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MAGIC OF LOVE

1ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:27


小さい頃の大きな夢

かわいいお姫様と、かっこいい王子様

王子様はお姫様の為に、色んな障害を乗り越えるの



でも大きくなって、こう思うようになった

お姫様や王子様にいつも手を差し伸べてくれるのは魔法使いさんなの

228名無しひょうたん島:2003/02/15(土) 20:37
タラシヨッスィキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
シットリカチャンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

いや、もちろんいしよしヲタですよw
でも、よしあやも代好き(ニヤリ

229名無しひょうたん島:2003/02/16(日) 21:03
( ゜皿゜) <マッテタワヨ!ソレニタイリョウコウシンヤルワネ!カオダッテイチバンタノシミナノヨ!
川o・-・) <213さんにジェラシーですね!
( ´酈`) <なんらか、おもしろいてんかいなのれす。
(0^〜^) <もてるオイラカッケー!!

ガンガッテください!!

230YUNA:2003/02/18(火) 14:40
ちょっと(?)怒る梨華ちゃん可愛い♪♪♪
よっすぃ〜、ご愁傷様です。
話の中の藤本・松浦、ツボですっっっ。(笑)
って、うちの駄文を読んでくださってるなんて...
ありがとぉ〜ございます...(涙)
実は、うちも...
更新しないくせに、ちま②来たりしております...(苦笑)

231ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:18




梨華はその華奢な肩を精一杯いからせながら、目の前で何とも情けなく眉尻を下げている
ヒトミに向かって頬を膨らせていた。

「で?」
「…え?」

「とぼけないで!」
急にトーンを上げた梨華の声に、思わずヒトミは肩を竦める。
二人しか居ないこの屋上では、素晴らしく綺麗に声が耳に入ってくる。
「あの松浦さんとどういう関係よ!」

今日一日この昼休みまで、そして今現在も梨華はずっと不機嫌極まりなかった。
想いが通じ合ってホッとしたのが昨日だと言うのに、それが今日になって相手が別の女の
子と仲良く抱き合ったりなんかしているのだ、怒らない訳がない。
しかし本当のところ、ヒトミは抱きしめていたつもりはないのだが、そんな事は梨華の頭に
はカケラも残っていなかった。

「どういうって…ただ同じクラスだから仲良くなっただけだよ」
「そんなただ仲良くなっただけの人が、登校してきたのを見つけてわざわざ外まで走って出
 てくると思う!?」
「そんな事言ったってあれはまっつーが勝手に…」

『まっつー』

その単語を聞いただけでムカムカする。
「………」
「…な、何?」
「…もぉばかっ」
「なんだよそれぇ」
「どーせヒトミの事だから!他の生徒ともあんな事したりしてるんでしょ!?」
梨華はつい最近の事を思い出していた。
こいつは人前で平気でキスなんかできる奴なのだという事を。

232ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:19

「あたしのポリシーだもん、仲良くなるにはまずボディタッチから」
否定しない。
それが更に梨華を怒らせる原因となった。
「その言い方なんかヤラしいっ」
「ホントの事だもん、特に“ハグ”は大事」
確かに欧米では、日本よりもスキンシップが多いという事は聞いている。
しかし、ここは日本なのだ。
そんな誤解を招く行為をされてしまっては、本当に誤解を招きかねない。
いや、もう既にその誤解にかかってしまった人は現れてしまったのだが。
「大体ヒトミだって抱き付かれたまんま離そうとしなかったじゃない!」
「いや、だって友だちをそんな風に扱えないでしょ?」
「そういう事じゃなくって…」
もごもごと口調をにごらせていく。
何だか一人で怒って恥ずかしくなってきていた。

梨華は人一倍、独占欲が強い。
そういう育ちからか、はたまた一人っ子という環境がそうさせてしまったのかは定かではな
いが、小さい頃から自分のモノに対してとてつもない執着心を持っていた。
それがおもちゃであろうとなんであろうと、自分の手元から消えてしまった時にはもう手の
施しようがなく、周りの大人たちを困らせていたという事だ。
大きくなっていくうちに、さすがにそんな事はなくなっていたが。

そして、生まれて初めての恋人。
そんなモノが出来てしまったとあれば、梨華の嫉妬心がさらに増していくのは必然だ。

「とにかくっ、あたしはやましい事はしてないからね」
「そんな事言ったってぇ!」
「梨華ちゃんっ!」
明らかに苛立ちを見せるヒトミのその顔に、ぐっ、と梨華は唇を噛み締めた。

―――――もぉ…なんで私がこんな目に合わなくちゃならないのよぉ…

そんな事を考えていると、ヒトミが梨華の右手を取りその手の平にチュッ、と口づける。
「!」
それを目の当たりにして梨華の体はドンドン熱を上げていく。
ヒトミはそんな風になってしまった梨華を横目で確認し、ニヤッとまたあの笑みを見せると
今度は梨華の頬にそっと手を当ててチュッチュッ、と顔中に何度もキスをしていった。
「ちょ…ヒトミ…もっ…」
「んー」
体をよじらせて逃げようとするが、いつの間にか腰にヒトミの腕がガッチリと回っていて、
逃げる事が出来なかった。

233ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:19

ヒトミのされるがままになっていた梨華。
しばらくしてヒトミがようやく腕の力を緩め解放したが、梨華は逃げようとしなかった。
「あたし梨華ちゃん以外にはこんな事しないって、言い切れるよ」
「………」
「ね?だからさ」
ひたすら上目使いにヒトミを見上げる梨華。
「そんな顔しないでよぉ〜」とヒトミがおちゃらけても、梨華の顔は元には戻らない。

「ねぇ梨華ちゃん、笑ってよ、ね?ね?」
「………」
「梨華ちゃぁん、お願いだから」
「………」
「梨華ちゃんってばぁ」
「………」
「梨華ちゃんっ、もういい加減にしてよ!あたしだって怒るよっ?」
ヒトミが意を切らし、ちょっと怒った顔をして見せても状況はまったく変わらなかった。
それにちょっとショックを受け、今さら後には引けなくなったヒトミはさらに大きな声で梨
華に怒鳴りつけた。
「そりゃ確かにあたしふらふらしててだらしないように見えるけどさぁ、こういう大事な事
 はちゃんと気遣ってるつもりだよ!?それなのに梨華ちゃんは…!」
怒鳴っても梨華はいまだ口を閉ざしたままだった。

ヒトミはついに切り札を出した。


「あたしの事信用できないの!?」


しかしそれには予想外の反応。
「…できないわ」
「え!?」
ヒトミはそこで一瞬固まった。
「なっなんでぇ!?」
慌てふためくヒトミに、梨華は到って冷静な表情のままヒトミのその襟首を引っ掴み、ぐいっ
と自分に引き寄せた。

234ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:20



「この爽やかな香りは何でございましょうか」


にこっと笑顔になる。
しかしその梨華の笑顔と敬語が後に、泣いた後より、怒った後よりももっと恐ろしい事になる
のを、ヒトミはすでに理解していた。
「か…香り?」
「…ヒトミって香水つけてなかったよね?」
「え…あ、まぁ…ね」
嫌な予感がヒトミの胸の内をよぎる。
そしてそれは見事的中してしまう事に。

「私はアナタから『ピーチ』の香りがするように思えるのですけど」

「………」
「確か、松浦さんも最近になって香水をつけ始めたとか?」
「いや…確かにそれはあってるけど、でも多分朝についたのがまだ…」
「残ってる訳ないでしょ!あれから何時間経ってると思ってるの!?」
やはり年上である梨華の方が強かった。

「白状しなさいっ!またベタベタしてたんでしょぉっ!?」
「ちっ…違うぅ!あれはまっつーが勝手に…!」
「やっぱり!もぉ何やってるのよぉぉぉぉ!」
もうすっかり梨華の尻に敷かれてしまっているヒトミ。
嘘がつけない性格からか、言う事全てが梨華の逆鱗に触れてしまい結局、


「ごめんなさいっ」


「…もぅ止めてよ?」
「いや、だから…まぁいいや、はい、もーしません」
「よろしいっ」
ようやく梨華が笑ったのを見て、ヒトミはホッ、と胸を撫で下ろす。
そして同時にその眩しいほどの笑顔に顔を綻ばせて、思わずギュゥッと抱きついた。
嬉しそうに梨華の頬に自分の頬をネコの様にすり寄せる。

235ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:20

と、そこで皮肉にも予鈴が鳴り響いた。
「あー終わっちゃったね、昼休み」
「えぇ――――っ」
「しょうがないでしょ、ほら教室戻ろう」
体を離して梨華は行こうとするが、ヒトミはいっこうに動こうとはしない。
そしてヒトミはもう一度、その腕に梨華を抱きとめる。
「ね、サボっちゃわない?」
「はあ?!」
梨華は腕の中でヒトミの顔を見上げた。
「いいでしょ?」
「な…そんな事出来る訳ないでしょっ!授業出なくちゃ!」
「いーじゃん、梨華ちゃんいなくても誰も困らないって」
「ひどいっ!何よそれ!」
頭を叩こうと、振り上げられた梨華の腕が振り下ろされる前に、ヒトミは梨華に軽くキス。
梨華の動きはそれだけで簡単に止まった。

「あたし梨華ちゃんいなかったら困る」
「…二人でサボった事、ばれちゃったらどうするのよ」
梨華の腕は振り上げられた状態のままだ。
「別にいーよ、でも学年違うからそう簡単にばれないって」
だから、ね?ととてもいい表情をするヒトミ。
「「だから、ね?」じゃないでしょ!まったく…」
「いーじゃーん、一回くらい経験しといても損はないって」
「そういう問題なの?」

なんて口論をしばらく続けていると、また『キーンコーンカーンコーン』と予鈴が鳴る。
「あぁっ!?」
「あらぁ、授業始まっちゃったねぇ」
ニヤニヤと、これまたいい顔。
「…わざと引き止めてたでしょ」
「ばれましたか」
「んっもうっ」
上げていた腕でコツン、とヒトミの頭を小突く。
そして怒った表情をしながらも、その唇の端はちょっとだけ引きつっていた。
「嬉しかったりする?」
「ばか」

その日、梨華は生まれて初めて授業をサボった。

236ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:21
“ハグ”の意味、分からない人のために。。。
この場合“抱きしめる”と捉えておいて下さい。
うちの学校でも友達同士よく言ってるし、やってるのです。(どない学校や

>名無しひょうたん島さま
>いや、もちろんいしよしヲタですよ
 本 当 で す か ?(笑
いや私もいしよし大すっきですよ?本当です。
でもなんか…あやゃでもいーかなーとか…ミキたんかわいいなぁとか。(笑
(+`▽´)ノ<ハッキリしなさいよ、ハッキリ!

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<ソレハウレシイワ!ガンバルワヨ!!
( ´酈`)<そういっていただけるととってもうれしいのれす。てへてへ。
川o・-・)<作者は『今日は不調…、しかし今度こそ!』との事です。
( ´ Д`)<あっは、言い訳だね〜。

>YUNAさま
>うちの駄文を読んでくださってるなんて...
駄文だなんて!何たる事を!(爆 新作おめれとうございます。。。
更新、早くしてくださいね。(笑
川釻v釻从<もしやハマったかしら?なかなか良い心がけですわよ。(笑
从‘ 。‘从<この喋り方ってけっこうはまるんですよねぇ〜。

237YUNA:2003/02/19(水) 14:56
更新、お疲れ様ですっっっ!!!
実はうち、アメリカ在住なんっすよぉ。
ハグは、友達に逢うと必ずされますね。(笑)
もぉ〜いいよっっっ!!!ってくらい。(更笑)
更新頑張りますよぉ、できる限りですが...(苦笑)
お互い、頑張りましょう!!!

238215:2003/02/20(木) 12:41
更新、お疲れ様でした。
独占欲の強い石川さん、イイ!(・∀・)
何気によしあや風味になって来て、コッソリニヤけてますがw
あややにハグ・・そりゃもう「ピーチ」の香りも移るってモンですわなw
生まれて初めて授業をサボった石川さん、この先屋上で一体何を!?

239名無しひょうたん島:2003/02/20(木) 14:49
( ゜皿゜)<ハグハグカオモシタイノヨ!!
( ´酈`)<ののもしたいのれす。てへてへ
不調なんてとんでもないです。がんばってくださいね。

240ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:17




「おっかえり〜」
「柴ちゃん」
5時限目の終わりのチャイムが鳴って、教室へと戻ってきた梨華。
それをものすごい笑顔のあゆみが出迎える。
「まさかサボっちゃうとは思わなかったよ」
一応気分が悪くて保健室、って事にしといたよ。
と、あゆみ。

「ありがとう柴ちゃん」
「いやぁ、でもまさか本当に付き合ってたとは…ビックリした」
「あ、あの時はまだそんなんじゃなかったんだけどね…」
そう考えたら今こうなっている事が信じられないな、と梨華はふと思う。
「ま、人の心は変わりやすいからねー」
ニヤニヤするあゆみに、梨華は先ほどヒトミと一緒にいたときの事を思い出して、頬をほん
のり赤く染め上げた。
「そっかー梨華ちゃんがー、そっかー」
「もぅ…柴ちゃんあんまり言わないでよ…」
「ふふ、でもさ実際のトコいつ頃から付き合い始めたの?」
「柴ちゃん…」
「いーでしょ、それくらい親友なんだから聞きたいもん」
興味津々のあゆみに梨華は数日前から昨日までのおおまかな過程を話した。
もちろんヒトミがマジシャンという事は秘密で、単なる帰国子女という事にしておいた。

口では「あんまり言わないで」などと言っている梨華だったが、誰かに話してみたいという気
持ちもあって、どんどん話が進んで行くうちにのろけ気味になっている。
話し終わった時に、あゆみはもう呆れてしまうほどだった。
「なんていうか、絵に描いたような恋愛模様」
「だって、本当のことだもん」
「やっぱり関係なかったでしょ?相手が女だとか、どうとか」
「…うん」
また顔を染める梨華に「おーおー惚気ちゃって」とあゆみが野次を飛ばす。
「でもさ、大変なのはこれからだよ」
「え?」
急に真面目な表情になるあゆみ。
「だって吉澤さんモテるでしょ?朝だって松浦さんと」
「あぁ、その事についてはもう話し合ったからいいの」
昼休み散々責めたてて、白状させた松浦亜弥との関係。
(おそらく)十分反省していたヒトミの姿を思い出した。

241ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:17

「もう誤解を招く様な事はしないって」
にこっと笑う。
しかしあゆみの顔はいまだ真剣なままだ。
「吉澤さんが、っていうのはいいとして、その相手が、っていう問題もあるんじゃない?」
「え?」
取り去った何かがまたじわじわと襲い掛かってきた。
「だから、相手が吉澤さんに迫る、っていう事もあり得るんじゃない?ってこと」
「せ…迫る…」
「積極的な子はたっくさんいるからね」

不安という名の大津波が梨華の心を沈めた。
しかしそれを何とか乗り越える。
「い…いいのよ、私はヒトミを信じてるから…」
「ふぅん」
―――――多分…大丈夫よ、多分…

「まぁそれはいいけど…でも…」

また何かを続けようとするあゆみと、ふと目が合った。
するとあゆみは、
「…やっぱいいや」
と口を閉ざしてしまう。

「ちょっとぉ何なの?」
「ううん、いい、別に気にすることじゃないし」
「気になるよ」
「いいの、気にしないで」
「うん…」
「あ、先生来たよ」
戻って戻って、と背中を押され梨華はいぶかしげな顔をしながら、渋々自分の席へと戻る。
ちらっ、とあゆみに視線を送るがあゆみは気付かずいつも通りの表情だった。
―――――ま、いいか、何でもないって言ってるんだし
あゆみの言いかけた事は気になるが、それよりもこの後に委員会が入っていて、一応学級
役員の梨華は否が応でもそれに出席しなければならない。
すぐにヒトミに会いに行けないというもどかしさとそれに募る嬉しさが溢れていた。

―――――委員会が終わってー、ヒトミの家に行ってー…うふふ
朝もそうだったが、思わず顔がにやけてしまう。
しかも今日、真希たちは遠慮しているのか知れないが、ヒトミの家には梨華しか訪れない。
という事はまたヒトミと二人っきりでいられる事実。
一人で妄想し、制しようとしても頬は自然に紅潮する。
そんな事を昨日の夜からずっと続けていた。
そして先ほどサボった時も、二人きりだったのをいい事に5時限目終了の予鈴が鳴り終わ
るまでずーっと離れようとはしなかった。
それだけくっ付いていてもまだ足りないと思う。
これが恋なんだ…と梨華は改めて感動した。

242ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:18




「…という訳なの、だから今日もお父様にも伝えておいて」
車の後部座席から、真剣に車を走らせる運転手に軽い調子で言った。
「分かりました」
「帰る頃にはまた電話をするから」
「承知してます」
梨華は満足して背もたれに体を預けた。

もう数分もすればヒトミの家が見えてくる。
そしてそこでヒトミは待ってくれている筈だ。
委員会にも部活動にも所属していないヒトミは、学校が終わればすぐに家に帰る。
梨華の委員会が終わるまで待ってる、とも言ってくれて嬉しかったのだが、何時に終わる
のか定まっているものではないし、それになにより後から一人でヒトミの家に訪れた時に
ヒトミが笑顔で出迎えてくれるのが嬉しかった。
―――――なんだか新婚さんみたいだしね…なーんちゃって


「着きました」
「ありがとう」
開かれたドアから降りて、一目散に数メートルと離れていないドアへと駆け寄った。
後ろで車のエンジンが走り去った様だ。
ドアの横に設置されたインターホンを押す。

〜ピンポーン♪
『はい』
鳴らしてすぐに大好きな声が聞こえてきた。
「梨華です」
『あ、ちょっと待ってね』
ドアの向こうからトタトタという足音が近づいてくるのが分かる。
この時間でさえ、今の梨華にはもどかしく感じられる。
そして足音が無くなったのと同時に、ガチャガチャと鍵の音がして間もなくドアが開かれた。

243ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:18

「いらっしゃい」
青いチェックのシャツに身を包んだボーイッシュなヒトミが現れた。
一瞬その姿に見惚れて目を丸くする梨華。
しかしすぐに笑顔で返した。
「どーぞ」
「お邪魔します」
ドアを潜ると背中でヒトミが鍵を閉める音が聞こえた。
カチャリ、というただそれだけの音が少しの緊張を呼ぶ。
これでこの家にいるのはヒトミと自分の二人だけなのだ。
「梨華ちゃん?」
「ふひゃあっ!」
「…どうしたの?」
「へ…なっ何でもなぃ…」
まさか「変な事考えてた」なんて言えやしない。
「変なの、早くあがんなよ」
「うん」
先に行くその広い背中に、梨華は静かに付いていった。

ちょっと座ってて、と促されて腰を下ろしたレザーソファも随分見慣れてきた。
部屋に入って一番遠い、大きい二人がけ用ソファの右側に座るのが好きだった。
そこに座ればこの部屋全部を見渡せるし、なおかつヒトミの行動を把握できるから。
いつもはキッチンでカチャカチャやっているヒトミを見ながら、梨華は微笑む。
けれど今日はそんな気も起きなかった。

「おまたせ」
ヒトミの声と紅茶の匂いで我に返った。
「ありがと」
いつもの場所に腰掛け、ヒトミはにっこり笑って自分の紅茶に口をつけた。
こくっと紅茶が喉を通過するたびに動く喉元に、すっかり見入ってしまう。

こうして改めて見つめ直すと、ヒトミは本当に外国人のようだ。
透き通るくらい白く綺麗な肌。
長い睫と一体になった大きな瞳。
染め上げたというその金髪が、さらに日本人離れさせている。
「ん?」
その視線に気付いてヒトミが首を捻った。
「何?」
「ううん、…なんでもない」
「そぉ?」
そしてまた紅茶へと意識を戻した。

そんな何気ない普通の仕草でも、梨華は胸をときめかせる。
―――――やっぱり好きなんだなぁ…ヒトミの事

244ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:19


「ねぇ」
「ん?」
梨華は大きな瞳がこっちに向いたのを確認すると、ポンポンと自分のソファの左側を叩く。
「こっち来て」
「んぇ?」
「ほら」
すっかり乗り気の梨華に、ヒトミは顔を赤くするとまではいかなくとも、少し恥ずかしそうに頭
を掻きながらゆっくりと、指定された場所へと腰を下ろした。

「ふふっ」
梨華は嬉しそうに頬をヒトミの肩に摺り寄せた。
「なぁんだよぅ」
そう言いつつ、ヒトミもまんざらではない。
笑いそうになるのを堪えながら梨華の頭を小突いた。
「学校じゃそんな事全然しないくせにー」
「だって恥ずかしいじゃない、見られるの」
「いーじゃん、あたしは気になんないよ」
「私はヒトミと違って、周りにも気が回るんです」
「む」
ヒトミは言い返すことが出来ずに、ずずずと紅茶を啜った。

二人きりの時は梨華が、それ以外の時はヒトミが主導権を握っていた。
自分たち以外の人間が近くにいると気恥ずかしさが先に立って思うように出来ない梨華。
反面、二人だけだと持ち前の余裕を出せず、ほぼ梨華の成すがままのヒトミ。
今、優位に立っているのは無論、梨華の方。
「また松浦さんに抱きつかれなかった?」
「大丈夫だよぉ」
「キスとかも、しちゃダメだしされてもダメだよ」
「分かってるよぉ」
「ホントかなぁ?」
「信用ないなー梨華ちゃん」
梨華の頬をきゅうっと摘んだ。

245ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:19

「な、なにふんのひょぉ!」
「信じてくんないと、ひーちゃん悲すぃーなぁ」
「何らひーひゃ…むぅ」
今度はその頬を両手で挟んで潰した。
「あほばないれよ!」
「なはははは!すんげー顔」
ばしばし頭を叩いても、ヒトミは止めようとはしなかった。
「もぉやめれったらぁ!」

梨華が大きくそう叫ぶと、ヒトミはそのままで真剣な表情になる。
「…ふぇ?」
「ほんとにさ、信じてよ梨華ちゃん」
ヒトミは至って真面目に、梨華に言い聞かせるように囁く。
「梨華ちゃんだけだよ…その、好きなのは」
ヒトミは顔を段々と赤くしていく。
言ってて恥ずかしいなら言わなければいいのに…などと思ってしまう所もあったが、でもそ
れはこの場合どうすればいいのか、ヒトミなりに考えた台詞なのだろうと梨華は嬉しくなる。

―――――でも頬っぺた潰したまんまで言わないでほしいなぁ…私マヌケじゃない
「とぇ…とって、とぇ」
「“とぇ取って”?“とぇ”って何?」
「ちがう!とぇ(手)らってば!」
頬を相変わらず潰しているヒトミの手の甲をペチペチと叩く。
するとようやくヒトミは気付いた様で、「あぁ」なんて言いながら梨華の頬を開放した。
「もぉ…」
「あはは、ごめんね、でもウソじゃないからね」
決してふざける風じゃなく、柔らかく笑いながら言うその優しい口調が何よりの証拠だ、と梨
華は考える事にした。
「うん、ありがとう」
「…いえ…どーいたしまして」

246ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:19

照れるヒトミが面白くて、ついついからかってしまう。
「私も大好き」
「…ぅん、ありがと…」
ちょうどその腰辺りに腕を回して胸に顔を埋めた。
ヒトミの体が強張ったのが分かる。
「今日ね…昼休みと5時限目の間ずーっと一緒にいたのに、教室戻ってきたらなんか寂しく
 なっちゃったんだ」
「ふぅん」
「やっぱり一緒にいると落ち着く」
「あまえんぼ」
「いーの」
そのちょっとちくちくとした一言一言も、照れ隠しだというのは分かっていた。
なぜならもう梨華の背中には、ヒトミの腕が回っていたのだから。

息を吸い込んで、梨華は体を預けた。
あの“ピーチ”の香りではなく、“ヒトミ”の香り。
それだけで安心する。

「ずっと一緒にいたいね」
背中にある腕の力がぎゅっと強くなった。
「?」
ヒトミは何も言わずに梨華の肩に額をのせた。
「ヒトミ?」
梨華は首だけを動かしてみるが、目が合うとヒトミは何もない様に笑う。
「ロマンチストだね」
「ロマ…いーでしょ、別に」
抱きしめ返したその体がここにあることを再確認して、梨華はもうすぐ振り注がれるであろう
唇に備えてゆっくりと瞼を閉じた。

247ななしのどくしゃ:2003/02/23(日) 15:20
うーん…後どんくらいで終わるかなぁ。

>YUNAさま
えっ、まじですか!私はバリバリ日本ですが…うちの学校どないや。(笑
(0^〜^)ノ<アメリカ在住かっけー!L・Aかっけー!
( ^▽^)<L・Aは国じゃないからねよっすぃー…。念のため。

>215の名無しハロモニさま
(0^〜^)<オゥアイムソーリー、そっから先は秘密だぜぃ♪(in屋上)
(*^▽^)<やぁだぁ、もうっ…。
想像してくださぃ…、屋上でいちゃつくいしよし。。。(笑
がんばりますんでこれからもあったかく見守ってくださいね。

>名無しひょうたん島さま
(〜^◇^)<コレのネタも段々尽きてきたなぁ〜。
(●´ー`)<まぁ、段々終わりに近づいて来てるから心配ないべさ。
( `.∀´)<それまで持ちこたえるのよっ!
ありがとうございます、そう言っていただけると安心します。
がんがるっす!

っちゅー訳で(何が)今月はここまでっす。
続きはまた来月〜♪

248YUNA:2003/02/23(日) 17:18
更新お疲れさまですっっっ。
やっぱり、「いしよし」はラブ②に限りますね。(笑)
2人きりになると照れだすよっすぃ〜、可愛いっす♪♪♪
来月まで、楽しみに待ってまぁ〜す!!!

249名無しひょうたん島:2003/02/25(火) 02:18
( ゜皿 ゜)<チョットネタツキタッテhジドイジャナイ!!セキニントッテヨ!
 ( ´酈`) <むきになってて、やめれねーのれす。
( ゜皿 ゜)<ノノショレハナイショヨ!ネタカンガエテンダカラ!!

250名無しひょうたん島:2003/03/01(土) 14:06
いやーやっぱりこの作品が一番(・∀・) イイ!
楽しみにしています〜!今日から3月!
待ってまーす!!

251ななしのどくしゃ:2003/03/02(日) 17:59




それからというもの、梨華はヒトミの行動を前よりも気にかけるようになった。
特に、学校での行動に。

「吉澤さぁ〜ん」
やや騒がしく感じられる廊下に響く、高く甘い声。
「おはよーまっつー」
「おはようございまぁっす♪」
ヒトミは当たり前の様に挨拶を返し、そして松浦は当たり前の様にヒトミにしな垂れかかる。
「吉澤さん、数学の宿題やってきましたかぁ?」
「え、そんなんあったっけ?」
「ありますよぉ、3ページくらい計算問題とか」
「げぇ、やっべ、やってないや」
「やっぱり忘れてましたねぇ」
こうして見れば普通の女子高生と変わらないやりとりも、ヒトミが絡んでいる以上、梨華に
とっては嫉妬心を煽るものでしかない。

「大体予想してました、しょうがないから松浦の見せてあげますよ」
と、口ではアレコレ言いながらその顔は満面の笑み。
「マジで?サンキュー、まっつー」
「いいえ、吉澤さんの為ならぁ♪」
そうしてまた、ふざけ合いながら、笑いながら、じゃれ合う。
それを観察していた梨華は悶々とした不穏な空気を辺りに漂わせていた。

252ななしのどくしゃ:2003/03/02(日) 18:00

「ねぇ梨華ちゃん、そろそろ教室戻らないと先生来るよ」
朝登校してきた途端、教室からこの2年生の教室まで連れ出されたあゆみは、廊下の角
に怪しく隠れ潜む梨華の背中にそう告げた。
しかしあゆみがいくら促しても、梨華はその場を動こうとはしない。
「やっぱり来てみて正解だったわ」
「おーい、無視ですかぁー」
「あぁ!あれほどベタベタしないでって言ったのに!」
二連続で無視されたあゆみは、ツッコむのも通り越して呆れてしまう。
こうなっては向こうでじゃれてるあの二人をどうにかしないと、梨華は自分の話しに耳を傾
けてもくれはしないだろうと考えた末に、あゆみはとりあえず先に自分が梨華の話を聞き入
れた。

「吉澤さんって、タラシの素質有りだよね」
「そう思う!?」
「………」
さっきとはまるで比べ物にならないくらいの過敏な梨華の反応。
あゆみは再び呆れるしかない。
「誰にでも優しい態度とるから、色々変な人にも言い寄られるのよ!」
例えば梨華ちゃんみたいな?という言葉をあゆみは飲み込んだ。
一応親友だから、その辺は気を使っておこうと思ったのだ。
「…まぁかっこいいしね」
「そうっ!こっちの身にもなってもらいたいわっ」
結局はのろけでもある梨華の意見に、あゆみはここからどうやって教室に戻ろうか、という
方向にもっていけばいいのか、それだけを考えていた。
「ああっ!だからいちいちそんなに笑わなくていいんだってば!」
「…梨華ちゃんどうせなら行けばいいのに…、そうやってるとストーカーみたいだよ」
「きゃあああ、何ニヤニヤしてるのよぉぉぉ!」

―――――梨華ちゃんの耳は自分に都合の悪いことは聞こえない様に出来てるんだね、
        便利な耳…ある意味うらやましい

「もう我慢できないっ!」
「え?…って、あ〜ぁ」
飛び出していった梨華を制止もしないで、あゆみは梨華の背中を目で追うだけだった。

253ななしのどくしゃ:2003/03/02(日) 18:00


「もしもしっ」
梨華は腕を組み、じゃれ合う二人の前にずんっと仁王立ちした。
「はぃ?…って梨華、ちゃん…」
「あ、石川センパイ、おはようございます」
ヒトミはその顔を青くして固まった。
松浦に関しては語尾の調子にフラットがかかっている。
見えない火花が梨華と松浦の間でバチバチと散る。

「おはよう松浦さん、数学なんて他人から見せられても身に付かないんじゃなくて?」
明らかに松浦を敵対視した口調。
しかし松浦もそれに負けてはいない。
「ご忠告どうも、でも私と吉澤さんならそんな心配は無用ですことよ」
「なっ…」
「ねぇ?吉澤さん」
「え?」
呪縛が解けたらしいヒトミ。
しかし今度はその襟首を鷲掴みにされて息が詰まった。

「どーいう事よっ」
「って…あ…ああたしに言、われてもまっつーが勝手に…」
「やぁだぁ吉澤さん、今さら照れないで下さいよぉ」
「まっつーぅぅぅっ!」
「ヒトミぃぃっ!!」

254ななしのどくしゃ:2003/03/02(日) 18:00

それらを遠巻きから見ているあゆみ。
―――――梨華ちゃんも変わったなぁ
と、何故か嬉しい気持ちで一人ウンウンと頷いていた。

「吉澤さんって意外とテレやさんなんですねぇ♪」
「照れてない照れてないっ!」
「何したのっ、正直に話しなさいっ!」
「あの教材室での事は二人の秘密ですよねっ」
「きょうざいしつ…ヒトミぃっ!!」
「誤解だってばぁ〜!」

朝から騒がしいその3人は、この間に引き続き今日もまた生徒たちの注目の的になって
しまっていた。
これで後足りないのは…。


「そこぉっ、廊下では騒がない様にと、いつも聞かされているでしょう!立派な淑女にな
 る為の第一歩は普段の礼儀作法ですよっ!」


遥か向こうからでもよく通る、そのヒステリックぎみな叫び声はもう周知の人物だ。

「吉澤さんっ、またあなたなのですかっ!もう朝から朝から…!」
「ち、違うよぉあたし何もしてないよ、ミキティ」
「はぁっ?」
「だから、ミキティ、藤本さんのあだ名ね、カワイイでしょ?」
「よしてくださいっ!そんなもの要りませんわ!」

「白状してっ!教材室で何したの!?」
「そんなぁ〜、あややの口からは言えませぇんはあとはあと」
「何が『あやや』っ!自分でそんなこと言って恥ずかしくないのっ!」
「だって自分が好きなんですっ」


その時、4人の声にかき消されそうになりながら、予鈴が鳴った。

「あ、チャイム」
―――――あのまま居れば生徒指導室行き間違いないけど…吉澤さんと一緒なら梨華
       ちゃんも本望だよね、うん

「あーそう言えば私たちのクラスは英語の宿題あったんだっけ、梨華ちゃんやってんのか
 なぁ、英語嫌いだって言ってたし」
なんて薄情にもあゆみは、くるりと背を向けて階段を駆け上がっていった。
「多分忘れてると思うけど…でもまぁ、人に見せてもらうのは自分の為にならないってさっ
 き言ってたし…ほっといてもいっか♪」
下からはまだ怒鳴り声や叫び声が聞こえていたが、それを背に受けてもあゆみは実に軽
やかなステップで教室へと戻っていった。

255ななしのどくしゃ:2003/03/02(日) 18:01
わ〜い3月だぁ〜♪ごっつ少ないけど更新。

>YUNAさま
お待たせしましたぁ。
そうですね、ラブラブが一番!
でもそれじゃ何となく物足りないから…。 え…何?>(^▽^;)

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<ナニヨヒトノコトイエナイジャナイ!(笑
( ´酈`)<おたがいさまだからしかたないのれす
( ´ Д`)<笑ぁって〜許して♪あはっ♪

>名無しひょうたん島さま
ありがとうございますぅ。。。(照
そんな風に言って頂けて嬉しさ半分、恐れ多さ半分ですわ。(笑
よっしゃ、がんばるぞっと。

256238:2003/03/02(日) 23:32
更新、お疲れ様です。
いしよしあやみき、キタ〜!この4人模様が好きです。
自分が好きなあやや萌えw
何故かいつも騒ぎに巻き込まれる美貴ティ、イイ味出してますね。
無自覚なタラシを恋人に持った石川さんはこの先・・
次回を楽しみにしております。

257YUNA:2003/03/05(水) 17:41
更新お疲れ様ですっっっ!!!
吉の本人自覚なしの、タラシっぷり...
さすが柴ちゃん、見抜いてます。(笑)
梨華ちゃん、もっと苦労しちゃってください。(笑)

258名無しひょうたん島:2003/03/06(木) 18:01
( ゜皿 ゜)<イッテクレタワネ!マケナイワヨ!ガーガーガーピー
( ´酈`)<梨華ちゃんがけっこうすごいのれす。
(0^〜^)<辻姐さん…。
川o・-・)ノ<完璧です!続き楽しみです!

259ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:13





『あれはまっつーの仕事が大変そうだったから手伝っただけだよぉ』

『それにしてはニヤニヤしすぎ!抱きつかれてほんとは嬉しいんじゃないの!?』

『んなことないってばぁ〜、もう怒らないでよお願いだから』

『誤解されるような事しないでって前にも言ったじゃない!』

『あたしのせいじゃないよ!勝手にくっついてくんだよ』


「…まったく…」
帰りの車の後部座席で、携帯を片手にぶつぶつと呟いている梨華。
あれから放課後に至るまで、とうとう梨華とヒトミは喧嘩しっぱなしだった。
今日は一言も会話を交わさずに終わるのかと思いきや、内心相当びくついている梨華が
見かねてメールを送ったのだ。

『それははっきり言わないからでしょ!』
完成したメールをヒトミの元へと送る。
返事はすぐ、1分も経たないうちに戻ってきた。

『いってるよあたしにはりかちゃんがいますって!』

しばし、その文に見入った。
急いでいたのか漢字に変換せずにそのまま送った、という感じだ。
怒りも少しだけ中和された様な気がする。
しかしエベレストよりも高いプライドをお持ちのお嬢様が、そんな一言でコロリ、という訳に
はいかなかった。
『じゃなんでこんな事になるの』
怒りは完全には収まらなかったが、その口調は間違いなく和らいでいる。
複雑な心境のまま、梨華は送信ボタンを押した。

260ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:13

『いやそれはその、…あたしの魅力?(笑)』

―――――(笑)じゃないわよ…!
『今はふざけてる時じゃないでしょ!本気で心配してるんだから!』
送信。
そしてすぐに『ごめんなさい…』と送られてくる。
どうやら亭主関白、という様な事にはならなさそうだ。

『という訳で、今日は私真っすぐ家に帰るから』

『え!?ウソ、来ないの?』

『行きません!もう車の中だし、また明日ね』

『うっそぉ(0T〜T0)ひーちゃん悲しい…』


それを見た途端、梨華は噴出した。
「…っぷ、何この顔文字…そっくり…」
時に頬を膨らませたり、時にその表情を和らげ、そして時にニヤニヤする。
それら全てがバックミラーから運転手に丸見えだという事も、もはや梨華の頭には入っ
ていない。
彼が仕事を辞めたくならなければ良いが。

『とにかく、今日は反省して』

『あい、分かりました、存分に反省いたします…』

『それからこれ以後こんな事の無いように十分気を付けて』

『はい、十分気をつけます』

261ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:14

そうこうしている内に車は石川家の門前に到着していた。
車を車庫へ入れる前に梨華は降りて、すぐ家の中へと向かう。
歩きながらまたメールを打つ。

『後は明日直接会って聞くからね』

『ふぁい…分かりました…』

十分に反省したかは明日会ってみない事には分からないが、それでも始めに比べて梨華
の怒りは大分収まってきていた。
恋の力は何時の時代も大きい物だ。

梨華は一人で頬を染めとまどい、またゆっくりとメールを打ち送信ボタンを押す。


『大好き』


送った後、携帯を折りたたみ、大事そうに両手で抱えヒトミからの返事が来るのを待つ。
このメールを見ている今頃、どんな顔をしているか考えるだけで体温が上昇する。
梨華は期待に胸を膨らませながら、いそいそと家の中へ入った。

262ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:14

「あ」
梨華は、目の前に立ちほこる人物に一瞬目を見張ったが、すぐにいつもの調子に戻った。

「お父様最近お帰りが早いのね」
父は何も言わずに、厳格な姿勢を正したまま梨華を睨みつける様に見つめていた。
しかし梨華はそんな事などまったく気付かず、「お帰りなさい」とだけ言うと部屋へ戻ろうと
階段を駆け上がっていく。
「梨華」
それを父が重い口調で制した。
梨華は階段途中で立ち止まり、首だけで振り向いて自分より下にいる父の顔を見下ろした。

「何?」
「彼と別れたそうだな」
一瞬、つい最近の過去が頭をよぎり戸惑うが、唇を真一文字に結ぶと、梨華ははっきりと
言い放った。
「そうです」
「私はそんなこと、一言も聞いていない」
「言っていないから、当たり前です」
梨華の強気な発言に父は眉をひそめたが、いくぶん態度は変わらずに言葉を続けた。

「どうして言わなかったんだ、彼は…」
「これは私と彼自身の問題です、お父様は関係ないわ」
その後にふと、彼の顔が浮かんだ。
梨華はくっ、と獲物を狙うような目つきになり、半ば諦めたように息をついた。

「彼が、言ってきたんですね」

父は否定しなかった。

263ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:14

「例え双方の親が公認でも、私は認めていません」

そう言うと、梨華は体を反転させ、真っすぐに父を見た。
その顔は驚きを隠せない、という風な表情だ。
当たり前だろう、初めて娘に反抗されたのだから。
「あの人がどう思っているのか知りませんけど、私には少なくともお父様達が思っているよ
 うな事は一切考えていなかったつもりです、婚約なんてもっての他です」
父は黙って、娘の意見を聞いている。
唾をごくりと飲み込んで、梨華はすっと眉を細めた。

「私、他に好きな人がいます」
父は驚く素振りも見せなかった。
むしろその顔は、望むところと言いたそうな顔だ。
ならば、と梨華は受けて立つ。

「勝手した事については謝ります、でもこれは私が決める事で他の誰にもそれを指示する
 権利は持つ事は出来ません」

普段とは一変して、その雰囲気は猛々しい。
今までの間に、これほど父に牙をむいた事があっただろうか。
梨華は言った後に自分で驚いてしまった。
「それじゃあ…」
そうしてまた階段を駆け上がっていった。
今度は父の言葉も背中にはかからなかった。

264ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:15

部屋に戻ってから、梨華は早速携帯を開いた。
ディスプレイには『ヒトミ』の文字。
送られてきたメールには、さっきの返答だと思われる文。


『あたしも大好きだよ』


「うん…大丈夫だよね」
愛する人の、ヒトミのその言葉を聞けるだけで何者にも立ち向かえる勇気を持てる。
それが例え父であるとしても気持ちが変わる事はないだろう。
「私が好きなのはヒトミなんだから…」

初めてヒトミが好きだと気付いた時、
もし自分の好きな人が、自分と同じ女性だという事がばれてしまったら。
もし周りの人から白い目で見られてしまったら。
そんなことばかりを考えていた。
しかし今は違う。

「大丈夫だよ、私はヒトミが好きなんだから…他の誰に何言われたって、ずっと」

265ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:15
なんか梨華ちゃんの態度が人によって随分違うような…。
ま、いいか、今さら変えられん。(爆

>238
最近あやゃが好きなんです…。(驚
ついでにミキティも好きなんです…。(更驚
いや、いしよしを放置する訳じゃないですよ?
ないんだけど…どうだろう。(笑

>YUNAさま
( T▽T)<これ以上苦労なんか…。
(0^〜^)ノ<およ?梨華ちゃんどうした?
石川さんの苦労は尽きません。
その方がおもろいかと。(笑

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<ナニヲ!コッチコソ!%:!\@*<>?+*``…プシュー(壊
( ´酈`)<りかちゃんにじゅうじんかくなのれす。
(+`▽´)ノ<おらぁー、なぁに見てんだよ。
( ´ Д`)<怖くないけどねー、あはっ。

266ななしのどくしゃ:2003/03/09(日) 13:23
しまったっ!つけわすれました!
<238の名無しハロモニさま
申し訳ありませんでした、ごめんなさい。。。

267YUNA:2003/03/09(日) 17:49
更新、お疲れ様ですっっっ!!!
梨華ちゃんには悪いけど、
いっぱい②吉の事で、悩んじゃってください。(笑)
んでぇ、もっと②2人の絆を深めて欲しいっす!!!

268名無しひょうたん島:2003/03/13(木) 12:26
( ゜皿 ゜)<コワレテルバアイジャナイノヨ!マダマダキタイスルワヨ
( ´酈`)<ちょ・ちょっとくるしいのれす。
( ^▽^)<でも、がんがる!!
(0^〜^)<カッケー!!
意味わかりませんが…。とにかくがんばってください。楽しみです。

269ななしのどくしゃ:2003/03/18(火) 18:02




その夜、なんとなく目が覚めてしまった梨華は、大して乾いたわけでもない喉を潤そうと、
一階へ水を求めて下りていった。

台所、といえば小さすぎる様に感じるそこは、調理室と言ったほうがニュアンス的に違和
感がないだろう。
普段ここへはあまり足を踏み入れる事のない梨華だったが、昼間と比べれば誰一人居な
いこの部屋は説明するまでもなくかなり不気味だ。
手探りでスイッチを探し、明かりをつける。
そして手近にあったコップになみなみと水を汲んで、それを2〜3杯一気に飲み干した。

「ふぅ…」
ぽちゃん、と蛇口からこぼれた一滴がステンレスの流しに落ちて跳ねた。
この静かな空間ではそんな音すら響いて仕方がない。
段々と大きくなる恐怖と不安。
念のため、後ろを振り返って誰もいないことを確認すると、梨華はコップを流しに置き、明
かりを消したと思いきやダッシュで自分の部屋へと戻った。

270ななしのどくしゃ:2003/03/18(火) 18:03



―――――さすがに…コップ3杯は飲みすぎたかも…

階段を上り、常に明かりのついている2階で不安のなくなった梨華は、少しふくれた感じ
のするお腹を抑えながらズルズルと廊下を歩く。
その度に胃にたまった水がチャポチャポと音を立てた。

「う〜…お腹重ぃ…」
夕食をろくに食べなかったので胃の中は空っぽ。
おまけにコップとは言ってもマグカップの様な大きいヤツであって、いつも梨華がコーンス
ープなんかを飲む時に使っていたものだ。
それ一杯で多少の空腹が満たされるのに、3杯も口にしてしまった。

「もぅ…さっさと寝よう」

と、部屋のドアノブに手をかけた。

その時だった。



「…〜っ……ぅ」


「ひっ…!」
間違いなく誰かの話し声。
時間が時間なだけに不必要に怯えてしまう。
しかしそれも、向かいにある書斎から聞こえてくるものだと認識すると、胸を撫で下ろした。

「何だ…お父様ね、こんな時間までご苦労様…」
梨華はこの部屋の中で大きな机に向かい、皮張りの立派なソファに座ってたくさんの書類
に奮闘する、父の姿を思い浮かべた。
父がこんなに夜遅くに仕事をしているのは毎度の事だ。
その為にこの家にも何人か住み込みの社員がいる。
今のも大方、秘書か誰かととにかく仕事がらみの話し合いをしているのだろうと、再びノブ
に手をかける。

271ななしのどくしゃ:2003/03/18(火) 18:03


『…梨華……っ…』


「ん?」
―――――今、私の名前が出てきたような…

てっきり仕事絡みの話だとばかり思っていて、自分の名前が出た事により、余計なものに
まで火がついてしまった。
普段ならこんな事は絶対と言っていいほど、考えすらしなかった。
心の中ではしたないとは思っていても、体は言うことを聞いてはくれず、梨華は今だ話し声
の絶えない書斎のドアにそっと耳を寄せた。


『…どうなさるおつもりですか、会長』

一番に聞いたのは父の声ではなかった。
若い女性の声、この声には聞き覚えがある。
確か、グループの会長である父の秘書、飯田圭織だ。
彼女には、父を通じて2・3度会話を交わした程度の顔見知りで、第一印象はバリバリと仕
事をこなしていく、優秀なキャリアウーマンという感じだった。
梨華はますます好奇心を掻きたてられた。



『どうするも何も、本人がそう言っているんだ、私には止められんよ』
『そんな軽いお考えでは困ります、今後のグループの存続に関わる事なのですよ』

やはり仕事関係の話題だったのか。
では自分の名前が出てきた、あれは単なる聞き間違いか、と梨華は少し肩を落として自分
の部屋へ戻ろうとした。

272ななしのどくしゃ:2003/03/18(火) 18:04




『しかしこれは梨華自身の問題だ』



「!」
『確かにおっしゃる通りです、でも今になっては…』
『飯田君』
飯田の言葉が遮られ、書斎の中はしん、と静まった。
そして梨華も、何故だか息を殺して押し黙っていた。


『これはあの娘が決めた事だ、私にはそれを崩す権利もないし義務もない、あの娘が…
 梨華がそうしたいと言うなら…』


『石川グループは、どうなってもいいと?』

二度目の沈黙が起きる。
梨華は話の内容についていけず、ただ父か飯田、二人のどちらかの言葉を待った。

―――――何…?二人とも何のことを言ってるの…?




『お嬢様があの医者の息子とご結婚なさってこの財閥を立て直さなければ、石川グループ
 は倒産の道を辿るしかないのですよ』


「…え?」


『それは重々承知だ、私が何とかする』
『そんな簡単な問題ではありません』

頭の中は真っ白だった。
父と飯田の声だけがクリアーに響く。
『お嬢様には、例の事はお話になったのですか?』
『いや…まだだ、もう少し間を置いて…』
『そう言って、もう2週間経ちました、いいかげんに本当の事をおっしゃらないと、つらいのは
 お嬢様と会長ご自身ですよ』

273ななしのどくしゃ:2003/03/18(火) 18:04




『もう…会長の体は1ヶ月しか持たない、と…』



―――――……!

梨華は大きく目を見開いた。
『…はっきりと数字にされると辛いな…』
『お嬢様にも現実を受け止めてもらわなければいけません』
頭がグラグラと混乱する。
足が振るえて力がはいらない。
思い浮かぶのは父の事。

「ウソ…お父様が…」
冗談だ、きっと冗談だ。
飯田がついたたちの悪いウソに決まっている。
父もそれに悪ノリしただけの事。
しかしドアの向こうから聞こえてくるのは、非情にも冗談とは聞き取れない事ばかり。

『どうなさるおつもりですか?お嬢様にはなんて説明なさるんです?』
『私の事はいずれか言わなければならないだろうが、梨華の婚約については何も言う
 つもりはない、あの娘にまかせる』
『しかし…!』
『石川グループがなくても、あの娘は立派にやっていける』

父と飯田、二人の言葉が交互に梨華の胸に突き刺さる。
―――――そんな…お父様…


『私はあの娘の気持ちを優先したい』


父のその言葉を最後に、梨華はフラフラと自分の部屋へと戻っていった。

274ななしのどくしゃ:2003/03/18(火) 18:04

小さい頃から父とはあまり会話を交わす事が無かった。
母が亡くなってからは、めっきり顔を合わすことも少なくなった。
嫌いではなかった。
けれど好きだったのかと聞かれると、はっきりとは断定できなかった。
梨華が父に対するモノと母に対するモノが違うのも、梨華自身にはよく理解されていた。

仕事一筋だった父。
いつもスーツ姿で車に乗り込むその姿はどこか頼もしく、父の存在を梨華に知らしめた。
その分、梨華と父の交流はないに等しかった。


つうっ、と頬を暖かい物が流れる。


『私はあの娘の気持ちを優先したい』


そんな事、聞いたのは初めてだった。

いつも仕事仕事で自分の方になど、まったく見向きもしなかったくせに。
この気持ちは『好き』というよりも『尊敬』に値していたのだと感じる。
仕事よりも、会社よりも、自分の事よりも、
たった一人の娘の事を第一に考えていた。

かつて自分が愛した人の子供。
愛した人と自分との間に生まれた子供。
それを一心で守りたいという気持ちが、ひしひしと伝わってきた。

やはり父は父だった。
そんな父を、梨華は誰よりも尊敬し、敬愛し、誇りに思った。

275ななしのどくしゃ:2003/03/18(火) 18:05
更新遅れてごめんなさい。
つか、またしてもありきたり〜な展開になってきた。。。
ま、いいか。

>YUNAさま
吉以外にも障壁が…!
っちゅー訳で、梨華ちゃんにはもっともっと悩んでいただきます。
(*^ー゜)b<テヘッ♪

>名無しひょうたん島さま
( T▽T)<エグエグ・・・人間って悲しいね・・・
�堯福 ⅶ�゜)<アアッ!イシカワカオリノポジショントッタワネ!?
( ´酈`)<まぁまぁきょうのところははなをもたせてあげるのれす。
( ‘д‘)<…なぁのの、うちらの出番全然ないで?

276大きなお世話だぜ。:2003/03/18(火) 21:30
決してケチを付けるつもりではないのですが
仮にも財閥と名の付くグループに、たかが医者の資金が無いと倒産は非現実的では?
反対なら分かりますが。

277名無しひょうたん島:2003/03/20(木) 02:37
えと、あんまり私はその辺の事情はわかりませんが
この作品が大好きなので、あまり気になりません。スマソ
これからどうなるか、どきどきしています。
作者さんがんばってください。

278名無しひょうたん島:2003/03/20(木) 15:59
私もこの作品が大好きだけど、だからこそ
徹底的に夢見させて欲しいというか、この世界に浸らせて欲しいというか・・・
276さんが思わず突っ込み入れたのも、なんとなくわかるんですよね。(^^;

でもとにかく、続きを楽しみにしてます。(^^)

279大きなお世話だぜ。:2003/03/20(木) 18:25
ご免なさいね、変な突っ込みを入れてしまって。(汗;
作品はとっても好きなので、余り気にしないでください。

静かに見守ります。m(_)m

280名無しひょうたん島:2003/03/20(木) 21:04
( ゜皿 ゜)<ヤットワタシノトウジョウダネ。マッテタワ!
( ´酈`)<ののもひしょがいいのれす。
( ゜皿 ゜)<モウチョットオトナニナッテカラネ

続き楽しみにしています。がんばってください!

281238:2003/03/20(木) 22:47
いよいよかおりん登場!
(0^〜^)<秘書、カッケ〜!

そしてあまりにもシリアスな展開・・
財閥がどんなモンかはよく分からんのですが、長年の無理な事業拡大
のツケが今頃めぐって来たのかな?と普通にスルーしてましたw
どちらかと言うと、梨華父の命があと一ヶ月って方に激しく動揺
しちょりますです、ハイ。
( T▽T)<イヤ!そんなの悲し過ぎる!

さてこの先、石川さんの心境は・・
次回も期待してます。

282ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:30




それから、梨華はまったく眠りにつく事が出来なかった。
気付けば窓のカーテンからうっすらと日が漏れているのが分かる。
もう朝になってしまっていた。

瞼がピリピリする。
鏡を覗くと、そこには瞳を真っ赤に充血させた自分が映っていた。
一睡もしないで一晩泣き腫らしていたのだから当然だ。
―――――学校…行かなきゃ…

のそのそと重く感じる体を引きずって、梨華は制服に着替え始めた。
時計を見ると、ちょうど朝食が始まる10分前だ。
あと5分もすれば、あの家政婦が梨華を起こしにやってくる。
いつもその声で起きていたはずなのに、すでに着替えも済ませていると知ったら彼女は
どうするだろう、と梨華はそんな事を思った。


鞄を持ってドアを開けようとした時、机の上のチューリップに目がついた。
そういえば昨日は水を替えていないことに気付く。
チューリップはややしなびて茎が少し曲がって、今にも折れそうだった。
やはり切花は何日も持たない。

「ヒトミ…」

会いたい。
心の底からそう思った。

283ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:31

「いってきます…」
通りすがりの家政婦に小さくそう呟いて、梨華はまっすぐに玄関に向かった。
「あら、梨華さま朝食がまだですよ?」
「今日は…あまり食欲なくて」
「いけません、せめて何か口にしていってください」
生活態度に厳しい彼女は、梨華の腕を引っ張って食堂へと連れて行った。
拒む事の出来ない梨華は、そのまま促されて自分のイスへつく。
向かいにはいつもと変わらず新聞を開いている父。

「おはよう、梨華」
父はにっこりと笑う。
「…おはよう、お父様…」

いつから父はこんなにも弱弱しく笑う様になったのだろう。

小さい頃、あれだけ逞しく思えた父が今となってはただただか弱く思える。
昨日の話を聞いたこともあったからか。

「梨華」

はっ、として我に返った。
「なに…?」
「…お前に言わなければならない事があるんだが…」
がさがさと新聞を折りたたんで横に置き、まっすぐに梨華を見つめた。
「実は…」
目を逸らしたくても逸らせない。
凛として、それでいて少し悲しげな父の瞳は、今まで見た中で一番印象付けられた。

284ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:31

「ごめんなさいっ」

言葉を繋げられる前に、梨華は反射的に頭を下げていた。
その様子に父は何も言えなくなる。

「私…昨日、夜中に眠れなくって…それで水を飲もうと思って…その時、書斎の前で」
またぽろぽろと涙が溢れ出てきた。
「聞いてたのか…?」
「ごめ、んな…さ…」
梨華は耐え切れずに、そのまま両手で顔を覆い隠し俯いた。
すると足音が一つ、近づいてくる。

かと思うと頭の上に、ポンと暖かい感触がした。

「なら話は早い」
梨華はとても顔をあげる事は出来なかったが、父がこれ以上ない笑顔をしているのが
手に取るように分かった。
「お前は心配する事はない、その…なんだ、お前の将来の相手を無理やり決め付ける
 様なことはしない」
「お父様…」
「グループの方は気にするな、お前にはまだ荷が重過ぎる」
「違…」
父の気遣いが、梨華の心には深く突き刺さった。
「今までのような贅沢はできなくなるかもしれないが、お前はそれでも平気だろう、
 昔からそういう所は母親似だったからな」

―――――違う…違うのお父様…

自分の体の心配をして、私の方はどうでもいいから。
言いたくても次々と溢れ出る涙がそうさせてはくれない。

「ほら…早く朝食を食べなさい、学校に遅れるぞ」
「…っく……ぐすっ…」
「私はもう行くからな、そんな顔のまま出るんじゃないぞ」
ポンポンと背中を叩いて父はもうすぐ用意される朝食をひと口も口にしないで、玄関の
ドアを潜り抜けていった。

285ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:31




時は止まるということがない。
どんなに頑張っても、どんなに焦っても時間は刻一刻と過ぎていく。
時にゆっくり、時に早すぎる程確実にしっかりと。
あと1ヶ月。


「梨華ちゃん」

色々な声が飛び交う中、とぼとぼと寂しく一人生徒玄関まで行く間、背後から明るい
声が聞こえてきたと同時に背中に軽く圧力がかかった。
「おっはよぉ」
振り向くとヒトミが笑顔で立っていた。

「聞いてよ、今日はちゃんと出かける1時間前に起きたんだよ」
「ヒトミ…」
「って言ってもごっちんから電話かかってきたからなんだけど…」
そう言ってヒトミははた、と梨華の顔をじっと覗き込んだ。
梨華はただヒトミを見る。

「り、梨華ちゃんどした?目ぇ真っ赤だよ、なんかあった?」
つられてヒトミも泣きそうな顔。
梨華はどうしようもなく、周りもかえりみずにヒトミに抱きついた。
驚いたのはヒトミの方。

286ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:31




時は止まるということがない。
どんなに頑張っても、どんなに焦っても時間は刻一刻と過ぎていく。
時にゆっくり、時に早すぎる程確実にしっかりと。
あと1ヶ月。


「梨華ちゃん」

色々な声が飛び交う中、とぼとぼと寂しく一人生徒玄関まで行く間、背後から明るい
声が聞こえてきたと同時に背中に軽く圧力がかかった。
「おっはよぉ」
振り向くとヒトミが笑顔で立っていた。

「聞いてよ、今日はちゃんと出かける1時間前に起きたんだよ」
「ヒトミ…」
「って言ってもごっちんから電話かかってきたからなんだけど…」
そう言ってヒトミははた、と梨華の顔をじっと覗き込んだ。
梨華はただヒトミを見る。

「り、梨華ちゃんどした?目ぇ真っ赤だよ、なんかあった?」
つられてヒトミも泣きそうな顔。
梨華はどうしようもなく、周りもかえりみずにヒトミに抱きついた。
驚いたのはヒトミの方。

287ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:32

「り、梨華ちゃん!嬉しいけどそんな朝から…」
「…っく…っ…」
「へ…梨華ちゃん…?」
「…ふぇぇぇ…ヒトミぃ…」
周りの生徒達が振り返っていく中、ヒトミは泣いている梨華をどう扱っていいものか分
からずにただオロオロとするばかり。
震える背中になるべく優しく問いかけ、何があったのかを聞き込んだ。

「梨華ちゃん、落ち着いて、ねっ?ほらこんなとこじゃみんな見てくからさ、ほらほら」
普段そんな事は気にもしないくせに…と梨華は心の中で呟く。
「ね、ホントに一体どうしたのさぁ」

ヒトミにいくら問いただされても梨華は顔をあげる事はなく、ヒトミの胸で声を押し殺す
ように泣き続けていた。
「…っ…ヒトミィ…」
「…梨華ちゃん…」
尋常ではないと感じたヒトミはそっとその肩を押して、梨華を人気のない校舎裏まで
連れて行った。

288ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:32


*********


ヒトミは今だ涙の止まらない梨華を腕に抱き、その頭を何度も撫でながら黙っていた。
顔を押し付けてる肩の部分がすっかり濡れて色が変わってしまっている。
「…ひっく…っ……ぅ…」
大分しゃくりあげることもなくなってきたが、まだいっこうに止まりそうもない。

「梨華ちゃん…」
しばらくして、ヒトミは優しく梨華の頬を両手で包み覗き込む。
「…っ……!」
ゆっくりとその唇が塞がれた。
突然の事に梨華は驚いたが、そこから伝わってくる心地良さにすぐに目を閉じてその
甘い感触を味わった。

「…向こうでしてもよかったんだけど、梨華ちゃんが恥ずかしがると思ったからさぁ」
少し唇を離して囁いた。
そしてまた悪戯っぽく笑う。
「もぉ…」
「へへ」
それにつられて梨華も少し笑顔になる事ができた。
「気ぃ済んだ?」
濡れた梨華の頬を親指で優しく拭いながら、ヒトミは言った。
こくっと小さく頷く。

289ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:33

「何があったのさぁ」
覗き込んでくるヒトミに、梨華は何も言うことが出来なかった。
「………」
「…梨華ちゃん?」

梨華は迷っていた。
果たしてヒトミにこの事を話してもいいものか。
父があと一ヶ月しか生きられないという事。
そしてその為に、自分が望んでいない結婚を望まれているという事を。
言った所で、無関係のヒトミは悩むだけだろうし、どうする事も出来ないのだ。

「梨華ちゃん?ってば」
「………」
―――――私が、なんとかしなきゃ…

ヒトミを見上げてその無防備な唇にちゅっと軽く口付けた。
「んえっ?」
「なんでもない、ごめんね、びっくりしたでしょ」
無理やりにつくった笑顔をヒトミに向けて、梨華は体を離した。
「ありがとう、スッキリした」
「梨華ちゃ…」
「ほらもう行こ、授業始まっちゃうよ」
そう言い残して、梨華はヒトミを置いて先を行ってしまった。


「梨華ちゃん…」
残されたヒトミは梨華の背中が見えなくなっても、その場に立ちすくみ両の拳を強く
握り、唇をぎゅっと噛み締めた。

290ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:33




今まで父が培ってきた財閥に関して、事はそう簡単に運べる物ではない。
それは梨華が考える以上に壮大で複雑で重大な問題なのだ。

それでも、梨華は好きな人と一緒になれるのならそんな事はどうでもよかった。

―――――なんとかなる…なんとか…
根拠はない。
しかしまだ未熟な梨華には、そう思い信じることしかできなかった。
―――――…お父様、大丈夫よね…きっと


「いしかわぁー」

不意に呼び止められて梨華はやや戸惑いながら足を止めた。
振り向くとそこには派手な出で立ちの担任。
「中澤先生」
「おはようさん…って、あぁ?なんやぁ、目ぇ真っ赤やん」
「いえちょっと…大丈夫です」
「大丈夫やないやん、朝からどないしたんや?よっさんと喧嘩でもしたんか?」
「ホントになんでもないんです…それより何か用があるんじゃないですか?
曖昧にその場を取り繕う。
中澤はふに落ちない表情をしてみせたが、すぐに本題へと移った。

「お客さんが来てるで」
「お客様?」
まったく心当たりがなかった。
しかし学校にまで赴くなんて、一体誰なのか。
「どなたが?」


「飯田いう人やったかな?大事な話があるて」

梨華は一瞬息が止まる感覚を覚えた。

291ななしのどくしゃ:2003/03/21(金) 09:34
先だっては失礼をば…。。。

>大きなお世話だぜさま
そんなことはないです!
それだけこの作品を読んで下さってるって事ですから…(あ、違う?(笑
確かにちょっとリアリティがなさすぎました。。。
もっとじっくり構想を練ってくれば良かった、あいすいません。
意見ありがとうございます!

>名無しひょうたん島さま
ありがとうございます!
しかしやっぱりちょっと書き直して現実味を出してみようと思います。
まだ未熟者ですが…。
応援ありがとうございます、がんがります!

>名無しひょうたん島さま
ありがとうございます。
この小説を読んでくださってる皆さんに対して失礼でしたね。(謝
こうやって皆さんに意見を貰って、なんというかやる気が出てきました!
めちゃくちゃ嬉しいです、もうこうなったら徹底的に…(笑

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<イヨイヨカオリノホンショウハッキスルワヨ!
( ^▽^)<『本領発揮』の間違いじゃないですかぁ?
( ´酈`)<このおはなしでは、あながちまちがってはないとおもうのれす。
(0^〜^)<よっしゃっ!がんばるぞっと。

>50の名無しハロモニさま
しまったそっちの話もいい…(笑
飯田さんはこの後ちょい多めにでてきますです。
あんまりいい人役ではないかもしれないですが…ごめんね飯田さん。(笑
梨華父の運命は…いかに。


ご意見&ご感想とっても嬉しかったです。
これからも何かあったら、バシバシ書き込んでやってくださいませ。
ってか二重投稿してしまた。。。鬱だ。。。

292278:2003/03/21(金) 14:22
今日もどっぷり浸りに来ました。(^^)
作者さんを応援してますから。まじでまじで。

293YUNA:2003/03/21(金) 15:41
更新、おつかれさまです。
レスする前に、更新されてしまってたぁ〜〜!?
ってか、読んだらすぐレスしろよっっっ!!!(笑)
あぁ〜、切ない...
せっかく幸せになれたのに、壁多し...
だけど、その分2人は幸せになれるのだっっっ♪♪♪

294名無しひょうたん島:2003/03/24(月) 17:24
( ゜皿 ゜)<キタワネ!ワタシノガシュヤクニナルヒモチカイヨウネ!
( ´酈`)<・・・。いいらさん。
( ゜皿 ゜)<トニカクタノシミニマッテルノヨ!ワタシハサクシャトケイヤクシタンダカラ!

295名無しひょうたん島:2003/03/29(土) 20:18
つづきは、まだかなぁ
これ楽しみにしてんだけどな。
いいとこなのにぃ(TーT)

296ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:30

それから、梨華は飯田を連れて学院の応接室へと向かっていった。

「申し訳ありません、授業中に」

飯田はその大きな瞳を閉じ、謝罪した。
遅れて、その長いストレートヘアーがさらりと流れる。
その謙った態度の中にも、とてつもない自信と強さが窺えた。
そんな様を見せる飯田に向かってとてもじゃないが、首を縦に振ることは出来ない。

「お嬢様が学校を終えてから…とは考えたのですが、幾分私にも仕事が残っておりまし
 て、あいにく今日の午前しか時間が取れなかったのです、誠に申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です…」
梨華の言葉に、飯田は微笑みに似た表情をした。

「それではいきなりで悪いのですが…お話が」
飯田は自分の横の空いているソファに、おそらく自分の物であろう高級そうな革のハンド
バッグを置いて、両手をきちんと膝の上に乗せた。

飯田のその格好と服装にため息が出る。

ビシッ、と決めたスーツ姿に、きりりとした姿勢。
乱れのないその長髪はまるで飯田本人の性格を現している様で。
その整った顔立ちは、より一層見ている者を惹きつけるだろう。

梨華のイメージの中の『仕事人』というワードがぴったりと当てはまっていた。

297ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:30

「お話というのは他でもありません、石川会長のことです」
初めから予想の付いていた梨華は普通に接する事ができた。
その心情は落ち着いた、と言える様なものではなかったが、なんとか言葉を繋げていける
程度のものだった。
「すでに会長からお聞きになっていることと存じますが…会長の命はあと1ヶ月…、非常に
 悲しい事とは思いますがこれは事実です」
こくりと小さく頷く。
それを確認しつつ、飯田はさらに言葉を繋げていく。

「それらを考慮して、これからの石川グループを引き継いでいく者、つまり跡取の問題となる
 のです、…後はもう言わなくても察しはつくでしょう」

察しがつく、つかないもない。
昨日そのまま全て耳にしていたのだから。
梨華は喉の奥から搾り出すように言った。

「…私が、あの人と……」
「そうです」
飯田は大きく頷いた。
「…でも私、他に…好きな人がいるんです…」
「ええ、それは存じております、会長から直々に」
「だから…悪いけど、そのお話は…」

298ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:30


「ならば、その方と別れてもらいます」
「!」
梨華は思わず声を荒げた。
奥底から湧き上がってくる怒りに似た感情を、飯田にぶつけていく。
「そんな事絶対に嫌です!私は認めません!」
いきり立つ梨華に対しても、飯田のその余裕な態度はまったく変わらない。
「認める認めないの問題ではないのです、グループにとって、これは極めて重要で深刻な
 ことなのですよ」
「そんなの、私と関係ない!勝手に決めないで!」
「まだいまいち事情がお分かりになっていないようですね…」
飯田は少しきつめの目線に成り変り、梨華を見据えた。

「石川グループは何代も何代も、その血を絶やさずに古い歴史から伝わってきました、それ
 は社会経済に詳しいお嬢様の事ですからご存知でしょう」
確かにその通りだった。
石川家は何十年も続いてきており、梨華の父は4代目当主である。
「こう言ってしまってはあまりにも極端ですが…その石川家の血筋をお嬢様の代で絶やして
 しまうおつもりですか?あの医者との婚約を破棄すると言う事は」

梨華は淡々と意見を述べる飯田のその態度に腹を立てた。

「そんな事、あなたに関係ないでしょ!それに大体なんなの?血筋がどうとか、倒産がどう
 とか…そんなの私に説明したってどうにもならないわよ!」
「ええ、その通りです」
予想と随分と掛け離れた飯田の返答に、梨華は言葉を詰まらせてしまった。

299ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:31

「まだ高校も卒業していないお嬢様には無用なお話」
「…っ!」
「でもだからこそ、この結婚には大きな意味があるのです」

この婚約の意味するもの。
そんなものはどうでもいい、大きかろうが小さかろうが、どんな意味を持っていてもそれを理
解しようだなんて思ってはいない。
今自分が知りたいのはそんなものなんかじゃない。
「とにかくその辺りの事については私自身が決める事です、父も承諾してくれました、石川
 グループの事は我が石川家の問題です、あなたは口出ししないでくださいませんか?」


「知識も経験も十分ではないあなたが一体何をするというのです」
「…!」
いきり立ち、早口になる飯田に迫力負けした梨華は何も言い返すことが出来なかった。

「石川グループには何千何万という社員がおります、もちろん私もその中の一人にすぎ
 ません、何千何万という社員を切り捨てるつもりですか?」
分からなかった訳ではない。
予想はしていたけれど、認めたくなくて頷けなかった。

「それなら…私が継ぐ、結婚はしない、私が一人で…」
「戯言もいい加減にしていただきたいものですね」
飯田は先ほどとは違い、大分落ち着いた口調に戻ってきていた。

300ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:31

「人間には、誰しもそれなりの見栄といいますか、プライドを持っています、何十年も苦労
 の中生きてきたのに、いきなりポッと現れた自分の半分も生きていない女のガキの下
 で働かなければならない…個人的な思想だとは思いますが屈辱的な事だとは思いま
 せんか?」
「………」
「中には20代の社員もいますが…結果的にはやはり『年下のガキ』と思われるのが相場、
 『信頼』というものはどうしても切り離す事は出来ません、社員を使う立場ならなおさら…、
 あの医者の人間性についてはよく分かりませんが、今の事についてもお嬢様よりはまだ
 安心ですし、能力としては問題ありません」

確かに彼は優秀だった。
大病院の副院長という立場も親の七光りではない。
自分の実力で勝ち取ったものなのだという。
それが唯一梨華が彼を尊敬した事実だった。

何も言えずにとうとう俯く梨華。
飯田は立ち上がりドアへと歩み寄った。
「お話したかった事は全て話しました、お察しください」
「………」
「それから…これは私が独断で行った事ですが、間違った事を言ったとは思っておりませ
 んので」
飯田は梨華の反応も待たずに、「では」と短く言い残して応接室を後にする。

チャイムが鳴って様子を見に来た中澤に呼ばれるまで、梨華は動く事はなかった。

301ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:32



4日・5日...と時は経ち、とうとう一週間になった頃、梨華の父はついに病院での生活とな
ってしまった。
梨華は毎日学校が終わるとすぐ父のいる病院へと足を運ぶ。
何か出切る事があれば、とずっと父の横でイスに座ってじっとしていた。
そして以前よりもずっと話す量は増えていた。

「それでね、今日は…」
お腹を抱えて笑えるような、思わずクスッと微笑んでしまうような面白い話など知らない。
せいぜい梨華が話せる事といったら学校での出来事くらいだ。
「いつもは柴ちゃんっていう子と一緒にいるの」
梨華の話は、『話』というよりは『説明』と言った方が合っているかも知れない。
それでも一生懸命になってあれこれ口にする梨華の『話』を、父は笑顔で聞いていた。

けれど、日に日にその笑顔が弱弱しくなっていくのが、手に取る様に分かる。
もう今になっては、誰かの助け無しに歩く事も困難になった。



そんなある日、

「じゃあね、柴ちゃん」
ゴソゴソといつもの様に帰り支度をしているあゆみに一言交わして立ち去ろうとする。
「あれ、梨華ちゃん今日もまた行く所あるの?」
父が入院してから梨華はずっと一人で帰っていた。
今日もまた、病院に寄って行くつもりだ。
「うん、そーなの」
「そっかぁ、じゃまた今度一緒に帰ろうね」
「うん、ありがとう、じゃあね」
「ばいばーい」

あゆみには言っていなかった。
話した所であゆみに余計な心配をかけるわけにはいかなかったから。
それは周りの人、誰にでも言えない事。
無論、ヒトミにでさえも。

―――――最近会ってないな…

毎日のように病院に行っていた梨華。
そんな訳だからヒトミの家にもここしばらく立ち寄っていない。
学校で少し顔を合わせても、何故かヒトミは軽く挨拶をしてそれだけで去っていく。
昼休みの屋上での待ち合わせも、いつの間にか無くなっていた。

302ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:32

そんな事を思いながらお迎えの車に乗り込んだ矢先、鞄の中から軽快なメロディが
聞こえてきた。
携帯のメールの着信音だ。
すぐさま梨華は鞄から携帯を取り出して着信履歴を見た。
それは真希からのメールだった。


【to//梨華ちゃん
 from//ごとー
 件名//

 今日空いてる?大丈夫だったら
 よっすぃーの家に来てくんないか
 な?                  】


真希にしては随分と短いメールだ。
いつもならスクロールしなければ読めないモノばかりだったのに。
一体何の用事だろう、と最近で真希と関係している出来事を頭の中から引きずり出そうと
しても思い浮かぶ事は何一つ見つけられなかった。

―――――今日はちょっと早めに帰ろうかな…久しぶりだもんね
携帯をしまい、運転手に病院の帰りに寄る所を伝えると車はすぐに走り出した。

303ななしのどくしゃ:2003/04/01(火) 08:33
あ、すごい日にちが経ってた。どーもすいません。。。
4月突入、300突破。わぉすげぃ。(笑

>278の名無しハロモニさま
まじですか!じゃあどっぷり×2浸かっていってまた来てください(笑
応援嬉しいです〜!ご期待に添えるようにします。

>YUNAさま
壁が多過ぎるかも…。でも、それぐらいがちょうどいいですよね?
�堯福┌亜亜繊亜法磴舛腓叩弔いい里ʘ截蓮Ą�
(;^▽^)<はっぴー…かなぁ?

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<コレカラハカオリノジダイヨ!!フフフフフフ
( ´酈`)<りかちゃん、かくごしてたほうがいいれすね。
(;^▽^)<…。

>名無しひょうたん島さま
ごめんなさい、やっと続きです。
ちょっと今手直し中なのでまた少し時間がかかるかも…。
でもなるべくは更新早めにしたいと思ってますので、
泣かないでっ!…いや(TーT)←ちょっと笑ってた!(笑

304281:2003/04/01(火) 16:47
うゎ〜い、更新されてる〜!お疲れ様です。

うぅ〜、イバラの道になりそうな予感・・
飯田さんこわいけど素敵ですw
後藤さんからのメールが届きました♪
この先どうなるんだろう!?
衰弱して行く梨華父の姿にも涙が・・
( T▽T)>ひとみちゃん!助けて!
次回更新をまったりとお待ちしてますです。

305名無しひょうたん島:2003/04/02(水) 00:09
ズワーイ!!更新されてるー!!
が、しかし話は重くなってきていますね
これからの展開が読めないですねぇ。
すごいすごい楽しみにしています。

306名無しひょうたん島:2003/04/02(水) 23:13
これからの展開期待!

307名無しひょうたん島:2003/04/02(水) 23:13
これからの展開期待!

308ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:47




父の寝そべるベッドの横で、梨華はパイプ椅子に座っていつもの様にしていた。
「ごめんなさい、今日はちょっと早めに帰らなくちゃいけなくなったの」
そう言うと父は柔らかく笑い、ゆっくりと一度だけ頷いた。
「何か友だちとでも約束か?」
「ええ」
「そうか」
そしてまた、今度はとても嬉しそうに笑った。

この顔を見てしまっては、とても飯田に言われたことを父に相談する事は出来無かった。
これ以上、父に負担をかける訳にはいかない。

「梨華」
「なぁに?」
「…お前の好きな奴は、一体どんな奴だ?」
途端、梨華はうろたえた。
「ど、どんなって…」
まさか相手が女の子でお父様も知っているあの有名なマジシャンよ、なんて言えなかった。
『女の子』という観点は捨てていたが、それは梨華や真希たち、他にあゆみ・矢口など理解
ある人たちばかりでの間のこと。
もしかしたら「付き合いを止めろ」とまで言われてしまうかもしれない。
ヒトミが女である、という事は伏せて、ヒトミの性格や人柄を説明する事にした。

「あのね…普段はすごい活動的な感じなんだけど甘えん坊な所とかもあって、スポーツと
 か得意でね、すごくモテる人で…この間もそれで喧嘩しちゃったんだけどすぐに仲直りで
 きたの、それに話とかもおもしろいしいつもはね…」

起承転結、オチなんてありはしない。
このままでは延々と、いつまでも完結しそうに無いと感じたのか、父はなんとか制した。

309ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:47

「あ、あぁ…分かった分かった、つまりは好きなんだな」
「え…あ、ま、まぁ…」
梨華は顔を真っ赤にして俯いた。
父は少し苦笑しながらも、満足したようだった。
「それならいいんだ」
遠い目をして窓の外を見る父。
とても飯田の事は言えそうに無かった。

「しかし父親としてはちょっと複雑だな」
「どうして?」
「女ったらしというか…遊んでるような男じゃないだろうな」
やっぱり…と梨華は心の中で安堵のため息をついた。

「違うよ、安心して」
「父親としては顔を見てみたい気もするが…」
「えっ…」
「でもこんな情けない姿を見られたくはないしな」
父はまじまじと自分の今の姿を見て、残念そうにため息を付いた。
「………」
梨華はその骨ばった手を見た。
肉付きのよかった大きな手は今では見る影も無く、今にも血管が見えそうなくらい浮き出
ており白く、そしてひとまわり小さくなっていた。
その梨華の視線に気付いたのか、父は動かない梨華の頭に手をポンと乗せた。
「そんな顔をするんじゃない」
しかしそれが引き金になってしまった。

「ぅ…ああああああっ…」

肩を縮こまらせて俯いたまま、梨華は惜しげもなく泣き出した。
こんなに大きな声で泣いたのは小さい時ぐらいで、何年も前の事だった。
父はそれを見て慌てもせず、ただ笑って静かに梨華の頭を撫で続けていた。
「ほら…友だちと約束してるんじゃなかったのか」
「あああああぁぁ…」
「泣き顔を見せにいくつもりか?」
何を言われても梨華は泣き止む事はしなかった。
込み上げてくるものを止めようとはしないで、溢れてくるだけ溢れさせた。

父の手の温もりを感じながら、いつかの様に梨華は泣けるだけ泣いた。

310ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:47




一時間ほど経ってようやく涙が出てこなくなると、梨華は父に促されて病院を後にし、真っ
すぐにヒトミの家に向かった。
あまりの悲しさと切なさに泣きじゃくってしまった後だったけど、やはりヒトミや真希達の顔
が見れるとなると嬉しさは抑えられない。
あらかじめ、今からそっちに行くことを真希にメールで知らせてから梨華は車に乗った。

車は数分でヒトミの家に到着する。
インターホンを押してしばらくすると、ドアが開いた。
「やっほ、梨華ちゃん」
「ごっちん」
「さ、上がって」
心の中で真希に謝り、ヒトミでなかった事に少し残念がるが、やはり嬉しい。
久しぶりに訪れたこの家に少し懐かしさを感じながら、梨華は玄関を潜った。

「みんなは?」
リビングに入って真希以外の誰もいない事を把握し、梨華は真希に尋ねた。
「あいぼんとののは今日は来てない、よっすぃーは買い物」
それを聞いて梨華はいつもの場所に座った。
「それでどうしたの?」
「うん…あのさ梨華ちゃん、最近…なんかあった?」
初めて見たといってもいい真希の真剣な眼差し。
そして梨華は動揺を隠せない。

311ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:48

「何か…って?」
「いや、最近ここに寄る事ないし…よっすぃーがふさぎ込んじゃっててさ、親友のごとーと
 しては見るに耐えない状況でねぇ」
梨華は躊躇していた。
言うべきか、それともこのまま口を噤んでいるべきか。

「学校でもあんま話してないんでしょ?」
「うん…」
「気にしてんだよ、ごとーは事情よく知らないけど、梨華ちゃんに迷惑かけたって」
おそらく真希が言っているのは、この間の『松浦亜弥』の事だろう。
いつもそれで喧嘩になるのを気にしてヒトミが真希に相談したみたいだ。
「「あたし嫌われちゃったかなぁ…」とか言ってたし」
「違うよ!嫌いになんかならない…」
苦虫を噛み潰したような顔で訴える。
真希は梨華の迫力に思わず目を丸くするが、すぐにふにゃっとしたいつもの笑顔で梨華の
方を見て安心したようにため息をついた。
「それならいいんだぁ」
真希はソファにもたれるとぐうぅっ、と伸びをし、そして元の姿勢に戻る。

「ごとーも心配してたんだ、よっすぃーってタラシだからいっつも人に誤解させるような事
 平気でするじゃん?特に女の子に、梨華ちゃんもそれで嫌になったかなぁって」
梨華は首を横に振った。
「確かにそれは嫌だけど、でも分かってるから」
喧嘩はしちゃったけど…と小さく呟く。
「うん、安心したよ」
真希はますます笑顔になった。
「多分よっすぃーもう少しで帰ってくるよ、そういう風に仕向けたから」
梨華ちゃんが来る事知らせてないからきっと驚くよ、と真希は悪戯っぽく笑った。

312ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:48

それを見て、梨華はますます今自分が抱えている大きな問題について、真希に相談する
事が出来なくなってしまった。

愛する人とのこれから、そしてそこに立ちはだかる大きな壁。
自分の幸せを選べばそれには大きな代償がついてくる。
周りからの圧力。
“上”となる者の責任。
石川の人間としての義務。

いろいろな物に狭まれて、欲しい物は手のとどく所でもそれを掴むことは許されない。

「…ありがとう、ごっちん心配してくれて」
「いやぁ、梨華ちゃんとよっすぃーのコトだもん、見て見ぬ振りはできないよ」
真希は照れ臭そうに頭を掻いた。
「今日ここに呼んだのはそれだけ」
「その為にわざわざ…?」

―――――やっぱり…言えない…

「でも梨華ちゃんは心配な事とかないの?」
梨華は首を振って笑った。
「大丈夫だよ…ありがとう」
「そっか」

313ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:48

「…にしてももう帰って来てもいいのに、遅いなよっすぃー」
言いながら真希はいらついた様子で壁にかけられた時計を見た。
「15分くらいで帰れるはずなんだけどなぁ」
「何時に出て行ったの?」
「今から30…いや40分くらい前かな?」
「買う物がなかったとか」
「だっててきとーな雑誌とおかしだよ?コンビニならない訳ないじゃん」
それなら、と梨華は納得し、真希と二人で静かにリビングでヒトミの帰りを待った。

ぽん、と真希が急に手を叩いた。
「立ち読みしてる、とか?」
「あ、それならまだ…」
「にしても遅すぎるっ」
真希は丸く膨れながら足をジタジタさせた。
「ごっちん自分で言って怒らないでよぉ」
「ごとーの娯楽の邪魔してるんだったら容赦しないよ」
「立ち読みしてるかもわかんないのに?」
「だってごとーのおやつぅぅ…」
久しぶりに友達とじゃれあって、梨華は久しぶりに楽しそうに笑った。

314ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:49

すると、玄関の方でドアの開く音が聞こえた。
「あ、帰ってきた?」
梨華が立ち上がるのよりも早く、真希は一目散に玄関に駆け出した。

「よっすぃー遅いっ、ごとーのお菓子はっ?」
「ごめんごめん、ちゃんと買ってきたって」
ヒトミの声だ。
梨華はすぐさま玄関に出る。

「…ヒトミ」
そう小さく言ったのが聞こえたのか、ヒトミは顔を上げてその視線は梨華の姿を捉えた。
「梨華ちゃん…」
「あ、ごとーが呼んだの、よっすぃーまだ嫌われてなかったよ、よかったね」
真希はそれだけ言うとコンビニの袋を持ち、ゴキゲンに鼻歌を歌いながらリビングに戻った。
梨華とすれ違う時、「ちゅーくらいしてやってね」と言い残して。

そして頬を染めた梨華と、ヒトミは動く事無くただじっと互いの目を見ていた。

しかしいつまでもそうしてはいられない、と最初に沈黙を破ったのは梨華。

「ヒトミ…」

耐え切れなくなった梨華は走りよりぎゅっとヒトミに抱きつく。
こうしたのは何日ぶりだろう、と思ってももうどうでもよかった。
今こうしているだけで十分だった。


しかしいくら梨華が力の限り抱きしめても、その背中に腕が回ってくる事は無い。
「ヒトミ?」
不審に思って顔を上げると、ヒトミは無表情のままそこに直立していた。
何を思っているのかすら分からない。
自分と会えた事を喜んでいるのか哀しんでいるのか。
少なくとも前者ではない。

315ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:49

「どうしたの?」
梨華は肩を掴んで揺する。
ヒトミはそれでようやく表情を崩した。
「あ…ご、ごめん、なんか急に会えたからびっくりした」
言いながら苦笑してみせた。
「そう、なの…?」
ヒトミは小さく頷くと梨華の頬に手をあててちゅっ、と軽くキスした。
言うまでもなく、梨華は頬を赤くさせる。

けれどヒトミはすっ、と梨華から離れると、
「ごめん、今日はちょっと考えなくちゃいけない事があるから…」
「え、ヒトミ…」
ヒトミは何も言う事無く、階段を上り自分の部屋に入ってしまった。

「ヒトミ…?」
何か様子がおかしい。
口調もどことなく冷たかったような気もする。

―――――まだ気にしてるのかな…松浦さんとのこと…

思い返してみるが、それはもう随分前に解決し、今じゃ思い出話のネタにも出来るくらいだ。
今さらそんなことであのヒトミが気にする訳がない。
せっかく久しぶりにゆっくり話ができると思っていた梨華は、肩を落として真希の居るリビン
グに戻った。

真希はソファに寝転がって、ヒトミの買ってきたポッキーをくわえてテレビを見ていた。
「はれ?」
真希は目を丸くする。
すっかりまだ玄関でラブラブしている途中だと思っていたようで、梨華が一人で戻ってきた事
に驚いていた。
「よっすぃーは?」
「なんだか…考える事がある、って言って自分の部屋に行っちゃった」
「んぁぁ、なにそれ?せっかく梨華ちゃんが来てるってのに…呼んでこなきゃ」
立ち上がる真希を梨華は制した。
「いいよ、今日は…」
「でも…」
「多分今日はなんかそういう気じゃないんだよ、だから一人にしておいてあげよう、ね?」
不満タラタラという顔をする真希だが、梨華の必死の訴えによってまたソファに腰を下ろす事
となった。
「んじゃごとーとまったりしよ」
そう言ってポッキーの袋を差し出した。


それから、梨華が帰る時間になるまで、ヒトミは降りてくる事はなく、梨華が帰る時にだけ顔
を出していた。
ヒトミの家に行って、こんなにつまらなかったのは初めてだった。

316ななしのどくしゃ:2003/04/03(木) 19:50
多少書き直したつもりなんですが…書き直ってない気が。。。
ま、いっか。(爆

>281の名無しハロモニさま
(0T〜T)<うぅぅ…梨華ちゃぁん…
イバラの道…まぁぴったり(笑
飯田さんはこの後もちょくちょく登場しますので、お楽しみに。。。
たくさん更新したいです。

>名無しひょうたん島さま
>これからの展開が読めないですねぇ。
正直言うと自分もあんまり…。(笑
( ‘д‘)ノ<あかんがな。
がんばりますね。ちゃんと。

>名無しひょうたん島さま
ありがとうございます!!
そんな2重カキコなさるまで…(笑

317YUNA:2003/04/04(金) 14:42
更新、おつかれさまです。
超〜切ないっす...
どぉ〜なっちゃうの...??
でも2人はきっと結ばれる運命なのだっっっ!!!!
頑張れぇ〜!!!

318304:2003/04/05(土) 00:45
更新、お疲れ様です。
うゎぁぁ〜ん!どうしたんだよぉ、よっすぃ〜!?
梨華ちゃんが会いに来てくれたのに・・
それにしても後藤さんがイイ子ですなぁ。
こんな友達が欲しいですわw
そして衰弱して行く梨華父が何気に心配です。
どうか梨華父によっすぃ〜を会わせてやって下さい。
(0^〜^0)>り・り・梨華ちゃんを、この私にく・く・下さい!
次回更新、まったりお待ちしてま〜す!

319(^−^):2003/04/05(土) 18:34
更新お疲れさまっす。ごとーもさりげなく
石川狙い!?更新期待です!

320名無しひょうたん島:2003/04/06(日) 15:14
( ゜皿 ゜)<コンカイデバンナシネ。ドユコト??
( ;´酈`;) <れも、なんかなけちゃうのれす。
(#0^〜^) <続き楽しみだYO〜〜

321名無しひょうたん島:2003/04/07(月) 21:35
どうしちゃったんだろう??吉君は??
続き楽しみです。

322ななしのどくしゃ:2003/04/13(日) 11:41


家に帰ってからも、梨華は終始ふさぎっぱなしでいた。


『ごめん』


苦笑気味でそう言ったヒトミの顔が頭から離れない。

―――――どうしたのよぉ…?
ヒトミに避けられているような気になってしまい、泣きたい衝動に駆られる。
抱えている大きな問題に連なる、それよりももっと重大な問題に押しつぶされてしまいそ
うになる。
それらは、18歳の梨華が抱えるには重過ぎるものだった。

しかしただこのままグズグズと枕に顔を埋めているわけにもいかない。
梨華は枕もとに置いておいた携帯を手に取った。
ヒトミの番号をディスプレイに表示させるが、通話ボタンを押す前で止まってしまう。
「…もう寝ちゃってるかなぁ…」
時計の針はすでに11時を回っている。
明日学校は休みだが、ヒトミはそういう日にはマジックの練習やステージの予約を入れるな
どして、休みの時間を仕事にまわすというハードスケジュールを組んでいると言っていた。
その為夜更かしはほとんどしないという、案外規則正しい生活を行っているのだ。

「でも、声聞きたいし…」
ぐっ、と手に力を入れるがやはりそれ以上の事は出来ない。
それに電話したとしても、もしそれでうっとおしがられてしまったら、などと色々な不安が
駆け巡って、梨華は自分に腹が立つ反面悲しく思えた。

いっそのこと睡魔がやってきてくれたら、何も考える事無くそのまま身を委ねてしまえるけ
れど、どうにもそれには頼れそうにない。
悶々と悩み、梨華はいつまでも携帯を片手に動かなかった。

323ななしのどくしゃ:2003/04/13(日) 11:42


家に帰ってからも、梨華は終始ふさぎっぱなしでいた。


『ごめん』


苦笑気味でそう言ったヒトミの顔が頭から離れない。

―――――どうしたのよぉ…?
ヒトミに避けられているような気になってしまい、泣きたい衝動に駆られる。
抱えている大きな問題に連なる、それよりももっと重大な問題に押しつぶされてしまいそ
うになる。
それらは、18歳の梨華が抱えるには重過ぎるものだった。

しかしただこのままグズグズと枕に顔を埋めているわけにもいかない。
梨華は枕もとに置いておいた携帯を手に取った。
ヒトミの番号をディスプレイに表示させるが、通話ボタンを押す前で止まってしまう。
「…もう寝ちゃってるかなぁ…」
時計の針はすでに11時を回っている。
明日学校は休みだが、ヒトミはそういう日にはマジックの練習やステージの予約を入れるな
どして、休みの時間を仕事にまわすというハードスケジュールを組んでいると言っていた。
その為夜更かしはほとんどしないという、案外規則正しい生活を行っているのだ。

「でも、声聞きたいし…」
ぐっ、と手に力を入れるがやはりそれ以上の事は出来ない。
それに電話したとしても、もしそれでうっとおしがられてしまったら、などと色々な不安が
駆け巡って、梨華は自分に腹が立つ反面悲しく思えた。

いっそのこと睡魔がやってきてくれたら、何も考える事無くそのまま身を委ねてしまえるけ
れど、どうにもそれには頼れそうにない。
悶々と悩み、梨華はいつまでも携帯を片手に動かなかった。

324ななしのどくしゃ:2003/04/13(日) 11:45

そんな時、手にバイブレイション、鼓膜に音の振動が伝わる。

あまりの驚きに一瞬通話ボタンを押すのを忘れていたが、ディスプレイに表示された名前
を見て、さらに梨華は押す事を戸惑った。


【ヒトミ】


話したくて仕方がなかった梨華にとって好都合な事だ。
しかし梨華には言い切れない不安がふつふつと沸き起こってくるのを感じ、ただ黙ってその
表示された名前をじっと見つめるのみ。
とりたい、電話を取ってヒトミと話がしたい。
今日の事は単なる機嫌が悪かっただけなのだと、言ってほしい。

考える間に、1回、また1回とコール音が響いていく。

ごくりと唾を飲み込んで、なるべく平常心を保とうと大きく深呼吸する。

そしてゆっくりとボタンを押した。

325ななしのどくしゃ:2003/04/13(日) 11:46

『もしもし、梨華ちゃん?』
自分が何か言うよりも早く、向こうからそれが聞こえてきた。
「…ヒ、トミ…」
『もしかして寝てた?起こしちゃってごめんね』
それはいつものヒトミだった。
囁く様に、梨華を優しく気遣う口調。
聞きたくて、聞きたくなかった声。
それでもやはりこの声は、まるで一つの音楽であるかのようになだらかに耳へと入ってき
て梨華の心を落ち着かせる。
それには一言「大丈夫…」と小さく付け加えるしか出来なかった。

『あの、さ…今日はほんとゴメン…せっかく来てくれたのに』
「ぅうん…」
目がじんわりと熱くなってきた。
『それでさ、梨華ちゃん…聞いてくれるかな』
「…なに…?」

326ななしのどくしゃ:2003/04/13(日) 11:46


『あたし…もう梨華ちゃんと一緒にいられない…』


自分の耳が壊れて機能しなくなったのかと思いたくなった。
「なに…?どういう事?」
『梨華ちゃんに、もうマジック見せてあげられない』
「冗談…?冗談なんでしょ?ねぇ…」
ヒトミは何も言ってはくれなかった。

『あたしさ…考えてたんだ、あたしこのまま梨華ちゃんと一緒にいていいのかな、って…』
「いいに決まってるじゃない、何でそんなこと…」
『でも…なんかやっぱり無理だよ…あたしには…だから』

―――――別れよう


「やだ…急に、なんなの…?」
『だからあたしは…』
「私何か変なことした?だったら謝る、嫌なとこあるんだったら直すから…」
『そういう事じゃないんだよ』
「私こんな家なんかいらないもん、誰かにあげてもいい」
『梨華ちゃん…』
「ね?私お嬢様になんてならなくていいから、だから、そんな事言わないでよ…」

327ななしのどくしゃ:2003/04/13(日) 11:46

しかし受話器の向こうから聞こえてきたのは、梨華の予想と遥かにかけ離れた物だった。

『無理なんだよ』

「え…?」
梨華は耳を疑った。
自分の耳が壊れてしまったのかと思いたくなる程に。
「なに…言ってるの?」
『もともと無理だったんだよ女同士って』
こんなに冷たいヒトミは初めてだ。

『お姫様はさ、やっぱり王子様と結ばれるべきなんだよ』

「ヤダ…やめてよ…」

『それに梨華ちゃんはお嬢様だし、そういう家に生まれたから仕方ないよ』

「ヒトミ、お願い…やめて…」

『梨華ちゃんは家を継いで結婚して幸せになる…これが一番いいんだ』

「ヒトミ…ヒトミ…!」

『ほら、おとぎ話にでもよくあるでしょ?』



『魔法使いは、お姫様と王子様の幸せを願うだけだから』


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