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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5
1
:
名無しリゾナント
:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。
ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。
(例)
①
>>1-3
に作品を投稿
②
>>4
で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③
>>5
で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら
>>6
で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告
ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp
446
:
名無しリゾナント
:2014/12/07(日) 00:30:10
仲間がなす術もなく蹂躙され、傷つけられた夜を経て。
いや、乗り越えてからも一層、思いは変わることなく愛を突き動かしている。
喫茶リゾナントを離れ、仲間と別々になった今もそれは変わらない。
ただ、一つだけ。
この手で自らを縛り付けていた因縁を断ち切ったあの日。
赤い赤い夕陽が沈んだあの日から。
自らの何かが欠けてしまったような喪失感を覚えているのも確かだった。
心の中を荒涼とした風が吹いている。終わらせたはずなのに、何一つ終わっていない。
夕陽の中に沈んでいった「彼女」もまた、組織の被害者のように愛には思えているからなのかもしれない。
その意味では、今愛の目の前にいる魔女も同じなのかもしれない。
同情でも、感傷でもなく。彼女の心のありよう、それは一歩間違えれば自らの身にも降りかかっていても
おかしくはないと。
もしも。仮にダークネスによって里沙が討たれていたら。
里沙だけではない。れいなが。さゆみが。絵里が。小春が。愛佳が。ジュンジュン、リンリンが。多くの
後輩たちが。
亡き者にされたら、きっと愛の心も決して潤うことのない砂漠になっていたことだろう。
ダークネスという組織を、このままにしてはおけない。
けれど、それが幹部全員を滅することと決してイコールになっているわけでは決してなかった。
甘い幻想なのかもしれない。不可能なことを謳っているだけなのかもしれない。
それでもなお。愛はその幻想を追うことを躊躇しない。
なぜならそれが彼女がリゾナンターという集団を率いていた原点でもあるのだから。
447
:
名無しリゾナント
:2014/12/07(日) 00:32:50
だが。
現実は非情でもある。
心の風景を不毛の世界に変えてしまったような相手に、この声は届くだろうか。
それでも。
無駄な血は流したくない。
そう言わざるを得なかった。愛の搾り出した言葉、たとえそれが絶望の砂漠に撒かれ消えゆくとしても。
「…わかった」
「え?」
「あんたを殺すのは、無意味。それがわかった。あんたを殺したところで、美貴の心は満たされない」
目を見開き、呆然とする愛。
手の中の光が、消えてゆく。
魔女はゆっくりと愛から離れ、背を向けた。
だが、その魔女の発した言葉の真意は。
緩みかけた愛の心を凍らせるには十分すぎるくらいだった。
448
:
名無しリゾナント
:2014/12/07(日) 00:34:42
「だから、あんたが可愛がってたガキどもをぶっ殺すことに決めた」
復讐。それが魔女の目的。それが彼女の心を荒涼とした光景にしているものの全て。
最も効率的で、最も効果的。相手の心もまた、砂漠に変えてしまえばいい。
「何で…何であんたらは!!!!!」
溢れ出す感情。それ以上は言葉にすらならなかった。
文句があるなら、自分に言えばいい。なのにあんたらはどうして、可愛い後輩たちに牙を向けるのだ。
「あの子たちは、関係ないやろ!狙うならあーしを狙えばいい!!」
「知ったことかよ」
纏うドレスの色と同様に心を黒く染めた魔女は、ゆっくりと背を向け、消えていった。
「ゲート」か。愛は今回の舞台のお膳立てをしたかつての旧友に歯軋りをする思いで、既に誰もいなくな
った空に目をやる。
すっかり夕陽が沈んでしまった海は、闇の砂に埋め尽くされた砂漠のように見えた。
449
:
名無しリゾナント
:2014/12/07(日) 00:42:52
>>443-448
『リゾナンター爻(シャオ)』 番外編 「砂漠」
某所の砂漠の美貴愛から。
とは言っても引用したのはフリーズとプリーズのフレーズだけですがw
450
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 00:48:44
>>434-441
の続きです
●
「ぐはっ!!!!」
小さな体が、ゴム鞠のように地面にバウンドする。
蹴られ地に伏した女を見下ろすように、ライダースーツの金髪が仁王立ちしていた。
ダークネスの本拠地の、倉庫区画。
物々しいフェンスに囲まれた空間は、滅多に人が立入ることはない。
「何だ、やられっ放しかよ」
「…よっちゃん、意味わかんねーし」
ポニーテールの少女は苦痛に顔を歪めながら、否定のポーズを取る。
私刑を受けることも、それに対し反撃する事も納得のいってないような顔だ。
しかしそれも、金髪 ―「鋼脚」― が無防備な腹部を踏みつけることで即座に悲鳴に変わる。
「ほら、反撃してみろよ。なんならお前が諜報部の監視役たちをやったように、あたしのこともぶっ殺してみるか?」
「ぐっ…がっ!!!」
「歯ごたえねえなあ。市井さん殺った時みたいに、びっくりさせてみろよ」
「だから…よっちゃんとのんが戦う理由なんてないっての」
451
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 00:50:36
あくまでも抵抗しない少女 ―「金鴉」― 、に業を煮やした「鋼脚」はいよいよ彼女を呼び出した本題
に移る。もともと、駆け引きの類は彼女の得意とするところではない。
その間に、ライダースーツの攻撃が止む事はないが。
「こんこんから聞いたんだけどさ。お前ら、リゾナンターの殲滅の仕事ほっぽり出して…アキバの眼鏡ブ
タんとこの仕事請け負ってるんだって?」
「…は、はは。のんたちも、お金欲しいからねえ…ぐっ!」
返事の代わりに、蹴りが飛ぶ。
鋼を断ちし剛脚と謳われる足技、鍛錬してないものが受ければ臓腑の一つや二つは簡単に破裂してしまう
ことだろう。
「それはいい。けど、お前とあいぼん…『煙鏡』はリゾナンターたちの周囲を嗅ぎ回っている。ついでに
うちの放った『監視役』たちを殺しながらな」
「後々のための、調査だっての…例の監視役だって、鬱陶しいからちょっかいかけたら、勝手に死んだん
だって…ぐぼっ!!」
衣服から露出した腹に、再び蹴りが打ち込まれる。
勝手に死んだと言われちゃ、殺された連中も浮かばれないわ。
息を吸うように人を殺すのが、組織指折りの問題児たちの性質。そんなものは出会った頃から織り込み済
みの話ではあるが。
踏みつける足に体重をかけつつ、さらに尋問は続く。
「調査ねえ。それは、お前らが『夢の国』でうろうろしてることと関係してんのか?」
「ばっ!のんたちだって、かはっ!遊園地くらい行きたいっての、がっ!!いいじゃんか、何年監禁され
たと、ぐえっ!思ってんだよ、っ!!!!」
リズミカルに繰り出される蹴りはまるで楽器か何かを奏でているようにすら見えるが、実際に聞こえるの
は「金鴉」のうめき声だけ。
452
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 00:51:46
「まあいいわ。取り合えず額面どおりに受け取っとく」
あれだけの足技を連発しても息を乱さない「鋼脚」。
ゆっくりと、蛙の轢死体のように地面にへばりつく「金鴉」の側にしゃがみ込む。
そして、伏せていた顔を無理やり手で起こしながら、
「なあ覚えてるか?うちらは似た時期に組織に入り、似た時期に『幹部』に昇格した。言わば、家族みて
えなもんだって言ったのを」
「お、覚えてるよ」
「だから、お前らが取り返しのつかないことをやらかしたら。今度こそ、『家族』であるあたしがケジメ
つけなきゃなんない。わかるな?」
身を縮めたくなるような、迫力。凄み。
「金鴉」は必死に首を上下させることしかできない。
「言ったな。あたしもこれで『最後』だ。次は…ないからな」
掴んでいた顎を放り投げるように、「金鴉」を打ちやる。
最早、糸の切れた操り人形のように力なく地面に転がるだけだ。
振り返ることもせず、倉庫区画を足早に立ち去った「鋼脚」、遠ざかりつつ思うことは。
「金鴉」「煙鏡」が何やら怪しげな動きをしている。
諜報部の手の者によって入ってきた情報をもとに、訊ねてみたものの。「金鴉」が腹芸のできる人間でな
いことは「鋼脚」自身よく知っていることだった。
もう片方のほうを締め上げたいけど、あいつは滅多にあたしの前に姿、現さないんだよなぁ。
453
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 00:52:44
組織きっての、策士。
紺野あさ美がDr.マルシェとして頭角を現す前は専ら「煙鏡」がその名を恣にしていたのは紛れのない
事実だった。一見無軌道に暴れたいだけ暴れているように見えても、脳天気な片割れとは違い彼女には明
確なビジョンが存在していた。
組織のスポンサーたちを激怒させたあの事件もまた然り。
結果的には彼らの信頼を大きく損ねることとなったが、「煙鏡」からすれば自分達の力を誇示する目的が
あったようだった。
以前、「鋼脚」は紺野にこんな話を聞いたことがある。
454
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 00:54:01
★
「私と、かーちゃん…『煙鏡』さんの違い、ですか」
「ああ」
それは「鋼脚」がとある任務を終えて、休憩ついでに紺野の私室に寄った時のこと。
その頃にはとっくに悪餓鬼二人は収監されてはいたが、何かの拍子にふとかつての同期を思い出したので
聞いてみたのだった。
「妙なことを聞きますね」
「あいつもお前も、こっちじゃなくて、『こっち』で勝負するタイプだろ? あたしにはそういう世界は
わかんねえから、気になってさ」
最初に自らの腕を指し、次に頭のこめかみを指す「鋼脚」。
手にしていたコーヒーカップを置き、湯気で曇った眼鏡を拭きながら。
「叡智の集積」は、ゆっくりと口を開く。
「単純に言えば。彼女の計画には常に、何らかしらの『意思』が込められているということ、でしょうか
ね。あれは、『悪意』と言い換えても差し支えないのかもしれません」
「…『悪意』ねえ」
「鋼脚」は悪童の片割れの顔を思い浮かべる。
悲惨な境遇のもとに生まれた、そう聞いている。もちろん、異能を持つ人間は多かれ少なかれ悲惨な経験
をしている。そんな環境において「悲惨な境遇」と称されるということは、その境遇がとりわけ凄まじい
ものだということだ。
一番最初に、同期として後の「鋼脚」「黒の粛清」「金鴉」「煙鏡」が顔を合わせた時。
年の割には派手な化粧をした彼女の、昏い瞳がやけに印象的だった。
この幼い少女は、ここへ辿り着くまでにどれほどの地獄を見てきたのか。そう思わせるだけの闇を、少女
は抱えていた。
455
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 00:54:58
その印象は、やがて薄まってゆく。
少女は瞬く間に組織に溶け込み、「鋼脚」自体、人の深部にそれほど興味を寄せる性質ではなかったから
だ。それでも、初対面の印象はいつまでも彼女の心に残り続けた。
「『悪意』を用いて策を為さば、結果は『悪意』の流れるままに進んでゆく。ただ、それも大海原を進む
ための羅針盤だと思えば、これほど頼もしいものはないでしょう」
「で? お前のはどうなんだ?」
「そうですね。同じように例えるなら、私のそれは方位磁石も海図も持たずに航海に出るようなものでし
ょうか」
悪びれずに、紺野が言う。
ただの無計画じゃねえか、言いかけた「鋼脚」の言葉はすぐに遮られた。
「私の航海に、そのようなものは必要ありませんからね」
なるほど。
天才の考えている事はわからない。
「鋼脚」が理解できたのは、そのことだけだった。
456
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 00:55:54
★
倉庫区画を出ると、奥手にある和式建築物が解体されている様が目に入る。
主が生きている間は「拝殿」と呼ばれ、崇められていた建物だ。
思えば、短期間の間に何人もの幹部が死んだ。
「不戦の守護者」「詐術師」「赤の粛清」。半死半生の「黒の粛清」を含めれば実に半数近くのメンバー
を失ったことになる。道理で仕事が増えるわけだ。「鋼脚」はこれからさらに厄介な仕事を増やしてくれ
そうな例の二人に、恨み節を呟かずには居られなかった。
ふと、鋼脚は自らの右の拳が疼くのを感じる。
見ると、拳の先が擦り剥け、うっすらと血が滲んでいた。
「なんだよあいつ、ちゃっかり反撃してるじゃねーか」
「金鴉」「煙鏡」、「黒の粛清」。そして「鋼脚」。
長い付き合いになる間柄で、もちろん互いの性格を把握していた。
だが、彼女たちでも知らないことがある。それはダークネスの幹部として立つ以上、絶対に知られてはな
らないこと。
「鋼脚」は「金鴉」の能力の仕組みを、知らない。
457
:
名無しリゾナント
:2014/12/10(水) 01:00:11
>>450-456
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
例の急所の貫通は急所を銃撃に脳内変換していただければ…
「冬の怪談」の内容に引きずられ過ぎてしまいましたw
458
:
名無しリゾナント
:2014/12/11(木) 19:02:58
■ クリングステルスストリング −田中れいな− ■
疾走する田中の足に、何かが触れた。
油断。
田中自身は、そう思うのだろう。
油断した。
きっと、そう判断する。
また、油断しとった!
しかし、警戒などできようものか?
『無い』はずのものを。
そこには何も『無かった』のだから。
足が、地面から離れる。
空中で、もがく。
転倒。
身動きが、取れない。
硬く、細く、それでいて弾力のある、何か。
一本ではない。
それは次々と田中に絡みつき…
459
:
名無しリゾナント
:2014/12/11(木) 19:03:36
「げっ!なん?」
これは俗にテグスと呼ばれる物だ。
ナイロン製、その太さも1mm以上はあるか。
大型の魚を釣り上げても、びくともしないその糸が、
山道の両脇、木と木の間、何条も張り渡されていた。
全力疾走していたとはいえ、そして、すでに日の暮れかける山道とはいえ、
こんな太い糸を田中が見逃すだろうか。
「って!なんこれ?くっつきよう!きもい!」
手に、足に、次々と糸が絡み、張り付いてくる。
糸の感触は、さらりとしたものだ。
接着剤のようなものが塗布されているわけではない。
にもかかわらず、まるで、磁石に吸い寄せられるかのごとく、
田中にへばりつき、はがせない。
もがけばもがくほど、新たに糸に触れる面積が増え、ますます糸に絡まっていく。
「くっそ!とれん!この!」
思い切り暴れる。
ガキさんとこまであとちょっと!あとほんのちょっとなのに!
「あははーひっかかったー」
ほんの一秒前まで、そこには誰もいなかった。
「ウッホウッホ!」
その声は田中の真正面から聞こえた。
460
:
名無しリゾナント
:2014/12/11(木) 19:04:11
油断した。
きっと田中は、そう判断するのだろう。
妨害者は、
「まだほかにもおったんか!」
一人とは限らない。
『馬』にはまだ、仲間がいたのだ。
461
:
名無しリゾナント
:2014/12/11(木) 19:04:57
>>458-460
■ クリングステルスストリング −田中れいな− ■
でした。
462
:
名無しリゾナント
:2014/12/13(土) 21:29:03
■ フェイクスマイル −新垣里沙− ■
「それでカメってわけ…」
「はい。」
ティーポットを水平に、くるくると回す。
「要は、誰にも邪魔されず、新垣さんと、お話がしたかった。」
二つのカップ、交互に注いでいく。
「その為の一番の障害が…」
新垣自身の【能力】
「ですから、強力な【精神干渉】を無力化する…
新垣さんが絶対に無茶ができない環境下に、
お話しする場を設ける必要がありました。」
カップの一つを新垣の前に。
「絶対に、とは言っても…そう、最初に申しあげておくべきでしたね。
これは、亀井さんも同意の上での作戦です。」
「…でしょうね」
亀井絵里は『強い』
意に沿わぬものであれば、これほどの干渉を許すはずがない。
「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「いいからそうゆうの」
463
:
名無しリゾナント
:2014/12/13(土) 21:31:03
ほのかな香りが漂う。
「んふふ…、新垣さんの目線で見れば、これは亀井さんがあなたを…
リゾナントのみなさんを裏切った、そうともとれますね。
ですので裏切り者に遠慮することは無い、無理やりにでも、
亀井さんの心を破壊してでも、この場を脱出する…
新垣さんほどのパワーなら、それは可能だと思います。」
その選択肢は、ない。
新垣には、亀井を壊すことなどできない。
壊そうと思えば、壊せる…だが、絶対に壊せない。
たしかに、新垣は、完全に無力化されていた。
(ほーんとにムカつくわーカメぇ…)
”亀井の姿をしたもの”が、角砂糖とレモンの小皿を促す。
新垣は軽く手を上げ、それを断る。
「それで、これ。『どこまでが』カメで『どこまでが』アンタなの?
こんなところに『これだけのものを』作って、本当にカメは大丈夫なの?」
テーブル越し、下に向けて指をさす。
そのままくるりと指を回し、上を差す。
「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「だからいいってそういうの」
464
:
名無しリゾナント
:2014/12/13(土) 21:32:37
肘をつく。
頬杖。
だが、その視線は、真っ直ぐ”亀井の姿をしたもの”を、射抜く。
「それと、これ最初にも聞いたことだけど、
アンタ、だれ?…や、というより、アンタ…『何』?」
『何』と新垣は尋ねる。
「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「べつにすごかないよ、『そうゆうとこ』とかで、さ。」
『だれ』ではなく『何』と…
「お察しの通りです。」
”亀井の姿をしたもの”が、んふふ…と微笑む。
「私は今、この場には居ません。」
偽物の顔、偽物の微笑…
「亀井さんの安全、それから、ここへ新垣さんをお連れした目的。
この二つを誤解無く理解していただくためにも…」
偽物の声が、紡ぎだす言葉は…
「まずは、私の【能力】について、『正直に』お話しします。」
465
:
名無しリゾナント
:2014/12/13(土) 21:33:22
>>462-464
■ フェイクスマイル −新垣里沙− ■
でした。
466
:
名無しリゾナント
:2014/12/15(月) 00:49:55
>>450-456
の続きです
●
その国は、東京湾岸地区に「突如」出現した。
もちろん、魔法を使ったかのようにいきなり出現したわけではない。
突貫工事により、僅か数ヶ月で建設、完成した夢の国。
雲の上の大陸。海底神殿。宇宙空間。はたまた中世の騎士の世界。
古今東西、ありとあらゆる伝承をモチーフとした乗り物や建物。
東京ドーム数十個分、という広大な敷地におもちゃ箱の中身を広げたようなアトラクションの数々が配備
され。夜になると瞬くイルミネーションで敷地全体が光に満ち溢れる。
知事はもとより、政界・財界があらゆる力を結集したレジャーランド。
数年後に控えた国際イベント目当てにやって来る観光客たちの目玉としての役目を与えられたその娯楽
施設は、人々からこう呼ばれた。
「リヒトラウム(夢の光)」と。
467
:
名無しリゾナント
:2014/12/15(月) 00:52:57
●
喫茶リゾナント。
この日は土曜日ということもあり、珍しくメンバー全員が店に集まっていた。
そんな中発せられた、複数の嬌声。
原因は、輪の中心にいる少女が持っているチケットだった。
「こ、これってリヒトラウムの入園チケットじゃん!!」
今にも白目を剥いて気絶しそうな顔をして、亜佑美が叫ぶ。
それも無理はない。開園前から半年先まで予約分だけでチケットは入手不可。ある意味プラチナチケット
に近い入場券を。優樹が持っていたからだ。それも、複数枚。
「どうしたんですか佐藤さん、これ」
そう訪ねるのは、さくら。
確かに一介の女子中学生が持っているにしては過ぎた代物だが。
「イヒヒヒヒ、商店街のー、お姉さんが話しかけてきてー、くじ引きで当たっちゃった」
「お姉さんのくだりはいらねーじゃん」
遥の突っ込みが冴え渡る中、どうやら優樹が商店街のくじ引きでその手にしたものを引き当てたというこ
とは全員が理解した。
「じゃあさ、みんなでリヒトラウム行こうよ!!」
香音の提案に、店内が一気にざわめく。
学校と喫茶店の往復が生活の大半を占める中、リヒトラウムのような大型施設に遊びに行くなどというイ
ベント、色めき立たないわけがない
468
:
名無しリゾナント
:2014/12/15(月) 00:53:55
「でもさ、それって何枚あると?」
「えーと、いち、にい、さん…きゅうまい!!」
「…9枚じゃうちら全員は行けんやん」
そんな衣梨奈の一言に、メンバーたちに落胆の色が広がってしまう。
メンバーは10人、チケットは9枚。必然的に、1人行けない人間が出てくる。
「あ、じゃあさゆみいいよ。みんなで行ってきな」
そう言ったのはカウンターで洗い物をしていた、リゾナントの頼もしき店主。
しかしそれで収まらないのがリーダーを敬愛する後輩たちの性だ。
「あっあの!私行かないんで、道重さん行ってください!!」
「鞘師さん!?」
「だって道重さんがいないうちらなんて、何か考えられないし、だったらうちが我慢して道重さんに行っ
てもらったほうが…」
「りほりほ行かないの?じゃあさゆみと一緒にご飯でも食べにいく?」
「え!!」
「あーっ、またみにしげさん鞘師さんばっかり!もうきらーい!!」
「やったら、もう一枚ゲットすればいいと」
「でも言うなればプラチナチケットですから、そんなに簡単には手に入らないと思いますよ」
チケットが足りないという事実に考え込む一同。
「もう一枚『作ればいい』けん、みずきお願い!」
「わたしそんな能力持ってないよー」
「わかった!まさがみにしげさんをリヒトラウムの中にテレポートして…」
「それは難しいだろうね。中でもきっとチケットの提示を求められるし」
ついには能力による禁じ手まで飛び出す始末。
これにはさしものリーダーも眉を顰めざるを得ない。
469
:
名無しリゾナント
:2014/12/15(月) 00:55:22
「あのね。前から言ってるでしょ。さゆみたちの能力は、そういう不正なことに使うべきじゃないって。
気持ちはうれしいけどね」
「でもそれじゃ道重さんが」
「別に今日が地球最後の日ってわけでもないんだし。みんなとはいつでも行けるから。そうだ、今日は今
のところ予定も無いしみんなで行って来たら?」
そこで、聖がはっとした顔になる。
一つの危険性について、思いが至ったからだ。
「でも、もし敵襲があったら…」
「確かに、そうですね」
春菜も聖の意見に頷く。
もしもさゆみが一人であることを狙って敵襲があったら。
そもそも、優樹がこのチケットを持ってきたのは敵の罠なのではないか。
そう思い聖がチケットの一つに手を触れる。
接触感応。チケットを通じ起こった出来事を読み取る。商店街を歩いている優樹。スーパーでお菓子を買
い、くじ引き券で抽選機を回し…
敵の罠というのは考えすぎのようだったが、それでもさゆみが一人になるというのは決して望ましい状況
ではない。
「さゆみなら大丈夫。だってさゆみには、『お姉ちゃん』がいるから」
言いながら、自らを指すさゆみ。
確かに、ダークネスの幹部クラスと互角に渡り合える「彼女」なら心配はいらないのかもしれない。しか
も今は「彼女」をさゆみの意思で自在に呼び出せる。
「じゃあ、お言葉に甘えて…遊びに行っちゃって、いいですか?」
遠慮がちにさゆみに視線を移す亜佑美。
その後ろで期待を隠し切れない顔をしている遥。
そして彼女たちの反応を見るまでもなく、当然のことに頷くさゆみ。
470
:
名無しリゾナント
:2014/12/15(月) 00:56:30
「いやったぁ!!!!!」
優樹をはじめとして、喜びを体で表現するメンバーたち。
その一方で、本当にいいのか、と表情を曇らすものもいた。
「道重さん…本当にいいんですか?」
降って湧いたような突然のイベント。
里保も、本当は某オーバーオールの髭親父のように天高くジャンプしたいくらい嬉しい。が。
本当にさゆみを一人置いていっていいものだろうか。
「りほりほ、さゆみが一緒じゃないから寂しいの? いつもは拒否してるくせに」
「いやっそのっそんなことは断じてないんですけど!ってこれは拒否してるってことの否定で、最初のほ
うのはそのあの」
突然妙なことを振られたものだから、里保はしどろもどろになり、消え入るような語尾で否定することし
かできない。
「逆に私たちのほうが狙われるって、可能性もありますよね?」
そんなことを言い出したのは、普段から独特の視点を持つさくらだ。
「確かに」
「でも、それを敢えて送り出すってことは。道重さんも私たちのことを信頼してのことだと思うんですけど」
さくらの柔らかいけれどしっかりとした主張に耳を傾ける面々。
そこでようやく里保も不安が緩んだのか、
「わかりました。でも、道重さんの身に何か起こるようなことがあったら…いつでも駆けつけますから」
と自分達に寄せているだろう信頼に応えるように、そう言い切った。
さゆみはありがとう、とだけ口にして目を細める。
471
:
名無しリゾナント
:2014/12/15(月) 00:57:32
本当に頼もしい後輩たちに成長した。
最初に喫茶リゾナントのドアベルを鳴らした時には、か弱い子供ばかりだったのに。
里保にしても、当初の何でも自分で背負い込もうとする身の堅さは徐々にだが取れて言っているように思
えた。それでもさゆみから言わせれば「まだまだ気負い過ぎている」のではあるが。
「でも」
そんなところに、聖が思い直したように言う。
「一応、高橋さんや新垣さんに状況だけは説明したほうがいいと思います。あと光井さんにも」
「そうだね。ありがとフクちゃん」
心配症とも言えるが、こういう時の聖の気配りはさしものさゆみも感心してしまう。
もし自分が何らかの理由でリゾナントを離れるとしたら、これほど心強いものはない。もちろん、彼女だ
けではない。9人のリゾナンター全員が、次の時代を託すほどの成長ぶりを見せているし、さゆみ自身も
そのことを実感していた。
「その時」が訪れる事を。
さゆみも、9人のリゾナンターたちも、まだ知らない。
472
:
名無しリゾナント
:2014/12/15(月) 00:58:26
>>466-471
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
473
:
名無しリゾナント
:2014/12/20(土) 01:36:08
>>466-471
の続きです
●
喫茶リゾナントからそう遠くない場所にあるマンション。
その一室に、光井愛佳が構えている事務所があった。彼女の生業は、所謂何でも屋。
迷い猫探しから、要人警護までをモットーに。今では海外進出をも視野に入れ、ニュージーランドと日本を
行ったり来たり。ちなみに事務所の代表は愛佳で社員も愛佳一人。人手不足はリゾナントの後輩たちに補
ってもらっている。今のところ、海外で得た英会話力を生かせるような仕事は、舞い込んで来てはいない。
愛佳の携帯電話が、鳴る。非通知。依頼者だろうか。
今日はいつになく忙しい。普段は一日一件くらいの依頼が、今日に限って10を超える本数。同業者に聞
いたところ、都内のその手の「能力者」たちが何らかの用事に掛かりっきりなのだと言う。どちらかと言え
ば暇を持て余している愛佳のような個人営業者には願ったりな状況ではあるが。
「お電話ありがとうございます。『痒い所に手が届く』でおなじみの、ミツイシークレットサービスです。何か
お困りですか?」
つい最近決めた宣伝文句を、淀みなく読み上げる愛佳。ついでに社名も横文字にしてみた。
何でも屋と言っても、サービス業。感じの良い第一印象が、いい仕事に繋がる。
不安や緊張で一杯の依頼者も、この一言で堅い表情を崩し…
474
:
名無しリゾナント
:2014/12/20(土) 01:37:32
「……」
無言。
まあ、ない話でもない。
愛佳に掛かってくる電話の20人に1人くらいはこの手の輩だ。彼らは、無言の後にいきなり本題を切り
出すことが多い。「本当に何でも請け負うのか」「少々後ろ暗い案件だが」。非合法活動に関しては有無
を言わさずノーを突きつける、故にお決まりの常套句が飛び出た時点で電話を切ることにしていた。が。
「予知能力を失って、それで何でも屋ねえ」
聞こえてくるのは、少女の声。
いや、声質は問題ではない。「予知能力」。愛佳が失って久しい能力だ。
業界広しと言えど、愛佳の「かつての素性」を知っている人間はそうはいない。
「…あんた、何もんや」
「これから、そっち遊びに行ってもいい?」
「あほか。お断り…」
愚にもつかない問いかけを鼻で嗤おうとした愛佳が、思わず携帯を強く握り締める。
目の前には、携帯電話を耳に当てたポニーテールの少女がいた。
ドアが開いた形跡はない。彼女は誇張でも何でもなく、突然現れたのだ。
「お前!いつの間に!!」
「あはは、遊びに来たよ」
まるで知り合いであるかのように、軽く手を上げて挨拶する少女。
垂れ気味の大きな目、にっと笑った口からは八重歯がこぼれ出る。無邪気な少女、のように見えるが。
475
:
名無しリゾナント
:2014/12/20(土) 01:41:38
どこからともなく、湧き上がる寒気。
愛佳の本能が、最大限の警鐘を鳴らしていた。
見た目はガキンチョみたいな格好をしてるが、こいつは危険や。
手が、自然に机の引き出しの裏へと伸びる。
「正義の味方を気取ってた、かつてのリゾナンターが拳銃だなんて反則じゃない?」
「なっ!!」
「別にあんたと争うつもりはないって。今日はただ、あんたに『会いに』来ただけなんだからさぁ」
少女が、一歩前へと踏み出す。
愛佳の拳銃は、まっすぐに少女の頭を狙っていた。
「これ以上近づいたらほんまに撃つで!!」
銃口を前にしても、少女は顔色一つ変えない。
一瞬にしてこの場所に現れた手口からして、相手は間違いなく能力者だろう。
つまりこの拳銃が愛佳の身を守る保障など、どこにもない。
ただ、相手を怯ませることはできるかもしれない。愛佳はこの場からどう逃げ失せようか、頭の中でシミ
ュレートする。
正面突破は難しい。ならば、背後の窓を突き破り…
「言っとくけど、逃げても無駄だから」
「ちっ…お見通しっちゅうわけか」
それなら、と愛佳は考える。
相手を撃つと見せかけて、背後の窓ガラスに銃弾を撃ち込むか。人間、不意の行動を見せられれば一瞬の
隙ができる。勢いのままに窓から身を投げれば、この場からは逃れられる。今の時間帯なら、人通りも多
いはず。その中で物騒なことをするほど、目の前の相手が馬鹿ではないと信じたいところだが。
476
:
名無しリゾナント
:2014/12/20(土) 01:43:05
「うちに何の用や。いくらうちがトリンドル玲奈に似てるからって、芸能事務所のスカウトならお断りやで」
「はぁ…能力を失ったあんたになんて、のん興味ねーから。それに、距離は『これくらいで十分』だし」
「何言うて…」
そこで愛佳と少女の目が合う。
全身の毛穴が、痙攣するかのような感覚。
この目は。目から放たれている異常な力は。
精神干渉。
「くっ!やめろや!!うちの中に、入ってくんな!!」
「無駄な抵抗すんなって。こっちはさっきクソガキに力使ったせいで、疲れてんだからさ」
少女の背後から、いくつもの透明な手が伸びてきて愛佳の心に触れようとしている。
その光景は、あくまでも愛佳のイメージによるもの。しかし少女の「能力」は確実に愛佳を侵食しつつあった。
「…なめんな…リゾナンターだったうちを舐めんなやぁ!!!!!」
精神干渉に抗う術は、たった一つしかない。それが、心の強さ。
相手の能力に飲み込まれまいと、必死に心の根に力を込める。能力者同士の場合、簡単には相手の精神に干渉
できないのはこのためだ。
かつて、己の心の弱さから自らの命を絶とうとした愛佳。
だが、稀有な出会いが彼女を変えた。能力がなくなったからと言って、あの日々に得た心の強さまでは失われ
ていなかった。
だから、愛佳は抵抗する。呑まれたら、終わりだ。
477
:
名無しリゾナント
:2014/12/20(土) 01:43:39
「…うぜえ。さっさとやられろよ、ばーか」
「ぐっ!!!!」
次の瞬間。
少女から愛佳へともの凄い勢いの風が吹き荒れる。
パーテーションが倒れ、ハンガーポールがなぎ倒される。
愛佳の背後の窓ガラスが破壊され、机の上の書類が派手に吹き飛ばされた。
「くそっ、これ全部レンタルやぞ!!」
「だからさぁ、うるせえよ」
言いながら、少女が愛佳のほうに自らの掌を向ける。
吹き付ける向かい風に、思わず目を細めたその時。
少女の姿は、跡形も無く消えていた。
「な…」
愛佳は思わず、部屋を見渡す。
パーテーションも、ポールハンガーも無事だ。
書類もきちんと、机に整理されている。
うちが見たんは、幻だったんか…?
彼女の推論、しかしそれは彼女自身に残る恐怖心が否定する。
確かに先ほどまであの恐ろしい存在は、この場所にいた。それだけは、間違いない。
あの少女は一体…
478
:
名無しリゾナント
:2014/12/20(土) 01:44:19
少女?
果たして、自分が見たのは本当に少女だったんだろうか。
突如浮かんできた設問に、頭が混乱する。
まるで頭の中が急に靄がかったような感覚、記憶が記憶として信じられない。
「くそが!あいつ、うちに何をした!!」
湧き上がる怒りで、思わず机を叩く。
「あ」
それは、愛佳にとって久しく忘れていた感覚だった。
意識が遠くなり、今の自分とは遠く離れた場所にもう一人の自分がいるような錯覚を覚える。
「眩い光」「幻想の世界」「九人の少女」「赤」「終わり」
情報は断片的に降り注ぎ、彼女の中で少しずつ形を成していった。
「!!」
そして完成されたビジョン。
先ほどの闖入者のことなど、どうでもいい。
一刻も早く、このことを伝えなければならない。
愛佳は携帯を再び手に取り、震える手でボタンを押し始めた。
479
:
名無しリゾナント
:2014/12/20(土) 01:44:54
>>473-478
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
480
:
名無しリゾナント
:2014/12/26(金) 23:15:55
「痛ったい!痛ったぁああい!
血が!血が出てる!まりあ絶対血が出てるううう!」
脚を刺された真莉愛がピーピーと泣き喚く。
「そりゃ出るでしょ。刺されたんだから。」
何とも冷静な朱音。
「すぐ治せばいいよ。痛いの飛んでけだよ。」
言いながら自身の治癒能力を発動させる。
「真莉愛ちゃんの怪我は、たいしたことなさそうです。」
後ろに一瞥することなく美希がつぶやく。
その隣の少女に向かって。
「ひゃー。あぶなあぶな。
あれやな、連中殺す気やな、うちら。
やばー!ピンチやー!」
481
:
名無しリゾナント
:2014/12/26(金) 23:16:33
はんなりとした関西訛り。
春水が胸をおさえ、芝居がかって後ろにのけ反る。
「ですね。もう後ろに抜かれるわけにはいきません。」
「や、ちゃうねん。さっきな、もうひとりおってな、そんでな」
「春水ちゃんのせいだって言ってないです。」
「そ、そうやねん。」
「数が多すぎますからね」
「そうそう、そうやねんて」
「でも、このままだと全滅です」
「そうそう…それは困るなぁ」
「全滅はしない。」
真莉愛の治療を終え、朱音が立ち上がる。
「はいおしまい。治った。」
そして、まだ足元で
ばたばたと痛がっている真莉愛に、
冷たく言い放つ。
「真莉愛ちゃん立って。もっかい『あれ』やって。」
涙目で、ばたついていた真莉愛が
その一言でぴたっと止まる。
「ィェア。さっきのやつですね。」
「そやで、うちらが勝てるかどうかは…」
482
:
名無しリゾナント
:2014/12/26(金) 23:17:18
真莉愛が立ち上がる。
先ほどまでの彼女とは、まるで…
「まりあにかかってる」
10…20…いやもっとだ。
無数の敵が包囲の輪を狭める。
第二陣が来る。
「なんでこんなんなってもうたかようわからんけど、まあ」
「ええ、彼女がいてくれてラッキーでした」
「そう、あの子が”勝て”と命令すれば…」
真莉愛が前方を指差す。
483
:
名無しリゾナント
:2014/12/26(金) 23:18:48
3人の背中を『あの感覚』が突き抜ける。
いまみせろ
お前の底力を
「これこれ!これ!来たで!来たで!」
「アイムシュア!パゥワーが漲ります!」
真莉愛の能力。
彼女の祝福を受けたものは、すべからく”勝利”する。
”勝利”以外を許さない。
「ほな野中ちゃん行くで!」
「オフコース!ヒゥイーゴー!」
突き進め
勝利を掴み取れ
484
:
名無しリゾナント
:2014/12/26(金) 23:21:24
>>480-483
パンケーキ異聞
でした
485
:
名無し募集中。。。
:2014/12/30(火) 13:10:32
>>473-478
の続きです
●
「…テーマパークでお楽しみか。いい気なもんね」
皮肉交じりに、花音が呟く。
テーマパークのイメージキャラクターである猫とも鼠ともつかない動物をあしらった植え込み、それを囲む
ように。
日常生活では滅多にお目にかかれない、幅が100メートル近くはあるかと思われる円形状の階段。そこ
を昇りきれば夢の光溢れる楽園はすぐそこだ。
そこを行き交う、楽しげな人々。風船を配っている、イメージキャラクターの着ぐるみ。
絵に描いたような、幸せの風景。
一方、不安な様子で花音の様子を窺っているのは、先日「スマイレージ」の正規メンバーとして認定された
四人の少女だ。認定と言っても、どこかのお偉いさんが決めることではなく。単に先輩である彩花と花音が
正規メンバーに相応しい能力者であることを認めた時に、彼女たちは「スマイレージ」のメンバーになった。
しかしこれも適当な表現ではない。
もともと彩花は今回の彼女たちの昇格にまったく関わっていない。全ては花音の独断で四人を正規メンバ
ーとして選び、そして「リヒトラウム」へと同行させたのだ。
486
:
名無し募集中。。。
:2014/12/30(火) 13:11:31
「福田さーん、こんなとこまで来ていったい何するんですかぁ〜」
泣き言のようにそんなことを漏らすのは、芽実。
「言ったじゃん。中で暢気に遊んでるリゾナンターたちに現実を思い知らせてやるって」
「それって、うちらがやらなあかんことですかね?」
「ま、正式な任務じゃないんだし。適当にやろうよ」
「りなぷーはいつも適当じゃん」
異議を唱えるも、花音の気迫に押され押し黙ってしまう香奈。
気の抜けた声を出す里奈。
そして突っ込みを入れる朱莉。いずれも、その表情を窺い知ることはできない。
なぜなら。
「あーっママ、あんなとこにオバマがいるよ!」
「テレビの撮影か何かとか?ちょーうける」
「何だありゃ…ドンキで買ってきたんじゃね?」
何故か歩いてるだけで周りの注目を集める五人組。
彼女たちは各々が、パーティーグッズ用のラバーマスクを被っていた。
「これさぁ、超はずいよぉ」
「いいじゃんめいめいはマイケルだし。こっちなんてマツコだよ?最悪」
「1、2、3、ダーッ!!」
「かななんうるさっ!てかこの馬マスクちょーくさっ!!」
487
:
名無し募集中。。。
:2014/12/30(火) 13:13:04
やいのやいのと騒いでいる年下たちを見て、やや心配になる花音だが。
彼女たちの実力は信頼するに値する。「赤の粛清」の封じ込めに関しては四人の協力なくしては成しえなか
った。
例のリゾナンターたちにひけを取るとも思えない。
9人の中の要注意メンバーにそれぞれぶつけてしまえば、残りの連中など花音一人で事足りる。勝算のない
戦いは、決してしない。
「ちょ、ちょっと君たち!!」
入場門のゲートを潜ろうとしたその時。
不意に、慌てた声に呼び止められた。
花音はその男を値踏みするかのように、上から下へと目線を移す。
「この注意書きを見てないの?フルフェイスのヘルメットやそういうマスクをつけたままの入場はお断りだ
って、あそこに書いてるでしょ!!」
青の制服に身を包んだ、初老の警備員。
遠巻きに、リヒトラウムの設備スタッフと思しき男女数名がこちらのほうを見ている。
ラバーマスクの集団がご入場とあっては騒ぎになるのも当然だ。
花音はラバーマスクの中から、男に視線を向ける。
こんな男の制止など、何の意味もない。
488
:
名無し募集中。。。
:2014/12/30(火) 13:14:58
「警備員なんて、所詮かかし以下の存在…ですよねぇ?」
「はぁ?」
「疑うことなく…信じるにょん」
花音の呟き。
それはまるで小石を放たれた池の水のように、波紋を広げてゆく。
彼女のことを見ていた人たちの瞳から、瞬く間に色が失われた。
「…はい、チケット5枚…確認しましたぁ」
「…夢と光の幻想世界、リヒトラウムへ、ようこそ…」
警備員は本当にかかしになったかのように微動だにせず。
また、スタッフたちも虚ろな目をして次々と歓迎の挨拶をする。
大手を振ってテーマパークに入場してゆく、仮装集団。
その姿を一部始終、眺めているものがあった。
リヒトラウム中央コントロールセンター。
「東京ドームが何十個分」などと表現されるやたら広い敷地を、文字通り管理しているのがこのセンターで
ある。防災・防犯をはじめとしたありとあらゆる危機管理に対応するために設置されたこの場所は、まさに
リヒトラウムの「眼」。
その無数にある眼の端末の一つが、奇妙な来客の姿を捉えていた。
「おいおい、何だこいつら」
それまで退屈そうにモニターを眺めていた警備員の一人が、声を上ずらせて口にする。
尋常ではない事態に警戒するとともに、感情が高揚しているのが見て取れた。
489
:
名無し募集中。。。
:2014/12/30(火) 13:16:05
「なんだぁ?マツコにオバマにイノキとマイケル…馬? ふざけた奴らだな。現場の奴は何やってんだ、こ
んな連中通しやがって」
もう一人の警備員は不快なものを見る目つきで、画面を凝視する。
二人がモニターに集まっているのを見た他の警備員たちも、一斉にそこに群がり始めた。
「こいつら子供だろ。背も小さいし」
「まったく最近のガキときたら。どういう教育してやがるんだ」
「俺が行くわ。ちょっとデカイ声出して怒鳴り散らせば、泣いて謝るだろ」
一人の屈強そうな警備員がいざ往かん、と立ち上がりかけたその時。
部屋の奥のほうで。
「そいつらは、あんたたちじゃ無理だね」
パイプ椅子に深く腰掛け、カーキ色のツナギ状の服を着た女が言う。
肩のところで、緩くカールのかかった髪。一重に近い、幅の狭い二重。ぼーっとしているような、困ってい
るような。表情が読めないとでも言うべきその女は、言いながら手にしていたビニール袋からメロンパンを
もそもそと食べ始めた。
「あんた、そりゃ一体どういう…」
「そのオバマの子が『能力』、使ってたから」
「い!の、のうりょく!!」
目を白黒させ泡を吹く勢いなのは、女の傍らに立っていたスーツ姿の中年だ。
彼は、リヒトラウムの警備部門の責任者だった。
490
:
名無し募集中。。。
:2014/12/30(火) 13:17:37
「能力と言うとあの、その。テトラポットを海に浮かぶ船に投げつけたりとか」
「何それ。今使われたのは、精神操作系かな」
砂糖のついた手をぱんぱんと腿で払い、女が立ち上がる。
「こんな場所で物騒なこと、する人もいるんだね。じゃ、行ってきます」
それだけ言うと、ゆっくりとした足取りで部屋を出て行ってしまった。
終始落ち着かない言動の男とのやり取りを黙って見ていた警備員の一人は、おずおずと責任者に話しかける。
「あの…今のは一体? 我々、あの子はリヒトラウムのお偉いさんの御令嬢だって聞いてたんですが」
「よせ。詮索はするな。『アレ』は、我々のような普通の人間が関わったらいけない人種だ」
「え?それってどういう」
「堀内会長にクビにされるぞ。いや、クビならまだましなほうか」
「堀内って!あの、リヒトラウムに出資したベーヤンホールディングスの…!!」
「とにかくだ。今から室内の全てのモニターを切っておけ。一切の責任は私が持つ」
すっかり憔悴しきった責任者に、最早言葉すらかけられない警備員。
そう言えば、と彼は思い出す。
リヒトラウムの地下には、秘密がある。この広大の施設の地下は、国家を超えた巨大な権力によって秘密基
地と化しているのだと。
都市伝説もいいところの、根拠のない与太話。
実際存在を確かめようと、数人の若い警備員たちが肝試しがてらに地下の設備を無断で探検したものの、そ
こにはコンクリートの壁があっただけだと言う。
もちろん、そんな都市伝説自体は誰も歯牙にすら掛けない。
が。彼は思う。このテーマパークには、「何かがある」のではないか。
そんな漠然とした不安も同僚が責任者の滑稽な慌てぶりを茶化す耳打ちによって、あっという間に消えて
いってしまった。
491
:
名無し募集中。。。
:2014/12/30(火) 13:18:26
>>485-490
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
492
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:16:53
●
「うわぁ…」
先程から、目を輝かせて天井を見上げている里保。
それを隣で見ている香音はにやにやが止まらない。
二人は今、リヒトラウムが誇る大アトラクションである「ギャラクシー」に乗るために、長蛇の列に並んで
いるところ。宇宙空間に見立てたドーム状の巨大な建物の中を、10人乗りのコースターが縦横無尽に駆け
回る。特筆すべきは、CG技術と精巧なオブジェによってまるで本当の宇宙空間にいるのではないかと思え
るほどのリアルさ。これだけの列ができるのも頷ける話だ。
ちなみに列に並んで待っている間も、真っ暗な通路の上下左右全体に宇宙空間が映し出され、瞬く星たちや
巨大な惑星、美しく流れる彗星を楽しむことができる。里保が子供のようにはしゃいでるのは、その演出の
せいでもあった。
一度剣を構えれば、他を寄せ付けない圧倒的な実力を誇る里保。
「水軍流」という歴史ある流派の担い手であるが故に、武に明け暮れる日々を送っていたのかと思いきや、
どうやらそうでもないのだという。
じいさまと遊んでいるうちに、自然と身についた。実に簡素な言葉で、里保は香音にそう教えてくれた。
遊ぶくらいで千年を超える歴史の超武術が身につくくらいなら、かのも習いたいっての。そう思わずには
いられない。
493
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:23:42
まるで珍しいものを見るかのようにずっと首をあげている、そんな彼女の姿を見ていると、嫉妬交じりの感
情も薄れていってしまう。普段は年相応の子供らしさを抑えて、無理をしているようにすら見えてしまう里
保。今のリゾナンターの攻撃の要が彼女をおいて他にいないという事実がそうさせているのだろう。
だから、こういう時くらいは素直に羽目を外していただいたほうがいいのかもしれない。まあ、香音から言
わせて貰えば、普段の里保も十分子供っぽい上にドジっ子なのだが。
というわけで、普段は滅多に見られない彼女の肩肘張らない姿を香音は楽しんでいる。
ただそれも、長くは続かなかった。
空気が、急に変わったような気がした。
香音はすぐに、それが目の前の親友のせいだと理解した。
彼女の直感は正しい。先ほどまで無邪気にはしゃいでいた里保の姿はもう、どこにもない。香音の目に映る
は、一人の剣士。
驚いているのは香音だけではなかった。
里保を一瞬にして剣士へと変えた、張本人。
勝田里奈は、右手首を押さえながら舌打ちをする。
494
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:24:37
こいつ、私のことが見えてるのか?
里奈の能力は、「隠密(ステルス)」。
能力の射程距離にあるこの通路にいる限り、彼女の姿を視認するのは不可能だ。
…まさか、殺気だけで?
推測は当たっていた。
里保は、背後から迫り来る殺気に反応し、そして腰の鞘を後ろに思い切り押し込んだのだ。
まるで見えているかのように、正確にナイフの持ち手を打ち抜こうとする鞘先。咄嗟に手を引いたからまだ
打撲で済んだものの、まともに当たっていれば手首の骨を砕かれていただろう。
それでも、里奈は余裕の笑みを見せる。
なぜなら。
「あれ。うち、何で…?」
里保は辺りを見回し、そして首を傾げる。
彼女の脳内は、彼女自身が取った行動に混乱していた。
里奈のステルス能力の真骨頂。
それは、彼女の存在だけではなく、彼女の取った行動すら、相手の脳内から消してしまうことにある。
つまり、今の里保は「なぜ自分が刀の鞘を後ろに突き出したのか」が理解できない。
これは戦いにおいて致命的とすら言えよう。
495
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:25:13
極論を言えば。
頬を切り裂かれようと。
腿を抉られようと。
そして心臓を一突きにされてもなお。
里保はなぜそうなったのか理解できないまま、死を迎えるということ。
相手がわずかな殺気に対しても鋭く反応するのはわかった。
しかし、そんなものはいくらでも対策が打てる。
里奈は心を鎮め、一歩ずつ、そして確実に里保へと近づいていった。
里保は、じわりじわりと迫る危機に、気づくことさえ許されない。
496
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:26:31
●
花音の放った刺客たちは、他のリゾナンターたちにも既に接触していた。
ホラーハウス仕立ての建物内を、かぼちゃ風のゴンドラで移動するアトラクション「ミッドナイトハロウィ
ン」。
お化け屋敷は絶対に嫌だ、と残留した遥と優樹。特に遥は普段の強気はどこへやら、涙目になって必死に訴
えてきたせいでたった一人でかぼちゃのゴンドラに乗る羽目になった亜佑美は。
一人しかいないはずのゴンドラで、見知らぬ少女の訪問を受けていた。
「あんた、誰よ」
「誰よって言われましても」
のんびりとした、関西のイントネーションで喋る同乗者。
薄手のセーターから、白い肌を覗かせている。おっとりした態度からは敵意は見えないが。
そもそも。亜佑美は首を振る。乗り場で乗った時は確かに一人だったのに。
「うちの能力で、みなさんがどこにいるかはすぐにわかりました。鞘師さんは、宇宙エリアに。譜久村さん
は冒険エリア、生田さんはショッピングモール…そして石田さんは、ここに」
「あたしたちの名前を知ってる…何が目的?」
「つまり、4人の要注意人物にうちらが宛がわれたってことです」
「いいから答えなさいよ!!」
497
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:27:49
問答無用。
亜佑美は即座に蒼き鉄巨人を喚び出す。丸太ほどの太い腕が、ゴンドラをまるで豆腐のように叩き潰した。
箱が拉げるその前に亜佑美はゴンドラから脱出し、軌道レールから外れる。
非常灯の明かりのおかげで完全に暗くはなっていないが、視界が悪いことには変わりない。
「ひどいわぁ。いきなり仕掛けてくるなんて」
レールから脱線しぺしゃんこになったゴンドラから、少女が這い出てくる。
見たところ、まったくの無傷。いきなり現れた経緯から予測はついていたが、やはり何らかの能力者か。
「だってあんた敵でしょ」
「まあそうなんやけど…」
身構える亜佑美の前で、刺客の少女 ― 中西香菜 ― は両手から何やら白い靄のようなものを生み出し
てゆく。
そして。
「論より証拠や。もっぺん、うちのこと殴ってみてくださいよ」
「はぁ?」
これは明らかに、挑発。
先程のようにバルクの一撃を防ぐばかりか、逆に何らかの罠を仕掛けるつもりか。
ならばこちらにも考えがある。
498
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:28:54
「カムオン、リオン!!」
打撃が効かなければ斬撃。
陽炎のように揺らめきながら現れた蒼の獅子は、大きな唸り声とともに香菜に飛びかかるが。
まるで香菜の目の前に大きな壁でもあるかのように。
リオンは大きく弾かれ、回転しながら亜佑美の前で着地する。
「結界、っちゅう奴です。あんたの操る見えざる獣の攻撃はうちには効きません」
香菜が目を細め、にぃと笑う。
嫌な奴だ。自分の優位を疑うことすらない。
「効かないかどうか…やってみないとわからないでしょ!!」
大地が揺れ、青甲冑に身を包んだ巨人が姿を現す。同時召喚。
負けず嫌いの亜佑美の心に、火が付いた。
499
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:29:53
●
リヒトラウムのほぼ中央に、テーマパークのシンボルとも言える建造物があった。
「シャイニーキャッスル」と呼ばれるそれは、まるで中世の城そのもの。夜ともなると、城壁に散りばめら
れた照明が輝き、文字通りの輝く城と化す。
その城門の前に、人だかりがあった。
観光客、ではあるのだが、みな一様に目の光を失っている。
彼らを侍らせているのは。
「シンデレラ、なってみるとずいぶん呆気ないものね」
花音は、嘲笑交じりに輝く城を見上げる。
城の前で多くの人間を従えている現状を、おとぎ話の姫に準えているのだ。
「さて。りなぷー、かななん、めいめい、それにタケ。あの子たちの戦い…どうなると思う?」
花音が傍らにいる女性に話しかける。
その女性は生気のない表情で、
「それはもちろん、まろ様の勝利でございます」
と機械仕掛けの人形のようにそんな台詞を口にする。
満足そうな笑みを浮かべた花音は、その女性の顔を思い切りひっ叩いた。
抵抗することなく平手打ちを受けた女性は、表情を変えることなく、同じ言葉を繰り返す。
500
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:31:11
「これだから操り人形はつまらない。てかまろって何。何か高貴な感じだから別にいいけど。私の考えは…
聞きたい? どうしようかなあ…しょうがないから特別に教えてあげる。ぶっちゃけ…五分五分ってとこかな」
現在の戦力を、最も効果的な相手にぶつけたつもりだったが。
勝負事はどうひっくり返るかわからない。その意味においての、五分五分。
もちろん花音は勝算のない戦いなどしない。矛盾しているように見えて、決してそうではない理由。
策は、いくつも講じるものだ。
自分たちを「生み出した」白衣の科学者はそう言っていた。
確かにその通りだと思う。例え予想外のことが起こったとしても。
最終的に、花音自身が勝利すればいいだけの話。
四人がそれぞれの相手をを負かしてくれればそれに越したことはないが、しくじった場合でも。
リゾナンターがこの場所まで来れば、何の問題もない。
一つだけ、気がかりなのは。
リヒトラウムの警備について。
どういう繋がりかは知らないが、このテーマパークの警備を、例の金儲けが得意な能力者集団が担当していると
いう。
もちろん多忙な連中のことだから、テーマパーク如きに割く人員など1人が関の山だろう。
ただ、それが連中の言うところの「位の高い能力者」ならば面倒だ。できればそいつとの接触は避けたい。
「さて、誰が一番に私のところに辿り着けるかな」
そう言いつつも、花音は知っていた。
誰が最初に、自分の目の前に現れるのかを。
501
:
名無しリゾナント
:2015/01/10(土) 10:32:18
>>492-500
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
本年もよろしくお願いします
502
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:37:22
>>492-500
の続きです
●
リヒトラウムに入園してすぐのところに、ショッピングモールが広がっている。
リゾナンターのおしゃれ番長こと衣梨奈と春菜は、ショッピングの真っ最中だ。
とは言え、仲良く二人でお買いものというわけでもなく。
衣梨奈は既に、単独行動。グッズのあれやこれやをカゴに詰めている。
はぁ…新垣さんと一緒に行きたかったなあ…
リヒトラウム行きが決まった時、衣梨奈は真っ先に里沙に電話をしたのだが。
忙しいのか、電話がまるで繋がらない。そもそも、プラチナチケットと名高いリヒトラウムの入場チケットが
そう簡単に手に入るわけがないのだが。
やや沈み込む気持ちも、目ざとく発見した豹柄グッズを見るや否や。
人だかりをかき分けるようにグッズコーナーに突入してゆく。
そんな衣梨奈の姿を遠目で見ているものがあった。
何てことはない。同行者のはずの春菜だ。
503
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:38:48
生田さんは買い物する時は面倒やけん、ばらばらでよかろ? とか言ってたけど。
春菜は、遊園地に入った時からずっと警戒を緩めていなかった。
何せこれだけの巨大なテーマパークだ。この中で物騒なことをしようなどという輩はそうはいないだろう。
それでも、一抹の不安はぬぐえない。入園した時の、聖の表情を見て確信した。
自分より年下だけれど、先輩でもある彼女は既に身構えていたのだ。
グループの攻撃の要だったれいなが抜け、リゾナンターは新しい体制になった。
そして新たに聖と春菜が、「サブリーダー」として任命された。春菜は、かつてサブリーダーだった里沙のこ
とを思い出す。
リーダーの愛を支え、盾となり、時にはリーダー不在時の代行として指導力を発揮していた姿をは、今でも春
菜の心に焼き付いている。
重責だ。自分にはとてもではないが務まらない。
だが、そんな弱音を吐いている暇などない。ダークネスという脅威は常にリゾナンターの近くにあるのだから。
ダークネスだけではない。先日亜佑美とさくらが襲われたように、リゾナンターを倒して名を上げようとする
輩などいくらでもいる。
春菜の思惑など、つゆ知らず。
大量に買い物をした衣梨奈は、カウンターで会計を済ませようとしていた。
「いらっしゃいませ。お買い上げ、誠にありがとうございます」
レジ係の少女が、やや大げさな口調でそんなことを言いながら商品にバーコードリーダーを当て始める。その
間、自分の財布を開き中身を確認する衣梨奈。いざという時ははるなんに借りればいっか。などという後先考
えない思考をしていると。
504
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:40:03
レジ打ちの少女が、こちらを見ていることに気づく。
「あの、えりの顔になんかついてると?」
「いいえ、お会計でございます」
「は?」
「お会計は…あなたのお命でございます」
身構えるよりも先に、少女の行動のほうが速かった。
カウンターを飛び越え、衣梨奈の手を後ろに固める。
さらに両脇から突如現れた二人組に両脇を抱えられ、声を出す間もなく拉致されてしまった。
尋常ならざる状況。
春菜はいち早くそのことに気づき、追いかけようとするも。
「はーい、ここから先は通しませんよ」
「な!どいてください!!」
前に立ちはだかる少女の顔を見て、春菜はぎょっとする。
何故なら、彼女の顔は。先ほどレジを打っていた少女と瓜二つだったからだ。
さらに。その少女は春菜の目の前で煙のように消えてしまう。
見失った!?
相手の衣梨奈を攫う手際のよさ。そして先ほどの姿の消え方。
相手は能力者で、自分達に敵意を持っている。
春菜はそう判断した。ならば話は早い。
505
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:41:12
五感強化。
聴覚と嗅覚を、徐々に高めてゆく。
得られた情報を統合し、春菜はカウンターの奥にある従業員室へ目を向けた。
あそこに生田さんがいる。素早くカウンターをすり抜け、扉の前で再び聴力を上げてゆく。呼吸音が、複数。
そのうちの一つは紛れも無く衣梨奈のものだった。
ゆっくりとドアノブに手をかけ、力を入れる。
ノブは抵抗無く、くるりと回った。鍵をかけていないのか。
罠か、それとも。中の衣梨奈は怪我のようなものは負ってはいない。心臓の鼓動も乱れてはいなかった。春
菜は、部屋の中に突入する事を決意した。
「生田さん、大丈夫ですか!!!」
意を決し、部屋の中に飛び込む春菜。
そして、思わず目を疑った。
OL風。ナース。劇団四季風。そして普通の格好をした少女が四人。
同じ顔。けれど、驚くべきなのはそこではなかった。
「はるなん、助けに来てくれたと!!」
「もう安心っちゃね!!」
「衣梨奈は何もされとらんよ」
「いつでも臨戦態勢やけん!!」
生田さん、いつから四つ子になったんですか。
思わずそんなボケをしてしまいそうなほどに、目の前の光景は現実味にかけていた。
同じ顔をした衣梨奈が、四人。
けれど、夢でもなんでもない。
強いて言うなら、悪夢だ。春菜は目が眩みそうになるのを堪え、不敵に笑う少女たちのほうに視線を向けて
いた。
506
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:42:04
●
一方、さくらと一緒に行動していた聖は。
ピラミッドを模した建物を探索するというアトラクションを楽しんでいる途中で、何者かに拉致されてしま
う。聖の前を歩いていたさくらは、当然それに気づかない。
口を塞がれ、身動きすら取れないままさくらの遠ざかる後姿を見送ることしかできない聖。
体を捩っても、見えない拘束は外れそうにもなかった。
「あなた、一体どういう…!!」
ようやく塞がれていた口が開放される。
しかし抗議した聖が見たものは。
「え?きゃああああっ!!!!!」
首から上が、馬の怪物。
まさか現代科学がここまで進歩していたとは。
恐れおののく聖に対し、馬人間は何故自分を見て悲鳴を上げているのかがわからない。
「聖ちゃん!久しぶり!!」
「ええっ?聖、馬の知り合いなんていない!!」
全力で首を振る聖。戸惑う馬人間だが、何せ馬マスク越しなのでまったくわからない。
そしてしばらくして、ようやく自分が馬のラバーマスクを被ったままだということに気がつく。
507
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:44:09
「あかりだよっ!聖ちゃん!!」
「え、え? 朱莉ちゃん!?」
馬マスクを乱暴に脱ぎ飛ばした少女の顔を見て。
少年のような短い髪。真ん丸な顔。低い鼻。富士山唇。見間違えようがなかった。
「朱莉ちゃん!!」
「聖ちゃーん!!」
感動の再会と見紛うばかりの抱擁。
聖が能力に目覚めてすぐに、送られることになった警察組織の能力者養成所。
そこには、既に能力者の卵として厳しい訓練に耐え抜いてきた少女たちがいた。
その一人が、目の前の少女 ― 竹内朱莉 ― であった。
既に大いなる力を手に入れ、精鋭然とした先輩たちと比べると、それこそ聖は「落ちこぼれ」であった。
あからさまな、そして目に見えない嫌がらせや侮蔑の視線を受け、それでも辛い訓練に耐えられたのは。
人懐っこく、いつも笑顔で接してくれた朱莉がそばにいたからだった。
自らも能力者の落ちこぼれだと語る朱莉と聖は、すぐに仲良くなる。
聖は能力制御を目的とした入所だったため、安定した制御が認められた時点で養成所を離れることとなった。
その時以来なので、実に3年ぶりの再会ということになる。
「久しぶりだねえ…朱莉ちゃん今、何やってるの?」
「今は、福田さんの下で働いてる」
懐かしさついでに何気なく聞いた言葉。
だが、瞬時に朱莉が表情を硬くしたことで、聖は気付いてしまう。
508
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:47:25
朱莉が、ここへ来た理由。
和田彩花が窮地に陥ったのを衣梨奈と春菜が救った時に、花音が悪意を持って接した話は聞いていた。
そしてその花音の名前がここで出てきたということは、どういうことになるのか。
例の養成所には、若き能力者のエリートとして花音たちが君臨していた。だから、朱莉が彼女たちとともに行
動していても不思議な話ではなかった。それにしてもだ。
「そんな、だって久しぶりに会えたのに」
思い出が、暗い色に塗り潰されてゆく。
聖が歩む道の先はいつだって。かつての旧友・佐保明梨の時もそうだった。
戦いたくないのに、戦わなければならない。
甘い、自分自身、そう思う。
今やリゾナンターのリーダーであるさゆみを補佐しなければならない立場の人間が、戦いたくないだなんて。
寧ろ、そのような難所において決断を下すのがサブリーダーの仕事ではないのか。
「福田さんの、命令なんだ。今きっと、ほかのメンバーたちも聖ちゃんの仲間の元に行ってるはず」
「……」
朱莉の顔色が明らかにすぐれないのが見てわかる。
きっと彼女自身、聖に会えた喜びで命令のことを忘れていたのだ。
それが今、険しい顔をして、何度も手のひらを握ったり開いたりしている。
覚悟を決めているのか、決めあぐねているのか。
こんな時、新垣さんならどうしてたろう。
聖は、かつてサブリーダーを務めていた先輩のことを思い出してみる。
闇と光の狭間にありながらも、愛のフォローをしつつ、グループ全体のことを見ていた彼女なら。
509
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:51:30
「ねえ、朱莉ちゃん」
「な、なに?」
「福田さんに、会わせてくれないかな。来てるんでしょ?」
自分でも意外な選択肢だと思った。
それでも、その言葉を口にした後でも、やはりその選択は理に叶っているような気がした。
まずは、花音がリゾナンターに抱いている悪意の正体を見極めなければならない。
そのためには、やはり直接本人に会って話をするしかない。
里沙が果たして同じ行動をしていたか。
たぶん、こんな選択肢は選ばなかっただろう。聖は、里沙が自分よりはるかにクレバーな決断を下していただ
ろうと想像する。
けれども。
「…わかった」
朱莉は短く、返事をする。
気のせいだろうか。聖の返事を聞いて、安心したかのようにも見えた。
何となく聖の中でもやもやしていたものは、今や確信に変わっていた。
聖の中には、彼女を疑う気持ちは微塵もなかった。
確かに3年という年月の中で、自分が知っている朱莉が変わってしまっていることだってあり得る。
けれどその不安を払拭することができたのは、今の彼女を見ても聖の中の朱莉が揺らがなかったから。
罠。策略。偽計。そういうところから最も離れた場所にいたのが、竹内朱莉という少女だった。
だから、彼女の「わかった」という言葉を信じる。
その結果がたとえ、朱莉と袂を分かつことになろうとも。
510
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 01:53:03
>>502-509
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
511
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 02:40:00
白に浮かんだ紅に、眩暈がする。
粘っこい匂いに鼻を曲げながら、胃からせり上がる液体を堪えた。
「ああ―――」
数えきれないほどの「死」が目の前に広がる。
それは、目を逸らせない現実で、受け入れるべき真実で、自分でやったという事実。
これまで何人を斬り、雨を降らせただろう。血という名の、紅い雨を。
それが宿命だと分かっていた。
自らの信念を貫き、先代からの想いを紡いでいくには、それ以外の術はなかった。
人に何を言われても、それが非人道的だとしても、正義ではなかったとしても、それでもただ、前に進む以外に道はなかった。
たとえ、最後に立っているのが、私一人だとしても―――
コートの襟を立て、ため息を吐く。それは白く染まって空へと消えた。
季節はすっかり冬だ。寒さを増していく時間に、ひどく痛みを覚える。
刀身を収め、一歩踏み出す。
死体を踏みしめつつ、帰ろうとする。
帰る?ああ、そうだ。帰るんだ。自分の居場所に。
512
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 02:40:33
―――「破壊と絶望を振り翳し、世界を統一するための、狂気を」
脚が、動かなくなる。
受け入れて、くれるのか?
何度も何度も何度も何度も人を斬り続ける私を。
誰よりも多くの生命を奪い、いつ暴れ出すかもしれない狂気を抱えている私を。
―――大丈夫だよ
ふと、髪に何かが落ちてきた。
顔を上げると、それは舞い降りてきた。
「雪―――」
寒空を染める、白い雪。
それはまるで、天使の羽のようで、私はそっと右手を伸ばした。
次々と降り注ぐ雪は、私の髪に、肩に、そして手へと触れた。
冷たい初雪は、私が斬り捨てたたくさんの死体へも平等に舞い落ちた。
まるで罪を覆い隠すような天からの贈り物は、私の行為を嘲笑っているようにも感じられる。
手に触れた途端に、雪は水へと形を変えた。
それが、私の中に温もりが残っている事を教えてくれる。
ぎゅうっと両手を握りしめ、天を仰ぐ。
淡雪と彼女から託された想いを重ねながら、どうか見捨てないでと私は息を吐く。
それに縋ってみたところで、白の吐息は何も語らず、ただただ夜の闇へと溶けていった。
513
:
名無しリゾナント
:2015/01/18(日) 02:41:26
>>511-512
「snow」
514
:
名無しリゾナント
:2015/01/21(水) 18:27:28
■ マインドタグ −新垣里沙− ■
「付箋と言ったらいいのか、タグと言ったらいいのか…あれ、どっちも同じですね」
そう言って”亀井の姿をしたもの”は、んふふ、と笑った。
「新垣さんの【精神干渉】になぞらえて説明するなら、
私の【能力】は、ごくごく単純な暗示―――弱くて小さな精神干渉―――を、
付箋のように精神に貼りつける…
一言でいえば、それが、私の能力のタネということになります。」
「…『付箋』ね…」
少女は説明を続ける。
「実際の付箋同様、剥がすのは、いたって簡単ですし、
貼りつけた対象を壊したり汚したりもしません。
ですので、亀井さんは心配無用です。
こちらの用が済めば、すべて自動的に剥がれるようになっていますから。」
「…自動?」
”すべて”、”自動的に”という言葉に、ひっかかりを感じる新垣。
その表情に”亀井の姿をしたもの”が回答する。
「お気づきになりましたか?そうです。
私の【能力】によって貼り付けられた個々の付箋には、
対象に与える暗示とは別に、『付箋それ自体』にも、
いくつかの単純な命令を与えておくことができる。
それらの付箋を組み合わせ、互いに関連させ、階層化し…
全体として、一個の構造物を作り上げる。」
515
:
名無しリゾナント
:2015/01/21(水) 18:28:10
これは…そう、これはまるで…
「なるほどねー、アンタが『何』か、ようやっと納得できた感じだよ。」
『今この場には居ない』、そう少女は言った。
『何』と尋ね、『そうゆうとこ』でわかる、そう新垣は言った。
「そうです。
新垣さんとお話している私は、ロボット?アバター?
なんといいますか、想定問答集みたいなものです。
基本的には亀井さん自身をエンジンに…
新垣さんが疑問に思うだろうことをあらかじめ想定し、
それらにこたえられるよう構築された疑似人格、まあそんなところですね。」
…プログラム。
新垣は、”亀井の顔をした”ほほを、自らゆびでつつく少女を見つめる。
弱くて?小さな?とんでもないよ、これは。
驚愕、同系統の能力者だからこそわかる、驚愕。
今の話が全部本当だとしたら…、その【能力】で『ここ』を作ったんだとしたら…
…どんだけの数の付箋を使ったのよ?それ、全部把握して…
どんな頭してたら、これだけのもの組み上げられんのよ。
【能力】ではない。
まだ見ぬ、この少女の真なる恐ろしさは、その【能力】ではない。
あんた…『天才』、なんじゃないの?
516
:
名無しリゾナント
:2015/01/21(水) 18:29:25
「私の【能力】についての概略は、以上です。さて、」
ティーカップ、湯気がくゆる。
「それを踏まえての、本題に入ります。」
少女の口から、言葉が発せられる。
その一言は、新垣をして、さらなる驚愕足らしめるに…
……さんが、目を、覚ましますよ
517
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 17:53:57
■ ラーフィングフォックス −田中れいな− ■
その少女たちは、”突然”そこに現れた。
「ほーんとに突破してきたー。」
覆面の、二人の少女。
一人は肩までのセミロング、大柄で、ふくよかな上半身、白く長い手足。
「『でれ』さんの読み通りかー、ははあーすごいすごい。」
指先だけを合わせる、やる気のない拍手。
「でも残念でしたー、せっかく頑張ったのに、無駄でしたねー。」
縁日などでは、今でも売っているのだろうか?
古典的な、白い『きつね』のお面。
『きつね』の、少女。
「くっ!はなせ!こん糸ほどけ!」
テグスにからめとられ、うつぶせで地面に転がり、もがきつづける田中。
「あははーほどけと言われて『ほどくわけない』でしょ、ねぇ?」
身動きの取れない田中のそばにしゃがむ『きつね』の少女。
「くっ…アンタら何ん?!ガキさんに何しようと?!」
「はぁ?ガキさんって誰ですかぁ?知らないなぁー『ごりら』、知ってる?」
518
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 17:54:32
『ごりら』のゴムマスク。
ノリノリでゴリラになりきっている、後ろの少女に話しかける。
「ウホウホ!ウホッ!」
「ほーらみんな知らないって言ってますよー」
「ふざっくんな!」
田中は思い切り上体を反らし、見下ろす少女を睨み付ける。
しゃがんだ膝に肘を乗せ、頬杖をつき、見下ろす『きつね』。
「まー落ち着いてー」
その目にあいた、黒い穴。
瞳の光は、うかがい知れない。
だが、わかる。
―――なめられている。
こんガキ!れいなをなめくさっとる!
「鬼ごっこも疲れたんじゃないですかぁ?ちょっと休んでてくださいよ。ほら、」
ふと、『きつね』が背後の闇へ目を向け、立ち上がる。
「やーっと、鬼がきた。」
走ってくる足音。
鬼、いや『馬』の少女が追いついてくる。
「はぁはぁはぁ…はぁっ!まってって!はぁはぁ…ゆったのにっ」
日が暮れ、下がってきた気温に馬の口から湯気が、もわもわと漏れ出している。
激しい息遣い、すでにへとへとになっているようだ。
519
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 17:55:08
「あっはは、なにやってんの『ひくし』」
「なっ!あか…俺のことは『うま』ってきめたろ!『きつね』!」
「あれ?ご自慢の体力は?フラフラだけど?」
「しょ…しょうがないだろっ!」
「だっさー、それしか取り得ないのに。」
「るさいっ!あかっ…俺はっ、こうゆう【能力】だからっ!知ってんじゃん!」
「おっと『でれ』さんからだ…」
そう、知っている。
当然ながら、知っている。
知っていて、からかっている。
これは悪い。
この『きつね』、相当に、たちが悪い。
『きつね』は、尚も文句を言い募る『うま』を無視、
ポケットから携帯を取り出す。
「鹿十かよっ!」
完全に無視。
「ちぇもういいよっ!」
そのまま、携帯を耳に当てる。
沈黙。
「了解」
携帯をしまう。
「あっち、おわったってさ。」
「え?終わった?」
「うん、おわった。」
520
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 17:55:48
「…はぁー…」
へたり込む『うま』。
「良かったー」
「ウホウホーッウホッ」
安堵する『うま』を『ごりら』がよしよしする。
おわった、とは新垣のことだろうか?
緊張の糸が切れ、すっかりたるみきった二人をしり目に、
”最初からたるみきった”『きつね』が、
ふたたび田中のそばにしゃがみこむ。
「ききましたぁ?うちらの用事は済んだんで、もう帰りまーす。
田中さんも、帰ったほうがいいですよ。」
笑っている。
仮面越しにでも、わかる。
嘲笑している。
身動きできぬ田中を、あざけっている。
「このっ!済んだってなん?ガキさんになんしよったと!」
「だからしらないって」
瞬間湯沸かし器、田中の顔が怒りで紅潮する。
「打っ倒す!!とにかく!打っ倒す!」
「んへ?ウッタオ?何語それ?だっさ」
『きつね』が立ち上がる。
521
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 17:57:19
「まてっ!こん卑怯もんが!」
「うるさいなぁ…」
ひとつ大きく伸びをする。
「さっきからキャンキャンキャンキャン…『弱い』くせに。」
「なん?!」
見下ろす。
「ほんとは『弱い』んでしょ?田中さんって。」
『きつね』が田中を見下ろす。
「常人離れしたパワーとスピード、ねぇ…」
「…お前…」
知っている。
「そのテグス、切れないでしょ?」
この少女は理解している。
「田中さんのことは調べたうえで、この太さ、この本数、用意してるんで。
まー、あたしが調べたわけじゃないけど。」
高橋と出会う前、【共鳴増幅】に目覚める前の…
522
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 17:59:47
「パワー?スピード?出せなきゃ無いのと同じ、『弱い』のと同じ。で、あとの頼みは、」
…嫌い…
「【共鳴増幅】でしたっけ?この状況じゃ結局それ何の意味もないじゃん。」
…なにが【共鳴】だ…なにが…そんなもの…
『きつね』の面。
その目にあいた、黒い穴。
…まあ、いいや…
穴の向こう、『きつね』は田中を見下ろした。
「しばらくすれば、糸はほどけるんで、そのあとはご自由にお帰りく…」
いや、見下ろせない。
―――真に強烈な打撃は、人が吹き飛ぶことを許さない。―――
田中が、見えない。
―――足は地面に根が生えたかのごとく、その場にとどまり―――
穴の向こう、すべてが真っ暗に。
―――脱力した全身は弓なりに”垂れ下り”―――
523
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 18:01:20
いや、見えないのは、田中ではない。
―――重い頭は、突き刺さるがごとく―――
”田中しか”見えていない。
―――真っ直ぐに落下し―――
真っ暗になるほど、目の前に、
―――地面へと―――
『きつね』の顔面に、両足を揃えた”田中の足裏”が
激突する。
―――激突する―――
「『打っ倒す!』そう言ったっちゃろ!」
田中は”空中で”そう、言い放つ。
テグスにからめとられ、相変わらず身動きできぬまま、
”空中で”
そう、言い放った。
524
:
名無しリゾナント
:2015/01/23(金) 18:02:33
>>517-523
■ ラーフィングフォックス −田中れいな− ■
でした。
525
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:23:16
>>502-509
の続きです
●
里奈は再び、凶悪な刃を握り直す。
相手の意識から自分の存在を消してしまう「隠密(ステルス)」ではあるが、先ほどのような殺気に対する
条件反射のようなものまで防ぐ事は難しい。
しかし。
里奈は殺気を消すことにも長けていた。
里保が里奈の殺気を捉えたのは、あくまでも「捉えさせた」だけ。その気になれば標的の目と鼻の先まで
近づくことができる。そして、いかなる反射神経の持ち主でも避け切れない近距離から、ナイフを相手の
体に滑り込ませる。
何が「水軍流」だよ、だっさ。
そう、こうやって、音も立てずに里保に近づいてゆく。
所謂猫足という歩き方。比喩でも何でもなく、僅かな足音すら立たない。彼女の道筋に蝋燭が絶え間なく
並べられていたとしても、炎は少しも揺れることはないだろう。
まさに、里奈は「隠密」に相応しい能力者と言えた。
不意に、足元に冷たさを感じる。
視線を移すと、水溜まりがそこに出来ていた。
526
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:24:34
あいつの、仕業?
里奈は忌々しげに、行列に並ぶ里保を睨み付ける。
初撃を殺気に対する反射神経のみで凌いだ里保。同時に彼女は周囲に水の粒子を展開させた。しかし里奈
の力により、結界も無に帰す。襲撃されたこと自体を認識できなければ、それはただの水溜りに過ぎない。
どうせ反射的に水を出しただけ…いや、違う。
相手を侮る気持ち、それはすぐに打ち消された。
先ほどの恐ろしいまでの反応。里奈の姿が見えていないにも関わらず、里保は彼女のナイフの持ち手に正
確な突きを繰り出している。
この水溜りもまた、彼女の水軍流のもたらす戦術なのか。
だとしても。
里奈はほくそ笑む。
もしこれが里保の張った罠だとするなら、おそらくこう使うはずだ。
里奈が水溜りを歩く。すると、足をつけた場所に波が立つ。あるいは、水から足を抜いた時に滴が落ちる。
その変化が、里保にとっての警報となる。
水溜まりの範囲は意外に広いが、迂回すれば避けられないこともない。
しかし里奈は。迷うことなく、水溜りを突き進んだ。
…そんなの。意味ないんだよね、ばーか。
里奈の能力である「隠密」は、能力の対象から里奈という存在を完全に消してしまう。
その中には、もちろん「彼女が触れているもの」も含まれる。
例えば彼女の身に着けている服、得物であるナイフ。
そして。彼女の足元を浸している、水溜まり。
527
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:26:16
よって水面が波打つのを里保が視認することは、できない。
すり足で移動すれば、水滴がしたたり落ちることも、ない。
楽勝過ぎる。
こんなことで、「下手を打った」スマイレージの名誉が回復できるとは。
今回の花音の召集で、最も乗り気ではなかった里奈。
対外的には、スマイレージはダークネスの幹部の一角を崩したということになっている、それでいいじゃ
ないかと思っていた。増してや花音の個人的な復讐に付き合うなど、馬鹿らしいとすら。
ただ、リゾナンター随一の能力の使い手をこの手で仕留めるというのは悪くは無い。
里奈自身の勲章は多ければ多いほど、いい。そう考えると、安いお使いではある。
ゆっくりと水溜りを滑りつつ、標的の様子を窺う。
里保はまるで何もなかったように、隣の恰幅のいい友人とたわいもない話をしている。
簡単だ。近くの自販機にコインを入れて商品を取り出すくらいに。
足元の感触が、変わった。
どうやら水溜りから抜けたようだ。ここからは音を立てないように歩き方を変えなければならない。とは
言え、もう里保は目と鼻の先の距離にいるのだが。
ナイフの柄を数度、握りなおす。
汗ひとつかいてない。冷静だ。ここ一番の時、最も心を取り乱さないメンバーとして花音は里奈を買って
いた。だからこそ、リゾナンターの「最強」にぶつけた。その期待に応える、ではない。当然の結果なの
だ。
里保の目の前で、立ち止まる。
がら空きの脇腹。そこに、ナイフを突き立てる。
あっという間の出来事だ。
528
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:27:46
そして彼女の思った通りに、本当にあっという間の出来事だった。
腹へ滑り込ませたはずの銀の凶器は里保の鞘によってまたしても弾かれる。さらに危険を察知して後ずさ
ろうとする里奈の足を、里保が思い切り踏みつけていた。
そこから空いているほうの足で、里奈の側頭部にハイキック。
綺麗に決まった蹴りは、里奈の意識を一撃で奪い去った。
ぱたりと倒れる里奈に、もう「隠密」の力は働いていない。
急にばたばたと動き始める里保に何事かと目を剥いた香音だったが。
「え、何里保ちゃん? この人誰!?」
ようやく、ナイフを握り締めたまま倒れている少女を認識する。
対して里保はポーカーフェイスを崩すことなく、床の一点を見つめていた。
そこにはくっきりと刻まれた黒い染みが、数個。
里奈の「隠密」は完璧だった。里保が作った水溜りのトラップにも対応できたはずだった。
だが彼女が最後に詰めを欠いたのは。黒い染み。濡れた靴が刻み込んだ、足跡だった。
「隠密」の能力は、里奈の触れたものを対象の意識から消す。
逆に言えば、里奈から離れてしまったものにはその影響は及ばない。つまり、床の足跡がゆっくり近づい
てゆく軌跡を、里保は目撃する事ができるということ。
姿を消して、こちらに気づかれないよう忍び寄る人間。
それは最早、里保にとって倒すべき敵であった。
529
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:31:17
「何でこんなとこに倒れてるの? 里保ちゃん、知ってる人?」
矢継ぎ早の香音の質問。
さあ? と答えようとした里保の表情が、険しくなる。
倒れた少女の傍らに、女がいた。
テーマパークには似つかわしくない、カーキ色のツナギのような服。
こちらを見ている、爬虫類を思わせるような目。
表情はどこまでも冷たく、そして見えない。
「侵入者…?モニターで見た連中とは違うみたいだけど、ま、いっか。その前に…と」
言いながら、倒れている里奈に掌を向ける。
すると。里奈の足が、何か白いもので覆われ始めた。
その行為が何を意味するか。里保の本能が強い警鐘を鳴らす。
「やめろっ!!!!!!」
危機感は激しい言葉となり、それは行動に繋がる。
里保は持ちうる力の全てを水の生成に費やし、里奈目がけて大量の水を打ち出した。
水流の勢いで、里奈の足に現れた白い何かが洗い流される。
一方、突然の水の発生に騒然となる利用客たち。
「その判断は、正しい、けど。周りを騒がせたって意味で…40点かな」
「あんた、何者?」
香音が里保を守るように、一歩出る。
その問いは明らかに、「危険な相手」へのものだ。
530
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:32:34
水の噴出を天井からの漏水か何かと思ったのか、並んでいた行列がばらけ、大きな隙間ができた。
その隙間を縫うように、女が動き出す。
迷いの無い動き。
ひと目見て、里保は相手が達人クラスの体術の持ち主であることを確信する。
香音の脇をすり抜け、ペットボトルの封を切る。即座に里保の手に収まる、水の刀。
「なるほど、水の能力ね」
言いながら、電光石火の勢いで里保と交差する女。
その時、里保は見た。女の手から、白く輝く結晶のようなものが析出しているのを。
一撃必殺のつもりで放った太刀筋はかわされた。
だが、こちらも攻撃を受けていないはず。そう思った里保だが、手の中の水の刀が急に制御を失ったよう
に暴れだし、そして破裂した。
四散した水が里保の顔にかかる。舌先に、わずかな刺激が走った。
「これは…塩?」
「どうでもいいけど、ここ、出ない? じゃないと」
そこで女にはじめて、表情のようなものが生まれる。
目を細め、笑っている。けれど、そこにあるのは。
「ここにいる人たち、全員巻き込んじゃいそうだから」
人をいくら殺めても、一向に構わないという機械のような感情。
里保と香音を、言い知れないほどの寒々しい空気が押し潰そうとしていた。
531
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:34:05
>>525-530
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了
532
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:43:11
そして彼女の思った通りに、本当にあっという間の出来事だった。
腹へ滑り込ませたはずの銀の凶器は里保の鞘によってまたしても弾かれる。さらに危険を察知して後ずさ
ろうとする里奈の足を、里保が思い切り踏みつけていた。
そこから空いているほうの足で、里奈の側頭部にハイキック。
綺麗に決まった蹴りは、里奈の意識を一撃で奪い去った。
ぱたりと倒れる里奈に、もう「隠密」の力は働いていない。
急にばたばたと動き始める里保に何事かと目を剥いた香音だったが。
「え、何里保ちゃん? この人誰!?」
ようやく、ナイフを握り締めたまま倒れている少女を認識する。
対して里保はポーカーフェイスを崩すことなく、床の一点を見つめていた。
そこにはくっきりと刻まれた黒い染みが、数個。
里奈の「隠密」は完璧だった。里保が作った水溜りのトラップにも対応できたはずだった。
だが彼女が最後に詰めを欠いたのは。黒い染み。濡れた靴が刻み込んだ、足跡だった。
「隠密」の能力は、里奈の触れたものを対象の意識から消す。
逆に言えば、里奈から離れてしまったものにはその影響は及ばない。つまり、床の足跡がゆっくり近づい
てゆく軌跡を、里保は目撃する事ができるということ。
姿を消して、こちらに気づかれないよう忍び寄る人間。
それは最早、里保にとって倒すべき敵であった。
533
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 03:48:58
>>532
間違えてこちらにコピペしてしまいました
申し訳ありません
534
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 06:25:31
>>524
差し出がましいとは思いつつ代理投稿しました
535
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 09:53:36
>>534
おはようございますリゾネイター作者です
お手数おかけしました
どうもありがとうございます
536
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:21:11
■ レージフォックス −田中れいな− ■
それは【能力】によって、成し遂げられた。
『きつね』の言った通りだった。
田中は本来、『弱い』のである。
その身体能力は最大限高く見積もっても『普通』。
ただの普通の女性にすぎない。
だが、そこにひとたび、彼女の【能力】が加わるならば、たちどころ、
常人ならざるパワーとスピード、反射神経を獲得する。
かつて鞘師が田中に感じていた、戦闘能力の高さに見合わぬ『怖くなさ』とは、
すなわちこの『素の状態の田中』を、
直感的に看破していたからかもしれない。
狡猾さなど育たぬはずだ。
田中にとっての戦闘術とは、
見えたものを追い、見えたものを避け、見えたものを殴る。
ただそれだけで事足りたのだ。
単純で直線的。
ただそれだけで事足りたのだ。
【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】
己の肉体の機能を増幅させる。
かつて高橋と出会う前までの、元々の【能力】。
田中れいな、その本来の【能力】。
その蹴りの一撃は【増幅】によって、数倍の威力となった。
537
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:21:43
「ぎゃふっ!」
テグスによって身動きできぬ田中が、背中から地面へと落下する。
【増幅】によって、その蹴りの威力は高められた、だが。
だが、この状況は【増幅】のみで成し遂げられたものか?
否。
田中は身動き出来ないのだ。
体の自由を奪われ、地面に転がったままで、
なぜ空中にいた?なぜ蹴りを叩き込めた?
「『こんなんいらん』ゆって、一回つっかえしよったけど、
やっぱりさゆ達の言う事聞いとって正解やったと」
その右手に小さな紙片。
そう、これは、
【能力複写】によって作られた紙片、
そこに込められていたのは…
石田の【空間跳躍】
538
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:22:15
そう、それは【能力】によって、成し遂げられたのだ。
顔面に両足による蹴りの一撃を受け、『きつね』が、
頭からゆっくりと地面へ倒れ伏す。
「・・・」
その光景を『うま』と『ごりら』がぽかーんと眺めている。
何が起こったのかわからない。
蹴りの衝撃で『きつね』のお面が、ぐしゃりとつぶれ、顔から剥がれ落ちる。
落下したお面が、二人の足元に転がってくる。
「あっ…りな…」
『ごりら』が何事か言いかけ慌てて口を抑える。
「…はっ!ああっ!」
その声に『うま』も声を上げる。
ようやく、理解が追いつく。
事態を把握する。
「きっ『きつね』!しっかり!」
『うま』と『ごりら』が、倒れた『きつね』に駆け寄る。
「ねぇ!ちょっと!大丈夫?ねぇって!」
539
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:23:08
仰向けに転がる田中がその光景を眺める。
「でも、やっぱさゆの言う事、全部きいとったらよかった。」
もはや、ここまで。
「石田の、一枚だけしか、もっとらんっちゃ…」
一枚じゃ何かあったとき足りないかもしれないでしょ?って
その通りやん、さゆの心配性、もう笑えんけん。
「うっ…」
『きつね』が息を吹き返す。
なん?もう気がついたと?早くない?
どんだけ頑丈ったい。
さて、どうする?こんあとどうやってガキさんとこ行く?
「ほっ…ちょっと!鼻血すごいよ!大丈夫?」
「うるさいっ!大丈夫だよっ!」
心配する『うま』の手を振りほどく『きつね』。
フラフラと立ち上がるも、よろけて膝をつく。
脚に来ている。
「…てっめ…田中ぁ…」
お面は飛んでしまっている。
が、夜の帳のせいか、その顔は田中には見えない。
「…はっ!ちょっと『きつね』まって!だめだよ!」
何かを感じ取った『うま』が『きつね』を制止する。
540
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:24:01
「…」
『きつね』は答えない。
「ねぇ!もうてっしゅーでしょ?ほら、いこうよ!」
「…」
無視。
「だめだよ!田中さんは!『でれ』さんの計画では…」
「先、撤収しなよ…」
「は?」
「『ごりら』の時間は、もう切れる…『あたしのやつ』で撤収したほうがいい」
「うん、そうしよう…いや待って、先ってなに?『きつね』どうすんの?」
「あたしは田中さんをしばらく足止めして、それから行く…」
「いやいや!意味わかんないって!それいらないでしょ?一緒に消えれば…」
「嫌い」
「は?」
「…なんでもないよ…ほら」
『きつね』が右手を肩の高さに上げる。
「いやいやいや!だめだよ!まだっ!」
「…はやく行けっての」
「ちょっと!落ち着きなって!なんか変だよ!計画ではっ…」
はー! やー! くー!
「ひっ!」
夕闇を『きつね』の怒号が切り裂く。
そして、長い、沈黙。
541
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:24:45
「…『ごりら』、先行って…」
「…う、うん…」
差し出された右手に『ごりら』が左を合わせる。
ぺちん。
瞬間その姿が掻き消える。
いや、消えた?のか?
田中には、その瞬間が、わからなかった。
確かに消えた。
おそらく『きつね』の右手に左手を合わせたときにだろう。
だが、それは…その瞬間は『いつ』だった?
「『うま』行って……行って。」
「じゃ…じゃあ、行くけど…無茶はっ、なしっ、だかんね?」
「うん」
『うま』の少女が消える。
またしても、その瞬間は、わからずに。
「その『消えようやつ』が、アンタの【能力】か」
田中れいなが、立ち上がる。
謎の粘着性を失い、ゆるんだテグスが、パラパラと落ちていく。
『きつね』は、答えない。
表情は、わからない。
ただ、こちらを向いたまま、動かない。
542
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:25:57
「ふん、しゃべらんか…べつにかまわんと…ただし」
消えよう相手か、やっかいやね、でも…
首を回し、腕を抱えて肩を伸ばす。
ざん、腰を落とす。
【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】
パワーとスピード、反射神経、そして、
視力が、聴覚が、嗅覚が、皮膚感覚が…
田中のあらゆる感覚が研ぎ澄まされていく。
「ただし、アンタは打っ倒す…
そんで、ガキさんどこやったか、そっちは全部、しゃべってもらうけん」
543
:
名無しリゾナント
:2015/01/24(土) 20:27:02
>>536-542
■ レージフォックス −田中れいな− ■
でした。
544
:
名無しリゾナント
:2015/01/25(日) 20:42:42
>>525-530
の続きです
●
「痛ったっ!!!!」
これで何度目だろうか。
亜佑美は「見えざる何か」によって、標的の香菜に辿り着くことなく跳ね返される。
目の前にトランポリンの生地のようなものが張り巡らされているような、感触。
ぽーん、と跳ね返され、地面に尻餅をつく。お尻の部分がじんじん痛い。
「だからぁ、無駄なんですって」
柔らかな関西弁で、香菜が言う。
笑顔。街角でばったり会った友達だったら、きっと心が温かくなるんじゃないかと思うくらいの笑顔。けれど。
「むかつく!あんた何へらへらしてんのっ!!」
この状況下においては、腹の立つ笑顔だ。
少なくとも気の長いほうではない亜佑美にはそうとしか思えない。
「むかつく、言われましても。もともとうち、こんな顔やし」
「うるさいわね!大体攻撃も仕掛けて来ないで、何が目的なのよ!!」
「福田さんって、知ってますやろ?」
再び特攻をかけようとした亜佑美の動きが止まる。
福田花音。忘れられるわけがない。リゾナンターを襲撃した、警察の人間のくせに妙に自分達を敵視してい
た、いけ好かない奴。
545
:
名無しリゾナント
:2015/01/25(日) 20:44:00
「その福田って奴が、何の用なのよ」
「ええ。その福田さんが、あんたらを痛めつけてこいって。うちの能力なら、あの磨り減った鉛筆みたいな短
気なチビ…あっ香菜が言うたんと違いますよ? は勝手に自滅するやろ、って」
「な、なんですってえ!?」
「だからぁ、うちが言うたんと違いますって」
香菜の言葉も聞かずに、亜佑美は獅子と鉄巨人を同時に召喚する。
リオンが咆哮しながら飛びかかり、バルクが巨体を震わせて拳を繰り出す。
が、やはり相手が言うところの「結界」の前には無力。「結界」に思い切り拳をめり込ませた後に、反動で後
方へと吹っ飛んでいった。リオンの牙も、結界の隙間すら生み出すことができない。
突然、眩暈が襲う。息が苦しい。
周りの酸素が、薄くなっているような気がした。
「一応通気性はあるんやけど、あんま暴れると酸欠起こしますよ」
「ほんとむかつくわね!そんなことくらいわかって…」
そこで亜佑美の脳裏に何かが引っ掛かる。
通気性、ということは。どうやら結界の向こうのおかめ納豆の言葉を信じれば、結界には無数の細かい穴が空
いているようだ。でないと、通気性は確保されないからだ。
とは言え、空気が通るのがやっとの穴だ。リオンやバルクではそんな細い穴に入り込めるわけがない。無論、
いくら亜佑美が小さいからと言っても無理である。
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