したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

364名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:58:36
「ぐっ!!」

叫びたくなるのを抑え、相手を見据える里保。
その炎にも似た視線を、少女は涼しげな顔で受け止めた。

「刺激を与えれば、能力の影響下から脱却できる、ですか」
「……」
「そんな程度じゃ、私のテリトリーは解けませんよ」

圧倒的な自信。
万が一にも、自らの敗北など考えにもない。

「ううん、わかった」
「は?」
「だいたい『わかった』」

里保は知っていた。
過信は時に、自らの身を危うくすることを。
それはこちらも同じ事。
だから一撃で、決める。

少女の視界から、里保が消える。
消えてしまったかと錯覚するくらいの、神速とも言うべき踏み込み。
なぜ里保が正確無比にこちらの懐に入ることができたのか、少女には理解できない。
だが、本能が警鐘を鳴らす。これは「危険な状態」だと。

365名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:59:33
水平に襲い掛かる、太刀筋。
少女はそれを体を反らして何とか回避しようとする。
ただ、少女がいた場所を流水の流れのように静かに、それでいて鋭く薙ぐ刃。

美しくも、恐ろしい。

少女がその剣技に見惚れている暇はなかった。
さらに一歩踏み出た里保の足が、不安定な少女の体勢を崩しに掛かる。

先程のは囮で、これが本命か!!

虚を突かれ、あっけなく崩れ落ちる少女。
天を仰ぐ形で倒された少女の鳩尾を襲ったのは、燃えるように赤い鞘の先だった。

魂をもぎ取られているのではないかと思うくらいの、強烈な一撃。
倒れるわけにはいかない。落ちるわけにはいかない。
強固な意志とは裏腹に、意識は穴の底に落ちてゆくが如く。

「どうして…わたしの…」
「君の能力は、精神に働きかけるものじゃなくて、物理的に『ずれ』を起こさせるもの。だったらその『ずれ』を
修正すればいい」

366名無しリゾナント:2014/11/18(火) 01:01:15
少女の能力は。
自らの領域内の気温や湿度を操作する。
それにより局地的に空気の密度を不均一にする。
言うなれば自由自在に陽炎や逃げ水を発生させるようなもの。
そして異常な湿度や不均一な空気、それに伴う気圧の変化が音の伝わりや皮膚感覚をも乱す。
彼女の「空気調律(エア・コンディショニング)」の領域に入った人間は文字通り、自分の立ち位置に迷うことに
なる。

しかし里保は、自らの体に刀を振るうことで、自らの身に齎された「ずれ」の具合を把握した。まるで目測を阻む
水の屈折具合を、自らの手を差し入れることで感覚調整するかのように。
自分が想定した刀の軌跡と、実際に打ち込まれた場所の「ずれ」。痛みの感覚と、実際に傷を負った場所の「ずれ」。

それらのずれ全てを把握し瞬時に調整することができたのは、里保が水軍流の看板を背負うこと、つまりは「鞘師」
の名を継ぐに相応しい資質の持ち主だからだろう。目に見えるものが全てではないが、目についたものは見逃して
はならない。祖父の教えを忠実に守ることで、里保は目の前の少女から勝利を得たのだ。

「そんなことで…やだ…ここで…あかねちゃん…」

それだけ言うと、少女は糸が切れたように気を失ってしまった。
里保は知らない。少女の言う「あかねちゃん」が自身の因縁に大きく関わっていることを。
そして。少女も含めた二人もまた、自身と同様に「響きあうもの」だということを。

367名無しリゾナント:2014/11/18(火) 01:11:29
>>361-366
「幻影(後)」

叩き台にと書いたものなので設定とか色々甘いとは思いますが、
設定の甘い言い訳ついでに

>>  さん
小田ちゃんの能力は、すごく雑に言えば
自分が現在いる時間の前後5秒間の時間を切り取り、編集できる
その間にあったことはなかったことにできるし、あったことにもできる 能力です。
つまりまーちゃんの前で飛び降りたという時間は飛ばしつつ、まーちゃんの
「小田ちゃんが飛び降りた」記憶はそのままにしたという感じです

>> さん >> さんが考え出した説が公式になってもよかったのですが
一応作者自身も作中のどこかで説明はしていたはずなので(書いた本人が忘れるとは!!)
説明させていただきました。
遅くなってしまいすみません。

368名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:22:46
>>286-290 の続きです



ごく小さめな、宗教画。


中央、やや左上に天使。
両腕を上に掲げ、豪華な衣装がはためく。
天に向けられた顔は、なぜかぼやけ、その表情はわからない。
広がる地上には救済を求める人々が歓喜の表情で空を見上げる。

その救済を求める人々の中に、春菜はいた。
やがて天使の手から溢れる光は、春菜を包み込み…

そうだ。
わたし、和田さんの精神世界の中にいたはずなのに。
暗闇に包まれて、意識が溶けていって。
そして今、先ほどの絵画のような光景が春菜の目の前に広がっている。

わたし、死んじゃったのかな。

精神世界での出来事は、現実の肉体にも作用する。精神世界における死はつまり、現実の死。
春菜が初めて喫茶リゾナントのドアベルを鳴らした日。当時の店主だった新垣里沙はそんなことを言っていた。
コーヒーの淹れ方をレクチャーしながらの軽い雑談のようなものだったが、まさかそれが自分の身に降りかか
るとは。

369名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:24:16
天使が、春菜の手を引き天を目指して飛んでゆく。
なるほど、死んでしまうならこの光景も腑に落ちる。
たまに優樹を怒り過ぎたり、何とか相手のいいところを探して褒めようとしたけれど見つからなくて挫折したこと
はあったが。どうやら地獄に落ちるようなことにはならなかったらしい。

仲間のことを思う。
生田さんは無事だろうか。送り込まれたのが自分だけでよかった。しかし、志半ばで倒れることになってしまった。
道重さんは泣いてくれるだろうか。くどぅーとまーちゃんは仲良くやれるだろうか。小田ちゃんはみんなの輪の中
に入ってゆけるだろうか。

どうも心配事ばかり増えてしまう。
春菜は思い直し、天使のほうに目を移した。
長い黒髪。小麦色の肌。天使と言えば金髪で色白と相場が決まっているものと思っていたが、現実はそんな単純な
ものではないらしい。

天使が、振り返る。
大きい、潤んだ瞳と目が合う。
誰かにそっくり。そうだ、和田さんに似ているんだ。
そう言えば和田さんを助ける事はできなかった。あんなに大きなことを言っておいて。

― それと、次からは『和田さん』じゃなくて『彩ちゃん」ね! ―

絶海の孤島に旅立つ日の朝、偶然出会った彩花にそう言われたことをふと思い出した。
あんな綺麗な人を「彩ちゃん」だなんて。でも、一度呼んでみたかったな。ちょっと恥ずかしいけど。って言うか
もう死んでるからいいかな。天使さん、申し訳ないんですけど今だけ、和田さんの代わりになってくださいね。

370名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:25:31
「彩ちゃん!!」
「はるなん?」

天使が、大きな目を細めて笑う。
そこで春菜は違和感に気づく。自分の手を引いて空を飛んでいるはずの天使の顔が、なぜか自分の目の前にあ
るのだ。

「よかった。はるなん、気がついたんだ」

あれ? 天使さん? 何でわたしなんかの名前を知ってるの? それに親しげにはるなんだなんて。

そこでようやく春菜は、自分が布団の中で寝ている体制であることに気づく。
そう言えば天井も見慣れたもの。そうか、ここは喫茶リゾナント。じゃあ、この天使さんは。

「もしかして…わ、だ、さん?」
「なに?寝ぼけてるのはるなん」

いたずらっぽく笑う彩花を見て、春菜はようやく状況を理解する。
自分が、現実の世界にいるということを。

「えっと、あの、生田さんは!」
「えりぽんのこと?下にいるよ。彩、えりぽんからはるなんのこと、色々聞いちゃった」

少しずつ、情報の断片をつなぎ合わせてみる。
つい先ほどまで、自分は彩花の精神世界にいたはずだ。途方も無い闇に飲まれ、そのまま意識を失ってしま
った。ここまでは確実だ。

371名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:26:32
で。話の流れがぶった切られたかのように、現在がある。
見る限り、彩花に常軌を逸した狂気は見られない。となると彼女は「元に戻った」ということになる。ここで
問題。誰が、彩花を光の世界に連れ戻したのか。

A 生田さん
B わたし
C その他の第三者

Bはまずないだろう。私は失敗してしまった。だから、あの闇に呑まれてしまったわけで。
Aも考えられない。生田さん自身がサイコダイブしたならともかくだ。となると。

「おー、飯窪目ぇ覚ましたんだぁ」

部屋に入ってきた、良く知っている顔。
かつてリゾナンターたちを率いていた、前リーダー。
思わず反射的に体が飛び上がる。

「新垣さん、どうして!!」
「いやー生田に呼ばれたのよ、飯窪が倒れたって言うから。ま、あたしが何もしなくても、あんたたちは無事
生還できたみたいだけど」

そこで春菜はようやく実感する。
戻ってこれたのだ。現実の、世界に。

しかし先程の三択の答えはCである第三者、つまり里沙が自分たちを助け出したと思っていたが。今の里沙の
口ぶりだと、どうやらそうではないらしい。

372名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:27:50
「でも、私…和田さんの意識の中に取り込まれて、それで」
「ありがとう、はるなん」

そこで春菜の手に添えられた暖かな手。
あまりにも畏れ多い。春菜は自らの首をぶんぶん振る。

「いやいや、私お礼を言われることなんて何も」
「ううん」
「え?」
「彩の心が、深い闇に沈んで、どうしようもなくなって。辛いのは彩だけ、世界から取り残されたのも彩だけ
だと思ってた。でも、はるなんも辛い思いをしてたんだよね」
「それって」

春菜は思い返す。
彩花の精神世界に入り込み、壮絶な過去を垣間見た時。
確かに、フラッシュバックのように春菜自身も体験した思い出したくない出来事が甦った。
それが、彩花にも流れ込んだというのだろうか。

「でも、はるなんは立ち上がった。眩しいいくつもの光が、はるなんを導いてくれたんだね」

彩花の言うとおりだ。
異能力の詰まった肉の塊、そう形容するのが相応しいくらいの扱いを受け。
そして、闇に心を閉ざした。そこに光を当ててくれたのは、今ここにいる里沙やさらに先代のリーダーである
愛が率いたリゾナンターたち。今も春菜のかけがえのない仲間たちだ。
しかし面と向かって言われると。春菜は自分の顔に急激に血流が流れ込むのを感じていた。

373名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:29:33
「うん、確かにそうなんですけど、でも、和田さんにそんなこと言われるとわたし、何か恥ずかしくて」
「恥ずかしいのはお互い様でしょ?はるなんだって、彩の昔のことを見たんだし」
「え、それはその…はい…見ました」

肩を落とし項垂れる春菜。
そうだわたしったら和田さんの過去を勝手に見ておいて自分の過去を見られたのを恥ずかしいとか言ってもう…
そんな様子を見て、彩花はふふっと微笑んでみせるのだった。

「あやね、あの過去を見られたのがはるなんでよかったと思ってる」
「…どうして、ですか?」
「だって彩たちが背負ってるものはきっと似てるから」
「和田さん」
「だから、彩も光を見出すことができた」

そうか。そういうことか。
彩花はきっと、春菜が光に導かれ支えられているのを見て、自らもその道を選ぶことを決意できたのだ。
つまり、自身の闇から抜け出すことができたのは彼女本人の力なのだと。

「光の中にね、顔が浮かんできたの。たけちゃん、かななん、りなぷー、それにめいめい。あと誰だっけ…とに
かく、彼女たちがいる限り、彩は落ち込んでいられない、立ち上がらなきゃって。憂佳ちゃんや紗季ちぃのため
にも」
「そっか…和田さんは自分の足で立つことができたんですね」
「ううん」

自分のやったことは無駄だったのか。
そう思いしょげかえる春菜の手を、彩花が再び取る。

374名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:30:55
「彩が光を見つけることができたのは、はるなんのおかげだよ…ねえ、はるなん」
「和田さん?」
「…さっき彩のこと、『彩ちゃん』って呼んだでしょ」

思いも寄らない指摘。
再び春菜の顔に恥ずかしさの火が灯る。まさかあれを聞かれてたなんて!!

「いやっあれはその寝ぼけてただけって言うかそんなわたし如きが和田さんのことをいきなり…ぁゃ…ちゃんだ
なんて恐れ多くて」
「あれ?今何て言ったの?もう一度言ってみてよ」
「だ!ダメです!!」

彩花にからかわれ、手足をばたばたさせている春菜を遠目で見ながら里沙は。
衣梨奈から聞いていた話だと、和田彩花は心を闇に侵食された不可逆状態に陥っていたと思って間違いない。と
なると例え精神干渉のスペシャリストの里沙でも彼女を救えたかどうか怪しい。それを、春菜はやってのけた。

盗み聞きの趣味があるわけではないが、春菜と彩花の会話の断片から里沙は、二人の共通した過去が今回の事件
の解決に繋がったのだと想定した。奇しくも彩花は例の「エッグ」の被験者であり、春菜もダークネス傘下の宗
教団体の手により過酷な人体実験を受け続けたという。

「今回は、あやちょが自分の力で立ち直っただけだから。あんな奴らの力なんて、借りてない」
「…いたんだ」

里沙から、絶妙な距離をとった背後に。
苦い顔をした花音が立っている。

「増してやあんたたちに借りを作ったなんて、思ってないから」
「…あんたがどう思おうが知ったこっちゃないけど、今回御友達を救ったのは間違いなくうちの子たちだよ。あ
たしでも助けられたかどうか」
「くっ…!!」

375名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:32:38
明らかにこちらに敵意の目を向ける花音を見て。
彼女がまだダークネスの手の内にあった頃のことを思い出す。
里沙がダークネスのスパイとしてリゾナントと本拠地を行き来していた頃。隔離された研究施設にいた、虚ろな
目をした子供達の中に、彼女はいた。

一目見て、里沙は花音に精神干渉能力が備わっていることを見抜く。
それは自らの能力にとてもよく似たものを感じたから。
当時の研究主任は、今は同時に10人程度しか洗脳する力はないが、いずれ100人、ひょっとしたら1000人以上を
一度に洗脳できるくらいの能力に発展するかもしれないと誇らしげに語っていた。それほどまでの「神童」な
のだと。

結果的に彼の願いは叶うことは無かった。
彼女を含めた「エッグ」と呼ばれた子供達が何者かの手引きで奪われてしまったのだ。例の研究主任はその責
任問われた上に強奪事件の関与をも疑われたことで、即日粛清される。まるで仕組まれたかのように、迅速に。

「…あの子は連れてかないの?」

そのまま帰ろうとする花音に、里沙が声をかける。
小さな背中は、振り向くことなく。

「あやちょはもう一人で帰れるから。それと。今回のことも、『赤の粛清』の件も。あたしはあんたたちに助
けてもらったなんて、微塵も思ってない。『スマイレージ』は、あんたたちリゾナンターを超えてやるんだから」

リゾナンターという存在への、強烈な対抗心。
それは荊のように里沙の心に絡みつき、そしてなかなか消えてはくれなかった。

376名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:33:51
>>368-375
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

377名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:20:52
■ マスクオブホース −田中れいな− ■

衝撃波。

一撃は、破裂音に弾かれた。


「はいはい!聞いてくださーい!ちょっとだけっ!止まってくださいっ!
この先、ちょっと!お取込み中なんで!ここで!ちょっとだけ!お時間くださいっ!」

繰り返されるセリフ。

彼女は決して戦おうとはしない。
だが、決して、田中をのがさない。

立ち塞がるは覆面の少女。
パーティーグッズによくある『馬』のゴムマスク。
身長は、田中と同じほど。

ただし、腕と脚の太さは、倍ほどに違う。

ラフな赤地のTシャツ、デニムのハーフパンツ。
黒のニーソックス、黒のスニーカー。

「さっきからなん?そこどき!」
「いやー!ちょっと!それはっ!どけないっ!どけないです!」
「ちっ!なんね!」

378名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:21:26
先ほどからこの繰り返し。

左へ行けば左、右へ行けば右。
踏み込めば退き、踵を返せば猛然と追随。
再び立ち塞がる。

どかんのなら、打ち倒しようだけったい。

「ストーップ!とーまってー!」

構わず踏み込む。

「ちょ!やめてって!」

フルスイング。
強引な一撃。
辛うじてかわす『馬』の少女。
そのまま距離をとるべく、さらに退く。

「まだまだ!」

田中の猛攻。
ことごとくかわす。

だが、起伏の激しい山腹、
植林された杉が連立し、斜度もある中、
途切れることなく繰り出される田中の連撃を、凌ぎきれるものではない。

ドン。

379名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:23:09
一抱えほどの杉を背に、『馬』の少女が追い詰められる。
クロスガード。
交差した両腕の上。
叩きつけられる、田中の拳。

衝撃波。

田中の拳が『馬』の少女を捉えた瞬間、
まるで、見えない壁が、爆発したかのように、田中の拳は弾き返された。

破裂音。

拳に走る激痛が、自らの攻撃と、
衝撃波のそれとが、ほぼ比例していることを直感させる。

「だっから!あぶないって!ゆってるのにっ!」

「ちぃ!」

これが、少女の能力か。

380名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:25:52
戦車の装甲の一種に”爆発反応装甲”あるいは”炸裂装甲”と呼ばれるものがある。
装甲板に対し、斜めに衝突した弾頭を、爆薬で吹き飛ばし、内部への浸透を防ぐ、
使い捨て、換装式の二次装甲。

本来の”炸裂装甲”は装甲板に対し角度をもって衝突した弾頭でなければ効果はないが、彼女の能力は、衝突の角度に関わらず、効果を発揮するらしい。

しかも、強く殴れば殴るほど、跳ね返る衝撃波もまた、強くなるのか?

もし、そうだとするなら、
能力として、直接の攻撃手段を持たない田中にとって、
これほど相性の悪い相手もいまい。

打撃はすべて防がれ、さらに、同じだけの衝撃波が田中を襲うことになる。

「もう!田中さん!あきらめて!じっとして!手ぇこわれちゃうよっ!」

『馬』の少女はへっぴり腰。
両手を前へ出し、田中を押しとどめる。
手のひらをこちらに向け、制止を促す。

手が壊れる?
なるほど、このまま殴り続ければ、結果は見えている。


…上等たい。


赤黒く腫れ上がる、自らの拳を握りしめる。

381名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:27:24
こん道草食ってる暇、ないけんね。

「なん知らん、弾きようなら、もっと強い力で打ちよう!」
「だーっ!なんでっ!そうなるのっ!」

猪突猛進。

身を低め、一直線。

再び構える『馬』。

交錯する両者。

山林に、破裂音が響き渡る。

衝撃波。

382名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:28:33
>>377-381
■ マスクオブホース −田中れいな− ■
でした。

383名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:32:03
深い森の中を、走る一人の少女。
一人の少女を取り囲むようにして追う男達。その数、六。
目つきの鋭い少女は自分が追い込まれたことを知ると、観念したように立ち止まった。

「大人しくすれば、命までは取らんよ」

男のリーダー格が、言う。

「命とらん代わりに、慰み者にするんやろ。そんなんまっぴらごめんやわ」

男を睨む少女。
危機的状況からか、関西のイントネーションに棘が立つ。

「失礼な。あなたには被験対象になっていただくだけです。貴重な、ね」
「はん。要するにモルモットっちゅうわけか」

少女の両足から、ゆっくりと煙が立ち上る。
それは、地面の草が炙られ、焦がされた煙。

384名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:33:36
「…『火脚』だ、気をつけろ!」

男の一人が叫ぶ。が、それは気休めにすらならない。
次の瞬間、独楽のように舞う炎が彼らに襲い掛かったからだ。

自らの体を回転させ、火を纏った両足での空中蹴り。
その威力もさることながら、灼熱の炎は確実に標的を蝕む。

「くそ、三人やられたか!」
「構わん想定内だ!対火炎能力バリアを張るぞ!!」

男たちの体を、青白い光が包み込む。
男の一人が炎の力を防ぐ防護壁を張り巡らせたのだ。

「どうだ、これでお前の力は封じられたも同然…」
「不用意に近づくな!こいつはまだ!!」

勝ち誇った男の一人が少女を拘束しようと、肩に手をかけたその時。
肩が、爆発でも起こしたかのように盛り上がる。いや、そうではない。

385名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:35:05
男が少女だと思っていたそれは、姿形を大きく変えていた。
刹那、男の掌に焼け付くような痛みが走る。思わず手を離した後に見たそれは。

逞しい四肢。
纏っていた衣服は既に燃え散り、真紅の絨毛が赤く赤く燃え上がる。
その様はまさに、虎。

「はは、ついに正体を現したな。『火脚』を操り、炎で人の魂まで焼き尽くす…絶滅寸前の人虎が」

男たちのリーダー格は半笑いを浮かべつつ、自らが後ずさっていることに気付く。
立っているだけでも賞賛されるべきだ。他の二人は既に腰が砕け、戦意喪失していた。
煉獄の獣とでも言うべきそれは、地を焦がしながら、赤い瞳に男たちを映していた。

彼女の名は焔虎 ― 尾形春水 ―

386名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:36:09
>>383-385
「焔虎」でした
やっつけ感がひどくてすいませんw

387名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:32:03
■ ディープハグ −新垣里沙X亀井絵里− ■

叫びは、声となったかどうか。

崩れ落ちる。
立っていられない。
出血が、止まらない。

【リゾネイター】亀井絵里。

かつて、共に戦った、かけがえのない仲間が、そこに。
だらりとさげたナイフ、健康的な肌、ふともも。

そう、みちがえるほどに、健康的な。

それは、いつもの彼女だ。
だがそれは、彼女の知る彼女ではない。

病、入院、心臓…

いったい、何が?
彼女に、何が?

ぼやける視界でもわかる、屈託のない、いつもの笑顔。
いつもの笑顔が、ありえぬ言葉を紡ぐ。

388名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:32:41
「さあ!ガキさん!もっと戦おう!」

ざくり

再び自らの腕にナイフを突き立てる。
亀井と新垣、等しく同じに傷が開き、
等しく同じに、血が噴き出す。

新垣に、なすすべはない。
そう、亀井には、勝てないのだ。

【精神干渉(マインドコントロール;mind control)】

不可能だ。

新垣は知っている。
目の前の彼女の、桁外れの『強さ』を。
『強い』そう『強い』のだ。

彼女は、『気』力も、『体』力も、常人ならざる『強さ』を持っていた。
人類として、ヒトという『種』として、『えげつない』ほどの『強さ』を。

だが、皮肉なことに、いや、それゆえにこそ、耐え切れなかった。
彼女の『心臓』は、彼女の『強さ』に、耐え切れなかった。

『心臓』のみが、ただ『心臓』それのみが…

彼女の精神は『強い』。
新垣の【精神干渉】は、彼女の『強さ』を凌駕出来ない。

389名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:33:12
もし、凌駕しえる手段あるとするならば、それは直接亀井の精神に…
すなわち【潜行(ダイブ)】と呼ばれる、その手段のみ。

が、それも、今となっては手遅れ。
もはや一歩も動けぬ新垣に、直接の接触が絶対条件たる【潜行】など、絶対に。

どさり

倒れ伏す。
動けない。

「ガキさん?もう寝ちゃうの?これで、おしまいなの?」

プラプラとナイフをもてあそび、ゆっくりと近づく。

「そっかぁ、じゃあこれで」

くるり、逆手にナイフを持ち替え振りかぶる。

「えりの、勝っ」

ナイフ、逆手、振りかぶった、その手首。

「まだ、早いよ、カメ」

新垣が、手首を。

突然、跳ね起きた新垣が、手首をつかむ。
そのまま身体を、ぴたりと寄せる。
刹那に、押し倒す。

390名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:33:43
―――右を小外に巻き込み、左を小内に刈り―――
浴びせ倒す。

全身は血まみれ。

だが、傷一つない、その身体。

「がきさん、傷は?」

生気に満ちた、その眼。

「さゆの、おかげだよ」

右手をひらく。

「それと」

ちいさな白い紙、単語カード。

「譜久村の」

【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】

道重の【治癒】の力をカードに。

「ああ、『ふくちゃん』だっけ?さゆ『も』言ってたよ」

完全に組み伏せられた、その姿勢から、ゆっくりと背を丸める。

「でも…」

391名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:34:31
首が起き、肩が浮き、ほぼ背骨の力だけ、しなやかに上体が起き上がる。
新垣の、全体重を掛けても、抑えきれない。

「やっぱり、えりの勝ちだよ?ガキさん」

が、新垣に、焦りは、ない。

「カメ、ごめんよ」

謝った。

その心に直接触れることを。
その心に直接潜ることを。

やさしく、抱きしめる。
包むように、柔らかく、やわら…かく…

二人は抱き合い、そのまま深く…どこまでも、深く…

392名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:35:31
>>387-391
■ ディープハグ −新垣里沙X亀井絵里− ■
でした。

393名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:52:28
■ ストンプザホース −田中れいな− ■

衝撃波。

山林に、破裂音が響き渡る。

田中れいなは、吹き飛ばされた。

その距離、ゆうに5メートル。

だが

「なっ!」

動揺の声は『馬』の少女から。

衝撃で応える見えない鎧。
打ち付けられたのは、拳ではない。

クロスガード。
交差した両腕に視界が塞がれる一瞬に。

跳躍する。

突進の勢いを殺すことなく、駆け登り、蹴り下ろす。
拳より強い力、すなわち『脚』で。

『馬』の頭を。

「キックしたのぉ!」

394名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:53:01
全力の蹴り込みが、破裂音に弾かれる。

衝撃は田中を吹き飛ばす。

『馬』の少女の頭上から、斜め後方へ。

そう、障害物を、飛び越えるために。
一気に距離を、かせぐために。

空中で木々の生い茂る枝を突き抜け、斜面山側へ落下。

立ち上がると同時に駆け出す。

下方に少女と山道を確認。
『馬』の少女との距離は、すでに10メートル以上。

一気に斜面を駆け降りる。

「やべっ!待って!!!」
「待つわけないっちゃろ!」

15メートル、10メートル、距離が詰まる、『馬』の少女が追いすがる。
凄まじい走力、加速力。
ぐんぐん追いついてくる。

「ちぃ!はっや!」
「まってっ!って!ゆっ!ハァハァ!って!」

395名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:53:36
10メートル、15メートル、30メートル、さらに距離が…いや、離れていく。
目に見えて、速度が落ちる。

田中も決してスタミナのあるほうではない。
が、『馬』の少女は、それ以下だ。

どんどん離される。

「全力でふりきるっちゃ!ガキさんとこまでもてばいい!」

そんあとは、そんとき、考える!

396名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:54:16
>>393-395
■ ストンプザホース −田中れいな− ■
でした。

397名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:31:35
■ プレシャスポートレイト −譜久村聖− ■

一目見ただけで虜になった。

その女性は、とても可愛かった。

とてもとても、可愛かった。


「えっ?あれっ!道重さん!この子…このひとっ!いったい誰ですか?!」

道重のシール帳、一枚のプリントシール。
くぎ付けになる。
おそらくまだ10代の道重、彼女お得意の『うさちゃんピース』。
そのとなり、目を細め、口元に指をあてる10代の少女…

「あっそれ?さゆみの親友なの。さゆみの親友で『えり』って…」
「『えり』さん…」
「うん、『かめいえり』いまはちょっと入院してるんだけど『えり』もリゾ…」
「かっ…かわいい…」
「ネイ…あ、でしょー?こっちのとかもかわいいのが…」
「はぁああん!かわいい!下さい!」
「へっ?」
「シール!画像!」
「あっああ…画像もあること前提なんだ…まあ、あるけどね…いいよあげる」
「やったー!」
「…ふくちゃんってさ…たまに…凄い迫力のとき、あるよね…」

398名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:32:20
  そんなに気に入っちゃたの?
  まあわかるけどさゆみも。
  じゃあいつか、一緒にお見舞い行く?
  いくいく!いきます!いきたーい!

結局、その機会は訪れなかった。
高橋が失踪したことで、なんとなく機を逸し、今に至ってしまった。

譜久村は一枚の画像を開く。
あのときもらった、『かめい』さん…すなわち『亀井絵里』の画像。

道重の声は、少しだけ、震えていた。

絵里がいないの。

そう言って、震えていた。

399名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:33:29
ふくちゃんの【能力】で絵里の痕跡を…

新垣さん達が調査に出かけて、今リゾナントには道重さんしか年上の人はいない…
責任感の強い道重さんが、あんなに声を震わせて…
きっとすっごい震えないように我慢して、我慢したけど震えちゃってるんだ。
すっごい不安なんだ、すっごい…

みずきがたすける!

聖が助けなきゃ!聖、道重さんの役に立ちたい!大好きな道重さんの!
大好きな亀井さんを!みずき探す!

400名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:34:16
>>397-399
■ プレシャスポートレイト −譜久村聖− ■
でした。

401名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:13:46
 
 
血の海にすべてが沈む姿を、ただ見ている事しかできなかった。
こんな事したくない。そう心が叫んでいるのに、止める術をそこには有していなかった。
目の前に立つものすべてを破壊し尽くさんと、両の手を紅く染め、世界を闇に閉ざしていった。

「やめて……」

懇願する声を振り払うように、私はゆっくりと刀を振り下ろした。

402名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:14:19
-------

「っ――――!!」

声にならない叫びをあげて、里保は目を覚ました。
悪夢を、何度も見る。
血の雨を降らせたあの夜光景は、里保の脳裏に焼き付いて離れない。
繰り返される夢は、現実の続きにも思える。
あの夜以降、一度たりとも「赤眼」の自分は姿を現していない。
だけど、いつ再び顔を出しても不思議ではない。

能力を行使するその手前で、里保は常に躊躇する。その隙に首を刈られそうになったことだって何度もあった。
その度に聖や衣梨奈、香音からの助けを得て、何とか窮地を脱している。
状況はあの時から、何一つ変わってはいない。そればかりか、さらに悪化の一途を辿っている。
里保が一歩踏み出すのを拒むその理由を、彼女はまだ、仲間に話せていないのだから。

403名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:14:51
「眠り姫はっけーん」

額に滲んだ汗を拭おうとした矢先、背中に声をかけられた。
「眠り姫」ということは、先ほどから見られていたのだろうかとも思ったし、そんな長い間声をかけたなかったのだろうかと疑問にも感じた。
深入りしない事が大人の約束だと里保は前髪を撫で「どうして此処に?」と訊ねて腰を上げた。
プールサイドという特殊な床に座っていたせいか、臀部と太腿に痕が残った。
ちくちくする痛みとジンジンという痺れに顔を歪めると「キミこそ何でこんな場所で寝るかな」と逆に返される。

「やっぱ、水が好き?」

さゆみはそう言うと、里保の隣に腰を下ろした。
道重さん、お尻痛くなっちゃいますよとは言わず、黙って見下ろす格好になる。
水が張られたプールに、微かに波が立った。壊れっぱなしの窓から、冷たい夜風が吹き込んでくる。
此処も随分、荒らしてしまったなと思う。

最初は、蛍光灯だった。
勢いに任せて水砲を打ち上げたら、プールサイドにいた彼女の服を濡らすばかりか、天井に設置されていたそれを破壊した。

次に壊したのは、窓。
先輩2人にそそのかされて、水龍を作り上げて天上へと走ったそれは、派手な音を立ててガラスが割り、巨大な黒雲に呑みこまれていった。

そして最後は、壁。
打ち上げた水龍を制御しきれず、勢いそのままにシャワーへとぶち当たった。
ガシャガシャと派手な音を立ててシャワーが蛇のように撥ねたかと思うと、壁に亀裂が入り、そこから水がちょろちょろと流れ始めた。
水道管まで破壊し、それはそれは青ざめたのを覚えている。

404名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:15:21
「水は、嫌いです」

記憶とともにじっとりとした湿気を振り払うように、風が通り抜けた。
彼女が顔を上げる気配を感じる。
怒られているようにも、慰められているようにも、そのいずれでもないようにも感じる瞳は、ただとても、美しかった。

「私は……壊します」

その瞳から逃れるように、両の手を広げた。
あの夜、真紅に染まったそれは、ただひたすらに、雨を降らせた。


―――「破壊と絶望を振り翳し、世界を統一するための、狂気を」


大切な人を、失いかけた。
自分が未熟故に。能力を過信した故に。
ポテンシャルという名の狂気、世界のすべてを闇に帰すほどの絶望を解放しかけた。
紅を纏った自らの姿は、血に飢えた、狼と同じだ。

「それもひっくるめて、キミ自身でしょ」

さゆみはいつの間にか立ち上がり、里保より視線を高くしていた。
黒髪が夜風に揺蕩い、心地良さそうだった。
両の手を広げて、世界を感じるその姿が大きくて、凛々しくて、美しい。

405名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:15:53
「寝るのが怖いからって、変な場所で寝落ちすると体壊しちゃうよ?」

そして案の定、ばれている。
お見通しなんだ、この人は。私のことを、メンバーのことを、仲間のことをなんでも知っている。

「鞘師―――」

リーダーとしてふさわしい器を携え、しっかりと私を捉えるその声に、応えられない。
怖いのかもしれない。
あと少しで此処から去っていくこの人に、なにひとつ私は返せない。


―――「そんなこと、鞘師は、しない」


覗き込んだ深淵の先、黒き翼を携えた魔王を見ても、さゆみは最後まで里保を信じた。
その黒曜石の瞳で、幼くて純粋な輝きを護ろうと必死に息を繰り返した。
そんな強くて優しい人に、私はなにを―――

と、思考を巡らせていると、さゆみはスタート台へと昇った。
その姿は、前にも一度目にしたことがある。
そうあのときは…確か、そう。柔らかい眼差しの彼女が、「よーしっ」と両手を挙げて「せーのっ」と膝を折ったんだ。

止める余裕もなく、気付いたときには、さゆみはは水の中に飛び込んでいた。
その様はまったく、2年前に見た彼女の姿とうり二つだった。

406名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:16:30
「道重さんっ!?」

思わず飛び込んで掬い上げようかとしたが、それより先にさゆみが水面に顔を出した。
ぷはぁっと水を受け、髪を濡らしたその姿は、雨に濡れた、女神と同じだ。
手足を少し動かし、ぷくぷくと浮かぶ彼女を見てほっとしたのも束の間、すぐに身体ごと引き上げようと水面に手を翳す。

が、遠雷を聞き、雨音が耳に飛び込んできた瞬間、その手に力を込められなかった。
何かが、自分の中の何かが警鐘を鳴らす。
動かしても良いのか。使っても良いのか。能力を解放しても良いのか。


―――「……虫みたい」


標本のように男を磔にした、あの赤眼の自分が、そこに居る。
動かすな。動かすな。ダメだ。これは。まだ。私は。私は……

「りほりほー。引っ張って?」

一瞬の躊躇の隙に、さゆみは既に里保のすぐ足元にまで泳いで、というか漂ってきていた。
ぺったりと貼り付いたシャツで肌が透ける。
風の彼女よりも真っ白な肌が眩くて、思わず頬が紅潮するのを感じた。

里保はぐっと息を呑み、膝を曲げる。
黙ってそっとさゆみに手を伸ばし、掴む。

「わわっ!」

引き上げようとしたときだった。
里保が膝を伸ばして力を込めるより先に、さゆみは両手で彼女の手首を強く引いた。
バランスを崩した里保は、そのまま水の中に飛び込んだ。

407名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:17:06
派手な水音を立てて、ふたりはプールの底へと落ちていく。
次々と泡が浮かび、たくさんの水が口から鼻からと浸食していく。
それらを空気とともに吐き出して、ぐんと右腕に力を込めるが、さゆみはそれでも、里保を奥底へと引きずろうとする。

何を考えているんですか―――!

そう言おうとした言葉は、当然のように泡になって消える。
水の中で、さゆみの顔が歪む。
この両の目に溢れていたのは、プールの水なのか、それとも体内から伝った涙なのか、それすら判別することができなかった。


―――喜んで


あなたは確かにそう云った。
私に聴こえるまで、その“音”を捉えるまで傍に居てくれる、とそう云った。
なのに。なのに私は。私はあなたを―――


―――「鞘師のこと、信じてるから」


言葉が想いとなって自らを包む。
気付けばすぐそこにあって、だけどいつの間にか遠ざかってしまう。
大切だと気付いたときには、もうカウントダウンは始まっていた。
それでも私はそれに縋る。彼女のくれる感情は、いつだって宝物だから。


里保は右腕でさゆみを引き上げると同時に、左手に力を込めた。
微かに熱くなるそれを水中で大きく回し、拳を握り締めた。

408名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:17:37
すると、水底が大きくうねりを上げた。眠りを覚まされた不機嫌な水龍が、ふたりの身体を一気に水面へと押し上げた。
ざばあっという派手な音のあと、ふたりはほぼ同時に顔を出し、息を吐き出した。

「っ…げほっ!!」

塩素の強い水を吐き出しながら、「道重さんっ!」と声をかける。

「大丈夫ですか?!」
「やーっとチカラ使ったねぇ……」

里保の問いには答えず、さゆみはいつものように柔らかく笑った。
くらくらするような輝きを携えたその眼差しに、思わず目を背けてしまいそうになる。
さゆみはそれを赦さずに、水面で揺蕩いながら、里保の身体を引き寄せた。
一瞬で、ふたりの距離がゼロになる。
互いの服は濡れ、ぺったりと貼り付いて気持ち悪い。
だけど、そのぶん、相手の温もりをしっかりと感じられて、何とも愛しかった。

どくん。と鼓動がしたのを感じ取った。
その心音がどちらのものなのか、里保にもさゆみにも、分からなかったけれど。

「一人じゃないって云ったじゃない」
「えっ……」
「さゆみは確かに鞘師を止めた。だけど、さゆみ一人で止められたものを、ほかのみんなが止められないと思う?」

さゆみ、リゾナンターの中で最弱王だよ?とおどけてみせる彼女に、「そんなことっ!」と言葉を継ぐ。
だが、さゆみはそれ以上里保に想いを語らせることなく、「自惚れないで」とつづけた。

409名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:18:07
「さゆみは鞘師を過大評価してないし、みんなを過小評価してない」

ふたりだけの地下プールに、さゆみの声が響く。
共鳴して、反響して、あちこちに弾かれた声が、最後に水面に浮かんで里保のもとへと飛び込んでくる。
感情の衝突は、不快さなどはひとつも携えていなかったが、まるで透明なガラスのように真っ直ぐに尖っていた。
さくりと抉ったその心の先で、紅き血が流れるのを感じる。
それでも里保は、何も言わずにさゆみを待った。
待つこと自体、弱さなのかもしれないけれど。それでも里保は、さゆみを待った。
いつだって、鞘師里保を護ってくれる、道重さゆみという大きくて尊い存在を。

「もっと信じて。さゆみだけじゃなくて、フクちゃんも、生田も、鈴木も…みんなのこと、もっと信じて」

波紋が広がり、そして凪が訪れた。
波が収まるのを感じるのは、あの日と同じ光景だった。
感情の刃ですべてを壊しかけたその瞬間さえも、彼女はバラバラになる心を繋ぎとめてくれた。
これが、時代を紡いできた彼女の、唯一無二のチカラなのだと実感する。

「みっしげさん……」

里保はそっと、彼女の背中に腕を回す。
いつかは、赤眼の己と対峙し、淘汰しなければいけない日が訪れるかもしれない。
だが、その時に自分は一人じゃないと、何度でも彼女は諭してくれる。

此処に来て4年。
人を斬り、心を殺し、時に仲間を傷つけ、膝を折りかけた日々が繰り返されてきても。
それでも絶えず時間は巡り、季節は流れ、仲間を送り出し、新しく迎え、変わらずに絆を結んできた。

410名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:18:37
初めて出逢ったあの冬も、地下プールを壊し始めたあの夏も、コインをひっくり返されて自分を失いかけたあの春も。
すべての時を超えて、彼女との最後の秋が訪れる。

「さゆみは、水が好きだよ?」

そうしてさゆみは、揺れる水面を掬い上げ、ぱちゃりと里保の頬にかけた。
真っ赤に染まった里保の瞳は、あの日に見た赤眼のそれとは全く違う、幼さと純粋さと、そして凛とした強さを有していた。

「道重さんっ……」
「うん?」

里保は鼻を啜り、ひとつ、息を吸う。彼女の瞳を、今度こそまっすぐに見つめる。
何度迷っても、何度振り返っても、何度立ち止まっても、必ず歩き出す強さを、この人はくれる。
だから私は、ひとつだけでも、返したい。
此処を、仲間を、私たちを護りつづけてくれたこの人に。愛をもって、支えてくれた、この人に。

「ちゃんと、直します。壁も、天井も、窓も」

里保の言葉に一瞬きょとんとしたあと、さゆみは周囲を見回して「ああ」と笑った。
破壊しつくされたこの場所は、修繕作業が追いつかなくて、結局放置されたままになっている。
そんなお金ないし、此処使うのぶっちゃけ鞘師だけだからねと、さゆみはいつも愚痴のようにこぼしていた。

「直ったら、また見に来てくれますか?」

そして再び、風が撫でた。
水滴を浴びて重くなったそれは、先ほどのように靡かないけれど。
鼻を擽る夜風は、すっかり冬の匂いを携えている。
何かが焦げたような、痛みと、鋭さと、そして切なさと、複雑に交じり合うそれが、身体の熱を奪っていく。
それでもさゆみは、彼女の肩をしっかりと抱き、新しい熱を授けてくれた。

411名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:19:08
4年も前から変わらずにくれたその温もりを、里保は大事に大事に受け止める。

「直すだけじゃなくて、もっと設備とかいろいろ豪華にしといてね?」

甘やかすことをせず、微かに突き放すそれは、白き鬣を揺らし、孤高の中で吠える百獣の王のようだった。
そんなさゆみに里保はすっかり絆されてしまい、出来が悪く叱られた子どものように、くしゃりと顔を崩して肩を竦めた。
閉じられた瞼から溢れる涙を拭うこともせずに、「がんばります、みんなと」としっかり笑った。
その笑顔が尊くて、ずっと見ていたくて、そろそろプールから上がりたいなぁという言葉を、さゆみはすっかり呑み込んだ。

412名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:19:39
>>401-411 以上「水辺の誓い」

413名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:48:21
>>368-375 の続きです



学校帰り。
石田亜佑美と小田さくらは、敵襲に遭っていた。
何故この組み合わせかと言えば。ただ単にあぶれもの同士。香音と聖、里保は日ごろお世話になって
いる先輩・愛佳の用事で先に学校を出ていたからだ。それはさておき。
相手はちょうど亜佑美たちと同じ、二人。一人はいかにも屈強そうな男ではあるが、もう一人は家でネ
ットゲーム三昧してるのがお似合いの痩身の青白い小男だった。
「敵」とは言え、ダークネスの手のものではない。
組織に属さず、フリーの立場にある能力者。ただ、こうやってリゾナンターの前に顔を見せる能力者た
ちの中には、ある共通項が存在することが少なくない。

自分たちの名を、闇社会に売る。
それが彼らの主たる目的であることがほとんど。
もちろん、目的のためならどのような手段を取ることも厭わない危険性があるから、こうして亜佑美た
ちは男たちが誘うままに近隣の公園へと足を運んでいるわけだ。

「さあて、どうするの? ここなら大の大人が女の人に伸されたとしても恥ずかしくないと思うけど」

公園の森にさりかかり、人気がなくなったのを確認した亜佑美が男たちに話しかける。
こういう輩にはまず言葉でクールに威圧するべき、歴代の先輩たちからの教えを忠実に守ったつもり
ではったが。

「そうだな。ここなら小学生みてえなチビをぶん殴ったとしても非難されることはないわな」
「違いないな」

明らかな侮辱とともに、顔を見合わせて笑われる始末。

414名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:49:33
こいつら、言うに事欠いて…いや、リゾナンターはいつでもクールであるべきだ。鞘師さんのように、
感情に流されることなく、ポーカーフェイスポーカーフェイス…

逆に挑発に乗りそうになってしまうのを必死に抑える亜佑美だが、伏兵は思わぬところに。

「石田さん、挑発しようとして逆に馬鹿にされてますよ」
「う、うっさい小田! 何であんたまでそんなこと言うのよ!!」

いともたやすく、感情爆発。
ポーカーフェイスもへったくれもない。

「悪いが、お前らの学芸会を楽しむ余裕はないんでな…行かせてもらうぜ」
「へへ、お前らみたいなもんでも一応はリゾナンターらしいじゃねえか。俺たち『ヘル・ブラザーズ』
の名を上げるため、おとなしくやられてもらうぞ」
「…今時ヘルブラザーズって。中学生でもそんな名前名乗らないですよ? ねえ石田さん」
「え、っと、ちょっと今はそんなこと言ってる場合じゃない、戦闘に集中!!」

調子が狂う。
理由は一つ、隣にいるさくらの存在だ。
彼女の醸しだす独特な世界、小田ワールドとでも言うべきか。その異世界に対して最も合わないなあ
と思っているのが何を隠そう亜佑美であった。
そして密かに、ヘルブラザーズという名称に少しだけ格好よさを感じてしまっていた。

体を前傾させ、今にも飛びかからんばかりの二人の男。
亜佑美は二人を見て、さくらに耳打ちする。

415名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:50:40
「小田ちゃん、あんたは小男のほうに行って。あたしはあのデカブツをやるから」
「そうですか? 私は逆のほうがいいと思いますけど。体格の割には自信満々だし何か隠し玉を持っ
てそう。逆に大男のほうは私の『時間跳躍』が嵌りそうだし」

ったく。あたしがあんたに気ぃ使ってるの、何でわかんないかなあ。
亜佑美は後輩に負担をかけないよう、わざわざそういうチョイスをした。しかしさくらはそんな配慮
などお構いなく。

「おしゃべりしてる暇なんてねえぞ!!」

大男が、亜佑美へ向かって猪のように突進してくる。
意外と素早い。そこへ割り込むさくら。早速「時間跳躍」を使ったようだ。

「しょうがない、そっちはあんたに任せるわよ!」
「任されます!!」

こうなったらもう仕方ない。
戦闘中に合う合わないなどそれこそ、そんなことを言っている暇などないのだから。
亜佑美は「相棒」を呼び出すために意識を集中させた。

一方、自らの背丈をはるかに超える大男と対峙したさくらは。
時間跳躍能力を小刻みに使うことで、相手を翻弄する。

「ちっ、ちょこまかとうるせえチビだ!!」

相手には、さくらが高速で移動しているようにしか見えない。
しかし、何とか体に見合わない反射神経でさくらの動きを追おうとしても、徐々に遅れが目立ってき
ていた。

416名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:52:03
「時間跳躍」。Dr.マルシェの壮大な実験の副産物としてさくらに残された能力だった。
もともと持っていた「時間編輯」に比べると、あまりに矮小な力。だがさくらは自らの能力の研鑽に
より、それを自分の必殺技に変えた。

陣取(じどり)、さくらはその行為をそう呼んでいた。
時間を跳躍し、相手の死角に移動する。それだけではない。彼女はそれまでに自分が得た経験から、
「どの角度に移動すれば自分の攻撃が最大限のダメージを与えるか」を計算し、その場所に移動す
る。まさに一撃必殺の、クリティカルヒット。

「無駄な努力、ご苦労様です」
「んなあっ!?」

まったくの予想外の場所に現れたさくらを、男は捉えきれない。
無防備な角度からの、鋭い蹴りの一撃。何が起こったのかすら把握することなく、ヘルブラザーズ
の片割れは意識の沼に沈み落ちた。

「小田のくせにやるじゃない」
「ふふ、向こうに気を取られてていいのか。お前は既に俺の術中に嵌っているというのに」

あっさりと大男を倒したさくらに対抗心を燃やす亜佑美。
しかしその体は蔦のようなものに拘束されていて。

小男の能力は、植物使役。しかも拘束を目的とした蔦状の植物を好むようだ。
おそらく亜佑美とさくらが話している間にこっそり種を蒔いておいたのだろう。

「へえ。でもこんな力があるなら、あっちの小田のほうも拘束してればあんたの相方は無様な負け
方してなかったのにね」
「生憎、一人を拘束するんで精一杯なんでな。だが、お前を倒してイーブンの状態で引き揚げるっ
てのも一つの案だな」

ちらと遠くのさくらを見る男。
どうやらさくらがこちらに来る前に決着をつけるつもりのようだ。

417名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:53:02
「は?あんた、こんなちゃちな蔦であたしを縛りつけられると思ってんの? カムオン、リオン!!」

亜佑美の叫びに呼応するかのにように木霊する、獣の遠吠え。
青き風、と形容してもいいくらいの素早さで、鋭い狼牙が亜佑美を拘束する蔦を引き裂き千切ってゆく。

「…ならこれはどうだ!!」

男と亜佑美の間の地面に、再び蔦の束が溢れだす。
それは意外にも亜佑美ではなく、男に向かって巻き付きはじめた。

「ちょっとあんた何考えてんの?自殺行為じゃない!」
「それは…どうかな」

一見自分で自分を絞めているかのような異様な光景。
ところが、出来上がったのは緑の人型。言うならば、蔦人間。

「うわっ、気持ち悪っ」
「ほざけ!攻守一体のこの技の真髄を味わうがいい!!」

男の手から、射出されるように伸びる蔦。
いや、表面に棘を纏ったそれは荊。鋭さは、亜佑美がかわした背後の木の幹を傷つけるほどに。

「カムオン、バルク!!」

亜佑美の背後に、天高く青い影が聳え立つ。
呼びかけに応じ現れた鉄の巨人が、男目がけてその拳を振るった。
響く轟音、舞う土煙。
跡形も無くぺっしゃんこ、と思いきや男は軽々とバルクの拳を受け止めていた。

418名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:54:01
「どうだ、蔦がバネとなってこの程度の衝撃なら耐えられるのだよ」
「…うっざ!!」

お望みならほんとの植物人間にしてやる!って今ちょっとうまいこと言っちゃったかも。
などと愚にもつかないことを考えながら、亜佑美は再び相棒に呼びかける。

「カムオン…リオン、バルク!!」

例の孤島での戦い。
さらに、先輩である田中れいなの「能力増幅」の影響を受けて自らの能力を強化させたリゾナントのメン
バーたち。それは亜佑美とて例外ではない。能力向上によって彼女が得た新しい技術、それが幻獣の二体
同時召喚。

「なっなっなんだぁ!!!!!!」

迅と剛が、慌てる蔦人間に襲い掛かる。
リオンの鋭い爪が、牙が緑のプロテクターを剥ぐ。丸裸になった男は憐れ、バルクの一撃で空の向こうへ
と消えていった。

「石田さん、リオンとバルクを両方呼びだせるようになったんですね」

飛んで行った男の軌跡をどや顔で眺める亜佑美のもとへ、さくらが駆けつける。
男のやられ振りを見て二体が同時に呼び出されたのを察知したらしい。

「おーだー!遅いっ!先輩より先に相手を片づけたんなら、さっさとこっちに来る!」
「えーっ、でも石田さんだったら私より先に決着つけてるかなって」
「むぅ…」

ここぞとばかりに先輩風を吹かせようとしても、まさに柳に風。
ある意味正論なので返す言葉もない。

419名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:54:30
「石田さん、私たちって…合わないですよね?」
「あのねえ…そりゃこっちの台詞…」

言いかけて、言葉を止める。
当のさくらは、何だか嬉しそうだからだ。

思えば、特殊な境遇からリゾナンターになったさくらだ。
自分だけのワールドというか、そういう空気を持っているとしても仕方がないのか。
亜佑美は、彼女の特殊性を彼女自身の生い立ちや歩みに求めた。だから。

「そうね、合わないんじゃない?」
「ですよね!同じ方向目指しても歩こうと思ってもどっかですれ違っちゃうみたいな!」
「その例え分かり辛いし第一合ってるかどうかわかんないからっ!」

合わない、ということでさくらを受け入れるのもまた一つの方法。
それはそれでいっか。

「ほら、さっさと戻るよ! はるなん一人で店番とか、すっごい心配だし」
「はいっ!」

先を歩く亜佑美に、さくらがひょこひょことついてゆく。
そのさらに後ろ。二人の姿を眺めているものがあった。

「なるほどねえ、こんこんのレポート通りってわけか」

露出の多い、黒を基調とした服。
少女は、短パンのポケットに手を突っ込み、無造作に丸めていたメモ紙を取り出す。

420名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:55:33
「石田亜佑美は見えざる獣の使い手。小田さくらは元ダークネスの実験体で時間操作能力の持ち主。あと
は…うわ、きったねえ字。読めやしないじゃん。ってのん自身がこれ書いたんだっけ」

不意に、誰かが現れた気配。
少女のポニーテールと、首元から大きく垂らしたチョーカーの布が揺れる。

「鞘師里保は水使いの剣士。鈴木香音は物質透過能力。譜久村聖は他人の能力をコピーできる。生田衣梨
奈は精神干渉系。飯窪春菜は自分および他人の五感を増減させる。佐藤優樹はわけわからん仕組みのテレ
ポート。工藤遥は千里眼や。そんくらい、頭で覚えとき」
「来てたんだ、あいぼん」

不満そうに口を尖らせた相手は、彼女の「永遠の相方」。

「お前なあ、どこほっつき歩いてんねん」
「あいぼんは用事、終わったの?」
「ああ、計画通りや…って、そんなにあの連中が気になるんか?」

亜佑美たちが去って行った方向を見ている「金鴉」に、「煙鏡」がからかい口調で言う。
すると「金鴉」は大きく肩を竦め、

「ぜーんぜん。確かに例のチビ剣士には少しだけ興味あるけど、所詮はのんの敵じゃないしね。それよりも」

「煙鏡」と顔を見合わせる。

「道重」
「さゆみ」

互いに発した声はユニゾンとなり。
不吉とすら思える響きを放つ。

421名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:56:06
「あいつだけは厄介や。特に『裏の人格』がな」
「美貴ちゃんとかとも互角にやり合ったって話だからね」
「…やるか」
「めんどくさいからさ、『あの場所』で済ませようよ」
「せやな。段取りはうちが組んだるわ」
「おっけー、よろしく」

それだけ言うと、「煙鏡」に背を向けて手を振る「金鴉」。
次の瞬間には、光の中に姿を消していた。

「簡単に言いおって。よっすぃーの目ぇ誤魔化すんも、一苦労なんやで」

そして悪態を突きながらも、「煙鏡」自身も。
それこそ煙のようにその場から消えていた。

422名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:57:00
>>413-421
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

423名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:46:17
■ レイアスネア −譜久村聖− ■

夕暮れの光が全てをオレンジに染めていく。

亀井絵里が入院していたはずの病室。
次の患者は入っていない。
まだ、無人のまま。

集うは道重さゆみ、譜久村聖、そして石田亜佑美。
連絡を受けてすぐ、譜久村と石田は道重のもとに【跳んで】きたのだ。

【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】

譜久村の能力。
物体に残った強い思念を読み取り、断片的なイメージとして【視】る。

424名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:48:31
ベッドに手をかける。
白いシーツ、枕…

だめ、リネンは既に交換済み。

私物の類も、すでに無い。

でも、大丈夫。
私物以外にも、この部屋には、いろんな物が、まだまだいっぱい残ってる。
必ず、亀井さんが触ってるところがあるはず。

手すりのパイプを丁寧に触っていく。

あれ?これも交換されてるのかな?
ほかをあたろう。

周囲を見渡す。

シーツ、ベッド、無機質な引き出し、TV…
サイドテーブル、梨…

425名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:50:03
ん?

梨が、サイドテーブルの上に。
皮の剥いていない、そのままの梨が。
ぽつんとひとつ、置き忘れたように。

あれ?さっきあったっけ?
なんだろう?わすれものかな?
たべものなのに、おいてっちゃったのかな?
まあいいや、それより、サイドテーブル。
亀井さん、きっと、このテーブルで何度も食事したりしてるはず。
これになら、きっと…

譜久村は手を伸ばす。
集中する。

と…その前に…
一応…確認だけ…
テーブルの前に…まずは…

 
…梨を…


手を…伸ばす…その手のひらで…その表面に…

426名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:51:18
流れ込んでくる、イメージ。

夕日

亀井さん
100円
パジャマ
はさみ
タグ
TV
夕日

パジャマ

…梨

  ヤッパリコレヲ 
  【視】ルト思ッタヨ
  ”残留思念”二
  残シテオケル”量”ニハ 
  私モ限界ガ有ルカラ
  一寸強引ナ事スルネ 
  ゴメンネ…フクチャン

427名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:51:56
>>423-426
■ レイアスネア −譜久村聖− ■

428名無しリゾナント:2014/11/27(木) 18:16:18
■ レイアスネア −道重さゆみ− ■

「ぐがっ!ごっ!ごえぇえええっ!」

手掛かりを探ろうとした途端、異変は起こった。

卒倒、嘔吐、痙攣。

「ふくちゃん!」
道重の悲痛な声。

うかつだった!
さゆみは、何にも考えてなかった!

429名無しリゾナント:2014/11/27(木) 18:17:08
思えば、空室のままだったこと自体、疑うべきだった。
どこの病院も、病室を無駄に空けておく余裕などない。
普通であれば、すぐに次の患者が入るはずだ。
なぜ、亀井の病室だけ、空いたままだった?
なぜ、病院の誰も、そのことに疑問を挟まなかった?

気付けるはずだ。
気付けたはずだ。

敵は譜久村の能力を知っていたのだ。
亀井がいないとなれば、その手がかりを探すため、
譜久村が【視】るだろうことを、当然のごとく想定していたのだ。
道重や普通の人間が触ってもなんともなく、
残留思念を感知できる譜久村にのみ発動する『罠』が、
―――おそらく最後に触った、梨に―――
仕掛けられていたのだ。

【精神干渉】の一種か?
だが、これは新垣のそれとは全く異質な『何か』だ。

病院関係者の記憶を操作し、
残留思念に『罠』を仕掛けておける能力。

だが、取り乱した道重に、そこまで分析する余裕などない。

「ふくちゃん!ふくちゃん!…ふくちゃん!!!」

さゆみのせいだ!さゆみのせいだ!さゆみのせいだ!

さゆみの!!!

430名無しリゾナント:2014/11/27(木) 18:17:44
>>428-429
■ レイアスネア −道重さゆみ− ■
でした。

431名無しリゾナント:2014/12/05(金) 00:23:08
■ ガアデンオブザエア −新垣里沙X亀井絵里− ■

「なーるほど、そーゆーこと…」

えりの勝ち、そう彼女は言った。

「やってくれたな、カメ」

どこまでも続く、鮮やかな青空。

青い空、白い雲。

それで全部。
それで終わり。

これが、亀井の心象風景、深層意識。

天空に浮かぶ、巨石の庭園。

大理石。

庭園の淵に立つ。

銀の骨組み、巨大な天蓋。

天空に浮かぶ、巨大な鳥籠。

出口は、ない。

青白く静まり返る、磨き抜かれた床。

432名無しリゾナント:2014/12/05(金) 00:24:49
新垣は振り返る。

庭園の中央、水のない噴水。

足の細い2脚の椅子、丸テーブル。

そこに、亀井絵里が、立っていた。

「ようこそいらっしゃいました。」

小麦色の肌、黒髪。
張りのある二の腕、太もも、ふくらはぎ。
シャギーの入った、セミロング。
白のスカート、白のカーディガン、白の、ブラウス。

そして…

揺れる、オニクスのピアス。


それは、亀井絵里の”姿をしていた”

「ずいぶんとまわりくどいことしてくれちゃってぇ…
とーりあえず、アンタ、だれよ?なんでカメの格好してんの?」

亀井絵里の”姿をしたもの”は、小さく首を傾げ…

んふふ…
と、笑った。

「まずは、おかけください。いま、お紅茶、いれますね。」

433名無しリゾナント:2014/12/05(金) 00:25:25
>>431-432
■ ガアデンオブザエア −新垣里沙X亀井絵里− ■
でした。

434名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:02:06
>>413-421 の続きです



数日後。
福田花音は警視庁にある対能力者部隊本部に赴いていた。
昨日は思わぬ出来事で会議途中で離脱してしまっていたが、会議内容の詳細を部長代理に聞かなければな
らない。ダークネスにとっても切り札であろう「銀翼の天使」の保護は、国家権力に属する能力者たちにとって
重要な作戦と言っても過言ではない。

不本意ながらも、赤の粛清を討滅したことで「スマイレージ」というグループの実力を示すこととなった。ここで
さらに今回の作戦で功を成せば。

もうあんなやつらなんて、眼中になくなる。

花音は忌々しい連中の顔を思い浮かべ、舌打ちする。
赤の粛清戦で助けられたばかりか、一度は「壊れてしまった」和田彩花を救い出された。プライドの高い花音
にとって、それらの全てが屈辱でしかない。

ついでに、あの日から彩花がはるなんはるなん五月蝿い。
人に対して滅多に心を開くはずのない彩花が、命の恩人とは言えここまで依存しているという不可思議。つい
には「はるなんもスマイレージに誘おっか」などというわけのわからないことまで口走る始末。
そういう意味では、今回の作戦への参加は彼女の目を覚ますきっかけになるはずだ。

435名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:04:26
そして、「本部長室」の扉の前に立つ。
もちろん対能力者部隊を取り仕切る本来の主がいるはずもなく、中にいるのは主任と呼ばれる中間管理職。
だが、当の本部長がほとんど不在のために実際の責任者はその代理である彼と言っても過言ではなかった。

しんと静まり返った空間。
のはずが、部屋の中から話し声が聞こえる。先客だろうか。
構うものか。もし例のインチキシンデレラだったら蹴飛ばしてでも追い出してやる。意気込んで扉を開け
た花音が見たものは。

重厚な造りのデスクに居心地悪そうに座っている、主任。
そして彼を囲むように立っている、二人の女性。一人は背の高い、黒髪の凛々しい女性。そしてもう一人
は髪を茶色にした今時の女性。背丈は花音とあまり変わらない。二人とも花音とそう年は変わらないよう
に見えた。
どこかで見覚えのある、けれど記憶の扉からはうっすらとした光しか漏れてこなかった。

「…どうした。昨日は急に会議を」
「誰ですか、その人たち」

機先を制したのは、花音。
彩花の例の一件のことはあまり触れられたくない。与える情報は彩花が復帰した、それだけでいい。それ
よりも、目の前にいる見知らぬ人物たちのことを聞くのが先だ。

「おっと。顔合わせは初だったか。紹介しよう。『ベリーズ』のキャプテン・清水佐紀君と『キュート』の
リーダー・矢島舞美君だ」
「はじめまして」
「そっか。じゃああなたがスマイレージの…よろしくね」

436名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:05:27
「ベリーズ」に「キュート」。確かダークネスの下部組織としてリゾナンターと接触、交戦した集団の名前
だったか。花音はそのことを思い出し、やおら意地悪そうな笑みを浮かべながら、

「ああ、例の。半人前の連中にやられたあとどうなったとは思ってましたけど、まさかこちらに再就職する
とは思ってもみませんでした」

と早速毒を吐く。
さすがに顔色を変える佐紀、だが、

「そうなんだよねえ。でもまあある意味こちらでの理念は一致してるし、働かせてくれるならいいかなって」
「…え…はぁ…」

舞美の一言で拍子抜けしてしまう。
なにこいつ、ばかみたい。そんな皮肉すら出すのも馬鹿らしい。

「…で、こちらを伺った用件ですが」
「『天使』の件なら、もう済んだ話だ」

気を取り直し、本題に入る。
が、意趣返しのつもりか。今度は主任にハスキーな声で話を遮られた。

「おっしゃる意味がよくわからないんですが」
「簡単な話だ。今回の作戦から『スマイレージ』は外れてもらう」

さらに、畳み掛けるかのごとく。
ここまで単刀直入に言われてしまえば、最早腹の探りあいなど必要ない。

437名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:07:08
「何言っちゃってんの? あたしたちは『赤の粛清』を討伐してる。外れるどころか主力になってもおかし
くないでしょ。和田彩花もちゃんと復帰して…」
「…高橋愛でしょ、『赤の粛清』をやったのは」

予想外の、横槍。
思わず発言者の佐紀を睨み付ける花音だが、逆に佐紀にしてやったりの表情を返される。
公式にはスマイレージが「赤の粛清」を倒したことになっている。事実を知る者は組織でもごく一部に限ら
れるはずだったが。

「あんたたちみたいな連中までそんなこと知ってるなんてね。警察が秘密裏に組織した対能力者部隊の情報
管理も随分杜撰になったもんだわ」
「……」
「気に障ったなら謝るけど? ま、半人前の能力者たちに負けた上にかつての敵の軍門に下るなんて恥ずか
しいマネ、あたしにはできないかな」

相手が激昂するぎりぎりの毒を言葉に仕込む花音。
こんな馬の骨ともわからない連中に。侮蔑の感情を出すか出さないかのところで口を止めて、相手の様子を
窺う。だが。

「はぁ。だから改名なんかしたくなかったんだよね。『ベリーズ』とかちっちゃな果実がいっぱい集まった
感じでかわいいじゃん、って桃の言葉に流されちゃったけど」
「…あんた、何言ってんの」
「能力者の端くれなら聞いたことあるでしょ?『スコアズビー』通称『B』」
「スコアズ…まさか」

知らないはずがない。
「スコアズビー」と言えば、花音がダークネスの研究施設にいた頃。
彼女たちの先駆者として、人工能力者の成功者たちと称された一団。その活躍もまた、花音たち「エッグ」
の研究に役立てられていたことは嫌と言うほど聞かされていた。

438名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:09:03
「は、はったり言わないでよ。あんたたちがそんな有名な…」

うろたえながらも反論しかけた花音は。
急に思い出す。佐紀ではない。その隣でにこにこしている、舞美のほうだ。
花音は舞美に、一度出会っていた。



時は遡る。
人工能力者としての育成の最終段階。
花音はとある一般家庭にその家の「子供」として潜入する。
彼女が保有する精神干渉能力の精度をチェックするとともに、花音自身に人と関わる力の有無を確認するた
めのものだった。

経過は良好だった。
花音は風間家の娘「春菜」として何の齟齬もなく生活することに成功する。
父も母もそして兄も、疑問を抱くことなく花音を「春菜」と認識し、まるで生まれた時から一緒だったかの
ように接していた。

ただ、実験自体は中途半端なところで終了する。
花音自身に問題があったわけではない。風間家のあった地域が、別組織の「死体使い」によって襲撃された
のだ。
ゾンビの群れが、容赦なく町を覆い尽くす。ゾンビに襲われた人間は同じようにゾンビとなり、その数は瞬
く間に増えていった。

最早実験どころではない。
家族と呼んだものたちを見捨てて家を出ようとした花音だが、彼女もまた彷徨う死体たちの標的となった。
そこに現れたのが。

439名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:11:06


「せ、セル…シウス」
「えっ? 私のこと知ってるの? そっかー、何かうれしいなぁ」

かつての記憶の底から引きずり出された恐怖が、その名を口走らせる。
花音の青ざめた表情などお構いなしに、満面の笑みを浮かべてその両手を握る舞美。
この様子からして、相手はこちらのことは覚えていないのだろう。
頭の悪さはともかく、美しい女性だ。花音は素直に感じる。
ただ、花音の記憶の中の彼女は、今より幾分幼さを残した顔つきをしていた。



そこからは、ひどく現実味のない世界だった。
学生服に身を包んだ黒髪の少女は。
ゾンビと化した群集に殴られようが。バットを振り下ろされようが。拳銃で急所を貫かれようが。凛とした
表情を少しも崩すことなく。

その手勢全てを、文字通り叩き潰してしまった。
少女の拳が死人の顔を破壊し、少女のしなやかな蹴りが死人の胴を断ち切る。飛び散る赤黒い血と流れる輝
く汗が、同じ世界に両立する。手駒を全て失ったネクロマンサーは無数の打撃を浴びせられ、瞬く間に彼の
僕と似た姿と化した。
冬の凍てついた地面にへばりつく、血と肉の塊。冬の切れるような冷たい風に黒髪を靡かせ佇むその姿は、
美しさとともに底なしの恐怖を花音に植えつけた。

彼女がかの有名な特殊部隊「セルシウス」のメンバーだと知ったのは、そのすぐ後だった。

440名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:12:36


「ともかく、だ」

花音の脳裏に描かれた、美しきも忌まわしい冬の怪談を主任の声が遮る。
結論など、とっくの昔に出ていたような表情で。

「『天使』に関する作戦は、彼女たちに参加してもらう。『スマイレージ』は、各自待機命令が出ているか
ら、それに従うように」
「命令って!!」
「『本部長』からの、だ」

言葉は、冷徹だった。
そして花音は悟る。あの時、あの男に接触した時。既にこの命令は決まっていたのだと。

「…失礼します」
「半人前の能力者に負けたのは、お互い様でしょ。うちらのほうがいい勝負はできてたと思うけど」

踵を返す花音に、佐紀の発言が襲い掛かる。
言い返すことなく、部屋を後にした。

屈辱。ありえないほどの屈辱だった。
対能力者部隊「エッグ」結成後最大のプロジェクトであろう、「銀翼の天使」の奪取作戦。
そこから有無を言わさず外されるのは、かつて神童と謳われた花音からして、とてもではないが甘受できる
ものではなかった。

どうして。何故外された。
暗い渦のような感情は、ぐるぐると蛇のとぐろのように花音に巻きつく。
闇の奔流がやがて行き着いた場所は。

441名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:15:22
あいつらだ。

花音の頭に、ぬるま湯に浸かったような気の抜けた連中の顔が思い浮かぶ。
それは嫌悪を通り越して、より凶悪な感情を抱かせるに十分なものだった。

思えば、あいつらと交戦してからがけちのつき始めだ。
手を抜こうが、本気を出してなかろうが。佐紀の言うとおり、負けと判断されてしまった。だから、自分達
は戦力外として作戦から外されてしまったのだ。では屈辱を晴らすためには、どうすればいいか。

答えは、とっくに出ていた。
リゾナンターは、彼女にとって殲滅すべき存在だと。

442名無しリゾナント:2014/12/05(金) 20:23:00
>>434-441
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

ベリメンたちにも「セルシウス」に匹敵するような格好いい名前を与えてあげたかったのですが
無い知恵を絞ってひねり出したのがセルシウス=月のクレーターの名前からの連想でした。

あとまろが一般家庭に潜入云々の元ネタは舞美と共演した「冬の怪談」という映画です。
まろの着替えシーンと舞美のターミネーターぶりのみが話題となった作品ですw

443名無しリゾナント:2014/12/07(日) 00:24:04


海の見える、小高い丘。
響きあうものたちの原初となった女性は、丘の一番高い場所に据えられた墓碑の前に佇む。
日は既に暮れかけ、あの日と同じように血を流したかのような赤に海を染めていた。

海鳴りの風が、ひゅるひゅると音を立てている。
潮の香を含んだ風に、夕陽に照らされた髪が靡く。その流れを自らの目で追いながら、同じように風に揺れ
ていた朱のスカーフを思い出す。もう終わった。終わったはずなのに、生々しい彼女の色は何時までも瞼の
裏に焼き付けられ、消えてくれそうには無かった。

「ここか」

声と共に、体の芯まで凍らすような風が吹きつける。
愛の体を、海へと伸びる影が覆った。

「久しぶりやね、美貴ちゃん」
「お前にそう呼ばれる筋合いはない」

愛は、振り返ることなく「氷の魔女」に問いかける。
こうして二人きりで話すのは、それこそ組織に居た時ぶりくらいだろうか。
ただそこに、懐かしさなどというものは存在しなかった。

444名無しリゾナント:2014/12/07(日) 00:24:34
「お前が、ここに埋めたのか」
「そうやよ」
「あの、破壊しつくされた高層ビルの瓦礫の山から」
「そうやよ」

不思議な空間だった。
魔女の感情の顕現化とも言うべき冷気が周囲を覆い尽くしているというのに。
愛にとっては、その温度すら感じられない。
それはまるで、砂漠のようで。生きとし生けるものが全て死滅した、乾いた砂の残骸。

「…あーしが言えた義理やないけど。帰って、くれんかな」
「それは」

「氷の魔女」の声が、低くなる。

「それは懇願(プリーズ)か。それとも…凍殺(フリーズ)か」

凍てつく空気から生み出される氷の矢は、オレンジ色を反射しながら。
一斉に、愛目がけて放たれる。
愛は矢の雨を縫うように夕陽に向かって跳躍し、魔女に正対した。

「…さけられん、か」
「黙れ」

黒のゴスロリドレスに、黒の外套。
いつもの魔女の姿ではあるが、その表情は。
先ほど感じた時のように、何も無かった。怒りも悲しみもない。
ただ淡々とした、「許さない」という事実だけがそこに漂っていた。

445名無しリゾナント:2014/12/07(日) 00:26:55
愛の足元が凍結してゆく。一所に立ち止まれば、たちまちその凍気は愛の全身を侵食し瞬く間に氷像にして
しまうだろう。必然的に、相手の霍乱を兼ねた細かなステップを刻まざるを得ない。

魔女の目の前に氷が連なる。
それはまるで海面に突き出た鮫の鰭。血の匂いに惹かれるが如く、氷の猛獣は愛を捕殺しようと大地の海を
切り裂く。

「あれは、しょうがなかったんやよ」
「うるさい」

言いながら、「氷の魔女」も氷鮫に続くように愛に襲い掛かった。
空には再び、無数の氷の矢。加えて魔女と僕の近接二段攻撃。僅かな躊躇が、死に繋がる。

地から生える刃が愛の足を掠める。それは些細な傷ではあったが、バランスを崩させるには十分すぎるほど。
倒れこむ愛に追い討ちをかけようと、魔女が黒のドレスを翻して氷を纏った手刀を打ち込もうとしたその時
だった。

目の眩むような、光。
愛の掌から放たれた光の矢が、「氷の魔女」の背後にあった氷の矢を消滅させていた。
最後の一本は、ただまっすぐに魔女の心臓を射抜かんばかりに、愛の手の内で輝いている。

「もう…無駄な血は流したくない。あーしはただ、これ以上の犠牲は増やしたくない。ただ、それだけなん
やよ」

呪われし能力を振るい、人を殺す。
ただそれだけのために生み出された、i914という名の存在。
組織の在り方に、そして自らの生き方に疑問を覚え組織を飛び出し。
自分のような人間を二度と生み出してはならない、悲劇は二度と繰り返してはならない。
そんな気持ちがリゾナンターとして活動する原動力となっていた。

446名無しリゾナント:2014/12/07(日) 00:30:10
仲間がなす術もなく蹂躙され、傷つけられた夜を経て。
いや、乗り越えてからも一層、思いは変わることなく愛を突き動かしている。
喫茶リゾナントを離れ、仲間と別々になった今もそれは変わらない。

ただ、一つだけ。
この手で自らを縛り付けていた因縁を断ち切ったあの日。
赤い赤い夕陽が沈んだあの日から。
自らの何かが欠けてしまったような喪失感を覚えているのも確かだった。
心の中を荒涼とした風が吹いている。終わらせたはずなのに、何一つ終わっていない。
夕陽の中に沈んでいった「彼女」もまた、組織の被害者のように愛には思えているからなのかもしれない。

その意味では、今愛の目の前にいる魔女も同じなのかもしれない。
同情でも、感傷でもなく。彼女の心のありよう、それは一歩間違えれば自らの身にも降りかかっていても
おかしくはないと。
もしも。仮にダークネスによって里沙が討たれていたら。
里沙だけではない。れいなが。さゆみが。絵里が。小春が。愛佳が。ジュンジュン、リンリンが。多くの
後輩たちが。
亡き者にされたら、きっと愛の心も決して潤うことのない砂漠になっていたことだろう。

ダークネスという組織を、このままにしてはおけない。
けれど、それが幹部全員を滅することと決してイコールになっているわけでは決してなかった。
甘い幻想なのかもしれない。不可能なことを謳っているだけなのかもしれない。
それでもなお。愛はその幻想を追うことを躊躇しない。
なぜならそれが彼女がリゾナンターという集団を率いていた原点でもあるのだから。

447名無しリゾナント:2014/12/07(日) 00:32:50
だが。
現実は非情でもある。
心の風景を不毛の世界に変えてしまったような相手に、この声は届くだろうか。
それでも。

無駄な血は流したくない。

そう言わざるを得なかった。愛の搾り出した言葉、たとえそれが絶望の砂漠に撒かれ消えゆくとしても。

「…わかった」
「え?」
「あんたを殺すのは、無意味。それがわかった。あんたを殺したところで、美貴の心は満たされない」

目を見開き、呆然とする愛。
手の中の光が、消えてゆく。
魔女はゆっくりと愛から離れ、背を向けた。

だが、その魔女の発した言葉の真意は。
緩みかけた愛の心を凍らせるには十分すぎるくらいだった。

448名無しリゾナント:2014/12/07(日) 00:34:42
「だから、あんたが可愛がってたガキどもをぶっ殺すことに決めた」

復讐。それが魔女の目的。それが彼女の心を荒涼とした光景にしているものの全て。
最も効率的で、最も効果的。相手の心もまた、砂漠に変えてしまえばいい。

「何で…何であんたらは!!!!!」

溢れ出す感情。それ以上は言葉にすらならなかった。
文句があるなら、自分に言えばいい。なのにあんたらはどうして、可愛い後輩たちに牙を向けるのだ。

「あの子たちは、関係ないやろ!狙うならあーしを狙えばいい!!」
「知ったことかよ」

纏うドレスの色と同様に心を黒く染めた魔女は、ゆっくりと背を向け、消えていった。
「ゲート」か。愛は今回の舞台のお膳立てをしたかつての旧友に歯軋りをする思いで、既に誰もいなくな
った空に目をやる。

すっかり夕陽が沈んでしまった海は、闇の砂に埋め尽くされた砂漠のように見えた。

449名無しリゾナント:2014/12/07(日) 00:42:52
>>443-448
『リゾナンター爻(シャオ)』 番外編 「砂漠」

某所の砂漠の美貴愛から。
とは言っても引用したのはフリーズとプリーズのフレーズだけですがw

450名無しリゾナント:2014/12/10(水) 00:48:44
>>434-441 の続きです



「ぐはっ!!!!」

小さな体が、ゴム鞠のように地面にバウンドする。
蹴られ地に伏した女を見下ろすように、ライダースーツの金髪が仁王立ちしていた。

ダークネスの本拠地の、倉庫区画。
物々しいフェンスに囲まれた空間は、滅多に人が立入ることはない。

「何だ、やられっ放しかよ」
「…よっちゃん、意味わかんねーし」

ポニーテールの少女は苦痛に顔を歪めながら、否定のポーズを取る。
私刑を受けることも、それに対し反撃する事も納得のいってないような顔だ。
しかしそれも、金髪 ―「鋼脚」― が無防備な腹部を踏みつけることで即座に悲鳴に変わる。

「ほら、反撃してみろよ。なんならお前が諜報部の監視役たちをやったように、あたしのこともぶっ殺してみるか?」
「ぐっ…がっ!!!」
「歯ごたえねえなあ。市井さん殺った時みたいに、びっくりさせてみろよ」
「だから…よっちゃんとのんが戦う理由なんてないっての」

451名無しリゾナント:2014/12/10(水) 00:50:36
あくまでも抵抗しない少女 ―「金鴉」― 、に業を煮やした「鋼脚」はいよいよ彼女を呼び出した本題
に移る。もともと、駆け引きの類は彼女の得意とするところではない。
その間に、ライダースーツの攻撃が止む事はないが。

「こんこんから聞いたんだけどさ。お前ら、リゾナンターの殲滅の仕事ほっぽり出して…アキバの眼鏡ブ
タんとこの仕事請け負ってるんだって?」
「…は、はは。のんたちも、お金欲しいからねえ…ぐっ!」

返事の代わりに、蹴りが飛ぶ。
鋼を断ちし剛脚と謳われる足技、鍛錬してないものが受ければ臓腑の一つや二つは簡単に破裂してしまう
ことだろう。

「それはいい。けど、お前とあいぼん…『煙鏡』はリゾナンターたちの周囲を嗅ぎ回っている。ついでに
うちの放った『監視役』たちを殺しながらな」
「後々のための、調査だっての…例の監視役だって、鬱陶しいからちょっかいかけたら、勝手に死んだん
だって…ぐぼっ!!」

衣服から露出した腹に、再び蹴りが打ち込まれる。

勝手に死んだと言われちゃ、殺された連中も浮かばれないわ。

息を吸うように人を殺すのが、組織指折りの問題児たちの性質。そんなものは出会った頃から織り込み済
みの話ではあるが。
踏みつける足に体重をかけつつ、さらに尋問は続く。

「調査ねえ。それは、お前らが『夢の国』でうろうろしてることと関係してんのか?」
「ばっ!のんたちだって、かはっ!遊園地くらい行きたいっての、がっ!!いいじゃんか、何年監禁され
たと、ぐえっ!思ってんだよ、っ!!!!」

リズミカルに繰り出される蹴りはまるで楽器か何かを奏でているようにすら見えるが、実際に聞こえるの
は「金鴉」のうめき声だけ。

452名無しリゾナント:2014/12/10(水) 00:51:46
「まあいいわ。取り合えず額面どおりに受け取っとく」

あれだけの足技を連発しても息を乱さない「鋼脚」。
ゆっくりと、蛙の轢死体のように地面にへばりつく「金鴉」の側にしゃがみ込む。
そして、伏せていた顔を無理やり手で起こしながら、

「なあ覚えてるか?うちらは似た時期に組織に入り、似た時期に『幹部』に昇格した。言わば、家族みて
えなもんだって言ったのを」
「お、覚えてるよ」
「だから、お前らが取り返しのつかないことをやらかしたら。今度こそ、『家族』であるあたしがケジメ
つけなきゃなんない。わかるな?」

身を縮めたくなるような、迫力。凄み。
「金鴉」は必死に首を上下させることしかできない。

「言ったな。あたしもこれで『最後』だ。次は…ないからな」

掴んでいた顎を放り投げるように、「金鴉」を打ちやる。
最早、糸の切れた操り人形のように力なく地面に転がるだけだ。
振り返ることもせず、倉庫区画を足早に立ち去った「鋼脚」、遠ざかりつつ思うことは。

「金鴉」「煙鏡」が何やら怪しげな動きをしている。
諜報部の手の者によって入ってきた情報をもとに、訊ねてみたものの。「金鴉」が腹芸のできる人間でな
いことは「鋼脚」自身よく知っていることだった。

もう片方のほうを締め上げたいけど、あいつは滅多にあたしの前に姿、現さないんだよなぁ。

453名無しリゾナント:2014/12/10(水) 00:52:44
組織きっての、策士。

紺野あさ美がDr.マルシェとして頭角を現す前は専ら「煙鏡」がその名を恣にしていたのは紛れのない
事実だった。一見無軌道に暴れたいだけ暴れているように見えても、脳天気な片割れとは違い彼女には明
確なビジョンが存在していた。

組織のスポンサーたちを激怒させたあの事件もまた然り。
結果的には彼らの信頼を大きく損ねることとなったが、「煙鏡」からすれば自分達の力を誇示する目的が
あったようだった。

以前、「鋼脚」は紺野にこんな話を聞いたことがある。

454名無しリゾナント:2014/12/10(水) 00:54:01


「私と、かーちゃん…『煙鏡』さんの違い、ですか」
「ああ」

それは「鋼脚」がとある任務を終えて、休憩ついでに紺野の私室に寄った時のこと。
その頃にはとっくに悪餓鬼二人は収監されてはいたが、何かの拍子にふとかつての同期を思い出したので
聞いてみたのだった。

「妙なことを聞きますね」
「あいつもお前も、こっちじゃなくて、『こっち』で勝負するタイプだろ? あたしにはそういう世界は
わかんねえから、気になってさ」

最初に自らの腕を指し、次に頭のこめかみを指す「鋼脚」。
手にしていたコーヒーカップを置き、湯気で曇った眼鏡を拭きながら。
「叡智の集積」は、ゆっくりと口を開く。

「単純に言えば。彼女の計画には常に、何らかしらの『意思』が込められているということ、でしょうか
ね。あれは、『悪意』と言い換えても差し支えないのかもしれません」
「…『悪意』ねえ」

「鋼脚」は悪童の片割れの顔を思い浮かべる。
悲惨な境遇のもとに生まれた、そう聞いている。もちろん、異能を持つ人間は多かれ少なかれ悲惨な経験
をしている。そんな環境において「悲惨な境遇」と称されるということは、その境遇がとりわけ凄まじい
ものだということだ。

一番最初に、同期として後の「鋼脚」「黒の粛清」「金鴉」「煙鏡」が顔を合わせた時。
年の割には派手な化粧をした彼女の、昏い瞳がやけに印象的だった。
この幼い少女は、ここへ辿り着くまでにどれほどの地獄を見てきたのか。そう思わせるだけの闇を、少女
は抱えていた。

455名無しリゾナント:2014/12/10(水) 00:54:58
その印象は、やがて薄まってゆく。
少女は瞬く間に組織に溶け込み、「鋼脚」自体、人の深部にそれほど興味を寄せる性質ではなかったから
だ。それでも、初対面の印象はいつまでも彼女の心に残り続けた。

「『悪意』を用いて策を為さば、結果は『悪意』の流れるままに進んでゆく。ただ、それも大海原を進む
ための羅針盤だと思えば、これほど頼もしいものはないでしょう」
「で? お前のはどうなんだ?」
「そうですね。同じように例えるなら、私のそれは方位磁石も海図も持たずに航海に出るようなものでし
ょうか」

悪びれずに、紺野が言う。
ただの無計画じゃねえか、言いかけた「鋼脚」の言葉はすぐに遮られた。

「私の航海に、そのようなものは必要ありませんからね」

なるほど。
天才の考えている事はわからない。
「鋼脚」が理解できたのは、そのことだけだった。

456名無しリゾナント:2014/12/10(水) 00:55:54


倉庫区画を出ると、奥手にある和式建築物が解体されている様が目に入る。
主が生きている間は「拝殿」と呼ばれ、崇められていた建物だ。

思えば、短期間の間に何人もの幹部が死んだ。
「不戦の守護者」「詐術師」「赤の粛清」。半死半生の「黒の粛清」を含めれば実に半数近くのメンバー
を失ったことになる。道理で仕事が増えるわけだ。「鋼脚」はこれからさらに厄介な仕事を増やしてくれ
そうな例の二人に、恨み節を呟かずには居られなかった。

ふと、鋼脚は自らの右の拳が疼くのを感じる。
見ると、拳の先が擦り剥け、うっすらと血が滲んでいた。

「なんだよあいつ、ちゃっかり反撃してるじゃねーか」

「金鴉」「煙鏡」、「黒の粛清」。そして「鋼脚」。
長い付き合いになる間柄で、もちろん互いの性格を把握していた。
だが、彼女たちでも知らないことがある。それはダークネスの幹部として立つ以上、絶対に知られてはな
らないこと。

「鋼脚」は「金鴉」の能力の仕組みを、知らない。

457名無しリゾナント:2014/12/10(水) 01:00:11
>>450-456
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

例の急所の貫通は急所を銃撃に脳内変換していただければ…
「冬の怪談」の内容に引きずられ過ぎてしまいましたw

458名無しリゾナント:2014/12/11(木) 19:02:58
■ クリングステルスストリング −田中れいな− ■

疾走する田中の足に、何かが触れた。

油断。
田中自身は、そう思うのだろう。

油断した。
きっと、そう判断する。

また、油断しとった!

しかし、警戒などできようものか?

『無い』はずのものを。
そこには何も『無かった』のだから。

足が、地面から離れる。
空中で、もがく。
転倒。
身動きが、取れない。

硬く、細く、それでいて弾力のある、何か。
一本ではない。
それは次々と田中に絡みつき…

459名無しリゾナント:2014/12/11(木) 19:03:36
「げっ!なん?」

これは俗にテグスと呼ばれる物だ。
ナイロン製、その太さも1mm以上はあるか。
大型の魚を釣り上げても、びくともしないその糸が、
山道の両脇、木と木の間、何条も張り渡されていた。

全力疾走していたとはいえ、そして、すでに日の暮れかける山道とはいえ、
こんな太い糸を田中が見逃すだろうか。

「って!なんこれ?くっつきよう!きもい!」

手に、足に、次々と糸が絡み、張り付いてくる。
糸の感触は、さらりとしたものだ。
接着剤のようなものが塗布されているわけではない。
にもかかわらず、まるで、磁石に吸い寄せられるかのごとく、
田中にへばりつき、はがせない。
もがけばもがくほど、新たに糸に触れる面積が増え、ますます糸に絡まっていく。

「くっそ!とれん!この!」
思い切り暴れる。
ガキさんとこまであとちょっと!あとほんのちょっとなのに!

「あははーひっかかったー」

ほんの一秒前まで、そこには誰もいなかった。

「ウッホウッホ!」

その声は田中の真正面から聞こえた。

460名無しリゾナント:2014/12/11(木) 19:04:11
油断した。

きっと田中は、そう判断するのだろう。

妨害者は、

「まだほかにもおったんか!」

一人とは限らない。

『馬』にはまだ、仲間がいたのだ。

461名無しリゾナント:2014/12/11(木) 19:04:57
>>458-460
■ クリングステルスストリング −田中れいな− ■
でした。

462名無しリゾナント:2014/12/13(土) 21:29:03
■ フェイクスマイル −新垣里沙− ■

「それでカメってわけ…」
「はい。」

ティーポットを水平に、くるくると回す。

「要は、誰にも邪魔されず、新垣さんと、お話がしたかった。」

二つのカップ、交互に注いでいく。

「その為の一番の障害が…」

新垣自身の【能力】

「ですから、強力な【精神干渉】を無力化する…
新垣さんが絶対に無茶ができない環境下に、
お話しする場を設ける必要がありました。」

カップの一つを新垣の前に。

「絶対に、とは言っても…そう、最初に申しあげておくべきでしたね。
これは、亀井さんも同意の上での作戦です。」
「…でしょうね」

亀井絵里は『強い』
意に沿わぬものであれば、これほどの干渉を許すはずがない。

「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「いいからそうゆうの」

463名無しリゾナント:2014/12/13(土) 21:31:03
ほのかな香りが漂う。

「んふふ…、新垣さんの目線で見れば、これは亀井さんがあなたを…
リゾナントのみなさんを裏切った、そうともとれますね。
ですので裏切り者に遠慮することは無い、無理やりにでも、
亀井さんの心を破壊してでも、この場を脱出する…
新垣さんほどのパワーなら、それは可能だと思います。」

その選択肢は、ない。
新垣には、亀井を壊すことなどできない。
壊そうと思えば、壊せる…だが、絶対に壊せない。

たしかに、新垣は、完全に無力化されていた。

(ほーんとにムカつくわーカメぇ…)

”亀井の姿をしたもの”が、角砂糖とレモンの小皿を促す。
新垣は軽く手を上げ、それを断る。

「それで、これ。『どこまでが』カメで『どこまでが』アンタなの?
こんなところに『これだけのものを』作って、本当にカメは大丈夫なの?」

テーブル越し、下に向けて指をさす。
そのままくるりと指を回し、上を差す。

「すごい…もう大体のことはわかっちゃってるんですね。流石です。」
「だからいいってそういうの」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板