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MAGIC OF LOVE

1ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:27


小さい頃の大きな夢

かわいいお姫様と、かっこいい王子様

王子様はお姫様の為に、色んな障害を乗り越えるの



でも大きくなって、こう思うようになった

お姫様や王子様にいつも手を差し伸べてくれるのは魔法使いさんなの

137名無し新年:2003/01/13(月) 19:31
このお話、今一番楽しみにしてます。
よっすぃ〜の不思議な雰囲気が大好きです。
頑張ってください!

138ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:18




「…ここに一人暮らししてるの?」
「うん」
推定50〜60坪はあるだろうか。
白く塗られた壁はまだ新しい。
梨華の家よりは小さいけれど、一軒家で一人暮らしとなるとしては大き過ぎる方だ。
「使ってない部屋とかも出てきちゃってさぁ、困ってるんだよね」
どうぞ、と促されて先に家の中に入った。

家の中も外同様、まだ新しさが残っており掃除も行き届いている。
「きれいだね」
「そう?」
「私、掃除嫌いだからいつも部屋汚しちゃうんだ」
アハハ、というヒトミの笑い声が響く。
「上がってよ、ごっちんたちまだ来てないと思うから」
“ごっちん”という単語に必要以上に敏感になってしまっている。
それと同時に“まだ来てない”という言葉にも反応する。
事実上、今家に居るのは梨華とヒトミの二人きりだという事になるからだ。

靴を脱いで案内されるままリビングへ入ると、ここもまたキチンと掃除されている。
鮮やかなブルーのソファにガラスのテーブル。
キッチンへ向いたカウンター式の食卓。
甘いキャラメル色のフローリングには塵一つ落ちてはいない。
「座ってて」
ヒトミに言われてソファにそっと腰掛け、横に鞄を置いた。
「自分でいつも掃除してるの?」
「うん、掃除とかは結構好きな方だからね」
同じ年頃だというのにこの差はどうだろう。
家政婦に任せっぱなしで部屋の掃除なんかほとんど一度もした事ない。
ヒトミの言葉に、梨華は昨日までの自分を恥じた。
「紅茶でいいかな?」
「…あ、お構いなく」
キッチンでゴソゴソとやっているヒトミに、少し苦笑ぎみで答えた。

139ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:18


「はい」
程なくしてヒトミが湯気のたったカップを持ってきて、梨華の前に置く。
「ありがと」
「熱いからね」
そう言って梨華の左隣にある一人がけのソファに腰を下ろし、自分の紅茶をこくり、と飲んだ。
梨華もそれを見届けると、目の前に置かれたカップを両手で持ってひと口飲む。
アップルティーだった。
果実の酸味と甘味が紅茶の葉とちょうどよく合わさって梨華は思わず頬をほころばせる。
「おいしい?」
カップに口をつけたままヒトミが聞いてきた。
「うん」
「そ、良かった」
安心したようにまたカップに口をつけるヒトミを、梨華は黙って見つめた。
梨華は躊躇していた。
ヒトミに真希の事を聞こうかどうか。

自分で抑えきれないほどの不安はある。
もしヒトミが真希と付き合っているか、もしくはどちらかがどちらかを好きだとしたら。
ヒトミの言動からもう少しすれば彼女は現れる。
そして二人のそんな態度を前にして、梨華は笑っている事など出来ないだろう。
それでも梨華は真実を知りたかった。
もうここに来てしまった以上、最後まで見届けよう。
せめて真希が来る前に、ヒトミの口から聞いておこう。

「…ねぇ」
震える声を必死に隠して、梨華は言った。
「ん?」
「あの…」
ヒトミと目が合う。
日本人離れした大きな瞳がじっとこっちを見つめている。
それだけでも梨華の心臓は収まらなくなっている。
「何?」
「あの、ね…」
「うん」
「後藤さん、って…」
「ごっちん?が、何?」
優しく微笑む瞳に顔を背けたくても背けられない。
もうすでに名前を出してしまったのだから、と梨華は意を決した。

「どう、いう…関係…?」
途切れ途切れになりながらも、なんとか言い切る事ができてホッ、と胸を撫で下ろす。
―――――言っちゃった…

140ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:19


「はい」
程なくしてヒトミが湯気のたったカップを持ってきて、梨華の前に置く。
「ありがと」
「熱いからね」
そう言って梨華の左隣にある一人がけのソファに腰を下ろし、自分の紅茶をこくり、と飲んだ。
梨華もそれを見届けると、目の前に置かれたカップを両手で持ってひと口飲む。
アップルティーだった。
果実の酸味と甘味が紅茶の葉とちょうどよく合わさって梨華は思わず頬をほころばせる。
「おいしい?」
カップに口をつけたままヒトミが聞いてきた。
「うん」
「そ、良かった」
安心したようにまたカップに口をつけるヒトミを、梨華は黙って見つめた。
梨華は躊躇していた。
ヒトミに真希の事を聞こうかどうか。

自分で抑えきれないほどの不安はある。
もしヒトミが真希と付き合っているか、もしくはどちらかがどちらかを好きだとしたら。
ヒトミの言動からもう少しすれば彼女は現れる。
そして二人のそんな態度を前にして、梨華は笑っている事など出来ないだろう。
それでも梨華は真実を知りたかった。
もうここに来てしまった以上、最後まで見届けよう。
せめて真希が来る前に、ヒトミの口から聞いておこう。

「…ねぇ」
震える声を必死に隠して、梨華は言った。
「ん?」
「あの…」
ヒトミと目が合う。
日本人離れした大きな瞳がじっとこっちを見つめている。
それだけでも梨華の心臓は収まらなくなっている。
「何?」
「あの、ね…」
「うん」
「後藤さん、って…」
「ごっちん?が、何?」
優しく微笑む瞳に顔を背けたくても背けられない。
もうすでに名前を出してしまったのだから、と梨華は意を決した。

「どう、いう…関係…?」
途切れ途切れになりながらも、なんとか言い切る事ができてホッ、と胸を撫で下ろす。
―――――言っちゃった…

141ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:19

口をぎゅっと結んで見つめる梨華に、ヒトミは一瞬驚いた様な顔をしていたが、「うーん」と
少し考えて、すぐにまた笑顔に戻った。
「なんだろうなぁ、友だち兼アシスタント、って感じかな」
「え?」
それを聞いて梨華は再びホッ、とする。

ヒトミの話によると、自分が向こう(アメリカ)でマジックをしていた時、自分にはまだ正式
なアシスタントがいなかったらしい。
いつも父の手伝いをしている人たちを借りて活動していたのだが、日本に行くと決めた時は、
まさかアメリカに残ると言う父のアシスタントを無理やり引っ張ってくる訳にも行かず、家を出る前に父の日本の友だちに連絡をとってもらい急きょアシスタントの募集をしたという。
その時の応募の中の一人に、真希が居たのだ。

「思ったより人数が多くてね、その中から2〜3人に絞る為に個人面談をやったんだ」
20人くらい居たかなぁ、と懐かしむ様な顔をするヒトミ。

「それでね、みんなに話を聞いて最後に全員に同じ質問をしたんだ、『どうして募集を受けよ
 うと思ったの?』ってね」
ヒトミはすっ、と目を細めてちょっとだけ真面目な顔をした。
「あたしのファンだから、っていうのが一番多かったな、まぁ嬉しかったけど」
「それで、どうしたの?」
「うーんとね、それでごっちんの番になって…、その時初めてごっちんに会ったんだ」
ヒトミが真希に対する初めの印象は「冷たそう」だったそうだ。
そう言えばあゆみも同じ事を言っていたなぁ、と梨華はふと思い出す。
「それで段々話を進めていって、それで最後に例の質問をした」
「うん」

「そしたらごっちんは「あなたのマジックが好きだから」って言ったんだ」

ヒトミは意気揚揚と話し続ける。
「もうなんかビビッ、ときたね、ごっちんはあたしのマジックを見てそれでここに来たんだって、
 あたしがマジックをする人って事以外、何にも知らずに」
ヒトミは真希がそう言うまで、真希もまた他の応募者達と同じだと思っていたらしい。
他の応募者達はヒトミ・ヨシザワの名前を聞き、もしくはヒトミのファンだという者しか居なかっ
た。
酷く落胆していたのだと言う。
「嬉しかったよ、嬉しかったんだけどあたしはそういう人をアシスタントにはしたくなかった」
「どうして?」
梨華が聞き返すとヒトミは薄く笑い返し、
「他の人は、あたしのマジックじゃなくて『あたし』を見てる、アメリカで有名なマジシャン『ヒ
 トミ・ヨシザワ』をね、みんなあたしの名前に引かれてここに応募したんだと思った、それなら
 別にあたしじゃなくて、他の有名なマジシャンがいればそっちに行ったって同じでしょ?」

142ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:19

笑っているけれどこうやって真面目に話すヒトミに、梨華は何も言えないでいた。
そしてヒトミは淡々と話し、その応募者の中から真希一人だけを選んだと言う。
「それで今じゃあたしの友だちでもある」
ヒトミは紅茶をひと口含んだ。
―――――そっか、恋人じゃなかったんだ…
もう何度胸を撫で下ろしただろう。
梨華は何日分も溜め込んでいた不安要素を全て捨てる事ができた。


「あ、それじゃあのピエロさんたちは?」
とってつけた様に言う梨華。
当のヒトミも「え?あぁ」といった具合に、存在を忘れていたらしい。
「あいぼんとののはあたしが頼んだの」
あの二人のピエロの名前は、赤い衣装に身を包んだのが亜衣で、黄色い方は希美で通称「あいぼん
」と「のの」というあだ名がつけられているのだそうだ。
正式なアシスタントに真希を雇ったものの、一人では手に余る。
どうにかしようとヒトミは一人で街を歩いていたところ、ある中学校の前を通りかかった。
その時、おそらく給食後の休み時間だろうか、グラウンドがなにやら騒がしくて何事か?とフェン
スごしにその様子を窺ったのだ。

そこにいたのが亜衣と希美だった。
二人は仲良く一緒に、グラウンドののぼり棒や、ぶらさがって渡るはしごなんかで遊んでいた。
それは遊ぶと言うところのレベルではなく、まるで何かのお披露目かと思われるくらいピョンピョ
ン飛び回ったり踊ったり、中学生とは思えないほどの幼さが魅力的だった。
そして時には、漫才コンビかと思われるほどの巧みな話術で、周りにいた他の友だちを笑わせてい
たのだという。
息も完璧にピッタリだった、とヒトミは頷きながら言う。
「それでこの子たちなら面白い事やってくれそうな気がしたんだ」
「そうなんだ」
「あたしの勘に間違いは無かった!ごっちん・あいぼん・ののたちを入れて、アメリカにいた頃よ
 りも数倍かっけーマジックが出来るようになったんだ」
本当に嬉しそうに笑うヒトミに、梨華もつられて笑顔になった。

「でも最初は悲しかったなー、あいぼんたち初めて会った時あたしの事「なんやのねーちゃん、頭
 おかしいんとちゃう?」なんて言ってきてさぁ、泣きそうだったよあん時はー」
ののの「おねーさんは誰なんですか?」でちょっと救われたけど、とヒトミはぷぅ、と頬を膨らま
す。
「でもま、そっちの方がいいけどね、あたしの名前につられることはなかったから」

143ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:20

「ねぇ」
梨華は何を思い立ったのか、さっきのヒトミに負けないくらいの真顔で口を開いた。
「何?」
「さっき言ってた、その…後藤さん以外の応募者の人たち」
「うん?それが、何?」
「その人たちね、みんながみんな『ヒトミ・ヨシザワ』の名前につられたんじゃないと思うの」
梨華は気付かない内に胸の前で手を組んで、乙女チックな格好になっている。
ヒトミは気付かない振りをして、梨華の話に食い入った。
「え?どういう事?」
「多分その中には、『ヒトミ・ヨシザワ』じゃなくって『吉澤ひとみ』っていう女の子に憧れて来
 た人も何人かいたと思うの」
「はぃぃ?」
まったくもって分からない。
お手上げ、とでも言うかのようにヒトミはおおげさなポーズをとる。

「学院とかでもね、ヒトミってすごく人気あるの、ヒトミは気付いてるか知らないけどすごいの、
 背も高いし、顔も結構きれいだし、なんか性格もみんなとは違ってて、スポーツも出来るし」
あゆみに言われて自分で批判していた事も少々混ざりながらも、梨華は一気にまくしたてた。
「見た目だけじゃないけどね、やっぱり中身っていうのかな?そういうヒトミの人間性?が分かる
 人には分かると思うんだ、私」
言いたい事を全て言い切ってパッ、と顔を上げると梨華はそこで驚いてしまった。

144ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:20


「………」
「…あ…」
見ればヒトミの顔はいつの間にか赤くなっていた。
それを見て、梨華は自分の言った事を反芻し、同じく顔を染める。
「「………」」
二人とも顔を真っ赤にしながら俯いて、それ以上話す事もお互いの顔を見る事も全部ストップさせ
てしまった。

―――――…は、恥ずかしい…なんで?
何故あんな事を言ってしまったのか自分でも分からない。
ただ思った事を全部言いたくて言ってしまったのだ。
「「………」」
辺りはしーんとして物音一つせず、二人とも自分の胸の鼓動しか聞こえなかった。

しかし考えてみれば、ヒトミのあんな表情は初めて見た。
出会ってからもう10日近いがヒトミはいつも余裕綽綽という感じだった。
それが今じゃ自分の横で耳まで顔を赤く染め小さく縮こまっていて、まるでただの女子高生だ。
普通の女の子、と言ったのは自分からだけれど、普段のヒトミからはやはり考えられない。
「…あの」
「はひっ?!」
いかにもマヌケな奇声をあげる梨華。
「そ、そんなに驚かないで…あのさ、石川さんはさ…その」
まだ赤色の取れないヒトミは、らしくないモジモジとした口調で言う。
「な、に…?」
「石川さんは…ぁの…あたしの…」







「「「よっすぃ〜!ちょっと、てつだってぇ〜!」」」







ヒトミが何か言おうとした時、玄関の方から明るめの声が三重に聞こえてきた。

145ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:20
あーなんかやっと半分くらい書けたって感じです。。。
長くなりそぉ…。

>50の名無しハロモニさま
何故かハトは使いたかったのです。(謎
梨華ちゃんはもうなんというか、意地っ張り一直線!って感じです。
そうですね、彼は………………………どうしよう。(笑

>YUNAさま
駄文だなんて。。。こちらこそ呼んでいただいて光栄ですわ。(笑
私が書くものの主人公は、何故か皆ひねくれてしまっているのです。
( ´Д`)<やっぱ作者に反映してるよね、あはっ。

>名無し新年さま
( ゜皿゜)<ナンテコトスルノ、オモワズフキダシチャッタジャナイノ。(実話
( ´酈`)<『こうかいさきにたたず』というのれす、さきにたたせてくらさい。
でもがんばるっす!!

>名無し新年さま
マジですか?!それはメッチャ嬉しいです。
(*0^〜^)<いやぁ…照れるなぁ。
ありがとうございます!こりゃもうハイペースで更新していきたい勢いです。

146ななしのどくしゃ:2003/01/14(火) 18:35
うぎゃああああああ!
139−140のとこ二重投稿してしまったっ!
PC調子悪いなぁ…。
スマソ(ぺこり

147YUNA:2003/01/15(水) 14:52
あぁ〜、超〜いいトコなのにぃ〜〜(笑)
モジ②するよっすぃ〜、可愛すぎっす♪♪♪

>やっぱ作者に反映してるよね。
そんな事はないでしょ〜〜
でも、ななしのどくしゃさんが書く小説大好きですよっっっ♪♪♪

148名無し新年:2003/01/16(木) 01:35
( ゜皿 ゜)<マダマダキタイシチャウワヨ。モウハマッチャッテルンダモノ。
( ´酈`)ノ<しょうがないのれす。

149ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:27

ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が段々と近づき、そのうちの一人が文句たれたれ梨華とヒトミのいる
リビングに顔を出した。
「ちょっとよっすぃー聞いてんの?買って来たんええけど色々買いすぎて3人じゃ持ちきれ
 んねん、せやから手伝ってて言うてんのに、こら聞いとんのかこのあほ…」
ものすごい早さの関西弁でヒトミを豪語するこの少女は、梨華の姿を見るとそのマシンガン
のような口の動きを一切取りやめ、抱えるように持っていた荷物をドサッ、と床に置いた。
「あれ?お客さんやったん?」
「よ、よっ…あいぼん…」
「こ、こんにちは…」
亜衣(通称あいぼん)はキョロキョロと二人を見比べる。
放課後、制服姿のままここへやって来た為ヒトミと同じ制服を着ている梨華を、=(イコー
ル)友だちという図式に当てはめた。
「なんや珍しいなぁ、よっすぃーがうちら以外の友達連れてくるんは、初めてやん」
「そ、そだっけ?」
「何ビクついてんの?」
怪訝な顔をして亜衣はヒトミをじっと見つめた。
そして、


「あいぼぉ〜ん、荷物〜」

玄関の方から間の抜けた声がして、亜衣はハッ、として口調を荒立てた。
「そや、はよ手伝ってや!荷物たくさんありすぎんねん!」
はよ!はよ!と、亜衣にバシバシ背中を叩かれ、ヒトミは渋々重い腰を上げ玄関に向かう。
けれど亜衣はまだ玄関には向かわないで、視線は梨華に向けている。
「ねーちゃんもや!人数は多いほうがはかどるやろ!」
「えっ?私も?」
「ええから!」
息つく暇も無く梨華の腕をぐっ、と引っ張る亜衣。
よっぽどのせっかちなんだ、と梨華は悟る。

玄関に顔を出すと、そこには山盛りの荷物とそれに被さるように制服姿の真希ともう一人(
おそらく希美)中学校の制服姿の少女が積み重なっていて、ヒトミはそれらを見下ろしなが
らオタオタしていた。
「ちょっ…!なんだよこれぇ!?」
するとぐったりしていた真希が答えた。
「今日の夕食とぉ、練習に使うもろもろの道具〜、とあと歯磨き粉きれてたでしょ?買って
 きたよ〜」
「いやそれにしても多すぎだよ!ってか、あ〜ぁこんなにお菓子買って」
脇に置いた菓子類ばかり詰め込まれたビニール袋を見て、ヒトミは呆れる。
「またののだろぉ」
「てへへ、安かったんだもん」
思ったとおり、もう一人は希美と言う少女だった。
希美はその口から八重歯を覗かせて笑う。

150ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:27

「あれ?おきゃくさんですか?」
ヒトミの後ろに立つ梨華に気付いた希美。
そして真希も梨華の存在を確認すると、笑って手を振る。
「あ、石川センパイだ、こんばんわ〜」
「へ、あ、こ、こんばんわ」
「あっは、どもり過ぎ」
へらへらと笑う真希は、あゆみ(過去にヒトミ)が言っていた様な『冷たい』というものとは
大分かけ離れている気がした。

亜衣は首を傾げて梨華とヒトミ・真希を見比べる。
「なんやの、二人ともこの黒いねーちゃんと知り合いなん?」
「なっ…!?」
―――――ひ、人が気にしてる事を!
肌の事を指摘され梨華はむっとして亜衣を見ると、それを真希がたしなめた。
「ごめんねセンパイ、あいぼんは正直だから」
「後藤さん、それフォローになってないのです」
さすがヒトミの助手をしているだけある。
梨華は怒りながら納得した。

「あいぼんもののも覚えてない?」
今まで横で笑いを堪えていたヒトミが、まだ顔に笑いを残しながら言った。
「何をですか?」
いまいち思い出しそうも無い二人に、真希が助け舟を差し出す。
「ほら、初めてやったショーの時にステージに…」
「「ショー?…あ―――――!!」」
亜衣と希美は二人同時に梨華を指差す。

151ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:27




「思い出したっ、ピンクのねーちゃんやっ」
「ピンク好きなおねーさんっ」




二人、顔を見合わせて何度も頷く亜衣と希美。
梨華はもう落ち込む気もなくしてしまったようで、どちらかというと諦めた表情を見せる。
―――――だから好きなんだってば…はぁ…

「はっ!こんな事してる場合じゃないで!アイス溶けてまうっ!」
「うそっ!?そんなのヤダッ!!」
「えぇ!?おまけにアイスまで買ってきたのっ!?」
5人でいるには狭い玄関でヒトミ・亜衣・希美たちはぎゃあぎゃあとひしめき合う。
「せやかて30円引きやって、安かったんやもんっ!」
「あいぼん前にもそう言ってアイス買ってきてまだ全部食って無いだろっ」
「あぁ〜アイスが溶けるのです〜!」

―――――さ、騒がしい…
その一言に尽きる。

「センパイ」

どうやって抜け出してきたのか、あの3人の間でもみくちゃにされていた真希はいつの間に
か梨華の後ろで食材の入った袋を抱えて立っていた。
「あの〜悪いんだけどこれ持ってくの手伝ってほしいんですケド」
「あっうん、いいよ」
「ありがとー」
梨華に軽い方の袋を渡すと、真希は先にキッチンへ行ってしまった。

「賞味期限が切れる前に食っちゃえよ!」
「ののに言ってぇな!そんなんよう知らんわ!」
「アイス〜!溶けちゃう〜!」
ヒトミたちはまだ口論を続けている。
とりあえずこの3人は放っておいて、梨華は真希のいるキッチンに向かう事にした。

152ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:27


「あ、センパイありがと〜、こっちこっち」
「うん」
ダイニングで真希はテキパキと食材をしまい込んでいた。
野菜・果物類、冷凍食品は冷蔵庫のチルド室へ。
調味料などは下の大きな棚にまとめて入れる。
これから食べる物や飲む物は、必要な分だけを残し脇に固めて置く。
真希はどうやらこの家の何もかもを知っているようだ。
少し複雑な、けれどさっきよりはよほどマシな気分になりながら、梨華は真希の隣に行く。
「よいしょっと」
梨華はカウンターテーブルの上に任された荷物を置いた。
「重かったでしょ」
運んできた荷物をゴソゴソやりながら真希は言った。
本当ところ、梨華のか細い腕にはちょっときつかったが、そこは社交辞令。
「ううん、大丈夫だよ」
「の割には両手で抱えてきつそうだったね〜」
バレバレだった。
そう言って真希はニヤニヤと笑う。
―――――ヒトミに関わるとみんなこんな風になるのかしら
どうでもいい人間関係などを思い浮かべてしまった。

「さぁて、作りますか」
真希はやる気マンマンといった感じで腕まくりをし、まな板やら包丁やらを出し始めた。
「って言ってもギョーザなんだけどね〜」
『冷凍ギョーザ・チルドパック』と書かれた袋を3つ、封を開けながら真希は笑う。
なんだかそれがおかしくて、つい梨華もつられて微笑んだ。
「あはっ、まぁそれはいいとして…ちょっとぉ〜!あいぼんたちぃ〜?まだうだうだやって
 んのぉ?誰か手伝ってよ〜」
玄関に向かって声をかける真希。
すると亜衣と希美がとたとたと駆け寄ってきた。
口論バトルは一時休戦になったようだ。

かと思うと、二人は真希の横をすり抜けて手に持っている少々バニラアイスが漏れかかって
いる入れ物を冷凍庫にしまおうと試みた。
とりあえずはまだできていない夕飯よりも、アイスの生存確保が先決らしい。
バッ、と勢いよく開き戸を開けると、二人は愕然とする。
「な、なんやねん!このアイス入れるとこないやんか!」
「ギチギチなのです〜!」
二人がアイスを手にしたまま悪戦苦闘していると、玄関からヒトミもたくさんの荷物を抱え
てよろよろとやってきた。

「だから、前に買ってきたアイスがまだ残ってんだってば!」
それにも亜衣と希美は屈しない。
それどころか怒りの矛先をヒトミに向けてきた。
「ちょいまち、これなんやねん!このエビ賞味期限切れとるやんか!こないなもんいつまで
 も冷凍庫入れとくよっすぃーがあかんねん!」
「よっすぃー整理整頓得意なんだから、全部片付けてください!」
「はぁっ?なんだよそれぇ!」
今止んだバトルが再び始まってしまった。

153ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:28

「よっすぃーや!よっすぃーが悪いんや!」
「お前いい加減にしろよぉっ!?」
「アイス〜、アイスが〜」

「あのさ〜誰か手伝ってよ〜」
ざくざくと付け合せのキャベツを千切りしている真希の横で、ギャーギャーと騒ぐ。
真希はもう慣れっこ、といった感じで口で注意はするものの、そのキャベツを切り刻む様は
堂々として貫禄ありといったところだ。
「まったくもー、誰も何もしないんだから」


「あ、あの私手伝うよ」
遠巻きに4人を観察していた梨華。
真希のグチを聞いて自らその手伝いに名乗り出た。
やっぱり初めて訪れた自分だけれど、何もしないのは自分のプライドに反する事だったので
黙っていられなかった。
「え?センパイはいいよ、こいつらいつもやんないから」
「ううん、いいの、やらせて」
言い合うヒトミたちの間をすり抜け、ちょこんと真希の横を陣取る。
「私だけ突っ立ってる訳にもいかないから」
「そぉ?じゃ、ギョーザ焼いてもらおうかな〜」
「分かった」
言われた通り、ギョーザを焼く為フライパンと油を探す。
「あ、フライパン上だよ、油は後ろの棚の一番下」
「ありがと」
「あはっ、ごめんねセンパイに手伝わせちゃって〜」
「ううん」
梨華は首を振った。

手伝った本当の理由は、それだけじゃないけれど少し真希に悔しさを覚えたからだ。
ヒトミと真希が付き合っている仲ではなかったという事を知っても、真希はこの家の事を何
でも知っている。
それが羨ましかっただけだ。

大きめのフライパンとサラダ油を用意して、梨華はコンロに火をかけ油を引いた。
「これ全部焼けばいいの?」
「うん、そぉ」
このフライパンで3袋ものギョーザをいっぺんに焼くのは無理だった。
梨華はギョーザを半分ずつに分けて焼くことにした。

フライパンが熱を持ってきた頃、分けたギョーザをしきつめるとジューっといい音がして、
後から香ばしい香りが漂ってきた。
「表面はパリパリの方がいい?」
真希にそう尋ねると
「ねぇー?表面パリパリともちもちと、どっちがいいー?」

「パリパリ!」
「もちもち!」
「ぱりぱり!」

「多数決でパリパリに決定しました」
「クスッ、了解」
ギョーザを裏返すと、向こうから「なんでだよー!」というヒトミの声がする。
「しなしな」に票を入れたのはヒトミだったようだ。
それを微笑ましい気持ちで聞きながら、梨華はフライパンからキツネ色のギョーザをひっく
り返した。

154ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:28

「センパイ?」
キャベツを切り終わった真希が、今度はトマトを切りながら言う。
「え、何?」
「あたしさー、実を言うとセンパイと一回話ししてみたかったんだ」
「えっ?」
トントンと包丁のいい音がする。
「よっすぃーが話すんだよ「すっごいかわいい人なんだ」って」
―――――えっ…
思わず手をとめて真希を見た。

「んで「すっごく変でおかしいんだー」って」
―――――…変で…おかしい…
やっぱりヒトミはヒトミだ、と思いながらまたジュージューとギョーザを焼いていく。
―――――一瞬でも喜んだ私って…バカみたい…
「まぁ、前にあたしらも会った事あるって聞いたときはちょっとビックリしたけど、センパ
 イの印象も強かったし」
「…やっぱり、ピンク?」
「あはっ」
「…はぁ…」
落ち込む梨華に、真希は正すように言った。
「でも初めてだよー、よっすぃーがこっち来てから、嬉しそうに誰かの事話すなんて」
「えっ?」
「よっすぃーってさ、あんな仕事やってるから友だち少なかったんだって、練習とかもある
 からヒマな時間とかも無くって全然友だちと遊べない、ってぼやいてたよ」
「なるほど」
「でもやっぱ自分の仕事が好きみたい、マジックやってる時のよっすぃーの顔、本気で楽し
 んでる顔してるもん」
キャベツと切り終えたトマトを綺麗に皿に盛り付けながら、それが完了するとガタガタと冷
蔵庫からドレッシングを出す。

「だから友だちとかできるとそれと同じくらい嬉しいんだろうね、センパイの話してる時、
 よっすぃーめっちゃ笑ってるよ」

―――――ヒトミが…

「あ、センパイギョーザ焦げる」
「ふぇっ!?きゃあっ!大変っ!」
「あはははっ、ほんとにおかしいねー」
なんとか無事だったギョーザを真希が盛ったキャベツの横に並べた。

155ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:29


「だからあたしもその人と話してみたいなーなんて思ったんだよね、そんでよっすぃーの学
 校まで行ってみたんだけど驚いたよ、車で送り迎えされてるお嬢様だったなんてさ」
まぁ初めて見たときから分かってたんだけど、真希はしみじみ言う。
「だから最初はとっつきにくい!って思ったんだけど、今日面と向かって思った」
「思った、って?」
「やっぱよっすぃーが認めるだけはあるなーって」
真希はちらっ、とヒトミを見た。

「あのもちもち感がうまいんだってば!」

そしてまたギャーギャーと言い合いを始める。
まだギョーザの焼き方について議論していたようで、ヒトミは膨れ顔だ。
「あほだねー」と笑いながら真希は盛り付けの終わった皿をテーブルに並べだす。
「でも、認めるって…そんな大げさな」
梨華は残っていたギョーザを全部フライパンに並べてまた焼き始めた。
「大げさも何もよっすぃーがここに誰かを連れてきた事なんて、ごとーたち以外いなかった
 んだよ、少なくとも」
「………」
「センパイが多分、初めてだと思う」

「よっすぃーの感覚にはついていけんわ!」
「なんだよー!いいよ別についてこなくて!」
「アイスが溶けるのですー!」

「ねーセンパイ?センパイの家は門限とか厳しくないの?今日は大丈夫?」
「…え?あ、今日は友だちの家に行って勉強してくるってごまかしてきたから」
「へー、なかなかやるねぇ」
そうして再びギョーザ焼きの作業に戻った梨華は、ギョーザをひっくり返しては焼かずに、
少しだけ火を弱めて、コップに少量の水を汲みフライパンの中に流し込み蓋をして、向こう
で亜衣や希美とじゃれあうヒトミを見つめた。

156ななしのどくしゃ:2003/01/18(土) 20:30
なんでギョーザなんだろう…。
まぁいいよね、家庭風味を出したかったんだい!
ちなみに私の好みのギョーザはパリパリですね。(笑
段々エンジンも切れ掛かってきたな…。フ。

>YUNAさま
いいところでしたか?(笑
これから段々と吉の本性を暴きだしていきますので…。
Σ(;0^〜^)<そ、そんなんねぇYO!

>名無し新年さま
( ゜皿゜)<ソッチガソノキナラウケテタツワヨ!
( ´酈`)<きたいをうらぎってもこっちはせきにんとらないのれす
(´ Д`)<んぁ、それでもいいのぉ〜?

管理人さまはインフルエンザらしいですね。
大事をとってゆっくり静養なさってほしいです。辛いですからね。
私も先月かかって歩いて病院に行かされました。治りましたけれども。(笑

えー今月の更新は以上です。来月までグッチャー☆

157管理人:2003/01/19(日) 01:26
>ななしのどくしゃさま。
心配していただきありがとうございます。
アンド、大量更新ありがとうございます。
印刷したら、6ページもありました!!
楽しみに読んでいます!
黒いねえちゃん。。。。。ワラタ(w
これからもよろしくお願いいたします。

158名無し誕生日:2003/01/19(日) 15:21
( ゜皿゜)<ヤットデタワネソノコトバ!マッテタワヨ!マスマスキタイシチャウカラ!!
( ´酈`)<きっとうらぎらないとおもうのれす。
( ^▽^)<誕生日だしね。ウフッ
(0^〜^)<来月までないのは、さみすぃ〜

159YUNA:2003/01/19(日) 15:21
やっぱり、面白いっす♪♪
来月まで、続きが読めないなんて...
続き、楽しみにしています♪♪♪

160名無しジェンヌ:2003/01/25(土) 20:21
2月までの我慢我慢(w

161ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 07:57




「「「いっただっきま〜す」」」

ヒトミ・亜衣・希美の3人は仲良く揃って手を合わせた。
「ったくもぅ〜、結局センパイにばっかり手伝わせちゃったじゃん」
あれから口論は止む気配がなかった。
しかし部屋中に響いた真希の「ご飯だよ〜」という声と、それに伴うギョーザの匂いが今ま
で誰にも止められそうになかった3人の喧嘩をピタッと止めてしまった。
「おなか減ったのです〜」
「ののラー油とって、ラー油」
「な〜うちの箸ないんやけど〜」
今じゃ3人、なにもなかったかのようにギョーザをつついている。
「だれも聞いてないんだから…ま、いいやセンパイも食べよ食べよ」
「うん、じゃいただきます」
「いただきまーす」
梨華も真希と一緒に手を合わせた。

「あれ?このギョーザ…」

ふと、亜衣が2枚あるギョーザの皿のうち1枚を指した。
「全部ぱりぱりじゃなかったんですか?」
希美も食べ物の事となると過敏な反応を見せる。
みんなが首をかしげる中、梨華は口を
「あ、あのね、それ全部パリパリに焼こうかと思ったんだけど、どうせ半分づつ焼いてたか
 らパリパリともちもち両方焼いた方がみんな自分の好きな方食べられるかなーと思って」
「んあ、よく考えりゃそーだね、あはっ」
「まぁ美味けりゃええわ、ほんじゃ一つ」
そう言ってみんなギョーザをぱくぱくと口に運んでいった。
「ん、おいひー」
「やっぱパリパリやな」
「です、もぐもぐ…」

梨華も食べようと箸を伸ばし、ひと口かじったところでヒトミが話し掛けてきた。
「ありがとね、石川さん」
「え?」
「あれ、あたしが散々駄々こねたから焼いてくれたんじゃないの?」
「え、え〜と…」
そういう気持ちもあった。
でも特に意識していた気はそれほどない。
無意識にそうしてしまったような気がした。

「ま、そういう事にしとこうか」
「は?ちょっと、私まだ何も…」
「いーからいーから、石川さんの気持ちは十分に伝わったから、うん」
「だから、何も…!」
梨華が必死に否定しても、ヒトミは「はいはいはい」とただ聞き流すだけで真面目に聞き入
れようとはしないでいた。

162ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 07:57


「そーいや、自己紹介まだやったんやな」
「え?あ、そういえば」
なんやふつーに晩御飯食うとるけど。
一部除外されるが、名も知らぬ人たちが集まって一緒にご飯を食べている。
よく考えれば不思議な事だ。
「えっと石川梨華、こう見えてもりっぱな高3です」
よろしく、と頭を下げる。
「うちの名前は加護亜衣、みんなあいぼんて言うとる」
「じゃあ、私もそう呼ぶね、よろしくあいぼん」
そう言って握手を交わす。

「そんじゃ次あたしねーってもう知ってるか、ごとーですよろしく」
へにゃっと笑う真希。
もう以前の冷たい印象はカケラも残っていなかった。
「ふふっ、よろしく」
「よろしくー、さ、次はのの…って」

「ふぇ?」

希美は未だ頬一杯にご飯を詰め込んでいた。
もうギョーザの入った皿には一個も残っていない。
「ちょっとあんたさっきから食べてんじゃん」
「あー!あたしのもちもちギョーザがない!」
「あっ!うちの皿に置いとったギョーザも無い!ののー!!」
「てへへ」
ポリポリ、と可愛らしく笑うけれど、その右手の箸にはしっかりと最後のギョーザを挟んで
いて、何だか余計に可愛らしく、そして滑稽な感じがした。
「えっと、辻希美です、よろしくおねがいします」
「よろしく、ののちゃんでいいよね?」
「はい」
パクッ、とギョーザを口に放り込んだ。
「あー!最後のギョーザ!!」
「のののアホー!!」
ヒトミと亜衣が二人がかりで、幸せそうにギョーザを頬張る希美に怒鳴る。
真希はやっぱり、いつものこと、とでも言う様にへらへら笑いながら後片付けをする。

こんなに騒がしくて、楽しい夕食はいつ以来だろうか。
普段の梨華では決して味わえなかった暖かい時間。
この時間が梨華にとって、とても心安らげる時間の一つになっていた。

163ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 07:58


「ねぇ」
「んあ?」
カチャカチャと流し台で真希が皿を洗い、梨華はキレイになったそれを受け取り乾いたタオ
ルで丁寧に拭いて食器棚に並べる。
「私のこと、普通に呼んでくれないかな」
「普通に?」
「そう、普通に名前で」
手を動かしたまま、真希は「んー」と天井を仰ぎ

「梨華ちゃん?」
「そう」
「おっけー」
そしてまたふにゃっと笑う。
「あたしはごっちんね」
「うん」
柴田以外の新しい友達ができた。
それは梨華にとって、大きな出来事だった。

「人形あったよね」
「リカちゃん人形?」
「そう、知ってる?名前は「りか」だけど得意科目は国語なんだって」
「ごっちんそれどこで覚えたの?」

くだらない事を言い合ってきゃっきゃと笑い合う。
梨華はまた自分が楽しいと思える物を見つけ、本当に嬉しかった。


「あたしも呼んでもいーよね?」


驚いて持っていた皿を落としそうになる。
しかしそれは地に着く大分前に、いきなり現れたヒトミの手によって事なきを得た。
「あっぶなー」
そう言いつつも、真希はのほほんと皿洗いを続けている。
どうも彼女はよほどの事が無いと心を乱される事が無い人間のようだ。
「ありがと…」
「いいえー、ね、それよりいーよね?」
「え?」
「梨華ちゃん、って」

ぎゅっと心臓が軽く握られるような感覚。
痛くも無いし苦しくも無い。
―――――私、やっぱり…
こくん、と梨華が頷くとヒトミは
「おっしゃ、今日から梨華ちゃんね」
ニヒッ、といたずらっ子のように微笑む。

164ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 07:58

赤くなりかける頬を何とか抑えながら、横で鼻歌なんか歌って食後のお菓子を家捜ししてい
るヒトミを気にとめないよう、作業に没頭した。
その一部始終を横目で密かに窺っていた真希。
―――――ふーん…
「ごとーさん、何にやけてるんですか?」
希美がソファから呼びかけてきた。
「ん?何でもないよ」
「そや、ののアイス食お!」
「食べるです!」
「さっき冷蔵庫に押し込んどいたよ」
その言葉にバタバタと冷蔵庫に駆け寄る二人。
いや三人。
「ちょっと、よっすぃーまで一緒になんないでよ〜」
「あたしもアイス食べたいもん」
「いばるな」
嬉しそうに人数分の皿とスプーン、そして主役のバニラアイスを用意して、いそいそとリビ
ングに集まり屈み込むヒトミと亜衣と希美。
「よっすぃー早く」
「ちゃんと人数分均等に分けるんやで!?」
「あーっうるさいな、分かってるって!」
「ちょっとー誰も片付けないんだからー」

ほんわかとした空間がゆっくりと流れる。

ヒトミたちと出会ったあの日から、梨華は少しづつ、少しづつだけれど、今までの自分とは
違った『石川梨華』にも出会った様な気がした梨華だった。

「アイスうめ〜」
「コーンフレークかけるとおいしいですよ」
「うち持ってくるわ」
「みんな全然聞いてないんだから…もぉ」

165ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 07:59


アイスも食べ終えて一段落ついた頃、亜衣と希美は仲良くお風呂に行ってしまった。
そう言えば今日はここにマジックの練習風景を見に来たのではなかったのか、と梨華はふと
そんな事を思ったが、それにも劣らないくらいの楽しい時間は他にも作られていたのでさほ
ど気にはならない。
ヒトミと真希の関係もハッキリした事だし、なんの気兼ねも無い。
「あはっ、そんでさぁ」
「えーうそ、ホント?」
今じゃ普通にお喋りなんかもできる。
「そういえばヒトミは?」
リビングには自分と真希の二人しか居なかった。
「あ、なんか制服のまんまだったから着替えてくるって」
「そっか」
そう言われて自分も同じ境遇なことに気がつく。
今まで何も違和感は無かったが。
「梨華ちゃんは大丈夫?制服のまんまで辛くない?」
「平気、大丈夫だよ」
「ならいいけど」

「ねぇ梨華ちゃん?」
コップの烏龍茶を一口飲んで真希は言った。
「何?」
梨華が聞き返すと、真希はキョロキョロと周りを見渡し誰も居ない事を確認すると、ちょい
ちょいと手招きをする。
それに梨華は体を引きずって顔を真希に近づかせた。
そしてそっと囁く様にして真希は、


「よっすぃーのコト、好きでしょ?」


「ひゃいっ?!」
梨華は一気に真っ赤になり、慌てて真希から体を遠ざけた。
「わぉ、分っかりやっすーい」
「ななななんれ、そう思うのっ?!」
「えー?なんか最初から」
「さ、最初からっ!?」
梨華は余計に目を丸くした。
「さっきはね、確信があんまなかったから言わなかったんだけどぉ、初めてごとーがよっす
 ぃー迎えに行って梨華ちゃんと会った時、梨華ちゃんすっごい顔してごとーのコト見てた
 でしょ?」
「えっそうだった?」
「それに、車に乗った後もずーっとよっすぃーのコト見てたでしょ?悲しそうな顔して」
梨華の一連の動きは真希に全てばれていたらしかった。
それどころか、隠していたヒトミへの想いも。
「ね?そうなんでしょ?」

「………」

せっかく自分の心の中にだけしまっておいたのに。
自分でも気付いたのがつい最近だというのに、真希は出会って間もない、しかも他人の秘め
た想いを丸裸にさせてしまった。

166ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 07:59

急に梨華に襲い掛かった不安と絶望。
この想いは決して他の誰にも知られてはいけないものだったのに。
本当は暖かい物だと知った自分を見つめる真希の瞳が、今だけは鋭く突き刺さるような気が
した。
「梨華ちゃん本当のコト言ってよ」
「………」

梨華はゆっくりと小さく、一度だけこくっ、と首を縦に振り俯いた。
「やっぱり」
「………」

もうだめだ。
梨華は反射的にそう思った。
せっかくできた友達だったのに、一日で終わってしまった。
梨華は愕然としたまま顔をあげられないでいる。

しかし真希から返ってきたのは予想外の言葉。

「告白しないの?」

「えっ?」
「よっすぃーのコト好きなんでしょ?告白とかしないの?」
真希は笑顔でこっちを見ていた。
その顔は、軽蔑とか異常な物を見るような目ではなく、何かの希望と期待を持って楽しんで
いる表情だ。
「な、なんで…」
「なんで、とは?」
「だって私…女の子なんだよ?」
「知ってるよ」
「ヒトミだって女の子なんだよ?」
「もちろん」
真希は変わらず梨華を見ている。
「女の子が、女の子を好きになっちゃったんだよ?」
「それで?」
「変だと思わないのっ?」

167ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 07:59

「変だと思って欲しいの?」
「え…」
そうして真希は急に真面目な顔つきになった。
「だってごとーもよっすぃーのコト好きだもん」
「え!?」
完全になくなったと思った不安がまたぶり返してきたのかと思うと、真希は笑って
「梨華ちゃんもあいぼんもののも、みんな好きだよ」
「あ…でも、それは…」
「分かってる、梨華ちゃんがよっすぃーに対する“好き”とは違う」
「…うん」
「でもねごとー思うんだよ、梨華ちゃんがよっすぃーのことを“好き”っていう感情はさ、
 ごとーが思ってるような気持ちがただ強くなっちゃっただけなんだよ、友達としての“好
 き”っていう気持ちが何かのきっかけでそれ以上の気持ちになっちゃったんだって、だか
 ら別に普通のことだと思うな、ごとーは」
「ごっちん…」
「でもさ、不安だったよね?それって」

あゆみも矢口も言ってはいなかった、自分が言って欲しかった事。
誰かが言ってくれるのをずっと待っていただけだ。
そんな考えの自分は甘いのかもしれない。
真希の言葉の一つ一つが、不思議と心にじんわり染み入っていく。
今まで溜め込んでいた想いが一気に開け放たれた。
真希の言っている事は、傍から見ればキレイ事かもしれない。
単なる正当化させただけの理由なのかもしれない。
それでもよかった。


「ありがとう…ごっちん」
「あはっ、どういたしましてぇ〜」
「私、頑張ってみるね」

168ななしのどくしゃ:2003/02/01(土) 08:00
遅れましたぁ〜ただ今戻ってまいりやした。
送れた割には更新料少ないですが…。

>管理人さま
おぉう!遅くなってしまいましたがお体の方は大丈夫なのですか!?
おそらくもう治っている事と思いますが。。。
印刷までなさってくれたのですか!?あはっ、嬉しいです。
これからも、よろしくお願いします&頑張ります!

>名無し誕生日さま
( ゜皿゜)<ヨシ、イッタワネ?セキニンハトラナイワ!
( ‘д‘)<契約したで。
川o・-・)<もう後戻りはできません…
書かなかったけど(^▽^)オメデトウですね、18歳。(遅
話の中にも入れなくちゃいけませんね。

<YUNAさま
ありがとうございます!
やっと2月なんでかき上げました。
なんとかできる限りの更新はしていきたいと思います。
今回の更新、楽しんでいただけましたか?

<名無しジェンヌさま
はい、っちゅーことでやっと続きを書く事ができました。
我慢までなさってくれてほんにありがたいです。(w
これからもよろしくお願いします!

169名無しジェンヌ:2003/02/01(土) 13:13
首を長くしてお待ちしておりましたよー。
やっぱ面白いっす。
梨華ちゃんこのまま告ってまえ!!

170名無しひょうたん島:2003/02/01(土) 15:43
( ゜皿 ゜)<ソノケイヤクハ、クーリングオフハキクノカシラ?
( ´酈`)<れも、解約する気はないのれすね?
( ゜皿 ゜)<アルワケナイジャナイノ!!
川o・−・)<完璧です!
( ゜皿 ゜)<セキニンハシッカリトッテモラウワヨ!!

171YUNA:2003/02/01(土) 16:13
更新お疲れ様でした!!!
いんやぁ〜、切なぁっ...
かんなり、楽しませていただきました!!!
続き、楽しみにしています♪♪♪

172ななしのどくしゃ:2003/02/02(日) 22:46



「何を頑張ってみるってぇ〜?」


「ひゃいっ?!」
間延びした声に振り向くと、そこにはTシャツ・短パンになった話の中心人物が。
「梨華ちゃんて驚くと変な声出すんだねぇ」
真希は真希で変わらずのほほんとしたままだった。
その姿が何故か少しだけ憎らしく、そしてその冷静さ(?)が羨ましいと思った。
明らかに動揺している梨華と、それとは全く対照的な真希を交互に見比べてヒトミは首をか
しげながら、持っている白い小さなボールを手の中で転がしていた。
「ねぇ何を頑張るの?」
ヒトミの態度からして大事な部分の会話は聞かれてはいないようで、ひとまず梨華はホッと
胸を撫で下ろそうとするが、その返答に困ってしまう。
「ねぇ何を?」
「え…っと」
探究心旺盛なヒトミはますます首をかしげる。
困り果てた梨華を見かねて、真希が助け舟を出した。
「テストの話だよ〜」
ヒトミはそれを聞いて一気に興味が失せたのか「な〜んだ」と言いながら、向かい側のソフ
ァにどすっ、と音を立てて腰を下ろした。

(ありがと、ごっちん)
小声で礼を言うと、真希は小さくウィンクを返した。
さすがに想い人の家で自分の想いをつれづれと語ってしまうのは危なかった。

「ね、ねぇマジックは、見せてくれるんじゃないの?」
なんとか話題を切り替えようと、梨華は当初の目的を口にした。
それにヒトミと、オマケに真希までもがぽかんとした表情をみせる。
「…忘れてた」
「そんな約束してたんだぁ」
「え?」
あっけらかんとした二人に梨華は開けた口を閉じずにはいられない。
最初ここにやってきた時も、あまりの展開の早さに『マジックの練習の見学』なんて事はほ
とんど忘れていたし、ヒトミたちもそれなりの話をしていたものの練習を始めようとする素
振りを見せなかったので頭の片隅の方に引っ込んでいた。
「そんな大して重要な事じゃないからね〜」
一応ビジネスである筈なのに、真希の中では重要ではないのだろうか。
「大体はよっすぃーがネタを考えてその手伝いをごとーはするだけだから」
「でもその打ち合わせとかはしないの?」
「あんまりないなぁ」

173ななしのどくしゃ:2003/02/02(日) 22:46

あはっ、と笑いながらポリポリと頭を掻く真希。
視線をはずしそれをヒトミに向けるとヒトミもニコッと笑い、手に持っていたボールを増や
したり減らしたりして遊んでいる。
「ステージの上じゃあたしが指示を出すからね、ごっちんもあいぼんもののもそれに従って
 動いてるだけだから結構簡単なんだ」
「簡単って失礼だなぁ、ごとーはこれでも大変なんだから」
「そーかぁ?」
「そーだよ」
真希はヒトミをキッと睨みつけ反撃に踊り出た。

「聞いてよ梨華ちゃん、初めてごとーが練習に参加した時さぁ、マジックに使う動物がいな
 くなっちゃった時があったんだよ」
それを聞いてヒトミの顔が一瞬引きつった。
真希はニヤニヤしながら話を続ける。
「そんでその居なくなった動物の代わりに動物の人形を持ってきたんだけど、よっすぃーっ
 たらそれでかなりビビッちゃってさぁ、全然練習にならなかったんだよ」
「ごっちん!」
顔を真っ赤にしながら制するヒトミだが簡単に真希にあしらわれた。
「もーあん時のよっすぃーはかなり情けなかったね、半ベだったし」
「プッ…」
半べそのヒトミを思い浮かべて思わず梨華は吹き出した。
あれだけ人をからかっていたヒトミが。
あれだけ人を散々ののしったヒトミが半べそ。
しかも人形で。
「腰抜かしちゃってさぁ、「助けてごっちーん」とか言いながら」
「や、止めてよごっちんってば!」
「ククッ…その動物なんだったの?」
「ヘビ」
まぁヘビを嫌がる人は普通だろうが、さすがの梨華も人形で腰を抜かしたりはしない。
「もーホントおもしろいくらい怖がるからね」
「へー」
「だから梨華ちゃん、よっすぃーに苛められたらヘビのおもちゃ持ってきなよ」
「うん分かった、ありがとうごっちん」
「り、梨華ちゃんお礼言うところが違うよ…」
すっかり怖気づいてしまったヒトミは、おそるおそる言う。
なんだか気分がいい。
今じゃすっかり立場が逆転していた。
「それじゃ今度からポケットにヘビのおもちゃいれとこーっと」
「げっ…それはマジかんべん」
「あはっ」

すると廊下からペタペタという足音が二つ。
亜衣と希美の二人が顔を上気させながらタオルを首に巻いてやってきた。
「えぇ風呂やったぁ」
「喉乾いたのです、アイス食べよう」
「こぉら食いすぎだよお前ら」
「ごとーもお風呂入ってこようかな」

174ななしのどくしゃ:2003/02/02(日) 22:46


この家にいると飽きない。
兄弟・姉妹のいない梨華はこんな風に楽しく家で会話する事なんてほとんどなかった。
時々家にやって来るあゆみや家庭教師の矢口との会話が何よりの楽しみでもあったし、年の
近い家政婦たちとの話も楽しかった。
でもそれ以上に、この家に居ることで今まで感じた事の無い何かを梨華は感じた。
できればずっとずっとこの家にとどまっていたかった。
けれどそうもいかなかった。

時計を見るともう9時を回っている。
そろそろ家に帰らなければならない。
「私、もうそろそろ帰るね」
「え?もう?」
一回頷き、梨華は鞄から携帯を取り出してかける。
すぐに向こうには繋がった。
『もしもし』
「私です、そろそろ帰るから車を出してちょうだい」
『かしこまりました、10分ほどでそちらに到着いたします』
「ええお願いね」
そして電話を切って鞄に戻し入れた。
「ちぇー、もう帰っちゃうんだぁ」
真希は不満そうにそう呟いた。
「ごめんね」
本当は自分だって帰りたくない。
「お嬢様は大変やな」
「まだお喋りしたいのです」
「また来てね、ごとーたちほぼ毎日ここに来てるから」
「うん、ありがと」
帰り支度をはじめ、そしてまたここに来る約束を交わした。
少しだけ寂しい思いを残しながら、
けれどまたここに来れる事が出来る喜びを深く噛み締めた。

175ななしのどくしゃ:2003/02/02(日) 22:47

「そうだ、ねぇよっすぃー、あれ」
突然何かを思いついた様に真希はヒトミに耳打ちをする。
「…ね?だから」
「あ、そっか!ねぇ梨華ちゃん、今度の金曜日あたしたち近くのホテルでナイトショーやる
 んだ、よかったら見に来てよ」
―――――金曜日…
その日は確か、彼との約束がある日だ。
「無理じゃなかったら来てよ、ごとーたちも嬉しいしさ」
「またピンクまみれでな」
「イッパツで梨華ちゃんだって分かるのです」
「ど?梨華ちゃん」
あの優しい瞳。
そんな瞳で見つめられたら―――。

「…うん、都合つけてみるね」
自分にできるだけの笑顔を見せた。
「ありがと!鳥は出さないようにするから」
「あはっ梨華ちゃんって鳥嫌いなんだぁ」
「そんなんやったら上にいっぱいおるで」
「あいぼん嫌いな物を教えてどうするんですか」

そうこうしている内に、外には聞きなれた車のエンジン音。
「来たみたい」
梨華が移動すると、皆ぞろぞろと玄関に移動する。
それがなんだか少しだけおかしかった。
ローファーを履いてドアを開けると、そこには案の定家の車が止まっていた。
「ほななー」
「ばいばーい」
「またねー」
皆の声を受けながら梨華は車に乗り込んだ。
窓から見ると、まだこっちに手を振っていた。
それを返して程なくしてから車は家に向かって走り出していった。


「そんなに楽しかったのですか?」
「え?」
話し掛けられた事はめずらしかった。
「とても笑ってらっしゃる」
鏡越しに見た運転手の顔はどことなく優しげだった。
今までこの人にに良い印象を受けていなかった梨華。
気付かなかった。
何年も付き添っていた運転手の本当の瞳を、この時初めて見たような気がする。
「ええ、とても」
それに梨華も笑い返すと、彼もまたニッコリと笑った。

金曜日、彼との約束はまた次回。
いや正直に言わなければならない。
あなたとはもう付き合えない、私にはもう想う人がいるということを。
それが女の子でヒトミである、とは言えそうにはないけれど自分の気持ちが彼にはないこと
をハッキリさせておこうという梨華なりの考えだった。

176ななしのどくしゃ:2003/02/02(日) 22:47



家に帰るなり梨華は父の部屋へと向かう。
2階の一番奥にある少しだけ古いドア。
微々たる緊張感を胸に秘めて、その重苦しいドアをノックする。
「お父様、梨華です」
「入りなさい」
ドアの向こうから聞こえるくぐもった声を確認して、その重苦しいドアを開けた。
入ると父はまだ着替える前だったらしく、スーツ姿のまま。
「どうした?」
父はまだ“石川グループの会長”としての威厳を保ったままだった。
しかしそれにももう慣れたもので、梨華は気にする事無く口を開く。
「あの…金曜日の事なんだけど」
「あぁ彼との約束か?どうした?」
「その…」
一旦口を閉じて押し黙るが、梨華は腹を据えて顔を上げ
「…キャンセルしてほしいの」
思ったよりも難なく口から滑り出たその言葉に自分で驚いて、けれど同時に安堵感も押し寄
せてきて、少し強くなった自分を再確認した。

しかしもう一つ、問題はこの後にある。
父はただじっと梨華を見つめていた。
「あの…それでお父様にお願いがあるんだけど…」
梨華には課題が二つあった。
一つはもう既にクリアした、彼との約束を取り消す事。
そしてもう一つは、ショーに行くことを許してもらう事。
「その金曜日にあの…行きたい所があるの」
父はまだ何も言わない。
「実は…先週見たあのヒトミ・ヨシザワのショーがまた近くで行われるらしいんだけど…
 もう一度あのショーが見たいの」
梨華は体をやや倒して頭を下げた。
「お願い、お父様」

すると少し上方から一つ、小さなため息が聞こえ
「何時だ?」
「え?」
梨華は顔を上げる。
「何時に始まるんだ?そのショーは」
「えっと…まだ聞…調べてないから分からないけど…」
ヒトミと顔見知りだと言う事は敢えて伏せておいた。
なんとなくそうした方がいいと思ったからだ。

「ショーが終わったらすぐに帰って来るんだぞ」
父は笑った。
「お父様…!ありがとう」
梨華も喜びを隠せずにいられない。
「ただし、彼には一応伝えてはおくが、理由はキチンとお前が言いなさい、彼も納得しない
 だろうからな」
「ええ、もちろん」
初めてのお許しをもらえた梨華は、はしたなくもその場でスキップなんかしたくなる。
けれど父の居る手前そんな事はできる訳もなく、いつもと変わらない態度を示そうとそのま
まペコリと礼をして去ろうとした。
「お前が私に物を頼むのなんて、久しぶりだな」
その言葉を背に受けて梨華は振り返るが、父は背を向けてスーツの上着を脱ぐ所だった。
梨華は慌てて部屋から出て、今度は自分の部屋へと戻る。
さっき父が残した一言。
背を向けていて顔が見えなかったからもしかしたら気のせいかもしれないけど、
父は何だか嬉しそうだった様に思えた。

177ななしのどくしゃ:2003/02/02(日) 22:47


「よし!」
部屋に戻って梨華は制服のままボフッ、とベッドに飛び込んだ。
―――――金曜日…楽しみ!
どちらかと言えば鬱だった金曜日が、今では非常に心待ちにしている。
彼には明日、電話でもしてキャンセルを伝えよう。
そして、もう会う事も止めようと。

よくクラスメートがお喋りしている恋の話。
『恋』なんて単語が無縁だった梨華は、そんな話に耳を傾けながらも理解なんてできない。
恋する心なんて持った事は無かった。
それが今ではどうだろう。
顔を上気させながら、胸を覆う幸福感と期待と不安。
人を想う事がこんなにも気分がいいものだとは知らなかった。
そして気付いた。
これが自分にとっての『初恋』なのだと。

ちゃんと彼には謝ろう。
罪悪感を感じっぱなしの彼に、もうそれを思うことも無くなる。

恋を知った少女は、ただひたすら走り出す。

178ななしのどくしゃ:2003/02/02(日) 22:48
更新、たくさんしたいなぁ…。
彼も登場させます。。。

>名無しジェンヌさま
(;^▽^)<そ、そんな簡単に言えないよぅ…。
( ´ Д`)<勢いが足りないね〜。
もうそろそろ言ってもいい時期ですね。(笑

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<シャカイノジュギョウデナラッタワ!カイヤクデキルノハ8カイナイヨ!
川o・-・)<テストは完璧!…と言えるほどではありませんでしたが…。
(;´酈`)<せきにんじゅうだいなのれす…。

>YUNAさま
ありがとうございます!その期待を裏切らない様、精進します!
そんな訳でそろそろ一大事起こそうかと目論んでいる今日この頃な訳で…。(笑
(0^〜^)<まどろっこしいなぁ。

179名無しひょうたん島:2003/02/02(日) 22:58
( ゜皿 ゜)<カイヤクナンカスルキナイワ、ザンネンネ。
( ´酈`) <これは、いつまでつづくんれすか?
( `.∀´)<完結するまでよ!!

さくしゃさま。非常に楽しみにしております。
がんばってください。

( ^▽^)<リアルタイムだったしね。ウフッ

180YUNA:2003/02/03(月) 16:14
梨華ちゃん、可愛い♪♪
このままウマく...
いきそうもなさそうですね...(笑)
一大事とは...!?
気になるぅ〜〜〜〜!!!!

181ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:35




『副院長は学会の為、ただ今ご不在です』
「そうですか…分かりました、ありがとうございます」
向こうが受話器を置いたのを確認して、携帯を切った。
今電話していたのは彼の勤めている病院先。
金曜日の事を伝えようとして携帯に連絡したのだが繋がらず、仕方なしにそこにかけたのだ
けれど彼はそこにはいなかった。
どんなに梨華の前では頼りない彼であっても、病院では大切な存在なのだ。
おまけに医者なのだから忙しいのは当然の事である。
―――――忙しい中、私に会いに来てくれてるのね…
もう感じる事もないと思ったはずの罪悪感がまた再び顔を出した。
ディスプレイに表示された彼の病院の電話番号をじっと見つめながら、ゆるやかな風に流さ
れ張り付いた髪の毛を鬱陶しそうにかき上げる。
また後で言おうかな…、と携帯をポケットにしまいかけたその時、背後で入り口のドアが開
く音を聞き梨華は振り向いた。

「やっほ」
その手を振る様は昨日の夜と同じだった。

「ヒトミ遅い」
「梨華ちゃんが早いんだよぉ」
へらへらと笑いながら梨華に向かってゆっくりと近づいてきた。
10分も遅刻した事はもはや気にしてもいない様だ。
「私お昼ご飯早めに片付けてきたのに」
「だってぇ」
フェンスに寄りかかると、ヒトミはそのままスカートを抑えて腰を下ろした。
「ここの学食おいすぃーんだもん、全部食べたいじゃん」
先ほどの昼食の名残を示すかのように、ヒトミはぺろっと舌で唇を舐めた。
もう何を言っても無駄、と諦め梨華もヒトミの横に並んでフェンスにもたれた。
「座れば?」
ヒトミは自分の横をちょいちょい、と指差すが梨華はふるふると首を横に振った。
「…制服汚れちゃうもの」
「そっか」
それを聞いてヒトミは納得するものの、自分の制服はどうなっても構わないのか腰を下ろし
たままでいた。

182ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:35

梨華はヒトミよりも高い位置からその横顔を眺めた。
確かに「制服が汚れる」のも地べたに座らない立派な理由だが、その他にも理由はあった。
―――――照れちゃうよね…
ヒトミの横にいても今は自分が立っている状態なのでなんとか精神を保つ事は出来ているが
これがもしその場に座っているとしたら、おそらく自分はまともに話すことも出来ないので
はないか、と梨華は推測する。
隣に並んでいるというだけで心臓は破裂しそうなのに。
「あ、そうだ」
ヒトミはその大きな瞳で梨華をとらえた。
「な、何?」
「あのさ」
ヒトミはポケットから携帯を取り出して見せる。
「携帯の番号とメルアド教えてよ」
昨日聞こうと思ってたんだけど忘れちゃっててさ、と照れ臭そうに付け足して、ヒトミはい
そいそと携帯を開いてピッピッといじり始める。
それに連なって梨華も一度しまいかけた携帯をもう一度出した。
「はい」
ヒトミはにっこり笑うと自分の携帯を差し出す。
「え?」
「梨華ちゃんが入れて、あたし梨華ちゃんの方に入れるから」
そういう事か、と梨華は言われた通り携帯を交換する。
その時ほんの一瞬だけ、ヒトミと手が触れ合った。
それだけでもう一気に心臓は踊りだす。

「ごっちんたちにも教えていい?」
「え…あ、うん、もちろん」
「はは、気を付けてね」
「何を?」
「あいぼんとかののとか、悪戯メール送ってくるから」
困ってんだよー、と言いながらもヒトミは嬉しそうに笑った。
その笑顔で胸の高鳴りは最高潮に達する。
痛いくらいに強く締め付ける。
―――――…やっぱり私、どうしようもない…

183ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:36

「あ、ねぇ金曜日どうだった?」
お互いの電話番号もアドレスも打ち終わった頃、ヒトミは言った。
梨華は何とか意識を保ちながら答える。
「大丈夫だったよ」
「そっかぁ、良かったみんなも喜ぶよ」

ヒトミの横顔を見ながら、梨華は楽になりたいと願った。

その為の選択肢は、『告白』すること―――。

今まで誰かに想いを告げられたことはあってもその逆は無い、つまりは告白というものを自
分が行なったことは無いのだ。
だからと言うわけではないが、梨華は今までに出会ったどんな場面よりも今が一番比べ物に
ならないくらいの緊張を胸にどうしようかと頭を悩ませていた。
経験の無い梨華、いつ、どこで、どんなタイミングで『告白』をすればいいのか。
まったくと言っていいほど分からない。

―――――うぅー…どうすればいいんだろう…
今ここで言ってしまうのも手だが、もしそれがいい結果をもたらすのだったら良し、しかし
もし反対に悪い方へと進んでいってしまった時の事を考えるとどうにも強気にはなれない。
『恋』をすると人間とはここまで弱い生き物に変化してしまうのか。
相手を射止めようとする強気な態度は、そこら中に生きている小さな虫やら動物やらの方が
何倍も積極的だ、と梨華は思った。

誰かに相談でもすればいいのだが、自分がヒトミを好きになってしまった事を自然に(?)
ばれてしまった真希にならまだしも、あれだけ自分がヒトミを批判し陰口を聞いてもらって
いたあゆみや真里には今さら言えない、という気持ちは多々あった。
いずれは二人にも話すつもりだが、今のところの予定には入っていない。
それになんだか恥ずかしいという事もある。
―――――ま、まだあせらなくったっていいよね…

とそこで終りを告げる始業のベルの音が鳴った。
ヒトミはすっくと立ち上がり
「昼休み終りー」
と言いながらぐーっ、と大きく伸びをした。
「梨華ちゃん今日も家来る?」
「…い、行ってもいいの?」
「だからいいって」
ヒトミは苦笑いしながら言う。
「じゃあ…お邪魔するね」
梨華はある決意を胸に放課後を待った。

184ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:36




再び学校帰りに寄ったヒトミの家。
今日は先に亜衣と希美が来ていて、真希は一番最後にやって来た。
待ちわびて待ちわびて我慢しきれなくなっていた梨華は、玄関から「ただいまぁ〜」という
あの間延びした声が聞こえると同時に、その目標人物目掛けてすっ飛んでいった。
そのあまりの速さにヒトミ・亜衣・希美は目を点にして、ツッコミはもちろん、かける言葉
すら見つける事はできなかった。

「ごっちん!」
一度家には帰ったのか、私服姿の真希がブーツを脱ごうとしているところだった。
「あ、梨華ちゃん」
へらっ、と真希は笑った。
しかし梨華はそんな笑顔に返す言葉も表情も出さないまま、真希の腕をぐわっ、と鷲掴みに
して引っ張りあげる。
「んぁ?ちょっ…何いきなり」
「あのね、あのね…」
「ちょっ、ちょっと待って、せめて靴脱がして」
「そんなのいいから!」
「い、いやよくないよくない」
首を振る真希に、もどかしくなった梨華は彼女以外に聞こえないようにそっと耳打ちする。

「…『告白』って、どうすればいいの?」

真希はその言葉に大きく目を見開いた。

185ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:36

「どうしたの?急に」
真希は俯いた梨華の顔を覗き込みながら尋ねた。
昨日ためしに言ってみた「告白しないの?」という、促す事を言ったのは紛れも無い真希自
身だったけれど、しかし昨日の今日でもはや「『告白』ってどうすればいいの?」と聞かれ
たら、どう答えればいいものかと悩んでしまう。
梨華はポツポツと話し始めた。
「別に…どうかしたって訳じゃないんだけど、今日もね、お昼休み一緒にいたんだけど…で
 もなんかそれだけで…なんていうか、あんな気持ちのままでこのままいったら、なんか…
 もうどうにかなっちゃいそうで…」
自分で言いながら顔を真っ赤にする梨華を、真希は嬉しそうに見た。
―――――ふーん、よっすぃーも罪作りだねぇ
「好きで好きで苦しいと?」
梨華は小さく頷く。
「告白しちゃったらそれも解消されるかもしれないと?」
梨華はまた頷く。
「でもどうすりゃいいのか分かんないのね」
梨華は深く、大きく頷いた。
真希が梨華の肩に手を置くと、梨華は下げていた頭をゆっくり上げた。

「梨華ちゃん、あのね」
一つ一つを言い聞かせるように、真希は梨華の目を見つめながら言った。

「梨華ちゃんの好きな様にすればいいと思う、ってゆーかそんな事までごとーが決めらんな
 いよ」
梨華は眉を八の字に変化させる。
真希はその梨華の表情を見て慌てて取り繕うように付け加えた。
「あの、キツク言ってるわけじゃないよ?ただよっすぃーを好きなのは梨華ちゃんであって
 ごとーじゃないんだから、梨華ちゃんは梨華ちゃんなりのやり方で告ればいいと思う」
それでも梨華はまだ、なんとなく不満そうだ。
そうだなぁ、と真希は顎に手を当てて考え込む。
「まぁシチュエーションくらいはアドバイスできるよ」
「ホント?」
「うーん、いい具合だと思うのはねぇ…金曜日梨華ちゃん来れるの?」
梨華は頷いた。
それに真希も嬉しそうに笑い返すと
「じゃ、その金曜日とか」
仕事帰りとか少し暇できるから、と真希は言った。
「その時に言ったら?」
「…うん、ありがとうごっちん…」
「いえいえ、それよりちゃんと心の準備しときなよ?」
梨華はこくりと頷いた。

186ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:37




そうして一日、また一日と時は経っていき、そして木曜日。

ついにショーの前日となった。

―――――とうとう明日かぁ…
梨華は今日はヒトミの家には寄らずにすぐ家に帰ってきた。
明日着ていく服を選ぶ為である。
大きいクローゼットの中にびっしりと吊るされている豪華なドレスの数々。
どれもこれも梨華の為だけに作られた特注品だ。
「何着て行こうかなぁ…」
と、次々手にとっては体に当てて鏡に向かう梨華だが、やはりその多くはピンクのドレス。
他の色がない訳ではないが、やはり好みという物がある。
ピンク色のドレスを着ていったなら、亜衣や希美にまたなにかからかわれたりするかも、と
梨華が色々と楽しく悩んでいる時に携帯の着信音が鳴った。
鞄の中から急いで取り出すと、着信したのは亜衣からのメールだった。

【to//梨華ちゃん
 from//亜衣
 件名//明日やで!

 ぅおーい、いよいよ明日やでー?
 またピンクの服着てくるんかぁ?
 別にどうでもええけど、早めに場
 所とっとかんと立ち見になってま
 うで!よっすぃー人気あるんやか
 らな!            】

自分の思考やら行動やらが見抜かれていたのかと思うと少し苦笑する思いだ。
そのメールを読み終わった時、また携帯が鳴り始めた。
今度は希美からのメールだった。

【to//りかちゃん
 from//のの
 件名//楽しみです☆

 りかちゃん、今回のショーはのの
 はかなり自身があります!あいぼ
 んもごとーさんもよっすぃーもみ
 んな張り切ってるのです!   】

希美は何をしていたのか焦って字が間違って変換されている。
クスクスと笑いながら、梨華はそのディプレイを嬉しそうに眺めた。

187ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:37

そしてそのすぐ後、またしても携帯の着信音。
次は真希からだった。

【to//梨華ちゃん
 from//ごとー
 件名//頑張れ!

 やっほーついに明日だねぇ。緊張
 してる?仕事の後は特に何も予定
 はないからすぐによっすぃー連れ
 ていけそうだよ、頑張ってね。そ
 んじゃまた明日会おうね。   】

その文面を見ながら梨華は携帯を握る手に、ぎゅっと力を込めた。
とうとう明日だ。
今日はわざわざその為にヒトミの家にも寄らなかったし、家に帰ってきてからもずっと部屋
に閉じこもりっきりで明日に相応しいドレスを選んでいる。
心の準備もまだ足りない。
「絶対なんとかなる!…よね」
周りの女の子達が抱える様な不安とはまた違った不安を抱えている。

ヒトミが同性の自分を受け入れてくれるかどうかは定かではない。

しかし、ありのままの自分を出せばきっとヒトミも分かってくれるだろうと信じていた。
全ては明日にかかっているのだ。

188ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:37

「よし決めた!明日はこれにしよう」
と、お気に入りのドレスに手を伸ばしかけた。

そこでまた、携帯が鳴った。

亜衣・希美・真希、とくれば次に思い浮かぶのは一人だけ。
ちょっとの期待を胸に携帯を手に取る。
しかしメールに設定していたものとは違う着信メロディ。
そしてディスプレイにも、期待していた人とは違う名前が記されていた。

―――ピッ

「…もしもし」
『あ、梨華さん僕です、なんか今日こっちに電話をくれたみたいですね』
心なしかその声は何か嬉しそうだった。
『ようやく帰って来れたんですよ、で、どうかしたんですか?』
喉に力が入って言葉にならない。
前々から決めていたことだ、決心は決めた筈なのに今さら何故。
梨華は腹に力を入れて、喉から声を絞り出す様に言った。
「あ、あの…実は、明日行けなくなっちゃって…」
『えっ?ど、どうしてですか!?』
罪の意識もこれで終わる、と梨華は心で賢明に唱えながら、最後の言葉を吐いた。

「明日…どうしてもあのヒトミのショーを見たくて…ほらこの間のパーティの時に見た…、
 だから…本当にごめんなさい…」



『なぁ〜んだ』

「え?」
急に明るさを取り戻した彼の声に、梨華は思わず聞き返した。

『本当は明日まで隠してようと思ってたんだけど』
でもやっぱり言っちゃいますね、と彼は意気込んで説明した。
『梨華さんがヒトミのショーをすっごい喜んでたって石川会長から聞いて、それで来週の金
 曜日に、また近くでヒトミがショーをやるって聞いたから誘ったんですよ』
梨華は力が抜けそうになるのを必死でこらえた。
「うそ…」
『ビックリした、それならキャンセルは無しですよね、それじゃ明日迎えに行きますから』
「あ、ちょっと待っ…!」
電話は梨華の言葉を聞くこともなしにすぐに切れてしまう。
梨華は呆然と立ち尽くしたまま、動く事もできなかった。

189ななしのどくしゃ:2003/02/05(水) 16:49
今回はちょっと急いで書いたので雑になってしまいますた。。。
次はちゃんと綺麗に…。

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<カンケツスルマデ?ソレナラトコトンツキアウワ!
(〜^◇^)<キャハッ!いつ終わるんだかね!
(0^〜^)<長くなるぞ〜。

>YUNAさま
はい、このまま終わらせる訳がありません、このワタクシが!(笑
せめて二人を波乱の渦に巻き込まねば!
Σ(;0^〜^)<マジで!?
まぁ波乱とまではいかないかもですが…できればそうしたいですね。(微笑

190YUNA:2003/02/05(水) 17:33
更新、お疲れさまですっっ!!!
まぁ〜った、いいトコロで...
波乱...ヤな響きだなぁ...(苦笑)
っつぅ〜かあの男、なんかムカツクっす...(ボソっ)

19150:2003/02/06(木) 00:39
更新、お疲れ様です。
うわぁ〜、ついに出て来てしまった、例の彼がこんなところでっ!
イイところで登場ですねぇ・・
お願いだから下手ハケして欲しいですw
金曜日はアブナイ恋のトライアングルが動き出すのですね・・
次回更新も期待しております。

192ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:04




「それじゃ行きましょうか」
「そうね…」
ピシッとスーツを着込んだ彼。
ドアを開かれて促されるままに梨華は助手席に腰を下ろす。
「いってらっしゃいませ」
家政婦たちに見送られながら、その車はエンジンを吹かして暗い道を走り出した。

「梨華さん、今日は何だか違いますね」
彼の言葉に顔を向ける事もなく
「そう?」
「えぇ、雰囲気がいつもと…」
それもそうだろう。
今日はあのピンクのドレスは着てこなかった。
黒のキャミソールドレスにシースルーの上着と、髪はストレートに下ろしてシルバーのシン
プルなネックレスとピアスで飾っただけだ。
この前のショーの時と比べると、大人っぽさがいくつか強調されている。

わざわざ黒のドレスを着てきたのには訳があった。
彼を連れたまま告白するまでヒトミに会いたくはない。
ピンクではない他の色を着てくれば、少しはそれが望めるかと思ったのだ。
それはささやかな梨華の抵抗でもあった。

梨華は歯痒い思いをしながらただそのホテルに着くのをじっと待った。

193ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:05


そしてそれから数十分後。
ほとんど会話も交わす事無く、車はいつしかその目的地に着く。
二十階はあるだろうか、夜の街にたたずむその大きなホテルから覗いた夜景は愛し合う恋人
たちにはもってこいの場所になるだろう。
車を降りて涼しげな風に吹かれて、梨華はぼんやりとそんな事を思う。
「ここの20階で行われるらしいです」
それを聞いて頷くと、梨華は「行きましょう」とだけ残してさっさと先に、ホテルの自動ド
アを潜りエレベーターへと向かった。
彼はそれに慌てて付いて行く。

客は他にも大勢来ていた。
それがヒトミのショーを目当てにやって来たものかは分からないけれど。
そう言えば自分は何の為にここに来たのか、と梨華は今さらながら思い返した。

―――――ヒトミに…自分の思いを伝える為に…

なら何故、あんなにも高鳴らせていた鼓動が、今は何故こんなにも落ち着いているのか?
ヒトミと見詰め合った時、それを自分の中で空想させるだけで、本人がすぐ傍にいる訳でも
ないのにあれだけ熱い熱を持った体が今はこんなにも冷め切っている。
緊張も不安も動揺も何もない。
まるで、自分が自分ではない様な別の感覚。
感情がない、ただの人形。
いつの時か思った事。

そうこうして、エレベーターは20の数字を指して扉を開けた。

目の前に広がったのは綺麗に整備されたロビー。
自分たちと同じ様に美しく着飾った男女がちらほら見える。
その奥には大掛かりな扉が見える。
どうやらヒトミがショーをするのはここのレストランのようだ。
「あそこみたいね」
「先に行って席をとりましょう」
二人は並んでその扉をくぐっていった。

ウェイターが丁寧にお辞儀する。
「何名様ですか?」
「二人」
「ご案内いたします、こちらへどうぞ」
案内されるがまま、そのウェイターの背中についていった。

その時に梨華は一番奥に設置されたステージに目がいく。
あそこがおそらく今回のヒトミのステージ。
初めて会った時のステージよりはやはり幾分か小さいけれど、その分近い所からステージの
上は見渡せるのでさほど気にはならない。
座って食事をしながら、というコンセプトも多少の売りにはなっているだろう。

早く会いたい。
でも、今は会いたくない。
複雑な気持ちが交差する中、梨華は案内された窓際の席に静かに座った。
白いクロスのかけられた丸テーブルの上には火の灯されていないロウソクのキャンドル。
「ご注文が決まりましたら、お呼び下さい」
そう言ってまた丁寧にウェイターは礼をすると、厨房の方へと消えていった。

194ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:05

「何にしましょうか?」
メニューを眺めながら彼は聞いてきた。
「何でもいいわ、特にお腹はすいてないから」
「それじゃ軽いフレンチにしましょう、あとワインも」
あ、梨華さんはダメですか?という答えに、梨華は首を横に振った。
それを見て彼は近くにいたウェイトレスに今言った通りの注文を言いつけた。

梨華はそんな事はどうでもいいといった風に、ぼうっと窓から下の夜景を見つめた。
青や赤や黄、何ともつかない様な色になってしまった不思議な配色。
まるで今の自分に重なっているかの様で、梨華はそれがおかしくて苦笑した。
自分はどうしてここに来てしまったんだろう、と心の中で悔やんでも悔やみきれずに何度も
何度も反芻しては自分を責め立てる。

―――――どうして一人で来なかったんだろう…

ヒトミに告白する筈だったのに、まさか彼と一緒にここへやって来る羽目になるとは。
どこで歯車が狂ってしまったんだろう。
「そういえば今日は…」
彼が何か言ってるらしいが、耳には入らなかった。
ただ曖昧に音の区切りに合わせて首を縦に動かすだけ。
繋がれた言葉の意味なんて理解なんてできやしない。

料理はすぐに運ばれてきた。
それでも梨華の興味がそちらに移る事はない。
綺麗に磨かれたグラスに、とくとくと静かに注がれる赤いワイン。
普段ならこんなロマンティックな演出はうっとりときそうなものだけど、今回ばかりは素直
に喜べるような状況ではなかった。

195ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:05

そして何分か経った頃、予想していた通りレストランの明かりが全て消えた。
あらゆる所からザワザワというひしめき合う声が聞こえる。

『ワン!』

暗闇の中から聞こえる、あの低い声。

『トゥー!』

はっ、とステージのあった方向に顔を向けた。


『スリー!』


その掛け声と共に、レストラン中の明かりは一斉に灯された。
あのショーの時と同じ様に。

『みなさんこんばんわ!』
『本日はご来店誠に感謝やで!』
ステージの上にはピエロに扮した、ちょっと生意気な少女と食いしん坊な少女。
その横には前回と同じ白のワンピースに身を包んだ少女。
そして、
「ヒトミ…」
梨華はようやく口を動かした。

ヒトミはまた例の如く顔の上半分だけを隠す仮面を被り、真希たちを引き連れステージ上で
ぺこっ、と揃えて礼をする。
もう梨華はステージに目が釘付けになっていた。

ふとそこで、梨華は真希と視線が合う。

梨華はビクッと肩を震わせた。
後ろめたい気持ちはどんどんと押し寄せてくる。
しかしそれは一瞬で、真希は何でもなかった様にすぐに視線を逸らし、ヒトミが示す場所へ
次々と道具を並べていく。

待ち焦がれていた筈の今日のこのショー。
それが今では、見ているだけで胸が切り裂かれそうに痛い。
まるで拷問の時間に感じられるようだった。

196ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:06

それからは梨華も見せられてはいなかったマジックが次々に繰り広げられていった。
宙に浮かんだ何も入ってないはずの箱がいきなり燃え出して、中からは亜衣と希美が現れる。
急にヒトミがマントを翻し姿を消したかと思えば、真希と入れ替わりに現れ今度は真希が消える。
これも打ち合わせ無しで全てやっているのかと思うと、本当に感心した。

「やっぱりすごいですね」
「…えぇ」
ほとんどの客、そして店員までもがその華麗なマジックに魅了されている中、やはり梨華はから返
事で何にも頭には入っていなかった。

「梨華さん、どうしたんです?楽しく…ないですか?」
「いえ、別にそんなんじゃ…大丈夫です」
「でも…」
「大丈夫です、本当に」
苛立ちも何も感じない。
ただ一人の空間に浸っていたい。
押しつぶされそうなこの空間から逃れて。

梨華はステージの上のヒトミを見つめた。

ステージに立っている彼女は彼女ではない様に思える。
普段、制服を着ている時とはだいぶ印象が違うけれど、その魅力に惹かれていた。
出会いは最悪だった自分と彼女。
いつの間に、こんなに好きになっていたのか分からない。
気付けば心の中を支配されてしまっていた。

起きている時も。
眠っている時も。
離れている時も。
顔を合わせる時も、ずっとヒトミの事を考えていた。
あの笑顔を想っていた。


『魔法使い』


その、ちょっとファンタジーな単語も今では理解できるような気がする。
なぜなら、自分はもうその彼女の魔法にかかってしまったから。

愛、という名の魔法に。

そして今、自分はその魔法にかかりながら、望んでいない婚約者と共にやってきている。

197ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:06

マジックも終盤に差しかかり、亜衣と希美が以前の様にマイクを取る。
すると会場の電気が再び明かりを失った。
『ほんじゃ、今日は特別にキャンドルサービスやで!』
『ヒトミが一つずつテーブルを回っていきまーす!』
一つずつ…。
その言葉が梨華の思考を停止させる。

「へぇ、なかなかサービス精神も旺盛ですね」
心臓の音が聞こえる。
冷たくなった自分の中で、熱く燃えるように、時を刻むように。

『なんや今日はカップルが多いやんな』
『恋人たちをお祝いするのです!』

体が震える。

向こう側から順々に、ヒトミがテーブルを回っているのが見える。
その白い大きな手から放たれた様に、何もついていなかったロウソクにポッ、と小さな火が灯る。
そして礼をしてから次のテーブルへ移動していく。

それを何度も何度も繰り返し、そうして梨華のテーブルへも。


―――――…ヒトミ…



「ようこそ」

にっこりと笑みを零して、ヒトミはロウソクに手を近づけた。
そしてあの、手を閉じたり開いたりする癖。
手の平を下にして、指を鳴らすと同時に火が灯される。
辺りがボウッと照らされた。



「お二人の幸せを願って」

198ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:07


――――――――――



―――――





灯された炎が激しく揺らめいて見える。
こんなに小さな火がこんなにも燃え盛るものだったろうか。

「り、梨華…さん…?」

視界が歪む。
頬に暖かい何かが伝わっていく。

手の甲に、冷たい雫が一つ落ちた。

そしてそれはどんどん勢いを増し、それが自分の涙だと知ったのはしばらく経ってからだった。


「梨、華ちゃ…」


ぼやけてよく見えてはいないけれど、その場から動いていないヒトミもいきなりの事に驚いて、我
を忘れているようだった。

―――――ダメじゃない、ヒトミ…仕事中なんだから…




「梨華ちゃん!」
「梨華さん!」




梨華は耐え切れず持ってきたバッグを持つのも忘れ、一人そのレストランから走り去った。

199ななしのどくしゃ:2003/02/06(木) 19:16
綺麗に書くとか言っといてどーだろ。。。
小説って、むずかしいんだなぁ…。

>YUNAさま
切なくできてますか?よかったぁ…(安
自分、書いてる側からじゃ切ないのかどうか分からないんで…。
彼ですか?あはっ、嫌な奴でいいですよね。(笑
いい人にしようか迷ったんですけど、それだと自分上手く書けなかったんです。
川o・-・)ノ<日々精進ですよ!

>50の名無しハロモニさま
どーもです。
いやぁ〜彼はもうこのまま…(略
三角関係。。。いい響きだ。。。(笑
何故か自分は梨華ちゃんに、普通に恋愛はしてほしくないというか…。(オイ
山を越えて欲しいんです。。。
Σ(;^▽^)<なっ、何よソレ!

20050:2003/02/07(金) 13:46
うぉ〜、いきなりのヤマ場登場!ってな感じですぅ!
キャンドルサービスとは、これまたドラマティックな状況ですねぇw
せつない梨華ちゃん・・告白できるのでしょうか?
だんだん胸が痛くなって参りました(泣)
( T▽T)<胸が痛い! 胸が痛いのっ!

201YUNA:2003/02/07(金) 14:50
更新、お疲れ様です!!!
切なさって、自分で書いてて分からないもんなんですよねぇ〜
誰かに言われて、初めて気付く。(笑)
あぁ、今回も切なぁっっ...
胸が、かなぁり痛いです...
よっすぃ〜、梨華ちゃんを追いかけてあげてっっっ!!!

202名無しひょうたん島:2003/02/08(土) 17:27
( ゜皿 ゜)<エ?ドウナッチャウノヨ??ドキドキスルワ!クスリチョウダイ!!
( ´酈`)<最後までわからないれすね。
(0 T〜T)<りぃかぁちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!

203ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:24






『お二人の』


『幸せを』




『願って』






――――――――――――



――――――




「…っは…っく、ひっく…っ…」

息が苦しい。
泣きながら思い切り走って呼吸がままならない。
けれど、多分この苦しさはそれだけじゃない。

恋心を抱く事が、他の誰からも制限されるいわれはない。
しかしそれは想う方も、そして想われる方にも言える事。

ヒトミが好きなのは梨華の勝手。
そして、ヒトミが梨華を好きになるのはヒトミの勝手。


認めたくない現実を、真正面から叩き付けられた。


割り切っていた事だったのに。
いくら相手を好きになっても、相手も自分を好きになってくれるかなんて分からない。
最後に走り去った時、ヒトミが彼よりも先に名前を呼んでくれたのはありがたかった。
少しは心配されていたんだなぁ、と安堵にも似た気持ちが心を掠める。
あの仮面の下では、どんな顔をしていたのだろうか。

一人で乗り込んだエレベーター。
どうやって帰ろうかなんて考えもしないで、梨華は一階のスイッチを押して、エレベーター
がそこに着くまでのわずかな時間、泣き続けた。

204ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:24

チン、と音がなって間もなく扉が開く。
この時間帯に人の出入りはあまり無く、今のこの泣き腫らした顔を人に見られる前にと、梨
華は足早に出口へと走っていく。

外に出ると冷たい風が、梨華の露出された肌を打つ。
少し身震いをして、梨華は一人きりになれる誰にも見つからないような場所を探した。
一人で泣ける場所を。

「……っく、ひっく…」
寒さに絶えながら梨華は、ホテルの閉鎖された駐車場の中にある階段の下で腰を下ろす。
林になっている裏は人の影なんて見当たらず、泣き喚くにはもってこいの場所だ。
「…っひ…ぐすっ……ぅ…」
何も思うことは無かった。
ただ今はこの溢れてくる想いを全てぶちまけたかった。

―――――みんなに悪い事しちゃったな…

自分が来る事を喜んで張り切っていた亜衣と希美。
自分の相談に乗って、あまつさえ告白のセッティングまで考えてくれた真希。
悪いと思いながらもわざわざ自分の為にここに連れて来てくれた彼。
そして外出を許してくれた父。
その他にもあゆみや矢口など、色々な顔が浮かんできた。

無論、ヒトミの顔も。

ただそれに関しては、謝罪の気持ちなんかではなく、みんなとは明らかに違った感情が溢れ
てくる。

「…ヒトミの…ばか…」

205(0`〜´0)よすボーン:(0`〜´0)よすボーン
(0`〜´0)よすボーン

206ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:25

「…っ誰が…ばかだって?」

その声にバッと後ろを向いた。
階段の数段上に、先ほどの梨華と同じ様に息を切らせてヒトミが立っていた。
暗がりの中で白い仮面がやや不気味に浮かび上がる。
「なんでっ…こんなとこに、いんのさ…」
「…ヒトミ…なんで…」
「はぁ…これ…階段…はっ…一気に…駆け下りて…来た…」
梨華の座っていた後ろの階段は非常階段だった。
そういう訳だからあの20階のレストランとも繋がっている。
「エレベーターが…どこで止まるか、ごっちんに携帯で…知らせてもらって…そんで」
ヒトミは声を出す事も辛そうだ。
20階分もの階段を走って駆け下りてくれば当たり前だが。

「…!」
梨華はこの場にいることに絶えられず、また走って逃げようとする。
しかしもうそれはヒトミによって遮られてしまう。
二の腕を鷲掴みにされそのまま強く引き寄せられると、梨華はヒトミの腕の中に閉じ込めら
れた。

「なんで、逃げんのさ…!」
明かりがほとんど無いことと、仮面をつけていることで表情は分からない。
けれどヒトミのその声調と腕の力から、隠し切れない怒りを感じ取る事ができた。
梨華はヒトミの胸に顔を埋めたまま、再び涙する。
「上…ほっぽって来たのに」
「…って…だって…」
「泣き虫」
「…ぅ……」
「化粧落ちるよ」
まるで以前に戻ったかのように、ヒトミは悪態をつき続けていた。
しかし梨華は何を言われても、ただ涙をぼろぼろ零すだけで言い返しはしない。
「梨華ちゃん、戻ろう?」
「………」

「…彼氏も、心配してたよ…」
「!」
ふ…、と梨華は以外にあっけなくヒトミから離れた。
ヒトミもそれには予想外だったらしく、口を半開きにして梨華の様子を窺っている。
梨華は黙って口を噤み、ヒトミを見た。

207ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:25

「…なんなのよ…」
「え…?」
潤んだ瞳いっぱいに涙を溜めて、梨華はいきり立った。

「彼が心配してるんでしょ?だったらなんであなたが来るのよ!なんで彼が来ないの!?」

「なっ…!」
梨華の複雑な思いはグチャグチャに絡み合い、それは異なった形で表面上に現れる。
ヒトミもつられて買い口調になった。
「あんたの彼の事なんて知らないよ!大体なんなんだよ、人がせっかく心配して来てやった
 っていうのにその言い方は!」
「来てなんて頼んでない!あてつけがましい事しないで!」
「何を…!」
「思わせぶりな事しないでっ!」

途端、あたりは一気に静まり返る。
梨華は伏せていた顔をゆっくりと上げ、ヒトミを見つめた。
そしてくっ、と唇を噛んで
「…仮面…取って」
「え?」
「取って…いいから」
「あ、ぅん…」
ヒトミは言われるがまま、仮面に手を当ててゆっくりと取り外す。
その瞬間、今度は梨華がヒトミに抱きついた。
「…梨華ちゃん?」
「…心配してくれたのは分かってる、すごい嬉しい…」
背中に回した腕に更に力を込めて、梨華は抱きしめる。
「でも…私、ばか正直だから、そういう事されるとすぐ誤解しちゃうから…」
「………」
「お嬢様育ちって、不便だよね…こういう時どうしたらいいか分かんない」
梨華はできる限りの笑顔を作った。
「女の子同士って、今まで考えた事ないけど…他の女の子ならもっとちゃんと言えるんだろ
 うね…「好きでした」って」
「梨華ちゃん…」
「…うらやましいなぁ…」

208ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:26

「ばか」

梨華は頭上から聞こえたその言葉にガバッ、と顔を上げて反応した。
そしてもう一度。
「ばか」
「なっ、なによ…!」
「人のこと「ばかばか」言っちゃってさ、お返しだよ」
「だってそれは…」
「それに思わせぶりなのはどっちだか」
「どういう意味よ!」
ヒトミは、ジロッと横目で梨華を睨み


「わざわざ彼氏を連れて来た事!」


ヒトミはそう言うと顔を真っ赤にして押し黙る。
「…え?」
耳が壊れていないのを確認して、梨華は思わず聞き返してしまった。
ヒトミは聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、ぶつぶつと何か呟いている。
「だってさ…初めてあたしの家に来た時だって…なんか変な事聞いてくるしさ…」
「変な事なんて…聞いてないわよ!」
「聞いたじゃん、ごっちんはどんな関係だとか」
「う…」
それを言われては梨華は何も言い返せない。
けれど話を聞いていると、これはまるで…

209ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:26

「好きだよ」
「えっ?」
「女の子同士って…あたしも最初は考え付かなかった、でももうどうでもいい」
ヒトミは今まで見たものよりも、どれよりも真剣な目をしてこっちを見つめていた。
いつの間にか梨華の背中には、その長く細い腕がしっかりと巻きついている。
「会った時から気になってたよ、その後学校で会えて…マジで喜んだ」
「ヒ、トミ…」
「好きだよ…梨華ちゃん」
ヒトミは梨華の肩口に顔を埋めて、くぐもった声で囁いた。

―――――ヒトミ…

「…婚約者がいるから…って思って、それで今日も一緒に来てたし…」
「違…、あれは…」
「でもそれももうどうでもいい」
「ヒト…」

梨華が何か言う前に、その唇はヒトミの唇で塞がれてしまった。
突然の事に梨華はどうしていいか分からず、ただヒトミの腕の中で固まり、ヒトミのされる
がままになっているしかない。
「…んぅ」
漏れた自分の声に、顔がドンドン赤くなっていくのを感じた。
そして唇が離れるとヒトミはまた梨華を腕に抱いた。
梨華は瞳にまた熱いものが流れるのを感じ取る。
「また泣く…」
「…ヒトミ…」
「ん?」
「好き…」
「…うん…知ってる」
そしてもう一度、二人はどちらともなくその唇を引き寄せあった。

210ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:26



―――――――――


―――――…


皆の待つ20階に戻るべく、二人はホテルの中からエレベーターに乗り込んだ。
それが3階くらいを過ぎた時、エレベーターが止まりそうに無い事を願いながら、梨華は横
にいるヒトミに、さっきの温もりを確かめるように抱きつく。
「ちょ…梨華ちゃん」
「えへ」
その笑顔に負けたのか、ヒトミも困った顔でその腕を回した。

「もしかしたら運命なのかもね」
腕の中で梨華は顔を上げ、「何が?」とでも言いたそうなヒトミに嬉しそうに微笑むと
「ピンクのチューリップの花言葉知ってる?」
「ピンクの…?あたしがあげたヤツ?」
「そう」
ヒトミは首を横に振る。
「さぁ?何て言うの?」
「『綺麗な瞳』とか『告白』とか…いろいろあるけど、色によって違うの」
チューリップっていろんな色あるでしょ?と梨華はヒトミに視線を預ける。

「ピンク色のチューリップの花言葉は、『愛の芽生え』っていうの」
「へぇ…」
「私たちにぴったりでしょ?」
「うん…そうだね」
梨華はその整った横顔を眺めながら、暖かい肩にもたれた。

211ななしのどくしゃ:2003/02/08(土) 22:27
ふぅ…まぁこんなとこか…。
あー、疲れた。ラブシーンって疲れるわぁ。(笑

>50の名無しハロモニさま
いやぁもうこの乏しい想像力しか持ち合わせてない私の頭では
これがこれが精一杯。(笑
ふふふ、ベタベタですけど、私はこのまま突っ切っていきます。(ニヤリ

>YUNAさま
今回もよろしかったですか?
いやいや安心いたしました。(笑
そぉなんですよね、分からないですよね。
切なくなっていればよし!

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<イケナイワ!ショートシチャウ!!
( ´酈`)<このばあいはどこにだせばいいのれしょう?
( ´ Д`)<んあ、とりあえず電気屋でいーんじゃない?

あーあ、二重投稿しちまったぜ。。。(鬱

212名無しひょうたん島:2003/02/09(日) 12:31
( ゜皿 ゜)<ヤットヒッツイタワネ!ジレッタカッタワヨ!
( ´酈`) <ここからなのれす!

すごく続き楽しみにしています!!

213名無しひょうたん島:2003/02/09(日) 14:13
遂に…遂に…。
キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━!!
この小説一番楽しみなんです!!がんばってください!

214YUNA:2003/02/09(日) 16:03
更新、お疲れさまでしたっっ!!!
切ないけど、2人くっついていかった②♪♪♪
これから、どうなってしまうんでしょぉ...
続き、楽しみにしていますっっっ!!!

215200:2003/02/13(木) 16:51
キタキタキタ〜!!
よくやりました、両選手ともにグッジョブですw
ステージを放り出して追いかけた吉、オトコマエです!
甘くて、想いが通じ合えて良かった良かった(感涙)
しかし、エレベーターが到着した後は一体!?
次回更新、期待して待ってます。

216ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:22




エレベーターが20階に着くまでの間、梨華はずっとヒトミに寄り添うようにして時を過ご
した。

―――――14階…15階…16……
その時を少しでも遅らせたい梨華はその一心で一階ずつ目で数えていく。
そんな事をしても時間が止まる訳ではないけれど。
―――――もうすぐで20階…
「どしたの?梨華ちゃん」
そんな感じでさっきから上の空の梨華の顔をヒトミは覗き込んだ。
梨華は一度、今まで見ていた上がり下がりを示すライトからヒトミに視線を移し、それから
残念そうに斜め下を見つめて呟く。
「…もう着いちゃうなぁ、って」
そして小さく「もっと二人きりで居たぃ…」と言った途端、ヒトミの顔はまた例の如く真っ
赤に染まり、何も言えなくなってしまった。
「ちょっとぉ」
その行動にむっとした梨華は、両手でヒトミのその赤くなった頬を挟みこちらに戻す。
「もう少ししか二人きりで居れないのにっ」
「いや…別に帰ってからでも十分…」
「私は“今”一緒に居たいの!」
気持ちの通い合ったこの瞬間。
おそらく今以上の幸せは一生涯の中でほとんど味わう事は出来ないだろう。
「こんな貴重な時間、他に無いと思わない?」
と首をかしげた。
ヒトミはしばらく眉間にしわを寄せて考えていたが、
「…そうかも」
「ね?だから…」
梨華が何か言いかけたその時、ヒトミは自分の頬に置いてあった梨華の両手を握り、そこで
ちゅっ、と短いキスをしてみせる。
梨華は目を白黒させて固まったままだ。
ヒトミはこつん、と額同士をくっつけると、握った梨華のその両手を首に回させて、自分の
空いている両腕は梨華の腰に回しその格好で囁いた。

「黒のドレス着た梨華ちゃんって初めてだしね…」
「…変、かな…?」
眉をひそめるその顔にもう一度口づける。
今度はさっきよりも遥かに長く、もっと優しいキス。
「…やばいくらいカワイイ…」
何度も角度を変え、梨華もヒトミもその唇を確かめる様に味わった。

217ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:22

そこで、その甘い雰囲気は一気に絶たれてしまった。

ライトが『19階』のところで点灯し、その扉が音を立てて開いていく。
今までぴったりとくっついてまるで磁石の様だった二人が、その両極を同じ極で合わせてし
まったかの様に勢いよく離れた。

―――――いい所で…ってなんで20階じゃないの?

「やーやーお二人さん」
扉の向こうに立っていたのは、真希だった。
「「ごっちん!」」
二人は両端の壁にひっついたままで、声を揃えて言った。
真希はキョロキョロと二人を見比べる。
「うんうん、どーやら上手くいったようだね」
「な、なんで分かるの」
「大体分かるって、それに…」
真希はニヤニヤしながら二人の間に割り込んだ。

「よっすぃーってピンク色の口紅つけないでしょ」

「「!?」」
さすがにコレには梨華も顔を真っ赤にせずにはいられない。
二人揃って各々の口を隠すように手で覆った。
「まぁ良かったねー、こっちとしては大変だったけど」
「ゴメンごっちん」
ヒトミは口を覆ったまま言った。
「今んとこは大丈夫、あいぼんとののが何とか持ちこたえてるから」
ヒトミはショーの途中、それに構わず梨華を追いかけてきていたのだ。
今になってその事に本気で悪い気持ちになる梨華。
「ゴメンね…二人とも」
ヒトミと真希は目を合わせた。

「私のせいだよね…せっかくお客さんたち楽しみにしてたのに、ぶち壊しちゃって」
言葉を発する度に首を俯かせていく梨華を見て、慌ててそれを否定するヒトミと真希。
「り、梨華ちゃんのせいじゃないよ」
「そーそー、元はよっすぃーが悪いんだから」
「でも…」
ますます俯く梨華。
ますます慌てるヒトミ。
「いーの!だから梨華ちゃんは気にしないで」
「だって…私がいきなりあんなことするから…」
「だからぁ、あれはあたしが変な事言ったから…」
「その火種は私が自分で…」

218ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:22

「あーもうっ、それはいーから早く戻ろう!そっちが先決だよ!」
真希が二人のいつ終わるか分からない口論をぶった切り、自分もエレベーターに乗って『C
LOSE』のボタンを押した。
エレベーターの扉は閉まり、機械的な音を立てて上昇していく。

「そういや梨華ちゃん、あの人も焦ってたよ」
聞かなくてもそれが誰なのかは分かっていたが、不思議と梨華は平然とする事ができた。
もう有耶無耶な態度は取れない。
自分はもう決意し、そしてその想いも成就したのだから。
「ありがとう、ごっちん」
「へ?ごとーなんかしたっけ?」
それが気付かない振りをしているのか、それとも本気で分かっていないのか、おそらく後者
であるだろうな、と梨華は予想しながらもう一度「ありがとう」とだけ言った。

「あ、そうだ」
ヒトミはいきなり声を上げた。
振り向くとヒトミは顔半分の仮面を付けているところだ。
「なんで付けるの?」
「あたし仕事で他人に顔明かさないようにしてるんだ、めんどいから」
なるほどと梨華は頷いた。
以前の話でもヒトミに魅せられた人は多いという何とも腹立たしい事も聞いたし、この顔だ
から色々と苦労した事(ファンに追いかけられる等)もあったのかもしれない。
考えればむしろそれを付けていて欲しいと願う梨華。
「それに彼、あたしの顔知ってるでしょ?」
そうだった、と梨華はハッとした。
ヒトミと彼は一度だけ面識があった。
もし彼が覚えていないなら幸いだが、もしそうでなかったとしたら、またどんな皮肉を聞か
されるか分かったものではない。

そうしてエレベーターは20階を指した。

219ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:23


「梨華さん!」

案の定、彼はいち早く梨華のもとへ駆け寄ってきた。
「どこに行ってたんですか!?心配してホテルの従業員に色々と聞き回って…!」
こうして見ると、やはりこの人はいつも自分の事を考えてくれているんだと改めて実感して
しまった梨華。
「ごめんなさい」
「いえ…でも戻って来てくれて良かったです」
ちくり、と胸が痛んだ気がした。

梨華はちらっ、とヒトミの方に目をやった。
仮面越しに柔らかく笑っているのが分かる。
そしてヒトミは真希と一緒に亜衣と希美と客達の待つ、レストランへと消えていった。
梨華が何を考えてるのか、おそらくヒトミも分かっているのだろう。
この空間にいるのは梨華と彼の二人だけ。
それだけでもう十分だった。
―――――ちゃんと言うからね、ヒトミ…
もう姿の見えなくなったヒトミに返すようににっこりと笑った。

「あのね」
梨華は真っすぐ彼の目を見て言った。



「私…もうあなたとお付き合いできません」

220ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:23





「よし!」

梨華はピンクのチューリップの入った花瓶の水を取り替え上機嫌。
あともう少しでしおれてしまう様子だが、まだ何とかもってはいられるだろう。
「新しいのを買ってこようかなぁ…それか、またヒトミに貰うっていうのも」
金曜日以来、すっかりこのチューリップは一番お気に入りの花として、梨華の部屋にちょこ
んと咲き誇っている。
なんと言っても、二人の『運命の花』なのだから。

「ふふ」
開きかかった蕾をちょん、と軽く突っついて、梨華は笑顔で部屋を出ると、ちょうど一人の
家政婦と出会った。
「梨華様、朝食の用意が整いました」
「ありがとう」
パタパタとせわしなく梨華は食堂へと向かった。
警戒にステップを踏みながら、不気味なくらいの笑みを振りまきながら。
「〜♪」
おまけに鼻歌まで。
「…?」
態度が豹変した梨華の背中を見つめ、家政婦はただただ首を傾げるだけだった。


「おはようお父様」
梨華を見て父は一瞬目を丸くしたが、すぐに威厳を取り戻す。
「どうした?最近明るいな」
「そうかしら?別に普通よ、いただきます」
「ん…まぁなんにせよ、明るい事はいい事だ」
笑顔の梨華に満足し、父はまた手にしていた新聞に目を向けた。

いつだったか誰かにも言われたが、自分でも自覚はあった。
確かに以前に比べて笑顔の回数が多くなったというか、感情の表わし方が豊かになった。
特に意識してそうやっている訳ではない。
自然にそうなる。

「…行ってきます!」
早々と朝食を食べ終え、梨華は元気よく外へと飛び出した。

221ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:23

「おはようございます、柴田さん」
車から降りると同時に、後ろから同じく車で登校してきたあゆみに挨拶した。
「おはようござ…」
あゆみはいぶかしげな顔をして梨華を眺めている。
梨華は優しげな笑顔を浮かべて首をかしげた。
「どうなさったの?」
「ぃや…今日はなんか、い、いえ、何か普段と違いますわね、石川さん」
「いやですわ、もう皆さんにそう言われちゃって、もうっ」
梨華は頬をピンクに染めて眉をだらしなく下げながら、あゆみの肩をバシバシと叩く。
「い、痛っ痛いって梨華ちゃ…じゃなくて、石川さんっ」
「やですわぁ、もうっ」
―――――何があった梨華ちゃんっ?!
でれでれとしたその顔の裏に何が隠されているのか、あゆみに分かる筈も無い。

「ど、どうなさったの石川さん、何か嬉しい事でもございまして?」
ようやく解放された左肩を擦りながら、また叩かれない様に梨華と距離を置くあゆみ。
しかしそんな事は、今の梨華にはどうともかまわぬ事だった。
「柴田さん…」
「はい」
両の手を胸の前で組んで乙女チックモードに突入し始めてしまった梨華。
もうこうなっては梨華が自分でそれを解除するまで誰にも止める事は出来ない。
あゆみはこれが長くなる事を承知の上で、半ば諦める様に耳を傾けた。


「恋をしてしまいました♪」


「あぁ、はい…」
そんな歌もありましたわね、なんてとんちんかんな事を思うあゆみ。
―――――梨華ちゃんが恋ねぇ…恋…こい…

「えっ!?」

あゆみは目を見開く。
「ウソ、誰に!?」
一人で陶酔の表情を浮かべる梨華の肩を、お構い無しにがくがくと揺さぶる。
あまりの驚きで言葉遣いもすっかり元に戻っている。
それでも梨華のやや赤く染まったその顔が崩れる事はない。
「というかすでにハッピー♪んふっ」
「は?何?どういう事!?」
「やっぱり女は恋に生きるべきですわね…」
「ちょっと!梨華ちゃん教えてよ、ねぇ誰!?誰に恋してるの!」
めずらしく騒がしい登校となった梨華とあゆみ。
笑いながら、叫びながら校門をばたばたとくぐる。
同時に今度は予鈴が鳴り響き、校門の鉄格子の扉が風紀委員によって閉められる。
登校時間を過ぎた者は風紀委員のお許しがない事には朝の内に校内に入る事は出来ない。
つまり時間以内にはもう校門をくぐらなければならないのだ。

222ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:24


「ちょっと待って――――!」


校門の外から聞こえる、その声に梨華はぴくりと反応する。
そのよく通る低く甘いアルトの声はどんな人込みの中に居ても聞き分ける事が出来る。
「お、お願い!入れて!」
その声はちょうど後ろでぎゃあぎゃあと喚いている。
「吉澤ひとみさん、また遅刻ですかっ!?」

―――――ヒトミ!
梨華はすぐさまその視線を、校門の方に向けた。
ヒトミは1年の風紀委員・高橋に捕まって情けない顔をして手を合わせている。
「お願い高橋さん、勘弁して」
「遅刻しておいて何を言ってるのですかっ!」
「あたし低血圧なんだって、いつも言ってるじゃん」
「私はあなたを同等の立場に置いた事は一度もありません!」
鉄格子ごしに朝から大声で喚く二人に、皆が視線を向けない筈がない。
と、そこへ見かねてあの人物が姿を現した。

「どうしたのですか騒々しい」

「藤本先輩!」
きりりとしたその横顔は、以前お世話になった風紀委員長・藤本美貴。
今日のスケープゴートはヒトミになりそうだ。
「高橋さん、もう少し声を控えて頂戴」
「す…すいません」
そして藤本はその眼鏡越しに今度はヒトミを捕らえる。
「吉澤ひとみさん」
「はい」
「転校してきたばかりとはいえ、あなた今まで何度遅刻なさってます?」
「えぇー、覚えてないなぁ」
藤本の頬がピクリと引きつる。
しかしまだ理性は保っている様だ。

「ほぼ毎日ですわ」
「あれ、そーだっけ?」
「あなたは今まで一度も登校時間内に校門を潜ったことはありません」
コホン、と一つ咳払いして藤本は腕を組む。
ヒトミは俄然、へらへらとした表情を整える事はない。
「とにかく、本日も生徒指導室へどうぞ」
藤本は鉄格子の扉をちょっとだけ開いてヒトミを招き入れる。
「えー!やだよ、あたしあのオバサン嫌いなんだもん」
「オバサンだなんて失礼な言い方をなさらないで!確かに先生はややお年を召されています
 けれど…」
「ふ、藤本先輩、フォローになってないですけど…」

223ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:24


「あ゛――――っ、もうっ!!」


とうとう藤本の堪忍袋の緒が切れてしまった。
「いいかげんになさって!ピアスはする、髪は染める、スカートの丈は以前短いまま!」
藤本の怒りに満ち満ちた剣幕にヒトミや高橋、その他周りにいた生徒は言葉を失った。
もちろんそれを見ていた梨華やあゆみも。

「いつ言おうかと悩んでいましたが、今日言わせていただきます!吉澤さん!あなたはこの
 学院にはふさわしくありません!!」

右手でヒトミを指差しもう片方は丁寧に腰に当てる。
ヒトミは目を点にしてただ藤本を見ていた。
「勉学共に運動!成績が優秀なのは認めます、けれどあなたは人間的に欠落しているものが
 多々見られると言っても過言ではありません!!」
運動は得意なのは分かってたけど、頭も良かったんだ…、と梨華は以外にも冷静にその場を
見学していた。
―――――英語は当たり前にできるだろうし…マジシャンっていうのも自分でタネとか考え
     なくちゃいけないから頭も使うわよね、きっと

「それにっ!あなたが我が学院の生徒をたぶらかしているという噂も耳に入っています!」
梨華はそれに先ほどヒトミを見つけた時と同じくらい、もしくはそれ以上の過敏な反応。
「へっ?何それ、あたし知らないよ」
「誤魔化されても無駄です!」
強者藤本にヒトミは一撃で押し黙ってしまう。

「あなた、我が風紀委員会・副委員長2年の松浦亜弥をご存知?」
「え、あぁ…まぁ同じクラスだし」
ヒトミは曖昧に頷く。
「礼儀正しく慎ましく、容姿端麗で成績も優秀でまるで淑女の鏡の様で…時期風紀委員長候
 補とまで謳われて、私も松浦さんにならこの学校を任せられる、と安心しておりました」
その視線は青空を仰ぎ、まるでそこだけ舞台の様に藤本は一人自分の思いを語った。
「はぁそっすか」
「その彼女を…」
藤本は表情を変え、キッ、とヒトミを睨みつけた。

「毒牙にかけたのは紛れも無い事実でしょうっ!!」

「なっ…!」
それには梨華も黙ってはいられなかった。
そうとは知らないヒトミ、梨華が見ているのにも気付かず落ち着いて弁護する。
「ちょっと待って、あたし別にまっつーに手ぇ出してなんかないって」
―――――ま、まっつー!?
おそらくヒトミが松浦亜弥に対してつけたあだ名だろう。
それは分かってはいたが、その怒りは今すぐ抑えきれる物ではなかった。

224ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:24


「吉澤さぁ――――ん!」


その矢先、反対側の2年生の玄関から梨華に勝るとも劣らずの高い声が聞こえてきた。
見ると話の中心の松浦亜弥が、ものすごい速さで校門に向かって走っている。
いや、正確にはヒトミに向かって。
「吉澤さんっ!」
松浦はその勢いに任せてヒトミにぎゅうっと抱きついた。

―――――あああぁぁぁぁっ!?
梨華はパクパクと口を開く。
「梨華ちゃん?金魚みたいだよ?」
そういえば生徒会役員・書記の紺野って1年生がそれっぽいよねぇ、なんてあゆみの言葉も
もはや梨華の耳には届かなかった。


「おはようございますぅ、吉澤さん」
「おはよーまっつー」
ヒトミは普通に笑顔で挨拶している。
「あ、藤本先輩おはようございまぁす」
松浦はその体制のまま、とってつけた様に藤本に向かって挨拶した。
「松浦さんっ言ったでしょう!元のあなたに戻って!」
「先輩、私は普通ですよぉ?」
「違うわっ!今までのあなたは朝からスカートをはばたかせながら走ってくるような方では
 なかったはずよっ!」
「そんな事言われても、吉澤さんが来たのが分かったら慌てちゃってぇ」
恥ずかしそうに頬を染めながら松浦は言った。
「松浦さん…あなたはどうしてそんな風になってしまったの…」
およよ、と泣き崩れる藤本。
しかし、
「!? 松浦さんっ、あなた香水なんかつけてらっしゃらなかったでしょう!」
まくし立てる藤本に関わらず彼女は「あ、分かりますぅ?」と嬉しそうだ。
「いい香りでしょう?ピーチなんですよ」
「そんな事は聞いてないわっ!何故そのような…」
「女の子は香りで変わるんですっ」
「松浦さんっ!」
藤本は再び崩れ落ちた。

225ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:25


「どれもこれも…吉澤ひとみさんっ、あなたのせいです!」
「えっ?あたしぃ?」
その矛先は抱きついている松浦ではなく、抱きつかれたままのヒトミに向けられた。
「あなたが現れたからこの学院は段々変わってしまっているのです!全ての元凶はあなたに
 あると、私は断定いたしました!」
「か、勝手に断定しないでよ!」
さすがにまずいと感じたのか、ヒトミは松浦を引っぺがして一目散に逃げ出した。

「あっ、お待ちなさい!」
「吉澤さんっ!」
「今日は見逃してぇぇぇっ!」
運動神経は良いヒトミ、藤本と松浦にあと少しで追いつかれるという所で見事に方向転換を
して、ちょうど梨華の居る方に走ってきた。
「あっ梨華ちゃん!」
梨華の姿を発見したヒトミは、迷わず梨華の傍へ走り寄ってその肩を掴んだ。

「梨華ちゃん!お願い助けて!」
梨華は正面に向かい合わせ、すっ、とヒトミの腕を掴んで上目使いに見る。
それにほっとするヒトミ。
「吉澤さん」
「はい、…って吉澤“さん”?」
梨華の敬語にヒトミは多大な悪寒を感じ取る。
しかし次の瞬間、ヒトミの体はくるりと反転させられ向こうから藤本と松浦が走ってくる。
逃げようとしても梨華が腕を掴んでいるため、それもままならない。

「りりりっ梨華ちゃんっ!?」
「すこーし、頭を冷やされた方が宜しいんじゃなくって!」
梨華の顔は笑っていても、目が冷たく梨華の今の心境を表していた。

「吉澤さぁぁぁんっ!」
「生徒指導室にお行きなさぁぁぁいっ!!」
「思い知りなさいっ!ヒトミぃぃぃ!」
「いやぁぁぁぁぁっ!!」

226ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:25
溜まりに溜まった妄想が…お嬢様言葉を書くのも楽しかったり…。
最近…何故なんだろう。よしあや(松浦)やら、よしみきやらが気になってきおった。
一体何の前兆か…、まぁ気にしながらも更新をしよう。(爆

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<オソクナッタワネ!
( ´酈`)<おそすぎなのれす。
川o・-・)<まぁその分大目に更新したつもりらしいので…
(;0^〜^)<勘弁してください。

>名無しひょうたん島さま
>この小説一番楽しみなんです!!がんばってください!
のぁ―――っ!!照れる&嬉しいっす。
しかし更新、遅れてしまってスマソ。。。
申し訳ないかぎりです。(泣

>YUNAさま
いやはや、YUNAさんも完結お疲れでした。
来る素振りは見せねども、じつはちまちまやってきていたり…。
( `▽´)<それなら更新しなさいよ!
…とは言わないで(笑

>200の名無しハロモニさま
(0^〜^)<それほどでもぉ〜♪>(^▽^*)
この後もこの二人の甘いのを少し書きたいと思っておりますので、
まぁ…あまり期待しないで待っててくださいね(笑

227ななしのどくしゃ:2003/02/15(土) 18:44
すいません訂正します。
>222の高橋のセリフ。
>「私はあなたを同等の立場に置いた事は一度もありません!」
は、無視してください。間違いました。

228名無しひょうたん島:2003/02/15(土) 20:37
タラシヨッスィキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
シットリカチャンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

いや、もちろんいしよしヲタですよw
でも、よしあやも代好き(ニヤリ

229名無しひょうたん島:2003/02/16(日) 21:03
( ゜皿゜) <マッテタワヨ!ソレニタイリョウコウシンヤルワネ!カオダッテイチバンタノシミナノヨ!
川o・-・) <213さんにジェラシーですね!
( ´酈`) <なんらか、おもしろいてんかいなのれす。
(0^〜^) <もてるオイラカッケー!!

ガンガッテください!!

230YUNA:2003/02/18(火) 14:40
ちょっと(?)怒る梨華ちゃん可愛い♪♪♪
よっすぃ〜、ご愁傷様です。
話の中の藤本・松浦、ツボですっっっ。(笑)
って、うちの駄文を読んでくださってるなんて...
ありがとぉ〜ございます...(涙)
実は、うちも...
更新しないくせに、ちま②来たりしております...(苦笑)

231ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:18




梨華はその華奢な肩を精一杯いからせながら、目の前で何とも情けなく眉尻を下げている
ヒトミに向かって頬を膨らせていた。

「で?」
「…え?」

「とぼけないで!」
急にトーンを上げた梨華の声に、思わずヒトミは肩を竦める。
二人しか居ないこの屋上では、素晴らしく綺麗に声が耳に入ってくる。
「あの松浦さんとどういう関係よ!」

今日一日この昼休みまで、そして今現在も梨華はずっと不機嫌極まりなかった。
想いが通じ合ってホッとしたのが昨日だと言うのに、それが今日になって相手が別の女の
子と仲良く抱き合ったりなんかしているのだ、怒らない訳がない。
しかし本当のところ、ヒトミは抱きしめていたつもりはないのだが、そんな事は梨華の頭に
はカケラも残っていなかった。

「どういうって…ただ同じクラスだから仲良くなっただけだよ」
「そんなただ仲良くなっただけの人が、登校してきたのを見つけてわざわざ外まで走って出
 てくると思う!?」
「そんな事言ったってあれはまっつーが勝手に…」

『まっつー』

その単語を聞いただけでムカムカする。
「………」
「…な、何?」
「…もぉばかっ」
「なんだよそれぇ」
「どーせヒトミの事だから!他の生徒ともあんな事したりしてるんでしょ!?」
梨華はつい最近の事を思い出していた。
こいつは人前で平気でキスなんかできる奴なのだという事を。

232ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:19

「あたしのポリシーだもん、仲良くなるにはまずボディタッチから」
否定しない。
それが更に梨華を怒らせる原因となった。
「その言い方なんかヤラしいっ」
「ホントの事だもん、特に“ハグ”は大事」
確かに欧米では、日本よりもスキンシップが多いという事は聞いている。
しかし、ここは日本なのだ。
そんな誤解を招く行為をされてしまっては、本当に誤解を招きかねない。
いや、もう既にその誤解にかかってしまった人は現れてしまったのだが。
「大体ヒトミだって抱き付かれたまんま離そうとしなかったじゃない!」
「いや、だって友だちをそんな風に扱えないでしょ?」
「そういう事じゃなくって…」
もごもごと口調をにごらせていく。
何だか一人で怒って恥ずかしくなってきていた。

梨華は人一倍、独占欲が強い。
そういう育ちからか、はたまた一人っ子という環境がそうさせてしまったのかは定かではな
いが、小さい頃から自分のモノに対してとてつもない執着心を持っていた。
それがおもちゃであろうとなんであろうと、自分の手元から消えてしまった時にはもう手の
施しようがなく、周りの大人たちを困らせていたという事だ。
大きくなっていくうちに、さすがにそんな事はなくなっていたが。

そして、生まれて初めての恋人。
そんなモノが出来てしまったとあれば、梨華の嫉妬心がさらに増していくのは必然だ。

「とにかくっ、あたしはやましい事はしてないからね」
「そんな事言ったってぇ!」
「梨華ちゃんっ!」
明らかに苛立ちを見せるヒトミのその顔に、ぐっ、と梨華は唇を噛み締めた。

―――――もぉ…なんで私がこんな目に合わなくちゃならないのよぉ…

そんな事を考えていると、ヒトミが梨華の右手を取りその手の平にチュッ、と口づける。
「!」
それを目の当たりにして梨華の体はドンドン熱を上げていく。
ヒトミはそんな風になってしまった梨華を横目で確認し、ニヤッとまたあの笑みを見せると
今度は梨華の頬にそっと手を当ててチュッチュッ、と顔中に何度もキスをしていった。
「ちょ…ヒトミ…もっ…」
「んー」
体をよじらせて逃げようとするが、いつの間にか腰にヒトミの腕がガッチリと回っていて、
逃げる事が出来なかった。

233ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:19

ヒトミのされるがままになっていた梨華。
しばらくしてヒトミがようやく腕の力を緩め解放したが、梨華は逃げようとしなかった。
「あたし梨華ちゃん以外にはこんな事しないって、言い切れるよ」
「………」
「ね?だからさ」
ひたすら上目使いにヒトミを見上げる梨華。
「そんな顔しないでよぉ〜」とヒトミがおちゃらけても、梨華の顔は元には戻らない。

「ねぇ梨華ちゃん、笑ってよ、ね?ね?」
「………」
「梨華ちゃぁん、お願いだから」
「………」
「梨華ちゃんってばぁ」
「………」
「梨華ちゃんっ、もういい加減にしてよ!あたしだって怒るよっ?」
ヒトミが意を切らし、ちょっと怒った顔をして見せても状況はまったく変わらなかった。
それにちょっとショックを受け、今さら後には引けなくなったヒトミはさらに大きな声で梨
華に怒鳴りつけた。
「そりゃ確かにあたしふらふらしててだらしないように見えるけどさぁ、こういう大事な事
 はちゃんと気遣ってるつもりだよ!?それなのに梨華ちゃんは…!」
怒鳴っても梨華はいまだ口を閉ざしたままだった。

ヒトミはついに切り札を出した。


「あたしの事信用できないの!?」


しかしそれには予想外の反応。
「…できないわ」
「え!?」
ヒトミはそこで一瞬固まった。
「なっなんでぇ!?」
慌てふためくヒトミに、梨華は到って冷静な表情のままヒトミのその襟首を引っ掴み、ぐいっ
と自分に引き寄せた。

234ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:20



「この爽やかな香りは何でございましょうか」


にこっと笑顔になる。
しかしその梨華の笑顔と敬語が後に、泣いた後より、怒った後よりももっと恐ろしい事になる
のを、ヒトミはすでに理解していた。
「か…香り?」
「…ヒトミって香水つけてなかったよね?」
「え…あ、まぁ…ね」
嫌な予感がヒトミの胸の内をよぎる。
そしてそれは見事的中してしまう事に。

「私はアナタから『ピーチ』の香りがするように思えるのですけど」

「………」
「確か、松浦さんも最近になって香水をつけ始めたとか?」
「いや…確かにそれはあってるけど、でも多分朝についたのがまだ…」
「残ってる訳ないでしょ!あれから何時間経ってると思ってるの!?」
やはり年上である梨華の方が強かった。

「白状しなさいっ!またベタベタしてたんでしょぉっ!?」
「ちっ…違うぅ!あれはまっつーが勝手に…!」
「やっぱり!もぉ何やってるのよぉぉぉぉ!」
もうすっかり梨華の尻に敷かれてしまっているヒトミ。
嘘がつけない性格からか、言う事全てが梨華の逆鱗に触れてしまい結局、


「ごめんなさいっ」


「…もぅ止めてよ?」
「いや、だから…まぁいいや、はい、もーしません」
「よろしいっ」
ようやく梨華が笑ったのを見て、ヒトミはホッ、と胸を撫で下ろす。
そして同時にその眩しいほどの笑顔に顔を綻ばせて、思わずギュゥッと抱きついた。
嬉しそうに梨華の頬に自分の頬をネコの様にすり寄せる。

235ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:20

と、そこで皮肉にも予鈴が鳴り響いた。
「あー終わっちゃったね、昼休み」
「えぇ――――っ」
「しょうがないでしょ、ほら教室戻ろう」
体を離して梨華は行こうとするが、ヒトミはいっこうに動こうとはしない。
そしてヒトミはもう一度、その腕に梨華を抱きとめる。
「ね、サボっちゃわない?」
「はあ?!」
梨華は腕の中でヒトミの顔を見上げた。
「いいでしょ?」
「な…そんな事出来る訳ないでしょっ!授業出なくちゃ!」
「いーじゃん、梨華ちゃんいなくても誰も困らないって」
「ひどいっ!何よそれ!」
頭を叩こうと、振り上げられた梨華の腕が振り下ろされる前に、ヒトミは梨華に軽くキス。
梨華の動きはそれだけで簡単に止まった。

「あたし梨華ちゃんいなかったら困る」
「…二人でサボった事、ばれちゃったらどうするのよ」
梨華の腕は振り上げられた状態のままだ。
「別にいーよ、でも学年違うからそう簡単にばれないって」
だから、ね?ととてもいい表情をするヒトミ。
「「だから、ね?」じゃないでしょ!まったく…」
「いーじゃーん、一回くらい経験しといても損はないって」
「そういう問題なの?」

なんて口論をしばらく続けていると、また『キーンコーンカーンコーン』と予鈴が鳴る。
「あぁっ!?」
「あらぁ、授業始まっちゃったねぇ」
ニヤニヤと、これまたいい顔。
「…わざと引き止めてたでしょ」
「ばれましたか」
「んっもうっ」
上げていた腕でコツン、とヒトミの頭を小突く。
そして怒った表情をしながらも、その唇の端はちょっとだけ引きつっていた。
「嬉しかったりする?」
「ばか」

その日、梨華は生まれて初めて授業をサボった。

236ななしのどくしゃ:2003/02/18(火) 22:21
“ハグ”の意味、分からない人のために。。。
この場合“抱きしめる”と捉えておいて下さい。
うちの学校でも友達同士よく言ってるし、やってるのです。(どない学校や

>名無しひょうたん島さま
>いや、もちろんいしよしヲタですよ
 本 当 で す か ?(笑
いや私もいしよし大すっきですよ?本当です。
でもなんか…あやゃでもいーかなーとか…ミキたんかわいいなぁとか。(笑
(+`▽´)ノ<ハッキリしなさいよ、ハッキリ!

>名無しひょうたん島さま
( ゜皿゜)<ソレハウレシイワ!ガンバルワヨ!!
( ´酈`)<そういっていただけるととってもうれしいのれす。てへてへ。
川o・-・)<作者は『今日は不調…、しかし今度こそ!』との事です。
( ´ Д`)<あっは、言い訳だね〜。

>YUNAさま
>うちの駄文を読んでくださってるなんて...
駄文だなんて!何たる事を!(爆 新作おめれとうございます。。。
更新、早くしてくださいね。(笑
川釻v釻从<もしやハマったかしら?なかなか良い心がけですわよ。(笑
从‘ 。‘从<この喋り方ってけっこうはまるんですよねぇ〜。


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