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136イザベル:2015/07/21(火) 16:40:50 ID:RnuOjy4Y
「お店の奥がどうなっているのか、気になってたんですよね。なにか隠してました。確実に」
貴子は思い出し笑いしながら言った。不思議な店だった。狐につままれているのでは?と思うほど。なんとなくだまされている感じがするのだが、それが不快ではない。そして店は幻のように消えてしまった。でも今は目の前に、わたしが自分で探し出したこの人がいる。
「皆さん、なにを隠してたのかしら」
「それはいわゆる“守秘義務”がありまして、僕一存ではバラせませんね」
という藤堂の答えに、そうなんだあ、と笑いをふくんだ声で答えながら、貴子は前穂高に目をやった。なんと美しい眺めなのか。そのとき、藤堂が軽く笑い声をあげたような気がしたので、貴子はあわてて視線を戻した
「なにかわたし変な事いいましたか」
「いえ、その反対ですよ。ここで食い下がって無理に聞き出そうとする人なら嫌だなと思って・・・。ほっとしましたよ」

先生こんにちは、と言いながらハルカがコーヒーをもってきた。いぶかしげな顔をみせる藤堂に、支配人からです、と告げた。あわてて藤堂が受付のほうに目をやると、支配人が片手を挙げてよこした。目が笑っている。

「空中散歩プランは最後まで実行できなかったんですね。残念でしたね」
ほっとした、という藤堂の言葉に、貴子は嬉しくて動揺を抑えきれない。わたしの顔、いま赤くなっていないかしら。声はうわずっていないかしら。
「残念だとは思わないです。山の神の庭で遊ばせてもらってるという謙虚な気持ちを常に忘れずにいようと思っています。だから、山の神から今回はここまでにしておけと言われたのだと考えています」
「わたしには、これよりさらに上へ登っていくのは無理です」
「登山には高いとか低いとか関係なく、危険がつきものです。このルートは簡単だ、と言い切る人はたまたま事故に遭っていないだけです。慎重に考えるのは良いことですよ。どうですか、この涸沢の美しさ。ここまでたどり着いただけでも素晴らしい体験でしょう」
「ほんとうに、ほんとうにそう思います」
貴子は心をこめて、そう答えた。


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