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63名無しさん@おーぷん:2015/05/12(火) 10:55:05 ID:ORiTd2es
 おそらく、もう。


男性は、女性に話しかけているのか。はっきりと聞き取れる声がする。

 圭介は、耳をふさごうか、少し迷った。
 今まで通ってきた中で、あまりにも聞くに堪えないものに関しては、
声が聞こえなくなるまで耳をふさぎ、じっと佇んだのだ。
 聞くに堪えないもの。それは、無念とか恨みつらみの類だった。

 圭介自身に気づいて、襲ってくる可能性も捨てきれない。
 死者や死を直面した者が、道連れに生者を襲ってくることなんていうのは、不変の事象だ。
 圭介は、それが何よりも恐ろしかった。

 今、目にしているように、恋人同士など、自身の大切な人と共にいるものに関しては、
あまり警戒せずに進んできた。家族、恋人同士、夫婦。その人たちの会話、
後に残された人の悲しみの言葉などは、また別の意味で、聞くに堪えない辛さだったが、
心の中で手を合わせながら、進むことができる内容だった。

 その時、初めて自分の、天涯孤独の身を、喜んだ。

 まだそういった恋人、家族、夫婦がいないおかげで感情移入せずに済んでいる。。
 父母は、10年前の成人した時に鬼籍になり、そこからは文字通り、独り身で生きてきた。
 気の毒に思いつつ、気を狂わせずに来れたのは、そういう身の上だからこそのような気もする。
 今までと同じように、残された片方の言葉を聞きながら、心の中で手を合わせる。[newpage]


     男性のかすれた声は、続いている。
「ここを抜けたら、テレビ塔が見えてさ、君が言ったんだよ。ずっと一緒にいようって」

彼の言葉と、圭介の、雪を搔き分ける作業音だけが響く。

「やっとさ、地元に帰ってきてさ、暑いね、暑いねって言って
 こうして、思い出の場所に来て、あの景色を見ようってさ」

「君の白の、サマーワンピース、好きだった。よく似合うなって」
「でも、さ。そんなに、白くなるなんてさ。」
「なあ、ずっと一緒に、ずっと一緒にさ」

「・・・・ずっと、一緒だから・・・」

最後の声の主は、誰なのか。声は、そこで途絶えた。
 圭介は、頬につたう、汗なのか、涙なのか。それを拭った。


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