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261 イザベル :2016/02/05(金) 14:51:09 ID:yFYi9uiM
 本日のお菓子は何ですか。春告げ鳥という練切り菓子と、早蕨という上用饅頭でございます。では春告げ鳥と宇治の煎茶を。かしこまりました。こんな会話ではなくてもっとほかに…。さくら貝の指先が春告げ鳥を連れてきた。茶淹れは瀬戸様ご自身でなさいますか。お任せします。かしこまりました。“瀬戸様”…。いや待てよ、僕の名前を覚えてくれていたんじゃないか。これは良い傾向ではないか。すっきりとした所作で立ちはたらく彼女の姿を盗み見ながら、春告げ鳥をいただく。奥のひとの砂糖加減はきょうも絶妙だ。エネルギー充填、彼女との会話も弾んで・・・そのときであった。がらっと勢いよく引き戸が開いて「こんにちは!」という元気はつらつとした・・・子どもの・・・声がした。

 「ふみちゃん、いらっしゃい」
梟親父が相好を崩しながら奥から出てきた。片桐様、いらっしゃいませ、と彼女が丁寧に挨拶した。母親と思しき女性と小学生くらいの女の子。女性は相客である僕に会釈した。きょうは特別な日なんだから、などと言いながら女の子は椅子に座り、なんだか自慢げな様子である。茶子お姉ちゃんが居たから良かった、などとなれなれしく彼女に話しかけている。口惜しい。
「あれ、ふみちゃん、いつもまずじっくりと品書きを見るのに、きょうはどうしたの」
「だってもう決めてるから。朝比奈玉露とお菓子ぜんぶ!」
全部というのはお菓子2種類ともという意味です、と母親が苦笑しながら説明した。玉露と言ったな。僕だって滅多に注文しないのに。

 ご褒美なんだもの、とその女の子は、つんと顎をあげて言った。
「へぇ、テスト100点だったとか」
「この子の描いた絵が学校代表に選ばれて、市役所で展示されることになったので」
「それはすごい、おめでとうございます。ふみちゃん、何の絵を描いたの」
「くじら、です」
「水族館へ行ったんだね」
「そうじゃなくて・・・」
「じゃあ、高知県だったかな?ホエールウォッチング?海で見たのかな」
「じゃなくて・・・」
「あ、想像で描いた巨大なクジラとか」
困ったように首を振って女の子が何か言いかけたとき、菓子を運んできた茶子が生真面目な表情でその顔をのぞきこみながら話しかけた。
「鉄の、くじら、ですか」
女の子は、ぱっと顔を輝かせて茶子の顔を見つめながら、感に堪えないという風に言った。
「そう、鉄のくじら!」
彼女は品良く口元に微笑みを浮かべて、女の子の賞賛の眼差しを受け止めた。二度目の口惜しい、だった。

「潜水艦のことをそう呼びます」
鉄のクジラってオブジェか何かなの、と不思議そうな庵主に、彼女はそう説明した。呉で見学した潜水艦の絵で、操舵室も艦長室も食堂も全部見えるように描いた絵で、と女の子が熱心に説明するのを片耳でぼんやりと聞きながら、僕は、正直に言おう、かすかに不安になった。彼女は・・・ミリオタなのか?
 ふっと頭のうえに影が差したような気がして顔をあげると、目の前に彼女が居た。
「お茶のお代わりはいかがでしょうか」
お願いします、と言うより先に思わずたずねてしまった。
「ミリオタだったんですか」
「・・・みりおた、とはなんでしょう」
小首をかしげる彼女に、あわてて、いえ別にたいしたことではなくて、と誤魔化す僕を尻目に、またもや嬉しそうな女の子の声が飛んできた。
「茶子お姉ちゃん、ミリオタっていうのはね…」

フミとかいう名の、ちびミリオタに、三度までも彼女をかっさらわれた僕の頭に浮かんだ言葉それは・・・・

なすすべもなく。
                                 第三回おわり


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