どうにもならないんだ。俺が勝ち残らなきゃ……。もう、どうにもならないんだよ!」
ドモンの足が止まった。顔つきが険しくなり右手が上着の胸元に触れた。
武器を取り出そうとしてる。小梅にはそう見えた。
パン!
ドモンが膝を突いた。右脚を押さえた指の隙間から血が滲み出る。
「一瞬でもウメコさんの話を聞こうとした俺が馬鹿だったのか?」
「?」
小梅は威嚇のつもりだった。撃った瞬間ドモンが倒れ込んできた。だから当たったのだ。
「傷が痛んだ隙をついて撃ってくるなんて……」
聞くのが怖かった。嘘をついてるのはドモンだと思いたかった。
でも、ドモンは何も手にしていない。
右脚から流れる血がドモンの両手を赤く染めていく。
「そうか、殺し合いに乗ったのはウメコさんもなのか。なら遠慮はいらねぇよな!」
全身が竦み上がった。
「そんなつもりじゃ……」
「お前のようなヤツに深雪さんの幸せな未来を潰されてたまるか!」
192
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:24:47
ドモンは身を翻した。
小梅の目に、ドモンが獣を狩る肉食獣のように見えた。
ドモンの腕が小梅の首に伸びる。
振り切っても振り切っても真っ赤な両手が追いかけてくる。
嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!
怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!
ごく近い距離でシグザウエルを構えた。銃口は心臓を狙っていた。狙って小梅は引き金を引いた。
パンッ!
銃弾はドモンの胸に黒い穴を開け、刹那、花火のように赤い血を撒き散らした。
▽ ▽ ▽
小梅は教会の裏手の集会室へ回った。
まだ震える手に、張り付いたように握られたシグザウエルから指を剥がした。
小さな備え付けのキッチンで水道を捻り、丁寧に手を洗った。
血の付いた頬も流した。
水は冷たく手が痺れるようだった。
だが砕けそうな心をもう少しだけ止めておくには、その冷たさが必要だった。
現職のスペシャル・ポリスが事態を鎮圧することも出来ず、冷静な判断を失い、剰え、まだ罪を犯していない人物を射殺。
それが白日の下にさらされれば、小梅だけでなく共に招致された仲間にまで追及が及ぶだろう。
SPDの築きあげてきた信頼は失墜。仲間達の誇りも未来も汚してしまう。
センはどうなるだろう?
(ずっと私を見守ってきてくれたセンさん。誰よりも優しくて、誰よりも温かい……私が犯してしまった罪がセンさんの未来を閉ざす。そんなの、ダメだ)
ならば、ドモンを殺してしまった事を隠して生きていくか。
非常事態だったと、緊急避難だったと言い聞かせて生きていけるか……
無理だ。
血を迸らせながら最後まで愛する人を思い倒れたドモン。
撃った銃の反動、滑った血の感触、硝煙の臭い、忘れられることはない。
目を閉じるたび甦り、眠れる日は訪れないように思えた。
引き金を引いた時から、恐怖に負けた時から、決まっていたんだ。
もう私には、愛も、勇気も、正義もない。
不思議だったのは、あんなに痛かった足が階段を登り切るまでちっとも痛みを感じなかった。
小梅は教会の脇に高くそびえる鐘楼の頂きに立った。
▽ ▽ ▽
「足を伸ばしてみたが、この辺りにもいねぇな」
落胆の溜息をつくのも惜しいように、映士は海岸を走る。
少し前に聞いた殺し合いを仕掛ける声。
(そんなヤツにウメコが殺されちまってたら……。そんなこと考えててもしかたがねぇ。約束まで時間はあるもう少し捜してみるか)
海岸の先に十字架が見えた。
映士は目標地点に海岸沿いに建つ教会を選んだ。
193
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:25:52
▽ ▽ ▽
「ウメコ!お前何やってんだ?!」
映士の声が響く。
怒っているようで、それでいてとても優しい声だった。
瞳いっぱいに溜まった涙がすぐに映士の姿を隠してくれたので決意は揺らがなかった。
ウメコは朝の空気を吸い込み瞳を閉じる。瞼の裏はオレンジ色に染まった。
「一つ、非道な悪事を恨み。二つ、不思議な事件を追って。
……三つ、未来の科学で捜査。四つ、よからぬ宇宙の悪を。五つ、一気にスピード退治。六つ、無敵が何かいい……
さよなら、デカレンジャー」
小梅は眩しい光の中へ飛び込んだ。
恐怖はなかった。
見えるのは朝日に照らされた木々の緑。
(明るい。明るいよ、センさん。光に包まれて逝けるならいい。なんて都合良すぎるかな)
最後に見えたのが綺麗なグリーンで良かったと思う。
センの色、鮮やかなグリーン。
「え!違っ……」
映士から死角の木の陰、シグザウエルを構えたドモンの姿が見えた。
▽ ▽ ▽
(深雪さん、またあなたに救われた……)
ドモンは木の陰で深雪の壊れたマージフォンを握っている。
小梅が放った二発目の銃弾は、確かにドモンの胸部に命中した。
しかし命中したのは心臓ではなく、内ポケットに入れていたマージフォン。
マージフォンが盾となり、真っ直ぐ心臓へ向かっていた弾道をそらした。
銃弾は左胸の筋肉を深く抉り、血を飛び散らせ身体を離れた。
その強い痛みと着弾時の衝撃で、そのままドモンは気を失った。
左胸の痛みで目を覚ましドモンは、落ちていたシグザウエルを拾い後を追った。
そして小梅を捜しあてた時……
小梅は空中に身体を投げた。
ドモンは小梅から目を逸らし銃を構えなおした。標的変更、撃つのなら追ってきた男だ。
銃口を向けたが焦点が定まらず視界が揺れる。
(クソ!深雪さん、もう少し待っててください)
ドモンは太陽に背を向け歩き出した。長い影を追うようにして。
▼ ▼
「どうして?!?!?!じゃあ私何のために!!!」
螺旋を描きながらウメコは落ちていく。
朝露に濡れた地面はもう目の前だった。
ズシャン!!心が砕け散る衝撃と、体が叩きつけられる衝撃が同時にウメコを襲った。
「あ。…嫌……ァが黒……」
▼
ウメコが最後に見たのは綺麗なグリーン?
いいえ、赤黒い色です。
ウメコが最後に聞いたのは映士の声?
さぁ、誰が言った言葉だったのか……
「これにて一件、コンプリート」
【胡堂小梅 死亡】
194
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:29:17
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:J-7海岸 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:アクセルチェンジャー、ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー
[道具]:キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。
第一行動方針:潮が満ちるまでに洞窟内にいるはずのアンキロベイルスを捜す。
第二行動方針:仲代、映士と合流。
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:J-6海岸 1日目 早朝
[状態]:健康。菜摘に振り回され、若干調子が出ない?
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:志乃原菜摘、アンキロベイルスを探す。
第二行動方針:映士と合流、
第三行動方針:人形(ビビデビ)に疑心。
【名前】アンキロベイルス@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:第43話『アバレキラーは不滅!?』後
[現在地]:J-7海岸 1日目 早朝
[状態]:健康。
[思考]
第一行動方針:早く助けてもらう
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ウメコに何が?
第二行動方針:ビビデビを探る。
第三行動方針:ガイと決着を着ける。
備考:ウメコの支給品はビビデビでした。
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:J-4海岸 1日目 早朝
[状態]:左胸部に銃創。右足に銃創。全身打撲。魔法薬(気づかず治る傷治し薬)の影響で回復中。30分変身不能。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:基本支給品一式、拳銃(シグザウエル)、深雪のディパック(中身は?)
[思考]
基本行動方針:優勝して、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:サーガインを捜す。
備考:ドモンのデイパックは燃え尽きました。グラップラー時代のプロテクターはロンに回収されました。変身に制限があることに気が付きました。
拳銃(シグザウエル)はウメコの支給品です。
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:聖獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:映士のディパックの中
[状態]:健康。2時間の間、能力発揮不可。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまで人形のフリ。
ウメコのSPライセンスはJ-4海岸のどこかで放置されています。
195
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/09(土) 05:29:55
以上です。よろしくお願い致します。
196
:
さよなら、デカレンジャー(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2008/08/16(土) 16:29:00
本スレにて指摘をうけた件の修正です。
よろしくお願いします。
本スレ
>>408
の
心持ち晴れやかになったところで、耳に飛び込んできたのが……
『メガブル〜…… 』
狂喜として叫ぶ男の声。
(子どもを人質に取るなんてサイテー!)
『ヒャハハハハッハッ!』
リフレーンする笑い声が爽やかな空気を掻き乱す。
それに気を取られて、後ろから近づく足音に気付くのが遅れた。
を、
心持ち晴れやかになったところで、小梅が望むのは……
(お風呂に入りたいな〜)
潮風でパサついた髪も、淀んだ気持ちも綺麗さっぱり洗い流したい。
とはいえ、今はゆっくり入浴している時ではない。
ポニーテールの毛先を見つめ溜息をつく。
3匹のアヒルと戯れながらの入浴。
(チュッチュッチュ〜アワアワ〜)
それに気を取られて、後ろから近づく足音に気付くのが遅れた。
そして本スレ
>>414-415
の
「足を伸ばしてみたが、この辺りにもいねぇな」
落胆の溜息をつくのも惜しいように、映士は海岸を走る。
脳裏を過ぎるのは、少し前に聞いた殺し合いを仕掛ける声。
(そんなヤツにウメコが殺されちまってたら……。そんなこと考えててもしかたがねぇ。約束まで時間はある。もう少し捜してみるか)
を、
「足を伸ばしてみたが、この辺りにもいねぇな」
落胆の溜息をつくのも惜しいように、映士は海岸を走る。
映士の脳裏を次々過ぎるは、足を挫いた小梅の姿、その笑顔、寝顔。
(無理するんじゃねぇぜ、ウメコ。まぁ、案外どっかで眠り込んじまってたりしてるかもな……。
約束までまだ時間はある。もう少し捜してみるか)
に修正してください。
197
:
蠢くモノ
◆i1BeVxv./w
:2008/08/19(火) 00:22:18
さるさん規制にかかりましたので、こちらに投下いたします。
198
:
蠢くモノ
◆i1BeVxv./w
:2008/08/19(火) 00:22:53
【名前】巽マトイ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:未来戦隊タイムレンジャーvsゴーゴーファイブ後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーブレス、レスキューロープ
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:みんなを救う、気合いで乗り切る
第一行動方針:メガブルーの代わりに人質を助ける。
第二行動方針:仲間を見付けてロンを倒す
備考:変身制限があることに気が付きました。
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:マトイと行動する。
第二行動方針:ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。
199
:
蠢くモノ
◆i1BeVxv./w
:2008/08/19(火) 00:23:28
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:G-8砂漠 1日目 早朝
[状態]:全身打撲、応急処置済。どうしようもない恐怖。
[装備]:デジタイザー
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って、夢を叶える
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
変身制限があることを知りました。
備考:冥王ジルフィーザ、巽マトイ、並樹瞬のいずれかの支給品にバイオ次元虫入りカプセルが含まれています。
200
:
蠢くモノ
◆i1BeVxv./w
:2008/08/19(火) 00:24:25
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などがあれば、ご指摘宜しくお願いします。
201
:
贖罪
◆i1BeVxv./w
:2008/08/20(水) 22:58:30
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などがあれば、ご指摘宜しくお願いします。
最後の最後で投下できなかったorz
202
:
放送案
◆Z5wk4/jklI
:2008/08/30(土) 15:33:00
定刻六時00分00秒、頭と胴を分かたれたバンキュリアの首輪から、俄かに金色のもやが放たれた。
吐き出されたもやは一つ所に集まると、ある男の姿を映し出した。
このバトルロワイアルの主催者にして、悪趣味な児戯の仕掛け人たるロン。
彼は、捉えどころなくゆらゆらと揺れる写し身の向こう側で軽く咳払いをした。
『皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか?
さて、定時の放送です。
皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね。
まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。
伊能真墨、ウルザード、小津勇、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア、野之七海、以上の十名になります。
皆さん、大変お楽しみのようで私としても嬉しい限りです。
ああ、お嘆きの方もいらっしゃるでしょうが、ご心配なく。貴方が最後のお一人になればちゃーんと生き返らせて差し上げますよ。
では、次は禁止エリアです。
七時、○○、九時、○○、十一時に○○が禁止エリアになります。
迂闊に近づかれると首輪と一緒に首が飛ぶ事になりますので重々お気をつけ下さい。
残る人数は三十四人、皆さんご健闘をお祈りいたします。
それでは、また六時間後にお会いいたしましょう』
その言葉を合図にしたように、もやはまるで何もなかったように掻き消える。
後には、言葉を発する事も動く事も出来ないバンキュリアの姿と、
参加者達がそれぞれに抱く様々な思いだけが残された。
203
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/08/30(土) 15:36:36
かなり短い物になってしまいましたが、自分の放送案を仮投下させていただきました。
誤字脱字、おかしな点があれば、ご指摘お願いします。
204
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/08/30(土) 16:06:36
>>202
乙です。
しかしひとつ指摘があります。
ロンはオープニングで禁止エリアの説明をしていないのでは?
205
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/08/30(土) 16:37:49
>>204
ご指摘ありがとうございます。
色々な意味で私の不手際ですねorz
明日までに修正して再投下いたします。
ありがとうございました。
206
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/08/31(日) 15:54:53
定刻六時00分00秒、頭と胴を分かたれたバンキュリアの首輪から、俄かに金色のもやが放たれた。
吐き出されたもやは一つ所に集まると、ある男の姿を映し出した。
このバトルロワイアルの主催者にして、悪趣味な児戯の仕掛け人たるロン。
彼は、捉えどころなくゆらゆらと揺れる写し身の向こう側で軽く咳払いをした。
『皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか?
さて、定時の放送です。
皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね。
まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。
伊能真墨、ウルザード、小津勇、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、野之七海、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア、以上の十名になります。
皆さん、大変お楽しみのようで私としても嬉しい限りです。
お嘆きの方もいらっしゃるでしょうが、ご心配なく。貴方が最後のお一人になればちゃーんと生き返らせて差し上げますよ。
ああ、それからこれより二時間ごとに禁止エリアを設けさせていただきます。
会場の中をただ逃げ回る、というのも一興かもしれませんが少々面白みにかけますし、少しばかり趣向を凝らせていただきました。
まず、七時、○○、九時、○○、十一時に○○が禁止エリアになります。
足を踏み入れれば、二十秒で首輪が爆発するように仕掛けを施しておりますので、うっかり首輪と一緒に首を飛ばさないよう重々お気をつけ下さい。
残る人数は三十四人、皆さんご健闘をお祈りいたします。
それでは、また六時間後にお会いいたしましょう』
その言葉を合図にしたように、もやはまるで何もなかったように掻き消える。
後には、言葉を発する事も動く事も出来ないバンキュリアの姿と、
参加者達の抱くそれぞれの思いだけが残された。
207
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/08/31(日) 15:56:30
遅くなりましたが、修正版投下致しました。
おかしな点があったらご指摘下さい。
208
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/08/31(日) 18:00:30
他のロワだと見せしめの名前は発表していないことが多いので小津勇は抜かしてもよいと思います。
あと、支給品の野之七海も抜かしていいと思います。ウルザードは微妙……。
209
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/08/31(日) 19:37:44
ご指摘ありがとうございます。
確かに上の2人は入れる必要がなかったですね。
ウルザードに関しては、生き残りのマジレンメンバーに影響を及ぼせないものかと思ったのですが、
必要ないというご意見が多ければ、消そうと思います。
他にもおかしな点がありましたら、ご指摘お願いします。
210
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/01(月) 16:21:00
七時、D-4エリア。九時、E−5エリア。十一時にG−7エリア。
を推します。
理由として、密集させた方がキャラの遭遇率が高くなる。
うっかり足を踏み入れてしまいそうなので。
七海とウルザードについてはなくても良いですが、ネタとして使えるような気もします。
自分としてはどちらでも都合が良いので、総意に従います。
211
:
◆i1BeVxv./w
:2008/09/01(月) 22:41:41
議論に参加せず申し訳ない。
放送案は見事だと思います。20秒と時間指定されたのが非常にありがたいです。
ウルザードに関してですが、説明を加えるというのはいかがでしょうか?
願いを叶える力がある証明と殺し合いを円滑を進めるために小津勇を生き返らせたけど、あっさりやられたましたとか。
意味としては、参加者に対しての(特にドモンとヒカルへの)牽制です。
七海はシュリケンジャーには伝わったので、いらないかなと思います。
禁止エリアは同意いたします。
F4、G5、F6でもっと露骨に考えてたりしましたが。。。
212
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/09/01(月) 23:15:41
お二方ともご提案ありがとうございます。
頂いたご意見を参考に明日までに、新しい修正版を仮投下させて頂こうと思います。
213
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/01(月) 23:17:07
やっぱそれくらい露骨にいっちゃた方がいいと思うのでw
F4、G5、F6に賛成します。
214
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/01(月) 23:19:08
すみません。リロードしてなかった。
放送案投下楽しみにしてます!
215
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/09/01(月) 23:36:04
っと、途中送信してしまいました。
放送案から七海は削除、ウルザードには説明を加える形で書き直させて頂こうと思います。
禁止エリアは◆MGy4jd.pxY氏の案をお借りします。
お二人のどちらの案も魅力的で、とても悩んでしまうところですがw
216
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/09/01(月) 23:39:04
自分もリロードしてませんでしたw
では、禁止エリアは◆i1BeVxv./w氏の案を使わせて頂くという事で。
ころころ変えてしまってすみません。
217
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/09/02(火) 19:26:40
定刻六時00分00秒、頭と胴を分かたれたバンキュリアの首輪から、にわかに金色のもやが放たれた。
吐き出されたもやは一つ所に集まると、ある男の姿を映し出した。
このバトルロワイアルの主催者にして、悪趣味な児戯の仕掛け人たる無間龍、ロン。
彼は、捉えどころなくゆらゆらと揺れる写し身の向こう側で軽く咳払いをした。
『皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか?
さて、定時の放送です。
皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね。
まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。
伊能真墨、ウルザード、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア、以上の八名になります。
皆さん、大変お楽しみのようで私としても嬉しい限りです。
お嘆きの方もいらっしゃるでしょうが、ご心配なく。
貴方が最後のお一人になればちゃーんと生き返らせて差し上げますよ。
そう、あの小津勇のようにね。
お察しの方もいらっしゃるでしょうが、ええ、その通りです。
ウルザード、いえ、小津勇は私が生き返らせました。
皆さんの殺し合いをより円滑に進める為の役割を期待していたのですが、早々にやられてしまったようで少しばかり残念です。
まあ、もっともこれで私の力もお分かり頂けた事でしょうが。
ああ、それからこれより二時間ごとに禁止エリアを設けさせていただきます。
会場の中をただ逃げ回る、というのも一興かもしれませんが少々面白みにかけますし、少しばかり趣向を凝らせていただきました。
まず、七時に都市Fー4、九時に都市Gー5、十一時に都市Fー6が禁止エリアになります。
足を踏み入れれば、二十秒で首輪が爆発するように仕掛けを施させていただいていますので、うっかり首輪と一緒に首を飛ばさないよう重々お気をつけ下さい。
残る人数は三十四人、皆さんのご健闘をお祈りいたします。
それでは、また六時間後にお会いいたしましょう』
その言葉を合図にしたように、もやはまるで何もなかったように掻き消える。
後には、言葉を発する事も動く事も出来ないバンキュリアの姿と、
参加者達の抱くそれぞれの思いだけが残された。
218
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/09/02(火) 19:33:02
新しい修正版投下しました。
遅くなってしまって申し訳ありません。
219
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/02(火) 23:32:40
修正お疲れ様でした。
本投下よろしくお願いいたします。
220
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/09/03(水) 00:09:53
ありがとうございます。
では、本投下いってきます。
221
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/07(日) 18:27:29
人差し指に灯した炎に口に咥えた煙草を近づける。
そのままゆっくりと息を吸い、紫煙を燻らせていく。
表情のないはずの顔に思考を満たした満足げな表情が僅かなりとも見えるのは気のせいだろうか。
辺りに広がる煙草独特の匂いに西堀さくらは露骨に顔をしかめて見せた。
「ここがどこだか分かっているんですか! 敵に気づかれたらどうするんです!?」
さくらの非難を聞いているのか、聞いていないのか、グレイはもう一度大きく息を吸い込んだ。
「隠れる必要などない。戦って奪い返せばいい…それだけのことだろう?」
事も無げにややくぐもった低い声を上げる。
二本の指の間に煙草を挟んだまま視線をさくらと合わせようともしない。
眉間にきつく皺を寄せ、さくらは目の前の黒い装甲の男を睨み付けた。
両者の間に流れる険悪なムードからは、二人が殺し合いを始めないのが不自然にすら思えてくる。
全ては1時間ほど前にはじまった。
「絶対に俺は助けに行くぞ! 絶対だ!!」
グレイの索敵により、何者かが『メガブルー』を呼び出し、殺し合いをはじめようとしていることはほぼ間違いがない事実であった。
あろうことか、そのための人質を用意して。
陣内恭介はすぐにでも助けに行くべきだと主張した。
人質はどちらも面識のない人物であったが、囚われの身で死と隣り合わせの恐怖を味わうものを見捨てておけるはずはなかった。
特に恭介はメガブルー…並木瞬を知っている。友の危機を見過ごすわけにはいかなかった。
「駄目だ。戦いには私が行く。お前たちはここに残れ」
先ほどまで黙していたグレイが急に口を開いた。
「おい! 貴様!! 戦いに行くんじゃない! 人質となったものたちを救出に行くんだ!!
履き違えるな!!!」
傷の痛みを押してドギーがグレイを牽制する。
両者の視線が交わる。
「……どちらにしても貴様がいては足手まといだ。ここに残ってもらおう。異論は聞くつもりはない」
「なんだと!!」
「止めてください、二人とも!! 今ここで争っても仕方がないでしょう!?」
一触即発の雰囲気に耐え切れずシオンが場を収めようと必死で二人を説き伏せにかかる。
だが。両者の間の溝は埋まりそうもなかった。
それに、傍らの恭介はいまにも飛び出していきそうな雰囲気だ。
222
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/07(日) 18:28:49
「確かに…怪我人を連れて行くリスクは大きいといわざる終えないでしょうね」
喧騒の場にさくらの静かな、しかし鋭い声が響く。
全員の注目がさくらへと注がれる。
「敵の罠に全員で挑むというのはあまり利口な選択とはいえません」
努めて事務的に冷静な口調でさくらは続けた。
「ま・待ってくれ! 西堀君、君はこいつ一人を行かせるのに賛成するというのか!?」
痛みを押してドギーが反意を示す。
「それも反対です。人質がいる状況で単独で挑むのもまた愚かな選択といわざる終えません。
よほどの策でもない限りは…です。あなたはそうした権謀術数に長けたタイプとは思えませんし」
冷ややかな視線を向けられたグレイはふいっと顔をさくらから背けた。
「じゃあどうすればいいんだ!!」
苛立ちの声を上げる恭介にさくらは涼やかに言い放った。
「簡単です。人質の救出には私が同行します」
「な・なに!? き・君が…?!」
「さくらさん!!」
ドギーとシオンが驚きの声を上げる。恭介も目を丸くしてさくらを見た。
なんでもない風を装いながら、グレイもまた僅かに顔を揺らした。
「ドギー署長は深手を負っています。いくら“地獄の番犬”とはいえ、人質を庇っての戦闘行為を行えるとは思えません。
加えて高名な彼の命を狙う不届きな輩の出現も大いに考えられます。
残るにしても護衛は必要です」
「それだったらシオンがいる! 俺まで残る意味はない!!」
恭介が自分をはずしたことを強くなじりながらさくらへ詰め寄る。
「もう、いい…」
場を制したのは意外にもグレイだった。
「そこの女はドギー・クルーガー…貴様同様、私を信用していない。
私が人質を放って戦闘を始めることを警戒している…喰えん女だ」
感情を読ませず押し黙るさくらを一瞥して言う。
「そんな…みんなこうして出会えたのに…」
「…私には守ることよりも壊すことの方が性に合ってる…そういうことだ、シオン」
「恭介さん、分かってください。戦力をこれ以上分散させるのは危険です。お願いです、ドギー署長とシオンさんを守ってあげてください…それができるのは恭介さん、あなただけです」
223
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/07(日) 18:29:39
「守る…か…しかし、合って間もない連中をよくそこまで信頼できたものだな。
一人になったあの男にシオンとやつが二人掛かりで襲い掛かるとは思わなかったのか?」
グレイの問いかけにさくらは立ち止まらずに答えた。
「それはありえません。ドギー署長は怪我を負っています。なのにシオンさんは彼を見捨てることはせず、労わり共に行動しています。
こんな状況下でいくら実力者とはいえ怪我人を抱え込む決断はそうそうできるものではありません。そんな彼が今更恭介さんを襲う理由なんてあるはずがない…私はそう判断しました」
さくらもまたグレイの問いかけに目線をあわせようともしない。
「…むしろ、分からないのはあなたです。グレイ」
さくらは立ち止まりグレイと始めて正面から向き合った。
「…………――」
「私たちの星は様々な勢力の侵攻を受けてきました…宇宙、地底……そして異次元。
中でも激しかった戦いとして記録に残るのが私たちの住む三次元と隣り合わせに存在する裏次元からの侵略者…『次元戦団バイラム』」
「………………――――」
「バイラムの詳細なデータはその根拠が我々人類をしていまだ立ち入れぬ領域の異次元にあること…それに組織壊滅後の今となっては殆どが謎のままです…直接相対した鳥人戦隊でさえ、その全貌を知るには至らなかった……
ですが、その戦いを生き抜いた者の僅かな証言から、人間を虫けらのように冷徹に処理する漆黒の殺戮マシーンが存在していたとの記録が後世の私たちに伝えられています…その者の名は…“グレイ”」
「…知っていたのか……」
正体を看破されても動じる素振り一つ見せない。刺す様なさくらの眼差しを一身に受けてもグレイは身じろぎもしなかった。
「何が目的なんです?! なぜ、あの二人と行動をともにしていたんです!!」
目的。
天を仰ぎながらグレイはその言葉の響きをひどく空虚に感じていた。
224
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/07(日) 18:30:17
『次はあなたです…グレイ』
始まりの空間。全てが黒に包まれたその場所で。
『あなたがその気になれば…バイラムの再興もまたかなうでしょう…場合によってはその領袖となることも……―』
「…政治に興味はない。生身の連中の気苦労を散々見てきたものでな…」
『失礼。あなたはそんなことに関心を抱くような方ではありませんでしたね……それでは…
マリアを甦らせると言うのはいかがでしょう? あなたの腕の中で崩れた女の身体と心を今一度
現世に甦らせるのです……今度はあなたの永久の伴侶として』
―マリア。彼女の温もりが腕の中から消えていくその刹那までをグレイは克明に記憶している。
機械のグレイに忘却はありえない。恐らく何百年、何千年たってもあの瞬間を昨日のように鮮明に思い出すのだろう。それは、確かに痛みといえるのかもしれなかった。
「いかがです?」
男の誘いは甘美に満ちていた。男はグレイに期待していた。
無論、ゲームを率先して盛り上げるマーダーとして。
ガイ、ネジブルーに並ぶ純粋に戦いを愉しむ者として。
そのために彼がもっとも強い目的意識を持ってゲームに臨めるタイミングを選んだのだ。
だが。
「そうした誘いならばレッドホークを呼ぶべきだったな…ロンとやら。餌で釣るならばブラックコンドルでも用意してもらったほうが有難かったぞ」
グレイの返答はロンにとってひどく意外なものだった。
これまで、ロンの誘いに迷いを見せなかったのは明石暁をはじめほんの数人だけだったからだ。
「…フフ…だが安心しろ。私は戦いに乗ってやる……精々、貴様の始めたこの馬鹿げたゲームの駒として立ち回ってやろう…私は戦えさえすれば…後は……どうでもいい」
呆気にとられるロンを横目にグレイは人間で言う“笑み”に近い感情を見せた。
グレイにとってロンが何を画策しようがどうでもいいことだった。
参加者の多くが脅威を感じている金色の首輪も生命に関する執着が限りなく薄らいだ、今のグレイにはどうというものでもない。
「目的は何だと聞いているんです!! バイラムの再興ですか!?」
さくらの穿つ問いかけにグレイは淡々と答えた。
「組織はもう、関係ない。ラディゲはまだやるつもりらしいが、バイラムはもう終わりだ。
それは後の時代の貴様らの存在が証明している」
「時間軸のずれに気づいていたんですか!」
グレイの意外な返答にさくらは思わず聞き返していた。
「当然だ。あれだけ話の噛み合わない連中と喋っていれば馬鹿でも気づく。
加えて戦闘力の発揮にも制限が加えられているな。最初は身体の故障かと思ったが、
十分ほどの戦闘後、全身のあらゆる武装にきっかり二時間なんの反応もなかった。
シオンは私をそのままに修復したといった。
やつの腕は確かだ。原因は恐らくはこの首輪の効果だと考えて間違いあるまい」
「二時間…それが時間制限の正確な時間だと?」
「お前たち生身より時間には正確なはずだ」
確かにロボットであるグレイの時間を計る正確さは参加者の間でも随一だろう。
「それをなぜ私に?」
「…理由はない」
「納得できません」
再び両者の間に緊張が走る。
「お前の目的は私と争うことか? 人質の救出とやらが最大の目的だろう。私をやつらから遠ざける意図も合ったように感じられるな」
「それともう一つ…あなたを霧払いに人質を救出する腹です。異論はありませんよね?」
「無論」
その時だった。
天空に高揚した男の声が轟いたのは。
225
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/07(日) 18:31:42
『皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか?
さて、定時の放送です。
皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね―…』
「これは…!」
「あぁ…奴の声だ」
間違いなかった。このゲームの主催者ロンの丁寧だが陰湿な響きを持つ声が四方全てから聞こえてくる。
『皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね。
まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。
伊能真墨、ウルザード、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア、以上の八名になります。
皆さん、大変お楽しみのようで私としても嬉しい限りです。
お嘆きの方もいらっしゃるでしょうが、ご心配なく。
貴方が最後のお一人になればちゃーんと生き返らせて差し上げますよ…』
どこから聞こえてくるのか、全く方向がつかめない。参加者全員の頭に直接メッセージを流し込んでいるらしい。
その時だった。
「うっ!」
さくらの視界に一瞬歪が生まれ、こことは別の光景が現れる。
「これは…“ブラック”!?」
「!?」
ブラック。その言葉にグレイも一瞬反応する。
視界一杯に繰り広げられるボウケンブラック…伊能真墨の戦う姿。
やがて彼は変身を解かれ、地面へ這い蹲る。
必死でアクセルラーを起動させようともがく彼の頭上に迫る大きな足。
「そんな…!! 真墨…!!」
真墨の頭が強い圧迫を受けて徐々にひしゃげていく。そして、鮮血と共に爆ぜた。
「そんな…そんな……! 真墨が…真墨が……!!」
先ほどまでの冷静な態度をかなぐり捨てて叫ぶ。慟哭に支配され、我を失った。
「どうした?」
さくらのただならぬ様子にグレイが声をかけるが、茫然自失のさくらはそれに反応しない。
愕然とした。膝の力が抜ける。
そのまま地面に座り込んだ。あれほど警戒していたグレイに背を向けても全く意に介さない。
「そんな…本当に…死んでしまうなんて…」
「今の放送…仲間が混ざっていたのか?」
グレイはボウケンブラックを知らない。
だが、“黒を纏う戦士”の死に様は聞いていてあまり気持ちのいいものではなかった。
226
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/07(日) 18:32:26
『……残る人数は三十四人、皆さんのご健闘をお祈りいたします。
それでは、また六時間後にお会いいたしましょう――…』
先ほどまでとは打って変わってさくらには強い動揺が生まれている。
とても戦いに臨める状態ではないのは明白だ。
「…行きましょう……」
さくらが小さく言葉を発する。
「何だと…?」
「行きましょう…私たちには人質となった方の救出という“目的”があります。こんなところで立ち止まっている暇はありません」
振り向いた顔は既に先ほどの毅然としたさくらだった。
仲間の死をまざまざと見せ付けられたショックなどおくびにもださない。
「…いいのか」
何に、対してなのか口にしたグレイにも分からない。
だが、さくらは自らに課せられたミッションに対しどこまでも忠実だった。
本物の機械であるグレイが驚くほどの冷静さで。
だが、その手は僅かに震えている。グレイはさくらのかすかな、ほんのかすかに残った恐怖を見てみぬ振りをした。
放送を終え、ロンは参加者全体に広がる、怒り、悲しみ、困惑に身を浸していた。
いつまでもそうしていたかった。
なんという心地よさだろう。これだから、他者を弄ぶのは止められない。
箱庭の憐れな囚われ人たちが迎えた最初の朝日。
しばしば生命誕生の象徴に例えられるその輝きを彼らはどのような思いでみつめているのか。
誰があの日輪に希望を見出せるだろう。
過ぎ去った命が夜と共に永遠に彼岸の向こうへ誘われるのを、とめることも出来ずにいるというのに―
「さぁて…蒔いた種が次の6時間でどのように成長するか…楽しみですねぇ……」
不敵な笑みを浮かべながら、金色のローブで自らの愉悦の表情を覆っていく。
これから、更に凄惨な死が満ちる予感に心を躍らせながら。
「最も惨めで残酷な死をあなたに…その約束きちんと果たさせて頂きましょう……―」
龍の悪意は、底を知れない―
227
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/07(日) 18:36:26
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G5エリア 1日目 早朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり)
[装備]:アクセルラー
[道具]:ガラスの靴、虫除けスプレー、虹の反物の切れ端
[思考] 基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:恭介たちと共闘して仲間を増やす。このゲームのルールを把握する。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G5エリア 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考] 基本行動方針:未定。第一行動方針を果たした後の行動は決めていない
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
現在はさくらと共に人質を救出すべくネジブルーの元へ。
お待たせしました。改めましてはじめまして。トリバレしたとのご意見を伺い、今後はこの名前で書かかて頂きます。
修正版をお送りします。内容も若干放送に合わせて変えました。
実は全員参加の放送SSも書いていたのですが、いかんせん構想が実力を超えていて間に合いませんでしたw
このままだと誰も書かないのかと思っていたので、◆Z5wk4/jklIの投下は安心しました。
最後のロンは未練たらしく没案を一部流用してますw
どなたかにおすがりする事になりますが、本スレへの投下を頂くと幸いです。
本当にお待たせして申し訳ありませんでした。
228
:
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/08(月) 01:57:08
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G5エリア 1日目 早朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり)
[装備]:アクセルラー
[道具]:ガラスの靴、虫除けスプレー、虹の反物の切れ端
[思考] 基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:恭介たちと共闘して仲間を増やす。このゲームのルールを把握する。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G5エリア 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考] 基本行動方針:未定。第一行動方針を果たした後の行動は決めていない
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
現在はさくらと共に人質を救出すべくネジブルーの元へ。
229
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/09/08(月) 02:02:58
>>228
っと、間違えた。寝ぼけていました。
ミッション完了w本スレの代理投下終了です。
230
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:23:56
彼のひねた笑顔と声が脳裏に浮かぶ。
『手を貸すぜ。金庫から頂くんだろ?』
先日の三国覇剣の一件ではこっそり先回りしてハイパープログラム社で蒼太を待っていてくれた。
まだ付き合いは浅かったが、それなりに上手くやっていけそうだった。
その真墨が、殺し合いの犠牲になった。
彼の死を確かめるすべもなく、一方的に薄笑いを浮かべたロンから告げられた。
中途半端な、やり場のない苛立ちと憤り。
あんな思いはもう味わいたくないし、誰にも味わわせたくない。
気持ちを落ち着けるように蒼太は右手の指輪に触れた。
おぼろがスコープを覗きながら蒼太の袖を引いた。
「あの子メガブルーなん違うかな?なんや怪我もしてるし、一人でどうしようか思い詰めてるんちゃう?」
「彼がメガブルーか。う〜ん、そうかもしれないけど」
少し考えてから
「僕には殺し合いに乗るかどうかで迷っているように見える」
と正直に言ってみる。
スコープショットを蒼太に渡しながら、おぼろは困り顔で言った。
「もしそうやったら、何とか思いとどまらせる事はできんやろか。
鷹介たちもそうやけど、あの年代の子らは良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐやから、方向を間違えたらえらいことになる」
確かに、ブレーキのきかない年代。
思いとどまって欲しいと願うのではなくて、思いとどまらせる。
なるほどね。それが良い道標なのだろう。
「彼がメガブルーだとして、二人の話と彼の様子をみると。何か行き違いがあってあの二人が彼を傷つけてしまった。
そして二人はその償いをしようとしている。それを彼は知らないんでしょうね。下手したらあの二人も自分を狙ってると思っているかもしれませんね」
「そんな風に思ってるとしたら、余計良い結果にはならんな」
「まっ、直接本人に聞いてみましょう。おっと、おぼろさんはここを動かないで」
おぼろはここに残ってもらうつもりだ。男同士の方が話しやすいと思ったからだ。
「蒼太くん、あの子が殺し合いに乗ってしまってたらその時はどうするん?」
蒼太は二人の男を見遣る。
自分を助けようとしている二人を知ったら思いとどまるかもしれない。そう思っている。
だが、それが彼に伝わらなければ……。
231
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:26:19
デイバックの上からヒュプノピアスに触れる。
「その時はちょっと荒っぽいやり方も必要かもしれませんね」
「荒っぽいやり方って……ちょっと蒼太くん!」
「危険なことはしませんよ」
そう言っておぼろに片手を振り、蒼太は少年のいるビルへ向かった。
§
ここを動かないでと言われたけど……。
蒼太がビルに入っていった後、おぼろは二人の男の様子を伺っておこうとそっと近付いた。
おぼろとしてはそっと近付いたつもりなのだが、すぐに男達に見つかってしまった。
「誰だ。出てこい!」
「バウ!バウ!」
銀色の犬がおぼろの後ろに回り込んで、足下にまとわりつく。
「うちは、べつに。ちょっとやめて!ほんまに」
「マーフィー。やめろ」
黒装束の男の声に銀色の犬はちょこんと座り込んだ。
「あんたは?」
レスキュー服の男がおぼろに厳しい視線を向ける。
おぼろはおずおずと口を開いた。
「うちは日向おぼろ。自分で言うのもなんやけど怪しい者じゃないで。
もちろん殺し合いなんか乗ってないし。今はここにはおらんけど、最上蒼太くん、ボウケンブルーと一緒にあの声を聞いて、急いで駆けつけたんや」
「そいつはどこへ行ったんだ?」
レスキュー服の男の眼がさらに厳しくなる。
「そこのビルの上に学生服の男の子がたっとって、あんたら話してた瞬て言う子やと思う。その子の所へ」
「何だって?瞬が来てるのか!どこだ」
232
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:27:01
おぼろが指を指すが、隠れてしまったのか距離があるからか人影があるかもはっきりしない。
「瞬、来ないと思ってたぜ」
表情を弛めレスキュー服の男が呟いた。
この人はあの子が殺し合いに乗ったかもしれないなんて考えてもいない。
本当にそうならそれでいい。
この二人には余計なことは言わずに蒼太を待とう。
「最上ってヤツ、信用できるんだよな」
声を穏やかにレスキュー服の男が尋ねてきた。
「うちは蒼太くんに命を助けてもらったから、信用するも何も……。もう少ししたら瞬って子連れてここに戻ってくると思う」
「そうか。それはそうと、いつから聞いてたんだ」
おぼろはほっとした。男は表情も穏やかになっている。
「黙って聞いてたんわ謝るわ。すんません。
でもあんたらも信頼できるかどうか解らんかったし。失礼やけど、特に黒装束の人なんか見るからに、なぁ」
おぼろは本人に同意を求めるように黒装束を見た。
黒装束の男は笑っているようで傷ついているような表情を浮かべた。
とりあえず、会話は掴んだ。本題を切り出そう。
「人質を助けようとしてるんやろ。それうちらにも手伝わせてくれる?」
§
話の腰を折るように、マーフィーは大きく遠吠えした。
「バウ!バウバオォォーーン!」
「マーフィー、どうしたのだ?」
「バウ!」
走り出したマーフィーを追いかけていったティターン。
戻ったティターンは纏に話を始める。
「ジルフィーザの話では白い服を着た少年で、ドロップではないと言っていた」
233
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:29:24
ティターンがジルフィーザと行動を共にし、ジルフィーザが必死の思いでドロップを捜しているのはすでに聞いていた。
白い服の子供。何か引っかかる。纏は記憶をたぐり寄せる。
いや、確かマツリが一度連れていた炎を操る子供。
ドロップからサラマンデス変わる前、そんな姿をしていた。
また戻ったのか?わけがわからねぇ。
ティターンの話ではジルフィーザは俺を覚えちゃいなかった。ありえなくもねぇかもな。
いや、覚えてないんじゃねぇ。
それじゃ、辻褄が合わない。
「ティターン。何かのまじないで俺を忘れたんなら納得できる。だけどよ、ドロップまでわからねぇのは変だろ?」
「確かに」
「俺の考えはこうだ。ジルフィーザも俺もドロップも、違う時間ていうか、時代というかとにかくずれた時間から連れて来られたんだ。
さっき話しただろ。タイムレンジャーのヤツラ、あいつらと一緒に戦ったとき原始時代に飛ばされた。
そんな感じでジルフィーザは地球に来る前、ドロップはサラマンデスになる前、俺は平和が戻った時。なぁ、わかるか」
「信じられぬ話ではない、ならば、その子供がドロップだというのか?!」
「あぁ、ドロップだろう。瞬と声の主も俺たちとおそらく同じだ。だから瞬はコイツを知らないんだ」
纏の言葉に深く頷くティターン。
「ただ、メガブルーを連れてこなければ上には上がれないようだ。呪文か何かでジルフィーザも近寄れなかったらしい」
「瞬を行かせるわけにはいかねぇ」
良策は浮かばない、上にも上れないとなれば、万事休す。
「こっちも人質を立てたらどうやろう。交換させるために下まで降りてこいって」
おぼろが進言する。
「メガブルーご指名のあいつが、人質になんか興味示すと思うか?」
「本人になってもろたら……」
「ダメだ!」
「ほんまに引き渡すわけやない。うちも含めて4人がかりなら、あの声の主さえ引きずり下ろしたら良いだけの話やろ」
その時、聞くはずのない声が割って入った。
234
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:30:01
「名案だと思いますけど」
青いジャケットの男に連れられて瞬がそこに立っていた。
「瞬、手紙読まなかったのか?」
「手紙?」
瞬は怪訝な顔で纏を見つめた。
俺が守ると、安心させてやりたかったんだが……。
読んでもらえなかったのなら、行動で示せばいい。
ティターンも気持ちは同じなのだろう。
視線を合わせた二人は頷き会った。
纏は皆に告げる。
「まずは情報交換させてくれ。その後、俺とティターンで要救助出場する」
§
再びマーフィーと共にジルフィーザを探し当てたティターン。
ドロップは本物であると、纏の考えをジルフィーザは半信半疑ながら信じたようだった。
「頼む!ジルフィーザ!!お前しか上空へたどり着けぬのだ」
「上空までまだおそらく飛べるであろう……忌ま忌ましい制限のお陰でドロップの身はお前に預けるしかないようだ」
ジルフィーザはそのまま空へ舞い上がりタワーの上部へ向かう。
「行ってくれるのか!」
安堵するティターンを振り返らずに、ジルフィーザは言った。
「弟のためだ……。先程別れた場所、そこで待とう」
§
朝日がタワーのガラスブロックを照らす。
キラキラと煌めく光の中を纏とティターンが立っていた。
235
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:30:56
暫時の間を経て、回転扉から声の主が姿を表した。
「お前、何者なんだ?なぜメガブルーを狙う」
纏は声の主に名を問う。
「俺の名かい?ネジブルーだよ。だけどそんなのどうだっていいだろ〜。言うことを聞いてわざわざ降りてきてやったんだ。さぁ」
いっちまってる。直接耳にしたネジブルーの声は、瞬でなくても聞けば鳥肌の立つような期待と興奮の混じった嫌な声色だった。
「さぁ、人質を交換するんだろう〜。俺の人質は、ほらあそこにいるよ」
ネジブルーは得物の先でタワーの三階辺りを差した。
窓ガラスの向こうに黒いスーツの女と子7、8才ぐらいの子どもの姿が見えた。
これでうまい具合に、人質とネジブルーに距離が出来た。
あそこなら自分が戦っている間に隙を見て救出してもらう事は可能だ。
「おい、聞いてるのか?メガブルーはどこだい」
痺れを切らしたネジブルーが催促を始めた。
さてと……。
一呼吸置いて纏はティターンと目配せを交わす。
ティターンは頷くと纏の横に並んだ。
「残念だけどな。メガブルーはここにはいねぇよ」
「何だって〜。じゃあどこにいるんだい。早く教えろよ〜」
ネジブルーは手にしたメガホンと斧をちらつかせるようにゆったりと手を動かした。
纏は脅しに屈しない強い眼差しでネジブルーを見据える。
要救助者は女性1名、子供1名、そして並樹瞬の合計3名。
一刻も早く救助しなければならない。
人の命は、地球の未来だ。
236
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:41:32
「メガブルーに手出しはさせねぇ。あいつは俺たちが守る!」
握り締めた拳をネジブルーへ向ける。
「手出しはさせないだって?」
「あぁ、お前の相手はこの俺だ!」
腕を組んだネジブルーは頷きながら考えるような素振りを見せた。
「へぇ〜、そういうことか。最初から人質を交換する気なんてなかったんだな」
そう呟いた後、ネジブルーは狂ったような笑い声を上げた。
「ヒャハハハヒャハハハハッ!もう少しましなことを思い付かなかったのか? ムカつき過ぎて笑っちゃうよ 。
フヒャハハハハッフヒャハハハハッ、ヒャハハハハッハッ !!」
§
俺がどんな思いでこの瞬間を待ってたと思うんだ?
なぁ、Dr.ヒネラー。
この気持ちは何なんだ?メガブルーだけじゃねぇ。ここにいるやつら、全員殺してやりたいよ。
ネジブルーは心の中でDr.ヒネラーに問いかける。
無論、心の中のDr.ヒネラーは答えない。
ネジブルーはDr.ヒネラーにより生み出された狂気の生命体だった。
メガブルーを敵視し、倒すためにプログラムされた存在。
こうして再び蘇るまで、ネジブルーを殺すという意志は所詮組み込まれたプログラム。
ネジブルーは、ただの操り人形だった。
だがここに来てからは違う。
メガブルーへの復讐。その確固たる意思はネジブルーだけの物だ。
そう、Dr.ヒネラーなどもういない。自分を縛る枷などないのだ。
作戦も、指示も、帰還命令もない。
237
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:43:11
ネジブルーは悟った。好きなようにやって構わないのだ、と。
「よってたかって、俺の楽しみを邪魔しやがって……」
メガブルー以外の存在に対する憎悪が湧き上がる。
その感情はより率直に、果たして彼の意思に破壊的に働きかける。
ネジブルーは己の意志を、すべてに対する憎悪という感情を手に入れた。
§
「邪魔する奴は皆殺しだ!!」
獣じみた咆哮を上げ、ネジブルーが光を放った。
それと同時にティターンの掌から光弾が走り攻撃を相殺する。
「チッ」
憎憎しげに舌打ちを鳴らし、ネジトマホークを構えるネジブルー。
カンマ数秒遅れて変身コードを入力した纏。
威勢と気迫を拳に載せ、クロスした腕を真っ直ぐ突き出し引く、さらに突き出し引き寄せた拳を胸の前で固く合わせ、叫んだ。
「着装!」
その身に纏うは火消しの心意気。
ゴーレッドが着装完了と共に己の信じる正義に敬礼する。
「よし!一気にカタをつけるぜ。ファイブレーザー!スティックモード!!」
大きく踏み込んで間合いを詰めるゴーレッドへ、ネジブルーが突進。
「お前も仮面を割ってやろうか〜!?」
ゴーレッドはネジブルーの力強い斧の衝撃を剣で受けるも弾き飛ばされた。
続くティターンが組み手に持ち込もうとするが、スピードではネジブルーが上、軽くかわされ背中に手刀を叩き込まれる。
「グッ!」
「ティターン!」
238
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:44:08
ティターンへ気を取られたゴーレッドの顔面にネジトマホークが迫る。
上体を屈してかわし、報復代わりに脇腹を切りつける。
ステップを踏むように、数歩後退したネジブルー。
傍らに転がるソニックメガホンを手に取った。
「ヒャハハハハッ!回れ〜回れ〜」
ゴーレッドとティターンはぐるぐるとコマのように回り出した。
「うわぁぁぁっ!」
「くっ、ぐぁ!」
回りながらもゴーレッドはレスキューロープを手に取る。
「ヤァ!」
ソニックメガホン目掛けレスキューロープを伸ばす。
「無駄だよ〜殴り合え!」
届かず。突如、身体は急激にティターン目掛けて突進する。
磁石が引き寄せられるように拳を突き出したお互いの身体がぶつかり合う。
鈍い音と衝撃がゴーレッドの脳を揺らした。
「このままじゃ埒があかねぇ」
その時。
「バウ!」
銀色の弾丸の如く駆けたマーフィーがネジブルー腕に飛びついた。
マーフィーを振り払おうとソニックメガホンを放したネジブルー。
「マーフィーすまねぇ!よし。ファイブレーザー、ガンモード」
ゴーレッドの銃撃に続き、ウラノスとガイアの怒りを手にティターンが追撃する。
ネジブルーは慌てる様子もなく、マーフィーの足を掴む。
「こいつはいい盾になるぜ〜」
「何!」
「バャウーーーー!!」
239
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:45:12
数発の光弾を受け火花を散らすマーフィー。
咄嗟に駆け寄るティターンへネジブルーは容赦なくネジトマホークを振り下ろした。
§
外では纏とティターンが苦戦しているようだった。
瞬は外が見えない位置に座り、時間が経つのをじっと待っていた。
どっちでもいい。どちらが勝とうが負けようが。
制限があるのは知ってる。
ただそれが時間なのか回数なのかわからない。
相打ちに近い状態になった時、出て行けばいいのだ。
人質もおぼろも、きっと蒼太が手に掛けるのだろう。
それとも手伝わされるのだろうか。
ゾッと恐怖が込み上げる。
自分が救われる代わりに他の人間が死ぬ。
瞬はその時のことを心待ちに出来るほど冷酷ではない。
まだ何もしていないのに、罪悪感で押しつぶされそうだ。
普通におぼろと話している蒼太の神経を正直、疑う。
瞬を見つけ出した時……
蒼太は――――
「おっと、なんで逃げるんだい?」
瞬の行く手に男が立ちはだかる。
240
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:45:49
掌にじっとり汗が滲む。
「逃げるなんて……俺は」
「そう。逃げる必要は無いんだ。心配はいらないよ。僕の目的は君と同じだからね」
再び男と視線が合う。
「言わなきゃわからないかな?」
自白を強いられるような酷薄な眼が瞬を見つめる。
「俺は生きて帰って、夢を叶えるんだ……」
瞬は思わずそう漏らしていた。
「そのために手段は必要だ。仲間も、ね」
酷く冷たい声で男は言った。スリルを楽しんでいるような声だった。
――――こいつが俺の仲間。
どのみち一人でもやろうと思ってたんだ。
そうじゃなきゃ、帰れない。
ふと、おぼろと蒼太の会話が耳に飛び込んでくる。
その話を聞いて瞬は唖然とした。
「蒼太くん。気を付けて」
「おぼろさんも人質と合流したら打ち合わせたビルまで速く逃げてください」
出口へ向かう蒼太に瞬が駆け寄る。
「助けに行くって話が違うじゃないか」
蒼太の胸ぐらを掴む瞬。
「あんた。あほか!」
パン!おぼろが瞬の頬をひっぱたいた。
「……あんたのために、纏さんら必死に戦ってるっちゅうのに」
キッと睨み付けるおぼろを蒼太が片手で制す。
「話が違うって何のことだい。悪いジョークだよね?」
「なっ?!ジョーク?」
瞬は言葉をつまらせる。
241
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:46:40
「あぁ、悪いジョークだ。『君は夢を叶えるために生きて帰る』そう言ったけど、その手段が僕たちと違うなら本気で洒落にならないね」
蒼太は笑顔を見せた。だが眼は笑っていない。
「さっきから二人のことを一度も見ようとしないけど、一回よく見てみたらどうかな」
瞬は蒼太に窓辺まで引っ張られた。
それでも目を背ける瞬に、蒼太は溜息混じりで言った。
「君の願いは『最後の一人になって夢を叶える』か。
42人の屍と、その家族や仲間、悲しみで心を失った人たちの上でみる夢。そんな夢が本当にいいものだと思うかい?」
蒼太はそう言って部屋を出て行った。おぼろも後に続いた。
一人になって、初めて瞬は纏とティターンを見た。
ネジブルーの声と纏の怒声が瞬の耳を打った。
『馬鹿な奴らだ。メガブルー一人渡せば命を落とさずにすんだのにね』
『黙れ、たとえ、たった一つの命でも守らなきゃいけねぇ。
その未来を守るのが俺の責任なんだ。俺は絶対あきらめねぇ!!!』
次の瞬間、瞬は走り出していた。
「待ってください。……さっきのは悪いジョーク、です」
階段を降りる蒼太とおぼろに追いつくことが出来た。
おぼろは頷いてくれたが、蒼太は聞こえていないように瞬を無視して階段を駆け下りる。
瞬もそれに続く。
瞬の方針は決まった。
それをわかってもらいたかった。
「でも、夢は叶える。生きて返って、必ず……。
242
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:48:00
CGデザイナーになったら、個展の招待状は最上さんとおぼろさん、それとあの二人にも送ります」
振り返った蒼太が笑顔で頷く。蒼太の笑った顔を初めて見た気がした。
「オッケー。じゃ行こうか」
「はい」
返事をしたものの、瞬は考える。
ここで二人で飛び出すのが最善なのかと。
「いや、最上さんたちはもう少しここで待っていてください。俺達には制限がある。それが時間制限だとしたら少しでも戦力は温存しておいた方がいい」
ヒューゥ、蒼太が口笛を鳴らした。
「いい読みだね。CGデザイナーなんて辞めて卒業したらボウケンジャーに入らない?」
照れながら、低調に返した。
「遠慮しときます」
瞬は纏とティターンの元へ駆け出した。
愛情とか友情とか、夢の前なら後回しで構わないと思ってた。
ホントはそう言うの嫌いじゃないしな。
誰かを犠牲にして叶える夢なんて、俺の夢じゃない。
夢はあきらめさえしなきゃ叶えられるんだから。
「インストール、メガレンジャー!」
――3・3・5・Enter――
デジタイザーが輝き、粒子となった光が瞬の身体を廻る。
「あの刃のねじれ具合、もしかしてネジレシアか?トマホークスナイパー!!」
狙いは肩、マーフィーを盾に出来ない位置に銃弾を撃ち込む。
「メガブルゥ〜。やっと来たね!」
243
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:48:49
待っていたかのようにネジトマホークを振るい銃弾を薙ぎ払う。
ゴーレッドは銃撃で応戦しながらメガブルーに顔を向ける。
「瞬、何できたんだ!ここは俺が……」
「わかったんです。俺、戦う責任も、あきらめないって意味も。でも話は後で。今は戦いに集中してください!」
「そうだな。後でゆっくり聞かせてもらうぜ!」
トマホークスナイパーとファイブレーザーの連射。
一方的な銃撃にネジブルーは防御に徹し、攻撃を繰り出せない状態に追い込む。
「ティターン!任せたぜ!!」
ゴーレッドが叫ぶ。
ティターンが天に向け高く伸ばした掌より出現した淡い光は、瞬く間に巨大な光源と化した。
ネジブルーへ向け光源を撃ち放つティターン。
轟く雷鳴が耳を劈き、逆巻く散光はネジブルーを焼き尽くしたかに思えた。
「遅いよ〜」
爆風にのって、嘲笑を浮かべたネジブルーが飛び出した瞬間。
「今だ!」
ティターンが大きく両手を広げた。
「おう!」「はい!」
メガブルーが右、ゴーレッドが左から、ティターンの肩を踏台に跳ね上がる。
「シュート!」
空中でクロスし、前面に躍り出たゴーレッドが放つエネルギー光弾が、流星の如くネジブルーへ降り注ぐ。
メガブルーは数発くらい後退しながらも、ネジトマホークを縦横に振るい光弾を裁く。
そこへ後方から大きく一回転し反動を付けたメガブルーがネジブルーへ迫る。
「メガトマホーク!」
メガトマホークの鋭い刃がメガブルーの右肩を切り裂く。
そのまま左方へ回転し、次の一撃を横腹に打ち込む。
「遅いのはネジブルーお前だぜ!」
244
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:49:38
わざと冷静な声で嘲笑を浴びせ、勝ち誇ったように高く跳躍する。
ネジブルーは悔しさに身を震わせ、右腕をメガブルーに向け吼えた。
「メガブルゥゥッ!!」
咆哮と共に放った青い光弾がメガブルーを追う。
冷静になれ。
メガブルーは光弾から眼を逸らさない。
そうだ。冷静になれば避けられないスピードじゃない!
着弾の寸前、空中で身を翻し体に回転させながら避けた。
頬を掠めた光弾が空しく中に散った。
「これで終わりだ!トマホークハリケーン!!」
そのまま降下のスピードと遠心力で破壊力を増した渾身の連撃を放つ。
その時、上空か稲光のような黄金の光が走った。
――ガキンッ!
ぶつかり合う金属音。
「ウァァァッ!!!」
一瞬の拮抗。弾かれたのはメガブルーだった。
上空より投擲された一振りの黄金の剣がメガブルーを止めた。
その剣を放ったのは……。
「楽しそうね〜。ワタシも仲間に入っちゃおうかな♪」
ネジブルーに微笑みかけたのはコギャル風の怪人。
「助けてくれたのかい?」
「べつに〜ワタシは何とかブルーに用があるだけよ」
「へぇ〜気が合うねぇ」
「さぁ〜どうかしら?」
ネジブルーをはぐらかすような言葉の後、コギャル風の怪人はぴょこんとゴーレッド達の方へ向きを変えた。
「せーの、どっか〜ん!!」
245
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:50:11
ピンク色の閃光がの足下へ走る。
ゴーレッド達は爆風と轟音に包まれた。
§
フラビージョの姿を認めた蒼太はフォローに回るべく動いた。
爆風の中、眼を凝らす。
フラビージョが黄金の刀を振り上げメガブルーへ駆け寄っていた。
「間に合ってくれ!」
ダッシュで距離を詰める。
「た〜め〜し〜ぎ〜り〜!!」
フラビージョの前に立ちはだかる蒼太。
振り下ろされた黄金の刀をアクセルラーのタービンで受け止めた。
「レディ、ボウケンジャー!」
そのまま下から突き上げるようにタービンを滑らせ刀を弾き返す。
迸る火花と高まるタービンの回転音。
今、蒼太の胸を打つのは冒険に対する期待ではなく、悪を排除する決意。
不適な笑みを浮かべ蒼太は叫ぶ。
「スタートアップ!!」
目も眩む光が蒼太を包み、瞬時にブルーのアクセルスーツへと姿を変える。
黄金の刀を弾き返されふらふらとよろけるフラビージョ。
「言ったよね?女の子がそんなもの振り回してたらダメだって」
ボウケンブルーはパンッと手を叩きステップを踏むように間合いを取った。
「女性相手にこういう事やりたくないだけど、ごめんね」
246
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:53:44
右腕を後方へ退き、力強く突き出す。
拳に装着したブロウナックルから、旋風が渦を巻きフラビージョの体を舞い上げた。
「いやーん!って、そ〜んな簡単にやられるフラビージョ様じゃないわよ♪」
フラビージョは蜂のように白い4枚の羽を高速で羽ばたかせ空中で止まった。
小刻みに羽音を鳴らしながら、ボウケンブルーを標的にシュシュッと高速で針を吐き出す。
「なかなかやるね」
蒼太は回転しながらブロウナックルを地へ向け出力を前回にする。
同じ高さに舞い上がる。
「なにそれ〜。飛べるなんて聞いてな〜い」
「サバイブレード!」
ボウケンブルーはサバイブレードで袈裟懸けに斬りつける。
「ぎゃ〜〜」
フラビージョはくるんくるんと二回転回り墜落。
そのすぐ横にはゴーレッド、メガブルー、ティターンと対峙するネジブルーがいた。
§
ゴーレッドの耳におぼろからの声が届く。
「こっちは大丈夫やで〜。人質は無事やで!」
瞬が立っていたビルの上から聞こえるその声にゴーレッドは安堵した。
敵はすでに追いつめた。
ネジブルーとフラビージョはタワーを背に隣合わせで4人と対峙する。
時折言葉を交わしているのは最後の悪あがきだろう。
ゴーレッド、メガブルー、ティターン、ボウケンブルーの配置で囲んだ包囲網を少しずつ狭めていく。
メガブルーが前へ進みゴーレッドと並んだ。
たった数時間でいっぱしの戦士になったな。
247
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:57:32
メガブルーの姿をゴーレッドは誇りに思った。
「あきらめた方が良いぜ」
「ヒャハハハハハハッ、ヒャハハハハッ!」
ネジブルーが笑い出した。そしてネジブルーを抱えたフラビージョが高く高く跳躍した。
「ふざけんな、飛んだからって逃げられるとでも思ってんのか!」
メガブルーが叫ぶ。
「楽しいよ〜。またお前らとやりあえるんだ。ヒャハハハハハハッ!全員は死なないでくれよ〜」
笑いながら上昇を続ける二人に、4人がそれぞれの武器を構えた。
嫌な胸騒ぎがする。
ゴーレッドは辺りを注意深く見渡す。
アンチハザードスーツが警告を発した。
タワーの中に燻る微かな煙を発見したのだ。
ごく小さな火種が一本の道を辿るように、ぱちぱちと燃えている。
心臓が揺さぶられたように大きく鼓動した。
おそらくこれは、時限発火装置。
「逃げろ!」
素早く声に反応したのはボウケンブルー。
最高方にいたこともあっておぼろ達の方へいったはずだ。
ティターンは、マーフィーをそのままにしておけないのだろう。
入り口の近くのマーフィーも元へ。
この時、メガブルーはまだネジブルーに狙いを定めていた。
―――― カッッ!!!!!!!!!
タワーの窓ガラスが真っ赤な閃光に染まった。
一瞬、圧縮される空気。タワーの表面が軋むような音を鳴らした。
この威力、テルミット弾だ。
248
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:58:04
「瞬!」
上空を見上げるメガブルーにゴーレッドが手を伸ばした。
メガブルーを引き寄せ、ティターンを見遣る。周囲に淡い光の壁が見える。
ゴーレッドは安堵した。
―――― パアァーーーン!!!!!!!
膨張した空気がタワーの何百枚とのいうガラスを砕く。
―――― ゴォォォォォゥー!!!!!!!
爆音と共に灼熱に解けた鉄骨と、火球と化したコンクリートブロックが降り注ぐ。
「ウオォォォォォッッッーーーーー!」
ゴーレッドはファイブレーザーを力の限り振り回す。
ナイフのようなガラス片を粉砕し、鉄骨を弾き、コンクリートブロックを打ち砕く。
凄まじい風圧にも揺るがず、メガブルーの盾となり数年に匹敵する数十秒を耐えた。
§
瞬はその後ろ姿を一生忘れ無いだろうと思った。
自分の命を、夢を守った男の背中だ。
「はぁーーー。さすがにキツかったぜ」
纏は放心状態で仁王立ちしたままだった。
「俺なんていっていいか。本当にありがとうございました」
瞬は深々と頭を下げる。
夢×命×未来の恩人だ。いくら下げても足りないぐらいだ。
249
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:58:44
「瞬!」
上空を見上げるメガブルーにゴーレッドが手を伸ばした。
メガブルーを引き寄せ、ティターンを見遣る。周囲に淡い光の壁が見える。
ゴーレッドは安堵した。
―――― パアァーーーン!!!!!!!
膨張した空気がタワーの何百枚とのいうガラスを砕く。
―――― ゴォォォォォゥー!!!!!!!
爆音と共に灼熱に解けた鉄骨と、火球と化したコンクリートブロックが降り注ぐ。
「ウオォォォォォッッッーーーーー!」
ゴーレッドはファイブレーザーを力の限り振り回す。
ナイフのようなガラス片を粉砕し、鉄骨を弾き、コンクリートブロックを打ち砕く。
凄まじい風圧にも揺るがず、メガブルーの盾となり数年に匹敵する数十秒を耐えた。
§
瞬はその後ろ姿を一生忘れ無いだろうと思った。
自分の命を、夢を守った男の背中だ。
「はぁーーー。さすがにキツかったぜ」
纏は放心状態で仁王立ちしたままだった。
「俺なんていっていいか。本当にありがとうございました」
瞬は深々と頭を下げる。
夢×命×未来の恩人だ。いくら下げても足りないぐらいだ。
250
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 01:59:31
「敬語なんて……やめろよ」
声の変化に気付き、瞬は顔を上げた。
「俺達…もう仲間だ…ろ……」
ガクンと纏の膝が折れ、そのまま地に倒れ込んだ。
「纏さん?!」
抱き起こした瞬の目に飛び込んで来たのは、纏の腹部に深く突き刺さった鉄骨の破片。
人質だった者を連れて帰ってきたおぼろが息を呑む。
蒼太とティターンも駆け寄る。
皆を止めるように、纏が口を開いた。
「心配すんな。こんなの……たいしたことない」
力なく言い、鉄骨を引き抜こうとした。
滲み出る血液で手が滑って、引き抜こうとするたび纏の口から血が溢れ出る。
瞬は纏の手を握り叫んだ。
「誰か、薬!なんでもいい!!この傷、どうすりゃいい」
助けを求め皆を見回す。
蒼太もティターンもおぼろも、悲痛な表情でただ纏を見つめている。
纏は大きく息を吐き出し、言葉を紡ぐ。
「瞬……朝メシ…まだだろ?俺のデイバックの中の……カレーパン、あれお前に……やるよ。他にも……何か……使えそうなら……お前が使えよ……」
「何縁起でもないこと言ってんだよ!それに、朝からカレーパンなんていらねーよ」
「ははっ……それもそうだな。じゃ…後で……俺が作ってやる……」
瞬は黙って頷いた。
ゴボッ、纏の喉元が鳴った。
身体の中に溢れた血が、喉元まで上がって来ているのだ。
纏の瞼がゆっくりと閉じられていく。
「纏さん!纏さん!!」
瞬の声に薄く纏の瞼が開いた。
蒼太が瞬の肩にそっと手を掛け、首を横に振る。
251
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 02:00:08
それを見た瞬の視界が滲む。
瞬は涙が零れないように、声が震えないように、でも纏から視線を逸らさずに少し上を向いた。
「なんだよ……少し眠…らせろ……よ。瞬…お前のせいで………、俺…は……ろくに…寝て……ないんだ……」
「わかった。ゆっくり……」
眠ってください。最後の言葉が出てこなかった。
それを言ってしまったら終わる。瞬は奥歯を噛締め言葉を発せられずにいる。
ふっと纏は瞬の手を離し、力無く握った拳で、瞬の額を優しくトンと叩いた。
不覚にも涙が零れた。
「眠るがいい……」
ティターンが静かに瞬の言葉を引き継いだ。
マトイはその場を見渡し、ふっと微笑むと静かに眼を閉じた。
瞬の腕の中でマトイの力が少しずつ少しずつ抜けて行く。
まだ体は温かいのに、肌は色を失っていないのに、一秒前と何も変わらないのに……
纏はもう二度と目覚める事はないのだ。
マーフィーが淋しげに遠吠えする。
「纏…さん!!」
瞬の瞳から積を切ったような涙が溢れ出た。嗚咽を洩らしながら、瞬は小さな子供のように泣いた。
【巽纏 死亡】 残り33人
252
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 02:00:39
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:健康。2時間能力発揮できません
[装備]:杖
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:ドロップを探し、ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの救出と、F-7エリアでドロップとティターン待つ。
備考:首輪の制限があることに気が付きました。
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:全身打撲。火傷。2時間能力発揮できません。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:ジルフィーザと合流する。
第二行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。
:纏からタイムレンジャー、サイマの情報を得ました。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:銃弾によりかなり破損しています。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:全身打撲火傷、応急処置済。2時間メガブルーに変身できません。
[装備]:デジタイザー。
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)纏のデイバック
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って、夢を叶える
第一行動方針:纏の死に深い悲しみ。
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
変身制限があることを知りました。
253
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 02:01:10
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた)後
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:全身に打撲、傷有り。2時間能力発揮出来ません。
[装備]:ネジトマホーク
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー (マシンはスキーの鍵は美希が持っています)
[道具]:支給品一式×2、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器
[思考]
第一行動方針:メガブルーを殺す。 邪魔なヤツも殺す。
第二行動方針:フラビージョと逃げる。
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:健康、精神的に少し不安定。
[装備]:不明
[道具]:メメの鏡の破片、
[思考]
第一行動方針:不明
【名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー(鍵のみ、タワーの損壊で壊れている可能性があります。ネジブルーの物とすり替えました)
[道具]:支給品一式×2、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る 。
第一行動方針:利用できる者は利用する、そうでない者は殺す。
【フラビージョ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之十九、チューズーボ死後
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:打撲。能力発揮中。
[装備]:槍@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:聖剣ズバーン@轟轟戦隊ボウケンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、支給品一式。
[思考]
基本行動方針:楽しそうなので戦いに乗った
第一行動方針:ネジブルーと逃げる。
第二行動方針:青いジャケットの優男(蒼太)と日向おぼろにはその内、復讐
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする
※首輪の制限に気が付きました。
254
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 02:02:03
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 早朝
[状態]:良好。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る
※首輪の制限に気が付きました。
備考:冥王ジルフィーザ、巽マトイ、並樹瞬のいずれかの支給品にバイオ次元虫入りカプセルが含まれています。
:F−5エリアタワーはテルミット弾により損壊しています。(倒壊の恐れ有り)
255
:
Chance or Death
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/15(月) 02:04:36
以上です。誤字脱字、指摘、矛盾、感想等よろしくお願いいたします。
256
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/09/15(月) 02:35:42
纏兄さぁぁぁぁぁん!!!!!
超GJです!
思いを貫いて死んでいった纏兄さんが熱かった!
纏兄さん安らかに眠れ。
そして、きっと纏兄さんの思いを継いでくれ、いや、今の君ならきっと継げると信じてる、ガンバレ!瞬。
静かに熱い蒼太さんもかっこよかったです。
一言も嘘をつかずに瞬に誤解させるくだりは、あまりに彼らしいと感じました。さすが元スパイw
熱く、切ない良作でした。改めてGJを送らせて頂きたい。GJです!
携帯故、代理投下出来ずに申し訳ないです。
規制であちらに書き込めなかったので、先にこちらに。
257
:
名無し?ちょっとした冒険だな
:2008/09/15(月) 10:46:20
代理投下途中ですが、さるさん規制にひっかかりました。
どなたか、続きをお願いします。
258
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/20(土) 17:02:04
「約十分で変身が強制解除。アクセルラーの機能が完全に凍結されているな…やはり能力の発揮に制限が加えられていたか…」
明石暁は生身に還元された状態でディスプレイ画面を沈黙させるアクセルラーと向き合っていた。
「まぁ、ネオパラレルエンジンの換装が済んでいるだけマシだと言うべきか…」
アクセルテクターからわざわざサラマンダーの鱗を抜き取るような陰湿な奴だ。
あるいは、とアクセルラーの状態を確認したが流石にそこまで手は加えられていないようだ。
だが自分のアクセルラーは無事でも他のメンバーがそうだとは限らない。
「一刻も早く合流しないとな…」
その時だった。
龍が残酷な真実を告げたのは―
「真墨…!」
きつく握った拳が怒りとも悲しみとも取れぬ感情にわなわなと揺れる。
「俺は…また……守れなかった……」
マサキとキョウコ。
炎に包まれる彼らの姿を暁は一生忘れることはないだろう。
彼らを喪った後、恩人の牧野に請われてSGS財団が立ち上げる新たな探索チームのチーフとなった。
もう二度と戻るまいと思った道。もう二度と持つまいと思った仲間を彼は得た。
さくらと蒼太。
彼ら二人が加わり、チームがなんとか起ちあがった時、彼は決意したのだ。
二度と仲間を死なせない、と。
その決意は潰えてしまった。
「嗤え…ロン。俺はこの場の全員を殺してでも、お前の誘いに乗ってしまいそうだ…」
259
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/20(土) 17:02:37
自嘲の暗い笑みが唇を歪める。絶望の二文字が心を覆っていく。
…―チーフの責任ではありません―…
さくらが傍にいればまず間違いなくそういって慰めただろう。だが、暁は自分で自分を許せなかった。
「…いいだろう、俺は、殺し合いに乗ってやる……仲間を生き返らせるためにな…!
…邪魔をする奴は誰だろうと容赦はしない…!!」
この惨劇の舞台で人が戦うのは相手ではない。自分の心だ。
自分自身の闇に飲まれたとき、人は堕ちて行くのだろう―
ロンの狙いは全てそこに集約されている。
人は迷う。人は間違う。人は恐怖する。惨めで、弱くて、ちっぽけな存在だ。
だが、常にそうであるとは限らない。
時として人は恐怖を凌駕し、それを征服する。
「だが、ロン、覚えておけ! 俺はあくまでボウケンレッド! 熱き冒険者だ!! ボウケンジャーとして、お前の仕掛けたこの馬鹿げたゲームを終わらせてやる!!!」
殺し合いには乗る。だが、人は殺さない。
ひどく矛盾した、それでいて傲慢な理屈だ。
それは方法こそ違え、思考はこの世界の王たるロンと重なる。ロンの卑劣な罠にも彼の心は傷つきこそすれ、折れはしない。
260
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/20(土) 17:03:14
人は迷う。人は間違う。だが、人は光を目指す。
彼は既に一介のトレジャーハンターではない。
今の彼に悲しみに浸る暇はない。かつて、友を救えず冒険に背を向けた男はもういない。
二人の仲間が紅蓮に包まれたとき、『不滅の牙』は死んだのだ。
今ここにいるのは、さくらが慕い、真墨が目指した高みの男。
誰よりも熱く、高く、深く、強く、迅く―
ボウケンジャーのチーフ、熱き冒険者ボウケンレッドだ。
彼の心を折ることは、悪辣な龍にもできはしない。
そして、決して力に屈しない人の心に龍は誰よりも深い恐怖を抱いていた。
彼は、人の心に一度負けているのだから。
一旦は暴風に荒れ狂った心も今は冷静に今の状況を分析していた。
既にゲームが始まって6時間。真墨を含む8名の面々が命を落としている。
だが、暁はその死についてある疑念を持っていた。
真墨の死を目の当たりにして衝撃を受けはしたが、その疑問がゆえに彼の死を完全に鵜呑みにすることはなかった。
明石が先ほどまで行動を共にしていたヒカルことマジシャインは自分の知る彼ではなく、それ以前の時間から連れてこられた過去のヒカルだった。
このゲームの参加者は異なる時間軸から選抜されたメンバーで構成されている。
それは恐らく、ボウケンジャーの仲間たちも同じだろう。
―ここはどこなんでしょう、チーフ…僕たち五人以外にも人が大勢倒れていますけど…―
始まりの空間で蒼太は確かに“五人”と言った。すぐ傍で映士を含む仲間たちが倒れているにもかかわらずだ。あの時、彼は明らかに映士を勘定に含んでいなかった。
「蒼太は俺とは別の時間軸から連れてこられたということか…」
彼の髪の短さと、流行に敏感な彼がつけていた香水の匂い、菜月と真墨を仲間と認識していることから類推して5人体制となって間もない頃…ちょうど三国覇剣の事件の辺り、
ダークシャドウの台頭が著しくなってきた時期が彼の出身時間であろう。
261
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/20(土) 17:03:45
真紅の戦士が魂の化身を名乗るアカレッドという男の言によれば、
この世界は歴代のスーパー戦隊によって守り抜かれてきたのだと言う。
誰が欠けても歴史に重大な影響を及ぼすことは必至だ。
なにしろ、戦隊はチームワークが命なのだから。それは自分たちを省みれば容易に想像がつく。
だが、既に“こちら側”と思しき者たちが数名、このゲームの犠牲となっている。
(―彼らが死亡した時点で歴史に影響があるとするなら、ここにいる俺は何なんだ…―?)
このゲームの指す“死”については明らかな疑念がある。
無論、彼らは自分がいた時代よりも後からつれて来られているのかもしれない。
その可能性は否めない。
しかしそれでは一番前の時間軸から来た戦士が死んだ時点で俺たちは消えてしまう。
それではゲームにならない。どの時代の、誰が死んでも歴史に影響が出ない。
少なくともこの箱庭のメンバーは。ならば、その死はいったいどういう意味を持つのか―
命を弄ぶロンの力は計り知れない。計り知れないが、それゆえに希望もある。
「早く仲間たちと合流しないとな…!」
262
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/20(土) 17:04:18
このゲームにはクエスターガイも参戦している。彼自身の暴力性、攻撃性も脅威だが
仲間たちのアクセルラーに万一ネオパラレルエンジンが搭載されていなければ新たな犠牲者が出るのは必然だ。
特に映士合流前の時間軸から連れてこられた場合、クエスターの存在そのものを認識していないはずだ。
「流石にあれだけイカれた奴に警戒心を抱かないはずはないがな…」
それでも危険は大きい。今のところ、仲間の中でガイとまともに戦えるのは自分とシルバーだけだからだ。
真墨の死が全員に与えた影響は計り知れない。
菜月は大丈夫だろうか? さくらは責任を感じてはいないだろうか?
蒼太はクエスターを上手くやり過ごせるだろうか?
映士はかつての仇敵を前に平静でいられるだろうか?
「街へ、行こう」
ここは情報が少なすぎる。
明石の行く先は決まっていた。街には物資と人が集っているはずだ。
ロンは禁止エリアを市街地周辺に集中して特定している。
彼がそんな場所を無造作に選ぶとは考えづらい。何か、思惑があるのは間違いない。
ならば、それを見極め、罠に落ちようとする者を救う。
危険は承知の上。冒険にはつき物だ。
「待っていろ皆…今、行く。…真墨、必ずお前を蘇らせてやる…待っていろ、ロン―…
俺が望む死は唯一つ…お前だけだ―!」
263
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/20(土) 17:06:57
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:G-2遺跡 1日目 早朝
[状態]:健康。二時間変身不能。
[装備]:アクセルラー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー、アクセルテクター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。
第二行動方針:ヒカルとの合流を取りやめ、禁止エリアへ赴く。
放送を聞いて参加者が街を目指すと彼は踏んでいます。
264
:
◆8ttRQi9eks
:2008/09/20(土) 17:09:50
代理投下をお願いします。
タイトルは『暁【あかつき】の決意』で。
265
:
ボウケンブラックを捜して……t
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:41:13
本スレ
>>604
温かいお言葉、多謝w
そして遅くなって本当に申し訳ありません。
シグナルマン、浅見竜也、間宮菜月、ブクラテス、投下します。
と思ったら、アクセス規制中につきこちらに投下させて頂きます。
266
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:42:01
「シグナルマンさん!スモーキー!菜月ちゃんも落ちついて」
駆け出すシグナルマンを竜也が制した。
「チーキュの住民が危ないのだ!本官は行かなければっ!!」
シグナルマンが言い返す。
「そうだよ。竜也さん、何で止めるの?人質が危ないのに……」
「そうだニャ!」
菜月とスモーキーが竜也を睨んだ。
「だからって考えもなく行くのか?ちょっと、皆さん、落ちついて!」
「竜也、行かせてやるがいい」
ブクラテスが割って入る。
「何の手立てもなく行くなど、人質もろとも死ぬつもりか!わしは竜也とここに残らせて貰うわい」
樽のような腹を揺らせた。
ブクラテスの言葉に竜也はがっくり肩を落とした。
……俺は、行かないなんて言ってない。
◆
「はぁ……」
竜也は大きく深呼吸して気持ちを落ちつけた。
先程聞こえてきた『メガブルー』を誘き出す声。
その声に走り出そうとするシグナルマンとスモーキー。
我が身の保身ばかり口にするブクラテス。
人質を按じているのか、今にも泣き出しそうな菜月。
ひとまず彼らを宥め、人質救出の為に考えを巡らせる。
シグナルマンと二人で行くとして……。
問題は後の二人と一匹。
ブクラテスは頑として動こうとしない。
菜月は勇気を振り絞ってスモーキーと行こうと意気込む。
だができれば、菜月を、もちろん怪我を負ったブクラテスも戦いに巻き込みたくない。
267
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:42:59
「どうするかな……」
考えが浮かばないまま時間は過ぎる。
全員、押し黙ったまま、竜也が口を開くのを待っていた。
(こんな時、ユウリならすぐ判断を下せるんだけど。
せめてドモンやシオン、マトイさんの誰かと合流できたら……。
結局、都市に向かうしかないかな)
ブクラテスは不服かも知れないが、怪我の治療もしなければならない。
最初に決めたようにとりあえず病院を探す。
そこを拠点に、動いていけば仲間とも合流できるかもしれない。
「ブクラテスさんの治療と、作戦を練るためにもまず都市で病院を探す。それでいいかな?」
皆が頷く。
「これだけ待たせて、そんな提案だけニャのか……」
誰かが呟いた。
竜也は聞こえないふりをし、それは言わないでくれと心の中で呟いた。
◆
意気込んでいたわりに、都市へ向かう菜月の足どりは遅々と捗らないようだった。
気が急くシグナルマンにブクラテスを預け、竜也は菜月と足並みを揃えた。
「菜月ちゃん、疲れた?」
声をかけると菜月は首を振った。
「ううん。大丈夫、ありがと……ただ、ね」
そう言いながら伏せた瞳は悲しい色に満ち、透けるように白い頬は、強き冒険者としては儚なすぎると思えた。
「ただ?」
竜也は問い返す。
「菜月はね、悲しいなって思ったの。殺し合いを始めた誰かがいるんだってことが……」
菜月は竜也の顔を見上げた。
268
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:44:51
大丈夫だという証に、竜也は力強く頷く。
「だから、止めて見せるよ。誰も犠牲にならないうちに……」
わざと明るい調子で言ってみせた。
「そうだね……」
菜月が微笑み返した時だった。
『皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか?
さて、定時の放送です――――――――』
否応なしに聞こえてきたロンの声。
焦らすように、竜也たち参加者を煽る口調で、残酷な現実を突き付ける。
『まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。 伊能真墨―――――』
もう、殺された人がいる。
驚愕と、殺し合いに乗った者への怒り、ドモンたちの名が呼ばれなかった安堵が折混ざり竜也を包んだ。
だが、竜也はすぐに安堵したことを恥じた。
――――真墨と、蒼太さんと、チーフに、さくらさん。
ロンが告げた最初の名は、伊能真墨。
出会ってすぐに菜月が口にした人物だった。
「真……墨?」
菜月は張り付いたように立ち竦む。
269
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:45:53
「嘘、……こんなの、信じないよ。だって誰も犠牲にならないように……。菜月たち、これから……」
菜月の肩が震え出す。
嘘だ。とは言えない。
竜也は菜月にかける言葉が見つからない。
すがるように目を向ける菜月。その細い肩を、支えるだけしかできない。
『 皆さん、大変お楽しみのようで私としても嬉しい限りです』
すべての参加者を嘲弄するロンの声は、まだ終わることなく続く。
菜月は否定するように首を横に振り、地に伏せ耳を塞いだ。
竜也は菜月の肩を抱き寄せ、シグナルマンは拳を握りしめた。
「ニャ……俺様だって、信じないぜ。麗や、あいつらが、こ……殺されただニャんて」
スモーキーは視点が定まらず、うわずった声をあげる。
ロンの声が追い討ちをかけるように響く。
『お嘆きの方もいらっしゃるでしょうが、ご心配なく。
貴方が最後のお一人になればちゃーんと生き返らせて差し上げますよ 』
生き返らせる。
その言葉に目を見開いたスモーキーと、肩を震わせながら顔を上げた菜月。
その頬を大粒の涙が伝う。
ぺたりと地に座り込み、頬を流れる涙を拭おうともせず、呆然と空を見つめ、菜月は言葉を紡ぐ。
「生き返らせるって、本当に真墨は……」
「麗も?……ミンナ死んだのか?」
二人の言葉にシグナルマンは目頭を抑え、ブクラテスは傷ついた腕に目を落とした。
「真墨……。死んじゃったの?」
菜月の手からスモーキーが滑り落ちる。
ゴツンと音を立ててスモーキーは転がったまま、やり場のない怒りを空に向かって放った。
「畜生!ダンナ、一体何やってんだ!!ダンナのバカヤロー!!!」
270
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:51:06
スモーキーの悲しそうな声が、言葉の毒を消しさっていた。
「身体が自由になってりゃ!俺様が!!畜生!」
「スモーキー……」
竜也はそっとスモーキーを拾い上げた。
「おい、竜也!」
シグナルマンが大声で竜也を呼んだ。
振り返ると、菜月は泣きながら駆け出していた。
「菜月ちゃん!どこに行くんだよ。菜月ちゃん!!」
竜也は追いかけるが、ブクラテスに腕を掴まれた。
「皆バラバラになってどうするんじゃ!どうせ、すぐに戻ってくるじゃろう」
どんどん遠くなる後ろ姿。
胸に悔しさが込み上がる。
竜也は地に拳を叩き付けた。
◆
菜月は薄暗い森の中を走る。
「真墨……」
その名を呼びながら。
やがて、気が付けば辺りは霧に包まれていた。
涙と霧で視界が滲む。
足を止め、涙を拭った菜月は、ゆらゆらと揺れる人影に気付く。
「菜月……」
もう聞くはずがない真墨の声で、影が菜月に語りかける。
影は徐々に形を作る。
より鮮明に真墨の痩躯を、そして苦痛に満ちた表情を作り上げる。
271
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:53:19
「真墨?!」
駆け寄り、真墨へ手を伸ばした。
手が届こうかと言うところで、真墨だった影が四方に霧散する。
そして再び一箇所に集まった霧は金色のフードを被った男の形となった。
「ロン……」
菜月の全身に緊張が走る。
しかし、ロンは何をする訳でもなく、悠然と笑みを浮かべているだけだった。
「ボウケンブラックを捜しに、ですか?」
「……真墨は、どこにいるの?」
「この先に、彼はいますよ。サンヨと言う男に、頭を潰されてね……」
サンヨ、頭、潰されて……。
ロンの一言一言が胸に跡を刻む。
「サンヨも、すぐ近くにいますよ」
不意に、興味深い、そんな眼でロンが菜月の瞳を覗く。
ロンの瞳に吸い込まれるように、菜月の視界が金色に包まれた。
暗転。
真っ暗闇の中、真墨の断末魔が菜月の耳を打ち、潰された真墨の姿が濁流となって菜月の中に流れ込んだ。
◆
悪夢から覚めるように、絶叫と共に菜月は目を開けた。
キョロキョロと辺りを見渡すが、真墨の姿も、ロンの姿もない。
目の前には朝日が森を優しく照らしている。
胸を押さえ、菜月は深く息をついた。
「さぁ、もう何をすべきか解ったでしょう?」
菜月の耳元でロンが静かに告げる。
「守られているばかりでは生き残れませんよ?
272
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:54:14
心配など無用ですね。あなたは強き冒険者、ボウケンイエローなのですから」
立ち去るロンを菜月は表情なく見ていた。
「何をすべきか……。そんなの解らない」
菜月には、どうすればいいかなど解らない。
ただ今は……。
「お別れも言えないなんて、そんなの嫌だよ。でも……」
何も言わずに別れてしまった竜也たちが胸を掠める。
「ごめんなさい。すぐに戻るから……」
来た道を振り返り、小さく頭を下げ菜月は許しを請う。
真墨に、お別れを……。
真墨はサンヨに殺された。
そして、まだ、この森にそのサンヨがいる。
二つの思いが、走る菜月の中で渦巻いていた。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:D-5 都市 1日目 朝
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:メレの支給品(中身は不明) マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[思考]
基本行動方針:仲間を探す
第一行動方針:菜月が心配。後悔。
第二行動方針:ブクラテスを病院へ連れて行く
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考:クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
273
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:55:11
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-5 都市 1日目 朝
[状態]:健康。
[装備]:アクセルラー、スコープショット、
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:真墨の遺体を捜す。
【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:D-5 都市 1日目 朝
[状態]:健康。マジランプの中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを探す
第一行動方針:強い怒りと悲しみ。
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:D-5 都市 1日目 朝
[状態]:健康。少し凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(1個使用済み)数は不明、その他は不明。メレの釵。
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:ブクラテスを病院へ連れて行く
第二行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第三行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:D-5 都市 1日目 朝
[状態]:右腕切断。簡単な応急処置済み。
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機。毒薬。切断された右腕。基本支給品とディパック
[思考]
第一行動方針:竜也とシグナルマンは利用できそうだ。
第二行動方針:首輪探知機とセンの伏せて置く。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
274
:
ボウケンブラックを捜して……
◆MGy4jd.pxY
:2008/09/26(金) 01:56:55
以上です。
矛盾、問題点、指摘、よろしくお願いします。
275
:
名無しの中にも修行あり
:2008/09/26(金) 09:37:45
おのれ、さるさんめ!
申し訳ありません、さるさんに引っかかりました。
続きをどなたかお願いします。
276
:
◆i1BeVxv./w
:2008/10/01(水) 22:19:45
さるさん規制のため、状態表の残りをこちらに投下いたします。
277
:
◆i1BeVxv./w
:2008/10/01(水) 22:20:16
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:I-4海岸 1日目 朝
[状態]:左肩に銃創。応急処置済み。
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式、月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ブレイジェルの遺志を継ぎ、殺し合いを止める?
第一行動方針:ドモンに小津深雪のことを聞く。
第二行動方針:ティターンに対して警戒。
第三行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。
【名前】五の槍サーガイン@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三中(ガインガイン敗北後、サンダールに敗れる前)
[現在地]:I-4海岸 1日目 朝
[状態]:健康。クグツの胸部に凹みと斬撃の痕。
[装備]:巌流剣、ドライガン@忍風戦隊ハリケンジャー、
[道具]:基本支給品一式×3(サーガイン、勇、深雪)、クロノチェンジャー、拳銃(シグザウエル)
[思考]
基本行動方針:ロンの打倒
第一行動方針:首輪を手に入れて、解除方法を模索する。
第二行動方針:しばらく裕作、ヒカルと共に行動。
備考:2時間の制限に気づきました。サーガインの場合、2時間制限中はまともにクグツを操縦できません。
深雪のディパックは解体されました。ヒカルと情報交換を行いました。
278
:
◆i1BeVxv./w
:2008/10/01(水) 22:22:06
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:34話後
[現在地]:I-4海岸 1日目 朝
[状態]:健康。2時間変身不能。
[装備]:ケイタイザー
[道具]:フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー、火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他1品
[思考]
第一行動方針:サーガインの力になる
第二行動方針:ドモンが起きるのを待つ
備考:2時間の制限に気づきました。自分にも適用されることを予想しています。ヒカルと情報交換を行いました。
メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
279
:
◆i1BeVxv./w
:2008/10/01(水) 22:24:29
以上、投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点、感想などがありましたら、宜しくお願いします。
280
:
◆i1BeVxv./w
:2008/10/17(金) 13:43:06
投下終了を残し、さるさん。。。
―――――――――――――――――――――――――――――――
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などあれば、お願いします。
慣れないことはするもんじゃないorz
281
:
仄暗い井戸の底から
◆MGy4jd.pxY
:2008/10/18(土) 12:06:34
『馬鹿ヤロー!』
そんな檄を飛ばされた事がある。まだ小さな子供の頃だった。
俺は古井戸の上に板を渡しただけの粗末な蓋の上を飛び跳ねて遊んでいた。
1,2,3,4……。心の中で数を数えながら、繰り返し繰り返し飛ぶだけの単調な遊び。
俺は厭きもせず一人蓋の上を飛んで遊ぶ。
後一回、もう一回。
後もう一回でやめるつもりだったのに、朽ちた木の蓋はそれを待ってはくれなかった。
乾いた音。
それが足場だった蓋が割れた音だと気付いた時。
転落はすでに始まっていた。
割れた木片と共に、俺の体は吸い込まれるように井戸の底へ落ちて行く。
落ちた底は、深く狭く真っ暗だった。
俺は遥か遠くに見える青い空を見つめながら、井戸の片隅で、怖くて心細くて、ただ誰かが助けてくれるのを待っていた。
助けに来てくれたのは『おまわりさん』
ロープを伸ばし必死に俺を励まし、助けの手を差し延べた。
だけど、怖くてどうしようもなくて。一人では登れない。井戸の底から這い上がれない。
「助けて!ここまで来て助けてよ!!」
泣きじゃくり井戸の中で混乱する俺に、おまわりさんが件の激をとばしたのだ。
あれ以来、俺は暗くて狭い場所が苦手になった。
だが、それと同時にこの体験は、俺が警察官を目指すきっかけとなった出来事でもあった。
地球署に配属となった俺の持論は『この世に解けない謎は無い』
仲間や上司に恵まれ、順調で充実した日々を送っていた。
そう、昨日までは……。
あの日、井戸へ落ちた時のように『転落』は突然やってきた。
それは俺だけにではなく俺の大切な人達にも。
昨日まで、白鳥スワンさんはとても優秀な警察官だった。
そのスワンさんが誤って罪を犯し、その罪を償うために、また罪を重ねようとする。
矛盾した思考。歪んでいく論理。
それは、人一倍強い責任感を持ち、誇り高き警察官として生きてきたスワンさんが、罪の意識から逃れるために作りだした出口の無い迷路。
スワンさんはその出口の無い迷路に足を踏み入れ、理央さんに刃を向けた。
しかしその刃は、理央さんを貫く事無く……。
いや、貫かなくて済んだのは、スワンさんが再び罪を重ねる事を、運命が拒んだのではないだろうか。
そしてそれは、何も出来ずにただ呆然と見ていた俺にとっても唯一の救いだった。
282
:
仄暗い井戸の底から(修正版) ◇MGy4jd.pxY
:2008/10/18(土) 12:07:29
「一体何が起こったというのだ!」
すぐ側にいる理央さんの声がやけに遠く聞こえた。
何が起こったのか解らなかった。
網膜に焼き付いているのは、赤い閃光と、溶けるように消えたスワンさんが見せた虚ろな瞳。
いつもなら、目の前で人が消えた、そのトリックにすぐ思考を巡らせていただろう。
『この世に解けない謎は無い』それが俺の持論だからだ。
状況を整理しようと思い出す。するとスワンさんの虚ろな瞳だけが鮮明に浮かび上がる。
動悸が荒くなり、心拍数が上がる。
その虚ろな瞳を思い浮かべることを体が拒否しているように息苦しくなる。
何故だかとても怖かった。
生気を無くした亡者のような虚ろな瞳は、理性も冷静さもすべて失わせていくように思えた。
思い起こす度に、閉塞感と爪先から滲み上がるような恐怖が、俺を包んだ……。
◆
気が付けば、デカグリーンの変身は解除され、俺は理央さんの横で小さな子供のように膝を抱えて座っていた。
呆然とする俺に比べ、理央さんは冷静だった。
冷静というだけで彼が冷たい人ではないだろうという事は、憐れみを含んだ表情から伺えた。
ただ一点を見つめる理央さん。スワンさんの消えた場所を見つめているその眼には、悼む思いが込められているように思えた。
「スワンは、誰かに消されたのだろうな」
「……ええ、おそらく」
理央さんはただ頷いただけで、それ以上何も話そうとしなかった。
殺された。その言葉を使わないのは俺に対する気配りだろう。
俺は署長やウメコに目の前で起こった事を告げるときのことを思った。
どう伝えればいいのだろう。
どこから?何から?日頃業務としてこなしているはずの手順がまるで浮かばない。
それ以前に伝えようにも通信さえ出来ない。
ここで成すすべのない自分。
加えて、目の前で何も出来ずにいた事実。なんという大失態だったと、自責の念が胸を締め付けた。
他愛もなく、いとも簡単に、痕跡さえ残さず、スワンさんは消去された。
ある意味、本当に始めて実感した『デリート』だったように思う。
「スワンは、俺を狙っていた。スワンを消した者は、俺を守ろうとしたのか?」
安堵と失望。
283
:
仄暗い井戸の底から(修正版) ◇MGy4jd.pxY
:2008/10/18(土) 12:08:12
二つの感情が入り混じった声を理央さんは発した。
答えようのない質問に、俺は同じ質問を重ねて返そうとした。が――
『皆さん―――――』
――ロンの声がそれを遮った。
時計は6時ジャストを指していた。
◆
ブドーは勅命を受けているかのように、背筋を伸ばし正座したまま粛々と定時放送に聞き入っていた。
放送にて呼ばれた名は8名。
「思わぬところで手間が省けた……」
思うままの言葉がつい口から漏れる。
しかし、予想以上の人数。
ブドーは焦燥を覚えすぐさま立ち上がり、センと理央へ向かい歩を進める。
あの二人だけは何としてでも自らの手で屠ってやるのだ。他の誰にもそれだけは邪魔はさせぬ。
歩きながらブドーが思うは、怨敵と認めた二人。
先程の場所から動いていない二人を見付けるのは容易かった。
だが二人の様子は怨敵と称するには無様な様子だった。
ブドーは落胆とも侮蔑ともつかない溜め息を漏らした。
焦燥に駆られ戻ってきてみれば放送の内容に落胆したのか理央は肩を振るわせセンは幼子のように膝を抱えて座り込んでいる。
「腑抜けたか!」
悔やまれるならば、何故這い上がろうとしないのか。
散って行った者の痛みを己の痛みとし、立ち上がろうとしないのか。
その怒りにも似た激情が、再びブドーにライフルを握らせた。
「今のセンは翼を無くした鳥も同然」
一度、怨敵と認めたセン。
他の者に殺されるのであれば……。
◆
「そんな……。ウメコまで……」
さっきの夢。ウメコが言った『さよなら』あれが本当のことだったんだ。
俺は言い表しようのない脱力感に襲われその場に膝を抱えて座り込んだ。
そしてやはり消え去ったスワンさんも、死者として名を連ねていた。
「許せない」
抱え込んだ拳を強く握りしめながら漏れた声は……。その声は自分でも驚くほど枯れていた。
「許せない。そう言って仇をとれば、死んだ者を慰められるとでもいうのか?」
理央さんの言葉にハッと正気に戻る。
仇討ち?自分では気付かなかったが、そんな顔をしていたのだろうか。
284
:
仄暗い井戸の底から(修正版) ◇MGy4jd.pxY
:2008/10/18(土) 12:09:02
俺を見据える理央さんの眼が険しくなる。
「そんなわけ、ないじゃないですか」
仇討ちという名目で殺し合いに乗るつもりはない。
俺は無理して昼行灯の顔を作った。
そして理央さんに向け、と言うよりも自分の中のスワンさんとウメコに向けて言葉を紡いだ。
「スワンさんは、 新装備の開発が自分なりの戦いだ、そう言っていました。
いつも俺たちのために睡眠時間を削って、オイルまみれになりながら、ピットの中で懸命に戦っていた。そんな人だった。
ウメコはね、いつもゲンキに笑ってて、情に脆くて……。でも結構繊細で傷つきやすい。そんな女の子だった」
ウメコの笑顔が浮かんだ。
『センさん』と呼ぶウメコの声が蘇った。
なぁ、ウメコ。ウメコは知らなかっただろうけど……。俺、ウメコが好きだったよ。
俺にとっても、皆にとっても、無くしてはならない大切な笑顔だった。
「俺は思う。なぜ 死ななければならなかったのか。
誰が殺したのか。どうして殺したのか、それを突き止めなきゃならない。
そいつを捜しだして、明るい太陽の下で、ジャッジメントを下してやらなきゃならないんですよ」
だから、俺は立ち上がらなければならないのだ。
そして、突き止めなければならないのだ。
だが、どこを捜せばいいのだろう。
俺はよろよろと起き上がり、ふらつく足を踏みだした。
「……悪いが、俺は一緒には行けぬ。俺はメレを捜さなければならない」
その時、理央さんはただ愛する者を守りたい男の顔をしていた。
「その人が……。あなたの」
大切な人なんですね。
最後の言葉を口にしようとした俺を、理央さんが突き飛ばした。
何が起こったのか解らなかった。
銃声が聞こえたような気がする。
混乱する俺を庇うように、理央さんが俺の肩を掴む。
俺は仰向けに押し倒された。
そして、銃声が響き。
理央さんの胸から赤い血が飛び散った。
ゆっくりと倒れていく理央さんの身体。
野を駆ける獅子のたてがみのような褐色の髪が扇状に目の前を流れ、理央さんは俺の視界から消えた。
その間、俺は仰向けに倒れたまま身動き一つ出来なかった。
俺の目に、突き抜けるような青空が映っている。
でも、何故だろう?
木々の隙間から見える空が、あの日、井戸の底から見た青空と重なって見える。
息苦しさに顔を横に向けると、血の気を失った理央さんの青白い顔が見えた。
あぁ……。解った。
俺は今、あの暗闇の中に……。井戸の底に居るのだ、と。
285
:
仄暗い井戸の底から(修正版) ◇MGy4jd.pxY
:2008/10/18(土) 12:09:46
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-8森 1日目 早朝
[状態]:左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。1時間強変身不能。
[装備]:SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:トラウマに捕らわれ混乱しています。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・スワンの装備は消滅の緋色により消滅しました。基本支給品はB−9のどこかに散らばって置き去りにされています。
炎の騎馬はセンと理央が確認できる距離に置かれています。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 朝
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。
[装備]:自在剣・機刃
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:気絶中
第二行動方針:ナイとメアを探す(どちらかは死んだと思っています)。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:C-8森 1日目 朝
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。肩に銃弾による傷。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー。予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)。支給品一式(ブドー&バンキュリア)。真墨の首輪。
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:他者に殺されるぐらいならば、この場でセンを殺す。
第二行動方針:リオを倒せるほどに強くなる。
第三行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。
286
:
仄暗い井戸の底から(修正版) ◇MGy4jd.pxY
:2008/10/18(土) 12:11:19
誤字その他を修正致しました。よろしくお願い致します。
287
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:35:07
光を背後にしても尚、辺りを白く消し飛ばすほどの閃光と割れんばかりの爆音に真咲美希は立ち止まる。
「派手にやったようね…これで何人か減ってくれるとあり難いんだけど…」
彼女は偵察に出たまま、あの場所に戻らなかった。
その判断は結果的に正しかったことになる。
あのまま、あそこにとどまれば自分達を救出に来た者たちとネジブルーの間で
まず間違いなく行われたであろう戦いに巻き込まれていた可能性が高いからだ。
加えて爆発の余波は強化スーツを持たない自分では回避できない恐れがある。
あの爆発を見る限り、ネジブルーは立派に陽動の役目を果たしてくれたのだろう。
出来れば彼とドロップには死んでいて欲しかった。
自分の諸行を知る者が生きていては後々の禍根になりかねない。
(また…誰か探さなくちゃ……)
美希は新たな生贄を求めて足早に歩を進めた。後ろは振り返らなかった。
▽
早朝の朝は、痛いほど蒼く澄んでいた。
灰色の煙がどこまでも高く、高く上ってゆく―
たなびく煙を追いながら瞬は墓に見立てた、いささか不恰好な岩の前で手を合わせた。
「ごめんな、纏さん…手頃な石がなくて……」
あの戦いの後、蒼太はすぐにでもこの場所を移動すべきだと主張した。
ネジブルーの呼びかけに呼応した者たちが集ってくることは予想の範疇であり、
もし仮に戦場荒らしを目論む輩が出現すれば10分の制限時間を使い切った今の自分達は格好の標的になる、
と言うのが蒼太の意見だった。
数々の戦場を駆けたスパイの彼らしい迅速な判断だった。
しかし、瞬は頑なに反対した。
纏の遺体をそのままにして置くのは忍びなかったからだ。
「…できれば火葬にしたかったけど…煙を立てるわけには行かないから……」
「わかってます。おぼろさんやドロップ君がいるのに、こんな俺の我侭に付き合ってくれただけでも感謝してます、蒼太さん」
瞬は笑顔で隣の蒼太に向き直った。
―無理して表情を作っている。
蒼太は一見して瞬の張り詰めた思いを汲み取ったが、彼に出来るのは共に墓前に手を合わせることだけだった。
「…俺、必ずここへ戻ってきます。このゲームが終わったら必ず…」
「そうだね。ちゃんとしたお墓、作ってあげなきゃね…」
288
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:35:40
「その約束、俺たちも加えさせてもらって良いかな? 二人とも」
声の方に顔を向ければ、長身の怪人―ティターンが神妙な面持ちでそこにたたずんでいる。
その背後には腕の中にドロップを抱えた日向おぼろの姿もある。
「もちろんですよ…あの人が繋いでくれたから俺はこうして皆さんと一緒にいられるんですから」
巽纏。
人を救うことに文字通り命を掛けた男。
だが、瞬は纏について何も知らない自分に今更ながら気づいていた。
共にすごした時間はほんの僅かで。交わした言葉はすれ違ってばかりで。
「カレーパン…美味かったよ…なんでも選り好みせずに食べてみるもんだな…これがあんたの言う気合で乗り切るって奴なのかな?……少し違うか…」
瞬は残された纏のディパックを背に立ち上がる。
状況は何も変わっていない。今にも首が胴から離れるかもしれない極限の空間に彼はいる。
しかし、彼は数時間前の彼とはまるで違っていた。
(行ってくるよ、纏さん。行って、全部終わらせてくる。それまで少し…待っててくれ)
「なんやあの子…始めておうた頃とは別人みたいやなぁ…」
おぼろは朝日を真っ直ぐに浴びる瞬の姿に、自分の知る若者達の姿を重ねていた。
「ドロップゥゥ……」
張り詰めていたのは瞬だけではない。ドロップは少し前からおぼろの腕の中で泥の眠りの最中だ。
無理もない。彼はまだほんの幼子なのだから。
「行こう…F-7エリアでジルフィーザが待っている」
ティターンの呼びかけに全員が力強く頷いた。
289
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:36:14
▽
「あっれれぇぇ〜〜〜??? だぁ〜〜れもいないじゃん!! なんだっつーーんだよ!! 祭りは終わっちまったのかよ!」
拡声器の一件で人が集まるだろうと踏んでこのエリアに足を踏み入れたはいいが、既に爆心地と思しき場所はもぬけの殻。
あわよくば混乱に乗じて他人の至急品を分捕ってやろうと軽い気持ちでやってきたガイにとってこの結果はひどく不満なものだった。
こんなことなら寄り道などせずに当初の予定通りJ−10エリアを目指した方が良かった。
「あ〜〜あぁ〜〜…興ざめだぜぇ…聞くところによればボウケンジャーも一人減ったみてぇだしよ。ちゃんと俺の分は残るんだろうなぁ…高丘の名前はなかったようだけどよぉ―…」
無駄足を踏んだことへの不平不満をつらつらと人目もはばからず吐き出すガイの口調が途切れる。
―ガイは運命の悪戯に深く感謝した。
「――なぁ〜んだ……ちゃあ〜〜んと残ってたじゃん! 俺の分!!」
眼前にはピンクのアクセルスーツを身に纏った一人の女性戦士―ボウケンピンクが立ち尽くしていた。
「あなたは、ガイ! そんな…本当に生きて……!?」
確かにクエスターは自分達の手で倒したはずなのに。
ガイの口角が見る見るうちに上がっていく。方角的に見て、彼女は放送を聞いて禁止エリアから逃れてきたのだろう。しかし、そんなことはガイにとってどうでもいいことだった。
「ハロォ〜〜、ボウケンピンクぅ!! 最初の生贄はお前だよぉぉ〜〜ん♪」
▽
物の弾みとはいえ、厄介な人物と行動を共にせねばならなくなった事にフラビージョは憂鬱な気分に沈んでいた。
「メガブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」
先ほどからずっとあの調子だ。
あれではここに自分がいると吹聴して回っているようなもの。
いや、既に彼はそうして今度の事件を引き起こしたのだ。
「ねぇ? それ、どーーしても叫ばなきゃなんないのぉ?
よくよく見れば、彼もハリケンブルーやボウケンブルーと同じ青を纏う戦士だ。
それだけでも憂鬱なのに、意思の疎通も出来ない相手と行動を共にするのはあまり気乗りがしない。
「ねぇ、あんた自分の今の状況わかってんの?」
既に自分達はリミッターを越えた制限の中。
本来なら、爆心地にとって返して恨みあるボウケンブルーたちを一掃したいところだが、今の彼女は空も飛べなければ忍術も使えない。
それは当然、ネジブルーも同じはずなのだが―…
290
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:36:44
「メメェェェェェェェェガアアアアァァァァァァァァァブゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」
フラビージョの問いかけも聞こえていないのか、ネジブルーは陶酔の境地にあった。
彼は歓喜に打ち震えていた。刃を交えたのはほんの僅かな時間。
だが、それだけで彼には今のメガブルー並樹瞬が手に取れた。
メガブルーはこの戦いで成長している。
かつて“自分を滅ぼしたメガブルー”とは差異があるのだが、彼にとって重要なのはそこではない。
ネジレンジャーは皆、個性の差異はあれど全員がある種の渇きを常に抱えている。
同じ色の裏返しの自分を征し、自らが唯一無二の存在となる。
ネジブルーの場合、障害が大きければ大きいほど、その渇きを満たす瞬間の高揚は一層際立つものとなる。
瞬の成長と比例してネジブルーもまた自らの闘争心を高めていった。
−まるで双子の兄弟が競い合うように。
だが、傍らのフラビージョにしてみればそんなネジブルーの高揚ははた迷惑以外のなにものでもない。
そうだ。彼は先ほどの戦いで考えなしに力を振るい、今や制限の真っ只中。
しかもあつらえた様に二人きりのこの状況。とすればフラビージョがとるべき行動は唯一つ。
支給品の黄金の剣の塚を握る手に力が篭る。この剣の力は先の戦いで実証済みだ。
フラビージョは両手で剣を大きく掲げると、上段の構えから剣を勢いよく振り下ろした―
次の瞬間。閃光が、爆ぜた。
朝日が照らす昼の世界をも白い闇に包む破滅の一撃が地面を、大気を、大きく振るわせた。
古代レムリアの幻獣すら一刀のもとに切り捨てるほどの巨大な衝撃波がネジブルーめがけて放たれる。全くの無防備なネジブルーはそれを避ける暇などない。
「あんたみたいなのと一緒にいるとこっちまで迷惑なんだよねぇ…もう、仲良しはお終い☆
あんたはここであたしに殺されるの! 悪く思わないでよねぇ――……」
291
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:37:20
▽
さくらはすぐに自分とガイの間に時系列の隔たりがあることに気づいた。
ガイはあの時、確かに死んだ。高丘映士ことボウケンシルバーにその身を切り裂かれて―
自分の目の前にいるこのクエスターガイは、過去の時間から連れてこられた存在だ。
恭介やグレイとの邂逅で得た情報からもその仮説は恐らく間違いないだろう。
だが―予期せぬ戦闘で疲弊した自分が、何やら手負いだとは言えガイに単独で勝てるとは思えない。
(ここは逃げるべきでしょうか…)
無駄な戦闘は避ける。
残り時間もあとわずかだ。さくらは早々に戦闘を切り上げる算段を固める。
専用のボウケンアームズ<ハイドロシューター>の引き金を強く引く。
「シューターハリケーン!!」
水を圧縮し、散弾銃のように目標を粉砕する―最も、破壊は期待していない。
その場から逃げ去るだけの目晦ましになれば十分だ。
だが、ガイがとった行動は予想外なものだった。
「うざったいんだよぉ!!」
ガイはやにわにクエイクハンマーを取り出し空気の壁で攻撃を押しつぶす。
―水の攻撃はもう、懲り懲りだった。既にその手の攻撃に有効な防御手段は確保してある。
「そんな…!」
記憶の中のガイはそんな攻撃方法を持ってはいなかったはずだった。
「お前の攻撃なんざ屁でもないぜ、ボウケンピンク。妙な術を使うねーちゃんの方がよっぽど骨があったぜぇ〜〜!!」
こいつは、既に人を殺している。
さくらはガイの立ち振る舞いからその事実を読み取った。この空間で経験をつんだことが過去のガイに力を与えているのだ。
戦慄するさくらを更なる悲劇が襲った。
「!?」
ガイの戦闘意欲の高揚を反映して体内のゴードムエンジンがフル稼働を始める。
途端に呼応するようにアクセルスーツのあちこちから火花が上がり、システムがダウンを始めた。
「そんな…!? 制限時間はまだ…!」
しかし、それは制限時間ではなくゴードムエンジンの干渉によるパラレルエンジンのパワー供給が遮断されているために起こった異常だ。
「おんやぁ〜〜?」
ガイは飛びかかろうとした矢先の出来事に首を捻っている。
「パラレルエンジンは既にネオパラレルエンジンへの換装が行われたはず! それなのに…まさか!?」
―さくらの脳裏にアクセルテクターからサラマンダーの鱗が抜き取られていたことがよぎる。
「いい格好だなぁ〜ボウケンピンク! なんだかしらねぇが…無様だぜぇ、お・ま・え」
スーツが鉛の様に重たい。強化スーツは本来の意義を失い、今はただ自由を縛る拘束具に等しい。
既に立っていることすら出来ず、両膝を地面へついたボウケンピンクにガイは容赦ない足蹴りを加えた。
ボウケンピンクは抵抗することも出来ずに地面へ手足を投げ出し、仰向けに倒れた。
鼻歌交じりにガイはクエイクハンマーを両腕で高々と掲げた。
「これでボウケンピンクもジ・エンドだな! さぁ〜いこうだぜぇ〜〜!!」
何度も、何度もクエイクハンマーを仰向けのボウケンピンク目掛けて振り下ろす。
「うああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
巨大な衝撃が走る度、さくらの絶叫が辺りに轟いた―
装着者の肉体をあらゆる事象から防護する―強化服がこの場合仇となった。
衝撃を緩和することでさくらの身体には骨折も裂傷もない。
代償に、彼女は気絶することも絶命することも出来ないまま嬲りものになった。
限界値を越えた衝撃を吸収しきれず各部がショートし、白煙が上がる。
「そぉ〜ら! もう一発!!」
ガイは一際大きく両腕を天高く振り上げると力任せに槌を振り下ろした。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
光の粒子と共にスーツが弾け飛び、ボウケンピンクは西堀さくらへとその姿を還元する。
苦悶の表情で悶えるさくらはスーツの飛散が衝撃との対消滅となり、致命傷を免れたものの
生身の身体ではどうすることもできない。
(チーフ…すみません……菜月…約束…守れそうもありません……)
―約束。
こんなところで死ぬわけには行かない。自分は大切な約束を守らなければならないのに。
菜月との約束。
チーフとの約束。
しかし――…それ以上に大切な約束があったはず――-―
大事な、大事な、とても大事な約束が―――――…
292
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:37:53
▽
「なにそれ……あんた一体…―何者なのよ……」
戦慄。
仮にも暗黒七本槍の一柱を担う自分には似つかわしくないその感情にフラビージョの精神は支配されていた。
先ほどまでネジブルーだったはずの存在は禍々しい姿へ変貌を遂げていた。
鋭い爪。両肩から突き出した結晶体。
耳まで避けた真っ赤な顎【あぎと】からは鋸の様な牙が覗いている。
「これじゃまるで…まるで……」
恐怖に唇が震えた。一つの言葉が脳裏に浮かぶ。
「怪物じゃない…!」
「おやおや…寒いのかい? 震えているよ?? 無理ないよねぇ…僕は氷をイメージして作られたようだから…でも、安心して…すぐになんにもわかんなくなるよ…なぁぁ〜〜〜んにもね……―」
容姿と異なり、ネジブルーの声は変わっていない。それが余計に不気味だった。
「嘘よ…あたしが見てんのはあんたの無様に飛び散った死体のはずなのに…なのになんで…!?」
既に決着はついているはずなのだ。
ネジブルーは既に10分の制限の中にあるはず。
黄金の剣の一撃は確かにネジブルーの頭を切り裂き、粉砕したはずだ。
そのはず、だったのだ。
「ふぅ〜〜ん…バラバラに飛び散りたいのかぁ…派手好きなんだねぇ……いいよぉ〜…君のお願い聞いてあげる……君は僕を解き放ってくれた人だから」
フラビージョは決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのだ。
ネジレジアを統べる高次のエネルギー生命体ジャビウスⅠ世。
その細胞から天才Dr.ヒネラーによって創造されたのがメガレンジャーの影ネジレンジャーだ。
彼らは一様にヒネラーこと鮫島博士の歪んだ心のままに、その醜い容姿を鎧に包んでいる。
特筆すべきは彼らが装着されるスーツではなく、装着者そのものを強化すると言う理論体系で生み出されている点だ。
このゲームでは確かに参加者の力の発揮に10分と言う制限が設けられてはいる。
しかし、それは固有の武装や変身能力に限ったことだ。
クエスターガイの生来備わったアシュとしての悪魔の身体能力は失われることがなかったのと同様に、ネジブルーもまたその真の姿を晒すことは能力の発揮外の事象として扱われる。
かつての彼らの行動には制限が存在していた。
力の源であるジャビウスとヒネラーの間で密かに行われていた駆け引きの按配により、彼らの戦闘は半ば強制的に引き上げられていてしまっていたのだ。
だが、今はもう違う。
ヒネラーという枷をなくなった彼は檻から放たれた獣そのものだ。
ネジブルー、いやネジビザールは自らを解き放った馬鹿な小娘に向けて満面の笑みを返した。
293
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:38:24
▽
「そろそろおネンネしなちゃいっ☆ ボウケンピンクぅ♪」
小銃グレイブラスターの照準をさくらの頭部に合わせ、ガイは引き金に指を掛ける。
万事休すだった。
傍らに転がったアクセルラーは黒煙を上げている。
恐らく、負荷に耐え切れず損壊してしまったのだろう。―もうボウケンピンクにはなれない。
ガイに生殺与奪を握られ、完膚なきまでに敗北したさくらに残された手段はただ一つしかなかった。
まずは一匹。湧き上がる歓喜の衝動を必死で抑えながらガイは引き金を引く指に力を込める。
「…さないで……く…だ…さい…――…」
消え入るような声に引き金を引く指が止まる。
「あぁん?」
首を傾げるガイの目に信じられない光景が飛び込んできた。
「…殺さ…ないで……ください…お願い…します…――…」
さくらは命乞いをしていた。
「――――!!」
憎むべきネガティブであり、仲間の仇敵であるクエスターに。
「私の完全な負けです…あなたにはもう、逆らいません…どんなことでも言うことを聞きます…ですから…命だけは助けて下さい!」
しばし呆気に取られていたガイは我に返ると、声を荒げた。
「なっ…何、言ってんだてめぇ!!!」
あまりの自体にむしろガイの方が動揺していた。思わず銃を持つ手が激昂に震える。
「お願いします。死にたくはないんです。命以外なら、支給品も食料も全てお渡しします…ですから…どうか! どうか!!…どうか命だけは取らないでください!!…お願いします!!!!」
ボウケンジャーのサブチーフという肩書きをかなぐり捨て、さくらは地面へ這いつくばった。
地面に平伏し、額を土に擦り付けて支給品が納まったディパックを、まるで神への供物が如く恭しく両手で捧げた。
「ふざけんなっ!! プライドないのか、てめぇはッッ!!!!!!」
ガイは嬲られた思いだった。こんな奴にヒョウガは殺されたと言うのか。
少なくとも、彼の宿敵であるアシュの監視者高丘の一族は例え絶命の瞬間でもこんな醜態は晒さない。あの高丘映士ならば間違いなく死を選ぶだろう。
「お願いします! どうか、命だけは――!!」
さくらは必死で叫び続けた。ここで死ぬわけには行かない。
…―こんなありきたりで、地味な死に様を晒すわけにはいかない―…
さくらは組織の命令に絶対服従だ。
それは特殊部隊時代からの刷り込みによるもので、ボウケンジャーとなった今も変わらない。
今の異常な状況下もさくらにとっては“ミッションを忠実に遂行しているだけ”なのだ。
いつの間にか、命令する頭がすげ変わっていることに今のさくらは気づかない。
「舐めろ」
動揺から一転、ガイは抑えた声色で一言だけ呟いた。
その意味するところに考えが至るや、さくらの行動は素早かった。
掲げていたディパックを地面へ下ろすと即座にガイの足元にうずくまり、その足を両手で包むとその端正な顔を近づけていった。
「――――――…」
ガイの足についた泥を舌で懸命に丁寧に舐め取り、上目遣いに瞳を潤ませ必死に訴えかける。
そんなさくらの姿をガイはその黄金の瞳で冷ややかに見つめていた。
ややあって。ガイは徐にグレイブラスターを取り出し、躊躇わずに引き金を―――引いた。
パン。パン。パン。
乾いた音が朝の静寂を劈いて響いた。
弾は全てさくらの傍らに置かれたディパックを貫いていた。硝煙がゆっくりと立ち上っていく。
「失せろ」
ガイは先程と同じ、感情を読ませない低い声で言った。
もう、沢山だった。こんな無様な醜態が見たかったわけじゃない。
「助けて…下さるんですか……?」
さくらはガイの意思を汲み取れず、聞き返した。
「失せろっていってんだよ!! 何度も言わせんじゃねぇっっっ!!!!」
耐え切れず、ガイは地面へ向けて引き金を引く。
制限の中にないことが幸いだった。さくらに言い放った言葉とは裏腹にガイは
アシュの術で空間転移し、その場から逃げるように立ち去った。
最悪の気分だった。ほんの数分の戦いが、ガイの中から戦いへの高揚感を奪い去ってしまっていた。
「…ありがとうございます…ありがとう…ございます……」
見逃して頂いた。命が助かった。
安堵の気持ちとは裏腹にさくらの瞳からは涙が止まらなかった。
―自分が自分でなくなってしまった。
とめどなく流れる涙を流したまま、さくらはその場に仰向けに倒れた。
294
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:38:56
▽
変貌したネジブルー、いやネジビザールがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「どうしたんだい…すぐに終わるさ…君が抵抗しなければねぇ〜〜〜…」
落ち着くんだ。
剣が持つ手が震えるのをフラビージョは必死で堪えた。
相手が幾ら化け物でも今は制限の中。
特異な能力の全ては封殺されている。ゆえに彼が取れる攻撃手段は直接近づいてその鋭利な牙や爪で引き裂くと言う原始的な手段に限定される。
ならば、同じ制限下にあっても武器を持つ自分の方が有利なはず。
無論、身体能力は向こうの方が上だろうが、捕まらなければどうと言うことはない。
柄を握る手に力が篭る。
やれる−。自分はこんなところでは死なない。
「おりゃぁあ!!」
気合を込めたわりにいまいち緊張感のない声はいつもどおりだが、その声は僅かに上ずっていた。
剣の一撃が直にネジビザール型を袈裟懸けに切り裂いた−はずだった。
「え…なんで……??」
刃はネジビザールの身体を滑るように太刀筋が狂う。
「なんで! なんで!?」
二の太刀は首を掠め、三の太刀は胸を掠めた。
「あれれぇぇ? どうしたんだい?? さっきの痛いやつはもうしてこないのかい!?」
フラビージョは知らなかったが、古代レムリアの聖剣ズバーンは人間の想いの力をトリガーに
力を発動する。ゆえに、本来ならば邪な気持ちを抱いた者が扱える代物ではないのだ。
「どうして!! どうして斬れないのよぉぉっっ!!!」
狂乱するフラビージョが必死で剣を振り回せば振り回すほど、剣に埋め込まれたエメラルドグリーンの宝石は輝きを失い、黒ずんでいく。
今まではフラビージョが持つ暗黒七本槍の力で無理やりズバーンの力を歪めて引き出していたに過ぎないのだ。
その残り香ともいうべき力を、先程の一撃で消費したズバーンは既に深く沈黙していた。
「なんでなのよぉ!!!! なんで! なんで! なんで!!なんでぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
最後には癇癪を起こした子供のように剣をネジビザールへ投げつけた。
「くれるのかい? でも…いらないよぉ…こんな鈍ら刀…」
ネジビザールは怪訝な目つきで受け止めたズバーンをみやると、ぽいっと背後へ捨ててしまった。
地面に突き刺さったまま、ズバーンは動かない。
「いや…いや…!…来ないでよぉっっ!!!」
必ず、生き延びてボウケンブルーも、おぼろも、ハリケンジャーもみんな殺す。
楽しそうだから戦いに乗った。
宇宙忍郡ジャカンジャに参加したのも楽しそうだったから。
現に、地球を腐らせるという背徳的な行為にフラビージョは無邪気な喜びを見出していた。
早く、こいつを殺して――また楽しむんだ……人々が、敵が苦しむ姿を――――…
「終わりだよ…君はここで死ぬんだ…さよなら、僕を解き放ってくれた人…」
295
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:39:29
▽
混濁の意識が急速に光を取り戻していく。
その先にあったのは柔らかな女性の笑顔だった。
「あなたは…?」
まだ、かすかにけだるさの残る口調でさくらは目の前の女性に問いかけた。
「私は真咲美希。スクラッチ日本支社の責任者よ。でもって獣拳使い…今は引退してお母さんしてるけどね」
そういって微笑んだ顔は、今のさくらが失ってしまった最高の笑顔だった。
「真咲美希…人質にされていたんじゃ…?」
「えぇ…わたしはネジブルーってやつに人質にされて、そこから逃げてきたの。さっきの爆発聞いたでしょ? 間一髪だったわ。そうしたら、こんなところに人が倒れていたから。驚いたわ」
さくらは消え入りたいような恥ずかしさを感じた。
本来なら、自分が彼女を救うはずであったのに。これでは逆ではないか。
「お水、飲む? 喉渇いたでしょ」
そういって、自らのディパックを漁る美希をさくらはあわてて押し留めた。
「待ってください! 助けていただいたのに、貴重な水まで譲っていただくわけには!」
「でも…あなたのは…」
そういって美希が指し示した先を視線の先には、銃創が走る無残なさくらのディパックが転がっていた。
「何があったか知らないけど、あなたの支給品はもう駄目ね。悪いとは思ったけど、調べさせてもらったわ」
そう言って、美希はさくらのアクセルラーを取り出した。
「これもあなたのでしょ? もう、壊れてしまっているようだけど…」
さくらは美希を知らなかったが、美希はさくらを知っていた。
世界に名だたる西堀財閥の令嬢にして、元自衛隊特殊部隊の射撃オリンピック候補。
そして、ボウケンジャーのサブチーフ。
同じキャリアウーマンとして美希には、さくらに通ずるものがあったのは確かだ。
しかし、先程の無様な醜態は彼女を深く失望させた。
ボウケンジャーやゲキレンジャーの面々から伝え聞いていたさくらの印象とは180度異なる醜聞。
今の自分は決して正しい白の中にいるとは言えないが、彼女の様に自分の命惜しさにやっていることではない。
娘を、なつめを守る。その為にこそ生き残る。
美希の行動は全てそこに集約されている。
――あなたはいつだって、明石暁のお荷物よ…西堀さくら――
あの時も、彼女は宇宙拳法使いパチャカマック12世に憑依され、結果的にではあるが地球を危機に追い込んだ。
そして、今もまたガイに敗れ、あろうことか命乞いをして生き延びた−
「あなた…SGSの人でしょ? だったら明石暁の関係者よね?」
「…はい。私達はプレシャス保護を目的として創設されたチームなんです……」
美希から渡されたアクセルラーを受け取り、さくらは応えた。
「そう…心配よね、彼……」
「はい……」
美希がさくらを助けたのは幾つか理由があった。
一つは、彼女がロンにとって最大の障壁であろう明石暁の関係者であったこと。
そして、さくらこそ美希が捜し求めていた愚者であろう確信を持ったからだ。
−惨めで最高に無様な死に様をあなたに−
「大丈夫。私がついてるわ…一緒に行動しましょう? 丁度、人からはぐれて心細かったの。
あなたが一緒なら心強いわ」
美希は心底の思いをおくびにも出さず、笑顔でさくらに同行を申し出た。
<SIGN>
青かったはずの身体は鮮血に染まっていた。
かつてフラビージョであった肉片がそこら中に散らばっている。
最早、原形をとどめないその死肉を貪りながらネジビザールは自らを照らす日差しに手をかざした。
「美味しい、美味しい朝ごはんご馳走様。とてもお腹一杯だよ…爽やかな朝だねぇ…―」
一つの死が一つの命を成長させ、新たな悲劇を巻き起こしていく−…
惨劇の果てに何が待つかは、誰も知らない。
296
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:40:01
【フラビージョ 死亡】
残り32人
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:良好。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲火傷、応急処置済。2時間メガブルーに変身できません。
[装備]:デジタイザー。
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)纏のデイバック
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って夢を叶える前にこのゲームを終わらせる。
第一行動方針:纏の死に深い悲しみと強い決意。確実に成長。ジルフィーザと合流。
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
変身制限があることを知りました。
297
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:40:33
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲。火傷。2時間能力発揮できません。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:ジルフィーザと合流する。
第二行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。
:纏からタイムレンジャー、サイマの情報を得ました。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:銃弾によりかなり破損しています。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:健康。熟睡中。
[装備]:不明
[道具]:メメの鏡の破片、
[思考]
第一行動方針:不明
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に打撲、傷有り。2時間能力発揮出来ません。ネジビザールの本性を現しました。
[装備]:ネジトマホーク
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー(マシンハスキーの鍵は美希が持っています)
[道具]:支給品一式×2、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器。
[思考]
第一行動方針:メガブルーを殺す。 邪魔なヤツも殺す。一人殺しました。
※ズバーンとフラビージョの支給品はF-5都市に放置しています。
298
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/25(土) 11:41:26
【クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:G−6都市 1日目 早朝
[状態]:全身に裂傷。かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。
気分は最悪。興を削がれています。二時間の制限中。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式(ペットボトル1/2本消費)、 天空の花@魔法戦隊マジレンジャー
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵、麗の支給品一式
魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る
第一行動方針:使えそうな道具を作る。
第二行動方針:アイテムの確保。天空の花を持って、J−10エリア『叫びの塔』へ
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。一人殺しました。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G−6都市 1日目 朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)、スコープショット
[道具]:なし。一切を失いました。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。
第二行動方針:美希と行動を共にする。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:G−6都市 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー(鍵のみ、タワーの損壊で壊れている可能性があります。ネジブルーの物とすり替えました)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る 。
第一行動方針:利用できる者は利用する、そうでない者は殺す。
第二行動方針:上記の遂行のために西堀さくらを利用する。
お待たせしました。
いつもすみませんが、本スレへの投下をお願いします…
299
:
名無しの中にも修行あり
:2008/10/25(土) 22:41:13
携帯なので、代理投下出来なくて申し訳ないのですが、投下乙でした。
正式な感想は本スレで、と思いますが、
それぞれの感情の機敏の描写がとても良かったです。GJ!
300
:
名無しの中にも修行あり
:2008/10/25(土) 23:41:42
今日から明日にかけて外出しており代理投下出来ずに申し訳ありません。
早めに帰れれば代理投下させてもらいます。
感想はその時に。
301
:
名無しの中にも修行あり
:2008/10/26(日) 12:26:43
代理投下状態表を残しさるさん規制。無念。
302
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:42:36
▽
早朝の朝は、痛いほど蒼く澄んでいた。
灰色の煙がどこまでも高く、高く上ってゆく―
たなびく煙を追いながら瞬は墓に見立てた、いささか不恰好な岩の前で手を合わせた。
「ごめんな、纏さん…手頃な石がなくて……」
あの戦いの後、蒼太はすぐにでもこの場所を移動すべきだと主張した。
ネジブルーの呼びかけに呼応した者たちが集ってくることは予想の範疇であり、
もし仮に戦場荒らしを目論む輩が出現すれば10分の制限時間を使い切った今の自分達は格好の標的になる、と言うのが蒼太の意見だった。
数々の戦場を駆けたスパイの彼らしい迅速な判断だった。
しかし、瞬は頑なに反対した。
纏の遺体をそのままにして置くのは忍びなかったからだ。
「…できれば火葬にしたかったけど…煙を立てるわけには行かないから……」
「わかってます。おぼろさんやドロップ君がいるのに、こんな俺の我侭に付き合ってくれただけでも感謝してます、蒼太さん」
瞬は笑顔で隣の蒼太に向き直った。
―無理して表情を作っている。
蒼太は一見して瞬の張り詰めた思いを汲み取ったが、彼に出来るのは共に墓前に手を合わせることだけだった。
「…俺、必ずここへ戻ってきます。このゲームが終わったら必ず…」
「そうだね。ちゃんとしたお墓、作ってあげなきゃね…」
「その約束、俺たちも加えさせてもらって良いかな? 二人とも」
声の方に顔を向ければ、長身の怪人―ティターンが神妙な面持ちでそこにたたずんでいる。
その背後には日向おぼろと腕の中にドロップを抱えた真咲美希の姿もある。
「もちろんですよ…あの人が繋いでくれたから俺はこうして皆さんと一緒にいられるんですから」
巽纏。
人を救うことに文字通り命を掛けた男。
だが、瞬は纏について何も知らない自分に今更ながら気づいていた。
共にすごした時間はほんの僅かで。交わした言葉はすれ違ってばかりで。
「カレーパン…美味かったよ…なんでも選り好みせずに食べてみるもんだな…これがあんたの言う気合で乗り切るって奴なのかな?……少し違うか…」
瞬は残された纏のディパックを背に立ち上がる。
状況は何も変わっていない。今にも首が胴から離れるかもしれない極限の空間に彼はいる。
しかし、彼は数時間前の彼とはまるで違っていた。
(行ってくるよ、纏さん。行って、全部終わらせてくる。それまで少し…待っててくれ)
「なんやあの子…始めておうた頃とは別人みたいやなぁ…」
おぼろは朝日を真っ直ぐに浴びる瞬の姿に、自分の知る若者達の姿を重ねていた。
「ドロップゥゥ……」
張り詰めていたのは瞬だけではない。ドロップは少し前から美希の腕の中で泥の眠りの最中だ。
無理もない。彼はまだほんの幼子なのだから。
303
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:43:10
「行こう…F-7エリアでジルフィーザが待っている」
ティターンの呼びかけに全員が力強く頷いた。
▽
「あっれれぇぇ〜〜〜??? だぁ〜〜れもいないじゃん!! なんだっつーーんだよ!! 祭りは終わっちまったのかよ!」
拡声器の一件で人が集まるだろうと踏んでこのエリアに足を踏み入れたはいいが、既に爆心地と思しき場所はもぬけの殻。
あわよくば混乱に乗じて他人の至急品を分捕ってやろうと軽い気持ちでやってきたガイにとってこの結果はひどく不満なものだった。
こんなことなら寄り道などせずに当初の予定通りJ−10エリアを目指した方が良かった。
「あ〜〜あぁ〜〜…興ざめだぜぇ…聞くところによればボウケンジャーも一人減ったみてぇだしよ。ちゃんと俺の分は残るんだろうなぁ…高丘の名前はなかったようだけどよぉ―…」
無駄足を踏んだことへの不平不満をつらつらと人目もはばからず吐き出すガイの口調が途切れる。
―ガイは運命の悪戯に深く感謝した。
「――なぁ〜んだ……ちゃあ〜〜んと残ってたじゃん! 俺の分!!」
眼前にはピンクのアクセルスーツを身に纏った一人の女性戦士―ボウケンピンクが立ち尽くしていた。
「あなたは、ガイ! そんな…本当に生きて……!?」
確かにクエスターは自分達の手で倒したはずなのに。
ガイの口角が見る見るうちに上がっていく。方角的に見て、彼女は放送を聞いて禁止エリアから逃れてきたのだろう。しかし、そんなことはガイにとってどうでもいいことだった。
「ハロォ〜〜、ボウケンピンクぅ!! 最初の生贄はお前だよぉぉ〜〜ん♪」
304
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:43:56
▽
物の弾みとはいえ、厄介な人物と行動を共にせねばならなくなった事にフラビージョは憂鬱な気分に沈んでいた。
「メガブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」
先ほどからずっとあの調子だ。
あれではここに自分がいると吹聴して回っているようなもの。
いや、既に彼はそうして今度の事件を引き起こしたのだ。
「ねぇ? それ、どーーしても叫ばなきゃなんないのぉ?
よくよく見れば、彼もハリケンブルーやボウケンブルーと同じ青を纏う戦士だ。
それだけでも憂鬱なのに、意思の疎通も出来ない相手と行動を共にするのはあまり気乗りがしない。
「ねぇ、あんた自分の今の状況わかってんの?」
既に自分達はリミッターを越えた制限の中。
本来なら、爆心地にとって返して恨みあるボウケンブルーたちを一掃したいところだが、今の彼女は空も飛べなければ忍術も使えない。
それは当然、ネジブルーも同じはずなのだが―…
「メメェェェェェェェェガアアアアァァァァァァァァァブゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
ウウウウウウウウウウゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」
フラビージョの問いかけも聞こえていないのか、ネジブルーは陶酔の境地にあった。
彼は歓喜に打ち震えていた。刃を交えたのはほんの僅かな時間。
だが、それだけで彼には今のメガブルー並樹瞬が手に取れた。
メガブルーはこの戦いで成長している。
かつて“自分を滅ぼしたメガブルー”とは差異があるのだが、彼にとって重要なのはそこではない。
ネジレンジャーは皆、個性の差異はあれど全員がある種の渇きを常に抱えている。
同じ色の裏返しの自分を征し、自らが唯一無二の存在となる。
ネジブルーの場合、障害が大きければ大きいほど、その渇きを満たす瞬間の高揚は一層際立つものとなる。
瞬の成長と比例してネジブルーもまた自らの闘争心を高めていった。
−まるで双子の兄弟が競い合うように。
だが、傍らのフラビージョにしてみればそんなネジブルーの高揚ははた迷惑以外のなにものでもない。
そうだ。彼は先ほどの戦いで考えなしに力を振るい、今や制限の真っ只中。
しかもあつらえた様に二人きりのこの状況。とすればフラビージョがとるべき行動は唯一つ。
支給品の黄金の剣の塚を握る手に力が篭る。この剣の力は先の戦いで実証済みだ。
フラビージョは両手で剣を大きく掲げると、上段の構えから剣を勢いよく振り下ろした―
次の瞬間。閃光が、爆ぜた。
朝日が照らす昼の世界をも白い闇に包む破滅の一撃が地面を、大気を、大きく振るわせた。
古代レムリアの幻獣すら一刀のもとに切り捨てるほどの巨大な衝撃波がネジブルーめがけて放たれる。全くの無防備なネジブルーはそれを避ける暇などない。
「あんたみたいなのと一緒にいるとこっちまで迷惑なんだよねぇ…もう、仲良しはお終い☆
あんたはここであたしに殺されるの! 悪く思わないでよねぇ――……」
305
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:44:29
▽
さくらはすぐに自分とガイの間に時系列の隔たりがあることに気づいた。
ガイはあの時、確かに死んだ。高丘映士ことボウケンシルバーにその身を切り裂かれて―
自分の目の前にいるこのクエスターガイは、過去の時間から連れてこられた存在だ。
恭介やグレイとの邂逅で得た情報からもその仮説は恐らく間違いないだろう。
だが―予期せぬ戦闘で疲弊した自分が、何やら手負いだとは言えガイに単独で勝てるとは思えない。
(ここは逃げるべきでしょうか…)
無駄な戦闘は避ける。
残り時間もあとわずかだ。さくらは早々に戦闘を切り上げる算段を固める。
専用のボウケンアームズ<ハイドロシューター>の引き金を強く引く。
「シューターハリケーン!!」
水を圧縮し、散弾銃のように目標を粉砕する―最も、破壊は期待していない。
その場から逃げ去るだけの目晦ましになれば十分だ。
だが、ガイがとった行動は予想外なものだった。
「うざったいんだよぉ!!」
ガイはやにわにクエイクハンマーを取り出し空気の壁で攻撃を押しつぶす。
―水の攻撃はもう、懲り懲りだった。既にその手の攻撃に有効な防御手段は確保してある。
「そんな…!」
記憶の中のガイはそんな攻撃方法を持ってはいなかったはずだった。
「お前の攻撃なんざ屁でもないぜ、ボウケンピンク。妙な術を使うねーちゃんの方がよっぽど骨があったぜぇ〜〜!!」
こいつは、既に人を殺している。
さくらはガイの立ち振る舞いからその事実を読み取った。この空間で経験をつんだことが過去のガイに力を与えているのだ。
戦慄するさくらを更なる悲劇が襲った。
「!?」
ガイの戦闘意欲の高揚を反映して体内のゴードムエンジンがフル稼働を始める。
途端に呼応するようにアクセルスーツのあちこちから火花が上がり、システムがダウンを始めた。
「そんな…!? 制限時間はまだ…!」
しかし、それは制限時間ではなくゴードムエンジンの干渉によるパラレルエンジンのパワー供給が遮断されているために起こった異常だ。
「おんやぁ〜〜?」
ガイは飛びかかろうとした矢先の出来事に首を捻っている。
「パラレルエンジンは既にネオパラレルエンジンへの換装が行われたはず! それなのに…まさか!?」
―さくらの脳裏にアクセルテクターからサラマンダーの鱗が抜き取られていたことがよぎる。
「いい格好だなぁ〜ボウケンピンク! なんだかしらねぇが…無様だぜぇ、お・ま・え」
スーツが鉛の様に重たい。強化スーツは本来の意義を失い、今はただ自由を縛る拘束具に等しい。
既に立っていることすら出来ず、両膝を地面へついたボウケンピンクにガイは容赦ない足蹴りを加えた。
ボウケンピンクは抵抗することも出来ずに地面へ手足を投げ出し、仰向けに倒れた。
鼻歌交じりにガイはクエイクハンマーを両腕で高々と掲げた。
「これでボウケンピンクもジ・エンドだな! さぁ〜いこうだぜぇ〜〜!!」
何度も、何度もクエイクハンマーを仰向けのボウケンピンク目掛けて振り下ろす。
「うああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
巨大な衝撃が走る度、さくらの絶叫が辺りに轟いた―
装着者の肉体をあらゆる事象から防護する―強化服がこの場合仇となった。
衝撃を緩和することでさくらの身体には骨折も裂傷もない。
代償に、彼女は気絶することも絶命することも出来ないまま嬲りものになった。
限界値を越えた衝撃を吸収しきれず各部がショートし、白煙が上がる。
「そぉ〜ら! もう一発!!」
ガイは一際大きく両腕を天高く振り上げると力任せに槌を振り下ろした。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
光の粒子と共にスーツが弾け飛び、ボウケンピンクは西堀さくらへとその姿を還元する。
苦悶の表情で悶えるさくらはスーツの飛散が衝撃との対消滅となり、致命傷を免れたものの
生身の身体ではどうすることもできない。
(チーフ…すみません……菜月…約束…守れそうもありません……)
―約束。
こんなところで死ぬわけには行かない。自分は大切な約束を守らなければならないのに。
菜月との約束。
チーフとの約束。
しかし――…それ以上に大切な約束があったはず――-―
大事な、大事な、とても大事な約束が―――――…
306
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:45:04
▽
「なにそれ……あんた一体…―何者なのよ……」
戦慄。
仮にも暗黒七本槍の一柱を担う自分には似つかわしくないその感情にフラビージョの精神は支配されていた。
先ほどまでネジブルーだったはずの存在は禍々しい姿へ変貌を遂げていた。
鋭い爪。両肩から突き出した結晶体。
耳まで避けた真っ赤な顎【あぎと】からは鋸の様な牙が覗いている。
「これじゃまるで…まるで……」
恐怖に唇が震えた。一つの言葉が脳裏に浮かぶ。
「怪物じゃない…!」
「おやおや…寒いのかい? 震えているよ?? 無理ないよねぇ…僕は氷をイメージして作られたようだから…でも、安心して…
すぐになんにもわかんなくなるよ…なぁぁ〜〜〜んにもね……―」
容姿と異なり、ネジブルーの声は変わっていない。それが余計に不気味だった。
「嘘よ…あたしが見てんのはあんたの無様に飛び散った死体のはずなのに…なのになんで…!?」
既に決着はついているはずなのだ。
ネジブルーは既に10分の制限の中にあるはず。
黄金の剣の一撃は確かにネジブルーの頭を切り裂き、粉砕したはずだ。
そのはず、だったのだ。
「ふぅ〜〜ん…バラバラに飛び散りたいのかぁ…派手好きなんだねぇ……いいよぉ〜…君のお願い聞いてあげる……君は僕を解き放ってくれた人だから」
フラビージョは決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのだ。
ネジレジアを統べる高次のエネルギー生命体ジャビウスⅠ世。
その細胞から天才Dr.ヒネラーによって創造されたのがメガレンジャーの影ネジレンジャーだ。
彼らは一様にヒネラーこと鮫島博士の歪んだ心のままに、その醜い容姿を鎧に包んでいる。
特筆すべきは彼らが装着されるスーツではなく、装着者そのものを強化すると言う理論体系で生み出されている点だ。
このゲームでは確かに参加者の力の発揮に10分と言う制限が設けられてはいる。
しかし、それは固有の武装や変身能力に限ったことだ。
クエスターガイの生来備わったアシュとしての悪魔の身体能力は失われることがなかったのと同様に、ネジブルーもまたその真の姿を晒すことは能力の発揮外の事象として扱われる。
かつての彼らの行動には制限が存在していた。
力の源であるジャビウスとヒネラーの間で密かに行われていた駆け引きの按配により、彼らの戦闘は半ば強制的に引き上げられていてしまっていたのだ。
だが、今はもう違う。
ヒネラーという枷をなくなった彼は檻から放たれた獣そのものだ。
ネジブルー、いやネジビザールは自らを解き放った馬鹿な小娘に向けて満面の笑みを返した。
▽
307
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:45:42
「そろそろおネンネしなちゃいっ☆ ボウケンピンクぅ♪」
小銃グレイブラスターの照準をさくらの頭部に合わせ、ガイは引き金に指を掛ける。
万事休すだった。
傍らに転がったアクセルラーは黒煙を上げている。
恐らく、負荷に耐え切れず損壊してしまったのだろう。―もうボウケンピンクにはなれない。
ガイに生殺与奪を握られ、完膚なきまでに敗北したさくらに残された手段はただ一つしかなかった。
まずは一匹。湧き上がる歓喜の衝動を必死で抑えながらガイは引き金を引く指に力を込める。
「…さないで……く…だ…さい…――…」
消え入るような声に引き金を引く指が止まる。
「あぁん?」
首を傾げるガイの目に信じられない光景が飛び込んできた。
「…殺さ…ないで……ください…お願い…します…――…」
さくらは命乞いをしていた。
「――――!!」
憎むべきネガティブであり、仲間の仇敵であるクエスターに。
「私の完全な負けです…あなたにはもう、逆らいません…どんなことでも言うことを聞きます…ですから…命だけは助けて下さい!」
しばし呆気に取られていたガイは我に返ると、声を荒げた。
「なっ…何、言ってんだてめぇ!!!」
あまりの自体にむしろガイの方が動揺していた。思わず銃を持つ手が激昂に震える。
「お願いします。死にたくはないんです。命以外なら、支給品も食料も全てお渡しします…ですから…どうか! どうか!!…どうか命だけは取らないでください!!…お願いします!!!!」
ボウケンジャーのサブチーフという肩書きをかなぐり捨て、さくらは地面へ這いつくばった。
地面に平伏し、額を土に擦り付けて支給品が納まったディパックを、まるで神への供物が如く恭しく両手で捧げた。
「ふざけんなっ!! プライドないのか、てめぇはッッ!!!!!!」
ガイは嬲られた思いだった。こんな奴にヒョウガは殺されたと言うのか。
少なくとも、彼の宿敵であるアシュの監視者高丘の一族は例え絶命の瞬間でもこんな醜態は晒さない。あの高丘映士ならば間違いなく死を選ぶだろう。
「お願いします! どうか、命だけは――!!」
さくらは必死で叫び続けた。ここで死ぬわけには行かない。
…―こんなありきたりで、地味な死に様を晒すわけにはいかない―…
さくらは組織の命令に絶対服従だ。
それは特殊部隊時代からの刷り込みによるもので、ボウケンジャーとなった今も変わらない。
今の異常な状況下もさくらにとっては“ミッションを忠実に遂行しているだけ”なのだ。
いつの間にか、命令する頭がすげ変わっていることに今のさくらは気づかない。
「舐めろ」
動揺から一転、ガイは抑えた声色で一言だけ呟いた。
その意味するところに考えが至るや、さくらの行動は素早かった。
掲げていたディパックを地面へ下ろすと即座にガイの足元にうずくまり、その足を両手で包むとその端正な顔を近づけていった。
「――――――…」
ガイの足についた泥を舌で懸命に丁寧に舐め取り、上目遣いに瞳を潤ませ必死に訴えかける。
そんなさくらの姿をガイはその黄金の瞳で冷ややかに見つめていた。
ややあって。ガイは徐にグレイブラスターを取り出し、躊躇わずに引き金を―――引いた。
パン。パン。パン。
乾いた音が朝の静寂を劈いて響いた。
弾は全てさくらの傍らに置かれたディパックを貫いていた。硝煙がゆっくりと立ち上っていく。
「失せろ」
ガイは先程と同じ、感情を読ませない低い声で言った。
もう、沢山だった。こんな無様な醜態が見たかったわけじゃない。
「助けて…下さるんですか……?」
さくらはガイの意思を汲み取れず、聞き返した。
「失せろっていってんだよ!! 何度も言わせんじゃねぇっっっ!!!!」
耐え切れず、ガイは地面へ向けて引き金を引く。
制限の中にないことが幸いだった。さくらに言い放った言葉とは裏腹にガイは
アシュの術で空間転移し、その場から逃げるように立ち去った。
最悪の気分だった。ほんの数分の戦いが、ガイの中から戦いへの高揚感を奪い去ってしまっていた。
「…ありがとうございます…ありがとう…ございます……」
見逃して頂いた。命が助かった。
安堵の気持ちとは裏腹にさくらの瞳からは涙が止まらなかった。
―自分が自分でなくなってしまった。
とめどなく流れる涙を流したまま、さくらはその場に仰向けに倒れた。
308
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:46:20
▽
変貌したネジブルー、いやネジビザールがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「どうしたんだい…すぐに終わるさ…君が抵抗しなければねぇ〜〜〜…」
落ち着くんだ。
剣が持つ手が震えるのをフラビージョは必死で堪えた。
相手が幾ら化け物でも今は制限の中。
特異な能力の全ては封殺されている。ゆえに彼が取れる攻撃手段は直接近づいてその鋭利な牙や爪で引き裂くと言う原始的な手段に限定される。
ならば、同じ制限下にあっても武器を持つ自分の方が有利なはず。
無論、身体能力は向こうの方が上だろうが、捕まらなければどうと言うことはない。
柄を握る手に力が篭る。
やれる−。自分はこんなところでは死なない。
「おりゃぁあ!!」
気合を込めたわりにいまいち緊張感のない声はいつもどおりだが、その声は僅かに上ずっていた。
剣の一撃が直にネジビザール型を袈裟懸けに切り裂いた−はずだった。
「え…なんで……??」
刃はネジビザールの身体を滑るように太刀筋が狂う。
「なんで! なんで!?」
二の太刀は首を掠め、三の太刀は胸を掠めた。
「あれれぇぇ? どうしたんだい?? さっきの痛いやつはもうしてこないのかい!?」
フラビージョは知らなかったが、古代レムリアの聖剣ズバーンは人間の想いの力をトリガーに
力を発動する。ゆえに、本来ならば邪な気持ちを抱いた者が扱える代物ではないのだ。
「どうして!! どうして斬れないのよぉぉっっ!!!」
狂乱するフラビージョが必死で剣を振り回せば振り回すほど、剣に埋め込まれたエメラルドグリーンの宝石は輝きを失い、黒ずんでいく。
今まではフラビージョが持つ暗黒七本槍の力で無理やりズバーンの力を歪めて引き出していたに過ぎないのだ。
その残り香ともいうべき力を、先程の一撃で消費したズバーンは既に深く沈黙していた。
「なんでなのよぉ!!!! なんで! なんで! なんで!!なんでぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
最後には癇癪を起こした子供のように剣をネジビザールへ投げつけた。
「くれるのかい? でも…いらないよぉ…こんな鈍ら刀…」
ネジビザールは怪訝な目つきで受け止めたズバーンをみやると、ぽいっと背後へ捨ててしまった。
地面に突き刺さったまま、ズバーンは動かない。
「いや…いや…!…来ないでよぉっっ!!!」
必ず、生き延びてボウケンブルーも、おぼろも、ハリケンジャーもみんな殺す。
楽しそうだから戦いに乗った。
宇宙忍郡ジャカンジャに参加したのも楽しそうだったから。
現に、地球を腐らせるという背徳的な行為にフラビージョは無邪気な喜びを見出していた。
早く、こいつを殺して――また楽しむんだ……人々が、敵が苦しむ姿を――――…
「終わりだよ…君はここで死ぬんだ…さよなら、僕を解き放ってくれた人…」
309
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:46:56
▽
――なかなか、面白い見世物でしたよ…まさか、命乞いとは思い切ったものですね――
――あの時はアレが最良の手段でした…――
――そうですね…私は最良の手段をとりなさいといっただけで、土下座しろなんて一言も言ってませんから…だからアレはあくまであなたの意思で行われたんです――
――私の…意思……――
――そうですよ…全部、あなたの意思です。私はきっかけを囁いただけ…グレイを襲ったのも、ガイに命乞いをしたのも全てあなたの考えです――
――そんなの…嘘…! 嘘です!!――
――嘘ではありませんよ。それはあなたが一番わかっているはずです――
――わたしは…わたしは…!!――
――世界に名だたる西堀財閥の令嬢にして、元自衛隊特殊部隊の射撃オリンピック候補。
そして、ボウケンジャーのサブチーフ。そんな華々しい肩書きと仲間の信頼を全て捨て去って、裏切ってあなたは生きているんです――
――いや…! そんなの…そんなの…嘘……――
――あなたはいつだって、明石暁のお荷物なんです…いえ、明石暁だけじゃない…あなたはみんなの癌なんですよ、西堀さくら――
――わたしが、チーフのお荷物…みんなの…癌…――
――さぁ、もう一度あなたの“目的”を口に出しなさい――
――――ゲームの円滑な進行及びその過熱に拍車をかけるために、
なるべく無様で、無残で、惨めな姿を晒し続けて、死ぬことです……
わたしの命を持って速やかな運営を目指すことが今回の至上ミッションです……―――――
<SIGN>
青かったはずの身体は鮮血に染まっていた。
かつてフラビージョであった肉片がそこら中に散らばっている。
幼い子供が時折見せる残虐性−
蝶を切り刻むのを楽しむが如く、無邪気に微笑むネジブルー…いや、ネジビザールの姿があった。
一つの死が一つの命を成長させ、新たな悲劇を巻き起こしていく−…
惨劇の果てに何が待つかは、誰も知らない。
【フラビージョ 死亡】
残り32人
310
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:47:41
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:良好。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲火傷、応急処置済。2時間メガブルーに変身できません。
[装備]:デジタイザー。
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)纏のデイバック
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って夢を叶える前にこのゲームを終わらせる。
第一行動方針:纏の死に深い悲しみと強い決意。確実に成長。ジルフィーザと合流。
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
変身制限があることを知りました。
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲。火傷。2時間能力発揮できません。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:ジルフィーザと合流する。
第二行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。
:纏からタイムレンジャー、サイマの情報を得ました。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:銃弾によりかなり破損しています。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。
名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー(鍵のみ、タワーの損壊で壊れている可能性があります。ネジブルーの物とすり替えました)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る 。
第一行動方針:利用できる者は利用する、そうでない者は殺す。
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:健康。熟睡中。
[装備]:不明
[道具]:メメの鏡の破片、
[思考]
第一行動方針:不明
311
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/26(日) 20:49:24
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に打撲、傷有り。2時間能力発揮出来ません。ネジビザールの本性を現しました。
[装備]:ネジトマホーク
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー(マシンハスキーの鍵は美希が持っています)
[道具]:支給品一式×2、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器。
[思考]
第一行動方針:メガブルーを殺す。 邪魔なヤツも殺す。一人殺しました。
※ズバーンとフラビージョの支給品はF-5都市に放置しています。
【クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:G−6都市 1日目 早朝
[状態]:全身に裂傷。かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。
気分は最悪。興を削がれています。二時間の制限中。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式(ペットボトル1/2本消費)、 天空の花@魔法戦隊マジレンジャー
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵、麗の支給品一式
魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る
第一行動方針:使えそうな道具を作る。
第二行動方針:アイテムの確保。天空の花を持って、J−10エリア『叫びの塔』へ
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。一人殺しました。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G−6都市 1日目 朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)、スコープショット
[道具]:なし。一切を失いました。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。
第二行動方針:夢の啓示で今の自分を再確認。裏方針が表に。(ロンの存在については気づいていません)
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
312
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/29(水) 23:54:15
修正版を投下します。
▽
早朝の朝は、痛いほど蒼く澄んでいた。
灰色の煙がどこまでも高く、高く上ってゆく―
たなびく煙を追いながら瞬は墓に見立てた、いささか不恰好な岩の前で手を合わせた。
「ごめんな、纏さん…手頃な石がなくて……」
あの戦いの後、蒼太はすぐにでもこの場所を移動すべきだと主張した。
ネジブルーの呼びかけに呼応した者たちが集ってくることは予想の範疇であり、
もし仮に戦場荒らしを目論む輩が出現すれば10分の制限時間を使い切った今の自分達は格好の標的になる、と言うのが蒼太の意見だった。
数々の戦場を駆けたスパイの彼らしい迅速な判断だった。
しかし、瞬は頑なに反対した。
纏の遺体をそのままにして置くのは忍びなかったからだ。
「…できれば火葬にしたかったけど…煙を立てるわけには行かないから……」
「わかってます。おぼろさんやドロップ君がいるのに、こんな俺の我侭に付き合ってくれただけでも感謝してます、蒼太さん」
瞬は笑顔で隣の蒼太に向き直った。
―無理して表情を作っている。
蒼太は一見して瞬の張り詰めた思いを汲み取ったが、彼に出来るのは共に墓前に手を合わせることだけだった。
「…俺、必ずここへ戻ってきます。このゲームが終わったら必ず…」
「そうだね。ちゃんとしたお墓、作ってあげなきゃね…」
「その約束、俺たちも加えさせてもらって良いかな? 二人とも」
声の方に顔を向ければ、長身の怪人―ティターンが神妙な面持ちでそこにたたずんでいる。
その背後には日向おぼろと腕の中にドロップを抱えた真咲美希の姿もある。
「もちろんですよ…あの人が繋いでくれたから俺はこうして皆さんと一緒にいられるんですから」
巽纏。
人を救うことに文字通り命を掛けた男。
だが、瞬は纏について何も知らない自分に今更ながら気づいていた。
共にすごした時間はほんの僅かで。交わした言葉はすれ違ってばかりで。
「カレーパン…美味かったよ…なんでも選り好みせずに食べてみるもんだな…これがあんたの言う気合で乗り切るって奴なのかな?……少し違うか…」
瞬は残された纏のディパックを背に立ち上がる。
状況は何も変わっていない。今にも首が胴から離れるかもしれない極限の空間に彼はいる。
しかし、彼は数時間前の彼とはまるで違っていた。
(行ってくるよ、纏さん。行って、全部終わらせてくる。それまで少し…待っててくれ)
「なんやあの子…始めておうた頃とは別人みたいやなぁ…」
おぼろは朝日を真っ直ぐに浴びる瞬の姿に、自分の知る若者達の姿を重ねていた。
「ドロップゥゥ……」
張り詰めていたのは瞬だけではない。ドロップは少し前から美希の腕の中で泥の眠りの最中だ。
無理もない。彼はまだほんの幼子なのだから。
「行こう…F-7エリアでジルフィーザが待っている」
ティターンの呼びかけに全員が力強く頷いた。
▽
313
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/29(水) 23:54:53
「あっれれぇぇ〜〜〜??? だぁ〜〜れもいないじゃん!! なんだっつーーんだよ!! 祭りは終わっちまったのかよ!」
拡声器の一件で人が集まるだろうと踏んでこのエリアに足を踏み入れたはいいが、既に爆心地と思しき場所はもぬけの殻。
あわよくば混乱に乗じて他人の至急品を分捕ってやろうと軽い気持ちでやってきたガイにとってこの結果はひどく不満なものだった。
こんなことなら寄り道などせずに当初の予定通りJ−10エリアを目指した方が良かった。
「あ〜〜あぁ〜〜…興ざめだぜぇ…聞くところによればボウケンジャーも一人減ったみてぇだしよ。ちゃんと俺の分は残るんだろうなぁ…高丘の名前はなかったようだけどよぉ―…」
無駄足を踏んだことへの不平不満をつらつらと人目もはばからず吐き出すガイの口調が途切れる。
―ガイは運命の悪戯に深く感謝した。
「――なぁ〜んだ……ちゃあ〜〜んと残ってたじゃん! 俺の分!!」
眼前にはピンクのアクセルスーツを身に纏った一人の女性戦士―ボウケンピンクが立ち尽くしていた。
「あなたは、ガイ! そんな…本当に生きて……!?」
確かにクエスターは自分達の手で倒したはずなのに。
ガイの口角が見る見るうちに上がっていく。方角的に見て、彼女は放送を聞いて禁止エリアから逃れてきたのだろう。しかし、そんなことはガイにとってどうでもいいことだった。
「ハロォ〜〜、ボウケンピンクぅ!! 最初の生贄はお前だよぉぉ〜〜ん♪」
▽
物の弾みとはいえ、厄介な人物と行動を共にせねばならなくなった事にフラビージョは憂鬱な気分に沈んでいた。
「メガブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」
先ほどからずっとあの調子だ。
あれではここに自分がいると吹聴して回っているようなもの。
いや、既に彼はそうして今度の事件を引き起こしたのだ。
「ねぇ? それ、どーーしても叫ばなきゃなんないのぉ?
よくよく見れば、彼もハリケンブルーやボウケンブルーと同じ青を纏う戦士だ。
それだけでも憂鬱なのに、意思の疎通も出来ない相手と行動を共にするのはあまり気乗りがしない。
「ねぇ、あんた自分の今の状況わかってんの?」
既に自分達はリミッターを越えた制限の中。
本来なら、爆心地にとって返して恨みあるボウケンブルーたちを一掃したいところだが、今の彼女は空も飛べなければ忍術も使えない。
それは当然、ネジブルーも同じはずなのだが―…
「メメェェェェェェェェガアアアアァァァァァァァァァブゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」
フラビージョの問いかけも聞こえていないのか、ネジブルーは陶酔の境地にあった。
彼は歓喜に打ち震えていた。刃を交えたのはほんの僅かな時間。
だが、それだけで彼には今のメガブルー並樹瞬が手に取れた。
メガブルーはこの戦いで成長している。
かつて“自分を滅ぼしたメガブルー”とは差異があるのだが、彼にとって重要なのはそこではない。
ネジレンジャーは皆、個性の差異はあれど全員がある種の渇きを常に抱えている。
同じ色の裏返しの自分を征し、自らが唯一無二の存在となる。
ネジブルーの場合、障害が大きければ大きいほど、その渇きを満たす瞬間の高揚は一層際立つものとなる。
瞬の成長と比例してネジブルーもまた自らの闘争心を高めていった。
−まるで双子の兄弟が競い合うように。
だが、傍らのフラビージョにしてみればそんなネジブルーの高揚ははた迷惑以外のなにものでもない。
そうだ。彼は先ほどの戦いで考えなしに力を振るい、今や制限の真っ只中。
しかもあつらえた様に二人きりのこの状況。とすればフラビージョがとるべき行動は唯一つ。
支給品の黄金の剣の塚を握る手に力が篭る。この剣の力は先の戦いで実証済みだ。
フラビージョは両手で剣を大きく掲げると、上段の構えから剣を勢いよく振り下ろした―
次の瞬間。閃光が、爆ぜた。
朝日が照らす昼の世界をも白い闇に包む破滅の一撃が地面を、大気を、大きく振るわせた。
古代レムリアの幻獣すら一刀のもとに切り捨てるほどの巨大な衝撃波がネジブルーめがけて放たれる。全くの無防備なネジブルーはそれを避ける暇などない。
「あんたみたいなのと一緒にいるとこっちまで迷惑なんだよねぇ…もう、仲良しはお終い☆
あんたはここであたしに殺されるの! 悪く思わないでよねぇ――……」
▽
314
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/29(水) 23:56:18
さくらはすぐに自分とガイの間に時系列の隔たりがあることに気づいた。
ガイはあの時、確かに死んだ。高丘映士ことボウケンシルバーにその身を切り裂かれて―
自分の目の前にいるこのクエスターガイは、過去の時間から連れてこられた存在だ。
恭介やグレイとの邂逅で得た情報からもその仮説は恐らく間違いないだろう。
「そんな状態でよくも大きな口が叩けたものですね…随分、草臥れたご様子ですが…?」
内心の動揺を押し隠し、さくらは高圧的に相手を牽制した。
「あぁん? こんなもんハンデだよ、ハ・ン・デ!!」
実際は身体の節々が悲鳴を上げているのだが。ガイは虚勢を張った。
「どうでしょうか? とてもそうは見えませんが…随分、無理をなさっているんじゃありませんか?」
売り言葉に買い言葉。しかし、驚くほど饒舌になっている自分にさくらは気づいた。
「もう…あなたの盾になってくれるお仲間はいないんですよ、少しは自重なさったらいかがです」
「―--!!」
さくらの言葉にガイが絶句する。
「…いま……なん…つった……―――…」
浴びせられた言葉にガイは引こうとしていた自分を恥じた。
目の前の戦いから逃げようとしていた自分を恥じた。
「……てぇぇぇめぇぇえええええ…!!! もういっぺん言ってみろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ガイの纏う雰囲気が一変した。怒りの鬼神の二つ名そのままに。黄金の瞳に狂気を奔らせて。
だが―予期せぬ戦闘で疲弊した自分が、何やら手負いだとは言えガイに単独で勝てるとは思えない。
(ここは逃げるべきでしょうか…)
無駄な戦闘は避ける。
残り時間もあとわずかだ。さくらは早々に戦闘を切り上げる算段を固める。
専用のボウケンアームズ<ハイドロシューター>の引き金を強く引く。
「シューターハリケーン!!」
水を圧縮し、散弾銃のように目標を粉砕する―最も、破壊は期待していない。
その場から逃げ去るだけの目晦ましになれば十分だ。
だが、ガイがとった行動は予想外なものだった。
「うざったいんだよぉ!!」
ガイはやにわにクエイクハンマーを取り出し空気の壁で攻撃を押しつぶす。
―水の攻撃はもう、懲り懲りだった。既にその手の攻撃に有効な防御手段は確保してある。
超重武器の使用に間接が悲鳴を上げるが、精神が肉体を凌駕した今のガイには痛覚はあってないのと同じだ。彼は正に怒りの化身だった。
「そんな…!」
記憶の中のガイはそんな攻撃方法を持ってはいなかったはずだった。
「お前の攻撃なんざ屁でもないぜ、ボウケンピンク。妙な術を使うねーちゃんの方がよっぽど骨があったぜぇ〜〜!!」
こいつは、既に人を殺している。
さくらはガイの立ち振る舞いからその事実を読み取った。
この空間で経験をつんだことが過去のガイに力を与えているのだ。
戦慄するさくらを更なる悲劇が襲った。
315
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/29(水) 23:56:53
「!?」
ガイの戦闘意欲の高揚を反映して体内のゴードムエンジンがフル稼働を始める。
途端に呼応するようにアクセルスーツのあちこちから火花が上がり、システムがダウンを始めた。
「そんな…!? 制限時間はまだ…!」
しかし、それは制限時間ではなくゴードムエンジンの干渉によるパラレルエンジンのパワー供給が遮断されているために起こった異常だ。
「おんやぁ〜〜?」
ガイは飛びかかろうとした矢先の出来事に首を捻っている。
「パラレルエンジンは既にネオパラレルエンジンへの換装が行われたはず! それなのに…まさか!?」
―さくらの脳裏にアクセルテクターからサラマンダーの鱗が抜き取られていたことがよぎる。
「いい格好だなぁ〜ボウケンピンク! なんだかしらねぇが…無様だぜぇ、お・ま・え」
スーツが鉛の様に重たい。強化スーツは本来の意義を失い、今はただ自由を縛る拘束具に等しい。
既に立っていることすら出来ず、両膝を地面へついたボウケンピンクにガイは容赦ない足蹴りを加えた。
ボウケンピンクは抵抗することも出来ずに地面へ手足を投げ出し、仰向けに倒れた。
鼻歌交じりにガイはクエイクハンマーを両腕で高々と掲げた。
「これでボウケンピンクもジ・エンドだな! さぁ〜いこうだぜぇ〜〜!!」
何度も、何度もクエイクハンマーを仰向けのボウケンピンク目掛けて振り下ろす。
「うああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
巨大な衝撃が走る度、さくらの絶叫が辺りに轟いた―
その叫びはガイにとって亡き同胞への鎮魂歌。アシュが確かに人を上回ったと言う賛美歌だ。
装着者の肉体をあらゆる事象から防護する―強化服がこの場合仇となった。
衝撃を緩和することでさくらの身体には骨折も裂傷もない。
代償に、彼女は気絶することも絶命することも出来ないまま嬲りものになった。
限界値を越えた衝撃を吸収しきれず各部がショートし、白煙が上がる。
「そぉ〜ら! もう一発!!」
ガイは一際大きく両腕を天高く振り上げると力任せに槌を振り下ろした。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
光の粒子と共にスーツが弾け飛び、ボウケンピンクは西堀さくらへとその姿を還元する。
苦悶の表情で悶えるさくらはスーツの飛散が衝撃との対消滅となり、致命傷を免れたものの
生身の身体ではどうすることもできない。
(チーフ…すみません……菜月…約束…守れそうもありません……)
―約束。
こんなところで死ぬわけには行かない。自分は大切な約束を守らなければならないのに。
菜月との約束。
チーフとの約束。
しかし――…それ以上に大切な約束があったはず――-―
大事な、大事な、とても大事な約束が―――――…
▽
316
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/29(水) 23:59:30
「なにそれ……あんた一体…―何者なのよ……」
戦慄。
仮にも暗黒七本槍の一柱を担う自分には似つかわしくないその感情にフラビージョの精神は支配されていた。
先ほどまでネジブルーだったはずの存在は禍々しい姿へ変貌を遂げていた。
鋭い爪。両肩から突き出した結晶体。
耳まで避けた真っ赤な顎【あぎと】からは鋸の様な牙が覗いている。
「これじゃまるで…まるで……」
恐怖に唇が震えた。一つの言葉が脳裏に浮かぶ。
「怪物じゃない…!」
「おやおや…寒いのかい? 震えているよ?? 無理ないよねぇ…俺は氷をイメージして作られたようだから…でも、安心して…すぐになんにもわかんなくなるよ…なぁぁ〜〜〜んにもね……―」
容姿と異なり、ネジブルーの声は変わっていない。それが余計に不気味だった。
「嘘よ…あたしが見てんのはあんたの無様に飛び散った死体のはずなのに…なのになんで…!?」
既に決着はついているはずなのだ。
ネジブルーは既に10分の制限の中にあるはず。
黄金の剣の一撃は確かにネジブルーの頭を切り裂き、粉砕したはずだ。
そのはず、だったのだ。
「ふぅ〜〜ん…バラバラに飛び散りたいのかぁ…派手好きなんだねぇ……いいよぉ〜…君のお願い聞いてあげる……君は俺を解き放ってくれた人だから」
フラビージョは決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのだ。
ネジレジアを統べる高次のエネルギー生命体ジャビウスⅠ世。
その細胞から天才Dr.ヒネラーによって創造されたのがメガレンジャーの影ネジレンジャーだ。
彼らは一様にヒネラーこと鮫島博士の歪んだ心のままに、その醜い容姿を鎧に包んでいる。
特筆すべきは彼らが装着されるスーツではなく、装着者そのものを強化すると言う理論体系で生み出されている点だ。
このゲームでは確かに参加者の力の発揮に10分と言う制限が設けられてはいる。
しかし、それは固有の武装や変身能力に限ったことだ。
クエスターガイの生来備わったアシュとしての悪魔の身体能力は失われることがなかったのと同様に、ネジブルーもまたその真の姿を晒すことは能力の発揮外の事象として扱われる。
かつての彼らの行動には制限が存在していた。
力の源であるジャビウスとヒネラーの間で密かに行われていた駆け引きの按配により、彼らの戦闘は半ば強制的に引き上げられていてしまっていたのだ。
だが、今はもう違う。
ヒネラーという枷をなくなった彼は檻から放たれた獣そのものだ。
ネジブルー、いやネジビザールは自らを解き放った馬鹿な小娘に向けて満面の笑みを返した。
▽
「そろそろおネンネしなちゃいっ☆ ボウケンピンクぅ♪」
小銃グレイブラスターの照準をさくらの頭部に合わせ、ガイは引き金に指を掛ける。
万事休すだった。
傍らに転がったアクセルラーは黒煙を上げている。
恐らく、負荷に耐え切れず損壊してしまったのだろう。―もうボウケンピンクにはなれない。
ガイに生殺与奪を握られ、完膚なきまでに敗北したさくらに残された手段はただ一つしかなかった。
まずは一匹。湧き上がる歓喜の衝動を必死で抑えながらガイは引き金を引く指に力を込める。
「…さないで……く…だ…さい…――…」
消え入るような声に引き金を引く指が止まる。
「あぁん?」
首を傾げるガイの目に信じられない光景が飛び込んできた。
「…殺さ…ないで……ください…お願い…します…――…」
317
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/30(木) 00:00:14
さくらは命乞いをしていた。
「――――!!」
憎むべきネガティブであり、仲間の仇敵であるクエスターに。
「私の完全な負けです…あなたにはもう、逆らいません…どんなことでも言うことを聞きます!…ですから…命だけは助けて下さい!!」
しばし呆気に取られていたガイは我に返ると、声を荒げた。
「なっ…何、言ってんだてめぇ!!!」
あまりの自体にむしろガイの方が動揺していた。思わず銃を持つ手が激昂に震える。
「お願いします。死にたくはないんです。命以外なら、支給品も食料も全てお渡しします…ですから…どうか! どうか!!…どうか命だけは取らないでください!!…お願いします!!!!」
ボウケンジャーのサブチーフという肩書きをかなぐり捨て、さくらは地面へ這いつくばった。
地面に平伏し、額を土に擦り付けて支給品が納まったディパックを、まるで神への供物が如く恭しく両手で捧げた。
「ふ…ふざけんなっ!! プライドないのか、てめぇはッッ!!!!!!」
ガイは嬲られた思いだった。こんな奴にヒョウガは殺されたと言うのか。
少なくとも、彼の宿敵であるアシュの監視者高丘の一族は例え絶命の瞬間でもこんな醜態は晒さない。あの高丘映士ならば間違いなく死を選ぶだろう。
「お願いします! どうか、命だけは――…」
さくらは必死で叫び続けた。ここで死ぬわけには行かない。
…―こんなありきたりで、地味な死に様を晒すわけにはいかない―…
さくらは組織の命令に絶対服従だ。
それは特殊部隊時代からの刷り込みによるもので、ボウケンジャーとなった今も変わらない。
今の異常な状況下もさくらにとっては“ミッションを忠実に遂行しているだけ”なのだ。
いつの間にか、命令する頭がすげ変わっていることに今のさくらは気づかない。
「舐めろ」
動揺から一転、ガイは抑えた声色で一言だけ呟いた。
その意味するところに考えが至るや、さくらの行動は素早かった。
掲げていたディパックを地面へ下ろすと即座にガイの足元にうずくまり、その足を両手で包むとその端正な顔を近づけていった。
「――――――…」
ガイの足についた泥を舌で懸命に丁寧に舐め取り、上目遣いに瞳を潤ませ必死に訴えかける。
そんなさくらの姿をガイはその黄金の瞳で冷ややかに見つめていた。
ややあって。ガイは徐にグレイブラスターを取り出し、躊躇わずに引き金を―――引いた。
パン。パン。パン。
乾いた音が朝の静寂を劈いて響いた。
弾は全てさくらの傍らに置かれたディパックを貫いていた。硝煙がゆっくりと立ち上っていく。
「失せろ」
ガイは先程と同じ、感情を読ませない低い声で言った。
もう、沢山だった。こんな無様な醜態が見たかったわけじゃない。
「助けて…下さるんですか……?」
さくらはガイの意思を汲み取れず、聞き返した。
「失せろっていってんだよ!! 何度も言わせんじゃねぇっっっ!!!!」
耐え切れず、ガイは地面へ向けて引き金を引く。
制限の中にないことが幸いだった。さくらに言い放った言葉とは裏腹にガイは
アシュの術で空間転移し、その場から逃げるように立ち去った。
最悪の気分だった。ほんの数分の戦いが、ガイの中から戦いへの高揚感を奪い去ってしまっていた。
「…ありがとうございます…ありがとう…ございます……」
見逃してもらえた。命が助かった。
安堵の気持ちとは裏腹にさくらの瞳からは涙が止まらなかった。
―自分が自分でなくなってしまった。
とめどなく流れる涙を流したまま、さくらはその場に仰向けに倒れた。
318
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/30(木) 00:00:44
▽
変貌したネジブルー、いやネジビザールがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「どうしたんだい…すぐに終わるさ…君が抵抗しなければねぇ〜〜〜…」
落ち着くんだ。
剣が持つ手が震えるのをフラビージョは必死で堪えた。
相手が幾ら化け物でも今は制限の中。
特異な能力の全ては封殺されている。ゆえに彼が取れる攻撃手段は直接近づいてその鋭利な牙や爪で引き裂くと言う原始的な手段に限定される。
ならば、同じ制限下にあっても武器を持つ自分の方が有利なはず。
無論、身体能力は向こうの方が上だろうが、捕まらなければどうと言うことはない。
柄を握る手に力が篭る。
やれる−。自分はこんなところでは死なない。
「おりゃぁあ!!」
気合を込めたわりにいまいち緊張感のない声はいつもどおりだが、その声は僅かに上ずっていた。
剣の一撃が直にネジビザール型を袈裟懸けに切り裂いた−はずだった。
「え…なんで……??」
刃はネジビザールの身体を滑るように太刀筋が狂う。
「なんで! なんで!?」
二の太刀は首を掠め、三の太刀は胸を掠めた。
「あれれぇぇ? どうしたんだい?? さっきの痛いやつはもうしてこないのかい!?」
フラビージョは知らなかったが、古代レムリアの聖剣ズバーンは人間の想いの力をトリガーに
力を発動する。ゆえに、本来ならば邪な気持ちを抱いた者が扱える代物ではないのだ。
「どうして!! どうして斬れないのよぉぉっっ!!!」
狂乱するフラビージョが必死で剣を振り回せば振り回すほど、剣に埋め込まれたエメラルドグリーンの宝石は輝きを失い、黒ずんでいく。
今まではフラビージョが持つ暗黒七本槍の力で無理やりズバーンの力を歪めて引き出していたに過ぎないのだ。
その残り香ともいうべき力を、先程の一撃で消費したズバーンは既に深く沈黙していた。
「なんでなのよぉ!!!! なんで! なんで! なんで!!なんでぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
最後には癇癪を起こした子供のように剣をネジビザールへ投げつけた。
「くれるのかい? でも…いらないよぉ…こんな鈍ら刀…」
ネジビザールは怪訝な目つきで受け止めたズバーンをみやると、ぽいっと背後へ捨ててしまった。
地面に突き刺さったまま、ズバーンは動かない。
「いや…いや…!…来ないでよぉっっ!!!」
必ず、生き延びてボウケンブルーも、おぼろも、ハリケンジャーもみんな殺す。
楽しそうだから戦いに乗った。
宇宙忍郡ジャカンジャに参加したのも楽しそうだったから。
現に、地球を腐らせるという背徳的な行為にフラビージョは無邪気な喜びを見出していた。
早く、こいつを殺して――また楽しむんだ……人々が、敵が苦しむ姿を――――…
「終わりだよ…君はここで死ぬんだ…さよなら、俺を解き放ってくれた人…」
▽
319
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/30(木) 00:01:41
――なかなか、面白い見世物でしたよ…まさか、命乞いとは思い切ったものですね――
――あの時はアレが最良の手段でした…――
――そうですね…私は最良の手段をとるよう働き掛けただけで、土下座しろなんて一言も言ってませんから…だからアレはあくまであなたの意思で行われたんです――
――私の…意思……――
――そうですよ…全部、あなたの意思です。私はきっかけを囁いただけ…グレイを襲ったのも、ガイに命乞いをしたのも全てあなたの考えです――
――そんなの…嘘…! 嘘です!!――
――嘘ではありませんよ。それはあなたが一番わかっているはずです――
――わたしは…わたしは…!!――
――世界に名だたる西堀財閥の令嬢にして、元自衛隊特殊部隊の射撃オリンピック候補。
そして、ボウケンジャーのサブチーフ。そんな華々しい肩書きと仲間の信頼を全て捨て去って、裏切ってあなたは生きているんです――
――いや…! そんなの…そんなの…嘘……――
――あんな面白い見世物…早々あるものではありません…明石暁が見たらどう思うでしょうね…?あなたはいつだって、明石暁のお荷物なんです…
いえ、あの醜態…明石暁だけじゃない…あなたはみんなの癌なんですよ、西堀さくら――
――わたしが、チーフのお荷物…みんなの…癌…――
――あなたにはもっともっと、無様なショーを演じていただきますよ…
なるべく観客は多い方が良いですねぇ…演じ甲斐もあるというものでしょう…さぁ、もう一度あなたの“目的”を口に出しなさい――
混濁の意識が急速に光を取り戻していく。
どうやら、あのまま泣き疲れて気絶してしまったらしい。
口の中一杯に広がる泥の味にさくらはその表情を曇らせた。
せめて口をすすごうと水を求めたが、視線の先には銃創が走る無残なディパックが転がっている。
何か夢を見ていた気がしたのだが、どうしてもその内容は思い出せなかった。
「行きましょう…チーフと合流しなければ」
けだるさと戦いながらその場にふらふらと立ち上がった。
その手には既にガラクタと化したアクセルラーが握られている。
さくらは、行く。
生き残るためでも、守るためでもなく。
無様で、無残で、惨めな姿を晒し続けて、死ぬために――…
<SIGN>
青かったはずの身体は鮮血に染まっていた。
かつてフラビージョであった肉片がそこら中に散らばっている。
幼い子供が時折見せる残虐性−
蝶を切り刻むのを楽しむが如く、無邪気に微笑むネジブルー…いや、ネジビザールの姿があった。
一つの死が一つの命を成長させ、新たな悲劇を巻き起こしていく−…
惨劇の果てに何が待つかは、誰も知らない。
【フラビージョ 死亡】
残り32人
320
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/30(木) 00:02:14
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:良好。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲火傷、応急処置済。2時間メガブルーに変身できません。
[装備]:デジタイザー。
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)纏のデイバック
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って夢を叶える前にこのゲームを終わらせる。
第一行動方針:纏の死に深い悲しみと強い決意。確実に成長。ジルフィーザと合流。
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
変身制限があることを知りました。
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲。火傷。2時間能力発揮できません。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]基本行動方針:命を守る
第一行動方針:ジルフィーザと合流する。
第二行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。
:纏からタイムレンジャー、サイマの情報を得ました。
321
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/30(木) 00:02:47
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:銃弾によりかなり破損しています。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。
名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー(鍵のみ、タワーの損壊で壊れている可能性があります。ネジブルーの物とすり替えました)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る 。
第一行動方針:利用できる者は利用する、そうでない者は殺す。
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:健康。熟睡中。
[装備]:不明
[道具]:メメの鏡の破片、
[思考]
第一行動方針:不明
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に打撲、傷有り。2時間能力発揮出来ません。ネジビザールの本性を現しました。
[装備]:ネジトマホーク
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー(マシンハスキーの鍵は美希が持っています)
[道具]:支給品一式×2、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器。
[思考]
第一行動方針:メガブルーを殺す。 邪魔なヤツも殺す。一人殺しました。
※ズバーンとフラビージョの支給品はF-5都市に放置しています。
322
:
◆8ttRQi9eks
:2008/10/30(木) 00:04:18
【クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:G−6都市 1日目 早朝
[状態]:全身に裂傷。かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。
気分は最悪。興を削がれています。二時間の制限中。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式(ペットボトル1/2本消費)、 天空の花@魔法戦隊マジレンジャー
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵、麗の支給品一式
魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る
第一行動方針:使えそうな道具を作る。
第二行動方針:アイテムの確保。天空の花を持って、J−10エリア『叫びの塔』へ
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。一人殺しました。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G−6都市 1日目 朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)、スコープショット
[道具]:なし。一切を失いました。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
323
:
◆i1BeVxv./w
:2008/11/02(日) 03:24:34
さるさん規制のため、こちらに続きを投下いたします。
324
:
みどり色の罠
◆i1BeVxv./w
:2008/11/02(日) 03:25:22
だが、菜月の必死の介抱にも関わらず、男の意識は戻らなかった。
▽
「はぁ、もういないよネ」
一時、ブドーから逃げ出したサンヨだったが、また同じ場所へと舞い戻っていた。
頭を砕かれた迅き冒険者が目印の場所。
理由は、それがシュリケンジャーの命令だったからだ。
シュリケンジャーが理央とセンを逃げるまでの時間を稼ぎ、その後、この場にて合流する。
簡単だろとシュリケンジャーは言ったが、結果は散々なものだ。
体中を切り刻まれ、危うく、殺られるところだった。死なないけど。
「あれ、なんか死体の位置が変わっているような気がするヨ〜。まあ、そんなことはいいかヨ」
真墨の死体はうつ伏せから、仰向けに変わり、その服は乱れていた。
だが、サンヨは特に関心を持つことはなく、ただ、シュリケンジャーへの愚痴を吐き出した。
「あいつ、ロンより人使い荒いヨ」
「あいつとは誰のことだ」
サンヨの身が固まる。
それは今サンヨがもっとも会いたくない相手の声だ。
自分の予想が外れていることを祈りながら、恐る恐るサンヨは振り返る。
「げっ、理央」
「見つけたぞ、サンヨ。センの仇、とらせてもらうぞ」
(な、な、な、なんのことだヨ。そ、そ、そ、それより、サンヨ、今は制限中だヨ。や、や、や、ヤバイヨ)
怒りに身を焦がす理央。
恐れに身を振るわせるサンヨ。
そんなふたりを遠くから見詰めている男がいた。
(さーて、見せてもらおうか。黒獅子の力と、サンヨの末路を)
男は江成仙一の顔で、笑みを浮かべた。
数分前――
「冷凍剣、プリーズ!」
325
:
みどり色の罠
◆i1BeVxv./w
:2008/11/02(日) 03:26:04
シュリケンズバットから発せられた凍気が理央の身体をたちまち凍らせた。
「さてと」
シュリケンジャーは凍らせた理央の身体からたちまち銃弾を取り出す。
ハリケンジャーたちの身体から宇宙サソリを取り出した時に比べれば、簡単な作業だ。
「宇宙サソリ……あの時、ロンはディパックをランダムに渡していたようだけど、意図的に渡していたのかも知れないね」
シュリケンジャーは取り出した銃弾をその辺に捨てると、ディパックから支給品を取り出し、今度はそれを理央の傷口に埋め込んでいく。
「説明書もないのに、これを判別して、使える参加者なんて、ミーぐらいだからな」
全てを終えたシュリケンジャーは理央を解凍し、傷を隠すように包帯を巻くと、理央の目覚めを、木に身体をもたれかけ待つ。
変身を解いたその姿は既に柿生太郎のものではなく、血まみれのジャケットを着た江成仙一に変わっていた。
勿論、顔も血もシュリケンジャーのものではない。純然たるフェイクだ。
制服と顔をいただいた本物の江成仙一は催眠術で眠らせ、匂いや色で判別されないように血は転がっていた死体から新鮮(?)なものを調達した。
ついでに死体が着ていた防弾チョッキも下に着込んでいる。
準備は万端だ。
(サンヨが殺せるようなら、その力、利用させてもらうよ。理央、サンヨの話では、ユーは今回の参加者の中でトップクラスの実力者らしいからね)
理央の力を利用して、他の参加者を殲滅させる準備はこれで整った。罪悪感はない。理央は報いを受けるべきことをして来ている。
(精々、働いてくれよ。君の中の宇宙サソリが君を殺すまでね)
326
:
みどり色の罠
◆i1BeVxv./w
:2008/11/02(日) 03:26:34
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:健康。顔は江成仙一です。1時間30分変身不可
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、SPD隊員服(セン)
[道具]:包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る(一時的に保留)
第一行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第二行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
第三行動方針:サンヨが殺せるか試す。その後、方針を再決定。
備考
・サンヨと江成仙一から一通りの情報を得ました。具体的な制限時間も知っています。
・シュリケンジャーはロンが何らかの方法で監視していることに気づきました。
・炎の騎馬はC-7エリアに隠しています。
・シュリケンジャーの支給品は宇宙サソリ@忍風戦隊ハリケンジャーと包帯でした。
【名前】サンヨ@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:ロンと一緒
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:全身打撲、無数の刺し傷と切り傷、右腕切断。1時間ゲンギ使用不能
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンの指示に従う。
第一行動方針:理央から逃げる。
第二行動方針:ロンの指示に従い、シュリケンジャーに協力する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
327
:
みどり色の罠
◆i1BeVxv./w
:2008/11/02(日) 03:27:21
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンとサンヨへの怒り。宇宙サソリを植えつけられました。
[装備]:自在剣・機刃
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:サンヨを倒す。
第二行動方針:ナイとメアを探す(どちらかは死んだと思っています)。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-7森 1日目 午前
[状態]:催眠術により気絶中。制服を奪われアンダーシャツとパンツのみ。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:理央に注意を喚起する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・SPDの制服はシュリケンジャーに奪われました。
328
:
みどり色の罠
◆i1BeVxv./w
:2008/11/02(日) 03:31:23
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-7森 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:アクセルラー、スコープショット、
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:変態さん(仙一)を介抱する。
第二行動方針:真墨の遺体を捜す。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-9森 1日目 午前
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。肩に銃弾による傷。1時間戦闘不能
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー。予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)。支給品一式(ブドー&バンキュリア)。真墨の首輪。
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:リオを倒せるほどに強くなる。
第二行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。
329
:
◆i1BeVxv./w
:2008/11/02(日) 03:35:42
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などあれば、お願いします。
330
:
◆8ttRQi9eks
:2008/11/08(土) 12:45:35
歩くたび、身体が揺れるたび、左肩の刺し傷が疼く。
屍と化した身体から失われたのは熱と血液で、痛覚は生前のまま。
メレは当て所もない歩みに疲労の色を濃くしていた。
…−理央もまた、かつてはこのような深い絶望に沈んでいたのであろうか−…
「少し…疲れたわね……」
道の脇に腰を落とし、ディバッグからペットボトルを取り出したが、既に水は尽きている。
これでは顔も洗えないではないか。
「理央様…」
益々重くなる気持ちを抱えながら、縋る様に愛しいその名を呼ぶ。
そっと、右手で傷口を隠すように肩を抱く。
そうしているとあの時の温もりが蘇ってくるような気がしたのだ。
始まりの空間でロンが自らを指名したその時。
普段の寡黙な彼からは想像も出来ない熱い眼差しで見つめられ、面食らったのを覚えている。
『大丈夫だ、メレ…どれだけの距離を隔てようと、ロンが何を策していようと、
必ず、お前を守る! だから…生き残れ、どんな手段を使っても!!』
他の参加者の目を全く意に介さず、メレの身体を掻き抱き、彼は耳元でそう告げたのだ。
冷たい身体に彼の熱が伝わるのが心地よかった。
この瞬間がいつまでも続けばいいと、埒でもない事を本気で願った。
すぐに別離が訪れるのを知らないではないのに――…
「あんな理央様…初めてだった……」
メレは知る術もないが、彼と理央の微妙な時間軸のずれが新鮮な驚きを与えていた。
放送の中に幸いにして理央の名はなかった。
実力者たる彼がそうやすやすと首をとられはしないことは承知している。
しかし、これはロンの仕掛けたゲーム。
幻技の件と言い、不透明なルールの中でどんな不測の事態が起こるか知れない。
自分達は他の参加者よりも主催との縁が悪い意味で深い。
ロンが何かしら仕掛けてくるのは確実なのだから。
「…理央様…会いたい……」
口を突いて出るのは彼の名ばかり。このゲームでメレが心から信用できるのは彼だけだ。
しかし、同時にメレは一人でいることの限界を感じ始めていた。
既にゲームが始まって6時間あまりが経過し、参加者達は各々の思惑の下にいくつかのグループを
結成している。
メレ自身もそうした連中をいくつか見てきた。
だが、下手な相手と組めば寝首をかかれる恐れがある。人選は慎重に行わなければならないだろう。
自然、知り合いを回想する形になる。
「え〜と…私の知り合いは――…」
331
:
◆8ttRQi9eks
:2008/11/08(土) 12:46:32
まずは、理央。
彼は完全にメレの味方だ。
しかも、嬉しい誤算でこのゲームに参加させられている彼はメレに対し親愛の情が深い。
あの熱い眼差しは恋人を見るそれだ。
自然と口角が緩んでいく。メレにとっては、理央こそ生きる糧。
彼のためなら命も惜しみはしない。大袈裟でもなんでもなくメレは本気でそう思っている。
死への恐怖は既に死人であるメレにはない。
怖いのは彼を失うことだ。
二人目はサンヨ。
こいつは話にならない。自分と同じ四幻将の一角だが、彼は元々ロンに近い。
今回も彼に追随して動いていると観るのが自然だ。
どうみても敵。出会い次第、消しておいた方が無難だろう。
そして−…真咲美希。
彼女は名前と来歴を知るくらいで直接相対した経験は殆どない。
メレが知っているのは彼女が激獣拳時代の理央の修行仲間であるということ。
そして、今はゲキレンジャーを支援するスクラッチの重役に収まっているという事くらいだ。
過去の理央を知ると言う点で羨ましさを感じることはあるが、彼女がどんな女性なのか
あまり過去を語りたがらない理央に聞くのは憚られてメレは殆ど知らない。
死んではいないようだが、理央と違い実戦から離れて久しい彼女を戦力とするのは少々不安が残る。
メレとしてはもっと頼りになる戦力がほしかった。
「…理央様以外ろくな奴がいないわね…後は…こいつらか−…」
轟轟戦隊ボウケンジャー。
宇宙拳法使いパチャカマック12世との戦いで成り行きとはいえ、共に戦った経験がある。
ただし、メレは全員の人とな理央知っているわけではない。
メレが知っているのは大胆にも直接臨獣殿に乗り込んできた
ボウケンレッド=明石暁
ボウケンピンク=西堀さくら
この両名だけだ。
しかもさくらはあの時、パチャカマックに憑依されていたことを加味すれば実質的に
メレが面識を持つのは明石暁だけだ。
結論からいえば、明石暁の印象はメレの中でそう悪いものではない。
獣拳使い以外で理央と生身で戦える人間が存在していようとは思ってもみなかったからだ。
マクによる撹乱の後が癒えていなかったとはいえ、臨獣殿に乗り込む度胸もある。
加えて、仲間のために敢えて黒をとるその人間性にも惹かれるものを感じた。
常に傍らに自身を慕う女性が控えているという理央との共通項が、
明石暁へのシンパシーにも似た感情になっているのかもしれなかった。
自身よりも仲間を第一に考える男。それが、メレの中で確立した明石暁の人物像だ。
味方に出来れば彼ほど頼もしい人物はいない。
始まりの空間での一件を見る限りでは彼が殺し合いに乗っていない可能性は高い。
西堀さくらに関して言えば、パチャカマックの憑依と言う点を除外しても腕はメレと互角に立つ。
直接拳を交えたメレの感触は悪くない。
しかし、彼らが自分に対しどういうスタンスで臨んで来るかは想像がつかない。
あまり信用するのは考え物だ。
考え物ではあるが、同時にロンに対し戦いを挑むのに彼らの助けは、癪ではあるが是非とも必要だ。
無論、最後を締めるのは自分と理央であろうという根拠のない自信がメレにはあったのだが…
「決めた! こいつらを従えて理央様の下へはせ参じる!! そしてロンを倒すっ!!」
勢いよくその場に立ち上がり、拳を天に突き上げ、叫ぶ。
メレの中では既に崩壊した臨獣殿に代わり、ボウケンジャーを下僕とした理央(と自分)の組織プランが出来上がっている。
素敵な将来の青写真の完成にすっかり気を良くしたメレは意気揚々と歩き出した。
「ふん、ふふ〜〜ん♪ 待っててくださいね、理央様ぁ♥」
ただ、そのプランをどう実現するかは全くの白紙であるのだが−
今のメレに必要なのは自らを突き動かす動機の方だった。
332
:
◆8ttRQi9eks
:2008/11/08(土) 12:47:38
§
…――自分はよくよく、死神に嫌われているらしい――…
殺し合いの只中にあって、グレイは相反するその事実にため息をついた。
廃墟と化したタワーが陽光を背に影に溶け入る様は余計にうらぶれて見える。
まるで今の自分を見ているようで、内心酷く不快な思いがした。
F5エリア−兵どもが夢の跡。
辺りを白く消し飛ばすほどの閃光と割れんばかりの爆音が轟いたのは、さくらとあんな形で分かれてからすぐ後のことだった。
既に戦いが始まっていることを察知し、駆けつけたのだがすでにそこはもぬけの殻。
ほんの僅かな時間のずれで彼はガイともすれ違っている。
本来なら幸運なのだが、本人はそれがちっとも愉快ではない。
「あんな小競り合いがなければ…今頃は戦いの只中に在れたものを」
グレイは紫煙を燻らせながら、瞑想する。
確かにさくらの行動は異様だった。
仲間の死を見せ付けられて心に闇が生まれたか。元々あぁするつもりだったのか。
「それにしては行動が極端すぎる…」
あるいは――思い至った一つの答にグレイは思考を更に深める。
さくらは何らかの意思により傀儡にされていて自分でも分からないままに動かされている。
「だが、何のためだ?」
自分のようにロンに魅入られたマーダーか。それにしては先ほどの行動は無謀すぎた。
あまりに計画性に欠ける上、戦力差を埋める智恵が全く見当たらない。
彼女の全てを知るわけではないが、そんな無計画なタイプではないはず。
ならば、このゲームでさくらが司る役割はなんだというのか――そして、
…――自分が果たすべき役割はなんなのか――…
思考という名の無限の宇宙から帰還した彼は、確かな一つの答えを胸に歩き出した。
§
職業柄、同僚の死はそう珍しいものではない。
今の地位に至るまで多くの仲間の死を見てきた。
肩書きに重みを感じるのは、それだけ多くの死を経た先に今の自分がいるからだ。
だから、彼女たちの死も決して特別ではない。
けれど胸に沸き起こる慟哭をドギークルーガーは抑え切れずにいた。
「スワン…! ウメコ…!!」
その二人の名を喉の奥から搾り出す。
守れなかった。大切な女性(ひと)を。掛け替えのない部下を。
もう二度と戻らない笑顔を想った。
もう二度と聞けない声を必死に思い止めようともがいた。
傍らのシオンと恭介は掛ける言葉も見つからずに立ち尽くすドギーを見つめている。
たった数時間で最愛の女性と部下を失ってしまった彼に言えることなど、何もなかった。
「元気を出してくださ―――…」
それでもシオンが声を上げたその瞬間。
333
:
◆8ttRQi9eks
:2008/11/08(土) 12:48:13
「見るに耐えんな、ドギークルーガー…戦士の女々しい有様など無様以外の何者でもない…」
「お前…!」
我を失っていたドギーは不意に叩きつけられた侮蔑の言葉に現実への帰還を果たした。
低くくぐもった声の先に、グレイがいた。
ここを発つ前と比べ、やや傷ついた姿で。
「お前! 少しは気遣いってもんがねーのかよ!! この人は今なぁ!…あれ、さくらさんはどうしたんだ、姿が見えないけど??」
当然その傍らに存在するべき人物の不在に恭介は疑問を投げかけた。
「まさか…お前―! さくらさんを!!」
考え付く結論は唯一つ。恭介は激情に突き動かされるまま、アクセルチェンジャーを構える。
「慌てるな、阿呆が…シオン、無事で何よりだ」
今にも飛び掛らんとする恭介を尻目にグレイはシオンへと向き直る。
「グレイさん…何があったんです?」
シオンの目にも恭介ほどではないが、困惑の表情が浮かんでいる。
「…今からする話を信じる、信じないはお前達の勝手だ…もしも信じられないなら俺を倒すなり、なんなり好きにしろ……――」
グレイは事の顛末を語った。
放送を境にさくらが豹変したこと。
彼女が殺し合いに乗ったこと。そして自分が彼女を殺していないこと、全てを。
「そんな…! さくらさんが…そんなことするなんて…!!」
「…………………………………………」
シオンは告げられた事実に困惑の色合いを深めた。
ドギーは貝の様に押し黙ったまま、何事か思案している。
「俺は信じねぇぞ! そんな下手な作り話で俺たちを動揺させようなんて随分セコイ真似してくれるじゃねぇか!!」
いきり立つ恭介は先ほどから臨戦態勢の構えを解いてはいない。
人よりも大きな瞳はきつくグレイを睨んだまま。
彼の脳裏には暴虐な殺戮マシーンに無残な仕打ちを受けるさくらの姿がありありと浮かんでいた。
「…止めるんだ、恭介君。こいつは恐らく嘘を言っていない」
すっと水平に伸ばした右腕で恭介とグレイの間にドギーが割ってはいる。
「ドギーさん! あんた、こんな奴のいうことを信じるってのか!?」
非難の声を上げる恭介に向き直り、ドギーは告げた。
「こいつがさくら君を殺したなら、わざわざ偽ってまで言い訳する必要はない。
俺たちを殺したいなら問答無用で強襲すればいいだけの話だ。作り話なんて必要ない」
「だ・だけど…!!」
「恭介さん…僕もドギーさんの意見に賛成です」
更にシオンが間に入る。
「シオン! お前までこんなやつのいうことを信じるってのか!?」
「…恭介さん、僕だってさくらさんが殺し合いに乗ったなんてこと信じたくはないけど…グレイさんは、嘘は言ってはいないと思う。だって…グレイさん制限中でしょ?」
「なに…!?」
今度は恭介がグレイの方へ向き直った。
「あぁ…今の私は武装一切を使えない…今、お前達と交戦すればまず勝ち目はないだろうな…」
「丸腰でわざわざ戻ってきたわけか…目的はなんだ?」
「…その前にお前達に確認しておきたい…6時の放送…あれを聞いてまだ、人を信じられるか?」
ドギーの問いかけにグレイは問いかけで答えた。
「これから先も人は死ぬ。恐らく…シオン、恭介、お前達の仲間も名を連ねて行くだろう…それでも他人を信用できるか?」
全員が言葉を失った。
「これから先に待つのはそういう世界だ。あるいはあの女のように殺し合いに乗るか、場合によってはこの場で命を絶つ方が楽かもしれん…それでも他人を信用できるか?
ここにいる連中と生死を共に出来るか!?」
グレイは本心を明かす前に答えを聞きたかった。
彼らがどの様な選択をしようと、彼の成すべきことは決まっていたのだが。
「…随分とキャラに合わない言動をしてくるじゃないか…俺はSPD…それも地球署の署長だぞ? 警察官として成すべきことをなす! ただ、それだけだ」
立場を違えども、意見を違えども二人は戦士であるお互いの人格は認めている。
同じ愛する者を喪失したことが皮肉にも彼らの絆を深めたのかもしれない。
だから、どちらかが堕ちるときはもう一方がそれを死と言う形で押し留めるだろう。
「僕も…例え竜也さんやドモンさんに会えなくなっても…僕は皆さんと戦うなんて事は絶対にしない!!! …ロンの思い通りになんて絶対にならない!!!!!」
彼が橋渡しをしなければ、自分達はここに集ってはいないであろう。
グレイは闇に沈んでいたままだったかもしれない。彼はグレイの恩人だった。
334
:
◆8ttRQi9eks
:2008/11/08(土) 12:48:53
「恭介…お前はどうだ?」
最後に。恭介の視線とグレイの赤い視線が交わる。
恭介は言葉を選びながらゆっくりと心底の思いを紡いでいく。
「…俺は…ドギーさんほど強い信念があるわけじゃない…シオンほど、会って間もないやつを信じきれるほど純粋でもない…俺は一般市民だからな…」
恭介の言葉にグレイは何も言わずじっと耳を傾けていた。
「…………………………………………」
「……俺は…一般市民なんだよ……」
彼はそう繰り返した。偽らざる、恭介の気持ちだった。
「だけどよ…俺は…一般市民であることを貫くぜ。どこまでも普通であってみせる−!
俺は瞬が心配だ。裕作さんが心配だ。菜摘が心配だ。シグナルマンが心配だ。あいつらが殺されたら…きっとわけわかんなくなっちまう…だけど、それで他人を襲うことなんてことだけはしない!! そんなこと絶対にしない!!!」
肩を震わせ、恭介は言い切った。胸の動悸が激しい。
そっと、恭介の肩に手が置かれた。ドギークルーガーの大きな手だった。
「これだけのことを言わせたんだ…お前の心底も聞かせてもらおうか…」
ドギーの視線とグレイの視線が深く交わる。
「私は…戦う」
掛け替えのない仲間の命を奪われ、我を失った女の悲しみを見た。
愛する人と信頼する部下を失った男の慟哭を聞いた。
もう、奪い奪われる光景は沢山だった。
―――――竜…―――――――
腕の中で崩れた人の言葉が脳裏に木霊する。
あの絶望を、慟哭を、もう味わいたくはなかった。
目の当たりに、したくなかった。
「本来なら…私はバイラムと共に滅び去るべきだった…だから、私は生ける屍も同じだった…
ドギークルーガー…私はお前との戦いで全て終わりに出来ると思った…宿敵との決着を奪われ、死に場所を失った憐れなガラクタ…だが、そんなガラクタにもしなければならないことがある――…」
彼は戦う。そう、今まで彼は戦ってきた。
戦うために生まれた。幾多の戦場を駆けた。
バイラムの幹部達は仲間と呼べるほどの絆を結んではいなかった。
個々が強くなりすぎた彼らは仲間と言うものを必要としなくなっていた。
だから、裏次元人に体力も知力も圧倒的に劣るはずの男が、たかだか肉体を十数倍に高める程度の強化服を纏っただけで自分と対等に渡り合うことに驚愕を覚えた。
彼の強さの源を知りたくなった。
それが愛ゆえに、だと言うことをグレイは身をもって知ることとなる。
自分が永遠にそれを喪失した瞬間に。
「私達は同士だ。個々の力ならば私達に力及ばないはずの人間がバイラムを打倒したように…人の絆は何よりも脆く、何よりも強い――…私はそれに賭けてみたいのだ…お前達と一緒に」
335
:
◆8ttRQi9eks
:2008/11/08(土) 12:49:27
何度叩き落されても、立ち上がり、羽ばたいて見せた漆黒の翼が脳裏に鮮明に蘇る。
あの不敵な笑みがありありと浮かんでいく。
彼はこんな自分を笑うだろうか。
グレイは知らない。彼もまた、愛ゆえに死んだ事を。
かつての彼のように自分は何かを守るために戦えるだろうか――
誰ともなく腕が伸びる。
時代も立場も異なる者達の手が垣根を越えて交差する。
そして、重なった。
「しかし、お前の口からそんな提案を聞くとは思わなかったな…」
「全くだぜ…俺たちは即席戦隊だな!」
「恭介さん、なんかカップ麺みたいですよ、それ…どうせなら“ドリーム戦隊”とか言えませんか?」
「おっ! そりゃあいい!! えーと、赤は俺。緑はシオン。ブルーはドギーさん。ブラックはグレイだな!」
「…私がブラックか……」
「なんだ? 嫌なの?」
「…いや、別に……」
「でも、やっぱ女の子がほしいよなー…さくらさんの穴は痛いって言うか…」
「だったらあたしがその穴を埋めてあげようじゃない…た・だ・し…あんたら全員あたしと理央様のために働いてもらうわ!! ロンを倒すためにね! ありがたく思いなさい!!」
「お前は…!!」
驚愕する一堂の眼前に緑色のチャイナ服に身を包んだ女性拳士が佇んでいた。
「この女…」
制限中とはいえグレイにも、そしてドギーにすらその接近を感じさせず、彼女は近接に姿を現したのだ。
そのまま、メレは余裕の表情で腕を組んだまま一同を見回す。
どうやら知り合いは混じっていないようだが、彼らは殺し合いには乗っていないらしい。
彼女が欲しいのは、理央の戦力になりうる兵隊だった。
「ふざけんなっ! 緑はもう、シオンがいるんだよ! せめて黄色だろ、そこは!!」
「…恭介さん、論点ずれてます…そうじゃなくて――…」
シオンと恭介の掛け合いを前に、メレは自らの中に宿る力を揺り動かす。
「生憎ねぇ…猿顔の一般市民さん…あたしは緑色じゃなくて…金色よっ!!」
閃光が弾け、逆巻く風が周囲の大気を震わせた。
「これは…!!」
輝く羽根が舞い散るその中心に光り輝く金人の姿があった。
「幻獣フェニックス拳のメレ…!」
他者と交わらなかったことでメレはこのゲームにおけるルールを殆ど把握していない。
しかし、重要なのは今自分が力を発揮できると言う事実だ。
「その趣味の悪い成金武装はあの男と同じ匂いを感じるな…女…貴様何者だ?」
グレイが動じる様子もなく、メレに詰問する。
「あんなのと一緒にしてほしくないわね…わたしはわたし! あんたらは格の違いわかれば十分よ!!!」
新たなる戦いが始まった。
336
:
◆8ttRQi9eks
:2008/11/08(土) 12:50:16
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康だが多少の傷(ダメージ軽微、戦闘に支障なし)。2時間戦闘不能
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためドギー、シオン、恭介と共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借理央返す。
第二行動方針:西堀さくらに違和感。
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。 一般市民であることを貫く。
第一行動方針:新たに出会った仲間と共闘。
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイと和解
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と共闘する。
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷。両足に軽めの裂傷。獣人形態となり能力を発揮中。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:なし
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:目の前の連中を力で従わせる。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:ゲンギが使えない原因を調べる。
第三行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。
タイトルは「即席戦隊」で
337
:
名無しの中にも修行あり
:2008/11/10(月) 10:42:44
代理投下中に規制。申し訳ない。
338
:
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 16:12:37
本スレで投下宣言をしてしまいましたが、こちらに投下させていただきます。
339
:
友への不信
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 16:13:11
「あの馬鹿者共め!」
「ん? ブクラテス、何か言った?」
コソコソとデイパックを覗きながら何かを叫んだブクラテスに、竜也は問う。
だが、ブクラテスはそれを「いや……」とそっけなく答える。竜也の目を見ないあたりから、それはとても怪しく見えた。
「それより竜也、この辺りにはもうすぐ禁止エリアになる場所がある。慎重に行動したほうがよいぞ」
「わかってる。……スモーキーたちはもう菜月ちゃんと合流できたかな?」
「少し気が早いと思うぞ」
竜也の頭の中はそればかりだった。ブクラテスの不審な行動も、彼はそれほど気にならない。菜月、シグナルマン、スモーキー。三人とも気がかりだ。
「そんなに気になるなら占ってみるか?」
「いや、いいよ。占いで定められた運命も、きっと変えられるだろうから……」
それは、竜也の不安が生み出した強がりだった。彼らが(というかスモーキーが)ブクラテスを信用していないことくらい、竜也にはわかっていた。ブクラテスが占う前後のスモーキーの態度W見れば一目瞭然だろう。
「ワシの占いは今後の運命ではない。今の奴らの動きじゃ」
「動き?」
「ワシには見えるんじゃ。どうじゃ? 占ってみるか?」
ブクラテスはデイパックを漁り、タロットカードを取り出す。その際にチラッと首輪探知機の様子を見ることも忘れない。
答えを聞かずに、ブクラテスはタロットカードをシャッフルし始めた。
「まだ占えなんて言って……!」
「あくまで参考としてみておくがよい」
ブクラテスはまた前回と同じようにカードを並べる。
「う〜ん。奴ら、ワシの占いを信用していなかったようじゃ。逆方向に向かっておる」
(やっぱり……)
竜也は心の中で呟いた。
────
340
:
友への不信
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 16:13:45
「なかなか見つからないな……耳鼻科ならあったんだけど」
「少し疲れたわい……」
ブクラテスがそこで腰を下ろす。これで三度目だ。年齢の問題もある。仕方がないことだろう。
竜也はその度に二人がどうにかして菜月と合流していないか考えた。だが、結局はその期待を破り捨てる結果に終わってしまう。
ブクラテスは座り込むたびにタロットカードを使用していた。敵が近くにいないか確認するためらしい。──だが、それは徹底した演技だ。
「この辺りには敵はおらんようじゃ。しばらく休んでいて平気じゃろう」
首輪探知機には二つのマークしか映っていない。それは竜也とブクラテスに違いなかった。首輪を解除しているものがいなければ、参加者は近くにいない。
「……竜也、諦めろ。菜月と奴らが会う事はない。おそらく、ワシらともな……」
認めたくなかった。彼らとは共に生きて帰りたいのだ。シオンや、ドモンも一緒に。
「予想された未来なんて、変えてみせる。俺はそうしたいんだ」
「無理じゃ。ワシの占いも奴らの正確な居場所まではわからん。近づいていくつもりが、誰かに遭遇することもある」
それは嘘に違いない。ただブクラテスは足手まといがいらないだけだ。自分を信用していないスモーキーとシグナルマンや、仲間を置いて一人でどこかへ行ってしまう菜月のような人間はこの状況での味方として相応しくない。
そういう人間に一緒にいてもらっては困るのだ。
「でも、そこで遭遇した人間が悪いヤツじゃないかもしれない!」
「お主はこの状況がどんなものなのかわかっとらんようじゃ。予想もしないやつが敵だったりするからのう。……ワシの腕を斬ったのは、ワシの仲間じゃった男じゃよ……」
竜也はその事実に驚き、怒りと悲しみを感じた。仲間だった人間を殺そうとするなど、その男は最低だ。だが、そこまで追い詰められている人間がいると考えると、ロンがとても憎くなってきた。
「お前の仲間も、もしかすればこの戦いに乗ってるかもしれんぞ。今まではラッキーが続いただけじゃ、シグナルマンや菜月のようにいかんやつも多いんじゃ」
思えば、ここまでの竜也は運がよすぎた。こんなにも長い間、敵といえる敵に出会わなかった。メレを除けば、完全に仲間しかいない。放送で次々と人の名前が呼ばれたときも、実感はわかなかった。
(ドモンやシオンが、殺し合いに乗る訳ない……)
竜也は自分に言い聞かせた。
「そのうち足元をすくわれるかもしれんぞ」
竜也は無言で地面を見つめた。ドモンやシオンが自分を殺そうとしている姿なんて想像できない。だが、彼を待つ結果は想像なんて枠に収まらないだろう。
「……さて、大分休んだ事じゃ。病院を探すとしよう」
ブクラテスが腰を上げたが、竜也は微動だにしなかった。
────
341
:
友への不信
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 16:14:19
二人は小さな病院の前に立っていた。本当に小さな病院だ。
「ようやく着いたか……ずいぶん手間がかかったのう」
ブクラテスにはそれがオアシスに見える。一時間も歩き続けてようやく辿り着いた病院だ。それがたとえ、小さくても頭の中で美化されて大きく見える。
「ワシのカンではこの病院には誰もいないようじゃ」
竜也は聞いていない。あの会話の後から、ずっとドモンとシオンが乗っていないかという心配が募っていた。シオンが人を殺す瞬間なんて、想像もできないが……。
「竜也、この辺りには誰もいないんじゃ。ワシの言った事はしばらく忘れていろ」
そんなことができるわけない。コンピュータじゃないんだ。一度聞いた事を忘れる事はできない。そして、その事実が次々と信頼を壊していく。
「竜也! さっさと来んか!!」
ブクラテスが怒鳴ると、竜也は一瞬、作った笑みを見せながらブクラテスの元へ駆け寄った。
(竜也も使えなくなってきたか……余計なことは言わないほうがよかったか……)
ブクラテスは少しずつ、竜也も見放そうと思い始めていた。無論、もっと頼もしい仲間がいればの話だが。
────
病院の内装は予想していたよりも綺麗だった。どちらかというと女性向きの病院なのだろうか。小さなテディベアが飾ってある。
だが、彼らが探しているのはそんなものではない。治療できる場所だ。これだけ時間が経っていれば、消毒は確実に必要となるだろう。腕は治らなくても、今後の心配を消し去る事が出来るだろう。
「おい竜也!! これじゃ!!」
「あ……ああ」
ブクラテスが呆れながらも竜也に救急箱を手渡した。
「悪いがワシ一人じゃ難しい。手伝ってくれ」
竜也は救急箱を開けて消毒液と脱脂綿でブクラテスの傷口を拭いていく。よく見てみると、かなりグロテスクな傷口だ。仲間からの攻撃による傷だということで、余計に嫌な色に見えてしまう。
「これでだいたい大丈夫かな?」
ブクラテスの肩に包帯を巻き終えると、竜也はポンと軽くそこを叩いた。
「痛ッ!!」
「あ……ごめん」
ブクラテスは肩を押さえながら竜也の背中を睨んだ。顔は笑顔をつくろうとしているが、かなり動揺している。
「竜也……少し休んだほうがよい……ワシのカンではしばらくここに誰かが来ることはない……人質のことも、お主の仲間のことも考えるな」
ブクラテスはそう言いながら病院のソファを指差した。
(そういえば、疲れてきたな……)
竜也は言われるままにそのソファに寝転がった。
(悪いな、竜也……ワシはもっと使える人間がほしいのじゃ)
ブクラテスは、竜也の所持していた支給品を拾い上げるとこそこそと逃げていった。
(さて、この付近には反応はないようじゃのう……もっと遠くに行ってみるか)
────
342
:
友への不信
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 16:15:17
竜也は夢を見ていた。
──……さんは死んだ!それは、もう、どうにもならないんだ。俺が勝ち残らなきゃ……。もう、どうにもならないんだよ!──
ドモンが女性を前に、恐ろしいことを言っている。
勝ち残る──それは間違いなく、誰かを殺し、自分だけが頂点に立とうとしているということだ。
──ちくしょう!何が殺し合いはやめてだよ。何がタイムイエローじゃないだよ!──
明らかに怒り狂っているドモン。
──パン!──
場面はまた違う場所だ。ドモンは歩いている男性の肩を撃った。
──クロノチェンジャー!──
ドモンはタイムイエローに変身し、人を傷付けていく。
(これは、悪夢に違いない……)
そう思いたかった。
「夢ではありませんよ……」
金色の光が一人の男性になった。──ロンだ。
ロンは竜也に言う。
「ここは……さっきの病院? ブクラテスは……」
「あなたを裏切り、ここから逃げましたよ。見てください。メレの支給品もここにはない……ブクラテスが持って行ったのです」
「そんな……そんなわけない!! ロン!! まさかお前がッ……」
竜也はロンを前に取り乱していた。本当は、ブクラテスを完全に信用していたわけじゃない。だから、ロンの言う事が少しリアルに感じた。
「今の夢は私の力であなたに直接見せた夢です。……しかし、それは別の場所で起きた現実なのです。まあ、信じるか信じないかはアナタ次第ですが」
嘘だと信じたかった。だが、できなかった。
自分は、今まで仲間だった人間を、ここに来て信じることができなくなったのだ。
「ですが、真実から目を背けてはいけませんよ。五色の戦士のレッドとして……」
ロンが悪戯っぽく微笑む。
「まあ、五色の戦士のイエローは残念ながら乗ってしまったようですがね」
竜也はロンに殴りかかりたくなった。だが、竜也は絶望と精神的な疲れでそれができない。無気力な状態だ。
「タイムレッド……いや、クロノチェンジャーは私が取り上げたからタイムファイヤーですね。……あなたも殺し合いに乗るというのはどうです? 既に何人もの人間が犠牲になっている。それを全てなかった事に出来るのです。全員が蘇る事ができれば……。間宮菜月とスモーキーのあの様子を見たでしょう?」
343
:
友への不信
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 16:15:57
──真……墨? 嘘、……こんなの、信じないよ。だって誰も犠牲にならないように……。菜月たち、これから……──
──ニャ……俺様だって、信じないぜ。麗や、あいつらが、こ……殺されただニャんて──
菜月の悲しむ顔、スモーキーの怒る顔。頭の中ではっきりと思い出すことが出来た。
「ダメだ……俺は、乗らない! この拳は正義のためのものだ!!」
「正義ですか……ならば自分の拳を汚してでも全員に新しい命を授ける事も正義だと思いますがね」
ロンの言い方に、竜也は腹が立った。
「お前がッ!! お前が全ての元凶じゃないか!! 真墨さんも麗さんも、お前が殺したも同然だ!! ドモンだって、お前が……!!」
竜也はVコマンダーを使おうとまで思った。
「私を倒そうというなら今はやめたほうがいいですよ。私を倒せば、参加者の命は蘇えることはないのですから……ドモンも愛する者の命のために戦っているのです。それを無駄にしようというのですか?」
竜也は手を止めた。
(どうすればいいんだッ……? 何が正義で何が悪なんだ!?)
竜也にはそれがわからなくなり始めていた。正反対である二つの行動は、一見どちらも正義に見えてしまう。だが、どちらかが悪なのだ。それがどちらなのかわからない。
(待て……? ドモンの大切な人って……)
──森山ホナミ。ドモンの恋人だ。
「ロン!! お前、ホナミさんに何をした!?」
ロンは内心笑っていた。森山ホナミ……? 関係ない。彼はそんな女の事を知らないのだから。あれだけ愛していた女の事も知らずに、別の女性のために戦っているのだから。
つい、それが顔に出てしまう。
「ロンッ!! 何を笑っているんだ!!」
「ククッ……ちょっと面白い事を思い出しましてね……」
「面白いこと……ッ!?」
「彼は別の女性のために戦っている。彼の愛など、所詮その程度のものだったということでしょう……」
竜也は愕然とした。ホナミはドモンが人生の中で最も愛した女なのではないかと思う。もしかしたら二人が妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。
ドモンが、ホナミを裏切るはずがない。
「そんなはずはない!!」
「彼が愛したのは小津深雪……広間で死んだ小津勇の妻ですよ……」
ロンは笑いながら金の光の中へ消えてしまった。いくらドモンとはいえ、ホナミを捨てて、しかも人妻に乗り換えるなんて有り得ない。
ロンの代わりに、テディベアが竜也を見つめている。体中が汗にまみれていて気持ちが悪い。そこに、ブクラテスはいない。人の気配はなかった。
344
:
友への不信
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 16:20:16
──菜月はね、悲しいなって思ったの。殺し合いを始めた誰かがいるんだってことが……──
(ゴメン、それは俺の仲間かもしれない……)
どこかで、ロンがくすっと笑ったのは言うまでもない。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-5 都市(病院) 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どちらを選べばいいのかわからない(全員の蘇生ために乗るor誰も殺さない)
第一行動方針:菜月が心配。後悔。
第二行動方針:ドモン、ブクラテスに不信。
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考:クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-5 都市 1日目 午前
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機、毒薬(効能?)、タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック、メレの支給品
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:新たな仲間を捜す。
第二行動方針:竜也とシグナルマンはもう利用できそうにない。
345
:
名無しー!俺に惚れろ!
:2008/12/18(木) 17:00:06
代理投下中にさるさんorz
申し訳ない
346
:
◆LwcaJhJVmo
:2008/12/18(木) 18:40:36
>>345
いえいえ。こちらの責任です。申し訳ないです。
代理投下ありがとうございました。
347
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/12/20(土) 15:23:23
状態表を残しさるさんにorz どなたかお願いします。
【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康。腹に痣。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。 一般市民であることを貫く。
第一行動方針:新たに出会った仲間と共闘。
第二行動方針:生意気な女だなー
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイと和解
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と共闘する。
第二行動方針:メレを信じていいのか戸惑い気味
348
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/12/20(土) 15:24:32
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。二時間戦闘不能。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:なし
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:こいつら私を仲間に入れる気あるのかしら?
第三行動方針:シオンの言動に不思議な感情を感じる。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。
以上です。指摘、つっこみ、誤字脱字、感想などありましたらお願いします。
349
:
◆Z5wk4/jklI
:2008/12/21(日) 22:52:03
遅くなりましたが、代理投下ありがとうございました。
350
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/28(日) 23:51:35
最後の状態表でさるさんorz
もう狙っているとしか思えません。
代理投稿をお願いします。
351
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/28(日) 23:52:31
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)、スコープショット
[道具]:なし。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。その後、蒼太に殺される。
第二行動方針:夢の啓示で今の自分を再確認。裏方針が表に。(ロンの存在については気づいていません)
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:蒼太たちと一緒に行動する。
352
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/28(日) 23:58:32
投下終了。
誤字、脱字、指摘事項、ご意見、ご感想があればお願いします。
年末年始は休まず営業。大晦日までにあと1作品投下できればと思います。
353
:
名無しー!俺に惚れろ!
:2008/12/29(月) 00:57:10
おお!さすがまとめ氏。楽しみにしてます!
354
:
名無しー!俺に惚れろ!
:2008/12/29(月) 01:36:35
年末年始は休まず営業w流石だ!
おっと俺もこうしちゃいられないぜ。
355
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/29(月) 01:46:57
代理投下&応援の御言葉ありがとうございます。
まとめサイトも更新いたしましたので、ご確認ください。
あと、サイトを更新していたところ、ひとつ指摘点がありましたので、議論スレに記載いたします。
356
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/30(火) 20:56:08
遅くなりましたが、『優勝候補』の修正分を投下いたします。
357
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/30(火) 20:56:38
▽
工場の机の上に、マーフィーに代わり、女性が載せられる。
気休めながらもベッド代わりに、蒼太のジャケットなどの服を下に敷いてだ。
女性――西堀さくらは自分を心配する声を聞きながら、今後の行動について、考えていた。
(潜入成功ですね)
蒼太は自分がさくらを発見したと思っているだろうが、実際は違う。
さくらが蒼太に発見させたのだ。
さくらは工場から出てくる蒼太と学生服の男の姿を目撃していた。
ただ会うだけなら、そこで姿を見せ、合流すればいい。
だが、さくらはある目的のため、一か八かの賭けに出た。
その賭けは成功した。ギリギリだったが、目論見通り、蒼太は自分の存在に気付き、変身して、自分を助けた。
そう、変身してだ。
(今の私に武器はありません。戦闘手段は徒手空拳のみ。
変身を封じなければ、私と蒼太くんとのパワーバランスはあまりにも開きすぎてます)
だが、これでおおよそ2時間、蒼太は変身することはできない。
それまでにチーフを探し、隙を見て、蒼太を殺そうとする。そうすれば――
(チーフに見苦しく惨めな死に様を晒す。仲間を殺そうとして、逆に殺されれば、それは惨めでしょうね)
さくらは蒼太に殺されようとしていた。
358
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/30(火) 20:57:08
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。その後、蒼太に殺される。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
359
:
◆i1BeVxv./w
:2008/12/30(火) 20:58:35
以上です。
スコープショットで蒼太の姿を確認した箇所を、瞬を送り出す所を目撃したことに変えております。
タイムテーブル的にぎりぎりな気もしますが。。。
矛盾点があれば、お手数ですが、また、指摘していただければと思います。
360
:
名無しー!俺に惚れろ!
:2008/12/30(火) 22:53:06
修正版投下乙です。自分は問題ないと思います。
まとめ更新お疲れ様でした。いつもありがとうございます。
361
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:15:20
規制だよ…分かってても腹立つなぁw
「僕がこのゲームで心から信頼できるのはたった二人。チーフと…さくらさん、あなた方だけです。
なんか厄介ごと押し付けるみたいで申し訳ないんですけど、さくらさんに持ってて欲しいんです。
人を操る悪魔の道具を、信頼の証の象徴にして欲しいんです、それとロンへの反旗の印に。
それを安心してできるのはさくらさんだけです。受け取ってくれますよね?」
縋る様な蒼太の表情に、さくらは彼もまた平静を装いながらも張り詰めていたことを悟った。
「…わかりました。これはわたしがお預かりします」
さくらは蒼太の申し出を快諾した。
「良かったぁ〜…! 断られたらどうしようかと思いましたよ! さくらさん、お願いします」
「心得ました」
さくらは力強く頷いた。
§
「お水、美味しかったです」
いささか復調したのか、さくらは発見された時よりも顔色が良くなった。
「そうかぁ♪ いやぁ、さくらさんに早う元気になってもろうて皆と合流せなあかんからな。
“くえすたー”が愛を枯らすなんてけったいな企みなんて絶対阻止したる!」
無邪気に微笑むおぼろの姿にさくらは何故、蒼太が彼女と行動を共にしているか分かる気がした。
蒼太はまた偵察に出るといって場を外した。
恐らく、出会って間もないおぼろとさくらの親交を深めて欲しいという彼なりの心遣いなのだろう。
それは実に都合が良かった。
「あたしは戦闘こそからっきしやけど、メカに関しては自信があるんやで! あんたのアクセルラーとかいう道具もきっと修理してみせる!! そしたら一緒にロンを倒すんや!!!」
「ありがとうございます。おぼろさんには何から何までお世話をして頂いて…」
「なに言うてるんや! あたしらもう仲間やないの。水臭いこと言わんといてぇな」
さくらの肩をバンバンと叩きおぼろは笑った。
362
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:15:54
「これがアクセルラーかぁ…こうやって見るのははじめてやけど、うちの知ってる子たちが使ってるのと構造自体はそう違わんなぁ…ただ、このパラレルエンジンとかいう装置は結構曲者やな…
修理できるといいんやけど……」
初めて見る他の変身装具を手にあちこちをみつめるおぼろの背後にゆらりと影が立つ。
「なぁ、さくらさん…―――」
振り返ろうと、頭を振ったおぼろが見たのは感情のかけらも感じさせない冷徹な表情をしたさくらだった。
仮にも忍風館の卒業生であるおぼろに気配を一切感じさせることもなく、一気に間合いをつめ
利き腕を強く捻る。
不意を突かれたおぼろは成す術もなくあっという間に押さえ込まれ、壁際に押し付けられた。
「な・なにするんやっ!?」
狼狽するおぼろの耳に震えた声が聞こえてくる。
「ごめんなさい……!」
さくらは右腕に掲げたヒュプノピアスをおぼろの背中に突き刺した―
「…―――ッッ!!」
途端、全身に激痛が走る。
「痛ぃいいい!! 痛いいいい!! 痛いいいいいーーーーー!!!!!!!!」
本来、30世紀の囚人を押さえ込むための精神への拘束具として開発されたそれは対象の感情を一切無視し、完全に隷属させる。
その時生じる電磁波の奔流は直接神経を掻き毟るような凄まじい痛みを伴う。
「痛い痛いいいいぃぃい痛い痛い痛いいいいいぃぃいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
地面を転げまわり、激痛にのたうつおぼろをさくらは涙を流しながらみつめていた。
「ごめんなさい…これしか…これしか方法がなかったんです……」
ここを離れるわけには行かない。
だって、まだ、チーフが、来て、いないから――…
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
「痛いいいいーーーーー!!! 痛い痛い痛いーーーーーー!!!痛い痛い痛い痛いーーーーー!!!!」
なぜ、彼女がこんなことをするのか。
なぜ、あんなに悲しい顔をしているのか。
おぼろには何も、分からなかった。
「殺すことはしません…きっと解放しますから……少しの間だけ、わたしの言うことを聞いてください……」
そして、全てが暗闇に閉ざされた。
363
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:16:50
§
「蒼太君、やっぱり私いけません」
「何でです? やっぱりチーフを待つんですか?」
偵察から戻った蒼太に出会いがしら、さくらはそう告げた。
「はい。それもありますが、わたしにはあなた達と行動を共にする資格がないんです」
「はい? すみませんが、言ってる意味がよく分からないんですけど…」
「わたし、殺し合いに乗ったんです」
事も無げにさくらはそう言ってのけた。まるでなんでもない事の様に。
いつものように真面目な表情で。いつもの冷静な口調で。
「実際に参加者も一人、襲いました。殺しこそしていませんが、殺意があったことは事実です。
それと、わたしガイから逃れたといいましたけど…あれ、嘘です。
本当は土下座して命乞いをして、何とか生き延びたんです」
悪夢を見ているようだった。
さくらは今の自分を包み隠さず蒼太に告げた。
危険なプレシャスと分かっていながら、保身のためになんの処置も施さなかったこと。
グレイを罠にはめようと画策した時の暗い興奮。
ガイとの舌戦で感じた侮蔑の言葉を吐いたことでの爽快感。
ざらついた砂利を舐めった舌の感覚。命を見過ごしてもらった時の安堵。
聞くに堪えない赤裸々な告白の数々に蒼太は眩暈を覚えた。
悪夢だった。
嘘だと、叫ぶことすら出来なかった。
何も出来ないままただ、その言葉に聞き入るしかできなかった。
「ですから、わたしには一緒に行く資格がないんです。今の話で理解して頂けましたよね?」
さくらの表情は変わらない。
自分がどんな話をしているか、分かっているのか。
築き上げてきた信頼が音を立てて崩れる音を蒼太は聞いた。
そして―…その視線は目の前にいつもの姿勢でたたずむさくらに釘付けにされていて、背後に迫る危機に全く気がついていなかった。
瞳の輝きを失ったおぼろが蒼太の背後に迫っていた。
彼女はイカヅチ丸を握っていた。このまま、無防備な蒼太を気絶させ捕縛する。
そうすればこの場を制するのはさくらだ。
後は、明石が来るのを待てばいい。
ゆっくりと、おぼろがイカヅチ丸を天に翳していく。
あと、少しで、全て準備が整う。
364
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:17:29
おぼろがイカヅチ丸を蒼太の後頭部めがけて、振り下ろそうとした。その時。
カチッ。
いつの間にか蒼太の手に握られていたスイッチが乾いた音を室内に響かせた。
「え…?」
それを合図にしたように、おぼろの動きが止まる。
「よくわかりましたよ…さくらさん。どうやら、僕ら…行く道が違っちゃったみたいですね」
ヒュプノピアスはただそれだけでは不完全な代物だ。
リモコン端末とその発信機が対になって初めてその効果を発揮する。
蒼太がさくらに預けたのは発信機の部分だけで人を操るだけの力はない。
さくらはおぼろを操っていたように思っていたがその実、蒼太がおぼろをさくらの命令に従っているように動かしていただけに過ぎなかったのだ。
「おぼろさん…変なことさせて、すいませんでした」
蒼太が振り向くこともなく、おぼろに告げる。
「なんも…あたしこそ、また助けてもらって……」
さくらがピアスを使えば、すぐに端末にその情報が伝わる。
いわば、蒼太はさくらを試したのだ。
それが、彼自身の前歴で培われた深い業であり、真の信頼を求める渇きでもあった。
「さくらさんが色々黙ってたように…僕も全部話してませんでした――…でも、これでお互い、腹を割って話すことが出来そうですね」
そう言って、蒼太は懐に手をやる。
そして、一旦は預けたはずのヒュプノピアスを取り出しさくらの眼前に掲げた。
365
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:18:18
「さくらさん…ヒュプノピアスを、嵌めてください…―」
振り絞るように蒼太はさくらに求めた。
「蒼太君っ! わたしは…!!」
「黙れっっ!!」
普段の彼からは想像も出来ないほどの激しい一喝にさくらは一瞬押し黙る。
「僕からの命令はこうです…“今後、一切の行動は全て明石暁の命令に従うこと”
彼になら…さくらさんも自分を預けられるでょう?」
瞳に涙を滲ませ、血の吐くような思いで蒼太は言の葉を喉の奥から搾り出した。
心から信頼する相手にむけねばならない刃は、諸刃となって蒼他の心をずたずたに引き裂いていく。
「さくらさん…お願いですから自分で嵌めてください……僕に…僕にさせないで下さいっ!!」
…――ヒントをひとつだけ。もし、首輪を外す方法を見つけたとしても、決してあなた自身で試してはいけません。 もっとも邪魔になる方で試すことをお勧めしますよ―――…
脳裏に蘇る声と蒼太は必死に戦っていた。これまでにないほど、感情をあらわにして。
輻射熱と耳鳴りで今にも倒れてしまいそうだった。
蒼太の嘆願にさくらは押し黙ったまま。
今や、二人が培ってきた絆は霧散の如く消滅してしまっていた。
「蒼太くん…」
二人の今にも破られんとする均衡を見つめながら、おぼろはただ両者を交互に見やるだけだ。
永遠に続くかと思われた均衡を破ったのはさくらだった。
「………――――」
そっと前へと足を進める。
「さくらさん…」
分かってくれた。蒼太の顔に安堵の表情が浮かぶ。
大丈夫。
まだ、彼女との絆は完全に途切れてはいない――
そうだ。
まだ、やり直せる…
このゲームが終わったら、きっと――…
366
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:18:56
「蒼太くんっっっ!!! 危ないッッ!!!!!」
希望の幻に心を奪われていた蒼太の意識が急速に現実へと引き戻される。
すぐ近くにいるはずのおぼろの声がなぜか遠く聞こえた。
「えっ…?」
すぐには分からなかった。
しかしすぐに下腹部に焼け付くような痛みが走り、喉の奥から血があふれ出していく。
ずぶり、と体内から鈍い輝きを放つナイフが引き抜かれると蒼太の体は工場の冷たい地面に沈んだ。
「…さくら……さん?」
目の前には荒い息で両手を真っ赤に濡らすさくらが佇んでいた。
「ハァ…ハァ…ハァ……―」
さくらが手にしていたのはスコープショットに含まれる幾つかのツールのうち、ナイフだけを抜き取ったものだった。
ガイとの戦闘の後、破壊されたディパックから使えそうなものがないか精査した。
望遠鏡など大方のアタッチメントは死んでいたが、唯一ナイフだけが生き残っていた。
アクセルラーを失ったさくらにとってそれが唯一の武器だった。
ガイやグレイといった強敵たちと渡り合うにはあまりに矮小な力。
そして、育んできた絆を断ち切るには十分すぎる力。
「蒼太くんっ!」
おぼろがさくらを突き飛ばし、蒼太へ駆け寄る。
上半身を起こし、意識が朦朧とする彼を必死に引きとめようと叫び続ける。
「蒼太くんっ! 蒼太くんっ!!」
ナイフを持った相手を背にしたまま、あまりに無防備に。
成す術もなく泣き叫ぶその姿をさくらは呆然と見つめていた。
「どうしてや…」
嗚咽の中におぼろの鋭い声が混ざる。
「どうして蒼太君を刺したんやっ! 仲間やろ、あんた!? 蒼太君はなぁっ! 蒼太君はあんたを心から信頼しとったんやで! それなのに…なんでやっ!!!」
わたしだって信頼している。
蒼太くんを心から信頼している。だからこそ、彼に最期を看取って欲しかった。
あの人と二人で見送って欲しかった。ただ、それだけなのに―…
367
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:19:41
「さくらさん…逃げて…逃げて…下さい…―」
息も絶え絶えに、それでも蒼太はさくらを赦そうとしていた。
それが、仲間への最後の温情なのか、過去の罪への償いなのか、蒼太にも分からない。
「蒼太くん!? なんで、こないなやつ庇うんやっっ!!」
おぼろが悲しみとも怒りとも取れる声で叫ぶ。
蒼太は微笑っていた。
ひどく、哀しく。
さくらはそっと、袂を分かったかつての仲間に背を向ける。
最早、ここにはいられなかった。彼女はまた居場所をなくしたのだ。
「…今は逃げたらえぇ…でもな、憶えときっ! あたしがあんたを必ず追い詰めたる!!
もう、あんたの居ていい場所なんてこの世界のどこにもないんやっ!!」
怒りにわななきながら、らんらんと怒りに輝く瞳に涙を一杯に溜めて。
日向おぼろはこれまで経験したことのない憎悪の感情に支配されていた。
絶対に、この女だけは、許しておけない。
このゲームで最も忌むべき行為に手を染めた彼女を。
糾弾し続ける。
追い詰めて、追い詰めて。
惨めな最期を遂げるまで。
368
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:20:17
§
どこをどのくらい走ったのか――
おぼろの最後の言葉を背に受けたまま、さくらは当て所もなく彷徨い続けていた。
―やがて、鼻を突く血の臭いに気づく。
目の前に広がる光景に、さくらは驚愕した。あたり一面に肉片と思しき破片が散乱する地獄絵図。
その中心に頭蓋が覗く首と目と目が合う。
「これは…!」
彼女をさくらは知っていた。
時の魔神クロノスが呼び寄せた最後の巫女―フラビージョ。
生前の彼女とは一度刃を交えた経験がある。
まさか、こんな形で再会するとは思っても見なかったが。
くまなく辺りを見回すが、彼女をこんな姿にした張本人は既にこの場を去ったらしい。
「!」
フラビージョの生首の更に奥。血塗れた剣が地面へ深々と突き刺さっている。
「ズバーン!」
やはり、彼もこの世界へ誘われていたのだと、さくらは思わず駆け寄った。
「良かった! 無事だったんですね!!」
彼の本質を知るさくらは仲間を道行きにすべくその柄へ手を、かけた。
「なっ―!!? ああああああああああああああああああああああああああ――――…ッッ!!!!」
刹那、さくらの全身を電流が刺し貫いた。
立っていることすらかなわず、さくらは無様に地面へと転げた。
「ズ・ズバーン…?」
古代レムリアの宝剣は清き心の持ち主にしか従わない。
邪なる者がその手を触れれば剣はこれを、自ら、拒絶する。
「わたしは…とうとうズバーンにまで見捨てられてしまったんですね……」
どこまでも、どこまでも堕ちていく。
369
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:22:37
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:瀕死の重症。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針: おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:西堀さくらに激しい怒り。どんな手を使っても絶対に追い詰めて見せる。
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)
[道具]:なし。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。その後、蒼太に殺されようとしていたが失敗。
第二行動方針:夢の啓示で今の自分を再確認。裏方針が表に。(ロンの存在については気づいていません)
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:蒼太たちと一緒に行動する。
370
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 01:23:21
いつもすみませんが、本スレへの投下をお願いします…
私もこれが本年最後の作品になりそうです。
それでは良い、お年を。
371
:
名無しー!俺に惚れろ!
:2008/12/31(水) 11:11:27
投下乙です。さくらさんついに仲間にまで…
おぼろさんの叫びが悲しいですね。
ただ指摘とも違うかもしれませんが、さくらさんの行動には違和感を感じました。
彼女は洗脳されて本来の彼女とは違う行動をとっていますが、
目的(この場合は『惨めな死に様を晒す(特にチーフに対して)』)を果たす為の判断力を失ってはいないようでした。
そんな彼女があの場でとる行動にしては少し彼女らしくないかな?とは思いました。
あの場を動かない為ならヒュプノピアスを使っておぼろを操らずとも、パラレルエンジンの事を理由に蒼太を説得する事もできますし、
蒼太達と行動をともにしながら、チーフと再会したいと思うのならば、
ボウケンチップなどを使ってチーフにメッセージを残す事も出来たのではないかと思いました。
彼女の行動にしては、性急過ぎるというか危うい橋を渡り過ぎている気がします。
話の根幹に関わる事で申し訳ないのですがお答え頂けたら幸いです。
372
:
名無しー!俺に惚れろ!
:2008/12/31(水) 15:52:21
投下乙でした。
速筆、各人の心理描写共にGJです。
一カ所誤字を
>>365
心から信頼する相手にむけねばならない刃は、諸刃となって蒼他の心をずたずたに引き裂いていく。
で蒼太が蒼他になっております。
さくらの行動に関しては、
>>371
さんと同じように感じました。
最後になりますが来年も作品楽しみにしております。
373
:
◆8ttRQi9eks
:2008/12/31(水) 17:13:17
さくらは右腕に掲げたヒュプノピアスをおぼろの背中に突き刺した―
「…―――ッッ!!」
途端、全身に激痛が走る。
「痛ぃいいい!! 痛いいいい!! 痛いいいいいーーーーー!!!!!!!!」
本来、30世紀の囚人を押さえ込むための精神への拘束具として開発されたそれは対象の感情を一切無視し、完全に隷属させる。
その時生じる電磁波の奔流は直接神経を掻き毟るような凄まじい痛みを伴う。
「痛い痛いいいいぃぃい痛い痛い痛いいいいいぃぃいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
地面を転げまわり、激痛にのたうつおぼろをさくらは涙を流しながらみつめていた。
「ごめんなさい…これしか…これしか方法がなかったんです……」
最も惨めで無様な死に様を晒す。
明石暁は仲間を心から信頼している。
帝国の真珠の時も、ガラスの靴の時も彼はさくらを信頼してくれた。
――だから、蒼太が絆の証にしたいといったこれでそれを裏切る。
なんて浅はかで、なんて思慮のない、なんて無様な企み。
蒼太は仲間の裏切りに敏感だ。きっと、自分を許さないだろう。
それでいい。
彼の怒りが大きければ大きいだけ、惨めに敗れる自分の姿は一層無様さを増すのだから。
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
だが、そのために結果として何の関係もないおぼろを巻き込んでしまった。
彼女は愚かなまでに出会って間もない自分を信頼してくれたのに――
「痛いいいいーーーーー!!! 痛い痛い痛いーーーーーー!!!痛い痛い痛い痛いーーーーー!!!!」
なぜ、彼女がこんなことをするのか。
なぜ、あんなに悲しい顔をしているのか。
おぼろには何も、分からなかった。
「殺すことはしません…きっと解放しますから……少しの間だけ、わたしの言うことを聞いてください……」
そして、全てが暗闇に閉ざされた。
>>371
>>372
感想ありがとうございます。
ご指摘のあった箇所に補足の描写を追加させて頂きました。
さくらが自分が今一番ありえない行動をとることで、仲間の信頼を失墜させることが無様な死に様への準備と捉えて頂けると幸いです。
思い起せば「奇妙な二人」、「堕落」とご指摘をさせてしまい、心苦しい限りです。
今回は話の根幹に係わる部位ですのでなお、異論がでるようであれば他の方の妨げにもなりますので取り下げも致します。
年明け前に不快な思いをさせて本当に申し訳ありません。
374
:
372
:2008/12/31(水) 22:08:26
修正乙です。
ですが結局この後の結果さくらの取る行動が同じことであれば『惨めな死に様を晒す(特にチーフに対して)』)を果たす為の判断力が
直前のSSとの関連もありますし突然欠如してしまった感があるのです。
取り下げるというにはまだまだ時間もありますし、結論を出してしまうのは焦燥かと……。
これは自分の私的な感ですができれば取り下げという文言を使うのはなるべくやめて欲しいかと思います。
せっかく書かれたSSですし、実際読み手として楽しみにしていたので……。
375
:
371
:2008/12/31(水) 22:50:00
修正版投下お疲れ様でした。
>>374
さんに賛同するかたちになりますが、
自分もやはりさくらの行動に矛盾を感じました。
前作を読む限り、彼女は操られてはいますが、
周囲の状況から策を練る冷静さ、慎重さは失っていなかったように思います。
もし、おぼろや蒼太の信頼を裏切ろうと策を練るならばもっと慎重に行動するのではないかと思います。
目的の対象であるチーフにまだ再会できていない状況で彼女が取る行動にしては、迂闊、というか性急すぎるかなと思いました。
自分も楽しみにしておりました。不快などとおっしゃらずに出来ればまた氏の作品をお読みしたいです。
修正版の投下は大変でしょうし、大変心苦しくはあるのですが……
376
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/01(木) 00:54:51
ご納得いただけないようなので一応弁明と言うか、個人的な意見を。
前作ラストで蒼太が変身不能な2時間までにチーフと合流して、殺されようとして殺されると言う
時間制限があります。
つまり、肝心なのはここで死ぬことです。
故にこの時点でガイとの遭遇も避けたいと言う観点から、蒼太たちと行動を共にするルートは消えます。
自分も蒼太も変身できないわけで下手をすれば全滅です。第三者の介入がさくらの計画の妨げにもなりかねません。
2時間と言う枠の中で自分達がそこを離れればチーフと合流できる可能性は薄くなります。
蒼太たちが目指す場所はチーフが都市部を目指しているというのとは逆のルートでもあります。
また、チップを残すと言うのもこの場を動くと言う選択肢が消えた以上、有効な手段ではありません。
それでも蒼太がガイとの戦いを望むなら彼をとどめる理由が必要になります。
ここで浮上するのがおぼろです。おぼろは正気の状態で協力などしてくれません。
ゆえに強攻策がどうしても必要になる、と言う筋立てでした。
いろいろ書き連ねましたが、結局意図を十分に伝えきれない自身の力量不足が全ての原因です。
一部、不適切な言葉の使用についても指摘を受けたので合わせて釈明したいと思います。
以上の事柄から意見を更に頂けるなら幸いです。
377
:
371
:2009/01/01(木) 01:50:20
すみません。最初の書き方が悪かったです。
2時間以内にチーフに再会しつつ、蒼太に殺されるというのが目的ならば、
最初の説得の際にパラレルエンジンによる戦力低下を理由に、チーフと合流すべきだともう少し主張しても良かったのではないかと思いました。
(この場合は映士を探す、の方が自然かもしれませんが)
それこそ、戦力が低い状態でいっても全滅しかねないわけですし。
上手く伝えられずに、何度も申し訳ないですがお願いします。
378
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/01(木) 10:24:48
蒼太がゴウライチェンジャーで戦う旨を言われたなど、意見に相違がある描写を挿入すれば
内容をご承諾いただけますでしょうか?
そこが弱いとおっしゃるなら補足をしたいと思います。
蒼太たちも先を急く気持ちは当然あると思います。美希にも違和感を感じているわけですし。
彼にいつ来るか知れない明石を待つ余裕はないと思うのですが。
どうしてもさくらの行動に矛盾を感じるならば、蒼太がヒュプノピアスをさくらに譲渡する場面で切るなどの
内容修正を行いたいと思いますが…
379
:
今年も戦隊ロワをよろしくね!
:2009/01/01(木) 16:54:51
遅くなりまして申し訳ありませんでした。
拝読した限りでは、さくらと蒼太、それぞれの逼迫した焦りのものを感じ取る事が出来ず、
何度もお訊ねする形になってしまいました。
修正版を一度拝読したいと思います。お手数ですが、よろしくお願いします。
380
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/01(木) 19:52:25
「優しい方ですね…おぼろさん」
さくらはおぼろの背中を見送りながら呟いた。
「えぇ。彼女のおかげで僕も随分助けられてますよ…それより、さくらさん、チーフからの指令なんですが…どうします?」
「そう、ですね…ガイの目的が蒼太君の話どおりだとすれば
一刻の猶予もないですね…本当はチーフが来るまで動くべきではないのでしょうけど…−」
さくらはガイとの遭遇だけは避けたかった。
「僕も出来るならチーフを待ちたいですけど…」
蒼太はここで出来た、分かれた仲間達も心配だった。
特に美希の挙動に違和感を覚える。なにやら不吉な胸騒ぎを覚えるのだ。
これが取り越し苦労ならそれに越したことはないのだが。
「さくらさんの話通りなら僕らのアクセルラーじゃガイには敵わない事になるし…その高丘映士…でしたっけ? 彼がいてくれるなら話は別ですけど…」
自分のアクセルラーにはご他聞に漏れずネオパラレルエンジンは搭載されていなかった。
やがて来るであろう明石のアクセルラーの状態は知れない。
かといって素性も定かでない(これは蒼太個人の問題だが)高丘映士なる人物に頼る気にもなれなかった。
何より彼はどこでどうしているか知れない。最悪、死んでいる可能性すらある。
ならば、いつ来るか分からない明石よりも早く仲間達と合流してガイを打ち滅ぼす。
それが一番の得策だと蒼太は思っていた。
「…すみません…わたしが不甲斐ないばっかりに…」
ガイを逃がしてしまったのは重ね重ね、様々な意味で痛恨事だった。
まさか、彼にそんな目的があったとは知らなかったのだ。
「さくらさんの所為じゃありませんよ! 元気出してください!!」
「ありがとう蒼太君…」
さくらは少し疲れたような微笑を浮かべた。
「でも、僕はやっぱりガイを追うつもりです」
「そんな! ガイに私たちのアクセルスーツでは対応し切れません。むざむざ殺されにいくようなものです!!」
「大丈夫ですよ。ここでできた仲間もいますし、さくらさんの話し通りならガイも相当の深手を追ってるようですしね…最悪、倒せないまでも“天空の花”を叫びの塔に持っていかせることだけは防ぐことが出来ると思うんです」
「でも…!!」
「さくらさんから敵の情報を頂けたのは幸運でした。先にアクセルラーが使えないと分かっていれば打つ手もあるんです。心配しないで下さい」
仲間達との交流の中で存在が明らかになった“ゴウライチェンジャー”。
おぼろによればゴウライチェンジャーは自分達のアクセルラーとは異なり、誰でも変身自体は可能であると言う。
あるいは、ゲームマスターのロンがパワーバランスの均衡を保つためにこのアイテムを紛れこませたのかもしれない。
「そんな! 危険です。使い慣れていないスーツで戦うなんて無謀すぎます!!」
蒼太たちの目指す場所はマップの端。
明石が目指す都市部とは距離的に大きな隔たりがある。
加えて蒼太のいう“仲間達”の存在がさくらの計画の妨げになる可能性は大きかった。
今、ここで、彼を押しとどめなければいけない。
「どうしても行くんですか…?」
「えぇ。天空の花を奪われたのは元々僕らの責任ですし…それにぶっつけ本番はいつものことじゃないですか! “ちょっとした冒険”ってやつですよ。
おあつらえ向きにスーツのカラーも青ですし」
そういって朗らかに笑う蒼太の表情にさくらは押し黙る。
彼は一見軽薄に見えて本質的には正義感が強く、初期には明石が相手でも我を通す場面がしばしば見られた。
ハーメルンの笛事件でも彼はさくらの制止を振り切り、真墨や菜月に追随している。
(何とかしなければなりませんね…)
しかし、彼を説き伏せるだけの事由があるだろうか―
思考の海に思いを馳せるさくらのその表情を蒼太はじっと見つめていた。
「蒼太…くん?」
381
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/01(木) 19:54:53
本スレ355に補足する形で処理いたしました。
ご意見をお聞かせ下さい。
また、質問の意味を十分に理解できずに新年早々長々とつき合わせてしまい、重ねて申し訳ありません。
382
:
今年も戦隊ロワをよろしくね!
:2009/01/01(木) 22:43:28
自分は問題ないと思います。
長い間お疲れ様でした。
383
:
今年も戦隊ロワをよろしくね!
:2009/01/02(金) 11:02:50
修正乙でした。
384
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 04:59:12
やはり貴方は投稿しすぎです。バイバイさるさん。のため、こちらに投下いたします。
お手隙でしたら、代理投下をお願いいたします。
385
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 04:59:42
勿論、宇宙人であるブクラテスには地球の常識をあてはめるのはナンセンスなのかも知れないが。
「竜也さん?」
「あっ、ごめん。で、その人は」
竜也は菜月の傍らで倒れ伏す、男に視線を移した。
パッと見、下着姿のその男は変質者に見えるが――
「変態さんだよ」
――そのものだった。
「変態?」
「うん、息を荒くして、菜月の足を掴んだの」
「………………菜月ちゃん、それは」
そんな奴を連れてくるのはどうなんだと、思わずツッコミを入れようとする竜也。
だが、菜月の次の言葉に、そのツッコミは飲み込まれる。
「で、話を聞いてくれって。理央さんっていう人に伝えてくれって。そう言って、気を失っちゃったの」
「理…央……」
竜也には聞き覚えがある名前だった。
―理央様を見つけて、私の元に連れてきなさい。―
メレが竜也を踏みつけながら紡いだ言葉だ。
(この人もひょっとして、理央の関係者か?)
よく見れば、倒れ伏す男の身体は傷だらけだ。
息が荒かったのも、下着姿なのも、よくよく考えれば、戦いの結果なのではないか。
「とりあえず、病院まで運ぼう」
竜也は徐に男に近づくと、担ぎあげる。
その長身に相応しく、ずっしりと肩に重みが圧し掛かってくる。
「重い。菜月ちゃん、よくここまで運んでこれたね」
「うん、菜月じゃ運べなかったから、ボウケンイエローに変身して、運んで来たんだ。でも、突然変身が解けちゃったの」
「へぇ、菜月ちゃんも変身できるんだ」
そういえば、お互いの戦力の確認はまるでしていなかったことに思い当たる。
殺し合いが行われている以上、身を守る術の確認ぐらいはしておくべきなのに。
386
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:01:26
(病院に着いたら、確認しよう。それにしてもイエローか。本当にドモンは……)
またも仲間の安否に思いを馳せ、呆ける竜也。
そんな竜也を横目に、ブクラテスは気が気ではない。
(何とか、何とかせんと。………………………まずはこいつがどうするつもりか確認せんと始まらんか)
「のぉ、竜也、どうするつもりじゃ?センはまだ起きないみたいじゃが、起きるまで待つか?」
「そうですね………!」
竜也は眼を見開き、ブクラテスを見た。
「な、なんじゃ?」
「……ブクラテスさん、なんでこの人の名前知っているんですか?センって、この人のことですよね」
「うぐごが!」
(しもうた。うっかりセンの名前を。ど、どうする。なにかいい言い訳は……)
立て続けの予想外の事態に、ブクラテスはかつてないほど動揺し、混乱する。
竜也もセンが名前だと確証があったわけではなかったが、ブクラテスの反応に、自分のカマ掛けが間違ってなかったことを悟る。
「もしかして、この人がブクラテスさんの言っていた右腕を切り落とした元仲間ですか」
(おおっ、なんというグッドアイディアじゃ、竜也。その手があったか)
その結果、何の精査もせず、竜也の提案にそのまま乗っかろうとした。
「そ……」
「違いますよ」
ブクラテスの言葉を遮り、竜也でも、菜月でもない声がした。
「あっ、気がついたんだ」
「はい、まだクラクラしますけど、たぶん、もう大丈夫です」
それは苦しげながらも、どことなく柔和な笑みを浮かべるセンだった。
一般人なら、丸一日は眠っているはずなのだが、流石はセンといったところだろう。
「竜也さん、でしたっけ」
「はい」
「自己紹介とかしたいところだけど、それは道すがら、今は一刻を争います。北東に向かいましょう」
「そ、それは大変じゃ、ワシは行くべきだと思うぞ」
有耶無耶にするチャンスと、ブクラテスは詳細も聞かず、センに同意する。
「でも、人質を取っている奴がいるみたいなんです」
メガブルーを誘い出すために人質を取った男が南にいることを、竜也は話す。
387
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:04:39
投下を間違いました。
>>386
は間違いで、
>>388
からになります。
388
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:05:11
(病院に着いたら、確認しよう。それにしてもイエローか。本当にドモンは……)
またも仲間の安否に思いを馳せ、呆ける竜也。
そんな竜也を横目に、ブクラテスは気が気ではない。
(何とか、何とかせんと。………………………まずはこいつがどうするつもりか確認せんと始まらんか)
「のぉ、竜也、どうするつもりじゃ?センはまだ起きないみたいじゃが、起きるまで待つか?」
「そうですね………!」
竜也は眼を見開き、ブクラテスを見た。
「な、なんじゃ?」
「……ブクラテスさん、なんでこの人の名前知っているんですか?センって、この人のことですよね」
「うぐごが!」
(しもうた。うっかりセンの名前を。ど、どうする。なにかいい言い訳は……)
立て続けの予想外の事態に、ブクラテスはかつてないほど動揺し、混乱する。
竜也もセンが名前だと確証があったわけではなかったが、ブクラテスの反応に、自分のカマ掛けが間違ってなかったことを悟る。
「もしかして、この人がブクラテスさんの言っていた右腕を切り落とした元仲間ですか」
(おおっ、なんというグッドアイディアじゃ、竜也。その手があったか)
続けてのカマ掛けはブクラテスに有利に働いた。この場を打開するアイディアと、ブクラテスは竜也の提案に肯こうとする。
「そ……」
「違いますよ」
ブクラテスの言葉を遮り、竜也でも、菜月でもない声がした。
「あっ、気がついたんだ」
「はい、まだクラクラしますけど、たぶん、もう大丈夫です」
それは苦しげながらも、どことなく柔和な笑みを浮かべるセンだった。
一般人なら、丸一日は眠っているはずなのだが、流石はセンといったところだろう。
「竜也さん、でしたっけ」
「はい」
「自己紹介とかしたいところだけど、それは道すがら、今は一刻を争います。北東に向かいましょう」
「そ、それは大変じゃ、ワシは行くべきだと思うぞ」
有耶無耶にするチャンスと、ブクラテスは詳細も聞かず、センに同意する。
「でも、人質を取っている奴がいるみたいなんです」
メガブルーを誘い出すために人質を取った男が南にいることを、竜也は話す。
389
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:05:43
「竜也、よくよく考えてみるのじゃ。あれから4時間近く経っている。奴は猶予は3時間と言っていたはずじゃ。
もう手遅れ――いや、いかにも好戦的そうな男だったのいうのに何の連絡もないということは、誰かが救出に動いたのかも知れんな。
とにかく、ここはセンと一緒に行くべきじゃ」
「……わかりました。俺も理央という人は気になりますし」
竜也はブクラテスに文句はあったが、言っていることは正論だ。やむなく、ブクラテスの言葉に同意する。
(よし)
竜也を納得させたことにほっと胸を撫で下ろす。
ただし――
「でも、ブクラテスさん、あとで聞かせてもらいますよ、センさんを知っていたわけ」
「ぬごぉ」
有耶無耶にはできていなかった。
▽
「つまり、センさんと理央さんを助けた何者かが、センさんを眠らせて、服を奪っていったと」
「迂闊だったよ。俺も聞かれるままに色々答えちゃったからね。助けられたからって、油断したのがまずかった。
俺を殺さなかったってことは、そいつは殺し合いとは別の目的があるんだと思う。
そして、そいつの目的には理央さんが絡んでいる」
竜也はセンと共に理央を探すため、北東へと向かっていた。
道すがら、センから今までの経緯と、理央を探す目的を聞く。
「たぶん、俺の服を奪ったことと、質問の内容を考えると、俺に変装して、理央さんを騙そうとしてるんだと思う」
「変装って、菜月の顔が、竜也さんになっちゃうってこと」
「そういうことになるかな」
菜月の質問に柔和な笑みを浮かべるセン。
これで下着姿だったらまた変質者だが、一刻を争うといってもそこは改善を行った。
今のセンは銀色のスーツを身に纏っていた。
メレのディパックの中にあった支給品。ネジシルバーのスーツだ。
ネジシルバーが何者かというのを、竜也たちは知る由もないが、服を奪われたセンにとって、渡りに船だった。
「とにかく急ごう。俺は理央さんをメレさんに会わせたい」
未だ竜也の胸の内には不信と迷いが渦巻いていた。
390
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:06:15
だが、自分の迷いを断ち切るために、誰かの力になってやりたいと思っていた。
「しかし、年寄りには堪えるわい」
速度的な理由から竜也の背におぶさるブクラテス。
「ブクラテスさんには占いで理央さんの行方を捜してもらいますんで、少し我慢しててください」
ブクラテスがセンと共に行動していたことは聞いた。
ブクラテスが竜也たちにその事を一言も言わなかったということは、センを見捨てたことと同義だ。
竜也は流石にブクラテスに怒りを覚えたが、センは刑事である自分は覚悟ができており、自分のことを伏せたブクラテスの判断は必ずしも間違っていないと、ブクラテスを庇った。
そう言われたら、竜也も何も言えない。
(しかし、刑事さんか。宇宙警察地球署って、言ってたけど)
竜也には聞き覚えのない単語だったが、警察というだけでなぜだか安心感が生まれてしまうのは日本人だからだろうか。
だが、揺れ動く竜也にはそんなささいなことでも行動するエネルギー源となった。
「今度こそ、俺は……」
「竜也くん、何か言ったかい?」
「いえ、急ぎましょう」
竜也は走る。自分の思いを固めるために。
傍らでは黄色と緑色の戦士が共に歩んでいた。
391
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:09:11
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:どちらを選べばいいのかわからない(全員の蘇生ために乗るor誰も殺さない)
第一行動方針:センの力になる。
第二行動方針:ドモン、ブクラテスに不信。
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考
・クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
・メレの支給品はネジシルバースーツとネジブレイザー(仮称)でした。
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー(仮称)。SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:理央に注意を喚起する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・SPDの制服はシュリケンジャーに奪われました。
・ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。
392
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:11:36
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:健康。1時間30分変身不能。
[装備]:アクセルラー、スコープショット、
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:センと竜也のサポート。
第二行動方針:真墨の遺体を捜す。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機、毒薬(効能?)、タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:新たな仲間を捜す。
第二行動方針:首輪探知機のことは伏せて置く。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
393
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/04(日) 05:34:24
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、指摘事項、ご感想などがありましたら、よろしくお願いします。
なお、ネジブレイザー(仮称)の件ですが、ネジシルバーの剣では、文章にしづらく、
何より味気ないかなと思って付けたもので、劇中では特に名称は付けられていません。
不都合があれば、そこは修正したいと思っております。
2008年内に投下できればと考えてましたが、年の瀬はなんだかんだとありました。。。
394
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:12:08
さる(以下略)のため、こちらに投下いたします。
お手隙でしたら、代理投下をお願いいたします。
395
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:13:00
「聞いてたんですよ!ドロップとジルフィーザの話を!最初はドロップが口から出任せを言ってると思った。
でも、あなたは俺の問いに、どちらとも嘘で応えた。
違うというなら、なんで嘘を吐くんですか。俺が納得いく答えを教えてください!」
(……なんだ、聞いてたんだ)
美希の顔が笑顔が消える。そこに騙そうしたことの罪悪感はなかった。
既に美希は瞬の口を封じるか。そのことを考えていた。好都合なことに彼は制限の真っ最中だ。
「今ならまだ引き返せます。俺だって、一度は夢のために殺し合いに乗ろうとした。
でも、マトイさんのおかげで戻ることができた。あなただって――」
どうやら瞬は自分を説得しようとしているようだ。
滑稽に見えるほど、一生懸命に説得の言葉を紡いでいる。
無駄だ。その段階はとっくに過ぎている。
「一緒にしないで」
底冷えのしそうな程に冷たい声。それでいて、美希はまるで子供にわかりやすく教えるように言葉を続けた。
「あなたは誰一人、殺してないでしょ。私は違うのよ。スフィンクスを殺し、ティターンを殺した。
そして、あなたを助けたマトイさんも」
「ま……さか、あの爆発は……」
美希は瞬の問いに頷くことで応える。
すると、瞬は驚愕に眼を見開き、明らかに動揺を見せていた。
拳を握り締めたかと思うと、震えながら手を開き、手を開いたかと思うと、また握り締めた。
「っっっ……あなたを拘束します」
「できるかしら?メガブルーになら兎も角、生身のあなたには負ける気はしないわ」
年齢の差はあるとはいえ、片や普通の高校生。片や獣拳の使い手。更に蓄積された戦いの傷や疲れは瞬の方が深い。実力の差は明らかだ。
「俺にはこれがあります」
「それはゴウライチェンジャー?」
瞬はディパックから取り出したゴウライチェンジャーを美希に見せる。
確かに変身機器が異なれば、2時間という制限も別々にカウントされる可能性は充分にある。
そして、変身が出来れば、戦力の差はあっという間に埋まることだろう。
しかし、美希は余裕の笑みを崩さなかった。
「瞬、教えてあげるわ。切り札は相手に使うことが悟られちゃ、意味がないのよ!」
一閃。美希の回し蹴りが、ゴウライチェンジャーを持つ瞬の手を強襲する。
396
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:13:40
呆気なく、地面へと転がるゴウライチェンジャー。そして、瞬はその様子を眼で追った。
(やっぱり、戦士になったとはいえ、まだまだ素人ね)
美希はその隙を見逃さない。瞬を押し倒すと、そのまま彼の首に手を掛けた。
瞬の首を締め上げる美希。
だが、美希にもミスがあった。
瞬の殺し方に絞殺を選んだことだ。鍛えてあるといっても女性の力。途端に意識が奪われることはない。
瞬はディパックの中から、たまたま手に触れたカプセルを取り出すと、美希の頭に叩きつけた。
「ぁっ!」
金属製の鈍器による一撃は彼女の力を弱らせる。瞬はもう一度、彼女の頭にカプセルを叩きつけた。
「うぐっ!」
美希の脳が揺らされ、彼女の額から血がタラリとしたたる。
このままでは逆に殺されてしまうと判断した美希は、絞殺を諦め、一度、間合いを取った。
「はぁはぁ……もう…………やめて………もうやめてください………………美希さん!」
息も絶え絶えながら、必死に美希を説得しようとする瞬。
だが、美希はそれを命乞いとして受け取った。そして、彼女は命乞いを聞くつもりはない。
(ゴウライチェンジャーを奪えれば……いえ、そうだ、私のディパックにはスタッグブレイカーが)
「美希さん!!!」
―カポッ―
思わず腕に力が入ったのだろう。その場にそぐわぬ間の抜けた音を立てて、瞬が手にするカプセルが開いた。
「えっ?」
瞬は反射的にそのカプセルの中身を見た。そこにはこの世のモノとは思えない醜い虫たちが多数蠢いていた。
「うわっ、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その声が合図になった。カプセルから飛び出した虫たちは、まず最初の1匹目は彼の頭部に張り付き、続いて、腕、脚、胸、腰へと順々に張り付いていく。
「何、これは」
そのおぞましい光景に、美希も激しい嫌悪と恐怖を覚えた。
瞬は懸命にそれを剥がそうとするが、四肢を抑えられ、状態では無理な話だった。
「た、たすけ……ひぃぃ……」
助けを求め、必死に悲鳴を上げる瞬。だが、その悲鳴も数秒もしない内に聞こえなくなった。
397
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:14:12
そして、まるで手足を毟られたの昆虫のように身体がピクピクと痙攣を始める。
その断末魔に美希の殺意は失せていた。もはや直接、手を下さなくとも、瞬は死ぬだろう。
だが、美希の嫌悪と恐怖は未だ続いていた。
(ここにいてはいけない)
美希は踵を返す。視界に一瞬、ゴウライチェンジャーが入ったが、美希はそれを無視し、その場から逃げ去った。
▽
「はぁはぁはぁ」
美希は走っていた。1メートルでも、1センチでも、瞬から離れるために。
まだ嫌悪と恐怖は消えていない。それどころか膨れ上がっていくのを感じる。
(あれは一体……)
疑問。そんな美希の心の声に、応えるよう、声が響き渡った。
「――次元虫ですよ」
その声を美希が聞き間違えるはずがない。今、美希が最も怨めしく思っている男の声。
美希はその声の主の名を叫んだ。
「ロン!」
黄色い靄が人間の姿を形づくる。この殺し合いの主催者、ロンの姿を。
「並樹瞬に寄生したのは裏次元に生息する次元虫という生き物です。中々、面白い特性を持っていましてね。
無機物に寄生し、その無機物を次元獣に生成するのですよ。そして、それを強化したバイオ次元虫は更に次元獣に動物の能力を付加することができます。
でも、アレ単体ではか弱い生き物ですよ。"虫"ですからね」
「次元虫……」
ロンは頷くと話を続ける。
「本来なら生物には寄生しないんですけど、アレはある時間、ある場所から持ってきた特別性の次元虫でして。
いや、苦労した甲斐がありました、まさか無機物ではなく、人間に寄生するとは、私でさえ予想できませんでした」
「寄生?じゃあ、もしかして、瞬は――」
「ええ、生きていますよ。宜しければ、確認しに戻られたらいかがですか?」
「冗談じゃないわ。それより、なつめは無事なの!」
「そうそう。私の用件はそれなんですよ。まずはおめでとうと言わせていただきましょう。
あなたには恐れ入ります。今現在、殺害数はあなたがトップですよ」
398
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:16:01
小さく拍手するとロン。
「娘さんも喜んでいました。ママが私のためにいっぱい人を殺してくれて嬉しいって」
「なつめが……なつめがそんなこと言うわけないじゃない」
「おや、本当にそう言い切れますか?誰だって命は惜しい。自分の命が他者に委ねられているのです。
思わず応援してしまうのではないですか?」
「それは……」
美希はロンの言葉に沈黙する。
声高らかにロンの言葉を否定したいのは山々だったが、娘のためという名目で3人もの犠牲者を出した自分にそんなことを言う資格はない。
そんな美希の心情を察知したロンは込み上げて来る笑いを抑えることが出来なかった。
これから自分が語る内容を考えると、美希の想いはあまりにも可笑しい。
「クククッ、ハハハッ、なんて、冗談……ですよ。娘さんはそんなこと言っていません。というより、こんな時にどんなことを言うのか、私にはさっぱりわかりません。
なにせ、なにせぇーーー、私はなつめさんを人質になどとっていないのですから」
「……えっ?」
「クククッ、驚きました?というか私は一言もなつめさんを人質にしたとは言っていませんよ。
殺し合いに乗れと、強要した覚えもありません。ただ、あなたが寂しい思いをしないようなつめさんの持ち物を支給しただけです。
それをどう勘違いしたのか、あなたはなつめさんのためという名目で殺し合いに乗ってしまった。
私が今回、あなたの前に姿を現したのはあなたの勘違いを正すため。純粋な善意からです」
ロンの言葉に美希は呆然とする。
なつめが人質になっていなかったのは嬉しい。だが、もし、なつめが人質になっていなかったのなら、自分がやってきたことはどうなるのか。
「そ、そんな……。でも、あなたは言ったわ。なつめを失いたくなければ戦えって」
「ええ、それは確かに言いました。でも、それはあなたが死んだら、あなたとなつめさんはこの世とあの世に分かれることになる。
あなたから見れば、それはなつめさんを失うということですよね?」
「嘘、嘘!」
ロンの曲解を否定しようとする美希だが、今の美希には嘘という言葉だけしか呟けなかった。
その様子を見たロンはより一層、笑みを深くする。
「おやおや、どうして信じないんですか?あなたにとってはこれ以上ない喜ばしいニュースだと思いますが。
クククッ、まあ、そうですよね。なつめのためにやった。その免罪符が虚構だったのなら、あなたがやってきたことは一体、なんだったのか。
……なんだったんでしょうね?」
息が吹きかかる距離まで、美希に近づくロン。その滑稽な顔を確認しながら、話をするためだ。
「!」
399
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:16:40
その時、美希の拳が彼へと飛んだ。
しかし、直前でロンの身体は靄となり、彼女の拳は空しく空を切る。
美希は諦めず、次々と拳を繰り出すが、気体となったロンを傷つけられるはずもない。
「まったく、八つ当たりですか。気は済みましたか?」
やがて、美希の息が切れる頃、ロンは気体から固体へと戻る。
それでも美希は一撃を打ち込もうと機会を窺っているようロンには見えた。
「やれやれ、あなたと話すのはこの辺にしておきましょう。何はともあれ、真実はお話しましたしね。
あなたがこの場において、今後、どういう役割をこなすかは引き続き、あなたの自由です。
このまま殺戮を続け、優勝を目指しても結構です。勿論、その逆もね」
「!、だぁぁぁっ!!!!」
渾身の力を込め、正拳突きを打ち込む美希。だが、またもロンは靄になると、今度はそのまま消えていった。
「っぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!ろぉん!出てきなさいぃ!ろぉぉん!!!!うわぁぁぁぁっ!!!!!!」
絶叫を上げながら、やり場のない怒りを、近場の建物にぶつける美希。
激気が込められていれば、その拳は建物の硬度にも負けなかっただろう。
だが、制限により、激気を封じられた美希の拳からは、皮が破け、血が噴き出す。
しかし、それでも美希は叫び、殴り続けた。
怒りの矛先はロンでも、美希が本当に殴りたいのは愚かな自分自身なのだから。
▽
「ふふっ、旨くいきましたねー」
ロンは美希とのやり取りを思い出しながら、ひとりごちる。
ロンが美希に語った内容はほとんどが真実だ。ロンはなつめを人質になどとっていない。
人質などわざわざとらなくても、娘の存在を散らつかせるだけで、美希は殺し合いに乗るはずだと踏んだからだ。
もっとも、これほど積極的に動いてくれるとは、流石に予想外だった。
だが、だからこそ、人間を使ってのゲームは面白い。
「ふふっ、さて、真実を知ったあなたは今度はどんな行動を見せてくれるのでしょうかね?
こんなサプライズを起こしたあなたのことです。きっと、もっと、面白い見世物を私に見せてくれることでしょう」
ロンの眼の前には並樹瞬がいた。
いや、並樹瞬だったものがいた。
400
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:17:10
「グルォォォォッ!!!」
最早、彼に人間であったときの面影はなかった。
眼は黒い瞳の部分が目を覆うように広がり、耳は肥大化し、口は大きく裂けていた。
野獣の武器である牙や爪は獲物を引き裂けるほどに鋭く伸び、獲物を捕らえるためか、背中からは触手のようなものさえ生えている。
バイラムの幹部の命令になら従う程度の知能は持っているが、残念ながら野獣と化した瞬の前にはもはや眼に映る全てのモノが獲物でしかない。
「カプセルから出たバイオ次元虫の寿命は数十秒。仮にバイオ次元獣になったとしても、数分しかこの空間には存在できない。
これも生存本能が起こした奇跡ですかね」
瞬の有様を満足気に見詰めると、ロンは今度こそ、その場から去っていった。
「私という糸から解き放たれたあなたたちがどう踊るか?一観客として、楽しみにしていますよ」
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:G-8砂漠 1日目 午前
[状態]:軽傷。戦闘に支障のなし。2時間能力発揮できません
[装備]:杖
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:ドロップと協力し、ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの身体を探すため、F-9エリアへ。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
401
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:17:43
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:G-8砂漠 1日目 午前
[状態]:健康。30分程度能力が発揮できません。
[装備]:なし
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:F-9エリアへ行き、成体になる。
第二行動方針:制限を利用して、ジルフィーザを殺す。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:H-7海岸 1日目 午前
[状態]:健康。次元獣化。
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:暴れる。
[備考]
・ゴウライチェンジャー、瞬の支給品一式はH-7エリアに放置されています。
402
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:18:25
【名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:H-7海岸 1日目 午前
[状態]:激しい憤り。首にジルフィーザの手跡。頭部に軽傷。30分程度激気が使えません。
[装備]:スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:???
第一行動方針:???
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・マシンハスキーは鍵付きでG-7エリアに放置されています。
403
:
◆i1BeVxv./w
:2009/01/10(土) 19:31:37
投下終了。
誤字、脱字、ご意見、指摘事項、ご感想がありましたら、よろしくお願いします。
瞬の処遇に関しては議論が必要かなと考えております。
三魔人ラモンにバイオ次元虫が取り付きましたので、生物も可能とは思いますが、
オリキャラになりますので、今後のリレーのことも考えて、
修正が必要ならば、次元獣化しない場合の話も考えたいと思います。
404
:
時給774円で地球の平和が守れるかー!!
:2009/01/10(土) 19:33:50
了解です。支援開始します
405
:
時給774円で地球の平和が守れるかー!!
:2009/01/10(土) 19:34:35
失礼w代理投下開始します
406
:
405
:2009/01/10(土) 19:53:46
最後の最後でさるさんにorz
一部、コピペのミスで文章の頭の空白を間違えてしまいました。
まとめ氏申し訳ありません。
お手数ですが、まとめ更新の際にお願いいたします。
感想はさるさん解除後にさせて頂こうと思います。投下GJ!でした。
407
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/15(木) 01:49:32
規制されました。
代理投下をお願いします。
408
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/15(木) 01:50:09
最早、これまでだろう――
サンヨは気づいていないのかもしれないが、既に彼はロンを信じることが出来なくなっている。
死の瀬戸際にあって、彼の中にロンに対する疑念が生まれた。
あるいは、それもロンの差し金なのかもしれないが。
「終わりだ…サンヨ。せめて、その苦しみから俺が解き放ってやろう……」
傍らの死体。
状況から見て、彼の死にサンヨは関っているのかもしれない。
よしんば関っていないとしても、彼は既に殺し合いに乗っている。
理央は最後の審判を下すべく、痛みを乗り越え力の集中を始めた―――
――終わったな、とシュリケンジャーが半ばその場からの離脱を考えていたその時だった。
「な…にっ!?」
思わず気配を消していることすら忘れて声が出た。
ちらっとリオが背後を見やる。
しかし、すぐにその視線はサンヨへ注がれた。
「ロンは…ロンはサンヨを信頼してるネ!! 間違いないヨ! 絶対、そうだヨ!!」
薄ら笑いを浮かべ、自らを縛る金色の首輪に手を掛ける。
「貴様…何を…――!」
問いかけは、爆発に途切れた。
力任せに首輪を引きちぎり、サンヨは自ら起こした爆発の炎に倒れたのだ。
とめる間もないあっという間の出来事に理央は呆然と立ち尽くした。
「オ〜マイゴォォッド!! まさか、自分で首輪を引きちぎるとはねぇ……」
意外な結末。
だが、彼の希望通り、人は減った。そして死神に魅入られたリオは遠からず死ぬ。
全ては計画通り。
シュリケンジャーは愚かな蜥蜴の最期に失笑を漏らした。
だが、真の驚愕はその後に訪れた。
「…やっぱりネェェェ~~~~~……ロンがサンヨを裏切るはずがないんだヨォォォォォォォォ!!!!!!」
サンヨが立ち上がってきた。
制限の枷から解き放たれたことで、その全身から黄金の幻気が立ち昇っている。
「だから最初からサンヨは言ってたんだヨォォ…サンヨに制限なんて必要ないって……見ててよ、ロン……これから一番の邪魔者殺すとこ!」
「くっ…剛 勇 吼 弾ッッッッ!!!」
弾丸上に練りこんだ臨気を相手の頭蓋めがけて射出する。
しかし。
「ぬるいヨッッ!!」
先ほどとは比べ物にならないほどの力の奔流が獅子の一撃を受け止め、彼方へ弾き返した。
―反重力鎧。
本来ならば制限の中にあるはずのゲンギを事も無げに使い、サンヨは高らかに叫んだ。
獅子が地に伏せる瞬間を確信して。
「さっき終わりだとかなんだとか言ってたネ……終わるのはお前だヨッッッ!!!」
天高く、両腕を掲げ、自らに内在する幻気の全てを使って空間の圧に干渉する。
「まずいな…これは……!」
辺りの景色が歪んでいく。
リオもろとも、このエリアを吹き飛ばしてしまうつもりなのだろう。
「読み違えたかな…」
自らの読みの甘さにシュリケンジャーは自嘲の笑みを浮かべた。
「喰らえぇぇぇぇぇええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
両の眼はリオを捉えて、サンヨは腕を勢いよく振り下ろす。
その時、世界が軋む音を聞いた。
全てが超重圧の重力異常に押しつぶされていく。
命を失った真墨の遺体も、倒れた木々も全て地に沈んで潰されていった―
409
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/15(木) 01:51:41
そして、全てが去った後で。
「ハァ…ハァ…ハァハァ…やったヨ! 跡形もないよ!! 理央死んだヨ!!! 見てるかい? ロン!!! 理央が死んだヨ!!! サンヨが殺したヨ!!!!!」
パチパチパチパチパチ。
勝どきを上げるサンヨの耳に拍手の音が聞こえてくる。
「ブラボー! ブラボー!! さすがサンヨだね。ミーもまさかここまでやれるとは思わなかったよ!」
背後にいつの間に現れたのか、サンヨが本来落ち合うはずの相手であるシュリケンジャーがたたずんでいた。
「遅いヨ、お前…今頃来たのかヨ……」
舌打ちをしながら、シュリケンジャーに歩み寄ろうとしたその時だった。
「おっと! 待った…まだ、ゲームは終わってないよ」
何をこの男はいっているんだろう。既に理央は重力異常の中心でぺしゃんこになっているはず。
戦いは、既に終わっているはずなのだ。
だが。
深海の底を覗き込むような重苦しいこの感覚はなんだろう。
重力を操る自分が蛇に睨まれた蛙のようにすくんで動けなくなる。
いや、これは蛇の眼差しなどという生易しいものではない。
これは―――
「猛きこと獅子の如く…強きこと、また獅子の如く―…邪竜を葬り去る者――臨獣ライオン拳、黒獅子…理央―――!!」
あの渦の中心にあってなお、彼は滅びることなく。王者の風格すら漂わせて。
「なっ……!!!」
巨大な影が頭上に迫っていた。
「リンギ・招来獣……」
理央を守護するが如く、漆黒の獣がその威容を現していた。
「嘘だヨ…こんなの夢だヨ…」
410
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/15(木) 01:52:15
弱弱しく頭を振るサンヨを見下ろしながら理央は言った。
「どうやら…この空間には幻気が満ちているらしいな…四幻将の一人であるお前だからこそしばらくは行動できたようだが…それももう、終わりだ」
既に見えない毒の大気はサンヨの体を蝕んでいた。
足に力が入らない。
それは眼前の脅威を目の当たりにしているからという理由だけではないはずだ。
身体が、崩れていく。
前進にひび割れが走り、身体がガラスの様に脆くなっていく。
膝が砕け、指が割れた。
仰向けのままどうすることも出来ない。ただ、身体が、心が朽ちていくのを待つしかない。
漆黒の獅子がゆっくりと、その巨大な顎を開いてゆく。
眩い光が辺りを照らし出す。
「―獅子吼」
閃光に呑まれ光となる、その最期の瞬間までサンヨは叫び続けた。
「ロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
…――――特別扱いなら、もうしたじゃないですか…後は自分で何とかして御覧なさい――――…
死に際の幻聴か、焦がれた人の声を光の中に聞いた気がした。
「ロオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!」
その最期の雄たけびは、確かにロンに届いているはずだった。
411
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/15(木) 01:52:53
§
「さて、と…ミーはそろそろ行こうかな」
今度こそ、その場を後にすべくシュリケンジャーは踵を返した。
「待てっ! 貴様、何者だ!?」
理央の問いかけに歩を止める。
みれば、既に彼の凱装は解け人の姿に戻っている。
制限までは後ほんの少し時間があるはずだが、戦闘の痛手と胸の痛みに戦闘状態を保持できないらしい。
制限に入れば臨気で抗うことも出来なくなり、胸に巣食う死神の鎌に命を狩られることとなる。
止めを刺す必要もないだろう。
「ミーは緑の光弾シュリケンジャー! ユーの敵だよ」
チッチと指を振りながらシュリケンジャーは言った。忍が名乗ることなど、本来はありえない。
だが、戦士としての威風堂々たる戦いを見せたリオへの…そんな彼を姑息な手段で利用したことへのせめてもの礼だった。
「サンヨが言っていたあいつとはお前のことか…」
間違いない。彼は自分とサンヨの戦いをずっと盗み見ていた。
どちらかが倒れるのを待っていたのだろう。
「正解。なかなか凄いもの見せてもらったよ。だけど、惜しいな…君はもう、長くない。
制限の二時間を待たずに蠍の毒でリタイアだ」
「貴様…何をしたっ!」
戦闘中に感じた激痛の正体は彼に起因するらしい。
だが、どこでそんな術を施されたのか―
「気づいてないんだな…ミーはね、1000の顔を持つ男さ。ユーは強い。強いけれど、ただそれだけさ。
出会って間もない男の言葉に身を預けるような無防備さはその強さへのおごりなのかな?
それとも、ユーはそれだけ無垢で、ミーがよっぽど汚れてるってことなのかな?」
獣に人の狡さを求めるのは酷と言う物だろう。
獣はその強さゆえに自分を偽れず、変えられず滅んでいく。
412
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/15(木) 01:53:23
「あの時のセンは貴様か…!」
「ご明答。頭は悪くないのにね。応用力がない。真面目すぎるんだよ、ユーは」
胸の奥が焼け付くように痛む。
骨を蝕み、肉を貪り、やがてはその命の灯を消し去るだろう。無間の苦しみの果てに。
「さようなら…黒獅子の拳士。君の犠牲は無駄ではないってことだけは、ミーが確実に約束できる唯一つの真実さ…せめて、安らかに眠ってくれ……」
シュリケンズバットの柄へ手を掛ける。
彼を救うこともできる。今なら、まだ間に合う。
だが、今のシュリケンジャーにはそれが出来ない。
ならば、せめて最後に残った真実だけは。この男の前に晒すべきであろう。
雄々しき獅子を、この手で斬る。
だが――
「思い通りには…ならん―…!」
口元に血をにじませながら、理央は残る全てのリンキを身体のただ一点に集中させる。
そして、解き放った。
理央を源に噴出すどす黒い力の奔流が何者をも拒絶して吹き荒れる。
猛り狂う怒臨気の嵐を前に人の叫びはかき消されて消えた。
「理央! 何を!? 止めろ!! 苦しむだけだ!!」
蠍の毒は身体の奥深く心臓にまで達している。無理に力を加えれば、その死期を早めるだけだ。
「俺は…俺はもう、誰かの思い通りにはならん! お前にも、ロンにも俺を操ることは出来ない!! 決してっっっっ!!!」
翻弄されるままに、破滅の道を突き進んだ男はもういない。
人を超え、獣を超え、そして龍を喰らう。
生き抜いて、勝ち抜いて、彼が彼のままに在れる場所を、最愛の人をこの手に取り戻す。
「俺は…俺は死なないッッ!! メレェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
§
地に伏す獅子は、まるで無垢な赤子のような顔で深い眠りに落ちていた。
「……君を一度だけ、見逃すよ…理央。その代わり、君はここにおいていく。
誰かに寝首を掻かれればそれで終わりさ。ミーは君に、何も、しない。
助けることも…………殺すことも」
足元には潰れた蠍が一匹、煙を上げてこの世界から消滅しようとしていた。
「大した男だ…次に会うときはミーとユーのどちらかが死ぬ時だ。最も勝つのはミーだけどね☆」
その再会自体も、あるのかどうか怪しいけれど。
413
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/15(木) 01:58:08
【サンヨ 死亡】
残り39名
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:健康。1時間30分変身不可
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、SPD隊員服(セン)
[道具]:包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る(一時的に保留)
第一行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第二行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
第三行動方針:サンヨが殺せることを確認。放置する。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンとサンヨへの怒り。宇宙サソリを植えつけられました。
[装備]:自在剣・機刃
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:ナイとメアを探す。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。
すみません…修正前の部分をあげてしまいました。
追って、修正版をあげますのでお待ちください。
備考
・サンヨと江成仙一から一通りの情報を得ました。具体的な制限時間も知っています。
・シュリケンジャーはロンが何らかの方法で監視していることに気づきました。
・炎の騎馬はC-7エリアに隠しています。
・シュリケンジャーの支給品は宇宙サソリ@忍風戦隊ハリケンジャーと包帯でした。
414
:
409差し替え
:2009/01/15(木) 02:14:11
「ハァ…ハァ…ハァハァ…やったヨ! 跡形もないよ!! 理央死んだヨ!!! 見てるかい? ロン!!! 理央が死んだヨ!!! サンヨが殺したヨ!!!!!」
パチパチパチパチパチ。
勝どきを上げるサンヨの耳に拍手の音が聞こえてくる。
「ブラボー! ブラボー!! さすがサンヨだね。ミーもまさかここまでやれるとは思わなかったよ!」
背後にいつの間に現れたのか、サンヨが本来落ち合うはずの相手であるシュリケンジャーがたたずんでいた。
「お前…今頃来たのかヨ……」
また、違う姿をしている。
自分にはそれと分かるよう、シュリケンボールをかざす目印を彼は指定していた。
舌打ちをしながら、シュリケンジャーに歩み寄ろうとしたその時だった。
「おっと! 待った…まだ、ゲームは終わってないよ」
何をこの男はいっているんだろう。既に理央は重力異常の中心でぺしゃんこになっているはず。
戦いは、既に終わっているはずなのだ。
だが。
深海の底を覗き込むような重苦しいこの感覚はなんだろう。
重力を操る自分が蛇に睨まれた蛙のようにすくんで動けなくなる。
いや、これは蛇の眼差しなどという生易しいものではない。
これは―――
「猛きこと獅子の如く…強きこと、また獅子の如く―…邪竜を葬り去る者――臨獣ライオン拳、黒獅子…理央―――!!」
あの渦の中心にあってなお、彼は滅びることなく。王者の風格すら漂わせて。
「なっ……!!!」
巨大な影が頭上に迫っていた。
「リンギ・招来獣……」
理央を守護するが如く、漆黒の獣がその威容を現していた。
「嘘だヨ…こんなの夢だヨ…」
415
:
411、412差し替え
:2009/01/15(木) 02:16:30
§
「さて、と…ミーはそろそろ行こうかな」
今度こそ、その場を後にすべくシュリケンジャーは踵を返した。
「待てっ! セン!?」
理央の問いかけに歩を止める。
みれば、既に彼の凱装は解け人の姿に戻っている。
制限までは後ほんの少し時間があるはずだが、戦闘の痛手と胸の痛みに戦闘状態を保持できないらしい。
制限に入れば臨気で抗うことも出来なくなり、胸に巣食う死神の鎌に命を狩られることとなる。
止めを刺す必要もないだろう。
「…違うな。ミーは緑の光弾シュリケンジャー! ユーの敵だよ」
チッチと指を振りながらシュリケンジャーは言った。忍が名乗ることなど、本来はありえない。
彼は自分をセンだと思い込んでいる。このまま、成りすまして嘘を突き通すことも出来る。
だが、戦士としての威風堂々たる戦いを見せた理央への…そんな彼を姑息な手段で利用したことへのせめてもの礼だった。
「貴様…センではないな…!…サンヨが言っていたあいつとはお前のことか!?」
その姿は江成仙一そのものだ。しかし、先ほど出会った彼とは雰囲気が全く違う。
間違いない。彼は自分とサンヨの戦いをずっと盗み見ていた。
どちらかが倒れるのを待っていたのだろう。
「正解。なかなか凄いもの見せてもらったよ。だけど、惜しいな…君はもう、長くない。
制限の二時間を待たずに蠍の毒でリタイアだ」
「貴様…何をしたっ!」
戦闘中に感じた激痛の正体は彼に起因するらしい。
だが、どこでそんな術を施されたのか―
「…ミーはね、1000の顔を持つ男さ。ユーは強い。強いけれど、ただそれだけさ。
出会って間もない男の言葉に身を預けるような無防備さはその強さへのおごりなのかな?
それとも、ユーはそれだけ無垢で、ミーがよっぽど汚れてるってことなのかな?」
「貴様…! センを、センをどうした!!」
胸の奥が焼け付くように痛む。
骨を蝕み、肉を貪り、やがてはその命の灯を消し去るだろう。無間の苦しみの果てに。
「出会って間もない男の心配か…思ったよりユーは優しいんだな。見直したよ」
「さようなら…黒獅子の拳士。君の犠牲は無駄ではないってことだけは、ミーが確実に約束できる唯一つの真実さ………」
彼を救うこともできる。今なら、まだ間に合う。
だが、今のシュリケンジャーにはそれが出来ない。
「待てっ!! 貴様!!!」
「…無駄だよ。君は死ぬ。万が一、生き延びたとしてもミーの本当の顔すら知らない君がどうやって戦うというんだ?
この勝負、始まる前からユーの負けだったのさ」
獣に人の狡さを求めるのは酷と言う物だろう。
獣はその強さゆえに自分を偽れず、変えられず滅んでいく。
だが――
「思い通りには…ならん―…!」
口元に血をにじませながら、理央は残る全てのリンキを身体のただ一点に集中させる。
そして、解き放った。
理央を源に噴出すどす黒い力の奔流が何者をも拒絶して吹き荒れる。
猛り狂う怒臨気の嵐を前に人の叫びはかき消されて消えた。
「理央! 何を!? 止めろ!! 苦しむだけだ!!」
蠍の毒は身体の奥深く心臓にまで達している。無理に力を加えれば、その死期を早めるだけだ。
「俺は…俺はもう、誰かの思い通りにはならん! お前にも、ロンにも俺を操ることは出来ない!! 決してっっっっ!!!」
翻弄されるままに、破滅の道を突き進んだ男はもういない。
人を超え、獣を超え、そして龍を喰らう。
生き抜いて、勝ち抜いて、彼が彼のままに在れる場所を、最愛の人をこの手に取り戻す。
「俺は…俺は死なないッッ!! メレェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
416
:
時給774円で地球の平和が守れるかー!!
:2009/01/15(木) 02:20:08
理央が宇宙蠍を浄化できたのはラゲクの回での毒を除去の応用です。
また、サンヨの首輪崩壊後の行動にはご意見ある方、いらっしゃるかと思うのご指摘お待ちしています。
417
:
時給774円で地球の平和が守れるかー!!
:2009/01/15(木) 02:21:36
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。深く無防備に眠り込んでいます
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:ナイとメアを探す。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。
418
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/19(月) 22:18:57
修正版を投下します。
419
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/19(月) 22:19:28
「終わりだ…サンヨ。せめて、その苦しみから俺が解き放ってやろう……」
傍らの死体。
状況から見て、彼の死にサンヨは関っているのかもしれない。
よしんば関っていないとしても、彼は既に殺し合いに乗っている。
理央は最後の審判を下すべく、痛みを乗り越え力の集中を始めた―――
――終わったな、とシュリケンジャーが半ばその場からの離脱を考えていたその時だった。
「な…にっ!?」
思わず気配を消していることすら忘れて声が出た。
ちらっとリオが背後を見やる。
しかし、すぐにその視線はサンヨへ注がれた。
「ロンは…ロンはサンヨを信頼してるネ!! 間違いないヨ! 絶対、そうだヨ!!」
薄ら笑いを浮かべ、自らを縛る金色の首輪に手を掛ける。
「貴様…何を…――!」
問いかけは、爆発に途切れた。
力任せに首輪を引きちぎり、サンヨは自ら起こした爆発の炎に倒れたのだ。
とめる間もないあっという間の出来事に理央は呆然と立ち尽くした。
「オ〜マイゴォォッド!! まさか、自分で首輪を引きちぎるとはねぇ……」
意外な結末。
だが、彼の希望通り、人は減った。そして死神に魅入られた理央は遠からず死ぬ。
全ては計画通り。
シュリケンジャーは愚かな蜥蜴の最期に失笑を漏らした。
だが、真の驚愕はその後に訪れた。
「…やっぱりネェェェ~~~~~……ロンがサンヨを裏切るはずがないんだヨォォォォォォォォ!!!!!!」
サンヨが立ち上がってきた。
制限の枷から解き放たれたことで、その全身から黄金のゲンキが立ち昇っている。
喪失したはずの右腕が靄のように立ち上り、再生していく。
ロンの分体たる彼は不死を司る。生命の常識を超えた存在。
正に、幻獣だ。
「だから最初からサンヨは言ってたんだヨォォ…サンヨに制限なんて必要ないって……見ててよ、ロン……これから一番の邪魔者殺すとこ!」
420
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/19(月) 22:19:58
「くっ…剛 勇 吼 弾ッッッッ!!!」
弾丸上に練りこんだ臨気を相手の頭蓋めがけて射出する。
しかし。
「ぬるいヨッッ!!」
先ほどとは比べ物にならないほどの力の奔流が獅子の一撃を受け止め、彼方へ弾き返した。
―反重力鎧。
本来ならば制限の中にあるはずのゲンギを事も無げに使い、サンヨは高らかに叫んだ。
獅子が地に伏せる瞬間を確信して。
「さっき終わりだとかなんだとか言ってたネ……終わるのはお前だヨッッッ!!!」
天高く、両腕を掲げ、自らに内在する幻気の全てを使って空間の圧に干渉する。
「まずいな…これは……!」
辺りの景色が歪んでいく。
理央もろとも、このエリアを吹き飛ばしてしまうつもりなのだろう。
「読み違えたかな…」
自らの読みの甘さにシュリケンジャーは自嘲の笑みを浮かべた。
「喰らえぇぇぇぇぇええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
両の眼はリオを捉えて、サンヨは腕を勢いよく振り下ろす。
その時、世界が軋む音を聞いた。
全てが超重圧の重力異常に押しつぶされていく。
命を失った真墨の遺体も、倒れた木々も全て地に沈んで潰されていった―
そして、全てが去った後で―――…
「ハァ…ハァ…ハァハァ…やったヨ! 跡形もないよ!! 理央死んだヨ!!! 見てるかい? ロン!!! 理央が死んだヨ!!! サンヨが殺したヨ!!!!!」
パチパチパチパチパチ。
勝どきを上げるサンヨの耳に拍手の音が聞こえてくる。
「ブラボー! ブラボー!! さすがサンヨだね。ミーもまさかここまでやれるとは思わなかったよ!」
背後にいつの間に現れたのか、サンヨが本来落ち合うはずの相手であるシュリケンジャーが佇んでいた。
「お前…今頃来たのかヨ……」
また、違う姿をしている。しかも、よく見れば自分の腕を落とした男の姿ではないか。
自分にはそれと分かるよう、シュリケンボールをかざす目印を彼は指定していた。
舌打ちをしながら、シュリケンジャーに歩み寄ろうとしたその時だった。
「おっと! 待った…まだ、ゲームは終わってないよ」
何をこの男はいっているんだろう。
既に理央は重力異常の中心でぺしゃんこになっているはず。戦いは、既に終わっているはずなのだ。
だが。
深海の底を覗き込むような重苦しいこの感覚はなんだろう。
重力を操る自分が蛇に睨まれた蛙のようにすくんで動けなくなる。
421
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/19(月) 22:20:31
いや、これは蛇の眼差しなどという生易しいものではない。
これは―――
「猛きこと獅子の如く…強きこと、また獅子の如く―…邪竜を葬り去る者――臨獣ライオン拳、黒獅子…理央―――!!」
あの渦の中心にあってなお、彼は滅びることなく。王者の風格すら漂わせて。
「なっ……!!!」
巨大な影が頭上に迫っていた。
「リンギ・招来獣……」
理央を守護するが如く、漆黒の獣がその威容を現していた。
サンヨを見下ろしながら理央は言った。
「何故、お前が生きているかは察しがつかないが……それももう、終わりだ」
言い放った言葉とは裏腹に、サンヨの渾身のゲンギから生き延びたとはいえ
既に理央は疲弊しきっていた。
本来ならリンビーストを実体化させるほどの力は残っていないはず。
翻ってサンヨは全身にゲンキが漲っている。
「なにが終わりだヨ! そんなボロボロの姿で何が出来るっていうんだヨ!!」
萎える気持ちを奮い立たせ、サンヨは虚勢を張った。
先ほど感じた畏怖は、いわば彼が<幻獣王>であった頃の残り香といったところだろう。
後もう一押し。
あと少しで、最大の障害であるこの男は消える。
サンヨが、自らの力の源泉に働きかけた、その時だった。
「!?」
足に力が入らない。膝をつき、そのまま地面へ片手をつく。
見えない毒の大気はサンヨの体を蝕んでいた。
箱庭の空間に満ちるゲンキの大気は幻獣拳士にとって最良の空間といえる。
一切の制限を受けることなくゲンキを使い続け、戦い続けることが出来るからだ。
だが、その代償に際限ないゲンキの奔流は体を蝕み、いつしか命そのものを蝕んでいく。
無間のゲンキに耐えることができる者は-―頂を極めた『王』のみ。
不死を司るサンヨでさえ、将の一角に過ぎない“今の身体”では麻薬に身体を浸しているようなものだった。
身体が、精神が、崩れていく。
「!!!!?」
全身にひび割れが走り、身体がガラスの様に脆くなっていく。
膝が砕け、指が割れた。
仰向けのままどうすることも出来ない。ただ、朽ちていくのを待つしかない。
「制限の先に解放を得たとしても十重二十重に狡猾な罠が待っているというわけか…
ロンはミーたちを解放する気はハナからないらしいな…まぁ、分かっていたことだが」
サンヨの様子を、手を貸すでもなく眺めながらシュリケンジャーは一人呟いた。
漆黒の獅子がゆっくりと、その巨大な顎を開いてゆく。
422
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/19(月) 22:21:07
眩い光が辺りを照らし出す。
「―獅子吼」
閃光に呑まれ光となる、その最期の瞬間までサンヨは叫び続けた。
「ロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
…――――特別扱いなら、もうしたじゃないですか…後は自分で何とかして御覧なさい――――…
死に際の幻聴か、焦がれた人の声を光の中に聞いた気がした。
「ロオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!」
その最期の雄たけびは、確かにロンに届いているはずだった。
§
「さて、と…ミーはそろそろ行こうかな」
今度こそ、その場を後にすべくシュリケンジャーは踵を返した。
「待てっ! セン!?」
理央の問いかけに歩を止める。
みれば、既に彼の凱装は解け人の姿に戻っている。
制限までは後ほんの少し時間があるはずだが、戦闘の痛手と胸の痛みに戦闘状態を保持できないらしい。
制限に入れば臨気で抗うことも出来なくなり、胸に巣食う死神の鎌に命を狩られることとなる。
止めを刺す必要もないだろう。
「…違うな。ミーは緑の光弾シュリケンジャー! ユーの敵だよ」
チッチと指を振りながらシュリケンジャーは言った。忍が名乗ることなど、本来はありえない。
彼は自分をセンだと思い込んでいる。このまま、成りすまして嘘を突き通すことも出来る。
だが、戦士としての威風堂々たる戦いを見せた理央への…そんな彼を姑息な手段で利用したことへのせめてもの礼だった。
「貴様…センではないな…!…サンヨが言っていたあいつとはお前のことか!?」
その姿は江成仙一そのものだ。しかし、先ほど出会った彼とは雰囲気が全く違う。
間違いない。彼は自分とサンヨの戦いをずっと盗み見ていた。
どちらかが倒れるのを待っていたのだろう。
「正解。なかなか凄いもの見せてもらったよ。だけど、惜しいな…ユーはもう、長くない。
制限の二時間を待たずに蠍の毒でリタイアだ」
「貴様…何をしたっ!」
戦闘中に感じた激痛の正体は彼に起因するらしい。
423
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/19(月) 22:21:40
だが、どこでそんな術を施されたのか―
「…ミーはね、1000の顔を持つ男さ。ユーは強い。強いけれど、ただそれだけさ。
出会って間もない男の言葉に身を預けるような無防備さはその強さへのおごりなのかな?
それとも、ユーはそれだけ無垢で、ミーがよっぽど汚れてるってことなのかな?」
「貴様…! センを、センをどうした!!」
胸の奥が焼け付くように痛む。
骨を蝕み、肉を貪り、やがてはその命の灯を消し去るだろう。無間の苦しみの果てに。
「出会って間もない男の心配か…思ったよりユーは優しいんだな。見直したよ」
「さようなら…黒獅子の拳士。君の犠牲は無駄ではないってことだけは、ミーが確実に約束できる唯一つの真実さ………」
彼を救うこともできる。今なら、まだ間に合う。
だが、今のシュリケンジャーにはそれが出来ない。
「待てっ!! 貴様!!!」
「…無駄だよ。君は死ぬ。万が一、生き延びたとしてもミーの本当の顔すら知らない君がどうやって戦うというんだ? この勝負、始まる前からユーの負けだったのさ」
獣に人の狡さを求めるのは酷と言う物だろう。
獣はその強さゆえに自分を偽れず、変えられず滅んでいく。
だが――
「思い通りには…ならん―…!」
口元に血をにじませながら、理央は残る全てのリンキを身体のただ一点に集中させる。
そして、解き放った。
理央を源に噴出すどす黒い力の奔流が何者をも拒絶して吹き荒れる。
猛り狂う怒臨気の嵐を前に人の叫びはかき消されて消えた。
「理央! 何を!? 止めろ!! 苦しむだけだ!!」
蠍の毒は身体の奥深く心臓にまで達している。無理に力を加えれば、その死期を早めるだけだ。
「俺は…俺はもう、誰かの思い通りにはならん! お前にも、ロンにも俺を操ることは出来ない!! 決してっっっっ!!!」
翻弄されるままに、破滅の道を突き進んだ男はもういない。
人を超え、獣を超え、そして龍を喰らう。
生き抜いて、勝ち抜いて、彼が彼のままに在れる場所を、最愛の人をこの手に取り戻す。
「俺は…俺は死なないッッ!! メレェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
424
:
◆8ttRQi9eks
:2009/01/19(月) 22:23:30
§
地に伏す獅子は、まるで無垢な赤子のような顔で深い眠りに落ちていた。
「……ユーを一度だけ、見逃すよ…理央。その代わり、ユーはここにおいていく。
誰かに寝首を掻かれればそれで終わりさ。ミーは、何も、しない。
助けることも…………殺すことも」
足元には潰れた蠍が一匹、煙を上げてこの世界から消滅しようとしていた。
「大した男だ…次に会うときはミーとユーのどちらかが死ぬ時だ。最も勝つのはミーだけどね☆」
その再会自体も、あるのかどうか怪しいけれど。
サンヨ死亡
残り29人
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:健康。1時間30分変身不可
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、SPD隊員服(セン)
[道具]:包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る(一時的に保留)
第一行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第二行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
第三行動方針:サンヨが殺せることを確認。放置する。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。深く無防備に眠り込んでいます
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:ナイとメアを探す。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。
425
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/01/28(水) 14:38:21 ID:ydBFqCoc0
ブドーのタイトルは
闇落ち
でお願いします。
遅くなりまして申し訳ありません。
426
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/01/28(水) 14:41:53 ID:ydBFqCoc0
と修正をお願いしたいのです。
本スレ
>>479
の
>天を仰げば、陽は頭上近くまで高く上がっていた。
を
>天を仰げば、陽は頭上真上まで高く上がっていた。
427
:
◆i1BeVxv./w
:2009/03/01(日) 17:28:45
状態表を残し、さるさん規制。
こちらに投下いたします。
428
:
サクラチル
◆i1BeVxv./w
:2009/03/01(日) 17:29:43
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:F-5都市 1日目 昼
[状態]:下腹に刺し傷(不死の薬の効果により回復中)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:F-5都市 1日目 昼
[状態]:健康
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。聖剣ズバーン@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:明石暁と共に行動する。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
429
:
サクラチル
◆i1BeVxv./w
:2009/03/01(日) 17:30:33
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 昼
[状態]:下腹に刺し傷(不死の薬の効果により回復中)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:アクセルテクター@轟轟戦隊ボウケンジャー 、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:目的を果たす為、ロンの出した条件を飲む(あまり積極的ではない)
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
430
:
サクラチル
◆i1BeVxv./w
:2009/03/01(日) 17:34:00
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点他指摘事項。ご感想があればよろしくお願いします。
431
:
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 21:52:54
さるさんのため、こちらに投下いたします。
432
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 21:53:42
「あいつは危険だ。さっさと殺した方がいい」
「グルゥゥゥッ」
ドギーも内心、ネジビザールのヤバさは感じていた。
長年の勤務で培われた刑事の勘というやつが、制限中だというのに、ネジビザールに最高クラスの警戒信号を灯している。
ジャッジメントが出来れば、デリート許可は確実な相手だろう。
だが、ドギーに裁く権限は与えられていないのだ。
「お前は、私を危険だと判断したから破壊しようとしたのではないのか?奴も同じだ。
奴を殺すことは、ロンの指示通り、殺し合いに乗ることとは同義ではない」
「お前の言いたいことはわかる。このような場での理屈としてはお前の方がたぶん正しい。しかし、今は――」
ドギーはタイムグリーンを見る。
理由があれば戦いはするが殺し合いはしない。シオンがドギーに言った言葉だ。
ドギーは思う。シオンと出会ったあの時、自分は我知らず、殺し合いの空気に呑まれていたのではないかと。
正当防衛。相手はロボット。警察官としての心根より先にそんな言い訳が先に出た。
もし、シオンに会わなければ、自分は自分の命を守るという大義名分を掲げ、殺し合いに乗っていたのではないかとそう思えてならない。
だから――
「今は、シオンの主義を尊重してやりたい」
そうドギーははっきりとグレイに告げた。
「………」
「まっ、制限にさえ気をつければいいんじゃない。あんた達の話だと、2時間は無害なわけでしょ?
あと、少ししたら私の制限は解けるし、制限さえ解ければ、あんな奴、屁でもないわよ」
「……フン」
賛成4、反対1。そうなれば、自分は何も言うことはないと、グレイは、また氷柱へと関心を移した。
ドギーはグレイのそんな様子に溜息を吐くと、負傷した裕作の治療を開始する。
メレは裕作のディパックの中身が気になるらしく、確認を始めた。
「さーて、洗いざらい吐いてもらいましょうか?」
そして、レッドレーサーとタイムグリーンの二人はネジビザールへの尋問を開始した。
ネジビザールはぶつけられる質問に、素直に答える。
あまりにも素直すぎて、嘘を吐いてるんじゃないかと、レッドレーサーは訝しげに思ったが、タイムグリーンは特に疑いもせず、メモを取った。
やがて、時が流れ――
「おっ、本当に解除された」
433
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 21:55:56
レッドレーサーの変身が解け――
「あっ、僕もです」
タイムグリーンの変身も解除される。
それがネジビザールが待っていた好機だった。
「はっ!」
ネジビザールの巨体が、一瞬にして縮む。人間への擬態を行ったのだ。
当然、ネジビザールの極太の腕を拘束していたディーワッパーは効力を失い、あっさりと外される。
「瞬!?」
ネジビザールの擬態した姿を見た恭介が動揺したのも一因となった。
二人の反応は遅れ、逃げるネジビザールにたちまち距離を取られてしまう。
「動くな!」
だが、グレイの反応は早かった。
ライフルを構え、ネジビザールを牽制する。
「クククククッ!ヒャハハハハハハハッ!!!」
殺されないと高を括っているのか、ネジビザールは高笑いを上げ、余裕を見せる。
「何がおかしい」
グレイとしては、ネジビザールの暴走は歓迎だった。
ここでネジビザールが暴走すれば、何の憂いもなく、引き金を引くことができる。
あとは狙いが外れたとでも言い繕えばいい。そんなことを考える。
しかし、その考えは完璧な機械であるはずの彼にとって、綻びとなった。
「そりゃあ、おかしいよ。凄く楽しいんだから。このままじゃ、オレの負けさ。でもね、オレはココに来て、凄くツイてるんだ。
この賭けが成功すれば勝ち。失敗すれば負けかと思うと、最高にスリリングな賭けになると思わないかい?」
「何を言っている」
「だから、賭けをしようって、言ってるのさ。この賭けに負ければ、オレは打つ手なし。トドメを刺せばいい。
でも、オレが勝ったら、貴様らが死ぃぃぃぬぅぅぅ」
ネジビザールはその場で一回転すると、いつの間にかその両手首には、シオンの両手首にあるものと同じものが装着されていた。
「!、それは」
「ひゃは、これが使えれば、オレの勝ち。これが使えなかったら、オレの負けだ。クロノチェンジャァァァァー!!!」
434
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 21:56:53
グレイは自分の考えの甘さを呪い、急ぎ、引き金を引く。だが、それはあっさりと弾かれた。
ネジビザールの姿は、変わっていた。怪物の姿でもなく、人間の姿でもなく、青の戦士の姿に。
「ヒャハハハッ、オレの勝ちだね。しかも、色はブルーときている。差し詰め――」
左手首に右手を添え、新たなる戦士は高らかに名乗りを上げた。
「タイムブルー!!!っっっっって、ところかな?」
「そ、そんな」
自分の前に立ち塞がる仲間の姿に放心状態のシオン。
「へぇ、これは便利だね。戦い方をスーツが教えてくれるよ。……クロノアクセス!」
クロノチェンジャーから発せられた光が、時計の長針と短針を模した剣を形作る。
そして、タイムブルーはそれの柄を重ね、一本の剣とした。
「ツインベクター!」
「シオン!」
グレイは能力を発揮し、シオンの盾となるべく跳んだ。だが、間に合わない。
タイムブルーとシオンの距離は無情にも詰められる。
時計の長針を模した剣が男の胸を刺し貫いた。
男の胸から流れ出た赤々しい血は、剣を伝い、雫となってポタリと大地へと滴り落ちる。
男は滴り落ちた血が溜まる様子をその眼で見ていた。そして、自分に向けられる声をその耳で聞いていた。
驚き、怒り、悲しみ、その中で一層大きな嘲りの声。
男は声に応えようと口を開くが、彼の口からは言葉ではなく、大量の血が吐き出された。
「ヒャハハハハッッ!」
「恭介ぇぇぇ!」
「恭介さん!」
刃がシオンに達するより早く、グレイの代わりに恭介はその身を二人の間に割り込ませた。
その結果、刃はシオンではなく、恭介を貫いた。
「ぬぅ!」
ようやく辿り着いたグレイの拳がタイムブルーを捉える。
「アクセルストップ!」
しかし、その拳は速度を上げたタイムブルーにあっさりとかわされる。
「そう慌てるなよ。折角の10分なんだ。時間いっぱいまで楽しもうじゃないか」
タイムブルーは自分の力を誇示するかのように、恭介を貫いたままのツインベクターを掲げた。
435
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 21:58:09
グレイはグレイギャノンを構え、タイムブルーに狙いをつける。しかし、その手をシオンが止める。
「止めてください。そんな武器を使ったら恭介さんに当たります!」
恭介の傷は明らかに致命傷。もはやどんな治療を施しても助からないだろう。
だが、だからといって、これ以上、恭介の身体に傷を付けたくはない。
しかし、そんなシオンの心情を察知したタイムブルーは仮面の下で微笑んだ。
「ビートアップ♪」
ツインベクターは剣の中央に付けられたスイッチを上下させることで出力の調整を行うことができる。
タイムブルーはスイッチを指で弾き、出力を一気に最大にした。
「っっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ツインベクターに迸る破壊エネルギーの波が、恭介の身体に流れ、電気ショックを受けたかのような身体の震えと声にならない叫びを上げさせる。
タイムブルーは楽しそうにその光景を見ながら、剣先の角度を調整した。
「ベクタ〜ハ〜レ〜♪」
その言葉と共に恭介の身体は泡が弾けるように、内側から爆ぜた。
赤い肉片がタイムブルーを中心に飛び散り、赤い円を形づくる。
「ヒャハハハハッ。中々、綺麗な花火だねぇ。見てご覧、この地面に書かれた赤いアートを。レッドの死にはとても相応しいよ」
グレイはグレイギャノンを放とうとするが、もう遅い。タイムブルーの標的は次なる獲物へと移っていた。
「アクセルストップ!」
超スピードを得るタイムブルー。彼の次の狙いはチャイナ服の女、メレだ。
(あいつ、もう少しで制限が解けるって、言ってたからね。早めに潰しておかないと)
表向きはイカれているだけにしか見えないが、その頭脳は極めて冷静だった。
新たな力を得たとはいえ、戦いの疲れは確実に蓄積している。メガブルーも運ばなければならない。
ある程度の数を減らしたら、手強そうなグレイは放って逃げるべきだろう。
(そういうわけで死になよ、女)
アクセルストップの効果が切れると同時に、ツインベクターを振り下ろすタイムブルー。
しかし、その攻撃は、またも本来の目標に届くことはなかった。
「これ以上好きにはさせん!」
ツインベクターを受け止めるのはディーソードベガ。
「へぇ、制限が掛かってない奴がまだいたのか。これはもっと楽しめそうだねぇ」
そして、それを握るのは形状記憶合金デカメタルを身に纏ったドギー、デカマスター。
「でも、大丈夫かい?あのロボットに背負われてたということは、結構重症なんじゃない?」
436
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 21:59:18
「お前に心配される筋合いはない!」
ツインベクターを打ち上げ、次々と斬撃を繰り出すデカマスター。一方のタイムブルーもそれを受け流していく。
「ドギー!」
「来るな、グレイ!お前は皆を安全な場所に!」
加勢に入ろうとするグレイを押し留めるデカマスター。
思わぬ言葉にグレイの動きが止まる。
「あんた、何ボケっと突っ立てるの!逃げるわよ!」
一番先に反応したのはメレだった。メレは手近なディパックを掻き集め、裕作を担ぎ上げると、斬り合う二人の横を通りすぎ、グレイがいる方角へと走る。
叱責されたグレイも呆けるシオンを担ぎ上げ、踵を返し、大地を蹴った。
そして、その場には氷柱を前に対峙するタイムブルーとデカマスターの二人が残る。
「いいのかい?あの黒いロボットと力を合わせれば、オレに勝てたかも知れないのに」
「俺は職業柄、今まで数多くの犯罪者を見てきた。お前のように狡猾な奴は、自分が逃げ切るためにはありとあらゆる手を使う。
それこそ周りに無力な人間がいれば率先して狙い、例え、敗れることがあっても尋常ならぬ被害を生む、そんなタイプだ」
デカマスターの分析に、タイムブルーは感心したかのように頷きを返す。
「へぇー、当たりだよ。たぶん、そうすると思うよ。なるほど、オレを殺すことをより、仲間を助けることを優先したわけだ。
オレも下手なちょっかいかけて、あのロボットを留めたくなかったからね。
レッドの命と君の命で4人の命が助かったんだ。いい策だと思うよ」
「……少し違うな」
「何が?ああ、時間稼ぎして、あのロボットが戻ってくるのを待つつもり?でも、残念。時間稼ぎしようとしても無理――」
「時間稼ぎをするつもりはない!」
デカマスターは怒りの声を上げ、タイムブルーを激しく睨みつける。
「俺の残りの命、貴様を燃やす業火にする!俺と一緒に地獄へ行ってもらうぞ!」
「出来るのかい?それに職業柄、俺を殺せないんじゃなかったんじゃ?」
「規律違反の責任は俺の命で許して貰うさ」
「……………………ヒャハ。フヒャハハハハハハッッッ!いいねぇ、その気迫。凄くピリピリ来るよ。
こんなに楽しいのはここに来て、初めてだ」
タイムブルーはツインベクターを収めると、自分の本来の武器、ネジトマホークを取り出す。
それはデカマスターには不幸なことこの上ないが、ネジブルーが相手を認めた証だった。
「いくよ」
「来い!」
437
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 21:59:52
デカマスターは腰を落とし、刀身を相手へと向け、タイムブルーはネジトマホークを自分の身体と平行になるように構えた。
「……ところでお前、飛び道具はあるのかい?クロノアクセス!」
タイムブルーの手に握られると同時に引き金を引かれる大型銃ボルランチャー。
巨大な銃口から放たれた強力な光弾が、デカマスターを襲う。
「ちっ!」
それを避けるため、デカマスターは力の限り、高く跳んだ。
「はっ!跳んだら逃げられないだろう!アクセルストップゥゥ!!」
消えるタイムブルーの姿。だが、それはデカマスターの狙い通りの動きだった。
(これでいい)
デカマスターはタイムブルーとの戦いを長期戦にするつもりはない。
スーツの上からは窺い知ることはできないが、彼の傷口はパックリと開き、そこからは大量の血が溢れ出していた。
(奴を倒すためには必殺の一撃に賭けるしかない。だが、奴は狡賢く、そして、強い)
まともに戦えば10分の制限を迎える前にその命は終わる。ならば、奇策に打って出るしかない。
デカマスターは海岸の砂に注目した。
(アクセルストップ。厄介な技だ。だが、だからこそ付け入る隙がある)
次々と舞い上がる砂はタイムブルーがどこを移動しているかを示している。だが、あまりの速度に砂が舞い上がる速度はほぼ同時だ。
しかし、デカマスターが空中にいる以上、タイムブルーも跳ぶしかない。
(ほぼ同時に舞い上がる砂の端。それが奴が跳び上がる位置。そして、奴は必ず――)
デカマスターは地面に向けていた身体を素早く、空中へと反転させる。
(――俺の背後から攻撃する!)
「そこだぁぁぁっ!!!」
渾身の力を込めて奮われるディーソードベガ。その刀の軌道は確実にタイムブルーの急所を捉えていた。
(なっ!剣が!!)
438
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 22:00:29
が、しかし、突如として、軌道を外れる剣。
デカマスターの意図した方向とはまるっきり逆の方へと誘導されていく。
アクセルストップの効果が切れ、徐々に顕になるタイムブルーの姿。
いつの間にかタイムブルーの左手には杖が握られ、その先端にある磁石のようなものに、ディーソードベガは吸い付いていた。
「俺の方が一枚上手だったみたいだね!!」
「うぉぉぉぉぉ!!!」
重力の勢いを味方に付け、ネジトマホークはデカマスターを真っ向から切り裂いた。
▽
タイムブルーは語る。
「オレが誤魔化したかったのは、この装備だよ」
アクセルストップを使った後、タイムブルーは自分のディパックから杖を取り出した。
「これは魔人マグダスの杖って言ってね。このメモによれば、目盛りで選んだ物体を吸着の一声で引き付けることができるそうだよ。
まあ、効果は実感してくれたと思うけど」
窮鼠猫を噛む。追い詰めれば、追い詰めるほど、楽しめる戦士は逆転の一手を狙ってくる。
「この装備はついさっき手に入れたばかりの武器でねぇ。一度も試してなかったから、実際にどう動くか不安だったんだけど、いい働きしてくれたよ。
これがなかったら負けてたかもねぇ」
それを迎え撃つためには、こちらも常に新しい一手を考えなければならない。
「おっと、そろそろ戻ってきそうだねぇ。できれば、もっと話したかったけど仕方ない。
でも、君のことは覚えておくよ。幕間にしてはオレを随分と楽しませてくれたからねぇ」
その結果、彼はデカマスター、いや、ドギー・クルーガーに打ち勝った。
「さて、行こうかメガブルー。君との戦いは一番最後、一番最後の御褒美と考えれば、案外、今の状況も悪くないかも知れない」
この世界にはメガブルーに匹敵する程、楽しませてくれる相手もいる。
そのまだ見ぬ強敵との戦いを思い描き、タイムブルーは笑った。
タイムブルーは氷柱と転がってた台車を担ぎ、ディーソードベガを吸い付けたままのマグダスの杖をディパックに収めると、軽く手を振り、その場から去って行った。
【陣内恭介 死亡】
【ドギー・クルーガー 死亡】
残り27人
439
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 22:01:32
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:健康。能力発揮中。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数3発)、支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
第二行動方針:ドギーの元へ戻る。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:健康。精神的ダメージ大。2時間変身不能。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:ドギーさんは?
第二行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
440
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 22:02:08
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第34話後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:気絶。右肩、腹部、左足を負傷。2時間変身不能
[装備]:ケイタイザー
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:瞬を探す
[備考]
2時間の制限に気づきました。ヒカルと情報交換を行いました。メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
ヒカルがドモンを殺し合いを止めるように説得していると思っています。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
裕作の支給品はメレが預かっています。
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。30分リンギの使用不能。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他一品、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:ドギーはどうなった?
第三行動方針:シオンの言動に不思議な感情を感じる。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。
441
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 22:03:00
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、切り傷あり。疲労困憊ながら、気分は高揚。タイムブルーに変身中。2時間ネジビザールの能力発揮不能。
[装備]:ネジトマホーク、壊れたネジスーツ@電磁戦隊メガレンジャー、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン
ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、木製の台車(裕作のお手製)、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す
第一行動方針:次元獣化した並樹瞬を元に戻し決着をつける。そのため、最期の二人になるまで戦う。
第二行動方針:強敵との戦いを楽しむ。
[備考]
ネジスーツは壊れているためネジレンジャーにはなれません。
2時間の制限を知っています。
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、傷あり。次元獣化。氷漬けにされ仮死状態。ネジブルーの手で運搬中。
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:暴れる。
[備考]
瞬の支給品一式はH-7エリアに放置されています。
442
:
新たなる力
◆i1BeVxv./w
:2009/03/12(木) 22:07:43
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などがあれば、お願いします。
443
:
銀河を貫く名無しの刃
:2009/03/12(木) 22:08:02
GJ!
面白かった!
恭介ェェッ、ドギィィーまさか二人とも逝っちまうとは。
ネジブルーがヤバイ程に怖カッコイイ!乙でした!
支援でさるさん。
出先なので代理投下できなくてすみません。
444
:
銀河を貫く名無しの刃
:2009/03/12(木) 22:31:58
GJ!です。
さあ感想を!と思ったら容量がやばい模様。
というわけで次スレを立ててから改めて感想を書かせて頂こうと思います。
本当に面白かったです!GJ!!
445
:
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:38:42
プロバイダーがアクセス規制中のため、遅くなりましたが、こちらに投下いたします。
446
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:39:34
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
絶叫を上げ、シグナルマン・ポリス・コバーンは全力で走っていた。
(すまないスモーキー。待っていてくれ、菜月ちゃんはきっと本官が見つけ出す)
実際は違うのだが、スモーキーから愛想をつかされたと思ったシグナルマンは、失われた信頼を取り戻すため、東へとひた走る。
森林が広がるそこは道などあってないようなものだが、茂る木々を掻き分け、飛び出る枝を飛び越え、邪魔な岩を粉砕し、シグナルマンはとにかく走る。
その結果、シグナルマンは――
「ぬぉっ!」
――何かにぶつかって、盛大に吹っ飛ばされた。
背中をしたたかにぶつけるが、痛みの呻きより先に別の言葉が口を出た。
「ぬぬぬっ、まさか、本官としたことが前方不注意を……」
悲鳴より自戒の言葉。流石は交通ルールを遵守するシグナルマンである。
「しかし、本官は何にぶつかったのだ?」
シグナルマンの前方には特に障害物らしきものは見当たらなかった。
不思議に思いながらも立ち上がり、今度はゆっくりと歩いて行く。
慎重に少しずつ。すると、右手が何かに当たった。
「これは……」
そこには見えないが、確かに何かが存在していた。
手探りでそれが何なのかを確認すれば、直ぐに結論が導き出された。
それとは『壁』だ。
手触りはまるでアクリル板のように滑らかだが、硬度はシグナルマンの全力の体当たり(?)にも動じることなく、蟻の入る隙間すらない。
全体像は不明だが、少なくとも、シグナルマンの手の届く範囲は全てが壁で覆われている。
目の前には未だ途切れることのない森林が広がっているというのに、これ以上、進むことは叶わない。
「ぬぅー、見えない壁とは」
その発見にシグナルマンは一頻り唸る。
「誰だ、こんないたずらをしたのは!」
いや、その突っ込みはおかしい。
「まったく」
憤慨しつつも折角止まったのだからと、シグナルマンは現在地を確認する。
447
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:40:23
壁のことはいたずらで流すようです。
「えっと、ここがああで……、あれがこうだから……。うん、ここはC10エリアだ」
確認しておこう。シグナルマンはC4エリアからひたすら東へ進んできた。ひたすら東にだ。
つまり――
「…………す、進みすぎたぁ!!!」
――ご名答。
「いい加減にするニャー!!!」
「ぬわぁっ!」
ディパックから飛び出たスモーキーのアッパーカットが鮮やかに決まった。
シグナルマンは脳を揺らされ、再び、大地へと身体を埋める。
「な、何をするスモーキー」
「何をするじゃないニャー。いきなり凄いスピードで走り出して、グラグラグラグラ揺らされて、やっと止まったかと思えば、全然違う場所に来てるなんて、どういうことニャー」
「それは…………、あぁっ、スマン」
シグナルマンはスモーキーの信頼を取り戻すため、菜月を探しに来たと、本音を言おうとするが、それは言い訳になると、口を噤み、素直に頭を下げる。
一方のスモーキーも、素直に謝られると一発入れた手前、これ以上、怒れない。
「まったく、ダンナと違って、どうしようもない奴にゃ」
「旦那?スモーキーくん、君には夫がいるのかい?」
「そんなわけないにゃいだろ、ダンナというのは天空聖者のサンジェル。ここにはヒカルっていう名前で……うにゃ?」
「どうしたスモーキー?」
ふと思えば、数時間も一緒に行動しているというのに、ほとんど情報交換を行っていないことに気付くスモーキー。
シグナルマンだけではなく、竜也とも、菜月とも。ブクラテスはまあいいとしても、いつ離れ離れになるかも判らない状況ではこれは色々と不利なのではないか。
「そういえば、ここに来てから何も説明してなかったにゃ。いい機会だから、ちょっと話すニャー」
スモーキーはヒカルがどのような人物かをインフェルシアとの戦いの日々を交えて、シグナルマンに説明する。
多少は端折ってはいるが、ヒカルがどのような人物かを知るには充分な情報量だ。
「と、いうわけで、ダンナは凄い奴なんだにゃ」
「ほぉ、それは是非とも会って見たいな。共に正義のため、戦えるはずだ」
「そうにゃ。なのに、なんであんにゃ」
スモーキーの表情が暗く沈む。
彼の脳裏に浮かぶのはメメの鏡の破片で見た誰かを刺し貫くヒカルの姿。
相手がインフェルシアのような極悪人だった可能性もある。いや、むしろ今までのことを考えれば、そう考える方が自然だ。
448
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:42:25
だが、この場が持つ独特な雰囲気のようなものが、スモーキーの心にわずかな疑念を残していた。
「?、どうしたスモーキー」
「な、なんでもないにゃ。まっ、お前はダンナと違って、一人じゃなーんにもできそうにないし、黄色いのに輪にかけてボケボケのようにゃから、おいらがフォローしてやるにゃ」
スモーキーは気持ちを切り替えると、憎まれ口を叩きながらも、シグナルマンへの協力を言葉にする。
その言葉を、信頼を失ったと思っていたシグナルマンは、仲直りの言葉として捉えた。
「す、スモーキーくん」
涙ぐんだような声を上げ、感激するシグナルマン。
スモーキーにして見れば、マジランプに引き篭もっていたのは、メメの鏡で見たヒカルの姿にショックを受けていたからなので、ここまで感激される謂れもない。
「か、勘違いするにゃよ。本当は嫌だけど、お前が不甲斐ないから仕方なくにゃ」
「うんうん、それでもいい」
「ったく、やれやれだにゃー」
相変わらず言動が読めないシグナルマンに、スモーキーは嘆息するのであった。
▽
「いいか〜、しっかりと周りを確認しながら、戻るんにゃぞ」
「うむ、任せてくれたまえ」
スモーキーの指示を受け、シグナルマンは元来た道を戻っていた。
ただし、今度は慌てず騒がずゆっくりとだ。
気付けば、ブクラテスたちと分かれてから、それなりに時間も経った。
あの時は北東でも、進み続けていたと仮定すれば、今のエリアも充分、探索の範囲内だ。
とはいえ、治療を終えた竜也たちが捜索を開始したり、菜月が気が変わって戻ったりしている可能性もある。
結論として、スモーキーは竜也たちがいる場所に帰りつつ、菜月を探すことにした。
「こんなとき、通信機のひとつでもあれば、便利にゃんだが」
「うむ、本官もそれは考えたが、どうやら通信機の類はここら辺じゃ使えないらしい。本官のシグナイザーもシグナルホイッスルもまるで反応がない」
「これもあのロンって奴の仕業かにゃ。というか、ここは一体どこにゃ?マルデヨーナ世界じゃないみたいにゃけど」
あれやこれやと話している内に足は進み、シグナルマンたちはC8エリアまで戻っていた。
そこで、シグナルマンたちは妙な場所を見つける。
「なんにゃこれは」
449
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:44:44
森と地図には書かれているというのに、木々はなく、まるでクレーターのような大きな窪みがそこにはあった。
だが、注意深く地面を見れば、木々が埋まっていることがわかる。
つまり、ここは地図が示す通り、森であったが、何者かの力でこの有様に変えられてしまったのだろう。
そのことに気付いたスモーキーは、底知れる力の持ち主の存在に恐怖を覚える。
「まったく、今度は自然破壊か。自然は大切にしなければ駄目だぞ」
(……こいつは馬鹿なんだか、大物なんだか)
まったく物怖じせず、クレーターへと降りていくシグナルマンに、スモーキーは怖がっている自分が馬鹿らしく思えた。
「うん、あれは……」
クレーターの真ん中、倒れ伏す男の前で、座す男が一人。
地球の住人ではないことはその青白い肌を見れば一目瞭然だった。
しかし、その格好はどことなく昔の日本人、侍が着ていた衣服に似ている。
「おーい!」
まったく警戒せず男に声を掛けるシグナルマン。
いい加減、シグナルマンのマイペースっぷりにも慣れてきたスモーキーも、その行動には慌てて口を挿んだ。
「ちょっ、大丈夫かにゃー。あいつ、いかにも悪人ですって、顔してるにゃー」
「何を言う、スモーキー。人を見た目で判断しちゃいけないぞ。
それにあれを見たまえ、きっと傷を負った友人を介抱しているのだろう。悪人ならそんなことはしない」
メレを埋めるシグナルマンを殺人鬼と誤解した前科があるだけに、スモーキーは何も言えなくなる。
それを肯定ととったシグナルマンは男へと接近していく。
近くで見れば、倒れ伏す男には治療の後があった。ちゃんと息もあるようだ。
「本官の名前はシグナルマン・ポリス・コバーン。こっちは本官の仲間のスモーキーだ。君の名前は?」
「剣将ブドー」
「ブドーくんか。この人は、君が守っていてくれたのか」
「うむ。拙者が着いた時にはもうこの有様だ。余程の激戦だったのだろう。この男がこれほど無防備に眠るとは」
ブドーは嘆き、ゆっくりと立ち上がると、シグナルマンを正面から見据えた。
「……貴殿に頼みたいことがある。この男の治療を頼みたい。そして、伝えて欲しい。今から6時間後の4時44分、E9エリアで待つとな」
「うむ、わかった」
真剣なブドーの表情にあっさりと了承の返事をするシグナルマン。
だが、スモーキーはそれで済ませるつもりはない。
「ちょっと待つにゃ。お前、そんなところに呼び出して、何をするつもりにゃー?」
450
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:47:28
「知れたこと。その男と決着を着ける」
「そ、それはどういう……」
「殺し合いをすると言ったのだ」
息を呑むふたり。ようやくシグナルマンは対峙する相手が友好的ではないことに気付く。
「拙者は殺し合いに乗り、優勝を目指しておる。勝つためにはいかなる手段も講じ、いかなる者の命乞いも聞かぬつもりだ。
だが、たったひとつのしこり。その男、理央だけは中途半端な決着は望まん!理央を超えるために拙者は新たな力を手に入れたのだ!
この折は今の拙者の力と理央の力、どちらが上かはっきりと確かめねば、拙者の気は済まん!!」
ピリピリとしたブドーの気魄にふたりは気圧される。
「わかったら、とっとと行くがいい。それまでお主たちの命は預けておくとしよう」
ブドーは踵を返し、その場から去ろうとする。
「待て!本官はそんなこと認めん!」
ブドーの歩みが止まる。
「ほぉ、拙者の頼みが聞けんと申すか」
「その通りだ!理央くんの治療は請け負おう。だが、君に殺人を侵させるわけにはいかない!」
「ふっ、笑止。既に拙者は何人もの人間を切り捨てておる。この場にても既にふたり。今更、止められる謂れもない」
「ならば!本官は君を逮捕する!!」
シグナルマンはシグナイザーを取り出し、ポリスバトンモードにすると、ブドーに向けて構える。
「ふっ、よかろう。少し、相手をしてやる。来るがよい」
ブドーは身体をシグナルマンの方へと合わせ、闇の三ツ首竜を構える。
「とわぁ!」
シグナイザーによる打撃が次々と打ち込まれていく。しかし、ブドーはその攻撃を完全に見切っていた。
全ての攻撃を紙一重でかわしていくブドー。
当たらない攻撃に苛立ち、シグナルマンの攻撃が自然と大振りになっていく。
「体術は認めよう。だが、その程度の実力では拙者を逮捕するなど、夢のまた夢」
ブドーはシグナルマンの懐に潜り込むと、その腹に掌打を打ち込む。
怯むシグナルマンに続けて足払いを放ち、シグナルマンのバランスを崩した。
そして、そのまま、首を掴むと強引に大地へと組み伏す。
「言っておくが、まだ、拙者は実力を発揮しておらぬ。お主はどうなのだ?全力で戦っておるのか?」
「くっ!」
シグナルマンはシグナイザーをガンモードにして放つ。
451
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:48:49
ところが、その攻撃もブドーに察知され、腕を握られ、軌道を変えられる。
「どうやら全力のようだ。それならば、さて、どうするか。この程度の実力しかないものに、理央を託していいものか?」
シグナルマンの首を絞める手に力がこもる。
あまりに弱い者に理央を託し、通りすがりのマーダーにでも殺されるようなことがあれば困るのだ。
ブドーの目利きでは、シグナルマンはそれなりの使い手だと思ったのだが、実際に拳を交わすとそうでもない。
制限中かとも思ったが、それならばそんな状態で自分を逮捕しようとしたりするだろうか。
(制限を知らぬという可能性もあるが……他の誰かにするか?)
更にブドーが力をこめようとしたその時、おたけびを上げたスモーキーがブドーへと突進する。
「にゃーーー!」
「ぬっ!?」
スモーキーのキックが、シグナルマンの上からブドーを引き剥がす。
だが、それだけでは終わらない。スモーキーは頭突きやひっかきでブドーへと追撃を行う。
「今にゃー。今の内に逃げるにゃー!」
スモーキーの言葉は当然、シグナルマンに向けたものだ。
それを聞いたシグナルマンは立ち上がると、素早く逃げ――
「これでも喰らえ!」
――るわけはなかった。
地面に投げつけられたけむり玉がその場に盛大な煙幕をつくりだす。
「スモーキー!逃げるぞ!!一緒にだ!!!」
「わかったにゃー」
スモーキーはブドーへの攻撃を止めると、煙に紛れ、その場からの逃走を試みる。
「ふっ、甘い」
だが、今のブドーに煙幕など通用しない。
「ぐわぁぁっ!!」
煙幕の中から誰かの悲鳴が上がった。
ブドーではない。スモーキーではない。理央は気を失っている。
ならば、その声の主はひとりしかいない。
「シグナルマン!」
風が吹き、煙幕がその効力をなくす。
スモーキーが眼にしたものは、ブドーの足元で倒れるシグナルマンの姿だった。
452
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:51:07
「す、スモーキー」
ブドーの手にはゲキセイバーが握られ、シグナルマンの腹には真一文字の打撲痕が刻まれている。
煙に乗じて、ブドーが打ち込んだのだろう。
「峰打ちだ。言い方を変えよう。これは頼みではなく、命令だ。理央を治療し、拙者の元へと連れてこい。
さもなくば――」
ブドーはゲキセイバーの刃を返し、シグナルマンの首へと添えた。
「――この者の命はない」
「シグナルマン……」
「お主の実力、見事であった。この者より余程骨がある。どうだ、やっては貰えぬか?」
「断るんだ、スモーキー……犯罪者の要求を呑んじゃないけない。――ぐわぁっ!」
ブドーはお前には聞いていないと言わんばかりに、無言でシグナルマンを踏みつける。
「さあ、どうする?」
「ひとつだけ、条件があるにゃー」
「ほぉ、言ってみろ」
「理央とかいう奴を連れていくのはシグナルマンにして欲しいにゃー。人質にはオイラがにゃるから」
「スモ――ごほっ!」
また、何事か言いそうなシグナルマンに蹴りを入れ、ブドーは黙考する。
「スモーキーとやら、お主から見て、この者の実力はどれほどなのだ?ひとりにして大丈夫なほどの実力なのか?」
「正直言って、わからないにゃー。ここに来てから、シグナルマンの戦いを見たのは今が初めてにゃー」
「初めて。しからば、この者は制限中ではないのにこの程度ということか。拙者の目利きも落ちたものだ」
スモーキーの提案をはねのける言葉を口を開きかけたところで、スモーキーから再度、質問の声が上がった。
「制限、制限って何にゃー?」
スモーキーの問いに答えを返すブドー。本気を出せるのは10分間、その後、2時間程度の制限が自らに適用される。
それを聞いたスモーキーは、何かが引っ掛かった。
「ちょ、ちょっと待つにゃー。えーと、えーと」
453
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:53:11
必死に考えるスモーキー。この2時間で一体何があったかを。
「あーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「どうした、いきなり?」
突然スモーキーが上げた大声に、ブドーも困惑顔だ。
「そのー、たぶん、シグナルマンは制限中にゃー」
「何!命を乞うために嘘を吐いているのではないだろうな」
「違うにゃー。1時間半ぐらい前、オイラがディパックに入ってある間、こいつが凄いスピードで走り出したことがあったにゃー。
たぶん、その時、シグナルマンは本気で走ってたんだにゃー」
スモーキーの推理通りだった。
シグナルマンはC4エリアからC10エリアに向かうとき、持てる力の全てを使って走った。
そのため、彼には2時間の制限が化せれていたのだ。
「ふっふっふっ、なるほど、敵もいないのに本気で走って制限を受けたのか。
ふっふっふっ、はっはっはっ。よかろう。貴様の条件、呑もうではないか」
シグナルマンの行動が余程、愉快だったのだろう。
ブドーはシグナルマンを解放し、彼から距離を取る間、ずっと、忍び笑いを続ける。
(ふぅー、助かったにゃー)
スモーキーはブドーに必要なものがあると断りを入れると、シグナルマンのディパックからマジランプを取り出す。
これがないと、スモーキーは3時間の後、消滅してしまう。
「さて、行くぞ」
スモーキーは頷くと、ブドーの元へと向かおうとする。
だが、その足をシグナルマンが掴んだ。
「にゃ!」
「待て、スモーキー……行くんじゃない」
「何を言ってるんにゃー、聞いてたにゃろ。今のお前は制限中で、戦いは無理なんだにゃー」
ブドーを見れば、ゲキセイバーに手を置いて、こちらをじっと見てる。
スモーキーの背中に冷や汗が浮かんだ。
今、もう一度、ブドーの機嫌を損ねれば、今度こそ、シグナルマンの命はない。
「本官は、本官は負けない。もう君の信頼を失くしたりしたくないんだ」
シグナルマンは涙交じりの声を上げつつも、シグナイザーを杖代わりに立ち上がる。
その姿にスモーキーの決心は固まる。
454
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:55:22
「にゃめんなよ、シグナルマン。誰が助けて欲しいって言ったにゃ」
「スモーキー……」
「もうやめにゃ、やめ。ネコ被るのお終いにゃ。このままじゃオイラまで殺されてしまうにゃー。
オイラはな、お前たちの殺し合いを促進するためにロンに送り込まれたんだにゃー。
だって、オイラは支給品。最後の一人まで殺し合いをしなきゃいけないお前らと違って、ロンの言うことさえ聞いてれば、生き残れるんだからにゃー」
「スモーキー、何を言って」
「よく考えてみるにゃー。
本当に黄色いのが心配で追おうと言い出したと思うにゃ?
本当にあの爺さんが気に入らないからって、逆の方に向かったと思うにゃ?
違うにゃ。本当は徒党を組んだお前らを離れ離れにするのが目的にゃ。
折角、旨く言って、ロンに誉められると思ったのに、ぶち壊しにするんじゃないにゃー!!」
シグナルマンの表情に絶望の色が浮かぶ。
「そら、わかったら、さっさと……さっさとその手を離すにゃー!お前なんて、目障りにゃー!!!」
「うぅっ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
シグナルマンは絶叫を上げると、スモーキーから手を離す。
スモーキーはシグナルマンの姿を寂しげに見つめつつも、ブドーと共にその場から去って行った。
▽
「口から出任せにしては旨くいったものだ」
「気付いてたのかにゃ。って、当たり前か」
ブドーにはスモーキーの思惑などお見通しのようだ。
もっとも、こんな演技で騙される者はそうはいないだろう。
それこそ馬鹿が付くほどの正直者か、融通のきかない堅物でもない限り……
「よいのか?ここは戦場。これが今生の別れになるやも知れんぞ?」
「へっ、どの口がそれを言うにゃ」
「ふふっ、違いない」
ブドーは薄く微笑うと、今度はその竜の力を試すべく、獲物を求めて南へと向かった。
455
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:55:55
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:ダメージ小。腹に打撲痕。かなり凹み気味。30分程度能力制限中。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数1個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵 、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:自分の無力さに強い怒りと悲しみ。
第二行動方針:理央の治療。
第三行動方針:菜月を探す。その後、竜也たちと合流。
第四行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第五行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
※首輪の制限に気が付きました。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。深く無防備に眠り込んでいます
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:ナイとメアを探す。
※大体の制限時間に気付きました。
456
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:57:10
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。闇の力により戦闘力増幅。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー
手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)
マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(ブドー&バンキュリア)
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:理央の治療を待ち、決着をつける。(4時44分、C9エリアにて)
第二行動方針:理央の治療を待つ間、適当な獲物を狩り、実力を試す。
第三行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。
※闇の三ツ首竜により力が増幅しています。
【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:健康。マジランプの中。2時間程度能力制限中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを探す
第一行動方針:ブドーの猫質
第二行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す。
※落ちていたメメの鏡の破片(粉砕)によってヒカルがサーガインを刺したのを見ています。
457
:
シグナルマンも走れば・・・
◆i1BeVxv./w
:2009/03/21(土) 23:59:02
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などがあれば、お願いします。
458
:
代理投下した者です。
:2009/03/22(日) 17:20:37
あちらで書き忘れていたのですが、規制されてしまったので、こちらで。
行数制限により、一部、仮投下通りに投下できませんでした。
申し訳ありません。
459
:
◆i1BeVxv./w
:2009/03/23(月) 08:46:00
いえいえ。
遅ればせながら、代理投下ありがとうございました。
460
:
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:32:18
プロバイダー規制が未だ解けないため、こちらに投下いたします。
お手隙でしたら、代理投下をお願いします。
461
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:33:04
潮風を受ける教会の下、しゃがみこみ、血まみれになった女性の遺体を探る男がひとり。
その傍らにはロープでグルグル巻きにされたボロボロの人形が無造作に置かれている。
もし、その姿を第三者が見れば、間違いなく、男に変質者の烙印を押すことだろう。
だが、実際のところ、その男は人に言えない所業を行っているわけではない。
彼が行っているのは死体の検分。すなわち検死だ。
「何かわかったデビか」
突然、人形が声を上げた。それは見た目こそ人形に見えるが、悪魔科学が創り出したれっきとした生命体だ。
その名前をビビデビという。
「いいや、何もわからん」
そして、ビビデビの問いに素っ気無く答えた男の名は仲代壬琴。
今、彼は自殺したという胡堂小梅の検死を終えたところだ。
彼は検死の経験こそないものの、外科医として、天才的な腕前を持っている。
そんな彼にとって、検死を行うことなど造作もない。しかし、腕があってもどうしようもないこともある。
「いくら俺でも、死亡直後なら兎も角、何時間も経った死体を調べるのは限界がある。特殊な反応を調べる試薬でもあれば別だがな。
しかも、死体は動かされている。こうなると、八方塞がりだ」
「ああ、高丘がやったデビね。まったく使えない奴デビ」
もっとも、死体がそのままの状態だからといって、何かわかったとは限らない。
それにここでは殺し合いが行われている。そんな場所で自殺か他殺かわかったからといって、どうということもない。
だが、それでも壬琴が検死を行ったのにはわけがある。
自らの純粋な好奇心。それを満たすためだ。
残念ながら、胡堂小梅の検死は彼の好奇心を満たすことは出来なかったが、それでも成果はあった。
壬琴は胡堂小梅の死にやはりひっかかりを感じていた。
「だが、こいつ、頭だけじゃなく、腕にも酷い損傷があった。それが少し気になるな」
「それがどうかしたデビか」
「こいつの死因は頭部の損傷だ。おそらく頭から飛び込んだんだろが、それなら、なぜ腕にも同様の傷がある?
おそらく、こいつは死ぬ間際に自分の頭を庇おうとしたんだ。しかし、覚悟の自殺なら普通はそんなことはしない。
なにせ、死ぬ気なんだからな」
462
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:33:39
「なるほどビビ」
「もっとも、人間には本能というものがある。覚悟の自殺だったとしても、ついその身を庇ってしまうことだって充分ありうるのさ。
それに自殺者の心理なんて、俺の専門外だ。その身を庇いながら飛んだかも知れない。飛んでいる途中で気が変わったのかも知れない。
だから、結局、何もわからないということさ」
壬琴は胡堂小梅に掛けられていた銀色のジャケットを、彼女に掛けなおすと、自らも血で汚れないようにと脇に置いていた白いロングコートを羽織り直す。
「まあ、こいつはこんなものだろう。次、行くぞ」
壬琴はビビデビに巻きつけたスコープショットを引っ張る。
「痛いデビ!次ビビか?首輪は手に入れないビビか?」
「ああ、こいつの首輪を取りにいかないのが奴らとのゲームのルールだ。それに首輪はそう遠くない内に手に入る。こいつの首輪を取らなくてもな」
ビビデビは訳がわからないという顔だったが、壬琴のいう「次」に着いたとき、その顔は驚きの顔に変わることになった。
▽
「おま――、じゃなくて、壬琴様、どうしてわかったビビか?」
ビビデビはその光景に驚愕の声を上げた。
その場には埋められた女と水に浮かぶカラクリ人形、ふたつの死体があったからだ。
「ウメコという女が自殺にしろ、他殺にしろ、他の誰かが関係していることは明らかだ。
しかも、あの女は放送前に死んでいる。なら、放送で呼ばれた名前に絶望して死を選んだわけじゃない。
高丘やお前の話を聞く限り、あの女がひとりになってから死ぬまでの間、何かあったとしたらこの辺りに痕跡があるはずだ。
他のエリアに足を伸ばす時間はなかったはずだからな。あとはただの勘だ。
もっとも、ここまでの収穫があるとは俺も思わなかったがな」
ビビデビへの説明を終えると、壬琴はふたりの検死を行う。
まずは首輪と共に埋められていた女性の死体。次に水に浮かぶカラクリ人形だ。
壬琴にとって幸運だったのは、彼が水に浮かぶカラクリ人形こと、サーガインを知っていたことだろう。
サーガインを知らなければ、クグツをただの残骸だと思っていたところだ。
壬琴は頭部にあるコックピットをこじ開け、その本体を確認する。
「ふん、溺死か。大方、死んだふりをしてたら、本当に死んでしまったというところか?」
その死因を見事に言い当て、首輪をしたサーガインの本体をそのまま回収する壬琴。
女性と共に埋められていた首輪と、サーガインに着けられた首輪。
壬琴はこれでふたつの首輪を手に入れることになる。
463
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:34:15
「分析用と実験用の首輪。そして――」
ふと、回収したサーガインのディパックへと視線を移す壬琴。
(このディパックの中にあったメモの内容が本当なら……早くもチェックメイトだぜ、ロン)
口には出さない。どこでロンが監視しているかわからないからだ。
それほどまでにこの情報は切り札となりえる。
「ビビデビ、次だ」
「次!?まだあるデビか?」
「当然だ。サーガインはまだ死んで間もない。その女も埋められたのはつい今しがたといったところだ。
サーガインを殺し、その女を埋めた奴らを追う。お前にも協力してもらうぞ」
「わ、わかったデビ」
壬琴は現場に残された痕跡を元に、北へと向かって歩いていった。
▽
海岸を北へと進むヒカルとドモン。
サーガインを倒した後、深雪の簡易的な墓を造り、花を供えたふたりは、支給品を分け、裕作が向かったとされる市街地エリアを目指していた。
ヒカルは深雪の首輪を手に入れようとしたことについて、裕作を問い質すつもりだったが、ドモンは真実がどうあれ裕作を殺すつもりでいた。
いや、正確には裕作でなくとも、今のドモンにとって、殺せれば誰でもいいのだ。
ヒカルはサーガインを殺すことで先に一歩を踏み出した。ならば、自分も同じ目的を持つ者として、早く同じ一歩を踏み出したいのだ。
そして、ヒカルはそんなドモンの気持ちを分かっていながらも、何も言えずにいる。
何故なら彼自身も、優勝を目指すべきか、それとも戦いを止めるべきか、未だ迷いの中にいるからだ。
「傷でも痛むのかい、ヒカルさん?」
迷いがあるヒカルの歩みは、ドモンと比べ、当然の如く、遅くなっていた。
それを傷のせいだと思ったドモンは心配そうな声を掛ける。
「いや、大丈夫だよ。すまない、少し考え事をしててね。先を急ごうか」
首輪は深雪の墓に一緒に埋めた。それは他者から見れば殺し合いを続けるという意思表示と言えるだろう。
実際、そのつもりだった。しかし、時が経てば経つほど、ヒカルの足取りは重くなっていく。
(どっちにしろ、今度、誰かに会えば、決断しなければならない。その誰かを殺すか、殺さないかを。それまで、それまでは――)
消極的な判断だが、ヒカルは決断を保留しようとしていた。
もしかすると、時間が解決してくれると思ったのかも知れない。
だが、運命は留まることを許さない。
464
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:35:13
「おい!」
後ろから掛けられる誰かの声。
「お前らに少し聞きたいことがある」
その声に聞き覚えがないのはこの場合、運がいいのか悪いのか。
彼らは後ろを振り向く。そこには白いロングコートを羽織ったロングヘアーの男が立っていた。
仲代壬琴だ。
「なんだ、お前。藪から棒に」
怒鳴るドモンを無視し、壬琴は話を続ける。
「南には死体が3つあった。小柄な女性の自殺死体。首が切断された女性の焼死体。腹を貫かれたカラクリ人形の溺死体。
お前ら、今まで南にいたんだろ?なのに、この3つの死体のどれにも無関係ってことはないよな?」
ヒカルは壬琴の問いにどう応えるべきか迷う。
自分は2つ、ドモンに至っては3つ全てに関わりがある。だが、相手が何者かわからないのに、それを正直に話すべきか。
(うん?)
ヒカルは壬琴の問いに、違和感を覚えた。
サーガインが溺死だということ?いや、貫いた時はまだ虫の息で、その後、海水が満ちたと考えれば、別におかしいことでもない。
ヒカルが看過できない違和感、それは――
「ちょっと待てよ。お前、どうして、深雪さんの遺体を見れたんだ。深雪さんは俺たちが埋めたはずだぞ」
そう、埋められた深雪の死に様を知ることなど、主催者でもなければ、知りようがないはずだ。
「やっぱりお前たちか。決まっているだろう。暴いたんだよ、死因を知るためにな」
その言葉を聞くや否や、ヒカルにサーガインを殺した時に似た激情が走る。横を見れば、ドモンも同様に激昂している。
当然だろう。愛しい人の眠りを妨げたのだから。
「ふん、許せないって顔だな。だが、お前らはどうなんだ?死んだ後とはいえ、その深雪とかいう女の首を切断したんだろう?」
自分のことを棚に上げ、挑発的な言葉を口にする壬琴。
「違う。あれはサーガインがやったものだ」
「で、それを見たあんたはついつい殺してしまったってわけだ」
「っ!」
ヒカルの様子にそれが図星であることを壬琴は確信した。
首の切断面を見れば、それが死後切断されたものかどうかぐらい壬琴には見分けがつく。
そして、サーガインを突き破る刃を見れば、わずかだが血液が付着していた。
465
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:35:43
壬琴は事の顛末をわかった上で、あえて挑発的な言葉を口にしたのだ。
それは真相を知るためには、冷静な判断力が失われた相手から聞くのが一番だと判断したということもある。
しかし、壬琴は何より戦いに飢えていた。ときめきに飢えていた。
殺し合いに乗るつもりはないが、自分に殺意を持った相手ならば、戦うことはやぶさかでない。
もっとも、自分に殺意を向けるように仕向けるのはルール違反ギリギリの行為とも言えるが。
「まあいい。真実がどうあれ、お前ら、俺を殺したいんだろ?わざわざ首輪も一緒に埋めるからには優勝狙いなんだろ?
なら、相手になるぜ。どっちが俺の相手だ。勿論、ふたり一遍でも俺は一向に構わんがな」
図星をつかれたことで、ヒカルの激情は急速に冷めつつあった。
だが、ドモンは逆だ。深雪を、ヒカルを卑しめた壬琴に、更に更に気を昂らせる。
「……俺が相手だ」
元々、一歩を踏み出したかったドモンだ。それがいけ好かない相手なのは都合がいい。
それにヒカルは制限中、戦いたくても戦える状況ではない。
「ふっ、そうか、お前が相手か。……ビビデビ!」
「OKデビ!」
岩陰に隠れていたビビデビからヒカルへと光線が発せられる。
突然の攻撃に、動揺していたヒカルは反応できず、光線をまともに受ける。
「ヒカルさん!」
ドモンが急ぎ駆け寄るが、時既に遅し、ヒカルの姿はその場から消えていた。
「てめぇ!ヒカルさんをどうした!!」
「安心しろ、邪魔者にはご退場願っただけだ。ビビデビ、どこへ飛ばした?」
「さあ〜、でも、ここから10分以上かかる場所なのは確かデビ〜」
作戦の成功にギヒヒと楽しそうに笑うビビデビ。
「この野郎!」
ドモンはビビデビに挑みかかるが、ビビデビはふわりと浮くと、壬琴の後ろへと隠れる。
「ギヒヒ、壬琴様。後は頼みますデビ」
「汚い真似しやがって、お前ら、ぶっ殺してやる!」
「おお、怖っ。だが、俺はこれでもフェアなつもりだぜ。もし、俺が本当に汚い奴ならお前を飛ばしている。
お前が名乗りを上げたってことは、あいつは制限中なんだろ?お互い、戦える者同士、正々堂々戦おうじゃないか」
(だが、これは前哨戦だ。ロンと戦う前にスーツの力がちゃんと活かせるかを試させてもらう)
466
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:36:13
壬琴は自分の左手に装着されたダイノマインダーに右手を添える。
対するドモンは両腕に装着されたクロノチェンジャーをクロスさせた。
「爆竜チェンジ」
「クロノチェンジャー!」
砂と岸壁に覆われる海岸に、ふたりの変身の声が同時に轟いた。
▽
「どう?映士」
「はっきりしねぇなあ」
菜摘と映士のふたりは壬琴を追って、ウメコの死体がある教会まで来ていた。
それは壬琴がウメコから首輪を回収すると予想してのことだが、実際に辿り着いてみれば、ウメコの首輪は付いたまま。ジャケットも掛けられていた。
もし、壬琴がここにいたなら、ウメコの身体を調べたはずだと、彼の痕跡を探るが、映士が最後に見たウメコの記憶はどうも曖昧だ。
「ウメコにはせめてもの弔いってことでジャケットは掛けた。それは覚えてる。
だけど、ジャケットを掛けたときのウメコがどんな状態だったかまでは……」
だが、それも無理からぬことだろう。ウメコの死体は頭部が損壊しており、戦士たる映士が見ても酷い有様だった。
故人のためにもあまりこの姿は記憶に留めたくはないところだ。
「あの時は壬琴がいないことに、つい、カッとなっちゃったけど、ビビデビだっけ?あの子にどっかに飛ばされた可能性も考えなきゃいけないわね」
「そうだな。まあ、あいつがそう簡単やられるとも思えねぇが」
自発的か、偶発的かはわからなかったが、とりあえず壬琴が約束を守ってくれたことに溜飲を下げるふたり。
ふと、映士に影が差す。雲でも掛かったかと、空を見上げた。
すると、いつの間にか、頭上に人のような影が出現していた。
それは映士が気づくと同時に、落下を開始する。
「なっ!……ぐぇっ」
驚き、そして、そのすぐ後に聞こえる蛙が踏み潰されたような声。
言うまでもなく、映士が落下物に潰された時に発した声だ。
「大丈夫?」
「大丈夫じぇねぇって。おい、上の奴!早くどきやがれ!!」
467
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:36:43
落下物の正体はその感触でわかった。成人の男性だ。
男性に乗っかられても嬉しくもなんともない。
「すまない」
男性は謝ると、映士の背中から立ち上がる。
映士は一言、文句を言ってやろうと、その男を正面から見据えた。
「おい、お前!……って、ヒカルじゃねーか」
「知ってるの?」
「ああっ、前にちょっとな」
知り合いとの再開に自然と笑顔になる映士。
ヒカルはまたも自分を一方的に知る人間との邂逅に困惑の色を浮かべた。
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:健康。本来の調子を取り戻しつつある。アバレキラーに変身、戦闘中。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:目の前の敵(ドモン)を相手にウォーミングアップ
第二行動方針:首輪の解析
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
468
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:37:15
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:身体に無数の切り傷と打撲と火傷(中程度のダメージ)。タイムイエローに変身、戦闘中。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:目の前の敵(仲代壬琴)を殺し、一歩を踏み出す。
第二行動方針:ヒカルと共に行動。
備考:変身に制限があることに気が付きました。
469
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:38:09
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。1時間程度魔法(マジシャイン、サンジェル変身不可)使用不可
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ドモンと共に優勝を目指す。
第一行動方針:目の前のふたり(映士、菜摘)をどうする?
第二行動方針:ドモンとの合流。
第三行動方針:深雪の首輪を奪おうとした裕作に不信感。
第四行動方針:ティターンに対して警戒。
第五行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:溺れたことと、急激な運動による極度の疲労。1時間程度変身不可。
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ヒカルと話す。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。
470
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:38:43
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:軽い打撲、水中にいたため身体は疲労しています。1時間程度変身不可。
[装備]:アクセルブレス
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:映士の知り合い(ヒカル)と情報交換。
第二行動方針:壬琴がいないのは誤解?
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
変身制限に気が付きました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。
471
:
死体は語る
◆i1BeVxv./w
:2009/03/25(水) 23:40:17
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点他指摘事項。ご感想があればよろしくお願いします。
あと、矛盾点というか相談すべき点がありますので、書き手交流スレにて。
472
:
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:24:26
未だに規制が解けないので、こちらに投下いたします。
お手隙でしたら、代理投下をよろしくいたします。
473
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:25:07
「さ〜て、これからどうしようかな?」
生い茂る樹木にその身を隠し、シュリケンジャーは今後の戦力を練っていた。
不死身と言われたサンヨは死んだ。
殺し合いに乗ることへの最大の留意点だったが、これで心置きなく優勝を目指せるというものだ。
(6時の放送の時点で生き残っているのは34人。順調に進んでいると仮定すれば、今は27、8人。まだまだ多いな)
広間に集められた参加者を観察した限り、自分に匹敵するほどの実力者はおそらく数人。
だが、それはあくまで広間での状態そのままだった場合の話だ。
戦闘力が劣っていてもそれ以上に知恵が回る者。ディパックから強力な支給品を入手した者。
自分と同じく変身能力を持つ者もいることだろう。油断できる人物など1人もいない。
そして、それらを一々相手にしていては、時間も、体力も、いくらあっても足りはしない。
(正面から戦うのは最後に残った数人。ある程度の人数になるまで、積極的な戦闘は避けるべきだ。そうなると、これからミーはどう動くべきか)
参加者の中には自分とおぼろのように元々知り合いの者もいるだろうが、ほとんどは初対面。もしくは敵対する関係とシュリケンジャーは考えていた。
ここに集められた42人全員が無作為に選ばれたものとはとても思えない。何人かは確実に何らかの期待を持って、選ばれたはずだ。
主催者の期待が最後の1人になるまでの殺し合いならば、待っているだけで、自然と人数は減っていくことだろう。
しかし、好戦的な者であれ、非戦的な者であれ、自分の命が掛かっているともなれば、より確実に生き残るために集団を形成する流れになる。
そうなると、減っていく人数は下げ止まりを起こす。そうならないためには何らかの手を講じる必要がある。
(そう考えていくと、もしロンがミーに何かを期待しているなら、役割はズバリ扇動者かな?)
所詮は利害の一致で結ばれたチーム。その結束は酷く脆い。疑念の種をひとつ蒔くだけで、あっさりと崩壊し、死人を出すことだろう。
幸いにして、シュリケンジャーにはそれを容易に行える変装という能力を持っている。
(それでも絆で結ばれたチームは残り、それ相応の実力を持つものも残るだろうけど、そいつらの対策は後、まずは数減らしからだ。なるべく戦わずにね☆)
方針を固めるシュリケンジャー。その時、風に乗って、何者かの声が彼の耳に届いた。
耳を澄ませば、高い声や低い声、老いた声に若い声、様々な声が聞こえてくる。
その何者かは複数。そして、明らかに徒党を組んでいる。
(この声、センだね。姿が見えなかったから、誰かに回収されたとは思ってたけど、この短時間で、ミーの催眠術から目覚めるとは中々やるね。
しかも集団を形成しているなんて。そう、グッドタイミングだ!)
シュリケンジャーは木から降りると、早速、自分の作戦を実行に移すべく、気配を消し、声の聞こえた方へと近づいていった。
▽
「ここだ」
474
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:25:41
「菜月がセンさんを見つけたところだね」
センに先導され、竜也、菜月、ブクラテスはC7エリアまで歩を進めていた。
「詳細な時間ははっきりしないけど、俺が眠らされて3時間は経ってると思う。
だから、理央さんはもうこの辺りにはいないかも知れない。けど、探せるだけ探してみたいんだ」
現場百遍。刑事のセンにとって、時間が経ったといっても事件の手がかりを現場に追い求めるのは当然の行為だった。
だが、菜月には別の意味合いで伝わったようだ。申し訳なさそうに頭を垂れる
「ごめんなさい。菜月がセンさんに頼まれて、すぐ探せば見つかったかも知れないのに」
その行動にセンは苦笑する。
「菜月ちゃんに責任はないよ。迂闊な行動をとった俺が悪いんだし、それに一番悪いのは理央さんを連れ去った奴だ」
「うん」
「とにかく捜してみよう。もしかすると、何か手がかりが残っているかも知れない」
暗い雰囲気を振り払おうと、元気な声を上げる竜也。そんな竜也に好感を持ちつつも、センは制止の言葉を口にした。
「ちょっと待ってくれ。捜す前にもうふたつだけいいかな。誰が聞いているかもわからない。ちょっと、寄ってくれるかい?」
センの呼びかけに円陣を組む4人。センはひそひそ声で話しを始める。
「たぶん、理央さんを連れ去った奴には協力者がいる。俺たちと合流した時間を考えると、俺たちを襲った奴の足止めをする奴が必要なんだ。
俺たちを襲った奴自身が協力者という可能性もあるけど、どちらにせよ、ひとりでやるのは到底無理な話だ。
だから、もし、今後、誰かに会うことがあったら、3時間前、つまり7時頃のアリバイを確認して欲しい。それともうひとつ」
ひそひそ声より、更に小さな声であることを告げるセン。3人は了承の証に肯く。
「ありがとう。さて、それじゃあ、始めますか。俺はと竜也くんでこの辺りを探しますから、菜月さんとブクラテスさんはここに残っててください」
「菜月も探すよ。これでも菜月、冒険者なんだから、探し物は得意なんだよ!」
胸を張り、主張する菜月。だが、センは首を横に振る。
菜月がボウケンジャーと呼ばれるチームの一員であることは聞いたが、センを運ぶために変身したことも聞いた。
制限中である菜月をひとりにすることはできない。
「そうか、残念」
そのことをセンが説明すると、菜月はあっさりと納得する。
「そうだ。ブクラテスさん、占い得意なんですよね?」
「う、うむ。まあ、そうじゃのぉ」
「それじゃあ、何か手がかりがないか占っててください。行こう、竜也くん」
「あっ、はい」
475
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:26:14
センは竜也の肩をポンと叩くと、ブクラテスの回答を待たずに、その場から離れていく。
残される菜月とブクラテス。
「やれやれ、仕方ないのぉ」
「じゃあ、占いやろっか?」
「まあ、それしかないようじゃ」
懐からタロットカードを取り出し、意味ありげにシャッフルを始める。
実際は占いなど出来はしないが、見た目だけは本物を目にしてただけあって、それっぽく見える。
「おじいちゃん」
「なんじゃ」
「理央さんもだけど、できれば真墨の居所も占えないかな?真墨はこの辺りにいるはずなの」
冷静さを取り戻したとはいえ、やはり、真墨の居所が気になる菜月。
シグナルマンとスモーキーはスルーされているが、気にしてはいけない。
「まあ、やってもいいが、所詮占いは占いじゃぞ?当たるも八卦、当たらぬも八卦じゃ。それに、真墨とかいう奴は死んどるんじゃなかったかの?」
「そうなんだけど……やっぱり」
「ふむぅ。いいじゃろ。だが、まずは理央からじゃ」
適当にカードを地面に置き、うんうんと唸るブクラテス。勿論、ただのフリだが。
「どう?」
「駄目じゃ。何も見えん。おそらく、ここら辺には何もないことを指しとるのじゃろ」
勿論、口から出任せだ。占いを成功させるためには首輪探知機を見なければいけない。
だが、菜月は期待を込めた目でこちらをじっと見ている。これでは探知機を見る暇はない。
「そうか。じゃあ、真墨はどう?」
「ふむ、真墨のぉ」
ブクラテスはカードを集め、再びシャッフルを始める。
(さて、どうするかのぉ?)
シャッフルの間、ブクラテスは思考を巡らせる。
また、適当に占い、わからないと言うのは簡単だ。だが、もしその真墨を見つけることが出来れば、それは首輪を手に入れることと同義だ。
「さっきの話じゃが、本当に真墨とやらはこの辺りにいるのかのぉ」
「うん、ロンが言ってた。もう少し先に真墨がいるって」
「ほぉ!ロンにのぉ」
476
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:27:21
菜月は嘘を吐くようなタイプには見えない。そして、主催者であるロンがわざわざそんな嘘を吐くために菜月に接触したとも思えない。
ブクラテスは確信する。真墨の死体は近くにあると。
(そうと決まれば、なんとかしてお嬢ちゃんに隙を作らんといけんのぉ)
首輪探知機を所有していることを明かすわけにはいかない。だが、今のままでは菜月に気付かれぬように首輪探知機を取り出すことは不可能だ。
(せめて、10秒だけでも隙があれば……うーむ、何か妙案は)
シャッフルしながら考えること、およそ1分。そろそろ引き伸ばすのも限界だ。
(ぬぉぉっ、仕方ない)
「おっ!あれはなんじゃ?UFOか!?」
言ってから、ブクラテスは軽く後悔した。苦し紛れとはいえ、いくら何でもこんな手で騙される奴がどこにいる。
「えっ、UFO?どこどこ?」
だが、菜月は引っ掛かった。
(効きおった……)
予想外の事態に呆けながらも、チャンスとばかりにディパックを探るブクラテス。
いくら菜月がぼけぼけといっても誤魔化せる時間は数秒が精々。その間に確認しなければならない。
(よし、あったぞ。さて、今の状況は……)
探知機に灯る3つの光。自分と菜月。そして――
(はて、あとひとつは?)
「ブクラテスさん」
「ふひゃっ!」
突然、両肩を捕まれ、思わず変な悲鳴を上げる。
「にひぃ」
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべたセンの姿があった。
「うーん、こんなもの持ってたんですね、ブクラテスさん」
センはブクラテスの手から素早く首輪探知機を掠め取る。センがそれは何か理解するのに1分と掛からなかった。
「あばばばっ、セン、それはじゃな」
なんとか言い訳を捻り出そうとするが、それより先にセンが口を開く。
「色々、気になることはあったんです。俺と行動していた時、占いのことなんて一言も言ってなかったし、サンヨたちを見つけたときだって、元々はブクラテスさんが怪しんだことがキッカケだった。
もしかすると、ブクラテスさんは相手の場所がわかる方法を何か知ってるんじゃないかと思ったんですけど。まさか、こんなに便利なものを持ってたとは」
「うぐぐぅ……」
477
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:28:05
頭部に血管を浮かび上がらせ、この場を逃れるための言い訳を必死に考える。
だが、センの聡明さはもう散々理解していた。やがて、ブクラテスは大きな諦めの溜息を吐いた。
「はぁーーーー、白状するわい。探知機を持っていることを言わなかったのは、おぬし達を信用しておらんかったからじゃ。
だから、いざとなれば、一人でも行動できるようこの探知機の存在は知らせなかったんじゃ。これがないと、ワシのような非戦闘員は生き残れるとは思えんからのぉ」
それはブクラテスの偽らざる本音だ。ブクラテスは優勝しようとも、ロンを打倒しようとも思っていない。
ただ、生き残りたい。それだけなのだ。
「……それでいいと思います。これはブクラテスさんが管理してください」
センはブクラテスへと探知機を返却する。予想外の行動にブクラテスは顔に?マークを浮かべた。
「なぜじゃ。なぜ、お主はワシを責めん?あの時もそうじゃ。ワシはお主を見捨てたんじゃぞ?」
「俺は刑事です。ブクラテスさんのような弱い立場の人間を守るのが仕事です。だから、俺はこの場で何度裏切られようと、その人を怨むことはしません。
だけど、ブクラテスさん、ひとつだけお願いがあります。
もしもの時は必ず俺が先頭に立ちます。だから、菜月ちゃんや竜也くんたちは見捨てず、一緒に逃げるようにしてください」
センは願うような眼でブクラテスをじっと見つめている。その眼には微塵の曇りも見当たらない。
(ふぅー、甘いのぉ、セン。まだ、ワシを信じるつもりか?まあ、それなら好都合じゃわい。ワシにはまだ切り札が残っておる。
まあ、これを使う機会は限られるからのぉ。お主の言うとおりにしばらくは動いてやるわい)
じっくりと黙考した後、ブクラテスは了承の言葉を口にする。
「わかったわい」
その言葉にセンはにっこりと笑顔を浮かべた。
「しかし、やはりやるのぉ、セン。よく考えればわかることじゃったわい。
お嬢ちゃんをひとりにするのは危ないと言ったのに、わしと二人きりにするわけはないからのぉ」
センは頷き、肯定の意思を示す。
「ひょっとして、お嬢ちゃんが、あんな手に引っかかったのも作戦の内か?」
「えっ?なんのこと。あっ、UFOは見当たらなかったよ」
その返答に、ブクラテスはとても疲れた気分になった。
「頭のいい人ほど、天然には弱いものですよ。ブクラテスさん」
「……ふぅ、そういうものかも知れんな」
探知機の存在を理解できているのかもわからない菜月のことはさて置き、ブクラテスは改めて首輪探知機に目をやる。
菜月との約束通り、真墨の居場所を探るためだ。
「うん?これは」
現在地から少し外れたところにある2つの光。
478
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:28:38
1つは竜也のものだろう。しかし、もう1つは一体誰のものなのか。
「センさん?」
「……よっこらせ」
突然、逆立ちを始めるセン。菜月も、ブクラテスも、その行動に首を傾げる。
しかし、勿論、何の意味もなく、こんなポーズを取っているわけではない。
これはセンのシンキングポーズである。こうして、考えることで何かがひらめくのだ。
「………」
ゆっくりと眼を開けるセン。そして、逆立ちを止め、地に足を着けると言葉を紡いだ。
「どうやら来たみたいですね」
菜月はそう言われても何のことかわからない顔をしていたが、ブクラテスはそれだけで理解した。
ひそひそ声より更に小さな声で告げられたもうひとつの注意点だ。
「大丈夫なのか?」
「ええ、十中八九、相手は竜也くんに危害を加えないはずです。逆に俺が行った方が戦いになる可能性が高い。今は竜也くんを待ちましょう」
センは逸る気持ちをグッと抑え、竜也が戻るのを待った。
▽
「何も見つからない」
竜也は溜息と共に、そんな声を漏らした。
意気込んで、捜索を開始したは良かったが、成果がなければ意味がない。
センは期待半分といったところだったが、できればその期待に応えたい。
「もう少し、奥まで行って見ようか」
竜也の視線の先にはどこまでも樹木が生い茂っている。
普段なら安らぎを感じさせるはずの木々の緑に、なぜか恐怖を感じた。
そんな心境の変化に気付かぬふりをして、竜也は歩みを進めようとする。
ふいに葉と葉が触れ合う音がした。
初めは風のせいかとも思ったが、その音の頻度は段々と高まっていき、音も近づいてくるようの感じる。
間違いない。誰かいる。
「誰だ!」
竜也は構え、相手を威嚇する。治まる葉のざわめき。だが、すぐに再びざわめきを始めた。
479
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:29:19
深く拳を握り締める竜也。
「待て。俺は戦うつもりはない。今そちらに行く」
落ち着きのある男の声に、わずかに安堵するが、それでも警戒を緩めず、竜也は充分な間合いを取るために、数歩後ずさった。
「ふん、随分と警戒しているな。まあ、この状況では仕方ないことだろうが」
木々の中から出てくる黒い影。いや、黒ずくめの男だ。
構えこそ取っていないが、その佇まいから立ち上る威圧感に、竜也は気圧される。
「俺は理央」
「あなたが……理央」
面識こそないが、聞き覚えのある名前だ。
そのことを表情から察したのだろう。未だ警戒を解かない竜也に理央は不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、どうやらその様子だと、俺のことは誰からか聞いているようだな」
「ええ、あなたのことはメレさんから」
「メレ?……そうか、メレか。では、お前はセンから俺のことを聞いたわけではないのだな?」
メレの名に、少しだけ訝しげな顔をした理央だったが、すぐに元の表情に戻ると、センのことを問いかける。
「センって、センさんがどうかしたのか?」
「あいつに会ったのか?」
「ああ、会ったよ。だったら?」
「奴は殺し合いに乗っている」
理央の話を要約するとこうだ。
センは自分を刑事と言い張り、弱者の味方を装っているが、それはあくまで表向きの姿。
実際の目的は優勝して、望みを叶えることであり、自分もその表向きの姿に騙され、危うく殺されかけた。
なんとか退けたが、これ以上の被害者を出さないために、センを追いつつ、注意を喚起している。
それはセンから聞いた話とはあまりにもかけ離れた内容だった。
「それを信じろっていうんですか」
「信じる信じないは好きにするといい。だが、もし出会うことがあったら気をつけろ。俺が言いたいのはそれだけだ」
そう言うと、話は終わったとばかりに踵を返す理央。
「待ってください!」
「なんだ?」
「今、俺はセンさんと一緒に行動しています。もし、あなたの話が本当なら一緒に来てください」
480
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:30:17
「それはやめておこう」
「なぜです!やはり嘘だからですか!?」
激しく糾弾する竜也。だが、理央は意に介さない。
「もう少し冷静になることだな。もし、俺がセンの前に姿を見せたらどうなる。
奴はその正体を現し、俺やお前の口を封じようとするだろう。奴は強い。俺でさえ、もう一度撃退できるかどうか」
「………」
「だから、もし俺の言葉を信じるなら……あいつが正体を現す前に先手を取れ」
「!、それは俺にセンさんを殺せって言ってるんですか」
「どうとでも好きな風に取れ。さっきも言った通り、信じる信じないはお前の勝手だ」
それで話は終わりとばかりに、また、木々の中へと入っていく理央。
あと、数歩で完全に見えなくなるところで、理央の足が止まる。
「そうだ、まだ、お前の名前を聞いてなかったな」
「浅見竜也」
「そうか。グッドラック、竜也」
▽
「おお、戻って来おったか、竜也」
「おかえり、竜也さん」
戻ってきた竜也を歓迎するブクラテスと菜月。だが、当の竜也は疲れ顔だ。
「センさん」
「どうだった、竜也くん?」
「センさんの予想通り、接触してきました。理央さんの顔で。メレさんの名前にも妙な顔してましたよ。俺の印象ですけどね」
「やっぱりね。そう来ると思ったよ」
センは竜也たちに、事前に敵が顔を変え、接触してくることを予測し、伝えていた。
質問された内容と制服を奪われたことから、敵が顔を変える技能を持っていることは予測できた。
そして、もし敵がまだ近くにいるのなら、必ず接触してくると読んだのだ。
「すぐに追いましょう」
「いや、無理だね。相手はなんか移動手段を持っているようだ。人間とは思えない速度で南に行ったよ」
センは首輪探知機を使い、竜也と理央の顔の敵の動きを追っていたことを明かす。
481
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:30:47
「ブクラテスさん、そんな重要なものを隠してたんですか!」
「あ〜、いや〜」
「まあまあ怒らない怒らない。勇気を出して打ち明けてくれたんだから」
竜也を宥めつつ、説明を続けるセン。
「とにかく、この探知機が相手から反応を返したのは1つ。つまり、理央さんから首輪を奪ってはいないってことだ。
ここから離れているということはもう目的を果たしたと考えるべきだけど、理央さんがまだ生きている可能性は高い。
それでこれからの方針だけど、一度、南に行ってから東に行こうと思う」
「南ですか?」
「うん。多分、理央さんがいる場所はもう少し、北東か、東に行ったところだと思うんだ。竜也くんに接触して来た方向から考えてね。
でも、南にひとつ、まったく動かない首輪の反応も見つけたんだよ」
「ほれ」
竜也に探知機を見せるブクラテス。
イマイチ、見方が分からないが、真ん中が自分たちの現在地とすれば、確かに下の方に光る丸があった。
「これが誰かはわからんが、そう遠くないことじゃし、先に調べておいた方がいい。そういう判断じゃ」
竜也がいない間に話は出来ていたのだろう。ブクラテスも、菜月も納得しているようだ。
「なら、それでいいです。じゃあ、行きましょうか」
竜也が頷くのを合図に、センたちはその場を離れ、南へと向かった。
▽
炎の騎馬を走れせ、森を抜け、砂漠エリアへと入るシュリケンジャー。
テクニックのない者ならば、砂場でのバイク移動は厳しいものがあるが、シュリケンジャーにそのような心配は無用のようだ。
何の問題なく、炎の騎馬を走らせる。
道すがら、シュリケンジャーは竜也のことを考えていた。
(竜也のあの様子。センからミーのことを聞いているね。しかも、ミーが変装できることも知っている風だった。
服を奪ったり、素性を探るような質問をしたり、少し、露骨すぎたかな?)
シュリケンジャーは竜也の反応から、ある程度のことは見抜いていた。
センと一緒にいた以上、理央のことについては聞いているはず。それなのに、竜也は理央と名乗っても、歓迎ではなく、警戒を続けていた。それが何よりの証拠だ。
(でも、まあ、疑念の種は蒔いた。後はそれが育つまで、放って置くだけさ)
シュリケンジャーは信頼の脆さを知っている。
例え、幾度か助け合った間柄でも、信頼が強固なものになるには時間が必要だ。
482
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:31:17
シュリケンジャーが言ったことは確かに嘘だ。だが、それが嘘だという裏づけはセンの言葉しかない。
(精々竜也に信頼されるよう頑張ることだよ、セン)
シュリケンジャーはどこか自嘲気味な笑みを浮かべ、アクセルを吹かせた。
▽
竜也はブクラテスに不信の目を向ける。
センが死にそうなのを黙っていたことといい、首輪探知機の存在を隠していたことといい、竜也はブクラテスをまったく信用できなくなっていた。
センはまったく咎めようとしなかったが、こんな状況なら、逆に厳しく、それこそ逮捕なり、なんなりするべきではないのか。
そう自分の仲間なら、きっとそうする。ユウリ、アヤセ、ドモン、そして――
(……駄目だな、俺)
シオンの顔が脳裏に過ぎったとき、竜也は激しい自責の念に襲われる。
(シオンなら、きっとこんな状況でも人を信じてる。俺にはシオンのようにブクラテスを信用するのは無理だけど……センさんは信じたい)
竜也は歩みを強くして、一番前へと躍り出る。未だに惑う心を振り払うかのように。
483
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:36:12
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:どちらを選べばいいのかわからない(全員の蘇生ために乗るor誰も殺さない)
第一行動方針:センの力になる。
第二行動方針:ドモン、ブクラテスに不信。
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考
・クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー。SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:南の反応を確認する。
第二行動方針:首輪探知機を元に理央を探す。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。
484
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:36:43
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:健康。30分変身不能。
[装備]:アクセルラー、スコープショット
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:センと竜也のサポート。
第二行動方針:真墨の遺体を捜す。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね、首輪探知機、毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:しばらくセンと一緒に行動。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
485
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:37:13
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:D-8砂漠 1日目 昼
[状態]:健康。現在は理央の顔です
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー
[道具]:SPD隊員服(セン)、包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第三行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
486
:
信頼の結び目
◆i1BeVxv./w
:2009/04/04(土) 22:38:07
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点他指摘事項。ご感想があればよろしくお願いします。
487
:
◆i1BeVxv./w
:2009/04/06(月) 08:55:19
遅ればせながら代理投下いただきありがとうございます。
488
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:47:55
規制を受けているので、こちらに投下します
489
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:48:29
合流を果たした明石、さくら、蒼太の懸案は大きく分けて三つ。
・仲間と合流すること。
・ガイを阻むこと。
・そして、ロンを倒すこと。
最終的にはこの世界からの脱出に集約されるわけだが、どう考えても今のままではロンのアドバンテージが大きすぎる。
やはり、相応のリスクが伴うとはいえ、彼に対する最大の武器は“絆”であろう。
蒼太は少し後ろを歩くさくらをちらりと見やりながら考える。
彼女を失わずにすんだことは、まさに絆が生んだ奇蹟だ。
一時はすべてが終わったと絶望に落ちかけた自分たちを救ったのは、絶望の象徴たるロンの対極にある明石暁という稀有な存在だ。
彼はこの馬鹿げたゲームを終わらせるための鍵となる最重要人物だ。
何があっても、彼を失うわけにはいかない。
「…お前たちの話からすると、ロンの仕掛けた殺し合いに乗らないと言う意思を表明した参加者のグループが複数できあがっているということになるな」
三人が三者三様に歩んできた経緯からこの世界のルールについての大まかな把握は出来上がっていた。そして、共闘の可能性を持つものたちの存在についても。
「えぇ。今はそれらがばらばらにロンへの抵抗を試みている状況です。個々が連携しあわないとこの世界についての完全な把握は難しいでしょうね。
時間がたてばたつほど、人数は減っていくでしょうし…やはり、連絡手段が自由にならないのは痛いですね」
「まぁ、な…だが、ミッション中の通信断絶はよくある話だ。できないならできないでコンタクトをとる手段はあるさ」
並木瞬の身に起こった悲劇や、ティターン、美希の顛末を知らない彼らにとって一番近隣に位置するグループは蒼太が行動をともにしていたという面々である。
特に日向おぼろの存在は稀少だった。
さくらのアクセルラーが起動できず、また首輪の解析においても牧野博士の助力が期待できない現状でメカの知識に富むエンジニアはぜひとも仲間にほしい。
彼女の保護、そして外部協力者と共闘してのガイの阻止は当面の行動指針といえた。
だが、さくらと蒼太の二人はおぼろに対してそれぞれに後ろ暗い思いがあることも事実だった。
「さくらさん、疲れませんか?」
「いいえ。特には。それより、蒼太君こそ休まなくて大丈夫ですか?」
何気ない会話の中に自分の罪を見る。彼の傷は誰によって生まれたか。
すべては元通り。
――本当にそうでしょうか?
頭の中で声がする。ロンとも自分とも取れぬ声が。囁く。
490
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:49:08
自分は今もロンの傀儡のままで、仲間を窮地に追い込むかもしれない。
どこかで明石暁を当てにしている自分がいる。だが。彼だとてこの先無事な保証はどこにもない。
クエスターもろともに自爆を試みた、いつかの彼が前を行く背中と重なる。
―あなたはいつだって、明石暁のお荷物なんです……
言い知れぬ不安がさくらの心に澱みを生んでいった。
「おぼろさん…無事だと良いんですけど……」
「大丈夫だ。距離的にはそう遠くに入っていないだろうし、俺たちならすぐに追いつける。
万が一、ガイと一戦交えることになったら、俺とズバーンで対処する。何も問題はないさ」
おぼろに真実を偽り、危険に晒してしまった。
仲間のためとはいえ、一時しのぎとはいえ、悪魔と契約した自分は許されるのだろうか。
二人は知らずヒュプノピアスについての話題を避けていた。
「菜月ちゃん、大丈夫かな?」
さくらは蒼太がそれをどうしたか聞けずにいた。
「えぇ…高丘さんはともかく、精神的に動揺していないか心配です…」
仲間の話題で間を持たせる。そうしないと、沈黙に耐え切れなくなってしまいそうで―
蒼太はさくらがピアスの所在を聞かないことを不安に思っていた。
隠し事は往々にして関係の破滅を招く。
分かってはいたが、どうしてもその一線を越えることが今の二人にはできなかった。
危ういバランスを支えているのは共に崇拝に近い信頼の感情を寄せる明石暁の存在だった。
だが、超然たる輝きに身を置く彼は神ならぬ人の子の心の弱さを思いやれるだろうか―?
やがて、三人は岐路に立つ。
それぞれの見る方向がひとつであった頃と変わりない立ち居地は、今や明石暁の知らない場所で崩れてしまっていたのかもしれない。
∬
491
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:49:57
頭蓋のひしゃげた女の屍。辺りに立ち込める血の匂い。
(そんな、馬鹿な――…!?)
内心を悟られない様つとめるのはスパイのイロハ。
しかし、目の前に転がる女性―真咲美希の変わり果てた姿に流石の最上蒼太も息を呑んだ。
だが、彼女を殺害した犯人の目星はすでについている。
「決まりだな…この近くにガイがいる……!」
美希の傍らに落ちていた天空の花を手に明石は険しい面持ちで呟いた。
三人に緊張が走る。
ガイがあれほど執着を示していた天空の花を捨てた真意はどうであれ、彼の危険性に変わりはない。
おぼろがティターンや瞬と合流できていたとしても、美希の末路を思えば楽観はできない。
「危険は伴いますけど、手分けして捜索しましょう、チーフ。…このままだと危険です。ここでむざむざ仲間を減らされるわけにはいかない」
「焦る気持ちはわかるが、ここで戦力を分散させるのは危険だ。ネオパラレルエンジンの搭載されていないアクセルラーでガイと戦うのは無謀すぎる。
今は映士もいない。万が一、奴と遭遇したらどうする?」
「別に三人がばらばらになる必要はないでしょう。僕とさくらさん、チーフと…
その、ズバーン…でしたっけ? そのプレシャスはチーフの物なんですよね?」
ズバーンを仲間ではなくプレシャスと呼ぶこともわずかに違和感を覚えた。
さくらの洗脳を解くという急務ゆえにそのずれを今まで感じてこなかったが、ここにきてその違いが顕著になり始めている。
彼との時間軸の違いを考えればやむないことなのだが。
「わたしも蒼太君の案に賛成です、チーフ。ガイが近くにいる以上、時間はありません。
ここは手分けして彼女を保護すべきです。
ただ、お二人のお気遣いは嬉しいですが、私の心配なら無用です。戦うことは目的ではないんですし、集合場所を決めるなり連絡手段を事前に打ち合わせればリスクは軽減できます」
「どうするにせよ、お前を一人にしては置けない」
「だからこそ僕が同行するんですよ…さくらさんには申し訳ないけど、おぼろさんはさくらさんのこと、誤解したままですよ?
さくらさんだけで折り合いのつく話じゃないと思うんです。やっぱり事情を説明できる当事者の僕が一緒にいるべきです」
結局、蒼太の案を通す形で三人は道をたがえ二手に分かれた。
492
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:50:35
ふと、明石は黄金の剣を肩に後ろを振り返る。
青と桃色のジャケットがもうシルエットになりかけた距離にある。
―彼らとまた無事に出会うことができるだろうか―
不意に沸き起こった言い知れぬ不安をかき消すように、明石暁は目の前に広がる道をしっかりと踏みしめた。
∬
「ここから出られたら、ミスターボイスに進言してひとつ挑戦したいプレシャスがあるんですよ。
覚えてませんか? 〈神の頭〉。僕らが前に回収し損ねたあれですよ!
八方手を尽くして行方を捜していたんですけど、やっと所在が掴めそうなんです。
今度こそ、無事に保護しましょう。僕らの手で!!」
いつになく最上蒼太は饒舌だった。
元々、とっつきやすい雰囲気をかもし出すことは得意であったが、今の彼はどこか無理をしているように思える。
「蒼太君…」
「あ! でもみんな違う時間から来てるんだし、戻るときは一緒じゃないんですよね。
残念だなぁ…さくらさんのいた時間だともうこの件は解決しちゃっ―――…」
「蒼太くん!! わたしは…!」
科白を遮る形でさくらが割ってはいる。
「さくらさん?」
「どうしてチーフに言わなかったんです?」
「…………ヒュプノピアスのことですか」
二人の足取りが止まった。
「他にもあります、聞きたいこと。どうしておぼろさんを一人で行かせたんですか?
不死の薬なんて、そんな便利なものがあるならどうして行動をともにしなかったんです?
あの傷から回復できるだけの道具があるならどうし―――…」
「決まってるじゃないですか。僕がロンとつながってたからですよ」
「え…?」
んー、と頭をかきながら蒼太は答えた。
「本当はさくらさん、気づいてたんでしょ? だから僕の提案に乗った。
自分の疑問を解決するために。チーフにはいえないですよね、僕らのこと信頼してくれてるのに」
「蒼太…くん……?」
「でも安心してください、別に殺し合いに乗ったとか、そういうんじゃないんですよ。ただ、一時的に利害の一致を見ただけ。それだけ、です」
「ロンは…何も得るものをなしに手を差し伸べたりはしません」
「えぇ。でも、僕は、僕らは勝った! さくらさんの洗脳を解いたじゃないですか!!
大勝利ですよ!!」
493
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:51:07
蒼太の語気がわずかに強まる。
「でも! だったらどうして…チーフに本当のことを言わなかったんです?!」
「別に…そんなこといわなくても、いまさら話を面倒にするだけじゃないですか」
「そんなことありません! チーフは…チーフは受け入れてくれるはずです!!」
「さくらさんは僕のことを疑ってるんですか!? 何が言いたいんです!?」
「そんなことはありません!! ただ…!」
さくらの洗脳は解いた。
だが、そのために自分が払った代償をこの女は本当に理解しているのだろうか。
自分は、ただ居場所を取り戻したかっただけなのだ。あの、自分の過去も今も受け入れてくれる
空間を。そこで凛とたたずむ人たちを。
「お二人さぁ〜ん…道の往来で喧嘩なんてはた迷惑だよぉ〜〜ん!」
張り詰めた空間に似つかわしくないおどけた軽い声が突然差し込んでくる。
「あなたは…!」
さくらの瞳に驚愕とも恐怖ともとれぬ色が満ちる。
漆黒の鎧を走る黄金のライン。
猛々しい獣の頭を持つ機械仕掛けの獣人がそこにたたずんでいた。
「また会ったな、土下座ピンクゥ…無事お仲間と合流できて何よりじゃないの?」
そう言って、クエスターガイは唇の端をいびつに緩めた。
∬
494
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:51:38
「駄目やないの! 蒼太くんのこと頼んだのになんでついてきてしもうたん?」
「バウッ!」
日向おぼろに頭をなでられながら、マーフィーはバツが悪そうに鳴いた。
本当の生き物みたいやなぁ…
うなだれるその愛らしい姿は本物の犬そのものだ。
怒る気持ちもすぐに萎えてしまう。
「ほんま、仕方ないなぁ…」
蒼太が一人になったのは心配だが、道行がいるのはやはり心強い。
先ほどから心細さに不安の気持ちが濃くなってしまっていた。
「バウ……」
手が震えているのがわかる。不安はマーフィーにまで伝わっているらしい。
「大丈夫や! これは武者震いやからな! ガイでもロンでもでてきてみぃ! あたしだって疾風流忍者の端くれや!
一人がこおうてハリケンジャーのサポートが勤まるかいっ!」
萎えそうな気持ちを必死に奮い立たせおぼろは空元気に叫んで見せた。
「バウッ!」
そんなおぼろの姿にかつての“パートナー”の面影を見たのか、マーフィーも元気よくほえて見せる。その時だった。不意に背後に人の気配が生じる。
「誰やっ!」
鋭く飛ばした声はやはり少しだけ震えていた。
握り締める槍の矛先はわずかに震えている。
「警戒の必要はありませんよ、日向おぼろさん。俺は最上蒼太の仲間ですから」
人影はやがて、精悍な顔つきの青年の素顔をあらわす。
おぼろが出会った三人目のSGSジャケットの若者だった。
「あんたは…?」
「俺の名は明石暁。あなたを保護するために来ました。蒼太も…さくらも一緒です」
∬
495
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:52:10
すべてを封殺された状態で、何の抵抗もできない。
それは、なんと惨めであろうか。
策士たる綿密さを常とする蒼太にとって、それは未来で味わうはずの絶望だった。
「てめぇも俺様にはてんで手も足も出ないようだなぁ…か・わ・い・そおぉぉぉおぉお!!!!」
ガイがこんな有様に陥ったのはひとえに麗の実力を見抜けなかったがゆえ。
いわば、相手の情報を知らなかったからだ。
しかし、旧知のボウケンジャーは違う。高丘の末裔はともかく、個々を相手にするならば
ガイにとってそれほど大きな脅威ではない。
しかも片方が変身できず、足手まといであることを彼は知っている。
「蒼太くんっ!」
背後でわめく様は耳障りだが、どうすることもできまい。
本当は適当にからかって、適当なところでずらかる気であったのだがどうやら彼も自分に対する抵抗を持たないらしい。
「本当、どうしちまったってくらいに無様だぜぇ、お前ら。俺を見習えよ。
泥にまみれてごみにまみれて…ガイ様、ずいぶん揉まれて強くなったんだぜ?」
聞くも涙、語るも涙の数時間をロンがダイジェストしてくれればいいのに―…
そんな思いで、ガイは火花を吹くボウケンブルーの腹部に足を擦り付ける。
「ぐっ…あぁ……!!」
ついには変身が解け、人の姿へ戻る。
閉じかけていた傷口がガイの容赦ない攻撃で開いたのか、下腹部は真っ赤に血で染まっていた。
「っ……ハァ……ハァ、ハァ…ぐっ!……」
倒れ伏した蒼太の袖から、何かがガイの足元に転がり出る。
「おんやぁ? なんじゃこれは??」
金属特有の輝きを放つ二つの物体。
「それは…!」
蒼太に駆け寄ったさくらはガイの両手に握られた二つの物体を見やる。
「これをーー…あぁーーしてーー、こうしてぇーーー………それで……あー…なる♪」
クエスターロボを作る過程で得た機械知識がよもやこんな場面で役立つとは。
あるいはそれを創造した狂気のマッドサイエンティストと時空を超えたつながりが生じたのか。
ガイは満面の笑みを浮かべて二人に近寄っていった。
496
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:53:35
∬
「お前…命を助けてくれたら、何でもするって俺に約束したよなぁ?」
ガイは虚ろな目で蒼太の体に馬乗りになり、地面へ頭を強く押し付けるように首の動脈を正確に締め上げるさくらへ問いかける。
「殺っちまいな、ボウケンピンク!! お前の初仕事だ…」
そういって、ガイは腕の中にあるスイッチとそれに連なるさくらの運命を手のひらで弄んだ。
「ぐっ…さ…さくらさん…止め……――」
自衛隊特殊部隊の過去を持つさくらにとって実戦とは確実に、スピーディーに相手の息の根を止めることに主眼を置く。
「………………………………………」
蒼太の苦悶する様子に動揺するそぶりすら見せず、さくらは両手の圧を強めていく。
相手のば息の根を止めることくらいは造作もないことだ。
「いいぞぉ! そのまんまへし折っちまえ!!」
ガイはさくらを煽りながら、高みの見物としゃれ込む。
(面倒くせぇことはぜーんぶボウケンピンクがやってくれるってわけだ…なるほど、こりゃ楽で良いぜぇ……)
蒼太の顔が血流の異常から真っ赤に染まり、目は血走り、口元からはもはや言葉も出ない。
「……ゥぅ…………ッ!…」
さくらは腕の力を決して緩めようとはしなかった。
訴えかけるような蒼太の視線も傀儡となった今のさくらには届かない。
むしろ、指にこめる力を一層強めて――
「ヒュ〜! やるねぇ〜〜…ボウケンピンクゥ!!」
眼前で繰り広げられるショーの唯一無二の観客としてガイはさくらへグッジョブを送る。
やがて、さくらの肩をつかむ手がだらりと力なく垂れ下がる頃、最上蒼太の命の灯火はこの世から消え去った。
かつて、蒼太であったものを無表情に見下ろしながらさくらはその場に佇んでいた。
自分のしたことの意味すらわからぬまま。
「おめでとさん。お前もこれで正式に“こっち側”ってわけだなぁ、おい!」
ガイは拍手でさくらを自分の仲間に迎え入れた。
いや、隷属したといったほうが正確だろう。
思わぬ“道連れ”の誕生にガイは嘲りと喜びが入り混じった笑みを浮かべた。
深く傷ついた今の自分に代わって諸々の作業をこなしてくれる相棒は実に使い勝手がよかった。
「これからよろしく頼むぜ、ボウケンピンク♪」
【最上蒼太 死亡】
残り25人
497
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:55:14
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:下腹に刺し傷(不死の薬の効果により回復中)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。日向おぼろを保護する。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:健康。ヒュプノピアスでガイに隷属。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:明石暁と共に行動する。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
名前】クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task23.以降
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:全身に裂傷、かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。傷あり。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式×4(水なし)
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獸刀@獸拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵。 瞬の支給品(確認済)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る。
第一行動方針:バイクを探しにFー9エリアへ
第二行動方針:使えそうな道具を作る。アイテムの確保。
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。2人殺しました
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:動けない蒼太の為に助けを呼んでくる。
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:おぼろを追いかける(こっそりと)→見つかって少々バツが悪い。
498
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 04:55:52
以上です。
タイトルは「旅は道連れ」でお願いします。
499
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/15(水) 19:39:11
投下乙です。
さくらと蒼太の心理描写の機微が秀逸に描かれ、話の流れについつい引きこまれました。
ですが、今回の作品に対して、3つほど指摘事項がございます。
1、前回の明石組の話「サクラチル」の最後にて、定時放送が始まったとなっています。
よって、どうしても第二放送の後の話になると思われますが、そのことに関する記載がありません。
2、明石組とおぼろが海岸まで進んでおりますが、合流地点はG7と指定されていますので海岸に進むのは若干不自然かと思います。
3、11時よりF6が禁止エリアが設けられており、おぼろはまだしも、明石組が南東に進むことはできないのではないかと。
1はまだ放送終了後、改めて投下いただければと思いますが、2と3については修正が必要です。
また、もしおぼろとガイを予約したい方がいらっしゃった場合、そちらを優先せざる得ないため、今回の話の前提条件が覆されることもありえます。
よって、大変心苦しいのですが、今回の話は保留とするのが妥当かと思いますが、いかがでしょうか?
ご回答お待ちしております。
500
:
◆5NhH1PgaVg
:2009/04/15(水) 20:05:51
ご指摘を頂きました件について回答します。
1、放送SSの内容にも絡むためどうとでもなるように割愛したのですが
やはりいれるべきだったでしょうか? 言われるとおり描写の補足を行いたいと思います。
2、合流地点では誰もいなかったのでさらに南下した旨の記述でご勘弁いただけますでしょうか?
3、また、前作との兼ね合いですが、時間的にはさくら解放後すぐに行動すれば不可能ではないかと思います。
前作の位置関係にもよりますが、
おぼろを一人にする理由はさくらが開放された以上ないわけですし。すぐに行動したというのもご納得いただきたいです。
501
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/20(月) 21:43:41
すみません。帰宅後投下します。
ちょっと修正するところもあるのですが完成次第投下します。
申し訳ありません。
502
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/20(月) 22:07:46
了解しました。お気をつけて下さい
503
:
499
:2009/04/22(水) 01:47:58
>>500
議論スレに移行しておりますが、一応、こちらに遅くなりましたが返答レスを記載いたします。
1,2については納得いたしました。
しかし、3についてですが、前作で状態表という形で場所が指定されている以上、放送時にはF5にいるとするのが妥当ではないでしょうか。
504
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:06:14
遅くなりました。まず
仲代壬琴、ドモン仮投下します。
505
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:08:51
堆積した白い砂。砂岩層と礫岩層が幾つも重なる岸壁。
表層に刻まれた半月状の漣痕は、遥か太古を生きた恐竜の鈎爪で傷つけられたかのような深く不気味な穿孔だった。
岸壁の裾は侵食により抉られ、浅深広狭、様々に奇怪な影を作りだしている。
今、タイムイエローの前に立ちはだかる男。その男から伸びるのもまた奇怪な影。肉食竜を摸した角を持ち、棘を持つ。
――爆竜。
その名を冠するに、相応しい姿。
白骨を思わせるスーツの白。ケモノの牙が如き形状の装飾の黒。ゴーグルの残忍な赤。
遥かなる影を映すその姿。屈強なる竜が今まさに復活を遂げ、地の奥底から這い出てきたようだった。
ドモン―タイムイエローは、その姿に臆する事無く威風堂々名乗りを上げる。
「タイムイエロー!!」
宣戦布告の意を込めたその声に、男は応じ、溢れぬばかりの覇気を孕んだ声を張り上げた。
「ときめきの白眉ッ!アバレキラー!!」
対峙する二人、ゴーグル越しに搗ち合う視線。
タイムイエローは越えるべき関門を叩き壊すべく、拳を握りしめ構える。
アバレキラーは獲物を値踏みするように、白い羽状の剣を斜に傾けた不適な構えをとる。
「ビビ〜!壬琴様、いやアバレキラー様!!強そうデビ♪ギヒヒヒ〜」
プランプランと手足を跳ね上げ、ビビデビが勝ち誇ったように笑う。
「ギヒ♪それに比べて、黄色いのは身体がデカイだけ。どう見ても雑魚デビ〜〜」
「うるさい、邪魔をするな。向こうへ行ってろ!」
「ビッ!?」
アバレキラーの怒声に首を竦め、すいーっと後ろへ風に流されながら……。
「ビビ〜ッ!レッツ・ファイトデビ〜」
ビビデビが、殺し合いのゴングを鳴らした。
「雑魚だと?!言いたい事、いいやがって……」
タイムイエローは心の中で苦笑を漏らした。
否定はしない。確かに情けないほど、雑魚だ。だが、雑魚にも、思いというモノはある。
俺のせいで落とした命は、俺の手で必ず拾ってみせる。
タイムイエローの胸の中にあるのは、家族と共に笑う深雪の姿。
その願いが熱く身を焦がす。
まず、一人。
506
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:09:59
「行くぜ!」
クロノチェンジャーから召還せしツインベクターを手に、タイムイエロー大きく一歩踏み出す。
「うらぁ!!!!」
刃先のクリスタライズド・メタルを煌かせタイムイエローは正面から斬りかかる。
「どれほどのもんか、見てやるぜ!」
避けることなく、真っ向から受け止めるアバレキラー。
凄まじい金属音が耳を劈く。
衝突した刃元が火花を散らし、手首から肩まで衝撃が電撃の如く走る。
弾かれた二人は同時に突進。
そのまま続けざまに切り合いを繰り返す。
限りなく近く、外れない。絶対的な間合いを崩さない。
アバレキラーは一撃も取りこぼさず、全てに食らいつき捌ききる。
「来てる!ビンビン来てるぜ!!」
歓喜の言葉をあげ、アバレキラーが剣を振り下ろす。
タイムイエローは左手を刃先に沿え、ツインベクターで受け止める。
火花が散り、より高い金属音が響く。
「うぉぉぉぉっ!」
剣の交差した地点に、力を込め突き離す。弾かれたアバレキラーは数歩後退。
防戦を兼ねた攻撃では決定的なダメージは与えられない。
次の一撃でタイムイエローは剣筋を変える。
ツインベクターを槍状に振るい、下から掬い上げるようにアバレキラーの足元を薙ぎ払った。
「おっと!」
アバレキラーは跳躍で避ける。そのまま空中にてアバレキラーは回転。
遠心力と落下速度で威力を増した剣がタイムイエローに迫る。
捌くか、避けるか。一瞬、反応が遅れたタイムイエローの手首に激痛が走る。
「ぐっ、がぁっ!」
切断こそ逃れたもの、切りつけられた左手首の痛みは凄まじい。
指先は痺れ、気を抜けば左手は痛みに持っていかれそうだ。
タイムイエローは体制を立て直すため、アバレキラーの腹にキックを打ち込み後方へ跳ぶ。
しかし、アバレキラーは期を逃さない。砂を蹴り上げ、疾風の速さでタイムイエローに迫る。
くるりと剣を回転し、刀身を収縮させた剣の刃先がタイムイエローの眼前で光を放った。
「!?」
衝撃も痛みも感じない。
アバレキラーは一陣の風のように、そのままタイムイエローの横をすり抜けた。
タイムイエローの思考が一瞬停止する。
その時、自分の胸に金色に描かれた『×』が目に飛び込んできた。
「なっ、なんだ!?」
振り返った空中に、一際大きな『×』が顕在した。
『×』より金色の光が放射し、火花を上げて爆裂る。
「ぐ…あ……ぁぁ……」
喉元まで込み上げる灼熱感が声を奪う。
心臓が、肺が、すべての臓器が押しつぶされるような痛み。
落雷を受けたように身体を硬直させ、タイムイエローは頭から砂に倒れる。
「どうした。もうダウンか?」
酷くつまらなさそうなアバレキラーの声が降る。
「ぐっ!」
顔を持ち上げ、アバレキラーを睨みつけた。
まだ、余力はある。充分に。たとえ変身が解除しても、俺には拳が残っている。
この拳をぶち込んで、壁を越えてやる。
痛む胸を押さえ、タイムイエローは起きあがる。
タイムイエローの思いは揺るがない。歯を食いしばり、全身を気力で漲らせる。
507
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:10:42
「うらぁぁぁぁぁっ!」
「いいね。その感じ。こいよ!」
タイムイエローは弾丸の如く疾走し、アバレキラーの間合いに入り込んだ。
風を切り、袈裟懸けに振り下ろされるアバレキラーの剣。
タイムイエローは腹に力を込め、上体を後方へ反らし、かわす。
即時、振り子状に上体を動かし体制を整え、重心を乗せた左足を軸に、大きく捻った身体ごと右拳を一気に突き出した。
拳はアバレキラーのマスクを打ち据える。そのまま拳の勢いを逃さず、内側へ抉るようにスナップを効かす。
打撃にアバレキラーの上半身が後ろに振られる。
もう一度拳を叩き込むべく、拳を振り上げ弧を描くようにアバレキラーの心臓目掛けてパンチを打ち下ろす。
アバレキラーは舌打ちし、身体を滑らせるように回避、そのまま剣を突き上げタイムイエローの脇腹を狙う。
タイムイエローは直前で身体を捻り、剣の攻撃を最小限に留める。
威力の削がれた拳は素早く引き、重心を下げアバレキラーの懐へ入り込む。
下方からの一撃。腹部中心へ渾身の右拳が炸裂。
持ち上がった身体に、間髪入れず拳を叩き込む。
続けて。
心臓を抉るほど鋭利な一撃を。
顎が拉げるほど重い一撃を、素早く突き上げる。
さらに、体中の急所という急所へ、的確にかつ精密なパンチを叩き込んでいく。
ドモンは考える事を止め闘争本能に身を任せた。頭の片隅で、観客の歓声が響いてくる。白熱のライトが、頭の中を真っ白にしていく。
ただ、その拳を、機械のように打ち続けた。身体が記憶した技を。確実に肉体を破壊する技術を。
「この拳で砕いてやるぜ!」
アバレキラーの、マスクのこめかみに重量を乗せた拳を横殴りに叩きつける。
追い打ちで、鳩尾に一撃。
「がはっ!」
アバレキラーの身体が折れ、クリンチの状態となる。
タイムイエローは両手でアバレキラーの身体を拘束し凄まじい力を加え空中に持ち上げた。
拘束から逃れようと、アバレキラーがタイムイエローの肩を掴んだ瞬間、勢いを付け回転を始めた。
ギュゥンッ!ギュゥン!風を唸らせ回転はスピードを増して行く。
ギュン!ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン!!
ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン!!!!!
凄まじい高速回転を加え投げ放った。
アバレキラーは竜巻に飲まれた木の葉のように空中を舞う。
ドスッ!!
耳朶を打つ落下音。
重く響いたその音は、サンドバックを叩く音に酷似していた。
タイムイエローは倒れ伏したアバレキラーの前へと進む。
――――気に入らないヤツだった。だが、殺し合いに乗ってた訳じゃなかった。
跪き、正拳突の構えをとる。
508
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:11:33
せめて、苦痛無く、一撃で。己の拳で確実に殺害し、それを実感する。
それが深雪への思いの第一歩となるのだ。
「おまえ、何故……優勝を……目指した?」
アバレキラーの声は掠んでいた。
タイムイエローが放った技は、ただダメージを与えるだけでなく相手の平行感覚を奪う。
すなわち、例え余力を残していようが、起き上がることは不可能。
もとより、タイムイエローの拳により、蓄積されたダメージで立ち上がようはずがない。
「話したところで時間稼ぎにはならないぜ」
アバレキラーは砂を掴み、強く握った。
「俺は、生きたいと願った。ときめきたい、ともな……。俺からそれを奪うなら……聞かせろ」
感傷に浸る必要などない。殺し合いなんだ。
頭では解っている。だが……。
▽ ▽ ▽
自棄になっていた俺に、深雪さんが手を差し延べてくれた。真っ白なハンカチ。深雪さんは、その白よりも純白で、眩しいほど綺麗だった。
心も美しい人だった。セコい手を使おうとしたサーガインを諌め、やっと二人になった俺達は海岸を歩いた。
海岸沿いの教会。
深雪さんは、旦那さんの死が信じられず心を飛ばす魔法を使った。
無防備になってしまう深雪さんを守るのが俺の使命だった。
俺は、深雪さんを守るつもりだった。
そして、最悪の再会。ウルザードとなって蘇った。
ウルザードを殺す気は無かった。深雪さんの大切な人だからだ。その場を食い止めて脱出するつもりだった。
ウルザードは強かった。深雪さんを逃がす間、俺は全力で戦った。
薄れていく意識の中、後悔はなかった。
時間稼ぎは出来た、守れたと思ったからだ。
気付くと目の前にロンがいた。
そして俺は深雪さんが戻り、俺を助けるため、自分の命と引き換えにウルザードを、旦那である小津勇を殺したと知った。
逃げようと思えば、逃げれたのに。
ロンの使った小津勇の支給品で、俺の傷はかなり回復していた。
ロンから渡された小津勇のデイバックに他のアイテムは入っていなかった。基本支給品……。なんで食料が和菓子なんだって、思ったのは覚えている。
傍らに転がっていた深雪さんのデイバックを握りしめながら『幸せな家族』それを深雪さんにプレゼントする。そう決意した。
仲間のことは、頭に浮かばなかった訳じゃない。だけど……。それ以上に、俺の決意は固まっていた。
ウメコさんに撃たれた時も、俺を救ったのは深雪さんのマージフォンだった。
撃たれ、意識を失った俺が気が付いた時には、ウメコさんは教会の鐘楼の上にいた。
509
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:12:15
ウメコさんの仲間らしい男が来て、俺はソイツを撃とうとしたが、傷のせいで照準が定まらなかった。
そして、ヒカルさん達と出会った。
俺と同じように愛する者を何も出来ず亡くしてしまったヒカルさん。深雪さんにとって家族同然のヒカルさん。
俺はヒカルさんを優勝させると決めた。ヒカルさんと勝ち残り、最後の二人になると。
雄作とサーガインは親切ヅラを下げてヒカルさんを騙し、深雪さんの死体を冒涜した。
ヒカルさんはサーガインを粛清し、先に、一歩踏み出した。
次は、俺の番だ。
▽ ▽ ▽
「フッ……。馬鹿なヤツだ…ぜ……」
アバレキラーは全身の力を抜き、仰向けに、砂に倒れた。
タイムイエローは拳に力を込めたまま、そっと目を瞑る。
やっと、一歩踏み出せる。命を奪う罪悪感よりも安堵が大きかった。この一歩を踏み出せばきっと楽になれる。
「深雪さん……。あるんだ。深雪さんの幸せな家族はこの先にあるんだ。
大丈夫、大丈夫だ。生きるよ……。深雪さんにプレゼントするまで、俺は生きる」
大地を砕くほどの思いを乗せて、ドモンは拳を振り下ろした。
拳がアバレキラーのマスクに届く――その直前。
反動を付け起き上がったアバレキラーの拳がタイムイエローの顎を打ち砕く。
「……が…っ…」
突然の反撃。無防備だったタイムイエローは数メートル後ろに弾き飛ばされた。
「くくく……くははは……。『ドモンさん、生きてください』プレゼントするんだろ?」
「てめぇ!!!何でそれっ。お、俺の名前!」
「おまえは俺のすぐ前に呼ばれたのさ。覚えていて良かったぜ。聞きたい事が聞けたしな」
すでにアバレキラー起き上がっている。ダメージの蓄積など欠片も感じられない。
「まさか片っ端からぶち殺していけば優勝出きるとでも思ってるのか?相手の情報聞きださなくてどうするんだ」
「このやろう!汚い手ぇ使いやがって」
「汚い手?はーっはははははっ!!おまえ殺し合いに対する認識薄いんじゃない?どんな手使ってでも勝ち残るぐらいじゃなきゃ、すぐ死ぬぜ」
馬鹿正直にすべて話した自分は本当に大馬鹿だったと痛恨する。
思えば、支給品から食料の中身に至るまで詳細を聞きたがる時点で気が付くべきだった。
目前の勝利に驕り、もしもの可能性を軽視した。浅はかな行為だったとは思う。
だが、この男からすべてを奪うなら最後に聞かせても構わないと思った。
最後だと思ったからこそ話した。もう二度と、失敗し決意を挫かれたくはなかった。
「それに、俺をあの程度で殺れると思ったのか?マジで笑わせるぜ」
「人の思いを笑いやがって、ゆるさねぇ!」
「なら、相手になるぜ!」
アバレキラーは羽状のペンの剣先を操り、空中に無数の光の線を描く。
「行け!」
光の先端はすべてタイムイエローを刺していた。
線は矢となって一直線にタイムイエローを襲う。
510
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:13:26
高速の光の矢が頬の横を過ぎる。回転しつつ横に飛びのいたが、かわせたのはほんの数本。
身体の至る所から盛大な火花が散る。
「ちくしょう!!!」
それで無くとも、これまでの疲労が蓄積された身体。接近戦はもうキツイ。
こっちもベクターハーレーで射撃戦に持ち込むか?
いや、幾ら何でも俺のパンチが全く効いてないはずがない。一撃で、ボルバルカンで沈めてやる。
タイムイエローは膝の震えを手で差さえ、やっとの思いで立ち上がった。
「おお、根性だな。面白いじゃないか。だが、世の中にはどうにもならない実力差ってヤツがあるんだぜ」
アバレキラーは両手を軽く握り胸の前でクロスした。
「見てな……」
それは格闘技で言うなら『溜め』の構え。
息を吐きながら、クロスに構え、両手をゆっくりと下げ唸り声と共に気を高めていく。
「……ぁぁぁぁぁぁあああああうぁああああ!!!!」
放たれる威圧感に大気が震えた。
アバレキラーの足元の砂が震え、漣立つ。
ピシッピシッとタイムイエローのマスクから乾いた音が鳴る。
タイムイエローの背筋に冷たい汗が流れる。
異様なのだ。アバレキラーの姿が。
一回りは肥大した筋肉組織、その上に黒々と、大きさと強度を増した鋭刃が現れる。
骨肉を切り裂くことが為だけに飛躍的に進化した長い鈎爪。
確実に獲物を捕食する為の、究極かつ最強の武装。
悠然と圧倒的な存在感を見せ付けられ、タイムイエローの身体は小刻みに震えた。
「でも、俺は負けるわけにはいかない。ボルバルカン!」
叫びながらクロノチェンジャーにアクセスする。
召還したボルバルカンをアバレキラーに向けた。
有効すぎる程の射程距離に捕らえられながらも、アバレキラーは動じない。
気圧されるまいと、タイムイエローはボルバルカンを構え直す。
大型の銃身が、何時になく重い。
これまでボルバルカン重く感じることなど無かったというのに。
「ウオォォォォォォ!!」
気合を込め、アバレキラーに標準を定めた引き金に手を掛ける。
何故か、引き金さえ重く感じられた。
元々、ボルバルカンは大型重火器。
放出されるバルカンビームは数色に分かれ、その数1秒間に10発。連射反動も最大級。
屈強な身体を持つタイムイエローだからこそ駆使できる武器。
「くそ!!!」
砲口が持ち上がる。微かに照準が揺れた。
連射反動がキツイ。撃つ直前、気圧されまいと力を入れすぎたのが裏目に出た。肘が上がり撃つ姿勢が崩れていた。
砂地である事も禍だった。利き足は踏み止まるのを忘れたように砂の上を擦り下がった。
結果、連発で放射された10発は同軸線状に収束することなく、角度を付け、方向を変え、エリアを駆け抜けた。
ビームの軌跡は風圧で砂を抉り、爆散する露頭の岩盤が砕け、四方にザクザクと突き刺さる。
凄まじく吹き上がる砂が一瞬で視界を奪う。
ばらばらに着弾した10発の内数発がアバレキラーを捕らえたのは確認した。
咄嗟にガードしていた右上腕部は掠める程度だったが、最初に着弾した左足は貫いたはず。
ボルバルカンは2連式、残弾は一発しかない。
タイムイエローは全身に力を込め、もう一度ボルバルカンを構えた。
511
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:14:09
砂煙が晴れる一瞬。そこを狙って、撃つ。
舞い上がる砂の切れ間を目で追う。
10時の方向、アバレキラーの赤いマスクを捕らえた。
しかし、引き金を引く間もなく……。
刹那、双方の距離は一瞬で縮まる。
水平ミサイルさながら飛んできたアバレキラーは長い鉤爪でタイムイエローの身体を挟み込み、さらに飛翔速度を上げる。
タイムイエローの身体はミサイルの弾頭の如く――――――
ドガンッ!!!!
岸壁に叩きつけられた。
両腕が吊り上げられた魚の様にビグンと跳ねる。
後頭部と肩が岸壁にのめり込んでいた。
身体を覆うクロノスーツは余りの衝撃に消え去り、支えを失った身体はズルズルと力なく地に崩れおちた。
受け身どころか両手を突くことも出来ず、ドモンは砂に突っ伏した。
「実験終了 。スーツの力は問題ない」
アバレキラーは呟くように言い、ドモンに背を向けた。
口の中に砂と血の味が広がっていた。身体中が痺れていた。
「深雪さん……。深雪さん」
ドモンは小刻みに唇を奮わせた。
不意に、アバレキラーが振り返る。
「まだ、50パーセントも出し切ってないぜ。だが、まぁその程度だろうな」
その程度。侮蔑を含んだその言い草に、まるで冷却装置の壊れた機械のように全身が熱くなった。
よろけながら起き上がったドモンは、頭を下げアバレキラーに体当たりの体制で突進した。
アバレキラーは軽く身体を捻るだけでかわした。何事もなかったかのようにくるりと方向転換し歩を進めた。
「くそっ!!」
両手を合わせ、その背中に叩きつける。
ダメージを与えるはずが、アバレキラーの装甲で皮膚が避け、鮮血が手首を伝う。
「……おまえなぁ、いい加減にしろよ」
襟首を捕まれ力任せに引っ張られる。
その瞬間、アバレキラーの変身が解除された。
「へへっ……。殺し合いに対する認識…甘い…ぜ」
ドモンは拳に力を込めた。
「優勝……するために…どんな手だって使う……。じゃなけりゃ……ダメ…だったよな」
脇を閉め一直線に拳を突き出す。
肉がぶつかり合う音――――――
ベチッ。
――――――そんな音は響かなかった。
一発逆転できるほどの力など、残っていなかった。
壬琴は頬に着いたドモンの血を拭いながらニヤリと笑った。
「今のが一番効いたぜ!」
言うや否や放たれる痛烈なストレートパンチ。
ドモンは数メートル吹っ飛ばされた。
頬に感じる痛みと全身の痛みが一気にドモンを襲い、尻餅を付いたまま動けなかった。
512
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:16:41
「是が非でも優勝したいっておまえの気持ちは良く解ったぜ」
言葉を収めるのと同時に、壬琴はデイバックから扇を模した武器を取り出す。
ジャキンッと広げられた扇は幾つもの鋭利な刃が連なる。
それをドモンの喉元へ垂直に突き付けた。
「だがどうだ。これでチェックメイトだ」
壬琴は、呆れたように息を吐き呟く。
ドモンは壬琴から眼をそらさず、睨みつけている。
喉元に当てられた刃が、ドモンの動きを固定していた。
「まぁいいさ。俺はこのゲームに退屈してたところだ。おまえにチャンスをくれてやるぜ」
チャンス、その言葉をドモンは訝しんで、眉を顰める。
「俺は、脱出の手段もすでに見付けてある。首輪も手に入れた。後はコイツを解除すればいい。そう時間がかかる仕事でもないだろう。
そして、ゲームマスターを倒す。それでゲームクリアだ。つまんねぇだろ。俺はもっとトキメキたいんだ」
頚動脈にぴたりと刃を当てたまま、壬琴は口角を上げドモンの顔を見据えた。
「それにおまえも俺にクリアされたら優勝出来ない、それでいいのか?
他にゲームに乗ったヤツを集めて俺を狙うのもいい。俺が首輪を解除するか。おまえが俺を殺すのが先か。それがゲームだ」
「……どういうつもりだ?」
「そういうつもりさ。優勝狙いのおまえらにとったら、俺は一番邪魔な存在だろう。それを潰すチャンスをやると言ってるのさ」
壬琴はポケットから一枚のコインを取り出し、親指の上に乗せた。
「ただしゲームを始めるかどうかはこれで決める。表か裏か、どっちに賭ける?おまえが勝てば、ゲームスタート。
負ければ、おまえは頚動脈を切られてこのままゲームオーバーだ」
そして、コインは弾かれた。
キィン……。
澄んだ音を立て、コインは空中をくるくる回る。
コインを煌かせる太陽の反射光がキラキラ眩しくて、ドモンは瞼を閉じた。
「Heads or Tails?」
光を放ったコイン。一瞬で眼に焼きついたのは……。
俺が選ぶのは……。
▽ ▽ ▽
広間にて、押し殺したような笑い声が響く。
ククッ……クックックッ。ハハハッハハッ。
0号……。
さすが最強と謳われるプロトタイプ。
まさか殺し合いの最中にゲーム始めるとは思いませんでした。
楽しんでおられないようで懸念していましたが、どうやら杞憂だったようですね。
ロンが手にするは丹色の宝玉。
513
:
Heads or Tails?
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:17:54
その罅割れた宝玉を光に透かし魅入っている。
美しい。橙に燃えるこの色、まるで命の色を表すようです。
この宝玉には面白い力が秘められていました。
まぁ、今となっては宝玉自体に何の力もありませんが、力の源は生かさず殺さず、私の手の中にある。
クックックッ……。
そう、ゲームのプレーヤーもまた然り。
私の手の中で踊り、私を楽しませてくれる競技者。
プレーヤーは時に思いがけない動きで私の心を躍らせる。
しかし、それがすべて私の手の中で行われている事に気付いていないのです。
クククッ。ハハハッハハッ。ハハハハハハッハハッ!
▽ ▽ ▽
「運のいい奴だぜ」
ドモンの姿が完全に見えなくなるまで見送った後、壬琴は一人呟く。
知りたい情報も手に入れ好奇心も満たされた。
脱出の方法も見え、ロンの仕組んだゲームはすでに詰みの状態に入った。
壬琴にとってはもう先が見えたゲーム。後はいかにロンを出し抜き、脱出の手はずを整えるか。
そしてそれを逆手にとり、自らの存在を餌に殺し合いに乗った参加者を集める。
壬琴VSロン、そして不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
ヒカルの居場所を教えてやれと、ドモンと共ビビデビを行かせた。ビビデビは他の参加者にこのことを知らせるよう仕向けるだろう。
菜摘やウメコを飛ばしたビビデビ、そこに見えるビビデビの意図とは。
おそらくビビデビは、ただの支給品ではなく殺し合いを円滑に進める為に送り込まれた促進剤。
それぐらいの想像は付く。
「せいぜいプレーヤーを集めて俺を楽しませてくれ。はーーはっはっはっはっ!」
未琴の口元をつぅーと血が伝う。
ドモンとの戦いで受けたダメージは決して軽くない。
それをも凌駕する胸に湧き上がるこのときめきを、未琴は心から楽しんでいた。
514
:
一応ここまでの状態表です
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 00:24:56
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:本来の調子を取り戻しつつある。腹部、胸部、打撃によりダメージ。アバレキラーに2時間変身不可。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第二行動方針:首輪の解析
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。
第二行動方針:ドモンの支給品
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:身体に無数の切り傷と打撲と火傷(ダメージ大)。タイムイエローに2時間変身不可。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:壬琴とのゲームに乗る。
備考:変身に制限があることに気が付きました
さっそく誤字発見しました。 壬の字をずーっと間違えて打っていて、全部直したと思っていたのですが。
それをも凌駕する胸に湧き上がるこのときめきを、未琴は心から楽しんでいた。
515
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 02:58:33
すみません。手間取ってしまって。
高丘映士、ヒカル、菜摘投下します。
516
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 02:59:06
「ヒカル。無事でよかったぜ!」
映士はヒカルの肩をバンバン叩き再会を喜ぶ。
親しげな笑顔を浮かべる映士とは正反対にヒカルの表情は曇っていた。
その表情から読み取れるのは途惑。
まったく知らない人に、完全に本人と誤解されてどう答えようかと言葉に詰まっている印象を受けた。
「ボクは一体、ここは何処なんだ……」
「どうした?ヒカル」
ヒカルは肩に掛けられた映士の手をそっと払った。
柔らかだが、拒絶を示すその態度に映士は怪訝な表情を浮かべた。
「おい、俺を忘れちまったのか?」
ヒカルは頭にそっと手をやり、記憶を辿るような仕種をしている。
「映士、ちょっと待って。いきなり飛ばされて来たんだもの。混乱してるに決まってるわ」
映士をそっと制して菜摘はヒカルに向き合う。
「突然こんな事を聞いたらびっくりするとかもしれないけど、あなた白衣を着たちょっと口の悪い男と出合ったんじゃない?」
「あ……あの男知り合いなのか」
瞳が酷薄な色を帯びる。菜摘は一瞬言葉に詰まるが、吹っ飛ばされたのだからしょうがないと一人納得し言葉を続ける。
「その人ビビデビっていう悪魔みたいな人形を持ってなかった?」
「悪魔……あぁ、そうだ」
菜摘は、大きく一つ頷く。
「やっぱりね。その人形があなたをここに飛ばしたのよ」
ヒカルは目を細め菜摘と映士を見つめた。
「キミ達は?」
「ヒカル!マジかよ」
映士は 冗談だろ?とでも言いたいのだろう。驚いて目を見開いている。
「私はイエローレーサー、志乃原菜摘。知ってるのかもしれないけど、こっちはボウケンシルバー、高丘映士。
一応お約束だから言っておくわ。私たち、殺し合いには乗ってない」
わざと菜摘の視線をそらすように、辺りを見回すヒカルの視線がウメコの遺体で止まった。
「ウメコ……ならここはJ-4?なんて事だ」
ヒカルは静かに首を振る。
「えぇ、そうよ。ここはJ-4海岸エリア。何があったのか話してくれるわよね」
†
何故ビビデビに飛ばされたのか?ヒカルはここに至るまでの一連の話しを始めた。
ただヒカルが飛ばされたのは、ウメコや菜摘を飛ばした時のような、ビビデビの暴走による物ではなかった。
ヒカルの話を聞いて菜摘と映士は驚愕に目を見開くことになる。
517
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 02:59:44
壬琴が首輪を入手した方法に対しても。
そして、今、ドモンと壬琴が戦っているという事に対しても。
「そこでボクらは彼に声を掛けられたんだ。このエリアにある3つの死体のこと何かしらないかと。そして、死んだ深雪さんから首輪を奪ったと……」
菜摘と映士は驚愕に目を見開く。
「あいつ、ウメコを傷つけない変わりに深雪さんを!?」
ヒカルは静かに首を振る。
「深雪さんの死体を切断したのは彼じゃない。サーガインという男だ。彼はボクらが改めて埋葬した深雪さんを掘り返して首輪を手に入れた」
「ボクら?」
「ドモン。今、仲代壬琴と戦っている」
ヒカルは視線を逸らし、もう話す気はないように背を向けた。
「私、行ってくる。首輪解除のために戦わなくていい二人が戦うのはおかしいわ」
菜摘はヒカルの前に回りこむ。
「今から行っても間に合わない。どちらかはもう……」
俯いて、一度ゆっくり目を閉じたヒカルは、菜摘と映士の顔を見渡した。
「ボクはサーガインを許せなかった。だから深雪さんを傷つけたサーガインは、ボクが殺した。
ドモンは深雪さんに命を助けられたんだ。深雪さんに幸せな家族をプレゼントするためにドモンは殺し合いに乗った。
サーガインを殺したことでボクが殺し合いの第一歩を踏み出した事に焦っている。自分も早く踏み出さなきゃならないんだと」
「ヒカル。ならおまえ殺し合いに乗ったっていうのか」
映士の声が1トーン下がる。
ヒカルは下を向いたまま言葉を発せずにいた。
「なら聞き方をかえようか?どんな理由があろうが殺人なんざ許されねぇ。それは解ってるだろ。
その禁忌を犯してまで続けるかどうか……。迷ってるんだろ?俺たちに話したってことは。違うか?」
映士はヒカルの顔をのぞき込む。
「確かにボクは迷っていたのかもしれないね。時間が解決してくれるんじゃないかと思っていた。
誰かに合ってしまえば殺し合いを続けるかどうかを決断しなければならない。それを避けたいと思っていたんだ。
ドモンには悪いけれど飛ばされた時、心の何処かでボクはほっとしたんだ」
ヒカルの目が、すっと一点に釘付けになる。ウメコの死体をずっと見つめていた。
「ウメコは最初ドモンを止めようとしていたらしい。でも話を続ける内にドモンを撃ってしまった。気を失ったドモンが気が付いた時には飛び降りていたらしい」
映士もウメコの死体に目を向ける。
「俺はちょうどその時、ここに来たんだ。おまえと同じようにビビデビに飛ばされたウメコを探してな。ウメコとは知り合いだったんだな」
「あぁ、ちょっとした事件があってね」
「ウメコの事は知ってて俺様の事は知らないとはね」
拗ねた子供のようにいう。
「すまない。ボクはキミのことも明石のことも記憶にないんだ。キミと同じように明石はボクに話しかけてきたんだけれどね。
クロノスの名前もその時、明石から聞いたんだ」
映士は人差し指を立てて、ヒカルの胸の胸の辺りを指した。
「だが、俺達は力を合わせてクロノスを倒した。それが事実だ。今度はロンを倒す。それでいいだろ」
ヒカルはまだ困ったような顔でいる。
518
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 03:00:22
「実感が湧かないんだ。キミたちにとってボク過去の存在なんだろう。現時点でボクはこの殺し合いに巻き込まれた。
もし帰れたとしても、ン・マを倒してはいないんだ。果たして本当にン・マという強大な敵を、ボクらが倒せるのだろうか?
戦いの最中、平和な世界を夢に見ることは出来ても、実感することは出来ない」
「おまえらは確かに平和を手に入れた。それが俺様の現実だった。さぁ行こうぜ」
「二人とも、無事だといいけど……」
「壬琴がそう簡単にくたばるかよ。
映士と菜摘はデイバックを手に取った。
ヒカルはまだ思い倦ねるようにウメコの遺体を見つめていた。
「あぁ、そうだ。一緒に戦ったおまえの弟の翼は、プロボクサーになってたぜ」
思い出したように映士は付け加えた。
映士は少しでも明るい未来があると伝えたいだけだった。
しかし、その言葉を聞いたヒカルの表情は氷のように張り付いていた。
「翼が……。ボクの弟?」
「あぁ、だっておまえ……」
映士は口が過ぎたと後悔する。軽いノリで話すべきではなかった。
弟、その言葉から連想される人物は、第一回放送の時点ですでに両親と共にその名を呼ばれていたのだから。
「こんな事話すべきじゃなかったな。悪い」
「ちょっと待ってくれ。どういう事なんだ?誰のことを話してるんだ」
映士は鼻を擦りながら、悲痛な顔つきでヒカルを見つめる。
「だから、麗……。その子と、おまえは……」
「はっ?こんな時に冗談は止めてくれないか!」
ヒカルは引きつった笑顔を浮かべた。
「それがキミの現実なら……。ボクの現実はどうなんだい!仲間を亡くし、未来の妻を亡くした。これがボクの現実か」
「おい、ヒカル。しっかりしろよ!」
映士の語気が荒くなる。
「悪いが、一人にしてくれないか」
「ほっとける訳ねぇだろ!」
「殺し合いに乗るか心配かい?それなら安心してくれ……」
腕を掴んだ映士を振りほどき、ヒカルは憂いを湛えた目で言った。
「ウメコ……。ボクの知っているボクの知り合いなんだ。弔わせてもらいたい」
†
いつのまにかヒカルの周囲に透明な膜が張っていた。
それとも最初からだったのだろうか。信じられない事が多すぎた。
いとも簡単に命を奪われた冥府神。共に戦った記憶にない仲間。
ヒカルを知る人間がいて、ヒカルが知る人間がいない。
519
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 03:00:55
例え知っている人間だとしても、反対に向こうが覚えていないかも知れない。
土台が崩れていくような感覚に陥っていた。
物言わぬ友人、死者となった者はヒカルの記憶の中の友人と同じ。不変の存在。
†
今日何回目の全力疾走だろう。疲れているか映士の走るスピードも、格段に遅い。
否、あのまま一人にしてしまったヒカルの事が気がかりなんだろう。
やがて、映士の足が止まった。
「どうしたの?」
菜摘が振り返ったのに気付いて、映士は俯いたまま言葉を紡ぐ。
「悪い、俺戻るわ。後からヒカル連れて追いかけっから」
映士は返事を聞かずに踵を返す。
「待って!もしH-4エリアで合えなかったら、三回目の放送までにあの公園で合流しましょう」
映士は振り返らず、返答代わりに片手を挙げる。
菜摘は頷いて、H-4エリアを目指した。
†
静寂の中、サクッサクッと墓を掘る規則的な音だけが響いていた。
潮の香りを孕んだ風が、ヒカルの髪をそっと撫でていく。
流木が砂を孕んだ海岸の土を掬う。汗で少し手が滑る。
もう少し。もう少しで終わるから。
前髪を伝う汗を、そっと掻き揚げ、ヒカルは横たわるウメコに視線を移す。
悼みも、悔やみも、今は何も感じられない。
ヒカルの心の中は、空っぽだった。そして、そんな無感動な自分をしっかりと認識している。
ただ、ウメコを弔う事に固執していた。動かないウメコが空っぽの自分を埋める存在であるかのように。
ウメコの身体を墓穴へそっと横たえ、足元からサラサラと土を被せていく。
520
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 03:02:41
纏わり付いた血の臭いが、湿った土の臭いに紛れて薄らいでいく。
ヒカルは、動かないウメコに語りかけた。
「キミの恋人もここに呼ばれていたね。ボクもそうだったらしい。ボクは知らないんだけれど……」
少しずつ少しずつ、身体全体に土を被せる。
「まだボクの知らない未来で、結ばれたそうだ。もしかしたら、君たちデカレンジャーも友人の一人として結婚式に来てくれていたのかもしれないね」
両手で掬った土を少しづつ、少しづつ被せた。ウメコの身体が土に埋もれていく。
ふと、結婚式の様子を想像して見る。
真っ白なウエディングドレスを着た麗。友人たちの笑顔。祝福に包まれ、永遠の愛を誓う。
「テツも、来てくれていたかな?あの時の彼の作戦にはまいったよ。女性の格好をするなんてきっとあれが最初で最後だ」
小津家で送りあった『幸福の花』に思いを馳せる。
ヒカルは土を掬って被せる。
「ボクは、裁かれるべきなんだろうか?サーガインは決して殺し合いに乗っていたわけじゃない……」
ヒカルは土を掬っては被せる。
掬っては被せる。
ウメコは顔だけを残し、身体は冷たい土に埋もれている。
ヒカルはそっと、白い花を添える。白い花で傷口を隠した。
「……」
すべて埋めてしまう前に、掛ける言葉が見つからなかった。
固執していた弔いが終わっても、何も変わらない。
悲しみも、痛みも、怒りも、憎しみも、頭で解っているすべての感情が、自分の感情として感じられない。
「麗、ボクが君達の家族になったのだとしたら、キミが妻なのだとしたら。ボクは君に胸を張れるような生き方を、しなければならないね」
口に出して見たけれど、色を亡くしたように……。今は、何も感じられなかった。
空を仰いでみても青は遠く遠く、手を伸ばしても届かなかった。
521
:
青は遠く遠く―――
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 03:08:15
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。30分程度魔法(マジシャイン、サンジェル変身不可)使用不可
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ドモンと共に優勝を目指す。
第一行動方針:心身共に疲れ空白の状態。
第二行動方針:ドモンとの合流。
第三行動方針:深雪の首輪を奪おうとした裕作に不信感。
第四行動方針:ティターンに対して警戒。
第五行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:溺れたことと、急激な運動による極度の疲労。30分程度変身不可。
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ヒカルと話す。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:軽い打撲、水中にいたため身体は疲労しています。30分程度変身不可。
[装備]:アクセルブレス
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:H−4エリアで壬琴とドモンを捜す。
第二行動方針:H−4で映士と合流出来なければ3回目放送までにJ−6公園で待つ。
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
変身制限に気が付きました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。
522
:
青は遠く遠く―――
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/24(金) 03:11:48
次のパートは後ほどにさせてください。
要議論かと思われるところも一緒に投下させて頂きます。
523
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/24(金) 14:06:09
投下GJです!
次パートの投下もwktkしてお待ちさせていただきます。
感想は本投下の際にさせて頂こうと思います。
それにしても、仲代先生ノリノリすぎだw
524
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/25(土) 00:04:14
今日中には正直無理だということを報告させて頂きます。
これだけ時間を頂いたにもかかわらず、最後のパートが後一歩といった次第です。
ここは自分の納得いくところまで推敲を繰り返して投下したかったので、現時点やっと書き上がった出来たてのままではとても投下する自信がありません。
内容的に通か破棄かどちらかだと思います。
実は以前、明石で予約して実現できなかったネタも含まれているので、ちょっとここはもう自ら破棄して後悔したくないというわがままが出てきております。
企画上、本来であれば他の方の御迷惑になりますし、再延長で間に合わなければ破棄はあたりまえのことかと思います。
ですが今一度、再予約させていただけないでしょうか?
度重なり、本当に心証を悪くなさっておられる方もいるかもしれません。
実際投下した後、ここまでこだわるほどのネタかと思われるかもしれませんが、
よろしくお願いいたします。
以下、指摘の自己申告をさせて頂きます。
青は遠く遠く―――にて。
壬琴の服装を白のコートだったのに白衣にしてしまっていたので修正させてもらいます。
Heads or Tails?にてロンが出てきた箇所ですが。
ない方が良ければ丸々削除いたします。
もう日付が変わってしまっていました。報告までもが遅くなり申し訳ありませんでした。
525
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/25(土) 00:21:45
自分は、出来ればお待ちしたいです。
チーフで書かれる予定だったというお話がどんなお話なのか、是非とも読ませて頂きたいですし。
ロンのシーンに関しては、自分は削除の必要はないのではないかな?と思います。
どこか、謎めいていて、ミステリアスないいシーンでしたので。
526
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/25(土) 01:04:10
さっそくの暖かい言葉ありがとうございます。
ロンのシーンですが元ネタは本編ではなくVSなのでどうかと思いました。
宝玉の主は投票で選ばれた訳ではないのでロワに出そうと思っているわけではないのですが、
同じ状態から参戦したキャラが何人かいますので、その理由になるかなと思ったのです。
ただ、ロンは(オレンジ色の)割れた宝玉としか言いませんでしたので、他の物なのかもしれないですがw
527
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/25(土) 09:57:07
VS出典でしたら、VS時間軸からのキャラもいますし、大丈夫ではないかなと思います。
……オレンジ色の宝玉と聞いて最初に思い浮かべたのが、某局日曜朝9時のアニメだったのは、君とボクとの秘密だ。
528
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:14:32
遅くなりましたが投下します。
529
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:18:39
一枚の走り書きのメモを残し、心美しき白の魔法使いは自らの命を賭して、ウルザードの暴挙を止めた。
そのメモは、死を覚悟した小津深雪がドモンに託した最後の願いだった。
ドモンは馬鹿だ。馬鹿の上に弱い人間だった。
自分を庇って死んだ女の想いを叶えてやればいい。メモに込められた想いを受け取ってやればいい。
それが当然だ。自分も死ななくて済む。女もそれを望んでいる。
小津深雪はいい女だ。いい女過ぎた。
だからこそ、ドモンは心の何処かで自分を責めた。
『どうして俺なんかが生き残って深雪さんが死ぬんだ』
堪らないぜ。
命懸けで守ったつもりの女に、実際は命懸けで助けられていた。
その上、脱出への道を切り開き、あまつさえ生きてくださいと願う。
『生きてください』それは、ドモンにとって呪詛のような言葉だ。
戦って死ぬ事にすら罪の意識を感じさせる。愛した女を踏台にして、これから生きなければならない。
呪詛から逃れる道。それは。
ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家族をプレゼントする。そうすればドモンは罪悪感から逃れられ、後悔も残さず死ねる。
もしヒカルが殺し合いで死んだら、再び自分が優勝を目指す。そして深雪に幸せな家族をプレゼントする。
そうして、やっとドモンは呪詛から逃れ、生きられるんだ。
▽ ▽ ▽
「ダメ……。もう限界だわ……」
完璧に息が上がっている。
岩陰に寄り掛かるように持たれ、菜摘は肩で呼吸をした。
「全力疾走した分は給料アップ……なんて、あるわけないわよね」
不謹慎きわまりない発言だが、そうでも言わなければやってられない。
殺し合いよりも全力疾走で体力を消費しているのは全参加者の中でも自分ぐらいだろう。
もちろん、殺し合いで命を削るのも真っ平ごめんだ。
あのまま映士たちと行動する方が、そんな命の削り合いに巻き込まれる確率は少ない。
憔悴しきってはいたが、ヒカルはまだ迷っている様子だったのだし。そんなヒカルを映士は引き上げる気でいたのだし。
だが、菜摘は壬琴とドモンが戦っているのを聞いて、はいそうですかと放っておく事が出来なかった。
菜摘は壬琴が根っからの極悪人ではないと思っているし、ヒカルの話を聞く限りではドモンもきっとそんな人間ではない。
だから戦うことになったとしても、壬琴がドモンを殺してしまうとは思えなかった。
反対に、あれだけ偉そうな態度の壬琴が、あっさりドモンに殺されるとも考えにくい。
無傷とまでは行かないが、二人は生きて何処かに身を隠している。
希望的観測かもしれないが、菜摘はそう思いたかった。
「この辺りよね……」
菜摘は岩影に身を隠したまま、注意深く辺りを見回す。
粉砕した岸壁や、砂浜に残る衝撃の後から、ここで誰かが戦っていたのは明白だった。
ただ、それだけでは壬琴とドモンが戦った痕跡かどうかは判断できない。
特定できない以上、アンキロベイルスを捜した時のように大声を上げるのは流石にどうかと思う。
他の参加者が現れる可能性は充分ある。
その参加者がいきなり襲いかかってくる可能性も、なきにしもあらず。
「どうしようかしら……。ん?あれって……」
砂浜には激しい闘いの足跡の他に、二つの逆方向に伸びる足跡があった。
一つは海岸へ向かって、もう一つは砂浜を越えた頂に立つ小さなホテルに向かって。
530
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:19:13
海岸へ続く足跡は、片足を引きずったように砂に溝を残している。
「壬琴の性格なら、どんなに傷ついてもこんな足跡を残さないわよね。死ぬまで直立不動で立ってるってタイプよね」
直感が告げるままに、菜摘はホテルに向かって歩きだした。
▽ ▽ ▽
菜摘の予想通り壬琴はホテルで身体を休めていた。
サンドベージュとブラウンが美しいマーブル模様を描く大理石の支柱。
北欧風の幾何学模様を施されたダークブルーの絨毯。
小規模だが洗練されたホテルのロビーで、菜摘は壬琴にこれまでの出来事を話し、そして壬琴とドモンとの経緯に耳を傾けているのだが……。
「それで、ドモンとゲームを始めたってこと?」
「あぁ、アイツが俺を殺すのが先か、俺が首輪を解除するのが先か……。ときめくぜ」
菜摘は内心で溜め息を付いた。全くなんと言うか、人の心配は他所に『ときめき』とは。
しかし、ノリノリな壬琴に若干の不安は抱きつつも、一応は二人とも無事である事に安堵する。
壬琴が仕組んだゲームも、壬琴が積極的に殺し合いを行う訳でもない。
「ドモンは俺を狙いにくるさ。絶対にな。ビビデビも、もし誰かに奪われたなら、奪ったヤツは当然俺を狙ってくる。取り返せばいいだけだ」
本人曰く、降りかかる火の粉を払うだけであるらしい。
「中々いい考えかもしれないわね。ドモンが壬琴を狙えば、壬琴が的になれば、間接的に他の人間を殺さなくて済むんだし」
そう、むしろドモンが手を汚さずに済む方法だとも言える。
「フッ。俺は退屈なゲームを仕切り直した。それだけだ。」
壬琴は胸部に手を添え、痛みに少し顔を歪める。
怪我をしているらしい。ドモンとの戦いは口で言うよりも激しい物だったのかもしれない。
にも関わらず、壬琴の口調は楽しげだった。
「傷は大丈夫なの?」
「ドモンに比べれば大したことはない。おかげで3人の死因も解ったしな。これくらいなら悪くないぜ」
「私は自分も傷付いたり相手を挑発するような真似じゃなくて、本当は憤りの矛先はロンに向けるべきだって説得が出来れば一番良かったと思うけど?」
つい本音を口にした菜摘。途端、壬琴は厳しい顔になり菜摘に向き直る。
「説得?おまえ、俺を牧師か何かと勘違いしてんのか?迷える子羊を救いたいなら他のヤツに頼むんだな」
そのまま、壬琴は窓際へ歩いて行き、ブラインド越しに外の様子を覗った。
「まぁ、ビビデビを一緒に行かせたなら、私たちもヒカルたちの元へ戻って合流すれば、その内ドモンも姿を表すだろうし。壬琴が嫌だって言うなら私か映士が説得したっていい」
壬琴は何も答えず、無言で菜摘を見やる。
なんとなく壬琴が意固地になっているような感じがした。
これが原因かどうか解らないけど……。
「そうだわ……。これ渡さなきゃね」
菜摘はデイバックからアンキロベイルスの首輪を取り出し壬琴に手渡す。
「アンキロベイルスの首輪よ。どうやって外すか考えなきゃいけないわね」
そう言って、ぺこりと菜摘は頭を下げた。
「ウメコのこと傷つけないでくれてありがとう。ごめん。まず、先にお礼を言うべきだったわ」
自分が傷を負ってまでも、ドモンと接触した事も。
深雪の墓の一件にしても、実際は壬琴が深雪を傷つけた訳ではなかったのだし。
何よりも、ウメコの事は傷つけないという約束を、壬琴は守ってくれたのだから。
531
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:20:05
「おまえらとの、ゲームのルールだからな」
壬琴は首輪を受け取り、人差し指でくるくると首輪を回しながら呟いた。
「これで3つか。集めるのはもう充分だな。後は首輪を解徐すればチェックメイト、ドモンとのゲームも……。フッ、俺の勝ちだぜ」
ゲーム。
それを聞いた菜摘は即座に顔を上げ、体を乗り出して壬琴に詰め寄った。
「もう、いい加減ゲームから離れなさいよ?さっきからゲームゲームって、いい年してゲーム脳なの?」
「なっ!ゲーム脳だとっ?!」
「そうよ。こんな殺伐とした環境でも、何とかして楽しもうっていう前向きな気持ちは汲んであげるけど……。人の命が掛かってるのよ?そんな言い方ってどうかと思うわ」
「……五月蝿い、少し黙ってろ」
壬琴は菜摘を押し退け、ソファーに座り、けだるそうに頬杖を付く。
「それに、首輪を外せばチェックメイトって、大事な事忘れてない?」
壬琴はそのままを眼閉じる。
まったく話を聞く気がないといったその態度。
菜摘の中で苛立ちが膨れ上がる。
「アンキロベイルスが息を引き取った時の話、忘れてる訳じゃないわよね。解除しても、その後の事考えなきゃいけないでしょう?」
首輪を解除しても、その次の罠が待っている。
アンキロベイルスの死に様を目の当たりにしていた菜摘の声は大きくなる。
「がっつくな!隣で騒がれたら考えも纏まらねぇぜ!!」
身も蓋もない言われかただった。
菜摘はがくりと肩を落とし、すごすごと正面のソファーに座り膝を抱える。
これはゲームなんかじゃなくて現実。誰かが死んだらもう二度と戻ってこないのに……。
不意に、恭介とシグナルマンの事を思い出す。
二人は、今、どうしているんだろう。
一回目の放送で名前を呼ばれなかったからと言って、安心は出来ない。
どんな異常事態に巻き込まれているのか解らないのだから。
「……アイナイータ…ナハリドノーレ…………ウインニメナ……イルーヨノ」
壬琴の歌声が静かなロビーに響く。
目を瞑ったまま、壬琴が聞いた事のない歌を口ずさんでいる。
「……何?その歌」
壬琴は困惑した菜摘の顔を一瞥した後、ニヤリと笑った。
「エヴォリアン聖歌だ」
「……エヴォリアン聖歌?」
「あぁ、教えて欲しいなら、教えてやってもいいぜ?」
腕を引き寄せられ、壬琴の横に座らされた。
壬琴はコートのポケットの中から、一枚のメモを取り出しそっと菜摘に握らせる。
532
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:20:40
綺麗な女性の文字が目に飛び込んだ。かなり焦っていたのか筆跡はとても乱れていた。
走り書きされたそのメモを、菜摘は声に出さず読み取る。
戻ってくる前に、通り抜けてきた空間に魔法力を注ぎました。
気付かれないほどの弱いものだけど、きっと道が開けるはず。
どれくらいかかるか解らない、だけど信じて。
ドモンさん、生きてください。 深雪
壬琴は、新たに取り出した支給品のメモにペンを走らせた。
『ロンに聞かれたくないんだよ。適当に話を合わせろ』
不敵な笑いを含んだ、だが真剣な表情の壬琴に菜摘は頷く。
「まぁ、時には息抜きも必要かもしれないわね……。そんなに教えたいなら、教えてもらってあげてもいいわよ?」
▽ ▽ ▽
そして、以下の会話はすべて筆談にて行われた。
壬琴は歌詞を書き連ねるふりをし、菜摘はフレーズを尋ねるふりをして会話を進める。
なお、会話が終わった時点で菜摘がエヴォリアン聖歌をマスターしたか否かは言うまでもない。
『これどうしたの?』
『どういう経緯でなのかは知らないが、サーガインの荷物の中に入ってたのさ』
サーガインの名前には聞き覚えがあった。深雪の遺体を傷つけた人物。
『ドモンはこのことを知っていたのかしら』
『知っている。ドモンさん、生きてください、と言ったらモロに反応してたからな』
『だったら何で殺し合……』
書き終わる前に、壬琴に手を弾かれる。
「そこはどうでもいい」
壬琴は声に出して言うと、続きを書き殴った。
『まずは、ドモンの話からだ。ゲーム開始から2時間ほど経った頃、小津深雪は小津勇が本当に死んだのか確かめにいった』
『そんなことができるの?』
『心を飛ばす魔法。精神体だけを広間に飛ばした。そしてさっきのメモにあるように、この空間に魔法力を注いだ』
魔法、にわかに受け入れがたい話だった。
真剣な壬琴の表情を見れば、冗談とは思えない。ましてやこれはドモンが話したことなのだし。
『その魔法がこの空間のどこかを壊した?それがメモに書いてあった道って事?』
533
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:21:12
『いや、壊したというほど強い力じゃなかった。針の穴程度、この空間に穴が開いたんだろう』
くるりと壬琴は器用にペンを回し、続きを書いた。
勿論、エヴォリアン聖歌を口ずさみながら。
『風船と同じさ。穴を開ければそこから空気が入る。小津深雪が開けた穴から時間の経過と共に少しずつ外気が入り込んで来た……。それがメモに記された道のことだ』
『道、それってどこにあるの?目に見えない所?』
ペン先を菜摘に向け、壬琴は眉間に皺を寄せる。
『まだ解らないか?禁止エリアだ』
壬琴は『禁止エリア』の文字を強調するように丸で囲み、菜摘に顔を向けた。
『でもそんな重大な事態、ロンは気が付かなかったのかしら』
『気付いたから、ウルザードを深雪とドモンの元に送り込んだんだ。
深雪が目覚める前に、ウルザードが二人を襲ったのは口封じの為だったのさ。
開けられた穴は防ぎようがなかったんだろ。ロンは喋られるのを恐れた。
だからドモンの元へ深雪から何か聞いてないかを確かめに行ったんだ。
ドモンは殺し合いに乗り、深雪は死んだ。穴の事は参加者に知られずに済んだとロンは思った。
実際は、深雪はドモンが自分を逃がそうとしたその僅かな時間でこのメモを残し、生きていればドモンが拾うと自分のデイバックへメモを隠していたんだがな。
後は、穴をどうするか。そこで取った苦肉の策が、外気が入り込んできた場所を禁止エリアにしてしまう事だった』
菜摘は二三度頷き、続きを尋ねるフリをしながらペンを走らせる。
『爆発しますと言われて行く人はいないわよね。
それに言われてみれば、市街地の真ん中を分断するなんて変だわ。
参加者が出合うというより、せっかく市街地に集めたのに森林エリアと海岸エリアに離してしまう事になりかねない』
『あぁ、少しばかりの趣向と言うほど簡単に禁止エリアが作れるなら、マップ全体を狭めればいいだろ。
こんな広いフィールドじゃ逃げ場が有りすぎる』
一旦手を止め、歌い出す壬琴。菜摘は復唱しながら考える。
確かにその方がよっぽど殺し合いを活性化させるはずだ。
『入ったら爆発するって言うのは嘘なのかしら』
『それはどうだろうな。ブラフの可能性もあるが首輪の材質にも因る。空気に触れて爆発するモンなんていくらでもあるしな。
他にも、首輪に異変が起きたらロンがリモートして吹き飛ばすってやり方もあるだろう』
『そうか、誰が死んだのか解るぐらいだもの、参加者の位置ぐらいすぐ把握できる』
『盗聴されてる可能性もあるしな』
二人は歌いながら文字を綴る。
『一回目の放送から引っ掛かっていたのさ。禁止エリアにしろ小津勇をウルザードとして蘇らせるにしろ、何故最初に言わなかったのか、と。
禁止エリアを作るなら、最初からの存在を示して参加者の恐怖心を煽った方が余程人は動くぜ。
一回目の放送の時点で死者は9人、殺し合いは順調だった。どうして追加ルールが必要になるんだ?
誰も殺し合いに乗ってなければ、ルールを追加されるってのは解るがな。6時間で9人。結構な人数が殺されているんだぜ。
小津勇の件にしたって、何故、誰にも知らせないまま生き返らせる?力を見せつける為ならなおさらだ。
それに、殺し合いをより楽しく進める為だというが、強敵を後から後から後から送り込まれてみろ。いくら殺したってキリが無い。
殺し合いに乗ってる連中ですら、その手を止めかねないぜ』
『面白みに欠けるから禁止エリアを作ったんじゃなく、ルールを追加せざるを得なかったのね』
『そう考えばつじつまが合う。参加者の選別、人数分の支給品、殺し合いのために用意したフィールド。
これだけ用意周到で、かつ自らは徹底して手を出さない。そんなヤツが禁止エリアの存在を最初に言い忘れただなんてありえないしな』
壬琴は歌を止め、水を飲んだ。歌いながら菜摘は自分の考えを記す。
『禁止エリアが増えて行くのに時間がかかるのは、少しずつ亀裂が広がっているからなのかも知れないわね』
534
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:21:45
『何処がヤバイか大方予想は付くんだろう。
急激に空間が崩壊しだしたとしても、残り人数によって禁止エリアを増やしたと言えば理由は作れる。
時間が経って人数が減ればそこまで広いフィールドはいらないからな』
微かに笑いを浮かべている壬琴を、菜摘はまじめな表情を作って視線を合わせる。
『どうする、確かめに行くの?』
『解除方法が解かるまでは、動かない。動くのはすべて準備を整え、ロンを倒す時だ』
▽ ▽ ▽
「ジャメジャメジャ〜ジャメジャジャメジャ。何もかも邪命になれ〜。メジャメジャメ、メジャメメジャメ〜。エヴォリアンの世が来る〜」
パチパチパチパチ。歌い終わると壬琴の拍手が聞こえた。
「完璧だな」
「……まぁ、これだけ練習すれば、ね」
呟きながら、菜摘はデイバックからペットボトルを取り出し一口飲む。
水は冷たくて美味しかった。半分を一息で飲み干した。
「それ貸せよ」
壬琴が菜摘のデイバックを指差し、手を差し出す。菜摘は首を傾げながらもデイバックを渡す。
「これはドモンが使っていた物と同じだ。ドモンは見た所普通の人間だ。おまえがこれを使える可能性はあるだろ」
取り出したのはアンキロベイルスと話した時に見付けた通信機のような物だった。
「腕に嵌め、両手をクロスしてボタンを押す。クロノチェンジャーの掛け声で起動するはずだ」
クロノチェンジャーを菜摘に手渡し、続けて壬琴はダイノコマンダーを取り出した。
「こいつは俺が預かる。この先ダイノハープを持っているヤツと出会うかもしれないしな」
「待って、壬琴。あなた一人で行動する気?怪我してるんでしょう。映士たちと合流してから行けばいいじゃない」
自分のデイバックにダイノコマンダーを仕舞おうとする壬琴の腕を菜摘は掴む。
無造作に壬琴は振り払おうとする。
「おまえらと仲良しゴッコをするつもりはないぜ。俺は俺のやりたいようにするさ。3回目の放送までにあの公園いけばいいんだろう。それまでに解除方法を見付けておいてやるぜ」
そしてさっさとデイバックを担ぎ、ダイノコマンダーを片手にドアへ向かう。
だが、菜摘は壬琴の腕を放さない。
「ちょっと壬琴、いえアバレーサー。カーレンジャー7人目として勝手な行動は許さないわよ……っ!?」
壬琴は菜摘の頬をむぎゅっと掴み、自分の顔間近に引き寄せ、睨んだ。
「誰が、アバレーサーだ。勝手に決めんなって。気の強い女は嫌いじゃないがな。俺に命令するな!」
「ひょっと、やめらさいよ!」
咄嗟のことに立ちすくんだ。顔が、近すぎる。みるみる頬が赤くなっていく。
「……ちょっ、顔…近っ。そ、そんなに近付けないでくれる!」
菜摘は必死で壬琴の手を振り払った。
「一日に……そう何度も……唇……」
最後は口ごもって言葉を噛み殺した。
映士が溺れた時の事がぼわんと頭に拡がった。
いいえ、あれは人命救助ですが!何か!?別に何の気持ちもないんだし!
必死に自分に言い訳し、落ち着こうとする気持ちとは裏腹に鼓動が早くなっていく。
「へぇ〜」
壬琴は腕を組み、少し顎を上げて菜摘を見下ろした。
「俺に話した以外にも、イロイロ……あったようだな?」
眉間に皺を寄せ菜摘の双眸を覗き込む、口元にはサディスティックな笑いを浮かべている。
「イロイロって!何?何の事かしら?アンキロベイルスの首輪を取りに海に入った。それだけよ!何?」
「ムキになるなよ。ただの冗談だぜ」
535
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:22:33
「制限知らなくて、映士が溺れかけたから助けただけよ!」
「ハハハッ。制限知らなくて二人そろって海に入った?それで溺れた映士を人工呼吸で助けたって訳か」
次の瞬間、壬琴は堪えきれないように吹き出した。
「ハーハッハッハッハハ!!おまえら、不覚取りすぎだろ。クッ……。ハハハハッ!!!」
「だって制限なんて知らなかった……。って、聞いている!?」
反論しようとする菜摘を遮って、壬琴はふぃっと背を向ける。
もう真顔に戻っており、まるで最初から興味が無かったようにソファーに腰掛けた。
菜摘も壬琴と向かい合わせにソファーに座り、残りのペットボトルを飲み干す。
歌の歌いすぎと、変な緊張感で喉はカラカラだった。
ペットボトルを逆さまにふり、名残を惜しんでいるのを壬琴が薄笑いを浮かべて見ていた。
むっとしながら、壬琴に向かって手の平をヒラヒラとさせペットボトルをせがむ。
呆れたようにデイバックからペットボトルを取り出した壬琴。
菜摘は一瞬の隙をついて、ペットボトルと一緒にダイノコマンダーを掴んだ。
「おまえ、ガキか!」
「私がアバレンジャーになるわ。ただしカーレンジャーが本業だから、バイトでって感じで悪いんだけど」
そしてすかさずクロノチェンジャーは突き返す。
「これはおまえが持っていろと言っただろう。それにダイノガッツがなきゃダイノマインダーは使えないぜ」
「ダイノガッツ?それぐらい手に入れるわよ」
壬琴は大きな溜息をつく。
「……悪いが、アバレイエローはもういるぜ」
「ならアバレーサーになるわよ。どう?アバレンジャー7人目って事で」
「アバレンジャーは5人だ。6人目はいらないぜ」
「少数精鋭って訳?面白いじゃない」
壬琴は怪我もしている。そしてわざと自分が的になるようなゲームを仕組んだ。
一人では行かせられない。
「ったく……。おまえといるとどうも調子が狂うぜ」
掌で一枚のコインを転がし、それを菜摘に向かって弾き飛ばした。
「好きにしろ」
「そうするわ」
菜摘はコインを受け取りニッコリと笑った。
▽ ▽ ▽
第二回放送の時刻が近付いていた。
菜摘はソファーに座ったまま、腕を組んで外を眺める壬琴に問いかける。
「ねぇ、聞いていい」
壁により掛かったまま壬琴は、菜摘に視線だけを向けた。
「ドモンは……。運良くって言っていいのか解らないけど、最初の一人って壁を乗り越えられないのよね。
そのまま、諦めようとかそういう風に考えたりしないかしら」
「無理だろうな。あいつは小津深雪のために、仲間も自分の命も全て淘汰すると決めたんだぜ。
そんな簡単に消化できるモノなら殺し合いに乗ったりするか」
ドモンはそれで幸せなのだろうかと、思う。
「もし、私が深雪さんと同じ立場なら、ドモンの選択は悲しいと思うわ」
「違うな。死ねば悲しむ事も憎む事も出来ない」
「それは、そうだけど……」
「生きて一瞬でも幸せを感じれば、余計にドモンは罪悪感に苛まれる。
プレゼントとやらを渡せなきゃ、ドモンは生きることも死ぬことも苦痛に感じるんだ」
壬琴の言うことは、なんとなく理解できる。
ドモンはメモの内容を知っていたはずなのに、殺し合いに乗ってしまった。
それはおそらく……。
536
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:23:30
何も守れず、何も残せず、自分だけが生き残ってしまった事。壬琴の言うように、ドモンにはそれが苦痛なのだろう。
その苦痛を消すには、優勝を目指すしかなかった。
だからと言って、それを受け容れることは菜摘には出来ない。
優勝したからと言って誰も救われない。深雪も、深雪の家族も、何よりドモン自身も。
からかうような表情をしていた壬琴は、やがて遠い目をして呟いた。
「女のおまえには解らないかもな……」
「壬琴には、ドモンの気持ちが解るの?」
「さぁな、俺には関係ない話だ」
壬琴は、関係などないし、関わりたくもない、といったように肩を竦めた。
菜摘は視線を落とし、悼たまれない気持ちでペットボトルの蓋を開けた。
口を付けようとした時。
「ん?何これ……」
気付く。
異様な臭いがしていた。黴臭いような埃っぽいような。下水道から上がってくる臭い。
「見せてみろ」
壬琴はペットボトルを光に透かしジッと見つめる。その表情がだんだん不可解な物となる。
覗き込むと、透明なはずの水は微かに濁り、筋状の沈澱物が浮遊している。ボトルの溝にはうっすらと薄茶色の汚れがこびりついていた。
「傷んでるの?まだ蓋は開いていなかったペットボトルなのに……。開封してある方は大丈夫なのよね?」
殺し合いが始まってからまだ12時間弱、水が腐るほど時間は経っていない。
気温もどちらかといえば涼しいぐらい。壬琴は何か考えるように口許に手を当てる。
「まさか?」
何か思い立ったように、壬琴はデイバックの中身をテーブルの上に拡げた。
ペットボトルの残りが2本。一本は壬琴が開栓済みだった。もう一本は菜摘に渡したのと同じく、飲める状態ではなかった。
一組の食料はパン、一組の食料は何故か和菓子。
白い薄紙に包まれた和菓子は、触れただけで粉々になった。
まるで、長い年月をかけて風化してしまったかのように。
「これはサーガインが持っていたんだが……。全部和菓子って。これ、ドモンが言ってた小津勇の食料か?」
答えに窮した菜摘は壬琴の言葉を待った。
数秒の沈黙。
壬琴が口を開こうとした瞬間、ロンの声が耳朶を打った。
そして、第2回放送が始まった。
537
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:24:07
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:本来の調子を取り戻しかけたが菜摘のせいで……。腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。アバレキラーに30分変身不可。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)深雪の残したメモ。
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:小津勇の支給品の状態に唖然。
第二行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第三行動方針:首輪の解析(どこに行くかはお任せします)
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。
[装備]:アクセルブレス
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:壬琴について行く。首輪の解除方法を調べる。
第二行動方針:H−4で映士と合流出来なければ3回目放送までにJ−6公園で待つ。
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラック(菜摘の場合アバレーサー)への変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。
538
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:28:51
以上です。
長きにわたるキャラ拘束を認めて頂いて本当にありがとうございました。
そして誠に申し訳ありませんでした。
おそらく自分では見落としている設定や、誤字脱字、矛盾があるかと思います。(先に投下した2作についてもです)
どうか指摘をよろしくお願いいたします。
言い訳のようなモノをいくつか上げさせてもらいます。
・深雪のメモはドモンを拘束した時、サーガインの手に渡ったと考えています。
・食料についてですが、小津勇の支給品の状態を変えよう、と思った時に浮かんだのが時の流れを変えることでした。
広間は某国民的アニメの精神と時の部屋のように、広間のみ時間の流れが違うと想定しました。
サーガインは食料の異変に気付いた時、たった数時間のズレで自分たちが浦島太郎状態になるのではと思い至り、
このまま願いを叶えるのは無理であり、たとえ生き残っても時間を戻さなければダメだと。
それが願いになり、結局何も残らないと思った。
と考えました。
・禁止エリアについてですが、壬琴の妄想であることは勿論あります。
もし本当であれば、
広間→空気あり→呼吸できる
(最初連れてこられたときは普通の空気→首輪を参加者にセット→一時的に幻気を広間に充満させる→参加者が出て行く→時間を狂わせる→広間事態は完全に閉ざされた空間ではないので幻気はいつしか拡散
首輪ですが、首輪が幻気で出来ていたとすれば禁止エリア(空気)に入る=空気に触れるとほんの少しだけ気化し、それが爆発を招くのではないかと思いました。
幻気の充満したマップ内ならきちんと形を保てるけれど、空気中では段々と形が無くなるのではと。
時期尚早、説得力に欠けるか、などいろいろ考えましたがやはりせっかく時間を頂いたので書き上げた次第です。
書かせて頂いてすっきりしました。
読んで頂いて、指摘を頂ければ光栄です。
タイトルは、
馬鹿な男といい女の相性は悪い。だが黄色いヤツと白いヤツの相性は悪くない。
他に思い当たらなくて。長いですね。
539
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/04/30(木) 20:38:18
指摘の方は議論スレに頂けるとありがたいです。
よろしくお願い致します。
540
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/30(木) 21:30:08
投下乙です。
そうきますか〜
このような展開自分は好きなんで燃えました〜
改めて乙でした。
541
:
名無しの命は地球の未来
:2009/04/30(木) 22:35:01
投下GJです!
ちゃんとした感想は、本投下時にと思いますが、すごく面白かったです。
考察部分には思わず、膝を打ってしまいました。
相変わらず、描写が秀逸で、すごく彼ららしかったです。
申し訳ないのですが今PCに触れないので、特に何も無ければ明日、代理投下させて頂こうと思います。
GJでした!!
542
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/05/01(金) 11:18:30
ありがとうございます。
何カ所か誤字脱字を見つけたので、修正しながら投下しようと思います。
外からなので、時間が掛かるかもしれませんが。
連休中はPCが触れない状態なので、本投下後指摘等がでた場合、連休後に修正させてください。
543
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:30:40
遅くなりましたが、ただいまから投下いたします。
今回、正直少々冒険してしまった為、先に仮投下させて頂こうと思います。
よろしくお願いします。
544
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:33:16
雨が、雨が降っている。激しく叩き付け、全てを容赦なく押し流す雨が―――
耳朶を叩く雨音に理央は目を覚ました。
鼻をつく焦げた肉の臭いがする。
身を起こそうと身じろぎするが、体が酷く重く、思うように動かせない。
まるで何かが上にのし掛かってでもいるかのようだった。
違う。かのようにではなく、実際に誰かが自分の上に覆い被さっているのだ。
押し退けようと腕に力を込めるが、覆い被さった者はピクリとも動かなかった。
全身に力を込めてもわずかずつしか体を動かせなかったが、それでも懸命に這いずり出る。
見回した周囲に広がるのは、嵐の森。吹きすさぶ風と叩き付ける雨の音以外はまるで何もかもが息を潜めたような沈黙の森。
そのまま、自分の足元に目を落とした理央は息を呑んだ。
水溜まりに映る引きつった幼い子供の自分。その傍らに折り重なるように苦悶の表情を浮かべた二人の人間が倒れている。
先ほどから漂っていた焦げた肉と焼けた髪の嫌な臭い。
それは、その二人から漂ってきていた。
「……父さん?母、さん……………?」
膝を付くと雨にぬかるんだ土が嫌な音を立てた。
二人の顔に手を伸ばす。雨に微かに残った体温を削られた頬は、氷のように冷たかった。
血と泥で汚れた手で顔を覆う。口唇から無意識に呻き声が零れ落ちた。
雨が頬を伝い、泥と血をまだらに落としていく。
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?…………………………ボクノセイ!?
『あなたのせいですよ。あなたが弱く、あなたがなんの力も無いから。だから………』
545
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:34:02
雨は強く風は激しく、周囲全ての音を奪い、掻き消していくのに。
耳を塞ぎ、激しく首を振り、声を嗄らして叫んでも。
鼓膜の奥深く響く声が、消える事はなかった。それなのに。
どんなに叫ぼうと、大丈夫だと微笑んでくれない。
どんなに手を伸ばしても、手を握ってくれない。
弱くて、力が無くて、何も守れなくて。だから。
だから、笑ってくれる人も守ってくれる人も、全ていなくなってしまった。
目の前が重く閉ざされる感覚に、理央はぬかるみに倒れ伏した。
もう、自分には何一つ残されていない。
―――理央さま
どこか懐かしく、身を焦がすほどに愛おしい声がした。
勢いよく上げた顔に映るのは、やさしく微笑む一人の女。
「………メレ」
差し伸べられた手を掴むと、知らぬはずの名が口唇から滑り落ちる。
そっと寄り添う体を引き寄せ抱え込むと、彼女に不釣り合いだった体はいつの間にか元の姿に戻っていた。
変わらず冷たく、温もりはないけれど、確かに彼女が腕の中に存在する。その感覚に安堵の息を零す。
そうだ、全てを失ってなどいない。まだ一つ、自分の手には残されているじゃないか。
何故、忘れていたのだろう。そう胸中で呟くと理央は苦く笑い、華奢な彼女の体をもう一度強く引き寄せた。
グシャリ
力を込めた手に嫌な感触が伝わってくる。
目を見張る理央の目の前で、メレは悲しげに微笑むとその姿を砂へと変えていく。
慌てて彼女を掻き抱こうとするのに、砂へと変わっていく彼女の体は理央の手をすり抜けていった。
気が付けば、理央の手に一握りの砂を残して彼女は崩れ去っていた。
その手を抱え込んで、理央は絶叫した。
どこか遠くで声が聞こえる。自分を嘲笑う声が。
『………だから、あなたの大切な人はみんな死んでしまうんですよ』
546
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:34:55
◆
「………………っ!!!」
声にならぬ叫びが、意識を深い眠りの底から引きずり上げる。
絶叫とともに伸ばした手は、何も掴めずに宙を彷徨う。地に落ちる寸前に暖かな指がその手を受け止めた。
なだめるように優しげな手つきで、幾度も手を撫でられる。
「大丈夫……に動いたら………から、もうちょっと………てもいい……よ」
(……母さん?)
まだ意識が完全に浮かび上がっていないうつつの中で、その手を感じた理央は安堵の息を吐いた。ああ、全ては夢だったのかと。
そう、全ては夢。父母を目の前で殺されたことも、メレが腕の中で砂に変わっていったことも。
よく考えずとも道理の通らぬ話だ。
父母を惨殺され、この世に一人で放り出されていなければ、激獣拳ならまだしも臨獣拳の道を歩むことはなく。メレと出会うこともなかったというのに。
けれど目覚める前の朦朧とした意識は、ほんのわずかな一時、理央に甘い夢を見せた。
「そうだ。センさん……教えて………ないと」
身をまどろみに任せるままにしていた理央は、耳に滑り込んできたその声で一気に覚醒した。
離れていこうとした手首を、とっさにきつく掴む。
「……セン、だと?」
「痛、痛いよ〜、ねえ?菜月何もしないよ。はなして?」
センの顔をしていたシュリケンジャー、その口振り、血濡れたセンの服を纏ったその姿。そして自分にした仕打ち。
シュリケンジャーがセンを無事で済ませたとは、とても思えない。
だが、目の前の女は確かにセンの名前を口にした。
思考を巡らせた理央は、一つの可能性に行き着いた。
シュリケンジャーはセンの姿を偽ったまま、この女の同行者に収まったのではないか。
見れば、すぐに騙されそうな幼い顔をしている。
菜月と己を呼んだ女は、痛みに眉を顰めながら、小首を傾げて理央を見ていた。
理央は手首を掴んでいた手を離すと、菜月に向き直る。
何故、自分にとどめを刺さなかったのかは分からないが、こうなった以上容赦はしない。
だが、その前に騙されているであろうこの女の安全は確保してやらねば。
かたくなに己の強さのみを求めていた頃の理央であれば、思いもしなかっただろう。
かつての理央にとって、他者とは所詮、己の餓えを癒す為だけの存在だったのだから。
悪夢の残滓は、彼の内で降り続ける雨は、未だ彼に焦燥と渇望をもたらし続ける。
けれども、今の理央の心を占めるのはそれだけではない。
547
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:35:39
力への渇望に押し込められ、眠っていた感情が他者と関わり合うことで目を覚まし、少しずつ育ちつつあった。
「いいか。今から俺が話すことをよく聞け。お前がセンと呼んでいる者はセンではない。センの顔を奪った偽者だ」
「え?センさん偽者さんだったの?!」
理央は己の不甲斐なさを感じながら、重々しく頷く。
時刻はやがて定時を刻む。放送が全ての偽りを明らかにしていくことだろう。
もっとも、あのロンが偽りを述べなければ、だが。
「じゃあ、センさんの偽者さんって二人いるのかぁ。あれ?本物のセンさんは?」
「本物のセンは死……ん?二人?どういうことだ」
まさか、ロンが潜り込んでいるとでも言うのだろうか。
「だって、さっき竜也さんが偽者さんに会ったって。あ、でもその時は理央さんだったって言ってたっけ」
この女は何を言っているのだろう?
アニメか漫画なら、互いの頭上にクエスチョンマークが乱舞でもしていたことだろう。
二人の話は噛み合わず、果てしなくすれ違っていく。
ここに真墨か美希でもいれば、彼らにツッコミをいれたところだろうが、あいにく彼らは既に鬼籍の人である。
何かがおかしいと、改めて理央が問いただそうとした時だった。彼の背後から、おずおずとした声がかかった。
「あのー、盛り上がってるとこ申し訳ないんですけど。一応、俺は本物ですよ」
「あ、センさん。偽者さんなの?」
「いや、だから本物だって」
柔和な印象を抱く、聞き覚えのある声に息を飲む。
「……セン、無事だったのか?」
「ええ。理央さんこそ、無事で良かったです」
「ああ。……すまない。思い違いをしていたようだ」
なんとなく気まずい思いで、目を伏せる。
改めて目にすれば、表情も、纏っている空気も、偽りのものとはどこか違う。
偽りの方には、鋭く尖った諦念のような表情があった。
「信じてもらえたなら構わないですよ。あの状況なら、そう思っても無理はないですし」
だが目の前のセンには、それがない。ただ純粋に無事を喜び、自分に笑いかけている。
「さて、目が覚めたならちょっと移動しますか。動けますか?」
「ああ、動けぬほどではない」
体は気怠く、時折痛みが走るが歩けぬほどのことではない。
肩を貸そうというセンの申し出を断ると、目の前のなだらかな坂をゆっくりと登り始める。
548
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:36:28
登りきり、先程まで自分が横たわっていた場所を見やると、そこは深いクレーターになっていた。
自ら首輪を引き千切ることで、制限から解き放たれたサンヨが放った全力全壊の蔵備頓。
周囲全てを巻き込み放たれたその攻勢で、深く穿たれたクレーターの只中で自分は意識を失っていたようだった。
己の身に目を落とせば、傷のそこそこに手当ての跡がある。
「……これはお前達が?」
問いかけにセンは静かに首を振って答えた。
「理央さん、ブドーという人に会ったことはありますか?」
「ブドー?ああ、あの俺に背を向けた臆病者か」
「あやつが聞いたら怒り出しそうじゃのう」
倒木に腰を降ろしていた老人――人というよりたるんだリンリンシーのようだったが――がぼそりと呟いた。
いぶかしげに理央は老人――センはブクラテスと呼んでいた――に視線を向ける。
「おぬしが出おうた、ブドーの元仲間じゃよ。もっとも仲間と思っておったのはワシだけじゃったようじゃがのう」
ブクラテスは肩をすくめる。その右肩から下は、切り落としたようにスッパリと消え失せていた。
「ブドーにやられたのか」
「まったく、仮にも仲間にこんなことをするような奴とは思ってなかったんじゃがのう」
ブクラテスが溜息とともに呟く。
センの仲間だろうか、警官然とした姿のうつむく男の傍らで身をかがめていた男が、物言いたげにブクラテスを見た。
その視線にブクラテスも気付いているのか、居心地悪げに身じろぐ。
「ねえねえ、竜也さん」
二人の間に流れる空気を知ってか知らずか、ブクラテスに厳しい目を向ける男の袖を引く。
「センさんの偽者さんが二人いるって本当?」
そして、微妙にまだ勘違いしていた。
「……誰じゃ、こやつに妙なことを吹き込んだ奴は」
理央は、目を逸らすと遠い目をした。
センが手招きすると、警官然とした男が理央に向かって歩み寄ってくる。
男はシグナルマンと名乗ると、理央に頭を下げた。
「頼む!本官とE9エリアに行ってくれ!!」
励ますように、センがシグナルマンの肩を叩く。
「とりあえず、状況を整理しましょう。今のままだと、ちょっと情報が錯綜してますから」
「ん?ああ」
シグナルマンに縋るように懇願され、困惑していた理央は頷いた。
時間は、理央が目覚める前に遡る。
549
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:37:14
◇
南に向かったセンが目にしたのは、首と胴が分かたれたバンキュリアの姿だった。
傍らには、彼女の物であっただろう首輪が転がっていた。
「菜月ちゃんに待ってて貰って正解だったかな?」
センにとっても、勿論気分のいいものではなかったが、少なくとも自分は職業柄、こういう状況には慣れている。
だが、竜也たち一般人には、なるべくならば見せない方がいい。特に菜月は、未だ仲間の死に動揺している。
この上、無用な刺激を彼女に与えたくはなかった。
欠片も動かぬ首輪の反応にこの事態を予想していたセンは、ここより少し手前の場所で、菜月たちを竜也に託すと、一人でこの場所に足を踏み入れていた。
来てみれば、思った通り。戦闘の跡と、まき散らされ周囲にこびり付いた血。無惨で恨めしげな生首が彼を迎えた。
「あの子たちのどちらかかな」
センが左肘を砕くきっかけとなった、サンヨを弄び、せせら笑っていた少女たち。
姿こそ違うが、纏う雰囲気は似通っている。では、これは彼女たちのどちらかの正体だろうか。
さすがにあんな目にあわされれば、センも良い感情を抱きはしなかったが、やはり無惨な姿は痛ましい。
切り口から覗く断面は、鋭利な刃物で断ち切られたことを示している。
センには、そういった武器を使う者に心当たりがあった。
剣将ブドー。ブクラテスの仲間でありながら、なぜか彼に刃を向けた者。
ブクラテスを助ける為、バーツロイドをおとりにした後は、そのままにしておいたが、やはり拘束しておくべきだったのかもしれない。
制限中の上に、負傷したブクラテスを連れていた。あの時はたぶんあれが一番最善だったろうと思う。
だが、防げたかもしれない惨劇に罪悪感を覚えた。たとえ、互いに承知の上での殺し合いの末だったかもしれないとしても。
センは無念の滲み出てくるような彼女の首に手を合わせると、首輪を手に取った。
550
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:37:53
竜也たちの元に戻ったセンを迎えたのは、慌てふためいた竜也と菜月の姿だった。
「おぬしら、少し落ち着かんかい」
「落ち着いてたら、どうにかなるって言うんですか?」
「少なくとも、泡を食ってセンを迎えにいくということも思いつかんよりはましじゃな」
「……っ!早く言って下さい」
噛み付くようにブクラテスに食ってかかる竜也は、その当のセンが帰ってきていることには気付かないようだった。
「あっ、センさん」
先にセンが帰ってきたことに気付いたのは、菜月だった。
「どうしたの?何かあった?」
「あのね!ブクラテスさんが理央さんのいるとこに、急に反応が二つ増えたって」
「わかった。ありがとう」
不安げな菜月の頭をくしゃりと撫でる。
それにしても。すぐに事態は動かないだろうと、こちらを優先したのだが、判断を誤っただろうか。
「竜也くん、ブクラテスさん。お待たせしました」
「おお、セン、帰ってきおったか」
「事情は菜月ちゃんに聞きました。急ぎましょう」
竜也はまだ何かブクラテスに言いたげだったが、黙ってセンに頷くと小走りに歩き出す。
竜也が先頭を務め、センが殿を担当するのが、この一団で行動する時の二人で決めた役割だった。
足早に進んだ彼らが、首輪の反応のある地で目にしたのは、地に深く穿たれたクレーターと、その中心に倒れ伏す理央。
力尽きたようにうずくまり、土を掴むシグナルマンの姿だった。
551
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:38:26
◇
その後、センたちは理央の命に別状がないことを確認すると菜月に介抱を任せ、すっかり気落ちした様子のシグナルマンから、事の顛末を聞いた。
菜月は、スモーキーがいないことを気にかけていたが、時折苦しげに呻く理央を心配したのか、おとなしくその役目を受け入れた。
そして、現在に至る。
互いに情報を交わし合うことで、欠けていたピースは埋まっていく。
シュリケンジャーの行動。
制限下であったとはいえ、シグナルマンを鬼気迫る強さで下したブドーのこと。
(なぜ、制限がかかったのかの下りでは、菜月を除く全員が深く溜息を吐き、シグナルマンを余計に落ち込ませた)
そのブドーが、理央との再びの決闘を望み、スモーキーを人質(?)にとったこと。
首輪のこと。制限を解き放ったその先に待っている狡猾な罠のこと。
その制限はロンの腹心であるサンヨにさえ及んでいたこと。
そして、これからの行動のこと。
センとしては、勿論、スモーキーの救出に向かうつもりだった。
警官として、救いを求める者のことを見過ごすことなど出来ない。
だが、それは危地に自ら飛び込むということだ。他の者にそれを強制することもまた警官として出来ないことだった。
特に、変身できるとはいえ、菜月はただの女の子だ。巻き込むわけにはいかない。
「菜月ちゃんはどこか安全なとこ…」
「菜月行くよ!だって、シグナルマンさんも猫さんも菜月を捜してたんだもん。菜月だけ安全なとこでじっとしてなんかいられない!!」
揺るがぬ瞳で、菜月はセンを見つめてくる。
「……わかった。竜也くんは?」
「菜月ちゃんが行くのに、俺が行かないわけないじゃないですか。俺も行きます!」
竜也も菜月と同じ、説得は受け付けないという顔をしていた。センが頷くと、真剣な顔で頷き返した。
センはブクラテスに目をやると、理央に向きあう。
「えーっと、じゃあ理……」
「……おぬし、何故ワシを飛ばす?」
「冗談ですよ。ブクラテスさんはどうします?」
ジト目で、自分を睨むブクラテスに笑って、センは問いかけた。
「本当は、出来れば行きたくはないんじゃがの〜」
のこのこ出向いて、ブドーに『これも縁というもの。とどめを刺させて頂こう』などと言われるのは、ブクラテスとしては出来れば避けたかった。
「じゃが、菜月も竜也も行く気満々じゃ。さりとて、ワシ一人ここに残ったところで……」
552
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:39:34
『通りすがりのマーダーだ!覚えとけ!!』
『今から死にそうなのに、どうやって覚えておられるんじゃーーーー』
【ブクラテス 死亡】 残り〜〜人
「と、なるのがオチじゃからな。まあ、近くまで行ったら、さっきのように隠れさせてもらおうかのう」
「それで充分ですよ。いざとなったら逃げてもらって構いません。さて……」
改めて、センは理央に向き直った。
「……理央さんはどうしますか?」
センは彼が、大切な人を捜していることを知っていた。
その女性を、自分が仲間を想うように、あるいはそれ以上に想っていることも。
だからこそ、強制は出来ない。たとえ、スモーキーを救出する上で必要不可欠な存在だと知っていてもだ。
理央は目を閉じ、逡巡していた。
ひととき、彼らに沈黙が降りる。皆、理央の言葉を固唾を飲んで待っていた。
「……お前たちとともに行こう」
「本当にそれで良いんですか?」
「ああ、あいつは、メレはそう容易くやられるほど、やわな女ではない。それに、武闘の道を生きる者としても、勝負に背を向けるわけにはいかない。
だが、事が終わればお前たちにも探すのに手を貸してもらうぞ?」
「ええ、勿論です」
安堵の空気が、彼らの間を満たした。
だが、竜也とシグナルマンだけは難しい顔をしていた。
「メレさん、メレさんっと……えっと、なーんか忘れて……」
……ああ、色々ありすぎて忘れかけてたけど……
「あのー、すみません。理央さん」
おずおずと手を挙げる。
「なんだ?」
「俺、メレさんに会ってます」
「なん……だと!いつ!どこでだ!!」
竜也の胸ぐらを掴み上げかねない勢いで、理央が問い質す。
「あれはまだ夜中だったから……確か、二時頃ですね。場所はC5エリアでした」
「ああ、では今頃は別のエリアだろうな。どこに行くか言ってはいなかったのか」
「それが、そういうことは全然言ってくれなくて。理央さんを連れてこいとしか」
「そうか」
「お役に立てずにすみません」
そもそも、言うだけ言って、しかも肝心なことは何も言わなかったメレに責任があるのだが、なんとなく竜也は気落ちする。
「いや、少なくともその頃は無事としれて良かった」
彼女も自分を探しているのなら、必ず自分たちは再会出来る。理屈ではなく、理央はそう思った。
553
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:40:11
一方、シグナルマンは菜月にひそひそと問いかけていた。
「メレさんって誰だっただろうか?」
このシグナルマン、人の名前を覚えないことにかけてはチーキュー1!!である。
「ほら、シグナルマンさんが……ちゃった」
菜月がささやいた事実に固まったシグナルマンは、次の瞬間、理央に飛びつく勢いですがりついた。
「すまないーーーーー!!!!!」
「今度はなんだ」
「本官は本官は、彼女にとんでもないことをーーーーーー!!!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「……待ておぬし、今のは、なんぞいらん誤解を招いたぞ」
「貴様ーーー!!メレに何をした!!!」
「見ろ、言わんこっちゃない!!」
「待って下さい、理央さん。これにはたぶん何か事情が!」
「生きているとは思わなかったんだーーー!!」
「ああ、もう。余計、誤解を招くこと言わない!!」
「どういうことだ!!!まさか、貴様ぁぁぁぁぁ??!!」
「ああ、でも確かにあれはちょっとひどいかな?」
「菜月ちゃんも余計なこと言わない!」
結論から言うと、理央が怪我人で助かった。
554
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:40:42
◇
シグナルマンの発言で危うく、瓦解しかけたが、なんとか誤解の解けた理央たちは、放送を聞くと同時に、E9エリアに向かう為に身支度を整えていた。
まだ、約束の時間までは若干の余裕があったが、事態がどう動くか分からない以上、動けるうちに動いておくことに越したことはない。
センたちは理央の体調を慮ったが、そこは武闘に生きる者。お前たちとは鍛え方が違うと笑った。
実際、一度欠片も残さず絞りきった臨気は、理央にとっても予想外の早さで、元に戻りつつある。
それが、少しばかり理央にとって気にかかったが、今の状況ではそれがありがたくもあった。
カツン
ふと、理央の足に何か硬い物が当たる。小石かなにかだろうか?と拾い上げた理央は首を捻った。
金属の欠片?いや、潰れてひしゃげた指輪だろうか。
わずかに翼の意匠を残したデザインは、理央にとって見覚えはなかったが、そういえば幾度か菜月が地面に目を落とし、何かを探すような仕草をしていたことを思い出す。
では、これは彼女の物だろうか?
たぶん、そうだろうとあたりをつけると、彼女を呼びつける。
「おい、手を出せ」
無邪気に両手を差し出してきた彼女の掌に指輪を落とすと、菜月は目を瞠った。
「………真、墨?」
絞り出すような声が零れた。
訝しげに彼女を見た理央は、最初の放送で一番最初に呼ばれた名前を思い出す。
『伊能真墨』
では、これはそいつの物だったのだろうか。そして、彼女にとってその男はかけがえのない存在だったのかもしれない。あるいは自分にとってのメレと同じくらいに。
菜月は顔を伏せると、聞こえるか聞こえないかの声で哀しげにささやいていた。
「やっぱり……ここに………んだね。………ね、真墨」
なんとなくいたたまれずに、理央は菜月の前から立ち去った。
その心に燃えるのは、ロンに対する怒りのみ。
長い時間をかけてロンによって刻まれた悪夢を、全て掻き消すことなど、そもそも無理なことなのかもしれない。
もしそうであっても。悪夢に。焦燥に。渇望に。もう二度と惑わされはしない。
欲するのは守る為の力。弱き者を守り、愛する者を二度と失わない為の強き者の力。
残された者の悲しみを目にして、理央はいっそう深く心に刻んだ。
555
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:41:37
◆
それは、理央にとっても、戦いを仕組んだシュリケンジャーにしても、そして、敗れ砕け散ったサンヨにしても、予想だにしないことだった。
サンヨと、かつての理央やメレは同じ四幻将ではあるが、そもそもの生まれに大きな違いがある。
理央やメレのように、臨気に満ちた経絡に幻気を注ぎ込み、後天的に幻獣拳を取得した者たちと違い、サンヨはロンが己の不死の部分を切り離して作り出した存在である。
すなわち、サンヨとは幻気そのものであり、幻気とはサンヨそのものであった。
にもかかわらず、幻気を持たざる者を拒む瘴気によって作用するはずの制限が彼に効いているのは何故か。
そもそもは、ロンが彼にハンデを付けようとしたことが要因だった。
幻気の満ちるこの世界で、彼はあまりにも優位に立ち過ぎていた。
そのままでは、他の参加者にかかる制限がかかることもなく、たとえ、負傷したところで大気に満ちる幻気を取り込み、無限に再生していく。
このバトルロワイアルというゲームを楽しみたいロンにとって、いわゆる無敵状態の駒がいるというのは少々、簡単過ぎてつまらなかった。
だからこそのハンデである。
ロンは、サンヨという存在の入る器を作り上げ、その中に彼を押し込んだ。
つまり、人という器を持つ者。理央やメレと同じ条件になるようにしたのである。
サンヨにとって首輪とは、器の中に流れ込む幻気を制限する蓋であり、身の内から引き出せる幻気の量を最小限にする枷だった。
身の内から本来の幻気を引き出せる時間は、きっかり10分。
それ以上は器が耐えきれない為、2時間の冷却期間を必要とする。
冷たく冷やされたコップに、一気に熱湯を注ぎ込めばどうなるか。
耐えきれずにひび割れてしまうことだろう。
だがゆっくりと湯を注ぎ、熱さにコップを馴らしていけば、ひび割れることはない。
それと同じことが、サンヨの器にも言えた。
それが、ロンの言う特別扱い。
外から流れ込む幻気と、己の内に溢れる幻気。
それらをゆっくりと器に馴らしていけば、首輪を取ったとしてもサンヨの器がひび割れることはなかったのだ。
だが、彼は大技を撃つために大気中の幻気を掻き集め、あまつさえ、己の内の幻気を完全に引き出そうとした。
結果、器はその負荷に耐え切れず、ひび割れ粉々になっていく。
そこに、理央の攻撃をうけ、サンヨは彼という核さえ残せず粉微塵にされた。
結果、大気中には、他のエリアよりさらに高濃度の幻気が撒き散らされることになった。
もっとも、首輪をしている参加者にとっては、特にどうといった影響のない事である。
ただ一人、理央を除けば。
今でこそ捨て去っているが、彼はかつて幻気をその身に取り込んでいた。
彼にはその名残ともいうべき、幻気が留まりやすい土壌が整っていたのである。
さらには、毒蠍とブドーの穿った傷も全く予想だにしない影響を与えていた。
臨気を引き出す経絡は、鳩尾付近にある。
そのすぐ近くに傷が穿たれていたことで、そこから大気中に満ち満ちた幻気が入り込み、経絡を徐々に浸食していく。
理央の身の内に入り込んだ幻気は、彼の強さを求める心に反応を示す。
たとえ、その意志が愛する者や弱者を守りたいと思う心からきていたとしても。
本人も周りも気付かぬ胸の深い内で、事態は静かに進行していった。
556
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:42:13
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ブクラテスは信用できない。
第一行動方針:スモーキーを救い出す
第二行動方針:セン、理央、菜月、シグナルマンの力になる。
※首輪の制限を知りました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー。SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:スモーキーを救い出す。
※首輪の制限を知りました。
※ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:ダメージ小。腹に打撲痕。かなり凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数1個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵 、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:自分の無力さに強い怒りと悲しみ。
第二行動方針:スモーキーを救い出す。
第三行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第四行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
※首輪の制限を知りました。
557
:
誤解されやすい男! シグナルマン
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:42:59
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね、首輪探知機、毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:しばらくセンたちと一緒に行動。
第二行動方針:出来れば行きたくないんじゃが、まあしょうがないかのう
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:健康。真墨の遺品を目にしたことによる深い悲しみ。
[装備]:アクセルラー、スコープショット
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本、ひしゃげた真墨の指輪
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:スモーキーを救い出す。
第二行動方針:センと竜也、シグナルマンのサポート。
※首輪の制限を知りました。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:左胸に銃創、肩から脇の下にかけて浅い切り傷(手当て済み) ロンへの強い怒り。幻気が浸食中。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:スモーキーを救い出す。
第三行動方針:弱者を救ってやりたい。
※首輪の制限を知りました。
558
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 01:44:38
以上です。
正直、サンヨの制限関係はかなり冒険してしまったので、部分削除も覚悟しております。
ご意見、ご感想、ツッコミなどよろしくお願いします。
559
:
変えられる筈だ!せめて名無しの明日ぐらいは!!
:2009/06/01(月) 03:45:40
投下乙です。
感想は本スレに。
読み返して一つだけ誤字に気が付きましたのでご報告させて頂きます。
>>554
シグナルマンの発言で危うく、瓦解しかけたが、
誤解
この一点です。
重箱の隅(ryで申し訳ありません。
560
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/01(月) 12:17:17
感想&代理投下ありがとうございました。
>>シグナルマンの発言で危うく、瓦解しかけたが、なんとか誤解の解けた理央たちは、
誤字というか、脱字してしまっていたようです。
ご指摘ありがとうございました。
まとめ氏、お手数をおかけいたしますが、まとめ収録時に、
>>シグナルマンの発言で危うく瓦解しかけた一行だったが、なんとか誤解も解け、彼らは、
に差し替えて頂けますでしょうか?
よろしくお願いいたします。
561
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/04(木) 14:35:40
なんてこった。まだ見落としがあるなんてorz
まとめ氏、申し訳ありませんが、まとめ収録の際、センの状態表を
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー。SPライセンス
[道具]:バンキュリアの首輪
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:スモーキーを救い出す。
※首輪の制限を知りました。
※ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。
に差し替えていただけますでしょうか。
お手数おかけいたしますが、よろしくお願いします。
562
:
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 03:55:01
相変わらずの規制中のため、こちらに投下いたします。
563
:
遺志
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 03:55:33
海岸線の侵食を防ぐため、防波堤に設けられた消波ブロックの群々。
そのブロックの隙間で蠢くいくつかの影。
ネジブルーの襲撃から逃れた、メレ、シオン、裕作の3人だ。
尤も裕作は未だ意識が戻らず、シオンは虚空を見詰めたまま、微動だにしない。
見るからに機嫌悪く、身体をゆすっているのはメレひとりだけだ。
「ったく、おっそいわね。何をやってるのかしら」
安全な場所にという指示を受け、グレイは隠れ場所にここを選んだ。
なるほど、外からはまったく見えず、多少の物音は波の音がかき消してくれるこの場所は隠れるにはうってつけの場所と言えるだろう。
しかし、その環境は最悪だ。生ぬるい海水はメレの膝元にまで水位を上げ、消波ブロックにこびりついた苔は何とも言えない異臭を放っている。
とても長く居たい場所とは思えない。
「ああ〜、もう30分は経ったわよね?私の制限は取れたはずだし、様子を見てこようかしら?」
メレの問いかけに返す声はない。
「ちょっと、聞こえてるわよね?一応、意見を求めてるんだけど?」
どんな意見を述べられようと、メレの中でもう意思は固まっている。
だが、無視されるのは気分が悪い。メレは怒りを込めた眼光をシオンへと向けた。
「………」
シオンは心ここにあらずという感じで呆けている。今までのシオンと比べれば、まるで抜け殻のようだ。
メレはそんなシオンの様子に、なぜか心がざわついた。
「あんた、いい加減にしなさいよ!いつまでボケッとしてるのよ!あの猿顔が殺されて悔しいのなら仇をとればいいでしょ。
これぐらいで一々へこんでて、この先、やっていけると思ってんの!」
ガラじゃないと思いつつも、叱咤激励するメレ。しかし、シオンの表情に変化はない。
「理屈では……わかります。でも、やっぱり実際に死ぬ姿を目にしてしまうと……それに、恭介さんは僕を庇ってあんなことに。
僕が変身した姿を見て、動揺しなければ……すいません。もう少しだけ時間をください」
「……ふん、もういいわ」
メレは手頃な消波ブロックに手を掛けるとその場所から抜け出す。シオンが小さく制止の声を上げるが、怒るメレは意に介さない。
だが、数歩進んだところで、メレの足が止まった。数メートル先に黒いロボットの姿が見えたからだ。
「遅いじゃない!何してたの!?」
シオンへの苛立ちのまま、グレイに言葉をぶつけるメレ。
しかし、グレイは答えを返さないどころか、そのまま真っ直ぐにメレの方へと向かってきた。
(こ・い・つ・も・か・!)
564
:
遺志
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 03:56:16
一発くれてやろうと思ったときには、既にメレは蹴りを放っていた。
頭より先に身体が動いた。
グレイはそれを軽々と受け止め、そこでようやく視線を向けると、メレの行動の是非も問わず、「シオンは」とだけ呟く。
(ったく、むかつくわね)
メレは足を下ろすと、顎でシオンの居場所を示した。
グレイが視線を向けると、シオンもグレイが戻ったことに気付いたのか、裕作を担ぎ、丁度、消波ブロックから出てきたところだった。
「シオン」
「グレイさん………………あの……」
シオンは何かを問おうとしては、口を噤むを繰り返す。
グレイはシオンが何を問いたいか、そして、何故言えないかを察しつつも、その問いの答えを淡々と告げた。
「ドギーは死んだ」
「……そう……ですか」
予想はしていたことだが、実際に耳にすれば、その絶望感はシオンに重く圧し掛かっていく。
メレが見るシオンの表情はより一層の曇りを見せていた。
(こりゃ駄目ね)
この調子ではシオンはもう使い物にならない。見限り時かとメレは考えを巡らせ、ふとグレイを見た。
「諦めたくなったか?私は別に構わん。今からでも方針を変え、望みを叶えるため、殺し合いに乗ってもいい。
悲しみから逃れるため、死にたいというなら殺してやる。どうする?」
「ちょっ、あんた!」
「………」
グレイの申し出にメレは戸惑い、次々と言葉を投げかける。
マーダーになられてはシオンはともかく、グレイは相当厄介な存在だ。
それに自殺を選ばれても、それはそれで何か嫌だ。
「とにかく私は認めないわよ!」
だが、メレの怒声にもグレイは何の反応も示さず、無言のままのシオンをじっとその赤い瞳で見詰めた。
1分――2分――3分――そして、5分が経とうとしたとき、ようやくシオンが口を開いた。
「方針は……変えません。仲間を集めて、僕はロンを倒します。そして、みんなと一緒にここを脱出します」
「それはドギーや恭介のためか?」
「それもあります。でも、僕はタイムレンジャーで、ハバード星人ですから。
人の命を奪うことも、自分の命を無駄にすることも絶対にしたくありません」
565
:
遺志
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 03:56:47
未だシオンの言葉は弱々しい。だが、その言葉には確かさがあった。
それを感じたグレイはシオンへと差し出す。
「これは……首輪」
「ドギーのものだ」
「なに?死体を解体してたから遅れたの?」
メレの軽口も意に介さず、グレイは淡々と経緯を述べた。
「私が戻ったとき、既にドギーは息を引き取っていた。頭から真っ二つにされてな。
戦士なら最後の姿は見られたくない。私はドギーの死体を消すことにした。
だが、そこで私はあることに気付いた。頭から斬られたというのに、首輪には傷ひとつ付いていなかった。
おそらくドギーは敗北を覚ったとき、咄嗟に首輪を庇ったのだろう。そして、自分の命を賭してまで、わざわざ首輪を庇う理由はひとつしかない。
ドギーは私たちに……いや、シオン、お前に首輪を託した」
シオンは差し出された首輪を受け取る。
死体は酷い有様だったのだろう。首輪にはドギーのものであろう血が所々に付着していた。
しかし、その血は悲しみよりも勇気を、強くかき立てる。
「もう一度言おう。私達は同士だ。個々の力ならば私達に力及ばないはずの人間がバイラムを打倒したように……人の絆は何よりも脆く、何よりも強い。
――私はそれに賭けてみたいのだ……お前達と一緒に」
シオンは思わず首輪をギュッと握りしめる。そして、グレイに深く頭を下げた。
「わかりました、グレイさん。そして、ありがとうございます!」
頭を上げたシオンからは再び戦士としての意気地が窺えた。
その姿を見るグレイの佇まいはどことなく嬉しそうだ。
しかし、ひとり不機嫌な顔をしているメレ。
「ふん、私が慰めても、ぜ〜んぜん、反応しなかったクセに。現金なものね〜」
精一杯の皮肉を込めて、シオンに聞こえるように言葉を紡いだ。
「メレさんもありがとうございます」
566
:
遺志
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 03:57:18
だが、シオンにはそんな皮肉が通じるわけもなく、グレイに対してのものと同じく、深く頭を下げるシオンに、メレはまた微妙な表情を浮かべた。
▽
前向きになれば、頭も働く。シオンの脳内には早速、首輪に対する疑問が擡げていた。
10分間の能力解放に2時間の制限。それだけだと思っていたが、ネジブルーは20分間能力を解放できた。
どうして?首輪は何を見ている?そして、何に制限を掛けている?
溢れ出す疑問を解決するため、そして、一刻も早くこの場所から脱出するため、シオンは道程を急いだ。
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:健康。1時間30分程度戦闘不能。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数3発)、支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
567
:
遺志
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 03:57:54
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:健康。精神的ダメージ大。1時間変身不能。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、首輪(ドギー)、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:首輪の解析。
第二行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第34話後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:気絶。右肩、腹部、左足を負傷。1時間変身不能
[装備]:ケイタイザー
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:瞬を探す
[備考]
2時間の制限に気づきました。ヒカルと情報交換を行いました。メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
ヒカルがドモンを殺し合いを止めるように説得していると思っています。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
裕作の支給品はメレが預かっています。
568
:
遺志
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 03:58:28
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他一品、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:シオンの言動に不思議な感情を感じる。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。
569
:
遺志
◆i1BeVxv./w
:2009/06/07(日) 04:00:41
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご意見、ご感想があればお願いします。
570
:
暗黒七七四本槍
:2009/06/08(月) 13:04:19
投下GJです。
コンパクトにまとめられ、わかりやすいストーリー、またメレ様のツンデレ、もといツンメレっぷりがよかったです(笑
ただ、もう少しシオンの方針を変えるかどうかのあたりでドギーや恭介との回想などを絡めた心理描写があったらさらに作品にひきこまれたかなと思いました。
携帯から生意気言ってすみませんでした)汗
改めて投下GJでした。
571
:
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 09:05:17
ご感想ありがとうございます。
そこらへん、描写をあっさりするか、濃密にするか迷ったのですが、
ドギーや恭介に依存しない形で立ち直った方がいいかなと思い、薄くしてみました。
感想はどんなことでも励みになりますので、またいただければ幸いです。
572
:
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:30:14
例によって例のごとくというか。。。
規制中のため、こちらに投下いたします。
573
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:30:49
再生の繭へとひとり向かったドロップを待つ間、ジルフィーザは思い出にひたっていた。
(あのドロップが成長を遂げる……か。月日が経つのは早いものだ)
走馬灯を巡るかのように、今までの記憶が思い起こされる。
理屈の上では今のドロップが自分のいた時間より後から来たことは理解している。
しかし、ジルフィーザにとっては眼前のドロップも、同じ時を歩むドロップも、どちらも愛しい弟であることに変わりはない。
(弟の成長した姿を誰よりも先に見ることができる。ロンよ、それだけは感謝しておこう)
今か今かと待ち望む中、ふいにジルフィーザの耳へとエンジン音が届いた。
どうやら邪魔者がこちらに向かっているらしい。
(ドロップの成長の邪魔はさせん)
近づいてくるバイクの轟音に、ジルフィーザの杖を握る手に自然と力が込められていく。
ジルフィーザは音の聞こえた方へ向け、仁王立ちになって、杖を構えた。
「ぬっ!?」
だが、いざ視界にバイクを捉えると、こちらへ一直線に走ってくるバイクには誰も乗っていなかった。
思わず驚きの声を上げる。
「……甘いわッ!!」
しかし、驚きに隙を見せたのも一瞬。察知した気配の赴くままにジルフィーザは杖を奮った。
5時の方向。ジルフィーザの死角にあたり、丁度、身を隠すのに適した茂みがあった場所だ。
「Wow!」
刃の付いた杖の先には、予想通り、武器を手に携えた襲撃者の頭があった。
後一歩踏み出せば、その頭部はあっという間に割られた西瓜のようになることだろう。
「貴様、何者だ!」
「HAHAHA、はーい、久しぶりだね、ジルフィーザ」
馴れ馴れしいその男の顔に見覚えはない。だが、その口調には聞き覚えがあった。
「その口調、貴様、シュリケンジャーか」
「ピンポーン、正解さ!わかったら、引っ込めてくれないかい?ほら、本気じゃなかった証拠に武器なんてもってないだろ」
確かにシュリケンジャーの手に握られた武器と思わしきものは単なる水が入ったペットボトルだった。
もっとも素手で相手を殺せる者などごまんといる。それだけで信頼しろというのは無理な話だ。
「ふん」
だが、ジルフィーザは杖を収めた。
574
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:31:29
杖の一撃でシュリケンジャーを確実に殺せればいいが、もしその一撃をシュリケンジャーに避けられれば、戦闘になり、一転して、制限中の自分が不利になる。
シュリケンジャーは底が知れず、この状況も油断させるため、仕組んだ可能性がないとはいえない。
これが一対一の状況なら、本気か演技か、試してみてもいいが、ドロップの成長中にそんな危険は冒せない。
「HAHAHA、ごめんごめん、顔なじみにあったんで、ちょっと驚かせようと思っただけさ」
こちらに突進して来たバイクを宥めつつ、シュリケンジャーは軽口を叩く。
勿論、シュリケンジャーの思惑は別のところにあった。
シュリケンジャーは最初の一撃で、ジルフィーザが制限中かどうかを計るつもりでいた。
制限中ならその命をもらい、制限中でなければ、適当なところで分かれる。
ただ――
(う〜ん、見た目が変わらない奴はわかりにくいな〜)
さしものシュリケンジャーとて、今の一戦で判断を下すにはいたらなかった。
見たところ、ジルフィーザは未だ目立った傷もなく壮健なようだが。
(まあ、もうちょっと探ってみるか)
探りを入れようと、シュリケンジャーが口を開く。
だが、それより先にジルフィーザから言葉が投げかけられた。
「それが貴様の素顔というわけか」
出鼻を挫かれた形となったが、それをおくびにも出さず、シュリケンジャーは淡々と応じる。
「ああ、そうだよ。どうだい、結構イケメンだろう」
長めの髪をなびかせ、イケメンぶりをアピールするシュリケンジャー。
ちなみに、今は理央の顔だ。
「やはり、あの緑の姿は変身した姿だったというわけか」
(おっ〜と、これはジルフィーザも同じ腹ってことかな?)
話の流れから、ジルフィーザも相手が制限中かどうか探ろうとしているのではないかと予測する。
そうはさせまいと、シュリケンジャーは会話の主導権を握るべく、オーバーアクションをとりつつ、少し大きめの声を上げた。
「ところでジルフィーザ、探し人は見つかったのかい?ミーも会った何人かの参加者に聞いてみたけど、何の情報もなかったよ」
言外に、自分は味方で殺し合いに乗っていないことをアピールするのも忘れない。
575
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:32:58
それが功を奏したのか、ジルフィーザはしばしの黙考の後、話を変え、現状を語り始めた。
▽
「我は大魔女グランディーヌの第四子。我が再生の繭、魂のゆりかご、さあ、己が魂を迎えに来るのだ!!!」
ドロップの呼びかけに応じ、それは何もない空間から突如として現れた。
まるで燃え盛る炎のような紅蓮に染まり、龍の如き翼で包まれた繭。
(感じる。あの中にあるのは紛れもなく俺の肉体。そして、ジルフィーザに匹敵する冥王の力)
ドロップが手を上げると、それに呼応したかのように繭は光を放ち始める。
徐々に強まる光。そして、その光に触れたドロップの身体は溶けるように消え、小さな粒子となり、繭へと吸い込まれていった。
鼓動する繭。全ての粒子を取り込むと、ドクンドクンと繭の中で何かが蠢き始めた。
そして、数分後、爆発が起こった。
――ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!――
轟音と共に周りの全てが吹き飛ばされ、小規模なクレーターが形作られる。
その中央にゆっくりと舞い降りる紅き龍人。
翠色の瞳。ジルフィーザに匹敵する大きな翼。手に握られた鋭き双刃の槍。そして、胸に輝く冥王の星。
「これが俺の、竜皇子サラマンデスの新たな姿か」
成長した自分の姿に、興奮を隠せないサラマンデス。
全身に今までと比較にならない力が漲るのを感じる。予想以上の力だ。
これならば、例え、制限がない状態のジルフィーザといえども、敵ではない。
「ご成長、おめでとうございます」
「誰だ!?」
突然、後方より掛けられる声。反射的に振り返ると、後ろにいた何者かはサラマンデスの首に素早く手を添えた。
そして、それと同時にカチャリと硬質的な音が耳へと届く。
「これは」
「ふふっ、失礼。あなたの成長は喜ばしいことですが、さすがに首輪がないのは他の皆さんと比べ、不公平ですからね」
首に着けられたのは子供の時に着けられていたものと同じ首輪。
そして、眼の前に立つのは自分と同じ龍の名を持つ憎き主催者の姿。ロンだ。
576
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:33:46
「貴様ッ!」
サラマンデスは槍を振り上げると、ロンへと挑みかかる。
だが、ロンは黄金の靄になると、その攻撃を無効化し、サラマンデスの後方へと回り込んだ。
しかし、それぐらいでひるむサラマンデスではない。直ぐに体制を立て直すと、追撃を行うべく、走り出す。
「おっと、落ち着いてください。いいのですか、折角のジルフィーザを倒すチャンスをふいにしても」
その一言でピタリとサラマンデスの動きが止まる。
「貴様、なぜそのことを」
「私は何でもお見通しです。あなたから見れば、私は未来の存在。あなたがどういう存在で、あなたがどういう末路を辿るか、私にはわかっているのです。
私があなたをここに連れてこなければ、遠からぬ未来、あなたは……いえ、あなた方は敗北を喫します」
「我ら災魔一族が人間ごときに敗れると……」
「はい。――ですが、ご安心を。私の力を持ってすれば、そのような運命を変えることなど造作もありません。
私は運命を変えるチャンスをあなた方に与えているのですよ?」
「貴様の言葉を信じろというのか」
「信じる信じないは勝手です。私は主催者ではありますが、同時に傍観者でもあります。
ここでどんな決断を下そうが、私は関与するつもりはありませんよ。
例え、私を倒すという選択をしても……それはそれで面白いですしね」
ロンは不敵な笑みを浮かべ、挑発的な眼でサラマンデスを見つめる。
普段なら一笑に付す話だ。
だが、少なくとも時間を操るロンの力は本物。自分の時間軸では死んだはずのジルフィーザが生きて存在しているのが何よりの証。
更にこちらは成長直後で全ての能力が知れず、首輪という枷さえある。戦っても勝ち目は薄い。
そして、もしロンの言っていることが本当ならば、仮にロンを倒し、元の世界に帰還したとしても待っているのは敗北ということになる。
無能な兄や姉はともかく、母上が敗れるのはいささか信じがたいが――
「よかろう」
――どのみち今は信じるしかない。何より、今、優先すべきはジルフィーザを倒すことだ。
サラマンデスは槍を収めると、踵を返す。
577
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:35:08
「では、健闘を祈ります。ですが、お気をつけください。なにせジルフィーザには……」
ロンはその後ろ姿を満足気に見遣ると、意味深な笑みを浮かべ、その場から消えた。
▽
「――というわけだ」
「な〜るほど、ここにドロップがね〜」
「もう間もなく、ここに現れることだろう。先程、再生の繭も見えた。あの轟音はドロップが成長した証に違いない」
ジルフィーザはシュリケンジャーにドロップと出会い、成長のため、ここに連れて来たことを話した。
ただ、それ以外の事はほとんど告げていない。シュリケンジャーと分かれた後、誰と出会い、どのようなことが起こったのか。
シュリケンジャーとしても聞きたいのはそこだったが、警戒しているのだろうと、そのまま享受するしかなかった。
(まっ、同行者がいる以上、ジルフィーザを倒すのは後回しだな。警戒されているようだし。適当に吹き込んで、別の誰かを探すとするか)
「それでこれからどうするつもりだい?まあ、普通に考えると首輪の解除方法の模索だろうけど」
「首輪か」
ジルフィーザは首輪を軽く摩り、なぜか左腰へと視線を向けた。
「シュリケンジャーよ。俺はドロップを探すことに気を取られ、今まで他のことには考えが及ばなかった。
だが、いざ冷静に考えて見ると、首輪の解除より、脱出方法を探る方が先なのではないか?」
「Ummmmmm……どうだろうね?結局、首輪の解除も、脱出方法もどちらも必要だろうから順番が違うだけと言えなくはないけど。
でも、どちらかというと首輪の解除が先じゃないかな?首輪があるうちは迂闊に戦えもしないし」
「そうか、そう思うか」
「?、何か奥歯に物が挟まったような言い方するね?何か気付いたことでもあるのかい???」
迫るシュリケンジャー。だが、ジルフィーザの視線は既に別の方へと向いていた。
シュリケンジャーがその視線を追うと、そこには紅い龍人の姿があった。
「兄上、お待たせしました」
「おおっ、待ちかねたぞ。立派な姿になったものだ」
「ははっ。これからは兄上にいただいた名前、龍皇子サラマンデスと名乗り、より一層、災魔一族繁栄のため、働いていく所存です」
「うむ。期待しているぞ」
サラマンデスの成長したその姿に、満足気な表情を浮かべるジルフィーザ。
対して、サラマンデスは気が気ではない。折角のチャンスだというのに、横には見知らぬ男の姿。
ジルフィーザの制限が解けるまで、後数分。それまでに片付けねばならぬというのに。
578
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:35:48
「兄上、この者は?」
あくまで冷静を装い、ジルフィーザに質問する。
「ミーかい?ミーは天空忍者、シュリケンジャーさ☆」
おどけてはいるが、油断のならない実力者であることをその佇まいからサラマンデスは一目で見抜いた。
しかし、それは同時に、このままではジルフィーザの抹殺ができないことを意味している。
(あと数分、一か八か)
突如、サラマンデスはシュリケンジャーに槍を向けた。
「おっと、急にどうしたんだい?」
「その顔、見覚えがあるぞ。貴様、ロンの手の者だな」
ハッタリだ。サラマンデスはシュリケンジャーの顔、理央の顔など、覚えてはいない。
ただ、この行動に怯み、とにかく追い払えればそれでよかった。
敵意を向け、シュリケンジャーに迫るサラマンデス。だが、ジルフィーザがその手を制した。
「兄上!」
「落ち着け、サラマンデス。こいつはお前が知っている男ではない。
こいつは変装しているだけだ。そうだな、シュリケンジャー?」
「「なっ!?」」
サラマンデスとシュリケンジャーの驚きの声が重なる。
「気付かないと思ったのか。その顔、理央とかいう男のものだろう。広間に集められた者なら、ほとんどがその顔を覚えている。
何か考えがあって、その顔にしているのかと思ったが、その驚きよう、どうやら、俺の考えすぎだったようだな」
ジルフィーザの指摘通り、それはシュリケンジャー、痛恨のミス。
誰かを煽るには何かと都合がいいと、理央の顔を変えなかったのだが、まさかそれが裏目に出るとは。
「ははっ、道理でミーをちっとも信用してくれないわけだ」
「当たり前だ。顔を見せない相手をどうして信用できよう」
「ミーもまだまだ修行が足りないね」
自らの失敗を深く反省するシュリケンジャー。
だが、その気分はまったく落ち込んでいない。むしろ、徐々に高揚し始めていた。
「でもね、怪我の功名って言うのかな。このミスのおかげで、面白いことがわかったよ」
「面白いこと?」
シュリケンジャーは懐よりシュリケンボールを取り出すと、それを胸へと掲げ、声を上げた。
「天空シノビチェンジ!」
579
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:36:38
シュリケンボールの中の星が回転し、たちまちシュリケンジャーの身体が緑のシノビスーツに包まれる。
「貴様、何のつもりだ!」
「こういうつもりさ☆シュリケンズバット!」
シュリケンジャーはバット状の鞘から刀を抜くと、ジルフィーザに襲い掛かる。
ジルフィーザは杖で第一波を防ぐが、直ぐに第二波、第三波を繰り出してくる。
「ぬぅぅっ、シュ、シュリケンジャー!」
「制限中なんだろ、ジルフィーザ?ミーを怪しみながらも、話を続けていたのは時間稼ぎってところかな」
その言葉が正しいと証明するかのように、防ぎきれないシュリケンジャーの攻撃がジルフィーザの身体を次々と切り裂いていく。
「ぬぐぅ」
「なんで、気付いたかって?それはミーの他に、ユーの命を狙う者がいたからだよ。そうだろ、サラマンデス?」
「何!?」
「その顔、見覚えがあるぞ。貴様、ロンの手の者だな。ユーはこう言ったよね?でも、それは有り得ないんだ。
理央はロンと相対する存在だし、ユーと会って、危害を加えた可能性もほぼゼロ。
なら、その言葉はミーをここから遠ざけるための口から出任せ。そして、遠ざける必要があるとするなら、その理由は?」
「言うな!」
ジルフィーザは渾身の力を込めて、杖を叩きつける。制限中とは思えないほどの大きな穴が大地に空いた。
だが、どんな破壊力の攻撃も当たらなければ意味はない。
「サラマンデス、ミーと組まないかい?色々あってね、今、ミーは殺し合いに乗ってるのさ。
ミーは変装の特技を活かして、扇動者になり、なるべく手を汚さず数を減らすつもりさ。
ただ、ミー一人じゃ、ちょっと骨でね。ユーが協力してくれたら、やりやすくなると思うんだけど」
「戯言を!」
ジルフィーザが再び、杖を薙ぎ払う。だが、その攻撃もあっさりとかわされた。
(くっ、やはり制限中ではどうともならぬか)
焦燥感を募らせるジルフィーザ。
その時、サラマンデスが動いた。
シュリケンジャーとジルフィーザの間に入ると、槍を構え、ジルフィーザを庇うように立つ。
「おやおや、ミーが思ってたより、兄弟の絆は深いということかな」
「ふっ、そうだな!」
580
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:37:13
瞬間、サラマンデスは振り向き様に、手にした槍でジルフィーザを貫いた。
ジルフィーザの背中から、槍の穂先が突き出ると共に鮮血が飛び散る。
「な、何故だ……」
ジルフィーザが信じられないといった表情でサラマンデスを見ていた。
サラマンデスはその滑稽さに笑みを浮かべる。
「兄上、いや、ジルフィーザ。俺の時間では既に天の時代は終わっている。これからは龍の時代だ」
サラマンデスの胸の冥王の星が、ジルフィーザの冥王の星に呼応するかのように煌く。
「ド、ドロップぅ……」
「ドロップはもういない。俺は冥王、龍冥王サラマンデスだ!!」
その言葉と同時にサラマンデスは勢いよく槍を引き抜くと、今度はその槍を袈裟懸けに奮った。
「ぐぉぉぉぉぉぉっ!!」
轟く断末魔。ジルフィーザの身体から吹き出る更なる鮮血。
そして、そのまま、ジルフィーザはゆっくりと大地へと倒れこんだ。
「ド、ドロ……――」
力尽きたのか、その手からカラリと、杖が滑り落ちる。
―パチパチパチ―
「やあやあ、ブラボー!ブラボー!」
その顛末を見届けたシュリケンジャーはサラマンデスに拍手を送った。
相手を油断させ、一撃の元に仕留める。見事な騙まし討ちだった。
後は、サラマンデスが自分との交渉に乗ってくるかだが――
「何人までだ」
「うん?何がだい」
「貴様と協力する期間だ。共に優勝を目指す以上、最後までということはありえまい?」
どうやらその心配はなさそうだ。
「ふふっ、そうだね。ミー達を含めて……」
シュリケンジャーはパッと手を開き、言葉を続けた。
「残り5人まででどうだい?」
サラマンデスはシュリケンジャーの言葉に頷き、肯定の意思を示すと、傍らに置いてあった自分とジルフィーザのディパックを手に取った。
581
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:38:10
それだけで意図が伝わったのだろう。シュリケンジャーもディパックを手に取り、バイクへと移動する。
汚らしい死体を前に交渉するのは無粋というものだ。
準備を終え、その場から去ろうとしたとき、ふとジルフィーザの顔が視界に入った。
その虚ろな視線は何処を見ているとも知れなかったが、サラマンデスには何故か自分を見ているように感じられた。
「ふん!」
その視線を断ち切るように、サラマンデスはジルフィーザの顔を踏みつける。
「兄上、お世話になりました。これから災魔一族は私の指揮の元、発展していくことでしょう。それでは」
最後に足蹴にすると、サラマンデスとシュリケンジャーは共に去っていった。
▽
「……………」
残されたジルフィーザの屍。いや、その表現は今はまだ正しくない。
なぜなら、ジルフィーザにはほんの微かではあるが、まだ息があった。
「……………」
もっとも、屍という表現が正しくなるのも時間の問題のようだが。
そんな有様だというのに、ジルフィーザは最後の力を振り絞り、左手を空へと翳していた。
「……………………ぅ」
だが、ジルフィーザが頑張れるのもそこまで。
やがて、蚊の鳴くような声で小さく呻くと、その瞳は赤色の光を失い、翳していた手が身体へと下ろされた。
582
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:38:40
そして、ジルフィーザは屍となった。
――かに見えた。
突然、時間が巻き戻されたかのように、ジルフィーザの傷のひとつひとつが塞がっていく。
失われたはずの瞳にも再び、煌々とした光が灯りはじめる。
「ぬぉぉぉぉぉっ!」
獣のような雄叫びが上がる。そして、今までの有様が嘘のように、ジルフィーザは力強く大地を踏んだ。
「まさか、無駄だと思った支給品を使う機会があろうとは。そして、まさか、その効果が本物だったとはな」
ジルフィーザに用意された支給品はたったひとつ。だが、その支給品は到底、信じられぬ効果を持つものだった。
真毒。長く延びた爪のようなそれは、死者に毒で死を与えることによって、命を裏返し、生を与える臨獣スネーク拳の秘伝リンギの一部。
効果が書かれたメモを読んだとき、ジルフィーザは馬鹿馬鹿しいと、すぐさまそのメモを破り捨てた。
殺し合いをさせることが目的だというのに、復活させることができる道具など、あまりにこの場に不釣合いだ。
それに、この道具を使えば、首輪を無理やり外し、その後、この道具を使い復活という手段さえ可能。
ジルフィーザはこの道具の説明書自体がトラップで、希望を抱いた誰かを絶望に追いやり、嘲笑うことが目的だと考え、その存在を誰にも伝えなかった。
当然、使う気も更々なかったが、どうせ死ぬならと最後の力を振り絞った結果が今の自分だ。
「全ての傷が再生されるとは、なんという強力な力よ」
その効果にジルフィーザも驚きを隠せない。
そして、真毒の効果が本物となると、やはり制限を掛けているのは首輪ではなく、暗黒災魔空間や幽魔地獄のように、空間そのものに制限がかかる仕掛けが施されているというのが妥当だろう。
その証拠に、シュリケンジャーは変身していたというのに、最初に集められた広間では変身が解ける様子はなかった。
やはり、見つけるべきは脱出の方法。ここから出れば、制限はなくなり、首輪の脅威はロンからのリモート操作ただ一点のみとなる。
しかし、そのことに気付いても、今のジルフィーザに伝える相手など、どこにもいない。
「ドロップ……」
胸に輝く冥王の星を見た時、もしかしてという予感はあった。
だが、ジルフィーザはドロップの時間軸で自分が死に受け継がれたのだろう程度にしか考えなかった。
いや、考えないようにしたというのが正解だろう。
しかし、結局は愛しい弟は野心を持ち、兄の身を貫いた。
「何故だ。兄はお前達兄弟のためならこの命は惜しくない。もし、どちらかしか生き残れないというのなら、喜んでこの命を差し出しただろう。
なのに何故、お前はこの兄を最初に狙った。何故だ、ドロップ!」
583
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:39:19
ジルフィーザの拳が大地を揺らす。
信じていた家族に裏切られた悲しみと理不尽な仕打ちに対する激しい怒りに、今はまだ、ジルフィーザはその場を動くことができなかった。
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:健康。ドロップに裏切られて意気消沈。
[装備]:杖
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:???
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・ジルフィーザの個別支給品は真毒でした。
584
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:39:51
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:健康。サラマンデスに成長完了。能力発揮中。
[装備]:なし
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物、支給品一式(ドロップ、ジルフィーザ)
[思考]
基本行動方針:とりあえず優勝狙い
第一行動方針:シュリケンジャーと協力して、数減らし。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:健康。能力発揮中。現在は理央の顔です
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー
[道具]:SPD隊員服(セン)、包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第三行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
585
:
炎の龍冥王誕生
◆i1BeVxv./w
:2009/06/09(火) 21:42:46
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点など、指摘事項、ご感想などありましたら、お願いたします。
586
:
第二回放送草案
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/11(木) 01:22:14
『今日は死ぬにはいい日だ』というのは、きっとこんな日の事だろう。
下界で起こっていること全てがまるで嘘のように、空は穏やかだった。
抜けるほどに高い空は目に染みる青。風は凪ぎ、雲は緩やかに流れている。
眩しいほどの光を放つ太陽は遙か高く、空の高みまで。
その高みの頂きに男が一人佇んでいた。
踏みしめる物など何もない空の頂きに、危うげなく立つ男の名はロン。
無間の時を生きる龍が退屈しのぎに取った人の姿で、ロンは下界を見下ろしていた。
「ああ、サンヨ。死んでしまうとは何事ですか」
見下ろした先。粉々に砕け、今は大気の中にその名残を漂わせるのみとなった己が分身につまらなさ気に語りかける。
放送のチェックの為、生死の確認をしてまわっていたが、サンヨにはその必要さえなさそうだ。
「まったく、せっかく特別扱いしてやったのに。貴方がそのようでは私が他の方に侮られてしまうんですよ?ですが、まあ……」
ククッと喉の奥で笑う。
「おかげで少々面白い物が見られるかもしれませんしね」
さて、これから彼らはどれだけ自分を楽しませてくれるだろう。
悪意というよりいっそ無邪気にさえ聞こえる呟きは、大気に溶け、下界に届く前に散っていった。
やがて時刻は定刻を刻む。
放送は下界をどんな感情で満たすだろうか。
憎悪? 怨嗟? 歓喜? 疑心? 安堵? 悲哀? 不屈? 絶望?
どのような感情であろうとそれは、空虚な退屈にあえぐ龍の心を満たしてくれるだろう。
己に刃向かわんと牙を研ぐ者さえ、絶対者たる慢心を誇るロンには余興の一つでしかないのだから。
587
:
第二回放送草案
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/11(木) 01:23:47
◆
『さて、前回の放送から6時間程たちましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
楽しんで頂けていれば、こちらとしても幸いなのですが。
では、定時の放送を始めましょう。
まずは、残念なことにこの6時間で亡くなられた方から。
サーガイン、サンヨ、陣内恭介、巽マトイ、ドギー・クルーガー、フラビージョ、真咲美希、以上の7名になります。
おやおや、皆さん随分お楽しみの様子でこちらとしても安堵いたしました。
正義の味方の皆さんも案外……、ああ、これ以上言ったらきっと怒られてしまいますね。
それでは、次は禁止エリアの発表をいたしましょう。
13時に海岸H7
15時に海岸H6
17時にオアシスE9
以上が今回の禁止エリアとなります。
そろそろ皆さんの中に、首輪の威力を間近に目にした方が出た頃合でしょうか?
皆さんのお命の為にも、誤って足を踏み入れたりしないようお気をつけください。
残る人数は、26人。
6時間後もお会いできますよう、皆さんのご健闘をお祈りしております。
それでは、また6時間後にお会いしましょう』
◆
果たして会場に満ちた思いはどのようなものであったか。それを知るのはただ無間龍、それだけのみ。
588
:
第二回放送草案(修正版)
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/11(木) 19:45:31
『今日は死ぬにはいい日だ』というのは、きっとこんな日の事だろう。
下界で起こっていること全てがまるで嘘のように、空は穏やかだった。
抜けるほどに高い空は目に染みる青。風は凪ぎ、雲は緩やかに流れている。
眩しいほどの光を放つ太陽は遙か高く、空の高みまで。
その高みの頂きに男が一人佇んでいた。
踏みしめる物など何もない空の頂きに、危うげなく立つ男の名はロン。
無間の時を生きる龍が退屈しのぎに取った人の姿で、ロンは下界を見下ろしていた。
「ああ、サンヨ。死んでしまうとは何事ですか」
見下ろした先。粉々に砕け、今は大気の中にその名残を漂わせるのみとなった己が分身につまらなさ気に語りかける。
放送のチェックの為、生死の確認をしてまわっていたが、サンヨにはその必要さえなさそうだ。
「まったく、せっかく特別扱いしてやったのに。貴方がそのようでは私が他の方に侮られてしまうんですよ?ですが、まあ……」
ククッと喉の奥で笑う。
「おかげで、少々面白い物が見られるかもしれませんねぇ」
さて、これから彼らはどれだけ自分を楽しませてくれるだろう。
悪意というよりいっそ無邪気にさえ聞こえる呟きは、大気に溶け、下界に届く前に散っていった。
やがて時刻は定刻を刻む。
放送は下界をどんな感情で満たすだろうか。
憎悪? 怨嗟? 歓喜? 疑心? 安堵? 悲哀? 不屈? 絶望?
どのような感情であろうとそれは、空虚な退屈にあえぐ龍の心を満たしてくれるだろう。
己に刃向かわんと牙を研ぐ者さえ、絶対者たる慢心を誇るロンには余興の一つでしかないのだから。
589
:
第二回放送草案(修正版)
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/11(木) 19:47:35
◆
『さて、前回の放送から6時間程たちましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
楽しんで頂けていれば、こちらとしても幸いなのですが。
では、定時の放送を始めましょう。
まずは、残念なことにこの6時間で亡くなられた方から。
サーガイン、サンヨ、陣内恭介、巽マトイ、ドギー・クルーガー、フラビージョ、真咲美希、以上の7名になります。
おやおや、皆さん随分お楽しみの様子でこちらとしても安堵いたしました。
正義の味方の皆さんも案外……、ああ、これ以上言ったらきっと怒られてしまいますね。
それでは、次は禁止エリアの発表をいたしましょう。
13時に海岸H7
15時に都市D7
17時にオアシスE9
以上が今回の禁止エリアとなります。
そろそろ皆さんの中に、首輪の威力を間近に目にした方が出た頃合でしょうか?
皆さんのお命の為にも、誤って足を踏み入れたりしないようお気をつけください。
残る人数は、26人。
6時間後もお会いできますよう、皆さんのご健闘をお祈りしております。
それでは、また6時間後にお会いしましょう』
◆
果たして会場に満ちた思いはどのようなものであったか。それを知るのはただ無間龍、それだけのみ。
590
:
第二回放送草案(修正版)
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/11(木) 19:48:06
以上です。よろしくお願いします。
591
:
第二回放送草案(修正版ver.2)
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/11(木) 20:45:46
◆
『さて、前回の放送から6時間程たちましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
楽しんで頂けていれば、こちらとしても幸いなのですが。
では、定時の放送を始めましょう。
まずは、残念なことにこの6時間で亡くなられた方から。
サーガイン、サンヨ、陣内恭介、巽マトイ、冥府神ティターン、ドギー・クルーガー、フラビージョ、真咲美希、以上の8名になります。
おやおや、皆さん随分お楽しみの様子でこちらとしても安堵いたしました。
正義の味方の皆さんも案外……、ああ、これ以上言ったらきっと怒られてしまいますね。
それでは、次は禁止エリアの発表をいたしましょう。
13時に海岸H7
15時に都市D7
17時にオアシスE9
以上が今回の禁止エリアとなります。
そろそろ皆さんの中に、首輪の威力を間近に目にした方が出た頃合でしょうか?
皆さんのお命の為にも、誤って足を踏み入れたりしないようお気をつけください。
残る人数は、26人。
6時間後もお会いできますよう、皆さんのご健闘をお祈りしております。
それでは、また6時間後にお会いしましょう』
◆
果たして会場に満ちた思いはどのようなものであったか。それを知るのはただ無間龍、それだけのみ。
592
:
第二回放送草案(修正版ver.2)
◆Z5wk4/jklI
:2009/06/11(木) 20:46:49
以上です。
本当にティターンにも、皆さんにも申し訳ないですorz
593
:
暗黒七七四本槍
:2009/06/14(日) 16:09:20
規制中のため、こちらに。
投下乙です。
様々な抵抗があるにも関わらず、まだまだ余裕が残るロンの大物?っぷりが光る作品でした。
あと、ロンの言動が一々面白かったです。
二回放送が終わり、次のフェイズが楽しみです。
594
:
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:16:14
規制中のため、こちらに投下します。
もうプロバイダー変えたいorz
595
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:18:38
「はぁ、はぁ、はぁ」
荒い息を吐きながら、ドモンは海岸を歩く。
ドモンの服は所々が破け、既にボロ着と化していた。
辛うじて服としての体裁は保っているが、もはや雑巾として使えるかすらも怪しい。
そして、ドモンの身体はその服以上にボロボロだ。
骨にはひびが入り、皮膚は腫れ上がり、火傷、打撲傷、裂傷、擦過傷など様々な傷が、顔、胴、腕、足など様々な箇所に、無数に鎮座している。
特に左足は感覚が希薄で、力が入らず、引き摺るしかない。
それでもなお、こうして歩いていられるのは偏に彼の鍛え上げられた肉体と強い精神力の賜物だった。
「ビビィー、もっと早く歩けないビビか。遅すぎるデビ〜」
そんな状態だというのに、容赦のない声が彼の頭上から響く。
彼の水先案内人、ビビデビの声だ。
「はぁ、はぁ……うるせぇ、てめぇは黙って、辺りを警戒してろ。そして、誰か見かけたら直ぐに俺に知らせるんだ。いいな」
ビビィとドモンを小馬鹿にしたように笑うと、ビビデビはドモンの数メートル先へと進んでいく。
その後ろ姿にドモンは疑念を深めていた。
ヒカルを飛ばした場所に案内してやると、自分と合流してから1時間と少し、歩みが遅いといっても1エリア程度は進んでいる。
ビビデビの話では飛ばした距離は2エリア程度。ヒカルもドモンを探し、こちらへ向かっているはずだ。
それなのに一向に出会える気配がない。
入れ違ったのか、そうでなければ、ビビデビが嘘を吐いたのか。
だが、ドモンはそれが嘘でも構わないと思っていた。
仲代壬琴が持ちかけたゲーム。あの場では乗ると応えたが、最終的に乗るか、反るかはヒカルと相談して決めるべきだ。
仲代はいかにも頭がよさそうな雰囲気を醸し出していた。
そんな男の言うことだ。馬鹿な自分が鵜呑みにしては、どんな罠に嵌まるとも知れない。
ならば、今、自分がやるべきことは壬琴と会う前と変わらない。
まずは一人。誰かを殺し、真の意味でのヒカルの仲間となる。
合流はその後でいい。いや、その後でなければならない。
そのためにビビデビには斥候をやらせてある。
そして、ビビデビが誰かを見つけたら――
「俺は殺す。そいつが誰であろうと。男であろうと、女であろうと」
596
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:19:13
確固たる決意を胸に、ドモンは拳を握り締めた。爪が肉に食い込むほどに、強く、強く。
▽
「壬琴様も面白いこと考えるデビ。でも、ビビデビは誰かを優勝させなきゃいけないデビ。
だから、ビビデビは裏切って、参加者が壬琴様を妨害するように仕向けるビビよ!
――あれ?これじゃあ、裏切ってないような?……まあ、いいデビ♪」
ビビデビは空中をふわりふわり移動しながら、そんな独り言を漏らした。
余程しっかりしつけられたのだろう。裏切るとは言いながら、壬琴への敬称は『様』のままだ。
「それより、ドモンビビ。あんなボロボロじゃあ、期待できないビビね。適当な奴と戦わせて、さっさと退場させるデビ」
それがドモンの思惑通りとも知らず、ビビデビは高く飛び、辺りを観察する。
海岸エリアとはいえ、市街地との境界線に近いせいか、いくつかの建物が並び、空からの見通しはすこぶる悪い。
もし誰かいたとしても、空からの偵察を意識していれば、身を隠すのは容易いことだろう。
もっとも、能力が制限されている状況で、空を警戒している人物など、数人程度だろうが。
「それにしても、ヒカルはこっちじゃなかったみたいビビね。勘が外れたビビ」
ヒカルを飛ばすとき、ビビデビが考えたのは『とにかく遠くに飛んでいけ!』だった。
ようするに何も考えずに飛ばしたのだ。正確な位置はビビデビにもわからない。
だが、まったくのデタラメをドモンに吹き込んだわけでもない。
何も考えずに飛ばしたのなら、対象はビビデビから見て、正面の方向に飛ぶ。
はっきりとどの方角を向いていたかは覚えていないが、海岸エリアを向いていたことだけは確かだ。
(東か、南か、南東か。3分の1だったビビけどね〜)
結論から言ってしまえば、ドモンの進んでいる方角は不正解だ。
ヒカルが飛ばされた方角は南。対して、ドモンの進んでいる方角は東。
ベクトルが違う矢印が交じり合うことはない。
「〜〜♪」
だが、他の誰かとの矢印なら話は別だ。
「やあ、ビビデビ!」
597
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:19:45
もっとも、その出会いがもたらす結果はわからないが。
▽
倉庫でロンの定時放送を聞いたネジブルーは、自分のいるエリアが少なくとも6時間は無事なことを知ると、ホッと胸を撫で下ろす。
折角メガブルーの氷柱を運び込んだというのに、移動に時間を取られては、退屈凌ぎの時間が減ってしまう。
「ひょっとして、気を利かせてくれたのかな〜?まあ〜、どうでもいいけど。ヒャハッ」
ネジブルーは氷柱と台車を目立たないように偽装すると、倉庫を出た。
「とりあえず海岸をぐるっと一回りといこうかな」
タイムブルーへの変身制限が解けるまで、まだほんの少し時間があったが、そんな数分に怯えるほど、ネジブルーは臆病者ではない。
あっという間に、制限解除の時となり、クロノチェンジャーに光が灯る。
「いいね〜、この感覚。早く誰かに会えないかな」
他のせっかちなネジレンジャーと違い、ネジブルーは待つことに楽しさを感じることができる。
更にメガブルーは既に手の内ともなれば、慌てることは何もない。ただそのワクワクに身を任せればいい。
「〜〜♪」
思わず鼻唄が漏れ出す。ご機嫌な証拠だ。
(うん、あれは?)
ふと、視線の端に白い物体が見えた。
ネジブルーは顔を上げ、その物体を視界の中心に捉える。
それは白い鞠に紐を垂らしたような滑稽な物体。だが、ネジブルーはそれをどこかで見た覚えがあった。
(え〜っと、なんだったかな。………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………ああ、そうそう)
長い黙考の末、ようやくその物体の名前を思い当たったネジブルーはその名を大きな声で呼んだ。
「やあ、ビビデビ!」
ネジブルーの声を聞いた黒い物体がビクリと震え、ゆっくりと振り向く。
若干、自信がなかったが、どうやら当たりらしい。
「い、何時の間に。それにビビデビの名を知っているとは何者ビビ?」
ビビデビはネジブルーの顔を見ると、先程のネジブルーと同じように、何か考えているような顔になった。
そして、しばしの後、思い当たったその名を口にする。
598
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:20:16
「ああっ!メガブルービビ!」
ネジブルーはその名前を聞いたとき、少しだけ驚いた表情を浮かべた。
なんでビビデビがメガブルーの素顔を知っているのかと。
だが、特に気にすることでもないと、直ぐに嘲るような表情に変わった。
「ブッブー!ハズレさ〜」
ネジブルーはディパックから壊れたネジスーツの頭の部分を取り出し、ビビデビに見せる。
「ぎょえ、ネジブルー!」
「そう正解だよ。じゃあ、早速」
ネジブルーはソニックメガホンを取り出すと、ビビデビに構えた。
「そぉ〜ら、マワレェェェェェッ!」
「ちょっと待ッ――」
ソニックメガホンに取り込まれた声は言霊へと変換され、ビビデビへとぶつけられる。
身体の自由が奪われたビビデビはその声の指示に従い、グルグルグルグルと回っていく。
「ヒャハハハッ、でも、変だね。参加者名簿にビビデビって名前なんかあったかな〜?」
「だだだだだだだから――ビビビビビビビビビデビは――さささささ参加者じゃなくて――しししししし支給品ビビビビビビ」
「支給品?誰の?」
「俺のだよ」
ネジブルーの首に太い男の腕が巻きつき、右のこめかみに大きな手が添えられる。
ドモンだ。
ネジブルーを見つけたドモンの反応は早かった。
建物の陰を利用し、後ろに回りこみ、チャンスを窺う。
ビビデビに気を取られた所為か、ネジブルーの後ろ姿は隙だらけだった。
労せず、所謂、スリーパーホールドの体勢を形作ることに成功する。
だが、その目的は絞め落とすことではない。首を圧し折ることだ。
今の自分の状態では正面からの戦いは勝ち目が薄い。それに相手によっては情が湧くこともある。
余計な仏心を起こす前に殺すため、ドモンは両の腕に全ての力を込めた。
599
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:20:57
「つまらないね」
常人ならそれで決まりだっただろ。だが、残念ながら、相手は常人ではない。
一瞬にしてネジブルーの姿が、人間のものから怪物――ネジビザールの姿へと変わる。
身体のサイズが変わったことで、拘束が緩まり、巻きついていた腕は丁度、ネジビザールの口の位置へと移動していた。
「ヒャグッ」
口を開け、ネジビザールはその腕へと噛み付いた。
鋭く研ぎ澄まされた刃の如き歯が、腕に突き刺さっていく。
「ぎゃぁぁぁぁっっ」
ネジビザールの後ろから悲鳴が上がった。ネジビザールにとって、それはいつもなら甘美な音楽になりえるが、今は非常に耳障りな悲鳴だ。
つまらないことをするつまらない奴は悲鳴すらもつまらない。
ネジビザールは顎に力を入れ、腕をしっかりと固定すると一本背負いの要領で、ドモンを放り投げた。
背中から思いっ切り叩きつけられ、ドモンは声を失う。
「気付いてないと思ったかい?折角、楽しい遊びなのに、すぐに終わらせようだなんて、つまらないにも程があるよ。
もっとも、お前みたいにつまらない奴とは、一瞬でも楽しめそうにないけどね」
ネジビザールは駄目押しにと、増加した体重で腹を踏みつける。
「……!」
ドモンは白目を剥き、そのまま気を失った。
「ビビ〜、流石はネジブルービビィ。強いデビィ」
ソニックメガホンの効果から逃れたビビデビが感嘆の声を上げる。
だが、ネジビザールの機嫌は悪かった。直前の気分が良かっただけに、その機嫌の悪さは最悪といっていい。
「ビビデビ、なんなのこいつ〜?こんな奴がよく今まで生きてられたね〜」
「実は――」
ビビデビは今までの経緯をネジビザールに説明する。
ネジビザールがDr.ヒネラーに利用されるだけの存在だったとはいえ、同じネジレジアの一員に会えたことは素直にうれしい。
ドモンには隠していたヒカルの位置がはっきりしないことも含めて全てを包み隠さず口にする。
「へぇ、もうそこまで準備ができた奴がいるんだ。そいつなら、俺を楽しませてくれそうだね」
ないたカラスがなんとやら。
仲代壬琴の情報を耳にしたネジビザールはもう笑顔になっていた。
「ビビ〜。じゃあ、こいつにもう用はないビビ。さっさと始末するデビ」
600
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:21:30
「いや、それはよそう」
ほんの数秒前まで、殺る気満々だったネジビザールの発言に、ビビデビは不可思議な表情を見せる。
「つまらない奴だけど、仲代壬琴だっけ?そいつはこいつで楽しもうとしてるんだろ?なら、邪魔をするのは悪いからね〜。
それより、つまらないこいつが面白くなるよう、俺も仕向けないと。それが冴えたやり方だと思わないかい、ビビデビ?」
その笑顔に、ビビデビは仲代壬琴とに通じる何かを感じていた。
▽
ネジビザールがその場を去って、数十分後、照りつける太陽が、ドモンの意識を覚醒へと仕向ける。
(……あいつ、俺を殺し損なったのか?)
何故か生きていることに疑問を感じながらも、ドモンは眼を開け、上体を起こす。
(どこだここは?)
その瞳に飛び込んできた光景は気を失った場所とまったく違ったものだった。
大地が砂浜である以上、海岸エリアなのだろうが、見覚えはない。
(まあ、いいや。とりあえず、なんか目印のある場所まで移動しないと)
「痛ッ」
痛みに思わず声を上げる。
「なっ!嘘だろ」
その痛みの元である右腕を見れば、その下半分は骨が見えるほどに抉れており、無理矢理投げられた影響か、肩の関節が抜け、まるでそこだけ死体のようにだらりとしていた。
だが、ドモンが驚愕の声を上げたのは別のことだ。
右手首にあるはずのクロノチェンジャーがない。急ぎ、左手首を確認すれば、そこからもクロノチェンジャーはなくなっていた。
「あいつ、クロノチェンジャーを……」
「ビビィ、気が付いたデビか?」
「お前!」
ドモンは反射的にビビデビに襲いかかる。
だが、ビビデビは素知らぬ顔で空中に飛び上がると、嘲るように笑い声を上げた。
「ビビィ、いい様ビビィ。しかし、ネジブルーの予想通りの行動デビね」
「ネジブルー?それがあいつの名前か!」
「そうデビ。ネジブルーは小汚いブレスレットを貰う代わりに、お前の命を見逃してやったビビ。感謝するデビ」
「うるせ――ぅうぐっ、げほっ!」
601
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:22:01
突然、強烈な吐き気がドモンを襲う。
抵抗する暇もなく、胃の内容物が食道を逆流し、口腔内に戻されていく。
あっという間に嘔吐物は口腔内の容量を超え、口から次々に吐き出されていく。
「ぐげぇぇぇぇぇっ」
「ビビィ、汚ねぇ奴ビビ」
「ぐはっ!げはっ」
胃の中身は全て吐き出されたというのに治まらない吐き気。
一頻り、嘔吐を繰り返し、胃液を全て搾り出したと思える頃、ようやく呼吸が整い始める。
嘔吐物を見れば、ヒカルと共に食べたアップルパイの残骸が大量の血反吐に塗れて、赤黒く染まっていた。
仲代壬琴とネジブルーから受けたダメージは思いのほか深い。
それに加え、サーガイン、ウルザード、メガシルバーといった実力者との連戦による疲労。
鍛えあがられた肉体。強い精神力。だが、それにも"限界"というものは存在するのだ。
「落ち着いたビビか?じゃあ、ネジブルーからの伝言を聞くデビ」
「で、伝言?」
「ええっと――お前の目的はわかった。じゃあ、俺もその目的に少しだけ協力してやる。
お前と同じブレスをした奴を見た。そして、そいつは殺し合いには乗っていない。
お前も本当に殺し合いをする気があるんなら、まずそいつを殺したらどうだい?」
ドモンはその言葉に心をざわつかせた。
同じブレスをした奴。シオンか竜也のことだろう。放送では彼らの名前は上がっていなかった。
彼らはまだ生きているのだ。
(殺せるのか、俺に?本当にあの二人が?)
決意は固めたはずだった。
実際、ネジブルーは抵抗さえ受けなければ、あのまま殺せたはずだ。
しかし、いざシオンや竜也のことを考え出すと、固めたはずの決意がどんどん薄れていく。
「ビビィ、ビビってるビか?」
「う、うるせぇ。ブレスをした奴を見たって、一体どこで見たんだ。それに俺にはもう武器がないんだぞ」
ビビデビの挑発的な言葉に、思わず言い訳めいた言葉を口にしてしまうドモン。
そんな姿を見て、ビビデビはまた嘲る様に笑う。
「ディパックを見てみるデビ」
ドモンが指示通りにディパックを開けると、中には刀と拡声器が入っていた。
602
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:22:34
誰が入れたかなど、考える余地もない。
刀には、まるで殺すことを命じているかのように血糊がべっとりと付着していた。
「武器はそれでOKデビね。場所もちゃんと聞いてるデビよ。
会ったのはH6エリア。でも、今は移動してたぶんG6エリア辺りにいるとネジブルーは予想していたデビ」
「ぐっ」
埋められていく外堀に、ドモンの頬に冷たい汗が浮かぶ。
「覚悟を決めるデビよ。どの道、優勝するためには全員、殺さなきゃいけないデビ。
ビビってるなら猶のこと、仲間を殺せば、楽になるデビ。それに仲間なら、きっと油断するはずデビ」
それはドモンにとって、まさに悪魔の囁きだった。
ビビデビの言っていることは概ね正しいとドモンは思っていた。
ビビってるつもりはない。だが、仲間が迷いの原因になっていることは確かだ。
ドモンにあって、ヒカルがなくしたもの。それはここに来る前、一緒に戦ってきた仲間の存在だ。
ヒカルは深雪をはじめとして、ここにいる仲間の全てを失ったと聞いている。
それがヒカルに躊躇いをなくす要因となっているのだとすれば、自分もヒカルと並び立つには仲間を失うことが必要なのではないか。
そして、深雪の未来を何より望むなら、自らの過去を断ち切る覚悟が必要なのではないか。
(……痛みが足りないのかも知れないな)
「いいぜ、ビビデビ……覚悟を決めた。俺は仲間を殺しに行く。どうせ、ひとりしか残らないんなら、せめて俺の手で……殺してやる」
「ビビィ、いい心がけデビ。じゃあこれはサービスビビ!行ってくるデビィ!!」
ビビデビはドモンに向けて光線を放つ。あっという間にドモンの身は光に包まれ――
「バイバイビビィ〜」
――次の瞬間、ドモンの姿は完全に消失した。
▽
反射的に閉じた眼を開けば、もうそこにビビデビの姿はなく、眼前に広がる光景もまったく別の場所へと変化していた。
立ち並ぶビル群。話の脈絡から考えれば、ここはG6エリアなのだろう。
「ここに……いる」
ビビデビには覚悟を決めたと言ったが、実際は覚悟などまったく決まっていない。
逆なのだ。覚悟を決めるために、仲間に会いに行くのだ。
「シオン……竜也……今、いくぜ」
603
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:23:05
ドモンは刀を杖代わりに、ゆっくりと前へ進んだ。
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:身体中に無数の切り傷と打撲と火傷。特に右腕と左足は使い物になりません。
[装備]:闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、拡声器
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:仲間(シオンor竜也)を殺害する。
第二行動方針:壬琴とのゲームに乗る。
備考:変身に制限があることに気が付きました
604
:
冴えたやり方
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:23:35
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:全身に打撲、切り傷あり。疲労困憊ながら、気分は高揚。ネジビザールの力を1時間30分程度発揮できません。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:壊れたネジスーツ@電磁戦隊メガレンジャー、ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー
魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、クロノチェンジャー(黄)@未来戦隊タイムレンジャー
スフィンクスの首輪、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す
第一行動方針:次元獣化した並樹瞬を元に戻し決着をつける。そのため、最期の二人になるまで戦う。
第二行動方針:とりあえず仲代壬琴に会いに行く。
第三行動方針:強敵との戦いを楽しむ。
[備考]
ネジスーツは壊れているためネジレンジャーにはなれません。
2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:H-5海岸 1日目 日中
[状態]:ボロボロ。命に別状はない。2時間の能力制限
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:誰かに会いに行く。
605
:
◆i1BeVxv./w
:2009/06/17(水) 21:24:46
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項。ご感想などあれば、お願いします。
また、お手数ですが、本スレへと代理投下をお願い致します。
606
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:50:51
天空に轟く悪魔の賛美歌。
ロンによる二回目の放送は生き残った全てのものに等しく衝撃を与えていた。
しかし―――ここに一人の男がいる。
「さて、と…これからどうすっかなぁ〜〜??」
波打ち際にたたずみ、クエスターガイはこれからの身の振り方を思案する。
その姿に並列して参加していた者の死を悼む様子は見受けられない。
「え〜〜っと、なになに……俺の現在位置がH-7海岸だから…ずいぶんマップの端よりだな…
回りは砂漠だの採石場だのばっかじゃねぇか! 最悪だぜぇ…おっ! 健康ランド!! 温泉があるのかよぉ〜〜!! 今まで見落としてたぜ! それに街も近いから武器の調達もできるかもなぁ!!」
自分が身を置くエリアは近く禁止区域となる。
『天空の花』を放棄したことで彼にはさしあたり遂行せねばならない事案はなくなった形であるため、ここからどこへ向かうか。ガイの興味はその一転に絞られていた。
精々、高丘映士がいなかったことを気に留めたくらいだ。
(俺は常に前向き、ポジティブなの! 人のことなんて構ってられるかよっ!!)
一々、生死に反応をせねばならないなんて煩わしいったらないではないか。
だが、問題はある。
これから彼がどう立ち回るにしろ、この身体では心もとない。
今までは機転と幸運に助けられて生き延びているに過ぎないのだ。
仮に今、高丘の末裔とかち合ったら恐らく命はない。
それならば、身体の回復を優先することがまずは第一であろう。
「でも、かなり遠いぜ…今の状態で、しかもランダムに現れる参加者を振り切ってってのはかなりハードな話だな…マップの端まで行くだけでこの有様だしよぉ……」
あるかどうかもわからない採石場の機械と、逝かせちまった女の戯言。
どちらも天秤にかける価値もないが、それでは話は前へ進まない。
美希の最後の言葉がいやおうなしにリフレインする。
―――……ェ……Fー……9
あの女は確かにF9エリアにバイクが鍵つきで放置されているといった。
607
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:51:25
「 ウ ・ ソ ・ ダ ・ ナ !!」
あの状況で自分なら本当のことなど絶対に言わない。
むしろ、自分が殺した相手に一矢でも報いることを必死で思案するだろう。
(たぶん、砂漠の中をひーこら言いながらF9までたどり着いたら、お仲間が総出で蜂の巣!なんてぇー安いシナリオを描いてたんだろうなぁ…その手に乗るかよ、バァーーーカ!!)
ならば、バイクはどこにあるのか―
(あの女がどこから来たかによるよなぁ…)
美希との短い情報交換の中で収穫だったといえる事実がひとつ。
彼女は数人の参加者で構成されるグループにいたらしいということ。
なぜ、一人でいたのかはあの女のいかれた行動を思えば察しが着く。
問題は誰と仲間だったかではない。彼女が逃げてきたであろうということ。
恐らくはネジブルーの一件でごたごたしていたであろう今は禁止エリアが集中する都市部。
そこから南下してきた可能性が高い。
「そういやあの女、あのガイキチブルーが叫んでたときの人質の一人じゃなかったっけぇ?」
思い立ったらすぐ行動。
ガイの冴え渡る勘はやがてマシンハスキーという足を見つけるに至る。
意気揚々と、バイクのアクセルを吹かしながらガイは北上を続ける。
「温泉♪ 温泉っと〜〜♪」
最高時速300キロのモンスターマシン「マシンハスキー」。
本来はSPDの捜査における迅速な行動を促すためのツールとして開発された。
オートバランサーを搭載しており、転倒の可能性は皆無。
追跡用途にも併用できるよう、狭い路地なども速度を落とさず走行が可能である。
ゆえに、ガイの道行きはかなり快適なものになった。
四方5キロのマスなど、あっという間の距離だ。
「楽チンだぜぇ〜〜!! 最高だな、こりゃ!!」
608
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:51:55
∬
時間にも空間にも支配されない、箱庭の囚われ人からみて上に位置する世界で。
世界で唯一の存在である悪意の権化―ロンは、鈍い輝きをたたえた二つの魂をその手のひらに珍しく悩んだ姿を見せていた。
「あなた方も出番が欲しいということは重々承知してはいるんですが…はてさて、少々過干渉な気もするんですよねぇ……」
手の中のそれらは形を得ることに貪欲に輝きを増していく。
「いいですか、あなた方は参加者ではありませんし支給品でもありません。
あくまで“ちょっとしたペナルティ”なんです。そこの所をわきまえて行動してください、いいですね?」
念を押して、ロンは二つの輝きを宙に放った。
やがてそれらは二つの異形へと姿を成し―――…
∬
面白おかしく語られた、顔なじみの死。
―ティターン。真咲美希。サンヨ。ドギー。恭介。
どれも大会屈指の実力者であり、また油断のならない知恵者であったものたち。
彼らはもう、いないのだ。
合流を果たした明石、さくら、蒼太は各々が受けた衝撃を胸に次の行動を思案していた。
「…お前たちの話からすると、ロンの仕掛けた殺し合いに乗らないと言う意思を表明した参加者のグループが複数できあがっているということになるな」
三人が三者三様に歩んできた経緯からこの世界のルールについての大まかな把握は出来上がっていた。そして、共闘の可能性を持つものたちの存在についても。
「えぇ。今はそれらがばらばらにロンへの抵抗を試みている状況です。個々が連携しあわないとこの世界についての完全な把握は難しいでしょうね。時間がたてばたつほど、人数は減っていくでしょうし…」
彼らにとって一番近隣に位置するグループは蒼太が行動をともにしていたという面々である。
特に日向おぼろの存在は稀少だった。
さくらのアクセルラーが起動できず、また首輪の解析においても牧野博士の助力が期待できない現状でメカの知識に富むエンジニアはぜひとも仲間にほしい。
彼女の保護、そして外部協力者と共闘してのガイの阻止は当面の行動指針といえた。
しかし、真咲美希とティターンの死は恐れていた絆の崩壊を匂わせていた。
おっつけ馴染みの仲間を頼るであろうおぼろに危険が迫っている。
蒼太はすぐにでもバリサンダーによる救出を明石に提言した。
おぼろとの距離はそうないだろうが、三人のうち、二人が傷を負い、一人が変身不能という状況下では全員で向かうのがベストだと思われた。
「私が行きます、チーフ。…このままだと危険です。ここでむざむざ仲間を減らされるわけにはいきません。この中で怪我を負っていないのは私だけです。二人は身体を治すことに専念してください」
さくらはおぼろに対して負い目がある。
会話の中に自分の罪を見る。彼らの傷は誰によって生まれたか。
すべては元通り。
――本当にそうでしょうか?
頭の中で声がする。ロンとも自分とも取れぬ声が。囁く。
自分は今もロンの傀儡のままで、仲間を窮地に追い込むかもしれない。
どこかで明石暁を当てにしている自分がいる。だが。彼だとてこの先無事な保証はどこにもない。
クエスターもろともに自爆を試みた、いつかの彼が前を行く背中と重なる。
―あなたはいつだって、明石暁のお荷物なんです……
言い知れぬ不安がさくらの心に澱みを生んでいった。
「…さくらさんには申し訳ないけど、おぼろさんはさくらさんのこと、誤解したままですよ?
さくらさんだけで折り合いのつく話じゃないと思うんです。やっぱり事情を説明できる当事者の僕がいくべきです」
あの放送の後、目に見えて蒼太に動揺が生まれたのを明石は見抜いていた。
彼の時間軸を考えると、むしろ怖いのは彼の暴走だ。
「早く保護してあげなきゃ、また誰に襲われるかわかったものじゃないですよ、チーフ!」
おぼろに真実を偽り、危険に晒してしまった。
仲間のためとはいえ、一時しのぎとはいえ、悪魔と契約した自分は許されるのだろうか―
さくらが心に暗い影を落としているのと同じく、蒼太もまたその心に澱みを抱えていた。
「焦る気持ちはわかるが、ここで戦力を分散させるのは危険だ。ネオパラレルエンジンの搭載されていないアクセルラーでガイと戦うのは無謀すぎる。今は映士もいない。万が一、奴と遭遇したらどうする?」
さくらの洗脳を解くという急務ゆえにそのずれを今まで感じてこなかったが、ここにきてその違いが顕著になり始めている。
彼との時間軸の違いを考えればやむないことなのではあるが。
609
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:52:27
その時だった。
空に七色のオーロラがかかり、世界を横断するように二人の異形の怪人が壁を隔てて現れた。
「お前たちは…!?」
「ミーたちにもやっと出番がまわってきたという現実! キタッ! ミーたちの時代がキタッ!!」
山羊の頭を持つ幻獣カプリコーン拳のドロウ。
「出陣! 出陣!! 出陣だよぉぉぉ〜〜〜!!!」
高速で飛び跳ねながら興奮を隠し切れないアーヴァンク拳のソジョ。
二人ともロンの右腕と片腕である双幻士だ。
「ロン様が言ってた! 歯向かう者に制裁を! 制裁を!!」
「わが相方ソジョよ! ロン様から与えられた使命を今こそ果たそうぞ!!」
首輪がない二人は明らかに参加者ではない。ロンの差し金には間違いはないのだろうが。
「貴様ら…どういうつもりだ!!」
意図は読めないが、危機にあることだけは間違いない。
「ボウケンジャー! スタートアップ!!」
一瞬の閃光とともに真紅の戦士が誕生する。
黄金の剣〈ズバーン〉を携えて、ボウケンレッドは背後の二人へ向き直る。
「こいつは俺とズバーンとで食い止める! お前たちは蒼太の知り合いを保護するんだ!!」
じりじりとにじみ寄る敵をけん制しながら、指示を飛ばす。
「チーフ!」
思わず駆け寄ろうとするさくらだが、握り締めたアクセルラーを見やり歯がゆさに唇を噛む。
「さくらさん、早く!!」
機敏にバリサンダーのエンジンを吹かし、蒼太はさくらへ手を伸ばした。
「チーフ! どうぞ、ご無事で…!!」
「…あぁ。お前たちもな」
振り向かずにボウケンレッドは切っ先を二人の双幻士へ向ける。
青と桃色のジャケットがもうシルエットになりかけた距離にある。
―彼らとまた無事に出会うことができるだろうか―
不意に沸き起こった言い知れぬ不安をかき消すように、ボウケンレッドは目の前に広がる道をしっかりと踏みしめた。
610
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:53:00
∬
「駄目やないの! 蒼太くんのこと頼んだのになんでついてきてしもうたん?」
「バウッ!」
日向おぼろに頭をなでられながら、マーフィーはバツが悪そうに鳴いた。
本当の生き物みたいやなぁ…
うなだれるその愛らしい姿は本物の犬そのものだ。
怒る気持ちもすぐに萎えてしまう。
「ほんま、仕方ないなぁ…」
蒼太が一人になったのは心配だが、道行がいるのはやはり心強い。
先ほどから心細さに不安の気持ちが濃くなってしまっていた。
「バウ……」
手が震えているのがわかる。不安はマーフィーにまで伝わっているらしい。
「大丈夫や! これは武者震いやからな! ガイでもロンでもでてきてみぃ! あたしだって疾風流忍者の端くれや! 一人がこおうてハリケンジャーのサポートが勤まるかいっ!」
萎えそうな気持ちを必死に奮い立たせおぼろは空元気に叫んで見せた。
「バウッ!」
そんなおぼろの姿にかつての“パートナー”の面影を見たのか、マーフィーも元気よく吼えて見せる。
その時だった。不意に背後に人の気配が生じる。
マーフィーを抱えて慌てて物陰に隠れる。
情けない話だが、放送を聴く限り知り合いですら信用できる状況にはない。
まして、未知の相手に助けを求めることなど―…
「あいつは…!」
そして、その相手は最悪の敵。
漆黒の戦士―ガイ。
おぼろとマーフィーは互いの口をふさぎあい、必死で気配を殺していた。
幸い、ガイは自分たちに気づくことなく去ったようだが…
「あいつ、天空の花を置きにJ10エリアへ向かっているはずじゃ……」
今のガイと遭遇したら、蒼太はまず間違いなく殺されてしまうだろう。
一刻も早く助けを呼ばねば。
だが、誰が敵で誰が味方であるのか、今のおぼろにははっきりとしたことは何も見つからない。
「バウッ!」
ただ唯一、懐のぬくもりがあるかないかの希望という言葉を思い起こさせてくれる。
「そうやな…焦ってもしゃあない! うちはうちにできることをやるんやっ!!」
おぼろは背後のガイを気にしながらも集合場所であるエリアへと歩を進める。
そこに待つ者はしかし、誰も、いない。
611
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:53:32
∬
「ここから出られたら、ミスターボイスに進言してひとつ挑戦したいプレシャスがあるんですよ。
覚えてませんか? 〈神の頭〉。僕らが前に回収し損ねたあれですよ!
八方手を尽くして行方を捜していたんですけど、やっと所在が掴めそうなんです。
今度こそ、無事に保護しましょう。僕らの手で!!」
いつになく最上蒼太は饒舌だった。
元々、とっつきやすい雰囲気をかもし出すことは得意であったが、今の彼はどこか無理をしているように思える。
合流地点であるG7エリアのビルを目指し、2人は北上を続けていた。
おぼろが助けを求めに行くとすればまず場所は間違いなくそこだ。
だが、3人は凹の形に禁止エリアが設けられていたために大きく回り道をせざる終えない。
おぼろと蒼太が分かれたのは10:30ごろ。
第一回放送後に設けられた最後の禁止エリアF6を通過できていたのなら、彼女との距離は大きく開く形になる。
願わくば、おぼろも自分たちと同じ経路を辿っていてくれればいいのだが――
「あ! でもみんな違う時間から来てるんだし、戻るときは一緒じゃないんですよね。
残念だなぁ…さくらさんのいた時間だともうこの件は解決しちゃっ―――…」
「蒼太くん!!」
科白を遮る形でさくらが割ってはいる。
「さくらさん?」
「ごめんなさい…今はそういうことを話す気分じゃないんです……」
放送で語られた死はさくらの双肩に重くのしかかっていた。
ドギー・クルーガー。
陣内恭介。
二人ともここで知り合った人たち。
ロンを倒すための力になってくれていたかもしれない人たち。
あの時、自分がグレイと輪を離れるとさえ言わなかったら。
彼らを救えたかもしれない。自惚れとはわかっていても後悔の念がさくらを傷つける。
もう、彼らは還らない。
――あなたには引っ掻き回し役をお願いしたいのです…
――平たく言えばわたしのゲームの“サクラ”になって欲しいんですよ
自分は今もロンの手のひらで踊る人形。
今まさに次の放送に二人を誘おうとしているのかもしれない。
そんな思いまでがこみ上げてくる。
二人は知らず、ヒュプノピアスについての話題を避けていた。
さくらは蒼太がそれをどうしたか聞けずにいた。
蒼太はさくらがピアスの所在を聞かないことを不安に思っていた。
612
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:54:05
さくらは蒼太がピアスをどうしたか、どうしても聞けずにいた。
――口にしてしまえば、この三人の関係すら壊れてしまいそうで。
見ないふりをして。忘れたふりをして。
隠し事は往々にして関係の破滅を招く。
分かってはいたが、どうしてもその一線を越えることが今の二人にはできなかった
「どうしてチーフに言わなかったんです?」
「…………ヒュプノピアスのことですか」
バリサンダーのアクセルを緩め、車輪がその駆動を止める。
「他にもあります、聞きたいこと。どうしておぼろさんを一人で行かせたんですか?
不死の薬なんて、そんな便利なものがあるならどうして行動をともにしなかったんです?
あの傷から回復できるだけの道具があるならどうし―――…」
席を切ったようにさくらの口から疑問があふれた。
「決まってるじゃないですか。僕がロンとつながってたからですよ」
「え…?」
んー、と頭をかきながら蒼太は答えた。
「本当はさくらさん、気づいてたんでしょ? だから僕の提案に乗った。
自分の疑問を解決するために。チーフにはいえないですよね、僕らのこと信頼してくれてるのに」
「蒼太…くん……?」
「でも安心してください、別に殺し合いに乗ったとか、そういうんじゃないんですよ。ただ、一時的に利害の一致を見ただけ。それだけ、です」
「ロンは…何も得るものをなしに手を差し伸べたりはしません」
「えぇ。でも、僕は、僕らは勝った! さくらさんの洗脳を解いたじゃないですか!!
大勝利ですよ!!」
蒼太の語気がわずかに強まる。
「でも! だったらどうして…チーフに本当のことを言わなかったんです?!」
「別に…そんなこといわなくても、いまさら話を面倒にするだけじゃないですか」
「そんなことありません! チーフは…チーフは受け入れてくれるはずです!!」
さくらの洗脳は解いた。
だが、そのために自分が払った代償をこの女は本当に理解しているのだろうか。
「さくらさんは僕のことを疑ってるんですか!? 何が言いたいんです!?」
「そんなことはありません!! ただ…!」
「お二人さぁ〜ん…道の往来で喧嘩なんてはた迷惑だよぉ〜〜ん!」
張り詰めた空間に似つかわしくないおどけた軽い声が突然差し込んでくる。
「あなたは…!」
さくらの瞳に驚愕とも恐怖ともとれぬ色が満ちる。
漆黒の鎧を走る黄金のライン。
猛々しい獣の頭を持つ機械仕掛けの獣人がそこにたたずんでいた。
「また会ったな、土下座ピンクゥ…無事お仲間と合流できて何よりじゃないの? それよか、ずいぶん興味深いお話をしてたじゃないの?
ヒュプノピアスゥ? ヒュウ! それってお宝、プレシャスじゃあ〜〜ん!!」
そう言って、クエスターガイは唇の端をいびつに緩めた。
613
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:54:35
∬
おかしい。
ボウケンレッドは切り結ぶ相手が積極的に攻撃を仕掛けてこないことにいぶかしさを感じていた。
殺気は感じる。
だが、敵はこちらの攻撃をかわすだけでまったく戦おうとする意思が見えないのだ。
「一体、どういうつもりだ…これではまるで時間を稼いでいるような……」
そこまで口にして敵の意図に気づく。
「貴様ら! まさか俺を足止めするために!!」
「ソジョ!! ばれちゃったー!! ばれちゃったょよおおお!!!」
「慌てるな、わが相方ソジョ。役目は果たした。全てはロン様の計画通り…」
再び時空を隔てるオーロラが出現する。
「待てっ!」
追撃しようとするが、すでに二人の姿はオーロラに溶け込み無産消失していた。
「さくら…蒼太!!」
変身をとき、明石暁は二人の後を追って猛然と走り出した。
間に合ってくれ、とすがるように祈りながら。
SS
すべてを封殺された状態で、何の抵抗もできない。
それは、なんと惨めであろうか。
策士たる綿密さを常とする蒼太にとって、それは未来で味わうはずの絶望だった。
「てめぇも俺様にはてんで手も足も出ないようだなぁ…か・わ・い・そおぉぉぉおぉお!!!!」
ガイがこんな有様に陥ったのはひとえに麗の実力を見抜けなかったがゆえ。
いわば、相手の情報を知らなかったからだ。
しかし、旧知のボウケンジャーは違う。高丘の末裔はともかく、個々を相手にするならば
ガイにとってそれほど大きな脅威ではない。
しかも片方が変身できず、足手まといであることを彼は知っている。
「蒼太くんっ!」
背後でわめく様は耳障りだが、どうすることもできまい。
「本当、どうしちまったってくらいに無様だぜぇ、お前ら。俺を見習えよ。
泥にまみれてごみにまみれて…ガイ様、ずいぶん揉まれて強くなったんだぜ?」
聞くも涙、語るも涙の数時間をロンがダイジェストしてくれればいいのに―…
そんな思いで、ガイは火花を吹くボウケンブルーの腹部に足を擦り付ける。
614
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:55:05
「ぐっ…あぁ……!!」
ついには変身が解け、人の姿へ戻る。
閉じかけていた傷口がガイの容赦ない攻撃で開いたのか、下腹部は真っ赤に血で染まっていた。
「っ……ハァ……ハァ、ハァ…ぐっ!……」
倒れ伏した蒼太の袖から、何かがガイの足元に転がり出る。
「おんやぁ? なんじゃこれは??」
金属特有の輝きを放つ物体。
「それは…!」
蒼太に駆け寄ったさくらはガイの両手に握られたヒュプノピアスを見やる。
「もしかしてこれが噂のヒュプノピアスか? こんなに楽に手に入るとはねぇ♪」
ガイは満面の笑みを浮かべて二人に近寄っていった。
SS
「お前…命を助けてくれたら、何でもするって俺に約束したよなぁ?」
ガイは虚ろな目で蒼太の体に馬乗りになり、地面へ頭を強く押し付けるように首の動脈を正確に締め上げるさくらへ問いかける。
「殺っちまいな、ボウケンピンク!! お前の初仕事だ…」
そういって、ガイは腕の中にあるスイッチとそれに連なるさくらの運命を手のひらで弄んだ。
「ぐっ…さ…さくらさん…止め……――」
自衛隊特殊部隊の過去を持つさくらにとって実戦とは確実に、スピーディーに相手の息の根を止めることに主眼を置く。
「蒼太くん……ごめん…な…さい……」
蒼太の苦悶する様子に動揺しながらも、さくらは両手の圧を強めていく。
相手のば息の根を止めることくらいは造作もないことだ。
「いいぞぉ! そのまんまへし折っちまえ!!」
ガイはさくらを煽りながら、高みの見物としゃれ込む。
(面倒くせぇことはぜーんぶボウケンピンクがやってくれるってわけだ…なるほど、こりゃ楽で良いぜぇ……)
蒼太の顔が血流の異常から真っ赤に染まり、目は血走り、口元からはもはや言葉も出ない。
「……ゥぅ…………ッ!…」
さくらは腕の力を決して緩めようとはしなかった。
訴えかけるような蒼太の視線も傀儡となった今のさくらには届かない。
むしろ、指にこめる力を一層強めて――
「ヒュ〜! やるねぇ〜〜…ボウケンピンクゥ!!」
眼前で繰り広げられるショーの唯一無二の観客としてガイはさくらへグッジョブを送る。
やがて、さくらの肩をつかむ手がだらりと力なく垂れ下がる頃、最上蒼太の命の灯火はこの世から消え去った。
かつて、蒼太であったものを無表情に見下ろしながらさくらはその場に佇んでいた。
自分のしたことの意味すらわからぬまま。
「おめでとさん。お前もこれで正式に“こっち側”ってわけだなぁ、おい!」
ガイは拍手でさくらを自分の仲間に迎え入れた。
いや、隷属したといったほうが正確だろう。
思わぬ“道連れ”の誕生にガイは嘲りと喜びが入り混じった笑みを浮かべた。
深く傷ついた今の自分に代わって諸々の作業をこなしてくれる相棒は実に使い勝手がよかった。
「これからよろしく頼むぜ、ボウケンピンク♪ まずはお前の持ってる情報全部を俺に提供してもらっちゃおうかなぁ♪」
615
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 22:59:32
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:下腹に刺し傷(不死の薬の効果により回復中)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。日向おぼろを保護する。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-6エリア 一日目昼
[状態]:健康。ヒュプノピアスでガイに隷属。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:明石暁と共に行動する。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
616
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 23:00:45
名前】クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task23.以降
[現在地]:E−6エリア 一日目昼
[状態]:全身に裂傷、かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。傷あり。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式×4(水なし)
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獸刀@獸拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵。 瞬の支給品(確認済)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る。
第一行動方針:バイクを探しにFー9エリアへ
第二行動方針:使えそうな道具を作る。アイテムの確保。
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。2人殺しました
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:E−7エリア 一日目昼
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:動けない蒼太の為に助けを呼んでくる。
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
617
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 23:01:24
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E−7エリア 一日目昼
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:おぼろを追いかける(こっそりと)→見つかって少々バツが悪い。
618
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/17(水) 23:02:23
【最上蒼太 死亡】
残り25人
以上です。大変遅くなり申し訳ありませんでした。
619
:
暗黒七七四本槍
:2009/06/17(水) 23:07:06
とりあえず、投下乙です。
感想は本投下後にさせて頂きますね。
しかし今日は2本も投下があるとは良い日だ。
620
:
暗黒七七四本槍
:2009/06/17(水) 23:46:24
っと、代理投下した方がいいですか?
もしかして規制中かな。
621
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/18(木) 00:53:22
お察しのとおりです。
お手数ですが、お願いできますでしょうか?
622
:
暗黒七七四本槍
:2009/06/18(木) 01:17:30
了解しました。しばしお待ちを……
623
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/19(金) 22:50:43
「着けろ」
さくらの足元にピアスを放り、ガイが無情に言い放つ。
彼の足元には血を吐いて地に伏した蒼太が苦悶の声を上げている。
「聞こえなかったか? それを自分でつけろって言ってんだよ!!」
執拗に蒼太の下腹部の傷を蹴り上げる。
「あぁそう…拒否するわけだ? お前、命を助けてくれたらなんでもするって俺に約束したよなぁ?! あぁ〜〜ああ〜〜〜…約束反故にするんだ…まったくどっちがネガティブかわかったもんじゃねぇなぁ…カ・ワ・イ・ソ・ウゥゥ〜〜〜!!!」
「がああああああ!!!!」
臓物を抉られる激痛にあえぐ蒼太の絶叫が、さくらに選択の余地などないことを告げる。
「わかりました!! 言うとおりにしますからやめてください!!…お願いです…!!」
足元に転がるピアスを持ち上げ、その鋭利な接合部を徐に首筋へ持ってゆく。
「……っ! さくらさん…駄目だ…言う通りにしちゃ……――」
二の句をつなぐ前にガイの蹴りが蒼太の顔を殴打する。
「うるさいんだよぉ!」
624
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/19(金) 22:51:15
さくらが恐る恐るその白い首筋にピアスを沈めていくのを見やりながらガイはゆっくりと操作端末のスイッチを捻る。
「あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
神経を掻き毟る様なすさまじい痛みがさくらの自由を、意思を奪い去っていく。
「さくらさんっ!!」
目の前で半狂乱となり苦しむさくらの姿に己の業の深さを思い知る。
「僕が…僕がピアスを捨てていれば…チーフに……話してさえ、いれば……」
視界がゆがむ。目頭の熱が涙だということに蒼太は気づいていなかった。
「もう、遅いんだよ♪ しかし、いい眺めだねぇ…レイの奴にも見せてやりたいぜ…」
唇の端を歪に吊り上げ、ガイは電磁波の奔流に呑まれ、のたうつさくらを高みから見物した。
サクラの花見。
それはガイにとってまさに宴会さながらの余興だった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
やがて――…思考を強制的に隷属する目に見えない牢獄で。
「ヒュプノピアス…元々は22世紀の囚人をマインドコントロールするために開発されたもので
受信機を対象へ打ち込み、送信機で自在に操ることが可能です……」
哀れな囚われ人は、自らの現状とヒュプノピアスの性能を包み隠さずガイへ伝えた。
625
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/19(金) 22:51:47
「へぇ…便利な代物だな。どんな命令でも従うわけ?」
「……思考を操作できるので逆らうことは不可能です。無理に外せば命に関わります」
そうか、とガイはしばし思案した後、にっこりと微笑みながら言い放った。
「殺っちまいな、ボウケンピンク!! お前の初仕事だ…」
そういって、ガイは腕の中にあるスイッチとそれに連なるさくらの運命を手のひらで弄んだ。
途端にさくらを目に見えない拘束力が覆っていく。
「え・あ…いやっ! いやですっ!!」
ガイの言葉の真意を瞬時に理解したさくらが何とか命令を拒もうとするが、相反する意思に反応して青白い火花が全身を苛んで行く。
「ああぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
一歩、また一歩とさくらの身体は地に倒れ伏す蒼太へ向かっていく。
それはさくら自身にとっての、そして蒼太にとってのグリーンマイルと言えた。
「さくらさん……」
涙を流しながら、自身に馬乗りになるさくらの姿に蒼太はかつてない絶望を見た。
今、自分が感じている痛みが大きすぎて逆に何も感じることができない。
さくらがガイから手渡されたグレイブラスターの刃を両手で大きく掲げ上げたのが恐ろしくゆっくりとみえた。
「いやっ! こんなことさせないで!! いやですっっ!! 嫌ッッ!!!!」
鋭い刃がゆっくりと自分の喉笛に食い込んでいく。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
626
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/19(金) 22:52:32
吹き出した血が、噴水の様に視界を一杯に染め上げ世界が紅に彩られる。
敬愛する人の手による断罪の刃は己の罪を死という形で鮮烈に浮かび上がらせる。
遠くで、銃声がした。
大勢の人間の怒号が嘆きの声が木霊する。これは自分が生み出したのだ。
喧騒の中、一人の少女が見える。
「君…は…―――」
その世界の終わりを見たが如き、虚無の瞳と自分を見下ろすさくらとが重なった。
手を伸ばそうとする。
届かない。
懸命になって手を伸ばそうとするが、届かない。
やがて、垣間見えた女の顔は血に染まった凄惨な様子とは裏腹の笑顔だった。
笑っている。
さくらのこんな笑顔を蒼太は知らなかった。
酷く、醜い。
「この笑顔は私の宝物なんです…やっと、見つけた。心からの笑顔」
「どうして…そんな…なに……が―――……」
意識が急速に遠のいていく。世界が色褪せ闇が全てを多い尽くしていく。
最上蒼太の命は、堕ちていった。
627
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/19(金) 22:53:27
SS
「ヒュ〜! やるねぇ〜〜…ボウケンピンクゥ!!」
眼前で繰り広げられたショーの唯一無二の観客としてガイはさくらへグッジョブを送る。
かつて、蒼太であったものを無表情に見下ろしながらさくらはその場に佇んでいた。
「おめでとさん。お前もこれで正式に“こっち側”ってわけだなぁ、おい!」
ガイは拍手でさくらを自分の仲間に迎え入れた。
いや、隷属したといったほうが正確だろう。
思わぬ“道連れ”の誕生にガイは嘲りと喜びが入り混じった笑みを浮かべた。
できれば、彼女をヒュプノピアスで隷属していることは他の参加者には伏せておきたかった。
(そのほうが混乱を呼べるじゃん♪)
高丘の末裔やボウケンレッドが蒼太の死を知ったらどうなるか―
ガイはもう、楽しくてたまらなかった。
深く傷ついた今の自分に代わって諸々の作業をこなしてくれる相棒は実に使い勝手がよかった。
「いや〜〜〜…運が向いてきちゃったなぁ…これからよろしく頼むぜ、ボウケンピンク♪ まずはお前の持ってる情報全部を俺に提供してもらっちゃおうかなぁ♪」
【最上蒼太 死亡】
残り25人
628
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/19(金) 22:53:58
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:F−5エリア 一日目昼
[状態]:下腹に刺し傷(不死の薬の効果により回復中)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。日向おぼろを保護する。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-6エリア 一日目昼
[状態]:健康。ヒュプノピアスでガイに隷属。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:ガイに隷属し、彼の命令にはどんなことでも従う。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています
名前】クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task23.以降
[現在地]:E−6エリア 一日目昼
[状態]:全身に裂傷、かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。傷あり。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式×4(水なし)
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獸刀@獸拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵。 瞬、蒼太の支給品、マシンハスキー、バリサンダー。ヒュプノピアス(さくらへ使用中)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る。
第一行動方針:手に入った玩具(さくら)を色々試したい。
第二行動方針:気に入らない奴を殺す。2人殺し、1人殺させました。
629
:
◆J/wV1wcr52
:2009/06/19(金) 22:54:29
【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:E−7エリア 一日目昼
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:動けない蒼太の為に助けを呼んでくる。
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E−7エリア 一日目昼
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:おぼろを追いかける(こっそりと)→見つかって少々バツが悪い。
630
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/06/29(月) 17:01:36
菜摘の状態表から恭介の名前を削除しておりませんでした。orz
それと壬琴の状態表もダイノハープの記述が漏れていました。以下状態表修正版です。
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-6海岸 1日目 日中
[状態]:精神的なダメージ極大、腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。タイムピンクに2時間変身不可。酔っています。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、基本支給品一式
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:小津勇の支給品の状態に唖然。
第二行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第三行動方針:首輪の解析
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。
[装備]:アクセルブレス 、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)深雪の残したメモ。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:祐作、菜摘と首輪を解除する。
第二行動方針:H−4で映士と合流出来なければ3回目放送までにJ−6公園で待つ。
第三行動方針:仲間(シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラック(菜摘の場合アバレーサー)への変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと祐作から掻い摘んだ説明は受けました。
631
:
暗黒七七四本槍
:2009/06/30(火) 11:29:20
再度、自己申告させて頂きます。
細かいところですが。誠に申し訳ありません。
本スレ
>>340
>空気をヒリつかせるほどのメレの叫びと共に、黄金色の炎が立ち上がり幾重もの羽をメレは身体に纏う。
は
>空気をヒリつかせるほどのメレの叫び。それと共に黄金色の炎が立ち上がり、幾重もの羽をメレは身体に纏う。
です。
本スレ
>>341
>壬琴は、その時やっと気付いた。
スーツを装着したときの違和感その正体に。
は
>壬琴は、その時やっと気付いた。
スーツを装着した時の違和感、その正体に。
です。
本スレ>343
>黒歴史を塗り替える。
その思いだけが壬琴を支配していた。血走った目がダイノコマンダーを捕らえた。
ダイノコマンダーを装着する腕が怒りで震えた。
ダイノコマンダー×、ダイノマインダーでした。
本スレ>345
>横切った瞬間、ふわっとメレからとても安らげる香り香った。
「理・央・様ァ♪待っててくださいね。うふっ♪」
は
>横切った瞬間、ふわっとメレからとても安らげる香りがした。
「理・央・様ァ♪待っててくださいね。うふっ♪」
です。
本スレ>345
>祐作は掻い摘んで菜摘に事情を話した。
ドギー・クルーガーの首輪、そして壬琴の置いていったデイバックの中にはもう2本首輪がある。
首輪は3本でした。(深雪、サーガイン、アンキロベイルス)
遅くなった上に……。お詫びの言葉もありません。
632
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/07/10(金) 16:57:34 ID:ZdH4Tt9w0
シグナルマン、理央、浅見竜也、江成仙一、ブクラテス、間宮菜月、日向おぼろ、予約します。
633
:
恐竜や 774店目
:2009/07/10(金) 16:58:11 ID:ZdH4Tt9w0
orz
634
:
∵疑心暗鬼
◆MGy4jd.pxY
:2009/07/21(火) 11:45:23 ID:YZx03nKo0
すみません。誤字を見つけたので修正いたします。
いつも本当に申し訳ありません。
>>365
「まさか、ドロップのお兄さんがやったんか? でも蒼太くんは美季さんに気をつけろって。そやけど」
名前の誤字、美希でした。
>>366
しかし、ジルフィーザが弟を助けてもらった恩人を手に掛ける事が有り得るのだろうか。
は
しかし、弟を助けてもらったジルフィーザが、その恩人に手を掛けるなどど有り得るのだろうか。
>>367
「あかん。あかん……。疑い出したらキリがない。それこそロンが喜ぶだけや」
疑い合えばロンを喜ばせるだけ、そうは思うが頭の中の疑念は晴れない。
疑念と和らいだはずの恐怖が、心の中で膨れ上がっていく。
「キッツイな、これ。何なん……」
を
「あかん。あかん……。疑い出したらキリがない。それこそロンが喜ぶだけや」
疑い合えばロンを喜ばせるだけ、そうは思うが心の中の疑念は晴れない。
疑念と和らいだはずの恐怖が、どんどん膨れ上がっていく。
「キッツイな、これ。何なん……」
>>369
センは頭を掻きながら言い訳しつつ、追いかけてくる菜月たちに目を遣やった。
は
センは頭を掻きながら言い訳しつつ、追いかけてくる菜月たちに目を遣った。
>>375
最初は優勝を狙い、無差別に強靭を振るっていた。仲間した暁に望むのはダイタニクスの復活。
は
最初は優勝を狙い、無差別に強靭を振るっていた。優勝した暁に望むのはダイタニクスの復活。
>>379
仲間に裏切られ片腕を亡くしている。元より戦闘力などない。
は
仲間に裏切られ片腕を失くしている。元より戦闘力などない。
推敲不足でした。
635
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/07/26(日) 11:36:49 ID:ikvIK/dc0
誠に申し訳ありません。
前話と最新のSSで描写に漏れがあったと思います。
訂正させてください。
『NEXT:アバレ……タイム』にて。
シオンについて、ドモンの情報を追加しようかと思います。
「まさか、あれが瞬だっていうのか!」
裕作はデスクに手を付いて立ち上がりグレイを凝視した。
同意を求めるようにグレイはシオンへ顔を向ける。
促されたグレイの視線に、シオンは発言せざるを得なくなった。
裕作の顔を見ずに、シオンは重い口を開いた。
「確かにネジブルーは、あの氷柱をそう呼んでいました」
「くそっ!!!」
裕作はメモをビリビリに引き裂いて、拳をデスクへ叩きつけた。
「元に戻す方法はないんですか?」
シオンはせめてもの問いをグレイにぶつけてみる。
を
「まさか、あれが瞬だっていうのか!」
裕作はデスクに手を付いて立ち上がりグレイを凝視した。
同意を求めるようにグレイはシオンへ顔を向ける。
促されたグレイの視線に、シオンは発言せざるを得なくなった。
シオンには裕作の思いが痛いほど解る。
先程、裕作から聞かされた。
ドモンが殺し合いに乗った、と。
聞いた瞬間、シオンの感情という船は転覆寸前へ追い込まれた。
それでも1パーセントの希望によって何とか持ち直そうとあがいた。
だが現実という大波が感情を叩きつける。
裕作からシオンへ、そして今度はシオンから裕作へ、殺し合いが生み出した余波はいつまでも寄せては返し、心の中に漣を立てる。
裕作の顔を見ずに、シオンは重い口を開いた。
「確かにネジブルーは、あの氷柱をそう呼んでいました」
「くそっ!!!」
裕作はメモをビリビリに引き裂いて、拳をデスクへ叩きつけた。
ドモンはまだいい。
転覆したドモンを引き上げてくれる者が側にいる。
だが、並木瞬は……。
「元に戻す方法はないんですか?」
シオンはせめてもの問いをグレイにぶつけてみる。
へ
636
:
◆MGy4jd.pxY
:2009/07/26(日) 11:38:06 ID:ikvIK/dc0
『∵疑心暗鬼』にて。
ちょっと放送に関して漏れがありました。本スレ
>>369
の部分を修正しました。
>>369
「セン。放送で呼ばれたドギー・クルーガーというのは、おまえの知り合いだったな」
「えぇ」
「何故ヤツラに黙っていた?」
「黙っていたという訳じゃないんですけど……。って、理央さん?どうして一回目の放送の時と同じ顔して俺を見るんですか」
理央は仇討ちを疑った時と同じ眼をセンに向けていた。
「ただ負の感情は連鎖するのが解ったので、表に出したくなかったんです」
センは頭を掻きながら言い訳しつつ、追いかけてくる菜月たちに目を遣った。
警察官であるセンやシグナルマンでさえ、放送を聞いた時は感情のコントロールを失いかけた。
あえて感情を表に出さなかったのは自分のためでもあり、菜月たちのためでもある。
仲間を殺されたのはセンだけではないのだ。
シグナルマン、そして理央も、放送で上げられた中に仲間がいた。
それぞれの感情を例えるなら、シグナルマンは激、理央は静。
そして、センは虚。
センの感情を周囲に共感させるのは、あの井戸の底へ引き摺り込むような行為だ。
「大丈夫、仇討ちは考えてません。放送を聞いた時。悲嘆するか、行動するか。署長が望むのは、果たしてどっちだって考えたんです」
「悲観より行動をとったという訳か?」
菜月という存在が、この状況で救いだった。
天真爛漫な菜月がその場にいたことにより、三人は守るべき物を見失わずに済んだ。
「そんなところです」
センの脳裏に、地球署での日々が次々と蘇っていく。
地球署に配属されたあの日。ドギーや仲間との出会い。仲間と共に解決して来た数々の事件。
そのどんな事件よりも理不尽極まりないこの殺し合い。それをセンは許さない。
「この悲しみも憤りも仲間への思いも、爆発させるのは今じゃない」
「あぁ、解っている。それは、ロンを倒す時だ」
理央からの思わぬ直球にセンは破顔一笑した。
やがて、6人は森を抜け砂漠へ行き当たる。
「ねぇねぇ、あれって遊園地?かな」
ぴょこんぴょこんと飛び跳ねながら、菜月はD7エリアを指差した。
「ん、どれどれ?あ、ホントだ」
「ジェットコースターも見えるな」
菜月、竜也、シグナルマンは並んで遊園地を眺める。
「小娘!よもや行きたいなどと言うのではないじゃろうな」
そう言いながらブクラテスは探知機を取り出す。
センは額に手を当て陽射しを避け、細い目をより一層細めて菜月が指差す方へ視線を凝らした。
確かに。小規模な遊園地がそこに佇んでいた。
夜は闇に紛れてしまって気が付か無かった。
でお願いしたいのですが。
御意見を頂ければありがたいです。
◆i1BeVxv./w氏
修正が度重なって申し訳ないので、もしよろしければ全部直したモノをまとめサイトの方へ送ろうかと思いますがよろしいでしょうか?
637
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/10(月) 21:14:44
おぼろには一つの疑問が生じ始めていた。いや、それは既に答えとして形になりつつあるのかもしれない。ただ、認めてしまうのが怖いだけで。
おぼろは唇を噛むと、意を決して口を開いた。
「………なあ、なんであんたらシュリケンジャーを倒そうとしてるんや?」
「それは………」
困惑の色を滲ませる。
ただ優勝を目指しているのならば、自分を殺さずにすませる訳はない。ならば残されている可能性は、おぼろにとってたやすくは認めがたいただ一つ。
「別に俺たちは彼を倒す気はない。けど、彼を止めないと、傷つく人が増える。だって………」
『シュリケンジャーは殺し合いに乗っているから』
おぼろと竜也の声が示し合わせたように重なった。
痛みを感じたように、おぼろの顔が苦悶に歪む。
「………そっか。そやったかあ………」
それっきり押し黙るおぼろに、竜也が訝しげな顔で肩に手をかけようとした、その時。
「うっ…………」
がら空きだった首筋に、忍風館仕込みの当て身を叩き込む。
「一発で落ちんかったか。やっぱ、なまったなあ」
「………な、にを………」
朦朧とした意識のままで、あがくように竜也が声を絞り出す。
「………ごめんな。ほんまにごめんなさい」
竜也の目の前におぼろの手が迫る。
「うちは、シュリケンジャーの仲間、やから………」
―――それ以上、竜也がおぼろの声を聞くことは叶わなかった。
638
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/10(月) 21:15:32
服を整える。口元にこびり付いた血の跡を拭う。
それらを終えてしまうと、おぼろにはもう彼女に出来ることは何も残されていなかった。
苦悶の色のない眠っているような穏やかなその顔に、わずかに救われるような気がするのと同時に、己の罪をまざまざと突きつけられた。
自分を傷付けられなかった優しい青年は、まだ意識を失くしたままのようだった。
自分は彼の優しさも裏切ってしまった。罪悪感に胸が痛む。
刺すような悔悛の痛みを抱えながら、おぼろは立ち上がった。
歩き出そうとしたおぼろは、強く裾を引かれ、軽くのめる。
振り向くと、そこには必死におぼろを引き止めようとするマーフィーの姿があった。
「マーフィー」
行かせまいとするように鳴くマーフィーに目線を合わせる。
「ごめんな。うちはやっぱり一緒にいけんよ。だって………」
そこまで言いかけておぼろは首を振った。
「大丈夫や。うちなら一人でもやってみせる。全部終わったらちゃんと償う。やから………」
それ以上、言葉を続けたら余計なことまで口走ってしまいそうだった。
そうしたら、賢いこの子は気付いてしまうだろう。自分はあまり嘘が得意なほうではないから。
だから振り向かずに走った。振り向いたら立ち止まってしまいそうだったから。
少しでも遠くへ。マーフィーの声の届かないところまで。全力で。
どこをどう走ったのかよく覚えていない。
気が付けば、芝生敷きの休憩所のようになっているところに立っていた。
(………ここでええか)
どのみち、これ以上は足がもつれて走れそうにはない。
639
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/10(月) 21:16:20
振り仰ぐと、空の蒼さが染みるほどに眩しかった。
結局は全て自分の思い違いと疑心ゆえだった。あの身も心も苛むような恐怖も、シュリケンジャーのことも。全て。
彼らはただ、自分を救おうとしてくれていただけだったのに。
おぼろには、今更とても彼らと行動を共になどできなかった。
だって、自分の手は今もまだ血に濡れている。
表面だけ拭ったところで、罪のない少女を手に掛けた自分の罪は消えない。
そんな自分がそばにいれば、きっと彼らの妨げになる。
作り上げたばかりの信頼や絆はいとも簡単に崩れていく。バラバラになってしまった自分たちのように。
これ以上、彼らから何かを、誰かを奪う。それだけはどうしても避けたい。今はただ、それだけ。
シュリケンジャーが、今もまだ殺し合いに乗ってしまっているなんてことは、信じがたいし、信じたくもなかった。
けれど、彼らが嘘を付いていたとも思えない。
だとすれば、シュリケンジャーにも何かが起きたのだろうか。
強い彼が絶望するような何かが。弱者を守るのではなく、弱者を狩り、優勝を目指すことを決意させる何かが。正義ではなく、大義をとらせる何かが。
ならば、彼に頼ることさえ、もう出来ない。
自分に彼が止められるとは思えないし、彼に自分を殺させることもしたくないから。
だが、結局のところ、疲れ果ててしまったのかもしれない。
人を、しかも本来は自分たちが守るべき者である少女を殺してしまったという事実が、おぼろにとってあまりにも重かった。耐え難いほどに。
疲労と動揺で回らぬ頭で必死に考えて、行き着いた結論。
もはや、誰の役にも立てない自分の、これが、彼女へのせめてもの償い。
いざ、その時になって、自分がイカヅチ丸を置いてきてしまったことに気付く。
「まあ、しょうがないな。あれがあれば首輪が台無しにならんから、うちも誰かの役に立てたかもしれんけど」
640
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/10(月) 21:16:51
ひとりごちて、こんな時にさえのぞく、自分の技術者根性に少しだけ笑う。
静かに芝生の上に跪く。
ゆっくりと自分の首元に。そこに光る首輪に手を掛けた。
その姿はどこか、神に祈る殉教者のようだった。
(―――お父ちゃん。鷹介。七海。吼太。一甲ちゃん。一鍬ちゃん―――)
残してしまう彼らの顔が胸によぎる。
もう、彼らの元に帰れない。それだけは少し悲しかった。
大きく息を吐き、いよいよ首輪を引き千切ろうと、手に力を込める。
(なんでや?)
何故、最期の瞬間に胸をよぎったのが、父でもなく、ハリケンジャーたちでもなく、ましてゴウライジャーたちでもなく。
一番最初に見た。月光を後ろに不敵に笑う。最上蒼太の笑顔だったのだろう。
(ああ、そうか。うちはただ―――――――――)
どこか遠くで、悲しげな犬の遠吠えが聞こえる。
日向おぼろの最後の意思は、爆散の凄まじい勢いに掻き消され、空気に溶けて消えていった。
【日向おぼろ 死亡】
【間宮菜月 死亡】
残り 24人
641
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/10(月) 21:18:43
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:D−7都市 1日目 午後
[状態]:気絶中。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ブクラテスは信用できない?センは?
第一行動方針:???
第二行動方針:???
※首輪の制限を知りました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:D−7都市 1日目 午後
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:気絶している竜也を守る
おぼろと菜月のディバック、及び、イカヅチ丸はD−7都市、遊園地内広場に放置されています。
642
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/10(月) 21:20:36
以上です。
誤字脱字、指摘、ツッコミ、感想などございましたら、よろしくお願いします。
643
:
7つ 名も無き人の為
:2009/08/10(月) 21:33:44
ぎゃあああああ!
ちらっと読ませて貰ったけど強烈にGJ!
出先なので代理投下できるまで一時間ほどかかりますが帰り次第させて貰いますよ!
644
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/11(火) 12:26:42
申し訳ありません。本スレにて、ご指摘のあった通り、一部間違いがありました。
まとめ氏、お手数ですが、まとめ収録の際に、
>>声も枯れろと叫ぶのは、たった一つのボイスコマンド。
「クロノ!!チェンジャー!!!!!!!」
瞬く間にクロノ粒子に包まれたその足から鋭い蹴りを放つ。
を
>>声も枯れろと叫ぶのは、たった一つのボイスコマンド。
「タイムファイヤァァァ!!!!!!!」
瞬く間にクロノギアを纏ったその足から鋭い蹴りを放つ。
に差し替えて頂けますでしょうか。よろしくお願いします。
645
:
◆Z5wk4/jklI
:2009/08/11(火) 13:48:10
すみません。もう一箇所ありました。
>構えを解くと、クロノスーツを解く暇さえ惜しんで菜月の元に駆け寄る。
この部分を
>構えを解くと、クロノギアを解く暇さえ惜しんで菜月の元に駆け寄る。
に差し替えていただけますでしょうか。
本当にお手数ばかりおかけして申し訳ありません
646
:
◆i1BeVxv./w
:2009/08/11(火) 21:45:36
さるさん規制のため、こちらに投下いたします。
お手隙でしたら、代理投下をお願いいたします。
647
:
◆i1BeVxv./w
:2009/08/11(火) 21:46:21
「よし、早速ドモンを探しに行くか。奴を止めるためにな」
ボウケンシルバーはヒカルに背を向け、手で背中を示す。
「乗れよ。変身が解けるまで、まだ時間がある。少しでも距離を縮めるんだ」
「……そうだね」
指示通り、ヒカルが背に負ぶさると、ボウケンシルバーは力の限り、走り始めた。
次々と移り変わる景色。ヒカルは知る由もないが、ボウケンシルバーはタイムブルーを追いかけるときも、ホテルへ戻るときも全力で走っていた。
それに加え、数時間前にも全力疾走を経験している。
いくらアクセルスーツで筋力が強化されているといっても、持久力まではどうしようもない。
数秒と経たない内に呼吸が乱れ始める。が、それをボウケンシルバーは根性で押さえ込む。
ヒカルに心配を掛けないためだ。もっとも、密着しているヒカルにはバレバレだが。
そんな一生懸命なボウケンシルバーにヒカルは多少の罪悪感を覚えた。
確かにヒカルは殺し合いに乗らないことにした。ドモンを止めようとも思っている。
だが、禁忌を犯そうとしていることに違いない。
(とりあえず、ドモンがまだ誰も殺していないことがわかっただけで収穫はあった。
例え、修正される時間でも、そのような悲劇は起こらない方がいいからね)
ヒカルはずっと考えていた。
このままでは遅かれ早かれ、自分もドモンも人としての禁忌を犯すことになる。
いや、自分やドモンだけではない。この殺し合いに巻き込まれた全参加者にその可能性がある。
そして、それは決して止めることはできない。
ならば、最小限の犠牲で最大の効果が得られる方法は何か。
それはすなわち、自分の魔法だ。止めることができないなら、禁忌を犯す前に戻してしまえばいい。
(そう。僕にはその力が、魔法がある。
この魔法を使えば、魔法世界の禁を破ることになる。そして、最後には世界を崩壊させることになる。
でも、その崩壊も魔法を使った者の死によって止められる。
たった一人の犠牲で皆が助かるんだ。このまま殺し合いが続くよりは遥かにマシなはずさ)
またもヒカルの脳裏に教え子の姿が浮かんだ。
以前、その魔法を使った教え子に、ヒカルは魔導師の一歩になると厳しく糾弾した。
だが、皮肉にも今度はヒカルがその一歩を踏み出そうとしていた。
648
:
禁忌
◆i1BeVxv./w
:2009/08/11(火) 21:49:22
(この行動は決して勇気あるものじゃない。でも、例え魔導師師になろうとも果たしたいことがある。
翼もこんな気持ちだったのだろうか?)
今更、そんなことを思いながら、ヒカルは心の中でだけその禁じられし呪文を呟いた。
―ロージ・マネージ・マジ・ママルジ―
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー
[思考]
基本方針:時間を戻し、歴史の修正を行う。
第一行動方針:歴史の修正を行うための準備をする(情報集め)
第二行動方針:深雪の首輪を奪おうとした裕作に不信感。
第三行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。また、映士から情報を得ました。
マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
649
:
禁忌
◆i1BeVxv./w
:2009/08/11(火) 21:50:00
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:何度も全力疾走をしたことによる極度の疲労。ボウケンシルバーに変身中。
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ヒカルと共にドモンを探す。
第二行動方針:仲間たちと合流。
第三行動方針:ガイと決着を着ける。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。 変身制限に気が付きました。
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:全身に打撲、切り傷あり。疲労困憊ながら、気分は高揚。タイムブルーに2時間変身不能。
ネジビザールの力を1時間程度発揮できません。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン
ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、クロノチェンジャー(黄)@未来戦隊タイムレンジャー
スフィンクスの首輪、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す
第一行動方針:次元獣化した並樹瞬を元に戻し決着をつける。そのため、最期の二人になるまで戦う。
第二行動方針:とりあえず海岸を一回り。
第三行動方針:強敵との戦いを楽しむ。
[備考]
2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。
650
:
◆i1BeVxv./w
:2009/08/11(火) 21:50:41
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などありましたら、よろしくお願いします。
651
:
7つ 名も無き人の為
:2009/08/17(月) 11:10:21
まとめ氏申し訳ありません。
まとめサイトの∵疑心暗鬼についてお願いがあるのですが。
SS中ほど、センたちが出て来る冒頭の部分にて。
センは強く歯を噛みしめる。
と
「セン。放送で呼ばれたドギー・クルーガーというのは、おまえの知り合いだったな」
の間に
「セン!!!!」
突然、後ろを歩いていた理央に肩を掴まれ、センはハッと我に帰る。
どうやら理央は何度もセンを呼んでいたらしい。
振り返れば、ブクラテス以下3人と相当な距離が出来ていた。
「と、すみません。少し考え事を……」
センは柔和な笑いを浮かべたが、理央は表情を全く崩さない。
の文を追加して頂いてよろしいでしょうか?
お手数をおかけいたしますがよろしくお願いいたします。
652
:
7つ 名も無き人の為
:2009/08/19(水) 23:15:57
遅れまして申し訳ありません。
修正しましたので、ご確認ください。
653
:
7つ 名も無き人の為
:2009/08/20(木) 09:34:52
>>652
修正ありがとうございました。
いつもお世話になります。多謝であります!
654
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/08/24(月) 21:28:50
そのスタジアムはエリアの中心にあった。
ツタの絡まる重厚な外壁。その割に造りは新しい。
アクリルの天窓から太陽の光が差し込むロビーを抜け、俺はまずシャワー室へ向かった。
重い扉を開け、身体から衣服を剥ぎ取る。
蛇口を捻り、頭から冷たいシャワーを浴びた。
勢いよく噴き出したシャワーが酷く傷口に染みる。
流れ落ちる水が真っ赤な渦を巻いて排水溝へ飲み込まれて行く。
俺は呻き声を抑えながら、掻きむしるように全身の血を洗い流した。
脱衣カゴが並ぶボックスの上に積み上げられたバスタオルを一枚引っ張り出す。
身体を拭き終えると白かったバスタオルが赤いマーブル模様に変わっていた。
シャツに手を通しながら隣室へ繋がる通路を覗く。
シャワールームの横は控室になっていた。
くたびれた茶色の長椅子が並んでいて、奥の棚には赤い十字架の描かれたプラスチックケースが置かれている。
俺は着替えを済ませ、プラスチックケースの中を漁った。
満身創痍のままじゃ、あいつらを殺すどころか拘束→介抱→説得なんて最悪コンボに叩き込まれかねない。
医療用テープを取り出し、全身に丁寧にテーピングを施す。
得に抉られた右手は、傷口をすべて覆い隠すほどしっかり固定した。
右手に力を混め、片足で軽くジャンプして具合を確かめる。
多少ふらつきはするが、気力で充分カバーできる。
見た目も少しはマシになった。気持ちも多少は落ち着いていた。
「さーてと、行くかっ」
右手に忍者刀、左手に拡声器を持って、俺はグランドへと続く暗い廊下へ歩きだした。
停滞していた空気がひんやりとシャワーで火照った身体を包む。
この先は明るい。グランドの芝が眩しかった。
控室からグランドまでの距離は、決意を鈍らせるほど長くもなく、必要以上に焦りを感じさせるほど短くもない。
今の俺には、丁度いい距離だった。
グランドは嘘のように静かだった。
無人の観客席を埋めるシートの赤が冷めた色に見える。
ライナービジョンがゲートから足を踏み入れた俺の映像を流した。
0が並ぶスコアボード。選手の名は空白。
その横の時計が1時を差していた。
咳ばらいを一つ。
俺はピッチャーマウンドに立つ。
拡声器のボリュームは最小まで下げてある。
必要以上に触れ回る必要はなかったし、誰かに邪魔もされたくない。
このエリアにいるあいつらだけに聞こえれば、それでいいからだ。
スイッチを入れ口元まで持ち上げる。
拡声器が、傷だらけの腕を更に痛め付けるように重い。
たった数百グラム、ダンベルに代わりにもならない拡声器がだ。
クロノチェンジャー無し。
満身創痍。
そして今から成すべき事。
655
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/08/24(月) 21:29:58
そのすべてをひっくるめたら、俺の置かれた状況は、地方戦の決勝戦九回の裏といったところだろうか。
深く息を吸い込み、セットポジションへ入った。
高まりを押さえ付け、そして……。
「竜也ァァァーーーーーーーーーッ!シオーーーーーーンッ!!俺、ドモンはこの殺し合いに乗ったーーーーーーーーーッ!!!」
勝負はストレートに賭ける。
いくら殺すからといって、騙し討ちはしたくなかった。
俺がもう少し利口なら……。
どうせ殺すんだ、と。
結果に至るまでの過程はどうでもいいと、変化球のように甘い言葉であいつらを誘っただろうか。
いや、やっぱりそれは無いな。
どうしてかと言えば、あいつらは仲間だからだ。
「俺が望むのは!愛する人にもう一度、家族をプレゼントする事ーーーッ!!」
だから殺し合いに乗った。
深雪さんを家族の元へ帰してやりたい。
おまえらにそれを解ってもらおうとは思わない。
ただ知って欲しかっただけだ。
「だからっ、俺はおまえらを殺すっ!」
『何かを失って初めて、その大切さに気づく』
なんて使い古された言葉だろうな。
まさか実感する時が来るとは思わなかったよ。
失われるモノであるからこそ、タイムレンジャーだった日々はこのマウンドの芝のようにキラキラと輝き、とても大切なものに思える。
息が詰まる。
次の言葉を口にできるまで数秒掛かりそうだ。
迷ったんだ。
どっちも大切だったんだよ。
秤れっこ、無いだろう。
身体を支えていた足から力が抜ける。
にわかに傷が痛みだす。
生命の証のように、光り輝く芝生が目に映る。
……違う。
殺し合いに乗る。そう決意した時から。俺は、おまえらを仲間との絆を自分の手で断ち切った。
「おまえらとは仲間だった。だからっ!だからこそ、他の誰かに殺られちまう前にっ!俺の手で殺さなきゃならないっ!!」
悪いな。竜也、シオン。
もう、後戻りは出来ない。
656
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/08/24(月) 21:33:45
俺はおまえらを殺し、ヒカルさんと同じマウンドに立つのを選んだ。
「ここで待ってるぜ!俺はおまえらを殺すために!!ここで待っている!!早く来いっ。竜也アーーッ、シオーーーーーンッ!!!」
言い終えた俺は、そのままピッチャーマウンドへ仰向けに倒れた。
景色は一転して青空。
俺は自分の放ったストレートの球筋を見送るように、その青空の奥を見つめた。
深雪さん。
これから俺が踏み出す第一歩を、きっと、あなたは喜ばないんだろうな。
なぁ。竜也、シオン。
何でだろうな。
おまえたちに会うえると思うったら、俺……。
何かホッとしてるんだぜ。
幾つか雲を見送った後、俺は立ち上がり、スタジアムベンチに座る。
ベンチに置いてあったスタメンの名簿へ、頭に浮かんだ名前を書き入れた。
気まぐれだとか、暇つぶしだとか、そんな類のラクガキ。
別にこれといって深い意味はなかった。
竜也、シオン、ユウリ、アヤセ。
そして、深雪さん。
忍者刀を胸に抱え、俺は無意識に流れた涙を拭った。
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:身体中に無数の切り傷と打撲と火傷。特に右腕と左足は使い物になりません。
[装備]:闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、拡声器
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:仲間(シオンor竜也)を殺害する。
第二行動方針:壬琴とのゲームに乗る。
備考:変身に制限があることに気が付きました
拡声器はボリュームを最小まで下げてあります。よって、ドモンの発した声の有効範囲はG-6エリアのみです。
以上です。見つけた誤字等も修正しております。
いつも大変申し訳ありません。
よろしくお願いします。
657
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(再修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/08/24(月) 21:43:22
すみません。
誤字修正する箇所が数カ所抜けていました。
再度投下させて貰います。
658
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(再修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/08/24(月) 21:43:57
そのスタジアムはエリアの中心にあった。
ツタの絡まる重厚な外壁。その割に造りは新しい。
アクリルの天窓から太陽の光が差し込むロビーを抜け、俺はまずシャワー室へ向かった。
重い扉を開け、身体から衣服を剥ぎ取る。
蛇口を捻り、頭から冷たいシャワーを浴びた。
勢いよく噴き出したシャワーが酷く傷口に染みる。
流れ落ちる水が真っ赤な渦を巻いて排水溝へ飲み込まれて行く。
俺は呻き声を抑えながら、掻きむしるように全身の血を洗い流した。
脱衣カゴが並ぶボックスの上に積み上げられたバスタオルを一枚引っ張り出す。
身体を拭き終えると白かったバスタオルが赤いマーブル模様に変わっていた。
シャツに手を通しながら隣室へ繋がる通路を覗く。
シャワールームの横は控室になっていた。
くたびれた茶色の長椅子が並んでいて、奥の棚には赤い十字架の描かれたプラスチックケースが置かれている。
俺は着替えを済ませ、プラスチックケースの中を漁った。
満身創痍のままじゃ、あいつらを殺すどころか拘束→介抱→説得なんて最悪コンボに叩き込まれかねない。
医療用テープを取り出し、全身に丁寧にテーピングを施す。
得に抉られた右手は、傷口をすべて覆い隠すほどしっかり固定した。
右手に力を混め、片足で軽くジャンプして具合を確かめる。
多少ふらつきはするが、気力で充分カバーできる。
見た目も少しはマシになった。気持ちも多少は落ち着いていた。
「さーてと、行くかっ」
右手に忍者刀、左手に拡声器を持って、俺はグランドへと続く暗い廊下へ歩きだした。
停滞していた空気がひんやりとシャワーで火照った身体を包む。
この先は明るい。グランドの芝が眩しかった。
控室からグランドまでの距離は、決意を鈍らせるほど長くもなく、必要以上に焦りを感じさせるほど短くもない。
今の俺には、丁度いい距離だった。
グランドは嘘のように静かだった。
無人の観客席を埋めるシートの赤が冷めた色に見える。
ライナービジョンがゲートから足を踏み入れた俺の映像を流した。
0が並ぶスコアボード。選手の名は空白。
その横の時計が1時を差していた。
咳ばらいを一つ。
俺はピッチャーマウンドに立つ。
拡声器のボリュームは最小まで下げてある。
必要以上に触れ回る必要はなかったし、誰かに邪魔もされたくない。
このエリアにいるあいつらだけに聞こえれば、それでいいからだ。
スイッチを入れ口元まで持ち上げる。
拡声器が、傷だらけの腕を更に痛め付けるように重い。
たった数百グラム、ダンベル代わりにもならない拡声器がだ。
クロノチェンジャー無し。
満身創痍。
そして今から成すべき事。
659
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(再修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/08/24(月) 21:44:27
そのすべてをひっくるめたら、俺の置かれた状況は、地方戦の決勝戦九回の裏といったところだろうか。
深く息を吸い込み、セットポジションへ入った。
高まりを押さえ付け、そして……。
「竜也ァァァーーーーーーーーーッ!シオーーーーーーンッ!!俺、ドモンはこの殺し合いに乗ったーーーーーーーーーッ!!!」
勝負はストレートに賭ける。
いくら殺すからといって、騙し討ちはしたくなかった。
俺がもう少し利口なら……。
どうせ殺すんだ、と。
結果に至るまでの過程はどうでもいいと、変化球のように甘い言葉であいつらを誘っただろうか。
いや、やっぱりそれは無いな。
どうしてかと言えば、あいつらは仲間だからだ。
「俺が望むのは!愛する人にもう一度、家族をプレゼントする事ーーーッ!!」
だから殺し合いに乗った。
深雪さんを家族の元へ帰してやりたい。
おまえらにそれを解ってもらおうとは思わない。
ただ知って欲しかっただけだ。
「だからっ、俺はおまえらを殺すっ!」
『何かを失って初めて、その大切さに気づく』
なんて使い古された言葉だろうな。
まさか実感する時が来るとは思わなかったよ。
失われるモノであるからこそ、タイムレンジャーだった日々はこのマウンドの芝のようにキラキラと輝き、とても大切なものに思える。
息が詰まる。
次の言葉を口にできるまで数秒掛かりそうだ。
迷ったんだ。
どっちも大切だったんだよ。
秤れっこ、無いだろう。
身体を支えていた足から力が抜ける。
にわかに傷が痛みだす。
生命の証のように、光り輝く芝生が目に映る。
……違う。
殺し合いに乗る。そう決意した時から。
俺はおまえらを、仲間との絆を、自分の手で断ち切った。
「おまえらとは仲間だった。だからっ!だからこそ、他の誰かに殺られちまう前にっ!俺の手で殺さなきゃならないっ!!」
悪いな。竜也、シオン。
もう、後戻りは出来ない。
660
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(再修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/08/24(月) 21:48:18
俺はおまえらを殺し、ヒカルさんと同じマウンドに立つのを選んだ。
「ここで待ってるぜ!俺はおまえらを殺すために!!ここで待っている!!早く来いっ。竜也アーーッ、シオーーーーーンッ!!!」
言い終えた俺は、そのままピッチャーマウンドへ仰向けに倒れた。
景色は一転して青空。
俺は自分の放ったストレートの球筋を見送るように、その青空の奥を見つめた。
深雪さん。
これから俺が踏み出す第一歩を、きっと、あなたは喜ばないんだろうな。
なぁ。竜也、シオン。
何でだろうな。
おまえたちに会えると思ったら、俺……。
何かホッとしてるんだぜ。
幾つか雲を見送った後、俺は立ち上がり、スタジアムベンチに座る。
ベンチに置いてあったスタメンの名簿へ、頭に浮かんだ名前を書き入れた。
気まぐれだとか、暇つぶしだとか、そんな類のラクガキ。
別にこれといって深い意味はなかった。
竜也、シオン、ユウリ、アヤセ。
そして、深雪さん。
忍者刀を胸に抱え、俺は無意識に流れた涙を拭った。
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:身体中に無数の切り傷と打撲と火傷。特に右腕と左足は使い物になりません。
[装備]:闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、拡声器
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:仲間(シオンor竜也)を殺害する。
第二行動方針:壬琴とのゲームに乗る。
備考:変身に制限があることに気が付きました
拡声器はボリュームを最小まで下げてあります。よって、ドモンの発した声の有効範囲はG-6エリアのみです。
何というか本当にすみません。
おそらくまだ自分では気が付いていないおかしな所があるかもしれません。
指摘頂けると本当にありがたいです。
661
:
オアシスで昼食を(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/09/06(日) 19:21:18
梢から疎らな太陽の光が零れる森の中、切り株の上に二人の異形が背を向け座っている。
一人は剣将ブドー。青き肌とその名に相応しい剣の使い手、元はバルバンの名高き幹部だった男。
もう一人は魔法猫スモーキー。そしてこちらもその名に相応しく魔術に足けた猫である。
二人の距離は僅か十数センチ、互いに背中合わせのまま会話はない。
息を潜め、真逆に位置する虚空を食い入るように見つめながら、二人は第二回放送を聞いていたのだった。
「ふっ、どうやら理央の手当は間に合ったらしい」
ブドーが理央の強運を祝すように言う。
「……死者数は8名であったな」
その中にブドーの手に掛かった者はいない。少しばかりの悔しさのせいか語尾は下っている。
声こそ悪の幹部らしく低く落ち着いてはいた。だがまるで前線から外された老兵の呟きのようにブドーの声は哀愁を帯びている。
スモーキーはそれをちらっと見遣り森へ視線を戻し――
「ああああああああああ〜。腹減ったにゃぁあああああああ〜!!」
――本能の思うままに叫んだ。
ブドーの目に薄く冷たい光が走る。
そんなことはお構いなしにスモーキーは大声を張り上げた。
「何か食いてーニャー!」
死者の中に知己の者は無し。
放送がスモーキーに齎したのは安堵。そして安堵は空腹感を呼んだ。ゆえにそれが満たされるまでブドーに訴えるつもりなのだ。
スモーキーは支給品、一応今はブドーが持ち主であるからだ。
正確に言うとスモーキーは理央との戦いのための人(猫)質。
いわばダシだ。
ダシにされている以上空腹を満たすぐらいの欲求は訴える権利はあるだろうとスモーキーは切に、そして激しく訴え始めた。
◆
「おい!腹が減ったニャ!!」
もう数分の間ブドーへ声をかけているが一向に食料を取り出そうとしない。
ブドーはスモーキーの様子に、ただ笑いを漏らすだけだ。
「聞いてんのかーーーーーーーー!」
血走った目を見開くスモーキー。
片手で耳元を押さえながら、ブドーはようやく訴えに答えた。
「……おまえの大声に獲物の一匹でも掛かると思ったが。うむ。まぁ、ご苦労であった」
ブドーが取り出したのは薄いペーパーに包まれた食料。
「お〜!」
スモーキーは目を輝かせ歓声を上げる。
「いや〜、何か悪りぃニャー。んで、おまえは食わないニャ?」
多少強引に、半ばもぎ取るようにブドーの手からライスバーガーを奪ったのはスモーキーなりの配慮である。
分け合おうなんていうニュアンスは間違っても感じさせないためだ。
遠慮なく。ビリビリと包み紙を半分ほどめくれば、香ばしいタレの香りが鼻腔を擽った。
こんがりとキツネ色に焼き上げられ、程よい照りと艶を放つライスプレートがサニーレタスと和風ダレを纏った牛肉を挟む。
口の中が先走って想像を広げた。
みずみずしいサニーレタスの食感とジューシーな肉の味……。
「美味そうだニャー」
つい流れたヨダレを拭いているとブドーが口を添えた。
「うむ、ライスバーガーと言う。拙者も先程口にしたが、美味であった」
スモーキーは手を止め、真面目な表情でブドーに向き合う。
662
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(再修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/09/06(日) 19:22:17
「……美味であった。(キリッ)だと?って何だそりゃ、ニャハ。怖ぇーツラして笑わせんじゃね〜!何マジで言ってんだ?ニャハハハハハハハハハ!」
ブドーの気配がにわかに淀んで行くのに気付かずスモーキーは笑い転げる。
「プギャー!ニャハハハハハッ。ニャー、ほんと笑かしてくれるぜ。さて、じゃあ。いっただっくニャー」
流れるよだれに構わず大口を開けた瞬間。
「ていっ!」
ブドーが素早くスモーキーの手からライスバーガーを奪い取った。
「あーーーーーっ!何するニャー!!」
スモーキーの批難に構わずブドーはスタスタと歩き出す。
数メートル離れたところで振り返り、半分包みの破られたライスバーガーを掌に乗せた。
「気が変わった……。一向に獲物が表れぬので拙者は退屈しておったのだ。しかし、思い帰せば貴様とて実力は中々のモノ。手合わせ願おうか」
「ニャ、何ィ!」
「何も人質と斬り合おうとは思っておらぬ」
ブドーはからかうようにライスバーガーを頭上高く掲げた。
「どうした、これが欲しいのであろう?さぁ、欲しくば拙者の手より奪い取るがいい」
スモーキーは答えの代わりに爪を立てる。
その様子に満足したのかブドーは嘲笑を浮かべライスバーガーをポンと真上へ放り投げた。
「フシャーッ!」
スモーキーは切り株を足掛かりに、ぐんと膝を折り反動をつけて地面を蹴る。
腕を伸ばし、ライスバーガーをキャッチ仕掛けて――
「ニャッ!?」
――殺気を感じ、咄嗟に空中で身体をかわした。
シュッ、と紙を切るような軽い音。スモーキーのヒゲをブドーの拳が掠める。
腹に激痛が走る。
「ギャ!」
スモーキーの腹部を蹴ってブドーは木々の上へ跳躍した。
「追って来られぬなら、これは拙者が頂く」
「待つニャー!」
爪と牙を剥き出し追うスモーキー。
先を行くブドーはニヤリと笑い、手の上でライスバーガーをくるくると回した。
◆
「くっそー!」
ぶるんっと首を振り、スモーキーは顔についた砂を払う。
「そうか、もういらぬのだな。ならば……」
「ちょっと待つニャーーーーー!よこせコラ!!」
追いかけっこを続けながら二人は砂漠まで来ていた。
スモーキーは追い。
ブドーは逃げる。
もう、追いかけっこは一時間にも及ぶ。
不思議な気持ちがする。
スモーキーは、この追いかけっこを楽しんでいた。
ブドーも同じように見える。
淀んだ気配は既にブドーから消え去っていた。
息がかかるほど近づく。
だが寸前でかわされ、爪は宙を掻くばかり。
ブドーの動きはまるでねこじゃらしのよう。
不意に近づいては誘い、寄れば遠ざかり、否応なしに猫心を擽る。
砂が舞う。
その度にブドーはその手を天へ突き出す。
手の中のライスバーガーを守っているかのように……。
「ニギャー!」
「ハハハ!砂にまみれ、良い姿になったな。多少なりとも薄汚れた方が人質らしさは出るというモノ」
「絶対絶対絶対!食ってやるニャ」
噛んだ砂を吐き出しながら、スモーキーは闘志を燃やす。
楽しかった。
このくだらない追いかけっこは。
同じように感じたのだろうか。二人に僅かな笑みが浮かんだ。
でも、すべてに終わりは来るのだ。
オアシスはもうすぐそこにある。
ブドーは構える。
その懐にスモーキーは躊躇することなく突進した。
懐に入り込む寸前、ブドーに頭を抑えつけられた。
反動をつけてブドーはスモーキーの身体を飛び越し、ライスバーガーを空へ放り投げる。
そのままライスバーガーを掴んで距離を稼ぐつもりだ。
「さーせーるーかー!!」
スモーキーは腕を伸ばす。だが掴むのはライスバーガーではない。狙いはブドーの足。
663
:
エリアの中心で、愛をさけぶ(再修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/09/06(日) 19:23:25
「砂を噛むのはテメーの番だ!」
掴んだ足を思い切り引く。
「ぬぅっ!」
ブドーは咄嗟に手を出し支えようとした。だが下は砂地。
手は砂を滑り身体を支え切れない。
結果、ブドーはビタンと砂に叩きつけられて、スモーキーの言葉通り砂を噛んだ。
スモーキーは空をぐるりと見渡しライスバーガーを捜す。
「あそこか!」
太陽の横、空中に浮かぶ黒点。
サニーレタスを羽のようにはためかせ、ライスバーガーが空を飛んで行く。
「うりゃー!」
後ろ足の爪をスパイクがわりにスモーキーは砂を蹴った。
着地点は20メートル先。
スモーキーは全力でその距離を詰める。
すぐに起き上がったブドーが後ろから追い上げてくるのが気配で解った。
ブドーは尋常ならざる疾駆でスモーキーの背後に迫る。
「へっ、猫のジャンプ力を舐めんにゃよ!届けーーーーー!!」
「笑止!拙者の力を見くびるでない、むん!」
我先にとライスバーガーへ手を伸ばし、二人は同時に跳躍した。
ぶつかり合う砂が高く舞い上がる。
砂に目をやられ、スモーキーは思わず目を閉じた。
期待と焦燥が弾けた一瞬。
たが、その手には何かを掴んだ感触があった。
◆
目を開けると、落下の衝撃で原形を無くした元ライスバーガーが転在していた。
「にゃんだ?じゃあ、オレ様が握ってんのは……」
手元を見遣る。その先で複雑な表情のブドーが砂まみれでこちらを見ていた。
スモーキーが握っていたのはブドーの手。
「ニャーーーーー!ニャニャニャニャニャニャニャニャニャ!!」
手を振りほどき、悔し紛れに砂を引っ掻いて撒き散らした……。はずだった。
なのにそう気分は悪くない。
何故か最後には笑いが零れた。
「ま、しょーがないニャー。でも、中々面白かったぜ。大将」
(どうせどこかでお山の大将やったたんだろ?敬意を込めてバカ大将とでも読んでやるニャー。ニャハ)
後ろで身体の砂を払うブドーの手が止まる。
「大将……」
ブドーはそれから何かを言いかけて軽く首を振った。
言葉の続きを待つスモーキーに、ブドーはデイパックからライスバーガーをもう一つ取り出した。
「理央との決戦、腹の虫で邪魔されては叶ぬ」
スモーキーは黙って受け取り、しばらくそれを見つめていた。
「なぁ、オレ様がずーっと追いかけてやるからよ。続きやろうぜ」
言った後で、何故そんなことを言っているのか解らなくなった。
ブドーは立ち上がりオアシスの方を向いている。スモーキーから表情は見えない。
「何ならオレ様のダンナや、さっきのシグナルマン。理央や黄色いのたちだって仲間に入れてよぉ……」
混乱したまま、口から零れるままに、スモーキーは話を続けた。
「やろうぜ。なぁ、アンタの気が、変わるまで……」
楽しかった。ブドーもそう感じていたはずだ。何も殺し合いなどしなくても勝負は付けられる。
ブドーが振り向いた。
怒っている様子はない。
「拙者が応じると思うか?いや、万が一拙者が応じたとしても理央やその仲間のセンが応じるとでも?」
何か諭すような言い方が癪に障った。
「理央は殺し合いに乗ってねーんだろ!だったら……」
「拙者が殺したのは二人に縁のある者」
そう、ブドーはすでに二人殺している。スモーキーもそれは聞いていた。
「でもよ……」
何とも言えない嫌な思いがスモーキーの胸に込み上げる。
それを振り払うようにスモーキーはブドーを笑い飛ばした。
「ニャハハハハ!全くアンタはとんだバカ大将だにゃ。ロンの言葉にすっかり騙されてやんの!」
「騙されるだと?」
「あぁ、何でも願いを叶えてやるなんて出来るわけねーだろ!
魔法も使えねーくせに死んだ人間を生き返らせるとか。そんなの信じて殺し合いに乗っちまったんだろ?」
「くっくっくっくっく……。はっはははははははははっ!!!」
応酬とばかりにブドーが笑う。
笑いが大きくなるに連れ、地に落とした影が黒く不気味に色を増した。
664
:
オアシスで昼食を(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/09/06(日) 19:24:36
「生き証人がここにいるではないか?」
「あぁ!生き証人だぁ」
「左様、拙者は一度宿敵に討たれ命を絶っている。その時の記憶は忘れておらぬ。
おまえのダンナとやらに会ったら教えてやるがいい。おまえたちの仲間はすでに放送で呼ばれた者がいるのであろう?」
「そうだとしても!麗や皆はそんなの喜ばないにゃ。第一オレ様が許さないニャ!!」
「何故そうむきになる?ダンナとやらは殺し合いに乗っているのか」
「うるせー!もしダンナがそんなことやってたら、そんな大間違いはオレ様が直してやるニャ!!」
ダンナは殺し合いになんか乗らない。言い切れないのが悔しかった。
「もしも、もしも、もしも……。絶対ありえねーけど、もしそうならオレ様の手で引導を渡してやる。ダンナの手は汚させにゃい……」
メメの鏡で見た出来事がスモーキーの気掛かりだった。出来るなら今すぐにでも確かめたかった。
「ダンナか……」
ブドーは呟き、スモーキーの手の平ごとそっと包むように手を添えライスバーガーを握らせた。
「従者に引導を渡されるのはいかなるものであろうか……。拙者には解らぬが、あるいは幸せなのかもしれぬな」
スモーキーは一度突き返そうとした。だが思い直し、包みを全て破り取ってライスバーガーを半分に割った。
気まずさを感じながら、その半分をブドーへ差し出す。
「飯は一人で食うもんじゃねーニャ……」
時間にして一拍、呆気に取られたような表情を浮かべ、ブドーは豪快な笑顔を立てた。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:E-9オアシス 1日目 日中
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。闇の力により戦闘力増幅。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー
手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)
マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(ブドー&バンキュリア)
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:理央の治療を待ち、決着をつける。(4時44分、C9エリアにて)
第二行動方針:理央の治療を待つ間、適当な獲物を狩り、実力を試す。
第三行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。
※闇の三ツ首竜により力が増幅しています。
【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:E-9オアシス 日中
[状態]:健康。30分程度能力制限中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを探す
第一行動方針:ブドーの猫質
第二行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す。ブドーに対し複雑な気持ち。
※落ちていたメメの鏡の破片(粉砕)によってヒカルがサーガインを刺したのを見ています。
665
:
オアシスで昼食を(修正版)
◆MGy4jd.pxY
:2009/09/06(日) 19:25:50
以上です。途中タイトルが前回投下した分とごちゃごちゃになってしまいました。
リロードミスです。申し訳ありません。
666
:
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:15:30
さるさん規制のため、こちらに続きを投下いたします。
667
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:16:19
「くっ!」
「さて、誰から死にたい?」
サラマンデスは改めて発揮する自分の力に酔っていた。
ジルフィーザが生きていることに動揺を覚えたが、何も心配することはなかったのだ。
(そうだ、誕生の時にわかったではないか。今の自分はジルフィーザを遥かに超える力を持っていると。
2時間の制限にさえ気をつけていれば、俺に敵などいない!)
「はっ!」
サラマンデスが火球を放つ。
怯むタイムグリーンとガイ。だが、メガシルバーは違った。
シルバーブレイザーを構え、突進すると、火球に向けて、光弾を放つ。
爆音を上げ、破裂する火球。
その光と音に、皆の眼が一瞬眩む。それはサラマンデスとて、例外ではない。
眼の眩んだサラマンデスに向けて、メガシルバーは斬撃を放とうとする。
「ふん、また小細工か」
だが、サラマンデスも馬鹿ではない。
サラマンデスはその翼で上空高く舞い上がる。そして、グレイブラスターで眼下にいるメガシルバーを狙い撃った。
未だ眩む瞳のせいで、その狙いは正確ではないものの、無数に放たれる弾丸に、メガシルバーのスーツが削られていく。
そして、途切れない攻撃はメガシルバーの反撃を許さない。
「はっはっはっはっ!」
高らかに笑うサラマンデス。
「裕作さん」
メガシルバーを守るため、タイムグリーンはボルパルサーでバリアを張る。
「駄目だ、シオン!」
しかし、それはサラマンデスの狙い通りだった。
確かにバリアを張れば、メガシルバーは守れる。が、その代償として、自分自身の防御はがら空きになる。
「馬鹿め」
気付いた時には遅かった。放たれた火球がタイムグリーンに直撃する。その威力に解除される変身。
そして、バリアが解けると同時に、サラマンデスは急降下し、シオンに気を取られたメガシルバーに蹴りを放った。
「ぐっ、シルバーブレイザー」
攻撃を受けながらもシルバーブレイザーで反撃を試みようとするメガシルバー。
668
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:16:50
しかし、引き金を引く直前、彼の手からシルバーブレイザーが消える。
2分30秒。彼の制限時間が経過したのだ。
「ちっ、こんな時に」
生身のまま、背中から地面へと叩きつけられる裕作。
意識こそ保っているものの、直ぐに立ち上がることは叶わない。
サラマンデスはその二人の様子を満足に見遣ると、残った最後の一人に眼を向けた。
「残るは貴様だけか。逃げなかったことだけは誉めてやる」
「へっ、冗談じゃねぇ。倒せる相手にどうして逃げるんだよ」
サラマンデスに堂々とした態度で対峙するガイ。
「ほぉ、勝算があるというのか?」
「へっへ〜、これを見な!」
ガイは自慢げに手元にある武器を見せる。
それはホーンブレイカーにスタッグブレイカーを合体させた形態。
ゴウライジャーの必殺武器、ダブルガジェットだ。
ガイは持ち前の闘魂で、ホーンブレイカーとスタッグブレイカーが合体できる性質のものと見抜き、見事、合体を実現させたのだ。
「ふっ、何かと思えば。そんな武器を持ったところで、俺に勝てると思うのか」
「あたぼうよ。じゃあ、試してみようぜ。どっちが早く撃てるかだ」
(ふん、くだらんな)
サラマンデスは嘲るような笑みを浮かべる。
ダブルガジェットが強力な武器だったとしても、ガイは既に満身創痍。
この状態で勝てるなど、あまりの実力差に気でも触れたとしか思えない。
(貴様と俺、どっちが早く動けると思う。今の貴様の動きは蚊でも止まりそうなほど鈍い。
相打ち覚悟で攻撃するつもりか?
それも無駄だ。我が炎なら狙いも乱雑になるが、貴様のこの銃なら正確に狙い撃てる。
貴様が引き金を引くより先に、貴様の眉間と腕を貫いてくれるわ)
先に動いたのはどっちだったのだろうか。それはわからない。
だが、サラマンデスの予想通り、自らの武器の引き金を先に引いたのは彼だった。
669
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:17:40
(死ね)
――カチリ
「何!?」
だが、銃は乾いた音を立てるだけで、銃弾を発射しようとはしなかった。
「ざぁ〜んねんでしたぁ!!!」
ガイ自身が妙な行動を取っていれば、サラマンデスは瞬時に反応できていただろう。
しかし、自分の手元で起こった異変に、サラマンデスは気を取られ、反応が遅れた。
結果、ダブルガジェットから放たれた雷の光弾はサラマンデスへと直撃した。
「!!!」
悲鳴すら発せず、吹き飛ばされ、スタジアムに叩きつけられるサラマンデス。
そして、盛大な爆発が巻き起こる。
「へっへ〜、スゲェ威力だぜ。こいつはよ。しかし、一か八かの賭けだったが、旨くいったぜ。
まあ、ガイ様のツキなら当然かも知れねぇがな」
ガイは戦いの最中、ずっと疑問に思っていた。
なぜ、グレイブラスターがサラマンデスが使えるのかを。
(拘束されたときはすっかり忘れてたが、グレイブラスターは俺が制限中は撃てねぇはずなんだよな。それをあいつはバカスカ撃ってる。
まあ、ドモンと戦うためにちびっと本気を出してたから当然なんだが、じゃあ、本気を出さなかったら止まるのかはやってみなきゃわからなかったからな)
10分という時間が立てば、供給が止まるのは当然だろ。
だが、ずっと変身している状態の自分が自らの意思で能力を発揮するのを止めることができるかは賭けであった。
(あの青の姉ちゃんにいいのもらってから、常に身体動かすのに頑張ってるからな。
イマイチ、制限の間隔が使めねぇ。まったく厄介なことを仕出かしてくれたぜ)
「さて〜」
思考中も、ガイは歩みを続けていた。
まだ、勝負は終わっていない。勝負は確実に相手を殺すまで続く。
「後で実は生きてましたじゃ、洒落にならねぇんでな」
ガイの眼下には倒れ伏すサラマンデス。
雷の破壊エネルギーに彼の胸は黒く焼け焦げていた。そんな中で、冥王であることを示す星だけが輝いている。
「けっ、気にいらねぇな。よーし、その星ごと心臓を抉りだすことにけって〜い!」
670
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:19:58
右腕にスタッグブレイカーを握り、狙いをつける。
後ろで、外野が何か言ってる気がしたが、全然聞こえな〜い。
「死にな」
振り下ろされるスタッグブレイカー。
その刃が胸の星に届こうとした直前、ガイの右腕が止められる。
「なっ、てめぇ、まだ!」
サラマンデスはガイの腕を力強く握り固定すると、虚ろな眼でじっとその右腕を見ていた。
「くそっ、放しやがれ!」
左腕に握ったホーンブレイカーの引き金を引き、至近距離から光弾を打ち込む。
だが、サラマンデスは一向にその腕を放そうとしない。
「死後硬直か?しつけぇんだよ!さっさと成仏しやがれ!!」
「――した」
「あん?」
「思い出した……その右腕……お姉ちゃんを殺した………………黒い影……」
「何言って――」
「お姉ちゃんを殺したぁぁぁっ!!!!!」
怒声と共に、サラマンデスの身体中から発せられる炎。
右腕を捕まれたガイはその立ち昇る炎の奔流を身体全体に浴び、たちまち火達磨になる。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!放せぇぇ!!!放しやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」
ガイは懸命に振りほどこうとするが、右腕はまるで岩と化したかのようにピクリとも動かない。
光弾を放ち続けていたホーンブレイカーも炎に屈し、もう動作を止めている。
「ちくしょぉぉぉ!!!このガイさまがこんなぁぁぁぁぁぁっ……ぁぁっ…ぁっ……っっ」
やがて、獣のようなガイの咆哮も小さくなっていき、その身体と共に炎に溶けていった。
「ガイさんが……」
ガイの死に唖然とするシオン。だが、呆けている暇はないのは明らかだった。
サラマンデスから発せられた炎は対象を選ばず、全てを燃やし尽くそうと次から次に発せられている。
その炎は火種を必要としないのか、砂上だと言うのに燃え盛り、コンクリートの壁にも引火していた。
このスタジアムの全てが炎に包まれるのも時間の問題だろう。
「やばいぜこれは。とにかく逃げるぞ、シオン」
痛む身体に鞭を打って、その場から逃げ出そうとする裕作とシオン。
671
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:20:35
だが、不意にシオンの動きが鈍った。
「どうした!?」
「……先に行っててください」
シオンの視線を追えば、そこにはドモンの姿があった。
「あいつ、逃げていなかったのか」
「元々、ここに来た理由はドモンさんに会うためです。僕はドモンさんと一緒に後を追います」
「シオン、俺も!」
「いえ、ここは二人だけで話をさせてください」
そう言うと、シオンは踵を返し、ドモンの元へと走り出した。
追おうとする裕作だが、それを遮るように、彼の前に炎が走る。
「くっ、無事でいろよ、シオン」
裕作は断腸の思いで、一人スタジアムの外へと駆け出した。
▽
いくつかあるスタジアムの出口から、俺たち二人は炎が届かぬ場所まで逃げ出し、対峙していた。
シオンはサラマンデスとかいう奴との戦いのせいでボロボロだった。
変身能力も制限され、邪魔者もいない。殺すなら今が最大のチャンスだろう。
「ここまで来れば、大丈夫ですね」
「………」
「ドモンさんが殺し合いに乗ったって聞いた時はびっくりしました。最初は信じられませんでした。
でも、ドモンさんの口から聞いて、ドモンさんは殺し合いに乗ったわけじゃなくて、どうしても叶えたい願いが出来たんだなってわかりました」
「………」
「ロンが本当に願いを叶える力を持っているのか、僕にはわかりません。でも、誰かの犠牲の上に成り立つ未来なんて、間違っています」
「そんなことはわかっている!」
俺は忍者刀を抜くと、シオンの首に刃を向けた。
「だから、俺はお前を殺して、一歩を踏み出す」
「できませんよ、ドモンさんには」
「できる!」
「できません!だって、ドモンさんは僕や竜也さんを仲間だと思ってますから。ドモンさんは仲間を傷つけることが出来ない人ですから」
672
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:21:26
「………!」
そんなこと、今更言われなくてもわかってる。だから、俺はお前たちを殺そうとしたんだ。
お前たちを殺せば、きっと俺はもう迷わなくなる。だから、だから……
「うぉぉぉぉぉっ!」
俺は忍者刀を振り上げると、全ての力を込めて、振り下ろした。
「………」
だが、抉られたのは、シオンの傍らの地面だけだった。
どれだけ気合を入れたところで、どれだけ決意を固めたところで、どれだけ深雪さんの顔を思い描いたところで、結局、俺はシオンに刃を振り下ろすことはできない。
俺の瞳に、また涙が浮かんだ。
「ドモンさん、僕たちと一緒に行きましょう。ドモンさんが愛する人に報いる方法が人を殺す以外にもきっとあるはずです」
俺に差し出される手。
正直、俺は迷っていた。その手を握るか、払うか。それがきっと分かれ道、留まるか進むか。
払うべきだと俺は思う。だが、今更ながらに深雪さんがそれを望んでいるのかと俺は考える。
望んでいようがいまいが、必ず願いを叶えると誓ったはずなのに。
「ドモン!シオン!」
迷う俺に、更に追い打ちをかけるかのように、また、誰かが現れた。
できれば、その顔は見たくねぇ。そいつの顔を見れば、より一層迷うのはわかりきっているからだ。
「竜也さん」
予想通りの名前を呼び、シオンがその男の元へと駆け寄っていく。
「たつ、やさん?」
だが、次に聞こえてきたのはシオンの驚愕に満ちた声。そして、ドサリと何かが落ちるような音。
一体、何が起こったのかと思わず顔を上げると、竜也の前でシオンが倒れ伏していた。
何だ?何が起こったんだ?
倒れたまま、シオンはまったく動こうとしない。竜也も見下ろすだけで助け起こそうとする様子は見られない。
そこで俺はようやく竜也の右手に握られたものに気付いた。
竜也の右手には犀の角のように大きく反ったナイフが握られている。そして、その刀身からは赤い液体が垂れ落ちていた。
まさか。
過ぎる悪寒に、俺は急ぎシオンの元へ駆け寄ると、その身を助け起こす。
「うわぁっぁぁぁっぁぁぁ!!!」
俺は眼を疑った。
673
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:22:02
シオンの胸からは大量の血が流れ出て、服を真っ赤に染めていた。
シオンのいつも柔和な顔は驚愕に固まり、信じられないようなものを見たかのように、眼が見開いている。
「シオン!おい、シオン!」
俺は必死に名を呼ぶが、もう返事を返すわけがない。
彼の胸にある傷は間違いなく急所に刻まれており、致命傷となる深さなのだから。
「竜也!お前、なんで!?」
俺は感情のまま、竜也に言葉をぶつける。
信じたくはなかったが、あの状況でシオンを刺したのは竜也しかありえない。
「なんでって、殺し合いに乗ったお前がいうことじゃないだろ。
まあ、あえて言うなら、俺はお前の仲間で、シオンは仲間じゃないからさ」
「仲間じゃない?」
「仲間とは同じ目的に協力して挑む者のことだ。優勝を目指そうとしないシオンは仲間とは言えないだろ?」
したり顔でそんなことを言う竜也に、沸々と怒りが沸いてくるのを感じる。
「なんだい、その顔は?俺はお前が絶対、出来ないことを代わりにやってやったんだ。
いわば仲間として、障害を取り除いてやったわけだ。
お前は"元"仲間を殺せないと先に進めないと思ってたようだけど、そんなことはない。
適当な奴を殺して、数をこなしていけば、誰でも殺せるようになる。
初めから殺しにくい相手を選んだのが、お前のミステイクなのさ」
俺は竜也に気づかれぬよう忍者刀を手に取った。
竜也の言っていることは、殺し合いに乗った俺にとって、正しいのかも知れない。
だが――
「でぇぇぇい!!」
俺は竜也の首を狙い、忍者刀を横薙ぎに奮った。
しかし、竜也はあっさりとそれを避けると、俺の一撃は空を切る。
「殺る気になったのは結構だけど、いきなり俺を狙うなんて酷いじゃないか。仲間だろ?」
「違う。お前なんて仲間じゃねぇ。俺の仲間はシオンだ」
「はっ」
竜也は鼻で笑うと、懐から緑色のボールを取り出す。
「天空シノビチェンジ」
「……ぐっ!」
674
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:22:35
俺の腹に激痛が走った。
意味不明の言葉を呟いたかと思うと、俺の視界から消えた竜也は、一瞬にして、俺の懐へと潜り込んでいた。
いや、その姿は竜也じゃない。タイムレッドでもない。緑色のスーツを着たマーダー。
「残念だよ、ドモン」
「お前、その声、竜也じゃ……ぐぎっ」
より一層深く刺しこまれた刃に、俺はようやく自分が刺されたのだと気付いた。
心臓ではなく、腹なのは俺に苦しみを与えるためか?
「筋書きはこうかな。ドモンは戦いのドサクサに紛れ、元仲間であるシオンを殺すことに成功。
だけど、罪の意識に苛まれ、結局は自害して果てた。いい筋書きだろ?シオンの名誉も君の名誉も守ることができる」
俺の疑問に最悪の回答で答える緑色。
「ふ、ふざけるなぁぁぁ……っ!」
「ふざけてなんかいないさ。覚悟が足りないユーには似合いの最後だろ?所詮君はヒーローにも、マーダーにもなりきれない中途半端なFoolさ」
俺の腹に刺し込まれた刃が更に深く刺し込まれたかと思うと、今度は横に進み始める。
そういえば日本には切腹という文化があったのを思い出した。
自らの不始末に責任を取るための自害方法だったけ?
ははっ、俺にはお似合いかもな。こんな奴に無理矢理やらされなければ――
そこで俺の意識は途切れた。なんとも締まらない最後だった。
▽
「グッバイ!君の死は無駄にはしないよ」
事切れた死体を前に、ミーは朗らかに別れの言葉を呟く。
本当に残念だよドモン。お坊ちゃんの暴走でガイという手駒を失い、その代役にと思ったんだけど。
でも仕方ないね。君は殺し合いをするには優しすぎた。
任務のためなら、仲間も殺す。それぐらいの非情さがなければ、この戦いは勝ち残れない。
香典代わりに、操獣刀は残しておくよ。言った通り、君たちの名誉のためにね。
「予定と若干違ったけど、結果オーライ。さて、お坊ちゃまの回収に行こうかな」
首輪の効果でサラマンデスの暴走は治まったみたいだ。
炎はスタジアムを焼きつくそうとしているけど、もう新たな火種は発生していない。
今回のことで迂闊な行動がどういう結果を招くか、学習してくれるといいけどね。
675
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:23:48
ミーは肩をすくめると、サラマンデスの元へと歩いて行った。
【クエスター・ガイ 死亡】
【シオン 死亡】
【ドモン 死亡】
残り21名
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:健康。現在は竜也の顔です。シュリケンジャーに変身中。
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー
[道具]:SPD隊員服(セン)、クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、何かの鍵、支給品一式×4(水なし)
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:サラマンデスの回収。
第二行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第三行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。 それがだめならアレの消滅を願う。
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
・炎の騎馬はスタジアムに隠してあります。
676
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:24:20
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:胸に大ダメージ。意識混濁中。サラマンデスに成長完了。2時間能力発揮不可能。
[装備]:なし
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物、グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー、支給品一式(ドロップ、ジルフィーザ)、
[思考]
基本行動方針:とりあえず優勝狙い
第一行動方針:シュリケンジャーと協力して、数減らし。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
※スタッグブレイカーとホーンブレイカーは破壊されました。ゴウライチェンジャーはスタジアムに放置しています。
ゴウライチェンジャー他、ドロップの支給品が炎の影響を受けているかどうかはお任せします。
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第34話後
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:右肩、腹部、左足を負傷。その他も体中に軽度の負傷。2時間変身不能。
[装備]:ケイタイザー
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:シオン、ドモンと合流する。
第二行動方針:瞬を元に戻す。(生物学、医学の知識のある者と接触したい)
第三行動方針:シオン、菜摘と首輪を解除する。
[備考]
2時間の制限に気づきました。ヒカルと情報交換を行いました。メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
ヒカルがドモンを殺し合いを止めるように説得していると思っています。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
裕作の支給品はメレが預かっています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
677
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:24:51
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。
[装備]:アクセルブレス 、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:首輪(ドギー、深雪、アンキロ)、サーガインの死体(首輪付き)、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)深雪の残したメモ。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:首輪を解析する。
第二行動方針:H−4で映士と合流出来なければ3回目放送までにJ−6公園で待つ。
第三行動方針:仲間(シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラック(菜摘の場合アバレーサー)への変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと裕作から掻い摘んだ説明は受けました。
※下記の支給品はシオンたちの近くに放置されています。
クロノチェンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、
闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、拡声器、基本支給品一式(サーガイン、シオン)
678
:
炎を共に消ゆる
◆i1BeVxv./w
:2009/09/14(月) 00:26:39
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などあれば、お願いいたします。
679
:
満たされる…これが名無しの力か…
:2009/09/14(月) 02:27:44
GJです!
ちゃんとした感想は代理投下した後にと思いますが
(というか今はまだ圧倒されて言葉が出てこなかったり)
ズシッと来る作品でした。
本当にGJです!
現在、PCにさわれないので、代理投下は、明日、させていただこうと思います。
680
:
◆W1mqqqzBr6
:2009/09/14(月) 18:53:45
予約したとおりのものを仮投下します。
681
:
竜也のなく頃に・絆
◆W1mqqqzBr6
:2009/09/14(月) 18:54:54
夢を見ていた。
幸せな夢。
だから、哀しい夢。
いくつもの写真が飾られている部屋がある。額縁や写真立ては精巧にできていて、見るものの心を魅了する。
その全てが、俺とその仲間の写真だった。
(これ……懐かしいな)
あまり思い出したくないことだったが、今となって見ると、見ているだけで頬が緩んでしまう。それほど、その写真は可笑しく、懐かしかった。
パワースプリッティの効果で、アヤセ、ドモン、ユウリとともに酔っ払ってしまった日。
(はは……ドモンが一番ひどいな……)
童心に帰り、無邪気な笑顔で写真のドモンを笑う。上半身裸で、お腹に顔のラクガキをしている。腹芸というやつだろう。よくもまあ、何でもない日にこんな宴会のようなことをできたものだ。敵の作戦とはいえ、あの時は確かに楽しかった。
仲間とは本当に何度も写真を撮った。
共に戦う静観な顔立ちが好きだった。
ぶつかり合っても仲間として戦ってきてくれたお前たちが好きだった。
そして、何よりも
無邪気な笑顔で笑う君が好きだった。
(シオン……ドモン……お前ら、特に仲良かったよな……)
二人が肩を組んで笑いあう姿を思い出そうとすると、とても鮮明に思い出すことが出来る。この二人はまるで兄弟のようで、親しみやすい仲間だった。
(アヤセ……ユウリ……それに直人……少しツンツンしてたけど、お前たちも俺の親友だった……)
いつもはツンツン。時にデレデレ。そんな仲間たち。
アヤセが抱える悩みを時に一緒に背負った。ユウリの横顔には何度も見惚れた。直人も、考え方こそ違ったが、大晦日に見せたあの笑顔は忘れない。
(クリスマスの写真か……)
そこには、クリスマスに撮った写真もいくつかあった。これは記憶に新しい。楽しかったな……あの時は色々あったけど、最高の仲間たちと過ごせた思い出は忘れない。
常に危険と隣りあわせだったけど、あんな楽しい日々がずっと続くなら……俺はどんな苦労も厭わなかった。本当に大事な仲間だったから。
だけど、頭の片隅にはいつも気になることがあった。
アヤセの病気やロンダーズとの戦いで、この幸せが崩れてしまったらと思うと、気が気でなくなる。その晩を寝ずに過ごし、眠気を殺して陽気ぶる日もあった。
仲間たちにも、笑顔でいて欲しかったから。
ずっと、笑顔でいて欲しかったから。
だから、俺は頑張れたんだと思う。どんなに辛くても、どんなに悲しくても、笑顔でいようとして。
682
:
満たされる…これが名無しの力か…
:2009/09/14(月) 18:56:03
そのあとの夢で見たのは、幸せな日だった。
タイムロボターに起こされ、起床。特に悩みもなく、すんなりと起きることが出来る朝。
いつもと同じ貧相な朝飯。
だけど、みんなで食べると美味しかった。ドモンがおかずを取ろうとしたり、アヤセがそれをかわしたり。
それから、仕事。依頼は来なくても、道場の師範は日々の日課だ。子ども達に、拳を説く。そして、自分自身も心身ともに強くなる。
昼飯。これもまた満腹になれる量はない。さすが、五人分。
「アヤセ、このたくわん貰いッ!」
「やめろ、俺のだ。食うなら竜也から貰え」
「……お前らまたかよ……って、俺のはやらないぞ!」
「三人とも、もう少し静かにしてちょうだい」
「「なんで俺たちまで!!」」
そして、シオンがそんな様子を見て子供っぽく笑う。それぞれが背負っているものなんて忘れて。そんなもの、最初からなかったかのように。
そんな何でもない日常なのに、お坊ちゃま暮らしよりずっと楽しかった。
大学で自慢げにパーティに誘ってくる、会社の友好目当ての仲間なんかよりずっと……ずっと、素晴らしい仲間を持っていた。
「よお。相変わらず貧相な飯だな」
「あ……直人!」
滝沢直人──彼も大学の同級生だった。だが、お坊ちゃまたちとは違い、庶民的な財力だったため、嫌気が差して大学を辞めている。
そして、俺と再会して、彼はタイムファイヤーとなった。
「悪いけど、直人の分は……」
「もう食った。今日は依頼に来たんだ」
「……依頼?」
「この女の子が迷子になったらしくてな」
直人の陰から、高校生ほどの女の子がひょいと出てくる。──間宮菜月ちゃんだ。
「菜月ちゃん……?」
「あ! 竜也さん! ちょっと道に迷っちゃって……」
「仕方がないなあ……アヤセ、車の準備頼む」
不本意そうな顔をして、アヤセが車の鍵を探し始める。だが、こう見えて彼も悪い人間ではないのだ。
菜月ちゃんをサージェスまで送る途中、色々な人に会った。
道を歩く老人(ブクラテス?)を背負ったお巡りさん(シグナルマン?)。
腕を組んで歩くカップル(男が理央で女はメレ?)。
不細工な顔で寝ている猫(スモーキー?)。
そうだ……彼らは俺がどこかで出会ってきた人たちだ。
どこで出会ったのかは……覚えてない。割と最近な気がするが……。
「なあアヤセ、サージェスってこの辺だよな?」
「ああ。あと3kmくらいだ」
道の外を黒いラインの入った服を着た人が走っている。誰かを捜しているのか、キョロキョロと左右に首を回している。
「あ! 真墨だ!」
「……知り合い?」
「うん。ここで降ろして」
言われたとおりに菜月ちゃんを降ろし、依頼はなんとか成功。「お世話になりました」と恥ずかしそうにお礼を言った後、菜月ちゃんを叱る真墨くん。
そんな様子を見ながら、俺は笑ってしまう。
俺には、大切な仲間がいた。
そして、菜月ちゃんにも、大切な仲間がいた。
……どうして過去形なんだろう。
一体何があったんだろう。
俺の仲間は、こんなにも近くにいるというのに。
世界が真っ白に包まれる。
アヤセも、自分がいたはずの車も消え、真っ白な空間にただ立っている。
683
:
竜也のなく頃に・絆
◆W1mqqqzBr6
:2009/09/14(月) 18:57:16
そうだ……これは夢だったんだ。
菜月ちゃんは、いるはずがない。死んでしまったんだ。
「俺は……救うことができなかったんだ……菜月ちゃんを」
自分の無力さに、涙が頬を伝う。幸せだったはずの世界は崩れ、一変して俺の目の前には、死に際の菜月ちゃんの顔がフラッシュバックする。
そのギャップがあまりにも悲しかった。
こんな幸せな未来が掴みたかったのに。
こんな惨劇に遭遇したくなかったのに。
「……竜也さん」
不意に、菜月ちゃんの声がする。だが、顔は上げない。それが自分の夢であると、確信を持っていえるからだ。
夢は時に裏切る。
幸せな夢から覚めると、悲しい現実に直面する。それならば、最初から夢なんて見たくなかったのに。
「菜月は、竜也さんが菜月を救えなかったなんて思ってないよ。もし、竜也さんと会わなかったら……菜月は、きっともっと早く死んでたよ……だから、竜也さんと会えてよかった」
笑顔で訴えかける健気さが、再び俺の顔を濡らす。自分より小さな女の子の前で泣いているなんて、情けない……なんて情けなんだよ……俺。
本当なら、死ぬ未来なんて考えたくなかった。殺し合いという状況を忘れるほどの癒しを、菜月ちゃんはくれた。だから、そのお礼として生きてかえしてあげるつもりだった。それが一番の未来だった。
「ありがとう……竜也さん。真墨たちが待ってるから……行ってくるね」
顔を上げる決意ができたとき、そこにいたのは直人だった。
「なあ、竜也。俺はどうやら運命とやらに勝てなかったらしい……」
直人は寂しそうに呟く。菜月ちゃんとの段差が大きいが、これはこれで涙を誘ってくる。涙を止めることはできない。拭い続けることしかできないのだ。
「お前は、勝てよ」
親友の口から出た、意外な言葉。「死ぬな」というアドバイス。
俺は思わず口を開けて驚きながら、口に入る涙を舌で味わい続けた。
「ガラでもないこと言っちまったな……」
直人は笑うと去っていく。
684
:
竜也のなく頃に・絆
◆W1mqqqzBr6
:2009/09/14(月) 18:58:27
入れ違いのように、俺の左右の位置に二人、男が立っている。
この殺し合いに参加させられた、俺の仲間。
かけがえのない、親友たち。
「……僕、ずっと独りぼっちでした。戦争で、同族を失って……。それでも、竜也さんたちがいてくれた。……だから、僕はもう独りぼっちじゃない。
ずっと、ずっと欲しかったものが手に入ったんです! 天才なんて称号も、学者さんたちのお世辞も……本当は必要なかったんです! 本当に欲しかったのは……竜也さんたちみたいな、最高の仲間だったんです!
だから……ありがとうございました。ずっと、仲間でいてくれて……僕、一生……っていうのも変ですけど、絶対忘れません!」
シオンが抱え続けた悩み。絶え間ない孤独。それを、俺たちが解き放った。自覚はしている。それでも、シオンがそれを感謝していてくれたということを改めて実感し、涙が倍増する。
「……竜也。俺はまず、お前に謝らなきゃならない。すまん! 俺は殺し合いに乗っていた! お前を殺そうとした! でも、俺は気付いたんだ……シオンを殺そうとして、それなのに殺せなかったとき……。俺には、守るべきものが二つあったんだ。
一つは、愛する者。もう一つが、仲間だったんだよ……俺は、そのうち一つしか気付いていなかった。だから、こんなとこに来ちまったんだな……」
ドモンの口調は、どこか自虐的だ。シオンは、いつの間にかいない。
……俺はまだ、菜月ちゃんにも、直人にも、シオンにも、感謝の気持ちを伝えていなかった。だから、いなくなっていくことに後悔した。
「なあ、ドモン……」
「いいんだ、言わなくて。……俺たちはお前に充分礼を貰ったからな。
……なあ、竜也。男が守るべきものってなんだと思う?」
「え……?」
「お前は、全てを守れ。俺みたいに、ただ一つを守るために馬鹿な真似をしないでくれ。
全てを守れ。……たとえ、守れなくたっていい。ただ、必死で守るために戦い続けろ。
ユウリ、アヤセ、それからお前が出会ってきた人たち……その全てを。俺や、シオンみたいに守れなかったものがあったっていいんだ……それを、次に活かせばいい。
俺みたいに、ヒーローにもマーダーにもなれない中途半端なヤツにはならないでくれよ。お前は、立派なヒーローになれるんだから。今からでも、全てを守れるはずなんだから。
……それで、俺みたいなバカだけど、お前にどうしても頼みたいことがあるんだ。
アヤセかユウリに、『弟たちを頼む』って言っといてくれ。前にも言ったろ。……ああ、帰りたかったな〜……。あんな団欒を経験したからこそ、深雪さんに幸せな家庭をプレゼントしたい……なんて思ったのかもしれないな……」
「おい……ドモン!!」
「──ユウリに、言いたいこと言っとけ。そのために生きて帰るんだ。三人だけになっても、楽しく──」
ドモンの姿は無い。
俺は悟る。シオンとドモンは、……これが俺の悪い妄想でない限り、きっと、もう会えない。あの笑顔はもう間近では見られない。
そして、ドモンはなぜか知らないようだが、俺の帰る場所には、ユウリもアヤセもタックもいない。未来へ送り返してしまったから。
思わず、送り返したことを少し後悔してしまう。
それからは、ずっと泣いた。仲間達への感謝の言葉を叫びながら、情けなく鼻水をたらして、子供のように泣いた。
涙が枯れた時、俺は白い空間の中にただ立っていた。どれくらいの時間泣いていたのかはわからない。夢の中の時間間隔ではあまり短くなかったと記憶している。
ドモン、シオン、菜月、直人……守れなかったものたちへ。
ありがとう。
本当に楽しい時間をありがとう。
いつまでも忘れない。
たとえ、時間が俺の記憶を引き裂こうとしても。
俺は瞳をそらしてはいけない。仲間たちは死んだ。だが、これから守るべき命がある。
何があっても、ドモンとの約束を果たす。絶対に、ヒーローとして戦い続ける。
ロンの野望を打ち砕く。
この場所で命を失った全ての参加者の無念をバネにして。
できることなら、仲間達を生き返らせたい。だが、それは間違っている。
生きている人たちだけでも、強く生きよう。そして、帰ろう。自分たちがいた場所へ。
届いたか? みんな……。
俺は戦う。何度も誓ってきたことだけど、今まで以上に強く誓う。
俺は、これ以上、どんな犠牲も起こさせない。
685
:
竜也のなく頃に・絆
◆W1mqqqzBr6
:2009/09/14(月) 18:59:35
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:気絶中。1時間程度変身不能
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ブクラテスは信用できない?センは?
第一行動方針:これ以上の犠牲は絶対に起こさせない。
第二行動方針:第一行動方針を絶対に貫く。
※首輪の制限を知りました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
※ドモン、シオンは死んだと確信しています。
Omake「ドモンの後悔」
俺はとんでもないバカだ。
簡単な話だったんだ……。
簡単な話だったのに、意地張って、何がなんでも優勝しようとして……。
仲間すらも手にかけようとしたんだ。俺って本当に最低だ。
たった一つの一目惚れが、何度も同じ時を重ねた仲間すらも打ち破ってしまった。
それだけ強い思いだったのか……。
いや、違う。俺は気付いた。
俺は何一つ、深雪さんのためにしてやることはできなかった。
ほんと、中途半端な存在だ……。
俺は、ロンにそそのかされて、バカやってしまった。
本当は、今竜也に忠告したように生きたかった筈だ。
俺は、ヒーローじゃなかった。マーダーでもなかった。
俺は、マーダーじゃなくてヒーローに、なりたかった。
ただのバカだよ……俺。
だけど、そんな俺にも言うべき礼があるはずだ。
ありがとう……みんな。
686
:
◆W1mqqqzBr6
:2009/09/14(月) 19:01:19
以上です。
まだ予約した時点での返答をいただいておりませんが、予定より早く完成してしまったもので……。
まさか、こんな早く筆が進むとは思ってませんでした(汗)
しかし、「炎を共に燃ゆる」を読んだらつい……。
687
:
満たされる…これが名無しの力か…
:2009/09/14(月) 21:50:00
GJです!
感想は本スレで行いたいと思いますが、悲しくも非常に熱い作品でした。
あっさり殺されたシオン、迷いながら殺されたドモンの最後の心情が描かれていて、それを受けた竜也の今後も非常に気になります。
予約に関してはトリ変更自体は問題ないかと思いますし、作品も素晴らしいものだと思うので、本投下しても良いかと。
688
:
満たされる…これが名無しの力か…
:2009/09/15(火) 08:38:15
良作投下乙でした。
僭越ながら一点だけ指摘を、
>>683
情けなんだよ→情けないんだよ
ではないでしょうか。
本投下お待ちしています。
689
:
◆LwcaJhJVmo
:2009/09/15(火) 17:17:31
感想、指摘ありがとうございます。
>>683
の方は、本スレのほうで指摘してきます。
また、自分で後から思ったんですが、状態表の「ドモン、シオンは死んだと確信しています。」という欄は本スレでは削除します。
「夢で見た」というのみで、根拠なく知る由も無い事実を状態表に書くのは、やはりどうかな……と思ったので。
690
:
◆LwcaJhJVmo
:2009/09/15(火) 17:37:37
すみません。さるさん規制がorz
誰か、状態表の最後の備考を削除して投稿してください。
本スレ、
>>83
は
>>688
さんの指摘したの修正点を修正してなかったので、まとめでは
>>84
を使ってください。
負担かけてすみませんorz
691
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/22(火) 14:47:34
規制がかかったのでこちらに都築を上げておきます…
692
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/22(火) 14:48:06
「…しかし、妙なことだのぉ・・・…」
ブクラテスは頬をなでながらそう独白した。
「…何ですか、いきなり」
さくらは不審の勘定を隔そうともせずにブクラテスを眺めた。
「あ、いや…お前さんがたの話だと、これまでに相当数の参加者が死んでおることになる。
そうじゃろ?」
「そんなこと、今更あなたに言われなくてもご丁寧に主催者が教えてくれますよ。…6時間おきにね」
竜也も揃って冷たい視線をブクラテスに投げかける。
「…フン。嫌われたもんじゃな。言っておくが、わしがお前さんに情報を伏せておったのは生き残るためじゃ。見ての通り、わしはか弱い年寄りでな。お前さんがたの様に颯爽と変身して戦うことなどできん。頼れるのは己が頭脳だけじゃ! 生きるための戦いなんじゃよっ!!」
「そのためにここで出会った仲間を危険に晒してもいいって言うのか!? あんたが自分の保身を図ったことで人が死ぬことだってあるんだぞ!!」
「他人の命の面倒まで見切れんわ! 甘ったれたことを言うな、若造が!!」
激昂してブクラテスが叫ぶのを尻目に明石は喧騒の中に言葉を投げかけた。
「情報の秘匿性を重んじるあんたがわざわざ明かしたい事柄ってのは興味があるな…それを俺たちに知らせることで得られるメリットについても、だが……」
明石の隙の無い鋭い視線とブクラテスの老獪な視線とが交差する。
お互いにお互いの心底を探らんと見詰め合う。
「…ふん、お前さんなら気付いておるんではないか? このゲームの矛盾にな」
ブクラテスの言葉に明石はそっと視線を伏せた。
「……あぁ」
「どういうことですか…?」
竜也が明石へ向き直る。
693
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/22(火) 14:48:38
「なに、簡単なことじゃよ。集められた参加者の時間軸がバラけていることを思えばおのずと分かることよ」
「それって…」
「過去現在未来と集められた参加者の出身時間軸が不定なんだ。竜也さん…時間犯罪を手がけているあなた方タイムレンジャーなら、歴史上のタイムパラドクスがどんな危険をはらむか俺たちよりも肌で感じているでしょう」
「…!」
「しかし、参加者がこれだけ盛大に死んでいるにもかかわらず、パラドクスに巻き込まれたものは皆無じゃ…知りうる限りはな。この箱庭にそうした時間軸の歪みから保護する力があるのか…あるいは――…」
「それぞれが別々の“世界”から連れてこられたか……」
さくらが独白する。
それこそが、明石が死んだ仲間を蘇らせる可能性として考える根拠の一つでもある。
「……じゃが、それは同時に連れてこられた世界の破滅を意味しておる。
お前さんがたは自分が抜けた世界の末路を考えてみたことがあるか?」
ブクラテスは問いかけた。三者三様に自分が抜け落ちた後の世界を思う―
「つまりじゃ。仲間と思うておってもそいつはあくまで別の世界の自分の仲間。
逆を返せば死んでも影響は無いが、自分の死は己の世界全ての破滅を意味するものもおる。
この事実に突き当たる連中が増えていけば、自分の命だけではない…自分の世界を守るために
仲間も容赦なく手にかける輩がおるかも知れぬ。ロンも良く考えたものよ…不信の種を二重三重に仕込んでおる」
顎をさすりながらブクラテスは向き直る。
「…でも、俺は自分の世界を守るためでも人は殺せない…まして、仲間を――…」
竜也は苦悩の表情を浮かべながら言った。
「ふん…お前さんはそうかもしれんがな…相手がどう思うかは分からんて……」
「爺さん、これは事実ではなく推察だ。何もこれが確定事項なわけじぁあない。
あくまでも一つの可能性だ」
明石は随分前からこの推論に突き当たっていた。だから今更人に言われても衝撃も小さい。
ブクラテスも明石や竜也が揺らぐのを期待していたわけではなかった。
どうせ、この二人はあくまで戦う道を選ぶ。
それが勝利に通じるかは期待できないが、あくまでその姿勢を変えないだろう。
しかし――…
694
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/22(火) 14:49:10
横目に睨んださくらは明らかに狼狽していた。
脳裏にクエスターもろとも自爆しようとした明石の姿がよぎる。
蒼太にとってはまだ見ぬ未来。明石にとっては過ぎ去った過去。
しかし、さくらにとっては紛れもなく現在進行形の今。クエスターを退けることはできた。
だがそれによって負った痛手から回復するには時間がかかるだろう。
何より、間隙を付いてネガティブが動き出したら――…今度こそ…
「さくら、大丈夫か?」
深い思考の世界から自分を現実に引き戻してくれたのは、他ならぬ明石だった。
「…ッ! すみません、ボーっとして……」
「いや、いいんだ。色々あったしな。少し休むといい」
「いえ。時間は有りません。少しでも同志を募り、ロンを打倒しましょう。全てはそこで明らかになるはずです」
そう言って、立ち上がる。
明石も頷いてそれに続いた。同じく竜也もそれに続く。
「やれやれ…今しばらくはお前さんがたについていこうかの…」
そして、ブクラテスも。
(とりあえず、種は蒔いてはみたが……芽を出すにはいま一つ、肥料が足らんわな……)
この世界のルールを把握すればするほど、ロンが自分達を生かす道など用意していないことが
分かっていたこととはいえ鮮明になっていく。
ならば、ロンすら出し抜く策が必要となる。
明石暁という絶対的なカリスマを中心に参加者の叡智を募れば、ロンを打倒する道も開けてくるかもしれない。賭けでは有るが、ロンの甘言に期待をもてない以上、現実的な施策といえる。
それだけ最初の空間で見せた明石のパフォーマンスは参加者の心に強烈な印象を残していた。
さくらを手駒にする算段も当初はあったが、これまでの経緯を知るにつれブクラテスはそれを誤りと思うようになっていった。
「神輿が汚れていては、誰も担ごうとはせんじゃろうからな…」
低く呟いたその言葉は誰に聞き取られることもなかった。
まっすぐに前だけを見据える日なたの者と、迷いや憂いを抱える者と。
近くて遠い距離を抱える者達の一行は、しかし、一つの結末へ向かって歩を進めていった。
695
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/22(火) 14:49:41
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:健康。1時間30分程度、変身不能。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、首輪探知機
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
第三行動方針:仲間を探す。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※バリサンダーとおぼろの支給品、イカヅチ丸はD-7都市エリアに放置されました。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:健康。洗脳下での行動に罪悪感。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。聖剣ズバーン@轟轟戦隊ボウケンジャー。スコープショット(暁)@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:アクセルラー(黄)、スコープショット(菜月)、 未確認支給品(暁確認済)、竜也のペットボトル1本、基本支給品(菜月)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。明石暁と共に行動する。
第一行動方針: ブクラテスの言葉に揺れている。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね、毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:明石を油断できないが利用価値のある人物と判断。当面は提携の姿勢。
第二行動方針: 西堀さくらに不協和音。どうにかして排除したいが、表立っては無理と感じています。
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:1時間程度変身不能
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。明石やさくらと連携してロンを打倒。
第一行動方針:ブクラテスは信用できないと感じているが、殺しはしない。
※首輪の制限を知りました。 明石やさくらと情報交換を終えました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:西堀さくらを怨んでいる
第一行動方針:???
696
:
満たされる…これが名無しの力か…
:2009/09/22(火) 21:19:31
投下乙です。
代理投下したいけど。ちょっと出来ない状況で申し訳ありません。
感想も後ほどになりますが一言だけ、GJでした!
697
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:00:53 ID:QEFgmkxQ0
その女を視界に入れた時、マーフィーK9に搭載された人工知能はかつて無いほどのデータに置き換えられた感情の激流を処理しきれずに機能不全に陥ったように沈黙した。
『グゥゥ…グワアアアアアアアァァァァンンッッ!!!』
そして、それが“怒り”というカテゴリに属するものであることを認識した時、マーフィーは弾かれたように襲い掛かっていた。
犯人を前にした際にプログラミングされた合理的な行動とは程遠い、がむしゃらな攻撃。
本物の獣さながらに爪を、牙をむき出しにその怒りの対象へ処理しきれない感情をぶつけた。
「やめろっ! どうしたんだっ!? やめろっっっ!!!」
明石暁が必死に引き剥がしにかかるが、目の前の女は無抵抗なまま。
金属の爪に引っかかれても牙が当っても手で振り払おうともしない。
「いいんです、チーフ…いいんです……」
女…西堀さくらには自分へ向けられた憎悪の理由を知りすぎるほどに理解していた。
言葉を伴わない断罪にさくらはじっと己が身を晒し続けた。
「やめろっ! 何をするんだ、お前!?」
ようやく明石が暴れ狂うマーフィーを取り押さえ、さくらから無理やり引き剥がす。
項垂れたままのさくらと、腕の中で興奮する機械仕掛けの犬。
(あの犬…何かこの女に怨みごとがあるようじゃな…―)
その時だった。
「うぅ…ん―――…」
気絶したままの浅見竜也が目覚めたのは。
▽
698
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:01:24 ID:QEFgmkxQ0
竜也に取り立てて命にかかわる大きな怪我はなく、
明石たちは互いの情報交換を終えてから次の行動へ移ることに決めた。
「そう…ですか…菜月ちゃんは貴方たちの仲間でしたか……」
まどろみから引き戻された現実は、容赦なく竜也の心をずたずたに引き裂いた。
「俺は…誰も守れなかった……!!」
力を得たと思った。
30世紀の未来の力で仲間とともに虐げられている人々を救う。
例え、どんな困難が立ちはだかろうとも。
あの日の決意が遠い過去のことに思えた。ここでは時間の流れが極端に早く感じられた。
出会いと別れが目まぐるしく目の前を過ぎ去っていって、自分はその激流に抗う術を持たない。
「…菜月の最期を看取っていただいたのがあなたの様な優しい方で、良かった。
あの子は身寄りがなかったから―――…」
できれば、真墨の死を知ることなく逝ってほしかったと思うのは残酷だろうか。
目の前の男はあって間もない少女の死に己の無力を恥じて涙を流している。
それだけでも、さくらは竜也を信じられる気がした。
―――………あの、ね、………チ、ーフ………―――
―――さくら、さ、んに………や、くそく、守れなくって………ごめん、ね……って―――
どんな思いで、自分の正体を知ることもなく死んでいったのだろう。
どんな思いで最後の言葉を遺したのだろう。
彼女は最期まで無垢なまま、間宮菜月のままであったということだけがわずかな救いだろうか。
699
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:02:04 ID:QEFgmkxQ0
「………近くに首輪探知機の反応は無い…この犬の飼い主と思しき女は死んだと見るのが妥当じゃろうなぁ……」
ブクラテスはおぼろが死んだことを知らない。
首輪探知機には何の反応もなかったし、彼は爆発音を聞いてもいないのだ。
ブクラテスがおぼろの死を知る根拠は何一つない。
しかし、竜也の話や探知機の反応からおぼろが生きているとするに値する材料は極めて乏しいのが現状だった。
「マーフィーは…わたしをおぼろさんの仇と思ったようですね…」
マーフィーは止む無く、明石のスコープショットで拘束されていた。
しかし今はもう暴れる気配はなく、火の消えたように大人しくしていた。
その姿がいかにも憐れでさくらは胸が締め付けられる思いだった。
さくらが直接、おぼろに手を下したわけではない。
そうではないが、引き金を引いたのは彼女に間違いはなかった。
「まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方が無いがのぉ…」
「悔やんで済む話ではありませんし、忘れてしまえることでもないんです…」
さくらは沈痛な面持ちでこたえた。
「火元はロンだ…お前が責任を感じるのは分かるが、その責任を背負って今何が出来るかを考えろ。 落ち込むままは償いになどなりはしない…生き残ったものは前へ進むしかないんだからな……」
かつて、かけがえの無い仲間を失い、再び立ち上がった男の言葉は老年の賢者のそれよりも重たくさくらの心に響いた。
「はい…わかっています…ロンを倒し、皆を蘇らせる。謝るのは、その時です」
疲れた表情にわずかだが笑顔の日が差す。
また、これだ。
わずかな時間でもこの女が明石暁という男に深く傾倒しているのは理解できた。
それはいい。信頼関係が厚いのはこんな場では貴重だし、得難いものだ。
しかし、戦力としては―――・・・
700
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:02:40 ID:QEFgmkxQ0
変身道具を失い、あまつさえ敵の傀儡だった女。
今だどんな火種を抱えているか知れないではないか。
いや、話の内容から察するに他の参加者の恨みを買っている可能性すらある。
相手にするのが組み伏せるのが容易なマーフィーだからよかったが、
話に聞くグレイやガイといった連中と事を構えることになったら…明石や竜也はよいかもしれないが、非力な自分は巻き込まれて死ぬ可能性がある。
(万難は排さねばな…しかし、どうやって――…)
明石暁は動かない。
竜也の途切れ途切れの語り口で菜月の最期を聞くその表情も、微動だにしない。
しかし彼の悲しみがわかるから、さくらは泣かない。
涙を流すことは彼らを救う決意を否定するように感じられたから。
また、会える。
悲しみを押しつぶすように希望を持てるのは、彼が居るから。
側に明石暁が居るからだ。
「…しかし、妙なことだのぉ・・・…」
ブクラテスは頬をなでながらそう独白した。
「…何ですか、いきなり」
さくらは不審の勘定を隔そうともせずにブクラテスを眺めた。
「あ、いや…お前さんがたの話だと、これまでに相当数の参加者が死んでおることになる。
そうじゃろ?」
「そんなこと、今更あなたに言われなくてもご丁寧に主催者が教えてくれますよ。…6時間おきにね」
竜也も揃って冷たい視線をブクラテスに投げかける。
「…フン。嫌われたもんじゃな。言っておくが、わしがお前さんに情報を伏せておったのは生き残るためじゃ。見ての通り、わしはか弱い年寄りでな。お前さんがたの様に颯爽と変身して戦うことなどできん。頼れるのは己が頭脳だけじゃ! 生きるための戦いなんじゃよっ!!」
「そのためにここで出会った仲間を危険に晒してもいいって言うのか!? あんたが自分の保身を図ったことで人が死ぬことだってあるんだぞ!!」
疲労も忘れ竜也は激昂してブクラテスに詰め寄った。
人は殺さない。それは彼の核であるし、今後迷うことはあっても壊れることはない。
しかし、それだけに仲間の死を黙認するが如きブクラテスの姿勢は許すことが出来なかった。
「他人の命の面倒まで見切れんわ! 甘ったれたことを言うな、若造が!!」
ブクラテスが叫ぶのを尻目に明石は喧騒の中に言葉を投げかけた。
701
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:03:16 ID:QEFgmkxQ0
「情報の秘匿性を重んじるあんたがわざわざ明かしたい事柄ってのは興味があるな…それを俺たちに知らせることで得られるメリットについても、だが……」
明石の隙の無い鋭い視線とブクラテスの老獪な視線とが交差する。
お互いにお互いの心底を探らんと見詰め合う。
「…ふん、お前さんなら気付いておるんではないか? このゲームの矛盾にな」
ブクラテスの言葉に明石はそっと視線を伏せた。
「……あぁ」
「どういうことですか…?」
竜也が明石へ向き直る。
「なに、簡単なことじゃよ。集められた参加者の時間軸がバラけていることを思えばおのずと分かることよ」
「それって…」
「過去現在未来と集められた参加者の出身時間軸が不定なんだ。竜也さん…時間犯罪を手がけているあなた方タイムレンジャーなら、歴史上のタイムパラドクスがどんな危険をはらむか俺たちよりも肌で感じているでしょう」
明石はさくらから返却されたズバーンをさすりながら言った。
「…!」
「しかし、参加者がこれだけ盛大に死んでいるにもかかわらず、パラドクスに巻き込まれたものは皆無じゃ…知りうる限りはな。この箱庭にそうした時間軸の歪みから保護する力があるのか…あるいは――…」
702
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:04:11 ID:QEFgmkxQ0
「それぞれが別々の“世界”から連れてこられたか……」
さくらが独白する。
それこそが、明石が死んだ仲間を蘇らせる可能性として考える根拠の一つでもある。
「……じゃが、それは同時に連れてこられた世界の破滅を意味しておる。
お前さんがたは自分が抜けた世界の末路を考えてみたことがあるか?」
ブクラテスは問いかけた。三者三様に自分が抜け落ちた後の世界を思う―
「つまりじゃ。仲間と思うておってもそいつはあくまで別の世界の自分の仲間。
逆を返せば死んでも影響は無いが、自分の死は己の世界全ての破滅を意味するものもおる。
この事実に突き当たる連中が増えていけば、自分の命だけではない…自分の世界を守るために
仲間も容赦なく手にかける輩がおるかも知れぬ。ロンも良く考えたものよ…不信の種を二重三重に仕込んでおる」
顎をさすりながらブクラテスは向き直る。
「…俺は自分の世界を守るためでも人は殺せない…まして、仲間を――…!!」
竜也は言った。
「ふん…お前さんはそうかもしれんがな…相手がどう思うかは分からんて……」
「爺さん、これは事実ではなく推察だ。何もこれが確定事項なわけじぁあない。
あくまでも一つの可能性だ」
明石は随分前からこの推論に突き当たっていた。だから今更人に言われても衝撃も小さい。
ブクラテスも明石や竜也が揺らぐのを期待していたわけではなかった。
どうせ、この二人はあくまで戦う道を選ぶ。
それが勝利に通じるかは期待できないが、あくまでその姿勢を変えないだろう。
しかし――…
横目に睨んださくらは明らかに狼狽していた。
脳裏にクエスターもろとも自爆しようとした明石の姿がよぎる。
蒼太にとってはまだ見ぬ未来。明石にとっては過ぎ去った過去。
しかし、さくらにとっては紛れもなく現在進行形の今。クエスターを退けることはできた。
だがそれによって負った痛手から回復するには時間がかかるだろう。
何より、間隙を付いてネガティブが動き出したら――…今度こそ…
「さくら、大丈夫か?」
703
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:04:43 ID:QEFgmkxQ0
深い思考の世界から自分を現実に引き戻してくれたのは、他ならぬ明石だった。
「…ッ! すみません、ボーっとして……」
「いや、いいんだ。色々あったしな。少し休むといい」
「いえ。時間は有りません。少しでも同志を募り、ロンを打倒しましょう。全てはそこで明らかになるはずです」
そう言って、立ち上がる。
明石も頷いてそれに続いた。同じく竜也もそれに続く。
「やれやれ…今しばらくはお前さんがたについていこうかの…」
そして、ブクラテスも。
(とりあえず、種は蒔いてはみたが……芽を出すにはいま一つ、肥料が足らんわな……)
この世界のルールを把握すればするほど、ロンが自分達を生かす道など用意していないことが
分かっていたこととはいえ鮮明になっていく。
ならば、ロンすら出し抜く策が必要となる。
明石暁という絶対的なカリスマを中心に参加者の叡智を募れば、ロンを打倒する道も開けてくるかもしれない。賭けでは有るが、ロンの甘言に期待をもてない以上、現実的な施策といえる。
それだけ最初の空間で見せた明石のパフォーマンスは参加者の心に強烈な印象を残していた。
さくらを手駒にする算段も当初はあったが、これまでの経緯を知るにつれブクラテスはそれを誤りと思うようになっていった。
「神輿が汚れていては、誰も担ごうとはせんじゃろうからな…」
低く呟いたその言葉は誰に聞き取られることもなかった。
まっすぐに前だけを見据える日なたの者と、迷いや憂いを抱える者と。
近くて遠い距離を抱える者達の一行は、しかし、一つの結末へ向かって歩を進めていった。
704
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 00:05:23 ID:QEFgmkxQ0
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:健康。1時間30分程度、変身不能。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、首輪探知機、聖剣ズバーン、スコープショット
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
第三行動方針:仲間を探す。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※バリサンダーとおぼろの支給品、イカヅチ丸はD-7都市エリアに放置されました。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:健康。洗脳下での行動に罪悪感。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。轟轟戦隊ボウケンジャー。スコープショット(菜月)@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:アクセルラー(黄)、未確認支給品(暁確認済)、竜也のペットボトル1本、基本支給品(菜月)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。明石暁と共に行動する。
第一行動方針: ブクラテスの言葉に揺れている。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね、毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:明石を油断できないが利用価値のある人物と判断。当面は提携の姿勢。
第二行動方針:西堀さくらに不協和音。どうにかして排除したいが、表立っては無理と感じています。
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:1時間程度変身不能
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。明石やさくらと連携してロンを打倒。
第一行動方針:これ以上の犠牲は絶対に起こさせない。
第二行動方針:第一行動方針を絶対に貫く。
※首輪の制限を知りました。 明石やさくらと情報交換を終えました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
※ブクラテスは信用できないと感じています
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E-7都市 1日目 午後
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:西堀さくらを怨んでいる
第一行動方針:???
以上です
705
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/09/28(月) 22:37:35 ID:b1KrRI2k0
「………近くに首輪探知機の反応は無い…この犬の飼い主と思しき女は死んだと見るのが妥当じゃろうなぁ……」
ブクラテスはおぼろが死んだことを知らない。
首輪探知機には何の反応もなかったし、彼は爆発音を聞いてもいないのだ。
「まだ、分からないでしょう…証拠はないんだし。もしかしたら禁止エリアから非難しただけかもしれないじゃないですか。俺たちとは距離を隔てているだけで生きているかもしれない」
「しかし、明石暁がわざわざ危険を犯してまでエリアを探索しても見つからなかったのじゃろう?
しかも竜也、お前さんの話によれば随分追い詰められていたようではないか……その犬…マーフィーとかいったか、そいつが一匹でふらふらしておったのも妙ではないか?」
「だからって……」
マーフィーは止む無く、明石のスコープショットで拘束されていた。
しかし今はもう暴れる気配はなく、火の消えたように大人しくしていた。
その姿がいかにも憐れでさくらは胸が締め付けられる思いだった。
「マーフィーは…わたしを仇と思ったようですね…」
さくらが直接、おぼろに手を下したわけではない。あれは操られての凶行だった。
しかし、引き金を引いたのは彼女に間違いはなかった。
「まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方が無いがのぉ…」
横目でさくらの反応を見やりながらブクラテスが白々しく呟いた。
ブクラテスにしてみれば、おぼろが死んでいようが死んでいようがいまいがどうでもよいことだ。
ただ、拘束された鬱憤晴らしを兼ねてさくらの反応が見たかった。
「悔やんで済む話ではありませんし、忘れてしまえることでもないんです…」
さくらは沈痛な面持ちでこたえた。
「火元はロンだ…お前が責任を感じるのは分かるが、その責任を背負って今何が出来るかを考えろ。 落ち込むままは償いになどなりはしない…生き残ったものは前へ進むしかないんだからな……」
かつて、かけがえの無い仲間を失い、再び立ち上がった男の言葉は老年の賢者のそれよりも重たくさくらの心に響いた。
「はい…わかっています…ロンを倒し、皆を蘇らせる。謝るのは、その時です」
疲れた表情にわずかだが笑顔の日が差す。
また、これだ。
わずかな時間でもこの女が明石暁という男に深く傾倒しているのは理解できた。
それはいい。信頼関係が厚いのはこんな場では貴重だし、得難いものだ。
しかし、戦力としては―――・・・
706
:
281
:2009/10/03(土) 08:18:00 ID:x9uT.9GAO
大変遅くなり申し訳ありません。
再投下、お疲れ様でした。
問題ないと思います。
本投下お待ちしています。
707
:
満たされる…これが名無しの力か…
:2009/10/03(土) 08:24:32 ID:x9uT.9GAO
すみません、書き込む場所間違えましたね…。
708
:
◆tmHbmAQAXI
:2009/10/05(月) 01:12:43 ID:Zzh4uE8k0
規制かかりました。
残りの状態表をお願いできますでしょうか?
本投下、遅れてすみませんでした。
709
:
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:51:33 ID:???0
規制がかかりましたので、こちらに211からの続きを投下いたします。
お手隙でしたら代理投下をお願いします。
710
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:52:04 ID:???0
その様に壬琴の視線がグレイへと向けられる。
「時間が惜しい。こいつが目覚めるのを待つ気はない」
「でも、大丈夫?もし、こいつが殺し合いに乗ってたら、意識を取り戻した途端、攻撃してくるかも」
「見たところ、変身する道具は持っていない。それにこの男がここで戦っていたのは明らかだ。短く見積もっても1時間は戦うことはできまい」
「それもそうね」
グレイは踵を返し、調査は終わりとばかりに元来た道に戻ろうとする。
だが、壬琴は別の方向に興味深げに視線を走らせていた。
気付けば、彼の周りを飛んでいたビビデビの姿が見当たらない。
「ビビデビはどうした」
「他に何かないか、辺りを探らせている。それぐらいの時間はあるかと思ったんだが、お前、相当シオンとかいう奴に入れこんでいるみたいだな」
「ふっ、私は私でシオンには借りがある」
「そうかい。じゃあ、ビビデビを呼び戻すとするか」
「ビビィー!み〜こと様〜、見つけたデビ!」
壬琴の声を遮るかのように、ビビデビの興奮した声が届く。
「おっと、思ったより早かったな。折角だ、行くとしようぜ」
壬琴の誘導に従い、後に続くグレイとメレ。
グレイは一刻も早くシオンと合流したかったのだが、何かを見つけたのなら仕方がない。
ここに来た理由も、怪物を安易に殺さない理由も、シオンなら一人でも多くの参加者を助けたい。そう考えると思ったからだ。
だが、ビビデビが見つけた"モノ"に辿り着いたグレイが目にしたのは残酷な現実だった。
「シオン……」
真っ赤な血に濡れたコンクリートの床の上。
倒れ伏す二人の男。その内の一人は髪を緑に染めた小柄な男性。
その顔に見覚えがないわけがない。それはグレイがつい今しがた思い浮かべた人物、シオンに間違いなかった。
「ちょっと、なんでコイツがここにいるわけ!?」
激昂するメレ。一方の壬琴は冷静に倒れ伏すもう一人の男へと近づく。
グレイたちとは逆に、彼は壬琴が見覚えのある男だ。
「大方、ドモンの奴に呼び出されたってところだろうな。こいつを使って呼び出したんだろう」
ドモンのディパックから拡声器を拾い上げ、グレイへと投げ渡す。
711
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:52:36 ID:???0
「そして、シオンはまんまと誘きよされ、この結果ってわけだ」
「でも、拡声器を使ったのなら、なんで私たちには聞こえなかったのよ!」
「馬鹿か。その拡声器にはボリュームを調整するボタンがついてる。それでこのエリアにしか聞こえないように調整したんだろうよ」
壬琴は憤るメレを嘲りながら、ドモンとシオンの死因を解明するべく、検死を始める。
「ドモンの死因も、シオンの死因も、ほとんど一緒だ。ドモンが握り締めていたナイフによる急所への一撃。大方、筋書きはこんなところだろう。
ドモンはシオンを拡声器で呼び出し、ついでに呼び出した怪物と戦闘。なんとか怪物を退けた後、隙を見て、シオンを刺殺。
だが、残念なことにドモンは罪の意識に苛まれ、そのまま自害と。シオンにとっても、ドモンにとっても、なんとも締まらない結末だ」
「………」
「おい、グレイ。さっきからダンマリだが、何か考え事か」
「特にない。ふたりから使える支給品を回収して、先を急ぐとしよう」
グレイはシオンとドモンのディパックに入っていた支給品一式を自らのディパックへと移す。
そして、シオンの腕に着けられているクロノチェンジャーにも手を掛けた。
(意外だな。随分、入れ込んでるように見えたんだが)
半ば煽りに近い言葉を口にしているというのに、グレイの淡々とした対応に、壬琴は拍子抜けしてしまう。
(所詮は機械ってことか。人間や爆竜とかと違って、感情的な行動はとらないってことだな。ツマラン)
壬琴はもう興味はないとばかりに、踵を返し、出口へと向かう。
「ビビィ〜」
壬琴を追って、進むビビデビ。
「むぅ……」
何か言いたげながらも、何も言わず、頬を膨らませるメレ。
「………」
そして、その場にはグレイだけが残った。
▽
(ったく、なんなのよ、アイツは)
メレは原因の分からぬイライラに苛まれていた。
シオンの死体を見つけてから、突如として始まったイライラだ。
(アイツは人の心配ばっかりして、自分のことより人を優先させて、それで殺されちゃあ、意味ないわ)
メレは壬琴の見立てを、特に疑いもせず、鵜呑みにしていた。
712
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:53:06 ID:???0
シオンはきっとドモンを説得しようとして、刺されたのだろうと。
ドモンがどういう男なのかは知るべくもないが、シオンが仲間に対してどういう態度を取るか、それは何故か理解できる。
(馬鹿な男。本当に馬鹿な男)
シオンがいつかいった言葉をふと思い出す。
――人の命を奪うことも、自分の命を無駄にすることも絶対にしたくありません――
(確かにアンタは人の命を奪うことはしなかった。でも、結局、無駄死にじゃないの!)
客観的に見れば、マヌケな参加者が死んだだけ。
メレにとっては理央以外はその他大勢に過ぎない。誰が死のうが、誰が生きようがどうでもいいことのはずだ。
それなのに、シオンの死はどうにもこうにも自分をイラつかせる。
その理由がメレにはトンと見当がつかなかったが――
「………」
メレが懐から取り出したのは、何時ぞやにシオンから貰った痛み止めの錠剤。
既に生者とは云えない自分には無用の長物。だが、何故か今の今まで捨てずに取って置いたものだ。
「フン!」
メレはその白い錠剤を口に入れると、ガリガリと齧る。
薬だけあって、美味くもなんともないが、少しだけ、少しだけだが、胸の痞えが軽くなった気はした。
「グレイ、戻ったら、その怪物、徹底的に締め上げるわよ。ありとあらゆる方法でもって、洗い浚い吐いて貰うわ!」
気勢を上げるメレ。だが、相変わらずグレイはダンマリ。
グレイが無言なのはもういい加減慣れ始めていたが、今回は堪っていた鬱憤が爆発した。
「ちょっと、聞いてるの!」
怒声を上げ、勢いよく振り向くメレ。だが、後ろには誰もいない。
「あれ?」
「ビビィ、あいつならついて来てないビビ〜」
「それを……それを早く言いなさいよ!!」
メレの上段蹴りがビビデビに炸裂する。
713
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:55:29 ID:???0
それは完璧な八つ当たりだった。
▽
メレに蹴られた勢いのまま、壁に激突するビビデビ。
(み、壬琴様といい、この女といい、ネジブルーといい、自分に対する扱いが酷すぎるデビ)
だが、ビビデビはめげない。なぜなら、今、ビビデビはとても機嫌がいいからだ。
(ビッビッビッ、ビビィ〜、大金星ビビィ〜)
ビビデビは心の中で悪魔の笑みを浮かべていた。
どういう経緯があったかは知らないが、ドモンはシオンと共にこの場にて死んだ。
策略を授けたのはネジブルーだが、ドモンに彼からの言伝を囁き、死地へと送り込んだのは自分だ。
つまり、ドモンとシオンが死んだ原因の何割かは自分にある。
ビビデビはそれがとても誇らしかった。
(ビビビビビィ、思わず笑いたくなってしまうデビ)
ロンとの約束は殺し合いを円滑に進ませ、誰かの優勝という形でこのバトルロワイヤルを終わらせること。
既に残る参加者はほぼ半数。そして、ウメコの死に続き、シオンとドモンの死に自分は関わった。
それは紛れもなく、成果と呼べるものだろう。
(ビビィ、もう直ぐデビ。壬琴様はこいつらに協力するようだけど、仲は悪そうだし、いくらでも付け込めそうデビ。とくに……)
ビビデビは険しい顔をするメレに眼を向ける。
(この女、ドモンと同じでいかにも単細胞そうデビ。今度はこいつを誑かしてやるデビ〜)
ビビデビは表面上は変わらず様子ながらも、気分を高揚させ、右へ左へと楽しげに浮いていた。
▽
どういうわけか歩みを止めているグレイをメレが呼びに行くのを待つ最中、壬琴は考えをまとめようとしていた。
即ち、ドモンとシオン、二人の死を演出した何者かの目的だ。
壬琴は気付いていた。
ドモンが自らの死にも、シオンの死にも関わっていないことを。
(確かにありそうなことだ。仲間を殺した後、強い自責の念にかられ、自害する。実際、俺が言ったことに誰も疑いを持たねぇんだからな)
だが、ドモンには無理だ。二人の傷はどちらも右手に握られたナイフで、強く刺されている。
714
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:56:44 ID:???0
右手がおしゃかのドモンに、あそこまでの傷をつけることは不可能。
大体、本当に自害する気があるんなら、咽喉を掻っ切るか、長刀を使う方が現実的だ。それに今時、誰が切腹なんて自害方法を選ぶ。
しかし、そんなことはドモンとシオンを殺した者も、百も承知だっただろう。
(単なる愉快犯の可能性が一番しっくり来るな。どんな些細なものでも支給品を置いていく犠牲を払ってまで、こんな三文芝居を演出するぐらいだ。
それとも目的のものはもう手に入れたということか?まあ、なんにせよ、少しは面白くなってきたようだ)
メレを伴い、戻ってくるグレイ。だが、壬琴の興味は既に彼の肩に担がれた怪物に移っている。
(こいつの口を割らせるのは当然として、ビビデビもドモンがどうの、ネジブルーがどうのと言っていたか。
ふっ、グレイ、確かに協力はさせてもらう。だが、仕切るのはこの俺だ)
壬琴は先導するかのように、彼らの数歩先を歩き始めた。
▽
「ふぅ〜、ようやく行ったみたいだね」
グレイたちが去って、たっぷり数十分後、シュリケンジャーはその身を起こす。
疾うに変身は解け、その姿は"浅見竜也"の顔へと変わっていた。
「やれやれ、結局、結果はジーザスなままか」
シュリケンジャーが何も行動を起こさずに見送ったのには理由がある。
「まさか、ロボットがいるとはミステイクだった。彼さえいなければ、色々やれることはあったのに」
不意討ちするにしても、無害な参加者を装うにしても、グレイの存在はシュリケンジャーにとっては脅威だった。
例えば、不意討ちする場合。まだ正面からの戦いは避けたいシュリケンジャーにとって、少なくとも最初の1人は他の誰にも気付かれずに始末を終えることが前提だ。
だが、相手に気配を覚られない事に関しては朝飯前でも、機械仕掛けで動くロボットは気配などで、こちらの存在を判断しない。
光化学、熱感知、赤外線、機械仕掛けの感覚器には、それに応じた対策が必要になってくる。
生憎と持ち合わせがない上に、相手が何を用いてくるのか判断のしようもないのだ。
それに加え、こちらは既に変身中の身。のんびりとグレイと他の参加者が距離を取るのは待っていられない。
ならばと、グレイが実際どういう機能を持っているのか、確認のためにも合流したいところだったが――
「できるわけないよね。この場において、変装しているなんてばれたら、それこそ命取りさ」
魔法とも云うべき、シュリケンジャーの変装術だが、所詮は変装。骨格や生体反応までは誤魔化せない。
「まあ、自分でも心配しすぎな気もするけど……用心に越したことはない」
ここは生き馬の目を抜く世界。油断した者から脱落していく。
現にシオンは知り合いの顔に油断して、その命を落とした。
715
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:58:23 ID:???0
「後はサラマンデスがミーの存在を喋らないかだけど、流石に迂闊に喋る程、馬鹿じゃない……と、思いたいけどね」
シュリケンジャーはそう自分を納得させると、炎の騎馬のハンドルを握った。
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:健康。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数3発)、クロノチェンジャー(シオン)、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、
操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、拡声器、ディパック+基本支給品一式×3(グレイ、サーガイン、シオン)
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
第二行動方針:壬琴を連れ帰る。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
716
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 04:58:55 ID:???0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。理由不明のイライラ。30分程度変身不可。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他一品、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:壬琴を菜摘たちの元に連れて行く。
第二行動方針:怪物(サラマンデス)から情報を聞き出す。
第二行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
717
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 05:00:36 ID:???0
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:精神的なダメージ極大、腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。タイムピンクに30分程度変身不可。酔っています。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、両方表のコイン、基本支給品一式
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:次元虫の解体手術を行うまで、グレイたちと行動。
第二行動方針:ドモンとシオンを殺害した人物に興味。
第三行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第四行動方針:首輪の解析。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
718
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 05:01:15 ID:???0
【名前】童鬼ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:胸に大ダメージ。気絶中。サラマンデスに成長完了。1時間30分能力発揮不可能。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:とりあえず優勝狙い
第一行動方針:シュリケンジャーと協力して、数減らし。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。
第二行動方針:メレを誑かす。
719
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 05:02:15 ID:???0
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:G-6都市 1日目 午後
[状態]:健康。現在は竜也の顔です。1時間30分変身不可。
[装備]:シュリケンボール、ゴウライチェンジャー(クワガ)@忍風戦隊ハリケンジャー、
炎の騎馬@忍風戦隊ハリケンジャー、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー
[道具]:SPD隊員服(セン)、クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、何かの鍵、支給品一式×4(水なし)
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。 それがだめならアレの消滅を願う。
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
720
:
コイントス
◆i1BeVxv./w
:2009/11/27(金) 05:02:55 ID:???0
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点など、不備がありましたらご指摘のほど、よろしくお願いします。
721
:
◆Z5wk4/jklI
:2010/02/08(月) 21:29:52 ID:???0
最後の最後でさるさんorz ご支援頂いた方ありがとうございました。
722
:
さかさまの真実
◆Z5wk4/jklI
:2010/02/08(月) 21:31:35 ID:???0
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。混乱により回路に負担が掛かっている状態。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どうすればいいのかわからない
第一行動方針:眠ることにより、回路の負担を減らしたい
以上です。誤字脱字、矛盾、ツッコミ、感想などございましたらよろしくお願いします。
途中、ご支援いただいた方ありがとうございました。
723
:
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:36:44 ID:???0
2ちゃんが使用不能ですので、これよりこちらに投下いたします。
724
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:37:41 ID:???0
ブドーを目指し歩む者とブドーの元から歩む者。
その二組が出会ったのはある意味必然と言えた。
▽
D7エリア周辺の探索を空振りで終え、センたちはブドーとの待ち合わせ場所を目指し、砂漠を進んでいた。
日が高い内の砂漠横断は中々に骨が折れる。
照りつける太陽が、一面に広がる砂の鏡に反射し、天と地からその身を焼いていく。
その劣悪な環境に、シグナルマンは息を乱し、センの歩みは鈍くなり、理央でさえも額に汗を滲ませていた。
「これは堪らんな」
「ちょっと厳しいですね。ブドーはここで体力が消耗することを見越して、場所をE9エリアに指定したんでしょうか?」
「さあな。だが、この程度で結果が変わることはない」
その言葉に嘘はなかった。
理央の中で滞留する臨気は苦境な環境になればなるほど膨れ上がり、爆発する瞬間を今か今かと待ち構えていた。
「セン、手加減はするつもりだ。アイツとの実力差ならば、それは問題ではない。
だが、勝負自体は真剣にやる。その結果がどうなるかは保証しない」
「その時は俺が止めます」
刑事として、ジャッジが下されていない人物のデリートを見逃すわけにはいかない。
それが例え殺し合いの場であろうとも。
「本官も協力するぞ。任せてくれ。ハッハッハッ」
自信満々に胸を叩くシグナルマン。空元気だと分かっていたが、その高笑いがまるで背中を叩いてくれているようで勇気が沸いてくる。
「ハッハッハッ………んんっ?」
「どうしました?」
「いや、なんか足音が聞こえたような」
最初に異変に気付いたのはシグナルマンだった。
能力の制限がかかるこの場において、地力の差が出た結果とでも言うべきか。
725
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:38:22 ID:???0
「おおっ、やはり聞こえるぞ」
シグナルマンは音が聞こえる方へと注意を向ける。センと理央も同じ方向へと視線を向けた。
そのとき、まるで彼の者の到来を告げるかのように一陣の風が吹いた。
それは砂塵を巻き上げ、彼らの視界を妨げる。
「くぅ〜、何も見えないぞ」
激しい砂嵐から身を守るため、三人が三人共、眼を瞑り、両腕で顔を覆う。
そんな中、理央はその隙間から影を見た。
「……誰か来る」
砂嵐のベールに包まれたその影は人型こそしていたものの、頭部と思わしき箇所からは角を生やし、非常に大きな風体をしていた。
「ブ、ブ、ブ、ブドーか?」
「いや、違う。だが、"怪人"であることは確かだ」
やがて、凪ぎ、その姿がはっきりと両目で確認できるようになったとき、両者の距離は5mにも満たない距離まで接近を果たしていた。
怪人の血のように赤い瞳と、理央たちの視線が交錯する。
先に口を開いたのは怪人――ジルフィーザだった。
「貴様ら、どこへ行くつもりだ。この先には何もないはずだが」
勿論、ジルフィーザは理央たちが向かう先に誰がいるのか知っている。
関わらず敢えてその問いを投げかけるのは、理央たちがブドーの待ち受ける者たちか確かめるためだ。
「………」
理央は視線でセンに判断を仰いだ。
センもその合図に頷き、思案する。目の前の怪物がどんな意図を持って、質問を投げかけているのか。
それを読みきり、言質をとることができれば、交渉事はそれだけで有利になる。
(ここは慎重に話を)
が、
「本官たちはその先でブドーという男と待ち合わせをしているのだ!
約束の時間までまだ少しある。誰もいなかったというなら、まだ到着していないのだろう」
「………」
726
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:38:59 ID:???0
「シグナルマンさん……」
センの思惑など露知らず、真正直に応えるシグナルマン。
流石のセンもこれには苦笑いを浮かべる。
それはさておき。
「コホン。……シグナルマンさんが言った通り、俺達はブドーとの待ち合わせに向かっています。
俺は江成仙一、センって呼ばれています。こちらは理央さん。そして、そちらがシグナルマンさんです」
「シグナルマン・ポリス・コバーンだ。よろしく」
握手を求め、手を差し出すシグナルマン。
だが、ジルフィーザはそれに応えず、低い声でジルフィーザという自分の名前を名乗るだけに留める。
行き場をなくした手をしょんぼりとした眼で見詰める。
(まあ、それが普通だよね)
幾人もの死者が出ているこんな状況で初対面の人間とフレンドリーに話すことなど有り得ない話だ。
むしろシグナルマンの方が異常とも云えなくもない。
(でも、シグナルマンさんみたいな人が残っているのはなんだかホッとするけどね)
「それでジルフィーザさんは一体、こんなところで何を」
「弟の成長の手助けをしていた」
「弟?」
「そうだ。我が弟は魂のみの存在として、この場に参加していた。その姿のままでは弟は満足な力を持たぬ。
だが、ロンの策略か、成長するための繭がオアシスに隠されておったのだ」
「なるほど、それでジルフィーザさんはここに。で、弟さんは」
「理由あって離れることになったために探しているところだ。赤い龍の姿をした男を見なかったか?」
センは首を振り、続いて、理央とシグナルマンもそれに続く。
「そうか」
ジルフィーザも特に期待していなかったためか、落胆した様子はない。
センはそのやり取りの中で考えていた。
どうやら、ジルフィーザは戦うつもりはないようだ。弟を探しているというのもおそらく真実だろう。
そして、ロンには敵意を持っている。
ならば、互いに別々の目的を持つ今は無理でも、後に共闘するのは可能かも知れない。
727
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:39:51 ID:???0
(あと、もうひとつ。彼が殺し合いに乗っていない確証があれば……)
そこでふと、視線がジルフィーザの持つディパックに移った。
(あれ…は……?)
その瞬間、センの脳裏で強烈なフラッシュバックが起こる。
一見、全て同じように見えるディパック。だが、そのディパックにセンは確かな既視感を覚えた。
そして、それと同時に傷を負った左肘が疼きを返す。
「ジルフィーザさん」
「なんだ」
「あなたが持っているディパック、見せてもらってもいいですか」
しばし、センの意図が分からず、言葉に詰まるジルフィーザ。
だが、特に渋るものでもないと、自らのディパックをセンに渡す。
「……やっぱり」
ディパックに入っていたサイコマッシュとライフル銃、どちらも見覚えのあるモノだ。
サイコマッシュは元々センの支給品。そして、センはそのライフル銃を使っていた参加者を知っている。
(これはあの二人組が持っていたディパックだ)
黒のゴスロリファッションに身を包んだ二人組、ナイとメア。
彼女らのどちらかと思わしき死体は確認したが、その死体はディパックを持っていなかった。
生き残った片方が持って逃げたか、それとも彼女を殺した何者かが奪ったかのどちらかと思っていたが、そのディパックが今、センの眼の前にある。
(そうすると、あの二人組みを殺したのはジルフィーザなのか?確かに鋭利な刃物も持っているようだけど)
ジルフィーザの手には鋭い刃がついた杖。あからさまな血液こそ付いていないが、それを奮えば、首を落とすことなど容易いだろう。
そして、更にディパックの中を確認すれば、何かの説明が書かれた紙と、血の付いた首輪が発見された。
(これは首を落としたときに奪った首輪?いや、あの死体の首輪は俺が持っている。でも、逃げた片方を殺して首輪とディパックを奪った可能性も。
でも、それなら俺たちにディパックを見せようとするだろうか?)
センの脳内が疑問に埋め尽くされる。一体、眼の前の男は何者なのか。
悩んだ末、センは一切の小細工なしにその疑問をぶつけた。
「ジルフィーザさん。これは何処で手に入れたものなんですか?」
「これは私のディパックだ。最初からな」
728
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:40:23 ID:???0
「嘘ですね。この中に入っているもの。俺には見覚えがあります。このディパックにもです。
そして、この首輪。これは誰かを殺さなければ手に入らない。
もし本当にあなたがこのディパックの持ち主なら、あなたは誰かを殺したと自供しているのと同じです」
一息に詰め寄るセン。しかし、ジルフィーザに悪びれた様子はない。
「嘘?だとしたら、どうだというのだ。ここは殺し合いの場。裁判の場ではない。
初対面の相手に全て本当のことを喋ると考えるのが間違っている。そうではないのか?」
ジルフィーザは素早く杖を奮い、持ち手に引っ掛け、センの持つディパックを取り戻す。
「ふん。それとも果し合いも待ち合わせには違いないと、言葉遊びでもするつもりか」
その言葉でセンはジルフィーザの意図と、彼が持つディパックの元の持ち主を知る。
彼らが果し合いに向かっていると知っているのは彼らの仲間以外ではブドーのみ。
「お前、ブドーの仲間か?」
杖を構えるジルフィーザに、センたちも臨戦態勢に入る。
「仲間ではない。だが、思わぬことで借りができた」
ジルフィーザは値踏みするような眼をセンに向ける。続いて、シグナルマンに向け、そして、最後に理央を見た。
「お前が果し合いの相手か」
「………」
理央から立ち昇る闘気を見切ったのだろう。ジルフィーザは見事にブドーの相手を言い当てる。
「お前は行くがいい。私は果し合いの邪魔をするつもりはない。私の目的は果し合いの邪魔者を排除することだけだ」
そうはさせまいとセンはSPライセンスを取り出し、シグナルマンはシグナイザーを握った。
だが、その行動を意外にも理央が遮る。
「よせ!」
「理央さん」
「無駄なことに力を使うな。元からブドーとは俺一人が戦うことになっていたはずだ。お前たちが居ようが居まいが大勢に影響はない」
「しかし……」
「要はお前達がいなくてもブドーを殺さなければいいのだろう。先程も言ったとおり保証はできない。だが、善処はする」
「ぐぬぬぅぅ」
シグナルマンが呻き声を上げ、センも内心でまったく同じ声を上げる。
理央とブドーとの決闘には、二人の警察官としてのリベンジも含まれている。
二人としては是が非でも同行したい。だが、復讐に呑まれ、非合理的な行動を取るのは本末転倒もいいところだ。黙るしかない。
「ジルフィーザとかいったな。お前の目的も足止めなら、足止めさえできれば無理に戦う必要はないはず」
729
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:41:12 ID:???0
「………」
理央は無言を肯定と受け取る。
これで話はついた。
「セン、シグナルマン、お前達は街に戻れ。この暑さだ、ここに居ては待つだけで体力が削られる」
「しかし……」
「心配はいらん。必ず俺は戻ってくる」
理央は少しだけ笑みを浮かべると、決闘の場所への歩みを再開する。
その後姿はセンたちを拒絶しているようにも、任せろと言っているようにも見えた。
▽
「来たか、思ったより早かったな」
午後3時過ぎ。刻限より約1時間以上早く、理央とブドーの二人は対峙していた。
ロンの思惑とは異なる結果になったわけだが、二人に何ら不満があるわけでもない。
ただ己の力と力をぶつけ、決着を着けるのみ。
それがこれから拳を交じらせる二人の共通した認識だった。
「剣将ブドー、参る」
ブドーはゲキセイバーを握り、一直線に理央へと向かっていった。
730
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:41:42 ID:???0
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:E-8砂漠 1日目 午後
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー。SPライセンス。一つ目のライフル銃の説明書。真墨の首輪
[道具]:バンキュリアの首輪。
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:ジルフィーザと共に街へ。そこで理央たちを待つ。
第二行動方針:ブドーを仲間に引き入れるため画策。連れ帰ってジャッジを下す。
第三行動方針:シュリケンジャーを危険視。
※首輪の制限を知りました。
※ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:E-8砂漠 1日目 午後
[状態]:ダメージ小。腹に打撲痕。未だ凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数1個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵 、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:自分の無力さに強い怒りと悲しみ。
第二行動方針:ジルフィーザと共に街へ。そこでスモーキーたちを待つ。
第三行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第四行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
※首輪の制限を知りました。
731
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:43:13 ID:???0
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:E-8砂漠 1日目 午後
[状態]:健康。
[装備]:杖
[道具]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)、サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式(バンキュリア)
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップに会い、真意を問う。
第二行動方針:ブドーへの借りを返すため、しばらく監視を兼ねて、センたちと行動。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:E-9オアシス 1日目 午後
[状態]:左胸に銃創。ロンへの強い怒り。幻気が浸食中。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:スモーキーを救い出す。ブドーと戦う。
第三行動方針:弱者を救ってやりたい。
※首輪の制限を知りました。
732
:
Liar
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:44:13 ID:???0
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:E-9オアシス 1日目 午後
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。闇の力により戦闘力増幅。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:筆と短冊。マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式(ペットボトル1本消費)
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:理央と決着をつける。
第二行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。
※闇の三ツ首竜により力が増幅しています。
733
:
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:55:37 ID:???0
第一波投下終了。
続いて、第二波の投下をいたします。
734
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:56:32 ID:???0
時間は少し遡る。
ジルフィーザを見送ったブドーは座を組み、懐から筆と短冊を取り出した。
理央を待つ間の時間つぶしに、句を詠もうと思い立ったのだ。
さて、どんな句を詠んだものかと思案に耽っていると、スモーキーがおずおずと声を掛ける。
「なあ、大将」
「どうした。……おぬしも共に句を詠むか?」
「いや、それはいいニャ」
スモーキーの拒絶の言葉に、ブドーは傍目にも分かる程に肩を落とす。
(いや、そこまでがっかりしにゃくても……)
微妙に罪悪感を感じるが、それは脇に逸らし、スモーキーは本題へと入る。
「理央との決闘のことなんだけど」
「また、その話か。言ったはずだ。戦いを止めるつもりはない」
「そ、それはわかった。理央も、大将も、男。男なら時には殴り合いのひとつやふたつ仕方のないことニャ」
腕を組み、うんうんと肯くスモーキー。
「でも、殺し合いは絶対許さないニャ!」
「それも言ったはずだ。拙者が応じたとしても理央やその仲間のセンが応じると……」
「オレ様が応じさせて見せる。あいつらが来たら、まずオレ様が話しをする。そして、大将を殺さないように約束させるニャ。
だから、もし大将が勝っても、理央たちを殺さないと約束して欲しい」
「……もし、嫌だと言ったら?」
「もし、嫌だと言ったら――」
ブドーを威嚇するように、爪を立て、歯をむき出しにする。
「まずはオレ様が大将の相手をしてやるニャ。もう決闘の時間まで2時間を切ってる。
勝てないまでも、もし、大将に本気を出させれば、戦うことができなくなる」
「なるほどな。確かに今、襲われては決闘に差し障りがある……本当におぬしが拙者に本気を出させることができればの話だがな」
「ニャ!?」
いつの間に抜いたのか、ゲキセイバーがスモーキーの鼻先に突きつけられていた。
(ま、まったく見えなかったニャ)
735
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:57:02 ID:???0
だが、スモーキーもここまで言って引き下がるわけにはいかない。
震えそうになる身体に喝をいれ、ブドーの瞳を直視し続ける。ブドーもその視線を真正面から受け止め、睨み続けた。
その張り詰める空気に先に折れたのは、ブドーの方だった。
「よかろう。おぬしに免じようではないか」
「それじゃあ」
「ただし、勝負自体に手を抜くつもりはない。いや、あの理央が相手とならば、少しでも油断があれば負けるのは拙者となるだろう。
お互いに真剣に戦った結果、互いの命がどうなるか、それは保証しない」
「その時は……オレ様が止めるニャ」
「止められるのならな」
ゲキセイバーを納め、句を詠むために座する位置へと戻っていくブドー。
ほっと、胸を撫で下ろすスモーキー。
奇しくも彼らのやり取りは理央とセンとの間で行われたものと同質のものであった。
▽
「ひとりか」
「不服か?」
「いや。拙者の目的はおぬしただ一人。この戦いに他の者は必要ない」
理央とブドー、二人の間で激しい火花が飛び散る。
理央が来る前は説得の弁を多様に考えていたスモーキーも、闘気のぶつかり合いに言葉を失っていた。
もはや、二人の間に何者も入る余地はない。
「剣将ブドー、参る」
ブドーはゲキセイバーを握り、一直線に理央へと向かっていった。
双剣合身により一振りとなったゲキセイバーが理央の首筋を狙う。
「てぇぇぇい」
だが、理央はそれを予期していたかのように、素早くブドーの外側に回りこむとそれをあっさりと避けた。
736
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:58:39 ID:???0
――つもりだった。
「なに!?」
理央の首筋にすっと赤い一筋の線が引かれる。
避けたつもりが、ブドーの一撃は理央を捉えていたのだ。
続いて、横薙ぎにゲキセイバーが振るわれる。
理央はそれを跳躍してかわすが、それと同時にブーツが引き裂かれた。
(違う。以前のブドーとは明らかに)
危険を感じた理央は地面に着地すると、素早く後ろへと下がる。そして、首筋の傷に手を当てた。
(この鋭さ。なるほど、俺はこいつの一撃を確かにかわしていた。
だが、奴の一撃があまりにも迅かったために、それが小規模ながらも旋風を起こし、俺の皮膚を切り裂いた。
しかし、以前のこいつにはそこまでの力はなかったはず。奴が持つゲキセイバーにもそんな特性はなかったはずだ)
首の傷にわずかながらも動揺を見せる理央を見遣り、ブドーはニヤリと笑う。
「理央、拙者を今までの拙者と思わぬことだ。言っておくが拙者はまだ、力を見せてはおらぬ」
「なに?」
「力を発揮しておれば、今の油断したおぬしなど、一刀で切り捨てることもできた。だが、それでは満足できぬのだ。
拙者はおぬしを倒すために、ただそれだけのために、この力を手にした。
故に貴様だけは拙者の全てを持って切り捨てねば気が済まん!本気を出せ、理央!本気で拙者と戦えぇぇぇい!」
ブドーの気勢が木々を奮わせる。
「見違えたな。面白い。それでこそ倒し甲斐があるというものだ」
理央は自らの認識を改めることにした。眼の前にいる相手は記憶にも残らぬ雑魚ではない。
全力を尽くし、叩き潰すべき、強大なる壁。
「臨気鎧装」
その言葉と共に、黄金の闘気に包まれた黒き鎧が理央の身に装着されていく。
それは理央が本気で戦うことを決めた証。高みを目指した最強たる者の姿。
「猛きこと獅子の如く。強きことまた獅子の如く。剣を断ちし者。我が名は黒獅子リオ」
737
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 17:59:29 ID:???0
黒獅子となった理央の背後から、ブドーを激しく威嚇するかのように黒き獅子の闘気が立ち昇る。
「フフッ、それでよい。それでこそ拙者もこの力を受け入れた甲斐があるというもの」
ブドーは今まで身体の中に渦巻いていた闇の力を外へと向けて開放する。
すると、彼より立ち昇った闘気は黒き三ツ首の龍を形作った。
獅子と竜が互いの敵を認め、激しく咆哮する。
その主たる理央とブドーはそれに同調するように身体中に力を漲らせていく。
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
「ぬぅぅぅぅぅっ!!!」
獅子対竜の戦いが、今、火花を切った。
▽
眼の前の敵を倒すべく、拳と剣が唸りを上げる。
いや、倒すなど、生易しいものではない。お互いがお互いに、眼の前の敵を"殺す"べく、全力を尽くしている。
二人の思考は今はただそれのみ。
事前にセンやスモーキーと交わしていた約束など、片隅にあるのかさえ怪しい。
(こ、これを止めるのか?)
そう独り言を呟こうとして、スモーキーは声が出ないことに気付く。
そして、声どころか、身体がまるで石化でもしたかのように動かないことに気付いた。
二人の闘気に気圧されているのだ。
(む、無理だ。こんな状態ニャのに、二人を止めるニャんて、絶対無理だ。せ、せめてダンナやシグナルマンがいれば……
ちくしょー、なんでいないんだ。ダンナ、シグナルマン……)
738
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:15:41 ID:???0
スモーキーは自分の無力さを嘆き、ただここにいないヒカルたちに怨みの言葉を紡ぐしかなかった。
▽
「飛翔拳」
羽根形の手裏剣へと形成された臨気が、次から次にブドーへと放たれる。
「甘いわ」
ブドーはゲキセイバーを分離させると、一対になった剣でそれを次々と弾いていく。
だが、それは理央の狙い通りだった。
(一対になった剣を使えば、複数の攻撃には対処できるようになる。だが、その分、強力な一撃には脆くなる!)
理央は手裏剣を放ちつつ、ジリジリと間合いを詰めていた。
そして、一跳びでブドーに届く位置まで接近するや否や、理央は大地を蹴った。
「リンギ・烈蹴拳!!」
空中で体勢を整えた理央は臨気の込められた強烈な蹴りを放つ。
その威力は、例えゲキセイバーで防御したとしても、それを破壊した上でブドーに勝敗を決する程のダメージを与えられるはずだ。
勿論、当たればの話だが。
ブドーはまるで羽毛のようにふわりと浮かび上がり、理央の蹴りは空を切る。
ブドーは理央の狙いを見抜いていた。間合いを詰めていたのも承知の上。
理央がジリジリと間合いと詰めている間、ブドーは手裏剣を弾きながら、少しずつ、ゲキセイバーの動きを直線から回転に変え、速度を増していた。
後は理央が攻撃に転じる瞬間にあわせて、力を入れれば、薄く平たいゲキセイバーはプロペラのように揚力を得て、ブドーの身体を浮かび上がらせる。
「くっ、小細工を」
「では、小細工を存分に味わうがいい」
ブドーは回転すると、手近な木を蹴り、理央へ向かって滑空していく。
理央はそれを身を反らし避けるが、ブドーは飛んだ先の木を蹴ると反転し、再び、理央へと迫る。
(まさかゲキセイバーをここまで使いこなすとは)
わずかな時間でゲキセイバーの特性を習得していたことに、理央は驚きを禁じ得ない。
しかし、驚いてたのはほんの一瞬。理央は拳に臨気を込める。
739
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:16:11 ID:???0
「リンギ・雷剛弾!」
立て続けに放たれる4発の破壊光弾。
それはブドーの上下左右に放たれ、彼の動きをひとつの方向へと固定させる。
そこに放たれる渾身の一撃。それは一直線にブドーを狙う。
「ふっ」
だが、ブドーはまったく動じない。それどころか、口元には笑みすら浮かぶ。
「てぇぇぇい!」
気合一閃。ブドーはゲキセイバーをひとつにすると、それを真正面から切り裂いた。
切り裂かれた雷剛弾はふたつに分かれ、地面に接触すると大爆発を引き落とす。
その爆発が土砂を舞い上がらせ、二人の視界を封じる。
しかし、お互いにそれが治まるまで待つつもりはない。むしろ、これは好機。
相手の気配を探り、感知した殺気に向かって、剣と拳を打ち込んだ。
その一撃は、一方は相手の身を削り、一方は相手の胸を抉った。
やがて土砂が治まり、二人の姿が晒される。
一人は二本の足で大地を踏みしめ、一人は大地に膝をつく。
「ぐぅ」
胸を抉られ、呻き声を上げるのは――理央の方だった。
「どうしたそこまでか!」
「リンギ・剛勇吼波!」
理央から放たれた臨気が獅子を形作り、ゲキセイバーを振り上げたブドーに襲い掛かる。
咄嗟に防御の体制をとるが、実体化した獅子から繰り出される強力な一撃にブドーは理央から後退させられる。
しかし、それでもブドーの愉悦は変わらない。
「そうだ、そう来なくては。戦いはこれからだ」
獅子の攻撃を防御しつつ、笑みを浮かべるブドー。
「ああっ、これからだ」
対して、息をわずかに乱しつつ、立ち上がる理央。
ブドーは気付いていなかったが、理央の傷は決して浅くなかった。
万全の状態であったなら問題なかっただろう。
だが、ブドーが傷つけた箇所は、偶然にも以前、狙撃された場所と同じ箇所であった。
740
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:16:43 ID:???0
塞がりかけていた傷が、再びぱっくりと開き、血が染み出てくる。
(負けない。俺は負けない)
自らを鼓舞して痛みに耐える。
眼の前の敵は強い。だが、だからこそ、戦うことに意味がある。超えることに意味がある。
「うぉぉぉぉっ!!」
身体中の臨気を極限にまで高め、身体中に漲らせる。
痛みは薄れ、無尽蔵に力が湧き出てくる。
現状はブドーが優勢。それは誰より理央が理解している。
だが、勝てないとは思わない。
いかなる手段を講じて、ブドーが強さを高めたか、理央にはわからない。
しかし、こちらがどれだけ力を高めようと、それ以上の力を高め、対抗してきた激獣拳のように理央も諦めるつもりはない。
相手が高めた分だけ、こちらも高める。ただひたすらに強く、激しく、高く。
「ふん!」
獅子を切り捨てたブドーは、その身が震えるのを感じた。
見れば、理央の身体は黄金の闘気に光り輝き、今までとは比べ物にならないほどの力を漲らせている。
「流石、流石だ、理央よ。それでこそ、拙者の最後の相手に相応しい!」
もはや、この後のことなど、ブドーにはどうでもよかった。
(生涯において、最高にして、最強の相手が眼の前にいる。勝とうが負けようが、この戦いに終止符を打つことがこの世に再び生を享けた意味に相違ない)
「竜よ!拙者の身を、魂を、全てを喰らうがよい!!その代償として、今拙者に最上の力を与えよ!!!」
一瞬、ブドーの身体が闇に包まれたかと思うと、その闇の全てはブドーの身体からゲキセイバーへと移動し、ゲキセイバーを闇色に染め上げる。
「いざ……勝負!」
ブドーが駆ける。理央も、同じくして、大地を蹴った。
「ゲキセイバー残酷剣!!」
「リンギ・剛勇掌打!!」
ふたつの力がぶつかり合う。
741
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:18:14 ID:???0
衝撃が地面に流れ出し、大地を震撼させる。
だが、その力の拮抗はとても長く、とても短かった。
果たして勝負の決め手は何だったのか。
単純な力の差か。
この戦いに掛ける思いの差か。
それとも今までの戦いの傷によるものか。
しかし、結果は無常にも下された。
ゲキセイバーは砕け散りながらも、その闇の刃は理央を切り裂いていた。
▽
「拙者の……勝ちか……」
ブドーは粉々になり、柄だけになったゲキセイバーを見遣る。
「拙者もこのようになることを覚悟していたが……」
死を覚悟していたというのに、身体の調子はすこぶる良好だった。
闇の力を剣だけに集中したことで、逆にその身を滅ぼすことが抑えたられたのかも知れない。
「よい勝負であった」
ブドーは倒れ伏した理央を見下ろす。
その身から臨気鎧装によって得られた黒色の鎧は消え失せ、人の身の白い肌が覗いている。
ふと、ブドーの脳内に声が響いた。ブドーはその脳内に響いた声をそのまま口にする。
「コロセ…か」
理央を切り裂いた刃に手応えはあった。
だが、臨気を漲らせていた理央には勝負を決める一撃になったとしても、生命を断つ一撃にはなり得なかったのだろう。
ブドーはゲキセイバーを投げ捨て、懐から手裏剣を取り出す。
他の支給品はジルフィーザに譲渡したため、ブドーに残された武器はこれしかない。
だが、これでも首でも掻っ切れば、それで終わる。
コロセ、コロセと脳内には輪唱でもしているかのように、その言葉が延々と響く。
ブドーとて、宇宙を渡り歩いた海賊のひとり。
742
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:21:07 ID:???0
不用意に相手を生かす恐ろしさも知っていれば、一切の容赦なく命を断つ覚悟も持っている。
更に言えば、今、理央がその命を脅かされているのも自分を仕留め損なったことに起因する。
(されど――)
ブドーは理央に背を向けた。
途端に脳内の声が大きくなるが、ブドーはそれを無視し、ディパックを手に取る。
(情けを掛けたわけではない。借りを返したわけではない。猫の懇願を聞いたわけではない。ただ――)
「待て!」
ブドーが振り返ると、そこには理央が再び、立ち上がっていた。
その顔には怒りが滲んでいる。
「勝負はついたと思ったが」
「ならば、なぜ、俺に止めを刺さない。お前は明らかに俺に止めを刺すのをやめた」
「……刺す必要を感じなかったからだ」
ブドーの目的はいつの間にか優勝を目指すことから、理央を倒すことへと変わっていた。
そのためなら、自らの命すら問わぬ程に。
だからこそ、一撃に全てを賭けることができた。
そして、理央を倒すという願いが叶えられた時、ブドーは新たな願いを叶えようとは思えなくなっていた。
己の全てを賭けて叶えた願い。その願いが叶ったというのに、何故、直ぐに次の願いを叶えようと思おうか。
しかも、その願いは叶った願いと比べてあまりにも魅力に欠ける。
もはやブドーに戦う気はなかった。
だが、言の葉と書いて、言葉。ブドーの真の意図など伝わらず、理央はその言葉を自分に対する嘲りととった。
つまり、止めを刺す価値のない相手と。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
まず理央の胸に宿ったのは絶望だった。
自分の強さが通じず、相手にされないことに対する絶望。
続いて、宿ったのは嫉妬。
わずかな時間で自分を超えるほどの力を得たブドーに対する嫉妬。
そして、最後は怒り。
自分の弱さ、不甲斐なさに対しての激しい怒り。
絶望。嫉妬。怒り。
即ち、臨獣拳を究めるための三要素が理央に宿る。
743
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:22:47 ID:???0
それは理央が一時は捨て去った感情。
ロンに仕組まれたことを知り、激獣拳に与することで捨て去ったはずの感情。
それが再び、理央に宿り、その身に宿る臨気を再び極限にまで高め始める。
だが、首輪によって齎される制限がそれを許さない。
高まる臨気を抑えようと、首輪を通して、多量の幻気が理央の身に降りかかる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
だが、幻気が理央をいくら痛めつけようとも、理央は臨気を高めることを止めようとしない。
例え胸の傷から血が噴出そうとも、ゲキセイバーによる傷が痛もうとも、その痛みが薄れ行く意識を覚醒に導き、理央の絶望と嫉妬と怒りをより顕著なものへと変えていく。
やがて、彼の身にある変化が起こった。
傷からその身へと流れ入った幻気が、まるでかさぶたのように傷痕を塞ぐ手助けを始める。
そして、体内に入った幻気は臨気と混じり合い、有象無象のものから、理央の幻気へと性質を変えていく。
奇跡は起こった。
「幻気鎧装」
黄金の鎧が空中で精製され、次々と理央の身体へと装着されていく。
「なっ!」
その異変にブドーは言葉を失う。
そこに猛き黒獅子の姿はなかった。そこにいたのは幻獣の王に相応しき、黄金の鎧を身に纏った獣の姿。
「強きこと、猛きこと、世界において無双の者、我が名は幻獣王リオ」
「幻獣王…リオ……」
ブドーは我知らず、二歩、三歩と後ずさりをする。
その姿は静かだった。黒獅子のときのように溢れ出さん程の闘気をまったく感じなかった。
だというのに、ブドーは震えが止まらない。
それは先程のように雌雄を決さんがための武者震いではない。眼前にいる敵に対しての恐怖に他ならない。
(理屈ではなく本能でわかっているのだ。この、幻獣王となった、今の理央の恐ろしさを)
ブドーは身体の震えを気迫で抑え、手裏剣を手にする。
だが、それが合図となった。
「なに!?」
744
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:23:46 ID:???0
一瞬にして、眼と鼻の先まで間合いが詰められる。
「ゲンギ・破天荒!!!」
無数の拳が雨のようにブドーの身体に降り注ぐ。
ほぼ不意討ちとも云える攻撃にブドーは為す術もなく、大樹に叩き付けられる
「ぐふっ!」
口から苦悶と共に血が流れ出す。
「メッキが剥がれたな。もうお前からは何の力も感じない」
「メ…ッキ?」
ブドーは自らの掌をギュッと握る。
制限はまだ掛かっていない。だが、その力はほんの数分前と比べると、衰えているように感じられた。
「まさか」
何時の間にかブドーの脳裏に声は響かなくなっていた。
それが一体、何を意味するのか。
「ふっ、どうやらこれはお前に愛想を尽かしたらしいな」
理央の手に握られた燭台のような置物。
それは紛れもなく、今までブドーに力を授けていた闇の三ツ首竜に相違なかった。
何故とブドーは疑問に思ったが、直ぐにその回答に思い当たる。
(理央の言う通り、愛想を尽かしたのだろう。願いが叶った拙者にこの竜が欲する程の闇はない。さすれば、それも当然のこと)
ブドーの回答はほとんど正解だったが、ひとつ、思い当たらなかったのは理央の闇の深さだった。
ブドーの闇が薄れたからとはいえ、即座に他人に渡るようなものではない。
理央の持つ闇がブドーの持つ闇より深く、濃いものだったからこそ、闇の三ツ首竜は理央の手に渡ったのだ。
(もはや、これまでか)
消沈するブドーに対し、理央の精神は高揚する。
幻気に加え、闇の三ツ首竜から齎される闇の力が理央の身に信じられぬほどの力を与えていた。
(この力があれば、この場にいるどの戦士も恐れるに足りん。もはやロンすらも問題ではない)
ふと、センとの約束を思い出す。センはブドーを生かし、利用することを望んでいた。
(ふん、こいつを生かして何になる。俺はこの強さで弱い者を救う。――だから俺以外の強者は必要ない)
増大していく力は思考を汚染する。
強く握られる拳。ブドーは意識はあるものの、動こうとしない。
745
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:24:18 ID:???0
(最終的には理央の勝利か。所詮は仮初めの力。例え泡沫の夢でも、勝利を味わえたのだ。それでよかろう)
もうブドーに思い残すことはなかった。
ブドーは眼を閉じ、辞世の句を読む。
――仮初めの 命と力に 剣を振り 泡沫なれど 後悔はなし――
後は拳が振り下ろされるのを待つのみ。
「ま、待つニャーーーーー!」
覚悟を固めたブドーの耳を劈く制止の声。
思わず眼を開ければ、理央も拳を振り上げたまま、その声の主に視線を移していた。
「スモーキー」
鳥肌を立て、震えながらも、身体中の力を振り絞り、スモーキーは声を上げた。
理央の視線がまるで刃のようにスモーキーに突き刺さる。
それだけでスモーキーは粗相をしてしまいそうになるが、どうにか我慢し、言葉を紡ぐ。
「も、も、もう、け、け、け、決着は着いたニャ。大将は、ブドーはお前との決着が着いたら、一緒に行動してくれるって、オレ様と約束してくれたニャ。
だ、だから、命を奪う必要はないんだニャ」
「おぬし……」
ブドーを助けようと、精一杯、自分の思いを口にする。
だが、理央はにべもない。
「黙って見ていろ」
そう言い放つと、視線をブドーへと戻す。
(どうしようもないのか?オレ様は黙って見ているしかないのか?)
ふとスモーキーの脳裏に誰かの姿が過ぎる。
それはスモーキーがダンナと呼ぶ、天空聖者サンジェルこと、ヒカルの姿。
メメの鏡で見た、ヒカルが何者かを刺す姿と今の理央がダブって見えた。
(オレ様は誓ったはずニャ。大間違いはオレ様が直してやるって)
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
咆哮を上げ、自分の身体に喝を入れる。
(勇気が魔法に変わるなら、今が勇気を出すときニャ!!)
今まで、まるで石になっていたかのような身体に、力が漲っていくのを感じる。
746
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:24:51 ID:???0
「待ーーーーーてーーーーー!」
理央の拳が振り下ろされる。
しかし、その拳がブドーへと届くよりスモーキーの方が速かった。
スモーキーはブドーを担ぎ上げ、理央の拳は大樹を圧し折るだけに留まる。
「貴様、邪魔をする気か」
「ああ、してやるニャ。お前が大将を殺そうっていうなら、お前のためにも、大将のためにも、邪魔して邪魔して邪魔しまくってやる!」
「ふっ、ならば……一緒に死ね」
「なっ!?」
理央の掌から大きな、大きな光弾が浮かびあがる。理央は掌をスモーキーへと向けると、間髪居れず、それを放った。
一瞬、辺りが眩き閃光に包まれる。
そして、次の瞬間、オアシスだったその場所は荒野へと姿を変えていた。
「跡形もなく消え去ったか」
理央はその光景を一瞥すると、踵を返す。
邪魔者を排除した以上、もうここには用はない。
「ロン、待っているがいい。俺はお前とお前の甘言に乗った者たちの全てを叩き潰す。弱き者を救うためにな。
そして、それを邪魔する者は誰であろうと容赦しない」
変身を解き、本来の姿に戻ってもなお、彼の身体中に駆け巡った幻気と闇の力は留まり、渦巻き続ける。
今、獅子と竜は完全に一体となっていた。
▽
真っ暗な空間。
眼を開け、その光景を見たブドーは自分が二度目の死を迎えたのだと思った。
(しかし、スモーキーには可哀想なことをした)
あのまま大人しくしていれば、少なくともあの場は生き延びることができただろう。
それを自分を庇おうとしたばかりに共に黄泉へと旅立つことになった。
「拙者が言えた義理ではないが、安らかに眠るがよい」
「……大将、一体何を言ってるニャ」
掛けられた声に振り向けば、そこには座り込むスモーキーの姿があった。
「おお、おぬしもこの場にいるということは、拙者と共に地獄行きということか?猫は見かけによらぬものだ」
747
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:25:22 ID:???0
「けっ、オレ様が死んだら、天国行きに決まってるだろ、一緒にするんじゃねぇ。
あと、大将が何を勘違いしてるかしらニャいが、ここはマジランプの中だ」
「マジランプ?」
ブドーがディパックを持っていたことが幸いした。
理央が光弾を放った直後、スモーキーはブドーと共にマジランプへと退避したのだ。
「しばらくここで休めばいい。あいつが早く来たおかげで禁止エリアにニャるまで多少の時間があるはずだ」
「そうか、それは世話になったな。だが、助けてもらってなんだが、正直、拙者はもう死んでもよいと思っていた」
「ニャに?」
「結局は理央の勝利ではあるが、ほんの一時とはいえ、拙者は理央を倒すことができた。それで生き返った意義は果たしたと満足したのだ」
淡々と語るブドーにスモーキーの沸点は一気に振り切れた。
ブドーへと詰め寄り、衿を掴み取る。
「ふざけるニャ。そんな簡単に死ぬなんて言うんじゃねぇ!
お前は命なんてその程度のものだって考えてるかも知れねぇが、命っていうのはそんな簡単に手放していいものじゃないんだ。
大将は一度死んだっていうのに、そんなこともわからないのか!
夢が叶ったからって何だニャ!夢を叶えれば、その命は無価値にでもなるっていうのか!
違うだろ。オレ様は大将に生きていて欲しい。ここにいる皆と同じように大将の命も尊いと思った。だから、助けたんだ!!!だから……」
スモーキーはそこで顔を伏せ、言葉を切った。
ブドーはスモーキーの姿を見ながら、その言葉の意味を考えるが、正直に言えば、理解に苦しむ。
長年、宇宙海賊として、ブドーはいくつもの命を奪ってきた。今更、命の尊さを語られても馬の耳に念仏だ。
「スモーキー、拙者は――」
言葉を返そうとして、ブドーはスモーキーの異変に気付く。呼吸が尋常ではなく荒い。
ブドーの衿を握る手の強さもどんどん弱まり、遂には掴んでいられなくなる。
沈んでいくスモーキーの身体。
露になった背中には真っ赤な血肉。
「スモーキー」
「……だから…だから……オレ様の分まで生きて欲しいニャ……」
「そうか、間に合わなかったのか」
「ちょっと、遅かったみ…たい……ニャ」
748
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:25:59 ID:???0
ブドーは息も絶え絶えなスモーキーを見て、愚かだと感じていた。
散々、命の尊さを説きながら、その結果、死んでもよいと言った男を救うために自らの命を落とそうとしている。
なんとも不条理な話だ。
「……ったく、世話の焼ける大将のせいで……寿命が縮んじまった……
大将………あとのことは頼んだぜ……オレ様の仲間たちを…………ダン…ナ……ヒカルを……頼……」
(ダンナ……)
そこでスモーキーは事切れた。
命を手放すと同時に彼の身体からは煙がくゆり始め、ゆっくりとその身を空間に溶け込ませていく。
ブドーはスモーキーの身が完全に消えるまで瞬きもせず、ただじっと見詰めていた。
▽
マジランプから抜け出すと、空には夕焼けがかかろうとしていた。
もう禁止エリアになるまで時間がない。
命が惜しければ、早々に移動するべきだろう。
(命か)
スモーキーに伝えることは叶わなかったが、やはりブドーには命の尊さを理解することはできなかった。
星の数ほど無数にあり、剣を振るえばたちどころに消えてなくなるものに、価値を感じることなどできようはずもない。
しかし、ブドーにも解ることはある。
――せめて、最後のご奉公!――
散っていた配下の者たち。彼らは忠義の名の下に自らの命を惜しげもなく差し出した。
スモーキーは彼らとは違い、自分の配下ではない。だが、自らの命をブドーに託したことは事実。
ならば、その願いに報いることが生き残った者としての務め。
「拙者には目的がない。理央との戦いも決着が着いた。
ならば……おぬしの願いを聞き届けるのもよかろう」
攻撃の余波か、かすかに焼け焦げたマジランプ。
ブドーはそれを拾うと、決闘の場を後にした。
【スモーキー 死亡】
残り21人
749
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:26:36 ID:???0
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:E-9オアシス 1日目 夕方
[状態]:身体、特に左胸に切り傷。ロンへの強い怒り。幻気と闇により精神が侵食。2時間の変身制限?
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:弱者を救ってやりたい。
※首輪の制限を知りました。
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:E-9オアシス 1日目 夕方
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。
[装備]:手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。マジランプ@魔法戦隊マジレンジャー
[思考]
基本方針:スモーキーの願いに報いる。
第一行動方針:禁止エリアからの脱出。
第二行動方針:武器の調達。
※首輪の制限に気が付きました。
750
:
激突!獅子vs竜
◆i1BeVxv./w
:2010/03/03(水) 18:32:47 ID:???0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想があれば、お願いします。
なお、ブドーの状態表に2時間の制限を記載するのを忘れておりましたので、掲載時には追記いたします。
また、黒獅子への変身解除後、幻獣王への変身を果たしておりますが、
ひとつの解釈として、臨気での変身と幻気での変身は別物と解釈いたしました。
ただ、文章中では記載しておりませんので、別案があれば、後々に補足していただければと思います。
751
:
◆hjAE94JkIU
:2010/03/20(土) 21:46:55 ID:dglcgvGU0
規制されました…どなたかお願いします
「爺さん、さくらは俺たちの仲間だ。それ以外のなんでもない!」
―それ以外のなんでもない!―
その言葉だけがさくらの胸を抉った。
「そうだ。ロンの洗脳は既に解けたって…さくらさんが仲間になってくれればきっと…!」
「甘い! 甘すぎるっ!! お前は何も分かっておらん、竜也。洗脳は解けた!? どうやってそんなことを判断する!? どうして、まだ機を窺っているだけだと思えない! 何を根拠に仲間だと言い切れる!!」
「ブクラテスさん、いい加減にしないと…」
「竜也! やめろっ!!」
言葉の先を察した明石が竜也を制止する。
「出て行くのはあんただ、ブクラテス!!!!」
竜也の怒号が響き渡った。
◆
誰もが沈黙の中にいた。
竜也はまだ、自分の発した言葉の意味を解せずにただその場に立ち尽くしていた。
そして―彼が自身の内なる世界から帰還したとき、強烈に彼の意識を後悔が襲った。
「俺…なんてこと……」
目の前のブクラテスは茫然自失の様子で、表情なく前を見据えている。
呆けた様に、自分の生命線を切ってしまった事実を受け入れられないでいた。
「…竜、也…お前……わしを、見捨てるのか?」
つむいだ言葉は恐ろしいほど、覇気を感じさせなかった。
「竜也も本気じゃない。生きたいと願うなら、ロンを倒さなきゃ道は開けない。
自分に負けてしまえば、仲間は永遠に作れない」
明石の傍らでさくらは呆然と立ち尽くしていた。
ならば、自分のしたことは許されるのか―
ロンに操られて仲間を傷つけたのは、許されるのか。
誰も責めない。
誰も、責めてくれない。
752
:
◆hjAE94JkIU
:2010/03/20(土) 21:47:33 ID:dglcgvGU0
「竜也…竜也…竜也……わしを…見捨てないでくれ!!!」
ふらふらと立ち上がり竜也へすがった。
これほど、弱い生き物はいないというほど弱弱しく。今にも事切れてしまいそうな、憐れな姿だった。
「竜也…どうしてわしを…お前、本当にわしを…」
「違うんだ、ブクラテスさん…俺は…!」
必死に取り繕うと竜也が言葉をつむぎかけた、その時だった。
やにわにブクラテスはさくらへ向き直ると、凄まじい勢いで彼女へ詰め寄った。
「わしは死にたくないんじゃ!! 死にたくないいい!!! 死にたくないんじゃ!!
お前さん、ロンとどんな約束をした!? どうすればあやつは助けてくれる? どうすればここからだしてくれるんじゃ!? 知っておろうが、知っておろうが…わしにも、わしにも教えてくれ!!!!」
「!…私は…!!」
悲痛を通り越して悲惨だった。
さくらの足元にすがりつき、涙を流して懇願していた。
どこにも知恵ある賢者の面影はない。
「なぁ…誰を殺す手はずになっておる? わしか? わしなのか? 次はわしなのか!? 頼む! 何でもする、何でもするからわしを殺さないでくれっ!!!!」
畳み掛けるようにさくらに詰めより、押し倒さんばかりの勢いで叫んだ。
「ッッ!!…いい加減にしてくださいっっ!!」
思わず、さくらは両手でブクラテスを大きく突き飛ばしていた。
受身を取れず、大きく身体を地面へ打ち据える。
「うぅぅ…」
傷口が開いたのだろうか、しきりに右腕を押さえている。
「爺さん!」
「ブクラテスさん!」
思わず明石と竜也がブクラテスに駆け寄る。
「腕が…腕が…痛いぃぃいいい!!」
喉を絞るような叫びを上げてブクラテスはもんどりうって暴れた。
さくらのジャケットにも血の痕が残っている。
ハァハァと肩で大きく息をしながら、さくらはうずくまる老人を見据えていた。
753
:
◆hjAE94JkIU
:2010/03/20(土) 21:48:03 ID:dglcgvGU0
「!」
その光景を目の当たりにしたマーフィーの視界に急にノイズが走り、忘れていた、封印していた気持ちが大きく頭をもたげてきた。
―――…ごめんな。うちはやっぱり一緒にいけんよ。だって………
弾かれたようにマーフィーのボディが躍動した。
――――だからあなただけは………あなただけは、最後まで私を憎んでいて下さい
「――――――----!!」
一閃。
とっさの事態に二人の挙動が遅れた。
ぼと、ぼとぼと、と耳障りな音を立てて床にちらばったそれが何であるか明石暁はすぐに分かった。
「ッッッッ!!」
西堀さくらの指が、なかった。
「さくらっっっ!!!!!!」
悲鳴のような声を上げて明石はさくらへ駆け寄った。惨劇を前にブクラテスは冷静に状況を分析していた。
(これは意外な結果になったわい…)
一つの賭けは概ね成功したといえる。竜也は今後、決して自分を見捨てはしないだろう。
要はやり方に緩急をつけることが大事なのだ。
罪悪感からくる後悔の念に支配された彼の心は最早、自由にはならない。
弱さも武器になりえる。こうしたお人よしの「本物の正義の味方」には、特に。
そして指を失った彼女は最早戦力以前の問題だ。
(さて、問題はこの後じゃな…)
樽学者ブクラテスは腕の痛みの中に冷徹な思考を持って、さらに次の一手を思案しながらひとりごちた。
754
:
◆hjAE94JkIU
:2010/03/20(土) 21:48:55 ID:dglcgvGU0
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:健康。30分程度変身不能。
[装備]:アクセルラー、聖剣ズバーン、スコープショット(暁)
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。その為に仲間を探す。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:健康。洗脳下での行動に罪悪感。自分の気持ちが分からない。
[装備]:スコープショット(菜月)@轟轟戦隊ボウケンジャー、Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:アクセルラー(要修理)、@轟轟戦隊ボウケンジャー、未確認支給品(暁確認済)、基本支給品(菜月)、竜也のペットボトル1本、
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※両手の指を失いました。
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック、首輪探知機
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:明石を油断できないが利用価値のある人物と判断。当面は提携の姿勢。
第二行動方針:信用をされていないことを確認。次の手を打つ?
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
755
:
◆hjAE94JkIU
:2010/03/20(土) 21:49:28 ID:dglcgvGU0
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:健康。30分程度変身不能。動揺
[装備]:
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ロンを倒す。
第一行動方針:これ以上の犠牲は絶対に起こさせない。
第二行動方針:出来れば殺し合いをしている者を止めたい。
※首輪の制限を知りました。 明石やさくらと情報交換を終えました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
※ブクラテスは信用できないと感じています。
※盗聴の可能性を認識
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
※明石暁に不満を感じています。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。混乱により回路に負担が掛かっている状態。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どうすればいいのかわからない
※無意識的にさくらへ襲い掛かった状態です。
756
:
◆Rw0gclw.Ew
:2010/03/24(水) 11:26:22 ID:???0
規制ですorz
どなたかお願いします。
ロンの異変は左手に襲い掛かっていた。どこか冷たい左腕。まるで左腕が凍っていくようである。
並樹瞬。彼が氷で連想したのは氷技を特技とするネジビザールではなく、その名前であった。
ネジビザールはあの場にはいなかった。すると、自動的に左手の冷たさの正体は瞬となる。それ以外、あの場所にはいないのだから。
ロンは自分の左手に何があったのか、腕をまくって確認した。
すると、氷の破片が突き刺さっていて、その傷の周りを侵食していくようにどんどん腕が凍っていた。
考えられる攻撃手段は、あの「皹」だ。
自分の周りを覆う氷を弾丸としてロンに放ち、その結果あの皹が生まれた……それがロンの腕を凍らせていた原因なのではないだろうか。考え直すと、あの皹の箇所には「そこに氷があったような」小さな窪みが存在していたような気もする。
人間の瞬ならばできないだろうが、先ほどあの場にいたのは次元獣の瞬。「人間」としての知能と「獣」としての能力を合体させた能力だったのだろう。
先ほどの敵であったネジビザールには効かない技だと思ったからこそ、この技をロンにぶつけたのか。
「面白い……。ネジブルーがあそこまで執着するのも納得がいきますね。ここに来てから私にまともな攻撃ができた人物はあなただけですよ」
ロンは呟き、左手に力を込めると自分の手を覆おうとしていた氷の膜を粉々に吹き飛ばした。
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、傷あり。次元獣化。氷漬けにされ仮死状態。倉庫の中。
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:暴れる。
[備考]
瞬の支給品一式はH-7エリアに放置されています。
本能的に瞬の意思が現れることもあるようです。
氷柱に小さな皹が入りました。
757
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/06(火) 02:27:30 ID:???O
遅くにも関わらず本スレ、したらばに、お言葉頂き感謝致します。
申し訳ありません。
状態表に幾つか訂正すべきところを今になって発見致しました。
明日訂正の上、こちらに投下します。
すみませんです。
758
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/06(火) 13:49:20 ID:???0
状態表の修正版です。あと誤字等の自己申告です。申し訳ありませんでした。
>>379
6行目を
さくらの視覚が鮮明に捕らえるのはマーフィーだけで駆け寄ってくる明石も竜也も、フィルターの向こうにいるように何故か不鮮明で。
>>400
13行目の分に脱字がありました。
まずは、最初に出合ったジルフィーザ。そしてスワンと出会いロンに姿を変えサンヨと組んだこと。
同じく
>>400
下から三行目
もう一度宇宙サソリの話を頭から、その後に恩人と知ると付け加え、出合ったガイ、禁止エリアでのこと、サラマンデスとジルフィーザのことも。
>>401
文中「貸」を「借り」へ
「いいんだベイビー。ただ意図せぬところで作った借りを目に見える形で返すなんて恩着せがましいじゃないか」
>>404
文中「白いコート」を「白衣」へ
メレが出ていって数分後、倉庫の扉を開けたのは白衣を着た男、仲代壬琴だった。
>>414
改行忘れ、せりふなので
「さぁな。俺は今気がついたんだぜ?」「そうか……まぁ、いいか」
を
「さぁな。俺は今気がついたんだぜ?」
「そうか……まぁ、いいか」
へ
>>415
下から2行目
「これを来てうろつけばイイデビ?」を 「これを着てうろつけばイイデビ?」
759
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/06(火) 13:51:22 ID:???0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。理由不明のイライラ。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:シュリケンジャーの話を頼りに理央の元へ。
第二行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)に復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
メレの(他一品と表記)不明支給品は聖聖縛@獣拳戦隊ゲキレンジャーでした。
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。ビビデビにやられました飛行中です。
[装備]:ダイノマインダー、ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー 、ダブルゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、
[道具]:なし
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:次元虫の解体手術を行う予定でしたが……。
第二行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第三行動方針: 首輪の解析。
備考:ダイノハープを見つけました(麗へ支給された何かの鍵でした)アバレブラックへの変身が可能となります。
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。 2時間能力発揮不可能。
[装備]:なし
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:シュリケンジャーの配下として動く。
第二行動方針:メレを追う。
760
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/06(火) 13:52:30 ID:???0
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:健康。現在は素顔。 顔面全体重度の火傷。 シュリケンジャーへ後数分、タイムグリーンへ2時間変身不可能。
[装備]:スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー 、シュリケンボール 、クロノチエンジャー(タイムグリーン、マスクが割れています)
[道具]:知恵の実、映士の不明支給品(確認済)マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式×4(水なし)SPD隊員服(セン)
キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、両方表のコイン
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。 それがだめならアレの消滅を願う。
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
・集められた支給品一式の内、炎の騎馬@忍風戦隊ハリケンジャー、はG6エリアに放置されています。
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。 マジシャインに変身中。
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー 、深雪の残したメモ
[思考]
基本方針:時間を戻し、歴史の修正を行う。(情報を映士、深雪へ伝える。世界の崩壊を止めるための死に場所は広間)
第一行動方針:歴史の修正を行うための準備をする(情報集め)
第二行動方針:菜摘を捜す。
第三行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。また、映士から情報を得ました。
マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。混乱により回路に負担が掛かっている状態。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どうすればいいのかわからない
第一行動方針:眠ることにより、回路の負担を減らしたい
第二行動方針:シュリケンジャーついていく
761
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/06(火) 13:53:10 ID:???0
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:胸、太股に深い傷。ドロップを失い深い悲しみと怒り 。2時間能力発揮不可能。
[装備]:杖 、ゴウライチェンジャー(クワガ)@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、予備弾装(催涙弾5発)、サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(バンキュリア)
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの死に深い悲しみ
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。
Tシャツと下着姿。カーテンを纏った状態で気絶しています。 イエローレーサーに2時間変身不可能。
[装備]:アクセルブレス 、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:なし
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:気絶中
第二行動方針:仲間(シグナルマン)を探す。
備考:
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。
※菜摘の衣服はG6エリアで燃えたと思われます。首輪(ドギー、深雪、アンキロ)、サーガインの死体(首輪付き)はG6エリアに放置されています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと裕作から掻い摘んだ説明は受けました。
以上です。よろしくお願いします。
762
:
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:20:34 ID:???0
規制中のため、こちらに投下いたします。
763
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:21:57 ID:???0
何もない、ただ只管広がるだけの広い荒野。
そこに聳え立つ天にも届こうかという塔。
数十分の間、不安定な砂利道をマシンハスキーで走り抜け、蒼太はようやくその麓へと辿り着いた。
そして、この塔こそがクエスター・ガイとの決戦の場だ。
ガイが持つ天空の花。それをこの叫びの塔で使えば、愛を凍らせ、殺し合いを躍進させることができるという。
ここに来る最中、ガイの姿を見止めることは出来なかった。
果たして、ガイは既に辿り着いているのか。それとも、先んじることが出来たのか。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
口調は軽快に、だが、行動は慎重に、蒼太はマシンハスキーを隠し、塔を昇り始めた。
▽
映士とヒカルとの一戦から、約2時間。
ネジブルーは海岸の探索を終えようとしていた。
ドモンに映士にヒカル。
倉庫を出て、わずかな時間で3人もの参加者に出会えた幸運に期待を寄せていたが、どうやらネジブルーの幸運はそこまでだったらしい。
それからというもの歩けど歩けど、誰とも出会えなかった。
もっとも、わずかながら収穫はあったのだから、これで不運というのは我侭が過ぎるというものだろう。
鷹の頭部を模った熱風を放つ銃。
道すがら見つけたロボットの躯の腰に携えてあったものだ。
「あのロボットが持ってたこの銃〜。このソニックメガホンとぴったり合うね〜。あとのひとつはクエイクハンマーだったかな〜?
なんだかもう直ぐ会えそうな気がするよ〜」
彼の支給品であるソニックメガホンの説明が書かれたメモには、ご丁寧にもドライガンとクエイクハンマーと連結させることによって、強力な武器になると書かれていた。
そのためか、ネジブルーは半ば確信に近い勘でそれがドライガンだと見抜き、ソニックメガホンとの連結を成功させていた。
そして、その勘はクエイクハンマーにも巡り会えると訴えている。
764
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:23:09 ID:???0
「クエイクハンマーの持ち主はあいつらと違って面白い奴だといいね〜、メガブルーーーーー!」
ネジブルーは周りも気にせず、雄叫びを上げながら、歩みを進めていった。
▽
塔の頂上を目指し、長い螺旋階段を昇る最中、蒼太はある確信に至った。
(まだここにガイは着いていないな)
その根拠はこの長い螺旋階段そのもの。
傷だらけのガイがこれを登り切るには相当骨が折れることだろう。
もし彼がこの螺旋階段を登っているのなら、その痕跡は隠し切れるものではない。
開いた傷から血や疲れから出る汗、吐瀉物などあってもいいはずだ。
埃が溜まった階段に足跡ひとつないのもおかしい。
(そうとわかれば、頂上で待ち伏せといこうかな)
蒼太の歩みが速まる。
待ち伏せは何も気配を覚らせないことが脳じゃない。
むしろ、誰かがいるということをあからさまに示し、必要以上に警戒させ、神経をすり減らさせるのも兵法のひとつ。
10分という制限が課せられるこの場で、更に傷だらけで直接的な戦闘を避けたいガイには相当なプレッシャーになるはずだ。
蒼太は走り、登り、階段に足跡を残していく。
その動きは好調。どうやら、さくらに刺された傷は完全に塞がったようだ。
程なくして、階段の終わりが蒼太の瞳に映る。
(さ〜て、到ちゃ――!)
最後の一歩を踏み出そうとしたところで、蒼太は異変に気付き、咄嗟に壁にへばりつく。
(誰かいる?)
ガイがいないことと気付いてからも、蒼太は警戒を怠った覚えはない。
だが、論より証拠。何者かはこちらに背を向け、頂上の広間に立ち尽くしていた。
765
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:24:35 ID:???0
「そんなところに隠れていないで、入ってきてはいかがですか?」
届いたのは聞き覚えのある声。見るより先に聞くことでそこに誰がいるかを理解し、蒼太はその男の前に姿を現した。
「どうも。端から端への縦断の旅はいかがでしたか?」
「ロン、どうしてここに」
質問に質問を返す蒼太に腹を立てるでもなく、バトルロワイヤルの主催者たるロンは顔を傾け、ニヤリと笑った。
「いえね、基本的に私は参加者の判断に口を挿むつもりはないのですが、あなたをここに留まらせるのはあまりにも勿体無いと思いまして」
「勿体無い?」
「ええ。このバトルロワイヤルを開始してからおよそ半日。そのたった半日の間に、私は様々なドラマを見てきました。
ある者は喜び、ある者は怒り、ある者は哀しみ、ある者は楽しむ」
そこで一旦、ロンは言葉を区切ると、眼を瞑り、今までの出来事を反芻していく。
その恍惚たる表情に、蒼太はロンが心底、このバトルロワイヤルを楽しんでいることを確信する。
「そして、その最高のドラマは早くもクライマックスに向かって突き進んでいます。
しかし、ただ一人、今のままではそのクライマックスに間に合わないかも知れない人が」
「それが僕だと」
「はい。あなたはガイを止めるために、ここに辿り着いた。ですが、その肝心のガイは天空の花を禁止エリアに捨て、その後、命を落としました」
「ガイが死んだ?」
「それはそれは壮絶な最後でしたよ。勝ったと思い、調子に乗ったのが敗因でしたね。彼は炎に焼かれ、跡形もなく消え去ってしまいました。
彼が生きてここに辿り着いていれば、ここでまたひとつのドラマが生まれたのでしょうが、残念ながら、もう芽は潰えたと言っていいでしょう。
ですから、私は主義を曲げてまで、忠言に来たのです」
突然、蒼太の顔に笑みが浮かんだ。今の今まで神妙な顔つきをしていたというのに、突然の表情の変化にロンは疑問の声を上げる。
「何か?」
「主義を曲げて?それは嘘でしょ」
「ほぉ」
766
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:25:16 ID:???0
「おそらく元々の知り合いを除けば、参加者で一番多くキミに接触しているのは僕。
僕が今までのキミの言動から分析する限り、キミの主義を一言で表すなら、典型的な快楽主義者。
キミが本当に自分の主義を曲げているなら、忠言に来ないのが正解。なぜなら、僕がここに留まるのはつまらないことだからね」
そんな蒼太の言葉にロンはニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふっ、やはり今のあなたとは気が合いそうだ。……失礼しました。私は自分の主義に従い、あなたに忠言に来ました。
是非ともここからお戻りください。今、ここに向かっている者は誰一人としておりません。ここにいても何も面白いことはありませんよ。
――もっとも、最終的には蒼太さんの判断で動いていただいて結構です。
蒼太さんが明石暁や西堀さくらといった邪魔な存在が消えるまで、高みの見物をなさるというなら、きっとそちらの方が面白いドラマになることでしょうから」
ロンは今後の展開を思い描き、楽しそうに舌なめずりをすると、黄金の靄になり、その場から消え去った。
頂上には蒼太だけが残される。
「気が合うか。それも撤回させたいね」
どこか自重気味に呟き、蒼太は踵を返した。
▽
保冷倉庫の中、並樹瞬は意識が急速に覚醒していくのを感じた。
一瞬、今までのことが夢だったのではないかと、淡い希望を抱くが、直ぐにそれは絶望へと変わった。
直接意識に怒涛の如く流入していく破壊衝動。それは瞬を容赦のない現実へと引き戻していく。
――壊壊壊壊壊壊壊セェ!!――
(やめろ、やめてくれ……)
思わず懇願の声を上げる瞬。
何故、意識を取り戻してしまったのか、眠ったままでいれば、このような苦しみを味わうことはなかったというのに。
だが、瞬の冷静な部分が疑問を呈した。
767
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:25:46 ID:???0
瞬はもう自分は目覚めないと思っていた。瞬の意識など、次元虫がもたらす破壊衝動の前には激流の中の枯葉に等しい。
流されて、消えるだけだと思っていた。それが何故、今また意識を取り戻したのか。
(これは…?)
気付けば、破壊衝動は治まらないまでも徐々に流れが緩やかになってきている。
まるで何かに塞き止められたかのように。
闇に包まれていた瞬の意識に光が差し込む。
それが自らの眼から得られたものだと、気付いたとき、そこには紅い眼の男が立っていた。
▽
マシンハスキーに乗り、蒼太は道なき道をひた走る。
得た情報はメモに書き留め、アクセルテクターの中に収めた。
それなりの時間が経ったというのに、召喚される様子がないのはいいことなのか、悪いことなのか。
(まあ、ガイが脱落したってことは、僕らにとっての天敵はいなくなったってことだ。多少は安心していいとは思うけど)
とはいえ、それが甘い考えということは重々承知している。
蒼太を、暁を、さくらを脱落の手前まで追い込んだのは、決してガイのような天敵といえる存在ではない。
疑念、不安、恐怖、人間ならば切り離すことができないそういったネガティブな感情が皆をここまで追い込んでいる。
(さくらさんはチーフと居る限り大丈夫だろうけど、チーフたちと合流する他の参加者たちが今もマトモな精神状態とは限らない。
難しいなぁ。争わせるのは簡単なのに、協力し合うことはこんなにも困難だなんて)
「おっと!」
蒼太はマシンハスキーのハンドルを切った。
気付けば、禁止エリアの手前まで蒼太はバイクを進めていた。
もう少しで突入するところだ。
「危ない危ない」
禁止エリアに突入したからといって、直ぐに首輪が爆発するわけでもないのは確認済みだが、何度も確認したいものでもない。
768
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:27:35 ID:???0
「さてと」
蒼太は禁止エリアを前に逡巡する。暁たちからの連絡はないが、おそらく北に進めば、暁たちと合流できるはずだ。
ロンの意味ありげな言葉も気になる。
しかし、当面の蒼太の方針は疑心暗鬼を煽り、殺し合いに乗っている参加者の共倒れ。
さくらもまだ顔をあわせづらいだろう。
「よし、決めた」
ハンドルを南に向け、アクセルをかける。
最終的には都市へ向かい、暁たちと合流する。だが、その前にちょっとした回り道。
それは冒険者としての好奇心と云ってもよいかも知れない。
蒼太は海岸を通るルートを選択した。
▽
海岸をしばらく捜索した結果、蒼太が辿り着いたのは赤い煉瓦の倉庫街だった。
マシンハスキーを隠し、探索を始めると、塔のときと違い、そこには何者かが通った痕跡が確かにあった。
何かを擦ったような壁の痕。整列された中で不自然に崩れた積荷。水溜りから水溜りへと真っ直ぐに引かれた水の線。
あからさま過ぎて、嘆きの塔で蒼太が取ろうとしていた方法と同じく、誰かがわざと示しているのではないかと疑いたいほどだ。
だが、もしそれが罠だとしても、蒼太としては臨むところである。
多少の危険は進むためのカンフル剤にしかならない。
残された痕跡に従い、蒼太は保冷倉庫の中へと入る。
外とは違うひんやりとした冷気が蒼太の頬を撫でる。
閉じ込められやしないかと内心、ヒヤヒヤしながら蒼太は進む。
「怪しいなぁ、あれ」
いくらか進んだところで、何かを隠すように積み上げられた青いプラスチックの箱が眼に入る。
まるで何かを隠していますと言わんばかりの光景だ。
769
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:28:18 ID:???0
(そろそろか)
蒼太はいつでも変身できるようにアクセルラーを握った。
おそらくここが終着点。蒼太を導いた何者かが行動を起こすとしたら、このタイミングしかない。
(さて、どこから来る?)
蒼太はより慎重にプラスチックの箱をひとつひとつ除けていく。
すると、そこには――
「何もない?」
拍子抜けのあまり、思ったことをそのまま口にする蒼太。
そうそこには何もなかった。
ただ白い壁が切れかけの蛍光灯に照らされているだけで、アイテムも、トラップも、モンスターが閉じ込められた氷柱もない。
誰かが拍子抜けした隙を狙って行動するかと、周りの気配も探っているが、誰かが動く気配はない。
(僕の考えすぎだったのかな?それともロンのいたずらかなにか?)
まったく意図の見えない仕掛けに蒼太は首を捻る。
だが、いつまで悩んでも仕方がない。蒼太は気を取り直し、その場を移動することにする。
丁度、その時だった。ギギギと重い扉の開く音がした。
誰か来た。自分と同じ痕跡に惹かれた探索者か、それともその痕跡を残した誰かか。
とりあえず様子を見るべく、手近な物陰へと姿を隠す。
徐々にこちらへと近づいてくる足音。
闖入者は迷いなく一直線に蒼太がいる場所へと向かう。
やがて、闖入者がプラスチックの箱があった場所まで進み出でると、その姿が蒼太の瞳に映った。
(瞬くん?)
その顔には見覚えがあった。
F5エリアでティターンたちを追うために別れた並樹瞬の顔に違いない。
違いないのだが、今の瞬の顔は怒りに酷く歪んでいた。
(あの後、なにかあったのか?)
770
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:28:51 ID:???0
無事だったと安堵する一方で、今の瞬に不安を覚える。
真咲美希に対する不信も、彼への不安をより一層顕著なものにしていた。
(何にせよ声を掛けなければ始まらないか)
隠していた身を顕にし、声を掛けようと、軽く手を上げる。
「しゅ――」
「メガブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
蒼太の声は瞬の突然の慟哭に阻まれる。
一体どうしたのかと蒼太が呆気に取られていると、瞬は現れた蒼太の方を向き、殺意が込められた視線で彼を射抜く。
「貴様の仕業かぁい?」
瞬が何を言っているのかはわからない。だが、その激しい殺意は蒼太の背筋を冷たくする。
無意識の内に蒼太はアクセルラーを構えていた。
「なぜ答えないのかなぁ?貴様の仕業かって聞いているんだ!」
地面を蹴り、蒼太に詰め寄ろうと瞬が駆ける。
已むを得ないと、アクセルラーのタービンを回そうとした瞬間、蒼太は視界の片隅で何かが動くのを捉えた。
(あれは)
蒼太は即座にタービンを回し、ボウケンブルーへと変身する。
そして、サバイブレードを手にすると、瞬の後ろに回りこみ、それを振るう。
「はっ!」
気合一閃。サバイブレードによって、弾かれた銃弾が地面へと転がる。
離れた位置から何か行動を起こすなら、咄嗟に狙撃と判断したがビンゴだ。
変身したことで強化された視覚が黒ずくめの男の手に握られたライフルを視認する。
瞬の豹変は気になるが、今そこにある危機に対処する方が先だ。蒼太に今の今まで気配を感じさせなかった相手だ。只者ではない。
作戦の失敗を悟り、逃げ出そうとする襲撃者。
「逃がすか」
771
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:29:24 ID:???0
蒼太は高く跳ぶと、襲撃者を追った。
▽
グレイは完璧なロボットだ。
彼は一度決めた目的に対して、常に冷静な分析を行い、論理的な判断を下すことができる。
彼の目的は戦いを終わらせるためシオンと共闘し、自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
それはシオンが死んだ今でも変わっていない。
だから、彼はシオンと進む道を同じくする参加者たちに協力し、時には自分の意思すらも曲げて行動している。
並樹瞬捜索を続けていた彼は、予測通り保冷倉庫の中で氷漬けになった瞬を探し当てた。
瞬を攫ったネジブルーの姿はない。おあつらえ向きに運ぶための台車も転がっている。
後は瞬を仲代壬琴の元へ届けるだけでよかった。
よかったのだが――グレイはその場に留まった。
並樹瞬を別の保冷倉庫に隠し、あからさまな痕跡を演出し、狙撃に都合がいい位置へと姿を隠す。
それは全てネジブルーを殺すためだった。
勝算はあった。ネジブルーの並樹瞬に対する執着は尋常なものではない。
彼が並樹瞬を奪われたことを知れば、必ず動揺し、隙を見せる。
そこを狙撃すれば、ネジブルーとて一撃で葬ることができるはずだ。
だが、危険な賭けでもある。
狙撃に失敗すれば、彼との直接対決は避けられない。
ネジブルーはネジビザールとタイムブルーというふたつの変身を保有している以上、最低でも一人、仲間と共に実行するべきだ。
しかし、彼は単独で実行することを選択する。
制限という括りはあるものの、相手は一人。そして、もうこれ以上、誰かの意見に左右されるのはご免だった。
ドギーの仇を討つ為。殺すことを躊躇う同行者たちに代わって、手を汚すため。
772
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:30:00 ID:???0
それは彼が完璧であるが故に持つプライドによって下した決断だった。
▽
高く積まれたコンテナに身を隠し、逃走するグレイ。
スコープショットと機動力を発揮し、それを追う蒼太。
小競り合いは数分続いたが、能力を発揮している者としていない者との差は歴然たる事実として表れ、非常口から外へ出たところで、グレイは追い詰められていた。
(黒づくめの男と思ったら、黒いロボットだったのか。確かグレイとか呼ばれていたかな)
広間にて呼ばれていた名前を思い出す蒼太。
(そういえば、さくらさんがここで会った人物のひとりにグレイがいたはずだけど……)
蒼太はさくらからグレイと接触したことは聞いていた。だが、彼とさくらとの間で何があったかまでは聞いていなかった。
対してグレイはボウケンブルーの姿から、彼が西堀さくらの関係者ではないかと考えていたが、その確信は持てずにいた。
並樹瞬の姿をした彼を守ったことから、殺し合いに乗ってはいないのかも知れないが、それも決定打としては浅い。
「………」
「………」
互いに相手が敵か味方かの判断材料が足らず、出方を伺ったまま無言になる。
だが、今の状況は対等ではない。既に変身中の蒼太には迅速な判断が求められる。
そして、それに気付かない蒼太ではない。
グレイが何者かを知るため、意を決して、口を開こうとする。
「――アクセルストップ」
聞こえてきたのは蒼太とは別の声。その声が響き渡ると同時に一陣の青い風が、グレイの身体を切り裂いていく。
「グッ」
身体中から火花を飛び散らせ、呻き声を上げるグレイ。
グレイは負けじと虚空に向けて拳を繰り出す。しかし、その拳は空を切り、逆に鋭い回し蹴りがグレイの胸に撃ち込まれる。
治まる風。すると、そこには蒼太とは別の青い戦士が立っていた。
773
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:30:57 ID:???0
「追いついたよ〜、メガブルーを隠したのはお前だね」
(この声……)
先ほどまでは並樹瞬の姿に騙され、声の違和感に気付かなかった。
だが、こうして見知らぬ姿で声を聞くと、その声が誰なのか、蒼太ははっきりと気付く。
「お前、ネジブルーか」
「ヒャハ、そうだよ。もっともこの姿はタイムブルーって言うらしいけどね」
ダブルベクターを構えながら、軽い口調で蒼太に返答するネジブルー。
だが、その視線はグレイだけを捉えており、蒼太の方はチラリとも見ようとしない。
「さあ、さっさと白状しなよ。メガブルーの居場所をさぁ〜〜〜!」
「……奴は粉々に砕け散った」
「ハァ!?」
「あのような姿になっては生きているのが気の毒というものだ」
「ハハッ、嘘だろ?お前たちみたいな正義の味方がそんなことするわけがないじゃないか?」
「私は違う。あのとき、お前を生かしたのも、共闘関係にある者たちとの和を乱したくなかっただけだ。
今の私に楔はない。お前さえ倒せれば……他はどうでもいい」
ネジブルーの身体が震える。
それは好敵手を殺された激しい怒りによるものだった。
拳を強く握り締め、グレイを激しく睨みつけ、そして――
「………………………………………………………………………………………………………………ヒャハ!」
笑った。
「ヒャハハハハハハハハハッ!ヒャハハハハハハハハハッ!ヒャアァァァァハハハハハハハハハァァァッ!!!」
「狂ったか」
「違うね〜、これは歓喜の笑いだよ。俺の大切な!大切な!!メガブルーを壊した奴をこれから殺せるんだ。楽しいだろぉ〜?」
元より狂っているネジブルーだが、メガブルーを別の誰かに殺されたという衝撃は精神崩壊が起こってもおかしくないほどの衝撃だった。
だが、この場では別だ。この場では優勝さえすればどんな望みも叶えてもらうことができる。
774
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:31:32 ID:???0
メガブルーを元に戻すという願いを、メガブルーを蘇らせるという願いに変えれば済むだけのことだ。
その一点がネジブルーの崩壊を防ぎ、そして、口にした通り、大切なモノを壊した奴に復讐するというシチュエーションがネジブルーを高揚させた。
「粉々にしたって言ったね?なら、お前は塵にしてやるよ」
「………」
グレイの戦闘回路が処理を始める。
多少、紆余曲折はあったが、ネジブルーとの戦いはグレイにとって臨むところだ。
狙撃で殺せれば、それに越したことはなかったが、やはり直接戦闘でケリは着けたい。
高まる闘志。そこでグレイは思い出したかのように、ただひとつの不確定要素に眼を向けた。
「邪魔だ。失せろ」
短くそう告げ、グレイはハンドグレイザーをネジブルーへと向ける。
それが戦闘開始の合図。
グレイとネジブルーは互いに武器を構え、眼前の敵へと攻撃を開始する。
(完璧に蚊帳の外ってわけか)
ふたりはもう蒼太を見ていなかった。
仮にも参加者のひとりを無視するのだ。このふたりに何か因縁があることは容易に想像がつく。
確かに今の蒼太は情報不足。どっちの味方をするにも、どっちの敵になるにも情報が足りない。
情報が足りない以上、静観を決め込むのがセオリーだが、失せろと言われて、素直に「はい、そうですか」と肯くのも癪だ。
(動くなら、変身している内だけど……)
蒼太が悩んでいる間も時は刻まれていく。
「アクセルストップ!」
グレイとネジブルーとの戦いはネジブルー有利で進んでいた。
グレイギャノン、ハンドグレイザーといった遠距離戦用の装備を持つグレイはネジブルーと距離を開けようとする。
だが、ネジブルーは間合いが開きそうになるとアクセルストップを使い、距離を詰める。
それに加え、アクセルストップの尋常ならざるスピードに翻弄され、グレイのボディには次々とツインベクターによる傷痕が付けれていた。
「ヒャハハハハハッ!どうだい、膾切りにされる気分は?」
775
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:35:03 ID:???0
自らの優位に笑うネジブルー。だが、グレイは未だ冷静だった。
「確かに速い。だが、それだけだ。いくら傷を付けようとも、これぐらいで倒れる私ではない」
「ハッ、まあ、そうだね。じゃあ、終わりにしてあげるよ。ロボットは甚振り甲斐がないからねぇ」
ネジブルーはツインベクターのボリュームレバーを操作し、出力を最大まで上げた。
ツインベクターから溢れ出す破壊エネルギーが刀身に纏わりつき、ツインベクターを青く染める。
「ベクターエンド、ビィィィィィトエックス!アァァァァクセルストォォォォプ!!」
ネジブルーの身体がツインベクターと共に消える。
(………!)
だが、それこそがグレイの待っていた瞬間だった。
グレイは大地を蹴り、力の限り、両腕をクロスさせた。
「グガッ!」
確かな手応え、そして、同時に腕の中に浮かび上がるネジブルーの姿。
(ヒグッ……な、何故だ)
心中で悲鳴を上げるネジブルー。
アクセルストップの最中はクロノスーツの耐久力は極端に低下する。
よって、今のネジブルーはグレイのベアハッグを変身前の状態で受けているに等しい。
アクセルストップの継続時間は3秒。だが、このままでは3秒と経たず、背骨を圧し折られてしまう。
「ウォォォォッ!」
ネジブルーの判断は早かった。
クロノスーツを内部から引き裂き、ネジビザールの姿へと変態する。
依然、グレイのベアハッグはネジブルーの肉体を強烈に締め付けるが、タイムブルーの姿の時と比べれば、幾分か楽だ。
「どういうことだよ。一体、お前、何をしたんだい?」
グレイの攻撃に苦しみながらも、ネジブルーは疑問を解消するため、グレイに問いかける。
「私は機械だ。そして、アクセルストップのあらゆることは開発者のシオンから聞いてある。
後はお前の動きを分析すれば、姿は見えなくても何処に居るかぐらいはわかる」
776
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:35:35 ID:???0
グレイとて無策でネジブルーに挑んでいるわけではない。
10分vs20分。その差を埋めるためにこの時に至るまで幾通りもの戦闘プランを模索している。
謂わばこの戦いはグレイの計算通りに進んでいると云ってもよい。
「はっ、なるほどねぇ。少し侮りすぎてたみたいだ。お前、面白いよぉ〜」
「………」
無言のまま、更にグレイの力が強まる。
(どうやら、このまま圧し折るつもりみたいだね。まあ、確かにこの姿でもちょっとキツイかな。でも、そうはさせないよ〜)
ネジビザールは身体に力を込める。すると、彼の身体からは白い冷気が吹き出し始める。
「何をする気だ」
「根競べさ〜。君が俺を殺すのが先か、俺が君を凍らすのが先かのね」
たちまち、周りの気温は急激に下がり、グレイの身体には霜が降りる。
「正気か。私を凍らせたところで、この腕が外れるわけはない。一緒に氷像になるだけだ」
「そうだね。でも、流石に機能は停止するでしょ?その後、ゆっくり切り刻んでやるよ」
ネジブルーの言う通りだった。
この状況が続けば不利なのは先に制限が訪れるグレイの方だ。
グレイが勝つには制限がかかる前にネジブルーに止めを刺すしかないのだが、ネジブルーのしぶとさはグレイの予想以上だった。
接触していることも今となっては仇となっている。
(だが、それも想定していなかったわけではない!)
グレイはハンドグレイザーを発砲する。
発砲による熱がネジブルーの凍気を軽減し、右腕にわずかながらの自由を与える。
背中に回される右腕。グレイギャノンを手に取り、至近距離からネジブルーを狙う。
「正気かい。この距離じゃあ、お前もただじゃ済まないよ?」
「ただでは済まん。だが、死ぬのはお前だけだ」
777
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:36:54 ID:???0
グレイの指が引き金にかかる。強まる凍気。そんな中、ふたりの運命を決める引き金は引かれた。
▽
蒼太が訪れた倉庫とはまた別の一戸。
そこに並樹瞬は移されていた。
グレイは砕いたと言っていたが、もちろんそれは挑発するための方便に過ぎない。
「グルルルルッ」
獣となった瞬の低い唸り声が誰もいない倉庫に響く。
瞬の氷は少しづつ、少しづつ融かされていた。
グレイはここを離れる前にふたつのことをしていた。
ひとつは瞬の氷を融かすため、彼の周りを囲むように火を焚いた。
燃え上がる炎が少しずつ、氷を水へと変えていき、未だ脱出こそ叶わぬものの、次元獣は覚醒へと向かっていた。
そして、もうひとつ。
グレイはある命令を次元獣に下していた。
『私が戻らぬ場合は北へ向かえ。ただし、人間に危害は加えるな』
「グガォォォォ!!!」
自由は近い。次元獣はグレイの命令を遂行すべく、高らかに吼えた。
▽
引き金を戻し、自分が起こした惨状を確認する。
不意を突いたことが幸いし、彼らは物言わぬオブジェと化していた。
「ミッション、一応完了と」
蒼太はぼそりと呟くと、自分の右手を見る。
778
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:37:35 ID:???0
変身が解けたため、今はもうないが、その手には先程までデュアルクラッシャーという武器が握られていた。
制限時間ギリギリの決断。それが齎した結果に、蒼太はふぅと、軽く溜息を吐いた。
(最初は一応、気を配ってたみたいだけど、あそこまで激しい勝負になれば、そりゃあ周りを見ている余裕はないよね)
グレイとネジブルー。
ほんの数秒前まで激闘を演じていたふたりはその激闘の様を活き活きと残したまま、美術館に飾られる彫像のように身動ぎひとつせず固まっていた。
「デュアルクラッシャー、聞いてはいたけど、凄い威力だ」
デュアルクラッシャーはヘッドを使い分けることで、2つの機能を擁するボウケンジャーの武器だ。
ドリルヘッドでは全てを貫く必殺の武器となり、ミキサーヘッドでは敵を固める拘束ビームを放つ。
最上蒼太が居た時間軸ではまだ実用化されていない装備であり、ボウケンブルーのアクセルスーツで召喚できるかは賭けだったが、問題なかったらしい。
これもロンのいたずらという奴だろうか。
今回、蒼太が使ったのはミキサーヘッドの方だ。お互いに相手だけしか見ていない状態で命中させるのは簡単だった。
そして、やろうと思えば、ドリルヘッドでふたりを倒すことも可能だっただろう。だが、それは実行しない。
なぜなら――
(ロンにこれ以上、気に入られたくはないからね)
殺し合いに乗った彼らを倒すのはミッションの達成という目的のためには決して悪い判断ではない。
だが、さくらという前例がある以上、彼らが本当に殺し合いに乗っているのかはわからない。
何より、漁夫の利といえば聞こえはいいが、労せずして命を奪うのはますますロンの思う壺に思えた。
(彼らの言動を聞く限り、ネジブルーは瞬くんのために動いているようだし、グレイはどうもはっきりしないし……)
「ふぅ、まあ決断は後でもいいよね」
どの道、こうなった以上、今の彼らを変身が解けた蒼太が破壊するのは不可能だ。
彼らは動けはしないが、ちょっとやそっとの武装では傷ひとつ付けることはできない。加え、事情を知らない者がこれを見ても、彫像としか思わないだろう。
とりあえずは安全だ。
「とにかくチーフたちと合流して、判断を仰ぐとするか」
779
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:38:10 ID:???0
蒼太はネジブルーたちをそのままにマシンハスキーの元へと戻っていった。
▽
蒼太がその場を去って数分後、金色の靄が彫像と化したグレイたちの前に現れる。
「おやおや、これは」
人の形をとったロンは興味深げに彫像を観賞する。
固められながらも、その彫像は躍動感に満ち溢れ、今にも動き出しそうであった。
それもそのはずであろう機械であるグレイと無限の生命力を誇るネジブルーはこの状態であっても生きていた。
ロンは彫像に手を当て、彼らの状態を探る。
「ふむ。お互い消耗していたがために今は固まったままですが、自力で抜け出すのにそんなに時間はかかりそうにないですね。
何せ……制限がないのですから」
首輪に視線を向ける。
彼らの首輪はデュアルクラッシャーにより、完璧に機能を停止していた。
ロンが干渉すれば爆発させることぐらいは出来るだろうが、それ以外は何の効力もない。
元々、ロンがここに馳せ参じたのも、首輪の反応が突如として消えたからだ。
「しかし、困りました。これでは誰かが気付いてしまうかも知れません。
おそらく拘束の効果がなくなれば、まるで一時停止のビデオを解除したかのように、首輪はその経過時間から再度、時を刻むことになるでしょう。
その事に気付けば、首輪の解除など、存外簡単なことであることが分かるはずです。
フフッ、誰か気付きますかね?」
その表情は愉悦に染まっており、微塵にも困った様子はなかった。
むしろ、誰かに気付いて欲しい。そんな期待で満ち溢れていた。
「実に、実に面白い」
ロンは歩を進め、蒼太が去っていた先を見詰める。
もし、あのまま戦いが続けば、彼らは共倒れになっていただろう。
780
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:39:28 ID:???0
だが、蒼太が干渉したことで、その運命は上書きされた。
それがどちらに幸運をもたらす結果になるかは分からないが、好戦的なふたりが共倒れになる展開より面白い展開になることは間違いない。
「やはりあなたをイかして正解でした」
確かに蒼太の行動はその時点では犠牲者を増やさなかったかも知れない。
優勝者を望む主催者という立場からすれば、忌むべき存在だろう。
だが、積極的には動かず、傍観者として一歩引いた位置から参加者たちをかき乱す蒼太は、楽しみたい観客という立場からは好ましい存在だった。
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3後
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:健康。2時間の能力制限中。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー、アクセルテクター@轟轟戦隊ボウケンジャー 、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:一旦チーフと合流
第二行動方針:目的を果たす為、ロンの出した条件を飲む
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。明石、さくらと情報交換を行いました。
781
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:40:41 ID:???0
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:グレイと共に彫像化。ネジビザールの状態で能力発揮中。全身に打撲、切り傷あり。背骨に深刻なダメージ。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、ドライガン@忍風戦隊ハリケンジャー、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン
ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、クロノチェンジャー(黄)@未来戦隊タイムレンジャー
スフィンクスの首輪、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す
第一行動方針:並樹瞬を生き返らせ決着をつける。
第二行動方針:強敵との戦いを楽しむ。
[備考]
2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。
タイムブルーのクロノスーツは破損により、スーツとしての役割は期待出来ません。
782
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:41:53 ID:???0
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:ネジビザールと共に彫像化。能力発揮中。身体中に切傷。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数2発)
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘
第一行動方針:ネジブルーを倒す。
第二行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
第三行動方針:並樹瞬を探し、壬琴の元まで連れ帰る。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:全身に打撲、傷あり。次元獣化。氷漬け(融けかけ)。倉庫の中。
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:グレイの命令に従い、北へ進む。人間に危害は加えない。
[備考]
本能的に瞬の意思が現れることもあるようです。
783
:
青青青灰
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 08:48:30 ID:???0
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などありましたら、よろしくお願いします。
784
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/07(水) 08:59:55 ID:???O
GJ!
俺わかったよ!まとめ氏の正体がロンなんだ!!
何を言ってるか解らないかもしれませんが朝からそれぐらいテンション上がりました!
後少し待ってください。
俺は代理投下のためなら上司の目など気にしない!
もし規制中だったら帰宅後代理投下します。
正式な感想は後ほど。GJでした!
785
:
デリート
:デリート
デリート
786
:
784
:2010/04/07(水) 09:44:31 ID:???0
すみません。規制中でした。
787
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/07(水) 13:19:01 ID:???0
投下GJ!です。
感想は帰宅後にと思いますが、とりあえず一言。
クライマックスの予感に胸がwktkします。同じくテンションだだ上がりしました。
GJです!
788
:
◆i1BeVxv./w
:2010/04/07(水) 22:47:22 ID:???0
代理投下、並びにご感想ありがとうございます!
789
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:03:58 ID:AMBLNxFw0
とりあえず修正案です(誤字脱字は完全ではありません)
790
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:08:17 ID:AMBLNxFw0
途中送信申し訳ありません。
とりあえず、さくらとブクラテスですが、先に投下した分はほぼそのままです。
多少台詞のニュアンスを変えた程度です。
それ次の分を加えます。
加えるのは本スレ389の
さくらは肯定も否定もせず、クスッと小さく笑った。
※この間です
「お待たせしました」
791
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:16:29 ID:AMBLNxFw0
(あの扉の向こうにチーフたちが居る)
ツヤの無い銀色の薄い扉のその先で、明石と竜也がさくらたちを待っている。
目を閉じた瞼の裏に、二人の顔が浮かんで来る。
(もう大丈夫です。樽学者ブクラテスを動かすことは出来ました。これからだって私にはきっと……)
そう大丈夫だと自分に言い聞かせながら深呼吸を一つ吐き出した。
それからさくらはゆっくりと目を開けた。
ふと落とした視線が捕らえたのは脚を伝う血液の跡。
素肌に付着した血液はすでに乾き始め深い赤に変わり、その表面は光を帯びて艶やかなエナメルのような光彩を放つ。
白い脚と深い赤が成す鮮やかなコントラストは、どことなく異様にも扇情的にも見える。
(これは落としておくべきですね)
さくらは扉を開こうとするブクラテスを呼び止めた。
「待ってください。申し訳ありませんが、もう少しだけ時間を頂いてもよろしいですか?」
ブクラテスは振り返り、素直に疑問を口にした。
「なんじゃ?まだ何かあるとでもいうのか」
「いいえ、付着した血液を落としておきたくて。服やブーツは落としようがありませんが……」
幸い服やブーツに付いた血液はさほど目立つほどでもない。さくらは視線を横へ動かした。
確か向こうへ伸びる通路はレストルームに繋がっているはず。
「そうじゃな。よかろう」
ブクラテスは腹を揺すりながら椅子に腰を降ろした。
「それでは少し失礼します」
返事の代わりに後ろからブクラテスの咀嚼の音が響いてきた。
通路へ出るとすぐ、赤い女性のマークと黒いレストルームの刻印が施された金のプレートが目に入った。
その奥に同じプレートが装飾された白い扉があった。
肩でその扉を押し開けると、一枚の姿鏡がさくらを迎えた。
☆
「よくもあれだけの量を平らげたもんじゃわい」
チーズケーキ一つで音を上げたブクラテスからは、さくらの食べっぷりは想定外のまだ外だ。
「まぁ、良いがのう」
少し休息を取るつもりでブクラテスは瞼を閉じ、残った片手で頬杖を付いた。
(思わぬ事態に転んだが、ワシにとってこれほど都合の良いことはあるまい)
もう我が身は安泰、そう言っても過言では無いだろう。
なぜなら今回の一件でブクラテスは信頼の種を蒔くことに成功したのだから。
(罪悪感に加え、信頼が育てば……)
竜也に植え付けたその二つ、それが決して解けぬ強固な呪縛に育つまで。
我が身に替えても、ブクラテスを守らなければならないという呪縛へ育つまで。
(後は慎重に種を育てあげねばならんわ。のう、さくら?ワシを導いてくれて感謝するぞ)
眼鏡の下の瞼が薄く開いた。
(さて……)
その瞳が覗くのは『毒』
懐から取り出された『毒』だった。
(ロンが謀ってワシに支給していたとすれば……。いや、まぁ良い。これが奥の手となるか、または免罪符となるやは、まだ解らぬのじゃからな)
☆
銀色に光るカランを上げてハンドペーパーを水に浸そうとするが中々上手く行かずにいる。
右手の包帯はすでに濡れてしまい、裾から解けてきてしまっていた。
「仕方がありませんね……。後で巻き直さないと」
ペーパー数十枚を費やして、やっと上手に腿へ濡らしたペーパーを乗せられた。
792
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:17:22 ID:AMBLNxFw0
痛みの分を差し引いても指が無いことが、こんな些細なことさえ困難にしてしまう。
何度も何度も、何度も何度も何度も。
そう何度もハンドペーパーを擦り付けて。
いやハンドペーパーなどすぐに原形を無くし、実際は殆ど右手の包帯が血液を拭き取ったのだ。
そのせいで包帯は水を吸って重くなり、力を入れすぎたのか内から血が滲みだした。
「……仕方がありません」
再び呟いて、包帯の緩みを治そうと歯で垂れ下がった端を噛んだ。
さっきと同じように、思うように上手くいかない。
左手を添え、繰り返すこと数回。
やっと締まりつつある包帯を、力を入れて引っ張った。
「痛っ」
包帯を締めると痛みが電流のように駆け巡った。
手の甲や平だけで無く、なぜか指先まで。そう確かに人差し指の先まで。
「……?」
さくらは端をくわえたまま、しゅるしゅると包帯を解いてみた。
指は無い。
微かに開いた口から、ぼとっと包帯が足元に落ちた。
目の高さまで持ち上げてひらひらと裏表を見比べる。
指は無いのに。
何故か、まだ人差し指だけは残っているかのように感覚があった。
鏡に写してみても指だけは鏡に写らない。
指のあった場所に写っているのはさくらの細い首元だけだ。
傷一つない白い首元だけが鏡に写っている。
つーーーーっ、つーーっ。
さくらは鏡に写る自分の首に×印を描いた。
「…………ここだと言ったじゃないですか……」
つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。
つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。
目印を付けるように、強調するように何度か×印を引くとさくらの顔はすっかり赤いペイントに塗り潰された。
「あぁ、いけませんね。早く包帯、巻き治していただかないと……」
くるりと鏡に背を向けさくらはレストルームを後にした。
793
:
続いてヒカルが本物かどうかの所
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:18:43 ID:AMBLNxFw0
「ゴール・ゴル・ゴルディーロ!」
太陽のエレメントに包まれるヒカル。
「天空勇者マジシャイン!!」
そしてマジシャインへと姿を変える。
「なっ!変身したってことはこっちのヒカルが本物なのか?」
驚いた裕作へ映士が叫ぶ。
「まだ解らねぇぜ!そいつは魔法の鎧だが、魔法が使えなきゃ使えねぇシロモノじゃあねぇしな !!」
言い捨てるとボウケンシルバーは錫杖型へ変形させたサガスナイパーを横に振るった。
「サガスラッシュ!!」
「よせ映………ウアァァァッ……!」
横薙ぎの一閃に払われマジシャインの胸から火花が弾ける。
「グッ……。話を聞いてくれ」
蹌踉めきながらマジシャインは胸に手を当てる。
「なんだ?言っておくがてめぇを許すつもりはねぇぜ。どんな理由があろうがな!」
切り掛かかるボウケンシルバーの柄元を、マジシャインは両手をクロスし受けとめ叫ぶ。
「違う!ボクがヒカルだ」
「いい加減にしやがれ」
ボウケンシルバーはマジシャインを突き放し間合いを取る。
マジシャインは手を前に突きだし、ボウケンシルバーを止める。
「映士!広間でキミが最初に居た場所は、門から向かって左手奥、広間の隅だ。そうだろう」
「だからどうした?たまたまてめぇも近くに居たんだろう」
「そうじゃない。これはキミから聞いたんだ。そしてボクはキミに聞いた。もし広間でボクに自分の知らない未来の話をされたら信じられるかい、と」
ボウケンシルバーはまだ構えを解かない。
「この話を誰かにしたかい?ボクはしていない。そしてキミはこう言ってくれただろう」
「「俺様は信じる」」
マジシャインとボウケンシルバーの声が重なる。
「悪りィ!ヒカル!!」
構えを解き、ボウケンシルバーは剣先を降ろす。
「ちくしょう、でも菜摘が危なねぇことに変わりはねぇ!」
「話してくれ!」
「菜摘に何があったんだい!?」
事の顛末を訊ねる裕作とマジシャイン。
映士は菜摘をヒカルの偽者に渡して来たのだ。
「くそ、早く菜摘の所へ戻らねぇと!」
走り出す3人。そこで誰かが呼び止める声がした。
「その必要はないぜ。菜摘なら無事だ。今の所はな、手を出さないでもらっているのさ」
「おまえ、壬琴!」
794
:
ラスト@タイムグリーンvs
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:19:59 ID:AMBLNxFw0
「サガスナイパー!」
逆袈裟に切り上げてくる切っ先を間一髪避けるタイムグリーン。
怒りはMAX、フルパワーで切り掛かってくるボウケンシルバーに思いの他、苦戦を強いられていた。
(待ったく、冥王ブラザーズのおかげで予定が狂った)
もとよりこちらの相手はサラマンデスにさせるはずだった。
そのサラマンデスは追ってきたジルフィーザと戦闘中。
先程のジルフィーザの気迫ではサラマンデス一人では心許ない。
早く駆けつけてジルフィーザこそここで討つべきだというのに。
(さっさと終わらせるにはどんな手がいいかな)
逸る気持ちを抑え手を思案する。
早く終わらせなければならない理由は一つ。制限だった。
タイムグリーンの変身解除後、シュリケンジャーになるまでは数分のタイムラグがあるのだ。
(たかが数分されど数分だからね)
加えて手負いの身。長引けば長引くほど敗北の可能性は高くなる。
「ヤアアアアーーーーーッ」
ボウケンシルバーが滑るように間合いを詰め、燕返しにサガスナイパーを振るってきた。
(くッ、中々やるね。パワーファイターかと思えば、スピードも鈍くない)
後方へ跳躍し攻撃を避ける。
(だけどタイムグリーンの方がスピードじゃ負けない。さぁ、メンタルはどうかな?)
さらに疾走して自らの距離まで間合いを取った。
「ハーーーーーーーーッ!タァーーーー!!」
低く構えた状態から地を這う蜘蛛の如く砂煙を上げボウケンシルバーへ近づき放つ。
「ベクターエンドビート9!」
ダブルベクターが、時計の9時を刺す。大振りに揺れる針がボウケンシルバーへ切り掛かる。
「ダアアアアーーーッ!!そんなもんで俺様が倒れるかよッ!喰らいやがれ!!!」
ボウケンシルバーはサガスナイパーを引き構える。
そして煌めきながら真っ直ぐ突き出されるは、鋭い打突。
だが、
「何っ……!!」
驚愕の声を上げたのはボウケンシルバー。
795
:
ラスト@タイムグリーンvs
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:21:02 ID:AMBLNxFw0
ボウケンシルバーが貫いたのは只の木片だった。
「HAHAHAHA!掛かったね!」
仕掛けたのはタイムグリーン。 超忍法抜け身を応用したまで。
ただしスーツは脱がず、木片に身を移しただけ。
そしてボウケンシルバーを抜き去ってその向こうの標的まで一気に詰め寄る。
そう、砂煙に片手で顔を覆い、立った今気付いた裕作へ。目を見開いて標的は自分だと気付いた裕作へ。
「や……止めろーーーーーーー!!!」
叫ぶボウケンシルバーの声に耳は貸さず。
容赦なく、躊躇なく、ダブルベクターの刃先を裕作の生身へ向ける。夕陽と炎に刃先を橙色に煌めかせた……刹那。
「サガストライク!!!」
光の銃弾はタイムグリーン捕らえた。
否。
タイムグリーンは元より忍者、加えてスーツの特性を生かしただけ。
盾となった裕作は、声も無く白目を向いて倒れて行く。
「あ……、う、嘘だろ……」
茫然自失に声を上げるのはボウケンシルバー。予想通りに弱いメンタル。
音も無く摺り足で近づくタイムグリーンが静かに放つ、その必殺は……。
「ボルパルサー」
文字通り、ぽっかり胸に穴が空いたボウケンシルバー。
「HAHAHAHAHAHA」
タイムグリーンは低く笑い、サラマンデスの元へと踵を返す。
その背後に、ゆらりと亡霊のような影と声。
「まだ……。終わりじゃ…ねぇ……」
ゆっくりと振りかぶり、シルバーブレイザーをタイムグリーンのマスクに突き立てたのは裕作。
だが悲しいかな、生身の力では傷をつけることも叶わない。
「頼む……シオンの、シオンのスーツ……なんだよ」
そう言いながら、もう一度マスクへシルバーブレイザーを突き立てた。
カンと刃を弾く音、そしてずるりと滑る音。
それは涙を浮かべた裕作の身体が地に倒れ込む音。
「お坊ちゃんの様子を見に行かなきゃね」
溜息混じりに背を向けるタイムグリーン。
そこへ、亡霊がもう一人。背後へ忍び寄る。
「悪いが……俺様は……諦めが悪くてなぁああああああーーーー…………。やっぱ…無理か……」
ダブルベクターの切れ味は最高。
無言で薙ぎ払えはそれだけで終わりだった。
796
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:24:14 ID:AMBLNxFw0
本来なら誤字脱字を終えてから投下しなければならないのですが、
もしかしたらこの修正では足りないこともあるかと、とりあえず
書き上がった段階で投下致しました。
よろしくお願い致します。
797
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/10(土) 12:46:16 ID:???O
と失礼致しました大事なことを。
もちろんオッケーが出ましたら誤字脱字等修正したものをこちらに投下します。
サブタイトルあるままで良ければ。賢者は星に〜投下致します。
798
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:40:42 ID:QLWl8pgc0
Star where you lead me ――― 星に賢者は導かれ
「……さくらっ!」
「さくらさんッ!?」
声を遠く感じる。
声だけではなく、目に映る物も。
さくら視覚が鮮明に捕らえるのはただマーフィーだけで。
駆け寄ってくる明石も竜也も、フィルターの向かうにいるように何故か不鮮明で。
そう、それはまるでクライマックスのようだ。
憎しみに支配されたロボットが、その感情に衝き動かされヒロインの命を奪う。
映画のワンシーンのように。
マーフィーとさくらだけ時の流れが変わってしまったかのように。
(……どうして?)
手から血が滴り落ちる。
マーフィーの口角が赤く染まっている。
転がった十本の指。それを凝視するさくらの視線を遮断するように明石のジャケットがさくらの手を包む。
行き場を失ったさくらの視線がマーフィーへ注がれた。
(違う……。違います。マーフィー、ここだと言ったじゃないですか)
振り絞るような遠吠え。
機械音と呼ぶには余りにも生々しい
マーフィー中で噴出した痛みが、発する慟哭。
憎しみと言うよりも、痛みを孕んだ唸り声を上げて。
再びマーフィーはさくらへ踊りかかった。
さくらは目を伏せず、真直ぐに。
さくらの首筋へマーフィーが歯牙を突き立てる瞬間を待っていた。
そして、
マーフィーの名を呼ぶ竜也の声。
799
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:42:17 ID:QLWl8pgc0
明石がさくらを引き寄せ抱き留める。
抱き留めてくれた力強い腕。
その腕と自分が求めている物とのギャップがただ悲しかった。
(……いいんです)
虚ろな呟きは声にならない。
拳で明石を押し戻そうとする。
(おぼろさんや菜月……二人は私のせいで……)
明石の胸に押し当てた拳。血の滲む明石のジャケットに包まれた、拳。
足元には歪に引き千切られた指。
(だ……だから、マーフィーに……)
明石の肩越しに見える、竜也に阻まれたマーフィー。
知らなかった感情を、苦痛を植えつけられた可哀相なマーフィー。
(それぐらいの苦痛はっ……殺されたって仕方が……っ!)
「ヴアウーーーゥッ!ウウウヴゥゥゥゥッーーーー!!!!」
マーフィーの唸りが拒絶しているようで、見透かされているようでさくらは竦んだ。
それぐらいの苦痛は、首を噛み千切られて殺されても当然なのだ……。
まるでそれを否定するように、マーフィーは踵を返しさくらから遠ざかる。
どんどん遠ざかる。どんどんどんどん。
「いや……マーフィー待って……」
指が無いのだ。
笑ってしまうくらい戦力としては問題外。
(私……。私……は……本当は……)
信頼できる仲間だからこそ、明石はさくらを見捨てない。
明石の足手まといなるくらいなら、信頼と言う名の枷で縛り付けてしまうぐらいなら……。
「しっかりしろ!さくら!!」
肩を掴む明石の腕が熱い。
たださくらを包みこむ揺るぎ無い信頼、それだけを感じるのが千切られた痛みよりもさくらを苦しめる。
もう何もできない。もう戦えない。もうやりたいことなんて見つけられない。
―――西堀さくらは、もう守られるだけのただのお人形!!!!
叫びだしたくても声が出せない!
800
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:42:47 ID:QLWl8pgc0
取り乱したくても取り乱せない!
だって全部私のせいなんですから。手を離してください。私は、私はもう……。
私はもう守られるだけのお人形なんですから!私はもう守られるだけのお人形なんですから!私はもう守られるだけのっ――――――――――――
「ダメじゃ……」
ブクラテスの声がした。
(その通りです。だから、もう私に構わないで……)
そう、自分に構わず助けて欲しいと願う者を助けて、と。
さくらは身を震わせる。
「明石、そのままでは出血は止まらん……」
そっとブクラテスはさくらの手を掴み高く掲げた。
「竜也おまえも手伝うんじゃ」
明石に身体を支えるよう、竜也には傷ついたさくらへの処置を指示する。
誰よりも冷静にその場を観察し、かつ最適な時を見計らい、一瞬でその場を変えた。
完璧なシナリオだった。
明石の目には安堵。竜也の目には感嘆。180度、ブクラテスを組み直す完璧なシナリオ。
さくらは、自分の血で汚れた樽学者を大きく目を見開いて、見ていた。
☆
的確な指示だったとはいえ、あくまで出血が止まっただけだ。
竜也を先導に4人は街灯に吊されたドラッグストアの看板を辿り足を早める。
しかし明石に肩を抱かれながら進むさくらの足が止まったのは、
『SWEETS PARADISE』
赤と白、そしてハートに彩られた場所だった。
広い店内で、明石と竜也が少し離れて座っていた。
明石に比べ達也はどことなく落ち着つかない。
「大丈夫ですかね」
ドラッグストアから調達して来た包帯を巻き取りながら明石へ問い掛けた。
「じーさんか?」
「何でブクラテスさんなんですか。さくらさんですよ」
さくらは手当てが終わると休憩を取るため厨房へ入って行った。
うろたえる竜也を諭し、傷ついた者同士、ワシなら気持ちも解るとブクラテスがついていったのだが。
「フッ、さくらなら心配ない。あいつは何度でも自分で這い上がってくる。そんなヤツだ」
そう断言すると明石はハート型のクッションを背にチェアに寝転んだ。
「果報は寝て待て、ですか?」
801
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:43:18 ID:QLWl8pgc0
確信があるから余裕がなんだろうなと思いつつ。
(だけど、ハートが似合わない人だ)
竜也は込み上げる笑いを噛み殺した。
☆
「まぁ、なんじゃ、落ち着いたようじゃなあ」
「……はい」
伏し目がちに力無く頷く。
うっすらと目尻から瞳を満たす涙。
普通ならそうだろう。
しかし……。
あーむ、ぱく、モグモグモグモグ。
(なんじゃコイツはーーー!いやはや指を失い自暴自棄になったか、それとも狂ったか?
うーむ、しかしどちらも当て嵌まらん。コヤツ、どうみても……)
寛いでいる。
そう、どうみても……。
まるで自室で大人買いしたスイーツを味わうように、さくらは寛いでいるように見えるのだ。
瞳には至福の色さえ見受けられ、ブクラテスの手から指ごと囓られるのではあるまいかという勢いでシュークリームに齧り付く。
「……シェリンダでも、もう少しマシな食べ方をするじゃろうよ」
「ひかたがありまへん。あなたは片手れすし、私はこんな状態れすから」
さらりと言ってのけ、モグモグと咀嚼に集中するさくら。
次に出たのは、
「ふ〜」
……呆れるブクラテスを尻目に感嘆の溜息を漏らし、ふっくらとしたチェリーピンクの唇の端に付いたクリームを器用に舌で舐め取った。
「慰め役を買ってでたのがワシでよかったのぅ。これでは100年の恋も醒め……」
「次!よろしいですか?」
さくらはブクラテスの言葉を遮り次の催促をする。
(仕方があるまい。ここは今しばらく辛抱じゃ。慰め役を買って出たのはワシじゃからな。しかし竜也を意思のままに操るためとはいえ……)
あの時は、まさにブクラテスに取っては千載一遇のチャンスだった。
そしてそのチャンスを逃さずしっかり掴んだ。
ブクラテスは老獪な樽学者から好々爺へ。
そう華麗なるクラスチェンジを遂げたまでは良かったが、踏み台に使ったさくらの行動がいまひとつ読み切れない。
(放心状態の内にコヤツを潰して置こうと思ったんじゃが、一応、正気は取り戻しているようじゃ。
802
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:43:54 ID:QLWl8pgc0
あの場を煽りたてたワシ恨んでいてもおかしくないはずじゃが、その様子もない?わからん……。
わからんわい。そしてこの食欲もわからん!一体何を狙っておる?)
シュンシュンと音を立てはじめたティーポットから紅茶をついでやりながら、横目で無数に散らばったスイーツの包みを見る。
さくらは包帯を巻かれてどら〇モンのようになった両手の掌でカップを包み紅茶を啜った。
(いや……、気丈に振る舞っているだけかもしれん。少しカマを掛けて見るかのぅ)
ブクラテスはそっと奥の手をテーブルに置いた。
「その包みは……」
「おお、おまえさん甘い物と言ったのでな。明石から預かったんじゃが」
嘘はついていない。
さくら両手のハンデをカバー出来る物はないかと竜也が全員の支給品を探した。
デイパックが渡されたのは明石からだ。
一見この包みの中味はただのクッキー。
詳細にも菓子店の名とプレゼントのクッキーとあるだけ。
(ただの菓子なら食料とすればよかろう。それだけではあるまい)
ブクラテスの読みとおり。
袋の底に小箱に入った指輪があったのだ。
(明石から渡された袋に指輪、しかもエンゲージリングじゃ。一本たりとも指のないコヤツには何とも効果的な演出じゃわい。
もはや心の崩壊は目の前じゃな)
ブクラテスの思惑を知らず、さくらは不器用な手つきで袋を逆さまに振る。
「これ……」
クッキーと一緒に出てきた小さなケースにさくらは眉をひそめる。
「……開けて頂けますか?」
「うむ」
(おなごなら何が入っているかの想像はついているはずじゃ。しかしそれでも確かめたい、複雑なところか)
ブクラテスは親指と人差し指で小箱をこじ開けた。横目でさくらの顔を盗み見ながらだ。
「開けるぞ」
パコッと蓋が開き中の指輪が煌めく。
さくらの目が大きく見開く。
「え……!」
「す、すまん!まさかこんな物が……」
「エンゲージリング、ですね」
「ぐっ、明石のヤツ。隠れてこのような物を用意して!ああ何と言うことじゃ。いかん、見てはいか…」
わざとらしいような気もしたが大げさに騒ぎ立てるブクラテス。だがさくらは、
「ハズレ……です」
「なんじゃと?」
さくらはうろたえるどころか淡々とした口調で続ける。
「ええ、いわゆるハズレ支給品です」
「こんな時に何じゃが、おそらく、それは明石がおまえさんに用意したものじゃろう……。運命は残酷じゃて」
「チーフから私へ指輪ですか?それはありえません」
さくらは紅茶のカップを置いてにっこりとブクラテスに微笑んだ。
「ですが着眼点は素晴らしいですね。さすが宇宙に名高い樽学者といったところでしょうか」
ブクラテスは慌てて、しかし誠意を込めたように否定する。
「着眼点?何のことじゃ。誤解せんでくれ」
さくらは聞こえぬふりで、記憶を手繰り寄せるように話を続けた。
「樽学者ブクラテス……。そう、船長の裏切りに船を終われた彼は、やがて出会った黒騎士を命懸けで救った。
……それがサージェスのデータの中でのあなたでした」
「……」
「しかしデータはあくまでもデータでしかない。数々の英雄たちがそうであるように英雄的行動と、その人の本質は必ずしも一致しない」
(やりすぎたか、ならば手を変えるだけじゃ)
「ワシが気に入らんか?本来その手ならば明石だけではなく竜也からも最優先で守られる立場じゃからな」
「別に糾弾するつもりはありません。むしろこの殺し合い……いいえ、ロンを倒し仲間を復活させるという大きなミッションにおいて失態続きだったのは私ですから」
「そうじゃのう。いいようにロンに操られ、仲間を死に追いやる結果を作ったのじゃからな。小娘も気の毒にな」
803
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:44:28 ID:QLWl8pgc0
「菜月には同情して下さるんですか……」
「うむ。ワシをおじいちゃんと呼び、一度たりとも疑いの目を向けなかったのは小娘だけじゃ」
さぁ、罪悪感に苛めと菜月の話を出したがさくらに怯む様子はない。
「菜月がもう少し強ければ、竜也さんではなくあの子を利用していましたか?」
しかし、それを責められたところでもうどうなるものでもないと半ば開き直りさくらへ告白する。
「確かにな、そのとおりじゃわい。ワシに取って都合の良い者を利用した。密かに駒としたのはおまえさんだけでは無いぞ」
「でしょうね」
「それでどうする。おまえさんが知ったところで竜也の罪悪感と、先程植え付けた信頼は消えんぞ。のぅ」
弱者の仮面は脱いだ。狡猾さを隠す必要もない。ブクラテスは舐めるようにさくらの顔を見下ろした。
「もう一度言いますが、糾弾するつもりはありません。私がお伺いしたいのは、その先です。つまり今後2手先3手先まで考えがおありですか?」
出し抜けに力強く積極的にさくらは考えを口にする。
「考えじゃと……」
「ありませんよね。あなたはここまでを、チーフはずっと先を、竜也さんは現状を……。
そして私に到っては何も見えていなかった。これが今の私たちです」
たじろぐのはブクラテスの方だった。目の前に座っているのはただの弱い女では無い。
「このままでロンを倒せるでしょうか。いえ、このままではロンに辿り着くことさえ困難では?」
(この女、ワシを見極めようとしておるのか?)
そう、老獪な樽学者ブクラテスが、今一度さくらに真価を値踏みされている。
「見てのとおり私はすでに戦力外、いっそ楽になれたらと、そう思いました。マーフィーが私を憎んでくれていれば、それが大義名分になりますし」
弱さも、狡さも、
「私の生い立ちや、もちろんロンに洗脳されたことも関係しているんでしょうけど」
そして辛さも、
「死ぬより怖いと思ったんです」
すべてをさらけ出したその言葉、ブクラテスは胸を衝かれたようにさくらの顔をじっと見つめた。
「心は折れ、戦えず、守られるだけの……。そんな人形のような存在になるのが死ぬよりも怖かったんです」
さくらはブクラテスを真っ直ぐ見つめ、もう一度告げた。
先に眼をそらしブクラテスは溜息をついた。
「生きる術をワシから学んだ、か?」
「いえ、ただきっかけを頂いただけです。
傷ついた自分を人を操るための手段にするという発想は私にはありませんでした。
ある意味あなたの狡猾さは、ロンと対等に戦うためには必要です」
804
:
修正版です
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 11:45:06 ID:QLWl8pgc0
「ふん」
と腹を揺すらせ首を振る。だがブクラテスの表情に今までの狡猾さはない。
「ずいぶんと高くついたのう。老いぼれを動かす代償が」
「その代償に値すると思っています。その頭脳、誤った方向に使われているのは惜しい。そうですよね」
「……この樽学者に説教とは、全く対したおなごじゃわい。あの朴念仁は幸せ者じゃな」
さくらは肯定も否定もせず、クスッと小さく笑った。
☆
(あの扉の向こうにチーフたちが居る)
ツヤの無い銀色の薄い扉のその先で、明石と竜也がさくらたちを待っている。
目を閉じた瞼の裏に、二人の顔が浮かんで来る。
(もう大丈夫です。樽学者ブクラテスを動かすことは出来ました。これからだって私にはきっと……)
そう大丈夫だと自分に言い聞かせながら深呼吸を一つ吐き出した。
それから、さくらはゆっくりと目を開けた。
ふと落とした視線が捕らえたのは脚を伝う血液の跡。
素肌に付着した血液はすでに乾き始め深い赤に変わり、その表面は光を帯びて艶やかなエナメルのような光彩を放つ。
白い脚と深い赤が成す鮮やかなコントラストは、どことなく異様にも扇情的にも見える。
(これは落としておくべきですね)
さくらは扉を開こうとするブクラテスを呼び止めた。
「待ってください。申し訳ありませんが、もう少しだけ時間を頂いてもよろしいですか?」
ブクラテスは振り返り、素直に疑問を口にした。
「なんじゃ?まだ何かあるとでもいうのか」
「いいえ、付着した血液を落としておきたくて。服やブーツは落としようがありませんが……」
幸い服やブーツに付いた血液はさほど目立つほどでもない。さくらは視線を横へ動かした。
確か向こうへ伸びる通路はレストルームに繋がっているはず。
「そうじゃな。よかろう」
ブクラテスは腹を揺すりながら椅子に腰を降ろした。
「それでは少し失礼します」
返事の代わりに後ろからブクラテスの咀嚼の音が響いてきた。
通路へ出るとすぐ、赤い女性のマークと黒いレストルームの刻印が施された金のプレートが目に入った。
その奥に同じプレートが装飾された白い扉があった。
肩でその扉を押し開けると、一枚の姿鏡がさくらを迎えた。
☆
「よくもあれだけの量を平らげたもんじゃわい」
チーズケーキ一つで音を上げたブクラテスからは、さくらの食べっぷりは想定外のまだ外だ。
「まぁ、良いがのう」
少し休息を取るつもりでブクラテスは瞼を閉じ、残った片手で頬杖を付いた。
(思わぬ事態に転んだが、ワシにとってこれほど都合の良いことはあるまい)
もう我が身は安泰、そう言っても過言では無いだろう。
なぜなら今回の一件でブクラテスは信頼の種を蒔くことに成功したのだから。
(罪悪感に加え、信頼が育てば……)
竜也に植え付けたその二つ、それが決して解けぬ強固な呪縛に育つまで。
805
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/11(日) 11:46:43 ID:QLWl8pgc0
我が身に替えても、ブクラテスを守らなければならないという呪縛へ育つまで。
(後は慎重に種を育てあげねばならんわ。のう、さくら?ワシを導いてくれて感謝するぞ)
眼鏡の下の瞼が薄く開いた。
(さて……)
その瞳が覗くのは『毒』
懐から取り出された『毒』だった。
(ロンが謀ってワシに支給していたとすれば……。いや、まぁ良い。これが奥の手となるか、または免罪符となるやは、まだ解らぬのじゃからな)
☆
銀色に光るカランを上げてハンドペーパーを水に浸そうとするが中々上手く行かずにいる。
右手の包帯はすでに濡れてしまい、裾から解けかけてしまっていた。
「仕方がありませんね……。後で巻き直さないと」
ペーパー数十枚を費やして、やっと上手に腿へ濡らしたペーパーを乗せられた。
痛みの分を差し引いても指が無いことが、こんな些細なことさえ困難にしてしまう。
何度も何度も、何度も何度も何度も。
そう何度もハンドペーパーを擦り付けて。
いやハンドペーパーなどすぐに原形を無くし、実際は殆ど右手の包帯が血液を拭き取ったのだ。
そのせいで包帯は水を吸って重くなり、力を入れすぎたのか内から血が滲みだした。
「……仕方がありません」
再び呟いて、包帯の緩みを治そうと歯で垂れ下がった端を噛んだ。
さっきと同じように、思うように上手くいかない。
左手を添え、繰り返すこと数回。
やっと締まりつつある包帯を、力を入れて引っ張った。
「痛っ」
包帯を締めると痛みが電流のように駆け巡った。
手の甲や平だけで無く、なぜか指先まで。そう確かに人差し指の先まで。
「……?」
さくらは端をくわえたまま、しゅるしゅると包帯を解いてみた。
指は無い。
微かに開いた口から、ぼとっと包帯が足元に落ちた。
指の無い手を、目の高さまで持ち上げてひらひらと裏表を見比べる。
指は無いのに。
何故か、まだ人差し指だけは残っているかのように感覚があった。
鏡に写してみても指だけは鏡に写らない。
指のあった場所に写っているのはさくらの細い首元だけだ。
傷一つない白い首元だけが鏡に写っている。
つーーーーっ、つーーっ。
さくらは鏡に写る自分の首に×印を描いた。
「…………ここだと言ったじゃないですか……」
つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。
つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。つーーーーっ、つーーっ。
目印を付けるように、強調するように何度か×印を引くとさくらの顔はすっかり赤いペイントに塗り潰された。
「あぁ、いけませんね。早く包帯、巻き治していただかないと……」
くるりと鏡に背を向けさくらはレストルームを後にした。
☆
「お待たせしました」
部屋に戻ったさくらとブクラテスは明らかに様子が違っていた。
特にさくらはうつろだった瞳に力が戻り、声も少し明瞭になったようだ。
解けた包帯を巻き直しているとさくらが口を開いた。
「少しお話が……。まずマーフィーについてです。私以外に危害を加えるとは考えがたいですが、彼をこのまま苦痛に晒してはおけません。私、マーフィーを捜してきます」
竜也は手を留め、無理だと言わんばかりに割って入る。
「何言ってるんだよ、さくらさん。その怪我じゃ」
「なので申し訳ありませんが竜也さん、手伝って頂けますか?」
さくらは毅然とした態度を崩さず告げる。
「ロンに打ち勝てば彼の苦悩もなくなります。仲間を取り戻せばマーフィーの苦悩は」
問い掛けるように明石と竜也を見つめる。
その表情から汲み取った明石が力強く頷く。
「いいだろう。竜也頼む」
806
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/11(日) 11:47:15 ID:QLWl8pgc0
「では、チーフはブクラテスさんと修理を、説明はすでにしてあります」
「おいおい待て」
とブクラテスが割って入る。
「明石はおまえさんが連れて行け。どうも使いにくくて叶わん」
さくらは少し考え、
「ですが、アクセルラーの修理ですし。やはりチーフが適任では?」
ブクラテスが即座に否定する。
「ワシを誰だと思うておる?」
「誰ってブクラテスさん……」
追いてけぼりをくらった竜也は口ごもる。
明石が竜也の肩に手を置いて、
「腐っても樽学者、さすがだな」
と笑う。
「ふん、樽の中味は腐ったぐらいが丁度いいんじゃ。醸造されていい頃合いじゃわい」
「では、チーフ」
「よし、行くぞ!」
ブクラテスに笑顔を送り駆けていくさくらと、さくらを見つめるブクラテスの表情に。
「一体、どうしたんだよ。まぁ良いことなんだろうけど」
ぽつりと竜也は呟いた。
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:健康。30分程度変身不能。
[装備]:アクセルラー、聖剣ズバーン、スコープショット(暁)
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。その為に仲間を探す。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
第三行動方針:さくらと共にマーフィーを捜す。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:十指欠損、応急処置、消毒済み。回復しているようには見えるが?
[装備]:スコープショット(菜月)@轟轟戦隊ボウケンジャー、Vコマンダー@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:@轟轟戦隊ボウケンジャー、婚約指輪の入ったクッキーの袋、基本支給品(菜月)、竜也のペットボトル1本。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:マーフィーを捜す。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
※ブクラテス、竜也と情報交換を終えています。
※両手の指を失いました。
※未確認支給品(暁確認済)は婚約指輪の入ったクッキーの袋でした(忍風戦隊ハリケンジャー 巻之13「ヒゲと婚約指輪」より)
807
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/04/11(日) 11:47:46 ID:QLWl8pgc0
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:右腕切断、応急処置、消毒済み
[装備]:毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とデイパック、首輪探知機 、さくらのアクセルラー(要修理)、
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:今のところさくらに協力。
第二行動方針:明石とアクセルラーの修理
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:健康。良い意味で動揺
[装備]:
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ロンを倒す。
第一行動方針:これ以上の犠牲は絶対に起こさせない。
第二行動方針:出来れば殺し合いをしている者を止めたい。
※首輪の制限を知りました。 明石やさくらと情報交換を終えました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
※ブクラテスとさくらの様子にとまどい
※盗聴の可能性を認識
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E-7都市 1日目 夕方
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。混乱により回路に負担が掛かっている状態。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どうすればいいのかわからない
※無意識的にさくらへ襲い掛かった状態です。
808
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 13:59:09 ID:???0
Star where you lead me ――― The green star & Hygiene Charon in Pluto
マーフィーが駆けて行く。
―――なぁ、マーフィーちゃん。うちと一緒にシュリケンジャーを捜そう?
シュリケンジャーは、ホンマに信頼できる仲間やから。さくらさんみたいな事は絶対ない。うちが保証する ―――
時折ノイズの混じる回路の中をおぼろの声が駆け巡る。
―――…ごめんな。うちはやっぱり一緒にいけんよ。だって………
悲しい言葉を打ち消すように、ただひたすら駆けて行く。
行く先には黒煙。
だがそれはまだ見えない、エリアのずっと向こう。
そして、そこへ向かって同じように歩みを進める者、一人。
☆
(う、うん……。あぁ、そうだミーは……捕まっちゃったんだっけ)
明かり取りの天窓から刺す太陽の光はオレンジ。伸びる影の長さから大体の時刻は割り出せる。
(ということは倒れてからそう時間はたって無いか………………)
ならば制限解除までこのまま寝て置くのも一つの手だとシュリケンジャーはまどろみ始める。
(と、待てよ、そうだ。倒れた時ミーは………………!!!!!!!!!)
怒りがすぐにシュリケンジャーを覚醒させた。
(ガッデム!それから素顔を晒していたってことだ!見張りは?素顔を見られたからにはすぐにでもっ)
サラマンデスと共に七色の布で縛られ床に寝かされている。
(随分重い布だね。ジーザス、一体何なんだ!)
シュリケンジャーは知るよしも無いがそれは聖聖縛。
激気技でのみ顕在させうる聖なる布。不闘を誓う拳聖たちの激気で織り上げた布である。
(うーん。ミー一人の力では破るのは無理か。だけどお坊ちゃまはまだぐっすりお休みだ)
サラマンデスは随分夢見が悪いのか顔には苦痛が浮かんでいる。
状況を読むに連れて冷静さを取り戻す。
(オッケー、焦りは禁物。どうせ今回限りのお付き合いさ。最後には皆死んでもらうんだからね)
場所は独立した倉庫か。用具が盛りだくさんだ。さて……見張りは2人。そしてもう……一個?)
苛立ちを隠し切れず爪を噛んだり物に当たり散らすメレ。
そしてメレ当たられる頻度が抜群に高いビビデビ。
そして、シオンの死を悼み後悔の念を口に出す裕作。
(HAHAHA!人選ミスもいいところだね。これなら隙が出来るのも時間の問題さっ)
シュリケンジャーの読みとおりか、否か。メレが苛立ちの矛先を裕作にも向けるのに時間は掛からなかった。
「いつまでもうるっさいわね!グダグダ言ってる暇があんなら首輪解除してきなっ!」
ビビデビをバレーボールさながら裕作へアタック。
「おい、俺に八つ当たりかよ」
「こんな奴ら、アタシ一人で充分よ!」
跳ね返ったボール、いやビビデビを、すぐにでも出て行けと言わんばかりに、もう一度裕作へ叩き付ける。
「メレ!おまえまさか、壬琴の言ったとおり」
「アイツが何言おうと関係ないわ」
「まさか、意識のないヤツをわざわざ起こして意識が無くなるまで殴る気……痛てっ!」
メレは裕作を倉庫から叩きだし、重い扉を閉ざす。
「おい!待てよっ」
ドアを叩く裕作。怒りに肩で息をしながらメレが呟く。
「アイツ……!後で覚えてなさいよ」
「ビビ〜。それに壬琴様はそんな物好きはアイツぐらいだろうと笑ってたデビ〜……グェッ!!」
メレは無言でビビデビに回し蹴りを放つ。
「メレ!開けろ、開けろって!」
裕作はドアを叩くがメレは聞かず、後ろ手で扉を締めシュリケンジャーたちを睨む。
「話を聞けばいいんでしょ?わかってるわよ!だからアタシ一人でいい。あんたも幻気喰らいたく無かったら、さっさと消えな!」
裕作は諦めたのか、
「また後で来るぜ」
そう言ったのを最後にドアを叩く音が止んだ。
(さぁて、チャンス到来)
コロコロと転がって来たビビデビとシュリケンジャーの目が合う。
ビビデビが声を上げないように、シュリケンジャーは飛び切りのスマイルでウインクを送った。
☆
「まぁ、かい摘まんで言えばこんなところだ」
壬琴が言い終わると同時にヒカルと映士から溜息が漏れた。
壬琴の周りに、菜摘、ヒカル、映士が座り、囲んだデスクには集められた支給品が並んでいた。
「さて、もう構わないだろう。これは俺が預かるぜ」
壬琴が手を伸ばしたのは、小さな鍵。小津麗に支給されここに辿りついた用途不明の小さな鍵だ。
「……あ、もしかして」
思い当たった菜摘が声を上げた。
809
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:00:12 ID:???0
そう。これが無かったゆえに、別々に支給されたがゆえに……。
実際に菜摘が爆笑したのは壬琴の行動だったのだが、どちらにしろ壬琴に取っては苦い記憶。
「あぁそうだぜ!ダイノハープのキーだ。俺が預かるのに文句はないだろ?」
余計なことは言うなとばかりに菜摘に睨みを聞かせる。
そこへ。
「悪い。締め出されちまった」
罰の悪い顔で裕作が部屋に入って来た。
「どういうこと?」
菜摘の隣に裕作は座り事情を話す。
「ふふっ、それで締め出されたの?」
「あぁ」
頭を掻く裕作に、ニヤリと笑う壬琴。映士は関心が無いのか足を投げ出して目を閉じていた。
ふと、菜摘はヒカルがやけに浮かない顔をしていると気付く。
声を掛けようとすると壬琴が立ち上がった。
「グレイが帰って来るまで俺は休憩させてもらうぜ。もう話すことも無いしな」
「あーっと。オッケーわかったわ」
次元虫を取り除くのはいくら天才外科医といえど簡単ではないだろう。
壬琴も無傷とは言えない。
異論を唱える者はいなかった。
「ボクも少し一人で考えたいことがあってね」
ヒカルも席を立ち部屋を後にした。
「ちょっとゴメン……すぐ戻るね」
菜摘はヒカルを追いかけ、部屋には裕作と映士が残った。
「ねぇ、ヒカル。ちょっといい?」
屋上へ続く階段で菜摘はヒカルを呼び止めた。
「ドモンのことも……。深雪さんのことも……。何て言っていいのか解らないけど……」
菜摘はそっとポケットからメモを取り出しヒカルに握らせる。
そして人差し指を口に当て、声に出さないで読んでとジェスチャーで伝えた。
ヒカルは一度メモに視線を落とした。そして黙って頷き、メモをポケットにしまった。
「あれで以外と壬琴が力になってくれると思うわ」
そう告げて菜摘は階段を駆け下りた。
☆
「アタシが気付かないとでも思ってんの?」
後ろ手に扉を閉めたまま、メレが低い声で呟く。
(ミーに言ってるのか?それともビビデビ?)
薄目のままシュリケンジャーは様子を覗う。
「いい?ホントのことを言いなさい。別にアタシはアイツらのことなんて何とも思っちゃいない。
どうせ即席で作った戦隊だもの。あんなカクシターズにこれ以上付きあってやる義理なんて……ないわ!」
メレは重い扉に内側から南京錠を掛けた。
「だからさっさと話すのよ。アンタたちは何なの?なんで?!」
メレはシュリケンジャーに駈け寄り髪を掴んで顔を上げさせる。
「なんでシオンを殺したのか言ってみな!そうしたら殺してあげるから!!!」
(思った通り激情型だね。そう来られればそうeasy☆)
シュリケンジャーはメレを見据え恭しく口を開いた。
「メレ様、ご無事で何より」
驚いたメレは思わず手を離す。
「何なの、アンタ」
「驚かせてソーリー。ユーのハニー、理央は……ぐあっ!」
理央は……まで言うとメレの鉄拳が飛んできた。
「ったくどいつもこいつも、ワタシが理央様の名前を出せばコロッと騙されると思ってんの!!」
皆考えることは同じかと、シュリケンジャーは笑いを堪えながら。
「ち、違うよガール。理央はミーにとって言わば恩人だから、だからユーにはせめて最後に敬意を示したくて」
「理央様に恩ってどういうこと?」
訝ってはいるがやはりメレはメレ。こちらに乗ってきたようだ。
「この事は一方的にミーが恩を感じているに過ぎない。理央はミーの友人を、ここで殺された友人の敵を取ってくれたのさ」
「敵を?」
「聞いてくれるかい?捕まった以上ミーも覚悟は出来ている。理央に礼を言えないかわりに、せめてユーに聞いてもらいたい」
「……わかったわ。ただし話が終われば殺す。いいわね」
「オーケイ。落ち着いて最初から話そう」
まずは、最初に出合ったジルフィーザ。そしてスワンとの出会い。ロンに姿を変え、サンヨと組んだこと。
途中、いずれ対決するだろうブドーと接近。その後、江成仙一に成り変わり理央に宇宙サソリを植え付け……。
ここまで話すとメレの鉄拳が飛んできた。
810
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:01:12 ID:???0
「もういい、アンタ死にな!」
「ノ〜!まだ続きがある。聞きたくないのかい?理央はユーの名を叫んでいたんだ!」
「アタシを?理央様が、アタシをですって」
────俺は…俺は死なないッッ!! メレェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
もう一度宇宙サソリの話を頭から。
その後に恩人と知ると付け加え、出合ったガイ、禁止エリアでのこと、サラマンデスとジルフィーザのことも。
もちろん推測される理央の居場所をさりげなく伝えるのも忘れずに。
そして物語は渦中のスタジアムへ。
自らの見たすべての真実を克明に、その中に混ぜるほんの少しの偽り。
「筋書きはこうだよ。ミーはドモンに協力したのさ。しばらくは手を組んで優勝を目指すつもりでいたんだ。
ミーが浅見竜也に成りすましシオンを油断させたところでドモンが殺害。
しかし、やはり優勝目的とはいえドモンに元仲間を殺すことは出来なかった。
だからミーが代わってシオンを殺害した。だけど、ドモンは後悔したんだ。亡くなったシオンに縋り付いて号泣していた」
「それでアンタは邪魔になったドモンを殺したのね」
「いや、ドモンがミーに殺してくれと懇願したのさ。ミーはOKしたよ。
仲間も殺せず自分も殺せず、余りにもドモンが気の毒だったからね。
だから偽装したのさ。せめてドモンが覚悟の死を遂げたのだと、思ってもらえるようにね。
殺し合いに乗ったんだから、ミーは悪役で構わない。本当はね、ドモンのために誰にも言うつもりはなかった。
だけどこの口はもうすぐに閉ざされる。恩のある理央の一番近い人の手によってね。
もし聞いて貰えるなら、ドモンたちのことを黙っていて欲しい。ユーが黙っていてくれるならドモンやシオン、彼等の名誉は守ることができる」
「アンタはなんで殺し合いに乗ったのよ」
メレは立ち上がりシュリケンジャーに背を向けた。
「掛け替えの無い大切なモノを守るためさ。ユーなら、解るだろう」
モノでも、物でも、者でもいい。解釈はメレに任せるつもりだ。
「大切な者……」
「ユーならどうする理央が死んだら、理央のいる星が腐って行くとしたら」
「理央さまが死んだら……。私が生きている意味なんてないわ」
「ユーはこのまま彼等と共に戦隊を組んで戦うのかい?」
目を伏せたままのメレ。答えは無い。
「……そうか。このまま行けば、ユーと理央は闘うことになるね」
堪らずにメレはシュリケンジャーへ振り向く。
「どうしてワタシに?!話したところでアンタには何の徳にもならないじゃない」
「いいんだベイビー。ただ意図せぬところで作った借りを、目に見える形で返すなんて恩着せがましいじゃないか」
唇をかみ締めるメレ。落ちるのは時間の問題だ。
「メレ、ユーとは違う形で出会いたかった。ドモンとユーでは覚悟の度合いが違う。さぁ、話は終わりだ。殺ってくれ」
「覚悟は出来てるってわけね」
「グッバイ、メレ。検討を祈るよ。殺し合いに乗るにしても……。敢えて、違う道を選ぶとしてもね」
☆
菜摘が階段を下ったところに裕作が立っていた。
壁を背にして菜摘を待っていたようだった。
「ヒカルは?」
「え、ヒカルは屋上に行ったけど」
「何か用事だったのか?」
「ううん。別に……」
口ごもる菜摘に裕作の視線はヒカルを捜すように階段をなぞった。
(ゴメン。裕作に隠し事とかそういうわけじゃないわよ。ロンに聞かれたくなかっただけなの)
菜摘は心の中であやまる。
「……あいつ、ショックだよな」
「うん。でも大丈夫、うん」
菜摘は一人納得したように頷きながら、裕作の背中を押した。
「あのな、菜摘。ヒカルとの話が済んでいるなら、俺もちょっといいか?」
「ええ、いいけど」
少し思いつめたように裕作は口元に手を当てた。
「シオンのクロノチェンジャーだけどな。おまえどう思う?浅見竜也に渡すのが一番だよな」
「ええ、それが一番でしょうね」
「それがいいってのは解るさ、だが……壊しちまおうかと思ってる」
「壊す!なんで!?」
驚く菜摘の肩を裕作は掴んだ。
811
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:02:31 ID:???0
「理由はあるんだ。おまえにこんなこと言うのは……」
ここまでは決められた台詞を読むように話す裕作だったが中々続きを口に出来ないようだ。
「辛いことを思い出させるようで心苦しいが……」
裕作が口ごもる理由は、菜摘の仲間だった陣内恭介のことだろう。
恭介はタイムブルーに変身したネジブルーに惨殺された。
シオンのクロノチェンジャーが同じように殺し合いの道具にされるのが、きっと裕作は堪らないのだ。
菜摘にもその気持ちは痛いほど解る。
「解るよ。シオンのクロノチェンジャーを殺し合いの道具にしたくない、でしょう」
微笑んだまま、裕作の心を読むように菜摘が言うと、ホッとしたように裕作の手から力が抜ける。
「悪い。おまえに言わせるなんてな」
「ううん」
菜摘は軽く首を振る。 アイテムが揃うのは両刃の剣。有利にもなる代わりに、奪われれば……。
シオンの物だったからこそ。だからこそ裕作は殺し合いの道具にしたくなかったのだ。
「裕作の気持ち、みんな解ってくれるわ、大丈夫よ」
「ありがとな、ずっと考えてたんだ。だがどう伝えりゃいいか難しくてな。メレにも言おうとしてたんだが……」
「メレもツライのよ。泣き出さないだけメレは偉いよ」
「そうだな。メレに言われたよ。ウジウジしてる暇があるなら首輪解除しろって、さっさとしないと幻気食らわすってな」
「あははははっ、怖っ」
「なぁ、それで気がついたんだが……」
裕作は偶然にもそこで手掛かりを得たようだ。
「メレは俺達のように何かを使って変身するわけじゃない。アイツの変身、幻気充填は幻気を具現化した物だろう」
「そうか、この首輪も仕組みは一緒かも知れないのね。もしそうなら首輪解除はメレに協力してもらうべきだわ」
「あぁ、その上で科学の発達している世界のグレイの意見も聞いてみたい」
「うん、あとヒカルにも。シオンが言ってたの。発達した科学は魔法と見分けがつかない、そしてその逆もありうるって!」
解らなかったことが糸が解れるように見えてきた。
駆けだしたい気分だった。
「戻ろう!」
菜摘と裕作は部屋へ急いだ。
☆
「やるじゃないか」
メレが出ていって数分後、倉庫の扉が開いた。
開けたのは白衣を着た男──仲代壬琴だった。
「オーノー!聞いていたとは人が悪いね。メレを追いかけなくてもいいのかい?」
「俺は一人でやりたいようにやっているだけだぜ。メレを追いかけて祭に乗り遅れるのはごめんだからな」
殺し合いを祭とは、さすがは何の躊躇も無く死ねと刃を振り下ろせる男だ、とシュリケンジャーは内心感心する。
「だけど、ユーは言われたことはないかい?遊びが過ぎて本来の目的を見失わないことだってね」
思い当たるのか壬琴は反発するように好戦的な口調で言った。
「悪いがゲームは存分に楽しませてもらうのが俺だからな、何ならおまえも乗ってみるか?」
壬琴は指でコインを弾く。
キンと煌きながらコインが回る。シュリケンジャーはそれを目で追いながら静かに言った。
「ゲームならユーがこの部屋に入って来た時から、もうとっくに始まっているよ 」
「何だと?」
「まっ、肝心のゲームマスターがまだ気がついていないようだけど……」
壬琴はサラマンデスに視線を向ける。
「そうだな、弱い奴に用はない。ソイツならおまえよりは面白そうだ。」
また壬琴はコインを弾いた。シュリケンジャーは首を横にゆっくりと首を振った。
「フ〜、ユーは解っていないね。ユーの言う弱いヤツ。イエ〜ス、弱者ほど時に思い切った行動を起こすモノさ☆」
「あん?縛られているおまえに何が出来る?目から光線でも出そうってのか」
壬琴は気付いていないようだった。
先程から壬琴とシュリケンジャーの間で世話しなく視線を動かしている存在に。
「HAHAHAHA!強気だね。そうやっていつも誰かを見下してきたんだろう。
ま、そういうタイプに限って自分勝手にふらっと消えるものさ。そして誰も不思議に思わない」
眉を顰めながらコインを弾き、そこで壬琴は初めて気付く。
812
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:03:51 ID:???0
「ビビデビ?……おまえっ…………!」
「ビビッ。ビビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
コインは床へ落ちる。
「あわわわわわわ、わわわわわわわわわわわわわわわ〜やってしまったデビーーー!!!!」
昏倒しそうになるビビデビへすかさず賞賛を送る。
「ブラボー!!!助けてくれると思っていたよ。メレが出ていった時からね。さぁこれを解くのを手伝って!」
「ビビ〜!」
震える手で聖聖縛を解くビビデビ。
「随分辛い思いをしていたようだけど、もう大丈夫さ☆」
そう言ってビビデビを力いっぱい抱きしめた。
「うう、でもとっさのことで何処に飛ばしたか解らないデビ〜」
「オールライト大丈夫さ、きっと遠くに行ってしまったよ」
ビビデビを腕にシュリケンジャーはほくそ笑む。
まずラッキーだったのはメレが上手く乗ってくれたこと。
メレはシュリケンジャーの撒いた疑念を自ら確かめに向かった。
そして出て行く時、ビビデビに二人を禁止エリアに向けて飛ばすように命令。
だがビビデビは考え倦ねいているようで実行に至らなかった。
まだメレが殺し合いに乗ったかどうかはさだかではない。
しかしメレはシュリケンジャーを自ら始末しなかった。だがビビデビに任せた。やはり揺れ動いているのは否めない。
どちらにしても、理央とぶつかり合ってくれれば楽になるのだが。
「ビビデビ、きっとユーも殺し合いを加速させる支給品ってところだろう?違うかい」
(七海と同じようにね)
心の中で苦い笑いが込み上げた。
七海が参加者同士に疑念を抱かせる材料とされた時から、おそらく同じような支給品が紛れているだろうとは読んでいた。
「そうデビー!!うぅ、やっと本来の持ち主へ出会えたデビーーーー!」
「ユーは優勝へ導いてくれる天使。まさにエンジェルというわけだね」
さぁ、山は一つ乗り越えた。ここからがまさに暗躍の時。
「Get up!サラマンデス」
シュリケンジャーはサラマンデスを揺り起こす。
「さぁ、イッツァミラクル!ショータイムの始まりさ」
☆
部屋に残された映士は退屈そうにアイテムを手に取っていた。
全員が部屋を出て、部屋に残ったのは映士一人。
当たり前の話だが、デスクには最初と同じ状態で支給品が並べられていた。
手持ち無沙汰になった映士が何気なしに一つ手に取ったところで怒鳴られる道理などない。
だから裕作とて、始めから声を荒げるつもりなど全くなかった。
ただ偶然それがシオンのクロノチェンジャーだった。
そして裕作と映士とは、まだ数えるほども言葉を交わしていなかった。
「おまえ、何をしている?」
裕作の発した言葉には明らかな刺があった。
映士の手からシオンのクロノチェンジャーが滑り落ちる。
「まるで俺様が奪うような言い方だな」
映士の言葉にも刺が混じる。
最悪の言葉のキャッチボールだ。
菜摘はクロノチェンジャーを拾い二人の間に割って入った。
「止めなさいよ。二人とも、言い方ってものがあるでしょう」
「あぁ悪かった」
菜摘に諌められ、素直に両手を上げ謝る裕作。そうした上で。
「なぁあんた、俺の独断で悪いがそいつは殺し合いの道具に使って欲しく無い。頼む」
映士は一度、菜摘を見てから裕作へ目を合わせ、尋ねる。
「最初から使う気なんざさらさらないがな、理由は何だ?」
「持ち主の遺志を尊重したくてね」
「へぇ」
映士は馬鹿にしたように顎をしゃくりあげた。
「遺志とはねぇ。笑わせてくれるな」
「何の事だ?」
「惚けるなよ。安らかに眠った者を冒涜するような真似をしてるのはてめぇだろ!」
「映士!何言ってるのよ?」
止める菜摘。だが怒りに任せて映士は吐き捨てる。
「コイツは使わせないが死者の首を切り落とすとはな!!」
裕作と菜摘の顔が強張る。
この時、3人は全く噛み合ってはいなかった。
映士は深雪を、
裕作はドギーを、
菜摘はサーガインを、
滑稽なほどにすべてバラバラのパーツで……。
だが歯車は絡み合い廻り始める。
「だが、あの首輪は託されたんだ!」
「託されただと?ずいぶん都合のいい解釈じゃねえか。ふざけんじゃねぇ!」
侮蔑を込めて映士が言い放つ。
813
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:04:27 ID:???0
「だって仕方ないじゃない。そうでしょう!?」
「菜摘!おまえ、本当にそう思って……」
映士の言葉は割れるガラスの粉砕音に掻き消された。
「なッ……!?」
ガラスの破片が部屋中に降り注ぐ。
窓を突き破った誰かが転がり込んで来たのだ。
勢いのままその人影はデスクを薙ぎ倒しその中で蹲った。
裕作が駆け寄る。
「おい!大丈夫か」
転がり込んで来たのは壬琴だった。
「……メレのヤロー!いい……度胸じゃ……ねぇか」
無理に起き上がろうとする壬琴を裕作が止める。
「何があった?」
「ビビデビ……ガァッ…俺を飛ばし……」
そのまま壬琴は意識を失った。
☆
断続的に耳を打つ爆発音。噴出した炎で窓ガラスが面白いほど割れて行く。
三方から立ち上った火の手は壁伝いに広がり勢いを増してやがて建物全体を飲み込むだろう。
鳴り響く非常ベルに混じって聞こえる声には動揺が覗える。
(オーケイ。いい具合に花火が上がった)
即席の発火装置にしてはすばらしい効果だった。
倉庫に眠っていたヒーター、アルコールランプにスプレー缶。
発火元には不自由しなかった。
事務室、印刷室、山ほどの用紙に窓を覆うカーテン。
可燃物もまたしかり。
(地味〜な裏方作業だったけどね。お坊ちゃまの力は温存しておいてもらわないと)
☆
「菜摘、壬琴とここに居てくれ」
「映士?」
「待て、ヒカルを捜しに行くなら俺も行くぜ」
「ヒカルは俺様が捜しに行く。引っ込んでろ」
「何!」
「止めてよ!」
「……あぁ、そうだな。仲間割れしてる場合じゃないよな……。まさかメレがとは思うが、俺は向こうを見てくる」
「二人とも待ってよ。一人じゃ危ないわ!バラバラになったら……」
菜摘の忠告は非常ベルに掻き消される。睨み合った裕作と映士は反発する磁石のように左右に走り去った。
「バラバラになったら思うツボじゃない……」
ポツンと取り残された菜摘はアクセルキーを握りしめた。
せめて壬琴だけとは離れちゃいけない。部屋へ戻ろうと振り返った目の前に、
「ビビデビ!いつからそこに居たわけ?」
「ビビデビビ〜」
ビビデビが居たのだ。何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。
「何笑ってんのよ。って言うか大丈夫?」
ふわふわしていたビビデビの動きがぴたりと止まる。
「……なにがデビか?」
「壬琴を飛ばしちゃったりしてさ」
菜摘の目には哀れみが浮かんでいた。
「うん、やっちゃったわね……。覚悟の上なんでしょうけど」
「ぐっ、まるで死に行く者を見るような目で見るなデビ!」
ビビデビは手にした黄色のハンマーを構えた。
「ビビッ!これが何だか解るデビ?ビビデビはもうオマエらの言いなりにはならないデビッ!」
「きゃ……!!
ビビデビがクエイクハンマー叩きつけるとリノリウムの床が波立ったように揺れた。
「やっ止めなさよ!危ない!!」
「止めないデビ。ビビデビ様を虐げた報いを、今こそ受けるがいいデビ!」
よろけながら菜摘が突っ込む。
「ちょっと!わたしがビビデビに何したっていうのよ!」
「ビビビビビ……オマエは……」
考えるビビデビ。
「うーーーー!止めようとしなかったデビ!」
「はぁ〜〜?自分のしたこと棚に上げてふざけんじゃないわよ!」
「ウルサイッウルサイデビ!ま〜だ自分の立場が解らないようデビッ。思い知らせてやるビビ!超忍法ビビデビ撃!」
クルクルと駒のように回転しながら菜摘を殴りつける。
「アアアッ!!」
弾かれた菜摘の身体は床に叩き付けられゴロゴロと転がった。
「くっ……!何とか、何とかしなきゃ」
額から流れる血を拭いビビデビの隙を狙う。
「ビビビビビ〜〜〜どうにもならないデビ!ビビデビ様の力思い知るがいい」
(それあんたの力でもなんでもないわよ、奪っちゃえばおしまいじゃない!!)
菜摘はツッコミの言葉を噛み殺す。
814
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:04:58 ID:???0
(今、ビビデビはMAXで増長してる。ここは、一発ガツンと……よし一か八かね)
「そろそろ留めデビッ!最後はフルスイングデビ!!超忍法ビビデビホームラン!!!」
クエイクハンマーを振り上げるビビデビ。
菜摘は驚いた顔でパッと横を向いた。
「あ、壬琴!」
「ビッ!」
ビビデビの背筋がピンと延び、瞬時に顔が青ざめた。
アワアワと外を仰ぎ見るビビデビの隙を逃さず、菜摘はアクセルキーを掲げる。
「激走っ!」
その声と共にアクセルブレスへキーをオン。
「アクセルチェンジャー!」
唸るエンジン音に包まれ菜摘はイエローレーサーへ。
「戦う交通安全ッ、カーレンジャー!タアッ」
「だ、騙したデビ?オノレ〜〜!」
すかさずクエイクハンマーを構えるビビデビ。
だがイエローレーサーはスライディングで一瞬の内にビビデビへ肉薄する。
「バイブレード!フルパワーモード!!」
振り上げると同時にグリップを引きパワー全開。そのままビビデビ目掛けバイブレードを振り抜いた。
「グオエェ〜ッッ!!」
吹っ飛ばされたビビデビはピンボールさながら左右の壁に激突を繰り返す!
「グエッグエッグエッグエッ!」
「ヤアーーッ!」
イエローレーサーはダッシュ。
ビビデビを追い抜きざまにホルスターから銃を抜き放つ。
「オートブラスター!」
光弾がビビデビの後頭部へ着弾。
撃ち落とされたビビデビはイエローレーサーの前へ転がる。ボヨン。
「今ね!」
イエローレーサーの胸の高さ、まさに絶好の位置でビビデビのボディがバウンドした。
「ナックルボンバー!!!」
電撃を帯びたパンチをビビデビの頭へ突き当てる。
「良いコの交通安全!廊下で野球なんて許さないわよ!!」
「オオオオマエだって廊下走ってるデビビビビビビーーー」
摩擦により白煙を立てながら廊下を滑るビビデビ。
「ギャアアアアアアアーーッ!」
叫び声と破壊音、ビビデビは防火壁を破壊して階段を転がって行った。
☆
「さ〜て、どういうことか聞かせなさいよ!メレは?アイツらは何処なの?」
パキパキと指を鳴らしながらビビデビの前に立ちはだかるイエローレーサー。
「……言うわけないデビ!」
「あ、コラ!逃げるな」
スイーッと浮き上がるビビデビ。
イエローレーサーは慌てて足を掴もうとするが、ビビデビは割れた窓ガラスの隙間をゴキブリのように素早く擦り抜けた。
「ビビビビビ〜覚えてろ〜デビ〜〜」
浮上しながら捨て台詞を吐く。
「あんたもね!」
マスクの中でぺロッと舌を出して菜摘は壬琴の元へ引き返した。
☆
ドアに嵌め込まれたガラスからデスクに手をついて立っている壬琴が見える。
「壬琴!良かった。気がついたのね」
「あぁ……」
壬琴はデスクに置きっぱなしだったアイテムをより分けているようだった。
イエローレーサーのまま隣に並ぶと、壬琴は露骨に怪訝な顔をした。
「あぁ、変身したのはビビデビが襲って来たからよ」
815
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:05:36 ID:???0
「アイツ……」
苦々しくは言うものの、追いかけてボコボコにする訳でもないようだ。
何となく腑に落ちないが気に止めはしなかった。
「クエイクハンマーを持っていたけど、他にも何か持って行ってない?」
「さぁな。俺は今、気が付いんだぜ?」
「そうか……まぁ、いいか」
(あれだけハデに戦ったのに、気が付か無かったんだ)
その時、イエローレーサーの変身が解けた。
「10分か、もしもの時はアレを使うしかないか」
「アレ?」
「アレってほら、それとほら一緒の…タイム……」
菜摘は言葉を濁した。
壬琴は惚けているのか気にしない様子でシオンのクロノチェンジャーをポケットに入れようとしていた。
「ねぇ、壬琴。シオンのクロノチェンジャーを使う気?」
「……?」
さっぱり話が読めないように壬琴は黙っている。
「それ。殺し合いの道具にしたくないって裕作が言っていたのよ」
「だから?」
「私も同意したの。壬琴もシオンと裕作の気持ちわかってくれるわよね」
「は?なんで俺が聞かなきゃならないんだ」
「壬琴いい加減にしないと怒るわよ。仲間じゃない!」
「ククッ」
壬琴は肩を揺すらせて笑っている。菜摘には笑いの意図が解らない。
「仲間だと?まぁ、あいつらはともかく、まさか俺とおまえが?」
「何言ってるのよ、まさかまだアバレーサーが気に入らないとかいうつもり?」
強気で返してみたが、凄く嫌な空気だ。
菜摘の足は無意識に後退りする。
「アンキロベイルスを殺したおまえと俺がか?」
「え?」
耳を疑った。でも聞き間違いではなかった。胸倉を捕まれ――――
「ずっと、狙ってたんだぜ?誰にも疑われずにおまえを始末できるのをな。いつかこんな時が来るだろうってな!狙ってたんだよ!!」
――――そのまま壁へ力一杯に押し付けられた。
「かはっ……」
菜摘は苦しげに咳込むが壬琴は押さえつける手を緩めない。
「もう一度聞くぜ!?アンキロベイルスを殺・し・た!オ・マ・エ・と!!なんで仲間なんだ?」
「……!み…壬琴?!」
笑いを浮かべながら菜摘の首を締めて行く。
「で、息が何だって?」
菜摘の瞳に涙が浮かぶ。
抵抗する気力さえ削がれたように、菜摘の腕がダラリと脱力していった。
☆
「何で殺さないデビ?」
窓の外から覗き込んだビビデビが尋ねた。
「後々の事を考えればね。生かしておいたほうがいいだろ」
「壬琴さ……いや仲代壬琴とぶつけるためデビか?」
「そうさ。仲代壬琴にはヒールになってもらう。彼のキャラなら疑いを晴らそうなんて努力はしないだろうしね」
シュリケンジャーは壬琴の顔で笑った。
「OK.ユーももう一仕事だ」
「ビビッ」
軽く敬礼してシュリケンジャーの手から赤いツナギを受け取る。
「これを来てうろつけばイイデビ?」
「そうしたら後はミーが最後の仕上げと行くよ。終わったらメレを追ってくれ」
「わかったデビ!シュリケンジャー様も頑張るデビ」
「サンキュー!ビビデビ。ユーは本当に良く働いてくれる」
菜摘のウィークポイントをシュリケンジャーに教えたのもビビデビだ。
ここまで来てスネに傷を持たない者などいない。
ビビデビとシュリケンジャーはニヤリと笑みを交わす。
「問題はお坊ちゃんさ。せめて言われたとおりに待機してるといいけど」
待機場所は始めに捕らえられていた倉庫の裏手の焼却炉。
お坊ちゃんに命じたのは待機なのだが。
「ま、ミーが点けた以外に火の手は上がっていないしね。オッケーだろう。大人しく待っていてくれた分、最後にはハデに動いてもらうさ」
「そうビビ〜」
「じゃあ、ビビデビ。再会とお互いの検討を祈って☆バイバーイ」
手を振ってシュリケンジャーは窓からスッと消え去った。
「……シュリケンジャー様も大変デビ〜。だけど〜」
赤いツナギを手にビビデビは倒れている菜摘を見て爆笑した。
「コイツい〜いキミデビ!」
予想以上に自分を痛め付けた菜摘。今は惨めにTシャツと下着姿で床に転がっている。
「ビビ〜!名案が浮かんだデビ〜〜」
ビビデビは後ろにあるロッカーへフワフワと飛んだ。鼻歌を歌いながらロッカーを物色しはじめる。
「ビビ〜あったデビ」
816
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:06:13 ID:???0
すぐに目当ての物は見つかった。
それをパサリ、と菜摘の上へ掛けた。
白衣に包まれた菜摘が大きな種に見えた。
「これでお坊ちゃまが失敗してもオッケーデビ。コイツの他に誰か生き残ったらビビビ〜。仲代壬琴はもっと疑われるデビ〜ビビデビビ〜」
大切な種に栄養を。これからどんな芽を出すのだろう。そして、どんな花を咲かせるのだろうか。
☆
「くそっ、どこ行っちまったんだヒカル!」
屋上にヒカルの姿が見えない。
しかし階下に居た様子も無かったのだ。
3方から上がる炎は勢いを増して行く。
先程聞こえた地鳴りのような音と粉砕音の発生源は、おそらく壬琴と菜摘の居る場所の近く。
焦りが映士の胸を衝く。
「一旦戻らねぇと!だが……」
映士はもう一度、辺りを捜索する。
給水塔の影、突き出た排気口、囲われたフェンスの裏まで、ぐるりと辿った。
「ヒカル、いねぇのか?ヒカル!」
誰もいない、否、視界の端、自分が通って来たドアの辺りで赤い物が動いた。
「誰だ!菜摘か?」
赤からまず連想したのは菜摘だ。
いや、菜摘ならば声を掛けるはずではないか?
「出てきやがれ!」
映士は大股でドアへ近づくが、去った後なのか見間違いだったのか誰の姿もない。
階段を駆け降りる音は聞こえないかと耳を澄ますが、非常ベルが邪魔をする。
「チッ、聞こえねぇか……。違う……誰の声だ!」
非常ベルに混じって微かな呻き声が聞こえた。
「ヒカルか!どこだ?」
「え、映士…かい?」
声は上から聞こえる。
「待ってろ!今行く」
ヒカルはドアの上、階段を囲う屋根の部分にいるようだ。
映士は壁に埋め込まれた鉄の梯子をよじ登った。
ヒカルが頭を押さえて倒れている。
「あの偽者ヤローにやられたのか?」
「解らない……。火の手が上がって、それが何か見極めようとしていたら、下で凄い音がしただろう。
戻ろうとしてドアを開けたら、誰かに殴りつけられて。非常ベルのせいで物音に気付かなかった」
「やった奴は見てねぇんだよな?」
「あぁ、すまない」
映士はヒカルに肩を貸し身体を持ち上げる。
「……おいヒカル、ジャケットはどうした?」
「え?」
ヒカルは自分の身体へ視線を落とす。
「……奪われちまったようだな、くそっ。急いで戻るぜ」
「あぁ、アイツがボクに成り済ましている。菜摘が心配だ」
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!映士は心の中で何度も吐き捨てた。
(もう菜摘は……。菜摘は殺されてるかもしれねぇ!)
あの時、映士には聞こえていたのだ。バラバラになるなという菜摘の声が。
映士は痛烈に後悔しながらヒカルと共に階段を駆け降りた。
「菜摘!」
駆け寄って呼吸を確かめる。まだ息がある。
白衣は被せてあるがツナギを脱がされている。
命があったことにはほっとしたが、その姿を見てすぐに怒りが勝った。
菜摘に掛けられた白衣、屋上で横切った赤い者の正体。そして奪われたヒカルのジャケット。
「あのヤローの仕業か!」
捕まえたはずの二人は?この炎はあいつらの?壬琴とメレは、ビビデビは?
「考えても仕方がねぇ!」
映士は窓からカーテンを引き千切ると菜摘の身体を包んだ。
「しばらくはこれで我慢してくれ菜摘。ヒカル、火が回る前に行くぜ」
菜摘を抱え階段を駆け下りる。
「ヒカル、菜摘と先に逃げてくれ。俺様は他のヤツを」
「解った。後何処かで落ち合おう」
「スタジアムに行っててくれ。たのむヒカル、絶対に離れるなよ。菜摘を起こしてすぐ逃げろ!」
炎を突っ切って映士は、メレが居たはずの倉庫へ向かった。
☆
「なぜ殺してしまわない?」
(オーノー!ビビデビと質問が同じとは。それじゃあ上に立てないぜ〜)
半ば飽きれつつも、シュリケンジャーは答を返す。
「次が楽になるようにさ。彼らはね、自責の念というのが強いのさ。 すべての正義も信頼も無くなって、丸裸になればどうなると思う?」
「ふん、回りくどいな……」
サラマンデスは言い捨てるとシュリケンジャーに背を向けた。
「ヘイ、サラマンデス、どこへ行くんだい?」
「知れたことだ。女は貴様の言うように泳がせるのもいいだろう。この期に残りを始末する」
「ン〜もしかしてリベンジかな。制限中だろう。持って行くといい」
ゴウライチェンジャーを渡しウインクした。
817
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:06:46 ID:???0
「フーゥ、全く対したお坊ちゃんだ。こういうのはお膳立てが大事なんだけどね……おっと、サラマンデス、ウエイト」
去ろうとするサラマンデスをシュリケンジャーは呼び止める。
こちらに近づいてくるのは、一度見たら忘れられないシルエット。
シュリケンジャーはサラマンデスに囁く。
「そっちの様子はミーが見に行こう。ユーにお客さんだよ」
☆
裕作は走る。
倉庫まで後もう少し、そこへ前方からやって来る人影が見えた。
咄嗟に身を隠す裕作。気付かれぬように覗けば、走って来たのはヒカルだった。
「おい、ヒカル?なんでここに……。おまえ屋上にいたんだろう……?」
「あぁ、だけどメレが出て行くのが見えたからね。確かめに降りたんだが……」
「あいつ等は?」
「居なかった。たぶんこの炎もヤツらの仕業だ。他の皆は?」
裕作は一瞬どう答えるか躊躇った。
「映士はおまえを捜しに屋上へ行った。俺は倉庫の様子を確かめにね」
「なら戻ろう。壬琴や菜摘も部屋に?」
戻ろうとするヒカルの手を裕作が掴む。
「おまえ、ヒカルだよな」
「何を言ってるんだ。当たり前じゃないか」
ヒカルは邪険に裕作の手を振りほどく。
何故だ?必要以上に刺々しく感じるのは、もしかしたら変装を見抜かれないためでは無いだろうか。
「もしかして、あの変装の得意な男だと思っているのか?冗談じゃない!」
「証明できるか?」
「証明できるかだって?ふざけないでくれ。キミのほうこそ本当に裕作なのか?この炎の中一人で行動するのなんておかしいだろう」
牽制代わりにポケットのケイタイザーに手を掛けるが制限中なのが悔やまれる。
「ヒカル、もし本物なら聞かせてくれ。何でサーガインを殺したんだ?」
ヒカルの端正な顔が歪んだ。
そして裕作の胸を指差して激昂した。
「何故だと、キミも本物なら自分の胸に手を当てて聞いてみればいい!キミも同意したんだろう。深雪さんの遺体から首輪を奪うことに!
ボクとドモンがどれだけ苦しんだか解るのか?!」
「俺はそんなことは知らない!言うはずがないだろう」
即座に反論するがヒカルは首をふった。
「……まぁいいさ。しらばっくれているのかどうかは、映士に聞いてみよう」
裕作は振り返る。そこには映士が立っていた。
「知らねぇ言うはずがねぇか、さっきは自分で認めておいてどういうことだ」
「待ってくれ映士。さっきの事とは話が噛みあって無い、そうだろう!」
裕作は映士に駆け寄る。
「映士、ボクを信じてくれ!」
ヒカルも映士に訴える。
二人の間に立つ映士は、まず裕作に目を遣り、次にヒカルへ目を向けた。
「裕作、下がってろよ。制限時間だろ」
映士は裕作を軽く制し、ヒカルに向き合う。
「残念だったな。ヒカルはジャケットを奪われている。俺様はそのことを知っているのさ!」
「なっ、映士待ってくれ!」
後ずさりするヒカル。
「往生際が悪いぜ!」
映士はブレスのキーを押す。
「 ゴーゴーチェンジャー、スタートアップ!」
眩い光に包まれ、映士はボウケンシルバーに変身した。
「偽者ヤローが!」
祐作を背に庇いながらボウケンシルバーはサガスナイパーの照準を定める。
「サガスナイパー!」
光線が逃げるヒカルの足元を浚って行く。
「くっ……。仕方ない」
ヒカルはグリップフォンを取り出す。
「ゴール・ゴル・ゴルディーロ!」
太陽のエレメントに包まれるヒカル。
「天空勇者マジシャイン!!」
そしてマジシャインへと姿を変える。
「なっ!変身したってことはこっちのヒカルが本物なのか?」
驚いた裕作へ映士が叫ぶ。
「まだ解らねぇぜ!そいつは魔法の鎧だが、魔法が使えなきゃ使えねぇシロモノじゃあねぇしな !!」
言い捨てるとボウケンシルバーは錫杖型へ変形させたサガスナイパーを横に振るった。
「サガスラッシュ!!」
「よせ映………ウアァァァッ……!」
横薙ぎの一閃に払われマジシャインの胸から火花が弾ける。
818
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◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:07:16 ID:???0
「グッ……。話を聞いてくれ」
蹌踉めきながらマジシャインは胸に手を当てる。
「なんだ?言っておくがてめぇを許すつもりはねぇぜ。どんな理由があろうがな!」
切り掛かかるボウケンシルバーの柄元を、マジシャインは両手をクロスし受けとめ叫ぶ。
「違う!ボクがヒカルだ」
「いい加減にしやがれ」
ボウケンシルバーはマジシャインを突き放し間合いを取る。
マジシャインは手を前に突きだし、ボウケンシルバーを止める。
「映士!広間でキミが最初に居た場所は、門から向かって左手奥、広間の隅だ。そうだろう」
「だからどうした?たまたまてめぇも近くに居たんだろう」
「そうじゃない。これはキミから聞いたんだ。そしてボクはキミに聞いた。もし広間でボクに自分の知らない未来の話をされたら信じられるかい、と」
ボウケンシルバーはまだ構えを解かない。
「この話を誰かにしたかい?ボクはしていない。そしてキミはこう言ってくれただろう」
「「俺様は信じる」」
マジシャインとボウケンシルバーの声が重なる。
「悪りィ!ヒカル!!」
構えを解き、ボウケンシルバーは剣先を降ろす。
「ちくしょう、でも菜摘が危なねぇことに変わりはねぇ!」
「話してくれ!」
「菜摘に何があったんだい!?」
事の顛末を訊ねる裕作とマジシャイン。
映士は菜摘をヒカルの偽者に渡して来たのだ。
「くそ、早く菜摘の所へ戻らねぇと!」
走り出す3人。そこで誰かが呼び止める声がした。
「その必要はないぜ。菜摘なら無事だ。今の所はな、手を出さないでもらっているのさ」
「おまえ、壬琴!」
声を上げるボウケンシルバー。
「待て本物か?おまえ」
尋ねる裕作を笑い飛ばす壬琴。
「はははッ、俺が本物だろうが偽者だろうがどうだっていいだろう。一つ教えておいてろうか。俺は最初からゲームをしていたのさ」
「ゲーム?」
問い返すヒカル。
「あぁ、殺し合いには乗らない。俺が本当にそう思っていると、5人騙せるか。
5人騙せたら、今度は殺し合いにスカウトしてくるヤツに乗ってやろうってな。おまえらのおかげで目標オーバーだ。と言うわけさ、行くぜ!」
信じられないものを見るようだった。
「クロノチェンジャー!」
壬琴が嵌めていたのはクロノチェンジャー。壬琴の身体をグリーンの粒子が包んで行く。
「やめろ!」
裕作が叫ぶ。その前に出たのは映士だ。
「アイツは俺がやる。ヒカル頼む、もう一人のヤツから菜摘を」
「映士、しかし……」
「つべこべ言ってる時間はねぇ!ヒカル頼む」
マジシャインは頷いて菜摘の元へ走り去る。
怒りに震える裕作。
今ほど制限を無力に感じたことは無い。
映士はタイムグリーンになった壬琴の前に立ちはだかる。
「安心しろ裕作、俺様が必ず取り戻してやる!行くぜっ!!!!!」
☆
「客だと、誰かと思えば」
サラマンデスは振り返る。
こちらに歩み寄る巨躯は忘れようがない忌まわしい兄の姿だ。
憎悪か憤怒か、身体に猛々しいオーラ纏いサラマンデスを凝視し歩み寄る。
「これはこれは兄上。まだこのサラマンデスに未練がおありですか?」
「未練か……。未練と言えば未練よな……」
「ふ、笑止。貴様が未練に思うは母上グランディーヌのことであろう!
一度は死に、ここでも屠られ……。まだなお、母上の寵愛を欲するとはどこまで貪欲なのだ」
憤りのままに兄と対峙するサラマンデス。
ジルフィーザは、ただ静かに問いかける。
「そこまでにこの冥王が疎ましいか?」
「疎ましいなど、そのような言葉では生ぬるいわ。消え失せろ、塵一つ存在を残さずにな」
ククク、ジルフィーザの肩が揺れ微かな声が漏れる。
819
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:09:22 ID:???0
「許せ、愚かだが愛しい弟よ。このジルフィーザ、母上のため、そして何より貴様自身のために……」
泣いているのか、笑っているのかジルフィーザ自身も気付かぬ声だった。
そして反転。
「サラマンデスッ!!!!この冥王ジルフィーザ。冥王の名にかけて貴様を叩き臥せてくれるわ!!」
地の底から、いやまさしく冥府から響く咆吼。
サラマンデスは刹那たじろぐも、すぐさまゴウライチェンジャーを構える。
「笑わせるな!一度落ちた冥王に負けはせぬ!貴様など玩具相手で充分だ!!!ゴウライシノビチェンジ!!!」
サラマンデスは鍬形の装甲を身に纏う。
「クワガライジャー!」
腕を唸らせジルフィーザへ迫る。
「逝け!ジルフィーザァァァァァァッ!」
叫びながら喉元目掛け手刀を突き出す。
ジルフィーザは身動きできぬまま……。否、旋風の如く身体を反転させ避ける。
「おのれ!」
クワガライジャー振り向きざまに薙ぎ払う。
だがすでにジルフィーザは駆け抜けた後だった。
一足飛びで踏み込んでクワガライジャーは次々と切り込んでいく。
それをジルフィーザは手にした杖で捌き払う。
「愚かな、シュリケンジャー如きの甘言に惑わされ破滅の道を進むか!」
「ほざけ!」
同時に、ジルフィーザは杖を振り下ろし、クワガライジャーは手刀を突き上げる。
両者は弾き飛ばされ、数メートル挟んで再び対峙する。
先に仕掛けたのはクワガライジャー。
「破滅の道を歩むのは貴様だ!タアアアアァァァァッーーーーーーーーーー!!!!」
怒気を発し、叫びながら自らの腕を二つの刀と化しジルフィーザへ向かい真っ直ぐに飛んだ。そのまま両腕を引き構え即座に突き立てる。
「ハーハッハハハハァーーーーー!どうです兄上、これがあなたがくびり殺そうとした赤子だ!!貴様が疎み、恐れた、これがサラマンデスだァーーー!」
数歩後退しながらも、それを受けきり大音声で吼えるジルフィーザ。
「甘い!これしきの打撃が龍冥王とは片腹痛い。見るがいい!!」
ジルフィーザの掌より出現せし光球がクワガライジャーへ急迫する。
咄嗟に身を翻し、僅かな動作で打撃を繰り出すクワガライジャー。
ジルフィーザもまた寸前の間合いでクワガライジャーへと杖を振るう。
「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッーーーーーーー!!!!!!」
重なり合う二つの声と、躯を抉る鈍い音が不協和音を奏でた。
☆
「サガスナイパー!」
逆袈裟に切り上げてくる切っ先を間一髪避けるタイムグリーン。
怒りはMAX、フルパワーで切り掛かってくるボウケンシルバーに思いの他、苦戦を強いられていた。
(待ったく、冥王ブラザーズのおかげで予定が狂った)
もとよりこちらの相手はサラマンデスにさせるはずだった。
そのサラマンデスは追ってきたジルフィーザと戦闘中。
先程のジルフィーザの気迫ではサラマンデス一人では心許ない。
早く駆けつけてジルフィーザこそここで討つべきだというのに。
(さっさと終わらせるにはどんな手がいいかな)
逸る気持ちを抑え手を思案する。
早く終わらせなければならないもう一つの理由。それは制限だった。
タイムグリーンの変身解除後、シュリケンジャーになるまでは数分のタイムラグがあるのだ。
(たかが数分されど数分だからね)
加えて手負いの身。長引けば長引くほど敗北の可能性は高くなる。
「ヤアアアアーーーーーッ」
ボウケンシルバーが滑るように間合いを詰め、燕返しにサガスナイパーを振るってきた。
(くッ、中々やるね。パワーファイターかと思えば、スピードも鈍くない)
後方へ跳躍し攻撃を避ける。
(だけどタイムグリーンの方がスピードじゃ負けない。さぁ、メンタルはどうかな?)
さらに疾走して自らの距離まで間合いを取った。
「ハーーーーーーーーッ!タァーーーー!!」
低く構えた状態から地を這う蜘蛛の如く砂煙を上げボウケンシルバーへ近づき放つ。
「ベクターエンドビート9!」
ダブルベクターが、時計の9時を刺す。大振りに揺れる針がボウケンシルバーへ切り掛かる。
「ダアアアアーーーッ!!そんなもんで俺様が倒れるかよッ!喰らいやがれ!!!」
ボウケンシルバーはサガスナイパーを引き構える。
820
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:10:00 ID:???0
そして煌めきながら真っ直ぐ突き出されるは、鋭い打突。
だが、
「何っ……!!」
驚愕の声を上げたのはボウケンシルバー。
ボウケンシルバーが貫いたのは只の木片だった。
「HAHAHAHA!掛かったね!」
仕掛けたのはタイムグリーン。 超忍法抜け身を応用したまで。
ただしスーツは脱がず、木片に身を移しただけ。
そしてボウケンシルバーを抜き去ってその向こうの標的まで一気に詰め寄る。
そう、砂煙に片手で顔を覆い、立った今気付いた裕作へ。目を見開いて標的は自分だと気付いた裕作へ。
「や……止めろーーーーーーー!!!」
叫ぶボウケンシルバーの声に耳は貸さず。
容赦なく、躊躇なく、ダブルベクターの刃先を裕作の生身へ向ける。夕陽と炎に刃先を橙色に煌めかせ。
「サガストライク!!!」
光の銃弾はタイムグリーン捕らえたはず。
否。
タイムグリーンは元より忍者、加えてスーツの特性を生かしただけ。
盾となった裕作は、声も無く白目を向いて倒れて行く。
「あ……、う、嘘だろ……」
茫然自失。声を上げるのはボウケンシルバー。予想通りに弱いメンタル。
音も無く摺り足で近づき静かに放つ必殺は……。
「ボルパルサー」
文字通り、ぽっかり胸に穴が空いたボウケンシルバー。
「HAHAHAHAHAHA」
タイムグリーンは低く笑い、サラマンデスの元へと踵を返す。
その背後に、ゆらりと亡霊のような影と声。
「まだ……。終わりじゃ…ねぇ……」
ゆっくりと振りかぶり、シルバーブレイザーをタイムグリーンのマスクに突き立てたのは裕作。
だが悲しいかな、生身の力では傷をつけること叶わない。
「頼む……シオンの、シオンのスーツ……なんだよ」
そう言いながらもう一度マスクへシルバーブレイザーを突き立てた。
ずるり、それは涙を浮かべた裕作の身体が地に倒れ込む音。
「お坊ちゃんの様子を見に行かなきゃね」
溜息混じりに背を向けるシュリケンジャー。
亡霊はもう一人。背後へ忍び寄る。
「悪いが……俺様は……諦めが悪くてなぁああああああーーーー…………。やっぱ…無理か……」
ダブルベクターの切れ味は最高。
無言で薙ぎ払えはそれだけで終わりだった。
残心を示すタイムグリーンも、最期に浮かべた映士の寂しげな笑いには、ジョークの一つも出てこなかった。
☆
「一体どういうつもりだ!」
クワガライジャーは怒声を発した。
二人の攻撃がぶつかり合うかと思われた瞬間。
ジルフィーザは杖を振るわずクワガライジャーを受け止めるように両手を拡げた。
寸前でクワガライジャーは攻撃の手を弛めたがジルフィーザの胸に両手の甲までが食い込んでいる。
それを抜こうとするクワガライジャーの両腕をがっしりとジルフィーザが掴んでいるのだ。
まるで自らがクワガライジャーの両手を胸に突き刺すように、クワガライジャーの両手を抱え込んでいる。
「サラマンデス……」
ジルフィーザの目に怒りは無い。ただ突き抜ける空のようだ。刹那そう感じたクワガライジャーはそれを即座に否定する。
「何を謀る!ジルフィーザ」
ただ空のようなその双眸から何故か眼を離せずにいる。
「今、貫いたのはこのジルフィーザであり、おまえ自身だ。憎悪の中で生まれたサラマンデスはたった今死んだのだ。
ドロップ、この手でおまえの手を握らず、なぜ俺はおまえの首を絞めたのであろう……」
クワガライジャーの仮面の下で、ドロップは思い出す。
「愚かだ…愚かな……」
かつて感じた愛おしいぬくもり、そっと置かれた兄の暖かな手を。
「この……愚かな兄と同じ道を辿るな。何が冥王か、何を持って王か……。母上の愛に目が眩み。何も映さぬ眼を持って何が王か……!」
胸を付くこの感情は何なのだ。認めるわけにはいかない。冥王は2人はいらないのだ。
821
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:11:08 ID:???0
「なっ、貴様何を」
ジルフィーザの片手がクワガライジャーのマスクへ。
「兄として男として道を示してやれず……。済まぬ。強くなったな弟よ」
蘇る。頬を撫でる、兄の大きな手。その手は今マスク越しにドロップの頬を撫でている。
「花は土へ、雨は水へ、死者は死者へ還る。その前にドロップ、道を誤るおまえを。いや、もう一度この手で撫でてやりたかった」
本当は知っている。
知っているのだ。
幼い自分を撫でたその手を。
「兄……上…」
ジルフィーザの胸からそっと腕を引き抜く。ふと、気付く気配にクワガライジャーは身構える。
「今更、兄弟仲良くお涙頂戴とは笑わせるねっ」
そこにはベクターハーレーを構えるタイムグリーンがいた。
タイムグリーンは初動が遅れたクワガライジャー目掛け、間髪入れずに斬りかかって来た。
「おのれ!」
怒りを漲らせたジルフィーザが杖を構え、クワガライジャーを突き放した。
「ここはこのジルフィーザに任せ退けィ!ドロップ」
「ヘイ、麗しい兄弟愛だね」
背後へ肉薄したタイムグリーンはジルフィーザの腕から杖を奪い取った。
「YA!」
そのままジルフィーザの太股へその杖を突き刺す。
「グワッ……!」
灼熱の痛みにジルフィーザは呻きを漏らす。
本来ならばこれしきの痛み、跳ね付ければ終わりのはず、しかし制限が切れたのだ。身体が沈んで行く。
だがジルフィーザは耐え足を踏みしめ叫ぶ。
「何をしている。ドロップ退け!」
無力さを思い知らしめるかのように、タイムグリーンは杖を深く深く突き立てジルフィーザを地へ張り付ける。
「謀反を企てられるのは君主としてのユーに魅力が無かった。それは解ったみたいだね。そして……」
跳躍したタイムグリーンは、クワガライジャーの背後に廻り背中へ手刀を振り下ろした。
「グアッッ!」
サラマンデスの纏っていた鍬形の装甲が解けた。
「君主を平気で裏切る真似は、忍としてのミーが許せない」
倒れるサラマンデスの耳元でゆっくりと囁いた。
「ヘイお坊ちゃま。ユーはここで死んだほうがいい。サイマ一族のためにもね☆」
言うや跳躍して一瞬で距離を取る。
「グッ、おのれ!我が弟を愚弄するか」
怒りを表にしたのはサラマンデスでは無くジルフィーザだった。
「ビンゴだろうジルフィーザ!ユーたちでは一族を引っ張る力なんてナッシング。さぁ、兄弟仲良く冥土で反省会でもするといい」
「弟には指一本触れさせぬ!」
「ホワイ?止められると思うかい」
ジルフィーザへ身体を向けた瞬間、パンッという音と共にタイムグリーンの頭が除ける。
すぐにもう一度。
パンッ!
タイムグリーンに向けられていたのは一つ目のライフル銃。
ジルフィーザがライフルを構えタイムグリーンを狙い撃ったのだ。
「オーノー!ジルフィーザ。それは余りにも無茶な攻撃だ。」
軽く嘲りながらマスクの目元を指でパンッと弾く。
ジルフィーザは無言でもう一度引き金を弾く。
「ヘイ、冥王のプライドはどう……」
パンッ。軽い音がマスクを弾く。
「いらぬ。プライドなどいらぬわ」
パンッ!再度引き金を引いたジルフィーザは、倒れているサラマンデスに一度視線を落とした。
退け、ジルフィーザの眼が言っている。
「なら望みどおりジルフィーザ、ユーから送ってあげるよ」
タイムグリーンはツインベクターを構えた。
不意にサラマンデスへ振り返り、
「さぁ、どうするサラマンデス。ラストチャンスだ。ユーはまだ若いし、まだまだ可能性がある。ミーに付くならブラザーの命がある内に言うんだね」
怒りに拳を握りしめ炎柱を立ち上げながらサラマンデスが叫ぶ。
「ウワアアアアアアーーーー!」
「HAHAHAHA、なんてね☆いくらユーでもこれは嘘だって解るはずだね。
どうやら制限が解けたみたいだけど。でもそんな炎!ミーには火遁の術ほど効かな……」
パンッ。
また同じように軽い音だった。
だが次にピシッと異質な音がマスク全体に走った。
サラマンデスの炎が迫っていた。
822
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:12:49 ID:???0
渦を巻き龍の如く眼前へ襲い掛かる炎の圧力でタイムグリーンのマスクは粉々に砕け舞い散った。
サラマンデスが叫ぶと同時にジルフィーザは最後の銃弾を放ったのだ。
「グアア………………ッッアアアーーーーーーッ!!!!」
炎がマスクの中の素顔を舐めるように広がり焼いていく。
「ン………グァアアアーーーー!ァオ……ノーーーー!」
のたうちまわりながらタイムグリーンは変身を解除した。
「ウ……グッ……」
呻き声を上げ立ち上がろうと膝を付いた。
ガクリと、体勢が崩れた時。
「……!?」
スルスルッ。
そうホットミルクに張った皮膜を、スプーンに絡めて剥ぎ取るように、むしろそれより滑らかに。
焼け爛れた皮膚がシュリケンジャーの頬から落ちる。
「…………」
シュリケンジャーは声も出さず地に流れた素顔を見つめ、やがて狂ったように笑い始めた。
「HAHAHAHAHA!!!!HAHAHAHAHAAAAAA!!!!!!!!ガッデム!背後は炎!前には冥王ブラザーズ!ミーは万事休すだ!」
シュリケンジャーの制限が解けるまで後たった数分だった。そして奇しくもゴウライチェンジャーはサラマンデスの手にある。
「だが敢えてサンキューと言っておくよ?素顔を晒して死なずに済むそれだけが救い……。このシュリケンジャー!引き際は自ら引くさ☆さらば」
シュリケンジャーは身を翻し炎の中へ飛び込む。
御前様と心で名を呼び命の尽きる時を迎えようとした。
だが一陣の風のように、炎を突き進む影が現れた。
悲しげな遠吠えを発し飛び込もうとしたシュリケンジャーを背に乗せ駆ける。
「兄上!あれは」
「ぬう、マーフィー!?」
驚愕の声をあげるジルフィーザ。
「マーフィー?ユーがミーを助けてくれたんだね」
マーフィーの首に抱き着いたシュリケンジャーは笑いながら懐に手を忍ばせた。
「うーん、やっぱりミーはまだ死ぬには早いようだ。ヘイマーフィーご褒美だ!」
シュリケンジャーは奪った支給品からキーボーンを取り出しポンと放り投げた。マーフィーはキーボーンをジャンピングキャッチ。
そして変形して行く。
「HAHAHAHA!」
眼窩が飛び出るほどシュリケンジャーは興奮した笑いを立てた。
「アイムラッキー!ユーアーグレイト!!」
バズーカへ変形したマーフィーはシュリケンジャーの腕へ。
「OKマーフィー!行くぜ、アイツらは悪者だ!GOー!!」
バズーカとなったマーフィーから光弾が発射される。
幾重もの光の触手が一斉に獲物目掛けて伸びて行くようだ。
「グアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
両手を限界まで広げ、ジルフィーザは身がすくむほどの雄叫びを上げた。
「あ、兄上ェーーーーーーーーッ!!!!」
サラマンデスの叫びとジルフィーザの雄叫びが重なる。
魂さえも震わせる炎の中の共鳴。
そして着弾と共に視界は真っ白に染まった。
「ミーもこの傷だし。一旦ここでグッバイさ。次に合う時はユーの知らない顔だけどね!」
真っ白な世界に、シュリケンジャーの声が韻を残した。
☆
「……ウ……ウウググアアアアーーーーー!……何故?何故だ」
悲痛な叫びが反響する。
ジルフィーザの前に腹部に穴の開けられたサラマンデスが立っていた。
「め……冥王…今……しばらくの…お待ち……を」
話すのもままならぬサラマンデスは、ジルフィーザに突き立てられた杖を抜こうと手を伸ばした。
「何故……。何故だ、退けと言ったはず……」
サラマンデスはただ首を横に振った。
杖を掴み、引き抜こうと力を入れるたび、サラマンデスの身体からは夥しい血液が飛び散った。
「何故だ。ドロップ!」
それでも力任せに引き抜き、杖をジルフィーザへ握らせる。
ふらり、力尽きたかサラマンデスは前へ倒れ込んだ。
823
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:13:27 ID:???0
ジルフィーザが抱き起こそうとするもそれを片手で制す。
そしてそのままジルフィーザへ向かい跪いたのだ。
「とり急ぎご報告を……」
麗、美希、ティターン、そしてドロップのために命を落とした巽纏。
ジルフィーザと出会えた後からここまで。そしてシュリケンジャーの狙い。
知りうるすべてをつぶさに克明にサラマンデスは語り上げた。
全てを語り終え、ついにサラマンデスは崩折れる。
咄嗟に手を差し伸べるジルフィーザを再び制す。
「せめて、最期は誇り高きサイマ一族として、冥王にお仕えして逝かせて頂きたいのです」
明瞭な声ではっきりと告げる。
「貴様の忠義、確かに受け取った……」
「ありがたき幸せ」
そのまま目を閉じて逝くつもりだった。
「どうぞ、冥王。私に……構わず…。お進みくだ…さい」
「うむ……」
だが去りゆく兄の背中をもう一目だけ、と。
霞む視界で見つめ、大きく息を吐く。
これが最期の言葉になるかもしれない。兄の大きな背に向け、サラマンデスは声を振り絞った。
「御武運…を……」
もう役目は終わった。
爪先から徐々に力が抜けていくようだった。
「……!?」
倒れ行くサラマンデスを受け止めたのは大地ではなく力強い腕。
力の抜けていく身体を抱き留める腕がある。
「許せ、おまえの望むままに送ってやれぬ、この愚かな兄を……」
サラマンデスの肩をジルフィーザが抱き留める。
「死ぬなっ、死ぬな……。死なないでくれ!愛しい我が弟……ドロップッ!」
――――……見つけ…た。お兄……ちゃん。
ジルフィーザの腕の中で最期にサラマンデスは穏やかに、微笑んだ。
「ねぇ。お姉ちゃん、見える?これが兄上。ボクのお兄ちゃん…だよ……」
事切れる前だった。
誰にも聞こえないほどのほんの小さな声で、はにかみながらドロップが呟いたのは。
【高丘映士 死亡】
【童鬼ドロップ 死亡】
【早川裕作 死亡】
残り18名
824
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/04/11(日) 14:14:35 ID:???0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。理由不明のイライラ。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:シュリケンジャーの話を頼りに理央の元へ。
第二行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)に復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
メレの(他一品と表記)不明支給品は聖聖縛@獣拳戦隊ゲキレンジャーでした。
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。ビビデビにやられました飛行中です。
[装備]:ダイノマインダー、ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー 、ダブルゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、
[道具]:なし
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:次元虫の解体手術を行う予定でしたが……。
第二行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第三行動方針: 首輪の解析。
備考:ダイノハープを見つけました(麗へ支給された何かの鍵でした)アバレブラックへの変身が可能となります。
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。 2時間能力発揮不可能。
[装備]:なし
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:シュリケンジャーの配下として動く。
第二行動方針:メレを追う。
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:健康。現在は素顔。 顔面全体重度の火傷。 シュリケンジャーへ後数分、タイムグリーンへ2時間変身不可能。
[装備]:スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー 、シュリケンボール 、クロノチェンジャー(タイムグリーン、マスクが割れています)
[道具]:知恵の実、映士の不明支給品(確認済)、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式×4(水なし)SPD隊員服(セン)
キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、両方表のコイン
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。 それがだめならアレの消滅を願う。
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
・集められた支給品一式の内、炎の騎馬@忍風戦隊ハリケンジャー、はG6エリアに放置されています。
825
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/05/26(水) 17:24:24 ID:???0
そして。
急に嗚咽がやんだかと思うと、
「ねぇ〜〜〜〜。ヒカルぅ、正義って何?」
虚ろな瞳で菜摘は言った。
「菜摘?」
「ねぇ、正義って何なんだろう。映士たちにこんな事したヤツを殺してやりたいよ」
「やめてくれないか、映士たちがなんて思う」
「私たちが今までしてきた事の逆を考えれば、私たちは何なの?私たちって正義って言えるの?」
菜摘の剣幕に口ごもるヒカル。
正義とは、問われて明確な答がなぜか見付からない。
ただ掛ける言葉も無く、肩に手を置こうと菜摘に近づいた瞬間、ヒカルの足は止まった。
思わず振り返らずには居られないほどの恕気を背後に感じた。
「どうした。答えないのか?聞かせてもらおう人間よ、貴様等の言う正義とは、何だ……」
黄金色の体躯、悪魔のような翼と角を持った男、ジルフィーザは弟ドロップの亡骸を胸に抱えていた。
一瞬、逃げるか?否か?どちらを取るかと考えが脳裏を横切るが、力無く座り込んだままの菜摘をつれて逃げ切れるとも言い切れない。
「菜摘、下がっていてくれ。正義をボクにそれを聞いてどうする?満足できなければボクたちを殺すのか」
「満足?殺すだと?そのような言葉では生温いわ!!滅ぶがいい人間どもなど!弟の命の代償は星を丸ごと潰したとて到底足りぬわ!!!」
ジルフィーザが動く。
唸り声と共に振り上げた杖の先はヒカルの脇腹を狙う。
一瞬の出来事だった。杖の先が直撃する直前、ヒカルはサンジェルに姿を変えとっさに呪文を詠唱する。
「プロミネンスシュート!」
視界全体を包むほどの光がジルフィーザへ向かって収束を始める。
「ジンライシノビチェンジ!!」
ゴウライチェンジャーを装着し距離をつめるジルフィーザ。
炎を背に二人は対峙して、そして……。
826
:
◆MGy4jd.pxY
:2010/05/26(水) 17:24:59 ID:???0
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。 1時間半マジシャインに変身不能
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー 深雪の残したメモ
[思考]
基本方針:時間を戻し、歴史の修正を行う。(情報を映士、深雪へ伝える。世界の崩壊を止めるための死に場所は広間)
第一行動方針:歴史の修正を行うための準備をする(情報集め)
第二行動方針:菜摘を捜す。
第三行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。また、映士から情報を得ました。
マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:胸、太股に深い傷。ドロップを失い深い悲しみと怒り 一時間半能力開放不可
[装備]:杖 、ゴウライチェンジャー(クワガ)@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、予備弾装(催涙弾5発)、サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(バンキュリア)
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの死に深い悲しみ
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:G-6都市 1日目 夕方
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。 Tシャツと下着姿。カーテンを纏った状態です。 一時間程度イエローレーサーに変身出来ません。
[装備]:アクセルブレス 、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:なし
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:気絶中
第二行動方針:仲間(シグナルマン)を探す。
備考:
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。
※菜摘の衣服はG6エリアで燃えたと思われます。首輪(ドギー、深雪、アンキロ)、サーガインの死体(首輪付き)はG6エリアに放置されています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと裕作から掻い摘んだ説明は受けました。
827
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:46:17 ID:???0
規制中のようなので、こちらに投下いたします。
828
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:46:56 ID:???0
宙に浮かんだかのような浮遊感。だが、それを感じたのも一瞬のこと。
重力という何者も抗えない力に押され、壬琴の身体は真っ逆様に落ちていく。
地面を覆うのは不幸にもアスファルト。
クッションになるようなものはなく、このまま自由落下に任せれば、壬琴の白いコートが赤一色に染まるのは免れないだろう。
「ちっ!」
自らが置かれている状況を把握した壬琴は、懐から蝙蝠を模した扇を取り出す。
「ゲキファン!」
広げた扇に空力を集め、重力に逆らうように方向をコントロールする。
すると、たちまち落ちる一方だった壬琴の身体は反転し、弧を描いた。
後はゆっくりと落下していけばいい。
危機を回避したことに、壬琴は心中でホッと息を吐く。
だが、その瞬間、壬琴の右半身を衝撃が襲った。
何事かと視線を向けると、粉々に砕け散った看板が眼に入った。
それは壬琴にしては有り得ないほどの単純なミス。
浮かび上がった身体は、集まった力の差でわずかに右にそれ、突出した看板に自ら衝突したのだ。
(馬鹿な)
動揺は連鎖を引き起こす。
右の翼を失った鳥は、いくら左の翼で羽ばたこうとも飛べはしない。
結果、壬琴はアスファルトの地面に叩き付けられた。
「ぐぉっ!」
壬琴の口から血反吐混じりのくぐもった悲鳴が上がる。
高さが修正されたおかげで白いコートが染まるのは免れたが、受けた痛みは軽いものではなかった。
応急処置をした胸部や腹部の傷にも影響を及ぼすことだろう。
「……やってくれるじゃねぇか、ビビデビッ!」
痛みを堪えながら、この現状に陥れた相手の名を口にする。
「シュリケンジャーに乗せられたか?それにしたって、どこかのワニよりかは余程、優秀な奴だ。この借りは返してやるぜ」
壬琴は自らの拳を力強く握ると、一息で立ち上がった。
身体が休息が欲しいと悲鳴を上げるが、身体の主たる壬琴はそれを叱責する。
「ようやく面白くなりそうだ。あいつらが俺がいない間に何をするつもりか。俺があいつらの立場だったら何をするか。……ときめくぜ」
829
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:47:43 ID:???0
壬琴は最悪の展開を思い描き、口元に笑みを浮かべた。
▽
アスファルトの道にマシンハスキーを走らせる蒼太。
ネジブルーたちとの一戦の後、道すがらに目にしたスタジアムの探索を収穫なしで終え、彼は今、暁たちの下へ帰還している最中だ。
さくらの気持ちを察し、別行動をとってからおよそ6時間。
気持ちを切り替えるには足りないかも知れないが、暁との交流には充分な時間だろう。
それでさくらが立ち直ってくれるのを祈るのみだ。
ディパックからアクセルテクターが消え去ったことは確認した。
それは暁が変身した証であり、変身が必要とされる事態が起こったことの証左。
暁のことだ。事態の鎮静化は間違いないだろうが、これから2時間の間、彼は無防備になる。
戻ると決めた以上は急ぐに越したことはない。蒼太はアクセルを噴かした。
だが、そんなときに限って、厄介事は舞い込むもの。
エンジン音を聞きつけたのか、ビルの陰から白いコートの男が蒼太の前に姿を現す。
「よぉ」
殺し合いの場だというのに、まるでタクシーを止めるような気安さで手を上げる男。
蒼太はその男の名前だけは把握していた。仲代壬琴だ。
進路を遮る壬琴に、已む無く、蒼太はブレーキをかけ、彼の前で停止した。
「何か用ですか?それなりに急いでるんですけど」
彼が目的か気になりつつも、あえて積極的に関わろうとせず、おざなりな対応をする蒼太。
壬琴はその態度を特に気にした様子もなく、左手を差し出す。
「地図を貸せ。ちょいと調べたいことがあってな」
「地図?ああ、道に迷ってるんですか。なら、どうぞ」
蒼太から地図を受け取ると、壬琴は直ぐに眼を通し始めた。
「なんなら、プレゼントしますよ、それ。今は単独行動中ですけど、もう直ぐ仲間と合流予定なんです」
壬琴のスタンスを見極めようと、蒼太はふたつの餌をぶら下げる。
殺し合いに乗っているのなら単独行動という餌に、脱出を目指しているのなら仲間という餌に喰いついて来るはずだ。
「でも、タクシー代わりはご免ですよ。バイクに乗る時は、後部座席に乗せるのは女の子だけって決めてるんで」
830
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:49:22 ID:???0
軽口を叩き、相手の反応を見遣る。だが、壬琴はこちらの言葉を気にした様子は見せず、見終わった地図を投げ返す。
「知りたいことはわかった。じゃあな」
そして、別れの言葉を口にすると、蒼太の横を通り過ぎ、そのまま去って行った。
▽
「こいつは派手にやったもんだ」
黒く煤けた大地に、壬琴は感嘆の声を漏らす。
道に迷い、それ相応の時間が経ってしまったとはいえ、1人が使える時間が10分ということに変わりはない。
そして、突然の第三者が紛れ込まない限り、シュリケンジャー側の戦力は精々2人と1匹。対して、こちらは4人。
だが、スタジアムと似たこの有様を見れば、どちらが戦局を有利に進めたかは明らかだ。
周辺を歩きながら、壬琴は更に思考をめぐらせる。
死体らしきものは見えない。骨まで残さず燃やし尽くされたのか、誰かが回収したのか、それとも、誰も死ななかったのか。
しかし、この場に生存者の姿も見えないということは菜摘らにとってあまり愉快な結果にならなかったことは想像に難しくない。
「この有様じゃあ、ここにいても無駄だな。さて、これからどうするか」
「じゃあ、僕と一緒に行動するのはどうです?」
ひとり言に対して返された言葉に、壬琴は驚きもせず、声の主の方を向いた。
「なんだ、付いて来やがったのか」
振り向けばそこにいたのは蒼太だった。
蒼太は相変わらずの飄々とした様子で言葉を紡ぐ。
「そりゃあ、あんな態度取られれば気になるでしょ、仲代壬琴さん」
「ほぉ、俺のことを知っているのか。誰から聞いた?」
「別に誰からも。ここに飛ばされるのはあいうえお順だったでしょ。僕は最後の方だったんで、顔と名前を覚えているだけですよ。
ああ、僕は最上蒼太っていいます」
「で、その蒼太さんは仲間と合流するつもりじゃなかったのか」
「そのつもりだったんだけど、まあ、連絡は取り合ってるし、色々あって、特に急いでいないんですよ。
それより、今はあなたの方が気になる。殺し合いに乗ってはいないようですし、かといって積極的に仲間集めをしている風でもない。
仲代さんが何を目的に動いているのか、僕が一番気になっているのはそこです」
「べらべらとよくしゃべる野郎だ」
「そりゃあ、おしゃべりはコミュニケーションの基本ですから」
831
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:51:16 ID:???0
「へっ。まあ、いい。俺の目的はロンを倒し、このゲームを破壊することだ。
だが、生憎とゲームの難易度は高くなさそうなんでな。ちょっと、面白くなるように細工した。
殺し合いに乗った連中が、ゲームクリア寸前の俺を標的にするようにな」
「で、その結果がこれですか」
「まあ、そういうことだ」
蒼太としては多少の皮肉を交えた言葉だったか、壬琴に動じた様子はない。
深い悲しみに呆けているわけでも、比類なき強さで表に出さないよう堪えているわけでもない。
・・・・
(なるほど、そういう人ってことか。昔の僕と同じタイプかな)
昔の自分。冒険のスリルやドキドキを求め、そのためには何を犠牲にすることも厭わなかった。
壬琴からはそんな昔の自分と同じ匂いがする。
しかし、だからといって、IT企業の社長の時のようにお節介を焼くつもりは毛頭ない。
殺し合いに乗っているのならともかく、今の彼は敵か味方かの二元論でいえば、味方の方に天秤は傾く。
それに仲間として考えるのは危険だが、パートナーとして捉えれば、壬琴は申し分ない。
「とりあえず、さっきも言いましたけど、僕と一緒に行動しませんか?
仲代さんに色々聞きたいこともありますし、逆に僕から話せることもある」
早速、蒼太は勧誘の言葉を口にする。
壬琴は蒼太のにやけ顔をまるで値踏みするかのように観察し、じっくり考えると言葉を返した。
「いいだろう。ただし、俺には約束がある。まずはそちらを優先させてもらう」
「その約束の内容を聞いても?」
「賭けに負けちまったんでな、ここで解体手術をやらされることになっていた。
そいつが患者をここに連れ戻る手筈になっていたんだが――」
そこで壬琴は思い当たる。ここに死体が見当たらない理由についてだ。
「ちっ、俺がいない間に入れ違いになったか?そうなると厄介なことだぜ」
面倒くさそうに天を仰ぐ壬琴。
「仲代さん、もう少し詳しく教えてください」
端的にしか言葉にしない壬琴に、蒼太は情報の開示を求める。
832
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:55:25 ID:???0
そして、語られた情報は蒼太の顔を渋いものに変えた。
▽
「ここか」
「ええ」
蒼太と壬琴は共にバイクを走らせ、H6の海岸エリアまで移動していた。
蒼太が乗るバイクの後部座席に壬琴は乗っていない。
炎の騎馬。白鳥スワンに支給され、長い間、シュリケンジャーが利用していたバイクだ。
人も支給品も、全てが失われたと思われていた焼け野原に、唯一残されていた支給品。
その名の通り、炎に耐性でもあったのか、炎の騎馬はそのフォルムに一切の破損もないままに残されていた。
結果、壬琴は炎の騎馬に跨り、蒼太は男を後部座席に乗せることもなく、手早く移動することができていた。
「で、あれがそのオブジェか」
壬琴は目的の物に目を向ける。
タイトルを付けるとすれば、『機械兵と獣』とでもすればいいのだろうか。
コンクリートのようなもので塗り固められた機械兵と獣が激しく争っていた。
「はっ、立派なもんだ。口ほどにもないのはお互い様だったってわけだ」
わざわざ海岸エリアまで足を進めた理由。それは壬琴の話に上がった人物に蒼太が心当たりがあったからだ。
オブジェとなった機械兵の名前はグレイ。壬琴が待っていた約束の相手だ。
「で、これはどうやったら解けるんだ」
オブジェを一頻り観察した後、壬琴は蒼太に問いかける。蒼太はその問いにあっさりと首を振る。
「解除するためには特殊な薬剤が必要みたいですけど、残念ながら」
「そうか。じゃあ、仕方ねぇな」
壬琴は懐から、ダイノコマンダーを取り出す。
アバレブラックへの変身、それが最適な解だと判断したからだ。
だが、対になる鍵、ダイノハーブを構えたところで、壬琴の動きが固まる。
(流石にこれはあんなことにはならねぇだろうな?)
壬琴の脳裏に過ぎるのはクロノチェンジャーを使用した時の苦い記憶。
同系の型のないダイノコマンダーといえども、スーツがアバレイエローにすり替えられてはいないかと、杞憂とも言える事柄に不安を覚えてしまう。
そんなことを知らない蒼太は、壬琴の躊躇いに訝しげな表情を浮かべていた。
833
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:56:49 ID:???0
「ちっ、爆竜チェンジ!」
意を決し、壬琴はダイノハーブをダイノコマンダーに差し込むと、シリンダーを回転させた。
すると、それに反応して、ダイノコマンダーは壬琴のダイノガッツを引き出し、彼の身体をアバレスーツで包んでいく。
「無敵の剛毅木訥、アバレブラック!……で、間違いないようだな」
自分の身に纏った黒いアバレスーツにひとまず安堵する壬琴――アバレブラック。
そして、アバレブラックの鋭い眼光は再びオブジェへと移る。
「さて、やるとするか。ダイノスラスター!」
アバレブラックはダイノスラスターの柄にある目盛りを炎に合わせる。
そして、地面に突きつけると、グレイとネジビザールの彫像に向けて構える。
「ファイヤーインフェルノ!」
アバレブラックの呼びかけに応え、ダイノスラスターから炎が噴き出る。
噴出した炎は一直線に大地を走り、オブジェを包み込んだ。
燃え盛る炎は苛烈に彫像を熱する。その炎を瞳に映し、待つこと数秒。
「ガァァァァッ!!」
野獣の叫びが響き渡り、青色の獣が炎から飛び出る。
そして、それとほぼ同時に黒色の機械兵も炎から姿を見せた。
炎から逃げ出した二体は一瞬にして置かれている状況を判断すると、ネジビザールは吹雪を呼び、グレイは腕に内蔵された銃をアバレブラックへと向ける。
「待ちな、グレイ。俺だ」
引かれ掛けた引き金が止まる。
一瞬にして、アバレブラックが仲代壬琴とグレイは判断した。
だが、その横にいたのは自分を固めた張本人である蒼太。
壬琴の裏切りも警戒し、一歩引いたまま、彼は状況を見据える。
「へっ、まあ説明は後でしてやるよ。とりあえずそこで見てな」
グレイから向けられる視線からその意図を察したアバレブラックは、一笑に付すと、吹雪で炎を沈下したネジビザールに視線を移す。
「なんだい、いつの間にか増えてるね?まあ、いいや。まとめて氷漬けにしてやるよ!」
ネジビザールは吹雪の勢いを強める。冷えた空気が伝わり、生身の蒼太を凍えさせる。
「仲代さん、早くさっきのを。このままじゃあ凍ってしまう」
蒼太の声にネジビザールは余裕の笑みを浮かべる。
「無駄だよ。俺の氷はあの程度の炎じゃあ、掻き消せない」
だが、余裕では壬琴も負けてはいない。仮面の下で彼もまた余裕の笑みを浮かべると、ダイノスラスターの柄を動かした。
834
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:58:50 ID:???0
「スプラッシュインフェルノ!」
ダイノスラスターの呼びかけに応え、どこからともなく発生した大量の水がネジビザールの足元から吹き出る。
水はネジビザールから発せられる冷気に当てられ、一瞬にして凍りつき、彼の身体を拘束する氷の縛となる。
「どうだ?」
「へぇ、なるほどね。だけど、こんなもので俺を閉じ込めたつもり?」
ネジビザールの言う通り、能力の制限下ならいざ知らず、氷での拘束など、わずかな足止めにしかならない。
しかし、そんなことはアバレブラックも承知の上。
「ああ、だから最後の仕上げだぜ。グランドインフェルノ!」
地面に突き刺さるダイノスラスター。途端に地面は二つに割れ、落下するネジビザールをその顎に抱え込んだ。
「ぐっ、ぐがっ」
割れ目に拘束されたネジビザールは力を込め、脱出を計るが、グレイ戦での負傷もあり、身動きをとることができない。
そんなネジビザールの首に、ダイノスラスターの剣先が触れる。
「氷と大地の併せ技だ。流石のお前も脱出には時間がかかるだろうなぁ。チェックメイトだ」
「くっ」
(時間稼ぎさえできれば、まだ逆転の目はある。ディパックの中にあるクロノチェンジャー、あれさえあれば)
ネジビザールに残された作戦。それは以前、手錠で拘束されたときとほぼ同じだ。
人間の姿を取れば、その身体は縮み、隙間が出来る。そして、その瞬間、タイムイエローに変身し、ここから脱出する。
一縷の望みに賭け、ネジビザールはクロノチェンジャーを取り出そうとする。
だが、評決のときは早くも訪れた。
「……と、言いたいところだが、今のところ、お前を殺す気は更々ない」
アバレブラックはダイノスラスターを引っ込め、グレイと蒼太の元へと戻っていく。
折角のチャンスを棒に振るアバレブラックの態度に、ネジビザールの手も止まる。
「貴様、また見逃すつもりか」
ネジビザールが疑問の声を上げるより先にグレイがアバレブラックへと詰め寄った。
「言ったじゃねぇか。それが俺のここでのルールだ」
アバレブラックがその言葉を言うや否や、グレイはハンドグレイザーを撃つ。
狙いはネジビザールの眉間。抜き撃ちに近い銃撃だったが、狙いは1ミリのずれもなく正確だった。
だが、その銃撃は届かない。
835
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 02:59:36 ID:???0
「貴様!」
ハンドグレイザーから銃弾が飛び出る瞬間、アバレブラックが彼の腕を跳ね上げていた。
「おいおい、いきなり撃つなんて、もう少し冷静にいこうじゃねぇか」
「……!」
無言のまま、グレイの鉄拳がアバレブラックに放たれる。
それを悠々と避けるアバレブラック。
「遅ぇな。蝿が止まるぜ」
グレイも放ったと同時にそのことに気付いた。
本調子の自分では考えらない遅さの拳。制限の時が来たのだ。
だが、そこでグレイは奇妙なことに気付く。彼の体内時計が刻んでいた時間と首輪の制限が掛かったと思われる時間とは大きな差異があった。
その事実はグレイの冷静さを取り戻させる。
「壬琴、どうして、お前がここにいる?」
「やっと冷静になりやがったか?そいつがお前たちを固めたことを聞いたのさ。だから、俺がわざわざ迎えに来たってわけだ」
そいつのところでアバレブラックは蒼太を指す。
指された蒼太は補足するかのように言葉を続けた。
「グレイさんも、ネジブルーさんも、僕にとって、敵か味方かはっきりしなかったんで、動きを止めさしてもらいました。
お二人なら、死ぬこともないかな〜なんて」
この場には不釣合いなほど、フレンドリーな話方をする蒼太。
固めたことに謝意を持っているのかと、グレイは思ったが、同時にそんなことはどうでもよいとも思っていた。
グレイが留意しているのは固まっている間は制限が掛からなかったという事実。
(ならば、外す方法は……)
「で、並樹瞬はどうした?こいつに聞いたんだが、粉々に砕け散ったそうじゃねぇか。じゃあ、俺との賭けも終わりってことでいいのか」
考え事に傾倒し始めたグレイを、アバレブラックが引き戻す。
「それは俺もはっきりさせたいね」
「おや、意外と早かったな」
ネジビザールも地割れからの脱出に力ずくで成功し、グレイの前に再び立った。
逃げるチャンスでもあったというのに、並樹瞬の安否を優先したことに、彼の執着の度合いが伺える。
「………」
蒼太も無言のまま、グレイをじっと見詰めている。
836
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:02:54 ID:???0
その表情からは彼の思惑を計ることはできないが、彼も並樹瞬のことが気になっているのは確かなのだろう。
「……付いて来い」
グレイは全員にその場からの移動を促すと、瞬を隠した場所へと歩き出す。
今までいた場所から、並樹瞬を隠した倉庫まではほんの数分の距離。
だが、数分と雖も、彼らにとっては生死の関わる時間だ。
まず、ネジビザールの制限時間が過ぎ、彼は姿を人間のものに変える。
ネジビザールにとって怪物の姿は元々のものだ。制限下で解除されるようなものではないのだが、彼は人間の姿であることを選んだ。
いつでもタイムイエローに変身できるようにするためだ。
既に両腕のクロノチェンジャーは隙を見て、タイムブルーの物からタイムイエローの物へと変えてある。
続いて、アバレブラックの制限時間が過ぎたことで、4人全員が制限下に入った。
自然と場に緊迫した空気が流れる。もし、誰かが制限中の力とは別の力を持っていれば、一方的な虐殺が可能だからだ。
(さぁて、誰か動くか?今は優勝派にとって絶好のチャンスだ。もっともその時はアバレキラーで返り討ちにしてやるがな)
(こいつ、本当にメガブルーを殺してないんだろうねぇ?不利と悟って俺の制限時間までの時間稼ぎとか?まあ、もっとも俺には切り札があるけどねぇ、ギャハ)
(制限下に入った以上、私に打つ手はない。今は時が過ぎるのを待つしかないが……不確定要素が1人)
(みんな、ダンマリか。やれやれ、これからどう動くにしたって、情報収集はしておきたいんだけどな)
この4人に共通して言えるのは、誰もがそれぞれに仲間意識を持っていないこと。あるのは利害と打算。
酷く不安定なその集団は程なくして、目的の場所へと辿り着く。
「ここだ。だが、どうやら遅かったようだ」
倉庫の入り口。両引き戸になっているそこは強力な力で中から抉じ開けられたように、大きく拉げていた。
他の3人が困惑しつつも、中に入ってみれば、倉庫の一室には焚き木の痕と多量の水が残されているだけで、次元獣の姿はどこにもない。
「おい、まさか、こんなものを見せて誤魔化すつもりかい?」
目的のものがないと知り、ネジブルーが怒りの声を上げる。
「誤魔化してなどいない。私は氷を溶かすために、ここで火を熾した。その火が氷を溶かし、並樹瞬の身を自由にすることに成功したのだろう。
そして、並樹瞬は私の指示通り、北へと向かった」
拉げた扉を指すグレイ。ネジブルーは忌々しげな表情を浮かべると、直ぐに踵を返す。
「まあ、メガブルーが生きてるかどうかは数分後の放送でわかる。今は捕まえることが先決だよね」
「ちょっと待ちな」
「なんだい、急いでるんだけど」
駆け出す寸前のネジブルーに壬琴から制止の声が上がる。
「お前の目的はなんだ?並樹瞬って奴にえらく拘っているようだが、そいつと何かしたいのか?」
837
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:04:21 ID:???0
「ひゃは!俺はね、あいつに一度殺されてるんだよ。だけど、そんな奇跡はもう二度と起こらない。
バラバラに引き裂いて、俺の方が上っていうことをメガブルーに証明してやるんだ」
その光景を想像したのか、不機嫌だったネジブルーの顔はあっという間に愉悦に染まる。
「ふふっ、それなら、さっさと証明すればよかったじゃねぇか。チャンスはあったんだろ?」
「……今のあいつはメガブルーじゃないよ」
愉悦の表情が一瞬にして固まる。
「今のあいつと戦っても単純な攻撃ばっかりでまったく楽しくない。
だから俺は最後の二人になるまで生き残って、あいつを元のメガブルーに戻してもらうんだ。
……そうだね、キミたちを優先するのもいいかもね。今のキミたちなら全員殺害するのに、1分とかからないだろうし」
ネジブルーは左腕のクロノチェンジャーに手を添える。
グレイはライフルを取り出し、蒼太はスコープショットを手に取った。
だが、壬琴は腕を組んだまま、一言だけ口にする。
「俺なら元のメガブルーに戻せるぜ」
ピタリとネジブルーの動きが止まる。
「それは本当かい?」
「ああ、本当だ。俺がこのグレイとつるんでいるのは賭けに負けたからなんだが、その負けたときの条件がメガブルーから次元虫を取り出すってやつだ。
グレイの話によると、次元虫というのを取り出せば、元に戻るらしいぜ。なあ、グレイ」
心の中で絶対とは言わないと呟きつつも素直に肯くグレイ。
「どっちが確実で、かつ近道だと思う?
全員を殺さなきゃいけない上に、約束を守るかもわからないロンを信じるか。
何のメリットもないのに、こんなことに奔走するはめになってとっとと終わらせたい俺を信じるか」
「………」
空気を介してネジブルーが揺れているのが伝わる。もう一息といったところだ。
「別に俺もここでお前とやり合ってもいいんだが、お前の凍らせる力は次元虫の解体手術を楽にしてくれそうだ。
できれば俺も手術は失敗させたくねぇが……さあ、どうする?」
壬琴は左腕に付けられたダイノマインダーを見せる。
(これでもまだ向かって来るような奴なら用はねぇ)
交錯する視線。
ネジブルーは壬琴の眼を見据え、一頻り考えた後、クロノチェンジャーに添えられた手をゆっくりと下ろした。
838
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:06:25 ID:???0
「いいよ、お前が心の奥底で何を考えてるのかは知らないけど、今はそれに乗ってやるよ。
メガブルーを見つけ出し、次元虫とやらを取り出すまでね。もっともその後はどうなるか知らないけどね」
殺気は漲らせつつも、戦闘の意思がないことを示すように、ネジブルーは道を開ける。
「とりあえず、瞬くんを助け出すまでは同盟成立ってことかな。じゃあ、時間も勿体無いし、早速移動しましょう」
蒼太の言葉に誰も異論はなく、身支度を整え、ひとりずつ、倉庫から出て行く。
全員が倉庫から出たとき、早くも問題が持ち上がった。バイクの存在だ。
制限下にある彼らとバイクの速度には雲泥の差がある。
素早く移動したいなら、乗らないという選択は有り得ない。
だが、バイクは2台。対して人数は4人。
2人乗りすればいい話ではあるのだが、運転する側は、相手に背中を見せることになり、無防備状態に陥る。
バイクで移動することを選択するなら、信頼で結ばれていない彼らにとっては誰が運転するかは大きな問題になる。
しかし、その問題はあっさり解決へと導かれた。
「僕と仲代さんが運転で、僕のバイクにはネジブルー、仲代さんのバイクにはグレイが乗るってことでいいですか?」
その提案に蒼太を除く3人は一瞬、言葉を失う。
聡い彼らは、2人がバイクで先行することを唯一無二の解決策として考えていた。
話し合うことがあるとすれば、誰が先行するか。ただ、これも変身手段を残している仲代壬琴とネジブルーで決定だと思っていた。
だが、蒼太は彼らとは違う選択を提案した。
効率の面では間違いなくベストの選択だ。だが、リスクの面で取ることは出来ない選択でもあった。
「おいおい正気かい?俺を後ろに乗せるなんて、うっかりその首、掻っ切っちゃうかも知れないよ?」
「そうだぜ、大体、お前、男は後ろに乗せないんじゃなかったのか?」
「………」
ふたりから皮肉めいた批判が飛ぶ。グレイも言葉にはしないもののどことなく、呆れたような表情だ。
しかし、蒼太は笑みを崩さない。
「大丈夫でしょ。小物なら眼の前にぶら下がった餌に後先考えずに喰いつくでしょうが、目的のためなら呉越同舟も厭わないほど聡いなら今は餌に喰いついてもデメリットの方が大きいのはわかるはずだ。
でしょ?」
「へぇ、言うねぇ」
ネジブルーは牽制も兼ねた蒼太の言葉に、始めて蒼太に興味を抱く。
「もっとも仲代さんの言う通り、男を後部座席に乗せなきゃいけないのは僕にとっては相当苦渋の選択なんですけどね」
「けっ」
あっさりと皮肉を返されたことに壬琴は不満そうだ。
839
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:09:15 ID:???0
「ただし、放送までは徒歩ということで。悪いけど、グレイの言葉を完全に信じたわけじゃないんで」
「……勝手にしろ」
グレイの言葉に嘘があれば、よしんばなかったとしても、放送で並樹瞬の名が呼ばれれば、ネジブルーは理性をなくした獣と化すことは眼に見えている。
この場にいる4人は皆冷静で、皆賢く、皆どこかおかしかった。
▽
放送の時間までは徒歩。
その条件の元、壬琴たち4人は北への道を若干速いペースで歩いていた。
並樹瞬を助けるという共通認識の下、彼らは結集している。
だが、助けた後の行動について考えを巡らせば、4通りのビジョンが描かれていた。
壬琴は首輪について考える。
グレイは自分がオブジェとなっている間、首輪も機能していなかったことに気付いたようだが、それは他の3人も気付いていた。
だが、もっとも真実に近いのは自分だと壬琴は思っていた。
(首輪の機能はコンクリートで固めるだけで容易に止められた。
おそらく、ダイノガッツで抑え込んだり、ネジブルーの凍結能力で凍らせたりする程度で機能自体は止められるはずだ。
その状態で無理矢理外して爆発するかどうかは賭けだが、案外、それも抑えられるんじゃねぇか?)
壬琴の推理には一応の根拠もある。
それはアンキロベイルスの死に様。制限は首輪にではなく、この空間自体にあるという仮説。
(首輪を解除する=死に繋がるというのなら、別に首輪のセキュリティをそこまで頑強にする必要はねぇ。
むしろ必死こいて解除した奴の希望から絶望に変わる面を見るために、わざと隙を作っておいてもよさそうなもんだ。
――俺ならそうする)
口を歪め、ニヤリと悪どい笑みを浮かべる。
(なら、後は首輪を外す実験を誰か適当な奴でするだけだな。それさえ裏づけが取れれば後は簡単だ。
ロンのところに乗り込んで、捻じ伏せてやればいい)
更に笑みを深くする壬琴。蒼太が一瞬、チラリと見るが、直ぐに眼を逸らす。
それに気付かず、壬琴は心の中で雄々しく、宣言する。
(これで全てのピースは揃った。解体手術が終われば、ラストバトルの始まりだぜ、ロン)
「グッ……」
840
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:16:10 ID:???0
不意に右肩に激痛が走る。応急処置に問題はなかった。だが、応急処置は応急処置であって、治療ではない。
それに加え、アバレブラックに変身しての必殺技の連発でダイノガッツを大量に消費している。
(へっ、肝心なところで運に見放されるのは一回死んでも治らねぇか。まあ、そんな状態もときめくがな)
壬琴の表情は傷の痛みに対しても変わらず笑っていた。
▽
(私は何をやっているのだ?)
グレイはそう自分に問いかける。
ネジブルーを倒すためにグレイは単独行動を取った。
そのはずだったのに、今、自分はその憎い仇と共に道を歩んでいる。
並樹瞬を救うための仮初めのチーム。そう自分に言い聞かせるが、憤りは誤魔化せない。
壬琴は隙を見て、グレイの耳元で囁いた。
「次元虫の解体手術が終われば、あいつとの契約は完了なのは俺たちも同じだ。後はお前の好きにすればいい」
それはありがたい慰めの言葉だったが、慰めの言葉を受ける現状に惨めさを感じた。
(シオン、借りを返すためにはどうすればいい。私は……)
▽
(〜♪〜〜〜♪)
ネジブルーは上機嫌だった。
優勝しなければ、戦えないと思っていた真のメガブルーと戦える機会が早々に巡ってきそうだったからだ。
強敵との戦いが楽しいのは事実だ。だが、やはりメガブルーはネジブルーにとっては別格なのだ。
100人の強敵を戦うより、メガブルーを切り裂く方が何倍も魅力的だ。
(そうだ。俺が優勝したら、不死のメガブルーを願おうかな?何度殺しても何度殺しても何度何度何度何度何度何度何度
何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何
度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度
殺してもいいようにさ。きっとメガブルーなら殺される度に新しい策略で俺を楽しませてくれるだろうから。ギャハハハッ!)
彼の頭の中にはメガブルーしかいない。
841
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:21:43 ID:???0
彼にとって、首輪の秘密など、頭に残す価値もない、どうでもいいことだった。
▽
(さて、なんか妙な集団に潜りこんだけど、これからどうしようかな)
自分もその妙な集団の一員という自覚があるのか、ないのか、蒼太はそんなことを考える。
(とりあえず瞬くんが助かるなら、それまでは一緒に行動してみるとするか。
それまでに彼らの人となりもよくわかるだろう。それからが元スパイの腕の見せ所かな)
仲代壬琴、グレイ、ネジブルー、誰もお互いのことを信頼している様子はない。
こんな関係の集団で疑心暗鬼を煽ったところで、然したる効果はないだろう。
とにかくまずは情報集めだ。
(まあ皆とんでもなく無口みたいだから、骨は折れそうだけどね)
そう嘆きつつも、蒼太は今の現状に楽しさを覚えていた。
842
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:27:01 ID:???0
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:アバレブラックに2時間変身不能。肩部、腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済ですが……?)。
[装備]:ダイノマインダー、ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー 、ダブルゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、
[道具]:炎の騎馬@忍風戦隊ハリケンジャー
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:瞬を見つけ、次元虫の解体手術を行う。
第二行動方針:首輪の解析。
第三行動方針:ロンに戦いを仕掛ける。
第四行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
[備考]
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪の外し方を思いつきました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
843
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:27:47 ID:???0
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3後
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:健康。ボウケンブルーに1時間変身不能。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:現在のチームと一緒に並樹瞬を探す。その後、次元虫の解体手術。
第二行動方針:壬琴、グレイ、ネジブルーの人となりを見極め対処する。
第三行動方針:目的を果たす為、ロンの出した条件を飲む。
第四行動方針:チーフと合流。
[備考]
※首輪がデュアルクラッシャーで無効化可能であることを知りました。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。明石、さくらと情報交換を行いました。
844
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:28:53 ID:???0
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:2時間の能力制限。タイムブルーに2時間変身不能。全身に打撲、切り傷あり。背骨に深刻なダメージ。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー(黄)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、ドライガン@忍風戦隊ハリケンジャー、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン
ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
スフィンクスの首輪、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す。
第一行動方針:並樹瞬を生き返らせ決着をつける。
[備考]
※首輪がデュアルクラッシャーで無効化されていたことを知りました。
※2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。
※タイムブルーのクロノスーツは破損により、スーツとしての役割は期待出来ません。
845
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:29:28 ID:???0
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 夕方
[状態]:2時間の能力制限。身体中に切傷。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数2発)
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘。
第一行動方針:瞬を見つけ、次元虫の解体手術を行う。
第二行動方針:ネジブルーを倒す。
第三行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
[備考]
※首輪がデュアルクラッシャーで無効化されていたことを知りました。
※2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
※氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
846
:
最凶チーム誕生!?
◆i1BeVxv./w
:2010/08/18(水) 03:43:22 ID:???0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などがあればお願いします。
847
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/20(金) 07:25:28 ID:???O
>>846
投下GJです。
方針が異なる一癖も二癖もある4人が同じ目的の為手を組む展開にドキドキハラハラしながら読み読ませてもらいました。
更に今後を占う伏線の数々に妄想を掻き立てられました。
改めてGJです(*^o^*)
848
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/22(日) 13:48:20 ID:???C
投下GJです!
感想が遅くなってしまい、申し訳ありません
まさかの呉越同舟、腹の探り合いが何故か楽しくワクワクしました。
先の展開の見えなさがかえって次の展開へのドキドキ感を掻き立てます。
面白かった!重ねてGJです!
849
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:29:09 ID:???0
感想ありがとうございます。
未だ、規制が解かれませんので、こちらに投下いたします。
850
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:29:44 ID:???0
「HAHA、改めて見るとこれは酷い」
シュリケンジャーは鏡で自分の顔を見て思わず呟いた。
その顔は爛れ、膨れ、腫れ、抉れ、元の顔の面影を微塵にも残していなかった。
酷すぎて、思わず笑いがこぼれるほどだ。
「これでミーは名実共に顔のない忍者になったわけだ。でも、これは慣れていない人にとってはとてもショッキングだ」
顔を触り、ゆっくりとこねる。
それだけで彼の顔は表情のないラバーマスクを付けたような状態に変わる。
(さ〜て、誰の顔にしようかな。………そうだ、彼にしよう)
眼は細め、鼻は高くもなく低くもなく、風貌はどことなく幼さを残している。
そうそう、髪を緑色にすることを忘れてはいけない。
「これで顔の方はオッケー、えーと、声は確か……ううん、あー、あー、ああーーっと、ドモンさん。ドモンさーん。
うん、これでよしっと。後は体系を少し小さめに変えれば………………………………よーし、完成だ」
その場で軽くターンを行い、最後の確認を行う。
問題ない。その姿は誰がどうみても、シオンそのものであった。
「折角、彼の変身アイテムを手に入れたんだ。当面はこの姿でいくとするか」
準備を終えたシュリケンジャーが振り向くと、マーフィーがこちらをじっと見詰めている。
その顔はあまりの変わり身に驚いているようにシュリケンジャーには見えた。
「HEY、マーフィー、驚いているのかい?これがミーの特技のひとつさ♪」
膝を折り、マーフィーに話しかける。
「でも、ユーなら、ミーがどんなに姿を変えてもわかるね?流石のミーも匂いまでは変えることはできない。
ユーが敵に回ってたらと思うと恐ろしいけど、逆にユーが味方ならこれほど相性のいいパートナーもいない。
何せ、ユーはミーを識別できるのだからね☆」
シュリケンジャーはマーフィーを一撫ですると立ち上がる。
「さて、もう進むとしようか。種は蒔いた。けど、まだ蒔けるスペースは残ってる」
陽はほとんど落ち、間も無くすれば夜の闇に包まれることになるだろう。それまでに行動を起こしておきたい。
851
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:30:26 ID:???0
放送も間近だというのに、シュリケンジャーは歩みを止める気はなかった。
▽
「遭遇するとすれば、この辺りだと思うけど」
「バウ!」
シュリケンジャーが歩を進めたのは都市G7エリアと砂漠G8エリアの境。
戦局は佳境に入っている。
この期に及んで、マップ端で静観を決め込もうとする者は皆無だろう。
少し頭を働かせれば、禁止エリアが密集している都市エリアがフィナーレの舞台であることはわかるはずだ。
生き残った参加者は必ずこの周辺に集まる。
シュリケンジャーの狙いはこれからその舞台に上がるであろう参加者を操ること。
殺すのか、仲間に引きこむのか、疑念を植えつけるのか、それは相手次第だが、まだ標的は残っているはずだ。
「さて、誰か引っかかってくれるかな?」
忍者の鍛えられた鋭い眼で辺りを観察し、マーフィーの鼻で匂いを探る。
十分ほど、そうしていただろうか。マーフィーがバウと鳴いた。
どうやら何者かの匂いを嗅ぎ付けたらしい。
「オーケー、マーフィ!さあ、ミーをユーが嗅ぎ付けた参加者のところまで案内しておくれ」
マーフィーに命令するシュリケンジャー。
だが、マーフィーは動こうとしない。
「うん?どうしたんだいマーフィ??」
グルルと低い唸り声を上げ、警戒の様子を見せるマーフィー。
シュリケンジャーも馬鹿ではない。
マーフィーの反応を見て、彼が察知した参加者が相当の危険人物であることを悟る。
「なるほどね。一筋縄じゃいかない相手ってわけだ。でもね、そんな危険人物なら顔ぐらい見ておかないと」
(それに、そういう奴に限って、根は単純だったりするものさ)
852
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:33:35 ID:???0
シュリケンジャーは宇宙サソリに打ち勝った男の顔を思い出し、クスリと笑った。
▽
マーフィーに誘導され、道を進む。
言うまでもなく、動きはあくまで慎重に。
程なくして、シュリケンジャーは人影を発見する。
黒い服が闇に紛れ、ともすれば見逃しそうになるが、夜目が効くシュリケンジャーには何の問題もない。
それに、例え夜目が効かなかったとしても、余程鈍感な者でなければ、彼に気付かないということはありえない。
(たった数時間の間に何があったんだ?あの時とはまるで違う)
男から立ち昇る強烈な闘気。むせ返りそうなほどに濃厚なそれは、気弱な者ならば触れただけで意識を手放すことだろう。
実際、シュリケンジャーもそれなりの距離を取っているというのに、咽喉が渇いていくのを感じた。
(困ったね。昔の彼ならいざ知らず、今の彼は引きこむことも、疑念を植えつけるのも無理だ。
残る選択肢はふたつ。今、殺すか。後で殺すか。その判断をするためには……)
思考するシュリケンジャー。そのとき、不意に男が腕を上げた。
その拳には何時の間にか半月型の道具が握られ、こちらに曲面を向けている。
まるで、弓を構えているかのように。
(シット!)
既に気付かれていることを覚ったシュリケンジャーは反射的に飛んだ。
瞬間、道具から放たれた無数の光弾がシュリケンジャーがいた場所に着弾し、破砕音を響かせる。
(マーフィーは!?)
「バウ!」
着弾の位置より外れた場所から聞こえる声。
どうやら、マーフィーも離脱に成功したようだ。安堵するシュリケンジャー。
だが、危機が去ったわけではない。急ぎ、プランを構築する。
(……ばれてしまったものは仕方ないか)
「ハッ!」
掛け声を上げ、大きくジャンプする。
ジャンプした先は男の目の前。男とシュリケンジャーの視線が交錯した。
「やあ、理央、久しぶりだね」
853
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:34:05 ID:???0
シュリケンジャーは再会した男――理央に明るい声を掛けた。
▽
ブドーを倒した理央は南西へと歩を進めた。
特に理由はない。強いて言うなら、その方向から戦いの気配を感じ取ったためか。
理央の頭からはセンとの約束はきれいさっぱり消え去っている。
今の彼の脳内を占めるのは"正義感"のみ。弱気を助け、悪を挫く、非常にシンプルな思考だけ。
そして、彼は進む道すがら、シュリケンジャーと再会した。
「やあ、理央、久しぶりだね」
そう気安く声を掛ける眼の前の人物に理央は見覚えがない。
久しぶりというからには第三者からの紹介というわけではないだろう。
理央は必死で記憶の引き出しを探るが該当者はいない。
もっとも、顔を自在に変えられる知り合いなら2人ほどいるか。
「ああ、この顔じゃあピンと来ないか。じゃあ――この声ならどうかな?」
男にしては高めの声が更に高くなる。その声の主はやはり顔を自在に変えられる知り合いのひとりだ。
「その声、貴様、シュリケンジャーか」
「イエ〜ス♪いかにも天空忍者シュリケンジャーさ!」
理央はシュリケンジャーが肯定した瞬間、拳を打ち込んだ。
その手に握られていた自在剣・機刃はキバショットからキバクローへと一瞬で姿を変えている。
だが、シュリケンジャーも軽口は叩きながらも警戒は怠っていない。
理央の拳を後方抱え込み宙返り、所謂バク宙で悠然とかわす。
「ウエ〜イト。ユーの気持ちもわかるが、少しはミーの話を聞いてくれてもいいんじゃないかい?」
「改心したとでも言うつもりか」
「ザッツライト!まさにその通りさ☆」
シュリケンジャーは理央に、彼が理央の元から去った後の経緯を簡単に説明する。
勿論、その話の所々には嘘が混じっていた。
曰く、理央と分かれたシュリケンジャーは、殺し合いに乗ったドロップと出会いチームを組むも、敗北。
その後、囚われの身になるも説得を受け、改心。
だが、残念なことにドロップと裏切りの機を狙っていた仲代壬琴の策略にチームは崩壊。
854
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:34:36 ID:???0
そして、散り散りになった仲間を探していたときに理央と再会した。
「この顔はね、その時に死んでしまったシオンという男のモノなんだ。
彼は他の人がミーを疑う中、ただひとり純粋にミーを信じてくれた。
そして、最期にはタイムグリーンに変身するための道具まで託してくれた」
そう言って、両腕に付けたクロノチェンジャーを見せる。
「そのような戯言を信用しろというのか」
「疑いはごもっとも。だけど、こんな場じゃあ、正義が悪に、悪が正義に転身してもおかしくない。
大体、ユーも人のことを言えたものじゃない、だろ?」
「………」
黙る理央にシュリケンジャーはもう一押しと、切り札を切る。
「まあ、ミーのことを信じられないのは仕方ないよ。でも、ユーもメレの言うことなら信じるんじゃないかい?」
メレという名前に、理央の厳しさ一辺倒だった瞳にわずかに優しさが混じる。
「実はメレはユーを探すためにチームが崩壊する前に離脱しているんだ。だから、どこに言ったか大体の見当はつく。
どうだい、彼女を探し当てるまでの間だけでもミーと一緒に行動するのは?
それでユーのその眼でミーが正義か悪か確かめてみればいい」
いかに権謀術数をつくしたところで、理央の疑念が晴れることはないだろう。
だが、正義の味方は疑念を持っているだけでは行動には移さない。
そこに付け入る隙が生まれる。
「そうか、わかった」
「ヘーイ、わかってくれたかい」
やはりメレのことを持ち出したのが効果的だったのかとシュリケンジャーは内心で笑みを浮かべる。
この協調関係は長くはもたないだろうが、その間に理央から情報を引き出せれば。
「えっ?」
間の抜けた声が口から漏れる。同時に浮かび上がる身体。
不覚にも理央の蹴りが胸に届いたのだと気付いたのは、ビルの外壁に叩き付けれた後のことだった。
「ぐぅ、な、何をするんだ理央!?」
「知れたこと。貴様にはここで退場してもらう。お前のように甘言を弄する奴はロンだけで沢山だ。
何より、メレを餌に俺の心を操ろうなど、断じて許してはおけん!!」
シュリケンジャーは自分の失敗に気付く。
理央とメレの絆は強い。メレの時と同じく、一方を餌にすれば容易く操れるものだと思っていた。
855
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:35:16 ID:???0
しかし、それが落とし穴。理央はメレをダシに使われたことで激昂した。
どうやら、彼らの絆はシュリケンジャーが考えていた以上に強固なようだ。
(まったく、ラヴラヴ過ぎるのも考え物だね)
心の中で悪態を吐きつつ、シュリケンジャーは理央への対処を考える。
元々、こちらも理央を篭絡しようとは考えていない。
理央と一緒に行動するというのはニトログリセリンを持ったまま移動しているようなものだ。
いつ大爆発に巻き込まれるかわからない。
それでも協力するかのような動きを見せたのは単にあることを確認するための時間稼ぎがしたかっただけのこと。
できないならできないで、打つ手は残されている。
「クロノ――」
シュリケンジャーは腕につけたクロノチェンジャーに手を添える。
だが、その動きに理央は即座に反応する。
「させん!」
理央はキバクローを二つに分割し、キバナイフにすると、一閃させる。
火花を上げ、ボトリと落ちる。
理央の狙いは正確にクロノチェンジャーのブレス部分を切断していた。
「チッ」
続いて、理央はキバナイフを一つに戻すと、残った方の手でシュリケンジャーの身体を強引に大地へと叩きつける。
「グェッ」
蛙が潰れたような声を上げるシュリケンジャー。
理央はそのまま馬乗りになると、キバカッターを彼の脳天を狙い、構えた。
「マーフィー!!」
「バウ!!」
呼びかけに応え、どこからともなく現れたマーフィーは、閃光のような速度で理央に体をぶち当てる。
怯む理央。それはわずかな隙であったが、理央の拘束から抜け出し、シュリケンボールを構えるには充分な時間だ。
「天空!シノビチェンジ!!」
シュリケンボールの内部が高速で回転し、発生したゆらぎエネルギーが彼の身体をシノビスーツに包む。
緑の体躯に黄金の鎧を身に纏う天空忍者、シュリケンジャーの戦闘スタイルである。
変身したシュリケンジャーに理央は追撃を諦め、構えを取る。
シュリケンジャーは理央のその姿を見て笑った。
856
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:38:34 ID:???0
「HAHAHA!語るに落ちるとは今のユーのことを言うのかな?
これでやっと確信がもてたよ。ユーは今、変身できない!」
シュリケンジャーの変身に対し、理央が構えるだけで行動を取らないのが何よりの証拠だ。
それに加え、理央は例え相手が卑劣漢だったとしても、手合わせを臨むタイプ。
そんな理央がわざわざ変身を妨害する理由はそれぐらいのもの。
「さて、理央。ミーは変身できないからって、容赦はしないよ。元々、ミーの目的は君の抹殺だ。
ユーが制限下でどれだけ戦えるか見せてもらうよ!」
シュリケンズバットを振りかぶり、理央に襲い掛かるシュリケンジャー。
理央の先手に対してのお返しとでも言うのか、ビルの外壁に向けてバット状態のシュリケンズバットを横薙ぎに振るう。
理央はキバカッターでシュリケンズバットの一撃を防御するが、勢いを殺しきれず、シュリケンジャーの狙い通りに外壁へと叩き付けられた。
その威力は理央の時とは比べ物にはならない。
シュリケンジャーはパワーで押すタイプではないが、それでも変身前の理央を凌ぐパワーは持っている。
その証拠に理央が叩き付けられた外壁は、そのあまりの威力に理央型の風穴が空いていた。
「くっ!」
理央は苦し紛れにキバショットに変形させた機刃から光弾を放つが、あっさりとシュリケンズバットに弾かれる。
「時間稼ぎでもしたいのかい?なら、ミーが思っているより、制限が解除される時間は短いのかな。
まっ、油断して逃げられても困るから、即座に始末するけどね」
シュリケンジャーの予測通り、理央の制限が解けるまで残り30分程度。理央はわずかな時間を乗り切れば、変身が可能になる。
だが、シュリケンジャーに油断はない。
「ユーの敗因はミーの篭絡に乗ってこなかったことさ。メレを愚弄されたことによる一時の感情に流されて、ミーとの戦闘を始めてしまった。
それとも自信があったのかい?ミーの変身を止めることが出来るって?HAHAHA、浅慮な男だ」
止めを刺すべく、シュリケンジャーはシュリケンズバットに隠された刃を抜く。
これでお終い。シュリケンジャーは自分の勝利を確信し、理央の絶望した表情を見た。
ところが、そこには絶望はなく、逆に自身に満ちた笑みを浮かべていた。
「浅慮?それは貴様の方だろ。
例え、変身したとはいえ、貴様の攻撃を受け流せないと思うか?貴様程度の力で壁をぶち破れると思うのか?
――ふん!」
理央が壁を叩く。すると、その一撃に壁は耐えられず、即座に粉々に砕け散った。
「な!ユーは制限中じゃなかったっていうのか」
確かに理央は変身しなくても制限さえなければ、臨気を操り、戦うことが出来る。
変身アイテムがなくとも、戦えていた真咲美希のようなものだ。
857
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:39:26 ID:???0
だが、今の理央に起こっている現象はそういったものではない。
「いいや、貴様の言うとおり、未だ小癪な制限は掛かっている。
だが、俺は理解したのだ。この制限を掛けているものの正体。首輪の役割を。
理解すれば、この程度の芸当は容易い」
理央は幻気を取り込み、幻獣拳の使い手となった。
そうすれば途端にこの空間の仕組みが見えてくる。空間に密集した幻気。その幻気の動き、流れ。
幻獣拳の使い手とはいえ、有象無象の輩ではわからぬそれを理央は理解する。
いや、理解したというのはやや語弊があるかも知れない。
理解したその仕組みについて、理央は言葉にすることはできない。
なぜなら理央にとって、それは声帯を震わせるかのように、そういうものだと認識したものだからだ。
それは凡人には到底到達できない高み。彼が幻獣王の器たる事由。
「そして、もうわずらわしい時間制限も終わりだ。俺は今、幻気すらも平伏させる」
理央の身体から闘気が噴出す。その闘気は徐々に可視できるものへと変化し、黄金と闇に彩られ始める。
それは再会したときからシュリケンジャーが感じていたものより、更に生々しく、更に雄々しく、更に恐々としたものだった。
当てられたシュリケンジャーの咽喉に吐瀉物が駆け、反射的にシュリケンジャーは膝を折る。
「ウォォォォォォォッッッッ!!!」
獣のように咆哮する理央。
高まる幻気は異物である首輪を激しく振動させていた。
「い、一体、何を?」
「ハァ!」
気勢を上げると同時に理央の首元で大きな爆発が起こった。
以前、理央がナイとメアに語った首輪の解除方法。
――例えこの首輪がどんな爆発を起こそうが、それを上回る臨気で防御すればいい。――
理央はそれを実践したのだ。
その爆発は煙を濛々と棚引かせ、理央の姿を隠した。
闘気のプレッシャーが消え去り、シュリケンジャーは息を荒げながらも立ち上がる。
自滅したのかと、わずかな希望を抱くシュリケンジャー。
だが、突如として吹いた一陣の風は煙を吹き飛ばし、抱いていた希望が如何に虚しいものだったかを思い知らせる。
858
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:42:58 ID:???0
「強きこと、猛きこと、世界において無双の者、我が名は幻獣王リオ」
以前、シュリケンジャーが見た姿とは異なる金色の姿。
幻獣王となった彼の首に首輪は見当たらなかった。
(逃げるしかない)
シュリケンジャーは踵を返すと、一目散に逃げ出す。
とにかく疾く疾く疾く。シュリケンジャーは自分に授けられた力の全てを使って、走る。
だが、それは無駄な足掻きに過ぎなかった。
突如として、目の前に現れる手。
それはシュリケンジャーの頭を掴むと、強制的にその場へと留めさせる。
「どこへ行く気だ?もうお前に逃げ場などない」
「ぐっ!ッッッ、フェ、フェイスチェンジ!!」
握られた頭を支点にシュリケンジャーの顔半分がグルリと半回転する。
流石のリオもこれには驚き、わずかだが握りが甘くなる。
シュリケンジャーは金色の鎧を身体のバネを使い、リオの頭に覆い被せると、その隙を狙って、シュリケンズバットを突き刺す。
「プラズマ剣!プリーーーズ!!!」
声に反応したシュリケンズバットから強烈な電撃が流れ、リオの身体を蹂躙する。
「マーフィー!!」
シュリケンジャーの呼びかけに、マーフィーは再び体当たりを敢行する。
プラズマ剣と合わせた攻撃は流石に効いたのか、リオの手がシュリケンジャーを放した。
シュリケンジャーは地面に転がり、間合いを開けると、キーボーンを取り出し、空へと投げる。
それをタイミングよく咥えたマーフィーはたちまちディーバズーカへとその姿を変えた。
「テメェもくたばりやがれ!!」
一切の迷いも、溜めもなく、即座に引き金を引かれる。
放たれる必殺の光弾は一直線にリオへと向かった。
着弾すると同時に轟音が響き渡り、大きな炎が上がる。
周辺の巻き込まれた建物は瓦礫となり、雨となって降り注いだ。
「どうでぃ!!」
顔が変わり、口調も変わったシュリケンジャーが勝鬨を上げる。
だが、その心の中は口にした言葉とは裏腹なものだった。
(来るな!来るな!!来るな!!!)
859
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:44:22 ID:???0
必死に願うシュリケンジャー。しかし、現実は非常だ。
「中々の攻撃だったぞ」
炎を背にゆっくりと前進するリオ。その身体には傷ひとつ付いていないように見える。
「無傷だと!?」
「フッ、流石の俺も今の攻撃にはそれなりの傷を受けていたやも知れん。
だが、場所が悪い。ここは幻気が満ち溢れた空間だ。
この場において、今の俺は水を得た魚。鉄壁の防御に加え、多少の傷は即座に治療される」
その見本を見せるかのように、リオは自らの手の甲に、爪で傷を付ける。
すると、どうだろうか。その傷に黄金の光が集まったかと思うと、たちどころになくなってしまった。
「そして、今の俺の力がどうなっているか、言うまでもあるまい」
ゆっくりと前進するリオ。もはやシュリケンジャーに打つ手は残されていなかった。
▽
「ゴボッ」
ひとりの男が仰向けに大地に倒れていた。
彼の身体には身体中に打撲の痕があり、関節は有り得ない方向に曲がっている。
口からは多量の血が溢れており、内蔵も無事ではないことを示していた。
どんな名医が診たところで、もはや彼の死は確定的だろう。
彼の顔は火傷により酷く爛れていた。これでは彼が何者かはわからない。
だが、仮に彼の顔が無傷だったとしても、誰も彼が何者だったか知る者はいない。
なぜなら、彼はこの場に残る誰にもその顔は見せなかったのだから。
「バウ」
そんな彼に銀色のロボット犬がゆっくりと近づく。
ボロボロになっても匂いは変わらない。犬はどんな状態でも主であることを判別していた。
「マー…フィ」
男が犬の名前を呼ぶ。
息も絶え絶えで言葉に感情を宿らせることはもはや叶わなかったが、彼は怒っていた。
彼はこの有様となった戦いで敗北を悟ると、マーフィーを逃がすことに専念した。
誰が優勝するか。
860
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:45:21 ID:???0
自らの脱落が確定した時点で既に興味のないことだったが、自分を屠る奴だけは優勝させてはいけない人物だと思ったからだ。
せめて誰かの力になりますように。そんな願いと共に送り出したのだが、マーフィーは戻ってきた。
「ゴー……マーフィ…ゴー」
マーフィーをこの場から遠ざけようと、言葉を紡ぐ。
だが、その願いは叶うことはなかった。
マーフィーの頭が誰かの手に掴まれる。
刹那の後、マーフィーの頭は男に降り注ぐ銀色の雨となった。
やはりかと、もはや見ることさえ億劫になり、男は眼を閉じた。
止めを刺さず生かされていたのは餌にするため。そして、今、彼は餌としての役割も終えた。
身体に残されたわずかな生命力を結集させ、必死に口を動かし、声帯を震わせる。
「………ミー…は……後悔…していない……忍びとは…元々外道……つ、仕える主君によって……善にも悪にもなる……
たまたま今回は…マーダーに……なったけどね……でも……ユーは…ユーは違う……ミーを倒して…正義ぶっているけど……
ユーは紛れもなく……悪…だ……ユーの力は…邪気……に…満ち溢れている……笑えるね…ユーは……とても滑稽だよ……
HA……」
ぐちゅりと彼の頭が潰れる。
いくつもの顔を持つ忍者は、最後に顔を失くし、散った。
【マーフィーK−9 破壊】
【シュリケンジャー 死亡】
残り17人
861
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:46:42 ID:???0
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:G-7都市 1日目 夕方
[状態]:左胸に深い切り傷。残酷剣による中程度のダメージ。
ロンへの強い怒り。幻気と闇により精神が侵食+戦闘力増幅。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:弱者を救ってやりたい。
[備考]
※首輪を外しました。身体的には幻気による悪影響はないようです。
※シュリケンジャー死体(スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、シュリケンボール)と
支給品一式(知恵の実、映士の不明支給品、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式×4(水なし)SPD隊員服(セン)、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、両方表のコイン)、
クロノチェンジャーはG-7都市エリアに放置されました。
862
:
顔のない忍者
◆i1BeVxv./w
:2010/08/24(火) 01:55:34 ID:???0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などがあれば、よろしくお願いします。
今回の投下で、次回放送までに自分が投下できる作品は以上になります。
863
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 04:40:01 ID:???O
投下GJでございます。
気になった点を一つ、
シュリケンジャーが不意打ちを食らい、壁に打ちつけられた場面で
『両腕に付けられたクロノチェンジャー・・・』
とありますが、クロノチェンジャーは片方だけでOKなので本スレ投下等の際は修正をば。
物語は大きく動き出しましたね♪
シュリケンジャーご苦労様(泣)でもまだ彼が残したモノは死んでないかも!?
と、妄想しつつ放送以降の物語も期待しております!
864
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/25(水) 08:07:41 ID:???0
感想ありがとうございます。
クロノチェンジャーの個所については修正いたしますが、
私用により今週の日曜までネットに触れることができませんのでご連絡いたします。
ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。
865
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 09:02:00 ID:???0
投下乙です。
なんだろう……対主催でしかもトップクラスの強さの理央が全然頼もしくないww
スモーキーやらマーフィーやら支給品ブレイカーになってますね(それも戦隊側の)
それだけにビビデビとズバーンは気をつけてほしいですw
なんだか勘違いマーダーの毛があるという点では白化ブドーも危険っぽいかも
シュリケンジャーは少し哀れな最期……。
たとえ本当に改心してても殺されたでしょうね。
866
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 20:20:19 ID:???0
2作とも代理投下いたします。
867
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/25(水) 20:42:27 ID:???0
さるさん規制されました。
どなたか続きの代理投下お願いします。
868
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/08/26(木) 00:09:00 ID:???0
解除されたと思われますので
続きを投下致します。
869
:
◆i1BeVxv./w
:2010/08/30(月) 01:18:36 ID:???0
投下、感想ありがとうございます。
「両腕に〜」については「左の腕に〜」に修正を行い、まとめサイトを更新いたしました。
870
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/09/03(金) 20:28:25 ID:EgByd3pg0
遅ればせながら、まとめ更新乙です。
次で放送かなぁ。
871
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/09/29(水) 17:49:42 ID:6IDAkwfA0
もうマーダーってネジブルーしかいないな
872
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/01(金) 12:13:28 ID:RuW4kN7g0
確かにマーダーは死にすぎてるなぁ……
そろそろ主催側から打開策が出てくる頃か?
さくらと理央はマーダーに転べるキャラだが
873
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/02(土) 00:44:03 ID:0XRhFDO.0
ロンのことだからな
874
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/02(土) 14:48:44 ID:jIK37pJU0
放送でうまく主催側参加者を配備するのがいいと思う
……というか、放送まだ?
875
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/03(日) 18:22:59 ID:l3oN6xss0
主催者側の参加者はラディゲでいいと思う
876
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/03(日) 22:47:33 ID:???0
広げるならともかく、書き手が少ないこの状況で参加者は増やさない方がいいと思う。
877
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/04(月) 10:20:19 ID:???0
こちらでこれ以上続けるのも何なので、一旦議論スレの方に場所を移動しましょう。
878
:
第三回放送案
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:19:56 ID:???0
仲間の死であったり、敵の死であったり。
誰の死であろうと、それは悼むべきものである。
──慣れるまでは。
敵の死には慣れてきた彼らだが、味方の死には慣れていなかった。
もう、慣れた頃だろうか。
六時間ごとに知らされる仲間の死を、受け入れ、いつしか何も感じなくなってしまう頃だろうか。
一回目の放送では、伊能真墨、ウルザード、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア。
二回目の放送では、サーガイン、サンヨ、陣内恭介、巽マトイ、冥府神ティターン、ドギー・クルーガー、フラビージョ、真咲美希。
もはや、そんな死は何年も前の話であるかのように、何も感じずいられるか。
新しい死を、どう受け取るか。
879
:
第三回放送案
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:20:28 ID:???0
【第三回放送】
『皆さん、こんばんは。第三回定時放送の時間です。
殺し合いの好きな方は、もう何人も殺している頃でしょう。残念ながら苦手という方も、今から順調に殺していけば、生き残ることができますからご安心を。
……おっと、この言い方ではここまで頑張って殺し合ってくれた人間に失礼というものですね。今から始める人間が圧倒的に不利だというのは事実ですが、何もしないよりずっとマシ、とそういう言い方が誰にとっても過不足ないといったところでしょうか?
それでは、まず死亡者の発表から始めましょう。
クエスター・ガイ、シオン、シュリケンジャー、高丘映士、ドモン、童鬼ドロップ、早川裕作、日向おぼろ、間宮菜月
以上9名のゲーム脱落を連絡します。
彼らの知り合いの方、まだ彼らの命は完全に失われたわけではありません。周りの人間を殺せば……ええ、彼らの生存を保証しましょう。
皆さん、絶望を希望に変えて明るく、楽しく、元気よく殺し合ってください。
それでは次に禁止エリアの発表です。
……皆さんももうすぐ眠りに就く頃でしょうが、このエリアで寝ていると目覚めることはありませんからよく聞いておいてください。
19時に■■■■
21時に■■■■
23時に■■■■
以上が次の放送までに新しく設定される禁止エリアです。
さて、残るは17人。参加者の半分以上が別の場所へ旅立ってしまいました。
ここまで生き残っているあなたたちはラッキーマンです。そのラッキー、うまく死なないように考えて使ってもらえると幸いです。
それでは、また6時間後に再び皆さんにこの放送を聞いてもらえることを願って……』
─────
880
:
第三回放送案
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:21:09 ID:???0
友。敵。仲間。兄弟。
彼には──ロンには無いもの。
それを失う人間の怒りと悲しみ。
それをもっと聞きたい。
それをもっと見せて欲しい。
それが無いことを羨むほどに、悲しんで、怒ってもらいたい。
881
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/10(日) 20:22:33 ID:???0
以上、仮投下終了です。
882
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/12(火) 20:46:06 ID:sjgf.gfU0
投下お疲れ様でした。
GJ
883
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/10/20(水) 12:47:28 ID:???0
そろそろ禁止エリアに関する議論をしたいんですが、まだ人が集まらないみたいですね……
884
:
ほしを護るは名無しの使命
:2010/10/22(金) 16:50:16 ID:CJ41RJVM0
どこかありますか?
と、これは議論スレむきですね
885
:
デリート
:デリート
デリート
886
:
デリート
:デリート
デリート
887
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/12/23(木) 09:32:52 ID:???0
名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:G-7都市 1日目 夜
[状態]:胸、太股に深い傷。ドロップを失い深い悲しみと怒り
[装備]:杖、ドロップの亡骸
[道具]:一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、予備弾装(催涙弾5発)、サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(バンキュリア)
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:シュリケンジャーを殺した可能性のある者は無差別に殺す。
第二行動方針:ヒカルに若干の興味。
※時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:G-7都市 1日目 夜
[状態]:左胸に深い切り傷。残酷剣による中程度のダメージ。
ロンへの強い怒り。幻気と闇により精神が侵食+戦闘力増幅。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:弱者を救ってやりたい。
第三行動方針:闇に負けない。
裏の行動方針:参加者を殺す。
[備考]
※首輪を外しました。身体的には幻気による悪影響はないようです。
※自らが闇と幻気に侵食されつつあることに気づきました。
※シュリケンジャー死体(スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、シュリケンボール)と
支給品一式(知恵の実、映士の不明支給品、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、支給品一式×4(水なし)SPD隊員服(セン)、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、両方表のコイン)、
クロノチェンジャーはG-7都市エリアに放置されました。
888
:
◆LwcaJhJVmo
:2010/12/23(木) 09:33:44 ID:???0
さるさんにつき以上、投下終了です。
どなたか状態表の代理投下をお願いします。
889
:
◆gry038wOvE
:2011/01/20(木) 16:23:10 ID:zwQAkDu60
とりあえず仮投下します。
890
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:24:24 ID:???0
樽学者ブクラテスと浅見竜也。
二人がこうして二人だけになるのは何度目だろう。
「さて、あと一分ほどで放送じゃな。少し手を休めるとするか」
ブクラテスは表面上、アクセルラーの外面をさまざまな角度から眺めている。
竜也に工具の調達を任せたものの、まずは分解せずに外面から理解しておかねばならない。
破損を起こしたのは外面からの衝撃によるものだ。どの部分が破壊されているのかも、粗方検討はつく。
外面から見て、内面に影響を及ぼしたであろう部分を重点的に修理しなければならない。
「手を休めるって……まだ何もしてないじゃないか」
「ふん、破損箇所の確認も立派な修理じゃわい」
無闇やたらと分解すれば良いというものでもない。
こんな未知の道具を下手に分解すれば、おそらくは二度と元に戻すことはできまい。
ましてや、このアクセルラーが開発されたのはさくらによるとギンガマンの歴史よりも未来。
内蔵されている部品も少し発達したものという可能性もある。そもそもブクラテスは携帯電話などというものを知らないのだ。
「なら、お前がやってみるか? 竜也」
と、アクセルラーが差し出されるが竜也はそれを軽く上げた両手と苦笑で拒否する。
こういうのはシオンが専門だ。竜也の専門は空手で、決して工具の修理ではない。
まあ、トゥモローリサーチでシオンの手伝いをしたことも少なからずあったから、きわめて苦手というわけでもないだろう。
実際に、必要な工具も自分で選んで済ませてある。
「俺は手伝うだけだよ。……俺がやったら、二度と戻らなくなる」
「だろうな。なら、黙って見ておれ」
891
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:25:44 ID:???0
といいつつも、ブクラテスは別の準備を開始する。
竜也が既に一通り放送の準備を終えているのに対して、ギリギリまでアクセルラーを眺めていたブクラテスは鉛筆や地図の類を用意していない。
万が一にでも竜也と離れた場合は、これらの道具に必要事項が記載されていないのは痛い。
「それは俺がやっておくよ」
竜也がブクラテスのデイパックを掴み、中身を取り出す。
やはり気が利く男だ、と何度目かの再確認をする。
まあ、ブクラテスのように片腕を欠損した老人がデイパックから地図や筆記用具を取り出すのを黙って見ているほど、冷たい人間も珍しい。
そういう意味では竜也も普通の人間なんだろう。
利用する側という観点で見ても、ブクラテスはこうして世話を焼いてくれる竜也に何か一言言っておくべきだろう。
「すまんのぅ、竜也」
「いえ」
元はと言えば、その片腕の欠損は自分の不注意が原因なのだから。
『皆さん、こんばんは。第三回定時放送の時間です』
そして、そんな会話の中断をするかのように、放送が始まる。
ロンが挑発してゲームの進行を促す『不要な部分』は聞き流す。
今更何を──とも思わない。それこそ、今更だ。
『それでは、まず死亡者の発表から始めましょう』
『クエスター・ガイ』
『シオン』
『シュリケンジャー』
『高丘映士』
『ドモン』
『童鬼ドロップ』
『早川裕作』
『日向おぼろ』
『間宮菜月』
892
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:26:19 ID:???0
────ああ、やっぱりか。
未来へ送り返したはずのシオンとドモン。
彼らを安全な場所へ送ったはずが、夢の通りになった。二人はどうやらここで死んでしまったらしい。
人の精神というのは、時に不思議な夢を見せることもあるのだろうか。
動物には予知能力なるものが存在しているらしいが、これもその一つなのだろう。
名簿の名前が妙に角々しくて、その名前の隣にバツを書く気にはならなかった。
ブクラテスには必要な情報として、ブクラテスの名簿にバツ印をつけた。それだけでもう、申し訳なかった。
彼らは大切な仲間だ。
タイムレンジャーであると同時に、日常も彼らと同居し、共に貧乏を分かち合った仲間である。
女好きなドモン、純粋無垢なシオン。
決して欠けていい存在ではなかっただろう。
涙は流れなかった。
どうしてだろうか。
夢の中で枯れてしまったのか。
(俺……シオンやドモンが死んだのに、泣けないのかよ…………)
決して泣かないという心象はプラスにはならなかった。
それに、日向おぼろや間宮菜月の名前も心に突き刺さる。
既に克服した話ではあるが、やはり忘れかけた頃に聞く二つの名前は傷口を開く。
高丘映士はどんな人間かは知らないが、ボウケンジャーの一員だった男らしい。
また一人、頼もしい仲間となりえた人間が知らぬところで死んでしまった。
シュリケンジャーが死んでしまったのは意外である。
できれば逮捕という形でどうにかしたかったが、仲間たちの死に比べて小さい死となってしまうのは必然だろう。
シュリケンジャーは殺し合いに乗っていたのだから。
「気に病むな、竜也。これだけの戦死者が出たが、明石やさくらの目的を考えればすぐにまた会えるじゃろう」
明石暁と西堀さくら。二人の冒険者の目的は仲間たちの蘇生。
その為に、ある意味で殺し合いに乗り、ロンを倒すという方針を確立させている。
「ああ、わかってる。だけど、やっぱり許せないんだ……。シオンやドモンや菜月ちゃん、他にもたくさん人が死んで……。
それに、マーフィーみたいに追い詰められて、さくらさんみたいに怪我をして困ってる人もいる。だから、俺は────」
この拳を、どう使うか。
その答えは、放送を通しても変わらない。
893
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:27:06 ID:???0
「お前は力もあって優しいからな。だが、まずは生き残ることとワシを守ることに専念するんじゃ。でなきゃお前自身の目的も果たせずに終わる」
「ああ。まずは二人が来るまでに作業を終わらせよう」
竜也はそう言って、放送の終了を待った。
禁止エリアもしっかり書き込んである。これでこの時間に終わらせる作業は終わった。
次は、アクセルラーの修理である。
とはいえ、現状では竜也にできることはまずない。
まだ、ブクラテスはアクセルラーの周囲を軽く見渡す程度の作業しかしていないからだ。
「俺は少し、向こうで外の様子を見ることにします」
作業場となっていた厨房から出て、竜也が洋菓子たちが置いてあるレジに向かう。
ブクラテスとしては、一定の頻度で首輪探知機を確認したいから竜也が迂闊に外に出るのは好都合といったところである。
その手順通り、ブクラテスは首輪探知機を取り出した。
二つの点はブクラテスと竜也を示すもの────そして。
「…………ん? まずい! 近くに参加者がおる!」
今の竜也に武器はなく、当然ブクラテスも戦う力を持ってはいない。
その探知された相手がもし、殺し合いに乗っていたら……。
ブクラテスの腕を奪ったブドーはまだ生きている。ブドーという可能性もあれば、他の危険人物の可能性も否めない。
「単独で行動しているようじゃ。来た方角から考えても、明石やさくらじゃないぞい!」
894
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:28:04 ID:???0
ここで竜也を失うわけにはいかない。
ブクラテスが焦っているのは、気づかぬうちにその点がかなり近くまで接近していたからだ。
洋菓子屋の構造上、ガラスの中は筒抜け。素早く隠れなければ相手に居場所を察知される。
もし、向こう側から見て自分以外の参加者がいることに気づいたら……?
襲うという行為に出る輩もいる。
それは、同時に中から外の様子が見えるということでもある。
ブクラテスは素早く厨房を出て、ガラスの向こう側を気にかけた。
「あれ? ブクラテスさん」
厨房から出てきたブクラテスの様子に疑問を感じた竜也はそう言ってこの行動の理由を問おうとするが、ブクラテスとしてはそれを気にしている場合ではない。
竜也は気づいていないが、ガラスの外にいたのは────
(ヤツは……ブドーッ!!!?)
めがねとガラスの向こう側にいる、いかにも武士気質の怪人。
それはまさしく、ブクラテスのかつての仲間である剣将ブドーである。
「隠れろ竜也!」
必死で隠れようとしているブクラテスだが、竜也から見てその姿は『洋菓子の中に何故か置いてある樽』に見える。
ワインが置いてあるわけではないので、違和感が大きい。
竜也も何故、ブクラテスがそう言い出したのかわからず、隠れようにも隠れる場所がない。
「……誰かいるのか?」
(マズイ…………ッ!!!!!)
ブドーが洋菓子店に近づいてくる。
彼と店内は恐ろしいほどのミスマッチだが、もはやシュールに浸っている段階ではない。
対策も練れないうちに、ブドーはそのドアを開けてしまった。
「拙者は剣将ブドーという者でござる。今は殺し合いに乗ってはいない」
と、ブドーが名乗るが、二人は彼について既に知っている。
竜也の中ではブドーというマーダーの存在はブクラテスの口頭で示されたものだが、彼の言葉はブクラテスからの情報に矛盾している。
無論、現段階で信憑性が高いのは実際に腕を失っているブクラテスだが。
「……ん? ご老人?」
「ギクッ!!」
こそこそとブドーから距離を遠ざけていく樽に心当たりがないはずはなかった。
元の世界の仲間であり、ここでも一度は会った相手。
樽学者ブクラテス。かつてブドーの所属していた宇宙海賊バルバンの知恵である。
895
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:28:34 ID:???0
「わ、わしは何もしとらんぞ!! 貴様がバルバンを追われるのは、わしの来た時代よりもっと後のことじゃ!」
「何を言っている、ご老人。今は拙者もロンを倒すべく参った身。ご老人の右腕の落とし処はきっちりつけさせていただくつもりでござる」
「な、何ぃ……?」
最初に組もうと提案したときの野生的なブドーとはまるで別人。
剣を抜く様子もなく、ブドーはただブクラテスに償いの目を向けていた。
「ご老人が拙者に敵意を持つことは仕方のないこと。不服ならば今ここで拙者を討っても構いはせん」
ブクラテスはサングラス越しにブドーをいぶかしげに見つめる。
ブドーの性格を考えるなら、ここでこのようにブクラテスや竜也を騙すような真似をするとは思えない。
ましてや、ブクラテスが非力であることはブドーも知っている。最初に出あったときのように、剣を抜いて首を斬れば終わる話だろう。
「生憎じゃが、ワシにはそんな力はない。知っておるじゃろ?
どういうつもりかは知らんが、お前のような信用できない相手を置いておくわけにはいかんからな。手早くここから出て行ってもらおう」
ブドーが普段通りのブドーに戻ったことを悟ると、ブクラテスも強気に出る。
どちらにせよ、一度自分を襲ったブドーを安易に信用するわけにもいかないし、今は竜也がいれば充分と見える。
信用できない相手をわざわざ手元に置くような段階ではなかった。
「待てよブクラテス。このブドーさんは仮にも殺し合いに乗ってないっていうんだろ?」
だが、第三者の竜也はそんな心情を知る由もない。
姿形を見る限りでは、到底竜也と同じ人間とは思えないが、それが全ての判断基準ではない。
態度を見ても、竜也やブクラテスを襲う気配はまるでないと言える。
それなら、置いてもいいのではないかと竜也は思った。
「ついさっきまで周りの全てが信じられなかったお前が何を言う」
「それは……」
これを責められると、竜也としても痛い。
この話は竜也が迷っていた時期の話で、今の竜也はそこまで周囲に不信を持っていなかった。
多感な過去を責められるのは誰であっても嫌だろう。
それに、竜也としてもブドーが仲間に入ったところで安心はできない。不信感が再び現われる可能性だってある。
「つまりは、お前とは組めんのじゃ。ブドーよ」
896
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:29:10 ID:???0
ブクラテスは結論をブドーに伝える。
確かに竜也もブクラテスの腕を奪った者を憎く思っていたし、目の前の相手ははっきり言って異形。
そうした自分の不信感を思うと、ブクラテスの結論にこれ以上反対はできなかった。
「……仕方があるまい。元はといえば拙者が引き起こしたこと」
ブドーとしてもブクラテスが自分を拒絶するのは想定内。
おそらく、ブクラテスは何よりも保身を考える可能性が高いだろうと考えていた。
ブドーとしても合流したい相手は彼らではなく、ヒカルである。
そう思うと、ここで無理に一緒になる必要はなくなるかに見える。
だが────
「だが、その右腕の借りは返させて貰いたい」
自分が行ったかつての借りの一つを洗い流したいという気持ちも強かった。
ブドー自身が自分の意思で行った悪であり、そのときブクラテスがどれだけの痛みを受けたかはわからない。
かつての仲間にそれだけのことをしてしまったのである。
その精算を何らかの方法で果たしたい、と今のブドーは思っていた。
「だから無理だと言っておろうに! ──────いや、」
ブクラテスも考える。
この状況下、ブドーはやはり現段階で殺し合いに乗っていないという可能性が高いだろう。
だが、一度は信頼を裏切って腕を奪った者。またいつスタンスを転じて裏切るかはわからない。
竜也以外の護衛もなく、明石とさくらを待つだけのブクラテスにとっても、ブドーを引き入れるかは微妙な話。
周囲の意見はこの場では役に立たないし、自分で考えるしかないだろう。
そうした結果で、
「やはり、お前も戦力になるかもしれんな」
そう告げる。
それに応えてブドーは一礼する。
だが、そんな一方でブクラテスはその結果を導き出した思考を再び思い返していた。
(ここで使ってしまうのも惜しいが、悪く思わんでくれブドー。ワシはお前を信用できんのじゃ)
毒薬。
ブクラテスの支給品は仲間を殺す道具。
ブドーはおそらく利用し甲斐のある相手だが、明石やさくらが帰ってきた頃には不要となるだろう。
彼らが帰ってきた時、最低でもこの男だけは殺さなければならない。
隙を見計らって、ブドーに毒を盛ればこの不安感も消し去られるだろう。
ただ、ひたすらに不安と不信が渦巻いていく。
ブクラテスの周囲は、信用に餓えていた。
897
:
再会する海賊
◆LwcaJhJVmo
:2011/01/20(木) 16:29:45 ID:???0
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-7都市 1日目 夜
[状態]:右腕切断、応急処置、消毒済み
[装備]:毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とデイパック、首輪探知機 、さくらのアクセルラー(要修理)、工具類
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:今のところさくらに協力。
第二行動方針:竜也とアクセルラーの修理
第三行動方針:明石とさくらが帰ってきたときはブドーを切り捨てる。
第四行動方針:場合によっては毒薬を使って……。
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-7都市 1日目 夜
[状態]:健康。良い意味で動揺
[装備]:
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ロンを倒す。
第一行動方針:これ以上の犠牲は絶対に起こさせない。
第二行動方針:出来れば殺し合いをしている者を止めたい。
※首輪の制限を知りました。 明石やさくらと情報交換を終えました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
※ブクラテスとさくらの様子にとまどい
※盗聴の可能性を認識
※首輪を通しての盗聴の可能性を認識
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:E-7都市 1日目 夜
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。全身打撲。2時間の能力制限
[装備]:手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。マジランプ@魔法戦隊マジレンジャー
[思考]
基本方針:スモーキーの願いに報いる。
第一行動方針:生きる。殺し合いに乗らない。ヒカルと合流する。
第二行動方針:ブクラテスへの非礼を何らかの形で詫びる。
第三行動方針:武器の調達。
※首輪の制限に気が付きました。
898
:
さつまいも モンブラン レシピ
:2013/11/30(土) 15:39:14 ID:???0
仮投下・一時投下専用スレッド - スーパー戦隊 バトルロワイアルinしたらば さつまいも モンブラン レシピ
http://www.pslcbi.com/montblanc.html
899
:
ほしを護るは名無しの使命
:2021/04/15(木) 05:28:37 ID:TAXjRPtM0
岩下明美
900
:
ツイ子
:2022/05/24(火) 03:39:59 ID:???0
奈良敬子
901
:
ツイ子
:2022/05/24(火) 03:42:44 ID:???0
去来川舞
902
:
ツイ子
:2022/05/24(火) 03:45:09 ID:???0
畔上里央
903
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/07/04(月) 02:39:20 ID:???0
松本 優聖
@Sei712Yu
904
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 02:03:31 ID:???0
ある少年は本を読んで、ある少年は空をみた。
ある場所にて。二人がよく行っている図書館で。
空はとても青く。言葉はとても優しく。
少年らはずっと、そうしてきた。
まるいまるい大切な時間をたった五分だけで過ごした。
一人は空を見ている人にこう言った。
これからどうする?
反応なし。
ただ空を見ているだけ。
本を閉じて空を見る。
青く広がっていた。雲が動いていた。
今なら羽根を求められそうな気がしたんだ。
ずっと、見ていたら、時間を忘れてた。
誰かの、足音が聞こえて、お互い顔を見合わせる。
行こう、と藍瀬輝々(男子一番)と葵輝丹(男子三番)は小さく頷いた。
【残り四十人】
905
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 02:05:14 ID:???0
階段を下って、下駄箱に向かう途中、甘野大和(男子五番)は、川瀬和生(男子七番)と共に走っていた。悲鳴や騒ぎ声が聞こえてくるが、気にしなかった。とにかく今は逃げることだけを一番に考えようとした。余計なことを考えると失敗する。捕まった海原青歌(女子二番)が自分達を逃がした意味がなくなる。大和は急いで出来るだけ早く足を動かす。
靴を履き替えることもなく、そのまま外に出る。既に兵士が運動場を囲んでいた。多分、自分達が外に逃げないようにする為のものかもしれないけれど。大和はとりあえず近くにあった物置の中に入った。和生も続いて入る。二人共、疲れたのか溜息をついた。
「大丈夫か? 和生」
「うん……でもちょっと疲れた」
「そりゃそうだよな」
「ごめんね」
「気にするな。大丈夫だから」
自分でそう言ってても、正直不安があった。和生は元々運動神経が悪いので、こうしていられるのも、少しの間しかないと言い切れる。現に運動会などでリレーなど、最下位に終わったし、いいとすれば、パン食い競争だった。食べ物につられて一位だなんて犬か何かかと大和とその他仲間は呆れたこともあったが、今ではどうしようもなかった。
ましてや、今の状況で和生に「後で奢るから頑張ろう」なんて言っても、暴走しすぎてはい、捕まってしまいましたなんてオチはありえる。こればっかりはふざけていられなかった。
大和は、他の仲間は逃げ切れたのかどうかが気になってしょうがなかった。扉を閉めているので外の様子は分からない。ただ、足音だけが響いているのだけは分かった。
こっちに気付かれてしまうのか、そのまま通り過ぎてしまうのか。またはイコール、捕まるか、そうでないか。どっちにしろ、今はこうするしかなかった。逃げるしか、他に選択はなかった。きっと、そうに違いなかったのかもしれない。でも、昔だってそうだった。
自分は友達の為に、家族を捨てて、青空学園に入ったのだから。
後悔はしていないといえば嘘になってしまう。嘘はつきたくなかった。もし、質問されたら今度はきっと、素直に言おう。後悔はしていると。
「大和、怖い」
和生の声で現実に引き戻された。足音が更に大きくなり、大和は再び焦りを感じた。このままではすぐ見つかる。
「俺の後ろを離れんな!」
そう叫ぶとタイミングもなしに扉を開けた。外に向かって走り続ける。後ろから追いかけてきていることもすぐに分かった。
捕まるもんか。絶対逃げ切ってやる。
ようやく校門の近くまで走っていくことが出来た。後少し走れば、外に出られて、隠れる場所を探しながら逃げ続けるだけ。そう思うと早く成功させたいという、どうしようもない気持ちが大和の身体を束縛させたが、起こってはならないことが起きてしまった。
「大和!」
和生の悲鳴に近い声で振り向いた。そこに和生の姿はなく周りを見ると、丁度右側の方にいた。
兵士達に抱えられてトラックに向かっていたのだ。
「和生!」
何とかしてでも、和生も一緒に逃げなければならなかった。自分だけ逃げるなんてことは絶対したくなかった。
――あの人みたいには絶対、なりたくなかった。
兵士達の方に走った。殴ろうとしたが、避けられて逆に胸倉を掴まれてそのままトラックへ放り出されてしまった。大和はそこでしかもう直後の記憶は覚えていない。
ただ、はっきりと分かったのは、誰かが泣いていたことだけだった。
【残り四十人】
906
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 02:09:06 ID:???0
田中春奈(女子十番)と香田瀬津奈(女子三番)が戦っている時、前原のどか(女子十八番)は走っていた。
ああ、本当によかったのか。
自分だけ逃げてよかったのか?
とにかく今は逃げるしかなかった。瀬津奈から「逃げて」と言われたからには。でもそれより、逃げなければならない。今止まったら――確実に殺される!
商店街に逆戻って、住宅街の方まで走る。かなり遠いので体力は削られるが、この際仕方ない。それなら意地でも死なない。瀬津奈が待ってる。のどかは一緒に生きようと言ったことを忘れてはなかった。
だから生きる。
瀬津奈の為にも、死んではならない。
念の為、カッターを片手に握っている。何故なら相手が金属バットを持っているのでかなり不利なのかもしれないが、ないよりマシだった。何せ、――相手はあの青木はる(男子四番)だから。だから逃げなければならない。とにかく彼に追いつかれてはいけない。何故、こんなことになってしまったのか、それは私にも分からない。
意地でも逃げなければ!
のどかはずっと頭の中、瀬津奈や早乙女亜巳(女子六番)と三人で遊んだ記憶が鮮明に引っ張られていた。
少し前、はるは野球とかでよく使う金属バットをいじりながらも、不安をずっと抱えていた。どうせなら、サッカーボールがよかった。ボールには父親との想い出が沢山つまっているのだから。今、そのボールが手元にない。きっと、学園に置いてきてしまったんだろう。戻ろうかとも考えたが、無理だった。既に禁止エリアに入っている。そんな場所に踏み込んだら間違いなく首輪が爆発して、あの世行きだろう。
それは絶対に許されないこと。
天国のお父さんが呆れるに違いない。
だから何とかして生き残って、夢を叶えるしか他はない。
人殺しとか、プログラムで勝った人は何者になれるのか?
どっちにしろ、無理だろうけど。
静木青(男子十番)を思い出して、はるはハッと覚めたように目を丸くさせた。
せー。せーは大丈夫なのかな。
何かたまに保健室行きになることもあるし、心配だ。
もしかしたら何処かで今もきっと一人で泣いているのかもしれない。
そんなせーを誰かが殺すのかも、いやShirua(男子十一番)ならありえるのかも。
妙に不安になる。もし青が死んだら、はるはきっと壊れるのかもしれなかった。それは、はる自身も思っている所だ。その時、のどかが走っているのを見かけた。思わずバットをぎゅっと握って、歯を鳴らす。ぎゅっと目を瞑った。
そうだ、もっといい方法があったじゃないか。
せーを生き残らせるために、俺がせーの代わりに人を殺すことが。
二人になった時は、俺が自殺して。
今は、これしかない!
今に至って、はるの思いはまだ変わらなかった。親友を生き残らせて楽にさせてあげたい。ようやくのどかに追いついて、バットを振り下ろすことができた。背中を殴った為のどかはうつ伏せに倒れる。それでもはるは殴ることを止めなかった。
背中に、足に、腕に、頭に。これを何回か繰り返して、生死の確認をする。まだ生きていたら、更に同じことを繰り返す。のどかの身体が跳ねたかと思えば、動かなくなった。はるは足蹴でのどかを仰向けにする。鼻から口からも血が出ていた。もう、死んでいる。口は動いていないのだから。
人生で生まれてはじめて人を殺した。それも、クラスメイトを。これでは、自分の父親の命を奪った犯人と変わりないのではないか。
しかし、その考えもすぐに打ち消して、ディパックを抱え直してその場を去った。一人殺した。思わず笑いをこぼしそうになった。これで、この調子で青の生存率を高く出来るように頑張らなければ。
ねえ、せー。
俺がクラスメイトを殺したって話したら多分「何やってんの、君は」って怒るだろうけど。
でも、せーの為だから。
せーにはもう苦しんでほしくない。
だから、許してね。
女子十八番 前原のどか 死亡 【残り三十人】
序盤戦終了
907
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 02:10:37 ID:???0
淡本綾唯(女子一番)は、何処に歩いても全く海原青歌(女子二番)が見つからないことに、苛立ちを感じていた。一体何処にいるのか。出席番号はそんなに離れていない。相野輝己(男子二番)の次のはず。なのに、何故。
知っている。
このプログラムでは、誰も信じられないということ。
しかし、青歌は少なくとも、そんなんじゃないはずだ。どんな状況にあっても、決して自分を変えない。それは何度か見かけていた綾唯も知っている。青歌は必ず人を傷つけることは出来ないし、中居螢太(男子十六番)が気に入らないとはいえ、流石に人は殺さない。殺すほど、青歌が嫌っている人間なんて、かつていただろうか?
人を虐める者や、からかう者は基本的に青歌の敵。それと、男女差別が、今の青歌にとっては許せないものであろう。「俺」ということによって、青空町の一部の住民から色々批判を言われるが、此処で挫ける青歌じゃないし、むしろ刃向かうということが正しいのではないか? どんな相手にも、油断や甘えを許さない青歌。綾唯はそんな彼女が親友であることに何となく、誇りを持っていたのかもしれない。それは同じく一緒にいる黄泉泉(女子二十番)も多少は同じこと考えてはいる。
だから、海原青歌という少女は、五年A組の女子の間では多少存在が輝いている。その横に立つ淡本綾唯と黄泉泉という存在はみんな、どう思っているのかまでは分からない。ただの、海原青歌と愉快な仲間達ってことで終わるだろうなと思うけれど。
綾唯に支給された物は、十二色のクレヨンだった。当たりは来ないと思っていたのでほぼ予想通りだが、まさかここまでとは考えられなかった。これでは全然使えない。クレヨンでこの先何か役に立つことがあろうか。それにしてもこのクレヨンを見ていると、嫌なことを思い出す。
あれは、我のせいで。
悪いのは、他の誰でもない自分で。
一体、どれくらい自分を責め続けたんだろう。
青歌にも泉にも見せていないこの傷跡を完全に消せるのだろうか。
死ぬことで今までの想いを消せたら、どんなにいいことか。
立ち上がった途端、綾唯の肩に感触が突然残り、ばっと勢いよく振り向いた。時間を経てなければ、はっきりと誰なのか分からなかった。数秒、ナイフを持っている雪下よう(男子十八番)が驚いたような顔で思わずナイフを落としてしまった。あっと言わせない間に、綾唯はようが持っていたナイフを拾いそれをように向ける。
雪下よう。綾唯は関わったことがないので詳しくは知らないが、確かお金持ちで動物好きらしかった。それは誰とでも関わりを持つ青歌から簡単に聞いただけだけど。月下香介(男子十九番)、涙下伎璃(男子二十番)と、苗字の半分の字が同じなので正直申し訳にくいが、存在は薄かったはず。
その人が今自分を殺そうとした?
「汝、何のつもりだ」
「何のつもりって僕はただ声をかけようとしただけで」
「嘘をつくな。何故ナイフを持っている」
綾唯は元々誰も信じなかった。元からの性格で、更に男がどうしても嫌いだ。今も昔もずっと。それのこともあってか、今、疑いの
目をように向けているのかもしれなかった。
しかし、もうなりふり構っていられなかった。
今はただ「敵」を追い出すべき。
「ご存知だとは思うが、我はこの世に存在する男共が大嫌いだ。汝もその対象に入る。悪いことは言わない。今すぐに我の目の前から消え失せろ。そうすれば危害は加えない」
「でも」
「消え失せろ」
綾唯の鋭い目が光り、ようは恐怖に怯えてディパックを担ぎ、前へと走った。ナイフを下げ、一度じっと見眺める。多分、果物ナイフだ。コレは当たりなのか外れなのか微妙に判断し難い。けど、使えるはず。
青歌。泉。待っていろ。
すぐには、死ぬな。
【残り三十三人】
908
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 02:13:00 ID:???0
男子十八番 雪下よう(ゆきした・よう)
支給武器 果物ナイフ
被害者 なし
加害者 青木はる(男子4番)
死因 殴打によるショック死
登場話 02/28/59/60
死亡話 60話「誰かが助けてくれたら」
最終行動 青木はる(男子4番)の行動を「間違っている」と説得しようとしたがわかってもらえずに撲殺される。
友人関係 --
所属部 オセロクラブ(茶道部)
備考 間違っていることは間違っている、正しいことは正しいと冷静に判断できる。お金持ちの家に生まれたが、それを自慢に思うことはなく普通に人と接する。かなりの動物好き。
909
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 02:17:45 ID:???0
「はる?」
丁本拓哉(男子十五番)が声をかけた。が、青木はる(男子四番)は反応を見せない。ただ拓哉達を見つめているだけ。雪下よう(男子十八番)も不思議に思った。普段はるは、いつもスポーツしようと誘っていて、誰であろうと巻き込む。実際自分も誘われてやったのだけれども。
しかし、いつものはるなら笑って拓哉に「何だ?」と話を聞こうとするのに、今のはるは人形のように動かないし、口を開かない。一体どうしたのか。
「はる、どうした?」
「……せー……」
「え?」
「せーのために、死んで」
突然バットを振るわれ、拓哉は慌てて避けた。これには、その場にいたようも吃驚する。二人共、目をぱちくりさせてはるを見た。ようはどこかで狂っているのではないかと疑う。これは夢を見ているのだと。あの青木はるがそんなことをするような人ではないと。明るく、スポーツが好きで、このプログラムに乗らないできっと仲間を探すものかと、ようは思っていた。
現実は違う。
確実にこれは夢なんかじゃない。
「はる、どうして! 俺別にゲームに乗ってなんか……」
「ゲームに乗らなくても乗っても、死んでほしい」
「だから何で!」
「せーを生き残らせたい。だから無駄なものは俺が捨てる。これ以上、せーを苦しませたくないんだ」
静木青(男子十番)のことをそう呼ぶのははるしかいない。ほとんどは誰もが延ばさず「青」と言う。仲良し男子組ではない拓哉とようなど、クラスメイトは「静木」だった。女子では君付けであったが、仲良し女子組である海原青歌(女子二番)だけが、呼び捨てだった。この状況も呼び名を変えていないのは、いつものはるであろうか。
「でも落ち着けよ、静木を探せば……」
「探したいけどそれじゃ駄目なんだよ。せーに見せたくない。俺が血だらけになって殺してる所をなんて一番見せたくないんだ! だから少しでも、せめて残りが一桁になるように、努力をしなきゃ」
「お前の夢はどうするんだよ! いつも言ってたじゃないか、俺の夢は叶ったから今度は色んなことやるって! みんなも……藍瀬達を見殺しにするのか!」
「するよ」
はるの即答に、拓哉が絶句する。これ以上は何も言えないようだった。当然だったのかもしれない。
はるがこんなにも変わってしまったことに動揺を隠せずにいるのだから。ようも同じだったが、拓哉に続いて話した。
「それなのに静木を生き残らせるのか……優勝した人の気持ち考えて。そこまでしてもらっても、嬉しくないかもしれない。逆に申し訳なくなって自殺までするかもしれないよ? あまり意味がないよ」
「あるよ。せーには強くなってほしいし、生きていてほしい。その為なら俺は何だってする」
何話しても無駄だと分かった。今のはるの夢は、青を生き残らせること。その夢を叶えるために、努力をしている。これ以上何かを話すのは無理だ。逆にはるを怒らせることになる。
こんな時、誰かが助けてくれたらいいのに。
はるを、青を、みんなを、助けて欲しい。
「丁本、走って」
「……は? でも雪下は?」
「説得する。できなかったら逃げるつもりでいるよ」
「……そうか。じゃあ死ぬなよ。死んだら許さないから」
拓哉は渋々ようの言うことに従う為に走って何処かに行こうとしたが、ちら見してようを見つめる。前世亜緒(男子十四番)のことで気になるのだろう。しかし、拓哉は暫くしてように従う為に走り始めた。だんだんと小さくなる足音を聞いて、ようは再び話し出した。
「青木、君のしようとしていることは間違っているんだよ」
「間違ってる?」
「そう、間違ってるんだ。いくら何でも人殺しはいけない。死んだら、元になんて、戻れないんだよ」
「雪下、戻らなくていいんだよ」
はるがバットをように振り下ろして睨み付けた。肩を強打されたようは思わず尻餅をついた。逃げ場のない状況に焦りが出る。はるはもう正気に戻らない。何を言っても、聞いてくれない。全て、手遅れだった。もう一度はるのバットが振り下ろされた瞬間、目の前が真っ暗になったと同時に、誰かの声が聞こえた気がした。
男子十八番 雪下よう 死亡 【残り二十三人】
910
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 08:25:51 ID:???0
小林祐美(女子13番)は出発してからも、校門に出る前に、立ち止まっていた。
足が竦んでいたのかもしれない。
次に出てくるであろう、少し、ほんの少し、好意をよせていた北斗宗平(男子14番)を、心のどこかで待っているのかもしれない。
しかし、その宗平が、自分を殺さないとも限らない。
考えたくはない。
頭を振り払った。
とりあえず生きよう。
前向きに考えた。
それが私の長所だ。
暗く考え込むなんて信じられない。
いこう。
少し前の所で、高岡基樹(男子12番)が倒れていた。
基樹を起こそうとしたが、さっきの宗平のことと同じ気持ちになって止めた。(たぶん死んではいなかったと思う)
祐美は原因不明の焦燥感に駆り立てられ、校門を出ようとしたその時だった。
出口賢介(男子13番)が手にボウガンを持って、右手にある木々の間から出てきたのだ。(私が入学する前からあった。 春になると奇麗な桜の花をつける。 でも、たぶん、おそらく、もう見れないだろう)
目を見開いて、しかも血走っているように見えた。
天然パーマのかかった髪の毛を揺らしながら、こっちへ近づいてくる。
恐ろしかった。
もうすでに、このゲームに乗っている人がいた。
そいつが今、狂気に満ちた顔をして私へ向かってくる。
私はすぐにそこから逃げた。
校門を出ると、右から左にかけて道路が通っている。
前方には、私の家に続く、細い脇道がある。
右前方には土のままの、駐車場がある……のだが、生徒達に悪用されるのを防ぐためか、今は一台も車がない。
そんなものを呑気に見ている場合じゃなかった。
そうこうしている間に、賢介は桜の木の前にあったフェンスをよじ登っていた。
そして、私の逃げ道の選択肢の一つであった、道路の片方を防いでしまった。
こいつなかなか頭いい。
いや、ただ、馬鹿でフェンスの方が早いと思っただけなんだろうか。
後者だとうれしい。
それだとよっぽど狂っているのだから。
私は自分の家の方の前の道へ、走ろうとしたが、頭にふとした考えが浮かんだ。
相手に対して、平行に逃げるより、垂直に逃げた方が、距離がとれるのではないか?
ボウガンがどれくらい飛ぶのかわからなかったが、
銃なんかと同じで、扱い慣れてない人には狙うのが難しいハズだろう。
その考えに殉じて、右の大通りに逃げた。
走る。
相手の矢が当たらないのを願って、走る。
自分では、全速力なのだが、思うように前に進まない。
けど、いくらなんでも、あの出口賢介だ。
クラスの中では、運動ができない方の部類に入る、あの。
しかしその考えが甘いと理解したのは、
突き当たりのT字路にさしかかって、後ろを向いてからだった。
さっきとほとんど距離が広がっていない。
それどころか、縮まっているような感覚を受けた。
ウソ?
火事場の馬鹿力ってヤツ?
私に対して出さなくてもいいんじゃないの?
そう思った時には、正面の首筋、ちょうど首輪の上辺りに、鋭い衝撃が走った後だった。
祐美の思考は止まっていたはずだったが、奇妙な事に、
「そんな……」
という声を、絞り出すように発していた。
目を見開いて(さっきの賢介に似ていた)、口を半開きにして、祐美の心臓は、止まった。
実に、ゲームが始まってから七分という短い時間で、祐美は初めての死者となったのであった。
【小林祐美、死亡 残り39人】
911
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 08:27:57 ID:???0
男子1番 相沢操
部活動 バスケ部
交友関係 M‐07川上篤志 M-08菊川智 M-13浜本蒼一郎
F-14近宮暁香 F-16狭田芽衣
支給武器
現在状況 生存中
外見・身体能力 身長は167㎝と低めだが跳躍力がある。
運動神経はいい。まだ表情に幼さが残っている。
性格・特記事項 何事も中途半端でめんどくさがりや。
嫌いな言葉は努力と早起き。成績は中の下。
話術に長けていて、人を惹きつける話をするが、行き過ぎると説教臭いのが難点。
近宮暁香(女子14番)と付き合っている。
母と姉2人の母子家庭。
912
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/16(火) 08:28:48 ID:???0
男子2番 浅井謙二
部活動 新聞部
交友関係 M‐06加奈井泰弘 M-09椎名真澄
M-11仙藤康太 M-17森島徹
支給武器
現在状況 生存中
外見・身体能力 笑うと右の頬にえくぼが出来る。視力が悪く、眼鏡をかけている。
身長、運動神経共に標準的。
性格・特記事項 物静かで、読書家。
常に本を持ち歩き、新しい知識や言葉を得ようとする。
ジャーナリストになるのが夢で、常に物事を外側から見ようと心がけている。
頭がいい。
913
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/08/26(金) 14:55:01 ID:???0
小金井はらから
@kogaharahome2
成人済みオタク。
914
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/09/01(木) 11:08:04 ID:???0
樹
@ju_itsuki_ju
成人済オタク|ジャンルごちゃまぜ|落ち着くまでメインはルミナリア|詳細はプロフカード
profcard.info/u/DM7loeazBLQu…
915
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/09/02(金) 14:54:07 ID:???0
セリーナ・ジョセフィーヌ
@namekooooo111
成人済み 狼ゲーム垢 R18垢→
@rinkoukuri111
ツイプロ
https://twpf.jp/namekooooo111
誕生日: 1月11日
916
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/09/21(水) 01:14:22 ID:???0
秋葉貢
917
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/10/20(木) 11:04:08 ID:???0
『じゃ、まずは儚く散ったお友達の名前、時系列順に呼んでくからな。
両手にあふれそうな想い出たちを枯れないように抱き締めてな!
男子十一番・田中顕昌君…は知っての通りやな。
男子十八番・横山圭君。
男子八番・宍貝雄大君。
女子四番・如月梨杏さん。
男子十二番・内藤恒祐君。
男子二十番・林崎洋海君。
女子十六番・星崎かれんさん…以上7人。
ちなみに如月さん・内藤君・林崎君・星崎さんの8班は、リーダーの如月さんの
死亡によって残りのメンバーの首輪が爆発したから、皆は気ぃつけなー。
リーダーの皆も、自分の命大切にせなあかんで?
くれぐれも自分から命を絶つとか、そんな馬鹿げた真似はせんように。
リーダーの自殺でもメンバーの首輪は連動して爆発するからな』
918
:
ほしを護るは名無しの使命
:2022/11/09(水) 06:24:50 ID:???0
女子十一番 奈良橋智子(ならはし・ともこ)
身長 155cm
体重 47kg
誕生日 6月13日
血液型 A
部活動 無所属
友人 なし
愛称 智子・トモ・副委員長
出身小 月島東小学校(東京)
親の職業 会社員(父・母)
能力値
知力:★★★★★
体力:★★★☆☆
精神力:★★★☆☆
敏捷性:★☆☆☆☆
攻撃性:★☆☆☆☆
決断力:★★☆☆☆
通常入試で合格し、帝東学院中等部に入学した。
生真面目でとっつきにくいところがある。
非常に大人しく人付き合いが苦手なため、親しい友人をなかなか作れずにいる。
休み時間はいつも自分の席で読書か予習のどちらかをして過ごしている。
副委員長を務めるが、立候補ではなく星崎かれんや湯浅季莉に押し付けられた。
芥川雅哉の病気についてクラスで唯一知っており、常に気に掛けている。
雅哉に恋心を抱いているが、片想いに違いないと思っており、想いを告げるつもりはない。
以下ネタバレです。白黒反転させると読めます。
チーム: 第2班(リーダー)
支給武器: FNファイブセブン
kill: 芥川雅哉(男子二番)
killed: 榊原賢吾(男子七番)
死亡話数: 第七十話
凶器: 刀
E=02エリアにて潜伏していたが、何者かの襲撃を受ける。芥川雅哉(男子二番)と共に、日比野迅(男子十五番)・水田早稀(女子十七番)に逃がされる。<21話>
↓
雅哉と共にG=02エリアの民家に潜伏。体調が悪く寝ている雅哉の看病をする。<32話>
↓
迅と早稀を探すためにE=02エリアに戻ったが誰もおらず、早稀の好む菓子類が置いてありそうな商店へ向かうことにする。<48話>
↓
E=06エリアにて潜伏していたが、芳野利央(男子十九番)・阪本遼子(女子八番)・蓮井未久(女子十三番)に発見される。利央たちからクラスメイトの情報を貰い、別れた。<57話>
↓
E=05エリアにて、鷹城雪美(女子九番)率いる6班に見つかる。「下剋上ルールを確かめるために、リーダーでない方がリーダーを殺してほしい」という雪美の提案に対し、雅哉が自らがリーダーであると嘘をつく。自分を殺せという雅哉の言葉を何度も拒否したが、迅と早稀の命も掛かっているため、雅哉を射殺。同情した湯浅季莉(女子二十番)に逃げるように言われたが、榊原賢吾(男子七番)に背後から首を刺され死亡した。
みずかねの大好きな不良少年×優等生女子でした。
言っちゃえよもう!といろんな方に言われましたが(笑)、季莉に指摘されても最期まで雅哉の気持ちに気付くことはなく退場。
もしもプログラムがなかったとしても、智子が勇気を出して気持ちを伝えない限りは、雅哉と結ばれることはなかったのかなと個人的には思います。
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