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(*`Д´)ノ!!!スレ的オリジナル・ネット小説販売所
26
:
名無しさん@おーぷん
:2015/05/12(火) 10:39:00 ID:ORiTd2es
件の男は、自分がベンツ君スレの管理人だと二人の友人達には打ち明けてはいない。彼らは実社会で知り合った友人であるし、自分程ヘビーなネットユーザーでもないので、打ち明けてどうするという気持ちが先に立つ。
本スレが半年ばかり続いた時期に、自分ながらに「これは、只事ではないのかも知れない。もしかしたら、友人にも教えた方が良いのか?」と思った事もあったが、ふとした思いつきでサブ板を整え、そのサブ板が思いも寄らぬ方面に発展し始めた辺りから、打ち明ける事を完全に諦めた。
(オカスレだけでなく、色々本気で書き込んでるからな〜。コイツ頭おかしいとか言われたら、流石にメゲる自信がある。うん)
そうこうするうち、パラパラと雨粒が三人を打った。
「あ、こりゃもう無理だ。本格的に降って来るぞ。仕方ない、撤収だ」
隣の友人が宣言し、竿をしまいだした。
件の男も残る一人もその宣言に従い、帰り支度を始める。ろくな釣果が無かった上に急な雨だ。今日は余り運が良い日ではないらしいと、三人はそれぞれの度合いで気落ちした。
三人共海釣りは長年の趣味でもあるので、こんな日は今日が初めてではない。過去に何度もあった経験だ。
しかし、現在、自分が本気で某女神に焦がれている事を認識している件の男としては、友人達とは違って何やら本気で憂鬱な気分となってしまう。
(うぅ。これってもしかして、天照様が俺の事を嫌ってるとかってこと?…いやいや、事案さんも誰も、まだそんな事言ってないし!まだだ、まだ諦めんよ!諦めたらそこで試合終了だよ!)
色々ごちゃ混ぜになった台詞で自分を鼓舞しながら、件の男は手早く帰り支度を整えた。
駐車場へと走り、車に乗り込もうとした時。
「あ、晴れて来た」
友人が空を見て呟く。
その声につられて男が空を見上げると、確かに雲間から光が射し込んでいた。
そして。
「おっ、虹だ!随分はっきりとしたヤツだな!」
三人が見上げた空の彼方に、大きな虹が、地上から雲間に掛けられた橋のようにくっきりと浮かんでいた。
「久しぶりに見たな」
大の男達が、嬉しそうに虹を見上げた。
「…って、おい!?どうしたんだよ、泣いてんのかお前!?」
件の男が滂沱の涙を流していたのだ。
男は、ハッとして慌てて涙を拭う。
「いや、さっきの雨だよ。泣く訳なんてないじゃん?」
ヘラヘラと笑い、訝しそうな友人を誤魔化した。
「雨止んだからどうする?もう少し続けるか?」
空模様を見ながら、三人は相談した。件の男が口を開く。
「…いや、今日はもう止めよう。どうせ夜には降るっていうし、早目に飯食って帰ろうよ。今日は、俺が奢る。好きなモン食っていいぞ」
「お、何だよ珍しいな。雨でも降るんじゃって、もう降ったか」
「俺、鰻食いてぇ!特上鰻重!」
「乗った!それでもいいか?」
「へいへい、結構ですよ。俺の奢りを有り難く噛み締めながら、頂いて下さいってんだ」
「豪気だねぇ、旦那。何かいい事でもおありで?それとも、今日の釣果が散々だからヤケになったとか?」
「こまけ〜こたぁい〜んだよ!しつこいと奢ってやんないぞ!分かったら、さっさと店探して運転しやがれ!」
「は〜い先生、大人しく言うこと聞きま〜す」
大人二人が片手を上げてから、嬉しそうにスマホを取り出した。いそいそと帰り道沿いの鰻店を探す。
そんな様子を苦笑しながら見つめた男は、首を巡らし、眩しそうに目を眇めて虹を見上げた。
(この虹は、俺に見せてくれる為に掛けて下さったんですよね?違ってても、もう遅いです。俺はそう受け止めましたんで。待ってて下さいね、天照様。いつか、どうやってか知らないけど、いつか絶対その虹を駆けてあなたの下へ参りますんで。その日までどうか、待ってて下さいね)
本当は、両手を口に当てて、力一杯その思いを空に向けて叫びたかったが、友人達の手前、ぐっと堪えた。
代わりに、万感の思いを込めて空を見つめる。
(いつか、きっと…)
その熱い瞳を、確かに天照大御神は見た。しかし。
(意気地なしめ。思いの丈すら叫べぬようでは、まだまだじゃ。妾の下へ来ようなどと、千年早いわ)
辛辣な駄目出しと共に、天照大御神の口元に笑いが浮かぶ。
けれどもそれは、天照自身が思うよりずっと優しく、艶やかな笑みであった。
【終】
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