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約束

1Sa:2003/11/12(水) 23:03
初めて書かせて頂きますっ!
間違いなどありましたら、ご指導お願いします。


4月・・・‥校門から抜けると、目の前の通学路は薄く桃色の霞がかって見える。
皺ひとつない制服に包まれた少女達は、高揚した表情で笑いさざめき通り過ぎて行く。
入学式から数日、沢山の輝いた顔が、ひとり静かに歩く少女を追い抜いて行く。
・・・何にそんなに期待してるのさ・・・
ゆっくりと歩を進めながら少女は苦笑いする。

・・・・・やっと、見つけた・・・・・

誰かに囁かれた気がして、少女は立ち止まりゆっくりと振り向いた。
そこにはやっぱり、無意味に輝く団体と薄い桃色だけが瞳に映り消えていった。



後藤真希は、窓辺でじっと校庭を見つめる少女に近付くと身体を斜めにして、その顔を覗き込んだ
「なんかおもしろいモンでもあんの?」
少女は、一瞬ビクッと身体を強張らせた後、真希の方を振り返り微笑んだ
つられるように真希もあはっと笑う
「ね、慣れた?石川梨華さん」
「う〜ん・・・どうかな?わたし、もともと名前覚えるの得意じゃないんだよね」
梨華は困った様に笑う。その顔を見ながら、おどけた風に自分を指差す真希に
「後藤さん」梨華はおかしそうに笑った
「それだけわかれば充分じゃ〜ん。でも後藤さんは止めてよぉ〜ごっちんでいいからさっ梨華ちゃんて呼んでい?」
「うんっ!よろしくね?ごっちん」梨華は更におかしそうにくすくすと笑った
「梨華ちゃんの笑顔って、か〜い〜ね〜。ごとー友達、一番乗りってやつ?」
梨華は窓を振り返り、校庭をひとり歩く少女に一瞬瞳を向け・・・ともだち・・・心の中で呟いた
「ね?ごっちん・・・吉澤ひとみって子、知ってる?」

2約束:2003/11/13(木) 10:49
「吉澤ひとみって・・・有名人じゃん?あぁ、梨華ちゃんは今年からの転入生だから知らないだろうけどさ。
うち、女子高じゃん?・・・で、あのルックス・・・ハーフだか違うんだかわかんないけど、ちょっと日本人離れしてない?あの顔。
その上、すらっと背も高く、中性的雰囲気。なぁ〜んて、騒がれるでしょ?普通?」
真希はおもしろくもないと言うように言葉を続けた。
「・・・だけど、人を寄せ付けないっていうの?去年の入学式から、あの子のまわりで騒いでた子達、一ヶ月後には消えてたね」
なんでそんなこと聞くのか、真希が聞こうとした時、梨華が口を開いた。
「ごっちんも人気あるもんね?」
にこにこする梨華の視線を追うと教室のドアの前で、こっちに手を振りながら、後藤さ〜ん♪なんて言ってる下級生が見える。
「わたし、そろそろ帰るね?今日はお話出来て楽しかった!ありがとう。」
梨華は真希と目線を合わせるとふわっと微笑んで、肩先で軽く手を振り教室を出て行った
「あ、うん。また明日」
梨華の背中を見送りながら、らしくないよなぁ〜とため息をつく
真希はお節介なタイプではない。転入生と言ったって新しい学年の始まりで、真希だって知らない顔がいる。
そのうち友達なんて出来るだろう。なのになぜか、ひとりで窓の外を見つめる梨華は思いつめたように見えるのだ。
梨華は好意を持たれやすい、可愛らしい外見をしていた。
一見自信なさそうなその表情は、笑うと花が開くように見える
小柄な身体は華奢なのにスタイルもいい、その声も鈴のように高く可憐だ
話かけるクラスメイトにも如才なく対応している、真希が気にする必要などないのだ
だけど・・・と真希は思う。他人の気を引く容姿や雰囲気を持ってしまうこと、それは諸刃の剣のようだと
一年前、吉澤ひとみを見た時、真希は自分と似た人間なのかもしれないと漠然と思ったことがある。ただ・・・
「後藤さ〜ん!お話しませんかぁ〜」
きゃぁ〜と声を上げ手を振る見知らぬ子達に、真希はへらっと笑うと近付いて行った。どうでもいい世間話とやらをする為に
・・・そう、好意という名の好奇心を敵意にかえない為に

3約束:2003/11/13(木) 11:46
ひとみは今日もひとりゆっくりと校門を後にした
並木道の薄い桃色のベールは落ち、眩しい新緑が瞳に痛い程だ
眩しさに瞳を閉じると柔らかい風が、ひとみの少し伸びかけたショートカットの髪を撫でていく

「・・・・・わ・・・さん」
「・・・ざ・・わ・・・さん」
「吉澤さんっ」

さっきから人の声がすると気が付いていたけれど、まさか自分を呼ぶ人物などいると思えない

「待って!吉澤さんっ」
振り返ると、胸に手をあて、苦しそうに肩で息をする少女が見えた
「・・・なに?」
授業の発言以外で今日初めて口にする声は、自分でも以外なくらい、小さく掠れて聞き取りにくかった
「・・・あの・・・」
少女は口ごもる様に下を向き、顔を上げた瞬間、いま、ひとみを眩しくさせている春の陽だまりみたいな笑顔を見せた
「一緒に帰りませんか?」
ひとみは一瞬だけ、その目を見開いた後、ぼそりと言った
「・・・なんで?」
少女はひとみを見上げると、眉を八の字に寄せ困った顔をした
「一緒に帰りたいから・・・じゃダメですか」
「ダメだね・・・それに名前すら知らないやつと一緒になんて、普通みんな帰んないんじゃないの?」
少女は、あっと口を抑えてから頭を下げた
「ごめんなさいっ石川梨華って言います。吉澤さんと同じ二年生で、クラスは違うけどってそんなのわかるよね?今年転入してきたの」
梨華は、ひとみと目線を合わすとはにかむ様に微笑んだ
「・・・遠慮しとく」
ひとみは梨華から視線を外すと、踵を返して歩き出した

4約束:2003/11/13(木) 13:00
真希が黒板消しを叩きながら、窓を見ると梨華は今日も窓辺から校庭を見ていた
けほっとひとつ咳をして、黒板消しを手にぷらぷらと梨華に近付く、と、梨華が勢いよく振り返りぶつかりそうになる
「あっごめんね?ごっちん。じゃ、また明日。お掃除頑張って!」
「あ・うん。梨華ちゃんも気を付けてね〜」
真希が黒板消しを両手にバイバイと両手を振ると、梨華はコクンと頷きながら微笑んで教室を後にした
梨華ちゃん、急にどうしたんだろ?なんか用でも思い出したのかな?
真希は首を傾げながら、窓を大きく開けた。両手に持った黒板消しをパァンと音をさせながら叩く
と、校庭に梨花ちゃんが出てきた。おぉ〜いと出そうになった声を喉の奥で止める
梨華ちゃんは誰かを呼び止め、振り向いたのは吉澤ひとみだった
あれれ・・・いっがーい、口の中で呟くと後ろから声がした
「ごっち〜ん、さぼんないでっ!ほら、机運ぶ」
クラスメイトの声に「ほ〜い」と返事をすると、もう一度校庭を見てから机の方に近付いていった


「吉澤さんっ!一緒に帰りましょう」
高い弾むような声に振り向くと、ひとみはうんざりした声を出した
「・・・また、あんた?」
「あんたじゃないですよ?石川梨華です。覚えてもらえました?」
「・・・覚える気ないから」
そっけなく言うと、梨華は俯いた。次に顔を上げる時には、その顔には非難の色が浮かんでいるだろう
もしかしたら、涙を浮かべているかも知れない。知ったこっちゃない。
いつだってそうなのだ、ひとみが頼んだ訳でもないのに、無理やり押し付けられる自分に向けられる好奇心は受け取られないとわかると、形を変えひとみを責めるのだ。そして色々なレッテルをひとみに貼り付けていく。
「・・・でも、顔を覚えてくれてるなら、全然知らない人って訳じゃないよね?」
顔を上げた梨華に落胆の色はない、それどころか気分良さそうに笑ってさえいる
「・・・・・・」
意外なその表情にひとみが黙ると梨華の瞳に期待が込められた
嫌なものを見たように視線を外すと踵を返しながらひとみは言った
「・・・やめとく・・・」
歩調は変えずゆっくりと歩いて行く、ひとみの後ろ姿を見ながら梨華は心の中で呟いた
・・・ひとみちゃん・・・ひーちゃんだよね?
頭の中で、いまのひとみが小さな子供になり、照れた様に梨華に笑いかける。
小さなその手を梨華に差出し、明日も遊ぼう、約束だよ?と指きりをした
視界が滲みそうになり、慌てて頭を振ると、唇だけ微笑みの形にして歩き出した

5名無し(0´〜`0):2003/11/13(木) 17:20
む、新作ですね。
何だか面白そうな予感・・
次回を楽しみにしてます。

6名無し(0´〜`0):2003/11/13(木) 21:20
面白そうだー!!!
続き続きが、気になります!
二人の関係は???

7約束:2003/11/14(金) 18:50
今日も梨華は窓に寄り添い、外を見てる
毎日と言う訳ではないけれど、真希が例の意外な場面を目撃してから約一ヶ月、週の半分の放課後はそこは梨華の指定席だ
ぶらぶらと梨華に近付くと、慌てた様に勢いを付けて振り返った梨華とぶつかりそうになる
何かを誤魔化す様に微笑みながら、梨華は口を開いた
「ごめんね?ごっちん・・・見て外、雨が降りそう・・・」
振り返り窓を見る梨華の視線を追うと、鈍く重そうな雲が相談ごとでも始めるように集まってきていた
梨華は真希の横をすり抜け、置き傘を手に持つと首を少し傾げる様にして聞いた
「ごっちん、傘持ってる?」
「んあ?・・・んっ」
「なら、ごっちんも早く帰った方がいいよ?」
いつもの微笑みを浮かべて、梨華は傘をバイバイというように振り教室を出て行った
真希も笑顔を浮かべると、口の動きだけでバイバイと返した
今日は真希が梨華をぼうっと見てるうちに、みんな帰ってしまったらしい
誰もいない教室をぐるりと見回すと、なんとなくため息が漏れた
傘ないって言ったら、一緒に帰ろうよって言ってくれるのかな
窓に近付き外を見れば、吉澤ひとみが校門をちょうど通り過ぎるのが見えた
・・・やっぱりね・・・
約一ヶ月前、意外な組み合わせを見た真希は、そう言えば梨華ちゃんに吉澤ひとみについて聞かれたことがあったっけと思い出した
梨華が例の指定席で外を見る、その視線を追うと、そこには吉澤ひとみがいた
あ〜ゆ〜のがタイプなんだぁ〜。そう、からかおうと梨華に近付いて、その横顔を見た時、真希は、なんとなく見てはいけないような気がして、視線を外した
その横顔は、ひどく緊張して追い詰められてるように見えたから
そして、梨華が教室を後にした後、真希がその場所に立ち、外を見ると
帰宅しようとする吉澤ひとみを梨華が呼び止め、二人の間で2、3言葉が交わされるだけで、一緒に帰宅することは一度もなかった
真希はわからないと思った。真希は人に深入りするタイプではない
その場その場に合わせて、気の利いたことを入ったり、ボケて見せたり、面白くもないのに笑っているのだ
梨華も表現方法は違うけど、自分と同じタイプだと思ってた
あの柔らかく優しい笑顔は誰のもとにも平等に零す、誰に対しても平等ということは、誰のことも特別じゃないということだ
誰にも必要以上、近付かない。近付けさせない
たぶんクラスで梨華と一番一緒にいる真希にさえ、梨華が何かを誘ってきたり、頼ってきたことなどないのだから
だからこそ、わからない。そしてわからないと思えば思う程、気になってしまうのだ
あの表情も、あの行動も。
ま、いいや、どうしても聞きたくなったら聞くだけだ。
それに梨華ちゃんが答えてくれるかどうかは別だけど。
ぼやっとしてた視線の焦点を空にあてると、雨は音もなく降り出していた

8Sa:2003/11/14(金) 19:11
・・・うっわぁ〜〜〜レスが付いてるっ!!!
ありがとうございますっありがつございますっありが・・・
・・・しつこいですね?あはっ♪

5さん>予感を裏切ることにならなければ、いいんですけど・・・
    また次回を楽しみだと言ってもらえるよう頑張りますっ

6さん>面白そうですか?うれしいですっ!
    二人の関係は・・・なんでしょう???
    ・・・ベタです・・・

スレを立たせて頂いた以上、言い訳がましいのはなんなのですが
Saはパソの扱い自体、初心者です
なので、お見苦しい点は多々あると思います
だけれど、読んでやってもいいよと思って下さる方がいたら幸いです
よろしくお願い致します

9名無し(0´〜`0):2003/11/14(金) 20:52
面白いです!超期待!!
でも、作者さんのペースでがんばってください!
続き待ってます!

10約束:2003/11/14(金) 21:08
梨華は急いで校門を後にすると、目の前に続く道の左右に視線を走らせた
・・・今日はダメかもしれない・・・・
静かに大きく息を吐くと、それが合図のように最初の一粒が頬に落ちた
・・・降ってきちゃった
手に持っていた薄いピンクの傘を開きながら、梨華は考えた
・・・やっぱり・・・止めた方がいいんだよ?
・・・きっと、余計なこと
この一ヶ月あまりの、ひとみの迷惑そうな顔が浮かぶ
・・・と、それは小さな子供のひとみに戻って、梨華を嬉しそうに手招きするのだ

ぼぉっと足を前に進めていると、並木道を過ぎ、大きな公園の横にさしかかる
・・・昔は、こんなのなかったのに・・・って、十年以上たつもんね?
梨華は入ったことはないが、季節の樹木や花、なだらかに続く芝生、小さな池と東屋
・・・あの芝生、昼寝に最高だね。真希がそう言いながら明るく笑う顔を思い出した
・・・ごっちん・・・
真希が何か聞きたそうなことも、転入生の自分を気にかけてくれてることも
梨華は気付いてる
・・・でも・・・最初から決めてたこと・・・だから、ひとみにもこれ以上・・・
どんどん俯きそうになる頭を振って顔を上げて公園を見る
柵のない入り口があり、中央には雨に芝生が濡れて輝いている
左手の道は小高い芝生の丘を沿うように進んでいる
右手には小さな池を囲むように緩くカーブした道が続き、池の正面に東屋が見える
暑くなると、東屋の前にカキ氷売りにくるんだよ?楽しみだねぇ〜梨華ちゃん!
真希の言葉を思い出し東屋を見る
夏前の梅雨の時期、誰いない公園、止まってしまったような時間の流れに梨華の身体が小さく震える
梨華が歩き出そうと、視線を動かした時、東屋の大きな柱の先で人影が揺れた
公園への入り口へと身体をずらし、柱の影を覗き込むと・・・
前に出ようとする足を梨華は意識して止めた
・・・もう、止めようってさっき決めたのよ?
自分にいい聞かせ足の向きを変えて、二、三歩進んで立ち止まる
・・・でも・・・傘がなくて帰れなくて困ってるのかも?
だから・・・今日だけ、傘を貸すだけだから
いったい何に言い訳してるのだろう?
可笑しくなって、くすりと笑うと東屋に向けて歩き出した

11Sa:2003/11/14(金) 21:27

9さん>超・・・ですか?ありがとうございます。
    超がっがり〜って思われないようにがんばりますですっ!

更新ですが、まとまって一気に出来る状態じゃないので
出来る時は日に何回も、ちょとずつ・・・という形になってしまいます
ツギハギっぽくっていやだな〜と思われるようでしたら
土、日、祝は書かないと決めているので、それを除く三日間分位まとめたら
いくつかは読んでいただけるかな?と思っています
よろしくお願いします

12約束:2003/11/14(金) 21:56
ひとみは東屋の囲いの中、梁に背中を預け片足を抱くようにして
細い糸のような雨をみていた
雨に濡れるのが嫌いな訳じゃない、学校に傘など持って行ったこともない
だだ、雨の日はひとりの家が余計になんの音もしないように感じるのが嫌なのだ
ひとみがいつも家にまっすぐに帰るのは、明るいうちに家のドアを開けなければ
真っ暗な深い闇に誘われるような錯覚を起こすからだ
暗闇が怖い訳じゃない・・・
ひとみは立てた膝に頬を付けると目を閉じた

一瞬寝てしまったのか、一瞬しか時間が経っていないのかわからない
人の気配に顔を上げると淡いピンクの傘が見えた
花が咲いたみたいだと思った
スローモーションみたいに、傘が上を向くと石川梨華が微笑んでいた

13約束:2003/11/14(金) 23:22
差した傘をくるくる回しながら、おどけた口調で梨華は言った
「さて、わたしは誰でしょう?」
ひとみは、湿気で少し重く感じる顔にかかった前髪を指先で上げながら答えた
「・・・石川さん・・・」
梨華の瞳が意外だとでもいうように開かれる
そのまま瞳を細め微笑むと梨華は、ひとみが聞き取れるかわからないほど
小さな声で、ありがとう・・・と言った
梨華は傘を閉じるとひとみの方を見ずに東屋に入り、少し離れた位置に腰掛けた
閉じた傘と鞄を脇に置き、傘から滴る雫が造る水溜りをじっと見た後
両腕を椅子に置き、自分を支えるみたいに力を入れると足元に視線を落とした
「わたしね?吉澤さんのこと、ひとみちゃんって呼びたいんだ」
ひとみは梨華のいない方に首を回し、雨が池に造る波紋を見ていた
「上手く言えないんだけど・・・わたしはここにいる、吉澤ひとみさんと
友達になりたいの」
梨華は小さく深呼吸した
「あなたはひとみって名前なんでしょう?わたしは貴方のこと呼びたいんだよ」
梨華は大きな声を出した訳じゃない、なのにひとみの胸は一瞬どくんと驚きの声を上げた
「・・・わたしも梨華って、呼ばれたいしね」
梨華の動く気配で、なぜだか緊張していたひとみの身体の力が抜けた
振り返り、梨華を盗み見ると鞄を開け、何かを取り出した
慌てて目を逸らしたひとみの前に赤い小さな折りたたみ傘が差し出された
「わかってる。一緒に帰る気はないんでしょう?」
その声はひとみが梨華から聞いた中で一番優しく響いた
受け取ろうとしないひとみの横に静かに傘を置くと、梨華が立ち上がる気配がした
一瞬の迷いの後、ひとみは視線を遠ざかっていく梨華の後姿に向けた
「ねえっ」
大きな声にひとみ自身が驚いた、引き止めてどうするというのだ
いったい何を言おうというのだ、頭の中には、ただ雨の降る音だけがする
梨華がゆっくり振り向いた、その表情は雨に邪魔されてよくみえない
ひとみはそれでも真っ直ぐに梨華を見つめて言った
「・・・いっつも傘、二つ持って歩いてんの?」
梨華が踵を返して歩き出す前に、その笑顔が確かに見えたとひとみは思った

14約束:2003/11/17(月) 11:21
ひとみはゆっくりと校門を後にした
ほとんど何も入ってない鞄を脇に抱えて、空を仰ぐ
今年の梅雨はなまけものらしい
並木道を進む足を止めて、視線を一度振り返らせる
小さく肩を竦めると、またゆっくりと歩き出した
揺れる鞄の中で、赤い傘が小さな音をたてていた

15約束:2003/11/17(月) 11:57
ホームルームが終わり、担任が出ていくと、教室の中はザワザワとした声が溢れ出し
今にも教室から飛び出しそうだ
・・・金曜日・・・か
ひとみは鞄を開け、小さな折りたたみの赤い傘を見ながら、ため息をついた
・・・今日で・・・五日
頭をひとつ振ると鞄をかかえ、傘を手に教室を後にした
あの子の教室は三階の確か真ん中辺り
ひとみは階段を上がりながら、憂鬱なはずなのに、どこか楽しんでいる自分を感じていた
教室のプレートを見上げながら、開きっぱなしの教室を横目で見ながら素通りすると
後ろのドアにもたれるようにして、教室に視線を投げた
寄り道の相談で、賑やかな教室はたくさんの生徒が出入りしている
梨華を捜して視線を彷徨わせた、その時
「梨華ちゃんっ!」
よく通る明るい声がひとみの耳に聞こえた

・・・なんだ・・・いるんじゃん・・・あんたのこと、呼んでくれる奴が

ひとみが声のした方を見ると、日差しにセミロングの美しい髪を輝かせ
同じような輝く笑顔を顔にうかべた少女が、梨華の肩に手を置くと親しげに話かけた
それに答える梨華の小さな笑い声が聞こえる気がして、ひとみは傘をロッカーの上に置くと
そのまま廊下を歩き出した
今日はまっすぐ家に帰る気がしない・・・なぜだかひとみはそう思った

16約束:2003/11/17(月) 12:12
「梨華ちゃんっ!」
真希は帰り支度をする梨華の席に笑顔で近付いた
「ねぇねぇ梨華ちゃん、これ、い〜と思わない?」
梨華の肩に手を置くと、さっき考えた担任の新しいあだ名を教えた
ぷっと梨華の口から小さな笑い声が漏れた
梨華の笑顔を見ながら真希は口を開いた
「ねぇ梨華ちゃん・・・」
「ん?」
梨華は笑いの余韻を残す表情のまま真希の顔を見た

17約束:2003/11/17(月) 13:53
「梨華ちゃん、ここんとこ見張りはお休み?」
真希は、意識しておどけた口調で言うと梨華の指定席を見た
「あぁ・・・気付いてたんだ」
梨華は困った顔をした後、くすくすと笑い出した
「二回もぶつかりそうになっちゃったし、やっぱり不自然だったかなぁ?わたし」
「そんなことないけど・・・」
真希は、梨華の表情が気になってずっと見てたから、とは言えなくて言葉を濁した
「前・・・ね?」
「ごっちんに吉澤さんのこと聞いたでしょう?」
「うん」
「知ってる子かな?って思ったの。わたし昔この辺に住んでで、すごくちっちゃい時だったんだけど」
梨華の瞳が、今ここにはない何かを懐かしむように微笑む
「へぇ〜そうだったんだ?」
梨華は微笑みを浮かべたまま、真希の顔を見て頷いた
「すごく仲良かったから、また仲良くなれるかなぁ・・・なんて」
梨華の口調が、自嘲気味になったのになったのに気が付いたけれど、真希は言った
「感動の再会ってやつ?」
梨華は薄く笑ったまま首を振り、俯いた
「あんまり話せてないから・・・言ってないの」
「それに、本人じゃないかも・・・ひーちゃんって呼んでて、名前とか覚えてないし」
「・・・本人だったとしても、そんな覚えてもない昔のことで、懐かしがられても迷惑なだけなんじゃないかなって」
気が付いたの、と梨華は寂しそうに笑った
真希は頷きながら、あんな表情をするほどに思いつめていたのが、釈然としない気がしたが
懐かしい土地に来て、知ってる顔を見つけた喜びと、それ気持ちが拒絶された寂しさ
他に親しい人がいないから、思い込み過ぎてしまったのかな?と自分を納得させた
真希が持っていた印象と、どうやら梨華は違うらしい
けれどこの子となら、いつもの真希が取る他人との距離を一歩縮めてもいいと
漠然と感じていた
気分を変えるように、さらりと真希は言った
「ね?梨華ちゃん、たまにはさ、寄り道してこーよ」
真希の言葉に梨華が頷きかけた時、出口に向かうクラスメートの声がした
「ごっち〜んっカ・ラ・オ・ケ!言いだしっぺあんたでしょっ!」
真希はドアに数人固まるクラスメートを見て、うわっと顔をしかめた
「やっべ!ま〜た忘れちゃってたよ」
あはっと誤魔化し笑いをしながら、梨華を見た
「梨華ちゃんも一緒に・・・行かない・・・よね?」
梨華は、うぅ〜んとちょっと考える顔をした
「カラオケは・・・やっぱり、ちょっと・・・ごめんね?ごっちん」
ちょっと上目使いで謝る梨華の顔に、真希の笑顔が零れる
「梨華ちゃんてやっぱ、か〜い〜ね〜、薄情な幼馴染もどきなんて忘れちゃてさっ
これからは、ごとーと仲良くしよ〜よ」
真希が梨華の顔を覗き込むと、今度は怒った声が「ごっちんっ!」と教室に響いた
うめ合せは必ず・・・と、真希は片手で梨華に拝むようなポーズをすると
数人のクラスメイトと共に教室を出ていった
梨華は真希がドアを出ていくのを見送った
その時、視界に小さな赤い色が飛び込んできた
視点を合わせると見慣れた傘が、ロッカーの上にまるで梨華を待つように、そっと乗っていた

18Sa:2003/11/17(月) 14:05
自嘲気味になったのに、なったのにって繰り返してしまいました
ごめんなさい
おまけに自分でageちゃうし・・・
いっつも文章長すぎちゃうし・・・もっとこう、読みやすく書けないかなぁと
思ってはいるのですが・・・
読みにくくてすいません・・・でもっ頑張ってますので、お付き合い頂けたら
うれしいです

19名無し(0´〜`0):2003/11/17(月) 20:43
これからの展開が気になります。
更新楽しみにしています。

20約束:2003/11/18(火) 11:44
ひとみはぼんやりと並木道を後にした
目の前の景色は像を結ばず、ついさっき見た教室の光景が浮かぶ
梨華と一緒にいた少女−後藤真希−あの子の顔は知っている
去年、新入生としてこの学校の門を通った頃を思い出す

21約束:2003/11/18(火) 12:01
ひとみがこの学校を選んだのは、自宅から徒歩で通えることと
知り合いがほとんどいないこと、それが理由だった
ひとみが三年間通った中学校から、この学校の門をくぐれるのは
その生活のすべてを受験勉強の為に向け、他人や噂話などになんの興味も
持たない、そんな人種だけだ
けれどそんな努力など何もしなくても、この門をくぐれる人種もいるのだ
ひとみのように

22約束:2003/11/18(火) 12:28
後藤真希は入学式当日、新入生代表で挨拶をしていた
正面を向き、淀みなくあふれる言葉を紡ぐ真希の顔は
誇らしさよりも、ただ、押し付けられた面倒な仕事を淡々とこなしている
そんな風に見えた
ひとみは好感も反感も持たなかった

入学を祝うような桜の冠が外される頃
校内のあちこちで、ひとみと真希の名前は囁かれた
そして一学期の中間テストの頃
ひとみの名前が貼り出された大きな用紙の一番上にあっても
直接、ひとみに声をかけてくる者はひとりもいなかった

あれはいつだろう?廊下ですれ違ったことがある
バランスのとれた、伸びやかな肢体
テレビコマーシャルに出てきそうな輝く髪
整った顔は、気の抜けた笑顔で親しみやすいものへと変化している
数人の生徒に囲まれて歩いていた
その真希の腕に手を絡ませ、得意げに微笑みかけているのは
最初の頃、ひとみのことを頬を染め、見つめていたはずだ

・・・ご愁傷さま

ひとみはおかしくなって、苦笑いを浮かべた

23約束:2003/11/18(火) 12:49
溢れそうな回想から、子供のはしゃぐ声で現実へと引き戻される
公園の入り口で足を止めると、香りたつような芝生の上を、
子供が母親の手をひっぱるように走っていくのが見えた

・・・ひとみちゃんて呼びたいの

唐突に頭の中で声がする
あの雨の日、花開くような梨花のピンクの傘が目に浮かぶ
友達になりたいと言った梨華の声が耳元で繰り返される
そういえば、面と向かってそんなこと言われたのは
初めてかもしれない
なにかに誘われるように東屋へと足を進めながら
・・・梨華の笑顔が見たい・・・そう強く思う自分を、ひとみは感じていた

・・・梨華の笑顔が見たい

24Sa:2003/11/18(火) 13:00
うえっまたやっちまいました〜
・・・梨華の笑顔が見たい、二回目の書込みを今すぐ
消してしまいたいっ
すみませんです、注意力散漫になってるよ
気を付けなければっ

19さん>レスありがとうございますっ!マジうれしいですっ!!!
     毎日のように書いてる割には、話がなかなか前に進みません(涙)
     そんな時、頂いたレスを見ると
     読んでくれてる人がいるんだぁ〜〜〜
     と、かなり、やる気がでますっ!
     これからもお付き合い、よろしくお願いします!

25約束:2003/11/18(火) 13:53
ひとみは、ふと思いついたように足の向きを変え
なだらかな芝生に包まれた丘を歩きだした
大木の葉が風に揺れ、芝生に陰影をつけている
腰を降ろすと、ゆっくりと寝転がり組んだ手に頭を乗せた

自分に、世間でいうところの友達が果たしていたことがあったのだろうか?
ひとみが物心がつく前、自分と他人の境界線が、まだあやふやな頃
自分のまわりには、いつも人が絶えなかった気がする
・・・けれど
どうやら、自分はある意味普通ではないらしい
そうひとみが自分で気つく頃、まわりに人が集まることはなくなっていた
いつも遠巻きに送られる視線、羨望も嫉妬も、同じに見えた
・・・あぁ、そうだ、確か一人いた。
ひとみが友達なんだと思っていた相手が
どうやら、向こうは違ったらしいが
・・・過ぎたこと、どうでもいいことだと思いながら
ひとみは、揺れる木漏れ日に誘われるように目を閉じた

26約束:2003/11/18(火) 14:11
小学校から知り合いだった少女は、私たち親友よ?
ひとみの耳に、宝物の地図を教えるような口調で囁いた
いつも自分の半歩後に影のようにつづく少女を
ひとみは自分が庇護する者なのだと、漠然と思っていた

ある時、少女は言った
「私、好きな人が出来たの。誰にも内緒よ?
ひとみに、だけ、教えてあげる」
学校で知らない者のない、とび抜けて有名な先輩の名を
少女はうっとりとした表情をその顔に浮かべ
なにかの宣言のように口にした

長い夏休みが始まる前、少女はひとみに言った
「先輩、今年で卒業しちゃうし、これから受験でどんどん忙しくなるわ。
だから、一日でもいい、一緒に出かけたいの。」
そして、ひとみ、誘ってよ。と命令のような口調で言ったのだ
なんで自分が?と思わない訳ではなかったが、
普段、ひとみの影に隠れるように、息をするような少女を思い
ひとみは先輩の教室へ足を向けた

27約束:2003/11/18(火) 14:25
勉強疲れなど、微塵も感じさせない完璧な笑顔で先輩は言った
「うれしいよ・・・けど、俺、受験生だし・・・その子
・・・その、こう言っちゃなんでけど、俺のこと好いてくれてる訳だよね?」
ひとみは答える訳にも言わず、困った顔をした
「じゃ、君も来てよ?それなら、デートって感じじゃないし、
友達に余計な期待をさせることも、友達思いの君のお使いも
無駄にはならないだろう?」
ひとみは、当日、具合が悪くて行けなくなった。とでも言えばいいと思い
・・・はい・・・と答えた
夏季講習などあるから、日程がわかり次第連絡すると言う先輩の言葉に
ひとみは聞かれるまま、自分と少女の電話番号を教えた

28約束:2003/11/18(火) 14:59
中学校初めての夏休み、がなるような蝉の声を引き裂くように電話がなった
受話器の向こうから、ざわついた街の喧騒と先輩の声が聞こえた
「いま、ヒマ?」
あまりの意外な言葉に、考えていた言葉は咄嗟に口から出なかった
駅前の喫茶店の名前を言うと、一方的に電話は切られた

その店で先輩と向き合い、頼んだ冷たい飲み物のグラスに
水滴が流れていく様を、なかなか現れない友達と遅い時間の流れに
イライラしながら、ひとみは見ていた
何度目かの店のドアの入店者を教える、涼やかな音に
縋るような眼差しで、ひとみは振り返った
「・・・友達は、来ないよ?」
驚きに目を見開いて、ひとみがゆっくり先輩の顔に視線をもどすと
「呼んでないからね、だから、なんの心配もいらないよ?」
先輩は何を言っているんだろう?
この人はなんで笑っているんだろう?
先輩は、すべてわかっているというように頷くと
「君と俺なら、誰もがうらやむカップルになれると思うよ?」
「大丈夫、友達なんて幻想だよ?代わりはいくらでもいる・・・」
・・・この人、頭おかしいんじゃないの?
話の途中から、熱に浮かされてるように、しゃべるつづける先輩の声は
なんの意味も持たず、ひとみの耳を素通りしていくだけだった

29約束:2003/11/18(火) 15:53
それから新学期が始まるまで、何度電話しても、電話口に少女が出ることは
なかった

残暑のうだるような熱気の中、学校へと足を向けるひとみに
執拗に絡みつく視線は、凶器のような鋭さを持つものに様変わりしていた
何度、少女と合わせようとした視線も、ことごとく無視された

ある日、我慢出来ずにひとみは少女の腕を取ると、乱暴に振り向かせた
「ちょっとっ話を聞いてよ!」
俯く少女へと、私たち友達でしょ?とひとみが優しくかけた声に
顔を上げた少女の瞳は、炎のような憎しみに燃えていた
口元の片側だけを歪め、見たこともない表情で少女は言った
「誰と誰が友達だって?笑わせるんじゃないよっ裏切り者っ!」
初めて聞く少女の怒鳴り声に、ひとみがひるんで手を放すと
少女は、ひとみの顔を凍えるような冷たい視線で捕らえ、嘲笑った
「あんたのことなんて、みんな、邪魔者だって思ってるんだ」
そういうと、少女はひとみに背を向け走り去った
残されたひとみは、途方に暮れた
呆然と立ち尽くした後、ひとみは笑いがこみ上げたきた
−友達の好きな先輩を誘惑して、こっぴどく振った−
ありもしない出来事を、自分以外は、みな、真実だと言うのだ
頭がおかしいのは、あたしかも知れない
ひとみは大声で笑い出した
可笑しくて、可笑しくて、笑いが止まらない
ひとみは狂ったように笑いつづけた

30約束:2003/11/18(火) 16:14
それからひとみは、望まれれば、誰とでも付き合った
男も、女も、年上も、年下も
要求されれば、身体の関係も結んだ
いったい何人と付き合ったのか、名前も、いまとなっては顔さえも
覚えていない
ただ、誰と付き合っても、何人付き合っても、得るものも失うものも
ないことが・・・やるせなかった
−普通の顔して、学校に来れるなんて、信じられない−
−あの人、普通じゃないもんね?−
−きっと、緑とか青い血でも、流れてるんじゃない−
今日も聞こえる忍び笑い、数々の様変わりする噂
でも、と、ひとみは思った
あながち嘘ばかりではないのかもしれない
この身体の、どこかを傷付けたとして、自分の身体を巡る血液は
果たして、ほんとに赤いのだろうか?
もうひとみは、それさえもわからなくなっていた
いつか、試してみるのもいいかもしれない

誰といても、何をしても、何も感じないのなら、ひとりでいよう

そして・・・ひとみは孤独の中にいる

31約束:2003/11/18(火) 16:56
夢と現を彷徨いながら、それでいいんだとひとみは自分に言い聞かせる
人はみな、一人で生まれ、一人で死んで行く
それは変わることのない真実だ

結局、人はみな孤独なのだ

・・・でも
・・・・・でも?

いつかひとり、この世から、ひとみがいなくなったとして
心を悲しみに染める人がいないのならば、自分の人生に
なんの意味があるのだろう?

それに・・・それよりも、あたしは本当に、いまここに存在しているのか?
誰かに、教えて欲しいとひとみは思う

夏へと変わる匂いを含む風が、ひとみの閉じた睫を微かに揺らす
もう、考えるのはよしなさいと言うように

やっぱり・・・面と向かって、あんなことを言われたのは初めてだ
あの子なら答えてくれるだろうか?
何を望んでるか、さっぱりわからないけれど
あの子にとってあたしは、意味のある存在なのだろうか?

風にさらわれ、意識を手放す刹那、あの子の−梨華の−顔が浮かんだ

32約束:2003/11/19(水) 13:17
さわさわと芝生が風に揺れている
たったったっと軽い足取りで、小さな女の子が自分に駆け寄ってくる
翻ったピンクのスカートをちっちゃな手で押さえると、ひとみの横に腰掛けた
「・・・・・ぃちゃん、今日は何して遊ぶ?」
気が付くと、ひとみも同じくらいの小さい子供になっている
その子の手をぎゅっと握った
−あぁ・・・夢・・・なんだ−
目覚めかけた意識の中で・・・
子供のひとみは、その女の子のことが好きで好きでたまらなくて
一緒に遊べることが、ただ、ただ、うれしくて
ひとみの心も、子供の自分とひとつになって
うれしくて、楽しくて・・・なんだか泣きたくなった
女の子は子供のひとみに笑いかける
−この子の笑顔が大好き−
そう思うのに、女の子の笑顔は逆光で見えない

・・・夢を見てた・・・気がする
綿菓子みたいな夢
ふわふわのピンクのイメージだけが、頭に残ってる
人の気配に薄く目を明け、首ごと横を向くと
「おはよっ♪」
石川梨華が笑顔で言った

33約束:2003/11/19(水) 13:30
・・・夢のつづき?
ひとみの頭は一瞬混乱して、梨華の顔をまじまじと見た
すると梨華は目線を正面に向け、目を細めた
「ここって、気持ちいいねー」
う〜ん、と、伸びをする梨華を横目で見ながら
・・・どうやら夢じゃないらしい、そう思い、ひとみは上体を起こした

34約束:2003/11/19(水) 14:00
梨華は足を両腕で抱えるようにして、頬を膝につけ、ひとみの顔を見た
「・・・傘、届けてくれたんだね?・・・ありがとう」
ひとみは両腕で背中を支えるように、大きく空を仰いだ
「・・・声、かけてくれれば、よかったのに・・・」
知らずに漏れた、ため息のような言葉に、首をまわすと梨華の顔を見た
ひとみは、それには答えず、ぽつりと言葉を漏らした
「・・・なんで、あたしと?」
梨華も何も答えず、ただ、ひとみを見つめていた

梨華のその目には、なんの思惑も感じられない
透明度の高い、湖の水面のように、目の前にあるものだけを映していた
いま、ここにいるひとみを、ありのままのひとみだけを

ひとみは急に落ち着かない気持ちになって
絡み合うような視線を外しながら言った

「・・・やっぱり・・・顔?」

35約束:2003/11/19(水) 17:59
梨華はひとみの横顔を見つめたまま
その目を見開いて、ポカンと口を開けてしまった

・・・ひとみちゃん?いま・・・何て言ったの?・・・やっぱり?

言葉が頭の中で意味を成すと、梨華は、ぶっと噴出した
その後は、我慢できないくらいの勢いで、笑いがこみ上げてきて
肩を振るわせるように、堪えていた声を出して笑った

梨華の笑い声が、なかなか収まらないのを見て、ひとみが憮然とした
表情を浮かべた

・・・だって、だって、ひとみちゃんが冗談言うなんて・・・って冗談だよね?
梨華は憮然とした、ひとみの横顔をみながら
ひょっとしたら本気で、言ったのかも?
・・・だとしたら、笑ったりしたら可哀想
・・・でも、本気でそんなこと、言う人っているのかしら?
それはそれで、面白い、そう思うとまだ笑いは止まりそうになかった

36約束:2003/11/19(水) 18:18
梨華はどうにか笑いを収めると、ひとみの横顔に話しかけた

「・・・なんとなくかな?」

梨華の言葉に、ひとみは探るような眼差しを向けた
・・・さっきも、ひとみちゃん、あんな目をしてわたしを見てた
とっさに梨華の頭に浮かんだ答えは・・・
ひとみちゃん−ひーちゃん−だから・・・それしかなかった
けど、それを口には出せず、黙るしかなかったのだ
ひとみちゃんには無いのかな?
・・・ただ、笑顔がみたいから・・・ただ、傍にいたいから
・・・ただ、その人が好きだから・・・理由なんて、ないんだよ?

だけど・・・ひとみは理由が欲しいなのだ
そう感じて、梨華は考えるように、言葉を選んで話だした

37約束:2003/11/19(水) 18:48
「わたしね?思うんだけど・・・人の気持ちって、目に見える形なんてないよね?
いま・・・わたしが思ってることを、ひとみちゃんにわかってもらえるようにって
言葉を重ねれば、重ねる程、ほんとに伝えたい気持ちとは、どんどん違う方に
いっちゃう気がするの」

梨華が言葉をきって、空を仰ぐと白い雲が大きな鳥が翼を広げるような形をして
流れていく
「ね?ひとみちゃん、あの雲、何に見える」

・・・あっ、わたしってば、ひとみちゃんって口に出して呼んじゃってる
梨華が、ひとみの顔を慌てて見れば、気を悪くした様子もなく
空を流れる雲を見ていた、ひとみが口を開いた

「・・・雲に見える」

ひとみの言葉に、梨華はまた笑った

38約束:2003/11/19(水) 19:46
梨華は、さ〜てとっ、と笑いを滲ませたままの声で言うと立ち上がった

いまさっきのひとみに向けた自分の言葉で、少しでもひとみに納得
してもらうことが出来たのか、梨華にはまったく自信がなかった
だけど、これ以上、何をどう言えばいいのかも全然解らないし
それこそ、どんどん見当違いなことを口にしそうだった
梨華は、スカートに付いた芝を払いながら、ひとみに別れの挨拶をしようと
振り返る、と、ひとみも、何故だか立ち上がっていた

梨華が口を開こうとすると、ひとみは、二、三歩前に出て、梨華の横に並ぶと
足を止めた
・・・???・・・
梨華がひとみの顔を見ると、ひとみは何も言わず出口の方を見ていた
・・・ひょっとして・・・一緒に帰ろうってことなのかしら?・・・まさかね?
困惑した表情を浮かべながら梨華が、足を前に出すと
ひとみの足も、前へと進んだ

・・・ええぇぇ〜〜〜
梨華は、口から飛び出しそうな心の叫びを必死で抑えた

39約束:2003/11/19(水) 20:15
ふってわいたような、ひとみの気まぐれに映る行動を無駄にしない為に
梨華は普通の顔で、普通に話すことに全精力をかたむけた

・・・ひとみちゃんに、何かを聞くようなことを言うのだけは止めよう
なんとなく、としか言い様が無いが梨華はそう思った

天気の話、昨日見たテレビの話、梨華が甘い物が好きだということ
機関銃のようにしゃべりつづける梨華に、ひとみは無表情に足を進めながら
それでも、・・・まぁね、・・・別に、・・・で?、などと返事をくれるのだ

40約束:2003/11/19(水) 20:33
ひとみの無表情な横顔を、少し見上げるように見つめると
・・・でも、なんでなの?
追い払っても、追い払っても、同じ考えが、ぐるぐると梨華の頭の中を巡った
この間までの、わたしの何がいけなくて、今日のわたしの何がよかったの?
・・・さっぱり、わからないよ

ふと、ひとみは足を止めて、少し屈むようにして梨華の顔を覗き込むと
意地悪そうに、その目を細めて、それでもとても魅惑的に微笑んだ
その表情に、思わず梨華が見惚れると
「・・・やっぱり、顔だったんだ」
そう言うと、口元だけで、にやりと笑った

41約束:2003/11/19(水) 20:53
梨華は自分の顔が、カァーと赤くなるのを感じて
「違いますっ」
そう怒鳴るように言うと、自分の顔を覗き込むようなひとみの身体を
避けようと、身体を思い切り横にずらした
するとひとみが、梨華の腕を取って、自分の方に引っ張った
・・・なっ、梨華がひとみに抗議の声を上げようとすると
梨華の背後を、自転車が猛スピードで走り抜けて行った

「・・・何、見てんだか」
ひとみは梨華に、からかうような視線を向けると、腕を離した
そして、顎で前方を指し
「・・・なんなら、あぁいう感じで歩く?」と言った
梨華が、ひとみの示す方を見ると、幼稚園くらいの女の子が母親に
手を引かれて歩いていた
「結構ですっ!!!」
梨華は、つんと顔を上げると、ひとみを追い越して、ずんずんと前に進んだ

42約束:2003/11/19(水) 21:17
結局、ひとみは梨華の住むマンションの前までついて来た

「わたしのうち・・・ここなんだけど・・・」
梨華がマンションのエントラスを、指差すように言うと
ひとみは、ふぅん、と鼻を鳴らし、一度、マンションを見上げると
そのまま歩き出した

梨華は、ひとみの去って行く後ろ姿を見送りながら、考えた
・・・送ってくれたのかしら?
・・・まさか・・・ね?
結局、ひとみが何を考えているのか、全然わからない、と思った

梨華が、エントランスに足を向けようとした時、ひとみが振り返った

「あのさ・・・あたしといて、楽しいの?」

そう言うひとみの顔が、さっき梨華をからかった余裕と自信に溢れた表情と
あまりにも違って見えて、梨華はいま自分が出来る最高の笑顔で言った

「うんっ!すっごく楽しいよ」

43約束:2003/11/19(水) 22:02
ひとみは、肩を竦めると踵を返して歩き出した

頭の中には、いま見たばかりの梨華の笑顔があった

・・・眩しい・・・と思った

自分に向けられていた、あの子の笑顔はいつもあんなふうだったのだろうか?

今日、初めて会った人のようだと、ひとみは思う
・・・そう・・・・・たぶん、自分は・・・
今日、初めて、石川梨華を見たのだと気がついた

梨華の声を上げて笑う顔、眉を八の字に下げたような困惑した顔
怒った顔・・・真剣な顔・・・・・表情がくるくると変わる様
・・・あそこまで、解りやすいのもどうかと、ひとみは思う
・・・けれど、表情が無さ過ぎる自分には、ちょうどいいのかも知れない
きっと梨華は、自分の代わりに、喜んだり、悲しんだり、怒ったり
・・・泣いたりしてくれるだろう

・・・ひょっとしたら、それが梨華の言う、友達というものなのかも知れない

ふと、足を止め、遠くつづく空を見れば
ためらいがちに引かれる、カーテンのような夕暮れを
・・・美しい・・・と、ひとみは思った

44Sa:2003/11/19(水) 22:51

キリのいい所というか、取り合えず、二人が近付くところまで書けて
ホッとしています
ちょっと読み返してみたら、誤字、脱字というか、言葉使いの間違いが
沢山あり、申し訳ありません。
・・・一応は、読み返してから上げてるんですけど
な〜んて、言い訳はダメですね?ごめんなさいっ!
それでは、お付き合いして下さる方がいることを祈りつつ・・・
パソを閉じることにします。おやすみなさいませ〜

45名無し(0´〜`0):2003/11/20(木) 00:31
読んでますよー!!
なかなかレスできなくて…。
続き楽しみにしています。頑張ってくださいね

46約束:2003/11/20(木) 10:17
真希は、教科書を一冊づつ確認するように鞄に入れる梨華の
生真面目そうな横顔を見ながら、その傍に近づいて行く
あれは、梅雨入宣言されるちょっと前、梨華と言葉を交わした日のことを
頭に浮かべながら

あの日、うめ合わせは必ず、と言った、自分の言葉を
真希は今日まで実行に移せないでいた
帰り際、真希は誰かに捕まることが多かったし
指定席に佇むことがなくなった梨華は、真希が気がつくと
教室から姿を消していることが多かった

そうしているうちに、梅雨は開け、来週からのテストが終われば
もう長い夏休みは、目の前、そんな時期になっていた
来週からテストが始まるという日に、教室に残っている者は
ほとんどいなかった
今日はいけそうだ・・・真希は梨華の背中に声をかけた
「梨〜華ちゃんっ!一緒に帰ろっか?」

47約束:2003/11/20(木) 10:55
肩をビクッとさせて、驚いたように振り向いた梨華は、へらへら笑う真希に
「もぉ〜ごっちんは・・・」と、笑顔を返した
その顔を鞄に向け、蓋を閉じて、上げた梨華の顔は困惑していた

「・・・あの・・・ね?ひとみちゃんも一緒でいい?」

・・・ひとみちゃん???・・・真希は、のけぞりそうになった
・・・いつの間に・・・そんな展開に?
真希は少なからず、ショックを受け、おもしろくないと思う自分を感じた
けれども顔には出さず、明るい声で聞いた

「約束してるんだ?」

真希の言葉に、梨華の表情は寄せた眉が八の字になるくらい困惑を深めていった
その表情のまま考えこむように、鞄を持ちドアに向かう梨華に
真希も机の上に放り投げてあった、薄い鞄を持つと横に並び教室を後にした

48約束:2003/11/20(木) 11:17
廊下を歩きながら、俯いている梨華が口を開いた

「・・・約束・・・は、してないの・・・でも・・・・」
「?」
自分まで困惑しそうになって、真希は横を歩く梨華の横顔をじっと見た

「・・・たぶん、待っててくれてるんだと思うの」
「はい?」
「・・・最初はね?気がつかなくて、偶然かと思ったんだけど・・・
下駄箱の前とか・・・並木道の途中とかで会うの、わたしが声、かけると
そのまま、わたしに歩調を合わせてくれるの」

真希は、いま自分はきっと間抜けな顔をしてるだろうと思った

49約束:2003/11/20(木) 11:30
梨華は、なんでだと思う?と問いかけるような眼差しで真希を見た
本人にわからないことが、真希にわかるはずもない

「・・・いつから?」
真希が聞くと、梨華は答えた
「・・・あの、ごっちんにカラオケ誘ってもらった次の日・・・」

・・・一ヶ月近く前じゃん
全然、気が付かなかった・・・梨華が指定席に身を置かなくなってから
真希も、追うように窓辺から外を覗くことなどしなかったから

50約束:2003/11/20(木) 11:56
階段を下りながら、真希は、わざとらしいだろうか?と思うくらい
明るく弾む口調で言った

「・・・じゃ、仲良くなれたんだ」

その言葉に梨華は、今まで見せたことのない恥らうような微笑みを浮かべた
・・・鳶に油揚げ攫われるって、きっとこんな気持ちだろうと真希は思った

「・・・だって、ほとんど毎日だから」

驚くような言葉をなんでもないことのように、さらりと言う梨華に
真希は、目を見開いた
・・・あの、自分の周りに見えない城壁を張り巡らせているような
・・・吉澤ひとみ・・・が?
梨華はきっと、知らずにひとみの何かを目覚めさせたのだ
真希は、何故だか昔テレビで見た、鳥の雛の実験を思い出した
他に何もない閉ざされた空間で生まれた雛は、目覚めた時
目に入ったひとつの物を、盲目的に信じて付いて歩いていた

・・・それは・・・とても危険なことのように真希には思えた

51約束:2003/11/20(木) 12:42
梨華の言葉通り、下駄箱に身体を預けるようにして、吉澤ひとみは立っていた
その冴え冴えとした大きな瞳には、何も映っていないように真希には見えた

「ひとみちゃんっ」

梨華が、心地良い音楽のような優しい響きを含ませながら、その名を呼ぶと
ひとみの空ろだった表情の、目には精気が宿り、穏やかに緩んだ
そして、硬く結ばれていた口元は甘く、力を抜くように見えた

真希は、ひとみのあまりに劇的な表情の変化に、階段の下
呆けたように、立ち竦んでいた
梨華が駆け出すように、下駄箱に近づき、靴を手に屈んだ
その梨華の背中を見る、ひとみの目元は艶やかに、輝くようにさえ見える

ふっと、ひとみの視線が真希を捉えた
その目には、いま真希が目にした多弁な表情は、幻のように消え
深い闇の淵のような影だけを落としていた
ひとみのその目が、真希を捉えたまま、すっと細められる
・・・真希の身体には、寒気に似た鳥肌がたった

52約束:2003/11/20(木) 13:18
「・・・ごっちん?」

梨華の怪訝そうに呼ぶ声に、真希は呪縛から解かれたように、小さく息を吐いた
震えそうになる声を、なんとかいつも通りの物に変え、真希は言った

「ごめん、梨華ちゃん。教室に忘れ物しちゃったよ〜
悪いけど、先、帰ってくれる?」

真希は、大丈夫?というように首を傾げる梨華に笑顔で頷くと
「ほんとごめん!・・・また今度ねぇ〜」
ヒラヒラと片手を振り、踵を返すと階段を上った

踊り場まで上がると、真希は階段に腰掛けた
・・・蛇に睨まれた蛙って・・・いまのごとーのこと?
・・・カッコわるっ
真希は、さっき見た、ひとみの梨華に向ける眼差しを思いだした
・・・初めて見た・・・吉澤ひとみの表情
・・・あんな顔、するんだ・・・
そして真希にはなんとなくだけど、解る
・・・あれは梨華にだけ向けられるのだ、ということが

・・・その後の自分を見る、ひとみの目
視線で人が殺せるなら、自分は死んでいたかもしれない
思い出したように、真希の身体が、ぶるっと震えた
事態はどうやら、真希の考えていたよりも上らしい

・・・梨華ちゃんの負担にならなければいいけど

真希は、自分がまるで重荷を背負ったような疲労感を感じていた
階段から腰を上げることは、まだ出来そうにない・・・と真希は思った

53Sa:2003/11/20(木) 13:37
45さん>作者の心の声に答えるようにレスをくれた、あ・な・た♪
     ほんとにありがとうっっっ
     ・・・危ないしっ・・・あぁ〜怖がられてしまう〜(涙)

いやぁ〜〜〜自分で書いてるんですけど、なぁ〜んか、暗いよなぁ〜、と
こんなんで、ええんじゃろうか?と思ってみたり?とか
すいませんっ愚痴っぽかったかな〜と反省しております
読んで下さる方がいるだけで、作者はハッピ〜♪ですっ

54名無し(0´〜`0):2003/11/20(木) 17:12
更新、お疲れ様でした。
今一番楽しみな小説ですよぉ。
う〜ん、暗いとはあんまり思わないです。
何か、独特の空気というか緊迫感があって引き込まれてます。
この3人がどう進むのか、期待してます。

55名無し(^▽^ ):2003/11/20(木) 18:52
交信、オツです。
良いですね、ここのよっち〜。
よっち〜の目で殺して欲しい!
今一番気になる作品です、無理せずマイペースでがんがんって下さい。

56約束:2003/11/20(木) 21:51
真希が階段へと踵を返すのを見送った梨華が、自分の傍に来て微笑むと
ひとみは、何も言わず校門を後にした

梨華は、並木道を歩きながら、時折、チラチラとひとみの顔を見ている
気つかない振りをしていたひとみだが、だんだんイライラしてきて
・・・・・何?、と、いうような視線を一瞬、梨華に向けた
梨華は、子供が駄菓子をねだるような、無邪気さと少しの甘えが混じった
表情で言った

「・・・あのね?行きたいお店があるのっ!季節のパフェとか美味しいんだって。
 この間、配られてるタウン誌で、見つけたんだけど・・・
 来週からテストだし・・・無理、だよね?」

「・・・どこ?」

ひとみが前を向いたまま、そっけなく答えると、隣を歩く梨華が
パァーとうれしそうに笑うのが、見なくても気配だけでわかった

「あのね・・・駅の反対側なの」
「・・・ふぅん」

ひとみはいつもの公園を通り過ぎると、駅に続く道へと足を向けた

57約束:2003/11/20(木) 22:22
ひとみは、駅へと歩きながら、梨華が重そうに鞄を何度も持ち替えるのを
横目で見ながら言った
「・・・重りでも入ってんの?」

梨華は、呆れたように大げさにため息を付いた

「・・・ひとみちゃん・・・なに言ってるの?教科書に決まってるじゃない!
 来週から、テストなんだよ?」

梨華は、ひとみが肩に担ぐように持つ鞄に視線を向けると言った
「ひとみちゃんの鞄・・・やけに軽そうなんだけど???」

「・・・何も入れてないから」
当たり前のことだと言うように、ひとみは答えた

「な、なんでぇ?・・・月曜からだよ、テスト・・・忘れちゃってたとか?」

梨華は本気で、ひとみが忘れてしまったのかと思っているらしい
心配そうに、大丈夫?、なんて聞いてきた
堪えていたが、おかしくなって、ひとみは噴出した

58約束:2003/11/20(木) 23:03
俯きながら、声を殺すように笑うひとみに、梨華はあっけにとられた顔をした後
どうやら、自分が馬鹿にされてると思ったらしく、ムッとした表情を浮かべる
「なっなによぉ〜!人が真剣に心配してるのにっ」

「・・・自分の心配したら?」
鼻先で小馬鹿にするように、ひとみはわざと挑発的な口調で言った

まるで、かっちーん、と効果音が聞こえそうな程
梨華は顔を赤くして、まくし立てるように言った
「・・・そんなこと言って油断してると、後悔することになるんだからねっ
 うさぎだって、かけっこで亀にまけちゃうんだからっ!」

「後悔ねぇ〜・・・あたしに、勝てるとでも思ってるの?」

今年から転入してきたと言う梨華は自分の成績を知らないのだろう
涼しい顔でさらりと言い返したひとみに、なんとなく分が悪いと悟ったのか
梨華はぐっと黙りこんだ

ひとみが梨華を横目で見ると、余程くやしいのだろう
鞄を握りしめる手が色を失い震えていた

・・・いつも頼りない泣きそうな顔してるくせに負けず嫌いなんだ
ひとみは、また新たな梨華の一面を見つけたと思った

59Sa:2003/11/20(木) 23:31
54さん>嬉しいことを言ってくださるっ♪
     こ〜の〜作者泣かせさんっっっ★
     緊迫感があるのは・・・作者が緊張してるからだと思われw
55さん>作者を嬉し泣きさせるお方がここにも♪
     うちの、吉澤さん、気に入っていただけたとは
     嬉しい限りですっ

レス頂いたのが嬉しくて、調子こいてまた更新してみたりする
・・・バカ野郎な作者ですっ
ところで、うちの吉澤さんは、かなーり現実のお方とはかけ離れてるっぽいのですが
芝居でこ〜ゆ〜タイプを演じられたら、かなりハマるのではないかという
作者の思い込みと妄想無限大で誕生してしまいましたっ★
末永くお付き合い頂ける、吉澤さんを書けるように、頑張って参りま〜すっ♪

60名無し(0´〜`0):2003/11/21(金) 00:11
更新が早くてすごく嬉しかったりして・・・
この先、どうなるのか楽しみです!! いしよしは良い
ですよね〜・・作者さま、頑張って下さい。

6154:2003/11/21(金) 02:02
あ、また更新されてる〜!お疲れ様です!
1日で2度オイシイ小説ですねw

自分の中では、吉はカッコ良いけどぶっきらぼうと言うか、不器用と言うか、
人間関係を築くのがうまくないようなキャラが合うんじゃないかな〜とか
勝手に妄想してるんでw
ここの吉は何か好きなんです。

今日の「うたばん」でいしよしヤキソバを観てニヤけた後、ここの更新が
あって、すんごくハッピ〜♪でございますです。
次回までまったりとお待ちしております。

62約束:2003/11/21(金) 11:12
駅前までくると、線路の上に架かる歩道橋を渡り、西口へと出た

梅雨が開けたばかりの空には、一遍のくもりもなく
あつい熱を爆発寸前まで抱え込んだ空気は
そよと吹くことも忘れたように、街の輪郭全てをのみこもうとしていた

梨華とひとみが住む、この街はここ十年ばかりでフィルムを
早送りする様に、目まぐるしく変化をつづけた
私鉄の急行停車駅で、都心までも程近く、更に三つ四つ電車に揺られれば
名のある都会まで出なくても、すべての物は手に入れることが出来た

街づくりの名のもとに、区画整理された町並みは
東口には、住宅地が広がり、教育施設や公園が絶妙なバランスで配置されていた
そして西口には、セレクトショップが入ったビル、オープンカフェ風の美容室
趣味のよい雑貨屋など、商業施設が軒を連ねていた
この駅と隣の駅の間に、コマーシャルでお馴染みの大手スーパーがあり
休日にはフェミリーカーで、目の前の国道は渋滞する決まりになっていた
その国道の反対側には、地元では有名な桜並木が通る公園があり
その先には、なかなか大きな夏祭りを開催する神社と、それにあわせて
小規模ながら、花火が打ち上げられる川原があった

63約束:2003/11/21(金) 11:40
夏の始まりの午後、太陽は高く昇り、その存在のすべてをかけて燃えていた
足元のアスファルトから、ジリジリと音が聞こえるようだ

梨華は焦っていた

駅前で大手都市銀行の角を曲がり、目印にと覚えていたどこにでもある
コンビニエンスストアを通りすぎたはずだった

徒歩五分、確かそう書いてあったはず・・・なんでないんだろう?
それよりも・・・あのタウン誌をなぜ持ってこなかったんだろう?

梨華の額と全身に冷たい汗が浮いている

・・・あぁ・・・嫌な感じ・・・梨華は口を開け喘ぐような息をした

さっきから、同じ道を行き過ぎたり、戻って脇道に入ったりを
繰り返す梨華に、ひとみは何も言わず、少し後を付いて歩いていた

ひとみが近付いてくる気配と、梨華を翻弄するように視界がまわるのは
殆ど同じだった

目の前の景色が、一瞬全てを失うと、梨華はその場に崩れた

64約束:2003/11/21(金) 12:05
ぐいっと強い力に引っ張られ、梨華は薄く目を開いた
ひとみの顔がすぐ目の前にあり、その表情は瞬きする間に複雑に色を変え
重ね塗りする絵の具のようだ、と梨華は思った

「・・・大丈夫?」
目の前のひとみの口元が動いているけれど、声はどこか遠くから
響いてくるように梨華は感じた

眩暈をおこした梨華の頭は、どうやら危機一髪でコンクリートに
打ちつけることには、ならなかったらしい
しゃがみ込むように、立てるひとみの片膝に収まっているようだ

梨華が身体に力を入れると、ひとみはその肩先を、そっと押さえた

「・・・すぐに動かない方がいいよ」
そう言うと、梨華の額に貼りつく前髪を、繊細そうな指先で
躊躇いがちに払った

65約束:2003/11/21(金) 12:24
ひとみの言うとおり、そのまま少しの間、じっとしていると
梨華の身体から、さっきまでの冷たい汗とは違う、熱い汗が溢れてきた

ひとみは、梨華の頬に手のこうで触れた
「・・・立てる?」

梨華が頷きながら頭を上げると、ひとみは言った
「駅前まで・・・もどるから」

ひとみは梨華の手を引き、立たせると、投げ出してあった二つの鞄を拾い片手に持った
そして、梨華の腕を自分の肩にまわしながら、腰を支えるそうに
自分の手を置くとゆっくりと、歩き出した

66約束:2003/11/21(金) 12:50
ひとみは、駅前までもどると、バスターミナルの日陰のベンチに梨華を座らせ
・・・待ってて、そう言うと自動販売機へと足を向けた

天然水の、ちいさなボトルと、スポーツドリンクの缶を持ち
戻ってきたひとみは、梨華の横に腰を下ろした
両手にそれぞれ、ボトルと缶を持ち、梨華の方を見ると
どっち?、と問うような視線を向けた
梨華がボトルを指差すと、きゅっとキャップを回し、蓋を取って渡した
・・・ありがとう、声にならない呟きのような梨華の声に
ひとみは、正面へと身体の向きを変えながら、頷いた

何台ものバスが通り過ぎていくのを、ふたりは交わす言葉もなく見ていた

「・・・ごめんね?・・・ごめんなさい・・・」

小さな声にひとみが横を見ると、梨華は無声映画のように、そっと静かに
いくつもの涙を零していた

ひとみは大きく息を吸いながら、正面を向くと、俯いた

「・・・調べとくから」
息を吐きだすように、そう言うと立ち上がった

「帰ろう・・・送ってく」

67Sa:2003/11/21(金) 13:13
60さん>レスが頂けてすごく嬉しかったりしてっ♪
     いしよしはいいっすよねっ〜〜〜
     並んでるの見ると、二人の間にある空気みたいのに
     萌えちゃうんですよぉ〜
54さん>一日に二度のご来店、お疲れさまっす★
     アーンド、二度目のレスに感謝、感激ですっ♪
     えっとですね〜、作者の記憶にイマイチ自信ないんですけど
     吉澤さんが加入した時、つんくさんの「天才的・・・」話は有名ですけど
     あとね?「この子はいままで、あんま声上げて笑ったりすること
     なかったんちゃうかなー」的なコト言ってませんでした???
     現在の吉澤さんを見ると、自分の記憶違い濃厚って気するんですけどねぇ
     そのインチキくさ〜い記憶が、うちの吉澤さん誕生秘話なのですぅ〜

明日から三連チャンでお休みなので、後で出来れば、も少し続きを・・・
などと、欲張っていますっ
こんな作者・・・ウザクないっすか???w

68約束:2003/11/21(金) 14:35
ひとみが、二つの鞄を手に歩きだすと、梨華は慌てて立ち上がり
自分の鞄へと手を伸ばした
ひとみは、ちらっと梨華を見ると、伸ばされた手を軽くかわし
軽々と肩先に鞄たちを担ぎ上げた

あっけにとられたように、ひとみを見上げると梨華は言った
「ひとみちゃん?!いいよぉ〜」

・・・また、困った顔をしている
見る間に、針の時計のように低位置まで下がろうとする梨華の眉を見ながら
ひとみは何か言うべきか?と口を開きかけた、が、こういう時
どういう言葉が適切なのか、ちっとも思い浮かばなかった
ひとみは、あきらめて開きかけた唇を閉じた

「貸して・・・?」
小首を傾げながら言うと、ひとみの肩先にある自分の鞄へと手を伸ばす梨華に
背中を向けると、ひとみはゆっくり歩き出した

69約束:2003/11/21(金) 14:51
ひとみが、梨華の住むマンションのエントラスホールの前で、鞄を渡した時
少し遠くから「お姉ちゃぁ〜ん!!!」と声がした
梨華の、あっ!と言う声にひとみが振り返ると中学校の制服を着た少女が
走り寄ってきた

「お姉ちゃんも、いま帰ってきたとこなのー?」

少女はやけにスローテンポな間延びした口調でいうと
梨華の斜め横に立つひとみを、いま、初めて気つきましたーというように
おっとりと大らかそうに微笑むと言った

「姉がいつもお世話になってます。妹の、あさ美です」

70約束:2003/11/21(金) 15:41
ひとみは目元を和らげ、落ち着いたアルトの声で言った
「・・・こんにちは、初めまして。・・・吉澤です」

あさ美は、ただでさえ大きな瞳を更に大きく見開いて、ひとみを見ると
うっとりと夢見るような表情を浮かべながら、はっきりと断定的口調で言った
「完璧ですっ!!!」

ひとみが、流石に驚いて少し身を引くと、あさ美は顔を真っ赤に染めながら
はっと気づいたような表情をして、ぺこん、と頭を下げた
「こんにちはっ」

・・・独特のテンポだな
ひとみは、あさ美の下げた頭を見ながら思った・・・すると、突然
「あああぁぁぁっ〜〜〜」
絶叫と共に顔を上げた、あさ美は、ひとみを指差すと
口元をわなわな震わせながら言った
「・・・ひっ、ひとみちゃんっですね?」

ひとみは肩を震わせると、俯いて笑い出した

71約束:2003/11/21(金) 16:12
「あさ美ちゃんっ!!!」
梨華の、普段より更に高音の怒鳴り声に、あさ美は梨華の顔を見た
するといままでの、ワタワタと落ち着きなかった、あさ美を
取り巻く空気が、急に大人びた、しっかりとした物に変わった

「・・・お姉ちゃん・・・顔色悪いよ?また、無理したでしょ?」

梨華は、まずい、という表情を浮かべた後、取り繕うように
早口で言った
「たったいしたことないよ?全然大丈夫っ!!!」

不振そうに表情を歪めるあさ美に、梨華は少し顔を赤らめると
ひとみの方を見ながら言った
「・・・ひとみちゃんが、一緒に居てくれたし・・・」

あさ美は、ひとみの方を見ると、まるで保護者のような口調で言った
「ありがとうございます。・・・お姉ちゃんは太陽が友達なのぉ〜ハッピィ〜♪
みたいな見た目なんですけど・・・すぐ貧血をおこすし
夏バテしやすいって言うか・・・要するに、見掛け倒しなんです」

「・・・それ、地黒っていいたいわけっ???」

また、梨華の怒声が響いた

72約束:2003/11/21(金) 17:05
「だって、お姉ちゃんがっ・・・」
「なによっ!あさ美ちゃんこそっ・・・」
ひとみに言わせれば、どっちもどっちの、どうでもいいことを
この二人は、自分がここにいることを忘れて言い合っている

梨華とあさ美・・・この姉妹の外見は全然似ていないと、ひとみは思った

最近、気付いたことだが、梨華は、かなりの美少女らしい
確かに、薄い肩先に流れる、クセのない髪や、いつも潤んだように見える
物言いたげな眼差し、細い筆で描いた間違いのひとつもないような
全体の印象など・・・気が付けば、ひとみでさえ、成る程と頷けた

一方、あさ美は、美少女というよりも、可愛らしい少女だった
大きな愛くるしい瞳はくるくると、よく動き、柔らかい口元は
緩やかに微笑むようだ、健康そうな四肢は真っ直ぐ伸びている

しかし、二人の性格はとても似ているらしい
ひとりで空回りしつづけ、自己完結してしまいそうな勢いや
気弱そうな見た目と違い、意外と短気らしいところなど

ひとみがため息とともに、目の前の二人を見れば、
お互いの話に聞く耳を持ち合わせていなさそうな姉妹の言い争いは
まだ・・・終わる気がなさそうだった

73Sa:2003/11/21(金) 17:13
あさ美ちゃん登場〜〜〜♪♪♪
登場人物が出揃うとこまでは進みました〜〜〜★やったねっ!自分っ!!!

しかしな〜(冷や汗タラーリ)
ひとつのシーンが長くって、書いても、書いても
ワンシーンが終わんないっす(涙ポロリ)

74名無し(0´〜`0):2003/11/21(金) 17:20
なんかすごくいい感じで、かなり好きです。
がんばってください!

75名無し(^▽^ ):2003/11/21(金) 18:26
でびゅー当時のよっち〜はマイナス100度位クールでしたが
今の丸いよっち〜になったのは梨華ちゃんの愛のおかげです。
作者さん、もっと妄想爆発させてください。

76名無し(0´〜`0):2003/11/22(土) 00:38
更新お疲れ様です!!本〜当に進みが早くて、手に持つ小説を
読んでるみたいです。でも、文章はていねいで読み易くて、
ここにくるのが楽しみなんですよ〜。甘・甘 になっていくのかな・・?
 レスを返していただいて嬉しかったりして〜♪

77約束:2003/11/23(日) 22:07
明日から、夏休みかぁ〜〜〜
真希が、ぼっーと、廊下を歩いていると、いきなり肩を叩かれた

「ごっちん!今回のテスト、残念だったねー!なんかぁ、ごっちんが
ベスト10落ちしてるなんて、意外な感じ〜」
慣れなれしく話しかけてくる顔も知らない少女に、真希はいつもの
ふにゃ、とした笑みを返す
「今回さー、ちょっと難しかったじゃーん。頑張ったんだけどさー」
相手の少女は当然だ、と言わんばかりに微笑んで、うんうんと頷いた後
夏休み、楽しみだよねーなどと、ひとりでしゃべりまくると、じゃっまたね!と
と、言いながら、去って言った
真希は笑みを顔に張り付かせたまま、少女の話をひとつも、聞いてはいなかった

・・・て、言うか、あんた誰?そう言ったら、どんな顔するんだろう?
・・・そんな面倒なコト、する気もないけどさぁ

真希は、一学期最後のお努めだーと思いながら、通知表が配られる教室へと
入っていった

78約束:2003/11/23(日) 22:36
HRという名の長い説教を聞きながら、真希は、高校生活の最初の間違いについて
考えていた
受験というものを初めて経験するから、本気で勉強などしてしまった
あれがいけなかったと今更ながらに真希は思う
お陰で、うっかりと学年二位など、とってしまい、あげくに新入生代表で
挨拶まで、するハメになってしまった
二位と聞いた時、自分が本気を出しても負けることがあるんだと
なぜだか、ほっとしたのを覚えている

・・・学年主席で、学園始まって以来、すべての教科でただの一問も
間違わなかったと噂の渦中にいたのは、吉澤ひとみ、だった
けれど、入学式で壇上にいたのは・・・なぜか、自分だった
後に、中学生活で問題児の烙印を押されていたからだと、噂を聞いた

真希にとっては、成績など、明日の天気くらいどうでもいいことだった
しかし、世間は違うらしい
人は努力しないで手に入るものには、執着などしないものなのだ
頑張って、努力して、なのになんで、あの子だけ?
そんな標的になるのは、ごめんだ
・・・次の中間はいったい何位くらいにしよう?
あまり、落としすぎてもいけない、自然にちょっとずつ
目立たない位置にいくのだ
なにごとも、目立たず、適当に・・・適当に
それが群れの中では一番賢い生き方だから

79約束:2003/11/23(日) 22:54
「・・・それでは、夏休みだからと言って、羽目を外し過ぎないように
本学園の生徒だという意識を持って、過ごして下さい」

担任のお決まりの挨拶で、HRは終わった
確か、去年の担任も同じことを言っていた、夏休みも、冬休みも

・・・本学園の生徒ねぇー・・・それってさぁ
・・・ま、どうでも、いいけどね

「ごっちんっ!」
ぼやーとしてたら、梨華ちゃんがいて、目の前でお〜い、というように
手の平を振って見せていた

80約束:2003/11/23(日) 23:42
「この学校ってすごいよねっ!わたし、驚いちゃった
成績を廊下に張り出すなんて・・・プライバシーの侵害とか
騒がれたりしないのかなぁ?」
心底、驚きました、という顔をして話す梨華に、真希は皮肉な笑顔を
浮かべながら、答えた
「・・・ま、それがすべての価値だと思ってれば、平気なんじゃない?」
梨華は、よくわからない、という顔をした後、パッと顔を輝かせ、真希を見た
「そう、そう!ごっちんって頭いいんだねぇ〜・・・・あれ?えぇ〜と、やだ
ごめんね。何位かは・・・忘れちゃったんだけど・・・」
と、言いながら、申し訳なさそうに笑う梨華に、真希は
なんだか力が抜ける気がして、ほっとしている自分がいるのを感じていた

「他人の成績なんてどうでもいいじゃん!・・・そんなの、いちいち覚えてる方が
ヘンだって」
・・・それは、いままで誰にも言ったことがなかった、真希の本音だった

梨華は、それはそうなんだけど、と小さく口の中で言いながら
情けなさそうな顔をした

「・・・だって・・・なんか、薄情な感じしない?・・・友達なのに・・・」

・・・そういう考え方もあるんだ、と、今、初めて教えられた気がする
関心をもたれることは面倒なだけだと思っていたけれど、物差しのように
何かを比べるだけじゃない、違うこともあるんだと

真希は、なんだか、くすぐったい・・・そう、思っていた

81約束:2003/11/24(月) 00:10
・・・梨華ちゃんといると、なんか調子狂うんだよなぁ
・・・なぜ・・・か、気になる
・・・高校生にもなって、そんな恥ずかしいこと真顔で言っちゃってさ

そして、もっと梨華を知りたいと思う自分を、真希は嬉しいと感じていた

真希が、少し照れ笑いをしながら、梨華ちゃん、夏休みさ・・・、と
言いかけたところで、担任の自分を呼ぶ、声が聞こえた
首をかしげながら、なぁに?という顔をする梨華に、右手を耳にあてる仕草を
しながら言った
「電話するからさ、ごとーと遊んでよ」
梨華が、いつものように優しく微笑んで頷くのを見ると、真希はなぜか安心して
ほわぁ、と笑い返して、んじゃねー、と、軽く手を上げて、教室を後にした

82約束:2003/11/24(月) 00:42
真希が、職員室に向かおうと教室の後ろのドアから、廊下に出ると
吉澤ひとみが、廊下の反対側の窓に寄りかかるように上体を預け
窓の外を見ていた

・・・・とうとう迎えに来たよ
一瞬驚きはしたものの、そのまま通り過ぎようとして、足を止め
教室へと、向き直ると大声を出した

「梨華ちゃーーーんっ!お迎え」
何事かと振り返る梨華に、背後の廊下を親指で指すように示すと
踵を返し、廊下に足を向けた

・・・吉澤ひとみは、振り向きもしなかった


「・・・ひとみちゃんっ?!!」
梨華の驚いたような、そして嬉しそうな、いつにもまして高い声に
真希が思わず振り返ると
・・・ひとみは、教室のドアに肘を掛けるようにして、梨華の顔を見ていた

ひとみの耳の中には、梨華の、あの高い声にだけ反応する、高性能なチップが
埋め込まれているのかもしれない

・・・・遠隔操作???・・・マジで想像しちゃったよー
・・・・あーバカバカしぃー
真希は、梨華に今度会った時、ひとみちゃんが家まで迎えにきてくれるの、と
言い出しても、もう驚かないだろうと思った

職員室へと足を進めながら、そう言えば、梨華に、例のひーちゃん本人だっかのか
聞くのを忘れてた・・・と真希は思った

83Sa:2003/11/24(月) 01:08
連休〜とか言ってたクセに、ちぃと時間が出来たら、更新してみたりする
ほとんど、ビョーキの作者でございます(ニガワラ)

74さん<いい感じって、いい感じの言葉ですよね〜好きなんですよ♪
     ありがとうございます

75さん<爆発ですね?
     大事故になって、災害おこさない程度に頑張りますw

76さん<またまた(ですよね?・汗)レス頂けてうれしかったりして♪
     ・・・しつこい・・・っすか?
     いま、とりつかれてるんでw
     ひとりでつっ走りまくって、振り返ったら誰も、オラーンかったら?
     と、危惧しておりましたが、暖かいレス頂いて
     イってもイイのね?・・・イってもイイのね???
     イったろ〜と思っております。

よろしくお願い致しまっす!!!

84名無し(0´〜`0):2003/11/24(月) 01:10
土日は更新されないって書いてあったのでショボンとしてたんですが
更新されてて嬉しいです。いつも読んでます。今一番更新が楽しみな
小説です。これからも頑張ってくださいね。

85名無し(0´〜`0):2003/11/24(月) 23:15
大量更新お疲れ様〜 そして 嬉しい〜!!
よっすぃたら、お迎え?!うんうん・・いしよしは 甘・甘が似合い
ますね♪ Sa様、つっ走っても、止まっても、振り返って頂いても、
こっそり、しっかりついて行ってますよ〜 (私もこの小説にとりつかれて
ます♪)

86約束:2003/11/25(火) 10:33
二人は、この間辿り着くことの出来なかった喫茶店に、向かい合って座っていた

「・・・この前は・・・迷惑かけちゃって、ごめんね?」
情けないような声に、窓の外に向けていた視線を戻すと、梨華はちょこんと
頭を下げた
「わたし、道覚えるのって、本当に苦手なの」
また例の困ったような、情けないような表情に変化していく、梨華の顔に
ひとみは、からかうような口調で言った

「・・・道、だけなんだ?」
とたんに頬を膨らませる梨華に、ひとみは声をころすようにして笑った

87約束:2003/11/25(火) 11:07
気を取り直したように、微笑みながら、梨華は言った
「ひとみちゃんて、本当にすごいんだね?
 満点を取れるってことは、ひとつも間違わないってことでしょう?
 ・・・・わたしには、出来ないよー」

その言葉に、一瞬目の前の梨華の顔がぼやけ、蜃気楼のように
いま、ここには無い像を結ぶ
・・・普通じゃないから、あの人・・・私達とは違うのよ
・・・ちょっと、気味悪くない?
・・・実は影でこそこそやってたりしてー?!
・・・それはそれで、サイテー!!!
自分を嘲笑う声が聞こえる

「ひとみちゃんっ!!!聞いてるっ?!」

梨華の大きな声に、ひとみを誑かそうとした、まやかしの世界は消え
夏特有の溢れ出しそうな期待感に、ざわめく店内がもどってくる

「・・・なに?」
「もぉう〜〜〜だからねっ?ひとみちゃんみたいな人は
人一倍努力しないといけないんだよ?」
「・・・なんの?」
「・・・よくわかんないけど、人はきっと、みんなね?生まれて来る時に
神様と約束して来るんだと思うの。
ひとみちゃんは、きっとすごく大変な約束をしたんだよ
・・・だからね?それが叶えられる様にって、今のひとみちゃんがいるんだよ」

88約束:2003/11/25(火) 11:32
ひとみは驚きで目を見開いて、じっと梨華の顔を見た

梨華の言葉のひとつひとつは、砂漠のように渇いた自分の心に落ちる
一滴の水のようだと思いながら
・・・それならばいっそ、梨華の望むものになって見せようか?
生まれ落ちた時、交わされた神との約束なんか知らない
けれど、いま目の前にいる梨華になら、何かを誓って見せてもいい
それが叶えられるまで、梨華は自分の隣にいてくれるだろうか?
変わらず、自分の名を呼びつづけてくれるだろうか?
そして叶えられた時、微笑んでくれるのならば・・・

「・・・例えば、どんな?」
ひとみの問いかけに、梨華は、う〜ん、と唸ると躊躇いがちに口を開いた
「・・・それは、ひとみちゃんが見つけることだけど
例えば、例えばだよ?ブラックジャックみたいなお医者さんになって
奇跡を起こすとか?」

大真面目な顔をして答える様を、ひとみはなぜだか、とても愛しい・・・
そう思いながら、梨華の顔をじっと見つめた

89約束:2003/11/25(火) 12:20
梨華は、さっきからひとみがひとつの言葉も零さず、自分をみつめつづける
ことに、落ち着きなさを感じていた

気づまりな沈黙の中、ひとみの前に置かれた冷たい飲み物が
華奢なガラスのグラスの中で、氷を溶かす音がした

・・・これならば、からかわれたり、多少意地悪をされた方がまだましだ
ひとみの背後にある大きな窓から、差し込む夏の午後の熱を含んだ空気の
せいだろうか?
自分をみつめつづける、ひとみの眼差しが熱い・・・と感じるのは

・・・梨華は自分が少しづつ、溶かされていく錯覚を感じた
それは、まるで自分の目の前に置かれた、カラフルなパフェのように

梨華はたまらず、視線を落とし、長く繊細な形のスプーンで
溶けかけた薄桃色の固まりをすくった

ふと、さっきこの色とりどりの大きな固まりが、梨華の目の前に置かれた時
ひとみが・・・よくこんな物を、とでも言いたげな視線を投げて寄越したのを
思い出した

梨華は、からかいの色を瞳に浮かべ含み笑いをしながら、、スプーンの先を
ひとみの口元へと向けた

すると・・・ひとみの身体が、テーブルを乗り越すように、ゆっくりと近づいてきて
軽く開かれたその唇が、細いスプーンの先を招き入れた
梨華がその意外な行動に目を丸くしていると、椅子に身体を落ち着かせ直した
ひとみが、・・・甘、と言いながら顔をしかめたのが見えた

90約束:2003/11/25(火) 13:08

帰り道、迷わず梨華の家のある方角へと足を向けるひとみに
梨華は躊躇う表情を浮かべた後、思い直したように
可憐だと、誰もが思うような微笑みを浮かべながら言った

「・・・ひとみちゃんは・・・優しいね」

自分から顔を背けるように、数歩先を歩くひとみの横顔が少し
朱に染まったように、梨華には見えた

・・・昔も・・・いつも、優しかった
梨華の目の前のひとみが、どんどん小さな頃に還ってゆく

・・・ひーちゃんのまねをして、登った木に怖くなって降りれなくなった事があった
泣き出した梨華の顔を見て、ぜったい、だいじょうぶだからね、と
笑顔を浮かべ、次はここに手を置いて、足はここに掛けて、と
長い時間をかけて、励ましながら一緒に降りてくれた、あの日

またある時は、ブランコが高くまで漕げないと、ふくれっつらをする梨華に
いっしょにのったら、うんとたかくまでこげるよ
そう言って、梨華の座るブランコの両側に足を乗せ立ち上がると
思い切り漕ぎ出した
すると、いつもより、遠く景色が広がった
そして、空が近いことに梨華は歓声を上げた

海の上で風の流れに乗る船のようなブランコの上で、どこまでもつづく
空に向かって、ひーちゃんは大きな声で言った

「・・・の、わらってるかおが、だーいすき」

91約束:2003/11/25(火) 13:37
誰かが、ペンキをひっくり返したようなオレンジに染まる空の下
どこかの家から、夕げの支度で暖かいような懐かしいようなの匂いがする道を
ふたり、手を繋ぎ家へと走った

梨華の家の前まで来ると、ひーちゃんは笑顔で言った
またあしたもあそぼうね、いつものとこでまってるから、やくそく
梨華は、自分の小指を誇らしげに目の前に出し、やくそく、と返した
二人のちっちゃな小指がからまると、瞬く間に藍へと色を変える空の下
ふたりは、大きな声で歌った

ふたりの子供の、約束を誓う歌が梨華の頭の片隅で、繰り返されている


ひとみは昔のことなど、何も覚えていないみたいだけど、それでいいと梨華は思う
寂しいとは、思わない・・・なぜなら、ひとみはいまの梨華の姿をその目に
映してくれているから

それよりも・・・
・・・わたしは、ひとみちゃんを通して、自分の中にある
ひーちゃんとの思い出を懐かしんでるだけじゃないのかな?

自分は、いま目の前にいる、ひとみを見てると言えるのだろうか?
そう思うと梨華は、切なさに足元を掬われるような心もとなさを感じていた

92約束:2003/11/25(火) 13:54
梨華の家の前に着き、ひとみが、じゃ、と言いながら踵を返すと
梨華が自分の名を呼んだ
「ひとみちゃんっ!」

振り返るとひとみは、梨華の顔に、なに?という視線を投げた
「・・・わたし、明日から、田舎に行くの・・・帰ってきたら、電話するね」

ひとみは、まだ高い日差しが、映し出す物の輪郭の影を強い力で形づくる中
自分が陽炎のように、揺れるのを感じながら言った
「・・・そう、気を付けて」

いつもと少しも変わることのない笑顔を浮かべながら、梨華は頷いた
そして、背を向けるとエントラスホールに吸い込まれるように
ひとみの前から消えた

93約束:2003/11/25(火) 14:32
しばらくの間、いまここにいた梨華の気配の残像を、何かに焼き付けるように
ひとみは呆然と立ちつくしていた

まとわり付く、暑く気だるい空気を払い落とすように、ひとつ首を振ると
ひとみは踵を返し歩き始めた

・・・なんとなく、毎日のように自分の隣にいる梨華を想像していた
・・・なんの、約束もしていない・・・なのに
ありもしない想像、根拠すらない自分の思い込みに、ひとみは
自分を小さく嘲笑った

・・・ふいに、自分がどこにいて、どこに向かっていたのか、わからなくなる
人ごみで、ついて歩いていた母親の姿を見失ったように
まるで、自分が小さな子供になって、もどってきてよ、ずっと傍にいてよ、と
泣いているような錯覚が、ひとみを襲った
・・・頭がおかしいのかもしれない

ひとみは自分の、心の奥深くに抗い難い程の強い力を持って梨華への気持ちが
生まれ、急速に育っていることに気がつかないふりをした

日の輝く光は、まだ落ちる気配もなく、街を明るく照らしていた
日差しが明るければ、明るいほど、その傍らに作り出される影も濃い
痛い程の日差しが身体を突き刺している中
ひとみの心は、なかなか超えられない高い壁があるように
暗く、どこまでもつづく黒い影の森に置き去りにされていた

94Sa:2003/11/25(火) 14:50
84さん>とりつかれてるんで・・・ついフラフラと更新してしまうんですよー
     ・・・シャレになってねーなぁw
     しかーし★読みに来て下さって、ありがとうございますっ♪
85さん>ついて来てくれるんですか?嬉しいなぁ〜♪
     貴方の心をゲッツ♪←・・・チョイ、ふるいっすねw
     とりつかれたと言って下さる気持ちが、冷静になる隙を
     つくらないように、ガンガン攻めてまいりますっ!

今週は平日も更新出来ない日がありそうなので、出来る時にやっておけと
カナ〜リ、やり過ぎ気味の作者でございます〜〜〜(汗、汗)

95約束:2003/11/26(水) 11:15
ひとみは封を開けたエアメイルを読みながら、階段を上っていた
部屋のドアを開けると、ベットにごろりと横になる
封筒には、数枚の写真も入っていた
一枚ずつ手に取る
今、ひとみ以外の家族が住んでいるらしい、大きな家
美しい町並みには、木々や花が添えられ、出来すぎた幸福を
演出しているようだ
近くにあるらしい大きな公園、父が撮ったらしい家族の休日は
ピクニックバスケットを前に、なんの過不足もなく見える
弟達の夏休み、フロリダまで行ったらしい旅の風景
旅行会社のパンフレットのような、青い海と、白い砂浜
太陽を切り取ったような子供らしい笑顔
巨大なテーマパークの中、キャラクターと友達みたいに
肩を組んでする、お決まりのピースサイン

ひとみは目を閉じ、夏休み前にかかってきた、母親からの電話を
思い出していた

96約束:2003/11/26(水) 11:33
「ひとみ・・・本当にこっちに来ないの?
夏休みは長いんだから、少しくらい顔を見せに来てくれてもいいんじゃない?」
「・・・面倒だし、いいよ」
「・・・また、貴女はすぐそんな言い方するのね?
まぁ、いいわ。ひとみも、家族となんか過ごすより、お友達と一緒に
いる方が楽しいと思う年頃だものね」

会話は弾まず、久しぶりの電話はすぐに終わった
成績のことも、学校生活のことも、聞かれることは無かった

・・・ひとみは、本当に良く出来た子、何の心配もいらないわ

信用と言う名の放任は、それと気づかないうちに
家族とひとみの間に溝を造っていった

97約束:2003/11/26(水) 12:02
始まりは些細なことだった
子供らしく一日の出来事を報告しようと、母親にまとわりつくひとみに
彼女は言った
今、手が放せないのだと、お姉ちゃんなんだから我慢してね、と
すぐ下の弟は熱を出しやすかったし、その下の弟は生まれたばかりだった
子供心にも、座る暇もないほど、忙しく動き回る母親に、それでも
自分の方を見てくれとは、ひとみは言えなかった

そんな日々が続いて、ひとみは無口な子供になっていった
日々、育児に追われる若い母親は、娘が自分に何も言ってこないのは
なんの問題もないからだ、と信じていた

ひとみは中学生になると、今度は笑うことが無くなった
けれど、成績も良く、学校から何かの問題で呼び出されることもない
暗くなる前には、家に帰り、心配する要素など何もなかった
母親は軽い反抗期なのだと納得した
親の傍らから、離れる時なのだと

ひとみが高校生になり、若い娘らしく友達と長電話に興じたり
休日に遊びに出かけることがないのを見るにつけ
母親は自分は、何か、大切なことを見落としているのではないかと
不安に感じた
けれど、最初ひとつ掛け違えたボタンが、最後のひとつまで
合うことがないように、いったいどこで、どう間違えたのか
わからなくなっていた

そんな時、父親の転勤話が持ち上がった

98約束:2003/11/26(水) 12:26
ひとみは、去年の夏休み前、父親が海外に転勤になると言った母親の顔を
思い出していた
「ひとみは・・・どうしたい?」母親は聞いた
「・・・・・残る。・・・高校も入ったばかりだし・・・」
「・・・そう、わかったわ」
母親は小さな声で、ぽつりといい、寂しそうに笑った
その顔に、一瞬だけ、安堵の色が浮かんで消えた気がした

ひとみは母親がけして嫌いな訳ではなかった、もちろん仕事ばかりで
家にいない父親も、無邪気な弟達も

ただ、ほっとしていたのも事実だった
顔を合わせても話す言葉は浮かばない、気詰まりな時間だけが流れる家

家族であるという目に見えない絆が、期待することを手放してしまった
ひとみには、他人とは違う、切れないしがらみに巻きつかれるようで
息苦しさを感じていたから

そして、夏休み中、新しい生活の支度や、手配に追われていた家族は
夏の終わりに、機上の人となった

99約束:2003/11/26(水) 13:19
あの時・・・父親の転勤について来て、と、母親が言ったなら
自分はどうしただろう?と、ひとみは考えてみた

・・・やはり、行くことはなかっただろう
母親に言った理由など、もっともらしい、その場しのぎのもので
あの時、通い始めた高校になど、なんの未練も執着もなかった

・・・ただ、なんとなく、自分はこの場所に留まっていなければならない
そんな予感とは違う、強迫観念みたいなものが、ひとみの頭の片隅に
確かに合った

・・・そして、梨華と出会った

出会うべくして、出会ったとか、運命的だとか言おうと思えば
いくらでも、言えるのかもしれない・・・けれど
運命の出会いなど、そう簡単に用意されている訳はなく
時がたてば、ただの思い込みだと気づくものだ

ひとみは机の上にある、鳴らない電話の子機をみつめた

・・・夏休みは後、一週間程で終わろうとしていた

100約束:2003/11/26(水) 13:35
あの日、夏休みの始まる前日、送っていった家の前で梨華は確かに言った
電話するね、と
けれど、電話は長い眠りについたように、リンとも鳴ることはなかった

ひとみは、誰かと四六時中繋がっていたいと思ったことは、なかった
だから、携帯電話になんの興味もなかったし、梨華が持っているのかも
知らない
ふたりは一度として、何かを約束したことはないし、待ち合わせすら
したこともない
・・・それでも、いつからか、梨華はひとみの隣で微笑んでいたのだ
当たり前のように

ふと、ひとみは梨華は本当に実在するのか?と思った
あまりにも、ひとりでいすぎるひとみに、耐えかねたひとみの心が
勝手に作り上げた幻想なんじゃないのだろうかと

101約束:2003/11/26(水) 13:52
その存在自体を、ひとみに気づかれないように気配すら消したように
沈黙しつづける電話を見ながら、何度も、受話器を上げた自分を
思い出す
けれど、ボタンを押す指は、どうしてよいかわからない、という様に
いつでも、途中で止まってしまった

他人の誘いを断りつづけているうちに、どうすれば、何を言えば
いいのかが、ひとみにはわからなくなっていた

・・・梨華の鼻にかかるような、自分を呼ぶときだけ
それとは知らずに少し甘えを含んだ高い声
・・・ひとみちゃん、と

・・・あの声が恋しい
あの声で、自分を呼んで欲しい・・・きっと、自分はどこへでも行くだろう

102約束:2003/11/26(水) 14:01
電話から、引き剥がすように視線を外して、目を閉じると
今度は梨華の顔が浮かんだ

梨華のことばかり考えている自分に、思わず苦笑が漏れる

・・・梨華が、泣きそうな顔をして、それでも笑ってみせている

あれは、いつだっただろう?
夏は始まっていた、ひとみの身体が、あの日の熱い空気に包まれていく

103約束:2003/11/26(水) 14:30
心地よい風が吹く日だった

学校の帰り道、いつものように梨華と並んで、公園の前を通りかかった

夏休みに入ったのか、子供達が公園の前でしゃがみこんでいた
何やら熱心に作業していた子供たちは、ふたりが横を通る時には
歓声を上げながら、公園の中へと消えていった

ひとみが、なんとなく子供を目で追っていると、横を歩く梨華の
しゃがんだ気配がした

しゃがみこむ姿に、目を向けると、生きたまま、手足を
引きちぎられた虫を梨華は見ていた

「・・・可哀想に・・・一生懸命、生きているのに・・・」

誰かに聞かせるというよりは、思わず漏れてしまった
心の声のような響きだった

横に立つひとみに、気づいたように顔を上げると、泣き笑いのような顔で
梨華は言った

「・・・わかってるの、しょうがないことだって
子供はいろんなこと、自分で試してみて、覚えていくんだもんね?」

そういうと梨華は、また俯いて、動かなくなった虫を見ていた

ひとみはなぜか、梨華がひとり、暗い夜の淵に、ひとり佇んでる姿が
頭に浮かび、梨華もまた、他人に見せることのない闇を抱えている気がして
その儚げな背中を、思い切り抱きしめたいと思った

東屋へと視線を移しながら、ひとみは梨華の背中に言った

「・・・寄り道、していこう」

104約束:2003/11/26(水) 14:46
ひとみは、東屋の前に出ていた氷売りから、かき氷を二つ買うと、ひとつを
梨華に渡した

「・・・ありがとう」

東屋の大きな屋根が作る影の下、ふたりの氷を噛む音だけが響いていた

「見て、見てっ!ひとみちゃん」

梨華の弾むような、屈託のない明るい声に、氷に向けていた視線を上げると
シロップで赤くなった舌を見せて、梨華は無邪気に笑っていた

ひとみは、呆れたように肩を竦めながら、それでも、少し笑ってしまった


部屋のクーラーが、外の熱気に負けるものかと、ブーンと音をさせている
次第に重くなる瞼に、逆らうのをひとみは諦めた

105約束:2003/11/26(水) 17:42
・・・わすれろ・・・わすれろ、わすれてしまうんだ
そうすれば、なみだがこぼれそうな、いまのあたしのきもちも
きっとなくなる

・・・暗闇の中、小さなひとみが膝を抱えながら、ずっと呟いている

急に母親の鏡台の横にあった、凝った装飾の小箱が目の前に浮かんだ

・・・あのなかにいれて、かぎをしめるんだ
ずっと、ずっと、おもいださないように

小さなひとみは、想像していた
自分の心の中にある宝物のような、きらきら輝く思い出を
小さな箱に、無理やり詰めて、何度も何度も鍵を閉める、自分の姿を
そして、思い切り放り投げると、それは、ひとみの心の奥底の自分でも
わからない場所に、静かに沈んでいった

106約束:2003/11/26(水) 17:59
小学生のひとみが、真新しいピカピカに光る、ランドセルを背負って
公園を通りかかる

午後の優しい日差しを反射する、ランドセルとは対象的に
ひとみの表情は、とても寂しそうだった

ひとみはブランコへと、足を向け、腰掛けるとゆっくりと漕ぎ出した
・・・なんでみんなは、すぐにわすれられるのかなあ?

ひとみは不思議でたまらなかった
自分は一度聞いたら、なんでも忘れることなど無かったから
習い始めた漢字も、足し算のやり方も、逆上がりだって一回で出来た

・・・先生は、とても褒めてくれるけど、ひとみは何故だか寂しかった

同じクラスの子に、ひとみは、どうしたらわすれられるの?と聞いてみた

・・・ほんとうに、わからなかったからきいたのに

ひとみは零れそうな涙を、ぐっと我慢した

107約束:2003/11/26(水) 18:10
その子は、ひとみを指さすと笑った
へんなの〜、へんなの〜

どんどんクラスの子が集まってきて、みんなが口をそろえて言った
へんなの〜、へんなの〜、へんなの〜

・・・だれも、こたえてはくれなかった・・・みんなとちがうあたしは・・・
あたしは、きっとへんなこなんだ
・・・だから、あのこもいなくなっちゃったんだ
・・・きっと、もうもどってきてくれないんだ
・・・あたしがへんなこだから、きらいになって、わすれちゃったんだ

ひとみの目から大きな涙が零れて、落ちた

108約束:2003/11/26(水) 18:22
ギラギラと音がするように真っ赤な太陽が燃えていた

まだ、小学校に上がる前のちっちゃなひとみが、両手にアイスの棒を持ち
得意げな顔で走っていく

公園に向かって、全速力で走る
・・・とけないように、いそがなくっちゃ、いそがなくっちゃ

目指す公園に、あの子はいた。ひとりでブランコに座ってる
今日も、桃色のワンピースを着ている
ひとみに気が付くと、顔中をクシャクシャにして笑った

ひとみは両手にもった、アイスの棒を自慢げに見せた

「わあ!!!」
「どっちがいい?」
「こっち!」

迷わず、桃色のアイスを指差すから、ひとみは笑った

「・・・は、ほんとうにももいろがすきだねー」

109約束:2003/11/26(水) 18:35
ふたりで、ブランコに並んで座り、アイスの袋を破ったら
あの子のアイスは、袋からとびだして地面に落ちてしまった

「・・・あっ!」
ひとみが横を見ると、あの子の顔はいまにも泣きそうだった
ひとみは困った、この子に泣かれると自分はどうしていいか
わからなくなるから
そして考えた、どうすれば、笑ってくれるのかを

ひとみは自分のブルーのアイスをあげることにした
「・・・たべていいよ」

アイスを差し出したひとみに、あのこは、すっごく可愛く笑うと、こう言った
「・・・ぃちゃん、いっしょにたべようねっ!」

ふたりで、代わりばんこに食べるアイスは、いつもよりあまい、と
ひとみは思った

110約束:2003/11/26(水) 18:44

ふと、頬に冷たさを感じて、ひとみは瞼を開いた
頬に手を当てると、涙の乾いた後がある

・・・目覚める刹那、幸せな夢を見ていた気がする

なのに、なんで自分は涙を零していたんだろう?

薄く靄がかかったような、夢の名残を、もう一度引き寄せようとした時
目を覚ませ、といわんばかりに電話が鳴った

111約束:2003/11/26(水) 18:47
今日の更新終了で〜すっ
明日は更新無しの予定なので、本日も暴走しつづけてみましたっ!!!

・・・現実は冬なのに、話は夏、真っ盛り〜〜〜♪
季節感がなあ?と思いつつ、まだ夏は終われませんw

112名無し(0´〜`0):2003/11/26(水) 20:54
暴走ありがとうございます。
自分の部屋の寒さを読んでいる間忘れました。
胸が苦しくなるくらいいいです。

113名無し(0´〜`0):2003/11/26(水) 22:57
更新、お疲れ様です〜 毎日読めてほんと、嬉しいです!!
こういう才能があって うらやましい・・
電話が鳴って・・続く。って、 いゃあ〜ん気になる・・待ち人
からでありますように、って祈りました。 
 楽しみにしてます♪ ついて行きますよ〜

114約束:2003/11/28(金) 10:51
ひとみの耳は電話のベルに反応して、梨華の、ひとみちゃん、と呼ぶ砂糖菓子
のような甘い響きを持つ声を、耳の奥で再生する
すると、受話器へと伸ばした指先は微かに震え、音の無い部屋に、ひとみの
鼓動だけが、早く強く、その音を響かせた

・・・何を緊張してるんだか
ひとみは、ひとつ大きく息を吐くと受話器を耳にあて、小さく掠れる声を
出した

「・・・はい、吉澤です」
「ひとみちゃんっ!わたしー!!!元気だった?!」

緩みそうになる目元と、弾みそうになる声を、抑えながらひとみは言った
「・・・まぁね、ところでさ、わたしって・・・誰?」

とたんに、受話器から、もぉう〜〜〜と、非難するかん高い声が聞こえた
顔を真っ赤にしながら、怒る梨華の顔が目に浮かぶようで、ひとみは
低く笑った

115約束:2003/11/28(金) 11:38
「・・・ひとみちゃんって・・・ほんと意地悪・・・」

拗ねるような、甘さを含んだ声に、ひとみは空咳をひとつすると、言葉を返した
「・・・冗談だよ
そんな特徴的な声、忘れたくても、忘れさせてもらえないんじゃない?
・・・そっちは、変わりないの?」

まだ少し、納得いかないというように、憮然とした声をだしながら
それでも、梨華は、元気だよ、と近況報告を始めた
とりとめのない会話を交わした後、梨華は言った

「・・・今度の土曜日、夏祭りだよね?・・・ひとみちゃんは行かないの?」
「あぁ・・・そうかもね・・・なに?梨華、あたしと行きたいの?」

思わず梨華と口にしてしまったことと、素直な言葉じゃないにしても
自ら、誘うそうな台詞が、自分の口から自然に出たことに、ひとみは少し
驚いていた

梨華は、なんとも思わないらしく、普通に言った
「うんっ!ひとみちゃんが予定とかないなら、一緒に行きたいな、と思って」
「・・・土曜日ね・・・夕方、迎えに行くよ」
「・・・えぇ?いいよぉ〜!どこかで、待ち合わせしよ?」

困惑した声を出す梨華に、ひとみはまた、いつもの少し困った顔をしている
のだろう、と想像した
自分でも訳がわからないうちに、こみ上げてくる梨華への愛おしさが
声に滲み出てしまいそうで、ひとみはわざと、そっけない言い方をした

「・・・道覚えるの、苦手だって言ってなかった?」
「・・・もぉう〜〜〜!!!」

梨華の非難する声に、ひとみは、ひとり笑みを零した

116約束:2003/11/28(金) 12:20
−土曜日−

ひとみは、・・・いまから、家を出るから、と梨華に連絡を入れた

昼間の熱い空気が、宵の風で少しづつ冷まされる中
朱から藍へと様変わりする巨大なスクリーンの下を
ひとみは梨華の家へと足を向けた

エントラスホールの前で、華奢な人影が揺れている
ひとみは、いますぐ駆け出したい、と逸る足を押さえ、ゆっくりと
近づいた

・・・梨華は浴衣を着ていた
胸元の白から、足元の紫へと少しずつ変わっていく美しい色
その中に薄桃色の繊細な、桜の花びらが舞っていた
そして、桜の花びらと揃いの色の帯をしめ、素足に下駄を履いていた

「ひとみちゃんっ」
梨華は、ひとみに気付くと顔を輝かせ、下駄の音をさせながら走りよると
自分より、少し高い位置にある、ひとみの顔を見上げるように微笑んだ

117約束:2003/11/28(金) 12:43
ひとみは、こみ上げる何かを・・・ごくりと飲み込んだ
・・・梨華は・・・美しかった

簡単にまとめた髪から、はらりと落ちる後れ毛が、細い首を際立たせ
軽く合わせた浴衣の襟元から、胸へと柔らかく隆起した一枚の薄い布は
細い腰で絞られ、無防備な足元へと静かに落ちていた

微笑の形で静止した唇は、いつもより濃い色を持ち、濡れたように
輝いていた

ひとみは、自分の身体中を流れる血液が沸騰し、どうにかしてくれ、と
逃げ出す場所を探しているのを、感じた

「・・・蝶々・・・みたいだね」

ひとみは俯いて、ぽつりと言葉を漏らすと、きょとんとしている、梨華の顔
から、視線を外すように踵を返して、歩きだした

「・・・暗くならないうちに、行こう」

118約束:2003/11/28(金) 13:05

・・・蝶々???って・・・なに???
・・・ヒラヒラしてるって、ことなのかな?
・・・ひとみちゃんって、時々・・・ほんとに、わからない
梨華は、そう思いながら、少し先を歩くひとみを追いかけた


夜の帳が落ち、夕闇が少しづつ濃くなる道の先に
集まる人々の賑やかな声と、どこか優しい提灯の明かりが揺れている

神社へとつづく道の両脇に、たくさんの夜店が並んでる

呼び込みする、おじさんの声。ソースの焦げる焼きそばの匂い
走り去る子供が持つ、大きな綿あめ
キョロキョロと、目線をあちこちに向けながら、梨華は、はしゃいでいた

斜め前を歩くひとみの、真っ白な七分丈のシャツの裾を梨華はひっぱった

「・・・ねぇねぇ、ひとみちゃんっ!たこ焼きたべようよっ」

119約束:2003/11/28(金) 13:32
ひとみは振り返り、梨華の指差す先を見ると頷いた

「・・・買ってくるから、待ってて」
ひとみは、夜店の間に設置された簡易椅子と、安っぽいテーブルを
顎で指すと店の列に並んだ

ひとみの後姿を見ながら、梨華は椅子に軽く腰掛けた
・・・わたしが買うから、と言おうと思ったけど、なんとなく言うだけ無駄
な気がして、ひとみの言うことに頷いたのだった

・・・ひとみちゃんって、テキパキしてて意外と仕切り屋さんなのかも知れないなぁ
・・・それとも・・・わたしが、とろいから、見てられないのかも?
そう思うと、落ち込みそうになる梨華だった

梨華が、ネガティブモードに入ろうとしていると、ひとみが戻ってきて
たこ焼きとラムネをテーブルの上に置いた

120約束:2003/11/28(金) 13:53
「・・・わぁー!ありがとっ♪」 

そういえば、喉も乾いていることに気がついた
ひとみちゃんて、よく気が付くなぁ、と思いながら
梨華がラムネに手を伸ばすと、ひとみは涼しげな顔をして言った
「・・・よく、振っといたから」

「もぉう〜〜〜!!!」
梨華は頬を膨らませると、ラムネに伸ばしかけた手を、たこ焼きへと変えた

梨華は、たこ焼きを楊枝で刺し口に入れると、顔を輝かせた
「お、美味し〜いっ!・・・夜店とかのって、なんでこんなに美味しいのー」

夢中で、二個三個と口へ運ぶと、視線を感じて、次のたこ焼きを手に持ったまま
ひとみの方へと目線を向けた

見ると、ひとみがあまりにも優しげに微笑んでいるから、梨華は急に
恥ずかしくなって俯いた

121約束:2003/11/28(金) 14:17

すると、ひとみの手の平が伸びてきて、梨華の口角の脇に静かに触れた

梨華が、驚いたように顔を上げ、ひとみの顔を見ると
ひとみの指先に、何かを拭うように一瞬だけ、力が入った

「・・・ソース」
ひとみは、ぽつりと口にすると、離した指先をなんでもないことのように
自分の口元に持っていった

梨華はひとみが、その指先に付いたソースをなんのためらいもなく
舌で拭い取る様を呆然と、見ていた

梨華が手に持っていた、たこ焼きは、もうこれ以上我慢出来ません、と
いうように、楊枝から離れて、ポトリと落ちた

122約束:2003/11/28(金) 14:41
「・・・あっ、あ〜〜やだ、もうっ」

少し赤い顔をして、梨華が落ちた、たこ焼きを拾おうとしていると
頭の上から、声がした

「・・・食べさせてあげようか?」
ぎょっとして顔を上げ、ひとみを見ると、少し細められた目元は艶っぽく
何かを誘うように光って見えた

梨華は、急に自分の心臓が猛スピードで音をたてだしたことに、たじろぎ
その顔を、更に真っ赤に染めながら早口で言った

「だ、大丈夫っ!!!もう、全然大丈夫だからっ」

・・・何が・・・絶対、大丈夫なんだろう???
梨華は頭が混乱して、ちょっとだけ泣きたくなった

12354:2003/11/28(金) 17:32
しばらくお邪魔していない間に、こんなに大量に更新されていたのですね!?
お疲れ様です(ペコリ)。
そしてこんこん登場!推しメンばかりでうれすぃ〜です。

吉加入時のその話、自分も覚えてますよぉ〜
(確か、やぐっちゃんはつんく氏から「表情を教えるように」ということで教育係
になったんですよね?)
合宿当時から密かに吉推しだったワタクシですが、吉は根本的な部分はやっぱり
変わっていないんじゃないかなぁ・・なんて思ってますです。
(「マシューTV」を観てホントに真面目なんだなぁ、と思いました)

いしよしとごっちんとの関係がこれからどうなって行くのかも
気になっておりますです。
次回更新もまったりとお待ちしております。

124約束:2003/11/28(金) 17:39
梨華とふたり、夜店を冷やかして歩きながら、金魚釣りの店先で
ひとみは足を止めた

あまりキレイとは言えない水の中で、ヒラヒラと泳ぐ一匹の金魚の尾びれが
今日の、浴衣姿の梨華と重なって見えた

「・・・これ、やってみる?」

ひとみが声をかけると、梨華の喉が、ひっかかる異物を飲み込むように
上下した
梨華は俯くと、くぐもった聞き取りにくい声を出した

「・・・すぐ・・・死んじゃうから、やりたくない」

すぐに顔を上げた梨華の、なにかを諦めたような笑顔は、儚げで、そして
とても綺麗だった

ひとみは、僅かに眉を寄せ、気遣うように名前を呼んだ
「・・・梨華」

125約束:2003/11/28(金) 18:07
梨華は、ハッとしたように、優しげな柔らかい笑顔を、ひとみに向けた
「ひとみちゃん、やって見せて?」

そして、キョロキョロと辺りを見回し、ヨーヨー釣りを指差した
「わたしはねー、あっちにする!」

ひとみは、梨華の顔をみつめながら言った
「・・・いいよ、あたしも別に魚が好きって訳じゃないから」

ふたりの間に、わずかに沈黙が流れた そして、それを破るように
バァーンと花火の音がした

「・・・川原の方に行こう」
空を仰いで言ったひとみの言葉に、梨華が頷いた時
立ち止まるその肩先が人波に押された

「・・・迷子になられたら・・・面倒なのは、あたしだから」

そう言うと、ひとみは梨華の手を引いて川原へと、歩き出した

126約束:2003/11/28(金) 18:26
天空にいくつもの花が、浮かんでは消える様を
ふたりは、肩を並べて見上げていた

「・・・わたし、今日の花火、一生忘れないよ」

梨華は思わず、口にしていた
ひとみが、梨華の顔を見ながら、小さく笑った

「・・・随分、大袈裟だね」
「・・・だって、あんまり綺麗なんだもん」

梨華は、そう言いながら、嬉しそうに空を見上げる横顔に
笑みを広げた

ひとみも、空を見上げて言った

「・・・来年もあるよ、また・・・」

薄い闇を彩る花火の打ち上がる、遅れて聞こえる大きな音に
ひとみの言葉は飲み込まれて、梨華の耳に届いたのか、わからなかった

127約束:2003/11/28(金) 18:53
賑やかな祭りの余韻の後、ふたりは、梨華の家へとゆっくり歩いていた

国道へと続く、公園の中、わずかな街灯の明かりと冴え冴えと遠く輝く
僅かな月光がふたりを照らしている

日本酒のカップを持った、祭り支度に身を包んだ数人の男達が
ふたりを追い越す時、ちらりと梨華を見て口笛を吹いた

「お姉ちゃんっ、男には気をつけるんだよー」
大声で叫ぶように言うと、仲間と馬鹿笑いをしながら、通りすぎて行った

「・・・何言ってるのかなぁ、あの人たち」
困惑した梨華の声に、ひとみは足を止めると、少し屈むようにして
その顔を覗きこんだ

128約束:2003/11/28(金) 19:19
「・・・ほんとに、わかんないの?」

からかいを滲ませた、試すような口調で、ひとみが言うと
梨華は、え?だって・・・と、小さく口の中で言いながら
誰もいない、自分達のまわりを見回した

ひとみは、俯くと小さく笑った

「・・・あたしのこと、言ったんだよ」

ぽかんと自分を見上げる梨華に、ひとみは顔を上げると、梨華の目をじっと見つめて
わざとゆっくり言った
「あたしに、気を付けろって言ったんだよ」

なんで?と、瞳で問う梨華に、ひとみは、あきれたように言った
「・・・暗いから、男に見えたんじゃないの?」

梨華は、ようやく自分が何に気を付けろと言われたのか、思い当ったように
あっ、と言いながら、照れたように俯いた

129約束:2003/11/28(金) 19:47
僅かに、これから向かう秋への気配を含んだ風が、静かに吹いた

梨華の上げた髪の後れ毛が、その唇に触れている
ひとみは手を伸ばし、そっとその髪を指に絡めて、梨華の耳にかけた
そして、頬から細い顎へと指を滑らせ、梨華の顔を上げさせた

ひとみは、いま、はっきりと自覚した
自分が梨華をどう思い、何を望み、どうしたいと思っているのかを
そして、それは、梨華が自分に求めている関係と違ってしまっているだろう、と

それでもひとみは、気づいてしまった自分の気持ちを、戻すことなど
不可能な気がしていた

ひとみは、今の自分の想いのすべてをこめて、梨華をみつめた

自分を誘い続けるような、その濡れた瞳を、いまだけ閉じて
この熱く熟れた想いを、受け止めて欲しいと願った

130約束:2003/11/28(金) 20:06
梨華は真直ぐ、ひとみをみつめ返していた
そして、一瞬、その瞳はいまここにない何かを探すように揺れた

ひとみは、梨華が自分を通して、他の誰かを見ている気がした

・・・すうっと、ひとみの心に音のない風が吹いて、囚われていた熱を
わずかに冷ましていった

ひとみは、梨華の唇の上を親指で一度、軽く滑らせると指を放し、言った

「・・・口紅、取れちゃったね」

131約束:2003/11/28(金) 20:39
二人は無言で、静まりかえった住宅街を歩いていた
月は雲に隠れ、ぽつぽつとひっそり佇む街灯だけでは
ひとみの表情を盗み見ることさえ、梨華には困難な気がした

さっきの何かを、思いつめたような、ひとみの眼差しが梨華の頭から離れない
その目の色を思い出すと、梨華の胸は高鳴った
ひとみは、自分に何をしようとしていたのか?

・・・あれは・・・たぶん・・・
・・・だけど・・・

横を見ると、ひとみもまた物思いに耽っているように見えた

マンションの前まで来ると、殊更明るい声で梨華は言った

「ありがとうね?ひとみちゃん!・・・それで、あのね?
・・・夏休み最後の日、遊園地行かない?」
「・・・遊園地?」
「うん。あさ美ちゃんがね、行きたいって言ってたの。ひとみちゃんも
よかったら、一緒にどうかな?って思って」
「・・・別に、いいけど」

梨華は、よかった、と言うように胸の前で指を組むと笑った

「じゃぁ、十時くらいに駅前の、バス乗り場で待ち合わせでいい?」
「・・・わかった」

踵を返して、自分の家へと帰るひとみを、その後姿が見えなくなるまで
梨華は見送っていた

132Sa:2003/11/28(金) 21:07
更新終了で、ございます★

112さん>もったいないお言葉、ありがとうございます♪
      一時でも、読んでよかったと思って頂けるなら
      これ以上の喜びはありませんっ!!!

113さん>才能・・・そんな恐れ多いモノ、無いです
      あるのは、一分でも、一秒でも暇さえあれば書いていたい
      というハタ迷惑な情熱もどき、それだけです
      それに、付き合って頂けるなんて最高にハッピ〜♪で、ございます

54さん >またのご来店、ありがとうございまーす♪
      丁寧なレス頂いて、ほんとうに嬉しいですっ!!!
      まったりする暇を与えない作者を、どうか許してくださいませ
      そして出来れば、またご来店頂けることを心より
      お待ち申し上げております〜〜〜

133名無し(0´〜`0):2003/12/01(月) 02:59
はじめまして。いしよし大好きな自分です。
いっきに読ませて頂きました。
すごいですね、すっかり引き込まれちゃってます。
つd

134名無し(0´〜`0):2003/12/01(月) 03:01
↑すいません…

続き楽しみにしています。

135約束:2003/12/01(月) 10:16
夏休み最後の日

梨華は時計の針を見ながら、イライラとした声を出す
「あさ美ちゃんっもう行くよ?!」

返事がないので、廊下へと進めかけた足を止め、ダイニングを振り返ると
あさ美は、新しい食パンへと手を伸ばしかけていた

「もぉーー!何枚、食べれば気がすむのよ?」

梨華の甲高い声に、あさ美は肩を竦めると名残惜しそうに、伸ばしかけた手を
引っ込めた

「・・・まだ、三枚しか食べてなかったのに・・・」
「それだけ食べれば充分ですっ!!!」

・・・私、成長期なのに、と、もごもご口の中で文句を言いながら
椅子から立ち上がるあさ美の、両肩に手を乗せると、なだめるように
・・・いいから、いいから、と言いながら、玄関へと急かした

梨華は、ベランダで洗濯物を干す母親に「行ってきま〜す」と、声をかけると
バタバタと、あさ美を引きずるように出ていった

石川家の朝は、いつでも、うるさいくらい賑やかだった

136約束:2003/12/01(月) 10:41
二人が、バスターミナルまで来ると、ひとみは、遊園地行きのバスの時刻表を
ぼんやりと見ていた
ひとみの姿を見つけた瞬間、梨華の心臓は、ドクンッと大きな音を
ひとつたてた
梨華が、そんな自分にたじろいでいると、横にいた、あさ美がひとみへと
駆け寄った

少し離れた場所から、ゆっくり二人に近ずく梨華の目に
あさ美へと、親しげな微笑みをみせるひとみと、それに答えるように
「・・・今日も完璧ですっ!!!」と、弾んだ声で答えるあさ美の声が聞こえた

あさ美と、楽しげに笑い合うひとみを見ながら、梨華は思った
・・・随分、あさ美ちゃんには優しいんじゃない?
・・・わたしには、意地悪ばっかり言うクセに・・・

梨華は、そんなことを考える自分に、嫌な気分になり、落ち込みそうになる
気持ちを引き立てるように、笑顔を浮かべると二人に近寄って行った

137約束:2003/12/01(月) 11:08
「おはよー!待たせちゃった?ごめんね?」

梨華の言葉に、ひとみは、・・・別に、と、そっけなく言った後
梨華の耳に唇を近づけるようにして、囁いた

「・・・ひとりでさ、百面相して楽しい?」

・・・見られてた?
梨華は恥ずかしくなって、ひとみの視線から逃れるように、そっぽを向いた

バスの時間を、確認していたらしい、あさ美がひとみに言った
「・・・もうすぐ、来るみたいですっ!楽しみです!!!
あっ!・・・吉澤さんにお願いがあるんです・・・
新しく出来た、絶叫コースター・・・一緒に乗ってもらえませんか?」

ひとみが梨華の顔をチラッと見ると、あさ美は言った
「お姉ちゃん、ヘタレだから乗れないんですよ」

梨華がムッとして、あさ美を睨むと、だって、本当だもーん、と言いながら
あさ美は、いぃ〜だ、と、いうような顔をして見せた

なにか、言い返してやるっ、梨華が息を吸い込むと、隣から押し殺したような
ひとみの笑い声が聞こえてきたから、梨華は、もぉーー!、と非難の声を
返すだけで、止めてしまった

138約束:2003/12/01(月) 11:45
「・・・いいよ、一緒に乗ろうか?」

ひとみの優しい口調に、あさ美は嬉しそうに、手をグーに握り締めながら
力強く言った
「やっぱり・・・やっぱりっ!完璧なのです!!!」

梨華は、なんとなく見ていたくなくて目線を、二人から外した
・・・と、そこへ、二人連れの女の子が、ひとみの方をチラチラ見ながら
梨華の後ろに並んだ

・・・ちょっとぉー格好よくない?・・・あの子
・・・女の子だよね、でも、雰囲気あるよね?
・・・なぁんか〜イイ感じ?!
そう言い合って、くすくす笑うのが、梨華の耳に届いた

横を見ると、絶叫系の乗り物に対する思い入れを、熱く語る、あさ美の言葉を
優しげな微笑みを浮かべながら、ひとみは聞いていた

・・・いまさら、だれど
ひとみちゃんって、誰が見ても素敵なんだ

スラリと高い背、長くバランスのいい、自分よりは大きめの手、足
薄く茶色がかった、飾りけのない、少し長めのショートカットの真っ直ぐな髪
その髪と同じ色の瞳は、大きく澄んでいる

変に女の子っぽくもなく、乱暴な男の子っぽさもない
少女と少年の狭間にいるような人
独特の存在感があって、時々、とてもドキッとする眼差しを持っている人

・・・ひとみちゃんは、ひーちゃんだけど、やっぱり違うんだ
・・・あの頃のひーちゃんは、もうどこにもいない
・・・いま、いるのは・・・いま、わたしの傍にいてくれるのは

139約束:2003/12/01(月) 12:07
「・・・立ったまま寝てるの?・・・バスが着たよ」

ひとみがそう言って、梨華の肩を抱くように腕を回して、その肩を軽く押した
梨華は、ひとみに触れられた肩が、急に熱を持ったように熱く感じて
その手から逃れるように、そっと身体を外すと、バスに乗った


たいした渋滞に嵌ることなく、バスは遊園地の入り口へと着いた
降りたった梨華が、周囲を見回すと明るい声が響いた

「梨華ちゃん!こっち、こっち−!」

前方にあるチケット売り場の前で、両手を大きく振る真希の姿が見えた

140約束:2003/12/01(月) 12:36
「ごめんねーごっちん!待った?」
梨華が小首を傾げながら聞くと、真希は、いつもの人懐こい笑顔を浮かべた

「いんや。ごとーも、いま着いたとこ・・・それよか、一ヶ月ぶり?もっとかな?
終業式以来だかんねー」
「・・・電話もらってたのに、ごめんね?・・・ずっと田舎に帰ってたから」

申し訳なさそうに微笑む梨華に、真希は顔中に笑顔を広めた
「いいって、いいって!んなコトより、梨華ちゃんの、かーいー顔見れて
ごとーは嬉しいよ・・・で、横にいんのが妹さんなんだ?」

ぽ〜と、真希を見ていたあさ美は、ペコンと頭を下げた
「こんにちわっ!妹のあさ美です。不詳の姉が、いつもお世話になっております」

顔を上げたあさ美に、真希は、零れそうなほどの笑顔を返した
「いや〜、ごとーこそ、お世話になってるよ?あさ美ちゃんにも、会えて嬉しいよ!
・・・後藤真希と言います、ごっちんとでも呼んでくれる?以後、よろしくー!」

あさ美は、感極まった声で言った
「・・・こっこの方も、完璧ですっ!!!」

141約束:2003/12/01(月) 12:56
真希は笑顔を引っ込めると、姉妹の斜め後ろに立つ、ひとみに目を向けた
「・・・そっちも、久しぶりじゃん、お元気そうで何よりだね」

ひとみは何かを、噛み潰すような表情を浮かべながら、・・・どうも、と
口にした

微妙に空気が緊迫した時、あさ美が呟いた

「・・・不出来な姉のまわりに、何故ここまで完璧な方ばかりが、揃うのでしょう?」

大いなる謎を解き明かした探偵のように、あさ美は深く息を吐くと言った
「・・・人は、自分にないものを求めるのですね?」

すると、梨華がつんとした口調で言い返した
「あさ美ちゃん・・・類は友を呼ぶって言葉を知らないの?」

あさ美は、やれやれというように、お手上げのポーズを取った
「お姉ちゃんは、もっと自分を客観的かつ冷静に、見つめ直さないと。
・・・もう、高校生なんだからね」

真希とひとみは、違う方を見ながら、それでも同時に噴出していた

142約束:2003/12/01(月) 13:21
「なんかさ、面白い子だねっあさ美ちゃん!ごとー、気に入ちゃったよー」

真希は笑いの名残を残した声で、そういうと、子供にするように
あさ美の頭を、グリグリと、撫でた
顔を真っ赤に染めながら、・・・恐縮です、と、あさ美は照れたように小さな声を
出した

真希は、ひとみにからかうような笑顔を向けると言った
「吉澤さん、て、呼ぶのは、ごとーの趣味じゃないんだよね
けど、ひとみちゃんっ!なぁーんて、梨華ちゃん以外に呼ばれたくないって
誰かさんの顔に書いてあるしさ、ごとーはね・・・」

真希はそこで言葉を切ると・・・よっさん?よっしーじゃ普通だし、と
独り言のように、ぶつぶつ言った後、コレだ!というように高らかに言った

「よっすぃーって呼ぶことにするっ!」

ひとみが、・・・はぁ?と呆れた顔をすると、あさ美が興奮した声を出した

「よっすぃ〜さん♪素敵ですっ素敵すぎます!心憎いくらい完璧な響きです!!!」

あさ美の陶酔したような口調に、ひとみは、もう、どうにでも勝手にしてくれ
と言うように空を仰いで言った
「・・・好きにすれば?」

143Sa:2003/12/01(月) 13:46
あさ美ちゃん大活躍〜〜〜♪
梨華ちゃんは放置され、うちのかなーりクールな吉澤さんまで飲み込む
パワー炸裂で、ございまーす★

113さん>初めまして♪いしよし好きの作者でございますw
      いっきに読んで頂いたそうで、とてつもなく嬉しいですっ!
      これからも、どうぞ、覗きに来て下さいませね?

己の欲望の為に、ハイテンションで突っ走りまくっておりましたが、
師走に入り、今までより更新量が減ったり、出来ない日が増えたりしそうな
作者でございますぅ

なので、我欲の放出の為、出来そうならば、後でまた更新したいと思って
おります(ペコリ)

14454:2003/12/01(月) 15:00
更新お疲れ様です。
師走に入ってもSaさんは
>川o・-・)完璧です!

こんこん、イイですねぇ〜!
「ハロモニ」とかを観ていると、何かと吉とこんこんが絡んでいることが
多くて、それはそれで何故か萌えてしまいそうになるワタクシは、アホで
しょうか!?
ってか、
0^〜^)初めて飼ったペットが可愛くて仕方ない飼い主
川o・-・)実は冷静で賢い仔犬
ってな感じですがw

ごっちんもイイ子ですね。こういう友達が欲しいですわい・・
次回もまったりゆったりお待ちしてますです。

145約束:2003/12/01(月) 15:03
いくつか乗り物をこなした四人は、白いボートが浮かぶ、大きな池の前に出た

こういう時だけ、気が合うらしい姉妹は、手を握り合って顔を輝かせると
同時に歓声を上げた
「乗りたーいっ!!」

見ると、待ち人は一組だけだった、四人は列に並んだ

白く輝く太陽を、穏やかな水面が透明な光を反射している
真希が眩しくて、少し目を細めると、梨華が、とんでもないことを言い出した

「今度はじゃんけんで、分かれて乗らない?」

今までは、先を歩くひとみ、後ろに自分、そして横を歩く姉妹は
その時々で入れ替わっていた。そして、その流れで乗り物にも乗っていた
真希は、さりげなく、かつ慎重にお互いの位置を
ひとみとキープしあっていたのだ

真希の背中に、緊張でイヤな汗が流れた
けれど、楽しげに発言する梨華に、反論する訳にもいかず
真希は諦めると、黙って、したくも無い、じゃんけんの為に手を出した
・・・心の中で祈りながら

・・・神様、出来れば梨華ちゃんと、いや、贅沢はいいません
あさ美ちゃんでもいいんです・・・でも、でも今日のところは
取り合えず、よっしぃーと二人っきりは許して下さい。と

146名無し(0´〜`0):2003/12/01(月) 15:13
うわぁ〜!もう更新されてる!
ほんと、Saさんは
>川o・-・)完璧すぎです!

紺ちゃんいい味だしてますね〜
何度も笑っちゃいました(笑)

147約束:2003/12/01(月) 17:46
・・・神様は真希の言うことを、半分だけ聞いてくれたらしい
四つの出された手は、真希と、あさ美がグーで、梨華と、ひとみがパーだった
普段、何かに祈ることなどしない真希は、ま、こんなもんでしょ、と
ひとり納得していた

前の一組がボートに消え、たいして待たされず、ニそうのボートが戻ってきた

先に着いたボートに、前に立っていたひとみが降りる
と、揺れるボートに、梨華が、きゃっ、と小さな悲鳴を上げるた
ひとみはごく自然に、梨華の肘を掴み、自分が立つボートへと招き入れた

・・・まるで出会った時から、唯一人の姫を守ると決めてる騎士みたいじゃん
真希は少しだけ、しらけた気分で二人を見送った

次のボートが岸に寄せられ、真希は先に飛び降りると、揺れるボートを
オロオロ見る、あさ美に手を差し伸べた

「あさ美ちゃん、つかまって」
「・・・恐れ入ります」

顔を赤くして俯くあさ美に、真希は、へらっと笑いながら、腰かけると
オールを両手に持って言った

「ごとー、こういうのってさ、得意なんだよね」
「・・・重ね重ね、恐れ入ります」

あさ美は、更に顔を赤く染めて、消え入るような小さな声で言った

148約束:2003/12/01(月) 18:04
真希は適当な所でボートを止めると、水上に吹く心地よい風に瞳を閉じた

「・・・ごっちんさんは、姉が、お好きですか?」

真希がわずかに驚いて、瞳を開けると、あさ美は心配そうに
少し先に止まっている、梨華達を乗せたボートを見ていた

・・・他意は、ないらしい

真希は、おどけた口調で言った
「もちろんさー!ってか、ごとー、面食いなんだよねー」

あさ美は、柔らかく何かを慈しむみたいに微笑んだ
「・・・姉は、幸せ者です」

向こうのボートで、こちらに気づいたらしい梨華が、満面の笑みで
手を振っていた

・・・梨華ちゃんの笑顔は、いつも眩しい
真希がそう思いながら、手を振り返していると、あさ美も、梨華へと手を
振り返しながら、嬉しそうに言った

「姉は・・・笑顔だけは無敵なんです」

149約束:2003/12/01(月) 18:29
二人は、本当に仲の良い姉妹なのだろう、真希は自分の心にも
暖かい何かが、流れ込んでくるのを感じた

「・・・姉は、池で泳ぐつもりでしょうか?」

あさ美の、情けないというような声に、前方のボートを見れば
身を乗り出して、水面の水をすくう梨華の身体を、ひとみが
支えてやっているのが見えた

「・・・よっすぃ〜さんの、ご苦労をお察し致します」
あさ美は、哀れむような声で言った

真希とあさ美は、とりとめのない話をしていた

「あのさ、あさ美ちゃん ごっちんさんは止めよーよ?
ごとーとしては、ふつーに、ごっちん、のがいいからさー」

真希の言葉に、あさ美は何かを決意するみたいに大きく頷いた
「・・・わかりましたっ!その様に、努力致します」

真希が、ヘナヘナとくらげの様に、力が抜けそうになっていると
梨華達のボートが岸へと向かうのを見て、あさ美は力瘤を作るボーズをして
張り切った声を出した

「帰りはお任せ下さいっ力仕事は得意中の得意です!!!」

150Sa:2003/12/01(月) 18:52
あさ美ちゃん、大活躍〜〜〜パートⅡ(w

54さん> わ〜いぃ!!!54さんがまた遊びに来てくれたよぉ〜♪
      嬉しいなったら、嬉しいなっっっ

      ・・・こんこん、キミを主人公にしてあげられなくてゴメンよ
      5期の中では、一番愛してるっ けど、けどっ
      作者は、いしよし、じゃないと妄想出来ないんだよ〜〜〜(涙)
      ・・・ と、いう感じの作者で、ございま〜す(ペコリ)

146さん>このような話で、笑っていただけるなんてうれすぃ〜ですっ♪
      こんこん、お笑い担当なんで〜w
      嘘だよお〜!!!こんこんは作者のナゴミの素っすから★
      ・・・コレはコレで作者の愛の形でっす

151名無し(0´〜`0):2003/12/01(月) 22:04
大量更新乙です。
クールなよしこカコイイ

152名無し(0´〜`0):2003/12/02(火) 00:54
更新お疲れ様です〜 毎日読めて、ほんとに・ほんとに嬉しい!
Sa様の小説への誠実さを感じます。
クールなよっすぃが素敵・・先、楽しみにしてます。
・Sa様(私もずーっとついて行ってたりしてるんです・・と告ったりして・・)

153約束:2003/12/02(火) 15:46
ボートから降りた四人は、ファーストフード形式の店で
それぞれの好みの物をチョイスすると、店の前に円形に広がる
丸テーブルのパラソルの下で昼食をとった

食べ終わって少しすると、あさ美がソワソワと落ち着かないようすで
原色の花を開かせた、パラソルの群れの先を気にしだした
そこには、猛スピードで駆け抜ける竜巻のような乗り物と
それを取り囲むような、黄色い歓声で溢れかえっていた

「行ってきなよーあさ美ちゃん・・・わたしは、ここで待ってるから」
梨華は、アイスィーをストローをかき混ぜながら、笑顔で言った

「・・・う〜ん、いま、あんまり並ばなくてすみそうだし・・・」
あさ美は、列の最後尾を確認するように、身体を少しずらした
「行ってきていい?」

嬉しそうに見開く瞳は、大きな目をさらに大きくして、子供のぬり絵みたいに
思わず星を書き足したくなるくらい輝いていた

その、今にもこぼれ落ちそうな目で、あさ美は、ひとみに言った
「よっすぃ〜さんっいざ、参りましょう!!!」

ひとみは、一瞬、気使うような視線を梨華に向けたが、梨華が笑顔で
いってらっしゃーい、と手を振ると、頷いて立ち上がった

154約束:2003/12/02(火) 16:03
立ち上がらない真希に、梨華は笑顔で言った
「ごっちんも行ってきて?わたしはひとりで平気だよー」

真希は、難しい顔を作って答えた
「お母さんがねぇー食べた後、すぐに動いたらいけませんって言うんだよねー
・・・ごとー家の家訓ってやつ?」
梨華は、ぷっと噴出した

真希は、立てた肘に頬を乗せながら、立ち上がる二人を見上げると
あはっ、と笑って片手をヒラヒラ振った
「んな訳で、ごとーもお留守ばーん!行ってきたまえ〜」

ひとみは、何か言いたそうに顔を歪めた
けれど横で、あさ美がニコニコと、行ってきま〜す、と言うのを聞くと
そのまま、コースターに向かって歩きだした

155約束:2003/12/02(火) 16:48
真希は、小さくなる二人の後姿を見送った後、パラソルの、そのはるか上空に
いながら、これでもかと自分を主張するように照りつける、太陽を見た

・・・あんな風にいつでも、片時も忘れさせない、自分はここにいるんだと
言いたいとは思ったことはない
・・・だけど・・・月光のささやかさな明るさを、夜道であらためて気づいた時
その瞳に月だけを映すように、時には、梨華の瞳に自分だけが映りたいと
真希は思った

二人が列の最後尾につくまで、見送っていた梨華が真希を見て笑顔で聞いた
「・・・行っちゃったねー・・・ねぇ、ごっちん、ずっとここでいいの?
結構時間かかりそうだよ?どこか、行きたいとこある?」
真希が、う〜ん、と、答えた時、背後から声がした

「ちょぉ〜っとイイ?キミ達、マジ可愛いんだけど、俺らとまわらない?」

156約束:2003/12/02(火) 17:15
「・・・ハァ〜?」
真希が睨みを効かせて顔を上げると、卑下た笑いを顔に貼り付けた
大学生ふうの二人連れの男と目が合った

「なんだよ〜睨んでんの〜アッハハ〜〜気が強そうで、モロタイプ〜」
何が可笑しいのか、一人は真希を指差しヘラヘラ笑ってる

「・・・ちょっ・・・止めて下さいっ!」
梨華の泣きそうな声に隣を見ると、もうひとりの男が嫌がる梨華の肩に
無理やり手を回していた

真希は、頭にカァッと血が上って、目の前の椅子を蹴り倒すように
立ち上がると、梨華の肩に置かれた手を払い落とした
「・・・汚ねぇ手で触ってんじゃねぇよっ」

男達の顔から、スゥーと表情が消えるのを見た真希は、ヤバイ、そう思って
梨華の手を掴むとひっぱった
「行くよっ梨華ちゃん!」

「・・・おい、待てよっ」
真希は、自分の肩を掴もうと伸ばされた手を身体をひねって避けると
梨華の手を引いて、走り出した

157約束:2003/12/02(火) 17:41
と、とりあえず、こんなトコで更新終了してイイッスか?(・・・汗)
本日は思ったのの半分くらいしか進みませんでした(ニガワラ)

151さん>今日は少量更新になってしまいました〜申し訳ないッス
      クールな吉澤さんが、この場にいたら・・・
      クールじゃなくなってたと思われw

152さん>ココの更新をすること以外の誠実さは捨ててるんでw
      ・・・人として、ダメです
      コクって頂いたからには、お答えしないとっ!!!
      作者のレスに嬉しかったりしてっと答えて下さり
      Sa様とアホゥな作者を、もったいない様付けで
      呼んで下さり、いつも、ついていく、と心優しい
      言葉をかけて下さいますね?
      いっつも、いつ〜も、ありがとうございますっ!!!
      (違ってたら、指さして笑うだけで、許していただけるんでせうか?)

158Sa:2003/12/02(火) 17:44
・・・やっちゃったよぉ〜ヲイッッッ!!!
・・・自分の名前すら書けないなんて〜〜〜逝ってきますぅ
申し訳ございませんっっっ!!!

159約束:2003/12/02(火) 20:48
真希は走った、走って、走って、全速力で、ただ走り続けた

振り返る余裕などなかった、少しでも速度を落としたら追いつかれてしまう
二人分の風を切る音だけが鼓膜の奥で響いている


繋いでいた手の先が、ふいに重りをつけたように沈んだ

つんのめりそうになりながら、振り返ると、繋いでいた手は外されて落ち
しゃがみ込む梨華の姿が見えた

「・・・梨華ちゃんっ!!!」

真希は梨華の傍らに膝を落とすと、その肩に手を添え、顔を覗き込んだ
眩暈を起こしたらしい梨華は、焦点の定まらない目を空に向けていたが
真希が口にした、何度目かの梨華を呼ぶ声に・・・ぁ、と声を漏らした

「・・・あ・・・ごっちん?」
「ごめんっ ごめん・・・」

真希はうわ言のように、謝罪の言葉を口にしながら、梨華の顔を見た
梨華は真希と目線を合わせると、弱弱しく微笑んだ
「・・・あぁ、わたし・・・わたしこそ・・・ごめんね?」

真希は唇をかんで、首を振りながら、素早く辺りを見回した
少し先に開放された芝生があり、何組かの子供連れがシートを広げている
数本の大木が連なる根元には、その姿を映す影が見えた

160約束:2003/12/02(火) 21:05
少しの時間を置いて、ふたりは木陰に移動して、一本の木に寄りかかるように
腰を落とした

真希は、まだ顔色のよくない梨華に、自分の肩を指差し、ココ、ココ!と
いいながら、笑いかけた
首を振りながら、微笑み返す梨華の顔をじっと見て、・・・お願いだから
そう重ねて言うと、梨華はちょこんと、その頭を真希の肩先に乗せた

「・・・ありがとね?ごっちん」梨華は瞳をゆっくり閉じた

子供達がボールを追いかけて、芝生の上を、子犬がころがるように
走り回っている

「・・・ひとみちゃんには言わないでね?・・・心配かけたくないの・・・」

真希は、ぼんやりと子供を目で追いながら、梨華の言葉を聞いていた
・・・それは、梨華ちゃんの優しさだと思うけど、ちょっと違うかもしれない

真希が答えないと、梨華は静かに言葉を続けた

161約束:2003/12/02(火) 21:23
「・・・ときどきね?ひとみちゃんのことが怖くなるの・・・あんまり心が繊細で
 ・・・キレイだから・・・水の上に薄く張った氷みたいに、ちょっとしたことで
 キズ付いたり、壊れたりしちゃうんじゃないかな?・・・って」

真希は、さっきまで一緒にいたひとみの顔を思い浮かべた
ひとみはわずかな間で、確かに変わったと思う

いつだったか下駄箱であった時、梨華以外の物は見るに足りない
・・・むしろ、見たくも無い・・・あの目は、そう言っていた

だけど今日は・・・無表情ながらも、真希の言葉に言葉を返していた

ひとみは、まるで無くしてしまってた感情を、始めからやり直してるみたいだ
赤ん坊だって、毎日のように自分を見て微笑む母親を見て、微笑み返すのだ
そうして、信用に足ると思える誰かが傍にいて、外に目を向けられるように
変わっていくのだ

162約束:2003/12/02(火) 21:40
真希は前を向いたまま口を開いた

「・・・ごとーはね?梨華ちゃんと出会えて、こうして友達になれて
 ホント、良かったと思ってる・・・それはね?ごとーの気持ちが
 ・・・揺れて、変わっていくからなんだよね」

梨華の方を見ると、瞳を開けて、???、という顔をして真希を見ている

「・・・初めは・・・知らない同士じゃん?
 それがさ、ふとしたきっかけで気になって、そしたら知りたいと思うじゃん・・・で
 次は・・・理解したい、と、近づきたいって言うのかな?
 でさ、いまは、ごとーがもし出来ることがあるなら、梨華ちゃんの力に
 なりたいって思ってる
 ・・・ごとーは思うんだけどさ、たぶん、人って一人じゃ変われないんじゃない?
 気持ちもさぁ・・・誰かと触れ合えて、初めて動き出すんじゃないかなぁー」

163約束:2003/12/02(火) 21:54
真希は折り曲げていた膝を伸ばし、足のつま先を見た

「・・・よっすぃーのさ、笑った顔なんて、ごとー見たことなかったよ?
 こいつ、ロボット?ってくらい、いつもおんなじ顔してた
 ・・・だから、なんて言ったらいいか、ごとーにもよくわかんないんだけど
 例えば、この先、梨華ちゃんがよっすぃーをキズ付けてしまうことが
 あったとしても・・・きっと大丈夫だよ?
 だってさ、あの、よっすぃーを笑顔に出来たんだよ
 それだけで梨華ちゃんはスゴイよ・・・ごとーはそう思うよ」

梨華は俯いて、小さく・・・ありがとう、と言った後、・・・あのね、と言葉を
続けた

164Sa:2003/12/02(火) 21:56
またまた中途半端な更新にぃ〜〜〜すいませんっっっ
時間切れです〜〜〜(ナミダ)

165名無し(0´〜`0):2003/12/02(火) 23:05
中途半端だなんてとんでもないです!
一日に二度も更新されててほんと嬉しいで〜す。
毎日ちょくちょく覗いてしまう自分は
すっかりSaさんにはまっている証拠です。

166152:2003/12/02(火) 23:28
更新お疲れさまです!! Sa様、ずっと分かっててくれたんですね☆キャ、
なんかすご〜く嬉しいですぅ・・毎日楽しみにのぞいてしまう読者は多々
いるはず・・あっ、でも 無理はしないで下さいね〜
(嬉しかったレスの 152 となりま〜す♪)

16774:2003/12/03(水) 01:26
あああ、ほんと毎日の楽しみです。

168約束:2003/12/03(水) 19:56
「・・・ごっちんに、前、話したことあったよね?
 昔、遊んでた子かも知れないって・・・ほんとは、初めから気づいてたの
 ・・・面影があったから・・・だけど、雰囲気っていうのかな?
 それは、まったく別人みたいだったんだよね
 話かけて、振り向いてくれても・・・なんていうのかな?
 何も見えてないみたいに無表情で・・・
 すごく迷惑そうだし、声かけるのも止めようって思ったの
 ・・・だけど、止めようって思うと、いつも、小さなひとみちゃんが出てきて
 笑いかけてくれたり、わたしのこと呼んでくれるの」

梨華は、一度言葉を切ると、真希の顔を見ながら微笑んだ

「・・・だからわたし、もう一度、あの笑顔が見たいなぁーなぁんて
 思っちゃって、つきまとっちゃた
 いつからかな?・・・ひとみちゃん、わたしのこと見つめ返して
 くれるようになって、ぎこちなくだけど笑顔も見せてくれるようになったの
 ・・・それで気がつくと、当たり前みたいな顔して隣にいてくれるように
 なってたの・・・昔みたいに・・・すごく、すごく嬉しかった・・・だけど・・・
 そうしたら今度は、自分が何を見て喜んでるのかわからなくなってきて
 あんなに真っ直ぐに、わたしを見てくれてるのに、わたしはただ・・・
 小さな頃の思い出が忘れられなくて、それに拘ってるだけじゃないのかな?って」

梨華も自分の足元に目線を移すと、寂しそうに笑った

169約束:2003/12/03(水) 20:13
真希は深く、静かに息をはいた

・・・梨華ちゃんは、どこまでも真面目で、悲しくなるくらい一生懸命だね

ずっと、一生懸命なんて言葉・・・馬鹿にしてた
だけどそれは、言葉として耳を掠めるだけで、触れたことがなかったから
なのかも知れない

真希はいつでも、街の雑踏を人を避けて歩くように、誰とも向き合わず
ぶつからず、ただ愛想のよい笑顔だけを浮かべて、過ごしてきたから
・・・誰にも、何にも拘らず、適当にバランスをとってやってきた
そして、それこそが賢く、最良の方法だと思っていた

それは確かに、一つの方法なのだろう
真希は、自分の今までのやり方を、否定しようとも思わない・・・だけど
それだけでは、誰かの心に何かを残すことは、きっと出来ない

真希は、梨香の顔へと視線を向け、口を開いた

170約束:2003/12/03(水) 20:34
「・・・ごとーはさ、よっすぃーが羨ましいくらいだよー
 最初は・・・確かにそうだったかも知れないよ・・・だけどさ
 それだけじゃないんじゃない?
 そんなこと、梨華ちゃん自身が一番わかってるんじゃないのかなあ
 きっかけなんて、どーでもいいんだよ
 よっすぃーはよっすぃーじゃん?
 忘れられないほどの思い出があるなら、透けて見えるのなんて
 当たり前じゃん?・・・そんなことより、梨華ちゃんにとってよっすぃーは
 ・・・たぶん、いつ、どこで会っても、気になる相手ってことだよ
 大事なことって、それだけじゃないのかな?」

真希の言葉に、梨華の瞳には薄い膜が張り、瞬き一つで透明な雫が零れそうだ
それでも、梨華は真希に微笑んで見せる

・・・たまんないよね

真希は、正面を向くと、身体をズルズルと下げ、深く木肌に背中を
預けると目を閉じた

もし、ふたりが恋人同士なら、余計な言葉など一つも使わず
その薄い肩に手を伸ばし、・・・何も心配いらないと、貴女は何一つ
間違ったことなどしていないから・・・そんな想いを込めて
唇を寄せるのだろうか?

・・・けれど真希は、言葉を止めることは出来ないでいる

171約束:2003/12/03(水) 20:55
「・・・ごとーはさ、梨華ちゃんの味方だから・・・
 ずっと、傍にいるよ?・・・いつでも、梨華ちゃんが大好きだからさ・・・」

真希は一度切った言葉を、思い直すように続けた

「・・・言いたくないことまで、無理に言う必要なんかないけど
 隠し事は、あんまりしない方がいいと思うよ?
 ・・・ごとーだったら・・・寂しいからさ」

梨華の震えるような声が、真希の耳に届く

「・・・ありがとう・・・ごっちんが居てくれて良かった・・・
 わたしも・・・わたしもっごっちんが、とっても好きだよ?」

真希が黙っていると、肩先に軽い重みがかかった、そしてそこから
微かな振動が伝わってくる

・・・泣いているんだろうか?・・・だけど、何故だか今は梨華の泣き顔は
見たくない・・・真希は、瞳を固く閉じた

さっき見た、色画用紙に、子供がクレヨンで殴り書きしたみたいな
ヒコーキ雲が、真希の瞼の裏で、どこまでも長く続いて行った

172Sa:2003/12/03(水) 21:14
今日も少量更新で申し訳ないッス・・・取り合えずキリのイイトコかな〜?と(w

165さん<作者以外にも、一日にちょくちょく来て下さる方がいるなんてー
      感激ッス・・・泣いてもイイですか???

152さん<喜んで頂けたならなによりでっす!!!
      レス書いた後、もし、違うてたら?と冷や汗出そうになりましたっ
      ・・・小心モノなんで・・・しか〜し!いつも頂くレスに対するアリガトーの
      気持ちを、チィートでもお届け出来たなら、良かったッス!!!

74さん >毎度ご来店心より感謝いたしますですぅ〜〜〜♪
      毎日読んで頂いてるなんて・・・そして、またレスして頂けたなんて
      もうダメですっ泣きますっ嬉し泣きッス・・・ウェ〜〜〜ン

173名無し(0´〜`0):2003/12/03(水) 21:53
どーぞどーぞ、泣いて下さいな。
肩おかししましょうか?(笑)
毎日読むことが出来て、ほんと自分は幸せものです。
ありがとうございます。

17454:2003/12/04(木) 00:39
よそ見をしていた隙に、またしても大量更新されてる〜!
お疲れ様ですぅ。
川o・-・)<そ、そんなに喜んで下さるとは・・お、恐れ入ります!完璧です!

お互いに少しずつ関わって行くことで、それぞれが徐々に変わり始めて
いるんですね。吉だけでなくごっちんも石も。
改めてイイお話だなぁ、と実感しましたです。
ただどうも石には何か大切なことが隠されているような・・
何だか胸騒ぎがしてます。

次回ものんびりまったりお待ちしてますです、ハイ。

175約束:2003/12/04(木) 12:35

「・・・何、してんの?」

鋭い声が聞こえて、真希はビクッと肩を震わせると目を開けた

少し離れた場所から、ひとみが自分達を真っ直ぐ睨んでいる
ゆっくりと近づいてきながら、それでも間隔を取って、ひとみは足を止めた

顔を歪めるように、冷笑を浮かべながらひとみは言った
「・・・仲良くお昼寝?・・・それとも、ラブシーンでも見せてくれんの?」

ひとみを取り囲む空気が、激しいマイナスの温度で、冷ややかに燃えていた
真希は、触れたら火傷しそうな程の、青い炎が見えた気がした

そのあまりの激しさに動くことも出来ず、真希が身体を硬くしていると
隣にいる梨華が、すっと立ち上がった

「・・・ごめんね?ひとみちゃん・・・何も言わないで、いなくなったりして・・・
 ちょっと、色々あって・・・貧血起こしちゃって・・・ごっちんが日陰に
 連れてきてくれたの」

176約束:2003/12/04(木) 12:55
ひとみは、表情の色を微妙に変えながら、低く、くぐもる声で言った

「・・・色々って?」
「・・・それは・・・」

梨華が口ごもると、真希は立ち上がって梨華の一歩前へ出ながら言った
「・・・ごめん。よっすぃー・・・ごとーが無理させちゃったんだ・・・」

「・・・どういう事?」
一度消えかかった、ひとみを取り囲む青い炎が、ゆらりと立ち上がる

ひとみは真希をじっと睨みつづけながら、真希の目の前にやってきた
僅かに低い位置にある、真希の目を覗き込むと、細い刃物の先の様に
その目を細めた
「・・・ねぇ?」

梨華が慌てて、真希を庇うように二人の間に割って入ると言った
「ひとみちゃんっ違うの!ごっちんは悪くないよ・・・あのっ」

その時、熱い真夏の風が三人の髪を煽るように吹いていった

177約束:2003/12/04(木) 13:13
ひとみを囲う青い炎は、風を受けて、ひとみそのものを焼きつくそうか、と
いうようにメラメラと燃え上がった

「・・・わかった」
梨華の言葉を遮るように、ひとみは言った

「・・・随分と、気が合うみたいだね?・・・邪魔者は消えるよ」
ただ静かに、けれど何も寄せ付けない、そんな響きを持つ声で、そう言うと
ひとみは踵を返し歩きだした

「・・・待ってっ!」
梨華が、泣き出しそうな声を上げ、ひとみの腕を掴んだ

ひとみは無表情に、その細い腕を振りほどくと言った
「・・・うるさい」

遠くなって行く、ひとみの後ろ姿を、真希と梨華は呆然と見送った
小さくなって行くひとみの、その後ろ姿に、もう一度、梨華は叫んだ

「ひとみちゃんっ!!!」

・・・ひとみは振り返らなかった

178約束:2003/12/04(木) 13:31
そのまま、しばらく二人はひとみの消えた方向を見ていた

すると少しして、あさ美が走ってくる姿が見えた

「・・・お姉ちゃんっ!」
あさ美は、肩で息を整えながら、自分の来た道を指さすと言った
「いま、あっちでよっすぃ〜さんに会ったんだけど・・・なんか
 すごく怖い顔して、帰るからって、いったいどうしたの?」

「・・・ごめんね?あさ美ちゃん・・・」

梨華は困ったように笑った、その顔色がよくない気がして真希は言った

「・・・とりあえずさ、どっか店入らない?」

179約束:2003/12/04(木) 13:50
天井まで届きそうな大きな窓硝子のある、カフェの窓際に三人で座っていた

・・・会話は弾まなかった
それぞれの前に置かれた冷たい飲み物は、氷が溶け、ただ下にひかれた
コースターに意味のない、模様を作っていた

・・・窓の外には、最後の夏の一日のすべてを愉しもうと、顔中ピカピカ輝かせた
親子連れやグループや、恋人同士なんかが通り過ぎて行く

「・・・帰ろっか?」
真希がポツリと言うと、合図を待っていたように、それぞれ立ち上がった


「・・・今日は・・・なんか、ごめんね?」
電車で帰る真希に、別れ際、梨華が言った

「なんで、梨華ちゃんが謝るのさー・・・ま、人生色々ある訳だー」

真希が、のほほんとした口調で言うと、梨華の隣に立っていた、あさ美が
バスの通り過ぎる先を見ながら、ポツリと、・・・完璧ですね、と
言っているのが聞こえた

二人に、まったねー♪、と手を振ると、真希は駅に向かって歩き出した

180約束:2003/12/04(木) 14:17
電車に揺られながら、真希はぼんやりと、流れる景色を見ていた

・・・梨華ちゃんが大好きだからさ
自分の声が頭の裏側から聞こえて・・・消えた

・・・確かに本音だけど・・・よくもあんな青臭いことを・・・
ある意味、告白じゃん?・・・いったいなんの?
・・・そう、真希の心の中に確かに梨華がいる、という告白
だけど、それは恋じゃない・・・少なくても、いまは・・・

ひとみの、自分さえも飲み込んでしまいそうな程、あつく燃えていた目の色を
思い出す
自分には、あんな激しさは・・・ない
それは、性格の違いからか、向ける情熱の違いなのか、真希にはわからなかった

独り占めしたい気持ちが、まったくないといったら、それも偽りだけど
真希が梨華を想う時・・・その傍らに、いつでも自分がいるべきだとは思わない

・・・ただ、ふいに雨上がりの空を見上げた時
美しい虹が見えたなら、それを、梨華にも見せたいと思う
・・・きっと、それを見て微笑む梨華の笑顔は・・・一層、眩しく輝くだろうと思うから

181約束:2003/12/04(木) 14:36
今、真希の心から梨華へと流れ出る気持ちは、一定の温度を保ち
さらさらと、澱みない
・・・恋と呼ぶには、何かが決定的に足りなくて、ただの友達と呼ぶには
やはり、何かが多すぎる

・・・友情とか、愛情とか形のない、あやふやなモノ
その境界線すら、ぼやけていて真希には・・・よくわからない

・・・だけど・・・人はきっと、あやふやなモノ、形の無いモノ、目に見えないモノ
そんなモノに、翻弄されるのだ

・・・ひとつのことを考え過ぎるのは・・・よくない
そのことだけに、囚われてしまうから

そう思って真希は、車窓を流れ続ける景色に気持ちを切り替えた

182Sa:2003/12/04(木) 14:51
毎度あてにならない、更新終了宣言です・・・取り合えずぅ(w

172さん>じゃっ、お言葉に甘えて♪・・・ってヲイッッッ!!!
      ・・・調子に乗りすぎデスw
      作者こそ、毎日読んで頂けてるなんて、夢のよーに
      幸せで、ございますっ★

54さん >まいどっ♪
      こちらこそ、読みにきて頂いてお疲れ様ッス!!!
      アーンドこんこん・・・作者は唯のオロカモノだから、忘れないでね〜
      そうですね〜・・・ただどうも・・・ど〜なんでしょう???(w

183約束:2003/12/04(木) 16:56
バスを降りると、あさ美が、あっ!と大きな声を出した
「お母さんに買い物頼まれてたんだっけ・・・」

お年寄りみたいに、手の平を拳で叩く仕草に、笑いながら梨華は言った
「わたしも行くよー」

あさ美は、真剣な顔で真っ直ぐ梨華を見ると首を横に振った
「いい・・・そんなことより、いつも言ってるよね?無理しないでって・・・
今日のことだって私、怒ってるんだよ?」

梨華は、あさ美から目を逸らして言った
「うん・・・わかってる・・・ごめんね?あさ美ちゃん・・・」

あさ美も、行き交う人々へと目線を変えながら言った
「・・・もう、いいよ・・・怒ってるなんて嘘だよ・・・ただ、心配なだけ。
 それに、本屋さんとか寄り道したいし、先に帰ってて、ね?」

梨華は少し悲しそうに微笑むと頷いた
「・・・気をつけてね」
「お姉ちゃんこそっ」

あさ美は、笑顔で手を振ると、大きな書店が入っているターミナルビルへと
走って行った

184約束:2003/12/04(木) 17:17
梨華が家の前へと帰ってくると、エントランスホールの前に
しゃがみ込む人影が見えた

・・・あれは・・・

梨華は、気配を消すようにゆっくりと近づき、俯き、所在なさげに座り込む姿に
膝に両手を置いて、少し屈むと声をかけた
「・・・なにしてるの?・・・こんなところで休憩ですかぁ〜?」
「・・・ごめん」

ひとみは、搾り出すように声を出すと、顔を上げた

梨華は悪戯っ子みたいな笑い方をして言った
「謝る相手が違うみたいだけど?」

ひとみは少し、ムッとした顔をしながら立ち上がると言った
「・・・明日さ・・・学校で会ったら、伝えてよ」

梨華は、可笑しそうに、クスクスと笑った
「自分で言えばいいのにー、ひとみちゃんって子供みたい」
「・・・梨華には、言われたくない」

ひとみは、更にムッとすると、じゃ、と言って梨華に背中を向けて帰ろうとした
その背中に梨華は、歌うように軽やかな声をかけた

「お散歩しない?ひとみちゃん」

185約束:2003/12/04(木) 17:43
ひとみは振り返ると、訝しげな表情で聞いた

「・・・何処に?」
「さぁ?・・・そこら辺・・・風が涼しくなって、気持ちいいし・・・ね?」
「・・・別に、いいけど」
「やった〜♪」

梨華は、ひとみの横に並ぶと、小さな手を出して、ひとみの手を握ると
子供のように無邪気に微笑んだ
「行こ?」

ひとみは、梨華と繋がれた手から、自分の胸の中にある、蟠りみたいなモノが
溶かされていくのを感じていた

「・・・わたしこそ、ごめんね?」
歩き出してしばらくすると、梨華が、唐突に言った

ひとみが、その顔を見ると、優しい微笑みを浮かべながら前を見たまま
言葉をつづけた

「すごく、心配してくれてたんだね?あさ美ちゃんに聞いたよ?
 ・・・あの時、二人がいなくなってから・・・男の子に絡まれちゃって
 ごっちんと、走って逃げてたの」

ひとみは、ギリッと唇を噛んだ

「そしたら・・・今日、すごく暑かったかし、ぐるりんって目が回っちゃった」
梨華は、エヘヘ、と、情けなさそうに笑った
「・・・あさ美ちゃんにも、いっぱい怒られちゃったよ」

186約束:2003/12/04(木) 17:59
「・・・それだけじゃなくて・・・今日、ごっちんが来ること・・・わたし
 わざと、言わなかったの・・・ごめんなさい
 ・・・言ったら、ひとみちゃんが来てくれないんじゃないかな?なんて
 思い込んじゃって・・・ほんとに、ごめんね?」
梨華は、ひとみの顔を見ると自嘲的に笑った

「でも・・・でもね?・・・どうしても、四人の夏休みの思い出が欲しくて・・・
 子供の我がままみたいだよね?」
「・・・もういいよ・・・分かったから」
「・・・うん」

梨華は気分を変えるように、明るく言った

「ね?ひとみちゃんって、ずっとこの町に住んでるの?」
「ま・・・ね、一度引越ししたけど、同じ町内だから・・・」
「・・・そうなんだー」

ひとみが、ふと、辺りを見回すと、自分が小学校の途中まで住んでいた
家の近くに来ていた

少し先に見える公園を指差し、梨華が言った
「寄り道・・・していこうよ」

187約束:2003/12/04(木) 18:16
梨華は、一直線にブランコに向かって進むと、腰かけて漕ぎ出した

・・・梨華の、薄いピンクに、ブラウンの濃淡でチェックの柄が施された
ワンピースのスカートの裾が、風を孕んで揺れている

ひとみの頭の中で、なにかが信号のように点滅している

「ひとみちゃーん!」

揺れて、風と戯れる梨華に呼ばれて、ひとみは頭を軽く振るとブランコに向かって
近づいて行った

ひとみは、柵に腰掛けて、行ったり来たりを繰り返す、梨華をぼんやりと見ていた
梨華がおこす風が、その声を上空から、ひとみの耳に運ぶ

「ひとみちゃんはー子供の時とかに、ブランコから、靴投げとかしなかったー?」
「・・・覚えてない」
「つまんないのー」

梨華の、あまり高くない華奢なヒールのミュールが、空に舞った

188約束:2003/12/04(木) 18:36
・・・なっ、ひとみが呆れた声を上げながら、飛ばされた小さなミュールの
行き先を見ると、風に運ばれたそれは、植えられた植栽の痩せた木の上に届き
引力を証明するように、勢いよく落ちた

ひとみは、ため息をつきながら立ち上がると、見捨てられたように転がる
小さな固まりを拾いにいった
そして戻ってくると、ブランコを漕ぐのを止めた梨華の足元に跪くと
その、小さく頼りなさそうな足先にミュールを引っ掛けた

「・・・ひとみちゃんが、好き」
頭の上から聞こえる声に、ひとみは顔を上げた

「・・・いまの、ひとみちゃんが大好きだよ?」
梨華は、目に映る物の全てを包み込む、そんなふうに柔らかく微笑んでいた

「・・・そりゃ、どうも」
ひとみは、そっけなく言うと立ち上がり、梨華の横にあるブランコに
深く腰掛けると、俯いて頭を振った
そうすれば、伸びすぎた前髪が自分の横顔を隠してくれるだろう
ひとみは、自分の胸から溢れるものが、喜びなのか、切なさなのか
わからないでいた

189約束:2003/12/04(木) 18:51
ひとみは、一つ大きく息を吐きながら思った

・・・いまはまだ、気がつかなくていい・・・自分の想いに

ひとみは梨華と過ごす、どこか懐かしく
それでいて、子供に還ったように、目に映る物すべてが輝いて見える
そんな、優しい時間が好きだ、と思った

・・・だから、いまは・・・まだ

そう思いながら、ひとみが空を仰ぐと、まっさらな青を淡く白へと色を変える空に
幻のように心細そうに浮かぶ、真昼の月が見えた

190Sa:2003/12/04(木) 18:53
やぱ〜り、第二段やっちまいました〜〜〜(テレテレ)

そして・・・夏が終わりました

191名無し(0´〜`0):2003/12/04(木) 19:52
二回更新お疲れさまです!
毎回Saさんの文章に吸い込まれちゃってま〜す。

192152:2003/12/04(木) 23:27
更新お疲れさまです!!帰ってきて、ここに来るのが本当に
楽しみです☆ 頭の中で情景が動いてます。
よっすぃがだんだん素直になっていきますね〜 ふふ・・
ゆっくりお待ちしてま〜す。

193約束:2003/12/05(金) 10:28
十月も二週目に入ったというのに、今年は暑い

秋の日差しと呼ぶには謙虚さが足りない・・・そんなことを思いながら
登校した真希は、教室に入ると手に持っていたブレザーを、椅子の背に掛けた
そして、長袖のシャツの袖を捲りながら席につく
片手で頬杖をつきながら教室を見回す・・・梨華はまだ、来ていないみたいだ

・・・昨日、休みだったしなー今日もかな?

・・・ツマンナイ・・・ツマンナイ
意識するより先に胸の内から出て、脳へと届く自分の声に真希は苦笑した

・・・あの夏の日、四人で出かけた帰り道
思考することに囚われた真希は、自分で作った罠に自分で嵌りそうな予感がして
梨華のことを必要以上、考えないようにしていた
けれど、梨華の不在に泡立つ自分の心の動きを、まのあたりにすると
それは無駄なようだと思った

・・・そう、確実に変化しつづけているのだ、梨華を中心とした小さな世界は
新学期が始まった日、梨華が言った
「ひとみちゃんが、昨日は、ごめんって言ってたよ?・・・自分で言えばいいのにね」
真希に向かって微笑む顔に、梨華が気を使って言っているだけだろう、と
真希は思っていた

194約束:2003/12/05(金) 10:46
・・・けれどその後、廊下や校庭などでその姿を見かけると、ひとみは真希と
目を合わせ、面白くもなさそうに僅かに顎を引いた

あれは、挨拶しているつもりなのかもしれないと思った時、真希は唖然とした
そして思わず、ピュー、と、口笛を吹きたい気分になった

その後も、校内で見かけるひとみの憮然とした顔は、いままでの無表情と
どこか違う、それは真希を面白がらせた
そしてその気持ちは、他人と係わることに興味を持ち始めてる自分自身にも向けられた

195約束:2003/12/05(金) 11:12
真希が、他人と自分の係わりを陳腐な芝居を観るように冷めた眼差しで
捉え始めたのは、いつからだっただろう?

・・・そう、何かが変わりはじめる予感はもっと以前からあったのかもしれない
けれど、意識し始めたのはあの時だった

近所に住むいとこは、同じ年なこともあって物心つく前から真希の傍にいた
気も合ったし、お互いのことはすべてわかっているつもりだった

「いいなぁ〜真希は可愛いくって」
「なんでも出来る真希は、あたしの自慢だよ」
「・・・が、真希と友達になりたいんだってさ」

小学校の低学年までは、いとこに褒められることが、ただ嬉しかった
ならば、もっと頑張ろう、がっかりさせないためにも・・・真希は単純にそう思っていた

196約束:2003/12/05(金) 11:26
母親同士が姉妹なこともあって、同じ習い事にも通った
後から習い始めた真希が、いとこより上達が早いことを気の良い母親は喜んだ

ある時、いとこと喧嘩した
理由も思い出せないような些細なことだった、少なくても真希にとっては

ひとりで学校に行って、真希は初めて気づいたのだ
自分には、いとこ以外に友達らしい友達なんていなかったことに・・・
周到に用意された見えない囲いがあるように、誰も真希の隣にはこなかった
真希は自分の足元が音を立てて崩れ落ちるような、不安を初めて感じた

197約束:2003/12/05(金) 11:43
いとこの家まで謝りに行った
なんで自分が謝る必要があるのかなんてことは、どうでもよかった
ただ不安を取り除きたかった、真希は走った
玄関先でいとこは言った
「真希はさ・・・なんでも出来るじゃん?ひとりで平気なんじゃないのぉ?
 友達?・・・そんなものいなくても」

そう言ったいとこの表情を、自分を見る、目の色を見た時
同じ物を同じように見ていたと思っていた自分達が、いつからか決定的に
違う方向を向いていたことを感じた

・・・このままではいけない
真希の勘のようなモノが、危険だと信号を点滅させる

その後は、何をどう話したのか覚えてはいない
だけど帰り際、真希を見送るいとこの目は、見慣れた親しみを浮かべていた

198約束:2003/12/05(金) 12:07
それから真希にとって、人付き合いというものは単なるゲームに変わった
相手の表情、場の雰囲気、言葉の流れ、それにそって相手の望んでいる言葉を
言ってみせるのだ、真希の笑顔と絶妙なタイミングで入れられる言葉一つで
自分の思う通りに話は進んでいく

人の気持ちの方向を変えるのは案外、簡単だ
真希は、この新しい遊びにしばらく夢中になった

そして気づけば、自分の周りには、絶えず人が溢れ、皆、口々に何か言っている
けれど、見えない仮面を被り、演技しつづけた真希は自分の気持ちというものが
いったいどこにあるのかさえ、もうわからなくなっていた

そして真希の心は動くことを止めた
一見するだけでは雄弁な、けれどそれ自体が自ら変わることはない

一枚の完成された絵画に描かれた美しい風景のように

199約束:2003/12/05(金) 12:54
新しく高校生活が始まっても、真希は変わることがなかった
習慣化された振る舞いは、自分でも気づかないうちに出てしまう癖のように
すでに真希の一部になっていた

新しい学校に馴れた頃、人の口に上がる、吉澤ひとみ、という一人の生徒の
存在を知った

真希は、ひとみと自分に、同じ匂いを感じた
そしてひとみは、自分とは違う鎧を身にまとっているらしい

表面的には、必要以上の作られた笑顔で、人の輪の中に居続ける自分と
誰も視界に入れないで、一人の完結した世界に住み続けるひとみ
極端なプラスとマイナスに分かれているようで、実は同じ磁石の両側に
一人きりで佇む二人
自分の方が、ひとみより更に臆病なのか、ひとみの方が真希より
諦めが濃いのか、それはわからない

・・・ただ、何か大切なものが、お互いに欠落していることだけは確かだ
そして、ひとみのやり方も案外いいかもしれない・・・と

200約束:2003/12/05(金) 14:59
そんな真希の前に、二年の新学期が始まった時、梨華が現れた

最初は、その外見に目が行った
心の有様などという目に見えないものは、その頃の真希には何の意味もなかった
目に見えないものに対しては、それを理由に欺き続けていたからだ
その反動か、目に映る絶対的なものは、いつしか真希の判断基準になっていた
ただ単に、自分にはない儚げな美しさが、真希の目をひいた、それだけのことだった

けれど、自分が見られていることに気付いていない、梨華の意味深な表情を
真希が気になるようになるまで、そう時間はかからなかった

いつものように、人の気を逸らさない親しげな笑顔で真希が近づいても
梨華は、真希に何の役柄も望んでないように見えた
そして気づけば、梨華は真希の気になる存在に変化していた

たぶん、要はタイミングの問題なのだ

201約束:2003/12/05(金) 15:32
その頃の真希は、自分で意識している以上にはるかに疲労していた
今思えば、限界だったのだ
いつしか創りあげた自分という、幻の檻に一人閉じ篭ることに
そして、誰かに気づいて欲しい、自分はこんなにも孤独だ
・・・無意識に信号を送っていたのかも知れない

梨華はいつも微笑んでいた、そしてそれは、誰に対しても一定の距離を
保っているように見えた
けれどいつからか、真希に対しては、それよりも温度と色のある笑顔を
返してくれるようになった、ごく自然に
それは、真希のそう願う気持ちが見せているものなのか、梨華が心から
自分に対して向き合っているからなのか、真希にはわからなかった

ある時、真希は人の輪の中で、いつもの笑顔を浮かべていた
真希の周りから人がいなくなると、梨華が傍にきて悲しげに微笑んだ
「・・・ごっちんは、いつも笑っているんだね?」
そして、小さな飴を真希の手の平に落とした
「疲れている時は、甘いものがいいんだよ?」
真希が梨華の顔を見れば、その笑顔は柔らかく慈しむようで、真希は言葉を無くした

202約束:2003/12/05(金) 16:06
ただの勘違いかもしれない、梨華が真希の見えない信号に答えてくれたと思うことは
けれど、その飴は、とても甘く真希の何かを溶かし、拭い去ったことだけは確かだった

だけど、もう、過ぎ去った日々の記憶の中の気持ちなど、気に病むことは
ないのだと、真希は思うことが出来る

何故なら、いま動き出し変わりゆく自分を、真希は感じることが出来るのだから


教室に担任が入ってくる、ざわざわとした気配で真希は現実に引き戻された
欠席のところで、教師が梨華の名を口にした

・・・今日は、梨華ちゃんの家に、お見舞いに行こう
二人で見た雑誌に、駅前の洋菓子屋のモンブランが載っていた、あれを買って行こう
梨華の喜ぶ顔が目に浮かぶ・・・真希の心は弾んで、放課後へと向かった

203Sa:2003/12/05(金) 16:47
191さん>お読み頂いて、ありがとうございまっす♪
      掃除機のように、吸引力が落ちないように精進いたします!!!

152さん>毎度ご来店頂きまして、ありがとうございま〜す♪
      一日の終わりに、少しでもココにいらっしゃることが
      楽しみだと言って頂けるなら、作者冥利に尽きるというものでっす!!!

この長〜い真希の独白は省くべきかと悩みました
一を知れば、十の行動をとれる方は、大勢おられることでしょう
けれど、些細に変わる心の動きに気づいたとしても、立ち止まったり
三歩進んだつもりが二歩下がっていたり、そんなふうにしか
前に進むことが出来ない・・・この作中の登場人物達は、皆、どこか不器用です
作者は、頭の中にある言葉を文章に変えることが、とても難しいと
改めて思い知りました
いつも、どこか言葉が足りないんじゃないか?まわりくどすぎやしないか?
と悩んでいます
それでも、こうして書けるのは、読んで下さる方がいる、と教えて頂けたからです
本当にありがとうございます
今日は、とても寒いですね?寒すぎると内向的になっていけませんw
皆様、風邪などひかれませんように、小説以外の長文失礼致しました

20454:2003/12/05(金) 17:32
更新、お疲れ様です。
ごっちんにもこういった過去があったのですか・・
( ´ Д `)<ごとーはねぇ、「んあ〜」ばっかりじゃないんだよぉ〜

いつも思うのですが、Saさんの描く登場人物はすごく魅力的です。
何ていうか、深みがあるんですよねぇ、奥行きって言うのか。
不器用だけど、少しずつ進もうと悩んだりちょっとしたことに和んだり、
キャラ設定がリアルに投影されてるような感じで・・

いろんないしよしごまこんがありますが、こういう形で内面的にしっかり
描かれていると、あぁ読めて幸せだなぁって思えるんです、ハイ。

川o・-・)>そ、それはつまり・・「約束」がとても楽しみで仕方ないという、
      54なりのエールなのです!完璧です!

次回も楽しみにしてます。

205名無し読者79:2003/12/05(金) 18:04
始めまして。
初めから読ませていただきました。登場人物の心情の変化などが細かく書かれていて
本当に引き込まれる文章だと思いました。
これからも変わりゆく登場人物楽しみにしています。

206約束:2003/12/08(月) 15:34
ひとみは昇降口の壁に寄りかかり、三階へと続く階段を振り返った

昨日、今日と教師に呼び止められ足止めをくってしまった
梨華はおそらく帰ってしまっただろう
数分待って、上階からほとんど帰りを急ぐような上履きの音がしないのを
確認すると、ひとみは壁から身体を放した


並木道に入ると、木に寄りかかるように自分を待っていた梨華を見つけた日の
映像が甦った・・・まだ、夏休み前だった

ひとみが梨華を見つけ、心持早足になるのを追い越すそうに大きな影が通って行った
その人影は梨華の前で、立ち止まると俯く顔に声をかけた

207約束:2003/12/08(月) 15:51
梨華に声をかけた人物は、ひとみ達が通う学校より、少し先に建つ男子高の制服に
大きな身体を包ませていた

ひとみが二人の傍まで来ると、気がついたらしい梨華が口元だけで
・・・ひとみちゃん、と、言った
ひとみは足を止めると、二人から目線を外した

男子高生が振り向き、ひとみを気にしながら、言葉を続けた
「・・・だから、付き合ってる人がいなかったら、付き合って欲しいんだ
 付き合っていくうちに好きになってくれれば、それで俺は・・・」

梨華は答えた
「・・・わたし・・・好きな人以外と付き合う気はないんです・・・ごめんなさい」
「好きな人・・・いるんだ?」
「・・・それは・・・」

言葉が続かない梨華の様子に、視線を向けると重い沈黙が流れていた

208約束:2003/12/08(月) 16:07
ひとみは、足を進め梨華の隣に立つと、男子高生を見た
・・・ふぅ〜ん、悪くはないかもね?
そして、小馬鹿にするような笑みを浮かべながら言った

「・・・あんたに対する、この子の答えは聞いたんじゃないの?
 それ以上は、権利ないと思うけど・・・」

男子高生は、その爽やかそうな外見と裏腹に、チェッと小さく舌打ちすると
ひとみを睨んだ

・・・こいつはダメだね
ひとみは、可笑しさがこみ上げてきたが顔には出さず、・・・失礼、と言いながら
目で、行こう、とそくした
梨華はひとみに頷くと、正面に向かって頭を下げた
「・・・ほんとに、ごめんなさいっ!」
男子高生は、苦い物を無理やり飲まされるような表情を浮かべながら
黙って、梨華の下げられた頭を見ていた

209約束:2003/12/08(月) 16:22
ひとみはしばらくの間、背後に粘着質な視線を感じた

「・・・ほんとによかったの?」
ひとみが、からかうように聞くと、梨華は頷いた
「・・・ひとみちゃんが来てくれてよかった・・・あの人、なんか怖かった・・・」

・・・男を見る目はあるらしい・・・ひとみは小さく笑った
いつの日か、梨華には好きな男が出来て、今の自分の位置に立つのだろうか?
自分は・・・それを祝福出来るのだろうか?

・・・あたしよりも優れてるならね?・・・全てにおいて
・・・いままで、そんな奴見たことないけど

あの頃ひとみは、そんな風に思っていた
けれど、今は誰であろうと譲る気など、さらさらなかった

210約束:2003/12/08(月) 16:36
そして、いま、反対にわかったこともある
梨華の傍らに居る権利は、能力ではなく、梨華自身に望まれることだと

公園の前まで来て、視線を感じなくなると振り返りながら、ひとみは言った
「・・・あたしに会わなかったら、先に帰って」
「えっ?」
「・・・帰り道で、あたしを待つ必要は無いって言ってるの」
「うん・・・わかった」
梨華は何かを感じたのか、言葉通りに受け取ったのか頷いた

あの頃、ひとみはすでに、梨華を自分以外の視線の先に置きたいとは
思っていなかったのかもしれない
それが、いまの想いとは、また違う感情の流れの先だったとしても

211約束:2003/12/08(月) 17:00
あの日の梨華の姿が、頭から消えると、ひとみは知らずに止めていた足を
動かした

歩き出したひとみを、追いかけるようにつづく空気の流れは
まだ夏を惜しむように、僅かな熱を含んでいたが、秋の深まりを示す空は
どこまでも、高く、広く、青の濃度を上げている

秋の空の無限に続く深まりは、ひとみをふと、物悲しい気持ちにさせる
こんなにも明るく、澄み渡る空の下
一人で歩く道はいつもより、長く、どこまで行っても何処にも辿り着けない気がする
見慣れた場所が、突然道しるべがない巨大な迷路に変わるような
心もとなさを感じていた

212約束:2003/12/08(月) 17:24
翌日の放課後、ひとみの元へと駆け寄る梨華の笑顔は、どこまでも明るく
一つの曇りもなかった・・・まるで今日の空を切り取ったみたいに
昨日は、ひとみを不安にさせた空の無限さは、いまはただ、ひとみに
四季の移ろいを、控えめに教えるだけだった

「・・・二日間、休んじゃったの。ひとみちゃん、ひょっとして待っててくれた?」
ひとみは首を振った
「・・・先生に捉まってた・・・それよりさ・・・」
ひとみが言葉を続ける前に、梨華は屈託無く笑った
「季節の変わり目って、夏の疲れが出やすいんだよねー」
ひとみは、なんとなく納得いかない気持ちのまま頷いた

いつもの公園の前まで来ると、梨華がひとみの制服の袖を引っ張った
「寄り道して行こうよ?ひとみちゃん!」

213約束:2003/12/08(月) 17:44
芝生の上に腰を下ろすと、梨華は伸びをした
「・・・う〜〜ん、今日みたいな日は最高に気持ちイイね♪」
そう言いながら、身体を倒すと目を閉じた

ひとみは何も言わず、横になり、目を閉じた梨華の顔をじっと見つめた
小麦色の、自分よりよほど活発そうな肌の色、薄く色づく、頬と唇
日差しを反射して、その頭に輪を被せている髪の流れ
真っ直ぐに投げ出せれた、細い手足、薄い肩、華奢な流線を描く身体

・・・みつめれば、みつめるほど、梨華が自分から見えない所に
行ってしまう気がした
目を逸らした瞬間に、この穏やかな風が疾風になり、梨華をどこかに運び
自分の目の届かない、何処かに隠してしまう気がする
たった二日、その顔を見なかっただけで、そんな幻想を抱く自分に
ひとみは焦った
・・・なくしたくないから・・・
その感情の波は津波のように、強くひとみを弄び、飲み込もうとする

梨華が薄く目を開きながら言った

214約束:2003/12/08(月) 18:00
「・・・今年は海に行けなかったなぁー」
「・・・かなり、いい色だけど?」
梨華は、もぉ!と言いながら起き上がると、ひとみを叩く真似をした

「・・・来年の夏、泳ぎに行こう」
「・・・実はわたし、あんまり泳げないんだよね」
眉を八の字に寄せつつ、答える梨華にひとみは言った
「・・・溺れたら、人工呼吸してあげるよ」

梨華は顔を真っ赤に染めながら、もぉ〜〜!と、今度は本気で叩く気らしく
腕を振り上げると、勢いよくひとみに投げ下ろした
ひとみは、片手を受け止めると、次は身体を回転させるように避けた
斜面からひとみに向かった梨華は、避けられたことで、行き場をなくした
自分の身体の勢いに押されて、芝生の上にころがった

215約束:2003/12/08(月) 18:16
片手で梨華の手首を捕まえていたひとみも、梨華の身体と共に回転した
梨華の身体が自分の下にある、と、気づいたひとみは両腕で自分自身を
持ち上げた

ひとみは、自分の広げた、上体を支える腕の中にいる梨華を見つめた
梨華は、驚いたように目を見開いている
その目を・・・じっと、見つめ続けた
梨華は、照れたような微笑みを浮かべたが、じっと見つめ続けるひとみの
視線に耐えかねたように、目線を逸らした

ひとみは、ゆっくりと身体を持ち上げ、梨華から離れた

216約束:2003/12/08(月) 18:37
ひとみが座り直すと、傍らで梨華も起き上がり、座り直した気配がする

「ひとみちゃんのクラス、学園祭で何するの?」

唐突な話題に、ひとみが梨華の顔を見ると、梨華は茹で上がった蛸みたいに
湯気をたてそうな頬を両手で隠していた
その頬を染める訳を知りたい、そう思いながらひとみは違う言葉を口にした

「・・・知らない」
「へっ?!」
「・・・興味ないし」
「・・・はぁ」

梨華の相槌のような、ため息のような返事にひとみは取り合えず言葉を返した
「梨華のとこは?」
「クレープ屋さんっ!!!」
あまりにも輝く笑顔で返事をするから、ひとみは気が抜けるのを感じた

217約束:2003/12/08(月) 18:56
「楽しみなの〜♪
 でも、その前に修学旅行だねっ?こっちも、すっごく楽しみぃ〜
 あっ!ひとみちゃん、お買い物行かない?
 わたしねー、小物とか、パジャマとか買いたいんだ」

永久に話続けそうな梨華のはしゃぐ様子に、ひとみは苦笑を浮かべながら言った

「・・・いいけどさ、いつ行くの?これから?」
「う〜ん、たまには駅前以外も見たいなぁ〜、ひとみちゃん、土曜日空いてる?」
そう言って梨華は、いくつか先の電車が何本か乗り入れする駅の名前を言った

「わかった、じゃ土曜日に行こう」

梨華は、ニコニコと言葉を続けた
「土曜日は駅前で待ち合わせね?デートみたいだねっ!」

迎えに行く、と言いかけたひとみは、梨華の口から出た、デート、の言葉に
反応して黙ってしまった
そんな、ひとみの心中になど気がつく様子もなさそうな梨華は
ただただ、はしゃいだ声で話続けた

218Sa:2003/12/08(月) 19:13
更新終了でーすっ!!!

54さん > そ〜なんですっ!吉澤さんは無口だから、わかりづらいけど
       シンプルなんですよ〜
       反対にごとーさんは複雑な人です・・・たぶんw
       作者ごときに、もったいないエールありがとうございまっす♪
       しっかりと受け取りましたからっっっ

名無し79さん>はじめまして♪(ペコリ)
       ようこそ〜いらしゃって頂けて嬉しいです!!!
       登場人物の心情変化に無理がないか?日々考えている
       作者でございます
       上手く表現出来ない恐れ大ですが、また見に来て頂けたら
       嬉しいです

219名無し読者79:2003/12/08(月) 19:54
今回も大量更新お疲れ様です。
吉澤さん照れを隠しちゃってもう…。梨華ちゃんは可愛いですね〜。
なんだか心境の変化とかも今回あって、続きが楽しみです。
土曜日はどうなるのかな…。

220152:2003/12/08(月) 23:45
更新お疲れ様です。ひゃぁ〜もう、本当に文章が綺麗ですね・・
ごとーさんの独白形式もじっくり読ませてもらいました。
土曜日のデート?!はどうなるのかな・・?ちょっとワクワク
今日も読めて 嬉しかったです♪

221約束:2003/12/09(火) 10:34
土曜日、ひとみは約束の時間の30分前くらいに駅前へとついた

・・・午前中でも、結構人通りがあるもんだね
行きかう人の流れを、ぼんやりと目で追っていると背後から声がした

「貴方の幸せを祈らせて下さい」
ひとみは振り返り、相手を観察した

「・・・人の事よりさ、自分の幸せを祈った方がいいんじゃない?」
相手はわずかに目を見開き、何か言おうと口を開きかけたが
なんの言葉も、思い浮かばないようだった

ひとみも黙って、横を通り過ぎると歩道橋の階段を登り始めた
歩道橋の上で、さっきまで自分の立っていた位置を見ると、いましがた言葉を
交わした相手は、ただ佇み、自分のすべきことを見失ったように見えた
そして少しすると、人の流れの先へと消えて行った
その場所に、今度はセカンドバックを抱えた、顔だけやけに真っ黒な
いかにも胡散臭い若い男が立ち、足早に通り過ぎる若い女の子達に
次々、声をかけている
立ち止まる者はいない、皆、男のかける声さえ聞こえていないように
通り過ぎていく

ひとみが見る、眼下の光景の中に梨華が現れた
沢山の見分けがつかない石が転がるなかに、たったひとつまぎれこんだ
ガラスの破片のように、ひとみの目は梨華に吸い寄せられていく

梨華が、辺りをキョロキョロと見回す仕草に、ひとみは笑みを零した
するとそこに、さっきの男が近づき梨華に話かけた

222約束:2003/12/09(火) 15:39
ひとみは、小さく舌打ちすると階段を二段とばししながら、駆け下りた

近づくと、俯いた梨華が・・・困ります、ほんとにいらないんです、と
消え入りそうな声で言っていた
馴れ馴れしい、薄ら笑いを浮かべながら男が、そんな事言わないでさあ、と
言いながら、梨華の肩へと伸ばした腕を、ひとみは掴んだ

「・・・いらないっていってるのにさ」
ひとみは目に力を入れ、男の顔を睨みつけながら腕を放した
「・・・あんた、耳悪いんじゃない?」
その声は怒気を含み、低く響いた

ひとみの迫力に、気圧されたように男は、・・・なんだよっと捨て台詞を吐きながら
その場を去って行った

223約束:2003/12/09(火) 18:24
梨華は、ひとみの顔を見ながら困ったように笑った
「・・・ありがとうね、ひとみちゃん」

ひとみは、両肩を軽く上げながら大げさなため息をついて見せた
「・・・あのさ・・・」

梨華には、人を拒絶するというオーラがまったくと言っていい程ないように
ひとみには見える
自分の様に、威圧的なのもどうかと思うが、もう少しどうにかなってもらわないと
ひとみ自身が気が気ではないのだ

キョトンとした後、ふんわりと笑う梨華を見ると、ひとみはやっぱり言葉が
出てこなかった

・・・傷付けるような物言いとか、からかう言葉なら、いくらでも言えるのに

ある意味、子供のような無邪気さが残る梨華には、そのままでいて欲しかった
梨華の傍にいれば、遠い昔に捨ててしまった物や、忘れてしまった事が
ひとみにも、いつか手が届くように感じられた

「・・・なんでもない、もう行こう」
結局ひとみは、何も言えないまま電車が待つホームへと向かった



224約束:2003/12/09(火) 18:56
梨華は電車を待つ間も、ウキウキとひとみの端整な横顔を盗み見た

「ふたりで電車でお出かけって初めてだね♪」
「・・・あ?・・・そうかもね」

ひとみは、興味無さそうな顔でホームに飾られた広告を見ていた

・・・ひとみちゃん、あんまり楽しくないのかな?

ひとみが、無口なことも、あまり感情を顔に出さないことも充分に
わかっていたはずなのに、最近、それを寂しいを梨華は感じていた

それは、ひとみが時々見せる眼差しが特別なモノかも知れないと梨華が
思ってしまうからだ

・・・この間も・・・キスされるかと、思っちゃった

ひとみといた公園で・・・
あまりにもひとみが見つめるから、梨華は胸が激しく騒いで、その音が
ひとみの耳に届いてしまいそうで、思わず瞳を逸らしたのだった

225約束:2003/12/09(火) 19:16
滑るように電車が入ってきて、二人は誘われるままに電車に乗った
梨華が話かけないと、二人の間は静かな時間が、ただ流れる
それも、いつものことだ

・・・おしゃべりなひとみちゃんなんて、想像出来ないけど

梨華は、窓の外の風景がスピードを上げながら流れていくのを見ながら
また、ぼんやりと思い出していた

夏祭りの帰り道も、同じように感じていたことを・・・だけど、ひとみは同性なのだ

・・・わたしが・・・心の奥底に隠したつもりの想いが、自分の望む形になって見えるだけ
きっと、そんなところだろう
聞いたことはないけど、ひとみちゃんは目が悪いのかも知れない
だから時々、あんな風に自分をじっと見つめるのだ

ひとみの、自分に向けられる不器用な優しさは本物なのだから
それを感じられるだけで、こんなにも幸せなんだから
欲張りになりそうな自分の気持ちに、梨華はそっと蓋をした

226約束:2003/12/09(火) 19:55
梨華たちが降りる駅につくと、停車のたびに、人を飲み込み続けた車内から
勢いよく吐き出すように、人々は流れ出た

駅前に出ると、大勢の人達がそれぞれの目的地へと無秩序に足を向けていた
ひとみは、その中を自分のリズムを崩すことなく颯爽と進んで行く
自分から離れて行く背中に、追いつこうとした梨華は反対から来る
流れに呑まれ、後ろに流されそうになる
誰かと、腕がぶつかり・・・ごめんなさい、と頭を下げ、前方を見れば
ひとみの後姿はもう、消えていた

梨華が泣きそうになって、背伸びをするように、溢れる人の先を見ると
斜め後ろから、聞きなれた声がする

「・・・それ、特技?」

いつの間にか戻ってきてくれたらしいひとみは、梨華の腕を掴むと
自分の腕に絡ませた

「・・・デートみたいでしょ?」

自分から背けるように前方を見ているひとみが、どんな表情をしてるのか
梨華には見えなかった

227Sa:2003/12/09(火) 20:05
今日の更新は少量になってしまいました、そして明日は出来ない恐れ大です
あぁぁ〜申し訳ないですぅ土曜日が終わらないよ〜〜〜(ナミダ)

名無し読者79さん>
   心境は変化してるらしいですけど、それだけですねw
   土曜日は・・・中途半端になってしまいました〜

152さん>
   キレーだなんて、とんでもないですぅ(テレテレ)
   じっくり読んで頂くと、アラが見えまくりそうでビクビクです
   それでも、今日も読んで頂けたら嬉しいです♪

228名無し(0´〜`0):2003/12/10(水) 00:29
土曜日たっぷりと味わいますよ〜
デートっていいですよね。
自分もデートした気分になっちゃいました(キモイですね…)

229名無し読者79:2003/12/10(水) 16:32
最後の発言がいいですね。
なんかもう、みたいだなんて…デートじゃないんですか?って聞きたいくらい(笑
続き楽しみに待ってます。

23074:2003/12/11(木) 03:01
梨華ちゃんの気持ちが気になる〜
つづきが楽しみです。

231約束:2003/12/11(木) 15:38
何軒か店を見た後二人は、軽くランチを取り、その後もターミナルビルの中の
ショップを覗いたりした

「あっここに見たいお店が入ってるの!」
「ん?どこ?」
梨華は、一指し指を顎にあてて、小首を傾げながら案内板を見た
「んんーと、5Fみたい」
「・・・じゃ、行こう」
二人がエスカレーターで上がって行くと、目指す店はその脇にあった

ポップな小物に、ぬいぐるみから食器、フリースの季節物、ナイティの類など
おおよその物はあるらしい
ひとみは、ところ狭しといかにも女の子が好みそうな物で
溢れかえる店内を見まわした

・・・なんかゴチャゴチャした店だな・・・目がまわりそう

「ひとみちゃーん!見て、見てっすっごく可愛いの」

声の方を見れば、梨華は満面の笑みで、ふわふわとしたモヘアで編まれた
変な顔したピンクの兎を手に持っていた
・・・それが可愛いの?・・・
ひとみは複雑な表情をしながら、とりあえず頷いた

232約束:2003/12/11(木) 15:56
「あっ!あれも可愛い〜!!!こっちも!それにあそこに飾ってあるのも!」

梨華の声がまるで瞬間移動してるみたいに、あちこちから聞こえる
その動きを目で追っていたひとみは、ほんとに目がまわりそうになった

「・・・これイイよね?買っちゃおうかな?」

見ると、梨華は、ピンクのパジャマを身体にあてていた
いまどき中学生でも着そうにない、随分と可愛らしい物だった
所々にギャザーが寄ってたり、大きめのスクエアカットされた襟ぐりや
絞った袖口にまでリボンが付いていた
ひとみは、梨華の傍によると苦笑しながら言った

「ほんとに、梨華はピンクが好きだね」

233約束:2003/12/11(木) 16:11

「・・・ほんとに・・・は・・・がすきだねー」

ひとみの頭の中に、木霊のように子供の声が返ってくる

・・・すると、自分より背の低い女の子が俯いて、ピンクのジャンバースカートの
裾を恥ずかしそうに触る姿が、目に浮かんだ
気配で微笑んでるのがわかる、その顔を女の子が上げようとすると
何かに邪魔されるように、ひとみの脳裏からその姿は消えた

「・・・ひとみちゃん?どうしたの?・・・コレ変かなぁ?」
ひとみは、梨華の声にハッとして横を見た そこにはピンクのパジャマをあて
照れたように微笑んでる梨華の顔が見えた

234約束:2003/12/11(木) 16:33
結局梨華はそのパジャマを買い、他にも旅行用の小さなポーチに入った
洗面道具とか、アウターになりそうなキャミソールなどを買っていた

「ひとみちゃんは、何も買わないの?」
「家にあるものを適当に持っていくからいいよ」
「・・・なんか、つき合わせちゃってごめんね?」
「・・・そんな意味で言ったんじゃないよ・・・それにさ・・・結構、楽しめたから」
ひとみがそう言うと、梨華は嬉しそうに笑った

ターミナルビルから駅へと抜け、電車に揺られると二人は見慣れた駅で降りた
そして改札を出ると、電車に乗る前まではまだ明るさのあった空は機嫌を損ねたように
どんよりと薄暗く曇っていた

235約束:2003/12/11(木) 16:53
・・・そう言えば、夜から大雨になるらしいから早く帰りなさいって
お母さん、言ってたっけ

梨華は空を見上ると・・・予報より早まるのかな?でも、まだ大丈夫だよね・・・
そう思いながら、ひとみに言った

「今日はね?わたしがひとみちゃんを送って行くの」
梨華の言葉に、ひとみはわずかにその目を見開くと言った
「・・・そんなの、いいよ」
梨華は上目使いで、ひとみの顔をじっと見ると、両手を合わせ言った
「お願いっ、お願い!!!たまにはわたしに送らせて」

ひとみは、その目を泳がせた後、諦めのような小さなため息と共に
「・・・こっち」ポツリとそう言うと歩き出した

「よかった〜♪今日は絶対、ひとみちゃんを送って行くって決めてたの!」
梨華の弾む声が、ひとみの背中を追いかけた

236約束:2003/12/11(木) 17:17
住宅街に入って少しすると、ぽつり、と音がしそうな大粒の雫が
梨華の髪に落ちた
そして見る間に、ぽつ、ぽつとアスファルトに水玉の模様が広がっていく
ひとみは足を早めながら言った
「そこの角、曲がったところだから」

言われた通り角を曲がると、同じような一軒家がずっと先まで並んでいた
その中で、わりと大きめな洋風の家の前でひとみは言った
「・・・ここ」
そして、門のないタイルの上に足を運びながら梨華を振り返った
「雨宿りしていきなよ・・・」
梨華が、少し迷う顔をすると玄関に鍵をさし、回しながら言った
「・・・濡れるよ?・・・入って」

237約束:2003/12/11(木) 17:39
梨華は頷くと、ひとみに続いて玄関に入った

目の前には、広い玄関ホールが広がり、正面の壁にさりげなく木目の椅子が
置かれていた
ひとみは、・・・上がって、左がリビングだから、そう言いながら、右側に消えた
梨華は高い天井を見上げながら、靴を脱ぐと左側へと進んだ

ホールから、リビングへは引き戸になっているらしく今日は開いていた
リビングからは螺旋階段で二階へと上がれるようになっていて
ダイニングとはスキップフロアになってわかれていた

・・・広い家・・・なんだか寂しい感じがする
梨華は、染みひとつない白い壁を見ながらそう思った

238約束:2003/12/11(木) 18:13
「・・・何、突っ立てるの?」
ひとみの声と共に、白い大きなバスタオルが梨華の頭の上に落ちてきた

梨華がタオルをよけて顔を出すと、ひとみは小さく笑いながら言った
「適当に座ってよ・・・なんか淹れてくる」
そう言って、ダイニングの方へと行くひとみの見慣れた後姿が、梨華には
いつもより小さく見えた

梨華は、白い大きなソファには座らず、その下に敷かれてる毛足が長めの
ラグの上に座ると、僅かに濡れた髪の水分を拭うようにタオルを押し当てた
少しすると、ひとみが湯気の上がる大きめの白いマグカップを両手に
戻ってきて、梨華の目の前の淡くグリーンがかったガラステーブルに
そのひとつ置きながら言った

「どうぞ」
「・・・ありがとう」
梨華が、両手でそっと包むようにカップを持ち上げると微かに
ブルーベリーの香りがした

239Sa:2003/12/11(木) 18:26
228さん>
   心優しいお言葉、ありがとうございますぅ〜
   キモくなんかないですともっ!!!
   作者もデートしたいでっす(ダレとよ?) 

名無し79さん>
   またまた、お越し頂けてカナ〜リ嬉しいです♪
   ハタから見たら、デート以外の何モンでもないんじゃ・・・(w
   楽しんで頂けたら幸いです

74さん>
   いらっしゃいませ〜♪お越し頂けてうれすぃ〜でっす
   いしかーさんは作者もカナーリ気になります♪(イミが違うよ〜な?w)
   少しは楽しんで頂けたでしょうか???

・・・今日は、出来たらまた後でもう少しと思ってるんですが(w

240約束:2003/12/11(木) 20:59
時折、外を通る車の水たまりを弾く音が雨の量が増え続けていると
教えてくれる
梨華が背後にあるサッシから、外を見るとガラスの上を大量の雨水が
伝い続けていた
無音の静寂の中、水音だけが耳に流れてくる
閉ざされた真っ白な、けれども薄暗い空間で、梨華は自分とひとみが
大き過ぎる水槽にいるサカナのようだと思った

「・・・ひとみちゃんのおうちの人は、みんなお出かけなの?」
「・・・いないから、誰も」
「えっ?」
「父親の転勤」
そう言ったひとみの、飲み物が喉を通る音がやけに響いた

「・・・そう」
寂しいかなんて聞く必要もない、梨華は綺麗だけれど、なんの温度も
感じられないこの家に、いつも一人きりでいるひとみを思うと涙が
零れそうになった

遠くで雷の音がする

ひとみはポツリと言った
「泊まって行きなよ」

梨華は頷いた、頷くこと以外は出来ないというように、何度もただ頷いていた

241約束:2003/12/11(木) 21:16
「雷って好きだな・・・綺麗だと思わない?」
ひとみの言葉につられるように、梨華が外を見るとすでに真っ暗な空には
なにかの印のように稲妻が走っていた
「・・・そうだね」
二人は、黙ったまま外を見続けた

静寂を破るように、一際大きな落雷の音がすると、全ての明かりが落ち
その静寂が戻った部屋は、暗闇に包まれていた

「・・・あっ!ひ、ひとみちゃんっどこっ?ねぇっひとみちゃんっっっ!!!」
「・・・ここだよ」

梨華の真後ろから、耳元でひとみの少し掠れたような声がする
後ろから、ひとみの腕が伸びてきて、梨華のカップを取ると
コトリ、とテーブルの上に置いたらしい音がした

「・・・怖がり」

囁くような声が聞こえると、梨華は背中からひとみの腕に包まれた

242約束:2003/12/11(木) 21:30
梨華は、不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら、ひとみの声を聞いていた
背中から、ひとみの体温が伝わってくると、少し安心して大きく息を吐いた

・・・わたしは、ひとみちゃんが思うほど怖がりなんかじゃない
だけど、と梨華は思う

暗闇だけはどうしても駄目なのだ、怖くて怖くて仕方が無い
何も見えなく、感じられなく、聞こえない場所で一人きりにされたら・・・
自分ひとりきりにされたら・・・置いていかれて、忘れられて
梨華は存在しないものになってしまう・・・
・・・そんな、今ここに有りはしない、幻想に支配されてしまうのだ

一番考えたくないこと、怖いこと・・・それに飲み込まれてしまいそうになる
・・・怖いよ・・・怖いよ・・・

梨華の身体は小さく震えた

243約束:2003/12/11(木) 21:59
ひとみは、小さく震える梨華の身体を背中ごと思いきり抱きしめた

・・・どうして、泊まって行けなどど言ってしまったんだろう?
今までは平気だった・・・少なくても、平気な振りは出来た
この、全てが止まってる空っぽな何もない空間に一人でいることに

けれど、梨華がいる、とその存在を認識してしまった、ひとみの心は
一人きりは嫌だと悲鳴を上げ続けるのだ

もっと、傍に行きたい、もっと、触れたい、もっと、もっと、もっと・・・
梨華の全てを知りたい、見たい、感じていたい

友達の顔をして、震える肩を抱きしめることは、梨華を喜ばせられるのだろうか?
ふざけた振りをして悪戯に、その唇を奪うことは、冗談が過ぎると
笑ってすまされるのだろうか?

だけど、違う、と、ひとみは思う

あたしがしたいのは、そんなママゴトみたいな事じゃない
梨華の心にも・・・その身体にも刻み付けたい
あたしのことを・・・あたしの全てを

その身体を形造る流線のすべてに指を滑らし、すべての窪みを唇でなぞり
そこから湧き出るすべての泉を飲み下すのだ
そして、吐息だけで紡がれる、声無き声を聞きたい

244約束:2003/12/11(木) 22:22

・・・なくしたくないから

ふいに、自分の頭の中で自分の声がする

・・・こんな事を思うあたしを、梨華は受けとめてくれるのだろうか?

ひとみにとっては、梨華が同性だということは、記号のようなものでそれだけだ
梨華が梨華だということは変わらない、それだけが重要なのだ
愛しいと思うから、その全てを、と望むのは初めてのことだった
ひとみには、関係ないと言い切れることも、梨華にとっては違うのではないだろうか?
自分達が同性だということ・・・その事実、梨華はどう思うのだろう?
・・・怖い、と、ひとみは思った

・・・あたしは臆病になっていく

一人きりの暗い闇を抜けた先には・・・
また出口のわからない迷いの森が待っている気がした

245Sa:2003/12/11(木) 22:26
更新終了いたしますです。
明日も張り切る予定ですので、お時間があって、よろしいようでしたら
お付き合いいただけたら、幸せです★

246名無し(0´〜`0):2003/12/11(木) 22:59
毎回の更新がとても楽しみです。
気の利いたこと書けませんが、これからもよろしくです。

24754:2003/12/11(木) 23:34
更新、お疲れ様です。

う〜ん、何だかすごくドキドキしながら読みました。
吉と石の心情がすんごくリアルに伝わって来るような・・
あぁ、このふたりには本当に幸せになってもらいたいなぁと思ってます、今。

毎日読めるのって、とってもうれすぃ〜です。
更新、まったりお待ちしてますですよ。

248152:2003/12/11(木) 23:44
更新お疲れさまです。毎日の更新本当に大変なことと
思います。風邪など気をつけて下さいね〜
今回の展開、ドキドキしました・・せつな〜い・・
(ちょっと寝込んでしまった私なんですが、ここだけには来て
 しまいました・・)

249名無し(0´〜`0):2003/12/12(金) 02:16
毎回楽しみにしている一人です。
今日はもう一度初めから読み直してみました。
Saさんの文章って優しさが伝わってくるので
なんだかホッとします。

250約束:2003/12/12(金) 10:15
・・・あたしは、焦り過ぎているのかもしれない

心の中で、いつも梨華を感じている
二人が別の身体を持っていることがもどかしいくらいに
いままで知らなかった、他人を愛しいと思い続ける感覚に
それが自分の中にあることに・・・それだけに夢中になっている

・・・梨華の望みは何なんだろう?
愛しい人は何を幸せと感じるのだろうか?
その為に、自分が少しでも手を貸すことは出来るのだろうか?

自分の腕の中で、まだ微かに身体を震わす梨華は、今何を思っているのだろう?
そして、自分は何をすればいいんだろう?

ジーと何かが唸るような音がすると、何事もなかったかのように明かりが灯った
何も映していない薄いテレビの下、ビデオの機械が緑の0だけを点滅させている
さっき、キッチンに入った時つけた、ダイニングの明かりがやけに眩しく感じる

ひとみは、梨華から腕を放しながら立ち上がり言った
「・・・お湯ためてくるよ・・・雨で、少し身体が冷えたのかも知れない」

251約束:2003/12/12(金) 10:45
ひとみに言われるまま、梨華は湯船に身を沈めた
僅かに濁った暖かいお湯が、梨華の身体だけでなく、強張った心も
ときほぐしていく
微かに漂う花の香に包まれると、梨華は瞳を閉じた

梨華がバスルームのドアを開けて、廊下に出ると、壁に背中をあずけて
足を投げ出すように、ひとみが座っていた

「ど、どうしたの?ひとみちゃん?」

ひとみは、めんどくさそうに立ち上がり、梨華と入れ替わるように
バスルームへと足を入れ、言った

「・・・暗いの怖いんでしょう?」

ひとみのドアを閉める音を聞きながら、梨華は甘く切ない思いを
飲み込む為に、その場に立ち尽くしていた

252約束:2003/12/12(金) 11:05
梨華はリビングへと戻ると、僅かに湿り気を帯びる服にまた寒気が戻って来る気がした
少し考えてから、今日買ったキャミソールを下着代わりにして
その上からパジャマを着た
さっきまで、座っていた場所にもう一度腰を下ろすと、冷めきったお茶に口をつけた
そのままぼんやりしていると、今見たばかりのひとみの姿が頭に浮かんできた

・・・ひとみちゃんは、いつも優しい・・・そう、怖いくらいに

言葉も説明も無いから、最初は解りづらかったけど、いまはそれが無いことが
ひとみの不器用な誠実さの表れのように梨華は感じていた

・・・まるで、わたしの望みを知ってるみたい
いつでも傍にいようとしてくれる、少しでも長い時間を一緒に過そうとしてくれる
わたしをいつでも、一人きりにしないようにしてくれてるみたいに

253約束:2003/12/12(金) 11:35
・・・わたしは、ひとみちゃんにいったい何をさせたいと言うのだろう?

何も知らない子供だからこそ出来た、あの約束を、もう一度
いまのひとみちゃんに、して見せて欲しいなどど言うつもりなんだろうか?
・・・そんなことは出来る訳が無いとわかっているのに

ひとみちゃんに会いたい一心で、この町に戻ってきた
遠くから姿を見るだけでいいと自分に言い聞かせてた

けれど、やっぱり近づかずにいることは出来なかった
・・・ひとみちゃんが一人きりだったから、そんなの言い訳に過ぎない
近づき過ぎたら、今度は不安になった
そして自分の気持ちを誤魔化す為に、また言い訳した
・・・思い出のせいかも知れない、と
わたしは自分に言い訳ばかりしている、してはいけないと分かっていても
なおしてしまうことに言い訳ばかりを繰り返している

だけど、すべては無駄なこと、本当はわかっていた
何をどうしても、わたしの中心にはひとみちゃんがいて・・・それは変わることはない
・・・それは、まるでわたしがわたしであるという証みたいに、ずっと変わらないのだから

254約束:2003/12/12(金) 12:01
わたしは、まだ子供かも知れないけれど、あの頃のように何も
わからない訳ではない
それでも、あの約束の言葉はわたしにとって色褪せることなく
そのままの意味を持ち続けている
そして、それはおかしな事なのだろう
だから、ひとみちゃんが、わたしを忘れていると知った時
寂しかった反面、どこか、ほっとしていた

忘れてしまうことは・・・きっと、罪ではないのだ
生きている限り、人は皆、忘却を繰り返すのだから
それよりも、覚えていても、なお、ひとみにとってはなんでもないこと
取るに足りないことだと思い知らされること、その方が辛かっただろう

きっと、それこそがありふれた真実の行き先なのだから
それでも梨華は、変わらないひとみへの想いを抱え続けている

ひとみがバスルームのドアを開ける音がする
梨華は、この枷を外し表に出たい、と泣き続ける想いを心の内に閉じ篭めた
見えない重りを増やして、固く蓋をした

255約束:2003/12/12(金) 12:46
ひとみは、着替えた梨華を見て僅かに目を細めるように笑った
「可愛いね?・・・子供みたいで」

ひとみの言葉に梨華は、ぷぅ、と頬を膨らませた
その子供じみた仕草にひとみは、また笑った

「ねぇ、ひとみちゃん?お夕飯、どうする?わたし、何か作ろうか?
 冷蔵庫、見てもいい?」
「・・・いいけど、何も入ってないよ」

梨華はダイニングを通り、キッチンに入ると冷蔵庫を開けて、言葉を無くした
・・・ほんとに、何も入ってない
卵に牛乳、スポーツ飲料とお水、あとはバターやドレッシングなどの調味料

「・・・ひとみちゃんて、何食べて生きてるの?」

梨華は、あきれた顔でため息まじりに聞いた
後ろに付いて来ていた、ひとみは簡潔に答えた

「最近は、ベーグルと茹で玉子」
そして、冷蔵庫の上に乗っていたパンを取って梨華に見せた

「・・・それだけ?ずっと?あきないの?栄養は?」
「口に入れたら、何だって一緒だよ」
ひとみはこともなげに答えると、シンク脇にあったサプリメントを振って見せた

・・・一緒じゃないと思う・・・それに食事は楽しむものだ
梨華は、いつも賑やか過ぎるくらいの自分の家の食事風景を思い出す

・・・ひとみちゃんを、この立派すぎる箱のような家にひとりにさせたくない

けれど、自分にいったい何が出来るというのだろう?
梨華は唇を噛むと、思い詰めた声で言った
「ひとみちゃん、今度うちにご飯食べにきて?・・・絶対だよ」

256約束:2003/12/12(金) 13:05
二人がキッチンを漁ると、封も開けないまま賞味期限が数ヶ月切れたパスタと
トマトのホール缶が見つかった
梨華は更に、いつ開けたかわからない白ワインと、コンソメの素を探しだした
・・・ほんとは、大蒜や玉葱と炒めたら美味しいんだけどな・・・
食事を取るには、その立ち上がる匂いも大切なスパイスなのに、そう思うと
梨華は思わずため息が出た

簡単なトマト風味のパスタと、ひとみが茹でた玉子、それとベーグルが
ダイニングの食卓にのぼった

「・・・いただきます」
二人向かい合って、手を合わせると、まだ僅かに湯気の上がるパスタを
ひとみが口に入れた

「変わらない?」
梨華が寂しそうに微笑みながら聞くと、ひとみは少し照れくさそうに笑った
「美味しいよ・・・いつもよりも・・・そう思う」

257約束:2003/12/12(金) 13:32
食事が済むと、洗い物をしてくれると言うひとみに、梨華は甘えることにして
電話を借りた

「・・・あ、お母さん うん、わたし あのね、ひとみちゃん家にお邪魔してたら
 そうなの・・・うん、だからね、泊めてもらうことにしたから・・・
 え?大丈夫だって・・・はーい・・・うん、うん、じゃあね」

梨華が・・・やれやれ、と言う顔をしながら、リビングのラグに座ると
戻ってきたひとみが座りながら聞いた

「・・・お母さん何か言ってた?」
「うん、ひとみちゃんによろしくって・・・心配性なんだよ」
・・・ひとみちゃんほどじゃないけど、と梨華は口に出さずに心の中で言った

なんとなくテレビをつけると、古い洋画が始まるところらしかった
たいして興味もわかないまま、二人は画面を見続けた
エンドロールが出ると、ひとみは立ち上がった
「もう、寝ようか?」

258約束:2003/12/12(金) 13:47
その言葉を言ってから、ひとみは今更ながらに考えた

・・・うちに、客用布団というものがあるのだろうか?
それが、あったとしていったい何処に、どんな風に仕舞われているんだろう?
こんな時間から、家中をひっくり返して探し物などしたくはない
そう思うとひとみは言った

「梨華は、あたしのベットで寝なよ・・・あたしは、適当な所で寝るから」
ひとみは、親のベットルームや弟達のベットを思い浮かべた
何ヶ月も掃除はおろか、寝具の洗濯すらしていないけど、この際仕方ない

すると梨華は、ひとみの言葉になんでそんなことを言うのかとわからない
というように言葉を返した
「え?!一緒に寝ようよ」

ひとみは、一瞬固まった

259約束:2003/12/12(金) 14:07
・・・言われてみれば、同性の友達が泊まりにきて、違う部屋で寝るなんてことが
あるのだろうか?・・・不自然かもしれない
話でもしながら、ひとつのベットに入る方が当然の流れ、という気がする

・・・問題は、あたしが梨華を友達という括りの中に入れてないということだ
幸いひとみの部屋は広くて、ベットもセミダブルの物だ

・・・大丈夫かもしれない、どうしても無理な時は梨華が眠った後
ベッドから抜け出せば済むことだ
いったい何が大丈夫で、何が無理なんだろう、ひとみは自分の思考が
グルグルと回りつづけるのに、眩暈をおこしそうになる

ひとみは、不思議そうな自分を見る梨華の顔を見ながら
静かに息を整えると、覚悟を決めるように言った

「・・・じゃ、二階に行こう」

260約束:2003/12/12(金) 14:37
二階に上がると、階段から一番始めドアをひとみは開いた
その部屋は広かった

・・・わぁ、ちょっと・・・ううんかなり羨ましいかも

梨華と、あさ美の小物がゴチャゴチャと置かれた部屋を思い出す
いまだに二段ベットが主みたいな顔をしてるあの部屋は
いかにも、子供部屋と言う感じだ
それに比べて、シンプルで物も少なく整然としたひとみの部屋は個室と
呼ぶのがふさわしい

布の織り方だけで、僅かに所々色が変わって見えるブルーのカーテンを引くと
ひとみはベットサイドにある、机に置かれたシンプルなライトの光源を絞った
そして、ベッドカバーごと軽そうな掛け布団を持ち上げ、その身体を奥へと
滑りこませると言った

「・・・どうぞ」

梨華は薄暗い部屋の中、ベットから自分を呼ぶひとみを見て
狂ったように鳴り出す心臓を、そっと抑えた

261約束:2003/12/12(金) 14:51
なるべくベットの端へと身体を横たえながら梨華は思った

・・・もぅ、何考えてるのよーわたしは・・・

部屋が薄暗くて、近づけなければお互いの表情がよく見えないことに
梨華は安堵した
梨華がベットに入ると、ひとみは背中を向け言った

「おやすみ」

梨華は、枕へと流れる柔らかそうなひとみの髪や、布団から出ている肩が
自分より大きいけれど、女性らしい柔らかな輪郭をしているのを見ると
更に胸の鼓動が早まるのを感じた

・・・こんなんじゃ、眠れないよ

梨華は、はしゃいだ明るい声を出した

262約束:2003/12/12(金) 15:07
「ねー?ひとみちゃん、月曜から修学旅行だね?」
「うん」
「・・・修学旅行って、なんで奈良、京都なのかなぁー」
「知らないよ」
「ひとみちゃんは、今まで行ったことあるの?」
「・・・ない、と思う」
「三日目の自由見学の時、清水寺に行きたいの!一緒に行ってくれる?」
「わかった」
「時代劇みたいなお茶屋さんとか、あるかなー?」
「さぁ?」
「奈良の大仏は、やっぱり大きいのかな?」
「大きいんじゃないの」
「やっぱり、金閣寺は金色なのかな?」
「・・・そうなんじゃないの」
「古都ってくらいだから・・・」

梨華が次の言葉を言いかけた時、ひとみがいきなり振り返ると
その腕の中に梨華を抱きしめた

「・・・うるさいよ、このまま大人しく寝なよ」

263約束:2003/12/12(金) 15:26
ひとみは、さっきからどうでもいいことをハイテンションで話続ける梨華に
イライラしていた

・・・人の気も知らないで

背後に梨華の気配を感じ続けることは、どうにも落ち着かなくて
ならば、いっそこの腕の中に閉じ込めてしまった方がまだましの様に思った

梨華が・・・苦しいよ、と言いながら、ひとみの腕から逃れようとその腕に
突っぱねるように力を入れる
ひとみは無視して、わざと抱きしめる腕の力を強くした
ジタバタしていた梨華が、諦めたように大人しくなると
ひとみは腕の力を抜いた

ひとみの耳の奥に、呼吸を繋ぐ心臓の音だけが聞こえる
それが、自分のものなのか、梨華のものなのか、もうわからなかった

264Sa:2003/12/12(金) 15:44
246さん>
   お読み頂いてありがとうございます
   読んで頂いてると、教えて下さることだけで、作者には喜びなのです

54さん>
   ご愛読(?)ありがとうございます
   二人の心情が伝わると言って頂けるのなら、ヘタレな作者が
   ヘタレなりに頑張ってるかいがあると言うものです

152さん>
   体調がよろしくないのですか?
   そんな中にまで足を運んで頂けるなんて、心から感謝です
   ありがとうございます
   けれど、どうか無理はなさらないで下さいね?

249さん>
   最初から、読んで頂いたとはありがとうございます
   貴重な時間の無駄使いにならなければ良いのですが・・・
   ちょっと心配ですw

きりのいいところなので、悩んでおりますが、後でまた更新してしまうかも
しれませんw
最近、自分のことを生き急ぐ虫のようだと、思ったりして
・・・もう真冬ですけど

265チャミ:2003/12/12(金) 18:49
完結するまでレスを控えようと思ってましたが我慢できん。

すごい! 何だか知れんがとにかくすごい!
ちょっと今までにない感覚です。
どうしたらこんな作品が書けるの?
うらやましい限りです。

266約束:2003/12/12(金) 19:05
−月曜日−

バスの集合場所である学校へと、ひとみがスポーツバックを肩に歩いていると
前方に見慣れた人影が、ひとみの持つバックの三倍はありそうなバックを
両手で引きずるように、よたよたと歩いていた
ひとみは、足を早めると背後から声をかけた

「家出でもするつもり?」
「あ、ひとみちゃんっおはよー!」

梨華は立ち止まってバックを一度下ろすと、ひとみの顔を見て
顔を輝かせて微笑んだ
ひとみは、梨華に自分のバックを渡すと、キョトンとする顔に・・・交換
そう言いながら、梨華のバックに手を伸ばした

「いっいいよぉー!」
顔を泣きそうに歪めながら言う梨華に、ひとみは梨華の立つ反対側へと
バックを持ちながら歩き出し、言った

「あたしは別にどっちでもいいんだけどさ、清水寺に行きたいんじゃないの?」
「・・・う・・・ん」
「虫が止まるかと思ったよ、あんまり遅くて」
「・・・うっ・・・」
「バスに乗り遅れるよ?行こう」

梨華は頷くと・・・ありがとう、小さい声でそう言い、ひとみと並び歩き出した

267約束:2003/12/12(金) 19:34
真希はバスの後方の席に座って、開けた窓に頬杖をつき、外を見ていた

・・・あっ来た、来た

想像通りというか、梨華とひとみは一緒に歩いてくる
最近、真希の頭の中では、二人はいつも一緒なのでそれは自然な光景に見えた
そう認めてる自分が、少しくやしくて、当たり前のように見るからに重そうな
梨華のバックと、ひとみの何も入ってなさそうなバックを交換する姿に
手の平でメガホンを作るようにして、大声で言った

「おっそいよ〜!!!なぁにぃ、朝っぱらからデートですかぁ〜」

真希の声に梨華はバスを見上げると、赤い顔で睨んだ
「んもぅーごっちんっ!!!」

・・・梨華ちゃんに睨まれたって、ごとー、全然怖くないもぉーん、ってか
  むしろ、かーいーし・・・

真希の顔が緩むと、ひとみが目を細めて笑いながら皮肉のように言った

「なに?羨ましいの?」
「ひ、ひとみちゃんまで、何言ってるの〜」

梨華は更に顔を赤くして、ひとみの腕を軽く叩いた

・・・こ、こいつだけはっ〜〜〜
真希は窓から見えない位置で握り拳を作っていた

268約束:2003/12/12(金) 20:58
梨華が真希の隣の席に座って暫くすると、バスは早朝独特の少し冷えた空気を
きるように、滑らかに走り出した

真希は欠伸をかみ殺しながら言った
「しっかし、バスで行くかね?今日なんて着いたってホテルで寝るだけじゃん」
「そうだね?でもバス旅行って楽しそうじゃない?」

嬉しそうに自分に微笑みかける梨華に、真希は少し意地悪な気持ちで言った
「・・・よっすぃーがいなくても?」

梨華はあきらかに気分を害した様に、ムッとした顔した
「・・・なんで、ごっちんはそんなコトばっかり言うの?」

真希は慌てて言い訳するように言った
「イッ、イヤァ〜、梨華ちゃんからかうと、反応がかーいーから、つい、ね?」

「・・・ごっちんといい、ひとみちゃんといい、わたしはおもちゃでも
 子供でもないんだからねっ?!」
梨華はプンプンと、擬音が聞こえそうな表情で息も荒く言い返してきた

真希は・・・だからそこが・・・と言いかけて止めた
ひとみが、人をからかって遊ぶなどちょっと前なら想像もつかなかったことだ
それは、ある意味とても子供っぽいことなのだから
相手の気を引きたい為か、相手の困ったり、怒った顔を見る為の
ただそれだけの為にする遊びの様なものだと、真希にはわかるから

やっぱり、案外自分とひとみは似ていると真希は改めて思っていた

269約束:2003/12/12(金) 21:18
次の日
春日大社の中には、バスガイドの黄色い旗の後を、砂糖菓子を追う
蟻の行進のように見た目に区別のつかない制服の団体が、何通りもの
組み合わせで通り過ぎて行く

大仏殿では、梨華が胸元で手を組み・・・うわぁ!おおき〜い、と見たままの
事柄を感動した声でいうのを、真希は大欠伸しながら聞いていた

三十分と言う長いんだか、短いんだか、よくわからない中途半端な
自由時間を与えられた生徒達は、バラバラと散って行った

梨華が鹿にせんべいをやりたいと言うので・・・ま、お約束だよね、と
真希は付き合うことにした

270約束:2003/12/12(金) 21:29
「ごっちんはあげないの?」
「んぁ?いい」

真希は、何も奈良まで来て買うの必要のまったくない、全国一律で売ってそうな
土産物を少し冷やかした後、梨華の傍に寄って行った

「見て〜ごっちん!可愛いんだよぉ〜」
鹿はせんべいを持つ、梨華の手先が揺れるのに合わせて頭を下げていた
まるで、ちょうだい、ちょうだい、と、ねだるように
真希はそう言う、梨華の笑顔の方が可愛いのにな、と思いながら
その様子をカメラのフィルムに収めた

271Sa:2003/12/12(金) 21:50
うわっすごい半端な更新にっ!ごめんなさい!
急用の為、チャミ様には改めてレスいたしますっ!ほんとに申し訳ありませんっ!

272Sa:2003/12/12(金) 23:50
チャミさん>
  前レス↑では、大変失礼致しました(ペコリ)
  レスはしてやってもイイか?と思われたなら、して頂くと
  作者は非常に喜びます♪
  お褒め頂いて恐縮ですっっっ!
  ひょっとして、どちらかで書かれているのですか?
  失礼な質問でしたら、お許し下さい

273チャミ:2003/12/13(土) 06:54
書き出したものの、途中で我が文才の無さに気づき
半放置状態にしているへたれです。
この先どう展開していくのか想像も付きませんが
今一番気になる作品です。

274JUNIOR:2003/12/13(土) 20:22
今日始めて読みました。
とても綺麗な文章、情景描写に引き込まれて一気に読めました。
この先の展開が読めないのがすごいです。
多分いま読んだなかで一番好きな作品です。
これからも頑張ってください。

275名無し読者79:2003/12/14(日) 20:04
覗いてみたら大量に…。お疲れ様です。
今回も何だか最高ですね。何かちょっと距離が近づいたような感じで。
二人の自由行動楽しみにしてます。

276約束:2003/12/15(月) 12:19
真希は、芝生とコンクリートの道の間の柵に腰かけ、梨華を見ていた
梨華が天使のような笑顔を浮かべ、鹿にせんべいをやる姿を・・・

見る間に鹿が、わらわらと増えて行き、梨華の笑顔が引きつったものに
変わっていく
真希は、笑いを堪えながらまたシャッターを押した

「・・・ご、ごっちーん、なんか怖いよぉ〜」

梨華は大きな鹿に囲まれて、泣きそうな声を出す
真希は笑みを零しながら、立ち上がり言った

「梨華ちゃんって、泣きそうな顔もか〜い〜ねえー」
「そっそんなことより、わたしはどうすればいぃーのぉ〜」

一際、大きな鹿が梨華の手にある、せんべいの入った袋を狙うように
伸び上がった
・・・きゃっ、梨華が小さく高い声を上げた時、真希が駆け寄るより早く
近づいてきた同じ制服に包まれた腕が、梨華の手の袋を取り上げると
離れた

袋を目で追っていた鹿の群れは、回れ右をするように袋へと向かい
梨華から離れて行った

277約束:2003/12/15(月) 12:34
梨華は、その顔にさっきまでとは違う、色づいて、何かが微かに
香るような笑顔を浮かべ言った
「・・・ひとみちゃんっ!ありがとう〜」

ひとみは、どうでもよさそうにせんべいを、少し遠くに投げながら言った
「食われなくてよかったね」

真希が、ピューと口笛を吹くとひとみと目が合った

「かぁっこいぃー」

真希が冷めた口調で言うと、ひとみはにやりと笑って言った

「・・・まぁね」

ひとみは空になった袋を丸めると、少し離れたゴミ箱へと無造作に投げた
宙を舞った茶色い小さな玉は、決められていた事柄のように
ゴミ箱の中心に吸い寄せられて落ちると、小さな音をたてた

278約束:2003/12/15(月) 12:46
真希の胸の奥がチクチクと微かに痛む
そしてそれはジリジリと真希を煽るような、それでいて押さえつけるような
焦燥感と苛立ちを連れてきた

真希はそれが、自分に向けるのと違う笑顔をひとみに見せる、梨華のその表情に
対してなのか、いつでも悠然と構えているひとみという存在に対してなのか
わからないでいた

ただ、今まで知ることのなかったこの感情の名前は嫉妬と呼ばれるもの
なのかもしれないと、漠然と感じていた

・・・だとしたら、随分苦いじゃん

真希は、二人から目を逸らすように俯くと、自嘲気味にひとり笑った

279約束:2003/12/15(月) 13:21
黄色い旗を持ったバスガイドが、三人に近づいてくると声をかけた
「一号車さんは、そろそろ出発ですよ」

真希と梨華が頷くと、化粧が厚いせいで表情が硬く見えるその顔に大げさな程の
営業用スマイルを浮かべながら、真希の手にあるカメラを見ると言った

「写真撮りましょうか?」

その言葉に、梨華一人が嬉しそうに両手を胸に組むと弾んだ声で答えた
「わぁー!お願いしまーす」

真希は、そっけなくカメラをバスガイドに渡すと、ひとみの反対側で梨華と並んだ

「はいっチィーズッ!」

妙にテンションの上がったかけ声に、作り笑いすらする気になれない
真希は出来上がりを見なくても、どんなふうに写っているかが目に浮かぶ
零れそうな笑顔の梨華を真ん中に、それを挟む自分とひとみは
おもしろくなさそうな顔を、背け合っているだろう

バスガイドに急かされるように、その場を離れる時、梨華が言った

「ひとみちゃん、明日ね?」
「うん」
梨華が笑顔で手を振ると、ひとみも目元を和らげた

「明日、ごっちんも一緒に清水寺行こうね?」
歩き出すと、自分の顔を覗きこむように微笑みながら梨華は言った
真希は考える顔をした後、申し訳なさそうに答えた

「ごめんっ梨華ちゃんっ!ごとー、約束しちゃったんだー」
「・・・そっかぁー、もっと早くに言えばよかったなぁ・・・残念!」

梨華の落ち込むように俯く顔を見ると、真希は胸が痛んだ
けれど、明日、三人でいたなら自分もひとみも、梨華を困る顔にさせるような
表情と行動しかとれない気がする、だから真希は笑顔で言った

「あはっ♪ほんっとごめんねー?梨華ちゃん!」

280約束:2003/12/15(月) 14:01
三日目

京都に着くと、今日の宿泊先の書かれたプリントが配られ、ハメを外すなとか
くれぐれも揉め事をおこすな、などの諸注意の後、四時までには各自で責任を
持ち宿泊先に戻るように、と繰り返し言われた後解散となった

ひとみと梨華はバスに揺られ、清水寺へと向かった

バスが目的地に着き、歩きながらひとみは聞いた
「ところでさ、なんで清水寺なの?」
梨華は、うぅーんと考える顔をした後、可笑しそうに笑った

「なんでだろう?・・・でもね、何か大きな決心をする時でいいのかな?
 清水の舞台から飛び降りるって言うでしょ?・・・で、なんとなく
 京都に行くなら、見なくちゃって思いこんでたみたい」

ひとみは、ふぅん、そんなもんかね、と言った後、ついでのように話し出した

「清水寺ってさ、左右の守護石・・・めくら石があって、片側から片側に
 目を閉じたまま渡ると、恋の願いが叶うって言われてるんだってさ」
「・・・ひとみちゃんは、叶いたいと願う恋をしているの?」
「さぁ・・・どうかな、梨華はどう思う?」

281約束:2003/12/15(月) 14:32
そう言って、梨華の目を覗き込むと、ひとみを風景みたいにただ映していた
いつもの光を浴び角度を変え、その言葉以上に多くの事をひとみに語る色さえも無い
今零れ落ちた、ひとみの言葉の意味を知ることも、知られることも拒否するように
何も語らない瞳があった

「・・・してるわけないじゃん」
ひとみは、梨華から目を逸らすとそう言った
そして、さり気なさを装い言葉を続けた
「梨華はどうなの?」

静かに息を殺すような気配の後、取ってつけたような明るい声で梨華は言った

「わたしもその話、聞いたことあるよ
 でもね?逆から行くと、縁が切れちゃうんだって、ほんとかな・・・」

答えになってない言葉を返す梨華に、それ以上何かを聞くことは
ひとみには出来なかった

282約束:2003/12/15(月) 14:51
断崖の上に舞台造りされた目的の場所に二人は立った

「・・・思ったほどじゃないみたい」
眼下に広がる京都市外を一望しながら、それでも梨華はそんなふうに言った

「もっとこうなんていうのかな?・・・ここに立てば強い心みたいなのが
 自然に湧き上がってくる様な感じなのかなって思ってたのに・・・」

ひとみは小さく笑いながら言った

「・・・昔は、そうだったんじゃないの?・・・だけど、いまはいつでも
 あたし達って、高い建物に囲まれてるじゃん・・・こういうのって
 見る方の気持ち次第で同じ場所でも違って見えるんじゃないの?」

「そうだね・・・」

やけに神妙な顔で梨華はポツリと答えた

283約束:2003/12/15(月) 15:30
清水の舞台を降りた二人は、高台寺に至る道すがら
陽のあたる石畳の坂道を歩いた

三年坂、二年坂とこの有名な遊歩道は、観光客がひっきりなしに
行き交っている
それでも、高い建物が視界に入らないせいだろうか、並ぶ店々は土産物屋も
煎餅屋も、独特の穏やかな時の流れの中にいた

八坂の塔の東、趣のある入り口の店で、昔から変わらない味と有名な
わらび餅と抹茶を二人で食べた

微かにニッキの香る柔らかい餅は、どこか奥ゆかしい味わいだった

「美味しいね」

梨華が、ひとみに微笑みかけると、ひとみもまた微笑み返した

「うん・・・美味しい」

二人、いつもと違う風景と時間の流れの中で、同じ物を口に入れ微笑み合えば
それだけで、幸せというもの形のない物に触れている気がした

284約束:2003/12/15(月) 15:54
二人が宿舎に戻ると、ロビーにはクラス順に殆どの生徒が並んでいた

「じゃぁね」
梨華は、笑顔でひとみに片手を小さく振ると自分のクラスが並ぶ方へと
走って行った

少しして、お馴染みの宿舎内でのかなり長めの注意事項が終わると
それぞれの担任が、生徒達に割り当てられた部屋の鍵を配りだした
その時、梨華のクラスの方からザワザワとした声が立ち始めた

「・・・誰か倒れたみたい・・・」
「えぇ〜誰、誰???」
「石川さんって子みたい・・・」

・・・梨華?!!!

ひとみは、その名が微かに聞こえると、何か考えるより先に体が動いていた
制服の濃紺の海の中を、掻き分けながら、ざわつく先へと進む
まるで、スローモーションみたいに身体がうまく動かない
ひとみは焦り、イラついた声を何度も出した
砦の様に囲われている場所まで辿り着くと、直、自分の行く手を
遮ろうとする人波に声を荒げた

「どいてっ・・・どけっっ!!」

ひとみの怒鳴り声に、人波は左右に分かれ開かれた目の前には
倒れ込む梨華の姿と、その傍で膝をつく真希の姿が見えた

285約束:2003/12/15(月) 16:07
ひとみは梨華の傍にしゃがみ込むと、力なく曲がる両膝の裏に左腕を入れ
いつもより更に華奢に映る背中を右腕で支えるようにすると、自分の足に
力を入れ持ち上げた
そして、呆然とひとみを見上げる真希に言った

「どこ?・・・部屋はどこっ?!」

真希は、ハッとして自分の手にある鍵を見ると・・・312、そう言って
エレベータへと走り出した

ひとみが梨華を抱えて、ゆっくりと歩き出すと梨華は薄く目を開いた

「・・・ひ・・・とみ・ちゃん?」
「何も言わなくていいから」

梨華の色を無くした唇は・・・ごめんね、と動いた

286約束:2003/12/15(月) 16:17
真希は鍵を開け部屋に入ると、座布団を二つ折りにした
ひとみは畳に膝を付けると、その上に梨華の頭をそっと降ろした

横たわった梨華は、瞼を開くとさっきまでよりもしっかりとした目で
ひとみを見ると、消え入るような声で言った

「・・・またやっちゃった・・・迷惑かけてごめんなさい」

ひとみは、いまにも涙が浮かんできそうな、その顔に優しい声を出した

「いいよ・・・いいから それより、目を閉じて少し休んだ方がいいよ」

梨華は微かに頷くと静かに瞼を閉じた

287約束:2003/12/15(月) 16:40
真希が背後から遠慮がちに声を出した
「・・・ごとー、荷物とか取ってくるね?・・・よっすぃー、梨華ちゃんのこと
 見ててあげてね・・・」

ひとみが真希に背中を向けたまま頷くと、パタンと静かにドアが閉まる音がした

梨華の色を無くした顔を、ひとみが言葉もなく見ていると
すぐに唇から、すぅすぅ、という寝息が聞こえてきた

・・・可哀想に・・・よっぽど、疲れていたんだ

ひとみは、あさ美が梨華のことをいつも気遣っている様子や、この前
梨華本人が言っていた、秋口には体調を崩しやすいと言う言葉を
ぼんやり思い出しながら、手を伸ばし、額から頬へと労わるように触れた

・・・だけど、本当にそれだけ?

いま初めて気付いた訳じゃない
前から・・・漠然と不安を感じていた
そしてそれは次第に集まり、いままさに降り出す寸前の雨雲のように
ひとみの気持ちを塞がせた
いままでは・・・その不安の正体を確かめる気にならなかっただけだ

梨華は心の固く閉ざされたドアの向こう側に、何かを隠している
もはや、それはひとみの中で確信になった

288約束:2003/12/15(月) 16:57
漠然とした、正体の掴みきれない不安の濃度は色を増し
ひとみは成す術もないまま、それに囚われていた

「・・・ひとみちゃん・・・」

小さな響きが耳を掠め、ひとみが梨華の顔にぼやけていた目の焦点を
合わせると、瞼が閉じられたままの顔は幸せそうに微笑んでいた

・・・どんな夢見てるんだか

ひとみの気持ちの強張りが、僅かに緩まった時、梨華はまた小さな声を出した

「・・・ひぃちゃん」

・・・ひぃちゃん・・・ひーちゃん・・・ひぃちゃん・・・

突然、ひとみの耳の奥で沢山の声が木霊する
なぜだか、急に忘れていた子供の頃の情景が目の前に再現される

289約束:2003/12/15(月) 17:21
あれはまだ小学校に上がる前、何歳かはわからない
子供のひとみの周りには、同じ年くらいの子供が大勢いる

ひーちゃん!ひーちゃん!
皆、口々に笑顔でひとみを呼んでいる

その中でたったひとりだけ、僅かに舌ったらずな甘さを含む高い声がする
・・・ひぃちゃんっ!

沢山の子供がいる、真昼の公園・・・
顔はみんなぼんやりと像を結ばない

今しがた、ひとみの耳の奥に囁かれた声を、もう一度聞きたいのに
薄れていく印象は、何も残しはしない

・・・ひぃちゃんっ!・・・
捕まえようとするとシャボン玉のように、指先をすり抜け弾けるように消えてしまった
そしてその声は、どこか梨華に似ている気がした

・・・あの子は誰?

最近になって、ずっと忘れていた幼い日の自分が現れるのは何故だろう?
まるで何か、教えたいことがあるかのように

・・・まさか・・・だとして、いったいなんの意味がある?

ひとみは、梨華の寝顔を見ながら、自分もまた自分自身の中に閉ざされたドアが
あることを感じた
そして、その中には、何か、とても大切な何かが眠っている気がした

290約束:2003/12/15(月) 18:02
最終日

金閣寺、銀閣寺、その他にもグルグルと京都名所巡りをしたバスは
夕食が終わった後、夜の高速を一路学園へと向かい、翌早朝に到着予定に
なっていた
そして、その日はそのままお疲れ休みという名の解散になる

トイレ休憩で停まったドライブインで、真希と梨華がバスから降りると
ひとみがいた
そして、二人に近づいてくると、梨華に声をかけた

「・・・車酔いとかしてない?」

僅かに首を傾げるようにして出す声は、今までのひとみの声とは違って響いた
暗い夜の中、灯る蝋燭のような深い暖かさに満ちている、と真希は思った

梨華は昨日のことなど、なかったかのように明るく笑った
「ちっちゃい子じゃないんだから! 大丈夫ですよーだっ!」

それでもひとみは、いつものように皮肉な微笑みは浮かべずに
優しく、ただ優しく微笑んで梨華を見ていた

真希はなんだか、たまらない気持ちになってひとみに言った
「ごとーもいるから、大丈夫だよ・・・」
さすがに、心配しないで、とまでは言わなかったけど、それでもひとみには
伝わったようで、ただ静かに・・・よろしくね、と言うと自分のバスに戻って行った

真希と梨華もバスに戻り、席に着くと真希はいつものおどけた調子で
自分の肩を指差し言った
「あはっ♪ここ、ここっ!梨華ちゃんの指定席〜」
梨華は、照れたように笑いながら、それでも頭をちょこんと乗せ言った
「もぉ〜ごっちんってば!でも・・・ありがと」
「んぁ?いんや バス旅行ってのも案外いいモンだぁねー」
真希が歌を歌うように言うと、梨華の楽しそうな笑い声が二人の間で響いた

291Sa:2003/12/15(月) 18:27
更新終了で、ございます★

チャミさん>
   早速、お答えのレスを頂きありがとうございます♪
   作者も日々悩んでおります・・・特に吉澤さんっ(w
   言葉が少なすぎて、読んで下さる方に突飛すぎてわからないんじゃ?とか(汗)
   これからも、よろしければお付き合い下さいね?

JUNIORさん>
   はじめまして〜!ようこそっいらっしゃいませぇ♪
   このような文章を好きだと言って頂けるなんてー
   うれしぃでっす
   よろしければ、これからもいらして下さいませね?

名無し79さん>
   まいどっ♪
   少しでも良いと思って頂ける場面が書けているならうれすぃ〜でっす
   作者一人の脳内妄想なので、こんなんでえぇんじゃろうか?と
   自問し、自答出来ず〜なので(w
   これからもどぞよろしくです

ちょっとしたアクシデントがありまして、今週は更新出来ない日が
あるかもしれません・・・出来ても、ほんの少しづつとか(w

申し訳ありませんっ・・・が、見放さないで下さいませっ
よろしくお願い致します(ペコリ)

292JUNIOR:2003/12/16(火) 23:27
Saさんよろこんで。
あと、心からマターリと更新をお待ちしますので
ゆっくりとやってください。
PS.見放したりなんかしませんよ。

293チャミ:2003/12/17(水) 06:20
?なんて付けないでください、ついて行きますよ、いつまでも。
言葉少ななよっちーの気持ち、ちゃんと伝わってます。
のんびり行きましょう、のんびりと待ってます。

294約束:2003/12/17(水) 10:12
翌週の放課後、梨華は猫じゃらしを見つけた子猫のように、ひとみへ
飛びつかんばかりに走り寄ってきた

「ひとみちゃんっ!あのね?今日ね・・・うちに寄って欲しいの」
組み合わせた指先を口元に持っていき、上目使いの眼差しは期待に満ちて
キラキラしている

いつもながらの解りやすさに、どこか安心してひとみは零れそうになる笑顔を
隠しながら、そっけなく言った
「・・・あぁ、今日は無理」

梨華のとたんに肩を落として、シュンとする顔を見ながらひとみは言った
「・・・じゃない」

キョトンとした後、もぉ〜イジワルッ!と言って少し怒った顔をして見せ
その後、蕾が開くように微笑んだ・・・開かれた花びらの美しさをまるで
気付こうともしない名も無き花のように

ひとみは思わず、その薄く色づく頬へ触れたいと伸ばしかけた指の行き先を
自分の前髪へと方向を変え、軽く払いながら笑った
「・・・もう、慣れたでしょ?」

梨華が、その目は微笑させたまま唇だけ尖らせる

・・・無意識に、ここまで誘い続けるのって・・・どうなのよ?
ひとみは自分の目線が、今度は梨華の唇へと誘われている様に感じていた
それに流されないように、梨華の顔から目を逸らすと歩き出し言った

「それじゃ、お邪魔しますか・・・」

295約束:2003/12/17(水) 10:54
梨華はひとみの口から出る、他愛も無い言葉の一つ一つに敏感に反応し
様々に色を変えていく、美しい絵の具のようだ
そして、自分の心の風景もまた、それを映し描かれるものを変えていく

愛しさと、切なさと、ひとみの胸の内で形の無い器に注ぎ続かれる甘い想いは
いまにも溢れて零れ出しそうだった
それでも、自分の抱える器を広げ続け、やがて、ひとみ自身全てがその器へと
変わってしまうまで、一番大切な友達の顔を止める訳にはいかないと思っていた

だからひとみは、いつもと何も変わらない言葉少なく、へそ曲がりの友達の
顔で話続けるのだ、他愛もない話を

「・・・ところでさ、今日は何?」
「この間の修学旅行の写真が出来たんだよ♪・・・それとね?この間
 お世話になったから、お夕飯でもってお母さんも言ってるの」
「・・・お世話はいつもしてるけど?」
「うぅっ・・・泊めてもらったお礼っ!!!」
「そりゃ、どうも」

マンションのエントラスホールに入ると、梨華は8Fのボタンを押した

296約束:2003/12/17(水) 11:22
梨華がインターホンを押すと、部屋の中からバタバタと走る音がして
ガチャリと、ドアが開かれるとあさ美が笑顔を覗かせた

「あぁっよっすぃ〜さん!今日も完璧ですー」
「久しぶりだね・・・」

ひとみが微笑んで答えていると、奥から、まぁまぁ、と言う少し弾むような声と
ともに母親が現れた

「はじめまして、吉澤ひとみです」
ひとみが頭を下げながら言い顔を上げると、母親は何かを懐かしむように
目を細め微笑んだ

「・・・随分、お・・・大きな・・・素敵なお嬢さんね?美人さんだわ」

梨華の母親は何かを誤魔化すように言い、上がってちょうだい、と
親しげに笑った

「お邪魔します」

母親は梨華に似ていた 梨華が優しく穏やかな年月を重ねたような
その風貌に、ひとみは好感を持った そして小柄な女性だった
けれど、自分の背丈はそれほど高くもないはずだ
独特の感覚の人なのかも知れないと思いながら、ひとみは家へと上がった

297約束:2003/12/17(水) 11:46
梨華は、ひとみが特別疑問も持った様子もなく廊下を歩いていく姿に
胸を撫で下ろした

・・・お母さんたら浮かれすぎだよぉ

さっきも大きくなったわねぇ〜などと言われたら、フォローのしようがないと
焦ってしまった

・・・ひとみちゃんにとっては初対面のおばさんなのに、慣れなれしいと思われちゃったかな?

母親にとってみれば、あの小さかったひーちゃんと重ねているのだから
はしゃぐ気持ちもわからないではない、もともと子供のような所がある人だ
父親や、あさ美は梨華が母親にそっくりだと言うけれど、そのたびに心外だと
梨華は思っている

玄関を入ると長い廊下を挟むように、各部屋や洗面所などへのドアがあり
つきあたりがリビングダイニングとして広がっている
まるで、新聞の折り込み広告みたいにありふれた家

ダイニングテーブルの椅子へと座らせられたひとみに、カウンターキッチン越しに
飲み物は何がいいかしらぁ?などと母親がいつもより、弾む声をかけている
梨華は、少し・・・いや、かなり心配だと思った

298約束:2003/12/17(水) 12:08
ダイニングテーブルでお茶を囲むと、母親はひとみにしゃべり続けた
けして人を不快にさせない話し方だとはいえ、テンションが上がりまくりの
その様子に、向かい合う姉妹はテ−ブル越しにお互いため息をついた

「ひとみちゃんっていいわぁ〜梨華ちゃんも、あさ美ちゃんも可愛いけど
 貴女みたいな娘も欲しいわ・・・うちの子にならない?」

とんでもない事を言い出す母親に、ひとみは柔らかく微笑み
寛いだ、温かみのある声で答えた
「嬉しいな・・・ありがとうございます」

母親は顔中に笑みを広げながら、立ち上がった
「今日はお母さん、ひとみちゃんの為に頑張っちゃうわ」

鼻歌でも歌いそうな様子でキッチンへと消える母親を、ひとみは微笑んだまま
見送っていた

・・・なんか、ひとみちゃんってジゴロとかなれそうだわ・・・素で

梨華は複雑な心境で、ひとみの見る人の心を溶かしそうな美しい微笑を
見ていた

299約束:2003/12/17(水) 12:27
今日はお手伝いはいいから、という母親の言葉に姉妹はリビングで
ひとみを囲み、あさ美がどこからか出してきたトランプに興じた

七並べも、ダウトも、ババ抜きさえ梨華は旗色が悪かった

「お姉ちゃん、顔に出すぎー!!!」
あさ美はお腹を抱えるようにして笑っている
「信号みたいにわかりやすい」
ひとみもまた、梨華の顔を覗きこむようにして笑う

・・・なによ、なによっあさ美ちゃんなんか普段わたしより、ぼや〜〜と
してるくせにっ!
ひとみちゃんも、ひとみちゃんだよ 少しは手加減・・・手加減はダメッ!

覗き込むひとみの顔を、キッと睨むと梨華は大声で言った
「もう一度っっっ!!!」

「そろそろご飯にしましょうねー」

結局、母親の、のんびりした声が聞こえるまで、梨華は数える程しか勝てなかった

300約束:2003/12/17(水) 13:18
ダイニングテーブルの上には、白く輝くような炊きたてのご飯と
彩りよく炊き合わせた野菜、艶やかに柔らかそうな煮魚、懐かしいような
優しい色をした茶碗蒸し、定番の味噌汁などが、暖かい湯気をたてている

それぞれの食べ物は、主張し合うことなく溶け合って、作り手の心がこもった
愛情を表しているみたいだった

「いただきます」
そろって口に出して言えば、それだけで温かな食卓に更に明るさが灯るようだ

ひとみが、味噌汁に手を伸ばし一口啜ると何かが胸にせまるような
深い声音で言った
「・・・美味しいです、とても」

母親は、まだ湯気の残るその先からただ微笑んでいた

和やかで楽しい食事が終わると、母親はひとみを真っ直ぐに見て言った
「ひとみちゃんは、食べ方がとても綺麗ね」
そして、にっこりと笑った

食器を下げると、今日は私の番だーと、あさ美が腕まくりをする
梨華は、写真、写真といいながら、こっちだよとひとみを手招きした

301約束:2003/12/17(水) 13:58
梨華は自分とあさ美の部屋のドアを開けながら言った
「狭いけど入って・・・うぅ〜んと、ベッドにでも座ってて」

開かれたドア、ぎりぎりに置かれた二段ベッドの下は梨華のものだ
ピンクで統一されたファブリックに、居心地悪そうにひとみは腰掛けた
ドアの正面にある大きな出窓の下に、小さな机が肩を並べるように二つ並んでいる
その一つの上に無造作に置かれていた、袋を取ると梨華はひとみの横に
自分も腰掛け、写真を出しながら笑った

「ひとみちゃん・・・正面向いてる写真がないんだよぉ」

ひとみは渡された写真をたいした興味もないように、パラパラと見ている
梨華のカメラには、いつの間に撮られたのか、ひとみと真希ばかりが
写っていた
ふと指を止め、ひとみは横から写真を見てる梨華の顔を見た
「これ・・・欲しい」

それは自由行動の時、蕨餅を食べた後、店の前で店員に撮ってもらったもので
照れたように僅かに顔を俯かせるひとみの腕に、顔中に笑顔を広げた梨華が
自分の腕を絡ませているものだ

「うんっ!他のも焼きまわしして一緒に渡すね」
「今、欲しい・・・それに他のはいらない」
「えぇ〜?ひとみちゃん、いっぱい写ってるのにぃ」
「・・・梨華にあげるよ」
「あげるって・・・わたしの写真だもんっ」
「写真代、浮いてよかったね」

梨華は、ひとみがひとみ自身の写っている写真を、まるで他人を見るように
まったく興味を示さないのに、ため息を付きたくなった
・・・ひとみちゃんって、こんなに綺麗なのに・・・

302約束:2003/12/17(水) 14:27
梨華はずっと気になっていた

何がそうさせるのかはわからないけれど、ひとみは時々誰よりも自分自身を
蔑むように自嘲的に笑ったりするのだ
こんなに美しく繊細な心と、それを体現するような人なのに・・・
他のこと全てに目の利くひとみは、自分のことだけは、まるでわかって
いないみたいだと梨華は思った
そして、その心が映し出す風景は真冬の誰もいない湖みたいに寂しく
唯一人春を待ち続けてる、そんなふうに感じられた
だから、梨華は言わずにはいられない・・・こんなにも、ずっと、ずっと
あなただけを見ているわたしがいるのだと言うことを

「ひとみちゃんは素敵だよ?わたしにないものをいっぱい、いっぱい持ってるんだから
 すっごく、すごーく格好いいんだから!」

そして、写真の束をひとみの手から取り上げ、胸に抱いて言った
「これぜ〜んぶ、わたしのっ!後で欲しいって言ったって
 もう、遅いんだから!」

梨華はイィーダッという顔をすると、ひとみの顔にその顔を近づけた
すると、どこかが痛むよな顔をしたひとみが、そっと腕を伸ばし梨華の
頭を抱え、聞き取れない程小さな声で言った
「・・・あげるよ、あたしの全部をあげる」

303約束:2003/12/17(水) 14:54
・・・だから、と息を継ぐようにひとみは言うと、抱えた梨華の頭を放し
冷えた指先を梨華の目尻に添え、何かを祈るように静かに言った

「・・・目を閉じて」

梨華は、ひとみの顔を、夢なのかも知れないと、どこか現実感を持てずに見ていた
それでも、ひとみが僅かに首を斜めにしながら、強い力を感じさせる目を
自分の目から外すことなく見つめたまま、その顔を近づけてくると自然に瞼は閉じられた

さらっ、と微かに唇に何かが触れた

掠めるような、一瞬、風が吹いただけのような短い空白

梨華は、気づくとひとみに強く抱きしめられていた
耳元で、梨華・・・梨華とうわ言のように自分の名前を繰り返す、ひとみの声が
あまりにも熱く感じられて、梨華は何故だか涙が零れそうになった

304Sa:2003/12/17(水) 15:02
更新終了です

JUNIORさん>
   お越し頂いてありがとうございます
   作者は喜んでおりますです
   優しいお言葉をありがとうございます

チャミさん>
   またお会い出来て嬉しいです
   そして、暖かいお言葉をありがとうございます
   なのに、ちゃっかり更新してたりします

本当はもう少し、更新したかったのですが、途中で悩んでしまって
無理でした(w
今週中に、後一回は更新しようと目論んでおります

30554:2003/12/17(水) 15:32
更新、お疲れ様です。
はぁ〜、毎回Saさんの表現力に脱帽しております。
みんな不器用はあるけれど、その心の中はとっても饒舌で、いろんな
感情を持っているところが何ともせつなくもあり、そして愛しく思えて
来ます。
セリフは少なくても、その分伝わって来るんですよねぇ。
(川o・-・)<完璧です!

石川家、イイなぁ〜
自分が石川家の子供になりたいですw

306名無し読者79:2003/12/17(水) 16:39
うわ〜更新お疲れ様です。
なんか×2、いいですね。私の好きなメンバーがいっぱい出ているのでこの小説は
最近いしよし以外にも後紺が好きでして…。
いや〜ごっちんも幸せになってもらいたいな…。

307管理人:2003/12/17(水) 16:47
Saさん。挨拶が遅れましたが…。
実は、私も毎回毎回更新を楽しみにしております。
素敵な作品をありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。m(_ _)m
もしよかったら、(0^〜^)ノ<メールくださーい。

308JUNIOR:2003/12/17(水) 18:21
やっぱし文章に引き込まれていく。
Saさん文章表現うますぎです。
更新頑張ってください。
あと、気長に行きましょう。
風邪ひかないでくださいね。

309チャミ:2003/12/17(水) 20:25
いや〜とても中途半端なレス、出来ません。
今しばらく、静かに見守ります。

310152:2003/12/18(木) 00:34
あ〜・・ドキドキしました。毎回、読ませてもらった後の
感動とか、この気持ちとかどうもうまく表せないのですが、
吸い込まれるようです。 毎回の更新本当にお疲れ様です。
(やっと 体調戻りまして・・やさしいレスをありがとう
ございました・・Sa様もお気を付け下さいね・・)

311名無し(0´〜`0):2003/12/18(木) 11:41
二人の心が変わっていく様子を
色んなエピソードを通して
すごくステキに描かれていて…
いつも更新楽しみにしています。

312約束:2003/12/19(金) 10:46

梨華もまた、震える声で・・・ひとみちゃん、と、その名を囁き、自分を包みこむ身体を
抱きしめ返そうと、身じろぎした
すると、ひとみの身体が恐れるように、ビクッと振え梨華を抱きしめていた腕を
不安定なガラスのオブジェから離れるように、そっと放した
そして、その顔を梨華に見せまいとするように俯き、とても小さい中に
悲鳴のような響きを感じさせる声で言った

「・・・怖がらないで・・・あたしから・・・逃げないで・・・」

梨華はその声を聞いた瞬間、ただ悲しくて、あまりの切なさに胸が塞がれて
息が止まってしまうかと思った

俯き何かに怯えて、肩から両手の先まで振わせ、膝で強く押さえつけ止めようとしてる
目の前のこの人の、いったいどこが怖いと言うのだろう?

313約束:2003/12/19(金) 11:11
梨華は、強張り微かに震える、ひとみの両手を取るとそっと自分の頬にあてた

「・・・見て?ひとみちゃん・・・わたしはここ・・・ここにいるよ?」

ひとみは顔をゆっくりと上げると、母親の言いつけを聞くどこか幼子のような
表情で頷いた
そして、梨華の両頬にあてられた自分の手に僅かに力を入れ、揺らめく瞳を
瞼で少しづつ覆うようにして、その顔を近づけてきた

・・・こ、こ、これは?!!!

さっきは、あまりにも突然すぎて、どきどきするヒマもなかった
けれど、これからキスされるとわかることは、とても心臓に悪いらしい
身体中の血液が、ひとみが触れている頬へと集まり、耳の奥でドラムを
叩かれているみたいに、ドクンドクンと頭の中では大きな音が響いている
おまけに、うまく息さえ出来なくて、目の前がかすみそうになってくる

梨華は、瞼に力を入れるとギュッと閉じた

なぜだか・・・清水の舞台が目の中に広がった

その時、ドアが軽くノックされた
「おねーちゃーんっデザートだってぇ〜」

314約束:2003/12/19(金) 11:41
二人の唇の距離は僅か1cm、そのまま固まってしまいそうになっている所に
あさ美の、のんきな声がまた聞こえた

「おね〜ちゃぁーん?」
「はぁ、はっいぃっ・・・いま行くよー」

あさ美の、パタパタとリビングへと戻る足音が聞こえると梨華の身体の
力が抜けた
ふぅーと息を吐きかけた梨華の唇に、一瞬、ひとみの唇が軽くあてられると
ひとみは両頬の手を放し、いつもの余裕とからかいの笑みを浮かべ言った

「・・・デザートだってさ」

梨華は、吐こうとしていた息を思い切り吸い込みむせた

315約束:2003/12/19(金) 12:02
ダイニングのテーブルで、ひとり赤い顔をする梨華は、ちょっと暑くない?
などと言いながら、手のひらでパタパタと扇いだ

母親が作った、甘くないパイにバニラアイスを添えたものと、紅茶を
囲みながら、みなそれぞれ修学旅行の写真を見ていた
その時、ひとみが紅茶のカップへ手を伸ばしながら言った

「梨華の小さい時のアルバムとかないの?見てみたいな」

ひとみが紅茶を啜る音が消えるまで、母親は手に写真を持ったまま
あさ美はフォークを口にくわえたまま、梨華はソーサーへとカップを
戻しかけたまま、それぞれ止まっていた

「えっえぇと、どこにしまったかしら?」と、母親が言えば
「お母さん、以外とズボラだからねー」と、あさ美が答え
「今度・・・今度探しておくね?」と、梨華は慌てた

ひとみに何も言わせまいとするように、残りの三人の、あはははは、という
どこか空々しい乾いた笑い声がダイニングに響いていた

316約束:2003/12/19(金) 12:28
その夜、ひとみは寝る支度を整えると、テーブルの上に置いておいた写真を
手に自分の部屋へと入った
机の上のコルクボードに、写真をピンで止めるとそこに映る梨華を、
指先でそっと撫でた
その指で自分の唇に触れると、今までより、離れていても梨華をすぐ近くに
感じられる気がした
そして今夜はぐっすりと眠れる気がしていた

・・・我ながら、単純すぎて笑えるよ
ひとみは小さく笑うと、明かりを落としベットに入ると目を閉じた


薄くたちこめる靄の中、二つの人影が見える
二人は両手の指を交互に絡ませ、手を繋ぎ合って、顔を近づけて行く

・・・もう、今日の夢かよ
どこか、覚めかけた意識の中で、ひとみがそう思いながら見ていると
二つの人影は、確かに自分と梨華だと思えるのに、どこかぼんやりしていて
はっきりとはしない
そしてなぜだか、二人は子供の姿だった
それでも、真剣な様子で唇を合わせると子供たちは言った

「ずっと二人で」
「いつまでも一緒に」

317約束:2003/12/19(金) 13:17
チチチチチッ・・・と小さな鳥の声が聞こえる

ひとみが薄く目を開くと、閉めきれてないカーテンの隙間から夜が明けつつ
あることがわかる

寝返りを打って机の方を見る
飾られた写真の、その表情は見えないけれど、頭の中には記憶されている梨華の笑顔

いま目覚める刹那、見た夢は・・・
まさに自分の願望そのものだと、ひとみは思った

・・・何故、子供の姿だったのかはわからないけれど

・・・ずっと二人で・・・いつも一緒に
そう、梨華に言える日が来るのだろうか?
そして同じ部屋で夜を越え、差し込む朝日の中、おはよう、と梨華の笑顔に
くちづけ出来たら・・・

想像され目の前に広がる幸福な朝の風景は、ひとみの心と目頭を熱くさせた

・・・人は幸せすぎても、泣きたくなるんだ
そんなことを思いながら、ひとみは瞬きを繰り返していた

318約束:2003/12/19(金) 14:11
次の日の放課後

梨華がひとみへと駆け寄ってくると、いつも通りのそっけない言い方で
ひとみは言った

「・・・昨日はご馳走様」

すると、上目使いで自分を見ていた梨華は微かに頬を色づかせ
俯くと、ううん、と小さな声で言いながら首を横に振った

そんな恥らうような表情を見ただけで、ひとみはここが学校だという事を忘れ
その顔を自分に向かせ、唇をまた近づけたくなる

・・・参ったな
ひとみは、自分がかなり冷静な人間だと思っていた いっそ、冷たいくらいに
一時の感情で行動を起こすなど、馬鹿げていると鼻先で笑っていた
なのに梨華に関しては、どうかしているとあきれるくらい、自分の感情は暴走しつづけて
コントロール出来る自信がない

・・・手がつけられない
確かに何よりも大切に想っている その反面、梨華の気持ちなどおかまいなしに
いますぐ、その全てを自らの手の内に、と、まるで重病人が特効薬を欲しがるように
求め続けている

一度、その柔らかく自分を受け止めてくれた唇の味を知ってしまうと
すでに走り出し、止まらない熱情を飼いならす術は、ひとみには
思いつきそうになかった

319約束:2003/12/19(金) 14:29
無言のまま歩き出し、少しすると梨華が口を開いた

「・・・お正月は、どうするの?」
「はぁ?」

まだ、二ヶ月あまりも先のことを突然言い出す梨華に、ひとみは呆れた

「お母さんがね?・・・お正月はおせち料理を食べるものだから
 もしひとりなら、うちにいらっしゃいって・・・
 なんなら、年越し蕎麦も一緒に食べて、二年越しのお付き合いは
 どうかしらぁ〜、なぁーんて言ってたから」

いつもと何も変わらずに微笑む梨華の顔を見ると、ひとみは居た堪れない
気がした
そして今の言葉に、昨日の人好きのする梨華の母親の顔が浮かんできた

「・・・梨華の家は温かいね」

ポツリと言った後、ひとみは急に思い出し言った

「・・・今日から、母親が週末まで戻ってくるんだ 従姉妹の結婚式でさ」

320約束:2003/12/19(金) 14:44
「えぇぇっ〜?!」
梨華は素っ頓狂な叫び声を上げると、ひとみの手をグイグイと引っ張って
先を急ぐように歩き出した

「早くっ!ひとみちゃん早く帰らなくちゃ!!!」
「・・・なんで?」
「もぉー!なんでじゃないでしょ? 久しぶりにおうちに帰ってくるんでしょう
 ・・・ならひとみちゃんが、ちゃんとお帰りなさいって言わないとダメだよ?」

梨華のいつもより大人びた笑顔に、ひとみは投げやりな言い方で答えた

「日曜までいるんだよ? 時間なんていくらでもあるよ
 ・・・それにさ、気詰まりなんだ あの人と二人で居ても・・・
 お互いにさ、何話していいかわかんないんだよ」

「話なんて、なんだっていいんじゃない?」
梨華は真新しい大きなタオルみたいに、ふわふわ笑いながら言った

321約束:2003/12/19(金) 15:06
「うぅーんとね? 必要なのは、話そうって気持ちだけだと思うの
 なんでもいいから、普段のひとみちゃんのことを伝えようって思って
 お話すれば、それだけでいいと思うんだー
 離れて暮らしているんだよ?・・・きっと口にしないだけで、すごく
 心配してると思う」

ひとみが何も言わないと、ひとみちゃんと一緒で不器用なんじゃない?と
言いながら、ふふっと笑った

「それにね?いつもうちのお母さんが言ってたの
 ものの食べ方に、その人の人柄が出るって・・・ひとみちゃんはすごくキレイだよね?
 ・・・それだけでも、ひとみちゃんのお母さんがひとみちゃんのこと大切に思って
 育ててくれたって気がするんだー」

・・・だから、と梨華は言葉を続けた

「いっぱいお話して見て?・・・いつでもいいや、じゃなくってね
 家族だって、きっと口に出さないと何もわからないと思うんだよね?」

二人の家の分かれ道まで来ると、梨華は言った

「送ってくれなくていいからね?
 それと、わたし今週いっぱい、ひとみちゃんとは一緒に帰らないから♪」

笑顔でそう言うと、踵を返してサッサと歩き出した

322約束:2003/12/19(金) 15:23
ひとみは一人、自分の家への道を歩きながら、別れ際の梨華の笑顔を
思い出していた
ずっと、梨華は壊れ物みたいに儚げで、自分より弱いと思ってた
けれど、今さっきの笑顔の中には、自分にない強さを感じた
梨華を思い浮かべる時、ひとみの瞼の裏には、優しげな笑顔が一番最初に浮かぶ
いつも笑顔でいること、人に優しく出来ること
それこそが、強さなのかもしれないと、ひとみは漠然と感じていた

玄関の前まで着て、試しにドアノブを回してみると、ガチャリと
小さな音がした
まだ陽も高いと言うのに、家の中からはひとみの好物の物ばかりの
匂いが溢れ出ていた

パタパタとスリッパの音がして、靴を脱いだひとみが顔を上げると
懐かしさを感じさせる笑顔で母親は言った

「お帰りなさい」と

323約束:2003/12/19(金) 15:44
それから毎日、ひとみは一人で真っ直ぐに家へと帰った
見かけによらず、意外と頑固な所がある梨華のことだ、自分が待っていたところで
一緒に帰ったりはしないだろう

ひとみは、ふと考えてみる
二人が小さな喧嘩をしたとして、梨華は自分が悪くなくても、ごめんね、と
仲直りしようとするだろう けれど、本気で怒らせた時には果たして自分には
その機嫌を直すことが出来るのだろうか、と
・・・やれやれ
ひとみはため息をつきながら、家に入った

母親と二人の家は、ひとみが思っていたよりもずっと心地良かった
梨華の進めるように、取り立てて何かを話したりはしなかったが
それでも、気がつくと、母親は一緒にテレビを見ていたり、ふと上げた視線の先にいて
笑いかけてきたりと、ずっとひとみの近くにその気配を漂わせていた

土曜日の夕飯が済むと母親は食器を持ち、立ち上がりながら口を開いた
「明日の式に出たら、そのまま帰るわ」

ひとみは自分も立ち上がると、母親の手から食器を取り、ポツリと言った
「・・・今日は、あたしがやるよ」

324約束:2003/12/19(金) 16:08
母親は目を細めながら微笑んだ

「・・・女の子はいいわね」

ひとみがクロスを手にテーブルを拭きだすと、母親は小さな声で更に言った
「ひとみ・・・貴女、随分変わったわ」

顔を上げると、母親はくすぐったそうな笑みを浮かべていた
「・・・ほんとはね?お母さん、ひとみを連れて行くつもりだったのよ
 娘だもの、離れたくなんかないじゃない?
 ・・・だけど、あの頃正直言うと貴女と、どう接していいかわからなくなってたの
 小さな頃から貴女は、なんでも良く出来て、聡いから、お母さんのことを思って
 遠慮してたのよね?いろんなことを・・・それに甘えちゃってたわ」

母親は寂しそうに笑った

「・・・可笑しいわね?親が子供に気を使わせるなんて・・・
 ひとみが無表情になって、お母さんと目を合わせてくれなくなった時
 どうしていいかわからなくて、ただ、どうしよう?どうしよう?って
 考えてたわ」

そんな時ね、と、今度は懐かしむ顔で話を続けた

「お父さんの転勤の話が出て、ひとみと今離れたらいけないって思ってたの
 ・・・でもね、お父さんが逆のことを言うのよ?
 人は皆、自分自身でしか乗り越えられないことがあるって
 それが子供なら、親は心配してることしか出来ないんだって
 それで、ひとみが望むなら少し離れてみることも必要じゃないかってね」

325約束:2003/12/19(金) 16:46
・・・嫌になっちゃうわね、母親は小さな声で言うと俯いた

「全然家にいない、お父さんになんてわかるものですかって思ったわ
 ・・・けれど、お父さんは静かに言うの
 呼ぶことはいつでも出来る、まずはひとみの望むようにさせて
 それからでもいいだろうって
 それが信じるってことだろうって
 その時はお父さんの言う事、はっきりいって、あんまりわかってなかったのよ
 ・・・でも、ひとみと離れて暮らしてみて、始めてわかったの
 お母さん、いつでも自分の気持ちでいっぱいいっぱいだったってね」

そして、顔を上げながら大きく息を吐いた

「ごめんね、ひとみ・・・お母さん、母親だってことだけで、貴女をわかってるって
 勘違いしてた 貴女の気持ちを聞くこともしないで
 ・・・貴女は、賢すぎるから心配よ いつでも人の気持ちの先回りばかりして 
 なにもかもを自分で一人で抱え込むんじゃないかって 
 たまには誰かに甘えなさい それがお母さんなら嬉しいけれど
 他の誰かを見つけたのなら・・・それでいいから」

母親は寂しそうに、けれどもどこか安心しているように微笑んだ
ひとみは何も言葉が浮かばず、ただ、その顔を見て頷くと言った

「・・・わかった」

母親も頷き返すと、昔から変わらない母親らしい笑顔を浮かべ立ち上がった
「さぁーてと、荷物の整理してくるわ」

326約束:2003/12/19(金) 17:05
ひとみはキッチンに行き、蛇口を捻ると勢いよく流れ出る水に食器を置いた
スポンジに液体洗剤をつけると、機械的に食器を洗い出した

母親は、当たり前だけど、ひとみが生まれた時から母親として自分の目の前にいた
一人の人間だとか、大人だとか言う前に母親として
けれど、親と言えどその前に一人の人間なのだ
子供がいるからといって、いきなり完璧になどなれはしないだろう
それよりも、年若く自分以外の三人もの命を守り、慈しむことは
ひとみが思う以上に、母親の時間とその思いを縛り続けたに違いない

当然のように、当たり前の顔をして、日々行われる数々のことは
けして当たり前では無いのだ そこには、自分の時間と思いを与え続けている
誰かが確かにいるのだ

けれど、空気のようにそこにあって当たり前の事柄に人は中々気づきはしない
だからこそ、言葉があるのだ・・・何かを伝える為に

327約束:2003/12/19(金) 17:18
・・・ならば、あたしも伝えていこう

考えて見れば自分の想いを口にすることなく、行動で示してしまった
梨華は受け入れてくれたけれど、内心はどう思ったことだろう?
それでも、ここにいると、教えてくれた

・・・ならば、あたしも口に出し伝えて行こう

自分の気持ちを伝えるなど、得意とは言えないけれど
少しづつ、少しづつ時間をかけて、かけがいのない愛しい人に伝え続けよう
あなたがここにいてくれることが、ただ嬉しいと
あなたを心から・・・愛していると

328Sa:2003/12/19(金) 17:52
更新終了です

ここで皆様にお伝えしたいことが・・・
しばらくの間、長めの冬休みを頂きたいと思います
楽しみだと言って下さる方には大変申し訳ないのですが
この後の話は、場面が変わってもある程度続けてお読み頂きたいので
来週からの自分では、更新し続けるのは不可能だと判断しました
年明けに改めて、書かせて頂きたいと思っております
申し訳ありませんが、よろしくお願い致します

54さん>
 まいどっ♪
 そーですねぇ〜無口な人程、心の中じゃって言いますよね?
 石川家・・・子沢山で食費が大変そうです(w

名無し読者79さん>
 まいどっ♪
 実は作者は、ごとーさんが結構好きです(キャッ)
 ボヘラァ~としたとこと、キリリとしたとこの差がたまらないのです

管理人さん>
 はじめまして!大変お世話になっておりますですっ(ペコリ)
 こちらの初心者大歓迎の文字がなかったら、作者は書くことがなかったと
 確信しております
 上記の手前勝手な理由により、しばらくパソから離れようと思って
 おりますので、年明けに改めてメールさせて頂きますね?
 勝手言って申し訳ありませんが、どうぞ、お許し下さいませ

JUNIORさん>
 まいどっ♪
 勿体無いほどのお褒めの言葉、光栄でございます
 そして、しばらくの間、気長に待って頂けるとうれすぃ〜です

チャミさん>
 まいどっ♪
 見守って下さるのはとても心強いですが、気が向かれた時は
 レスを頂けると、パワ〜倍増ですっ!作者のエネルギーの素ですので(w

152さん>
 まいどっ♪
 いつも心のこもったレスをありがとうございます
 体調、戻られたみたいで良かったです

311さん>
 いらっしゃいまっせ〜♪
 楽しみにして頂いてるとは、嬉しい限りです
 これからもがんがって参りますね

明日から寒くなるそうです
皆様、かぜなど引かれませんよう、少し早いですが、よいクリスマスとよいお正月を
お迎え下さいませ(ペコリ)
そして、新年にはまた覗きにきて下さると嬉しいです

329JUNIOR:2003/12/19(金) 18:26
吉の心が決まりつつある。
なので、行動がかなり気になる。
年明け一番に見る小説は
Saさんの約束。
この作品に絶対します。
頑張ってください。

330チャミ:2003/12/19(金) 21:15
いやいや、私ごときのつたない表現力では何とレスして良いのやら見当も付きません。
只々感服です。
この作品に巡り会えて、今年がより一層充実した物に感じられました。
どうかお体にお気をつけられ、良いお年をお迎えください。
それでは又、新年にお目にかかれるのを楽しみにしています。

331名無し(0´〜`0):2003/12/19(金) 21:19
更新、お疲れ様です。
う〜ん、何か雲の隙間から青空が見えてきたような、すごく温かさを
感じています。
何かこの作品からいろんなもの分けて貰ったような気がしてます、今。
こんなに引き込まれてしまう小説を読めて、本当に幸せです。

ごゆっくりと休養なさって下さい。
また来年お会い出来ること、まったりと楽しみにしています。

332152:2003/12/21(日) 01:45
更新、お疲れ様です。皆さんと同じく、Sa様の、この小説に
出会えて本当に嬉しく思ってます。 
 ゆっくり休養をとられて、素敵なクリスマス、そして 新年を
お迎え下さい。来年楽しみに・楽しみに、待ってます。
いしよしは永遠だ〜

333名無し読者79:2003/12/21(日) 09:22
毎回覗くと更新されていた小説。
更新お疲れ様です。ゆっくり休んでください。年明け新たなよっすぃーと梨華ちゃんに
出会えることを信じて待ってます。
よっすぃーの思いが梨華ちゃんに伝わるといいな…。

334サー:2004/01/05(月) 12:08

皆様、明けまして、おめでとうございます 
大変お待たせいたしました m(_ _)m
今年も精一杯がんがって参りますので、よろしくお願い致しますっっっ!!

まずはご挨拶から〜♪

JUNIORさん>
  新年、五日も過ぎてしまいました〜本当に申し訳ありませんっ
  今年も楽しみにして頂けるといいのですが・・・(ビクビク)

チャミさん>
  いつもながら、作者ごときにもったいないお言葉ありがとうございます
  この先の展開が気に入って頂けるか、かなりビクビクで御座いますぅ

331さん>
  作者こそ、そのようなお言葉を頂けて、本当に本当に幸せ者ですっ
  書くこと喜びを教えて頂いて、ありがとうございます

152さん>
  この話を書き始めた頃から、変わらず応援して下さって本当に嬉しいです
  いつもありがとうアンドこれからもよろしくです

名無し読者79さん>
  新たまったには新たまった気もしますが、方向性が・・・
  けれど、読み続けて頂けるよう精進して参りますです

335サー:2004/01/05(月) 12:08
月曜日

ホームルームが終わると、ひとみは鞄を脇に抱え、教室を後にして
階段をゆっくりと上がった
梨華の教室の前までくると、扉は開け放たれて飛び交う声が聞こえる
ひとみは、覗き込むように教室中をグルリと見回した
けれどそこには、あるはずの梨華の姿は何処にもなかった

・・・行き違いってことはないよね

下駄箱へと続く、階段を上ってきた自分の姿をぼんやり思い出してみる
ふと視線を感じ、それに目線を合わせると相手は真希だった
真希は何か言いたそうな、迷いのある表情を浮かべながら、ひとみへと近づいてきた

「ちょっと」

チラッとひとみの顔を見て言うと、顎で廊下の反対側の窓枠を示し
そこに自分の背中を押しあてるように立つと、ひとみの顔を見た

336約束:2004/01/05(月) 12:10

「・・・聞いてないの?」
真希は自分の足元へと目線を移しながら、苛立たしげな声を出した

「なにを?」
ひとみは首を僅かに傾けるようにして答えた

真希はいくぶん青白く見える顔で、唇をきつく結び、大きく息を吸い込んだ後
感情を押し殺すような無機質な声を出した

「・・・梨華ちゃん・・・入院してる」

空気の流れが止まった
ざわめく生徒達の声も、行き交う上履きの足音も、誰かを呼ぶ大きな声の
校内放送さえも届かない、置き去りにされ、忘れさられたみたいな場所
息をすることさえ忘れた口元が、震える小さな声を導き出す気配が伝わるほど
すべての流れが止まったところに、二人はいた

「・・・なんで?」

ひとみの口から小さな声が零れ落ちると、それが合図だったように
悲鳴のような声音の言葉が次々と出てきた

「ねえっなんでっ?!」
「いつ?いつからっ?!!」
「どこよ?病院はどこなのよっー!!!」

337約束:2004/01/05(月) 12:11
真希は、自分の両肩を強い力で揺するひとみを見つめ、ゆっくりと呟いた
「ごとーの口からは言えないよ・・・」

ひとみは真希の言葉に、つかんでいた腕の力を抜き、ダラリと両手を下げた
そして、憎しみさえ感じられる強い想いを込めた目で真希を睨み、ギリッと唇を噛んだ

僅かな沈黙の後、ひとみは真希の顔から視線を外すと踵を返し、歩き出そうとした
その背中に真希は言った

「・・・ごとーだって、梨華ちゃんに直接聞いた訳じゃないんだ・・・」

立ち止まりながら、振り向こうとはしないひとみの後ろ姿に、真希は言葉を重ねた
「あさ美ちゃんに聞きなよ・・・」

何も答えないで歩き出す、ひとみの背中を見送りながら、真希はあさ美の顔を思い浮かべてた
自分に話してくれた顔・・・いつもの愛嬌がある笑顔を無理に捻じ曲げたような顔
きっと、まったく同じ表情をするんだろうな・・・真希は、ぼんやりとそう思った

338約束:2004/01/05(月) 12:12
ひとみは、梨華の住むマンションに着くと、エントランスを抜け、エレベーターに乗り
8Fのボタンを押した
エレベーターの上昇する気流に合わせて、込み上げてくる感情をひとみは無視した

・・・今は、何も考えない

ギュッと目を閉じ、自分の身体から飛び出しそうな色んなモノを閉じ込めた

ついこの間、明るい笑顔の梨華といつものように並び、招かれたドアの横にある
インターフォンへと、手を伸ばし押した
乾いた音が、無人を感じさせる室内にただ響いて、消えた

ひとみは、ドアに背中を預けズルズルと滑り落ちるように腰を下ろした

廊下を挟んだ反対側の高くもない柵の上には、広々と見える穏やかな秋空に
白い太陽が、この間と同じ様に燃えていた

どれくらいそうしていたのかわからない
ひとみは、何かを考えることも、見ることも、時間を感じることさえ止めていた

その時、エレベーターのチンと止まる音がして、人が歩いてくる気配がした

「・・・よっすぃーさん」

あさ美は、驚いた風もなく小さな声で言った

339約束:2004/01/05(月) 12:13
ひとみが立ち上がり、ドアの前をあけると、その口を開く前に、あさ美は目線を合わせまいと
するように顔を下に向け、ドアに鍵をさし開けながらひとみに言った

「上がって下さい」

ひとみは、開きかけた口を閉じると頷いて、あさ美の後に続き玄関へと入った
あさ美は無言で廊下を進むと、続くひとみにダイニングの椅子に座るように進め
姉妹の部屋へと入ると、一冊のアルバムを手に戻ってきた

ひとみの向かい側の椅子に浅く腰掛け、アルバムをテーブルの上に乗せ
ひとみの方へと押しながら言った

「見て下さい」

・・・なんでこんな時に?・・・そんなことより・・・

ひとみは訳がわからず、動揺の色を目に浮かべ、あさ美の顔を見ると口を開きかけた
すると、あさ美は静かだけれど、有無を言わせない固い口調でもう一度繰り返した

「これを見て下さい」

340約束:2004/01/05(月) 12:13
ひとみは、あさ美に気圧されるように、ひとつ頷くとアルバムに手を伸ばしページを開いた

そのアルバムは、ゴチャゴチャと色んな写真が混ざり合っていた
忘れた頃にやってきて、入るべき所が見つからない写真たち、そんな感じだった
ただ、現在から過去へと時計の針は逆さに進んでいるようだった

今とあまり変わらない梨華の笑顔、その後は、たぶん中学生らしいすました顔
目の前に広がり続ける、色んな表情の梨華を楽しんでいる自分と
こんな時に、なにやってるんだ、と舌打ちしている自分
ひとみの胸の中で複雑に感情の糸が絡まりあう

それでも、与えられた仕事を黙ってこなす勤勉な勤め人のように
ひとみの指先はアルバムを捲り続けた
やがて、小学校の低学年くらいのあどけない小さな少女の梨華が現れると
ひとみの心臓は早鐘のように鳴り出した

・・・速く、速く、速く

なにかに急かせれるように、ひとみは、震えだした指先でページを捲った

341約束:2004/01/05(月) 12:14
唐突に、そこに在るべきでない写真が、当然の顔をしてアルバムに収まっていた

・・・なんで・・・あたしがいるの?

おそらく小学校前の自分が、どこか誇らしげに笑っている
そして・・・その横で嬉しそうに顔中をピカピカに輝かせた笑顔は・・・


「・・・もも・・・」


ひとみの口から、息を繋ぐように自然に言葉が零れて落ちた

「思い出してもらえたんですね?」

あさ美の声が、宙を舞う空気みたいにひとみの耳元に漂ってきた

ひとみはそれには、答えることが出来なかった
降り続けた雨で、容量を遥かに超えたダムの水が止まることを知らない勢いで
いま、全ての防波堤を突き破り、目的地の大海原に、流され、運ばれて沈んでいった
深く深く眠り続けた想い出が、いま目覚め溢れ出す懐かしい場所へと

342Sa:2004/01/05(月) 12:30
更新終了です

皆様、申し訳ありませんっっっ
正月ボケして、名前を「サー」で上げてしまいました
実は、こちらの短編に書かせて頂いた「サー」は作者なのです
けれど、お休みを・・・とか言ったばかりで、お恥ずかしくて
名前を変えてしまいまして、なのでカムアウトする気は無かったのです
なのに・・・ボケてて、上げた後に気づきました
本当に申し訳ありませんでした m(_ _)m
こんなアフォな作者ですが、今週は毎日こちらの更新をしたいと思っておりますので
よろしければ、お付き合いくださいませ

343名無し読者79:2004/01/05(月) 17:37
更新お疲れ様です。
なんだか展開がかなり急変しそうな感じですね。
幼い頃二人に何があったのか…気になります。
今週は毎日更新だそうで、楽しみに待ってます!!

3444期をどうする気じゃ、ぼけ!とつぶやいてみる、ちゃみ:2004/01/05(月) 18:52
作者様
あけおめ、ことよろです。
私ごときの貧困な妄想力ではどんな展開になるのか想像もつきませんが
全てお任せしてついて行きます。
毎日更新なんて嬉しすぎ、たまりません。

345JUNIOR:2004/01/05(月) 22:06
Saさん。
もちろん♪今年も楽しみにさせていただきますよ。
329で言った通り年明け1番に見た作品はあなた様のものです。
あと、短編の時のサーさんがSaさんだという事は
なんとなくわかっていました。
今週毎日更新は嬉しい限りです。
最後になりましたが、あけましておめでとうございます。
そして、ことしもよろしくです。

346152:2004/01/06(火) 00:35
Sa様 あけましておめでとうございます。
再開・・(再会・って書きたいぐらいです・・)嬉しいです♪
こちらでSa様の小説を読めることを元気の素に頑張ろう〜
と思ってます。この先の展開にドキドキ・・です。

347約束:2004/01/06(火) 10:12

・・・それは昔、まだ小学校に上がる前

ひとみは近所の公園で陽が落ちるまで毎日遊んでた
まわりには、たくさんの遊び友達
ひとみが考え出す新しい遊びに、みんなすぐに夢中になる

「ひーちゃんっ」「ひーちゃん!」

親しみをこめ、みんなが笑顔で呼ぶ名前
大好きな自分の名前

ある日気がつくと、少し離れた場所から、同じ年くらいの女の子がこっちを見てた
眉毛を下げて、ジィ〜〜〜と見てる

知らない子だ・・・ひとみは、一回見た顔は忘れたりしなかったからよくわかる
桃色のワンピースを着た、お人形みたいに可愛らしい子だった

・・・ともだちになりたいなー・・・ひとみは近づいて行って声をかけてみた

「ねー!いっしょにあそぼうよー」

その子は、ひとみがそばに行くとびっくりしたみたいに、目をまん丸にして
逃げるみたいに走って行った

348約束:2004/01/06(火) 10:12

それから、その子は毎日公園に来た そして、毎日、桃色の服を着てた
その子はひとみと目が合うと最初は逃げてばかりいた

・・・はずかしいのかな?

ひとみは、わざと見ないようにした
何日かして、その子が逃げなくなると、ひとみはその子を見てにっこりと笑ってみた
そしたら、その子も恥ずかしそうに笑ってくれた

・・・きらきら、きらきら・・・ピカピカの笑顔

ひとみは、すごい宝物を見つけたみたいにドキドキした
そして、そぉーと、そぉーと、その子の近くに行った

近所の家に生まれた子猫を思い出しながら、びっくりさせたり、こわがらせたらいけない

その子は逃げないで待っていた、そして自分より少し大きいひとみを見上げた

349約束:2004/01/06(火) 10:13
「なまえなんていうの?」

ひとみが聞くと、足元を見て、ももいろのジャンバースカートの裾を触りながらモジモジしてる 
ひとみは考えた

・・・そうだ、なまえをつけてあげよう!こねこたちにつけてあげたみたいに
 しろいこはしろ、くろいこはくろ・・・いろんないろのこはみけ
 このこは・・・

「きめたっ!きょうから、ももってよぶっ!!!」

びっくりしたように、目を真ん丸にしてパチパチするももに、ひとみは言った

「いっつも、ももいろのふくきてるよねー」

そしてひとみは、照れくさそうに笑った

「ずっと、ずっと、ともだちになりたかったんだー」

ももは、笑った ひとみを見てニコニコ、ニコニコお日様みたいに
そして、自分の名前を言おうとしたひとみに言った

「しってるよぉ、ひぃちゃんっ!」

350約束:2004/01/06(火) 10:13
ももがひとみを呼ぶ声は、他の子と違う

「ひぃちゃんっ」

お砂糖で出来た綿菓子みたいに、ふわふわしててなんだかくすぐったい
だから、ひとみは笑った くすぐったくて笑った

やんちゃなひとみが男の子と駆けずり回り、転んで膝から血を流すと、ももは泣いた

両手を目にあてて、それでもポロポロこぼれ落ちる涙
透明なドロップみたいな・・・ももがおとす涙

「いたいよぉ〜いたいよぉ〜ひぃちゃんがいたいよぉ〜」

ひとみもなんだか泣きたくなった
転んだケガはちっとも痛くなんかなかったけど
ももが泣くと、胸が痛くて、とっても痛くて、気がつくと
ひとみも一緒に、わんわん、泣いていた

351約束:2004/01/06(火) 10:15
その頃、ひとみはいつも笑ってばかりいた

ももがとなりにいるから、ももが自分を呼ぶから
そんな、ひとみの笑顔を見て今度はももが笑う
そしてももの笑顔を見ると、またひとみも笑う

だからふたりは笑ってばかりいた ふたりでいると、身体の中に
お日様がいるみたいに、いつでもぽかぽか温かかった
自然に繋がれた小さな手と手 走り出す足 風と遊ぶ柔らかい髪
笑ったまま、みつめ合う目と目

ふたりでいれば何もいらなかった 


だって、あしたも、またあえるから
だって、ふたりは、ひとつなんだから


・・・ずっと、続くと思ってた・・・明日も明後日も、その先もずっとずっと
だけど、別れの日は突然やってきた

だから、ふたりは約束したんだ

ももが引っ越す日、泣きべそをかきながら、ももは言った
「ぜったい、ぜったい、かえってくるからねっ」

ひとみは、ぐっと涙を我慢して無理矢理笑って見せた
「かならず、かならず、むかえにいくからねー」

そして手を振った ももが乗ったタクシーが見えなくなっても
いつまでも、いつまでも手を振っていた

352Sa:2004/01/06(火) 10:56
チョイ短いですけど、本日分更新終了でございマ〜ス

名無し読者79さん>
  まいどっ♪
  あは・・・急降下しちゃってますねぇ〜
  今まで小出しにしてた部分と、上手くハナシが繋がっていけば
  いいんですケド・・・(O.O;)(oo;)<ドキドキ

ちゃみさん>
  まいどっ♪
  作者はきのーまでパソ離れしてたので、知ったばかりだったのです
  信じられませんっ゚・(ノД`)・゚・<ののた〜んっあいぼ〜んっ
  この二人を絡ませたハナシも、いつか書いてみたかったのに
  と、呟いてみる

JUNIORさん>
  まいどっ♪
  貴方様というお方は・・・
  そこまで言って頂いて、作者には何もお返しするものが
  ありませんが、ひたすらがんがって参りますね
  (ところで、何でお分かりに?書き方かえたつもりだったんですけど
   文章のクセですかね (*/▽\*)<イヤァ〜ン)

152さん>
  まいどっ♪
  作者も再会嬉しいですよ〜 (*/▽\*)<キャッ!
  これからも152さんのビタミン剤の一粒にでもなれれば
  本望でございますともっ

353ちゃみ:2004/01/06(火) 12:42
何故か4期には、深ーい深ーい絆を感じるのは私だけ?
一層の事4期だけでユニットを組んでくれ!
と、作品に関係の無いレスでスマソ。
4等身(たぶん?)のよちこと梨華ちゃんに萌えです。

354JUNIOR:2004/01/06(火) 22:11
う〜ん。
やっぱりいいですねぇ。
Saさんの文章は。
短編の時なんとなくわかっちゃったんですよね。
なんかSaさんらしいなって。
あと文章の癖はなかったですよ多分。

35554&331:2004/01/07(水) 03:39
更新お疲れ様です。
遅くなりましたが、新年もSaさんの文章が読めることがとても嬉しいです。

小さい頃のいしよしの二人がすごく眩しくて可愛くて、泣きそうになりました。
石を思い出した吉がこれからどうするのか・・
次回を楽しみにしています。

356約束:2004/01/07(水) 10:58
「お姉ちゃんは・・・」

唐突に聞こえてくるあさ美の声に、ひとみは我に返るとその顔を見た

「お姉ちゃんは、思い出さなくていいんだよって笑ってたけど
 私は・・・どうしても・・・どうしても、思い出して欲しかったんです」

あさ美の目は、言葉を探す様に宙を彷徨い、テーブルの上に組んだ震える指先へと落ちた

「・・・よくは覚えてないんですけど、お姉ちゃん・・・小学校の頃はよく話してました
 いつか、あの町に帰るんだって・・・一番大切な人と、大事な約束をしたからって
 うちはお父さんの仕事が、とにかく転勤が多くて・・・
 長くても三年、短い時は一年、同じ町に居られませんでした
 ・・・だけど、家族は一緒にいるものって、両親はいつも言ってました
 だから、私たちも転校を繰り返していて、いつからかお姉ちゃんは昔話をしなくなったから
 私もこの話をすっかり忘れていたんです・・・あの日までは・・・」

あさ美は、大きく息を吐きながら言葉を続けた

「・・・去年の冬というか、今年の一月でした
 お姉ちゃんの咳がずっとひどくて、近所の病院に行ったんです
 胸のレントゲンをとって、けど、おかしなものは映らないから、ただの風邪だと言われました
 でも、全然良くならなくて、何日か学校も休んで、結局大きな病院に行きました
 そこで、念の為にって検査をしたんです」

あさ美は顔色を無くし、表情も無くなり、声は聞き取り辛いほど小さくなっていった
そして、ひとみは瞬きするのも、息をすることさえ忘れたように、ただ、あさ美を見ていた

357約束:2004/01/07(水) 10:59
「家族で笑ってました なんとかは風邪引かないって言うのにねって
 お姉ちゃんも、今年の風邪はタチ悪いって笑ってた
 それでも、一週間くらいは学校も休んでたと思います
 ・・・そして、電話がかかってきたんです
 病院から・・・よくないデータが出ましたから、来て下さいって」

ひとみは両腕の上を寒気みたいなモノが、這い上がるのを感じていた
それは、背中も渡り、首筋にまで上り、ひとみの皮膚を痺れさせた

「・・・電話を取ったのが、お母さんで、お母さんは一人で病院に行きました
 そして、言われたんです
 検査の結果、思わしくない数値が出たこと、そして大学病院を紹介されました
 今はまだ、断定出来ないというお医者さんの言葉に縋るように、お母さんは適当な
 理由をつけて、渋るお姉ちゃんを病院につれて行きました
 一週間ほど入院して、退院してきたお姉ちゃんは、聞いてしまったんです
 お母さんが涙を堪えるように、お父さんと話しているすべてのことを」

ひとみは、確かにあさ美の顔が見えているのに、目の前のあさ美がどんな表情を
しているのかが、どうしても分からない、と思った

「そのことに、家族が気づいたのは二週間くらいたった後でした
 学校から電話がかかってきたんです
 ・・・梨華さんの入院は長引くんでしょうか?って
 お姉ちゃんは、毎朝いつもと同じように家を出てたけど、学校には行ってなかったんです
 ・・・そして、その日の夜
 両親がそのことを聞く前に、お姉ちゃんは言ったんです
 全部聞いてしまったということ、そして、ひとつだけ、聞いて欲しいわがままがある、と」

ひとみの皮膚の痺れは、今や全身に広がっていた
それは奇妙な感覚で、身体の中心は冷えきっているのに、外気にあたる皮膚だけが
熱を持ち、ピリピリと痺れ続けていた

「・・・見たこともないような真剣な顔で、この町で高校生活を過ごしたいって言ったんです
 言葉を無くす両親に、ずっと考えてたって、ずっとずっと色んなことを・・・
 そして、この先の自分に出来ることと、出来ないこと、絶対にしたいと思うことと
 ・・・しなくては後悔すること・・・静かに微笑んで、それでも、とても強い口調で
 やけになっている訳じゃないからって どう、生きていきたいのかを
 ちゃんと考えたんだって」

358約束:2004/01/07(水) 11:00
・・何が何だかわからない・・・頭の芯まで痺れてる
ひとみは、何か言おうとしたけれど、何を言えばいいのかが分からなかった

「・・・その時、私はまだお姉ちゃんの病気のこと知らなくて・・・
 お姉ちゃんは、私に知らせたくなかったみたいだけど、焦れる私にお父さんが
 教えてくれたんです・・・家族だからって みんなで考えようって
 ・・・お姉ちゃんの病気には、慢性のものと急性のものがあって、お姉ちゃんは慢性の方だと言うこと
 慢性期のうちは普通の生活が送れること その次に移行期があって、急性転化の可能性があること
 急性転化の阻止は出来なくて、もし、そうなった場合は・・・中央値で三年から五年の命だと・・・」

ひとみは自分が急に小さくなっていく気がしていた
そして、自分がどこを見ているのかが分からなくなった

ひとみは、天井がぐにゃりと揺れて落ちてくる気がし、次には、四方の壁がどんどん大きくなって
自分を潰そうとするように、迫ってくるのを感じていた

「・・・それでも、十年以上生きてる人もいるし、医学は日々進歩してるから治る可能性だってある
 家族で力を合わせ頑張って行こうって、お父さんは言ってました
 そして、その時のお姉ちゃんは慢性期の終わり頃だろうと診断されたんです
 ・・・その日の記憶は、実は、あんまりなくて・・・
 ただ、私も行く、お姉ちゃんの行く所に一緒に行くって、叫んでました
 結局、お父さんだけその時の転勤場所に残り、私達はこの町に帰ってきたんです」

359約束:2004/01/07(水) 11:01
いまから病院へ行くけど、一緒に行きますか?と言う、あさ美の言葉に
ひとみは首を横に振った

石川家を後にしてエントランスから、外へと出れば、ひとみの気持ちなど
世の中の営みには、何の影響もないのだと言う様に、日は照り続け、雲は流れていた
絶えられなくて俯けば、頭が重くて二度と顔が上げられない気がした

病院の場所は隣駅からバスに乗って行く、大きく有名な大学病院だった
今回の入院はそう長くはならないと、あさ美は言っていた
数値の状態が不安定なので、それが安定し、治療方法の再検討が行われたら
退院出来るということだった

今回の入院騒ぎで、不安に耐えられなくなったあさ美は自分が傍にいない時にも、梨華の病状を知りながら傍にいて
それでも、今まで通り接してくれる信用出来る人が欲しくて、真希を引き込んでしまったと後悔していた

・・・お姉ちゃんの為と言うより、自分の為なんです・・・

はじめて見る表情で言ったあさ美の声が、どこか遠くからまた聞こえてくる

360約束:2004/01/07(水) 11:01
・・・梨華の笑顔が見たい

優しげな柔らかいその表情を象る輪郭  あるがままのすべてを受け入れるような慈愛のイメージ
そして、その笑顔を惜しみなく自分へと向け続けた相手こそが、苦しみの中にひとりいたというのに

けたたましい車のクラクションで、ひとみの身体は条件反射のように動いた

けれど、ぼやけてしまった目の焦点はどうしたら合わせられるのか、よくわからなかった
そしてひとみは、今、自分がどんな顔をしているのかが、まったくわからなかった

・・・今日は・・・会いに行けそうにもない

ならばいっそ、ひとみは眠ってしまいたいと思った
小さく丸まり子供のように・・・そう、今日の全てを忘れ去る、安らかな眠りの中に、いますぐに

けれど・・・そんな眠りが訪れはしないこともすでに分かっているのだった

361Sa:2004/01/07(水) 11:22
 本日分、更新終了でございます(ペコリ)

ちゃみさん>
  まいどっ♪
  そんなコトないですよー
  作者も4期の仲睦まじいショットに和んでおりました
  4頭身・・・確かに(w
  
JUNIORさん>
  まいどっ♪
  イイですか? そう言って頂けてカナーリうれすぃ〜です
  そうですねぇ 書き方って自分の好みが出てしまうもの
  なのかも知れません

54&331さん>
  まいどっ♪
  54さんのお姿をお見かけしないと思っておりましたが
  331さんだったのですね?(w
  作者こそ、今年もお会い出来てハッピ〜でございます(ペコリ)

362ちゃみ:2004/01/07(水) 18:16
そうですか、そう来ましたか。
余り書くとネタばれになりそうなので
神様、仏様、アッラー様、今はただ祈るのみです。

363JUNIOR:2004/01/07(水) 21:44
更新お疲れ様です。
よっすぃ〜の心がSaさんの文章にから伝わってくる。
自分も梨華ちゃんがとても心配になってくる。
梨花ちゃんが助かるようにイエス様に祈ります。

364152:2004/01/08(木) 00:59
今日も更新、ありがとうございます。そして、お疲れ様です。
よっすぃの胸のうちを思うと、切ない・・
そして、私もつい 祈ってました。
Sa様の文章は本当に胸にグッときますね・・

365約束:2004/01/08(木) 14:11
・・・トントン

軽くドアをノックする音に、梨華は窓の外に向けていた視線を、ドアへと向けた
「・・・はい、どうぞ」

ドアが、ゆっくりと開けられると、思ってもいなかった顔が覗いた

「・・・久しぶり」

梨華は驚きで口を半開きにして、ひとみが室内に入り、ドアを後ろ手でパタンと閉める音を
呆然ときいていた

ひとみは梨華のパジャマ姿を見て、さらりと言った
「・・・やっぱり、その色なんだね・・・もも」

・・・も・・・も?・・・もも?!!

その言葉が、梨華の頭の中で意味を成すと、両目が大きく見開かれた

ひとみはベットサイドにくると、呆けたような表情をした、梨華の目を真っ直ぐに覗き込んだ
「・・・迎えにくるの、随分遅くなっちゃった・・・ごめん」

・・・思い出した・・・の?

そう、ひとみに聞きたいのに、梨華は問いかけるような揺れる眼差しを向け
口元を僅かに動かすことしか出来なかった
 
それでも、ひとみは真摯な色を浮かべた眼差しで頷いた
そして膝まずくと微笑みながら、梨華の手をそっと取り、その手に静かに唇を落とした
「・・・お帰り・・・お姫様」

366約束:2004/01/08(木) 14:12
あの日、いつもの公園で、ひとみは滑り台の上から走ってくるももの姿を見つけた
公園の敷地内に入ると、キョロキョロ辺りを見回すももに、ひとみは大きな声を出した

「もぉも〜〜〜!!!こっち、こっちぃー」

ひとみの声に、滑り台の上へと顔を上げたももは、眩しそうに目を細めた
ももに手を振った後、のぼってきなよ、と、ひとみは言ったけど、ももは首を横に振るだけだった

・・・どうしたのかなぁー?

足元の小石を蹴って、自分の方を見ようとしないももに、ひとみは首を傾げた
そして、滑り台から滑り降りると、ももの顔を覗きこんだ

「どした〜〜〜?」

ひとみは、そのまま固まってしまった
だって、ももが・・・ももが涙を零していたから

367約束:2004/01/08(木) 14:12
ももは泣き続けた  肩を震わせて、しゃくり上げている
ひとみは、小さく震える、ももの身体をぎゅっと抱きしめた
なにを言えばいいかわからないし、そうしていないと、ひとみまで泣いてしまいそうだったから

ひとしきり泣いた後、鼻を啜りながらももは顔を上げた

「・・・あのね?もものおうち、とおくにいくんだって・・・
 ひぃちゃんとあそべなくなっちゃうよぉ
 いやなのに、もも、そんなのいやなのに・・・」

見る間に、渇く間もなくももの目にはまた涙がたまってくる、泣き出す直前の顔を見ながら
ひとみも、鼻の奥がツーンと痛くなってきたけど、ももの頭を撫で続けた

・・・ないてなんかいられないんだ
・・・かんがえなくちゃ、かんがえなくちゃ 

ももと一緒にいれるためにどうしたらいいのかを

368約束:2004/01/08(木) 14:13
それから何日もの間、ひとみは一生懸命考えたけれど、いい考えは浮かばなかった
熱があるみたいにおでこが熱くって、ぼんやりとブランコに座っていた
そこに、ももが両手に何かを大事そうに抱えながら、走ってきた

ももは今日は泣いてなんかいなかった
自慢げに胸を反らせると、抱えていたものをひとみに見せた
それは、おもちゃの指輪を集めたみたいに、色とりどりの表紙がキレイな絵本だった

「ここにかいてあるのっ
 ずっといっしょにいるのには、けっこんすればいいんだよ?」

ももは、目をキラキラと輝かせた

「おうじさまと、おひめさまになって、けっこんするの」

そう弾む声を出すももが広げた、絵本のページをひとみも覗き込んだ

「みてっ!ひぃちゃんに、にてる」

ももの指差す先には、輝く髪に蒼い服を着て、剣を腰にさし、キレイな瞳で微笑む王子様がいた

ひとみは、ゴクッと唾を飲み込み頷いた

短めの髪も、青い服も、強そうに見えるところも、大きな目も、確かに自分に似てると思った

369約束:2004/01/08(木) 14:13
そして、王子様が繋いでいる手の先には、ももと同じの桃色の服を着た
肩まで届く髪のお姫様が、ももが自分を見る目とそっくり同じ目をして
王子様に微笑み返していた

「ももに・・・にてる」

ひとみがそう言って、お姫様を指差すと、ももは今までひとみが見たなかで
一番だと思うくらい可愛らしく笑った

「・・・だけど、どうしたらけっこんできるのかな?」

ひとみは難しい顔をして、首を捻りながら、ももを見た
ももは、まかせて、というようにニコニコしながら、最後のページを開いた

そこには、一際眩い服に身を包んだ二人が手と手をとりあいダンスを踊っていた

「きっと、おうじさまとおひめさまになって、だんすすればいいんだよ」

ももの指差す、微笑み合いダンスを踊る二人の横に書かれた文字を
ひとみは声に出して読んでみた

370約束:2004/01/08(木) 14:14
「こうして、おうじさまとおひめさまはけっこんしました
 そして、ずっとふたりは、いつまでもいっしょに、なかよくしあわせにくらしました」

なるほどと、ひとみは強く頷いた
けれど、たぶん、この王子様とお姫様のようにならなければ
それは叶えられないということが、幼いふたりにも、なんとなくわかった

だから、ふたりは約束したのだ
この王子様と、お姫様のように、いつかきっとなろうと
凛々しく、けれどその横にいるお姫様だけを瞳に映している王子様と
優しく微笑み返し、ピンクのドレスに身を包んでいる美しいお姫様に

いつかきっと、また、会える
その時は・・・ずっとふたりで、いつまでも一緒に

「やくそく」
「やくそく」

ひとみの言葉に、うやうやしく小指を差し出したももに、ひとみは首を横に振った

「ちがうよ?けっこんのやくそくはこうするんだ」

だって、ダンスをする前に王子様とお姫様がこうしていた
だから、これがきっと正しいんだ

ひとみはなぜだか、ドキドキと自分の体中から音が鳴るのを聞きながら
ももの両手をとると、自分の指を絡ませた
そして・・・そっと、ももの唇にキスをした

371約束:2004/01/08(木) 14:15
みつめ合う、ひとみと梨華の瞳の奥に、あの日の幼いふたりの面影が浮かんでは消えた

「ゴメンね・・・」梨華は、恥らうように微笑んだ

「ひとみちゃんも女の子なのに・・・王子様だなんて
 でもね?・・・ほんとうに、よく似て見えたの
 あの頃のわたしは、結婚って一番好きな人とするものだと思ってたから
 ・・・そう、信じてたから」

梨華は俯くと、小さく声に出して笑った そしてポツリと言葉を漏らした

「・・・初恋だったの」

・・・あのさ、と、ひとみの戸惑う声が聞こえ、梨華が顔を上げると、ひとみは
その眼差しが突き刺さり、痛いと思うくらいの真剣さで梨華をみつめていた

「・・・あたしも・・・というより、あたしは梨華しか好きになれないみたいなんだ」

そう言ったひとみは、照れくさそうに俯くと、小さく笑った
そして、次にその視線を梨華に向けた時、その目は悪戯に笑っていた

「・・・クリスマスには、ドレスをプレゼントするよ
 あんなの、ドコに売ってるか見当もつかないけど
 ・・・そしたらさ、踊ってくれる?・・・あたしと・・・」

梨華の胸には熱いモノが込み上げてきて、どんどんぼやけていく視界の先の
ひとみを黙ったままみつめ続けた

もしも、今この瞬間、タイムアウトですと、不吉な黒い影が現れ、自分に囁いたとしても
いまなら微笑んだままでいれる、梨華はそう強く思った

372約束:2004/01/08(木) 14:32
更新終了で、ゴザイマス

今回は変則的に、レスを頂いた方、ご一緒のお返事をさせて頂きます
どうしても作者のお伝えしたいことが同じになってしまいますので
どうぞ、お許し下さいませ(ペコリ)

ちゃみさん&JUNIORさん&152さん
  いつも、いつも、いっつもご愛読とレスを頂き、ホントにありがとう御座います
  皆様がかけて下さる、温かい励ましのお言葉が嬉しくてたまりません
  いまの作者が申し上げることが出来るのは、どうか、最後まで
  お付き合い下さい、と、それだけです
  どうぞ、よろしくお願いいたします

373Sa:2004/01/08(木) 14:35
↑また、やっちゃいました (゜O゜;
作者は、ど〜もココを忘れてしまうのです〜
お見苦しくて申し訳ありませんっっっ

374名無し(0´〜`0):2004/01/08(木) 14:59
初めてレスさせていただきます。
ずうっと、読ませていだだいておりました。
もう、いつもいつも感動しています。最高です。
いちばん好きな作品です。

ひとみと梨華が、いつまでもしあわせでいられますように。

375JUNIOR:2004/01/08(木) 21:35
涙が出てきそうです。(つ_:)
やっぱりSaさんの文章表現はすごく綺麗で
なんといっても素敵です。
不吉な黒い影なんて2人の愛の力でふっ飛ばしちゃってください。(笑)
Saさん。最後までついていきますよ。

37654:2004/01/08(木) 23:19
更新、お疲れ様でした。
(スイマセン、前回のレスではうっかり名乗り忘れまして・・)

何を言うべきか、今は適当な言葉が見つかりません。
すごいな、いしよしって。誰が何と言おうと。
ただただSaさんの文章に引き込まれ、そして涙するのみです。
自分も絶対に最後までお供させていただきますとも。

377152:2004/01/08(木) 23:58
更新お疲れ様です。毎日読めて嬉しいのですが、くれぐれも
無理はしないで下さいね。
王子様がお姫様を守ってくれますように・・と祈ってます。
Sa様、ず〜っとついていきますとも。

37874:2004/01/09(金) 00:47
更新おつかれさまです。

ああ、もうほんと胸が痛いです・・
この二人に終わりなんてきて欲しくないです。

379Sa:2004/01/09(金) 10:49
えぇと、皆様へのご挨拶から行きたいと思いマス(ペコリ)

374さん>
  初めまして〜♪ ようこそいらっしゃいませ!
  ずっと、読んで頂いていたそうでとても嬉しいです
  そして、サイコーの褒め言葉をありがとうございます

JUNIORさん
  まいどっ♪
  実は作者は、強がりと涙が零れ落ちる一歩手前・・・というのが
  好みなのです、なので登場人物達は、かなりそういう目に
  あわせれております(w

54さん>
  まいどっ♪
  いぇいぇ・・・ただ、54さんのお名前を見ると変わらず
  いらして頂けてるんだな、と安心するもので
  キビダンゴは御座いませんが、よろしいでしょうか?(w

152さん>
  まいどっ♪
  ハイ・・・そのように、頑張らさせて頂きたいと思っておりますです
  ここまできたからには、言ってしまいましょう
  ついてきて下さいと(w

74さん>
  まいどっ♪
  実は作者は・・・胸がいたい、という感覚も好みなもので(w
  登場人物達は・・・ってしつこいですね?
  あはっ★

380約束:2004/01/09(金) 10:51
次の日

二人は、病院の中庭にあるベンチに腰掛けていた
時折、はらりはらりと、木々から落ちる微かな葉の音が聞こえる気がする

「ここにも桜の木があるんだねー」
梨華は、深まる秋色の風にあらわれるように揺れる髪を押さえながら微笑んだ

「春が好き・・・冬生まれだからかな?」
「来年の春、花見に行こうよ
 ほら、夏祭りの時、通った公園、結構キレイだよ
 ・・・あたしが、花見弁当、作ってあげるよ」

ひとみの言葉に、梨華は可笑しそうに笑った

「わたし、ベーグルの玉子サンドだけ、なぁんて、お弁当イヤだなー」
「何、言ってるの?
 あたしがやろうとして、出来ないことがあると思う?
 料亭のみたいなやつ、作ってあげるよ」

梨華は今度は声に出して、あははは、と笑った
けれど、楽しみだね、とか、食べたいな、などど言ってはくれなかった
ふと、思いおこして見れば、梨華は再開以来、自分に先の約束めいたことを
一度として言ってはくれない
それは、ひとみの気持ちを塞がせた

風に運ばれた黄色い木の葉が、悪戯な妖精達が小さな傘を回す様に
クルクルと踊る

「・・・風が出てきたね、部屋に戻ろう」

そう言うと、ひとみは梨華から顔を背けるようにして立ち上がった

381約束:2004/01/09(金) 10:52
部屋に戻ると、ベッドに上がり、ベッドヘッドに背中をつけて座りながら
梨華はひとみの顔をしみじみと見た

「・・・わたしね?・・・思うんだー
 わたしの今まで生きてきたなかで、ひとみちゃんに出会えて好きになった
 それ以上に意味のあることなんてないって
 ここは病院で、ベッドの上だけど、こうしてひとみちゃんがいてくれるから
 わたしには、世界中で一番、贅沢な場所なの」

そう言って、微笑む梨華の顔は何かを成し遂げた後のような穏やかさで
その中の瞳にだけ、凛とした何かが見え隠れしていた

・・・それは、どういうイミなの?・・・もう、これ以上はあたしは必要ないってこと?
・・・梨華の胸の内は、もう決まっているとでも言うの?
・・・いつか、そう遠くない未来に、あたしを置いていくとでも言うつもり?

ひとみは、突然、身体を捩りたくなるような感情に襲われる
それは、目に見えない運命とか、神に対する怒りや、目の前の梨華の身体の心配を
通り越して、絶望的な行き場のない感覚だった

ひとみは、梨華に背中を向けながら、風にあたってくるよ、そう短く言って
病室のドアを開け、廊下へと出た
閉ざしきっていなかったドアが、悲鳴のような音をいつまでも廊下に響かせていた

382約束:2004/01/09(金) 10:52
真希は、梨華の病室の前で軽く深呼吸すると、にかっと笑った
そして、わざと乱暴にドアをノックしながら、勢いよく開けた

「あはっ来ちゃったよぉ〜ん♪」

ベッドの上から、少し驚いたように自分を見た梨華は泣いていた
涙は零していなかったけれど、真希には梨華の顔が泣いているようにしか見えなかった

真希はベッドに近づき、小首を傾げた
「あはっどしたー?薬がニガイのかい?それとも、ご飯が不味いのかなー?」

梨華は真希の言葉に、緊張していた目元を緩めた
そして、小さく短い息を吐くと、窓の外を見た

「・・・わたしって、わがままだよね
 だから、ひとみちゃんを悲しませてる・・・泣かせちゃったかもしれないよ」

梨華は弱弱しく揺れる瞳で、真希を見た

「・・・ごっちん、どうしよう?・・・わたし、どうしたらいいのかなぁ?」

真希が黙っていると、梨華は足元の布団をギュッと掴んで、搾り出すように声を出した

「・・・わかってたのに、わかってたから、近づいちゃいけないって、思ってたのに
 好きなのに、こんなに好きなのに・・・ひとみちゃんには、いつでも笑ってて欲しいの
 なのに、わたしが傍にいることで、悲しい顔しかさせて上げられないなら
 ・・・わたしが、わたしがいる意味なんてあるのかなぁ?」

梨華は両手で顔を覆うと、嗚咽を漏らした
真希は、ベッドに浅く腰掛けると、片腕で梨華の頭をグイッと引き寄せた

383約束:2004/01/09(金) 10:53
「ねー梨華ちゃん?ごとー前にも言ったよねぇー
 ごとー、おんなじコトしか言えないよ?
 みんなさ、毎日、誰かと係わっているんだ そしてそれは、プラスだと思うばっかりじゃなくってさ
 マイナスばっかだと思っちゃう時もあるかも知んない だけど、それでも、必ず何かは生まれて
 少しづつ変わって行くんだ ごとーにも、よくわかんないけど・・・それが
 それが・・・たぶん、生きて行くってことなんじゃないかな?
 ・・・だから、梨華ちゃんは、ぜんぜっん悪くなんてないんだ・・・そのままでいいんだよぉ
 ごとーは、そう思う」

真希の右腕の中で、梨華がコクコクと頷く
 
「そんでもねー梨華ちゃん・・・もしもまた泣きたくなったら、ごとーに電話しておいで?夜中でもいいよー
 何回でも、何回でも、同じハナシしちゃるから♪」

真希は腕に一度力を入れると、パッと放し、いつもと同じにへらへら笑って言った
「ところでさー、よっすぃーはどこよ?
 麗しのヒメをひとりで泣かすなんて、ナイト失格なんじゃ〜ん」

梨華は涙を止めた顔を、また、曇らせながら言った
「・・・屋上だと思うよ?風にあたりたいって言ってたから」

真希は、たいして興味もなさそうに鼻先で、ふぅうん、と答えた
そしてベットから降りると、あはっ♪と笑いながら言った

「ビョーニンは興奮しちゃイカンよぉー
 ごとーも今日は帰るから、梨華ちゃんもちぃっとは横になんな」

・・・でも、と唇を尖らす梨華に、真希は頭を軽く振ると、気障な口調で言った
「僕には、わかる・・・あなたの」

そこまで言いかけて、真希はブッと噴出すと、またへらへら笑った 
そして、また明日くるぜぃ、そう言って片手をヒラヒラと振ると、病室から出て行った

384約束:2004/01/09(金) 10:54
真希は廊下に出ると、辺りを見回し、突き当たりの非常階段の文字が書かれたドアを
開けると、上りはじめた

そして、階段の行き詰まりまで上ると、目の前の重そうな灰色のドアを押した
ギィィイと、大袈裟な音がして、開かれた屋上には、張り巡らされたロープの上に
沢山のタオルが、出来損ないの洗剤のコマーシャルみたいに、はためいていた
遮られ、白を反射し続ける視界に、真希は目を細めながら、二三歩前へ出ると辺りを見回した

・・・いないじゃん

そう思ってドアに向き直ると、その線上に膝を抱え蹲る様に丸まる、ひとみがいた
真希は、つかつかと近寄ると、膝に顔を埋めるその頭に声をかけた

「ねえー」

上げられたひとみの顔は、涙に濡れてはいなかったけれど、その顔色は
さっき見た梨華よりも、よっぽど病人のようだった

「何してんの?こんなトコで」

真希の言葉に、ひとみは空ろに声の主を見上げた

385約束:2004/01/09(金) 10:54
「・・・さぁ?」

そう言いながら、ひとみは微笑した

その表情は一歩間違えば、いつか映画かドラマで見た、半ば常軌を逸した人のものみたいだった

真希の胸は、焦り、苛立ち、恐怖、不安、そんなものをジューサーで回転させ出来上がった
ジョッキ一杯の不吉なジュースを飲まされたみたいに、重くなる

そして、そんなひとみを見ていると、なぜかしら胸がどきどきして
息をするのが苦しく感じられた
ひとみの表情は奇妙に歪んでいて、どんな感情も読み取ることが難しかった
真希はどんな顔をしたらいいのか分からず、それでもひとみの顔から目を外すことも出来ないでいた

真希が知っている、聡明で正直な輝きを持つひとみの眼差しは、投げやりな力のない物となり
ある意味では、大人以上にわきまえのある静かな、ひとみ独特の雰囲気は、奇妙な無力感に変わって見えた

真希の心は波立ち、そわそわと視線を漂わせた、そして風に弄られ乾いてしまった唇を微かに舐めた時

「・・・どうして・・」

全身の感覚を失ってるように、ひとみが口だけを動かした

386約束:2004/01/09(金) 10:55
「・・・どうしても・・・頭の中がまとまらないんだ・・・いくら考えても、頭が混乱して何を考えてるのかも
 わからなくなるし・・・あの日から・・・あさ美ちゃんに話を聞いた時から、まるでずっと同じ一日の中に
 いるみたいなんだ・・・それがどうすれば終わるのかが分からないんだ」

真希は耳の奥で、どくどくと何かが流れる音を聞いていた

「・・・いま、あたしは起きているのかな?・・・寝てんのかな?・・・ここに本当にいるのかな?」

真希がひとみの顔を見れば、縋るモノを探すようにその目の奥を小さく震わせた

「・・・梨華が、梨華がいなくなるなら・・・あたしも・・・」

真希は身体の底から、悲しみとも苛立ちともつかない感情がせりあがってくるのを感じていた

「・・・ふざけんな」

真希が自分のものと思えないくらいに頼りなく震える声で言うと、ひとみの首の脇がぎくりと動いた

そして真希は、胸の底が苦しくなってそして喉の奥に熱い塊が込み上げてくるのを、飲み込むように
言葉を吐き出した

「・・・ふざけんなよっっ・・・あんた、いつも自分のことばっかじゃんっ」

真希は自分がいかに無駄なことを言おうとしているのか、無力であるかということを
嫌と言うほど感じていた
けれど今、一度口をつぐんでしまえば、二度と何も話せない気がした

387約束:2004/01/09(金) 10:56
「・・・よっすぃーは甘えてばっかりだよ
 いつも自分のことしか見えていないんだっ・・・梨華ちゃんはさぁー
 いつも、いつも、いっつも自分のことなんか考えてないじゃんっ
 泣くのも、笑うのも、怒るのだって、目の前のよっすぃーをいつも見てるからだよ
 いま、いまだって、梨華ちゃんは、きっとよっすぃーを待ってる
 いつだってよっすぃーだけを待っているんだっ そんなことさえ、わかんないの?
 ・・・先のことなんて、ごとーにだってわかんないよ?
 だけどいま、いまこの瞬間は傍にいることが出来るのに
 なんでそれをしようとしないのっ???」

真希は急に声が鼻にかかり、視界がぼやけてくるのを感じながら、ひとみに背を向けると
灰色のドアに手をかけながら言った

「・・・もう・・・いいよ、よっすぃーが出来ないなら、ごとーがやる・・・」

ドアの重たい音がして、眩い秋の日差しが見えなくなると、真希は急に笑いだしたいような気がしてきた
灰色の天井を見上げ階段を下りながら、へんなの、へんなの、と口の中でただ繰り返していた
そして震えながら、息を吸い込むと嗚咽が漏れてきた

・・・嘘みたいだ・・・どう考えたって嘘みたい

真希が踊り場にしゃがみ込むと、制服で包まれた膝の上に一筋の涙が落ちる
けれど、それは心の奥底から溢れ出たというより、どこか他の場所から染み出てしまったようなものだった
自分もまた、あさ美の話を聞いたあの時から、ずっと胸の奥底に溜め込んできた涙が流れることはない気がした
いま、真希の頬を濡らすものは涙などではなく、違う場所から運ばれてきた雨粒のようなものだと
なぜなら、真希の胸の奥に溜まっているものは、ちっとも吐き出されてる気がしないのだから

388Sa:2004/01/09(金) 11:00
更新終了でございます

今週は毎日更新を・・・とか、デカイ口たたいていた作者ではございますが
どうやら、明日は出来そうにもありません

なので、次回は明後日にして頂きたいと思います
申し訳ありませんが、しばしお待ち下さいませ(ペコリ)

389JUNIOR:2004/01/09(金) 22:38
明後日でも明々後日でもいつまでも待ちます!
Saさんの作品が読めるのであればどんな事があろうと待ちます。
ごっちんの行動が少しずつエスカレートしてきている。
よっすぃ〜のこれからの行動に期待。しつつあります。

39054:2004/01/10(土) 17:10
更新、お疲れ様です。

う〜む、それぞれの気持ちが痛いほど伝わって来てます・・
せつないです。
んあ〜、ごっちん・・本当にイイ子だぁ〜(泣)最高の友達だなぁ・・
読むごとにどんどん引き込まれる、本当にまさにそれです。
川o・-・)<キビダンゴはなくても完璧です!

次回もまったりとお待ちしてます。どうぞごゆるりと・・

391約束:2004/01/11(日) 15:03
次の日

真希が病院へ着くと、透明なガラスの自動ドアの先のソファにひとみが
座っているのが見えた

かなりくたびれた、モスグリーンのビニール張りのソファに浅く腰掛け
軽く腕を曲げ、組んだ指先を膝上に落としたひとみは、自動ドアの開く音に
指先に落としていた目線を上げ、真希を見た
真希はひとみの前で足を止めると、自分の顔を見上げる顔を黙ったまま見下ろした

「・・・あのさ」

ひとみは、真希の顔から目線を外しながら言った
「・・・梨華のこと・・・好きなの?」

真希は笑いを滲ませた声で、茶化すように答えた
「あっは、あったりまえじゃん? 今更、何、言っちゃてんのー」

ひとみの睨む様な視線をかわすように、横を向きながら真希は肩を竦めた
「・・・ごとーとよっすぃーは、気が合うと思うよ?
 もしも、人を思う気持ちが目に見えるとしたら、たぶんさ、形は違うけど
 お互い向かってる先は同じだからね」

ひとみの問う様な視線に、行こうよ、と、真希は廊下の先を見た

392約束:2004/01/11(日) 15:04
ひとみが立ち上がって、肩を並べて歩きだすと真希は口を開いた

「・・・昔さ、天下がど〜のこ〜のって騒いでたおじさん達がいたじゃん
 んで、ホトトギスをどーこー言ってたっしょ?」

真希はひとみの方を見ずに、エレベーターが自分のいる階を淡く蛍のように知らせるボタンの
光を目で追いながら、横顔で笑った
チン、と、軽薄に感じるくらい軽快な音がすると真希は開かれた箱に乗り、背中を壁につけた
ひとみが、停止階と閉のボタンを押すと音もなく扉は閉ざされた
浮遊感を感じながら、白光の点滅を見つめて真希は言った

「・・・ごとーはね? コトリが楽しんで幸せな歌を歌うことが出来るなら、それがごとーの隣でなくてもさ
 全然かまわないんだよねー」

沈み込み、浮き上がる、足元の振動がなくなると、明るい音を鳴らして扉は両側へと開いた
先に廊下へと出て病室へと進むと、ドアの前で足を止め、真希は振り返った

「・・・だけどさ、コトリがもし、悲しい歌しか歌えない場所にいるんだとしたら
 ごとーは、迎えに行くつもりだから」

そう言うと真希はドアへと向き直り、大きくドアを開け放ちながら、派手な声を上げた
「じゃじゃじゃじゃ〜んっっ!!」

393約束:2004/01/11(日) 15:04
ベッドヘッドに背中を預けるようにして座っていた梨華が、驚いたように目を見開いて
真希とひとみの顔を交互に見た

真希はひとみの両肩に後ろから手を乗せ耳元で何か囁くと、子供が電車ごっこをするように
ひとみの身体をベッドの前へと押しながら、調子よく言った

「あはっ♪ 呼んだぁ〜?
 ハクション大魔王と、アクビちゃんだよぉ〜ん」

梨華の口は次第に開かれ、その後、ぶぶぶ、と、噴出した 梨華の微かに震える指が差す先には
頬を膨らませ目をまん丸にしたひとみと、耳を上へと引っ張りながら頬を窄める真希がいた

「ヤァダ〜〜もぉっ〜〜〜!!」

梨華は笑った その目を少し潤ませながら声を上げて笑い続けていた

ひとしきり笑った後、梨華は胸元で指を組むと弾む声で言った
「来週には、退院出来そうなのっ」

梨華の笑顔を見ていた二人は、顔を見合わせた
そして、お互いの顔が同時に笑顔へと変わってゆくのを見た

真希は笑顔を顔中に広げると、両手をバンザーイと上げ、言った
「ヤッタッー!!!」

ひとみは両手の指を組むと、その指先に力を入れ俯くと
噛締めるように言った
「・・・よかった」

394約束:2004/01/11(日) 15:05
梨華は瞳を細めて微笑んだまま、口元だけを子供の様に膨らませながら言った
「・・・だけど、今週末の学園祭には間に合わなかったよぉ〜
 すっごい楽しみにしてたのになぁ・・・クレープ」

「んぁ?クレープ?・・・そんなに食べたかったのー?」

真希の間延びした問いかけに、梨華はコクンと頷いた
ひとみは、俯いていた顔を上げ可笑しそうに笑いながら言った

「・・・いつでも行けるじゃん?
 って言うか、梨華が退院したら行こう・・・そのまま三人でさ」

三人は顔を見合わせて、それぞれ頷くと笑った

みんな口には出さないけれど思っていることは、たぶん一緒だった
今日出来ることは、今日してしまおう
それは、明日を諦めることではなくて、明日は今日の後にしかやってこないから
まずは、今日を精一杯生きるのだ
そうすれば、明日には今日には見えなかったり、出来なかったことも
見えたり、出来たりするだろう
そして、明後日にはまた違う何かが・・・そうやって、増え続けていくものなのかもしれないから

395約束:2004/01/11(日) 15:05
病院を出て、真希はひとみと肩を並べて歩きながら、ポツリと口にした

「・・・昨日はごめん、ごとー、無神経だった」

ひとみは足を止め真希の顔を見ると、にやりと笑った
言葉を探すように前髪を手で払い、俯くと足元のアスフェルトを見ながら言った

「・・・いーんじゃない?」

ひとみは顔を上げると真っ直ぐに真希を見た

「・・・ごっちん・・・いてくれて、よかったと思ってる
 あたしさー 何があっても、取り乱したりしないタイプだと思ってんだ
 ・・・自分のこと、さ・・・けど、違った かなり煮詰まってたみたいでさ」

参ったよ、と、自嘲気味にひとみは笑った

真希は俯くと、唇を噛みながら言った
「・・・あたりまえだよ・・・そんなの、あたりまえじゃんか・・・」

・・・だけどさ、と、ひとみの穏やかな声音の声に、真希が顔を上げると
冬の訪れを知らせるように早々と色を変え始める空を見上げて、ひとみは言った

「・・・梨華と、会わなければよかったと思ったことだけは、一度もないんだ
 これは本当・・・この先、どうしようっていうのはあるけどね」

396約束:2004/01/11(日) 15:06
真希は噛締める唇に力を入れながら、夕映えを静かに映すひとみの横顔を見ていた

・・・ごとーに何が出来る?
・・・梨華ちゃんの為に・・・そして、よっすぃーの為に
・・・何かしてあげられることが出来る?・・・ふたりの為に

真希はある時からふたりを見ると、一種の疎外感を持つ自分を感じていた
それは真希が梨華に対する思いが唯一だと思えないからだ

あの時、自分に微笑んでくれたのが、例え梨華以外だったとしても
その人物は、いま自分の心の中に住む梨華の場所へと替わっていた気がするのだ
自分の梨華に対する想いがちっぽけだなんて思ったことは無いけれど
代わりのないものだとも言い切れないのだ

そして、それは真希を切ない気持ちにさせる

唯一無二の絶対な者、それを持ったことのない真希には、ひとみの本当の気持ちになど
追いつきようがないのだから

同じ時間を同じように過ごしたとしても、同じ気持ちで過ごすことなど、そうは無いことなのだ
そのことが寂しい訳ではない

だからこそ、そんな一時を共に送れる誰かに出会えたのなら
それは、子供が偶然見つけたビー玉みたいに、光輝く宝物に変わるのだろう
自分もきっと、その宝物を失くしたくはないはずだ

397約束:2004/01/11(日) 15:06
・・・ごとーは、何もわかっちゃいなかったんだ
・・・なのに、よっすいーに勝手に押し付けようとしてたんだ
・・・ごとーが作り上げた、よっすぃーはこうあるべきだって思い込んでた姿を

一番軽蔑してた、人を枠にはめ込む行為を自分もまたしようとしていたのだ

いまさ、と、明るい声音の声に、真希がぼんやりしていた目の焦点をひとみに合わせると
ひとみはいつものように、悠然と笑った

「・・・いろんなことが見えるんだ
 自分のこと、とかね・・・あたし、いつも他人を見下してた
 こいつら皆、馬鹿ばっかりだって あたしのこと分かる訳なんかないし
 分かられたくもないってね」

ひとみは両手を上げ組むと、頭を乗せ空を仰いだ

「・・・なんか訳わかんないプライドがあってさ・・・なんだったんだろ?
 結局、本当に大事なことなんて何ひとつ分かってなかった気がする
 ・・・馬鹿は、あたしじゃん?
 人に笑いかけること、話そうとすること、聞く耳を持つこと、許せること
 自分以外の誰かを大切だって思えること、理解し合おうとすること・・・
 全部さ、梨華が教えてくれたんだよね・・・思い出させてくれたって言うのかな?」

ひとみは両手を離すと、薄暗く濃度を増した空の藍色に、消えかかる蜜柑色の名残を
懐かげに目を細めて見ていた

そして、ぐん、と伸びをするみたいに背中を反らせた後、真希を見て笑った

398約束:2004/01/11(日) 15:07
「・・・でさ、また、自分にとって何が一番大切なのかってこと
 見失いそうになっちゃってたんだ
 だけどさ、昨日、ごっちんが気づかせてくれたよね?
 それと、教えてももらったと思ってる 大事なことをさ
 ・・・まずは、一人で立てるようになること
 自分さえ、支えられない情けないヤツじゃ、一緒にいてくれる人まで倒しちゃう
 ・・・それが、最初の一歩ってもんかなって」

真希も泣きそうな顔を笑顔へとかえた
そして、ひとみを真っ直ぐに見ると首を横に振った

「・・・そんなんじゃないんだよ、ごとーなんて・・・
 それよか、梨華ちゃんにいまみたく言ったら喜ぶよ?」

ひとみは、目をパチパチさせるとバツが悪そうに苦笑した

「・・・恋人に、んな格好悪いこと言えないでしょ?
 それを話せるのが友達ってモンじゃないの? ね、ごっちん」

真希は、いまこの場で子供のように無防備にわんわんと声が嗄れるまで
泣くことが出来たのなら、と思った

けれど、薄く、それでも強いバリヤーに守られたそれは、いまがその時ではないと
友達に見せる涙ではないんだと言っている
そのことが解るくらいには、いつからか、真希はもう無邪気ではなくなっていたから

・・・そろそろ行こうか、そう言って前を向き歩き出す、ひとみの背中を見ながら真希は思う
いつか、自分が見た中で一番美しいと思える夕焼けを、共に見る人も
自分と同じ様に感じてくれたらいいのに、と
そして、そんな日が来たら、今日の切ない色の夕暮れに染まった友達の話が出来たらいい、と

真希は一つ大きく深呼吸すると、ひとみに早足で追いつき肩を並べて歩き出した

399Sa:2004/01/11(日) 15:21
更新終了でございます

JUNIORさん>
  まいどっ♪
  いつもながらの心強いお言葉、ありがとうございます(ペコ)
  そして、吉澤さんはこのような行動(?)に・・・
  少しでもご期待にお答え出来ておりましたでしょ〜か?(w

54さん>
  まいどっ♪

  ( ´ Д `)<あはっ☆ごとーのこと褒めてくれてありがとっー
   54さんは、キビダンゴ無し・・・オーケイっと >φ(・-・o川

   ・・・一日待ったカイがあったと思って頂けましたでしょ〜か?(w

日曜の晴れた午後、皆様いかがお過ごしでしょ〜か?
作者は今からビデオ録画した、きょーのハロモニを楽しもうと思っておりまする
それでは、また明後日更新致しますです よろしくお願いイタシマスm(_ _)m

400JUNIOR:2004/01/11(日) 22:47
更新お疲れ様です。
よっすぃ〜の行動期待通りです!\(・▽・)/
最初に比べて素直になっていて無茶いい。
よっすぃ〜のあの言葉サイコーです。
さすがSaさん。文章表現が長けています。
もうこの作品読めるなら明後日とは言わず地球最後の日まで待てます。

40154:2004/01/12(月) 01:11
更新、お疲れ様です。
はい、極上の一品を楽しめました。

この3人は本当にいいなぁ・・
綺麗なトライアングルと言うか、どんなことがあってもその内角の和は不変と言うか・・
すごく強い結びつきを感じます。
あ〜、うまく言えないでスイマセン・・

394のラスト7行、今の自分にとってもとても含蓄のある言葉です。
次回もこっそりとお待ちしてます。

402152:2004/01/12(月) 01:42
更新お疲れ様です。
私も少し家を空けていまして、帰ってまず、ここに
来させていただきました!はぁ〜・・本当に素敵な文章です・・
それに、自分のこと、自分と友達のこと、考えました。
・・う〜ん・・とにかく大ファンです!(ちょっとミーハー
だったかな・・汗・汗)

403約束:2004/01/13(火) 09:56
十二月の町並みは美しく着飾り、ひとみの家の周りの似たような住宅街の中でも
小さな庭の植栽や壁の所々に、ツリーや星、トナカイに乗ったサンタなどが
さまざまな光の粒で描かれ、薄闇の広がる道をどこか幻想的に演出している

ひとみの家の玄関の前に立つと、梨華の脳裏に雨音が甦ってくる気がした
つい何ヶ月か前のことなのに、随分昔のことみたいだ
なぜだか感傷的になりそうな気持ちを、追い払うように梨華はインターホンを押した

ガチャリと音がして、ドアが大きく開かれた前には、真希のいつもより輝いて見える
眩しい笑顔を浮かべて迎えてくれた

「おぉー梨華ちゃんっ!入った、入ったってよっすぃーんちだけどねー♪」

真希の笑顔が見慣れた、ふにゃん、としたものに代わると、梨華も笑顔を返して頷いた
そして真希の背後から、いらっしゃい、と暖かく響くアルトの声が聞こえ
目の前に現れた、ひとみに梨華は息を呑んだ

404約束:2004/01/13(火) 09:56
短めだった髪が最近伸びて、制服を着てると美少女にしか見えないひとみが
ディップで髪を後ろに流すように纏めていた
額に落ちた前髪が計算されたように、ひとみの顔に繊細な陰影を作っている
深い海の紺碧のような色合いのコーディロイのシャツを無造作にはおり
降り始めた雪を思わせる柔らかい白色のデニムを穿いていた

・・・カジュアルなのに・・・華があるって言うか・・・なんか・・・

梨華が思わず、陶酔したように見入っていると真希が可笑しそうに笑った
「梨華ちゃん、よっすぃーに瞬殺されちゃってるよー」

ひとみは腕を組むと、ふぅん、と意地悪そうに梨華を眺めた
そして、梨華の目の前に立つと両肘を梨華の肩に掛け、指先をその背中で組んだ
まるでくちづけするみたいに、顔を少し斜めにして近づけると
目を細めて、作ったような低めの声で囁いた

「・・・気に入ってくれたんだ?」

梨華の顔が、ボボボッと音をたてそうな勢いで真っ赤になると
真希があきれた声を出した

「ほんっと男前だよ、スーツにでも着替えたら?まんま、ホストクラブのNo1になれるから」

ひとみは、首だけ真希の方に向けると、うるさいよ、と言った
真希はやれやれというように、肩を竦めリビングへと消えながら言った

「ラブシーンは後、後、ごとーが帰ってからにしてよねー」

405約束:2004/01/13(火) 09:57
ひとみは真希を見送ると梨華へと向き直りながら、小さく笑った

「・・・後でだってさ、どうする?」

そして、梨華の目を覗きこむと、さらに目を細めながら甘く囁いた
「・・・こういう時はさ、目を閉じるんだよ、知ってた?」

梨華が目を見開いたまま、口をギュと固く閉じると、ひとみは俯いて笑い出した
そして、腕を外しながら皮肉っぽく言った

「・・・梨華はさ、意識するとダメなんだ?いつもは誘うの上手いのにねぇ」

意味深なひとみの言葉に梨華がムゥとしながら、なによぉ、と、口の中で
小さく呟くと、ひとみはニヤニヤしながら言った
「・・・ま、上がってよ」

梨華が頷いて、ブーツのファスナーに手をかけると、ひとみの指先が梨華の
流れ落ちる髪を縫うように、冷えた頬に届いた

「メリークリスマス、梨華・・・」

ひとみの唇は、梨華の頬に軽く触れると、真冬の陽だまりの様な温もりを残して
静かに離れていった

406約束:2004/01/13(火) 09:57
ひとみの家のリビングは、あの時見た真っ白な空間から色の洪水へと様変わりしていた

たくさんの折り紙で作られた子供の遊びのような飾り
カラフルなスプレーでガラス一面に描かれた百面相してるサンタ
大きなツリーは真っ白で、ブルーの鈍い輝きだけが灯されている
部屋中のいたるところに、小さな置物やタペストリー、リースもある

梨華がキョロキョロと部屋を見回すと、ひとみがうんざりしたような声を出す
「・・・やりすぎ」

先に来ていたあさ美が、香ばしい匂いが漂い、部屋の明かりを反射して
眩い照りを浮かべる、スペアリブの大皿を手にダイニングから顔を覗かせた
「あー お姉ちゃんだ〜」

真希もあさ美の横から大声を出しながら、背の高い淡いグリーンの瓶を見せる
「行っときますかー?・・・あ、その前にお召しかえ〜あさ美ちゃぁーん」

あさ美は、はぁーい、と、言いながら、スペアリブの皿をテーブルに載せ
梨華を見て、にっこりと笑った
「二階に行こ?お姉ちゃん」

407約束:2004/01/13(火) 09:58
梨華はリビングを振り返りつつ、あさ美に急かされて階段を上った

・・・なんだか、わたしって煌びやかな宮殿に迷い込んだ、場違いなみすぼらしい娘みたい

梨華は溜息とともに、恨みがましい声を出した
「わたしも、飾り付けとかしたかったのになぁ」

あさ美は、ひとみの部屋のドアを開けながら朗らかに言った
「なに言ってるのー
 今日はね? お姉ちゃんは招かれたお姫様なんだからね」

あさ美は、ひとみのベッドの上に置いてあった、ローズピンクのリボンが結ばれた
白い大きな箱を抱えると、梨華に渡した
「よっすぃ〜さんからだよ 開けてみて」

梨華が戸惑いを浮かべた表情で、ぎこちなくリボンを解き、箱を開けると中から
オフホワイトのワンピースが出てきた
広げてみれば、ボーダーネックのノースリーブでウエストの辺りから腰にかけて
数枚の薄い布が花びらのように、微妙に位置と長さを変え合わせられている
梨華が思わず身体に当ててみると、正面の丈がV字を逆にしたように
切り込みが入り、短くなっていた

「・・・これ、すごく高そう・・・」

梨華が泣きそうな顔であさ美をみると、あさ美は困ったように頷いた

「うん・・・でも、よっすぃ〜さんは、お姉ちゃんに着て欲しいから買ったんだよね?
 ・・・だから、着てみて、ね、おねえちゃんっ」

408約束:2004/01/13(火) 09:58
梨華は泣き笑いのような顔をすると頷いて、着替え始めた

着替え終わると、あさ美が銀の細いリボンが何十かに結ばれた深緑の紙袋を
梨華に渡した
「ごっちんさんからだよー」

梨華が開けると、中からサーモンピンクの細い毛糸で編まれた大きなショールが出てきた
それは、大小の花々をモチーフとした可愛らしい物だった

梨華がショールを細い指先で撫でると、あさ美がうっとりとした声を出した
「完璧だよねぇ〜〜
 ごっちんさん、最近編み物にはまってるんだって、で、これは私からね!」

あさ美が差し出した、金の大きなリボンが結ばれた赤い紙袋を梨華は受け取った
中からは、真希がくれた物と同じモチーフのヘアバンドと、白いレースの手袋
白と淡いピンクの小さな花で出来た、髪飾りが出てきた

あさ美は、梨華の横から覗き込むようにヘアバンドを見ると照れくさそうに笑った
「ごっちんさんに教えてもらったんだ〜 ね、付けてあげる」

あさ美はヘアバンドを梨華の襟足で結んだ
そして、レースの手袋をして、ショールを肩にかけた梨華を見つめると
左耳の上に髪飾りを付けながら言った

「・・・お姉ちゃん・・・お嫁さんみたいだね?」

梨華の目が見る間に薄い透明な膜に包まれると、あさ美は優しく首を振った

「泣いちゃダメだよ?お姉ちゃんは笑顔が一番キレイに見えるんだから」

あさ美はレースで飾られた梨華の細い指先を、そっと掴むと立ち上がった
「・・・行こ?」

409約束:2004/01/13(火) 09:59
梨華があさ美に手を引かれるように階段を下りてくると、真希が口笛を吹いた

「梨華ちゃんっっっ!かぁ〜いぃ〜〜ってか、キレーーー♪」

梨華が頬を僅かに染めてひとみを見ると、ぼぉっと自分を見ていた目線を
天井に逸らし、空咳をしながら呟いた

「・・・いいんじゃない?」

あさ美と真希が、目を合わせるとクスクス笑い出した
ひとみは前髪に手をやりながら、なんだよ、と二人を睨んだ
そして階段の下までくると、梨華へと手を伸ばした

「・・・おいで」

梨華がオズオズと、差し出されたひとみの手の上に自分の手をそっと乗せると
真希とあさ美が同時にクラッカーを鳴らした

「「メリークリスマス!!!」」

ひとみに手を引かれて、梨華がダイニングへと移動すると、テーブルの上には
さっきのスペアリブと、シーフードのマリネ、ミモザサラダ
あさ美お得意のポテトグラタンが美しく盛付けられていた

梨華が感嘆の声を上げると、椅子を引きながら真希がウィンクした
「後で、ごとーお手製のケーキもあるよー♪」

そして四人は、それぞれ椅子に腰掛けると
小さな泡を浮かべる萌黄色のグラスを手に声を合わせた

「「かんぱぁーいっ!!!」」

弾む声とともに、四つのグラスのぶつかる音が優しい音楽の様に響いた

410Sa:2004/01/13(火) 10:27
更新終了で、ございます〜
う〜〜〜ん、クリスマス過ぎたばっかなんですけどねぇー
ま、いっか(w

JUNIORさん>
  まいどっ♪
  お気に召して頂けた様で、良かったです
  あの言葉とは・・・、あれかしらん???などと考えてみる作者(w
  地球最後の日まで、お待たせすることはありませんので、ご安心を(w
 

54さん>
  まいどっ♪
  お口に合ったようで、ホッと一安心(w
  54さんは、表現力がおありですよ? 作者の拙い言葉の一つが
  お心に響いたなら、喜びの極みというものでございます

152さん>
  まいどっ♪
  いつもながらに、楽しみにして頂いていることが嬉しいです
  作者ごときの書いたモノが、ほんの少しでも何か、お心に残るなら無限大にハッピ〜です
  ミーハー大歓迎!!!作者もミーハーで、ございますです(w

それでは、またあした更新致します(ペコリ)

411JUNIOR:2004/01/13(火) 23:14
更新お疲れ様です。
よっすぃ〜に向かってごっちんの
“スーツにでもきがえたら?まんま、ホストクラブのNo.1になれるから。”
この言葉同感かもしれません。
想像してしまうとおもしろいです。
またあした中学から帰ってからこっそり見たいと思います。

412約束:2004/01/14(水) 10:00
真希は、時計の針が九時を指す少し前になると、あさ美に声をかけた
「そろそろ行きますか♪」

あさ美は、はぁーいっ、と、小学生みたいに手を上げると立ちあがった
そして、あっけにとられたように見上げる梨華に言った

「私は今晩、ごっちんさんの家にお泊りなのー
 お母さんには、オールナイト★クリスマスパーティだって言ってあるからね」

そして指先でピストルを作ると、梨華を打つ真似をしながら笑った
「そこんトコ、ヨロシクゥ♪」

まだ、よく分かってない顔をしながら、ひとみと共に玄関先まで
見送りにきた梨華を、真希は一指し指でチョイチョイと呼んだ
そして、顔を近づけた梨華の耳元で囁いた

「梨華ちゃん、よっすぃーにプレゼントは?
 よっすぃー、すごーく欲しいモノあるみたいなんだけど」

そう言って、梨華の顔を覗き込むと、キョトンとした顔で梨華は真希を
見返してきた

413約束:2004/01/14(水) 10:01
真希はへらへら笑いながら、ひとみに言った

「か〜わいそ〜にねぇ〜」

ひとみが、少し目元を染めながら、うるさいんだよ、と言う声を背中に聞きながら
真希はドアを開け、あさ美と共に外へと出た

二人が歩き出すと、凍えそうな外気が火照った身体の熱を奪っていく
真希が白い息の先にある、頼りなく濁った月を見上げるとあさ美がポツリと言った

「・・・ごっちんさん、来年も四人でクリスマス出来ますよね?」
「ごとーは、そのつもりだけど?ってか、再来年もその次もその次もずっとね」

鼻を啜りながら消え入りそうな声で、完璧です、と言う、あさ美の頭を
真希はポンポンと叩くと、あさ美のずり落ちそうなマフラーを
その首にかけ直しながら言った

「あはっ、受験生に風邪引かせたら怒られちゃうよー 早く帰ろうぜぃ♪」

414約束:2004/01/14(水) 10:01
二人が帰ってしまうと、明るいリビングに静寂が訪れた
ひとみが、リビングのダウンライトの光量を絞りながら、部屋の明かりを落とすと
ツリーの輝きだけが、二人を今いるのと違う場所へと誘うように瞬いた

梨華がぼんやりとブルーに沈む室内に佇んでいると、微かなオルゴールの音色が
止まってしまったような空気を僅かに揺るがした
ひとみの近づいてくる気配に、顔を上げると、目の前に恭しく白い手が差し出された

「お手をどうぞ、お姫様」

梨華がその手をギュッと握ると、ひとみは風のように梨華の身体を包んだ

唐突に梨華の身体は小刻みに震えだした

・・・こわい・・・こわいよ
・・・こんなに幸せなのに・・・なんでなの?

ひとみの梨華を包む腕が力強いものに変わっていく

・・・違う、幸せだから・・・だから、こんなにこわいんだ
・・・いまわたしを抱きしめてくれる、ひとみちゃんの大切さを知ってしまったから

梨華の目から、透明な雫が静かに流れた

415約束:2004/01/14(水) 10:02
突然現れた暗い予感めいたものは、拭いきれない恐怖を引き連れて
梨華をがんじがらめにしようとする

こうして、ひとみの腕の中にいると言うのに、強い闇の力は否応なしに
梨華を連れて行こうとするのだ

真っ黒い闇がどこまでも梨華の全てを飲み込もうと広がっていく
梨華の溢れる涙は、その顔を冷たく濡らし、全身の震えは止まることを知らない

・・・この恐怖を取り除いて欲しい

梨華は力を振り絞って、ひとみにしがみついた

「・・・こわいの」

やっとの思いで紡ぎ出された声は、自分の口から発せられたのが信じられないくらい
遠く聞こえた

その実感の乏しさが、ますます梨華を恐怖へと煽り、梨華は叫ぶ様に声を上げた

「こわいっこわいっこわいよぉっっっーーー」
「いやだいやだいやだいやぁぁぁっーー」

梨華の顔がいきなり強い力で持ち上げられ、深く、深く、くちづけられた
ひとみ柔らかい唇は、力強く梨華に熱い想いを伝え続ける

・・・まるで、ひとみの全てを注ぎ込もうとするように

416約束:2004/01/14(水) 10:02
梨華の大きかった身体の震えが、少しづつ小さなものへと変わっていくと
ひとみは静かに唇を離した

そして、まだ微かに震える肩先へと指先を向け、その華奢な肩を覆う
ショールを滑らすように落とした

ゆっくりと唇を近づけ、優しく押し当てる・・・何度も、何度も

ひとみの指先は、梨華の細い首の周りで、波打つ髪をそっと持ち上た
そしてその唇は、逆立つように震える後れ毛を纏った首筋に落とされる
繊細な芸術家がはこぶ絵筆のようなひとみの唇は、微かに上下する鎖骨の窪みを
熱い吐息を漏らしては温めてゆく

梨華の冷えきった身体が、少し熱を帯びてくると、ひとみは梨華の手を取り
レースの手袋を外した
そして、細い指先の一本一本を確かめるように唇を滑らせていく

ひとみは、いま初めて梨華の抱えつづける闇に触れた気がしていた

「・・・ひとみちゃん」

梨華の自分を呼ぶ声に、その指先に落とした唇を離し、ひとみは顔を上げた

「・・・わたし・・・もし、もしもわたしが死ぬ時がきたら、ひとみちゃんの腕の中がいい・・・」

ひとみはかき抱くように、梨華を抱きしめ、その耳元で呟いた

「・・・わかった・・・」

そして、まだ冷たさの残る梨華の唇に激しく、くちづけた
もしも魂の灯火というものがあるのなら、自分のそれが、重ねた唇から流れ出て
梨華へと届けばいい・・・そう、願いながら

417約束:2004/01/14(水) 10:03
翌朝

ひとみが目覚めると腕の中で梨華は規則正しい寝息をたてていた
無垢な寝顔の中で、柔らかく閉じられた瞳の先の微かに揺れる睫に
ひとみがそっと唇を落とそうとすると、梨華の瞼が震えるように薄く開かれた

ひとみは、痺れた腕を梨華の頭から外すと上半身を上げながら呟いた
「・・・タイミングよすぎ」

梨華は、恥ずかしそうに毛布を口元まで引き上げると、上目使いでひとみを見て
小さな声を出した

「・・・おはよ」
「・・・おはよう」

ひとみが照れくさそうに、ぶっきらぼうな声で答えると、梨華は覗かせた目元を
微笑ませた

ひとみは真剣な顔で梨華を真っ直ぐに見つめながら口を開いた

「・・・昨夜のことだけど、あれ、梨華がお婆ちゃんになったらね」

キョトンとした顔をする梨華に、ひとみは穏やかに微笑んだ

418約束:2004/01/14(水) 10:04

「・・・あたし、医者になるって決めたんだ 梨華の為にじゃなくて、自分の為にさ
 奇跡なんて言葉、胡散臭くて好きじゃないけど
 ・・・いまは無い場所に、新しい橋をかけることが出来たらいいと思う
 あたしにはさ、それが、必ず出来る力がある 
 それを使わないなんて勿体無いじゃない そう思わない?」

ひとみの言葉を聞き終わると、梨華は綺麗な湧き水のような涙に縁取られた瞳を瞬きした
溢れ出そうとする何かから耐えるように、強く瞼を閉じた
そして、その瞳を開く時には朝露に濡れた、今まさに花開こうとする蕾のように
微笑んでみせた

ひとみは一瞬、息を呑んでその顔に見惚れた
その後、頭を軽く振ると、顔にかかった前髪を鬱陶しそうに掻き揚げると
いつものからかいを滲ませた声を出した

「・・・あのさぁ ベッドの上からそんな顔しないでくれる?
 それとも、誘ってくれてんの?」

梨華が見る間に顔を朱に染めて、何か言おうとするその唇を、それより速く
ひとみは覆いかぶさるように塞いだ

419Sa:2004/01/14(水) 10:17
更新終了で、ゴザイマス
まだ午前中だと言うのにこんなコト書いててイイんですかね?(w

JUNIORさん>
  更新のたびにレスを下さるコトは大変なコトだと思います
  ホントに感謝しております(ペコリ)
  中学生さんなんですねぇ?イヤ〜お若いっ!
  ネット社会は面白いモノですね?普段の生活では接点がないのに
  同じモノが好きだと言うコトで、こうして毎日の様にコトバを交わして
  いるのですから

それでは、また明日更新イタシマス(ペコリ)

420名無し(0´〜`0):2004/01/14(水) 14:24
更新お疲れ様です。
よすぎる!思わず胸を押さえてうずくまってしまいましたよ。
ふたりがキラキラ輝いていてまぶしーぐらいです。

ひとみと梨華が、いつまでもしあわせでいられますように。

42154:2004/01/14(水) 16:24
更新、お疲れ様です。

川o・-・)<ひ、表現力があるだなんて・・滅相もありません!
作者様、わたくしをどこまで酔わせるのですか!完璧です!
毎回、Saさんのマジックに酔いしれてます。
こんこん&ごっちん、イイ子だ〜(泣)最高だよ、キミたちは!

自分のすべきことに気づいた吉、とても凛々しいです。
お正月に「エンタの神様」のメイキングを観たんですけど、今回これを読んで
あの時の吉を思い出しました。
いまどき、ここまで黄色いスーツ&赤いシャツが似合うアイドルはいませんよねw

せつなさに温かさと優しさが噛み合っていて、自分にとってはゴディバよりも
甘い作品です。
次回もまったりお待ちしてます。

422152:2004/01/14(水) 23:32
更新お疲れ様です。
う〜ん・・良いですね〜 甘・甘で、かつ二人の
絆の強さもすご〜く感じます。王子様、姫を守って
ねー。リアルな梨華ちゃんもなんかこう、はかない
感じありますよね・・
Sa様も書かれてますが、ネットってほんと不思議と
いうか、なんというか、でもそのおかげで、Sa様の
小説に出会えたので、感謝です。(・・JUNIOR
さん中学生なんですね・・お若い。お勉強頑張って〜)

423JUNIOR:2004/01/15(木) 00:30
更新お疲れ様です。
いやぁ〜、2人の王子様とお姫様のようなものを
みれてお腹いっぱいです。
152さん
勉強嫌いなんですよね。自分。
みんな今日テストだからきっと死に物狂いで勉強しているのに
自分は勉強よりも大好きな小説というわけです。
でも勉強頑張ります。

424約束:2004/01/15(木) 11:44
大晦日

真冬の澄んだ大空が薄闇に包まれ始め、気の早い丸い月が、どこか合成写真
めいて、ぽっかりと浮かび出す頃

ひとみは石川家のインターホンを押した
今日も中からはバタバタと忙しない音が伝わってきて
勢いよくドアが開くと、梨華が笑顔を覗かせた

ひとみが、はい、と言いながら、手に持っていたビニール袋を無造作に渡すと
梨華は顔を赤くしながらしかめて見せた

「ほんっと、ごめんねー もぉ、お母さんってば
 ありがとうね? ひとみちゃん」
「いいよ、ついでだしさ」
「上がって、上がって!」

ひとみは梨華の頭の上から、室内に届く様に大きな声を出した
「お邪魔しまーすっ」

玄関で、ワークブーツの紐を緩めていると、中から小型犬が
転がるような勢いで、あさ美が飛び出てきた

「わぁーい!よっすぃ〜さんだぁーーー」

ひとみがブーツを脱いで、よぅ、あさ美ちゃん、と言いながら
子供にするように頭を撫でると、あさ美はひとみの腕に自分の腕を
絡ませて目を細めた

とたんに、ムゥ〜とした顔をする梨華に、ひとみは笑みを零し
今脱いだばかりの淡く灰色がかった白のダッフルコートを抱える腕の肘で
梨華を突付いた
つん、と顎を上げて、廊下をツカツカ進む梨華の後姿を見て
あさ美はあきれた声で、情けなさそうにぽつりと言った

「我が姉ながら、心狭すぎ、です・・・お恥ずかしい」

425約束:2004/01/15(木) 11:44
リビングダイニングへと入ると、初めて見る姉妹の父親がいて
ひとみは僅かに緊張した

片腕をあさ美に取られたままで、直角に頭を下げながら
上ずりそうになる声を押さえながら、ひとみは言った

「吉澤ひとみです お招き頂いてありがとうございます」

愉快そうな笑いを滲ませた声で、鷹揚に父親は答えた

「自分の家だと思ってくれていいんだよ
 そうしていると、君の方が、あさ美の姉さんみたいだね」

どこかおっとりと響く父親の声は、威厳よりも温かみに溢れていて
ひとみは、小さく息を吐くと顔を上げた

「母さんの言っていた通りだ 綺麗な、いい眼をしている」

そう言って、目尻を下げて微笑む顔は、どことなくあさ美を思わせた
次には、キッチンから母親が出てきてひとみを見ると目を細めた

「いらっしゃーい 待ってたわぁ〜」

そして、ひとみの首元から白いHanesのTシャツが覗き、浅いVネックの
ざっくりと編まれたモスグレーセーターと、それと揃いのニットキャップを
目深に被り、黒のワークパンツに包まれた姿を見ながらしみじみと言った

「ひとみちゃんって、そういう格好してると麗しの少年て感じよねぇ
 この間は、制服だったから可愛らしかったけど・・・
 ボーイッシュな女の子も、お母さん大好きよ」

するとあさ美が組んだ腕を解きなが、ひとみの耳元で囁いた
「最近お母さん、宝塚にハマッてるんです」

426約束:2004/01/15(木) 11:45
「・・・三つ葉、あれでよかったですか?」

ひとみが僅かに首を傾けながら聞くと、母親は、うんうんと頷きながら答えた

「お雑煮には、三つ葉がなくっちゃねぇ」

「お母さーん、天ぷらぁ、もう上げていいのぉー」

梨華の困惑した声に母親は、はいはい、と言いながら、ひとみへと
陽気な笑顔を向けた後、キッチンへと戻って行った

父親は、やれやれ、と言いたげに肩を上下させながら、ひとみに言った
「僕はちょっとお先に、風呂に浸かってくるよ
 喧しい家だが、君がゆっくりと寛げるといいんだけどね」

ひとみがもう一度、畏まって、ありがとうございます、と、頭を下げると
父親は、いいから、いいから、と、片手を軽く上げてリビングから出て行った

キッチンから出てきた梨華が、面白いものでも見るようにひとみを見て笑った
「ひとみちゃんでも、緊張することあるんだ?」

ひとみは憮然とした顔で、当然でしょ、と口の中で小さく答えた

427約束:2004/01/15(木) 11:45
夕食の食卓には、炊き込みご飯と、野菜の天ぷら、貝のすまし汁が並んだ
その時になって、ひとみは父親がいないことに気づいて辺りを見回した

「・・・お父さんは?」
ひとみが小声で、梨華に聞くと梨華は笑いながら答えた

「わたしも知らなかったんだけど、お父さんって学生時代に長い間
 この辺に住んでたんだって
 それでねぇ、仕事の都合で昨夜こっちに来たばっかりだから
 お友達が今晩、年越し忘年新年会を開いてくれるって言ってたよ」

ひとみは、ふうん、と答えながら、気を使わせてしまったかな、と気になった
そんなひとみの表情に気がついたらしい、母親は朗らかに笑いながら言った

「ひとみちゃんがいるからじゃないのよ?
 前からお父さん、楽しみにしてたんだから たまたま今年は実家のある
 こちらに帰ってくるお友達が多くて、学生結婚されたご夫婦のお宅で
 夜どうし騒げるなんて、昔にもどったみたいだって
 馬鹿みたいにはしゃいでたのよ?
 私達は、女同士で楽しくやりましょう
 お母さんね、紅白が楽しみなのよー ちゃっちゃと食べましょうね」

ひとみにはそれが、本当のことなのか、石川家のもてなしなのかよく分からなかった
けれど、この家にくると自分の胸一杯に温かいものが広がっていく
そのことに心の中で素直に感謝すると、皆と声を揃えて言った

 「「いただきます」」

428約束:2004/01/15(木) 11:46
食事が済むと紅白歌合戦を見て、三人の親子は、それぞれあれこれ言い合っていた

自分達の興味がない出演者が出る時に、お風呂に入ったり
母親が電話をかけていたり、あさ美がメールするからとパソコンに向かったり
確かに落ち着きがない家族だと、ひとみは笑いを漏らした

梨華が、ひとみちゃん、お風呂は?と聞いてくると、ひとみは首を横に振った

「家、出る時に入ってきた」
「じゃ、わたし入ってくるね」

ちょうど二人きりだったから、ひとみは立ち上がった梨華の手を引っ張って
耳元で囁いた

「・・・一緒に入ってくれるの?」

梨華は手加減しないで、ひとみの頭を叩くと、バカッ、と、捨てセリフを残して
リビングを出て行った

・・・痛ってぇ〜〜 
・・・なんだよ 本気な訳ないじゃん

頭を擦りながら、ひとみはふと考えてみた
自分達が、ただの友達だったらどうなのだろう?
高校生にもなって?それはないか・・・温泉じゃあるまいし

友達付き合いと言うものさえ、最近、真希と始めたばかりのひとみには
一般的な友達との付き合い方というものを今ひとつ解りかねていた
ひとみにとって、世間一般的な付き合い方などというものは、難解な数式を
解くより、遥かに解り辛く、また意味の無いものだと感じていたから
・・・ま、これから・・・かな?・・・ ひとみは小さく笑った

429約束:2004/01/15(木) 11:46
紅白が終わると、母親は年越蕎麦の支度をしにキッチンへと立った

ダイニングテーブルで四人で蕎麦を啜りだすと、ブラウン管の中では
荘厳な鐘が鳴り、アナウンサーが恭しく年明けの挨拶を始めた
四人は、箸を置くと視線を合わせ微笑み合った

「「明けまして、おめでとうございます
 今年も、宜しくお願い致します」」

深夜番組をなんとなく眺めて、一時を過ぎると母親が言った
「お母さん、もう駄目だわぁ 先に休めませてもらうわね」

するとあさ美も、欠伸を噛み殺した

「私も、もう寝るー
 お姉ちゃん、明日の初参り、ごっちんさんとの待ち合わせ何時にしたの?」
「ん〜?午後としか決めてないよ」
「そ、でも、早く寝た方がいいよー
 よっすぃ〜さん、私のベッド使って下さいね?
 私はお母さんと寝るから ちょっと、狭苦しいと思いますけど」

眠そうな顔で、ぼややんと笑うあさ美に、ひとみは笑顔を返した

「サンキュー」

それぞれがおやすみと言い合って、親子が夫婦の寝室へと入ると梨華が
ひとみの顔を見て小首を傾げた
「わたしたちも、もう寝ちゃおっか?」

430Sa:2004/01/15(木) 11:48
更新終了でゴザイマス

420さん>
  いらっしゃいまっせ〜♪
  胸を押さえてですか?(w
  とっても嬉しいオコトバありがとうございますぅー

54さん>
  いらっしゃいまっせ〜♪
  マジックですか?(w
  54さんこそ、作者をいっつも喜びへと酔わせる
  オコトバありがとうございますぅー

152さん>
  いらっしゃいまっせ〜♪
  そうですね〜
  実はこのオハナシ、絆が一つのテーマなモノで(w
  感じて頂けてシアワセでございまする

JUNIORさん>
  いらっしゃいまっせ〜♪
  お腹いっぱいですか?
  後もう少しだけ、入る隙間はありますか?
  モチロン、お勉強後のご休憩のトモってノリで(w


お気づきの方もいらっしゃると思いマスガ
あと二回で<約束>は終わりとなります

前もってお伝えするコトがいいのか悪いのかわかりませんが
作者の力不足で、マダマダ続くと思われる方が
もし、いらっしゃったら申し訳ないので言わせて頂きました

あと二回お付き合いをよろしくお願いイタシマス(ペコリ)

431JUNIOR:2004/01/15(木) 12:15
更新お疲れ様です。
後2回ですか・・・。
なんか寂しい気がします。(つДT)
でも、クリスマスの時にもうすこしでおわりそう・・。
と、思いました。
後2回頑張ってください。
もちろん勉強後の休憩に読ませていただきます。

432ちゃみ:2004/01/15(木) 21:02
うわーうぁー、出張から帰ってきたら、年末になってた。
しかも、いしよしが幸せになってるでは無いか!
『行く年、来る年』を二人で見ているなんて!
後2回だそうですが、もちろん付いていきますよ。

『我望来幸福石吉』

433152:2004/01/16(金) 01:25
更新お疲れ様です。
日本のお正月はいいですよね〜。お嫁さんの実家でゆっくり
するお婿さん、って感じですね!
あと2回ですか・・。さみしい気持ちもありますけど、Sa様
への感謝の気持ちはその何十倍も感じてます・・って、まだ
挨拶は早いですね・・ 最後までもちろんついて行きます!

434約束:2004/01/16(金) 10:33
姉妹の部屋に入ると、あさ美ちゃんのベッドは上だから、と言う梨華の
言葉に頷くと、ひとみは頼りない梯子を上った

ひとみは頭を天井にぶつけないように、気を付けながら布団の中に潜り込んだ
あさ美の寝具には、柔らかい日向の匂いが微かに残っていた

梨華が部屋の明かりを、一番小さいものへと変えると、ごそごそと
ベッドに入る音がする

ひとみは、目の前に迫る天井を、始めは物珍しく面白がる気持ちで見ていたが
次第に落ち着かなさを感じて、寝返りを打つと、くぐもるような梨華の声がした

「・・・ねぇ?ひとみちゃん」
「・・・ん?」
「わたしね ずっと、転校ばかりだったの」
「うん」
「・・・お友達、出来たかな?と思うと、すぐお別れなの」
「・・・・」
「で、最初は、さよならしても、ずっと友達だよ、とか、また会おうねって
 約束するんだけど」
「・・・ぁあ」
「わりとね、それだけで終わることが多くって
 いつからかな? 諦めるのがクセみたいになっちゃってて・・・
 約束するってコトの意味がよく解らなくなってっちゃって
 ・・・約束するコトが、嫌いになってたの」

435約束:2004/01/16(金) 10:34
「・・・みんな、なんで出来もしないこと 口にするのかなー?って
 期待すると、がっかりしちゃうから、いつからか、いいかげんに
 うわべだけで、付き合ってたの
 また、どうせ新しいとこに行くんだ だから別にどうでもいいって」

ひとみには、投げやりな眼をした梨華や無気力を漂わせた梨華などは
どうしても想像出来なかった
ただ、その瞳の奥にやりきれない寂しさを浮かべ微笑む姿だけが見える気がした

「そしたら、不思議だね
 あんなに、色んな場所で、たくさんの人達に出会ってきたのに
 わたしの中には、なぁんにも残ってなかったの
 ・・・ただ、何かあるたび、ひとみちゃんとのこと思い出してた
 あの時の、あの約束した時のわたしの気持ちとか・・・
 笑えちゃうくらい一生懸命で、絶対叶えるんだって思ってた
 約束の大きさみたいなのとか・・・そんな感じを
 そうしたら、わたしにもそんな約束が出来るんだって思えたの
 何かの支えになれるような・・・
 だから、たぶん 守れるかより、守ろうと思い続けることが
 大事なのかなって気がついたの」

 「・・・うん」

「・・・やっと、そう思えた時、病気のことがわかって・・・
 最初に言われたの、こんなに早い時期にわかるのはラッキーだって
 だけど・・・ラッキーなんて思えなかった
 なんで、わたしが?って すごく低い確率なのに・・・
 この間も、すごく状態がいいから大丈夫って言われても
 いったい何が、いつまで大丈夫なのかが、ちっともわからないし
 いつも不安だった その日がいつ来るか分からないってことが・・・
 それが、十年後でも、一年後でも、あんまり変わらなく思えてたの」

436約束:2004/01/16(金) 10:34
「・・・だけど、なんとなく解ったの
 きっと、駄目だと思った時が駄目になる時なんだって
 いつくるか分からないってことは、その日はこないかも知れないって
 ことでしょう?・・・だったら、そう思っていこうって
 ・・・だってわたし、生きて行きたいから
 ずっと、ひとみちゃんと・・・いつまでも一緒に・・・」

ひとみは、何か答えたかったけれど、強すぎる想いは、なかなか言葉には
ならなくて口に出来ない
それでも何か口にしようとするたびに、唇からは吐息だけが漏れてゆく
それよりも、ただ、ただ、胸が熱く、一杯で、おそらく言葉とは違うなにかが
先に溢れて零れそうだった

「・・・ひとみちゃん、来て? 腕枕してあげる」
「・・・いいよ」
「よくないもんっ」
「・・・いいって」
「いやぁっ」

梨華の大きな声に、ひとみの心臓はとび上がった
その拍子に、いままでひとみの胸一杯に広がり波打つものは
もといた場所へと還って行くように引いていった

「ちょっとー へんな言葉を大声で言わないでよ
 聞こえたら、誤解されるじゃんっ」
「じゃ、降りてきて」

ひとみは、大きくため息をつくと梯子を降りて、梨華を睨んだ

「・・・随分、強気だね?」
「決めたんだもんっ強くなるって」

437約束:2004/01/16(金) 10:35
梨華は自分の掛布団を捲り、ぽんぽんと、その身体の横の隙間をたたいた
ひとみは、もう一度ため息をつきながら、梨華の伸ばした腕に頭を乗せた

「・・・無理しちゃって、腕、痺れるよ」
「ひとみちゃん、この間してくれたじゃない?・・・無理してたんだぁ?」
「・・・してないよ」
「強がりぃ〜」
「強がるのが好きなんだよ・・・悪い?」

梨華は、悪くないよ、と、クスクス笑った

「わたしも強がりだよー 負けず嫌いっていうのかな?」
「・・・知ってる」
「・・・だけど、わたしと、ひとみちゃんの強がりはきっと違うね」
「・・・そうかな」

・・・よくわからないけど、と梨華はまた笑顔を広げる

「・・・わたしにとって、ひとみちゃんて初恋だったけど
 憧れでもあったの ひとみちゃんと同じになりたいなぁって思ってた
 ・・・だけど、いまはひとみちゃんはひとみちゃんで
 わたしはわたしで、それがいいんだと思ってる
 同じになることなんて必要ないんだなぁって
 違うから、だから、一緒にいることで色んなものが増えて
 広がっていけるのかなぁって
 ひとみちゃんはね、隣にいてくれるだけで・・・わたしにいつでも
 勇気をくれるんだよ?」

ひとみは自分の頭を、梨華の腕から布団の中へと潜らせその胸に顔を埋めた
一度引いたはずのさざめく波は、その前より大きな波へと姿を変え
いま、ひとみの足元まで静かに近づいていた

438約束:2004/01/16(金) 10:35
「わたしね、ずっと気になってたことがあるの
 ひとみちゃんは、わたしのことはすごく大切にしてくれるのに
 まるで、自分はどうなってもいいって思ってるみたいに見えて・・・
 それが、なんでなのかなんて、わたしには分からないし、話たくないことを
 無理に聞こうなんて思ってないよ?
 だけど・・・わたしのいない間に、ひとみちゃんが何かに傷ついていたなら
 その時、傍にいれなかったことが悔しいなって」

梨華は自分の胸に顔を埋めるひとみの頭を抱きしめた

「わたしは、格好いいひとみちゃんだけが好きなんじゃないんだよ
 ・・・もう、わたしには、いつでも守ってくれる王子様に
 ただ守られるだけのお姫様は何かが違うって解るから・・・
 ひとみちゃんが、わたしを大切にしてくれるなら、わたしも同じように
 ひとみちゃんと付き合っていきたい・・・支え合いたいの
 それが、一緒に生きていくってことでしょう?・・・違うかな
 だから、ひとみちゃんをこと、少しづつでいいから教えていって欲しい
 ・・・そしてわたしに見せて欲しいの・・・いろんな顔したひとみちゃんを」

ひとみはその目を強く瞑った

梨華にとって何が幸せかなんて、よく解らないから、梨華が幸せだって
感じられればいいって、そう思ってた
そう思い続けることだけが、まるで自分が梨華の傍にいてもいいという証みたいに

・・・だけど、それは詭弁だ
自分自身にその価値があるって納得する為だけの言い訳に過ぎなくて

439約束:2004/01/16(金) 10:36
本当は、ずっと、ただ独占したかった
その心も、その身体も、その唇が紡ぐ言葉のひとつ、ひとつや
風に運ばれる微かな香りまで

だけど、いつからか自分自身こそが、自分をこれっぽっちも信じて無いんだと
知ったとき、そこにあった筈の自信は浜辺に築かれた砂の城が寄せては返す波にと
さらわれるよりもあっけなく崩れ去った

・・・何も無いちっぽけな自分
・・・ジタバタと、ただ足掻いてばかりの自分

そんな自分からは、いつか梨華が離れて行くんじゃないかといつも不安だった
だからこそ、例え、偽りだったとしても、いつでも余裕ある自信家でいたかった
・・・そしてそれだけじゃ無くて・・・ずっと軽蔑もしていた

梨華に再会するまでの自分が過ごしてきた日々を

梨華を愛しく思えば思うほど
大切なかけがえの無いものに感じれば感じるほどに

何かを探し求めてはいても、何を探してるのかが解らないから
見つかりようもなくて 孤独だけを何十にも胸に押し込んだままで
見つからない答えを探すように、袋小路に迷い込んだような毎日

誰かと抱き合うことで、その瞳の奥に答えを探したりもした
何かが薄れていくような感覚を気にするだけの余裕もなく
自分を大切にしようなんて、これっぽっちも考えもしないで
自分自身を見失い続けた毎日

ふと気づいた時には笑い方さえ忘れていた・・・そんな自分自身を

440約束:2004/01/16(金) 10:36
「・・・幻滅するよ?」

「・・・しないよ・・・幻滅なんて絶対しない
 ひとみちゃんは、ひとみちゃんだもん
 いつでもわたしの大好きな、とってもとっても大切な人なんだよ
 ・・・そうだなぁ、例えば泣き虫なひとみちゃんとか
 すごく、すごーく、可愛くって、きっとキスしたくなっちゃうくらい
 だと思うよ?
 だから、我慢しないで・・・涙だけじゃなくって、いろんなことを
 ひとりきりで抱え込まないで欲しいの」

梨華は優しくひとみを包む腕を外すと、指先を伸ばしてその顔を上げさせた

「ひとみちゃん・・・目を開けて、ちゃんとわたしを見て?」

ひとみが、固く閉じられたままで微かに震える瞼をゆっくりと開けていくと
そこにはある梨華の無言の眼差しは、高らかに愛を響かせる

・・・たとえどんな時でも、何があっても、わたしはあなたの傍にいる・・・と

ひとみが溢れ出す温かな水源に逆らうことを止めると、その跡を梨華の唇が
辿る様にとなぞってゆく・・・そっと、そっと、まるで純白な天使の羽が触れるように

許しを奏でるように流れ落ちる雫は、心地よくひとみの頬を伝い
慈しむように滑らかに降りてゆく

いく筋も、いく筋も、涸れることなく・・・それはまるで、もう迷うことはないんだ、と
一人の旅人の行く先を示す、控えめな道標の様に

441約束:2004/01/16(金) 10:37
もう、立ち止まり、色褪せ過ぎ去った日々を振り返るのはよそう
・・・そこからは、何も生まれはしないから
そう、いらなくなった殻を脱ぎ捨てるように、偽りや、自分を飾る
ことは止めればいい

そして、愛しい人が告げつづけようとする愛するということは、自分へと向けられた
心に宿る形無き想いをこの胸へと受け取るということなのかも知れない

何も急ぐことなどない
自分達は歩き出すことの意味を知ったばかりなのだから
何か大きなことを成し遂げるよりも、今、胸に宿るこの消えることない想いを
抱きしめ、歩き続けることこそ、いつの日かきっと自分達の力になるから
確かな足跡を残す様に一歩ずつを踏みしめて、前だけを見て進んで行けたらいい
そんなふうにして、いつか、自分を好きだと胸を張って言える大人へと、なれたらいい

初めて出会ったあの幼い日々から、当たり前のように差し出され続けた手を
いま繋ぎ、目の前に架けられた希望の橋をふたりで渡ろう

その先へと続いていく・・・そう、ふたりの未来へと進んでいく為に

442Sa:2004/01/16(金) 10:39
更新終了でございます

JUNIORさん>
  まいどっ♪
  作者も寂しい気はしますが(w
  お勉強がんがって下さいませね(o^-')b

ちゃみさま>
  まいどっ♪
  エエ、いつのまにやらこんなコトに…フト頂いたレスを見て思ったのですが
  いしよし、チャイニーズマフィア風味って似合いそうですね?(w

152さん>
  まいどっ♪
  ですね〜日本はナンノカンノ言っても四季があるのが良いと
  作者こそって…って、少しだけ、セッカチですね(w


月曜日、ネラッテタ訳ではナイのですが、ヒロインのバースデェ〜に
最終回の更新を致します
シバシお待ち下さいマセ

443JUNIOR:2004/01/16(金) 12:12
更新お疲れ様です。
やばいです。むちゃくちゃ心にきました。
まだ最終回でもないのに・・・。
このままで行くと最終回泣くと思います。
月曜日絶対、絶対×∞見ます。
最終回頑張ってください!!

44454:2004/01/16(金) 18:11
更新、お疲れ様です。

今回のふたりの姿・深い絆は、まるで絵画のような美しさを感じました。
タイトルの意味がようやく分かりかけて来たような気がします。

1.19.に最終回ですか・・
さすがにイイところを突いていらっしゃいますねぇw
最終回、本当に楽しみです。

445ちゃみ:2004/01/16(金) 21:25
今日は涙でグズグズでレス出来そうに有りません。
(と、言いながらレスするな、と自分自身に問いつめる事、小1時間)
梨華たんの誕生日に、このお話の最終日を迎えられるなんて
これ以上の幸せは有りません。

446152:2004/01/17(土) 00:03
更新お疲れ様です。
も〜・・おみごと!のひとことにつきます。
言葉を読めば読むほど感じいります。大人になるにつけ、守れない約束を
口にしてしまっていますね・・痛っ・・
19日・の更新、楽しみです!・・でもさみしいです・・

447Sa:2004/01/19(月) 10:52
いしかーさん、お誕生日オッメデト 〜〜〜♪
(*^▽^)<ハッピィ〜?
 
JUNIORさん>
 ありがとうございます(ペコリ)
 作者が言うのもなんですが、前回が一番の盛り上がりドコかと…
 あまり、期待なさらないコトをお勧めします(w 

54さん>
 ありがとうございます(ペコリ)
 イヤァ〜、今日の日は本当にねらったワケではナイんで…って
 あんまり弁解するのもウソクサイですかね?(w

ちゃみさん>
 ありがとうございます(ペコリ)
 ( ^▽^)つ□<ハンカチいかがですかぁ?
 そう言って頂けて、作者にもこれ以上の幸せはありえませんっ!!!

152さん>
 ありがとうございます(ペコリ)
 ハハハ… 自分で書いといて実は作者もオレはどーよ?とか思ってたりして(w
 最後まで楽しんで頂けたら、本望でございます

それでは更新に参ります

448約束:2004/01/19(月) 10:53
ふたりで迎えた初めての冬は、駆け足で過ぎて行った

真希と合流した初詣で、真希だけが大凶のおみくじを引くと
真希はしゃがみこみ ・・・なんで、ごとーだけ?・・・ と呟いた

「・・・引くヤツ、はじめて見た」
ひとみは、なかばあっけにとられた様な顔で言い、その後 笑った

梨華は梨華で、オタオタと慰めにならない慰めを口にした
「ごっちん!すごいよっ・・・だって、なかなか引けないよ?」

あさ美だけは、本気で心配そうな顔をしながら言った
「・・・お取替えしましょうか?」

梨華の誕生日にはまた四人で集まりパーティを開いた

真希は梨華へと、新たなる挑戦の結果だと言いながら、梨華とひとみの
編みぐるみの人形をプレゼントした
それは、梨華が黒い猫の着ぐるみを着て愛くるしく微笑み
ひとみは、白い犬の着ぐるみを着て、どうでもいいや、という顔をしていた

ひとみはその二体を眺めながら、・・・随分、出来に差がない? と嫌な顔をした
すると真希は ・・・ごとーって持久力がイマイチなんだよねぇ〜 と悪びれずに
へらへらといつもの調子よさで笑った

そして、あさ美は真希に習ったと嬉しそうにケーキを焼いた

449約束:2004/01/19(月) 10:54
クリスマスにお金を使わせたから、誕生日プレゼントはいらない、と言う梨華に
ひとみは照れくさそうに笑った

「・・・あたし、今まであんまりお金使うことって無かったからさ、意外と
 金持ちだったりするんだよ」

そして、繊細な銀細工が四葉のクローバーを象ったリングを、梨華の右手の小指に
結ぶ様にと、ゆっくりはめた

ふたりきりになると、ひとみは梨華の左手を取り、薬指へと唇を落としながら言った

「・・・次は、ここね」
「ひとみちゃんって、意外とロマンチストだね?」

梨華が笑みを零しながら言うと、ひとみは唇を尖らせてむくれた
そんなひとみの無防備で、どこか幼い表情を見ると、梨華の胸は温かく
緩んでいく

指輪の贈り物はもちろん嬉しかったけれど、以前よりもひとみの眼の色が
明るくなり、無邪気さを漂わせた顔つきをすることが増えた事こそ
梨華には何よりも嬉しかった

バレンタインデーには、真希の指導の下、四人でチョコレート菓子を
たくさん作り、品評会のように騒いで食べた

ホワイトデーには、大きな瓶詰めのキャンディーを買い、四人がそれぞれの口へと
投げ合って、取り損ねたお互いの顔を笑い合った

450約束:2004/01/19(月) 10:54
そして、また春がやってきた

優しい春の女神が微笑みを零すように、立ち並ぶ木々の上へと彩りを広げ
春風が運ぶ桜色の粉雪が降る中、四人でその袂を囲んだ

ひとみが豪華な重箱を、手品の様に次々開けていくと、残りの三人は目を丸くした
それぞれが、驚きや賞賛の声を上げるとひとみは満足げに大きく頷いた
「・・・ま、こんなもんでしょ」

四人は体重増加を気にするほどお腹につめこむと、温かみを増す日差しの中
柔らかく漂う空気に新たな誕生への息吹を感じながら、川原まで散歩した

真希がふと思いついたように言う
「ごとーも医学部、目指そうかなー」

残りの三人に、まじまじと見つめられて、真希はへらへら笑った
「あはっ・・・なにかに燃えてみるのもいいじゃん これぞ、青春ってね?
 だから梨華ちゃん、よっすぃーがコケても、ごとーがいるから
 安心していいよー」

ひとみは真希を小馬鹿にするように目を細めた
「ごっちんさ、今まであたしに勝てたことがあったっけ?」

ふたりが僅かに睨み合うと、あさ美が感極まった声で口にした
「完璧ですっ 不肖ながらこの私も看護婦になりたいと常々思っていたのですっ!」

451約束:2004/01/19(月) 10:55
土手につくと、まずは体力だー と言いながら、真希はあさ美を連れて
バトミントンを抱え、芝生の斜面の下の砂利道に駆け下りて行った

ひとみと、梨華は斜めに続く芝生へと腰を下ろし、小さな鳥のように
歓声を上げる二人の間を行き交う羽を見ていた

ひとみは組んだ指先に頭を乗せ、ごろりと横になった
そして、遮るものもなく、どこまで行っても終わりなき様に広がり続ける
大空を眩しげに見上げて口を開いた

「来年、あたしが医学部に入って、卒業式が終わったらさ
 ・・・一緒に暮らさない?」

梨華の息を呑む気配に、ひとみは小さく笑った

「・・・まださ、一年も先のことだから考えておいてよ」

・・・そんなの、無理だよ と、梨華の困惑を漂わせた音色の呟きに
ひとみは、顔だけ梨華の方へと向け短く聞いた

「・・・なんで?」
「・・・だって・・・・わたし・・・だって・・・」
「だって・・・なに?」

ひとみは、梨華の方へと身体の向きを変え、立てた肘の上の手で頭を支えると
眉を寄せ、泣き出しそうに顔を歪める梨華をじっとみつめた

452約束:2004/01/19(月) 10:55
「・・・だって、わたし・・・一緒になんて暮らしたら、ひとみちゃんに
 きっと、迷惑掛けるから・・・」

「・・・迷惑?」

「身体のことだけじゃないの・・・わたし、ひとみちゃんに窮屈な思いさせちゃうと
 思うから・・・だって、だってね?・・・わたし・・・すごく欲張りで、我がままだから
 ひとみちゃんのこと、縛り付けちゃうもん
 ほんとはわたし・・・あさ美ちゃんやごっちんにまで、ときどきね・・・
 焼きもちやいちゃうくらいだから」

「・・・知ってる・・・梨華はさ、分かりやすいから」

梨華は・・・それだけじゃないもん と言いながら、額を並んで立てた膝に
押し付けた

「・・・わたしがね? 生きて行きたいって思ったのは、生きるのを諦めないとかって
 そんな格好いいことじゃ、全然なくて・・・解ったから
 わたし、ひとみちゃんの想い出の中でなんか生きていきたくないって
 ・・・わたしがいなくなったからって、誰かと幸せになってね、なぁんて
 絶対言えないって・・・よく解ったから
 ・・・独り占めしたいんだもんっ いつでも、ひとみちゃんのこと」

「ちょうどいいんじゃない?」

梨華は、ひとみの言葉が思いもつかないことらしく、膝から顔を上げると
ほへぇ、と間の抜けた顔をして、ひとみの口元を見た

ひとみは起き上がると、目元を甘やかに微笑ませた

453約束:2004/01/19(月) 10:56
「・・・だって、わたし・・・一緒になんて暮らしたら、ひとみちゃんに
 きっと、迷惑掛けるから・・・」

「・・・迷惑?」

「身体のことだけじゃないの・・・わたし、ひとみちゃんに窮屈な思いさせちゃうと
 思うから・・・だって、だってね?・・・わたし・・・すごく欲張りで、我がままだから
 ひとみちゃんのこと、縛り付けちゃうもん
 ほんとはわたし・・・あさ美ちゃんやごっちんにまで、ときどきね・・・
 焼きもちやいちゃうくらいだから」

「・・・知ってる・・・梨華はさ、分かりやすいから」

梨華は・・・それだけじゃないもん と言いながら、額を並んで立てた膝に
押し付けた

「・・・わたしがね? 生きて行きたいって思ったのは、生きるのを諦めないとかって
 そんな格好いいことじゃ、全然なくて・・・解ったから
 わたし、ひとみちゃんの想い出の中でなんか生きていきたくないって
 ・・・わたしがいなくなったからって、誰かと幸せになってね、なぁんて
 絶対言えないって・・・よく解ったから
 ・・・独り占めしたいんだもんっ いつでも、ひとみちゃんのこと」

「ちょうどいいんじゃない?」

梨華は、ひとみの言葉が思いもつかないことらしく、膝から顔を上げると
ほへぇ、と間の抜けた顔をして、ひとみの口元を見た

ひとみは起き上がると、目元を甘やかに微笑ませた

454Sa:2004/01/19(月) 10:59
更新終了致しました

約二ヶ月の間、長かった様な短かった様なフシギな気持ちです
作者が最後まで書くことが出来たのは、本当に読んでくださり
オコトバをかけてくださる方々が確かにいるんだ、と思えたからです
作者に書くコトの喜びと、難しさを教えて下さって、本当に
ありがとうございました(ペコリ)
そして管理人様、お世話になり、ありがとうございました(ペコリ)

さて、終わったばかりでなんなんですが、すごく短いその後のハナシが
ありまして、このまま終わった方がよいのかもしれませんが
作者にとっては、そのハナシをあげないと終わった気がしないので
来週中に一度上げさせて頂きたいと思っております
よろしければ、覗いて頂けたら嬉しいです

お付き合い頂けて、この二ヶ月間作者はすごく幸せでした
ありがとうございました(ペコリ)

455Sa:2004/01/19(月) 11:08
すいませんっすいませんっすいませんっ
すごいミスをしてしまいましたっ
同じとこを二回上げて、その先を削除してしまったみたいなんです
本当に申し訳ありませんっ
今から、もう一度書き直して上げますんで、しばしお持ち下さいませ

456約束:2004/01/19(月) 12:00
「特別に教えてあげるよ・・・あたしは顔に出さないだけで
 梨華がそう思うずっと前から、いまは梨華が思うよりずっと強く
 そう思ってる・・・あたしの方が独占欲は、たぶん強いよ・・・
 それでも、いいの?」

梨華は ・・・えぇ?だって、うそぉ、などと口の中で小さく呟いている
ひとみは梨華の頭の後ろに手をやると、その顔を自分の目の前へと引き寄せた

「・・・だから、あたし達はお互いの目の中に映り合えるくらい
 一番・・・近い所にいるのが、ちょうどいいんだよ」

ひとみは、梨華の頭の後ろに回した手の指先に力を入れると
自分の唇へと梨華の唇をそっと重ねた

出会ってから、二人でいられれば記憶に残らない日なんて一日もなかったけど
今はもう・・・それだけじゃ足りないから

きっと、自分達はお互いのいる場所が、お互いの帰る場所なんだと思う

・・・いつもふたりで
・・・ずっと一緒に・・・暮らして行こう

今、終わりなきように遥か先まで広がり続ける青空の下で
想いを馳せるのは、遠い日の幼い約束


・・・そして・・・それが叶えられるのは

・・・もう・・・すぐ

・・・すぐ・・・そこだから 


                         E n d

457Sa:2004/01/19(月) 12:07
本当に申し訳ありませんでしたm(_ _)m
最後の最後で、文章に浸って頂かなくてはならない局面で
こんな大きなミスを犯すのは、大勢いらっしゃる作者様の中で
私くらいなもんでしょう

本当に本当に申し訳ありませんでしたっ

458名無し(0´〜`0):2004/01/19(月) 13:37
約束作者様

完結、乙です!
更新楽しみに、いつもROMしておりました。
エンディング十分浸れました!大丈夫ですよ!!

かたくなだったひとみが梨華によって解放されていく様、
秀逸で、とても感動しました。
約束という言葉をこの物語のようにとらえると、
とても意味深いことに思えました。

素敵なSTORYをありがとうございました。

459ちゃみ:2004/01/19(月) 13:41
わぁ〜い、完結初レスだぁ〜。
なんのなんの、全然気になりませんよ。
それよりも幸せな結末の余韻に浸っておりまする。
本当に完結、お疲れ様でした。
永久保存版として『いしよし文庫』に入れさせて頂きます。
エピローグが有るとのこと、期待しています。

460ちゃみ:2004/01/19(月) 13:42
しまった、2番手だった。

46174:2004/01/19(月) 15:40
完結おつかれさまです。そしてありがとうございます。
作者樣の小説には、はじまりから
ずーっと引きこまれてました!
終わってしまうのほんとさびしい…
そういえば、某板で新作はじめてらっしゃいますか?
もしそうなら、また楽しませていただきます!

46254:2004/01/19(月) 16:37
完結おめでとうございます。
これだけの大作をほぼ2ヶ月で仕上げられたこと・・
川o・-・)< 完璧です!

導入部分でググっと引き込まれたまま、最後までその魅力を損なうことなく楽しませていただきました。
素晴らしい作品をありがとうございました。
いしよしはもちろんのこと、後藤さんの心の機微まで丹念に描かれていたのがとても印象的です。
(最強の85年組!)

この「約束」を読んでいるうちに、やっぱり人という生きものは誰かと触れていなければいけない
んじゃないだろうか・・と改めて考えるようになっていました。
触れるという行為は物質的な距離とかではなくて、もっと内面的なもので・・
う〜ん、うまく言えないですが。

こんなに素敵なお話を読めたこと、本当に幸せです。
またいつかお会い出来る日を楽しみに。

463名無し読者79:2004/01/19(月) 20:44
お疲れ様です。
途中うまく言葉で伝えられず、レスできませんでした。
でも、この二人の明るい未来が見えてくるようで幸せです。
この小説最高でした。梨華ちゃん、よっすぃー、ごっちん、紺野の気持ちが
すごく伝わってきました。
次回作も拝見させていただきます。

464JUNIOR:2004/01/19(月) 21:21
更新&完結お疲れ様です。
涙が出てしまいました。(つ_T)
ミスなんて何も気になりません。
この小説があるから、勉強が頑張れました。
飽きっぽい私が夢中になって最後まで読みきれた事にとても感謝しています。
そして、言葉や文章にも表せられない位の感動をありがとうございました。
Saさんにはとても感謝します。
その後の作品期待しています。
素敵な感動と小説ありがとうございました。

465152:2004/01/20(火) 00:04
更新お疲れ様でした。本当に、本当にお疲れ様でした。
涙、でした・・感動でした・・・
うまく言葉では表現できないのですが、Sa様のこの小説に
出会えたこと、と〜っても幸せでした!!毎日読ませてもらう
ことが楽しみで、楽しみで・・。秀逸なのは言うまでもありま
せんが、毎日の更新、それに私達へのレス。
Sa様の誠実さ・尊敬でした。ず〜っとついて行きたいです♪
少し、続きがあるとのこと・・。終わりじゃないんだ〜、と
ほっとしてたりして・・ 
でも、本当にありがとうございました。感謝・感謝です。
また、お会いできることを楽しみに・・

466Sa:2004/01/26(月) 15:17
お久しぶりでっす(?)
皆様、お元気でしょーか?(w
温かい御言葉の数々、本当にありがとうゴザイマス(ペコリ)

458様>
 いつも読んで下さっていたとのこと
 ありがとうございました
 普段、簡単で意識せずいることの中にあるものとか
 些細な心の動きで変わっていくこと、などを
 地味に書いていけたらいいなぁ〜と思っております
 
ちゃみ様>
 お付き合い頂いてありがとうございました
 永久保存とは、勿体無くもありがたい御言葉…
 追記のようなモノもお気に召して頂けたら
 幸いです(w

74様>
 こちらこそ、ありがとうございました
 作者も寂しいでございます
 某版は作者だと思われ…(w
 また楽しんで頂けるなら光栄でございます

54様>
 お付き合い頂いてありがとうございました
 こちらこそ、丁寧なレスの数々、毎回楽しく
 拝見させて頂いておりました
 そうですね、多分、自分の話をちゃんと聞いて
 くれる人が一人はいないとシンドイだろうなぁと思います

名無し読者79様>
 お付き合い頂いてありがとうございました
 いえいえ、数々のレス励みでございました
 そうですね、出来るなら明るい未来を思い描き
 進んで行けたらいいですよねぇ?
 またお付き合い頂けるなんて作者は果報者でございます

JUNIOR様>
 お付き合い頂いてありがとうございました
 涙が流せるのは素敵なことだと思います
 作者も感謝の言葉を表すのって難しいなぁ感じております
 欲張って、欲張って、お勉強もそれ以外のことも(w
 楽しんで下さいませね

152様>
 お付き合い頂いてありがとうございました
 こちらこそ、いつもお心のこもったレスを
 下さったこと、忘れません
 たった一回きりの更新ではございますが
 楽しんで頂けたら幸いでございます

それでは追記もどき
「永遠」を上げさせて頂きます

467永遠:2004/01/26(月) 15:18
「お世話になりました」

私が丁寧に頭を下げると、中からは激励とか、別れを惜しんでくれる声が
聞こえてきて、ちょっとだけ涙ぐみそうになった
それでも、もう一度笑顔で挨拶してから、ナースステーションを後にした

医局を覗くと探してる顔はいなかった

・・・今日は確か、外来がない日だよねー
・・・あー・・・じゃ、あそこかな?

私は、皆によくババ臭いとからかわれた、片手の拳でもう片方の手の平を
ポンとたたく仕草をすると、一人頷いて階段を上った

屋上へと出る灰色のドアをゆっくりと押した
今日は思いの他、風が強いみたいでいつもより更にドアは重く感じた

目の前に広がる洗濯物が、バタバタと音がしそうな程、はためいている
その隙間から、今日の空に流れてく雲みたいな色の煙が浮かんでは漂っている

私はその煙のもとへと足音を忍ばせて近づくと、ぼーーーっと煙をあげる顔に
声をかけた

「吉澤先生っ!」

468永遠:2004/01/26(月) 15:18
「おわっ あさ美ちゃん・・・」

壁に背中をつけて座りながら、タバコをふかしていた先生は、キテレツな叫び声を
上げると、自分の手を見て気まずそうに笑った

「医者のフヨージョーっての?・・・わかってはいるんだけどさ」

携帯灰皿を出すと、吸いかけのタバコを慣れた手つきでその中で揉み消し
ながら私の顔を見た

「・・・梨華には、内緒って事で・・・」
「お姉ちゃん・・・知ってますよ?」
「マ、マジで?・・・っかしなぁ〜〜〜梨華の前で吸ったことないよ」
「お姉ちゃん、あー見えても鼻が利くっていうか・・・隠し事はしても無駄ですよ?
 他の子にちょっとでも目をやったりなんかしたら、かなりヤバイですよー」

私がイジワルく言うと、先生はちょっと上ずった声で答えた

「イ、イヤだなぁ〜〜〜 あさ美ちゃんさぁ、何か勘違いしてない?
 ・・・ないってソレは、ホントにさーーー」

・・・知ってますよ? 先生がよくモテていることも、それでも軽く話を
合わせる程度にしか、誰とも付き合ってなんかいないことも
だから、先生がちょっと狼狽して見えたってことは、お姉ちゃんには
チクったりしないであげますね?

私も先生の横に腰を下ろしながら、さっきよりゆっくりと形を変えながら
流れてく雲を目で追った

469永遠:2004/01/26(月) 15:19
「ここの所、お姉ちゃん、ずっと調子いいですよね?
 ・・・他の先生達がこの間、奇跡みたいだって噂してました」
「・・・奇跡ねぇ〜〜〜?」

先生は、私が知り合った頃と随分雰囲気や話し方は変わったけど
そこだけ昔とあまり変わらない、小馬鹿にした様な笑い方をして言った

「・・・奇跡ってさ、あると思う?」

私はちょっと考えてみた ほんとの所、自分がどう思ってるのか
いまひとつ、はっきりとはしないから

「・・・あると思います、と言うか、あって欲しいなって思います」

「・・・奇跡を祈るとか言うけどさ
 祈るだけで、目の前に突然、落っこってくるなら、ずっと祈り続けたって
 いいし、縋ることで救われるなら、それも悪くはない
 ・・・けどさ、手を伸ばした人が平等に触れることが出来ないモノだから
 奇跡って呼ぶんだとしたら・・・そんなのはいらないんだよ
 あたしはね、そんなんじゃ何かが足りないと思うんだ」

先生は、・・・いい?とタバコを振って見せた
私が頷くと、一本口にくわえて火を点け、一息大きく吸うと目を細めた

「取りあえずさ、目の前の可能性とか出来ることを積み上げていって
 いつかね、今は見えないその先のそう呼ばれるものに、届く橋を
 架けらることが出来たらいいってさ そう思ってるんだよ
 ・・・自惚れてるかな?」

470永遠:2004/01/26(月) 15:20
「・・・それにさ、実は案外ありふれたモノなのかも知れない
 物事の受け取り方や、その人にとっての真実は、人の数だけあるからさ
 結局は自分達で選んで決めていくしかないしね
 ・・・あたしにとってはさ、目の前で梨華が今日も笑ってるってことだけが
 真実で、その笑顔を見るとそれがずっと続く様な気がしてくる
 ・・・永遠なんて、大袈裟だけどさ
 だからあたしは、あの笑顔を守る術を、いつも探してる
 んで、イノシシみたく突っ走ってる・・・それしかないじゃん?」

・・・だけど、と、私は考えてみた

昨日から今日、今日から明日、明日から明後日、明後日からまたその次の日
そんな風に絶えることなく流れ続けているもの
ひょっとしたら、それを永遠と呼ぶのかも知れない
だとしたら、触れる筈のない永遠というものの中に
私達は同じように確かにいるのかも知れない
そして、その中にいる先生の胸の中の変わらない想いは
・・・きっと永遠なんだ

「ところでさぁ、今日はどうしたの?」

私は自分の世界に入って、ボォーっとしてたらしく、横の先生を見ると
その手にさっきあった、タバコは無くなっていた

「制服を返しに来たんです」
「・・・まさか本当に行くとはね・・・正直驚いたよ 何時発つのさ?・・・ごっつぁんの所に」
「今日です・・・今から・・・」
「今日? それはまた随分急じゃない? あさ美ちゃんがそんなに
 せっかちだったとは知らなかったよ 梨華には言ったの?」
「それが・・・時間なくって、言ってないんです」
「・・・あいつ、怒るぞ?」
「少し、落ち着いたら手紙書きますよ」
「・・・手紙って、意外と古風なんだねぇ あさ美ちゃんはさ」
「今まで・・・書いたこと、ないから・・・書いてみたいんです」
「・・・ごっつぁんが、無医村の離島に行くって言い出した時は、度肝を抜かれた
 考えてみれば、らしい様な気もするけど・・・あたしは、どこかでごっつぁんは
 あたし達っていうか、梨華の傍から離れないと思ってたからさ」

471永遠:2004/01/26(月) 15:21
空を見上げている様で、ほんとは、違うどこか遠くを見るような眼で先生は言った
だから、私も思い出していた・・・真希さんの顔

「・・・実は私、真希さんは、お姉ちゃんのことずっと好きなんだと思ってました
 だから、真希さんが行っちゃうって聞いた時、思わす聞いてしまったんです
 お姉ちゃんのことを置いてですか?って・・・そしたら真希さん
 吉澤大先生がいるじゃん?って言って・・・だけど、誤解しないでよって
 笑ってました
 失恋したとか、身を引いたとかそんなんじゃないんだって・・・真希さんにとって
 お姉ちゃんは心の恋人なんだそうです」

「・・・そっか」

先生は穏やかに微笑んだ
解るのかな?真希さんの気持ちが・・・先生と真希さんの間にはやっぱり特別な
絆みたいなのがあって、私やお姉ちゃんでさえも割って入ることは出来ないって
前から、感じてたんだ

だけど、私には真希さんの言うことはシンプルなんだけど、解りヅライとこが
あって、そう顔に出てたんだと思う 続けて話してくれたっけ・・・

「あさ美ちゃん、好きな芸能人とかいない?・・・ソレにちょっと、似てるかなー
 ・・・心の中に、なんとなくいつもいて、顔を見ればやっぱいいなー
 この子が恋人だったらなーって、時には想像したりもする
 笑顔を見れば、こっちも気持ちは弾むし、悲しい顔されると、なんかツライ
 けど、お互いに一緒に歩いていく人じゃないって解り合ってるし
 触れ合うことはない・・・それを辛いとも思わないんだよ
 ・・・そんな、矛盾した気持ち」

・・・想いの量じゃなくて、質が違うんだ・・・
・・・ま〜、いーじゃん? それもひとつのラブってヤツ?

472永遠:2004/01/26(月) 15:22
真希さんは、ただ笑ってた・・・いつもと同じ、何も変わらない見慣れた笑顔で
・・・だけど、どことなく寂しそうな眼をしてた
私が思い出す真希さんは、いつも笑顔だけど、どこか寂しそうだった
あの日の真希さんは、いつもと同じにおしゃべりだったけど、表情はどこか
思いつめたように真面目だった

「・・・いつからかなー いろんなコト、後藤なりに色んな角度から考えてたら
 なんかもう、訳わかんなくなってきちゃってさー
 なんもかんも見失いそうになるんだよね・・・何、望んでるのかも
 何したくて、こうして医者になったのかも・・・ね
 ・・・そんな中で・・・必要とされたいって、その気持ちだけがずっとあって・・・
 逃げ出したかったよ・・・だけど、どこまでも追いかけてくるんだ・・・影みたいにね
 ・・・自分からは、どうしたって逃げられないってことだけは、解ったから
 追いかけることにした・・・取りあえず、医者の後藤だからっていうのがあっても
 確かに、必要だと言ってくれる人の居る場所で、新しく始めてみるコトにする」

私は眉を顰めて、片手を胸元でぎゅっと握った
あの時は真希さんが居なくなる寂しさよりも、その表情を見てるとただ切なかったから

真希さんは少し困ったみたいに笑って最後にこう言ったんだ

「・・・答えを出すことが全てじゃないってわかってても・・・それでも、やっぱり
 見つけたいんだ 自分の居場所を・・・」

473永遠:2004/01/26(月) 15:22
「うっへぇ〜〜〜!やっべぇっよっ!!!」

またしても、先生のキテレツな叫び声に、私はハッとした
先生は慌てて立ち上がると、お尻をパンパン叩いた

「サボリ過ぎた・・・送れなくてごめん」
「・・・そんなの、いいです そんなコトされたら、かえって寂しくなっちゃいますから」
「ごっつぁんは・・・ヤツはああ見えてかなり寂しん坊だから、あさ美ちゃんが
 行ってやったら、すげー喜ぶと思う」
「・・・そうでしょうか?」
「あぁ・・・きっと、ね」

先生は昔よくそうしてくれたみたいに、私の頭をぐちゃぐちゃっと撫でると
またな、と小声で言いながら首を傾げ、笑った
私も、さよならの言葉は言いたくなかったし、なんて言っていいかわからないから
強く頷いて笑顔を返した

「・・・お元気で、姉のこと、お願いしますね?」
「あぁ・・・言われるまでもないね」

474永遠:2004/01/26(月) 15:23
先生は、両肩を竦めて見せた その皮肉っぽい物言いも、少しだけ意地の悪い笑い方も
すごく好きです・・・そして、こらからも、ずっとずっと好きだと思う

私が胸に焼き付けるように、その顔をじっと見てると、先生はにかっと笑った
そして、ひとつ頷くと白衣の裾を翻して行ってしまった

屋上で、一人きりになると、私は真希さんがくれたメールの文字を思い出した

・・・こっちは、空気も青空も夕日もキレイだよ
・・・いつか、見においで・・・

私は、辺りに人がいないのを確かめると、いま立つ場所に別れを告げる代わりに
新しい場所へと大声で、叫んだ

「いまから、行きますからねっーーー!!!」

475永遠:2004/01/26(月) 15:23
お姉ちゃん、元気ー?!
毎日が、あっという間に過ぎてく感じで、なかなか電話もしないでごめんね?
こっちは空気も食べ物もすごくおいしくって、私も真希さんも元気すぎるくらいだよ

この間ね、道を歩いてたら、お婆さんが真希さんを見て両手を合わせて頭を下げたの
真希さんは、 ははは、と、引きつった顔で笑ってたよ
あとね、朝起きると診療所の前に採れたての野菜なんかが置いてあったりするんだ
後藤は、お地蔵様じゃないんだよって、真希さんは困ったみたいに笑ってる

お医者さんが、真希さんしかこの村にはいないから
最近、難産になりそうな子馬の出産に立ち会ったんだ
無事生まれたんだけど、生まれてすぐ立ち上がろうとしては、膝を付く子馬に
母馬は優しい瞳を向けて、ただ、その体を舐めてあげていたんだ
その姿を見た時、これが見守るってことなんじゃないかなって、私思ったの

私は、お姉ちゃんの病気のことが分かった時、これからはお姉ちゃんは私が
守っていくんだって思ってた、だから看護婦にもなりたかった
私はね、お姉ちゃんが思うよりずっとシスコンだったから
それで、守ってあげてる気にもなってたんだ
だけど、お姉ちゃんは見た目の頼りなさと違って、内面は私なんかより
ずっとしっかりしてる
そのこと、ほんとは分かってたけど、認めたくなかった
ほんとは、私の方がお姉ちゃんを頼っていたことも

476永遠:2004/01/26(月) 15:24
いつだったか、お姉ちゃん家に行って先生が留守だった時があったよね?
あの時、お姉ちゃんこう言ったんだよ、覚えてる?
大切に想える人が目の前にいてくれる、そのことを幸せって呼ぶのかも
知れないねって
それで、おねえちゃん家からの帰り道で、偶然先生に会ったんだ
そしたらね、先生までこう言うの
愛しい人が目の前で笑ってる、そのことこそが幸せだって知ったんだ、ってね
お姉ちゃんと先生は向かい合ってた訳じゃないのに、おんなじ様に心が
満たされてる笑顔を浮かべてた
この二人は完璧だって、私、ちょっと感動しちゃった

だから、私も考えてみたの 私は何があれば幸せなんだろう?
何を見て、心が満たされるんだろう?って
そしたらね、真希さんの顔が浮かんだんだ

私は真希さんに自分の方を見て欲しいとは思ってないんだ
だけど、真希さんの瞳に映るモノを一緒に見て行きたい
そして、真希さんが何かに躓いたり、転んだりしちゃうことが
あったら、私が手を差し出せるくらいの近い場所にいたいって

477永遠:2004/01/26(月) 15:25

私とお姉ちゃんは、姉妹でそれはずっと変わらない
そういう目に見えて、ずっと確かに変わらない絆ってあるけど
その反対に、日々変わり続ける毎日を送るなかで
目には見えなくても、ずっと変わらないものがあるって
今の私には信じられるから
だから私達はもう、別の人を選んで、違う場所で生きて行く
それでいいんだよね?

きっと、お姉ちゃんなら、お姉ちゃんと先生なら
二人なら、どんな時でも微笑んでいられるって信じてるから

それじゃ、またね 今度は電話するよ

追伸
たまに、お姉ちゃんのアニメ声が、どうしようもなく
聞きたいなって思うんだ

                          
                         あさ美



                             End

478Sa:2004/01/26(月) 15:26
これでこのお話は完結でございます

何か感謝の気持ちを申し上げたいのですが
こちらを使わせて頂いた管理人様、読みに来て下さった方々
レスを下さった方々、その全てが作者にはありがたかった、と
最後にお伝えしたい気持ちはそれだけです
本当に、本当に、ありがとうございました(ペコリ)

479名無し読者79:2004/01/29(木) 17:59
お疲れ様です。
紺ちゃん…。なんかこの二人にも明るい未来が待っている感じがして
こちらこそ素敵な小説ありがとうございました。

48054:2004/01/30(金) 00:04
完結、お疲れ様でした。
こんこん視点、楽しませていただきました。
川o・-・)< わたくしを持って来るとは・・まさに完璧です!
いろんな溢れる想いが伝わって来ます。
こんこん、なかなか情熱的で行動的だったんですねw

最高の小説を読ませていただきました。
またここでお会い出来る日を楽しみに・・

481JUNIOR:2004/01/30(金) 05:59
更新お疲れ様でした。
相変わらず暖かい文章で・・・。
言葉にはなかなか表せられないほどの感情が
湧き上がってきました。

Saさん、またお会いできる日を心から待ってます。

482Sa:2004/02/16(月) 20:39
お礼のコトバでゴザイマ〜ス

名無し読者79様
 最後までお付き合い頂いて本当に
 ありがとうございましたっ!!!
 いつでも明るい未来を思い描いて行けたら
 イイですよねぇ〜?
 名無し読者79様の未来にも幸多かれ(ペコリ)

54様
 完結までお供して頂いて、本当に
 ありがとうございましたっ!!!
 川o・-・)ノ<ワタクシで楽しんで頂けるとは、まさに完璧ですっ
 作者にとってサイコ〜のオコトバの数々、パワーの源でした(ペコリ)

JUNIOR様
 ラストまでついてきてくれて本当に
 ありがとうございましたっ!!!
 温かい励ましのオコトバの数々に、いつも支えられていたんだなぁ〜と
 今更ながらに感謝の気持ちでイッパイです(ペコリ)

483名無し(0´〜`0):2004/03/14(日) 12:16
新作キボン!!強くキボン!!!!

484YUNA:2004/03/15(月) 18:19
初めまして!!!
最終回まで、うず②しながら待ってましたょ。w
今一気に読んだんですが、激しく涙が止まりません...
よかった、ハッピーエンドで...
紺ちゃん頑張れぇ〜♪
いしよしは、永遠に不滅なのれすっっっ!!!

485Sa:2004/03/31(水) 20:32
オォッ!!!
まだレスを下さる方がいらっしゃるなんて感激でございます

483様
 そう言って頂けるとカナーリ嬉しいです
 考えてるハナシはあるのですが、果たして書ききれるのか?自分(w
 メドがたちそうなら挑戦いたします
 面白くないかも?ですが、その時はよろしくお願い致しますね?

YUNA様
 初めまして〜〜〜♪
 YUNA様は、あのYUNA様ですよね?
 約束だの、永遠だの何気にカブッタタイトルを使ってしまってすみません(^人^;)
 涙して頂けるなんてモッタイナイッ!!!②←カナリスキ(w
 お読み頂いてありがとうございましたっっっ


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